戦争終結の道

プーチン大統領


落ち着くところ ウクライナ分断か
 


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第三次世界大戦  プーチン大統領の「夢」 ・・・  ウクライナ分断  孤立するロシア
 
 

 

●理想主義は戦争を引き起こし現実主義が戦争を終わらせる 6/1
ウクライナ戦争の影響で世界は軍拡の時代を迎えている。欧州各国は揃って軍備増強に走っているが、中でもドイツの変身ぶりには驚かされた。これまでNATOは「国防費GDP比2%」を目標にしていたが、ドイツのメルケル前首相はそれに慎重姿勢だった。
ところが左派が主導するショルツ政権に代わり、そこにロシアのウクライナ侵攻が起こると、ショルツ首相はドイツが伝統としてきた「平和主義」を大胆に転換した。ショルツは連邦議会で「民主主義防衛のためには国防への投資が必要」と宣言し、「紛争地に殺傷兵器を送らない」という原則を撤廃した。
ショルツ政権の新国防政策は、GDP比1.5%だった国防費を2%に増額するだけでなく、軍備増強のため13兆円規模の基金を創設し、また米国との核共有のため米国製のステルス戦闘機F35購入を発表した。F35購入はメルケル前政権が排除した計画である。
そしてドイツは自走式対空砲50両をウクライナに供与する他、ウクライナ兵に軍事訓練を施すことも表明した。さらにショルツは4月19日に行われた西側諸国の会合で「ロシアが勝利することはあってはならない」と発言した。
これは「ロシアが敗北するまで戦争を続ける」と言ったことになる。プーチンとの交渉や妥協を許さない発言だ。これまでEUとロシアとの共存を画策してきたメルケル前首相なら決して言わなかったであろう。保守政権がリベラル政権に代わると、これほど大胆に政策を転換できるものかと驚いた。
佐藤優元外務省主任分析官は、その背後にショルツ社民党政権と連立を組む「緑の党」の存在があると分析する。佐藤氏によれば「緑の党」は環境重視政党だから「平和志向」のイメージがあるが、「緑の党」を率いてきたベアボック外相が慎重だった社民党に対し、ウクライナに戦車や重火器を送るべきだと強く迫ったというのである。
民主主義という人類の理想を追求するためなら、何が何でも戦争に勝利しなければならないと考えたのだろう。しかしこれで戦争を終わらせることは難しくなった。戦争を終わらせるには様々な妥協と駆け引きが必要になるが、理想を追求するとそれが許されなくなる。
ショルツの「ロシアが勝利することはあってはならない」という発言は、この戦争が「正義と悪との戦い」であることを物語る。つまり2月24日のロシア軍の軍事侵攻以来、西側メディアが伝える「狂気の侵略者プーチンvs領土を死守する英雄ゼレンスキー」の構図そのものだ。
この構図で言えば、ロシアのプーチン大統領と欧州の平和的共存を画策したメルケルはとんでもない政治家だったことになる。事実、ウクライナのゼレンスキー大統領は国連の安保理でオンライン演説を行った際、フランスのサルコジ大統領とドイツのメルケルを名指しで非難した。
2人が2008年のNATO首脳会議で、米国のブッシュ(子)大統領がウクライナとジョージアの加盟を強く推したのに反対したからだ。ゼレンスキーはその判断を誤りだと非難したが、もし2人が加盟を認めていたらどうなっていたか。
歴史に「もし」はないことを承知で言えば、やはり戦争が起きていただろうと思う。2人はそう考えて欧州が戦火に包まれない選択をしたと私は思う。なぜならその頃からプーチンは欧米に対する怒りを募らせていたからだ。
2000年5月に大統領に就任したプーチンは親米派だった。2001年に米国に「9・11同時多発テロ」が起こると「テロとの戦い」に協力してアフガン戦争を支援した。そしてNATOにも接近し、ロシアはNATOの意思決定機関に参加して「準加盟国」の扱いを受けるようになった。
2002年にNATOの第二次東方拡大で、バルト3国、ルーマニア、ブルガリア、スロバキア、スロベニアの新規加入が決定されても反対しなかった。国内では軍部や議会が懸念を表明していたが、プーチンはNATOの軍事的色彩を弱め、ロシアに対する敵視政策を変更させようとしていた。
ところがルーマニア、ブルガリア、ポーランド、チェコに米軍基地が作られ、ミサイル防衛網が設置されてロシアを狙っていることを知り、プーチンは自分の考えが甘かったことを悟る。2008年のNATO首脳会議はその後だったから、プーチンの心は平和的共存を諦め、すでに欧米と戦う覚悟をしていたのだろうと思う。
だからメルケルは戦争の危険性を排除するため、プーチンと何十回も話し合い、平和的共存を模索してきたのだ。それが今となってはプーチンを増長させ、プーチンに軍事侵攻のインセンティブを与えたと批判されている。しかしそれは逆で、私はメルケルこそ政治家の最重要課題である戦争を起こさせない使命を全うしたと考えている。
では今回の戦争を起こさせたのは何か。それは民主主義という人類普遍の理想を追求する政治家たちがいたからだ。第二次大戦後の世界は自由主義と共産主義のイデオロギー対立の時代だった。米国を中心とする自由主義陣営から見れば、共産主義は人民の自由を奪い国家が人民を統制する「悪の帝国」だ。
一方のソ連を中心とする共産主義陣営からすれば、自由主義は人類を堕落させ、富の格差で少数の富裕層が多数の人民を苦しめる体制だ。多数の人民を解放するには自由主義体制を打倒しなければならない。従って両者間の戦争は必至だった。
しかし米ソは大国同士で簡単には相手を倒せない。しかも究極の大量破壊兵器である核を保有しているから直接の戦争は地球全体の破滅を招く。そのため戦火を交えない「冷たい戦争」が続くことになった。
もう一つ言えば、ソ連では「一国社会主義」のスターリンが権力を握り、「世界同時革命」を訴えたトロツキーが失脚した。トロツキーが権力を握っていれば自由主義陣営との衝突が世界規模で起きていたかもしれない。
また米国でも、理想を追求せずソ連を力で抑えることに反対したジョージ・ケナンの「封じ込め戦略」が採用され、米ソが直接衝突する危機は避けられた。封じ込め戦略はソ連の影響力が膨張するのを防ぎ、じっとソ連の内部崩壊を待つ戦略だ。だから朝鮮半島やインドシナ半島で「代理戦争」はあったが、世界大戦は避けられた。
そしてジョージ・ケナンの予言通り、ソ連はブレジネフ時代に共産党の腐敗が明らかとなり、それを改革するために登場したゴルバチョフ書記長が複数政党制や大統領制を取り入れたがすでに遅かった。政治的求心力を失ったゴルバチョフの大統領辞任と共にソ連は崩壊した。
すると米国の政治に、ソ連崩壊を共産主義に対する民主主義の勝利と考える思想集団が影響力を持った。ネオコンと呼ばれ、民主・共和両党にまたがる一大勢力となる。ネオコンの源流は「世界同時革命」を主張したトロツキーの信奉者で、彼らは人類普遍の理想として米国の民主主義を世界に輸出しようと考えた。いわば「世界同時民主革命」である。
ソ連なきあと唯一の超大国となった米国は、世界最強の軍隊を「世界の警察官」として世界各地の紛争に武力介入させ、米国の民主主義を世界に広めようとした。そして世界最大の大陸ユーラシアを民主主義一色にしようと考えた。
ロシアを民主化するためNATOの力を使い、中国を民主化するためには日本に役割を負わせる。そして中東は米国自身が民主化に乗り出した。ところが中東で米国は躓く。史上最長となったアフガン戦争で米国はタリバン政権の復活を許し、イラク戦争ではより過激なテロ組織を生み出して収拾がつかなくなる。民主化どころの話ではなくなった。
その間に中国とロシアが存在感を増し、特に中国は経済力でまもなく米国を追い抜こうとしている。それも共産党一党独裁体制を維持したままだ。米国が人類普遍の理想と考える民主主義が揺らぎかねない。
本来なら米国は中国への対応に全力を挙げなければならないが、それより前にネオコンが影響力を浸透させていたウクライナでロシアに対する戦闘の準備が整った。2014年に武力併合されたクリミア半島奪還の戦いである。ゼレンスキーは昨年3月に奪還の指令を発した。
ウクライナとNATOの挑発にプーチンが乗れば、NATOの結束は強まり、プーチンを侵略者として非難攻撃ができる。そのための情報戦の用意も整った。そして2月24日、プーチンは補給の準備もないまま軍事演習のロシア軍にウクライナとの国境を越えさせた。
ウクライナ軍を見くびっていたとの見方もあるが真相はまだ分からない。ただ領土的野心のためというのは違う。それなら周到な準備をしたはずだがそれが見えない。ともかくネオコンは計算通りにプーチン攻撃をはじめ、プーチンは世界中から「狂気の侵略者」の烙印を押された。
そのプロパガンダを一手に引き受けているのが民主党系のシンクタンク「戦争研究所」である。これがネオコンの巣窟だ。ネオコンは共和党にもいるが民主党にもいる。民主党のネオコンは「リベラル・ホーク(リベラルなタカ)」と呼ばれ、理想のためなら戦争をやる。
「戦争研究所」の所長ももちろんだが、その義理の姉がバイデン政権のヴィクトリア・ヌーランド国務次官で、「リベラル・ホーク」の代表格はヒラリー・クリントンだ。ヒラリーはずいぶん前からプーチンを「ロシア帝国再興の野望を持つ男」と批判して政治的抹殺の必要性を主張していた。
米国政治を見ると戦争を引き起こすのは民主党政権が多い。太平洋戦争はフランクリン・ルーズベルト、ベトナム戦争はジョン・F・ケネディ、「テロとの戦い」は共和党のブッシュ(子)だが、これはネオコンに取り巻かれた政権だった。そして今回のウクライナ戦争はバイデンである。
理想を追求するタイプの政権が戦争を引き起こし、ベトナム戦争を終わらせたのが共和党のニクソン政権であったように、戦争を終わらせるのはリアリズムの保守政権だ。ニクソン政権はキッシンジャーが外交を主導したこともあって、ソ連や中国と対立せず協調を選んだ。キッシンジャーは今回もロシアに領土を譲れと言ってゼレンスキーを怒らせた。
政治に対する根本的な姿勢の違いがあるのだろう。現実にある力関係を見て、その中でどうすれば国民を安全で豊かにするかを考える政治と、現実を脇に置いて、自分が理想に思うことをとことん追求する政治の違いである。とことん追求すれば必ず戦争が起こる。
それが現在の世界を覆っていると思う。だから軍拡が止まらない。メルケルの政治が批判されてしまうのだ。日本の岸田総理も軍事費の増額と反撃能力の保有を日米首脳会談でバイデン大統領に約束したという。なぜ記者会見を開いて国民に説明する前に米国大統領に言うのか理解できないが、それが日本という国なのだろう。
岸田総理が所属する「宏池会」という派閥は、「軽武装・経済重視」の路線で日本の高度経済成長の基盤を作った。軍事に力を入れないことで経済に力を集中させ、しかも巧妙に米国を騙す政治だった。岸田政権はそれとは真逆のことをやろうとしているように見える。それもこれも西欧的な理想を追求する政治に絡めとられているからだ。
先日のクワッドの会合で見せたインドのモディ首相の泰然とした様子がその対極に見える。かつての日本はアジアの王道政治を意識していたが、冷戦後には西欧覇道の政治に近づきすぎている。それが国民を幸せにするとは思えない。
●デンマークへのガス供給停止 英シェルのドイツ向けも ロシア 6/1
ロシア国営天然ガス独占企業ガスプロムは31日、デンマークへのガス供給を1日から停止すると発表した。
ロシア通貨ルーブル建てでの代金支払い要求に応じなかったためといい、英石油大手シェルの関連企業との契約に基づくドイツ向けの供給も1日から停止する。
ガスプロムは4月下旬、ルーブルでの支払いを拒否したポーランドとブルガリアへのガス供給を停止。5月にはフィンランドとオランダ向けも止め、ロシアのウクライナ軍事侵攻を非難する欧州各国への圧力を強めている。
●東部の都市、戦闘で二分 ロシアの戦争犯罪の疑い1.5万件 6/1
ロシアが侵攻を続けるウクライナの東部の都市セヴェロドネツクで、戦闘が激しさを増している。5月31日には、街が二分された状況になったとみられている。こうしたなか、ウクライナの検察トップは、ロシアによる戦争犯罪の疑いが、これまでに1万5000件近く報告されていると明らかにした。セヴェロドネツク市があるルハンスク州のセルヒイ・ハイダイ知事は、同市の現状について、「7〜8割がロシア軍に制圧されている」と述べた。残りはウクライナ部隊が防衛に努めており、街が2つに分かれているという。市内にある硝酸タンクでは空爆によるとみられる爆発があり、有毒ガスが放出されたが、狭い範囲で済んだという。同市ではまだ最大1万5000人が身動きが取れなくなっている可能性があると、ハイダイ氏は話した。
双方に多大な被害
ウクライナ東部の戦闘では、同国とロシアの双方が、多大な犠牲者を出している。ウクライナ司令部は、戦術的な撤退をした方が中期的には有利だと判断している可能性もある。ウクライナのアンドリー・ザゴロドニュク元国防相は、「さらなる兵器を手に入れ次第、特に西側からいま輸送されている大砲を手に入れ次第、反攻に転じることができる」とBBCに話した。ロシアは現在、ルハンスク州のほぼ全域を占拠している。隣のドネツク州の制圧も目指し、集中的な攻撃を続けている。BBCニュースのロシア語編集部がまとめたリストによると、2月24日の侵攻開始以来、ロシア兵の死者は少なくとも3052人に上っている。
戦争犯罪の疑い1.5万件
ウクライナのイリナ・ウェネディクトワ検事総長は31日、戦争犯罪が疑われる事案の報告がこれまでに約1万5000件に上っていると発表した。毎日200〜300件の報告があるという。オランダ・ハーグで記者会見したウェネディクトワ氏は、戦争犯罪の疑いとして、ウクライナ人に対するロシア各地への強制移動、拷問、殺害、生活インフラの破壊などを挙げた。また、約600人の容疑者を特定し、80人の起訴を開始したとした。容疑者リストには、「ロシアのトップクラスの軍人、政治家、プロパガンダ工作員」たちが含まれている。約1万5000件のうち数千件は、激しい戦闘が続いている東部ドンバス地方で確認されたという。ロシアは戦争犯罪への関与を否定しており、民間人を標的にしたことはないとしている。ウェネディクトワ氏は、「戦闘が続いている中での捜査は非常に困難だ」と、ドイツDPA通信に話した。同氏によると、すでに協力している。ポーランドとリトアニアに加え、エストニアとラトヴィア、スロヴァキアも捜査に加わったという。国際刑事裁判所(ICC)は、ウクライナを「犯罪現場」と呼んでいる。捜査を支援するため、過去最大規模の捜査チームを同国に派遣しており、首都キーウに現地事務所を開設したいとしている。
ロシア産石油の輸入、9割削減へ
欧州連合(EU)は30日、海上輸送によるロシア産石油の輸入をすべて禁止し、年末までに輸入量を90%減らすことで合意した。EUは何週間かにわたって議論を続けてきたが、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相が完全禁輸に反対したため、100%の禁輸とはならなかった。ハンガリーは、ロシアからのパイプラインを通した輸入に石油を依存している、これを受けて原油価格は31日、急上昇した。ブレント原油は1バレル123ドルを超え、ここ2カ月での最高値を記録した。EUは、ロシア産の石油は使わなくなるが、天然ガスは使い続ける。ドイツなどがロシア産のガスに依存しているためだ。こうしたなか、エネルギー大手のシェルは、ガスを供給し続けると表明し、利用者を安心させた。この発表の前には、ロシアのエネルギー企業ガスプロムが、シェルなどへの供給の停止を発表していた。シェルは他の供給源からガスを確保するとしている。 
●ウクライナ戦争で世界の小麦価格が高騰…アフリカで飢餓直面の恐れ 6/1
ウクライナ戦争の影響で世界の小麦流通量が激減し、アフリカでは小麦の価格が高騰している。AP通信が先月30日(現地時間)に報じた。影響で現地の住民は最悪の飢餓に直面する恐れも出てきた。
AP通信はこの日、アフリカ開発銀行(AFDB)の資料を引用し「ロシアによるウクライナへの侵攻後、アフリカでは小麦価格が45%も急騰した」と伝えた。アフリカ諸国は2018−20年には輸入小麦全体の44%をロシアとウクライナに依存していた。
国際社会ではアフリカでの飢餓状況について暗い見通しが相次いでいる。国連世界食糧計画(WFP)は先日「東アフリカのソマリアの場合、全人口のおよそ40%に当たる600万人が緊急の食糧支援を必要としている」と明らかにした。ソマリアではロシアとウクライナへの小麦の依存度が90%に達している。ナイジェリアやニジェールなどサハラ砂漠よりも南の地域では1800万人の住民が深刻な飢饉(ききん)に直面したとの見方も出ている。
世界的な小麦不足は当分続くとの予想もある。AFDBは15億ドル(約1930億円)を投入しアフリカで農民の穀物生産を支援する方針だが、これについてAP通信は「今の食糧難を解決できるほど生産を増やすには数年はかかる」と予測している。
ロシアのプーチン大統領は「欧米がロシアに対する制裁を解除すれば、食料輸出を正常化する」との考えを示した。これに対して米国や欧州などは「ロシア軍がウクライナから全面撤退するまでロシアに対する制裁を続ける」とすでに発表している。今年のアフリカ連合(AU)議長国セネガルのマッキー・サル大統領は近くロシアとウクライナを訪問し、食料価格高騰の問題を巡って意見交換する予定だという。
●ウクライナで相次ぐ「拷問」の証言、ロシア支配下・南部ヘルソンの住民が語る 6/1
オレクサンドル・グズさんは、自家製のボルシチをコンロで温めながら、携帯電話に保存している、あざができた自身の写真を見せてくれた。ロシア当局にやられた傷だと、彼は言う。「頭に袋をかぶせられた」、「腎臓は残らないだろうとロシア人たちに脅された」。BBCはウクライナ南部ヘルソンで、拷問を受けたという住民の生々しい証言をいくつか得た。
オレクサンドルさんは、ヘルソン州地方の小村ビロゼルカで暮らしていた。村を代表する立場の1人だった。若いころは軍の徴集兵だったが、現在は会社を経営している。妻とともに、反ロシアを公言していた。妻は親ウクライナの集会に参加。オレクサンドルさんは、ロシア軍が村に入るのを食い止めようとした。ロシアが村を制圧すると、まもなくして兵士たちが彼を探しに来た。
「首と手首にロープをかけられた」と彼は振り返る。尋問を受ける間、両足を大きく開いて立つよう、ロシア兵たちに言われたという。「答えないでいると、股間を強打された。倒れ込み、息苦しさを感じた。立ち上がろうとすると、殴られる。そして、また質問される」
ロシア軍は戦争の初期に、ヘルソンを制圧した。ウクライナのテレビ局は、すぐにロシアの国営放送局に替えられた。西側の製品は、ロシアの代替品に取って代わった。BBCが複数の人から直接得た証言によると、人々も姿を消すようになったという。ヘルソンで何が起きているのかを突き止めるのは難しい。この州ではロシアが支配を強め、人々は声を上げるのをいっそう恐れている。どうにか州外に出た人は、携帯電話からすべての写真や動画を削除していることが多い。ロシアの検問所で止められ、拘束されるのを恐れてだ。オレクサンドルさんは、自らのけがの画像を海外にいる息子に送り、安全に保管させてから、携帯電話の中身を消した。そのため、こうした証言が事実だと判断するには、拷問の被害に遭ったという複数の人から話を聞く必要がある。
オレフ・バトゥリンさんは、私たちが話を聞いた1人だ。ヘルソン州の独立系新聞の記者だった。ロシアの侵攻が始まってから数日のうちに、拉致されたという。「『ひざまずけ』と怒鳴られた」と彼は言う。「私の顔を覆い(中略)私の両手を背中に回した。背中、あばら骨、脚を殴られ(中略)機関銃の台尻で強打された」。あとで医者に診てもらったとき、あばら骨を4本折られたことがわかった。監禁は8日間にわたったという。その間、他の人が拷問を受けているのを聞き、若者の模擬処刑を目にしたという。
オレクサンドルさんとオレフさんは現在、ウクライナの管理地域にいる。彼らはBBCに、虐待についての警察の報告書を撮ったものだとする写真を提供してくれた。拷問の訴えには、極めて生々しいものもある。私はヘルソンの病院で勤務していた医師を取材した。彼は匿名を希望したが、病院のIDの写真を私に見せた。「体の切断が行われた形跡があった」と彼は言った。そして、血腫(ひどいあざのように見える血管外の局所的な出血)、擦り傷、切り傷、感電させた跡、手を縛った跡、首を絞めた跡なども見たと話した。また、足や手のやけどを目にし、ある患者からは、砂を詰めたホースで殴られたと聞いたという。
「中でもひどかったのは、性器に残ったやけど跡、レイプされた少女の頭にあった銃創、ある患者の背中と腹にあったアイロンによるやけどだ。その患者は、車のバッテリーと彼の股間が2本のワイヤでつながれ、湿った布切れの上に立つように指示されと言っていた」
この医師は、治療を受けなかった重傷者が他にもたくさんいたと考えている。
外に出るのが怖くて、家に閉じこもっている人もいる。また、ロシア人から「心理的プレッシャー」を受けている人もいると、彼は言う。「家族を殺すと脅し、あらゆる方法で恐怖を感じさせる」。
彼は患者たちに、なぜロシア当局に選ばれたのか聞いたという。
「その人たちは、ロシア側に行くのを望まなかったために拷問を受けていた。集会に参加した、領土防衛隊に参加した、家族の1人が分離主義者と戦った、というのが理由にされた人もいた。無差別に選ばれた人もいた」
愛する人が次の被害者になるかもしれないと恐れている人もいる。
ヴィクトリアさん(仮名)は、まだヘルソンにいる両親の身を案じている。父親はかつてウクライナの領土防衛隊に参加しており、すでに一度、拉致され殴られたことがあるという。「父は農場の真ん中に置き去りにされた。感情に左右される人ではないのに、家に戻ると、まもなく泣き出した。私は助けたいが、少女のような気分だ」と、ヴィクトリアさんは述べた。そして、同じことがまた起こるかもしれないと心配している。
ヘルソンで起きていることを調査しているのはBBCだけではない。国連ウクライナ人権監視団と人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)も、拷問と強制失踪の訴えに対して懸念を示している。
HRWのベルキス・ウィル氏は、BBCが集めた証言は、HRWが聞いているものと一致していると言う。同氏はまた、ロシア軍が占領地域で、「地元住民を恐怖に陥れ、恣意(しい)的な拘束や強制失踪、拷問などの虐待を使う」ことを一定程度続けていることが懸念されると述べている。「私たちが目にしているのは、戦争犯罪の可能性があるものだ」
ロシア国防省は、BBCのコメント要請に応じなかった。ロシア政府の報道官はこれまで、首都キーウ郊外のブチャにおける戦争犯罪の疑惑について、「明らかな虚偽であり、中でも最もひどいものは『やらせ』だ。そのことは、ロシアの専門家によって説得力をもって証明されている」としている。
ヘルソンで何が起こっているのかを、外部から正確に把握することは不可能に近い。しかし、多くの証言が集まっており、多くの人が恐怖、脅迫、暴力、抑圧について語っている。ヴィクトリアさんは、両親の脱出を図っている。「ヘルソンでは今、人々が絶えず行方不明になっている。戦争が続いているが、この地域だけ爆撃がない」
●「ウクライナでの戦争が第三次世界大戦になり、文明は滅ぶかも」 6/1
5月末にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムにおいて、投資家のジョージ・ソロスはスピーチで高まる危機感を露わにした。各国における民主主義の確立を支援してきたソロスは、ウクライナの戦争によって人類の直面する真の課題への取り組みが遅れ、取り返しのつかないことになると語った。
ウクライナでの戦争で対応が遅れる世界の課題
ロシアがウクライナに侵攻し、昨年のダボス会議から歴史の流れは大きく変わった。ヨーロッパは根底から揺るがされているが、欧州連合(EU)が設立されたのはこのような事態を防ぐためだった。
戦闘がいずれか停止したとしても、状況は決して以前に戻ることはない。ロシアの侵攻は第三次世界大戦の始まりとなり、我々の文明は生き残れないかもしれない。
ウクライナへの侵攻は突然起きたのではない。世界は以前から、「開かれた社会」と「閉じた社会」という正反対の二つの統治システムの間で闘争を繰り広げてきた。その違いをできるだけ簡単に定義してみよう。
「開かれた社会」では、国家の役割は個人の自由を守ること、「閉じた社会」では、個人の役割は国家の支配者に仕えることだと考える。
このシステムの闘争ゆえ、全人類に関わる他の問題は、後回しにせざるを得なくなった。パンデミックや気候変動への対処、核戦争の回避、国際的な組織の維持などだ。だからこそ私たちの文明は生き残れないかもしれないと言うのだ。
私は、世界の広い地域が共産主義の支配下にあった1980年代に「ポリティカル・フィランソロピー」と呼ばれる活動を始めた。抑圧に対抗する人々を支援したいと考え、当時のソビエト帝国内で次々と財団を設立したのだ。それが思いのほかうまくいった。
刺激的な日々だった。その時期に私は投資にも成功したので、1984年に300万ドルだった寄付額も、3年後には3億ドル以上にまで増やせた。
しかし、2001年の9.11テロ以降、「開かれた社会」に対する流れが変わり始めた。抑圧的な政権が台頭し、開かれた社会は包囲され、危機下にある。その最大の脅威となっているのは、中国とロシアだ。
なぜこのような変化が起きたのか、私は長い間考え続けてきた。その答えの一つにデジタル技術、特に人工知能(AI)の急速な発達がある。
強権的な政権を助けたテクノロジー
理論的にはAIは政治的に中立であるべきで、良い目的にも悪い目的にも使える。しかし実際にはその効果は非対称的だ。AIは特に抑圧的な政権を助け、「開かれた社会」を危険にさらすような支配の道具を生み出した。新型コロナウイルスもまた、そうした管理手段を正当化した。そうした管理はパンデミックへの対応に本当に有益だからだ。
このAIの急速な発展は、ビッグテックやソーシャルメディア・プラットフォームによる世界経済の支配と密接に関係している。これらの勢力は短期間のうちに世界中に広がり、広範囲に影響を及ぼしている。
この動きは、広範囲に影響を及ぼした。まず、米中間の対立を激化させた。中国は自国のハイテク・プラットフォームを国家の勝者に仕立て上げた。アメリカは、これらの技術が個人の自由に及ぼす影響を懸念し、躊躇している。
こうした態度の違いは、2つの異なる統治システムの対立に新たな光を当てている。習近平国家主席の中国は歴史上最も積極的に個人情報を収集し、国民を監視・管理する国だ。これらの発展から利益を得るはずだったが、これから説明するように、そうはならない。
非合理的な習近平の決断
まずは最近の中露関係、特に2月4日の北京冬季オリンピックの開会式での習近平とプーチンとの会談について考えてみよう。
両者は長い中ロ共同声明を発表し、両国の友情に「限界はない」と表明した。その際、プーチンはウクライナでの「特別軍事作戦」について習近平に伝えたが、本格的な侵攻の予定までを伝えていたかは不明だ(英米の軍事専門家は間違いなく伝えていたと言う)。そして習近平はこれを承認したものの、冬季五輪が終わるまで待つよう求めた。
そして習近平は、中国で流行し始めた伝染力の強いオミクロンの変種が出現してもオリンピックを開催した。主催者側は選手たちのために気密性の高いバブルを作り上げ、オリンピックは無事終了した。
しかしオミクロンは、その後まず中国最大の都市である上海で感染が拡大し、中国各地に広がった。しかし、習近平は現在もゼロコロナ政策に固執し、上海の住民に大きな苦難を強いている。上海市民は反乱寸前まで追い込まれた。
多くの人は、この非合理的な対応に困惑しているが、なぜこんなことが行われているのか、私にはわかる。習近平には後ろめたい秘密があるのだ。中国国民が接種しているワクチンは、武漢で流行したタイプの初期のウイルスの感染は防いでも、変異株にはほとんど効かない。
しかし、習近平の2期目の任期は今秋に切れ、現在非常にセンシティブな時期にあることから、そうとは公表できない。彼は異例の3期目を固め、最終的に終身支配者になりたいと考えている。そのためにすべてを尽くさなくてはならない。
激化するウクライナとロシアとの戦い
一方、プーチンの「特別軍事作戦」は計画通りには展開していない。彼は、ウクライナのロシア語圏の住民から、自分の軍隊が解放者として迎えられると期待していた。
しかし、ウクライナの抵抗は予想外に強かった。ロシア軍は装備も統率も悪く、すぐに士気を失い、深刻な打撃を受けた。アメリカとEUがウクライナを支援し、軍備を提供したことで、ウクライナ軍は、キーウではるかに大規模なロシア軍を打ち負かした。
敗北を認めるわけにはいかないプーチンは、作戦を変更した。残虐なチェチェン共和国のグロズヌイ包囲網、シリアでの残忍な作戦を率いたことで知られるウラジーミル・シャマノフ将軍を責任者に据えた。そして戦勝記念日を迎える5月9日までに何らかの成果を上げるよう命じた。
しかし、プーチンにはほとんど祝えることがなかった。シャマノフは、かつて40万人が住んでいた港湾都市マリウポリに集中した。同市はグロズヌイと同様に瓦礫の山と化したが、ウクライナの防衛隊は長く持ちこたえた。
また、キーウからの慌ただしい撤退によって、プーチンの軍隊がキーウ北部の郊外の市民に対して残虐行為を行ったことが明らかになった。これらの戦争犯罪はよく記録され、ブチャのような町でロシア軍に殺害された民間人の映像は国際的な広い憤りを呼んだ。しかし、ロシア国民はプーチンの戦争について知らされていない。
ウクライナ侵攻は、ウクライナ軍にとってより困難な新たな局面を迎えた。開けた土地で戦わなければならず、ロシア軍の数的優位を克服するのがより困難になっている。
ウクライナ軍は最善を尽くし、反撃し、大胆にロシア領内に侵入することもある。このような戦術は、ロシア国民に実態を知らしめるという効果もある。
アメリカもロシアとウクライナの経済格差是正に力を捧げ、最近ではウクライナ政府に対して400億ドルという前例のない規模の軍事・財政援助を行った。結果がどうなるかは見えないが、間違いなくウクライナには勝機がある。
●ウクライナ戦争は米ロの代理戦争?バイデン大統領は停戦に乗り出すべき  6/1
リチャード・ニクソン米大統領(在任1969年〜1974年)が冷戦時代の共産主義国の盟主ソビエト連邦の首都モスクワを米国大統領として初めて訪問(1972年5月)してから今月で50年目を迎えた。ドイツランド放送は「ニクソンのソ連訪問50年目」に関する記事を報じていた。
ニクソン大統領は当時、ソ連にベトナム共産党政権を説得してほしいという願いもあって、レオニード・ブレジネフ書記長と会談をした。実際はソ連から譲歩を得られなかったが、ブレジネフ書記長とニクソン大統領は初の軍縮協定に成功した。
米ソで戦略核兵器の配備数を制限する第1次戦略兵器制限条約に合意し、米ソ間で弾道ミサイルに対する迎撃ミサイルの配備数を制限する弾道弾迎撃ミサイル制限条約にも合意し、それぞれ調印した。キューバ危機(1962年10月)もあって、ソ連も米国も当時、核保有国の衝突を回避しなければならないという共通の認識があったからだ。デタント時代の幕開けとなった。
ところで、軍事大国米国はベトナム戦争では敗北を喫した。その背後には、ベトナム軍の戦略(ゲリラ戦など)もあったが、それ以上にソ連のベトナムへの武器援助が大きかったといわれた。その結果、軍事的守勢のベトナム軍が世界最強の軍事力を誇る米軍を破った。米国は1973年1月にベトナム和平協定に調印し、同年3月には米軍は全軍撤退した。
ロシアにとってはベトナム戦争とは逆の結果となったウクライナ戦争
ここまで考えると、欧州で現在進行中のウクライナ戦争と重なる。米軍を含む北大西洋条約機構(NATO)はウクライナでは軍事活動を控え、ウクライナ側の度重なる願いであったウクライナ上空の飛行禁止区域の設置も拒否し続けた。曰く、NATOとロシア軍の軍事衝突、エスカレートを避けるためだ。
その一方、米国や英国などNATO加盟国はウクライナ側の要請を受けて武器を供給してきた。軍事的守勢のウクライナ軍がロシア軍と対等の戦闘を出来たのは欧米諸国からの武器供給があるからだ。ウクライナ軍が欧米から武器を手に入れることができなければ、ロシア軍に簡単にやられていた、という点で欧米の軍事専門家の意見は一致している。
米軍がベトナム戦争で敗れた背後にはベトナム軍がソ連から大量の武器援助(例えば、地対空ミサイル)があったからだとすれば、今、ウクライナ軍がロシア軍と戦えるのは欧米からの武器支援があるからだ。ロシア軍はウクライナ軍に敗北を喫するとすれば、米欧の武器支援が最大の理由となるわけだ。ロシアにとってはベトナム戦争とは逆の結果となる。
初めて欧米の武器支援に警告を発したプーチン氏
ロシアのプーチン大統領は5月28日、フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相との3者による電話会談を行ったが、その中でプーチン大統領は欧米によるウクライナへの武器供給について、「事態のさらなる不安定化と人道危機の悪化を招く恐れがある」と警告している。プーチン氏が欧米の武器支援に警告を発したのは初めてのことだ。
欧米からの武器支援がロシア軍の苦戦の大きな理由となってきたからだ。ウクライナという戦場でロシア軍と欧米諸国からの武器をもって戦うウクライナ軍の戦闘が展開されているが、実際はロシアと欧米、もっと厳密に言えば、米国との戦い、すなわち代理戦争の様相を益々深めてきている。
ちなみに、オーストリア国営放送特派員としてウクライナの戦場から報道するヴェーァシュッツ氏は、「ウクライナ戦争は次第にロシアと米国の代理戦争の様相を深めてきている。欧米側はロシアと遅かれ早かれ協議しなければならない」と指摘する。
世界の紛争を振り返ると、代理戦争と呼ばれる紛争は少なくない。サウジアラビアとイエメンで戦いが進行しているが、実際は、中東の盟主サウジとイエメンの戦いというより、イエメン内の反体制武装勢力フーシ派を支援するイランとの戦いといわれている。スンニ派の盟主サウジとシーア派代表のイランのイスラム2代宗派の代理戦争の性格が強い。
代理戦争では、大国の軍部関係者は開発中の武器を実戦で使用できるチャンスと受け取っている。シリア内戦ではロシア軍は開発中の新しい武器を実戦の場で使用してきたことは良く知られている。
ウクライナ戦争でもロシア軍は既成の通常兵器だけではなく、開発した新しいミサイルなどを使用して、その効果や破壊力を調べている。ロシア国防省は28日、北極圏のバレンツ海で極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」の発射実験を行い、成功したという。ウクライナ戦争の実戦で同ミサイルが使用される可能性が出てくる。
ロシアと米国両国間で停戦への合意が不可欠
代理戦争の場合、例えば、ロシアと米国の全面衝突(核戦争)を回避し、サウジとイランの戦争を防ぐという意味があるが、紛争当事国の代表が交渉のテーブルにつかない限り、問題の解決はない。ウクライナ戦争でもロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の首脳会談が求められるが、その前にロシアと米国両国間で停戦への合意が不可欠となる。
バイデン米大統領は30日、ウクライナへの武器支援で、ロシア領内を攻撃できる長射程の兵器を供与しないと強調している。ウクライナは米軍の多連装ロケットシステム(MLRS)を含む長距離砲の提供を求めていた。米国は戦闘がロシア領土まで拡大することを恐れているわけだ。
問題は、代理戦争を何時までも続けることはできないことだ。時が来たら、米国はロシアとウクライナ戦争の停戦に向けて協議のテーブルに着かなければならない。大国の道徳的責任だ。米国は武器だけをウクライナに提供して、いつまでも黒幕でいつづけることはできない。
海外亡命中のオリガルヒ(新興財閥)の1人、ミハイル・ホドルコフスキー氏は、「ウクライナへ武器供給する欧米諸国はロシア側にとって既に戦争当事国だ」と説明している。バイデン米政権はウクライナ戦争の当事国の一国として、停戦の道筋を早急に見つけなければならないのだ。
●フィンランドの専門家が語る、ウクライナ侵攻後の「市民によるサイバー戦争」 6/1
フィンランド・ヘルシンキを本社とするサイバーセキュリティ企業「WithSecure(ウィズセキュア)」は、同社のカンファレンス「THE SPHERE」の開催に先立ち、現地ヘルシンキの同本社でプレス向けの会見を行った。CTO(最高技術責任者)クリスティン・ベヘラスコ氏と主席研究員 ミッコ・ヒッポネン氏が、サイバーセキュリティへの対応と、ロシアによるウクライナ侵攻以降、民間からの攻撃が増えている動向について語った。
サイバーセキュリティを「アウトカム」から考える
──サイバーセキュリティの脅威が複雑化しており、企業はどこから手をつけるか難しくなっています。
クリスティン氏:WithSecureとして「アウトカム・ベースド・セキュリティ」という考え方を提唱しています。これはサイバーセキュリティをレベルごとに捉えて「ビジネスの成果に結びつける」考え方です。
ピラミッド型の階層で言えば、1番下の階層に「脅威ベース」、2番目が「リスクベース」、3番目が「アセット(資産)ベース」、そして最上位が「アウトカムベース」というように、それぞれのレベルでの評価指標を捉えるのです。ビジネスの結果を出すということが重要です。「リスクベース」のリスクとは、Webサイトやアプリケーション、ユーザーのリスク、「アセットベース」のアセットとはデータやユーザー、ネットワークなどの要素を洗い出し、どのレベルの対応が、どのぐらい必要かを評価し対応していくことです。
もうひとつ重要なのは、アウトカムは「顧客のため」のものであるということです。時にはセキュリティとビジネスで利害が対立するときも、共通の目標を顧客のためのビジネス成果として、レジリエンスを追求していくことが重要です。
ウクライナ侵攻以降の4つの変化
──ロシアによるウクライナ侵攻以降、セキュリティをめぐる状況について教えて下さい。
ミッコ氏:われわれ自身は、ウクライナを強力に支持しており、すべてが平和に解決するためにサポートをしています。その上で、ウクライナ自身が引き起こしたものも含め、4つの変化があります。
1番目はこの3ヶ月の間、ウクライナ国内の人々からのランサムウェア攻撃の報告件数が減少していることです。ウクライナが戦争の渦中にあるので、トロイの木馬に怯えている暇がないほど切迫しているのかもしれません。
2番目の変化は、ウクライナに対するサイバー攻撃の量が増えていることです。われわれはウクライナ政府と緊密に連絡をとっていますが、ロシアの侵攻前と比較すると、3倍に増えているという報告があります。
3番目の変化は、ロシアに対するサイバー攻撃も増えていることです。これらは民間の組織からの攻撃で、ウクライナを支持する国からの攻撃だといえます。ロシアの通信規制当局や中央銀行、ロシア正教、多くの企業への攻撃がありました。
4番目の変化は、ロシアでもウクライナでもない、他の国に対する攻撃も増えていることです。西側諸国でウクライナを支援してきた国々、企業に対しての攻撃などです。一方でロシアの民間人からのウクライナを支持する企業や団体への攻撃が増加しています。
これらのほとんどは、ロシア政府によるものではなく、ロシアを支持する民間のハッカーによるものだと考えられます。われわれの国、フィンランドをターゲットとした攻撃も含まれています。
フィンランドのサイバー脅威
──フィンランドでの状況はどうでしょうか?
ミッコ氏:デンマーク、スウェーデン、フィンランド、 その中でも1番大きな金融機関であるノルデア銀行に対しての攻撃が、ゼレンスキー大統領のフィンランドでの議会演説の直後に行われました。
フィンランドによるNATOの加盟要請の後には、攻撃が増加しています。NATO申請が通るには数ヶ月かかると思います。その間に、ロシアはフィンランドへの攻撃をおこなう可能性がありますが、それは物理的な力による攻撃とは限りません。フィンランドの企業や組織、政府機関のデータがサイバー攻撃で破壊されるという状況も考えられます。
ロシアとフィンランドは距離的に非常に近い。鉄道でも3時間でいける国なのです。私の祖父は第二次世界大戦でロシアと戦いました。両国の間にあるのは、非常に長い歴史と長い国境です。プーチンがウクライナに戦争を仕掛けた理由の1つは、NATOを遠ざけるためでした。しかし、今のところ彼は失敗していると思います。NATOとの国境を拡大してしまったのです。戦争前ロシアとNATOの国境は1,200kmでしたが、フィンランドがNATOに参加すればロシアとNATOとの国境の長さは倍以上になるからです。もともとそれほど一枚岩ではなかったNATO諸国の結束を固めてしまった。フィンランドへの攻撃で予想されるのはデータの破壊です。
──現時点で、ロシア政府が絡むフィンランドへの攻撃はあるのでしょうか?
ミッコ氏:ロシアからは言葉による威嚇はありますが、現段階ではロシア政府がフィンランドにサイバー攻撃を行っているという確証は見られません。これまでのロシア側からとみなされた攻撃は民間人によるもので、政府によるものではないと考えています。
市民によるサイバー戦争
──今回のサイバー戦争は国家間であるよりは、ロシアと西側の民間人による戦争であるということですね。西側諸国のロシアの関連企業や組織を攻撃するのが事実であるなら、それは肯定されうるものとお考えでしょうか? ハクティビストなどによる攻撃をどのように見ていますか?
ミッコ氏:私たちはサイバー犯罪に関して、それが正当な理由であろうとなかろうと、区別することはありません。私もウクライナの支持の立場からロシアに対するサイバー攻撃を行う人や集団を知っていますし友人もいるので、彼らの立場を理解することはできる。しかし推奨はできないと考えています。いずれの立場にせよ法を犯していることには変わりはないからです。
クリスティン氏:しかしもし両国が戦争になった場合、それは犯罪ではなく戦闘行為になり、難しい問題となります。ロシアを攻撃している国の犯罪者の情報について、その国の警察や法の執行機関に問い合わせた場合、どのような対応を取るべきかといった問題が生じます。
──たとえばロシア側の企業や組織からの依頼があった場合、どのように対応するのでしょうか。
ミッコ氏:われわれ自身はロシアに対する経済制裁を行ってる国の企業であり、インドと中国は別にして、ロシアの中での経済活動のためのビジネスは行わないということになるでしょう。
──この間の情勢の中で、攻撃の手法や技術の進化はみられますか?
ミッコ氏:今のところ、ランサムウェアやDDoS攻撃などの攻撃の手法については、複雑化しているものの、使われているテクノロジー自体はこれまでと同じ水準で、特に目新しく進化したものはありませんが、今後さらに進化していくことが考えられます。ランサムウェアの手法の自動化や、AIによる高度化があるでしょう。さほど熟練技術を必要とせず、ノーコード、ローコードによって、新たなマルウェア、ランサムウェアが登場することも想定されます。私はその時期は1年後ぐらいではないかと予測しています。
──金銭的な目的の集団が、サイバー傭兵として活動している。
ミッコ氏:金銭目的でありながら、ロシア支持を語ることでロシアの保護を受けることも考えられます。いずれにせよ、今回の地政学的な危機の高まりの中で、サイバー攻撃の脅威は前例の無いものになってくるだろうということです。国家間の対立だけでなく、市民、民間人も加わったサイバー戦争になる可能性があります。世界の75億の世界の人口の中で、アフリカ、インド、パキスタンなどの新たなインターネットの利用者が生まれてくる。今後さらに多くの人たちが、ターゲットになってくる可能性があります。
●ロシア軍内で“銃口を向け合う”一部反乱? プーチン“盟友”も戦争非難の動き 6/1
ロシア軍の一部で反乱が起きているという情報を、イギリス国防省が明かしました。さらに、ロシア軍の兵士とされる音声からは、末期的ともとれるような状況が浮き彫りになっています。専門家は“内部崩壊”のシナリオもあり得ると指摘しています。
「行かないと撃つぞ!」銃口向けあい軍内部で対立か
これはウクライナ保安庁が公開した、ロシア兵の会話とされる音声です。
ウクライナ保安庁公式Twitterより: 指揮官のやつがここに来たんだよ。やつは僕に聞いたんだ。「任務終了まであとどれくらいだ?」って。僕は「20日と少し」と言った。そうしたらやつは「じゃあ、この20日間の内に死んでくれ」って指揮官への不満を募らせるロシア兵。
ウクライナ保安庁公式Twitterより: うちの大隊は600人いたんだけど、今は215人しかいない。他は死んだか怪我をしている。ほとんど全員が前線に行くのを拒んだ。すると、ある兵士が、「ほら、殺せよ!」って。そいつは、手榴弾を出してピンを引っ張って言ったんだ、「ほら、撃ってみろよ!一緒に吹き飛ぼう」って。特殊任務部隊は、僕たちに銃を向けていて、僕たちも彼らに銃を向けたんだ。あと少しで互いを撃ち合うところだったロシア軍内部で起きたとみられる、一触即発の事態。
ロシアのウクライナ侵攻から3カ月あまり。イギリス国防省の分析によると、ロシア軍の中級から下級の将校に壊滅的な人的損害があり、さらに、高度な訓練を受けた幹部や権限を持った指揮官が不足して、士気が低下しているといいます。さらに、火炎瓶が次々と投げ込まれ、炎上しているロシア軍の登録・入隊事務所の映像も。
今、ロシア国内ではこうした軍の登録、入隊事務所への襲撃が相次いでいると、ウクラナメディアなどが報じています。一方、アメリカの戦争研究所は、ロシア軍内部で「大統領府が戦争に勝つために十分なことをしていない」という不満が増えているとしています。ロシア国内だけでなく、軍内部からも戦争継続への反発の声が漏れているような現状。どのように分析すればよいのでしょうか。
フジテレビ・風間晋 解説委員:どれだけ広がっているか、というのは、はっきりしないところがありますが、想定していた以上に戦争が長期化しているということが、様々な不安や疑問などを呼び起こす事態に繋がっていると思います。ですから最大のポイントは、長期化していて、様々な矛盾が表面化してきているということだと思います。そして、批判の声は意外なところからも上がっているといいます。「プーチンの盟友」といわれる宗教指導者も異論を唱えたと報じられているのです。
プーチン氏の盟友…ロシア正教会の総主教も“戦争非難の動き”
その発言をしているのは、5月に行われた戦勝記念日にも参加していた、ロシア正教会のキリル総主教です。英・ガーディアン紙によるとキリル総主教は、5月29日、モスクワ中心部にあるハリストス大聖堂で「ウクライナ教会が苦しんでいることを私たちは完全に理解している」と述べました。苦境にあるウクライナへ同情するようなコメントと受け取られています。ロイター通信によると、キリル総主教は元々、特別軍事作戦を支持してきたことで、ウクライナ正教会が決別を表明していたといいます。そんな中で、今回の発言があったというのです。なぜ、こうした動きが出てきているのでしょうか。
筑波大学名誉教授の中村逸郎さんに話を聞くと、「ロシア正教会は、国民の7割が信仰する国教。その総主教が発言したことで、これまでプーチン大統領を支持してきた高齢者層にも影響が大きいのではないか」といいます。また、多くの犠牲者が出ているにも関わらず、戦勝記念日である5月9日までに戦果が上がらなかったことや、ベラルーシなどの旧ソ連諸国からも支援が受けられなかったこと、具体的には、軍事作戦に対する兵士や兵器の供給が受けられなかったことなどがあげられています。
そして、新たな経済制裁の動きも出てきました。
新たな経済制裁を追加 EUは一枚岩か
EUは首脳会議を開き、EU圏内へ船で輸送されている、ロシア産石油の輸入を即時禁輸で合意。この合意の対象は、EUが輸入しているロシア産石油の3分の2にあたる量です。依存が高いハンガリーのパイプライン輸入は対象外となりました。そして、ロシアの大手銀行「ズベルバンク」を国際送金システムから排除。
今回の経済制裁に対し、EUのミシェル大統領は「ロシアにとって大きな軍事資金源を断った」と話しています。
フジテレビ・風間晋 解説委員: EU全体で合意できることを優先して、ハンガリーの事情に配慮したということだと思うのですが、ハンガリーはロシアに対してかなりの依存度がある。ただ量的にみると、EU全体がロシアから輸入している原油の量の中に占める、ハンガリーの割合というのは本当に少ないです。ですから、そこに特例を設けることによって、EUが統一してロシアに対するという形を作ったということだと思います
●米 バイデン政権 “ウクライナに7億ドルの追加の軍事支援”  6/1
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州でウクライナ側の最後の拠点とされるセベロドネツクへの攻勢を強めています。こうした中、アメリカのバイデン政権はウクライナに対して、より精密な攻撃が可能だとされる「高機動ロケット砲システム」を含む7億ドル、日本円でおよそ900億円の追加の軍事支援を行うと発表しました。
ウクライナ東部2州の掌握をねらうロシア軍は、ルハンシク州でウクライナ側の最後の拠点とされるセベロドネツクへの攻勢を強めています。
ルハンシク州のガイダイ知事は5月31日、「ロシア軍がセベロドネツクの化学工場にある硝酸の貯蔵タンクを攻撃した」とSNSに投稿し、住民に対して有毒なガスが出ているとして避難場所から出てこないよう呼びかけています。
この攻撃によるけが人などの情報は明らかになっていませんが、ウクライナのゼレンスキー大統領は31日、新たに動画を公開し「セベロドネツクには大規模な化学工場があり、ロシア軍の攻撃は狂気の沙汰だ」と述べ、ロシア軍の攻撃を非難しました。
セベロドネツクのストリュク市長は31日、NHKのオンラインインタビューに応じ「敵の砲撃は住宅や公共施設など避難に使えるすべての場所を標的にしている。市街地の真ん中で戦闘が行われているため、住民を移動させることも不可能だ」と述べ、街の防衛のためにはロシア側の砲撃の拠点を攻撃する長距離砲などが必要だと訴えました。
こうした中、アメリカのバイデン政権の高官は31日、ウクライナに対して7億ドル、日本円でおよそ900億円の追加の軍事支援を行うと発表しました。
この中には、対戦車ミサイル「ジャベリン」やヘリコプターなどに加えて、これまで供与してこなかった「高機動ロケット砲システム」と呼ばれる兵器が含まれ、より精密な攻撃が可能になるとされています。
ただ、今回、供与する弾薬の射程はおよそ80キロで、政権高官は「ロシア国内の標的に向けた攻撃には使わないとの約束をウクライナ側から取り付けている」としています。
これについてバイデン大統領は31日、有力紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、「さらなる侵攻を抑止し、みずからを防衛できる民主的かつ独立したウクライナにしたい」としたうえで、「われわれはウクライナが国境を越えて攻撃することを後押しするわけではないし、可能にすることもない」としてロシアを過度に刺激する意図はないとしています。
ただ、ロシアのプーチン大統領は、欧米からウクライナへの相次ぐ兵器の供与について「事態のさらなる不安定化と人道危機の悪化を招く」と警告していて、強い反発も予想されます。
●米国、ウクライナに最新ロケットシステム供与へ 6/1
バイデン米大統領は5月31日、米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、ロシアのウクライナ侵攻に関して直接的な軍事介入を改めて否定し、最新のロケットシステムを新たにウクライナに供与する方針を示した。一方、ウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事は31日、侵攻を続けるロシア軍が同州の主要都市セベロドネツクを「ほぼコントロール下に置いた」と通信アプリ「テレグラム」に投稿した。
米国、直接的な軍事介入は否定
バイデン米大統領は5月31日、米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、ロシアのウクライナ侵攻に関して「米国や同盟国が攻撃されない限り、米軍部隊をウクライナで戦うために派遣したり、ロシア軍を攻撃したりすることはない」と直接的な軍事介入を改めて否定した。また、「戦争はいずれは外交によって終わるが、あらゆる交渉は地上での(戦闘の)状況を反映するものだ。ウクライナが強い立場で交渉の席につけるように支援する」と述べ、ウクライナに対し、最新の「高機動ロケット砲システム(HIMARS)」を新たに供与する方針を示した。
セベロドネツク「露軍がほぼコントロール下に」
ウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事は31日、侵攻を続けるロシア軍がルガンスク州の主要都市セベロドネツクを「ほぼコントロール下に置いた」と通信アプリ「テレグラム」に投稿した。AFP通信などが伝えた。
マリウポリの製鉄所で「152人の遺体」
ロシア国防省は5月31日、ウクライナ南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所の地下施設でウクライナ軍の兵士152人の遺体が見つかったと発表した。遺体に地雷が仕掛けられていたとして、「ロシアが意図的に遺体を損壊したと批判するための挑発だ」と主張した。
●独も多連装ロケット供与へ ウクライナに、米と協調 6/1
複数のドイツ・メディアが1日に報じたところによると、独政府はロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、独連邦軍が保有する多連装ロケット砲4門を月末までに供与する方針を決めた。同種の兵器を提供する米国と、緊密に協調するという。
バイデン米大統領は5月31日、米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、「より高度なロケットシステム」の提供を表明した。報道によると、米国が供与するのは多連装ロケット砲「HIMARS」で、今回搭載するロケット弾の射程は80キロと、これまで供与してきた兵器と比べると長距離。ロシア領内を攻撃可能なため「挑発」と受け取られる懸念もあったが、ウクライナは自国内でのみ使用する方針という。
●米政府、900億円のウクライナ軍事支援発表へ… 6/1
米政府は、ロシアの侵攻が続くウクライナに対し、約7億ドル(約900億円)の追加軍事支援を1日にも発表する。ウクライナが求めていた米国製の高性能ロケット砲システムも含めるが、露領を攻撃可能な長距離用の弾薬は提供しない方針だ。米政府高官が5月31日、記者団に明らかにした。
バイデン大統領は米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、「ロシアが代償を払わなければ、ルールに基づく国際秩序が終わりを告げ、他国への侵略の扉を開くことになる」として、国際社会が結束してウクライナを支援する重要性を訴えた。
一方、「ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の間の戦争は求めない」とし、米露間で直接の緊張が高まることへの警戒感も示した。「米国は(露大統領の)プーチン氏を露政府から追放しようとはしない」とも強調した。
今回、米国が供与する見通しとなったのは10発超のロケット弾が連射可能な多連装ロケットシステム(MLRS)の小型版である高機動ロケット砲システム(HIMARS)。最大300キロ・メートルの射程を持つが、高官は「長距離用の弾薬は提供しない。ウクライナがロシア領を標的にすることはない」と述べ、射程が80キロ・メートル程度となる弾薬の供与にとどめる考えを示した。
高官によると、今回は対戦車ミサイルや対空レーダー、ヘリコプター、戦術車両なども提供される。今回の武器供与は、ウクライナ支援に向けた約400億ドル(約5・1兆円)の追加予算成立を受けて検討が進められてきた。
●リトアニア、市民の募金3日で約700万円 軍事ドローンをウクライナ軍へ寄付 6/1
ロシア軍が2022年2月にウクライナに侵攻。ウクライナ軍はトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」を利用して侵攻してきたロシア軍に攻撃している。トルコ製のドローン「バイラクタルTB2」はロシア軍の装甲車を上空から破壊して侵攻を阻止することにも成功したり、黒海にいたロシア海軍の巡視船2隻をスネーク島付近で爆破したり、ロシア軍の弾薬貯蔵庫を爆破したり、ロシア軍のヘリコプター「Mi-8」を爆破したりとウクライナ軍の防衛に大きく貢献している。
ウクライナ軍が上空からの攻撃に多く利用しているトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」はロシア軍侵攻阻止の代名詞のようになっており、歌にもなってウクライナ市民を鼓舞している。
ウクライナ軍がトルコの軍事ドローン「バイラクタルTB2」を活用してロシア軍を多く攻撃している。そして爆破に成功するたびに上空からの動画をSNSで公開して世界中にアピールしている。このようなSNSや動画だけを見ていると、ウクライナ軍が優勢のように見えてしまう。だがこのように軍事ドローンで攻撃に成功する前にロシア軍に上空で撃墜されてしまうことも多い。
そこで2022年5月にはリトアニアのインターネット放送局がウクライナ軍のために募金を行い、3日で予定の500万ユーロ(約700万円)に達した。クラウドファンディングの募金で1人10ユーロから500ユーロまで募金できた。
このクラウドファンディングで集まった500万ユーロ(約700万円)で、トルコ製の軍事ドローン「バイラクタルTB2」を購入してウクライナ軍に提供する。
トルコは世界的にも軍事ドローンの開発技術が進んでいるが、バイカル社はその中でも代表的な企業である。軍事ドローン「バイラクタル TB2」はウクライナだけでなく、ポーランド、ラトビア、アルバニア、アフリカ諸国なども購入。アゼルバイジャンやカタールにも提供している。2020年に勃発したアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突でもトルコの攻撃ドローンが紛争に活用されてアゼルバイジャンが優位に立つことに貢献した。タジキスタンも購入を検討している。
トルコの軍事ドローンだけでなく、米国バイデン政権は米国エアロバイロンメント社が開発している攻撃ドローン「スイッチブレード」を提供。さらに「フェニックス・ゴースト」も提供する。英国も攻撃用の軍事ドローンをウクライナ軍に提供している。ロシア軍はロシア製の軍事ドローン「KUB-BLA」で攻撃を行っている。両国ともに軍事ドローンによる上空からの攻撃を続けている。軍事ドローンが上空から地上に突っ込んできて攻撃をして破壊力も甚大であることから両国にとって大きな脅威になっている。
両軍ともに攻撃や監視・偵察にドローンを活用しているが、ドローンは上空で撃破されたり、機能不全にされている。そのためウクライナ政府は各国に武器の提供も呼びかけている。
●首相、ウクライナ危機の収束「最後は正義や徳」 6/1
岸田文雄首相(自民党総裁)は1日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関し「戦後の歴史そのものが大きく変わろうとしている」との認識を示し、「清濁併せのむのが政治、外交だという言い方をするが、こうした混乱を前にして未来を考えたとき、最後はやはり正義とか徳とか、私たちが大切にしている価値観があってこそ国際社会は収まっていくんだと感じている」と述べた。
自民の谷垣禎一元総裁が特別顧問を務める谷垣グループ(有隣会)が都内で開いた政治資金パーティーで語った。
●「国がこんなに秘密を守ろうとしたことはなかった」ロシアで高まる不満… 6/1
ロシア国内で長引く戦争への不満が少しずつ表面に出て来ている。このまま次の選挙までプーチン氏は突き進むのか、どこかで方向転換するのか…そうなれば失脚する前に影響力を残せる後継者を選ぶかもしれない。今回は“ポスト・プーチン”をテーマに議論した。
「国がこんなに秘密を守ろうとしたことはなかった」
今、ロシア国内では戦争への批判はもとより、対外的発言は厳しく統制されている。それでも完全に蓋はできない。それほどに国民の不満は高まっているようだ。番組では、ロシア兵士の母の会の会長を20年以上勤めている女性の切実な声を直接聞いた。
ロシア兵士“母の会” メリニコワ会長「お話しできる内容は法律により制限されています。(中略)私たちの子どもが捕虜になったのか、死んだのか、行方不明なのか確認できません。(ロシアからは何の情報もないですが)ウクライナは、最初からネット上のサイトで捕虜の写真と書類を公開しています。インタビューもあります。これらのおかげで私たちが何かを知りたいとき(ウクライナ側に)連絡することもできます。これは正式な情報です」
情報を得られれば捕虜交換のリストに自分の子どもを入れてくれるようウクライナに頼むこともできるし、同じく息子を戦争に出したウクライナの親と連絡を取り合ったりもできるという。兵士の母の会は過去にチェチェン紛争など11回の戦争にかかわってきた。が、今回の戦争はこれまでとは全く違うという。
メリニコワ会長「国がこんなに秘密を守ろうとしたことは今までありませんでした。情報統制もなかったんです。インタビューでも考えたことを自由に話していました。今は余計なことを言わないようにしています」
――総動員令の可能性は?
メリニコワ会長「考えても仕方ないこと。ウクライナで軍事行動があるとも思ってもいませんでしたから…。ロシア連邦の指導者が一人で決めることです」
言いたいことが言えない中で彼女は「黙っていてはいけないと思った」と語ってくれた。この“母の会”は決して反体制側の団体ではなく、むしろこれまでいくつもの戦争で重要な役割を果たしてきた愛国的な団体だ。そこでも今回は不満が高まっている。
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長「不満は広がってます。現役の外交官が辞職して自らの声明をネットに掲示をしました。政府の中にも同じような考えを持った人はいるでしょうし、退役将校による『全ロシア将校の会』というのがあって、会長のイワショフさんは会のホームページで、2月24日の軍事侵攻の前から仮に侵攻した場合、ロシアは孤立し、勝てないし犠牲も大きいからプーチン大統領も再考すべきだ、と書いている。そのように軍関係でも現在の戦争への否定的な考えが徐々に拡大している」
こうした国内での否定的な意見の拡大は、プーチン政権の終焉を匂わせる。となれば必然的に話題は“後継”に集まる。
「政治的野心を持たないとても有能な人材」
プーチン氏による人材の抜擢は、これまでも専門家の間で度々注目されてきた。先日の戦勝記念日には、36歳のドミトリー・コワリョフという人物がプーチン氏に寄り添う姿が映し出され後継者では?と憶測を生んだ。これまでも、突然の抜擢により周囲をザワつかせたことがある。こんな人たちだ。
ドミトリー・ペスコフ氏・・・エリツィン政権の時、外交官だったが、プーチン大統領就任の年に大統領府に入り、44歳で大統領報道官に抜擢され、現在に至る。
マキシム・オレシキン氏・・・ロシア中央銀行・財務省職員を経て34歳で経済発展相に。37歳で大統領補佐官に抜擢された。
アントン・ワイノ氏・・・駐日ロシア大使館員として沖縄サミットでプーチン氏をアテンド。その後30歳で大統領府に上がり、44歳で長官に抜擢された。
果たしてプーチン氏はどんな理由でこれらの人物を重用してきたのか? 実は36歳のコワリョフ氏も含め4人に共通点があるという。
朝日新聞 駒木明義 論説委員「プーチン大統領の人材起用といえば、旧KGB 出身とか、(出身の)サンクトペテルブルク時代の同僚というのは典型的なんですが、ここにあがった人はそうではない。いずれも個人的に好かれた人…(中略)共通点といえば、プーチン大統領を脅かす存在ではない。若くて非常にバランスが取れていて…(中略)後継者になるタイプというよりは、心を許せる相手。仮に後継者とするなら完全に操れる弱いタイプです」
いつの時代もどこの社会も、トップに立つ者は自分の地位を脅かす存在は起用しないようだ。
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長「政治的野心を持たない、とても有能な人材。こういう人を起用するというのは、後継者を作るというより(中略)次のロシアを支える人材を育成しようという気持ちはあるんだと思う」
つまり、ロシアの未来のために優秀な人材は大事にするが、トップに立つ人材はいらない。自分がまだまだ頑張る。そのために憲法を改正したのだから…ということか。しかしプーチン氏はかつて一度大統領を退いている。その時、後継候補は二人いた。プーチン氏はその時どんな行動をとったのか…。
後継候補の一人は、国民の人気が高かった国防相、セルゲイ・イワノフ氏。プーチン氏の大学の同窓生で、旧KGB出身。
もう一人は、第一副首相、ドミトリー・メドベージェフ氏。13歳年下だが、すでにプーチン氏に16年間仕えていた。
後継話が盛り上がったのは下院選挙の年。国民人気のあるイワノフ氏をメドベージェフ氏と同じ副首相にして注目を集めたのだ。専門家の間でも下馬評でもイワノフ氏有力とされていた。しかし、大統領選挙の前にある下院で野党に大勝利したプーチン氏が、その直後に後継に指名したのは、メドベージェフ氏だった。
兵頭慎治 「私もイワノフさんだと思っていた。でも蓋を開けたらメドベージェフさんを指名して自分は首相に引き下がる。これは、後継者というよりも自分が首相に就いた時、誰が大統領だといいのかっていう観点なんです」
首相に引き下がっても実権は手放したくなかったプーチン氏。では何故イワノフ氏ではいけなかったのだろうか?
駒木明義 「結局のところプーチンはイワノフを恐れたんだと思う。彼が大統領になったら実権を握られる。有能だし、KGB出身で軍やFSB(連邦保安局)など“力の省庁”も掌握していくだろう、自分より巧く。これを大変恐れたんだと思う」
この時から“自分の地位を脅かす芽は摘んでおく”というトップの定石どおりに歩んできたプーチン氏。国内でウクライナ侵攻に批判的な空気が生まれてきた今、その傾向は今後ますます強くなるに違いない。
●バイデン氏が寄稿「プーチン氏追放を模索しない」…和平実現向け配慮  6/1
米国のバイデン大統領は5月31日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)に寄稿し、ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について「米国は彼の追放を模索したりはしない」と強調した。「この戦争は最終的に外交的解決しか道はない」とも述べた。ウクライナとロシアの和平実現に向け、プーチン氏にも一定の配慮を示した形だ。
バイデン氏は寄稿で、「ウクライナが更なる侵略から自国を防衛できる手段を持ち、民主的で、独立し、繁栄した国となってほしい。それが米国の目標だ」と指摘した。その上で、外交的解決に向けて「ウクライナに最大限の交渉力を持たせる」として、高性能ロケット砲システムの新たな供与など、ウクライナへの軍事・財政支援強化の狙いを説明した。
一方で、「ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の間の戦争は求めない」と述べ、米欧とロシアの間で緊張が高まることへの警戒感も示した。バイデン政権内では露軍の「弱体化」を目指す考えが公言されているが、バイデン氏は「ロシアに痛みを与えるためだけに、この戦争を長引かせようとは考えていない」とも述べ、外交的解決を急ぐ考えを改めて強調した。
バイデン氏は3月下旬のワルシャワでの演説で、プーチン氏について「この男が権力の座にとどまってはならない」と非難した。「体制転換」を求めたとも受け取れる発言に、和平に向けてプーチン氏との交渉ルートを閉ざしかねないと危惧する声も上がっていた。
●ロシアのインフラ崩壊 航空機、高速鉄道、最新兵器…部品調達できず焦る 6/1
西側諸国の経済制裁強化で、ロシアのダメージが致命傷になりつつある。プーチン大統領は強気の姿勢を崩さないが、航空機や高速鉄道などの交通インフラが部品の枯渇で麻痺(まひ)する可能性が高まっている。ウクライナ戦線でもロシア軍は最新兵器が調達できず、半世紀前の旧式戦車を登場させるなど、産業、軍事とも「没落」が加速している。
欧州連合(EU)は5月30日、ロシア産石油の輸入を禁止することで合意した。年内に90%の輸入が停止される見込みで、プーチン政権に新たな打撃となる。
米ブルームバーグは22日、露航空大手アエロフロートグループが保有する350機以上の航空機について部品不足が迫っていると報じた。大半は欧エアバス社製か米ボーイング社製だという。
米商務省は先月、アエロフロートなど航空最大手3社に部品やサービスの提供を禁止する命令を発した。露経済紙「コメルサント」(電子版)は「2025年までにロシアの航空機の半分以上が解体される」とした。
筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「国土が東西に約1万キロ延びるロシアで国内便は重要だが、制裁で定期的に交換が必要な部品が調達できず、事故の危険性も懸念される」と指摘する。
ロシア版新幹線といわれる高速鉄道「サプサン」など鉄道インフラへの影響も大きい。独産業システム大手のシーメンスは12日、ロシア事業からの撤退を発表。「特に鉄道サービスおよび保守事業に影響を及ぼす」としている。
「プーチン氏の肝いりでモスクワ―サンクトペテルブルク間を開通させたサプサンだが、シーメンス製の部品を使用したものだ。航空機と合わせ、重要な移動手段がなくなれば、人流や物流も制限される」と中村氏。
ウクライナ戦線でも、最新鋭兵器の調達が難しくなっている。英国防省は27日の分析で、ウクライナ南部への侵攻を担うロシア軍部隊がここ数日、約50年前に製造されたT62戦車を前線に配備した可能性があるとした。「ほぼ間違いなく対戦車兵器に脆弱(ぜいじゃく)だ」と指摘する。
同省は「露軍は精密誘導弾の備蓄が枯渇しているようだ。精度や信頼性の低い旧式兵器の使用を余儀なくされている」とも分析していた。
プーチン氏は西側の制裁が失敗するとし、「国内企業はすでに成熟しており、たやすくその後釜に座ることができる」と強気な姿勢を崩さない。
だが、前出の中村氏は「プーチン氏が自信満々に話すときは焦りの裏返しで、世論の動揺を抑える演出の面が大きい」とみる。
「欧米はロシアの重工業や軍事産業の枯渇を見据え、ウクライナに最新兵器を供与して反転攻勢の流れに持っていくだろう。ハイテク産業など技術革新に失敗したプーチン政権は資源頼みから脱却できず、さらに退化していくのではないか」
●トルコがゼレンスキー氏とプーチン氏に“首脳会談”呼びかけも…停戦交渉は 6/1
トルコのエルドアン大統領が5月30日、ロシアとウクライナ両首脳との電話会談を行いました。いったいどんなことが話されたのか…停戦につながる可能性はあるのか。専門家とともにみていきます。
「会談は今後の戦いへの時間稼ぎでしかない」
ホラン千秋キャスター: まずはウクライナとの電話会談です。その内容について、ゼレンスキー大統領が明らかにしています。「侵略者がもたらす食糧安全保障への脅威とウクライナの港の封鎖を解除する方法をトルコと協議した」ということなんです。どういうことかと言いますと、ロシアのウクライナに対する侵攻が始まって以降、ウクライナの港湾は封鎖されています。ウクライナ産の小麦はあるけれども、それを安全に輸出するということができなくなっている状況なんです。そのため、安全に港などを通して輸送するための海上ルート確立に向け協議を行ったということでした。では、その点について、ロシアとはどのような話が行われたのか。電話会談の中でプーチン大統領は、「小麦などの輸送について、ウクライナの港からの輸出も含め、海上輸送を妨げないようにする準備がある」というふうに話したんです。一見すると協力的なように見えるんですが、「対ロ制裁を解除すれば、ロシアは大量の農作物を輸出できる」とも主張したということですので、なかなか難しそうな状況だなということが伺えます。さらに最近なかなか耳にすることがない停戦に向けた動きなんですけれども、これに対しては、トルコのエルドアン大統領が「ロシアとウクライナ双方が合意すれば、国連を交えた会談を開催する」というふうに呼びかけたんですが、国連を交えた会談は意味があるのかどうか、停戦に繋がるのかという点について明海大学教授の小谷哲男さんに伺いますと、「ロシアとウクライナにとってトルコとの会談は、今後の戦いへの時間稼ぎでしかない。国連を交えた会談を行っても、停戦する可能性は低い」というふうに指摘しています。
停戦交渉は「事実上途絶えている」
井上キャスター: トルコはフィンランド・スウェーデンのNATO加盟に反対するという立場をとったり、ロシアとウクライナの交渉の仲介を名乗り出たり、何か主導権を握ろうというところがあるんですか。
笹川平和財団 主任研究員 畔蒜泰輔さん: やはりトルコとしては、欧州とロシアの間で、うまく自国のプレゼンスを高めようという形で、積極的に動いているということだと思います。
井上キャスター: ロシアとウクライナ、停戦交渉というのは最近なかなか報じられないですが、水面下では行われているんですか、それとも今、途絶えているんですか。
畔蒜さん: 私は事実上途絶えていると思っています。今回のトルコのエルドアン大統領のロシアとウクライナへの停戦の呼びかけも、国連を交えてということであったとしても、明海大学小谷教授が指摘されるように、大きな停戦に向けた動きになる可能性は極めて低いんじゃないかと思います。
井上キャスター: ロシア・ウクライナ双方ともに有利な立場に立っていないと停戦交渉はしない、そこはまた変わってないですか。
畔蒜さん: そういうことだと思います。そうだとすると、今の戦況を考えたときには、双方、今、停戦に向けて積極的な意欲があるとはちょっと考えられないということだと思いますね。
EU ロシア産石油90%輸入停止へ 日本への影響も
ホランキャスター: そうするとこの状況というのは、まだまだ長引きそうなんですが、ロシアとしては、ロシアに対する制裁解除を訴えている中、新たな制裁ということになるんだと思います。EUの動きです。ロシア産の石油を輸入禁止へという動きなんです。こちらは、EUが、ロシア産の石油3分の2以上を輸入禁止することで合意しました。これまでの量からすると、だいぶ輸入の量というのは少なくなるということがわかります。これ本当は全面輸入禁止で合意したかったんですが、全会一致でなくては決まりません。反対したのはハンガリーです。ロシアへの石油依存度が高いということで、全面禁輸には至りませんでした。したがって、3分の2以上を輸入禁止ということになったようなんです。EUのミシェル大統領はツイッターで「ロシアの兵器確保に向けた膨大な資金源が、この決定によって断たれる。戦争を終わらせる最大の圧力になる」というふうに話したんです。今は、3分の2以上を輸入禁止ということなんですが、ゆくゆくは年内におよそ90%輸入停止したいというような方針のようです。この制裁に関して、経済アナリストの森永卓郎さんは「この決定はある程度ロシアの打撃になる」といっています。しかし、「原油価格が高騰し、日本も含め、返り血を浴びて経済状況は悪くなるだろう」ということなんです。世界的にもやはりこの決定というのは影響が大きそうです。日本への影響を具体的に見ていきますと、ガソリン価格はこれまでも高騰してきました、これがさらに高騰する。ガソリン価格が高騰しますと、輸送費が上がります。そうすると、あらゆる価格に影響してきます。つまり、貨物船であったり、航空機であったり、輸送費が上がることで、届けるものの価格が、上がってくるということですので、私たちの家計を直撃するようなことになりかねないということです。
井上キャスター: 戦争を止めるためにもプーチン大統領が最も嫌がることをやらなければならない、ですがその一方で、日本のように国内でエネルギー資源を賄うことができない国は、もちろんダメージも相応に受ける。
星浩コメンテーター: ロシアの方にもダメージを与えようとするんですが、エネルギー資源を受け取る側、使う側もダメージ受けますから、一気にゼロにするというのはなかなか難しい。今回の動きを見ていると、国際政治の力関係というのが見えてくるというところがありまして、おそらく船の輸送を止めると、この船の輸送分をインドとか中国がかなり買い叩くんだと思うんですね。ロシアが困っているんだったら、買ってやろう。その代わり安くしろと。実はアメリカはインドが石油を買うことは、そんなに嫌じゃないんですよね。なぜかというと、だんだんロシアが弱体化して、いずれ中国の子分になるっていう可能性があるので、その場合、ロシアとインドの関係がむしろ続いていてくれた方が、中国を牽制するっていう点でも、アメリカにとっては好ましいので、この石油の輸入制限っていうのは、いろんなところにハレーションをもたらす効果があるという点では、ちょっと興味深い動きですよね。
井上キャスター: アメリカを中心に考えると、対中国がやはり最大の懸案事項?ロシアが中国の子分になってしまう?
星浩コメンテーター: 中国を牽制するためにもインドとロシアのパイプが続いてた方が、アメリカにとっては都合がいいっていうそういう計算があるんですよね。
井上キャスター: 畔蒜さんは、そのあたりどうご覧になっていますか。
畔蒜さん: バイデン政権がロシアとの関係の中で、インドをどう位置付けるのか。おそらくバイデン政権の中でもいろんな議論があるんだと思うんですけども。今のところ、例えばロシアがインドに売っているS400という地対空ミサイルに対してインドに制裁をかけるという議論も、バイデン政権いまだに行っていないというのは事実だと思う。
井上キャスター: 本当のところの息の根を止めるようなことはバイデン政権もやっていないというわけですか。
畔蒜さん: やっていないということです。 

 

●バイデン「プーチン追放、ロシア弱体化は望まない」…「現実論」に重き? 6/2
米国のジョー・バイデン大統領はウクライナ戦争に関連して、現地への兵器支援を強化するとしながらも「北大西洋条約機構(NATO)とロシアの直接衝突」や「ロシアの政権交代」などは望まないとの考えを明らかにした。今回の戦争とについて一時掲げていた「原則論」をおろし、「現実論」への方向転換を試みていると解釈できる。
バイデン大統領は先月31日付の「ニューヨーク・タイムズ」への寄稿「ウクライナにおいて米国がすべきこととすべきでないこと」で、今回の戦争で「米国の目的を明確にすることを望んでいる」としつつ、上のように表明した。米国はこれまで、「(ウラジーミル・プーチン大統領は)権力の座にとどまってはならない」(バイデン大統領、3月26日)、今回のような侵攻が「できないほど(ロシアが)弱体化することを望む」(ロイド・オースティン国防長官、4月25日)と述べるなど、ロシアに対する「強硬発言」を続けてきた。
同紙は先月19日の社説などで、ロシアとの全面戦争に突入することが「米国の国益」ではないとし、政府は今回の戦争の明確な目的を明らかにすべきだと主張してきた。バイデン大統領の今回の寄稿は、同社説の要求などを受け入れ、これまで表明してきた強硬な原則論に一線を引いたものと考えられる。
バイデン大統領はその一方で「ウクライナの戦場で最重要の諸目標物をより精密に打撃できるよう、先端のロケットシステムを援助する決定を下した」と明らかにした。バイデン大統領はその理由について、「戦争は外交(交渉)を通じて明確に終わるだろう」とのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の発言を引用しつつ、ウクライナに「かなりの兵器と弾薬を迅速に送るのは、彼らを戦場で戦えるようにするとともに、交渉のテーブルで最も強力な立場に立たせるため」と説明した。また、「ウクライナが国境を越えて攻撃することは煽っておらず、そのような能力も提供していない」とし、「我々はこの戦争を長期化させてロシアを苦しめることは望んでいない」と述べた。
ロシアに対しては「NATOとロシアとの戦争は追求しない」とし「プーチンに同意してはおらず、彼の行動に怒ってはいるが、米国はモスクワから彼を追い出そうとはしないだろう」と述べた。そして「米国や同盟諸国が攻撃を受けない限り、ウクライナに米軍を派兵、あるいはロシア軍を攻撃などの形でこの戦争に直接介入することはないだろう」との立場を明確にした。ウクライナ戦争についてのこれまでの強硬発言を事実上撤回したうえで、ウクライナを支援する目的は「拡大」や「ロシアの弱体化」ではなく、外交を支援するためのものであることを明確にしたのだ。これを示すようにバイデン大統領は寄稿の冒頭で、「(ウクライナ戦争についての)我々の目的は明確だ。抑圧から自らを守る手段を持ったウクライナが、民主的で独立を保ち、主権を守りつつ繁栄することを望んでいる」と述べるにとどまった。
バイデン大統領はそれとともに、米国はウクライナ国民の意思を重視するとの原則も再確認した。バイデン大統領は「この危機の間じゅう、常に我々の原則は『ウクライナが排除された状態では、ウクライナについてのいかなる決定も下されない』ということ」だったとしつつ、「個人的にも公開の場においても、ウクライナ政府にどこかの領土を割譲せよと迫ったりはしていない。それは誤りであり、きちんと確立された原則に逆行する」と述べた。
戦争の拡大は望まないというバイデン政権の方針は、最近の新たな兵器システムの供給についての決定にもよく表れている。バイデン大統領は先月30日、記者団に対し、「我々は、ロシア領内を打撃しうるロケットシステムはウクライナに送らない」と述べている。射程距離が最長300キロの長距離多連装ロケット(MLRS)は提供しないとの考えを明確にしたのだ。
英「フィナンシャル・タイムズ」は、米国政府がこの日、その代わりとして射程距離が最長80キロの高機動ロケット砲システム(HIMARS)の発射台や精密砲弾などを含む7億ドルの追加支援策を1日に発表すると伝えた。同ロケット砲発射台に使われるロケットは誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)で、射程距離は米国がすでにウクライナに提供しているM777りゅう弾砲の2倍以上だが、MLRSに比べればはるかに短い。米国の高位当局者は、今回のロケットシステム支援によって「ウクライナは領内の戦場において、より遠くにある目標を正確に打撃できるようになるため、ロシアの進撃を撃退するだろう」と評価した。 
●「終結のあり方」でEU亀裂鮮明 ウクライナ戦争 6/2
ロシアによるウクライナ侵攻の長期化で、欧州連合(EU)内の対立が鮮明になってきた。フランス、ドイツ、イタリアの西欧3カ国が「一刻も早い停戦」を目指してプーチン露大統領と対話を再開し、対露強硬派のポーランドやバルト諸国は一斉に反発した。根底には、欧州の安全保障をめぐる考え方の違いがある。
EUは2月以降、ウクライナ支援や対露制裁で歩調を合わせてきた。だが、ウクライナ東部で露軍が攻勢を強めると、「戦争終結のあり方」をめぐって対立が深まった。
マクロン仏大統領は5月初め、約1カ月ぶりにプーチン氏と電話会談した。ショルツ独首相も電話でプーチン氏と話し、28日には3者会談を行った。マクロン氏は「まず停戦。それが、和平に向けた交渉への道」と訴える。
仏独と呼応するように、イタリアは5月、国連のグテレス事務総長に和平案を提出した。伊紙レプブリカによると、▽戦闘停止と非武装地帯の設置▽ロシア、ウクライナが東部の地位などを交渉▽欧州安保をめぐる多国間合意の締結−という内容。ドラギ伊首相は19日、伊上院で「ヘルシンキ宣言」をモデルにあげた。東西冷戦中の1975年、米ソと欧州が安全保障の協力を定めた合意のことだ。
ポーランドのモラウィエツキ首相は危機感を強め、31日の英民放テレビで「この戦争で負けたら、平和は来ない。われわれはプーチン氏の脅しにさらされ続けることになる」と主張。ウクライナの勝利まで支えるべきだと訴えた。
エストニアのカラス首相も仏紙で「軍事解決しか道はない。ウクライナは勝たねばならない」と主張。ラトビアのカリンシュ首相は「間違った信条を持つ仲間がいるのは、問題だ。『とにかく平和を』と考えている。それはプーチン氏の勝利につながる」と仏独伊を痛烈に批判した。
EUを主導する仏独を、東欧が正面から批判するのは極めて珍しい。
背景にあるのは、仏独による過去の停戦仲介への不信だ。2008年のジョージア(グルジア)紛争、14年に始まったウクライナ東部紛争で停戦を優先し、ロシアの隣国への干渉に目をつぶった。その結果が今回の侵攻を招いたと映る。
ロシアに対する認識も全く違う。仏独伊は「欧州安保には、ロシアとの戦略的パートナー関係が不可欠」(マクロン氏)とみなす。旧ソ連の勢力圏にあったポーランドやバルト三国にとってロシアは脅威でしかない。
今回の戦争では、米国が強力な武器でウクライナを支援し、北大西洋条約機構(NATO)が欧州安保の主役として復権。仏独主導のEU独自安保は影が薄くなった。NATOを重視する東欧諸国には大きな追い風となり、仏独伊に対する強気の姿勢を支えている。
●ウクライナ戦争でワイヤーハーネス不足深刻、EV移行加速か 6/2
電源供給や信号通信に使われる電線の束と端子などで構成されるワイヤーハーネスは、自動車部品の中でも単価が安い。だが、その品不足が業界にとって思いもよらぬ頭痛の種になっている。一部からは、内燃自動車の凋落(ちょうらく)が早まる可能性があるとの声も聞かれる。
ワイヤーハーネスの供給不足は、世界生産のかなりの部分を占めていたウクライナにロシアが侵攻したことが原因。ウクライナ産のワイヤーハーネスは毎年、何十万台もの新車に搭載されてきた。多くの低賃金労働者の「人力」によって製造され、半導体やモーターのような主力部品とは言えないものの、供給がなければ自動車を生産することはできない。
ロイターが取材した十数人の業界関係者や専門家の話では、この不足問題によって一部の既存自動車メーカーは、電気自動車(EV)向けに設計された軽量で、コンピューターによる製造可能な新世代のハーネスへの切り替え計画を加速させるのではないかという。
世界の新車販売で、なお圧倒的比率を占めるのはガソリン車だ。JATOダイナミクスのデータに基づくと、昨年のEV比率は6%に過ぎない。
しかし、オートフォーキャスト・ソリューションズを率いるサム・フィオラニ氏は、ワイヤーハーネス不足に触れて「業界にとっては、まさにEV移行をより迅速化する理由が、また1つ増えた」と指摘した。
日産自動車の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)はロイターに、ウクライナ危機などによるサプライチェーン(供給網)混乱を受け、同社はサプライヤーとの間で低賃金労働を前提としたワイヤーハーネス生産モデルからの脱却について話を進めていると明かした。
根本から異なるテスラの設計
内燃自動車向けワイヤーハーネスは、座席用暖房からパワーウインドーまであらゆる機能接続のために束ねられたケーブルの総延長が平均で5キロメートルに達する。生産は労働集約型で、ほぼ全ての生産モデルごとに独自性を備えていることから、生産先をすぐに切り替えるのは難しい。
そして、ウクライナでの供給を巡る混乱が、自動車業界に不都合な真実を突然突きつけた形になった。メーカーとサプライヤーによると、戦争が始まったばかりの時点でまだ、工場が稼働を続けられたのは、現地労働者が電力不足や空襲警報、夜間外出禁止といった困難を乗り越えて頑張って働いてくれたおかげでしかなかったのだ。
独フォルクスワーゲン(VW)傘下の英高級車メーカー、ベントレーのホールマークCEOは、ハーネス不足に伴う今年の生産台数減少を当初3─4割と想定していた。
だが、工場の完全休止期間はコロナ禍の際よりも長い数カ月になる恐れが出てきたと説明。従来のハーネスはウクライナのサプライヤー10社からの10種類の部品で構成されるため、代わりの調達先を見つけ出すのも難しいと述べた。
ホールマーク氏は、ワイヤーハーネスについての設計思想が根本的に異なるテスラを引き合いに出した上で、ベントレーがそうした方式に一朝一夕で転換することはできないが、今回の供給不足をきっかけに中央コンピューターで制御するEV向けの簡素なハーネスの開発、投資を重視するようになったと付け加えた。
テスラなどのEV向け新世代ハーネスは、自動生産ラインで製造できるだけでなく、より軽量だ。EVにとって走行距離を延ばすという面で、総重量を減らす取り組みは大きな意味を持つ。
一方、欧州や中国では、内燃自動車の新車販売が禁止される時期が視野に入りつつある。取材した多くの業界幹部や専門家は、新世代のハーネスを使えるようにするために内燃自動車の設計を修正する時間的な余裕などないとの見方を示した。
米ミシガン州に拠点を置く自動車コンサルタントのサンディ・ムンロ氏は、2028年までには世界の新車販売の半数がEVに置き換わると予想し「そうした未来が、猛スピードで訪れようとしている」と強調した。
スピード感
独自動車部品メーカー、レオニのハーネス部門責任者、バルター・グリュック氏は、同社が複数の自動車メーカーと協力し、EV向けワイヤーハーネスの自動化生産方法を開発中だと述べた。
レオニが注力しているのは、ハーネスのモジュール化。全体を6つから8つのパーツに分割し、自動組み立て工程で対応可能にするとともに、工程の複雑さを和らげる。グリュック氏は「パラダイムの転換だ。自動車工場での生産時間を減らしたいなら、モジュール化したワイヤーハーネスは、その役に立つ」と説明した。
カリフォルニア州に拠点を置く新興企業・セルリンクは、既に完全自動生産方式で車への搭載が簡単な「フレックスハーネス」を開発し、今年になって独高級自動車メーカーのBMWや米自動車部品メーカー、リア・コーポレーション、独自動車部品メーカーのボッシュなどから2億5000万ドルを調達している。
セルリンクのコークリーCEOは具体的な取引先を明らかにしていないが、同社のハーネスがこれまでに100万台近くのEVに搭載されたと述べた。それほどの規模のEVとなればテスラ以外該当しないが、テスラはコメント要請に応じていない。
コークリー氏によると、セルリンクは1億2500万ドルを投じてテキサス州に新工場を建設中で、25本の自動生産ラインを持つこの工場ならば、デジタルファイルに基づく生産のため、10分程度で異なる設計への切り替えが可能になるという。
同氏は、従来のワイヤーハーネスはリードタイム(受注から納入までの生産・輸送にかかる期間)が最長26週間だったのに、同社は設計変更した製品を2週間で届けられると胸を張った。
デトロイトに拠点を置くベンチャーキャピタル企業、フォンティネイルズ・パートナーズのダン・ラトリフ社長は、こうしたスピード感こそ、旧来の自動車メーカーが電動化に伴って追求しようとしている目標だと指摘した。
●「プーチンはすでに負けた」歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが断言する理由  6/2
世界的な賢人12人のインタビュー・論考をまとめた『ウクライナの未来 プーチンの運命』が話題だ。「人は想像を超える事態を目にすると、しばしば思考停止に陥るが、目を背けてはならない。考え続けなければならない。賢人たちの言葉は、私たちにより深い視座を与えてくれるはずだ」と編集を担当したクーリエ・ジャポン編集部は言う。同書より、『サピエンス全史』で知られる歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリのインタビューを特別公開する──。
古い戦争と新しい戦争は両立する
──21世紀の戦争は、サイバー攻撃戦略やAI搭載兵器に決定づけられ、より冷淡で暴力性が低いものになるだろうと、私たちは考えていました。ところが、ウクライナ侵攻においては、ロシアが航空支援を受けた地上戦という昔ながらの図式に倣ならっている様を私たちは目撃しています。
【ハラリ】テクノロジーは野蛮に対立するものではなく、たいていはそれと両立するものです。最も発達したテクノロジーは、野蛮な暴君に貢献します。さらに歴史においては、古いものと新しいものは両立するのが常です。人々はこの戦争がサイバー戦争になるだろうと予想していましたが、私たちは、火炎瓶で攻撃される戦車を目にしています。もちろん、サイバー戦争も並行して展開されています。
プーチンの空想が生んだ悲劇
──プーチンは、ロシアの軍事作戦の目的は「ウクライナの非軍事化と非ナチ化」であると宣言し、ウクライナ軍がネオナチに指揮されているというクレムリンの主張に言及しました。
【ハラリ】プーチンは正気を失い、現実を否定しているのだと思います。この戦争すべての基本的原因は、プーチンが頭のなかで空想を作り上げたことにあります。「ウクライナは現実には存在しない、ウクライナ人はロシアに吸収されたがっている、それを阻んでいるのはナチ一派だけだ」というものです。この妄想のせいでプーチンは、ウクライナを侵略した瞬間にゼレンスキー大統領は逃亡し、ウクライナ軍は降伏し、国民は花を持ってロシアの戦車を出迎え、ウクライナはロシアの一部に戻るはずだと考えたのです。けれど、彼は完全に間違っていました。ウクライナは現実に存在する、非常に勇敢な国家です。ゼレンスキーは逃亡しませんでした。ウクライナ軍は猛烈に戦っています。そしてウクライナ国民は、ロシア戦車に向かって花ではなく火炎瓶を投げつけています。プーチンはこの国の大部分を征服するかもしれません。でも、手元に留め、吸収することはできないでしょう。それこそが彼の目標ですが、達成することはできないでしょう。彼はすでに戦争に負けたのです。
人々の団結は一人の残酷な野心に勝利する
──ロシアによるウクライナ侵攻に誘発されたウクライナ国民の大脱出は、考えられない規模に及んでいます。ヨーロッパに混乱をもたらすというプーチンの目的の成功のほかに、この大量移住は何を意味しているでしょう?
【ハラリ】たった一人の残酷な野心が、いかに数百万人に悲惨をもたらすことが可能であるかを示しています。でも私は、プーチンがヨーロッパを混乱させられるとは思いません。事実、彼はヨーロッパを1つにしています。ヨーロッパの人々は、誰も想像しなかったほど迅速で、強力な、全会一致の反応を見せています。もしヨーロッパがこのまま団結し続けるなら、恐れることは何もありません。ロシア経済は、イタリアや韓国の経済よりも小規模です。ロシアの国内総生産(GDP、2020年)はおよそ1兆5000億ドル(約177兆9000億円)、ヨーロッパ全体のそれは約20兆ドル(約2370兆円)です(1ドル=118円で計算)。
リベラリズムとナショナリズムのあいだ
【ハラリ】ここ数年、ヨーロッパと西側諸国は、左派と右派、リベラル派と保守主義者のあいだの文化戦争に引き裂かれてきました。ウクライナがこの対立に終止符を打つ一助となってくれるかもしれません。いまは誰もが危険を察知しており、「自由」という中心的価値をめぐって団結できるかもしれないのです。文化戦争は、間違った考えに基づいていました。ナショナリズムとリベラリズムのあいだには矛盾があるというものです。右派はナショナリズムを支持し、リベラリズムを拒絶しました。左派はリベラリズムを支持し、ナショナリズムを拒絶しました。けれど、リベラリズムとナショナリズムが本当は連動していることを、ウクライナは証明しています。どちらも自由に関わるものです。ウクライナ人は、自由な社会のために戦うのと同じぐらい、国家の自由のために猛獣のごとく戦っています。さらに彼らは、ナショナリズムとは、外国人を憎むことでもマイノリティを憎むことでもないのだと、私たちに思い出させています。それは自国民を愛し、人が自分の未来を自由に選択するのを認めることなのです。ナショナリズムとリベラリズムのあいだの深い繋がりをヨーロッパが思い出せるなら、地域内の文化戦争を終結させることができ、プーチンを怖れる理由は何もなくなるでしょう。
火薬より砂糖が死をもたらす…プーチン戦争までは
──以前、あなたはこう述べました。「歴史上、平和とは『一時的に戦争がない状態』を意味していたことが多かった。(中略)ここ数十年においては『平和』は、『戦争が起こり得ないこと』を意味する。(中略)戦争の減少は、神が奇跡を起こした結果でも、自然の法則に変化が生じた結果でもない。人間がより良い選択をした結果だ。これが現代文明における最大の政治的・道徳的偉業であることは間違いない」と(『エコノミスト』オンライン、2022年2月9日号)。私たちが後退して、こうした成果を失うことは何を意味しているでしょう?
【ハラリ】プーチンの攻撃が成功すれば、世界中に戦争と苦しみの暗黒時代が訪れることでしょう。過去数十年、私たちは歴史上で最も平和な時代を謳歌おうかしてきました。1945年以降、国際的に承認されている国家で、外国からの侵略により地図から消えた国は1つもありません。内戦のような別種の争いは減っていませんが、21世紀最初の20年間で、人間の暴力により殺害された人の数は、自殺や自動車事故、肥満に起因する病の犠牲者数を下回りました。火薬は、砂糖よりも死をもたらす存在ではなくなったのです。
劇的に減っていた防衛費
【ハラリ】この平和の時代は、政府予算にさらに明確に反映されていました。過去数十年間、世界中の政府が自国は充分に安全であると感じたため、軍隊にかけられる予算は平均してたったの6.5%でした。一方で、教育、保健、ソーシャルワークには、はるかに多くの金額が投資されてきました。EU加盟国のあいだでは、防衛費は平均して3%程度でした。これは驚くべき成果です。数千年のあいだ、王、皇帝、スルタンたちは、予算の大半を軍隊に費やし、臣民の教育や保健にはほとんど投資しませんでした。古い王たちと同じように、プーチンは予算の10%以上をロシア軍に費やし、社会サービスを疎おろそかにすることで軍事力を築いてきました。もしもウクライナ侵攻が成功すれば、世界中の国々がプーチンを真似るでしょう。このような征服を夢見る独裁者は大勢おり、彼らはプーチンと同じことをして幸福を感じるはずなのです。民主主義国家も、自衛のために軍事予算を2倍、3倍にするように求められるでしょう。
未来は二分する
たとえば、すでにドイツは一夜にして国防予算を倍増させました。教師、看護師、ソーシャルワーカーに充てられるべきお金が、戦車、ミサイル、そして「サイバー兵器」にかけられるのです。戦争の新時代はまた、人類共通の緊急の課題をめぐる国際協力を衰退させるでしょう。相手を壊滅させる覚悟の国と仕事をするのは容易ではありません。おそらく、プーチンが成功すれば、人工知能による軍備拡大競争が起こり、気候変動予防に向けた国際的努力は崩壊するでしょう。プーチンが敗北すれば、平和な時代の継続が保証されることでしょう。世界中の国が、暴力に勝ち目はなく、プーチンを真似れば罰せられるという教訓を学ぶのです。国防予算は低く抑えられ、保健予算は高くなります。プーチンが敗北すれば、おそらく地球の住民一人ひとりが、より良い医療と教育を受けられるでしょう。
観察者に留まってはいけない
──過去の悲劇が引き起こした痛みを知り尽くし、同時に変化の可能性に信頼を置く歴史家として、いま、あなたはご自身に何と語りかけますか?
【ハラリ】決定的瞬間が訪れた、そして攻撃と圧政を打ち破るために誰もができる限りのことをするべきだと言います。寄付をするのであれ、オンラインの「戦い」に貢献するのであれ、制裁を支持するのであれ、ただ窓にウクライナの国旗を吊るすのであれ。ウクライナの人々は、全世界の未来の輪郭を描いているのです。我々が圧政と攻撃の勝利を許したら、すべての人がその結果を被ることになります。ただの観察者に留まっている意味はありません。いまは立ち上がり、態度を示すときなのです。
ロシア国民の勇敢な抵抗が人類を救う
──ウクライナで命運が懸かっているのは人類の歴史の行方であると、あなたは主張しています。ロシア社会にどのようなメッセージを送りますか?
【ハラリ】これはロシアの戦争ではありません。プーチンの戦争です。ロシア人とウクライナ人は家族です。プーチンは毎日両者のあいだに憎しみの種を植え付けようとしていますが、いま戦争が止まらなければ、何世代も憎しみが続くでしょう。かつてロシア国民はヒトラーに勇敢に抵抗し、人類を救いました。ロシア国民は、プーチンに勇敢に抵抗することにより、再び人類を救うことができます。もしかすると、彼らは通りに出て意思表示をするのは危険すぎると感じているかもしれません。しかし、ロシア人は暴君への抵抗にかけては非常に聡明な人々です。彼らは経験豊富です。ですから、プーチンとその戦争に抵抗する方法を見つけてください。それも遅すぎないうちに、そうしてください。
●ロシア国債「支払い不履行」と認定 6/2
デリバティブ(金融派生商品)を扱う世界の大手金融機関で作るクレジット・デリバティブ決定委員会はロシア国債が「支払い不履行」に当たると認定した。市場から事実上、デフォルト(債務不履行)と見なされる可能性が高い。一方、米サイバー軍のポール・ナカソネ司令官は、ロシアの侵攻を受けるウクライナを支援するため「攻撃的な作戦」を実施したと明らかにした。
デフォルト判断の可能性
デリバティブを扱う世界の大手金融機関で作るクレジット・デリバティブ決定委員会は1日、ロシア国債が「支払い不履行」に当たると認定した。これにより、市場から事実上、デフォルトと見なされる可能性が高い。ロシア国債がデフォルトとなれば、ロシア危機の1998年以来。外貨建ての債務では、ロシア革命後の18年にデフォルトを宣告して以来、約1世紀ぶりとなる。
ドイツ、ウクライナに重火器供与へ
ドイツのショルツ首相は1日、ウクライナへの追加軍事支援として、最新の対空防衛システムなどを供与する方針を連邦議会で表明した。ロイター通信が伝えた。米政府が5月31日にロケット砲システムを供与する方針を示したことに続く動きで、ロシア側は反発を強めている。ドイツが供与するのは対空防衛システム「IRIS―T」とレーダーシステム。独メディアによると、ショルツ氏は「(これらの兵器で)ロシアによる空からの主要都市への攻撃を防げるようになる」と述べた。
米軍、ウクライナ支援でサイバー攻撃
米サイバー軍のポール・ナカソネ司令官が、ロシアの侵攻を受けるウクライナを支援するため「攻撃的な作戦」を実施したと明らかにした。英スカイニュースが1日、報じた。ロシアの侵攻に対し、米軍がサイバー攻撃を実施していたことを認めたのは初めてという。米国はウクライナに対して武器供与などの支援を強めてきたが、ロシアとの直接的な戦闘や攻撃には関与しないとしてきた。
●ロシア軍・ドボルニコフ総司令官の更迭説浮上…2週間姿が確認されず  6/2
ロシア軍のウクライナ侵攻作戦を統括するアレクサンドル・ドボルニコフ総司令官が更迭されたとの説が浮上している。
米紙ニューヨーク・タイムズは5月31日、ドボルニコフ氏の姿が過去2週間確認されておらず、任務を続けているかどうか、米当局者の間で臆測を呼んでいると報じた。4月上旬に任命されたばかりだが、陸軍と空軍の連携強化に失敗し続けているという。
露軍の動向を調査する露独立系団体「CIT」は、総司令官がゲンナジー・ジドコ軍政治総局長に交代したとの分析を明らかにした。ジドコ氏はドボルニコフ氏と同様、シリアでの軍事作戦の指揮経験があるという。
●ウクライナ正教会の宗派、侵攻支持のロシア正教会総主教と絶縁 6/2
ロシア正教会系のウクライナの一部宗派は2日までに、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けロシア正教会の最高責任者であるキリル総主教と絶縁すると発表した。
ロシア正教会と傘下組織との亀裂が深まっていることを物語る宣言となっている。
この一部宗派は侵攻を受けた会議を開き、「なんじ殺すなかれ」との神の命令に背く行為と指弾する声明を発表。その上でウクライナ、ロシア両国に対し交渉での事態解決を促した。
ただ、侵攻作戦を擁護すると共にプーチン大統領の支持を唱え、ロシア正教会を背後から同大統領を支える組織にしたとするキリル総主教を非難。ウクライナ正教会の「全面的な独立と自治」を選ぶ理由になったと主張した。
侵攻は自らの正教会の信奉者に悲惨な体験を強いたとも指摘。侵攻後の3カ月間で南部、東部や中部に住んでいた600万人以上のウクライナ国民が国外への脱出を迫られたとして、これら国民の大多数は教会の信仰心が深い人々だったとした。
ウクライナ正教会の教会の大半は既にロシア正教会から自立する路線を選んでいる。ロシア正教会からの離反は、2018年にキリスト教東方正教会の首席総主教とされるバルトロメオス1世コンスタンチノープル全地総主教が独立的なウクライナ正教会の存在を認めたことでさらに弾みがついていた。ギリシャ人の同総主教は世界各地にいる正教会信徒の精神的指導者ともみなされている。
これに対しロシア正教会とキリル総主教はバルトロメオス1世との関係を打ち切る対抗措置に出ていた。
バルトロメオス1世を信奉するウクライナ正教会の宗派は、キリル総主教との関係断絶を今回宣言した宗派とは別のグループとなっている。
プーチン大統領は自らの外交政策の軸にいわゆる「ロシアの世界」の復興を据えており、ウクライナの国家的な固有性も根拠がないとして打ち消す立場を示している。それだけにロシアの意向が通じない教会勢力の出現に激高したともされる。
●露軍が一時占拠したキーウ近郊、不発弾・地雷の処理続く… 6/2
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナの首都キーウ近郊で1日、ウクライナ国家警察が不発弾や地雷の爆破処理を行った。
ロシア軍は2月24日の侵攻開始後、首都制圧を狙い、周辺の街を一時占拠。撤退後に多くの不発弾や地雷が残された。国家警察の処理班によると、市街地や幹線道路での除去は終わっているが、森などでは手つかずのままだ。特に河川や湖沼の不発弾は水中に潜って探す必要があり、処理には時間がかかるという。
1日は、キーウ州内から集められた約150発の不発弾や地雷を二つの穴の中で爆破。処理班を率いたマイコラ・クリメンコさん(40)は「完全に除去するには時間がかかる。住民には危険物を見つけたら近寄らないよう注意を促している」と話した。
●ロシアのエリートに広がる「ポスト・プーチン」論議 有力後継は 6/2
プーチン・ロシア大統領(69)に関し、がんとの説やパーキンソン病説など、健康不安情報がネット空間を飛び交っている。そうした中、ロシアのネットメディアでは、プーチン氏の健康状態と平行して、後継者論議が始まった。ウクライナ侵攻は独裁者・プーチン氏の独断と偏見に基づく戦争であり、指導者が交代すれば終結するという「期待感」もありそうだ。現時点では、メドベージェフ前大統領(56)の復帰を予想する見方が多い。
リストには3人の名が
ラトビアに拠点を移したロシアの反政府系メディア、「メドゥーサ」(5月25日)は、ロシアのエリートの間で「ポスト・プーチン」をめぐる議論がますます広がり、後継者の名が静かに話し合われているとし、候補リストにメドベージェフ安全保障会議副議長、ソビャニン・モスクワ市長(63)、キリエンコ大統領府第1副長官(59)の3人が上がっていると報じた。モスクワのエリートの間では、ウクライナ侵攻の長期化で悲観論が台頭し、プーチン大統領に直接不満を表明する者もいるという。ロシアの新興メディア「レポルチョール」(5月27日)も、4年間大統領を務め、プーチン氏を裏切らなかったメドベージェフ氏が後継ナンバーワンとし、「もともと政権内リベラルだったが、最近はソーシャルメディアで西側に核のどう喝をするなど、後継を意識してタカ派的発言をしている」と分析。政治学者のジュラブレフ地域問題研究所長も「エリートへの利権分配という点で、メドベージェフへの安心感が強い」と述べ、後継1番手に挙げた。
米政府が画策?
メドベージェフ氏は2012年大統領選で続投を希望したが、現政権を築いた「オーナー社長」のプーチン氏に「代われ」と言われ、やむなく退陣した。プーチン氏の健康不安説で、復権のチャンスと見なしている可能性もある。反政府系評論家のワレリー・ソロベイ氏は「バイデン米政権が、親米派・メドベージェフの大統領復帰を画策している」と奇妙な発言をした。メドベージェフ氏はオバマ前米大統領と気質が合い、新戦略兵器削減条約(新START)に調印しただけに、当時副大統領だったバイデン氏が裏で画策するかもしれない。キリエンコ氏はクレムリンの政治戦略を担当し、プーチン氏と頻繁に接触。ウクライナ対策の責任者に起用された。1990年代に首相を務め、大統領への野心を持つといわれる。ただし、ウクライナ風の名前がマイナスになる。ソビャニン市長はウクライナ侵攻に関与していないことがプラスに働くが、少数民族出身だ。「メドゥーサ」は、「エリートらは後継問題を語っても、大統領に退陣を促せるのは重病だけと認識し、うんざりしながら戦争加担の仕事をしている」と伝えた。どうやら、エリートには宮廷クーデターを起こす気概はなさそうだ。
「後継者として最悪」
一方、ロシアの通信アプリ「テレグラム」に投稿する謎の「SVR(対外情報庁)将軍」は4月末、「大統領の健康状態が急変した場合、国の運営をパトルシェフ安保会議書記(70)に移管することで2人は一致している。医師は早期外科手術が必要としているが、プーチンは同意していない」とし、「来年はポスト・プーチンの時代になる」と指摘した。情報機関出身のパトルシェフ書記は、プーチン氏の最大の腹心。投稿は、強硬派の同書記を「後継者として最悪」としている。しかし、ドンバス地方の独立承認をめぐる2月21日の安保会議公開討議で、パトルシェフ氏とSVRのナルイシキン長官は外交交渉に言及しており、戦争に賛成ではなかった。ウクライナ侵攻は、プーチン氏の強烈な歴史観と使命感に基づく個人的プロジェクトで、大半の幹部は内心、反対だったとみられる。ただし、憲政上、大統領が職務執行不能に陥った場合、首相が大統領代行になり、3カ月後に大統領選が実施される。首相以外の人物に「権力の移管」はできない。現在の首相は、2年前に連邦税務局長官から抜擢されたミシュスチン氏(56)。イデオロギーを持たない経済テクノクラートで、オリガルヒ(新興財閥)の支持がある。同氏が大統領代行になれば、停戦に動きそうだ。
謎の36歳も話題に
後継問題では、5月9日の対独戦勝記念式典で、プーチン氏と親しげに話す謎の若者が話題になった。大統領府報道部のドミトリー・コワリョフ氏(36)で、父がガスプロム幹部。大統領とはクレムリンのアイスホッケーチームの同僚という。コロナ禍で有力閣僚もプーチン氏に近づけない中、親しげに話し、体を支える素振りも見せた。ロシアのSNSや大衆紙のサイトで、「後継候補か」と騒然となった。しかし続報はなく、後継説は消えそうだ。ロシアの政治学者は「主要テレビや有力紙は一切報じておらず、イエローペーパーだけだ。政治経験のない若者に大統領が務まるはずがない」と否定した。とはいえ、後継者報道がロシアで飛び交うことは、戦争長期化で重苦しい閉塞感が漂う中、変化を望む社会の願望を示唆している。
「院政」のもくろみ
ロシアでは2年後の2024年3月17日に大統領選が実施される。プーチン氏は当然、5選を狙っていたとみられるが、残酷な侵略戦争で「戦争犯罪人」(バイデン大統領)と指弾され、外交活動が困難になる。2年後は71歳で、健康不安も深まる。その場合、プーチン氏は腹心を後継大統領に起用し、自らは国家評議会議長として「院政」を敷くかもしれない。20年の憲法改正で国家評議会は内政・外交の基本方針を策定することが規定され、議長の権限が強化された。こうした後継論議が出始めたこと自体、プーチン氏の影響力と威信の低下につながる可能性がある。
●プーチン大統領、トルコ訪問に向け準備 4月ロシア国債「利払いが不履行」 6/2
ロシアのプーチン大統領がトルコ訪問に向け準備を進めていることが明らかになりました。実現すればプーチン氏の外国訪問はウクライナ侵攻後初めてです。
これはロシアのペスコフ大統領報道官が明らかにしたもので、おおよその日程はすでに決まっているとしています。
トルコはロシアとウクライナの停戦交渉の仲介に積極的で、先月30日エルドアン大統領はプーチン氏との電話会談で、両国が合意すれば国連を交えた会談を行うことを提案しています。
実現すればプーチン氏の外国訪問は2月のウクライナ侵攻開始以降、初めてです。
一方、戦況が重要局面を迎えているウクライナ東部ルハンシク州について、州知事は。
ウクライナ ルハンシク州知事「状況は変わっていない。セベロドネツクの7割はロシア軍によって支配されている」
ルハンシク州のウクライナ側の「最後の拠点」とされるセベロドネツクについて「7割がロシア軍によって支配」され、セベロドネツク中心部においては「8割」がロシア軍の手中にある、と明らかにしました。
また、ロシアメディアによると親ロシア派部隊の報道官はセベロドネツク市内の7割以上をロシア軍が支配したとしたうえで「近く公式に市の完全制圧宣言が出されると思う」と主張しました。
こうしたなか、シティ銀行やドイツ銀行など14の世界大手金融機関で作るクレジットデリバティブ委員会は1日、4月に償還期限を迎えたドル建てのロシア国債の利払いが「履行されていない」と認定しました。
ロシアは4月4日に償還期限を迎えたドル建て国債の償還時点での元本と利息を5月2日に支払ったものの、国外の投資家は支払いが遅れた事に伴う利息およそ190万ドルが支払われていないとして委員会に判断を求めていました。
今回の利払い不履行は経済制裁の影響によるものでロシアには支払い能力があるため、いわゆるデフォルト=債務不履行とは性格が違いますが、市場からは、事実上のデフォルトと見なされる可能性が一段と高まりました。
●「ロシア軍崩壊」英機密報告書が予測 エリツィンの義息離反、兵器も旧式 6/2
ウクライナ東部ドンバス地域の完全制圧へ攻勢をかけるロシア軍だが、「大規模な損失による軍崩壊」を英機密報告書が予測していることが分かった。モスクワでもウラジーミル・プーチン大統領と関係の深い超大物政治家の親族らが側近から離反するなど政情の不安定化は進む。「余命2〜3年」など重病説も消えず、戦局に暗雲をもたらすことになりそうだ。
東部ルガンスク州でウクライナ軍の最後の抵抗拠点となる要衝セベロドネツク市について、ガイダイ州知事は5月30日、「大半の地域がロシアに支配された」と地元テレビに語った。
ロシア軍はウクライナ部隊の包囲を図り、セベロドネツクとドネツク州バフムトを迫撃砲などで猛攻撃している。市民の退避や人道支援物資の搬入もできない状況で、基幹インフラは100%破壊されたという。
南部のへルソンではモバイル通信やインターネットサービスなど、すべての通信が遮断されたという。当初は失敗続きだったロシア軍が盛り返しているようにみえるが、「作戦レベルでロシア軍が成功を収めるのは難しい」と指摘するのは、元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏。
「ウクライナ軍は今月中旬以降に西側諸国が供与した兵器を入手し、教育訓練をして攻勢に出ようとする。露軍占領地域のうち攻勢をかけやすいヘルソンで奪回作戦を行うだろう」と指摘する。
米シンクタンクの戦争研究所(ISW)もロシア軍の動向について「セベロドネツクとドンバスの占領に専念していることが、へルソンでのロシアの脆弱(ぜいじゃく)性を生み続けている」と分析した。
英大衆紙デーリー・ミラー(電子版)は5月30日、英国の機密報告書を紹介し、「ロシア軍が大規模な損失によって崩壊する可能性がある」と伝えた。
ロシア兵約3万350人の犠牲が出ているといい、「プーチン氏は小さな勝利のために支払うに値する代償だと考えているが、軍隊にとっては行き過ぎだ」と断じる。「(クレムリン内部では)作戦が破滅的なほど運んでいないというメッセージをプーチン氏と側近に伝えようとする試みがみられる」と伝えた。
英国防省は「ロシア軍の中下級将校が壊滅的な損失を受けた可能性が高い」との見方だ。経験豊富な指揮官の不足により士気の低下や規律悪化が続いており、軍内では「局地的な反乱が起きているとの報告が複数ある」としている。
前出の渡部氏は「セベロドネツクに投入した兵力は損害を受け、兵器も旧式を投入するほど枯渇している。現在ドンバスに集中する露軍は次の段階で南部に兵力を割かざるをえないが、大隊戦術群(BTG)も打撃を受けており、『数合わせ』の部隊では力を発揮しない。今月中旬以降は占領地域を守るだけの戦いに移行せざるをえない」とみる。
最高司令官であるプーチン氏の健康不安説をロシア側は否定するが、次から次へと情報が流れてくる。
前出のデーリー・ミラーはロシア連邦保安局(FSB)要員の話として、プーチン氏は進行型のがんで「生き永らえるのに2〜3年しかないだろう」と報じた。視力も弱っており、テレビ出演などの際には巨大な文字のカンニングペーパー≠ェ必要だという。
ロイター通信(日本語版)は30日、ボリス・エリツィン元大統領の義理の息子でプーチン氏の顧問を務めるワレンチン・ユマシェフ氏が辞任したことを関係筋の話として伝えた。ロシア連邦初代大統領のエリツィン氏はプーチン氏をFSB長官などを経て首相に抜擢(ばってき)、後継大統領への道を敷いた。
各界からの不満も噴出しており、新興財閥オリガルヒでは、銀行創業者のオレフ・チンコフ氏が「反戦」を表明。「アルミ王」のオレク・デリパスカ氏も23日に「核戦争の恐れが現実のものになっている」と通信アプリに投稿した。芸能界でも多くのスターが侵攻後に出国したという。
前出の渡部氏は「国内でもプーチン氏への反発は強まるばかりだろう。健康状態についても英国のオリガルヒが出典との情報もあり、必ずしも噓とはいいがたい。軍内部にも噂が伝わっている可能性は高く、士気にも影響が出てくるのではないか」と語った。
●プーチン氏、ウクライナと西側の結束崩壊を期待か−立場正しいと自信 6/2
ロシアのウクライナ侵攻が過酷な消耗戦に移行する中、一つの問題が他の何よりも結果を左右する可能性が高い。それは時間がどちらに見方するのか、という問題だ。
特に米国などからウクライナの防衛支援に向けた重火器が届く前にロシア軍がウクライナ東部の制圧を試みる中、今後の展開の多くは予測不可能な戦場の動向に左右されるだろう。
しかし、時間の経過に伴い、ウクライナへの国際支援の減少やロシアでの兵器用部品の不足の可能性など、経済・政治的な脆弱(ぜいじゃく)さがさらに広がることが少なくとも同じように重要となるだろう。この戦争が世界経済に及ぼす影響の深刻さを踏まえると、どちらが最初に屈服するかが、戦争で最も重要かつ困難な予測となる可能性がある。
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナと国際社会の結束が最初に崩壊すると期待しているようだ。世界各国・地域の経済は、戦争によるインフレ加速と食糧不足の悪化や、各国間の政治・安全保障上の利益の相違に伴う圧力にさらされているためだ。
プーチン氏は先月のユーラシア経済連合の会合での演説で「現在の世界経済の状況は、われわれの立場が正しく、正当化されることを示している」と指摘。「これら先進国・地域は過去40年間にこうしたインフレを経験していない。失業が増え、流通網が崩れ、食品など影響が大きな分野で世界的危機が拡大している」と述べた。
政治コンサルタント会社Rポリティクの創業者タチアナ・スタノワヤ氏は「プーチン氏の戦略は、こうした状況が過ぎ去るのを待つことだ。西側が近く大きな経済的問題に直面し、国民の不満が高まると予想しているため、十分に時間があると確信している」と指摘した。
●プーチン「6月危機説」浮上 国内の経済的疲弊、死傷者に国民の厭戦 6/2
ウクライナ侵略で敗色濃厚なロシアの苦境を受け、ウラジーミル・プーチン大統領の「6月危機説」が浮上している。
国際社会の制裁によるロシア国内の経済的な疲弊と、多数の将軍を含む死傷者の増大による国民の厭戦(えんせん)気分、「反プーチン」派の動きの顕在化が、その理由だ。プーチン氏自身の「健康不安説」も取り沙汰されている。
何しろ、ロシアへの経済制裁は苛酷だ。金融制裁に始まり、ロシア関連の輸出・輸入規制、プーチン氏と関係が深い新興財閥「オリガルヒ」の資産凍結などがある。
ロシアは国土が広大で地下資源も豊富だが、需要がなければ宝の持ち腐れだ。何しろ、ロシアのGDP(国内総生産)は1兆4785億7000万ドル(約245兆4426億円)だ(2021年、IMF=世界通貨基金調べ)。韓国に次ぐ世界11位に過ぎない。
韓国が国際社会から袋だたきに遭いながら、毎日のように「巨額の戦費」と「将兵」「装備」を失っていると考えればピンと来るかもしれない。戦費という先立つものが尽きれば、いかにロシアが軍事大国といえども国家としての命脈を保つのは難しい。
こうしたなか、ロシア軍の退役軍人でつくる「全ロシア将校会議」の議長、レオニード・イワショフ退役上級大将が2度に渡って「プーチン批判」を展開したから驚きだ。
大物退役軍人であるイワショフ氏は侵攻開始前、「ウクライナに侵攻すればロシアの国家としての存在そのものが危うくなる」といい、プーチン氏の辞任を要求した。3カ月前の指摘が現実となっていることに驚く。
イワショフ氏は5月にも、ロシア書店協会のインタビューに答え、「上層部が立案した戦略が間違えれば、現場がどんなに頑張っても作戦は失敗する」と批判した。命がけの告発である。
プーチン氏の足元は揺らぐ。
スイス・ジュネーブのロシア国連代表部のボリス・ボンダレフ氏は23日、交流サイトSNSに「もううんざりだ。侵略は繁栄を願うロシア国民に対しても犯罪だ」と投稿し、辞職した。
折しも、117年前の5月といえば、日露戦争で日本の勝利を決定付けた日本海海戦が行われた。バルチック艦隊惨敗の報を聞いた帝政ロシアのニコライ2世は「艦隊司令官も捕虜となった。今日は驚くほど良い天気だが、それがかえって私の心を悲しくさせた」と日記に書き留めた。日本人を「猿(マカーキー)」と呼び、日本軍の実力を過小評価し、ロシア軍の能力を過大評価する過ちを犯していた。
プーチン氏は、ロマノフ朝時代の版図の復権を目指しているとされる。対ウクライナ、対国際社会に対して、同じ轍を踏んでいる。
さて、問題は日本である。日本に足りないのは「ロシア敗北を最大限に利用して、北方領土を取り戻す」という戦略だ。
G7(先進7カ国)と対露制裁で足並みをそろえたのは当然で、それで満足していてはいけない。国際社会はロシアや中国などの専制国家をはじめ、みな腹黒い。日本はウクライナと同じように、北方領土をロシアに不法占拠されている。国際信義を重んじる先人の美徳を残しつつ、もうお人好しはやめるときだ。
正当な権利として、ロシア敗北後の講和会議を日本有利に導き、北方領土はじめ、千島列島、樺太の日本復帰を、ロシアと国際社会に認めさせるのだ。そのためには、できる限りのウクライナ支援など、オール・ジャパンで戦後戦略を考えておく必要がある。
●プーチンの重病説 ロシア国内「言論統制が効かなくなっている状態」では 6/2
ロシア政治を専門とする筑波学院大・中村逸郎教授が2日、TBS系「ゴゴスマ〜GOGO!smile〜」に出演。ロシアのプーチン大統領の重病説について言及した。番組ではプーチン大統領の健康状態をめぐり、ラブロフ外相が重病説を否定したと紹介した。
中村教授は「プーチン大統領は今年、70歳を迎えますので、身体的にも精神的にもかなり患っているのではないかと思えるんですね」と老いもあるのではと指摘。
ロシアの平均寿命が約68歳といわれていることもあり「私たち日本人の感覚だと87、88歳というところなんです」とした。
その上で「いずれにしてもロシア国内のメディアが一斉にプーチン大統領の健康を報じるようになってきている。言論統制がここにきて効かなくなってきている状態と思います」と推察した。
●ロシアの利払い「不履行」=ドル建て国債で認定―金融団体 6/2
主要な金融機関などで構成する国際団体「クレジット・デリバティブ決定委員会」は1日、ロシアが発行したドル建て国債について、利払いの「不履行」が発生したと認定した。市場からは事実上の債務不履行(デフォルト)と見なされる可能性が高い。
ロシア政府は4月4日が支払期日だったドル建て国債の元利金を、30日の猶予期間が終わる直前の5月上旬に払った。ただ、期日を過ぎた分の利息約190万ドル(約2億5000万円)を受け取っていないとして、国債を保有する投資家の一部がデフォルトに当たると主張していた。
●「デフォルト」相次ぐおそれ ロシア国債の利払い不履行 影響は 6/2
世界の主要な金融機関で構成する「クレジットデリバティブ決定委員会」は1日、ロシアが発行したドル建て国債の一部利払いに「支払い不履行」が発生したと認定した。市場関係者は「正式な債務不履行(デフォルト)と見なすのが市場の一致した見方だ」と指摘。経済制裁が、財政破綻(はたん)によらない異例のデフォルトへとロシアを追い詰めている。
委員会が公表した資料によると、協議に参加した13金融機関のうち12機関が「ロシア政府による支払い不履行があったか」の採決に「あった」と投票。米シティバンクのみ「なかった」に投票した。シティはロシア政府が国債の元利払いをする際の窓口銀行となっている。委員会は6日にも次回会合を開く。
問題になったのは、4月4日が償還期限のドル建てロシア国債の利子。ロシア政府が償還したのは30日間の猶予期限直前で、この期間中に発生した利子190万ドル(約2億4千万円)が支払われなかったと一部投資家が委員会に訴えた。今回の認定により、デフォルトによる金融商品の「保険金」の支払い義務が発生するとみられる。 ・・・
●ロシア国債 一部の利子未支払いと認定 金融市場から締め出しも  6/2
世界の主要な金融機関の代表などでつくる委員会は1日、4月に期限を迎えたドル建てのロシア国債をめぐって一部の利子の支払いが行われていないと認定しました。市場でデフォルト=債務不履行が起きたとみなされ、国際金融市場からロシアを締め出す動きを決定づける可能性があります。
世界の主要な金融機関の代表などでつくる「クレジットデリバティブ決定委員会」は1日、4月4日に期限を迎えたドル建てのロシア国債をめぐって「一部の利子が支払われていない」とする投資家の主張を認める判断をしました。
この国債の利払いや償還をめぐってはロシア政府がいったんルーブルでの支払いを宣言するなど曲折があって支払いが遅れ、投資家は支払いが遅れたことに伴う利子を受け取れると主張していました。
今回の判断によって市場でロシア国債にデフォルト=債務不履行が起きたとみなされ、国際金融市場からロシアを締め出す動きを決定づける可能性があります。
欧米各国による厳しい制裁措置によってデフォルトは避けられないとの見方が広がっていたことなどから、専門家の間では金融市場への直接的な影響は限られるとの見方が大勢です。
一方でロシアの政府や企業にとっては資金調達の手段が狭まることになり、ロシア政府は財政危機に陥った1998年とは状況が異なり、支払う資金も意思もあるなどと主張してきました。
ロシア これまでの反応は
ロシア国債をめぐってデフォルト=債務不履行が起きるかについてロシア大統領府のペスコフ報道官は5月30日、記者団に対し「われわれの立場はデフォルトに認定される客観的な理由など存在しないというものだ。ルーブル建てであろうとわれわれには資金があり、支払う意思がある」と述べ、反発していました。
またロシアのシルアノフ財務相も5月26日、記者団に対しロシアが財政危機に陥ってデフォルトとなった1998年とは状況が違うとしたうえで「資金もあり支払う意思もある。今の状況は敵対する国が人為的に作り出したものだ。何の影響もなく何も変わらない」と述べ、ロシアや人々の生活への影響はないと強調していました。
ロシア国債 一部で利子未払い
ロシアの中央銀行によりますと海外の投資家が保有するロシア国債の残高は、去年12月末時点でおよそ620億ドルです。
このうち外貨建ての国債はおよそ200億ドル、日本円にしておよそ2兆6000億円で、今回、この一部で利子の支払いが行われていないと認定されました。
日本では、公的年金の積立金を運用しているGPIF=年金積立金管理運用独立行政法人が、去年3月末時点でロシア国債をおよそ280億円保有しています。
ただ、市場でデフォルト=債務不履行が起きたと見なされても、日本の金融機関全体でも保有額はそれほど多くはないため、市場関係者の間では金融システムへの影響は限定的だという見方が多くなっています。
一方、国債以外のロシア向け融資全体に影響が広がることへの懸念もあります。
国内の大手金融グループの三菱UFJと三井住友、それにみずほの3社によりますと、ロシア向けの貸し出しなどの与信残高は、ことし3月末の時点で合わせて1兆円余りにのぼります。
各社は、昨年度の決算でロシアに関連する融資をめぐって貸し倒れに備えた費用を計上するなどしたため、業績への影響が3社で合わせて3500億円を超えたとしています。
今回の認定は、ロシアの対外的な信用力の低下や世界経済からの孤立を改めて示した形で、ウクライナ情勢が長期化する中、経済への影響も不透明感が強まっています。
官房長官「日本の投資家に及ぼす直接的損失は限定的」
松野官房長官は、2日午前の記者会見で「日本からのロシア向けの債権投資が対外債権投資全体に占める割合は限定的で、ロシア国債の動向が金融機関を含む日本の投資家に及ぼす直接的な損失は限定的だ。引き続き緊張感を持って市場動向や経済状況を注視していきたい」と述べました。
専門家 “ロシア経済は縮小せざるをえず大打撃に”
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「世界各国の政府債のうち、ロシア国債が占める割合は、0.4%にとどまり、規模は非常に小さい。また経済制裁の影響でロシア国債の価格は大幅に下落し、投資家の間ではすでに損失処理の動きが進んでいるため、世界の金融システムに与える影響は限定的だ」と述べています。
その一方で「デフォルトは、市場からの信頼の失墜を意味し、政府にとって不名誉だ。特にプーチン大統領は、ロシア国債がデフォルトに陥った1998年の2年後に大統領に就任し、その後の経済の立て直しの成果を、国民に対して誇ってきた。再度のデフォルト認定は、その成果や評価を否定し、政権に逆風になる」と指摘しています。
また今後については「ロシアは、債務返済の意思と能力があるにもかかわらず欧米の経済制裁で支払いを邪魔されたと主張するとみられ、問題は長期化するだろう。しかし軍事侵攻で財政が悪化する中、海外からの資金調達の道が閉ざされればロシア経済は縮小せざるをえず、将来にわたって経済成長の芽も奪われて、大きな打撃になる」と話しています。
●官房長官「日本の損失限定的」 露国債利払い不履行 6/2
松野博一官房長官は2日の記者会見で、世界の大手金融機関でつくるクレジットデリバティブ決定委員会がロシア国債の利払いを「支払い不履行」に当たると認定したことに関し、日本の投資家への影響は限定的だとの認識を示した。
松野氏は「日本からのロシア向け債権投資が対外債権投資全体に占める割合は限定的であり、ロシア国債の動向が金融機関を含む日本の投資家に及ぼす直接的な損失は限定的だ」と説明した。その上で「引き続き緊張感を持って市場動向や経済状況を注視していく」と述べた。
●デフォルトとみなされる可能性 4月期限の国債の利払い一部が行われず 6/2
ロシア軍が制圧を目指すウクライナ東部ルハンシク州の要衝セベロドネツクについて、地元の知事は1日、8割がロシア側に制圧されていると明らかにしました。
ルハンシク州のハイダイ知事は1日、「セベロドネツクの8割近くがロシア側に制圧されている」とSNSに投稿しました。
市街戦が続いているほか、ルハンシク州全体も砲撃にさらされているとしています。
イギリス国防省は2日、ロシア軍はセベロドネツクの大部分を支配したと分析しました。
今後、もうひとつの目標とするドネツク州へのルートはウクライナ軍が守りを固めていて、ロシア軍はその準備のためこれまでの勢いを失うリスクがあるとしています。
抵抗を続けるウクライナに対し、アメリカが高機動ロケット砲システムの供与を発表したことにロシア側は自国の領土への攻撃に繋がりかねないとして、強く反発しています。
ロシア・ラブロフ外相「西側諸国を軍事行動に引き込むことを目的とした直接的な挑発だ」
こうした中、世界の主要な金融機関で作る「クレジットデリバティブ決定委員会」は1日、4月に償還期限を迎えたロシア国債の利払いについて一部が行われていないと認定しました。
財政破綻ではなく、経済制裁の影響によるものとみられますが、ロイター通信はロシアがおよそ100年ぶりに債務不履行(=デフォルト)とみなされる可能性が高まったとしています。 

 

●ゼレンスキー氏、ロシア軍「ウクライナの国土の20%占領」… 6/3
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2日、ロシア軍がウクライナの国土の約20%を占領していると明かした。2014年にロシアが併合したクリミア半島や、親露派武装組織が支配を強める東部ドンバス地方、露軍が全域制圧を宣言していた南部のヘルソン州などを指すとみられる。
ゼレンスキー氏は、ルクセンブルク議会でのオンライン演説で、露軍がベネルクス3国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)の合計面積よりも広い「約12万5000平方キロ・メートルを占拠している」と述べた。
露軍が陥落を目指す東部ルハンスク州の要衝セベロドネツクについて、地元州知事は1日、市内の約8割が露軍の支配下にあると認めた。州知事は2日、米CNNに、5月末に空爆された硝酸貯蔵タンクの地下シェルターに住民約800人が避難していると明かした。ロシア通信によると、親露派武装集団のトップは2日、セベロドネツクと隣接都市のリシチャンスクを除く「州全域を解放した」と述べた。
西部リビウ州の知事によると、露軍は1日夜、州西部の鉄道関連施設にミサイル4発を撃ち込んだ。米国や欧州諸国によるウクライナへの兵器供与をけん制した可能性がある。
一方、南部ではウクライナ軍が反攻を強めている。ヘルソン州の知事は1日、ウクライナ軍が20か所以上の集落を奪還したと明らかにした。 
●ウクライナ侵攻100日、「平時」装うプーチン露大統領 6/3
ロシアのウクライナ侵攻開始から3日で100日となるが、プーチン大統領は「戦争」を口にせず、平時であるかのような印象を振りまくことに専念している。
今週、ウクライナ東部セベロドネツク市で自国軍が戦いを続けていた頃、プーチン氏は子だくさんの親たちをたたえる式を開き、ぎこちない雑談を繰り広げていた。この様子はテレビで放送された。
5月以来、プーチン氏が主にオンラインで会談した相手は、教育関係者、石油・運輸企業の幹部、森林火災対策責任者、10以上の国内地域の首長らだった。
安全保障会議を何度か開いたり、外国首脳と一連の電話会談を行うかたわら、全ロシア・アイスホッケーの「ナイトリーグ」のプレーヤー、指導者、観客らとビデオ会談する時間も持った。
こうして退屈なほど普段通りの行動を取って見せることは、政府の「物語」と整合性がとれている。ロシアは厄介な隣国を屈服させるための「特別軍事作戦」を行っているだけであって、戦争状態ではないというのが、政府の説明だ。
自国軍がウクライナでひどく苦戦し、2大都市で敗退し、何千人もの犠牲者を出している今、プーチン氏はストレスを一切表情に出さない。
2月24日の侵攻開始前、怒りをあらわにしてウクライナと西側諸国を非難していたのとは対照的に、現在は言葉遣いも抑制的だ。69歳のプーチン氏は穏やかな様子で、データと詳細な情報を完全に掌握しているように見える。
西側の制裁による影響は認めながらも、ロシア経済はより強くなり、自給力を備えることになると説明。一方の西側は、食費と燃料費の高騰というブーメランに苦しむだろう、と訴えかけている。
西側の亀裂に期待
しかし終わりが見えないまま戦争が長期化していくと、プーチン氏が平時を装うのは徐々に難しくなるだろう。
経済面では、ロシアは制裁の影響が深刻化して景気後退に向かっている。
軍事面では、ロシア軍はウクライナ東部では徐々に前進しているものの、米国とその同盟国はウクライナへの武器供与を強化している。
西側の専門家の見方では、ロシア軍の攻撃がぐらつくようなら、プーチン氏は枯渇した軍をてこ入れするために温存していた力のフル動員を宣言せざるを得なくなるかもしれない。
「そうなると100万人以上のロシア国民が動員されるだろう。当然ながら、ロシアが全面戦争に入っていることに気付いていなかった人々の目にも入る」と言うのは、長年にわたってプーチン氏を観察し、会ったこともあるオーストリアの学者、ゲアハルト・マンゴット氏だ。
そうした状況はロシア国民には受け入れ難いだろう。国民は政府に忠実な国営メディアの情報に頼り、ロシアの苦戦ぶりと被害の規模を知らないでいる。
ただマンゴット氏は、ロシアはまだその地点には達していないと指摘。プーチン氏は、西側に戦争疲れの兆しが生じているのを見て、ある程度意を強くしている可能性もあるという。
ウクライナを最も強力に支援する米国、英国、ポーランド、バルト諸国などの国々と、停戦を訴えるイタリア、フランス、ドイツなどのグループとの間には、亀裂が見え始めている。
「戦争が長引けば長引くほど、西側陣営内で対立と摩擦が増えるとプーチン氏は踏んでいる」とマンゴット氏は語った。
一方、ウクライナとの和平協議は数週間前に頓挫し、プーチン氏は外交的な出口を探る様子を一切見せていない。クライシス・グループの欧州・中央アジア・プログラムディレクター、オルガ・オリカー氏は「彼はいまだに、この問題に良い軍事的解決策があると考えている」と話す。
オリカー氏によると、プーチン氏はある時点で目標が達成できたとして勝利宣言をする選択肢を残している。同氏の言う目標は「ウクライナの非軍事化および非ナチ化」であり、「明確に定義されたことはなく、前々から少し馬鹿げた目標だったので、いつでも達成したと宣言することができる」という。
プーチン氏は1日、15人の子どもを持つ大家族の親らと40分間にわたってビデオで対面したが、「戦争」と「ウクライナ」という言葉は一度も口にしなかった。
一張羅を着込み、花と食事の飾られたテーブルに固くなって座る家族たち。プーチン氏はその一人一人に順番に声をかけ、自己紹介を求めた。同じ日、ウクライナ西部の都市リビウ中心部の広場には、ロシアの侵攻以降に亡くなったウクライナの子どもら243人を追悼するため、空っぽのスクールバス8台が到着した。
大家族と対談したプーチン氏の発言の中で、戦時中であることを感じさせる言葉に最も近かったのは、ウクライナ東部ドンバス地域の子ども達が「異常な状況」にあることへの言及だった。
ロシアは多くの問題を抱えているが、これまでも常にそうだったとプーチン氏。「ここでは普段と違うことは何一つ起こっていない」とビデオ対談を締めくくった。
●軍事侵攻から100日 ロシア軍 ウクライナ側拠点へ攻勢強める  6/3
ロシアは、ウクライナへの軍事侵攻を始めてから100日となった3日も、ウクライナ東部を中心に攻撃を続けています。
長期化するウクライナ情勢が世界の食料安全保障にも深刻な影響を及ぼす中、AU=アフリカ連合の議長はプーチン大統領と会談し、懸念を伝えるとみられます。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって3日で100日となりました。
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握に向け、ウクライナ側の拠点とされるセベロドネツクへの攻勢を強めていて、地元のガイダイ州知事は、セベロドネツクのおよそ8割がロシア軍に掌握されたという見方を示しています。
また、イギリス国防省は3日に公表した戦況分析で「ロシアは東部のドンバス地域で戦術的に成功しつつある。勢いがあり、主導権を握っているようだ」と指摘したうえで、ルハンシク州については今後2週間で完全に掌握する可能性が高いとしています。
ウクライナ側も南部などで反撃し、一部でロシア軍を押し返す動きが見られますが、ゼレンスキー大統領は2日の演説で「ロシア軍はウクライナの領土のおよそ20%に当たる12万5000平方キロメートルを支配している」と認めています。
戦闘がさらに長期化するという見方が強まる中、小麦やトウモロコシといった穀物の世界有数の輸出国であるウクライナをめぐる情勢は、世界の食料安全保障にも深刻な影響を及ぼしています。
ウクライナなどはロシア軍がウクライナ南部に面した黒海の港を封鎖し、穀物などを輸出できなくしていると批判していますが、これに対し、ロシア側は穀物価格の上昇は欧米によるロシアへの制裁が原因だとして、制裁解除が必要だと主張しています。
こうした中、AUの議長国、セネガルのサル大統領が3日、ロシア南部のソチを訪れ、プーチン大統領と会談する予定です。
議長としての訪問の目的について「アフリカ諸国に影響を与えている穀物や肥料の在庫を解放することだ」としていて、懸念を伝えるとともに、港の封鎖を解くようロシア側に求めるとみられます。
●ロシア軍 セベロドネツクへ攻勢 ウクライナ軍 南部などで反撃  6/3
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握に向け、ウクライナ側の拠点とされるセベロドネツクへの攻勢を強めている一方、欧米の軍事支援を受けるウクライナ軍も南部などで反撃を続けています。ウクライナへの侵攻から100日となりましたが、戦闘はさらに長期化する見通しで、ロシアと欧米側の軍事的な対立は深まる一方です。
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州で、ウクライナ側の州内最後の拠点とされるセベロドネツクへの攻勢を強めていて、地元のガイダイ州知事は、セベロドネツクのおよそ8割がロシア軍に掌握されたという見方を示しています。
また、州知事は2日、アメリカのCNNテレビのインタビューで、セベロドネツクではロシア軍の攻撃を受けた化学工場の地下に、子どもを含むおよそ800人が今も避難していることを明らかにしました。
ロシア軍は、ルハンシク州を完全掌握したのち、隣接するドネツク州の掌握を目指すとみられ、ロシア国防省は2日、ドネツク州で地上部隊や無人機の攻撃によって、弾薬庫や燃料庫を破壊したなどと発表したほか、ウクライナ側の外国人戦闘員が当初いた6600人から3500人まで減ったと主張し、戦果を強調しました。
ウクライナ側も南部などで反撃し、一部でロシア軍を押し返す動きがみられていますが、ゼレンスキー大統領は2日の演説で「ロシア軍はウクライナの領土のおよそ20%にあたる、12万5000平方キロメートルを支配している」と指摘しました。
こうした中、欧米側はウクライナへの軍事支援を強化していて、アメリカが、精密な攻撃が可能だとされる兵器「高機動ロケット砲システム」を供与する方針を発表したほか、ドイツも対空ミサイルシステムなどの供与を表明しています。
これに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官が2日「ウクライナに最新鋭の兵器が送り込まれ続けている。こうした兵器がロシア国内に向けて使われることなど、考えたくもないほど不愉快なシナリオだ。状況は極めて悪い方向になるだろう」と警告するなど、ロシアは強く反発しています。
ロシア軍がウクライナへの侵攻を始めて3日で100日となりましたが、戦闘はさらに長期化する見通しで、ロシアと欧米側の軍事的な対立は深まる一方です。
松野官房長官は閣議のあとの記者会見で「ロシアに一刻も早く侵略をとめさせ、対話への道筋をつくるため、今必要なことは国際社会が結束して強力な制裁措置を講じ、ロシアに侵略されているウクライナを支援していくことだ」と述べました。
そのうえで「わが国の追加の制裁措置は、現時点で予断を持って話すことは差し控えたいが、引き続きG7=主要7か国をはじめとする国際社会と連携して適切に対応していく」と述べました。
●ウクライナ情勢は「長期戦に備える必要がある」 バイデンとNATO事務総長 6/3
バイデン米大統領は2日、ホワイトハウスで北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長と会談した。ロシアによるウクライナ侵攻の長期化をにらみ、NATOの抑止力と防衛力を強化していくことを確認した。ホワイトハウスが発表した。
ストルテンベルグ氏は会談後、記者団に「戦争は予測不可能なもので、長期戦に備える必要がある」と述べた。米欧の軍事支援が大きな効果を上げているとして、ウクライナへの継続支援の必要性も強調した。
北欧フィンランドとスウェーデンのNATO加盟にトルコが反対している問題については、「トルコに懸念があるならば、NATOが一致団結して進める道を探らなければならない」と語った。ストルテンベルグ氏は、近く3カ国の高官とブリュッセルで協議すると表明しており、バイデン氏は協議実施への強い支持を伝えた。
ストルテンベルグ氏はオースティン国防長官やサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)とも会談し、6月末にスペインの首都マドリードで開かれるNATO首脳会議の準備について話し合った。
●ウクライナ情勢を受け…北方領土・貝殻島のコンブ漁 ようやく妥結 6/3
ウクライナ情勢の影響を受け遅れていた北方領土の貝殻島周辺でのコンブ漁について、ロシア側との交渉が3日妥結しました。
貝殻島周辺でのコンブ漁はロシア側と採取量などの交渉を経たうえで例年6月1日に解禁されていました。
ことしはウクライナ情勢の影響で交渉の開始が例年より1カ月以上遅れていました。交渉は、ロシア側に8800万円あまりを支払うことなどで妥結し、今後出漁に向けた準備をしたうえで今月中旬から下旬に漁に出られる見込みです。
地元・根室市の石垣雅敏市長は「コンブ漁の灯が途絶えることなく継続でき安堵している」と交渉妥結を歓迎しました。
●プーチン大統領、4月にがんの治療か…米情報機関「間違いなく病気だ」 6/3
米誌ニューズウィーク(電子版)は2日、米情報当局の分析として、ロシアのプーチン大統領が4月、進行したがんの治療を受けたとみられると報じた。情報当局が5月末にまとめた機密の報告書の内容について、複数の情報機関高官が明らかにしたという。
●ウクライナ侵攻に「勝者なし」 開始100日で国連調整官 6/3
国連でウクライナ危機管理の調整官を務めるアミン・アワッド氏は、ロシア軍のウクライナ侵攻から100日目に当たる3日、声明で「この戦争に勝者はいなかったし、これからもいない」と訴え、即時停止を求めた。
アワッド氏は「われわれが100日間で目の当たりにしたのは、失われた命や家、仕事、将来だ」と指摘。女性や子供を中心に約1400万人のウクライナ人が住む場所を追われたとし、侵攻が「人々に受け入れ難い犠牲をもたらし、市民生活があらゆる面で巻き添えとなった」と強調した。
●ロシアとウクライナ、消耗戦の様相 侵攻開始から100日 6/3
ロシアが2月24日にウクライナに侵攻してから、3日で100日となった。開戦初期の段階で首都キーウの掌握や政権打倒を狙ったロシア軍は作戦の縮小を迫られ、東部ドンバス(Donbas)地方の制圧を目指している。
ロシア軍は、東部ルガンスク(Lugansk)州の主要都市セベロドネツク(Severodonetsk)の一部を制圧。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は「ドンバス地方の状況は依然として極めて厳しい」と認めている。
英ロンドンのシンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス、Chatham House)のマシュー・ブレグ(Mathieu Boulegue)氏は、ロシア軍は困難に直面しながらも前進しているとしつつ、ロシアが望んだと思われるような「軍事的な征服にはなっていない」との見解を示した。
ブレグ氏は、「ロシア軍は装備を更新せず、部隊も消耗している」と指摘し、「今後数週間でロシアは機動戦から、構築した陣地を足掛かりとした陣地戦へと軌道修正せざるを得ないだろう」と予想する。
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が始めた戦争は、当初の目標からは後退したかもしれない。だが、南東部の主要港湾都市マリウポリ(Mariupol)を制圧し、2014年に併合したクリミア(Crimea)半島を結び陸路の戦略回廊を確保した。戦争ではなく「特別軍事作戦」と呼ぶロシアにとって、ドンバス地方での支配地域拡大は歓迎すべき状況になるだろう。
戦線拡大
ウクライナ侵攻は、第2次世界大戦(World War II)以降で最大の侵略行為になったが、当初ロシア軍部隊は16万人で、ウクライナ軍をわずかに上回った程度だった。軍事専門家は、攻撃側は防御側の3倍の兵力を確保する必要があるという「攻者3倍の法則」に言及している。
さらに、ロシアはウクライナで航空優勢(制空権)の確保に失敗した。また、ロシアの兵力は、キーウや東部、南部の3正面に裂かれた。
一方のウクライナ軍側は兵力の分散を余儀なくされたものの、北大西洋条約機構(NATO)による軍事訓練や親ウクライナの西側諸国から対戦車、対空兵器の供与を受け、ロシア軍側に大きな打撃を与えることが可能となった。
プーチン大統領は開戦1か月で、ドンバス地方の掌握に注力することを決めた。戦力を集中させることでウクライナ側を圧倒し、露呈したロシア軍の重大な欠点に対応する思惑だ。
米国防総省のジョン・カービー(John Kirby)報道官は先週、ウクライナ東部について、「ロシアに近接しており、補給路や軍事力にも近い」と述べ、開戦当初の段階で戦線が伸び切ってしまい、補給が追いつかなくなったことを教訓として生かしているとの考えを示した。
さらにカービー氏は、ロシア軍の戦術に関して、「小規模の部隊をより狭い範囲に投入して大きな移動を避けることで、航空支援を地上作戦に組み込むのが容易になっている」と指摘した。
塹壕(ざんごう)戦
ロシア軍の砲兵は、ドンバス地方でウクライナの陣地を攻撃しているが、前出のブレグ氏は、「ウクライナ側は塹壕を掘って地中に隠れている」とし、簡単には掃討できないだろうと分析する。
仏軍事史家のミシェル・ゴヤ(Michel Goya)氏はブログで、「ドンバスの戦いはまだまだ続くことになる」とした上で、東部の戦いは重大な決戦になると指摘する。
元仏軍特殊作戦司令官のクリストフ・ゴマール(Christophe Gomart)氏は、民放ラジオ局のラジオ・テレビ・ルクセンブルク(RTL)に対し、ロシアの目標は「ドンバス地方の行政的な境界に到達する」ことだとの見方を示した。
ただ、両軍は3か月も戦闘を続けて疲弊しており、作戦が一時的に小休止される可能性があると述べた上で、「消耗戦の様相を呈している」と指摘する。西側の情報筋は、これまでにロシア兵1万5000人が死亡した一方、ウクライナ側の犠牲者数はこれよりも少ないとみている。
軍事情報サイト「Oryx」によると、ロシア軍は推定で戦車739両、装甲車両428台、歩兵戦闘車813両、戦闘機約30機、ヘリコプター43機、無人機75機、ロシア黒海(Black Sea)艦隊旗艦のミサイル巡洋艦「モスクワ(Moskva)」を含む海軍艦船9隻を失った。これに対し、ウクライナ側は戦車185両、装甲車両93台、航空機22機、ヘリ11機、船舶18隻の被害が出たと推定されている。
米シンクタンク、海軍分析センター(CNA)のマイケル・コフマン(Michael Kofman)氏は、「ウクライナ側は短期的には領土を失う可能性があるが、ロシア軍は長期的に見て、新たな支配地域の維持など作戦を持続させることに関して大きな問題に直面するだろう」との見通しを示した。
ウクライナ軍側はすでに南部のミコライウ(Mikolayiv)やヘルソン(Kherson)などで反撃に転じている。これらの都市についてブレグ氏は、ロシア軍が支配を固めているというよりも「争奪戦になっている」との認識を示した。
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンシアン氏(Mark Cancian)もゴマール氏同様、「長期の消耗戦」を予想する。「双方とも妥協や取引に前向きではなく、非公式の戦闘停止、いわば活発な武力衝突が止まった『凍結された紛争』になるかもしれない」としている。
●ウクライナ侵攻「支持」、微増の77% ロシア独立系世論調査機関 6/3
ロシアの独立系世論調査機関「レバダセンター」が2日、最新の調査結果を発表した。ウクライナ侵攻を「支持する」との回答が77%となり、前回発表から3ポイント増加した。一方、4割を超す回答者が軍事活動の収束に半年以上かかるとの見通しを示すなど、先行きについては厳しい見方も少なくない。
今回の調査は5月26〜31日に実施され、約1600人を対象とした。
軍事活動への支持は▽3月下旬に81%▽4月下旬に74%▽今回発表した5月下旬に77%――と移行。年代別の支持率は▽18〜24歳と25〜39歳でともに70%▽40〜54歳で79%▽55歳以上で83%――となり、年齢が高まるほど支持率も上がる実態を浮き彫りにしている。
軍事作戦の現状を問う質問では、「成功している」が5ポイント増の73%。「失敗している」は2ポイント減の15%だった。
今後の見通しに関しても、「ロシアが勝つ」との回答は75%となり、前回から2ポイント増加。他の回答は▽「どちらも勝てない」が15%▽「回答は難しい」が9%▽「ウクライナが勝つ」が1%。軍事作戦の成果については楽観的な回答が目につく。
一方で、軍事作戦を収束させる期間では▽26%が「2カ月〜半年」▽23%が「半年〜1年」▽21%が「1年以上」▽9%が「1〜2カ月」――と回答。合計すると、半年以上続くとの回答は44%となり、半年以内に収束するとの回答(35%)を上回っている。
ウクライナ国内ではロシア軍が多くの残虐行為を働いたとの疑惑が強まっている。破壊行為や一般人の殺害の責任を問うた質問では、ロシア側に「責任がある」との答えは36%で8ポイント増加。58%が「責任がない」と答えたが、7ポイント減となった。ロシア国内でもウクライナでの被害に責任を感じる人が増えている模様だ。
レバダセンターはロシア政府から「外国のエージェント(代理人)」と指定されているが、独立した活動を続けている調査機関。
●ロシア侵攻100日目 士気低下も プーチン氏の金庫番 制裁対象に  6/3
日本時間の3日午前6時、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、100日目となった。
ロシア側の兵士たちの士気の低下も指摘されている。軍事侵攻100日目を前に、アメリカの戦争研究所は、「ロシアは兵士たちの士気の維持にともなう問題が続いている」との分析を発表した。SNSに、親ロシア派の部隊がプーチン大統領に対して、戦線からの離脱を求める動画が投稿されたことなどを例に挙げている。
一方、アメリカ政府は2日、ロシアに対する経済制裁の対象に、プーチン大統領の「金庫番」役とされたチェロ奏者を加えたことを発表した。このほか、プーチン大統領が利用したこともある豪華ヨットなども、差し押さえの対象にした。
●プーチン氏に食料危機訴え アフリカ連合議長が訪ロ 6/3
ロシアのプーチン大統領とアフリカ連合(AU)議長国セネガルのサル大統領が3日、ロシア南部ソチで会談した。AFP通信によると、サル氏はロシアによるウクライナ侵攻で深刻化した食料危機により、アフリカが苦境に陥っていると訴えた。
サル氏は、アフリカ諸国は戦闘の現場からは遠く離れているが「経済的なレベルで犠牲者になっている」と強調した。一方で、欧米の対ロ制裁によってロシア産の穀物がアフリカに届かなくなっており、制裁が「状況を悪化させた」とも指摘。穀物や肥料を制裁対象から外す必要があるとの立場を示した。
公開された会談冒頭で、プーチン氏は食料危機には言及しなかったが、「わが国は常にアフリカの側にあり、植民地主義との戦いでアフリカを支援してきた」と語った。
●政府に批判的な記者は次々と殺される…プーチン政権 6/3
ロシアでは政府に批判的なジャーナリストが暗殺されるケースが後を絶たない。軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんは「プーチン政権を裏から支える民間軍事会社『ワグナー・グループ』の関与が疑われている。2018年にはこの会社を追っていた4人の記者が死亡した」という――。
記者の転落死現場にいた「迷彩服姿の男たち」
ロシア国内で偏狭な民族意識・愛国意識を扇動するポピュリズムで権力を強化したプーチンだが、その裏ではダーティな手法を多用している。自分に都合の悪い人間を消す、すなわち「暗殺」だ。
ロシアではプーチンに睨まれたら最後、誰しもが、いつどのような形で命を失うことになるかわからない。政権による暗殺の証拠が挙がらなくても、暗殺が強く疑われる不審死も多い。
たとえば2018年4月12日、ウラル地方スベルドロフスク州エカテリンブルクでのマクシム・ボロジンの変死事件がある。ボロジンはニュースサイト「ノービ・デン」の記者だったが、その日、アパート5階にある自室から転落し、3日後に病院で死亡した。転落した経緯は明らかではないが、遺書などは残されておらず、勤務先も「自殺の理由はない」と明言している。
また友人の一人は、転落死前日の午前5時にボロジンから電話を受けており、「バルコニーに銃を持った男がいて、階段にはマスクを被った迷彩服姿の男たちがいる」との話を聞いている。
ボロジンが政権によって暗殺されたのではないかとの疑惑は、この「迷彩服の男たち」の話に加えて、ボロジンの当時の仕事内容にもある。彼は、ロシアの民間軍事会社「ワグナー・グループ」について記事を書いていたからだ。
ロシア軍情報機関の作戦を行う「民間軍事会社」
ワグナー・グループはウクライナやシリア、リビア、マリ、中央アフリカなどに投入されている表向きは民間軍事会社で、その要員も民間のロシア人雇い兵だが、作戦に関しては、軍の情報機関である参謀本部情報総局(GRU)の事実上の指揮下にある。ロシア正規軍が公式には活動していないことになっている地域で、GRUの作戦を行ういわばダミー組織である。
ただし、すべてがGRUの擬装作戦というわけではなく、アフリカなどでは現地の独裁政権や鉱物利権を持つ軍閥などと結託し、それなりに報酬を稼いでいることもある。
組織規模は最大で数千人とみられるが、継続的な隊員ばかりでなく、その時々で契約があり、要員数は時期によって大きく変動する。中核は元GRU隊員を中心に、元ロシア軍特殊部隊などの要員で、戦闘機の操縦士などもいるが、その他の短期契約の一般隊員は元プロ軍人ばかりでなく、むしろロシア各地で募集された応募者たちが多い。彼らは兵士としては練度が低く、ある意味で“消耗品”として危険で劣悪な状況の現場に投入される。
ワグナー・グループのオーナーはプーチン側近の政商
ワグナー・グループの起源を遡ると、もともとはロシアの総合警備会社「モラン・セキュリティ・グループ」を母体に、2013年に戦時下のシリアで活動するために設立された民間軍事会社「スラブ軍団」(本社は香港)だった。当時、ロシアはシリアのアサド独裁政権を支援してはいたが、まだ直接の軍事介入をしていなかった。
翌2014年、シリアで活動するさらに本格的な傭兵会社として、スラブ軍団を拡大するかたちで、ワグナー・グループが設立された。指揮官は元GRU特殊部隊中佐のドミトリー・ウトキンだったが、彼はプーチン側近の政商エフゲニー・プリゴジンに近い立場の人間だった。その設立・運営資金はプリゴジンが出している。つまりワグナー・グループのオーナーは、プーチン側近の政商というわけである。
ワグナー・グループは2014年、ウクライナ紛争にも進出している。ウクライナでも表向きは、ロシア軍が活動していないことになっていたため、こうした部隊がウラで使うには便利だったのだ。
シリアではアサド政権軍とともに地上戦を担当
その後、ロシアは2015年9月からシリアに直接、軍事介入するが、ワグナー・グループはそのままシリア各地に投入された。ロシア正規軍は航空機による無差別空爆などを主に行っていたが、ワグナー・グループはアサド政権軍とともに地上戦を担当した。もちろんシリア駐留ロシア軍司令部の指揮下にある。
2018年2月7日、このワグナー・グループが主導するロシア=アサド政権合同軍が、米軍が支援するクルド人部隊を襲撃し、米軍の報復空爆によりワグナー・グループのロシア人兵士、数十人以上が戦死(300人という情報も)するという事件があった。先に手を出したのはワグナー・グループのほうだが、この作戦の前後に、ワグナー・グループとプリゴジン、それにクレムリンの間で頻繁に連絡があったとみられる。
なお、プリゴジンはロシア軍(およびワグナー・グループ)の支援でアサド政権がIS(イスラム国)から奪ったシリア東部の油田地帯の利権を手中にしたとも報じられている。このプリゴジンは、ロシアのSNS不正操作組織「インターネット・リサーチ・エージェンシー」(IRA)のオーナーでもある。つまり、クレムリンに直結するロシア情報機関の代理人のような立場の人物と言っていいだろう。
毎年複数人のペースでジャーナリストの命が狙われる
転落死したボロジン記者は、このワグナー・グループについて取材し、シリアで死亡したロシア人傭兵のうちの3人が、ウラル地方のスベルドロフスク州出身だったと報じていた。また、その他にも反プーチン派の有力な民主派活動家であるアレクセイ・ナワリヌイとともに関連する記事もいくつか書いていた。こうした彼の仕事はプーチン政権からすれば邪魔なものだ。
ボロジンが当局に暗殺されたとの証拠はない。しかし、ロシアでは政府に批判的なジャーナリストが襲撃されたり暗殺されたりする例が数多い。犯人はほとんど検挙されていないが、エリツィン時代含めて1993年以降、ロシアで殺害されたジャーナリストは2018年までに少なくとも58人に上っていた。
最も有名なのは、プーチン批判記事で知られた『ノーバヤ・ガゼータ』のアンナ・ポリトコフスカヤ記者が2006年に自宅エレベーター内で射殺された事件だが、それ以外にもプーチン政権を批判しているジャーナリストが毎年複数人のペースで暗殺されるか暗殺未遂に遭っている。
中央アフリカ共和国で取材中の記者3人が銃撃
いくつか例を挙げると、2008年には、モスクワ近郊の道路建設の反対運動を報じたジャーナリストのミハイル・ベケトフが襲撃され、重傷を負った(2013年に死亡)。同じ事案を報じたオレグ・カシンも2010年に襲撃され、重傷を負っている。
2017年10月には、政権に批判的な論調で人気の民間ラジオ局「モスクワのこだま」キャスターのタチアナ・フェルゲンガウエルが勤務先で襲撃されて、重傷を負った。
2018年7月30日、中央アフリカ共和国で取材中だったロシア人ジャーナリスト3人が、車両で移動中に待ち伏せ攻撃を受け、殺害された。
3人はベテランのフリー記者であるオルハン・ジェマリを中心とする取材チームで、反プーチン派の億万長者(元オリガルヒ)であるミハイル・ホドルコフスキーが創設した調査機関「調査管理センター」(ICC)の依頼で取材活動をしていた。
記者たちが追っていたのはワグナー・グループ
ジェマリらがそのとき追っていたのはワグナー・グループである。ロシア軍は2018年2月、中央アフリカ共和国の国軍の軍事顧問や大統領警備要員などとして180人を派遣していたが、それに関連してワグナー・グループも投入された疑惑が浮上していた。3人はその実態を探るために中央アフリカ共和国に入っていた。
襲撃犯は約10人の武装グループだったが、その正体は不明だ。プーチン政権の宣伝機関に等しいロシアのメディア各社は、強盗説や地元ゲリラ犯行説を盛んに流している。だが、殺害の動機が最も高いのは、当然、取材対象のワグナー・グループもしくは、その動きを察知されたくないロシア軍当局だろう。
ワグナー・グループは、こうしたいわくつきの謀略集団でもある。その活動の実態が暴かれることは、ロシア情報機関の非公然活動が暴かれるということになる。
プーチンの汚職の暴露に繋がるアンタッチャブルな存在
汚い手法が暴かれれば、もちろんそれを命じた側であるプーチン政権の失点になる。また、オーナーであるプリゴジンの活動の実態が暴かれることは、下手をすればプーチン個人の汚職の暴露にも繋がりかねない。ワグナー・グループとプリゴジンは、ロシアではいわばアンタッチャブルな存在なのだ。
だからこそ、プーチン政権と敵対する富豪のホドルコフスキーが、その実態の調査にベテランのジャーナリストを雇い、わざわざ中央アフリカ共和国まで派遣したわけだが、それがどれだけ危険なミッションかは言うまでもない。
ロシアの場合、プーチン政権に批判的なジャーナリストや活動家の暗殺は日常茶飯事だが、この時は相手が武装集団で、しかも法の秩序がほとんどない中部アフリカの紛争国である。“消された”可能性はきわめて高い。
では、ロシア情報機関のどこが、こうした暗殺を行っているのか。
ロシアには3つの主要な情報機関がある。ロシア国内を担当する秘密警察で、治安部隊も持つ強大な連邦保安庁(FSB)、海外での諜報活動を担当する対外情報庁(SVR)、そして軍の情報機関である軍参謀本部情報総局(GRU)だ。
反プーチン派の暗殺を担う連邦保安庁(FSB)
このうち、反プーチン派に対する暗殺は主にFSBが行っているとみられる。国内にとどまらず海外での暗殺も、おそらくFSBが実行している。庁内に破壊工作専門セクションがあるのだ。
ただ、攻撃の実行役としては、FSB破壊工作部門の手配でチェチェン系の下請け人脈が代行するケースもあるようだ。とくに疑われているのは、プーチン政権と癒着しているチェチェン共和国首長のラムザン・カディロフの配下グループだ。
他方、SVRは現在、外国での情報収集活動を主に行っており、近年はこうした荒っぽい暗殺はあまり聞かない。ただ、SVRにも破壊工作を行うセクションは小規模ながらある。
SVRは世界中にスパイ網を構築していて、もちろん日本にもロシア大使館員、通商代表部員などの身分(冷戦時代は国営メディア特派員でも)で工作員を送り込み、情報収集活動をしている。ときおり日本の外事警察に摘発されるが、暗殺などはこれまで報告されていない。ただ、北朝鮮の工作機関のように、実在の日本人に成りすます「背乗り」を行っていた事例が判明しているので、その人物に何らかの危害が加えられた可能性はある。
GRUも世界中でスパイ活動をしている。日本でもいまだに活動しており、こちらもときおり外事警察が摘発している。日本では暗殺などの破壊工作の形跡はないが、ロシアの周辺国、あるいはロシア軍が介入しているような地域では、特殊作戦・破壊工作も行っている。とくにロシア軍が介入しているウクライナとシリアでは、GRUも秘密作戦を活発に行ってきたことがわかっている。 

 

●ロシア国営メディア 「侵攻100日」の報道禁止…  6/4
ロシア語の独立系ニュースサイト「メドゥーザ」は2日、ロシアのプーチン政権が国営メディアなどに対し、ウクライナ侵攻開始から100日が経過することに焦点を当てたニュースの発信をしないよう指導したと報じた。侵攻作戦が長期化し、思うような戦果が出ていないことも背景にあるとみられる。
政権関係者はメドゥーザに「節目に注目すると、国民に(侵攻の)目的や成果について考えさせてしまう」と話したという。
国内の報道機関を厳しく統制しているプーチン政権は、日常的に報道機関の幹部を集め、ニュースの取り上げ方を具体的に指示しているとされる。実際、国営のタス通信や、政権寄りの報道を強化している有力紙イズベスチヤの電子版などは3日、侵攻開始100日に触れていない。
一方、露独立系世論調査機関レバダ・センターが2日、発表したウクライナでの「特殊軍事作戦」に関する調査では、77%が作戦への支持を表明し、4月実施の前回調査から3ポイント上昇した。一方、関心度については、「注視している」が56%で、前回から3ポイント減少した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3日、侵攻100日にあたり、「国を守るために我々はここにいる」と呼びかける動画をSNSに投稿した。開戦翌日の2月25日夜、キーウ(キエフ)市内から投稿したのと同じ場所で、同じメッセージを語った。
国連人権理事会は3日、ロシアのウクライナ侵攻による人権侵害を調査する独立した国際調査委員会が、7〜16日、初めての現地調査を実施すると発表した。首都キーウや東部ハルキウ(ハリコフ)などを訪れ、虐待などの被害者らと面会し、情報を直接入手する。
●エルドアン大統領はウクライナ戦争を利用 シリアでの自らの目的を推し進める 6/4
ベイルート:シリア北部、住民は新たな戦いに備えている。世界の関心がウクライナ戦争に向かう中、トルコ大統領は、シリアのクルド人兵士たちを押し戻し、国境地域に長く求められている緩衝地帯を設けるため、大規模な軍事作戦を計画していると発言した。
緊張感は高まっている。米国が支援するシリアのクルド人兵士たちと、トルコ軍とトルコが支援するシリアに対抗する武装勢力との間で、射撃・砲撃が交わされないまま1日が過ぎることはほぼない。
複数のアナリストによるとトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領はウクライナ戦争を利用して隣国のシリアでの自らの目的を推し進めている。トルコがNATO加盟国として、フィンランドとスウェーデンの同盟加入に対し、拒否権を持つことを潜在的な影響力として使うことさえある。
だがトルコによる大規模侵攻にはリスクと複雑な問題が伴い、トルコと米国・ロシア両国との関係を駄目にする恐れがある。
ダーイシュのグループがいまだに闇に潜む、戦争によって破壊された地域において、新しい移住の波を生み出すリスクも伴う。
現地の状況と鍵となるいくつかの問題を説明する。米国の支援を受けるシリアのクルド人兵士たちに対抗するための国境を越えた侵攻地を貫く形で、トルコの南部国境に沿ってシリア国内に30キロメートルの緩衝地帯を作るというトルコの活動を再開する計画の概略について、エルドアン大統領は先月述べた。
「我々はある夜突然、決定を下す。そしてそうしなければならないのだ」とエルドアン大統領は具体的な予定を示すことなく言った。
2016年以降、テロリスト組織で非合法的なクルド労働者党(PKK)の延長だとトルコが捉えているシリアのクルド人民兵組織クルド人民防衛隊(YPG)を標的として、トルコはシリア国内で3つの大きな軍事作戦を展開した。PKKは数十年にわたって、トルコ政府に対するトルコ国内の暴動に資金を供給してきた。
しかしYPGは、ダーイシュ戦闘員との戦いにおける米国主導部隊の根幹を成していて、シリア国内における米国協力者の実質的トップだ。
トルコは、シリアでこれまでに行った3つの軍事作戦を通じて、シリア領土の大部分(アフリン、タル・アブヤド、ジャラーブルスを含む)をすでに支配下に置いている。現在トルコにいる370万人のうち100万人のシリア難民を、確実に、トルコ政府が言う「自主的帰還」させるため、トルコ政府はそれらの地域に数千戸の住宅を建設しようと計画している。
テル・リファートと、M4として知られるシリアを東西に走る主要道路上の主な交差点にあるマンビジュを含む新たな地域をトルコ軍はいま奪おうとしていると、エルドアン大統領は1日述べた。
トルコ軍は戦略的な国境の町アイン・アル=アラブ(2015年に米軍とクルド人戦闘員がダーイシュを打倒するため初めて協力した町)に侵入するかもしれないという報告もある。その町はシリアのクルド人と、シリアのこの地で自治を行うことに対する熱望にとって、強烈な象徴的意味を持っている。
複数のアナリストが言うには、エルドアン大統領はシリアでの作戦をタイムリーなものにする国内外の状況が重なったと考えているのだろう。ロシアはウクライナでの戦争にかかりきりで、米国は、フィンランドとスウェーデンを加盟させるNATO拡大に対する反対意見をエルドアン大統領に取り下げてもらう必要がある。
「(トルコは)東側諸国から譲歩を引き出しうる好機だと感じている」とフィラデルフィアの外交政策研究所のアーロン・ステイン研究責任者は言う。
トルコ経済が落ち込み73.5%のインフレが進行している時に、トルコの民族主義者の有権者を集結させるためにもシリアへの攻撃は利用されうる。トルコは来年、大統領選と議員選挙を行うことになっているが、YPGを追い払うための前回のシリア侵攻は過去の投票でエルドアン大統領への支持を広げた。
ここまで即時侵攻を示す動員の兆候は見られていないが、トルコ軍はかなり迅速に召集されうる。しかしシリアのクルド人戦闘員は、トルコの最近の脅威を深刻に受け止めていて、潜在的な攻撃に対し準備をしている。
ダーイシュとの継続中の戦闘およびダーイシュが領地を失った3年前から数千人の過激派(その多くは外国人)が収容されているシリア北部の刑務所の守備能力に、侵攻は影響を及ぼしうるとクルド人戦闘員は警告している。
大規模な軍事行動は大きなリスクをはらんでいて、北部シリアで軍事的な存在感を示す米国とロシア両国を怒らせる可能性が高い。
シリアでの11年の紛争において、トルコとロシアはそれぞれ敵対する勢力を支持しているが、シリア北部では両国は緊密に協調している。公式には見解を述べていないが、シリアの反政府活動家によると、ロシアは戦闘機と攻撃ヘリコプターをここ数日のうちにトルコとの国境近くの基地に供与した。
2011年にアラブの春の騒乱の中で始まったシリア紛争の潮目を、バッシャール・アル・アサド大統領に有利になるよう変える上で、シリアと最も近しい同盟国ロシアのシリアでの役割は最も重要だった。シリア人の反体制派戦闘員はトルコの影響下にある北西の飛び地に追いやられた。
しかしロシアはウクライナに注力しており、トルコの南の国境に沿った単なる細長い土地について、ウラジーミル・プーチン大統領がエルドアン大統領の代理を務めることはあまり考えられない。
●ウクライナ東部2州で攻防戦 ロシアは支配の既成事実化強める  6/4
ロシア軍はウクライナ東部2州で軍用機による爆撃を続けるなど攻勢を強めていて、抵抗するウクライナ軍との間で各地で激しい攻防戦となっています。
ロシア軍はウクライナ東部2州の完全掌握を目指して攻勢を強めていて、このうちルハンシク州では、ウクライナ側の主要な拠点とされるセベロドネツクの大半の地域を掌握したとみられます。
ルハンシク州のガイダイ知事はセベロドネツクについて3日、SNSで「われわれはこれまでにおよそ20%を取り返した」と述べましたが、4日には「ロシア軍は街への攻撃を続けており、市街戦が続いている」として、激しい戦闘のため住民に食料や医薬品を届けることができないと訴えました。
またイギリス国防省は4日、最新の戦況について「ドンバス地域ではロシア軍の軍用機が誘導弾と精密な誘導ができない爆弾の両方を使用した爆撃を行っていて、活動が依然として活発だ」としたうえで「精密な誘導ができない爆弾の使用が増えたことで市街地が広範囲にわたって破壊され、かなりの巻き添えの被害や民間人の犠牲が出ているのはほぼ間違いない」と指摘しています。
一方、抵抗を続けるウクライナ軍もルハンシク州や南部ヘルソン州の一部で押し戻しているもようで、各地で激しい攻防戦が続いています。
こうした中、ロシアは掌握したとする地域で支配の既成事実化を強めています。
ヘルソン州の親ロシア派勢力の幹部ストレモウソフ氏は3日、ロシアメディアに対し、住民がロシア国籍を取得する手続きを行う施設がヘルソンに設置され、これまでにおよそ1500件の申請があったと主張しました。
今後、こうした施設を増やすとしていて「ヘルソンはロシアの不可欠な一部となり、誰もこれを防ぐことはできない」と述べました。
またプーチン大統領の側近の1人で首都モスクワのソビャーニン市長が3日、親ロシア派勢力が事実上支配するルハンシク市を訪れ、現地の学校などを視察しました。
ソビャーニン市長はSNSで「大統領の指示だ」と強調したうえで、今後ルハンシクやドネツクで人道支援やインフラの復旧の支援を行うと主張し、ロシアによる支配を誇示するねらいがあるものとみられます 。
●アフリカ 食料不足の懸念高まる ウクライナ侵攻で食料価格上昇  6/4
ロシアのウクライナ侵攻により、アフリカを中心に食料不足への懸念が高まっています。
FAO=国連食糧農業機関が、穀物などの国際的な取り引き価格をもとにまとめている「食料価格指数」は、ロシアがウクライナに侵攻した翌月のことし3月には159.3ポイントとなりました。
これは前の月と比べて12.6%高く、1990年に統計を取り始めて以来、最も高い数字となりました。
先月も157.4ポイントと高止まりしていて、ウクライナ侵攻が世界的な食料価格の上昇の一因となっているのが分かります。
特にアフリカでは、近年の洪水や干ばつ、イナゴの大発生、それに新型コロナウイルスの影響も相まって、食料の価格は上がり続けていて、国連のWFP=世界食糧計画がことし5月に発表した報告書によりますと、主食の価格が過去5年の平均と比べて40%も上がった地域もあります。
IMF=国際通貨基金によりますと家計に占める「食料」の割合は先進国では17%なのに対して、アフリカでは40%を占めているところもあるということです。
このため、食料価格の高騰はアフリカの人たちの生活に大きな影響があると指摘しています。
WFPは西アフリカや中央アフリカで食料不足に苦しむ人の数はことし、3年前の4倍近くの4100万人にのぼるおそれもあるとしています。
●プーチン氏、穀物輸出に「ウクライナが機雷除去」の条件提案… 6/4
穀物大国ウクライナに侵攻しているロシア軍が、輸出拠点の黒海沿岸を封鎖していることに伴う世界的な食料危機の解消に向け国連を交えた関係国の駆け引きが活発化している。ロシア、ウクライナ両国と関係が良好なトルコが仲介に乗り出している中、セルゲイ・ラブロフ露外相が8日にトルコを訪問することになり、協議の行方が注目される。
穀物輸出問題を巡っては、トルコが5月末、自国とウクライナ、ロシア、国連が参加して監視センターをイスタンブールに設置することを提案している。ウクライナのドミトロ・クレバ外相も5月末、有志国の海軍が参加する国連主導の船団結成で海上交易の安全を確保する案を示していた。
こうした関係国の動きの中、プーチン露大統領は3日放映の露国営テレビとのインタビューで、穀物輸出を認める条件付きの提案を示した。ウクライナが黒海の機雷を除去することを条件に、南部オデーサ港などを利用しても「安全な航行を保証する」と述べ、南東部マリウポリなどロシアの管理下にある港から輸出する方法にも言及した。
同盟国ベラルーシ経由でバルト海から海上輸送する案が「一番簡単で安価だ」とし、条件として、欧州連合(EU)の対ベラルーシ制裁解除を挙げた。こうした案は2、3日にモスクワを訪問していたマーティン・グリフィス国連事務次長にも説明したとみられる。
プーチン氏は3日、露南部ソチで会談したアフリカ連合(AU)議長国セネガルのマッキ・サル大統領から、深刻な食料危機に向けた対応を求められていた。国際社会でのさらなる孤立につながらないよう調整に乗り出す姿勢を示した模様だ。
プーチン氏にとっては、露軍が占拠する港湾でウクライナの穀物を扱うこととなれば、支配の既成事実化につながる。ウクライナやEUが条件付きの露側の提案を受け入れる可能性は低いとみられる。しかし、ウクライナも穀物輸出の停滞によって深刻な打撃を受けている。今後もトルコなどを巻き込んだ打開策の議論が続くものとみられる。
●ロイター記者2人が銃撃受け負傷 6/4
ウクライナ東部セベロドネツク近郊で、ロイター通信の記者らが乗った車が銃撃を受け、記者2人が負傷し、運転手が死亡した。一方、欧州連合(EU)は4日、ロシアへの追加制裁として露産原油の輸入禁止措置を発動。ロシアの反発は必至だ。
ロイター通信は3日、同社の記者らが乗った車が移動中に攻撃を受け、写真記者のアレクサンドル・エルモチェンコさんと映像カメラマンのパベル・クリモフさんが負傷し、運転手が死亡したと報じた。車と運転手は親露派勢力が手配しており、同社は運転手の身元の確認を進めている。3人はウクライナ東部の都市ルビージュネから、約10キロ南のセベロドネツクに移動中だった。
EUが追加制裁発動
欧州連合(EU)は4日、ウクライナに侵攻を続けるロシアへの追加制裁として、露産原油の輸入禁止措置を発動した。年末までに露産原油の9割が禁輸となり、ロシア経済への大きな打撃が予想される。ロシアは「EUの行動により、食料・エネルギー問題が悪化する恐れがある」(外務省)と反発している。
食料危機は露のせいでないとプーチン氏
ロシアのプーチン大統領は3日、国営放送のインタビューで、ウクライナ侵攻を受けて食料価格が上昇している問題について「ロシアのせいではない」との持論を展開し、米欧による経済制裁を「近視眼的で愚かな政策」と断じた。
●「ロシア軍を押し返している」ウクライナ東部“最後の拠点”で攻防つづく 6/4
ロシア軍によるウクライナ侵攻から3日で100日となるなか、東部ルハンシク州の州知事はウクライナ軍が「最後の拠点」とされるセベロドネツクでロシア軍を押し返していると述べています。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「我々は100日間、国を守っている。我々は勝利する。ウクライナに栄光あれ」
ゼレンスキー大統領はこう話したうえで、今後も徹底抗戦を続ける姿勢を強調しました。
ウクライナでは現在、東部にロシア軍が兵力を集中させ攻勢を強めていて、ウクライナ軍の苦戦が続いています。
こうしたなか、ルハンシク州の知事は3日、州内の「最後の拠点」とされるセベロドネツクについて、ロシア軍を押し返していると明らかにしました。
ルハンシク州 ガイダイ知事「約70%が(ロシア側に)占領されていたが、そこから20%を取り返した」
州知事は、ロシア側の一部は戦意が落ちていると指摘。そのうえで、長距離砲が不足していると支援を訴えています。また、3日にもロシア軍の攻撃で母親と子供が犠牲になったということです。
一方、ロシアは、ペスコフ大統領報道官が特別軍事作戦の「一定の成果が得られた」としたうえで、「あらゆる目的が達成されるまで作戦は継続される」と強調しています。
ロシア プーチン大統領「食糧危機をめぐり、ロシアに責任を押し付けようとする試みがみられる」
また、プーチン大統領は3日、侵攻による世界的な食糧危機への懸念について、「ロシアに責任転嫁しようとしている」と主張。
ウクライナの穀物輸出を妨げているとの指摘は「はったりに過ぎない」とし、ロシアが制圧したとする「マリウポリの港などを使わせる用意がある」と語りました。
●「作戦は失敗した」元ロシア民兵が語る戦地の"実情" 6/4
軍事侵攻には賛同する元ロシア民兵が報道特集の取材に「作戦は失敗した」などと軍を公然と批判。内部でいま、何が起きているのか。
「戦線の問題を幹部に気づいて欲しい」
軍事作戦への批判をカメラの前で証言する元ロシア民兵がいる。アレクサンドル・ジュチコフスキー氏だ。
元ロシア民兵 ジュチコフスキー氏「政府も軍の幹部も、過ちや失敗は公にしたくないものです。私が発言するのは、戦線の一部に問題があることを幹部に気づいて欲しいからです」
現在、ウクライナ東部の親ロシア派勢力が支配する地域に住み、兵士らに装備品や医薬品などを供給したり、最前線の戦地でサポートをしたりしているという。まさにロシア軍と共に戦っている人物だ。
ジュチコフスキー氏「ウクライナで起きていることは、ロシアによるウクライナへの侵略ではなく、ロシア固有の領土を取り戻すための戦いなのです」
ロシア政府に賛同しているジュチコフスキー氏だが、この作戦には重大なミスがあったと証言する。
ジュチコフスキー氏「(特別軍事作戦の)第一段階では、ウクライナ全土を標的に侵攻しましたが、結局引き返すことになり、失敗に終わりました。その後、司令官や多くの将軍が交代しました」「ウクライナの首都キーウまで素早く突破し、多くの地域を制圧しようとしましたが、総司令官であるプーチンに誤った情報が伝わったことと、ウクライナの予想以上に激しい抵抗によって困難な状況に陥ったんです」
「一方的に攻撃されっぱなし」
ジュチコフスキー氏は、自身のSNSでも軍のミスを指摘している。
ロシア側は、南東部のザポリージャについて、「大半を制圧した」と3月下旬に発表していたが、実態は全く異なっていたという。
ジュチコフスキー氏のSNSの投稿「兵士らは ほぼ1か月間、嵐のような砲火にさらされ、頭を上げることすらできないでいる」「どんな手段でも移動は夜間に限られる。日中は生き残れる可能性はほとんどない。砲撃に対抗できず、敵の迫撃砲や多連装ロケット砲に完全にやりたい放題にされている」
ウクライナ軍の映像には、ザポリージャやドネツクで ロシア軍の戦車が次々に砲撃される様子が・・・。こうした砲撃に対抗できない状況が続いていたという。さらにロシア軍の武器の状況について、こう明かした。
ジュチコフスキー氏「新しい武器は少ないですが、古い武器は山ほどあります。(ザポリージャにいる)多くの部隊は司令部から放置され、強力な大砲や戦車が追加で配備されませんでした」
ロシアは、死者の数を3月下旬に1351人と発表して以降、明らかにしていないがイギリス国防省は、この3か月で1万5000人程度にのぼると推計している。
ジュチコフスキー氏「(ロシア軍は)全く準備ができていませんでした。ロシアは抵抗できる強力な武器も態勢もないため、一方的に攻撃されっぱなしで、残念ながら多くの死者や負傷者が出ました」
●「プーチンは4月に進行がん治療」「3月に暗殺未遂」米機密情報のリーク内容 6/4
ウラジーミル・プーチンは病んでいるようだ──そんな最新の分析結果が5月末に情報機関から上がってきて、ジョー・バイデン米大統領とその政権内部では、ロシア大統領の健康状態が大いに話題になっているらしい。
もちろん機密扱いの情報だが、プーチンは既に進行癌で、4月に治療を受け、どうにか持ち直したようだという。米情報機関の幹部3人が、本誌だけに明らかにした。去る3月にプーチン暗殺の試みがあったことも、この報告で確認されたという。
本誌への情報源は、国家情報長官室(ODNI)と国防総省情報局(DIA)の幹部、そして空軍の元幹部。いずれも匿名を条件に、本誌の取材に応えた。
3人とも、プーチンが権力への妄執を強め、ウクライナ戦争の先行きが読みにくくなったことを懸念しつつも、ロシアが核兵器の使用に踏み切るリスクは減ったとみている。「プーチンの支配力は強いが、もはや絶対的ではない」と、情報源の1人は述べた。「プーチンが実権を握って以来、これほど主導権争いが激しくなったことはない。みんな、終わりが近いと感じている」
ただし3人とも、今はプーチンがほとんど姿を見せないため、彼の立場や健康状態を正確に把握するのは難しいと指摘した。「氷山があるのは確かだが、あいにく霧に包まれている」と、ODNIの幹部は電子メールで伝えてきた。
プーチンが他国の誰かと接触すれば、それが「ベストな情報源の1つ」になるが、「ウクライナ戦争のせいで、そういう機会がほとんど干上がってしまった」と言ったのはDIAの幹部。対面でしか得られない貴重な情報が、現状では不足していると指摘した。
そもそも「こちらの願望に基づく臆測は危ない」と言ったのは空軍の元幹部だ。「ウサマ・ビンラディンやサダム・フセインのときも、私たちは恣意的な臆測で痛い目に遭った。その教訓を、果たして私たちが学んだかどうか」
マッチョな男が今では
上半身裸で馬に乗ったりして、プーチンは男らしさを誇示してきた。それはロシア政府が綿密に作り上げたペルソナであり、西側の大統領とは違うぞというメッセージを世界にばらまくのに役立った。しかし、今はどうだ。外国の首脳と会ったときの、あの異様に長いテーブルは何だったのか。どう見てもウイルス感染と身体的接触への異様な恐怖心の反映ではないか。
ウクライナ侵攻に先立つ2月7日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領と会談したときも、この長テーブルが使われた。その様子から、諜報のプロはプーチンの衰えを読み取った。「握手もしない。抱擁も交わさない。なぜだ、と私たちは思った」。ODNIの幹部はそう言う。
そして4月21日、プーチンは国防相のセルゲイ・ショイグと会ったが、このときのテーブルは狭かった。外国メディアは、長らく表舞台から遠ざかっていたショイグに注目したが、実はプーチンも4月にはほとんど姿を見せていなかった。この日のプーチンは体調が悪そうで、だらしなく足を投げ出し、右手でテーブルの端をしっかりつかんでいた。
プーチンはパーキンソン病か、という説が流れた。いや、あれはKGB(旧ソ連の諜報機関)時代の訓練で染み付いた姿勢だとする見方もあった。妙にしっかりした姿勢や歩き方、そして右腕の位置は、上着の内側に隠した銃をいつでも取り出せるようにするためのものだと。
アメリカの情報機関はこの映像を精査した。遠隔診断のプロも、精神医学の専門家も加わった。そして大統領府に上がってきた結論は、どうやらプーチンは深刻な病気で、おそらく死にかけているというものだった。
プーチンはずっと、巧みにマッチョな自分を装ってきた。しかし実は、新型コロナウイルスの感染予防を口実に長期にわたって姿を見せなかった間に、深刻な病が進行していたことが疑われるのだ。
次にプーチンが姿を現したのは5月9日の「戦勝記念日」。顔はむくみ、前かがみに座っていた。プーチンの健康状態とウクライナでの戦況は同時進行で悪化していた。米情報機関は、プーチンの健康状態が従来の推測よりも深刻であり、ロシアという国も同じくらい疲弊していると判断した。
その3日後、ウクライナの情報機関を率いるキーロ・ブダノフ少将がイギリスのテレビで、プーチンは「心理的にも肉体的にも非常に悪い状態で、病状は重い」と述べ、政権内にはプーチンを引きずり降ろす計画もあると語った。
「ホットな情報」に踊らされた過去
プーチン暗殺計画を彼の親衛隊が摘発したという噂も、このとき確認された。CIAも、ロシア政府の上層部に対立があるとか、一部の外交官が亡命を望んでいるとかの話をキャッチしていた。「かつては無敵に見えた男が、今は未来、とりわけ自分の未来と格闘しているようだ」。ODNIの幹部はそう評した。
プーチンの健康状態に関する深刻な情報は、かなり前からあった。しかしアメリカ政府は慎重だった。過去に、ビンラディンやフセインに関する「ホットな情報」に踊らされた苦い経験があるからだ。
フセインの場合は、彼の精神状態がどうなっていて、保有する大量破壊兵器で何をするかが問題だった。ビンラディンの場合は、腎臓病の悪化で死にかけているのかどうか、それが彼の意思決定にどう影響するのかが問われた。
9.11以前、米政府はビンラディンについてほとんど知らなかった(一定の情報は集まっていたが検討を怠っていた)が、実際には1990年代後半以降、彼の健康状態について頻繁に報告が上がっていた。最も根強い噂は、ビンラディンは衰弱し、定期的な透析を必要としているが、洞窟生活でそれが可能とは思えない、というものだった。
パキスタンのパルベズ・ムシャラフ大統領(当時)は、ビンラディンは死にかけていると断言した。同国の情報機関も、同じ判断を伝えていた。
一方でサウジアラビア政府は、ビンラディンの過去に関するゴシップをせっせと提供していた。その中身は、彼の能力や信仰心を疑わせるようなものばかりだった。
若い頃のビンラディンはベイルートやリビエラで淫行し、パーティー三昧だったという噂。大学は中退し、卒業していないという説。ソ連との紛争当時にアフガニスタンにはおらず、いたとしても戦っていないという話......。
アメリカのメディアは、こうした情報を忠実に報じた。アメリカ政府も同様だった。アメリカがビンラディンの動向を気に掛けないように、パキスタン側が意図的に重病説を流しているとは気付かなかった。サウジ側にも、ビンラディンの経歴や信仰心に泥を塗れば、このテロリストに心酔する若者が減るだろうという思惑があった。
しかし、どれも希望的観測だった。だからアメリカは、ビンラディンが忠実な部下たちの精神を支配し、西洋文明に対する自分の憎悪をアルカイダ戦士に植え付けていることに気付けなかった。
「(当時)ムシャラフの発言にはCIAの情報よりも重みがあった」と、元空軍幹部は本誌に語った。「サウジアラビアがアメリカ側に伝える情報も非常に重視された。それで多くの人は、ビンラディンが病気だと信じ、実際にあのようなカリスマ的指導者だったことに気付かなかった」
「プーチンは病気か? もちろんだ」とも元空軍幹部は言った。「しかし、だからと言って早まった行動を起こしてはいけない。プーチン後の権力の空白は、この世界にとって非常に危険だ」
当時、フセインは世界で最も危険な男の1人に数えられていた。狂人で、絶対に大量破壊兵器を手放さない男、毎晩違うベッドで寝なければならないほど用心深い男とされていた。だから、イラクに大量破壊兵器はないという証拠があっても、当時の米ブッシュ政権は平気で無視した。
病状の深刻度を覆す新たな報告
そして5月末、バイデン大統領の下に情報機関からの最新の報告が届いた。その内容は、プーチンの病状は深刻だとする2週間前の報告を覆すものだった。実際、5月25日にはプーチンがモスクワの軍病院を視察する映像が流れた。翌26日にはイタリアのマリオ・ドラギ首相と電話会談し、国内の実業界の会議にもビデオで姿を見せた。
30日にはトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領と電話で会談し、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と対面で協議する可能性にも言及した。つまり、当座の健康には自信ありということだ。
ロシアの外相セルゲイ・ラブロフも、5月末にフランスのテレビでプーチンの重病説を一蹴した。最近の精力的な活動を引き合いに出し、「分別のある人なら、彼に何らかの病気の兆候を見いだすことは不可能だろう」と述べた。
だがDIAの幹部に言わせると、「何も問題はないというラブロフの主張は客観的な診断ではなく、単にプーチンへの忠誠を誓う発言にすぎない」。ならば今も、プーチンは肉体的にも政治的にも難しい状態にあるのだろうか。
プーチンはクレムリン内部の政敵を排除し、自分の配下にある情報機関さえ信用していないのか。彼は本当に死にかけているのか。そうだとして、プーチン後には何が起き、誰が台頭するのか。バイデン政権は、表向きはプーチン重病説を「単なる噂」と一蹴しつつ、実際にはこれらの問題を精査している。
「仮に、その情報は信頼できると判断したとしても彼の賞味期限がいつ切れるかは分からない」と、ODNI幹部は言う。「プーチンなきロシアに(早まって)支持のサインを送るわけにもいかない」
口を滑らせたバイデン
ちなみにバイデン大統領とロイド・オースティン国防長官は口を滑らせ、ロシアつぶしの意図をほのめかしてしまったが、2人ともその後に慌てて撤回している。「プーチンが元気だろうと病気だろうと、失脚しようとしまいと、ロシアが核武装している事実に変わりはない。こちらがロシアをつぶす気でいるなどと、向こうに思わせるような挑発はしないこと。戦略的安定の維持にはそれが不可欠だ」と、このODNI幹部は付け加えた。
DIAの幹部も、プーチンが病気で死にかけているとすれば、それは「世界にとって好ましい」ことだと言いつつ、「ロシアの未来やウクライナ戦争の終結につながるだけでなく、あの狂人が核兵器に手を出す脅威が減るからだ」と説明した。「弱くなったプーチン、つまり盛りを過ぎて下り坂の指導者は、自分の補佐官や部下を思いどおりに動かせない。例えば、核兵器の使用を命じた場合とかに」
確かに、全盛期のプーチンなら閣僚や軍部の反対を押し切って思いどおりの決断を下せただろう。しかし傷ついたプーチンは「もはや組織を完全に牛耳ってはいない」ようだから、そう好きなようにはできないという。
「プーチンが病気なのは間違いない......が、死期が近いかどうかは臆測の域を出ない」。このDIA幹部はそうも言った。「まだ確証はない。こちらの希望的観測を追認するような情報ばかり信じて、自分の疑問に自分で答えを出すのは禁物だ。今もプーチンは危険な男であり、もしも彼が死ねば混乱は必至だ。私たちはそこにフォーカスしている。君も、備えは怠るな」
●民間人死亡者だけで3万人に迫る…終わりの見えないウクライナ戦争 6/4
今月3日で100日目を迎えたウクライナ戦争が「3回目のターニングポイント」に向かって進んでいる。ウクライナと分離独立を主張する親ロ武装勢力が8年間争奪戦を繰り広げてきた東部ドンバスのルハンシク州が、ロシア軍によって陥落する状況に置かれた一方、米国の長距離兵器提供で米ロは再び激しい神経戦を繰り広げた。4月初めのロシア軍のキーウ占領放棄、5月中旬のドネツク州の主要都市マリウポリ占領に続く、戦争の3回目の分水嶺だ。
ロイター通信など海外メディアは1日(現地時間)、ロシア軍がルハンシク州の主要都市セベロドネツクの中心部まで進軍し、市全体の60%を掌握したと報じた。ロシア軍がこの都市を手に入れた場合、近隣都市のリシチャンスクを除いたルハンシク州全体がロシアの統制下に入る。余勢を駆ってリシチャンスクまで占領すれば、長い紛争地域であるルハンシク州全体を掌握したという非常に象徴性の高い勝利を収めることになる。このため、ロシア軍はこの1週間、これら2都市の攻撃にほとんどすべてをつぎ込んだ。
ルハンシクの状況が緊迫している中、ジョー・バイデン米大統領は同日、これまでウクライナへの提供を躊躇していたM142高速機動砲兵ロケットシステム(HIMARS、射程約80キロメートル)を含む兵器支援計画を発表した。バイデン大統領は5月31日、ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、兵器提供の目的はプーチン大統領の追放ではなく、ウクライナがロシアとの交渉で有利な位置を占めるよう助けることになると説明した。アントニー・ブリンケン国務長官も「ウクライナが長距離ロケットでロシア領土を攻撃しないことを約束した」と説明したが、ロシアは強く反発した。セルゲイ・ラブロフ外相はロケット支援で「第3国が介入する危険が明らかに存在する」として、米国と直接衝突する可能性について警告した。ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官も「米国が意図的に火に油を注いでいる」と強く非難した。ロシア国防省は、時を同じくして自国軍が首都モスクワ付近で大規模な核戦力機動訓練を行っていると発表した。米国などがこれ以上直接的な軍事介入をしないよう、再び核カードをちらつかせて警告したわけだ。
ロシアの侵攻が始まって早くも100日に達し、これまで戦況が何度も揺れ動いてきたが、この戦争が今後どこに向かうかを予測するのは容易ではない。プーチン大統領がことごとく西側の予測とは異なる選択をしてきたためだ。
ロシア軍は2月24日未明、首都キーウ(北部)、ドンバス(東部)、ヘルソン(南部)の3方向から同時多発的な攻撃を開始した。キーウに向け空輸と機甲戦力を結集させるなど、異例にも素早い作戦を展開し、半日で首都北側境界30キロメートル地点まで進軍した。2日後、キーウ進入の橋頭堡ともいうべきホストメル飛行場まで掌握し、ウクライナがあっという間に崩壊するかもしれないと懸念された。
しかし、状況が急変した。ロシア軍がウクライナの強力な反撃にあい、キーウの早期占領計画に支障をきたし始めたのだ。ウクライナ第2の都市ハルキウの状況も同様だった。ウクライナ軍の強い抵抗と補給問題まで重なり、ロシア軍は侵攻1カ月後の3月23日には、キーウから東に25〜35キロ地点から55キロ地点まで後退せざるを得なかった。トルコの仲裁を受け、ロシアは3月29日、イスタンブールで行われた第5回平和交渉で、「キーウ周辺で軍事作戦を減らす」と約束し、2日後にこれを施行した。 ・・・
●EU、通商協定締結へ取り組み加速検討 ウクライナ戦争など踏まえ 6/4
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会のドムブロフスキス上級副委員長(通商担当)は3日、ウクライナ戦争などの課題に対応するため、第三国との通商協定締結に向けた取り組みの加速を望んでいると表明した。これまでの半年間は中断していた。
ドムブロフスキス氏はルクセンブルクで開かれた閣僚会合で、通商協定の締結、署名、批准のための努力を強化すべきという「非常に幅広いコンセンサス」があったとし、「供給網の安全を確保し、域内の輸出業者に新たな機会を創出するため、現在の地政学的な状況を再検討する必要がある」と言及した。
ドムブロフスキス氏は、EUが通商協定をより重視するようになった主因はウクライナ戦争だが、それだけでなくロシアのウクライナ侵攻に対する中国の「あいまいな立場」も問題とした。
EUの外交官らによると、現議長国であるフランスは4月の大統領選と6月の総選挙を妨げないようにとチリやメキシコなどとの通商協定締結に向けた動きを止めた。
フランスは合意を妨げていることを否定している。7月1日からはチェコがEU議長国となる。
フィンランドのスキンナリ貿易相は会合前に、EUが2019年に南米南部共同市場(メルコスール)と暫定合意した自由貿易協定(FTA)をフィンランドは強く支持したものの、アマゾンの森林破壊に関するEUの懸念によって保留になったと指摘した。
●侵攻から100日、プーチン氏が頼みにする世界の無関心 6/4
時計の針を今年の2月23日まで戻そう。ロシアがウクライナへの全面侵攻に踏み切る前日だ。そうすると次のように推測したくなる人もいるかもしれない。ウクライナのゼレンスキー大統領がその地位にある日も、そう長くはないと。
結局のところ、ロシアの軍事費はウクライナのざっと10倍。陸上部隊では2倍の優位性を誇っていた。核保有国であり、ウクライナの10倍の航空機、5倍の装甲戦闘車両を保持していた。
侵攻のわずか数日前には、見るからに怒った表情のプーチン・ロシア大統領がテレビに登場し、歴史にまつわるとりとめのない独白を行った。その内容から、同氏が望んでいるのはウクライナ政府の体制変更以外の何物でもないことが明らかになった。
プーチン氏はゼレンスキー氏が首都から脱出すると見込んでいたのだろう。ちょうど米国の後ろ盾を受けたアフガニスタンの大統領が、わずか数カ月前に首都カブールを去ったように。さらに西側諸国の怒りもいずれ収まるとみていたと思われる。たとえ一時の痛手を、新たな制裁措置から被るとしても。
あれから100日が経過し、プーチン氏がキーウ(キエフ)での勝利のパレードのために用意していたかもしれない計画は、ことごとく無期限保留となった。ウクライナ人の士気は崩れず、ウクライナ軍は米国と同盟国から供与された近代的な対戦車兵器で武装。ロシア軍の機甲部隊を徹底的に破壊した。ウクライナの放ったミサイルで、ロシア黒海艦隊の誇りだった誘導ミサイル巡洋艦「モスクワ」は沈没した。さらにウクライナ軍の航空機は、予想に反して空での戦いを続けている。
3月下旬、ロシア軍は損耗した部隊をキーウ周辺から退却させ始め、戦略の焦点を東部ドンバス地方の攻略に変更すると主張した。侵攻から3カ月、ロシアはもはや短期間での勝利をウクライナで収めることを目指してはいないようだ。それを達成できそうにもない。
とはいえロシアは現在、ウクライナ領内で三日月型を形成する地域を支配下に置く。第2の都市ハルキウの周辺から始まり、分離主義勢力が押さえるドネツク、ルハンスクを抜けて西へ進み、ヘルソンへと達する地域だ。それはちょうどクリミア半島(2014年にロシアが併合)とドンバス地方とをつなぐ回廊を形成する格好になる。
ロシアによる現在の作戦の主目標はドンバス地方であり、現地では過酷な消耗戦が繰り広げられている。最近の戦闘の中心地は産業都市セベロドネツクの周辺で、ウクライナ軍はここにルハンスク州内最後の拠点を保持している。
ウクライナ軍は既にセベロドネツクの大半をロシア軍に奪われた。同市が陥落すれば象徴的な敗北になるものの、軍事専門家らは現地のウクライナ軍を敗北が濃厚な長期の包囲から救うものになるとの見方を示す。
米シンクタンクの戦争研究所は最近の分析で、ウクライナ政府がセベロドネツクにもっと多くの予備役や資源を投入できたものの、それをしなかったことが批判を招いていると言及しつつ、「セベロドネツクを救う目的でさらなる資源の投入をしない決断、そこから撤退するという決断は、痛みを伴うとしても戦略的には健全だ。ウクライナは限られた資源を節約して、重要地域の奪還に集中する必要がある。戦争の結果や戦争再開の条件を左右しない土地の防衛に集中すべきではない」との見解を示した。
ウクライナ国防省の報道官によると、ロシア軍はセベロドネツクに攻勢をかけつつ、ドネツク、ルハンスク両州でウクライナ軍の包囲を試みている。同時に部隊を再編し、スラビャンスク方面への攻撃にも着手しているという。スラビャンスクは戦略都市で、次の重要な戦闘の中心を形成する可能性がある。
こうしたウクライナ東部の戦闘はキーウ周辺での密集した都市環境と異なり、もっと開けた地形での戦いとなっている。従って、ウクライナ側はより強力な兵器、特に遠距離から標的を狙える砲撃システムを欧米に求める状況となっている。
バイデン米大統領は1日、ウクライナに対しHIMARS(ハイマース=高機動ロケット砲システム)を含むより近代的なロケット砲システムを供与する考えを明らかにした。装備されるロケットの射程は約80キロと、これまで供与されたどの兵器の水準をも大幅に上回る。
これはウクライナ政府にとって歓迎すべきニュースだが、ロシアが東部での攻撃を展開する中、国際メディアによるウクライナ報道は多少トップの扱いから後退しているのが実情だ。そしてプーチン氏はその傾向に期待している可能性がある。おそらく念頭にあるのはエネルギーの価格高騰と消費者物価の上昇だろう。どちらの動きもウクライナでの戦争で拍車がかかっており、米国と他の国々の世論はこの問題に集中する公算が非常に大きい(ひいては選挙の結果をも左右するだろう)。
プーチン氏はまた、外交問題に対する関心がすぐに薄れることも計算に入れているかもしれない。2015年、立て続けに敗北を喫していたシリアのアサド政権への支援を強化したのは他ならぬプーチン氏その人だった。シリアでの戦争は12年目に突入し、今なお続いているが、すでに世界の注目はウクライナへと移っている。
その点で、ゼレンスキー氏はウクライナが情報戦を戦う上での最大の武器の一つになっている。同氏はオンラインで世界中の議会に立て続けに姿を現し、各国の指導者にメッセージを送る。プーチン氏をなだめようとウクライナに向かって領土を割譲するよう求めかねない指導者に対しても、結果的にどうなるかを決めるのは自分ではなくウクライナ国民でなくてはならないと釘をさす。
しかし国内のあらゆる政敵を破滅に追い込み、メディアを効率よく支配するプーチン氏は、ゼレンスキー氏と同じような国内における圧力には直面していない。ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記は最近の発言で、ロシア軍はウクライナで「期限を求めていない」と言及。プーチン氏がはるかに制約の少ないスケジュールでウクライナにおける自身の戦争を遂行していることを示唆した。反対にウクライナ軍は、国際社会が戦争に疲れた状態に陥ることを危惧する。それに伴って各国から自国の政府に対し、プーチン氏への譲歩を迫る圧力がかかるのではないかとの懸念を抱いている。
「そっちには時計があるが、こっちには時間がある」。捕らえられたタリバンの戦闘員が発したともされるこの言葉は、アフガン戦争を戦う米国のジレンマを端的に言い表すものだった。そこで嫌々ながら認めているのは、反乱が異なる政治的地平とスケジュールで遂行されていたという点だ。反乱する側の戦闘員らは、技術的に優位な米軍を打ち負かす必要はなく、ただ持ちこたえていればよかった。
このフレーズを流用する場合、ウクライナで決定的な要因となりそうなのは、時間があるのは果たしてどちらかということだろう。死ぬまで権力を握ったままでいそうなロシアの独裁者なのか、それとも国家の生存をかけて戦うウクライナの国民なのか。
●ロシア 東部2州攻勢強める 南部はウクライナ軍押し戻しも  6/4
ロシア軍はウクライナ東部2州で引き続き攻勢を強めていて、ロシア大統領府の報道官は「一定の成果は達成されている」などと強調しました。一方、南部ヘルソン州ではウクライナ軍が押し戻しているという見方も出ていて、一進一退の攻防が続いている模様です。
ロシア軍は引き続きウクライナ東部2州の掌握を目指して攻勢を強めていてこのうちルハンシク州では、ウクライナ側の主要な拠点とされるセベロドネツクのおよそ8割を掌握したとみられます。
また、ドネツク州については、ロシア国防省は3日、交通の要衝スラビャンスクを地上部隊や無人機などによって攻撃し、兵士360人以上を殺害したなどと発表しました。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は3日「ドネツク州とルハンシク州で一定の成果は達成されている。すべての目標を達成するまで軍事作戦は継続される」と述べ戦果を強調しました。
一方、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は2日、「ルハンシク州を掌握すれば、ロシア軍はドネツク州の攻略に乗り出すとみられるが、すでにセベロドネツク周辺で損害が増えていて、ドネツク州を掌握するのに必要な戦力があるとは思えない」と指摘しました。
そして南部ヘルソン州ではウクライナ軍がロシア軍を押し戻していると分析していて、双方の間で一進一退の攻防が続いている模様です。
ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、新たな動画を公開し「私たちはすでに100日間、ウクライナを守っている。勝利は私たちにある。ウクライナに栄光あれ」と呼びかけ、国民を鼓舞しました。
●「すべての目標を達成するまで軍事作戦は継続される」露ペスコフ報道官 6/4
ロシア軍がウクライナ東部2州での攻勢を強めるなか、ロシア大統領府の報道官は「一定の成果が得られている」との見方を示した。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は3日、掌握を目指して攻勢を強めている東部のドネツク州とルハンシク州について「一定の成果が得られている」と強調した。また「すべての目標を達成するまで軍事作戦は継続される」と述べ、強い姿勢を示した。
一方、ルハンシク州のハイダイ知事は3日ウクライナメディアのインタビューに対し、要衝セベロドネツクの戦闘で、これまでにロシア軍に制圧された地域の20%を奪還したと明らかにした。
ウクライナ軍は南部へルソン州でもロシア軍を押し戻しているとみられ、一進一退の攻防が続いている。
●ロシアで「反戦の動き」高まりプーチン離れ加速 戦地では軍の内紛勃発! 6/4
ロシア軍が攻勢を強めている。近く、ウクライナ東部ルガンスク州全域を制圧する可能性がある。一方、ここへきてロシア国内で一気に厭戦ムードが広がっている。反戦の声が次々と上がっているのだ。
4月以降にあった、公然と戦争に反対する声や、反戦の兆候とみられる動きをまとめたのが<別表>だ。
大手企業、起業家、人気司会者、退役軍人、ジャーナリスト、知事、地方議員、宗教界──と、あらゆる分野に及んでいる。
5月9日の対独戦勝記念日でプーチン大統領は「祖国への献身は最高の価値であり、ロシアの独立を支える強固な支柱だ」と団結を訴えた。国威発揚を狙ったのだろうが、むしろ、戦勝記念日以降、反戦の動きが急増している。筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)が言う。
「日に日に各方面のプーチン離れが加速しています。プーチン大統領を取り巻く環境はカオス状態と言っていいでしょう。また、少なくないロシア兵は、何のために戦っているのか分からなくなっています。軍の部隊もバラバラになりつつあります」
どうやら、戦地では内紛も起きているようだ。ウクライナ保安庁が公開したロシア兵の会話とみられる音声では、部隊の内紛の様子がなまなましく証言されている。隊長が銃を振り回し、乱射を始めると、別の兵士が反撃しようと構える。「全員で銃撃戦になりそうだった」という。また、多くが前線に行くことを拒み、600人の部隊が215人になったとも証言している。
ロシア国内のカバルジノ・バルカル共和国の軍事裁判所は26日、ウクライナへの出征を拒否した国家親衛隊員115人への除隊処分を「支持」した。ロシア当局が従軍拒否した兵士の存在を認めたのは初めてとみられる。
「これ以上の戦争遂行は難しいとプーチン大統領自身も感じているはずです。8日にラブロフ外相がトルコを訪問し、プーチン大統領のトルコ訪問を調整するようです。『ロシアの日』である12日にトルコでゼレンスキー大統領との首脳会談を実現し、『一時的停戦』に持っていく可能性があります。もし、近い将来に首脳会談ができなければ、プーチン降ろしが強まる可能性があります」(中村逸郎氏)
和平か、政権崩壊か──ロシアの日に注目だ。 
●蜜月のハズが…ロシア正教トップがプーチンから「離反」の深刻事情 6/4
ロシア正教のトップ、キリル1世総主教の発言が波紋を呼んでいる。
「(ロシア正教の傘下にあった)ウクライナの教会が、苦しんでいることを理解している。悪魔がロシアとウクライナの正教徒を分断させようとしているが、決して成功しないだろう。正教徒たちの生活のために、正しい行動をすべきだ」
5月29日、モスクワのハリストス大聖堂での発言だ。解釈によっては、プーチン大統領によるウクライナ侵攻を批判しているようにとれる。「蜜月」と言われるプーチン大統領の行動を一貫して支持してきたこれまでを考えると、異例のコメントだ。ロシア情勢に詳しい筑波学院大学の中村逸郎教授が語る。
「ロシア正教は、共産主義こそ絶対的なシステムと考える旧ソ連によって迫害を受けてきました。ソ連が崩壊し、資金援助をしてロシア正教を復活させたのはプーチン大統領です。ロシア正教のビジネスを認めるなど厚遇。プーチン大統領にとって、自身を支援する最大の『オルガルヒ』(新興財閥)でもあるんです。
プーチン大統領の狙いは権威づけです。国民の60%以上はロシア正教の教徒。教会内に自身の写真を掲げるなどさせ、独裁的指導者の色合いを強めました。ロシア正教とは、持ちつ持たれつの関係なんです」
プーチン大統領と相互依存関係にあるロシア正教のトップが、なぜ突然「離反」したのだろう。中村氏が続ける。
「理由は2つ考えられます。1つは、のっぴきならないウクライナ情勢です。発言からはウクライナ国民を気遣っているような印象を受けますが、苦戦が続き苦境にあるプーチン大統領と距離を置きたいというのが本音でしょう。
2つ目が、深刻なプーチン大統領の病状です。私は、ガンが身体中に広がりスグに治療が必要な状態だと思っています。ソ連から独立した記念日である6月12日に、ウクライナ東部でのある程度の戦果を報告し、大統領を辞任し療養に専念する可能性もある。ロシア正教はプーチン大統領の権威失墜を考慮し、次の態度を決めようと考えているのかもしれません」
最大の支援団体の一つであるロシア正教が離反となれば、当然プーチン大統領にとって大きな痛手だろう。
「痛手は確かですが、プーチン大統領に権力を手放す気などありません。後継には、自身が影響力を維持できる大統領府局長で36歳のドミトリー・コバリョフ氏を指名すると言われます。若い世代へのバトンタッチは、60代70代の重鎮への『オマエたちの時代は終わった』という通告です。ゆくゆくは息子に後を継がせようと考えている。元新体操金メダリストで『愛人』と言われるカバエワ氏との間に、09年12月に生まれた男児です。『プーチン王朝』の樹立ですよ。
一方、プーチン大統領の独裁やウクライナ侵攻を面白く思わない人々も多くいます。今、モスクワでは水面下で凄まじい権力闘争が行われている。国内最大組織の一つであるロシア正教は、今後の勝者を冷静に見極めようとしるのでしょう」(中村氏)
ロシア正教のトップの発言から垣間見える、権力者たちの血なまぐさい駆け引き。記念日を迎える6月に大きな動きがありそうだ。
●プーチン大統領「ロシアは積み出しを妨害していない」 欧米などの批判に反論 6/4
ロシアのプーチン大統領は3日、侵攻したウクライナ南部の港から穀物輸出が滞り世界的な食料危機を招いているとの指摘について「ロシアは積み出しを妨害していない」と述べ、ロシアの責任とする欧米などの批判に反論した。国営テレビのインタビューに応じた。
世界的な小麦輸出国であるロシアとウクライナの交戦で、両国への依存度が高い中東やアフリカでは供給不安が生じている。ロシアの友好国が多い両地域での批判をかわす狙いとみられる。
プーチン氏は、新型コロナウイルス感染拡大により食料危機は既に始まっていたとし、ウクライナでの軍事作戦に「何の関係もない」と強調。危機への対応を誤った欧米がロシアに罪をなすり付けていると主張した。
ウクライナからの穀物輸出については、黒海のオデッサなどの港から船で輸出することをロシア軍は妨げないと断言。「公海までの安全を保証する」とする一方、港に機雷を設置し封鎖しているのはロシアではなくウクライナだと述べ、除去の責任はウクライナ側にあるとした。
さらに、ウクライナはルーマニアやポーランド、ベラルーシ経由で穀物輸出が可能だと指摘。豊作が見込まれるロシアも世界市場に穀物を輸出し危機緩和に貢献できるとする半面、欧米が対ロ制裁で輸出を妨げ「事態を深刻化させている」と批判した。 

 

●ドイツが80年育てた「ナチス土下座戦略」が終わる? 6/5
ロシアのウクライナ侵攻で、国際的な評価を最も下げた国がロシア自身なことは間違いない。では2位はどの国か……と考えるとドイツの名前が浮上してくる。
侵攻が始まった2日後にウクライナに5000個のヘルメットを送ると発表して「失望した」「ひどい裏切り」と非難されたかと思えば、ゼレンスキー大統領はドイツ下院で「あなた方はまたしても『壁』の向こう側にいる」とお叱りの演説。さらにはドイツのシュタインマイヤー大統領のキーウ訪問が、ウクライナ側から“断られる”事態まで発生した。
「職業はドイツ人」と名乗りドイツの公共放送の日本地域プロデューサーであり、ミステリーや日本アニメを愛するオタクでもあるマライ・メントラインさん。4月に2年半ぶりにドイツで2週間過ごす中で、日本とドイツではウクライナ侵攻への態度に大きな温度差があることに気がついたという。
ドイツはなぜ叱られ続けているのか、国内からの反発はないのか、そして「ナチス」という言葉が飛び交うことについて当のドイツ人たちはどう思っているのだろうか――。

――日本ではウクライナ報道が徐々に減りつつありますが、ドイツはいかがですか?
マライ ドイツにとってはウクライナもロシアも“ご近所さん”なので、今でも毎日のように報道が続いています。ただ侵攻直後の「ロシアを徹底的に叩くんだ!」という雰囲気は一段落して、ドイツにとってベストな戦争の終わらせ方を考える人が増えているように感じました。
「徹底的にロシアをやっつけようという雰囲気はない」
――どういうことでしょう?
マライ たとえば「ロシアをどのくらい弱体化させるのがいいか」という点が議論されています。日本は割と「ロシアには徹底的に弱体化してもらいたい」という空気が強いですよね。
――そう思います。
マライ その日本の感覚はアメリカの希望に沿ったものだと思うんですけど、ドイツ人の中で、ロシアが無くなればいいとか、何もできないくらい弱体化してほしいと思っている人はほとんどいません。侵攻前の境界線くらいまでロシアを押し返す必要はあるけれど、そこからさらに徹底的にロシアをやっつけようという雰囲気はないんです。
――ロシアに強烈な制裁を、という声は大きくないのですか?
マライ この戦争の悪役はどう見てもロシアで、その感覚はドイツでも同じです。ただ、ウクライナやロシアはやっぱり近すぎるんですよ。国内に多くのウクライナ人やロシア人が住んでるし、知り合いもいる。歴史的な関係性も深い。だからウクライナはウクライナのまま、ロシアもロシアのままで存続するのが落ち着くというか、そのバランスを大きく変えることに抵抗がある人が多いんだと思います。
――ロシアから天然ガスを輸入しているなど、経済的な結びつきが強いことも影響しているんでしょうか?
マライ 影響はあると思います。1991年にソ連が崩壊して以来、ドイツの基本的なロシア対策は「経済的にも人的にも交流してお互いズブズブに依存しちゃえば戦争も起きないよね」というものでした。実際に交流を強めて、天然ガスをロシアから運ぶパイプラインも作って、相互依存をどんどん深めてきました。2000年代までは、その方法で結構うまくいっているように見えていたんです。結果的にその見通しは甘かったわけですが……。
ドイツ人は「アメリカへの依存度をこれ以上高めたくない」と思っている
――現在も天然ガスの輸入が続いていることについて、ドイツ人はどんな反応なのでしょう?
マライ ガソリンの値段がものすごく上がっているので、天然ガスが無くなるのも困るというのが正直なところだと思います。ロシアにお金が流れるのは困るけどドイツ国民の生活を犠牲にすることもできない、というか。中東から石油を輸入する準備をしたり4月にショルツ首相が来日して川崎で水素ステーションを視察したり、ロシアの天然ガスに依存しない方法を模索してはいますが、すぐに輸入を打ち切るのは難しいのが本音でしょうね。
――日本は中東の石油の割合が多くてロシアの資源の割合は低いのですが、ドイツはロシアへの依存度が高いですよね。
マライ ドイツ人は「アメリカへの依存度をこれ以上高めず、ヨーロッパはヨーロッパでやっていきたい」という気持ちが強くて、そこが日本とは大きく違います。ロシアからのガス輸入を増やしていたのも、アメリカの影響力が強い中東の石油に頼りたくなかったから、という部分が大きいんです。今回はそれが裏目に出た形ですね。
――確かに日本はアメリカ第一の度合いが強いです。
マライ そうですよね。ドイツも軍事的にはNATO、つまりアメリカに頼って軍事費をずっとケチってきた部分はあるんですが、“EUの盟主”としてアメリカとは一定の距離をおきたい、みたいな願望も強い。あと、今回の戦争についての報道で日本と大きく違うのは「お金」の話です。
「これを自分たちの税金で復興するんだよなぁ」
――戦費や軍事費のような話ですか?
マライ それももちろんですけど、ウクライナの被害状況を見て「これを自分たちの税金で復興するんだよなぁ」と思っているのはたぶん世界中でドイツ人くらいだと思うんです。ドイツは経済的にEUで1人勝ち状態なので、ヨーロッパで何かあったら自分たちが支援するんだという意識をはっきり持っています。今回も武器の提供などですでに相当なお金がかかっていますが、戦闘が終わったとしても、復興支援でドイツにさらなる支出が待っているのは間違いありません。
――確かに、「日本の税金が使われる」という感覚を持っている日本人は多くなさそうです。自分たちの税金が使われることへの反発はないんですか?
マライ ドイツ人は、自分たちが経済的に好調なのはEU諸国から流れ込んでくる優秀な人材のおかげだとわかっているので、ヨーロッパの国を支援すること自体は納得している人が多いです。ギリシャの財政破綻の時も、結構なお金をはらっていますし。ただ、タイミングが厳しいなぁという感覚は正直あるでしょうね。
――タイミングとはどういうことでしょう。
マライ 今年はドイツにとって、古くなった国内インフラをいよいよ一気に整えるぞという年だったんです。16年続いたメルケル体制が終わって、後を継いだショルツ首相が内閣を「内政向き」のメンバーで揃えたのもそのためでした。というのもドイツは長年のケチ政策で、国内のインフラが実はボロボロ。特にインターネット周りは本当にひどくて、電子マネーやクレジットカードを使える店が他国とくらべても少なく、ネットの回線速度もかなり遅いんです。
――ドイツといえば成功している先進国の代表のようなイメージで、それは意外です。
マライ ドイツのネット周りの整備が遅れているのは国内ではネタになるくらい長年の課題で、ようやくそれを解決するための布陣が整った直後に、この戦争が起きてしまった。政府は内政特化チームなのに、戦争という究極の外交問題に対応しなければいけないというハードな状況だったんです。
――それはたしかに厳しいタイミングですね。
マライ どうにもズレた発言が続いて疑問視されているアナレーナ・ベアボック外務大臣はそのあおりを食らっている筆頭ですね。彼女は緑の党の元代表で、気候変動問題などにはとても強いけれど戦争のようなハードな外交は専門ではありません。ウクライナにヘルメットを送って世界中からバッシングされた時も、「首相がメルケルだったらもうちょっとマシな対応ができたのでは」みたいな雰囲気は正直ありました。
――ドイツの初動はかなり迷走している雰囲気がありました。
マライ 1つ同情するとすれば、ドイツにとって、「ロシアと戦う」というのはタブー中のタブーなんです。第二次世界大戦でナチスドイツはソ連で2000万人とも言われる人を殺害していて、それを80年間謝りつづけてきました。なので「ロシア軍と戦うための武器を提供すること」への抵抗感は世界で一番強い。ウクライナ侵攻はどう見てもロシアが悪い、しかし自分たちがロシアと戦っていいのか……という葛藤が政治家にも一般市民にもあったのだと思います。
「ナチスの悪行を謝りつづける」というスタイルが崩れる?
――日本と韓国や中国の関係にも似ている気がしますが、ドイツでは「ロシアに謝りつづける」ことについて国内の意見は一致していたのでしょうか。
マライ 少なくとも今回の戦争が始まる前は、ほとんどのドイツ人が「ロシアには特にひどいことをしてしまった」という意識を持っていたと思います。独ソ戦が終わった5月9日にロシアで「対独戦勝記念日」を祝う式典があるんですが、その式典には毎年ドイツから政治家が出席してナチス時代の戦争を謝罪していました。今年はさすがにドイツ側としても出席するわけにもいかなかったようですが……。ただこれでドイツが80年かけて築いてきたロシアとの関係性が崩れるとすれば、その影響は計り知れません。
――どういうことでしょう?
マライ ドイツは第二次世界大戦の後、ナチスの悪行をとにかく謝りつづけることで国際社会の信頼を得るという土下座スタイルを貫いてきました。ロシアに対しても同じです。ただ今回の戦争で「過去の過ちをロシアに謝る」ことに抵抗感を持つ人が増える可能性は高いですよね。しかもロシア側がウクライナのことをナチの後継者だと難癖をつけていて、ナチスを批判すること自体が若干“うさんくさい”感じになってしまった。そうすると「ナチスの行動を反省しつづける」というドイツ人のアイデンティティが崩れる危険があるんです。
「ドイツや日本が80年かけて育てたアイデンティティが…」
――たしかに、「ナチスって言うやつがナチス」的などっちもどっち論に引きずり込まれそうな気配はあります。
マライ そうなんです。ドイツが今回の戦争で失った最大のものは、実はそれかもしれないと思っています。インフラ整備の機会を失ったことや、ウクライナ支援のための支出、実は軍事的にボロボロだったことが世界にバレた以上に、「悪役ナチスを全否定して反省しつづける」という戦後ドイツを支えた原則の説得力が失われるのは本当に怖い。下手をすると「ナチスはそんなに悪くなかった」というような勢力さえ大きくなりかねないですから。
――第二次世界大戦で負けた国として、日本にとっても他人事ではない悩みな気がします。
マライ 今回の戦争の最大の被害者はもちろんウクライナですが、ドイツや日本が80年かけて育ててきたアイデンティティへの影響もかなり大きいと思います。ロシアはある意味で国ごとカルト化してしまいましたが、それにドイツのネオナチや日本の陰謀論者のような人たちが呼応していく可能性がある。本当に気が重くなりますね。
●対戦車ミサイルはゲームチェンジャーではない 6/5
ウクライナに供与されたアメリカ製の対戦車ミサイル「FGM-148ジャベリン」は、2022年2月24日から始まったロシア-ウクライナ戦争で大きな戦果を上げました。首都キーウ防衛に大きく貢献して、侵攻してきたロシアに対するウクライナの抵抗の象徴となったのです。
しかしこれをもってジャベリンさえあれば戦車を倒せる、戦車はもう不要であるという極端な主張さえ一部で出始めました。ただし当のウクライナのゼレンスキー大統領が「反攻作戦の為に各国は戦車を供与して欲しい」と訴えたことで戦車不要論は直ぐに否定された形です。そして実際にポーランドなどからT-72戦車200両以上がウクライナに大量供与され始めています。
戦車と対戦車ミサイルの簡単な歴史の紹介
実は対戦車ミサイルを根拠として戦車不要論が唱えられるのはこれが初めてではありません。例えば過去の有名な事例では今から49年前の1973年の第四次中東戦争で、エジプト軍がソ連製の対戦車ミサイル「9M14マリュートカ(NATO名称:AT-3サガ―)」を使用してイスラエル戦車部隊に大打撃を与えた時も同じような説は唱えられました。しかしその後も戦車は進化し、対抗戦術も編み出され、今もなお戦車は陸上の主力兵器の地位を保ったままでいます。
1916年・・・戦車の初投入(菱型戦車、ソンムの戦い)
1944年・・・対戦車ミサイルの初開発(X-7ロートケップヒェン)
1956年・・・対戦車ミサイルの初投入(SS.10、第二次中東戦争)
1973年・・・対戦車ミサイル「AT-3サガ―」活躍(第四次中東戦争)
1996年・・・対戦車ミサイル「ジャベリン」配備開始
2022年・・・対戦車ミサイル」ジャベリン」活躍(ウクライナ戦争)
戦車は登場から100年近く経ちますが、対戦車ミサイルも70年近く前から存在している兵器です。そして戦車と対戦車ミサイルが本格的に戦い始めてから既に50年近く経ちます。
多くの兵器技術開発競争は一時的にライバルに対し優位になったり再逆転したりを繰り返していくものです。もちろん革新的な新兵器が登場して時代遅れとなった旧兵器を絶滅させてしまうケースもありますが、戦車と対戦車ミサイルについてはそういった関係にはならなかった長い共存と競争の歴史があります。
しかもジャベリンの開発は1980年代後半から1990年代前半で、約30年前の設計の兵器であり、実は新しい兵器ではありません。やや古い部類の兵器です。
   牽引式対戦車砲は絶滅寸前
むしろ対戦車ミサイルが絶滅に追い込みつつある兵器はライバルの戦車ではなく、同業の牽引式対戦車砲だと言えるでしょう。第二次世界大戦では戦車と熾烈な戦いを演じた牽引式対戦車砲は、運びやすい対戦車ミサイルに役割を奪われて現在ではほぼ絶滅しかかっています。
・・・ほぼ? そう、実はウクライナ軍には牽引式100mm対戦車砲「MT-12」が現役でまだ数百門は存在しており、今まさに戦場に投入されています。
なおロシア軍にもMT-12が有る上に、更に強力な牽引式125mm対戦車砲「2A45スプルート-A」「2A45Mスプルート-B」が有ります。
ウクライナ軍が使用中の代表的な対戦車ミサイル
   FGM-148ジャベリン(アメリカ製)
赤外線画像誘導による追尾誘導能力を持つ対戦車ミサイル。発射後に射手が誘導し続ける必要が無い「撃ちっ放し方式」で、射手は即座に離脱を開始できる。戦車の装甲が薄い上面を狙うトップアタックと通常のダイレクトアタックの二通りの飛び方を持つ。ただしトップアタックは一度上昇してから急降下するので、目標とはある程度の距離が必要になる。
   NLAW(イギリス/スウェーデン製)
移動する目標の未来位置を発射前の取得データで計算し、発射後に補正して飛んで行く対戦車ミサイル。追尾誘導は行えない。無誘導対戦車ロケットと誘導対戦車ミサイルの中間の性質を持つ。弾頭の成形炸薬はミサイルの進行方向の90度真下にメタルジェットを打ち出す取り付け方で、ダイレクトアタックに近い浅い角度の軌道でトップアタックが行えるオーバーフライ・トップアタックが可能。この飛び方は接近戦でもトップアタックを行える利点を持つ。
   パンツァーファウスト3(ドイツ製)
無誘導対戦車ロケット。無反動砲として射出後の砲弾は更にロケット噴射し飛んで行く。追尾誘導能力は無く発射後の軌道修正も行わないので命中弾を与えるには接近して発射する必要がある。
   スタグナP/ストゥフナP(ウクライナ製)
レーザー誘導対戦車ミサイル。日本では英語読みの「スタグナ・ピー(Stugna-P)」で知られているが、ウクライナ語読みでは「ストゥフナ・ペー(Стугна-П)」と発音する。目標照準は液晶パネルディスプレイで確認して行い命中までレーザー照射し続ける必要があるが、液晶パネルディスプレイの照準システムは有線ケーブルで発射機と繋いで離して置けるので射手の生存性が高い。ジャベリンのような歩兵1人で携行できる型式ではなく、複数人で携行し固定設置式で機動性に劣るが、その分だけミサイルが大きく有効射程が長い。
なおこの対戦車ミサイルは原型は牽引式100mm対戦車砲「MT-12」用の砲口発射対戦車ミサイル「ストゥフナ(Стугна)」で、歩兵用に口径を大型化し発射機と照準システムを新たに用意したものが歩兵用対戦車ミサイル「ストゥフナ・ペー(Стугна-П)」。末尾の「П」はウクライナ語「Портативний (ポルタテーウネィ)」の頭文字で、つまり意味は英語でならば 「Portable(ポータブル)」。携行式、可搬式。
この他にコルサール(Корсар)、ミラン(Milan)、コーンクルス(Конкурс)、C90-CR、RGW-90マタドール(Matador)、AT4、カール・グスタフ(Carl Gustaf)など、国産装備と供与装備を合わせて現時点で20種類以上の対戦車ミサイルがウクライナ軍で使用中。
●ゼレンスキー大統領 “ロシア軍が修道院破壊 ユネスコ除名を”  6/5
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州のセベロドネツクをめぐる攻防で「ウクライナ側に致命的な損失を与えた」として戦闘で優位に立っていると強調しました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、東部ドネツク州にある歴史的に価値の高い修道院を、ロシア軍が破壊したと非難し、ロシアをユネスコから除名するよう呼びかけました。
ウクライナ東部のルハンシク州とドネツク州では、2州の完全掌握を目指すロシア軍と、抵抗するウクライナ軍との間で一進一退の攻防が続いています。
ルハンシク州のガイダイ知事は4日、ウクライナ側の主要な拠点とされるセベロドネツクについて「激しい戦闘が行われている。ロシア軍は全兵力を投入し、街の大部分が掌握された」と述べました。
そのうえで「ロシア軍は橋を爆破し、ウクライナの部隊の増強を食い止めようとしている」と述べ、ロシア軍がウクライナ軍の補給路を断とうとしているとの見方を示しました。
これに対し、ロシア軍は4日声明を発表し、セベロドネツクをめぐる攻防で「最大で部隊の90%が壊滅する致命的な損失を与えた」として戦闘で優位に立っていると強調しました。
また、ウクライナが穀物を輸出できなくなり、世界的な食糧危機の懸念が高まっている問題に関連して、ロシア軍は、黒海沿岸のヘルソンやミコライウ、それにオデーサなど6つの港で合わせて70隻の外国の船舶が動けなくなっていると指摘しました。
ただ、その理由については「ウクライナ側から砲撃されるおそれがあるためだ」としていて「ロシアが港を封鎖している」とするウクライナ側の主張に反論した形です。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、SNSで、東部のドネツク州にある歴史的に価値の高い修道院を、ロシア軍が破壊したと非難しました。
一緒に投稿された短い動画では、木造の修道院が激しい炎に包まれているのが確認できます。
ゼレンスキー大統領は「第2次世界大戦が終わってからヨーロッパでこれほど多くの文化的・社会的な遺産を破壊した国はロシアだけだ。もはやユネスコにロシアの居場所はない」として、ロシアをユネスコから除名するよう、国際社会に呼びかけました。
●ウクライナ首都にミサイル攻撃 2カ所で爆発・火災―東部拠点、瀬戸際の攻防 6/5
ウクライナのメディアによると、首都キーウ(キエフ)の市内2カ所で5日早朝(日本時間同日午後)、相次いでミサイル攻撃があり、大きな爆発と火災が起きた。一方、ロシア軍が完全制圧を目指す東部ルガンスク州では、瀬戸際の攻防が激しさを増している。
クリチコ市長が通信アプリで明らかにしたところでは、爆発があったのは、中心部と川を挟んで対岸にある東部ドニプロ地区と南東部ダルニツァ地区。現地の報道によれば、火災が発生して黒煙が立ち上った。
キーウは、2月下旬にロシア軍による本格侵攻が始まってしばらく、何度もミサイル攻撃にさらされた。ロシア軍が周辺の北部キーウ州などから撤退して以降は比較的平穏が保たれ、外国政府要人らの訪問が続いていた。ただ、グテレス国連事務総長が訪れた4月下旬にミサイルが着弾し、死傷者が出ている。
一方、ロシア軍が東部2州の「解放」を目標に掲げる中、ルガンスク州の残る拠点都市セベロドネツクをめぐり、一進一退の戦闘が続いている。ロシア部隊の大規模投入を前に、ウクライナ側の抵抗は根強い。
●ウクライナ情勢 セベロドネツクの戦闘一進一退の攻防 6/5
ウクライナ情勢です。東部ルハンシク州の要衝セベロドネツクでの戦闘は、ウクライナが「押し戻している」とする一方で、ロシアは「ウクライナ側が退却している」と主張。一進一退の攻防が続いているとみられます。
ロイター通信によりますと、ルハンシク州知事は4日、州内「最後の拠点」とされるセベロドネツクで「ウクライナ軍の増援を阻止するためロシア軍が橋を爆破している」としつつ、「ウクライナ側が押し戻しロシア軍に大きな被害が出ている」と述べました。
一方、ロシア国防省は声明で、セベロドネツクでウクライナ側が「致命的な損失を受け隣接するリシチャンシクに退却している」とした上で、「化学工場の硝酸などのタンクを爆発させ、汚染地域を作りロシア軍の攻勢を遅らせようと計画している」などと一方的に主張しました。
イギリス国防省はルハンシク州を含むドンバス地方の戦況について、「ロシア軍が空爆と砲撃を併用し最近は成功を収めている」と分析。また、「精密誘導できない爆弾の使用が増え、ほぼ確実に多くの民間人の犠牲が出ている」と指摘しています。
●仏大統領の「ロシアに屈辱を与えてはならない」発言にウクライナ反発 6/5
ロシアによるウクライナの軍事侵攻について、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は4日掲載の新聞インビューで「ロシアに屈辱を与えない」ことが大事だと呼びかけ、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は同日、そのようなことを言う国にこそ「屈辱」がもたらされると、批判的なツイートをした。
複数のフランス地方紙が4日に伝えたインタビューで、マクロン大統領は「戦いが止まった日には外交を通じて出口が築けるよう、私たちはロシアに屈辱を与えてはならない」、「仲介者になるのがフランスの役割だと確信している」と話した。さらに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自らの「根本的な間違い」から抜け出す道筋を残すのが、何より大事だと述べた。
「自ら孤立するのはともかく、そこから抜けだすのは難しい」とも述べた。
マクロン大統領は開戦以降、西側首脳としては最も頻繁にプーチン大統領と対面や電話で直接対話を繰り返している。
3日には仏メディアに対し、自分はプーチン氏に、ウクライナ侵攻という「歴史的で根本的な間違いを犯した」せいで、今ではロシアが「孤立」してしまっていると伝えたと明らかにした。
「国民と自分自身と歴史にとって、歴史的で根本的な間違いをしたと、本人に伝えた」と、マクロン氏は述べていた。
さらに5月初めにも、ロシアとウクライナの停戦を呼びかけ、西側諸国は「(ロシアに)屈辱を与えたいという誘惑や、報復したいという気持ちに屈してはならない」と強調していた。
イタリのマリオ・ドラギ首相も5月の訪米時に、欧州の人たちは「停戦の確保と、信頼できる交渉の再開について考えたいと思っている」と米ホワイトハウスで述べていた。
これに対して、ウクライナのクレバ外相はツイッターで、「ロシアに屈辱を与えるなと言うのは、そう呼びかけるフランスをはじめ全ての国に屈辱を与えるだけだ」と反発。
「なぜなら、ロシアに屈辱を与えるのはロシアだからだ。私たちは全員、どうすればロシアに自分の立場をわきまえさせられるかに集中すべきだ。それが平和をもたらし、人命を助ける」と書いた。
ウクライナ政府は、和平実現のための領土割譲はあり得ないという立場を強調している。
セヴェロドネツクで激戦
東部の主要都市セヴェロドネツクでは、ロシア軍が激しい砲撃に加えて戦車や歩兵部隊を投入して攻撃を重ね、これにウクライナ軍が徹底抗戦している。
ロシア国防省は、セヴェロドネツク防衛でウクライナ軍は、一部の部隊で9割の兵士が死亡するなど、甚大な被害を受けていると発表。通信アプリ「テレグラム」で、ウクライナ軍は今では別の都市リシチャンスクの方向に後退していると述べた。ただし、部隊の数などは明らかにしなかった。
他方で、ウクライナ東部ルハンスク州のセルヒィ・ハイダイ州知事は、ロシア軍はセヴェロドネツクの約7割をいったん制圧したものの、ウクライナ側がこれを部分的に押し戻したと発言。ウクライナ軍はセヴェロドネツクの約2割を奪還したとしている。
「西側の長距離兵器が必要なだけそろえば、(ロシアの)大砲をこちらの位置から追い出す。そうすればロシアの歩兵部隊はたちまち逃げ出すに決まっている」と、知事は話した。
双方による主張を、BBCは独自には検証できてない。
ロシアがセヴェロドネツクを制圧すれば、ルハンスク州全域がロシア軍と、ロシアが後押しする分離派勢力の支配下に入る。ロシアと新ロ勢力はすでに、隣のドネツク州の大半を掌握している。
セヴェロドネツクには窒素肥料を作る巨大なアゾト化学工場があり、シヴェルスキー・ドネツ川を挟んだリシチャンスクには、ウクライナ2番目の規模の製油所がある。そのためこの2都市の掌握はロシアにとってきわめて重要な戦略目標となっている。
激戦のためセヴェロドネツクの市街地のほとんどは破壊されているものの、建物の地下には今も数千人の民間人が避難している。
ハイダイ知事は、ウクライナ軍の応援部隊や民間人への救援物資が市内に届くのを防ぐため、ロシア軍が複数の橋を爆破していると話している。
修道院が燃える
東部ドンバスではドネツク州で、木造で有名なスヴィアトヒルスク修道院から出火した。ウクライナ正教会は、戦闘による炎が僧院の聖堂に引火したと述べた。
ウクライナ軍の将校、ユーリ・コチェヴェンコ氏はフェイスブックで「何も神聖視しないロシアの野蛮人が、また犯罪を犯した」と投稿した。
ウクライナ政府はツイッターで、「ロシアの爆撃で、木造のスヴィアトヒルスク修道院が燃え上がった。ここはモスクワ総主教庁系。5月30日にはロシア軍がここで4人の修行僧を殺した。キリル総主教は今度こそ、プーチン大統領に戦争を終わらせるよう呼びかけるのか、それとも引き続きロシア軍を祝福し続けるのか」と書いた。
これに対してロシア国防省は、僧院の火災はウクライナの「ナショナリスト」部隊のせいだと主張している。
国防省は「テレグラム」で、ウクライナ第79空挺旅団の部隊がスヴィアトヒルスクから撤退する途中、「ウクライナのナショナリストたちが木造の僧院に放火した」、「地元住民によると、ウクライナのコザク装甲車に搭載された大口径機関銃で、ドーム屋根の建物の木の壁に向けて一斉射撃したという」と書いている。
国防省はさらに、スヴィアトヒルスクの北に位置するロシア軍は「この地域で戦闘作戦を実施しておらず、スヴィアトヒルスク歴史・建造物保存地区の砲撃もしていない」と説明した。
ロシアはこれまで繰り返し、ウクライナの民間施設や市民居住区への砲撃を否定しており、逆にウクライナ軍が地元住民を「人間の盾」にしていると批判している。しかし、現地ウクライナ人や多数の外国人の目撃情報から、ロシア軍の砲撃で多数の民間施設が破壊されている様子が示されている。
●ダボスで見た「ウクライナめぐる情報戦」の熾烈  6/5
「毎朝起きる時、ウクライナのために自分が何をやれたか考えてほしい」
5月23日、スイスの保養地ダボスで開かれた世界経済フォーラム(通称ダボス会議)の開幕にあたって、ウクライナのゼレンスキー大統領が首都キーウからビデオ中継で特別講演を行った。ダボス会議は世界の政治家や経営者が集い、世界情勢を語り合う場として知られる。
予定より数分遅れて会場正面の大型スクリーンに現れたゼレンスキー氏は、トレードマークとなったカーキ色のシャツを着ていた。その形相がすごかった。やつれたような、何らかの覚悟をもったような、とにかく恐ろしい表情だ。軍事侵攻を受けた国のリーダーはこのような表情をするのか、との考えが頭をよぎった。
歴史は転換点にある
会場となったダボスのホールには各国から駆けつけた数百人のエリートが聴衆として集まっていた。その前段で、ダボス会議創始者のクラウス・シュワブ氏がウクライナ首相、外相、キーウ市長などからなるウクライナ代表団へ起立を求め、会場に拍手を促す一幕があった。
約20分ほどのスピーチでゼレンスキー氏は「歴史は転換点にある。まさしく残虐な勢力が世界を支配するかどうかを決定付ける瞬間だ」などと語り、石油禁輸や銀行封鎖、貿易の断絶などロシアへの「最大限」の制裁を訴えた。
終了後、自然とスタンディングオベーションが起きた。日本ではなかなか実感できない、欧州の団結を感じさせる瞬間だった。
それとは対照的に、ロシアの政治家やビジネスパーソンは誰一人として今回のダボス会議に招かれていない。
今回のダボス会議は異例ずくめだった。新型コロナの世界的な流行を受け、リアル開催は2年半ぶり。会場で入場バッジを取得する際にはPCR検査が求められた。
総参加者数は前回の約3000人から約2500人まで減少。例年なら1月に積雪のなかで開催されるが、今回は延期に次ぐ延期で結局5月開催に。会場周辺には青々とした草原が広がり、小鳥のさえずりが聞こえた。
永世中立国スイスも方向転換
何しろ、地図上で「すぐそこ」のウクライナで戦争が繰り広げられている中での開催だ。ウクライナとロシアを迂回するため日本からスイス方面への飛行時間は通常より1時間以上長くなっていた。戦争が実際に現在進行形で起きていることを意識させられた。
スイスの首都、チューリッヒでは街のあちこちにウクライナの二色旗が掲げられていた。今回の戦争は、欧州の中央に位置するスイスに長きにわたって維持してきた中立を見直させるほどの衝撃なのだ。
スイス政府は、ロシアによるウクライナへの侵攻当初こそEUの制裁に加わらない姿勢を示していた。だが2月28日には早くも方針を変更し、EUと歩調を合わせる形で制裁の発動を発表した。4月上旬の時点で、スイスはプーチン大統領やミハイル・ミシュスチン首相の保有資産を含む約80億ドル相当のロシア資産を凍結している。
最近では、軍事的中立を守ってきた北欧のフィンランドとスウェーデンがNATO(北大西洋条約機構)加盟を申請した。すぐに加盟するわけではないが、スイスでもNATOとの関係強化を望む声が高まっている。
ダボスに設けられた「ロシア戦争犯罪ハウス」は、ゼレンスキー大統領が演説でも言及して世界的に注目された。例年ダボス会議開催中にロシアの代表らが会談を行う「ロシアハウス」を今回はウクライナ側が借り切って、ロシアによる戦争犯罪の証拠を展示する場にしたものだ。
実際に訪ねてみると、生々しい戦争被害を訴える写真が並び、戦火でメチャクチャになった建物を映す動画も放映されていた。「ロシア戦争犯罪ハウス」という命名も含めて強烈で、このバズらせ方はさすがだと思った。現場にいた担当者に聞いてみると、案の定「ウクライナ大統領府が企画に関与している」とのこと。
今回の展示がすべて見られるサイトまでネット上に開設する徹底ぶりだ。ゼレンスキー氏がエンタメ業界にいたこともあってか、ロシアとは対照的にメディア戦略が洗練されていると改めて感じた。
ちなみに、その近くにある「ウクライナハウス」には、こちらもゼレンスキー氏が演説中に触れたユナイテッド24(United24)というウクライナ直接支援のためのプラットフォーム専用の端末が備え付けてあった。そこから暗号資産を含めた様々な方法で寄付が可能になっていた。
ダボス会議では、ウクライナ戦争が話題の中心となり、ウクライナの国会議員も与野党の垣根を越えてワンボイスでまとまって声をあげていた。また、今回の戦争が引き起こし、日本ではまだあまり切迫感を持って語られていない「フードクライシス(食糧危機)」と言う言葉を頻繁に耳にした。アフリカにはウクライナからの食料輸入に大きく依存している国が少なくないためだ。
ダボスでアメリカと中国がつばぜり合い
今回のダボス会議期間中にアメリカと中国の間でちょっとした「事件」が起きた。アメリカのマイケル・マッコール下院議員が、CNNの生中継インタビューで、上記のゼレンスキー大統領のスピーチの際、他の聴衆が拍手を送る中、解振華特使率いる中国代表団が会場から出ていったと「現場写真」とともに批判したのだ。
しかし中国メディアの「財新」はその写真に映るアジア系の男たちが実はベトナムのレー・ミン・カイ副首相率いる同国代表団のメンバーであると報じた。中国の解特使らは演説の時刻には、別の人物と会談中だったとのことだ。
今年の秋に中国では共産党大会が開催される予定で、米国では中間選挙が控えている。そうした両国の国内事情もあり、米中対立は当面より深刻になることはあれど、融和に向かうことはないと予想される。今回の騒動は、米中がウクライナ情勢を巡ってもいがみ合っていることを印象づけた。
ある中国側の参加者は「アメリカはウクライナを利用して自分の手を汚すことなく欧州をまとめ上げ、ロシアを追い詰めている」と陰謀論めいた見方を披露していた。
しかしダボス会議の参加者すべてが、ロシア排除で一枚岩になっているわけではない。
今後注目される国際会議の一つが、11月にインドネシアが議長国として開催することになっているG20首脳会議だ。ダボスで筆者がインタビューしたあるインドネシアの要人は「多様性の中の統一」という同国の国是を引きつつ、ロシアを含めたすべてのメンバーが参加することの意義を強調していた。
次回はロシアからの参加が認められる?
関係者によると、次回のダボス会議は2023年1月に開催されるとのことだ。その時点までにウクライナで停戦が実現していれば、次回にはロシアからの参加が認められる可能性がある。
延期に次ぐ延期で急ごしらえ感が強かった今回のダボス会議に、日米中の首脳の姿はなかった。ウクライナ情勢が深めた世界の分断がさらに進むのか、次回のダボス会議はそれを占う試金石になりそうだ。
●プーチン大統領のトルコ訪問は「終わりの始まり」になるのか 6/5
ロシアのプーチン大統領がトルコ訪問を検討
ロシア大統領府は、プーチン大統領がトルコへの訪問を検討していると明らかにした。実現すればウクライナへの侵略後、初の外国への訪問となる。ウクライナのゼレンスキー大統領と会談する可能性については否定した。
飯田)5月30日にプーチンさんとトルコのエルドアンさんは電話会談をしています。トルコは仲介に熱心ですね。
戦況が動いている証拠
宮家)仲介などできませんよ。相手は核を持ったプーチン大統領ですから。残念ですが、戦争は彼がやめたいときにやめるのです。しかし、おそらくプーチンさんがトルコに行くという発表をしたこと自体が、戦況が少しずつ動いている証拠だと思います。
飯田)トルコに行くということが。
宮家)私は停戦の問題に関して、常に戦場での状況を見なければいけないと思っています。いまの状況は、我々が感じているほどウクライナが善戦しているわけではないと思います。
飯田)現状は。
宮家)戦争とは非情なものですから、人をより多く投入し、より高度な武器を投入した方が勝つ部分があるのですけれど、ウクライナが常に勝っているわけではありません。現状、おそらくロシアは東部へ集中的に兵を動かしています。北はもう捨てましたし、南部も手薄になっています。
東部を獲って勝利宣言をしたいロシア
宮家)ロシアが獲りたいのはやはり東なのです。それで勝利を宣言して、長期戦になることを避けようとしている部分が出てきているのではないでしょうか。
飯田)東部を獲って。
宮家)そのようなものを反映して、プーチンさんはトルコに行くのかどうか……行くのでしょうね。ゼレンスキーさんと会うかは別として、何らかの取引を始めたいのかなという気がしないでもない。
「終わりの始まり」の可能性も
宮家)ただ、ゼレンスキーさんからすればとんでもない話ですし、エルドアンさんはスウェーデンとフィンランドのNATO加盟にも反対しています。トルコだって必死なのです。EUに入れないトルコがNATOには残っているけれど、ロシアとは黒海を挟んで対峙している。もともとトルコとロシアは、長年戦争をやっていた国同士ですから。そういう意味では、エルドアンさんは政権とトルコの利益を最大化するために、いろいろと画策している。これもその一環なわけです。
飯田)プーチン大統領と会うことも。
宮家)国連を巻き込んでいるわけですけれども、国連がいくら騒いでも、残念ながら国連にはプーチンさんを説得するだけの力もないし、納得するはずもありません。終わりの始まりかなと思いたいけれども、まだそこまで言い切る自信がない、そんな感じです。
ロシアがデフォルトになったからといって物事は動かない 〜この戦いはまだ続く
飯田)西側は結束してロシアに制裁を掛け続けています。いよいよ債務不履行になるという報道も出ています。侵略が始まってから100日になりますが、経済制裁は効いているのですか?
宮家)経済制裁は特効薬ではありません。漢方薬のように効いてくるはずです。ただ、デフォルトになったからといって、すぐに物事が変わるかというと、必ずしもそうではないでしょうね。
飯田)デフォルトになったからといって。
宮家)ある程度、石油もガスも売れるわけですから。今だにヨーロッパも一部では石油を買っているし、ガスについては禁輸すらしていません。冬に向かってそんな決断をできるわけがありません。
飯田)そうですね。
宮家)現金収入があるということです。今後ルーブルが買われるかどうかは別として、経済制裁は徐々にしか効いてこない。となると、プーチンさんは中長期的には、厳しいことはわかっているけれど、短期的にはまだ勝負できると思っているでしょう。そういう状況で双方が素直に停戦に応じるかと言ったら、正直分からない。どちらもまだ負けているとは思っていないですからね。
飯田)どちらも。
宮家)ウクライナの方は、これから高性能の武器がくるので、6〜7月がチャンスだと考えているはずです。そうなると、仮にプーチンさんが近日トルコに行ったところで、すぐに物事は動かないのではでしょうね。残念ですが。
ウクライナが激しく抗戦すれば、ロシアが化学兵器を使用する可能性も
飯田)そうすると、6〜7月にウクライナが反転攻勢をかけるのかどうか。そして反転攻勢をかけられたロシアは、化学兵器や核など、別の兵器に手を出すのか。
宮家)核はともかくとして、化学兵器は十分あり得るでしょうね。それからいまロシアは、「他の国に波及する」などと言っていますが、あれは威嚇だと思います。しかし、そのオプションを使う可能性はゼロではありません。そこは我々も頭に置いておくべきでしょう。
●ウクライナ入りした日本人が見た現地 戦争理解できぬまま痩せ細る子ども… 6/5
ロシアの侵攻が始まってから、約3カ月が経ったウクライナ。日々その現状は伝えられているが、今回、現地を訪れた鹿児島出身の関雄貴さんに話を聞いた。関さんは、ボランティアでルーマニアとの国境付近のウジホロド市に滞在し、首都キーウ周辺にも支援物資を運びに行った。約2週間の滞在で見えてきたものとは。
侵攻から3カ月…ウクライナ入りした日本人男性が見た現状
銃弾で穴だらけになった車、爆撃を受けた住居…。ロシアによる軍事侵攻で攻撃を受けたウクライナの現状が、生々しく伝わってくる映像だ。撮影したのは関雄貴さん(31)。鹿児島市で生まれ、22歳までを過ごした。現在は日本とアメリカを拠点に広告代理店を営んでいる。
美川愛実アナウンサー: 関さんがウクライナを訪れた理由は何だったんですか?
ウクライナ入りした関雄貴さん: 元々支援活動はしていたが、実際にそこの声を聞いて、困っている人たち、末端の人たちに何か協力できることはないかという思いで来ました
関さんは自ら手配した支援物資を配りながら、約1週間、首都キーウ周辺を巡った。
関雄貴さん: 車とか家は生々しくそのまま残っている状態。においとかも残っていて、なのでよりリアルを感じた
栄養失調や痩せ細った子ども…戦争を理解できないまま命をつなぐ
関さんには、特に衝撃を受けた場所があったという。
関雄貴さん: 子供たちが生活するスペースが全然足りてなくて。馬小屋を改築して即席でつくった部屋みたいなものがあって、栄養失調だったり痩せ細って…その時ムービーとかは撮る勇気がなかった、深刻すぎて。現地の子供たちは何がどうなっているのか分かっていない
「すぐ入れるような」孤児院設立を決意 市も土地の提供決定
戦争を理解できないまま、親を亡くし狭いスペースで命をつなぐ子どもたち。その様子を目にした関さんは、ウクライナに孤児院を作ることを決めた。
関雄貴さん:200人ぐらい入れる施設を希望されていて、早急に受け入れができるように、既存の家を使って、すぐ入れるような施設を造ろうとしている
滞在していたウジホロド市は、関さんに土地を提供することを決めたという。今回の滞在をきっかけにウクライナでの活動をスタートすることになった関さんに、鹿児島にいる人たちに今、伝えたいことを聞いた。
関雄貴さん:そこに困っている人がいるんだったら僕はその人を助けたい。日本は平和すぎて、人ごとにしか思えていないと思う。みんなの関心が変わってくれればうれしい
侵攻が始まって3カ月。日々その惨状を目にしながらも、どこか人ごとになっていないか。ウクライナには今この瞬間にも助けを求めている人たちがいる。
●ロシア軍がキーウをミサイル攻撃 ウクライナ軍は東部で反撃  6/5
ウクライナでは、ロシア軍が首都キーウの2つの地区をミサイル攻撃するなど、攻勢を強めているのに対して、ウクライナ軍も東部などで欧米から供与された兵器を使って反撃し、各地で激しい戦闘が続いています。
ロシア軍は5日朝、ウクライナの首都キーウの2つの地区をミサイルで攻撃し、ウクライナの当局によりますと、これまでに1人がけがをしたということです。
キーウのクリチコ市長によりますと、この地区は市内を流れるドニプロ川東部のダルニツキーとドニプロフスキーだということです。
さらにロシア軍は、東部のルハンシク州で、ウクライナ側の主要拠点とされるセベロドネツクの完全掌握を目指し、攻勢を強めています。
これに対してウクライナ軍は、セベロドネツクで抵抗を続けるとともに、ルハンシク州に隣接するドネツク州ではロシア側の支配地域を集中的に砲撃し、反撃に転じています。
ロシアを後ろ盾とする親ロシア派の武装勢力によりますと、ウクライナ軍は、アメリカが供与した大型のりゅう弾砲のほか、火力の強い多連装ロケット砲を使用し、ドネツクでは4日から5日にかけて、640発以上が着弾したとしています。
こうした中、ロシアのラブロフ外相は4日、テレビのインタビューで「現在の国際的なエネルギー価格の水準を考慮すると、われわれが予算上の損失を被ることはない。逆にことしは、エネルギー資源の輸出による利益が大幅に増えそうだ」と述べました。
ラブロフ外相としては、経済制裁がロシアに与える財政上の損失は、限定的なものにとどまるという見通しを示すことで、対抗姿勢を強調するねらいがあるとみられます。
●ウクライナ情勢受け、日用食料品の価格が上昇 英国、ロシア、ウクライナ 6/5
英国国家統計局(ONS)は5月30日、2021年4月から2022年4月までの食料品価格の分析を公表した。ONSは、英国の大手スーパーマーケット7社のオンラインサイトで販売されている30品目の日用食料品・飲料を対象に、各商品の最安値の相場を収集し分析。英国では消費者物価指数(CPI)が記録的な上昇をみせているが、今回の分析では30品目中13品目の平均最低価格の上昇率が、4月の食品・非アルコール飲料のインフレ率(前年同月比6.7%)を上回ったとしている。一方で、食品ごとにばらつきもみられ、1年間で15%以上の値上がりした食料品もあれば、値下がりした食料品もあったとしている。
商品別にみると、パスタは2022年4月に前年同月比50%増(500グラム当たり17ペンス増)(約27円、1ポンド=100ペンス、1ポンド=約160円)、ポテトチップスは17%増(150グラム当たり12ペンス増)、パンは16%増(800グラム当たり7ペンス増)、牛ミンチは16%増(500グラム当たり32ペンス増)、コメは15%増(1キロ当たり12ペンス増)となった。一方、ジャガイモは14%減(2.5キロ当たり12ペンス減)、チーズは7%減(255グラム当たり7ペンス減)となった。また、2022年3月から4月にかけて大きく値上がりした製品としては、シリアル(6%)、冷凍ミックスベジタブル、植物油(ともに5%)が挙げられる。国連食糧農業機関(FAO)の4月8日の発表によると、ヒマワリ種子油の世界最大の輸出国であるウクライナがロシアによる侵攻を受けた影響で、植物油価格指数が23.2%上昇した。同国はトウモロコシや小麦などの穀物の主要産地でもあり、これらも価格が高騰している。4月23日付「スカイニュース」によれば、英国で消費される植物油も多くがウクライナ産で、侵攻以降、植物油の価格高騰が指摘されている。
英国スーパーマーケットチェーンのアズダは5月30日に、低価格帯商品の新ブランド「Just Essentials by Asda」の発売を開始することを発表。アズダのサム・ディクソン副社長は新ブランドについて、顧客の10人中9人が生活費の危機を懸念している状況を踏まえ、従来の商品と同じ価値で多様な商品を提供するために開発した、と述べている。英国スーパーマーケットチェーンのセインズベリーズは5月30日、生活必需品などの主要商品に焦点を当て、価格を抑えるために2021年度から2023年3月までに総額5億ポンドを投じると発表している。
●ウクライナ勝利に「希望」託す ベラルーシの人権改善で―記者協会会長 6/5
ベラルーシ記者協会(BAJ)のアンドレイ・バストゥネツ会長が、4日までにパリで時事通信のインタビューに応じた。ベラルーシではルカシェンコ大統領による反政権派弾圧が続いているとして、人権の改善が困難な状況だと指摘。「人権状況の改善には国の政治体制を抜本的に変える必要がある」と述べつつも、「後ろ盾であるロシア(との戦争)にウクライナが勝てば、改善するかもしれない」と希望を託した。
バストゥネツ氏は「ベラルーシで記者として働くのは大きな危険を伴い、非常に難しい」と強調。自身も弾圧を恐れ、リトアニアに拠点を移したという。「最近はベラルーシの内政に関する報道が少なくなってきた」と語り、「国際社会には、国内のほとんどの人々が現政権に反対していることを忘れず、(ベラルーシのことを)語り続けてほしい」と訴えた。
国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団(RSF)」によれば、ベラルーシでは現在、報道関係者28人が身柄を拘束されている。RSFが5月に公表した「報道の自由度」では、同国は世界180カ国・地域中で158位だった。
BAJは独立系メディアに携わる1300人以上の会員で構成。昨年8月にベラルーシ当局が解散を命じたが、今も活動を続けている。国連教育科学文化機関(ユネスコ)は今年4月、報道の自由の擁護と促進に貢献した個人や団体に与えられる「ギレルモ・カノ賞」をBAJに授与した。同賞は昨年、ノーベル平和賞を受賞したフィリピンの記者マリア・レッサ氏に贈られた。
●空襲警報が鳴り響くウクライナ首都キーウ 朝、夜だけでなく日中も 6/5
「ウーウー」。ロシアによる軍事侵攻が100日以上を経過した今でも、ウクライナの首都キーウでは空襲警報が鳴り響く。早朝や夜間だけでなく、日中でもサイレンのような音が市内に突然流れ始める。一度流れると数分間続く。ロシアのミサイル攻撃があったとされる5日早朝も、警報が鳴った。
市民は一見、落ちついた様子で、慌てることもなく、生活を続けている。地下鉄は営業し、市内中心部の世界遺産の教会では週末の人出でにぎわっている。
しかし、キーウ近郊で年配の両親と生活する女性は「ロシアからのミサイルが自宅に直撃するのではないかと思い、非常に怖い。しかし、両親を置いて国外に避難することはできない」とおびえながらの市民生活を続けている。
●プーチン氏、攻撃拡大警告 武器供与で米欧けん制  6/5
ロシアのプーチン大統領は5日放映された国営テレビのインタビューで、ウクライナに長距離砲撃が可能な武器を供与すれば「これまで標的としていなかった対象を攻撃する」と述べ、米欧をけん制した。ロシア主要メディアが伝えた。
プーチン氏は、ウクライナへの武器供与を「一連の騒ぎ」と表現。「私の見解では(供与の)目的は一つ、できるだけ長く軍事衝突を長引かせることだ」と述べ、米欧が意図的に戦闘を長引かせていると主張した。
米国が追加軍事支援として5月末に供与を表明した高機動ロケット砲システム「ハイマース」について「(技術的に)新しいものは何もない」と指摘した。
●プーチン氏、米欧の長距離砲供与に警告 6/5
ロシアのプーチン大統領は5日放映された国営テレビのインタビューで、ウクライナに長距離砲撃が可能な武器を供与すれば「これまで標的としていなかった対象を攻撃する」と述べ、米欧をけん制した。

 

●ロシア軍 キーウをミサイル攻撃 プーチン大統領 欧米をけん制  6/6
ロシア軍は5日、ウクライナの首都キーウをミサイルで攻撃しました。一方、東部ではウクライナ側の激しい抵抗が続き、ロシアのプーチン大統領は「もしウクライナに射程の長いミサイルが供与されれば、われわれは攻撃する」と述べ、軍事支援を強める欧米をけん制しました。
ウクライナの首都キーウで5日、ミサイルによる攻撃があり、ウクライナ軍は、カスピ海上空を飛行していたロシア軍の爆撃機が5発の巡航ミサイルを発射したことを明らかにしました。
このうち1発はウクライナ軍によって迎撃されましたが、地元メディアによりますと、残りの4発が鉄道車両の修理工場に着弾し、作業員1人がけがをしたということです。
一方、東部では、攻勢を強めるロシア軍に対し、ウクライナ側の抵抗が続き、内務省が管轄する準軍事組織「国家親衛隊」は5日、ロシア側の戦車や装甲車を次々と破壊する動画をSNSで公開しました。
ウクライナ軍の参謀本部は、2月に侵攻が始まってから6月5日までに戦死したロシア側の兵士が3万1150人に上ると主張しています。
またイギリス国防省は最新の戦況分析で、ロシア軍は東部ルハンシク州での戦闘に、装備や訓練が貧弱な親ロシア派の予備役の兵士を動員しているとした上で「ロシア軍の勢いは鈍い」と指摘しました。
抵抗の原動力となっているのが、欧米各国が供与する最新鋭の兵器で、プーチン政権は、アメリカが新たに供与を決めた高機動ロケット砲システム=ハイマースなどに警戒を強めているとみられます。
こうした兵器をめぐってプーチン大統領は、5日に放送された国営テレビのインタビューで、射程距離が短く脅威にはなっていないという認識を示しました。
しかし「もしウクライナに射程の長いミサイルが供与されればわれわれは、新たな標的を攻撃するだろう。破壊するための手段は十分にある」と述べ、ウクライナへの軍事支援を強める欧米をけん制しました。 
●ウクライナ戦争「どちらが勝利に近いか」を言えない理由 6/6
ウクライナ戦争が始まって既に100日余り。戦争がどこへ向かっているかは、混迷を深めるばかりだ。
2月24日にロシア軍が侵攻を開始した当初は、数日もしくは数週間以内にウクライナの首都キーウ(キエフ)が陥落するという見方が一般的だった。この時点で6月になってもまだ戦闘が続き、ウクライナのゼレンスキー大統領が政権にとどまっていると予想した人はいなかった。
軍事アナリストたちの分析により、現時点でどちらの部隊がどの地域を押さえているかという詳細な戦況は明らかになっている。
しかし、アナリストたちも認めているように、戦争の全体像は不透明だ。どちらが勝利に近づいているともはっきり言えない。
その1つの要因は、双方にとっての「勝利」と「敗北」の定義が明確でないことだ。
ゼレンスキーは2月24日より前の境界線が回復されれば、ロシアのプーチン大統領との交渉に応じる用意があると述べている。
ここで言う2月24日より前の境界線の回復とは、ウクライナ領からロシア軍が全て撤退することを意味するのか。その中には、東部のドンバス地方全域も含まれるのか。開戦前に親ロシア派武装勢力が支配していた地域にロシア軍部隊がとどまることは受け入れるのか。また、クリミア半島の扱いはどうなるのか。
一方、プーチンとその周辺は、ゼレンスキー政権を欧米の帝国主義者に操られたネオナチ勢力と非難し、ウクライナが主権国家として存続することに異を唱えている。
この姿勢を崩さなければ、プーチンにとってゼレンスキーとの交渉などあり得ない。
プーチンが考える「勝利」とは、ドンバス地方を占領するだけでなく、実質的にウクライナという国を消滅させることを意味するのだ。
いずれにせよ、双方とも差し当たりは戦闘をやめたいと考える理由がない。ロシアもウクライナも、遠くない将来に決定的勝利を収められるかもしれないと期待している可能性があるからだ。
最近、ロシア軍はウクライナ軍の陣地に対してロケット砲による攻撃を強化している。ウクライナ軍のロケット砲はこれより射程が短く、有効な反撃ができていない。
バイデン米大統領は、ロシア軍のものに匹敵する射程を持つロケット砲をウクライナ軍に提供することを表明した。これにより、戦況が大きく変わる可能性がある。
ただし、アメリカからの兵器が到着し、ウクライナ軍がそれを用いるために必要な訓練を終えるまでには、まだしばらく時間がかかる。その間に、ロシア軍の砲撃がウクライナ軍にどの程度の打撃を与えるかが焦点になる。
ロシア側にも不安材料はある。戦争を継続するために不可欠な資源が底を突き始めているのだ。
兵士の数も足りなくなりつつあるし、武器も十分でない(この戦いに投入した戦車の4分の1が既に使用不能になったという)。そして何より士気の低下が深刻だ。
こうした問題点は、プーチン自身よく理解している。最近、軍幹部を少なくとも5人以上解任したことはその表れだ。
しかし、欧米諸国が戦争による経済的打撃に対して我慢の限界に達しつつあることも、プーチンは承知している。
以上の事情を考えると戦争は当分続きそうだ。この戦争がどこに向かっていて、どちらが勝つのかもまだ見えてきそうにない。
●ロシアVSウクライナ戦争拡大を未然に防いだEUの英断 6/6
EU理事会が3日、ロシアに対する第6次制裁パッケージを決定したが、そこでちょっとした異変が起きた。
当初、制裁リストに加わっていたロシア正教会の最高指導者キリル総主教が最終段階になって、制裁リストから外されたのである。
フランスの通信社がこう報じている。最近のフランス発のウクライナ戦争やロシア情勢に関する報道は、米英発、日本発のものと異なる切り口や内容のものがあるので要注目だ。
<欧州連合は2日、ウクライナに侵攻したロシアに科す追加制裁について、ハンガリーの反対を受け、ロシア正教会の最高指導者キリル総主教を対象から外すことで合意した。外交筋が明らかにした。/EUの追加制裁をめぐっては先月30日、パイプライン経由で輸送されるロシア産原油を禁輸対象から除外するよう求めたハンガリーのオルバン・ビクトル首相の要求を各国首脳が受け入れたことで、合意にこぎつけたとみられていた。だがオルバン氏がさらに、キリル総主教も制裁対象から外すよう主張したことで、各国は再びハンガリーの要求をのまざるを得なくなった。>(3日、AFP=時事)
欧米や日本では、キリル総主教がプーチン大統領と親しく、ウクライナを侵攻するロシア軍部隊を祝福したことに対する反発が強まっている。しかし、これは正教会の政治的体質についての無理解からくるものだ。
そもそもこれは歴史的に西ローマ帝国の伝統を継承するカトリック教会(プロテスタント教会は歴史的に見ればカトリック教会の分派)と正教会の違いからくる。カトリック教会の理解では、宗教的権力と権威は教会が持ち、その最高責任者がローマ教皇である。すなわち教会の権力と世俗の権力は分離されている。対して、東ローマ帝国(ビザンティン帝国)の伝統を継承する正教会(ギリシア正教会、ロシア正教会、ウクライナ正教会、ルーマニア正教会など)では、カエサル・パピズム(教皇皇帝主義)といって、宗教と国家は緊密な協力関係にある。
各国正教会の最高指導者が戦争に際して自国を支持するのは正教会では普通の現象だ。ウクライナの正教会は分裂しているが、いずれの教会もゼレンスキー大統領を支持している。
オルバン氏は、EUの制裁対象をキリル総主教まで広げるとロシアの国民感情を刺激し、この戦争が宗教政策の性格を帯びることを懸念したのだ。筆者はオルバン氏の奮闘に敬意を表する。
●ロシアのウクライナ侵攻はプーチンによる「歴史戦」の末路 6/6
5月9日は、ロシアにとってもっとも大切な記念日です。1945年のこの日、ソ連軍と連合軍がベルリンを陥落させてドイツが無条件降伏し、ヨーロッパでの戦争は終わったのです。
プーチン大統領はこの戦勝記念日で、「われわれの責務は、ナチズムを倒し、世界規模の戦争の恐怖が繰り返されないよう、油断せず、あらゆる努力をするよう言い残した人たちの記憶を、大切にすることだ」と述べたうえで、2月から始まったウクライナへの侵攻を「侵略に備えた先制的な対応」だと正当化しました。
いうまでもなく、ウクライナにはロシアを侵略する意図もその能力もなく、これを「自衛」だとするのは詭弁以外のなにものでもありません。しかし、ロシア国民の多く(独立系調査機関の世論調査によれば7割以上)がプーチンを支持している以上、これをたんなるフェイクニュースと切り捨てることもできません。
プーチンの演説に一貫しているのは、異様なまでの被害者意識です。そしてこれは、多かれ少なかれロシアのひとびとにも共有されています。
1991年にソ連が崩壊してバルト三国やウクライナなどが独立、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーなどの衛星国は民主化を達成してソ連の影響から離脱しました。これを受けてEUとNATOは東へと拡大し、いまではベラルーシを除くすべての国が「ヨーロッパ」の一員になることを希望しています。これはすなわち、ロシアが「ヨーロッパ」から排除されるということでもあります。
それと同時に、バルト三国や中・東欧の国々で「歴史の見直し」が始まり、ソ連によってナチズムからの解放されたのはなく、ナチズムとスターリニズムの「2つのファシズム」に支配されたのだと主張するようになりました。“リベラルの守護神”であるEUも新加盟国と歩調を合わせ、ヒトラーとともにスターリンによる虐殺や粛清などの暴虐行為を非難するようになります。
しかしこれは、ロシアにとってとうてい受け入れることのできない「歴史観」でした。独ソ戦はヒトラーが不可侵条約を破って一方的に侵略を開始したもので、この「絶滅戦争」によってソ連は1億9000万の人口のうち戦闘員・民間人含め2700万人が犠牲になりました。そして、この「大祖国戦争」を勝利に導いたのはスターリンなのです。
このようにして2000年前後から、ヨーロッパとロシアのあいだで「記憶をめぐる戦争」が始まり、ウクライナもこれに加わります。そこでは中・東欧諸国とロシアの双方が、自分たちこそが「犠牲者」だと主張しあうことになります。
このような経緯を紹介したのは、ロシアにもなんらかの理があるというDD(どっちもどっち)論をするためではありません。軍事的にはまったく安全を脅かされていないロシアがなぜ無謀な侵略行為を始めたのかを理解するには、これが「アイデンティティの戦争」だと考えるほかないのです。
日本でも保守派のメディアなどが、東アジアでの過去をめぐって「歴史戦」を煽ってきました。わたしたちはその「末路」がどうなったのか、いちど冷静に考えてみるべきかもしれません。
●ウクライナ東部セベロドネツク 地元の知事「5割まで奪還」 6/6
ウクライナでは5日、ロシア軍が首都キーウをミサイルで攻撃し、鉄道車両の修理工場が被害を受けました。一方、東部ルハンシク州のセベロドネツクでは、ウクライナ軍が市の5割まで奪還したことを地元の知事が明らかにするなどウクライナ側の激しい抵抗が続いています。
ウクライナ軍などによりますと5日、ロシア軍の爆撃機が首都キーウに5発の巡航ミサイルを発射し、このうち4発が鉄道車両の修理工場に着弾し作業員1人がけがをしたということです。
ウクライナ当局は、ミサイルが着弾した場所だとする現場を5日報道陣に公開し、映像には、建物の外壁や屋根が大きく壊れ、一部がまだ燃え続けていたり、がれきが散乱していたりする様子が写されています。
一方、東部ルハンシク州でウクライナ側の主要拠点とされるセベロドネツクでは、完全掌握を目指すロシア軍と反撃するウクライナ軍との間で激しい攻防が続いています。
こうした中、ルハンシク州のガイダイ知事は5日に「ロシア軍はセベロドネツクを70%支配していたが、この2日間で彼らは撃退され、ウクライナ軍は市の半分まで取り戻した」とSNSに投稿し、ウクライナ軍がロシア軍を押し返し、市の5割まで奪還したことを明らかにしました。
イギリス国防省は最新の戦況分析で、ロシア軍は東部ルハンシク州での戦闘に、装備や訓練が貧弱な親ロシア派の予備役の兵士を動員しているとしたうえで「ロシア軍の勢いは鈍い」と指摘しました。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領はセベロドネツクに隣接する都市などを訪問したことを6日、明らかにしました。
ゼレンスキー大統領は、軍の司令官と話したり、兵士と一緒に写真を撮ったりする動画をSNSに投稿したうえで、ビデオ演説で「出会ったすべての人を誇りに思う」と述べ兵士らを激励しました。
ウクライナ軍の抵抗の原動力となっているのが、欧米各国が供与する最新鋭の兵器です。
これに対して、プーチン大統領は、5日に放送された国営テレビのインタビューで、射程が短く脅威にはなっていないという認識を示しました。
一方で「もしウクライナに射程の長いミサイルが供与されればわれわれは、新たな標的を攻撃するだろう。破壊するための手段は十分にある」と述べ、ウクライナへの軍事支援を強める欧米をけん制しました。
●ウクライナの修道院が炎上 ロシア軍の砲撃で 6/6
ウクライナのゼレンスキー大統領が4日、東部ドネツク州にあるスビャトヒルスク修道院の敷地内の木造建築物がロシア軍の砲撃で炎上したと明らかにした。ロシアを「野蛮なテロ国家」と断じ、国連教育科学文化機関(ユネスコ)からの追放を求めた。また、ロシア軍との戦闘が続く東部ルガンスク州とドネツク州を訪れ、前線のウクライナ軍部隊を視察した。
「ロシアは野蛮なテロ国家」
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、通信アプリ「テレグラム」で、ウクライナ東部ドネツク州にあるスビャトヒルスク修道院の敷地内の木造建築物がロシア軍の砲撃で炎上したと明らかにした。ゼレンスキー氏はロシアを「野蛮なテロ国家」と断じ、国連教育科学文化機関(ユネスコ)からの追放を求めた。修道院の敷地内には子供60人を含む市民300人が避難していたとしているが、死傷者などの詳細は不明。
東部の前線部隊を視察
ウクライナ政府は6日、ゼレンスキー大統領がロシア軍との戦闘が続く東部ルガンスク州とドネツク州を訪れ、前線のウクライナ軍部隊を視察したと明らかにした。2州の訪問に先立ち、南東部ザポロジエ州も訪れた。5月下旬の北東部ハリコフ州訪問に続く前線視察で、兵士らを鼓舞する狙いがあるとみられる。
●非武装中立のバルト海諸島、ウクライナ情勢に戦々恐々 6/6
戦闘が続くウクライナは、海と陸を隔てた2000キロ以上の彼方に存在する。だが、フィンランド南岸のオーランド諸島に住む人々は、ロシアによるウクライナ侵攻が自分たちの暮らしを永久に変えてしまいかねないと危惧している。
ロシアのウクライナ侵攻は数十年続いた欧州の安全保障政策を覆したが、ロシアと長い陸の国境を接するフィンランドほど状況が一変した国はほかにない。同国は今年5月、ロシアに報復措置を警告されながらも北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請した。
フィンランドのNATO加盟が、同国の自治領であるオーランドにとって何を意味するかは、まだはっきりしない。しかし、スウェーデン語を話すこの地の住民らは、大切にしてきた自治権が脅かされかねないと心配している。国際協定によって自治権を与えられ、非武装の中立地帯となってから、オーランドは昨年で100周年を迎えた。
ところが、バルト海一帯とロシアとの緊張が急激に高まる中、フィンランドとスウェーデンに挟まれた戦略上の要衝に位置するオーランド諸島を非武装のままにしておくことに、フィンランド国民の一部は疑問を呈し、特別な地位は過去の遺物だと訴え始めている。
フィンランド国際問題研究所の防衛政策研究員、チャーリー・サロニウスパステルナク氏はスウェーデンのテレビで「1国に対して特定の地域を守る責任を求めながら、その地域の防衛に向けて本格的に準備することを許さないというのは、つじつまが合わない」と語った。
オーランド自治政府のベロニカ・ソーンルース首長は、中立の地位を破棄すべきだとの意見には同意できないと言う。NATO加盟による影響を受けないとの言質をフィンランド政府から得ていると指摘し「これがフィンランドの大統領および政府の示した認識であり、われわれオーランド住民はそれ以外の見解を有していない」と語った。
自治権か安全保障か
オーランド諸島は戦略的に重要な場所にあるため、長年にわたって周辺諸国が所有権争いを繰り広げてきた。最初にオーランドに中立的地位を与える協定が締結されたのは、クリミア戦争後の1856年だ。
オーランドの住民約3万人は、伝統的な中立的地位に今でも誇りを抱いている。大半の住民は、森の中に赤い木造住宅が並ぶ最大の島に住み、主に海運業に携わっている。
島民は、フィンランドもしくはNATOの軍が来て自治権が弱まる可能性を懸念する一方で、ロシアに侵攻された場合に自衛できるかどうかという心配も抱いている。
漁師にして猟師、ビジネスマンでもあるヨハン・モーンさんは、少年のころから周辺の海で船に乗り、オーランド諸島のことなら知り尽くしている。
「水先人だった祖父は、第2次世界大戦中に機雷が仕掛けられた際、この海で航行を助けていた。フィンランドがソ連に攻撃された時には、スウェーデンから物資を届けた。今のわれわれの技術も使えるかもしれない」。モーンさんは、全長10メートルある自身のモーターボートに乗りながらこう語った。
モーンさんはロシアの船や怪しい行動を見張るため、地元の有志によるネットワークを作りたい考えだ。一方で、オーランドの非武装維持を全面的に支持しており、フィンランド軍がオーランドを守ってくれるとも信じている。
「われわれも世間知らずではない。今のロシアのやり方を見ていると、ウクライナを奪い、さらに他の国も狙っているのは明らかだ。仮に最悪の事態になっても、われわれはこの地域を知り尽くしており、武器の扱いにも慣れている」と語った。
●ウクライナ情勢 松野官房長官「長期化の原因はプーチン大統領の意思」 6/6
ロシアのウクライナ侵攻から100日を越える中、松野官房長官は事態の長期化のおそれについて、原因はロシアのプーチン大統領にあるとの認識を示しました。
松野博一官房長官「侵略の長期化のおそれがあるとすれば、その原因はプーチン大統領の意思にあると認識をしています」
松野官房長官はプーチン大統領について、「『最初に設定された目的が完遂されるまで、軍事作戦を継続する』と述べている」とした上で、このように指摘しました。また、ロシアの侵攻を停止させ、対話への道筋を作るためには、「国際社会が結束し、強力な制裁措置を講じつつ、ウクライナを支援していくこと」が必要だと強調しました。
●プーチン氏、西側の長距離兵器供与について警告 6/6
アメリカをはじめ西側諸国がウクライナに高性能の長距離兵器を供与する方針を示していることについて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は5日、西側がそのようなことをすれば、ロシア軍がウクライナ国内で攻撃する対象を増やすと警告した。こうした中で英政府は6日、長距離兵器の提供を発表した。他方、5日朝にはウクライナの首都キーウの施設がロシア軍の砲撃を受けた一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は東部の前線を視察した。
プーチン大統領はロシア国営テレビの取材に対して、「全般的に、武器の追加供与をめぐってやたらと騒いでいるのは、私が思うに、目標はただ一つで、武力紛争をできるだけ長引かせるためだ」と述べた。
アメリカがウクライナに提供している内容に「目新しいものはない」としつつ、射程距離がこれまでより長いミサイル砲については「もし供与するなら、我々はしかるべき結論を下し、潤沢に保有する自分たちの武器を使い、これまで攻撃していなかった標的を攻撃する」と、プーチン氏は述べた。
一方、ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は西側諸国に、武器の供与を続けるよう呼びかけた。国防次官は地元メディアに対し、「すでに長期戦に突入しており、支援が絶えず必要だ。西側は、一時的な支援では済まない、私たちが勝つまで続くものだと、理解する必要がある」と述べた。
イギリスも長距離ミサイル供与へ
イギリスのベン・ウォレス国防相は6日、長距離多連装ミサイルシステム「M270」をウクライナに提供すると発表した。アメリカと連携しての供与だという。
英政府は提供するM270の数を明らかにしていないが、BBCの取材では当初は3基を提供するもよう。
ウォレス国防相は、ウクライナが「一方的な侵略から国を守るために不可欠な武器」の提供にあたって、イギリスは先頭に立つと表明。「ロシアの戦術が変化するのに合わせて、我々がウクライナを支援する形も変わらなくてはならない」と述べた。
「きわめて高性能な多連装ロケットシステムによって、ウクライナの友人たちは、長距離砲の残酷な攻撃から自分たちをより効果的に守れるようになる。プーチンの軍勢はこれまで、長距離砲を無差別に使い、市街地を廃墟にしてきた」と、国防相は述べた。
アメリカは今月1日、ウクライナに新たに7億ドル(約900億円)の軍事支援を行うと発表し、M142高機動ロケット砲システム(HIMARS)4基が含まれると説明している。HIMARSは70キロ先にある目標に複数の精密誘導ミサイルを発射することができる。この射程距離は、ウクライナ軍が現在保持している大砲よりもはるかに長い。また、ロシア側の同等の兵器よりも精度が高いと考えられている。
アメリカの支援パッケージには、ほかにヘリコプターや対戦車兵器、戦術車両や部品などが含まれる。
ドイツも最新式の短距離空対空ミサイル「アイリスT」を供与すると約束している。これがあるとウクライナは、ひとつの都市全体をロシアの空爆から守ることができるようになる。.
首都キーウをまた攻撃
しばらくロシアの攻撃が途絶えていた首都キーウでは5日早朝、複数の爆発音が響き、南西部ダルニツキー地区から黒煙が立ち上った。少なくとも1人が負傷した。
ロシアは、欧州が提供した戦車の格納庫を攻撃したのだと主張している。これに対してウクライナ側は、被弾したのは電車の車両修理工場で、そこに戦車はなかったと反論している。
ロシア軍は4月以降、兵力をウクライナ東部と南部に集中させ、5月下旬に南東部の要衝マリウポリを完全制圧して以降は、東部ドンバスを集中的に攻撃している。
こうした中でキーウではこのところ、街に人が戻り、バーやカフェが再開するなど、開戦前にあるていど近い状態が戻っていた。
久々のキーウ攻撃について、ウクライナの政治家の1人は、東部ドンバスでの攻勢停滞にいらだつロシアの八つ当たりだろうと話した。
東部でロシア軍の将軍死亡
ロシア国営テレビによると、東部の自称「ドネツク人民共和国」の武装勢力を指揮していた、ロシア軍空挺団のロマン・クツゾフ少将が戦闘で死亡した。
親ロシア勢力によると、クツゾフ少将は5日、東部主要都市セヴェロドネツクに近いポパスナ地区のミコライウカ村で死亡した。
ウクライナ軍は、この地域で当日、激しい防戦を展開し、ロシア軍に相当の損害を与えたとしている。
ロシア国営テレビによると、ロシア軍の将軍がウクライナで死亡するのはクツゾフ少将で4人目。これに対してウクライナ側は、ロシアによる軍事侵攻開始以来、ロシア軍の将軍12人を戦死させたと発表している。
セヴェロドネツクで市街戦
ウクライナで現在、最も激しい戦闘が続く東部セヴェロドネツクについて、現地ルハンスク州のセルヒィ・ハイダイ州知事はBBCに対して、市内で市街戦が続いているものの、ウクライナ軍による奪還はまだ可能だと話した。
ハイダイ氏によると、ウクライナ軍はロシア軍を押し戻しつつあり、現在は市内の約5割をウクライナ軍が抑えているという。
「ウクライナへ弾薬の安定供給が続けば、自分たちは(セヴェロドネツクを)掌握し続けられないと、ロシア側は承知している」と、知事は話した。
民間人については、約1万5000人が市内に残っているものの、市外への避難は「今のところ不可能だ」と、ハイダイ氏は述べた。
ロシアがセヴェロドネツクを制圧すれば、ルハンスク州全域がロシア軍と、ロシアが後押しする分離派勢力の支配下に入る。ロシアと新ロ勢力はすでに、隣のドネツク州の大半を掌握している。
セヴェロドネツクには窒素肥料を作る巨大なアゾト化学工場があり、シヴェルスキー・ドネツ川を挟んだリシチャンスクには、ウクライナ2番目の規模の製油所がある。そのためこの2都市の掌握はロシアにとってきわめて重要な戦略目標となっている。
この両都市についてハイダイ知事は、「丘の上にあるリシチャンスクの方が重要だ。軍にとって守りやすいし攻撃しやすい」との見方を示した。
ゼレンスキー氏は東部の前線へ
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5日、東部や南部の前線を視察し、その一環でリシチャンスクやザポリッジャを訪れたと発表した。大統領は動画を通じて、「私は現地で会った全員、握手した全員、話をして支援すると伝えた全員のことを誇りに思う」と述べた。
●プーチンの3つの誤算…最大の誤算はゼレンスキー「ウクライナのチャーチル」 6/6
プーチン大統領が犯した3つの誤算
ゼレンスキーはやはりチャーチルだった。
ウクライナ侵攻をめぐってロシアのプーチン大統領は次の3つの誤算を犯したとよく言われる。
(1)ウクライナ軍がこんなに強いとは知らなかったこと。
(2)ロシア軍がこんなに弱いとは知らなかったこと。
(3)ウクライナにウインストン・チャーチルが居るとは知らなかったこと。
中でも第二次世界大戦でドイツ空軍の猛爆撃の中、国民を鼓舞し勝利に導いたウインストン・チャーチル元英首相のように、ゼレンスキー大統領が首都キーウに留まり褐色のTシャツ姿で連日SNSで国民を鼓舞してウクライナの抵抗を導いたことは、プーチン大統領の最大の誤算だったかもしれない。
ロシアだけでなくアメリカも同じ誤算
ところが、その誤算はロシアだけでなく米国も犯していたことが最近になって分かってきた。
ロシアの軍事侵攻が開始される数週間前、米国議会の非公式会議で情報当局に対し次のような質問があったという。
「ウォロディミル・ゼレンスキーは英国のウインストン・チャーチル型なのか、アフガニスタンのアシュラフ・ガニ型なのか?」
つまりゼレンスキー大統領は歴史的抵抗を指揮できるのか、或いは(ガニ前大統領のように)逃避して政権を崩壊させるのかと議員たちは訊ねたのだ。
これに対して当局者は、ゼレンスキー大統領を過小評価する一方で、ロシア軍とプーチン大統領を過大評価する説明をしたとされる。
ロシアの軍事侵攻が始まると、米国は首都キーウの陥落も間近と見てゼレンスキー大統領に国外に逃避して亡命政権を樹立するよう勧めたが大統領は一言で拒絶した。
「今必要なのは逃亡用の車じゃない。武器をくれ」
大統領は軍事侵攻2日目の2月25日の夜、キーウの大統領官邸前に出て政権幹部と共に携帯の自撮りで国民に対するメッセージを撮ってSNSで公開した。
「みんなここに居ます。私たちの兵士たちもここに居ます。この国の市民もここに居ます。私たちはここに居て、私たちの独立と祖国を守っています。これからも続けます。祖国を防衛するものたちに栄光あれ。ウクライナに栄光あれ」
その100日後ゼレンスキー大統領は同じ場所で、しかし日中に再び同じ幹部と一緒に自撮りでメッセージを撮った。
「私たちはすでに100日間ウクライナを護ってきました。私たちは勝利します。ウクライナに栄光あれ。英雄たちに栄光あれ」
第二次世界大戦の最中チャーチルは、ドイツ軍の爆撃の様子を首相官邸の屋上から眺めたりロンドン市内の防空壕を訪れて市民を激励したことを想起させるものだ。
「戦前に状況をもっと把握していれば、ウクライナに十分な支援ができたのではないか」
先月開かれた米上院軍事委員会でアンガス・キング議員(メイン州選出)はこう述べ、初期の想定の誤りを質した。
米国の情報当局はこうした批判を受けて、外国政府の戦闘意欲と能力を判断する方法の見直しをはじめたと5日のAP電は伝えた。
ウクライナ紛争の今後と、米国の支援のあり方もこの見直しの結果に左右されることになるとされるが、「ウクライナのチャーチル」のためなら米国も支援を惜しむことはないだろう。
●対ロシア最前線 スウェーデン世界遺産の島で何が? 6/6
バルト海に浮かぶスウェーデン最大の島、ゴットランド島。
中世の町並みが残り世界遺産にも登録されているこの島は、ロシアの飛び地カリーニングラードからわずか300キロに位置し、19世紀には帝政ロシアによって一時、占領された歴史もあります。
そして今、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、スウェーデンがNATOへの加盟申請を行う中、対ロシアの最前線となった島で何が起きているのか。現地を取材しました。
ゴットランド島って?
ゴットランド島は、スウェーデンの首都ストックホルムの南、バルト海に浮かぶスウェーデン最大の島です。人口およそ6万の島には交易で栄えた中世の美しい町並みが残り、1995年には中心都市のビスビーがユネスコの世界遺産に登録されました。宮崎駿監督のアニメ映画「魔女の宅急便」はこの島の景観を参考にしていて、日本からも多くの観光客が訪れます。取材で訪れた5月中旬は気候もよく、新型コロナの規制もないとあって、大勢の観光客が散策していました。
なぜゴットランド島が注目?
戦略的に重要な「要衝」だからです。ゴットランド島の南東およそ300キロにあるのが、ロシアの飛び地、カリーニングラード。第2次世界大戦後、ドイツから旧ソビエトに編入されたカリーニングラードは、ソビエト崩壊後、バルト3国が独立し、ロシア本土から切り離された「飛び地」となりました。ロシア軍はここをバルト艦隊の拠点とし、NATOに対抗する重要な戦略拠点としています。
1808年には当時の帝政ロシアに一時、占領された歴史もあるゴットランド島について専門家は次のように指摘します。
スウェーデン国際問題研究所グニラ・へロルフ氏「ゴットランド島はバルト海の真ん中にあり、ここを制する者が制空権をとるとも言われてきた。そのため、ゴットランド島を守ることがスウェーデンにとって必要不可欠なのだ」
島ではいま何が起こっている?
ゴットランド島では軍事的な警戒が強まっています。スウェーデン軍の傘下には地域を守るためのボランティアの市民兵がいますが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、急きょ追加で数週間の訓練を受けることが必要となりました。市民兵となっているのは、ふだんは会社勤めをしている人や子育て中の人など、普通の市民です。取材で演習場を訪れた時には、そうした普通の市民が銃を持って林の中を駆け抜け、腹ばいになって射撃を行うなど、実践的な訓練を繰り返し行っていました。大工として働いている38歳の男性は「ふだんの仕事にはもちろん影響は出るが、そんなことは問題ではない。ふるさとや家族、国のためならやりがいがある」と語りました。また、有事の際には衛生兵として活動するという34歳の女性は「何かあれば、上司の指示に従い落ち着いて行動するだけです」と話していました。
市民はどう思っている?
軍事面で緊張が高まる中、「ロシアは長年脅威だったので新たな事態ではない」などと比較的冷静な受け止めが聞かれる一方、有事に備えた動きも広がっています。ゴットランド島中部に住むウルリカ・ブローションさんは、災害などに備えて地下に備蓄していた缶詰や水を倍に増やしました。また、ボランティア組織にも登録し、有事の際に必要な情報を市民に提供したり食事を作ったりする役割を担うことにしました。銃を持って戦うことには抵抗がある一方、自分が島のためにできることはないかと考えた結果だといいます。
ウルリカ・ブローションさん「ゴットランド島は本土から離れていて、災害のときも支援が届くのに時間がかかることが多かったので、私たちはお互いに助け合うことに慣れています。みんなそれぞれのやり方で島を守ろうとしているのです」
ロシアの脅威に備えるスウェーデン
大国の戦争に巻き込まれないために、200年にわたって軍事的な中立を保ってきたスウェーデン。冷戦後は国防費を大幅に削減し、徴兵制も廃止していました。しかし、2014年、ロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合したことなど、スウェーデンを取り巻く環境が大きく変わったことを受けて国防費を増額、徴兵制も復活させたのです。男女関係なく、18歳になるとスウェーデンの若者たちは1年程度、軍事訓練を受けるようになりました。ゴットランド島の演習場にも、徴兵された若者たちの姿がありました。装甲車に乗って談笑しながら、手鏡をのぞき込み顔を緑色にペイントする様子はおしゃれを気にする若者らしく、あどけなさも残ります。ただ、話を聞いた20歳の若者は「ぼくはゴットランドで育った。大切な場所で、心のよりどころだ。何かが起こったら行動する準備はできている」と力強く話していました。
NATO加盟で島の役割はどうなる?
NATOにとって戦略的に重要な拠点になる可能性があります。ゴットランド島の部隊を率いるマグナス・フリクバル大佐は「ゴットランド島を制する国がバルト海全体の制空権や制海権を握ることから、ここはかつても、今も、戦略的に非常に重要であり続けてきた」と強調しました。その上で「プーチン大統領が政治的な目標の達成に向けて軍事力を使ったため、ゴットランド島の軍事力を予定よりも急ピッチで増強している」と話しました。有事の際に迅速に対処できるよう、スウェーデン軍が、陸軍だけでなく、海軍の展開を検討しているとし、そのためのインフラ整備も島の北部で計画していることを明らかにしました。
ロシアはスウェーデンの動きにどう反応?
軍事的な中立から大きく方針を転換したことに強く反発しています。スウェーデンがNATOに加盟して、ゴットランド島がNATOの軍事拠点になれば、バルト海周辺におけるロシア軍の行動が制限されることにもつながりかねないからです。プーチン政権は、最新鋭の地対空ミサイルシステム「S400」を配備するなど、NATOに対抗するための重要な戦略拠点であるカリーニングラードでの軍備増強を進めてきました。5月上旬、バルト艦隊の部隊が短距離弾道ミサイルの模擬発射訓練を行ったと明らかにしたほか、「スウェーデンとフィンランドがNATOに加盟すれば、当然ロシアは国境を強化しなければならない。地域の非核化はありえない」などと、核戦力をちらつかせて警告するなど、北欧2か国のNATO加盟への動きに反発を強めています。
ロシアと向き合ってきたゴットランド島
スウェーデンという国自体はロシアとは国境を接しておらず、隣国のフィンランドをいわば「緩衝地帯」としながら、およそ200年にわたって軍事的な中立、非同盟を貫いてきました。ただ、ゴットランド島の人々と話していると、ロシア、そしてソビエトといった大国と常に向き合ってきたという点で、1300キロにわたってロシアと国境を接し、常にその存在に脅かされてきたフィンランドの人々が持つ意識と似ていると感じました。島に住む退役軍人の男性は「わたしたちが恐れているというのは間違っている。ロシアの脅威に対処する準備ができている、それが正しい表現だ」と話していました。バルト海の最前線でロシアと向き合うゴットランド島。島の人々は1人1人、自分なりの覚悟を持って現状を受け止めていました。
●ウクライナは「攻撃ヘリの墓場」になるのか 6/6
ロシアによるウクライナ侵攻では、攻撃ヘリコプターが数多く撃墜されたことから、その終わりが示唆されているとの見方が浮上している。軍事専門家の間では、ヘリの能力そのものの問題なのか、ロシア軍による運用の不手際なのかをめぐり、論争が繰り広げられている。
ウクライナ軍には、兵士による持ち運びが可能な長・短距離の防衛用の対空ミサイルが西側諸国から多数供与され、同国領空は敵のヘリにとって危険極まりない状況になっている。
ロシア軍のヘリが撃墜される映像がソーシャルメディア上に多数投稿されており、被害の大きさを物語っている。軍事情報サイト「Oryx」によると、ロシア軍による2月24日の侵攻開始以降、ロシア軍は少なくとも42機のヘリを、ウクライナ側も7機をそれぞれ失った。
攻撃ヘリは、防御のために装甲が施されているほか、ミサイルや機関砲などで武装しており、戦場に展開する部隊や戦車を支援するよう設計されている。ところが、ウクライナ紛争では、脆弱(ぜいじゃく)性が露呈した。
攻撃機としてのヘリの将来に疑問を呈するのは、航空宇宙・防衛アナリストのサシュ・トゥサ(Sash Tusa)氏だ。
トゥサ氏は米航空専門誌「アビエーション・ウィーク(Aviation Week)」の論考で、「戦争の早い段階から双方の防空システムがヘリの作戦展開に対して明確な抑止効果を発揮した」とし、「戦力が似通った主体間の高強度紛争(本格的な武力攻撃を伴う交戦)の厳しい現実を突き付けられた形となり、西側諸国の攻撃型航空戦力に対する今後の投資にマイナスの影響を与えるだろう」との見方を示した。
ロシアの大失態
首都キーウ近郊ホストーメリ(Gostomel)の空港に対する開戦直後のヘリによる攻撃など、ロシア軍の作戦不備が多数の撃墜の要因だと指摘する専門家もいる。仏比較戦略研究所(ISC)のジョゼフ・アンロタン(Joseph Henrotin)研究員はこの作戦について、「ロシアの大失態」であり、ヘリの能力とは無関係で運用方法に問題があったと分析する。
アンロタン氏は「空挺(くうてい)作戦の前に対空防衛システムを排除して制空権を確保しておく必要がある」と強調する。
ウクライナ侵攻で驚きをもって受け止められたことの一つが、ロシアが初期段階で航空優勢を確保しなかった点である。これを実現するためには通常、ヘリではなく、固定翼機やミサイルが投入される。
米ブルッキングス研究所(Brookings Institution)のマイケル・オハンロン(Michael O'Hanlon)上級研究員も、「ヘリが時代遅れになったわけではなく、敵が警戒態勢にある予測可能な場所を攻撃するのは一般的に成功しない」と述べ、ロシア軍によるヘリの運用に問題があったとの見方に同意する。 
代償伴う教訓
フランス軍特殊部隊のヘリ分遣隊を率いたパトリック・ブレトゥス(Patrick Brethous)氏は、攻撃ヘリの終えんと考える前に、ロシア、ウクライナ両軍の運用方法を検証する必要があるとの主張に賛同する。
現在エアバス(Airbus)社のヘリコプター部門の軍事アドバイザーを務めるブレトゥス氏は「日中にロシア軍ヘリが高度約90メートルを飛行し、多くが撃墜されるのを目にしてきた」と述べ、「このようなヘリの運用は極めて危険だ」との認識を示した。ヘリは、夜間の作戦の方が効果的に運用でき、敵のミサイルを避けるために地上により近い高度で飛行すべきだという。
アンロタン氏はまた、今回の紛争は「ヘリは単独で運用するものではないという根本的な原則をロシアに再認識させる、代償を伴う教訓」になったとし、ヘリは他の種類の軍事力と組み合わせて運用されるべきだと強調した。軍事専門家はこれを「諸兵科連合」と呼ぶ。航空機や装甲車両、砲兵、歩兵部隊が連携し、相互補完的な役割を果たす戦闘教義だ。
さらに、無人攻撃機の活躍も論争に影響を与えている。前出のトゥサ氏は、多くの任務がより安価な無人機によって遂行可能になっており、攻撃兵器としてのヘリの将来はますます疑わしくなっているとの見方を示す。
一方、アンロタン氏は偵察など無人機はある程度の任務を遂行できるものの、攻撃ヘリの火力には及ばず、あくまでも補完的な役割しか担えないと主張する。
具体的には、ウクライナ軍が運用するトルコの無人攻撃機「バイラクタル(Bayraktar)」は4発のミサイルを搭載できる。これに対して、ロシアのヘリ「カモフ52型(Ka52)」は、12発のミサイルのほか、多数のロケット弾を搭載可能であり、「空飛ぶ砲艦」としての戦闘力は揺らいでいないと、アンロタン氏はみている。
●プーチン大統領が焦燥? ロシア軍内部で異変 総司令官更迭か 6/6
ウクライナ全土の20%を占拠したとされるロシア軍だが、内部で異変が生じているのか。4月上旬に就任したウクライナ侵攻を統括する総司令官の姿が確認できないとして、更迭説が浮上した。プーチン大統領はほかにも軍や国内治安担当部門の幹部らを相次いで解任している。ウクライナ軍の反撃が本格化するのを前に、「焦りの表れ」とみる向きもある。
更迭説が持ち上がったのはロシア軍のアレクサンドル・ドボルニコフ総司令官。5月31日の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、ドボルニコフ氏が2週間、姿をみせておらず、責任者の地位にあるのか憶測を呼んでいると報じた。
ドボルニコフ氏は2015年にロシアが介入したシリア内戦で指揮を執り、「シリアの虐殺者」と恐れられた。シリアでは多くの民間人が犠牲となり、化学兵器も使用された。
「ロシア連邦英雄」の称号を持つドボルニコフ氏は4月上旬にウクライナ侵攻の総司令官に就任。空軍と陸軍の連携を模索するなど、失敗続きだったロシア軍の戦局打開の役割を担っていた。報道が事実だとすると、わずか1カ月余りでの更迭となる。
筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「ドボルニコフ氏はミサイル攻撃で破壊活動を指揮した一方、連携すべき地上戦力側では略奪が起きるなど、統制の乱れも目立つ。後任に愛国主義教育を兼ねる軍政治総局長を務める人物の名前も浮上していることから、規律の立て直しを図る狙いがあるのだろう。ロシア側の焦りを感じる」と分析する。
ロシア軍幹部の去就をめぐっては、ウクライナ第2の都市ハリコフ攻略の失敗を理由に第1親衛戦車軍の中将が更迭されたほか、巡洋艦「モスクワ」が撃沈されたことで、黒海艦隊の副提督を停職処分にしたと英国防省が分析している。
一方、軍トップのゲラシモフ参謀総長のように一時、動向が不明となっていたが、その後、姿を見せた例もある。
ロシア国内でも幹部の解任が相次いでいる。露紙プラウダ(英語電子版)は、プーチン氏が先月30日、内務省の5人の将官と、1人の警察幹部を解任したと報じた。
中村氏はこれに関して、国内の統制に関連した動きとみる。「内務省は、マフィア集団や反社会勢力に近く、市民から賄賂を受け取るなど、腐敗や汚職が進んでいる組織として知られている。ロシア国内で反戦機運が高まる中で、引き締めを強めたものと思われる」
ウクライナでのロシア軍をめぐっては、強制動員された兵士らが「低い士気と劣悪な訓練をさらに悪化させている」と米シンクタンクの戦争研究所が分析している。
ウクライナ側は欧米が供与した兵器が前線に到着する今月中旬以降に反転攻勢に出る構えだ。
前出の中村氏は「ロシア軍は制圧地域で踏ん張る形になるが、士気が低下していることもあり、相当数の損害が出るのではないか」との見通しを示した。
●プーチンが国連脱退を決意?ロシアが辿るかつての日本と同じ道 6/6
国連常任理事国に日本を入れることを支持するとバイデン首相が発言して話題となりましたが、国連は「もはや機能不全に陥っている」との声も多く聞かれます。そこで今回は、メルマガ『石川ともひろの永田町早読み!』の著者で、小沢一郎氏の秘書を長く務めた元衆議院議員の石川知裕さんが国連について詳しく紹介。その上で、ロシアはかつての日本を同じ道を辿っているとし、今後の行動について予測しています。
機能不全の国連で、日本が果たす役割とは
国際連合(国連)の存在意義が問われている。
国連の前身である大戦前の国際連盟は、アメリカが議会の反対で加入しないまま、日本など主要国が相次いで脱退し、平和のための国際機関として機能せずに役割を終えた。
この反省を踏まえて結成されたのが国際連合だったことは、歴史の勉強で“いの一番”に習うことである。 しかし、その国連がウクライナ危機では全く機能していない。ロシアへの制裁でもNATO側とロシア側で真っ二つに割れたままで、国連の存在は見えない。
国連の最大の課題は、国連安全保障理事会(安保理)が機能不全に陥っていることだ。これまでの国際紛争解決の際は、米ロ中が調整しながら行ってきた。しかし、ウクライナ危機では、拒否権を持つ常任理事国にロシアがいることで国連として行動することが不可能となっている。
満州事変と今回のウクライナ侵攻が極めて似ていると、私は以前に指摘した。
実効支配する領土を増やし日本人を入植させ最終的には傀儡国家を作る。この過程は歴史をなぞっているようである。ここまで一緒だと、今後のロシアの動きは、当時の日本の動きをなぞると考えられる。
それは、国際連合からの脱退である。
国際連合の枠組みは、第2次世界大戦の戦勝国であるアメリカ、ロシア(ソ連)、フランス、英国、中国を安保理の常任理事国にし、拒否権を与えている。この枠組みが現在揺らいでいることは言うまでもない。
ロシアが新たに、自国のための国際秩序として中国と連携を強めていくことは十分に考えられる。中国は、米国との戦略的互恵関係を望んでいるものの、中国の人権問題や海洋派遣拡大に関して国連が足かせになるようならロシアとの連携をさらに強める可能性もある。
国連が分裂しないようにするためには、中国と米国との対話に際し、日本が積極的に橋渡しの役目を果たすことが重要だ。参院選が近づいている。各党の主張には違いがある。 これも大きな争点の一つだと思う。
●官房長官、キーウ攻撃を非難 「長期化の原因はプーチン氏に」 6/6
松野博一官房長官は6日の記者会見で、ロシアによるウクライナの首都キーウ(キエフ)への攻撃再開について「民間人や民生施設への攻撃は国際法に違反し断じて正当化できないものだ」と非難した。
松野氏は「プーチン大統領は以前から『最初に設定された目的が完遂されるまで、軍事作戦を継続する』旨を述べている。侵略の長期化の恐れがあるとすれば、その原因はプーチン氏の意思にある」と指摘。「ロシアに一刻も早く侵略をやめさせ、対話への道筋を作るために今必要なことは、国際社会が結束をして、強力な対露制裁措置を講じつつ、ロシアに侵略されているウクライナを支援していくことだ」と強調した。
●ウクライナ侵略、長期化の恐れの原因はプーチン大統領の意思=官房長官 6/6
松野博一官房長官は6日午後の記者会見で、ロシアによるウクライナ侵略の今後について言及し、仮に長期化の恐れがあるとすれば、その原因はプーチン大統領の意思にあるとの見解を示した。
会見では、ロシアによるキーウへのミサイル攻撃が再開されたことや、プーチン大統領が欧米諸国によるウクライナへの長距離ミサイル供与が実行された場合に攻撃していない対象を標的にすると発言したことに対する日本政府の見解について質問が出た。
松野官房長官は、キーウへのミサイル攻撃とプーチン大統領の発言について「承知している」と述べるとともに「民間人や民生施設への攻撃は国際法に違反し、断じて正当化できない」と指摘。続けて「以前からプーチン大統領は最初に設定された目的が完遂されるまで軍事作戦を継続する旨を述べている」としつつ、ロシアによるウクライナ侵略が長期化する可能性について予断を持って回答することは差し控えると述べた。
その上で「侵略の長期化の可能性があるとすれば、その原因はプーチン大統領の意思にある」と語った。
また、ロシアに侵略をやめさせて対話への道筋を作るため「国際社会が結束して強力な対ロ経済制裁を講じつつ、ロシアに侵略されているウクライナを支援していくことである」と説明した。 

 

●ロシア艦隊、沖へ後退 ウクライナ軍 6/7
ウクライナ軍は6日、黒海のロシア艦隊を「ウクライナ沿岸から100キロ以上沖へ後退させた」と発表した。通信アプリ「テレグラム」に投稿した。
ロシア軍による海上封鎖は、世界的な食料危機を引き起こしている。ただ、ウクライナ政府関係者は「ロシア軍による海上からのミサイル攻撃の脅威は残っている」と述べた。
●ウクライナでの戦争を歴史家が楽観視しない理由  6/7
正真正銘のファシスト
3月16日にロシア国民に向けてプーチンが行った演説を観た人は誰もが気づいて身震いした。私たちが今渡り合っているのは、不器用ではあっても計算高いソ連時代のゲーム理論家でもチェスプレイヤーでもなく、正真正銘のロシアのファシストなのだ。
ロシアは「社会の自己浄化」を実施し、「ろくでなしや裏切り者」を駆除するべきだと断言することで、プーチンはロシア国内で粛清が行われることをはっきりさせた。
なにしろ、悪いのは内部にいる背信の第5列に決まっており、けっして独裁者その人ではないのだ。
その時点まで、私は核兵器や化学兵器を使うというプーチンの脅しははったりだと考えがちだった。この脅しが効いて、バイデン政権はポーランドのミグ戦闘機をウクライナに提供するのを思いとどまった。
だが、今や私は、プーチンが掩蔽壕からどんな命令を下しかねないか、本気で心配しはじめている。
通常兵器を使う軍事行動をなんとか継続させ、切羽詰まったプーチンの焦りを和らげることを可能にするものが仮にあるとすれば、それは中国による支援だけだろう。
ロシアが中国に武器と糧食を求めたために、アメリカの国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンは中国の外交担当トップ楊潔篪(ヤン・ジエチー)に、ロシアが西側諸国の制裁をかいくぐるのを助けようとする中国企業があれば、その企業自体も制裁の対象となる、と脅しをかけた。
この脅迫が中国を躊躇させたのか、それとも、プーチンの肩を持つことを促したのかは、まだ知りようがない。もし中国がロシアの戦争遂行努力の梃入れをすれば、攻囲戦がずるずると続くだろう。
最後に、西側の各国民の慢性的な注意欠如障害も懸念される。私たちは今、燃え尽きたロシア軍の戦車や、ウクライナのTB2無人攻撃機の動画といった、ぞっとするものの思わず見入ってしまう映像や、ゼレンスキー大統領の感動的な演説などに釘づけになっているが、これほど強い関心をどれだけ長く抱き続けられるだろう?
ドイツの有権者の89パーセントは、ウクライナの人々のことが心配だ、あるいは、非常に心配だ、と言っている。だが、エネルギー供給の中断についても66パーセントが、ドイツの経済状態の悪化についても64パーセントが同じように心配している。
世界は今、1カ月前よりもなおいっそう深刻なインフレ問題を抱えており、国内の日常生活に直結する問題はたいてい、はるか彼方の国々の危機に優先するものだ。
私たちはあとどれだけ長く注意を向けていられるだろうか? もしキーウの攻囲戦が何週間もだらだらと続いたら? あるいは、停戦が実施され、それから破綻し、再び実施されたとしたら? はたまた、ドネツク州とルハンスク州の境界をめぐる交渉があまりに退屈なものになったとしたら?
「歴史が転換し損なった歴史の転換」
イギリスの歴史家A・J・P・テイラーは1848年の革命を「歴史が転換しそこなった歴史の転機」として切り捨てたことで有名だが、要するに私は現状がそれと同じことになりはしないかと恐れているのだ。
つまるところ、キーウが陥落しても、民族の政治的独立がロシアの戦車によって蹂躙された最初の首都とはならない。1956年のブダペストや1968年のプラハを思い出してほしい。
そして、私たちの当初の憤りが薄れ、無力感に変わり、やがて記憶から抜け落ちたとしても、それはけっして初めての出来事ではない。
フランシス・フクヤマは1989年の盛大な「諸民族の春」を思い出しているが、私は1979年以来感じていなかったほどの大きな恐怖を感じている。
1979年というのは、イランが騒乱に包まれ、ソ連がアフガニスタンに侵攻し、アメリカのジミー・カーター大統領が悪性インフレに途方に暮れているように見えた年だ。
では、あの年からはどんな教訓が得られたのか? 西側諸国には強力なリーダーシップが必要である、というのがその答えだ。
現在クレムリンにいる独裁者が核戦力をちらつかせたときにも揺らぐことのないリーダーシップ、自由のためのウクライナの闘争が、じつは私たちの闘争であることを思い出させてくれるリーダーシップ、独裁主義の帝国は、周辺の小国を呑み込みながら欲望を募らせていくという、歴史の重大な教訓を指摘するようなリーダーシップが必要なのだ。
1979年は、マーガレット・サッチャーがイギリスの首相に選ばれた年であり、ロナルド・レーガンがアメリカの大統領に選ばれる前年でもあったのは、偶然ではない。
戦争を長引かせてもいいのか
ウクライナの戦争はまだ終わっていない。ロシアはまだ打ち負かされてはいない。プーチンはまだ権力の座から引きずり降ろされてはいない。
ロシアの殺人マシンを止め、この争いに終止符を打つためにしなければならないことは、まだ山ほどあるし、私たちの行動が図らずも戦いを長引かせてしまいかねない筋書きも多数ある。
アメリカの政策立案者のなかには、戦争が引き延ばされるのを望んでいる者もいるのではないかという印象さえ、私は受けている。戦いが続けば、「ロシアは力が尽き果て」、プーチンの失脚につながるだろうと勘違いしているのだ。
イギリスの劇作家アラン・ベネットの戯曲『ヒストリーボーイズ』では、オックスフォード大学への進学を目指す田舎の生徒の1人が、教師に歴史を定義するように言われる。「しょうもないことのたんなる連続」と生徒は答える。より厳密に言えば、歴史は惨事のたんなる連続のように見えることもありうる。
次の大惨事がどんな形を取るのかも、どこを襲うのかも、私たちには確かなことは言えない。
その惨事が疫病であろうが、戦争であろうが、何かその他の災難であろうが、始まってからわずか3週間では、どれほど大きくなり、どれほど長引くかは知りようがない。
また、どの社会が惨事に最も効果的な対応を見せるかも、予見することはできない。惨事が独創的な対応を引き出すこともある一方で、成功は自己満足を招きがちだ。
惨事に翻弄されるかどうかは私たち次第
1970年に、アメリカの作家ジョーゼフ・ヘラーの小説『キャッチ=22』の映画版が公開された。シナリオライターの1人のおかげで、映画には原作になかった次の台詞が加えられ、それが有名になった。
「被害妄想を持っているからといって、誰かにつけ狙われていないとはかぎらない〔訳注 原文は「Just because you’re paranoid doesn’t mean they aren’t after you.」で、「心配性の人の心配がすべて杞憂とはかぎらない」とでも意訳できる〕」。
私はこれが、本書『大惨事(カタストロフィ)の人類史』の核心を成すメッセージでもあると考えるようになった。
ありとあらゆる形と規模の惨事が私たちを本当につけ狙っている。惨事に対する最善の備えは、過去2年間に西側世界全体で新型コロナによってこれほど多くの命を犠牲にした種類の、官僚機構による見せかけの準備ではない。
また、惨事に襲われるたびに、特定の主義や党派に偏った見解を人々に押しつけても、何の役にも立たない。むしろ私たちは、ヘラーの作品に登場する第2次世界大戦中の爆撃機の搭乗員たちが感じていた類の共通の被害妄想をたくましくするよう、努めなければならない。
ただし、惨事への私たちの対応は、『キャッチ=22』の主人公ジョン・ヨッサリアンの諦観ではなく、その正反対のものであるべき点が異なる。
惨事は必ず起こる。だが、その避け難い運命にどれほど翻弄されるかは、私たち次第だ。それこそ、ウォロディミル・ゼレンスキーが私たちに思い知らせてくれたことなのだ。
●ウクライナの戦争、終わらせ方で意見が割れる西側諸国 6/7
早期停戦か、ロシアに報いを受けさせるか──。ウクライナでの戦争の終わらせ方をめぐり西側が割れている。ドイツ、フランス、イタリアは和平派、ポーランド、バルト3国、英国などが強硬派だが、米国は曖昧な姿勢を示す。根底には戦況の見通しが不透明で、ウクライナとロシア、双方ともに勝利の可能性を捨てていない現状がある。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「戦争で勝利するには戦争で勝つしかないが、戦争を終えるには交渉を通じて実現するしかない」と語った。
戦闘をいつやめるべきか、どんな条件でやめるべきか。それはウクライナが決めることだと西側陣営は言う。しかし、戦争の開始から3カ月が経過し、西側諸国は戦争の終わらせ方について、それぞれの立場を明確にし始めている。
ブルガリアの首都ソフィアにあるシンクタンク、リベラル戦略センターのイワン・クラステフ氏は、西側は大きく2派に分かれると説明する。一つは、極力早く戦闘を停止し、交渉を始めることを望む「和平派」。もう一つは、軍事侵攻を行ったロシアには多大な代償を支払わせるべきと考える「強硬派」だ。
まず問題になるのは領土だ。これまでに占領された地域をロシアのものとするのか。2月24日の侵攻開始時点の境界線に戻すのか。それともさらに、国際的に認められた国境まで押し戻して、2014年に占領された地域の回復を図るのか。
ほかにも論点はいくつもある。中でも大きなものが、戦争が長期化した場合の損害とリスク、メリットの有無についてだ。今後の欧州でのロシアの位置づけも議論されている。
和平派は行動に出始めている。ドイツは停戦を呼びかけた。イタリアは政治的調停に向け、4項目からなる計画を提案している。フランスは、ロシアに「屈辱」を与えない形で和平合意をまとめる必要性を語る。
これに反対する立場を表明しているのが、主にポーランドとバルト3国。そして筆頭に立つのが英国だ。
慎重に立ち位置を探る米国
では米国はどうか。ウクライナにとり最も重要な後ろ盾である米国は、いまだ立場を明確にしていない。ただ、ウクライナが強い交渉力を持てるよう支援するだけだ。米国はこれまでに140億ドル(約1兆8000億円)近くをこの戦争に注ぎ込んできた。米国議会は400億ドルの追加支出を決めたところだ。また、米国の呼びかけで40カ国以上が軍事的支援に応じている。しかし、支援にも限りがある。米国はこれまでりゅう弾砲などを供与してきたが、ウクライナが求める長距離ロケットシステムは提供していない。
米国の立場が曖昧な点は、ロイド・オースティン米国防長官の発言を見るとより一層際立つ。オースティン長官は4月のキーウ(キエフ)訪問後、西側はウクライナの「勝利」とロシアの「弱体化」に向けて支援すべきだと述べ、強硬派の立場を支持した。ところが3週間後、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相との電話会談後は「即時停戦」を呼びかけ、和平派に近寄る姿勢を見せた。米国防総省は方針に変更はないと強調する。
さらに、米ニューヨークタイムズ紙の社説が強硬派にダメージを与えた。ロシアの敗北は現実的ではないし、危険だと論じたのだ。さらに、元米国務長官ヘンリー・キッシンジャー氏も、「混乱と緊張が容易に克服できなくなる事態」を避けるには、2カ月以内に交渉を開始する必要があると述べた。同氏はスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)の年次総会で、ロシアとウクライナの境界線を2月24日時点に戻すのが理想だとし「それ以上を求めて戦争を続けると、ウクライナの自由のための戦争ではなく、ロシア本国に対する新たな戦争となる」と断言した。ロシアには欧州のパワーバランスの中で果たすべき重要な役割があり、この国を中国との「恒久的な同盟」へと押しやってはならないと同氏は語った。
今のところ、西側陣営のこうした意見の相違は「ウクライナの将来はウクライナが決めることだ」というお題目のもと、覆い隠されている。だが、ウクライナの選択肢は、西側の態度や支援次第で変わる。
ゼレンスキー大統領はWEFの演説で、「欧州、そして世界全体は団結しなければならない。我が国の強さはあなたがたの団結の強さなのだ」と語り、「ウクライナは領土をすべて取り戻すまで戦う」と決意を示した。その一方で、ロシアが2月24日の線まで撤退すれば対話を始められるだろうとも発言。譲歩の余地も残している。
米国、欧州、ウクライナは、これなら相手が受け入れるだろうと考える条件に応じて、主張を調整していく必要がある。シンクタンク、国際危機グループのオルガ・オリカー氏は「ウクライナはロシアと交渉するのと同じか、恐らくそれ以上に西側の支援国と交渉している」と指摘する。
ロシアへの相反する懸念
西側のウクライナへの姿勢がはっきりしないのは、戦況がはっきりしない点も関係している。ウクライナはキーウを防衛し、ハリキウを奪い返した。それゆえウクライナは優勢と捉えられるのか。それともロシアにマリウポリを掌握され、セベロドネツクも包囲されかけているから、劣勢に立たされているのか。
和平派は、戦闘が長引けばそれだけウクライナと世界にとって人的、経済的犠牲が増えると懸念する。強硬派は、制裁の効果は表れ始めたばかりだし、時間がたてばたつほど、多くの優れた武器がウクライナに行き渡り、勝利に近づくと反論する。
こうした議論の背景には、2つの相反する懸念がある。一つは、ロシア軍が今もなお強大な力を保ち、消耗戦で勝ちを収めるのではないかという懸念。もう一つは、ロシア軍が弱かった場合の懸念だ。敗北が濃厚になれば、ロシアはNATOを攻撃しかねない。敗北を避けるために、化学兵器や核兵器を使う可能性がある。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、長期的には欧州はロシアと共存する道を見つける必要があると訴える。一方、エストニアのカヤ・カラス首相は、「プーチン大統領に屈することは、彼を刺激すること以上に危険だ」と反論する。
米国と欧州の政府関係者は、ウクライナのロシアに対する交渉計画の策定を水面下で支援してきた。その中でポイントとなるのが、ウクライナが西側に求める安全保障に関するものだ。ウクライナを直接防衛する約束を取り付けるのは難しいとしても、ロシアに対する制裁を復活可能にしておくことや、ウクライナが再び攻撃された時にすぐに新たな武器を供給する、といった取り決めが考えられる。
今のところウクライナは状況を楽観視している。ロシアはウクライナを容易に制圧できていないし、西側から提供された武器は前線に届きつつある。しかし、ウクライナの交渉団を率いるミハイロ・ポドリャク氏は、欧州諸国の「支援疲れ」が心配になりつつあると、土のうを積んだ大統領府で語った。「口には出さないものの、我々に降伏を促そうとする気配が感じられる。停戦といっても、紛争が“凍結”されるだけのことだ」。ポドリャク氏は、米国政府の動きの鈍さに対しても不満だ。ウクライナが必要としている数の武器が届かないというのだ。
戦争がいつ終わるかは、総じてロシア次第だ。ロシアは停戦を急いでいない。東部ドンバス地方全域を掌握する決意を固めているように見える。さらには西部でも占領地域を拡大する意思を示す。
キーウの政治評論家、ウォロディミル・フェセンコ氏は、次のように語った。「この状況が奇妙なのは、双方ともに、自分たちが勝てると今も信じていることだ。本当に手詰まりになり、両国政府もそれを認めた時にのみ、停戦についての話し合いが実現する。だがその場合でさえ、一時的な和平にしかならないだろう」
●プーチン氏が揺るがす核秩序 (The Economist) 6/7
ロシアのプーチン大統領は100日前、核攻撃をちらつかせてウクライナへの侵攻を開始した。自国の核兵器を高く評価し、ウクライナの征服を約束した同氏は、干渉しようとする国々を「歴史上直面したことのないような」事態に陥らせると威嚇した。それ以来、ロシアのテレビはアルマゲドン(世界最終戦争)を話題にして視聴者を引き寄せている。
プーチン氏はウクライナで核爆弾を使用しなくとも、すでに核の秩序を乱している。同氏の脅しを受け、北大西洋条約機構(NATO)は提供する支援を制限した。これは2つの危険を示唆している。それらは、ロシアが軍事作戦を展開するなかでかき消されがちだが、懸念は高まる一方だ。
1つ目の危険は、ウクライナの目を通して世界を見ている無防備な国々が、核武装した侵略国に対する最善の防衛策は自らも核を保有することだと考えるようになることだ。もう一つは、他の核保有国が、プーチン氏の戦法をまねるのは得策だと確信するようになることだ。そうなれば、どこかで誰かが必ずや脅威を現実のものとするだろう。それがこの戦争の負の遺産として残ってはならない。
侵攻前から高まる核の危険
核の危険は侵攻前から高まっていた。北朝鮮は核弾頭を数十発保有している。国際原子力機関(IAEA)は5月30日、イランが核爆弾の製造に十分な量の濃縮ウランを保有していると報告した。
米国とロシアは新戦略兵器削減条約(新START)の下、2026年まで大陸間弾道ミサイル(ICBM)の配備数などを制限するが、核魚雷などの兵器は対象に含まれない。パキスタンは急速に核兵器を増やしている。中国は核戦力の近代化を図っており、米国防総省によればその増強も進めている。
こうした拡散の実態はすべて、核兵器の使用に対する道徳的な嫌悪感が弱まりつつある表れだ。広島と長崎の記憶が薄れるにつれ、人々はプーチン氏が実戦投入しかねないような戦術核の爆発が、いかに都市全体を消滅させる報復へとエスカレートし得るのか理解できなくなっている。
米国と旧ソ連は2国間の核の対立に対処したにすぎない。いくつもの核保有国が存在する今、より危険な事態になっていることへの警戒心が足りない。
ウクライナへの侵攻が、こうした不安に拍車をかけている。プーチン氏の脅しが虚勢だとしても、非核国への安全の保証を損なう。
1994年、ウクライナはロシア、米国、英国が自国の安全を保証するという見返りに、旧ソ連時代から保有していた核兵器を放棄した。だが2014年、ロシアはクリミアを併合し、ウクライナ東部ドンバス地方で親ロシアの分離独立派を支援することで、この約束をいとも簡単に破った。米英も、ほとんど傍観し、約束をほごにした。
これで無防備な国々が核武装する理由は増えた。イランは核兵器を断念しても長期的な信用は得られないが、今開発しても昔ほど問題にはならずに済むと判断するかもしれない。イランが核実験を実施した場合、サウジアラビアとトルコはどう反応するだろうか。韓国と日本はいずれも自衛のノウハウを備えており、有事の際は守ってくれるという欧米の約束にかつてほど信頼を置かなくなるだろう。
核の脅威を勝利のために利用するプーチン氏
核の脅威を振りかざすプーチン氏の戦略は、それ以上にたちが悪い。第2次世界大戦後の数十年間、核保有国は核兵器の実戦配備を検討した。だが、この半世紀、そうした警告はイラクや北朝鮮など大量破壊兵器の使用をちらつかせた国に対してのみ発せられてきた。
だがプーチン氏は違う。侵略した側のロシア軍が勝つために核の脅威を利用しているからだ。
その効き目はあったようだ。確かに、NATOの対ウクライナ支援は予想以上に強力だが、航空機など「攻撃用」兵器の供与を躊躇(ちゅうちょ)している。
ウクライナに大量の武器を提供してきた米国のバイデン大統領は5月30日、ロシアに到達可能な長距離兵器は供与しないと表明した。他のNATO加盟国は、プーチン氏を敗北させれば窮地に追い込むことになり、悲惨な結末を招く恐れがあるため、ウクライナはロシアと和解すべきだと考えているようだ。
そうした論理は危険な前例をつくる。中国が台湾を攻撃した場合、台湾はすでに中国の領土だと主張して、同様の条件(編集注、介入する国は核使用による報復を受けること)を付ける可能性がある。そうなれば戦術核の備蓄を増やす国は増えるかもしれない。そうなれば、各国が軍縮に向けて努力すると誓った核拡散防止条約(NPT)に背くことになる。
プーチン氏が招いたダメージの修復は難しいだろう。21年に発効し、現在86カ国・地域が署名する核兵器禁止条約は、核兵器廃絶を求めている。ただ、各国間の協調的な軍縮が理にかなっているとしても、核保有国は自国が無防備になることを恐れている。
一方、綿密に検証を重ねた軍備管理は追求する価値がある。ロシアは警戒を怠らないかもしれないが、困窮している。核兵器には費用がかかるうえ、同国は通常戦力を再建する必要がある。
米国はロシアの軍縮と引き換えに、自国の安全保障を危険にさらすことなく地上発射型ミサイルを退役させることもできる。また、通常の紛争時は核の指揮統制機能や通信インフラを攻撃しないなど、双方が技術的措置で合意することも可能だ。最終的には中国を取り込むことを目指すべきだろう。
プーチン氏の核戦術が失敗すれば、そうした協議は容易になる。まずは同氏からウクライナを攻撃しないとの確約を得ることだろう。バイデン氏は5月31日、米紙への寄稿で、ロシアが核兵器を使おうとする兆候はみられないと記した。
ただ、中国やインド、イスラエル、トルコなどクレムリン(ロシア大統領府)に接触しやすい国々は、プーチン氏が核兵器を万一、実際に使用したらそれは断じて許されないが激しい怒りをもって本人に警告しなければならない。
ロシアはかつてないほど危険な存在に
ウクライナを核攻撃から守ることは不可欠だが、それだけでは不十分だ。世界はプーチン氏が14年のクリミア併合と同様、今回も侵略で力を増すことがないようにすることも必要だ。同氏が今回も戦術は奏功したと確信すれば、今後さらに核の脅威を振りかざすだろう。
NATOを威圧できると同氏が判断すれば、引き下がるよう説得するのはますます困難になる。他国はここから教訓を引き出すだろう。このためウクライナは、ロシア軍を撤退に追い込むために高度な兵器、経済支援、対ロ制裁を必要としている。
今回の侵攻を欧州における一過性の戦いにすぎないとみる国は、自国の安全保障をないがしろにしている。また、ウクライナはすでに戦力が劣化した敵との勝ち目のない戦いで身動きが取れなくならないよう、平和の名の下、即ロシアとの停戦に合意すべきだと主張する国は、これ以上ない間違いを犯している。
NATOには覚悟が足りないとプーチン氏が考えているなら、ロシアは危険な存在であり続けるだろう。そして核攻撃を示唆したことが、戦いに敗北することと、膠着状態に陥りながらも面目を保つこととの差を分けたのだと同氏が確信しているなら、ロシアはかつてないほど危険な存在となるであろう。
●ウクライナ侵攻「外交解決困難」 リトアニア外相 6/7
来日したリトアニアのランズベルギス外相は7日、東京都内の日本外国特派員協会で会見し、ロシアのウクライナ侵攻について「外交では解決できない」との考えを示した。欧州内で終結方法について意見が割れていることには「これはウクライナの戦争で、ウクライナが勝利すべきだ」と訴えた。
ランズベルギス氏は、攻撃を続けるロシアを批判し、「十分な武器が供給されずにウクライナが敗れることがあれば、それは危険だ。どの国が次になってもおかしくない」と指摘した。
●リトアニア外相「黒海に安全な回廊を」日本や各国に協力求める  6/7
日本を訪れているバルト3国の1つ、リトアニアの外相がNHKのインタビューに応じ、ロシアの軍事侵攻によってウクライナの港で穀物の輸出が滞っている問題について「黒海に安全な『回廊』を作ることが解決策の1つになる」として有志国による護送船団を組んで穀物の輸送船を守ることを提案し、日本を含む各国に協力を求めていく考えを示しました。
リトアニアのランズベルギス外相は5日から日本を訪れていて、7日都内でNHKのインタビューに応じました。
この中で外相は、ロシアによるウクライナ侵攻について「ロシアが隣国に対して軍事力を行使することをいとわない攻撃的な国であることを示した。わが国と700キロの国境を接するベラルーシはウクライナ攻撃の準備に使われた。西にはロシアの飛び地で軍事基地があるカリーニングラードがある。われわれは双方に挟まれた状態だ」と述べ、ロシアへの強い警戒感を示しました。
そのうえで、リトアニアも加盟するNATO=北大西洋条約機構に対して兵力の増強を求めていく考えを示しました。
また、ロシアによってウクライナ南部の港が封鎖され、穀物の輸出が滞っている問題について「黒海に安全な『回廊』を作ることが解決策の1つになる。実現のためにはウクライナの船がロシア軍から攻撃されないように武器を供与することと、安全に航行できる保証をすることが必要だ」と述べました。
そのうえで、南部オデーサの港からボスポラス海峡までの海上ルートで有志国による護送船団を組み、穀物の輸送船を守ることを提案し、日本を含む各国に協力を求めていく考えを示しました。
また、リトアニアでは去年、「台湾」の名を冠した出先機関が開設されたことをめぐって中国との関係が悪化しています。
ランズベルギス外相は「今では、中国への輸出ができなくなり、ほぼゼロになっている」として中国がリトアニアからの輸入を厳しく制限していることを明らかにしました。
そのうえで「中国が他国の外交政策を変えるために何をするかが明らかになった。私たちは同じ価値観を持つ社会とのつながりで得られた信頼関係が自国の利益につながると考えている」と述べて、今後も台湾とのつながりを重視していく考えを示しました。
●非武装中立のバルト海諸島、ウクライナ情勢に戦々恐々 6/7
戦闘が続くウクライナは、海と陸を隔てた2000キロ以上の彼方に存在する。だが、フィンランド南岸のオーランド諸島に住む人々は、ロシアによるウクライナ侵攻が自分たちの暮らしを永久に変えてしまいかねないと危惧している。
ロシアのウクライナ侵攻は数十年続いた欧州の安全保障政策を覆したが、ロシアと長い陸の国境を接するフィンランドほど状況が一変した国はほかにない。同国は今年5月、ロシアに報復措置を警告されながらも北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請した。
フィンランドのNATO加盟が、同国の自治領であるオーランドにとって何を意味するかは、まだはっきりしない。しかし、スウェーデン語を話すこの地の住民らは、大切にしてきた自治権が脅かされかねないと心配している。国際協定によって自治権を与えられ、非武装の中立地帯となってから、オーランドは昨年で100周年を迎えた。
ところが、バルト海一帯とロシアとの緊張が急激に高まる中、フィンランドとスウェーデンに挟まれた戦略上の要衝に位置するオーランド諸島を非武装のままにしておくことに、フィンランド国民の一部は疑問を呈し、特別な地位は過去の遺物だと訴え始めている。
フィンランド国際問題研究所の防衛政策研究員、チャーリー・サロニウスパステルナク氏はスウェーデンのテレビで「1国に対して特定の地域を守る責任を求めながら、その地域の防衛に向けて本格的に準備することを許さないというのは、つじつまが合わない」と語った。
オーランド自治政府のベロニカ・ソーンルース首長は、中立の地位を破棄すべきだとの意見には同意できないと言う。NATO加盟による影響を受けないとの言質をフィンランド政府から得ていると指摘し「これがフィンランドの大統領および政府の示した認識であり、われわれオーランド住民はそれ以外の見解を有していない」と語った。
自治権か安全保障か
オーランド諸島は戦略的に重要な場所にあるため、長年にわたって周辺諸国が所有権争いを繰り広げてきた。最初にオーランドに中立的地位を与える協定が締結されたのは、クリミア戦争後の1856年だ。
オーランドの住民約3万人は、伝統的な中立的地位に今でも誇りを抱いている。大半の住民は、森の中に赤い木造住宅が並ぶ最大の島に住み、主に海運業に携わっている。
島民は、フィンランドもしくはNATOの軍が来て自治権が弱まる可能性を懸念する一方で、ロシアに侵攻された場合に自衛できるかどうかという心配も抱いている。
漁師にして猟師、ビジネスマンでもあるヨハン・モーンさんは、少年のころから周辺の海で船に乗り、オーランド諸島のことなら知り尽くしている。
「水先人だった祖父は、第2次世界大戦中に機雷が仕掛けられた際、この海で航行を助けていた。フィンランドがソ連に攻撃された時には、スウェーデンから物資を届けた。今のわれわれの技術も使えるかもしれない」。モーンさんは、全長10メートルある自身のモーターボートに乗りながらこう語った。
モーンさんはロシアの船や怪しい行動を見張るため、地元の有志によるネットワークを作りたい考えだ。一方で、オーランドの非武装維持を全面的に支持しており、フィンランド軍がオーランドを守ってくれるとも信じている。
「われわれも世間知らずではない。今のロシアのやり方を見ていると、ウクライナを奪い、さらに他の国も狙っているのは明らかだ。仮に最悪の事態になっても、われわれはこの地域を知り尽くしており、武器の扱いにも慣れている」と語った。
●要衝で激しい市街戦 ロシア、東部州「97%」制圧 6/7
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日夜、ビデオを通じて演説し、東部ルガンスク州の要衝セベロドネツクでロシア軍との激しい市街戦が続いていると明らかにした。一進一退が繰り返されているもようだが、大統領は同日の記者会見で「ロシア軍は数で勝り、より強力だ」と述べ、苦戦していることを認めた。
東部ドンバス地方の支配拡大を狙うロシア軍は当面の重点目標として、同地方を構成するルガンスク州全域の掌握を目指しているとされる。タス通信によると、ロシアのショイグ国防相は7日、州の97%が「解放された」と述べ、大部分を制圧したと主張した。
ゼレンスキー大統領は、セベロドネツクや、川を挟んでその西方にあるリシチャンスクが砲撃などの猛攻にさらされており、両市とも「死の街」と化したと表現した。
米シンクタンクの戦争研究所の6日の報告書によると、ロシア軍が同日時点でセベロドネツクの大半を押さえているもよう。ただ、「陣地の支配権が頻繁に入れ替わる」状況が続いているようだと報告書は指摘した。ショイグ国防相は7日、セベロドネツクの住宅地域を完全に支配下に置いたと主張。残る工業地域やその周辺の制圧を目指し、作戦を継続していると述べた。
ゼレンスキー氏によると、ロシア軍はルガンスク州に隣接するドンバス地方ドネツク州でも主要都市スラビャンスクなどに激しい攻撃を加えている。
一方、ウクライナの国営通信によると、同国海軍司令部は6日、黒海北西部に展開していたロシア艦隊をウクライナ南部沿岸から100キロ以上沖に後退させたと明らかにした。
黒海北西部にはウクライナ最大の貿易港であるオデッサが面し、ロシア艦隊による海上封鎖の下に置かれている。海軍司令部はこの海域が依然として厳しい状況にあるとしつつ、ロシアによる「完全支配」の一部を奪還したと主張した。
●ロシア軍、性暴力の疑い124件 6/7
ウクライナでロシア軍による性暴力の疑いが124件あったことが、国連安全保障理事会の会合で報告された。一方、ウクライナ東部ルガンスク州のセベロドネツク市では激しい市街戦が続いている。
49件は子供
ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、米ニューヨークの国連本部で6日に開かれた安全保障理事会の会合で、紛争地における性暴力問題を担当するパッテン事務総長特別代表が報告した。3日時点で、性暴力の疑い事例があったと明らかにした。56件は成人女性、49件は子供(少女41件、少年7件、性別不明1件)、19件は成人男性に対するものだったという。
東部セベロドネツクで激しい市街戦
ロシア軍が攻め込むウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事は5日、要衝セベロドネツク市でウクライナ軍が「半分を支配下に置いた」と通信アプリ「テレグラム」で明らかにした。一方で、6日の地元テレビのインタビューでは「状況は再び少し悪化している」と述べた。1日時点では市中心部の8割を露軍が占拠したとされるが、両軍の一進一退の攻防が繰り広げられている模様だ。
ロシア外相、セルビア訪問を断念
ロシアのラブロフ外相は6日、予定していたセルビアへの訪問を断念した。ロシアのウクライナ侵攻を批判する近隣国がラブロフ氏の乗る航空機の上空飛行を拒否した。ラブロフ氏は6日、モスクワで記者会見を開き、周辺国の対応を「前代未聞」と批判したが、ロシアの国際的な孤立が改めて浮き彫りになった。
トルコ、穀物輸出再開を仲介
ロシアのウクライナ侵攻により小麦などの穀物輸出が滞っている問題で、輸出再開に向けてトルコが仲介に乗り出している。ロイター通信などによると、トルコは8日、ロシアとの外相会談を行い解決法を協議するほか、ウクライナとも黒海の安全確保について検討を進めているとみられる。ウクライナは世界有数の穀物生産地で、「世界の穀倉」とも言われる。
●ロシア軍、招集兵を通常はありえない第一線に派兵 ロシア報道 6/7
ロシアのインタファクス通信は7日、ロシア国内で徴兵された招集兵600人がウクライナの第一線に派兵されていたと報じた。
ロシアでは第一線など危険地域の戦闘には軍当局と契約を結んだ「契約軍人」が担い、徴兵される招集兵は通常、任務に就かない。同通信によると、約600人の招集兵は西部軍管区から派兵されたという。
軍検察当局は派兵にかかわった将校12人の責任を捜査している。招集兵は既に全員帰国しているという。
●ベラルーシ参戦は「五分五分」 ウクライナ元参謀本部将校が分析 6/7
ロシア軍のウクライナ侵攻から6月3日で100日が過ぎた。ナチス・ドイツの総統アドルフ・ヒトラーが1941年6月、独ソ不可侵条約を破りソ連に対してバルバロッサ電撃作戦を開始した時には、100日でモスクワ近郊に迫る進撃を続けた。ウクライナ東部のドンバス戦線は、膠着状態が続いている。欧米からのウクライナ軍への最新兵器の供給は大幅に遅れ、戦況にも影響を与えているようだ。これまで2度取り上げた元参謀本部将校オレグ・ジダーノフ氏が、ウクライナのテレビやネット番組で最前線の戦況と、欧米からの武器供与の遅れなど、今後の焦点について語っている中から、今回はUkraina24とUKLifeTVでの発言(6月4日)をまとめた。ジダーノフ氏は非公式ながら、ウクライナ参謀本部のスポークスマン的役割を担っていて、その的確な分析と分かりやすい解説で人気を博している。最近では自分のウェブサイトを開設し、毎日の戦況と、ユーザーからの質問に答えている。
これからは精神的にきつい「陣地戦」になる
ロシア軍侵攻から100日が経ったが、いちばん重要なことは、軍事侵攻によって政治的にウクライナを転覆させるというロシアの主要な目論見を打ち砕いたことだ。こうしてキーウからニュースを伝え、ウクライナ国旗を掲げていられることが、その成果の証明だ。「世界で二番目の軍隊」と戦いながら、ウクライナ国家は存在を続けている。
5月末からはロシア軍が全力で多方面からルハンシクを攻撃し、戦況はたいへん厳しかった。ウクライナ軍がセベロドネツクをすぐに奪還することはできないだろう。橋が爆破されて落とされており、渡河を難しくしている。激しい市街戦が続いているが、前線は膠着状態だ。ウクライナ軍はロシア軍の攻撃を食い止めて街の一部は奪還している。
リシチャンシクについて言えば、防御を固めて要塞化し、両翼を固めてロシア軍が包囲できないようにしている。ルハンシクが取られてもドネツクは防御できる。
しかしこのあとすぐに反転攻勢にでられるわけではない。今後1カ月かそれ以上、「陣地戦」が続くだろう。陣地戦は防御戦より精神的にきつい。ロシアは全戦力を投じて圧力をかけ、ウクライナ側をなんとか停戦協議のテーブルにつかせようとするだろう。だがロシア軍が兵力を補充することは難しい。撃破されたBTG(大隊戦術群)の残余の兵を集めて再編し、前線に投入する程度だ。
ロシア軍の状況は悪化するだろう。6月半ばで短期契約切れを迎える契約兵がでてくるはずだ。法的には「契約期限が終了したので帰任する」と言えるのだが、「そうはいかない。小銃を持って塹壕に入れ」と言われた例がいくつもあるのを知っている。またこの時期には療養していた負傷兵が松葉杖をつき、車椅子に乗って故郷に戻ることになる。多くの若者が戦場に出て傷病兵となって戻る光景は、ロシア社会にとって衝撃になる可能性がある。
ロシア側も作戦上の再編が必要だ。セベロドネツク方面に他の地域からBTGを集中させている。他に投入できる部隊がないのだ。これからは、どちらの軍が早く、質の高い再編成ができるかという競争だ。この競争に勝った方が次の段階で有利になる。
「ベラルーシが侵攻してくる前提で準備している」
ウクライナと国境を接する、北西のベラルーシでは、ベラルーシ軍の演習が活発になっている。ルカシェンコ大統領は、「今日明日にもウクライナ軍がベラルーシに攻め込んでくる可能性があるため、国民義勇軍を組織して国境の守りを固める必要があり参戦できない」とプーチンに説明しているのだが、プーチン側からの圧力は相当なものだ。
プーチンは最後通帳をつきつけて「参戦するか、さもなくば国家元首の座から引きずり下ろす」と脅している。しかし、ルカシェンコは、国内でコンセンサスを作り出さなければならない。この2年間、抑圧と弾圧を重ねてきたため、国内向けには「ウクライナとの戦争はわれわれの戦争ではない。わたしはベラルーシ国民が戦争に引き込まれないようベラルーシを守るから、ベラルーシ社会はわたしを守ってくれ」というコンセンサスをとりつけようとしている。しかしプーチンはいざとなったらルカシェンコを排除し、ロシアの「協力者」を政権につけるかもしれない。その「協力者」がプーチンの意向を受けて参戦を命じるというシナリオだ。
ベラルーシ参戦の可能性は五分五分だと思う。われわれとしては、ベラルーシ軍が侵攻してくる前提で戦術を組み立てている。
先日、ゼレンスキー大統領は、一日でウクライナ軍兵士60人が戦闘で死亡し、500人が負傷した、と発表したが、これはセベロドネツクの戦闘での数字だ。ロシア軍が兵力も重火器も集中した過酷な戦いだった。この数字はその時の損耗だ。しかし、戦闘が100日続いているからといって、この数字を100倍して、ウクライナ側の損失がとんでもなく大きいとみなしてはならない。侵攻の最初の週のウクライナ側の損耗は最低限だった。ゼレンスキー大統領は軍人ではないから、渡された情報をそのまま口にしたのだろうが、詳しい説明が必要だったと思う。残念だが、この数字は今回の戦争のひとつのエピソードにすぎない。
ロシア軍で“懲罰人事”が始まった!?
プーチンがドボルニコフに代えて新しい司令官を任命したという情報もあるが、現場の司令官を頻繁に変えるのは、軍の統制に混乱をもたらし、現場の士気に響く。参謀本部の作業そのものも不安定化させる。しかし、米国の情報機関はウクライナ作戦の司令官が誰なのかは明言していない。司令官は単なる交代ではなく、更迭されたとも言われている。
ロシアはいま階級の垂直構造は変えずに、人事異動をおこなっている。実際の役職実務からは引きはがすのに、職位はそのままにしておくのだ。外から見ると何事もなかったかのように見える。垂直構造はそのまま保たれているように見える。ドボルニコフがいまどこにいるのかは不明だ。
師団レベルでも旅団レベルでも懲罰人事が始まったと言われている。軍事的課題を解決できず甚大な損害を招いたことに対する懲罰人事だ。これは軍の上層部を不安にさせている。次の司令官も同じ目に遭うのではという疑心暗鬼が生じるからだ。軍内部では地殻変動が起きている。われわれからもロシア社会からも見えないが、エリートたちは戦々恐々としているだろう。
第二次大戦末期の1945年のナチス・ドイツでもまったく同じように、ヒトラーは毎週司令官を替えた。ことに対ソ連の東部戦線では頻繁だった。頻繁な人事異動がロシア社会にどんな結果をもたらすのか、予測するのは難しい。
我々は米国からの「最新兵器」を待っている
米国のレンドリース法(=武器貸与法 5月9日成立)による武器の供与は当初の想定より2カ月遅れている。いま受け取っている武器支援はレンドリース法のものではない。レンドリースの支援はまだひとつも来ていない。われわれは最新兵器を待っている状態だ。現在、ウクライナへ向かって運搬中だ。その兵器に習熟し、反転攻勢の部隊を再編しなければならない。反転攻勢の部隊編成が終了するのは早くとも夏の後半になるだろう。高機動ロケット砲「ハイマース」はもうヨーロッパには到着した。ウクライナ軍にとっては今日明日にでも欲しい。
いまのウクライナの深刻な問題は、砲弾の不足だ。武器庫が炎上したからだ。ただ、ウクライナ側にも西側からの武器供与の遅れの原因がある。政府内で誰が武器供与の交渉を仕切り調整し、まとめるかが曖昧なままなのだ。
確認しておきたいのだが、NATOは軍事同盟組織としてはまったくウクライナを支援していない。バイデン米大統領が戦争の最初期に言ったように、「NATOはこの戦争と距離を置く」ということだ。侵攻当初、50トンの燃料を供与してくれたが、NATOそのものからは、その後は一切何の支援もない。支援してくれている諸国はNATO加盟国だが、各国がパートナーとして個別に支援してくれているわけだ。英国はつねに米国より先に最先端の精密兵器を提供してくれている。それによって、遅れがちな米国の決定を促しているのだ。スロバキアなどの小国も数量は少ないが、できるだけの供与をしてくれている。
高機動ロケット砲「ハイマース」はクリミア半島にも・・・
ハイマースは80キロから300キロの射程があり、たしかに米国内では、ウクライナが300キロの射程のハイマースをロシア領に打ち込むと侵略行為になり、世界戦争につながるから、射程は短くしろ、という議論がある。しかし駐ウクライナ米国大使は、どこでどの射程で使用するかはウクライナが決めることだ、と言っている。ロシア軍の主力は50キロ圏内に配置されているし、予備弾薬、医療、食糧、指令部も補給の鉄道駅も50キロ圏内なので、現状では80キロで十分だ。ロシア側は米国がハイマースを提供することにいら立っている。
混乱があるように見えるが、大事な点がある。ゼレンスキー大統領も「ロシア領内には発射しない」と約束したが、欧米各国はいまでもロシアのクリミア併合を認めておらず、法的にクリミア半島はウクライナの国土としていることだ。つまり、1991年時点でのウクライナ領土内で、われわれは自由にハイマースを使うことができる。
この西側仕様の第四世代高機動ロケット砲システムはウクライナには使いこなせない、などと言われているが、ウクライナはクリミア併合が起きた2014年以降のこの8年で、軍ではなくて、技術ボランティアが手作りで第四世代の変換モジュールを開発した世界で最初の国であり、ハイマースを始め、西側のあらゆる兵器に応用が可能だ。
ウクライナでは兵士がいるからといって闇雲に銃を持たせて前線に送りだすことはしない。この戦争は第一次世界大戦ではないのだ。西側の最新兵器が入ってくるのに合わせて訓練し、兵器を扱えるよう訓練して前線に送りだしている。
●“7500万トンの穀物が滞留の可能性” ゼレンスキー大統領 6/7
ウクライナ情勢です。東部地方ではロシアとの激しい攻防が続いています。一方、ロシアによる海上封鎖で滞る穀物の輸出について、ゼレンスキー大統領は秋までに7500万トンが滞留する可能性があるとしています。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「我々の英雄(兵士)はセベロドネツクを譲らない」
ウクライナ東部ルハンシク州の最後の拠点とされるセベロドネツクでの戦い。ゼレンスキー大統領は6日、ロシア軍が数も力も上回っているとしながらも「我々にはチャンスがある」として抵抗を続ける姿勢を強調しました。セベロドネツクでは病院や住宅も攻撃され、市街戦も続いているということです。こうしたなかアメリカから気になる情報が。
アメリカ ブリンケン国務長官「ロシアがウクライナから盗んだ輸出穀物を売って利益を得ているという信頼できる報告がある」
ロシアによるウクライナの穀物の横流し疑惑。またブリンケン国務長官は、ロシア軍がウクライナの畑に爆発物を仕掛けることで「重要な農業インフラを破壊した」と厳しく批判、軍事侵攻が「世界の食糧安全保障に壊滅的な影響を及ぼしている」と強調しました。ロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナの黒海沿いの港が占領されたり封鎖されたりしているため、輸出ができず世界的な食糧危機への懸念が高まっています。ゼレンスキー大統領は・・・
ウクライナ ゼレンスキー大統領「2000万〜2500万トンが滞留している。秋には7500万トンになる可能性がある」
そして穀物輸出を可能にするには、第三国の船が穀物の輸出を保証すること、そして船のルートが安全であることが不可欠だと指摘。そこでカギとなる国は・・・
ウクライナ ゼレンスキー大統領「トルコは私たちに保証を提供するための方法を探している。それがトルコがロシアと会う理由だろう」
両国の仲介役をアピールするトルコ。ロシアメディアによりますとラブロフ外相は8日からトルコを訪れ、穀物輸出の問題について話しあう見通しです。情報筋の話では国連の代表者も参加し、ロシアとトルコが協力してウクライナの船を公海に出す計画が承認されるとされ、計画はトルコとウクライナとの間でも合意しているとしています。ただゼレンスキー大統領はウクライナはこの協議に呼ばれていないとしていて、先行きはまだ見通せません。
●「プーチンを信じているが日常に戻りたい」 ロシア市民がいま考えていること 6/7
ロシアの都市部に暮らす中間所得層は、ウクライナでの戦争によって思い描いていた生活が送れなくなった。バケーションの計画は台無しに、外国ブランドを買ったり日本車を乗り回す楽しみも奪われ、ビッグマックをほおばることさえ叶わなくなった。
戦争が長引くにつれ、かつての日常を取り戻したいという思いは募るばかりだが、一方で彼らは確信している。ウラジーミル・プーチン大統領は勝つまでやめないことを。なぜなら、それがプーチンのいつものやり方だからだ。
ウクライナ侵攻にあたり、大事な隣国を「ナチスから解放するために」この戦争は必要なのだと、ロシア国民の大半を説得したプロパガンダはいま、長期戦に備えるようにと執拗に呼びかけている。
つまり、ウクライナにとっては、さらなる民間人の犠牲、市街地への爆撃、兵力の喪失だ。
それに比べてロシアの苦難は微々たるものかもしれいが、長い戦争がもたらす暗雲にクレムリンも穏やかではないと、アナリストらは指摘する。続く経済制裁、外国企業の撤退、物価の高騰により、人々がもう日常は取り戻せないと思い始めるなか、政権のプロパガンダがどこまで通用するのかわからない。
ネトフリで映画を見て、ユニクロで買い物したい
今のところ統計上は、クレムリンの古い手口の効き目はあるようだ。独立系の世論調査機関「レバダセンター」が4月に実施した最新の調査では、ロシア人のほぼ半数が戦争を無条件に支持し、約30%が条件付きで支持、19%が反対との結果が出た。
しかし、この戦争がロシア人ひとり一人の生活に大きな犠牲を強いているのは明らかだ。
語学教師のマリーナ(57)と友人たちは戦争に疲れ果て、その話題を避けるようになったという。
「みんな戦争、あるいは特別作戦とでも呼ばれているようなものに、うんざりしているようです。それよりも物価上昇など個々の生活に問題を抱えていて、生きることに必死なのです」
ただ、そうやって「何とかして」生きるすべを見つけるのにも飽きてきたと言い添える。
「ほとんどの人が辟易としています。私は旅行がしたいし、私たちはただ普通の生活に戻りたい」
マリーナは、ほんの数ヵ月前の自分の生活を切なく振り返らずにはいられない。
「ネットフリックスで西側の映画を見たり、ユニクロで買い物をしたりしたい。手頃で信頼できる航空会社でヨーロッパに行きたい。世界から追放されるのではなく、世界の一員になりたいのです」
戦況に疑念を抱くエリート層
モスクワ社会経済科学大学院のグリゴリー・ユージン(政治哲学)は、多くの人はまだ現実から目を背けようとし、ただ目の前の現状に適応しようともがいている段階だと語る。
「ロシア人にとって、この戦争を支持するかしないかは問題ではありません。それよりも、どうしたらこれに適応できるのかが問題なのです」
ユージンによれば、自分はヨーロッパ人だと感じているモスクワのエリート層(中堅官僚も含む)の一部は、戦争を全面的に支持してはいないが、プーチンが勝つまで戦うだろうことは確信しているという。
「ロシア人の大半は、いまでも軍事的成功を収め続けていると素直に信じているし、少なくともそれが彼らの希望的観測でもあります。一方、高学歴で、多様なソースから情報を得る傾向にある人々は、(政府のプロパガンダに)大きな疑問を抱いています」
マックが恋しいのではなくて…
「同僚たちもようやく、状況は芳しくないことに気づき始めたようです」
そう語るのは、西側の制裁で大打撃を受けた輸入商品を扱う会社で経理を務めるクセニア(50)だ。彼女の同僚の多くは、当初は戦争を強く支持していたが、最近は政府に対する不満を漏らす以外、この話題を避けているという。
「その話になると、けんかになるから議論しないようにしています。でも『この戦争を始めたのは私たちではないのに、代償を払わされるなんて』という愚痴は聞こえてきますよね」
クセニアはこの夏、アメリカもしくはイタリアで休暇を過ごす計画だったが、ビザが取れないために台無しになった。
「将来がないような気がして、とても憂鬱です」と漏らす彼女は、マクドナルドのゴールデンアーチが撤去されたときも落ち込んだという。ハンバーガーやポテトが恋しいのではなく、それらが象徴するものが失われたことに胸を痛めたのだ。
「私にとってマクドナルドは自由の象徴でした。モスクワに1号店がオープンしたときのことを今でも覚えています」と、彼女はソ連が崩壊する直前の1990年の行列を思い起こす。「それはトンネルの先に見える光のようでした」
世界でロシア人が「のけ者」にされる
戦争に反対するクセニアやその友人らにとって、最も心が痛むのは、子供を含むウクライナ市民が殺され、女性がロシア兵にレイプされていることを考えるときだ。
「私は別に外国ものの服がなくても生きていけます。西側の映画が見れなくても生きていけます。それより私が本当につらいのは、いまや世界の誰もロシア人と握手したがらなくなったこと。ロシア人がのけ者にされてしまったことです」
大工のヴィクトール(35)も同じ気持ちだ。当初、戦争は2ヵ月で終わると思っていたが、いまは何年もかかると実感している。
「人命が失われるだけではありません。これから先、私たちは貧困にあえぎ、第二次世界大戦中のドイツのファシストのように、嫌われることになるでしょう。私たちが新しいファシストであるかのように」
プーチンを信奉するヨガ好きベジタリアン
他方、モスクワに住むコンピュータプログラマーのアンドレイ(43)は、この戦争を「神の計画」と捉え、ロシア人は勝つための犠牲をいとわないはずだと信じている。
ヨガ好きでベジタリアンでテック系の彼は、保守的な高齢者という典型的なプーチン支持層には当てはまらない。それでも彼は日々、親プーチンのブロガーからニュースを入手し、ロシアの戦争犯罪に関する西側のニュースは「フェイク」であると確信している。
「この戦争の目的は、ウクライナからファシズムを取り除き、90年代以前のように、ソ連に住みたい民間人を戻すことです」
IT業界の友人の多くがアルメニアなどに逃げ、愛用のMacBookコンピュータも買えなくなったが、「今のところ制裁による大きな影響は感じていませんね」。
アンドレイは、1年かそこらでロシアが戦争に勝ち、物価も下がり、アップル製品が闇市場を通じてロシアに入るようになると信じて疑わない。それまでは犠牲を払ってでも戦うと言う(ただし、自身が志願して戦場へ行くことはしない)。
政治アナリストでジャーナリストのフョードル・クラシェニニコフによれば、多くのロシア人がウクライナの早い降伏を望んでいる。彼いわく、今のロシアの雰囲気は、「こんな生活はもう無理だから、一刻も早く終わってほしい。元の生活に戻してくれ」だ。
「プーチンのやることを本当に支持しているというわけではありません。でも自分たちでは何も変えることができないので、フラストレーションと鬱屈を感じているのです」とクラシェニニコフは続ける。
「たとえるなら悪天候のようなものです。毎日雨が降るのはわかっている。でも彼らに何ができるというのでしょうか」
●崖っぷちロシア軍、将官11人が続々戦死 6/7
ついに反転攻勢か。ロシア軍による完全制圧が近いとされた東部の要衝セベロドネツク市で、ウクライナ軍が猛烈に押し戻した。その後、露軍は砲撃で再反撃するなど激戦が続く。露軍は将官に「11人目の犠牲」が出るなど混乱が続くうえ、西側諸国の武器供与も本格化している。ウラジーミル・プーチン大統領は強気の態度を続けるが、残された道は少ない。
東部ルガンスク州のガイダイ知事は5日、セベロドネツク市をめぐり、ウクライナ軍が「市の半分を制御下に置いた」と通信アプリに投稿した。
一時は露軍が市の8割を支配下に置き、ガイダイ氏は軍撤退の可能性に言及していたが、戦局に変化があったことがうかがえる。ガイダイ氏は現地メディアのインタビューでも露軍撃退は「可能だ」と自信をみせた。
米シンクタンク、戦争研究所(ISW)も同日、「都市の大部分を奪還し、露軍を都市の南部郊外から追い出した」と分析している。
ただ6日には、露軍の砲撃により戦況は再びやや悪化したとみられる。ロシアは米欧からの兵器供給ルートの遮断を狙って空爆しており、激しい攻防が続く。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は6日、セベロドネツクに隣接するリシチャンスクと東部ドネツク州バフムトなど前線を電撃訪問し、兵士を激励した。フェイスブックでは、「われわれは自信を持っている。自信と誇り。出会った皆さんを誇りに思う」と決意を新たにした。
露軍の将官の戦死も相次いでいる。第29諸兵科連合軍参謀長のロマン・クトゥゾフ少将が死亡したと露国営テレビの記者が通信アプリ「テレグラム」で公表し、ロイター通信などが伝えた。
東部戦線で飛行中にミサイル「スティンガー」で撃墜されたという。英大衆紙デーリー・メール(電子版)はウクライナ侵攻で戦死した11人目の露軍将官と報じた。
ロイターによると、ロシアは軍人の死亡を国家機密としており、3月25日以来、公式の死傷者数を発表していない。
東部制圧目前とみられた露軍に何が起きたのか。元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏はこう解説する。
「東部に兵員や火力を集中し有利にみえたが、もはや限界に達している。ウクライナ軍の頑強な抵抗が成功の一因だろう。ロシア軍の兵士も希望者がおらず、総兵力も増えていない。英国防省は先月、軍の3割を喪失したと分析したが、軍事の常識では3割負傷兵が出れば部隊は動けない。士気も最低で、兵站活動も改善されていないとみられ、軍隊として体裁をなしていない状態だ」
西側によるウクライナ支援では、米国は先月末に高機動ロケット砲システム「ハイマース」の供与を表明した。米政権高官によると、ハイマースは最大約80キロ離れた標的を正確・精密に攻撃できるという。
ドイツも多連装ロケットシステム「MARSU」や防空システム「IRIS―T」、2日には英国も多連装ロケットシステム「M270」などの供与による軍事支援を表明した。
渡部氏は「これまで東部でウクライナ軍が不利だった背景には、ロシア軍の砲兵がウクライナ軍の射程外から砲撃するため榴弾(りゅうだん)砲が届かなかったこともある。だが、ハイマースは長射程での反撃を可能にするもので、非常に有益だ」とみる。
プーチン氏は5日放映の国営テレビのインタビューで、長距離砲撃が可能な武器を供与すれば、「これまで標的としていなかった対象を攻撃する」と牽制(けんせい)した。さらに、ハイマースなど欧米の武器供与について「私の見解では目的は1つ。できるだけ長く軍事衝突を長引かせることだ」として、欧米が意図的に戦闘を長引かせていると主張した。
前出の渡部氏は「ロシアは第1段階の首都キーウ占領も、第2段階の東部ドンバスの完全掌握も失敗した。次は現在の占拠地を保持し続ける第3段階に移らざるをえないが、これも失敗すると思う。プーチン氏は米欧に責任を押し付ける一方的な主張しかできず、敗者の遠吠え≠ノ聞こえる」と語った。

 

●ロシア前大統領「彼らを消滅させるため何でもする」とSNS投稿… 6/8
ロシアの安全保障会議副議長を務めるメドベージェフ前大統領は7日、自身のSNSに「私が生きている限り、彼らを消滅させるために何でもする」と書き込んだ。具体的な対象は明示しなかったが、露有力紙コメルサントは露軍が侵攻を続けるウクライナや、米欧の可能性があるとの見方を示した。プーチン政権の要人の過激な言動にロシアへの非難が強まりそうだ。
メドベージェフ氏は、通信アプリ「テレグラム」に、度々過激な内容を投稿しており、理由について、「答えは彼らが憎いからだ」と率直に認めた。「彼らはロシアに死をもたらしたいのだ」ともつづった。
プーチン大統領の最側近の一人と位置付けられるメドベージェフ氏は、2008年から12年までプーチン氏の後任として大統領を務めた。プーチン氏が大統領に復帰した12年以降、20年1月まで首相を務めた。
●ウクライナ東部 ロシア軍攻勢強めるも将軍戦死 一部で苦戦か  6/8
ウクライナ東部で攻勢を強めるロシア軍は、東部ルハンシク州の97%を掌握したと主張しました。一方、ロシアを後ろ盾とする親ロシア派の武装勢力は、ロシア軍の将軍の1人が戦死したことを認め、一部では苦戦を強いられているものとみられます。
ロシアのショイグ国防相は7日、東部ルハンシク州でウクライナ側が拠点とするセベロドネツクについて、「住宅地域は完全に掌握した。現在、工業地帯や近隣の集落で攻撃を続けている」と述べ、現時点で州全体の97%を掌握したと主張しました。
これについて、セベロドネツクのストリュク市長は7日、地元メディアの取材に対して、「敵は次から次へと兵士を送り込んでいる」と苦戦を認めながらも「われわれは敵の突撃を食い止めている」と述べ、抵抗を続ける姿勢を崩しませんでした。
ゼレンスキー大統領は7日「過去24時間で、戦況に大きな変化はない」と攻防が続いているとしたうえで、ロシア側が東部ドンバス地域や南部ヘルソン州に、増援部隊を送り込もうとしていると指摘しました。
そして「われわれが部隊を前進させるには、少なくとも現在の10倍以上の軍事物資と人員が必要だ」と述べ、各国にさらなる支援を求めました。
一方、ロシアを後ろ盾とする親ロシア派の武装勢力の指導者プシリン氏は7日、自身のSNSに、ロシア軍の将軍の遺影とともに、「残念ながらわれわれは、彼とお別れすることになった」と投稿し、将軍の1人が戦死したことを明らかにしました。
ウクライナでは、軍事侵攻の当初からロシア軍の将軍や指揮官が、前線で戦死するケースが相次ぎ、今も一部では苦戦を強いられているものとみられます。
こうした中、外交面では、停戦交渉の仲介役を担ってきたトルコが、ロシアのラブロフ外相を首都アンカラに招き、8日にはチャウシュオール外相が会談に臨む予定です。
両外相は、ロシアの軍事侵攻で、ウクライナの港からの穀物輸出が滞っている問題についても話し合い、トルコ側は黒海で、国連とともに海上輸送ルートを設置することや、安全のための監視態勢の構築を提案する見通しです。
また、これに先立ち、ロシアのショイグ国防相とトルコのアカル国防相は7日、電話会談し、トルコ国防省によりますと、穀物やひまわり油といった農作物を、安全に輸送するための対策など食糧危機をめぐる問題についても意見が交わされたということです。
ロシアとトルコの外相会談によって、ウクライナからの穀物輸出の正常化に向けた糸口を見いだせるのか、国際社会の注目が集まっています。
●プーチン絶体絶命。紛争さなかに飛び込んできたロシア関連の衝撃ニュース 6/8
時として目を背けたくなるような映像とともに、刻一刻と伝えられるウクライナ紛争の戦況。そんな中、今後の展開を大きく変えうるニュースが世界を駆け巡りました。今回その出来事を取り上げているのは、ジャーナリストの内田誠さん。内田さんは自身メルマガ『uttiiジャーナル』で、ロシア国債がデフォルト認定されたという衝撃的な事実を紹介するとともに、それが意味することを解説した上で、この先ロシアを襲うと思われる、彼らにとって好ましからざる未来を予測しています。
大変な勢いで変化しているウクライナの状況
雷どころではなく、ウクライナの状況が大変な勢いで変化をしているようですね。今日あたりから少し伝えられ方が変わってきているように思うのですが、きょうの午前中くらいまで伝えられていたことは何だったかというと、ほとんど、東部、ウクライナ東部の激戦地の様子で、特にロシア軍が激しい攻勢に出ていて、ウクライナ軍はかなり追い詰められている状況。で、どうもお互いの精鋭がぶつかっているようでして、ウクライナ軍はうまく撤退しないと部隊が壊滅させられてしまうという、大変厳しい状況に立ち至っているという報道でした。
これは、キーウ方面の、首都を陥れることに失敗したロシア軍が再編成をして、東部2州の掌握を目指してフル稼働してきている状況なわけですね。当然ですけど、そこにはウクライナ軍のかなり鞏固(きょうこ)な陣地が築かれていて、そう簡単に落ちるわけはないという状況だったのですが、ロシア軍はなんとしても落とさなければいけないということだったのでしょう、相当ヤバい兵器を使っていますね。核は使っていないですけれど、おそらくこの件に関心のある方はテレビなどでも繰り返し報道されていましたので、ちょっと遠目のドローンから撮った映像で、5、6発の爆弾が衝撃波を放ちながら爆発している様子、ご覧になったのではないかと思います。
ちょっと前に、レバノンのベイルートで、硝酸系の薬品か何かが大量に積まれているところが一気に爆発したときの…そのおかげでレバノンは今大変なことになっているわけですが…映像をご記憶かと思うのですが、衝撃波が出ますよね。ぶわーっと、空気が歪むというか。その状況を見て、これは普通の爆弾ではないと。どーんと音がして火が出る、煙がもわもわっと上がるというふうな爆弾ではなくて、もっと激しい爆発。おそらく気化爆弾という奴だと思うんですね。これ。
いわゆる核保有国からすると、なんとか使える核を作れないか、小さな核、限定的な核、戦術核、そういうものの開発を進める方法と同時に、核ではないけれども、さながら核兵器のような大きな効果を生む巨大な爆弾。こういう方向の開発もあるわけですね。
で、これ、何度か申し上げたことかもしれませんが、湾岸戦争で、イラクのフセイン大統領が「この戦争はすべての戦争の母である」と。つまりここからアラブ対西側世界の激しい戦いが始まるのだという予告のようなこと、そういう発言をした。それをからかうように(アメリカが)「すべての戦争の母」ではなくて、「すべての爆弾の母」と名付けた兵器があったんですね。当時は使われることはありませんでした。馬鹿でかい爆弾で、これが1発爆発すると、半径500メートルくらいの範囲内で、いや、もっと1キロくらいじゃないかと思いますが、非常に広い範囲で酸欠が起きて、中にいる生きとし生けるものが命を奪われるというような大変な爆弾な訳ですね。後に、アフガニスタンで米軍が何度か使ったようです。地下壕を掘って迷路のようになったタリバンの陣地を攻撃するのに使ったようですが、その効果がどうだったかという話はとんと聞かないので分かりませんが、今回、それに近いものをロシアが使ったのではないかと思います。それが大変な衝撃波を生じていく。これで陣地を守っているウクライナ兵を殺害するということが目的だったのではないか。
そのあと、もう一つあるんですね。テルミット焼夷弾という、私は全然知りませんでしたが、色々な方の発言の中でそんなものがあるということに改めて驚いたのですが、大変高温で燃える燃焼材を上からばらまく。一時期白燐弾と言われていたものですね、あれは白燐弾ではなくて焼夷弾。太平洋戦争中に東京大空襲とか、どこの空襲でもそうでしたが、あのときに使われた焼夷弾はケロシンでしたかね、あれも燃焼物質を使ったわけですが、あんなものではない。(今回のものは)2,000度から3,000度の温度で燃えるということなので、コンクリートも突き破る、人間の身体に触れると、エグい言い方ですけれど、骨まで溶かしてしまうという滅茶苦茶えげつない兵器です。まさに人を含めて何もかも燃やし尽くすための兵器。これを同時に使って、この二つの兵器を使うことによって陣地を突破し、比較的有利な立場をロシア軍が築いたという、そういう報道ですね。これ、ほとんど核兵器を使ったのに等しい状況だと思いますが、とにかくそんなことになっている。
非人道兵器を使ってウクライナ軍の陣地を一部突破した…。で、その状況にウクライナ軍は耐えつつ、撤退戦も始まっているということ。で、ルガンスクとドネツクに関しては、かなりの面積をロシア軍が支配するに至っているということは、ゼレンスキー大統領も認めていて、ウクライナ国土の20%をロシアが支配しているということを言っている。だから米国はもっと有効な兵器を寄越せということも言っているわけですが。
で、その後の状況に関しては、ロシア軍はどんどん兵員が足りなくなってくる、おそらく誘導兵器などもあまり作れなくなっていくのではないか、というような想像がある。制裁なども影響して、兵器を作れなくなっている、最新鋭の戦車などはもう作れないのではないかと言われている。それに対してウクライナ側は最新兵器、とくに長射程の、長い距離を飛ばす連装ロケットですかね、これはもともと相手の後ろ側をやっつけるというか、榴弾砲とか兵站のようなところを直接、長距離のロケットで壊滅させるというようなことが目的で使うようですが。これ、射程がかなり長くとれるようなもので、それが欲しいと言ったところ、アメリカは最初、ロシア領内を直接攻撃できるような兵器は与えないのだとバイデンさんが言った。でもそれに対して批判が巻き起こったら、すぐ撤回して多連装ミサイルというか、それを供与することになりました(* ただし長射程のロケット弾は供与しない)。
この辺もちょっと面白いところですけれど、アメリカも確たる方針があって、それに則って粛々とやっているというよりは、批判を受けつつ動揺しながらやっているという姿に見えます。ただこれによってロシア軍とウクライナ軍との力の差というのは、東部での戦いがどんな結末を迎えるかにもよるのでしょうが、いずれはウクライナ軍が優勢になり、ロシア軍は撃つ弾もなくなっていくだろうという感じですね、極端な言い方をすれば。ただそれまでにどれだけ犠牲が広がるのだろうということも当然ありますが。
で、南部の方では一部でウクライナ軍が反転攻勢に出ているとか、色々な情報がありますが、ウクライナ軍は先ほどいった兵器の中で、榴弾砲のような重火器がだんだん仕事をし始めていて、色々なところで反転攻勢が始まってくるだろうということですね。ただ、これは戦況の話ですから時間が掛かるのだろうと思うのですが、そんな中、大ニュースが飛び込んできました。
そういう機関があるということを知らなかったのですが、クレジットデリバティブ決定委員会という、つまり世界の金融市場をコントロールする協議体のようなものがあり、そこが、ロシアの国債を当初はデフォルトが回避されたと言っていたのですが、4月4日償還分で、結局、回避できていなかったという結論になり、つまりデフォルトになってしまったのです。これ、ドル建てだそうですので、もうロシアは国外で債券を募集することが出来なくなる。まあ、資金集めが超やりにくくなるということですかね。それでもいいよと言ってくれるところがあるかも分かりませんが。こうなると戦費調達もままならない状況になると思われますし、これはアナウンス効果も絶大ですよね。ロシア国債(ドル建て)デフォルトということになれば、世界中からロシアはもうダメねというふうに見られるはずです。特に中国がこれによって方向を変えざるを得ないのではないかと思うのですが、それは推測に過ぎませんからもちろん分かりません。
どちらにしても、この状況になったらロシア兵、大変な数のロシア兵が今もウクライナ国内で攻撃を続けているわけですけれども、この人たちはやがて取り残されて、それこそ大きな意味での撤退戦を始めなければ、どれだけ犠牲者が出るか分からない状況だと思うのですね。ロシア兵、ウクライナ国内にいるロシア兵が皆殺しになることを望みたいなどとは思いませんので、早く引き上げて、もうこんな戦争を起こさない政府を早くロシアに作ってほしいと思うのですが。そういう状態にこれからなっていくのではないかなと思います。最近の言い方でいうと、戦争の終え方をどうしたら良いのかという話が色々なされていますけれども、相変わらずプーチンさんの人気、ロシア国内での人気は高いわけですし、とはいえ、地方議会の議員さんだとか、あるいは外交官とか(が反旗を翻し始めている)。
プーチンさんの親衛隊の中からも除隊願いが大量に出て、つまり自分たちはもう戦争に行きませんよという意思表示ですね。そういうことをする人たちも増えている。ロシア国内ではまだまだプーチンさんの絶対的な人気が高いのだけれど、少しずつ(戦争の)状況が分かってきて、おそらく最も悲惨な話は自分の家族や親戚やら友人やらがウクライナに行かされて戦死しているという、そのことさえよく分からずに行方不明になっているとかね。そういう人たち(の遺族や家族)が声を上げ始めていて、何かが変わる可能性もあるかもしれない。
ただ、どうでしょう、太平洋戦争の時の日本国内で、東条内閣に対する反政府運動が高まったということはなかったわけですしね。原爆が落とされたのは別に戦争終結を早めるためではなかったのでしょうが、日本中が空襲に遭ってグウの音も出ない状況になって初めて、天皇が戦争の終結を宣言するような形で日本政府はポツダム宣言を受諾するということになったわけでしょう。決して日本国内で政府に反対する動きがうんと強くなったということはなかったわけですよね。みんな現人神を信じていたかどうかは分からないけれど、戦争に必ずしも反対などしていなかった。そのことを考えると、ロシアも当時の日本とは違うかもしれないですが、非常に悲惨な状態に陥る、例えば物価がどんどん上がって市民社会がパニックを起こすような…。そんな状態に落ち込んで初めて戦争が終わるのかもしれない。何かプーチンさんが考えを改めるとか、それ以外の人が政権について戦争に対して全く違った態度をとるようになるとか。ということを期待していいのか…、いや、期待できないのではないかなという気がしておりますね。
だからいわゆる西側諸国でも、ロシアにどう対応するかについては、ややあまり追い詰めてはいけないといっているマクロンさんのような立場から、いや、甘い顔を見せてはいけないのだというところまで、様々なようですね。テレビなんかではそれをナチスに対する態度の問題。第一次大戦でドイツに過剰な賠償を負わせてしまったためにナチスが台頭したのだという見方から、あるはいナチスがチェコの一部を占領したときにそれに対して断固たる措置を執らなかった、甘やかしたのであんなことになったのだという見方まで、温度差があるようです。なかなか一致して対応することが難しくなっているのかもしれません。
どちらにしても、そうしたことを含めて、これからの状況を決めていく最大の要素は、悲しいかな戦況ということですよね。実力同士のぶつかり合いの世界のなかで、もちろん色々なものを反映して武器が変わってきたり、兵力の損耗のあり方が変わってきたり、様々変化の要素がある中で、結果として軍事的にウクライナ側がロシアを抑えることが出来るのか、その逆になるのか、この辺が一番大きな要素になっているということだと思います。なかなか、今後100年くらいの世界のあり方を決める滅茶苦茶大きな話だと思いますので、それについての勉強の仕方、議論の仕方を含めて、細かく見ていくべきことではないのかと思っています。
●エネルギー高・ルーブル高で荒稼ぎするプーチンロシアが抱える時限爆弾 6/8
ロシアのウクライナ侵攻からほぼ100日が経過した6月1日、金融派生商品(デリバティブ)を扱う世界の大手金融機関で構成されるクレジット・デリバティブ決定委員会は、ロシア政府が支払い不履行(デフォルト)に陥ったと認定した。ロシアが期限に遅れて元利を償還した米ドル建て国債について、約1カ月分の延滞利息のおよそ190万ドル(約2億4000万円)が上乗せして払われなかったことが判断理由だ。
このデフォルトは、国連憲章に違反して主権国家ウクライナを侵略したロシアに対する制裁として、世界中の大半の国際決済や資産保有がドルで行われるという基軸通貨の特権を持つ米国が、ロシア財務省のドル建て債償還業務を代行する米金融機関による支払いを意図的に阻んだ結果である。
そのため、ロシアのアントン・シルアノフ財務相は、「われわれには資金と支払う意思がある」にもかかわらず、「非友好的な国が人為的に作り出した状況」に直面していると述べ、裁判などで徹底的に争う構えだ。
欧州など世界各国がロシア産の天然ガスや原油に深く依存し、制裁下でも購入を続けざるを得ないことに加え、最近の資源相場急騰で国庫が潤うロシアに「支払い意思と能力はある」との主張は、事実に照らして正しい。
だが、米国や欧州、さらに日本による金融制裁という「人為的な状況」を作り出したのがロシアによる違法な戦争であったことに鑑みると、侵略を止めないことで生み出された自業自得の苦境に文句を言うのは筋違いであろう。
いずれにせよ、今回のロシアによるデフォルトは、世界の重要な国際決済や資産保有の大半が米ドルで行われており、大国のロシアや中国でさえ有効な対抗手段を持たないという現実を改めて突き付けた。
こうした中、「ロシア経済は欧米の金融・経済制裁によく耐えており、制裁は失敗に終わった」「ロシアへの制裁で苦しんでいるのは西側諸国だ」「欧米による対ロシア金融制裁は、ロシアと同じ運命を恐れる各国の米ドル資産保有や米ドル決済を漸減させ、米ドルの基軸通貨としての地位が低下する」との主張が中国やロシアのメディアで目につく。米国や日本の論壇においても、類似の論調を見かけることが増えている。
そのような意見は、より大きな流れである「中国台頭による米国衰退論」や「大国中国と仲良くすべき論」、さらには「ウクライナ戦争は欧米に責任がある論」と通底するものがある。
東西間の新冷戦がエスカレートする中、それらの言説を成立させている成分や要素、さらには政治的背景を明らかにすることは重要ではないだろうか。そこで、本稿では(1)対露制裁失敗論、および(2)この先数カ月のロシア経済の展開の二つのテーマを検証したい。
逆に増えているロシアの天然ガス・石油収入
ロシアのプーチン大統領は、開戦から2カ月足らずの4月18日に、早くも対ロシア制裁が失敗に終わったと結論付け、次のように主張した。
「ロシアの市場にパニックを引き起こし、銀行システムを破壊し、物資を急減させることを狙った経済制裁は明らかに失敗した」「ロシアは前例がない圧力に耐えつつ、安定を維持している」
確かに、ロシアの通貨ルーブルの対米ドルレートは2022年の年初からむしろ上げており、制裁による一時の急落にもかかわらず、世界の通貨の中で今年最も価値が上昇している「エース」だ。
また、市民のパニック的な買い占めにより砂糖や塩、主食のソバの実やサラダ油、さらには生理用品などで一時的な物不足が生じた。だが、現在のところロシア国内における食料や必需品の供給は潤沢であり、懸念された店頭における長い行列や品不足の長期化は起こっていない。
さらに、一部の「非友好国」に対する天然ガスや原油の輸出がロシア側・欧州側の双方で停止され、禁輸がさらに強化されているが、世界的なインフレや堅調な需要を反映したエネルギー価格の高騰は続いており、1日平均8億ドル(約1040億円)とされる資源売却収入で、ロシアの経常黒字は逆に増加する一方だ。2022年のロシアの天然ガス・石油収入は、前年比20%増の2850億ドル(約37兆円)に達する見通しという。
こうした中、ロシア政府はオーストリアのエネルギー企業OMVなど、多くの欧州のエネルギーの買い手に対して、ルーブルによる支払いを認めさせるという勝利を収めた。
結果として、決済手段としてのルーブルに対する需要の高まりがさらなるルーブル高を招く「好循環」が生まれている。過度のルーブル高が資源輸出価格を高騰させ、経常収支に悪影響を与えることを心配するロシア中央銀行が、ルーブル安への為替操作を狙って、一時は20%まで引き上げた政策金利を5月下旬に11%まで下げ、さらに米ドルの海外持ち出し額の緩和など戦時資本規制を一部緩めたほどである。
欧米市場で締め出されつつあるロシアの天然ガスと原油は、中国やインドなどが割引価格で買い取っている。中印に値切られても、資源価格自体が高止まりしているため、ロシアにとってあまり痛くない。
また、ロシアには資源輸出関連の制裁逃れの抜け穴がいくつもある。たとえば、インドのコングロマリットであるリライアンス・インダストリーズは、市価より安く大量に仕入れたロシア産原油を精製の上、他国産の石油製品とミックスさせて産地をわからなくした「混合石油」を合法的に国際市場で売りさばいて利潤を得ているとされる。
ロシア国債のデフォルトに関しても、既に元本が支払われたこと、未払い利息が非常に小さな規模であることを踏まえると、今回のクレジット・デリバティブ決定委員会の判断がロシア債の広範なデフォルトにつながる恐れはない。
政治コンサルタント会社、Rポリティクの創業者であるタチアナ・スタノワヤ氏は米ブルームバーグに対して、「プーチン大統領の戦略は、こうした(ロシアの経済的苦境の)状況が過ぎ去るのを待つことだ。(そうすれば逆に)西側が近く大きな経済的問題に直面し、(制裁を加えることで浴びる「返り血」に対する)国民の不満が高まると予想しているため、十分に時間があると確信している」と指摘している。
徐々に実体経済を蝕み始めた西側制裁の「毒」
想像以上の耐性を見せるロシア経済だが、その「回復」は、ロシアの国内市場を外国から切り離し、人為的な経済統制を敷くことで維持される、市場の需給を無視した官製相場によって成り立っている。強制的に生み出された需要で支えられる国内ルーブル相場と、自由な取引で値が決まる国外相場の乖離は大きくなるばかりだ。
奇しくも、プーチン大統領が「対露経済制裁失敗論」をぶち上げた4月18日、自由主義改革派と目されるロシア中銀のエリヴィラ・ナビウリナ総裁は、「ロシア経済が金融準備で存続できる期間には限りがある」と指摘した。プーチン発言を否定するような彼女の指摘は注目を集めた。
西側の制裁についてナビウリナ総裁は、「今後、経済への影響が拡大し始める。輸入制限と外国貿易の物流が主要課題」「4〜6月期および7〜9月期には、構造転換と新たなビジネスモデルの模索という局面に入る」と語り、制裁効果が長期的にロシアを苦しめることになると示唆した。
これには、相当の理由がある。
まず、ロシア中銀は5月26日に、国内金融機関の貸し出しが弱いと明らかにした。これは、制裁の影響で国内の経済活動が大きく鈍っていることを示唆するものだ。
また、ロシア財務省が発表した、消費などにかかる4月の付加価値税の歳入は、前年同期比で54%も落ち込んでいる。同月の小売業売上も前年比9.7%減少した。ロシアの国内総生産(GDP)のおよそ半分が消費で生み出されることを考えれば、制裁の影響が小さくないことがわかる。
流出した財務省の内部予測では、2022年のGDPが開戦前の予測である前年比3%の成長ではなく、最大12%のマイナス成長となる可能性が示されている。同省の読み通りであれば、約10年分の経済成長が帳消しになる計算だ。そのため、シルアノフ財務相は5月27日、景気刺激に向けた8兆ルーブル(約17兆4112億円)の予算を計上すると発表した。
西側の制裁の影響で、4月に前年比で17.8%まで跳ね上がったロシア国内の物価上昇率は5月に17.5%と高止まりしており、消費者心理をさらに冷やす懸念がある。カリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーン教授は、「インフレ率は今年中に20%を超えると予測されており、ロシア国民の生活水準は顕著に悪化する」と見る。
一方、ロシアはほぼすべての耐久消費財、また一部の生産財を輸入に依存しているが、世界三大海運会社であるデンマークのマースク、スイスのMSC、米CMA CGMがこぞってロシア発着貨物の引き受けを停止。航空貨物も運休状態であり、部品不足解消のため航空機の「共食い」解体による他の航空機へのパーツ供給も進む。一部の国内鉄道においても輸入部品やサービスの供給が途絶したことで、物資・乗客輸送が徐々に困難になろう。
ビタリー・サベリエフ運輸相も、「西側諸国の制裁でロシアの貿易・物流が事実上、破壊された」「われわれは新たな物流ルートを探さなければならない」と認めている。
エネルギーで稼いだ資金の使い道がないプーチン大統領
実際に、4月の輸入は前年同月比で50%減少したとの国際金融協会による推計がある。ドイツのロベルト・ハーベック副首相の言葉を借りれば、「プーチンは未だに(資源売却で)荒稼ぎしているが、その売却益をほとんど使えない状態に置かれている」のである。
米サプライチェーン調査企業のフォーカイツによれば、開戦前と比較して、ロシアの消費財の輸入は76%落ち込んでいる。そのため、日用品において外国産への依存を減らすべく導入された輸入代替政策にもかかわらず、スマートフォンから生理用品に至るまで品不足が顕在化してゆくことが予想される。既に、便器や流し台は不足が報じられている。
米ニューヨーク・タイムズ紙が伝えるところによれば、アパレル製造企業が材料のボタン不足を訴えるなど、各製造業分野で輸入在庫が底をつき始めた。特にエアバッグやアンチロック・ブレーキシステム(ABS)センサー、環境対策部品などの輸入が途絶した自動車生産は、4月に前年同期比で85.4%も急減(政府発表では61%減少)している。
一方、在庫が払底したロシアの自動車販売店のショールームは閑散としている(トヨタロシア元社長、西谷公明氏による「ニュースソクラ」への寄稿)。欧州ビジネス協会(AEB)は、4月のロシア国内販売台数が前年同月比で79%減少したと報告している。その上、修理サービス部品や保証サービス部品の入手も困難で、販売ネットワークの維持が困難になっているという。
医療機関でも4月から、使い捨て手袋、縫合手術用品、カテーテルをはじめ、透析機器や人工呼吸器のスペア部品調達が困難になり始めている。
ロシアは開戦以降の輸出入や失業率の一部統計発表を取りやめているが、これらの分野は公表をはばかられるほど手痛い打撃を受けていることが推測される。「従業員に対して、事業停止の可能性を通告する企業も増えている」と、米コンサルタント企業マクロアドバイザリーのアナリストであるクリス・ウィーファー氏は米公共ラジオPBSで語っている。
ロシア国内で企業により自宅待機を言い渡された従業員の数は、3月上旬の4万4000人から5月中旬に13万8000人に急増した。大企業が「特別軍事作戦」期間中の従業員の安易な解雇を禁じられる一方、賃金カットやそれに伴う労働争議の多発が予想される。
そうした中、4月に4%であった失業率は中小企業を中心に夏季から上昇を始め、2022年末には7〜9%に増加すると予想される。ロシアのシンクタンクの戦略研究センターによれば、失業者は今年中に200万人の増加が見込まれる。
かねてより指摘される失業保険制度の貧弱さを考えれば、特に非エネルギー分野の雇用減少による国民生活への悪影響が懸念されるところだ。
ロシア国営の開発対外経済銀行(VEB)は、所得が貧困線を下回っている人の割合である貧困率が、今年中に1.5ポイント以上増加して、12.6%に悪化すると予想する。生鮮スーパーなどでは食品価格高騰を受けて、万引き被害が急増しているという報道があるのも、苦境に陥る市民が増えているからだろう。
プーチン大統領はインフレ高進を受け、5月に最低賃金や生活賃金、および年金を約10%引き上げると発表したが、そのような小手先の対策で、収入減や失業をはじめとする国民が中長期的に直面する深刻な問題を解決できるのか、疑問が残る。
ロシア経済のアキレス腱とは
こうした中、ロシアの資源輸出はさらなる制裁で先細りしていくだろう。また、デフォルトによる国際金融市場からの締め出しも、真綿で首を絞めるように効いてくる。
それでも、「特別軍事作戦」を実施中のロシアでは、この先、ますます戦費が膨張する。事実、シルアノフ財務相は5月27日に、「特別作戦には資金と膨大な資源が必要だ」と述べた。ロシア財政は、巨額の戦費をいつまで支えられるだろうか。
加えて、ロシアで生産できない半導体や精密部品の輸入の滞りは、兵器製造の遅れなど供給面で「特別軍事作戦」に悪影響を及ぼしていると、国営SPARC テクノロジー・モスクワセンター(MCST)が報告している。
ロシア経済の「回復」は、世界経済の景気後退や他の産油国の増産などで資源価格が急落するようなことがあれば、支え切れずに崩壊してしまう脆い性格のものであることにも留意の必要がある。
ロシアの資源輸出への依存度は、開戦前より深まっている。だから、消耗戦に突入した現局面において、ロシアの最大の強みである「経常黒字の増加」が逆転を始めるようなことがあれば、ロシアは名実ともにウクライナ侵略戦争に敗北する。
●V字回復したルーブル相場、ロシア経済は本当に制裁で弱体化しているのか 6/8
ロシアの通貨ルーブルの相場が予想外に回復している。
ルーブルの対ドルレートは、欧米を中心とする国際社会による経済・金融制裁を受けて大暴落し、1ドル70ルーブル台半ばから3月中旬には一時120ルーブル台に値を下げた。しかしその後、ルーブルの対ドルレートは急回復し、5月後半には50ルーブル台まで値を戻した。
ではなぜ、ルーブルは「V字回復」を果たすことができたのか。
欧米を中心とする国際社会による経済・金融制裁のため、ロシア当局は日米欧の中銀に預けている外貨準備にアクセスできない。ロシアによる為替介入など困難な状況であるはずだが、そのロシアにおいて、安定的に外貨を稼いでいるのが、半国営のガスプロムである。
世界最大のガス企業であるのガスプロムは、ドイツやイタリアなどヨーロッパの需要家に対して、傘下の金融子会社であるガスプロムバンクに口座を開設させ、そこに代金を振り込ませている。そして得られたユーロや米ドルを、ロシア政府の意向を受けたガスプロムバンクが為替市場でルーブルに交換している可能性が考えられる。
そもそもロシアは、主要行の多くが国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除されため、貿易決済が困難となっている。それに、ロシアの銀行では3月9日から半年間、外貨からルーブルへの両替だけが可能であり、その逆の両替が停止されている。したがって、為替市場ではルーブルの商いが薄く、為替レートは変動しやすい状況にある。
こうしたことから、ガスプロムバンクによる限定的な取引にもかかわらず、ルーブル相場は急回復したのではないだろうか。ただ、このスキームは、ヨーロッパ側がロシア産の天然ガスを購入する限りでしか持続しない。ルーブルの急回復はロシアの経済構造を反映したものだろうが、だからといってロシア経済が盤石だとは評価できない。
生産関連指標の急速な悪化を示唆すること
ロシアはウクライナに侵攻して以降、統計の公表を遅らせている。特に貿易統計は公表が遅れており、最新分は3月に公表された1月分のデータにとどまっている。ロシア通関は投機を回避する目的から貿易統計の公表を一時的に延期すると説明したが、制裁の影響が色濃く反映されているので公表を止めたというのが実情だろう。
他方で、発表の時期は遅れながらも、公表そのものは続いている月次統計も少なくない。そうした統計の多くが、ロシアの景気が急速に悪化している様相を示唆している。
例えば、ロシア経済開発貿易省が公表した4月の月次GDPは前年比3.0%と前月(同+1.3%)から悪化した。主な原因は、製造業の業況の悪化にあるようだ。
事実、4月のロシアの鉱工業生産は前年比1.6%と3月(同+3.1%)から悪化した。特に悪化したのは製造業であり、4月は前年比2.1%と3月(同0.4%)からマイナス幅を拡大させた。その中でも深刻な打撃を受けているのが自動車関連であり、4月は同61.5%と3月(同45.5%)から一段と減産幅が拡大した。状況は極めて厳しい。
なお、2021年4月の自動車関連は前年比+153.8%と、新型コロナの感染拡大に伴って大幅な前年割れとなった20年4月(59.6%)の反動から、極めて堅調だった。今年の4月の数字はその反動も含んでいるが、新型コロナの感染拡大前の19年4月を100とすると今年4月の水準は39.5であり、制裁の影響が大きい。
その他にも、電気機器などで前年割れが続いている。
国際社会による経済・金融制裁に伴い、素材や中間財の輸入が難しくなったこと、欧米を中心に外資が相次いで撤退を表明して人手を引き上げたことなどが、製造業の生産の悪化につながったと判断される。5月以降も製造業は、石油化学など一部の業種を除けば厳しい状況が続くはずだ。
新車販売台数の強烈なマイナス幅
生産だけでなく、個人消費の関連指標を確認してみよう。
4月の小売売上高は前年比9.7%と、2021年3月以来の前年割れに転じた。また、消費者物価で割り引いた実質ベースでは、同27.5%と3月(同14.5%)からさらにマイナス幅が拡大した。2021年4月の前年比の伸び率が高かったことを踏まえても、小売売上高は急速に悪化している。
さらに、厳しいのが新車市場だ。
在ロシア欧州ビジネス協会(AEB)によると、4月の新車販売台数(乗用車と小型商用車の新車販売台数)は78.5%(3万2706台)と、統計開始以来のマイナス幅を記録した。国内の生産が停止したことで、新車の価格が1カ月で30〜60%も急騰したことが販売不振の背景にあるとAEBは説明している。
物価に関しては、最新4月の消費者物価が前年比+20.4%と3月(同+18.7%)から上昇が加速した。とはいえ加速のピッチそのものは鈍化しており、ロシア中銀は一時20%まで引き上げていた政策金利を5月の臨時会合で11%まで引き下げた。プーチン政権も年金支給額や最低賃金の引き上げなど、インフレ対応策を強化している。
ただ、所得環境を多少改善させたところで、物価高の主因は通貨安からモノ不足を反映したものに代わっていくだろう。そのため、ロシアでディスインフレ(インフレ率が徐々に低下すること)はそれほど進まないはずだ。需要を抑圧するモノ不足を解消することができない限り、消費の低迷を解決させることなど不可能だろう。
経済の実勢と乖離するルーブル相場
統計の信ぴょう性はともかく、公表されている統計を概観する限り、ロシアの景気は着実に悪化している。その一方で、ルーブルの為替レートはロシアの経済の実勢と乖離している。言い換えれば、この為替レートが保てているからこそ、ロシアの所得流出はまだ抑制されていると言えるのかもしれない。
ロシアと欧米との貿易は減少しているはずだが、その分、インドや中国など有力な新興国との貿易は増えているという見方もある。原材料や中間財のみならず、ロシアで生産できない消費財を購入する観点から言えば、ルーブル相場は安定していた方が望ましい。そうしたことから、ロシア当局は通貨の安定に注力しているのではないか。
いずれにせよ、予想外に回復したルーブル相場をもってして、ロシアの景気が底堅いという評価するには無理がある。欧米を中心とする国際社会による経済・金融制裁は、着実にロシアの経済に打撃を与えていると考える方が自然だろう。公表が延期されている通関統計が確認できるようになれば、実像が浮かび上がってくるはずである。
ただ、制裁の影響が色濃く反映されていると考えられる以上、ロシアが通関統計の公表を早期に再開するとは考えにくい。加えて、現在公表されている経済統計も、そのうちに公表が取り止められる可能性もある。仮にそうなれば、そうした行為自体が経済・金融制裁によってロシア経済が強い影響を被っていることの証左かもしれない。
●OECD、戦争で高い代償と指摘−輸出協議に進展なし 6/8
世界経済は成長鈍化、インフレ高進、長期にもわたる恐れのあるサプライチェーンへのダメージという「高いコスト」を支払うことになるだろうと、経済協力開発機構(OECD)が8日発表した経済見通しで指摘した。
ロシアはラブロフ外相がトルコを訪問し、ウクライナ産穀物の海上輸送封鎖解除を協議したが、合意に向けた進展の兆しは見られていない。この協議に招かれなかったとするウクライナ政府はロシアの意図について懐疑的で、穀物輸出を可能にする安全保障上の強力な保証を求めている。 
メルケル前独首相はロシアのプーチン大統領について、ウクライナ侵攻により「大きな過ち」を犯したと指摘。ただ、ロシアを孤立化させることは長期にわたり不可能だと警告した。
トルコ大統領、スウェーデンとフィンランドに対し強硬姿勢維持
トルコのエルドアン大統領は、スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟に反対する姿勢を軟化させてはいないことを示唆した。自身が脅威と見なすクルド人集団を支持しテロの温床になっているとして、両国を再び非難した。エルドアン氏はアンカラで、「テロリストの指導者がスウェーデンの国営放送でインタビューを受けている。そうである限り、NATO加盟は認められない。フィンランドも同様だ」と語った。
ロシアのインフレ率、予想以上に減速
ロシアのインフレ率は予想以上に減速した。10日にロシア中央銀行が発表する金融政策判断では利下げが確実視される。ロシア連邦統計局が8日発表した5月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比17.1%。ブルームバーグが調査したエコノミスト20人の予想中央値は17.4%だった。4月は17.8%だった。
マイクロソフト、ロシア事業を大幅縮小
米マイクロソフトはロシア事業を大幅に縮小する。ウクライナ侵攻でロシア事業の縮小や撤退を決める大手テクノロジー企業は相次いでいる。発表文によると、400人余りの従業員に影響が及ぶ。既存の契約上の義務は引き続き履行するが、新規販売は停止する。
ウクライナ、現状での停戦による和平を拒否
ウクライナの利益が考慮されず現状での長期停戦を求める和平合意は同国には不要だと、クレバ外相が語った。いかなる交渉であれウクライナの関与が不可欠だと主張した。「ウクライナ抜きの合意は認められない」と同外相は述べ、2014年と15年のミンスク停戦合意でロシアが支持するドンバス地方の分離主義勢力との対立が終わらなかったことを指摘した。
ウクライナの戦争、世界経済に長期的な影響−OECD
世界経済はウクライナでの戦争によって成長鈍化、インフレ高進、長期にもわたる恐れのあるサプライチェーンへのダメージという「高いコスト」を支払うことになるだろうと、経済協力開発機構(OECD)が指摘した。
トルコとロシア、ウクライナ産穀物輸出巡り進展なし
ウクライナ産穀物の海上輸送を巡るトルコとロシアの交渉は、進展の兆しが見られていない。一方、この交渉に招かれなかったとするウクライナのゼレンスキー大統領はドイツのショルツ首相と電話会談し、海上輸送を中心に穀物輸出を後押しするためあらゆる手を尽くすことが必要だとの認識で一致した。トルコのチャブシオール外相は、ウクライナが機雷のある水域を誘導して安全に航行させる意思を示したと述べたが、今のところウクライナ政府は確認していない。ロシアはこれをウクライナの港湾攻撃に利用することはないとしているが、侵攻前に攻撃する計画はないと再三表明していた例を引き合いに出し、ウクライナはロシアの約束に懐疑的な見解を示している。
メルケル氏、ロシアを孤立させるのは不可能
メルケル前独首相はベルリン中心部の劇場のステージでインタビューに応じ、ロシアのプーチン大統領について、ウクライナ侵攻により「大きな過ち」を犯したと指摘。ただ、ロシアを孤立化させることは長期にわたり不可能だと警告した。メルケル氏が首相退任後に公の場で聴衆を前に発言したのは初めて。
世銀、ウクライナへの14.9億ドル融資を承認
世界銀行理事会はウェブサイトに掲載した声明で、総額40億ドル(約5330億円)強のウクライナ向け支援パッケージの一環で、14億9000万ドルの追加融資を承認したと明らかにした。
ウクライナ、黒海での確実な安全の保証必要
ウクライナ外務省は電子メールで送付した声明で、同国南部の穀物ターミナルの倉庫がロシア軍によって破壊されたことから、黒海経由の輸送には確実な保証が必要だと主張。そのために武器の提供と、第三国の海軍による黒海のパトロールを求めた。
●世界的な景気後退、世界銀行が警告 ウクライナ侵攻の影響 6/8
世界銀行は7日、世界各国が景気後退に直面していると警告した。新型コロナウイルスの大流行ですでに大きく揺らいでいた経済に、ウクライナでの戦争が追い打ちをかけているとしている。
世銀はこの日、6月の世界経済見通しを発表した。デイヴィッド・マルパス総裁はその中で、高インフレと低成長が同時に起こる「スタグフレーション」の危険性が「かなり大きい」と警告。以下の見方を示した。
「世界のほとんどの国で投資が低迷しているため、低成長が10年は続く可能性が高い。多くの国ではインフレ率が過去数十年で最高水準にあり、供給増も緩やかと予想されるため、インフレ率がさらに長く高止まりする恐れがある」
世界各地でこのところ、エネルギーと食料の価格が上昇している。
マルパス氏は、「ウクライナでの戦争、中国でのロックダウン、サプライチェーンの混乱、スタグフレーションのリスクが、成長に打撃を与えている。多くの国にとって、景気後退は避けられないだろう」とした。
マルパス氏によると、世界の成長率は2021〜2024年に2.7%ポイント低下すると予測されている。これは、1976〜1979年の直近の世界的スタグフレーションでみられた低下の2倍以上だという。
東アジアなどで「大規模な不況」
今回の経済見通しは、ヨーロッパと東アジアの開発途上国で「大規模な景気後退」が生じるとした。
また、ヨーロッパで今年最も経済生産高が急落する可能性が高いのは、ウクライナとロシアだと予測した。
ただ、戦争と新型ウイルスの影響は、さらに広い範囲に及ぶと警告した。
マルパス氏は、「世界的な景気後退が回避されたとしても、スタグフレーションの痛みは数年間続く可能性がある」と指摘した。
経済見通しはさらに、1970年代末のインフレ抑制のための金利上昇が急激だったことが、1982年の世界同時不況と、新興市場や発展途上国での一連の金融危機を引き起こしたと警告した。
しかし1970年代は、ドルが現在より安く、石油は相対的に高価だった。
ダーシニ・デイヴィッド国際通商担当編集委員
ロシアによるウクライナ侵攻から100日以上が経過した。震源地から何千キロも離れた国や家庭を襲っている衝撃の大きさが、今まさに明らかになってきている。
開発途上国は以前から、経済の立て直しに苦労していた。各世帯の一般的な収入は、パンデミック前の20ドルにつき現在は19ドルまで減っている。
食料とエネルギー価格の高騰は、生活を一段と悪化させ、最も弱い立場の人々を悲惨で苦しい状況へと追いやる。
貧しい国だけの話ではない。ある調査によると、イギリスの全世帯の6分の1が、食料を支援するフードバンクを利用している。
このような世界的な苦境は、インフレ緩和のための金利上昇によってさらに悪化する恐れがある。パンデミックの影響緩和のための政府支援が消滅に向かっている時期に、ちょうど重なるかもしれない。
世界銀行は、債務救済や、食料輸出における制限の非設定など、各国に早急な対応を求めている。政策立案者らに対し、食料とエネルギーの供給を保護し、不安定な市場を安定させ、価格高騰を緩和するために、一致して行動するよう求めている。
各国の政策立案者は、すでに極めて厳しい闘いに取り組んできた。
しかし世銀は、いま何もしなければ、さらに長く痛みも大きい危機が訪れるかもしれないと示唆している。
現在の苦難は、単に不幸や社会不安を意味するだけではない。何年にもわたって人々の生活を苦しめる恐れがある。
●ウクライナ、ロシア軍の戦争犯罪記録集を発行へ=大統領 6/8
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日のビデオ演説で、同国に侵攻したロシア軍の戦争犯罪の記録を集めた出版物を発行すると表明した。
ウクライナ検察当局は、ロシア軍の戦争犯罪の容疑者として600人以上を特定し、うち約80人の訴追手続きを始めたと明らかにしていいる。
ゼレンスキー氏は特別出版物の題名は「The Book of Executioners(死刑執行人の記録)」にするとし、「ウクライナ人に対して紛れもない極悪犯罪を犯した具体的な個人に関する具体的事実」があると語った。
●死を覚悟した男と、「暗い絵」を描く子供たち...ウクライナで見た「平和」の現実 6/8
ポーランドの首都ワルシャワから長距離バスで9時間弱、ウクライナ西部リビウに到着した。バス停周辺には避難者の休憩所や簡易レストランがあるものの、太陽がさんさんと照りつけるリビウの街は若者やカップルでにぎわっている。ウクライナ東部でロシア軍との激しい攻防が続いていることがまるでウソのようだ。
人力車をモデルにした着脱式の車イス補助具「JINRIKI QUICK(ジンリキ・クイック)」をウクライナに寄贈するキャラバンのため5月28日〜6月6日にかけポーランドのワルシャワやクラクフ、ルブリンを回った筆者はウクライナに転進した。国境で出国の理由を聞かれたものの「プレスだ」と答えるとすんなりウクライナに入ることができた。
バスの乗客はほとんど女性で、子連れの母親も目立った。中には、ロシア軍と戦うためウクライナに残った夫に会いに行く『通い妻』もいるそうだ。
リビウ中心部のホテルで一泊して翌朝、メディアセンターで登録を済ませた。ウクライナ戦争は東部戦線に縮小したため、メディアセンターは閑古鳥が鳴いていた。街で散髪し、眼鏡をつくった。眼鏡店の女性眼鏡技師リラさんは「大学で学びながら眼鏡店で働いています」と笑顔を見せた。理容店の女性もにこやかだ。表通りでは戦争の影は全く感じられなかった。
バスに乗って南へ約20分のストリスキー公園にある国立リビウ工科大学体育館では避難者約320人が暮らしている。500人収容可能で、ピーク時に最大450人が避難していた。「首都キーウや北東部ハルキフ、南東部マリウポリ、東部ドンバスなど全国から逃げてきた人たちが暮らしています」とボランティアのニコラ・ブリッジ准教授(電気通信)は語る。
「戦争が続いているので多くの人が帰宅できない」
「9つのホールのうち7つが避難所として使われています。まだ戦争が続いているので多くの人がわが家に戻ることができません。ここで働くボランティアは全員学生です」とブリッジ准教授は説明する。英語が堪能な学生アンドリー・ボビラさん(17)に案内してもらうと、昼間というのにホールは薄暗かった。避難者が休息のため電気を消してしまうからだ。
体育館には簡易ベッドが並べられ、ボクシングリングのロープに洗濯物が干されていた。ポーランドには今も約200万人のウクライナ人が避難しているが、その多くが今では一般家庭や長期滞在施設に受け入れられている。リビウの避難所はポーランドで見た短期滞在施設より環境が良いとはお世辞にも言えなかった。
ボビラさんに「国境を越えれば、もっと環境の良い施設で暮らせるのに、どうして避難者はポーランドに行かないのか」と質問すると、「祖国を離れたくないという人もいれば、お金のない人もいます。ロシア語しか話せない人も多いのです」と語る。意欲のある人は職を見つけられるが、ロシア語だけでは難しい。政府の援助金を当てにする人も少なくない。
避難者のルスラン・アリーユさん(21)は戦争が始まる前はハルキフのパン屋で働いていた。開戦初日の2月24日にロシア軍のロケット攻撃や死者を目の当たりにした。自宅も破壊され、翌25日に家族5人で列車に乗って逃げてきた。残りの家族はフランスに逃れたが、アリーユさんは残った。18〜60歳の男性はウクライナ国外に出られないからだ。
年老いた両親を残していけないと実家に残った母
「今は駅で食べ物をふるまうボランティア活動をしているよ。特に感じることはない。とにかく1日も早く戦争が終わって帰宅したい。それだけだ。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこれまでのウクライナの大統領の中で最高だ」とアリーユさんは語る。
ポーランドでは若くて健康なウクライナ人男性には出会わなかったが、リビウには筆者が想像していた以上に若い男性がいた。ウクライナに残った男が銃を取ってロシア軍と戦うか否かは実際のところ、それぞれの意志に委ねられているという。
ハルキフの警察学校で学んでいたヨハン・ハフハンコさんは東部ルハンスクの出身だ。ホールで簡易ベッドを組み立てていた。「ロシア軍が攻めてくると、すぐにハルキフからルハンスクの実家に戻りました。母は年老いた両親を残していけないと実家に残りました」。父とハフハンコさんはリビウに逃れてきた。母とは毎日、携帯電話で連絡を取っている。
この避難所でハフハンコさんは7歳の娘がいる女性と恋に落ち、同棲を始めた。「東部戦線のセカンドフロントで戦っている兄からは『ロシア軍の砲撃は激しく、重傷者が出ているので絶対に志願するな』と釘を刺されています。両親も行くなと言います。それでも祖国を守るために戦いたい」とハフハンコさんは語る。
すでに死を覚悟しているような静かな表情だったが、ガールフレンドと7歳の娘を残して前線には行けない。案内役のボビラさんは「大学では経営学を学んでいます。僕はまだ17歳で戦争に行かなくていい年齢です。18歳になる頃には戦争は終わっていると思います。授業はすべてオンラインに切り替えられ、週3日ここでボランティアをしています」と言う。
「暗い絵を描く子供たちもいる」
近くのユニセフ(国連児童基金)の仮設テント内には避難所の子供たちが作った雲と雨の飾り付けや、祖国の繁栄と健康を願う人形、大きな絵が飾られていた。幼児用品の提供や子供たちへの教育支援を行っている。女性ボランティアのオレーシャ・ダニシェンコさん(39)自身、キーウから逃れてきた避難者だ。その気になれば仕事はすぐに見つかるという。
「地域の子供たちを含めて100人以上がこのテントにやって来ます。みんなで大きなライオンやウクライナの絵を描いたり、ボードゲームやバレーボールを楽しんだりしています。しかし幼心に戦争体験が刻み込まれ、暗い絵を描く子供たちもいます。そうした場合、すぐに心理療法士に診てもらって心の支援をしています」とダニシェンコさんは語る。
避難所からの帰り、ベンチに座って休んでいた3人連れの兵士に出会った。うち1人は戦争が始まる前はロンドンで暮らしていた。「20年前に祖国で2年間、徴兵された経験がある。演習を終え、リビウに来たところだ。命じられれば東部戦線に戻るだろう。ロシア軍の砲撃が正確でないから、まだ助かっている。正確になれば大ごとだ。写真はダメだよ」と話す。
午後8時すぎ、リビウ中心部に空襲警報が鳴り響いた。しかし、みんな何事もなかったように平然と歩いている。「平和」になったというより「戦争」が日常化したと表現した方が正しいのかもしれない。
●ウクライナ情勢は「今日が勝負」 中村逸郎教授が読む今後の見通し 6/8
ロシア政治が専門の筑波学院大学・中村逸郎教授が6月8日(水)、ニッポン放送『辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!』に出演。今後のウクライナ情勢の見通しについて「今日が勝負」と述べた。
中村氏はその理由について、きょうロシアのラブロフ外相がウクライナ情勢の仲介役の国のひとつとされるトルコを訪問している点を挙げた。そのうえで、今週12日日曜が「ロシア建国の日」であることから、この日に何らかの大きな動きがあると推測。中村氏は「その日に合わせて(ロシアの)プーチン大統領、(ウクライナの)ゼレンスキー大統領、国連の代表者が、(トルコの)エルドアン大統領のもとに集まって、とにかく停戦交渉を行う」との見立てを述べた。
これに関して辛坊は、きのうロシアのショイグ国防相が激しい戦闘が続くウクライナ東部のルハンスク州について「97%を解放した」と述べたことに言及。この発言が「このへんで勘弁してやるという準備段階の発言かな」と思ったとし、中村氏も「ロシアはもう今、精一杯。(東部ルハンスク州を)取っておいて、これを維持するのにひとまず停戦交渉」と述べ、今の最前線を新たな国境線とする思惑がロシアにあると指摘した。中村氏は、そのロシアの思惑をウクライナ側が受け入れるかが停戦合意に至るかの肝になると語り、その鍵を握るのがアメリカがウクライナに供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」だとした。ウクライナ兵がハイマースを使用できるようになるまで、2〜3週間の訓練期間が必要だとし、ウクライナとしてもその時間稼ぎのための停戦が必要だと推察。いったん停戦合意したうえで、戦闘準備が整ったところで再び領土を取り戻す反転攻勢に出るだろうとの見立てを語った。
●「ウクライナの利益、考慮しない合意は拒否」…ロシア・トルコ外相会談に反発  6/8
ウクライナ外務省は7日、ロシア軍の黒海封鎖で穀物輸出が停滞している問題を巡り、ロシアとトルコの外相会談を前に声明を出し、「ウクライナの利益を考慮しない合意は拒否する」と強調した。ウクライナは、自国抜きに行われる協議がロシアのペースで進むことを警戒しており、ウクライナを交渉に加えることも求めた。
タス通信によると、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は7日夕、トルコの首都アンカラに到着した。8日に、トルコのメブリュト・チャブシオール外相と協議する見通しだ。ウクライナは参加しない。
ウクライナ外務省は声明で、トルコに対し、「封鎖解除に向けた努力に感謝する」とする一方、「ウクライナも含めた合意は、現状では存在しない」と述べた。ロシアは黒海封鎖を否定し、「ウクライナが機雷を設置している」などと主張している。
一方、ウクライナ海軍は6日、SNSを通じ、露海軍黒海艦隊が海岸から100キロ・メートル以上後退したと指摘した。ただ、クリミア半島や、露軍が制圧を宣言した南部ヘルソン州から露軍によるミサイル攻撃が強まっているという。
ウクライナ軍参謀本部によると、露軍は7日、東部ルハンスク州の要衝都市セベロドネツクに隣接するリシチャンスクなどにも砲撃を続けた。セルゲイ・ショイグ露国防相は7日、露軍幹部らと開いた会合でルハンスク州の「97%」を制圧したと主張したが、ウクライナ側も抗戦を続けている模様だ。
ウクライナ国営通信によると、東部ハルキウの市長は7日、同市内の住宅地が露軍の砲撃を受け、少なくとも1人が死亡したと明らかにした。同市では6日深夜にも砲撃があり、攻撃が再び強まっている。
●軍事作戦に参加しないはずのロシア徴集兵、600人投入で将校12人処分… 6/8
インターファクス通信によると、ロシア軍の検察当局は7日、徴集兵約600人をウクライナでの軍事作戦に投入したとして、将校12人を処分したと明らかにした。プーチン政権は侵攻で強制的な動員を行うことにより国内の反発が強まる事態を警戒しているようだ。
検察当局は、処分の詳細を明らかにしていないが、懲戒免職も含まれると説明した。また、徴集兵約600人全員を早急に帰還させたとも強調した。
露国防省は侵攻開始から間もない3月初旬、徴集兵を軍事作戦に参加させないと公言し、プーチン大統領も違反には厳正に対処する立場を示した。その直後、徴集兵が投入された数件の事例が明らかになり、政権は火消しに追われた。
ウクライナ国防省の情報機関は7日、4月中旬にウクライナ軍の攻撃で沈没した露海軍黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を巡り、露軍が乗組員の家族や親族らに連絡を取り合わないようにしているとの分析を示した。徴集兵の死亡や行方不明に関する情報の漏えいを防ぐのが主な目的だとし、補償金の支払い取り消しや刑事訴追をちらつかせ、従うよう脅迫していると指摘した。
●ウクライナ 東部セベロドネツク ロシア軍戦力投入で戦闘激化か  6/8
ウクライナ軍とロシア軍による攻防が続く東部のセベロドネツクについて地元の州知事は、ロシア側は今月10日までに掌握することを目指し大きな戦力を投入しているとして、この都市をめぐる戦闘がここ数日で一層激しくなる可能性に言及しました。
ウクライナ東部ルハンシク州のセベロドネツクについて、ロシアのショイグ国防相は7日「住宅地域を完全に掌握した」と発表しました。
これに対して、ウクライナ軍の参謀本部は8日「セベロドネツクへの猛攻撃をうまく食い止めた。戦闘は今も継続している」と抵抗する姿勢を示しました。
一方、ルハンシク州のガイダイ知事はSNSに投稿し「ロシア側は、今月10日までにセベロドネツクを掌握することを目指し、大きな戦力を投入している」として、この都市をめぐる戦闘がここ数日で一層激しくなる可能性に言及しました。
また、ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、海外メディアのインタビューで東部などの戦況について「このところ、ウクライナ軍の前進が滞りがちで、一部では、ロシア軍の脅威にさらされている」としたうえで「勝利するためには、敵軍を上回る強力な武器が必要だ」と述べ、欧米各国に対して軍事支援を継続するよう訴えました。
さらに「制裁は、強力な武器であり、血を流すことのない経済的な現代兵器だと確信している」として経済制裁についても一層、強化するよう国際社会に改めて呼びかけました。
●ゼレンスキー氏、侵攻前の状態まで撤退で「暫定的な勝利」… 6/8
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7日、英紙フィナンシャル・タイムズとのインタビューで、ロシア軍を2月24日の侵攻開始前の状態まで撤退させられれば「重要な暫定的な勝利となる」との認識を示した。これに対し、セルゲイ・ショイグ露国防相は7日、2014年に併合した南部クリミアと露本土を結ぶ鉄道の開通を宣言するなど戦果を誇示し、一歩も引かぬ構えを見せた。
ゼレンスキー氏はオンライン形式のインタビューで、クリミアを含む領土の完全回復が最終目標だとも語り、ウクライナが領土を巡って妥協の余地がないことを改めて訴えた。
ただ、ウクライナ軍が露軍に「装備面で劣る」と率直に認め、米欧に武器供与の拡充と加速を改めて呼びかけた。「戦闘の手詰まり状態は選択肢ではない」と述べ、プーチン露大統領との直接交渉にも意欲を示した。対露制裁による圧力強化の必要性も強調し、侵攻の長期化で、米欧による支援が減速するシナリオへの危機感をにじませた。
一方、ロシア側は侵攻開始後に制圧した地域の実効支配の強化を急いでいる。
ショイグ氏が、7日の露軍幹部との会合で発表したクリミアと露本土の約1200キロ・メートルにわたる鉄道の開通は、クリミアと露本土が陸続きになる「回廊」確保を意味する。
露軍の補給は鉄道輸送が中心だ。全域制圧を宣言した南部ヘルソン州やザポリージャ州では、ウクライナ軍の反撃に遭い住民の抵抗運動も活発化しており、補給強化の意義は小さくない。ヘルソン州では、ロシア国籍を取得し、ロシアへの併合に賛成する住民に1万ルーブル(約2万2000円)を支給し始めたとの情報もある。
ショイグ氏は、露軍が制圧を急ぐ東部ルハンスク州の「97%」を制圧したと主張した。ゼレンスキー氏は最近、同州の要衝セベロドネツクについて「一度放棄すれば奪還は非常に困難になる」と述べており、激しい攻防が続いている模様だ。
●減速する中国経済、ロシアの侵攻は「一帯一路」にとって「吉」か「凶」か 6/8
やっと上海市のロックダウン(都市封鎖)を解除したとはいえ、中国経済の急減速はなかなか収まらない。
厳格な「ゼロコロナ政策」の影響とともに、ロシアのウクライナ侵攻によって中国が進めている経済政策「一帯一路」が大きな打撃を受けている、と指摘する専門家もいる。一方で「漁夫の利」を得るのではないか、という見方もある。
いったい、ウクライナ戦争は中国にとって、「凶」なのか「吉」なのか。
ウクライナ戦争で中国の「一帯一路」が危機に
「一帯一路」とは、かつて中国と欧州を結んだシルクロードを模した、広域経済圏構想だ。中央アジア経由の陸路「シルクロード経済ベルト」(一帯)と、インド洋経由の海路「21世紀海上シルクロード」(一路)の2ルートで、鉄道や港湾などインフラの整備を進める雄大なプロジェクトだ。
一帯一路につながる途上国は、中国の資本援助で自国の経済発展が促されると期待するし、先進国は自国企業のプロジェクト参入を狙う。中国の覇権主義だと懸念する声も強く、各国間に温度差がある。
ウクライナは、陸路の中間地帯にある。現在、ウクライナを経由する便が運行停止になっているが、中国と欧州を結ぶ国際貨物列車「中国名:中欧班列/英語名:トランス=ユーラシア・ロジスティクス」がロシアとウクライナを通過している。
ウクライナ情勢悪化によって「一帯一路」が危機に瀕している、と指摘するのは日本経済団体連合会(経団連)のシンクタンク「21世紀政策研究所」研究委員の梶谷懐・神戸大学大学院教授だ。
梶谷氏は経団連の機関紙「週刊経団連タイムス」(5月26日付)にリポート「ウクライナ危機は一帯一路の終焉をもたらすか 」を発表した。これまではウクライナからの穀物輸入や、ロシアへの経済支援に関する影響が懸念されてきたが、梶谷氏は「長期的には、一帯一路政策に代表される中国の対外投資政策のあり方を大きく変える可能性がある」と指摘する。
ロシア、ウクライナ、ベラルーシへの融資が不良債権に
梶谷氏によると、もともと「一帯一路」は、通貨の元高を背景に拡大してきた国内の過剰な資本を海外に「逃がし」、供給能力の過剰を緩和する意味を持っていた。対外援助を通じて海外の新興国が経済成長すれば、中国国内の過剰な生産能力に対する市場が拡大することにもつながる。しかし、トランプ政権の成立以降、元安傾向が続き、前提が揺らいだ。そこに、ウクライナ戦争の打撃が加わった。
梶谷氏は国際金融専門家の論考をもとに、こう述べている。
「一帯一路に代表される中国の海外投資ブームが、ロシアとウクライナの戦争により深刻な障害にぶつかるだろう。(中略)その根拠となるのは、中国の政府系金融機関がロシアとウクライナ、およびベラルーシに対して行っている融資額の大きさだ」
ロシアには累積1250億ドル以上、ウクライナにも70億ドル程度、ベラルーシに80億ドル程度融資してきた。3カ国を合わせると、過去20年間の中国の海外向け融資の20%近くを占める。ほかにも、中国の対外貸付のうち、債務危機にある借入国に対する比率は、2010年の約5%から現在では60%にまで増加したと指摘。
「中国の政府系金融機関は、今後ロシアなどに対する融資が不良債権化するリスクを、よりリスクの高い債務国への新規融資の停止あるいは債権回収によって埋め合わせるかもしれない。(中略)中国が新興国に対する気前のよい資金供給者の役割から撤退するならば、そのあとにどのようにしてそれらの国々の持続的な経済成長を支えていけばよいのか。(中略)ウクライナ危機は、国際社会に対してこのような問いを突き付けていることを忘れてはならない」
ロシア経済の疲弊で、中国がユーラシア大陸で台頭
仮に、中国の「一帯一路」が破綻すれば、新興国を中心に深刻な世界経済の危機に直面するかもしれないというのだ。
一方、逆にウクライナ危機が中国の経済的影響力を拡大させるかもしれない、と指摘するのは、同じ「21世紀政策研究所」研究委員の熊倉潤・法政大学准教授だ。
「週刊経団連タイムス」(6月2日付)の熊倉氏のリポート「ウクライナ危機が中国の『一帯一路』構想に与える影響」によると、長期の経済制裁でロシアの地位が低下すれば、中国の一帯一路構想が旧ソ連・ユーラシア世界で一層発展する可能性が考えられる、という。
その根拠を熊倉氏はこう説明する。
「まずロシアは、今後ますます中国との経済的結び付きを強めようとするだろう。ロシアの中国重視の姿勢は、ウクライナ侵攻以降、ますます顕著になりつつある」
として、今年4月、ロシア極東で行われた、中露間で初となる鉄道橋の完成式にトルトネフ副首相が出席した例をあげた。
「ウクライナも中国と経済関係を強める可能性がある。中国とウクライナとの関係は、従来概して良好であった。ロシアのウクライナ軍事侵攻に対し、中国はロシア寄りの姿勢をとっているとはいえ、ウクライナに対し敵対的ではない。それどころか、中国は早くも3月からウクライナに対し人道支援を表明するなど、友好的な態度を示してもいる。(中略)将来、ウクライナの戦後復興の過程で、中国の経済的影響力が、一帯一路構想を通じて同地に拡大する可能性は否定できない」
さらにロシアが経済的に疲弊すれば、中国と国境を接する中央アジア諸国に対しても一帯一路構想が今後一層、求心力を得るだろうという。
「とりわけ中国と国境を接するキルギス、タジキスタンへの進出は、純粋に経済的なものに限られないかもしれない。ロシアが難色を示していたとされるマナス空軍基地(キルギス)の使用など、安全保障面での進出につながることも考えられる。中国のポテンシャルと今後見込まれるロシアの国力の後退を踏まえれば、旧ソ連・ユーラシア世界において、よりドラスティックな変化が起こることも想定しなければならないだろう」
ウクライナより手強い台湾、中国は侵攻するのか?
一方、台湾侵攻をもくろむ習近平国家主席にとって、ウクライナの抵抗の激しさは衝撃だったはずだとの見方を示すのは、公益財団法人・東京財団政策研究所主席研究員の柯隆(か・りゅう)氏だ。
柯隆氏のリポート「中国からみたロシア・ウクライナ紛争とそれにかかわる地政学リスク」(6月3日付)では、ウクライナと台湾の経済力と軍事力を比較した表を示している=図表参照。
これを見ると、台湾のほうがウクライナより経済力(GDP=国内総生産)ではおよそ4倍、軍事力(予備役も含めた兵力)では約9倍あることがわかる。プーチン大統領が手を焼いているウクライナより台湾のほうがはるかに手強い。そこで、柯隆氏はこう説明する。
「実はロシアのウクライナ侵攻は習主席に大きなショックを与えている可能性が高い。習政権は自らの正当性を証明するために、一日も早く台湾を併合したい。中国はアメリカやヨーロッパから軍事技術を輸入できない。中国の軍事技術のほとんどはロシアに頼っている。そのロシアは陸続きのウクライナに侵攻しても、なかなか攻略できていない」
しかも、中国はロシアより圧倒的に不利な条件がある。台湾海峡の存在と、台湾の経済力だ。
「中国人民解放軍は台湾に侵攻する場合、台湾海峡を渡らなければならない。台湾はアメリカから最先端の戦闘機を輸入し保有している。現状のままでは、人民解放軍が台湾に侵攻しても、攻略できない可能性が高い」
「確かに中国の経済規模は名目GDPについては世界2番目だが、ハイテク製品と商品の輸出は主に中国に進出している多国籍企業によるものである。外国資本がもっとも嫌うのはリスクである。人民解放軍が台湾に侵攻した場合、まず台湾企業は中国を離れる。それと同時に、日米欧の多国籍企業とその部品メーカーなども中国を離れるだろう。中国は技術を失うだけでなく、雇用機会も喪失してしまう」
「中国の富裕層は大挙して金融資産をアメリカやタックスヘイブンに逃避させる。つまり世界2番目の経済といえども、あっという間に空洞化してしまう可能性が高い。何よりも習政権にとって不利なのは中国経済が今、急減速していることである」
では、習主席はどうするのだろうか。柯隆氏は、こう結んでいる。
「合理的に考えれば、習主席は台湾侵攻を決断しないはずである。しかし、プーチン大統領と同じように強権政治の致命傷により間違った決断を行う可能性を完全に排除できない。重要なのはそれに伴う地政学リスクを管理することである。リスクというのは絶対に起きないと考えるのではなく、その可能性を念頭に危機に備えておくことが重要である」
●難民を受け入れる欧州最貧国のモルドバ 年収や物価はどのくらい? 6/8
ロシアからの軍事侵攻を受けて、ウクライナを離れたウクライナ国民は420万人を超えるといわれています。
避難民を受け入れている国の一つ、モルドバでは人口の約16%にあたる41万人もの避難民を受け入れています。欧州最貧国ともいわれるモルドバですが、物価やモルドバ国民の平均的な年収はどのようなものなのでしょうか。
この項目では、モルドバ共和国について詳しく解説します。
モルドバ共和国とは
モルドバ共和国はウクライナの南西に位置する国で、面積は3万3834平方キロメートルと、日本の九州よりもやや小さいです。
2020年時点での人口は264万人となっています。2014年の調査によると、この人口の75%をルーマニア系のモルドバ人が占めています。このほか、ウクライナ人、ロシア人、トルコ系のガガウス人が住んでいます。公用語はモルドバ語で首都はキシナウ(キシニョフ)です。
旧ソビエト連邦から1991年に独立した国の1つですが、ウクライナ南部のオデーサに近く、国境を接するトランスニストリア地域(沿ドニエストル共和国)は1990年にロシア軍の部隊が独立を宣言し、1992年にはトランスニストリア紛争が起こりました。
モルドバ政権の力が及んでおらず、ロシア軍の部隊が日常的に演習をしていることから緊張状態が高まっており、外務省はトランスニストリア地域については渡航警戒レベルを4段階のうち3(渡航中止勧告)に引き上げています。
モルドバ国民の平均年収
2020年のモルドバ共和国の国内総生産(GDP)は119億ドルで、全世界で139位となりました。また、1人当たりの名目GDPは4523ドルでした。またモルドバ人の平均年収は32万2000モルドバ・レイほどです。
なお、1モルドバ・レイは日本円にして7.0531円で、日本円に換算すると、モルドバ人の平均年収は227万1098円です。モルドバの主要産業は卸・小売業、製造業、農林水産業となっていて、機械設備や食品、家畜などをルーマニアやドイツなどに輸出しています。一方、石油や石炭、天然ガスは輸入に頼っています。
モルドバの暮らし
モルドバ共和国の2020年の経済成長率はマイナス7.0%、物価上昇率が4.4%、失業率が8%です。もともと農業・食品加工業以外に目立った産業がなく、国民の貧困対策や保健衛生状況の改善が課題でした。
さらに、エネルギー資源の多くをロシアからの輸入に頼っていることや、ウクライナからの避難民を多く受け入れていることで、生活必需品の中には物価が2.5倍ほど上昇したものもあります。
ロシアとウクライナの戦争が長引くと、モルドバ国民の半分ほどが貧困のリスクにさらされ、貧困ラインを下回る生活を強いられる人も出ることが予測されています。ウクライナから避難してきた人はもちろん、避難民を受け入れるモルドバ側の経済支援も喫緊の課題です。
基幹産業にとぼしく物価上昇率が高い
モルドバ人の平均年収は日本円にして227万円ほどです。エネルギー資源の多くをロシアからの輸入に頼っているため、また、農業や食品加工業以外の基幹産業に乏しいため物価上昇率が高く、潜在的に貧困の問題を抱えています。
ロシアのウクライナ侵攻が長引けば、ウクライナ難民を受け入れるモルドバの物価上昇率や失業率にも影響を与えることが予想され、経済的な支援が必要です。
●伝えきれなかった“人の匂い” ウクライナ難民取材 記者ら報告会 6/8
2月24日にロシアが軍事侵攻してから、国外に逃れたウクライナ難民は人口約4400万人の8人に1人以上になる600万人を超え、欧州で「今世紀最大」の規模と言われる。ウクライナの人たちに私たちができる支援は何なのか。ロシアの対独戦勝記念日に当たる5月9日、難民の半数以上が逃れた隣国ポーランドで3月末まで取材した毎日新聞の記者とカメラマンらが、最新情勢と現地の写真を交えながら取材を報告するイベント「ウクライナ国境で見た現実〜難民取材報告〜」がオンラインで開催された。
テレビのコメンテーターとしても活躍し、国内外で難民問題を取材するフォトジャーナリストの安田菜津紀さんがモデレーターを務めたイベントは、冒頭に杉尾直哉・元モスクワ支局長がロシアの戦勝記念日でのプーチン大統領による演説などを解説。続いて、隣国ポーランドでウクライナ難民を取材した平野光芳・ヨハネスブルク支局長と写真映像報道センターの小出洋平・写真記者が現地取材を報告した。イベントの最後には、首都キーウ(キエフ)から日本の関西地方に2人の娘と避難したオレシア・サブリバさんが平和への思いを生の声で語った。
5月9日のプーチン大統領の演説について、杉尾記者は「(一部で予想されていた)本格的な戦争宣言はなかったが、注目する点は今回の軍事作戦で亡くなった兵士やその家族をしっかり守る大統領令を出したこと」と分析した。また、「1991年のソ連崩壊で大きな喪失感を味わったプーチン大統領は、NATO(北大西洋条約機構)が東側に拡大してロシア民族のルーツの土地、ウクライナまで来そうになったことが我慢できなかったのだと思う」と侵攻の理由を解説。「平和が確実に戻るのは数年先かもしれない。世界は長い対立の時代に入る」と戦闘の長期化を予測した。
共に志願してポーランドに赴いた平野記者と小出記者は、現地取材の苦労について語った。平野記者は「国境にラッシュのように次々とやってくる難民を前に、誰にどんな話を聞いたらよいか頭が真っ白になった。何の責任もなく無邪気で力強い子供を通して、(戦争の)悲惨さを表現しようと考えた」と話した。小出記者は「難民という『塊』ではなく、一人一人の心情が伝わる写真を撮るよう心がけた。避難所に入ったときに、写真と映像では人と食べ物の匂いまで伝えられないもどかしさも感じた」と吐露した。
印象に残った取材について、平野記者は「通訳兼ドライバーとして雇った、クリミア半島出身で両親がロシアを支持する避難民のオリガさんが、国境付近まで行ったときに『戦争をしている国でも空は青い』と話し、突然泣き出したこと」を挙げた。一方、小出記者は避難民の子供たちのポートレートをまとめたグラフを挙げ、「夢見る職業を尋ねると、日本の子供と同じように『スポーツ選手』や『おかし屋』といった答えが返ってきて、戦争前は平穏な日常だったと想像する手がかりになった。屈託のない表情を見て、大人たちの責任や非力さを表したかった」と、その狙いを説明した。安田さんも「情報の受け手が『なぜこういうことが起きたのだろう』と、主体的に考えていくことも大切だと思う」と応じた。
記者2人がポーランドで取材した後、関西地方に避難したキーウ出身のサブリバさんは、大阪写真部の山田尚弘記者と共にイベント終盤に避難先から登壇した。初めに「日本のみんなにありがとう」と支援への感謝を述べたサブリバさんは、プーチン大統領について「私は彼の気持ちが分からない。彼も娘が2人いる。私も2人いる。なぜ、ここまでできるのか。彼は子供のことを考えていないと思う。世界に平和がほしい」と、避難する当事者としての率直な思いを訴えた。
●「プーチン氏になぜ電話しない?」との質問に… メルケル前首相初インタビュー 6/8
ドイツのメルケル前首相が、去年の政界引退以降、初めてインタビューに応じました。かつて、ロシアのプーチン大統領と正面きって議論し合っていたメルケル氏、ウクライナ侵攻について何を語ったのでしょうか。
ドイツで4期16年首相を務め、去年12月に政界を引退したメルケル氏。7日、引退後初めて、雑誌「シュピーゲル」の記者との公開インタビューに応じ、ウクライナへの侵攻を続けるロシアを非難しました。
ドイツ メルケル前首相「ロシアの戦争は非常に残酷で国際法を無視した攻撃で、正当化の余地は全くない」
そして、対抗措置として軍備増強に舵を切ったドイツ政府の方針に賛同しました。
ドイツ メルケル前首相「軍備増強はプーチンが理解できる唯一の言語です」
メルケル氏は8年前のロシアによる一方的なクリミア併合のあともプーチン大統領と対話を続け、ウクライナ東部での紛争が起きた際は停戦合意を仲介。エネルギー分野などではロシアと経済的なつながりを強める路線を維持し、そのロシア政策に否定的な声もあがっていました。
ドイツ メルケル前首相「戦争を防ぐ安全保障の枠組みを作ることに失敗しました。今の状況(ロシアのウクライナ侵攻)は大きな悲劇です。このような悲劇を防ぐために、もっと何かできなかったのか。もちろん、私もそのことを問い続けています」
メルケル氏はこう話す一方で…
ドイツ メルケル前首相「振り返ってみて、試み(外交努力)が足りなかったと自分を非難する必要はないと思います。でも、その試みがうまくいかなかったのは大変悲しいことです」
自らの対応は間違っていなかったとの認識を示しました。また、「なぜプーチン氏に侵攻をやめるよう電話しなかったのか?」との質問に対しては…
ドイツ メルケル前首相「正直、私としては何も行動をおこすつもりはないです。いま(プーチン氏との話し合いが)役に立つとは思えない」
このように答え、今後、プーチン氏との対話や停戦交渉を仲介する可能性を否定しました。
●ロシア女子代表選手が沈黙を破る「プーチンは私たちからすべてを奪った・・・」 6/8
ロシア女子代表のナディア・カルポワは、ロシア軍のウクライナ侵攻に対して口を開いた。
2月24日から始まったロシア軍によるウクライナ侵攻。これを受け、フットボール界ではロシアの代表チームとクラブに対して欧州サッカー連盟と国際サッカー連盟が共同で主催大会への出場禁止の制裁を科した。
これにより、男子代表チームはカタール・ワールドカップ出場権を懸けた欧州予選プレーオフに出場できず、また先日開幕したUEFAネーションズリーグへも参加禁止。また、女子代表チームは7月に予定されている女子EURO2022への出場資格が剥奪された。
ロシアフットボール界にも大きな支障が出るものの、ここまでウラジミール・プーチン大統領が指揮するウクライナ侵攻へ反対の声を上げたのは数えるほど。侵攻開始当日にSNSにメッセージを投稿するも数時間後に削除したディナモ・モスクワのフョードル・スモロフとスパルタク・モスクワのアレクサンドル・ソボレフのみだったが、女子選手の中で初めてエスパニョールに所属するカルポワが隣国への軍事行為に対して反対の声を上げた。その様子をイギリス『BBC』が伝えている。
「この非人道的な行為を見ることはできないし、沈黙を続けることもできない。スペインではなく、ロシアにいれば何が起きるか想像もできない。でも、私には言葉を発する特別な責任があると感じている」
「ロシアのプロバガンダは私たちは特別な国で、全世界が私たちと私たちの独自のミッションに敵対するとロシアの人たちを説得しようとしている。独自のミッションとは何?ロシア人が特別だとは思わない。それと同時に私はロシア人であることを恥ずかしいとは思わない。ロシアは政府とウラジミール・プーチンだけを意味しているわけではない」
「プーチンは私たちからすべてを奪った。彼は私たちの未来を奪った。でも、彼は私たちからの黙認を得てそのようにやってきた。政府も強い抵抗を見せることもなかった。ほとんどの人たちが不正に目を背け、自分たちには関係のないことと考えている。戦争を正当化する人たちはプロバガンダの人質になっている。彼らのことをかわいそうだと思うし、彼らを解放するために私たちはできる限りのことをやる必要があると私は強く感じている」
2020年からエスパニョールでプレーするカルポワは、ウクライナ女子代表FWタミラ・ヒミッチと3月からチームメイトになった。
「彼女に最初に会ったとき、彼女は警戒心を持って私に接してきた。私が戦争推進派やウクライナ人を敵視する人間か定かではないようにね。彼女の家族や友人について考えたとき、私は泣きたかった。彼女の愛する誰かが亡くなった可能性があるかと思うとひどい気分になった。この戦争が真実なのか、いまだに信じられない時がある。でも、今実際に起きている」
最後にカルポワはもっと大勢のロシア人アスリートが声を上げるべきだと語っている。
「もっとたくさんのロシア人、ロシア人アスリートに声を上げてほしい。そうなれば、戦争に反対する他の人たちが少数派ではないと認識できる。何も起きていないかのように装うことはできない。沈黙の時間はもう終わりにすべき。いつの日か、政府は退陣する。彼らは全員がすでに年老いている。そうなったとき、私たちはまだ生きているし、すべてを正しくする準備をしなければいけない。すぐにそうなることを願っている」 

 

●バイエルン州、ウクライナ情勢を受けたエネルギー政策を発表 6/9
ドイツ・バイエルン州議会で5月31日、フーベルト・アイバンガー同州経済・開発・エネルギー相が、ウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰などを受けた州内のエネルギー政策方針について、所信表明演説を行った外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。
ドイツ連邦政府は、ロシアのウクライナ侵攻を受けたエネルギー情勢の変化に対して、液化天然ガス(LNG)の輸入(2022年3月11日記事、5月17日記事参照)や、再生可能エネルギー拡大に向けた関連法改正(2022年4月18日記事参照)、エネルギー確保法改正(2022年5月2日記事参照)など、矢継ぎ早に対応を進めている。
バイエルン州でも、州内の経済団体バイエルン経済連盟(vbw)が2022年4月、天然ガス供給が短期的に停止した場合、2割以上の企業が「生産またはビジネスが完全に停止」と回答したアンケート結果を発表するなど(2022年4月26日記事参照)、州レベルの対応が求められていた。今回のエネルギー政策方針は、バイエルン州政府が5月17日に閣議決定したもので、(1)エネルギー供給の確保、(2)妥当な価格、(3)再生可能エネルギーの拡大の3つの柱から成る。
所信表明演説で、アイバンガー氏は「エネルギー供給の確保」について、天然ガス貯蔵がカギとし、連邦政府に対して11月初めまでに貯蔵率最低9割を確保することを求めた。また、LNG輸入ターミナルの建設や天然ガスによる発電を、一部石炭で代替する必要性も指摘した。併せて、現在稼働中の国内の原子力発電所(注)を当面2023年春まで稼働延長することを検討すべきとした。「価格」については、同氏は連邦政府に対して、2022年中に電力税をEU加盟国最低レベルに引き下げること、電気などに対する付加価値税の軽減税率適用などの減税措置などを求めた。
「再生可能エネルギーの拡大」については、バイエルン州は2025年までに発電電力量に占める再生可能エネルギー比率を7割まで引き上げることを目標に掲げる。2020年の割合は52.3%で、連邦全体(44.1%)よりも高い。ただし、風力発電の割合が6.4%と連邦全体(23.3%)よりも大幅に低い。北ドイツなどに比べて風が吹きにくい、海がなく洋上風力発電ができないなどの地理的要因もあるが、州独自のルールである、近隣建物などと風車の距離を風車の高さの10倍以上確保する、いわゆる「10Hルール」が理由とする見方もある。
同州政府が閣議決定したエネルギー政策方針では、アウトバーンや線路沿い、森林地域などの風車や、工場地域の風車などに対し「10Hルール」を緩和し、最低1,000メートルの距離を確保すればよいとする予定だ。これにより、全土地面積の2%を風力発電に利用できるようにする。2%目標は、連邦政府の2021年11月の連立協定書にも明記されている。同州政府は、今後数年で最低800基の風車を設置、現在の2.5倍の最低4ギガワットを風力で発電するとしている。 (注)ドイツでは2022年末までに原子力発電所を全廃する。
●ウクライナ戦争の影で暗躍する中国。南太平洋を取りに来た習近平の魂胆 6/9
世界の目がウクライナ戦争に集中する中にあって、習近平政権の覇権争奪に向けた取り組みには一手の抜かりもないようです。今回、5月末のタイミングで南太平洋の国々に外相を公式訪問させた中国の思惑を推測するのは、国際政治を熟知するアッズーリ氏。外務省や国連機関とも繋がりを持つアッズーリ氏は記事中、同地域の国々に過去10年間で14億ドル以上もの経済支援を行ってきた中国の野望を、ソロモン諸島との間で結んだ安全保障協定の内容を紹介しつつ考察するとともに、中国が南太平洋を重視する2つの理由を解説しています。
ウクライナ戦争の陰で進む米中覇権争い。主戦場となるのは「南太平洋」
日米豪印4ヶ国によるクアッド首脳会合が日本で開催された直後、中国の王毅国務委員兼外相は5月26日から南太平洋の8ヶ国を公式に訪問した。訪問した国はソロモン諸島、キリバス、サモア、フィジー、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、東ティモールの8カ国だが、いずれも台湾ではなく中国と国交を有する国々だが、中国は南太平洋諸国に多額な経済支援を行うなどして影響力を強めてきた。オーストラリア・シドニーにあるシンクタンク「ローウィー研究所(Lowy Institute)」によると、中国は2006年からの10年間で、フィジーに3億6,000万ドル、バヌアツに2億4,400万ドル、サモアに2億3,000万ドル、トンガに1億7,200万ドル、パプアニューギニアに6億3,200万ドルをそれぞれ支援したというが、中国の野望はそれだけに留まらないようだ。
それを強く示すのが、ソロモン諸島との間で結んだ安全保障協定だ。中国は4月、ソロモン諸島と安全保障協定を結ぶことで合意した。一部ネット上に流れた文書によると、そこにはソロモン諸島政府の要請で中国の警察や軍を派遣できる、ソロモン諸島に駐在する中国人を守るため中国軍を派遣できるなどが記述されていたとみられ、欧米や日本などは、中国が経済の次は安全保障で影響力を強め、いくつ軍事拠点化するのではと警戒感を滲ませている。
米政府高官は4月、ソロモン諸島の首都ホニアラでソガバレ首相と会談した際、中国との間で合意した安全保障協定に対する懸念を伝え、中国軍が駐留するなら対抗措置も辞さない構えを示した。また、最近、オーストラリアのウォン外相も、太平洋地域の各国がどの国と協定を結ぶか自ら決定することを尊重するが、ソロモン諸島と中国が締結した安全保障協定がもたらす影響を懸念していると表明した。
米中だけでなく、近年、オーストラリアと中国との関係も悪化している。両国は、新型コロナウイルスの真相解明や新疆ウイグルの人権問題、香港国家安全維持法の施行などを巡って対立が激しくなり、中国はオーストラリア産の牛肉やワインなどの輸入制限に踏み切るなどしている。オーストラリアでは5月に政権交代があったものの、新たに発足したアルバニージー新政権で副首相を務めるマールズ副首相は、オーストラリアと中国の関係は引き続き難しいものになるとの認識を示した。米国と同様に、中国への警戒感はオーストラリアでも党派を超えたコンセンサスのようになっており。今後も両国間では経済を中心に冷え込んだ関係が続く可能性が高い。
中国が南太平洋を重視する2つの理由
では、なぜ中国は南太平洋を重視するのだろうか。そこには日米豪印クアッドが進める自由で開かれたインド太平洋構想に対抗する狙いがある。世界地図をみれば明らかだが、南太平洋島嶼国が点在する範囲は西太平洋でも大きな割合を占め、西太平洋での影響力拡大を掲げる中国にとっては極めて重要な場所にある。また、オーストラリアは南太平洋を自らの戦略的要衝と位置づけているが、オーストラリアと米国の間に楔を打ち込むことで、クアッドの連携を壊したい思惑もあることだろう。
また、中国が南太平洋を重視するにはもう1つ大きな理由がある。それは台湾の存在で、今日でも南太平洋にはパラオやナウル、ツバル、マーシャル諸島の4カ国が台湾と国交を有している。中国としては、近年キリバスとソロモン諸島が国交を台湾から中国に切り替えたように、同4カ国へ経済支援などで圧力を強めることで国交を切り替えさせ、台湾の存在を南太平洋から消したい狙いがある。
今日、日本でも台湾有事の恐れについてかなりメディア報道が増えてきたように思うが、南太平洋は正に中国と台湾、米国やオーストラリアという形で大国間対立の新たな主戦場になりつつある。
●「停戦の鍵はアメリカが握っている」ウクライナ侵攻の“現実” 6/9
辛坊治郎が6月9日(木)、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送『辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!』に出演。ロシア、ウクライナ停戦の鍵は「アメリカが握っている」と言及した。
ロシアによるウクライナ侵攻をめぐって、ウクライナ側は現在、おもにアメリカやフランス、ドイツなど西側欧米各国からの武器援助を受けて戦線を維持している。この状況に対して辛坊は、「何となくウクライナに西側各国がみんな協力して、ロシアに対する戦線を固めているんだなあという印象だが、ウクライナにとっては自国が物事を判断する範囲をどんどん狭められている状況」と指摘。「こうなってくると、ウクライナではない西側の国々の兵器の援助でいま戦線が維持されているという現実が日々明らかになってきている」と続け、それら西側諸国はロシアとの全面戦争を望まないことから「どこかで手打ち式をしたいと思っている」と分析。
さらに辛坊は、「アメリカが本音のところで戦争をやめさせたいと仮に思ったとしたら、できる」と断言。「そのタイミングで、ウクライナにこれ以上の武器供与はしませんと西側が足並みをそろえた瞬間に、ウクライナはそれ以上戦えないことがはっきりしてきた」と述べ、どのラインで停戦するかなどの鍵を握るのはウクライナではなくアメリカだとした。
そのうえで「小さい国は気の毒だなと、それが世界の現実なんだということを我々はちゃんとみておかないと」、「だから自分のことは自分でね」と語り、暗に日本の防衛のあり方についても問題提起した。
●ウクライナ情勢の影響議論 OECDが閣僚理事会 6/9
経済協力開発機構(OECD)は9日、パリの本部で閣僚理事会を開いた。ロシアのウクライナ侵攻を踏まえた多角的貿易体制の維持や、アフリカなど途上国との関係見直し、気候変動問題を中心に議論。10日に声明を採択し閉幕する。
開幕に際し、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで演説し、「世界は食料、エネルギー、価値観の危機に直面している。共通の利益のために世界が団結するとロシアに示さなければならない」と訴えた。コールマンOECD事務総長は「可能な限りの方法で支援する」と応じた。
●ウクライナ情勢にうまく対処するには=韓国 6/9
ウクライナで戦闘が始まって100日を超えた。ウクライナの抵抗は相変わらずだ。ロシアが掌握した東部と南部ベルトで一進一退が続いている。長期戦になる可能性がある。すでにウクライナ戦闘は国際秩序に大きな影響を及ぼした。韓国も影響圏に入っており、重要な政策選択がわれわれの前にある。政策選択の基盤となる望ましい社会的議論のために事態の含意と対処時の留意事項を探ってみようと思う。
ロシアはなぜ軍事行動をしたのかから見てみよう。一部ではロシアが旧ソ連の領域を回復しようとする攻勢的意図のためだと解釈するが、事実は防衛的脅威認識が累積して噴出した行為だとみるべきなければならない。ロシアは脱冷戦以来西側がソ連勢力圏である東欧を蚕食し安保脅威が大きくなったと認識する。いわゆるNATOの東進だ。しかもこの過程は東欧の自由化、民主化の流れとともに進んだ。ロシアはこの流れを体制への脅威と認識する。ロシアは西側がロシアの弱体化と体制交代を追求するとみる。
安保脅威と体制への脅威という認識を拡大したロシアはソ連の一部だったウクライナまでNATOへの加盟を推進し、これを牽制するためにクリミア併合とドンバス地域の分離独立を推進した。それでも親西側の歩みが続き、ロシアはいま軍事行動を通じ短期間でウクライナを敗北させ、交渉を通じてウクライナを中立化させることがじっとしているより良いという判断に達したとみられる。
しかしロシアが侵攻を断行し、ロシアの安保利害は後回しにされ、21世紀の欧州で自由と民主を追求する主権国を武力で強制しようとすることに対する国際的非難世論が沸騰した。西側はロシアの侵攻を民主(democracy)に対する専制(autocracy)の攻撃と見なした。結果的にウクライナ侵攻はいくつかの分岐で国際的力学に甚大な影響を及ぼした。これは韓国が政策選択時に考慮すべき主要条件になった。
第一に西側とロシアは脱冷戦を超え尖鋭な対決の時代に入った。西側は過去に例がないほどにまとまりロシアに過去最高の制裁を加えている。過去のトランプ政権時代には米国と欧州の間の溝が深まり、英国がEUを脱退する状況があった。ロシアには喜ばしいことだった。しかしもうロシアは団結した西側の高強度制裁を受ける難局にさらされた。
2番目に、ウクライナ情勢はアジア地域でも米ロ・米中対決構図を深めさせている。もちろん中国は他国に対する武力侵攻に反対してきたためロシアを支援したりはしない。しかし西側は中国を専制(autocracy)の側と見て、中国は戦略的パートナーであるロシアに対する西側の制裁を自身に対する潜在的措置と解釈する。
3番目にウクライナ情勢の世界的・地域的影響がこうなのに、韓半島(朝鮮半島)に対する影響も少ないわけはない。ウクライナ関連の米ロ対立は韓国のような米国の同盟国に個別に対応する余地が少ないという現実を物語る。ウクライナ情勢は韓国に戦争状況で同盟がどれだけ重要なのかを刻印させた。これに対し北朝鮮は米帝の侵略を防ぐのに核兵器が緊要だという点を確信しただろう。北朝鮮はロシアを積極的に支持している。韓日米対中朝ロの構図が深刻化する素地は大きい。
ウクライナ情勢の影響がこのような中、韓国で新政権が発足した。新政権は同盟強化に注力している。ウクライナ情勢に対しても前政権より対米共助を強化する側だ。米国の中国牽制要請にもより積極的だ。
このため米国からの注文は増えるだろう。ウクライナに対する兵器支援もそのうちのひとつだろう。新政権はこれを断りにくいだろう。すると修交以来で最低となっている韓ロ関係に追加的な反作用があるだろう。中国もまた、韓国の対中・対ロの動きに神経を尖らせているだろう。中国は修交以来30年間にわたり韓国を米国から中国側に引き込む成果を上げたと思っていただろうからいまは当惑しているだろう。この流れを牽制する対応措置を出すだろう。
だとしても世界10大貿易国であり米国の同盟国である韓国は国際社会の主流とともにするほかない。残る問題はどの程度までともにするかと、ロシアと中国に対してどのような補完策を並行するかだ。米国とロシア・中国の間で韓国が立つ座標と進む方向に対する基準を立てるならばこの問題に答えるのに役立つだろう。韓国のアイデンティティに合う米ロ・米中間のリバランス地点とヘッジ対策を求め安いだろう。
一方、事態の推移を綿密に見て、これを韓国の対処に反映することも重要だ。それだけ現在の国際秩序でウクライナと韓半島は連動している。戦闘と交渉だけでなくロシア内部事情まですべて注目を要する。19世紀中盤のクリミア戦争の結果としてロシアで農奴解放などの改革措置が出てきた事例も思い出す必要がある。
新政権が米国とロシア・中国の間で最適な対処をすることを望む。いまは米国、ロシア、中国すべてがとても敏感になっている時だ。
●ロシア、占領地から穀物輸送…ウクライナ「略奪して輸出」と非難  6/9
タス通信によると、ロシア軍が占領するウクライナ南部メリトポリから穀物の第1便を積んだ11両の貨物列車が8日、南部クリミアの拠点都市セバストポリに到着した。ロシア側は港湾都市マリウポリなどから穀物の海上輸送も可能になったと発表した。黒海を封鎖して穀物輸出を妨害する一方、自らは輸送に動くロシアの行為をウクライナ側は略奪だと非難している。
露軍が一部を占領している南部の穀物生産拠点ヘルソン州の親露派幹部は9日、ロシア通信に、同州からクリミアに「鉄道で輸送する用意が整った」と述べた。ロシア側は、2014年に併合したクリミアに鉄道で穀物を集積し、南部の各港湾からの海上輸送を想定している可能性がある。
ウクライナ国内でトラックに積み込まれる穀物(5月24日)=ロイターウクライナ国内でトラックに積み込まれる穀物(5月24日)=ロイター
セルゲイ・ショイグ露国防相は7日、黒海海域のアゾフ海に面したマリウポリとベルジャンシク両港周辺の機雷撤去作業が完了し、船舶での穀物輸送が可能になったと強調していた。
しかし、ウクライナ側は、ロシアに無断で穀物を取引されていると主張している。ロイター通信によると、ウクライナの在レバノン大使館は6月上旬、ロシアが侵攻開始以降に「約10万トンの穀物をウクライナから略奪してシリアに輸出した」と非難した。実態として、親露派を名義人とした穀物取引が横行している模様だ。
ロシアとトルコは8日の外相会談で南部オデーサからの輸出再開などについて協議したが、具体的な進展はなかった。ウクライナのドミトロ・クレバ外相は8日の記者会見で「当事国の安全が考慮されなければならない」と述べ、ウクライナの輸送船の安全を保証するとしているロシアに、改めて不信感をにじませた。
●ロシア軍、侵攻長期化で士気低下に拍車 従軍拒否相次ぐ 6/9
ウクライナ侵攻の長期化に伴い、ロシア軍の士気低下が一段と浮き彫りになっている。従軍を拒否した兵士の存在が相次いで表面化したほか、4月に任命された司令官が解任されたとの観測も浮上した。遺族への補償金支払いが決まった死亡者の全容も不透明なままだ。戦線の膠着が続けば国内の不満がさらに膨らみかねず、プーチン政権は難しいかじ取りを迫られている。
プーチン大統領は6日、ウクライナで死亡した国家親衛隊員などの遺族に500万ルーブル(約1000万円)の補償金支給を命じる法令に署名した。国家親衛隊は2016年にテロ対策を名目に創設され、国内の抗議デモ鎮圧を担ってきた。今回の法令で、大統領直属の同隊にも侵攻で犠牲者が出ていることが公式に認められた。
兵や隊員の反目は、次々と明るみに出ている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは1日、数百人規模の兵士らがウクライナでの戦闘を拒否したと報じた。命令に従わなかった陸軍兵に対し、3月初めに司令官が解雇を命じた文書もあるという。人権団体の窓口には、3月の開設後10日間だけで700人以上から法的支援を求める相談が寄せられた。
英BBCも3日、前線に戻ることを拒否して弁護士に支援を求めた兵士の証言を伝えた。ロシアのインタファクス通信によると、5月下旬にはロシア南部の軍事裁判所がウクライナでの任務を拒否した国家親衛隊員115人の除隊処分を合法とする判断を示した。当局が従軍を拒んだ兵士らの存在を隠しきれなくなっている現状がうかがえる。
軍内部の異変はほかにもある。ウクライナメディアは3日、ロシアの独立系調査団体「CIT」の分析として、ロシアの侵攻作戦を統括するドボルニコフ総司令官が交代したと伝えた。ドボルニコフ氏は戦局立て直しに向けて、4月上旬に任命が報じられた。その後は長期間にわたって姿が確認されず、任務を続けているかが疑問視されていた。
戦線の膠着が続くなか、言論統制下にある国内から反戦表明も噴出している。
「軍事作戦をとめなければ、さらに孤児が増える。国に貢献できたはずの若者たちが(負傷し)、体が不自由になった」。5月下旬には極東沿海地方の議会で、野党議員がプーチン氏に侵攻の中止とロシア軍の即時撤退を訴える声明を読み上げた。侵攻開始以降、各地で軍の徴兵事務所への放火が起きているとの報道もある。
ロシアはウクライナの首都キーウ(キエフ)の早期制圧に失敗し、その後に戦力を集中させた東部2州全域の掌握にも苦戦している。ロシア兵の犠牲についても、1351人が死亡したと発表した3月下旬以降は明らかにしていない。ウクライナ側はロシア兵の犠牲者が3万1000人を超えたと主張し、英国防省もアフガニスタン侵攻に並ぶ規模(約1万5000人)とみる。
今後、遺体交換などで犠牲となった兵士の遺族への返還が進めば、被害の全容が明らかになり、国内で侵攻への否定的な見方が広がるのは避けられない。プーチン政権は水面下で兵士の動員を進めているとみられる。国内の不満を抑え込んで「戦果」を示そうとすれば、国内外でさらなる強硬手段に訴える可能性もある。
●ロシアのサイバー攻撃「効果低い」 実際の戦闘と連動できず 欧州の専門家 6/9
ロシアが軍事侵攻したウクライナに仕掛けたサイバー攻撃について、予想よりはるかに効果が低いという見解が相次いで示された。
フランス北部リールで8日に開かれたサイバーセキュリティーに関する国際会議で、欧州諸国のサイバー防衛担当幹部らが発言した。
ポーランドの担当幹部は、米軍に打撃を与えた旧日本軍の急襲攻撃を引き合いに「ロシアの過去の行動や能力から、専門家は『サイバー真珠湾』を確信していた」と指摘。だが、ウクライナは持ちこたえ、ロシアとのサイバー戦は準備が可能であることが示されたと述べた。
リトアニアの担当幹部は、ロシアが「実際の戦争とサイバー戦を連動させる準備ができていなかった」と分析。ロシアの攻撃が「周到に計画されたものとは思えない」と語った。フランスの担当幹部も、ロシアのサイバー戦能力について「われわれが思うほど強くない」と断言した。
●プーチン大統領が逃げた!? ロシア国民が生直撃する恒例イベント延期 6/9
プーチン氏と国民の直接対話は毎年6月に実施されている。クレムリンは当初、今月15日から18日の間に行うとしていたが、大統領府のペスコフ報道官は「直接対話は今月は開催できない」と発表した。後日開催するとしたが時期は明らかにしなかった。
このイベントは、約4時間にわたりプーチン氏が国民からの質問や意見に答えることで知られる。
「ロシアの経済社会状況が悪いのは、あくまで中間の官僚の責任であり、自身が民衆の不満に寄り添っているという姿勢をみせるプーチン流民主主義の政治ショー≠セ」と指摘するのは、ロシア政治に詳しい筑波大名誉教授の中村逸郎氏。
「イベントの数週間前からクレムリンにコールセンターのようなものが立ち上がり、インターネットなどを介して市民が動画などで要望を届ける。選ばれた意見の中から、プーチン氏だけがテキパキと問題を処理できる姿をテレビでアピールする狙いだ。水害被災地を中継して世帯への給付金支援を決めたり、工場で給与未払いの訴えがあると工場支配人の刑事訴追を即断するなど例があった」と解説する。
延期理由として考えられるのがやはりウクライナ侵攻だ。2月24日に「特別軍事作戦」と称して侵攻を開始し、5月9日の「戦勝記念日」までに勝利を収めるシナリオは崩れた。
兵士の犠牲も日に日に増え、将官の戦死も相次いでいる。欧米からの厳しい経済制裁で国内経済も困難に直面している。表向きはプーチン氏の支持率は高いが、国民の不満がくすぶっている可能性がある。
もう一つは体調面の問題だ。クレムリンは重ねて否定するが、西側の情報当局などからは進行型のがんや血液のがん、パーキンソン病などの重病説が飛び交っている。
前出の中村氏は「ウクライナ侵攻に反対する不満の声に対応しきれないことや、4時間近く続くイベントなので、体調上、体力がもたないなどの理由が考えられる。プーチン氏を支える基盤であっただけに政権の正統性が揺らぎかねない」との見方を示した。
プーチン氏が毎年4月に実施するロシア連邦議会での演説も今年は行われていない。やはり異変が生じているのか。
ロシアのプーチン大統領が、国民と直接対話する恒例のイベントを延期するとクレムリン(大統領府)が発表した。20年近く行われ、テレビ放送もされる重要行事が延期されるのは初めてという異例の事態だ。ウクライナ侵攻をめぐり国民からの追及を恐れて逃げたのか。体調面の不安があるのか。さまざまな憶測を呼んでいる。
●暗くなるプーチン大統領の前途 実情知る軍と政権内部で不満募る 6/9
ウクライナ侵攻の正当性をプロパガンダするロシアのプーチン大統領だが、厳しい戦況を知る軍と政権の内部では、無謀で危険な作戦への不満がくすぶる。健康不安とあわせ、水面下では解任への動きが起き始めていると報じられている。
厳しい戦況 プーチンに募る不満
ロシア軍は東部で支配域をじわじわと広げているものの、短期決戦でのキーウ占領を描いた当時の構想は外れ、軍からの不満が表面化するようになった。英テレグラフ紙(6月4日)は、「プーチンの評判は深刻なダメージを受けた」と述べる。大衆向けには「特別軍事作戦」が成功しているかのようなプロパガンダを行っているが、陸軍内部には実態を把握している者も多い。兵が満足に補充されない現実に不満が上がっており、「将官たちはプーチンが予備兵の動員をためらっていることに憤慨している」と記事は伝えている。
こうした侵攻作戦の停滞は、プーチンに致命傷をもたらす可能性がある。米外交政策評議会(AFPC)のハーマン・ピルヒナー・ジュニア議長は、米ヒル紙(5月13日)に寄稿し、プーチン失脚のシナリオはあり得るとの考えを示した。ウクライナ侵攻の長期的な危険性を軍部が容認しきれなくなることで、ロシア軍の一部がロシア連邦保安庁(FSB)に同調し、解任へ足並みを揃える可能性があるとの分析だ。
健康不安での退陣もあり得る
ウクライナ情勢に加え健康不安も深刻だ。テレグラフ紙は、「さらに、この大統領に深刻な健康上の問題があるとの噂(がんからパーキンソン病までさまざまな推測がある)も、プーチンの時代が終わろうとしているのだという認識を強化している」と指摘する。
具体的な時期として、遅くとも来年までには何らかの動きが出てもおかしくない。英メトロ紙は、元MI6長官のリチャード・ディアラヴ氏の見解として、プーチンは来年までに大統領を退任させられ、病気の療養のために入院させられるとの予測を取り上げている。この方法により、クーデターを起こすことなくプーチンをクレムリンから追放できるとディアラヴ氏は考えている。
後継に適任者なく
プーチン本人に退陣の意思はないようだが、クレムリン内部ではすでに後継者選びの火花が散ろうとしている。テレグラフ紙は後継者候補として、元ボディガードで現在トゥーラ州知事のアレクセイ・デューミン氏の名前を挙げている。しかし、独裁的な気質があることから、高官らの賛同を得られるかは不透明だ。セルゲイ・ショイグ国防相も強力な候補であり、特別作戦の不振で威信は失われたものの、依然として可能性はあると同紙はみる。プーチンがこれらいずれかの人物を指名しない場合、ほかの権力層から次期大統領が選出されることになるが、決定的な影響力を持つ人物はいないのが実情だ。
米外交政策評議会のピルヒナー議長は、プーチン追放の機運が生まれれば、オリガルヒたちも資金面と影響力で力を貸すだろうと予測している。戦争の実情を知る軍と政権内部に加え、経済界においても、プーチン退任への筋書きが書かれようとしているのかもしれない。
●仏大統領、「ロシアに屈辱与えてはならない」発言で批判再燃 6/9
ロシアによるウクライナ侵攻の外交的な解決に向け、「ロシアに屈辱を与えてはならない」と述べたフランスのエマニュエル・マクロン大統領への批判が再燃するとともに、西側諸国の結束のほころびがあらわになっている。
マクロン大統領は3日、仏メディアのインタビューで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領について、ウクライナ侵攻という「歴史的かつ根本的な過ち」を犯したと指摘した上で、外交解決への出口を残しておかなければならないとの主張を繰り返した。
5月9日に初めてこのような主張を展開したマクロン氏は、「戦闘が終結した際に外交的な手段を通じて出口を築けるよう、ロシアに屈辱を与えてはならない」と改めて訴えた。また「仲介者となるのがフランスの役割だと確信している」と述べた。
だが、プーチン氏との対話を通じた戦争終結にこだわるマクロン氏の主張に、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は懐疑的だ。
ドミトロ・クレバ外相は4日、ソーシャルメディアを通じ、「ロシアに屈辱を与えないよう呼び掛けることは、フランスやそれを求める全ての国に屈辱を与えるだけだ」と批判した。その上で「平和をもたらし、人命を救う」ためにはロシアに「自らの立場をわきまえさせる」必要があるとの考えを示した。
戦争犯罪
マクロン氏の発言により、ウクライナ、東欧諸国および米英側とフランス側との間で、紛争の捉え方に相違があることが浮き彫りになっている。ウクライナやその支援国は、国家や民主主義の存亡を懸けた戦いと判断し、ロシアの敗北によってのみ解決できると見なしている。
一方、フランスとドイツは戦闘終結に向け、ウクライナが領土に関して譲歩すべきだと考えているのではないかとの懸念が一部で指摘されている。ただ、両国はこのような主張を裏付ける発言を行っていない。
エストニアのマルコ・ミフケルソン国会外交委員長はフェイスブックに、「仏大統領は戦争犯罪者のプーチンに屈辱を与えない手だてをいまだに探っている」と投稿。片脚を失った少女の写真を添え、「マクロン氏はウクライナのこの少女にどう説明するつもりなのか」と畳み掛けた。
プーチン氏を弱体化させ、ウクライナからロシアを撤退させるとの目標を政府が掲げる米英両国では、マクロン氏の発言に対し理解不能だとの反応が相次いだ。
マイケル・マクフォール元駐ロシア米大使は5日、「プーチン氏は屈辱を受けるかどうかにかかわらず、彼の軍隊が進軍できなくなった時に初めて交渉に臨むだろう」と指摘した。
英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のジョン・チップマン所長はツイッターに、プーチン氏の体面を保たせようとするのは「弱腰外交における目標だ。プーチン氏の体面は本人が責任を持てばいい」と投稿。さらに「屈辱というのは、戦争犯罪に対しては穏やかな懲罰だ」と書いた。
歴史の教訓を重視するマクロン氏
マクロン氏は、歴史的にロシアと緊密な外交関係を維持してきたフランスの立場を保つのに腐心しており、西側諸国も巻き込んで紛争が拡大するリスクについてたびたび警告している。
歴史の教訓を重視するマクロン氏は、1919年に連合国とドイツの間で締結された第1次世界大戦(World War I)の講和条約を引き合いに出し、ウクライナ侵攻でロシアに懲罰を加えようとする一部の西側諸国の思惑に懸念を示している。講和条約でドイツに課された懲罰的な条件は、1930年代のナチス(Nazi)が台頭する引き金となり、1939年の第2次世界大戦(World War II)勃発につながったと主張する歴史家も存在する。
マクロン氏にウクライナを訪問するよう求める圧力は強まっている。他の西側諸国の指導者がゼレンスキー政権への支持を示すために象徴的にウクライナを訪れる中、マクロン氏は「意味のある」場合にのみ訪問するとの立場を崩していない。
●「トランプ氏が大統領だったら、ウクライナ侵攻はより悲惨なものになっていた」 6/9
ウクライナ侵攻とアメリカを巡って、「バイデン大統領が“弱い”から起きたのでは?」「アメリカはなぜ派兵しないんだ」「トランプ氏が大統領だったらこんなことには…」という意見が聞かれることは多い。バイデン大統領は“弱い”大統領なのだろうか。そしてトランプ大統領なら、侵攻を食い止められたと言えるのだろうか。バイデン大統領の考え方や、世論調査から読み取れるアメリカ国民の思いとともに、明治大学政治経済学部・海野素央教授が解説する。
アメリカ社会に依然として存在する「分断」
通常、戦時にリーダーの支持率は急上昇する。であるにも関わらず、バイデン大統領の支持率は膠着状態にある。
その理由は「陰謀論」を信じている人の増加にあると言えよう。
エコノミストとユーガヴが5月21日〜24日に実施した共同世論調査では、ウクライナ難民を「受け入れるべきではない」と回答した人は22%にものぼった。回答者をトランプ支持者に絞れば37%である。
トランプ氏は大統領時代、メキシコとの国境に壁の建設を開始し、“反難民”の政策を進めてきた。そこで一部の人の内に強くなった排外的意識は、今もなお消えていないことがうかがえる。
さらに、3月26日〜29日に行った同調査ではトランプ氏支持者の27%が「新型コロナウイルスのワクチンは自閉症を引き起こす」という陰謀論を信じている。トランプ政権下で多くの陰謀論が蔓延ったことで、それを当然のものとして信じてしまう層が醸成されたのだ。
彼らは、“アメリカ第一主義”でない現在のアメリカ政治に強い不信感を持っている。トランプ氏の統治時代に生まれた分断は根深い。「戦時下の大統領であろうが絶対にバイデン氏を支持しない」という姿勢を崩さない人が一定数存在するために、支持率が上がらないのである。
国のリーダーが持つにふさわしい「力」とはなにか
エコノミストとユーガヴが5月21日〜24日に実施した共同世論調査では、「バイデン氏は強いリーダーか」という質問に対し、「強い」と回答した人が38%、「弱い」と回答した人が61%であった。
しかしながら、2020年の選挙でバイデン氏に投票した有権者を見ると73%が「強い」と回答している。支持者のなかでは「強いリーダー」とみられているのだ。一方、4月16日〜19日に行った同調査でロシアのプーチン大統領について「強い」と回答した人は61%、「弱い」と回答した人は38%であった。バイデン氏とちょうど逆の数字である。
そして、2020年の選挙でバイデン氏に投票した有権者に絞ってみても、「強い」が51%、「弱い」が48%と、「強い」が3ポイント上回る結果となっている。
では、「強さ」とは一体何であろうか。バイデン氏がポーランド・ワルシャワで「力(power)」について語った言葉とともに考えてみたい。
まずプーチン氏は「力」が正義だと思っている。その力とは「軍事力」「強制力」「権力」であり、相手をねじ伏せることを目的としたものだ。
しかし、バイデン氏が考える「力」はそれらとはかけ離れたものだ。「正義感」すなわち「道徳観」と「倫理観」こそが力であると語っている。
バイデン氏は最初の妻と娘を1972年12月25日、クリスマスプレゼントを買いにいった道中でトラックに衝突されたことにより亡くしている。2015年には、長男を脳腫瘍で亡くした。こうした過去を持つバイデン氏が、人の死を深く理解していることは想像に難くないだろう。
そもそも、バイデン氏が選挙でトランプ氏に勝てた理由のひとつはここにある。
バイデン氏は、コロナ禍の選挙で「食卓の空席」についてよく発言していた。コロナウイルスに感染したことで亡くなった方の家には、食卓に空席ができる。この言葉は、多くの遺族の胸に響いたことだろう。人の死を理解した“感情移入力”こそが、バイデン氏の「力」なのだ。そしてその考え方を理解している支持者には、7割から強いリーダーと認められているわけである。
しかし、一般的なアメリカ人にとっての力はそうではない。そこがアメリカ国民とバイデン大統領の間にあるズレであり、世論調査にも鮮明に表れてしまっている。
こうしたことは、日本で普通に情報に接していると気づけないことではないだろうか。テレビでウクライナ問題が取り上げられると、軍事専門家やロシアの専門家が出演することが多く、バイデン氏のモノの見方、考え方、価値観が語られることはない。
そのため「バイデンは弱い、ロシアがとんでもないことをしているのになにをやっているんだ」と考える人も多いに違いないが、ここでまた新たに世論調査の結果からアメリカ国民の意見を見てみたい。
米国民が「ウクライナへの派兵は悪い考え」とするワケ
エコノミストの世論調査では、「ロシア兵と戦うためにウクライナへ派兵するのはよい考えか?」という問いがウクライナ侵攻の開始からずっと設けられている。最新の調査では「良い」が18%、「悪い」が54%であったが、実はこの傾向は当初からずっと変わっていない。
日本のコメンテーターのなかには米軍の積極的関与を指摘する人もいるが、当のアメリカ国民は過半数が「送ってはダメだ」と考えているのである。
アメリカ第一主義を掲げるトランプ氏支持者であればともかく、バイデン氏支持者でさえ48%が派兵について「悪い」考えとしている。
日本ではウクライナの惨状が放送される際、遺体にぼかしを入れられているが、アメリカではぼかしのない映像が放送されることもある。そうした悲惨な光景を見ても、「派兵するのは良くない」という考えは変わらず、むしろそれを見れば見るほど派兵が「悪い」という考えは強くなっていることが予想される。
「なぜ派兵しないのか」と他国で議論されようと、当のアメリカ国民は「アメリカは戦うべき」などという考えを持っていないのだ。
バイデン大統領「ウクライナへ派兵しない」宣言のワケ
バイデン氏はなぜ、ウクライナ侵攻が始まってすぐの段階で「軍を出さない」と明言したのか、という疑問や批判も聞かれる。これについても、バイデンのものの見方、考え方を理解するとわかるはずだ。
筆者はずっと、バイデン氏のスピーチを聞き、その原稿を読んできている。そうして感じた「バイデン氏がトランプ氏と決定的に違うところ」は、スピーチのなかで「父親・母親」について非常によく語るところである。トランプ氏が親について語ることは滅多にない。
そしてスピーチのなかで、「父から学んだこと」として「意図しない戦争ほど最悪のものはない」という言葉を紹介したことがある。
バイデン氏の「ロシアと第三次世界大戦をやるべきではない」という言葉は、「意図しない戦争を起こしてはいけない」考えからきているのだろう。ロシアとの間に意図せぬ戦争が起きれば、それは第三次世界大戦となる。
だから、最初から「ウクライナには兵士を送らない」と言うことで「ロシア兵と戦うために派兵することはない」と宣誓したのではないだろうか。あえて明言することで、ロシアにはっきりとしたメッセージを送ったのだと解釈できる。
イラク・アフガンからの退役軍人と「脳腫瘍の発症」
アメリカ軍はイラク・アフガニスタンにて多量の廃棄物を燃やしてきた(イラクでは1日140万トンもの量)。
そこで有害ガスを吸ってしまった多くの兵士たちは、アメリカに戻ってからバイデン氏の息子と同じように脳腫瘍を発症してしまっている。ぜんそくや偏頭痛を発症した元兵士も数多い。
しかし、有害ガスの吸引とそれらの症状との間に因果関係が証明されていないため、これまで保険金・給付金がおりることはなかった。愛国心を示してイラク・アフガンに行った兵士たちにもかかわらず、である。
そうした状況下でバイデン氏は、2022年3月1日の一般教書演説で「因果関係がわからなくても保険・給付を拡大すべきだ」と語り、共和党からも拍手喝采を浴びた。
退役軍人を非常に大切にしていることも、「派兵しない」と宣言した理由のひとつだろう。退役軍人を大切にしているにも関わらず新たに兵士を送り出してしまっては筋が通らない。
バイデン大統領は、2020年の選挙での公約「アフガンからの撤退」を実現させている。日本では米軍撤退後の混乱ばかりに注目が集まっているが、オバマ大統領もトランプ大統領も目標としながらも成しえなかった「撤退」を、1年目で果たしたことは評価されるべきことでもある。そしてこの件からも米軍を大切にしていることがうかがえる。
「トランプ氏が大統領だったら」ウクライナ侵攻は…
「トランプ氏が大統領だったら、ウクライナ侵攻はどうなっていたか」という議論もよく聞かれる。トランプ氏は、「大統領がジョージ・W・ブッシュのときロシアはジョージアに侵攻した。オバマのときはクリミアに侵攻した。今、バイデンになってウクライナに侵攻した。しかし、自分のときはなにもやっていない」と宣伝している。
しかし、「トランプ氏が大統領を続投していたらロシアは行動を起こさなかった」と果たして言えるだろうか。
トランプ政権下で国家安全保障補佐官を務めていたボルトン氏は、今年3月1日、ワシントンポストのオンラインイベントにて「トランプが2期目の大統領であったなら、NATOから離脱していただろう。そしてそれはプーチンが望んでいたことだ」と述べた。
ボルトン氏が発言するほどであるから、NATO離脱の信憑性は高い。プーチンが望むようにアメリカがNATOから離脱すれば、ウクライナ侵攻を後押しするかたちになったはずだ。そして侵攻後も、NATOやEUとの関係のギクシャクしていたトランプ氏には、現在のような西側諸国の結束を実現することは当然難しかっただろう。バイデン氏が大統領になってすぐにNATOやEUとの関係を修復したから、今の結束があるのだ。
「選挙利用」…トランプ氏とウクライナとの関係
加えて思い出してもらいたいのは、2020年の選挙の際、トランプ氏はゼレンスキー氏に圧力をかけディール(取り引き)を持ち出していることだ。
バイデン氏の次男・ハンター氏がウクライナのガス会社の元役員であることを利用し、「バイデン氏にまつわる情報を渡したらワシントンで首脳会談をやる」と言ったと言われる。ウクライナとの関係を選挙利用した過去を持つのだ。
2016年の選挙時には「ロシア疑惑」もあった。この件に関してトランプ氏は有罪になってはいないが、ロシアにハッキングをして民主党全国委員会のメールを公開したことは、アメリカの情報機関が事実として認めていることだ。
トランプ氏はヒラリー氏の選挙で“勝った”にも関わらず、「ロシアが手伝ったから自分が大統領になれた」と思われているのが気に食わなかったようである。
そこでなんと、「ウクライナがアメリカの民主党の全国委員会と協力して、ロシアにハッキングしたのだ」という陰謀論に食いつき、「ウクライナがアメリカ大統領選挙に介入した」と主張した。そしてゼレンスキー氏に対し、「ウクライナに民主党の全国委員会のサーバーがあるから」と探すよう命じている。
トランプ氏がもし今でも大統領であったなら、トランプ氏とゼレンスキー氏の関係は明らかに「強い立場と弱い立場」であり、バイデンとゼレンスキーのような対等な関係ではなかっただろうと推測できる。
もちろん今、アメリカはウクライナに向けて武器を送っているので「強い立場」だと見ることもできなくはないが、それでもゼレンスキー氏とトランプ氏との関係は、バイデン氏との関係とはまったく違う。そういった意味でも、やはり上手くいかなかったのではないだろうか。
大統領がトランプ氏なら、ウクライナ侵攻は起きたか?
「でも、トランプ氏が大統領だったらそもそもプーチン氏はウクライナに侵攻していなかったのでは?」という意見を持つ方もいるだろう。
確かにアメリカ軍のアフガニスタン撤退を見て、プーチン氏が「バイデン大統領には戦う意思がない」と解釈した可能性はある。実際、撤退は去年の8月であるが、その後の秋からロシア軍はウクライナの国境に兵力を集結している。
アフガニスタンからの撤退はオバマ政権の頃から目指されてきたことであり、公約でもあるのだが、バイデン氏は米軍撤退により誤ったシグナルを送ってしまったのだと解釈することもできる。
とはいえ、やはりトランプ氏が大統領であったとしても、プーチン氏は侵攻に踏み切っただろうと言える。そしてその場合、ロシアやウクライナとの距離を空けただろう。トランプ氏の掲げる「アメリカ第一主義」は海外の出来事に関与しないことを意味する。
バイデン氏ほど侵攻を非難することはまずなかっただろう。むしろ、トランプ氏はウクライナに侵攻し東部を奪ったプーチン氏のことを「天才」と評した。プーチン氏は「トランプ大統領は自分のことを非難しないだろう」と考え、侵攻しやすくなったのではないだろうか。
プーチン氏について、トランプ氏は非常に興味を抱いている。習近平や金正恩に対しても同様で、その理由は自身も独裁者になりたいと考えるためだ。
つまり、プーチン氏は大統領がトランプ氏であっても「侵攻できた」だろう。「トランプ氏が大統領だったらそもそもプーチン氏は侵攻していない」とは、とてもではないが言えないことである。
●予想から倍増インフレ率8.5%に OECD38カ国でロシアのウクライナ侵攻が影響 6/9
OECD(経済協力開発機構)は2022年のインフレ率が、従来の予想から倍増して8.5%になるとの予想を発表した。
OECDは8日、日本を含む加盟38カ国の2022年のインフレ率が、2021年12月時点で4.2%としていた予想を上回る8.5%になると発表した。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が影響していて、2023年のインフレ率も、従来の予想を3.0ポイント上回る6.0%になると予想している。
また、2022年の世界の経済成長率についても4.5%から3.0%に、日本の経済成長率も3.4%から1.7%に下方修正した。
●ウクライナ軍、要衝セベロドネツクから撤退 ロシア軍が大部分掌握 6/9
ウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事は8日、要衝セベロドネツクの大部分をロシア軍が押さえ、抵抗を続けてきたウクライナ軍が市周辺に撤退したと明らかにした。ウクライナ側は先週の反撃で市の一部を奪還していたが、再びロシア軍の手に落ちた。
ガイダイ氏はニュースサイト「RBCウクライナ」に対し「ウクライナ軍は再び市周辺のみを制圧するに至った。ただ、戦闘はまだ続いている」と述べた。
知事はまた、ウクライナ軍はドネツ川をはさんだ対岸の都市リシチャンスクを引き続き完全掌握しているが、ロシア軍は市内の住宅用建物を破壊しているとネット上に投稿した。
ウクライナ国防省によると、セベロドネツクの一部でロシア軍はウクライナ側の10倍の装備を持っている。ウクライナは東部の防衛線がロシア軍により突破される可能性があるとして、西側諸国に武器の輸送を加速するよう求めている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「われわれは拠点を防衛し、敵に重大な損害を与えている。非常に激しい戦闘で、恐らくこの戦争で最も厳しい戦いの1つだ」と述べた。
その上で、ドネツク、ルガンスク両州から成るドンバス地方の命運はセベロドネツクにかかっていると語った。
ロイターは地上戦の状況を独自に確認できていない。
ロシア軍は、ドンバスにあるウクライナ軍拠点の包囲を狙って激しい地上戦を展開している。
一方、ウクライナ第2の都市である東部ハリコフでは、住民が前日の砲撃による破片を清掃する姿が見られた。ウクライナ軍は先月、同市からロシア軍を撤退させたが、散発的な砲撃が続いている。
中国中央テレビ(CCTV)は、7日遅くに同市内のショッピングモールがミサイル攻撃を受ける映像を報じた。ドローンで撮影された映像では、モールが入る大型ビルの屋根に大きな穴が開いているのが映された。
●捕虜となったウクライナ兵ら1000人以上、ロシアに移送… 6/9
タス通信は8日、治安当局関係者の話として、ウクライナ南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所でロシア軍に抵抗を続け、捕虜になったウクライナ兵士ら1000人以上が、捜査のためモスクワなどロシア本国に移送されたと伝えた。ウクライナに協力した外国人志願兵も含まれるという。
兵士らは製鉄所を出て投降した後、東部ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)の親露派支配地域に送られていた。さらにロシア国内に移送されたことで、ウクライナ側が求めてきた捕虜交換の可能性は一段と低くなり、軍事裁判にかけられる恐れが強まった。
一方、米CNNなどによると、露国内政治を担当するセルゲイ・キリエンコ大統領府第1副長官は7日、露軍が6割を掌握したウクライナ南部のザポリージャ州を訪問した。ロシアの支配強化を誇示する狙いとみられる。
ザポリージャ州の親露派「政権」の幹部は8日、ロシア通信に対し、ロシアへの編入の是非を問う住民投票を年内に実施する意向を明らかにし、「ロシアに入るのが早ければ、それだけ我々の生活向上も早まる」と主張した。
ルハンスク州の要衝セベロドネツクでは、激しい攻防が続いている。ロイター通信によると、市街地の大半は露軍が制圧しており、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は8日の声明で、「ドンバス地方の運命はここで決まる」と抗戦を訴えた。
●「ロシア再興」という夢を自ら閉ざしつつあるプーチン大統領の歴史的役割 6/9
ロシアのウクライナ侵攻から100日以上が経過した。その侵略戦争をミクロレベルまで細かく口をはさんで戦争指導しているプーチン大統領は、その思考において、明瞭に現れたパターンがある。
それは、「長期的なロシアの国益や繁栄」「ロシアの国力充実」という戦略上の勝利を重視するのではなく、「ロシア帝国復興の物語において象徴的な拠点の征服」「プーチン大統領自身の権威の維持」など、戦略上あまり意味のない勝利を重んじる傾向である。
そのため、終戦後に成就させたい国際秩序の構想や、戦争で実現すべき大義そのものが存在せず、国際政治の現実と乖離した願望のみで無計画に突っ走り、貴重な人的・軍事的資源を無意味に浪費するばかりだ。
特に開戦当初、ロシア軍は消耗戦に戦力を逐次投入する悪しきパターンに陥った。結果として兵力と装備を著しく損耗させ、戦闘能力だけでなく国力までも低下したのである。
強大な軍事力を持ちながら、ロシアが目的達成に失敗する主因は、戦略的な勝利よりも戦術的な勝利を優先する「権威主義的なプーチン政治のあり方」であろう。それは、経済分野においても繰り返されよう。
前回「エネルギー高・ルーブル高で荒稼ぎするプーチンロシアが抱える時限爆弾」で論じたように、ロシア経済は今夏から今冬にかけて顕著な悪化が見込まれる。その中で、ロシア経済がいかに市場のメカニズムを無視した統制で自縄自縛に陥っていくか、それを、旧ソ連の政治経済システムの持続性欠如や、大東亜戦争中の統制経済で失敗した日本の例を参考にしながら予測してみたい。
ロシア経済「見せかけの安定」の嘘
ロシアのウクライナ侵略戦争で繰り返される「体面や戦術的勝利の重視」による弱さは、ロシア国内の経済運営においても反復され、ロシアの敗北を早めることになると筆者は予想している。
電光石火の侵攻によるウクライナ全土の早期制圧という空想の実現に失敗したプーチン大統領は、「特別軍事作戦」において「一定の成果が得られた」と誇る。
経済面においても、「ロシアの市場にパニックを引き起こし、銀行システムを破壊し、物資を急減させることを狙った(西側の)経済制裁は明らかに失敗した」「ロシアは前例がない圧力に耐えつつ、安定を維持している」と強がっている。
だが、前回記事「エネルギー高・ルーブル高で荒稼ぎするプーチンロシアが抱える時限爆弾」で見たように、これらの主張は根拠が弱い。
ウクライナ侵攻後のロシア経済の「安定」は主に、(1)国際的な通貨需給を無視し、ロシア市場を世界から切り離すことで維持されるルーブル統制相場と、(2)世界的なエネルギー需要の高まりを受けたロシア産天然ガス・原油の売却収入の急伸によって支えられる「見せかけ」に過ぎないからだ。
プーチン大統領は、旧ソ連が冷戦時においても軍拡予算確保のため大事にしていた西側への天然ガス・原油輸出による収入を、経済制裁を引き起こすことで先細りさせるという誤りさえ犯している。
そうしたジリ貧の状況下、本気を出した米国や北大西洋条約機構(NATO)諸国との際限のない軍事競争が始まり、経済的に劣位にあるロシアの財政的な負担が耐え難いレベルに達するのは時間の問題である。
さらに重要なのは、ロシアは既にグローバル市場に深く組み込まれており、旧ソ連時代のような体面重視の「自力更生」や「ソ連圏ブロック経済内の分業体制」で自活していくことは困難になっていることだ。
フッ化水素やフォトレジストなど、日本からの戦略物資の輸出規制を受け、素材・部品・装置の国産化を図った韓国が、日本製品への依存を減らすことにある程度成功したものの、今度は中国製品に対する依存度を高める結果となったことは記憶に新しい。同様に、ロシアの中国製品への依存も高まろう。
ソ連の悪いところを復活させるプーチンの皮肉
ロシアが無理矢理の国産化による輸入品代替や、中国製の部品の輸入などで経済制裁をしのごうと図っても、多くの分野で品質問題や需給のミスマッチ、過度の中国依存が引き起こされやすくなる。ロシアのアンドレイ・クリシャス上院議員も、米ウォールストリート・ジャーナルに対して「輸入代替政策は失敗している」と認めている。
そのため、ロシア大統領府付属のロシア国民経済公共行政アカデミーの金融市場専門家であるアレクサンドル・アブラモフ氏が米ブルームバーグで指摘するように、「ロシアはモノ不足によって生じるソ連型インフレに向かっている可能性がある」のだ。
早晩ロシアは、不足物資に価格統制や配給制を敷く政策に乗り出さざるを得なくなろう。すると、もうけのインセンティブが働かず硬直化するロシア経済から、ますます効率や活力が奪われる。活性化するのは、闇市場における実勢価格を反映した取引くらいであろう。
ソビエト連邦という帝国の復興を夢見てウクライナ侵略戦争を引き起こしたプーチン大統領その人が、皮肉なことに、その旧ソ連の崩壊を誘発した「西側との果てしなき軍事・経済競争」「慢性的な物資欠乏や闇取引」「非効率的な資源の配分」「国民生活の不安定化」などソ連経済の最悪の特徴を再現させつつある。
結局、プーチン大統領の戦争指導や経済運営は、意図的であるにせよ、そうでないにせよ、彼が幼少期や青年期を過ごした旧ソ連時代への「郷愁」「先祖返り」になっている。それは、旧ソ連が一度敗北したにもかかわらず再度、自由で活発な欧米型の競争経済に対して、「統制経済(計画経済)で勝つ」という、不毛な挑戦を行う姿に映る。
ロシアの経済運営に重なる戦中の日本の姿
プーチン大統領の経済運営は、戦中の日本の姿と重なる部分がある。
大阪市立大学の石原武政名誉教授の研究によれば、当時の日本は兵器や兵糧など、軍需を満たすことを国家の最優先課題としていた。そのため、民生品の生産や配給が後回しにされ、市場メカニズムや消費者の抵抗を受けたのである。
例えば、魚介類の公定価格が定められると、漁業者たちは採算面で有利なタイの生産に集中するようになり、安いイワシが入手できなくなった大衆は高価なタイを購入せざるを得ないようになった。これは、人々に手ごろな価格のたんぱく源を多く供給しようと考えた価格統制の立案者の意図とは正反対の結果であった。
また、市場需給を無視した統制により、需要のある地域に配給が行き届かなくなる混乱が発生。戦況の悪化で、民需品は慢性的な物資不足に陥り、買占めと売り惜しみを呼んだ。そうした中、国民の政府に対する信頼感の低下が起こり、単なる商品の偏在による不足ではなく、「絶対的な品不足」の傾向が定着した。
加えて、一定の規格または品質をもたない製品でも、上等品と同じ価格で販売されたため、上等品の闇取引を生むことになった。さらに、勝手に値上げができないことで生じる不採算が生産の手控えにつながり、生産力の減退をもたらしただけでなく、品質の劣化を生み出した。
消費者の生活を守るために公定価格が低く抑え込まれれば、もうけにならない生産が縮小して、皮肉にもそれが価格の上昇につながる悪循環である。最後には生産を増やすための価格報奨制度が設けられ、公定価格も弾力化されるなど、「市場のあるべき姿」に戻りつつ、日本経済は敗戦を迎えたのであった。
経済活動を活性化させる意図の統制において、規制や取締りが中心課題となってしまい、戦勝に不可欠の経済活動の発揚には至らなかったわけだ。
言うまでもなく、現在のロシアと大戦中の日本は非常に異なる政治・経済構造を持ち、取り巻く世界情勢も全く違うため、単純な比較はできない。それでもなお、「自由か統制か」という経済の課題は似ており、統制経済が生む非効率さや硬直性、「解決より問題を生む」構造の例証としては、大いに参考になろう。
プーチンの歴史的な役割
この先ロシアで、深刻なモノ不足が起こることは間違いない。不足しない品物でも、大幅な価格上昇が見られるようになるだろう。それは、多くの品目で既に起こっている。
そうしたインフレを抑えるべく、ロシア政府が価格統制を行えば、生産者に補助金を出さない限り、戦中の日本のような生産手控えや品質低下、闇取引、買占めと売り惜しみなどが起こり得る。また、インフレ退治のために利上げを行えば、ただでさえマイナス成長のロシア経済をさらに冷やしかねない。
そうなれば、旧ソ連時代の失敗の教訓が学ばれていないことになるだろう。効率や活力、国力の充実よりも、プーチン体制の体面づくりが優先されていることが理由だ。ロシア経済の硬直は、ますます進行していくものと思われる。
1991年の旧ソ連崩壊では、その構成国の多くが独立したが、広大な領土を持つロシア連邦本体は残った。ところが、プーチン大統領が旧ソ連(ロシア)の敗北を決して受け入れられず、見果てぬ夢を追求して国力を浪費したことで、まだかすかに残存していた旧ソ連(ロシア)帝国復興の可能性を、自ら完全に葬り去る役割を演じている。
加えて、今すぐに起こることではなかろうが、ロシア連邦が崩壊し、別々の国となることで、地政学的な大変動が引き起こされる引き金になるかも知れない。それが、プーチン大統領に天が与えた、皮肉な歴史の役割ではなかろうか。
中国や米国、モンゴルやトルコ、中央アジアの国々がロシアなき後の軍事的・政治的空白を埋めようと競うことが予想される。日本は、その「まさか」の事態への備えをしておくべきだろう。
●メルケル前首相が語った「プーチン像」:ロシアへの融和政策を弁明  6/9
ドイツのメルケル前首相の件についてはこのコラム欄で書いたばかりだが、メルケル氏は7日、ベルリンで開催されたアウフバウ出版とベルリーナーアンサンブルが主催したイベントで独週刊誌シュピーゲル誌の記者のインタビューに応じ、16年間の政権時代のロシアへの融和政策について、昨年12月の退任後、初めて語った。
ロシアへの融和政策を弁明
メルケル氏はロシアへの融和政策を弁明し、ミンスク合意を例に挙げて、「その合意がなければ状況はさらに悪化していたかもしれない。外交が成果をもたらさなかったとして、その外交が間違いだったとは言えない」と述べ、「ロシアとの取引でナイーブではなかった。貿易、経済関係を深めることでプーチン氏が変わるとは決して信じていなかった」と弁明。
プーチン氏がその後、戦争に走ったことに対し、「言い訳のできない、国際法に違反する残忍な攻撃で、如何なる弁解も許されない。ロシアに対して軍事的抑止力の強化が重要だ。軍事力がプーチン氏が理解できる唯一の言語だからだ」と説明している。
プーチン氏は冷静な戦略家ではない
メルケル氏の発言自体、新しい内容はないが、メルケル氏のコメントの中で一つ驚いたことがあった。プーチン氏が冷静な戦略家ではなく、憎悪に動かされた独裁者だという指摘だ。
メルケル氏は2007年、ソチでプーチン大統領と会談した時、プーチン氏はソビエト連邦の崩壊は「20世紀で最悪の事態だ」と述べたという。メルケル氏は、「プーチン氏は西側の民主主義的モデルを憎悪していた。そして欧州連合(EU)を北大西洋条約機構(NATO)のように受け取り、敵意を感じ、その破壊を願っていた」というのだ。
すなわち、プーチン氏は戦略的、地政学的に西側民主主義社会、文化を単に嫌っていたというのではなく、「敵意」と「憎悪」を感じてきたというのだ。憎悪は嫌悪以上に数段破壊力を内包した強い感情だ。
ロシア軍がウクライナ東部国境沿いに10万人を超える兵力を結集しているという情報が流れると、西側では、「プーチン氏はウクライナ側に政治的圧力を行使しているだけで、武力戦争を開始する考えはないだろう」という意見が結構強かった。だから、ロシア軍が2月24日、ウクライナに侵攻した時、欧米の軍事専門家や政治家は驚いた。
欧米の軍事専門家、政治家は戦略的な観点からプーチン氏の次の一手を予測していた。その結果、「武力行使はロシア側にも大きなマイナスをもたらす」と分析した。しかし、肝心のプーチン大統領はウクライナへの武力行使を戦略的観点から決行したのではなく、メルケル氏が指摘したように、憎悪という強い感情に動かされて実行したわけだ。
虐殺すること、破壊すること自体が目的のロシア軍
ロシア軍の戦争犯罪行為を通じてもその点は理解できる。ロシア軍のマリウポリ空爆、ブチャの虐殺は戦略上不可欠な攻撃対象ではなかった。虐殺すること、破壊することがその目的だった。軍事的戦略とは関係がなく、ウクライナに代表される西側民主主義社会への明らかな憎悪に動かされた戦争犯罪行為だったわけだ。
国家最高指導者が一定の歴史的出来事や特定の国、民族に対して憎悪感情を有することは非常に危険なことだ。憎悪感情は冷静な判断を難しくするうえ、蛮行に走らせる危険性が排除できなくなるからだ。
ロシア正教会の最高指導者、モスクワ総主教キリル1世はウクライナとの戦争を「形而上学的な戦い」と定義し、西側の腐敗した文化に対するロシアの戦いと見て、「善」と「悪」との戦いと受け取っている。戦いが善悪の価値観に基づいている限り、妥協と譲歩は期待できなくなるのだ。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、「現時点ではいかなる停戦交渉も考えられない」と述べている。これはロシア軍が奪ったウクライナ東部を取り返すまで、といった軍事的、戦略的な立場からいった内容かもしれないが、プーチン大統領、キリル1世にとってウクライナ戦争は敗北はなく、勝利しかない。ゼレンスキー大統領とプーチン氏との間には「戦いの終結」で大きな隔たりがある。
いずれにしても、「プーチン氏が西側民主主義社会を憎悪している」というメルケル氏の今回の指摘は、非常に考えさせる。はっきりとしている点は、ウクライナ戦争を如何なる形で終結させるか、見通しが益々難しくなってきたことだ。
●ロシアの敵を「消すためなら何でもする」 露メドベージェフ元大統領 6/9
•ロシアの元大統領ドミトリー・メドベージェフ氏は6月7日、ロシアの敵を「消す」ためなら何でもすると通信アプリ「テレグラム」に投稿した。
•「彼らはろくでなしのクズだ。我々ロシアの死を望んでいる」とメドベージェフ氏は主張した。
•プーチン大統領の盟友でもあるメドベージェフ氏は現在、ロシアの安全保障会議の副議長を務めている。
ロシアの元大統領ドミトリー・メドベージェフ氏は6月7日、ロシアの敵を"消したい"との願望をテレグラムの投稿で示した。
「わたしのテレグラムの投稿はなぜそんなに辛辣なのかとしばしば聞かれるが、それはわたしが彼らを憎んでいるからだ。彼らはろくでなしのクズだ。我々ロシアの死を望んでいる。生きている限り、わたしは彼らを消すためなら何でもする」とメドベージェフ氏は書いたとモスクワ・タイムズが伝えた。
この投稿が具体的に誰に対して、何を狙ったものなのかは不明だが、ウクライナでの戦争をめぐって、プーチン大統領の盟友でもあるメドベージェフ氏のウクライナ政府や西側諸国に対する姿勢はますます好戦的になっている。
ロシアの専門家の中には、メドベージェフ氏の投稿をウクライナと西側諸国の両方に向けられたものだと解釈する声がある一方で、ウクライナ人に向けた大量虐殺のメッセージだと指摘する声もある。アメリカのバイデン大統領は4月、ロシアがウクライナでジェノサイド(大量虐殺)を行ったと非難したが、プーチン大統領はウクライナについて、その国家としての存在を否定するような発言をしている。
現在、ロシアの安全保障会議の副議長を務めているメドベージェフ氏はプーチン大統領 —— 当時は憲法の規定によって、3期連続で大統領を務めることが禁じられていた(その後、2020年の国民投票を経て、憲法は改正された) —— に後継指名され、2008年から2012年までロシアの大統領を務めた。
プーチン大統領の当初の期待に反して、メドベージェフ氏は西側諸国との関係を改善し、ロシアの民主主義を強化する"リベラル"な大統領と見られていたこともあった。ところが、2012年から2020年まで首相を務めたメドベージェフ氏は最終的に、プーチン大統領の"生涯大統領"への道を開く手伝いをした。ロシアが2月にウクライナ侵攻を開始して以来、メドベージェフ氏は一貫してクレムリン(ロシア大統領府)の大げさな、陰謀めいた主張をそのまま繰り返してきた。
例えばウクライナのブチャでロシア兵が行ったと思われる残虐行為の証拠についても、メドベージェフ氏は捏造されたものであり、「ウクライナのプロパガンダ」だと根拠なく主張した。プーチン大統領と同じく、ウクライナは正統な国家ではないとも述べている。
「反ロシアの教え、そのアイデンティティーに関する嘘に支えられた極端なウクライナ主義は、完全なイカサマだ」とメドベージェフ氏は4月、テレグラムに投稿していた。
「こんなことは歴史上起きたことがない。今やそんなものは存在しない」とも主張していた。
キングス・カレッジ・ロンドン戦争学部のロシアの専門家ルース・ダイアモンド氏は、こうしたレトリックは「大量殺人を正当化しているようにしか聞こえない」とワシントン・ポストに語った。
「極めて不穏な表現で、明らかにジェノサイドのニュアンスを感じさせる」
●プーチン大統領が国防省高官18人に階級授与 軍人“昇進乱発” 6/9
ロシア軍の指揮官がまた戦死した。ロシア国営テレビによると、ウクライナ東部で親ロシア派勢力を指揮していた軍空挺団のロマン・クトゥーゾフ少将が5日、激戦地セベロドネツクの村で死亡したという。
ロシア側は亡くなった指揮官はクトゥーゾフ少将を含め4人と主張しているが、ウクライナ側の発表では少なくとも12人が戦死。実際の人数は定かではないが、プーチン大統領は「人員補充」とも取れる動きを見せている。
モスクワ・タイムズ(ロシア語版=6日付)によると、プーチン大統領は国防省の高官18人に新たな階級を授与。階級授与は、ウクライナ侵攻後初めて。近く正式に発表される見通しだという。
戦死したクトゥーゾフ少将も昇進の対象で、国防省のコナシェンコフ報道官など存命中の高官も格上げ。「特別軍事作戦」に参加した18人のうち9人が中将、残る9人が少将に昇進した。
軍人と家族を昇進によるカネで説得
気になるのは、なぜこのタイミングで昇進を乱発しているのか、だ。戦場で失った指揮官を補充しているのか。筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう言う。
「その意味合いもあるでしょうが、新たに最前線へ送るためだとも考えられます。ロシアでは、戦死した軍人に上の階級や勲章を与えることがよくあります。遺族への補償は手厚くなり、亡くなった本人は英雄扱いされる。それに準じ、生きているうちに上の階級を与えることで、士気を高める。残された家族への補償も大きくなるから『安心して作戦を遂行せよ』と納得させやすくなります。ウクライナに侵攻したロシア軍の地上戦力の3分の1が喪失したといわれる中、ホンネでは誰も戦地に行きたくないはず。つまり、プーチン大統領は、戦地に行きたくない指揮官と行かせたくない家族を、昇進によるカネで説得しているのです」
ロシア国内で広がる厭戦ムードに、プーチン大統領も焦っているようだ。
「クレムリン(大統領府)は、戦争の『長期化』を報じないよう、国営メディアにお達しを出しています。厭戦ムードが広がる中、プーチン大統領は検討中のトルコ訪問で、一時休戦に持ち込むのではないか。昇進は、一時休戦に伴い、制圧地域の治安維持に新たな指揮官を派遣するためでしょう」(中村逸郎氏)
一体、いつまで「プーチンの戦争」に付き合わされるのか。 

 

●イギリス人らウクライナ軍義勇兵3人に死刑判決…「雇い兵活動罪」などで  6/10
タス通信などによると、ウクライナ東部の親露派武装集団が一方的に独立を宣言している「ドネツク人民共和国」の裁判所は9日、ウクライナ軍の義勇兵として参戦し、4月に南東部マリウポリで拘束されていた英国人2人とモロッコ人1人に「雇い兵活動罪」などで死刑判決を言い渡した。
3人は上訴する方針という。ウクライナ軍参謀本部は3人は雇い兵に該当しないとして、捕虜への人道的処遇を定めたジュネーブ条約が適用されるべきだと主張している。英BBCなどによると、3人はいずれも男性で、英国人は20歳代と40歳代、モロッコ人は20歳代という。
●捕虜となったイギリス人ら3人に死刑判決 親ロシア地域の裁判所 6/10
ロシアの侵攻を受けているウクライナのために現地で戦い、捕虜になったイギリス人2人とモロッコ人1人が9日、ウクライナ東部で開かれたロシアの「代理法廷」で死刑を宣告された。
死刑判決を受けたのは、イギリス・ノッティンガムシャー出身のエイデン・アスリン氏(28)、同ベッドフォードシャー出身のショーン・ピナー氏(48)、モロッコ国籍のブラヒム・サウドゥン氏。イギリス人2人は、4月にロシア軍に捕らえられていた。
ロシアの通信社RIAノーヴォスチは3人について、雇い兵であること、暴力的に権力を奪ったこと、テロ活動実行の訓練を受けていたこと――の各罪で起訴されたと伝えた。
裁判は、ウクライナ東部の親ロシア派地域の「ドネツク人民共和国」にある裁判所で開かれた。同共和国も裁判所も、国際的に正当だと認められていない。
イギリスとウクライナは、戦争捕虜を保護する国際法に違反するとして、この判決を非難している。
イギリス人捕虜2人の家族らは、2人は共にウクライナ軍に長年所属しており、雇い兵ではないと主張している。
2人とも2018年からウクライナ在住で、アスリン氏にはウクライナ人の婚約者がいるという。
ロシアのタス通信によると、死刑を言い渡された3人は全員が上訴する意向だと、3人の弁護士が明らかにした。
英政府は非難
イギリス政府は、アスリン氏とピナー氏に対する死刑判決に「深い懸念」を抱いており、両氏の解放に向けてウクライナと協力し続けているとした。
首相官邸報道官は、戦争捕虜が「政治的な目的のために利用されてはならない」とし、ジュネーブ条約が定める「戦闘員免除」の対象になると規定されていると指摘した。
リズ・トラス外相は、今回の判決について、「正当性のまったくないでたらめな判決」だと非難。「私の思いは(捕虜の)家族とともにある。政府は全力で支援していく」と述べた。
BBCのジェームズ・ランデール外交担当編集委員は、外交圧力が有意義な結果を生むとは考えにくいと説明。捕虜交換でイギリス人2人が解放される可能性はあるが、これまでの協議では前進がみられていないとした。
また、英政府が今回の判決への対応をウクライナ政府に任せるのではなく、自国の問題として大きく取り上げ、ロシアとの二国間の対立案件にした場合、イギリス人2人は雇い兵だとするロシア側の誤った主張を勢いづかせる恐れがあると、懸念の声が英政府内にはあるという。
法廷では
ウクライナの首都キーウから裁判を取材しているBBCのジョー・インウッド・ウクライナ特派員によると、捕虜3人はこの日、全員が黒い服を着て、法廷のおりの中で立っていた。判決が読み上げられると、集中して聞いていたという。
アスリン氏とピナー氏は、頭を下げ、身動きせずに立っていた。2人の間に立ったブラヒムさんは、不安そうに体を揺らしていたという。
ロシア国営インタファクス通信によると、アレクサンドル・ニクリン裁判長は、「判決を出すにあたって裁判所は、既存の規範や規則だけでなく、正義という不可侵の大原則によって導かれた」と述べた。
「法よりプロパガンダ」
ウクライナ外務省はBBCに対し、ウクライナ軍のために戦って捕らえられたすべての外国人は、国際人道法の下で戦争捕虜としての権利をもつと説明。ロシアが「捕虜に対して虐待、脅迫、非人道的な行動をすることは禁じられている」とした。
同省報道官は、3人の「いわゆる裁判とされるもの」は「ひどかった」と非難。ウクライナ政府として、「ウクライナ防衛者全員の解放のために全力を尽くしていく」と付け加えた。
そして、「こうした公開裁判は、法律や道徳よりもプロパガンダの利益を優先させ、戦争捕虜の交換制度を弱体化させる」と述べた。
親ロシア地域の状況
「ドネツク人民共和国」(DNR)は、2014年に親ロシア派の分離主義者たちによって設立された。
オーラ・ゲリン国際担当編集委員によると、DNRでこれまで処刑が行われたかどうか、今後実際に捕虜3人を処刑するのかどうかは不明だという。また、DNR当局がロシアのウラジーミル・プーチン大統領から直接命令されていることはほぼ間違いないという。
ゲリン編集委員は今回の判決について、ウクライナへの軍事支援をめぐって、イギリス政府に圧力をかけて困らせる、ロシア政府の戦術とみられると説明した。
プーチン氏は2月24日のウクライナ侵攻開始に先立ち、ウクライナ東部のドネツクとルハンスク両州の分離独立を認めると発表。北大西洋条約機構(NATO)や西側諸国は、これを非難した。
侵攻から1カ月の時点で、ロシアはキーウ制圧の野望を縮小し、東部ドンバス地方に焦点を移した。
ここ数週間、東部ルハンスク州セヴェロドネツクが戦争の焦点となっている。ウクライナ軍とロシア軍は支配権をめぐり、激しい市街戦を繰り広げている。
●ロシアのエネルギー輸出収入、ウクライナ侵攻前よりも高水準=米高官 6/10
米政府の国際エネルギー問題担当特使を務めるアモス・ホッホシュタイン氏は9日、ロシアはウクライナ軍事侵攻前よりもエネルギー輸出で多くの収入を得ている可能性があるとの見方を示した。
同氏は上院小委員会公聴会で、ロシアがウクライナ戦争が始まる数カ月前よりも原油や天然ガスの輸出で利益を得ているかという質問に対して「それは否定できない」と答えた。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後の世界的な石油需要の伸びは「誰もが予測したよりもはるかに大きく、堅調だった」と述べた。
他の産油国よりも割安で提供することで、ロシアは主要エネルギー消費者の中国やインドなどにより多くの製品を輸出することができたと説明した。
国際エネルギー機関(IEA)は5月にロシアの石油収入は年初から50%増加しており、輸出の大半は欧州連合(EU)向けだと指摘した。
●ウクライナに機雷除去要請 「アフリカで飢饉起きる」―AU議長 6/10
アフリカ連合(AU)議長国セネガルのサル大統領は9日、ウクライナに対し、南部オデッサ沖の機雷を除去するよう要請した。フランス・メディアの取材に答えた。ウクライナからの穀物輸出が再開されなければ「アフリカ大陸を破壊する深刻な飢饉(ききん)となる」と訴えた。
サル氏は3日、訪ロし、プーチン大統領と会談したばかり。「プーチン大統領に、機雷を除去したらロシア軍が突入するだろうと聞いたが、しないと約束した。国連と一緒に機雷を除去し、穀物輸出を始めよう」と呼び掛けた。
サル氏は10日、パリでマクロン大統領と会談する。ロシアからの輸入代金支払いについて「大半は欧州の銀行を経由している」と指摘し、対ロ制裁解除への支援を要請すると語った。
●NATOを覚醒させたウクライナ侵攻 6/10
ロシアによるウクライナへの侵攻は、世界に衝撃を与えている。軍事施設への攻撃から一気に無差別攻撃へと拡大し、一般市民に甚大な被害をもたらし、4月上旬時点で400万人以上[編集部注:6月現在、600万人/UNHCR発表]の難民を出していることで、ロシアは国際社会から非難を浴びている。
このプーチンによる「特別な軍事作戦」の戦争目的とは、いったいどのようなものなのか。プーチンが2月24日の宣戦布告♂艶烽ナ最初にとりあげたのは、NATOの東方拡大が「根源的な脅威」になっているとの認識である。
冷戦が終結しソ連が崩壊したとき、米国はNATOを東に拡大させないと約束したのに、ロシアは騙された。それのみならずNATOはウクライナに拡大しようとして、ロシア系住民を抑圧しているウクライナの現政権の「極右民族主義者」や「ネオナチ」を支援している。そこでそうしたロシア系住民を保護し、「非軍事化」と「非ナチ化」を目指して「特別な軍事作戦」を開始する、というものだ。これは言い換えると、ウクライナを武装解除したうえで、中立を宣言させるということになる。
このようにプーチンの認識には、NATOに対する底知れない憎悪がある。しかしこれは、NATOが冷戦後にいかに機能の変容を遂げ、ロシアとのパートナー関係構築に腐心してきたかを考えると、あまりに被害妄想的でかつ後知恵的な印象を覚える。
そもそも米国はロシアを騙したのか。最新の研究によると、1990年のドイツ統一とNATOへの残留交渉のなかで、米ベーカー国務長官や西独のゲンシャー外相、コール首相らが、ゴルバチョフとの会談の際、NATOの「管轄範囲」は東独に拡大しないとか、東への拡大は課題とはなっていないということを発言した事実はあるが、それを取りかわした文書、議事録は存在しないことがわかっている。
実際にロシアはNATOのはじめての1999年東方拡大の際に、不拡大の約束を根拠に反対したということもなかった。この背景にはNATO側の対ロ配慮もある。
1997年にNATOはロシアと基本議定書を締結したのだが、そこでは双方を敵とはみなさないことを再確認し、1999年以降の新規加盟国にはNATO加盟国の部隊を常駐させず、核兵器も配備しないことを約束したうえで、NATOロシア評議会を設置して外交チャンネルを開いている。
また、2002年にNATOが中・東欧7カ国の加盟を決めた当時は、前年の「9.11」同時多発テロを契機とした国際的な対テロ協調の気運があったうえ、プーチン政権の基盤がまだ固まっていなかったこともあって、米ロ関係は比較的良好であった。そのためウクライナ同様に旧ソ連に属していたバルト三国のNATO加盟にさえ、今回のような激しい反発はみられなかった。
冷戦後のNATOとロシアの関係はこのように、決してロシアを無視したNATOによる一方的な膨張主義ではなかった。それどころかNATOは2010年の戦略概念において、ヨーロッパに深刻な脅威は存在しないとの認識のもと、ロシアが戦略的パートナーであることを強調していたのである。
さらに、拡大したNATOは、決して一枚岩ではなかった。バルカン半島の民族紛争への介入と、アフガニスタンへの関与により国際的な危機管理を主任務の1つとするようになったNATOは、2010年の戦略概念で、従来の集団防衛に加え、この危機管理と協調的安全保障の3つを主任務とする同盟と自らを再定義した。
しかしこれは妥協の産物でもあった。たとえばバルト三国やポーランドはロシア脅威の観点から集団防衛重視を訴えていたのに対して、米英は危機管理へのNATOの関与拡大を求めていたし、ドイツは非軍事的な協調的安全保障を強調する一方で、フランスはEUの安全保障機能の強化を標榜していた。
2014年のロシアによるクリミア併合とウクライナ東部ドンバスへの侵入は、ウクライナの主権を無視して力により現状変更を図るという点で、現在のウクライナ侵攻のいわば前哨戦であった。しかしその際にも、NATOは必ずしも一体となって対応することができなかった。
たしかに2014年以降、NATOは集団防衛を目的とする演習を増やし、即応部隊の整備強化やバルト三国、ポーランドへの部隊配備なども打ち出した。
しかし各加盟国レベルの現状認識はバラバラで、それぞれの安全保障戦略文書における記述も、ロシアを名指しで脅威とみなす国はバルト三国やポーランドなどわずかであり、加盟国のなかでは少数派であった。
2017年からの米国トランプ政権は、NATOの亀裂を拡大させた。トランプは、ヨーロッパが軍事的負担を十分引き受けていない問題に焦点をあて、NATOを米国に依存する「時代遅れ」な同盟とまで糾弾した。
バイデン政権になるとNATOへの復帰を打ち出したものの、中国に対する認識の差や、アフガニスタンでの一方的な部隊撤収決定などをめぐり、米欧関係は必ずしも修復しなかった。
そうしたなかで勃発したロシアによるウクライナへの侵攻は、自由と民主主義に対する挑戦であり明確な国際法違反であった。さらに、原子力発電所への攻撃、住宅や病院などへの無差別な攻撃、違法な爆弾の使用といったロシア軍の無法ぶりが次々と明らかになるにつれ、米欧の一致した反応を引き起こした。
NATOはロシア非難の政治的プラットフォームとして機能したばかりでなく、中・東欧加盟国への部隊派遣による抑止態勢強化、情報収集、輸送支援で結束した。加盟国のレベルでもヨーロッパの安全保障認識は大きく様変わりしている。
たとえばドイツは、ロシアとの新しいガスパイプライン計画(ノルドストリーム2)の凍結に踏み切った。また紛争地への武器禁輸の原則をあらため、攻撃的兵器(対戦車砲や携行式地対空ミサイル)のウクライナへの供与を決めた。
そのうえで、トランプ政権で負担が少ないとさんざん批判された防衛費について、NATOの目標であるGDP比2%以上に引き上げることを決定した。第二次世界大戦の教訓から、国際安全保障の問題には非軍事的アプローチを重視するというドイツの戦略文化が、変わろうとしている。
中・東欧は、それまで対ロ認識をめぐって2つのグループに分かれるとされていた。バルト三国やポーランド、ルーマニアは、ロシアと隣接しているのみならず、過去にロシアに支配・占領されてきた歴史から対ロ脅威認識が強い。
それに対してスロバキア、ハンガリーは、ロシアの天然ガスや石油への依存が大きく、ブルガリアはかつてロシア帝国によりオスマントルコ帝国のくびきから解放されたことから、親ロ的であることが知られている。
ウクライナ侵攻後は、そうしたロシアへの微温的空気は一変した。中・東欧すべての国がロシアへの制裁に参加し、バルト三国やポーランドに加え、ルーマニア、スロバキアも米軍やNATOの部隊を受け入れた。
それどころかNATOに入っていない非同盟国スウェーデン、フィンランドや永世中立国スイスまでもが制裁に参加し、攻撃的兵器の供与をも実施している。
このうちスウェーデン、フィンランドは近年、特別のパートナーとして、集団防衛シナリオに基づくNATOの軍事演習への参加や、平時・緊急時の「受け入れ国支援」をNATOと取り決めるなど協力を強化していたが、ここにきてこれら非同盟国のNATO加盟問題さえ浮上してきている[編集部注:スウェーデンとフィンランドは、5月18日に正式にNATO加盟申請した]。
今年6月にはマドリッドでNATO首脳会議が開催され、2010年以来の改定となる新しい戦略概念が発表される。そこでの大きな焦点は、実はウクライナ侵攻前までは中国であった。2019年12月のNATO共同宣言に、「課題と挑戦」という表現で中国がはじめて登場した。その後、バイデン政権の成立とともに中国脅威論が前面に出てきた。ヨーロッパにとって軍事的脅威ではない中国に対して、NATOとしてどのように向き合うのかが問われるはずであった。
これが完全にひっくり返ってしまった。ロシアを戦略的パートナーとして位置づけていた2010年戦略概念の気運は一転して、新しい戦略概念では、集団防衛の態勢強化や近代化が強く打ち出されることになるだろう。
プーチンは「根源的な脅威」をみずから呼び起こし、覚醒させてしまったのである。
●ロシアの暗部を熟知する“プーチンが最も恐れる男”が激白 6/10
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領が、最も危険視する人物がいる。新興財閥「オリガルヒ」の筆頭として知られる実業家、ミハイル・ホドルコフスキー氏(58)だ。
ホドルコフスキーはソ連崩壊後、ボリス・エリツィン時代の民営化で国有資産を買収し、1990年代に30代の若さでユーコスを設立。同社はロシアの石油生産の2割を占め、彼は瞬く間にロシアNo.1の富豪にのし上がる。そして豊富な資金をもとに、政財界で影響力を強めた。
だが、ホドルコフスキー氏はプーチンと対立するようになる。2003年、プーチン政権はホドルコフスキー氏を突如逮捕。彼はシベリアで10年間の獄中生活を送り、ユーコスは解体された。
その後、ホドルコフスキー氏は2013年に恩赦を受けてイギリスに事実上亡命した。
だが、現在もプーチン体制打倒への執念は衰えておらず、ロンドンを拠点に反プーチン運動を展開。プーチンからいつ狙われてもおかしくない状況にある。
そうした中、ホドルコフスキー氏が「文藝春秋」のインタビューに応じた。今回のウクライナ侵攻後、日本メディアへの登場は初となる。
「レガシー」に取りつかれた男
なぜプーチンは無謀な戦争を仕掛けたのか? ホドルコフスキー氏は、「武力行使はプーチン体制の核心」とし、こう分析する。
〈まず、プーチンの統治の特徴は、「大国復興」という帝国主義の幻想によってロシア市民をつなぎとめてきたことにある。対外武力行使に訴えるのは、プーチン体制の核心といっていい。1999年の首相就任後すぐにチェチェン戦争を仕掛けて国民の支持を獲得し、エリツィンの後継者として翌年の大統領選での勝利につなげた。2008年のジョージア侵攻や2014年のクリミア半島併合でも求心力を高めている。そして今回、コロナ危機の打撃を受けたあとにウクライナへの侵攻に踏み切った。〉
そして、「何よりも大きいのは、プーチンがレガシーづくりにとらわれていることだ」と指摘する。
〈プーチンは今年70歳になる。20年以上も権力に君臨し、先が短いことを悟ったいま、彼は偉大な指導者として歴史に名を刻もうとしているのだ。ウクライナに誕生した東スラブ民族の最初の国家、キーウ公国で東方正教を国教化した伝説的な大公ウラジーミル(ウクライナ名はボロディムィル)と肩を並べる存在になりたがっているのだろう。プーチンが2016年にクレムリンのそばに大公の像を建造していることからもそれがうかがえる。〉
西側諸国の中には、プーチンの病気や精神状態の変化を疑う見方もある。だが、ホドルコフスキー氏は「独裁者としてのプーチンの本質はずっと変わっていない。KGBのエージェントだったプーチンは、異なる顔を使い分けることを叩き込まれてきた。その場その場、相手や時代に応じて、いくつものマスクをかぶってきたにすぎない」とし、こんなエピソードを明かした。
〈プーチンは大統領に就任して間もなく起きた原子力潜水艦「クルスク」の沈没事故(2000年8月、乗組員118人全員が死亡)への対応で、その正体を垣間見せた。亡くなった乗組員の夫人らと面会した後に、プーチンは「奴らは売春婦だ」などと口汚く罵ったのだ。〉
「大統領はひどく怒っている」
さらにプーチンは経済界に対しても圧力を強めてくる。
〈2003年にプーチンは私を個別に呼び出し、「特定の政党を支持するな」と要求した。私はユーコスの資金を使って政党を支援しないと約束した。しかし、ユーコスの従業員や株主が自己資金で政党を支持するのを止めることはできないとも伝えた。私は企業経営について決めることはできても、従業員や株主の政治的な指向まで統制することはできないと考えていたからだ。
プーチンはその時、黙っていた。だが後に彼の側近から、「大統領はひどく怒っている」と聞かされた。プーチンは、私が彼に挑戦しようとしているのだと決めつけたのだ。その時初めて、私とプーチンは市民の権利について根本的に考え方が異なっているのだと気づいた。〉
それでもホドルコフスキー氏は粘り、プーチンの側近たちによる犯罪を指摘し「汚職と賄賂はもうたくさんだ」と訴えた。
〈ところがプーチンは一切耳を貸そうとしなかった。私はこの時、プーチンが汚職を政治の道具として使い、国を支配しようとしているのだと悟った。プーチンの本性を認識したその時からもう20年近く、私は戦っていることになる。〉
「西側のほうが折れてくる」とみるプーチン
長期化するウクライナ侵攻だが、プーチンは勝算があるのだろうか? ホドルコフスキー氏は「西側がこの戦争の最後までプーチンと対峙し続けられるのかどうか、私は確信が持てないでいる」としたうえで、プーチンの目論見をこう推測する。
〈ウクライナの抵抗の生命線は、欧米の支援にほかならない。同国を勝利に導くためには、武器の供給から食糧、財政の支援まで、欧米は毎年、何千億ドルもの負担に備えなければならない。選挙のサイクルで回る民主主義陣営の指導者にとって、長期の関与は難しく、数か月〜1年単位でしか先は見通せないことを我々は知っている。
だからプーチンは長期戦に臨み、西側が折れてくるのを待っているはずだ。欧米がロシアに対してここまで厳しい経済制裁を発動し、ウクライナ支援で団結したことは誤算だったはずだが、戦争が長期化すれば、西側はウクライナを支えきれなくなるとプーチンは踏んでいる。西側の指導者だけでなく、社会情勢も持たなくなると見透かしているに違いない。インフレなど、戦争の副作用の痛みが広がってくれば、ウクライナを支持する西側の世論も変わってくるかもしれない、と。
そこで私が訴えたいのは、ウクライナを断固として支援し続け、プーチンを止めなければ、西側はおそらく1〜2年のうちにもっと大きな代償を払うことになるということだ。少しでも譲歩すれば、プーチンは必ず次の攻撃を仕掛けてくる――そう指摘するゼレンスキー政権の見立ては正しい。〉
「核兵器使用」の可能性は?
さて、気になるのは「核」である。プーチンが核兵器を使用する可能性はないのか? ホドルコフスキー氏は「その可能性は低い」とみている。
〈プーチンが戦争に負けつつあると分かっている状況で、将軍たちは人類を滅亡させかねない核ミサイル発射という犯罪行為に出るだろうか。
先に述べたように、ウクライナで負ければ、プーチンは権力失墜を免れない。私の考えでは、そのような状況になったときにはプーチンは権力を失い、おそらく死を迎えることになる。それがどのような形かは分からない。しかし、確実に彼を待っているのは死だ。〉・・・
●ロシアを覆う「鉄のカーテン」存在せず=プーチン大統領 6/10
ロシアのプーチン大統領は9日、西側による経済制裁を受けてもロシアを覆う「鉄のカーテン」は存在せず、旧ソ連のように世界から自らを閉ざすことはないと述べた。
欧米の制裁により、ロシア経済は1991年のソ連崩壊以降、最大の経済危機に直面している。
ロシア経済が「封鎖」される中、起業家向けのテレビ会議で中国やインドなどのパートナーとの取引の可能性について問われたプーチン大統領は、ロシア経済は開放性を保つと言明。「ソ連時代には自分たちの手でいわゆる鉄のカーテンを作り、自ら閉鎖した。同じ過ちを繰り返さない。われわれの経済は開放的なものであり続ける」と述べた。
●ロシア、西側の禁輸措置でも原油生産継続=プーチン大統領 6/10
ロシアのプーチン大統領は9日、西側諸国がロシアへのエネルギー依存を引き下げようとする中でも、ロシアは原油生産を継続するとの考えを示した。
プーチン大統領はテレビ放映された若手起業家との会合で、西側諸国が数年以内にロシアに対するエネルギー依存を完全に解消することはできないとし、「ロシアは油井にセメントを流し込むようなことはしない」と述べ、原油生産を継続する意向を示した。
ロシアの原油生産は4月に約9%減少。その後は輸出を中国やインドを含むアジア地域に振り向けたため、生産は安定的に増加している。
プーチン氏は、西側諸国の制裁措置で原油市場への供給が減少し、価格が上昇していると指摘。「ロシア企業の収益は増加している」と述べた。
●プーチン氏、西側は今後何年もロシアのエネルギーを拒絶しないと 6/10
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9日、西側諸国は今後数年にわたりロシア産の石油や天然ガスの輸入を止められないはずだと述べた。
プーチン氏は若い起業家の集まりで、「世界市場の石油供給量は減少し、価格は上昇している。企業の利益は増えている」と話した。
大統領はさらに、数年後にどうなっているか誰も分からないので、ロシア企業は「油井をコンクリートで埋めたり」しないとも述べた。
これとは別に米上院の欧州関連小委員会で同日、米国務省のエネルギー安全保障特使、エイモス・ホクスタイン氏が、ロシアのエネルギー収入増加について証言した。ウクライナ侵攻開始前よりロシアの化石燃料収入が増えている可能性について質問され、ホクスタイン氏は「それは否定できない」と答えた。
アメリカ政府はロシアのウクライナ侵攻に対する制裁として、ロシア産エネルギー製品を全面的に禁輸している。しかし、数カ月にわたる世界的な石油・ガス価格上昇によって、ロシアの利益が拡大している可能性がある。
欧州連合(EU)は現在、天然ガス需要の約4割をロシアから輸入している。EUは今年末までにロシア産石油への依存度を9割減らすと約束しているが、これまでのところロシア産ガスについては利用削減を表明していない。
ピョートル大帝との比較
9日はロシアのピョートル1世(ピョートル大帝)の生誕350年記念日にあたり、プーチン氏はモスクワの記念展示を訪れた後、若い起業家の集まりに出席した。
ピョートル1世は17世紀末〜18世紀のロシア皇帝で、ロシア近代化のほかに大国化を推進。スウェーデンとは長年にわたり領土戦争を戦った。
プーチン氏は若者を前に、スウェーデンとの北方戦争に言及し、「(ピョートル大帝は)スウェーデンと戦うことで、何かをつかんでいたという印象を受ける。何かを奪うのではなく、奪い返していたという印象だ」と述べた。さらに続けて、「今の私たちにも、奪い返して強化する責任がある」と発言。現在のウクライナ情勢への言及と受け止められている。
●ウクライナ戦線、狭い範囲での長期戦へ...「解放戦争」から「絶滅戦争」に移行 6/10
ロシアが仕掛けたウクライナにおける戦争は、より大型の兵器を用いたものになる一方、より狭い範囲の地域を巡る戦いとなっている。焦点は開戦直後に争われたウクライナ北東部の首都キーウやハルキウといった主要都市から、戦闘の激しさが増す一方の東部戦線に点在する小さな町の攻防戦へと変化している。ウクライナとロシアの双方は、東部ドンバス地方での消耗戦に備えるようになった。
東部ドネツィク州のヴォルノヴァーハやリマン、セベロドネツィクといった、これまであまり知られていなかった場所では、永遠に続くかと思われる集中砲撃によって、市民生活の維持がほぼ不可能となっている。両軍はともに、戦場で決定的な勝利を収められずにいる模様だ。ウクライナ東部では、双方の支配地域を示した地図がほとんど変化しなくなっている。砲撃と膠着状態は、今後もしばらく続きそうな状況だ。
ロシアが本格的な攻撃を始めた当初は、侵攻した空挺部隊と機甲部隊がウクライナ北部を蹂躙し、首都を攻め落とそうとした。しかし、北部のキーウやハルキウの制圧を目指したものの、ウクライナ軍による待ち伏せ奇襲攻撃により、おおかたが撃退された。
その一方、南部で展開するロシア軍の作戦はおおむね成功し、マリウポリを起点に、そこから西へ約250マイル(約400キロメートル)離れ、ドニエプル川を越えたヘルソンに至るまでの一帯を確保した。南部前線におけるこの戦いは依然として激しいが、真に破壊的な戦闘が起こっているのは東の地域だ。
「東部一帯ではロシアがかなり優勢」
独立系のオープンソース・インテリジェンス(OSINT)アナリスト、ヘンリー・シュロットマンは本誌に、現在の軍事的均衡について語ってくれた。「ロシア軍は大まかに言って、イジュームからリマン、セベロドネツク、ポパスナまでの一帯に集中している」。シュロットマンはロシア側についてこう述べた。
また、東部前線で展開するウクライナ軍にも触れ、こう説明した。「東部一帯では、砲兵力でも兵士動員数でも、ロシアがかなり優勢だ」
おそらくマリウポリでの戦闘を別とすれば、東部前線における戦いが、これまでで最も激しいものとなっている。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5月22日の記者会見で、東部ではウクライナ兵が1日あたり50人から100人も死亡していることを明らかにした。その後もしばらく砲撃が続いたことから、犠牲者の数が減少しているとはとうてい考えられない。
民間人にもかなりの犠牲者が出ている。死亡者や避難民の確かな数はいまだ得られていないが、ルガンスク州のセルヒィ・ガイダイ知事は6月5日、同州の都市セベロドネツィクには、侵攻前におよそ10万人が住んでいたが、残っているのは推定でわずか1万5000人だと発表した。
一方でロシア側は、歩兵部隊の頭数が不足している。ロシア政府はこれまでのところ、国民総動員を発令しないことを選択している。そのため、最近のロシア軍による進軍は、兵士よりも砲撃に、かなり大きく依存したかたちになっている。
ロシアの「名目」とはかけ離れた行動
そしてロシア側に言わせれば、この戦略は功を奏しているようだ。
ロシアの軍事専門家ウラジスラフ・シュリーギンは本誌に、「われわれは4月末以降、先端技術を利用した偵察行動と圧倒的な火力を組み合わせている」と述べた。「ロシア軍は機動大隊を複数有しているが、われわれにとって最も効果的なのは、砲撃で敵をとにかく苦しめる戦い方だ」
ロシア軍は、まずはウクライナの諸都市に激しい砲撃を加えてから、ゆっくりと着実に進軍している。その徹底された攻撃手法により、都市は完全に破壊され、守るべきものはいっさい残されていない状態だ。
このやり方は、ロシア政府が言う「特別軍事作戦」の目的とはまったく食い違っている。ロシア政府によれば、特別軍事作戦は、ウクライナ東部と南部に暮らすロシア系住民を「解放する」ことが目的のはずだからだ。
ロシアによる侵攻はむしろ、ウクライナのロシア語圏を壊滅させる戦争へと変わってきている傾向が強い。ウクライナが領土を死守するために必要な重火器が西側諸国から届き始めているなか、前線では砲撃が届くすべての場所で、徹底的な破壊が続きそうだ。
●ロシア正教会内の「人事」 ウクライナ戦争を100%支持するキリル1世  6/10
突然の人事には明確な思惑や狙いがあるものだ。ロシア軍のウクライナ侵攻以来、戦争を主導するプーチン大統領を一貫として支持してきたロシア正教会最高指導者、モスクワ総主教キリル1世(75)に対しては世界の正教会から批判の声が高まってきていることはこのコラム欄でも報告してきた。
モスクワ総主教府で実質的ナンバー2の異動
ところで、そのモスクワ総主教府で実質的ナンバー2の立場にあった対外教会関係局長(渉外局長)のボロコラムスクのイラリオン府主教(55)が7日、渉外局長の地位を解任され、ハンガリーのブタペスト府主教に異動になったことが明らかになった。イラリオン府主教の後任にはコルスンのアンソニー府主教(37)が選ばれた。
イラリオン府主教は、キリル1世とローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇とのオンライン会談(3月16日)でもキリル1世の傍に立ち会って聖職者だ。キリル1世はこれまでロシア正教会を世界に紹介するPR的な役割を担うイラリオン府主教を信頼してきた。
キリル1世へのモスクワ正教会内の批判が高まってきたという観測
それだけに、今回の突然の人事はモスクワ総主教府内で外からは分からないキリル1世とイラリオン府主教との間で葛藤があったのではないか、といった憶測を生み出している。ずばり、プーチン大統領が主導するウクライナ戦争を100%支持するキリル1世に対して、モスクワ正教会内でも批判の声が高まってきたことと関連する、という読みだ。
イラリオン府主教は2009年から渉外局長のポストだった。これまでキリル1世の戦争支持に対して表立って批判的な発言をしたというニュースは報じられていない。ただし、正教会系のメディアによると、同府主教は2月24日以降、戦争を擁護するキリル1世に距離を置く発言をしてきたという(キリル1世への「批判発言説」)
ドイツの神学者レギーナ・エルスナー氏は、「イラリオン府主教は表立ってキリル1世を批判していない、キリル1世のように戦争を積極的に擁護する聖職者ではなかった。それがキリル1世の目には府主教の弱さ、忠誠心の欠如と受け取られたのかもしれない」という。
ちなみに、同府主教はオーストリア国営放送とのインタビュー(5月24日放送)の中で、「ウクライナ戦争ではロシアと西側では全く異なった見解、情報が流されている。重要なことは双方が相手の見解を傾聴することだ。さもなければ双方の溝はより深まるだけではなく、戦争はグローバルに拡大していく危険がある」と述べている。その見解はキリル1世のような攻撃的なトーンはなく、極めて冷静だ。
考えられるシナリオとしては、ウクライナのロシア正教会(UOK)がキリル1世を批判し、モスクワ総主教府から離脱を宣言したことへのイラリオン府主教への責任追及だ。ウクライナ正教会は先月27日、ロシア正教会のモスクワ総主教キリル1世の戦争擁護の言動に抗議して、ロシア正教会の傘下からの離脱を決定した。
それに先立ち、イタリアのロシア正教会などが次々とモスクワ総主教府の管轄下から離れていったが、ウクライナのモスクワ総主教府下のウクライナ正教会(UOK)の離脱宣言はモスクワには大きなダメージを与えた事は間違いない。ゆえに、今回の人事は、対外関係を担当するイラリオン府主教の解任人事というわけだ。イラリオン府主教が主教会議(聖シノド)の常任委員の地位をも失ったというから、「解任説」は当たっているかもしれない(「分裂と離脱が続く『ロシア正教会』」2022年5月29日参考)。
「戦略的人事説」の浮上
注目される説として、モスクワ総主教府の「戦略的人事説」が浮上してきている。イラリオン府主教がハンガリーのブタペスト府主教に任命されたという事実だ。キリル1世にとってハンガリーは重要な拠点だ。
欧州連合(EU)欧州委員会が対ロシア制裁第6弾でキリル1世への制裁を提案したが、ハンガリーのオルバン首相が、「宗教指導者を制裁リストに載せることは良くない」として拒否権を行使したため、キリル1世の制裁リスト入りが回避された経緯がある。キリル1世にとってハンガリーは貴重な友邦国だ。ハンガリー正教会はモスクワ総主教府にとっても重要なパートナーと受け取られている。
以上の内容から、ハンガリー・ブタペスト府にイラリオン府主教を人事した今回の決定は、「渉外局長=外相」から「外国の主教」への降格人事というより、モスクワ総主教府の戦略的な人事と解釈できる。イラリオン府主教は2003年から09年までブタペスト府主教を務めてきた。ハンガリー正教会の動向にも精通している。その意味で適材適所の人事という意味合いが出てくるわけだ。
なお、イラリオン府主教の後任に選ばれたアンソニー府主教は過去、キリル1世の個人的秘書を務めてきた聖職者だ。キリル1世は気心の知れた若い聖職者を側近に選んだといえる。
●なぜウクライナは多連装ロケットシステム(MLRS)を欲しがるのか? 6/10
いまだ終わりの見えないウクライナでの戦闘において、ウクライナ軍はアメリカから供与された155mmM777榴弾砲100門により、ロシア軍を国境付近まで押し戻し始めている。しかしウクライナ軍の苦戦は続き、東部戦線は依然ロシア軍有利の状況が続いている。
そんな中、ウクライナはアメリカへ多連装ロケットシステム(MLRS)の供与を求めていたが、アメリカに続きイギリスもMLRSを供与すると発表した。
このMLRSとはどんな兵器なのか? また、ウクライナにおいてどのような役割を果たすのか? 元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補に解説してもらった。

「今ロシア軍は東部戦線において、旧ソ連時代からの得意な戦い方に持ち込んでいます。それは『大砲と戦車の量が多い方が勝てる』という重戦力同士の戦いです。
第2次世界大戦以降の重戦力同士の戦いは、徹底的に空爆と砲兵射撃をしてから戦車部隊を突進させるという方式で行われていました。しかし今回のウクライナ戦争では、両軍共に航空優勢を獲れない状態で、上空にはドローンが飛び交っています。戦場は砲兵が主役の状況になっています。
ロシア軍はまず『ZSU23』対空戦車でウクライナ軍のドローンを撃墜し、それと同時に大量の火砲を使って攻撃準備射撃、攻撃支援射撃を開始します。その後、戦車部隊を進撃させ敵陣を蹂躙するという、第1次世界大戦的な戦闘の様相を呈しています。
ロシア砲兵部隊は、長射程ロケット砲をウクライナ軍砲兵の射程外から使い、瞬間制圧力でウクライナ軍砲兵部隊陣地を徹底的に叩きます。さらに、その後方にいる兵站部隊も叩き、大きなダメージを与えています。ナチスドイツ軍が、その発射音から『スターリンのオルガン』と恐れた、世界最初の自走式多連装ロケット砲『カチューシャ』の一斉射撃と同じ戦法です。
砲撃が終わると、ロシア戦車部隊は前に出ますが、そこをウクライナ軍が対戦車ミサイルで攻撃します。そうなるとロシア戦車部隊は一旦下がり、再び砲兵で砲撃して、また前に出る。その繰り返しなのです」
ロシア軍が使うのはBM30スメルチなどの自走式のMLRS。BM30は300mmロケット弾を射程90キロで、40秒間に12発撃つことができる。
「ロシアのMLRSの90キロという長射程が、ウクライナ軍を窮地に追いやっています。ボクシングでリーチが長いボクサーが有利に立つことと理論は同じです」
前述したように、ウクライナ軍にはアメリカ軍供与の最新155mmM777榴弾砲(最大射程57キロ、命中誤差約2m)が100門ある。
「今回は、M777の精密誘導弾と情報ネットワークシステムは供与されませんでした。さらに、これを最大射程で撃とうとすれば砲身がすぐに焼けてしまいますから、多くの砲弾を短時間で撃つことができません」
M777の最速発射速度は毎分5発だが、それで最大射程で30発ほど連射すると、整備をしなければ不具合を起こしてしまうようだ。今、最前線でM777が撃てなくなるのは、ウクライナの危機となる。
「現在は、射程25キロ程度で、持続射撃で30秒に1発ずつ撃っています。砲兵隊は18門で1個大隊ですから、全5個大隊で戦っています。そして、撃ったら直ちに陣地移動をしないと、ロシア軍のロケット弾が大量に撃ち込まれてしまいます」
一方、ロシア軍の砲撃射程は90キロだ。
「ロシア軍は3個大隊の砲兵の火力を並べ、陣地を固定して撃ち続けられます。その火力差はウクライナ軍の6、7倍になります」
現状のM777だけでは、ウクライナ軍はロシア軍に撃ち負ける。ウクライナ軍が供与を求めたアメリカ陸軍M270MLRSは射程70キロ、12発の誘導ロケット弾を54秒で全弾発射可能だ。
「即ち、MLRS1基で155mm砲兵隊1個大隊の2/3の射撃を瞬時に行うことができ、さらにけん引式ではなく自走式なので、すぐに移動できます」
アメリカはウクライナへMLRSを48両供与する予定だが、それは155mmM777榴弾砲576門に匹敵する火力だ。
「MLRSを撃つには、ウクライナ軍砲兵部隊ならば2週間も訓練すれば可能です。ただし、ターゲティング、通信、再装填、車両整備など全体の運用は、民間人と称する私服の技術指導員が行うはずです」
それは、元アメリカ陸軍砲兵のベテランだ。
「私だったら、MLRS部隊を訓練のために散発的な戦闘が行われている地域へ投入します。今ならば、ロシア軍部隊が損耗しており補充の無い南部ヘルソン辺りに投入し、長射程で撃つ練習をさせます。腕を上げれば、徐々に激戦区の東部戦線に投入していきます」
東部戦線のロシア軍ロケット砲部隊は固定陣地だ。そこにウクライナ軍のMLRSが導入されれば、戦況は一気に動くかもしれない。
●「ウクライナ軍、一日100〜200人戦死」…第2次世界大戦レベルの消耗戦 6/10
ウクライナ政府高官が、毎日100〜200人の兵力が戦線で死亡していると明らかにした。ウクライナ全体の兵力に照らした死傷者の割合で考えると、第2次世界大戦レベルの消耗戦が繰り広げられているという話だ。
BBCの報道によると、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の補佐官であるミハイロ・ポドリャク顧問は9日(現地時間)、100〜200人のウクライナ兵力が毎日戦死していると述べたという。彼はこのような犠牲者の数を取り上げ、西側からの大砲の支援が必要だと述べた。
一日に最大200人まで戦死するという話は、前日のウクライナ当局者の言及よりはるかに多い数だ。前日、オレクシー・レズニコフ国防長官はウクライナが一日に100人の兵士を失っており、500人が負傷していると明らかにした。
ウクライナ側のこのような死傷者の評価は、兵力比でみれば第2次世界大戦に匹敵するレベルだと、英雑誌「エコノミスト」は指摘した。同誌はまた、ロシア軍も同様の被害を受けているとし、ウクライナ戦争は消耗戦に突入したと評した。
ポドリャク顧問は「ロシア軍は戦線で核兵器を除いたすべてのものを注ぎ込んでおり、多連発ロケットシステム、戦闘機などが動員されている」とし、ロシアとウクライナ間の戦力の不均衡がウクライナの高い死傷者の原因だと述べた。そして、ロシアと対戦するには150〜300台のロケット発射システムが必要だと求めた。
ポドリャク顧問は平和会談の可能性については一蹴した。同顧問は、ロシアが侵攻後に獲得した領土を放棄しなければ平和会談は再開できないと述べた。
●米中の国防相が対面会談…台湾巡り応酬、ウクライナ情勢も協議  6/10
米国のオースティン国防長官と中国の 魏鳳和ウェイフォンフォー 国務委員兼国防相は10日、訪問先のシンガポールで会談した。バイデン米政権の発足後、米中国防相が対面で会談するのは初めて。
米国防総省によると、オースティン氏は「台湾海峡の平和と安定の重要性や、一方的な現状変更に反対する立場」を確認し、中国に対して「情勢を不安定化させる行動」をやめるよう求めた。弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮問題や、ロシアによるウクライナ侵攻についても協議した。
中国国防省によると、魏氏は台湾や南シナ海問題などを念頭に、米国に対して「中国の内政に干渉せず、中国の利益を損ねない」ことを求めた。米国による台湾への武器売却についても「断固反対し、強く非難する」との立場を表明した。
一方、両氏は、米中間の不測の衝突を避けるため、ハイレベルの意思疎通を維持することを確認した。
●親ロシア派勢力、英国人雇い兵らに死刑判決 6/10
ウクライナ東部ドネツク州の一部を実効支配する親ロシア派勢力「ドネツク人民共和国」の裁判所は9日、ウクライナ側の雇い兵としてロシア軍と戦った英国人とモロッコ人の計3人に死刑を言い渡した。「ドネツク人民共和国」は国際的に承認されておらず、英国のトラス外相は判決を非難した。
英外相は非難、弁護人は上訴の意向
ウクライナ側の外国人雇い兵だった英国人2人とモロッコ人1人に死刑を言い渡した理由について、「ドネツク人民共和国」の裁判所は判決で、3人がこの「共和国」の政権奪取を狙い、「法的秩序を崩壊させようと試みた」ことを挙げた。弁護人は判決を不服とし、上訴する方針という。タス通信などが伝えた。
ウクライナ東部で市街戦
ウクライナ東部ルガンスク州の要衝セベロドネツクでは8日、侵攻を続けるロシア軍と市中心部から郊外に退却したウクライナ軍との間で市街戦となっている。ウクライナのゼレンスキー大統領は8日に公開した動画で、同市で「陣地を防衛し露軍に甚大な損害を与えている」と強調しながら、「この戦争で最も困難な戦いのひとつだ。あらゆる意味でドンバス(ルガンスク、ドネツク両州)の運命はそこで決まる」と訴えた。
●ウクライナ対応で連携 OECD閣僚理閉幕 6/10
経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会は10日、ロシアによる侵攻が続くウクライナ情勢への対応やアフリカとの協力強化に関する閣僚声明を採択し、閉幕した。新型コロナウイルスの感染拡大で影響を受けた若者への支援や、サプライチェーン(供給網)の強化も盛り込まれた。
コールマンOECD事務総長は理事会終了後の記者会見で、「ウクライナの復興支援で各国が協力することを改めて確認した」と強調した。理事会には米欧などのOECD加盟38カ国が参加。イタリアが議長国を務めた。
日本からは山際大志郎経済再生担当相が出席し、岸田文雄首相の看板政策「新しい資本主義」を説明。山際氏は記者団に対し、「(日本だけでなく)世界にとっても重要だと認識されたと思う」と手応えを語った。
●ウクライナ南部、西側重火器で戦況変化 知事、ロシア支配地奪還に自信 6/10
ウクライナ南部ミコライウ州のキム知事は、西側諸国から提供された重火器によって、ロシアが侵攻を続ける南部の戦況が変化しつつあると述べた。ロイター通信が9日報じた。兵器の提供国や具体的な種類には言及していないが「わが州で既に使用されている」と明らかにした。
キム氏はその上で、南部各州のロシア支配地域を奪還するのは「時間の問題だ」と自信を表明。特にロシア軍が全域の制圧を宣言している南部ヘルソン州で、ウクライナ軍が過去数週間に「一定の成果」を収めているという認識を示した。ミコライウ州から砲撃が行われているもようだ。
ウクライナのレズニコフ国防相は9日のフェイスブックで、ポーランドから5月に供与された自走式榴弾(りゅうだん)砲「AHSクラブ」が戦線で使用できる状態になったと発表。既に投入された米国やフランスなどの榴弾砲に続く5番目だと歓迎した。
ロシアのプーチン大統領は最近、南東部の占領地域の併合も視野に、側近のキリエンコ大統領府第1副長官を現地に派遣した。重火器を増強したウクライナ軍の反攻が続けば、方針変更を余儀なくされかねないため、攻撃を一段と強化する可能性もある。
独立系メディア「メドゥーザ」は9日、ロシア大統領府筋の話として「戦況が許せば7月中旬、より現実的には統一地方選と同じ9月11日」に、併合の是非を問う住民投票を行う方向で検討が進んでいると伝えた。南東部ザポロジエ州の親ロシア派政治家は、国際選挙監視団を招くと説明しており、併合計画の具体化が進行しているとみられる。
●新局面 非正規部隊のパルチザン、南部でロシア軍や親ロシア派を攻撃 6/10
ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まってから100日がすぎた。ウクライナ南部のロシア軍占領地域では、ロシア軍や親ロシア派ウクライナ人を狙った爆破事件が相次ぐ。「パルチザン(ゲリラ戦をする非正規部隊)」による攻撃だ。彼らは、何を狙っているのか。
「ウクライナ南部で、パルチザン活動がロシア軍の動きを鈍らせている可能性が高い」
4月中旬、アメリカのシンクタンク戦争研究所が公式サイトでこう述べ、戦況図に「パルチザンの報告されている地域」を書き加えた。南部ザポリージャ州・メリトポリ市とヘルソン市がそれだ。
「ロシア占領下のメリトポリでパルチザンがゲリラ戦」。イギリスのタイムズ紙(5月22日)も、こんな見出しの記事を掲載。その活動を次のように書いた。
「5月18日の夜明け前。ロシア軍の将校2人が遺体となって路上に横たわった。数時間後、ロシア軍司令部近くで手りゅう弾が爆発し、銃撃戦が続いた。パルチザンは霧のように姿を消した。こうした激しいパルチザン戦が、クレムリンによる地域の完全なコントロールを防いできた。パルチザンらによると、倒した人間は100人にのぼるという。市外に避難中のフェドロフ市長は『攻撃は、特殊戦部隊やキーウの軍指導者の支援を受けて行われている』と述べた」
戦争研究所は、パルチザン戦がメリトポリで始まったのは「遅くとも3月中旬」と述べた。
ロシアと戦ってきた元パルチザン指導者で、5年前に「ウクライナ英雄」の称号を大統領から得たジェムチュゴフ氏(51)が、ウクライナ・モロダ紙(6月2日)に次のように語った。
「開戦後の2月〜3月、住民たちが自発的に抵抗組織をいくつか立ち上げた。兵員やロシア軍の輸送トラックなどを破壊した。しかし、組織はすべて、現地に入っていたロシア連邦保安庁(FSB)の要員につぶされた」
南部ではウクライナ軍の抵抗は比較的少なく、ロシア軍は開戦数日でメリトポリを含む主要都市を陥落させた。ロシア軍の主要目標は当初、キーウ、その後、東部ドンバス地方に移った。ウクライナ軍もその防衛を優先し、南部の解放は後回しとなった。
フェドロフ・メリトポリ市長によると、この間、市民500人がロシア軍に拉致・監禁された。市長も一時、拉致されていた。「ロシア化」も進む。占領軍は、テレビ放送や学校教育をロシアのものに切り替え、通貨もロシアのルーブルを導入しようとしている。市長によると、15万人いた市民の半数が市外へ逃れた。
つぶされたパルチザン運動の立て直しを、ウクライナ当局は図った。ジェムチュゴフ氏らによると、パルチザンを、国防省や地域防衛隊など、キーウにある様々な司令部が直接リクルート、身体検査をして現地に送り込むようになった。「活動の目標」の調整は大統領直属機関が担う。南部のパルチザンは当初の数百人規模から数千人に拡大した。
ウクライナ国防省は、パルチザンが活動しやすい土壌を、市民参加で作ろうとしている。4月、公式サイト上に「市民のレジスタンス・センター」を開設。「占領軍への不服従運動」を市民に提起し、そのハンドブックも作った。占領者の「仕事」を妨害し、その意思をくじく心理戦だ。
職業別に「あなたが警察官なら捜査をサボタージュしよう」「公務員なら占領軍にでたらめな書類をあげよう」「ボイラーマンなら燃料に水を混ぜよう」と呼びかける。
中でも市民による「現地ロシア軍の位置情報」が有効なようだ。
現地メディア「ノーボエ・ブレーミャ」によると、メリトポリで5月22日、パルチザンとウクライナ軍が協力し、ロシア軍が通信傍受に使っていた武器と大砲を複数、破壊したという。軍幹部は「砲撃を正確に行うには、住民によるロシア軍の位置情報の提供は貴重だ」と述べた。
ただ、本格的な軍事活動には困難も伴う。3月中旬、大統領府高官が南部地域のパルチザンに向け「鉄道の破壊作戦」を提起、次のように呼びかけた。
「全面的な線路破壊の戦いを始めよう。優先目標は、クリミア半島とメリトポリやヘルソンを結ぶ路線。敵の補給ラインを断とう」
だが、鉄道輸送の妨害にパルチザンが初めて成功したのは2カ月後の5月18日。ウクライナ大統領府のアレストビッチ顧問は、ロシア軍の補給路の防御が固かった、と述べた。
軍事的な手法を教えるのは、主にSNSだ。パルチザン戦経験者たちが様々なサイトを開設している。
ジェムチュゴフ氏もその一人。YouTubeで次のように述べた。
「深夜、線路に爆弾を置く。導火線を100メートル引き、着火してください。爆破後はFSBに注意。犬を使ってパルチザン狩りを盛んに行っている。犬の嗅覚をだますため、逃亡前、周囲にタバコの葉をまいてください」
気がかりな動きもある。5月、民間人もパルチザン戦の対象になり始めた。ロシア軍に協力する親ロシア派ウクライナ人がターゲットだ。
市内の原発をロシア軍が占拠した、南部ザポリージャ州エネルゴダル市。ロシア軍が現市長を銃で脅して市外へ追いやった。軍がすげかえた新「市長」が狙われた。5月23日、母親のアパートの玄関先を出ようとしたところ、仕掛け爆弾が爆発。上半身をやけどし、鎖骨を折る重傷を負った。
ウクライナ軍現地司令部はこの日、次のように発表した。
「爆破の際、対ロシア協力者のみを正確に狙い、巻き添えはなかった。パルチザンの待ち伏せ攻撃と結論できる。(ロシアの)占領者は、若者2人の行方を追っている」
メリトポリでも5月30日、中心部で乗用車が爆破され、男女2人が胸や足に大けが。爆風による黒煙が市上空を覆った。
ウクライナのメディア「エルベーカー・ウクライナ」は、爆発が起きた地区は、ロシア側の「軍民行政府」司令部があり、軍がすえた親ロシア派の「州知事」が住んでいる、と伝えた。また、爆破はメリトポリの「市長」、ガリーナ・ダニリチェンコ氏の車を狙っていたという。
ロシアの自作自演の「偽旗作戦」の可能性はないのか。クレムリン(ロシア大統領府)のペスコフ報道官は5月23日、リア・ノーボスチ通信に次のように語った。
「ウクライナのナショナリズム勢力のやり口で、ロシア軍は予防措置をとらざるをえない」
ロシアの占領軍は対抗措置として、6月1日、南部一帯でウクライナの通信回線を遮断。ロシア側のSIMカードがないと通信できないようにした。
米国の戦争研究所は、攻撃はパルチザンによるものとの見方を示唆し、6月4日、次のように伝えた。
「通信遮断などの措置にもかかわらず、ロシアの占領当局は、ウクライナのパルチザンを完全に抑制することはできていない。南部ヘルソンの占領当局者は、安全のため防弾チョッキを身に着けたり、移動に装甲車を使ったりし始めた」
一方、ウクライナ政府は、親ロシア派ウクライナ人への攻撃について、奨励はせずとも黙認はしているようだ。
ウクライナ国防省の「市民のレジスタンス・センター」は6月1日、次のように述べた。
「メリトポリ市内で、ガリーナ・ダニリチェンコ『市長代行』を標的とする写真つきのビラが現れた。敵にモラルや心理面での圧力を強めるため、ビラや国旗などのウクライナのシンボルの数を増やすべきだ」
ウクライナ南部では、親ロシア派の顔つきのビラが、街路樹や建物のガラスドアに貼られている。「知事」「市長」ら15人。その居場所の情報を提供したウクライナ市民には「懸賞金」が支払われるという。
筆者はこう見る
ウクライナ人同士が傷つけあうのは、どんな理由であれ、悲劇だ。
身の危険のあるダニリチェンコ・メリトポリ「市長」は5月、親ロシア派メディアのインタビューで、「大きな責任を負い、恐ろしくはないか」と尋ねられ、次のように答えた。
「(スマホの)番号がネットに出て、1日数千の通知や着信があった。もちろん脅迫です。でも、私にとってウクライナの権力はもう存在しないのです」
だが、問題は、南部では、ロシア軍の暴力以外、どの国の権力も存在しないことだ。地元メディア「リア・メリトポリ」によると、300人いる市警のうち親ロシアの警察官は35人余り。拉致や拷問がやまないのは、通常の治安機関が機能していないことを裏付ける。ダニリチェンコ氏は、市内の企業のほとんどが操業を止め、ウクライナの銀行も機能していない、とも述べている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は6月2日、「ロシア軍がウクライナの国土の20%を占領している」と述べた。その半分が南部地域だ。
その解放の見通しは不透明だ。ウクライナ軍は、クリミアに隣接するヘルソン州で一部地域を奪還した。しかし、ロシア軍は防御を固め、南部占領の長期化を図る。
ウクライナ国防省諜報部門トップのスキビツキー氏は5月末、地元メディアに次のように語った。
「ウクライナ南部でロシアは5月初めから、陸海空軍からなる部隊を強化し、3重の防衛線を引いた。鉄道、港、空港を使った補給システムも構築した。戦争は、年末まで続くかもしれない」
パルチザンの攻撃は、親ロシア派による「統治」を妨げ、彼らが狙うロシア編入の住民投票実施を難しくしているのは確かだ。しかし、戦線の膠着を打破するだけの力はない。
6月7日もヘルソン市の喫茶店で爆発があり、10人がけがした。ロシア、ウクライナ双方のメディアが伝えた。
南部で「権力の空白」がさらに続けば、暴力の連鎖が強まる恐れがある。
●ウクライナ侵攻で食糧危機懸念 政府 G7サミットで支援表明へ  6/10
世界有数の穀物の輸出国ウクライナへの軍事侵攻が続き、食糧危機への懸念が高まる中、日本政府は今月ドイツで開かれるG7サミット=主要7か国首脳会議で、ウクライナのほか中東やアフリカ諸国への支援を表明する方向で調整を進めています。
ロシア軍のウクライナ侵攻によって世界有数の穀物輸出国であるウクライナが、黒海に面した港をロシア軍に封鎖されて輸出ができなくなっているとして、食糧危機への懸念が高まっており、今月ドイツで開かれるG7サミットでは「食料安全保障」が主要な議題となる見通しです。
こうした中、日本政府はG7サミットで、ウクライナのほか食糧不足の影響が大きい中東やアフリカ諸国への支援を表明する方向で調整を進めていて、具体策としては、WFP=世界食糧計画など国際機関に対する資金の拠出などが検討されています。
これに関連して松野官房長官は閣議のあとの記者会見で「ロシアによるウクライナへの侵略で、穀物価格が高騰するとともに世界的な食料不安のおそれが増している。特にウクライナ産穀物への依存度が高い中東とアフリカにおける影響は深刻だ」と指摘しました。
そのうえで「日本としてはG7をはじめとする国際社会や国際機関と連携し、引き続き今次情勢の影響を受けている国に寄り添った支援を検討していく考えだ」と述べました。
●ロシア中央銀行が追加利下げ 政策金利は軍事侵攻前の水準に  6/10
ロシアの中央銀行は10日、政策金利を、今の11%から9.5%へ引き下げると発表しました。通貨ルーブルが値を戻していることなどが背景で、政策金利は、ウクライナへの軍事侵攻前の水準に戻った形です。
ロシア中央銀行は10日に金融政策を決める会合を開き、政策金利を今の11%から9.5%へ引き下げることを決めました。
金利の引き下げは、ことし4月以降4回目です。
ウクライナへの侵攻後のことし2月末、ロシア中央銀行は通貨ルーブルの急落に対応するため、政策金利を9.5%からほぼ2倍にあたる20%へと大幅に引き上げました。
その後は、ルーブルが値を戻していることなどを踏まえて利下げを続けていて、これで政策金利は軍事侵攻前の水準まで戻った形です。
ロシア中央銀行は、声明で「ロシア経済の外部環境は依然として厳しいが、ルーブルの相場動向などを受けてインフレは減速し、経済活動の落ち込みは4月に予想したよりも小さい規模だ」などとしています。
そのうえで、来月の会合でさらなる金利引き下げの必要性について議論するとしています。
●ナワリヌイ氏、グーグルとメタのロシア広告停止「プーチン氏への贈り物」 6/10
詐欺などの罪で投獄されているロシアの反政府活動家ナワリヌイ氏は9日、米グーグルとメタ・プラットフォームズがロシアのユーザー向け広告を停止していることについて、「反体制派が反戦活動をする機会を奪っている」とし、プーチン大統領への「大きな贈り物」になっていると強く批判した。デンマークでの「コペンハーゲン民主サミット」に寄せた演説文のコピーが同氏の公式ブログに投稿された。
ロシアが2月下旬にウクライナに侵攻したことで、2社は3月に入ってすぐに停止措置を取った。
ナワリヌイ氏は、テクノロジーが国家によって反体制派の拘束にも使われる一方、真実にたどり着く機会も与えると指摘。「インターネットはわれわれが当局の検閲を回避する能力を与えてくれる」とした上で、グーグルとメタが広告を停止していることで反プーチンの力がそがれていると問題視した。
●進化政治学で読み解くウクライナ侵攻―プーチンが陥った「自己欺瞞」の罠 6/10
ウラジーミル・プーチンはこれまで典型的なリアリストとみなされてきたにもかかわらず、多くの政治学者の予想に反してウクライナへの大規模侵攻に踏み切った。ロシアの国益を大きく毀損しかねない決定の背景を、1980年代から欧米政治学界で盛んになっている「進化政治学」の枠組みで読み解く。
既存のリアリスト理論の限界
なぜロシアはウクライナに侵攻したのだろうか。国際政治学における代表的なリアリスト理論家であるジョン・ミアシャイマー(John J. Mearsheimer)やスティーブン・ウォルト(Stephen Walt)は、ロシアのウクライナ侵略の主な原因は、NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大による勢力均衡の変化にあると見ている。ラジャ・メノン(Rajan Menon)は、ロシアによるウクライナに対する予防戦争(preventive war)であると主張している。また、リベラル的視点からも、マイケル・マクフォール(Michael Anthony McFaul)らは、西側によるウクライナの民主化支援がプーチンのウクライナ侵攻の主な原因だと主張している。
ここから分かることは、国際政治学、とりわけリアリスト的視点や国際システムの構造レベル分析では、ロシアのウクライナ侵略には戦略的に一定の合理性があるということである。そもそもプーチン自身、これまで典型的なリアリスト政治家とみなされてきた。
ところが、この戦争にはリアリストを悩ませる大きな問題が存在している。それは、仮にロシアの開戦それ自体は戦略的に合理的だとしても、プーチンの意思決定にはミクロな戦術的レベルで多くの非合理性がみられるということである。2022年2月24日にウクライナへの全面侵攻を強行して3カ月が過ぎ、当初の予想に反しウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナ国民・兵士の徹底抗戦でロシア軍は大苦戦し、進撃は停滞した。ゼレンスキー政権が全面降伏に応じず、都市攻撃も空挺部隊の展開が不十分で効果を上げず、ロシアの地上部隊はウクライナ軍の熾烈な抵抗に直面した。プーチンはウクライナの首都キーウの征服が困難と考え、3月下旬に「目標の第1段階を達成」と宣言、ウクライナ南東部に戦力を集中し、ルハンシク・ドネツク両州の完全制圧を目指す作戦へと大幅変更した。プーチンの政策には大きな狂いが生じたのである。
しかも、ロシアによる侵攻は西側諸国の結束を促し、フィンランドとスウェーデンはNATO加盟を申請した。リアリストたちの主張するように、ロシアの侵攻目的がNATOの東方拡大を防ぐことだったとしても、結果的にさらなるNATO拡大を招いたという点では、戦略的に誤算だったと言わざるを得ない。
進化政治学の導入――自己欺瞞論とは何か
では、こうした合理的理論(ネオリアリズム、合理的選択理論等)からの逸脱事象はなぜ起きたのだろうか。このパズルに答える上では、リアリズムに進化政治学を導入して、新たなリアリスト理論――「進化的リアリズム(evolutionary realism)」――を提示することが有益であろう。
進化政治学とは、1980年代に米国で生まれた概念であり、チャールズ・ダーウィン(Charles Robert Darwin)の自然淘汰理論に由来する進化論的発想――進化心理学、進化生物学、進化ゲーム理論、社会生物学など――をもとに政治現象を分析するアプローチである。進化政治学には、1人間の遺伝子は突然変異を通じた進化の所産で、政策決定者の意思決定に影響を与えている、2生存と繁殖が人間の究極的目的であり、これらの目的にかかる問題を解決するため自然淘汰(natural selection)と性淘汰(sexual selection)を通じて脳が進化した、3現代の人間の遺伝子は最後の氷河期を経験した遺伝子から事実上変わらないため、今日の政治現象は狩猟採集時代の行動様式から説明される必要がある、という三つの前提がある。
その全体像は拙著『進化政治学と平和』、『進化政治学と戦争』、『進化政治学と国際政治理論』に記したので割愛するとして、ここでは進化政治学の視点からプーチンの非合理性を説明する一つの考え方を紹介しよう。それが自己欺瞞(self-deception)である。
自己欺瞞論は進化生物学者ロバート・トリヴァース(Robert Trivers)が最初に提起したものである。トリヴァースによれば、人間が得意としているのは、自らの利己性や欲望を自覚することなく、それを成功裏に実現することである。謙虚なようにふるまい、公共善のためであれば自らのコストを厭わないふりをしつつ、裏では着々と自己利益を追求し続ける。さらにはこうした欺瞞的な行為それ自体に自らが自覚的ではない、こうした心理・行動が自己欺瞞の核心にある。
自己欺瞞の本質は、仮に自分が真実を語っていると信じるように自分を欺くことができれば、他人を説得するのに非常に効果的だということである。すなわち、他者を上手く騙したいなら、自分自身が自らの発言を本当に信じており、自己の力を過信している方が良いのである。ドナルド・トランプ(Donald John Trump)前米大統領は人気リアリティ番組「アプレンティス(The Apprentice)」の中で、この論理を明確に示唆している。トランプは、高価な芸術品を売るよう部下に促す際、「あなたがそれ(芸術品の価値)を信じなければ、本当に自分で信じなければ、それは決して上手くいかないだろう」と述べている。電撃戦によるウクライナ征服と「ロシア民族」の統一が可能であると信じ、それを自国民にプロパガンダ的に宣伝する。こうしたプーチンの行動は自己欺瞞の典型である。
自己欺瞞は程度の差こそあれあらゆる人間が備えるものだが、自然界にはそれが特に強く表出されるタイプの個体が存在する。それがナポレオンやトランプをはじめとする人口の約1%に見られる、自己欺瞞を示すナルシスト的パーソナリティ障害をもつアクター(以下、省略してナルシストと呼ぶ)である。臨床心理学的に「障害」とラベリングされているにもかかわらず、進化論的には、プーチンらナルシストの自己欺瞞は、自然淘汰によって形成された適応的なものである。すなわち、それは狩猟採集時代に祖先の包括適応度(inclusive fitness)に寄与してきたもので、自己欺瞞のアドバンテージは現代でも一定程度健在なのである。つまるところ、残り99%の我々は、ヒトラーやプーチンのような、自己欺瞞を強力に備えた逸脱的な個体と滅多に遭遇しないため、自然淘汰は自己欺瞞をするナルシストへ強く抵抗するような心理メカニズムに有利に働かなかったのである。
自己欺瞞は脳科学的には、楽観性バイアス(optimism bias)と呼ばれるものとかかわる。多くの精神的に健康な人間の脳には、肯定的事象を過大評価、否定的事象を過小評価する傾向が備わっている。この楽観性バイアスによって、人間はガンや交通事故の確率を低く見積もる一方、長寿やキャリア成功の確率を高く見積もる(これを肯定的幻想=positive illusion 効果という)。こうした意味において、プーチンやトランプがみせる過信や自己欺瞞とは、脳が生みだす楽観性バイアスの産物なのである。
プーチンの過信と「誤った楽観主義」
以上、自己欺瞞にかかる諸概念を紹介してきたが、ここからは事例に戻ろう。それではプーチンは自己欺瞞に駆られて、何が実現できると過信していたのだろうか。それは「ロシア民族」の統一である。プーチンが2021年7月にロシア大統領府(クレムリン)のウェブサイトに発表した「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文では、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」とは何かが説明されている。その要点は、1かつて大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人と呼ばれた三つの支族からなる「ロシア民族」が存在しており、2ソ連時代の民族政策によって、この三つの支族がそれぞれロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人という別の民族であるという考え方が生み出された、というものである。つまり、元々はロシア人とウクライナ人は一体であり、「ウクライナ人」という民族はソ連時代に創造された人工物にすぎないということである。
ロシアの政府寄りメディアの「ヴズグリャド(Vzglyad)」の政治アナリスト、ピョートル・アコポフ(Pyotr Akopov)の「ロシアの攻撃と新世界の到来」(論説記事)によれば、「ロシアの勝利」によって到来しつつある「新世界」では、反ロシア的なウクライナはもはや存在せず、大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人からなる「ロシア民族」がその歴史的一体性を回復する。ウクライナ問題を解決することの意義は、「分裂した民族のコンプレックス」についてのものであり、安全保障上の問題はあくまで二義的なものとされている。
プーチンは「ロシア民族」の統一が可能だと信じているため、目標を達成する上で不都合な情報は軽視され、ロシアの軍事力の強さが過大評価された。侵攻開始から2日後の2月26日、国営のロシア通信が上記の「ロシアの攻撃と新世界の到来」を(おそらく誤って)配信したが、まるで戦勝を祝うような内容の同記事はすぐに削除された。このことは、プーチンには侵攻開始から約48時間でウクライナの親米欧政権を崩壊させる計画があったことを示唆している。プーチンは侵攻前の演説でも、ウクライナを「失敗国家」と過少評価しており、軍事大国ロシアが予防戦争を開始すれば、首都キーウの「無血開城」も可能だと予想していたのであろう。
キーウ攻略のため極東地域から投入した東部軍管区の装備は近代化率が低く、ソ連時代の戦車も使用している状況であった。米国防総省高官は、ロシア軍の大多数が志願兵でなく徴兵された若い兵士で、戦闘に参加することを知らされていなかった兵士もおり、その士気の低さを指摘している。米国はプーチンの側近が彼を恐れて誤情報を伝えていることを発表し、プーチンがそうした誤った情報に基づいて、「誤った楽観主義(false optimism)」を抱いている可能性を示唆している。
戦争を理解するために人間の本性を直視する
さて、こうした自己欺瞞に駆られたプーチンの過信はミクロ経済学的合理性からの逸脱事例だが、これはプーチンに固有のものなのだろうか。答えは否である。実際、国際政治の舞台は、このような逸脱的な自信を持つ指導者であふれている。国家の安危にかかる和戦の決定をめぐり指導者が抱く過信は、戦争の重大な原因となり、しばしば対外政策の失敗――誤認識、インテリジェンスの失敗、勝ち目のない開戦、リスクの高い軍事計画等――をもたらすとされている。このことはゲオフリー・ブレイニー(Geoffrey Blainey)、スティーブン・エヴェラ(Stephen Van Evera)、ドミニク・ジョンソン(D. D. P. Johnson)をはじめとした、多くの有力な安全保障研究者により主張されてきた。つまるところ、進化政治学が明らかにするところは、古典的リアリズムが説いてきたように、人間には戦争に向けた本性が備わっているということであり、自己欺瞞はその際、戦争に至る因果メカニズムの一つなのである。
●「プーチンが生きている限り、解決策はない」 ジャーナリストが説く 6/10
マーシャ・ゲッセンに取材を申し込むと、ゲッセンは「女性(ミセス)とも男性(ミスター)とも呼ばないでほしい。自分のジェンダーはノンバイナリーだから」と応えた。ゲッセンは、ロシア出身のアメリカの作家である。そして、誰よりも早くウラジーミル・プーチンの非道な権力について書いた知識人だ。
ユダヤ系の家族のもとにモスクワで生まれ 、長いあいだロシア全土でゲイであることをオープンにしていた唯一の人物だった。そのためゲッセンは、ユダヤ人として、またゲイとして二重の差別に遭ってきた。
1981年、14歳のときにゲッセンは「米国難民第三国定住プログラム」で、家族と共にアメリカに移住した。だが2つのパスポートは常にとっておいた。10年後、ジャーナリストとしてロシアに戻ろうと決めたとき、ゲッセンはそのパスポートを使った。だがこの選択によって、投獄と絶え間ない迫害の危険に身を曝すことになる。
そして2013年に、ロシア当局が同性愛者の両親を持つ子供たちの養育権剥奪を提案しはじめると、ゲッセンと妻は、2000年に養子に迎えた長男の養育権を失うことを怖れ、助言を求めて弁護士のもとに駆けつけた。弁護士は「見知らぬ人が近づいてきたら逃げるようお子さんに教えなさい」と勧めた。そして2人にはこう告げた。
「あなた方の質問への答えは、『空港』です」
マーシャ・ゲッセンはニューヨークからビデオ通話で語ってくれた。興奮気味の私がスクリーン越しに出会ったのは、見た目は繊細そうでありながら、とてつもない重荷を背負う決意を固めた人物だった。
ゲッセンが描く最悪のシナリオ
──この戦争に、どのような解決策を見いだしていますか?
プーチンが生きている限り解決策はありません。ですが、発展の仕方はたくさんあります。最良のシナリオは(最もありそうだとは思えませんが)、和平交渉がなされることです。これは、ロシアがウクライナの大部分を占領するだろうということ、そしてウクライナが中立を保証し、NATOにもEUにも加盟しないことを意味しています。
けれど、ウクライナが非軍事化を完全に受け入れるとは、私は思いません。このシナリオでは、ウクライナ軍は維持されても、ずっと限定されたものになります。ウクライナは中立を保証し、ハルキウ、マリウポリ、ヘルソンを含む国土の3分の1をロシアに譲ることになるでしょう。それは、2つの理由から「時限爆弾」になると推定されます。
一つ目の理由は、ロシアに占領された領土内部で反乱が勃発し 、ロシア国内と同じようにそれらの地域で恐怖が継続するからです。もう一つの理由は、プーチンの野心はウクライナを「占領」することではなく、「消滅」させることにあるからです。つまり、和平交渉がおこなわれるように見えるかもしれませんが、それはプーチンが再攻撃するまでの「休戦」にすぎないだろうというわけです。
私がここに描いたのは、最良のシナリオです。最悪のシナリオは、核戦争です。
──「この戦争が起きた原因はNATOにある」と言う人たちにはどのように答えますか?
「それは戯言であり、クレムリンによるプロパガンダであって、あなたは参加するたびにそれを拡散していくことになる」と言います。
ロシアの内政、そしてプーチンの思考には、「コソボ空爆」という重要な出来事があるのだと思います。それは、NATO拡大という発想とは非常に異なるものです。というのも、コソボはNATO加盟国ではないからです。しかし、たしかにあの空爆は、アメリカに先導されたNATOによる軍事行動でした。あそこで起きたことが、物語を創り上げるのに重要な役割を果たしてきたのだと思います。
その物語のおかげで、プーチンは恨みの政治を進めることができてしまったのです。この戦争がNATOの拡大に挑発されたものだというのは、戯言です。
──私たちはどのようにして、この戦争にたどり着いたのでしょう?
私たちがこの戦争にたどり着いたのではありません。これは、ただ一人の男による行動です。私は、プーチンをこの戦争に踏み切らせた理由づけや政治学からは離れたいと思います。彼は明らかにノスタルジックな政治論を持っており、彼がウクライナに集中したのには、2、3の事情があります。けれど私が最も重要だと思っているのは、とくに「オレンジ革命」以降の18年間、ウクライナが採用してきた反「プーチン主義」とみなされる方針です。
──なぜバルカン諸国ではなく、ウクライナなのでしょう?
それは信じがたいことにウクライナが、ソ連崩壊後にできたほかの多くの共和国と違って再び全体主義に転落することがなかったからです。反対に、ウクライナは過去30年にわたって、自らを創造する過渡期の国家であり続けてきました。そして、文化的にはどんどんロシアから離れた存在となっていったのです。
私は、プーチンが「文化」とみなす文化的・言語的知識の蓄積について述べているのではありません。私が話しているのは私たちの生き方、文化の発展の仕方、人々が何について話し、どのように考え、どのように教育を受けるかということです。ウクライナはロシアとは非常に異なる国なのです。ウクライナには、文化的結束を経験した途方もない時期がありました。祖国の歴史となった2004年の「オレンジ革命」と2014年の「尊厳の革命」です。つまり、彼らは自由のために自らを犠牲にする覚悟ができているのです。
プーチンは、昔から何も変わっていない
──右派ポピュリストとヨーロッパの過激主義者に資金を供与してきたプーチンが、なぜ「ウクライナの非ナチ化」というレトリックを利用することができるのでしょう? ウクライナにはユダヤ系の大統領がいるにもかかわらず、どうしてこのような話を続けることができるのでしょう?
なぜなら、ロシア人がこの戦争について抱いている概念は、第2次大戦からの借りものだからです。ロシアの全アイデンティティは、ロシア人が「大祖国戦争」と呼ぶ、あの戦闘に基づいて構築されています。それは現代ロシアがすべてを正当化する役に立ちました。ロシアが戦争突入を決断する際は、対ナチ戦争であった第2次大戦を戦うべきなのです。
信じがたいことですが、現在はウクライナ人が自分たちにとっての「大祖国戦争」を展開しており、ナチスのように行動しているのはロシア人のほうです。「ウクライナという国家は存在しない」というプーチンの主張は、ジェノサイド宣言です。彼らは「Z」という文字を使っています。それは新たな鉤十字であり、あらゆる場所に描かれています。ロシア内部で戦争に反対する人たちの家の扉にまで描かれているのです。
──ウクライナの極右はどのような役割を演じていますか?
ウクライナには2、3の極右政党があります。一つは議会に議席すら持っておらず、もう一党も一議席しかなかったと思います。ほかのヨーロッパ諸国と異なり、ウクライナの極右の存在はごくささやかなものです。
右翼団体「アゾフ連隊」は 400〜800人の隊員を擁するとされています。この数字は、過去80年間に戦争状態にあったヨーロッパの国としては、少しも異例ではありません。私は右翼の支持者ではありませんし、とりわけウクライナの右翼支持者ではありません。というのも2015年に、私は彼らにほとんど命を奪われかけたからです。キーウの通りで、私を殺そうとするメンバーに追いかけられたのです。
──プーチンの精神的な問題がよく取り沙汰されています。それは説明としては還元主義的だと、私は常々感じてきました。
プーチンが正気を失っているという話を聞くのはうんざりです。誰がそれを口にするかにもよりますが。でも、何も変わっていません。彼の言葉は以前と変わっていませんし、プーチン自身も変わっていません。
私はチェチェン紛争で仕事をしましたが、そこでも学校や病院が爆撃されていました。ウクライナで起きていることの報告を読むのは、私にとって面白くもありません。次の段落に何が書かれているかもう知っているからです。私はこの戦争を知っています。なぜなら、すでに見たからです。そして、私がそれをすでに見たとすれば、誰もが見ているのです。
誰かが正気を失ったと判断するとき、私たちは、その人が社会的ないし憲法上の規範に合っていないとみなされる方法で行動しているために、そう判断します。けれどもソ連で「正気を失った人」は、世界のほかの場所から見れば完璧に正気でした。西側がプーチンを「正気を失った」と呼ぶときは「彼が、西側では非常識とみなされるやり方で行動している」と言っているわけです。そして彼の振る舞いは、ロシア社会の基準で見れば受け入れられないものでもないと、私は思うのです。
●捕虜となり解放されたウクライナ軍兵士 “兵士たちを助けて”  6/10
ウクライナ東部の要衝マリウポリで、激しい戦闘のあとロシア軍の捕虜となったウクライナ軍兵士の男性がNHKのインタビューに応じ、ロシア側から受けた扱いなどについて語りました。インタビューに応じたのは、4月に捕虜となって解放されたウクライナ海軍の25歳の男性兵士です。この男性はマリウポリの製鉄所で戦っていましたが、激しい攻防が続いた4月上旬、ロシア側の捕虜となり、ドネツク州に移送されたということです。
戦闘の際に骨盤やあごを骨折したうえ、左目が見えなくなるなどの大けがを負ったということですが、捕虜になったあと、ロシア側からほとんど治療を受けることができなかったということです。また、常に監視のもとにおかれ、ロシア語のニュースを毎日聞かされていたということです。
男性は2週間以上にわたって拘束されたのち、4月下旬にロシア兵との交換で解放され、現在はウクライナ国内の病院で治療を受けているということです。
男性は「ウクライナを守るために戦い、多くの兵士が捕虜になっている。彼らを忘れないでほしい。兵士たちを取り返すために助けてほしい」と話し、国際社会へ支援を訴えました。
ロシア国営のタス通信は、マリウポリで先月投降しロシア軍の捕虜となったウクライナ側の兵士1000人以上がロシアに移送されたと伝えています。
ウクライナ側は捕虜の交換を求めていますが、交渉は難航しているとみられます。
●セベロドネツク、激烈な市街戦 ロシア軍、昼夜分かたず砲撃 6/10
ウクライナ軍部隊の司令官は、ロシアが制圧を目指す東部ルガンスク州の要衝セベロドネツクでは街区の奪い合いなど激烈な市街戦になっていると述べた。ロシア側は市街地の掌握を終えたとしていたが、「一部ではロシア部隊の撃退に成功している」と強調した。ロイター通信が10日報じた。
ロシア軍はセベロドネツクに昼夜を分かたず砲撃を加えるなど火力では圧倒。司令官は火力の劣勢を補う目的で市街戦に引き込み、街路を奪い返すなどしているが、多大な損害を受けているとした。州当局は10日「過去24時間に敵の攻撃を7回退けた」と通信アプリに投稿した。 
●プーチンに無期限制裁 ウクライナが対決姿勢 軍の死者は1日200人も  6/10
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、ロシアのプーチン大統領や主要閣僚ら政府指導部を対象に無期限の制裁を科す大統領令に署名した。ウクライナへの入国を禁じるほか、資産を凍結。東部ルガンスク州の要衝セベロドネツクをはじめ各地でロシア軍との激戦が続く中、対決姿勢を改めて示した。
ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は英BBC放送に対し、ウクライナ軍兵士が「前線で毎日100〜200人が死亡している」と指摘。同時に、ロシアが2月24日の侵攻開始以降に占領した領土を返さない限り、停戦交渉再開には応じないとの考えを示した。
一方、米国務省高官は9日、上院公聴会で証言し、ロシアの原油や天然ガス輸出に伴う歳入がウクライナ侵攻前より増加している可能性があるとの見方を示した。ロシア産原油の禁輸措置を取る欧米に代わって中国やインドと取引を続け、制裁の「抜け穴」になっているとみられる。
ゼレンスキー氏は9日の国民向け動画で、欧州各国などと協力し「ロシアに対して明確な圧力を加えることが必要だ」と訴えた。前線で大きな戦況の変化はなく、セベロドネツクを含め東部ルガンスク、ドネツク2州(ドンバス地域)でも持ちこたえていると指摘。南部ザポロジエ州ではロシア軍の進軍を阻み、東部ハリコフ州では押し戻していると強調した。 

 

●ロシア軍、黒海に新たな潜水艦 6/11
ウクライナ軍は10日、ロシア軍が黒海艦隊に潜水艦1隻を新たに配備し、巡航ミサイル40発が発射できる状態にあるとSNSで明らかにした。黒海北西部を封鎖しているほか、大型揚陸艦1隻も配置しているとしている。黒海がロシアによって封鎖され、ウクライナからの穀物輸出の滞留が続く中、緊張がさらに高まる恐れがある。ロシアは黒海封鎖を否定している。
米CNNテレビによると、ウクライナ国防省傘下の情報機関は「ロシア軍は現在のペースであと1年は戦闘を続けられる」と分析。ロシアが一時的に戦闘を停止する可能性はあるが、その後継続に転じるとの見方も示した。
●ロシア黒海艦隊に巡航ミサイル搭載の潜水艦 ウクライナは警戒  6/11
ウクライナ東部で一進一退の攻防が続くなか、黒海ではロシアの艦隊に巡航ミサイルを積んだ潜水艦が新たに加わり、ウクライナ軍が警戒を強めています。10日には、イギリスのウォレス国防相がウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領は軍事支援のさらなる拡大に期待を示しました。
ウクライナ東部で攻撃を続けるロシア軍は10日も、激戦地となっているルハンシク州のセベロドネツクに地上部隊を送り込みましたが、ウクライナ側の激しい抵抗にあい、一進一退の攻防が続いています。
ルハンシク州のハイダイ知事は「セベロドネツクは持ちこたえている。ロシア軍は、行く手を阻むすべてを破壊しようとしている」とSNSに投稿し、住宅などに対する無差別攻撃を非難しました。
また、ウクライナ軍の報道官は10日に「ロシアの黒海艦隊に、巡航ミサイルを積んだ潜水艦1隻が新たに加わった。ウクライナは、40発もの巡航ミサイルが撃ち込まれる脅威にさらされている」と述べ、ロシア海軍の動きに警戒を強めています。
報道官によりますと、ロシア海軍は、黒海の北西部でウクライナの船舶の航行を妨害しているほか、上陸作戦に使われる揚陸艇を配置しているということで、引き続き、海上での優勢を確保するとともに、ウクライナ軍の一部を南部にとどめるねらいがあるとみられます。
こうした中、ウクライナを訪れていたイギリスのウォレス国防相は10日、首都キーウでゼレンスキー大統領と会談しました。
イギリス国防省によりますと、会談では、ロシアによる違法な占領からの解放という共通の目標に向けて、両国が一層緊密に連携していくことで合意したということです。
イギリスは、ウクライナへの追加の軍事支援として、射程80キロの多連装ロケットシステム「M270」を供与すると今月発表しています。
ゼレンスキー大統領は「イギリスは兵器、資金、制裁の3つの分野で、ウクライナ支援のリーダーシップを発揮している。約束したことを、必ず行動に移す国だ」とSNSに投稿し、謝意を示すとともに、軍事支援のさらなる拡大に期待を示しました。
●初代ロシア皇帝引き合いに「領土奪還は我々の任務」と侵攻正当化  6/11
ロシアのプーチン大統領は9日、若手企業家らとの会合で、帝政ロシアのピョートル1世(大帝)が1721年にスウェーデンとの北方戦争に勝利したことを引き合いに「領土を奪還し、強固にすることは我々の任務だ」と述べ、ウクライナ侵攻を正当化した。この日はピョートル1世の生誕350年の節目だった。
ピョートル大帝の生誕350年を記念する展覧会を訪れたプーチン大統領(中)(9日、モスクワで)=ロイターピョートル大帝の生誕350年を記念する展覧会を訪れたプーチン大統領(中)(9日、モスクワで)=ロイター
初代ロシア皇帝のピョートル1世は領土拡大やロシアの近代化に取り組み、北方戦争では、バルト海沿岸を支配していたスウェーデンに21年かけて勝利した。プーチン氏は、北方戦争を引き合いに出すことで、長期戦も辞さない考えを示唆した可能性がある。
露大統領府によると、プーチン氏はピョートル1世について「彼は何かを奪ったのではない。奪還して強固にしたのだ」との見方を示した。サンクトペテルブルクを首都にしたことに関しても「大昔からスラブ民族が住んでいた」と述べ、「歴史的な一体性」を一方的に主張してウクライナに侵攻した自身の行動に重ね合わせるように語った。
プーチン氏は国際関係に関し「主権を持たない国は植民地だ」などとも述べた。米欧寄りの姿勢を強めるウクライナなどの国々を念頭に、独自の国家観を改めて披露したとみられる。
●ウクライナで「コレラ流行の危機」…インフラ破壊で衛生悪化 6/11
英国とウクライナ両政府は10日、英国のベン・ウォレス国防相がウクライナの首都キーウを訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談したと発表した。英国防省によると、会談ではウクライナをロシアによる違法な占領から解放するため、緊密に連携することで一致した。東部ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)で、激しい攻撃を続ける露軍をけん制したものだ。
英国防省はウォレス氏が2日間にわたってキーウを訪れたと発表したが具体的な日程は不明だ。ゼレンスキー氏は会談でウォレス氏に対し「現在の我々にとって主要な優先課題は、重火器を早期に手にすることだ」と述べ、武器供与の加速を改めて要請した。
英国防省は10日、ウクライナ南東部マリウポリで、コレラが流行するリスクが高まっていると指摘した。5月から感染による隔離事例が確認されているという。マリウポリでは、飲料水の不足やインフラ破壊による下水の混入、大量の遺体埋葬によって衛生が極度に悪化しており、ウクライナ保健省も6日、流行の懸念を指摘していた。
●ウクライナ・マリウポリでコレラ集団感染の恐れ=英国防省 6/11
英国防省は10日、ロシアの徹底攻撃を受けて制圧されたウクライナ南東部マリウポリで感染症コレラが大発生する恐れがあると、懸念を示した。
英国防省は10日のウクライナ現況分析で、「ロシアは、ロシアが占領した地域の住民に基本的な公共サービスをなかなか提供できずにいる。安全な飲料水は安定して手に入らず、電話やインターネット・サービスの大々的な寸断も続いている」と指摘。その上で、ヘルソンでは医薬品の不足がおそらく深刻で、マリウポリでは大規模なコレラ発生の危険がある。個別のコレラ感染症例はすでに5月から報告されている」と述べた。
「ウクライナは1995年にコレラの大規模感染が起きており、その後も小規模な集団感染を経験している。特にアゾフ海沿岸の周辺での発生が多く、マリウポリもここに含まれる。マリウポリの医療サービスはおそらくすでにほとんど破綻しており、マリウポリで大規模なコレラ感染が起きれば、事態はさらに悪化する」と、同省は懸念を示している。
国連によると、マリウポリでは市内のインフラの大半が破壊もしくは損傷し、飲料水や生活用水に下水が混ざりこんでいる。赤十字国際委員会(ICRC)も、衛生インフラの破壊によって、水系感染症の拡大リスクが高まったと警告している。
マリウポリ市議会もこれまでに、コレラの集団感染が起きれば、数万人が犠牲になる恐れがあると警告。医薬品や医療施設の不足などが「爆発的」な大規模感染の要因になり得るとしている。
コレラは通常、コレラ菌に汚染された食べ物や水を口にしたことから感染する。下水道の破壊やごみの未回収などによる衛生状態の悪化が、発生につながることが多い。回収されない遺体が放置されていれば、それも感染源になる。
重症者は激しい下痢によって重度の脱水状態になるため、輸液と抗生物質による手当てが急ぎ必要になる。軽症や無症状で済む場合もあるが、感染者の便にはコレラ菌が含まれるため、感染源になる。
マリウポリのウクライナ側の市長、ヴァディム・ボイチェンコ氏はBBCウクライナ語に、「コレラや赤痢といった感染症がすでに市内で発生している」と話し、感染拡大を防ぐためにすでに市街地を封鎖したと述べた。
「(ロシア軍は)この街の感染症病院を破壊し、医療器具を破壊し、医師たちを殺した」とBBCに話した。
ボイチェンコ氏の話す内容をBBCは独自に検証できていない。ロシア政府が任命した市長は、市内で定期的な検査を繰り返しているが、コレラの発生は報告されていないとしている。
ウクライナ保健省は、マリウポリの状況について十分な情報が得られていないものの、ウクライナ統治地域で行った検査では、症例が見つかっていないと説明している。
別のウクライナ人マリウポリ当局者も今月8日に通信アプリ「テレグラム」で、市内では「壊滅的」に医療従事者が不足しており、ロシア任命の市当局は、引退した医師たちに現場復帰を促していると書いた。80歳以上の元医師たちも、その対象になっているという。
劣悪な衛生状況
南東部の要衝マリウポリは3カ月近いロシアの徹底攻撃の末に、ロシアに制圧された。破壊されつくした市内では今や、衛生状況が劣悪な状態になっているとされる。破壊された建物のがれきなどがそのまま残り、その下には遺体も残されているという。
首都キーウに住むアナスタシア・ゾロタロヴァさんはBBCに、「地面や建物の中にたくさんの遺体が残されて、そのまま腐っている。ゴキブリやハエが大量にいる。誰も回収しないごみも放置されている」とマリウポリの様子を話した。ゾロタロヴァさんの母親は今月初めにマリウポリを脱出したという。
ボイチェンコ市長は4月の時点で、すでに1万人以上の市民が死亡したと話していた。その後も激戦は続いたため、死者数はさらに増えているおそれがある。
ボイチェンコ氏によると、市街地の周辺ににわか仕立ての墓地が作られたほか、多くの犠牲者が民家の裏庭や公園や広場に埋められている。
対照的に、ロシアが制圧後に任命した今のマリウポリ当局は、学校に戻る子供たちやごみ回収車の写真などをソーシャルメディアに投稿し、正常な日常生活が戻りつつあると強調している。
●ロシア、残骸下の遺体無視し多数の高層アパート解体 マリウポリ 6/11
ロシア軍が占領するウクライナ南東部マリウポリのボイチェンコ市長は10日、ロシア軍ががれきの下に埋もれている数百人規模の住民らの遺体に留意することなどなく、市内で1300棟もの高層アパートを取り壊したと報告した。
市外へ退避している市長はSNS「テレグラム」上で、マリウポリに残る市民らの証言として、ロシア側は当初、残骸を処理する際、住民を関与させていたと説明。だが、がれきの下で見つかる遺体の数を知ると、市民を現場から即座に排除するようになったという。
取り壊されたほぼ全ての住宅棟の下には50〜100人の住民の遺体があるとも主張。ビルの解体などは無差別に進められたため、戦闘に巻き込まれて死亡した住民の遺体はコンクリート片のがれきと共に処理場へ運ばれたともした。
ボイチェンコ市長の顧問は先月25日、CNNの取材に、市政当局者の見方として侵攻が起きた3カ月間で殺された市民は少なくとも2万2000人と明かしていた。
同市長は10日、実際の人数は市側が報告したよりかなり多い可能性があると述べた。ウクライナ大統領府は数万人規模とみている。  
●「プーチンはヒトラーより恐ろしい人間になる」 スパイに毒殺された夫は警告  6/11
犯罪直訴しても何の関心も示さず
「夫の警告が何を意味していたか。今、誰の目にも明らかになった」
ロシアのウクライナ侵攻から約3カ月がたった先月、ロンドンのカフェでマリーナ・リトビネンコ(59)は悔しさを隠さなかった。「夫は毒殺される直前まで、プーチンがいかに危険かを警告していた。『ヒトラーより恐ろしい人間になる。戦争を始めて100万単位の人が死ぬだろう』と」
夫のアレクサンドル・リトビネンコは、旧ソ連国家保安委員会(KGB)の流れをくむ連邦保安局(FSB)の職員だった。43歳だった2006年、亡命先の英国で放射性物質ポロニウムによって毒殺された。英当局は実行犯2人を特定し、調査報告書で「殺害はFSBの指令の下、おそらくプーチンによって承認された」と結論付けた。
リトビネンコの人生は、何度もプーチンと交錯している。中佐だった1998年、FSB長官になったばかりのプーチンに、犯罪行為を上司に指示されたと直訴した。しかしプーチンは何の関心も示さず、追い込まれたリトビネンコは記者会見を開いて「上司に複数の人物の暗殺を命じられた」と告発した。
その後に逮捕、収監され、亡命を余儀なくされた。マリーナは「逮捕はプーチンの指示だった」と確信する。リトビネンコに「青白くて無口」という印象を残した当時40代のプーチンは、わずか2年後に大統領に登りつめた。
プーチン氏を選んだロシア特有の「システム」
「プーチンがシステムをつくったというより、システムがプーチンを選んだ」
マリーナによると、リトビネンコは、プーチンを生み出したロシア特有の権力構造を「システム」と呼んで恐れていた。「夫はこのシステムが危険だと訴えたが、誰も信じなかった」
システムとは、旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身者が中心となり、治安当局と犯罪組織、政治家、闇の資金が絡んだ複合体を指す。1991年のソ連崩壊とともにKGBは解体されたはずだが、マリーナは「(KGB出身者は)企業や政治家と協力しながら力を取り戻し、再び全てを掌握した」と指摘する。
KGB出身の政治家プーチンはシステムにとって好都合な存在だ。システムは、ロシア第2の都市、サンクトペテルブルクの副市長で同市の犯罪組織も掌握していたプーチンを中央政界に押し上げる。98年にはFSB長官に就任。そしてリトビネンコと対面する。
マリーナによると、リトビネンコは当初、無名だったプーチンをそれほど警戒していなかった。しかしプーチンに不正を直訴した後、自宅で盗聴器がみつかった。「夫はシステムを甘く見ていたことに気づいた」
テロを自作自演したチェチェン侵攻を告発
リトビネンコは英国に逃れたが、再びプーチンの虎の尾を踏む。FSB=システムがテロを自作自演してチェチェン侵攻を正当化し、無名のプーチンを大統領に押し上げたと告発したのだ。一連のテロでは300人以上が犠牲となり、人々は強い指導者として登場したプーチンを熱狂的に支持した。毒殺はこの告発が引き金になったとみられる。
リトビネンコの警告は、ロシア資金への依存を深める世界にも向けられていた。特に英政界にはプーチンとつながりの深い新興財閥オリガルヒの資金が流入してきた。マリーナは「プーチンは民主主義者や改革者のふりをして、多くの投資を呼び込んで原油ビジネスを成長させた。でもプーチンが民主主義者だったことはない」と断言する。
マリーナによると、プロパガンダの浸透したロシア国内ではウクライナ侵攻の正しい戦況は伝えられていない。8割近い国民が侵攻を支持しているが、西側の制裁で経済状況が悪化し、戦死者も増えつつある。マリーナは「人々は政府の言葉がうそだと気づくだろう。いずれプーチン政権は崩壊する」と予言する。
親族を平気でプロパガンダに使うロシア政府「私は操られない」
リトビネンコは生前、「僕たちは必ずロシアに帰るよ」とマリーナに話していたという。しかし帰国は実現していない。マリーナが、ロシア政府のプロパガンダに利用されることを恐れているためだ。
実はリトビネンコの父は18年、息子の暗殺事件後に国会議員となった人物と並び、テレビ出演したことがある。英当局はこの人物を暗殺容疑者と特定しているが、父はこれを「デマ」と主張する西側批判に利用された。「親族をプロパガンダに使うのはKGBの常とう手段だ。私は彼らに操られたくない」と話す。
「夫はずっと、人々を助けることが自分の義務だと思っていた。だからこそ、暗殺を指示された時に拒否し、告発を決意した」。マリーナは正義感の強かった夫について語る。「西側はロシアとのつながりを断ち切り、もっと圧力をかけてロシアを孤立させるべきだ。私たちの財布が少し痛んでも、ウクライナの人々が命を失っている痛みの方がもっと強い」と訴える。
「今、夫が生きていたら、もっと多くのことができたと思う」と最愛の夫の不在をさみしく思いながら、「私は彼の小さな代わりでしかないが、私にできることをしていきたい」と前を見つめた。
●迫るプーチン大統領辞任のカウントダウン…攻勢強めるロシアが停戦交渉再開 6/11
やはり、一刻も早く停戦したいのではないか。ロシアのラブロフ外相は8日、訪問先のトルコでチャブシオール外相と会談。共同通信によると、会談後の会見で、ラブロフは「停戦交渉」の再開に応じるようウクライナ側に求めたという。ロシア側はウクライナ東部で攻勢を強める一方、早めに戦争を終結したい事情があるようだ。
ロシア外務省は外相会談の前日、「ラブロフ外相はトルコ訪問中に停戦交渉の再開について話し合う」と発表。事前に交渉再開に前向きな姿勢を見せていた。
トルコ側もチャブシオール外相が会談後、ウクライナとロシアの指導者レベルの会談を主催したいと、仲介への意欲を重ねて強調。トルコが間に入り、ロシアが盛んに停戦を呼びかけている格好だ。
ロシアが停戦に動いているのは、プーチン大統領に異変が起きているからではないか──という見方が出ている。
その傍証のひとつが、プーチン大統領が毎年6月に開催している国民との「直接対話」を延期したことだ。一体、なぜ延期したのか。筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう解説する。
「直接対話を行えば、軍事作戦に対するロシア国民の不満が噴出し、長丁場になるでしょう。重病ともいわれるプーチン大統領は、体力の限界を迎えつつあるのかもしれません。そんな折、メドベージェフ前大統領がSNSを通じ『ロシアの敵を殲滅する』と訴え、指導者のような振る舞いを見せた。ポスト・プーチンは私だと言わんばかりの言動は、今までのプーチン政権下では考えられなかったことです。それだけ政権が弱体化しているということでしょう。プーチン大統領は国民との直接対話を行わずに、辞任するのではないか。辞める前に『特別軍事作戦の終了』を宣言するにあたって戦果を国民に示す必要があるため、戦況が優勢なうちに停戦交渉の再開へ前のめりになっているのだと考えられます」
政権交代で国民の不満爆発
実際、ロシア国内では、内務省が政権交代を控えているかのような動きを見せている。
ロシア国営のタス通信(7日付)によると、内務省は「戒厳令」の実施を強化するため、新たな部局を設置。新部局は国家緊急事態や対テロ作戦が宣言された場合に治安部隊を指揮し、内務省の建物をテロ攻撃から防ぐなどの役割を担うという。
新部局の新設について、ロシアのペスコフ報道官は「現在の需要を反映したもの」と説明し、内務省の報道官は「部隊強化に資する」と主張。このタイミングで戒厳令をチラつかせるのも気になる。
「プーチン大統領が辞任するとなると、辞めると同時に大統領代行を指名しなければなりません。誰が代行になるにせよ、政権の移行時は混乱が起こりやすい。しかも、経済制裁で部品が入ってこないため、自動車工場が閉鎖されたり、昨年比11%減といわれる歳入の穴埋めとして増税の可能性が取り沙汰されたり、国民の不満はかなりたまっているはずです。だから政権交代の大混乱を抑えるために、内務省は権限を強化しているのでしょう」(中村逸郎氏)
プーチン大統領は「血液のがん」に侵されているともいわれている。政権を放り出す前に、形だけの「勝利」を得ようと必死なのか。
●ウクライナ東部で攻防続く 穀物輸出できず食糧危機懸念高まる  6/11
ウクライナでは東部で一進一退の攻防が続く一方、南部の黒海に面する港では、穀物が輸出できず世界的な食糧危機への懸念が高まっていて、国連のWFP=世界食糧計画は「今すぐ行動をしないと大きな代償を払うことになる」と危機感を強めています。
ウクライナ東部で攻撃を続けるロシア軍は、10日も激戦地となっているルハンシク州のセベロドネツクに地上部隊を送り込みましたが、ウクライナ側の激しい抵抗にあい、一進一退の攻防が続いています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、東部の戦況について「ドンバスで非常に激しい戦闘が続いている。ウクライナ軍は占領者の攻勢を阻むためあらゆる手段を講じている」と述べ、欧米各国に軍事支援の継続を訴えました。
一方、ウクライナ軍の報道官は10日、ロシア海軍の動きについて、黒海の北西部でウクライナの船舶の航行を妨害しているなどと説明しました。
ウクライナ南部の港湾都市、オデーサのトゥルハノフ市長は10日、NHKのインタビューで、港がロシア軍に封鎖され、穀物が輸出できない状況だとしたうえで「ロシアの艦船が黒海に展開していることは、オデーサが危険地帯であり、攻撃が行われる可能性があるということだ」と述べ、ロシア軍の攻撃に備えることが最優先だと強調しました。
そのうえで、状況を打開するには、NATO=北大西洋条約機構が艦船を派遣して防衛にあたるか、ロシア側からオデーサの安全について確約を得なければならないとしたうえで「それが早ければ早いほど、ウクライナの穀物輸出の再開も早くなるだろう」と述べ、国際社会に支援を訴えました。
ウクライナからの穀物の輸出をめぐって、国連のWFP=世界食糧計画のビーズリー事務局長は8日、SNSに投稿した動画の中で「ウクライナは世界の重要な穀倉地帯だが、市場から消えたことで国境を越えて影響が広がり、食料不足や価格の高騰などがアフリカや中東などで起きている」と述べ、具体的に小麦や小麦粉の値段は、レバノンで47%、リビアで15%、上昇していると指摘しました。
そのうえで「今すぐ行動をしないと大きな代償を払うことになる」と述べ、黒海の港からの輸出の再開や国際社会による資金支援などが必要だと訴えました。
●ロシア当局が墓を大量購入 ウクライナ戦争で兵士4.2万人が行方不明… 6/11
ロシア国内で戦死者の埋葬が急ピッチで進んでいる。ロシア語メディア「メディアゾナ」の独自集計によると、ウクライナ戦争で亡くなったロシア兵は少なくとも2099人(5月6日時点)。相次ぐ戦死に、ロシアの地元当局は慌てているようだ。
クレムリン(大統領府)は3月にロシア兵の戦死者が1351人に上ると発表したきり、更新していない。正確な数字は不明だが、モスクワ・タイムズ(6日付)によると、〈(ロシアの)地元当局は“異常な”ペースで新たな墓を購入している〉という。
記事によれば、極東ハバロフスク当局は業者に約700基の墓を用意するよう指示。同様の契約を結んだ5年前は、当局からの発注は120基だった。「プーチンの戦争」が要因で、大量の墓が必要になっている可能性が高い。
「ロシアでは、墓は基本的に個人単位で入るものです。ソ連時代は共産党が墓の面倒を見ていました。市民は生前、地区委員会に『両親の横に埋めて欲しい』などと伝えていたそうです。その名残で、現在も地元当局が墓専用のエリアを決め、管理しています。ウクライナ戦争で行方不明になっているといわれるロシア兵は、約4万2000人。うち戦死者は、かなりの数に上ると予想されます。当局が墓を大量に用意しているのは、想像以上に戦死者が出ているからでしょう」(筑波大名誉教授の中村逸郎氏=ロシア政治)
メディアゾナによれば、年齢が分かっている戦死者のうち、21〜23歳の割合が最も多い。20歳未満も74人含まれている。
プーチン大統領は若者を死地に追いやる一方、9日に開かれた若手実業家との対話集会で「(領土を)取り戻し強化することは、我々の責務だ」と軍事侵攻を正当化。「今後10年で生活の質は向上する」などと熱弁を振るっていた。
「プーチン大統領の発言は、裏を返せば『今後10年は我慢しろ』ということ。未来ある若者に身もフタもない失言をしてしまうほど、ロシア国内の経済状況は、ボロボロなのでしょう。ロシアのニュース番組では、『今後10年──』の発言がカットされていました。つい本音が出てしまったのだと思います」(中村逸郎氏)
若者は前線に送られて無言の帰宅か、生きて帰ってきても「今後10年」の我慢を強いられる。「プーチンの戦争」は、とことん罪深い。
●ウクライナ国防省「ロシアはあと1年戦争継続できる」 6/11
ウクライナ国防省は10日、ロシアは経済的にあと1年は戦争を継続できるとの見方を明らかにした。欧米諸国は制裁でロシアの侵攻継続を難しくする狙いだが、プーチン大統領の判断に影響を及ぼすまでには時間がかかると推測した。
SNS(交流サイト)で表明した。ロシア軍は精度の低い巡航ミサイルを使うなど消耗の大きさを示す兆候もあるが、東部の制圧に向けて勢いを緩めていない。ロシア国内では制裁の影響で住宅ローンの利用件数や自動車販売台数が減少する一方、インフレには一服感がある。
ウクライナ国防省幹部は「ロシア軍はウクライナ軍に比べて10〜15倍の数の大砲を持っている。(今後の戦況は)欧米諸国がどれだけ武器を供与するかにかかっている」と述べた。東部ではロシア軍が規模で圧倒しており、ウクライナ軍は劣勢に立たされているとみられる。
フランス大統領府は10日、ウクライナの穀物輸出をロシアが妨げていることに対し、黒海を経由した輸出に協力する用意があると表明した。ウクライナは、現状のままでは世界に食料危機を引き起こすとして、国連にも調整を依頼している。英国なども海軍の派遣を検討している。
ただロシアは穀物輸出を認める代わりに対ロ制裁を解除させようとしており、輸出の見通しは立っていない。陸路での輸出は年単位の時間がかかるため、現実的ではないとされる。
ロシアは10日、国連世界観光機関(UNWTO)からの脱退を正式に決めた。欧州メディアが伝えた。UNWTOは4月、ロシアが「経済発展、国際理解、平和に貢献しながら観光を促進、発展させる」と定めた規則に違反したとして、加盟資格を停止していた。国際会議やスポーツの世界大会からも排除されるなど、ロシアの孤立が進んでいる。
●ウクライナ戦争はキューバ危機の交渉力を生かせるか 6/11
2022年もそろそろ折り返しだが、今年前半の最も大きなニュースは、ロシアによるウクライナ侵攻であろう(以下、ウクライナ危機)。2月24日に侵攻が開始され、本稿執筆時点で(6月10日)もなお戦闘が続いている。激しい戦闘の様子や荒廃した町の様子がSNS上で拡散され、日本や欧米諸国では、ウクライナを支援する動きが広がりを見せている。
プーチン大統領が進めていた交渉の「禁じ手」
2022年に入ってから、ロシアがウクライナとの国境付近において兵士を増強させており、ウクライナに侵攻するのではないか、というニュースが入ってきた。筆者はこのニュースを聞いた時、ロシアは「エスカレーション・アンド・ネゴシエーション(Escalation & Negotiation)」を行っているのではないか、と考えた。
これは、米国の政治学者、ウィリアム・ザートマン教授らが唱えた考え方で、「エスカレーション」とは、軍事行動などで対立の程度が増大することを指す。一方「ネゴシエーション」とは、交渉によって対立の程度が縮小することを指している。すなわち、「エスカレーション・アンド・ネゴシエーション」とは、対立の大きくなるベクトルと小さくなるベクトルが並存している状態を意味している。
ウクライナ危機で言えば、プーチン大統領は、ウクライナ国境付近で軍備増強を行い、ウクライナとの緊張関係を高めることで「エスカレーション」を図った。しかし、それによって同時に「ネゴシエーション」を行おうとしたのではないか、ということである。プーチン大統領は、ウクライナを交渉のテーブルにつかせ、ロシアにとって最も有利な譲歩を迫ろうとしていたのではないか。
もちろん、このような一方的な手法は「脅し」であり、全く評価できるものではなく、交渉学一般にも「禁じ手」である。その後、ウクライナに対して軍事侵攻している事実を見れば、交渉だけではプーチン大統領が思い描いていた結果は得られないと判断したのだろう 。
プーチン大統領の対応を分析する上で、交渉学は非常に重要な意味をもつ。それは、「NEGOTIATING with Putin」のような番組でも紹介されており、主催するハーバード大学のジェームズ・K・セベニウス氏とロバート・H・ムヌーキン氏は、いずれも世界で名だたる交渉学の大家である。番組では、プーチン大統領との交渉経験を有する歴代の米国務長官が出演し、実際にどのような交渉が行われたのかが語られ、その交渉手法からプーチン大統領の人間性を探るという非常に有益な内容になっている。
キューバ危機から学ぶ危機回避の交渉
過去には、今回のウクライナ危機と同様の緊迫した状況の中で見事に戦争を回避した事例がある。今から60年前のキューバ危機である。
当時はいわゆる東西冷戦の最中であり、米国とソ連の対立が続いていた。そうした中でソ連が、地理的に米国に近いキューバにおいて、核ミサイルの施設を建設していることが発覚し、両国間の緊張は一気に高まった。さらに、米軍のキューバ偵察機がソ連の地対空ミサイルに撃墜され、事態は一層悪化し、第三次世界大戦の勃発を予想する人々が少なからず現れた。この戦争前夜の危機的状況から、ジョン・F・ケネディ米国大統領は、弟で司法長官のロバート・ケネディらと共に、見事に平和的な解決を見出すことができたのである。
この解決法は、交渉学の観点から極めて重要な要素が盛り込まれたものだった。また、それらの要素は国家間対立だけでなく、普段の私たちの生活やビジネス活動においても不可欠の要素であるため、今回それをご紹介したい。
結論から書くと、交渉学的には、ケネディ兄弟は「アプリシエーション」を貫いた、と評価できる。アプリシエーションとは、日本語で言えば「価値理解」である。
ハーバード大学交渉学研究所の創設者であり、筆者がハーバード・ロー・スクールで師事した故ロジャー・フィッシャー教授は、相手に対するこの「価値理解」が交渉において最も重要な要素の一つであると説いた。自分の論理(考え方)だけが正しいと主張するのではなく、「私もあなたの立場であれば、同じように考えると思います」と相手の考え方に敬意を表することである。
ただし、相手の考え方を受け入れる「譲歩」とは異なる点に注意を要する。あくまでも、相手の考えを尊重し、理解しようと努めている姿勢を示すことを意味している。これは、交渉学のもう一つの重要な要素である「傾聴力」の理念とも一致し、相手の考えを知ることこそが交渉におけるファーストステップとなる。
この価値理解について、より身近な例で考えてみたい。
営業ノルマに追われる上司と部下なら
新人であるあなたは、営業部長である上司の下で働いている。上司は営業ノルマに日々追われていて、イライラしていることが多い。ある日、あなたは上司に呼び出され、「今月の売り上げ目標、君は達成できていないじゃないか」と怒鳴られた。自分としては、売り上げ目標自体が理不尽であり、目標の半分を達成するだけで精一杯だと思っている。
このような状況にあるとき、あなたならどうするだろうか。
「こんな無茶な売り上げ目標を立てられても無理です!」と興奮しながら上司に言うだろうか。多くの人は、「上司はいつもこんなものだ。自分が言ったところで変えられない」という具合に考え、あえて声を上げることなく不満を抱いたまま、黙って無理な目標に向けて活動を行うのではないか。しかしそれでは、組織にとってもあなたにとっても悪循環で、決していい結果を生み出すことはない。
ここで重要なのが、あなたと上司との「価値理解」である。とはいえ、こんなにも双方の思いや立場がかけ離れている中で、どうすれば価値理解ができるのだろうか。最初の言葉を間違えてしまうと、上司との対立関係に陥ってしまい、望んでいた方向とは逆の道へ進んでしまうことになる。
まずは相手の行いに対して敬意を示すことを忘れてはならない。例えば、「いつも私たちの部署のために考えてくださりありがとうございます。今月の売り上げ目標について、営業成績を上げるために何が必要なのかをもう少しお話ししていただけませんか?」と話し始めたらどうだろうか。ただ売り上げ目標を立てるのではなく、目標を実現するためのさまざまな具体的選択肢を考えて営業努力するように上司と話し合うことができれば、互いの価値理解が進み、自分たちの本当のミッションが見えてくる。
「対立」から「協働」への移行
上司を尊重しつつ、さらに、自分の意見を展開することも容易になる。対立せずに話し合うことで、上司との関係が、「対立」から「協働」に移行し、「立てた目標を達成する」という利害を一致させることが可能になる。
この一連のアプリシエーション(価値理解)については、否定的な言葉ではなく肯定的な言葉でコミュニケーションをとる「ポジティブ・フレーミング」が重要な鍵を握る。先ほど紹介したように、感謝の言葉で始めれば、上司は自分の話に耳を傾けてくれるだろう。
「〇〇のところが私の理解が悪く腑に落ちないので、もう少し詳しく教えて頂けないでしょうか」というように話せば、上司からこれまでの経験に基づくコツなどを聞くことができるかもしれない。相手を否定したり刺激したりすることなく、より詳しく聞いてみたいという前向きな姿勢で臨むことが、あるべきコミュニケーションの一つの形だと筆者は考えている。
互いの脅威を知った上での解決策
話をキューバ危機に戻すと、ケネディ兄弟はこれらのことを見事に実践した。瀬戸際戦略を行っていたかのように思われることも多いが、これは交渉学的には「禁じ手」で、破滅的な結果を生み出しかねない。しかし、ケネディ兄弟はその危険性を理解していたのか、実際には瀬戸際戦略ではなく、価値理解を意識した交渉を行っていた。米軍機がソ連に撃ち落とされた段階ですぐに反撃に出るのではなく、まずはソ連がなぜそのようなことをするのかを分析することに注力したのだ。
具体的には、ロバート司法長官はソ連のドブルイニン大使と非公式に会談した。この会談によって、双方が相手の「真意を確認」することができたと言われている。すなわち、米国にとってソ連によるキューバの核ミサイル配備が脅威であるのと同じように、トルコに米国(NATO側)が配備しているジュピター・ミサイルはソ連にとって脅威だったのである。まさにこれは、アプリシエーション(価値理解)の実践によって見えてきた事実だと言える。
さらに、「これ以上の事態悪化に至れば戦争に突入する」と主張して強硬姿勢を見せた一方で、キューバのミサイルを撤去してくれれば、米国もトルコに配備しているジュピター・ミサイルを撤去する、という柔軟な姿勢も見せた。うまくバランスを取った交渉の結果、両国間で互いに満足のいく道筋を見出せたことが大きな要因となり、第三次世界大戦の勃発を回避することができたのである。
このキューバ危機で行われたようなアプリシエーションを重視したコミュニケーションが国際社会とプーチン大統領の間で行われ、一刻も早く軍事行動が収束し、交渉による問題解決がなされることを願ってやまない。
●ウクライナ東部で激しい市街戦 “支援”打ち切りに母娘は ポーランドに避難 6/11
ロシア軍の侵攻開始から、およそ3カ月半。ウクライナ東部では依然、激しい市街戦が続いている。そうした中、ウクライナから隣国に避難していた人たちも、今、大きな岐路に立たされている。ポーランドで支援する人たちへの援助打ち切りを前に、自立を目指すウクライナ人の母と娘を取材した。
街のあちらこちらから黒い煙が上がるウクライナ東部の要衝・セベロドネツク。ロシア側は、東部最後の拠点とされるこの都市の6月10日までの制圧を目指し、戦力を投入してきたが、ウクライナ側の激しい抵抗が続いている。地元の知事は、SNSに「ロシア軍は、制圧の目標を10日から22日に延期した」との見方を投稿した。
ゼレンスキー大統領も、SNSで「ロシアはドンバス地方のすべての都市を破壊しようとしている。“すべての”というのは誇張ではない」と投稿した。
そうした中、国外に避難したウクライナ市民も今、大きな岐路に立たされている。ウクライナ南部のヘルソンから母親と一緒にポーランドに避難している、マーシャ・アロネッツさん(10)。マーシャさんは、ウクライナの大会で優勝経験もあるフィギュアスケートの選手。3月下旬から、ポーランド北部の都市・トルンで、日本人の藤田泉さんの住宅に身を寄せている。
藤田泉さん「娘とも話し合って、家に受け入れようということになった」
藤田さんは、スケート靴を持ってこられなかったマーシャさんのために義援金を募り、新しい靴をプレゼントした。
ポーランドでは、ウクライナからの避難者に住居を提供する市民に、避難民1人あたり1日およそ1,200円を支給する支援策を行っている。ところが、軍事侵攻からすでに100日が過ぎ、ポーランド政府は、120日以上は給付金を支給しないことを決めた。
この日、藤田さんの車に、スーツケースや段ボールを載せるマーシャさん親子の姿が。自立するため、アパートに引っ越すことを決めた。新しい部屋に大喜びのマーシャさん。一方、母・カティアさんは、「ここには長く住みたくない。早くウクライナに帰りたいです」と語った。ヘルソンに残っている夫に電話し、引っ越しの報告をしたカティアさん。
カティアさんの夫「そういえば、ウクライナの通貨とロシア通貨の2つの値札が出されると聞いた」
カティアさん「ルーブルとフリブナでね」
ヘルソンは、ロシア軍に制圧され、急速にロシア化が進められているという。
カティアさん「家の窓がなくても、ウクライナに帰っている人もいます。しかし、わたしの故郷は占領されていて、住民は出ることも入ることもできません。いまの予定は生き残ること、そして、生き延びるための仕事を見つけることです」
帰国するか、それとも避難先で自立するか。二者択一が迫られているウクライナの避難民。故郷で安全に暮らせる日は、いつになるのだろうか。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 6/11
イギリスが戦況分析「ロシアは高精度のミサイル不足」
イギリス国防省は11日に公表した戦況分析で「セベロドネツク周辺のロシア軍は10日現在、市の南部には前進していない。激しい市街戦で、双方に多数の死傷者が出ているもようだ」と指摘しました。またロシア軍が使うミサイルについて「4月以降、ロシアの爆撃機は1960年代の対艦ミサイルを数十発、地上の標的に向けて発射したようだ。通常弾頭を使って地上を攻撃すると、精度が非常に低くなり、重大な巻き添えの被害や民間人の死傷者が出るおそれがある」としています。そのうえで「ロシアがこのような効果的ではない兵器を当てにするのは、より精度の高い攻撃ができる現代的なミサイルが不足しているためだろう」と分析しています。
穀物輸出できず 食糧危機懸念高まる
ウクライナ南部の港湾都市、オデーサのトゥルハノフ市長は10日、NHKのインタビューで、港がロシア軍に封鎖され、穀物が輸出できない状況だとしたうえで「ロシアの艦船が黒海に展開していることは、オデーサが危険地帯であり、攻撃が行われる可能性があるということだ」と述べ、ロシア軍の攻撃に備えることが最優先だと強調しました。国連のWFP=世界食糧計画のビーズリー事務局長は8日、SNSに投稿した動画の中で「ウクライナは世界の重要な穀倉地帯だが、市場から消えたことで国境を越えて影響が広がり、食料不足や価格の高騰などがアフリカや中東などで起きている」と述べ、具体的に小麦や小麦粉の値段は、レバノンで47%、リビアで15%、上昇していると指摘しました。そのうえで「今すぐ行動をしないと大きな代償を払うことになる」と述べ、黒海の港からの輸出の再開や国際社会による資金支援などが必要だと訴えました。
WFP事務局長「新たに4700万人が深刻な飢餓に陥る可能性」
国連のWFP=世界食糧計画のビーズリー事務局長は、8日にSNSに投稿した動画の中で「ウクライナは世界の重要な穀倉地帯であり、4億人以上に十分な食料を供給している。しかし市場から消えたことで国境を越えて影響が広がり、食料不足や価格の高騰などがアフリカや中東、地中海周辺の国で起きている」と述べ、具体的に小麦や小麦粉の値段は、レバノンで47%、リビアで15%、パレスチナで14%上昇していると指摘しました。そのうえで「私たちの分析では、ウクライナでの戦争によって世界で新たに4700万人が深刻な飢餓に陥るだろう。ここ数週間の間でも、ペルーやパキスタン、インドネシア、スリランカで食料の価格上昇を引き金に社会不安が起きている。今すぐ行動をしないと大きな代償を払うことになる」と述べ、黒海の港からの輸出の再開や国際社会による資金支援などが必要だと訴えました。
ロシア黒海艦隊に巡航ミサイル搭載の潜水艦
ウクライナ軍の報道官は10日、SNSに投稿した動画で「ロシアの黒海艦隊に、巡航ミサイルを積んだ潜水艦1隻が新たに加わった。ウクライナは、40発もの巡航ミサイルが撃ち込まれる脅威にさらされている」と述べ、ロシア海軍の動きに警戒感を示しました。ウクライナ軍によりますと、ロシア海軍は、黒海の北西部でウクライナの船舶の航行を妨害しているほか揚陸艇1隻を配置しているということで、引き続き、海上での優勢を確保するねらいがあるとみられます。また、ウクライナ南部に侵攻したロシア軍の地上部隊の動きについて「一時的に占領した土地や道路、橋などに次々と地雷を仕掛けている」と非難しました。
米 “南部ヘルソン州で約600人が特別な地下室内で拘束の情報”
OSCE=ヨーロッパ安全保障協力機構を担当するアメリカのカーペンター大使は10日、オンラインによる記者会見で、ウクライナ南部のヘルソン州について「われわれが把握している情報では、およそ600人が特別な地下室に拘束されている。州政府の建物や学校だという詳細な場所の情報もある」と述べロシア軍が、掌握したとされる地域で多くの住民たちを拘束していると指摘しました。そして「拘束されているのは、民主的に選ばれた議員やジャーナリスト、社会活動家、それにロシアの占領に反対する集会に何らかの形で参加したと見なされた人たちだ」と述べ、反対派の抑え込みがねらいだと強調しました。さらに「ロシアの治安機関は威圧や脅迫、拘束、さらには、親族を拉致すると脅したり、賄賂を使ったりして、地方の政治家などを取り込もうとしている」と述べロシアが将来的にこの地域を併合することも視野に、かいらいの行政府をつくろうとしているとして警鐘を鳴らしました。
オデーサの海岸では「注意・地雷」の警告も
南部オデーサでは中心部のいたるところに設置されていたバリケードの多くが、ロシア軍が東部に戦力を集中して以降撤去され、公園で家族連れがくつろぐ姿も目立ちます。ただ「黒海の真珠」と呼ばれる国内有数のリゾート地を訪れる観光客は激減し、多くのホテルや飲食店が営業を停止しています。また市庁舎や劇場の周辺などには土のうが積まれているほか、港や、観光名所として知られる「ポチョムキンの階段」など海に面した地域の多くは住宅がある人以外は立ち入りが禁止され、検問所が設けられています。ウクライナ軍の兵士が警戒にあたり、撮影も厳しく禁じられています。例年、この時期は海水浴客でにぎわうビーチも立ち入りが禁止され、ウクライナ語とロシア語で「注意・地雷」と警告するなど、特に海岸線でウクライナ軍がロシア軍の侵攻に備えて警戒を強めていることがうかがえます。
オデーサの市長 穀物を輸出できない状況に支援訴え
ウクライナ南部の港湾都市オデーサのトゥルハノフ市長が10日、NHKのインタビューに応じ、港がロシア軍によって封鎖され、穀物が輸出できない状況について「穀物を輸入する国々にとって、ウクライナにとって、世界にとって悲劇的な状況だ」と訴えました。そのうえで「ロシアの艦船が黒海に展開していることは、オデーサが危険地帯にあることを示しており、オデーサへの攻撃が行われる可能性がある。船の航行よりもまず、国の安全を確保することに関心を寄せている」と述べ、ロシア軍の攻撃に備えることが最優先だと強調しました。さらに、こうした状況を打開するためには、NATO=北大西洋条約機構が艦船を派遣して防衛にあたるか、ロシア側からオデーサの安全について確約を得なければならないとしたうえで「それが早ければ早いほど、ウクライナの穀物輸出の再開も早くなるだろう」と述べ、国際社会に支援を訴えました。
●「ロシアの火砲15基に対し1基しか…」ウクライナ、重火器不足し東部で劣勢  6/11
ウクライナに侵攻しているロシア軍が全域制圧に向けて戦力を集中的に投入している東部ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)で、ウクライナ軍は重火器の不足から劣勢に立たされている模様だ。ロイター通信によると、ウクライナの大統領府顧問は、開戦以降のウクライナ軍の戦死者が1万人を超えたと認めた。
ウクライナ国防省情報総局の幹部は、英紙ガーディアンが10日に報じたインタビューで、ドンバス地方の戦闘が「砲撃戦になっている」と分析し、「ロシアの火砲10〜15基に対し、ウクライナは1基しかない」と劣勢を認めた。「すべては米欧が提供してくれるものにかかっている」とも語った。
最大の激戦地ルハンスク州の要衝セベロドネツクの状況に関し、州知事は11日、SNSで抗戦継続を強調した。ただ、タス通信によると、露軍の後押しを受ける地元の親露派武装集団トップは11日、ウクライナ軍を化学工業地帯に追い込んだと主張した。一角にある化学工場の地下シェルターには住民約1000人が避難しているとされ、親露派側は退避に向けた協議が始まったとしている。
英国防省は10日、ウクライナ南東部マリウポリでコレラの流行リスクが高まっていると明らかにした。マリウポリの市長は、年末までに1万人が感染死する恐れがあるとして、住民を退避させる人道回廊の設置を国連などに求めている。
●バイデン氏、ゼレンスキーに侵攻可能性警告も…「聞き入れようとせず」 6/11
アメリカのバイデン大統領は10日、ロシアの軍事侵攻前、ウクライナのゼレンスキー大統領に対し、侵攻する可能性を警告したものの「聞き入れようとしなかった」と明らかにしました。
バイデン大統領はロサンゼルスで開いた資金集めの会合の場で、今年2月のロシアによるウクライナ侵攻前の状況について、「侵攻計画を裏付けるデータを持っていたが、ゼレンスキー大統領や他の多くの人は聞き入れようとしなかった」などと明らかにしたということです。
また、バイデン大統領は、「プーチン氏が国境を越えてくることは疑いの余地がなかった」「多くの人は私が大げさだと思っていたことはわかっている」とも述べたということです。
●ウクライナ大統領は侵攻警告に「聞く耳持たず」 バイデン氏 6/11
ジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領は10日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領はロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が侵攻計画を進めているという米国側の警告に「聞く耳を持たなかった」と述べた。
バイデン氏は米ロサンゼルスで開かれた政治資金パーティーで記者団に対し、ロシアがウクライナを攻撃する可能性があると事前に警告していたことに言及し、「多くの人に大げさだと思われていたことは知っている」として、「だが、われわれには(その判断を)裏付けるデータがあった」と述べた。
「(プーチン氏が)ウクライナに侵攻するつもりだったのは明らかだった」とし、「だが、ゼレンスキー氏は聞く耳を持たなかった。多くの人もそうだった」と続けた。
米国は、プーチン氏が2月24日にウクライナへの「特別軍事作戦」の実施を発表するかなり以前から、ロシアが侵攻の準備を進めていると警鐘を鳴らしていた。
しかし、欧州の一部の同盟国からは人騒がせな警告と受け止められ、不信や批判を招いていた。
●ゼレンスキー大統領「力の強い国 なすがままはいけない」  6/11
アジアや欧米の防衛担当の閣僚らが集まる「アジア安全保障会議」で11日、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンライン形式で演説し、ロシアによる軍事侵攻をめぐり「力の強い国のなすがままにしてはいけない」と述べ、力による現状の変更を許さず、国際秩序を守る重要性を強調しました。
シンガポールで行われていることしの「アジア安全保障会議」では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が、主要なテーマの1つになっています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、11日の日本時間の午後5時ごろ、オンライン形式で演説しました。
この中で、ゼレンスキー大統領は「ロシアは隣国が自由に独立して存在することを許さず、ウクライナで多くの人を殺害している」と非難したうえで、「黒海の封鎖により、アフリカやアジアなどで深刻な食糧危機に陥るおそれがある」として、ロシアの侵攻が世界の食料安全保障を脅かしていると指摘しました。
そのうえで、会場に集まったアジア太平洋地域の防衛関係者に対し「財政や装備において力の強い国のなすがままにしてはいけない。もしも外交で解決できる方法があるのであれば、真っ先に行わなければならない」として、力による現状の変更を許さず、国際秩序を守る重要性を強調しました。
そして「ウクライナへの支援は、皆さんの未来の平和のためでもある」と述べ、国際社会に支援を求めたのに対し、参加者からは拍手が送られていました。
●「祖国防衛は義務」 ゼレンスキー氏、出国求める請願に否定的な見解 6/11
ロシアの軍事侵攻を受けたウクライナで18〜60歳の男性の出国が原則禁じられていることを巡り、ゼレンスキー大統領は10日、出国禁止の解除を求める請願に対し、否定的な回答を示した。「祖国の防衛は市民の義務だ」などとしている。
●コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻で増える「悪夢障害」 6/11
コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻によって「悪夢障害」と称される現象が起きていると海外メディアで報じられた。ジャーナリストの深月ユリア氏がその現象についてまとめ、日本の専門家にも話を聞いた。
新型コロナウイルスやウクライナ戦争などネガティブなニュースが多い世の中で、気持ちの浮き沈みを感じる方もいらっしゃるだろう。そして、ネガティブなニュースは我々が見る夢にも影響を与える。
2年前のニューヨークタイムズ紙(2020年4月13日付)によると、 「コロナウィルス・パンデミック・ドリーム」とも呼ばれる「悪夢障害」に悩む人々が増加した。 同紙によると、Google検索での「why am i having weird dreams lately(なぜ最近変な夢を見るのか)」という検索数が4倍になり、ツイッターでも悪夢に関する投稿が数多く報告されていたそうだ。
ボストン大学医学部神経学の准教授、パトリック・マクナマラ氏のナショナルジオグラフィックなど海外メディアで回答したインタビューによると、コロナ禍の不安や人と会いにくくなった孤独感が影響しているという。
「通常、人は朝目覚めると、夢を覚えていないことが多い」「コロナ禍での孤独感やストレス、運動不足による睡眠の質の低下が悪夢を誘発し、夢を覚えているケースが増えた要因だろう」
実際に仏のリヨン神経科学研究センターの研究によると、コロナ禍で悪夢を見る人が通常より15%増え、夢を覚えている人が35%増えているそうだ。
また、イタリア睡眠医学会の研究によると、イタリアのロックダウン中に心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状と類似したような悪夢を見る人が増えたという。
コロナ禍のみならず、ウクライナ戦争の惨事報道も視聴者のメンタルヘルスに影響を与える。
「日本トラウマティック・ストレス学会」によると、過去にアメリカ同時多発テロやノルマンディ連続テロ事件、ボストンマラソン爆破事件の映像も一部の人々にとってPTSDの要因となっていたという。
では、「悪夢障害」になった場合、どうすればよいのか?
麻布メンタルクリニックの臨床心理士・公認心理師で、漫画「サイコドクター」のモデルにもなった黒岩貴氏によると、「悪夢の意味を深追いしないこと」が重要だという。
「夢はそのままの形では見ないで象徴的に現れるものにすぎません。 追いかけられる夢は精神的な圧迫がある時の現れですし、 人を殺してしまった夢などは、今から脱皮し次の新しい方向へ行きたいという現れと取れます。また、夢は共通無意識の現れもあります。悪夢は実社会で嫌なことがあった時に流すための練習と捉えてみることもできます」(黒岩氏)
それでも、悪夢が気になる場合はどうすればよいのか。
ハーバード大学の心理学の助教授で「パンデミック・ドリーム」 「トラウマと夢」の著者であるディアドラ・バレット氏によると、「寝る前に夢のシナリオを作る」「イメージリハーサル療法」という方法で見たい夢が見れる確率が50%上がるそうだ。
方法は、頻繁に見ている悪夢の内容を文章に書き出して、さらに自分で望む結末を書き足す。
例えば、殺人鬼に追いかけられている悪夢を連日見ている人は、殺人鬼をウサギや猫など自分が好きな無害な動物に書き換えていく。地下室に閉じ込められている夢なら、窓を空けて羽を生やして自由に飛び立ち、自分自身の意識で「夢のシナリオを作る」。
「夢のシナリオ」が想像できない場合は、寝る時に見たい夢に関連したもの(好きな人の写真、趣味やお気に入りの小物など)を置いて、寝る直前にそれらを眺めながら消灯する。夢は無意識の現れであり、己が創る精神世界でもあるので、ぜひシナリオをつくって「夢の創造主」になってみよう。 

 

●ウクライナ戦争は国際秩序の将来に影響、ゼレンスキー氏が支援訴え 6/12
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、シンガポールで開催中のアジア安全保障会議(シャングリラ対話)にオンラインで演説し、ウクライナの戦争の結果は同国のみならず国際秩序の未来に影響を及ぼすと述べた。
ゼレンスキー氏は、欧米やアジアの同盟国からの支援に謝意を示した上で支援の継続が極めて重要と説明。「支援はウクライナだけでなく、あなた方のためでもある。世界の将来のルールは、可能性の境界線とともにウクライナの戦場で決定する」と訴えた。
ロシアが黒海とアゾフ海の港を封鎖し、ウクライナから食料の輸出ができなくなっていると指摘し「ロシアの封鎖で食料を輸出できなければ、世界は深刻な食料危機に直面し、アジアやアフリカの多くの国々で飢饉が発生する」と述べた。
ロシアの行動を商品価格の高騰と直接関連付け、まずエネルギー供給封鎖で価格を高騰させ、食料でも同様な措置を取っていると指摘した。
ウクライナ軍はロシア領に進出する野心を持っていないと説明。「戦争はわれわれの土地で行われていることを忘れないで欲しい。ウクライナの人々が死んでいる。われわれはロシアの領土に行こうとは思っていない」と述べた。
●“最後の拠点”市民数百人避難の化学工場がロシア軍よる砲撃で火災 6/12
ロシア軍との攻防が続くウクライナ東部で「最後の拠点」とされるセベロドネツクの化学工場が攻撃を受け、火災が発生しました。
ウクライナ東部ルハンシク州の知事によりますと、「最後の拠点」とされるセベロドネツクのアゾト化学工場に11日、ロシア軍による砲撃があったということです。
化学工場には市民数百人が避難しているとされています。
冷却器に着弾し、油が漏れたことが原因で大規模な火災が発生したということですが、州知事は化学工場がロシア軍に包囲されているというロシア側の情報は否定しています。
パスポートを交付された市民「とても嬉しい。私の人生における歴史的な瞬間だ」
こうした中、ロシア軍による支配の既成事実化が進む南部では、一部の地元住民にロシアのパスポートが交付されました。
ヘルソン州では、ロシア軍に任命された親ロ派の州知事を含む23人がロシアのパスポートを受け取ったということで、ロシアの国営メディアによると、南部メリトポリでも交付が行われました。
メリトポリの地元当局は、パスポートを交付する施設に毎日数千人が申請のため訪れているとしていますが、ウクライナのゼレンスキー大統領は「市民は逃亡のためのチケットを手に入れようとしている」として否定しています。
●“最後の拠点”化学工場がロシアの砲撃受け大規模火災 6/12
ロシア軍との攻防が続くウクライナ東部で「最後の拠点」とされるセベロドネツクの化学工場が攻撃を受け、火災が発生しました。
ウクライナ東部ルハンシク州の知事によりますと、「最後の拠点」とされるセベロドネツクのアゾト化学工場に11日、ロシア軍による砲撃があったということです。
化学工場には民間人数百人が避難しているとされていますが、攻撃により漏れ出た油に引火し、大規模な火災が発生したということです。
州知事は、ロシア軍がセベロドネツク攻略のため、一両日中にあらゆる攻勢をかけてくると見込んでいます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、東部ドンバス地方で「持ちこたえている」としたうえで、ロシア軍の死者はこれまでにおよそ3万2000人にのぼっていると主張しました。
ウクライナ政府の高官は、ウクライナ兵士の死者は1万人以上だと明らかにしています。
ところで、ロシアでは12日は主権を宣言したことを祝う祝日で、これにあわせ、北朝鮮の金正恩総書記がプーチン大統領に祝電を送りました。
朝鮮中央通信によると、金総書記は祝電の中で、ロシアの人々がプーチン氏の指導のもと「あらゆる挑戦と難関に果敢に打ち勝って大きな成果を収めている」と賞賛。直接言及していないものの、ウクライナ侵攻をめぐる状況を念頭にしたものとみられます。
●ロシア ウクライナの都市でパスポート発行 支配の既成事実化か  6/12
ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナで、新たに南部などの2つの州で住民にロシアのパスポートが発行されました。支配の既成事実化を加速させるねらいがあると見られ、ウクライナ政府は「重大な主権侵害だ」と反発しています。
ロシアのパスポートが発行されたのは、ロシア軍が事実上支配しているウクライナ南部へルソン州の中心都市へルソンと、南東部ザポリージャ州の都市メリトポリです。
ロシア通信によりますと、へルソンでは申請していた市民23人がパスポートを受け取ったということです。
ロシアのプーチン大統領が2つの州の住民を対象にロシア国籍の取得を簡素化する大統領令に先月署名したことを受けた措置で、パスポートが実際に交付されるのは初めてです。
ただウクライナのメディアによりますと、軍事侵攻後ロシアに連行されたり避難を余儀なくされたりした市民の中には、パスポートの申請書を強制的に書かされたケースも相次いでいるということです。
これに対してウクライナ政府は「重大な主権侵害だ」と反発を強めていて、11日にはへルソン州議会の副議長が「へルソンの住民はパスポートの交付もロシア国籍の付与も拒否する。ロシア帝国の再興は不可能だということを証明してみせる」とSNSに投稿し、抵抗する構えを強調しました。
プーチン政権はこれまでも東部ドネツク州やルハンシク州で支配地域の住民にパスポートを発行しロシア国籍を与える政策を進めてきましたが、今回新たに2つの州で同様の措置が始まったことで、ウクライナ側はロシアによる支配の既成事実化が加速するのではないかと警戒を強めています。
●ロシアのパスポート発行 ウクライナ政府「重大な主権侵害だ」  6/12
ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナで、新たに南部などの2つの州で、住民にロシアのパスポートが発行されました。支配の既成事実化を加速させるねらいがあるとみられ、ウクライナ政府は「重大な主権侵害だ」と反発しています。
ロシア軍が攻勢を強めるウクライナ東部の戦況について、ウクライナの公共放送は11日、ルハンシク州のハイダイ知事の話として、ロシア軍は激戦地となっているセベロドネツクとそのほか9つの地域へ攻撃を加えたとしたうえで「セベロドネツクを攻撃するための拠点の足固めを進めている」と伝えています。
また、ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、新たに公開した動画でセベロドネツクについて「激しい市街戦が続いている。敵の進軍をすでに何週間も阻止し、強固な守りを維持しているすべての防衛者を誇りに思う」と述べ、必死に抵抗を続けていることを明らかにしました。
一方、ロシア軍が事実上支配しているウクライナ南部へルソン州の中心都市へルソンと、南東部ザポリージャ州の都市メリトポリでは住民にロシアのパスポートが発行され、ウクライナ政府は「重大な主権侵害だ」と反発しています。
ロシア通信によりますと、このうちへルソンでは市民23人がパスポートを受け取ったということです。
プーチン政権はこれまでも、東部のドネツク州やルハンシク州で支配地域の住民にパスポートを発行し、ロシア国籍を与える政策を進めてきましたが、今回、新たに2つの州で同様の措置が始まったことで、ウクライナ側はロシアによる支配の既成事実化が加速するのではないかと警戒を強めています。
●ウクライナ侵攻 東部で戦闘激化 外交を諦めてはならない 6/12
ウクライナ東部の要衝をめぐる攻防が激化している。東部の完全制圧を目指して攻勢を強めるロシア軍に対し、ウクライナ軍は工業地帯を拠点に抗戦している。被害は拡大の一途だ。侵攻から3カ月半が過ぎた。両軍の死者数は日増しに膨れ上がり、民間人の犠牲が絶えない。地下シェルターに逃げた女性や子どもは命の危険にさらされている。
だが、停戦の道筋は見えてこない。どうすれば出口を探ることができるか。外交努力を続ける以外に方法はない。
イタリアは国連の監視下で前線を非軍事化し、ウクライナの安全について協議を促す停戦案をまとめた。フランスも「仲介役」を担う考えを繰り返し示している。前向きな動きといえる。
一方、和平を急ぐあまり、ウクライナに領土問題で譲歩を迫るのは本末転倒だという指摘がある。侵略したロシアに報酬を与えてはならないという考えだ。
こうした立場をとる米国は、長射程のロケットシステムをウクライナに供与すると発表した。前線の指揮系統を破壊し、補給を断つことができる兵器で、「ウクライナの勝利」を後押しするという。
いずれ停戦に持ち込むとしても、ロシア軍を弱体化させ、ウクライナが優位な状況で交渉できるようにするのが狙いとされる。
懸念されるのは、ウクライナの軍備増強にロシアが警戒感を高め、攻撃の矛先を米欧に向けることだ。欧州全域を巻き込んだ戦争に発展する恐れは否定できない。
緊張が高まる状況だからこそ、冷静さが求められる。
ウクライナ政府によると、ロシア軍の死者数は約3万人に達する。ウクライナでは民間人の犠牲者が4000人を超え、兵士の死者数を上回る。
影響は世界に広がる。食糧不足が深刻化し、エネルギー価格の高騰が続く。アジアやアフリカなどの多くの途上国は窮地に立たされている。
戦闘が長期化すればするほど、人道被害は拡大し、国際経済へのダメージも大きくなる。まず停戦を実現し、その後に和平案を協議する。容易ではないが、合意を探る外交努力を国際社会は諦めてはならない。
●「ロシアの日」金正恩総書記がプーチン大統領に“祝電” 6/12
北朝鮮の金正恩総書記がロシアの独立記念日にあたる「ロシアの日」に向け、プーチン大統領に祝電を送ったと朝鮮労働党の機関紙が伝えました。
12日付の「労働新聞」に掲載された祝電では「プーチン大統領の指導の下、ロシア国民は国の尊厳と安全、発展権を守る正義の偉業実現のために、直面するあらゆる挑戦と難関に果敢に打ち勝ち、大きな成果を収めている」とウクライナ侵攻を示唆し、支持する姿勢を改めて示しています。
そのうえで「朝ロ関係を重んじ、拡大、発展させるのは政府の確固不動の立場」としています。
相次ぐ弾道ミサイル発射などを受け各国では北朝鮮への制裁強化を求める声が多くあるなか、国連安保理で拒否権を持つロシアとの連帯を強める狙いがあるとみられます。
●キム総書記 プーチン大統領に祝電 ロシアに後ろ盾の役割期待か  6/12
北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記は、ソビエト崩壊によるロシアの誕生を祝う記念日に合わせてプーチン大統領に祝電を送り、ウクライナ侵攻を念頭にロシアへの支持を改めて表明しました。弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮に対して国際社会から制裁強化を求める声が上がる中、ロシアに今後も後ろ盾としての役割を期待する思惑もあるとみられます。
12日付けの北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、キム・ジョンウン総書記がソビエト崩壊によるロシアの誕生を祝う「ロシアの日」と呼ばれる記念日に合わせてプーチン大統領に祝電を送ったと伝えました。
キム総書記はロシアによるウクライナへの軍事侵攻を念頭に「プーチン大統領の指導のもと、国の尊厳や安全を守るため、正義の偉業の実現に向けすべての難関に打ち勝っている。わが人民はこれに全面的な支持と声援を送っている」とロシアへの支持を改めて表明しました。
そのうえで「国際的な正義を守り世界の安全を保障するため、両国の戦略的協力がさらに緊密になっていくと確信している」として関係強化に意欲を示しました。
ロシアは先月、国連の安全保障理事会で弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮への制裁決議案に拒否権を行使し反対していて、キム総書記としては今後もロシアに後ろ盾としての役割を期待する思惑もあるとみられます。
●不正を追及した盟友は拷問死 「プーチンは被害者に責任をなすりつける」  6/12
米国出身の投資家ビル・ブラウダー(58)は、ロシア政府の腐敗を暴こうとした盟友を獄死させられ、人権侵害に加わった個人に制裁を科す「マグニツキー法」を世界に広げる社会活動家となった。プーチン政権から命を狙われながらも世界に警鐘を鳴らし続けてきたが、「だれも耳を傾けなかった」と悔やむ。ロシア大統領プーチンの急所は「敗者になることだ」と語り、強硬な対応を呼び掛けた。
「セルゲイは、新しいロシアの希望とも言える存在で、若く理想に燃え、勤勉で正直だった」。ブラウダーは、盟友だったロシアの弁護士セルゲイ・マグニツキーを手放しで称える。ロシア国税当局の2億3000万ドル(約300億円)にのぼる横領疑惑を告発したため2008年にロシア当局に逮捕され、1年にわたる拘束と拷問の末、適切な医療も受けられず非業の死を遂げた。当時37歳。妻と2人の子供を残して。
ブラウダーは1990年代から2000年代初頭にかけ、ロシアで投資ファンドを運営。マグニツキーも携わっていた。投資過程で国有企業の不正を目の当たりにし、告発を始めると、ブラウダーは05年にロシア政府から「安全保障上の脅威」とされ国外退去処分に。マグニツキーは、その後も国ぐるみの不正を追及し続けていた。
「関係者を、必ず正義の前に引きずり出す」。ブラウダーは悲報を受けて妻と話し合い、マグニツキーを死に追い込んだ関係者の責任を追及し続けることを決めた。自身の身に危険が及ぶだろうが、「それが彼に対する私の責務だから」
死んだ盟友の名を冠した制裁法
ロシアのエリート層が不正に手を染める主な動機は金銭で、海外に資産を移していたことに注目。不正蓄財を封じるため、米国の政治家に働き掛けて12年に「マグニツキー法」の成立にこぎつけた。人権侵害に関わった個人を特定し、米国に保有する資産を凍結したり、ドル取引を禁じるといった制裁を科せるようにした。
成立当初の対象国はロシアだけだったが、16年から適用対象は全世界に広がり、米政府は中国による少数民族ウイグル族への弾圧疑惑やミャンマーの軍事政権による市民弾圧などにも適用してきた。同様の法制定は、人権意識の高い欧州など世界34カ国に広がっている。
今回のウクライナへの侵攻に関連して、根拠法はマグニツキー法だけではないが、すでに米国はプーチンを含むロシアの政府関係者や政権を支える新興財閥「オリガルヒ」など数百人に個人制裁を科した。ブラウダーは「プーチン本人への制裁には象徴的な意味合いしかないが、彼の資産を実質的に管理しているオリガルヒにも同時に制裁を加えているので、効果的だ」と語る。
法規制の及ばない中東への資産移転や中国を通じた制裁逃れなど懸念材料もあるが、相次ぐオリガルヒの不審死を巡り「制裁によりロシア国内の資金に余裕がなくなり、小さくなったパイを巡る争いが起きている」と、制裁が一定の効果を上げていると見る。
日本は、先進7カ国(G7)で唯一マグニツキー法がなく、まだ検討段階。外国為替法に基づいてロシア政府高官らに個人制裁を科しているが、人権侵害を理由に制裁を科せるわけではなく、中国やミャンマーへの対応は後手に回る。ブラウダーは「このままでは、日本は人権侵害の加害者の逃げ場になってしまう」として「マグニツキー法を持つ35番目の国になってほしい」と語った。
プーチンの危険性を見誤った世界各国
ただ、日本だけでなく、世界もプーチンの危険性に対する認識は甘かったと感じる。
マグニツキー法成立後の13年、ロシアは欠席裁判でブラウダーと、すでに亡くなっていたマグニツキーの脱税罪を確定させ「プーチンは私を捕らえて殺すと脅し、国際刑事警察機構(ICPO)を悪用して8回も逮捕を要請した」。ICPOは当初から「極めて政治的」として要請を退けてきたが、18年にはスペインで警察当局に一時拘束されたこともあり、常にロシアの脅威にさらされている。
「プーチンは、ひどい罪を犯し、被害者に責任をなすりつける。私の経験は、今回のウクライナ侵攻の縮図だった」と述懐。「この10年間、私はプーチン政権の危険性を叫び続けてきたが、だれも真剣に耳を傾けてこなかった」と、14年のウクライナ南部クリミア半島への侵攻などでのロシアに対する国際社会の甘い対応が今回のウクライナ侵攻を招いたと見る。
どうすればプーチンは止まるのか。ブラウダーは「プーチンの権力の源泉は、国民から強者と認識されることで生まれている」と分析し、敗者に落ちることが最大の急所だと指摘。「もしウクライナで負け、領土からロシア軍が追い出されれば、国民はすぐに彼を追い出すだろう」と語った。
●ウクライナで判明 未来戦争の命運を分けるのは「無人航空機」「衛星通信網」 6/12
無人航空機の歴史をたどる
ウクライナ戦争で、ウクライナ軍を支えているのはトルコ製の攻撃型無人航空機と、スペースXが提供する衛星インターネット通信のスター・リンクと言われている。しかし、実際にはその組み合わせで威力が増している。
無人航空機の開発は昔からあり、第2次世界大戦中にはアメリカが大型爆撃機のB-17を無人化して、ドイツ軍の防御の硬い目標に自爆攻撃をする計画だった。また日本軍もロケット戦闘機「秋水」でこれを無人化して、B-29に体当たり攻撃をする計画だった。ともに当時の誘導技術では十分な性能が期待できないとして、開発は頓挫した。
戦後、無人航空機は戦闘機や地上の対空砲の標的機として開発が進んだ。それまでは、有人機が標的をえい航する形での実験や訓練が主だったが、無人航空機が開発されることで実践的な訓練ができるようになり、多くの国で開発が進んだ。これによって無人航空機の無線誘導の技術が格段に向上した。ちなみに自衛隊も数種類の無人標的機を開発し、使用している。
無人航空機に次の転機が訪れたのは、米軍が開発した「MQ-9 リーパー」の出現だ。リーパーは2007年から運用が開始されたが、衛星通信を使い、アメリカ本土からコントロールして、ヘルファイア対戦車ミサイルや小型誘導弾を利用して、テロ組織やイランの要人の暗殺を決行している。
この機体には偵察などを主な任務とする非武装型も開発され、各国での採用が進んでいる。しかし、この機体も偵察や要人の暗殺などに使われるぐらいで、戦術自体を変えるまでではなかった。
ナゴルノ・カラバフ紛争という「契機」
しかし、それまでの無人航空機の概念を変える活躍が、2020年に起こった。アゼルバイジャンとアルメニアの間のナゴルノ・カラバフ紛争である。両国は1994年までの紛争でアルメニアがアゼルバイジャンから領土を奪い取っていたが、2020年にアゼルバイジャンが失地回復に乗り出す。
両国の紛争は長引くと予想されたが、アゼルバイジャンが導入したイスラエル製の徘徊(はいかい)型自爆無人航空機(IAI製ハロップ)と偵察ロケット、誘導爆弾を使って遠隔操作で攻撃するトルコ製の「TB2」を組み合わせてアルメニア軍を圧倒、短期に勝利することになる。
ステルス性能の高いハロップにより、アルメニア軍のレーダーや対空ミサイル、対空火器を破壊してアルメニア軍の対空能力をまず無力化した後、敵上空をTB2が飛行して見つけた戦車や装甲戦闘車、重砲等を片っ端から破壊した。アゼルバイジャン側の発表によると、その数は戦車250両、戦闘装甲車50台、自走砲17台を含み、アルメニア軍はこの無人航空機の攻撃だけで崩壊したと言っても過言ではなかった。
ナゴルノ・カラバフ紛争での無人航空機の大活躍は「これからの戦場を塗り替える革命的な戦いだった」との評価を生む一方で、「小国同士の紛争なので活躍できたので、超音速戦闘機が無数に飛び交う大規模な戦場では役に立たない」との評価もあった。しかし今回のウクライナ紛争でまたトルコ製のTB2が大活躍して、相手が世界第2位の軍事大国であっても、無人航空機が大活躍できるということが証明された。
ウクライナに力を貸したスター・リンク
電気自動車大手の米テスラの最高経営責任者(CEO)はイーロン・マスクは、宇宙ロケットサービスのスペースXのCEOでもある。そのスペースXが、衛星によるインターネットサービスを提供しているのは、日本ではあまり知らされていない。その衛星インターネットサービスがウクライナ戦争で大活躍をしている。
ロシア軍はウクライナ侵攻前に、インターネットを含む通信網の破壊に乗り出した。具体的には各種の中継基地へのミサイル攻撃や空爆により、地上でのインターネットの利用を不可能にした。ロシアはさらに衛星利用測位システム(GPS)にも妨害をかけた。このためGPSを利用する周辺を飛ぶ民間航空機にも影響は出た。
さらに、ヨーロッパの衛星インターネットサービス「ヴィアサット」にハッキングをかけた。このためウクライナだけでなく、ヴィアサットを利用していたフランスの一部でもインターネットが一切使えない事態となった。ここまでは、電子戦にたけたロシアの一方的勝利とも言える。
この状況にウクライナの情報大臣は、スペースXのCEOのイーロン・マスクに対してスペースXの衛星インターネットサービス、スター・リンクのサービスの開始とハードウエアの提供を申し込んだ。
イーロン・マスクはすぐさまウクライナにおけるスター・リンクの提供を始めるとともに、受信機を大量にウクライナへ送った。このおかげでウクライナ政府の各機関に加えて、ウクライナ軍もインターネットの利用が可能となった。
ロシア軍はこの事態に手をこまねいているだけでなく、スター・リンクへの「電磁波を使った攻撃を実施して」、いったんスター・リンクをダウンさせることに成功したようだ。この情報はアメリカ国防省の情報戦トップからリークされており、ウクライナ側から連絡を受けたスペースXは、通信コードに一行付け加えることでロシアの攻撃を無効化した。米軍高官は「民間企業の対応の早さに感銘を受けた」と話している。
蛇足だが、侵攻前日にウクライナの公的機関は、ロシアのハッカー部隊からと思われる大規模な攻撃を受けて混乱した。マイクロソフトはすぐさまこの攻撃を探知し、攻撃直後にホワイトハウスからの全面協力要請を受け、CEO自ら即応チームを立ち上げた。
現在でもロシアの情報戦部隊やハッカー部隊と、アメリカの民間企業の助けを受けたアメリカ軍との間で、水面下の熾烈(しれつ)な激戦が行われているに違いない。
無人航空機とスター・リンクを結合させた作戦
ウクライナ側で無人航空機として活躍しているトルコ製のTB2だが、
   ・無線による操縦
   ・人工知能(AI)による自立飛行
のモードがあると言われている。
ウクライナではこれに加えて、スター・リンクを使った衛星通信とリンクした運用が行われているとの観測が出ている。TB2で集めた情報をインターネットを通じて司令所へ瞬時に提供し、さらに司令所からの砲撃指示もスター・リンク経由のインターネットで行われる。これにより、多くの無人航空機の情報を統一的に運用でき、さらに攻撃の指示もAIを使った処理プログラムで効果的に行えるようになっている。
TB2を開発したトルコのバイカルは、TB2と衛星通信を使った運用ができればさらに効果を増すとして、後継モデルにはその能力を持たせる計画を発表しているが、もしかするとウクライナは一歩先を行き、それを実現しているのかもしれない。
最後に次を日本への示唆として、本稿を閉じることにする。
   衛星インターネットサービスの開始
日本でも独自のGPSとして「みちびき」の運用を開始している。そのため、米国製のGPSだけでなく日本独自の位置情報サービスを確立することは、悪意ある妨害や故障の際の多重防御のために必要だ。さらに日本独自や他国との共同による衛星インターネットを確立することも求められる。ウクライナのような戦時だけでなく、大規模災害時の情報伝達機能確保のためにも、重要なので早期に着手が望ましい。スペースXのスター・リンクは電波法の関係で日本では利用できないが、このあたりもなんとかしてほしい。
   無人航空機の開発の加速
ウクライナ戦争前は、無人航空機の能力について疑問を呈する向きもあったが、ロシア軍という世界2位の軍事大国相手にTB2は大きな成果をあげている。もはや無人航空機無しでは、わが国も防衛を語れないほどになっている。多種多様な開発を早期に立ち上げることが急がれる。もちろん衛星通信との組み合わせも追求することが望ましい。
●「これが戦争当事国の首都かいな…」キーウで蘇る“日常”と“深刻な問題” 6/12
あまりの変わりように目が点に
不肖・宮嶋、いまだ銃声止まぬロシア国境に近いウクライナ東部ハルキウより3週間ぶりに首都キーウへの帰還である。
ロシア軍が 100日攻撃を続けても破壊できなかった鉄路を走る列車に揺られること8時間、新幹線並みとまではさすがにいかんが、空席が目立つも、快適な特急列車にてなんの不安もなく、ほぼ定刻通りにキーウ中央駅にすべりこんだ。
しかしターミナルを一歩出てその町のあまりの変わりように目が点になった。駅前サークルが渋滞しとるのである。迎えや送りの車で。この街に帰ってきた家族連れで。
戦争当事国の首都が普通のヨーロッパの都市に戻りつつある
思いおこせば3カ月前ここキーウ中央駅はこの街から脱出する市民がリビウやポーランドなどに向かう列車に殺到、そりゃあ皆命かかっとるのである。ロシア軍が北から、東から、西から包囲をせばめ、20キロ以内まで迫ってきていたのである。しかも相手は国際条約も人道も無視のロシア軍である。駅舎は悲鳴と怒号が飛び交い列車内はラッシュ時の山手線状態やったのである。
それが今や駅から宿まで1回もチェックポイント(検問)にあわんのである。いや、たしかにバリケードが築かれ、土嚢が積みあがった跡はあるが、人が詰めてる気配がない。それどころか、通りをクルマがバンバン走ってるのである。人がぞろぞろ歩いてるのである。オープンカフェがパラソルを開き、市民が集い、ウクライナ人の好物のコーヒーをすすり、談笑しとるのである。もうこれが戦争当事国の首都かいなと疑いたくなるほどである。
せやけどよう考えたらこれが普通のヨーロッパの都市にもどりつつある姿。喜ばしいことやないか。
当時は恐怖に震え、空襲警報と爆発音に怯えていた
3カ月前、不肖・宮嶋がロシア軍侵攻後初めてキーウ市に潜入した時は道中も市内も検問だらけ、クルマも走ってないわ、走ってても軍用車ばっかやし、人も歩いてないし、歩いてても完全武装の軍人ばっかやったやないか。
450万の人口の半数近くが首都を脱出、商店もレストランもぜーんぶ閉店、雪舞う通りがいまやTシャツ姿の家族連れがかっ歩しとるのである。あのゼレンスキー大統領が巣ごもりしているという噂の大統領府のすぐ近く、不肖・宮嶋が草鞋を脱いでいた宿の隣のビアガーデンも1ヵ月以上1度も灯りが点くことがなかったのに、今は日も高いのに、市民がジョッキを重ねているのである。
当時、残った人々は町中に轟く空襲警報と爆発音に怯え、凍てつく防空壕のなかで、恐怖に震えそれが終わるのを待つしかなかったのである。35時間もの外出禁止令期間は一切外出できず、不便な暮らしに耐えるしかなかったのである。
戦車や火砲の砲身が遊具代わりに
そりゃあ確かに今も夜間外出禁止令は継続中や。6月現在は23時から6時までは特別な許可のあるものしか外出できないし、ロシア軍はウクライナ軍の兵力を激戦地である東部戦線に集中させないよう時折嫌がらせのように巡航ミサイルぶちこんできよるが、そんな苦難も恐怖も3月前と比べたら、戦争が日常になってしまったキーウ市民にとっては平時とおんなじである。
そんなキーウ市内のところどころ、ここミハイリフスカ広場や、あの8人が新型爆弾で犠牲になったレトロ・ショッピングモールなどにウクライナ軍が鹵獲したり破壊したロシア軍の戦車、自走砲、装甲車にミサイルや武器がまるでトロフィー(戦利品)のように展示されてるのである。
大は戦車に巡航ミサイルから小はロシア軍が残していった食料や衣服まで、まだガソリンと焦げ臭いにおいを漂わせながらである。そんな物騒なもんが日々増え続け、それにつられ、老若男女のキーウ市民が集いつづけているのである。そして戦車や火砲の砲身を鉄棒や平均台などの遊具がわりにして、歓声があがるのである。
ファインダー越しに見たエリツィン元大統領の不自然な指
とくに体の小さい子供らにとっては格好の探検場。せまい戦車や車両内に潜り込み、でっかい戦車砲弾の空薬きょうやロシア兵のレーション(戦闘用糧食)や食べ残しのビスケットや空き箱を発見しては大はしゃぎ、お祭騒ぎであった。
しかし、さすがにブービー・トラップ(しかけ爆弾)はもはやチェック済やろうが、所詮破壊された車両である。車体には大小さまざまな弾痕があり、それがめくりあがり、けっこう鋭利な刃物状態の弾痕もありそんなとこに体ぶつけたり、素手でつかんだらしゃれにならん。
現に今のプーチン・ロシア大統領の後見人だった故ボリス・エリツィン元大統領は子供時代ドイツ軍の残した手りゅう弾を分解して遊んでいるうちに暴発、左手の指2本を吹き飛ばされた。ワシがエリツィン大統領を撮ったのは1995年5月の1回きりやが、そのときにファインダー越しに覗いた彼の指が不自然だったことが今も印象に残っている。
燃料不足で車での脱出ができなくなる恐れも
しかしそんな市民の歓声の陰で深刻な問題が進行中であった。ウクライナ南東部での一進一退の攻防戦、そしてそんな東部戦線にウクライナ軍の兵力を集中させぬよう、嫌がらせのようにしつこく続くここ首都への巡航ミサイル攻撃、さらに市民にはガソリン不足が心配の種だったのである。
もちろん燃料は重要な戦略物資である。軍に最優先で回されているのはいうまでもない。3カ月前ですら1回20リッターという数量制限までしていたくらいだから、潤沢にあったわけでもないのに、このまま市内に戻ってくるクルマが増え続ければ、さらにガソリン不足は深刻化し、クルマはあっても走れない事態になる。ガソリンだけでない。ヨーロッパに多いディーゼル車用の軽油、ガソリンと併用のLNG(天然ガス)も不足し始めているのである。
可能性は限りなくゼロに近いが、このままロシア軍が再び首都へ向けて進撃を開始したら、今度は燃料不足のためクルマでの脱出ができなくなる恐れもあるのである。
しかし最大の問題はいまだ侵略者が祖国を蹂躙し続け、居直っていることであるが……。
●マリウポリ コレラや赤痢で死者「数千人以上」の懸念 6/12
ロシア占領下にあるウクライナ南東部マリウポリのボイチェンコ市長は10日、同市でコレラや赤痢の感染が発生し、将来的に死者が「数千人以上」に達する可能性に懸念を示した。一方、英国防省は11日、ロシア軍が4月以降、最新兵器の不足からかウクライナへの地上攻撃に正確性に欠ける1960年代の空対艦ミサイルを数十発使用したとみられるとの分析を発表した。
マリウポリ 多数の遺体放置、飲料水を汚染か
ウクライナメディアなどによると、マリウポリのボイチェンコ市長は、路上に多くの市民の遺体が放置され、細菌が飲料水を汚染していると指摘。今後、コレラなどの感染による死者が「数千人以上に上る可能性がある」と懸念している。マリウポリは5月20日、アゾフスターリ製鉄所に立てこもっていたウクライナ兵が投降し、露軍に制圧された。多くの市民は他都市に避難したが、今も約15万人の市民が暮らしているとされる。
露が旧型ミサイル使用か 最新型が不足との分析
英国防省の分析によると、ロシア軍が使用している旧型ミサイルは、核弾頭を装着して空母を攻撃する仕様になっている。通常の弾頭を使用すると攻撃の正確性が損なわれ、他の施設が巻き添えを受けるほか、市民の死傷者が増大する可能性が高いという。
「生きるため」 露の占領軍に従う住民
ロシア軍の占領下にあるウクライナ南部や東部の地域では、住民らが抵抗しようとしながらも統治を受け入れ始めている。避難者が現地の親族から聞いたところでは、2月下旬から露軍に占領されている南部ヘルソン州ノーバカホウカでは、保存食料や生活資金が尽き始めている。「反露感情は変わらない」(退避住民)が、ロシアが無料で提供する食料を受け取り始めた住民もおり、「生きるためにロシアに従っている」(同)という。
世界的な食料危機を懸念 ゼレンスキー氏
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、シンガポールで開かれているアジア安全保障会議にオンラインで参加し、特別演説を行った。ロシアの侵攻が世界的な食料危機につながっているとし、「ウクライナへの援助はみなさんの将来の安全にもつながる」と支援を呼びかけた。同会議は12日までの日程で、インド太平洋地域の防衛相らが地域の安全保障情勢などを議論。今回はロシアによるウクライナ侵攻もテーマの一つだ。
北朝鮮の金正恩氏、プーチン氏に祝電
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は12日、ロシアの建国記念日にあたる「ロシアの日」に合わせて、プーチン露大統領に祝電を送った。ロシアのウクライナ侵攻への直接的な言及はなかったが、ロシアを擁護し「わが人民は全面的な支持と声援を送っている」と強調した。国営の朝鮮中央通信が同日、伝えた。
●ロシア記念日、南部で国籍付与 西部ではミサイル攻撃―ウクライナ 6/12
ロシアのメディアは11日、ウクライナ侵攻で占領された南部ヘルソン州とザポロジエ州の一部で、ロシア国籍の付与が始まったと伝えた。プーチン大統領は5月下旬、南部2州の住民を対象に国籍取得を簡素化するよう命令していた。
プーチン政権は2月下旬、東部の親ロシア派の独立を承認。その支配地域を東部2州全域に拡大する方針を示したが、ウクライナ軍の抵抗と欧米の軍事支援で作戦のペースは落ちた。12日は独立記念日に当たる「ロシアの日」。国籍付与の開始で南部2州についても「ロシア化」を進め、一定の戦果として強調する意図がありそうだ。
両州ではロシア国籍を示すパスポートの配布を開始。ウクライナのゼレンスキー大統領は11日のビデオ演説で、パスポートを取得しようとしているのは「(親ロシア派の)協力者たちだ」とし、「逃亡のための切符の入手を図ろうとしているようだ」と皮肉った。
一方、AFP通信などによると、ウクライナ西部テルノポリ州の知事は12日、ロシア軍が11日夜に同州チョルトコフをミサイル攻撃し、少なくとも22人が負傷したとフェイスブックへの投稿で明らかにした。黒海からミサイル4発が発射され、軍事施設やアパートが被害を受けたという。
●ロシア軍 各地で激しい砲撃 ウクライナ側住民の避難続く  6/12
ウクライナ東部のルハンシク州の完全掌握を目指しているロシア軍は、各地で激しい砲撃を加えていて、ウクライナ側の住民の避難が続いています。一方、6月12日は32年前にロシアが国家として主権を宣言した記念日に当たり、軍事侵攻が長期化する中、プーチン大統領は演説を行い、国民に団結を呼びかけました。
ウクライナ東部のルハンシク州の大部分を掌握したロシア軍は、州の完全掌握を目指してウクライナ側が拠点とするセベロドネツクと、対岸のリシチャンシクに向け砲撃を続けています。
ルハンシク州のハイダイ知事は12日、セベロドネツクの戦況について「ロシア軍は口径の大きな火砲を使って何時間にもわたり住宅街を砲撃している。われわれは持ちこたえてみせる」とSNSに投稿しました。
11日にリシチャンシクで撮影された映像では、砲撃音が響くなかウクライナ側の兵士に誘導されながら市民が避難する様子が確認できます。
一方、6月12日は1990年にロシアが国家として主権を宣言した「ロシアの日」と呼ばれる記念日で、首都モスクワで式典が開かれました。
この中で、プーチン大統領は演説を行い「われわれは祖国や社会が1つになることがいかに重要かを痛感している。団結とはすなわち、祖国への献身、そして祖国に対する責任だ」と述べ、国民に団結を呼びかけました。
そのうえで、「われわれの祖先の業績と軍事的な勝利を誇りに思う。戦いで祖国を守り、世界でしかるべき役割を確立した」と述べ、軍事侵攻への支持も呼びかけるねらいがあるとみられます。
ロシアによる軍事侵攻が始まってから3か月半が過ぎましたが、欧米によるロシアへの制裁やウクライナへの武器供与が続く一方、停戦に向けた交渉は中断したままで、事態はこう着しています。
●長期化が懸念されるウクライナ侵攻の展望――停戦協議はなぜ進まないか 6/12
・ウクライナ侵攻が長期化するなか、停戦をめぐるウクライナとロシアの主張には変化がみられる。
・ただし、とりわけウクライナ側には現状での交渉が不利という判断が働きやすく、現状での停戦協議に難色を示している。
・ウクライナの警戒心は、停戦協議を働きかける西側先進国にも向かっている。
世界の政治・経済に大きなインパクトを与えたウクライナ侵攻が始まって3カ月以上が経過し、長期化も懸念されている。ロシアとウクライナはこれまでに停戦協議を断続的に行ったものの、大きな進展を見せていない。果たしてウクライナ侵攻は今後どうなるのか。停戦の可能性について考える。
停戦協議の動き
まず、これまでの停戦協議について確認しておこう。停戦に向けたロシアとウクライナの間の協議は、侵攻が始まった翌3月に早くも始まった。この停戦協議には二つのルートがある。
一方には、2月28日からベラルーシで断続的に行われた会談があり、これはそれぞれの大統領直属のチームによるものだった。
もう一方には、それぞれの外務大臣による協議があり、3月末にイスタンブールで行われた。こちらのルートは開催地トルコの他、イスラエルなどいくつかの国によって仲介されている。
これらの協議の具体的テーマについては不明だが、英フィナンシャル・タイムズはベラルーシでの協議開始に先立って、複数の関係者の証言として15項目が話し合われていると報じた。
そのなかには、ロシアが2014年に併合したクリミア半島やロシアが攻勢を強める東部ドンバス地方の扱い、ウクライナの将来的な安全の確保といった、両国間の長期的な関係にかかわるテーマだけでなく、捕虜の交換や人道支援物資の供給ルート確保といった、より実務的な問題も協議されているとみられる。
ただし、これらの協議はこれまでのところ、具体的な合意にほとんどたどりついていない。両国の言い分に隔たりが大きいためで、とりわけ停戦の前提条件となる、ロシア占領地の扱いやウクライナと西側の関係については、着地点を見つけることが難しい。
ウクライナの優先順位のシフト
とはいえ、注意するべきは、戦争が長期化するなかでウクライナ、ロシア双方の主張がシフトしていることだ。つまり、それぞれの言い分の全てを実現することが難しいなか、両国とも優先事項を徐々に絞り始めているのである。
ウクライナに関していうと、ゼレンスキー大統領は当初、主に以下のポイントを強調していた。
・ウクライナの領土・主権の保全
・ロシアによる侵攻が始まった2月24日以前の状態に戻すこと
・将来にわたる安全の保証
これらのうち、ロシアが2014年に編入したクリミア半島に関して、ウクライナ政府は3月のイスタンブールでの協議でロシア側と「15年間かけて協議することに合意した」と発表した。この問題はじっくり時間をかけて話し合うことにして、当面の優先課題から外した、というのだ。
また、ゼレンスキーはベラルーシでの協議が不調に終わった後の3月初旬、「もはやNATO加盟を強く求めることはない」と発言をトーンダウンさせている。そこには、ロシアに対するNATO加盟国間の温度差(後述)を受け、すぐさま加盟することは困難という現状認識があったとみられる。
その結果、ウクライナの要求は、ロシア軍の撤退と、親ロシア派が実効的に支配する東部ドンバス地方の扱いに集中してくる。つまり、これらからロシアの影響力を排除することが優先課題になっているといえる。
実際、侵攻開始から3カ月の節目に、ゼレンスキーは「領土を(侵攻が始まった)2月24日以前に戻したうえでロシアと交渉のテーブルにつく」と発言している。
ロシアの優先順位は?
これに対して、ロシアもまた優先順位を絞り始めている。
当初、ロシアは主に以下の要求をしているとみられていた。
・ウクライナの「中立化」(NATOやEUなどに加盟しないこと)
・ウクライナの「非軍事化」(外国軍隊を駐留させないこと)
・ウクライナの「非ナチ化」(アゾフ連隊などの極右勢力をゼレンスキー政権から排除すること)
これらのうち、とりわけNATO加盟を阻止するため、ロシアはウクライナ憲法に「中立」を盛り込むことを求めるなど、過剰なまでの要求を突きつけていたが、そのトーンは最近、弱まっている。ウクライナ政府の加盟要求に対するNATO加盟国間の温度差を見てとったロシアは、「中立化」が事実上達成されたと判断したのかもしれない。
これに加えて、イスタンブールでの協議直前頃からロシア政府は「非ナチ化」についてもほとんど触れなくなった。これはウクライナが「NATO加盟」のトーンを弱めることとの取引だったという見方もある。
いずれにせよ、その一方でロシア政府は、ウクライナ国内のロシア系人の多い土地について、他の条件以上に譲らない姿勢を鮮明にしている。
例えば、ロシアのラブロフ外相は4月、3月末のイスタンブールでの協議でウクライナ政府がクリミア半島の帰属に関して将来もロシアのものと認めたのに、その後になって「今後の協議案件」と発表したことは受け入れられないと表明した。
秘密協議であるため、どちらの言い分が正しいかは藪の中だが、確かなことはロシアがクリミア半島をウクライナに戻すつもりがないことだ。
これに加えて、4月にウクライナの首都キーウ(キエフ)の制圧に失敗した後、ロシアはそれまで以上に「主要目標はドンバスの解放」と強調するようになっている。
ロシアはこの地域の歴史的領有権を主張しており、第二次世界大戦の戦勝記念日に当たる5月9日の演説でプーチンは「‘特別軍事作戦’が唯一の選択肢だった」と正当化しただけでなく、「ロシアはドンバスの‘母なる大地’のために戦っている」と強調した。
さらに、「ドンバスでロシア系人が虐殺されている」と主張しており、これを防ぐためとしてその兵力を東部に集中させ、親ロシア派武装組織を支援している。
停戦協議は進むか
このようにドンバスの取り扱いが最大の焦点となっているわけだが、それではウクライナとロシアの停戦協議は進むかというと、その公算は高くない。
一般的に外交交渉は当事者が「何を得て何を放棄するか」を明らかにするプロセスといえる。この場合、ウクライナ、ロシアの双方がドンバス領有を最優先にするのであれば、それ以外で妥協して合意にたどり着くことはできない。
ロシア政府は5月末から、しばしば交渉の再開を口にしているが、基本的にドンバスの取り扱いなどで譲歩するつもりはないとみられる。だからこそ、ウクライナ側は停戦協議の再開を拒否し続けている。
ドンバスで親ロシア派が実質的な支配を強化しているなか、「即時停戦」を優先させれば、ウクライナはドンバスを諦めざるを得なくなりかねないからだ。ロシアの提案は、ウクライナが拒否することを織り込み済みの、「交渉する意志がある」というポーズに過ぎないとみられる。
これに加えて、激戦が続くセベロドネツクなどウクライナ軍の善戦もあって戦局が一進一退を繰り返し、どちらも明白な優位を確立できていないことは、どちらにとっても交渉に向かう決定的な状況を生み出しにくくしている。
そのため、ウクライナにとっては有利な立場で停戦協議に臨むためにも、軍事的な成果をあげ、「勝っている」という状況を作り出す必要がある。
その意味では、ゼレンスキーが「戦争の終結は外交によってのみ可能」と強調しながらも、ウクライナ政府高官からしばしば「ウクライナの領土と主権の保全こそ我々の勝利」という声明が出され、東部などでの軍事的勝利を重視する姿勢が打ち出されることには一貫性がある。つまり、「停戦協議のためにも勝利が必要」という論理で、という意味でだ。
ウクライナのもう一つの懸念
そのウクライナにとっては、ロシアだけでなく欧米の動向も懸念材料といえる。欧米はウクライナ支援では一致していても、その内実には温度差がある。
イギリスの他、旧ソ連時代から因縁のあるポーランドやバルト三国などは、反ロシアの急先鋒として武器支援などを積極的に行なっている。これに対して、EUの中心を占めるフランスやドイツなどは、むしろ戦闘がもたらすダメージを軽減するため、即時停戦を重視している。
さらに、NATO加盟国であるトルコは、ウクライナ侵攻を公式には批判しているが、その一方でロシアとウクライナの仲介にも動いている。
こうしたなか、アメリカは武器供与を拡大しながらも、しばしばウクライナに停戦協議への復帰を呼びかけてきた。バイデン政権は、アメリカ自身が戦争に全面的に巻き込まれることを避けつつ、ロシアを撤退させる一つの手段として、停戦協議を捉えているとみられる。
こうした「地政学的な取引」に対して、ウクライナ政府は不信感を隠さない。
5月21日、ウクライナのポドリアック大統領補佐官は停戦協議を求める意見を批判した上で、「停戦協議はロシアがウクライナから出て行った後からでだけ可能」「ロシアとの妥協は平和への道ではない」と強調した。そのうえで、ウクライナ政府は西側先進国に対して、これまで以上の武器支援やロシアとの取引制限などを求めている。
こうした欧米とウクライナの関係は、ロシアとの戦局とともに、停戦協議が始まるかを左右するとみられる。ウクライナにとって注意すべき対象は、ロシアだけではないのである。
●ロシア記念日、南部で国籍付与 西部ではミサイル攻撃―ウクライナ 6/12
ロシアのメディアは11日、ウクライナ侵攻で占領された南部ヘルソン州とザポロジエ州の一部で、ロシア国籍の付与が始まったと伝えた。プーチン大統領は5月下旬、南部2州の住民を対象に国籍取得を簡素化するよう命令していた。
プーチン政権は2月下旬、東部の親ロシア派の独立を承認。その支配地域を東部2州全域に拡大する方針を示したが、ウクライナ軍の抵抗と欧米の軍事支援で作戦のペースは落ちた。12日は独立記念日に当たる「ロシアの日」。国籍付与の開始で南部2州についても「ロシア化」を進め、一定の戦果として強調する意図がありそうだ。
両州ではロシア国籍を示すパスポートの配布を開始。ウクライナのゼレンスキー大統領は11日のビデオ演説で、パスポートを取得しようとしているのは「(親ロシア派の)協力者たちだ」とし、「逃亡のための切符の入手を図ろうとしているようだ」と皮肉った。
一方、AFP通信などによると、ウクライナ西部テルノポリ州の知事は12日、ロシア軍が11日夜に同州チョルトコフをミサイル攻撃し、少なくとも22人が負傷したとフェイスブックへの投稿で明らかにした。黒海からミサイル4発が発射され、軍事施設やアパートが被害を受けたという。
●「ロシアの日」抑え込まれる“反戦の声”と強まる若者への「愛国教育」 6/12
撤退したマクドナルドの後継となる新たなハンバーガー店もオープン。その名は「おいしい それだけだ」です。オープンの会見が終わるとこんなハプニングも… 「ビッグマックを返してください ロシアにビッグマックを返してください」ロシア軍の巨大テーマパークは賑わいを見せていました。「家族連れの姿が目立ちます。小さな子どもが遊びながら親しんでいます」こちらでは、軍用バイクに乗り込み、取り付けられた機関銃を撃つ真似をする子ども。そして、親に銃の持ち方を教わり、得意げな子どもの姿も。あらゆる種類の銃器や戦車が展示されています。
一方、反戦の声は抑え込まれています。「兵士よ 兵士どうするの?母が死ぬまで戦争が続いたら」戦地に向かう兵士の葛藤を歌った反戦ソング「ソルジャー」を作詞作曲したロシア人のマニジャさん。「私たちの 私たちの戦争をやめよう」「ロシアの日」の連休にコンサートへの出演が決まっていましたが、数日前、突然取りやめになったといいます。タジキスタンの内戦で難民を経験したマニジャさん。3月にこの曲をリリースして以降、インターネット上で脅迫や嫌がらせが相次いだといいます。(ロシア人シンガーソングライター マニジャさん)「誰かが(主催者に)電話をしてきて、私をフェスティバルの出演者から外すよう求めたそうです。もちろん悲しかったですが、引き下がるつもりはありません。なぜなら(難民だった)私にとってコンサートは、人々を助けるチャンスだからです」
“プーチン氏の歴史観”記した教育マニュアル
ロシア国旗を手に、「Z」の文字をつくる子どもたち。ロシアの独立系メディア「メデューザ」によればウクライナ侵攻以降、ロシア国内の学校で“愛国教育”が広がっているといいます。(幼稚園の先生)「私たちの幼稚園は地球上の人類に対して大統領の決定に賛成していることを表明します」(子どもたち)「プーチン大統領、ショイグ国防相、国民はあなたたちの味方」
ロシアの教育現場で何が起きているのか?ロシア教師組合のダニイル・ケン会長に話を聞きました。(ロシア教師組合 ダニイル・ケン会長)「これは明らかにファシズムのプロパガンダです。いま起きていることは、国による犯罪です」ダニイル会長が批判するのは「歴史の真実」と題された教師のための教育マニュアル。ウクライナ侵攻後、全国の学校に配布されたといいます。作成したのはロシア教育省。31ページにわたり、“プーチン大統領の歴史観”が記されているといいます。(ロシア教師組合 ダニイル・ケン会長)「そこには明らかな嘘が含まれています。歴史的にロシアとウクライナは一体だったとか、NATO諸国とウクライナのナチが、私たちからウクライナを奪おうとしているとか。」
ロシアの国営テレビは4月、プーチン大統領とウクライナのドンバス地方出身の少女のこんなやりとりを放送しています。(ドンバス出身の少女)「わたしはドンバスの娘、ルガンスクの大地の娘、神聖で英雄的な大地。わたしはロシア人、わたしはロシアを誇りに思います」(プーチン大統領)「ルガンスク人民共和国を含むドンバスで起こった悲劇が、ロシアに軍事作戦を開始させました。この作戦の目的は、あなたのようなドンバスに住む人々を助けることです」さらに影響は「歴史の教科書」にも…「ウクライナに関する記述が削除」されているのだといいます。Q.なぜウクライナに関する歴史的事実を削除するのか?(ロシア教師組合 ダニイル・ケン会長)「なぜなら、いま別の歴史が作られているからです。ウクライナに独自の歴史、独自の言語や文化があったことを示す歴史的事実は否定され、教科書から削除されているのです」ダニイル会長によれば様々な部分が政権の都合の良いように書き換えられ、プーチン大統領をたたえる記述も増えているといいます。(ロシア教師組合 ダニイル・ケン会長)「このプロパガンダ(政治宣伝)をすすんでやる教師はほとんどいません。しかし国は、教師がとても貧しく(経済的に国に)依存しているという弱みを利用しています。特に小さい町では、簡単に国が教師の職を奪うことができるのです」
実際に、極東サハリン州コルサコフ市の学校では今年4月… 授業中に平和の大切さを訴えた英語教師マリーナ・ドゥブロワさんが解雇されたと現地メディアなどが伝えています。(解雇された英語教師 マリーナ・ドゥブロワさん)「わざとこのような罰が与えられたのです。私から仕事を奪うためです」ドゥブロワさんが授業中、生徒たちに見せたのは「戦争のない世界」というタイトルのミュージックビデオ。さまざまな国籍の子どもたちがロシア語とウクライナ語で平和への願いを歌うものでした。(解雇された英語教師 マリーナ・ドゥブロワさん)「私は『ただ心で見てください』と言いました。『先生はウクライナの味方ですか?』と聞かれ、なんて質問をするのかと思いました。『いいえ、ただ戦争に反対なだけよ』と答えました」すると数日後、思わぬ事態に… 「教育現場における道徳と倫理に反する行為」があったとして当局から起訴されたのです。実は、生徒との会話が録音されていました。(解雇された英語教師 マリーナ・ドゥブロワさん)「自主的に辞めるよう提案されました。今後、教育現場に携わりたいと思ってもできないでしょう」
若者はプーチン政権の「潜在的な脅威」か
「防御線をはれ」若者たちへの愛国教育を強めているというプーチン政権。これは2016年に創設されたロシア国防省傘下の青少年団体「ユナルミヤ」。今では8歳から18歳の子ども100万人以上が所属し、基礎的な軍事訓練も行っているといいます。(女性団員)「ユナルミヤでは愛国心が育まれます。自分の国をよく知ることで、自分の国がより好きになります」愛国教育が強まっている理由をロシア教師組合のダニイル会長はこう指摘します。(ロシア教師組合 ダニイル・ケン会長)「(プーチン大統領は)政権にとっての潜在的な脅威は、インターネットを使い、プロパガンダ以外の別の情報に触れることができる若者だと理解しています」ロシアの独立系世論調査機関によれば「ロシアは正しい方向に向かっているか」という質問に対し、高齢世代は「いいえ」が16%しかいませんが、若者世代は「いいえ」が40%に及んでいます。(ロシア教師組合 ダニイル・ケン会長)「プーチン大統領は学校を訪問したり、インターネットを批判したりして、若い世代が子どもの頃から保守的になるよう試みているのです」
●ロシアは3カ月以内にクーデターで政権交代か MI6の元諜報員が明かす 6/12
ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領が、3カ月以内にクーデターによって政権交代させられる可能性があると英情報機関MI6の元諜報(ちょうほう)員クリストファー・スティール氏が、英BBCラジオの番組で明かしたと英ミラー紙が報じた。「今後3〜6カ月以上、政権にとどまっているとは思わない。健康が悪化している兆候が第一にあり、それが要因になる」と述べ、CIAを始めとする自身の情報源が話していることが正しければ、数カ月で権力を失う可能性があるとしている。
プーチン大統領の健康状態を巡っては、パーキンソン病のほか進行性の血液のがんなども取りざたされ、4月に極秘手術を受けていた可能性も浮上している。
また、こうしたうわさに拍車をかけているのが、毎年6月に開催している国民からの質問に直接答える恒例の生放送によるテレビ出演を突如キャンセルしたこと。3〜4時間の番組で70もの質問に答えられるだけの体力がない可能性が指摘されているほか、軍事作戦に対する批判的な質問を避ける狙いもあるのではとも言われている。 

 

●ウクライナ戦争「2年続く恐れ」 反政権派のロシア元首相 6/13
ロシアのカシヤノフ元首相(64)はAFP通信のビデオインタビューに応じ、ロシアのウクライナ侵攻について、戦争は最高で2年続く恐れがあるとの見解を示した。
カシヤノフ氏は、2000〜04年にプーチン政権の初代首相を務め、首相解任後に反政権派に転じた。2月のウクライナ侵攻開始3日前にプーチン氏が招集した安全保障会議の様子を見て初めて、「戦争があると実感した」と説明。「プーチン氏は既に正気でないように見えた。医学的にではなく政治的な観点からだ」と指摘した。
カシヤノフ氏は「もしウクライナが陥落すれば、次はバルト諸国だろう」と述べ、ウクライナの勝利が不可欠だと強調。戦争を終結させるためウクライナに領土の割譲を求める意見については、「間違いであり、西側諸国がその道に進まないことを願う」と述べた。
●ロシア・ウクライナ戦争論 投資家も直視すべき現実 6/13
侵攻から約4か月
ロシアがウクライナ侵攻を開始し、戦争が始まってから、4か月近くが経過しています。その泥沼化は、金融市場にも暗い影を落とし続けています。よって日本など遠い国の投資家も、終戦を切に願っています。日々の戦局に対し、金融市場はあまり反応しなくなっています。しかしこの戦争で、世界秩序というものは極めて弱い基盤の上にあるのだということを、皆が思い知りました。世の中は本来、不確かで不条理なことばかりです。そのような厳しい現実を突きつけられたことが、市場の先行き不安を増幅しています。
未来の予測は困難
いま投資家が意識する「不確かなこと」とは、世界のインフレ動向、米欧の利上げによる世界経済への影響、コロナウイルスの動向などです。それらの正確な予想は、人間にもコンピューターにも無理です。そうした状況であるだけに、ロシア・ウクライナ戦争は、「未来は予測困難」との印象を、投資家らの心理に刻印しています。これによる漠たる不安が、先行き不透明感を強め、米国株などの変動性を高めています(図表1)。したがって、人道上見地はもちろん投資家の観点でも、一刻も早い戦争終結が望まれます。
まずは停戦協議を
「不確かなこと」は、関連し合っています。つまり、戦争や感染症で資源や食料、製品の価格が高騰すれば、インフレが高進します。それは各国の利上げを促し、利上げが行き過ぎれば、景気が落ち込みます。逆に言うと、戦争などが落ち着けば、金融市場のムードも急速に改善しそうです。和平交渉が進めば、原油や天然ガス、小麦など、ロシアやウクライナが大きな産出力を持つ資源・食料の供給制約が和らぐ、と期待できるからです。停戦協議が始まるだけでも、市場参加者のインフレ懸念は若干緩和するはずです。
欧州内でも不協和
ただ、停戦協議が始まったとしても、交渉は難航必至です。ロシアの最低限の要求は、ウクライナ東部の正式な独立(→事実上ロシア陣営に)でしょう。ウクライナとしては、受け入れるのが難しい要求です。ウクライナを支援する欧米も、戦争の落としどころに関し、意思統一が図れていません。ドイツやフランスなどは、停戦を働きかけています。それに対し、英国の主要メディアなどは、「打倒ロシア!」というトーンの好戦的な論陣を張っています。そうした欧州内の不協和で、戦争がさらに長引く恐れがあります。
戦争の美化は不可
どれだけ美化しようとも、戦争とは、人と人との殺し合いです(図表2)。また、対ロシアの制裁は、ロシア国民を苦しめます。日頃「人権」を説く英メディアなどは、そうした現実を見る視点を失っています。たしかにロシアへの安易な譲歩は、プーチン大統領が始めた侵略を、実質的に追認しかねません。それでも戦争という状況下で、野蛮な面を露呈しているのが、英国(および米国など)の一部メディアだと言わざるを得ません。それらを見ると、人類の倫理的基盤は実に弱いのだという現実を、思い知らされます。
●ロシア軍が避難ルート遮断か ウクライナ東部の激戦地 6/13
ウクライナ東部ルガンスク州の知事は12日、激戦地セベロドネツクの橋がロシア軍に破壊されたと明かした。民間人の避難ルートが遮断される恐れがあるという。また、岸信夫防衛相は12日、シンガポールで行われた日中防衛相会談でウクライナ侵攻に言及。中国に責任ある役割を果たすよう求めた。
街と結ぶ橋を破壊
ウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事は12日、激戦地となっている同州の要衝セベロドネツクと、川を隔てて西側に隣接する街とを結ぶ橋がロシア軍に破壊されたと明かした。三つあった橋のうち一つはすでに破壊されており、残る一つも砲撃を受けている。民間人らの避難ルートが遮断される恐れがある。ウクラインスカ・プラウダ紙(電子版)が報じた。
岸防衛相「中国は責任ある役割を」
岸防衛相は12日、訪問先のシンガポールで中国の魏鳳和(ぎ・ほうわ)国務委員兼国防相と約1時間会談した。岸氏は中国、ロシアが先月、日本周辺で実施した戦略爆撃機の共同飛行などについて「日本に対する示威行動だ」と指摘し「重大な懸念」を伝達。また、ロシアのウクライナ侵攻に言及した岸氏は「力による一方的な現状変更はアジアを含む国際秩序の根幹を揺るがすものであり、断じて認められない」と指摘。「国連安全保障理事会常任理事国の中国が、国際社会の平和と安定の維持のため、責任ある役割を果たすべきだ」と求めた。
マクドナルド後継店 モスクワにオープン
ロシアから撤退した米ファストフード大手マクドナルドの後継店が12日、モスクワでオープンした。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、マクドナルドはロシア市場からの撤退を表明。ロシアの実業家アレクサンドル・ゴボル氏がロシアにある全店舗を引き継ぐことで合意していた。新ブランドの名称は「フクースナ・イ・トーチカ」(おおいしい、それだけ)。1号店がオープンしたモスクワのプーシキン広場では12日、式典が開かれ、店舗前では大勢の客が行列に並んだ。
ウクライナからモルドバへ 避難者の思い
ウクライナからの避難者を、モルドバの人々は「家族」のように温かく迎え入れた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ロシアによる侵攻後、7日時点で約727万人がウクライナを逃れ、現在、約9万人がモルドバ国内に滞在している。大半が親族や知人を頼って避難してきた人々だが、見ず知らずの家庭にホームステイするケースも少なくない。
●ゼレンスキー大統領 “ロシア軍 自国の兵士の命さえ軽視”  6/13
ロシアでは12日、国家として主権を宣言した「ロシアの日」を迎え、プーチン大統領が首都モスクワで演説を行ったほか、ロシア側がすでに掌握したと主張するウクライナの東部や南部でも祝いの行事が行われました。
こうした中、ゼレンスキー大統領は「ロシア軍は訓練不足の徴集兵などを戦場に投入しようとしている」と述べ、自国の兵士の命さえ軽視しているとロシア側の姿勢を批判しました。
ロシアでは12日、32年前の1990年に国家として主権を宣言した記念日「ロシアの日」を祝う行事が行われました。
プーチン大統領は首都モスクワで演説し「われわれは、祖国や社会が一つになることがいかに重要かを痛感している」などと述べ、国民に団結するよう呼びかけました。
首都モスクワではこのほか、科学技術や文化などの分野で活躍した著名人を表彰する式典も開かれ、国をあげて祝賀ムードを盛り上げました。
こうした中、12日にはロシアから撤退したアメリカのハンバーガーチェーン大手、マクドナルドの店舗を利用した、ロシア資本の新たなハンバーガーチェーンが15の店舗で営業を始めました。
これまでマクドナルドはロシア国内でおよそ850店舗を営業していましたが、会社の代表は「850店舗だけでなく、新しい店舗を開いていく」と話し、欧米の企業の間で“ロシア離れ”の動きが広がるなか、強気な姿勢を強調しました。
「ロシアの日」を祝う行事は、ロシア側がすでに掌握したと主張するウクライナの東部や南部の都市でも行われました。
記念日を利用して、支配の既成事実化を進めようとしているとみられ、南東部ザポリージャ州のメリトポリでは、大勢の市民がロシアの国旗を手に広場に集まりました。
一方、ウクライナの東部では、ルハンシク州の激戦地セベロドネツクで砲撃で橋が破壊されるなど、ロシア軍の攻勢が一層激しさを増しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は12日、新たに公開した動画で「ロシア軍はドンバスに予備役の部隊を配置しようとしているが、訓練不足の徴集兵などを戦場に投入しようとしているようにみえる。ロシア軍の将軍たちは国民を数の上で優位に立つための捨て駒としか見ていない」と述べ、自国の兵士の命さえ軽視しているとロシア側の姿勢を批判しました。
また東部の戦況について「セベロドネツクでは激しい戦闘が至る所で続いている。リシチャンシクやスラビャンスクなどの方面にもロシア軍は圧力を強めている」と述べ、ロシア軍がセベロドネツク以外の東部の都市にも攻勢をかけているとの見方を示しました。
●冷戦後初、核兵器増加の見通し ウクライナ侵攻も影響―国際平和研 6/13
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は13日、2022年初頭時点で、世界の核弾頭総数が推計1万2705発となり、21年よりも375発少なくなったとの報告書を発表した。しかし、SIPRIの研究者らは、ロシアのウクライナ侵攻などで国際情勢の緊張が続く中、今後10年間で弾頭数は増加に転じる見通しだと分析。核兵器が使用されるリスクは冷戦後、最も高まっているとした。
弾頭数は米ロ英仏中にインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮を加えた9カ国の合計。冷戦時代の1986年には7万発以上あった弾頭は米ロの取り組みにより削減されてきたが、SIPRIは核軍縮の時代は終わりに近づいていると指摘。報告書の共同執筆者マット・コルダ氏は「間もなく、われわれは冷戦後初めて、世界の核弾頭の数が増加し始めるという段階に入りつつある」と警鐘を鳴らした。
●「印刷・情報用紙」値上げが止まらない…ロシア・ウクライナ情勢が追い打ち 6/13
印刷・情報用紙の値上げが2022年に入って2巡目を迎える。日本製紙は9日、8月1日出荷分から現状比15%以上引き上げると発表した。7カ月ぶりの改定で、今回はロシア・ウクライナ情勢や円安進行が原燃料など生産コストの上昇に追い打ちをかけているのが要因だ。需要が先細りする中で競合も追随するとみられるが、メーカー間での体力差も鮮明になっている。
日本製紙は1月1日分から3年ぶりの値上げを表明。大半の顧客に受け入れられたのもつかの間、今回再値上げを「世界情勢の激変に伴いコストは急騰の一途。急激な円安が拍車をかける状況」と説明している。過去数年にさかのぼっても同一企業で1年間に複数回、値上げしたことはないという。
印刷・情報用紙で販売シェア首位の日本製紙が表明したことで、競合も近く再値上げを打ち出しそうだ。あるメーカーは「コスト状況や価格政策は各社で違うが、再生産が可能な収益の確保を目指す点は同じ」と強調する。大王製紙、中越パルプ工業などは再値上げする際のリスクに「需要の減少」を挙げる。
同用紙は人口減やIT化に伴うペーパーレスから減少傾向にある。コロナ禍が始まった20年春以降の需要急減からは持ち直したものの、19年実績に対して約8割。日本製紙連合会がまとめた4月の国内出荷数量(速報)は4カ月ぶり減。1―3月は値上げ前の駆け込み需要もあった。
こうした中、王子製紙は7月1日分からの値上げを公表したばかり。かねて進める余剰能力の抑制、生産性向上の成果もあり価格転嫁に慎重だった。約半年のズレに、他社との違いをみせつけた格好だ。
●侵攻に焦り? 自身を“英雄”に重ね…プーチンが“ウクライナ”言及しない 6/13
半ば強制的に実効支配を進めるなか、ロシア国内ではプーチン大統領が演説し、国民へ強い結束を呼び掛けました。専門家はウクライナ侵攻の焦りが見え隠れしていると分析しています。
ロシア、プーチン大統領:「祖国の防衛や世界における相応な役割の確立を目指し、それを実現させたすべての人たちを誇りに思います。これらにおいて特別で卓越した功績を残したのはピョートル大帝です」
17世紀から18世紀にかけてロシア近代化のほか、領土拡大を推し進めたピョートル大帝。
偉大な皇帝に自らを重ね合わせたプーチン大統領はウクライナ侵攻を正当化する姿勢をみせました。
外交・安全保障が専門、笹川平和財団・小原凡司上席研究員:「プーチン大統領が恐れていることは、ロシア側の死傷者が増えていくことでロシア国内での反戦の機運が高まることだと思う」
自身を歴史上の英雄になぞらえるプーチン大統領。その思惑とは。
6月12日は「ロシアの日」という祝日です。
モスクワの公園などには多くの人が集まり、なかには、兵士の格好をした子供やロシア軍を示す「Zマーク」のTシャツを着た市民らの姿も…。
ウクライナへの侵攻が進む今年は愛国心を鼓舞しようと各地でイベントが行われ、プーチン大統領も関連行事に参加。
そして、国民へ向けた演説ではロシアの君主・ピョートル大帝に自らを重ね合わせてみせました。
ロシア、プーチン大統領:「ピョートル大帝はまさに偉大なる改革者と呼ばれている。彼は生活のすべての分野における根本的な改革を成し遂げました。国家の運営、経済発展、強力無比な陸軍と海軍の創設です。教育、啓蒙(けいもう)、保健、文化において驚異的な突破口を開いたのです。私たちは彼の力強い個性や純粋な本性、ユニークな知識、目的達成への大胆不敵さと粘り強さ、そして祖国への限りなく素晴らしい献身の心に敬意を表します」
ピョートル大帝は1721年、スウェーデンとの北方戦争に勝利し領土を拡大、大国の礎を築きました。プーチン大統領は、この北方戦争が征服を試みたわけではなくロシアに正当に帰属する領土を巡り戦っていたとし、そのうえで現在のウクライナ侵攻との類似点を指摘。ウクライナが正統な主権国家ではなく実際にはロシア領のため、軍事行動は正当化されるとの考えを示したのです。
番組では、帝政ロシア初代皇帝に自らをなぞらえ「領土を奪い返す」などと主張するプーチン氏の演説を2人の専門家に分析してもらいました。
外交・安全保障が専門、笹川平和財団・小原凡司上席研究員:「自分が偉大であって間違ったことはしていないと誇示するため、過去の英雄と並べてみせた。今回の演説は、プーチン大統領が決断して実行をしたウクライナへの侵略が正当なものであるということを国民に知らせるだけのものになったと思う」
ウクライナ情勢に詳しい、神戸学院大学・岡部芳彦教授:「(Q.ピョートル大帝と重ねたプーチン大統領の思惑は)ピョートル1世はロシアで2人しかいない大帝。ロシアを近代化させた人。そして領土を拡張した人物。失われた領土を取り戻している自分と重ね、ロシア国民に印象付けたのでは。『偉大な皇帝』『偉大な大統領』というイメージを重ねたのかもしれない」
そして、現在も激しい攻防が続く戦況について演説では直接触れられなかったことに、ロシア側の焦りが浮かび上がったとの見方も…。
ウクライナ情勢に詳しい、神戸学院大学・岡部芳彦教授:「軍事作戦がうまくいかないなかで、ロシア国民が戦況の悪さも含めて意識しないことを最近プーチン大統領は考えているようで、あまり戦争自体を話題にしなくなってきた。今回も取り上げなかったのはそういう意図があると思われる」
●ウクライナ情勢による供給不安で高騰する「パラジウム」の行方 6/13
東京大学生産技術研究所所長の岡部徹氏が6月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアのウクライナ侵略で存在が注目されるパラジウムについて解説した。
「自動車排ガス浄化触媒」に使用されるパラジウム
プラチナ系の金属でレアメタルの一種とされるパラジウム。主に自動車を製造する際、有害な排ガスを浄化する「自動車排ガス浄化触媒」に使用されている。
飯田)自動車排ガス浄化触媒に使われているパラジウムですが、世界に供給されているパラジウムのうち、全体の約4割がロシア産なのです。残り6割の内訳を見ると、ロシアと同じく4割ほど出しているのが南アフリカです。南アフリカとロシアで約8割を占める、非常に生産国が偏っている物質でもあるわけです。ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり、最近の相場は1グラム当たり1万円前後と、金やプラチナよりも高くなってしまっているということです。
パラジウムの供給不安による日本の自動車業界への影響 〜長期契約をしているため、値段は上がっても調達はできている日本企業
岡部)実際、供給元が南アフリカの一部地域とロシアしかないので、日本の自動車会社は南アフリカの白金を採掘して製錬する会社と、長期契約を結んでいます。供給が止まったら、立ち行かなくなりますので。値段は上がっていても、調達という意味では、長期契約で賄えているというのが私の見立てです。
飯田)その辺りは企業もリスクヘッジしているということですね?
岡部)私は実際に南アフリカの製錬所や鉱山など、いろいろなところに行きました。日本だけではありませんが、日本の自動車産業は最大の顧客であり、長期契約を結んでいるのです。すべての会社がそう言っていますから、間違いはないと思います。
飯田)当面、供給不安はあるかも知れないけれど、リスクヘッジはしているという点。そして、しばらくすると国際的な新しい流通網が形成されるので、供給に与える影響は限定的ではないかという見解もありました。さまざまな国を経由するので、その分、値段は上乗せされてくる可能性はある。
今回のパラジウムの高騰は投機筋によるもの 〜今後、どう動くかはわからない
飯田)南アに今回、非常に注目が集まっているということですが、南アフリカだけでも需要の100年分を賄えるだけの埋蔵量があるということです。その間に、新しい排ガスを浄化する技術が出てくる。または、ガソリン車のシェアが少なくなる可能性もあります。「需要と供給のバランス」もありますが、こういう激変期には、いろいろなハレーションが起きるものですよね?
ジャーナリスト・須田慎一郎)そうですね。今回も2月24日にロシアによるウクライナ侵略が始まった際、パラジウムは商品先物市場、主にシカゴの先物市場で売買されているのですが、急激に上がったのです。つまり、今後の実需を反映した価格ではなく、思惑外と言ったらいいでしょうか。先物市場が上がってきた経緯があるので、投機筋による高騰なのだと考えてもらっていいと思います。本当の値段かどうかはわからないところがあります。
日本はパラジウムを含めたレアメタルのリサイクル大国
飯田)パラジウムは現在ある車のエンジンにも使われているのですよね?
岡部)そうですね。
飯田)そうすると、取り出して再利用することはできないものなのでしょうか?
岡部)それは既に行われています。自動車には、組み合わせはいろいろありますが、2グラム〜数グラムの白金、パラジウム、ロジウムが使われているので、それをリサイクルして回収するだけで、何万円かの価値が生み出されるのです。
飯田)リサイクルして回収するだけで。
世界中から自動車の排ガス浄化触媒のスクラップを集めて、パラジウムや白金に戻す技術のある日本
岡部)日本は、白金をスクラップから精錬してリサイクルする技術が長けているので、世界中から自動車の排ガス浄化触媒のスクラップを集め、日本に持ってきて、パラジウムや白金やロジウムに戻しています。
飯田)世界中から集めているのですか?
岡部)取り合いをしているというのが正しいです。
飯田)日本は非鉄産業が強い。別子銅山は江戸時代からある銅山で、これが住友グループの礎を築くなど、鉄以外の金属の扱いには歴史もあります。白金、あるいはパラジウムの抽出技術も優れています。世界中からスクラップを持ってきて、そこからさまざまにリサイクルしている。こういうことはオイルショックの時代からやってきたことです。
須田)資源がない国ですし、それを請け負う中小企業にも高い技術があります。日本は大企業だけではなく、中小零細企業の技術によって支えられている強みがあります。
これからのパラジウム、レアメタルの展望について 〜貴金属やレアメタルは生活を支えるために必要なもの
岡部)自動車に白金、パラジウム、ロジウムを使わない技術や、使う場合でも、使う量を減らす技術は必要です。ただ、これは何十年と研究者が取り組んでいることですが、未だに成功していない。成功する前に、下手をするとガソリン自動車がなくなるかも知れません。
飯田)どちらが先かというような話になってくる。
岡部)ただ、白金属がいらなくなるのかというとそうでもなく、例えば燃料電池ユニットには触媒として白金やパラジウムが必要なのです。
飯田)そうすると、今後の新しい産業なども含めて、この金属たちが非常に有用なことには変わりないのですね。
岡部)変化はしていきますが、貴金属やレアメタルは、豊かな生活を支えるには必ず必要になります。
飯田)お話を伺えば伺うほど、日本の可能性のようなものが見えてきますね。
岡部)地味ではありますが、非鉄産業、レアメタルに関しては、日本はいいポジションを取っているのです。
高い技術を持つ日本
飯田)地味だけれどいいポジションを取っているということです。
須田)素材という点に関して言うと、レアメタルやパラジウムに限らず、日本はいいポジションを取っていて、高い技術を持っているのです。例えば半導体の素材はシリコン一色ですが、シリコンに代わる新たな素材を考えないと、さらなる成長には進んでいかない。その素材の技術というものを日本は持っているのです。
飯田)商品化するまでには時間がかかるかも知れませんが、地道にお金を注ぎ込んで研究しなければならないのですね。
須田)岡部先生も言うように、地味だけれども、というところが日本の生きる道なのではないでしょうか。
●故郷が壊されている…苦しみと悲しみを知って 6/13
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の収束が見通せない中、きのう大田市出身のロシア政治の専門家が松江市で講演会を開き現状を語りました。
筑波大学 中村逸郎名誉教授:「単に街が壊されているのではなく、自分の故郷が壊されている苦しみ悲しみというところで、私たちはとらえていかなくてはいけないんじゃないか」
こう話すのは大田市出身で筑波大学名誉教授の中村逸郎さんです。中村さんはロシア政治の専門家でロシアの入国禁止リストにも名前が載っています。1年間、島根県立大学で教鞭をとっていたことが縁できのう、松江市で講演会を開きました。講演会ではウクライナへの軍事侵攻でこれまでにロシア兵の行方不明者が4万人を超え、ウクライナ兵は毎日約200人が亡くなっていると現状を語りました。またウクライナ侵攻の終結についても話しました。
中村逸郎名誉教授:「暴走しているプーチン大統領を誰が止めることができるかという問題。特に若い人たちから不満が出てきている。軍事侵攻を止めるのはロシア人しかいないと思っています」
約220人の参加者を前に中村さんは、ロシアのウクライナ侵攻は遠い世界の話ではない。世界はローカル、地域の積み重ねで成り立っているので山陰の人たちにとっても身近な問題として関心を持って欲しいと話しました。
●JICA、初の「平和構築債」 ウクライナ支援へ200億円 6/13
国際協力機構(JICA)が、ロシアから軍事侵攻を受けたウクライナなど戦争・紛争地域や難民の支援に役立てるため、国内初となる「ピースビルディングボンド(平和構築債)」を200億円発行することが13日、分かった。平和貢献への意識が高い機関投資家や自治体からの資金を活用する狙い。
7月に10年債と20年債を100億円ずつ起債する予定。比較的低利で資金を確保し、平和や復興につながる有償資金協力事業に充てる。主幹事を務める大和証券が今後、詳しい発行条件を詰める。ウクライナ危機を機に平和問題への意識が高まっており、JICAは十分に資金が集まると判断した。
●ウクライナ「排除」に反発 穀物問題で思惑交錯 6/13
ロシアの軍事侵攻を受けてウクライナの穀物輸出が停滞している問題で、国際社会が探っている輸出再開の方策に当のウクライナが神経をとがらせている。穀物輸出再開の枠組みがウクライナの頭越しに決められたり、ロシアへの制裁圧力が弱められたりすることを警戒しているためだ。世界的な食糧危機の懸念が深まる中、この問題では関係諸国の利害が複雑に交錯している。
「(穀物輸出枠組みの構築に向けた)各国の協議や努力を歓迎するが、前提が一つある。わが国の安全が完全に保証されることだ」
ウクライナのクレバ外相は8日の記者会見でこう力説した。念頭にあったのは同日、穀物問題をめぐってトルコのチャブシオール外相とラブロフ露外相が会談したことだ。トルコはロシアとウクライナを仲介する用意があるとしつつ、米欧などによる対露制裁の解除に賛意を示した。
米欧は世界有数の穀物輸出国であるウクライナをめぐり、輸出拠点だった黒海沿岸の港を海上封鎖しているとしてロシアを批判してきた。これに対してプーチン露政権は、対露経済制裁が世界の食料価格高騰を招いているとして制裁解除を要求している。
露主要銀行を対象とした金融制裁により、米欧が穀物を含む各分野でロシアとの取引を控えている。プーチン政権は、制裁がなくなればロシア自身が穀物輸出を増やし、食料価格を抑制できると主張している。制裁によるロシアの経済的疲弊を待つウクライナにとっては決して容認できない。
プーチン政権は、ウクライナが露占領下にあるウクライナ南東部のマリウポリやベルジャンスクから穀物を輸出するよう水を向けるが、被占領地からの輸出はロシアによる実効支配の既成事実化につながる。
ロシアとウクライナが黒海沿岸に敷設したとされる機雷の除去も難題だ。ロシアはウクライナの機雷を問題視して批判を強めているが、ウクライナとしては、機雷が除去されれば露軍の南部への上陸が容易になってしまう。クレバ外相が「安全の保証」を強調するのはこのためでもある。
トルコは国連とも協力し、ウクライナの穀物輸出に向けた安全な航路の設置を急ぐとしている。だが、具体的な方策はまだ見えてこないのが実情だ。穀物輸出の問題は、今月下旬に予定される先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)でも主要議題となる。
アフリカ連合(AU)の議長国セネガルのサル大統領は、3日に訪露してプーチン氏と会談し、対露制裁解除の必要性に言及した。アフリカや東南アジアには飢餓や食糧危機への懸念を強めている国が多く、「背に腹は代えられない」との事情でロシア寄りの立場をとる可能性がある。
ウクライナと良好な関係にあったトルコもここにきて、経済や安全保障の観点からロシアに重心を移している感が強い。
トルコ高官が語ったところでは、天然ガスで国内需要の45%、ガソリンで40%をロシア産でまかなうなど、エネルギー面でトルコの対露依存度は高い。シリアやリビアの内戦ではトルコとロシアがそれぞれ敵対する勢力を支援しており、対露関係が悪化すると地域情勢に影響する事情がある。
ロシアが反発しているスウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟申請でも、トルコはロシアに理解を示して両国の加盟に反対している。
●プーチンの「飢餓計画」:途上国を兵糧攻めにしてEUに難民危機を引き起こす 6/13
ウクライナ侵攻中のロシアが黒海を封鎖している問題について、エール大学の歴史学者ティモシー・スナイダー教授はその意図は「難民を生み出すこと」、さらにはEU域内を不安定化させることにあると分析した。
「プーチンの飢餓計画には、ウクライナ産の食糧に依存している北アフリカや中東からの難民を生み出し、EUを不安定化を生み出す意図もある」とスナイダーは11日、ツイッターに投稿した。
ウクライナは世界有数の穀物輸出国だ。ロシアによる黒海の海上封鎖は、ウクライナからの輸入穀物に大きく依存している少なからぬ国々の食糧供給を脅かしている。
スナイダーはまた、もし海上封鎖が続けば「数千万トンに及ぶ食糧が貯蔵庫の中で腐ることになり」、その結果、アフリカやアジアで数多くの人々が「飢えることになるだろう」と警告した。
黒海に面したウクライナ南部オデーサ州のアラ・ストヤノワ副知事も、海上封鎖によってウクライナの穀物が滞留し、世界各地の食糧不足に拍車をかけることになると警告している。
世界に対するプーチンの「恐喝」
「プーチンの狙いは貧しい国々を飢餓に追い込むことだと私は思う。ウクライナの港を封鎖することで、彼は世界を恐喝しているのだ」と、副知事は先月、英紙テレグラフに掲載されたインタビューで述べている。
テレグラフによれば、オデーサを初めとするウクライナの港には通常、1日あたりコンテナ3000個の分の穀物が鉄道で到着し、大型の貯蔵庫に一時保管されるという。
世界では今年に入り、2億7600万人近い人々が深刻な飢餓を経験している。もしウクライナ侵攻が続けば、深刻な飢餓を経験する人の数はさらに4700万人上乗せされるかも知れない。特に危惧されるのはサハラ砂漠以南の地域だ。
先月、国連安全保障理事会では、ウクライナからの穀物輸出が大きく減少したことで、イエメンやナイジェリア、南スーダン、エチオピアなどの国々が食糧危機のリスクにさらされていると指摘された。
国連世界食糧計画(WFP)も先ごろ、ウクライナの港への封鎖が解かれなければ世界中で数多くの人々が「飢えに向かって突き進む」ことになるだろうと警告を発した。
前出のスナイダーはツイッターで、世界各地で飢餓が起きる懸念も表明した。プーチンは「飢餓計画」に基づき、「欧州における戦争の次の段階として、発展途上国の大半を飢えさせる」準備をするかも知れないと言うのだ。
「プーチンの飢餓計画はあまりに恐しく、理解しがたいものがある。われわれは、食糧が政治における中心課題であることを忘れがちだ」とスナイダーはツイートした。
「何より恐ろしいのは、世界規模の飢餓がロシアの反ウクライナのプロパガンダ活動にとり必要な背景だということだ。実際に大量の死者が出ることが、プロパガンダ合戦の背景として必要なのだ」
飢えた国々で暴動や抗議が激しくなれば、ロシアはそれをウクライナの責任にして占領を正当化するつもりだとスナイダーは書いている。本誌はロシア外務省にコメントを求めたが回答は得られていない。 

 

●ウクライナ戦争による欧州の結束と分裂への懸念 6/14
5月31日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙コラムニストのジャナン・ガネシュが、ウクライナ戦争を巡る仏独両国とその他諸国との間の分裂の状況を論じている。
ガネシュの論説は、ウクライナの戦争に立ち向かうフランスとドイツの姿勢を疑問視し、そこに欧州の分裂があると指摘し、仮にマクロンが唱える欧州の「戦略的自立」が実現していたならば、ロシアの侵略に対する欧州の姿勢は多くの欧州諸国と米国にとって不愉快なものであった筈だと観測している。その上で、まとまりのない欧州であっても、「戦略的自立」に縛られた一律に思わしくない政策よりもましだと皮肉っている。
そもそも、ウクライナ侵攻の前においても欧州各国の立ち位置には分裂の傾向が見られたが、ウクライナ侵攻が始まるや、ノルドストリーム2の停止と国防予算の大幅増額を含む、ドイツのショルツ政権の劇的な政策転換にも助けられ、欧州は対ロシア経済制裁と対ウクライナ武器支援の面で稀に見る結束を実現した。この結束が、首都キーウ防衛の成功を含むウクライナ軍の奮戦によって支えられたことは確かだと思われる。
しかし、この論説にも指摘があるが、欧州の結束は戦況の変化と同じ弧を描いて変化しかねない。ロシアは東南部に軍事力を集中して圧倒的な火力で制圧を目指し、戦争は消耗戦の様相を呈するに至っており(ロシアを「弱体化する」あるいは「ロシアをウクライナ全域から追い払う」との西側の発言は先走りに過ぎた印象がある)、欧州には先行きを不安視し、経済への悪影響を懸念し(悪影響はロシアにエネルギーを依存する度合いにより異なる)、和平への展望を探る兆候もあるようである。
5月9日、フランスのマクロン大統領は、いずれロシアとウクライナの両国は和平を求める時が来る、その時点では、1918年にドイツに起こったことだが、いずれの側も屈辱を味わい排除されることがあってはならないと述べた。マクロンは、「われわれはロシアと戦争している訳ではない。われわれは欧州人としてウクライナの主権と領土的一体性の保全に、そしてわれわれの大陸に平和を回復するために務める」ともツイートした。
経済制裁に関する限り、欧州の結束は保たれている(石油の禁輸ではハンガリーに譲歩を余儀なくされたが)と言い得ようが、武器支援についてのドイツの姿勢は心許ない。戦線が東南部に移るに伴い、4月に西側は榴弾砲や戦車などの重火器を提供することを申し合わせ、ドイツも重火器の提供を約束したが、ショルツ首相がこれを実行することを躊躇し言い逃れをし、自走式榴弾砲パンツァーハウビッツェ2000や自走式対空砲ゲパルト対空戦車の供与が始まったのは最近のことらしい。いずれにせよ、武器支援については米国の存在が圧倒的であり、米国なくしてはウクライナの抵抗は成り立たない状況であるが、それにしても、フランスやイタリアの役割は小さい。
バイデンが示した目標の意味
現在、ウクライナは守勢に立たされているが、ウクライナを軍事的に支援する西側は耐えて結束を維持し支援を続けられるのだろうか。バイデン米大統領は、5月31日付ニューヨーク・タイムズ紙にウクライナの戦争における米国の目的に関して一文を寄稿しているが、ワシントン・ポスト紙はバイデンが明確な目標を設定したとして評価し、これによって西側の結束を維持し得ようとの社説を書いている。
バイデンは米国が「彼(プーチン)の追放を試みることはしない」と書き、「ロシアに苦痛を与えるためだけのために」戦闘を長引かせることはしないとも書いている。成程、神経質な欧州の同盟国を安心させる効果はあろう。しかし、武器支援については「(ウクライナ)が戦場で戦えて交渉のテーブルで可能な限り強い立場に立てるようにするため」だと書いているが、この目標には幅があり過ぎて、とても明確な目標とは言えないと思われ、欧州が明確な目標と受け取るとも思えない。
バイデンの寄稿文は、バイデン政権がウクライナへの射程の長い(70キロメートル)多連装ロケット砲システムの供与(但し、国境を越えてロシアに対して使用することを禁じている)を新たに決定したことに対して、ロシアが過剰な反応をしないよう書かれたものかも知れない。バイデン政権としては、北大西洋条約機構(NATO)の場で少なくとも2月24日の線までロシアを押し返すという当然の目標を欧州と共有することに務めるべきものと思われる。
●戦争はこう着、兵器供給加速ないなら−ゼレンスキー氏 6/14
ウクライナのゼレンスキー大統領は、同盟諸国が先進兵器の供給を加速させなければ戦争は膠着(こうちゃく)状態に陥る恐れがあると危機感を示し、東部の戦闘は「極めて熾烈(しれつ)」だと述べた。
ロシア軍はウクライナ東部セベロドネツクで攻撃を続け、市内や近隣の村にも砲撃を加えた。同市はウクライナ政府がルハンシク(ルガンスク)州で維持する最後の主要拠点の一つ。同州知事は同市の8割がロシア軍に掌握されたと語った。
ロシア軍がウクライナ南部および東部地域を制圧し、サイロを破壊したため、ウクライナは今後迎える穀物の収穫期に際して欧州に穀物の一時保管を依頼した。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
ロシア、極東の旧型戦車まで活用−欧州高官
ロシアは人員と兵器を国内全土からかき集めていると、事情に詳しい欧州の高官が明らかにした。ウクライナへの侵攻開始から100日が過ぎ、軍事的な能力の大半を使い尽くしてしまったため、極東を拠点とする旧型戦車まで引っ張り出してきているという。この結果、ロシアは作戦の減速を余儀なくされる状態まで数カ月しかないかもしれないと、この高官らは述べた。
ロシア、英報道関係者や防衛企業幹部の入国禁止へ
ロシアは英国の報道関係者や防衛企業幹部49人の入国を禁止する。ロシア人ジャーナリストへの英当局の対応を巡る報復措置だとロシア外務省は説明した。BBCやITV、スカイニューズなど有力報道機関の記者らが入国禁止になった。
プーチン大統領、今月30日にインドネシア大統領と会談へ−タス
ロシアのプーチン大統領は今月30日にモスクワでインドネシアのジョコ大統領と会談する。国営タス通信がロシア政府関係者を匿名で引用し報じた。ウクライナ侵攻後、外国の首脳がモスクワを訪問するのは異例。インドネシアは現在20カ国・地域(G20)の議長国で、今年11月にはバリでG20首脳会議を主催する。
セベロドネツクに親ロ派地域に向かう人道回廊設置−ロシア
ロシア国防省は、セベロドネツクからルハンシク州内の親ロシア派支配地域に向かう人道回廊を現地時間15日午前8時から午後8時まで開設すると発表した。
戦争はこう着も、兵器供給鈍いなら−ゼレンスキー大統領
西側からの先進兵器の供給が加速しないならウクライナの戦争は膠着(こうちゃく)状態に陥り、さらに多くの人が命を落とすことになる恐れがあると、ゼレンスキー大統領がデンマークの記者団とのオンライン会見で述べた。
JPモルガンとゴールドマンがロシア債取引仲介から撤退
ウォール街を代表する2大金融機関、JPモルガン・チェースとゴールドマン・サックス・グループは、米財務省が流通市場でロシア債購入を禁止したことを受け、同債のマーケットメーキング(値付け)や仲介業務から撤退する。プロの市場関係者によれば、JPモルガンとゴールドマンはロシア債を手放したい売り手と、関心ある買い手との仲介を今月に入っても続けていた。しかし、事情に詳しい関係者の1人によると、米投資家によるロシア債の購入禁止を財務省外国資産管理局(OFAC)が発表したことから、JPモルガンは関連業務から手を引く。ゴールドマンの広報担当も、該当する取引を停止することを明らかにした。
ロシア軍がセベロドネツク市の8割掌握−州知事
ロシア軍はウクライナ東部ルハンシク(ルガンスク)州の要衝セベロドネツク市の最大80%を掌握した。同州のハイダイ知事が明らかにした。同市と対岸の都市を結ぶ3つの橋全てが破壊され、市民の退避や人道支援物資の受け取りが不可能になったとし、「難しい状況だ」と語った。
米政府、水面下でロシア産肥料の追加購入・輸送促す−関係者
米政府は水面下で農業・運輸セクターの企業に対し、ロシア産肥料の追加購入・輸送を促している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。制裁を巡る懸念でロシア産肥料の供給が急減し、世界的な食糧コスト急増につながっている。
ウクライナ、燃料油や石炭の輸出停止
ウクライナ政府はロシアの侵攻を理由に、燃料油と石炭、国内で採取された天然ガスの輸出を停止した。13日に公表された10日付の政府決議で明らかになった。
●OPEC月報、ウクライナ戦争が下半期の需要回復予測のリスク 6/14
石油輸出国機構(OPEC)は14日に公表した月報で、下半期に石油需要が力強く回復すると予想しながらも、ウクライナでの戦争や長引く新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)がその脅威になるとの見解を示した。
OPECは下半期の世界石油消費量が平均で日量310万バレル増の同1億180万バレルと、パンデミック前の水準を上回ると予測した。ただ、インフレ圧力やウイルスの新たな感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻による経済的影響によって、その回復予想が外れる可能性もあると注意を促した。
OPECは「現在の地政学的動向やパンデミックを巡る不確実性が下半期の終わりまで、パンデミック前の水準に戻るとの予想にかなりのリスクをもたらし続ける」と指摘した。
●ロシア映画でウクライナ戦争を読む 「戦勝国の神話」に酔う人々 6/14
ロシアが国際法を犯してウクライナに侵攻したことを受け、ハリウッド映画を中心とする欧米のほとんどの映画会社は作品をロシアから引き上げた。レパートリー不足に苦しむロシア国内の映画館は、上映スケジュールの穴を埋めるためソ連時代からの旧作を並べるなどの経営努力を続けている。
3月上旬、ロシア映画の興行収入の週間ランキングに、一人の監督の旧作2作品がベスト10内に並んだ。アレクセイ・バラバーノフ監督(1959〜2013年)の殺し屋のロシア人兄弟が活躍する「ブラザー」(1997年、邦題は「ロシアン・ブラザー」)とその続編「ブラザー2」(2000年、日本未公開)である。ともに旧作であり、ソ連解体からナショナル・アイデンティティ(国民の自己意識)を立て直す途上の90年代ロシアを舞台にしている。前者はサンクトペテルブルクの闇市場を牛耳るチェチェン人マフィア、後者は米国を拠点にするウクライナ人マフィアがロシア人の若者に成敗される痛快なストーリーの映画で、封切り当時、強大なロシアの物語を求める観客に熱狂的に歓迎された。
“積年の恨み“を晴らすセリフに喝采
「ブラザー2」には、命乞いをするウクライナ人マフィアに向かって、殺し屋の兄が「お前たち悪党にはまだセバストーポリ(ロシアに併合されたクリミア半島にある特別市)のツケがある」といって容赦なくとどめを刺す場面がある。クリミアはソ連時代の54年に最高指導者ニキータ・フルシチョフによってロシア共和国からウクライナ共和国に管轄が移され、当時は同一国内での移管として済んだ帰属問題だったが、91年のソ連解体にともない民族間の領土問題が再燃した。
「ブラザー2」でのロシア人の積年の恨みを晴らすセリフに、公開当時の観客は文字通り上映ホールで拍手喝采したのだった。今回のリバイバル上映でも、この場面は保守的な観客層に爽快な気分をもたらしたことだろう。周知のように、ロシアは14年にウクライナ国内の混乱に乗じてクリミアを強引に併合した。
独裁政治批判のSF映画を上映
こうした愛国主義的な熱狂から冷静に距離を置いて映画文化の継承に努める映画館もある。ウクライナ侵攻後もプロパガンダとは無縁の独自のプログラムを組んでおり、上映作品の名前からだけでも、企画者のファシズムに反対する気持ちが伝わってくる。
上映されているのは、権力と真っ向から対峙していたアレクセイ・ゲルマン監督(1938〜2013年)の「神々のたそがれ」(2013年)といった作品である。ロシアの人気SF作家であるストルガツキー兄弟の小説『神様はつらい』(1963年)を原作に、地球から遠く離れた惑星に栄える独裁政治がエスカレートする王国を舞台にしたディストピア(暗黒郷)を描いている。
「プーチン大統領に一番見て欲しい」
脚本を共同執筆するなどゲルマン監督を常に支えてきた妻のスベトラーナ・カルマリータ氏は、撮影が進むにつれてスクリーンで起こっていることはロシアに限らない、世界の大部分を包摂することだと気づいたと回顧している。米国でトランプ政権が誕生するまだ数年前のことで、今にして思えば芸術家の慧眼(けいがん)である。生前のゲルマン監督もプーチン大統領からある賞を授与された際のパーティーで、「神々のたそがれ」を一番見てほしい観客はあなただと言ったため、周囲がお通夜のように静まり返ったというエピソードを披露していた。
昨年12月、ロシア人映画監督がプーチン大統領と口論したというニュースがロシアで報じられた。91年にソ連から独立したタジキスタン共和国での内戦に派兵されて命を落とした若い兵士たちを追ったドキュメンタリー「精神(こころ)の声」(1995年)や権力者を描いた「権力4部作」などで知られるアレクサンドル・ソクーロフ監督(1951年〜)が、ある会議の席上でプーチンと口論したという見出しだった。中央集権化を進めるプーチン大統領の政策に苦言を呈したというのが実際だったが、権力を強固にし続ける大統領に対して正面から文句を言うだけでニュースになったのだった。
英雄を描くのではなく苦悩を
ソクーロフ監督は11年、ロシア連邦に属する北カフカスに位置するカバルダ・バルカル共和国の大学に招かれ、映画のワークショップを開催したことがあった。今、そこでソクーロフ監督から映画とヒューマニズムを学んだ若者たちが次々と長編映画を撮り出し、7月15日から日本でも注目の1作品が公開される。カンテミール・バラーゴフ監督(1991年〜)による、戦後間もないレニングラード(現サンクトペテルブルグ)でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えて生きる女性たちの心と体の傷を描いた「戦争と女の顔」(2019年)である。
ロシアでは独ソ戦勝利を祝う5月9日の「戦勝記念日」に合わせて、ナチス・ドイツという国民的な災禍に立ち向かった英雄たちを描いた映画が毎年公開される。しかし、「戦争と女の顔」は、こうした映画で提示される勇敢な男らしさのイメージとは無縁である。それゆえ、プロデューサーと監督が出席した19年のプレミア上映後のトークでは、映画で女性同士がお互いの体をからませる場面を指して、年配の観客がロシアの神聖な時期を汚していると不満を表明する一幕があった。これに対してプロデューサーは、「あなたは彼らを哀れだと思わないのか。人々と苦悩を共有、共感するために映画を作っているのだ」と強く反論した。
ナチズムの思考法
大規模な予算で製作された戦争映画は、大量消費向けのスペクタクルとしてよく出来ている一方、観客を内省のない戦勝国神話の内側にいることに慣れさせ、ナショナリズムを支える観客を生み出してしまう。戦勝国の神話に酔いしれることに慣れた観客は、現実の負の側面を直視しようとはしない。しかし、英雄が創出された物語の背景では、名もなき多くの英雄でない者たちがいる。英雄の創出がただ分断を生み出し、国に貢献しない傷ついた者たちが害悪とされるだけならば、そうした思考法こそがナチズムだったはずではないのか。ソクーロフの教えを受けた若き映画監督バラゴーフの「戦争と女の顔」は、そうした「神話」に抵抗する映画である。
●ロシアに洗脳された市民に食料を届ける、歓迎されない牧師に会った─ 6/14
空がうっすらと色づき、夜が明ける頃、オレグ・タカチェンコは今日も自家用車のバンに大量の支援物資を詰め込み戦場と化した町へと出発する。向かう先は、ウクライナ東部ドンバス地方に位置するドネツク州の町ブレダールだ。
自分も死ぬかもしれない。そう分かっていながら、プロテスタントの牧師であるタカチェンコは週に何度か、ブレダールへと車を走らせる。数週間前には、彼のバンからわずか50メートルの所に破裂弾が飛んできた。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、今はここ、ドンバスが戦争の最前線となっている。そこで暮らす市民の生活は既に限界を超え、多くがロシアの砲撃にさらされながら、水も電気もない生活を送る。
火を使えるのは、砲撃と砲撃の合間だけ。その間に、屋外に出てわずかな食料を直火で調理する。特に年老いた人や貧しい人、病を患う人にとっては綱渡りの毎日が続く。
タカチェンコは、ウクライナ当局や国際支援団体が入れないような所にも率先して食料や物資を運ぶ。ここで生活する彼らにとって、タカチェンコのようなボランティアたちは文字どおり生命線となっている。
「(ドンバスで親ロシア派とウクライナ政府が武力衝突した)2014年も危なかったが、今はさらに危険だ。だが私の使命は人々を助けることだから」と、タカチェンコは言う。
7人の子を持つ52歳の彼は、2014年から支援活動を続けてきた。パンやジャガイモ、(可燃性の液体)ベンジンと一緒に、インスリンなど生死に関わる薬を運ぶこともある。
「水がなくても3日、食料がなくても2週間は生きられる。だが薬がないと、数時間で死に至るかもしれない」と、タカチェンコは言う。
戦火が激しくなるドネツク州でロシア軍に破壊された建物 ANNA KUDRIAVTSEVA-REUTERS
戦争開始から100日余りがたつなか、ロシアはウクライナ領土の約5分の1を掌握してきた。
現在、最も厳しい戦闘が続くウクライナ東部ルハンスク(ルガンスク)州の要衝セベロドネツクでは、6月初めの週末にウクライナが反撃して市の半分を奪還した。しかしルハンスク州の95%はロシア軍に占拠されている。
ロシア軍はゆっくりだが着実に進撃しており、ルハンスクに残る最後の土地を掌握した暁には、南進を開始してドネツク州やブレダールのような都市に向かうとみられている。
人口1万4000人ほどのブレダールは、2月24日にロシアがウクライナに侵攻を開始したその日から戦火にさらされてきた。侵攻初日、町の病院のすぐそばにクラスター弾を搭載したロシアの弾道ミサイルが着弾し、4人の市民が犠牲となったのだ。
ブレダールの住民たちによれば、砲撃は4月初めから絶え間なく続いており、彼らは一日中、地下に身を隠しながら生活している。
アパートが立ち並ぶ集合住宅で、64歳のタチャーナは穴が開いた2階を指さし、あそこで暮らしていたのだと教えてくれた。アパートの正面は真っ黒に炭化し、そばには旧ソ連製ロケットの一部が転がっていた。
「彼らは毎晩、砲撃してくる。昨夜も、今朝も、毎日だ。日曜は朝から晩まで砲撃が続く。外に出て火を使うこともできない。もうこんな生活、耐えられない」とタチャーナは言う(本人の希望により名字は匿名)。
1斤のパンでいさかいも
彼女は即席で作った墓地を見せてくれた。青々とした木々の下にあり、かつては休息場所だった所だ。土が盛られた3つの墓が整然と並び、プラスチックと木製の合わせくぎで作られた十字架が立てられている。
「彼らは高齢のために亡くなった。砲撃の最中に埋葬しなくてはならなかったので......」と、タチャーナは言う。「後でしっかりと埋葬する」
空を切り裂くような砲弾が危険なほど近づいてくると、タカチェンコは車に飛び乗り急いで立ち去った。
次に向かった集合住宅に到着すると、四方八方から人々が出てきて列を成す。彼らは「唯一の食料源」というタカチェンコの配給を手に入れるために必死だ。住民が1斤のパンを手にする際には、いさかいも起こる。
ドンバスの前線の状況が深刻さを増すにつれ、ロシア軍がマリウポリで見せた戦術を繰り返すのではないかという懸念が生まれている。マリウポリでロシア軍は何カ月もウクライナ人を包囲し、最大で5万人を殺した。
双方に停戦の意思はなく、ウクライナが勝利に向かって邁進すれば、ロシアも目的を達するまで進み続ける。その目的が何かは、ほとんど定義されていない。
「電気は3月15日から、ガスは4月10日から途絶えている」と、62歳の住人ビャチェスラフは言う。
彼は階段へと私を案内すると、5人の家族が寝床にする冷たくじめじめした地下室を見せてくれた。中には木の板で作られたベッドがある。夜の明かりはろうそくか、オイルランプだけだと言う。
11歳の孫娘カチャは、爆発のたびに壁が揺れると言いながら、愛猫を抱き締めていた。
「3月19日には店が破壊された。どのようにしてかは分からないが、気付いたらなくなっていた。水道は戦争前から始まっていた爆撃で既に断水していた」と、ビャチェスラフは言う。
「誰もゴミを処理してくれない。気温が高くなっており、臭いは日に日にひどくなる。大量のハエがたかって病気が心配だ」
住民たちによれば、手に入る水は工業用水だけで、飲料には適していない。
タカチェンコはそのリスクの大きさにもかかわらず、いつも歓迎されるわけではない。大多数が東方正教徒であるこの国において、プロテスタントの彼はしばしば疑念の目を向けられる。
ウクライナにおけるプロテスタントは全人口のわずか2%でしかなく、タカチェンコが避難地域のポクロブスクへ移る前でも、彼が所属するブレダール教会に来る礼拝者は33人しかいなかった。
状況をより複雑にさせているのは、長年にわたるロシア政府のプロパガンダが、ロシア語を話す住民の多い東部で大きな影響を及ぼしていることだ。
私が話をしたほかのブレダールの住民たちは例外なく、攻撃はロシアではなくウクライナから受けていると信じている。クレムリンが支配するメディアの主張そのままだ。
ロシアに同情する人々を相手に、どうして自分の命を危険にさらすことができるのかと尋ねると、タカチェンコはこう答えた。「どうして『病人』を放っておけるのか」
その意味するところは「洗脳されている」人々だ。
「私はウクライナが勝つと100%信じている。その後に彼らに巣くう根深い思考を治してみせる」と、タカチェンコは言う。
「目下の心配は、ロシア軍がブレダールに至る道路を支配下に置いていることだ。もはや食料やインスリンを届けることはできない。そうなれば、人々はどうしたらいい?」
●豪農家の信頼感が低下、ウクライナ戦争やコスト高で 6/14
14日公表されたラボバンクの調査によると、豪農家の信頼感は直近の四半期に低下した。コモディティー(商品)価格高や豊作見込みといったプラスの要素が生産コストの上昇により打ち消された格好だ。
ラボバンクは、ウクライナ戦争が農家の販売価格、特に穀物価格を押し上げているが、投入コスト上昇で相殺されていると指摘している。
調査によると、豪農家の約半数がウクライナでの戦争が農家経営に打撃を与えると回答した。今後12カ月の間に経営状態が改善すると予想したのは28%にとどまり、前四半期の31%から減少した。
今後12カ月間の収入については、安定的に推移すると予想した。
ラボバンク・オーストラリアのピーター・ノブランチ最高経営責任者(CEO)は、農家は2年以上にわたり農産物価格高を享受してきたが、現在多くがマージン圧力に直面していると指摘。「コスト圧力は緩和されておらず、生産者は上昇する投入コストに対応するため高い商品価格を必要としている」と述べた。ラボバンクは豪最大の農業金融機関の一つ。
●「独仏伊はプーチン側に立っている」 ”欧州分断”で猛批判 6/14
6月9日、プーチン大統領はピョートル大帝生誕350年記念展覧会を訪れ、「ピョートル大帝はスウェーデンとの戦争で何かを奪い取ったという印象を持たれているが、何ひとつ奪い取ってはいない。ただ取り戻しただけだ」と語った。これは1700年から1721年まで続いた「大北方戦争」に触れた発言で、この戦争でスウェーデンを破ったピョートル大帝はバルト海の通商権を手に入れ、ロシアを欧州の大国とした。
プーチン大統領は「われわれも『取り戻す』ことに力をいれるべきだ」とウクライナへの軍事侵攻を正当化した。
この発言について、「プーチンは戦争をウクライナに限定せず、バルト三国に広げることまで視野に入れている」と分析、警戒するのは、現在米国ワシントンで活動する反プーチンのロシア人数学者アンドレイ・ピオントコフスキー氏だ。
ウクライナのウェブTV 「24 Kanal」(6月9日)のインタビューに答えたピオントコフスキー氏は、ウクライナ支援をめぐる欧米各国の足並みの乱れがプーチン大統領に自信をもたらしていると指摘、「独仏伊はプーチンの側に立っている」と厳しく批判した。
ヨーロッパの一部主要国がロシア側に付いていると言い切る、その真意はどこにあるのか。ピオントコフスキー氏の主張を紹介する。
ピオントコフスキー氏は1940年モスクワ生まれの81歳。ロシア科学アカデミー・システム分析研究所の数学者として活躍したが、1998年から政治活動を始め、反プーチンの急先鋒として批判を続けるなか、2014年のクリミア併合を予言した。2016年には逮捕を恐れてロシアを出国。現在は米国で評論活動を続けている。
「プーチンは『力』しか信じない人間だ」
ピオントコフスキー氏によれば、ピョートル大帝記念日のプーチン発言は、ウクライナへの侵攻を正当化するだけではなく、今後の征服のプログラムを示すものだという。
「プーチンがピョートル大帝に絡めて21年間続いたスウェーデンとの『北方戦争』に触れたのは、ウクライナとの戦争が3日で終わらず、長期化することをロシア国民に正当化するためだ。しかしその発言から、プーチンは戦争をウクライナに限定せず、バルト三国も視野に入れていると考えられる。『奪い取るのではなく取り戻す』という言葉には注意が必要だ。プーチンは『力』しか信じない人間だからだ」
ピョートル大帝(1672-1725)は、ソ連時代を通してロシア人の間で人気が高い。海軍を創設し、ロシア正教会を国家に従わせ、帝国のあらゆる権限を皇帝の元に一元化して「帝国ロシア」の礎を築いた。その一方、黒海の覇権を求めてオスマントルコのイスラム教徒を弾圧し、国家収入の大半を軍備に当て、重税に苦しむ農民からは、「イエスの教えに反するアンチ・キリスト」として憎まれた。
戦勝記念日、プーチンは「孤立」のどん底にいた
「驚いたのは、戦勝記念日(5月9日)のプーチンと、ピョートル大帝記念展覧会のプーチンの変わり様だ。戦勝記念日では、意気阻喪していて、軍事パレードの最中も膝にブランケットを置き、軍最高司令官としての演説では『これしか道がなかった』、『正しい決断だった』などと泣き言のような弁明を繰り返していたが、ピョートル大帝展のプーチンはまったく別人のようだった。5月9日の戦勝記念日、プーチンは『孤立』のどん底にいたのだ。
オースティン米国防相がキエフで『ウクライナ領土の一体性を支持し、ロシアが同じことを繰り返せない程度に弱体化させる』と発言し、その直後にアメリカがレンドリース法(武器貸与法)を成立させたとき、プーチンの『孤立感』は深まったはずだ」。
独仏伊は「ウクライナの勝利を恐れている」
それが一転、自信を取り戻した理由として、ピオントコフスキー氏が指摘するのはイタリアやフランス、ドイツが示す「融和」の動きだ。例えばイタリアは5月20日、停戦と国連監視団による非軍事化、EU加盟は認めるがNATO加盟は想定しないという条件でのウクライナの「中立化」、などを柱とする4項目の調停案を単独で国連に提出した。また、フランスのマクロン大統領は仏メディアのインタビューに対し、「戦闘が終結した際に外交的な手段を通じて出口を築けるよう、ロシアに屈辱を与えてはならない」と訴えた。
ピオントコフスキー氏はこうした動きを激しく批判する。「マクロンは『プーチンの顔を立てる解決策を見出すべきだ』と言い出し、ウクライナに領土面での譲歩を迫った。それにイタリア、ドイツも同調した。欧州の中では独仏伊はプーチン側に立ったと言える。この弱腰な言動が、この1カ月でプーチンをこれほど強気にさせてしまった」
ピオントコフスキー氏はこれら「古い欧州の国々」は、ウクライナがこの戦争に勝利することを、実は恐れているのだ、とも語る。「戦勝記念日の後、マクロンやショルツ(独首相)たちはウクライナが本当に勝利するかもしれないと怖れ、『プーチンの顔を立てる』というキャンペーンを始めた。ウクライナが勝つと、戦争後の国際秩序の中で、独仏伊はこれまでの居心地の良いポジションを失いかねない。この数十年間、フランスとドイツはクレムリンと西側の『取り次ぎ役』を務めてきたからだ」
ピオントコフスキー氏は、第二次大戦中、ナチスに占領されてヒトラー寄りの政権を作り、終戦時には大国の地位を失っていたにもかかわらず、スターリンによって第二次大戦の「戦勝国」に引き立てられたフランスの鬱屈した立場について述べ、「『偉大なるフランス』はこの70年間、アメリカとクレムリンの間の仲介役にとどまっていただけではないか」と手厳しい。
「融和」姿勢にはウクライナも猛反発
ドイツについてはこう述べる。「ドイツはもっと現実主義に徹し、経済を最優先した。クレムリンとの特別な関係を自国の経済発展に利用した。『ノルドストリーム2』などのガスパイプラインを見ればわかるだろう。もちろんプーチンのロシアが崩壊することで、ロシアの巨大な政治空間が小さな地域に分裂し、核兵器の管理が困難になることや、大量の難民がヨーロッパに流入し、混乱と飢餓をもたらすことも恐れているが、独仏伊の第一の動機は自分たちの立場を死守することだ。イギリスとアメリカはこれに対抗しているが、米国内にもキッシンジャー(元国務長官)のように調停派がいる」
5月19日、米国の有力紙『ニューヨークタイムズ』が、米国やNATOができる財政、武器支援にも限界がある、2014年に奪われた領土を回復するような決定的な勝利を収めると考えるのは非現実的だ、ウクライナは領土の一部をあきらめる決断も視野に入れるべきだ、とする社説を掲載した。これに対してウクライナ側は「暖かい部屋でコーヒーを飲みながら世界の問題を考えるのは快適だろう」と皮肉ったうえで、「もしいま領土面で譲歩したら、ロシアは数年後にはまたウクライナへ侵攻し、さらに領土を占領し人を殺すだろう」と反論、あくまでも戦場で勝敗を決する決意を示した。そして独仏伊が「融和」姿勢を示すのは、それぞれがロシアにエネルギー資源を大きく依存しているためで、自国の利益を最優先している、と批判したのである。
ピオントコフスキー氏は、「ニューヨークタイムズ」の社説は米国内の調停派による論説だと見ている。
古いヨーロッパと新しいヨーロッパの対立
ピオントコフスキー氏は「欧州の分断」についてこう述べる。「独仏伊はNATO各国のウクライナ支援を麻痺させている。英、ポーランド、バルト三国、ルーマニア、スロバキアなどは、はるかに真剣にウクライナを支援しようとしている。古いヨーロッパと新しいヨーロッパの違いだ。プーチンのような人間は、戦場で決着をつけるしかない。ウクライナ軍に早急に最新鋭兵器が供給されることを願っている。しかし、この供給の遅れを解消するには、ジョンソン英首相が音頭を取って欧州の新しいイニシアチブを確立するしかない。ポーランドやイギリスは直接、戦争に関与する用意があることを表明している。イギリスはなぜこれほど強くウクライナを支援しているのか。それは、プーチンに立ち向かって孤軍奮闘するウクライナが、ヒトラーと戦う1945年のイギリスと二重写しになっているからだ」
折しもピオントコフスキー氏が批判の矛先を向ける独仏伊の首脳が「16日にウクライナの首都キーウを訪問すると」ドイツ紙が報道した。NATO加盟国による支援だけでなく、ウクライナの早期EU加盟へのネックとも言われる3カ国が、どんな回答を持って行くのか。
最後に、ピオンコオフスキー氏はアメリカにも苦言を呈した。「アメリカは正しい決定をするのだが、いつも遅い。もし、2カ月前にレンドリース法(5月9日成立)による兵器類が届いていれば、ウクライナはすでに勝利していただろう。もし半年前ならプーチンがウクライナに侵攻することはなかっただろう。戦局を左右するほどの数の兵器がウクライナ軍の前線に届くには、7月中旬まで待たなければならない」。
●「秘密主義」ゼレンスキーのせいで、米政府はウクライナの戦略を知らない  6/14
ウクライナへの武器供与を惜しまないアメリカだが、バイデン政権はウクライナ軍の作戦や損失について情報を共有されていないと、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が報じている。むしろロシア軍の戦略や戦死者数に関する情報のほうが確度の高いものを得ているという。
アメリカの「盲点」
ウクライナのゼレンスキー大統領はほぼ毎日、ロシアとの戦争についてSNSで情報を発信し、その拡散される動画には、西側諸国から供与された武器がどれほど有効に使われているか映し出されている。そうした武器を供与する側の米国防総省も定例会見で日々の戦況を伝えている。
だがこのようにウクライナとアメリカで情報が共有されているように見える裏で、実は米政府はウクライナの戦術や戦果、損失についてあまり情報を得ていないと、情報機関の高官らは指摘する。しかも、支援しているウクライナよりも敵対するロシアの軍事情報のほうが確度の高いものを得ているという。
米政府関係者によると、ウクライナ政府は機密情報や作戦計画の詳細をほとんどアメリカ側に伝えていない。ウクライナ政府関係者もアメリカにすべての情報を渡しているわけではないと認める。
もちろん米情報機関は、ウクライナを含むほぼすべての国の情報を収集している。だがアメリカのスパイ機関は一般的に、ウクライナのような友好国ではなく、ロシアのような敵対的な国に焦点を合わせてきた。
つまりロシアは過去75年間、米情報機関にとって最優先事項であったが、ウクライナに関しては、同国をスパイするのではなく、その情報機関を強化してやることに力を注いできた。その結果、ある種の「盲点」が生まれてしまったと、元米政府関係者たちは指摘する。
「ウクライナがどうなっているのか、私たちは本当にどれくらい把握しているのでしょうか」と元情報機関高官のベス・サナーは言う。「ウクライナは何人の兵士を失い、どれほどの装備を失ったか、自信を持って言える人がいるでしょうか」
ウクライナの軍事戦略や状況を完全に把握していないものの、バイデン政権は高機動ロケット砲システムのような最新兵器の供与を推し進めている。
その一方で国家情報長官のアブリル・ヘインズは5月、上院の公聴会で、ウクライナがあとどれだけ援助を吸収できるか「見極めるのは非常に困難だ」と証言。さらに「我々はおそらくウクライナよりもロシアに関する知見を多く持っている」と言い添えた。
米国防長官にも教えない
アメリカはウクライナに対し、ロシア軍の位置情報をほぼリアルタイムで提供しており、ウクライナ側は作戦や攻撃の計画、防衛の強化にその情報を利用している。
しかし、マーク・ミリー統合参謀本部議長やロイド・オースティン国防長官とのハイレベルな会話でも、ウクライナ側は戦略目標だけを話し、詳細な作戦計画を共有しない。ウクライナの秘密主義により、米軍や情報当局はウクライナで活動する他の国々から、そしてゼレンスキーの公式コメントから、できる限りの情報を得ようとしていると、米政府関係者らは明かす。
ゼレンスキー政権は、国民に対しても友好国に対しても、強いというイメージを植え付けたいと考えていると、米当局者たちは言う。ウクライナ政府は、弱気になっていることを示唆するような、あるいは勝てないかもしれないという印象を与えるような情報を共有したくないのだ。
要するに、ウクライナはアメリカをはじめ西側諸国のパートナーに武器供与の流れを遅らせるような情報を提示したくないのである。
もちろんウクライナの秘密主義の背景には、軍事戦略や作戦計画を他国と共有すれば、どこかで漏れて、その情報をロシアが知り得ることになるかもしれないという懸念があるだろう。
ただ、その慎重なウクライナ政府が、アメリカから共有された情報の取り扱いについて必ずしも慎重を期しているとは言い切れない。4月、アメリカのオースティン国防長官とアントニー・ブリンケン国務長官がキエフを訪問した際、迎えるゼレンスキー大統領は事前に公表したが、米当局は実は極秘訪問にしておきたかったのだ。
●ウクライナ、侵攻で耕作地4分の1喪失 食糧安保には影響なし 6/14
ウクライナのタラス・ビソツキー(Taras Vysotskiy)農業食料第1次官は13日、ロシアの侵攻で南・東部を中心に耕作地の4分の1が失われたとの見方を示した。ただ、国内の食糧安全保障は脅かされていないと語った。
ビソツキー氏は記者会見で「耕作地の25%が失われたが、今年の作付け規模は(国内食料需要を満たすのに)十分すぎるほどだ」と述べた。
ビソツキー氏によると、数百万人の国民が戦闘を逃れて国外に避難したため、国内の食料需要は減少している。
国際移住機関(IOM)と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、国内避難民は推定700万人超、国外に逃れた難民は730万人超に上る。
ビソツキー氏は、ロシアに広大な土地を奪われたにもかかわらず「作付け状況を見れば、国内の食糧安全保障を脅かすものとはなっていない」と語った。
同氏は、ウクライナでは「戦争が始まる前に農業従事者が作付けの準備をほぼ済ませていた」と指摘。さらに、2月時点で「肥料の必要量の約70%、病害虫防除用品の約60%、(作付け用の)燃料の約3分の1を輸入していた」と説明した。
国際NGOの世界資料センター・ウクライナ(World Data Center-Ukraine)によると、ロシアの侵攻を受ける前、ウクライナの耕作地は3000万ヘクタール超だった。
一方、国連(UN)は、ロシアの侵攻の影響で世界で数千万人が食料不足に直面し、栄養失調や飢饉(ききん)が起きる恐れがあると警告している。
●ウクライナ 支援国がベルギーで会合 兵器不足の窮状訴えへ  6/14
ロシア軍はウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握に向けて激しい攻撃を続け、激戦地となっているセベロドネツクでは、街の中心部につながる橋が破壊され、包囲されるおそれがでています。こうした中、15日にはウクライナを支援する国々がベルギーで会合を開く予定で、ウクライナからは国防相が出席し、兵器が不足している窮状を訴えるものとみられます。
「ロシア軍の作戦の中心 セベロドネツクへの攻撃」
ウクライナ東部ルハンシク州で、ウクライナ側が拠点とするセベロドネツクをめぐってハイダイ知事は14日「砲撃が続き、工場などが破壊され、死傷者がでている」とSNSに投稿しました。
また、イギリス国防省は14日「ロシア軍の作戦の中心は、セベロドネツクへの攻撃だ」とする分析を公表しました。
セベロドネツクをめぐっては、街の中心部につながる3つの橋がすべて破壊され、市民が避難できないままロシア軍に包囲されることが懸念されています。
こうした中、15日にはベルギーの首都ブリュッセルでウクライナを支援する関係国が会合を開く予定で、アメリカのオースティン国防長官は、ウクライナのレズニコフ国防相と現地で直接、会談する考えを示しています。
これを前に、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は13日「りゅう弾砲1000門、戦車500両、ドローン1000機などが必要だ」とSNSに投稿し、この会合をきっかけとして、ウクライナへの軍事支援が加速することに期待を示しました。
ウクライナ側としては、支援会合で兵器や弾薬が不足している窮状を訴え、軍事支援の強化を求めるものとみられます。
●ウクライナの影響、ブラジル企業の半数以上が「原材料調達コストが上昇」 6/14
ブラジル全国工業連盟(CNI)は6月1日、特別調査第84号「原材料不足とウクライナでの戦争(ESCASSEZ DE INSUMOS E A GUERRA NA UCRÂNIA)」を公開した。調査時期は4月1日から12日。回答企業数は2,216社。
「事前に予測した原材料の調達コストと比較した現状」との問いに対し、「国内での原材料の調達コストが予想より上昇した」と回答した企業の割合は、鉱業と製造業に分類される企業(1,814社)のうち71%、建設業に分類される企業(402社)のうち73%だった。製造業の企業の中で、国内での原材料価格が上昇した品目は「ゴム製品」との回答が86%、「バイオ燃料」が83%、「冶金(やきん)」が80%、「輸送機器(自動車など)」が80%だった。
「輸入による原材料の調達コストが予想より上昇した」と回答した企業の割合は、鉱業と製造業に分類される企業(1,814社のうち輸入に関わる企業のみ)のうち58%、建設業に分類される企業(402社のうち輸入に関わる企業のみ)のうち68%だった。製造業の企業の中で、具体的に輸入による原材料の価格が上昇した品目は「バイオ燃料」との回答が100%、「ゴム製品」が94%と上位だった(注1)。
原材料の調達コストが国内調達と輸入の双方で上昇した「バイオ燃料」について、サンパウロ大学農学部(ESALQ)の応用経済研究所(CEPEA)は3月7日、同日付の公式発表で「ロシア・ウクライナ間の紛争で、ウクライナからのヒマワリ油の輸出量が減少したことなどを受け、代替となる大豆油の価格が上昇した」と説明した。また「石油価格が上昇することは、大豆油を原料とするバイオディーゼルへの需要を喚起することになり、国内のバイオディーゼル価格が上昇する」と分析している(注2)。
「ゴム製品」については、ブラジルゴム技術協会(ABTB)が3月11日付公式サイトで、タイヤの強度を高めるカーボンブラックの原料供給地であるロシアで物流やサプライチェーンに関わる企業がオペレーションを停止したことで「原料供給が難しくなりかねない」との懸念を示していた。
CNIのマリオ・セルジオ・テレス経済部長は「ウクライナ・ロシア間の紛争や、ロシアへの経済制裁措置などで、サプライチェーンの問題が顕著となった。国際的な物流網に障害が生じたほか、原材料やエネルギー供給そのものもネックとなり、原材料入手の遅れや価格の上昇につながっている」と説明している(6月1日付CNI公式サイト)。
(注1)国内での原材料価格については全ての企業(2,216社)が回答し、輸入による原材料価格については「原材料の輸入に関わる」企業(詳細な企業数は公開されていない)のみが回答。
(注2)サンパウロ大学農学部(ESALQ)の応用経済研究所(CEPEA)は大豆油の価格上昇について、ウクライナからのヒマワリ油の輸出量減少に加えて、インドネシアでのパーム油の不足も1つの要因と述べている。
●「投降するか、死ぬか」 親ロ派 “最後の拠点” 橋を全て破壊され… 6/14
ウクライナ情勢です。東部ルハンシク州の「最後の拠点」セベロドネツクでは、化学工場に子どもを含む500人の市民が避難しているとされますが、ロシア側の激しい攻撃が続く中、退避は困難な状況とみられます。
そこかしこから煙が上がるセベロドネツク。衛星写真では、隣接するリシチャンシクと結ぶ橋が損傷しているのがわかります。ルハンシク州のガイダイ知事は13日、こうした橋のすべてが破壊されたと明らかにしました。
また、セベロドネツクの化学工場には子ども40人を含む500人の市民が残っているということですが、退避ルート設置の合意には至っていないとしていて、逃れるのは困難な情勢とみられます。
ウクライナ 軍参謀本部 報道官「敵はセベロドネツクで攻撃を行い、一部成功を収め、我々の軍を町の中心部から退けた」
戦闘は続いているということですが、ルハンシク州の隣ドネツク州を一部支配する親ロシア派の幹部は。
親ロシア派「ドネツク人民共和国」幹部「セベロドネツクに残っているウクライナ軍は永遠にそのままだ。選択肢は2つ。仲間のように投降するか、死ぬかだ」
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領はセベロドネツクを含む東部ドンバス地方での戦いが、厳しい情勢だと強調。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「ドンバスでの戦いはヨーロッパにおける、そして欧州にとって最も残忍なものとして軍事史に残るだろう」「この戦いの代償は非常に大きい」としながらも、「十分な数の近代的な兵器だけがドンバスへの拷問を終わらせることができる」と訴え、さらなる支援を求めています。
●スペイン、発電用ガス価格に介入、インフレの抑制実効策と期待 6/14
スペイン政府は6月14日から、発電用の天然ガス価格に1メガワット時(MWh)当たり40ユーロの上限価格を導入する。介入期間は2023年5月末までの1年間で、7カ月目以降は段階的に上限価格を引き上げ、最終的に予想市場価格(70ユーロ)に収める。ポルトガルも同様の価格介入を実施する。
この介入措置は、3月下旬の欧州理事会(EU首脳会議)で、EU電力市場におけるイベリア半島の特殊性が認められたことに伴って策定し、欧州委員会が6月8日に実施を承認した。
スペインとポルトガルは再エネ発電の割合が高い一方、電力相互接続率が著しく低い。そのため、天候不良の際も隣国からの安価な電力輸入が困難で、天然ガスを燃料とするコンバインドサイクル発電などのバックアップ電源の稼働が必要となる。EU共通の電力の卸売価格決定システムでは、バックアップ電源が稼働すると、その価格が卸売価格となるため、両国はウクライナ情勢による国際ガス価格高騰による影響を特に大きく受けていた。
政府の試算によると、同措置により現在1MWh当たり200ユーロを超える卸売価格が同130ユーロ以下と、2021年夏の水準にまで抑えられる。また、規制電気料金ベースで15〜20%程度引き下げられると報じられている。ここ数カ月にわたり8〜9%台で推移するインフレの引き下げ効果も見込まれる。
財源は電力輸出収入と利用者への賦課金など
欧州委によると、今回の介入コストは63億ユーロ(ポルトガルと合わせて84億ユーロ)に上り、スペイン送電網管理会社がフランスとの電力融通で得る利益の一部や、恩恵を受ける利用者への賦課金などで賄われる。
スペイン政府は3月末以降、ウクライナ情勢に伴う影響に対する緊急対策の枠組みで、エネルギー価格高騰への対抗策を実施。ガソリンなど燃料価格の1リットル当たり0.2ユーロの割引措置に加え、電気料金引き下げのための減税継続や、電力高騰の恩恵を受けているとされる発電事業者(大型水力や原子力、再エネ発電など)の超過利益削減などの措置を取ってきたが、エネルギー相場の乱高下により効果は薄い。今回の措置は、電力料金を構造的にコントロールする措置として、実効性が大きく期待されている。
●独仏伊首脳、16日にキーウ初訪問か ウクライナのEU加盟議論も 6/14
独紙ターゲスシュピーゲルは14日、ドイツのショルツ首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのドラギ首相が、16日にロシアのウクライナ侵攻開始以降初めて同国の首都キーウ(キエフ)を訪れ、ゼレンスキー大統領と会談すると報じた。
欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は11日、ウクライナのEU加盟申請についての意見書を今週中にまとめる方針を示しており、今回の訪問でEU加盟について議論が行われる可能性がある。ルーマニアのヨハニス大統領も訪問に参加する見通しという。
●東部要衝が危機的状況 ロシア軍が投降要求―ウクライナ 6/14
ロシア軍の攻撃が続くウクライナ東部ルガンスク州の要衝セベロドネツクで、ドネツ川の対岸からの連絡路となっていた3本の橋が全て破壊され、ウクライナ側は危機的な状況に陥っている。同州のガイダイ知事は14日、「セベロドネツクの状況は著しく悪化している」と指摘し、ロシア軍が抵抗拠点の化学工場などに攻撃を続けていると表明した。
ロシア国防省は14日、化学工場から民間人を退避させるための「人道回廊」を15日に開設する用意があると発表。抵抗するウクライナ兵に武器を置くよう促し、事実上の投降を要求した。化学工場には子供を含む民間人約500人が避難しているとされるが、ロシア軍の砲撃が繰り返される中で身動きが取れず、危険な状態に置かれている。
一方、ロシア軍は川の対岸にあるリシチャンスクにも連日砲撃を行っており、住民の避難が続いているという。
ウクライナ軍参謀本部は14日、ロシア軍がセベロドネツク方面への部隊を増強させて「中心部での足場の強化を図っている」と分析した。ウクライナ軍の劣勢は兵器の不足が主な要因とみられており、ゼレンスキー大統領は13日夜のビデオ演説で「十分な数の最新の大砲」さえあれば、ウクライナはルガンスク州を含むドンバス地方で優勢を確保できると訴えた。
ポドリャク大統領府顧問は13日、榴弾(りゅうだん)砲や戦車などの追加支援が必要だと強調。15日にブリュッセルで予定されるウクライナ軍事支援会合で、各国が前向きな決定を下すことへの期待を示した。
●次々と市民が殺されても国連に止める力はない…ロシアの冷厳な現実  6/14
機能しなかった安保理の紛争解決システム
今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、誰もが心の底では理解しながら口に出して言うには躊躇を感じる、いくつかの冷厳な事実を改めて認識させることとなった。
それは第一に、結局のところ「力には力で対処するしかない」ということ。第二は「軍事大国に対抗するためには自ら軍事大国になるか、あるいは軍事大国を含む集団防衛体制の中に組み込まれるしかない」ということ。そして第三は「国連安保理常任理事国が何らかの形で関与する紛争に対して、安保理の紛争解決システムは機能しない」ということである。
米国もNATOも「部隊派遣は行なわない」と明言
今回の軍事侵攻が開始される以前から、米国のバイデン大統領もNATO(北大西洋条約機構)のストルテンベルグ事務総長も、ウクライナへの部隊派遣は行なわないと明言していた。これにはウクライナがNATO加盟国でない(よって防衛義務がない)という形式論だけではなく、米国や欧州の世論がそれを受け入れないであろうとの判断、及びロシアとの直接対決のエスカレーション・リスクの予測が困難であることが背景にあったと思われる。
3月中旬の時点でポーランドが行なった、MIG-29S戦闘機等をドイツの米軍基地経由で(要するに米国が提供する形で)ウクライナに供与するとの提案も米国は拒否した。このときバイデン大統領はその理由として、「攻撃的兵器や米国軍人のパイロットを含む航空機や戦車を投入すること」は「第三次世界大戦」になりかねない、との懸念に言及していた。
世界の非軍事大国が突きつけられた現実
攻撃型兵器の供与を含め、米国のウクライナへの関与の仕方はのちに少しずつ変化していくのであるが、戦闘開始の頃のこの発言はウクライナのみならず、おそらく世界の非核保有国にとって、なかんずくロシアの脅威を感じている非NATO加盟国、さらには中国の脅威を感じている国々にとっても、衝撃であったに違いない。
要するに、ロシアあるいは中国のような軍事大国から脅威を受けたとき、米国は部隊派遣によって助けることはしない、換言すれば自分たちで何とかせよ、ということを言っているのだから。このことはこれらの国々に対し、NATOのような集団防衛機構への加盟を急ぐか、あるいは自身の軍事力を強化するしかないと改めて確信させることになったであろう。
しかしながら他国から攻撃を受けたならば、まずは自分で戦えというのは特別のことを言っているのではなく、至極当然のことなのである。
問題の本質は、要するに力に対しては力で対処するしかないという単純な事実に、多くの国がはたと気づいたということである。
しかも力による現状変更は、時として全く合理的な計算なく行なわれることがある。今回のロシア軍による軍事侵攻について、多くの識者が合理的計算の上に立てばウクライナ全土の制圧は目指さないだろうと考えていたが、プーチン大統領の判断は異なっていた。この点、当のウクライナも間違っていたかもしれない。
実際、この事実は人類の歴史を見れば明らかなのであるが、多くの人はこの問題を直視することなく現在の相対的な安定を享受することに慣れてしまっていた。
「衛星国」の犠牲の上に成り立っていた平和
ウクライナが直面している問題を地政学的観点から見れば、大国と大国あるいは国家ブロックの狭間に位置する国の安全は、いかに確保されるのかという問題である。
冷戦時代、東ヨーロッパ諸国はソ連の「衛星国」となって、客観的にはソ連の「緩衝地帯」としての役割を果たしていた。これにより第二次大戦後の欧州は確かに安定し、大規模な戦争は起こらなかった。しかしながら、その実態はこれら「衛星国」の犠牲の上に成り立った安定であったのである。
東ヨーロッパ諸国は自ら好んで「衛星国」になったわけではない。彼らがこれを本来望んでいなかったことは、ハンガリー動乱、プラハの春、さらには1989年のベルリンの壁崩壊の経緯を見れば明らかである。
ロシアが達成を狙う戦略目標とは何か
今回、ロシアがウクライナに対して突きつけている要求は、まさにロシアの「緩衝地帯」になれということである。今後、もしロシアが黒海沿岸地帯等を確保し、その上で仮に一旦戦闘が収まったとしても、ロシアが考える自国の安全保障はそれによっては完成しない。ウクライナを「緩衝地帯」にする、換言すれば「ウクライナを支配下におく」という戦略目標を達成するまで、いずれまた攻撃を仕掛けてくるであろう。
このような侵略が段階的に行なわれ、その都度、既成事実を積み重ねていけば、ロシアはいずれその戦略目標を達成することになる。それで戦争が終結すれば、欧州には再び相対的な安定が訪れるだろう。ただそれは、冷戦時代に東ヨーロッパ諸国の犠牲の上に成り立っていた安定が、今度はウクライナ、あるいは場合によってはさらに他の旧ソ連諸国等の犠牲の上に成り立つ安定に代わるということに他ならない。
日本にも突きつけられている深刻な課題
我々はこのようなプロセスを許し続けるのだろうか。冷戦時代の安定を学術的に論じるとき、「緩衝地帯」と呼ばれた地域にも主権をもつ国々があり、そこには大国と同じ人間が住んでいて、自由を享受すること、家族をもって毎日を幸せに過ごすことを願うごく普通の人たちが暮らしていたことを忘れてはならない。
今回の軍事侵攻に端を発する戦争の結果、ロシアが支配地域を拡張した上で一旦戦闘が収まるような場合はもちろん、ウクライナがロシア軍を撃退して暫定的にせよ停戦が実現する場合であっても、いずれにせよ数えきれないほどの何の罪もないウクライナの人々の犠牲の上に立った停戦にしかならない。
このようなことを許さないとすれば、我々は何をすべきなのか。これは日本にも、どの国にも突きつけられているもっとも深刻な課題であり、決して欧州に限定されるものではない。
非核保有国の選択肢は2つしかない
我々の目の前にある単純な事実は、ロシアは核大国であるのに対し、ウクライナは非核保有国で、かついかなる軍事同盟にも属していないということである。ウクライナが核兵器をもつか、あるいはNATOに加盟していたならば、状況は全く異なるものであったろうことは誰でも分かる。
要するに核保有国から恫喝を受ける可能性のある、非核保有国が自国の安全を確保するためには、自ら核保有を含む軍事大国になるか、あるいは同盟・集団安全保障機構の中に位置づけられることを求めるか、のいずれかしかない。魔法のような選択肢は存在しない。
これはウクライナに固有の問題ではなく、同様の地政学的環境の中に生きる国すべてに妥当するものである。
●ウクライナの穀物輸出問題 トルコが積極的に仲介 その思惑とは 6/14
ロシア軍の侵攻でウクライナの穀物輸出が滞っている問題を巡り、トルコが両国の仲介を積極的に続けている。両国と同様、黒海沿岸国であるトルコの思惑とは何か。
「次のステップについて、来週にも(両国と)協議することになるだろう」。トルコのエルドアン大統領は12日、トルコ東部の集会で問題解決に意欲をみせた。トルコはこれまでロシア、ウクライナ両国や国連と連携し、第三国の船が黒海でウクライナの穀物輸出船を護衛することを提案。輸送を監視する拠点を最大都市イスタンブールに設置するほか、ウクライナの港周辺に設置されている機雷の除去にも協力する方針を示している。
トルコは当初から、ロシア軍による侵攻に強く反対してきた。仮にロシアがウクライナを支配した場合、黒海でも圧倒的な影響力を持つことになる。歴史上、ロシアの軍事力に苦しめられてきたトルコにとって、安全保障面で大きな脅威となる。
トルコは1936年に定められたモントルー条約に基づき、黒海と地中海を結ぶボスポラス、ダーダネルス海峡の管理権を所有。ロシア軍が侵攻した2月下旬にはウクライナの要請に基づき、両海峡でロシアの軍艦の通行を禁止した。ただ条約上、外海にいたロシア艦船が黒海沿岸などに帰港することは阻止できず、効果は限定的だったとみられる。
その後、トルコは双方との良好な関係を生かして「仲介外交」を始めるとともに、穀物輸出問題に力を注ぎ始めた。輸出の停滞は、通貨リラの暴落で混乱が続くトルコ経済に悪影響を及ぼすと懸念されているからだ。
トルコは小麦の一大生産国だが、ロシアやウクライナからも多くの小麦を輸入し、パスタなどに加工して世界各国に輸出している。トルコの昨年のパスタ輸出量は130万トンで、世界有数の規模だ。トルコ農業・森林省は「今年の収穫時期までに必要な穀物は確保している」としているが、この問題の解決が長引けば影響は避けられない。
また、トルコは近年、アフリカ諸国と外交、経済関係を深めているが、穀物の輸出停滞は、両国産の小麦などに依存するアフリカ諸国の貧困を深刻化させる恐れがある。今回の仲介は、トルコにとってアフリカへの発言力を維持する意味合いもある。
一方、トルコにはロシアとの協力が必要な事情もある。エルドアン氏は今月1日、シリア北部のクルド勢力を排除するため、新たな軍事作戦の開始を示唆した。トルコは非合法組織に指定するクルド労働者党(PKK)とシリア北部のクルド勢力を同一視しており、クルド勢力からの攻撃を防ぐため、トルコ南部国境からシリア側30キロに安全地帯を確保しようとしている。作戦を実行するためには、シリアのアサド政権の後ろ盾となっているロシアの承認が不可欠だ。
イスラエルのシンクタンク「国家安全保障研究所」のガリア・リンデンシュトラウス上席研究員(トルコ外交)は「エルドアン氏は仲介外交を続けることでロシアの意向を把握し、国益に沿う解決策を導き出そうとしている」と指摘する。
●プーチン政権は終焉。ロシアの要人会議で上がる次期指導者の名前 6/14
6月12日の「ロシアの日」に行われた式典で、国民の結束の重要性を説くとともに、ウクライナ侵攻の正当性を改めて主張したプーチン大統領。両軍、そしてウクライナ市民に多数の犠牲者を出しながらも未だ出口の見えないこの紛争は、この先どのような展開を辿るのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、今後の戦況の推移を予測。さらにプーチン大統領の早期退任を証拠付ける2つの出来事を紹介しています。
プーチン戦争の目的は
ウクライナ東部での戦争は、ロシア軍の全勢力をセベロドネツクに投入して、把握を目指すが、ウ軍もここでの決戦が勝敗を左右するとして、撤退と見せかけて、ロ軍を誘い込み、叩く手法で互角に戦っている。
ドネツ川北側の高台のリシチャンスクからの砲撃も効果的であるが、M777榴弾砲も多数破壊されている。ロシア軍の203m自走榴弾砲の威力もすごく、その数が多いので、火力の面で負けている。
しかし、ウ軍撤退となり、ロ軍戦車部隊20BTG(大隊戦術群)はリマンなどに転戦して行き、その後、ウ軍は戻り市街戦に持ち込み、この戦いには砲撃ができないので、近接戦にウ軍はロ軍を誘い込み叩く戦術に転換している。これがある程度の効果を発揮している。だが、まだ激戦であり、勝敗の行方を見通せない状態である。
どちらにしても、ロ軍は、持てる力のすべてをつぎ込んでセベロドネツクと周辺を攻撃しているので、ルハンスク州を完全に取れないと、ロ軍は攻撃する体力がなくなる。相当な消耗になっているはずで、20BTGも実質は10BTG程度になっている。ウ軍も大きな犠牲を出しているようだ。
ロ軍は、とうとう戦車が不足して、T-64戦車主体のBTGをもセベロドネツク周辺に投入したようであり、T-72戦車もなくなってきたようだ。
反対に、ウ軍もTB2ドローンが撃墜されて、数が少なくなっているようであり、ロ軍203m自走榴弾砲の攻撃に使われていない。203m自走榴弾砲は、M777榴弾砲の射程外にあり、叩けないので、ドローンでの攻撃しかできない。ということで、スイッチブレードが使われているようだ。これらの操作のために外人部隊が投入されている。
そして、ウ軍の司令官は、砲門の不足が「悲惨なまでの状態にある」と訴えたが、火力という面では圧倒的な差がある。ウ軍1門に対してロ軍10門の比率だそうだ。
相当な榴弾砲の供与が必要であり、欧米各国は、旧式で廃棄予定の自走榴弾砲を大量にウクライナに供与するようであり、どんどん増強されるが、時間が問題になってきた。
ということで、ウクライナは、欧米諸国の兵器のゴミ捨て場であるが、ロ軍の兵器も同時代の古い兵器であり、十分対応できる。ということは、退役間近の米A-10攻撃機の供与もあるかもしれない。ドンドン、古い兵器でウ軍は増強されることになる。
ロ軍はセベロドネツクの住宅街を制圧したというが、TOS-1を住宅地に入れ、サーモバリック弾や焼夷弾で住宅地を完全破壊している。精密誘導ができないために、焦土作戦でしか市街地を制圧できないことによる。このため、ここでは近接戦ができないので、ウ軍は撤退して、市街地と工場地帯で戦っているようだ。
どちらにしてもロ軍のTOS-1や203m自走榴弾砲の無力化が急がれる状況であり、逆にロ軍はM777榴弾砲の破壊を急いでいる。この戦況で、ウ軍は、M142高機動ロケット砲(HIMARS)」が必要であり、ロ軍の203m自走榴弾砲を叩くためにリシチャンスクに置くことで、戦況は大きく劣勢なウ軍に傾くことになる。ウ軍は提供の早いHIMARSの到着を待って、総攻撃に出るようである。
それまでは、両軍ともに、持てる力をセベロドネツクに持っていくので、他地域の進展は進んでいないようだ。
ただ、ロ軍は、防空兵器もセベロドネツクに集めたことで、TB2ドローンは、ドネツ川湿地帯での戦闘では、有効に機能しているようであり、ドネツ川を挟んだ地域での戦闘に使用しているようだ。
南部での戦いは、ウ軍が大きく前進している。しかし、ウ軍も主戦力をここからポパスナ地域のロ軍への対応のために転戦しているので大きくは動けない状態のようである。
一方、ロ軍は、要衝のイジュームや交通の要所クビャンスクで要塞を建設して、攻撃から防御に転換している。この方面では徐々に南下していたロ軍は、要塞まで撤退を開始することになる。
プーチンは、6月12日の「ロシアの日」に勝利宣言する予定であり、10日までにセベロドネツクの完全な制圧をロ軍に命令したが、現状ではできていない。しかし、ルハンスク州の98%を支配下にしたので、勝利宣言をする可能性もある。しかし、再度、6月22日までにセベロドネスク制圧の命令が出たという。
しかし、ロシア国内では、ウ軍発表の3万1,000名のロシア軍戦死者より多い戦場行方不明者数が4万1,000名にも達しているようであり、家族からの問合せがロ軍やプーチン政権にあり、その対応を間違えると、国内の反戦につながるので、そろそろ停戦が必要になっている。
もし、これが本当なら、負傷者数は約3倍であるから、16万人が戦闘不能になっている。開戦当初の侵攻兵力15万人より多いことになる。これは、ロシア軍崩壊の手前であろう。
このため、国家親衛隊の犠牲者には500万ルーブルの慰問金が出るようであり、戦場には送らないとした徴集兵を戦場へ送ったことで、複数の将軍が取り調べを受け解任されているなど徐々に問題化してきている。
ということで、ラブロフ外相は、停戦開始を求めて、トルコに行き、エルドアン大統領に仲介を要請している。この見返りとして、ウクライナの港湾封鎖を解除して、穀物輸出ができるようにするというが、ゼレンスキー大統領は、戦争継続の方向である。2月24日の線まで押し戻すという。また、ロシア海軍の攻撃を防いでいる機雷除去もしないという。
その代わり、ウクライナの穀物は、ルーマニアまで鉄道輸送し、ルーマニアの港から輸出する方向で、検討されているようだ。
どうも、プーチン政権末期となり、ロシア国内では、ポスト・プーチンを誰にするのかの会議が開かれて、キリエンコ氏、メドベージェフ氏、ソビャニン氏とパトルシェフ氏などの名前が出ているようであるが、コバリョフ氏の名前はないようで、プーチンの思い通りにはならないようである。
そして、事実がプーチン退任の方向を示している。例年6月に行われる国民対話もなく、4月に出される年次教書も議会に発表していない。プーチンの病気か軍とFSBの不満からか、先は長くないようだ。
一方、ロシアは、戦争ではないので、国民皆兵の徴集はできないで、兵員不足が深刻で、これ以上の攻撃ができない。装甲車も不足して、倉庫から古い兵器を出してきている。全体的には、攻撃から防御に転換するしかない状態である。
そして、プーチンは、この特別軍事作戦は、ピュートル大帝の偉業と同じことであると本音を明らかにした。どうも、ウクライナは自国の領土であり、そこの政府は主権がない存在であり、ロシアの自由にできるということのようだ。国と認めていないので、戦争ではないということだ。
このように、専制国の指導者は、取巻きの汚職などで国内経済活性化ができないので、領土拡大しか希望がないことで、どうしてもこうなるのである。これはロシアだけではなく、中国も同様である。
今後、ウ軍の装備は、レオパルト2A4などの戦車、各国からの155m自走砲、MQ-7の攻撃ドローン、F-16Vの戦闘機などNATO仕様の兵器が欧米から供与されて、徐々にロシア軍の装備を仰臥することになる。攻守の逆転が起きる。
ウ軍がロ軍陣地を攻めることになる。しかし、敵の陣地に攻撃する場合は、戦死者数が大幅に増加してくることが想像できる。
このため、戦死者を少なくする兵器の供与を米国に依頼するし、米軍は研究開発中の最新AI兵器を戦場での実験という位置づけで、供与することになる。ウクライナが、米AI兵器実験場になる。犠牲者はロ軍の兵士で、ロシアは完全に負ける。AI兵器が今後の戦場での主役になる。
しかし、ウ軍としても、短期決戦が必要になる。その後、停戦しないと、資金の枯渇と、民間人と軍人の死亡者数が大きくなるからだ。
もう1つ、心配なのが、米国民主党内中道派と左派でウ軍援助に対して論争が起き、否定的な意見が出てきたことである。このため、ウクライナ担当のヌーランド国務次官が長期に休職していると言う。
このため、米国も早期に停戦が必要という考え方になる可能性がある。左派は、ウクライナ支援のお金を貧困対策に使うべきだということのようである。もう1つに、米国の本当の敵は中国であり、ウクライナへの関与で、中国への経済的な制裁や軍備を弱める動きに反対する人もいることである。
共和党のトランプ派とペンス氏の主流派と同じような議論が民主党内でも起きてきている。
さあ、どうなりますか?
●ロシア、広範なウクライナ領掌握が目標 達成は困難=米国防次官 6/14
米国のコリン・カール国防次官は14日、ロシアのプーチン大統領はウクライナ全土ではないとしても、広範な地域の掌握を引き続き目指している公算が大きいとの見方を示した。ただ、こうした目標の達成は困難で、プーチン氏は戦術目標を狭めざるを得なくなっていると指摘した。
カール次官はシンクタンクの新アメリカ安全保障センター (CNAC)が主催したイベントで「プーチン大統領は全土ではないにせよ、かなり広範な領土の掌握を目指していると見ている」と指摘。ただ、ウクライナは持ちこたえているとし、「ロシアにこうした壮大な目標を達成する能力があるとは思えない」と述べた。
●経済崩壊寸前のロシア、止まらぬ若年層の頭脳流出=@6/14
ウクライナ東部を徹底攻撃するなど長期戦の構えを見せるロシアだが、自国の経済は崩壊寸前だ。国内消費の大幅な落ち込みや富裕層マネーの資金逃避が進み、若者の「頭脳流出」も止まらない。ウラジーミル・プーチン大統領の20年余りの長期政権の基盤ともなった経済の繁栄は、プーチン氏自身の手で終焉(しゅうえん)しつつある。
国際金融協会(IIF)は8日に公表したリポートで、ロシアの経済成長率が今年が15%減、来年も3%減になると予測した。ロイター通信が報じた。
2月のウクライナ侵攻開始以降、西側諸国が経済制裁を実施したほか、仏自動車大手ルノーや、米マクドナルド、スターバックスなど西側企業が相次いで撤退。輸出も減少し、ITや医療、金融などの分野で高度な技術・知識を有する若年層が数十万人規模で「頭脳流出」しているという。
内需の落ち込みは深刻だ。象徴的なのは、4月の新車販売台数が前年同月比78・5%減となったことだ。露経済紙「コメルサント」(電子版)は、財務省のデータをもとに消費を反映する付加価値税の4月の税収が前年同月比54%減となったと報じた。
新興国経済に詳しい第一生命経済研究所の西濱徹主席エコノミストは「ロシアは貿易統計の公表をとりやめるなど、実態をつかみにくくなっている。外資の撤退による雇用の悪化や、物価上昇による購買力の低下で家計部門は厳しく、景気の下押しにつながる材料は山積している。消費が落ち込むと企業も雇用や投資が難しいという悪循環になっている」とみる。
プーチン氏は「欧米の経済制裁は失敗した」と主張してきた。原油や天然ガスなどのエネルギー輸出で過去最大の経常黒字を記録し、一時は暴落したルーブルは反発した。だが、国内経済の疲弊は隠しきれない。
侵攻直後に政策金利を20%まで引き上げたロシア中央銀行はその後、引き下げを繰り返した。今月10日には9・5%とウクライナ侵攻以前の水準に戻すことを決めるなど景気テコ入れに必死だ。
レシェトニコフ経済発展相も国営ラジオ・スプートニクの番組で、「需要危機」にあり、人々や企業が十分な資金を費やしていないとの認識を示した。
「経常黒字でマクロ的には『カネ余り』の状態にあるが、ロシアは金融機関を介して市中に資金を回す金融仲介能力が乏しく、実体経済に還流しにくい」と西濱氏。
欧米は経済制裁を強めている。欧州連合(EU)はロシア産原油を年末までに約9割禁輸することで合意したが、新たにロシア産原油を運搬する船舶の新規保険契約の即時禁止も打ち出した。ロシアの稼ぎ頭である原油が海上封鎖≠ウれる恐れがある。
西濱氏は気になる動きとして、「トルコの1〜3月の国内総生産(GDP)はロシア人富裕層の不動産投資によって押し上げられている。ロシア人富裕層が国内に資金を留めず、海外に逃避する動きを活発化させている可能性がある」と指摘する。
ウクライナ侵攻をめぐっては、国内でも「長期化」するとの意見が多い。露独立系調査機関「レバダセンター」が5月に実施したロシア国内の18歳以上約1634人を対象とした世論調査で、「特別軍事作戦」がいつまで続くかとの問いに「6カ月以上から1年」または「1年以上」とした回答は計44%だった。
ロシア事情に詳しい筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「国内でも政府の歳入不足が長く続き、戦費を増税で切り抜けるのではないかとの見方もあるが、しわ寄せを受ける国民の我慢も限界に近くなるだろう」と分析する。
前出のIIFのリポートでは、今回の侵攻を機に15年にわたるロシア経済の拡大が、消し飛ぶとの見方を示している。
中村氏は「プーチン政権の初期には、天然資源の高騰によりロシアが初めて消費文明を享受した時期もあった。IT分野の革新創出などを目指した経緯もあるが、ウクライナ侵攻で『新しい経済』の創出は不可能になった。軍事大国という柱も崩れたプーチン氏はレガシー(遺産)を築けず、自ら首を絞めた形だ」と語った。 

 

●ウクライナ戦争でのロシアの軍備…たどってみれば欧州と米国が「金づる」 6/15
ウクライナ戦争開始以降、米国や欧州などがロシアの石油や石炭などの輸出に対して制裁を科しているが、国際原油価格の高騰により意図した効果が上がっていないことが調査で分かった。
フィンランドのシンクタンク「エネルギー・クリーンエア研究センター(CREA)」は13日(現地時間)、『プーチンの戦争資金調達:侵略の最初の100日間のロシアの化石燃料の輸入』と題する報告書を発表した。この中でCREAは、ロシアが2月24日から6月3日までの開戦からの100日間で石油、天然ガス、石炭などの化石燃料の輸出によって930億ユーロ(125兆ウォン)を稼いだと明らかにした。比率は原油と石油製品が63%、天然ガスが32%、石炭が5%。
ロシア産の化石燃料の主な輸出先は依然として欧州連合(EU)加盟国で、全体の61%を占めた。EUは先日、年末までにロシア産の石油の輸入を90%削減することを決めるなど、強力な制裁を約束しているが、まだ効果は現れていない。ウクライナの経済担当大統領顧問を務めるオレグ・ウステンコ氏は「ニューヨーク・タイムズ」に対し「我々はプーチン大統領とその戦争機械の資金源を断ってほしいと全世界に訴えているが、効果が現れるまでに長くかかりすぎている」と述べた。
化石燃料の輸出で得た「莫大な収益」は、ウクライナを侵略したロシアが戦争を遂行するための重要な資金源となっている。国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシアが石油と天然ガスの輸出で稼いだ収益は、2021年のロシア政府の財政の45%を占めた。開戦後にロシアが化石燃料の輸出で得る収益は、ウクライナ戦争で使った資金を十分に賄って余りあると評価される。
ロシアの化石燃料輸出は、戦争初期の相次ぐ国際社会による制裁により、多少減少する気配を示していた。しかし、それに続くエネルギー価格の暴騰により、輸出量減少効果は直ちに相殺された。ロシアは制裁を回避するために、石油をインドなどに国際相場より30%ほど安く輸出している。それでもロシアの石油輸出の平均単価は昨年より60%高い。
米国と欧州はロシアのエネルギー輸出を防ぐために東奔西走しているが、ロシアにこれといった打撃を与えられずにいる。EUは開戦後、ロシア産天然ガスの輸入を23%減らしている。にもかかわらず、ロシアのガス供給企業「ガスプロム」の売り上げは、ガス価格の暴騰で1年前の2倍になっている。欧州はロシア産の石油輸入も5月だけで18%減らしている。しかし、代わってインドなどがほぼ同量を購入しているため、石油輸出総量は大きくは変わっていない。
米国は開戦初期にロシア産化石燃料の輸入を禁止した。だが、オランダやインドなどで精油処理されたものが、いわゆる「原産地洗浄」の効果を得て、何の制裁も受けずに米国に輸出されている。
●戦争を起こした張本人の支持率がなぜ上がる? 疎外されたロシア世論 6/15
前回、ロシア国民が「受け身」という実態を紹介した。消極的ではあるものの結果的にプーチン大統領を支持している。ウクライナ侵攻をやめさせるための日米欧の制裁がいくら厳しくても、その構造は簡単に揺るがない。それにしても説明が難しいのは、戦争を起こした張本人であるプーチンの支持率が、なぜ上向くのかということだ。
プロフィル写真にロシア国旗マークで対抗
通信の自由が制限されつつある中、筆者の元にはモスクワで何年間も付き合ったロシア人の友だちから「戦争反対」の叫びが届いた。第2次大戦のむごさを学校で教えてくれたおじいさんに「(過ちを)繰り返してごめんなさい」とSNSに記す人も。徴兵された10代の若者は「演習」と聞かされて「実戦」で命を散らし、兵士の母の会が調査に動いた。
もっとも、プーチンが直ちに玉座から追い落とされることにはならなかった。メディア弾圧や世論誘導は有効だが、それだけでは説明にならないだろう。サイレントマジョリティーが自発的、無意識的に支持している点は見逃されがちだ。
面白い現象がある。2月24日にロシアの侵攻が始まって以降、ウクライナ人だけでなく、世界中の多くの人がフェイスブックのプロフィル写真に青黄2色の「国旗マーク」を付けた。「戦争反対」と「ウクライナ支持」の印。これを見た普通のロシア人がどう反応したかというと、プロフィル写真にロシア国旗のマークを付け始めたのだ。
国際社会による批判の対象はプーチンとその政権。ノンポリの国民は積極的な政権支持者ではないのに、あたかも自分たちの価値観が攻撃されたように勘違いしたらしい。あるいは、ウクライナ人には世界中が同情するのに、ロシア人は「誰にも同情してもらえない」という疎外感が働いたのかもしれない。
外敵が現れれば、強いリーダーの周りに人々が寄り集まるのは世の常。欧米でも「戦時指導者」という言葉があるくらいだし、人気が急上昇したウクライナのゼレンスキー大統領も同じことだろう。
「自転車操業」のように脅威あおる
実際、プーチンの支持率は3月、前月比12ポイント増の83%に達した。4月も82%、5月も83%。政府系でなく、欧米が信用する独立系の世論調査機関の数字でこれだ。
クリミア半島併合時から「プーチン政権はあすにもなくなる」と言う識者が日本にいたが、ロシア国民は8年間の制裁に慣れている。経済が駄目になって人気に陰りが出そうになれば、プーチンはまた外敵の脅威を強調すればいい。悪循環だが「自転車操業」のように緊張をあおり、政権は持ちこたえた。国民向けの戦時プロパガンダについては次に触れたい。 ・・・
●ウクライナ戦争は「子どもの権利の危機」 ユニセフの地域責任者 6/15
国連児童基金(ユニセフ)欧州・中央アジア地域事務所のアフシャン・カーン代表は14日、米ニューヨークでの記者会見で、ウクライナの戦争は「子どもの権利の危機」だと訴えた。
カーン氏はこれに先立ち、ウクライナを訪問していた。会見では、同国の子どもたちの3分の2近くが国内外への避難を強いられていると指摘し、「子どもたちは家や友人、おもちゃ、大事な持ち物、家族を後に残すしかなく、将来の不安に直面している」と訴えた。
同氏は国連の数字として、戦争が始まってから277人の子どもが死亡、456人が負傷したと述べた。ウクライナ東部では、ユニセフが支援する学校の6分の1が損壊または全壊したという。
ウクライナ検事総長は子どもの死者が313人、負傷者が579人に上ると発表している。
カーン氏は、こうした数字が子どもの権利の危機を示していると強調。ユニセフは全国にいる子どもたちや家族の支援に努めていると語った。
人口の集まる地区や民間施設への攻撃を止める必要があるのは明らかだとして、即時停戦を改めて呼び掛けた。戦争が1日長引くごとに、子どもたちが受ける長期的、破壊的な影響は増大すると懸念を示した。
●バレ始めたウクライナ戦争のウソ。西側の国民に伝えられない侵攻の真実 6/15
西側諸国の軍事支援が奏功し、ロシア軍に対して一進一退、もしくはそれ以上の戦果を上げていると伝えられてきたウクライナ。しかし、実態はまったく逆との見方もあるようです。今回の無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』では国際情勢解説者の田中宇(たなか さかい)さんが、軍事・経済両面において現在はロシアの優勢で一段落しているとして、数々の「証拠」を列挙。その上で、西側諸国に偽情報が流される裏事情を暴露しています。
ロシア優勢。疲弊し限界に達しているウクライナ軍
2月25日の開戦から100日目の6月4日、ウクライナのゼレンスキー大統領が、ロシアに領土の2割を奪われた状態にあると表明した。ロシア系住民が多いウクライナ東部のドンバス2州(ロシアから見ると、すでにウクライナから分離独立したドネツクとルガンスクというドンバス2カ国)で、ロシア軍がウクライナ軍を大体追い出した。ウクライナ戦争はロシアの勝ちで一段落している。ロシア側は余裕があり、対照的にウクライナ側は軍が疲弊して限界に達している。軍を酷使するゼレンスキー政権と軍部の間に対立があると、ベラルーシのルカシェンコ大統領が指摘している。軍や極右民兵団は、ポーランドがウクライナ西部を事実上併合する件をゼレンスキーが了承していることにも不満だ。
    As Invasion Enters 100th Day, Russia Now Holds 20% Of Ukraine: Zelensky
    Ukrainian military at odds with Zelensky – Belarus
    同盟諸国とロシアを戦争させたい米国
ロシア側から見ると、露軍は正義の戦いに勝っている。米国が2014年にウクライナの政権を転覆して極右とすげ替え、極右民兵団などがロシア系住民を殺そうとする内戦に入って以来、ロシア政府は、ウクライナ在住の同胞(ロシア系ウクライナ人)を守ること(邦人保護)を重視してきた(ソ連時代の名残で、旧ソ連諸国の各地にロシア系住民がいる)。米国は昨年末から、ゼレンスキー政権を動かしてウクライナ東部のロシア系住民への攻撃を強めさせ、ロシア軍がウクライナに侵攻せざるを得ない状況を作り、2月24日の開戦を誘発した。露軍は100日かけてドンバスからウクライナ軍をほぼ排除し、首都キエフ(キーウ)周辺のウクライナ側の軍事施設も緒戦で破壊し、ドンバスのロシア系住民が安心して暮らせる状態をおおむね実現した。
    ウクライナ戦争で最も悪いのは米英
    ロシアは正義のためにウクライナに侵攻するかも
露軍はだいたい予定通り戦争(特殊作戦)を完遂している。露軍は大失敗しているという、いまだに続いている日本など米国側のマスコミ報道は大幅に間違っている。2週間ほど前、露軍がハルキウ市街から郊外へ撤退し、それはウクライナ軍が米国から届いた対戦車砲を使って露軍に反撃し始めたからだと言われた。これから露軍の敗退が加速し、ウクライナ軍が建て直して勝っていくとの憶測も流れたが、結局ウクライナ軍が奪還したのはハルキウ市街だけに終わり、他の場所は露軍が優勢のままだ。
    複合大戦で露中非米側が米国側に勝つ
    ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧
露軍は自国の国境から遠くない地域に展開しており、補給が簡単で敗北や困窮のリスクが少ない。露軍が飢えているという報道はウソだ。露軍港があるので2014年に併合したクリミアと、ロシア本土との間を陸地でつなぐことも達成した。あとは、南部の黒海岸のオデッサから、モルドバから分離独立して露軍が駐留している沿ドニエストルまでの地域を取るのかどうか、ハルキウやその先の対露国境に沿った北東部の地域を取るのかどうか、といったところが露軍の今後の展開の可能性だ。どう展開するにせよ、ロシアは急いでやらない。ロシアなど非米側と米国側の対立が長引くほど、米国側が自滅して覇権が多極化してロシアに有利になる。ロシアは今後もゆっくりやる。それを米国側マスコミが、ロシアは失敗していると勝手に勘違いし続ける。
    ノボロシア建国がウクライナでの露の目標?
    ウクライナで妄想し負けていく米欧
米政府は巨額の予算をつけ、ウクライナに大量の兵器を送り込んでいることになっている。送り込んだ兵器がどこでどう使われているか、本来は米国防総省が追跡して把握すべきなのだが、追跡はほとんど行われていない。国防総省自身がそれを認めている。ハルキウでウクライナ軍が米国から送られた対戦車砲を使って露軍を後退させたのであれば、少なくともハルキウでは米国からの兵器が使われたことになる。だが、他の場所で露軍が優勢なままなので、ウクライナ全体として米国からの対戦車砲はあまり使われていない感じだ。米国が膨大な兵器を送っても、一部しかウクライナで使われず、残りは兵器のブラックマーケットに流され、世界の他の場所でテロリストや犯罪組織に使われてしまうとインターポールが警告している。
    Weapons sent to Ukraine could get into wrong hands – Interpol
    Pressure Mounts On Pentagon Over Lack Of Oversight For Ukraine Weapons
米国側が兵器を実際にウクライナに送っているのなら、そこからウクライナ政府の腐敗した高官によってブラックマーケットに横流しされる懸念になるが、実際に兵器が送られておらず、国防総省の下請け会社や軍事産業で資金洗浄されて米国の政界や諜報界の裏金や横領金に化けている可能性もある。最近の記事でその可能性について書いた。
    米政治家らに横領されるウクライナ支援金
ウクライナ戦争の米国側は、プロパガンダの分野でもインチキが横行している。ウクライナ政府のデニソバ人権監督官(Lyudmyla Denisova)は、露軍兵士がウクライナで市民を強姦したり性的に残虐な殺し方をしているといった話を、4月の2週間に400件、米国側のマスコミに流し、米タイム誌などがさかんに喧伝した。だがその後、ウクライナのNGOが、露軍兵士に強姦された被害者たちの救援事業をやって米欧政府などから補助金や支援金を集めるため、デニソバ人権監督官の強姦話を一つずつ検証して被害者や家族など関係者に会っていこうとしたところ、具体的に検証していける話がなく、デニソバが話をでっち上げていたことがわかった。
    Ukraine Fires Own Human Rights Chief For Perpetuating Russian Troop ‘Systematic Rape’ Stories
加えてデニソバは、ウクライナ政府からロシアに行って捕虜交換の話をまとめてこいと言われたのに西欧に行って休養していたことも発覚し、NGOからの抗議を受けてウクライナ議会が調査し、5月31日にデニソバを罷免した。デニソバは辞めさせられたが、無根拠なのに無検証のまま報道したタイム誌など米国側マスコミは訂正記事も出さず、米欧日の多くの人がインチキな露軍強姦話を軽信したまま生きている。今回の戦争で米国側のプロパガンダづくりを担当している英諜報界がデニソバに入れ知恵した可能性があるが、デニソバがなぜ突然に大量の作り話をでっち上げて流布したのかも不明だ。
    Rape Allegations Against Russian Troops In Ukraine Were Fake
    Why Ukraine’s human rights chief Lyudmila Denisova was dismissed
開戦以来、ウクライナの優勢と露軍の惨敗という、事実と逆のことばかり報じてきた米国側のマスコミは、最近になってようやくウクライナ側が苦戦している事実を報じ始めた。NYタイムスは5月10日にウクライナ軍の苦戦ぶりを初めて報じた。5月26日にはワシントン・ポストが、外国から来た義勇兵と傭兵たちを酷使しすぎているウクライナ軍を初めて批判的に報道した。5月23日には米外交・諜報界の重鎮であるキッシンジャー元国務長官が、ウクライナでのロシアの勝利はすでに確定的だから外交交渉で停戦するしかないと指摘した。
    Ukraine War’s Geographic Reality: Russia Has Seized Much of the East
    Ukrainian volunteer fighters in the east feel abandoned
開戦以来、事態を傍観してきた米諜報界の古株たちが、もうこれではうまくいかない、もうやめろ、とタオルをリングに投げ込んでいる。しかしおそらく、今の諜報界やバイデン政権を握っている「民主党左派に移ったネオコン筋」は、古株からの警告を無視して無茶な戦争やロシア敵視を続ける。ネオコン筋は、外交や戦争を過激に稚拙にやって米国覇権を自滅させる隠れ多極主義者だから、ここで自滅策をやめるはずがなく、むしろこれからが本番だ。
    左派覇権主義と右派ポピュリズムが戦う米国
    米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化
対露経済制裁など複合戦争の面でも、ロシアの優勢と米欧の不利が増し、逆転不能な確定状態になってきている。EUはロシアからの石油ガスの輸入を止める対露制裁をやると言いつつ、実際はほとんど何もできないことが露呈している。欧州諸国はロシアの天然ガスを買い続けているし、石油もパイプラインでの輸送分は制裁しないことを決めた。船積み輸送分は、インドなど非米国がロシアから買った石油を転売してもらうことで欧州諸国が買い続けられる。製油所の多くは特定の油質の原油しか精製できず、欧州にはロシアのウラル原油しか精製できない製油所が多いので、ロシアからの輸入を止められない。インド勢はロシアに値引きさせて原油を大量に買い込み、欧州などに転売して大儲けしている。半面、欧州は合計で1兆ドルのコスト高になると概算されている。
    複合大戦で露中非米側が米国側に勝つ
    Germany Expects Oil Embargo Decision This Week
米国側の諸国が石油ガスの対露制裁をやるほど、石油もガスも国際価格が高騰し、ロシアが非米諸国に売ったり、制裁を迂回して米国側に売る石油ガスの値段も上がり、ロシアの儲けが増え、米国側の損失が増える。米政府内では、財務省などが、対露制裁をやるほど米国民が使うガソリン代など燃料費が値上がりし、米経済を痛めつけるのでもう対露制裁しない方が良いと言い出している。米政府内のネオコンたちはそれに反対で、もっと強く制裁すればロシアが潰れて事態が好転すると言い続けている。実際のところ、ロシアは潰れず優勢になるばかりで、米国の事態は好転しない。6月に入って米連銀のQTが始まったので、そのうち金融崩壊する。
    India is Buying Up Cheap Sanctioned Russian Oil and Selling it to the U.S. and E.U. at Huge Profits
    Russia Uses Chinese Ships And Indian Refiners To Stay Ahead of Oil Sanctions
物価高騰で人気が低下するバイデン政権は、OPEC+に頼んで増産してもらうことにした。OPEC+はロシアとサウジの合議体で、本来は米国の要望など聞かないはずだが、なぜか快諾して増産を決議した。増産を決めたら原油相場が下がるはずだが、実際にはOPEC+が増産を決めた途端に原油が1バレル110ドルから120ドルへと高騰した。実はOPEC+が決めた増産は、以前にやると決めたがまだやっていない分を再決議しただけで新味がなく、高騰要因になってしまった。バイデンは、今月中にサウジを訪問したいが、サウジの権力者であるMbS皇太子を殺人鬼(カショギ殺害犯)と呼んで怒らせてきたので、訪問しても良い話をもらえそうもない。
    Oil Soars As Traders Realize What OPEC+ Did
    Biden Planning Saudi Trip As Gas Prices Soar, But MbS Still Unpunished Over Khashoggi Murder
米国がロシアをへこませようとしている話としては、ロシアにドルを使わせず、露政府のドル建て国債の利払いや償還を不可能にして債務不履行(デフォルト)に追い込もうとする策略もある。だがこれについてもロシア政府は、債権者にロシアの銀行でルーブル建てとドル建ての口座を作らせ、露政府が利払い金などをルーブル建ての口座に送金し、銀行がそれをドルに両替してドル建て口座に移すやり方で制裁回避しつつ不履行を防ぐやり方を計画している。これは天然ガスを欧州に売る時と同じやり方だ。開戦後、時間が経つほどロシア側が優勢に、米国側が不利になり、ガスも利払いも、露政府提案の方式に米国側が応じるようになっている。
    Russia Plans Bond Payment System Like ‘Rubles-For-Gas’ Scheme To Get Around Sanctions
    ルーブル化で資源国をドル離れに誘導するプーチン
このように軍事でも経済でも、ロシアの優勢で事態が一段落している。しかし日本など米国側のマスコミや大手インターネットではこうした状況が全く報じられず、正反対の、ロシアが今にも潰れそうな妄想話ばかりが流布している。だから、米国側の自滅を加速する対露制裁が今後も続き、ロシアはますます優勢になる。こういう状態がたぶん来年まで続く。その間に米国の金融システムがQT由来の大崩壊を引き起こし、米国の覇権が崩れ、ロシアなど非米側が台頭して覇権が多極型に転換していく。マスコミはその流れを報じず、多くの人が気づかないうちに覇権転換が進む。
    ウソだらけのウクライナ戦争
    現物側が金融側を下克上する
    来年までにドル崩壊
●ウクライナ戦争、「おそらく誘発されたか、あるいは阻止されず」 ローマ教皇 6/15
ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は、ウクライナでの戦争について「おそらく何らかの方法で誘発されたか、あるいは阻止されなかった」との認識を示した。14日刊行の伊紙に掲載された所見の中で述べた。
報道によると教皇は先月19日、キリスト教関連の文化的出版物に携わる団体の責任者と言葉を交わした中で、「我々が今目の当たりにしているのは残虐かつ凶暴な行為に他ならない。こうした戦争を遂行している部隊は大半が傭兵(ようへい)であり、ロシア軍がこれを活用している」と指摘。同軍がチェチェン人やシリア人を含む傭兵を進んで送り込んでいると付け加えた。
「しかし危険なことに我々は、この点にしか目を向けていない。確かに恐ろしい話ではあるが、それだけでは全体像が見えず、戦争の裏で何が起きているのかが分からない。おそらくこの戦争は何らかの形で誘発されたか、あるいは阻止されなかったのだろう。兵器のテストや売却に関心が向いている印象も受ける。とても悲しいが、基本的に今重要視されているのはこうしたことだ」(フランシスコ教皇)
さらに教皇は、ロシアのプーチン大統領を「支持」するわけではないとしつつ、「複雑な問題を善悪の区別に単純化しようとするのは断じて反対だ。根源的な要因や利害関係について考えることが不可欠で、それらは非常に入り組んでいる」と分析。「我々はロシア軍の凶暴さや残虐さを目の当たりにしてはいるが、解決を目指すべき問題があることを忘れてはならない」と続けた。
このほか、ロシアのウクライナ侵攻前に「ある国家元首」と会談したと明かした。その元首は「NATO(北大西洋条約機構)の動きについて大変な懸念を抱いていた」という。
「彼に理由を尋ねるとこう答えた。『彼らはロシアの門戸に向かって吠えている。ロシア人が強大で、いかなる外国勢力も寄せ付けない存在であることが分かっていない』」(フランシスコ教皇)
さらに名前を伏せたこの「国家元首」は教皇に対し、「状況が戦争に発展する可能性もある」と告げたという。
フランシスコ教皇はまた、ロシア正教会トップのキリル総主教と話し合いの機会を持ちたいと発言。両者は本来14日にエルサレムで面会する予定だったが、ウクライナでの戦争のため延期を余儀なくされていた。9月にカザフスタンで行われる総会で会えるのを望んでいると、フランシスコ教皇は述べた。
14日にローマ教皇庁(バチカン)が発表した別の所見では、長年続いてきた当該地域での戦争にウクライナ侵攻が加わったと分析。これらの戦争で非常に多くの死者と破壊がもたらされたとの認識を示した。
そのうえで「ただここで状況を一段と複雑にしているのは、ある『超大国』による直接的な介入だ。自国の意思を押し付けようとするその行動は、民族自決の原則に反する」と語った。
●ロシア軍、化学工場のウクライナ部隊に投降を要求 東部で戦闘続く 6/15
ウクライナでは14日、東部ドンバス地方で激しい戦闘が続いた。ロシア軍は要衝セヴェロドネツクの完全制圧を目指しており、化学工場にとどまっているウクライナ部隊に投降するよう要求した。ルハンスク州の都市セヴェロドネツクは、ロシア軍が包囲し、大部分を制圧している。市内へと続く橋はすべて破壊されており、物資の運搬や市民の避難ができなくなっている。そうしたなか、ロシア軍は同市のアゾト化学工場にこもっているウクライナ部隊に対し、武器を手放せば、モスクワ時間の15日午前8時(日本時間同午後2時)から投降の機会を与えると述べた。同工場には多数の民間人も避難しているとされる。
ゼレンスキー氏が武器提供を呼びかけ
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日夜に公開した動画で、ドンバス地方の防衛が非常に重要だとし、その成否が戦争全体の行方を占うと述べた。また、ウクライナ軍はセヴェロドネツクとハルキウ州で「痛ましい損失」を被っていると説明。セヴェロドネツクでは軍が民間人を避難させようとしていると述べた。さらに、ウクライナ軍は最新の対ミサイル兵器を必要としており、先延ばしは受け入れられないと主張。国民に対しては、「強くあり続けよう」、「戦い続けよう、懸命に戦おう」と呼びかけた。
欧州指導者を批判
ゼレンスキー氏はデンマークのメディアへのインタビューで、ヨーロッパの指導者の一部の「抑制された行動」が「兵器提供を非常に遅らせている」と批判。ロシア軍に占拠された場所の奪還にかかる時間は、「支援と兵器にかかっている」とした。そして、「兵器が早く運び込まれなければ(中略)人々はどんどん死んでいく。兵器があれば、私たちは前進できる」と述べた。西側諸国からウクライナへの武器供与については、同国のハンナ・マリャル国防次官が同日、約束されたうちの1割程度しか届けられていないとし、こう訴えた。「ウクライナがいくら努力し、私たちの軍がいくら優れていても、西側パートナーの支援なしにはこの戦争に勝てない」
高齢者ら爆撃の中を避難
ウクライナ国家警察は13日、セヴェロドネツクの北西約25キロのプリヴィリアで、民間人が避難している様子だとする動画をフェイスブックに投稿した。動画では、高齢者を含む民間人が地下の避難所から出るのを警官らが助け出している。避難者らが車に駆け寄ると、近くで砲弾が爆発。その後、避難者たちは車で移動した。フェイスブックの説明によると、警官らはこの日、3回の避難活動で32人の市民を避難させたという。BBCは動画がいつ撮影されたのか確認できていない。
「誰であろうと」訴追するとICC検察官
国際刑事裁判所(ICC)のカリム・カーン検察官は14日、ウクライナ東部のハルキウを訪れ、激しい砲撃を受けた住宅地や政府庁舎などを視察した。ロシアの著名な軍人や政治家を訴追するのかと問われると、ICCは証拠を集めており、「誰であろうと」訴追の対象にするとカーン氏は説明。「銃を持っている人、権力を持っている人は、紛争において一定の責任がある。罪に問われずやりたい放題やれる人はいない」と述べた。ウクライナでは現在、戦争犯罪の疑いのある事案が約1万6000件に上っている。ウクライナ検察当局は、イギリス、フランス、スロヴァキア、リトアニアなどの専門家チームの支援を受けている。
●ほくそ笑むプーチン。米中の内政事情で泥沼化するウクライナ戦争 6/15
NYダウが一時1,000ドル以上も急落するなど、インフレの悪影響が広がるアメリカ。しかしバイデン政権は有効な対策を実施することなく、物価高騰が解消される気配は見られません。そのアメリカと覇権を争う中国も、政争にかまけて経済再建が二の次となっているのが現状のようです。かような状況はこの先いつまで続くことになるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、米中それぞれが抱える政治事情を記すとともに、この流れが秋口まで継続する理由を解説。さらにその影響で、岸田政権が7月後半以降、経済的に厳しい状況に追い込まれる可能性を指摘しています。
肝心の経済問題から逃げている米中の政局
まずアメリカですが、経済がかなり厳しいことになっています。問題はインフレで、春先からかなりおかしな数字になっていたのが、ここへ来て加速している感じです。6月10日に公表されたCPI(消費者物価指数)では、5月のアップ率が前年比で8.6%という恐ろしい数字になりました。
日本のようなデフレ体質はないものの、アメリカでは、ここ20年ぐらいの間、物価がこれだけ問題になったことはありません。各メーカーも、小売も、あるいは卸なども含めてコンピュータによる生産管理と在庫管理が進んだことがまず一因です。
これに加えて、いい意味での企業間の競争があり、またもしかしたら悪い意味でのグローバル経済による空洞化と、価格の低下がありました。日本の百円ショップは、デフレの影響だと思いますが、デフレとは無縁のアメリカでも同じように「ワンダラー(何でも1ドル)」という業態があります。これはグローバルな分業によるコストダウンが効いているビジネスです。
また、消費者は消費者で、ネットの発達により自分が購入する価格が「本当に安値なのか」をサーチして、より価格に対して厳しい目を持つということも盛んです。そうした経済に関与するプレーヤー全体が「合理的に」振る舞うことで、物価の異常な高騰は避けつつ経済成長ができていたのでした。
その物価が大変です。ザクッと言うと、
「ランチでは、ファーストフードでもドリンク込みで16ドル」「ディナーは、高級レストランでなくてもすぐに30ドル超え」「国内航空券は、大陸横断だと往復800ドル」「新車時価格が3万ドルの5年落ち中古が、ほとんど新車価格と変わらない」「ガソリンは、2年前の倍」「長年1ダース2ドルだった卵が4ドル」
ということで、生活コストという点では5割ぐらい上がっている感じがします。こうした状況を受けて、株式市場はここへ来てかなりキツく下げています。バイデン政権になって、コロナ対策に金を投入した結果、2021年の12月には3万7,000ドルまで来ていたNYダウは、現時点では3万500ドルということで、3万ドル割れが見えてきました。
そんな中で、市場が警戒しているのは、「連銀(アメリカの中央銀行)がインフレ抑制のために1%という大幅な利上げをするかもしれない」「このままインフレが続くと、買い控えが広まって不況になるかもしれない」という2点です。この2点に関して市場は非常にナーバスになっており、不安定になっているわけです。
しかしながら、バイデン政権の動きは鈍いままです。物価高への対策としては、「ロシアのウクライ侵攻を止めさせて、原油価格を安定させる」「中国のゼロコロナ政策を止めさせて、生産体制を復活させる」「中国と協議して、サプライチェーンと物流の問題を改善する」という具体的な3つの政策を実施しなくてはなりません。また、この3つを実施すれば物価は沈静化します。ですが、バイデンは動きません。その代わり、バイデンと民主党が必死になっているのは、現時点では次の2つです。
「2021年1月6日の議会暴動事件について議会による公聴会を実施して、トランプの関与を暴き出す」「5月以来頻発している乱射事件を受けて、銃規制を少しでも実現する」という2つの政策です。どちらも大切ですし、民主党内の求心力にはなるでしょう。議会民主党は必死になってやっています。ですが、今現在のアメリカの課題は「1に物価、2に物価、3、4がなくて、5も物価」とでも言うような状況です。にもかかわらず、バイデンの姿勢は受け身そのものです。「中国とロシアが悪い」と言うことで、まるで自分に責任はないかのようなのです。
そこにはある種の計算があると思います。それは、この状況については共和党も同じように何もできないだろうという思いです。多分そうなのでしょう。ですが、バイデンが計算できていないのは、国民の不満は「現職批判」として、自分に向けられるということです。
勿論、バイデンにも計算があって、共和党がどんどんトランプ派になれば、中間層は離反して自分には有利になるということは考えているのだと思います。また、トランプ訴追の問題、銃規制の問題に続いて、この夏は妊娠中絶禁止法の合憲判断が予想されます。つまり民主党とその支持者にとっては、そうした「文化戦争」に燃えてしまうということであり、バイデンとしてはこれに乗って民主党支持者を固めるしかないということかもしれません。
ですが、バイデンにも死角はあります。それは、仮に何らかのキッカケがあって、共和党の大勢が「正気に戻る」という可能性です。つまりトランプの呪縛から自由になって、昔のような「小さな政府」+「自由経済」+「原則より実利の外交」に転じた場合には、バイデンに代わる勢力となりうるということです。
もう1つの可能性は、このままバイデンが求心力を失うというシナリオです。民主党内では、ここへ来て「2024年問題」が公然と語られるようになってきました。次回2024年の大統領選に、バイデンは出るのか、バイデン以外の可能性を考えておかなくていいのかといった議論です。
こうした議論が公然と出てくるということは、政権が揺らいでるということであり、今年、2022年11月の中間選挙の結果次第では、バイデン政権は死に体になってしまうかもしれません。問題は、今が6月ですから11月の中間選挙まで、まだ5ヶ月もあるということです。その間に、ドラスティックな政策が打てないようですと、アメリカは本当にスタグフレーション(インフレ下の不況)に陥ってしまうかもしれないのです。
一方で中国ですが、ここへ来て習近平派と李克強派の政争が、悪い意味で拮抗してきているようです。
「上海のロックダウンは終了」(李)「いやいやゼロコロナは継続、全員検査は再開」(習)「中国企業の海外での上場を再度認める」(李)「いやいや滴滴の上場廃止は予定通り」(習)「コロナによる失業や、ゾンビ企業対策に公的資金注入」(李)「いやいや富裕層への攻撃も続行」(習)というような感じで、両派の政策が全く矛盾するような形で繰り出されているという印象です。そこから透けて見えるのは、「両派の政争は夏を超えて秋まで続く」というイヤなシナリオです。次期指導部が決まれば、その指導部は現実に直面しますから、可能な政策は狭いゾーンの中での意思決定になります。ですが、ここへ来て、非現実的なもの、中国経済を停滞させるような性格のものも含めて、奇妙な政策がコロコロと繰り出されているのは、その全てが政争に絡んでいるからだと思います。
そして、悪いことに、現在の中国では党大会は秋ということになっていて、それまで両派の抗争は続きそうな気配です。当然、ロシア問題もここに関与してきますから、余程のことが無い限り中国がロシアを切ることもないし、一方で停戦の仲介をすることもないと思います。
このままでは、中国もアメリカも秋まで権力の行方が定まらない中で、ドラスティックな動きはできない、結果的にウクライナ戦争は泥沼化してプーチンだけがほくそ笑むし、例えばアメリカ経済と中国経済に大きく依存している日本は、より経済的に厳しい状況に追い込まれるかもしれません。
岸田総理としては、これで7月の参院選に勝てば万々歳と思っているのかもしれませんが、選挙に勝てば権力は増す分、責任も拡大します。7月後半以降の本当に厳しい状況に対して、直面し対処する用意があるのかというと、岸田政権もかなり怪しい感じがしています。
●ウクライナ情勢を協議 中ロ首脳が電話 6/15
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とロシアのプーチン大統領は15日、ウクライナ情勢などを巡り電話協議した。ロシア大統領府によると、両首脳はエネルギー、金融、産業、交通分野などでの協力拡大で一致した。軍事、軍事技術面でのさらなる協力拡大も話し合った。
中国国営新華社によると、習氏はウクライナ情勢解決のため「しかるべき役割を発揮していきたい」と伝えた。「国際秩序とグローバルガバナンスをより正しく合理的な方向に発展させよう」とも述べた。台湾問題などを念頭に「核心的利益と重大な関心事に関わる問題での相互支持」を呼びかけた。
中ロ首脳がやりとりするのはロシアのウクライナ侵攻開始直後の2月25日以来となる。中ロが共闘して米国に対抗していく姿勢を改めて示した。
一方、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は15日、月末のNATO首脳会議でウクライナへの新たな包括的軍事支援策に合意するとの見通しを示した。
ブリュッセルでの国防相理事会に合わせた記者会見で「ウクライナがソ連時代の古い装備から、近代的なNATO装備に移行できるようにすることが重要だ」と語った。
火力でロシアに劣るウクライナの苦戦が鮮明化しており、米欧などの約50カ国による対ウクライナ軍事支援会合も開かれた。
●習近平氏、プーチン氏に「相互支持」呼びかけ…ウクライナ侵攻「正当性」確認  6/15
中国とロシア両政府は15日、 習近平シージンピン 国家主席とプーチン大統領が電話会談し、ウクライナ情勢を巡って意見交換したと発表した。
露大統領府によると、両首脳は、米欧による「不当な制裁」が原因で国際経済を取り巻く環境が複雑化したとの認識で一致し、エネルギーや金融など様々な分野での協力を拡大することで合意した。軍事面での関係発展も協議した。
プーチン氏は、習氏にウクライナでの軍事作戦の現状について説明した。露大統領府によると、習氏はロシアの行動の「正当性」を確認したとしている。
中国外務省によると、習氏は、プーチン氏に主権や安全保障に関わる核心的利益や重大な問題における「相互支持」を呼びかけ、ウクライナ侵攻を巡って国際的に非難を浴びるロシアを支えていく姿勢を示した。習氏は「各国は責任ある方法でウクライナ危機を適切に解決すべきだ」と訴えた。
●ウクライナ 戦況厳しく“火力足りず” 重要局面か  6/15
ロシア軍はウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握を目指していて、激戦地となっているセベロドネツクでは攻防が続いていますが、ウクライナ政府からは厳しい発言が相次いでいます。
ゼレンスキー大統領はウクライナ兵の死者数について今月1日、「東部で1日60〜100人の兵士が死亡している」と発言していましたが、9日、ポドリャク大統領府顧問はBBCのインタビューで「一日100〜200人の兵士が死亡している」と発言しました。
その理由としてあげられているのが、圧倒的な火力の差です。
ウクライナ国防省の幹部は、イギリス紙の取材に対して「今は砲撃戦だ、われわれは大砲で負けている。ロシアはウクライナの10〜15倍の大砲を保有している」と発言しました。
さらに12日にはウクライナ軍のザルジニー総司令官がアメリカ軍のミリー統合参謀本部議長と電話で会談した際に「火力が10倍違う」と訴え、できるだけ迅速に追加のりゅう弾砲の供与を求めました。
アメリカとイギリスはりゅう弾砲よりも射程が長い「高機動ロケット弾システム」や「多連装ロケットシステム」の供与を決めているものの、アメリカの供与は4基にとどまっていることから、ウクライナ政府からは火力が足りないという懸念の声が出ています。
一方のロシア軍の死者数について、ゼレンスキー大統領は6月中に4万人を超える可能性があるとしており、ロシア側もかなりの打撃を受けていることは間違いないと言われています。
ただウクライナの国防省の幹部は「ロシアは現在のペースであと1年戦闘を続けられる」と指摘、「東部のドンバス地域で成功すれば東部を足がかりにして南部ザポリージャやオデーサを攻撃する」とも話しています。
今後、ウクライナへの支援をめぐっては国際的な会議が相次いで開かれますが、関係国がウクライナにどのような支援で一致するのか、戦闘の行方を左右しかねない、重要な局面になりそうです。
●ゼレンスキー氏「ロシア軍止められるのはプーチン大統領だけ」…会談求める 6/15
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日、「ロシアが戦争を終わらせたいのなら、交渉のテーブルに着かなければならない」と求めた。「露軍を止めるかどうか決められるのはプーチン露大統領だけだ」とも述べ、停戦にはプーチン氏との直接会談が必要だとの考えを改めて示した。
ウクライナ大統領府が、ゼレンスキー氏とデンマークメディアとのオンライン記者会見の内容を発表した。ゼレンスキー氏は、「ウクライナ抜きでウクライナに関する交渉を行うことは不可能だ」とも語った。ロシアとトルコの外相が8日、ウクライナの穀物輸出問題について、ウクライナの頭越しに協議したことを批判した発言とみられる。
一方、ウクライナ東部ルハンスク州の要衝セベロドネツクなどでは14日も露軍の攻勢が続いた。露国防省が、工業地帯などで抗戦を続けるウクライナ兵に投降を要求し、残留する住民の退避に向けた回廊設置を一方的に発表するなど、ロシア側は完全制圧を視野に入れ始めている。
ウクライナのウニアン通信によると、ウクライナの国防次官は14日、「必要としている兵器で米欧から受け取ったのは10%のみだ。努力しても米欧の支援なしでは戦争に勝てない」と述べ、兵器供与を加速するよう米欧諸国に訴えた。
●ゼレンスキー大統領 迅速な軍事支援の必要性 支援国に対し強調  6/15
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握を目指していて、激戦地となっているセベロドネツクでは攻防が続いています。ウクライナのゼレンスキー大統領は、厳しい戦いが続いているという認識を示したうえで、支援国に対し迅速な軍事支援の必要性を強調しました。
ロシア国防省は、14日もロシア軍がウクライナの各地をミサイルで攻撃し、このうち、完全掌握を目指している東部のルハンシク州やドネツク州で、多連装ロケットシステムを破壊したなどと発表しました。
また、ロシア軍はルハンシク州のセベロドネツクを包囲しようと攻勢を強めていて、ハイダイ知事は、ウクライナ側が拠点とする「アゾト化学工場」について「およそ500人の市民が残っていて、そのうち40人は子どもだ」として、危機感を示しています。
こうした中、ロシア国防省は14日の声明で「アゾト化学工場」から市民を避難させるための「人道回廊」を、現地時間の15日午前8時、日本時間の15日午後2時から設置すると発表しました。
セベロドネツクから北に50キロ余り離れた、ロシア側が掌握しているスバトボに向けて、市民を安全に避難させる計画だとしています。
一方で「ウクライナ側の兵士は、武器を置いて無意味な抵抗をやめなければならない」として、ウクライナ側の兵士の投降が必要だと主張し、圧力を強めています。
これに対し、ウクライナ側は、兵器の供与を加速するよう欧米各国に求めています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は14日、新たに公開した動画で、セベロドネツクとその近郊で厳しい戦いが続いているという認識を示したうえで「ウクライナにはミサイルに対抗する最新の兵器が必要だと支援国に言い続けている。わが国にはまだ十分なレベルのものがないが、今まさにそのような兵器を必要としていて、その供与の遅れは正当化できない」として、迅速な軍事支援の必要性を強調しました。
15日にはベルギーの首都ブリュッセルでウクライナを支援する関係国が会合を開く予定で、ウクライナへの軍事支援の強化に向けた協議の行方が注目されます。
●ゼレンスキーをどこまで支援すべきか 強硬路線一辺倒に出始めた異論 6/15
ロシアがウクライナに侵攻してから100日が過ぎた。当初は「数日又は数週間以内にウクライナの首都キーウが陥落する」との見方が一般的だった。6月になっても戦闘が続き、ゼレンスキー大統領が政権にとどまっていると予想した人はほとんどいなかった。
米英両国から供与されていた携行ミサイル(ジャベリン、スティンガーなど)がウクライナ側の抵抗に役立ったとされているが、ロシア側にとってそれ以上に大きな誤算だったのはゼレンスキー大統領の変貌ぶりだ。
侵攻直前のゼレンスキー大統領は支持率が低迷するなどレイムダック化しつつあり、米国も過小評価していた。侵攻開始前に開かれた米国議会の非公式会議での「ゼレンスキー大統領は歴史的抵抗を発揮できるのか。あるいは、逃避して政権を崩壊させるのか」という質問に対し、情報当局は「後者の可能性が高い」と述べたと言われている。
ロシアの軍事侵攻が始まると首都キーウの陥落は間近だと判断した米国政府は海外に逃避して亡命政権を樹立するよう勧めたが、ゼレンスキー大統領は「今必要なのは逃亡用の車ではない。武器をくれ」と一蹴したとされている。ゼレンスキー大統領は侵攻の翌日、大統領官邸前で携帯での自撮り動画を使って国民に対し徹底抗戦を呼びかけた。その後も褐色のTシャツ姿で国民を鼓舞し続けている。
ゼレンスキー大統領の獅子奮迅の活躍のおかげで、ウクライナは西側諸国の世論を味方につける情報戦で圧倒的に有利な状況にある。西側メディアは情報発信が稚拙なロシア側の主張を「プロパガンダ」だと切り捨てる一方、ウクライナ側の主張を重んじる姿勢を鮮明にしている。
情報戦では優勢になっているおかげで、西側諸国では「ウクライナを断固支援すべき」との世論が盛り上がり、一時は「ウクライナが勝利する」との期待も生まれた。だが、情報戦と現実の戦争は違う。ここに来てウクライナにとって厳しい現実が明らかになっている。
フランスは「ロシア配慮」
ウクライナ東部ドンバス地方でロシア軍が圧倒的優位となっており、「東部ドンバス地方を制圧し、クリミア半島へ陸路の橋をかける」という目標を実現しつつあるロシアは8日、停戦交渉の再開をウクライナ側に求めた。
これに対し、ゼレンスキー大統領は「すべての占領地域の解放を達成しなければならない」と強調し、「少なくとも10倍の武器と兵力が必要だ」と西側諸国に訴えている。
だが、西側諸国の間では侵攻が長期化するにつれて温度差が生じている。米英は軍事支援を強化する姿勢を堅持しているが、フランスなどは慎重姿勢を示し始めている。
マクロン大統領が4日の地元紙のインタビューで「停戦時に外交を通じて出口を構築できるよう、我々はロシアに屈辱を与えてはならない」とプーチン政権への一定の配慮をにじませる発言を行った。ウクライナ側は即座にフランスの融和姿勢に釘を刺し、自らの強硬路線への西側諸国の支持に綻びが出てこないよう躍起になっているが、この戦略がいつまでも有効だと限らない。
6月3日付フィナンシャル・タイムズは「西側諸国に漂い始めたウクライナ疲れ」と題する論説記事を掲載した。ウクライナ危機で生じた経済的打撃についての西側諸国の我慢は限界に達しつつあるからだ。
情報戦での優勢が功を奏して西側諸国では「ゼレンスキー大統領は善で、プーチン大統領は悪だ」という勧善懲悪的な構図が定着し、ゼレンスキー大統領を批判すること自体がタブーになっている感が強いが、このような状況ではたして大丈夫だろうか。
同情を一身に集めているが…
今年10月の大統領選挙で返り咲きが確実視されているブラジルのルーラ氏は5月上旬「連日のように世界各地のテレビで演説し、拍手喝采を受けているゼレンスキー大統領も戦争を望んだと言える。そうでなければ同国の北大西洋条約機構(NATO)加盟に向けた動きに反対するロシアに譲歩したはずだ。交渉を重ねて紛争を回避すべきだったゼレンスキー大統領にもプーチン大統領と同等の責任がある」と述べている。西側諸国で生活しているとわかりづらいが、国際社会ではこのような見解が案外有力なのかもしれない。
国際社会の同情を一身に集めているウクライナだが、世界に冠たる汚職大国である点も見逃せない。政治の素人だったゼレンスキー大統領は「汚職撲滅」をスローガンに掲げて2019年に大統領となったが、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は昨年「ゼレンスキー大統領は英国領バージン諸島にペーパーカンパニーを設立し、就任後2年間で8億5000万ドルの蓄財をなした」ことを公表した。オランダの民間団体が作成した「組織犯罪汚職報告書」によれば、「ゼレンスキー大統領の資産はロシアの侵攻後も毎月1億ドルのペースで増加している」という。これらの指摘が正しいとすれば、ゼレンスキー大統領も「同じ穴の狢」だと言われても仕方がないだろう。
ウクライナの政界筋からも驚くべき情報が届いている。ゼレンスキー大統領は侵攻直後、ロシア軍による暗殺を警戒していたが、今ではウクライナ軍による暗殺の方を恐れているというのだ。ゼレンスキー大統領はこのところ連日のように東部地域に赴き、前線の兵士を鼓舞しているが、軍司令部内で「大統領自身が指示する作戦ではいたずらに犠牲者が増えるだけだ」との不満がこれまでになく高まっているようだ。ゼレンスキー大統領は自らの強硬路線を嫌う西側諸国の特殊部隊に暗殺されることにも警戒しているという。
真偽のほどは定かではないが、極度の緊張状態が続く中でゼレンスキー大統領の精神が深刻な状態になっている可能性は排除できない。西側諸国はウクライナに対して是々非々で臨む時期に来ているのではないだろうか。
●ロシア降伏要求、民間人500人超の化学工場に 6/15
ロシアは、ウクライナ東部セベロドネツクのアゾト化学工場で抵抗を続けるウクライナ軍に人道回廊を設置するとして、降伏を呼び掛けた。工場内には民間人500人超が取り残されているという。
ウクライナ軍2500人程度残留か
ロシア国防省は14日、ウクライナ東部セベロドネツクのアゾト化学工場に取り残された民間人を巡り、ウクライナ軍などに対し、戦闘を停止して降伏するよう促した。工場には子供40人を含む民間人500人以上が取り残されている。ロシア側は、民間人を退避させるための「人道回廊」を15日に設置するとしたが、人道回廊が親露派武装勢力が支配する地域に通じることから、ウクライナ兵などが応じるかは不明だという。
露、ドイツ向けガス40%削減
ロシア国営ガス大手ガスプロムは14日、海底ガスパイプライン「ノルド・ストリーム(NS)」経由でドイツに供給するロシア産天然ガスを1日当たり1億6700万立方メートルから1億立方メートルへと約40%減らすと発表した。ガスプロムは、独シーメンス製のパイプライン関連設備の修理が遅れていることなどが理由だと主張している。
●ウクライナの外国人部隊に日本人…親露派地域でイギリス人ら死刑判決  6/15
ウクライナ軍の外国人部隊に日本人が参加していることが、ウクライナ国防省への取材で明らかになった。
外国人戦闘員を巡っては、親露派武装集団が一方的にウクライナからの独立を宣言した「ドネツク人民共和国」の裁判所で英国人ら3人が9日、死刑判決を受けた。ロイター通信によると、ロシア外務省報道官は15日、英国人らへの死刑判決に関し、「ほかの戦闘員の先例になる」と警告し、対露制裁を科す諸国に揺さぶりをかけた。日本政府は、日本人に参加しないよう求めている。
ウクライナ国防省によると、外国人部隊には米国、英国、ポーランド、カナダ、オーストラリア、フィンランド、ブラジル、韓国など55か国から参加。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月上旬、計約1万6000人と述べたことがある。
タス通信によると、ドネツク州の親露派武装集団は、外国人部隊の戦闘員に関し、捕虜への人道的処遇を定めたジュネーブ条約が適用されない「雇い兵」だと繰り返し主張し、最近も韓国人戦闘員を一時拘束したことをほのめかしていた。
●NATO首脳会議、今月下旬に開催 ウクライナ情勢が最重要課題 6/15
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の今月下旬の開催に向けて準備が進んでいる。ウクライナ情勢が最重要課題になるとみられている。
NATO首脳会議は28日から30日にかけて、スペイン首都マドリードで開催される。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナ東部のドンバス地方でロシア軍の攻撃を食い止めるために、より多くの支援を繰り返し求めている。ゼレンスキー氏は、NATO加盟国からウクライナに対する、さらなる武器供与の約束が守られることを希望している。
スペインは今年でNATO加盟から40年を迎えた。
スペインのサンチェス首相は5月30日、NATO加盟を祝う式典で、NATOのウクライナに対する支援が揺るぐことはないと語った。
NATOのストルテンベルグ事務総長は同じ式典で、6月の首脳会議について、前回スペインが首脳会議の開催地となった1997年とは「全く異なった文脈」となっているとの見方を示した。
ストルテンベルグ氏は、今後10年の方針を定め、より危険な世界に対する抑止力や防衛力を設定しなおすと指摘。欧州連合(EU)やインド太平洋の各国など、志を同じくする国や組織との協力を一層深めるとした。
首脳会議では、ウクライナに対する武器の追加供与も話し合われる可能性が高い。
ストルテンベルグ氏は、ウクライナが引き続き支援を受ける必要性について強調し、もしロシアのプーチン大統領がウクライナへの侵攻で勝利を収めれば、「我々が支払わなければならない代償は、ウクライナ支援のために今行っている投資よりも大きなものとなるだろう」と述べた。
●バイデン氏、ウクライナから陸路で穀物輸送検討…欧州国境に臨時倉庫  6/15
米国のバイデン大統領は14日、ロシア軍の黒海封鎖によってウクライナの穀物輸出が停滞している問題に対応するため、米欧が陸路での輸送を検討していると明らかにした。ウクライナと接するポーランドなど欧州諸国の国境沿いに臨時の穀物倉庫を作り、ウクライナ国内から集めた穀物を欧州の列車に積み替えて海まで運ぶという。
バイデン氏は、ペンシルベニア州での演説で新たな構想について語った。ウクライナと欧州諸国の列車のレール幅が違うことから、ウクライナの列車で国境沿いまで運んだ穀物を、いったん臨時倉庫に移す必要があると説明し、「時間がかかる」とも認めた。
ウクライナの穀物輸出を巡っては、トルコが仲介し、ウクライナ南部オデーサから輸出を再開する案をロシア側と協議しているが、これまでの議論で進展は得られていない。
●独仏伊3首脳が16日キーウ訪問、ロシアはガス輸出削減 6/15
ロシアは欧州向けのガス輸出を削減し、欧州のエネルギー市場に対する締め付けを一層強めた。フランスのマクロン大統領はロシアとの対話の扉を開けておかなければならないと主張。同大統領とドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相は16日にキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談する計画だ。
ロシアが欧州にガスを供給する主要パイプライン「ノルドストリーム」では、ガス輸送量が約6割減少した。ドイツのハーベック副首相兼経済相は政治的な動機が理由だとロシアを非難し、欧州市場を「動揺させ、価格を押し上げる狙いだ」と指摘した。
一方、中国の習近平国家主席はロシアのプーチン大統領と電話会談し、ロシアの安全保障上の懸念に対する中国の支持をあらためて表明した。
ブリンケン米国務長官はウクライナの領土割譲について決定するのはゼレンスキー政権だとし、米国は同盟国およびパートナー国と共に、ロシア軍と戦うウクライナに必要な支援を届ける決意だと語った。バイデン大統領はゼレンスキー大統領と電話会談し、ウクライナの安全保障支援に米国は10億ドル(約1350億円)を追加提供すると約束した。
独仏伊首脳、16日に合同でキーウ訪問を計画−関係者
ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領、イタリアのドラギ首相は16日にウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談する計画だ。事情に詳しい関係者が明らかにした。ルーマニアのヨハニス大統領も同行する見通しだという。
米国、ウクライナに10億ドル超の安全保障支援を提供へ−バイデン氏
米国はウクライナの安全保障支援のため10億ドルを追加提供すると、バイデン大統領がゼレンスキー大統領に語った。発表文で明らかになった。この支援にはミサイル発射装置や海岸防衛用の兵器、弾薬、高度ロケットシステムなどが含まれるという。
トルコ、NATO巡る立場は変わらない−エルドアン大統領
スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟について、トルコの安全保障上の懸念が対処されない限り両国の加盟にトルコは反対を維持すると、エルドアン大統領が語った。今月にマドリードで開かれるNATO首脳会議までに加盟問題が進展する希望はほぼなくなった。エルドアン氏は議会で与党・公正発展党(AKP)の議員らに対し、「スウェーデンとフィンランドがテロとの戦いで明確で具体的、決定的な措置を講じるまで、トルコがNATO問題で姿勢を変えることは確実にない」と述べた。
ロシアの直近のガス供給削減、政治的な動機−独経済相
ロシアの国営天然ガス企業ガスプロムがパイプライン「ノルドストリーム」経由で欧州に輸出するガスの量を削減すると決定したことについて、ドイツのハーベック副首相兼経済相は「政治的な動機」が理由だと非難した。ガスプロムは技術的な問題で輸送能力が40%落ち込んだとし、メンテナンスのため外国に送った主要ガスタービンの一つが制裁でカナダから動かせなくなっていると説明した。二つ目のタービンも制裁により修理に送れなくなっているという。ハーベック氏は供給に「直結する」影響を及ぼしているとされるメンテナンス作業は秋まで実施される予定ではなく、いずれにしても40%に影響が出ることはあり得ないとの見方を示した。
中国の習主席、プーチン大統領と電話会談
中国の習近平国家主席はロシアのプーチン大統領と2月下旬のウクライナ侵攻以降で2回目となる電話会談を行い、ロシアの安全保障上の懸念に対する支持をあらためて表明した。中国国営中央テレビ(CCTV)が報じた。
岸田首相、NATO首脳会議に出席へ−日本の首相では初めて
岸田文雄首相は今月下旬に開かれるNATO首脳会議に出席すると表明した。日本の首相の出席は初めて。ウクライナでの戦争におけるNATOの取り組みに支持を示す。
NATO加盟国、長期的なウクライナ支援パッケージで合意へ
NATO加盟国は15、16両日にブリュッセルで開く国防担当相会議で、ウクライナに対する長期的な支援パッケージやNATO軍の新たなモデルについて合意する見通しだ。ストルテンベルグ事務総長が記者団に語った。このパッケージではウクライナ軍が旧ソ連製の装備から現代的な装備へと移行するのを長期的に後押しし、NATOの標準装備との相互運用性を高めるようにすると、同事務総長は説明した。
マクロン仏大統領:プーチン大統領との協議はある時点で必要に
マクロン仏大統領は、重要な局面で「支持のシグナル」を送るため欧州連合(EU)とウクライナの新たな協議が必要だったと述べつつ、ロシアとの対話も引き続き開かれていなければならないと主張した。同大統領は西側諸国がロシアを「辱め」、平和的な解決を危うくすべきではないと発言し、物議を醸していた。マクロン氏はルーマニアの黒海沿岸の軍事基地を訪問した際に記者団に対し、「ある時点で、ゼレンスキー大統領はロシアと交渉しなければならず、われわれもその場に出席して安全保障の確約をする必要があるだろう。これが現実であり、実現させなければならない」と語った。同氏はウクライナを近く訪問すると報じられているが、訪問についてはコメントを控えた。
ロシアの石油収入、5月に急増−IEA
ロシアの石油輸出は5月に減少したものの、石油輸出収入は約200億ドル(約2兆7000億円)に急増したと、国際エネルギー機関(IEA)が15日公表した月報で指摘した。世界的なエネルギー価格の上昇が寄与し、前月比では11%増。原油と石油製品の輸出によるロシアの収入はこれでウクライナ侵攻前の水準をほぼ回復したという。
領土割譲を決定するのはゼレンスキー政権−米国務長官
ブリンケン米国務長官はPBSニュースアワーとのインタビューでウクライナの領土割譲について問われ、そうした決定は民主的に選ばれたゼレンスキー大統領を含むウクライナ政府が下すことになろうとし、「ウクライナの未来を決めるのはウクライナ国民だ」と述べた。同長官はその上で、米国は同盟国およびパートナー国と共に、ロシア軍と戦うウクライナに必要な支援を届ける決意だと語った。
中国、楽玉成筆頭外務次官をメディア部門に異動
中国は最も知名度の高い外交当局者の一人で、ロシア専門家でもある楽玉成筆頭外務次官(59)を国家ラジオテレビ総局副局長に異動する人事を発表した。これにより楽氏は王毅外相(68)の後継争いから脱落した可能性が高い。
ロシア、米女子プロバスケのグライナー選手の勾留延長
ロシアで拘束されていた米国女子プロバスケットボールのスターで五輪米国代表のブリトニー・グライナー選手の勾留が7月2日まで延長された。タス通信が報じた。同選手は大麻オイルの入った電子たばこカートリッジを所持していた容疑で逮捕された。
●「戦場から普通の生活に戻るのは難しい」ウクライナ・アゾフ大隊の兵士 6/15
ロシアによる軍事侵攻で兵士の「心の傷」が問題となっています。ウクライナのアゾフ大隊の兵士が取材に応じ「戦場から普通の生活に戻るのは難しい」と語りました。
アゾフ大隊の兵士(20代)「今回の侵攻では、大量のミサイル攻撃や断続的な空爆が兵士を襲いました」
アゾフ大隊のこの兵士は先月、南部へルソンでの戦闘中に頭を負傷し、療養しています。医師からはPTSD=心的外傷後ストレス障害や適応障害と診断されました。
アゾフ大隊の兵士(20代)「戦場から戻ってきても、気持ちが落ち込んだり、理由もなく攻撃的になってしまう時もある。治るとは思うけど」
療養先でも空襲警報を聞くと戦場を思い出すそうです。
アゾフ大隊の兵士(20代)「多くの兵士は心理カウンセリングが必要です。戦場で強いストレスがかかると不安でうつになったり、物事に無関心になり、普通の生活に戻れなくなるからです」
今後、西部のリビウでは負傷した兵士や市民の心のケアをするリハビリ施設の建設が計画されています。
●有能な人々はロシアから既に脱出。崩れた「プーチン失脚」のシナリオ 6/15
ウクライナ東部でロシア軍の攻勢が伝えられるものの、ウクライナの激しい抵抗により、戦争の終わりは見えてきません。戦争の長期化で経済制裁が功を奏し、プーチンが失脚するという欧米のシナリオは既に崩れたと見ているのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田清彦教授です。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、その理由として、有能な人々が政権中枢から退けられたか国を脱出していることをあげます。そしていまのロシアはミッドウェー海戦後の日本のようだと評し、無能な指導者のせいで悲惨な末路を迎えるロシアを憂い、「日本も気を付けた方がいいよ」と意味深な言葉を綴っています。
ウクライナ紛争と穀物価格の高騰
ウクライナ紛争は杳として終結の兆しが見えない。ロシアはウクライナの首都キーウの奪取に失敗し、東部に戦力を集中しているが、ウクライナの抵抗も激しく、一進一退の攻防が続いていると報じられている。ロシアが攻勢を強めるといった報道があるたびに、西側からウクライナに強力な武器が供給され、この紛争はロシア対西側の戦闘といった様相を呈しており、西側は面子にかけてもロシアの一方的な勝利を許さないだろう。
戦闘を続けるには戦費が必要だが、ロシアは、欧米諸国の経済制裁によって、経済的に追い込まれており、長期的には戦争を継続できなくなると思われるが、それが1年先か2年先か5年先かは分からない。
紛争前にロシアにいた優秀な人材、例えばIT技術者などの科学者、起業家、資産家はすでにロシアを離れている。独立系ロシアメディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」が5月9日に報じたところによると、2022年1〜3月に388万人がロシアから出国したという。現在、この数はもっと大きくなっているだろう。
プーチンに批判的な官僚や軍人は左遷されたか、国外に脱出したか、しているだろうから、政権中枢に残っているのはプーチンに忠誠を誓う以外に生き延びる術がないと思っている無能な人々だけだと思う。
西側が経済制裁を始めた直後は、ロシアの人々は日々の生活に困って、プーチンの始めた戦争を怨んで、プーチンは遠からず失脚して、新しい政権とウクライナの間で停戦が成立して紛争は終結するだろう、との希望的観測が一部で流れていた。
プーチンが失脚した後の新生ロシアとしては、紛争の原因を一人プーチンに負わせて、和解交渉が成立すれば、紛争によるロシアのダメージを最小限に抑えられるし、惨めに敗北するよりも、はるかにロシア全体としての面子も保てる。西側としてもプーチンが失脚して、とりあえず紛争が収まれば、ロシアを経済制裁する必要もなくなる。天然ガスや原油などの化石エネルギーをロシアから自由に輸入することもできるようになり、双方にとってウィンウィンになるというシナリオだ。
しかし、このシナリオが成立するのは、プーチンのやり方を快く思わない有能な人々が、政権の中枢に残っている限りにおいてなのだ。恐らく今は状況が異なっていて、例えプーチンが死んでも、残った政権中枢の人々は、プーチンに洗脳されている(というよりもプーチンに賛成して戦争路線を擁護していた自分の意見を変えることが難しい)ので、プーチンの引いた戦争路線をクラッシュするまで走るしか選択肢がないという状況だと思う。太平洋戦争の半ばに、ミッドウェー海戦で大敗北を喫した後の日本みたいなものだ。
考えられる最悪の状況は、プーチンがこのままトップに留まり続け、戦局はロシアにとってじり貧になり、やけくそになって核兵器を使用するという事態になることだろう。実際には、このまま和平に応じないと核兵器を使うぞ、という脅しをかけるだけで、使うことはないと思うけど、ウクライナや西側が挑発すれば、プーチンが怒り狂って核のボタンを押すことがないとは言えない。そうなっても世界は終わらないだろうが、ロシアは終わってしまう。
幸か不幸か、ロシアはエネルギーと食料を国民に供給することだけはできるし、紛争前に比べれば減ったとはいえ、まだ原油や天然ガスをヨーロッパに売っており、インドなども原油を買い付けているので、暫くは戦費が底をつくことはない。国民の生活は苦しくなったとはいえ、もともと貧乏な人達は、暫くは耐え忍ぶことができると思う。
しかし、このまま戦争を続ければ続けるほど、国際的な経済制裁は厳しくなり、戦死者は増え続け、輸入に頼っていた生活用品や贅沢品は枯渇して、国民の間には厭戦気分が広がり、いずれ戦争の継続はあきらめざるを得なくなり、和平交渉をするにしても、ロシアにとって極めて不利な条件にならざるを得ないだろう。
紛争が長引けば長引くほど、紛争が終結した後のロシアは、より悲惨になっていることは間違いない。指導者は権威主義的で国民は洗脳されている人ばかりといった、大きな北朝鮮のような国になっているかもしれない。敗北を認めて、西側のコントロール下に入れば、建前上は民主主義的な国になるということもあり得るが、経済の発展に必要な人材は払拭しているので、立て直すのは容易ではなく、最貧国から脱出するには時間がかかるだろう。
一人の愚かな指導者のために、国がここまで悲惨になるということが、まさか21世紀の世界で起こるとはね。日本も気を付けた方がいいよ。もう手遅れかもしれないけれどもね。
ところで、紛争が始まって以来、ロシアからのエネルギーの供給ばかりでなく、ロシアやウクライナからの穀物の供給も滞っているので、世界全体におけるエネルギーの価格と穀物の価格は高騰している。アフリカでは、ウクライナ侵攻を受け、小麦の価格が45%も上昇しているという。日本でも、輸入小麦の政府売り渡し価格を、2022年4月から17.3%引き上げた。
ウクライナは肥沃で、穀物の栽培に適し、小麦の生産高は、紛争前は世界7位(ロシアは4位)、大麦は世界5位(ロシアは2位)、トウモロコシは世界6位(ロシアは11位)で単位面積当たりの収量は、ロシアよりはるかに多い。ウクライナの穀物は、輸出拠点の黒海沿岸をロシアが封鎖しているために、容易に輸出できない。ウクライナは外貨の獲得を穀物輸出に頼っているため、紛争で穀物生産量が落ち、さらに輸出できないのは大きな痛手である。
●プーチン氏、元クリミア検事長・ポクロンスカヤ氏を政府要職から解職 6/15
ロシアのプーチン大統領は13日、2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島の元検事長で、ロシア政府機関の副長官を務めていたナタリヤ・ポクロンスカヤ氏(42)を解任した。ロシアのウクライナ侵攻に疑問を呈する発言を繰り返していたため、事実上の更迭とみられる。
ポクロンスカヤ氏はこれまで、プーチン政権が「ウクライナはバンデラ主義者(反ロの過激な民族主義者)だらけ」と主張する中、メディアを通じて「基本的にウクライナにいるのは普通の人々だけ」と反論していた。
ロシアの軍事作戦を意味する「Z」マークについては「悲劇と悲しみの象徴」と表現。反戦活動が禁じられる中でも「ロシアとウクライナは戦闘を止めて」と公言してきた。昨年夏には本紙の取材に「ウクライナは歴史的に固有性のある主権国家。何人もその独立性を妨げてはならない」と語っていた。
ポクロンスカヤ氏は14日、ロシア検事総長顧問に就くことが決まり、今後は交流サイト(SNS)を通じた発信を控えると表明した。
●「ピョートル大帝」を夢見て戦い続けるプーチン大統領の「憎悪の対象」 6/15
ロシアのプーチン大統領の自らをピョートル大帝に模した発言が話題だ。6月12日の「ロシアの日」の演説で、ロシアの大国化を進めたピョートル大帝にふれ、「軍事的勝利が重要」と訴えた。それ以前にも、ピョートル大帝のように「領土を奪還し、強固にすることは我々の任務だ」と述べていた。
ピョートル大帝といえば、17世紀末から18世紀初頭に、長期にわたる戦争を主導して、ロシアの領地を大幅に拡大した人物である。バルト海へのアクセスを求めて、スウェーデンとの間で大北方戦争を行った。現在のウクライナ領に面した黒海の内海であるアゾフ海に最初にロシア軍を進めたのも、ピョートル大帝だ。
プーチン大統領の拡張主義の野心は、特に最近になって生まれたものではない。ロシア・ウクライナ戦争の最中なので、ニュースになっただけだろう。もっとも、「悪いのはNATOを拡大させてロシアを追い詰めたアメリカだ」、とプーチン大統領を擁護し続けている反米主義者の方々が、プーチン大統領のこうした野心を、どのように擁護するのかは気になる。
反米主義者のプーチン擁護論の滑稽さ
反米主義者の方々は、プーチン大統領はアメリカに冷たくされて仕方なく冒険的な行動に出てしまった、と頑なに主張する。
しかし実際には、まずピョートル大帝に憧れるプーチン大統領がいて、チェチェン紛争、ジョージアの南オセチア紛争、さらにはシリア、リビア、サヘル地域のアフリカ諸国への介入がある。プーチン大統領がNATOの拡大に反発するのは、NATOがロシアを攻めようとしているからではなく、NATOがロシアの拡張政策の邪魔だからだ。プーチン大統領の心の中にロシアの拡張政策を当然視する思想があるからこそ、立ちはだかるNATOに怒っているのである。
NATO拡大は、ロシアの歴史的な拡張主義をふまえて、力の真空地帯となった東欧諸国に安全保障の傘をかける措置であった。それでもNATO側は、ロシアを気遣って、ウクライナやジョージアなどの旧ソ連構成地域の諸国については、加盟承認を見合わせていた。そこをついて、ウクライナを、自国の「勢力圏」として確定させるために、プーチン大統領は侵略行動に及んだ。ロシアへの気遣いで拡大が不十分になった結果、侵略対象となってしまったウクライナは、不憫である。
NATO拡大は、プーチン大統領を侵略に走らせた原因ではない。プーチン大統領が夢見ているロシアの拡張政策から東欧諸国を守るための対応策である。反米主義者の方々の主張は、原因と結果が逆さまである。
理解しておきたい国際秩序の変化
冷戦時代から反米主義を固持し続けてきた世代の方々は、政治的イデオロギーを表明する機会として、プーチン大統領を擁護しているだけだろう。何を言っても、全く聞く耳を持たないと思われる。
しかし、若い世代の方々には、是非、理解をしてもらいたい。現代は、ピョートル大帝が生きた時代とは違っている、ということを。
これは単に21世紀の世界のほうが17世紀のヨーロッパよりも平和であるかどうか、ということにとどまる話ではない。国際社会の仕組みが変わっている。ルールが変わっているのである。
ピョートル大帝の時代には、現在の国際社会の秩序を成り立たせているルールが存在していなかった。端的に言えば、侵略を行っても、それを違法だと糾弾するための法規範すら存在していなかった。
現代の国際社会は違う。193の加盟国をもつ国連憲章で、武力行使が禁止されている。国際人道法も発達しているので、たとえ戦争中であって市民に残虐行為を働けば戦争犯罪を問われる。
このことが持つ意味は、ウクライナをはじめとする東欧諸国の人々には、特に重大である。20世紀になるまで、東欧では独立国が存在していなかった。より正確には、19世紀までに東欧諸国は消滅してしまっていた。20世紀以降に、国際社会の法規範に守られるようになって、東欧諸国は独立国として生きていけるようになった。現代の国際社会の秩序が無視されたら自分の国がなくなってしまう、という危機感は、東欧諸国の人々にとっては切実だ。
不遇の東欧の歴史
世界史の教科書くらいには、1648年「ウェストファリアの講和」が出てくるだろう。ヨーロッパ全域を惨状に陥れた30年戦争を終結させたミュンスター条約及びオスナブリュック条約を総称した講和条約のことだ。この講和に参加した条約主体は、360以上だった。17世紀のヨーロッパは、まだ様々な政治共同体が乱立している状態にあった。
学校教科書では、ウェストフェリアの講和において絶対主権の原則が固まったと説明されることもあるが、正しくない。数百もの神聖ローマ帝国域内の封建領主などの条約主体は、いずれも自らの領地を自らの力だけでは守れない弱い存在でしかなかった。絶対主権を振り回す大国の国際政治が到来するのは、むしろその後の時代であり、まさにピョートル大帝の拡張政策などによってであった。
ウェストファリアの講和の際に存在していた弱小国家群は、ロシアやプロイセンなどの大国が拡張政策を進めていくにつれて、次々と併合されていってしまう。
1648年に、今のウクライナの土地にコサック国家の独立国が生まれた。しかしこのウクライナのコサック国家は、ピョートル大帝のロシアとの戦争をへて、ポーランド・リトアニア支配地域と、ロシアの保護下の地域に分割された。18世紀には、ロシアの保護国だったウクライナ地域は、完全にロシアに併合された。ウクライナでは第一次世界大戦中に独立戦争が起こったが、ソ連の赤軍によって鎮圧された。独立蜂起は、第二次世界大戦中もあったが、やはり鎮圧された。ウクライナがようやく独立国の地位を得ることができたのは、ソ連が崩壊した1991年のことである。
一時期は今のウクライナの一部を統治したポーランドも、18世紀を通じてロシア、プロイセン、オーストリアによって繰り返し分割され、遂に消滅した。ナポレオン戦争中にワルシャワ公国が作られた時期もあったが、それもナポレオンの敗北と共に消滅した。19世紀を通じて何度か独立運動が起こったが、そのたびにロシア帝国によって鎮圧された。ポーランドが国家として復活するのは、ロシア帝国が崩壊した第一次世界大戦後のことである。
1914年の第一次世界大戦勃発時のヨーロッパの地図を見てみよう。
現在「東欧」として知られている地域は、ロシア帝国、ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国によってすっぽりと覆い尽くされてしまっている。それ以外の独立国は存在していない。
オスマン帝国がヨーロッパの大国に浸食され始めていたため、かろうじて南欧には小国が存在していた。しかしそれらはいずれも大国の庇護を受ける保護国のような存在でしかなかった。
ピョートル大帝の17世紀から数百年にわたって、ヨーロッパにおける国家の数は減少し続けた。大国の拡張政策による併合が相次いだからである。その結果、「東欧諸国」と呼べる存在は、19世紀が終わるまでには消滅してしまっていた。世界全体を見ても、20世紀初頭までのヨーロッパ諸帝国の植民地主義の拡張によって、国家の数は減り続けていた時代である。
20世紀の国際秩序の成立
東欧に独立国が復活し始めるのは、第一次世界大戦の後のことである。世界的な国家数の減少の傾向が逆転して、国家の数の増加が始まるのは、第一次世界大戦が終わってからのことであった。理由は、絶対主権を持つとされた帝国の崩壊である。
第一次世界大戦の終結時に、敗戦国となったドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国、そして革命が起こったロシア帝国が崩壊した。世界最強国として第一次世界大戦後の国際秩序の樹立に影響を行使したのは、ウッドロー・ウィルソン大統領が率いるアメリカ合衆国であった。
ウィルソン大統領は、すでに戦争中に、ヨーロッパの大国政治の原理であった勢力均衡と秘密外交を否定し、代わりに「民族自決」の原則を導入する「十四か条の平和原則」を明らかにして、国際秩序の刷新を誓っていた。大国の帝国主義的拡張を否定し、「民族自決」に基づく新国家の独立を承認する国際社会の秩序を導入した。この恩恵を受けた地域が、東欧であった。
実際には、東欧諸国は、自らの力だけで自らの独立を維持することができなかった。そのため集団安全保障を掲げる国際連盟に頼るしかなかった。しかしアメリカが加入しなかった連盟の力は限られており、東欧諸国は1930年代末までにナチス・ドイツとソ連によって再び分割併合されていってしまう。
この歴史を反省したアメリカは、第二次世界大戦後には、ヨーロッパの国際秩序の維持に深く関わるようになる。国際連合を通じた普遍的な集団安全保障に加わっただけではない。NATOを設立して、西欧諸国の安全を保障する主体として現れることになった。
ただしナチス・ドイツの崩壊で再び独立国になることができた東欧諸国の安全保障は、東欧から軍事力でドイツ軍を駆逐したソ連に委ねられることになった。ウクライナは、ソ連の一部とされたままであった。第二次世界大戦後に、大英帝国とフランス帝国の崩壊に伴う世界的な脱植民地化の広がりの中でも、東欧の秩序は変化しなかった。ワルシャワ条約機構加盟国が、ソ連の「勢力圏」から脱し、ウクライナのようなソ連構成国がソ連から離脱して独立国となるのは、ようやく冷戦終焉時の東欧革命とソ連崩壊のときであった。
いずれにせよ、一握りの数の帝国主義的な大国による勢力均衡で成り立つ19世紀のヨーロッパ中心の国際秩序は、20世紀を通じて「民族自決」を原則としたアメリカ主導の新しい国際秩序に変化していった。国連憲章が規定する「主権平等」は、力の支配を意味する絶対主権ではなく、中小国を含めた全ての諸国の独立が尊重される時代への移行を象徴した。新興独立諸国が次々と生まれて国家の数が激増していく20世紀の歴史の中で、遂にウクライナも独立国となることができたのであった。
ピョートル大帝の秩序と現代国際社会の秩序の対決
ピョートル大帝を憧憬するプーチン大統領が率いるロシアは、つまりアメリカ主導で成立した20世紀以降の国際社会の秩序そのものを憎んでいる。NATO拡大によって追い詰められたという描写は、つまりは帝国主義時代のヨーロッパの秩序への復帰を目指す野心の裏返しでしかない。
NATOという集団的自衛権を根拠にした同盟機構は、多数の小国が存在している国際秩序を前提にしている。小国は、独立国だが、自国だけでは自らの安全を確保できない。そこで集団的な安全保障の機構を必要とするのである。
NATOのような20世紀の国際秩序を前提にして成立している安全保障機構は、19世紀大国政治の時代の同盟とは、本質的に性格を異にしている。NATOは、「民族自決」や「主権平等」が原則となり、小国が多数生まれた国際社会になったからこそ、必要になっている安全保障機構である。
これに対して、19世紀大国政治の時代には、同盟があったとしても、帝国主義的な大国が、勢力均衡を計算して組み直し続けていただけのものであった。そこでは、小国は、大国の犠牲となり、消滅していくしかなかった。
ピョートル大帝を夢見て「勢力圏」の拡大を図るプーチン大統領は、後者の19世紀大国政治の帝国主義的な国際秩序の復権を狙っている。そこではウクライナは小国として、大国ロシアの犠牲になることが当然とされる。もしアメリカが主導するNATOをプーチン大統領が憎んでいるとすれば、このピョートル大帝の大国政治の実現を邪魔するからだ。
「全てを完全に善悪で分けられるか」、「アメリカだけが正しいのか」、「ゼレンスキーは英雄か」、といった禅問答のような問いを乱発させて、何とか現実から目をそらそうとする方々は、問題の本質を見誤っている。
反米主義のイデオロギーの衝動にかられて、プーチン大統領を擁護する方々は、それによって自分が現代国際社会の秩序そのものを否定する運動に加担してしまっているということを、よく知っておいてほしい。
●ロシア軍司令官が「虐殺を命じられた」と批判…プーチンの情報統制が破綻 6/15
アプリから漏れ出るロシア軍兵士の本音
ロシアが得意としてきた情報統制が、日を追うごとに機能しなくなっている。ロシア軍内部の兵士や司令官がアプリを通じ、厳しい戦闘の実情をロシア国民に直接発信するようになったためだ。世界トップクラスのシンクタンクのひとつ、欧州政策分析センター(CEPA)が分析リポートを通じ、ロシア情報封鎖のほころびを指摘した。
情報漏洩ろうえいの主な舞台となっているのは、暗号化メッセージアプリの「Telegram(テレグラム)」だ。軍上層部を信頼しない兵士や司令官、そして退役軍人や独立系メディアなどが、それぞれ独自の視点で生の情報を発信し続けている。ある司令官はTelegramに投稿した動画を通じ、ひどい食糧不足により部隊全体が飢えていると訴えた。プーチンはロシア兵を虐殺している、との猛批判だ。
ロシア軍の実情が現場から直接流出することは異例だ。CEPAは、「まったくもって前代未聞の事態が巻き起こった」と述べ、ウクライナ侵攻における情報漏洩の特殊性を指摘している。
ロシア軍司令官は「プーチンによって虐殺に送り出された」と非難
ある部隊は、飢えと病に悩まされている現実をTelegramで明かした。英ミラー紙が報じたところによると、ドネツク共和国第113連隊のロシア軍司令官は戦地からTelegramに動画を投稿し、プーチンは適切な装備もなく自軍の兵士たちを「虐殺」に送り出したと訴えている。この司令官は、食糧と医薬品の不足により部隊が「慢性的な疾患」に見舞われているとも訴えた。
動画では、やつれた表情を浮かべた数十名の兵士たちを背景に、司令官が戦地の過酷な状況を視聴者に明かしている。司令官は、自身の部隊が医薬品も十分な武器もなくウクライナ南東部のヘルソン地方に動員され、2月下旬以来、「飢えと寒さ」との戦いであったと暴露した。
さらに、部隊は適切な武器なくプーチンによって「虐殺に送り出された」と批判し、部隊をドネツクまで戻してそこで動員を解くよう求めている。司令官は続ける。「健康状態の検査を受けた者などいない。精神疾患をもつ子供たちが動員されている。多くの子をもつ父親たちや、後見人たちもだ」
動画についてミラー紙は、「彼の暴露は、ウクライナ東部で戦うウラジーミル・プーチンの一部部隊に関して、厳しい状況を浮かび上がらせた」と分析している。ウクライナ東部のドンバス地方はロシアが「解放」したと主張する地域だが、このような現実に苦しむ部隊による暴露動画が不定期にTelegram上に投稿されている。
プーチン政権の情報統制に無理が生じている
ミラー紙は、今回の動画を投稿した113連隊のほかにも、少なくとも2つの部隊が同様の苦境を訴え戦闘を拒否したと報じている。戦地に駆り出されたものの有効な攻撃手段をもたず、ただただ「大砲の餌食」になっているとの不満も兵士から噴出している模様だ。
生々しい戦場をその目でみたロシア兵の多くは、もはや政府発表の情報を信頼していない。CEPAが明かしたところによると、現役兵および退役兵が多く参加するとあるTelegramチャンネルでのアンケートでは、国営メディアを情報源として信頼すると回答した人は2%にとどまったという。
もともと政府を信頼しない人々がTelegramを愛用している傾向はあり、母集団のバイアスは多少存在するとみられる。しかし、それを加味しても、プーチン政権の傀儡くぐつメディアに対する圧倒的な信頼のなさを物語る数字となった。
プーチン政権は国営メディアなどを通じたプロパガンダで侵攻を正当化し、有利な戦果だけを伝えてきた。だが、肝いりの情報統制とプロパガンダにも、さすがに無理が生じてきているようだ。
一方のTelegramは、耳当たりのよい報告ではなく、真相で人々を惹きつけている。ロシア軍がドネツ川の渡河作戦で大きな失態を演じると、その死者数についてしばらく伏せるようあるチャンネルが呼びかけたが、ロシア側ユーザーからの怒りの声で炎上した。自由な情報の流通を好むユーザーの気質がうかがえる一件だ。
形勢不利を伝えるチャンネルがロシア人の支持を得る
興味深いことに、Telegram上で飛び交う現場の声はロシア軍の作戦立案にも反映されているという。CEPAが報じたところによると、ウクライナ軍の防空網が健在だという情報がチャンネル上で流れた際には、ロシア空軍内部で大規模な検証が行われた。
軍は、ユーザーがどの部隊に所属しているかなどをある程度特定し、情報の信頼性を精査しているとみられる。そのうえで、前線からの有益な情報源として発言を事実上黙認している形だ。事実、ユーザーのなかには現役兵に加え、退役した元将校など知識豊富な人物も多い。
こうしてTelegram上の情報に便乗するロシア軍だが、思わぬ落とし穴が待っていた。軍が対応の参考としたとの評判が広まると、ロシア軍形勢不利を伝えるいくつかのチャンネルはいっそう一般国民の信頼を得る結果となった。
このようなアプリを通じた情報公開は、以前の戦争であれば考えられなかった。状況を特異だとみるCEPAは、「戦争から3カ月で、まったくもって前代未聞の事態が巻き起こった。ロシア軍内部に、検閲がなく、防衛省の管理も届かない議論の場が出現したのだ」と驚きをあらわにしている。
戦勝記念日のパレードで軍事力を誇示するはずが…
Telegramは侵攻直後から情報収集手段として活用されてきたが、5月の軍事パレードが普及に拍車をかけるきっかけを作った。
ロシアが毎年5月に行っている戦勝記念日のパレードは、国民に軍事力を誇示し、兵士の士気を高揚させる機会として長年機能してきた。だが、ウクライナ侵攻の今年、この一大行事は裏目に出る結果となる。CEPAは、軍事機密の暴露がTelegram上で飛び交うことになったきっかけのひとつが、この軍事パレードだと指摘している。
今年も赤の広場で5月9日に行われたパレードは、例年と異なる体制が目を引いた。士官学生らに続いていざ正規軍の登場となると、地位ある将官らの姿がどこにもみられなかったのだ。行進を率いていたのは、中佐クラスがせいぜいであった。
例年パレードが盛り上がりをみせる戦車の車列の登場となると、昨年までとの差異はいっそう歴然となる。率いていたのは中尉らであり、例年よりかなり見劣りする編成だ。原因は火をみるよりも明らかだった。ウクライナへの動員で、軍人がまったくもって足りていないのだ。
CEPAは述べる。「軍隊の変わりようは極めて明白であり、よってその目でみたことを人々が話したがるのも無理はない話だ。だが、そのような話題を、いったいどこで議論できるというのだろうか?」
そこで白羽の矢が立ったのがTelegramというわけだ。メッセージは携帯端末から送出する段階で暗号化されるため、通信経路の途中で政府の検閲を受ける心配がない。
信頼失墜のマスメディアに代わり、Telegramチャンネルが台頭
ジャーナリストが「特別軍事作戦」について論じることが違法となったロシアでは、Telegramが貴重な議論の場となった。報道規制の厳格化とともにもともとロシアで注目を集めてきたTelegramだが、戦勝記念日の異常事態を受けさらに参加者を惹きつけることとなったようだ。
人々はグループチャットで戦争に関する自由な意見を交換しているほか、個人のジャーナリストやブロガーなどが匿名でチャンネルを開設し、独自の情報と見解を示している。CEPAによると、あるTelegramのアンケートでは、主な情報入手先としてまずブロガーを頼ると答えた人々は4割弱にも達する。
先進国であれば、ブロガーは独自の興味深い視点を披露する反面、報道の正確性ではマスメディアに一歩劣るというのが一般的な理解といえるだろう。ロシアではこれが逆転し、プロパガンダを流すマスメディアよりもブロガーたちが厚い信頼を獲得している。
CEPAはロシアにおいてTelegramが、単一のアプリとしては「不相応なほどにまで重要な役割」を担っており、「同国において最も人気のあるマスメディア」になっていると指摘する。オープンな議論が限られた現地で、政府の不当な監視の及ばない貴重な場となっている。
強気の国営メディア「ストーンヘンジまで攻める」
一方、プーチンのプロパガンダ戦略を担う国営TVは、相変わらず強気のロシア軍擁護を続けている。「プーチンの代弁者」ともいわれるロシア番組司会者のウラジーミル・ソロヴィヨフ氏は、自身の討論番組において、ロシアは「(イギリスの)ストーンヘンジまで攻める」との持論をぶち上げた。英メトロ紙が報じた。
番組には、ウクライナの政治家であるヴァシル・ヴァカロフ氏がゲストとして招かれた。ヴァカロフ氏は、ロシア軍がまもなくドンバス地方のルハンシクおよびドネツクを掌握する見込みだと指摘したうえで、一体どこまで西に軍を進めるのかと質した。
これに対し司会のソロヴィヨフ氏は激しい口調で、次のように応じている。「どこまで攻めたらやめるのかって? まあ今日の段階でいえることは、おそらくストーンヘンジだろう。(英外相の)リズ・トラスも、自身は戦争に参加している身だと言っている」
デイリー・メール紙はこの発言を、「外務大臣に対する馬鹿げた主張とからかい」だと批判した。プーチンへの痛烈な批判とウクライナへの武器支援を続けるトラス外相は、ロシアのエリート層にとって相当に憎き存在となっているようだ。イギリスに関して同司会者は以前、ロシアが核ミサイルの「ジルコン」を打ち込み、イギリスを「石器時代に戻す」とも発言している。
アプリ一つで崩壊危機…旧時代を生きる「世界第2位の軍隊」の限界
ウクライナ侵攻までは「世界第2位の軍隊」ともてはやされたロシア軍だったが、いざ開戦となると前時代的な装備と予想外の弱さが露呈し、世界から冷笑を買った。情報管理においても同様に、近代化の遅れが目立つ。
ソ連時代から情報統制をお家芸としてきたこの大国は、現代の情報化に対応できておらず、旧態然とした隠蔽いんぺい国策を続けている。ところが、たった1つのアプリを経由して前線でのあらゆる出来事が筒抜けとなる始末だ。
ITを積極活用するウクライナとは、好対照といえるだろう。ウクライナはかねて進めてきた電子政府化により、戦時下でも政府機能を維持している。ほか、スターリンク衛星通信を軍と市民生活の双方で積極活用するなど、近代技術を柔軟に取り入れている。
情報公開もむしろ積極的に進めており、英ミラー紙などが報じている死亡情報開示もその一例だ。ロシア兵の安否を気遣う家族向けに、確認されたロシア兵の死亡情報をTelegram上で確認できる枠組みを立ち上げた。同紙によると登録者数は100万人を超えたとのことで、ロシア兵の家族たちがロシア政府とウクライナのどちらを信用しているかは明らかだ。
戦時の情報隠蔽は、ゆっくりと過去の戦略になりつつあるのだろう。CEPAは、ロシアが行っている報道規制について、「この完全隠蔽システムは平時であればうまく機能するかもしれないが、全面戦争という現実が立ちはだかったなら、存続は不可能だ」と指摘する。
プーチンとしては戦時中にこそ、戦意高揚のため不都合な事実を隠蔽したいところだろう。だが、まさにその戦時中、前線に動員された司令官や兵たち自身がありのままの真実を発信している。肝心のときに限ってプロパガンダが機能しないという皮肉に、プーチンはいつの日か気づくのだろうか。
●ロシア版ダボス会議、今年は欧米勢顔見せず プーチン氏17日演説へ 6/15
「ロシア版ダボス会議」と称されるロシアの国際経済イベント「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(SPIEF)」が15─18日に開催される。ウクライナに侵攻したロシアに対して西側が厳しい経済制裁を科している中で、かつて顔を見せていた欧米政財界の指導者のほとんどが出席しないというのが今年の大きな特徴だ。
インタファクス通信がロシアのウシャコフ大統領補佐官の発言として伝えたところによると、プーチン大統領は17日に「国際経済状況とロシアの近未来における課題」と題して演説する。モスクワ時間午後8時(1600GMT)ごろにはプーチン氏とメディアの会見も予定しているという。
ロシアがSPIEFを始めたのは1997年。外国からの投資呼び込みを図るほか、経済政策の議論を通じて、旧ソ連時代と違い企業に門戸を開くロシアというイメージを広めることが目的だった。同国が常に意識してきたのは、スイスのリゾート地に世界中から政治や経済の指導者が集まるダボス会議(国際経済フォーラム年次総会)だ。
実際SPIEFにはこれまでドイツの当時のアンゲラ・メルケル首相や、国際通貨基金(IMF)専務理事だったラガルド現欧州中央銀行(ECB)総裁、米国のゴールドマン・サックスやシティ、エクソンモービルのトップなどが参加してきた。
しかし今回、出席者のリストに欧米の政治指導者や有力企業トップの名前は見当たらない。ロシアから撤退していない企業も参加を控えている。例外はロシアの米商工会議所の代表などごく少数だ。政治指導者がロシアと距離を置きたがり、企業の間にはロシアとかかわって制裁対象になることを恐れる雰囲気が広がっていることが分かる。
ロシア側はその穴を埋めるべく、中国のほか、対ロシア制裁に加わっていない、より小さな国の関係者を積極的に招待している。ペスコフ大統領報道官は14日、中東やアジアを念頭に「外国投資家は何も米国や欧州連合(EU)だけではない」と強調した。
ウシャコフ氏によると、40カ国以上が政府高官を派遣し、ロシア企業1244社と外国企業265社の出席も確定している。ロシア通信は同氏の話として、エジプトのシシ大統領が動画メッセージを送る予定と伝えた。中国やベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、中央アフリカ共和国、インド、イラン、ニカラグア、セルビア、アラブ首長国連邦(UAE)などの政府関係者が対面で参加するか、動画で演説するという。 
●戦争を起こした張本人の支持率がなぜ上がる? 疎外されたロシア世論 6/15
前回、ロシア国民が「受け身」という実態を紹介した。消極的ではあるものの結果的にプーチン大統領を支持している。ウクライナ侵攻をやめさせるための日米欧の制裁がいくら厳しくても、その構造は簡単に揺るがない。それにしても説明が難しいのは、戦争を起こした張本人であるプーチンの支持率が、なぜ上向くのかということだ。
プロフィル写真にロシア国旗マークで対抗
通信の自由が制限されつつある中、筆者の元にはモスクワで何年間も付き合ったロシア人の友だちから「戦争反対」の叫びが届いた。第2次大戦のむごさを学校で教えてくれたおじいさんに「(過ちを)繰り返してごめんなさい」とSNSに記す人も。徴兵された10代の若者は「演習」と聞かされて「実戦」で命を散らし、兵士の母の会が調査に動いた。
もっとも、プーチンが直ちに玉座から追い落とされることにはならなかった。メディア弾圧や世論誘導は有効だが、それだけでは説明にならないだろう。サイレントマジョリティーが自発的、無意識的に支持している点は見逃されがちだ。
面白い現象がある。2月24日にロシアの侵攻が始まって以降、ウクライナ人だけでなく、世界中の多くの人がフェイスブックのプロフィル写真に青黄2色の「国旗マーク」を付けた。「戦争反対」と「ウクライナ支持」の印。これを見た普通のロシア人がどう反応したかというと、プロフィル写真にロシア国旗のマークを付け始めたのだ。
国際社会による批判の対象はプーチンとその政権。ノンポリの国民は積極的な政権支持者ではないのに、あたかも自分たちの価値観が攻撃されたように勘違いしたらしい。あるいは、ウクライナ人には世界中が同情するのに、ロシア人は「誰にも同情してもらえない」という疎外感が働いたのかもしれない。
外敵が現れれば、強いリーダーの周りに人々が寄り集まるのは世の常。欧米でも「戦時指導者」という言葉があるくらいだし、人気が急上昇したウクライナのゼレンスキー大統領も同じことだろう。
脅威あおり「自転車操業」
実際、プーチンの支持率は3月、前月比12ポイント増の83%に達した。4月も82%、5月も83%。政府系でなく、欧米が信用する独立系の世論調査機関の数字でこれだ。
クリミア半島併合時から「プーチン政権はあすにもなくなる」と言う識者が日本にいたが、ロシア国民は8年間の制裁に慣れている。経済が駄目になって人気に陰りが出そうになれば、プーチンはまた外敵の脅威を強調すればいい。悪循環だが「自転車操業」のように緊張をあおり、政権は持ちこたえた。国民向けの戦時プロパガンダについては次に触れたい。 ・・・

 

●ロシア国民は「オルタナティブ・ファクト」の中で生きている 6/16
前回まで、ロシアのウクライナ侵攻や欧米の制裁後もプーチン大統領の支持率が下がらず、むしろ上がっている奇妙な現象の背景を説明した。国民の多数派が「受け身」であること、攻撃されると強いリーダーの下に集まってしまうことを理由に挙げた。そしてもちろん、政権がこれら2つを利用しつつ、国民を「プロパガンダ漬け」にしているのは言うまでもない。
ブチャの民間人殺害は「フェイク(偽情報)」──。侵攻後初めてとなる4月12日の記者会見でのこと。プーチンはロシア軍が占領していた首都キーウ近郊での「戦争犯罪」疑惑について否定した。証拠や証言と共に「史上初めて」大規模に特定されると言われているにもかかわらず。
ここで思い出されるのは、かつてトランプ米政権高官が言い放った「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」という概念だ。「戦争」ではなく「特別軍事作戦」とうそぶくプーチンも、それを信じてしまっている国民(全員とは言わない)も、都合の良い「真実」の中で生きているように見える。ウクライナ侵攻の序章、2014年のクリミア半島併合の際、ある程度は「うそ」と分かってプロパガンダを流していたのかもしれない。しかし「東部ドンバス地方の住民が虐殺されている」といったプーチンの異様な演説を長々と聞かされると、虚実が混濁しているのではないかと思えてくる。
「1984」と同じ
自分でいろいろ書いて言うのも何だが、ロシアの戦争が世界を揺るがせた22年、読書好きに薦めたいのは、はやりの地政学や国際情勢の本ではない。全体主義を風刺した英作家ジョージ・オーウェルの小説「1984」はどうだろう。
「戦争は平和なり。自由は隷従なり。無知は力なり」。こんなスローガンを掲げる「党」支配の下、虚偽を真実として書き換えていく。プーチン政権がせっせと戦時プロパガンダをこさえている様子は「ビッグ・ブラザー」の世界そのものだ。
ロシア国営テレビは結構見られている
情報統制下、さすがに若者はVPN接続で自由な報道に触れているが、中高年を中心に国営テレビの影響は絶大だ。筆者が「誰もプロパガンダなんか見ないだろう」と思っていた13年2月。隕石が落ちた田舎を取材し、国営テレビに映った。モスクワに帰ると、ビアホールで全く知らない人から「見たよ」。こう声を掛けられるほど、結構見ているものだ。
プーチンとメディアは、大統領就任時から切っても切れない関係にある。ロシアのテレビ局で勤務経験がある現代の英作家は、ロシア社会を「巨大なリアリティー・ショー」と断言している。 ・・・
●「決定的局面」迎えたウクライナ戦争…西側の兵器支援が大きな影響 6/16
ウクライナ戦争の最大激戦地である東部ドンバスで、ロシア軍の「優勢」が明らかになったことで、この戦争が勝敗が決まる「決定的局面」に向けて突き進んでいるとものとみられる。
現在、両国が最も激しく対立しているところは、5月末からロシアの執拗な包囲攻撃が続いているルハンシク州の都市セベロドネツクだ。ロシア軍は、この都市の80%程度を掌握し、市内の南側などで対立しているウクライナ軍を追い込んでいる。同都市の軍政責任者のアレクサンドル・ストリューク氏は14日(現地時間)、「都市から西に逃れる橋がすべて破壊された」とし、「交戦が少し収まったり、交通手段が確保されるたびに、住民たちが脱出を図っている」と述べた。現在、市内には1万2千人程度の住民が残っているが、大規模な脱出が不可能で、大きな人命被害が懸念される。
ロイター通信は、同日午前に発表されたウクライナ軍の戦況報告では、不利な戦況を懸念する警告が多かったと報じた。これによると、ロシア軍が「スラビャンスクに対する攻勢を展開するための条件を作っており」、リマンやヤンピル、シベルスクに攻勢をかけているという。いずれもセベロドネツクの西側都市で、この地域を失えばルハンシク州全体をロシアに渡すことになる。現在、ロシアはルハンシクの95%、ドネツクの50%などドンバス全域の80〜90%を占領している。
CNNはこのような点を挙げて、開戦から110日余りを越えたウクライナ戦争が長期的な勝敗を予想できる「決定的局面」に到達したと伝えた。 ロシアは戦争の第1次局面である「キーウ防衛戦」の時とは異なり、4月末に始まった「ドンバス攻防戦」では、じりじりと着実に進攻してきた。キーウの時とは違って接近戦を避け、中長距離で無差別的な砲撃を加えて敵を焦土化させた後、一歩一歩前進している。
AP通信は軍事専門家の話として、ロシアがドンバス地域を掌握した後は南部の主要港町オデーサと第2の都市ハルキウに対する攻勢を強化するだろうと見通した。ロシアはこれに先立ち、オデーサを占領した後、これをモルドバ内の親ロシア分離主義勢力の地域であるトランスニストリアとつなぐ意志を示した。ロシア軍中部軍管区のルスタム・ミンネカエフ副司令官は4月22日、「2日前に始まった『特別軍事作戦』第2段階(ドンバス攻防戦)で、ロシア軍の課題はウクライナのドンバス地域と南部地域を完全に統制することだ」とし、「ウクライナ南部統制はロシア語使用住民が抑圧されているトランスニストリアに進むもう一つの道」だと述べた。ロシアがトランスニストリアに進むためには、マリウポリからオデーサまで黒海と接するウクライナ南部地域をすべて制圧しなければならない。こうなれば、ウクライナは主要輸出品である小麦などを輸出できる港をすべて失い、内陸国家に縮小することになる。
ウクライナ軍がこれに対抗するためには、同様に強力な砲撃で対抗しなければならないが、このための長距離兵器が非常に足りない状況だ。そのため、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日、デンマークの記者団との会見で、東部戦線のセベロドネツクやハルキウ地域で苦戦を強いられていると認め、兵器の迅速な追加支援を求めた。さらに「ウクライナが十分に強くなければ、彼らはさらに進むと確信している」と述べた。現在包囲されて孤立したセベロドネツクの他にもウクライナ第2の都市ハルキウが再び危険にされされていることを認めたのだ。
ゼレンスキー大統領は13日にも「十分な現代式大砲だけが優位を保障するという事実に注意を払ってほしい」と重ねて支援を要請した。ミハイロ・ポドリャク大統領室首席補佐官は、具体的に1千台の曲射砲、300門の多連発ロケットシステム、500台の戦車、1千台の無人機などの重兵器が必要だと述べた。しかし、西欧側でも兵器の在庫が底をついており、自国の安保空白を甘受してまで無制限の兵器を供給するのは難しくなった状況だ。米国は「高速機動砲兵ロケットシステム」4基を提供すると発表したが、まだ戦線に投入されていない。兵器が到着しても訓練に少なくとも3週間が必要だ。 ウクライナ軍は現在、ソ連式兵器の弾丸が底をついており、西欧の兵器システムに変えなければならない。この過程で莫大なお金がかかり、訓練にも時間がかかる。
エネルギーと食糧危機によって物価が急激に上昇し、この3カ月間維持されてきた西欧の連帯にも疲労感が確認されている。イタリアとハンガリーは休戦を促しており、フランスとドイツは支援を誓いながらもロシアとの対話チャンネルの維持を強調している。中間選挙を控えて物価上昇で苦境に立たされたジョー・バイデン米大統領は10日、自分はロシアの侵攻の可能性を警告したがゼレンスキー大統領は耳を貸さなかったと述べた。ローマ教皇フランシスコも14日、イタリアのイエズス会の定期刊行物「ラ・チビルタ・カットリカ」(カトリック文化)で、北大西洋条約機構(NATO)がロシアを挑発した可能性があるとし、「善と悪という白黒論理は危険だ」と指摘した。
●ロシア・ウクライナ戦争における中国外交 6/16
中国はウクライナ情勢に関して総じてロシア寄りの中立という姿勢を維持している。中国はロシアの侵攻を侵略とは呼ばず、対露制裁に加わることもない。さらにロシアとウクライナの間を仲介するような動きもみせていない。ただし戦争を積極的に支持するわけでもない。なぜ中国はこのような立場をとっているのだろうか。
第1に、中露関係の深化である。特に対米政策において中露の提携関係が深まってきていた。2022年2月4日の首脳会談後の共同声明は、「中露友好に限界はなく、協力に聖域はない」と宣言していた。この宣言は、一言でいえば中露の米国への対抗心をむき出しにしたものであった。この宣言のなかで中露は、(1)西側の進めるカラー革命(民主や人権といった普遍的価値を広めることで、体制転換を行うこと)の「陰謀」への反対(2)NATOやインド太平洋戦略など軍事同盟の圧力に対する反対(3)欧州の新たな安全保障枠組み構築というプーチン大統領の主張への中国の支持――という点で合意したのである。
中国が侵攻について事前にどの程度の情報を得ていたかはわからないが、共同宣言の内容からして、ロシアが何らかの行動に出ること自体は、それほど驚きだったと思われない。驚きだったのは、ロシア軍の大苦戦であろう。
第2に、今回のロシア―ウクライナ戦争に対する中国の態度のなかで、最も特徴的なのは、激しい米国批判を展開し続けていることである。中国は戦争の根本原因は米国にあり、米国がさまざまな手段を用いてロシアと中国に圧力をかけているとみて、これに反発している。例えば、人民日報は「ウクライナ危機から見る米覇権主義」と題する論評シリーズを発表した。これらは、戦争の最大の責任を米国の覇権主義に帰し、米国が意図的に危機をあおり、さらに戦争に手を貸すことで事態を悪化させたという陰謀論的な議論を展開していた。また中国は、米国がウクライナ国内に生物兵器実験施設をつくっていたとのディスインフォメーション活動(意図的な虚偽情報の流布)を展開している。
第3に、中国はロシアを非難しない自国の立場を、必ずしも国際的に孤立していると考えていない。実際にロシアの侵攻について国際社会が一致団結して「ノー」を突き付けている状況といえない部分もあり、中国はこれを利用して中立国を増やそうとしている。中国は新興国に対して平和的解決、制裁への反対などの立場をアピールしている。これは西側にもロシア側にもくみしたくない国々に向けて、できるだけ共通点を探り、中立国を増やそうとする努力であろう。こうした観点から、中国は、中東、南アジア、東南アジアに向けた外交を活発に展開してきた。
ただし中露提携には限界もある。中国はロシアをあからさまに支援することで、自国が前面に立つことは避けており、そのようなロシアの軍事・経済的支援要請には応えていない。少なくとも短期的には、中国はロシアに対する直接的・全面的な支援を目立つかたちで行う見込みは低い。
このように中国は、難しいバランスをうまく維持することで、自国の利益を追求している。そしてこのような立場は簡単に変わることはないだろう。中国は秋の党大会を控え、政治の季節に入っている。上海などでの新型コロナウイルスの感染拡大と厳しいロックダウンによって国内社会には不満も広がっている。こうした状況で対外政策を転換することは、習近平国家主席の誤りを認めることにもなりかねない。よって中国は現状の立場を変えないと思われる。
最後に、しばしばロシアのウクライナ戦争によって中国の台湾侵攻が誘発されるという観測が広がっていたが、戦争の展開はむしろ中国を慎重にさせるだろう。ロシアが情報戦において不利な立場に陥り、さらにウクライナの激しい抵抗の前に苦戦を強いられたことは、台湾侵攻の難しさを再認識させることになる。ただし中国が台湾の統一をあきらめることはあり得ず、むしろ今回の戦争の展開をみて中国はさらなる軍事力の近代化が必要と感じて、その強化に注力することになるかもしれない。
●プーチン支持者扱いに不服のローマ教皇、ウクライナ戦争は「誘発された」 6/16
ロシアのウクライナ侵攻は「おそらく何らかの形で引き起こされた」と、ローマ教皇が発言したと、英ガーディアン紙が報じた。
6月14日付けのイエズス会が発行する『La Civiltà Cattolica』に掲載されたインタビューの中で、ウクライナ侵攻について言及している。
それによるとローマ教皇はウクライナを攻撃するロシア軍の「獰猛さと残酷さ」を非難しながら、「善VS悪」というおとぎ話のような単純な認識が広まっていることに警鐘を鳴らす。「戦争を遂行している部隊は大半が傭兵であり、ロシア軍はこれを利用している」と指摘した。
「赤ずきんちゃんが善で、狼が悪というお決まりのパターンから脱却する必要がある」「国境を終えて出現した何かによって、要素はとても絡み合っている」
背後で展開される全体像を見よ
またローマ教皇は、侵攻が始まる数カ月前に、ある国のトップに会ったことを明かしている。どこの国か明言は避けたが、その人物を「寡黙で、真の賢者だ」と表現した。
続けて、「NATOはロシアの門前で吠えている。ロシアは帝国であり、外国の力を近づけることはできないということを理解していない」とした。
さらに、「我々は、おそらく、何らかの形で挑発されたか、あるいは防げなかったこの戦争の背後に展開されるドラマの全体像を見ていない」と述べた。
ローマ法王は「プーチン支持者」であることを否定。世間が教皇をプーチンの味方だと受け止めるのは「単純で間違っている」
戦争が長期化している現状については、ロシアが見誤ったとみている。「ロシアは戦いが1週間で終わると思っていたことも事実だ。彼らは勇敢な人々、生き残るために苦労している人々、そして闘争の歴史を持つ人々に遭遇した」と、ウクライナの徹底抗戦する姿勢を認めた。
6月14日の朝、教皇はウクライナへの侵攻は一国の自決権の侵害であるとのメッセージを発表している。
「ウクライナでの戦争はいまや、長年にわたって死と破壊の大きな犠牲を出してきた地域戦争のひとつになった」と、11月に控える「世界貧者の日」にあてたメッセージの中で述べた。
「民族自決の原則に反して、他国による意思の押し付けが目的とされる『超大国』の直接介入によって、状況はさらに複雑になっている」
●ウクライナ戦争は重要な局面に、支援継続を=米国防長官 6/16
オースティン米国防長官は15日、ロシアのウクライナ侵攻は重要な局面に差し掛かっていると指摘し、米国と同盟国は引き続きウクライナ支援に取り組むべきとの考えを示した。
北大西洋条約機構(NATO)閣僚会議に合わせてブリュッセルで開いた約50カ国の国防相らとの会合で述べた。
「われわれは手を緩めたり、勢いを失うわけにはいかない。リスクはあまりにも高い」と述べ、「ウクライナはこの戦争で極めて重要な局面に直面している。ロシアは長距離砲撃でウクライナを制圧しようとしている」と語った。
バイデン米大統領はこの日、対艦ミサイルシステムやロケット弾など、ウクライナに対する総額10億ドルの新たな武器支援を発表した。
ドイツ政府も多連装ロケットシステムを供与し、数週間以内にウクライナ軍の訓練が始まると明らかにした。
NATOのストルテンベルグ事務総長は会議の冒頭、同盟国はウクライナに重火器と長距離システムを供給し続けるとし、今月末のNATO首脳会議でウクライナへの追加支援で合意することを望んでいると述べた。
「こうした取り組みには時間がかかる。だからこそ、こうした会議を開くことが重要だ」と強調した。
●高まる「タカ派」の声、プーチンが追い込まれている 6/16
ロシアで、ウクライナでの戦争への不満が高まっている。ただし、不満を発しているのは反体制派ではなく、タカ派の退役軍人グループや軍事ブロガーだ。
彼らは遅々とした戦況に対して膨らむいら立ちを表明し、ウラジーミル・プーチン大統領に国民総動員を要求する向きもある。
筋金入りのナショナリストたちから上がる不満の声は、プーチンが自ら招いた窮地の一端を示している。
プーチンが相手にしているのは、確実だと約束されていたはずの勝利を渇望するロシア国民と、消耗しすぎて勝利できないロシア軍だ。
英国防省情報機関が5月下旬に発表した報告書によれば、ウクライナ侵攻開始から3カ月間のロシア軍兵士らの推定死者数は、ソ連時代に9年以上にわたって続いたアフガニスタン侵攻の際の総死者数(約1万5000人)と同水準に達している。
ロシアでは独立系メディアや反政権派が表立った戦争批判を封じられ、多くの反戦デモ参加者が逮捕された。
それでも軍事ブロガーらは、不満表明の数少ない場として機能するメッセージアプリ「テレグラム」を使い、自由に情報発信している。
軍事ブロガーが示す不満はある事実を浮き彫りにする。すなわち、今回の戦争をめぐってプーチンが真の難題に直面するとしたら、それは現状を手ぬるいと考える国内タカ派が突き付けるものである、ということだ。
退役軍人団体の全ロシア将校協会は5月中旬、プーチンと政府高官らに宛てた公開書簡で、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を制圧できない状況を「失敗」と形容。ドローン(無人機)や弾薬、赤外線カメラが不足していると非難した。
書簡は民族主義的用語や陰謀論に満ち、今回の戦争を「白人・キリスト教徒の欧州」を守る戦いと表現している。
批判派の急先鋒は、元ロシア連邦保安局(FSB)将校で、ウクライナ東部ドンバス地方で親ロシア派武装勢力を率いたイーゴリ・ギルキンだ。
侵攻当初にドネツク出身の戦闘員が強制的に動員され、訓練も装備も不十分なまま戦線に送られ多数の死者が出て、大打撃につながったとの報告を、彼は喧伝している。
批判噴出の引き金になったとみられるのが、5月前半にロシア軍が壊滅的敗北を喫したドネツ川の戦いだ。一連の交戦でのロシア側の死者数は推定500人近くに上り、80以上の装備が破壊された。
この戦い以降、テレグラムでは戦争の進行速度への疑問や両軍の軍事作戦の比較、ロシア側のプロパガンダを疑問視する声が上がるようになった。
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は先日、ウクライナでの軍事作戦の遅れを初めて認めた。国民の期待値コントロールを目的とする発言だと、アナリストらは解釈している。
ロシア政権関係者や国営メディアが約束した即時の勝利がさらに遠のいている、という国民の幻滅に真のリスクが潜むと、米カーネギー国際平和財団のタチアナ・スタノワヤ非常勤研究員は指摘する。
「ある種の政治的危機が起きていると言える。プーチンは政治的圧力を受けている。ウクライナでの戦争を勝利で終わらせなければならない、と」
●欧州諸国はプーチン氏挑発を恐れるな ラトビア外相 6/16
訪米中のラトビアのリンケービッチ外相は15日、ワシントンでCNNの単独インタビューに応じ、欧州各国の首脳がロシアのプーチン大統領を挑発するとの懸念から行動を控えてはならず、国際社会はウクライナに戦争終結のために譲歩をさせるような圧力を掛けてはならないとの考えを示した。
リンケービッチ氏は、プーチン氏への挑発を恐れる首脳を名指しこそしなかったが、「プーチン氏が屈辱を受ける様子を見たくない、何らかの出口を提供するべきだと時折公言することでよく知られた人物」と言及した。フランスのマクロン大統領を指した発言とみられる。
マクロン氏は今月初め、「戦闘が停止したときに外交的手段を通じて出口を作れるように、我々はロシアに屈辱を与えてはならない」と発言していた。
リンケービッチ氏は、こうした方法は「理にかなうものではない」と述べ、「多くの首都で考え方を変える必要がある」との認識を示した。戦争終結に向けてプーチン氏に働き掛ける外交努力は結果が出ておらず、「(ロシア人は)戦うウクライナ人によってのみ止められる」と語った。
またウクライナでの戦争はロシアの指導者個人よりも大きな存在であり、国民の支持や、プロパガンダのチャンネルを通じた国民の洗脳なしには実行できないとも指摘した。
ウクライナを軍事支援する米国を称賛する一方で、欧州の同盟国は戦時の工業生産を拡大すべきだと主張。20年以上の軍縮小の後に、自分たちの防衛やウクライナへの武器提供が突然求められる事態になっているとも言及した。
リンケービッチ氏はさらに、「何人もウクライナに対して、ロシアに譲歩するように圧力を掛けてはいけない」とも発言した。停戦のための領土割譲などの譲歩は一定期間機能するかもしれないが、将来のロシアによる侵略を永続的に抑止できるかには疑問が残るとした。
「過ちを繰り返さないようにしよう。ロシアは北大西洋条約機構(NATO)の拡大や、ウクライナをNATOや欧州連合(EU)に加入させないためにこの戦争をしているのではない。これはウクライナを破壊し、領土を獲得し、帝国を再興するためのものだ」(同氏)
将来の軍事侵攻を避けるためには、「ロシアの軍事や経済の機構を、軍事的攻撃作戦を実行できないような状態にする。そのような状態までロシアを持って行く必要がある」と述べ、制裁は現在の戦争の終結を実現できていないものの、将来の戦争抑止には有効だとの考えを示した。
今月末にはスペインのマドリードでNATO首脳会議が開かれる。リンケービッチ氏は、ラトビアはバルト諸国の安全保障強化のために実行されるべき具体的な措置に注目していると語る。
ロシアに対しては、そうした地域がNATOの領域であり、「1インチでも」譲らないという「明確なメッセージ」を送ることが極めて重要だと指摘。マドリードでの会議はその議論や決定プロセスの始まりに過ぎないと述べた。
同氏は「我々が避けたいのは、バルト諸国の一部が突然占領され、その後NATO軍によって解放され、新たなブチャやマリウポリが出現するという事態だ」「我々が内々で話をしているのは、罰を通じた抑止や防衛から、バルト諸国への進攻の否定を通じた防衛や抑止への変化だ」と語った。
●ロシア妨害の穀物輸出の代替経路を確保、ウクライナ外務次官 6/16
ウクライナのドミトロ・セニック外務次官は16日までに、ロシアによる港湾封鎖で妨害されている自国の穀物輸出について代替の経路を確保したことを明らかにした。
シンガポールで最近開かれた安全保障関連の国際会合で述べた。ロイター通信によると、同次官はルーマニア、ポーランドやバルト諸国など友好国の協力に触れながら、農産品の輸出に使える二つの経路を築いたと説明。
ただ、輸出作業を遅らせる障害にも直面しており、当面は円滑な運営を期すための最善の措置を講じているとした。
この2経路を通じて運び出された穀物の量は把握していないともした。
CNNは先に、ロシアの港湾封鎖でウクライナ内の貯蔵庫やオデーサ港などに滞留している穀物は数百万トン規模と報道。この輸出停滞が原因で、ウクライナ戦争が長引くと共に世界的な食糧価格の激増が懸念される事態ともなっている。
米国務省のデータによると、ウクライナはトウモロコシや小麦の輸出大国。国連食糧農業機関(FAO)は世界各国の食糧不足を補うため毎年調達する小麦の約半分をウクライナに頼ってもいた。
●プーチン大統領の愛国主義と戦勝記念日と矛盾 6/16
ロシア軍がウクライナに侵攻して3か月あまり。この1か月間のプーチン大統領の演説や発言について、旧ソビエト時代から長年にわたってロシアを取材してきたNHKの石川一洋解説委員に分析してもらいました。注目したのは5月9日の「戦勝記念日」の演説でした。
今回の分析からは
   1 矛盾?
   2 宣戦布告の論理構成
   3 ロシア愛国主義
というキーワードが浮かび上がってきました。
今回、注目した演説は?
やはり、5月9日の「戦勝記念日」での演説ですね。まずは、この日が、ロシアにとっていかに大切な日かを少しお話したいと思います。77年前のこの日、第2次世界大戦でナチス・ドイツが降伏しました。ヨーロッパでは5月8日で、ロシアでは時差の関係で5月9日になります。ロシアでは、この日を「対独戦勝記念日」としていて、とても大切な祝日です。この日を理解するためには、ナチス・ドイツとの戦いにおける、旧ソビエト、その中には今のロシアやウクライナ、ベラルーシが入っていましたが、その甚大な犠牲について知る必要があります。
甚大な被害とは?
第2次世界大戦で、旧ソビエトは、世界で最も多い少なくとも2600万人の兵士と市民が死亡したとされています。当時の旧ソビエトの人口は約2億人だったので、10人に1人以上犠牲となりました。戦勝国とは思えない甚大な犠牲です。この数字には、一般市民の犠牲者も含まれています。例えば、ロシア第2の都市サンクトペテルブルク、当時のレニングラードでは、900日近くにわたってナチス・ドイツ軍に包囲されて、数十万人が戦死、または餓死したとされています。今のベラルーシ、ウクライナ、そしてロシアの西部はナチス・ドイツとの地上戦が行われました。私の友人や取材対象の方にも本人が戦争孤児、あるいは親が戦争孤児だった人は何人もいます。
5月9日 国民感情は?
私が初めて戦勝記念日を取材したのは1990年のことです。まだ退役軍人の方が元気で、同じ部隊の人たちが年に1度、「ここで会おうね」と待ち合わせていた場所のひとつがモスクワのボリショイ劇場の前でした。女性の元兵士の姿が多いのも印象的でしたが、花束を持ったお年寄りが「元気か」「また会えてよかった」と、抱き合う姿には心を動かされるものがありました。多くの人たちにとっては戦死者を悼む日です。「戦勝記念日」と呼ばれ、プーチン政権になって軍事パレードなどが注目されたりしますが、実は、もともとは平和を願う日という意味合いが強い。2600万人もの人が犠牲になり、家族や親族に犠牲者がいない人はいません。だから家族みんなで集まって戦争体験者のおじいさんやおばあさんなどとともに、犠牲者を悼み、平和に感謝をする日なのです。あの悪夢を2度と繰り返さないよう、平和を祈る日なのです。それはロシアだけでなく、ウクライナやベラルーシでも同じです。国民が、2度と戦争をしたくないと、平和を最も願う日を、特別作戦という名の戦争でむかえてしまう。その矛盾が、この日のプーチン大統領の演説にもあらわれています。
プーチン大統領の演説とは?
プーチン大統領は9日、首都モスクワの赤の広場で開かれた式典で演説しました。結論から言いますと、これまでの演説と比べて、非常に内向きでした。世界に発信するのではなく、ロシア国民に向けた演説でした。それは先ほど述べた通り、「戦勝記念日」の持つ本来の意味、国民感情とウクライナ侵攻の矛盾を、国民に説明しなければならなかったからです。
矛盾点とは?
平和を最も願う日に、ウクライナ侵攻を継続しているという点ですね。当然、ロシア国民もやはり「なぜ侵攻したの?」と思っているわけですからね。その矛盾について、プーチン大統領は国民に対して、演説でこう話しています。
ロシア プーチン大統領 「ロシアは西側諸国に対し、誠実な対話を行い、賢明な妥協策を模索し、互いの国益を考慮するよう促した。しかしすべてはむだだった」「ロシアが行ったのは、侵略に備えた先制的な対応だ。それは必要で、タイミングを得た唯一の正しい判断だった」
これは、“我々は平和交渉をしてきたが、相手が全く飲まなかったから、やむをえず戦いにでた”と言っているわけです。つまり悪いのは、アメリカなど西側諸国だと。これは過去に使われた、典型的な宣戦布告の論理構成とよく似ています。
ほかにも矛盾が?
プーチン大統領は今回の侵攻を「大祖国戦争」と呼ばれるナチス・ドイツとの戦いと重ね、祖国防衛が目的の特別軍事作戦だと訴えています。このため演説では、「戦争」ということばは、一切、使っていません。でも、すでにやってること、プーチン大統領の演説は、限りなく戦争の状態なのに、いまだに「特別軍事作戦」ということになっています。ここも矛盾している点です。そもそも、平和を願う日に事実上の戦争状態が続き、しかもその相手が旧ソビエトの中でともにナチス・ドイツと戦ったウクライナで、さらにウクライナから勝利をと、矛盾に満ちた演説ともいえます。
ほかに注目した点は?
プーチン大統領のロシア愛国主義のルーツは第2次大戦・大祖国戦争にあるという点です。それを理解するには、まずは旧ソビエトと帝政ロシアの歴史について知る必要があります。実は、旧ソビエトの共産主義が主たる敵としたのは、ロシア主義といいますか、ロシアナショナリズムだったのです。ロシアナショナリズムは帝政ロシアの復活につながりかねないとして警戒され、数百万人の帝政ロシアにつながる人々は抹殺、国外に追放されました。多くの文学者、知識人も粛清、弾圧の犠牲となりました。軍も粛清の対象となりました。
誰が静粛、弾圧を?
ソビエト共産党の創設者で指導者のスターリンです。スターリンは、ロシアナショナリズムの復活を恐れていました。ソルジェニツィンのいう共産主義の赤い車輪が歴史的なロシアをじゅうりんしたのです。旧ソビエトの最初の国歌は「インターナショナル」、「起て、飢えたるもの、圧政の世のすべてを破壊し、新世界を築く」という既存の国家を否定する歌が国歌となっていました。その旧ソビエトの中で「ロシアナショナリズム」が復活したのが第2次大戦だったのです。1941年6月、旧ソビエトは、ヨーロッパ全土をほぼ支配したナチス・ドイツの軍隊の急襲を受けます。ソビエト赤軍は大敗北を決し、ウクライナ、ベラルーシは占領され、その冬にはモスクワの近郊40キロまでドイツ軍が迫ったのです。スターリンに弾圧されたウクライナ、特に西部ではナチス・ドイツを解放軍と歓迎し、協力する動きもあったのです。ちなみにプーチン大統領は今のウクライナはこうした動きを正統化し、その流れを受け継いでいるとして、ネオナチと呼び、侵攻の理由としています。
スターリンは何を?
インターナショナル、国際主義ではナチス・ドイツに太刀打ちできないと考えたスターリンが頼ったのが、弾圧してきたロシア愛国主義でした。ロシア正教会に協力をもとめ、正教会もそれに応えました。多くの聖職者が収容所から解放されました。ロシアを守る戦い・大祖国戦争としてロシアの愛国心を奮い立たせました。戦争の中で国歌はインターナショナルから新たなソビエト国歌に代わりました。「自由な共和国の揺ぎ無き連邦を偉大なるルーシが永遠に固める」。「偉大なるロシア」というロシア愛国主義が復活したのです。第二次大戦以来、旧ソビエトの枠内で脈々とロシア愛国主義が底流として流れるようになりました。その愛国主義を、国のイデオロギーとして復活させ、安定の土台としたのがプーチン大統領なのです。
プーチン大統領の愛国主義とは?
プーチン大統領自身は戦後の生まれですが、戦争の傷跡の深い家庭に生まれました。両親ともにナチス・ドイツ軍に包囲された当時のレニングラードにいて、父親は戦闘で重傷を負いました。母親は飢えで死にかけたといわれています。だからプーチン氏は、大戦での勝利、勝利への思いがとても強い。それだけの犠牲を払って勝ち取った勝利という思いがあるのだと思います(詳しくはロシアのプーチン大統領はどんな人?)。大統領になるとすぐ新しいロシア国歌を制定しました。ソビエト国歌のメロディを復活させ、それにロシアをたたえる歌詞をつけました。第2次大戦の勝利と愛国主義を基盤とするプーチン大統領の国歌といえます。でも、指導部に戦争体験者がいれば、なぜ第2次大戦の悲劇の舞台となった土地で再び同じような戦争を起こすことができるのでしょうか。ウクライナにも、ナチス・ドイツ軍との戦いで、苦しんだ、大変な人たちが今もいるわけですから。米ソ対立の冷戦時代、朝鮮戦争、ベトナム戦争という悲惨な地域紛争、そして東欧諸国の民主化への弾圧もありました。ただソビエトの指導者、フルシチョフやブレジネフは、あの戦争を繰り返してはならないという1点ではアメリカの指導者と一致し、ヨーロッパでの大きな戦争は繰り返されませんでした。
今後の懸念は?
私が懸念しているのは、ロシアの戦術核兵器の使用です。ロシアは戦術核兵器というものを非常にたくさん持っています。私は昔、核開発も取材したんですけれども、冷戦時代から、超小型の核兵器などもすでに開発していました。そうしたものが今、どうなっているのか私はわかりません。ただ、核兵器の使用というのは、誤解、認識のずれが大きくなると、そのリスクも大きくなります。ロシアが、ウクライナを全面支援しているアメリカと戦っているんだという認識を強めていく中で、何か偶発的なことがおきないとは限りません。また、ロシアがギリギリまで追い込まれた場合、この戦術核兵器の使用に踏み切るのではないかということを懸念しています。そして私が最も気がかりなのは、これ以上、どれほどの犠牲者がでるかです。これはウクライナの人たちだけでなく、ロシア側についても同じです。9日の演説で、プーチン大統領は、戦死者や負傷者の子どもたちを特別に支援する大統領令に署名したことを明らかにするなど、戦争が長期化して戦死者が増えていることを事実上、認めています。おそらく、プーチン大統領が想像した以上の犠牲者になっているのだと思います。
停戦の見通しは?
現段階においては停戦への道筋、見通しは全く見えません。可能性としては、戦況がこう着し、自然と停戦ラインというのができて、そこで一時停戦、または休戦ラインというものがつくられるかもしれません。しかしお互いの対立はかなり長く続くと思います。つまり、戦争状態はそのまま残るということで、今のところ、恒久的な停戦あるいは終戦という見通しは、残念ながらありません。つまりこの戦争が始まった段階で既に、ロシアの失敗であり、このロシアを戦争に走らせてしまったという点では国際社会の失敗だと思います。
●米、「劣勢」ウクライナ軍へ追加軍事支援10億ドル…ハープーンも初供与  6/16
米政府は15日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、地上配備型の対艦ミサイルシステム「ハープーン」2基など10億ドル(約1345億円)の追加軍事支援を発表した。米国による対艦ミサイル供与は初めて。露軍が黒海を封鎖し、ウクライナからの穀物輸送が停滞しているため、南部オデーサの港からの輸出再開に向け、ウクライナ軍の対艦能力向上を図る。
バイデン米大統領は15日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話会談し、支援内容を説明した。東部地域の地上戦で劣勢が伝えられるウクライナ軍に、 榴弾りゅうだん 砲18門、砲弾3万6000発も追加提供する。4基の供与を決めている高機動ロケット砲システム(HIMARS)用の砲弾も含む。
ゼレンスキー大統領は15日のビデオ演説で、「(東部)ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)における我々の防衛にとって特に重要だ」と謝意を示した。
米国による軍事支援は、2月の侵攻開始後、総額56億ドル(約7530億円)に上った。バイデン氏は15日、2億2500万ドル(約300億円)の追加人道支援も表明した。
一方、15日にオースティン米国防長官が主導してブリュッセルで開かれたウクライナへの軍事支援を協議する国際会合では、ドイツが多連装ロケットシステム3基の提供を表明するなど、各国が支援拡大の意向を示した。
会合後、北大西洋条約機構(NATO)の防衛相会合も始まり、ウクライナ軍やNATO加盟各国の装備近代化を進める重要性を確認した。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は15日の記者会見で「重火器や長距離(攻撃)システムなど、ウクライナの勝利に必要な軍備提供を続けることを約束する」と述べた。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 6/16
ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が続いています。ウクライナの各地でロシア軍とウクライナ軍が戦闘を続けていて、大勢の市民が国外へ避難しています。戦闘の状況や関係各国の外交など、ウクライナ情勢をめぐる16日(日本時間)の動きをお伝えします。
仏独伊3か国首脳がキーウに 結束して支援する姿勢示すねらいか
ロシア軍がウクライナ東部で攻勢を強める中、フランスとドイツ、イタリアの3か国の首脳はそろってウクライナの首都キーウに入り、ゼレンスキー大統領と会談しました。今月下旬から立て続けに開かれる国際会議を前にEU=ヨーロッパ連合として結束してウクライナを支援する姿勢を示すねらいがあるとみられます。マクロン大統領はキーウ到着後、報道陣に対し「ウクライナの国民に対して連帯と支援のメッセージを伝えるために来た」と述べました。
仏独伊3か国首脳らがイルピンで破壊された建物など視察
フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相は16日、ルーマニアのヨハニス大統領とともにロシア軍の激しい攻撃を受けた首都キーウ近郊のイルピンを視察しました。首脳たちは、多くの報道関係者や警護の兵士に囲まれながら、ロシア軍によって破壊された建物や町の様子を見て回りました。そして、攻撃される前の写真や動画も見ながら、ウクライナのチェルニショフ地域発展相から被害状況や復興の計画などについて説明を受けていました。
仏独伊の首脳がキーウに到着
フランスのAFP通信などは、マクロン大統領とドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相が16日、ウクライナの首都キーウに到着したと伝えました。映像では、3人の首脳が、キーウの駅のホームをウクライナ軍とみられる護衛に守られて歩く様子が確認できます。3人の首脳はウクライナと国境を接するポーランドから列車でそろって出発していて、車内でテーブルを囲んで談笑する様子も伝えられています。3人の首脳はキーウ到着後、ゼレンスキー大統領と会談する予定だということです。
世界の難民・国内避難民 1億人超 過去最多 ウクライナ侵攻で
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によりますと、紛争などで住む家を追われた世界の難民や国内避難民の数は、去年過去最多にのぼったうえ、ことし2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって世界全体で1億人を超えました。UNHCRのグランディ難民高等弁務官は強い危機感を示したうえで、ウクライナだけでなく世界の難民と避難民の支援を強化していく必要があるとして、国際社会にいっそうの協力を呼びかけています。
米「セベロドネツク 4分の3をロシア軍に奪われているか」
アメリカ軍の制服組トップのミリー統合参謀本部議長は15日、訪問先のベルギーの首都ブリュッセルで記者会見し、ロシア軍が攻勢を強めるウクライナ東部ルハンシク州のセベロドネツクについて「現在、おそらく4分の3をロシア軍に奪われている」と述べました。一方で、ウクライナ軍も街の至るところで応戦していて、決着はついていないと指摘しました。さらに、東部の戦況について「大砲などの数の上では明らかにロシア軍が有利と言えるが、彼らは指揮統制や兵たん、それに兵士の士気の問題など、多くの課題に直面している。ウクライナ側は英雄的な戦いをしている一方、ロシア軍の前進は非常に遅く、多くの死傷者を出している」と述べました。
WTO閣僚会議 食料不足対応で閣僚宣言へ向け詰めの協議
スイスのジュネーブで開かれているWTOの閣僚会議は15日が最終日でしたが、「閣僚宣言の合意に向けてさらに時間が必要だ」として会期を1日延長し、16日まで協議を続けると発表しました。閣僚会議では、ロシアの軍事侵攻によって起きている食料不足など、食料安全保障の分野では不必要な食料輸出の制限をしないというWTO協定上のルールを各国が順守する方向で議論が進んできましたが、関係者によりますと、インドやパキスタン、それにスリランカなどが異なる主張をしているということです。新型コロナの世界的な感染拡大とロシアの軍事侵攻で世界経済が揺さぶられるなか、自由貿易を理念として掲げるWTOが一致した方針を打ち出すことができるか、交渉は山場を迎えています。
ロシアで国際経済会議 欧米の参加ほとんどなく断絶鮮明に
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで15日に始まった「国際経済フォーラム」は、主催団体の発表によりますと、115の国と地域から企業の代表や政府関係者などが参加する見通しです。プーチン大統領も重視するこの会議には、かつては、安倍元総理大臣やフランスのマクロン大統領など、G7=主要7か国の首脳も出席してきましたが、今回は、例年と違って欧米からの参加はほとんどありません。参加するのは、中東、アフリカや南米、旧ソビエト諸国など、ロシアと結び付きが強い国ばかりで、ロシアとの経済協力などを話し合う個別のセッションも、中国やトルコ、イランなどにかぎられ、制裁を強める欧米との断絶が一層鮮明になっています。ロシア大統領府によりますと、今回は海外から参加する企業がおよそ260社にとどまったのに対して国内からは1200社を超えるなど、ロシア企業の参加が目立つということです。ロシア大統領府の報道官は、プーチン大統領が17日に行う演説で、世界の資源価格の高騰や食料安全保障について言及するとしたうえで「非友好国がロシアに仕掛けた経済戦争で、事態が深刻化した」と述べるなど、強気の構えを崩していません。ロシアとしては、一連の会議を通じてウクライナ侵攻を改めて正当化しながら、欧米との対抗軸を築きたいねらいもありそうです。
ロシアのネベンジャ国連大使「欧米の兵器が罪ない人々を殺害」
ロシアのネベンジャ国連大使は15日、国連本部で記者団に対し、NATO=北大西洋条約機構が供与した砲弾による砲撃で、ウクライナ東部ドネツク州で市民が死亡したと主張したうえで「いま、欧米の兵器が罪のない人々を殺害している。欧米諸国はウクライナ政府と同様に責任を負うことになる」と述べました。
ウクライナ軍事支援 米主導の会合 新たな支援表明相次ぐ
ロシア軍による軍事侵攻が続く中、ウクライナ側は、ロシア軍に対抗するための兵器や弾薬が不足しているとして供与を加速させるよう欧米各国に求めています。こうした中、ベルギーの首都ブリュッセルで、ウクライナを支援する国が参加する会合が15日、アメリカの主導で開かれ、NATO=北大西洋条約機構の加盟国などおよそ50か国の関係者が参加しました。会合にはウクライナのレズニコフ国防相も出席し、どのような兵器が優先して必要かなどを説明したということです。これに対して各国からは、新たな軍事支援が相次いで表明され、このうち▽ドイツは多連装ロケットシステムを、▽スロバキアはヘリコプターやロケット弾を供与する方針をそれぞれ示したということです。こうした支援についてアメリカのオースティン国防長官は、会合のあとの記者会見で「ウクライナの長距離砲撃の能力への投資であり、ロシアの攻撃をはね返すうえで極めて重要だ」と述べました。そのうえで「われわれは支援を通じて大きな勢いを作ってきたが、さらに加速させるつもりだ。将来にわたってロシアによる侵略からの撃退を支援する」と述べ、軍事支援を加速させる考えを強調しました。
ロシアのガス会社 イタリアへの天然ガス供給も15%削減か
イタリアの石油ガス会社ENIは15日、地元メディアに対し、ロシアからの天然ガスの供給量が15%削減されることになったと明らかにしました。会社によりますと、天然ガスを供給するロシア最大の政府系ガス会社ガスプロムは、削減の理由など詳細を明らかにしていないということです。イタリア政府は「天然ガスの供給状況を注意深く監視している。今のところ、供給に深刻な問題はない」としています。イタリアは、輸入する天然ガスのおよそ40%をロシアに頼っていますが、ウクライナ情勢を受けて北アフリカや中東など、調達先の多角化を進めています。
ロシアのガス会社がドイツ向け天然ガス供給を6割削減と発表
ロシア最大の政府系ガス会社ガスプロムは15日、ドイツ向けのガスパイプライン「ノルドストリーム」について、設備の修理期限が過ぎたとして、16日からガスの供給量が当初の計画よりおよそ60%減ることになると明らかにしました。ガスプロムは、前日の14日にも、パイプラインのほかの設備の修理が遅れていることを理由に、供給量をおよそ40%減らすと発表したばかりで、これについて、ドイツでエネルギー政策を担当するハーベック経済・気候保護相は、15日の記者会見で、修理はことし秋の予定でいま行う必要はないものだと指摘しました。さらに、ガスプロムの15日の発表を受けた声明では「ロシア側の対応は状況を不安定化させ、エネルギー価格を高騰させるための明らかな戦略だ」と非難しました。そのうえで、国内のガスの供給には問題は起きていないとして、今後も状況を注視しながら必要に応じて対策を講じる考えを強調しました。
米 ウクライナへ10億ドルの追加軍事支援へ
アメリカのホワイトハウスは15日、バイデン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、10億ドル、日本円にしておよそ1300億円相当の追加の軍事支援を行うことを伝えたと発表しました。具体的には砲撃のための兵器や砲弾のほか、沿岸防衛のための兵器、それにロケットシステムなどを供与するとしています。さらに2億2500万ドル、日本円でおよそ300億円相当の追加の人道支援を行うことも明らかにしました。ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、新たに動画を公開し「この支援に感謝している。ドンバス地域の防衛にとって特に重要だ」と述べました。ウクライナ大統領府の発表によりますと、ゼレンスキー大統領は、動画の公開に先立ってバイデン大統領と電話で会談し、最新の戦況やさらなる支援などについて議論を交わしたということです。ゼレンスキー大統領は声明で「われわれはこの戦争に勝利し、奪われた領土を取り返さなければならない」と徹底抗戦する構えを改めて強調しました。
EU 東地中海の天然ガス調達でイスラエル エジプトと連携強化へ
EUとイスラエル、それにエジプトは15日、エジプトの首都カイロで会合を開き、東地中海で産出される天然ガスのヨーロッパへの安定的な供給に向けて連携を強化していくことで合意しました。合意では、イスラエルの沖合で産出される天然ガスをパイプラインでエジプトに輸送したあと、液化してヨーロッパへ輸出するほか、輸送技術の向上のための技術開発を進めることなどが確認されました。合意のあと、EUのフォンデアライエン委員長は会見で「エネルギーの調達先の多角化に向けて、ロシアの化石燃料から信頼できる相手への移行を進めるなか、この2か国はまさに信頼できる調達先だ」と述べ、合意の意義を強調しました。豊富な埋蔵量があるとされる東地中海の天然ガスをめぐっては、ヨーロッパへの海底パイプラインの敷設計画が進められるなど、周辺国が協力を模索していましたが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて連携が加速した形です。
●アメリカなどウクライナへ追加の軍事支援発表 ロシア側は反発  6/16
ロシア軍がウクライナ東部で攻勢を強める中、アメリカなどはウクライナへの追加の軍事支援を発表しました。ウクライナのゼレンスキー大統領が謝意を示した一方、ロシア側はプーチン大統領の最側近の1人が「さらなる人的被害と破壊につながるだけだ」と反発しています。
ロシア軍は、完全掌握を目指す東部ルハンシク州のセベロドネツクを包囲するため攻勢を強めています。
アメリカ軍の制服組トップのミリー統合参謀本部議長は15日、訪問先のベルギーの首都ブリュッセルで記者会見し、セベロドネツクについて「現在、おそらく4分の3をロシア軍に奪われている」と述べました。
一方で、ウクライナ軍も街の至るところで応戦していて、決着はついていないと指摘しています。
また、ルハンシク州のハイダイ知事は、セベロドネツクにあるウクライナ側の拠点のアゾト化学工場に、今もおよそ500人の市民が避難していて、そのうち40人は子どもだと明らかにしています。
ロシア国防省は、こうした市民を工場から避難させるための「人道回廊」を15日に設置すると発表しましたが、その後「ウクライナ側が人道的活動を妨害した」と一方的に主張し、依然として市民の避難は困難な状況とみられます。
こうした中、15日ベルギーの首都ブリュッセルではアメリカの主導でウクライナへの軍事支援について話し合う会合が開かれました。
NATO=北大西洋条約機構の加盟国などおよそ50か国の関係者が参加し、各国からは多連装ロケットシステムなどさらなる兵器や弾薬の供与が相次いで表明されました。
また、アメリカのバイデン大統領はウクライナのゼレンスキー大統領と15日電話で会談し、対艦ミサイルなど10億ドル、日本円にしておよそ1300億円相当の追加の軍事支援を行うことを伝えました。
ゼレンスキー大統領は15日、新たに公開した動画で「この支援に感謝している。ドンバス地域の防衛にとって特に重要だ」と述べ謝意を示しました。
一方ロシア側は、こうした欧米の軍事支援の動きを強く警戒していて、プーチン大統領の最側近の1人、パトルシェフ安全保障会議書記は15日「こうした行動は逆効果であり、人為的に紛争を起こし、さらなる人的被害と破壊につながるだけだ」と反発しています。
●ウクライナ、死傷者1日1000人 ロ軍も「第1次大戦のような消耗戦」 6/16
ウクライナ軍は東部ルガンスク州の残る拠点都市セベロドネツクの防衛に向け、必死の抗戦を続けている。米メディアによると、ウクライナ側は15日、同国軍の死傷者数が1日当たり最多1000人に上っていると明らかにした。一方、米軍幹部は、ロシア軍が物量でウクライナ軍を圧倒しているものの、「第1次大戦のような深刻な消耗戦」が続いているとの見方を示した。
米シンクタンク戦争研究所によると、ロシア軍はセベロドネツクとその周辺で激しい攻撃を続けているが、15日時点でウクライナ軍が立てこもる化学工場を制圧できていない。ただ、ウクライナ軍は外部との通信がほぼ遮断されて孤立し、多方向から攻撃を受けているという。
ルガンスク州のガイダイ知事は16日、セベロドネツクでウクライナ軍が抵抗を続けているとした上で、「市内には民間人約1万人が取り残されている」と懸念を表明した。
●ウクライナの穀物輸出停滞、英首相は「数日中の進展」に期待… 6/16
英国のジョンソン首相は15日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話で会談した。英首相官邸によると、ロシア軍による黒海封鎖でウクライナの穀物輸出が停滞している問題を協議し、ジョンソン氏は「数日中の進展」に期待を示した。詳細は不明だが、事態打開に向けた検討が加速している可能性がある。
ゼレンスキー氏はこれまで、ロシア以外の有志国の海軍が「護送船団」を組んで海上輸送する案を軸に、英国やトルコ、国連などと輸出方法を協議していると明らかにしていた。
●侵攻で急増、世界の難民は1億人 「難民受け入れにはメリットも」 広島 6/16
「世界難民の日」。青年海外協力隊、日本ユニセフ協会、JICA国際協力推進員などの経験を持ち、現在、JICA中国勤務の新川美佐絵さんと一緒に、難民問題について考えていきます。
国連機関の調査によりますと現在、世界には紛争や迫害などで故郷を追われた人たちが、およそ1億人いるとされているんです。これまではシリアやベネズエラ、アフガニスタンなどが多くを占めていましたが、ロシアによる「軍事侵攻」が起きてからはウクライナで600万人以上が国外に避難。難民や避難民の数が急激に増えた背景の1つになっています。
Q:この現状をどう受け止めていらっしゃいますか?
新川美佐絵さん「難民は隣国に避難することが多いので、島国の日本ではピンをこない方が多い。2017年には約6000万人だった難民が、今年は8000万人に増えている。そしてウクライナの難民を入れると1億人。私自身もショックを受けた」
世界で難民が増え続ける中、日本でも多くの人が難民申請をしていますが、ただ、他の国と比べてみても日本の認定率というのは圧倒的に低いといえます。
Q:日本の受け入れ体制は?
新川美佐絵さん「数年間待たされるっていうようなケースもあり、日本は保護するより管理・取締とういうカラーが強い。さらに、他の国に比べても難民を決める基準が曖昧だったり、受け入れ体制不十分。これらを整えていくことが、大切になっていくと思う」
Q:私たちができることは?
新川美佐絵さん「例えば、モロゾフのチョコレートは、ロシア革命の時に日本に逃れてきたモロゾフというロシア人の方が作りだした。天才科学者・アインシュタインも難民としてアメリカに逃れている。人道的な意味合いだけではなく、避難先で、その国に貢献するなど、難民の人たちの力というのも、我々が積極的に考えたい。特に日本は今、人口が減っている中、彼らを受け入れることで日本にもメリットがあるという視点を持ち、我々一人一人が難民問題を知ることが、まずは第一歩と思う」
●「支援サイト」 ウクライナ避難の子どもたちへ役立つ情報提供 長野・佐久市 6/16
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻では多くの子どもたちも避難生活を余儀なくされています。1人でも多くの子どもたちを救うために。長野県佐久市の医師がウクライナ語の支援サイトを立ち上げ、避難生活での注意点や役立つを情報を公開しています。
イラスト付きで避難生活を送る子どもの注意事項などを紹介するサイト。ウクライナ語でまとめられていますが、作成したのは県内の医師たちです。
佐久医療センターの小児科医、坂本昌彦医師。佐久市の医師と地元の医師会で作る「教えて!ドクター」プロジェクトのメンバーで、3月にサイトを立ち上げました。
2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻。戦地となった地域では多くの人が避難を余儀なくされ、過酷な状況下で子どもたちの健康も脅かされています。
「基本的には大人の都合で動いている、子どもにとっての大事な情報は常に後回し、子どもへの支援も大人の次なんですね、子どもにとって何が必要でどういった支援が必要か声をあげるのは小児科医の役割」
大学時代に、ウクライナの隣国・ポーランドに留学した経験がある坂本さん。ポーランドに避難しているウクライナの子どもたちの姿を見て、支援したいという思いを抱きました。
「なんとなく遠い国の出来事に思えていたのが、自分の縁のある町も出てきて何かできることはないかと思ったことがきっかけ」
坂本さんたちプロジェクトのメンバーは、災害の多い日本で培った「子どもたちが避難生活を送る上での注意点や役立つ情報」をまとめたものをベースに、現地で使えるように修正。2月末にSNSで協力を呼びかけたところ、日本語に精通する2人のウクライナ人から翻訳のサポートを受け、3月のはじめにはサイトを公開することができました。
サイトには、寒さをしのぐ方法や…、感染症を防ぐための注意点を掲載。また、妊娠中の母親への留意点やメンタルケアなど7つの項目にまとめました。さらに、より多くの人に共有してもらえるよう、ウクライナ語だけでなく、ポーランド語、英語、日本語の4つの言語を用意。
サイトはSNSを通じて拡散され、現在、3万5000回以上閲覧されています。
「本当に必要なニーズは現地に行かないとわからない、役に立つのかはわからないが、こういうサイトを地球の裏側日本から作っている人がいることを一つのメッセージとして、多くの人が思いを持っていることが少しでも伝わればいいなと思います」
県内でも受け入れ態勢が進むなど、依然として多くの人が避難生活を強いられているウクライナ侵攻。
坂本さんは今後、自治体などと連携して避難してきた子どもたちに直接的な支援をしたいと考えています。
●迫り来る“食料危機” 日本や世界の食はどうなる?  6/16
いま、「食料ショック」が世界に襲いかかっています。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に伴って小麦やトウモロコシなどの国際価格が急騰。日本では主な食品や飲料メーカーがことしに入ってすでに値上げしたか、今後値上げする予定の商品が1万品目以上に上ることが分かり、家計の負担は重くなるばかりです。さらに干ばつや内戦の影響で食料不足に悩まされてきたアフリカや中東では、食料危機がよりいっそう深刻になっています。紛争や貧困で苦しむ子どもたちの命をつなぐ支援の現場にまで及ぶ、食料価格高騰の暗い影。日本や世界で広がる“食料危機”の現実です。
“食品値上げの夏”負担ずしり
小麦粉にパン、カップラーメンやハムに清涼飲料など。私たちが日々口にする食品や食料の値上げラッシュが続いています。信用調査会社、帝国データバンクは、国内の主な食品や飲料のメーカーを調査しました。6月1日時点でことしに入って値上げしたか、今後値上げする予定の商品の数はあわせて1万700品目余り。値上げ予定の商品は6月から8月だけでおよそ5000品目に上って「値上げの夏」になりそうだというのです。
ロシア侵攻で価格高騰に拍車
食品や飲料の値上げの原因はさまざまです。去年から原料となる農産物が、天候要因や需給ひっ迫などで価格が上昇傾向にあったものも数多くあります。しかし、ロシアのウクライナ侵攻はこの上昇に拍車をかけました。こちらをご覧ください。ロシアの軍事侵攻前、2月1日から6月15日までの期間の小麦とトウモロコシの先物価格の推移です。小麦は最大73%、トウモロコシの先物価格は最大32%上昇しています。
ウクライナ国旗のシンボル、小麦は…
ウクライナの青と黄色の国旗は、青空と小麦畑を象徴していると言われています。それもそのはず、ウクライナは小麦の輸出量が2020年で世界第5位の小麦大国なのです(FAO=国連食糧農業機関)。しかし、ロシア海軍の艦隊が黒海の海上を封鎖し、ウクライナは小麦を輸出できない状況に追い込まれています。南部の都市オデーサ。地中海を経て中東へつながる黒海に面したウクライナ最大の港があり、世界の穀倉地帯とも呼ばれるウクライナからの穀物輸出の拠点となってきました。しかし今、オデーサの港の倉庫には輸出できない小麦が積み上げられています。ウクライナの農家や輸出業者などでつくる団体は、憤りを隠せません。
ウクライナ穀物協会 ミコラ・ゴルバチョフ会長「ウクライナへの侵攻が始まる前は98%を黒海に面する複数の港から輸出していました。今は黒海の港が封鎖され、以前の5分の1程度しか輸出できません。船の代わりに列車やトラックなど陸路で運びだそうとしていますが、穀物を運ぶ容器の不足や設備面の問題もあって、輸出できる量に限りがあります」
7月中旬に収穫を迎える中部ジトーミル州の穀倉地帯には鮮やかな緑色の小麦畑が広がっていましたが、海上封鎖で輸出ができないことし、収穫後にどうするかは決まっていないといいます。国内の在庫があふれ、値もつかない状況だと、農家は肩を落としています。
ウクライナの農家 ミコラ・シャンさん「いまの(国内の)穀物価格は安すぎてどう取り引きすればいいかわかりません。去年収穫したものが売れ残っているため、今後の生産に向けた資金もないのです」
一方、軍事侵攻しているロシアも大農業国です。小麦の輸出量は世界1位、トウモロコシは世界11位です。世界からの経済制裁の影響でロシアからの輸出が減っていることや、ロシアがみずから食料や肥料の欧米諸国への輸出を制限していることも、世界の穀物の価格の高騰に拍車をかけたとみられています。
侵略が食料危機を引き起こす
ロシアによる侵略行為は、もともと干ばつなどの影響で食料不足に悩まされてきたアフリカや中東で、深刻な食料危機を引き起こそうとしています。
食料支援が半分に
「小麦粉がなければ、眠ることもできません。どうやって食べ物を家に持って帰ればいいのか、途方に暮れています。安全というのは、戦争から離れて安心できるということだけではなく、家に、家族と子どもたちを飢えから守るための食べ物があるということでもあるんです」
こう話すのは、内戦が続く中東のイエメンのキャンプで暮らす男性です。3年前、戦禍を逃れてこのキャンプにやってきました。家では、2人の子どもたちが待っていますが、日々の食べ物は、WFP=世界食糧計画の支援に頼るしかありません。WFPは、その食料支援のための小麦の輸入をロシアやウクライナに頼ってきました。ウクライナ侵攻の影響で、別の国から小麦を確保する必要に迫られているうえ、穀物価格が高騰。もともとの資金不足もあり、食料支援を減らさざるを得ない状況に追い込まれています。イエメンでWFPの食料支援を受けているのは、約1300万人。このうち500万人は、食料不足で死者が出る事態である「飢きん」に陥る寸前の状態にあるとして、これまで優先的に食料を配ってきました。しかし、今月から、配る食べ物の量を半分以下に減らさざるを得ませんでした。残る800万人も、本来配るべき食料の25%しか支援できていないといいます。
WFPイエメン事務所 リチャード・レーガン代表「私たちには食べ物を必要とする人たちを支援する義務がありますが、この環境ではとても難しいです。一部の人の支援を減らした分で、とても飢えている人へ食べ物を回していますが、支援を大きく減らされる人とそうではない人の差はとてもわずかです。簡単に決められるものではありません」「私がイエメン国内のクリニックを訪れた時、今にも死にそうな子どもたちがいて、再訪した時には食べ物がなくて亡くなったと聞かされました。人道上の大惨事が、ここでは起きているのです」
栄養失調の子どもたちさえ…
たび重なる干ばつで深刻な食料危機に見舞われている東アフリカのソマリア。やせ細り、命の危険がある深刻な栄養失調の子どもたちに与えられるのが、すぐに食べられる「栄養治療食」です。ピーナッツや油、砂糖、粉ミルクなどからつくるペースト状の高栄養食で、常温で保存ができパッケージを開けるだけで食べられることから、多くの支援現場で活用されてきました。こうした栄養治療食を必要とする子どもたちのうち、十分な栄養を取れず、身長に対して体重が少なすぎるため免疫機能が低下している状態を指す「重度の消耗症」の5歳未満の子どもは、世界で1360万人。この年齢層の死亡例の5件に1件は重度の消耗症に起因していて、適切に治療できるかどうかは生死に直結します。しかし、原材料に含まれる油の価格が高騰。治療食の価格はすでに16%上昇しました。ユニセフは、今のままでは、50万人を超える子どもたちが命の危険にさらされると危機感を募らせています。
ユニセフ ジェームズ・エルダー広報官「最大の懸念は、飢きんが起きるのではないかということです。たくさんの子どもたちが亡くなるでしょう。途上国にとっての「パンかご」だったウクライナとロシアで紛争が起きたことで、何の責任もなく最もぜい弱な子どもたちに、深刻な影響がのしかかっているのです」
食料危機が国際政治の分裂に…
長期化が懸念される食料危機。食料安全保障に詳しい専門家は、しわ寄せが特に発展途上国に来ていると分析しています。
イギリスの王立国際問題研究所 ティム・ベントン調査部長「新型コロナの影響で世界中で需要と供給の不均衡からくるインフレが発生し、各国が国民を養う余裕はあるのだろうかと考えていたところに、ウクライナ戦争が起きました。食料の価格が上がっても、裕福な国は穀物を買い続けることができますが、貧しい国は普段から食料を買うのに苦労をしていたため負担がさらに大きいうえ、人道的援助も高額になり、より苦しむことになるのです」
ベントン氏は2010年に起きた食料価格高騰を例にあげ、国際政治をより複雑にし、大きな分裂を生んでしまうおそれがあるのではないかと警告しています。ベントン氏が指摘する2010年の価格高騰。この夏、ロシアやウクライナなどでは、記録的な猛暑によって干ばつの被害が拡大。小麦や大麦、トウモロコシなどの穀物の生産に大きな影響が出たことで、輸出の禁止や制限をかける動きが相次ぎ、国際的な取り引き価格が高騰しました。中東や北アフリカでは、食料の値上がりに抗議するデモやパンを求める暴動などが相次いで発生し、それまでの政権への不満とも相まって、アラブ諸国で反政府運動が広がるきっかけの一つになったという指摘も出ています。
イギリスの王立国際問題研究所 ティム・ベントン調査部長「2010年の価格高騰は、いまと同じような地域で収量が途絶えたことで発生し、その後、多くの国で暴動につながりました。この暴動が『アラブの春』を引き起こし、中東の地政学的な再構築と、地中海を渡ってヨーロッパに流れ込む移民の増加を招きました。さらに、多くの移民が押し寄せたことで、ヨーロッパ内の政治が変化し、ポピュリズムの台頭につながりました。イギリスのEU離脱など、ヨーロッパでの現在の緊張関係は、今日われわれが目にするのと同じような問題への反応として、この10年の間に生じたものです」
ベントン氏は、食料価格の高騰は当面続くだろうと予想しています。さらに、今後もロシアが欧米諸国との対立を深めることで、経済ブロックがかつての冷戦期のように、東西に真っ二つに分かれてしまう危険性もあるといいます。
「この戦争がエスカレートすれば、少なくとも多国間の協力的な世界が、東側と西側の2つのブロックに分断されると見るのが妥当でしょう。これは単に目の前の危機にどう対処するかというだけの話ではありません。何年も先まで影響する、重大な変化が起きているのです」
当たり前の「食」 そうではなかった
日頃、気にすることなく、おいしく食べていた食品が次々と値上がりしたり、商品棚から消えてしまったりする。当たり前だと思っていた幸せが実は今回の食料ショックで当たり前ではなかったことに気づかされます。アフリカや中東では生命の危険すら迫っています。世界はこの危機にどう対応すべきなのか。すぐに解決してくれる魔法のつえはありませんが、国の観点からは各国が「自給率の向上」や、「輸入先の多角化」といった食料安全保障を強化することがより重要になってくるでしょう。私たち消費者の視点からはまず、複雑になった食料供給や流通の仕組みを理解し、少しでもムダをなくす意識の変革が求められているのかもしれません。
●核兵器禁止条約になぜ日本不参加? 危機感強める被爆者たち 6/16
止まる気配のないロシアによるウクライナへの軍事侵攻。プーチン大統領が核兵器の使用も辞さない構えを見せ、世界はまさに現実的な“核の脅威”に直面している。去年発効した核兵器禁止条約を受けた初めての締約国会議が、6月21日からオーストリア・ウィーンで開かれ、核廃絶に向けた取り組みを話し合う。広島や長崎の被爆者たちもオブザーバーとして参加するが、日本は核兵器禁止条約自体には不参加だ。被爆者たちの思いは。そして、日本政府は、どう対応しようとしているのか。
危機感強める被爆者たち
初めての核兵器禁止条約の締約国会議を控えた6月9日。東京都内におよそ50人の被爆者らが集まった。日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会が開いた定例総会。ロシアの軍事侵攻をめぐり、核兵器が使われることへの危機感が相次いで示された。「激しい戦争が行われているが、核兵器が使われたら人類は滅亡する」「私たちの『核兵器をなくせ』という『血の出るような叫び』とは、逆の方向に進んでいる」
被爆者の思い結実した核兵器禁止条約
「『核兵器をなくせ』という『血の出るような叫び』」まさに、その叫びを体現したものが核兵器禁止条約だ。国際法上、核兵器を初めて違法と位置づけ、その開発も保有も使用なども一切、禁止する。被爆者らが中心となって長年、国際社会に実現を呼びかけてきた。その努力が実り、去年、国際条約として発効し、現在62の国と地域が批准している。被爆者たちは、ロシアのウクライナ侵攻という現実が、この条約とは逆行していると危機感を強めている。だからこそ、条約の発効で生まれた核廃絶への機運を絶対に絶やしてはならないと、初めて開かれる締約国会議になみなみならぬ決意で臨もうとしている。
被爆者「核兵器は人類絶滅の兵器」
広島市で被爆した家島昌志さん「みんな核の怖さのなんたるかをよく知らない。われわれの経験からすれば、いくら超小型でも、使用はとんでもない話だ」こう話す広島市で被爆した家島昌志さん(80)も、今回、締約国会議に被爆者を代表して参加する1人だ。家島さんは3歳のときに爆心地から約2.5キロ付近の自宅で被爆した。まだ幼かったため、断片的な記憶しかないが、近所の山が真っ赤に燃える様子は、いまでも鮮明に覚えているという。母親はあまり話したがらなかったものの、戦後、両親から被爆体験を聞かされてきた。「わたしは朝食後に玄関の土間で遊んでいたところを吹き飛ばされたようです。山が真っ赤に燃えていた。幼心にとても怖かったのを覚えています」被爆の記憶のある世代が高齢になる中、自らも被爆者として核兵器廃絶の訴えをつないでいかなければならないと平和運動に携わってきた。厳しい国際情勢のいま開かれる会議だからこそ、核兵器の非人道性を強く訴え、条約に沿った国際社会の取り組みを促していきたいと語る。広島市で被爆した家島昌志さん「世界情勢が緊迫する中、『核兵器は人類絶滅の兵器で許されない』と強く訴えたい。残りわずかかもしれない時間、日本でじっとしたまま黙っているわけにはいかず、現地で声を大にして伝える」
被爆地が選挙区の総理として
核の脅威に対し、募る被爆者たちの危機感。日本政府は、どう対応していこうとしているのか。被爆地・広島が選挙区の岸田総理大臣は、核軍縮の重要性を重ねて訴えてきている。先の日米首脳会談の際、来年、日本が議長国を務めるG7サミット=主要7か国首脳会議を広島市で開催する意向を表明し、決意を語った。岸田総理大臣「唯一の戦争被爆国である日本の総理大臣として、核兵器の惨禍を人類が2度と起こさないという誓いを世界に示し、G7の首脳とともに平和のモニュメントの前で、平和と世界秩序と価値観を守るために結束していくことを確認したい」6月10日、シンガポールで行われた「アジア安全保障会議」の基調講演でも、全ての核兵器保有国に核戦力の情報開示を求め、米中2国間で核軍縮に関する対話を行うよう各国と後押ししていくことを強調した。
でも核兵器禁止条約はのれない…
しかし、核兵器禁止条約となると岸田総理の姿勢は異なる。唯一の戦争被爆国でありながら、この条約に否定的だ。連立を組む公明党内には、せめてオブザーバーとして参加してもいいのではないかという声もあるが、慎重な姿勢は変わらない。なぜか… 岸田総理は、核兵器禁止条約について、これまで次のように説明している。「核兵器のない世界という大きな目標に向け重要な条約だが、核兵器国は1国たりとも参加していない」条約には、アメリカやロシア、中国など、核兵器を保有する国々が参加していない。そこに日本だけ加わって議論をしても、実際に核廃絶にはつながらないというのだ。日本としては、核兵器保有国と非保有国の双方が加わるNPT=核拡散防止条約の再検討会議の枠組みなどを通じて、唯一の戦争被爆国として双方の橋渡しとなり、現実的に核軍縮を前に進めることを優先する立場だ。
被爆者 政府のスタンスを批判
さらに、日本政府は、核軍縮を呼びかける一方で、アメリカの核戦力を含めた拡大抑止の強化を求めてきている。相矛盾する姿勢を同時にとっているようにも映る日本政府の対応。被爆者たちは、こうした政府のスタンスを強く批判している。「本来なら、唯一の戦争被爆国として核兵器禁止条約に参加すべきだが、それもしない。さらには、アメリカの『核の傘』に頼り、『核共有』の議論まで起きている。日本政府は、言っていることとやっていることが違う」
外務省関係者「一気に核廃絶 現実的でない」
こうした批判の声に、外務省関係者は、こう説明する。「核兵器は減った方がいいし、なくなったほうがいいのは同じ考えだ。でも覇権主義的な動きを強める中国や、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮など、日本をとりまく安全保障環境は厳しい。核兵器保有国が、いま一気に持っている核兵器を手放すなんてことはありえない。そんなときに、一気に核廃絶をと言えば、アメリカの核戦力も含めた拡大抑止を否定することにもなり、現実的な選択ではない」
少しずつでも、一歩ずつでも前に
被爆者の声と、政府の対応のすれ違い。こうした状況を複雑な思いで見つめる人もいる。被爆地・長崎の大学で教授を務める西田充さんだ。元外交官で、核軍縮交渉に最前線で携わってきた。長崎の大学で教授を務める西田充さん各国の利害が激しくぶつかり合う交渉を身をもって知る立場から、国際秩序が不安定化する中、当面、拡大抑止に重きを置こうとする日本政府の立場にこう理解を示す。「日本だけが今『核の傘』から出るのは、安全保障の観点からは難しい」一方で、国際会議の場で、被爆者に体験を語ってもらう機会を多くつくり、各国を動かす場面も目の当たりにしてきた西田さん。今の政府の対応には、具体的な行動が見えないと指摘しつつ、今後に注文をつけた。「政府と被爆者が対立するのではなく、被爆者の思いをくみ取ることが大事だ。唯一の戦争被爆国として日本ができることは被爆者の声を届けることだと思う。『拡大抑止』だけに比重を置いていくと、国際情勢がさらに不安定になり、むしろ核兵器使用のリスクが高まる。中国の核兵器についてどうするかなど、軍備管理の議論も必要で、日本が世界に対し、より具体的な提案をしていく必要がある」西田さんは今、教授として若い世代に「軍縮教育」を説いている。少しずつでも、一歩ずつでも、国際舞台で核軍縮交渉をけん引する人材を育てたいと思うからだ。「核軍縮、ましてや核兵器廃絶となると時間は必要だ。もちろんのんびり構えていられないが、長期的なスパンでも考えていく必要もあるのではないか。教育を通じて次世代に思いを引き継いでいきたい」
それでも核廃絶をあきらめない
ロシアのウクライナへの軍事侵攻もあり、遠のいているかのように見える核廃絶への動き。それでも被爆者たちは声を上げ続ける。日本原水爆被害者団体協議会が開いた定例総会核兵器禁止条約の締約国会議を前にした6月9日の総会でも、声を振り絞るように繰り返し訴えた。「ロシアによる侵略は、被爆者にとっては、もう一度真剣に本気になって核兵器廃絶を訴えなければいけないということを覚悟させた」「核兵器がなくならないかぎり、安心して過ごせない」こうした被爆者たちの声に、岸田総理は、どう具体的に応えていくのか。核軍縮を着実に進め、核廃絶への道を切りひらいていけるのか。真価が問われることになる。
●対ロシアでNATO加盟申請フィンランド首相 単独取材 6/16
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、NATOへの加盟申請している北欧フィンランド。そのフィンランドを率いるのが36歳のリーダー、マリン首相です。5月11日、来日中だったマリン首相に、単独インタビューをすることができました。何を語ったのか。全文でお伝えします。
マリン首相とは?
フィンランドのサンナ・マリン首相は、ヘルシンキ出身の36歳で、中道左派、社会民主党の党首を務めています。南部の工業都市タンペレの市議会議員などを経て、2015年に国会議員に初当選したあと、社会民主党が率いる連立政権で、運輸・通信相などを歴任。そして、2019年にフィンランドで最年少の首相に就任しました。環境問題に関心が高く、温室効果ガスの排出量を、EU全体の目標よりも15年早い2035年までにゼロにする政策を推し進めてきました。幼いころに両親が離婚した後、母親と女性のパートナーの家庭で育ち、苦しい経済状況の中で15歳からアルバイトをして家計を支えたということです。マリン首相は、5月15日にNATO=北大西洋条約機構への加盟申請を正式に表明する直前、5月10日に初めて日本を訪れて、岸田総理大臣と首脳会談を行いました。インタビューは、このタイミングにあわせて5月11日に行いました。
NATOに加盟申請を出しますか?
まさに私たちは今、NATOに参加するかどうか議論しています。議会でも、政府でも、もちろん大統領も議会と“加盟するか、加盟することが必要か”どうかについて考え、議論しているのです。私たちは早急に結論を出します、この1週間の間に。とても短い期間で、結論を出そうとしていて、さまざまな角度からこの問題について検討しているところです。これを議論している理由はもちろん、ロシアがウクライナに対してとった行動です。ロシアのウクライナでの戦争は、ヨーロッパの安全保障の状況を全て変えたため、フィンランドとスウェーデンはNATO加盟の可能性について議論を始めたのです。
5月15日の週にも決めますか?
私たちはこの1週間以内に結論を出すということです。私たちは、隣国のスウェーデンと一緒に全ての詳細、全ての工程とその時期について、緊密に連携しながら議論しています。同じ方向に向かって同じ早さで進むことがとても重要です。
国民はNATO加盟を支持していますか?
フィンランド人の大多数が、そして国会議員の大多数が、NATO加盟に賛成しています。以前にこのようなことはありませんでした。しかし、ウクライナに対するロシアの行動が全ての安全保障環境を変え、フィンランド人の考え方も変えました。私たちの隣国ロシアは、その隣国であるウクライナを攻撃しています。もちろん私たちはとても心配していますし、ウクライナで起きたようなことがフィンランドで起きないようにしないといけません。フィンランドは、ロシアと戦争をした歴史があります。そんな未来は、子どもたちにはいらない。ですから、私たちはNATO加盟を議論していますし、国民の中でもそういった議論になっているのです。
軍事的な中立という立場からの転換になりますが?
私たちは、長い期間をかけて作り上げてきた自分たちの軍隊、防衛能力を持っています。私たちは最悪の事態にさえ備えができているのです。私たちはNATOの緊密なパートナー国で、長い間協力をしてきました。次の段階は、加盟申請をするかどうかです。今の状況を鑑みて、すぐにも決断をしないといけない。1週間以内には結論を出します。
何が伝統的な軍事的中立の立場を変えさせたのですか?
ロシアの行動です。ロシアの行動こそが、私たち、フィンランドとスウェーデンの根幹を変えた、最も大きな要因です。ロシアの行動、ウクライナにおけるロシアの戦争が、フィンランドとスウェーデンが議論を始めた理由です。ロシアは、国際法を守らず、守るべきルールを無視し、それぞれの国に課せられた全ての義務を果たさない国だということを示したのです。これが、私たちがNATO加盟の可能性について検討している理由です。ヨーロッパの全ての安全保障環境は変わってしまいました。ロシアに油断してはならないのです。ロシアがどのようにふるまうかを目の当たりにしました。それが、私たちが議論をしている理由です。
加盟までに長い時間がかかると言われています
お話したように、私たちには防衛能力の高い部隊があります。小さな国にもかかわらず、大きな軍隊を持っているのです。多くの投資もしてきました。最近の大きな投資は、戦闘機です。去年の12月に決めたものですが、100億ユーロでした。私たちはすでに最悪の事態に備えてきたのです。そして、私たちにはパートナーがいます。それらの国々の多くはウクライナで起きたようなことがフィンランドに起きた場合には、支援を約束してくれています。そして、フィンランドはEU=ヨーロッパ連合にも入っています。EU加盟国はそれぞれを支援する義務があります。例えばどこかの国が攻撃された場合にも。ですから、私たちは守られていないのではなくて、しっかり守られているのです。しかし、大きな防衛力となるのは、加盟の批准をできるだけ早く行うことです。そのために私たちはNATO加盟国と話していますし、先取りした形になりますが、批准の期間についても話し合っています。申請から批准までの期間をできるだけ短くすることがとても重要だと思います。
隣国ロシアはどんな存在ですか?
地理的な位置を変えることはできません。国の場所を変えることはできませんが、外交政策、防衛政策は自分たちで決めることができます。ですから、私たちはNATO加盟について検討しているのです。スウェーデンとともに、加盟申請をすべきか、それともこのままの状況でいるべきかを議論しているのです。日本も日本のパートナーとともに未来について考えていると思います。安全保障政策や外交政策について考えていると思いますが、その決断は自ら下さないといけないものです。私たちは未来のためのその選択を支持します。
NATOの加盟の意義をどう考えていますか?
もちろん、フィンランドとスウェーデンが入れば、NATOは以前よりも増強されます。2か国が入ることで、北欧の国が全て入ることになり、より強くなり、もちろん私たちの防衛能力にも大きな影響があるでしょう。最も大きな意義は、最悪の事態が起きることを避けられるということです。NATOの第5条には、加盟国が攻撃されたら、守ると書かれています。これは私たちが最も深く考えていることです。「ウクライナで起きたようなことがフィンランドで起きるのを避けるため」という要素が大きいのです。
リーダーシップの秘訣(ひけつ)は何ですか?
秘訣は協力することです。フィンランドは連立政権で、いつも違う党と政府内で仕事をします。今は5つの党からなり、全て女性がリーダー、多くは若い女性リーダーたちです。私たちにとって、結論を出すときにみんなで協力することが大事で、すべての人が関わっていることが大事です。私のリーダーシップということではなくて、それはみんなの努力、みんなのリーダーシップで、それに私はとても感謝しています。
どのように実現しているのですか?
私たちは政府内でたくさんの議論をします。例えば新型コロナウイルスの感染拡大のさなかも、政府全体としてどのように対処するかの大きな決断をします。今議論しているNATOの加盟申請についてもそうです。なるべく多くのコンセンサスが取れるように政府内で議論し、反対する党とも議論をしています。全ての人の意見を聞くことが大事です。リーダーシップというより、全ての人が参加しているか、全ての人の意見が聞かれているかを確認することです。そして、これまでの決断を改めることも大事です。異なった情報があったときには、それを検討し直すことが大事です。科学者など、得られる全ての意見を聞く。それが、感染拡大であっても、安全保障の問題であっても。これは、現代的なリーダーシップだと思います。耳を傾け、できるだけ多くの党を、社会の中のできるだけ多くの人を巻き込むのです。
日本では女性の衆議院議員は1割以下です
状況はよくなると思います。若い世代が入ってくれば変わるでしょう。鍵となるのは、全ての人が参加できる社会をつくることです。例えば、女性がキャリアも家庭も持てることです。どちらかを選ぶのではなく、どちらも持てること。それは彼女たちの権利です。すべての人がそれぞれの人生の夢を叶えられるために最も大切なのは教育です。性別やバックグラウンドも関係なく、全ての人が人生に同じ可能性を持っていると認識することが大事です。そして、幼少期から大学までの教育が大事です。私たちはこの間、教育制度、育児休業制度、保育制度にもたくさんの改革を行いました。今よりももっと多くの女性が社会に参加できるように。
日本へのメッセージはありますか?
日本の若者を勇気づけたいです。皆さん夢を持っていて、資質があり、したいことを何でもできる力もある。みなさんとても教育水準が高く、とても賢い人たちです。でも、社会が彼らを支えることが必要です。それぞれがキャリアを追求するというのは、個人の選択というだけではなく、社会が一人ひとりみんな違う人生の可能性を持っていることを認識することです。社会が変わらなければなりません。例えば、フィンランドでは家族に優しい社会を作ろうとしています。母親も父親も子どもに関わり、そしてキャリアも積む。そのためには家族に優しい社会にしないといけないのです。日本もフィンランドと似たような課題を抱えています。高齢化です。ですから、より多くの子どもが生まれるようにしたい。だからこそ、家族に優しい社会が大事です。
高齢者も安心して暮らせるようにするには、何が必要ですか?
高齢の世代にも、物事を決める過程に参加してもらうことが必要です。若い世代も高齢の世代も、働いている世代も、さまざまなジェンダー、さまざまなバックグラウンドを持つ人が社会には必要です。最も大切な決定をする際は、いろんなバックグラウンドの人が集まり話し合うことで、未来にとって十分な情報を得た上での決断になるのです。高齢の世代を無視してもよいとは思いませんし、私自身、高齢の世代にとても感謝しています。たくさんの友だちがいますし、彼・彼女らをとても尊敬しています。
●独仏伊首脳、侵攻後初めてウクライナ訪問 「出遅れ」で3人一緒に 6/16
マクロン仏大統領、ショルツ独首相、ドラギ伊首相の3首脳が16日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問した。2月のロシアによる侵攻後、それぞれ初めての訪問となった。
欧州からは4月以降、各国首脳が相次いでウクライナを訪問。フランスは欧州連合(EU)、ドイツは先進7カ国(G7)でそれぞれ議長国を務めるが、出遅れていた。3首脳は「ロシアとの対話」を掲げてウクライナ側の警戒を招いており、ゼレンスキー大統領との直接会談で関係再構築を目指す狙いがある。
マクロン氏は16日、列車でキーウ駅に入り、「ウクライナ支援で、EUの結束を伝えたい」と述べた。
ゼレンスキー氏との会談では、23、24日のEU首脳会議を前に、ウクライナのEU加盟問題が話し合われる。26日には、ドイツでG7首脳会議の開幕が控えており、G7によるウクライナ支援も課題となる。
独仏伊首脳はプーチン露大統領との電話会談を続け、早期停戦を目指してきたが、これまでに仲介外交の成果は皆無。ウクライナが、米国の圧倒的な軍事支援を受けて露軍を後退させる中、マクロン氏は「有用な時に行く」としてウクライナ訪問を見送ってきた。重要会議の日程に押される形で、15日のモルドバ訪問にあわせて実施を決めた。
ドイツからは4月、シュタインマイヤー大統領が東欧首脳とともにキーウ訪問を計画したが、ロシアとの関係からウクライナ側が難色を示したため断念。ドイツでは、首脳のウクライナ訪問の是非が、政治問題に発展していた。
●習主席、プーチン大統領と電話会談で強気の軍事協力拡大 6/16
中国の習近平国家主席と、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は15日、電話首脳会談を行い、軍事分野での協力拡大について協議した。ロシアのウクライナ侵攻後、中国は静観姿勢をとってきたが、ここに来て、欧米諸国に対抗姿勢を示した。独裁・専制主義国家と自由主義国家の亀裂拡大が加速しそうだ。
「世界各国は責任のあるやり方でウクライナ危機の適切な解決を促進すべきだ」「主権や安全など核心的利益や重大な関心事に関わる問題で相互に支持することを望む」
習氏は電話会談で、ウクライナ侵攻や中露関係についてこう述べた。分かりにくいが、「ロシアと手を組む」という意図のようだ。
ロシア大統領府によると、会談では、エネルギーや金融、産業などの分野だけでなく、軍事や軍事技術分野における協力拡大についても協議した。プーチン氏も中国への協力姿勢を明確にし、米国などの台湾問題への干渉に反対を表明した。
電話会談は、ウクライナ侵攻が始まった直後の2月25日以来で、両国が踏み込んだ協力姿勢を見せることで、欧米諸国を牽制(けんせい)する狙いがあるとみられる。
中露が強気に転じたのは、ウクライナでの戦況も影響していそうだ。
ウクライナ東部では、ロシアの砲撃などでウクライナ側の劣勢が伝えられている。東部ルガンスク州の中心都市セベロドネツクでは、ドネツ川を挟んだ対岸の都市リシチャンスクにつながる3つの橋が破壊され、避難や物資補給が不可能な状況にある。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日に公開された動画で、改めて軍事支援を呼び掛けた。ドイツなど武器供与を約束した国から兵器が現地に届いていない現状があるようだ。
このままでは、侵略国家の暴挙がまかり通る。「台湾有事・尖閣有事」にも悪影響必至だ。
福井県立大学の島田洋一教授は「ウクライナ東部での戦況が、ロシア側に傾いているため、中国は欧米を牽制している。ロシアが制圧に成功すれば、欧米諸国の失敗を強調できる。また、中国はロシアに協力しても、欧米の制裁が及ばないかを見極めている。習氏はロシア側に貸しをつくり、来る『台湾有事』に準備している側面もあるだろう。欧米の武器供与のスピードが鍵になる」と指摘した。
●NATO、ウクライナ軍の近代化支援へ 国防相会合 6/16
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は15日、ブリュッセルで記者会見し、今月末のNATO首脳会議でロシアによる侵攻が長期化するウクライナへの新たな包括的軍事支援策で合意する見通しを示した。露軍に重火器の質量で劣るウクライナ軍の近代化を進める狙いだ。ストルテンベルグ氏は、首脳会議で採択を目指すNATOの行動指針「戦略概念」で、中国について明記する方針も表明した。
NATOは15日からブリュッセルの本部で国防相会合を開催。2日間の日程でウクライナへの軍事支援や、北欧スウェーデンとフィンランドが申請したNATO加盟について協議する。初日の15日はワーキングディナーが開催され、フィンランドやスウェーデン、ジョージア(グルジア)、ウクライナ、欧州連合(EU)が招待された。
ストルテンベルグ氏は15日の記者会見で「ロシアはウクライナの人々に対して残忍な消耗戦を行っており、大規模な死と破壊を引き起こしている」と非難。「NATO加盟国はウクライナの勝利に必要な軍事装備を提供し続けることに全力を注いでいる」と強調した。
その上で、NATO首脳会議では「加盟国がソ連時代の装備から最新の装備への移行を支援するため、ウクライナに対する包括的支援で合意すると予測している」と述べた。ロシア近隣の東欧諸国の防衛態勢を強化する方針も示した。
また、ストルテンベルグ氏は「(首脳会議で合意する)新たな戦略概念では、中国の安全保障上の影響についても言及すると確信している」と述べた。NATOは2010年の首脳会議で現行の戦略概念を採択したが、これ以降、中国の軍事的台頭に対する懸念が強まった。
首脳会議には、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの首脳も参加すると指摘し、「アジア太平洋地域の志を同じくする国々との緊密なパートナーシップを強く示す」と述べた。
一方、NATO加盟国のトルコがフィンランドとスウェーデンの加盟に反対している問題については「両国の加盟は間違いない」とした上で「トルコが示す懸念について、われわれが一緒に解決しなければならない」と訴えた。

 

●第1次大戦のような消耗戦に…ロシア軍、装甲戦力を「最大3割失った」  6/17
ロシアとの停戦協議でウクライナ代表団トップを務めるダビド・アルハミア氏は15日、東部戦線での戦闘が激化し、ウクライナ軍の死傷者が1日あたり最大約1000人に上っていると明らかにした。戦死者は1日に200〜500人も出ているという。
米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は15日、ブリュッセルでの記者会見で、露軍が装甲戦力を最大30%失ったと指摘し、「第1次世界大戦のような消耗戦になっている」と述べた。
露軍が戦力を集中させている東部ルハンスク州の要衝セベロドネツクに関しては、重火器の量で勝る露軍側が「4分の3を掌握した」と述べた。ただ、露軍には補給や指揮命令系統などの課題もあり、ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)全域制圧は「不可避とは言えない」との認識も示した。
米軍のマーク・ミリ−統合参謀本部議長(15日、ブリュッセルで)=ロイター米軍のマーク・ミリ−統合参謀本部議長(15日、ブリュッセルで)=ロイター
ウクライナ軍の制服組トップは15日、露軍がルハンスク州を制圧するため「9方向から同時に攻撃しようとしている」との分析を明らかにした。露軍は、ウクライナ軍が米欧から供与された重火器を本格投入する前に制圧地域を拡大する狙いとみられる。
●プーチン氏は「正気でない」 ロシア元首相インタビュー 6/17
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の政権で初代首相を務めたミハイル・カシヤノフ(Mikhail Kasyanov)氏(64)にとって、かつて仕えた人物がウクライナに全面侵攻したのは、最悪を超える悪夢だった。
カシヤノフ氏は、ロシアのウクライナ侵攻についてAFPのビデオインタビューに応じ、戦いは最長で2年続く恐れがあるが、ロシアは民主主義の道に戻れると確信していると語った。
2000〜04年の首相在任中、カシヤノフ氏は西側諸国との緊密な関係を支持していた。侵攻が始まる前の数週間は、他の多くのロシア人と同様、実際に侵攻するとは思っていなかったという。
プーチン氏のはったりではないと理解したのは、2月24日に侵攻が始まる3日前、指導部が招集され、劇場型の安全保障会議が開かれたのを見た時だった。「戦争が起こると悟った」
プーチン氏はもはや正しく物事を考えられていないと感じたという。「私は(安全保障会議に出席した)この人たちを知っている。彼らを見て、プーチン氏が既に正気でないと思った。医学的な意味ではなく、政治的な意味でだ」とカシヤノフ氏は述べた。
「私が知るプーチン氏とは別人のようだった」
プーチン氏に解任された後、カシヤノフ氏は野党に移り、クレムリン(Kremlin、ロシア大統領府)を最も声高に批判する一人となった。現在は野党「国民自由党(People's Freedom Party)」の党首を務めている。
「完全な無法状態」
旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元職員で、10月に70歳を迎えるプーチン氏は、この20年間で免責と恐怖に基づくシステムの構築に成功したとカシヤノフ氏は指摘する。
「これらは、プーチン氏が国家元首になったことで、ソ連末期よりも冷笑的かつ残酷な手法で運用されるようになったシステムの成果だ」
「本質的には、これは完全な無法状態に基づいたKGBのシステムだ。彼らが罰を受けることを全く予期していないのは明らかだ」
ウクライナ侵攻を受けてカシヤノフ氏はロシアを離れ、現在は欧州に住んでいると話した。だが、身の安全のため具体的な居場所を明かすことは差し控えた。
同氏の盟友でやはり野党指導者だったボリス・ネムツォフ(Boris Nemtsov)元第1副首相は2015年、クレムリン近くで暗殺された。プーチン氏批判の急先鋒(せんぽう)として知られるアレクセイ・ナワリヌイ(Alexei Navalny)氏は、2020年に毒殺未遂に遭い、現在は収監されている。
カシヤノフ氏は、ウクライナが戦いに勝つことが不可欠だとし、「ウクライナが陥落すれば、次はバルト3国だ」と述べた。
また、戦いの結果はロシアの将来をも左右するとの見方を示した。
プーチン氏に屈辱を与えてはならないとするエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)仏大統領の提案には「全面的に」同意できないと主張。終戦に向けてウクライナに領土割譲を求める声もはねつけた。
「プーチン氏がそれ(領土割譲)に値するどんなことをしたというのか。それは実利主義に傾き過ぎた立場だ。間違っていると思うし、西側がそのような道を歩まないことを願う」
「甚大な課題」
カシヤノフ氏は、プーチン氏は最終的に治安機関が操る「後継者」に取って代わられるとみている。
しかし、「後継者」は長期にわたってシステムを管理することはできず、ロシアでは最終的に自由で公正な選挙が行われるようになると予想。「ロシアは民主主義国家を建設する道に戻ると確信している」と語った。
ただし、「脱共産化」と「脱プーチン化」には約10年かかると推定。「特に、この犯罪的な戦争の後では難しいだろう」とした。
ロシア人は、国家再建という膨大な課題に直面することになるとカシヤノフ氏は指摘。「何もかも新しく造り直さなければならない。基本的には、経済改革と社会改革をもう一度やり直す必要がある。これらは甚大かつ困難な課題だが、達成されなければならない」と述べた。
●戦争は「誇張」されている?「夏を満喫」するウクライナ市民の意味するもの 6/18
ウクライナでは今も激しい消耗戦が続いている。特に東部での戦闘が激化し、ウクライナ軍はセベロドネツクの南北などでロシアの進軍に抵抗している。
一方、戦場がおおむね東部に移ったことで、広大な国土を持つウクライナのほかの地域では、戦いの激しさを以前ほど身近には感じなくなってきているのかもしれない。そうした地域の人々が、夏の到来を「楽しんでいる」様子を収めた写真がネットにはいくつも投稿されている。
しかし、これらの写真を見て、ウクライナは「報道されているほどひどい爆撃を受けていないのではないか?」と、主張する人が現れている。ウクライナの「惨状」は誇張されており、ここまで資金をつぎ込んで支援しなくても大丈夫ではないのか、というのだ。果たして彼らの主張は正しいのか?
6月16日に投稿されたあるツイートには、ウクライナの首都キーウの小さなビーチと思われる場所を数十人が利用する写真が掲載されている。
このツイートは、ユーチューバーのアレックス・ベルフィールドが投稿したもので、1万人以上が反応している。ベルフィールドはツイートの中で、メディアが戦闘の激しさを誇張し、誤解を招くような報道を行っていることを示唆している。
キーウの写真を掲載し、戦闘の激しさを疑問視するようなツイートはほかにもある。これらのツイートで紹介されている写真は、キーウを東西に横切るドニエプル川で撮影されたものだ。
ドニエプル川沿いは以前から、キーウ市民が水泳や日光浴を楽しむ人気のレジャースポットだが、それは2022年も例外ではないようだ。
広大な国土すべてが戦場ではない
ウクライナはロシアに次いで、ヨーロッパで2番目に大きい国であり、直接的な軍事行動が比較的少ない地域もあるのは当たり前のことだ。
首都キーウはここ数週間にも砲撃を受けるなど無傷なわけではないが、それでも現在の主な戦場は北東部やドンバス地域であり、キーウからはかなり離れている。例えば、ロシアがまだ奪取を宣言していないハルキウまでは、キーウから車で約6時間かかる距離がある。
戦争が始まって2カ月間、ロシアの砲撃が続いたものの、その後ウクライナ軍は、首都と隣接地域から侵略軍を追い出すことに成功した。ただし、ロシア軍が再び攻撃を仕掛け、キーウの奪取を試みる懸念も残っている。
絶望的な状況でも「日常」を求める心理
キーウは現在の戦闘休止状態によって、やや落ち着きを取り戻したとも言われている。しかし、政府当局は市民に対し、水辺で爆発物の調査が続いているため、ビーチに近づかないよう警告している。
また、ドニエプル川などで撮影された写真は絵のように美しいかもしれないが、キーウでは今も時おり空爆があり、ボランティアによる瓦礫の撤去が続いている。空襲警報はほぼ毎日、全国各地で発令されている。しかし、戦争の脅威がより明白な地域でも、ビーチや公共空間を利用する人々の姿が写真に収められている。
本誌がソーシャルメディアアプリのテレグラムで見つけた未検証の投稿では、(キーウよりはるかに戦場に近い)オデッサで、ミサイル防衛システムが背後で発射されるなか、市民が公共空間で詩を朗読したり、海からの侵入を防ぐバリアが設置されたビーチで、日光浴を楽しんだりしている。
オデーサの海岸を利用していた複数の市民が、地雷で命を落としたという投稿もある。
言うまでもないことだが、国の一部の人々の行動を捉えた写真が、必ずしもほかのすべての人々の行動や考え方を反映しているとは限らない。2020年には、新型コロナウイルス感染症によってソーシャルディスタンスの確保が求められ、効果的なワクチンもなく、感染者数が増加していたにもかかわらず、欧米のビーチや公園には大勢の人が訪れていた。
ユーチューバーのベルフィールドは、ほかの投稿でも誤解を招くような主張を行っている。彼らのツイートには、戦争に関する十分な裏付けがある証拠が欠けているように見える。なにより、人は絶望的な状況であっても、必死に「日常」を求めようとすることに対する繊細な理解も欠けているように見える。
ツイッターで共有されたこれらの写真は、ウクライナにおける戦争の存在や、その激しさの反証にはならない。キーウのビーチを満喫する人々の写真が存在するのは確かだが、これは決してメディアが戦争を誇張している証拠ではない。さらに、戦争の脅威がより明白である地域の映像は、リスクが高まっていても同じ生活を続け、残酷な戦争のなかで平常心を保とうとしている人々の姿を示しているように見える。
●「1万7千件以上のロシア軍の戦争犯罪に対応」ウクライナ内相 6/17
ウクライナの東部ルハンシク州では、空爆で死者が出るなどロシア軍の攻撃が続いています。こうした中ウクライナの内相はJNNの取材に対しロシア軍の1万7000件を超える戦争犯罪に対応していることを明らかにしました。東部ルハンシク州のリシチャンシクでは16日、ロシア軍の空爆で4人が死亡しました。そしてこちらはロシア側が公開した隣接するセベロドネツクの映像。ウクライナ側の「最後の拠点」とされますがロシア側の兵士とみられる姿が。
セベロドネツクの住民「マッチが尽きました。ライト、水、ガスもありません」
イギリス国防省は先ほど「ロシア軍はセベロドネツクを南から包囲しようとしている」とする分析を公表しています。一方、JNNの単独インタビューでウクライナの内相は1万7千件を超えるロシア軍の戦時中の犯罪に対応していることを明かしました。
ウクライナ モナスティルスキー内相「略奪、殺人のケースは全て、戦時中の戦争犯罪に分類されます」
全容の把握が難しいのが「性的暴力」だといいいます。
ウクライナ モナスティルスキー内相「ウクライナ警察は性的暴力の刑事事件を17件捜査しています。数字はもっと大きいと確信しています。この悲劇、酷い戦争が終わった後、多くの被害者がさらに証言すると確信しています」
また、戦時の情報の重要性については。
ウクライナ モナスティルスキー内相「国内における情報戦の最初の課題はパニックを防ぐことです。戦時中はパニックが最大の敵だからです」
24時間態勢で政府から国民に客観的で信頼できる情報を伝えていると強調しました。
●仏独伊 ウクライナをEU“候補国”に NATOも軍装備で支援へ 6/17
フランス、ドイツ、イタリアの3カ国がそろってウクライナをEU(ヨーロッパ連合)加盟“候補国”として支持する意向を表明しました。一方、ロシア軍はウクライナへの砲撃を強めていて、住民が避難できない状況が続いています。
ルハンシク州のハイダイ知事は16日、ロシアがリシチャンシクを空爆したとSNSに投稿しました。空爆で住民が避難していた建物が破壊され、がれきの下から4人の遺体が見つかったといいます。
またCNNによると、ハイダイ知事は隣町セベロドネツクでアゾト化学工場に避難している住民がロシアの砲撃のため脱出できないと訴えています。知事によると、避難しているのは子ども38人を含む568人。食料の蓄えはあるものの、2週間、補給を受けていないとしています。
戦争の終わりが見えないなか、NATO=北大西洋条約機構は、ウクライナ軍の近代化を支援するとしています。
北大西洋条約機構・ストルテンベルグ事務総長:「我々はウクライナに対する包括的なNATOの支援パッケージをまとめ、ウクライナとNATOとの相互運用性を向上させるため、ウクライナの軍装備をソビエト時代の物からNATOの最新装備に置き換える」
支援パッケージは、今月末のNATO首脳会議で合意する見通しだといいます。
ウクライナの首都近郊にはフランス、ドイツ、イタリア、ルーマニアの首脳の姿がありました。
ウクライナ、チェルニショフ地域発展相:「戦争は2月24日ではなく2014年に始まったのです。以前からドンバス地方からの避難民がいました。そしてこの町には大勢避難しています」
激しい戦闘があったイルピンを視察したのです。
ドイツ、ショルツ首相:「罪のない市民が被害を受け、家は壊され、軍事施設など全くない町が丸ごと破壊された。破壊と征服に固執するロシアの侵略戦争の残虐性をよく表している」
視察後、ゼレンスキー大統領と会見に臨んだ各首脳たちが次々と口にしたのが、「ウクライナのEU加盟支持」です。
フランス、マクロン大統領:「我々はウクライナの即時EU加盟候補国としての立場を支持する」
イタリア、ドラギ首相:「イタリアはウクライナにEUに入ってほしい」
ドイツ、ショルツ首相:「ドイツはウクライナに対して前向きな決定に賛成する」
ゼレンスキー大統領は4カ国の訪問とEU加盟支持を歓迎しながらも、プーチン大統領と対話と重ねるマクロン大統領の姿勢に疑問を呈しました。
ウクライナ、ゼレンスキー大統領:「単独でロシアの戦争をやめさせられる指導者が世界にいるのか疑問だ。団結こそが唯一ロシアを止める強い力になる」
今回の侵攻につながる2014年から続くロシアの軍事介入は、そもそもウクライナがEU入りを目指したことに端を発します。
ロシア安全保障会議副議長のメドベージェフ前大統領はツイッターで。
メドベージェフ前大統領:「ヨーロッパのカエル好き、レバーソーセージ好き、スパゲティ好きは意味なくキエフに行くことを好む。EU加盟と古いりゅう弾砲をウクライナに約束し、ウクライナ産ウォッカに酔いしれて、100年前のように列車で帰国した。だが、ウクライナを平和に近付けることはできない」
果たしてロシアは現実をどう評価しているのでしょうか。
プーチン大統領の出身地、サンクトペテルブルクでは15日からプーチン大統領肝煎り(きもいり)の国際経済フォーラムが開かれています。
国内外からロシアへの投資を促すものですが、常連だった欧米企業は姿を消しました。
一方、姿を見せたのはウクライナ東部の親ロシア派武装勢力、自称・ドネツク人民共和国のトップ、アフガニスタンのイスラム主義組織「タリバン」などです。
国際社会の断絶が鮮明になるなか、ロシアが理解者だとするのが中国です。
プーチン大統領と習近平国家主席は15日、電話で会談をしました。
この会談についてロシア政府は、「習近平主席はロシアが国益を守るために取った行動を正当だと認めた」と発表しました。
ただ、中国の発表では触れられていません。
中国外務省の会見:「(Q.習主席はそのような発言をしたのですか?)」
こう問われた中国外務省。肯定はしませんでしたが、否定もしませんでした。
●米国「ウクライナ戦争は第1次大戦のような消耗戦」…援助10億ドル追加 6/17
ウクライナ軍が東部ドンバスでロシア軍の優勢な攻撃に苦戦している状況に対応するため、米国など北大西洋条約機構(NATO)加盟国がさらなる軍事援助に乗り出した。米国はウクライナ戦争が消耗戦の様相を呈しているとし、同盟国とともに火力支援を続ける意向を示した。
ジョー・バイデン米大統領は15日(現地時間)、ウクライナに10億ドル規模の追加軍事援助を提供すると明らかにした。追加軍事援助は火力における劣勢を訴えるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話会談が行われた後に発表された。これで米国の軍事援助の規模は56億ドルに増えた。
米国は曲射砲18門や砲弾3万6千発、対艦ミサイル、多連装ロケットなどをさらに提供することにした。ウクライナ政府は、射程距離の長い砲兵戦力が弱く、ドンバス地方でロシア軍に押されているとし、多連装ロケットや戦車、無人機などの大量支援を求めている。ウクライナは具体的に多連装ロケットシステム300台や戦車500台、曲射砲1000台などを要求している。
NATO加盟国を中心とする46カ国も同日、ベルギー・ブリュッセルのNATO本部で「ウクライナ防衛コンタクトグループ」会議を開き、ウクライナに対する支援策について協議した。韓国のシン・ボムチョル国防次官もオンラインで会議に参加した。続いて開かれたNATO国防相会議でも、軍事援助を強化するための具体案が話し合われた。ロイド・オースティン米国防長官は会議後、ドイツは長距離多連装ロケットシステム3基、スロバキアはヘリコプターと砲弾、ポーランドとオランダは大砲をさらに支援する方針を示したと明らかにした。
オースティン長官は会議後の記者会見で、ロシア軍がドンバス地方で攻勢を強めているとし、「ウクライナは戦場で決定的な局面を迎えている」と述べた。さらに「我々は気を緩めてはならず、熱意を失ってはならない」として、ウクライナに対する軍事支援の重要性を強調した。
マーク・ミリ米統合参謀議長も記者会見で、ウクライナ東部戦闘が第1次世界大戦に比肩する「深刻な消耗戦」となっているとして、懸念を示した。長期化する戦闘で双方の兵力と装備の損失が大きく増えており、このような消耗戦では兵力と装備が豊富な世界2位の軍事大国であるロシアが有利になる。これは、ロシアが厳しい市街戦を繰り広げなければならないキーウ攻略をあきらめ、開活地の多いドンバス地方に戦線を移した時から予想されていた。ロシア軍はドンバス地方の約80%を占領し、攻勢を強めている。
しかし米軍指揮部は、ウクライナ軍の抗戦の意志が強いため、効果的な軍事援助が行われればロシア軍に十分対応できるとみている。オースティン長官は「ウクライナ軍は、我々が提供した物資と兵器を効果的に使いこなしてきた」として、「できる限り彼らを支援し続ける」と述べた。ミリ議長も「毎日100〜200人ずつ(ウクライナ兵士が)戦死する状況で、消耗戦の持続が可能か」という質問に「指導力と戦う手段を持っている限り、ウクライナ軍は戦い続けるだろう」と答えた。消耗戦に耐えるためには、兵力と火力が絶えず支援されなければならないが、火力はNATOが補充し続けるという意向を明らかにしたのだ。これは、ロシア軍が東部戦線で優勢を占めたとしても、ウクライナに交渉を促すよりは戦争を続けるよう支援するという意思を示したものとみられる。バイデン大統領は先月31日、ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、米国が「ウクライナが排除された状態で、ウクライナに対するいかなる決定も下さない」という原則を守ってきたと明らかにした。
こうした中、欧州の主要国であるドイツ、フランス、イタリアの首脳が16日、開戦以来初めてウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領に会う予定であり、この会談が戦争の流れにどのような影響を及ぼすかも注目される。訪問の名目はウクライナに対する応援と支援強化だ。しかし、彼らは「最後まで戦うべき」というポーランドやバルト3国など東欧側の大方の立場とは異なり、戦争を終わらせるための交渉を追求するという立場だ。戦争が経済に及ぼす悪影響と、NATOが直接紛争に巻き込まれる可能性などを懸念しているためだ。
●世界の兵器市場、ウクライナ戦争の新たな前線に  6/17
政府当局者や武器ブローカーによると、ウクライナはロシア軍との戦闘のため、世界の防衛市場で兵器を探しているが、その市場でロシアとの競争が激化している。ロシアはしばしば、ウクライナが求めるのと同じ兵器を購入しようとしたり、ウクライナへの供給を断とうとしたりしているという。
ウクライナ東部での激しい砲撃戦でロシアが優勢となる中、ウクライナ政府は防空システム、装甲車、砲弾、その他の弾薬を第3国から手に入れようとしている。西側諸国からより速いペースでより多くの兵器が供給されない限り、東部ドンバス地方での戦闘で敗北するだろうとウクライナは警告している。同地方での戦闘は、ウクライナでの戦争における重要な局面だ。
米国とその同盟国はウクライナに西側のシステムを供給してきたが、ウクライナが入手する兵器の多くは、ウクライナ軍で最も広く使用されている旧ソ連製やロシア製の装備だ。しかし西側の武器ブローカーやウクライナ当局者によると、ロシアはこうした兵器をめぐり、しばしばウクライナより高い値を提示して競り勝ち、減少する自国の兵器在庫の増強を急いでいるという。
何十年にもわたりロシア製兵器を扱ってきた元米軍当局者は「(ロシアが)市場を囲い込めば、ウクライナは購入できない」と語った。この元当局者は現在、民間に勤務している。
ベン・ウォレス英国防相はワシントンで先月行われた説明会で、米英両国がロシア製の兵器やその他の装備の在庫を保有する23カ国を調査し、ウクライナ軍向けに購入し移転できないか探っていると述べた。
ウォレス氏は「われわれの支援の半分は『どこでこれを見つけられるか』という課題への対応だ。ロシアの在庫が急速に払底しつつあるため、一部の国で在庫を補充するために兵器を探すロシア人に会うことがあった」と述べた。
英国防省の報道官はウォレス氏のコメントについて詳細を明らかにしなかった。
ウクライナ国防省当局者らは困難な状況を認めているが、この問題について公にコメントしていない。
在米ロシア大使館の報道官は、コメントの求めに応じていない。
先月、ウクライナのために働いているチェコとポーランドのブローカーが、ロシア製装甲車と砲弾の入手に関する契約をブルガリアの供給業者と結んだところに、アルメニアの買い手グループが現れた。彼らは50%の上乗せ料金を払うことを申し出て、契約を勝ち取ることに成功したという。この交渉を知るウクライナの議員が明らかにした。
議員は「それがアルメニアに行かず、恐らくロシアに行くであろうことは確実に分かっている。彼らはわれわれが欲しがっているもの、そして、それがどこにあるかを分かっている」と話した。
ブローカーらによると、ロシア政府は、将来ロシア製システム向けの部品やサービスを提供しない可能性を示してさまざまな国を脅している。国防のためにロシア製システムに依存している国は多い。
兵器の取引に関与したことがある別のウクライナの議員は、「時々、何が起こっているのかが分からないことがある。自分が目にすることが妨害工作にしか見えないときもある」と述べた。
ウクライナ――そして、ウクライナ政府の支援に乗り出している米国と英国の政府――は時折、出遅れたために取引を逃したり、取引が目前で消えていくのを目撃したりしている。
前出2人目の議員は、「それはロシアの手際の良さ、そして、ウクライナとその支援国の情報機関の手際の悪さを表している」と話す。
ロシアは今年4月、ロシア製軍用輸送ヘリコプター「ミル17」11機をウクライナに供与するという米国防総省の提案に反対した。このヘリコプターは、米国がアフガニスタン軍のために2011年にロシアから購入したものだ。
ロシア国防省は、ウクライナに供与すれば、エンドユーザーに関する合意に法的に違反すると主張する声明を出し、供与が「国際法の原理とロシア・米国間の契約の条項に対するあからさまな違反となる」と述べた。
ロシア外務省の報道官は今月、同ヘリコプターに関して米国が購入契約上の義務に違反したとして、ロシア政府が正式に抗議したと語った。
同報道官は、「在米ロシア大使館は米国務省に対し、輸出国であるロシアの認識と同意なく、確立された外交慣行に違反してミル17をウクライナに供給する理由の詳細な説明を公式に求めた」と語った。
米国務省はこの問題に関する質問を国防総省に回したが、国防総省はロシア側の抗議に対応しなかった。
ロシアは米国に次いで世界第2位の武器輸出国である。ロシアの軍事装備および旧式のソ連兵器は、ロシアによる直接の売却に加え、米国やその他の西側諸国で登記しているブローカーによって売買されることも多い。
ロシアは現在、戦闘を続けるウクライナ政府向けの武器供給を停止するよう、これらブローカーに求めているとみられる。
現在は民間企業に在籍する元軍当局者は、「『(ウクライナ向けに)装備品を購入するのをやめなければ、今後一切、取引をしない。制裁措置を講じる』と言われたことがあった」と明かした。
西側の武器ブローカーらによれば、ロシア製兵器を売却したことで、ロシア政府から抗議を受けることはこれまで通常なかったという。
2001年の米同時多発テロ以降10年以上の間、国防総省や中央情報局(CIA)と契約のある武器ブローカーは、イラクやアフガニスタンへの支援を目的とするソ連製やロシア製の軍事装備品を購入してきた。ロシアの法律はこれらの販売に直接関与することをしばしば禁じたが、ロシア政府は自国製兵器の供給を拡大させる方法としてこうした取引を日常的に後押ししてきた。
ウクライナも何年にもわたり、ロシア製、ソ連製の装備を武器ブローカーや他国に売ってきた。
2014年にウクライナのクリミア半島をロシアが併合したことで、両国が軍事的に対立することになり、自国製兵器の売却に関するロシア政府の姿勢が突然変わった。少なくとも、ウクライナへの売却に関してはそうだった。
米国の防衛コンサルタントで、ロシアとウクライナで何年も活動してきたルーベン・ジョンソン氏は「かつてはどんな状況でもロシアが(自国製兵器売却に)異議を唱えることはなかった。今では『ちょっと待ってくれ。それはもう好ましくない』などと取引に口出しするようになっている」と語った。
ウクライナへの武器供与をロシアが妨害したとされる事例は、2月のウクライナへの全面侵攻開始以前から見られた。
チェコ当局は昨年、死者を出した2014年の武器弾薬庫での爆発について、ロシア軍の情報機関が関与していたと非難した。この施設からはウクライナに兵器が供給されていた。
2016年には、兵器関連のウクライナ当局者がキーウで男たちに誘拐された。ウクライナの元防衛産業関係者によれば、この当局者は、インドとの間で利益の大きい航空機部品取引の交渉を行っていた。インドはロシア製兵器の主要な買い手だ。ウクライナ当局者らは、ロシア情報機関のある人物がこの事件に関与していたと主張している。
2020年には、ブルガリアの検察がロシア人3人を、2015年にブルガリア人の武器ブローカー、エミリアン・ゲブレフ氏を強力な神経剤ノビチョクを使って殺害しようとした容疑で起訴した。ゲブレフ氏は、ウクライナ向けの武器売却の仲介にかかわっていた。
ロシアは、こうしたさまざまな事件への関与を否定している。
ゲブレフ氏は一命を取り留めた。しかしこの事件はその後、多くの国際的な武器取引関係者の間で、ウクライナ政府と取引しようと考えるかもしれない人たちへの警鐘と受け止められている。
●“和平”か“正義”か ウクライナめぐり揺らぐ欧州  6/17
「ウクライナの戦争をどう終わらせるかをめぐって、ヨーロッパが分断するおそれがある」。そう警鐘を鳴らしたのが、15日発表されたヨーロッパのシンクタンク「欧州外交評議会」の報告書です。報告書の詳しい内容とヨーロッパ各国の状況について、油井秀樹キャスターの解説です。
「欧州外交評議会」の報告書は、先月中旬に行った10か国8000人の世論調査をもとに、ウクライナの戦争でヨーロッパの世論が
   「和平派」35%
   「正義派」22%
   「どちらともいえない」20%
   「その他」23%
と分かれていると指摘しています。
和平派とは
「和平派」というのは「できるだけ早期に戦闘を停止して交渉を始めるべき」と考えている人たちで、戦争終了のためにはウクライナ側が多少の譲歩をするのもやむをえないとする人たちです。
正義派とは
これに対して「正義派」というのは、ロシアに侵略の代償を払わせ、ウクライナは国土を取り戻すべきと考えている人たちで、戦闘の長期化や死傷者の増加もやむをえないとする人たちです。
国別にみると
国別にみると、イタリアやドイツ、ルーマニア、それにフランスでは「和平派」が圧倒的に多いことがわかります。これに対してポーランドでは「和平派」が少なく「正義派」が多いことがわかります。今回の世論調査の対象には入っていませんが、バルト3国もポーランドと同様「正義派」が多いとみられ、報告書はヨーロッパの分断が顕著になりつつあると警告しているのです。
フランス ドイツ イタリア 3首脳がキーウに
16日、フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相が、首都キーウにそろって列車で入りました。ヨーロッパの中でも「和平派」と称される国々です。3首脳は外交交渉を優先する姿勢で知られていますが、それは自国の世論を反映した姿勢ともいえます。特に「和平派」の多いイタリアでは、具体的に4つの段階を踏んだ和平案を提案しています。そのため、今回の訪問をめぐってはウクライナが求めるEUの加盟に向けた交渉開始を3首脳が認める引き換えにウクライナに和平案を迫るのではないかという臆測も出て、注目が集まったのです。
戦争をどう終わらせるのか 結束は揺らぎかねない
「欧州外交評議会」の世論調査では、戦争の結果ヨーロッパの状況がよくなると答えた人たちは「和平派」「正義派」ともに少なく、悪くなると答えた人たちが半数を超えています。こうしたことから、ヨーロッパでは戦闘の長期化に反対する人が増えていくとみられています。戦争をどう終わらせるのか。その問いに答えるのは一義的にはウクライナの人たちです。ただ、ウクライナを支える民主主義の国々は時間とともに結束が揺らぎかねない状況で、どう結論を導くのか問われています。
●ロシア情報機関の要員 ウクライナ戦争犯罪捜査の「国際刑事裁判所」に勤務 6/17
オランダの情報機関はロシア軍の情報機関員がブラジル人と偽って入国を試みウクライナでの戦争犯罪を捜査するICC=国際刑事裁判所でインターン勤務をしようとしていたと明らかにしました。
オランダの情報機関によりますとこの情報機関員はGRU=ロシア軍参謀本部情報総局に所属する36歳の男性要員です。
今年4月、33歳のブラジル人としてロシアとの関係を隠しオランダに入ろうとしましたが入国を拒否されブラジルに送還されたということです。
男性要員はロシアのウクライナ侵攻での戦争犯罪を捜査しているICC=国際刑事裁判所でインターンとして働こうとしていたということで、ICCの機密情報を盗むことや内部のシステムにアクセスすることが目的だったとみられています。
オランダの情報機関は声明で「男がICCで働いていれば捜査に影響を及ぼした可能性があり、潜在的な脅威は非常に大きかった」と指摘しています。
●独仏伊首脳、キーウ訪問 結束アピール 6/17
ドイツ、フランス、イタリアの首脳が16日、ウクライナを訪問し、同国のゼレンスキー大統領と会談、欧州主要国の結束をアピールした。一方、ロシア軍が大半を支配するウクライナ南部ヘルソン州の親露派暫定政府の幹部は同日、ロシア軍の侵攻が始まった2月24日以降に生まれた子供は「自動的にロシア国籍を受け取る」という考えを示した。ロシア軍の支配地域で進む事実上の「ロシア化」の動きがまた浮かび上がった形だ。
ウクライナの疑念払拭の思惑も 独仏伊首脳のキーウ訪問
ドイツのショルツ首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのドラギ首相は16日、ウクライナを訪問し、首都キーウ(キエフ)で同国のゼレンスキー大統領と会談した。ロイター通信が報じた。6月下旬に欧州連合(EU)首脳会議、主要7カ国首脳会議(G7サミット)などが開催されるのを前に、欧州主要国の結束をアピールした。
侵攻後に誕生の子は「ロシア国民」 露軍支配地域
タス通信によると、ヘルソン州の親露派幹部のストレモウソフ氏は「孤児はすでに(ロシア)国籍を受け取っている」と述べた。保護者のいない子供を自動的に「ロシア国民」にしている可能性がある。
ロシア、欧州向けガス輸送量を削減
ロシア国営ガス大手ガスプロム16日、海底ガスパイプライン「ノルド・ストリーム」経由でドイツなど欧州各国に送っている天然ガスの輸送量を減らした。ドイツなどは、欧州のウクライナ支援に不満を持つロシアが、ガスを「政治的に」利用していると非難している。
●“ウクライナをEU「加盟候補国」の立場に” 欧州委が勧告  6/17
EU=ヨーロッパ連合への加盟を申請したウクライナについて、EUの執行機関、ヨーロッパ委員会は交渉開始の前提となる「加盟候補国」の立場を認めるよう、加盟国に勧告しました。
EUのフォンデアライエン委員長は17日、記者会見を開き、EUへの加盟を申請したウクライナについて、交渉開始の前提となる「加盟候補国」の立場を認めるよう、ヨーロッパ委員会として加盟国に勧告したことを明らかにしました。
フォンデアライエン委員長は「ウクライナはヨーロッパの価値観と基準に沿っていきたいという強い願いと決意を明確に示した」と述べた一方、ウクライナには法の支配などの分野で多くの課題があるとも指摘しました。
EUは来週開かれる首脳会議で協議する見通しですが、ウクライナが「加盟候補国」として認められるにはすべての加盟国の同意が必要で、各国がどのような姿勢を示すかが焦点です。
ヨーロッパ委員会はまた、ウクライナと同様に、EU加盟を申請したモルドバとジョージアについても意見書を取りまとめ、モルドバを「加盟候補国」として認めるよう勧告した一方、ジョージアについては、まず政治や経済などの改革を進めるべきだとして、勧告はしませんでした。
ゼレンスキー大統領は17日、ツイッターにコメントを投稿し「ヨーロッパ委員会の判断を称賛する。これはEU加盟に向けた道のりの第一歩であり、われわれの勝利を確実に近づけるものだ。歴史的な決定をしたフォンデアライエン委員長や委員会のメンバーに感謝する。来週の首脳会議で前向きな結果が出ることを期待している」と歓迎しました。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は17日、記者団に「EUでは、軍事や安全保障など防衛強化についての議論が活発に行われている。今回は軍事とは別の側面だが、われわれはこうした動きをもちろん非常に注意深く見ていく」と述べ、強い警戒感を示しました。
●ウクライナ“EU加盟”に前進も…ロシアは楽観視か 6/17
ウクライナはEU(ヨーロッパ連合)加盟“候補国”になることで戦況は変わるのでしょうか。逆にプーチン大統領を刺激することにはならないのか、専門家に話を聞きました。
フランス、ドイツ、イタリアの首相がキーウを訪問し、ウクライナのEU加盟が現実味を帯びてきました。この動きがウクライナ情勢にどのような動きをもたらすのでしょうか。EUの対外政策を研究している筑波大学の東野篤子教授に聞きました。
筑波大学・東野篤子教授:「(Q.ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)加盟はできず、EU加盟は前進。違いは何?)もともとヨーロッパの国には同盟選択の自由という原則があって、ウクライナはNATOに入るも入らないもEUに入るも入らないも自分の意思で選べるはず。ウクライナとしてはEUもNATOも入りたかったかもしれないけど、戦争まで起きている状態ではNATO加盟は無理。ということはEU加盟に全力を傾けるしかないという状況」
NATOは外部からの攻撃に対し、お互いに守り合おうという軍事同盟です。一方で、EUにも有事があった際に軍事支援をする規則はあるものの、主な目的は経済活動の結び付きとなっています。
加盟国内の移動にパスポートが必要なく、貿易でも関税が撤廃されるなど人、モノ、お金が自由に行き来できることが特長です。
しかし、ウクライナがEUへの加盟に前進する目的は“経済の結び付き”と別のところにあると東野教授は話します。
筑波大学・東野篤子教授:「(Q.ウクライナ側はなぜEU加盟を目指し、何を得ようとしている?)EUに加盟することによって、第一に“ヨーロッパの秩序の一員”であることを内外にアピールすることが重要になってきます。ウクライナというのは残念ながら、ロシアの意向を意識しないといけない。ロシアという隣国がいる以上、自分の国の運命を自由に得られる状況ではなくなった。その大きな証拠がNATOの加盟を断念せざるを得なかったこと。物質的な利益を得ること以上に、象徴的な意味でロシアの属国的な立場ではなく“ヨーロッパ秩序の一員”になることはウクライナにとって象徴的な意味がある。自分たちの将来への方向性はロシア側にはなくてヨーロッパ側にある」
ただ、今回各国が賛同したのはウクライナがEUへの「加盟候補国」となること。これはあくまで加盟するための入口に立ったという段階です。
プーチン大統領はそれを理解したうえで、今回は冷静な対応を取ると東野教授は予測しています。
筑波大学・東野篤子教授:「ロシアにとって驚異ではないし、今回はあくまでも加盟候補国としての地位を与えられたにすぎません。そこからものすごく長いプロセスが必要なことはロシアもよく分かっている。今回、加盟候補国の地位を与えられてもロシアとしては全く何も変わらないと理解していると思う。将来的にウクライナがEUの加盟国になるにしても、それはものすごく長い時間がかかるし、NATOのような軍事同盟に入るわけではないということは、ロシアとしてはNATOに比べるとEUの方が『加盟するんだったらまだまし』と考えている」
●「2年後にウクライナ存在せず」 ロシア前首相が挑発、反発広がる 6/17
ロシアのメドベージェフ前首相は15日、侵攻を受けるウクライナが「2年後の世界地図に存在すると、誰が言ったのだろう」と述べた。ウクライナが次の冬の燃料不足を見越し、液化天然ガス(LNG)購入資金を米国から調達して後から返済する案があるとの報道を受け、通信アプリに投稿した。
ウクライナ側は強く反発。現地メディアは「国の破壊がロシアの目的で、ドンバス地方の住民(保護)や北大西洋条約機構(NATO)の脅威が戦争の理由でないことをメドベージェフ氏が認めた」と指摘した。
ポドリャク大統領府顧問もツイッターへの投稿で「ウクライナは過去から現在、未来にかけて存在し続ける。メドベージェフ氏が2年後にどうなっているかの方が問題だ」と皮肉った。
メドベージェフ氏は2008〜12年にロシア大統領を務めた後、20年まで首相。現在は安全保障会議副議長の立場にある。最近、通信アプリで過激な投稿を繰り返し、今月7日には反ロシア勢力を「消滅させる」と記して物議を醸していた。
独立系メディアは5月下旬、ロシア大統領府関係者の話として、プーチン大統領の後継者になり得る人物として、メドベージェフ氏の名前も挙がっていると報道。ただ、支持率は低く、侵攻に乗じた人気取りという見方がもっぱらだ。
●東部拠点、南方から包囲網 ウクライナでロシア軍砲撃続く―英国防省 6/17
英国防省の17日の戦況報告によると、ウクライナ東部ルガンスク州で攻勢を掛けるロシア軍は16日から17日にかけ、同州の拠点都市セベロドネツク南方のポパズナ付近で攻撃を継続したもようだ。セベロドネツクの完全制圧を目指し、包囲網を狭める狙いとみられる。
ウクライナ軍参謀本部の16日夜の発表によれば、ロシア軍はセベロドネツクや、同市の西方を流れるドネツ川を挟んで隣接するリシチャンスクで、多連装ロケットシステム(MLRS)による砲撃を行った。
ロシア軍はセベロドネツクで、ドネツ川に架かる複数の橋をすべて破壊。ウクライナ軍支配地域と結ぶ補給路や脱出ルートを遮断し、包囲を強めている。一方、ドネツク州の要衝スラビャンスク付近でも攻撃を仕掛けたが、ウクライナ側が撃退したとされる。
●ロシア軍 東部で攻勢強める ウクライナは徹底抗戦の構え  6/17
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握に向け攻勢を強めていて、これに対し、ウクライナ側はヨーロッパ各国の首脳たちと結束を確認し、徹底抗戦の構えを強調しています。一方、軍事侵攻が長期化する中、イギリス国防省は、ロシアでは侵攻に懐疑的な富裕層などが国外に移ろうとする動きが続いていて、経済を悪化させる可能性があると指摘しています。
ロシア軍は、完全掌握を目指す東部ルハンシク州で、ウクライナ側の拠点セベロドネツクを包囲しようと攻撃を続けていて、アメリカ軍は15日、市の4分の3がロシア軍に掌握されたという見方を示しています。
ロシア側は、ウクライナ軍の部隊や市民が残っている「アゾト化学工場」に対し、市民を避難させるための「人道回廊」を設けると主張する一方、武器を置いて投降するよう呼びかけるなど圧力を強めています。
また、ロシア国防省は17日、東部ドネツク州でウクライナ軍の拠点を空爆し、兵士200人以上を殺害し兵器などを破壊したほか、南部ミコライウ州でも砲兵部隊などの攻撃によってウクライナ側の兵士350人以上を殺害したとしました。
これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、首都キーウを訪れたフランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相、それにルーマニアのヨハニス大統領とも会談し「われわれはウクライナの完全な安全と領土の保全が保証されるまで戦い続けるだろう」と述べ、徹底抗戦を続ける姿勢を強調しました。
イギリス国防省は17日に発表した分析で、セベロドネツクについて「ロシア軍はセベロドネツク一帯を南側から囲もうとしていて、この24時間で勢いを取り戻そうと試みている」としています。
また、今回の軍事侵攻については「権威主義に向かうロシア国家の長期的な道筋を推し進めた」としたうえで、ロシア国内で侵攻に批判的な意見を抑え込む法的な動きが強まっているとしています。
その一方で「戦争への懐疑論は、ロシアのビジネスエリートや『オリガルヒ』と呼ばれる富豪の間で特に強いと見られる。1万5000人の富裕層がロシアを離れようと試みていて、侵略に反対しているか、経済制裁の影響から逃れようとしている可能性が高い。こうした集団脱出が続くと、ロシア経済への長期的な打撃を増幅させる可能性がある」と指摘しています。
●ウクライナ支援へ 日本政府 650億円の借款 追加実施へ  6/17
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナを支援するため、日本は650億円の借款を追加で行うことになり17日、JICA=国際協力機構とウクライナ政府が契約書に署名しました。
日本政府は先月、復興や経済対策の財源などとしてウクライナ政府に130億円の借款を行っていて、今回、650億円の借款を追加で実施します。
その窓口となるJICAは17日、山田順一副理事長とウクライナのマルチェンコ財務相がそれぞれ契約書に署名したと発表しました。
これを受けて、今月中にも650億円がウクライナ側に送金される予定だということです。
マルチェンコ財務相は「日本からの借款は、国民の生活に必要不可欠な公共サービスを提供するため活用している。財政支援が増額されたことに深く感謝している」とコメントしています。
JICAの山田順一副理事長は「ウクライナでは毎月50億ドルが不足するという国際機関の発表もあり、日本政府としても応分の負担をするという考えが背景にある。一般財政支援ということで、教育や医療の分野での使いみちもあれば、年金などに使うこともできると思う」と話しています。
また、「ウクライナでは避難先から戻る人も西部などで徐々に増えているので国外や国内の避難民だけでなく、帰国した人たちの支援事業にも活用してもらいたい」と話していました。
さらに、今後の支援については「地域によっては、意外に早く復興事業が始まるのではないかとJICAでは捉えている。がれきの撤去や住宅の再建など復興の分野でも遅れることなく日本の知見を生かせるよう努めたい」と述べ、JICAとしてもさまざまな形で支援を進める考えを示しました。
●軍事支援「全く無意味」 欧州3首脳のウクライナ訪問で―ロシア報道官 6/17
ロシアのペスコフ大統領報道官は16日、西側によるウクライナ軍事支援強化について「全く無意味だ。国にさらなるダメージをもたらす」と主張した。フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相が同日、ロシアのウクライナ侵攻後では初めて首都キーウ(キエフ)を訪問したことを受け、支援強化に警戒感を示した。
ペスコフ氏は「これら3カ国の指導者と(ゼレンスキー大統領との会談に同席した)ルーマニア大統領が、ウクライナへのさらなる武器供給だけに集中しないよう望む」と強調した。
ロシアのメドベージェフ前首相もツイッターで、欧州3カ国首脳のウクライナ訪問を「無駄だ」と非難。欧州連合(EU)加盟を約束したり武器を供与したりしても「ウクライナが平和に近づくことはない」とけん制した。
●アフリカで食料危機深刻化 ウクライナ侵攻の「犠牲」に 6/17
ロシアによるウクライナ軍事侵攻で、アフリカが深刻な食料危機に陥っている。農業国ウクライナからの供給減で食料価格が高騰し、貧困層の生活は一段と悪化。大規模な飢餓が発生する恐れも指摘され、「戦争のもう一方の犠牲者」(英紙タイムズ)であるアフリカへの支援が急務となっている。
ロシアとウクライナは共に世界有数の穀物輸出国で、特に小麦や大麦の生産が盛んなウクライナは「欧州のパンかご」と呼ばれてきた。ところが侵攻後、インフラの破壊や物流の寸断で輸出が激減。ロシアも穀物や肥料の輸出を制限し、世界的な食料不足と価格高騰が起きている。
アフリカは両国への食料依存度が高く、危機の影響は甚大だ。もともと経済が脆弱(ぜいじゃく)で、新型コロナウイルス禍からの回復が遅れている上、近年は干ばつや洪水といった自然災害も多発。そうした中で起きた今回の食料危機は、人々の生活苦にさらなる追い打ちをかけ、飢える人や栄養失調の子供が増加している。
国連人道問題調整事務所(OCHA)によれば、打撃が特に深刻なエチオピアとケニア、ソマリアの3カ国では1500万〜1600万人が「深刻な食料不安」に直面しているという。
アフリカ連合(AU)議長国セネガルのサル大統領は今月初め、ロシアのプーチン大統領と会談し、アフリカの苦境を訴えた。プーチン氏はウクライナ産穀物の輸出支援を行う考えを示したというが、戦闘が激化の一途をたどる中、実行の見通しは不明だ。国際協力機構(JICA)上級審議役の加藤隆一氏はロンドンでの講演で、「食料価格の高騰が(アフリカの)治安に影響を与え、社会不安が増す恐れがある」と懸念を示した。
●侵攻後に誕生の子は「ロシア国民」 ウクライナ南部露軍支配地域 6/17
ロシア軍が大半を支配するウクライナ南部ヘルソン州の親露派暫定政府の幹部は16日、ロシア軍の侵攻が始まった2月24日以降に生まれた子供は「自動的にロシア国籍を受け取る」という考えを示した。タス通信が伝えた。ロシア軍の支配地域で進む事実上の「ロシア化」の動きがまた浮かび上がった形だ。
タス通信によると、ヘルソン州の親露派幹部のストレモウソフ氏は「孤児はすでに(ロシア)国籍を受け取っている」とも述べた。保護者のいない子供を自動的に「ロシア国民」にしている可能性がある。ロシア軍が約7割を支配しているとされる隣のザポロジエ州の親露派幹部も16日、「2月24日以降に生まれた子供はロシア国籍の受領を要求できる」と明かした。
ロシアのプーチン大統領は5月25日、ヘルソン、ザポロジエ両州の住民がロシア国籍を取得する手続きを簡素化する大統領令に署名した。両州では希望者へのロシアの身分証の配布が始まっている。両州はまだロシアに編入されていないが、ロシアの通貨ルーブルの流通などロシア化が一方的に進められている。
一方、ロシア通信によると、ウクライナ東部ドネツク州の一部を実効支配する親露派武装勢力「ドネツク人民共和国」トップのプシーリン氏は16日、ロシア軍による「特別軍事作戦」が年末までに終わることを「強く望む」と述べ、作戦終了後にロシア編入を問う住民投票を行う考えを示した。一方で、「敵は(欧米諸国から)射程の長い深刻な武器を受け取っている」としてドネツク州の州境を越えて作戦が続く可能性も示唆した。
●プーチン氏は「正気でない」 ロシア元首相インタビュー 6/17
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の政権で初代首相を務めたミハイル・カシヤノフ氏(64)にとって、かつて仕えた人物がウクライナに全面侵攻したのは、最悪を超える悪夢だった。
カシヤノフ氏は、ロシアのウクライナ侵攻についてAFPのビデオインタビューに応じ、戦いは最長で2年続く恐れがあるが、ロシアは民主主義の道に戻れると確信していると語った。
2000〜04年の首相在任中、カシヤノフ氏は西側諸国との緊密な関係を支持していた。侵攻が始まる前の数週間は、他の多くのロシア人と同様、実際に侵攻するとは思っていなかったという。
プーチン氏のはったりではないと理解したのは、2月24日に侵攻が始まる3日前、指導部が招集され、劇場型の安全保障会議が開かれたのを見た時だった。「戦争が起こると悟った」
プーチン氏はもはや正しく物事を考えられていないと感じたという。「私は(安全保障会議に出席した)この人たちを知っている。彼らを見て、プーチン氏が既に正気でないと思った。医学的な意味ではなく、政治的な意味でだ」とカシヤノフ氏は述べた。
「私が知るプーチン氏とは別人のようだった」
プーチン氏に解任された後、カシヤノフ氏は野党に移り、クレムリン(ロシア大統領府)を最も声高に批判する一人となった。現在は野党「国民自由党」の党首を務めている。
「完全な無法状態」
旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元職員で、10月に70歳を迎えるプーチン氏は、この20年間で免責と恐怖に基づくシステムの構築に成功したとカシヤノフ氏は指摘する。
「これらは、プーチン氏が国家元首になったことで、ソ連末期よりも冷笑的かつ残酷な手法で運用されるようになったシステムの成果だ」
「本質的には、これは完全な無法状態に基づいたKGBのシステムだ。彼らが罰を受けることを全く予期していないのは明らかだ」
ウクライナ侵攻を受けてカシヤノフ氏はロシアを離れ、現在は欧州に住んでいると話した。だが、身の安全のため具体的な居場所を明かすことは差し控えた。
同氏の盟友でやはり野党指導者だったボリス・ネムツォフ元第1副首相は2015年、クレムリン近くで暗殺された。プーチン氏批判の急先鋒(せんぽう)として知られるアレクセイ・ナワリヌイ氏は、2020年に毒殺未遂に遭い、現在は収監されている。
カシヤノフ氏は、ウクライナが戦いに勝つことが不可欠だとし、「ウクライナが陥落すれば、次はバルト3国だ」と述べた。
また、戦いの結果はロシアの将来をも左右するとの見方を示した。
プーチン氏に屈辱を与えてはならないとするエマニュエル・マクロン仏大統領の提案には「全面的に」同意できないと主張。終戦に向けてウクライナに領土割譲を求める声もはねつけた。
「プーチン氏がそれ(領土割譲)に値するどんなことをしたというのか。それは実利主義に傾き過ぎた立場だ。間違っていると思うし、西側がそのような道を歩まないことを願う」
「甚大な課題」
カシヤノフ氏は、プーチン氏は最終的に治安機関が操る「後継者」に取って代わられるとみている。
しかし、「後継者」は長期にわたってシステムを管理することはできず、ロシアでは最終的に自由で公正な選挙が行われるようになると予想。「ロシアは民主主義国家を建設する道に戻ると確信している」と語った。
ただし、「脱共産化」と「脱プーチン化」には約10年かかると推定。「特に、この犯罪的な戦争の後では難しいだろう」とした。
ロシア人は、国家再建という膨大な課題に直面することになるとカシヤノフ氏は指摘。「何もかも新しく造り直さなければならない。基本的には、経済改革と社会改革をもう一度やり直す必要がある。これらは甚大かつ困難な課題だが、達成されなければならない」と述べた。
●プーチン「重病説」を再燃させる最新動画、脚は震え、姿勢を保つのに苦労 6/17
これまでたびたび健康不安説が唱えられてきたプーチンについては、本誌も「4月に進行がんの治療を受けた」とする米機密情報について報じた。そのロシア大統領を6月12日にクレムリンで撮影した動画が公開され、その姿にまたもや「病気」を疑う声が上がっている。
これはロシアの祝日「ロシアの日」にクレムリンで開催された式典での様子。映画製作者ニキータ・ミハイロフの表彰式に出席した69歳のプーチンだったが、その脚は震えているように見え、演説をしている間も姿勢を保つのに苦労している様子がうかがえた。
クレムリンの軍事関係者が運営しているとされるテレグラムのチャンネル「General SVR」によれば、プーチンは医師から「不安定な体調」を理由に、人前に長時間出ないよう勧められているという。
プーチンが国民の要望を直接聞き届ける毎年恒例のテレビ番組「国民対話」の実施が今年は延期されたが、これも医師の助言が理由だとチャンネルでは論じられている。「大統領の体調不良は、最近になってますます隠すのが難しくなってきている」
これまでプーチンについては、血液のがん、パーキンソン病、認知症などの「病気説」が浮上してきた。5月には元KGBエージェントで亡命者のボリス・カルピチコフが、ロシアの情報機関FSB(ロシア連邦保安庁)のスパイから伝えられた内容として、プーチンはがんの進行により医師から余命3年を告げられたと報じられた。
体の震えについては、4月にセルゲイ・ショイグ国防相との会談の映像が話題となった。この場でプーチンは右手でテーブルを12分ほども強く握り続けていた。
そうした中で、彼は鹿の角から抽出した血液を浴びるという「自然療法」を行っているとの真偽不明の噂も出ている。これはロシアのアルタイ地方でみられる「若さを保つ」ための療法だという。
ただセルゲイ・ラブロフ外相は、こうしたプーチンの「健康不安説」について「まともな人間なら大統領が病気になど見えないだろう」と一蹴している。
●習国家主席、プーチン大統領にロシアとの協力継続を希望 6/17
中国の習近平国家主席は6月15日(中国時間)、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談を行った。
習国家主席は「今年に入ってからのグローバルな動乱や変革に直面しながらも、中ロ関係は良好な発展の勢いを維持している」として、ウクライナ情勢などの問題が継続する中でも、引き続き中国とロシアとの友好関係は発展しているとした。
また「中国はロシアとの安定した長期にわたる実務的協力を希望する」として、今後も協力を継続するとともに、「中国はロシアと引き続き主権や安全保障などの核心的利益と、重大な関心事項に係わる問題で相互に支援し、両国の戦略的協力を密接なものとして、国連、BRICS、上海協力機構(SCO)などの重要な国際・地域組織の意思疎通を強化し、新興国と発展途上国の団結・協力を促進し、国際秩序とグローバルガバナンスのさらに公正・合理的な発展を推進したい」とした。
ウクライナ情勢について、習国家主席は「中国はウクライナの歴史的経緯と物事自体の是非により、独立して自主的に判断し、世界平和を積極的に促進し、グローバル経済秩序の安定を促進してきた。各方面が責任を持った方法によりウクライナ情勢を適切に解決すべきだ」として、従来からの主張を繰り返した。
習国家主席とプーチン大統領は北京冬季オリンピック開催に合わせ、2022年2月4日(中国時間)に北京市で会談を行い、両国は「終わりのない友好、禁止エリアのない協力」をうたう共同声明を発表している。
●欧州のガス配給制に現実味、ロシアが供給削減 6/17
ガーランド米司法長官は来週欧州を訪問し、ロシアのプーチン大統領とその側近への圧力を強める方法について協議する。
プーチン大統領は、米国とその同盟国が科した前例のない制裁をロシアは乗り切れると言明。制裁の結果、欧州は今年4000億ドル(約54兆円)を失う見通しだとも主張した。ただ、ロシアも近年まれに見る厳しい経済縮小に見舞われると見込まれている。
ジョンソン英首相は17日、キーウを電撃訪問し、新たな軍事訓練プログラムをウクライナに提供するとゼレンスキー大統領に伝えた。首相のキーウ訪問は戦争開始以降で2回目。前日にはドイツとフランス、イタリアの首脳がキーウを訪れていた。ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
欧州のガス配給制に現実味
ロシアが欧州向けの天然ガス供給を削減した。同国が主要な供給網を完全に遮断した場合、欧州では来年1月までに供給が底を突く恐れがあると、コンサルティング会社ウッド・マッケンジーは指摘した。
ガーランド米司法長官、欧州訪問へ
ガーランド米司法長官は米EU司法相・内相会議に出席するため22−23両日に欧州を訪問する。米司法省が明らかにした。ロシアに圧力をかけるため、同省は同国のオリガルヒ(新興財閥)の調査と資産差し押さえに取り組んでいる。ガーランド氏は、「ウクライナに侵攻したロシアに対抗し、より大きな代償を支払わせるための協調した取り組み」について欧州の当局者と個別に会談する予定。ウクライナでの戦争犯罪を可能にしている犯罪的行為を行う個人の責任を追及することが含まれるとした。アデエモ米財務副長官は、ロシアの海外資産凍結で支持を求めるため、トルコとアラブ首長国連邦(UAE)を来週訪問する計画。
プーチン氏に盟友カザフの大統領が異例の反対
プーチン大統領は17日、サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムで、ウクライナでの軍事作戦は国際法の下で合法的なものだと語り、戦争を正当化しようとしたが、近くに座っていた盟友カザフスタンのトカエフ大統領がこれに異を唱える予想外の出来事があった。プーチン氏は、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力が一方的に独立を宣言した「ドネツク人民共和国」および「ルガンスク人民共和国」のロシア系住民を守ることが目的だと主張。これと同じ意見かとの司会者の質問に対し、トカエフ大統領はカザフとしてはこれらを国家としては認めないと答えた。
G7、ロシア産エネルギーに上限価格設定を議論−関係者
主要7カ国(G7)はロシアからのエネルギー輸入に上限価格規制を設定する案について準備を進めている。事情に詳しい関係者が明らかにした。ロシアのエネルギー輸出収入と価格を抑える狙いで、首脳間で議論される可能性もあるという。非公開の協議だとして匿名を条件に語った関係者によると、6月26−28日にドイツのバイエルン州で開かれるG7サミットの準備の一環として、メンバー国の首席交渉官がこのメカニズムを探っているという。ロシア産エネルギーに上限価格設定する案はイタリアのドラギ首相がこれまでに唱えているが、市場をゆがめる恐れや報復のリスクがあるとして複数の国は問題視している。
英首相、キーウを電撃訪問
ジョンソン英首相は戦争開始以降で2回目のキーウ訪問を果たし、ウクライナに新たな軍事訓練プログラムを提供するとゼレンスキー大統領に伝えた。英首相府が発表した。このプログラムでは120日ごとに最大1万人の兵士に訓練を施すという。ジョンソン首相が国内問題で圧力にさらされている際、首相府はウクライナに関連する首相の活動を大々的に発表する傾向がある。今回は15日に倫理担当の首相顧問が劇的な形で辞任していた。首相府は全く関連はないと否定している。
ロシアは制裁を生き残ることができる、プーチン氏主張
ロシア当局は「経済を徐々に安定化させつつある」と、プーチン大統領がサンクトペテルブルク国際経済フォーラムで語った。一部の欧州諸国は「特別軍事作戦」を行っていないが、高いインフレ率を記録していると指摘。「プーチンのインフレ」と呼ばれることもあるが、ロシアにその責任はないとし、世界的な物価上昇は米国や欧州の政策が原因だと非難した。
ウクライナの春まき、作付面積は予想下回る
ウクライナ農業省によると、国内農家の春まきが終了し、トウモロコシやひまわりなど穀物の作付面積は1340万ヘクタールと、予想の1420万ヘクタールを下回った。前年比では21%減で、戦争で同国農業セクターが被っている打撃が浮き彫りとなった。
ドイツからフランスへのガス供給が停止
ロシアが天然ガスの供給をさらに削減したため、ドイツからフランスへのガス輸送が停止された。欧州諸国が国境を越えたエネルギーの融通を維持できるのか試されている。フランスはドイツから15日以降全くガスを受け取っていないと、ドイツ政府が確認した。欧州中部に流入するガスが減ったことを理由に挙げた。ロシアは欧州にガスを輸出する主要パイプライン「ノルドストリーム」での供給を削減し、独仏両国は流入するガスの量が減少したと認めた。ハーベック独経済相は市場を動揺させ、価格を押し上げようとしているとしてロシアを非難している。
イタリア、ガス利用で緊急計画発動も−ロシアの供給回復しないなら
ロシアのガスプロムがガス供給を来週半ばまでに回復させない場合、イタリア政府は国内市場に対し緊急計画を発動する可能性がある。事情に詳しい関係者が明らかにした。これにより、気候変動対策のため2025年で閉鎖される予定だった石炭工場6カ所で生産が引き上げられる可能性もあるという。緊急計画には企業にエネルギー生産を自発的に抑えるよう要請することも含まれ得るが、工業生産には影響しないだろうと、関係者は語った。
ウクライナ、ロシア人入国に査証要求へ
ウクライナはロシア人に対する無制限の入国許可を打ち切り、7月1日から査証を求めると、ゼレンスキー大統領がメッセージサービス「テレグラム」の自身のチャンネルで明らかにした。
欧州委員会、ウクライナにEU加盟候補国の地位付与を勧告
欧州委員会は、ウクライナに欧州連合(EU)加盟候補国の地位を付与することを勧告した。事情に詳しい関係者2人が明らかにした。実際の加盟までには長い年月を要するが、加盟に向けて象徴的な動きになる。
欧州ガス価格、週初から60%上昇
欧州の天然ガス価格は週初から約60%上昇し、ロシアのウクライナ侵攻開始以降で最大の週間上昇率となる勢い。ロシアの大幅な供給削減が欧州全体を揺るがしている。指標の先物価格は17日に一時8.4%高。イタリアのエネルギー大手ENIは17日、ロシアのガスプロムに要請した半分のガスしか供給されないとの通知を受けたことを明らかにした。前日も供給は要請の約3分の2にとどまっていた。
●プーチン大統領 演説へ 欧米との対決姿勢どこまで強めるか焦点  6/17
ロシアのプーチン大統領は、みずからが主導して開いている国際経済会議の場で日本時間の17日夜演説を行う予定で、ウクライナに対する欧米の軍事支援が一段と強化されようとする中、欧米との対決姿勢をどこまで強めるのかが焦点です。
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで開かれている「国際経済フォーラム」では、欧米や日本の企業が参加を見送る中、中国や中東、アフリカなどの国々の企業や政府関係者の姿が目立っています。
また、プーチン政権が一方的に国家承認した、ウクライナ東部2州の一部を支配する親ロシア派の武装勢力の幹部も参加するなど、ロシアへの制裁を強める欧米との断絶した関係が色濃く反映されています。
こうした中でプーチン大統領は17日の午後2時、日本時間の17日午後8時から開かれる全体会合で演説する予定です。
ロシア大統領府によりますと、全体会合では、中央アジア・カザフスタンのトカエフ大統領などが出席するほか、中国の習近平国家主席もビデオメッセージを寄せるということで、プーチン大統領としては、国際社会で孤立しているわけではないとアピールするものとみられます。
ウクライナ情勢をめぐってはフランス、ドイツ、イタリアの首脳が16日、そろって首都キーウを訪れ、結束して軍事支援を強化する姿勢を強調するなど、ロシアへの徹底抗戦を続けるウクライナに対する欧米の軍事支援が一段と強化されようとしています。
プーチン大統領の最側近の1人、パトルシェフ安全保障会議書記は15日、欧米による軍事支援やロシアへの制裁強化について「人為的に紛争を起こし、さらなる人的被害と破壊につながるだけだ」と反発していて、演説でプーチン大統領が欧米との対決姿勢をどこまで強めるのかが焦点です。
●制裁で打撃のロシア自動車産業への支援を指示 プーチン大統領 6/17
ロシアのプーチン大統領は16日、西側諸国の制裁を受けて大打撃を受けている国内自動車産業を支援するための方策を打ち出すよう政府に求めた。
ロシアの自動車産業と販売不振について話し合う会議の中で、プーチン大統領は「ロシアの自動車工場のパートナーは、長期的な約束にもかかわらず納車を停止したり、我々の市場からの撤退を表明したりした」ため、状況は「容易ではない」と述べた。
そして「自動車産業を支援し、国内市場を安定させるために、どのような迅速な措置を用意しているのか、より詳細に説明するよう政府に求めている」と表明。プーチン大統領によると、昨年に比べて生産量が激減し、すでに影響を受けているという。
プーチン大統領は「今、最も重要な課題は2つあると考えている。ひとつは、ロシア国内の自動車工場の仕事、必要な部品の供給、雇用の維持、有能な専門家のチームを確保することだ。もうひとつはロシアの自動車産業が、今年価格が高騰した乗用車を中心とする自動車の十分な供給を確保しなければならないことだ」と述べた。
ロシアの自動車販売はウクライナ侵攻以来、崩壊状態にある。 

 

●ソ連・フィンランド戦争とロシア・ウクライナ戦争 6/18
ロシアウクライナ戦争によって、改めて1930年代もしくは第二次世界大戦期のソ連を中心とした戦争の歴史に焦点が当たってきた。かつてのソ連をめぐるヨーロッパの戦争の歴史を知ることが、現代ロシアが行っているヨーロッパでの戦争の行方を占う大きなヒントとなるからである。
その場合、特に参考になるのはソ連・フィンランド戦争であろう。大国ソ連が小国フィンランドにしかけ苦戦した戦争だからである。ロシアウクライナ戦争と共通点が多いのだ。その点、独ソ戦は今回の場合あまり参考にならない。
独ソ戦は独・ソの2大軍事大国が総力をかけた大戦争だからである。大国ソ連が小国フィンランドにしかけ、欧米諸国がフィンランドを支援したことで苦戦したソ連が講和に向かったソ連・フィンランド戦争の歴史こそ最も参考になるのであり、知られるべきなのである。ロシア・ソ連とはこういう場合どのような戦争をする国なのか。
ところが、それを知りたいと思っても、驚かされるのはこの時代のソ連をめぐる戦争・外交史についての本には、わかりやすく正確なものが少ないことである。30年代といえば、ヒトラー(ドイツ)とスターリン(ソ連)という2大独裁者が強大な権力を背景に権謀術数の限りを尽くした時代と思われるが、その真実が十分に描かれた本が少ないのである。現代国際政治の実態を学ぶのに、ある意味では最も興味深い時代なのだから随分奇妙なことになっているともいえよう。
そうした中、ソ連フィンランド戦争をめぐる国際関係史については邦語では百瀬宏『東・北欧外交史序説』が知る人ぞ知る定評ある名著である。しかし、現在は入手できない。そこで、ここでは百瀬著を参考にした石野裕子『物語 フィンランドの歴史』を採り上げることにした。
ソ連・フィンランド戦争に至る歴史
1939年8月の独ソ不可侵条約前後から話を始めなければいけないが、そのあたりについては斎藤治子『独ソ不可侵条約』(新樹社)、三宅正樹『スターリン、ヒトラーと日ソ独伊連合構想』(朝日選書)などが参考になるのでこれらを参照しつつ、独ソ不可侵条約からソ連・フィンランド戦争に至る歴史を以下見て行くことにしよう。
1930年代、ソ連の有力な敵手となったのはヒトラーナチスドイツであった。ワイマール共和国の政権をめぐってもナチスと共産党は激しく争ったが、政権奪取後にもヒトラーナチスの有力な敵は共産党・スターリンソ連であった。
スターリンソ連は、 35年のコミンテルン(世界の共産党の指導組織。各国共産党はその下部組織)7回大会で「ファシズムは、多くの反動の中でも、解き放たれた暴力的な独裁であり、最も熱狂的な愛国主義であり、資本主義の最も帝国主義的な要素である」としている。これがマルクス主義によるファシズムの定義であり、これに基づき人民戦線戦術(共産党以外の反ファシズム勢力との統一戦線を結成すること)が採用されたのであった。ヒトラードイツはそのファシズムの典型であり、世界中の共産党・共産主義者は最も危険な敵としてその打倒に心血を注いでいたのであった。
したがって、39年8月に独ソ不可侵条約が締結された時の世界中の共産主義者の衝撃は極めて大きいものがあった。最も主要な打倒対象とされていた「資本主義の最も帝国主義的な要素」ファシズム=ナチスドイツと「世界の労働者の祖国」と言われたソ連が不可侵条約を結んだのだから、(それまでの経緯からして)多くの共産主義者たちは立ち直れないほどの大きなショックを受けたのであった。
このために共産主義を信じられなくなり放棄した世界の知識人たちの様子はヴォルフガング・レオンハルト、菅谷泰雄訳『裏切り ヒトラー=スターリン協定の衝撃』(創元社)によく描かれている。米国の共産主義者の中にも、このショックのために共産主義を捨てて保守主義へ転向した人は少なくなかった。
ラインホルド・ニーバーの次の言は30年代の米国知識人の幻滅を代表するものと言われる。「ロシアが大国としてなしたことは理解できることである。しかし、ロシアが社会主義の祖国であり、世界各国の幾百万という人民戦線派の人々が身を捧げた国であることを思えば、ロシアのしたことは卑しむべきことである」。
このように、この条約のため米欧の共産主義運動は深刻な打撃を受けたのである。しかし、この時世界の共産主義者はもっと驚くべきことを知らなかったのだった。
共産主義者のさらに大きな驚き
この不可侵条約には秘密議定書があった。そこでは、フィンランド・バルト三国・ポーランドに属する領域の「領土的・政治的変更の場合」の、「ドイツとソ連の利益範囲の境界」が決められていた。また、ルーマニアのベッサラビア地方については「ソ連の利益」が強調されていた。
平たく言うと、ドイツはポーランドの西半分を自分の領土にする、東側からはソ連が入ってソ連領にするということであり、その周辺地域の配分も決められていたということである。これは第二次世界大戦後に知られたことであって、当時は全くの秘密であった。いずれにせよ、ポーランドら対象とされた国の独立性・自主性を全く無視した2大軍事大国による領土分割決定という典型的帝国主義的政策であった。
ドイツとポーランドはダンツイッヒとポーランド回廊といわれる地を巡って抗争を続けていたので、これを名目に1939年の9月1日にドイツ軍はポーランドに侵入した。ドイツ軍は185万人に対しポーランド軍は95万人と2倍、戦車は2800両対700両で4倍、航空機は2000機対400機で5倍であった。
ポーランド軍は総崩れとなり、ワルシャワが包囲された17日に今度はソ連が東側からポーランドに侵入した。32年に結ばれたソ連・ポーランド不可侵条約は無視された。ソ連のモロトフ外相は駐ソ連ポーランド大使に宣戦布告を告げ言った。「ポーランドの首都としてのワルシャワはすでに存在しない。ポーランド政府はすでに崩壊して、その息の根は絶えた。これはつまり、ポーランドという国家および政府は事実上消滅したということである。ソビエト連邦とポーランドの間で結ばれた協定についても、同じように無効になったということだ」。
ポーランドは抵抗したが、東西からの軍事大国の挟撃の前に敗れるしかなく10月5日までに戦闘は終了する(亡命政府はフランスを経てロンドンに至り、なお2万5000のポーランド人が英国で「祖国解放」を期した)。両国はポーランドを分割、ポーランドは史上3回目の「亡国」状態となり、東側1200万人・20万平方`メートルをソ連に奪われたのである。また、この軍事行動を起こす時ソ連のモロトフ外相は、ソ連系少数民族の保護を名目にしていることも忘れてはならない。
9月28日、リッベントロップ外相がモスクワを訪問、独ソ国境友好条約が結ばれた。エストニア・ラトヴィアに加えリトアニアをソ連の利益範囲とし、ポーランドのルブリン管区とワルシャワ管区の一部をドイツの利益範囲とするというものであった。ソ連の強い希望によるものと言われている。
さらに、ソ連は100万余人のポーランド人をシベリアに送り、それとは別に捕まえた約2万2000人のポーランド人将校・官吏・警官・聖職者などをソ連のスモレンスク付近のカチンの森に連れて行き虐殺した。41年に発見されたが、ソ連はドイツによる犯行と主張し続け冷戦後の1990年にやっと自分の犯行と認めた。
第二次世界大戦の幕開け
英仏は8月25日、ポーランドとの相互援助条約を結んでおり、それに基づき9月3日にドイツに対し宣戦を布告しヒトラーを落胆させた。
こうして第二次世界大戦が始まった。(2019年9月、欧州議会は「ナチスとソ連という2つの全体主義体制による密約が大戦に道を開いた」という決議を採択、これに対しプーチンは21年7月出版物などでナチスとソ連を同一視することを禁止する法案を成立させた。)
ただし、英仏両国はドイツに宣戦布告をしただけで、戦闘をほとんどせず、「奇妙な戦争」と呼ばれる状態が続いた。ポーランド戦役の間ドイツは西部国境に主要な軍隊をほとんど置かず、10月6日ヒトラーは国会で演説し英仏に和平を訴えた。
さて、独ソ不可侵条約の秘密議定書に続く独ソ国境友好条約によって、バルト三国がソ連の利益範囲となることが決められていたが、ほぼそれに従ってバルト三国に対しては9月19日から10月10日の間にソ連との相互援助条約の締結が強要された。三国はソ連の陸海空軍への基地提供を認めるしかなかった。エストニアの場合、モロトフから、沿岸をソ連海軍が防衛することが伝えられ、続いてソ連軍の駐留・軍事基地建設と相互援助条約の締結が要求され、拒否すれば軍事力を行使することも伝えられた。条約に調印すると2万5000のソ連軍が入り島や港湾に陸海空軍の基地が建設された。
この後、これから述べるようにソ連はフィンランドへの戦争を始めるので、本格的侵略が始まるのはソ連・フィンランド戦争後の翌年6月になるが、3月からバルト三国内で共産主義者の活動は活発化した。
そして、英仏に対しドイツが40年春から本格的戦争を行い、フランスの敗北がはっきりしてくると、5月25日ソ連からリトアニア政府にソ連軍兵士が誘拐拘束されたという非難文書が届けられた。リトアニア政府は調査を提案したが無視され、結局メルキス首相がモスクワに呼びつけられた。6月14日深夜、ソ連軍の無制限駐留・親ソ連政権樹立を骨子とした最後通牒がモロトフから発せられた。ソ連軍は国境近くで侵攻準備をし、バルト諸国の海と空の封鎖が始められた。15日朝にはソ連軍は複数のリトアニア国境検問所の攻撃を始め国境警備兵の死者・誘拐が出始めた。リトアニア政府は最後通牒受諾を決め、午後には赤軍第3軍・11軍がリトアニア侵入占領に動き始めた。メルキス首相は辞職させられ、特使がリトアニアに派遣され新内閣の組閣を指揮することになった。
6月16日、エストニア・ラトヴィア政府にも覚書が届けられ、ソ連との条約を遂行できる新内閣の組閣と無制限のソ連軍の駐留が要求された。
17日、両国とも最後通牒を受諾するしかなく、受け入れると同日すぐにソ連軍が進軍、同時に親ソ政権樹立のための特使がモスクワから来着した。19日までには三国は完全にソ連の占領下におかれ、ラトヴィア・エストニアの大統領はソ連に強制連行され、リトアニア大統領だけが脱出に成功した。
7月、共産党以外の政党は非合法化され、反共産主義者と見なされた人は逮捕され、共産主義者のみの候補者名簿の選挙が行われ、それによって選ばれた人民議会がソビエト共和国を宣言しソ連邦への加盟を申請した。
結局8月6日までにバルト三国はソ連に併合され消滅した。その後、秘密警察(内部人民委員部)を中心としたソ連の強権ですさまじい弾圧が行われ少なくとも約5万人以上の国の指導者と国民の逮捕処刑・シベリアなどへの国外追放・強制移住・行方不明が実行されていった。
続いてソ連はルーマニアのベッサラビア地方と北ブコヴィナの併合も実施する。1940年6月26日ルーマニアに対し、ベッサラビア地方と北ブコヴィナの割譲さらに軍隊の4日以内の撤退を要求する最後通牒が出された。聞かなければ軍事力を行使するとしていた。そこは5万1千平方`メートル、人口375万人の地域であった。2日後にルーマニア軍は撤退を開始、この地域もソ連に併合される。
北ブコヴィナをソ連領にすることは秘密議定書にはないことであった。多数のドイツ人が居住し旧オーストリア王室領であるブコヴィナへのソ連の要求を聞いた時、ヒトラーはバルト三国に対するのとは違い衝撃を受けたことが周囲に察せられた。このためリッベントロップはベッサラビアにはドイツ政府は条約に従って異議を唱えないがブコヴィナは全く聞いてないことをソ連に伝えた。モロトフはブコヴィナへの要求は北ブコヴィナに限定すると回答しただけだった。これが、ヒトラーの大きな不信を招いたことは間違いないと見られている。独ソ関係を大きく悪化させたのは、この秘密議定書に違反したソ連のルーマニア領併合であったとも言えよう。
後に述べるように39年秋から冬にかけてのソ連フィンランド戦争においては、ドイツは親ソ連的であったが、バルト三国に大軍を集結侵入させたり、秘密議定書にはない北ブコヴィナ地域を併合したりしたのだからドイツの側にソ連に対する不信が生じたことは当然であったともいえよう。ドイツはこうしたソ連のやり方に大きな不信を抱き、この不信は結局ドイツのソ連侵攻の一因となる(三宅正樹『スターリン、ヒトラーと日ソ独伊連合構想』)。もっともヒトラー(ドイツ)がスターリン(ソ連)を警戒していたようにスターリン(ソ連)もヒトラー(ドイツ)を警戒していたわけで大差なく、資質の欠けた大国リーダーの存在が世界に大きな不幸を招くことがわかる。
なお、このバルト三国併合のころリトアニアで領事をしていた杉原千畝が「命のビザ」を発行し、多くのユダヤ人を救ったことは事実だが、以上で分かるようにリトアニアを併合しこの地域のユダヤ人を圧迫したのはソ連であってナチスドイツではない。
ソ連によるフィンランド侵攻とは
それではソ連によるフィンランド侵略はどのように行われたか。1939年10月、レーニングラードの安全保障と称してソ連はフィンランドに対して領土交換を提唱した。ソ連が要求したのは安全保障上の要地であり、見返りは重要性の乏しい地域であった。
フィンランドは交渉したが、結局交渉は11月13日に決裂した。フィンランド軍は10月中に動員をかけていたが、戦争を予期せず21日には一部動員を解除していた。「ソ連が戦争を仕掛けるとはほとんどだれも考えなかった。軍事専門家たちは、冬季の対フィンランド作戦はおそらくソ連の利益にならないと主張した。もちろんその通りなので、スターリンが利益にならないようなへまをやるとは予想できなかった」。
26日、ソ連のモロトフ外相は駐ソ・フィンランド公使を呼び、フィンランド政府に宛てた覚書を手交した。それはカレリア国境マイニラでフィンランド軍が発砲しソ連兵が死亡、フィンランド兵がソ連領に侵入したと主張していた。今日、ソ連軍が先に発砲したことは明らかになっている。
フィンランドは、当時当該地域に発砲できる部隊はいなかったと反論、協議する用意があることなどを伝えたが、4日後の11月30日朝、ソ連陸軍がカレリア地峡の国境線を越えてフィンランド領内に侵攻、同時にソ連空軍機がヘルシンキを突然空爆した。こうしてソ連フィンランド戦争が始まる。32年にソ連とフィンランドの間には不可侵条約が締結されていたのだがこれは平然と破棄された。
開戦初期の12月2日に占領した国境沿いの町テリヨキに、亡命していた共産党政治局員クーシネンを大統領(首相)とするフィンランド民主共和国が樹立されたとモスクワ放送は発表した。クーシネンはフィンランド国民に解放のアジテーションをし、ソ連政府にフィンランド解放のための正式な援助要請を行った。ソ連政府はクーシネン政府のみをフィンランドの正統政府と認めそのほかの政府とは交渉を持たないと宣言した。
続けてソ連の要求をすべて認めた相互援助条約が結ばれている。ソ連の狙いがフィンランドの併合にあったと見られる所以である。「すべては茶番であった。クーシネンはモスクワにいて、おそらくテリヨキに行ったことすらなかった」。
この後、ソ連はさらに、このフィンランド民主共和国を通じてソ連の攻撃はフィンランドの労働者階級を守るためだと訴えた。ソ連はフィンランドとの戦争を、フィンランドの「反動的な金権政府」に対して成立した「民主共和国」を援助する「解放戦争」という規定を与えようとしていたと見られるのである。10月頃にフィンランド国内の共産党地下組織から「ソ連軍に呼応した自発的革命の可能性を保証した報告を受けたうえで、軍事行動への踏切りが決定されたらしい」のである。
しかし、この試みは失敗する。フィンランド国民はその抵抗によってソ連軍に解放軍のイメージを与えることを許さなかったし、クーシネンの「民主共和国」の綱領中の「白色フィンランド」という表現は20年前のものであり現実のフィンランド共和国の実態とはかけ離れており、綱領に掲げた土地改革・8時間労働制の実施などはすでに実現していたからである。
さらに、フィンランド共産党指導者による、ソ連政府・コミンテルン指導部に対する公然たる反逆事件も起きる。すなわち、フィンランド共産党幹部の一人トウオミネンは『フィンランドの労働者同志とゲオルグ・ディミトロフ(コミンテルン書記長)に宛てた私の手紙』というタイトルの小冊子を刊行し「ソ連の対フィンランド攻撃は、民族自決の原則・平和政策にもとり、ソ連国民と全世界の労働者にたいする犯罪であるとして糾弾する」という態度を表明したのだった。
こうして、フィンランド共産党地下組織の報告に基づき、ソ連軍の行動により呼応した革命が起こり、クーシネン政権が支持されるというモスクワの指導部の構想は破綻したのであった。「現実には、フィンランド国内には目立った反抗らしい動きはみられず、国民は対ソ抵抗に結集したのであった」。
しかし、彼らは簡単には諦めなかった。この戦争の結果、共産党政治局員クーシネンのフィンランド民主共和国は結果を出せなかったが、戦争後の40年5月に「ソ連・フィンランド友好協会」が結成され、フィンランド共産党はこの大衆団体を通して「大衆示威の練度を高めようとする一方、武装蜂起に備えた党独自の軍事組織の強化を図って」フィンランドの公安警察との軋轢を招くことになるのである。武力による「解放」・親ソ政権樹立という構想を一貫して保持していることが理解されよう。
世界的な「フィンランド」支援の動き
さて、次にソ連・フィンランド戦争をめぐる世界の動きを見て行くことにしよう。ソ連フィンランド戦争が起きると、英・米・仏・「イタリア」などの世界では熱狂的なフィンランド支援の動きが起きた。
「ルーズベルト大統領は『フィンランドの強奪』と述べ、英・チャーチルはソ連の侵略を『高潔な人びとへの卑劣な犯罪』と呼んだ。フランス政府はソ連の通商代表部の閉鎖を命じた。イタリアは駐ソ大使をモスクワから召還した。ウルグアイからの激励の書簡はフィンランド議会で厳粛に朗読された」のだった。
義勇兵はスウェーデン8000人、デンマーク1000人、ノルウェー700人、ハンガリー450人、米国350人、英国230人、イタリア150人などで、そのほかカナダ・オーストラリア・アルゼンチンなど多くの国から申し込みがあった。また、英国から戦闘機42機・爆撃機24機、フランスから戦闘機30機をはじめ各国から大量の砲・銃・弾薬・装備品の支援が行われたのである。
そしてそうした世界の世論を典型的に表したのが、12月14日ソ連が国際連盟から追放処分を受けたことであった。
12月3日、国際連盟においてフィンランド代表ホルスティはソ連の侵略行為を提訴した。これに対し、ソ連はこれを拒否し、フィンランドと戦争状態はなくソ連と友好条約を締結したフィンランド民主共和国と平和な関係を維持していると回答したのだった。国際連盟総会はソ連欠席で開かれ、13カ国からなる調査委員会が設置された。 
調査委員会は、ソ連のフィンランドに対する行動を非難し、全連盟加盟国はフィンランドへの物質的人道的援助を実施しフィンランドの抵抗を減退させるいかなる行動も差し控えること、代表派遣を拒否したことによりソ連は自ら国際連盟規約の外に自身を置いたことになる≠ニした決議を総会に付託した。こうして、12月14日、国際連盟総会はこの委員会決議を採用、連盟理事会は国際連盟規約第16条によってソ連の追放を決定したのである。
こうした事態を背景に12月19日、英仏間の最高戦争会議において、「フィンランドに対してあらゆる可能な援助を与え、またスウェーデンとノルウェーに対して外交活動を行なうことの重要性」が確認された。その背後には,フランスのダラディエ首相によるフィンランド救援のためドイツの戦争遂行上死活の意味を持つスウェーデンの鉄鉱生産地占拠を目指す英仏側による先制攻撃の提案があった。
以後、この件は曲折を経て、40年2月5日英仏首脳の参加した最高戦争会議において、スウェーデンの鉄鉱生産地奪取を目的とするノルウェー西岸への上陸作戦のため英国軍を主力とする遠征軍を派遣することが決められた。この遠征軍は10万人規模とされたが、それにはスウェーデン・ノルウェー政府の同意が必要であった。しかし、国民にはフィンランド支持も少なくなく多くの義勇兵も出していたが、ソ連・ドイツから警告を受けた両政府は中立的地位破棄の危険を冒すことを恐れ英仏へ好意的立場をとることはできなかった。
一方、フランスのダラディエ首相が参謀本部に黒海沿岸のソ連油田地帯の破壊工作の検討を命じたところ、40年2月22日参謀本部はこの地域の爆撃で独ソを屈服させうると答申した。独ソを同程度の敵と見なし、ドイツを打倒するため資源提供者もしくは弱い方のパートナーソ連を叩こうとしたのである。
米国では熱狂的フィンランド支持の声が起こり、反ソ熱が猛烈に盛り上がった。それは「異常」とまで言われるほどであった。ただ、孤立主義の強い同国において、そこには微妙なところがあり、結局実質的にはブラウン法案というフィンランドへの借款を導いた法案を成立させた程度であった。しかし、英仏のフィンランド援助計画は米国世論の盛り上がりをもとに米国を孤立主義から脱却させることを期したものであり、やはり両国の背後に米国があったことも否定できないと見られている。
ファシズム・イタリアもフィンランド支援に熱心であった。ソ連・フィンランド戦争が起きるとローマでは警察の規制が全くない学生の過激なデモがソ連大使館に対して行われ、続いて政府に認められたイタリア義勇軍兵士参加や多くの支援軍需物資輸送がフィンランドに行われた。12月、到着した新任のソ連大使は国王に謁見されぬまま帰国し、翌1月ソ連駐在イタリア大使は本国に召還された。
西欧諸国世論の圧倒的ソ連批判とフィンランド軍の善戦はソ連赤軍の威信を大きく低下させており、ムッソリーニ・イタリアはヒトラードイツの支持などできなかったのである。40年1月ムッソリーニはヒトラーに書簡を送り、イタリアは「勇敢な小国フィンランドに好意を寄せている」ことを告げ、ヒトラードイツの国際的地位を警告、英仏との大戦争は望まず、ドイツの対ソ友好を激しく批判したのだった。
しかし、ヒトラーはこれに冷淡で3月になってようやく返事を送り、ムッソリーニの書簡を全面否定し、ソ連のフィンランドへの要求は合理的であり、ボリシェヴィズム(ソ連共産主義)は「ロシア民族国家のイデオロギーと経済に発展しつつある」がゆえにソ連との友好的・経済的相互依存は可能であると断言したのだった。
スターリンの「弁明」
では、ドイツ自身はどうかというと、フィンランド国民の期待を裏切り、イタリア・ハンガリーからドイツ経由でフィンランドに送られるべき支援軍需品を差し止めただけでなく返送したのだった。
そして、さらにフィンランド政府の再三にわたる紛争調停の要請も拒絶し通している。このようにこの時世界でソ連の味方はほとんどドイツだけであった。第二次大戦はどういう組み合わせになるかまだ決まっていなかったのである。
さて、戦争自体はどのように展開したか。両軍の戦力についてははっきりしないことが多い。ソ連軍45万人・フィンランド軍30万人余、この方面のソ連軍24万人(戦車1000両)・フィンランド軍14万人(戦車60両)、ソ連軍約40万人(主力の第7軍約20万)などである。いずれにしても、数字的にソ連が圧倒的に優位であることは間違いなかった。
しかし、フィンランド軍は激しく抵抗し善戦、作戦期間を10〜12日間と考えるなど見通しの甘かったソ連は戦争体制の根本的立て直しをせざるを得なかった。
すなわち、1940年2月にソ連軍はレーニングラード軍管区のみの担当であった戦争を参謀本部が直接指揮をとるソ連軍全体の戦争としたのである(「ソ連軍の半分60万」を増員した戦争体制としたと言われる)。
500機を動員した空軍の援助のもと赤軍は前進、カレリア地峡では30個師団に達したという。フィンランド側の動員力は底をつき、第一次防衛線は突破された。しかしなお激戦が展開されたが、スウェーデン駐在ソ連公使コロンタイによる和平交渉が開始されることになる。この時、モロトフは交渉相手として、それまではクーシネン政権しか認めていなかったものがフィンランド政府を認めたのでソ連の対フィンランド政策の根本的変化は察せられた。
なお、交渉のためストックホルムを訪れたフィンランド外相の密使左翼知識人ヴォリヨキはソ連側使者の態度に「彼らはかつての仲間であったロシア革命当時のボリシェビキとはまったく別者になっていた」と外相宛てに報告している。ロシア革命当初の共産党とはかなり変質したものとなっていることがうかがえるのである。
こうして、ソ連軍の攻勢にフィンランドが劣勢となる中、戦況による講和条件の悪化と英仏連合軍の援助とのどちらを重視するかがフィンランド政府の運命を決めることになって来た。
2月23日、フィンランド政府はスウェーデン政府を通してソ連の詳細な和平条件を知らされたが、カレリア地峡などの割譲や長期貸与など極めて厳しいものであった。そこで、フィンランド政府はスウェーデンに正規軍の派遣と英仏連合軍の通過の了解を求めた。スウェーデンは再度拒絶したが、それでも英仏は、5万人のフィンランド救援のための兵力を準備しており3月15日にはナルヴィクに出発させる旨、3月初めフィンランドに約し戦争の継続を求めた。
しかし、スウェーデン・ノルウェー政府がなお同意しないため、ついにダラディエは同意がないままの強硬介入を主張、英国も同調し、ノルウェーへの強行上陸を実施しようとした。
3月8日、フィンランド政府代表団がモスクワに到着、休戦交渉が開始された。やはり厳しい条件だったので、これがヘルシンキに伝えられると英仏からの援助を受けるべきだという意見が巻き起こった。しかし、戦える力のあるうちに講和を結んだ方が得策だという議論がこれを制し12日、平和条約が調印された。
3月13日平和条約が実現したことが報じられたので、すでに準備の始まっていた英仏のフィンランド支援作戦は停止された。ただ、ノルウェーの中立を犯すノルウェー領海内への機雷敷設はその後実施されるので、これに対しヒトラーもデンマーク・ノルウェー作戦を実施、結局フィンランド支援をめぐる北欧作戦は「奇妙な戦争」を終わらせる一因になった。また、フランスではこの作戦失敗のためダラディエ政権は崩壊する。
戦争全体についての被害についてもやはりはっきりしないことが多いが、ソ連軍の死者12〜13万人・負傷者26万4000人以上、フィンランド軍死者2万3000人、負傷者4万3000人という数字は比較的信頼できるものと言えよう<ほかにソ連軍死者20万人〜25万人・負傷人者60万、フィンランド軍死者2万4923人、負傷4万3557人,という数字もある。>いずれにせよ、ソ連側の被害が非常に大きいことがわかる。
スターリンは40年4月の会議で、フィンランドとの戦争はレーニングラード防衛のため不可避だったと弁明したが、犠牲者があまりに多いので弁明せざるを得なかったのであり「軍部の誰一人として、彼の発言をそのまま受けとらなかったであろう。やがて、「冬戦争」として知られるようになる、この戦争はスターリンが生きている間は、「忘れられた戦争」になった」。
耕地面積の約10%を削減され、約40万人が移動させられるなど領土的には平和条約はフィンランドに不利なものであったが、善戦によりフィンランドは、議会政治などの自由主義的政治体制、そして何よりも独立を守り通したのであった。これを「冬戦争の驚異」という。
ソ連(ロシア)の行動パターン
以上からわかるようにソ連の行動パターンはかなりの程度決まっていると言えるであろう。ソ連の安全保障にとって必要と決めると、相手が小国であっても、国境に大軍を集めて威圧するなどし、領土交換・割譲などを要求、またその地域のロシア系住民の保護を掲げて、戦争を仕掛け、自ら指導する民主共和国などを作って支配・併合していくのである。
米国の社会科学者フレデリック・シューマンは、ポーランド・バルト三国までのソ連の行動はマキャヴェリズムとして礼賛していたが、フィンランドに攻め込んだ時にはさすがに侵略として批判の声を上げたのだった。「一九三九年までにはスターリニズムの本体に目覚めるべきであり、フィンランド以後もソヴィエットが進歩のシンボルであるという自己欺瞞にしがみついた者は、アメリカのリベラリズムの伝統に反する。三〇年代を生き抜いて来たアメリカ知識人の多くは、以上のように考えるに至った」。
ソ連が和平に応じた原因として、軍事的背景が第一に挙げられる。すなわち、短期決戦による軍事的勝利とフィンランド政府の崩壊という見通しがはずれ、本格的軍事作戦を余儀なくされ、その結果自ら作った傀儡政権によるフィンランドの革命・解放の援助などという看板は空疎なものになったのであり、通常の政府を相手にした通常の戦争たらざるを得なくなったのである。
しかし、そればかりではなく、英仏によるフィンランド援助の動きが大きな要因となっていることはソ連戦史も認めるところである。繰り返すが、3月はじめに英仏の5万人のフィンランド援助軍派遣は確約され準備は進んでおり、そのままではソ連は第二次大戦に英仏を敵として参加することになりかねなかったのである。
以上をまとめよう。ソ連フィンランド戦争に見られるように、ソ連・ロシアといえども、被侵略国の抵抗と各国の支援による孤立・包囲は避けたいのである。 
今回の戦争においては、核兵器の使用を恫喝に使ったので、広島・長崎は今年の平和式典などにロシアの出席を拒絶したが、被爆国民・市民として当然のことであり、世界はこうした形で国連憲章に違反するとして国連総会で非難決議が採択され、国連人権理事会理事国の資格も停止されたロシアの戦争を批判し、ねばり強く被侵略国ウクライナの支援を続けていかなければいけないだろう。それは長期的には国際化したロシアを生むことにつながるのであり、世界のためのみならずロシア自身のためにもなることなのである。1930年代の歴史に学ぶということはそういうことであろう。
●度重なる侵略、戦争の意外すぎる原因…ウクライナを翻弄する「奇跡の土」? 6/18
ウクライナに集中するすごい土
現在戦禍に見舞われているウクライナには、世界で最も肥沃な土「チェルノーゼム(チェルノは黒い、ゼムは土の意)」が分布しています。世界の土は大雑把に12種類に分類することができますが、チェルノーゼムは陸地面積の7%を占めます。
世界のチェルノーゼムの3割がウクライナに集中しており、日本には存在しません。チェルノーゼムと、日本にある「黒ぼく土」(火山灰土)はどちらも黒い土で見た目は似ていますが、黒ぼく土は酸性、チェルノーゼムは中性です。酸性の土よりも、中性の土で作物はよく育ちます。
肥沃な土は地球上に局在し、私たちは生まれた地域の土を選ぶことはできません。また、土は簡単には変えられませんし、重いので植物のタネのように移動もできません。このため、より広い農地、より肥沃な土を求めて列強が進めたのが植民地政策であり、戦争であり、水面下では肥沃な土地の買い占め(ランドラッシュ)も進行しています。
チェルノーゼムは、ロシア南部からウクライナ、ハンガリーなどの東欧、カナダ、アメリカのプレーリー、アルゼンチンのパンパ、中国東北部に広く分布しています。乾燥した草原下にできる黒い土であり、そこを畑にすると小麦の大穀倉地帯となりました。
ウクライナは、とくに「ヨーロッパのパンかご」と呼ばれるほど、小麦の大産地です。近現代史を通して、ウクライナがドイツ、ロシアのターゲットとなった理由の一つは、土にあるのです。
世界の食糧庫のゆくえ
土の違いは、食糧生産力に厳然たる格差をもたらします。ウクライナをはじめとするチェルノーゼム地帯を中心に、世界の肥沃な畑が分布する面積は、陸地の11パーセントにあたります。たった11パーセントの陸地で、世界人口の8割、60億人分の食糧が生産されているのです。
第二次世界大戦中、ナチスドイツ軍はウクライナの土を貨車に積んで持ち帰ろうとしたといいます。ドイツは慢性的な食糧難に苦しんでいました。
ちなみに、ロシアの国土の大部分は永久凍土と酸性土壌(泥炭やポドゾルなど)が占めており、ロシア民話『おおきなかぶ』には、一粒のかぶを大切に育てる貧しい農民の暮らしと、厳しい自然環境が見てとれます。ロシア国内で最も豊かな農場があるのは、やはりウクライナと近い黒海周辺のチェルノーゼム地帯です。
より温暖で肥沃な畑を求める大国の思惑が、ウクライナを翻弄してきました。
チェルノーゼムと平和の願い
チェルノーゼムは、戦争以前から、さまざまな問題に直面しています。水不足による塩類集積や土壌侵食、腐植(動植物遺体の腐ったもの)の減少といった土壌劣化の問題です。
草原を畑に変え、土を耕すようになると、団粒(腐植と粘土が団結して団子状になった土)が砕けてしまい、内部の腐植が分解されやすくなります。北米では、肥沃な黒い土の層が半分になったといわれます。収穫量が低下するだけでなく、腐植の分解は、大気中の二酸化炭素濃度増加の一因ともなっています。
そこで、ウクライナでは土壌保全に配慮し、有機農業、環境保全型農業志向の強いEU圏の消費者をターゲットにした作物生産を始めていました。土壌保全には、生産性の改善、水質の改善、生物多様性の増加に加え、大気中の二酸化炭素を腐植として土壌に貯留することで温暖化を緩和する効果もあります。
しかし、塹壕戦や遺体埋葬の映像に映りこむチェルノーゼムは、土壌保全は平和を前提としていることを物語っています。
世界人口が増え続ける中、世界の農地面積は頭打ちです。肥沃な土を劣化させている場合ではありません。戦争とは、人道に悖(もと)るとともに、環境負荷の極めて大きい破壊行為です。
弾薬には大量の重金属(鉛、ニッケル、亜鉛、銅)が使われており、いったん汚染されると、除染は容易ではありません。同じウクライナのチェルノブイリ原子力発電事故の汚染地域のように、安全な作物を生産できない土になってしまいます。
肥沃な土を求める侵略行為、植民地化、土地の買い占めに共通する土のリスクは、その土地の土との付き合い方を知らない人々が新たに入植して土を耕し、土壌劣化後には無責任に放棄されることです。どんなに土が肥沃でも、その強みと弱みを知らなければ、うまく使いこなすことはできません。
ウクライナの人々が土壌保全を配慮しながら農業のできる日常が戻ることを、チェルノーゼムは静かに待っています。
●食料危機でも腐敗は横行 政情不安のエジプトとレバノン 6/18
ウクライナ戦争による小麦の輸入難で中東、アフリカ諸国は食料危機に直面しているが、中でも小麦の輸入世界一のエジプトと破綻国家レバノンは窮地に陥っている。だが、その背景には「両国の支配勢力が国民そっちのけで私腹を肥やす腐敗の構造≠ェある」(中東アナリスト)ようだ。
パンの値上げが暴動に直結
ピラミッドと母なるナイルの国<Gジプトは人口約1億200万人の中東の大国だ。しかし、国際通貨基金(IMF)などによると、国民の3分の1は1日2ドル以下で生活する貧困層だ。
こうした庶民を直撃したのがパンの価格急騰だ。パンによっては2倍に跳ね上がった種類もある。ウクライナ戦争でウクライナやロシアからの小麦が入らなくなったことが大きな原因だ。
エジプトは世界最大の小麦輸入国で、その8割以上をウクライナとロシアに依存してきたため、戦争による影響は深刻だ。シシ軍事政権は4カ月分の小麦の備蓄があるとしているが、戦争が終わる見通しがないためインドなど他の輸入先探しに必死だ。その一方でIMFやサウジアラビアに緊急支援も要請している。
価格が上がっているのは主食のアエーシ(パン)だけではなく、食用油など他の生活必需品にも及んでいる。政府がパンの価格へ特別に注意を払っているのは、これが政情不安に直結する問題だからだ。エジプトでは70年代からパンの値上げがあるたびに反政府暴動が繰り返されてきた。
30年の長期にわたって支配してきたムバラク元政権が「アラブの春」で打倒された要因の一端はパンの価格に対する国民の不満があった。このためクーデターで政権を奪取したシシ大統領は30億ドル(約4000億円)もの補助金でパンの価格を維持、生活苦に対する国民の怒りを抑えてきた。
だが、ウクライナ戦争後のパンの価格の高騰に政府批判も高まり、ネット上では、飢えの革命∞シシよ、去れ≠ネど政権にとっては危険なハッシュタグまで現れた。政府はこうしたネット上の投稿を即刻削除し、批判の取り締まりを強化。同時に富裕層ら50万人からパンの配給を受ける権利などをはく奪、対策に躍起になっている。
シシ政権誕生直後は同氏がエジプトの英雄ナセル元大統領に雰囲気が似ていることもあって支持が高かったが、軍指導部や大統領の取り巻きなど一部だけが利権を享受している現実に失望感が広まった。今回の食料危機の対応を誤れば、人口2200万のカイロなどでいつ暴動が起きてもおかしくないだけに、政権の懸念は強い。
甘い汁を吸う軍部
食料危機が深まったのはシシ政権が国民の生活改善や政治・経済改革を怠ってきたことが大きな要因だ。2016年にはIMFから改革を約束して120億ドルの支援を受けたが、国民の生活向上にはつながらなかった。それどころか、国家の借金は10年以降膨らみ、それまでの4倍である3700億ドルにまで増えた。
「エジプトは近年、支配層の2%が甘い汁を吸い、残りの98%が苦しい生活を余儀なくされてきた。この構図はシシ政権でも全く変わっていない」(中東アナリスト)。特にシシ大統領の出身元である軍部は支配勢力の中核的な存在で、さまざまな企業を経営するコングロマリットでもある。
その軍部とシシ政権がエジプト復興の起爆剤として一体となって取り組んでいるのが新首都の建設だ。カイロの人口は50年までには2倍の4000万人に急増するとの予測があり、建設事業で経済を活性化し、人口密集問題も解決しようという試みだ。
新首都の建設地はカイロ東方45キロメートルにある砂漠地帯のど真ん中だ。政府の30に上る省庁や各国の大使館などが移転し、完成すれば650万人が住む都市となるというのが青写真だ。建設費用は約400億ドル(5兆円)。だが、「問題はこの新首都建設で得をするのは誰か、ということだ」(同)。
メディアなどによると、建設を推進する都市開発公社の株式の51%は軍が保有、新首都圏の土地や不動産の売却などを取り仕切っている。しかも省庁が移転したカイロの跡地はみな一等地にあるが、この跡地の売却も事実上、同公社が独占しており、大きな利益が軍部に転がり込む勘定だ。軍に対する監査は一切ない。
レバノンでも食料高騰と腐敗が同時発生
19年に債務不履行で国家破綻したレバノンは小麦のほとんどを輸入に頼り、その半分はウクライナ産。20年夏に起きたベイルート港大爆発で穀物の貯蔵庫が壊滅、小麦の備蓄は1カ月しかないと伝えられている。このためパンの価格が2倍にも急騰、通貨レバノンポンドの価値が半減するなどウクライナ戦争の影響は計り知れない。
世界銀行によると、人口約700万人の3分の1が貧困ライン以下の生活を強いられている上、パレスチナ難民50万人、シリア難民85万人を抱えていることもあって国家経営は文字通り「火の車」だ。国内総生産(GDP)比の国の借金はギリシャ、日本に次ぐ。
庶民の生活は困窮の一途。停電が断続的に続き、発電機なしではまっとうな生活さえできないが、ガソリンなどの燃料が不足し、ガソリンスタンドは連日長蛇の列だ。個人の預金引き出しが制限されていることも生活の大きな不安材料だ。レバノンに見切りをつけた医師の脱出が相次いでいる。
だが、「腐敗のデパートのような国」(前出の中東アナリスト)と言われるように、レバノンを牛耳っている各宗派の支配層は国家の再建どころか、利権の確保に血道を挙げているのが実態だ。その一角に逃亡中の元日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告もぶら下がっている。
長年同国の経済を動かし、国家破綻を招いた責任を問われるべき中央銀行総裁は解任されるどころか、各派の談合で任期の延長が決まった。腐敗を調査する民間団体が5月に発表したところによると、個人が自由に預金を引き出せない中、同総裁の息子が650万ドル以上を国外に送金していたことが発覚したことも国民の怒りに火をつけた。
イランとサウジの代理戦争も過激化の懸念
こうした中で先月、国民議会選挙(定数128)が行われ、同国最大の軍事組織であるイスラム教シーア派の「ヒズボラ」政治連合が議席を減らし、過半数を割った。対照的に「ヒズボラ」と敵対するキリスト教マロン派の「レバノン軍団党」が15から20に議席を伸ばした。
「ヒズボラ」はベイルート港爆発事件の原因になった爆発物を倉庫に保管していたことからその責任が追及されてきたが、刑事捜査を途中で打ち切らせた疑惑が浮上し、人気を落とした。だが、選挙は「ヒズボラ」を支援するイランと、「レバノン軍団党」を援助するサウジアラビアによる代理戦争の様相も濃かった。小国レバノンをめぐるイランとサウジの覇権争いということだ。
選挙の結果を受け、議席はキリスト教、イスラム教にそれぞれ64ずつ配分されるが、ミカティ現政権に代わる新政権の発足には利権の奪い合いなど各勢力による駆け引きが行われ、政治的な混乱は半年以上も続くことになるだろう。希望は改革志向の独立系の新人が13人も当選したことだが、腐敗の元凶である宗派の利権構造を崩すのは難しい。
しかし、ウクライナ戦争による食料危機が深刻化すれば、国民の不満が一気に噴出し、宗派の対立も激化するのは必至だ。昨年10月にはベイルートで、「ヒズボラ」支持者らが激しい銃撃を受け6人が死亡する事件が発生。「ヒズボラ」は「レバノン軍団党」の犯行と非難、両派の緊張は沈静化していない。
●プーチン大統領「経済制裁は失敗」欧米側との対決姿勢を鮮明に  6/18
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は、国内で開いている国際経済会議で演説し「欧米側はロシア経済を破壊しようとしたが、失敗した」と述べ、制裁にもかかわらずロシアの経済対策が機能していると強調したうえで、欧米側との対決姿勢を鮮明にしました。
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクでプーチン大統領みずからが主導して開いている「国際経済フォーラム」は17日、全体会合が行われました。
この中でプーチン大統領が演説し「ロシアのビジネスの評判や通貨の信頼が、欧米によって意図的に損なわれている」と述べ、ロシアへの経済制裁を強化する欧米側を批判しました。
一方で「欧米側はロシア経済を破壊しようとしたが、明らかに失敗した。ことしの春先にはロシア経済の先行きに対して悲観的な見通しが予想されたが現実のものとなっていない」と述べ、制裁にもかかわらずロシアの経済対策が機能していると強調したうえで、欧米側との対決姿勢を鮮明にしました。
さらにプーチン大統領は、ロシアへの制裁によって欧米側でむしろ物価が上昇しているとしたうえで、欧米側は、世界的な食料などの価格高騰の責任をロシアに転嫁していると一方的に批判しました。
そして「食料価格が上昇し、貧しい国々を脅かしている。ロシアは食料と肥料の輸出を大幅に増やすことができるだろう」と述べ、食料安全保障をめぐり、ロシアの制裁解除が必要だと訴えました。
また「ロシアはウクライナからの穀物の輸出を妨げることは全くしていない」として、ウクライナ南部に面する黒海の海上輸送を妨害していないと主張しました。
一方、ウクライナへの軍事侵攻については「特別軍事作戦のすべての目標は確実に達成されるだろう」と述べ、継続する考えを改めて示しました。
全体会合は、3時間半にわたって行われ、この中でプーチン大統領は、演説以外にも、司会者の質問に応じる形で欧米批判やウクライナに対する強硬な発言を繰り返し、国際社会がプーチン大統領の動向を注視する中、存在感を誇示したい思惑もうかがえます。
中国外務省によりますと、習近平国家主席は、サンクトペテルブルクで開かれた「国際経済フォーラム」にビデオメッセージを寄せ、欧米などが、ウクライナに軍事侵攻したロシアに制裁を科す中「一方的な制裁はやめるべきだ」と批判しました。
そのうえで「世界のサプライチェーンの安定を維持し、日に日に深刻化する食料やエネルギーの危機にともに対応し、世界経済の回復を実現すべきだ」と述べ、制裁を行うのではなく、各国が経済的な連携を深めていくべきだという考えを示しました。
●ロシア軍 東部で攻勢 プーチン大統領“攻撃やめる考えはない”  6/18
ロシア軍がウクライナの東部ルハンシク州などで攻勢を強める中、プーチン大統領は17日「特別軍事作戦のすべての目標は確実に達成されるだろう」と述べ、一定の戦果を得るまでは攻撃をやめる考えはないと強調しました。
ロシア軍は、ウクライナ東部のルハンシク州で、ウクライナ側の拠点セベロドネツクを包囲しようと攻撃を続けていて、戦況を分析するイギリス国防省は17日「ロシア軍はセベロドネツク一帯を南側から囲もうとしている」と指摘しています。
さらにロシア軍は、セベロドネツクにあるアゾト化学工場に残っている兵士などに武器を置いて投降するよう呼びかけるなど圧力を強めています。
ルハンシク州のハイダイ知事は17日、子ども38人を含む568人が工場内のシェルターに残っていると明らかにしました。
そのうえでハイダイ知事は「絶え間ない砲撃と戦闘により、工場から出ることは今は不可能かつ物理的に危険だ。工場からの脱出は完全な停戦があって初めて可能だ」と訴えています。
ロシア軍がウクライナの東部ルハンシク州などで攻勢を強める中、プーチン大統領は17日、サンクトペテルブルクで開いている国際経済会議で演説しました。
この中で「特別軍事作戦のすべての目標は確実に達成されるだろう」と述べ、一定の戦果を得るまでは攻撃をやめる考えはないと強調しました。
●ドイツがロシアの戦争犯罪を捜査 ウクライナ侵攻で 6/18
ドイツ連邦刑事庁のミュンヒ長官は、ドイツの捜査当局がロシアのウクライナ侵攻を巡る戦争犯罪の疑いを捜査していると明らかにした。ドイツ紙ウェルト(電子版)が18日報じたインタビューで述べた。
ミュンヒ氏は「捜査は始まったばかりだが、既に3桁の手掛かりを得た」とし「加害者や指揮官を特定し、ドイツで裁判にかける」と述べた。ドイツに避難したウクライナ人の情報を基に、目撃者や被害者から聞き取り調査し証拠を集める。政治家も対象になるという。
ドイツの法律では国外での戦争犯罪や人道に対する罪などを訴追できる。今年1月には、シリアのアサド政権下での市民への拷問を巡り、人道に対する罪に問われたシリア情報機関の元大佐に、西部コブレンツの裁判所が終身刑を言い渡した。
●ウクライナ軍、戦車やミサイルなど「50%を失った」…損害情報を開示  6/18
ウクライナ軍のウォロディミル・カルペンコ地上部隊後方支援司令官は、ロシア軍とのこれまでの戦闘で、歩兵戦闘車約1300台、戦車約400両、ミサイル発射システム約700基など、それぞれ最大で50%を失ったと明らかにした。
15日付の米軍事専門誌「ナショナル・ディフェンス」とのインタビューで語った。ゼレンスキー政権は最近、戦死者数を含めた損害に関する情報を積極的に開示している。米欧に武器供与の加速を促す狙いとみられる。
17日、ウクライナ東部リシチャンスクで、破壊された建物の前を歩く住民(ロイター)17日、ウクライナ東部リシチャンスクで、破壊された建物の前を歩く住民(ロイター)
ウクライナ海軍は17日、黒海を航行中の露軍のタグボートをミサイル攻撃し、装備や兵士の増強を阻止したと発表した。このミサイルについてロイター通信は、米国などが6月に追加の軍事支援で初めて供与を決めた地上配備型の対艦ミサイルシステム「ハープーン」(射程100キロ超)だったと伝えた。
東部戦線は17日も露軍の激しい攻撃が続き、セベロドネツク近郊リシチャンスクでは17日、空爆で多数の死傷者が出た模様だ。ルハンスク州知事によると、人道支援に使われる高速道路が不通となった。
●ウクライナのEU加盟 プーチン氏「反対しない」 6/18
欧州連合(EU)の欧州委員会は、ウクライナをEUの加盟候補国に推挙する案を発表した。一方、ロシアのプーチン大統領は、EU加盟を「反対しない」と容認する考えを示したが、加盟によりウクライナが西側諸国の「半植民地になる」とも述べ、親欧米路線を強めるウクライナにくぎを刺した。
ウクライナをEU加盟候補国に推挙
欧州連合(EU)の欧州委員会は17日、ウクライナをEUの加盟候補国に推挙する案を発表した。フォンデアライエン欧州委員長は記者会見で「ウクライナは欧州の価値観と基準を守る決意を明確に示している」と語った。
プーチン氏「西側の半植民地になる」
ロシアのプーチン大統領は17日、北西部サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムに出席し、ウクライナの欧州連合(EU)加盟について「反対しない」と容認する考えを示した。一方で、加盟によりウクライナが西側諸国の「半植民地になる」とも述べ、親欧米路線を強めるウクライナにくぎを刺した。
英、ウクライナに軍事訓練の支援表明
英国のジョンソン首相は17日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を事前の予告なく訪れ、ゼレンスキー大統領と会談した。ジョンソン氏はロシアに侵攻されているウクライナを支援する立場を改めて表明し、軍事訓練プログラムの提供を申し出た。
●ロシア外相、「ウクライナを侵攻していない」と主張 6/18
ロシアのラブロフ外相は18日までに、同国は完璧(かんぺき)な国家ではなく、国としての存在感を示すことを恥じないとの見解を示した。
英BBC放送との会見で、ウクライナ侵攻で犠牲者が出たことを問う質問に応じて、述べた。
また、ウクライナを「侵攻してはいない」と主張し、「ウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に引きずり込むことは犯罪行為であることを西側諸国へ説明するためにほかの選択肢が絶対的になく、特別軍事作戦に訴えた」とも述べた。
また、親ロシア派武装勢力が東部ドネツク州で名乗る「ドネツク人民共和国」が英国人に死刑を宣告した問題に言及。この宣告に関連するロシアの責任に触れ、「西側諸国の目には全く関心がない」と主張。
関心があるのは国際法のみとし、「国際法に従えば、傭兵(ようへい)は戦闘員として認められていない」と正当化した。
●世界的なインフレの原因はウクライナ侵攻ではない プーチン氏 6/18
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は17日、同国によるウクライナ侵攻は世界的なインフレの原因ではないと主張し、西側諸国が現状を利用して自分たちの失敗の責任をロシアに転嫁していると非難した。
プーチン氏はサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでビデオ演説。「今起きていることは、ここ数か月の結果ではなく、ましてやロシアが(ウクライナ東部)ドンバス(Donbas)地方で行っている特別軍事作戦によるものでもない」と主張した。
「インフレ、食糧問題、燃料価格(の高騰)は、米国の現政権と欧州の官僚機構の経済政策が構造的に誤っていた結果だ」
さらに、ロシアの軍事行動は西側諸国にとって「渡りに船」になったとし、「それを利用して自分たちの失敗の責任をロシアに転嫁している」と続けた。
さらに、燃料価格の高騰は「ドンバスで軍事作戦が始まるはるか前、(昨年の)第3四半期から続いている」として、欧州の「エネルギー政策の失敗」が原因だと主張した。
また、ロシアはウクライナから穀物を輸出する船舶の出航を妨害していないと主張する一方、ウクライナ当局が港に機雷を設置していると非難。
食糧と肥料が不足して「特に最貧国で飢餓が起きかねない」と述べ、「この問題はすべて欧米諸国の政権の良心にかかっている」と付け加えた。
●資産百万ドル超のロシア人、今年は1万5千人消失か 制裁影響 6/18
ロシアによるウクライナ軍事侵攻を受けた西側諸国の経済制裁の発動の影響で、保有資産が100万米ドル(約1億3500万円)を超えるロシア人は約1万5000人減る見通しとの報告書がこのほど発表された。
富裕層の海外居住支援などを手がける企業「ヘンリー&パートナーズ」がまとめた。年内にロシアを去る富裕層は2019年に比べ最大で約3倍に達する可能性があるとした。
約1万5000人との数字は今年のデータでは、同額の資産額を持つ人口の約15%を占めているとした。
今回の報告書にデータを提供した統計などの分析企業幹部は、ロシアは資産家を流出させる事態に陥っていると指摘。
CNN Businessの取材に、富裕層の海外移住に関する数字は当該国の経済の「健康状態」を知る非常に重要な指標と位置づけ、歴史的に見て「全ての有力国の崩壊」を常に予兆させるデータにもなってきたと述べた。
●「図々しく、よく考えず」プーチン大統領が痛烈批判もロシア経済は… 6/18
「ウクライナに栄光あれ!英雄に栄光あれ!」
ウクライナの首都、キーウで大きな歓声をうけるのは、イギリスのジョンソン首相。ゼレンスキー大統領と会談を行うため、侵攻後のウクライナを再訪問しました。
イギリス・ジョンソン首相「私はボリス・ジョンソンです、ロンドンから来ました。私たちは皆さんを支援します。ウクライナに栄光あれ。英雄に栄光あれ」
会談後の会見では。
イギリス・ジョンソン首相「必要な軍装備品を提供し続けます。そして、新たな武器に必要な訓練もです。ウクライナから侵入者を追い出すために」
ジョンソン首相は、軍の装備品のみならず、大規模な訓練を定期的に提供する意向も示しました。
一方、経済面では、EUの執行機関ヨーロッパ委員会は、ウクライナの「加盟候補国」の立場を認めるよう、加盟国に勧告しました。プーチン大統領は、「EUは軍事同盟でない」とし、ウクライナの加盟には「反対していない」と表明しています。
「ウラジーミル・プーチン!」
生まれ故郷、サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムに登壇したプーチン大統領。開口一番から口にしたのは、西側諸国への強烈な批判でした。
プーチン大統領「経済、市場、そして世界経済システムの原理そのものが攻撃を受けていいます。ロシアに対する異常な制裁と西側諸国のロシア恐怖という、過剰反応が最近見られます。ずうずうしく、よく考えもせずに、ビジネスを破壊し、ロシア経済にダメージを与えようとしました。しかし、これは明らかに失敗しました」
経済制裁が強まる中、大きな打撃を受けているロシア。しかし、“孤立”はしないと強調します。
プーチン大統領「世界経済からの孤立や自給自足経済の道を歩むことは決してありません。協力関係に関心があり、我々と仕事がしたいと考えている者なら誰とでも協力してきたし、これからもそうするつもりです」
およそ4時間にも及び、強気な発言を繰り返したプーチン大統領。
プーチン大統領「一歩一歩(国内の)経済状況を正常化させてきました。初めに金融市場・銀行システム・貿易網を安定させました。そして、企業の安定を確保・雇用拡大をするために、流動性を高め運転資金を増やすようにしました」
とは言うものの、制裁の影響で国民の苦しみは続いています。
モスクワの印刷会社・セルゲイ・ベソフ社長「これが工房。これでポストカードを印刷しています」
ここはモスクワにある印刷会社です。主にポスターや名刺を作っていますが…
モスクワの印刷会社・セルゲイ・ベソフ社長「名刺用の紙がすでに残り少ない。多くの企業がロシアへの販売を停止。ロシア市場から撤退しています。これが入手不可能な理由です」
経済制裁の影響で紙やインクは輸入が滞った上に、製造会社が国内から相次いで撤退するなど、確保できない状況が続き、在庫がなくなってきたといいます。
モスクワの印刷会社・セルゲイ・ベソフ社長「ロシアは貿易で孤立状態にあります。将来の展望はひどい。まともな出口は今のところ私には見えません」
市民生活への影響も続いています。モスクワ市内の化粧品売り場では輸入化粧品の在庫がなくなり空のケースがそのままに。電化製品売り場からはパソコンの在庫がなくなり、半分が値札だけの状態になっています。モスクワに住む人は…
モスクワ市民「私はよく外食をします。「あれ、これくらい高くなっちゃった!」と。20%…アルコールなら30%上がった。タクシーは40%くらい高くなった。歯医者に診てもらったが、20〜30%くらい上がりました」
経済制裁で身近なものの値段の上昇が続いているといいます。
モスクワ市民「仕事を失う人が多くなってきている。プーチン大統領の言葉は信じられません。世界から離れているのは…怖いです。離されるのはちょっと嫌です」
●プーチン氏、核兵器を念頭に「主権を守る必要があれば使用」と発言 6/18
ロシアのプーチン大統領は17日、核兵器を念頭に「国家の主権を守る必要がある場合には使用する」と発言しました。
ロシア プーチン大統領 「私たちが何を持っているのかを知るべきだ。そして我が国の主権を守る必要がある場合には、それを使用する」
プーチン大統領は17日、ロシア北西部サンクトペテルブルクで開かれている国際経済フォーラムで、核兵器を念頭に「国家主権を守る必要がある場合には使用する」と述べました。
プーチン氏は、2月のウクライナへの侵攻に際して「ロシアは最も強力な核保有国の一つ」と発言していて、4月にも、戦略的脅威に対する反撃について「手段はすべてそろっている。誰もが持っていないものもある」などと核兵器を使用する可能性を示唆し、ウクライナへの軍事支援を強化する欧米を強くけん制しています。
●「国家主権保持に必要なら核兵器使う」 国際経済フォーラムで欧米けん制 6/18
ロシアのプーチン大統領は17日、「われわれの安全を保障するのは陸軍と海軍しかない」と述べ、ウクライナ侵攻を受け前例のない対ロ制裁を科した欧米側の圧力に軍備増強で対抗していく姿勢を示した。「国家主権の保持に必要な場合には核兵器を使うことになる」と改めて表明、ウクライナに軍事支援を続ける欧米を強くけん制した。
ロシア北西部サンクトペテルブルクで開かれている国際経済フォーラムのパネルディスカッションで語った。17日の全体会合には旧ソ連カザフスタンのトカエフ大統領が出席したほか、中国の習近平国家主席とエジプトのシシ大統領がビデオ声明を寄せた。欧米の政府代表の姿はなく、ロシアとの関係冷却化を象徴する形となった。
プーチン氏の発言は、対外強硬派として知られた19世紀のロシア皇帝アレクサンドル3世の「ロシアには2人の同盟者しかいない。陸軍と海軍だ」との言葉を言い換えたもの。「軍事作戦はいつでも悲劇だ」と述べる一方、ウクライナ東部のロシア系住民保護のため他の選択肢はなかったとし、侵攻を正当化した。
ウクライナが欧州連合(EU)加盟を目指していることについては、北大西洋条約機構(NATO)と違ってEUは軍事同盟ではないため反対しないとも述べた。
ディスカッションに先立つ演説では、制裁で「ロシア経済を崩壊させる欧米の試みは成功しなかった」とし、制裁の影響払拭に自信を示した。世界的なエネルギーや食料の価格高騰の原因は米国とEUの失政にあり、ロシアの軍事作戦とは関係ないと語った。
米国を中心とした「一極支配の世界秩序は終わった」と指摘し、欧米以外の各国の経済的発展により地政学的状況は根本的に変わり「元に戻ることはない」と主張した。
「われわれの前には大きな可能性が広がっている。国民の意思と決意を示す時だ」と述べ、欧米製の航空機やプラント設備などの代替品や技術の国内開発を目指す考えを表明。制裁は欧米への依存を低減する好機だと強調した。
●ロシア側部隊 “化学工場に進軍” 6/18
ウクライナ東部ルハンシク州の「最後の拠点」とされるセベロドネツクについて、ロシア側はウクライナ側が拠点とする化学工場に進軍したと明らかにしました。
ロシアのタス通信によりますと、ルハンシク州の一部を実効支配する親ロシア派勢力トップは、セベロドネツクのアゾト化学工場にロシア側の部隊が進軍したと明らかにしました。完全制圧には至っていないということです。ルハンシク州知事によりますと、工場には民間人がおよそ500人残っています。
一方、プーチン大統領は17日、ロシアでの国際会議で、核兵器を念頭に「国家の主権を守る必要がある場合には使用する」と発言しました。
ロシア プーチン大統領「私たちが何を持っているのかを知るべきだ。そして、我が国の主権を守る必要がある場合にはそれを使用する」
プーチン氏は、2月には「ロシアは最も強力な核保有国の一つ」と発言、4月にも戦略的脅威に対する反撃について「手段はすべてそろっている。誰もが持っていないものもある」と述べていて、ウクライナへの軍事支援を強化する欧米を強くけん制しています。 

 

●ウクライナ軍、装備の半分失う消耗戦…ゼレンスキー氏南部訪れ兵士激励  6/19
ウクライナ大統領府は18日、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、露軍と戦闘が続く南部ミコライウ州を訪れ、兵士らを激励したと発表した。現地司令部関係者から、露軍が封鎖する黒海での戦況について報告も受けた。
ウクライナ海軍は17日、黒海を航行中の露軍のタグボートをミサイル攻撃し、装備や兵士の増強を阻止したと発表していた。ロイター通信はミサイルが、米国などが供与を決めた対艦ミサイルシステム「ハープーン」だったと報じた。
ウクライナ軍のウォロディミル・カルペンコ地上部隊後方支援司令官は、15日付の米軍事専門誌「ナショナル・ディフェンス」とのインタビューで、ロシア軍との戦闘で、歩兵戦闘車約1300台、戦車約400両、ミサイル発射システム約700基など、それぞれ最大で50%を失ったと明らかにした。
露タス通信によると、ロシア国防省は17日、ウクライナ軍に参加する外国人兵6956人のうち、1956人が死亡したと発表した。事実かは不明で、士気低下を狙ったロシアの情報戦の一環の可能性がある。
東部では17日も露軍の激しい攻撃が続き、ルハンスク州の要衝セベロドネツク近郊リシチャンスクでは空爆などで多数の死傷者が出た模様だ。
一方、英国のジョンソン首相は17日、ウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。ジョンソン氏は支援継続を約束し、最大1万人のウクライナ兵に対する軍事訓練の提供を申し出た。
●物価上昇率40年ぶりの水準 賃上げ求める大規模デモ イギリス  6/19
ウクライナ情勢を背景に拍車がかかっているインフレによって、世界各地で暮らしへの影響が広がっています。
物価の上昇率が40年ぶりの水準に達したイギリスでは大規模なデモが行われ、参加者は生活が一段と苦しくなっているとして賃金の引き上げを訴えました。
ロンドンで18日に行われたこのデモには、労働組合の呼びかけで全国各地から集まった数千人が参加しました。
イギリスでは、4月の消費者物価指数が去年の同じ月と比べて9%上昇しておよそ40年ぶりという記録的な水準に達し、ガソリン価格をはじめ光熱費や食品などが大きく値上がりしています。
デモに参加した人たちは物価の高騰にもかかわらず賃金が十分に上がらず生活が一段と苦しくなっているとして「正当な賃金を支払え」などと声をあげながらおよそ1時間にわたって行進しました。
また、インフレ対策が不十分だとしてジョンソン首相の退陣を求める人もいました。
デモに参加した60代の女性は「一生懸命働いているのだから、普通の暮らしを送ることができる、高いインフレ率に釣り合った正当な給与を求めている」と訴えていました。
インフレはウクライナ情勢を背景に拍車がかかって収束する兆しが見えておらず、世界各国で大きな課題になっています。
●ロシアで“ポスト・プーチン”の跡目争いが始まった 穀物利権めぐり内紛 6/19
プーチン大統領は17日、ロシア版ダボス会議と呼ばれるサンクトぺテルブルク経済フォーラムで演説。重病説がくすぶる中、表舞台で「欧米の制裁は成功していない」と気炎を上げたが、側近たちは「跡目争い」に血眼だ。
現在、プーチン大統領の後釜として有力視されているのはモスクワのソビャニン市長、メドベージェフ前首相、キリエンコ第1副長官の3人。中でも、ウクライナ侵攻開始後に東部ドンバス地方の統括責任者に就任したキリエンコ氏が頭角を現している。
英紙タイムズ(16日付)によると、プーチン大統領の側近はウクライナから収奪した穀物の輸出利権をめぐって対立。その1人であるキリエンコ氏は今月6〜8日、ドンバス地方のベルジャンスク港などを訪れ、ドネツク、ルガンスク両共和国の要職を自らの側近にすげ替えたという。
最有力候補が基礎固め
「ロシアにとって穀物輸出が最優先事項であることから、側近たちは港湾物流に関心を高めています。自分のために動くオリガルヒを通じた権益確保がロシア政治の常套手段。キリエンコ氏に関しては、ロシアの有力紙イズベスチヤが『ロシアの日』(今月12日)に、彼の所感をウェブ上に掲載しました。すぐに消されましたが、その内容は『たとえ一時的に国民の生活水準が下がったとしても、ドンバスを再建する』というもの。“プーチンの戦争後”が見えない中、戦後復興の枠組みを示したような格好です。大統領であるかのような所感は、自分こそがプーチン氏の後継者とアピールしているに等しい。普通ならあり得ませんが、ペスコフ報道官は『見ていない』として事実上、黙認しています。キリエンコ氏が『ポスト・プーチン』の最有力候補になりつつあるのでしょう」(筑波大名誉教授の中村逸郎氏=ロシア政治)
タイムズによると、キリエンコ氏は跡目を争うメドベージェフ前首相などを差し置いて、政権内での地位を固めようとしているという。
「裏を返せば、それだけプーチン大統領の求心力が弱まっているのでしょう。オリガルヒにとっては物理的、経済的な破壊に徹するプーチン氏よりも、戦後復興や経済政策を語るキリエンコ氏の方が魅力的なのです」(中村逸郎氏)
政権の終わりが近づいているのか。
●ウクライナ戦争「何年も続く可能性」 支援維持訴え―NATO事務総長 6/19
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は19日付の独紙ビルト日曜版(電子版)のインタビューで、ロシア軍侵攻によるウクライナでの戦争について「何年も続き得るという現実に備える必要がある」と語り、長期化する可能性を改めて指摘した。
その上で「ウクライナ支援を緩めてはならない」と強調。軍事支援のコスト増や、エネルギー、食料価格高騰の影響が米欧諸国に広がったとしても、「ウクライナ人が毎日多くの命で払う代償とは比較できない」と訴えた。
特にウクライナ軍が守勢を強いられている東部ドンバス地方の戦況に関し「近代的な兵器がもっと多くあれば、プーチン(ロシア大統領)の部隊を追い払える可能性が高まる」と主張。さらなる兵器提供が必要だとの認識を示した。
●東部ルガンスク州に約300人埋葬の集団墓地 6/19
ウクライナ東部ルガンスク州リシチャンスク市で、民間人ら約300人の遺体が埋葬された集団墓地があると報じられるなど、ロシア軍の侵攻が続く同州の被害状況は悪化の一途をたどっている。
露軍、東部で攻勢強める
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は16日、ウクライナ東部ルガンスク州リシチャンスク市で民間人らが埋葬された集団墓地があると報じた。約300人の遺体が埋葬されているとみられるという。
ウクライナ大統領、南部前線を視察
ウクライナのゼレンスキー大統領は18日、ロシア軍の占領地域に近いウクライナ南部ミコライウ州の前線などを視察に訪れ、兵士らを激励した。ウクライナ軍と露軍の戦闘は東部と南部が中心になっており、戦況を現場で把握する狙いもあった模様だ。
バイデン氏、習近平氏と電話協議の意向
バイデン米大統領は18日、中国の習近平国家主席と近く電話協議する意向を示した。実現すれば、米中首脳の対話は3月にオンライン形式で会談して以来。中国が軍事的威圧を強める台湾情勢や核・ミサイル開発を進める北朝鮮問題、ロシアが侵攻するウクライナ危機などへの対応が協議されるとみられる。
●英、ロシア正教会トップに制裁 ウクライナ侵攻支持で 6/19
英政府は19日までに、ロシア正教会トップのキリル総主教を新たな制裁対象に加えたとの声明を発表した。
ロシアのウクライナ軍事侵攻を積極的に擁護しているのを理由とした。今回打ち出された新たな制裁の対象にはプーチン大統領の盟友や軍司令官の複数も含まれた。
これら軍人の中には、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャで民間人の殺害や拷問に関与した疑いがあるロシア軍の第64独立自動車化狙撃旅団に属する大佐4人も入った。
キリル総主教をめぐってはウクライナ正教会の一部の宗派が先月、侵攻の支持に反発して絶縁を宣告。ロシア正教会とほかの正教会の宗徒との間の亀裂も深まっている。
英政府の今回の制裁発表について、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「ロシア恐怖症」の新たな事例と反論。CNNの取材に「狂気の沙汰であり、一部諸国のロシア恐怖症がいかに不適当であるかを見せつけた」とこき下ろした。
英政府はまた、ロシアの子どもの権利保護に携わる女性コミッショナーも制裁対象とした。ウクライナの子どもたちの強制的な移送や養子縁組に加担した疑いがあると説明した。
●ロシア軍、命令拒否や対立続出 英国防省の戦況分析 6/19
英国防省は19日の戦況分析で、ロシア軍部隊内で命令拒否や対立が続いていると指摘した。ウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」とする公式な立場に阻まれ、ロシア当局が反対する兵士らに法的圧力をかけるのに苦労しているとの見方を示した。
あらゆる階級のロシア軍兵士の多くが戦争の目的について混乱したままとみられ、士気の問題は作戦目標の達成能力を制限するほどに重大だと分析。士気低下の原因としては指導力の低さや死傷者の多さ、劣悪な兵たん、給与問題などが挙げられるという。
ウクライナ軍も激しい戦闘に投入され、ここ数週間、脱走を繰り返しているようだと指摘した。

●プーチン氏、ウクライナのEU加盟に「反対せず」 6/19
ロシアのプーチン大統領は19日までに、ウクライナの欧州連合(EU)への加盟問題に触れ、EUは北大西洋条約機構(NATO)と異なって軍事的かつ政治的な機構ではないとして加入に「反対しない」との考えを示した。
ロシア・サンクトペテルブルクで17日に開かれた国際経済フォーラムでの質疑に答えた。経済的な機構への合流の是非は主権を有する全ての国が自ら決める問題であり、受け入れるかどうかはその機構の考え次第であると指摘。
機構の一員になるのがウクライナの利益あるいは損失につながるのかどうかはウクライナやその機構の問題とした。
その上でウクライナ経済の現状を踏まえれば、非常に多額の補助金が必要になるだろうとも説明。「国内経済を守れなかったらウクライナは半植民地と化すだろう」との私見も示した。さらに、現在の国家的な支出への相当な規模の支援を受け取るだろうとしながらも、失った航空機産業、造船や電子産業の復興につながる可能性は少ないとも断じた。
ウクライナのEU加盟問題ではEUの行政執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長が17日、ロシアによる侵攻も受け、ウクライナを加盟候補国として正式に認定すべきとの見解を表明していた。
これを受けロシア大統領府のペスコフ報道官は、加盟候補国として容認される可能性はロシアの注視を高めると指摘。EU内で防衛協力を強化する議論があることに触れ、「我々が見守るべきものに異なった要素が出てくる」と記者団に語った。 

 

●ゼレンスキー氏、南部オデーサ州訪問…英国防省「ウクライナ軍も兵士脱走」 6/20
ウクライナ大統領府の発表によると、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は18日、露軍の黒海封鎖で海上輸送が停滞している南部オデーサ州を訪問し、食糧輸出の対応について州知事らと協議した。
農産品輸送のための海上の「回廊」設置のほか、州への農業機材供給に関する方策について話し合った。州知事によると、州内の港で14国籍・計39隻の船舶が出港できずにいるという。
ゼレンスキー氏は隣接するミコライウ州も訪問し、前線の兵士らを激励した。19日未明にはSNSで「南部地域を誰にも渡さないし、取り戻す。海は安全になる」と海上通航を再開する決意を示した。
露軍が制圧を宣言した南東部の港湾都市マリウポリにも、外国船舶が残留している。タス通信は19日、港に外国船6隻が取り残されており、18日にはトルコ船が出港予定だったが、20日に延期されたと報じた。港湾関係者は、親露派武装集団に港の使用料が支払われていないことが理由だと主張したという。
東部ルハンスク州の要衝セベロドネツクでは、制圧を目指す露軍が、ウクライナ軍が抵抗を続けるアゾト化学工場などに激しい攻撃を続けている。米政策研究機関「戦争研究所」は18日、露軍の作戦のスピードが遅く、「兵士や装備の損失拡大に直面している可能性がある」との分析を発表した。
英国防省は19日、激しい戦闘が続く中、「ウクライナ軍がここ数週間、兵士の脱走に苦しんでいる可能性がある」と指摘した。ウクライナ、ロシアの双方で士気が低下している模様だ。 一方、ロシアとの停戦協議でウクライナ代表団トップを務めるダビド・アルハミア氏は、米欧からの兵器供与を念頭に、「ウクライナ軍が立場を強めた後、8月末に協議が再開できる」とのシナリオを示した。米政府の海外向け放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)が17日に配信したインタビューで述べた。
●ロシア軍 ウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握を目指し攻勢  6/20
ロシア軍がウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握を目指す中、ロシア国防省は、ウクライナ側の州内の拠点となっているセベロドネツクについて、郊外の集落を掌握したと発表するなど、攻勢をさらに強めています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻開始から今週24日で4か月となる中、戦闘は長期化しています。
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握に向けて、ウクライナ側の州内の拠点となっているセベロドネツクを包囲しようと攻撃を続けています。
ロシア国防省は19日、ルハンシク州の親ロシア派勢力とともに、セベロドネツク郊外の集落を掌握したと発表しました。
また、ロシア軍は、東部ハルキウ州にあるウクライナ軍の戦車の整備施設を短距離弾道ミサイルの「イスカンデル」で攻撃したほか、東部ドニプロペトロウシク州ではウクライナ軍の施設を巡航ミサイル「カリブル」で攻撃し、ウクライナ軍の将校など50人以上を殺害したなどと発表しました。
ロシア軍はウクライナ東部を中心に各地で攻撃を続けていて、ドニプロペトロウシク州のレズニチェンコ知事は19日、SNSに投稿し、ロシア軍による石油備蓄施設へのミサイル攻撃で大規模な火災が発生し、これまでに2人が死亡したことを明らかにしました。
激戦地となっているルハンシク州のセベロドネツクについて地元のハイダイ知事は19日、ウクライナメディアとのインタビューの内容をSNSに投稿し「セベロドネツクの大部分はロシア軍に掌握されている。セベロドネツクや周辺の地域に、ロシア軍が戦力を集中させている」としています。
ハイダイ知事は、ウクライナ側が拠点とするセベロドネツクの「アゾト化学工場」にウクライナ側の兵士とともに子ども38人を含む市民568人が取り残されていると明らかにしていて、ウクライナ側が徹底抗戦する姿勢を示す中、こうした人たちの安全な避難が課題となっています。
●ロシア空挺軍司令官解任か ウクライナ作戦失敗で引責―米研究所 6/20
米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は19日までに、ロシア軍の精鋭部隊である空挺(くうてい)軍のアンドレイ・セルジュコフ司令官(大将)が、ウクライナ侵攻で大損害を出したことを理由に解任されたとみられると明らかにした。ウクライナ関係筋の情報といい、ISWとして確認できたわけではないとしている。
ISWは、解任が事実なら「首都キーウ(キエフ)周辺での作戦失敗や人的損害の責任を取らされた」可能性があると指摘した。後任はミハイル・テプリンスキー大将で、ソ連時代のウクライナ東部ドネツク州出身。
空挺軍は侵攻初日の2月24日、約300人でキーウ郊外のアントノフ空港を一時占拠したが、ウクライナ軍の反撃でほぼ全滅。その後、ロシア軍の地上部隊が空港を制圧したが、3月末にキーウを含む北部からの撤退を余儀なくされた。
セルジュコフ氏は、2014年のウクライナ南部クリミア半島制圧作戦を指揮。16年に空挺軍司令官に任命された。19年のシリア軍事介入や、今年1月に反政府デモが起きたカザフスタンの治安維持も主導した。
●プーチン大統領「戦争」長期化を覚悟 「西側諸国」との関係断絶でロシア衰退 6/20
ロシア外務省で5月16日、ラブロフ外相を議長とする少数の幹部による重要会議が開かれた。非公開の議論の内容を知る立場にある関係者の話によると、出された結論は、以下のようなものだったという。
「西側諸国は、ロシアに対して侵略的な方針を掲げている。事実上、全面的なハイブリッド戦争を布告したといえる。このため我々は、非友好国との関係の根本的な見直しに着手する。一方で、それ以外の国々との協力関係を強化せねばならない」
「ハイブリッド戦争」とは、正規軍による戦闘だけでなく、サイバー戦、情報戦、謀略など、さまざまな手段を組み合わせて敵国を攻撃する「戦争」のことだ。
これは近年のロシアが得意としてきた戦法だ。しかし、ロシア外務省は今回、自分のほうこそ西側からハイブリッド戦争をしかけられている被害者だと結論づけた。
関係見直しの対象となる「非友好国」は、ロシア政府が3月7日に発表したリストに掲載されている。ウクライナ侵攻を非難し、対ロシア制裁に踏み切った、日本を含む48の国と地域だ。
これまでもロシアは日本の対ロ制裁に対して、対抗措置を次々に発表してきた。日ロ平和条約交渉の打ち切り(3月21日)、日本外交官8人の国外追放(4月27日)、政治家、学者、メディア関係者ら63人のロシア入国の無期限禁止(5月4日)などだ。
しかし、今後検討される「関係の根本的見直し」は、こうした場当たり的な対応ではなく、政治、経済、人的交流など、より幅広い分野を対象とした包括的な内容になると見られる。
前出の関係者は「安倍政権と協力して作り上げてきた日ロ関係の前向きな実績を壊したのはロシアではなく、現在の日本政府だ」と指摘した上で「我々は物乞いではない。日本に制裁の解除をお願いするようなことはしない」と強調する。
ロシア外務省が包括的な外交方針の見直しを決めた背景には、プーチン大統領が軍事作戦の長期化に備える覚悟を固めたことがあるだろう。
プーチン氏は2月24日にウクライナでの「特別軍事作戦」に着手した際には、短期決戦を思い描いていたはずだ。数日のうちに首都キーウを制圧し、ゼレンスキー大統領を排除。自らに都合のよい暫定政権を樹立するといったシナリオだ。
プーチン氏が思い描いたのは、1968年の「チェコ事件」だったかもしれない。当時、社会主義陣営の一員だったチェコスロバキアで始まった「人間の顔をした社会主義」を求める運動(プラハの春)を、旧ソ連など東側の軍が武力でつぶし、改革路線を転換させた事件だ。
8月20日、ソ連、東ドイツ、ポーランド、ハンガリー、ブルガリアの5カ国軍が一気にチェコスロバキアに侵入。翌朝までに改革派指導者ドプチェク氏らを拘束し、ソ連に連行した。
この時動員された兵士は約20万人。くしくも今回ウクライナ侵攻作戦に参加しているロシア軍とほぼ同じ規模だ。
チェコ事件当時、国際社会からソ連を批判する声は上がったが、長続きはしなかった。チェコスロバキアをソ連の勢力圏として容認する考えが欧米でも共有されていたという事情もあった。
プーチン氏も今回、キーウ制圧という既成事実さえ作ってしまえば、国際社会の反発は長続きしないと踏んでいたのではないだろうか。
しかし作戦開始後100日を経ても、ウクライナ側の抵抗はいっこうに衰えず、欧米からの軍事支援が続々と届いている。ロシアへの制裁も強化される一方だ。
これはプーチン氏にとっては大きな計算違いだったろう。
このところ、プーチン氏と周辺からは、作戦の長期化やむなし、という声が相次いでいる。
軍事作戦は計画通りに進んでいると強弁してきたプーチン氏自身、最近のインタビューで、欧米からの武器支援が戦闘を長引かせていることを認めた。
最側近のショイグ国防相やパトルシェフ国家安全保障会議書記も「任務完了まで作戦は続く」「我々は期限にこだわっていない」など、戦闘の長期化を辞さない姿勢を示すようになった。
こうした政権の姿勢は、ロシアの世論にも影響している。
著名な世論調査機関「レバダ・センター」が5月下旬に行った世論調査では、軍事作戦が2カ月以内に終わると答えた人は、わずか11%。2カ月〜半年以内と見る人も、26%にとどまった。全体の半数近くは、半年以内には終わらないと考えている。
冒頭で紹介した外務省の幹部会に話を戻す。
ロシアは今、戦闘の長期化だけでなく、日本を含む「西側諸国」との関係を長期にわたって事実上断ち切ることを前提に、国家としての生き残り策を模索しているようだ。
関係者は「ロシアに制裁を科している国は少数派だ。多くの国でロシアが持つ貿易、投資、知識、教育などの潜在力は必要とされている」と胸を張る。
パトルシェフ氏は最近のインタビューで、国産品による輸入品の代替が進めば、経済上の問題は回避できると強調した。さらに、国の経済力は米ドルで評価されるべきではないとも主張し、グローバルな世界経済から距離を置いて生きていく考えを示した。
しかし、実際にそんなことが可能なのだろうか。例えば、ロシアが精密電子機器を自前で開発することには懐疑的な見方が根強い。だとすれば、最新鋭の兵器開発もままならなくなる。
米ドルの影響圏から独立すると口で言うのは簡単だが、結局はドルとルーブルの公定レートと闇レートの間に著しい乖離(かいり)があったソ連時代のような経済に逆戻りするだけではないのか。
最もうまくいったとしても、中国の事実上の衛星国のような存在になることは避けられない。
ロシアのGDPは1.5兆ドルで、今でも中国の約10分の1に過ぎない。国力の差は、ますます広がるだろう。  
●ウクライナでの戦争、「何年も続く可能性」 NATO事務総長が警告 6/20
北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、19日付のドイツ紙のインタビューで、ウクライナでの戦争は今後何年も続くかもしれないため、西側諸国は同国への支援を続けなくてはならないと警告した。イギリスのボリス・ジョンソン首相も英紙への寄稿で、戦争は長期化するとの見方を示し、ウクライナへの手厚い武器供与が同国勝利の可能性を高めるとした。
ストルテンベルグ氏はドイツ紙ビルトのインタビューで、戦争のコストは高いが、ロシアに軍事的目標を達成させることの代償はさらに大きいと述べた。
そして、「(戦争は)何年もかかるかもしれず、私たちはそれに備えなくてはならない。ウクライナへの支援の手を緩めてはならない」と主張。
「軍事支援のコストだけでなく、エネルギーや食料の価格上昇によってコストが上がったとしてもだ」と語った。
ストルテンベルグ氏はまた、ウクライナに近代的な兵器を供給することが、同国東部ドンバス地方の解放の可能性を高めると述べた。同地方の大部分は現在、ロシアが掌握している。
ロシア軍とウクライナ軍は数カ月にわたり、ウクライナ東部をめぐって戦闘を続けている。ロシア軍はここ数週間、じわじわと前進している。
イギリスのジョンソン首相も、紛争は長期化するとして覚悟を呼びかけた。
18日夕に電子版が公開された英紙サンデー・タイムズへの寄稿で、ジョンソン氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領について、「消耗戦」によって「ひたすら残虐にウクライナを粉砕しようとしている」と非難。
ジョンソン氏は、「長い戦争を覚悟しなくてはならない」、「時間が重要な要素だ。ロシアが攻撃力を回復するより先に、ウクライナが国土の防衛能力を強化できるかに、すべてがかかっている」と主張した。
ジョンソン氏は17日にウクライナの首都キーウを訪れ、同国軍に対する兵器、装備、弾薬、訓練は、モスクワの再武装の動きを上回る必要があると述べていた。
●世界的に難民への共感広がる ウクライナ戦争が呼び水に=UNHCR 6/20
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、ウクライナ侵攻で数百万人が避難する中、欧州で支援の機運が広がり、難民に対する姿勢が変化している可能性があるとの見解を示した。紛争や迫害を逃れて避難している人の数は、世界で1億人を突破。ロシアによるウクライナ侵攻以来、650万人以上が国外に避難し、政府支援の施設に加え、多くが個人宅やホテルに身を寄せている。
UNHCRの担当者は「ロイター・ニュースメーカー」でインタビューに応じ、「(この動きに)大変励まされている」と述べた。一方、疲労が一定レベルに達している可能性があるとし、個人宿泊の受け入れが枯渇した際にウクライナ避難民に新たな住居を提供するよう各政府に忠告した。
また、「ウクライナでの状況があまりに悲惨なため、世界的に共感が広がっている。負担が地方・国家の政府に移行し始めている」と指摘した。
17日に公表された調査機関イプソスの調査でも、難民に対する思いやりの機運が世界的に高まっていることが示された。
調査では、紛争や迫害から逃れてくる人が他国への避難を認められるべきとの回答は調査対象の28カ国で78%に達し、2021年調査時の70%から割合が上昇した。
難民に対して国境を完全封鎖すべきとの回答割合は36%と、前回の50%から低下。新型コロナウイルスのパンデミック(感染の世界的大流行)に伴う懸念の弱まりも背景の一つとみられている。
イプソスは、ウクライナでの戦争で、紛争や抑圧から逃れてくる避難民に対して世論が開かれたことが示唆されたと分析した。
●ロシアの侵攻で経済の半分が機能不全−ゼレンスキー氏 6/20
ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアの侵攻によって国内経済のほぼ半分が活動を停止したと指摘、今後も世界食糧危機の深刻なリスクを呈することになると警告した。
欧州委員会のボレル副委員長(外交安全保障上級代表)は、ロシアの侵攻がもたらしたウクライナ産穀物の輸入障害は「争う余地のない戦争犯罪」に相当すると非難した。国連の世界食糧計画(WFP)は、世界的な飢餓の拡大に対応して難民への食料配給を削減しているという。
欧州連合(EU)27カ国は今週、ウクライナの加盟国候補国の地位認定について決定を下す。当初は認定に懐疑的だった幾つかの国も20日には支持に回り、必要とされる全加盟国の承認に一歩近づいた。
スウェーデン、フィンランドがNATO加盟申請巡りトルコと協議
スウェーデンとフィンランドの高官は、北大西洋条約機構(NATO)加盟申請を巡りトルコと5時間にわたって協議し、一定の進展にこぎ着けた。フィンランドの首席交渉担当者が明らかにした。両国のNATO加盟についてトルコは安全保障上の懸念があるとして反対している。
ウクライナ、港の封鎖解除に向けた協議で進展なし
ゼレンスキー大統領はアフリカ連合(AU)総会で演説し、穀物輸出再開や世界的な食糧安全保障へのウクライナの取り組みを説明。黒海の港の封鎖を解除し、穀物輸出を可能にするため「困難な複数レベルの協議」を進めているものの、進展は見られないと述べた。
EU、ウクライナへの90億ユーロの金融支援策定で大詰め
欧州連合(EU)は数日内に90億ユーロ(約1兆2800億円)規模のウクライナ向け金融支援策の詳細を確定する見通しだ。EUは23、24日に首脳会議を行い、ウクライナの復興計画やEU加盟国候補国の地位認定について話し合う。
ウクライナ経済の半分が機能せず−ゼレンスキー大統領
ゼレンスキー大統領はウクライナの「経済や経済システムの約半分が稼働していない」と述べ、同国経済に壊滅的な打撃を及ぼしたロシアの侵攻を非難した。大統領はイタリアのミラノで行われたイベントにバーチャル形式で参加し、ウクライナでは「正常な経済生活」を送ることが不可能だと語った。大統領は「イタリア経済の半分が封鎖された状況を想像してもらいたい」と訴え、経済力のある国に兵器供与を求めるとともに、この戦争が世界的な食糧危機を招く恐れがあると警告した。
ウクライナ、破壊したロシア軍戦車を欧州各都市で展示へ
ウクライナは破壊したロシア軍の車両を欧州各都市で展示する計画だ。戦争への欧州市民の注意をつなぎ止める狙い。展示はまずワルシャワで行い、ベルリン、パリ、マドリード、リスボンと続ける。レズニコフ国防相が明らかにした。ウクライナは2月の戦争開始以降、ロシア軍の戦車を1477両前後、装甲車両を3588台破壊したと主張している。
ロシア・ルーブルが対ドルで上昇、7年ぶり高値
20日の外国為替市場で、ロシア・ルーブルがドルに対して上昇し、2015年7月以来の高値を付けた。ルーブル高は同国の輸出競争力や政府の財政を損ねるとしてロシア中央銀行は懸念しつつある。
ロシアのガスプロム、サムライ債の利払いを予定通り実施−関係者
ロシアの国営天然ガス企業ガスプロムが20日、2018年に発行したサムライ債の利払いを実施した。複数の関係者が明らかにした。
ロシア産原油、5月も中国の輸入拡大
中国は5月も引き続きロシア産エネルギー製品の輸入を拡大した。原油購入額は74億7000万ドル(約1兆円)と過去最高を記録。前月比で約10億ドル増加し、1年前の2倍の水準となった。
EUの決断を控えた「歴史的な1週間」−ゼレンスキー大統領
欧州連合(EU)は、ウクライナに加盟候補国としての立場を認めるかどうかについて今週決断を下す。フランスとイタリア、ドイツの首脳は候補国として認定することを支持すると表明しているが、27加盟国の全てが同意する必要がある。ゼレンスキー大統領は19日夜のテレビ演説で、「明日は真に歴史的な1週間の始まりだ」と発言した。
原油相場反発、トレーダーは需要見通しを材料視
ニューヨーク原油先物相場はアジア時間20日の取引で上昇。積極的な米金融引き締めをきっかけに景気が鈍化する可能性より、短期的な需要増加の見通しが市場で重視された。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)7月限は1バレル=110ドルを上回った。
ドイツ化学業界、ガス供給の確保求める
ドイツ化学工業協会(VCI)は、ロシアからの供給減を受けて、天然ガスを他の燃料に置き換えるため「あらゆる機会を活用」するよう呼び掛け、ガス火力発電を石炭発電に切り替えることを求めた。化学・医薬品業界はドイツ国内で最も多い15%の天然ガスを消費しているが、現時点では深刻な供給問題に直面していないとVCIは発表資料で説明した。
ウクライナの今年の穀物収穫量、43%減少も
ウクライナの今年の穀物・油糧種子の収穫量は、ロシアによる軍事侵攻や一部地域占拠の影響で6000万トンにとどまり、前年の1億600万トンを43%下回ると見通しだ。農業次官がテレビインタビューで明らかにした。2月下旬にロシアが軍事侵攻しウクライナの港からの出荷を阻止し始めて以来、穀物・油糧種子の輸出は400万トンにとどまっているという。平時の船積み量は月間500万−600万トン。
ロシア、巡航ミサイルでウクライナの標的攻撃
ロシア国防省の報道官は、ウクライナ軍司令官の会合が行われていた東部ドニプロペトロウシクの村の近くの標的などに海洋発射巡航ミサイル(SLCM)「カリブル」を命中させたと発表した。これについてはウクライナ側はコメントしておらず、ブルームバーグも独自に確認できていない。
英陸軍トップ、ロシアについて警告
英陸軍トップに13日に就任したパトリック・サンダース大将は、「同盟国と共に戦い、ロシアを戦闘で打ち負かす」能力を構築することが重要だとするメッセージを軍に伝えた。英紙サンが報じたもので、「われわれは再び欧州で戦うために陸軍を備えさせなければならない世代だ」と述べたという。
ガスの状況は深刻−ドイツ経済相
ドイツのハーベック経済・気候保護相は、政府がガス貯蔵水準を引き上げるための措置を講じていると電子メールでコメントした。同相は「供給の安全は現時点で保証されているが、状況は深刻だ」と説明。ガス消費をさらに減らし、より多くを貯蔵に回さなければ、「冬季に状況は一層厳しくなる」と指摘した。
●ウクライナ支援額、アメリカが5割超…日本は0・7%で7位  6/20
ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナに対し、西側諸国が表明した支援額の5割超を米国だけで占めることが、ドイツの調査研究機関「キール世界経済研究所」の集計でわかった。各国が約束した支援が滞っている実態も判明しており、迅速な実行が課題となっている。
キール研究所は、先進7か国(G7)や欧州など37か国と欧州連合(EU)を対象に、侵攻開始1か月前の1月24日から6月7日までに表明された軍事・財政・人道分野の支援額を集計、比較した。
各国の支援総額は783億ユーロ(約11兆円)に上り、国別では米国が427億ユーロ(55%)、英国48億ユーロ(6%)、ドイツ33億ユーロ(4%)などと続いた。日本は6億ユーロ(0・7%)で7位だった。
米国は射程の長い 榴弾りゅうだん 砲や、高機動ロケット砲システム(HIMARS)など最新兵器の支援を次々と表明している。軍事物資購入に充てる資金援助を含めた軍事分野の支援額(240億ユーロ=約3・4兆円)は、日本の今年度防衛予算(5・4兆円)の半分を超える。
だが、兵器・弾薬支援の遅れも目立つ。キール研究所が公開情報を分析したところ、ウクライナに実際に届いた米国の兵器・弾薬は、約束した分の48%(金額ベース)にすぎず、ドイツはさらに低い35%だった。37か国全体でも69%にとどまるという。
●ラトビア共和国 苦難の歴史を経て独立回復 6/20
ラトビア共和国は「バルト三国」の真ん中に位置する。日本の6分の1ほどの国土(約6万5000平方キロメートル)に、約190万人が暮らしている。
ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻に対し、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」をウクライナに提供した。さらに議会は開戦4日後(2月28日)、ラトビア人が志願兵としてウクライナに渡航することを認めた。
ラトビアは、ロシア帝国から1918年に独立するが、他のバルト三国(エストニアとリトアニア)と同様、40年にソ連に編入された。第二次世界大戦でナチス・ドイツによる過酷な占領・支配を受けるが、大戦末期には再びソ連軍に占領され、ソ連邦の構成国家となった。90年5月に独立回復を宣言するまで、共産主義の抑圧に苦しんだのである。
ラトビアにとってウクライナの惨状は人ごとではなかった。
人口構成もウクライナに似ている。ウクライナは人口の約17%がロシア系だが、ラトビアも約24%がロシア系である。ロシア語を放す人が人口比約38%もいるというから、ロシア語を第一言語としているラトビア人がいることになる。
懸念すべきは、在ラトビアの20万人以上ものロシア系住民が無国籍ということだ。ラトビア国籍を取得するにはラトビア語の試験もあってハードルが高く、ロシア系住民の不満が高まっている。ラトビアは今後、「ロシア離れ」が加速するが、ロシアが十八番の「自国民保護」を掲げて武力侵攻に踏み切る口実に利用しかねないのだ。
事実、ロシアのテレビ番組で、解説者が「次の目標はここだ」とばかりに、ロシア第2の都市、サンクトペテルブルクの西側にあるエストニアとラトビアに矢印を引くシーンがあった。番組を見た両国の人々は、背筋が凍る思いだったに違いない。
ソ連邦時代、3万人以上のラトビア人が「反ソ的」として処刑された。富裕層や知識人はシベリア抑留や強制収容所送りになった。ソ連はラトビアを徹底的に破壊し、首都リガの人口は3分の1に激減したという。
そんな苦難の歴史から、ラトビアは独立を回復すると、急速に西側諸国に接近した。そして、エストニア、リトアニアと足並みをそろえて2004年3月にNATO(北大西洋条約機構)に、同年5月にEU(欧州連合)に加盟した。
ラトビアは、1992年から敷いてきた徴兵制を廃止し、2007年からは志願制に切り替えた。陸海空軍の総兵力約6600人が国防の任に就いている。数の上では少ないが、NATO加盟の効果といえよう。
バルト海に面した首都リガは、中世にはハンザ同盟の港湾として栄え、現在もバルト三国最大の都市として発展している。
日露戦争時、ロシア帝国のバルチク艦隊が日本海に向けて出撃したのが、ラトビアのバルト海に面したリエパーヤ軍港だった。日本海海戦(1905年)での日本海軍の大勝利はロシア帝国の支配下にあった国の人々を喜ばせ、独立の機運を生んだ。
ロシアを挟んで、日本の反対側にラトビアがある。ラトビアは「遠くて近い国」だった。
●侵攻長期化 ロシア国内に“異変”…ゼレンスキー氏「今週攻撃強まる」 6/20
6月20日は国連が定めた「世界難民の日」です。ロシアのジャーナリストは自身のノーベル賞のメダルを競売にかけ、ウクライナからの避難民に寄付するとしています。そのウクライナでは、ゼレンスキー大統領が今週、ロシア軍の攻撃がさらに激化するという見通しを示しました。
2月24日以降、ウクライナ国内で避難する人は700万人以上。
列車で避難する人:「電気も水もガスもなく、どうやって暮らせますか?」「自分と子どもたちの命を守るためです」
そして、ウクライナ国外へと逃れた人は750万人以上に上ります。
6月20日は世界難民の日。ウクライナの避難民を支援するために1枚のメダルが競売にかけられます。
ノーベル平和賞のメダルです。
ノーバヤ・ガゼータ、ムラトフ編集長「自分自身にとって貴重なもの、重要なものを差し出すべきだと考えました」
出品するのは去年、平和賞を受賞したロシアの独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長。
収益はユニセフの活動を通じて避難する子どもとその家族に使われるといいます。
ムラトフ編集長によりますと、ウクライナ侵攻に対するロシア国民の支持に変化が出てきているといいます。
ウクライナの人々を支援するためにノーベル平和賞のメダルを競売にかける「ノーバヤ・ガゼータ」のムラトフ編集長は、ウクライナ侵攻に対するロシア国民の支持は減っているとの見方を示しました。
ムラトフ編集長「モスクワの街を歩いてみれば、軍事作戦への支持を示すZマークが1つも見られないことが分かります」
かつて掲げられていた“Zマーク”は見られなくなり、またロシア政府内部でも国民の25%から30%は侵攻を支持していないと見ていると言います。
ただ、ロシアの攻勢はより激しくなると、ゼレンスキー大統領は見ています。
ウクライナ、ゼレンスキー大統領「あすは本当に歴史的な日になる。今週、(EU加盟への)ウクライナの立候補状況についてEU(ヨーロッパ連合)の回答が出る。当然、あえてロシアが敵対的行動を強めることが予想される。特に今週は」
ロシア国防省が公開した映像。ロシア国防省は巡航ミサイル「カリブル」で、ウクライナ東部にあるウクライナ軍司令部を攻撃したと発表しました。
ロシア国防省報道官「直撃の結果、参謀本部、司令部、空襲部隊、ミコライウ及びザポリージャ方面で活動している部隊を含め、ウクライナ軍の将軍と将校50人以上を殺害した」
また、南部のミコライウでもカリブルで欧米諸国が提供した155ミリ榴弾(りゅうだん)砲10門と装甲車約20台を破壊したと主張しています。
さらに、激戦が続く東部セベロドネツクについては…。
ロシア国防省・報道官「セベロドネツクへの攻撃は成功裏に進んでいる」
隣町のリシチャンシクも、もはや前線です。
CNN、ベン・ウェデマン特派員「午後3時、ロシア軍の航空機が住民のシェルターになっていたこの建物を攻撃し、3人が死亡しました。リシチャンシクに安全な場所はありません」
その建物にいた女性です。夫が負傷しました。
建物にいた女性「(夫は)がれきの下敷きになりました」
人々が身を隠す地下シェルターに明かりはありません。人々がくむ水は濾過されず濁っています。それでも洗濯やトイレを流すことには使えるといいます。
住民「市長はどこに?知事はどこにいるんだ?」
町を出る女性です。
町を出る住民「すべてが落ち着いて早く終わると思っていましたが、日に日にひどくなります。もう耐えられません」
しかし、避難することのできない人もいます。その多くは高齢者です。
住民「一人暮らしなんです。足の病気もひどくてどこにもいけません」
●プーチンのハッタリ「経済制裁は効いていない」は大嘘 6/20
今回のウクライナへの軍事侵攻が批判され、各国ではロシアへの経済制裁が続いています。しかし、当のプーチン大統領は「制裁は効いていない」とバッサリ。それが真実であるのかを語るのは、国際関係ジャーナリストで28年のロシア滞在歴を持つ北野幸伯さん。北野さんは自身のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の中で、 ロシア経済の今後について分析しています。
プーチン「経済制裁は成功しなかった!」は本当か??
プーチンは6月17日、サンクトペテルブルグで開かれた「国際経済フォーラム」で演説しました。その中で、「西側による経済制裁は成功しなかった」といいました。
これ、皆さんもよく聞くのではないでしょうか?「制裁は、効いていないようだ」と。実際は、どうなのでしょうか?
制裁の影響は長期で見るべき
ロシアの知人、友人に、「制裁どう?」と聞いています。皆さん、「インフレだけだ」といいます。
ロシア連邦統計局の発表によると22年5月のインフレ率は、前年同月比で、17.1%だそうです。確かに「ひどいインフレ」ですが、「破滅的」とまではいえないでしょう。
しかし、経済制裁の影響は、長期で見る必要があります。
皆さん、もう忘れているでしょう。プーチンの1期目2期目、つまり2000年から08年まで、ロシアのGDPは、年平均7%成長していたのです。ロシア政府高官は強気で、07年08年には、「ルーブルを世界通貨にする!」と豪語していたものです。
ロシアは2014年3月、クリミアを併合しました。そして、その後、さっぱり成長しなくなりました。2014年から2020年のGDP成長率は、年平均0.38%。何が起こったのでしょうか?そう、欧米と日本が経済制裁を科したのです。
2014年3月当時、ロシア国民は、笑っていました。曰く、「ロシアは、世界有数の資源大国で、食糧を自給することもできる!核超大国で、侵略される恐れもない。制裁は効かない!!!!!!!!!!!」と。ところが、バリバリ効いていたのです。
プーチンは今回も、「制裁は効いてない!」といっています。確かに、短期的に見れば、「効いているが、破滅的ではない」といえるでしょう。しかし、クリミア併合後の推移を見れば、「必ず長期で効いてくる」と断言できます。
しかも、今回の制裁は、クリミア併合時とは比較にならないほど厳しいものです。まさに「地獄の制裁」と呼ぶにふさわしい。どんな影響が予想されるのでしょうか?
ロシア経済の長期的打撃は壊滅的
たとえば自動車。ウクライナ侵攻後、欧米日の自動車メーカーは、ロシアへの輸出、現地生産を止めました。ロシア人は、日本車、ドイツ車が大好きです。しかし、在庫が切れれば、買えなくなる。
ロシアにも、自動車メーカーはあります。AvtoVAZ、GAZ.、KAMAZ.、UAZなどうです。ところが、これらのメーカーは、欧米日からの輸入部品を使っている。それで、「ハイテク車」は作れなくなります。
具体的に。たとえば、欧州の排ガス基準は2014年から「ユーロ6」になっています。しかし、ロシアの自動車メーカーは、単独でユーロ6の車を作ることができない。ロシアメーカーが生産する車は、「ユーロ2レベルだ」といいます。
「ユーロ2」というのは、1996年の基準。つまりロシア車は、「26年前のレベル」まで落ちてしまう。「ロシアに行くと、排ガスくさいな!」となるでしょう。しかも、ロシア車には、「エアバック」がつかないそうです。
以前にもお話しました。私の友人は、スズキの車に乗っています。故障したので、修理しようとしたら、「部品が入ってこないから無理です」と断られたそうです。友人は、悩んでいます。
次に航空機のことを考えてみましょう。ロシアでつかわれているのは、主にボーイングとエアバスです。そのうち半分ぐらいががリース。ウクライナ侵攻が始まると、リース会社はロシアに、「航空機の返還」を求めました。
ところがロシア政府は、「航空機を返却せず、そのまま使ってもいいよ」としたのです。「乗りものニュース」3月12日を見てみましょう。
「2022年3月、日本や欧州各国のリース会社が所有し、アエロフロート並びにS7航空などロシアの航空会社が借り受けていた旅客機515機が、ロシア政府によって接収される見込みとなっています。推定価値1兆円以上にも及ぶ前代未聞の「旅客機の盗難」という事態に直面し、航空業界は大きな岐路に立たされています。」
ロシア政府は、「航空機を盗んでもいいよ」と。マフィアですね。しかし、盗むことはできても、その後どうするのでしょう?整備は?部品の交換は?しばらくすれば、盗んだ515機の航空機に乗るのは危険になってくるでしょう。私の友人の「スズキ車」同様、使えなくなるのです。
次に、鉄道を見てみましょう。モスクワとサンクトペテルブルグを結ぶ高速鉄道サプサンがあります。時速250キロで走る(新幹線は320キロ)。「ロシアの技術もそこまで向上したか…」ではないんです。
これ、ドイツのシーメンス製なのです。そして、シーメンスは、ロシアから撤退した。じゃあ、サプサンの整備、部品交換どうするのでしょう?自動車、航空機と同じで、できなくなるのです。
おわかりでしょうか?現状、ロシア制裁の目に見える影響は、「インフレだけ」です。しかし、長期的に見ると、基幹インフラまで影響がでてきます。だから、欧米日の制裁を「地獄の制裁」と呼ぶのです。
私は、ウクライナ侵攻がはじまる前から、「ロシアは、ウクライナとの戦争に勝つかもしれないし、負けるかもしれない。ウクライナとの戦争に勝ったとしても、地獄の制裁はつづくので、[戦略的敗北は不可避]だ」といいつづけてきました。その考えに変更はありません。
●「共和党が勝てばウクライナ支援は縮小」 米共和党の中間選挙での勝利 6/20
ロシアが米共和党の勝利に期待する理由
ロシアは、来たる米国の中間選挙で共和党が勝利すればウクライナへの支援を中止すると期待しているようだ。
「議会乱入事件の公聴会は、ウクライナを掃討しようというプーチンの企みを危うくするとロシアの評論家が論じる」
英紙「デイリー・エクスプレス」電子版6月14日の記事 は、こういう見出しで逆説的にロシアの願望を伝えた。
米議会では昨年1月6日に議会がデモ隊に襲撃された事件の公開公聴会が6日から始まり、ロシアでもその経緯が詳しく報道されているが、「デイリー・エクスプレス」紙の記事は公聴会では民主党側が優位なので、ウクライナ支援も変わらず続くのではないかというロシア側の懸念を伝えていた。
「ウラジミル・プーチンの子飼いたちは、国営テレビの討論番組で米国の今年の中間選挙の影響を論じ、現在先行している共和党の優位を損ねることになるかもしれないと分析した。出演者の一人で下院議員のアンドレイ・グルリヨフ氏は、中間選挙の結果はロシアの侵攻に対するウクライナの抵抗を支える資金援助に直接的な衝撃を与えるだろうと指摘。もし共和党が勝てば米議会はウクライナに対する援助を停止するのにとまで述べた」
ロシアでは、共和党の方がウクライナ問題では対応が柔軟だと考えられているようで、このテレビ番組に先立ってロシアの著名なテレビ・キャスターのウラジミル・ソロビヨフ氏が「中間選挙で共和党が勝利すれば、ウクライナへの米国の支援は縮小するだろう」と語るビデオがロシアのSNSの間で拡散していた。
ロシアの著名キャスター・ソロビヨフ氏のビデオ
ウクライナ出身で米国のニュースサイト「デイリー・ビースト」の記者ジュリア・デイビスさんがツイッターで公開したそのビデオで、ソロビヨフ氏はこう語っている。
「今ロシアは(停戦)交渉に参加する必要はない。時が我々に利しているからだ。(戦いの)進捗具合も我々に有利にはたらいている」
「(もし11月の中間選挙で)共和党が勝てば多くのことが変わる。もちろん多くのことが変わる」
「共和党員は静かにこう言うだろう。『我々はなぜ(この紛争に)巻き込まれ、多額の我々の金を(ウクライナへ)送らなければならないのか?』と」
「共和党員は言うだろう。『なぜウクライナのような腐敗したナチスを助けなければならないのか?』と」
「彼らは自問するだろう。『我々は誰を支援しているのだ?もちろんロシアは悪だ。制裁は続けなければならない。しかし、我々も国内に学校のための資金が不足しているような時に、巨額の資金を(ウクライナに)投げ与え続けなければならないのか』と」
「『メキシコとの国境の壁を強化する代わりに、中小企業を援助する代わりに我々はその資金を腐敗したウクライナに与え続け、それが何にどう使われたのかさえ分からないのだ』と」
ソロビヨフ氏はビデオでこう語り、共和党が中間選挙に勝てば党内から必ずこういう声が上がりウクライナに対する支援にブレーキがかかるだろうと予測する。
米共和党の伝統的「孤立主義」とは?
事実、先にバイデン政権と与党民主党が提案した400億ドル(採決当時の為替レートで約4兆6000億円)のウクライナ支援予算案の採決の際、上院で11人の共和党議員が反対票を投じている。
その指導的役割を果たしたランド・ポール議員(ケンタッキー州選出)は、反対の理由を議会でこう証言していた。
「私が忠誠を誓ったのは合衆国憲法に対してであり、外国に対してではない。米国の経済を破滅させながらウクライナを救うことはできない」
共和党には伝統的に「孤立主義」の考えがある。中間選挙で勝利すれば、ロシアが期待するように「他国への救済」は二の次になるかもしれない。
●強すぎる主張には呪いがかけられている。プーチン政権の「ジェノサイド」発言 6/20
強すぎる主張には呪いがかけられています。
ロシアの国営メディアはウクライナのゼレンスキー政権を「ナチ」と呼び、東部のドンバス地方ではロシア系住民の「ジェノサイド」が行なわれていると非難してきました。しかしこれをあまりに長く言い続けていると、「ロシア人が殺されているのに、なぜ放置しているのか?」と国民が疑問に思いはじめるでしょう。
もちろんプーチン政権は、こうした強い言葉をたんなるレトリックとして使っていたのでしょう。言葉によって大衆の感情を煽るのは、もっとも安上がりに支持を獲得する方法です。「まもなく世界の終わりがやってくる。破滅から逃れる唯一の道は私を信じることだ」というのは、古来、教祖(カルト)の常套句でした。
しかし、どのような予言もいずれ事実によって反証されることになります。ほとんどの新興宗教は、この壁を超えることができずに消えていきます。そして新たな予言者や陰謀論者が現われ、強い言葉によって信者を集め、予言が外れて混乱に陥り……というサイクルを繰り返すのです。
「言霊」が大きな力をもつのは、それを口にした者を拘束し、社会(共同体)に対して責任を負わせるからです。国家の指導者が「国民が虐殺されている」といえば、言霊によって、虐殺を止めるためになんらかの行動を起こさざるを得なくなります。軍事・国際政治の専門家ですら(あるいは専門家だからこそ)ロシアのウクライナ侵攻を予測できなかったのは、戦略的にはいくら不合理でも、プーチンにはそれ以外の選択肢がなくなっていたことを見逃したからでしょう。
さらに事態をこじらせるのは、自分(たち)が「善」で相手を「悪」とし、善が悪を強い言葉で糾弾することで、悪は自らの過ちを認めて悔い改めるはずだと信じていることです。そんなことがあり得ないのは、自分が「悪」として批判されたとき、どう感じるかを想像してみればいいでしょう。
国際芸術祭をめぐる愛知県知事へのリコール運動では、右派・保守派は典型的な「善(愛国)vs悪(反日)」の構図をつくりましたが、思ったほど署名が集まらなかったことで窮地に陥りました。善が悪に負けることは許されないからです。こうして現場責任者が追い詰められ、不正に手を染めることになったのでしょう。
もちろんこれは、左派・リベラルも同じです。キャンセルカルチャーとは、ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)の基準を絶対的な正義とし、それに反した(と感じられた)個人を「差別主義者」と糾弾し、社会的に葬り去る(キャンセルする)ことです。この過程はいっさいの公的手続きを無視しているので、誤解によってキャンセルされた者は自らの「冤罪」を晴らす方法がありません。
それにもかかわらず、なぜ日本でも世界でも「善vs悪」の構図ばかりつくられるのか。その理由は、善の立場で正義を振りかざし、悪を叩きつぶすことで脳の報酬系が活性化し、大きな快感が得られるとともに自尊心が高まるからです。
アイデンティティをめぐる争いは(ほぼ)すべてこれで説明できますが、言霊の呪いが怖ろしいのか、口にするひとはほとんどいません。
●プーチン氏への忠誠強要 ウクライナ南部の実態 6/20
ロシアがウクライナ南部の都市ベルジャンスクを占拠した数日後、ウクライナ国旗を持った住民が中心部の広場に集まり、愛国的な歌を歌いながら、ロシア兵に帰れと言い放っていた。デモは日に日に大きくなった。
程なく、ロシア軍がデモ弾圧に乗り出した。強要や脅し、プロパガンダ、暴力でベルジャンスクの抵抗を抑え込み、支配を固める取り組みの一環だ。
ベルジャンスクをはじめロシア軍の制圧下にある都市の運命は、ロシア軍がウクライナ南部の支配をどれだけ維持できるかにかかっている。ウクライナ軍はすでに南部で反撃を開始した。ウクライナ当局によると、ロシアが自国のパスポートの発給や通貨ルーブルの導入、次年度向けの新たな教科書の配布を着々と進めているのは、ウクライナの国家を消し去り、ロシアへの忠誠心を植え付けるためだという。
ロシア軍の重火器や軍用車がベルジャンスクに侵入して間もなく、タチアナ・ティパコワさんはフェイスブックで、市庁舎前に集合してロシア軍に帰れと意志表示するよう、住民に呼びかけた。
ところが、ロシア軍はある朝、街角で店を営むティパコワさんの身柄を拘束。ティパコワさんは流刑地に連行され、36時間にわたって手や頭を殴られ、ガスマスクで窒息させられそうになるなど拷問を受けた。
ロシア軍はさらに、ティパコワさんの耳に金属クリップを取り付けで電流を流した。その上で、ウクライナ寄りの姿勢を撤回する動画を制作しない限り、強制労働をさせるためロシアのロストフかボルクタに送ると脅した。彼女は不本意ながらも要求を受け入れた。
動画の投稿後に解放され、ザポリージャに逃げたティパコワさんはこう語った。「電気ショックが始まるまでは持ちこたえられたが、ここに閉じ込められていては戦えない、生きてここからでなければならないと考えるようになった」。他のデモ主催者も拘束されて暴力を受け、ロシアへの抵抗は徐々に下火になっていった。
ウクライナの首都キーウ(キエフ)や周辺や東部とは異なり、ロシア軍はほとんど攻撃を加えることなく南東部ザポリージャ州を侵略できた。ウクライナ軍部隊が他の前線へ送られ、手薄になっていたためだ。ロシア軍は占領地域での支配を固める上で、暴力の脅しという常とう手段に加え、活動家を脅し地元住民を懐柔し、ロシア軍占拠の正統性を演出するための巧妙な手口も使っている。
ロシア当局は占拠地でまず、現地の協力者確保に注力している。ベルジャンスクでは、ロシアを支持し、ロシアによるウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州の一部支配について長らく理解を示していた隣村の住民を市長に据えた。
ロシア国旗が建物の外に掲げられるようになったベルジャンスク市の結婚登記所では、元清掃員が責任者に就いた。占領下で初めて行われた結婚式では、6組のカップルがロシア国歌が流れる中で参加した。そのうち、少なくとも2組はすでに結婚していたという。以前からその夫婦を知る関係筋3人が明らかにした。
またロシア軍は、ロシアへの協力を拒むベルジャンスク市立学校の幹部の息子(10歳)の身柄を拘束した。その上で、同幹部に対してロシアへの態度を改めるよう迫った、と知人らは話している。息子の行方は分かっていない。
市庁舎を含め、ベルジャンスクのあらゆる場所でウクライナ国家のシンボルが撤去された。市や自治体の事務所ではウラジーミル・プーチン露大統領の肖像画が掲げられている。
他のロシア占領地では、孤児や侵攻開始日である2月24日以降生まれの子どもには、自動的にロシアの市民権が付与されれている。ウクライナ・ケルソン州の占領地の親ロ派指導者の発言を、ロシア国営テレビが伝えた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今月に入り、「われわれの歴史やアイデンティティーを消し去り、われわれの存在自体を否定することが(ロシアの)目的だ」と述べている。
ベルジャンスク市の警察部隊は、ロシアが占領して当初1カ月間は、私服でひそかに市民を助けていたが、最終的には武器を置いて協力することを余儀なくされた。現在もとどまっている人は、ロシアの支配を受け入れているという。
警察官のユリ・ミキテンコさん(30)は、ロシア軍への協力を拒んだことで、3週間拘束されたと話す。そこで拷問を受けた後、クリミア半島のセバストポリに送られ、軍での経験やウクライナ政府への忠誠心についてさらに尋問を受けた。血液や指紋、DNAサンプルをとられた後で、ロシア兵の捕虜らと交換されたという。
ロシア当局を支援する警官は現在、立ち去ったウクライナ人の記録を管理し、住民が残していった財産を親ロ派当局が没収する手助けをしている。ベルジャンスクの住民や同市を去った人々の話から分かった。
ミキテンコさんは「ベルジャンスクに残ってロシア側についた警官はみな、退去した人の財産を単純に引き継いでいる」と話す。
元市議会議員のビクトル・ツカノフさんは、ベルジャンスクを去った後、自身のビジネスが没収され、ロシアに協力することに同意した警察官に与えられたことを知ったと話す。
「われわれのこの小さな町では、多くの人が金がもうかる場所を知っており、喜んで引き継ぐ」
前出のティパコワさんの店にもロシア軍が押し入った。近所の人から彼女が聞いた話によると、南米や欧州への旅行で買った酒を兵士や協力者、ロシア寄りの地元当局者がすべて持ち去ったという。
ロシア軍の占領地では、生活必需品の価格が2〜3倍に跳ね上がっている。クリミア半島から南部の支配地域に新たな物流網を確立できていないためだ。ロシア兵は当初、食肉工場から略奪したものを住民に配布するなどしていたが、ロシアからさらに肉類や牛乳を持ち込む必要に迫られている。
4月にベルジャンスクを離れたビクトリア・ガリツナさんは「店は半分空っぽで、棚に何かあっても全く欲しくないものばかりだった」と明かす。
ロシア軍は占領地における問題から市民の目をそらすため、祭りを増やし、ロシアでもほとんど注目されてこなかった祝日に祝賀行事を行っている。
市当局はロシアの作家アレクサンドル・プーシキンの生誕記念日を祝った。6月12日のロシア独立記念日には、国家防衛隊やロシア寄りの活動家が地元住民に向けて歌や踊りを披露。夜には花火が打ち上げられた。
前出のガリツナさんは「銃や戦車で心に傷を負った市民にどうして花火を見せられるのか」と問いかける。
ロシアの占領が始まって以降、彼女が心から喜べた唯一の瞬間は、ウクライナ軍が3月24日に、ベルジャンスク港に停泊していたロシア軍の揚陸艦「サラトフ」を攻撃した時だ。
「何百人もの兵士が死傷して船から運び出されるのを目にした」と言うガリツナさん。「これまで他人の不幸を喜びたいとは決して思わなかったが、戦争は人間を怪物に変える」 

 

●“ウクライナの穀物輸出妨げはロシアの戦争犯罪” EU上級代表  6/21
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で、食料危機への懸念が高まる中、EU=ヨーロッパ連合のボレル上級代表は、ロシアがウクライナの穀物の輸出を妨げているのは「戦争犯罪だ」として、強く非難しました。
EUは20日、ルクセンブルクで外相会議を開き、世界中で懸念が高まっている食料危機などについて意見を交わしました。
EUの外相にあたるボレル上級代表は会議の前、記者団に対し「世界の人々が飢えで苦しんでいるときに、ウクライナで何百万トンもの小麦が輸出を妨げられているのは、信じられないことだ。これは真の戦争犯罪だ」と述べました。
また、会議のあとの記者会見でも「ロシアがウクライナの輸出を妨げている。ロシアだ。われわれではない。ロシアだ」などと、何度もロシアを名指しして非難しました。
ロシアは、食料安全保障が脅かされている責任は欧米の制裁にあるとする主張を繰り返していて、アフリカの一部の国からも、ロシアへの制裁が穀物の供給に悪影響を与えているという声が上がっています。
ボレル上級代表は、アフリカのすべての国の外相に書簡を送り、EUの制裁はアフリカでの食料危機につながるものではないなどと説明したことを明らかにしました。
ボレル上級代表は、ロシアとの間で情報戦が行われているという認識を示し、加盟国の外相にも、EUの立場について積極的な情報発信を求めたとしています。
●ロシア クリミアでウクライナ軍から攻撃受けたと主張  6/21
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、完全掌握をねらうルハンシク州など東部を中心に攻撃を続けています。こうした中、ロシア側は、8年前に一方的に併合した南部のクリミアで、ウクライナ軍から攻撃を受けたと主張し、今後、報復として一層攻勢を強めることが懸念されます。
ロシア国防省は20日、東部ルハンシク州とドネツク州でウクライナ軍の部隊や兵器などを攻撃したほか、南部オデーサ州では飛行場をミサイルで攻撃し、無人機を破壊したなどと発表しました。
ロシアが完全掌握を目指して攻撃を続けるルハンシク州セベロドネツクの状況について、ハイダイ知事は20日、SNSに投稿し、ロシア軍の攻撃により、ウクライナ軍が支配下に置いているのは「アゾト化学工場」がある区域に限られているとして、厳しい状況を伝えています。
またウクライナ軍の参謀本部は20日、東部ハルキウ州でも砲撃の回数が増えていると指摘しています。
州都ハルキウの南東の町に住む60歳の男性は19日、NHKの電話インタビューに応じ、町はロシア軍に支配され、周辺では戦闘が続いていると話しています。
人々はロシアの監視下に置かれ、移動も制限されていることから、避難することができないと訴えています。
こうした中、ロシアが8年前に一方的に併合したウクライナ南部クリミアの親ロシア派勢力は20日、黒海の沖合にある石油ガス会社の採掘施設がウクライナ軍の攻撃を受けたと主張しました。
この攻撃で3人がけがをしたほか、7人の行方がわからなくなっているとしています。
これについてウクライナ側から反応は出ていませんが、ロシア側は爆発の危険もあったなどと反発していて、今後、報復として一層攻勢を強める可能性も懸念されます。
●“ウクライナの穀物輸出妨げはロシアの戦争犯罪” EU上級代表  6/21
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で、食料危機への懸念が高まる中、EU=ヨーロッパ連合のボレル上級代表は、ロシアがウクライナの穀物の輸出を妨げているのは「戦争犯罪だ」として、強く非難しました。
EUは20日、ルクセンブルクで外相会議を開き、世界中で懸念が高まっている食料危機などについて意見を交わしました。
EUの外相にあたるボレル上級代表は会議の前、記者団に対し「世界の人々が飢えで苦しんでいるときに、ウクライナで何百万トンもの小麦が輸出を妨げられているのは、信じられないことだ。これは真の戦争犯罪だ」と述べました。
また、会議のあとの記者会見でも「ロシアがウクライナの輸出を妨げている。ロシアだ。われわれではない。ロシアだ」などと、何度もロシアを名指しして非難しました。
ロシアは、食料安全保障が脅かされている責任は欧米の制裁にあるとする主張を繰り返していて、アフリカの一部の国からも、ロシアへの制裁が穀物の供給に悪影響を与えているという声が上がっています。
ボレル上級代表は、アフリカのすべての国の外相に書簡を送り、EUの制裁はアフリカでの食料危機につながるものではないなどと説明したことを明らかにしました。
ボレル上級代表は、ロシアとの間で情報戦が行われているという認識を示し、加盟国の外相にも、EUの立場について積極的な情報発信を求めたとしています。
●ロシアの対ウクライナ戦争でアフリカが「人質」に ゼレンスキー氏 6/21
ウクライナのゼレンスキー大統領は20日、アフリカ連合委員会でビデオ演説し、同地域が「我が国に対する戦争を始めた人々により人質に取られている」と述べた。
ゼレンスキー氏は世界的な食料危機について、「他国を植民地化する現行の戦争が続く限り」継続するだろうと警告。世界中に暮らす最大4億人に影響を及ぼすとした。こうした人々はウクライナからの輸出に依存しているためだという。
「もしロシアによる戦争が行われていなければ、現状は違ったものになっていただろう。十分な安全が保たれていたはずだ。従って、飢饉(ききん)を避けるため、ロシアのような国々が植民地政策に回帰し、領土を奪おうとする行為には、終止符を打たなくてはならない」(ゼレンスキー氏)
ゼレンスキー氏によれば、ウクライナは現在新たな供給ルートの構築を試みているものの、2500万トンの穀物が依然として国内に留め置かれている。ロシアがウクライナ国内の港湾を引き続き封鎖しているためだという。
●戦争ですり潰される若者たちの命...ウクライナ最前線で散った24歳の「英雄」 6/21
ロシアとの戦争はどこまで泥沼化するのか。2014年、親露派ビクトル・ヤヌコビッチ大統領(当時)を失脚させた「マイダン革命」の舞台となったキーウのウクライナ独立記念碑前で6月18日昼、最前線で犠牲になったロマン・ラトゥシニ氏(24)の公葬が営まれた。ウクライナ国旗をまとった若者ら数百人が集まり、棺に弔花を手向けた。
これに先立つ礼拝で、キーウのビタリ・クリチコ市長は「友よ。キーウとウクライナにとって悲しい日だ。今日、私たちは祖国の英雄に別れを告げなければならない。ロマン・ラトゥシニ、若くて賢くて行動の人。名誉と原則の人。それが私の知る彼だ。ウクライナは君のことを忘れない」と、そっと棺の上に手を置いた。クリチコ氏は元ボクシング世界ヘビー級王者として知られる。
「彼は勇敢で、誰も恐れなかった。脅されても隠れることはなかった。ロマンはロシアの大規模な侵略からウクライナを守るため最初から最前線に向かった。出陣の前に市庁舎に立ち寄ってくれた時、私たちは彼のアイデアを話し合い、計画を立てた。ロマンが死んだとは信じられなかった。キーウにとっても、祖国にとっても大きな損失だ」
「ロマン・ラトゥシニのような人は強くて民主的なウクライナの未来だ。ロマンの名はキーウの通りに刻まれるだろう。キーウの緑地帯を守るという彼のアイデアは生き残る。ロマンの夢は実現する。キーウのプロタシフ・ヤールは緑豊かな地区のまま残される。ロマンの明るい思い出。彼は本当の戦士だった」
「ウクライナは欧州だ」立ち上がった若者たち
ロマンは6月9日、ウクライナ北東部ハルキウ州イジュム付近で戦死した。ロマンが始めた環境保護団体「プロタシフ・ヤールを守れ」は「ロマンはわれわれの最高の存在だ。どんな闘いでも先頭を走り、決して恐れを見せない勇敢な男だった。彼は最後の戦いで、戦闘集団の一員として偵察パトロール中に死亡した」とフェイスブックに投稿した。
7月5日に25歳の誕生日を迎えるはずだった。2013年11月、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の意を汲んで欧州連合(EU)との連合協定への署名を拒否したヤヌコビッチ氏に抗議するデモに大学1年生、16歳だったロマンは参加した。ソ連崩壊後に生まれ、共産主義の恐怖支配を全く知らない若者たちは「ウクライナは欧州だ」と声を上げた。
ロマンは他の学生と同じように、催涙ガスを使用する治安部隊にひどく打ちのめされた。その姿に怒りを覚えた何十万人ものウクライナ市民が独立広場に結集する。市民はヤヌコビッチ氏の背後にプーチン氏を見た。プーチン氏は天然ガスを武器に「逆らうと冬を越せない」と脅してきた。04年の「オレンジ革命」は天然ガスの脅しに屈して挫折した。
「尊厳の革命」と呼ばれる「マイダン革命」で、ヤヌコビッチ氏は抗議活動を鎮圧するため治安部隊に銃撃を命じた。すでに市民の中には治安部隊に棍棒で殴られ、命を落とす犠牲者が出ていた。市民側に108人もの、治安部隊にも13人の犠牲が出た。ヤヌコビッチ氏は14年2月、失脚しロシアに逃れたが、プーチン氏は間髪入れず、クリミアに侵攻した。
「ウクライナに栄光あれ!」
ロシア軍のウクライナ侵攻は、挫折した「オレンジ革命」、そしてウクライナ市民が覚醒した「マイダン革命」の延長線上にある。ロマンは欧州人権裁判所にヤヌコビッチ政権を相手取り訴訟を起こしている。21歳の時、緑豊かなプロタシフ・ヤールに40階建てマンションが建設されるのに反対する環境保護運動を始めた。
住民を動員して抗議行動や法廷闘争を展開し、2年がかりで建設中止に追い込んだ。実業家や政治家に脅されても決して屈しなかった。キーウ市議会も、プロタシフ・ヤールを含む一帯が「公共緑地」として保護されていることを確認した。ジャーナリストのナタリヤ・グメニュク氏は米紙ワシントン・ポストへの追悼記事の中でこう書いている。
「ロマンはマイダン革命の5年後、私たちのチームの取材に応じている。『この国では完全に自由な人間だと感じているし、この国は自分のものだとも感じている。もし何かあっても、この国は私を見捨てないだろうと信じている』、と」。ロマンはウクライナの腐敗撲滅運動にも参加した。20年には地元の市議選に立候補し、落選している。
独立広場での公葬にはロマンに共感した若者たちがウクライナ国旗を身にまとって、集まった。ウクライナ軍兵士6人に担がれてロマンの棺は運ばれてきた。弔辞が読み上げられ、悲しげな音楽が奏でられる。参列者は涙をうかべながら「ありがとう、ロマン」と唱え、「ウクライナに栄光あれ!」と声を合わせた。
ロマンがマイダン革命に参加した時と同じ16歳のレビッド・ダリアさんは「私が今日ここに来たのは、私が知る中で最も勇敢で、スマートな彼が戦争で命を落とし、悲しかったからです。だから敬意を示したかったのです。彼は前線に行くまで活動家でした。彼は自由を愛したのです」と話した。
ウクライナの若者たちは「愛国心」を口にした
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると、クリミア侵攻に続く東部ドンバスの紛争で14年4月から21年12月にかけ、すでに1万4200〜1万4400人が犠牲になったと推定される。内訳は市民3404人、ウクライナ軍4400人、ドンバスの分離主義武装勢力が6500人。負傷者は37万〜39万人に達しているとされる。
今年2月、ロシア軍のウクライナ侵攻後、市民4569人が巻き添えで殺害された(OHCHR)。ウクライナ軍は5500〜1万1000人(4月19日、米紙ニューヨーク・タイムズ報道)の犠牲を出し、大砲戦になった現在、1日当たり100〜200人が命を落としている。ロシア軍側の犠牲は3万3600人(ウクライナ軍発表)とされる。
この4カ月近くでウクライナは膨大な規模の死と破壊を強いられた。ロシア軍の侵攻によって多くのウクライナの若者が軍に志願した。筆者がインタビューしたウクライナの若者たちは「愛国心」を口にした。ロマンは、プーチン氏が押し付ける権威主義と腐敗ではなく、自由と民主主義、公正な社会を欲する若者の1人だ。その命が失われた。
自由と民主主義を守る不可避の戦いとはいえ、戦争が長期化し、すり潰されていく若者たちの命と未来に涙をこらえきれなかった。
●北欧債の利回り急上昇 ウクライナ戦争「飛び火」警戒 6/21
フィンランドとスウェーデンの長期国債の利回りが急上昇(価格は急落)している。債務不履行(デフォルト)リスクを取引するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場では両国の保証料が上昇した。5月中旬に北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請したのを受け、対立するロシアからの軍事的な圧力が強まりかねないとの警戒感が浮上したためだ。財務基盤の盤石さから「安全資産」とされてきた両国の国債の地位は、地政学リスクによって揺らいでいる。
米格付け会社S&Pグローバルによると、フィンランドの国債格付けは債務の履行能力が高いとされる「AAプラス」。スウェーデンはさらに上位の「AAA」で、欧州内で最も信用力が高いとみられているドイツと同じだ。国内総生産(GDP)に対する公的債務の比率は2021年末時点でフィンランドが66%、スウェーデンが37%と欧州全体(88%)に比べて低く、投資家から財務の健全さを評価されてきた。
ところがロシアがウクライナに侵攻して以降、状況は一変している。長期金利の指標となる10年物国債利回りは、フィンランド債が現在2.1%程度。14日には約2.2%と13年以来の水準まで上昇した。2月下旬以降の上昇幅は約1.6%で、信用格付けが「Aマイナス」格と相対的に低い南欧のマルタ(約1.5%高)よりも大きい。スウェーデン債の利回りもマルタ債と同程度上がり、16日には約8年ぶりとなる2.1%に達した。
5年物CDSの保証料率もフィンランドが0.2%台と16年以来の高水準を度々つけ、スウェーデンも0.1%台半ばと20年以来の水準に浮上した。CDS保証料の上昇は「安全資産」の発行体であったはずの両国のデフォルトリスクを警戒する市場参加者の増加を示す。
フィンランドはロシアに隣接し、スウェーデンも地理的に近い。特に両国がNATOへの加盟を申請した5月中旬以降は「可能性は低いものの、ウクライナの紛争が北欧に飛び火して(ロシアとの)戦闘状態に陥ることがリスクシナリオになる」(スウェーデン債を保有するベアリングス・ジャパンの溜学執行役員運用本部長)との見方が増えた。
トルコの反対で両国の加盟の実現が不透明なこともあり、「投資家から北欧諸国のNATO加盟申請が欧州債に与える影響を気にする声が出ている」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大塚崇広マーケットエコノミスト)。これまで警戒されてきた南欧諸国の信用リスクに、北欧債の地政学リスクが新たに加わり、欧州の債券市場は不安定さを増している。
●ウクライナ消耗戦、欧州指導者は厳しい舵取りへ  6/21
エマニュエル・マクロン仏大統領が率いる与党連合が国民議会(下院)選挙で過半数割れした。ウクライナ戦争が消耗戦となる中、ロシアの締め付けによるエネルギー価格高騰を受けて、欧州指導者は経済的・政治的に一段と厳しいかじ取りを迫られることが浮き彫りになった。
マクロン氏の政党は、急進左派の扇動的指導者ジャンリュック・メランション氏と極右政党の指導者マリーヌ・ルペン氏の支援を受けた候補者に国民議会の多くの議席を奪われた。メランション氏とルペン氏はともに、過去最高水準のインフレに乗じて、マクロン氏について、家計のやりくりに苦心する有権者よりも、ウクライナ戦争への対処という外交舞台での自身の役割に関心を向ける指導者と評した。
ウクライナ政府への世論の支持は依然として強いものの、欧州大陸の有権者は現在、戦争による経済的打撃を感じ始めている。欧州の人々は既にサプライチェーン(供給網)の問題などによる物価高にあえいでいた。ロシアのウクライナ侵攻が重なったことで欧州の痛みは増大した。ロシアによる海上封鎖によってウクライナの港から小麦など必需品の輸出が停止し、欧州諸国はロシア産燃料への依存をやめる準備を進めた。
そこにロシアが先週、欧州への天然ガス供給を抑制し始めたため、エネルギー価格はさらに上昇。欧州大陸でこの冬に家庭の暖房用や工場稼働用のガスが十分に供給されないのではとの懸念が高まった。
ロシア政府がガス供給を絞ったのは、仏議会選挙の決選投票のわずか数日前だ。ちょうどマクロン氏が、ドイツのオラフ・ショルツ首相やイタリアのマリオ・ドラギ首相とともにウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問して注目を集めていた時期だ。3人の首脳はいずれも、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談後、ウクライナを欧州連合(EU)加盟候補国として支持すると表明し、同国の長期的な対ロシア軍事行動への支援を約束した。
フランス国民議会で過半数を占める政党がなくなったものの、マクロン氏が外交政策で自由を奪われることはないだろう。同氏が率いる与党連合は依然として議会で最も多くの議席を保有している。それでも選挙結果を受けて、マクロン氏は、定年退職年齢の引き上げなど企業寄りの国内政策を進めるための集票により多くの時間と労力を費やす必要がある。
76歳のマリークロード・ドートリクール氏は、生活費の上昇が若い世帯に与える影響を懸念していた。既に現役を引退している同氏は、高過ぎるという理由でレストランを利用していない。19日の選挙では、「メランション氏はマクロン氏よりも、人々の日常生活のことを気にかけている」として、メランション氏率いる左派連合の候補に投票した。
今回の選挙のタイミングにより、マクロン氏は西側諸国の指導者の中で、ウクライナ戦争からの政治的影響をまともに受ける人物となった。しかし、紛争が長引けば、経済的および政治的なコストはフランス以外にも広がる可能性がある。
英国では、インフレ率が40年ぶりの高さとなる中、賃金凍結に抗議するため、何万人もの交通関連労働者が21日に一連のストライキを開始する予定だ。ボリス・ジョンソン首相の支持率は落ち込んでいる。生活費の危機や、新型コロナのロックダウン(都市閉鎖)中に首相官邸で何度か開催されたパーティーに首相が参加したことへの怒りが影響している。
ドイツのショルツ首相は今後何年かにわたり、再選を目指す選挙には直面しないものの、10月に主要な地方選挙を控えており、そこでは経済問題が重要になる可能性がある。
世論調査によると、ショルツ政権の支持率は、経済的な不安が高まる中、ウクライナ戦争が始まって以降、低下している。調査機関フォルシュングスグルペ・ワーレンが独公共放送ZDFのために実施した6月17日付の世論調査によると、今月の段階で物価や家賃の高騰、所得の減少に懸念を抱いているとの回答は、ウクライナ戦争に懸念を抱いているとの回答を超えて、最大の懸念材料になった。こうしたことは3月以降で初めてだった。
同調査によると、回答者の85%は物価が上がり続けるとの見方を示し、60%は向こう数カ月で経済が悪化すると予想したが、過半数はまだその悪化を目にしていないという。またドイツの人々は戦争の結果について懐疑的になっており、64%は大型兵器の供与が対ロシア戦争でのウクライナの勝利につながらないとみていると回答した。
経済に対するドイツ有権者の懸念が、ウクライナへの支持低下につながっている兆候はまだ見られない。それどころか、ショルツ首相の支持率は低下しているのに対し、連立政権内のよりタカ派的な緑の党指導者たち対する支持率は上昇している。ウクライナとその多くの支援国は、ドイツの対ウクライナ支援が不十分だとみており、ショルツ氏はこの点でウクライナ政府から批判されている。
イタリアでは来年の早い時期に選挙が行われる予定で、以前から右派連合が勝利を収めると予想されている。
イタリアは欧州の中でも、ロシアの侵攻に抵抗するウクライナへの支援をめぐり、賛否両派の意見の違いが最も目立つ国の1つだ。世論調査によれば、大半のイタリア人はウクライナ戦争をめぐりロシアを非難しているが、多くの人々は、たとえロシアがウクライナの多くの領土を占領したままだとしても、ウクライナへの武器供給には懐疑的で、休戦を支持するとしている。
ただしこれまでのところ、エネルギー問題、食料価格やウクライナ戦争が、イタリアの政治に及ぼす影響は比較的小さい。そしてイタリア政界では、これまでの長い年月で浮き彫りになった傾向が続いている。その傾向とは、四半世紀にわたり経済の低迷が続く同国の有権者が、国内の困難な政局運営の洗礼をまだ受けておらず、真価がまだ問われていない政治的指導者を見いだそうとしていることだ。
仏下院選ではまた、移民問題に対する懸念やマクロン氏の定年退職年齢引き上げ案への反対など、他の要因も争点となった。ただし、投票者の関心事のうち圧倒的なトップを占めたのはインフレ抑制だった。6月12日の第1回投票時にハリス・インタラクティブが実施した世論調査によれば、回答者の53%が購買力の低下を選挙での最大の関心事に挙げていた。2位は医療問題で38%。ウクライナ戦争を最大の関心事とみなしている者はわずか10%だった。
また有権者は、ロシアに対してマクロン氏よりも寛容な姿勢を示してきた政党に痛手を与えることはなかった。極右のルペン氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻の決断を非難する一方で、「誰もがプーチン氏にある種の敬意を持っている」とも述べていた。ルペン氏の党は2014年に、選挙キャンペーンのためロシア政府とつながりのあるファースト・チェコ・ロシア銀行から940万ユーロを借り入れていた。金利分を含めたその借入金の返済先は現在、ロシアの国防関連企業となっている。
ルペン氏の党は、19日の選挙の結果、同党としてはこれまでで最も多い89議席を獲得した。これにより同党は、国からの助成金、議会での発言時間をより多く得ることになる。
急進左派のメランション氏は、4月の大統領選挙では、北大西洋条約機構(NATO)からの脱退を約束するとともに、ロシアのウクライナ侵攻前の国境付近での兵力増強について米国とロシアのどちらの責任か疑問があると主張し、わずかな差で決選投票に進めなかった。
しかし19日の下院選挙では、彼が率いる左派連合が少なくとも131議席を獲得した。ただし、緑の党、共産党、社会党を含む同連合内の多種多様な政党が、協力態勢を取れるかは依然不透明だ。
メランション氏は、マクロン氏に最近指名されたばかりのエリザベット・ボルヌ首相に対し、選挙後の新選出議員出席の下で信任投票を行うべきだと要求した。
マクロン氏は、彼の政党が過半数の議席を維持できなかったことへの対応をまだ示していない。マクロン政権の財務相はかつて、ロシア政府に対する西側諸国の広範な制裁措置について「全面的な対ロ経済・金融戦争」の一環だと述べていたが、同相は19日、「われわれは今、民主主義のショックに直面している」と語った。
●ロシア紙編集長、ウクライナ難民のためノーベル平和賞を競売 約140億円 6/21
ロシアの独立系リベラル紙「ノーヴァヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラトフ編集長が2021年に受賞したノーベル平和賞のメダルが20日、米ニューヨークで競売にかけられ、1億350万ドル(約140億円)で落札された。
ムラトフ氏は、戦争のため避難を余儀なくされているウクライナ難民のため全額を寄付するとしている。競売を実施したヘリテージ・オークションズは、落札者を明らかにしていない。収益はユニセフ(国連児童基金)を通じ、ウクライナ難民の子どもたちの支援にあてられる。
「きょう何より大事なメッセージは、いま戦争が続いていて、最も苦しんでいる人たちを助ける必要があるということだ」と、ムラトフ氏はヘリテージ・オークションズが公開した動画メッセージで述べた。
ムラトフ氏は2021年、ロシアにおける表現の自由を守った功績が認められ、フィリピンのマリア・レッサ記者と共に、ノーベル平和賞に選ばれた。
しかし、2月24日のウクライナ軍事侵攻から間もなく、軍事侵攻を「特別軍事作戦」と呼ぶロシア政府は、ロシア軍の行動を「戦争」と呼ぶなど「誤情報」を伝えた者は重い刑事罰の対象になると刑法を変更した。このため、ノーヴァヤガゼータは今年3月、休刊に追い込まれた。
ムラトフ編集長は4月には、首都モスクワ発サマラ行きの列車内で何者かに襲撃され、有機溶媒アセトンが含まれた赤い塗料をかけられたと明らかにした。襲ってきた男は、「ムラトフ、これは若者たちのためだ」と叫んだという。
ムラトフ氏はソヴィエト連邦崩壊後の1993年に、複数のジャーナリストと共に「ノーヴァヤ・ガゼータ」を創刊。2000年以降、同紙の記者や協力者が計6人、仕事に関連して死亡している。その中には、プーチン政権を厳しく批判し、2006年にモスクワで殺害された調査報道記者アンナ・ポリトコフスカヤ氏も含まれる。
ムラトフ氏は、ノーベル平和賞を共同受賞したフィリピンのレッサ氏と共に、国の指導者を怒らせる調査報道の発表で知られ、報道の自由のための闘いの象徴となっている。
●EU「ロシアによる戦争犯罪だ」 ロシアの海上封鎖により穀物輸出が滞留 6/21
ウクライナ情勢です。東部、そして南部で激しい攻防が続いています。一方、ロシアの海上封鎖によりウクライナ産穀物が輸出できない状態について、EU=ヨーロッパ連合は「ロシアによる戦争犯罪だ」と非難しています。北東部ハルキウ州。20日、ロシア側の砲撃を受け工場が焼けるなどの被害が出て、州知事によると、3人が死亡しました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領 「ロシア軍はハルキウを再び攻撃するために兵力を集めようとしている」
ゼレンスキー大統領は“我々はハルキウを奪還したが、ロシア側はまた占領しようとしている”と警戒感を強めています。東部ドンバス地方でも。ドネツク州知事によると、砲撃で3人が犠牲に。そして、ウクライナ軍は南部オデーサで14発のミサイル攻撃があり、食糧庫が破壊され、警備員1人が死亡したとしています。
これに対しロシア側は、ロシアが一方的に併合したクリミアの石油ガス会社の採掘施設がウクライナ軍の攻撃を受け、3人がけが、7人が行方不明だと主張しています。そして、ロシアは周辺国の動きにも神経を尖らせています。ロシアメディアなどによると、バルト3国のリトアニアが18日以降、ロシアの飛び地・カリーニングラードにEUの制裁対象の貨物を積んだ列車が自国経由で乗り入れることを禁止。すると…
ロシア ペスコフ大統領報道官 「前例のない決定であり違法だ」
ロシア外務省は直ちに解除を求め、「貨物輸送が完全に回復しない場合、国益を守るために措置を取る」として対抗措置の可能性をちらつかせています。一方、EUではロシアによる黒海の封鎖で穀物輸出が滞っている問題で非難の声があがっています。
EU ボレル外交安全保障上級代表 「ウクライナで数百万トンの小麦の輸出が滞る中、世界の他の地域で人々は飢餓に苦しんでいる。これは(ロシアによる)戦争犯罪だ」
またアメリカでは、世界難民の日にある出来事が… ロシアの独立系新聞の編集長・ムラトフ氏が受賞したノーベル平和賞のメダルのオークション。日本円にしておよそ140億円で落札されました。
「ノーバヤ・ガゼータ」編集長 ドミトリー・ムラトフ氏 「犠牲者を救うのがジャーナリストです。子どもたちはこの戦争の最大の被害者です」
●ウクライナ、対艦ミサイルで攻撃成功 ロシアの黒海制海能力減退 6/21
英国防省は21日、黒海で武器や兵員輸送に当たっていたロシア船に対し、ウクライナ軍が欧米から供与された対艦ミサイル「ハープーン」を使用し、損害を与えたと明らかにした。ウクライナ軍の情報として伝えた。ハープーンによる攻撃を成功させたのは初めてという。
このロシア船は救難タグボート「ワシリー・ベフ」。ウクライナの国営通信は先に、海軍が17日、ロシア軍占領下のズミイヌイ島に向け兵士や武器弾薬を運搬中だった同船に攻撃を加え、最大で乗員の70%に損害を与えたと報じていた。
ウクライナ軍は4月、国産の対艦ミサイル「ネプチューン」でロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を沈没させたと伝えられている。他にも複数の艦艇に打撃を与えてきたとみられる。
英国防省はワシリー・ベフ攻撃を含め、ウクライナの沿岸防衛力の向上で、ロシアの黒海北西部の制海権掌握能力は大きくそがれたと分析している。
●食用油の値上げが止まらない 〜世界で連鎖する価格高騰〜  6/21
日本や世界が直面する「食料ショック」。ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で、食卓に欠かせない「食用油」の価格が高騰している。価格高騰の波は、日本だけではなく世界各地で連鎖し、さまざまな商品の値上げにつながっている実態が見えてきた。私たちの暮らしに暗い影を落とす“食料危機”の現実を、日本、そして世界で追った。
食用油 6回目の値上げ
食用油大手の「日清オイリオグループ」。5月11日、原材料価格の高騰を受けて食用油の一部の製品を、7月から値上げすると発表した。「Jーオイルミルズ」「昭和産業」も相次いで値上げを発表。大手3社の主要製品の値上げは、去年以降、実に6回目となる。大豆や菜種、コメ、ごま、ひまわりの種、アブラヤシなどが原材料となる食用油。なぜ、値上げが繰り返されているのだろうか?
世界で連鎖する価格高騰
値上げを発表した際の「日清オイリオグループ」の報道関係者向けの資料には、その理由が6行にわたって記されていた。値上げの背景には、いくつもの要因が複雑に絡み合っていることがかいま見える。
・ ロシア・ウクライナ情勢悪化の影響を起因とした世界的な油脂全般の需給ひっ迫
・ カナダ、豪州に次ぐ「菜種」輸出大国であるウクライナからの物流停滞
・ 欧州を中心にウクライナ、ロシア産「ひまわり油」の代替としての「菜種油」需要増加による菜種需要ひっ迫
・ ブラジル産「大豆」の生産量見通し引き下げに伴う大豆需給ひっ迫
・ ほかの油脂から「パーム油」への需要シフト及びインドネシアの輸入制限等によるパーム油需給ひっ迫懸念
・ 円安ドル高の大幅な進行
会社によると、去年は、大豆の主な産地・ブラジルでの天候不順による収穫量の減少や、中国などの経済活動再開に伴う需要拡大が値上げの主な理由だった。しかし、今年に入り、ロシアによるウクライナ侵攻がさらなる混乱を招いたという。
ウクライナは「ひまわり油」の輸出量が世界一で、シェアは全体の4割近くに上る。黒海に面する南部の港湾都市オデーサといった輸出の拠点となる主要な港がロシア軍によって封鎖され、輸出が大幅に減る事態になった。ウクライナは、カナダやオーストラリアに次ぐ「菜種」の輸出大国でもある。このため「菜種油」の輸出量も減少し、ヨーロッパがロシア産の「ひまわり油」の代替品として「菜種油」にシフトしていることも相まって需給がさらにひっ迫していたのだ。食料事情に詳しい専門家は、今の価格高騰は、いくつもの要因が連鎖した結果だと指摘する。
資源・食糧問題研究所 柴田代表「食用油が値上がりする最初のきっかけは、アメリカとカナダを去年襲った干ばつの影響で『菜種油』の輸出が減少し、植物油全般の値段が上がったことだった。ここにコロナ禍の供給制約の問題、さらに追い打ちをかけるようにロシアのウクライナ侵攻で両国の生産が多い『ひまわり油』の価格の上昇が加わってきた。連鎖的にすべての要因が玉突きとなり、食用油の価格高騰が起きている」
イギリスの国民食 3分の1の店舗が閉店の危機?!
「ひまわり油」を多く使うヨーロッパでは、どんな影響が広がっているのか。イギリスで今、大きな問題になっているのが、国民的な食べ物「フィッシュ・アンド・チップス」への打撃だ。
タラなどの白身魚をたっぷりの油で揚げて、ポテトフライを添えるこの料理。イギリスには至るところに専門店があり、市民はお店で食べたり、自宅に持ち帰ったりして楽しむ。ところがウクライナから「ひまわり油」の輸入が途絶え、ほかの食用油も軒並み高騰したことで、値上げを余儀なくされる店が増えているというのだ。
イギリス南部の海辺の街、ブライトンにある専門店で話を聞くと、影響の大きさに驚かされた。店が仕入れる食用油の価格は、ウクライナ侵攻前と比べて3倍に。さらに、原料の魚や、電気やガスの料金も高騰しているため、仕入れコストや経費は、ウクライナ侵攻前の倍に膨れ上がったという。この店は「フィッシュ・アンド・チップス」を10%近く値上げしたが、それだけではコスト増を吸収することはできない。この店の店長は、看板メニューの「フィッシュ・アンド・チップス」の提供をあきらめ、食用油をなるべく使わないメニューに変更せざるをえないかもしれないと考えているという。
パム・サンドゥ店長「メニューは変えたくないが、最悪の事態になればそうするしかないでしょう。食用油は手に入れるのが大変で、少量でなんとかやっていくしかない」
イギリスでは各地の店が厳しい事態に直面している。業界団体は、国内にあるおよそ1万500店舗のうち3分の1が、今後8か月以内に閉店を迫られるおそれがあると指摘している。
全国フィッシュフライヤーズ協会 クルック会長「インフレはビジネスを圧迫し、小規模な店はすでに苦境に立たされている。160年前から続くイギリス伝統の食文化であるフィッシュ・アンド・チップスの業界にとって、今回の事態は危機的だ」
インドネシアにも“飛び火” 屋台料理を打撃
影響は、東南アジアにも“飛び火”している。「食用油の価格を下げろ!」と声を上げる人たち。インドネシアでは食用油の値下げを政府に求める市民の抗議デモまで起きている。
市民を苦しめているのがアブラヤシから採れる「パーム油」の値上がりだ。インドネシアは世界のパーム油生産の6割近くを占める最大の生産国で、食用油として広く使われている。
しかし、「ひまわり油」の代替品として国際的に需要が高まり、価格が高騰。国内の食用油の小売り価格は4月に一時、1年前と比べて最大で2倍近くに値上がりしたのだ。価格高騰のあおりを受けているのが屋台の食事。インドネシアでは、日本でもなじみのある「ナシゴレン」のように、さまざまな食材を油で炒めたり揚げたりする料理が好まれるが、この市民の暮らしに欠かせない料理の値上げを余儀なくされる店が相次いでいる。
首都ジャカルタで豆腐や魚のすり身の揚げ物を売る店は、これまで6個で1万ルピア(日本円で約90円)で販売していたが、値段を変えずに5個に減らし、実質的な値上げを余儀なくされた。店主は、客から不満の声も出て、厳しい状況に置かれていると訴える。
店主「食用油の値段はまだ高く、小麦などほかの食材の値段も上がっている。油の値段が下がって、商売がしやすくなってほしい」
こうした状況の中、インドネシア政府は国内への供給を優先して価格を抑えるため、一時、輸出を禁止する措置に踏み切る事態になったのだ。
パーム油高騰 影響はシャンプーにも
そして、「パーム油」の価格高騰の波紋は日本にも及んでいる。「パーム油」は、日本でもカップ麺やスナック菓子、チョコレート、アイスなどの加工食品だけではなく、洗剤やシャンプーなどの原料としても幅広く使われる。
大阪・城東区のせっけんメーカー。主力商品のシャンプーやボディーソープに「パーム油」から作られる「脂肪酸」を使っている。
コロナ禍で東南アジアの農園で働く労働者の人手不足などから、脂肪酸の仕入れ価格は以前から上がっていたが、ウクライナ情勢を背景にさらに高騰。そこに原油高や円安の影響も加わったため、この会社の今年4月の仕入れ価格は2020年4月と比べて2倍以上に高騰しているという。
シャンプーやボディーソープの原料の大半は「パーム油」から作る脂肪酸。価格高騰の影響は大きいが、別の原料にすると泡立ちや肌ざわりといった製品の特徴が変わってしまうため変更することができないという。
牛乳石鹸共進社 宮崎室長「オイルショックのときよりも原料価格の上昇幅が大きくなっている。コストの削減を進めているが、ここまで価格が高騰すると、もはや企業努力で吸収できる範囲ではないと感じている。ただ原料を変えてしまうと、我が社の石けんの特徴が変わってしまうので、今後も原料の高騰が続くことを想定してやっていかなくてはならない」
世界で食料の争奪戦
連鎖する食用油の価格高騰。専門家は「世界で食料の争奪戦が起きている」と指摘する。
資源・食糧問題研究所 柴田明夫 代表「コスト高の一方で需要は相変わらず多く、食料に関する争奪戦という様相を呈している。原材料費の高騰に対して、身近な食料品価格の値上がりの割合はまだ比較的低くとどまっているとみるべきだ。企業側も抑えきれないレベルにきているので、いろいろなところで価格転嫁の動きが続くだろうし、できるものは国産品へ切り替えるなど対策を考えないといけない。今後も価格の高止まりの状況は続き、待てば下がるものではなく、もはや新しい価格水準に入っている可能性が高い」
食用油、小麦、水産物、トウモロコシ…食料やエネルギーなど多くのモノを輸入に頼る日本では、コロナ禍に「ウクライナ情勢」や「円安」が物価高騰に拍車をかける形になっている。そして食料品の価格高騰や食品不足は世界で連鎖し、食料の輸出国が自国への供給を優先するために輸出を規制する「囲い込み」も起きている。私たちの食を守るためにどうしたらいいのか。「食料安全保障」への意識を高めることが不可欠になっている。
●ウクライナ「敗戦」は確定。それでも米国が軍事支援を止めぬ“侵攻の真実” 6/21
ロシア軍との圧倒的な火力の差に直面し、西側諸国にこれまで以上の軍事支援を求めるゼレンスキー大統領。戦争の長期化を予想する専門家の声も聞かれますが、この先ウクライナ紛争はどのような展開を見せるのでしょうか。今回の無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』では著者で国際情勢解説者の田中宇(たなか さかい)さんが、「ウクライナの敗戦は確定している」としてその根拠を解説。さらに驚くべきウクライナ紛争勃発の真相をリークしています。
すでに負けているウクライナを永久に軍事支援したがる米国
2月下旬に露軍の侵攻で開戦したウクライナ戦争は、4か月近くがたった今、ロシアの勝利とウクライナの敗北が不可逆的に確定している。これまで自分たちは勝っていると(妄想的に)豪語していたゼレンスキー大統領らウクライナ政府も最近、自分たちの軍勢に大勢の戦死者が出ていて負けそうであることをようやく認め出した。ゼレンスキーの側近(Mykhaylo Podolyak)は6月9日、開戦以来1日平均100-200人のウクライナ軍兵士が露軍との戦闘で死んでいると英国BBC放送に対して語った。開戦から100日ほど経っているので合計1万-2万人のウクライナ兵が戦士したことになる。その前にゼレンスキーが、1日平均60-100人のウクライナ兵が死んでいると述べたが、側近が言う実数はそれより多かった。別の側近(Alexey Arestovich)も、開戦以来1万人の兵士が死んだと言っている。
国連が発表したウクライナ市民の死者数は5月3日の時点で3,000人強だ(実数はもっと多いと報じられているが根拠がない)。その後は死者数が発表されていないが、戦闘が下火になりつつあるので現時点での市民の延べ死者数は5,000人ぐらいか。ウクライナでは兵士が市民の2倍以上死んでいることになる。ロシア政府は、ウクライナでなるべく市民を殺さず、攻撃してくる兵士だけピンポイントで殺していると発表してきたが、その発表は本当だったことになる。ロシアの軍事作戦は成功している。露軍は最近戦死者数を発表しておらず、米国側のマスコミ権威筋が「露軍の作戦は失敗しているので2万人以上が死んだはずだ」とか概算しているが、この概算は妄想が大量に入った大間違いだ。露軍の作戦は成功しているので戦死者数は数千人でないか。露政府は、米国側に「ロシアは大量に戦死して負けている」という大間違いの判断をさせ続けて自滅させる目的で、意図的に自軍の戦死者数を発表していない。
ウクライナ政府が最近、負けそうだと言い出した意図は、米国側に対して「もっと兵器や軍資金を出してくれないと負けてしまう」と加圧するためだ。またゼレンスキーらウクライナ政府は、自分たちが負けているのに、それを無視して「これから軍事的に盛り返してクリミアや東部をロシアから奪還する。決して領土で譲歩しない。必ず勝つから、米欧は兵器や資金をくれ」と言い続けている。ゼレンスキーらは、本当に露軍に勝ってクリミアや東部を奪還できると思っているのでなく、(ブラックマーケットに転売して現金化できる)兵器や軍資金を米欧からもらうために絶対勝つと言っているだけだ。ウクライナ政府の上層部は腐敗していることで開戦前から有名だった。
ドイツの諜報機関は、このままだとウクライナ軍は1か月後ぐらいに戦闘力低下の崩壊状態になると予測している。ウクライナ軍はもともと訓練が不十分で弱いが、優勢な露軍に負け続けているのでさらに士気が下がり、戦闘能力が落ちている。前線の兵士に対する食料や水の配給も足りていない。不十分な量のジャガイモと水しか支給されないという話が報じられたが、それをワシントンポストに話した兵士はウクライナ当局に逮捕された。ウクライナ政府は腐敗している。米国などが送った兵器の多くは、ウクライナの上層部によって転売されて実戦に使われていない可能性が高い(米国の上層部も軍資金を横領している)。
最近の私の記事で、ウクライナ政府のデニソバ人権監督官が「露軍がウクライナ市民を強姦・惨殺している」という話を米国側のマスコミに流して喧伝させていたが、彼女の話が無根拠であることがバレてウクライナ議会に罷免されたことを書いた。デニソバは罷免後、ウクライナのメディアの取材に答え「イタリアなど欧米各国の政界には、ウクライナ支援に消極的な勢力もおり、そうした消極派の人々にウクライナ支援の必要性を納得してもらうために、凄惨な話を(捏造して)流布する必要があった。ウクライナの人々は支援を必要としているのだから、やむを得なかった」と話している。彼女は、支援をもらうためにロシアに濡れ衣をかけて凄惨な話を捏造し、欧米(や日本)を騙していたことを認めた。「ロシアはひどい。ウクライナを支援しよう」と熱弁している欧米日の政治家や活動家やジャーナリストらは、デニソバのような人に騙されてコロリと信じてしまった大間抜けというわけだ。
「ウクライナの現場に行った欧米日のジャーナリストたちが、ウクライナ市民に話を聞いたら、みんなロシアを許さないと怒っていた。露軍による虐殺の証言もたくさん聞いた。ロシアが極悪であることは間違いない」という意見がある。しかし、ウクライナの現場にいるジャーナリストたちは、ウクライナの当局者やその系統の人々に案内・誘導されて取材している。ウクライナ当局はジャーナリストたちに表向き自由に報道させると言いつつ、実際は当局が言ってほしいことを言う人にしか会わせない。ウクライナには反露派のウクライナ系、親露派のウクライナ系、親露派のロシア系の3種類の人々が3-4割ずついるが、ウクライナ当局がジャーナリストに接触を許しているのは主に反露派のウクライナ系だ。だから「ウクライナの人々はみんなロシアの残虐さを知っており、絶対に許さないと思っている」という歪曲された報道ができあがる。コロナでもウクライナでも、欧米日のジャーナリズム・マスコミは歪曲話ばかり流すので人々の信用を失っている。
ウクライナ軍はもう勝てないし崩壊しそうなのに、米国政府は今後もずっとウクライナを軍事支援すると言っている。ヒックス米国防副長官は6月13日、ウクライナの政府や軍は今後もずっと崩壊せず、米国は10年でも20年でも(ロシアを打ち負かすまで)ウクライナを軍事支援し続けると表明した。オバマ元大統領も「ウクライナ戦争はまだまだ続く。戦争の費用もどんどん増える」と言っている。だが同時にオバマは「戦争の結果がどうなっていくかは予測が難しい」とも言っている。オバマはウクライナが負ける可能性が高いことを知っている。
米国の政府(諜報界)は、最終的にロシアの勝利になることをこっそり覚悟しつつ、いずれウクライナがロシアを打ち負かすのだという表向きの論調をマスコミ権威筋に採らせ、崩壊寸前のウクライナにこれから何年も兵器と資金をつぎ込んで延命させていくつもりのようだ。米国の政府や諜報界には、もうロシアの勝利とウクライナの敗北が確定的なので、ウクライナを無限に軍事支援してロシアと戦争させるのでなく、ある程度のところで戦争をやめてウクライナをロシアと交渉させて外交で解決するしかないと考えている勢力もいる(キッシンジャーとか)。そういった勢力はマスコミ権威筋を通じて「もう勝てないよ。戦争やめて交渉した方が良い」という論調を流し始めている。
だが、ブリンケン国務長官やオースチン国防長官、サリバン安保補佐官らバイデンの側近たちは、ロシアに勝つまでウクライナを支援して戦争を続行させると主張し、早期和解派を退けている。バイデン政権が続く限り、米国はゼレンスキーに強硬なことを言わせ続け、ウクライナへの軍事支援とロシア敵視、戦争状態を延々と続ける。
とはいえ、バイデン政権がずっと続くわけではない。バイデンのウクライナ政策は米国民の3割にしか支持されず、5割は明確に不支持だ。米国民は、ウクライナなど放っておけと思っている(遠い国だし腐敗しているのだから当然だ)。バイデンの民主党は、インフレ対策や治安維持、違法移民問題などでも国民に不人気で、今年11月の中間選挙で議会上下院の多数派を失いそうだ(再び選挙不正をしない限り)。来年から米議会は共和党が多数派になり、バイデンのウクライナ政策を妨害し始める。米国は表向きロシア敵視・ウクライナ支援の好戦的な姿勢をとり続けるが、実質的に決定不能になってウクライナを放棄する姿勢を強める。2024年の大統領選ではトランプが出てきて勝つ(民主党が再び不正を成功させない限り)。欧州も、自滅的な対露制裁に疲弊し、傲慢で強欲なゼレンスキーにも辟易しており、対米従属のためのおざなりのロシア敵視を続けるだけになっている。すでにEUはウクライナを加盟させない姿勢に戻っている。
ロシアのプーチン大統領は最近の演説で、米国覇権体制がすでに終わっており、米欧が覇権を取り戻そうとしても無理だと宣言した。米欧など米国側がウクライナ戦争でロシア敵視の経済制裁を続けるほど、エネルギーや資源類を握るロシアなど非米諸国が米国側に資源類を高値でしか流さなくなり、米国側のインフレや物不足がひどくなり、米連銀QE終了による金融危機・ドル崩壊の進行と相まって、米国覇権の瓦解が進む。ロシア敵視は米覇権を自滅させ、ロシアなど非米側が台頭して世界の覇権構造を多極化する。ウクライナ戦争を続行するバイデンの側近たちは、米覇権自滅と多極化を誘発する隠れ多極主義者である。ウクライナに侵攻したプーチンは、米国の隠れ多極主義に協力しただけだ(両者は隠然とぐるだ)。プーチンの指摘どおり、米覇権体制はすでに不可逆的に終わっている。ウソや誇張ばかり流すマスコミやジャーナリズムを軽信する米国側の大半の人々は、この現状を知らないまま全体的に貧しくなっていく。
●4勢力が暗闘するロシア大統領府 プーチン大統領降ろし≠フ策謀 6/21
ウクライナ侵攻は東部戦線で膠着(こうちゃく)し、経済の先行きも不透明なロシア。こうした事態を招いたウラジーミル・プーチン大統領を引きずり下ろす策謀がクレムリン(大統領府)内外でひそかに進められている。「穏健派」や「急進派」「野党・反体制派」に加え、プーチン氏も禅譲による「院政」を狙うなど、「ポスト・プーチン」に向けて4つの勢力が暗闘を繰り広げているようだ。
国営タス通信は14日、「反プーチン」急先鋒(せんぽう)の運動家で、モスクワ近郊で服役中だったアレクセイ・ナワリヌイ氏が厳重な警備の別の収容施設に移送されたと伝えた。
「政権の焦りがみえる」と話すのは、ロシア政治に詳しい筑波大名誉教授の中村逸郎氏だ。
プーチン氏の健康不安説も消えないなか、露独立系メディア「メドゥーザ」はクレムリン幹部らが後継者候補についてひそかに協議しているとし、3人の大物の名前を報じている。
その1人がセルゲイ・キリエンコ大統領府第1副長官。ボリス・エリツィン政権時代、最年少の35歳で首相に就任して話題になった。
もう1人が元首相で、2008年から12年にかけてプーチン氏が首相を務めた際に大統領だったドミトリー・メドベージェフ氏だ。
08〜10年に副首相を務めた現モスクワ市長のセルゲイ・ソビャニン氏の名前も浮上する。
中村氏は「キリエンコ氏は、西側の制裁による国家財政や生活水準の悪化を懸念する文章をメディアに出して削除されたとの情報もある。プーチン気取りのメドベージェフ氏より、キリエンコ氏が頭角を現せば、欧米的なリベラルに近い政権になるかもしれない」と指摘する。
こうした「穏健派」に対し、「急進派」の動きもある。ウクライナ国防省情報総局はフェイスブックで3月、「反プーチン」のビジネスや政治エリートが、連邦保安局(FSB)のアレクサンドル・ボルトニコフ長官をプーチン氏の後継者と考えていると発信した。
「クレムリンの内政担当者も、当初、侵攻に反対していたとされるボルトニコフ氏を推す向きがあるとの情報もある。国内秩序を引き締め、空気を一変させるシロビキ(治安・諜報機関出身者)待望論だ」と中村氏は解説する。
プーチン氏自身が後継を指名するとの見方もある。出所不明のテレグラムチャンネル「General SVR」は、今月上旬にクレムリンで政権移譲に関する話し合いが行われ、プーチン氏が24年の大統領選を前倒しし、ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記の息子、ドミトリー・パトルシェフ農相を支持するとの情報を公表した。
5月9日の戦勝記念日ではプーチン氏がオリガルヒ(新興財閥)の子息でクレムリンの幹部職員、ドミトリー・コバリョフ氏と親しげに会話する映像も憶測を呼んだ。
前出の中村氏は「穏健派と急進派の台頭で埋没を恐れるプーチン氏は、院政を敷くため後継者指名をしようとしている。農相は存在感が薄く、コバリョフ氏が有力ではないか」とみる。
野党や反体制派ではナワリヌイ氏のほか、元首相のミハイル・カシヤノフ氏らがウクライナ侵攻を批判している。
中村氏は「求心力のあるナワリヌイ氏を脱獄させる動きが出てくる可能性もある。今後は、野党も反戦を旗印に大同団結して、国民的運動につながる可能性もゼロではない」との見方を示した。
●ロシア国民を待つ生き地獄。プーチンの「長期的敗北」が不可避なワケ 6/21
依然として激しい戦いが続くウクライナ紛争ですが、たとえプーチン大統領がこの戦争で勝利を収めたとしても、「戦略的敗北」を喫することは間違いないようです。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、「戦略的敗北」という言葉が指す意味を具体例を上げ解説。その上で、ナポレオンやヒトラーと同じタイプの指導者であるプーチン大統領が、戦略的敗北から逃れることができない理由を明らかにしています。
プーチンは【戦術的勝利】でも【戦略的敗北】は【不可避】とはどういう意味ですか?
私は、ロシア軍がウクライナに侵攻する前から、同じことを書きつづけています。
「ロシア軍は、ウクライナでの戦闘に勝つかもしれないし、負けるかもしれない。たとえ戦闘に勝っても、地獄の制裁はつづいていくので、ロシア経済はボロボロになっていく。プーチンの【戦略的敗北】は【不可避】だ」
たとえば、ウクライナ侵攻の8日前(2月16日)に出た現代ビジネスの見出しは、
全ロシア将校協会が「プーチン辞任」を要求…!キエフ制圧でも【戦略的敗北は避けられない】
です。これについて「戦略的敗北とはどういう意味ですか?」とよく質問されます。
たとえば2014年3月、ロシアは、ウクライナからクリミアをサクッと奪いました。ほぼ無血です。これは、プーチンにとって、あざやかな【戦術的勝利】でした。
ところがその結果、欧米日から、経済制裁を科された。その結果、ロシア経済は、まったく成長しなくなったのです。
プーチンの1期目2期目、つまり2000年から08年まで、ロシアは、年平均7%の成長をつづける急成長国家でした。当時プーチンは、「ルーブルを世界通貨にする!」と増長していたのです。
ところがクリミアを併合した2014年から2020年まで、ロシアのGDP成長率は、たったの0.38%になった。これが【戦略的敗北】の意味です。
こういっても、あまり理解されないので、もう少し詳しくお話しましょう。
大戦略、軍事戦略、作戦、戦術
神が日本に遣わした「再臨の諸葛孔明」といえば、世界有数の戦略家、地政学者奥山真司先生です。奥山先生は、なんと「世界一の戦略家」エドワード・ルトワックと温泉に行き、世界の未来を語り合える仲なのです。そんな奥山先生は、「戦略の階層」という話をずっとされています。
戦略の階層はピラミッド型になっている。上から、
   •世界観
   •政策
   •大戦略
   •軍事戦略
   •作戦
   •戦術
   •技術
と7つの階層になっています。これだけ見てもよくわかりませんね。たとえば、日露戦争のことを考えてみましょう。「日露戦争で、どうやってロシア軍に勝とうか?」これは、軍事戦略です。
ところが、日露戦争にも、
   •黄海会戦
   •遼陽会戦
   •旅順の戦い
   •奉天会戦
   •日本海海戦
など、いろいろな戦いがあります。たとえば、「日本海海戦でどうやってロシア軍に勝とうか?」と考える。これは、「作戦」レベルの話です。
そして、個々の戦闘で「どう勝とうか」というのは「戦術」レベルです。
さらに、「兵器の強さ」「兵士の強さ」などは「技術」レベル。たとえば、ウクライナ戦争では、「軍事用ドローン」や「携帯式対戦車ミサイル・ジャベリン」「携帯式地対空ミサイル・スティンガー」などが活躍していますが、これは「技術レベル」の話。
ここまでは、ご理解いただけたでしょう。
では、「大戦略レベル」とは何でしょうか?
軍事戦略は基本、軍隊の話です。しかし、大戦略になると、政治、外交、経済などもかかわってきます。
日露戦争なら、「同盟国イギリス、そしてアメリカと組んでロシアと戦う」のが、基本的な大戦略になります。そして、「軍資金は、イギリス、アメリカから調達する」というのも、大戦略の一環でしょう。
では、一番上の「世界観」とは何でしょうか?
たとえば、キリスト教徒の人たちは、「アダムとイブが創造主に逆らって堕落し、原罪を背負った。しかし、救世主イエス・キリストが現れ救いの道を開いてくださった」という「世界観」を持っています。
共産主義者の人たちは、「私有財産がうまれたことで、貧富の差がうまれ、貧富の差がうまれたことで階級がうまれた。人類歴史は、階級闘争の歴史だ。そして、階級闘争の最終段階で、労働者は資本家を打倒し、万人平等の豊かな世界を創る」という「世界観」を持っています。
たとえば、バイデンの世界観は、「民主主義」です。一方、プーチンの世界観は、「民族主義」です。
バイデンは、ロシア―ウクライナ戦争を、「善の自由民主主義勢力 対 悪の独裁者の戦い」と位置づけている。それで、ウクライナを支援する国は多く、ロシアを支援する国は少ないのです。
ロシア支持を明言している国は、北朝鮮、ベラルーシ、シリア、エリトリアしかいません。中国やインドは、正常な貿易関係をつづけていますが、立場は「中立」です。
プーチンの建前は、「ロシアの利益」です。一方ゼレンスキーの建前は、「世界の自由と民主主義を守っている」です。どっちが支持を得られるかは明らかでしょう。プーチンは、「世界観レベル」でゼレンスキーに負けているのです。
では、2番目の「政策」とは何でしょうか?
たとえば、「民主主義」とは、「国民に主権がある」という意味です。独裁国家が民主主義に移行するためには、何が必要でしょうか?
   •自由で公正な普通選挙
   •言論の自由
   •信教の自由
   •結社の自由
などが必要でしょう。ところで、言論の自由は「世界観」ではないですね。「民主主義」という世界観を実現するための「政策」です。
というわけで、私なりに、世界観、政策、大戦略、軍事戦略、作戦、戦術、技術についてお話させていただきました。
はっきりいえば、プーチンは【戦術的大統領】です。それで、進めば進むほど孤立して厳しくなっていく。ナポレオンやヒトラーと同じタイプの指導者でしょう。
こんな視点からも、プーチンの長期的敗北は不可避なのです。
●プーチン氏、民主主義恐れる 独首相 6/21
ドイツのショルツ首相は、ロシアのプーチン大統領は民主主義を恐れていると述べた。
独紙ミュンヘナー・メルクーアとのインタビュー内容を政府が20日、公開した。ウクライナの欧州連合(EU)への接近をプーチン氏は許すと思うかと問われて答えた。
ショルツ氏は「自らの近隣国には法に基づく民主主義社会が存在することをロシアの大統領は認めなければならない。こうした近隣国は今、かつてないほど結束を固めている」と指摘した。さらに「(プーチン氏は)明らかに民主主義の火花が自国内に広がるのを恐れている」と語った。 

 

●ウクライナEU加盟、ロシアが「容認」表明した理由  6/22
欧州連合(EU)主要国であるフランス、ドイツ、イタリアは、一言でいえばウクライナの戦争長期化で追い詰められている。とくに戦争終結後のロシアとの関係を危惧するフランスとドイツは、ウクライナ支持を鮮明にした場合のロシアとの関係悪化を避けたい理由から、ロシアのプーチン大統領の怒りを買わないスレスレのところで軍事支援を行ってきた。だが、もはやその姿勢は限界に達し、ウクライナ支援の本気度が試されている。
欧州主要国の首脳が相次いでウクライナを訪問したワケ
EUの欧州委員会のフォンデライエン委員長が6月11日、ウクライナの首都キーウを電撃訪問した。欧州議会のメツォラ議長もフォンデライエン氏のキーウ訪問の前日、「(欧州議会は)ウクライナのEU加盟候補国としての申請を強く支持する」と述べた。
さらに16日にはEU主要国のフランス、ドイツ、イタリアに加え、ルーマニアの首脳がウクライナを訪問し、さらなる武器供与とウクライナをEU加盟候補国に認定することを支持した。翌17日には急遽予定を変更したイギリスのジョンソン首相が、キーウに2度目の訪問。イギリスがウクライナ兵士の訓練プログラムを提供すると約束した。
EUおよび欧州各国のこうした動きは、6月23〜24日の欧州理事会(EU首脳会議)、6月29〜30日の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の下準備であるのは明らかで、ウクライナのEU取り込みと欧州安全保障政策の新方針を話し合う土台作りともいえる。
ロシアがウクライナに侵攻した2月24日以降、フランスのマクロン大統領が「ロシアを過度に追い詰めるべきではない」と発言するなど、とくにドイツ、フランスから、ウクライナのゼレンスキー大統領が不信感を持つ言動が発せられてきた。
ドイツのショルツ首相は当初、ウクライナへの武器供与に関して、兵士が使用するヘルメットだけ供給し、戦車などの重火器の供給を拒んだため、批判を浴びた。その後は古びた兵器を小出しにし、しかも迅速とはいえないスピードで供給してきた。
6月16日にフランス、ドイツ、イタリア、ルーマニアの首脳がウクライナを訪問したとき、ショルツ氏は「継続的支援」を約束したが、ドイツ国内の与党議員からも「遅すぎる決断」との批判を受けた。
ドイツとロシアの深い関係
そもそもフランス、ドイツはウクライナが切望するEU加盟についても否定的で、ロシアとの関係重視のためにウクライナやモルドバを緩衝地帯とする考えを維持した経緯もあった。フランス、ドイツの反応の鈍さに、対ウクライナ強硬派のイギリスからは「ドイツは西側の仲間とはいえない」とまで批判された。
無論、ドイツは第2次世界大戦以降、外国の戦地に武器供与しない政策をとり、NATO軍への参加が主で、単独でウクライナに武器供与するのは新しい状況だったのは確かだ。ただ見方を変えると、この70年以上続く外交、防衛政策は、ドイツを平和ボケに追いやったともいえる。
実はドイツには約350万人ものロシア系住民が住んでいる。東西冷戦末期にはドイツは国外脱出をめざすロシア人にとって最も魅力的な移民先だった。また、ロシアには200万人以上のドイツ系住民がいて、過去の長く複雑な歴史と冷戦後の経済依存度の深さから、ドイツの政財界はロシアのドイツ移民と深くつながっている。
ドイツのシュレーダー元首相は、ロシア国営石油大手ロスネフチの取締役で、ドイツ、ロシアのズブズブの関係の象徴的存在だった。
フランス、ドイツ、イタリアの首脳が、ゼレンスキー氏の目の前で、EU加盟候補国認定の支持表明を行ったことは、EUの覚悟を示す場となった。フランス、ドイツ、イタリアの方針転換で流れが変わりそうだが、プーチン氏は意外な反応を示した。
プーチン氏は17日、サンクトペテルブルクで開催中の国際経済フォーラムの席上、EUについては「NATOのような軍事同盟ではない」とし、ウクライナのEU加盟について「反対しない」と容認する考えを示した。
一方で、ウクライナがEU加盟国になればEUの補助金に頼る西側諸国の情けない「半植民地になる」と皮肉な見方も示した。
プーチン氏が考えていることとは?
実はプーチン氏は今月9日のモスクワで開かれた若者との対話集会で「主権を持たない国」は「厳しい地政学的争いの中で生き残ることはできない」との認識を示した。
この発言は、国が独自の強力な軍事力、経済力を持つ主権国家でなければ地政学的争いには勝てないというプーチン氏の世界観を示しており、念頭にあるのはアメリカと中国だ。
その意味でウクライナがEU加盟国になったとしても、それは政治同盟であって軍事的脅威にはなりえないということを明確にした。ただし、アメリカが主導するNATOに加盟することはプーチン氏には脅威でしかない。
それにトルコがEU加盟候補国のまま23年も経つことから、トルコ加盟よりウクライナ加盟が先に承認されることはありえないという読みがプーチン氏にはあるとも考えられる。EUの加盟承認は「加盟国の全会一致」というハードルがあり、ロシア寄りのハンガリーやオランダ、デンマークが難色を示す可能性はすでに指摘されている。
そこで注目を集めているのが、マクロン氏が提唱している「欧州政治共同体」構想だ。これはEUから離脱したイギリスを含め、ウクライナやジョージア、モルドバ、西バルカン諸国、さらにグリーンランドなど、自由と民主主義、人権の価値観を共有する国々が、政治や経済面などで協力する共同体を構築する提案だ。
メリットはウクライナなどのEU加盟承認に時間を費やすのに対して、同共同体参加のハードルが低く設定されていること。アメリカの干渉を嫌い、EUを舞台にリーダーシップを発揮したいマクロン氏は、イギリスを含む欧州の外交、防衛、エネルギーと食の安全保障の大転換で主役となることを目指している。イタリアのドラギ首相もウクライナ参加の念頭に、同構想の進展に期待感を示した。ただし、アメリカは当然反発している。
EUが一枚岩にならなければ、ロシア勝利を阻止できない
ロシアがウクライナで目的を達成するまで諦めない姿勢を見せている今、同じ欧州で自由と民主主義の価値観を共有するEUは、その真価が問われている。EUが1つの主権国家並みに一枚岩にならなければ、プーチン氏が指摘する強力な主権国家の勝利を阻止することはできない。
だがEUはもともと煩雑な手続きが必要な法と民主的手続きによる統合を進めてきたため、意思決定は容易ではない。エネルギーや食の危機で物価が高騰し、生活を圧迫される欧州市民を前に、「今は戦時の経済体制」(マクロン氏)と説得しても納得を得るのは難しい。
その間にも戦争の足音が欧州に迫っており、毎日、国民が命を落としているウクライナのゼレンスキー氏との温度差が、いまだに指摘されている。今度のEUおよびNATO首脳会議で、どこまで具体的な方針を打ち出せるのかが注目される。
ちなみにウクライナへの西側からの武器供給について、ウクライナのマリャル国防次官は6月14日、「ロシアの侵攻に対抗するため西側諸国に供与を要請した武器は、これまでに約10%しか届いていない」と語った。武器の入手が遅れれば遅れるほど、ウクライナが払う犠牲は大きくなる。ウクライナの西側への不信感をぬぐうためには、迅速な重火器供与やウクライナ兵士の訓練が必須と見られる。
●消耗戦、双方で士気低下 ウクライナにも脱走兵 6/22
ロシア軍のウクライナ侵攻は東部ドンバス地方を中心に多数の死傷者を伴う消耗戦となり、双方の軍で士気が低下している。ロシア軍は指揮や補給の混乱などを背景に、侵攻開始当初からの戦意低迷が続く。ウクライナ側も「武器」だった高い士気に疲弊が生じ、兵士の任務放棄、脱走が伝えられている。
英国防省の19日の報告によると、ロシア軍の士気低下はとりわけ深刻だ。部隊の兵士全員が指揮官の命令を拒否したり、将校と兵士とが互いに武器を向けて対立したりするケースが継続的に起きている。
国防省は、乏しいリーダーシップや戦闘任務の交代不足、戦闘のストレスなどが原因と分析。「多くのロシア兵は階級を問わず、戦争の目的について混乱したままのようだ」とも述べた。ロシアが侵攻を「戦争」ではなく「特別軍事作戦」と位置付けていることも、兵士の任務放棄などを法的に抑えにくくしているようだ。
ウクライナ軍への影響も目立ち始めた。ポドリャク大統領府顧問は最近、英BBC放送に、1日の兵士の死者が最大200人に上ると指摘した。
英紙インディペンデントは既に今月上旬、ウクライナと西側情報当局がまとめた報告として、ドンバス地方での戦況悪化がウクライナ軍に深刻な士気の低下を招き、「兵士の任務放棄、脱走が週を追って増えている」と報じていた。疲弊はとりわけ、ウクライナ正規軍と異なり戦闘経験に乏しい抵抗組織の「領土防衛隊」に目立つとされる。
報道によれば、ウクライナ最高会議(議会)に5月、命令に背いた兵士に対する懲罰強化の権限を現地司令官に与えるための法案が提出されたが、否決されている。
●ロシアは報復警告、飛び地への物資輸送をEUが阻止−プーチン氏側近 6/22
ロシアの飛び地、カリーニングラード州への制裁対象物資の輸送をリトアニアが阻止し、ロシアと欧州連合(EU)の対立が深刻化している。プーチン大統領の側近であるパトルシェフ安全保障会議書記は、報復措置をとると警告した。
同州を訪問したパトルシェフ氏は21日、国営テレビに対し、ロシアが「このような敵対行為に対処するのは間違いない」と述べ、近く適切な措置をとると発言。「リトアニア市民には深刻な悪影響があるだろう」と続けた。
ロシア外務省はマルクス・エデラー駐ロシアEU大使を召喚し、「強い抗議」を伝えるとともにカリーニングラード州へのEU領内通過を即時回復させるよう要求した。同州は北大西洋条約機構(NATO)加盟国でもあるリトアニアとポーランドに挟まれ、ロシア本土と陸路ではつながっていない。EUはエデラー大使の召喚について、大使は措置を説明するため自ら外務省に出向いたと主張している。
カリーニングラード州の現地当局によると、EUの制裁が先週発動し、リトアニアを通過して鉄道で同州に流入する物資の半分が影響を受けている。空路や海路による物資流入は続いているという。
パトルシェフ氏はロシアが検討している具体的な措置については示唆しなかった。軍事的報復はNATOと直接対決することになるリスクがある上に、カリーニングラード州が封鎖されているわけではないことから、可能性は低いとみられる。リトアニアはウクライナ侵攻を巡ってロシアへの電力依存を引き下げ、5月にはカリーニングラード州からの電力輸入を停止。4月にはロシア産ガスの輸入をゼロにすると発表していた。
リトアニアの物資輸送阻止はEUの制裁に沿った措置。EUで3月に成立した合意に基づいて来月には対象品目が拡大し、セメントなども含まれる。
●食料危機で「情報戦」激化 EU、ロシア同調の声に焦りも―ウクライナ 6/22
ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的な食料危機をめぐり「情報戦」が激化している。ロシアは米欧の対ロ制裁が危機悪化の要因だと主張。これに対して欧州連合(EU)はプロパガンダだと反論するが、影響が深刻なアフリカからはロシアに同調する声も出ており、EU側には焦りの様子も見られる。
「真の戦争犯罪だ」。ボレル外交安全保障上級代表(外相)は20日、ロシアが大量のウクライナ産穀物の出荷を阻止し、アフリカなどに飢えを生み出しているとして強く非難した。一方、EUの対ロ制裁はロシアから第三国への食料や肥料輸出は禁じておらず、危機の責任はないと説明する書簡をアフリカ各国に送ったと明らかにした。
EUが特に懸念を深めたのは、今月初めに行われたアフリカ連合(AU)議長国セネガルのサル大統領とロシアのプーチン大統領との会談がきっかけだ。サル氏は、欧米の制裁でロシア産穀物がアフリカに届かなくなり、「状況を悪化させた」と発言。穀物や肥料を制裁対象から外すべきだとの立場を示した。ロシアの主張をうのみにしたような認識にEUでは戸惑いが広がった。
ボレル氏は「問題を生み出しておいて他人を非難するのが、ロシアのプロパガンダの典型的な戦略だ」と指摘。情報操作に対抗する必要性を認めている。
プーチン氏はサル氏にウクライナ産穀物の輸出支援を約束したとされるが、ロシアが黒海の輸送ルート封鎖を解除する気配はない。米欧が模索する陸路輸送も難航しているのが現状だ。
また食料不足には、ロシアとの取引を自主規制する金融機関や企業の動きも背景にあるとみられる。ボレル氏は金融機関などに説明を尽くす考えを示したが、解決が遅れれば米欧批判が一段と高まる恐れもある。 
●「恐怖を克服し戦争反対を訴え続ける」― ロシア国内で戦い続けるブロガー 6/22
3月18日にモスクワで行われた、10万人規模集会「クリミア併合記念コンサート」での熱狂した若い観客の姿や、5月9日の戦勝記念日で、一糸乱れずに「万歳!」と叫ぶ国家親衛隊の姿が強く焼き付いていて、モスクワでは「特別軍事行動」が圧倒的に支持されているような印象がある。
しかし国内にとどまって「戦争反対」を発信し続けるブロガー、イリヤ・ヤーシン氏の観察によれば、2014年のクリミア併合の時のような熱狂や興奮は、今のモスクワには感じられないという。
その一方でロシア当局の戦争反対運動への取り締まりは以前に増して過酷になってきていて、その恐怖感から、市民は行動に出られないのだと指摘する。
ヤーシン氏自身、多くの「反プーチン」集会の仕掛け人として活動してきたが、日々繰り返されるロシア政府のプロパガンダと厳しい取り締まりに直面する苦悩を、ブログや
YouTubeで発信し続けている。(彼のYouTubeチャンネルには129万件の登録者がいる)
モスクワに残って戦争反対を言い続けることの恐怖心を吐露しながら、声を上げ続けることが自分にとっての「戦い」なのだというヤーシン氏。
6月15日のネットチャンネル”ラトィニナTV”でのインタビューをまとめた。
行動すればプーチンは「市民に実弾を使うだろう」
「わたしは学者でもないし、専門家でもない。ただモスクワに住み、町を歩き、地下鉄やバスで店に行って普通の人たちと話をするだけだが、主観的な感想としては、戦争を支持する空気は全く見えない。この4カ月で『Z』を掲げたクルマは2、30台しか見かけなかったし、『Z』マークのタンクトップを着た人も2,3人しか見なかった。毎日町を歩いていてこの程度だ。
もちろん役所や企業は別だ。うちのアパートの近くに鉄道省の建物があるが、暗くなると窓に大きな『Z』の文字がライトアップされる。戦争支持の垂れ幕がさがっている役所もある。でもこれは行政の決め事だ。
クリミアを併合した2014年は、モスクワ中が沸き立っていた。クルマの3台に1台はオレンジと黒のストライプのゲオルギー・リボン(ロシアの戦勝を象徴するリボン)をつけていたし、『クリミアは我々のものだ』という手書きのステッカーもあった。現在のモスクワにはそういったものはまったくない。興奮がない。実際、目に見える形では戦争への支持は感じられない。」
その一方でヤーシン氏は、戦争が始まった当初に見られた都市部での反戦集会や「戦争反対」のアピールなどが姿を消していることも事実だと言う。その背景には過酷さを増したロシア当局の取り締まりに対する恐怖心があるのだ、と強調する。
「それは当然だ。デモに出れば警棒で殴られるし、拘留される。みんな怖くなったのだ。法を犯して留置所に入れられるのではないかと心配なのだ。だからと言って、モスクワの住民の多くが戦争を支持しているのか、というと違う。
ウクライナ人はよく、自分たちは2014年のマイダン革命でヤヌコビッチ大統領を引きずりおろしたし、はるかに決然と行動した、ロシア人は抵抗もしない、もっと過激に行動すればいいのに・・・と言ってわれわれを非難する。でも考えてみて欲しい。ヤヌコビッチとプーチンを比較することはお笑い草だ。ヤヌコビッチは市民を撃つ決心はつかなかったが、プーチンが市民に対して実弾を使わないと考えるなら、それは幻想にすぎない。ロシア人が怖がっているのは事実だ。」
西側諸国の「戦争疲れ」が心配だ
戦争の開始から4カ月が経ち、西側諸国のウクライナ支援の声が徐々に「戦争疲れ」の様相を見せ始めていることを危惧しているというヤーシン氏は、プーチン大統領への譲歩は西側にとって最大の脅威につながる、と警鐘を鳴らし続けている。
「人間の心理は何にでも慣れてしまう。戦争が始まって4カ月経ち、いまは主戦場がウクライナ東部のドンバス地方だ。そうなると、西側諸国の選挙民にとっては、『第三次大戦が始まりかねない。プーチンが核のボタンを押す可能性がある。それをみんなでとめよう!』という呼びかけは意味をなさない。
西側の選挙民たちが徹底的にウクライナを支持しようと強い気持ちになっているとは思えない。西側の政治家も市民もこの戦争に疲れたのだ。この複雑な問題をもっと単純に解決できないか、と考え始めている。現在、欧州各国の経済は悪化している。だが、プーチンに譲歩すればするほど、欧州の安全保障や経済的安定は脅かされることになるだろう。」
プーチン大統領周辺の滑稽な出世争い
ヤーシン氏は、アレクセイ・ナワリヌイ氏の支援活動を続けている。プーチン大統領をはじめとするロシア政財界の汚職と不正を暴き、クレムリンによる毒殺未遂にあいながらも2021年1月モスクワに戻って逮捕され、今は獄中にいる反体制政治家だ。
ヤーシン氏の指摘するプーチン独裁の仕組みは、この政権だけでなく、腐敗していくあらゆる権力の仕組みの本質を突くものだ。
「独裁の本質は、20年も権力の座についていれば、その権力者の周りには、反対したり失敗を指摘したり、その決定がもたらすかもしれない最悪の結果について事前に助言する人など残るわけがないということだ。権威主義的リーダーが20年も権力を維持していれば、まわりに残るのはすべてにおいて同じ意見で首を縦に振る人間か、権力者の決定を誉める人しかいなくなる。そうなると決定の仕組みが意味を失う。なぜならば、決定が批判されないということは、その最悪の結果について考えを巡らすことができなくなるからだ。
今回の電撃作戦が失敗したのもそのためだ。プーチンは、フェイクなウクライナという国のフェイクな軍隊など2,3日で何とかできると思ったのだろう。そしてみんな『うんうん』と首を縦に振った。そうしたら現実にぶちあたった。
ロシア政界で成功する唯一の方法は、徹底的に権力者に忠誠を尽くすこと、プーチン以上にプーチンになることだ。プーチンが何を望んでいるのかを忖度し、プーチンが憎んでいる人びとがいるのなら、その人たちをプーチン以上に激しく憎む。もしプーチンがあるアイデアを好んでいるのなら、そのアイデアにとことんのめりこみ、声を大にして宣伝する。プーチン自身よりもプーチンにならなければならないのだ。プーチンの周囲の人びとが『誰が一番プーチンか』を競い合う。笑えるが、これが出世の方法だ。
普通の人間ならこういう競争は軽蔑するだろうが、プーチンは20年間権力の座にいた結果、自分に反対する人間をひとりも容赦しなかったし、自分に近くなる人間を意識的に引き上げてきたのだ。」
戦艦「モスクワ」で死亡した兵士の父は・・・
では、ロシア国内に、モスクワに残って何ができるのか、何をするつもりなのか。ヤーシン氏はこう答えた。
「批判的な大衆世論を作り出すことがきわめて重要だ。『戦争に反対するのは一握りのごく少数、大多数は軍国主義者で戦争支持者』というのは、そう思い込まされているだけで、一人一人が自分の近しい人とチャットで意見を交換するなりして、居心地のいい言論空間を作り出すことが大切だ。そして手元にあるコミュニケーション手段を何でもいいから使って情報を交換し合って拡散することだ。
いまのロシアの問題は、ゾンビ化を目的とするメディアが独占的に世論を操作していることだ。だからオールタナティブ(別の選択肢がある状態)なメカニズムを作る必要がある。
ジャーナリストはみんなユーチューバーになったが、これはテレビとの戦いなのだ。もしこの情報戦で負けさえしなければ、ロシアにも未来がある。なにしろオールタナティブな情報を拡散する方法を獲得することだ。
沈没した戦艦「モスクワ」に乗っていたある兵士の父がいる。この父親は戦争当初は熱烈な戦争支持者だった。『退却するな。攻撃だ』という人だった。息子が戦死するまでは。
戦争が自分の生活や運命に直接関わってこないうちは、戦争を論じることも、熱中することも簡単だ。テレビの中だけで自分に悲劇が起きないうちは。ただ戦争が自分の家に入ってきて、自分自身や近しい人に及んできた途端、みんな目が開かれる。近しい人を失うことは恐ろしいことだ。」
戦争反対の声をモスクワで響かせることが大切なのだ
ヤーシン氏は、恐怖心と闘いながらも、モスクワに残って戦争反対のブログを更新し続ける気持ちを、こう語った。
「もちろん外国へ出ようかとも思った。何度も仲間や家族と話し合った。でも残ることに決めた。簡単な決断ではなかった。友人もたくさん逮捕された。市議会の知り合いの議員は、『軍事侵攻』が進行中なのだから、市の祭りは延期したほうがいいと発言し、収監された。
もう1カ月も、4人部屋に6人で押し込まれている。でもわたしにとって、祖国はただその名前だけではない。
プーチンの反対派だった有力政治家ネムツォフが射殺され、ナワリヌイが毒物で殺されかけて、それでもロシアに戻ってきて、そして逮捕されて――そうしたことの後では、誰かがロシアに残らなければならない、と思った。戦争反対の声をモスクワで響かせることが大切なのだ。
いつ口をふさがれるかはわからない。でもモスクワから戦争反対の声を上げられる限りは、その可能性を利用したい。残っていて何か得になることがあるのか、とよく聞かれる。でもこれは心の決断、信念の問題だと思う。もし外国に出ると、自分が心理的にキツイだろうと思うのだ。リスクは伴うけれど、自分の祖国、自分の故郷にいるほうが、正常でいられると感じられるのだ。
ここに残っていると、自分のブログを見てくれる人がいることに勇気をもらえる。政治団体や臨時政府は海外に持っていけるだろうが、ロシア全部を海外に持ち出すことはできない。ここはわたしたちの大地だし家だ。ここに残って恐怖を克服しながら戦争反対を表明すること自体が、わたしにとっての『戦い』なのだ。」
●「ロシア正教会は戦争に反対すべき」在米ウクライナ正教会の神父の嘆き 6/22
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、米東部メリーランド州にある聖アンドリュー・ウクライナ正教会大聖堂は「人道センター」を立ち上げ、同国への大規模な支援活動を始めた。ウォロディミル・ステリアック神父(47)は「神職に就いて27年でさまざまなことを見聞きしてきたが、今回の侵攻は受け入れがたく、本当につらい」と語り、侵攻を容認するロシア正教会を批判した。
24時間扉を開け放ち…祈り、行動
ステリアック氏はウクライナ出身で、1997年に渡米し2001年から大聖堂に勤める。信徒にもウクライナからの移民が多く、ロシアによる侵攻開始直後は「砲弾が落ちてきている所にいる知り合いに電話して、助けようと思っても何もできず、みんな混乱していた」と振り返る。祈りをささげに足を運ぶ人が後を絶たず、ドアは24時間開け放ち、寝る間を惜しんで対応してきた。
食品や衣類、日用品などを持ち寄る人も多く、ウクライナに送ろうと箱に詰め始めた。現金の寄付も多く、ドアに山のように花束が積まれていたこともある。教会内に「人道センター」を立ち上げて組織的に対応し始め、4月には集まった寄付金で救急車4台を購入し輸送。バイデン大統領から同24日付で「並外れた団結と決意に感謝をささげる」との手紙も届いた。
教会には今もボランティアが常駐し、昼夜を問わず届く物品を整理し梱包こんぽうしている。企業からの大規模な寄付も増え、医薬品や救急セットなどさまざまな物資がやってくる。5月上旬までに、大型コンテナで15個分、重さにして200トン分の物資を発送。ウクライナ国内の信徒たちから、交流サイト(SNS)を通じて到着と感謝の知らせが届く。
「私は侵攻により人間の最悪の部分を見たが、同時に最高の部分も見た」と、ウクライナ支援のために人々が「団結できた」と希望をつなぐ。
プーチン氏と親しい総主教が侵攻を擁護
しかし、ロシアによる侵攻は、許す気持ちになれない。
ステリアック氏は米空軍付の神父も務めており、戦争が起きることは理解し「自国民や自国の軍隊のために祈るという文脈があることも分かる」と言う。だが、ロシア軍はウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで多くの市民を虐殺したり女性を暴行したりするなど数々の暴虐が疑われており「単なる戦争ではなく、極悪非道な侵略だ」と強調した。
怒りは、侵攻を擁護したロシア正教会にも向く。同正教会トップのキリル総主教はプーチン・ロシア大統領と親しく、ウクライナへの侵攻を支持。AFP通信によると、侵攻開始後に「国内外の敵」と戦うため結集するよう信徒に呼びかけたという。このため、ウクライナ正教会との対立は深まっている。
「これはキリスト教が目指すものではない。ロシア正教会の幹部たちは、本当にキリスト教の指導者なのか」。教区や大聖堂の維持管理を担う評議会のタマラ・ウォロビー議長(65)は憤りを隠さない。「宗教指導者は模範を示すべきで、ロシア正教会のリーダーたちは戦争に反対すべきだ」
ステリアック氏は「本来、一つ一つの命は非常に貴重で価値がある」と説き、「ロシアの指導層の考え方は数百年遅れていて、命に価値がないと考える野蛮な時代にいる」と批判した。

ウクライナ正教会 / 「正教会」はキリスト教の宗派のひとつ。西欧や米大陸に普及したカトリック教会やプロテスタント教会に対し、ギリシャや東欧などに普及し「東方正教会」とも呼ばれる。ロシアなど各国や地域に組織を持ち、ウクライナ正教会はそのひとつ。同正教会の中にはロシア正教会とつながりのある組織もあったが、侵攻開始後に絶縁を宣言した。
●米国、ロシア戦争犯罪追及の専門家チーム発足 6/22
ガーランド米司法長官がウクライナを訪れて同国のベネディクトワ検事総長と会談し、ロシア軍の戦争犯罪を追及する専門家チームを立ち上げたと明かすとともに、ウクライナに幅広い法的支援を約束した。一方、ロシアのペスコフ大統領報道官は、ウクライナ側の戦闘員としてロシア軍に拘束された米国人について、裁判で死刑判決の言い渡しも排除されないとの認識を示した。
米国、ウクライナに幅広い法的支援約束
ガーランド米司法長官は21日、ロシアの侵攻が続くウクライナを訪問し、同国のベネディクトワ検事総長と会談した。米司法省が発表した。ガーランド氏は、同省にロシア軍の戦争犯罪を追及する専門家チームを立ち上げたと明かし、ウクライナに対して証拠収集や科学捜査、訴追などの幅広い法的支援を約束した。
露報道官、米国人戦闘員の死刑も排除せず
ロシアのペスコフ大統領報道官は21日、ウクライナ側の戦闘員としてロシア軍に拘束された米国人男性2人について、「政府は裁判所の決定に干渉できない」と述べ、裁判で死刑判決の言い渡しも排除されないとの認識を記者団に示した。ロシア政府は20日、2人が外国人の雇い兵であり、戦争捕虜などの権利を定めるジュネーブ条約の対象外だと説明した。
ウクライナ、EU加盟の候補国入りの公算大
欧州連合(EU)は21日、欧州問題担当相会合を開き、ウクライナのEU加盟問題を協議。フランスのボーヌ欧州問題担当相は会合終了後の記者会見で、ウクライナを加盟候補国として承認することに「全加盟国の同意があった」と語った。23、24日のEU首脳会議で候補国として認められる公算が大きくなった。
露軍が北東部ハリコフ州で攻撃強化
ウクライナ北東部ハリコフ州のシネグボフ知事は21日、ロシア軍の砲撃によって少なくとも州内の市民15人が死亡したと明らかにした。ハリコフ州では先月、ウクライナ軍が一部で露軍を国境付近まで押し戻すなど攻勢が続いていたが、露軍が再び攻撃を強化した。
●ロシアのウクライナ侵攻の影響… コンブ漁 例年より3週間遅れで解禁 6/22
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で、大幅に遅れていた北方領土・貝殻島周辺のコンブ漁が6月22日から始まりました。午前6時ごろ大勢の人が旗を振って見送る中、220隻の漁船が根室市の港を出発。目指すのは約3.7km先の貝殻島周辺の漁場です。
歯舞漁協 小倉啓一組合長「安堵します。本当に嬉しいです。今年は特別な意味で嬉しいです」
コンブ漁は例年6月1日に解禁されていましたが、2022年はロシアのウクライナ侵攻の影響で3週間遅れました。コンブの量は少ないということです。貝殻島周辺のコンブ漁の操業期間は2021年と同じ9月30日までです。
●ウクライナへの国際援助、総額4兆700億円に…国立銀行が公表  6/22
ウクライナ国立銀行は21日、2月のロシア軍侵攻後、国際社会から寄せられた援助総額が約300億ドル(約4兆700億円)に上ると公表した。
このうち外国政府からの借款、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、欧州連合(EU)などからの融資が約70億ドル(約9500億円)だった。低利融資と信用保証が中心で、約3分の1が返済の必要がないとしている。ただ、戦争の長期化で財政事情は悪化しており、財務省は21日、軍事費調達のための「戦時国債」の発行額が1000億フリブニャ(約4600億円)に達したと明らかにした。
●習主席「軍事同盟拡大なら必ず苦境に」…プーチン政権主張を改めて支持  6/22
中国の 習近平シージンピン 国家主席は22日、オンラインで行われた国際フォーラムで、ロシアによるウクライナ侵攻について、「軍事同盟を拡大し、他国の安全を犠牲にして自国の安全を追求すれば、必ず安全保障上の苦境に陥る」と述べた。北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大がロシアの安全保障に脅威をもたらしているとするプーチン露政権の主張を支持する姿勢を改めて示した。
習氏は、米欧などがロシアに対して行う経済制裁についても、「世界経済を政治化する『もろ刃の剣』だ」と批判した。フォーラムは、中露など新興5か国が23日に開くBRICS首脳会議を前に、関連企業の関係者を集めて行われた。
●「蛇島」奪還目指すウクライナ軍、黒海沿岸でロシア軍との攻防激化… 6/22
ウクライナに侵攻しているロシア軍の艦艇が封鎖を続ける黒海沿岸で、露軍とウクライナ軍の攻防が激しくなっている。ウクライナ軍は22日、露軍が占拠している黒海西部のズミイヌイ(蛇)島の奪還に向け攻撃を続けていることを明らかにした。攻防の行方は、黒海の封鎖でウクライナの穀物輸出が停滞している問題にも影響しそうだ。
ズミイヌイ島は穀物の一大輸出拠点であるオデーサ沖にある。露海軍黒海艦隊の防空網の要だった旗艦「モスクワ」が4月中旬に沈没後、露軍の兵器が搬送され、重要拠点として整備された。22日のウクライナ国営通信によると、ウクライナ軍の攻撃で同島にある露軍の防空ミサイルやレーダーなどが破壊された。露国防省は21日、ウクライナ軍が20日朝、オデーサなどから弾道ミサイルなどを発射し、 空挺くうてい 部隊が上陸も試みたが、撃退したと発表した。
20日には、ロシアが2014年に併合した南部クリミア付近の洋上にある石油掘削施設がミサイル攻撃で炎上した。露国防省によると露軍は21日、ウクライナへの報復としてオデーサの軍用飛行場にミサイルを撃ち込んだという。
露国防省は22日、穀物輸出の停滞問題で仲介役を務めるトルコの代表団と21日にモスクワで協議したと発表した。タス通信によると、両国とウクライナ、国連の4者協議が来週にもトルコ・イスタンブールで開催される可能性があるという。
●プーチンのせいで世界中の保守政権が選挙で負けているようだ 日本は? 6/22
内閣支持率下落は凶兆か
週末(6/18、19)のFNN産経の世論調査によると岸田政権の内閣支持率は前月より5.2ポイント下落し63.7%だった。この結果を「5.2Pも下がったから大変」と見るか「まだ60%台だから大丈夫」と見るかは意見の分かれるところだ。同じ期間に調査をした3社も同様の結果となっており、物価上昇が響いたものと見られる。
実はこの週末に世界各国でいくつか行われた選挙の結果に物価高の影響は出ていた。物価高に苦しむ国民が現政権に拒否反応を示し、実現は難しそうなバラマキ政策を打ち出す野党に投票するケースが増えているのだ。
6/19に行われたフランスの下院選挙ではマクロン大統領の与党が大量100議席を失い、過半数割れとなった。最低賃金の大幅アップや消費税の一部廃止などを打ち出した左右両極の政党が躍進し、フランス政治は今後大荒れとなる。
経済危機で格差が拡大している南米コロンビアでは同じ19日、大学の無償化などを訴えた元ゲリラの左翼政治家が大統領に選出された。コロンビアは長く続いた親米保守政権から反米左翼政権に代わる。
日本でもすでに異変が
欧米に比べ物価上昇幅が小さい日本でも異変が起きた。同日に行われた杉並区長選では立憲、共産、れいわ、社民、生活者ネットが推薦する新人女性が現職に辛勝。現職は旧民主出身ながら自公政権に近いと見られていた。
日本では物価高の原因は円安という印象だが、世界ではロシアのウクライナ侵略による資源、エネルギー、食糧の不足が物価高の原因だ。つまり物価高の「諸悪の根源」であるロシアのプーチン大統領のせいで世界中の保守政権が選挙に負けているという事なのだ。7/10投開票の日本の参議院選挙では同じようなことが起こらないのだろうか。
しかし世論調査の結果を見て奇妙なことに気づいた。
内閣支持率下落に伴って「比例投票先」も自民は39.2%から30.1%に9.1ポイントも下落しているのだが、受け皿になるはずの立憲も維新も上がるどころかわずかだが下落しているのだ。自民の下落分はどこに行っているのか探したら、「わからない、言えない」が9P増えていた。なるほど。
つまり物価高に人々は怒り、内閣支持率は下がり、自民に投票しようと思う人が減った。だがその人たちはまだどの政党に入れるかは決めていない、ということらしい。
フランスの教訓に学べ
フランス、コロンビア、杉並区の3つの選挙結果の教訓を考えてみよう。フランスの場合は既成政党の力がこれまでよりさらに弱くなり、左右両極の過激な政策に国民が共感している。コロンビアでは特に経済が深刻なため低所得層だけでなく国民の多くが社会主義的な政策を望んでいる。杉並は、やはり野党が共闘すると強い、ということだ。
世論調査と各国の選挙結果から参院選のポイントも見えてくる。まず既成政党よりはエッジの立った政策を訴える新興政党が人気を得る可能性がある。もう一つは物価高で本当に困っている人たちは誰なのかという事だ。
つまりフランスでもコロンビアでも物価高の影響は国民の広い階層に及んでいるが、日本では物価上昇幅が欧米ほどではないので「物価が高い」と騒ぐ割に本当に困っている人は限られているのではないか。そしてコロナがほぼ収束し、消費や投資に関心のある国民が増えているというのも事実だ。
だから与野党ともにこれから焦点にすべきはまず国民に幅広く行き渡るバラマキよりは、本当に困っている階層、分野に絞った支援だろう。また投資や消費のインセンティブとなる政策に関心ある人も多いはずだ。有権者の3割から4割の人はまだ投票先を決めていない。彼らの心理を読み間違えると与党も野党も大やけどすると思う。
●プーチン氏の健康めぐり臆測 怪しげな長寿法、がん説も 6/22
鹿の角から抽出した血液を浴びる「長寿法」を行ったり、外遊の際は外国政府に健康状態を悟られないよう排せつ物を側近が回収したりしている──。10月で70歳になるロシアのウラジーミル・プーチン大統領の健康状態をめぐり、怪しげなものからセンセーショナルなものまで、検証不能なさまざまな臆測が流れている。
プーチン氏の健康状態は、特にウクライナ侵攻後、欧州の将来を左右する要因となっている。だが、プーチン氏は20年にわたって権力の座にあったが、マッチョなイメージを演出するためにクレムリン(Kremlin、大統領府)が公開した、例の有名な上半身裸の写真以外に、健康に関する情報はほとんどない。
保養地に「フェイクオフィス」?
ロシア語のニュースサイト「プロエクト(Proekt)」は4月、公開情報に基づいた調査報道で、プーチン氏が南部の保養地ソチ(Sochi)を訪問するタイミングで、大勢の医師が同地入りしていると指摘した。
甲状腺がんの専門医エフゲニー・セリバノフ(Yevgeny Selivanov)氏もその一員だった。過去数年間、同氏がソチ入りしたタイミングと、プーチン氏が突如、公の場から姿を消すタイミングは、符合することが多かったとしている。
しかもソチには、プーチン氏が静養中にも首都で執務しているかのように見せかけるため、モスクワ郊外にある大統領公邸を模した「フェイクオフィス」が設置されているという。
同サイトはさらに、プーチン氏がはまっている「長寿法」の一つに、シベリア(Siberia)に生息する鹿の角から抽出した血液を浴びるというものがあり、同地出身の盟友セルゲイ・ショイグ(Sergei Shoigu)国防相に勧められたと伝えている。
仏週刊誌パリ・マッチ(Paris Match)は今月、プーチン氏が2017年にフランス、19年にサウジアラビアを訪問した際、健康状態を外国政府に察知されないよう、同氏がトイレに行くたびに側近らが付き添い、尿や便を回収していたと報じた。
米誌ニューズウィークも今月、米情報機関の機密情報として、プーチン氏が4月、進行しているがんの治療を受けたと伝えた。米国家安全保障会議(NSC)はそうした情報の存在を否定。しかしウクライナ国防省のキリロ・ブダノフ情報総局長は英衛星放送スカイニューズ(Sky News)のインタビューで、証拠は示さなかったが、プーチン氏はがんだと主張した。
具体的な情報は
クレムリンがプーチン氏の健康問題を認めたことが、一度だけある。2012年秋のことだ。当時、プーチン氏が足を引きずる姿が目撃され、同氏は複数の会合への出席を取りやめ、公の場から姿を消した。
クレムリンはその時、プーチン氏は筋肉を痛めたと説明した。一方、あるメディアは、モーターハンググライダーでツルと並んで飛行した際の出来事で、背中の状態が悪化したと報じた。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)の際にも、異常な振る舞いが見られた。プーチン氏との面会に当たってクレムリンが示した厳しい条件に従わなかったとして、一部の指導者は長大なテーブルを挟んで座らされた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領や国連(UN)のアントニオ・グテレス事務総長のように。
プーチン氏が4月、ショイグ国防相と会談した際、テーブルの端を強く握り締めていたことも臆測を呼んだ。体の震えを抑えるためだったとの説も出回った。
世界的に政府関連の業務がコロナ下態勢から通常態勢に戻りつつある中でも、プーチン大統領はオンライン方式を多用している。
健康不安を否定
クレムリンのドミトリー・ペスコフ(Dmitry Peskov)報道官は、プーチン氏が深刻な健康問題を抱えているとの見方を強く否定している。
実際、最近行われたトルクメニスタンのグルバングルイ・ベルドイムハメドフ大統領との会談の様子を見ても、肉体面での衰えの兆しはうかがえなかった。
本命視されている後継者は浮上していない。プーチン氏は軍の最高司令官でもあり、2月24日のウクライナへの侵攻開始は同氏が決定したものだ。
プロエクトのロマン・バダニン編集長は「ロシアは国家運営を担っている人物の心身の健康状態について真実を知らされていない」と話す。「世界中が、赤いボタンを押して人類を破滅に導くこともできる人物が健康なのか知らないのだ」
●ウクライナ、独製の自走砲を配備 欧米の武器続々、実戦へ 6/22
ウクライナのレズニコフ国防相は21日、ソーシャルメディアで、ドイツ製の自走式155ミリりゅう弾砲が配備されたと明らかにした。英国防省は21日の分析で、ウクライナ軍が欧米供与の対艦ミサイル「ハープーン」により攻撃を初めて成功させたと発表。ウクライナの要求に応じて提供された欧米製の武器が続々と実戦投入され、今後の戦況に影響を与えそうだ。
レズニコフ氏は供与に謝意を表明し「十分な知識とともに100%効果的に使う」と実戦使用に自信を示した。ドイツは当初、供与に慎重だったが、その後7両の供与を表明していた。  

 

●米中ロ首脳が探る、ウクライナ戦争の落としどころ 6/23
ロシアによるウクライナ侵攻から明日(6月24日)で4カ月になりますが、戦火が消える兆候は全く見いだせません。停戦に向けた一つのメルクマールとされるウラジーミル・プーチン大統領とウォロディミル・ゼレンスキー大統領の会談にもメドが付きません。落としどころを巡る両者の立場や要求はますます乖離(かいり)しているようにすら見受けられます。
NATO(北大西洋条約機構)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、6月19日、独紙ビルトに掲載されたインタビューで、ウクライナでの戦争は「数年間続く」恐れがあると警告していますが、現実化し得る見方だと言えます。
仮に戦争終結が、停戦(あるいは休戦)→終戦という流れで進むとして、そこへ向けた行動の前に、そもそも何をもって停戦、終戦とするか、どういう枠組みの中でそれらを実現するかを巡って、当事者、およびNATO加盟国を中心に関連諸国の間で意見や立場が割れています。
ウクライナ戦争では、一歩進んで二歩下がり、二歩進んだと思ったら三歩下がり…といった攻防が長期化すると見るべきでしょう。市場への示唆という観点からすれば、一歩進めば(例えばウクライナ東部で両軍が一時的に休戦)、株価は若干回復し、食料やエネルギー価格は下がるかもしれません。
ただ、その数日後に二歩下がれば(例えばプーチン氏が「自らの欲求が得られるまで戦いを続ける」といった発言をし、再び東部への爆撃を開始する)、逆の現象が起こるでしょう。市場が戦況に翻弄(ほんろう)される状況も長期化すると見るべきです。
そんな中、6月15日、ウクライナ危機解決のキーマンの一人とされる習近平(シー・ジンピン)国家主席が、120日ぶりにプーチン大統領と電話会談をしました(前回はロシア軍事侵攻翌日の2月25日)。二人は何を語ったのか。この会談は終戦に向けて何を意味するのか。また、ジョー・バイデン米大統領がほのめかすように、米中首脳会談は近いうちに行われるのか。私自身、ウクライナ危機の解決に向けて、プーチン、習、バイデンという三大国の首脳がどこに落としどころを探るのかが一つの鍵だと考えています。
120日ぶりの中ロ首脳会談は何を意味するか?
6月15日、習近平氏が69回目の誕生日を迎えたこの日、中ロの首脳は120日ぶりに電話会談を行いました。あえて誕生日に電話をかける。プーチン氏なりに考えた上での行動でしょう。
実は2019年、タジキスタンで第五回アジア相互協力信頼醸成措置会議が開かれた際にも、プーチン氏は習氏が宿泊するホテルまで赴き、習氏の66回目の誕生日をシャンパンとケーキで祝っています。
当時、ロシアはすでに2014年のクリミア併合を受けてG8メンバーから除名されていましたが、国際的孤立を恐れるプーチン氏なりに、中国がロシアの行動を理解、尊重してくれるよう、盟友である習氏を喜ばせようとしたのでしょう。
できることは全部やる。
プーチン、習近平両氏に共通する行動スタイルだと私は認識しています。
中国外交部が同日発表したプレスリリースによれば、習氏は会談で次のように発言しています。
「中国は主権、安全保障など核心的利益や重大問題において引き続きロシアと相互に支持し合い、両国間の戦略的協力を密接にしていく用意がある」
また、ウクライナ危機に関しては、「中国は終始ウクライナ問題の歴史的経緯と是非曲直から出発し、独立自主の判断をしていくことで、世界平和とグローバル経済秩序の安定を促進していく用意がある。各方面は責任ある方法でウクライナ危機の妥当な解決を促すべきだ。中国も引き続き然るべき役割を果たしていきたい」と語っています。
ロシア大統領府も会談について発表し、習氏は「外部勢力によってつくり出された安全保障上の問題に対し、根本的な国益を守るためのロシアの行動の正当性」を指摘したと明らかにしています。中国は、ウクライナ危機を引き起こした根本的原因は冷戦後、NATOの5回にわたる東方拡大であり、それを主導する米国の意図や政策がプーチン氏の軍事行動を招いたと主張してきました。その観点から、ロシアの安全保障上の懸念は尊重されるべきだ、という論調を張ってきました。今回の会談でも、従来の立場や主張を踏襲していたといえます。
一方で、2月4日、北京冬季五輪に出席するために中国を訪問したプーチン氏と習氏との間で中ロ首脳会談が行われたころと現在では、中ロ間に横たわる空気感や現状認識にズレが生じているのも事実だと思います。
同会談後に発表された共同声明では、「中ロ関係は冷戦時代の軍事同盟にも勝る。中ロ友好に限界はなく、協力に禁じられた分野もない」とまでうたっています。この「限界なし」(No Limits)は、プーチン、習両氏率いる中ロ関係の実態を象徴する概念だと解釈できました。
その20日後にロシアがウクライナに軍事侵攻をし、翌日にプーチン、習両氏が電話で会談をし、戦争が終わらない中、さらに120日後に再び両氏が電話で話をした。私から見ると、ウクライナ情勢がこれだけ目まぐるしく、激しく、多くの損失と犠牲を伴いながら変遷してきたにもかかわらず、3カ月以上も会談をしなかった事実は、ウクライナ危機が中ロ関係にとっていかに複雑、敏感、微妙な性質を内包しているかを物語っているように思います。
2013年3月、習氏が国家主席に就任した直後に最初に訪問したのがロシアであり、それから2022年2月4日までの間、二人が38回も対面で会談している経緯を顧みればなおさらです。
2月4日、2月25日、6月15日の会談を振り返ると、先述した中国側の基本的立場や認識は変わっていませんが、現在に近づくにつれて、ロシアの行動に理解と尊重を示す「ロシア支持」のトーンは下がっているように見受けられます。中国がロシアの軍事行動そのものを公式に支持することもないでしょう。
一方で、いろいろあるけれども、中ロはやはり同じ戦略的目標と世界秩序観を共有し、互いの政治体制、地政学的欲求、核心的利益を支持し合っていこうと再確認したということでしょう。
ロシアの行動は、中国が外交的にボトムラインに据える国連憲章に違反する。故に支持はできない。それでも、ロシアを見限ることはしない。矛盾しているようですが、これが中国側の現実的な認識であり、立場です。
中国が抱える「トリレンマ」と期待される米中首脳会談
私が注目する中国問題専門家に、エバン・メデイロス(Evan S. Medeiros)という米国人学者がいます。バラク・オバマ政権で大統領特別補佐官兼NSC(国家安全保障会議)アジア上級部長を歴任し、現在はジョージタウン大学教授を務めています。メデイロス氏がホワイトハウスに勤務していたころ、バイデン氏はオバマ政権の副大統領をしていた経緯もあり、メデイロス氏の分析や言説は、バイデン現政権にも一定の影響力を持つと私は見ています。
メデイロス氏は、中国がウクライナ戦争に対応する過程で、外交的「トリレンマ」に陥っているという分析をしています(英語参照記事)。トリレンマとは、辞書的に言うと、三つのうち二つしか選択できず、残りの一つは諦めるしかない状況を指します。
例として、良く知られる「国際金融のトリレンマ」においては、(1)独立した金融政策、(2)為替相場の安定、(3)国際資本移動の自由化の三つのうち、二つしか選べないという言説です。
メデイロス氏が中国のウクライナ戦争対応という枠組みで掲げる「トリレンマ」とは、(1)ロシアとの同盟的関係、(2)中国外交の核心的原則遵守、(3)米国、欧州との関係安定化という要望、です。
この三つのうち、二つしか選べない、うち一つは放棄するしかないというトリレンマ論を現実に応用すれば、特に矛盾をはらんでいるのが(1)と(3)でしょう。(2)の最たる原則が国連憲章であり、全ての国家の主権や領土の一体性は尊重されるべき、内政干渉はすべきでない、といった点が含まれます。これに違反しているロシアの軍事行動を、中国が支持することはないという判断の根拠にもなります。
(2)を堅持することは可能かもしれないが、(1)と(3)を同時に達成するのは至難の業と言えるでしょう。端的に言えば、ウクライナ戦争でロシアを実質支援しながら、欧米諸国との安定的関係を保持できるか、という命題です。「トリレンマ論」に基づけば、できない、となるでしょう。ただ、中国はそれを可能にしようとしているし、現状、あらゆる矛盾や批判を抱えながらも、この三つをギリギリのところでつなぎ留めてきたと言えます。
特に欧州との関係については、習氏自らがフランスのエマニュエル・マクロン大統領、ドイツのオーラフ・ショルツ首相、およびEU(欧州連合)首脳部との会談に積極的で、ウクライナ戦争を解決する上での「中国の外交努力」に対する一定の評価を引き出しているように見受けられます。
エネルギー、食糧、難民、経済、貿易などあらゆる分野で、欧州と米国の間で、ウクライナ戦争への向き合い方は異なるのは必至であり、中国はそこに着目して、欧州に寄り添い、欧州を主語にウクライナ戦争の政治的解決を促そうとしているように見受けられます。
ウクライナ戦争は米中関係を一層複雑なものにしていますが、メデイロス氏のトリレンマ論からすれば、米国との関係安定化も、中国外交にとっては必要不可欠なピースです。このピースなくして、パズルは完成しません。
6月18日、バイデン大統領は滞在先のデラウェア州で記者団から中国の習主席と電話やオンラインを通じて近く会談する予定はあるか聞かれ「そうするだろう」と述べました。バイデン氏大統領就任後3回目の米中首脳会談のセッティングに向けて、現在両国の外交当局間で、議題や日程、形式をめぐって交渉が行われているはずです。
実際、6月13日にも、楊潔チ(ヤン・ジエチー)中央政治局委員とジェイク・サリバン米大統領補佐官がルクセンブルクで会談しています。ロシアによるウクライナ侵攻後、楊氏とサリバン氏という首脳の外交側近は3回会談を行ったことになります(対面2回、電話1回)。
米中首脳部として、人権、通商、台湾といった2カ国間問題、およびウクライナ戦争に代表される他地域での地政学的問題を巡って両国関係が複雑化する中、それでも外交関係を決裂させることは、それぞれの国益にかなわないという政治的意思を見て取ることはできます。
私の見方はこうです。
中国外交が抱えるトリレンマを巡る三つの要素は、理論的には共存し得ない。ただ、中国は理論的に不可能なことを実践しようとしている。それは現在に至るまで、曲がりなりにも功を奏している。そして、ウクライナ戦争を解決に向かわせる中で、「第三次世界大戦」の勃発を防ぐ(そのためには、核兵器の使用を含め、プーチン氏の暴発を防ぐ必要がある)という観点からすれば、中国がトリレンマに向き合い、解決することによるメリットはデメリットを上回る。
本稿の論点から考えると、習氏がプーチン氏とバイデン氏双方と対話や会談を重ね、続ける姿勢は、ウクライナ戦争を解決に導くうえでプラスに働くというものです。
●ウクライナを脅かす西側の分裂 6/23
ベトナム戦争の初期に、リンドン・ジョンソン大統領はある米軍最高司令官に対し、「目的を果たす」ためには何が必要かと尋ねた。役に立たない返答は、目的の定義は何かと聞き返すことだった。のちのホワイトハウスの報告書は、ベトナムでの勝利は「ベトコンが絶対に勝てないことを思い知らせること」と定義していた。
勝利とは「負けないこと」?
そして今、ロシアとの戦争でウクライナを支援するなか、西側の大国は再び、勝利を「負けないこと」と定義する誘惑に駆られている。
ウクライナの人々は、戦闘を続けるには何とか足りるが、ロシアを倒すには不十分な支援しか与えられないことを危惧している。
各地で都市が破壊され、ロシアの進軍を食い止めるために戦うウクライナ軍が1日に数百人の兵士を失っている時に、これは厳しい見通しだ。
ジョー・バイデン大統領が記した最近の寄稿は米国の最大の目標を、自由で独立したウクライナを守ることと定義している。
一方、ドイツのオラフ・ショルツ首相は何度もロシアが勝ってはならないと述べたが、ウクライナが勝利を収めなければならないとは言ったことがない。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領のある報道官は匿名でのブリーフィングで、フランスはウクライナの勝利を望んでいると述べたが、大統領自身はまだ、こうした言葉を口にしたことがない。
対照的に、英国のボリス・ジョンソン首相は単刀直入に「ウクライナは勝たなければならない」と述べた。
また、エストニアのカヤ・カラス首相は「何らかの和平合意ではなく、勝利が目標でなければならない」と語っている。
兵器や和平調停についての決定を左右
ウクライナの勝利を求める人と、ロシアが勝ってはならないと言うにとどめる人との相違は、ニュアンスの問題にとどまらない大きな意味を持つ。
この見解の相違によって、ウクライナに供与される兵器の種類、さらに和平調停を推すべきか否か、いつ推すべきかについての重大な決定が左右されるからだ。
「何らかの和平合意」を拒絶するエストニアの姿勢は、ウクライナを「交渉のテーブルで可能な限り強い立場」に置くというバイデン氏が明示した狙いと好対照をなす。
こうした見解の背後にあるのは、脅威に対する認識の違いだ。
大きな危険はロシアの帝国主義だと考える向きは、ウクライナの勝利を求める用意がある。この陣営には、ポーランド、英国、バルト諸国、フィンランドが入っている。
一方、ロシアと西側の戦争を一番心配している人は、モスクワが勝たないことについてしか語らない。
全面的なウクライナ勝利を求めると、ロシアと西側との直接紛争、あるいはロシアの核兵器使用につながりかねないと心配している。
フランスとドイツがこの陣営に入る。
中間に位置する米国の懸念
極めて重要なのは、米国が両陣営の間のどこかに位置することだ。
米国はウクライナへの軍事支援の大部分を提供しながら、両方の脅威への対応を均衡させようとしている。
バイデン政権内の支配的な見方は、ロシアのウクライナ侵攻当初に核戦争について過度に心配した末に、西側は今、油断しすぎる危険がある、というものだ。
ロシアの軍事ドクトリンは、国家の存続にかかわる脅威があった場合に核兵器の使用を認めている。
米政府高官らは、ロシア大統領のウラジーミル・プーチンがウクライナでの屈辱的敗北を、その種の存続にかかわる脅威と見なす可能性があると考えている。
その場合、矛盾した状況が生まれる。ウクライナが戦場で健闘すればするほど、事態がますます危険になるのだ。
こうした懸念が米国の政策に慎重な姿勢をもたらしている。
米政府がウクライナに供与する新型ロケット砲の射程を制限することを決めたのも、このためだ。
米国人は、米国による直接攻撃に見えることを危惧し、ロシア領を優に攻撃できるロケット砲を送らないことにした(一方で、ドイツからの大型兵器は引き渡しが遅れている)。
危険なのはどっちだ
こうした状況すべてが、最大の危険はロシアの敗北ではなくロシアの帝国主義だと考える西側の同盟内の関係者にとって大きな不満の種になっている。
彼らは、プーチンがピョートル1世の後継者を自認し、自分はロシアの領土を取り返し、拡大していると言った最近の発言を引き合いに出す。
この学派は、プーチンが核兵器を使うという考えを退け、ロシア大統領は常に強い自己防衛本能を示してきたと主張する。
そしてロシア帝国主義の脅威についに終止符を打つ唯一の方法は、プーチンに屈辱を与えることだと考えている。
このような考えが、今よりはるかに積極的な軍事行動を求める声につながる。
例えば、現在ウクライナの港を封鎖しているロシア軍の艦隊を撃沈する手段をウクライナ政府に与えるといったことだ。
西側の結束を維持する必要性を意識し、米国と同盟国は全員が同意できる決まり文句を編み出した。
ショルツ、マクロン両氏を含むすべての人が、ウクライナに和平協定を強要しないことで同意している。
だが、ウクライナ側の懸念は、戦場でロシアの進軍を阻止できるだけ強力な兵器を与えてもらえないために、事実上、領土の割譲を強いられることだ。
勝利の定義が決まらないまま消耗戦が続く
ウクライナへの供与が約束された新型ロケット砲システムが今後数週間でどれくらいの威力を発揮するかに多くのことが左右される。
根底にある分裂にもかかわらず、欧米諸国の政府は、もしウクライナがロシア軍を2月24日の侵攻開始時点にいた場所まで押し返すことができれば、それが真剣な交渉の基盤になると考えているようだ。
しかし、残念ながら、ウクライナがこの手の勝利を収められる保証はない。また2月24日の線が達成されたとしても、双方が戦闘をやめる保証もない。
ウクライナでは、ベトナムと同様、勝利の定義は危険なほどとらえるのが困難で、その結果は長く、苛酷な消耗戦争かもしれない。
●中国習主席「軍事同盟拡大は必ず安全保障の苦境に」ウクライナ情勢批判 6/23
中国の習近平国家主席は、新興5か国の関連フォーラムに寄せたビデオ演説でウクライナ情勢をめぐり、「軍事同盟の拡大は必ず安全保障の苦境に陥る」と欧米を念頭に批判、改めてロシアの主張に理解を示しました。
BRICSと呼ばれる中国やロシア、インドなど新興5か国の首脳は23日、オンライン形式で会議を行います。
中国外務省によりますと、これに関連したフォーラムに寄せたビデオ演説で習主席は「覇権主義やブロック政治は平和をもたらさないばかりか、戦争を引き起こすことを示している」と指摘。
アメリカやNATO=北大西洋条約機構を念頭に「ウクライナ危機は再び世界に警鐘を鳴らし、軍事同盟を拡大することは必ず安全保障の苦境に陥る」としてロシアの主張に理解を示しました。
また制裁については、「もろ刃の剣だ」として「世界経済を政治化し、国際金融通貨制度の支配的地位を利用して制裁を加えれば、いずれ世界の人々に害を及ぼすことになる」と批判したということです。
●ウクライナ危機のウラで、ロシア・プーチンも「翻弄」する「すごい国」の名前 6/23
ウクライナ危機で注目度が上がる「トルコ」
ロシアのウクライナ侵攻とこれに対する西側諸国の制裁で、国際社会は大混乱に陥っている。そんな中、国際社会からの注目度が上がっているのがトルコだ。
ロシアやウクライナと同様、黒海沿岸国であるトルコは侵攻当初から、両国の仲介を積極的に行ってきた。
最近ではウクライナの穀物輸出が滞っている問題の解決に向けて尽力している。この問題がトルコの経済的利益に直結しているからだ。
トルコ自身も小麦の大生産国だが、ロシアやウクライナからも多くの小麦を輸入し、パスタなどに加工して世界各国に輸出している。
トルコの昨年のパスタ輸出量は130万トンと世界有数の規模を誇っており、ウクライナからの小麦輸出が滞る事態を回避して、「虎の子」産業に悪影響が及ぶことを阻止しなければならない。
トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国であり、欧州連合(EU)と関税同盟を結んでいるにもかかわらず、中立的な態度をとることで巧みに立ち回っているわけだ。
トルコに「ロシア系企業」が急増している
トルコメディアは6月9日に「国営ガス大手ガスプロムなど43のロシア系企業が今年7月からトルコの首都イスタンブールに欧州の拠点を移転する」と報じた。
EUは米国とともにロシアに厳しい制裁を科しており、域内企業も相次いでロシア企業との取引を停止している。
これに対してトルコは西側諸国の制裁に参加していないことから、トルコを拠点に国際的な調達や販売を続けようとするロシア企業が増加している。イスタンブールはモスクワと時差がなく、地域の拠点となる空港(ハブ空港)を有している。
ロシアとの直行便の運航が続いている利点も加味して、多くのロシア企業が「移転先として好都合だ」と判断している。
トルコ商工会議所連合会によれば、昨年1年間のトルコに設立されたロシア系企業は177社だったが、今年3月は64社、4月は136社となっており、ウクライナ侵攻後に急増していることが見てとれる。
「ウクライナ危機の最大の勝者」と報じられた国
トルコのように外交の舞台で目立った動きをしていないが、実利面で大きな利益を上げているのはインドだろう。
6月13日付サウスチャイナモーニングポストが「ウクライナ危機の最大の勝者はインドだ」と評しているほどだ。
インドはウクライナ危機以降、ロシアと米国両大国との間で絶妙なバランスを取り、ほとんど譲歩することなく、多大な利益を引き出している。
インドもトルコと同様、ウクライナ危機について中立的な立場をとっており、この方針のおかげでロシアから原油や肥料など幅広い商品を格安価格で購入できている。
とりわけ目立つのは原油取引の分野だ。
西側諸国がロシア産原油の購入を手控えるのを尻目に、バレル当たり約30ドルのデイスカウント価格でロシア産原油を「爆買い」している。
侵攻前のロシア産原油の輸入量は日量3万8000バレルだったが、5月には日量81万9000バレルにまで急拡大している。
インドは国内需要(日量約500万バレル)の8割を輸入に頼っているが、5月のロシア産原油の輸入シェアは18%、輸入国のランキングでもイラクに次いで第2位に躍り出ている(第3位はサウジアラビア)。格安のロシア産原油を輸入したインドの石油企業は石油製品を欧米諸国に高値で売っている。
ロシアと米国の「狭間」で
ロシアへの制裁を骨抜きにしかねないインドの行動について、米国は「行き過ぎであり、抑制してほしい」と再三懇願しているが、インドは聞き耳を持たない。
米国からの二次制裁(制裁の取引相手に対する制裁)を恐れている中国とは異なり、インドは米国が主導する対中包囲網(クアッド)に参加している自国の強みを存分に利用している。「制裁したらクアッドから抜けるぞ」と脅かせるというわけだ。
ウクライナ危機が中国との国境紛争でもインド側に有利に働く可能性がある。
中国との対抗上、ロシアとの軍事協力を長年大切にしてきたインドに対して、米国政府はロシアとの離間を図るための軍事支援に前向きになっている。装備面で中国に遅れをとるインドにとって願ってもないチャンスが到来している。
インドネシアも動き出した
「インドに続け」とばかりに動き始めたのはインドネシアだ。
途絶えていたロシア産原油の輸入を再開し、ロシアが主導するユーラシア経済同盟(EAEU)との間で自由貿易協定締結に向けた交渉も開始した。
西側諸国の制裁にもかかわらず、ロシアとの関係を強化しようとする国が相次いでいるのは、歴史的なパワーバランスの変化が生じていることが背景にある。
米シテイは13日に「商品価格の上昇により世界の商品購入者が生産者に支払う金額は2019年に比べて5兆2000億ドル以上増加する。増額分は世界のGDPの5%以上に相当するが、この比率は1970年代初頭の石油危機の際に生じた所得移転の規模に匹敵する」との分析結果を公表した。
ロシア抜きでは成り立たないのか…
1970年代のOPECは「泣く子も黙る」恐るべき組織であり、国際社会、特に西側諸国の生殺与奪の権を握っていたと言っても過言ではない。
現在のロシアもエネルギーや食料などコモデイテイーを世界市場に供給する大国だ。
ロシア経済は1991年のソ連崩壊以降、最大の危機に直面しているが、プーチン大統領が述べたように、現下の世界経済はロシア抜きでは成り立たない。
西側諸国はこの厳しい現実を直視すべき時期に来ているのではないだろうか。
●世界中の人が「プーチンの表情」に抱く違和感の正体とは 6/23
犠牲おかまいなしの猛攻
開戦から4ヵ月を迎えようとしているウクライナ戦争は、東部を主戦場とし、文字通り1m刻みでの激しい攻防が続いている。すでにロシア軍の死者は1万5000人超、一方のウクライナ軍も死者が1万人に上ったと発表した。ウクライナのゼレンスキー大統領は、「我が軍の損失は甚大だ。戦線を押し戻すために、今の10倍の武器を提供してほしい」と悲鳴をあげている。
ロシア軍はルハンシク州の最後の要衝セベロドネツク攻略のため、3本の橋を落として同地を孤立させ、自軍の犠牲が増えるのも厭わずしゃにむに火力をぶちこんでいる。砲撃の目標には民間施設が多く含まれ、市民の犠牲も大きい。
しかし、いくら国際社会から非難を浴びようとも、プーチン大統領はウクライナを地上の地図から消してロシアの一部にしようという無謀な目標に突き進んでいるようにしか見えない。なぜそこまで焦っているのか。
セベロドネツク大攻勢の10日ほど前、ウクライナ国防省の情報総局を率いるキリロ・ブダノフ総局長が、こんな思わせぶりなことを口にしている。
「ロシアの政権交代に向けた準備が進みつつあると確信している。ブレークポイントは8月下旬だ」
情報総局とは諜報部門であり、同局はGRU(ソ連軍参謀本部情報総局)の流れを汲む。'14年のロシアによるクリミア侵攻以後は、米英を始めとする西側諜報機関と緊密な連携をとっているとされる。
そのトップが口にした「プーチン8月退陣」とは、いったいどのような意味を持つのか。
ロシアの軍事研究で知られるシラキュース大学政治学教授、ブライアン・テイラー氏は言う。
「プーチンはいまや終焉に向かってまっしぐらに進んでいると言わざるをえない。今のロシア軍はドンバスなどで攻勢に出ているように見えるでしょうが、経済制裁のインパクトが次第に政権を蝕みすればするほど終焉が加速していくのです」
プーチンについて、このところしきりに浮上しているのが、「健康不安」説だ。テイラー氏の元にも「プーチンは甲状腺がんに罹っている」という情報がいち早くもたらされたという。
それ以上に重要な証言者に本誌は話を聞くことができた。英国情報局秘密情報部、MI6元長官であるリチャード・ディアラヴ氏である。氏は、自身が現在、常時ロシアの監視を受けている、と明かし、言葉を選びながらこう語った。
「影武者」が存在する?
「多くの人が言及しているとおり、ロシアは、ウクライナに侵攻後、48時間でキーウを制圧するのがそもそもの計画だった。侵攻前までのウクライナは、決して尊敬される国とは言いがたかった。汚職もあれば国内問題もあり、民主主義を目指していたとはいえ、道は遠い。その団結と国際社会の反発を甘くみたことで、プーチンというロシア帝国のツァーリは、破滅に向かうことになったのだ」
8月退陣というウクライナ情報総局ブダノフ氏の発言の真意について、ディアラヴ氏は明言を避けながらも、こう続ける。
「来年までにプーチンは消える、と考えている。消える、という意味は、療養所にいるだろうということだ。なぜなら彼がパーキンソン病やがんに罹っているという噂が出ているが、少なくとも『認知機能に問題がある』という点については、単なる噂レベルを超えているからだ。
私が長官になる前、秘密工作員としてMI6に所属していた時にできた情報提供者からの話であり、事実に近いという感触を得ている。また、プーチンの認知症があまりにも進行しているので、ボディダブル(影武者)を使わざるを得なくなっていると話す友人もいる」
プーチン大統領の変化については、たしかに様々に取り沙汰されてきた。むくんだ顔は、ステロイド治療の副作用だと囁かれもしている。
ディアラヴ氏は「"クーデターなし"だとすれば、そんな形で退場するだろう。たとえプーチンが死んだとしても、すぐにその死が発表されることはないはずだ」と言い、それ以上は口をつぐんだ。
クーデターなし、とはどういう意味だろうか。
ロシア高官が「重病説」を口にした
筑波大学名誉教授の中村逸郎氏が語る。
「プーチン大統領はこれまで毎年、年次教書を発表してきました。ところが今年は半年が経過した今になっても、これが発表されていないのです。また、'01年以降毎年6月に開催されていた国民との対話集会も未だに日時すら発表されていない。さまざまな噂が飛んでいますが、これは紛れもない客観的事実です」
年次教書とは連邦議会の議員や政府高官の前で内政や外交の基本政策を発表するもので、それに沿って議員が立案、行政が国政を執行する。ロシアのように権力がプーチンという一個人に集中している国家体制で年次教書が示されないことに対して、中村氏は大きな疑念を抱いているという。
「客観的に見れば大統領失格です。プーチンはもう大統領をやる気がない、あるいはやれないのか……。それを踏まえてポストプーチンの動きが出始めています。
たとえばラブロフ外相は5月29日に政府高官の中で初めてプーチン重病説について言及しました。もちろん否定したわけですが、ロシアでは本来、トップの健康問題とは否定も肯定もしない、つまり話題にしてはいけないものです。それを口に出したということは、何かのサインに他ならないと思います。また、メドヴェージェフ前大統領も、にわかに西側に対して強硬な発言を始めて、軍にすり寄っている」
ロシアでは、8月という月には「ある記憶」がまとわりついている。
ロシアにまとわりつく「8月の記憶」とは ・・・
●プーチン退陣説の根底に流れる「8月のあの記憶」 6/23
「8月」はクーデターの月
ロシアでは、8月という月には「ある記憶」がまとわりついている。
'91年8月19日。ソ連共産党最後の書記長(当時ソ連邦大統領)だったミハイル・ゴルバチョフが、休暇を過ごしていたクリミアのダーチャで軟禁されたのだ。それは、ウクライナを始めとする、ソビエト連邦内15共和国の権限を拡大する「新連邦条約」締結を阻止するためのクーデターだった。
モスクワ中心部に戦車が出動し、モスクワ放送局が占拠されたが、ゴルバチョフの後継者だったエリツィン(当時ロシア共和国大統領)が呼応せず、クーデターは失敗に終わった。しかしこの後、ゴルバチョフは権力の座に返り咲くことなく、ソ連はその年の末に消滅する。
この前年までKGBに在籍していたプーチンが、このことを忘れるわけがない。
拓殖大大学院特任教授の名越健郎氏は言う。
「ソ連8月クーデターを主導したのは、ゴルバチョフの側近だったヤナーエフ副大統領、クリュチコフKGB議長、パヴロフ首相、ヤゾフ国防相らトップ8人でした。いわばクレムリンの"宮廷クーデター"だったのです。
現在、数日で終わるはずだったウクライナ侵攻に手間取り、プーチンには出口戦略がない。民衆の支持は83%と高くても、ロシアを実質的に動かしているエリートの反発が出始めている。エリートとはオリガルヒ(新興財閥)とシロヴィキ(軍・諜報幹部)です。プーチンはそうした情勢を警戒して、大統領直属の治安部隊を強化している」
前出・中村氏は、こう予想する。
「仕掛けるとしたら、ゴルバチョフに対しクーデターを起こした当時のKGB、今のロシア連邦保安局(FSB)でしょう。プーチンの出身母体ではありますが、理由はやはり、一番情報を持っているということです。ゴルバチョフの時と同様、プーチンがモスクワを離れた時が怪しい。トルコ訪問が検討されていますが日程が未定なので、その前後は要注意でしょう。また、プーチンは8月でなく、例年9月に休暇を取ります。それを考えると9月の可能性も捨てきれません」
現場を知らない政治の介入
軍事心理学が専門の同志社大学教授・余語真夫氏は、実行計画を立てるとすれば、ロシア軍元将校集団、あるいはウクライナ侵攻で役目を解任された元司令官クラスの将校たちではないかという。
「ウクライナ侵攻では、軍事攻防の観点からみて、ロシアは軍事大国の評価を裏切る大変におろかでみすぼらしい戦術・作戦を展開しています。正確な指揮系統が不明、兵士の士気が低く、将校が複数戦死するという、通常ではありえないことが起こっている。戦車も冷戦時代のものを引っ張り出して戦線に投入している有り様です」
そして、こうした混乱には、現場を知らない政治の介入が影響しているという。
「全ロシア将校会代表のレオニード・イワショフ退役大将、そして過日、総司令官に就任したかと思えばもう解任されたと伝えられるアレクサンドル・ドヴォルニコフ陸軍上級大将。表に名前の出ているこの二人は、ウクライナ侵攻に反対しています。いくらプーチンの決断といえども個人の信念は曲げられない。他にも軍を脱退した将校や兵士は増えつつあるので、彼らが連携すれば、軍を掌握し、クーデターを起こす可能性は高くなります」(余語氏)
これまでロシア研究者の間では、「ソ連、ロシアの軍隊は政治に介入しないという文化があり、クーデターはありえない」という意見が大勢を占めていた。しかし余語氏は、今回は必ずしもそうとは言えないという。
「冷戦崩壊後、海外に出ているロシア人の数は増加しており、それは政治家、官僚、経済人、文化人などさまざまな分野に及びます。彼らが、国外から新しい国作りに賛同すれば、クーデターが成功する可能性も高まります。ただし、こうした動きは水面下で極秘裏に計画されるので、私たちがそれを知るのは成功、もしくは失敗した時です。ちなみに私は英国がクーデターの秘密工作を準備していると見ています」
「国防相は軍事の素人だ」
余語氏が名を挙げたイワショフ氏は、5月4日にロシア国内のウェブサイトでこんな激しいプーチン批判を表明した。
「たとえキエフを奪取したとしても、われわれは世界で孤立している。国連で誰がロシアに賛成票を投じてくれるというのか。大統領は謝罪し、処罰すべき者を罷免し、政府のトップには『特別軍事作戦』に反対する者を据えるべきだ。ウクライナ軍は'14年以降、プロの軍人に率いられてきた。ロシアではこの20年間プロの国防相は一人もいない。ショイグ国防相は軍事には素人だ。しかも参謀総長には一流とはほど遠い軍人が就いている。いまのロシアに必要なのはプーチンの腰巾着ではない。プロフェッショナルなのだ」
ここまではっきりと発言しても、イワショフ氏の言葉には「フェイク」容疑が一切かけられていないという。
プーチンは表舞台から消えるのか。MI6元長官の謎かけの答えは、まもなく明らかになる。
●プーチンが直面する深刻な問題。ウクライナ紛争の戦費調達に暗雲 6/23
ウクライナ紛争を巡り国際社会から大きな非難を受けながら、国内外に対して相変わらず強気の姿勢を崩すことのないプーチン大統領。しかしロシアは今、戦争の継続を困難にするほどの事態に襲われているという見方もあるようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ロシアが直面している深刻な危機を紹介。プーチン大統領が立たされている窮地と、なりふり構わず停戦を求めなければならない苦しい事情について詳しく解説しています。
ロシア経済の減速要因
ウクライナ戦争でロシアは制裁を受けている。この制裁でロシアの生命線である天然ガス田とLNG施設や石油施設の維持が難しくなっているようだ。ロシア軍がセベロドネツクをほぼ掌握したが、長期戦での戦争維持経費の危機になってきた。今後を検討する。
ウクライナ東部での戦争は、ロシア軍はセベロドネツクをほぼ制圧した。ロ軍は、戦力を集中して攻撃し、特にリシチャンスクに繋がる3つの橋をすべて破壊して、市内のウ軍への補給をやりにくくしている。まだ、市内でウ軍は抵抗しているが、徐々に撤退のはず。
ドネツ川北側の高台のリシチャンスクからのウ軍砲撃も効果的ではあったが、ロシア軍の203mm自走カノン砲などの威力もすごく負けた。
まだ、欧米提供の兵器の10%程度しか、ウ軍の実戦に使用できていないという。訓練が必要であり欧米兵器への転換が遅れている。6月中旬までには訓練を終えて、実戦に出てくるとしたが、セベロドネツク攻防戦には間に合わなかったようである。
期待されたスイッチブレードもあまり使われていないようであり、ロ軍の203mm自走砲を叩く方法がないようである。SU-25、MIG29やTB2で叩きたいが、この地域での防空体制もロ軍はしっかりしていて、電子戦でも優位に立っていた。ウ軍の電波を妨害して、ウ軍砲撃の正確度を下げていた。ロ軍の全能力を集めただけはあった。
今まではウ軍のメインはソ連製の榴弾砲を使用していたが、その砲弾も尽きたようであり、リシチャンスクに置いたM777榴弾砲も7,000発の砲撃で砲身も使用限界になり、砲身の替えの要求もしている。すごい数の砲撃をしたが、それより、ロ軍の砲撃の方が多かったということである。
セベロドネツクの次は、リシチャンスクへの攻撃になる。ロ軍の砲撃が強いのは、持てる砲を集めているからであり、砲撃精度はないが、絨毯爆撃をするので、その一帯が焼け野原になる。このため、リシチャンスクもロ軍の攻撃で陥落する可能性がある。次はスラビャンスクになる。人的損害が大きくなる前に、撤退することも必要であり、ウ軍としても、その決断が重要であろう。
反対にロ軍は大隊戦術群BTGでの攻撃がなくなり、戦車中隊や小隊での攻撃になり、戦車の枯渇が起きているようだ。装甲車両もなくなり、徒歩での攻撃も増えている。ロシア軍も大きな損耗が出て、継戦能力に問題が出ている。
このため、極東に配備していたT-62戦車と兵員も大量にウクライナの前線に送っている。このため、極東シベリアの軍備は、ドンドンなくなっている。この状況は、第1次世界大戦時と同様な消耗戦でロシアとウクライナが戦っている。
しかし、ソ連時代からの爆弾備蓄はすごい。それを一か所で使うので、1日5万発という相当な量を狭い個所で消費している。このような攻撃はいつまで続けられるのかは疑問であり、そう長くは続けられないはず。
それでも、東部地域では、ロ軍優勢であり、ウ軍は時間稼ぎをして、欧米からの兵器・弾薬の到着を待つ必要がある。ポーランドからウクライナに供与されたAHSクラブ自走榴弾砲18両も最前線に投入したというが、それでも数が足りない。東欧諸国は自国の防衛限界までを提供している。
スロベニアはウクライナに35両の歩兵戦闘車を供与したが、これでスロベニアの防衛に最低必要な分しかないという。ロシアの脅威がある国は、自国防衛と同様にウクライナ戦争でのウ軍の戦いを応援する。
しかし、フランスのマクロン大統領など西欧諸国は、所詮自分ごとではなく、ウクライナでロ軍を叩きすぎるのを恐れている。叩きすぎると、ロ軍が核使用になり、核戦争になるからで、西洋諸国は、NATO型戦車の提供でウ軍が勝ちすぎるという理由で、提供拒否している。米ロは何かの取り決めをしているようでもある。
マクロンの「プーチン氏に屈辱を与えてはならない」という言葉が端的に、それを表している。ということで、スペインが供与するとした1980年代の古いレオパルト2A4の戦車の供与を拒否した。
これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領が怒ったことで、釈明のために、フランスのマクロン大統領、ドイツのシュルツ首相やイタリアのドラギ首相と追って東欧ルーマニアのヨハニス大統領もキーウを訪問して、欧米が一体でウクライナを応援しているという体裁を取った。ゼレンスキー大統領も不満ながら了解したようである。
一貫して、ウクライナを応援するのが、英国ジョンソン首相であり、ウ軍が必要な兵器をすぐに提供し、かつ西欧への説得を行うので、ゼレンスキー大統領はジョンソン首相に何事も相談しているようで、西欧3トップ訪問後、すぐにジョンソン首相がゼレンスキー大統領と会談している。
今回は、ウ軍の主力部隊の損耗が激しく、ウ軍内での訓練ができず問題になっているが、これに対して月1万人規模の軍事訓練プログラムを提供するという。英国の親身な応援にウクライナ国民は深く感謝している。
もう1つ、英国が中心に進めているのが、ウクライナの穀物輸出のルート開発で、ウクライナ西部リビウからポーランド・バルト海のシフィノウイチェ港まで鉄道で運び、スペインのア・コルーニャ港まで海路でトウモロコシ1万8,000トンを輸送した。このため、リビウに穀物倉庫を作り、ウクライナ国内の穀物を鉄道で運ぶ体制を作ったが、次はロシアの海上封鎖を解いて、オデッサ港から英国海軍などの護衛付きで運ぶことを目指して、ロシアを説得している。
英国は歴史があるので、戦争時に何が問題かを的確に把握できるようだ。世界覇権の隠れた主役は、英国かもしれない。
一方、南部ヘルソンへのウ軍反撃は5つの方面から行い、ロ軍は広い戦線に兵力を張り付ける必要があり、主力部隊は東部戦線に送っているので、予備兵力で戦う必要があり、それも底をつきつつあるようだ。
このため、主力ではないウ軍に押されている。ウ軍はヘルソンまで15キロまで迫っている。この地域ではパルチザン活動も盛んで、ロ軍がいつまでもつのかが焦点になっている。しかし、ウ軍の総反撃は欧米からの兵器が割り当てられたら行うとした。
そして、今、ロシアの一番の問題は、天然ガス田や石油掘削やパイプラインの施設維持で、その部品が欧米から提供されなくなり、維持ができなくなっていることだ。このため、設備維持ができずに、生産量の縮小が起きている。
もう1つが、ロシアの世界2位のウレンゴイガス田のパイプラインで火災が発生するなど、パイプラインの火災が複数個所で発生しているが、この復旧機材も輸入できずに、復旧できない。
そして、これは日本が輸入しているサハリン2でも同様であり、LNG化施設の欧米企業の部品提供がなく、生産の縮小になっている。
もう1つが、石油の海上輸送に欧米の制裁で保険が付けられずに、西側諸国の船会社から輸送を拒否されている。ロシアのタンカーで運ぶが、量的に少なくなる。
このようなロシア生命線の天然ガスや石油の生産・輸送ができなくなると、膨大な戦費の捻出ができなくなり、どこかで停戦をしないといけなくなる。1年程度と予想されているウクライナ戦争に、ロシアは耐えることができないことが徐々に明確化してきている。
しかし、欧州も今年の冬までには、天然ガスの代替先を見つける必要があり、中東の天然ガスにシフトすると、日本は原発を稼働させて、需要をシフトさせる必要がある。欧州は、日本より大変で、LNGの陸上施設を早急に準備しないといけない。
このようなことから、西欧では、ウクライナに停戦を要求することになるが、米英国がNATO会議で、西欧諸国の停戦要求を抑え込んで、西欧諸国の3トップのキーウ訪問になったのである。
反対に、サントペテルブルクでの国際経済フォーラムでも、ミシュースチン首相は「経済制裁はすでに克服ずみ」というが、ナビーウリナ中銀総裁は「制裁の影響は半永久的になるだろう」と述べている。
そして、ロシアは、欧米企業の部品が必要であり、ロシア人がビザなしで渡航できるジョージアで企業を作り、そこで欧米部品を買い、ロシアに送っていると、ウクライナは見ている。
しかし、ガス田設備の特殊部品は手に入らない。汎用品の半導体などは手に入れて、兵器製造に使用しているようである。このため、プーチンも兵器増産体制ができたという。
もう1つ、ロシア国内では、今、反体制派ではなく、退役軍人グループや軍事ブロガーが「プーチンは手ぬるい」と不満を発している。こちらも厄介である。彼らの主張通りに、国家総動員法でロシア人を徴集して、多数戦死したら、プーチン再選の目がなくなるし、革命が起きる。
消耗が激しく、ロシアが戦争に勝利できないことはプーチンも自覚している。戦争に勝たないといけないが、それはできないので、勝ったことにして停戦するしかない。
そして、ウクライナはEU加盟を申請し、フォンデアライエン欧州委員長は推薦するとしたが、プーチンもウクライナのEU加盟を認めるという。ウクライナの主権も認めるという。
プーチンとしても、ロシア語話者地域のロシア併合以上の領土拡大を求めない線で、停戦に持ち込みたいようであり、南部ヘルソンやザポリージャなどをウクライナに返還して、交渉をまとめたいとみる。ルハンスクとドネツク人民共和国とクリミア半島は維持する方向である。
しかし、カザフスタンのトカエフ大統領は、ウクライナ東部の親ロ派「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を国家として承認しない考えを示した。もしかすると、この2つの州もウクライナに返還する可能性もあるようだ。
これに対して、ゼレンスキー大統領は、ウクライナ国家の一体性で譲歩する気がないという。もう1つが、「プーチンとの直接対話」を条件にしている。ロシアは停戦のためには、どの線まで折れるかと戦争継続リスクの見極めが必要になっている。
習近平主席とプーチンの会談でも、習氏は、すべての当事者が危機の「適切な解決」を模索すべきであり、中国は引き続き自らの役割を果たしていくと述べた。プーチンが、中国に停戦仲介を求めた可能性もあるとみる。
ロシアは、中国の消費財により、物価高騰もなく、市民生活は正常化した。ロシアは欧米制裁の悪影響を受けていないというが、市民生活上では正しい。一方、中国にとっても、スマホなどの独占的市場になっていて、石油は市場価格の半分程度で買えて、両国によって、WIN-WINの関係になっている。
しかし、このようなことで、東欧から、中国はロシアの味方という認識になり、ポーランドなど以前には関係が良かった国でも、悪くなっている。東欧経由の中欧班列という国際貨物列車便の運行も止まり、ということで、停戦仲介はできないとみる。
ラブロフ外相がトルコに停戦仲介を求めたが、うまくいっていないことで、ロシアはなりふり構わずに停戦を求め始めているようだ。
このため、ロシアは東部地域での戦闘で優位な状態を維持して、ウ軍の損耗を大きくして、心理的にウクライナを追い詰めたいのであろう。
しかし、日本の「維新の会」の鈴木宗男氏や陰謀主義者たちは、ロシアの宣伝マンになり下がり、ロシアはすごいという。このような者の論説を信じてはいけない。
冷静な目で事態を観察する現実主義で、日本の取るべき政策を考えることである。現在、日本は欧米のサイドにいることが一番国益になるのは自明であり、中ロの味方になってはいけない。
さあ、どうなりますか?
●「行くも残るも地獄」ロシア占領地域からの脱出、見つかれば砲撃、道に地雷 6/23
ウクライナ中部の都市で出会ったその男性は、プーチン大統領の「武道精神の欠落」について語りだした。
「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が柔道から何を学んだのかは私には分からない。彼は格闘技で体を鍛え、力や強さを得たのかもしれないが、マーシャルアーツ(東洋の武道・武術)の精神には興味がなかったのだろう。マーシャルアーツは攻撃ではなく、防御のためにあるのに」
ウクライナ最大の鉄鋼メーカーがあり、鉱工業が盛んなドニプロペトロウシク州クリヴィー・リフ(人口約64万6700人)のセルギー・ミリィウチン副市長(44)は10年以上、空手の稽古にいそしんだ。ロシア軍の侵攻が始まってから約4カ月、休みなしの激務が続く。「マーシャルアーツで体だけでなく心を鍛えたくて空手を始めた」と振り返る。
占領地域からが逃れてくる人々がすがる都市
ここクリヴィー・リフは、ロシア軍が占領する東・南部に近い。そのためロシア軍の占領地域から避難してくる人々も多い。そこで筆者は避難民支援センターを取材させてもらおうと、飛び込みで訪れたのだ。
センターの入り口で担当者からの電話を待つよう指示された。しばらくすると携帯電話に「アントン」という男性から流暢な英語で連絡があり、ウクライナ国防省の取材許可証とパスポートを送信するよう求められた。
しばらくしてやってきた市職員アントン(25)の案内で支援センター内を回ったあと、副市長に取材できると告げられた。その副市長が冒頭のセルギーだった。
その日の午後、セルギーとアントンが筆者の泊まるホテルを訪れ、近くのジョージア料理レストランでインタビューすることになった。セルギーに「どうしてウクライナ語の通訳もつけずにこんな所にやって来たのか」と詰問された。
「長い、長い戦いになる。マラソンだ」
ウクライナに入ってから書いた記事のリンクを送るとスマホで翻訳して読んで「よく書けているね」とつぶやいた。ぽつりぽつり会話が始まる。セルギーは筆者の生まれ故郷・大阪を訪れたことがあり、空手をたしなむことが分かってきた。筆者に同行する妻の史子(元日本テレビロンドン支局報道プロデューサー)は合気道4段だよ、と告げると場が和んだ。
セルギーは優しい人で、筆者が中国の小龍包によく似たジョージア料理のヒンカリをナイフで切ったり、口を大きく開けて丸かじりしたり四苦八苦していると、「こうするんだよ」とニンニクの先っぽのような形をしたところをつまんでひっくり返してかじり、中の汁を飲んでから少しずつ食べるんだと教えてくれた。
打ち解けたところで筆者は「ロシアとの戦争はいつまで続くのか」という難問から切り出した。
「長い、長い戦いになる。ロシアは強くて大きな国だ。人口も多いし、兵器もたくさん持っている。この戦いは短期間では終わらない。マラソンになる。長期間にわたるコンスタントなパフォーマンスが求められる。今でも1日16〜17時間働いている。空手の瞑想で心身のエネルギーと強さを取り戻し、集中力を維持している」との答えが返ってきた。
クリヴィー・リフが受け入れた避難民は6万人、うち2万人が子供だ。教育や青少年育成、避難民を担当するセルギーは日本と姉妹都市提携を結んで空手の指導者を迎え、心に大きなストレスを抱えた避難民の子供たちに青空の下、マーシャルアーツで平常心や集中力を養ってほしいという夢を抱く。「できるだけ早くスタートしたい」という。
地元ロータリークラブのメンバーのセルギーは姉妹都市の提携先や空手の指導者だけでなく、支援してくれる日本の慈善団体も探している。
妻と両親を残し、男は10人の子供を車に乗せ避難した
日本の自動車メーカー、トヨタと桜の木60本を公園に植えるプロジェクトはロシア軍の侵攻でストップした。オレクサンドル・ビルクル市長によると、侵攻初日の2月24日、市内の軍事関連施設は空爆を受け、翌日には旧空軍基地にロシア軍の空挺部隊が接近してきた。しかし地元の防衛隊が素早く機械設備で滑走路を塞いだため、空挺部隊は着陸をあきらめたという。
セルギーは隣接するヘルソン州の村から10人の子供と1台の乗用車で逃れてきた「バレンティン」という35歳ぐらいの男の話をしてくれた。わずか30キロメートルの道のりだったが、どこにロシア軍の地雷が埋められているか分からない。神に祈りながらハンドルを握った。到着した時には5キログラムも体重が減っていた。
避難する車が地雷で吹き飛んで死者が出る悲劇が他の村では起きたという。
村を占領していたロシア軍が数時間だけ、いなくなった。村には自動車はバレンティンの1台しかなかった。バレンティンには妻と年老いた両親がいた。しかし村の住民たちは「どうか子供たちだけでも逃してあげて」と10人の子供を集めてきて懇願した。ロシア軍はいつ戻ってくるか分からない。時間がなかった。バレンティンは家族に相談した。
妻と両親は答えた。「私たちは大人だから何とかなる。子供たちを車に乗せて今すぐ逃げて!」。それ以来、バレンティンは家族に会っていない。ロシア軍は占領地域の境界管理を強化し、村から人の出入りをできないようにしたためだ。バレンティンが車で村に妻と両親を迎えに行けば、間違いなく殺される。
自転車やボートで逃げてくるロシア軍占領地域の住民
ロシア軍の占領地域からは多くの住民が自転車で逃れてきた。セルギーが見せてくれた写真には車イスも写っていた。自転車は1000台以上回収された。子供3人を含む14人を乗せたボートがドニプロ川を渡って逃げようとしてロシア軍のミサイル攻撃を受けたこともあった。13歳の子供と大人4人が死亡。残り9人は負傷したものの、何とか逃げおおせたという。
「政府で働いていた頃、訪日し、大阪商工会議所で“日本には不吉な4のつく部屋はない”と聞かされたことがある。私も44歳になって4が2つ重なり、悪いことが起きるのではと心配していたらロシア軍が侵攻してきた。14〜16歳の少女がロシア軍にレイプされるなど、子供たちは口にはできない恐ろしい目に遭っている」とセルギーは深くため息をついた。
避難民支援センターには高齢者や子供連れの家族が目立つ。ウクライナ第2の都市、北東部のハルキウや東部ドンバスの都市部から逃げてきた避難民には熟練労働者が多く、避難先でも新しい仕事が見つかりやすいが、農業従事者が多いヘルソンからの避難民は仕事が見つからず、ストレスを溜め込んでいる。
支援センターの責任者ナタリア・パトルシェワ氏は「ウクライナは勝つ!」と書かれたポスターの脇に立ち、「ピーク時には1日1600人が支援センターを訪れたわ。今は300〜400人ね。以前はヘルソンから避難してくる人が多かったけど、ロシア軍が境界管理を強化したため、逃げ出せなくなったの。今はセベロドネツクなどドンバスから逃げてくる人が増えている。ロシア軍が砲撃で破壊している地域からの避難民が多いわ」と話した。
支援センターとは別の場所にある宿泊施設までセルギーが車で送ってくれた。そこは児童福祉施設でもともといた子供50人はロシア軍の侵攻を受けて安全なオーストリアに避難し、代わりに子供17人を含む避難民41人が一時的に暮らしている。受け入れてくれる親族や賃貸住宅が見つかるまで滞在できる。
筆者が取材したイリーナさんとアンドリーさんには2歳の娘と11歳の息子がいる。イリーナさんのお腹の中には妊娠5カ月半の赤ちゃんがいる。アナさんとヴィタリーさんには4人の息子と1人娘がいる。2世帯ともクリヴィー・リフから南南東に約40キロメートルのアポーストロヴェから避難バスで逃げてきた。
「プーチンを私たちと同じ目に遭わせたい」
アポーストロヴェでは6月14日からロシア軍の砲撃が始まり、4人が死亡した。住民1万5000〜1万6000人の約半分が避難したという。
イリーナさんは「プーチン氏には私たちと同じ目に遭わせたい」と言い、ヴィタリーさんは皮肉を込めて「プーチンさん、私たちに自由を与えてくれてありがとう」と語った。
1日中、通訳をしてくれたアントンが別れ際に教えてくれた。「実はセルギー自身がドネツクから逃れてきた避難民なんだ。家族はイルピンに逃れたが、ロシア軍の侵攻でそこからも追い立てられた“ダブル避難民”なんだ。だから避難民の気持ちがよく分かる。彼らは“新しい市民”だという哲学が隅々まで行き渡っている」
●東部要衝、抵抗兵力増強か ロシアも予備軍投入、激戦続く 6/23
ロシアが制圧地を広げるウクライナ東部ルガンスク州の要衝セベロドネツクで抵抗しているウクライナ軍が、兵力を増強したとみられることが22日、分かった。従軍しているフリーカメラマンの話としてロイター通信が伝えた。同州の知事はロシア軍も予備部隊を投入していると指摘。両軍ともに東部戦線で増援し、激戦を続けているもようだ。
ロイターによると、ウクライナ軍は戦車で攻撃。ロシア軍と近距離で撃ち合うことはなく、砲撃が戦闘の中心になっている。セベロドネツクの市長は、民間人7千〜8千人が残っており、軍が医薬品を届けていると説明した。
●プーチンと習近平 世界でもっとも危険な二人 戦争で習が堕ちた“友情の罠” 6/23
ロシアによるウクライナ侵攻は国際社会から強烈な批判を浴びたが、中国だけは依然としてロシアをかばい続けている。『十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争』(小学館刊)で習近平が中国トップに上りつめるまでの覇権争いを明らかにしたジャーナリスト・峯村健司氏による、世界を混乱に導く2人の独裁者の“個人的関係”に迫るスクープレポートである。
トランプの一言に動揺
米首都、ワシントン市内で5月7日、米諜報機関、中央情報局(CIA)長官、ウィリアム・バーンズがロシアによるウクライナ侵攻について講演した。ロシアと関係を深める中国の国家主席・習近平の心情の分析を披露した。
「ロシア軍によるウクライナへの残虐行為に関連付けられることによって中国の評判が落ちたうえ、戦争に伴って経済の不確実性が高まったことに動揺しているようだ。なぜなら、習近平が最も重視することが『予測可能性』だからだ」
バーンズは言葉を選びながら、習の心の内を読み解いた。伝聞調で語っているが、単なる憶測ではないだろう。全世界に広がる数万人といわれるスパイ・ネットワークから得た情報に裏付けられたものだからだ。
バーンズの「予測可能性」という言葉を聞いて、筆者は2017年4月に米南東部のリゾート地、フロリダ州パームビーチで取材したあるシーンが脳裏によみがえった。ドナルド・トランプの大統領就任後初めて、習が訪米して晩餐会を共にしていた時のことだ。デザートに差し掛かったところで、トランプがフォークを止め、こう語りかけた。
「たった今、巡航ミサイルを発射した。あなたに知ってほしかった」
米海軍艦船2隻が発射した59発の巡航ミサイル「トマホーク」が、シリア中部の空軍基地を攻撃したことを告げた。シリアが化学兵器を使ったことに対する報復だった。
同席していた米政府当局者によると、チョコレートケーキを食べていた習は、10秒間の沈黙の後、動揺した様子で後ろを振り返って、「彼は今、何て言った」と通訳に聞き返した。当時の習の様子について、トランプも米テレビのインタビューに次のように答えている。
「習氏は『子供に化学兵器を使う残忍な人には、ミサイルを使っても問題ない』と言った。怒らなかった。大丈夫だった」
この習のとっさの回答は、中国政府の外交方針を考えると適切とは言えない。米軍によるミサイル攻撃は、「内政不干渉」「紛争の平和的解決」という原則に反するからだ。米政府当局者が、当時の習の様子を振り返る。
「大統領からの突然の通告に動揺しているのが伝わってきました。話しぶりは堂々としていますが、アドリブに弱く、慎重な性格の持ち主だと感じました」
この証言は、冒頭のバーンズの分析と符合する。中国側は、トランプの就任当初、政治経験のない「素人大統領」と軽くみていたが、この会談を転機に警戒を強めた。SNSを通じて政策を発表したり、中国を批判したりする「予測不可能」なトランプに、習近平は手を焼き続けていた。
中国外交の原則から逸脱
トランプとは正反対に、18年間にわたりロシア大統領を務めるウラジミール・プーチンは、習にとって最も「予測可能性」が高い指導者の一人といえよう。新型コロナの影響で対面による首脳外交を約2年間控えてきた習が、その再開相手としてプーチンを選んだのは、いわば必然だった。
しかし、そのプーチンとの38回目となる会談が、習の「動揺」の引き金になるとは、予想もしなかっただろう。
北京冬季五輪が開かれた2022年2月4日午後、北京の空港に到着したプーチンを乗せた車列は、北京市内にある迎賓館、釣魚台国賓館に入った。芳華苑のホールで待っていた習は笑顔でプーチンを出迎えると、会談を始めた。
「2014年、私はプーチン大統領の招待を受け、ソチ冬季五輪開会式に出席した。その時私たちは『8年後に北京で再会しよう』と誓った。今回あなたが来てくれたことで、私たちの『冬季五輪の約束』は実現したのだ。今回の再会が必ずや、中ロ関係に新たな活力となると信じている」
こう習が切り出すと、プーチンは同意するように左手で机をたたきながら不敵な笑みを浮かべた。
「中国はロシアの最も重要な戦略的パートナーで、志を同じくする友人。21世紀の国際関係の手本だ。中国との協力を一層緊密にして、主権と領土を守ることを支持し合いたい」
プーチンも、最大限の賛辞で中国を持ち上げた。2人は会談後、早めの夕食をとると、五輪開会式が開かれる国家体育場「鳥の巣」に向かった。2時間20分の開会式が終わり、日付が変わった2月5日未明、国営新華社通信社が、両首脳による共同声明を発表した。5000字を超える長文には、これまでの声明にはない奇異な表現があった。
「中国とロシアは、外部勢力が両国の共同の周辺地域の安全と安定を破壊することに反対する。外部勢力がいかなる口実を設けても、主権国家の内政に干渉することに反対する。NATO(北大西洋条約機構)の引き続きの拡張に反対し、冷戦時代のイデオロギーを放棄するよう呼びかける」
声明では、米国に対する強い不信感と対抗意識がにじみ出ていた。そして、ロシアがウクライナ侵攻の口実にした「NATO拡大反対」について、中国が支持を表明したことは踏み込んだ判断だった。そのうえで、両国関係については次のような記述があった。
「中ロ関係は冷戦時代の軍事同盟にも勝る。中ロ友好に限界はなく、協力に禁じられた分野もない」
この表現を聞き、筆者は強い違和感を覚えた。これまでの中国外交の原則から逸脱しているからだ。
中国外交は1980年代から、ケ小平が唱えた「自主独立、非同盟」という考え方が基本方針となっている。NATOや日米などの軍事同盟について、中国政府は強く反対している。「友好に限界はない」という文言は、プーチンのウクライナ侵攻を見据えて、中国側が「支持」をしたとも受け止められる表現だ。
米国からの情報を横流し
取材を進めていくと、中国がロシア側に協力していた可能性が浮上した。中国政治の動向を追う北京の米外交関係者が証言する。
「米政府は昨年末から、入手したロシア軍がウクライナに侵攻することを示す極秘情報を内々に中国政府に伝えていました。ロシアが侵攻をやめるように中国が説得することを期待してのことです。ところが中国側は、情報を『中ロ関係を引き離すための陰謀』と受け止めて信じなかったうえ、ロシア側に提供していたようです」
米国に強い対抗心と警戒心を抱く習近平政権らしい対応といえよう。中国はなぜウクライナ問題で、外交の基本方針に背いたうえ、米国との関係をより悪化させてまで、ロシア支持に傾いたのか。米外交関係者が続ける。
「習近平氏の決断でしょう。これに対し、私が会った多くの中国の当局者や専門家は、今回の首脳会談と共同声明について『ロシア寄り過ぎる』と述べていました。習、プーチン両氏の親密な関係に遠慮して公言しないだけです」
ではこの会談で、プーチンから習に約3週間後に控えた軍事作戦について、何らかの具体的な通知があったのだろうか。米ニューヨーク・タイムズは「中国側は、五輪閉会前に侵攻しないようロシア側に求めた」と報じている。これについて、先の米外交関係者は否定的な見方を示す。
「具体的な作戦のタイミングや中身について、両者の間でやりとりはなかったようです。そもそも情報機関出身のプーチン氏が、軍事作戦を他国に漏らすことはありえません。習近平氏は事前にはほとんど知らされていなかったため、戦争の情勢判断を誤った可能性があるとみています」
筆者もこれまで数多くの首脳会談を取材してきた。どんなに関係が深い首脳同士でも、最高機密である戦争に関する情報を事前にやりとりすることはない。この分析は合理的といえよう。
習が何よりもプーチンとの友情を優先させて最大限の協力をしたにもかかわらず、肝心の軍事行動に関する情報を知らされておらず、結果として梯子を外された──。
習と配下の間のずれ
ウクライナ戦争までの両国のやりとりを見ていると、そのような構図が浮かんでくる。この証言を裏付ける事象が、戦争勃発後に一気に噴出する。
ウクライナ戦争の前夜の2月23日。各国の情報機関は、ウクライナの首都・キーウ市内にある施設に注目していた。在ウクライナの中国大使館だ。中国が自国民の保護に動く時が、軍事侵攻のサインとみていたからだ。
ウクライナは中国の広域経済圏構想「一帯一路」の最も重要な拠点で、キーウには中国から「一帯一路」沿線国を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」の終着駅があり、約6000人の中国人が在留している。半ば国策として派遣された中国人労働者も少なくない。
だが、中国大使館は動かなかった。退避のチャーター機派遣を発表したのは、ロシア軍による侵攻翌日の2月25日になってのことだ。実際に退避が始まったのは2月28日で、米欧よりも半月以上も遅れた。こうした中国政府の対応の遅れに対し、中国のネット上では批判の声が上がった。
中ロ両国の外交当局の間でも不協和音が出てくる。習は2月25日、プーチンと電話会談をした。中国外務省の発表によれば、ウクライナ侵攻について、習が「ロシアがウクライナと交渉を通じて問題解決することを支持する」と、プーチンに対して求めたことが記されている。ところがその3日後の28日になって、駐中国ロシア大使館は会談での習近平の発言の一部を付け加えて発表した。
「ロシアの指導者が現在の危機状況下で取った行動を尊重する」
ロシアの侵攻に対し、習が理解を示すような発言といえる。両国の発表の違いについて、中国外務省関係者が舞台裏を解説する。
「習主席の発言は事実だ。しかし、中国政府内で議論した結果、発表文から削除することにした。ロシアの同盟国であるベラルーシが、欧米諸国による制裁を受けた二の舞を避けるためだ」
ロシア軍の侵攻拠点の一つとなっているベラルーシに対して、欧米諸国はハイテク製品の輸出規制などを課した。ベラルーシとはけた違いに深く国際的な経済ネットワークや供給網に組み込まれている中国が制裁対象となれば、被害は計り知れない。中国外務省がトップの発言を削除したのは、危機感の表われといえよう。
首脳会談と並行して行なわれた中ロ外相による電話会談で、中国外相の王毅はロシアの軍事侵攻について、ロシア外相のセルゲイ・ラブロフにこう釘を刺した。
「中国は一貫して各国の主権と領土保全を尊重している。対話と交渉を通じて持続可能な欧州の安全メカニズムを最終的に形成すべきだ」
この会談の中身を知る中国外務省関係者の一人は、王毅発言の真意について説明する。
「ロシアによる軍事行動を暗に批判したものです。中国外交の基本原則である『内政不干渉』に反する行為であり、いくら両首脳同士の関係が親密だからといって、支持できるものではありません」
習とその配下の中国政府当局者との間のずれが生じつつあるのは間違いない。
こうした不協和音を打ち消すように、習は6月15日、プーチンと再び電話会談をした。この日は習の誕生日。プーチンからの祝辞もそこそこにウクライナ情勢を協議。軍事交流の強化などで合意した。そのうえで習はこう強調した。
「国際秩序とグローバルガバナンスをより正しく合理的な方向に発展させよう。そして核心的利益と重大な関心事に関わる問題を互いに支持しよう」
2人の個人的な関係
筆者が北京で特派員をしていた2000年代後半、中国とロシアの関係は友好的ではあったが、それほど密接なものとはいえなかった。むしろ北京では、ロシア研究者や専門家は影響力があるとはいえず、政府内でもロシア政策の重要性は高いとはいえなかった。
ところが2010年代に入ると、両政府間の要人の往来は増え、経済的な結びつきも強くなった。次第に軍事的な結びつきへと広がり、両軍による共同演習は盛んになり、ロシアから地対空ミサイルや戦闘機の中国への売却も急増した。両国はさまざまな分野で関係が深まり、2019年には「全面的戦略協力パートナーシップ」が結ばれるほどになった。
両国関係が加速度的に緊密になったのは、習がトップになってからだ。習とプーチンという2人の個人的な関係が、両国関係を引っ張ってきたといえよう。
異常ともいえる2人の親密な関係はいつ、どのようにして築かれたのだろうか。その起源は習近平が中国トップに就任した2013年3月にさかのぼる。初外遊先として選んだのがロシア。しかも国家主席になったわずか1週間後のことだ。2013年3月22日、モスクワの大統領府に入った習近平はプーチンと会うと、満面の笑みで握手をして意外な言葉を発した。 ・・・
●ドネツク激戦、親ロシア派兵士55%死傷か…英国防省「異常な水準」  6/23
英国防省は22日、ロシア軍の後押しを受けているウクライナ東部ドネツク州の親露派武装集団の死傷者数が、兵士数全体の約55%に上っているとの試算を明らかにした。東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)を巡る激戦で、露軍側の人的消耗が「異常な水準になっている」と分析した。
英国防省の分析は、ドネツク州の武装集団が16日時点で戦死者数が2128人、負傷者数が8897人となっていると発表したデータに基づくもの。ドネツク州の武装集団の戦死者数は、露国防省が3月25日を最後に更新していない露軍兵士の戦死者数1351人を上回る。ウクライナ軍は兵士の死傷者数が1日あたり最大1000人に上っているとされ、消耗戦の激しさをうかがわせる。
一方、米国の政策研究機関「戦争研究所」は21日、ロシア 空挺くうてい 軍の司令官が交代したと指摘し、司令官の大幅な入れ替えに着手している可能性があるとの分析を明らかにした。
侵攻作戦を統括するアレクサンドル・ドボルニコフ総司令官が解任されたとの情報にも触れ、露軍がドンバス地方で攻勢を強める中での司令官の交代は、露軍の指揮命令系統が機能していないことの表れと評価した。
●ウクライナ EU、加盟候補国の地位付与−米国は追加軍事支援準備 6/23
欧州連合(EU)首脳はウクライナに加盟候補国の地位を付与した。実際の加盟には長く困難な手続きを経る必要があるが、まずは一歩を踏み出した格好だ。
米国はウクライナに4億5000万ドル(約600億円)の追加軍事支援を行う準備をしていると、AP通信が伝えた。一方、米国が供給した高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)がウクライナに到着。ロシア軍を撃退する能力が高まる可能性がある。
侵攻開始から4カ月が経とうとする中で、ロシアはウクライナが全ての要求を受け入れるまで和平は不可能だとの従来の立場を繰り返した。ゼレンスキー大統領の側近はウクライナのEU加盟時期について、戦争の行方とともに改革を実行する能力に左右されると語った。
ドイツのハーベック経済相は、国内のガス供給リスクの水準を3段階のうち上から2番目に引き上げ、米リーマン・ブラザーズが破綻した際のような広範な影響が波及する恐れがあると警告した。
EU、ウクライナに加盟候補国の地位付与
EU加盟国首脳はブリュッセルで2日間にわたる会議を開き、ウクライナに加盟候補国の地位付与を求めた欧州委員会の勧告を承認した。ルクセンブルクのベッテル首相が明らかにした。ウクライナはロシアの侵攻後間もなくEU加盟を申請した。同国は今後、法の支配や司法、反汚職に関連する問題で加盟条件を満たす必要がある。
米上院委員会、ロシアのテロ支援国家指定を支持
米上院外交委員会は23日、ロシアをテロ支援国家に指定するよう国務長官に促す措置を支持した。指定されれば、ロシアはイランやシリア、北朝鮮、キューバなどと同じ分類を受けることになる。この措置が成立するには、上下両院の承認と大統領の署名が必要。
ウクライナがロシアを欧州人権裁判所に提訴、戦争犯罪で
ウクライナはロシアをストラスブールの欧州人権裁判所に提訴した。法律代理人を務めるクイン・エマニュエル・アークハート・サリバンが23日発表した。今回の提訴は第一弾で、侵攻での戦争犯罪についてウクライナはロシアに800億ドル(約10兆8000億円)の賠償を求めている。
米、4.5億ドルの追加軍事支援提供へ−AP
米国はウクライナに対して4億5000万ドル相当の追加軍事支援を提供すると、AP通信が匿名の米政府高官を引用して報じた。新たなパッケージには高機動ロケット砲システム「HIMARS」数基が含まれる見通し。HIMARSはすでに4基がウクライナに到着している。
ロシアの供給削減はエネルギー市場のリーマン危機、ドイツ警告
欧州への天然ガス供給を削減するロシアの動きはエネルギー市場を崩壊させる恐れがあるとして、ドイツが金融危機につながった米リーマン・ブラザーズ破綻を例に挙げて危機感を示した。
ロシア、ユーロ債クーポンをルーブルで支払い
ロシアはユーロ債のクーポンをルーブルで支払った。数日内にデフォルト(債務不履行)に陥るリスクの中で、対外債務についての支払いを現地通貨で行うことを許可する新規則を活用した。
食糧危機は2年続く可能性−西側高官
ウクライナでの戦争が明日終わるとしても、現在の食糧危機は2年かそれ以上続く可能性があると、複数の西側当局者が述べた。ウクライナの港からの穀物輸出について合意が来月に成立する可能性はあるが、それが実現しても港の機雷除去や稼働再開にはまだ時間がかかるという。またロシアがウクライナの占領地域で穀物を窃取したとの疑いについて、国連食糧農業機関(FAO)や国際穀物理事会(IGC)との協力で調査を検討しているものの、国際機関が存在しないウクライナ東部からの報告であるため、追跡が難しいと当局者らは述べた。
米国供給のロケット砲システム、ウクライナに到着
高機動ロケット砲システム「HIMARS」がウクライナに到着したと、レズニコフ国防相がツイッターで明らかにした。製造元のロッキード・マーチンによると、HIMARSの射程は最長300キロ。
ロシア:和平は可能、ウクライナが要求を受け入れるなら
ウクライナがロシアの要求を全て受け入れるなら和平に合意する用意があると、ロシア大統領府のペスコフ報道官が語った。インタファクス通信によると、ペスコフ氏は23日の記者会見で、「和平の計画に関して言えば、ウクライナがロシア側の条件を全て満たした後でのみ可能だ」と述べた。両国の停戦と和平合意に関する交渉は4月以降、実質的に凍結されている。
セベロドネツクの化学工場付近に砲撃
ウクライナ東部セベロドネツク市を巡る攻防は続いており、ルハンシク(ルガンスク)州のハイダイ知事によると、550人余りの民間人が避難している同市のアゾト化学工場の付近への砲撃が行われている。同州はウクライナ国内で「最も厳しい」状況にあるとゼレンスキー大統領は指摘した。
ゼレンスキー大統領、G7とNATOの首脳会議で演説へ
ウクライナのゼレンスキー大統領は、主要7カ国(G7)および北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議で発言する。米政府高官が明らかにした。会議はロシア軍と戦うウクライナを支える決意を強める機会となるとした。
●ウクライナ大統領、G7出席へ 対面かなわず、オンラインで 6/23
ウクライナのゼレンスキー大統領は、26日にドイツ南部エルマウで開幕する先進7カ国首脳会議(G7サミット)にオンラインで出席する予定だ。2月24日のロシアの侵攻開始から4カ月になるが、兵士を鼓舞するために前線に赴くことはあっても、出国はできていない。
サミットではウクライナ情勢に関する特別なセッションが用意されている。ゼレンスキー氏は15日に議長国ドイツの招待を受け、出席する意向を示していたが、対面かオンラインかは触れていなかった。
ゼレンスキー氏は22日の国民向け演説で「領土を(ロシアから)解放し、勝利を収めることがわれわれの目標だ」と強調。サミットでも同様の考えを訴えるとみられ、G7がどのような支援メニューを打ち出すかが焦点となる。
●ロシア軍 ウクライナ東部で攻勢強めるも完全掌握には至らず  6/23
ロシア軍はウクライナ東部で攻勢を強めるものの、完全掌握には至らず、軍事侵攻の開始から4か月となるのを前に、ロシア軍の指揮をとっていたとされる総司令官が更迭されたという見方が、ロシアの専門家の間でも出ています。
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握を目指してウクライナ側の拠点、セベロドネツクなどへの攻撃を続け、ロシア国防省は22日、ルハンシク州で弾薬庫などを破壊したと発表しました。
イギリス国防省は、ロシア軍が19日以降、セベロドネツクに隣接するリシチャンシクに向かって部隊を進めた可能性が高く、ウクライナ側は、包囲されないよう一部の部隊を撤退させたという分析を23日、示しました。
そして、ロシア軍は最近、部隊を強化して火力を集中させ、セベロドネツクなどの一帯に対して、圧力を強めていると指摘しました。
ロシア軍は、ウクライナ側が反転攻勢に乗り出していた東部ハルキウ州でも、ここ数日、砲撃を強め、ウクライナの公共放送が22日、伝えたところによりますと、8歳の女の子を含む15人が死亡したということです。
しかし、24日で侵攻開始から4か月がたちますが、ロシア軍は東部のいずれの州も全域を掌握はしていません。
ロシア軍 南部軍管区トップの総司令官を更迭か
こうした中、ロシア軍の動向に詳しい軍事評論家のワレリー・シリャエフ氏はNHKの取材に対して、ロシア軍の指揮をとっていたとされる、南部軍管区のトップ、ドボルニコフ氏が総司令官を更迭されたという見方を示しました。
シリャエフ氏は「ドボルニコフ氏に代わって、事実上、別の人物が指揮している。それはロシア軍の軍事政治総局長で、別の紛争に参加した経験がある 人物だ」と述べ、ロシア軍のゲンナジー・ジトコ軍事政治総局長の名前を挙げました。
侵攻したロシア軍の総司令官をめぐっては、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も21日、プーチン大統領が、ドボルニコフ氏からジトコ氏に交代させたとする見方を示しています。
そのうえで、「主要な戦闘の最中の司令官の交代は、ロシア軍の上層部の深刻な危機を物語っている」と指摘しています。
●ロシアとウクライナ、長引く戦闘で士気低下 侵攻4カ月 6/23
ロシアのウクライナ侵攻は24日で発生4カ月を迎えた。東部ドンバス地方の制圧に向けロシア軍は攻勢を続け、ルガンスク州をほぼ掌握した。反転攻勢を狙うウクライナは米欧の兵器供与が頼りだが、不足する火砲で決まったのは要請の2割前後にとどまる。戦闘の長期化で双方の損失は拡大しており、兵士の士気低下も目立ち始めている。
首都キーウ(キエフ)の制圧に失敗したロシア軍は4月以降、ドンバス地方制圧に目標を切り替えた。米戦争研究所が公表する地図データをもとに計算すると、同地方のロシア軍の支配面積は足元で78%。侵攻前からは46ポイント増だが、2カ月前からは5ポイントの拡大にとどまる。
州別の支配面積はルガンスク州で97%、ドネツク州で59%に達する。ロシア軍はルガンスク州の要衝セベロドネツクで膠着する戦況の打開を狙い、隣接するリシチャンスクへの進軍を急いでいる。
英国防省は23日、ロシア軍がリシチャンスクに南方から入る経路に向け19日以降で5キロメートル以上前進したとの分析を公表した。ガイダイ州知事は23日、近郊の2つの集落がロシア側に制圧されたとSNSで明らかにした。
一方、ウクライナとの国境に近いロシア西部ロストフ州ノボシャフチンスクの製油所に22日、ドローン(小型無人機)2機による攻撃があり、火災が発生した。負傷者は出ていないという。AP通信が伝えた。
戦闘の長期化で双方の被害は拡大している。ウクライナ政府高官はドンバスでの戦死者が1日200〜500人に達していると説明。6月初めの「1日60〜100人」(ゼレンスキー大統領)から急増している。兵士の犠牲は1万人を超えたもようだ。
ロシアは兵士の死者数を3月下旬に1300人強と公表したが、その後の発表はない。ウクライナ側は3万人を超えたとみる。ロシアは兵員の補充に向け、5月に志願兵の年齢制限を撤廃する法案を可決させた。
士気の低下も両軍に広がっている。英国防省は「ウクライナ軍がここ数週間、兵士の脱走に苦しんでいる可能性がある」と指摘する。ロシア軍もさらに深刻な士気の低下に悩まされていると分析する。戦闘任務の交代不足などで、部隊の兵士全員が指揮官の命令に従わなかったり、将校と兵士が武器を持って対立したりするケースも出ているという。
状況の打開に向け、火力で劣るウクライナは米欧へ兵器支援の拡大を要求している。政府高官は155ミリりゅう弾砲1000門、多連装ロケットシステム300両、戦車500両などが必要だとするが、到着したのは要請の「約10%」と不満を募らせる。
軍事情報サイト「Oryx」の22日時点のデータによると、供与済みまたは表明された兵器数は、要求に対してりゅう弾砲が27%、多連装ロケットシステムは17%だった。戦車も5割強にとどまった。
ウクライナのレズニコフ国防相は23日、米国から高機動ロケット砲システム「ハイマース」が到着したとツイートした。反転攻勢は米欧からの軍事支援がどれだけ迅速に届くかにかかっており、26〜28日のドイツでの主要7カ国(G7)首脳会議でも議論される見通しだ。
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長が「(ロシアとの戦闘が)何年も続くことに備えないといけない」と語るなど、足元ではさらなる長期化の可能性も高まっている。
●親露派「国家承認」否定 カザフ、ロシアとすきま風 6/23
ウクライナに侵攻したロシアと、軍事同盟を結ぶ中央アジアの旧ソ連構成国カザフスタンの間にすきま風が吹いている。カザフのトカエフ大統領は17日、ロシアが侵攻に先立って「国家」承認したウクライナ東部の親露派支配地域をカザフが国家承認しないと表明。トカエフ氏がロシアからの勲章授与を拒否した、とも伝えられた。露与党幹部からは、カザフもウクライナと同じ運命をたどる−と脅迫じみた発言も飛び出した。
トカエフ氏は17日、露北西部サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムの全体会合にプーチン露大統領と2人で出席。質疑応答で、ロシアが国家承認した親露派武装勢力「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」(自称)をカザフは正式な国家とみなしていない−とし、承認しない考えを示した。
「カザフは開かれた市民社会で、国民には特別軍事作戦(侵攻の露側呼称)への多様な意見がある」とも指摘。露メディアは、国民の侵攻批判を事実上禁じたロシアを当てこするような異例の発言だと報じた。
さらにカザフメディアは18日、フォーラムでロシアがトカエフ氏に国家勲章を授与しようとしたが、トカエフ氏が断ったことを同氏の報道官が認めた−と報じた。ペスコフ露大統領報道は「勲章授与は当初から計画されていなかった」と否定。真相は不明だ。
トカエフ氏の発言について、露政権与党「統一ロシア」幹部のザトゥリン氏は18日、露ラジオ局のインタビューで「ロシアへの挑戦だ」と反発。「ウクライナのような問題がカザフにも起き得る」と述べ、軍事力の行使さえちらつかせた。
ザトゥリン氏の発言の背景には、露国内で以前から「侵攻に関し、カザフはロシアに非同調的だ」との見方が強いことがある。実際、トカエフ氏は侵攻当初から対話による早期停戦を求めてきた。ウクライナのクレバ外相によると、4月に会談したカザフのトレウベルディ外相は、ロシアの制裁逃れに協力しない、と約束したとされる。
トカエフ氏はフォーラムで「露社会の一部にカザフへの批判があるが、両国の関係悪化はロシアの損となる」と忠告した上で関係発展を続ける意思を示した。
外交官出身で欧米側との人脈も深いトカエフ氏は、ロシアとの対立を避けつつも、ロシアに同調して欧米側との摩擦を招く事態を防ぐ思惑だとみられている。
●ロシアは貿易を中国やインドに振り向け プーチン氏が表明 6/23
ロシアのプーチン大統領は22日、西側諸国が経済的関係を断とうとする中、ロシアは貿易をブラジル、インド、中国、南アフリカといった「信頼できる国際パートナー」に振り向けていると語った。
オンライン形式で行われた新興5カ国(BRICS)首脳会議前のビデオ演説でプーチン氏は「貿易の流れと外国との経済接触を信頼できる国際パートナー、主にBRICS諸国へと向けることに積極的に取り組んでいる」と述べた。
BRICSは新興5カ国の非公式なグループで、その名称は参加する各国の国名の頭文字をとったもの。
プーチン氏によると、ロシアとBRICS諸国の貿易は38%増加し、今年は3月までに450億ドル(約6兆1000億円)に達した。
「ロシアの経済界とBRICS諸国の経済界の接触が活発化している。例えば、ロシアにインドのチェーン店をオープンさせ、ロシア市場における中国の自動車、機器、ハードウェアのシェアを拡大する交渉が進められている」とプーチン氏は述べた。
ロシアは中国とインドへの原油輸出も強化しており、中国とインドは原油を大幅割引で買っている。中国のロシアからの原油輸入は5月に過去最多となり、ロシアはサウジアラビアを抜いて中国にとって最大の供給国となった。
プーチン氏はまた「BRICSのパートナーとともに国際決済のための信頼できる代替メカニズムを開発している」と述べ、ドルやユーロなどに依存せずに取引するための新しい方法を見いだそうとしていると主張した。
さらに、西側諸国が自由貿易など「市場経済の基本原則」をないがしろにしていると指摘。「世界的な規模でビジネスの利益を損ない、事実上、すべての国の人々の幸福に悪影響を及ぼしている」と非難した。
●主席とプーチン氏がビデオ演説 欧米の“ロシア制裁”批判 6/23
ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席は23日に開かれるBRICS・新興5か国のビジネスフォーラムを前にビデオ演説を行い、ウクライナ侵攻をめぐるロシアへの制裁を批判しました。
ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成するBRICSの開会式が22日行われ、プーチン大統領と習近平国家主席は、ビデオ演説を行いました。
プーチン大統領は欧米からの制裁を批判したうえで、「貿易、石油輸出などをBRICSの国々に振り向けているところだ」と述べました。
また、ロシア市場で中国製自動車の存在感を高める計画や、インドのスーパーマーケットチェーン出店について議論していると明らかにし、中国やインドなどとの関係を強化する姿勢を強調しました。
一方、習近平国家主席はNATOを念頭に「軍事同盟を拡大することは必ず安全保障の苦境に陥る」と警告したほか、「制裁はブーメランで諸刃の剣だ」と述べるなど欧米のロシアへの制裁を改めて批判しました。
●プーチンと習近平、欧米によるロシアへの制裁を批判 6/23
ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席は22日、新興5カ国(BRICS)の関連会合でビデオ演説し、ウクライナに侵攻したロシアに対して制裁を発動した欧米を批判した。
プーチン氏は制裁が世界経済に悪影響を与えていると非難し「結果として、食料安全保障を巡る問題が深刻化し、穀物などの価格高騰が起きている」と主張した。
習氏は「制裁はブーメランでもろ刃の剣だ。他人に損害を与えて自らを傷つけ、世界が災禍に見舞われる」と強調。「軍事同盟を拡張し、他国を犠牲にして自国の安全を追求すれば、安全保障上の苦境に陥る」とも述べ、東方拡大する北大西洋条約機構(NATO)をけん制した。
●「祖国の犯罪を放っておけない」 プーチンに逆らい、ウクライナで戦うロシア人 6/23
ロシア国営エネルギー企業傘下の「ガスプロムバンク」の元副社長イゴール・ボロブエフ(50)は、公にウクライナ侵攻を非難したばかりか、ウクライナ軍の一員となって戦うという決断をした。彼のように「祖国の犯罪を放っておけない」と、ウクライナ側で戦うロシア人について英紙が報じている。
大手銀行上層部の衝撃の離反
新しいウクライナの軍服に身を包んで首都キーウ(キエフ)を歩きながら、イゴール・ボロブエフは、ようやく自身の目的を果たしたような気がした。
ボロブエフは、ガスプロムバンクの元副社長。成人期の大半を過ごしたロシアを離れ、ウクライナに戻って数週間、入隊を許可してもらえるよう役人の説得を試みてきた。
「戦争が始まった瞬間、私はすぐにウクライナを守りに行きたいと思いました」と彼は言う。
「最初は、自分が育った(ウクライナ北東部)スムイ州の領土防衛部隊に入りたかったんです。多数の関係者に連絡したけれども、法的にロシア人としてそこで戦うのは不可能でした」
しかし間もなく、ウクライナ軍の一部でロシア人だけで構成される特別部隊「ロシアのための自由」に参加する選択肢が与えられた。
この機会を心から喜んで受け入れ、5月中旬には自動小銃を手にし、ビデオ演説で部隊参加を発表したという。
「最初の目的を達成できてとてもうれしいです。でも、これから早く軍事訓練を受けて、実際に戦えるようにしなければなりません。中途半端ではだめなんです」
50歳のボロブエフは、ウクライナ侵攻を非難し、ロシアを離れた数少ない著名人の1人。ウクライナ出身だがロシアのパスポートを持っている。人生の大半を首都モスクワで過ごし、国営天然ガス独占企業ガスプロム傘下の同国第3位の銀行ガスプロムバンクの副社長になった。
ガスプロムの社長は、ウラジーミル・プーチン大統領に近いアレクセイ・ミレルだ。こうした組織の上層部という立場もあり、ボロブエフの公的な離反は、波紋を広げた。さらにこのたび、ロシアに対して武器を取るという決断を下し、異例の物語はさらなる展開を迎えている。
「私は長い間、自分自身に妥協してきました……ですが(ロシアが侵攻を開始した) 2月24日、いかなる妥協もできなくなったのです。この犯罪に加担することはできませんでした」
軍事機密「ロシア人だけの部隊」
「ロシアのための自由」部隊についてはあまり知られていない。結成のニュースは3月12日にメッセージアプリのテレグラムで発表され、4月には数人の隊員が目出し帽をかぶってキーウで記者会見を開いた。テレグラムには、準備に励む隊員の姿が頻繁に公開されている。
ボロブエフは「私はすでに世間に知られていたので、声を上げることができました」と話す。「しかし、他の隊員やその家族にとっては、このことについて話すのは非常に危険なので、部隊は非常に秘密主義的です」
軍事機密を理由に規模や戦闘場所について言及することは避けたものの、部隊は頻繁に実戦に参加しているという。
また、同部隊は「傭兵の集まりではない」とし、正式にウクライナ軍の一部であり、捕虜になった場合は、国際人道法に基づいて扱われるべきだ、と強調した。
ボロブエフが武器を手にした主な動機は、自身にとって「唯一の祖国」であるウクライナを守るためだったが、部隊の大半のロシア人はモスクワの体制変革を望んでいるという。
「私が見たところ、ロシアを今倒すことが民主的で文明的な国を作る唯一の方法だと信じている、非常に意欲的なロシア人の集まりです」
「この政権を排除する唯一のチャンス」という理由で参加した隊員、アルチョーム(偽名)は、2020年にロシアを離れるまでは、政治活動に携わってきたという。
ロシアの攻撃が迫っていると感じ、戦争直前にウクライナに移ったというアルチョームは、「母国を愛しています。こんなことにならなければよかったけど、この体制を終わらせないといけません。戦争が終わったら故郷に帰りたいです」と話す。
軍備製造を通じた支援も
別の方法でウクライナの軍事活動に貢献するロシア人もいる。
モスクワの元野党地方議員のマキシム・モティンは開戦直後、ウクライナ軍のために防弾ベストやヘルメットを作る複数の製造ラインを即座に立ち上げた。
「特に戦争初期には防弾ベストの大きな需要がありました。これまでに700着以上のベストや、ヘルメットをたくさん作りました」と、ウクライナ西部の都市リビウから電話インタビューに応じた。
長年、政治を通じてロシアを内側から変えようとしてきたが、治安当局から脅迫を受けて2018年に国外脱出を余儀なくされた。祖国ロシアと戦うウクライナ軍を支援するため軍備品を供給することに、ためらいはなかったという。
「私はロシアの残虐な体制や戦争を支援する人たちとはまったく関係がありません。ロシアは戦場で負ける必要があると思っています」
●ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件、獄中から侵攻批判も 現政権は高支持率 6/23
未だに終わりの見えないロシアによるウクライナ侵攻。ロシアが完全制圧を目指す、東部・セベロドネツクについて、地元の知事は6月20日、「市街戦が24時間続いている」と明らかにしました。そんな中、プーチン大統領を“ロシア国内”から批判する人物がいます。“プーチンが最も恐れる男”といわれ、獄中からプーチン大統領を批判する反体制派のナワリヌイ氏です。なぜプーチン大統領はナワリヌイ氏を恐れているのか?そして、ナワリヌイ氏を襲った“毒殺未遂事件”の真相とは?ナワリヌイ氏に直接取材した、大和大学教授の佐々木正明氏が解説します。
反体制派の急先鋒・ナワリヌイ氏をプーチン大統領が恐れる理由
アレクセイ・ナワリヌイ氏(46歳)は、ロシアの野党指導者としてプーチン大統領の汚職疑惑などを追及してきていました。2012年にアメリカ紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、ナワリヌイ氏を「ウラジーミル・プーチンが最も恐れる男」と紹介しています。
Q.佐々木さんはナワリヌイ氏に直接取材されたこともあるそうですが、その時の印象は?
大和大学教授 佐々木正明氏「非常にジョークがうまく、演説慣れしていて、背が高いのもありますが俳優のような感じがしました。また、周りが一枚岩になっていて、若い人達のカリスマといった感じでした」
2018年にはロシア大統領選に立候補しプーチン批判で支持を獲得します。しかし、過去の“横領罪での有罪判決”を理由に立候補を却下させられました。その結果、2018年3月、プーチン大統領は7割という過去最高の得票率で再選を果たしています。
Q.ナワリヌイ氏がプーチン大統領を批判することに対して、プーチン大統領はある程度容認していた部分もあったのでしょうか?
佐々木氏「はい。ナワリヌイ氏は2000年代後半から政治活動をしていますが、プーチン大統領は当初、政権に対するガス抜きに彼を利用していた節があります。私が取材したのは、モスクワ市長選挙の時でしたが、ナワリヌイ氏の支持率が段々と高くなり、2018年には大統領選にも立候補するほど大きなパワーになりつつあったので、プーチン大統領は釘を刺したのだと思います」
Q.ロシアの民主化が進むと、ナワリヌイ氏は大統領になる可能性があるのでしょうか?
佐々木氏「ナワリヌイ氏への評価は非常に分かれます。実は、ロシアでは彼のことを大きく批判するグループが大多数です。ロシア国民は彼を信用していないと思います」
Q.なぜ、ナワリヌイ氏の支持率は低いのでしょうか?
佐々木氏「それはプーチン大統領が国営メディアを使ってナワリヌイ氏を貶めたり、国家権力を使って色々な言いがかりをつけるためです。さらに、ナワリヌイ氏の支持者は街頭に出てウクライナ侵攻について反対運動をしているのですが、反対運動をする前に捕まってしまうこともあり、支持率が低いのです」
ナワリヌイ氏は、現在、詐欺と法廷侮辱罪で、禁錮9年の判決を受け服役していますが、獄中からプーチン大統領を批判しています。3月には、「ロシア人が戦争に反対することが、最も早く狂気のプーチンを止める方法だ」とSNSに投稿。5月にも、「近年でプーチンほど人を殺したロシア人はいない」としています。
Q.2021年1月にナワリヌイ氏のYouTubeでは、プーチン大統領が賄賂で得た約1400億円を投じて建てたとする「プーチン宮殿」を公開しています。プーチン大統領は自分のものではないと否定していましたが、これはどう見ますか?
佐々木氏「ここはもうすでに国家権力が警備していたり、プーチン大統領の趣味である柔道場やアイスホッケー場があります。ナワリヌイ氏のチームはここをドローンで撮影したり、設計図を入手したりしていて、これはプーチン大統領のものであるとしています」
ナワリヌイ氏“毒殺未遂事件”の真相
6月17日に公開された、ドキュメンタリー映画「ナワリヌイ」。2020年8月20日、シベリアからモスクワへ向かう飛行機で“ロシア反体制派のカリスマ”ナワリヌイ氏を襲った衝撃の毒殺未遂事件で、奇跡的に一命を取り留めたナワリヌイ氏が、事件の真相を暴き出すという内容です。この映画を見ると、プーチン大統領はナワリヌイ氏のことを「今、あなたが話題にした反体制派については…」と言ったり、「その人物…」、「あなたが言及した人間は…」、「どんな名前で呼ぼうが構わないが…」などと表現して名前を絶対に言わないため、ナワリヌイ氏の名前さえタブーなのではないかといわれています。
Q.プーチン大統領がナワリヌイ氏の名前を呼ばないのは、ロシア国内での反応を懸念しているということですか?
佐々木氏「プーチン大統領はナワリヌイ氏を“政敵”であると認めたくないので名前を呼びません。そうなるとプーチン大統領の部下も名前を呼びません。国営放送でもナワリヌイ氏の名前を揶揄して呼ぶんです。恐らく一度も名前を呼ばれたことはないと思います」
2020年、ナワリヌイ氏はイギリスの調査報道団体「ベリングキャット」と協力し、毒殺未遂事件の真相解明に乗り出します。「ベリングキャット」はSNSなどインターネット上の公開情報などを使用して、様々な調査をする国際的集団です。ロシアによるウクライナ侵攻では、SNS上の写真や映像を解析し、ウクライナの民間地域に投下された複数のクラスター弾の着弾地点などを特定しています。ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件については、過去の調査から「使用された毒物『ノビチョク』の製造所はロシア国内で1か所だけ」と突き止め、製造所の所長の通話履歴などから犯行グループを特定しました。
ナワリヌイ氏は偽名を使い、FSB(連邦保安局高官)を装って、毒殺を命じられたとされるロシアの諜報機関の関係者に直接電話をしています。その諜報機関の関係者から事件の関与を認める発言があったため、ナワリヌイ氏はベリングキャットと共に、FSBの関与を示す調査結果を公表しました。それに対してプーチン大統領は「ナワリヌイ氏は、CIAの支援を受けている。毒殺される存在なら、とっくに殺されている」と、この関与を否定しています。しかしその後、この諜報機関の関係者は行方不明となりました。
Q.真意は分かりませんが、『ナワリヌイ氏は亡くなってないでしょ?』というところがプーチン大統領の一つの言い分ですよね?
佐々木氏「そうですね。プーチン大統領は記者会見で『毒殺される存在ならとっくに殺されている』と笑って発言しています。これは戦慄を覚えるセリフです。やはりナワリヌイ氏を襲うチームがあるはずなんです。行方不明になっている方だけじゃなくて、そのチーム自体がどうなっているか、気になるところです」
そして2021年1月、ナワリヌイ氏は滞在先のドイツからロシアに帰国し、空港で身柄を拘束されました。このことについて佐々木氏は「ロシア国外から発信しても、プーチン氏と戦う好敵手にはなれない。獄中死する危険も踏まえてでも、ロシア国民に喚起をしたかったのではないか」と分析しています。
Q.死を覚悟で向かっていく姿は「ヒーロー」のようにも見え、かえって殺害できなくなってしまいますよね?
佐々木氏「そうですね。殉教者にしてしまうと、逆に今度は反体制派が一気に固まってしまう恐れもあると思います」
Q.「過激派組織を設立した」罪で、刑期が15年になる恐れがあるといわれていますが、ナワリヌイ氏の刑期はあってないようなものですよね?
佐々木氏「過去の色々な罪を重ねた上で、このような懲役になっています。ナワリヌイ氏はすべて反論できると言っていますが、今後も刑期が延びる可能性があると思います」
映画の影響は?ロシアの言論統制はいま
ロシア・モスクワでレストランや美容室を経営している廣瀬功氏によると、今でもYouTubeやテレグラムは現状使用でき、やろうと思えばいくらでも情報取集や言論はできるということです。しかし、インターネットに関しては見られないサイトも増えてきており、facebookやTwitter、Instagramは使用できず、TikTokも国外からの投稿は表示されず、アプリの中で出てくる情報が統制されたものになっているということです。
また、ナワリヌイ氏が関わるデモで拘束された人は、2017年は1000人以上、2021年は3000人以上にのぼっています。さらにウクライナ侵攻以降に拘束された人は1万5000人を超えています。そんな中でも、プーチン大統領の支持率は83%と、ウクライナ侵攻前より上がっています。
Q.支持率が83%というのは、ロシア国民の生活に大きな影響はなく、意外と上手くいっているから「プーチン大統領は正しかった」という話になっているのでしょうか?
佐々木氏「おっしゃるとおりですね。ロシア国内で行われた『ウクライナ情勢への関心度の世論調査』では、若い人の6割が関心を持っていないことがわかっています。やはり反体制派の人はかなり国外に流出しているのだと思います」
Q.ナワリヌイ氏の映画の影響は今後、出てくると思いますか?
佐々木氏「この映画はロシア国内では見られません。見られたとしても、ロシア国内でこの映画が大きなうねりになるとは思えません。それぐらいプーチン大統領の支持基盤は大きく、情報統制されています。海外での反プーチン、反ロシアというのは広がる可能性は高いです」
●ロシア、ルーブルで利払い 23日期限ドル建て国債 6/23
ロシア財務省は23日、支払期限が23日のドル建て国債の利払い計約2億3500万ドル(約320億円)を自国通貨ルーブルで実施したと発表した。前日にプーチン大統領が署名した大統領令に基づく手続きだとし、「支払い義務は完全に履行された」と説明した。ただ、米欧の金融制裁の影響で、国債保有者が実際に利息を受け取れるかどうかは不透明だ。
これに先立つ22日、ロシア大統領府は、国債のデフォルト(債務不履行)回避策として、外貨建てロシア国債の利払いなどをルーブルで行った場合でも、債務を履行したと見なすとした大統領令にプーチン氏が署名したと発表した。
ロシアは23、24日に相次いで国債利払い期日を迎え、金融制裁の影響で、一定の支払猶予期間後に全面的なデフォルトと見なされる可能性が高まっている。 

 

●ロシア高官、停戦言及で揺さぶり 「成果」と「出口」模索― 侵攻4カ月 6/24
ロシアが侵攻したウクライナで激しい地上戦が続く中、ロシアのプーチン大統領に影響力を持つ最側近のパトルシェフ安全保障会議書記が「軍事行動停止」の可能性に言及した。ウクライナ侵攻開始から24日で4カ月。戦闘が長期化すれば国民の厭戦(えんせん)気分が高まりかねず、東部ドンバス地方の制圧という「成果」とともに「出口」を模索しているもようだ。
泥沼化の恐れ
ウクライナ側は徹底抗戦し、欧米が供与した重火器が前線に順次到着している。侵攻前の防衛ラインに戻すことを当面の「勝利」の目標に掲げており、戦況が泥沼化する恐れもある。
パトルシェフ氏は15日、新興5カ国(BRICS)の会合で「ロシアは速やかに政治・外交を通じて合意に達し、軍事行動を止めることに関心がある」と表明。「両国間の交渉は(米英の意向を背景に)ウクライナ側が凍結させた」と主張した。態度を硬化させるウクライナのゼレンスキー政権を揺さぶる狙いがあるとみられる。
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は16日、パトルシェフ氏の発言について「負け戦でロシアが見せる古典的な顔だ」とツイッターで指摘。言葉は行動で示さなければならないとし、「戦闘の停止、部隊の即時撤収、『ロシア世界』をつくる企ての撤回」を迫った。
交渉「8月再開」も
停戦交渉についてゼレンスキー政権は、地上戦で劣勢を挽回できる時期を待ち、有利な条件を整えたい考えだ。交渉代表団を率いるアラハミア最高会議(議会)議員は、米政府系放送局に「8月」というタイミングを挙げた。
一方、首都キーウ(キエフ)の短期制圧に失敗したロシア軍にとって、ゼレンスキー政権の排除は非現実的。まずは親ロシア派支配地域を広げるのが至上命令だ。プーチン氏は21日の演説で「(将兵は)ドンバス地方をネオナチから守っている」と述べており、当面の目標を東部制圧に絞っているとみられる。
ウクライナ側の「8月交渉再開論」に対し、ロシアのメドベージェフ前首相は18日、通信アプリで「交渉のテーマと、相手が存在するかが問題だ」と一蹴。それまでにゼレンスキー政権を弱体化させるという強硬姿勢を見せた。
戦争支持は低下
独立系世論調査機関レバダ・センターによると、ウクライナ侵攻に関心を持つロシア国民は、3月の64%から5月は56%に下がった。国民の支持も期待できなくなれば、プーチン政権はどこかで「出口」を見いだす必要が出てくる。
18日のロイター通信によると、昨年のノーベル平和賞を受賞した独立系紙編集長のドミトリー・ムラトフ氏は、モスクワでウクライナ侵攻のシンボル「Zマーク」が見られなくなったと指摘。ロシア国民の間で戦争への支持が低下しているという見方を示した。
●戦争で財政限界に近づく、政府と中銀が対立 6/24
ロシアによるウクライナ侵攻から4カ月が経過し、戦争で荒廃したウクライナの財政は一段と厳しさを増している。同国の政府と中央銀行の間では、流動性の供給を巡る対立がある。ウクライナ軍は東部ルガンスク州セベロドネツクから撤退する。首都キーウの攻略に失敗したロシア軍はセベロドネツクを主要な標的として、掌握に向け兵力を結集させている。セベロドネツクでは建物の約90%が損壊もしくは破壊されたという。ウクライナに欧州連合(EU)が加盟候補国としての地位を付与した動きについて、ロシア政府はEU内部の問題だとの見方を示した。
ウクライナ中銀、流動性の供給能力に懸念
ウクライナは戦争継続で財政が厳しさを増し、同国の中央銀行は国債買い入れによる流動性の供給能力について警鐘を鳴らしている。ロシアの侵攻で被った経済的な打撃により、年金から軍事作戦に至るまであらゆる支出への予算が限界だという。
ロシア軍、ウクライナ東部で攻勢強める
ロシア軍がウクライナ東部で攻勢を強めている。ウクライナ侵攻直後のキーウ制圧失敗から転換し、ルガンスク、ドネツク両州から成る工業地帯のドンバス地方の掌握に今や集中している。両州とも2014年から親ロシア派武装勢力が一部地域で「ドネツク人民共和国」および「ルガンスク人民共和国」を一方的に宣言し、実効支配を続けている。
ロシア政府指名のヘルソン市当局者が死亡−タス通信
ロシア国営タス通信が報じたところによれば、ロシア政府が指名したウクライナ南部ヘルソン市の当局者が24日、自動車に仕掛けられたとみられる爆弾によって死亡した。同市はロシアが占領している。この当局者は占領当局における職務のため標的にされたと、タスは現地のロシア軍政府報道官を引用して伝えた。
米、ウクライナに4億5000万ドルの追加支援
米国は23日、先進兵器の供与を含むウクライナへの4億5000万ドル(約600億円)の追加支援を発表した。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官によると、哨戒艇やロケットシステム、追加の弾薬などが含まれる。バイデン米大統領は1週間前、ウクライナの安全保障支援に10億ドルを追加提供すると表明していた。
ゼレンスキー大統領、情報機関トップの更迭を検討−ポリティコ
ウクライナのゼレンスキー大統領は、バカノフ保安庁長官の更迭を検討している。ポリティコがゼレンスキー氏の側近4人およびウクライナ政府に助言する西側外交当局者1人を引用して伝えた。職務上の失策が理由で、戦時の情報機関トップとしてよりふさわしい後任を探しているという。
EU加盟候補国の地位付与を歓迎
ゼレンスキー大統領やフランスのマクロン大統領らは、EU首脳会議でウクライナの加盟候補国の地位を認める決定が下されたことを歓迎した。ゼレンスキー氏は「特別で歴史的な瞬間だ」と表明。マクロン氏は制裁やマクロ経済・軍事・金融支援を通じた迅速な支援などのように、ロシアの軍事侵攻以降のEUの対応を反映した決定だと指摘した。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、EU加盟に必要な改革に向けウクライナができるだけ速やかに前進することを確信していると述べた。
EU、飛び地への貨物取り扱い巡る助言明確化へ−リトアニア大統領
欧州連合(EU)は、鉄道でロシアから同国の飛び地カリーニングラード州に運ばれるロシア製品を制裁に違反せずに取り扱う方法について、ガイダンスを明確化するための書類作業を行っている。リトアニアのナウセーダ大統領が記者団に明らかにした。
●ベラルーシ「参戦」準備? 木製「ダミー戦車」を、ウクライナ国境に配備 6/24
ロシアがウクライナへの侵攻を開始してから4カ月。戦闘終結への道筋が見えないなか、苦戦するロシアが同盟国であるベラルーシを戦争に引きずり込もうとしているとの可能性が指摘されている。戦争への立場を明確にしていないベラルーシだが、こうした状況下でウクライナとの国境地帯に、木製の「ダミー戦車」を配備しているとの情報が浮上した。
これは、ウクライナ国防省のオレクサンドル・モトゥジャニク報道官が明らかにしたもの。彼は、ダミー戦車の配備の狙いについて、ベラルーシのプレゼンスを誇示することが狙いだと指摘している。Facebookに「ベラルーシ軍はカモフラージュ作戦を展開してプレゼンスを誇示するために、ウクライナとの国境地帯に木製のダミーの戦車を配備している」と投稿した。
戦闘への即応が可能か検証しているところ
モトゥジャニクはさらに、ベラルーシ軍は現在、戦闘に即応できるかどうかを検証しているところで、週末にかけて演習を続ける予定だと指摘。「ベラルーシ領内から、ウクライナに対するミサイル攻撃や空爆が行われる恐れもある」と述べ、ベラルーシ軍は南部のブレスト州とゴメリ州に7個大隊を配備し、態勢を強化しているとつけ加えた。
それでもウクライナ側は、ベラルーシ領内からウクライナに向けての2度目の攻撃(1度目は2月の侵攻開始直後)を行う準備が行われている兆候はないとの見方を示し、とはいえ潜在的な脅威は残っているため、国境地帯の部隊は維持しておくつもりだと表明した。
ウクライナ国営通信のウクルインフォルムが引用して報じたところによれば、モトゥジャニクは次のように述べた。
「ベラルーシからの脅威は決して消えていない。だが同国の領土から我が国に再び侵攻を行うためには、強力な攻撃部隊の編成が必要となる。ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した直後の数週間には、このような展開がみられた。ベラルーシの敵対的行動のせいで、ロシアはあれほど迅速にキーウ(キエフ)郊外に到達できたのだ。だが今では、当時のような強力な部隊は確認されていない」
ウクライナとしては態勢を強化せざるを得ない
モトゥジャニクは、東部のルハンシクとドネツクに攻撃を集中させるのが、ロシアの戦術だとの見方を示し、次のように述べた。
「それ以外の戦術は、絶え間ない砲撃、我々の注意を逸らす行動や、ウクライナ軍の各部隊の行動抑制だ。ロシア側はこのようなやり方で、ウクライナ軍の部隊がそこ(ベラルーシとの国境地帯)にとどまらざるを得ない状況をつくり出している。我々がそこから部隊を引き揚げれば、彼らがすぐに2度目の攻撃を仕掛けることができることは、十分に認識している。近い将来そうなることはないと予想しているが、その方面(ベラルーシ方面)の態勢は強化せざるを得ない状況だ」
だが複数のアナリストは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、ウクライナでの戦闘に勝利するためにはベラルーシを引き込むしかないと判断すれば、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領には、選択する余地はほとんど残されていないのではないかと考えている。
●「ウクライナ人ジャーナリストがロシア兵に処刑された」国境なき記者団 6/24
今年4月にキーウ北部の森で見つかったウクライナ人ジャーナリストとウクライナ軍兵士の遺体。ジャーナリストは頭を撃たれ、兵士は焼かれていました。「国境なき記者団」が現地調査し、ロシア兵に処刑されたとの報告書を発表。ウクライナ侵攻が続く中、「慰霊の日」を迎えた沖縄では、ウクライナに思いを寄せる声が多く聞かれました。
「至近距離から1発もしくは2発撃たれて…」ロシア兵、記者を処刑か
戦争の終わりはまったく見通せません。ウクライナ北東部のハルキウでは、いったん撤退していたロシア軍が再び攻勢を強めています。
こうしたなか、ショッキングな報告書が発表されました。
国境なき記者団の報告書「ロシアによる侵攻を取材中に死亡したウクライナ人記者はロシア兵に処刑された可能性がある」
今年4月、ジャーナリストのマクシム・レビンさんとレビンさんに同行していたウクライナ軍兵士の遺体がキーウ北部の森で見つかりました。レビンさんは頭を撃たれ、兵士は焼かれていました。国際NGOの「国境なき記者団」が現地で調査をした結果、レビンさんの遺体があった場所の地中から銃弾が見つかったといいます。
国境なき記者団の報告書「彼(レビン)が横たわっていたときに至近距離から1発もしくは2発撃たれて死亡した可能性がある」
また、兵士については…
国境なき記者団の報告書「遺体の様子などいくつかの証拠から、兵士は生きたまま火を付けられた可能性がある」
当時、ロシア軍が近くの村に拠点を築いていました。国境なき記者団の事務局長は「彼らを処刑した者を特定し、見つけるために戦います」との声明を出し、ウクライナ当局に証拠を提出しています。
「ウクライナも早く収まって」沖縄で平和を願う声
遠く離れた沖縄では平和を願う祈りが捧げられました。6月23日は「慰霊の日」。77年前の沖縄戦で組織的な戦闘が終結したとされる日です。
沖縄戦体験者 88歳男性: お父さん、お母さん、兄貴は兵隊でこれ嫁さん。6名亡くなった、家族。
奪われた24万人あまりの命…。平和の礎(いしじ)にはそのひとりひとりの名前が刻まれています。
祖母が沖縄戦体験 10代男性: 頻繁に来る場所ではないので、きょうだけはしっかりお祈りできたら良いなと思ってきた。
正午ごろに行われた追悼式典では…
小学2年生 徳元穂菜さん: せんそうがこわいからへいわをつかみたい。ずっとポケットにいれてもっておく。
今年は3年ぶりに総理も出席しました。
岸田文雄 総理: 沖縄の皆さまには今なお、米軍基地の集中による大きな負担を担っていただいています。政府としてこのことを重く受け止め…
岸田総理が基地負担に触れたとき、聴衆から声が上がりました。
「沖縄に基地を押しつけるな〜」
一方、沖縄の人たちからはウクライナに思いを寄せる声が多く聞かれました。
沖縄戦体験者 82歳女性: ウクライナで戦争している。もうテレビもみたくない。かわいそうで。世界平和になってほしいんだけど。
沖縄戦体験者 80歳女性: お父さんも戦争で亡くなって。ウクライナの戦争が。たくさんの孤児が出て、本当にかわいそう。お父さん、平和を願ってください。
式典に訪れた人: 二度と戦争がないようにお願いしたいです。ウクライナも早く収まってみんな世界が平和になりますようにお祈りしましょうね。みんなでね。
●米のロケット砲到着、ウクライナ国防相「熱い夏が来る」…反攻に期待感  6/24
ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相は23日、米国から供与された高機動ロケット砲システム(HIMARS)が到着したと明らかにした。米政府は23日、HIMARS4基を含む追加軍事支援を表明した。ロシアによる侵攻開始から24日で4か月となった。米欧の追加支援が、東部を中心とした戦況にどう影響するか注目される。
射程80キロ・メートル程度となる弾薬とともに供与され、精度の高いHIMARSは東部での地上戦に投入される模様だ。レズニコフ氏はツイッターで「熱い夏が来る」と、今後の反攻に期待感を表明した。21日には、ドイツから供与された自走りゅう弾砲を実戦配備したことも明らかにしていた。
米国の追加支援はHIMARSのほか、105ミリの砲弾3万6000発、機関銃2000丁など4・5億ドル(約600億円)規模。哨戒艇18隻も提供する。侵攻開始以降の米国の支援総額は61億ドルに達した。米国防総省は23日、「米国は戦場からの要求に応えるため、要件を満たす能力を提供し続ける」と強調した。
これに対し、セルゲイ・ショイグ露国防相は23日、モスクワでベラルーシ国防相と会談した際、米欧が「宣戦布告なき戦争」を仕掛けていると主張した。
一方、東部ルハンスク州のセルヒ・ハイダイ知事は23日、露軍が同州の完全制圧に向け、全ての予備戦力を投入しているとの見方を示した。英国防省は23日、露軍の地上部隊が同州の要衝都市セベロドネツクと隣接するリシチャンスクまで、約5キロ・メートルの地点に迫ったとの分析を示した。
ただ、東部ドネツク州では露軍は大きな軍事的成果を得ていないとみられ、同州の知事は22日、制圧地域は約55%にとどまっているとの認識を示した。英国防省は、露軍の支援を受ける同州の親露派武装集団の死傷者数が全体の約55%に上るとの試算を示している。
●ウクライナ侵攻4か月 終結への道筋見えず 今後のシナリオは  6/24
ウクライナ東部ルハンシク州の知事は、ロシア軍との激しい攻防が続いてきたウクライナ側の拠点、セベロドネツクからウクライナ軍の部隊が撤退すると明らかにしました。
一方、これまでの戦闘でロシア側の損失も大きいことから、ウクライナ側は、欧米から供与される兵器を使って攻勢に転じる構えで、戦闘の終結に向けた道筋は見えない状況です。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めてから、24日で4か月がたちます。
ロシア軍は、東部2州のうちルハンシク州の完全掌握を目指し、ウクライナ側が拠点とするセベロドネツクや、隣のリシチャンシクに、重点的に戦力を投入してきました。
ロシア国防省は24日、▽過去5日間で、周辺の地域を相次いで掌握し▽セベロドネツクの南方では、ウクライナ側の兵士およそ2000人を包囲していると発表しました。
ルハンシク州のハイダイ知事は24日、地元メディアに対して「残念ながら、ウクライナ軍はセベロドネツクから撤退せざるを得ない」と述べ、防衛にあたってきた部隊が別の拠点に移動することを明らかにしました。
そして、セベロドネツクの隣のリシチャンシクにもロシア軍の部隊が向かっていると危機感を示しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は23日、2つの都市をめぐる攻防でのロシア軍の優位を認めたうえで「ウクライナ軍は、ロシア軍の侵攻を遅らせ、部隊に打撃を与えるという基本的な目標を達成している」と分析しています。
そのうえで「ロシア軍の攻撃は、今後数週間、停滞し、ウクライナ軍に反撃の機会を与える可能性が高い。セベロドネツクを失うことは、ウクライナにとって損失だが、この戦いはロシアの決定的な勝利にはならないだろう」と指摘し、今後も一進一退の攻防が続くという見通しを示しました。
またイギリス国防省は24日の分析で、▽ロシア空軍が、戦闘に参加する軍用機の乗組員として退役軍人を搭乗させたと、兵員不足を指摘しました。
さらに▽軍用機のパイロットが、軍用ではなく商業用のGPS装置を使っていたとみられるとして、ロシア軍の装備品の課題も指摘しています。
東部での劣勢が伝えられるなか、ウクライナのレズニコフ国防相は23日、射程が長く、精密な攻撃が可能な高機動ロケット砲システム=ハイマースがアメリカから届いたことを明らかにするとともに、欧米の軍事支援を弾みに攻勢に転じる構えを示しました。
ハイマースについては23日、アメリカ国防総省が、4基を追加供与すると発表していて、合わせて8基が供与されることになります。
ウクライナでは、ロシア軍とウクライナ軍双方の兵士の犠牲や兵器の損失が拡大し続ける消耗戦となっていて、戦闘の終結に向けた道筋は全く見えない状況です。
米シンクタンクが示す今後の「3つのシナリオ」
アメリカのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」は、先月末、戦況によって状況が変化するため断定はできないと前置きしたうえで、今後考えられる展開について3つのシナリオを提示しました。
シナリオ1.「ウクライナは徐々に追い込まれていく」
ロシアは、ウクライナ東部から、すでに併合している南部クリミアにつながる陸続きの地域の支配を強めていく。
そして、南部の港湾都市オデーサを壊滅させるか封鎖することで、ウクライナを海に面することのない内陸に封じ込める。
プーチン大統領は、ウクライナ全土でインフラ施設への攻撃を続け、南部と東部の一部を併合するとともに、ロシア国内においては、反戦などの世論を抑えて一方的に勝利宣言をする。
プーチン大統領は、来年の早い時期に停戦を呼びかけるものの、和平に向けて合意する用意はない。
プーチン大統領は、モルドバにつながる地域など、将来的にはより広い範囲の土地を得たいと望んでいる。
来年になっても、NATOの加盟国は、領土を取り戻そうとするウクライナへの軍事支援を続ける。
しかし、来年の後半までには、経済的な負担や難民への対応、それに核攻撃のリスクを含めた緊迫の高まりへの懸念から、欧米側の合意や結束にほころびが生じ、このうち、ドイツとフランスが中心となって和平に向けた交渉を働きかけることになる。
シナリオ2.「ロシアは戦果を得ることができない」
東部ドンバス地域などで反撃が成功するなど、ウクライナ軍の戦術によって、ロシア軍は、来年の初めまでに軍事侵攻を開始した2月24日以前の支配地域にまで押し戻される。
しかし、ロシア側の強固な守りに阻まれ、ウクライナ側がさらに前進することまでは難しい。
プーチン大統領は、経済の崩壊などに対する国民の不満の高まりに直面し、ウクライナとの和平合意の締結に向けた圧力にさらされる。
来年初めごろから、世界的な経済危機を理由に、トルコ、カタール、インドが調停者として停戦を強く求める。
一方、ヨーロッパの指導者も外交的な枠組みを求め始めるようになる。
フランスのマクロン大統領は、解決策を見いだすため、中国の習近平国家主席とともに協議を呼びかける。
協議の枠組みは、ウクライナをはじめ、ロシアを含む国連安全保障理事会の常任理事国5か国に、ドイツを加えたもの。
中国は、プーチン大統領の計画を損なうようなことはしたくないが、経済上の理由からもほかに選択の余地はない。
シナリオ3.「ウクライナがほぼすべてを取り戻す」
ウクライナへの欧米の軍事支援が、大幅に増加するのに対して、ロシア軍は、兵士たちの士気がうせるとともに制裁によって軍の装備品などが補給できなくなることで、クリミアを除いてウクライナからの完全な撤退を余儀なくされる。
これによって、ウクライナは、クリミア奪還に向けた準備を始める。
欧米の軍事支援を止めるため、ロシアによる核を使った報復のリスクが高まる。
そして、ウクライナが攻撃を開始し、フランスと中国による仲介が失敗することで、第3次世界大戦の可能性が一気に高まることになる。
プーチン氏は、再選を目指す大統領選挙の1年前にあたる来年半ばごろ、国民の怒りによって権力を維持することが脅かされることになる。
隣に「巨大な北朝鮮」が現れることを恐れるヨーロッパは、ロシアがエネルギー収入などで得た一部を賠償金としてウクライナの復興基金に充てる見返りとして制裁緩和のための模索を始める。
これらのシナリオを発表した「アトランティック・カウンシル」は、次に戦場で何が起きるかによって現在、こう着状態にある戦闘が最終的にロシアとウクライナのどちらに有利になるのかが決まるとしています。
では、現在の戦況はどうなっているのか。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長は、「東部のセベロドネツクなど局所的にロシアが優勢だという見方ができたとしても、今後、ロシア軍が東部2州の完全制圧を短期間で達成するのは難しい。一方でウクライナ軍も、ロシア軍が支配している地域を大幅に奪還することは難しく、ロシア側もウクライナ側もみずからの支配地域を大きく変更することができない状況にある」と話しています。
そのうえで、今後の鍵を握るとみられる欧米からウクライナへの軍事支援について、「今後いつまで、そして、どの程度の兵器を供給し続けるのかということに関して、各国の間で温度差が見られつつある。背景にはウクライナへの『支援疲れ』のようなものがあるのではないか」と指摘しました。
欧米各国の立場 対応の違い浮き彫りに
ロシアとウクライナの停戦に向けた交渉が中断したまま進展が見られない中、ウクライナ情勢をめぐっては、欧米各国の立場や対応の違いが浮き彫りになっており、今後の展開は依然として見えにくい状況が続いています。
このうちアメリカは、バイデン大統領が、先月21日、ウクライナへの兵器の供与や人道支援などを強化するため、およそ400億ドル、日本円にして5兆円余りの追加の予算案に署名し法律が成立しました。
アメリカは、軍事面では、▽携帯型の地対空ミサイル「スティンガー」や、▽対戦車ミサイル「ジャベリン」などを供与してきましたが、ウクライナが求める長距離ミサイルの供与には慎重で、ロシアを過度に刺激したくないという思惑もあるとみられます。
イギリスは、ジョンソン首相が今月17日、ウクライナの首都キーウを訪問してゼレンスキー大統領と会談し、その後の記者会見で「ウクライナの人々がプーチン大統領とは妥協できないことはよく理解できる」と述べ、財政面や軍事面での支援が引き続き必要だと強調しました。
フランスは、マクロン大統領が、今月3日に伝えられたフランスの新聞のインタビューで「ロシアに屈辱を与えてはならない。外交的な手段で出口を作ることができなくなるからだ」と述べました。
この発言は、停戦交渉でフランスが仲介役を担うためにもロシアのプーチン大統領と対話ができる関係を維持したいという考えを示したものでしたが、ウクライナ側の強い反発を招く結果となりました。
ドイツは、ショルツ首相が、先月13日、プーチン大統領と電話で会談し、一刻も早く停戦を実現し外交による解決を模索するよう促したほか、先月28日には、マクロン大統領とともにプーチン大統領との3者による電話会談を行いました。
この会談についてドイツ側は、ショルツ首相とマクロン大統領は、プーチン大統領にゼレンスキー大統領との直接交渉を呼びかけたとしています。
ただ、ロシアと対話するフランスとドイツの首脳については、ポーランドのドゥダ大統領が、今月8日、ドイツメディアとのインタビューの中で「第2次世界大戦の最中に、ナチス・ドイツを率いるヒトラーと電話でやり取りするのと同じだ」と批判しました。
このほか、ロシアと地理的に近いバルト3国は、今回の軍事侵攻に危機感を強めており、このうちリトアニアでは、先月10日、議会がロシアの軍事侵攻を「ウクライナ人に対する集団虐殺」だとする決議案を全会一致で採択しました。
一方、ロシアへの制裁をめぐっては、EU=ヨーロッパ連合が、先月30日の首脳会議で、ロシア産の石油の輸入禁止で合意しましたが、ハンガリーが自国のエネルギー確保が脅かされるとして強く反発し、パイプラインによる輸入については、当面除外されることになりました。
このように、ウクライナ情勢をめぐっては、欧米各国の立場や対応の違いが浮き彫りになっており、今後の展開は依然として見えにくい状況が続いています。
各国表明のウクライナ支援総額
各国が表明したウクライナに対する軍事支援や人道支援などを含む支援の額について、ドイツの「キール世界経済研究所」が、ことし1月から今月7日までの総額をまとめ、今月16日に発表しました。
それによりますと、▽総額は780億ユーロ、日本円でおよそ11兆円となっていて、▽このうちアメリカは、もっとも多い426億ユーロ、日本円でおよそ6兆円で、全体の半分以上を占めています。
次いで、▽EU=ヨーロッパ連合は155億ユーロ、日本円でおよそ2兆2000億円、▽イギリスは48億ユーロ、日本円でおよそ6800億円、▽ドイツは32億ユーロ、日本円でおよそ4500億円、▽ポーランドは27億ユーロ、日本円でおよそ3800億円などとなっています。
また、支援額が各国のGDP=国内総生産に占める割合については、多い順に、▽エストニアが0.87%、▽ラトビアが0.73%、▽ポーランドが0.49%、▽リトアニアが0.31%などとなっていて、ロシアに地理的に近く、歴史的にもロシアを脅威と捉えてきた国々が上位を占めています。
これについては、ヨーロッパの主要国であるドイツやフランスは、いずれも0.1%未満となっています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐってヨーロッパ各国の国内世論には違いも見られます。
ヨーロッパの調査研究機関「欧州外交評議会」が、ことし4月下旬から先月中旬にかけてヨーロッパの10か国で、合わせて8000人を対象に調査を行いました。
調査では、▽「たとえ領土をロシアに渡すことになったとしても、もっとも大事なのは可能なかぎり早く停戦することだ」という回答を選択した人たちを「和平派」としています。
一方、▽「たとえさらに多くのウクライナ人が殺されたり、避難を余儀なくされたりしても、もっとも大事なのは侵攻したロシアを罰することだ」という回答を選択した人たちを「正義派」としています。
調査結果をみると、▽「和平派」が35%なのに対し、▽「正義派」が22%、▽「どちらとも言えない」が20%となりました。
国別に「和平派」と「正義派」の割合をみると、▽イタリアは52%と16%、▽ドイツは49%と19%、▽ルーマニアは42%と23%、▽フランスは41%と20%などと、調査が行われた10か国のうち9か国で「和平派」が「正義派」を上回っていることがわかりました。
一方、▽ポーランドだけは、逆の傾向を示して16%と41%となっており、「正義派」が「和平派」を上回る結果となりました。
専門家「各国の立場に一定の違い 対ロ圧力では結束」
ウクライナ情勢をめぐる欧米各国の対応について、国際安全保障に詳しい慶應義塾大学の鶴岡路人准教授は、各国の立場には一定の違いはあるものの、経済制裁などでロシアに対して圧力をかけていく点では結束していると分析しています。
このうち、ヨーロッパの中でもロシアと地理的に近い場所に位置するポーランドやバルト3国については「ロシアを負けさせるべきだという主張を非常に強く打ち出している」として、ロシアに最も厳しい姿勢で臨んでいる立場だと分析しています。
背景として鶴岡氏は「これらの国々は、侵略戦争によってロシア側にも得るものがあったという結末になってしまうと、ロシアは再び侵略すると考えている。その場合、次に侵略される対象が自分たちの国になると真剣に考えている」と指摘しています。
また、同じヨーロッパでも、ドイツとフランスについては「ロシアの脅威に対する差し迫った切迫感はない。ロシアを排除して孤立させても、中長期的にはヨーロッパの安全は保障できないと考えている」として、ロシアとの対話を重視する立場だと位置づけています。
アメリカについては「ヨーロッパ各国の中で、ロシアに厳しい姿勢の国と甘い対応だと言われる国との中間に位置している」と分析しています。
そのうえで「バイデン大統領が『ウクライナに関する決定をウクライナ抜きで行うことはない』と繰り返し強調しており、この原則は非常に重要だ」と述べ、ウクライナとの合意形成に基づく支援を行う姿勢を維持していると指摘しています。
欧米各国の対応について、鶴岡氏は「いつも『足並みが乱れている』と指摘されるヨーロッパ各国だが、今回は足並みが極めてそろっている。アメリカとヨーロッパの間でも高いレベルで結束できている」として、各国の立場には一定の違いはあるものの、経済制裁などでロシアに対して圧力をかけていく点では結束していると分析しています。
一方、今後の見通しについては「ウクライナにとっては、領土内のロシア軍を押し返すことがいまの戦争の目的であり、それが勝利だ。ロシアが勝ったという形にしてはならないというのが国際社会の一致した考えだ」と述べています。
鶴岡氏は、戦闘の長期化が世界各国の政治経済にも影響すると指摘しています。
今月19日に行われたフランスの議会下院にあたる国民議会の選挙で、与党連合の議席が過半数を下回る結果となったことについて「ウクライナ情勢を受けた物価高騰に対応しきれなかった政府への不満が背景にあると言える」と分析しています。
そのうえで「ロシアにとって『物価高騰の責任は欧米各国の経済制裁にある』と主張することは、ほぼ唯一残された手段となっている」と指摘しました。
バイデン政権 ウクライナ支援強化しながら国内対応の課題
ロシアによる軍事侵攻から4か月を迎える中、アメリカのバイデン政権は、ウクライナへの軍事支援を一段と強化しています。
一方、アメリカ国内では、秋の中間選挙まで5か月を切り、国民のウクライナへの関心は薄れつつあり、バイデン大統領は、ウクライナ危機に対応しながら、選挙を見据え、インフレ対策など国民の暮らし向きを目に見える形で改善させるという大きな課題に直面しています。
アメリカのバイデン政権は、ウクライナ東部地域でロシア軍が攻勢を強めていることを受けて、軍事支援を一段と強化し、これまでに、▽対艦ミサイル「ハープーン」や▽高機動ロケット砲システム=ハイマースなどの兵器の供与を発表しました。
国務省によりますと、ウクライナへの軍事支援額は、ことし2月のロシアの侵攻以降、61億ドル以上、日本円にして8200億円以上に上ります。
さらに、バイデン政権は、軍事侵攻の長期化も見据え、多国間の枠組みでの支援にも力を入れています。
これまでに、NATO=北大西洋条約機構の加盟国などが参加する国際会合を3回、主催し、今月15日の会合では、ドイツが多連装ロケットシステムを供与する方針を示すなど、ヨーロッパ各国からの武器の供与の旗振り役も担っています。
一方、アメリカ国内ではことし11月の中間選挙まで5か月を切る中、バイデン大統領の支持率は、世論調査の平均値で、40%を下回り、就任以降、最も低い水準に低迷しています。
さらに、アメリカ国民のウクライナへの関心は薄れつつあります。
調査会社イプソスが行っている世論調査によりますと、「アメリカが直面する最も重要な問題は何か」という質問に対し、「戦争と外国の紛争」と答えた人の割合は、侵攻直後のことし3月上旬は、「経済、失業、雇用」と答えた人の割合に次いで多い17%だったのに対し、3か月後の今月は、3%でした。
これに対し、今月、「経済、失業、雇用」と答えた人の割合は最も多い32%で、国民の関心は目の前の生活へと移っていることがわかります。
その大きな原因の1つがアメリカ国内で続く記録的なインフレです。
先月の消費者物価指数は、前の年の同じ月と比べて8.6%の上昇と、およそ40年ぶりの記録的な水準に達しました。
バイデン大統領は今月10日、「プーチン氏による値上げがアメリカに打撃を与えている」と述べ、インフレの原因は軍事侵攻を続けるロシアだと非難し「物価を下げるためであれば、できることは何でもする」としています。
バイデン大統領は、車社会のアメリカに欠かせないガソリンの価格の上昇に歯止めをかけようと、石油大手のエクソンモービルなど7社にみずから書簡を送り、速やかに供給を増やすよう求めました。
また、来月中旬には、これまで人権問題などで関係が冷え込んでいた産油国、サウジアラビアを訪問すると発表しました。
バイデン大統領としては原油の増産を促すことで、ガソリン価格の抑制につなげたい考えです。
さらに、トランプ前政権が中国からの輸入品に課した関税の一部引き下げを検討していることも認めています。
こうしたあの手この手のインフレ対策の背景には、11月の中間選挙で、与党・民主党が敗れれば、残り2年間、議会の協力を得られず、思うように政策遂行ができないいわゆる「レームダック」に陥ることがあります。
バイデン大統領は、長期化しつつあるウクライナ危機に対応しながら、国内では選挙を見据え、国民の暮らし向きを目に見える形で改善させるという大きな課題に直面しています。
米 専門家「バイデン政権 選挙に向け国内問題に注力か」
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから4か月となる中、アメリカの専門家からは国民の関心が記録的なインフレなど身近な問題に移りつつあり、バイデン政権は、秋の中間選挙に向け、一段と国内問題に力を入れることになるとの見方が出ています。
アメリカ政治が専門のオハイオ州、ヤングスタウン州立大学のポール・スラシック教授は、NHKのインタビューの中でウクライナ情勢について「アメリカでは、ここまで長期化すると考えられていなかったことに加え、アメリカが直接、ウクライナに軍を派遣していないこともあり、人々の関心がやや薄れつつある」と述べ、国民の関心がインフレなど身近な問題に移りつつあるという見方を示しました。
そして「バイデン政権がいま行おうとしているのは、ガソリン価格の高騰はロシアのせいだと非難することで、インフレなどの経済問題とウクライナでの戦争を結び付けることだ」とし、「選挙が近づくにつれて、一段と、国内問題に焦点を当てていくことになるだろう」と述べ、バイデン政権は支持率の低迷に悩む中、投票まで5か月を切った中間選挙に向けて、今後、一層、内政に重きを置くようになると指摘しました。
また、このことがアメリカの戦略に与える影響について、スラシック教授は「アメリカはウクライナに対し、400億ドルの巨額の支援を行うとしているが今後、大きな資金的援助が難しくなってくる可能性がある。特に野党・共和党の候補者の中には、国内で財源が必要なときにそうした資金を提供することに疑問を投げかける人がいる」と述べました。
そのうえで「問題は、ウクライナが死活的に必要だとする武器を提供するため、アメリカがどれだけ進んで資金を投入し続けるかだ」と述べ、中間選挙が近づくなか、戦闘の長期化はアメリカの軍事支援のあり方に影響を与える可能性があるという見方を示しました。
●ウクライナで今後想定される3つのシナリオ…ロシア侵攻4か月 6/24
ロシアによるウクライナ侵攻は、開始から4か月を迎える。物量に勝る露軍と、米欧の支援を受けるウクライナ軍が激しい戦闘を繰り広げる中、今後、想定されるシナリオを3通りに分けて分析した。(ワシントン支局 田島大志)
1 占領地域の「編入」も
ウクライナ東部ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)の地上戦で露軍は態勢を強化し、10倍以上とされる火力を中心とした力押しで優位に立ちつつある。
米欧のウクライナ軍への支援が大幅に増強されなければ、露軍はドンバス地方全域の「解放」という侵攻目的を達成し、南部ヘルソン州やザポリージャ州の占領地域と合わせ、侵攻前に支配していた地域の3倍の領土を制圧する可能性もある。
実現すれば、5月9日の旧ソ連による対独戦勝記念日の際には見送った、一方的な「勝利宣言」に踏み切るとの見方もある。ただ、ウクライナ軍は依然として士気が高く、抗戦をあきらめる可能性は、現時点では低い。これらの地域を一括してロシアに「編入」すると表明し、占領を既成事実化することもあり得る。
ロシアのプーチン大統領は、21年間にわたるスウェーデンとの北方戦争に勝利し、帝政ロシアを大国に押し上げたピョートル1世(大帝)に自身を重ね合わせ、帝国主義的な考えを隠そうとしない。最側近のニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記も、侵攻作戦には「特定の期限」を設けず、領土を拡大するまで戦争を続ける方向性を示唆している。
プーチン氏が強気を貫く背景には、米欧の支援が長続きしないとの読みがある。ウクライナへの軍事支援をリードする米国は11月に中間選挙を控える。国内問題に関心が傾けば、支援が息切れする事態も想定される。
米欧の関心が離れれば、露軍がウクライナ第2の都市ハルキウを攻略し、さらに首都キーウ(キエフ)を再び襲うことも考えられる。
2 有利な状況で停戦協議
ウクライナ軍がドンバス地方での露軍の攻撃をしのぎ、米欧の高性能兵器が前線に十分に配備されれば、戦局が大きく動く可能性がある。
特に米国製の高機動ロケット砲システム(HIMARS)などは、露軍のシステムより精度が高く射程が長い。訓練を受けたウクライナ兵が使いこなせるようになれば、自軍の被害を抑えながら反転攻勢を進められそうだ。
ウクライナ軍は、南部クリミア半島と隣接するヘルソン州やザポリージャ州では、すでに反攻を始めている。軍と呼応するように、ロシアの占領統治に対するゲリラ活動も盛んになっている。露軍は徴兵された兵士が中心で士気が低く、露側が苦戦に転じた場合は部隊の統制が崩壊するとの見方もある。
ウクライナ軍は当面、2月24日の侵攻前の領土回復を目指すとみられる。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、侵攻開始前のラインまで露軍を撤退させれば「暫定的な勝利」だと表現している。2014年にロシアに併合されたクリミアの地位を巡る問題は先送りし、自軍に有利な状態で停戦協議に持ち込むのが現実的だろう。
ただ、露軍が侵攻前のラインまで後退する事態になれば、威信に傷が付いたプーチン氏が事態をエスカレートさせる懸念も高まる。生物・化学兵器だけでなく、核兵器をウクライナで使用することも現実味を帯びてくる。
3 数年にわたる長期戦
最も可能性が高いとみられているのは、露軍とウクライナ軍が都市の奪い合いを繰り返しながら、戦争終結に至る決定打を与えられず、長期化するシナリオだ。
米国や北大西洋条約機構(NATO)は、プーチン氏が自ら戦争を終結させる可能性は低いとみており、「(戦争が)何年も続き得るという事実に備えなければならない」(イェンス・ストルテンベルグNATO事務総長)と長期支援も覚悟している。
戦況停滞の背景には、米国がウクライナに対し、ロシア領まで届く長射程の重火器供与を拒否するなど、軍事支援のレベルを抑えている影響もある。核を保有する軍事大国同士である米露間の緊張が高まる事態を警戒しているためだ。
米国の著名コラムニスト、トーマス・フリードマン氏は今月、米紙ニューヨーク・タイムズで、米露の「相撲」が始まったと表現し、「大きな力士同士が相手を土俵から投げ出そうとするが、どちらもやめないし、勝つこともできない」と指摘した。
長期戦になれば、関係国の消耗は増す。経済制裁が続くロシアは、戦争継続とともに、国民の不満解消にも目を配る場面が増えてくるだろう。米欧諸国も、制裁の副作用として発生した食糧やエネルギー価格の急騰に耐えられなくなり、ウクライナに停戦を促したり、支援を減らしたりする動きさえ出かねない。
●ウクライナ情勢で外相会合 G7 6/24
外務省は24日、先進7カ国(G7)の外相会合が同日、ドイツの首都ベルリンで開かれると発表した。
26日から同国南部エルマウで開催される首脳会議(サミット)に先立ち、ロシアによるウクライナ侵攻について協議する。林芳正外相はオンライン形式で出席する。
林氏は外相会合後、ドイツ政府主催の食料安全保障に関する閣僚会議にも参加。ウクライナ侵攻で深刻化する食料危機などについて話し合う。 
●G7外相、食料危機は「ロシアに責任」 会合で林氏「支援を検討」 6/24
日米など主要7カ国(G7)は24日(日本時間同日夜)、外相会合をドイツで開いた。ロシアのウクライナ侵攻の影響で深刻化する食料危機について「ロシアが責任を負っている」との認識で一致した。
林芳正外相はオンラインで参加した。各国外相は、ウクライナからの食料輸出を妨げないようロシアに求める考えを示した上で、輸出を支援する欧州連合(EU)の取り組みに対し、支持を表明。林氏は「グローバルな食料危機に対応するため、さらなる支援を検討する」と発言した。
外相会合は26日からドイツ南部エルマウで始まるG7首脳会議(サミット)に先立ち、最新のウクライナ情勢に関する認識を共有し、連携を確認するために開かれた。
●ロシア水域「サケ・マス漁」、今年は操業見送り 水産庁発表 6/24
水産庁は24日、日本漁船によるロシア水域での「サケ・マス漁」について、今年は操業を見送ると発表した。ウクライナ情勢を受け、「緊急性や必要性を総合的に判断した結果」としている。23日夜、ロシア側に伝えたという。
ロシア水域でのサケ・マス漁は例年、3月下旬〜4月上旬に日本水域での漁とあわせて操業条件などを交渉してきたが、今年は日本水域のみ先に交渉したうえで4月に合意した。
ロシア水域でのサケ・マス漁については、ロシア政府が2016年に資源管理などを理由に流し網漁の操業を禁止し、日本は漁船1隻で引き網漁を「試験的」に続けてきた。昨年の漁期は6月1日〜7月31日で、漁獲枠を125トン、約2433万円の「入漁料」を支払う内容で合意していた。
来年以降について水産庁は「決まっていることはない」としている。
●米バイデン政権、ウクライナに600億円超の追加軍事支援 6/24
アメリカのバイデン政権は23日、ウクライナに対し新たに4億5000万ドル=600億円あまりの軍事支援を行うと発表しました。
米NSCカービー戦略広報調整官「アメリカはウクライナの防衛を強化し主権と領土の一体性を支援し続ける」
ウクライナに対する新たな軍事支援は、高機動ロケット砲システム「ハイマース」4基に加え、戦闘車両や機関銃など総額4億5000万ドル、日本円で600億円あまりにのぼります。
ことし2月にロシアがウクライナに軍事侵攻して以降、バイデン政権によるウクライナへの軍事支援はこれまでに61億ドル=8200億円あまりに達しています。
●EU入り前進も…ウ軍が東部要衝から撤退 戦地で迎える新たな門出 6/24
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって4カ月、激戦が続く東部戦線で大きな動きがありました。要衝のセベロドネツクからウクライナ軍が撤退すると州知事が表明。今後の戦況にどのような影響があるのでしょうか。
長さ30メートルに及ぶウクライナ国旗が広げられ、その上には次々とEU(ヨーロッパ連合)諸国の国旗が重ねられました。
ブリュッセル在住のウクライナ人:「ウクライナにとって大きな一歩です。すべてのウクライナ人にとって伝説的な日です」
場所はブリュッセルのEU議会前。「ウクライナにとって大きな一歩」はこの日、ここからほど近いEU本部で刻まれました。
加盟国27カ国の首脳らが集まって協議をしたのです。全会一致で決定されたのは…。
EU・ミシェル大統領:「ウクライナとモルドバを加盟候補国として認めることを決定しました」
ウクライナとモルドバをEU加盟候補国とすることです。
ウクライナ、ゼレンスキー大統領:「加盟候補国として認められた。これは勝利だ。(侵攻開始から)120日間、(独立から)30年間、この日を待っていた。これで敵を打ち負かせる。休息が取れる」
EUの決定を勝利だと歓迎したゼレンスキー大統領。ツイッターへの投稿でも「またとない歴史的な瞬間」「ウクライナの未来はEUの中にある」と強調しました。
今の侵攻につながるクリミア半島の一方的な併合やロシアの後押しを受けた武装勢力によるウクライナ東部の占領は、そもそもロシアがウクライナとEUの接近を阻止するために起こしたことです。
これからは加盟交渉が始まりますが、国内法の改正なども必要で、実際に加盟するまでは通常10年程度かかります。その間に戦争は終わるのでしょうか。
今月24日で、ロシアが侵攻を始めてから丸4カ月が経ちました。
ゼレンスキー大統領:「2000もの教育機関が破壊されたことを想像してほしい。どれだけの人、どれだけの命がそこにあったのか。2000もの数、誰が大学や学校、幼稚園を砲弾で撃つ必要があるのか」
北東部・ハルキウの集合住宅に突き刺さっていたのは重さ500キロにも及ぶ不発弾です。慎重にクレーンでつり上げ、運び出します。
ウクライナ東部では、落ちてきた砲弾があちこち残されたままです。
ルハンシク州ではロシア側がセベロドネツクの大半を手中に収め、隣接するリシチャンシク周辺へも攻勢を強めています。
ウクライナ軍参謀本部・報道官:「占領者はギルスケ村を制圧しようとしています。ミコライウカは突撃で制圧されました」
ルハンシク州のハイダイ知事は24日、SNSの投稿で「残念ながらセベロドネツクから部隊が撤退する」と表明しました。果たして、戦況に変化はもたらされるのでしょうか。
ウクライナのレズニコフ国防相はアメリカの高機動ロケット砲システム「ハイマース」がウクライナに到着したとツイッターで明らかにしました。ハイマースは従来の兵器より大幅に長い射程を持ちます。
レズニコフ国防相はアメリカへの感謝を述べたうえで、こう書き連ねています。
レズニコフ国防相:「ロシアの占領者にとって暑い夏となるだろう。そして最後の夏になる者もいるだろう」
アメリカが提供したハイマースは4基。23日、アメリカ国防総省はさらに4基のハイマースを提供すると発表しました。
アメリカ国防総省・カービー報道官:「アメリカは4億5000万ドルの追加軍事支援を行います。これにはハイマースも含まれます」
ロシアによる侵攻は、いつ終わるともしれません。戦火のなか、若者たちは新たな門出を迎えています。
戦地のウクライナで若者たちが乗っているのは破壊された戦車。実は高校の“卒業写真”として撮影されたものです。
場所はロシア軍の砲撃で廃墟と化した街・チェルニヒウ。地元の高校を卒業する学生たちをウクライナの写真家が撮影しました。
爆撃で外壁が崩れ落ちた住宅で同級生とともにポーズを取ります。変わり果てた故郷を背景にして記録した卒業写真。参加した学生の思いは…。
高校の卒業生(17):「つらかったけど、このような現実で私たちが生きていることを見せたかった」
ロシア軍が侵攻して4カ月。ウクライナは6月が卒業シーズンです。
東部のハルキウではウクライナ軍が立ち会うなか、卒業生たちが記念のダンスを披露。戦地で迎える門出をドレスアップして祝います。
学生たちはこの4カ月、思春期ならではの「葛藤」と、「未来への希望」を抱いて過ごしてきました。
番組は首都キーウの高校を卒業したばかりの女性を取材。
キーウの高校を卒業・ヴェロニカさん(17):「初めまして、ヴェロニカです」
日本語の勉強もしているというヴェロニカさん。
一時はポーランドに避難していましたが、故郷に帰国。今月15日、キーウの高校で卒業証書を受け取りました。
しかしその後、予定していた卒業パーティーは中止に…。
キーウの高校を卒業・ヴェロニカさん:「ウクライナでは食品を買うお金がない人もいるなかで卒業を祝うなんて…よろしくないこと」
当初はドレスアップしないつもりだったといいますが、母親の友人に勧められ…。
キーウの高校を卒業・ヴェロニカさん:「良い思い出になるように、戦争中でも楽しめるようにと勧められた。私は納得していなかった。でも、試しに着替えて鏡を見た時に、卒業式で絶対に着ると決めた」
プロのスタイリストとカメラマンに依頼し、故郷・キーウの街でドレス姿を記録。同級生も誘い、卒業アルバムを作ることにしたのです。
人生の岐路に立つヴェロニカさん。いまだ戦乱が続くなか、国外への避難はしないと決断しました。
キーウの高校を卒業・ヴェロニカさん:「キーウ国際大学に入学したい。不安も感じているが、ウクライナの経済を復興しなければならない。平和になって、いつもの生活に戻ってくれることを期待している」
●プーチン氏側近が視察中、親露派幹部が爆死… レジスタンスが活発化 6/24
タス通信などによると、ロシア軍が占領しているウクライナ南部ヘルソンで24日朝、親露派幹部の車が爆発し、幹部が死亡した。幹部が車に乗り込んだところ爆発が発生したとの情報があり、親露派勢力は「暗殺を目的にしたテロだ」と非難している。
この日は、プーチン露大統領直轄の治安組織「国家親衛隊」のビクトル・ゾロトフ総司令官がヘルソンを視察していた。
ヘルソン州やザポリージャ州の露軍が占領している地域では、占領に反発するレジスタンス(抵抗運動)が活発化している。ウニアン通信によると22日には、ヘルソン州で露軍に協力している最高会議(国会)議員が車ごと爆殺された。
ウクライナ軍の関連組織「国民レジスタンスセンター」は23日、プーチン政権がロシアで統一地方選挙が予定される9月11日にヘルソン、ザポリージャ両州を、一方的にウクライナから独立させるための住民投票の実施計画があると明らかにした。一方的な独立やロシアに併合する計画は、これまで浮上したが、住民の抵抗で実現に至っていない。
●死亡報道も…健康不安説のプーチン「9月クーデター計画」の中身 6/24
英紙『デイリー・スター』が、同国の諜報機関「MI6」関係者の証言として驚きの報道をしている。
〈プーチン大統領は、すでに死亡している可能性があります。正確に把握するのは不可能だが、プーチン大統領は過去に体調を崩した時には影武者を登用していたとか。現在も、同様の動きをしているようです〉
ロシアのプーチン大統領の、極端な異変を指摘したのは「M16」だけではない。各国の要人からも、影武者説を匂わせる発言が相次いでいるのだ。
「彼は3年前とまったくの別人のように見えた。頑固で孤立している」(フランスのマクロン大統領)
「不安定さが急激に増している。以前とは、完全に違う人物としか思えない」(米国の元駐ロシア大使マイケル・マクフォール氏)
甲状腺の専門医が35回訪問
ロシア情勢に詳しい、筑波学院大学の中村逸郎教授が話す。
「私も各国の高官同様、現在のプーチン氏は以前とまったく別人だという印象を受けます。顔がこわばり、表情がなくなってしまった。象徴的だったのが、今年2月にベラルーシのルカシェンコ大統領と会談した時です。プーチン氏は手をグルリと回し、イスの肘掛を強く握り締めていました。つま先を激しく動かし、明らかに落ち着きがなかったんです」
死亡説の真偽は定かではないが、健康に不安を抱えているのは間違いないようだ。
ロシアの独立系メディア『プロエクト』は、プーチン大統領に関する行動記録を入手。今年4月に発表された同メディアの報告によると、16年から20年の4年間で甲状腺の専門医が大統領のもとを35回訪問したという。昨年9月に公の場に姿を現さなくなった時期には、甲状腺がんの手術を受けたのではないかと報じている。前出・中村氏が続ける。
「報道は、かなり信憑性が高いと思います。『プロエクト』は政権寄りでも批判一辺倒でもなく、冷静に事実を伝え調査報道に定評のあるメディアです。また医師の名前や肩書きまで、細かく明らかにしている。プーチン氏の甲状腺に、なんらかの異常があるのは間違いないでしょう」
健康に重大な問題を抱えていれば、大国ロシアの運営などできるハズがない。ウクライナと紛争中の現在はなおさらだ。「MI6」の元長官リチャード・ディアラブ氏は、米紙『ニューヨーク・ポスト』などの複数のメディアにプーチン大統領は失脚するとの予測を明かしている。ロシア国内にクーデター計画があるというのだ。中村氏の予測だ。
「仕掛けるとしたらロシア連邦保安局(FSB)でしょう。FSBは、91年8月に当時のゴルバチョフ大統領にクーデターを起こしたKGBの後身です。プーチン大統領の出身母体であり、国家の機密情報を多く持っています。プーチン大統領が失脚すれば、FSB長官のボルト二コフ氏が就任するでしょう。
クーデターが起きるとしたら、9月の可能性が高い。プーチン大統領は、例年同時期に南部ソチやシベリア山脈で休暇を取ります。首都モスクワを離れ、つけ入るスキが生まれるからです」
ウクライナでの苦戦にクーデター計画と、内憂外患のプーチン大統領。健康不安説が国内外に広がり、さらに追いつめられているようだ。
●プーチン氏、軍事作戦の次は「食糧」を脅しの材料に 日本へは“兵糧攻め” 6/24
ロシア軍の苦戦が伝えられ、戦闘の終結はそう遠くないかもしれない。だが、世界は“急所”をすでにプーチン氏に握られてしまった。ロシア軍はウクライナの“玄関口”の港町に狙いを定め、次々に海上を封鎖している。世界に「大飢饉」が迫っている──。
アメリカや中国などに続く、世界5位の軍事費をかけるロシアは、ウクライナと比べると圧倒的な戦力を持つ。当初は短期間での占領を目論んでいたが、ウクライナが国を挙げて必死の抵抗を続けたうえに、欧米各国からも強力な支援がなされて戦闘は長期化。欧州の研究機関の試算によると、ロシアの戦費は、人的被害の影響なども含めて1日あたり2兆5000億円を超えるとされる。
莫大な戦費と西側諸国から経済制裁により、ロシア経済は大混乱しており、軍事行動は長くは続けられないと見られているが、仮に停戦したとしても、ロシアは“もうひとつの戦争”を続けることになるという。プーチン大統領研究の第一人者で、ロシア政府の入国禁止者リストにも載った筑波大学名誉教授の中村逸郎さんはいう。
「軍事的な戦争で勝利を収められなかったプーチン氏は、欧米、日本を含めた世界を相手にして『経済戦争』を続けるでしょう。その1つは、天然ガスを筆頭にしたエネルギー戦争です。ヨーロッパ各国はロシア産の天然ガスに大きく依存しており、供給のストップといった戦略が考えられる。中東などほかのエネルギー産出国への切り替えもできないわけではありませんが、すぐには難しいので、世界で混乱が起きるでしょう」
さらにプーチン氏は強力なカードを握っている。それは小麦などの穀物に代表される「食糧」だ。ウクライナは輸出量世界5位の小麦大国だ。さらにとうもろこしやひまわり油などの生産も盛んで、「世界の穀倉地帯」とも呼ばれている。
ところが、現在は収穫された小麦が輸出できない状態に陥っている。ロシア軍がウクライナの黒海沿岸の港を制圧したり、港の周辺に機雷(水中の設置爆弾)を敷設したりしたほか、武力で輸出用の船舶を威嚇。港の倉庫には、小麦などが大量に留め置かれているという。そのため、ウクライナ国内にはあり余る食糧がある一方、小麦は世界的な供給不足に見舞われ、価格が高騰しているのだ。
さらに、小麦輸出量世界1位を誇るのは、ほかでもないロシアだ。すでに、西側諸国の経済制裁への対抗措置で、ロシアは小麦の「売り渋り」という戦略に出ている。しわ寄せを真っ先に受けるのは、肥沃な土地を持たない発展途上国だ。ロシア・ウクライナ両国からの小麦の輸入割合が30%を超える国が、中東、アフリカを中心に約50か国もある。東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘さんが説明する。
「食糧は“武器”として他国を脅す材料となり得ます。もともと、食糧戦争はアメリカが作り出した仕組みです。まずは自国農業に補助を出して増産し、各国に安価で輸出します。そして相手国に関税を撤廃させ、安い輸入農産品に依存させることにより、相手国の農業生産能力を低下させます。その後で、異常気象などを口実に大幅値上げしたり、輸出制限をちらつかせることで、相手国を外交的にコントロール下に置くことができるわけです」
ただでさえ、世界を襲う異常気象により、ほかの地域では高温と干ばつで小麦は不作。小麦価格は過去最高水準にまで達している。さらに現在の状況下で、ロシアが輸出を止めたり減らしたりすれば、貧しい国や食糧自給率が低い国から順に耐えられなくなるだろう。
このまま食糧不足や食糧価格の高騰が続けば、世界で約5000万人が飢餓に陥る恐れがあると、この4月に国連世界食糧計画がまとめた報告書には記されている。餓死者も途方もない数にのぼるだろう。その中には、多くの幼い子供も含まれる。「世界飢餓計画」を意図的に推し進めようとしているのだとしたら、プーチン氏の行いは、まさに「悪魔の所業」だ。
日本は直接ロシアやウクライナから小麦を輸入している状況にない。安心していいかと思いきや、全世界的に小麦不足となれば、価格高騰は避けられない。それどころか、日本は最も影響を受ける国だという。
「西側諸国はヨーロッパもアメリカもかなり高い食糧自給率を誇り、エネルギー自給率もある程度高い。輸入が止まっても、しばらくは耐えられるでしょう。ところが、工業製品の輸出ばかりを奨励して伸ばし、“食糧はお金を出して外国から買えばいい”という方針だった日本は、食糧が封鎖されると一巻の終わりです。真っ先に“兵糧攻め”でやられてしまうのです」(前出・鈴木さん)
食卓から、ファミレスから、パンやパスタ、うどんが消えるのも時間の問題。食糧自給率の低い日本は他国にかなり依存しており、真の意味で「独立国」とは言えない状況だ。飽食の時代といわれて久しいが、食糧が入手できなくなる日のことを念頭に「食糧安全保障」を真剣に考えるときがきている。 

 

●「人間ならこんなことはできない」侵攻4か月…ウクライナの人たちの思いは? 6/25
ロシア軍による激しい砲撃が続くウクライナ。軍事侵攻から24日で4か月です。犠牲となった市民は少なくとも4600人。今、ウクライナの人たちはどのような思いを抱えているのか。首都・キーウから末岡寛雄記者の報告です。

教会などが立ち並ぶキーウ市内中心部の広場に来ています。金曜の夕方ということもあり、多くの人が集まっているのですが、ここには侵攻で破壊されたロシア軍の戦車などが展示されています。
スマホで写真を撮っていた人に話を聞いたのですが、「自分たちの町を壊した車両を見ると、心の中で涙が出る」「人間ならこんなことはできない」とロシアに対しての怒りを口にしていました。
――Q.市民の暮らしはどうなっていますか?
中心部の独立広場ではカフェが再開し、にぎわっている場所もありました。ただ、その一角では戦闘で亡くなった人の名前などが書かれた旗が並べられています。この日も新たに旗が追加され、犠牲者が増え続けていることを実感しました。
取材で出会った恋人を亡くした人や地雷と隣り合わせで住む人。仮設住宅での暮らしを余儀なくされている人は、侵攻開始から4か月たちますが、誰もが先の見通しが全く立たず、一番ほしいのは「平和」だと口をそろえます。
ウクライナ東部では依然、激しい攻撃が続いていて、これまでに4600人以上の市民が亡くなっています。侵攻長期化により、物価高や食料不足など影響は世界中に広がっていますが、戦闘が終結する見通しはまったく立っていません。
●世界が見るウクライナ戦争の姿はフェイク? 「戦争PR会社」と「情報戦」 6/25
サダム·フセイン大統領率いるイラクがクウェートに侵攻したのは1990年8月のことだった。
その後、イラク軍による占領では、略奪行為などが報告されていた。そして10月、クウェートから命懸けで脱出してきたという15歳のクウェート人少女のナイラは、米議会の公聴会に出席して、自らが見てきたイラク軍の残忍さについて涙ながらに証言した。
彼女によれば、イラク兵たちが病院に入ってきて、15人の未熟児を「冷たいコンクリートの床へ放り出し、保育器を奪っていき、死亡させた」と主張した。これが91年に勃発した湾岸戦争の開戦を後押しする要因の一つになった。
しかし、この証言は真っ赤な嘘だった。素性を隠していたナイラの正体は、実は駐米クウェート大使の娘。クウェートの要請でこのデタラメを演出したのはアメリカのPR会社だった。
戦争を引き起こすのも、戦争の行方を左右するのも、情報戦が大きな役割を果たす。「戦争広告代理店」または「戦争PR会社」などは、これまでも戦争や紛争に絡んで、当事者らのナラティブを主張するために暗躍してきた。
ウクライナを支援する150のPR会社
そして現在も続いているロシアによるウクライナ侵攻でも、情報戦が鍵になっている。SNSの時代になってコミュニケーションの形が大きく変わる中、情報が戦況を左右する度合いはますます高くなっている。
ウクライナ側もロシア側も、ツイッターやフェイスブック、TikTokなどのSNSを使って、自分たちの主張を喧伝している。政府関係者として従事する人もいれば、個人で加担する人も、組織的に関与している人たちもいる。
今回のウクライナ侵攻でも、やはり、ウクライナを支持する数多くのPR会社が情報戦に絡んでいる。その数は、ウクライナや欧米企業をはじめとして、世界で150社にもなる。
彼らは、「PR活動」として、メディアを使い、ウクライナ側の動画を編集するなど手助けもし、ロシアから出てくる情報をファクトチェックするなどしている。PRのスキルを使って、情報という「武器」で、ウクライナ政府を支える活動をしているのだ。
そんなこともあって、ウクライナへの寄付やクラウドファンディングをアピールしたり、ロシアに対してサイバー攻撃や情報工作を行うハッカーらを集めたりすることにも成功している。ウクライナ側はこれまでにかなりの寄付金を集めており、例えば3月だけで、6000億ドル規模の暗号通貨を集め、5月にも2日間でドローンを購入する資金として530万ドルの寄付を集めた。
SNS各社は侵攻以前からロシアの工作を警戒
今回、PR会社などが動きながら、ウクライナは見事に、自分たちの言い分を世界に拡散させることに成功している。世界の人たちにリーチするのに欠かせないのが、世界規模で3億3000万人のユーザーを誇るツイッター(買収に合意しているイーロン·マスクはそのうちの多くが偽アカウントだと言っているが)や、ユーザー数20億人以上のフェイスブックなど。ウクライナはこうしたSNSをうまく活用している。
ウクライナは世界規模のSNSを使った情報戦で、圧倒的に賛同や同情を得ている。重要なポイントは、ツイッターやフェイスブックなど世界的SNSは、アメリカ企業だという事実だ。
これら企業は、2016年にドナルド·トランプ大統領が勝利した米大統領選でロシアがフェイクニュースキャンペーンなどを大規模に行なったことへの警戒があり、今回の侵攻以前から、米議会などから、ロシアのSNS工作に適切な対策をするよう強いプレッシャーを受けてきた。それが今回の戦況にも多大なる影響を及ぼしているのである。
●五木寛之 「戦争は愛憎とか運命がある以上なくならない」 6/25
ロシアによるウクライナ侵攻が続いています。作家・五木寛之さんは、戦争をどうとらえているのでしょうか。作家・林真理子さんとの対談で語ってくれました。
林:先生は、このごろ積極的にいろんなメディアにお出になってるような気がします。
五木:10年おきぐらいにメディアが寄ってくるんですよ。いまちょっと波の上に乗せられているという感じでね。コロナだとかウクライナ戦争だとか、難しいことがいっぱいあるから、年食った人間の意見を聞きたいのかもしれない。あと何カ月かで90(歳)ですから。
林:信じられないです。先生は最近、「年をとってくるのが楽しみで、好奇心がどんどん増えてくる」とおっしゃっていますよね。
五木:それはほんとにそうです。僕は4年前に『マサカの時代』という変なタイトルの本を出したんですけど、この数年間、ウクライナの問題にしても、毎日「まさか」の連続ですよね。日々ハラハラドキドキしながら暮らしているという状態で、僕は毎朝新聞を6紙、一生懸命読んでるもの。
林:ウクライナから逃れてきた人たちを見ると、ご自分の体験と重ね合わせて正視できないんじゃないですか。
五木:うーん。ちょっとちがうかな。ウクライナの人たちは「難民」、僕たちは「棄民」ですから。よく「デラシネの世紀」とか言ってるんですけど、「デラシネ」って「流れ者」という意味じゃなくて、力ずくで自分の故郷から引き離された人たちのことをいうんです。
林:私、「デラシネ」という言葉を先生の『デラシネの旗』(1969年)という本で知りました。確か中学生の頃です。それも意味がまったくわからず、何だろうと思ってずっと考えたことがあります。
五木:ウクライナもスターリンの時代にさかのぼって、クリミア・タタール人たちがシベリアに強制的に集団移住させられたり、あそこは何度もそういう体験をしてきてるんです。シリアの難民だってそう。難民、棄民、移民と三つあるんです。
林:先生は、いまのような時代が来るとは思わなかったですか。
五木:いや、僕は思ってました。戦争は人間の愛憎とか運命というものがある以上なくならないだろうと思ってます。文明社会では、例えば裁判所がいろんな人の争いを法的に解決してますが、争いがあるというのが人間の世界で、善と悪という二つの渦巻きの中で平和を求めながら、人類は今後もずっと生きていくんだろうなと思います。
林:ただ先生は、例えば(瀬戸内)寂聴先生みたいに表立って運動をなさらないし、声明文を出したりすることもなさらないですよね。群れて団体で声高に何かするのが嫌いだとおっしゃって。
五木:嫌いじゃなくて、イデオロギー。レーニンの言葉で「それぞれの砲座から共通の敵を撃て」というのがある。それぞれの仕事で自分の志を述べていくことが大事だと思ってますから。
林:そうなんですね。
●ロシア セベロドネツク掌握の見通しも一進一退の攻防続くか  6/25
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは東部で攻勢を強めていて、ウクライナ側が拠点としている東部ルハンシク州のセベロドネツクを掌握する見通しが強まっています。
これに対して、ウクライナ側は欧米から供与された兵器で攻勢に転じる構えで、戦闘の終結に向けた道筋は見えていません。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めてから24日で4か月がたち、ロシア軍は、東部2州のうちルハンシク州の完全掌握を目指してウクライナ側が拠点とするセベロドネツクへの攻撃を続けています。
ルハンシク州のハイダイ知事は24日、地元メディアに対して「残念ながら、ウクライナ軍はセベロドネツクから撤退せざるをえない」と述べ、防衛にあたってきた部隊が別の拠点に移動することを明らかにしました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は23日、ルハンシク州のセベロドネツクなどをめぐる攻防でロシア軍の優位を認めつつも「ウクライナ軍はロシア軍の侵攻を遅らせ、部隊に打撃を与えるという基本的な目標を達成している」と分析しています。
そのうえで「ロシア軍の攻撃は今後数週間停滞し、ウクライナ軍に反撃の機会を与える可能性が高い。セベロドネツクを失うことはウクライナにとって損失だが、この戦いはロシアの決定的な勝利にはならないだろう」と指摘し、今後も一進一退の攻防が続くという見通しを示しました。
こうした中、ウクライナのレズニコフ国防相は23日、射程が長く、精密な攻撃が可能な高機動ロケット砲システム=ハイマースがアメリカから届いたことを明らかにし、欧米の軍事支援を 弾みに攻勢に転じる構えを示しました。
ロシア外相 “EUとNATO ロシアと戦争するため連合を結成”
こうした動きに対し、ロシアのラブロフ外相は24日「EUとNATOがロシアと戦争を行うために現代の連合を結成している。われわれは非常に注意深く見ていく」と述べて欧米を強くけん制しています。
ウクライナ非常事態庁 地雷除去に少なくとも10年
一方、ウクライナの非常事態庁の報道官は24日、ウクライナ国内のすべての地雷を除去するのに、少なくとも10年はかかるという見通しを明らかにしました。
そのうえで「戦闘が続いている地域の状況がわからないため、あくまでも楽観的な推定だ」と述べ、さらに時間がかかる可能性も示唆していて、戦闘の終結に向けた道筋が見えないなか、今後の影響も懸念されます。
ロシア大統領「食料危機は欧米の責任」
ロシアのプーチン大統領は24日、BRICS・新興5か国に加え、アジアや中東、アフリカなどの首脳も参加する拡大会合にオンラインで参加し、演説を行いました。
この中でプーチン大統領は、各国で食料やエネルギーなどの価格が急激に高騰していることについて、「ロシアやベラルーシの肥料の供給を制限したり、ロシアの穀物の世界市場への輸出を困難にしたりしている」と述べ、アジアやアフリカなどの発展に深刻な影響を及ぼしていると批判しました。
そのうえで、ロシアがウクライナ南部の港を封鎖して穀物が輸出できないと各国から批判を受けていることについて、「ウクライナ軍が港の機雷を除去すれば穀物を積んだ船舶の自由な航行を保障する用意がある。ウクライナ側からの建設的な姿勢が足りない」と主張しました。
プーチン大統領は、世界的な食料などの価格高騰について、「これはロシアによる特別軍事作戦の結果ではない。G7=主要7か国による無責任なマクロ経済政策の結果だ」とも強調し、あくまで責任は欧米側にあると主張しました。
●G7サミット 26日からドイツで ウクライナ情勢などで意見交わす  6/25
G7サミット=主要7か国の首脳会議が26日からドイツで始まります。各国の首脳は、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対する圧力の強化や、ウクライナへの今後の支援について協議するとともに、世界的に懸念が高まる食料危機への対応をめぐっても意見を交わす見通しです。
G7サミットは、岸田総理大臣も出席して26日からドイツ南部バイエルン州のエルマウで始まります。
会場は、7年前のG7サミットと同じアルプス山脈のふもとに位置する「エルマウ城」というホテルで、前日の25日には、ホテル周辺の幹線道路で大勢の警察官が警戒にあたるなど厳重な警備態勢が敷かれていました。
今回のサミットでは、ロシアによる軍事侵攻が4か月を過ぎて長期化する中、ロシアに対する圧力の強化や、ウクライナへの今後の支援について協議するとみられます。
会議には、ゼレンスキー大統領も一部オンラインで参加する予定で兵器のさらなる供与をはじめ、支援の強化などを改めて呼びかけるとみられます。
一方、各国の首脳は、ウクライナから穀物の輸出が滞っていることで世界的に懸念が高まる食料危機への対応を巡っても意見を交わす見通しです。
このほか、インド太平洋地域で海洋進出の動きを強める中国についても議題になるとみられます。
G7サミットは、今月28日まで行われ、29日からは、NATO=北大西洋条約機構の首脳会議がスペインのマドリードで開かれます。
欧米各国と日本にとっては、一連の会議を通じて、対抗姿勢を一段と強めるロシアや中国に対してどこまで一致した姿勢を示すことができるかが焦点となります。
岸田首相 26日からドイツへ G7サミット出席のため
岸田総理大臣は、26日からドイツ南部のエルマウで開かれるG7サミットに出席するため、26日未明、羽田空港を政府専用機で出発します。
会議の中で岸田総理大臣は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で国際秩序の根幹が揺るがされているという認識を各国と共有したうえで、日本のこれまでの対応を説明するとともに、ウクライナや、食料危機の影響を受ける中東・アフリカ諸国への支援などを表明したい考えです。
さらに、中国や北朝鮮を含む地域情勢や気候変動対策、エネルギー問題などについても積極的に議論を主導し、会議の成果を広島で開催する来年のG7サミットにつなげていきたい考えです。
そして、岸田総理大臣は、G7サミットのあとスペインのマドリードに向かい、日本の総理大臣として初めてNATO=北大西洋条約機構の首脳会議に出席します。
会議では、ロシアによる軍事侵攻や中国による海洋進出を念頭に、世界のいかなる地域でも力による一方的な現状変更を許してはならないという姿勢で一致し、日本とNATOの一層の連携を確認したいとしています。
ウクライナ情勢をめぐる岸田首相の外交は
ウクライナ情勢をめぐる対応にあたって、岸田総理大臣は、とりわけG7との連携を重視しています。
3月にはベルギーでの首脳会議に出席するなど、侵攻が始まってから、これまで5回にわたり、G7関連の会議に参加しました。
各国と協調して、プーチン大統領ら政府関係者やロシアの銀行などが対象の「資産の凍結」、貿易上の優遇措置などを保障する「最恵国待遇」の撤回など、厳しい制裁措置を実施しています。
5月には、日本を訪れたアメリカのバイデン大統領との首脳会談や、日米にオーストラリアとインドが加わるクアッドの首脳会合を開催し、いかなる地域でも力による一方的な現状変更を許してはならないという認識を共有しました。
また、アジア各国の首脳とも会談を重ねています。
3月にはインドとカンボジア、大型連休中にはインドネシア、ベトナム、タイを訪れました。
インド太平洋地域には、歴史的な経緯や経済的なつながりなどから、ロシアや中国に配慮してG7と距離をとる国も少なくないことから、岸田総理大臣は、アジア唯一のG7メンバーとして共通の価値観を広げていきたい考えです。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領とも侵攻後、3回、電話会談を行っています。
緊急人道支援や借款を行うこと、それに、自衛隊が保有する防弾チョッキやヘルメットを提供することなどを説明しました。
これまでのG7サミットは
G7サミット=主要7か国首脳会議は、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7か国とEU=ヨーロッパ連合の首脳が参加して、毎年開かれます。
ドイツが議長国を務めることしは、南部のリゾート地、エルマウで開かれます。
一時期、ロシアも加わりG8サミットとして開催されていましたが、2014年にロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合したことをきっかけにロシアは除外され、再びG7サミットとして開催されています。
G7サミットは7か国で結束しながら戦後の国際秩序の維持に向け先導的な役割を果たしてきました。
1979年、東京で開かれたサミットの宣言では、石油危機に対応するため、石油の消費や輸入の上限目標について、具体的な数字を掲げた合意が発表されました。
1992年、ドイツ・ミュンヘンで開かれた際には冷戦構造の終えんを受け、「新しいパートナーシップの形成」に向けた協力を世界に呼びかける宣言が出されました。
おととしは、新型コロナの影響で対面での開催は見送られましたが、去年はイギリスで開催され、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するなど中国を意識した首脳宣言を発表しました。
ウクライナへの侵攻が続き、世界的に物価が高騰する中での今回のG7サミット。G7が結束を示し、世界に対して効果的なメッセージを発信できるかが焦点となります。
来年・2023年の議長国は日本が務めることになっていて、サミットは岸田総理大臣の地元・広島で開催される予定です。
焦点:外交・安全保障
ロシアによるウクライナへの侵攻で大きく変化している世界の外交・安全保障環境も今回、議題となります。
最大の課題とも言えるのが中国への対応です。
東シナ海や南シナ海への進出を強める中国をめぐっては、去年、イギリスで開かれたG7サミットの首脳宣言で、深刻な懸念が示されました。
台湾海峡の平和と安定の重要性にも初めて言及しました。
この中国を念頭に、岸田総理大臣は、ウクライナ情勢はインド太平洋を含む国際社会全体の秩序の問題だとして「力による現状変更をインド太平洋で許してはならない」と繰り返し訴えてきました。
中国とロシアが欧米などへの対抗姿勢を示す中、今回のサミットでは、ヨーロッパとインド太平洋の安全保障は不可分であり、いかなる地域でも力による一方的な現状変更は許されないという認識を共有し、G7で一層連携を強化していく方針を確認するものとみられます。
また、北朝鮮がかつてない頻度で弾道ミサイルなどの発射を繰り返し、核実験への警戒も高まる中、北朝鮮対応をめぐる議論も行われる見通しです。
日本としては、すべての大量破壊兵器や弾道ミサイルの検証可能で不可逆的な廃棄に向け各国と緊密に協力していく方針で一致したい考えです。
焦点:ウクライナ情勢
今回のG7サミットでは「世界経済」や「気候変動対策」などのテーマに加え、ウクライナ情勢をめぐっても会合が開かれます。
会合にはウクライナのゼレンスキー大統領と国連のグテーレス事務総長もオンラインで参加する予定です。
G7は、軍事侵攻開始以降、4度にわたる首脳声明で、ロシアとプーチン大統領を強く非難する一方、ウクライナを支持する立場を明確にしてきました。
ロシアに対しては、政府関係者の資産凍結や輸出入の制限、それにロシア産の石炭や石油の輸入の段階的な禁止など、同盟国ベラルーシも含めて制裁を行っています。
一方、ウクライナには、経済面などでの支援や、侵攻によって破壊されたインフラの復旧なども進めています。
日本政府もプーチン大統領らの資産凍結やロシア向けの新規投資の禁止など、段階的に制裁を強化してきました。
侵攻開始から4か月が過ぎる中で開かれる今回の会議では、ロシアへの圧力強化やウクライナへの支援に加え、ロシアによって行われた疑いのある戦争犯罪を追及していくうえでの協力のあり方などについても意見が交わされる見通しです。
また日本としても、ウクライナへのさらなる支援策などを表明したい考えで、詰めの調整を進めています。
また、今回のサミットでは、世界経済やエネルギー、食料安全保障をめぐっても会合が開かれ、ロシアによる侵攻を背景とした世界的な課題への対応をめぐっても幅広く議論が行われます。
一方、岸田総理大臣は、来年のG7議長国として、広島でサミットを開催する方針を表明する見通しで、ロシアの侵攻で核の使用に対する懸念が広がる中被爆地・広島での開催の意義を説明するものとみられます。
焦点:世界経済とインフレ
今回のG7サミットでは、ロシアによるウクライナ侵攻が世界経済に与える影響も議論されます。
先月行われたG7の財務相・中央銀行総裁会議では、ロシアによるウクライナ侵攻がエネルギーや食料価格の大幅な上昇を引き起こし、各国の物価上昇率が記録的な水準になっていると指摘しました。
アメリカでは、先月の消費者物価指数が前の年の同じ月と比べて8.6%の上昇と、40年5か月ぶりの記録的な水準となりました。
ドイツやフランスなど、ユーロ圏19か国では、先月の消費者物価指数が前の年の同じ月と比べて8.1%の上昇と、比較が可能な1997年以降で最大の伸び率となりました。
また、イギリスでは、先月の消費者物価指数が9.1%の上昇と、40年ぶりに高い上昇率だった4月を、さらに0.1ポイント上回りました。
日本でも先月の消費者物価指数が2.1%の上昇となりました。
政府・日銀が目標としてきた2%を超えたのは、2か月連続です。
IMF=国際通貨基金はことし4月、エネルギーや穀物価格の高騰を背景に、ことしの世界全体の経済成長率の見通しを0.8ポイント引き下げました。
物価上昇は、新型コロナウイルスの打撃から回復に向かう世界経済の大きな重荷となっています。
これに対してアメリカやヨーロッパの中央銀行は物価上昇を抑えこむため、相次いで金融引き締めに動いていますが世界的な景気減速への警戒感が強まって、各国の金融市場は不安定な値動きを続けています。
日本としては、物価の高騰に加えて外国為替市場でこのところ進んでいる円安が、企業の活動や経済全体にも影響を与えかねないとして、G7各国と連携して市場の動向を注視する姿勢を改めて明確にしたい考えです。
G7サミットでは、ロシアのウクライナ侵攻による物価上昇の影響を抑え込み、世界経済を安定的な回復に向かわせるためどういったメッセージを打ち出せるかが課題となります。
焦点:エネルギー(脱炭素)
今回のG7サミットでは、温室効果ガスの排出削減、いわゆる脱炭素に向けた取り組みも焦点の1つとなります。
先月下旬にドイツ・ベルリンで行われたG7の気候・エネルギー・環境相会合では、電力部門の脱炭素が大きなテーマとなり、閣僚会合の声明では「電力部門の大部分を2035年までに脱炭素化するという目標に最大限努力する」という内容が盛り込まれました。
そこで議論となったのが、二酸化炭素を多く排出する石炭火力発電の取り扱いです。
G7のうち議長国のドイツをはじめ、5つの国が2030年までに石炭火力発電を廃止する方針を表明しています。
これに対して、日本は2030年度も発電の19%を石炭火力でまかなう見通しとなっていて、立場の違いが際立っています。
ところが、ロシアのウクライナ侵攻もあって、ロシア産の天然ガスへの依存度を低減させていくためには、価格の安い石炭の活用は必要だという声がドイツ国内などからも出ています。
日本としては、燃焼する際に二酸化炭素を出さないアンモニアと石炭を混ぜて燃やすなど、二酸化炭素の排出量を押さえる技術を活用して、脱ロシアと脱炭素の両立を図るべきだという立場です。
閣僚会議の声明では、「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電を最終的にゼロにするという目標に向けて必要な技術や政策を迅速に拡大していく」という文言が盛り込まれました。
「排出削減対策がとられていない」という条件がつき、日本の主張が一部取り入れられました。
ただ、こうした日本の主張に対しては、「石炭火力の延命だ」という厳しい指摘もあり、今回のサミットでも脱炭素に向けた目標や取り組みの具体化とあわせて、石炭火力発電の取り扱いが注目されます。
焦点:エネルギー(脱ロシア)
エネルギー問題をめぐっては、脱炭素に加えて、ロシア産のエネルギーへの依存度をいかに引き下げるのか、いわゆる「脱ロシア」も主要な議題となる見通しです。
G7各国は軍事侵攻を受けてロシア産のエネルギーについてはすでに、石炭の輸入禁止や段階的縮小、石油の輸入の段階的、もしくは即時の禁止を打ち出しています。
先月のG7気候・エネルギー・環境相会合では、これに加えて天然ガスのロシアへの依存度を下げることが緊急の課題だという認識で一致しました。
そのために鍵を握るのが、LNG=液化天然ガスです。
ヨーロッパ各国はロシアからパイプラインでガスの供給を受けていますが、会合では、ロシアへの依存度を低下させる中で、供給を途絶させないために「LNGの供給増加が重要な役割を果たす」とされました。
ただ、具体的に供給をどう増やすのかまでは触れられませんでした。
仮にヨーロッパ各国がガスの調達をLNGに切り替えれば、各国の調達競争が厳しくなり、価格がさらに高騰する可能性もあります。
そのためにもアメリカでのLNGの増産が期待されますが、アメリカ企業からすれば、今後、「脱炭素」を進めていく中で、ヨーロッパ各国がLNGを買い続けてくれるのか見通せず、増産に向けた投資に懐疑的な声もあります。
日本は、萩生田経済産業大臣が先月、アメリカを訪れてグランホルム・エネルギー庁長官と会談した際にアメリカ産のLNGの重要性を確認する声明を取りまとめていて、これに基づいて日米の民間企業どうしが増産に向けて動きやすい環境を整えたい考えです。
G7サミットでは、エネルギー面での「脱ロシア」に向けて、LNGの増産などの具体策をどこまで打ち出すことができるのかが焦点となります。
焦点:ウクライナ侵攻で食料安全保障への影響も
G7サミットでは、ロシアによる軍事侵攻が世界の食料安全保障に及ぼす影響や、ウクライナのほか中東やアフリカ諸国への食料支援も重要なテーマとなる見通しです。
ウクライナは穀物の生産が盛んな農業国で、トウモロコシの輸出量が世界4位、小麦は世界5位となっています。
ところが、ロシアによる軍事侵攻で、ウクライナは黒海に面した港をロシア軍に封鎖されて輸出ができなくなっているほか、農業生産も滞ることで、世界の食料安全保障に大きな影響が出ることが懸念されています。
さらに、ロシアも自国内での供給を優先させるために、小麦や大麦の輸出を制限しています。
ことし4月に国連のWFP=世界食糧計画が発表した報告書では、ロシアによる軍事侵攻が続けば、世界全体で新たに4700万人が飢餓に陥るおそれがあると指摘しています。
先月行われたG7の農業担当相の会合でも「世界の食料安全保障に深刻な影響が予想される」として、強い懸念を表明するとともに「世界的な人道上の支援の必要性がさらに高まっている」と指摘しています。
今回のサミットで岸田総理大臣は、深刻な影響を受ける中東・アフリカ諸国への食料支援を表明する方針です。
食料価格の高騰についてロシア側は、西側の制裁によって食料の輸出が滞っていることが原因だと主張していますが、G7各国はロシア側の主張を退けるとともに、各国も影響を受ける国々への具体的な支援策を打ち出したい考えです。
●G7、小麦輸出後押し ウクライナ情勢で停滞― 6/25
ロシアのウクライナ侵攻が世界の食料安全保障に影を落としている。小麦など穀物の輸出が停滞し混乱。日米欧の先進7カ国(G7)が26日からドイツ南部エルマウで開く首脳会議(サミット)では、輸出円滑化やアフリカなど開発途上国への支援が表明される見通しだ。
――小麦価格が高騰している。
ウクライナは有数の小麦産地だ。世界の輸出量の1割を占めており、黒海沿岸の港から積み出していた。ところが、ロシア軍が黒海を封鎖して輸出が滞り、2000万トン超の穀物が出荷できなくなった。3月には国際指標とされるシカゴ商品取引所の小麦先物相場が最高値を更新し、アフリカなどではパンの値段が急騰している。
―― 一部の国は食品輸出を規制している。
ウクライナ侵攻に伴う食料不安から、国内での供給を優先させるため、インドが小麦の輸出禁止に踏み切るなど約20カ国が規制を導入している。今月開かれた世界貿易機関(WTO)閣僚会議では、不必要な輸出規制を実施しないことで一致したが、実効性には課題が残る。
――ウクライナ産小麦輸出の見通しは。
戦争が長引けば、夏以降に収穫する小麦が出荷できず、秋に7500万トンの穀物がウクライナ国内に在庫として積み上がる可能性がある。その場合、価格がさらに跳ね上がる悪循環に陥り、「既に物価高に苦しめられている市民の不満が爆発し、途上国では政情不安に発展しかねない」(日本政府関係者)との指摘もある。
――G7はどう対応するのか。
G7首脳は、アフリカなどへの食料支援の強化に加え、ウクライナが円滑に穀物を輸出できるよう後押しすることで合意する見通しだ。機雷があるため黒海からの輸出再開は当面難しいことを考慮し、欧州に鉄道で運び出す代替ルートの確保を急ぐ。
――日本の対応は。
岸田文雄首相はサミットで数百億円の支援策を表明する方針だ。国連世界食糧計画(WFP)などの国際機関に拠出し、アフリカなどへの食料供給やウクライナ産穀物を保管する倉庫の建設費に充てられる。
●サケマス漁の試験操業 ”今年は見送り” ウクライナ軍事侵攻の影響か  6/25
毎年6月にロシア200カイリ内で行われていたサケマス漁の試験操業が、今年は見送られることが決まりました。水産庁が発表したもので、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が影響したものとみられています。試験操業が見送られるのは初めてです。
試験操業は2016年、ロシア側が禁止したロシア200カイリ内での「サケマス流し網漁」の代わりとして、漁船1隻が「引き網漁」で行ってきました。漁獲割当量は日ロの交渉で決められ、去年の割り当ては125トン。去年の操業期間は6月1日から7月31日までの36日間で、入漁料は約2433万円でした。
一方で、日本の排他的経済水域で行われるサケマス流し網漁は5月に解禁されていますが、ウクライナ侵攻で日ロ間の漁業交渉が難航し、例年より3週間ほど遅い出漁となるなど、道内の漁業への影響が続いています。
●ウクライナで若者は「国防」に目覚めた…心もとない与党、無責任な一部野党 6/25
第26回参議院選挙が22日に公示され、7月10日の投開票へ向けて選挙戦が始まった。これに臨む各党の公約なども出そろい、各種政策論争が活発に行われている。
特に、今回の選挙では、今までどちらかというと国民の関心が薄く優先順位が低かった「外交・安全保障」と、これに大きくかかわる「憲法改正」が主な争点となっている。それは、言わずもがな、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻という国際情勢による影響である。この現象が、いかにわが国民にとってショッキングな事案であったかというのは、意外なアンケート結果がこれを物語っている。
若年層に走った「ウクライナ」の衝撃
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して1か月足らずの4月18日、SNSでおなじみのLINE株式会社のプレスリリースで、以下のような内容が伝えられた。
「LINE株式会社では、同社が保有する約583万人の国内最大級のアクティブな調査パネルを基盤とした、スマートフォン専用のリサーチプラットフォーム「LINEリサーチ」を運営しております。全国の15~24歳の若年層の男女に対して、四半期ごとに「最近流行っているコト・モノ・ヒト」についてアンケート調査(自由記述形式)を実施しております。2022年3月の調査結果をお知らせいたします。2022年3月の最新調査では、「ロシアのウクライナ侵攻(8.6%)」が1位となりました。今年の2月末に始まったロシアによる軍事侵攻について、多くの関心を寄せている様子が見受けられます。」
というものである。
ちなみに、2位は「呪術廻戦(5.9%)」、3位は「TikTok(5.3%)」、4位は「鬼滅の刃(3.4%)」と続く。「ロシアによるウクライナ侵攻」は、2位を大きく引き離した断トツであった。
つまり、普段テレビのニュースなどを見ることもないような、アニメやSNSの動画投稿サイトを主たる興味の対象とする若年層に対しても、わが国から遠く離れた地域で発生したこの「戦争」は、強烈なインパクトを与えたということである。
なぜならそれは、中高生を含むこれら若者たちが、「この戦争は、(少なからずわが国にも脅威を与えている)ロシアという隣国による、民主主義国家への一方的な軍事侵攻であり、(地震や洪水のような大規模災害と同様に)ごく身近にも起こり得る現実的な恐怖」と捉えたからであろう。しかも、この先には、「第3次世界大戦」や「核戦争」という最悪の事態が見え隠れしているのだ。様々な分野の流行に最も敏感なこれら若者の嗅覚によって、自らに及びうる危険な兆候を察知したのであろう。
結局、何も変わらない防衛政策
このように若年層に対してでさえ、強烈なインパクトを与えた事象なのだから、多少なりとも国際情勢に興味があり、テレビのニュースを欠かさず見ているような社会人に対して及ぼした、安全保障に関する考え方への影響力は、「推して知るべし」である。筆者は、さぞかし今回の選挙における安全保障政策は、有意義で現実的な議論が展開されるものと期待していた。しかし、その期待は見事に裏切られた。
結論から言うと、各党の安全保障政策。さらに平たく言えば、防衛(軍事)・外交政策は、基本的に従来とほとんど何も変わっていない。論争の主体となっているのは、「防衛費の増額」と「反撃(敵基地攻撃)能力」に関することぐらいである。
与党である自民党の岸田総理は、「日本の防衛力を抜本的に強化する」という方針を示しているが、いったいどこが「抜本的」なのだろう。防衛費の対GDP比率が1%から2%になることが「抜本的」だということなのだろうか。
一方の左派系野党においては、その政策が昭和からほとんど変わっていない。
「戦争をさせない」「頑固に平和」などというスローガンが未だに掲げられている。
「戦争をさせない」ようにして欲しいのは、ロシアや中国や北朝鮮であって、わが国ではないだろう。どこの国に対してこのスローガンを掲げているのかと聞いてみたい。
「頑固に平和」というのは面白い。昭和の時代から何も安保政策が変わっていないということを自慢しているようなものだ。わが国を取り巻く環境がいかに変わろうとも、この姿勢をつらぬくつもりなのだろうが、国民はもうとっくに変わっている。
変化に対応できないものは、生物であろうが組織であろうが、淘汰されるのがこの世の法則だ。遅かれ早かれこの党は、消えゆく運命にあるのだろう。
このような、防衛力の強化に反対して平和を前面に掲げる政党が、こぞって口にする言葉が「外交で平和を実現する」というものだ。
抑止力こそが「平和の綱」
そもそも、紛争の解決は「軍事ではなく外交で」というのは、基本的な姿勢として「正解」、というより当たり前の話だ。しかし、残念ながら、今回のようにウクライナとロシアの間の紛争は、外交では解決せず、ロシアによる「軍事力の行使」という事態を招いた。そして、その原因の主たる要素には、ウクライナの軍事力がロシアに比べてはるかに劣っており、核兵器も保有せず、集団安全保障の枠組み(NATOなど)にも属していなかったという実態があった。
ほかにも、1991年に中東において発生した「湾岸戦争」も、この起因となったのは、深刻な財政難にあえいでいたイラクのフセイン政権が、1990年に(石油を大量に保有している)クウェートを侵略したことであり、フセインをしてこのような行動に駆り立てた主因は、イラクのような軍事独裁国家が隣国に存在するにもかかわらず、クウェートが自国の防衛を怠っていたことにある。
つまり、軍事力を伴わない外交は、この世界では通用しないというのが原則であり、紛争の解決という手段においては、軍事バランスの崩壊が「武力侵攻を誘発する」という現実を直視しなければならない。このような、武力に勝る国家が力で外交を有利に解決しようという誘惑を阻止するのが「軍事抑止力」だ。そして、この抑止力は、実際に軍事力が行使された場合には、確実にこれを阻止して侵略の意思を打ち砕くだけの実力を伴うことが求められる。まさに、そのためにわが国は、「抜本的な防衛力の強化」を果たさなければならないのだ。
そして肝心なのは、この「抜本的」という言葉は何を表しているのかということだ。 ・・・
●ロシアの製油所に神風ドローン2機突っ込み爆破 6/25
ロシア西部のロストフ州ノボシャフチンスク製油所に攻撃ドローン2機が突っ込んで行き、火災が発生していた。製油所はウクライナとの国境から8キロメートルの場所にあり、ウクライナ軍の攻撃ドローンとみられている。ドローンが製油所に突っ込んでいき、大きな炎と黒煙が吹き上がる動画も投稿されている。ドローンが突っ込んで爆破する様子の動画は欧米のメディアでも多く報じられている。製油所の年間生産能力は750万トン。負傷者や死者は出ていない。
ロシアの製油所に突っ込んでいったのはウクライナ軍の軍事ドローンPD-1かPD-2ではないかと見られている。本来は監視・偵察用に開発されたドローンだが爆弾を搭載して突っ込むこともできる。
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。
攻撃ドローンは「kamikaze drone(神風ドローン)」、「Suicide drone(自爆型ドローン)」、「kamikaze strike(神風ストライク)」とも呼ばれており、標的を認識すると標的にドローンが突っ込んでいき、標的を爆破し殺傷力もある。日本人にとってはこのような攻撃型ドローンの名前に「神風」が使用されるのに嫌悪感を覚える人もいるだろうが「神風ドローン(Kamikaze Drone)」は欧米や中東では一般名詞としてメディアでも軍事企業でも一般的によく使われている。今回のウクライナ紛争で「神風ドローン」は一般名詞となり定着した。
ウクライナ語では「Дрони-камікадзе」(神風ドローン)と表記されるが、ウクライナ紛争を報じる地元のニュースで耳にしたり目にしたりしない日はないくらいだ。ウクライナ紛争ではウクライナ軍はトルコ製の「バイラクタルTB2」でロシア軍の侵攻を阻止していることが多い。よく欧米のメディアでも「バイラクタルTB2」を神風ドローンと誤って表現して報じているが、「バイラクタルTB2」はドローンから爆弾を投下するタイプで、ドローン自身が標的に突っ込んでいき爆破しないので「神風ドローン」ではない。
攻撃ドローンが上空から地上に突っ込んできて攻撃をして破壊力も甚大であることから大きな脅威だ。
●プーチン氏 敬虔なロシア正教徒を自負する“偽キリスト者” 6/25
軍事関連施設と病院、学校など民間公共施設の区別なく、兵士と民間人の区別もなく無差別攻撃を繰り返すロシア軍にとって、歴史的、文化的遺産と高層アパートメントの区別を要求してもダメだろう。
ウクライナの152カ所の文化的遺跡を破壊
パリに本部を置く国連教育科学文化機関(ユネスコ)が23日発表したところによると、「戦争が始まって以来(2022年2月24日)、ウクライナで152カ所の文化的遺跡が部分的または完全に破壊された」という。
具体的には、「ウクライナ軍とロシア軍との戦闘の結果、70の宗教建築物、30の歴史的建造物、18の文化センター、15の記念碑、12の美術館、7つの図書館を含む152カ所の文化施設が部分的または完全に破壊された」というのだ。もちろん、全てがロシア軍によって破壊されたとは断言できないが、壊された施設は全てウクライナ領土内にあるものだ。
文化的施設への破壊行為は国際法違反
ユネスコのオードレ・アズレ事務局長は、「ウクライナの文化的遺跡に対する軍事攻撃は止めなければならない。あらゆる形態の文化遺産は、いかなる状況においても攻撃されてはならない。私は、国際人道法、特に武力紛争の際の文化財保護のためのハーグ条約(1954年)の遵守を紛争関係国に求める」と述べている。文化的施設への破壊行為は国際法違反とみなされ、起訴される可能性が出てくるという。
ユネスコによると、文化施設が被害を受けたウクライナ地域で、その4分の3は3カ所の地域に集中している。ドネツク地域で45カ所、ハルキウ地域で40カ所、そして首都キーウ地域で26カ所だ。
ユネスコは戦争が勃発して以来、文化関連施設の破壊防止と緊急措置を行ってきた。現地の文化施設に従事する人々にアドバイスを提供し、移動可能な物体を確保するための避難所を指定し、消防措置を強化してきたという。
幸い、これまでのところ、被害を受けた「世界遺産」はない。ウクライナには7カ所が「世界遺産」に登録されている。代表的なものとしては、1990年に「キーウ、聖ソフィア大聖堂と関連する修道院の建物、キーウペチェールスク大修道院」が文化遺産として登録されている。
ユネスコはウクライナ側に文化的施設を戦闘から守るために独特の青い盾のエンブレムでマークするように助言してきた。このマークが記された施設はハーグ条約に基づいて保護されることになっている。
ちなみに、世界遺産の破壊といえば、旧タリバン政権による「バーミヤン遺跡」の破壊を思い出す読者も多いだろう。アフガニスタン中部の山岳地帯にあるバーミヤン遺跡は仏教遺跡群。旧タリバン政権は2001年、イスラム教の教えに反するとして大仏立像2体を破壊したことから、世界から激しい批判の声が出た。その後、ユネスコは2003年、バーミヤン遺跡一帯を世界遺産に登録すると同時に存続が危ぶまれる遺産として「危機遺産」に指定している。
キーウからの情報によると、ロシア軍はウクライナで宗教施設を恣意的に攻撃している。正教会の建物が破壊され、シナゴーグ(ユダヤ教会堂)、イスラム教寺院(モスク)、プロテスタントとカトリック教会の礼拝所が被害を受けている。
敬虔なロシア正教徒を自負するプーチン大統領は自分をキーウの聖ウラジーミルの生まれ変わりと密かに誇り、キリスト教の保護者ぶっている。「キーウ大公国」の聖ウラジーミルは西暦988年、キリスト教に改宗し、ロシアをキリスト教化した人物だ。その生まれ変わりのプーチン大統領が軍に宗教施設の破壊を命じているとしたら、“偽キリスト者”と呼ばれても仕方がないだろう。
●「プーチンは退かない」 プーチン・ロシアの本質と野望 6/25
2022年2月24日に勃発した、ロシアによるウクライナ全面侵攻から3ヶ月が経つ。戦局が膠着する中、ロシア軍によるウクライナ住民への虐殺・民族浄化が明らかになり、プーチン政権への国際的批判は絶えない。だがプーチン大統領の好戦性は今に始まったものではないと、このほど著した「プーチンの正体」(宝島社新書)でプーチン・ロシアの本質に迫ったのが軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏だ。見過ごされてきたプーチン政権の本質と、彼の「仮面」を聞いた。
――黒井さんは開戦前から、プーチンの危険性をSNSなどでも発信してきました。プーチンと彼の体制は突然豹変したものではなく、首相就任(1999年)の頃から着々と形成させていったものだと「プーチンの正体」でも指摘しています。
私は1980年代から世界の安全保障をウォッチしてきましたが、ウラジーミル・プーチンのことを初めて知ったのは1998年、彼がロシア連邦保安庁(FSB)の長官に就任した頃です。当時彼は無名の官僚で、旧ソ連のKGB出身の若い人物、元スパイということでまずどんな人物なんだろう?というところから始まりました。
翌年の1999年8月には首相になり、この時点でようやく次期大統領としてロシア国外から注目されるようになります。私も本格的に軍事雑誌の連載でプーチンのことを書き始めました。ただ、この頃の関心は彼のロシア国内での権力掌握と強権的手法などでした。
――2000年の大統領就任時点で47歳。ソ連崩壊後の混乱やエリツィン政権の腐敗を観てきたロシア国民にとっては、プーチンは若く期待できる指導者と思われたようです。
既にプーチンは今につながる、目的のために犠牲を厭わない強引な手腕を発揮していました。チェチェン紛争ではテロリスト掃討の名目でチェチェン共和国の民間人を虐殺し、敵対するオリガルヒ(新興財閥)を追放し、KGBの人脈を用いて政敵のプリマコフ派を追い落とすなどしていました。しかし、特にエリツィン・ファミリーの不正を追及しないと約束するなどしてエリツィン大統領の信用を得て、いわば猫をかぶってモスクワ中枢で権力を掴んだのです。
それでも大国ソ連が消えてしまい、エリツィン政権下で社会の混乱を見てきたロシア人にとっては、彼が自分自身でアピールする”強い指導者“イメージは評価されました。
オリガルヒの摘発でロシア国民から人気も出ました。実はもうその頃から国内では反プーチンのジャーナリストを暗殺するなど暗黒政治をやっていたのですが。
周到に用意されたプーチンの手口
――プーチン政権の体質や行動原理はその頃から変わっていないようですね。
プーチンの思想信条を作ったのはソ連共産党の支配体質と、冷戦終結後のロシアの混乱がもたらしたショックだと僕は考えます。ソ連で生まれKGBでも働いていたので、非合法な嘘や殺戮もいとわない非人道性が染みついています。
ソ連の崩壊でルーブルは紙くずに、食料も満足に買えない苦境にロシア人は見舞われ、国外からも軽蔑される。これがプーチンにとっては屈辱以外の何者でもなく、あらゆる犠牲を払っても強いロシアを復活させる野望が芽生えた、と考えています。
NATOの東方拡大がロシアの安全を脅かすとか、ウクライナとロシアは歴史上一つの国である、ゼレンスキー政権はネオナチである、といった侵攻正当化の論理も、ロシアをかつてのソ連のような、軍事・政治面で強い大国にすることを正当化するためのものです。
――アメリカと覇権を競った超大国ソ連の崩壊というトラウマ体験がプーチンの原動力でもある、と。
いわば、プーチン達は幕末の志士のような「世直し」のような意識を原動力にのし上がってきたのかもしれません。ただし、その手法は他者を殺戮することを厭わない非人道的なものですが。
彼は権力者となると「シロビキ」と称される同世代のKGB時代の古い友人たちを引き立てて国政の要職につけてきました。その何人かは現在でもプーチン政権中枢にいて、今回のウクライナ侵攻にあたっても政権のブレーンとしてプーチンを後押ししています。
誇り高く強いロシアを取り戻す、という動機だけなら美談にも見えますが、プーチンにはKGBの体質が骨の髄まで染みついているので、人を殺すことを何とも思わない。だから政敵の暗殺も虐殺も、プロパガンダで自らを正当化し国民を洗脳することも厭わないのです。ウクライナ侵略もその延長線上にあります。
――しかし、日本や欧米ではそのようなプーチン・ロシアのダークな面は見過ごされてきました。
まず2001年の9.11テロで、国際社会の安全保障上の関心はロシアよりもイスラム過激派のテロに向いてしまうんです。また中国も経済力をバックに軍拡を進めてきた。落ち目のロシアよりアルカイダや中国の方が問題だ、と、プーチンとロシアへの関心がここで一度薄れてしまったようにも思います。僕自身も、2000年代はプーチン・ロシアよりもアルカイダや中国のサイバー工作部門といった分野の記事を主に書いてきました。
それに、2000年代はまだ米露の軍事力・経済力に隔たりがあり、アメリカはイラクやアフガニスタンに介入してきたブッシュ政権でしたから、プーチンも大人しくしていたんです。しかしオイルマネーでロシア経済が復活し、軍事介入に消極的なオバマ政権になると、ロシアはアメリカの出方を探りながら対外的な介入を始めます。
国連安保理でも国民を殺戮するシリアのアサド政権に圧力をかける決議案を拒否権でことごとく葬りました。2013年にはアサド政権がサリンを使用して住民を虐殺しましたが、オバマ政権が軍事介入を回避したことで、もう米国は怖くないと確信したのでしょう。翌2014年にはクリミアと東部ウクライナに侵攻し、さらに翌2015年には劣勢に陥っていたアサド政権を助けるためにロシア軍をシリアに派遣し、自ら虐殺への加担を開始しています。
アメリカが付け上がらせた?
このようにシリアやクリミアなどで色々やってみても、オバマ政権は強い介入をしなかったため、ロシアは自らの勢力圏を拡大しました。これがプーチンにとっての成功体験になったわけです。
ただし、こうしたプーチンの不正で強権的な勢力拡大は当然ながら西側諸国から非難されます。欧米メディアでも、プーチンは放っておいたら何をするかわからない独裁者だという評価が定着しました。イギリスでの軍用毒物を使った亡命者暗殺未遂なども起こしていますし、米国の大統領選でのフェイク情報を使った世論誘導工作なども明らかになりました。ウクライナ侵攻以前から、プーチン政権の危険性はもう隠しようがないものになっていました。
――しかし、アメリカがロシアを付け上らせた、という一面も否定できないようですね。
ブッシュ政権の後、ロシアはオバマ政権・トランプ政権が“世界の警察”の役割を放棄したことに付けこんで、自らの勢力圏を広げてきました。ところがバイデン政権は人権擁護や西側の結束を旗印に、ロシアの勢力圏拡大に対抗する姿勢を見せてきた。プーチンとすれば、今のうちにウクライナを手に入れようと判断したものと思われます。
プーチンは老化、あるいは病気で合理的な判断ができなくなったのだろうといった言説がウクライナ侵攻後に散見されますが、私はそうは思いません。おそらく彼は軍や情報機関から報告された間違った情報分析を元に今回のウクライナ侵攻を発動したものと推測されますが、強権的な手法で強引に他者を蹂躙する行動パターンはもともとのものです。彼はきわめて悪い意味で信念が強く、これまで常に勝利してきました。ウクライナでの苦戦は初めての計算違いでしょうが、彼がそれを認識して退くことができるかは別問題です。そこにこの惨禍を容易に終わらせられない難しさがあります。
●「信頼できる親日家」プーチンを誤解し続けた日本の政界とメディア 6/25
20年以上にわたり、ロシアの全権力を掌握してきたプーチン大統領。今では全世界から非難と怨嗟の的になっているが、かつては「親日家」「ロシアを復活させた力強い指導者」として日本でも好意的にみられていた。なぜそんなイメージも流布されてきたのか。「プーチンの正体」(宝島社新書)を著した軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏へのインタビュー後編では、ロシアに翻弄されてきた日本の外交とメディアが陥ったワナについて聞いた。
――「プーチンの正体」でも書かれていますが、ロシアの本音は北方領土を1島たりとも返還する気はない、と。なのに日本の政治家やメディアは過度な期待を抱いてきたのはなぜでしょうか?
きっかけは、プーチンの大統領就任後の2001年3月のプーチンと森喜朗首相(当時)の首脳会談でのイルクーツク声明です。この時、ロシア側は日ソ共同宣言(1956年)が平和条約交渉の“出発点”であることを確認しただけで、共同宣言に明記されていた2島引き渡しは明言していません。しかし日本側はプーチンなら返還交渉の相手として信頼できる、少なくとも歯舞・色丹の2島は返す気だという期待が政界・外務省・学会・メディアの間に強くありました。
私はプーチン政権が領土返還への具体的な言及を故意に回避していることを軍事専門誌やWEBメディアなどでは書いてきましたが、政府でもメディアでも、ほとんどそのことは指摘されませんでした。もちろん領土返還は日本国民の悲願ですが、その難しさをメディアで指摘するのはなかなか難しい“空気”もありました。ロシア側の態度から実際には返還の見込みはなさそうだとは書きづらいわけです。
――そうした日本側の過度な期待はなぜなんでしょう?
交渉という“相手がいる問題”に対して、自らに都合よく考える姿勢がそもそも的確ではなかったのだと思います。ロシア側は日本政府を取り込む目的で、「1島たりとも返さない」とは明言しません。「島を返す」という言質を明らかに回避しながら、日本側が勝手に期待するように「平和条約交渉を進めよう」とチラつかせるわけです。ところが、日本側は「否定しないということは、少なくとも2島は返還するつもりだ」と考えました。ロシア側はひとことも島の返還など明言していなかったのですが。
ロシア側はたとえば「4島返還に固執する日本政府の姿勢が交渉停滞の大きな原因」だとか「島を引き渡したら米国が基地を置くのだろう」などという言い方をときにしてきたのですが、そうかと言って「2島返還で手を打つべきだ」などとは決して言わない。その意味するところは「1島返還すら約束を避ける」ということです。
ところが、日本側は自分たちに都合よく考え、少なくとも2島はかえってくると思い込み、それが政界でもメディアでも定説化しました。首脳会談などのたびに領土交渉が進展しているかのように期待させる記事がメディアでは定期的に掲載されましたが、実際には1ミリも領土返還は進みませんでした。そもそも日本側では領土返還交渉進展のニュースが流れても、ロシア国内ではそんな話は一切ありませんでした。
プーチン政権が領土返還交渉に前向きだと誤解していれば、日本政府としては「プーチン政権と敵対するのは得策ではない」という判断になるでしょう。そのため、プーチン大統領の機嫌を損ねるようなことは避けようとなります。
クリミア侵攻や亡命者暗殺未遂などでプーチン政権が西側各国から批判されても、日本政府は首脳会談を重ね、そのたびにプーチン大統領に好意を示し、首脳間の親密ぶりを強調し続けました。この点で、とくにプーチンとの親密ぶりをアピールした森喜朗元首相や安倍晋三元首相への批判がありますが、彼らがそうした判断をしたのは、そもそも「プーチン大統領は領土返還に前向き」との誤認識が根底にあり、それは外務省も同様です。安倍政権の後期には外務省も「なかなか難しい」との判断に転じたようで、日露交渉も経産省出身の官邸幹部が中心になって進められましたが、外務省もそれ以前はプーチン大統領が2島返還すると考えていました。 
――日本では今次のウクライナ侵攻で、プーチン政権の体質への見方がようやく変わった、ともいえそうです。
今まで、ロシアから見れば欧米と違って日本は勝手になびいてくれる相手でした。欧米相手にはフェイクニュースなども駆使した世論誘導工作を繰り返していたのですが、日本はそんなことをわざわざしなくても、領土交渉への期待をチラつかせるだけでよかったのです。
――他にも、ネットカルチャーの中で柔道が趣味の親日家で、力強い指導者として好意的に見られてきた風潮もありました。
ネット世論でいうと、日本では中国の習近平政権に対する警戒心が圧倒的に強く、それに比べるとプーチン政権に対する警戒心はあまりなかったように見えます。中国と対抗するにはむしろロシアとは友好的な関係を結ぶべきという言説もありましたし。でもロシアは民主主義や自由、人権擁護というか価値観への脅威という点ではむしろ中国の側です。
プーチン政権にとって主敵な米国を中心とする西側世界なので、米国の同盟国である日本は明確に敵側になります。ところが日本側の一部では、中国と対抗するためにロシアと手を結ぶとか、少なくともロシアと友好関係を作れば中国とロシアの連携を阻止できるという期待があったようです。しかし、それは非現実的です。
いずれにせよ、日本では一般のメディアを含めて、中国への警戒感が強く、プーチン政権の危険性はそれほど重視されてきませんでした。私は機会があればメディア出演時にプーチン政権の危険性を指摘するように心がけてはきたのですが、おそらく反ロシアに偏向した意見のように受け取った方も少なくなかったのではないかなと思います。
というか、そもそもあまりロシアの脅威への関心があまりなかったのかもしれません。たとえば本書もじつはトランプ政権のロシアゲートが注目されていた2017年頃に一度考えたのですが、当時の出版界は概ね「プーチンは地味なので、習近平をやりませんか?」という反応でした。
――欧米でも「親プーチン」は今も根強くいるのでしょうか。
欧米で厄介なのは、プーチンは極右層に人気があるんです。彼らは極端なトランプ支持者や「Qアノン」などの陰謀論の陣営とも親和性が高い。それはロシアのネット工作のせいでもありますし、自国の政官界のエリート層、エスタブリッシュへの反発から親プーチンになびいている一面もあります。
――そうしたプーチン政権のプロパガンダやネット工作についても「プーチンの正体」で書かれていますが、プーチン本人についてもどこまでが作られたイメージなのかわからなくなってきます。
プーチンの人物像は後から作られたイメージも多く、どこまでは実像かはわかりません。ただ、彼は自分の考えをかなりメディアで公式に発信しています。それはどこまでがホンネかはわかりませんが、彼の発する言葉は、彼が進める強権的な策を正当化するための布石となるよう緻密に計算されています。
その内容は詭弁と欺瞞に満ちたものですが、それでも自己正当化を必ずします。そのあたりの処し方は、じつにソ連共産党的だなと思います。 

 

●東部セベロドネツク陥落…化学工場に避難の住民らはロシア軍「保護下」か  6/26
ウクライナ東部ルハンスク州の要衝セベロドネツクの市長は25日、地元テレビを通じ、ロシア軍が全市を制圧したことを認めた。タス通信などは25日、同州の全域制圧を目指す露軍が最後の拠点都市リシチャンスク市内に入り、一部施設を占拠したと報じた。
同州知事のSNSによると、市長は軍が撤収を完了し、露軍が司令官を任命して占領統治を始めていると述べた。ロシア通信など露メディアの記者は25日、ウクライナ軍が拠点にしてきた「アゾト化学工場」の状況を伝えている。地下施設に避難していたとされる500人超の住民は露軍の「保護下」に入るとみられる。
23日、ウクライナ東部リシチャンスク郊外で、ロシア軍の砲撃で炎上する石油精製施設(AFP時事)23日、ウクライナ東部リシチャンスク郊外で、ロシア軍の砲撃で炎上する石油精製施設(AFP時事)
露軍は同州制圧後、ドンバス地方を支配下に置くため、ドネツク州に兵力を集中させる狙いとみられる。タス通信によると、露軍が後押しする親露派武装集団の幹部は24日、「1週間半でリシチャンスク一帯を制圧できる」と述べた。
一方、英国防省は25日、侵攻作戦を統括してきたアレクサンドル・ドボルニコフ総司令官が更迭されたとの情報を確認した。5月末に米メディアなどで更迭説が伝えられていた。英国防省は 空挺くうてい 軍司令官が更迭されたとの分析も示し、露軍側に指揮命令系統の混乱が続いている可能性がある。
ウクライナの内務相顧問は24日、SNSに投稿した動画で米国が供与した高機動ロケット砲システム(HIMARS)の使用開始を明かした。ウクライナ国防省情報総局トップは英テレビに対し、「8月になれば、戦闘の風向きは劇的に変化する」と述べ、反転攻勢に期待感を示した。
●「戦争は2週間で終わる」大ハズレ…ロシア軍を過大評価していた米諜報機関 6/26
ロシア軍の過大評価とウクライナ軍の過小評価
ウクライナ紛争をきっかけにアメリカでは、米政府の情報部門が中国の軍事力を正確に評価できていないとする指摘が出はじめた。中国人民解放軍は、アメリカの諜報(ちょうほう)機関が想定しているよりもはるかに強大なのだろうか。
ロシア軍に関する分析に目を向ければ、いまでこそウクライナ東部で攻撃を強めつつあるロシア軍だが、侵攻当初は「世界第2位の軍隊」ともてはやされた同軍が驚くほど弱かったとして話題を集めた。同時に、アメリカをはじめとする欧米諸国はウクライナ側の戦力についても正当に評価できておらず、即時敗退との予測が濃厚であった。
米政治専門サイトの「ポリティコ」は、ロシア軍の過大評価とウクライナ軍の過小評価という失態が重なった結果、米諜報機関への信頼が揺らいでいると指摘する。両軍の戦力と戦意を適切に情報収集できていたのであれば、戦況の行方を大きく見誤る事態は防げたとの指摘だ。
「キーウは3、4日間で陥落し、戦争は2週間で終わる」
アメリカの代表的な情報部門としては、国家情報長官直属の中央情報局(CIA)、および国防総省が管轄する国防情報局(DIA)がある。加えて各省庁や軍なども情報部門を抱えている。これら組織からの情報を大統領の諮問機関である国家情報会議が統括し、複数の報告書にまとめられるという流れだ。しかし、その精度が問題となっている。
今年初めに開かれた連邦議会の公聴会でアンガス・キング上院議員は、「われわれ(米国)は……(中略)……ウクライナの戦意を過小評価した」と認めた。議員はさらに、「われわれは、キーウが3日間ないし4日間で陥落し、戦争は2週間で終わるとの情報を得ていた。ひどい間違いであったことが明らかになった」と指摘している。
数時間から数日で政権崩壊するとの誤った予測は、NATO(北大西洋条約機構)加盟国が当初ウクライナへの武器提供をためらった原因になったともされる。不正確な状況分析がなければ、ウクライナは現時点での状況を超えて善戦していた可能性がある。正確な軍事力分析の重要性を物語る一件となった。
繰り返す過小評価の過ち…アフガン撤退の手痛い失敗
アメリカによる軍事力分析の正確性に疑問が投げかけられたのは、今回が初めてではない。公聴会の場でキング議員は、記憶に新しいアフガン軍の崩壊についても改めて指摘している。米軍は昨年5月から8月にかけ、アフガニスタンからの完全撤退を決行した。この際もタリバン勢力の過小評価という過ちを犯した結果、アフガン軍は撤退とほぼ同時に崩壊を迎えることになる。
発端は2001年に遡(さかのぼ)る。9.11同時多発テロの発生後、当時のブッシュ大統領はオサマ・ビンラディン氏を匿(かくま)ったタリバン政権の壊滅をねらい、軍事作戦に踏み切った。目論見(もくろみ)通りタリバン政権は崩壊に至るも、その後も残党がテロを繰り返したため、これと戦うアフガニスタン政府軍を支援する目的で米軍は現地への駐留を継続していた。2021年になってバイデン大統領は、「米史上最長の戦争」ともいわれるこの軍事作戦の幕引きを図り、米軍の完全撤退を指示する。
だが、撤退完了まで2週間となった同年8月15日には早くも、タリバンにアフガニスタン掌握を許す失態を演じる。英BBCが同年9月に報じたところによると、米軍トップのフランク・マッケンジー中央軍司令官は、撤退がアフガンの政府と軍に「非常に有害な影響」を与えたと認めた。
この大誤算も、米諜報部門によるタリバン能力の過小評価が招いた惨事だといえる。両陣営の戦力と戦意を正しく分析できていたならば、米諜報機関は米軍撤退後すぐのアフガン軍崩壊を予見できていたはずだ。
ポリティコは、今年春のウクライナ情勢に対する分析不足と合わせ、わずか1年間のうちに2度も重大な予測ミスを犯したと指摘し、米諜報網は重大な局面において不確実であると嘆く。
米国で「中国脅威論」が再燃する事情
昨今の台湾情勢を受け、予測を外し続ける米諜報網に対して新たな懸念が浮かんでいる。果たして中国の脅威は正しく分析できているのかという疑念だ。
有力軍事サイト『グローバル・ファイアパワー』は中国軍について、アメリカ・ロシアに次ぐ世界第3位の軍事力だと分析している。同サイトは複数の指標に基づき「パワー・インデックス」を算出している。3位中国は、5位日本のダブルスコア以上の戦闘力をもつとの分析だ。
ポリティコは次のように述べ、中国が想定よりも強大である可能性を論じている。
「ロシアとウクライナの軍隊が現在の戦争の初期段階においていかに振る舞うかを正確に予想できなかったアメリカの失敗は、中国というますます強大になっている敵と戦ううえで、アメリカが大きな盲点を抱えているのではないかという恐怖を米政府内であおっている」
予想よりも強大である可能性を念頭に、再評価を行うべきだと同誌は主張している。
実際、昨年8月に中国が極超音速ミサイルを射出した際、アメリカ側の諜報網はこの前兆をまったく把握できていなかった。英フィナンシャルタイムズ紙は、「中国は8月、核搭載能力をもつ極超音速ミサイルの打ち上げ試験を実施した。地球を一周し、目標到達前に加速している。宇宙空間での高度な能力を示すものであり、米諜報機関に不意打ちを喰(く)らわせた」と解説している。
「楽観論に流された」米下院委員会が認めた情報の不備
中国の軍事力を正しく分析できていないというおそれは、米下院委員会も認めるに至っている。ポリティコによると、米下院の情報委員会は昨年9月、アメリカの諜報機関は中国の脅威に対応できないと結論づける報告書を発表した。
その報告書によると、従来から楽観論として、中国の成熟に伴い民主化が促進されるとの読みが蔓延(まんえん)していたという。そして、アメリカの各種情報機関がこの誤った予測を採用した結果、「中国共産党の最重要目標である権力の保持と拡大から、偵察機関の目をくらませた」と分析している。
中国に対する監視リソースが不足した背景に、中東への偏重がある。国防情報局やCIAなどがアラビア語話者とテロ専門家の採用・育成に力を入れる一方、汎用(はんよう)的な分析力をもつ冷戦時代の経験豊富な分析官が次々と引退している。
米シンクタンクのハドソン研究所のエズラ・コーエン特別研究員はポリティコに対し、「本心とうわべの脅し、あるいは運用可能な兵器と単なる試作品の違い」を見抜けるだけの、経験豊かな分析官が減ってきていると指摘する。
「過大評価が武力衝突のリスクを高めている」という反論も
一方でこうした見解とは逆に、中国の軍事能力は過大評価されているとの分析もある。米シンクタンクのクインジー研究所は、アメリカが中国など諸外国の能力を「著しく誇張」して評価してきたと述べ、過大評価により武力衝突のリスクが高まっていると主張している。
6月2日に公開された白書において同研究所は、「中国の軍事能力と軍機密に関する中国指導者らの意図を分析するうえで、脅威の過大評価は大いなる問題である」と指摘した。さらに、権威あるとされるアメリカ側の複数の評価リポートが、一部の例外を除いて頻繁に「不適切な、歪曲された、または不正確な証拠を採用し、極度に誇張された表現を用い、感傷的あるいは非論理的な思考を提示」していると非難する。
中国への恐怖感が前提にあることで、具体的根拠なくさらなる恐怖をあおる報告書が量産されているという。多くの報告書が「真実の客観的な探求よりも、局所的な政治、イデオロギー、もしくは感情的衝動に基づくとみられる大局的な評価に依存している」との指摘だ。
こうした傾向により、台湾問題や南シナ海の安全保障問題はゼロサム・ゲームの性質を帯びた武力解決へと傾倒しがちとなり、穏健化への機会が閉ざされると白書は主張している。解決策として同研究所は、中国軍の過大評価から脱却し、事実に基づく客観的な分析に転換するよう提案している。
米クインジー研究所は、アメリカの政治介入が「終わりなき戦争」を招いていると主張し、その終結を掲げる保守派シンクタンクだ。本質的に穏健派という点を差し引いて読み解く必要はあるものの、一定の筋の通った主張ではある。
脚光を浴びた民間の調査報道グループの手法
仮想敵国の秘密に迫る諜報活動は、過大評価にせよ過小評価にせよ、不正確な推論に陥りやすい。そこで、客観的かつ有効な手法として注目されているのが、OSINT(オシント:Open Source Intelligence)と呼ばれる分析手法だ。
「公開情報調査」とも訳されるこの手法は、一般に公開されている報道、商用衛星写真、ソーシャルメディアなどから関連情報を大量に収集し、それを読み解くことで秘匿されている事実に迫る。
この手法はロシア・ウクライナ情勢をめぐり、調査報道グループ「ベリングキャット」が多用し成果を挙げたことでも一躍有名となった。同グループは衛星写真やウクライナ市民がツイッターに投稿した被弾現場の写真などを解析し、ロシア軍が非人道兵器のクラスター弾を使用し戦争犯罪を行った証拠を収集・公開している。
米ワシントン・エグザミナー誌は5月、このOSINTを米諜報機関も採用すべきだと促す記事を掲載した。記事は、OSINTによる民間の情報戦が熾烈(しれつ)になった現在、「もはや諜報機関は明らかに、政策立案者たちにとって唯一あるいは最もタイムリーな情報源ではなくなった」と厳しく指摘する。
ベリングキャットは過去にもOSINTを活用し、ロシア野党指導者の暗殺未遂疑惑など数々の事件を扱い、諜報機関を上回る成果を挙げている。ワシントン・エグザミナー誌は、すでに起こった事件の分析のみならず、ネット上に溢れる民意の変化を読み解くことで軍事的動向の予測に反映できるのではないかと提言している。
不確実な情報が台湾有事のリスクを高める
中国・台湾間の衝突が懸念されるいま、中国軍の軍事力と戦意の正確な把握は重要な課題だ。仮に中国側が台湾への武力侵攻に及んだならば、日本を含む周辺諸国への影響は避けられない。こうした地域には台湾侵攻に介入するであろう米軍の基地が存在することから、中国による直接攻撃の対象となるおそれがある。 ウクライナ侵攻におけるロシアの例を鑑みるならば、世界第3位の軍隊とされる中国人民解放軍が、蓋(ふた)を開けてみれば想定よりも粗末な戦いを演じる可能性はあるだろう。戦況予測には戦力と戦意の両面を考慮する必要があるが、特に戦意の高さについては定量的な評価が困難だ。
ロシア軍がウクライナ人への攻撃を躊躇(ためら)う理由の一つとして、おなじスラブ系民族であることが指摘されている。同様の原理が中台間にも適用されるのであれば、台湾侵攻に対し中国兵が抵抗感をおぼえてもおかしくはない。
他方、兵器開発という観点では、中国の脅威を過小評価すべきでないことも事実だ。極超音速ミサイルの開発はアメリカの情報網をもってしても把握できず、完全に出し抜かれる格好となった。ミサイルの試験発射は昨夏の出来事だが、1年近くが経過したいま、さらなる先進兵器の開発が中国国内において、世界の預かり知らぬところで進められていても不思議でない。
いずれにせよアメリカでは議員やアナリストたちが、中国軍の能力を再評価せよとの声を日増しに高めている。それは米情報機関に対する不信感のあらわれだろう。アフガン、ウクライナと予測を大きく外してきた情報網だが、中国情勢を正確に読み解くことができるのか、分析の精度に厳しい目が向けられている。
●セベロドネツク ロシア支配に ゼレンスキー大統領 奪還に全力  6/26
激しい攻防が続いてきたウクライナ東部ルハンシク州のセベロドネツクの市長は、街が完全にロシア軍の支配下に置かれたことを認め、ロシア国防省も街を掌握したと発表しました。ウクライナ側は隣接する都市に拠点を移して部隊を再編成する構えで、ゼレンスキー大統領は、セベロドネツクを含む各都市の奪還に向けて全力を尽くす姿勢を強調しました。
ウクライナ東部では、ルハンシク州の完全掌握を目指すロシア軍が、ウクライナ側が拠点とするセベロドネツクと、川を挟んで隣接するリシチャンシクに対して、3か月以上にわたり攻勢を強めてきました。
こうした中、セベロドネツクのストリュク市長は25日「街は完全にロシア軍の支配下に置かれた」とウクライナ軍が撤退したことを認めたほか、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官も、セベロドネツクを完全に掌握したと発表しました。
ウクライナ国防省の情報機関のトップは「現状では戦線を維持するのは不可能だ。軍は高台に撤退し、そこで防衛作戦を継続する」と述べ、セベロドネツクと川を挟んで隣接するリシチャンシクで、部隊を再編成していることを明らかにしました。
一方、ロシア側は、リシチャンシクに南方から部隊を進め、25日には市街戦が始まったと主張していて、攻防の激化が予想されます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、新たな動画を公開し「すべての都市を取り戻す」と述べ、セベロドネツクを含む各都市の奪還に向けて全力を尽くす姿勢を強調しました。
また、ウクライナ東部以外でも、北部や南部など広い範囲に半日で45発のミサイル攻撃を受けたと明らかにし、ロシアに対する制裁の強化や、さらなる軍事支援の必要性を重ねて訴えました。
これに関連して、ウクライナ軍のザルジニー総司令官は25日、自身のSNSで、アメリカから供与された高機動ロケット砲システム=ハイマースが実戦に配備され、領土内に侵入した標的に攻撃が命中したと投稿しました。
ハイマースを使用したと見られる映像では、夜間に地上から発射されたロケット弾と見られるものが飛行していく様子が確認できます。
ウクライナとしては、欧米から供与された兵器を活用することで、ロシア軍に対して攻勢をかけたい構えです。
●ロシア軍 セベロドネツク完全掌握 リシチャンシクの攻勢激化へ  6/26
ロシア軍は、激しい攻防が続いていたウクライナ東部ルハンシク州のセベロドネツクを完全に掌握したと発表しました。今後は、ルハンシク州の完全掌握に向け、隣接するリシチャンシクへの攻勢をさらに強めるものとみられます。
ウクライナ東部では、ロシア軍がルハンシク州の完全掌握を目指して、ウクライナ側が拠点とするセベロドネツクなどに対して、3か月以上にわたり攻勢を強めてきましたが、セベロドネツクのストリュク市長は25日「街は完全にロシア軍の支配下に置かれた」とウクライナ軍が撤退したことを認めました。
また、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官も、セベロドネツクを完全に掌握したと発表しました。
これについて、イギリス国防省は26日、ロシア軍にとってセベロドネツクの掌握は重要な戦果であるとする一方「ドンバス地域全体の掌握に向けた目標の1つでしかない」と指摘しています。
ロシア軍はルハンシク州の完全掌握に向け、川を挟んで隣接するリシチャンシクへの攻勢をさらに強めるものとみられ、地元のハイダイ知事は26日「リシチャンシクは空爆されている。敵の軍はセベロドネツクを占領したあと、ルハンシク州の最後のとりでであるリシチャンシクを占領するため全力を注いでいる」とSNSに投稿しました。
こうした中、ロシア国防省は26日、ショイグ国防相が、軍事作戦に関わる司令部などを訪問したとする映像を公開しました。
具体的な場所は明らかにされていませんが、作戦が展開されている主要な場所の状況について報告を受けたとしていて、士気を高めるねらいがあるとみられます。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、25日に公開した動画で「すべての都市を取り戻す」と述べ、掌握された都市の奪還に向けて全力を尽くす姿勢を強調していて東部を中心に激しい攻防が続く見通しです。
●ロシア軍がベラルーシ領空からウクライナを空爆 6/26
ウクライナ国防省は25日、ベラルーシの領空からウクライナに向かって、ロシア軍の爆撃機によるミサイル攻撃があったと明らかにした。首都キーウ(キエフ)などに着弾しインフラに被害が出た。ベラルーシからの攻撃は今回が初めてだという。
「ベラルーシからの空爆は初」ウクライナ
ウクライナ国防省情報部門によると、ベラルーシ領空からウクライナへの直接の空爆は今回が初めて。爆撃機6機がロシアの空軍基地から出撃しベラルーシ南部からミサイル12発を発射、首都キーウ(キエフ)などに着弾しインフラなどが破壊されたという。
G7外相が食料危機で露非難
日米など主要7カ国(G7)は24日、ドイツで開催した外相会合で、ウクライナ侵攻による食料危機深刻化で「ロシアが責任を負っている」との認識で一致した。各国外相は、ウクライナからの食料輸出を妨げないようロシアに求める考えを示した上で、輸出を支援する欧州連合(EU)の取り組みに支持を表明した。
「露侵攻のエネ危機でも気候変動対策を」
ドイツ南部エルマウでの主要7カ国首脳会議(G7サミット)開幕を翌日に控え、独ミュンヘンで25日、参加国の気候変動対策が不十分などとして抗議する約4000人のデモがあった。ロシアのウクライナ侵攻でロシア産天然ガスの供給が減ったドイツは石炭火力発電の利用を増やす方針だが、デモ参加者からはエネルギー危機は認めつつ化石燃料脱却を主張する声も聞かれた。
●ミサイルがキーウの住宅攻撃−ロシアはデフォルト近い 6/26
ロシアのミサイルが26日午前にウクライナの首都キーウの住宅施設を攻撃したと、同市のクリチコ市長が明らかにした。25日はベラルーシの空域から発射されたミサイルを含め激しい攻撃が加えられていた。
ロシアは約1億ドル(約135億円)の対外債務についてデフォルト(債務不履行)に近づいている。猶予期間が26日夜に終了する。
主要7カ国(G7)首脳会議はロシア産原油の価格制限について協議する見込みだと、事情に詳しい関係者が明らかにした。また、英国、米国、日本、カナダがロシアからの新たな金輸入の禁止を発表する見込みだという。
ロシアのミサイルがキーウの住宅施設を攻撃
ロシアのミサイルが26日朝にキーウの住宅施設を攻撃したと、ウクライナ当局者が述べた。
ロシアはデフォルト間近
ロシアは債務を巡る約1億ドルの支払いについて、デフォルト回避の猶予期間が26日夜に終了する。債務に関する文書によれば、債権者が資金を期限までに受け取れない場合は27日朝にデフォルトイベントが発生する。
ロシアがセベロドネツクを掌握  
ウクライナの情報当局によると、ベラルーシの領空から発射されたものを含めウクライナ北西部へのミサイル攻撃は数カ月で最も激しいものだった。ウクライナ東部のセベロドネツクは「現在、ロシアの完全占領下にある」と同市の市長が述べた。ロシア側も分離主義者が市内最後のウクライナ拠点を制圧したと発表したとAP通信が報じた。
G7首脳会議、ロシア産原油の価格制限を協議へ
G7は首脳会議でロシア産原油の価格制限について協議する見込みだと、事情に詳しい関係者が明らかにした。具体的な案はないものの、価格制限が首脳会議の正式議題となるべきだとの点で合意があるという。ロシア政府の収入を制限しエネルギー価格を抑えるために各国がそれぞれに価格上限を設ける計画が協議される見込み。
G7、ロシアからの金輸入禁止へ−関係者
G7の首脳らはロシアからの新たな金輸入の禁止に合意する見込みだ。関係者が公式発表前だとして匿名を条件に述べた。
●ウクライナ・食料危機に対処=ロシア産金の輸入停止協議へ―G7サミット 6/26
先進7カ国首脳会議(G7サミット)が26日昼(日本時間同日夜)、ドイツ南部エルマウで3日間の日程で開幕する。ロシアによるウクライナ侵攻や世界的なエネルギー・食料危機にどう対処するかが焦点。力を背景に現状変更を試みるロシアと中国に対し、日米欧の結束が問われる。
岸田文雄首相は26日午前に現地入り。サミットで議長を務めるドイツのショルツ首相が各国首脳を出迎える。世界経済をテーマとする最初の会合では、ウクライナ危機を受けた世界的な物価高への対応を議論する。
夜は、ウクライナ情勢を中心に外交・安全保障について意見を交わす。開幕に先立ち、英政府は日本、米国、カナダとともにロシアに対する追加制裁として同国産の金を輸入停止すると発表した。エネルギーに次ぐロシアの資金源を絶つ狙いで、ジョンソン英首相はサミットで独仏伊にも参加を呼び掛ける。
岸田首相はウクライナ支援や対ロ制裁を継続する意向を表明する見通し。覇権主義的な動きを強める中国を念頭に「欧州とインド太平洋の安全保障は不可分」と訴え、台湾を含むアジアの安全保障について危機感を共有したい考えだ。
初日は、途上国などへのインフラ投資支援も議題となる。バイデン米大統領は、日米欧を中心にインフラ投資を強化する新たな枠組みを発足させる方針。経済圏構想「一帯一路」で影響力拡大を図る中国に対抗する狙いがある。
27日の会合にはウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで参加。インド、南アフリカ、アルゼンチンなどの招待国首脳も現地で出席する。
●岸田首相 G7サミットに出席 軍事侵攻など結束対応の方針確認へ  6/26
ドイツを訪れている岸田総理大臣は、さきほど開幕したG7サミット=主要7か国首脳会議に臨んでいます。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻や世界的な食料危機に対し、G7で結束して対応する方針を確認したい考えです。
ドイツ南部のエルマウに日本時間の午後4時ごろ到着した岸田総理大臣は、ショルツ首相の出迎えを受けたあと、G7サミット=主要7か国首脳会議に臨んでいます。
会議の中で、岸田総理大臣は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は国際秩序の根幹を揺るがす暴挙だとして、ロシアに対する強力な制裁とウクライナへの支援を継続していく必要性を指摘することにしています。
そして、ロシアの侵攻を背景とした世界的な物価高騰やサプライチェーン=供給網の混乱、食料危機など喫緊の課題に対し、G7で結束して対応する方針を確認したい考えです。
さらに、食料価格の高騰の原因は欧米などの制裁だとするロシアの主張に反論するとともに、穀物輸出が滞るウクライナや、食料危機の影響を受ける中東・アフリカ諸国への支援を表明する方針です。
また、覇権主義的行動を強める中国や、核・ミサイル開発を活発化させている北朝鮮への対応をめぐっても意見を交わし、自由や法の支配に基づく国際秩序の維持に向けて、G7で連携を強化していく方針で一致したい考えです。
岸田総理大臣は、サミットにあわせてドイツのショルツ首相やイギリスのジョンソン首相らと個別の会談も行うことにしています。
●「プーチン政権の資金源を断つ」 G7 ロシア産金の持込を禁止する制裁 6/26
きょうから行われるG7(=主要7カ国首脳会議)で、ロシア産の金の持ち込みを禁止する制裁を日本やアメリカ、カナダなどでも行うと発表された。
イギリス首相官邸は26日、新たに採掘・精製されたロシア産の金の持ち込みを禁止すると発表した。G7サミットでアメリカ、カナダ、日本も同様の制裁を発表するとしている。イギリス首相官邸は、経済制裁に苦しむロシアの富豪、オルガルヒらが金塊の購入を急いでいると指摘し、ロシアを国際金融取引からさらに孤立させる狙いがある。
ジョンソン首相は「ロシアのオルガルヒを直接攻撃し、プーチン政権の資金源を断つ必要がある」と話し、各国と協力してロシアへの圧力を強めるとしている。
●プーチン氏の術中?やせ我慢? 経済制裁、苦しいのはどちらなのか 6/26
対ロシア制裁によるエネルギー価格高騰が、欧米の政権を揺るがすとの期待が、ロシアで高まっている。自国民の反発で欧米のウクライナ支援が減れば、ロシア軍の苦戦続きの状況が転換する可能性があるためだ。ただ、ロシア経済も夏から秋以降、制裁の影響が本格的に出始めるという見方もあり、「我慢比べ」の様相になっている。
「今回の危機は欧州連合(EU)の低所得者層を直撃している。ポピュリズムや社会の過激な風潮を招き、近い将来、エリートの交代が起こるだろう」
ロシアのプーチン大統領は17日、国際経済フォーラムでの演説で、対ロシア制裁などによる最近の物価高騰は、ロシアよりも欧州への打撃になると警告した。
ロシアのウクライナ侵攻後、欧米は厳しい制裁でロシア経済に打撃を与える狙いだった。だが、供給不安から石油やガスなどの価格が高騰。ブーメランのように自国の生活を直撃している。
ロシアメディアも連日のように、インフレに苦しむ欧米の姿を報道している。
専門家は「バイデン米大統領が危機の責任をプーチン大統領に転嫁しようとしても国民はだまされず、(11月の米中間選挙で)民主党は敗北するだろう」と予想。親プーチンのテレビ司会者ウラジーミル・ソロビヨフ氏は番組で、「(野党の)共和党が勝てば、『なぜそれほどの資金を送るのか』と言うだろう」と期待した。
国外に拠点のあるロシア系メディア「メドゥーザ」は5月、ロシア大統領府に近い情報筋の話として、政府が「戦争が長引けば、欧州は資金と軍事の両面で支援に疲れる」ほか、暖房需要が増す冬を前に「石油とガスでロシアと交渉する必要がある」とみていると伝えた。
ロシアは当初、短期間で首都キーウ(キエフ)などを制圧し、親ロシアの傀儡(かいらい)政権樹立を目指していたとされる。
戦況が思い通りの展開にならず、ウクライナ軍の抵抗に苦戦した最大の理由が、欧米の軍事支援だ。
戦争が長期化して欧米の「支援疲れ」が強まれば、ウクライナ軍が弱体化して戦況を有利にできるとの思惑が、ロシアにはある。
では、制裁はロシア経済に ・・・
●米軍の結論「中国が台湾に軍事侵攻すれば成功する」… 日本と台湾 6/26
中国が台湾に軍事侵攻した場合、現実にはどうなるのか。元在沖縄米軍海兵隊政務外交部次長で政治学者のロバート・D・エルドリッヂさんは「中国の台湾への軍事侵攻は成功するだろう。このため重要なことは、日米欧が『台湾の侵略は絶対に許さない』という意志を示すことだ。だが、今の岸田政権ではあまりに心もとない」という。評論家の石平さんとの共著『これはもう第三次世界大戦どうする日本』(ワニブックス)より、2人の対談を紹介する――。
中国による台湾侵攻はもう止められない
【エル】ウクライナ戦争が起きたことによって台湾侵攻が早まるのか遅くなるのかはわかりませんが、中国が戦術を見直していることは間違いありません。
なぜウクライナにおけるロシアの作戦がうまくいってないのか。あるいは世界各国の反応はどうか、どのような制裁措置にでたのかでないのか。そして台湾と一番関係する周辺国がウクライナの情勢に対してどう動くか、日本がどう対処しているのか。非常に細かく分析していると思います。
ただし、全体の流れとしては、中国の台湾侵攻は止められないでしょう。政治的・外交的にタイムラインがありますが、中国の立場に立つなら、宇宙戦が優位なうちに、日米台が一体になる前に侵攻したいはずです。
ウクライナの事情が完全に台湾に当てはまらないのは、繰り返しますが台湾が「国」ではないからです。加えてNATOのような組織がアジアにはない。
【石平】そこです、クワッドも軍事同盟ではないですから。
中国への輸入依存度が高い日本、アメリカ、ドイツ
【エル】だいたい中国はアジア版NATOをつくることを許しません。中国がクワッドを批判していたのはそういう理由からです。
私は、中国は経済制裁に強いと見ています。これには少なくとも2つ理由があります。
1つはアメリカの経済界や政界がものすごく中国に進出していることです。
日本政府の内閣府が公表した「世界経済の潮流 2021年」には日本とアメリカ、ドイツ3カ国の対中依存度の異常な高さを示すデータが載っており、参考になります。2019年におけるアメリカの各国輸入額に占める中国の割合は18.1%と2割近くもあり、しかも10年前の18.5%とほとんど変わっていません。また、輸入依存度が5割以上を占める「集中的供給材」は、590品目、全体のシェアは11.9%と非常に高いです。
中国との貿易戦争を仕掛けているアメリカでさえこの数字ですから、依存度の高い日本は当然それ以上です。輸入品目全体では23.3%、集中的供給材にいたっては1133品目(シェア23%)と、アメリカの倍近くもある。
ちなみにドイツは、全体で8.5%、集中的供給材では250品目(シェア5%)と比較的少ないのですが、ドイツは対中国貿易では輸出がメインだということを考慮したとしても、この数字です。
物流を握っている中国への制裁はリスクが高い
【石平】確かに中国税関総署が今年の1月に発表した貿易統計によると、2021年の中国の対米貿易総額は7556億ドル(約86兆円)と過去最大になり、輸出入ともに前年より3割増えて、むしろ相互依存が強まっています。
【エル】中国進出企業などが加入する「中国米国商会」が3月8日に発表した、中国ビジネス環境調査レポートによると、中国での今後の事業展開について、2022年に中国における「投資を拡大する」と回答した企業は66%にも上ります。この期に及んでです。
半面、「生産・調達の中国からの移転を検討または開始している」企業は14%(前年は15%)にすぎず、「今後の中国市場の成長見通しについて楽観視している」との回答は64%もあります。
さらに国際貿易に欠かせない物流のデータを見ても中国が他を圧倒しています。
たとえば、2020年のコンテナ貨物量上位10港のうち、1位上海、3位寧波、4位深圳などと7港が中国で、世界シェアの24.8%を占めています。アメリカは7.1%、日本は3.5%と比較にならない(「CONTAINERISATION INTERNATIONALYEARBOOK」より)。
つまり中国を制裁すると自分たちに制裁しているような状況になってしまいます。確かに中国共産党の幹部のなかに嫌がる人がいたとしても、それが習近平主席の国家戦略を変えるほどの影響を持つかは不明です。
岸田政権では中国への抑止力が弱い
【エル】したがって、われわれ西側社会は、起きたあとを考えるのではなく、起きる前に中国に台湾侵攻をしないよう促す必要があります。つまり抑止力を示さなければなりません。
抑止力は装備品だけではなく、体制そのものなのです。いかに日本が同盟国や準同盟国、あるいは友好関係にある国々と連携できるかがカギを握ります。こうしたことへの種まきは、有事になって始めるものではなく、平時から積み重ねていかなければならないことです。
しかし今の岸田政権ではそれが弱い。
1つは林(リン)外相を選んだこと(笑)。林芳正(はやしよしまさ)外相が外相就任とともに辞任した「日中友好議員連盟」の会長職は親子2代にわたって務めていたことは周知の事実です。
父親の義郎氏は1969年から2003年まで衆議院議員を務め、大蔵大臣の時期(1992〜1993)に、中国へのODAは飛躍的に増大していました。ODAは外務省経由で配分されますが、それを承認するのは大蔵省(現在の財務省)です。時あたかも、天安門事件直後で中国が世界中からバッシングを受けていた最中のことです。
林外相が会長を務めた「日中友好議員連盟」の闇
また、義郎氏は、中国の日本における政治戦争を故意または無意識に助長する組織の一つと指摘されていた「日中友好会館」の会長でもありました。
「日中友好議員連盟」の怪しさを示すものとして、同連盟の関係の資料が公開されていないことです。ホームページもなく、国会議員仲間の問い合わせにさえ「資料は参加メンバーに限る」と断るほどクローズされています。
本当に友好と二国間関係促進を望むのであれば、組織の歴史、会員名簿、財政などの情報を透明化することに躊躇はないのは論を俟(ま)ちません。特に日本側の経費は税金で賄われているのだからなおさらです。
中国の脅迫的行動に岸田政権は「注視する」のみ
【エル】またその象徴的事例として、岸田政権が誕生した2021年10月4日に台湾の防空識別圏(ADIZ)を56機というかつてないほどの中国軍用機が侵入したというのに、翌5日の松野官房長官のコメントがひどかった。
「わが国としては、台湾をめぐる問題が、当事者間の直接の対話により、平和的に解決されることを期待するというのが、従来からの一貫した立場だ。政府として、引き続き、関連動向を注視していきたい」
ADIZを一方的に侵攻したのは中国であり台湾ではありません。かつてない規模の軍用機だというのに従来どおりの対応をし、あげく注視するだけと言うのです(笑)。
正しい対抗措置はこうです。
まず中国を名指しで批判する。
次に日米と米台で連携して日本にある米軍機、戦闘機、空中空輸機、そして偵察機を一時的に台湾に展開する。
3つ目に、南シナ海で行っていた多国間による軍事演習に台湾軍を招待する。
ものすごく反発するでしょうが、中国が台湾を脅迫したらどうするかという対抗措置をはっきりと示す必要があります。
対抗措置が嫌であれば威嚇などするなと。それが岸田政権ではまったくできてないので、弱いと思いました。
【石平】逆にいえば、中国も台湾に手を出すのは岸田政権の間のほうがいいというメッセージを送ったことになる、外相が林(リン)のうちに(笑)。
米軍は中国がどう台湾に侵攻するかを調査済み
【石平】最後に最も気になる質問をします。もし、中国が本気で台湾を取りに行く場合、中国はどのような戦術をとりますか? 
【エル】すでに米軍が調べていて、実際にどうなるかがわかっているので、それは言えません(笑)。
【石平】そうか!  いやわかりました、その言葉を聴けただけで十分です!  では答えられたらでいいですが、中国は失敗するか成功するか?  経済制裁とは別の話で軍事行動としてどうか? 
【エル】成功すると思う。
【石平】ああ、それはちょっとショックだな。
【エル】なぜなら台湾が国家として承認されていないからです。
【石平】やはりこの問題に戻ってくる。
台湾を孤独にしないために、日米台で連携を
【エル】繰り返しますが、中国のアメリカ社会への政治戦、経済戦の浸食があまりに進んでいるのです。そして問題なのは台湾と日米、ヨーロッパとの連携がとれていないことです。要するに台湾を孤独にしてはいけないのです。そのための第一歩が台湾を国家として承認することですが、現状はそうではありません。もちろん、国家でなくても軍事連携はとれますが、それすら進んでいません。
【石平】いや逆によくわかりました。台湾を守りたいのならば戦争が起きてからではなく、その前に日本とアメリカを代表する国際社会が肝心な問題をクリアしなければならないということですね。そして日米台で安全保障条約を結び、三国連携で台湾の侵略は絶対に許さないという意志を示す。そこまでやらなければ、中国に台湾侵攻を諦めさせることはできない。
ウクライナ人の必死の抵抗で中国の台湾侵攻が少しでも遅れる可能性があるのなら、日本はこれを僥倖として、まずは憲法改正をしなければならないでしょう。平和は平和憲法があるから守れるわけではないのですから。
【エル】軍事力もさることながら、世界が尊敬し、真似をしたくなるような「民主主義」を守るという理念・理想がなければ、この厳しい戦いに勝利することはできないのです。
【石平】ありがとうございます、身が引き締まるような対談でした。
●プーチン大統領「ロシアの日」に動きなし 次は11月4日「民族統一の日」か? 6/26
6月12日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「ロシアの日」の演説で、ウクライナ侵攻をめぐる発言が注目されたが、直接の言及はなかった。大きな動きが期待される「節目」はいつなのか。AERA 2022年6月27日号の記事から紹介する。
今年、「ロシアの日」が特に注目されたのは、プーチン氏がウクライナでの戦争を巡ってなんらかの宣言をする「節目」になるのではないかという臆測からだった。
その前には5月9日の対独戦勝記念日に注目が集まったが、いずれも大きな動きがないまま終わった。
では、次の「節目」はいつになるのだろうか。候補となるのは独ソ戦が始まった6月22日や、プーチン氏自身が設けた新しい祝日「民族統一の日」(11月4日)などだろうか。
しかし、ピョートル大帝の再来を気取って領土拡張に突き進むプーチン氏は、もはやそうした短い時間軸で物事を考えていないのではないだろうか。なにしろピョートル大帝が戦った大北方戦争は、21年の長きにわたったのだ。 ただ、プーチン氏が避けたくても避けられない「節目」も、いずれやってくる。
それは、2024年5月7日。現在大統領4期目を務めるプーチン氏の任期が終わる日だ。
プーチン氏は一昨年、自らが5期目を目指して立候補することを可能とする憲法改正を実現した。仮に体調が悪化しても、生きて意識がある限り、また立候補して大統領の座にしがみつこうとするだろう。
世間では、プーチン氏の後継者候補も取りざたされている。しかし、自身に忠誠を誓う者を後釜に据えて院政を敷いても、ひとたび権力を手放せば、いつ完全失脚に追い込まれるか分からない。
もしも今後、政権内で反乱の動きがあったり、国内で反政権の声が強まったりしても、プーチン氏はむしろ戒厳令を導入して、大統領選挙を無期延期する道を選ぶのではないだろうか。

 

●見捨てられたウクライナ。EU内に響き始める「戦争疲れ」の不協和音 6/27
両軍に凄まじい数の戦死者を出す中、6月24日で4ヶ月が経過したロシアによるウクライナ侵攻。表向きにはウクライナとの連携を強調する欧州各国ですが、その対応に様々な変化が現れているようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、EU内で響き始めた数々の「不協和音」を取り上げその背景を解説。さらにこの戦争が遠く離れた貧しい国の人々にもたらしている「危機的な状況」と、その被害者たちを利用するかのようなプーチン大統領の強かな戦略を紹介しています。
ウクライナ戦争の裏で起きる様々な悲劇と混乱の予感
「我々はウクライナが勝利するまで寄り添う」
フランス・マクロン大統領、ドイツ・ショルツ首相、イタリア・ドラギ首相、そしてルーマニア・ヨハニス大統領が連れ立ってキーフを訪れ、ゼレンスキー大統領に“約束”したのがこの言葉です。
そして4首脳そろって、ウクライナのEU加盟候補国への支持を述べました。
しかし、この直後からすでに、EU内では不協和音が出ています。
その理由の一つが、マクロン大統領とショルツ首相が、ゼレンスキー大統領に「一日も早くプーチン大統領と話し合うべき」と述べたことです。
イタリアのドラギ首相は少しこの発言からは距離を置いているようですが、ルーマニアのヨハニス大統領はこれを聞いて激怒したとか。
そしてそれを言われたゼレンスキー大統領も、「プーチン大統領との話し合いは拒否しないし、何度も申し入れをしている。いずれそれが必要となるときが必ず来る。しかし、今、必要なのは欧州各国の一枚岩の対応であり、残念ながら私にはそれが見えない」と不満を述べたとのことです。
元々ロシア・プーチン大統領との特別な関係をアピールしてきたマクロン大統領と、エネルギーなどの脱ロシアを掲げながらもその困難さに直面しているショルツ首相ですが、彼らの発言は、他の欧州各国からはすでにウクライナ戦争終結後のロシアとの関係修復を狙った秋波と受け取られたようです。
実際にドイツはロシアからの天然ガス輸入への依存度を低下させようと動いていますが、軒並み上がり続けるエネルギー価格にそろそろギブアップしそうな状況で、ついに禁じ手の(そして日本を散々非難してきた)石炭発電の利用延長と拡大利用に踏み切りました。
ちなみにドイツの石炭火力発電は、日本のものとは違い、効率は悪く、かつ褐炭を使用することが多いため、温暖化効果ガスの排出が多いのですが、これがまた、欧州の環境先進国を自負して、隣国ポーランドをはじめ、石炭をベースロード電源として用いる中東欧諸国を散々非難してきたしっぺ返しが来ています。
フランスについては、直接的に影響があったとは思えませんが、過剰なまでのウクライナ戦争へのコミットメントが、エネルギー・食料などの物価高騰に苦しむ消費者の怒りを買い、国民議会選挙で与党連合が100票以上議席を失い、代わりに左派連合とマリー・ルペン氏が率いるFront Nationaleが大幅に票を伸ばし、国内政治の運営が大変困難になる予想です。
「これは、ロシアによる欧州全体への宣戦布告」
「これは民主主義に対する挑戦」
と叫んで我慢を受け入れてきたウクライナ戦争への疲れと飽きがはっきりと表れるようになってきていると言えます。
そして今回の大きなトリックは、EU加盟候補国という非常に微妙な立ち位置の提供です。
このステータスにある国はまだまだたくさんあり、もう長年にわたって加盟に向けた努力をしていますが、なかなか加盟が叶わないのが現状です。実際に今回の訪問でも「候補国にはなったが、まだまだ加盟に向けてクリアする条件がたくさんある」と首脳たちが語っているのも事実です。
報道では、「欧州が示したウクライナへの連帯」という美しい姿が描かれたわけですが、実際には、国連でのウクライナ人の元同僚曰く、「ただの茶番だ」、「結局、ウクライナは見捨てられた」と語っていました。そして「トルコと同じで、ウクライナがEU加盟国になることはないのだろう…」とも。
EU加盟国も同じで、これまで頑なにEUの東欧諸国への拡大に異議を唱えてきたデンマークなどの北欧諸国も、今回は候補国認定には賛同したものの、「実際の加盟にはまだまだいくつものハードルがあり、かなり困難だと思われる。よほどウクライナが変わらない限り、デンマークは賛同しない」とのことでした。
そのことは、当のプーチン大統領も重々承知のようで、「ロシアとしては経済的な統合体としてのEUの加盟候補国になることに何ら反対はしない」と余裕しゃくしゃくな反応をして見せました。
軍事同盟のNATOに関してはあれほど反対しましたが、彼の過去の表現を借りれば「EUは共通外交政策も安全保障政策も結局は選ぶことが出来ない経済共同体に過ぎない。まあ、ロシアにとっては一つの大きなマーケットが隣にあるので便利なわけだが、全くロシアの脅威にはならない」と言ってのけたのもうなずける気がします。
あの手この手を使ってStand with Ukraine, stand by Ukrainiansを演出していますが、なかなか約束された武器が届かず、届いたとしても欧米仕様の最新兵器を使いこなせないウクライナ軍という状況が明確になる中、ここにきて火力とミサイルなどの“飛び道具”で圧倒するロシアからの、意地ともいえる攻撃の嵐にどこまでウクライナが耐えられるか、非常に懸念しています。
そのような中、なかなか勇気ある行動を取ったのが、バルト三国のリトアニアで、ロシアの飛び地であるカリーニングラードへのロシアからの鉄道での輸送を制限するという措置を発表しました。ロシア政府は激怒しつつも、バルト海経由での海路輸送に転換して対応するようですが、これはロシアからの攻撃はないと確信してのことでしょうか?
一応、欧米がロシアに課す制裁措置に沿ったものとのことですが、もしそうであるなら、どうして侵攻から4か月経ってからの突然の措置なのでしょうか?少し不可解です。
これは現在、リヒテンシュタイン在住のリトアニア出身の友人の話ですが、「ロシアからの離脱を鮮明にし、ロシアと事あるごとに結び付けられることへの抵抗と、欧州各国の覚悟を試しているのではないか」とのことでした。
今回の措置を受けて、EU各国とNATO加盟国は、言葉の通り、リトアニアや他のバルト三国をロシアから守るためにコミットするか否かを見極めるのではないかとのことです。これまで再三にわたり、EUからのリップサービスに騙されてきたとのことで、今回、ミサイル・イスカンダルまで配備されているカリーニングラードとロシア本土を切り離す賭けに出て、ロシアとの決別を明確にしたリトアニアの意思にどうこたえるのかを見たいそうです。
これは、たとえとしてはよくないかと思いますが、日本が仮に竹島を奪還しに行く、尖閣諸島周辺で活動する中国船を拿捕する、そして北方四島を奪還しに行くとした際に、本当にアメリカは来るのかを試すようなものでしょうか。考えるだけでも、背筋が凍りそうですが…。
ところで、どうしてもウクライナ戦争が報道で流れるがゆえに、忘れられがちになるのですが、世界の他の場所でも争いは起きています。
例えば、歴史の繰り返しでしょうか。インドが今、ミャンマー国境線を越えて、ミャンマーに侵攻しているという情報が入ってきました。
政府軍によるものではないとのことですが、かつてのビルマ帝国時代に英国の影響を受けたインドが侵攻して、ビルマ帝国を支配下に置くという図式の再現ではないかと思われる動きと言われています。
現時点では大きな争いには発展していないとのことですが、ミャンマー国軍によるクーデターと民主派グループとの争いの中で、各国のミャンマー離れが加速する中、かつての歴史に倣ったかのように、インドが今、静かに動き出しているようです。
そしてこれは、すでにミャンマーで勢力圏を築いているライバル・中国への挑戦とも受け止められており、表立って発言はしていませんが、中国政府内もざわついていると言われています。秋の5年に一度の中国共産党大会までは一切のいざこざを抱えたくない共産党指導部としては、よほどインドが明確にミャンマーへの侵攻を行わない限りは、状況をつぶさに追いつつも、口出しも手出しもしないでおこうということでしょうか。
とはいえ、北京にはどこか「ミャンマー国軍は中国を裏切らない(裏切れない)」との自信もあるようです。
伝えられている内容では、現時点ではまだ“あくまでも国境地帯のいざこざ”であり、中国政府がここで声を挙げたり、何らかの行動を取ったりするような段階ではないとの分析もあるようです。
いろいろな地政学的な思惑が絡んでいる複雑な情勢ではありますが、いつも被害を受けるのは一般市民であることを私たちは忘れてはいけません。
そしてその“一般市民への悪影響”は、何もウクライナの一般市民やミャンマーの人々だけではありません。
現在進行形のウクライナ戦争に絡む、ロシア艦隊による黒海封鎖は、ウクライナからの小麦をはじめとする穀物の各国への輸出を妨げています。まさしくそこが、トルコも間に入る形で解決を試みようとしている案件の一つなのですが、その最大の影響は、今回の戦争とは全く関係がないはずのアフリカ諸国で深刻化しています。
その最たる例が南スーダンと言われており、安価なウクライナ産穀物(特に小麦)に依存するサプライチェーンが確立していた中、今回の海上封鎖は、穀物が南スーダンの人々に届くことを遮っており、刻一刻と飢餓が深刻化しています。また隣国エチオピア同様、最近の砂漠バッタの大量発生の影響と、気候変動による干ばつの影響も重なり、事態が好転する兆しがありません。
そこに隣国エチオピアのティグレイ紛争の影響も重なり、そして今回の海上封鎖によって先進国側や周辺国にも、南スーダンに振り分けられる余剰分は存在せず、残念ながら最も脆弱だとされる国や地域から次々と危機的な食糧難に陥るという、大変な悪循環が表出してきています。
南スーダンに特使まで派遣するアメリカ政府も手をこまねいていますし、世界銀行や世界食糧計画(WFP)なども、ウクライナ対応に追われ、その他の危機的な状況に気づいても対応が間に合っていない状況が続いています。まさに本末転倒です。
ロシアに侵攻され、一般市民が多く命を落としたり、住む家を追われたりしているウクライナの状況も目を覆いたくなるような惨状ですが、“ロシアに攻められた”という状況が“幸い”しているのか(言い方は悪いですが)、各国からの支援が続々と寄せられています。決して困っていないということはないのですが、ロシア軍が集中攻撃を受けて立てこもっているようなウクライナ東部の都市を除けば、食うに困る状況には陥っていません。多くの支援団体がすでにウクライナ入りして支援を行っていますし、周辺国に逃れた人たちも基本的には食べることはできているという報告を受けています。
しかし、直接的な戦争当事者でない遠く離れた地域の貧しき人たち、そして最も脆弱な境遇に置かれた人たちが、今、次々と世界から見捨てられ、日々飢えて命を失っていく。これもまた国際情勢の裏側の真実です。
ところで、ゼレンスキー大統領とその仲間たちが、支援を行う各国に向かって「もっと強い武器を送ってくれ」と要請し、「ロシアに勝つまでは」と言っているのですが、この“ロシアに勝つ”とはどのような状況を指すのでしょうか?
さすがにモスクワに攻め入ることはないでしょうし、ロシアの領内に一歩でも足を踏み入れ、NATOから供与された武器でも使った日には、プーチン大統領とその仲間たちの思うつぼです。
その時、もうすでに攻め込んでいるじゃないかという現実は記憶のかなたに押しやられ、「ロシアに攻めこんできたウクライナ」という状況が心理的にできれば、プーチン大統領とその仲間たちは、今まで以上のフリーハンドが与えられることに繋がります。それを、欧米諸国はよくわかっているようです。
そしてプーチン大統領も決してボケてはいません。ウクライナの食糧輸出を止めている張本人でありながら、その被害者たちに支援を行い、アフリカの国々をロシアサイドに引き寄せようとする、まさに戦後をにらんだ活動を始めています。
核兵器など使うこともなく、徐々に対ウクライナへの外交的な支援の壁をはがしていく…。何とも恐ろしい戦略に思えます。
国際社会にウクライナ疲れと飽きが目立ってくる中、最近、複数の国々からコンタクトを受けだしました。
「もしあなたが今の状況で調停努力を行うなら、どのような提案をするか」
こう尋ねられるのですが、このメルマガの1つ目のコーナー「無敵の交渉・コミュニケーション術」をお読みの皆さんなら私の答えは分かっていらっしゃるかと思います。
以上、国際情勢の裏側でした。
●ウクライナ戦争と頭をもたげる冷笑主義 6/27
「ウクライナの自由に向けたヨーロッパの兄弟愛を信じてほしい」。最近ウクライナを訪問したフランスのエマニュエル・マクロン大統領の言葉だ。これは先を争ってウクライナに対する全面的な支援を約束する西側諸国の指導者たちの発言と軌を一にする。ロシアの侵攻に対する国際社会の敵対感がどれほど高いのか、ウクライナの悲劇に対する共感がどれほど広がっているのかを明確に示すものでもある。
しかし、西側の積極的支持に対する冷笑主義も同時に広がっている。筆者は6月13日から2日間、チェコのプラハで開かれた欧州連合(EU)・インド太平洋国家ハイレベル対話に出席した。中国の浮上や国際経済体制の不安定などの問題に対応し、EUとインド太平洋諸国間の協力を模索する場だったが、話題の中心はやはりウクライナ戦争だった。特に、40歳のリトアニアの外相、ガブリウス・ランズベルギズ氏の次の質問は意味深長だった。
第一に、西側はウクライナ戦争を終息させ、欧州の平和のためにロシアの完全な孤立を進める意志と手段があるか。第二に、西側はウクライナが望む勝利のために支援を続けられるか。第三に、今の通常戦が核戦争に拡大することを遮断する効果的な方法があるか。第四に、戦争の長期化による西側民主主義社会の戦争疲労症候群を防ぐことができるか。
これらの質問はウクライナ事態の内在的なジレンマを端的に示している。同時に、西側諸国の態度に対する冷笑主義もうかがえる。戦争開始以後、西側の主要国は「民主主義対権威主義」という二分法に基づき、強力な集団制裁を加えるなど、ロシアの完全な孤立を模索してきたが、そこには多くの現実的な制約がある。まず、ドイツやフランスのような欧州の主要諸国がロシアの完全な孤立に懐疑的だ。ロシアと緊密な関係を続けてきたハンガリーやセルビア、トルコ、イスラエルなどもこのようなアプローチに同意しない。インドやメキシコ、ブラジル、南アフリカ共和国など地理的に離れている民主主義国家も中立に近い態度を取っている。包括的な反ロ戦線を張ることが容易ではない背景だ。
「相互依存の武器化」という逆説も障害となっている。制裁はエネルギーと穀物価格の暴騰によるインフレーションの圧迫や、希少非活性ガスの輸出制限措置によるサプライチェーンの支障など、予期せぬ結果も同時に招いている。さらに、戦争初期の予想とは異なり、ロシアの通貨価値や株式指数はむしろ回復傾向を見せている。強力な対ロ制裁によるこのようなブーメラン効果は、ロシアの完全な孤立が容易ではないことを示している。
戦争の最終結果に関する接点を見出すことはさらに難しい。「平和協定ではなく勝利が目標でなければならない」という世論の高まりを受け、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ドンバス地域はもちろん、2014年にロシアが強制併合したクリミア半島まで取り戻すと宣言した。しかし、現実は冷酷だ。米国など西側の主要国は事態の長期化を防ぐため、適当な線で戦争の早期終息を受け入れる意志さえ示している。ウクライナが対ロ平和交渉で有利な立場を占めるようにする線までは支援するが、それ以上の攻勢的行動には否定的なメッセージを送ったジョー・バイデン米大統領の最近の発言が代表的な事例だ。戦争の行方がウクライナの望み通りに進むのは難しいことを示唆している。
特に、核戦争に拡大しかねないという懸念は、米国と欧州諸国の直接的軍事介入を妨げる理由だ。西側の戦略的目標はウクライナの生存と領土を保存し、ロシアの侵略的行為に報復を加えながらも、同時に核戦争への拡大を防ぎ、戦争を早期に終息させることだと言える。ここで最優先の前提は核戦争への拡大防止だ。例えば、キーウのためにニューヨークやパリ、ロンドン、ベルリンを犠牲にするわけにはいかないということだ。これは西側の軍事行動に決定的な足かせとなっている。
だからといって戦争の長期化を甘んじて受け入れることもできない。勃発から約4カ月しか経っていないウクライナ戦争が消耗的な持久戦の様相に変わるにつれ、西側諸国の戦争疲労感も溜まっていく。インフレをはじめとする経済的被害により各国の大衆の関心は急速に下がっており、欧州の世論調査は戦争の平和的終息を支持する意見が、ロシアを懲らしめるために戦争を持続すべきという意見を大きく上回っている。
冷笑と懐疑の拡散は、ウクライナ戦争に対して国際社会が公言した団結の限界を予告する。これはまた、各国が自分の冷静な損益計算に基づいて動く確率が高くなったという意味でもある。結局、すべてのプレーヤーが現実主義に戻り、平和的解決を優先しなければならない。戦争の幕引きは外交的妥協にならざるを得ないというのが歴史の教訓ではないか。
●ウクライナ・キーウでミサイル攻撃 バイデン大統領「野蛮な行為」  6/27
ウクライナの首都・キーウで26日、ロシア軍によるものとみられるミサイル攻撃があり、住宅などが被害を受け、1人が死亡した。
地元の議員などによると、キーウにミサイル攻撃があり、一部は打ち落としたが、残りは住宅や幼稚園などに落ちたという。
住宅は7階から9階が被害を受け、7歳の女の子が救助されたが、がれきの下から父親とみられる遺体が見つかったという。
アメリカ・バイデン大統領「(ロシアによるキーウへのミサイル攻撃について?)ロシアのさらなる野蛮な行為だ」
一方、ロシア側はキーウにミサイル攻撃をしたのか明らかにしていない。
こうした中、ロシア国防省は「ショイグ国防相がウクライナに入り、戦況の報告を受けた」と発表した。
軍事作戦が順調だとアピールする狙いがあるとみられる。
●ロシア、首都キーウなどウクライナ各地をミサイル攻撃 6/27
ロシア軍は26日、ウクライナの首都キーウの集合住宅をはじめ、同国各地で多数の標的を攻撃した。同じ日に主要7カ国(G7)の首脳会議が南ドイツで始まり、各国首脳は口々に、ウクライナ支援のための結束を表明した。
ロシアによるキーウへのミサイル攻撃は、ここ数カ月間で最も激しいものとなった。ウクライナによると、26日にキーウへはミサイル14発が撃ち込まれた。そほのか、中部チェルカシーで、ロシア軍の砲撃により1人が死亡した。北東部ハルキウ州でも攻撃が相次いだ。
ロシア軍が前回、キーウに大規模なミサイル攻撃をしかけたのは、6月5日。その時は鉄道修理工場が破壊された。
保育園の庭に大きな穴
26日の攻撃で、キーウ中心部にある9階建ての集合住宅が破壊され、少なくとも1人が死亡したほか、7歳の女の子を含む6人が負傷した。負傷した女の子は手術を受け、「容体は安定している」とウクライナ当局は話している。女の子の母親もがれきの下から救出され、病院へ搬送された。
破壊された集合住宅の近くにある保育園の園庭には、爆発で大きな穴が開いた。
ウクライナ軍によると、一部のミサイルは、カスピ海を超えて約1450キロ離れた位置からロシア軍のツポレフ爆撃機が発射したという。ウクライナ軍は前日25日には、隣国ベラルーシからツポレフ爆撃機がミサイルを発射したと述べていた。
ロシア国防省は、26日に精密兵器が北部チェルニヒウ州、北西部ジトミル州、西部リヴィウ州にある、ウクライナ軍の訓練施設を攻撃したと発表した。リヴィウ州スタリチ地区の攻撃地点は、ポーランド国境から約30キロしか離れていない。ポーランドは北大西洋条約機構(NATO)加盟国。
キーウのヴィタリ・クリチコ市長は、この日の首都などへのロシアの攻撃は、G7首脳会議を前にウクライナを威圧することを目的にしていると述べた。
G7首脳は対ロ結束を強調
26日にはG7各国の首脳がドイツ南部エルマウ城に集まった。3日間の会議では、ロシアのウクライナ侵攻が主要議題になる。G7はウクライナ支援拡大と対ロ追加制裁を約束する見通し。
議長国ドイツのオラフ・ショルツ首相は、ウクライナについてG7は団結しており、それがロシアのウラジーミル・プーチン大統領への明確なメッセージだと述べた。「私たちは互いの世界観と、民主主義や法治主義を信じるという点で一致している」と、首相は強調した。
首脳会議が始まる直前、ジョー・バイデン米大統領はショルツ独首相に「我々は共同歩調を維持する必要がある」と述べた。
「NATOやG7が何らかの形で分裂することを、プーチンは最初から期待していた(中略)しかし、我々は分裂していないし、今後もしない」とバイデン氏は述べ、「このような形の侵略を行い、そのままおとがめなしになるなど、認めるわけにはいかない」と強調した。
ボリス・ジョンソン英首相はエマニュエル・マクロン仏大統領と会談。ジョンソン首相の報道官は、「紛争の経緯できわめて重要な段階に差しかかっており、潮目を変える機会があると、両首脳は合意した」と話した。両首脳はウクライナへの軍事援助を継続することでも合意したという。
ジョンソン首相はさらに、「現時点で紛争を収束させようとする取り組み」は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の侵略行為に「許可を与える」ことになり、不安定状態の長期化を呼び込むだけだと指摘。積みあがる戦費について各国首脳は正直に認める必要があるものの、ロシアが成功することの代償のほうが「はるかに高くつく」とも述べたという。
ロシア軍が東部要衝を制圧
現地で首脳会議を取材しているBBCのジェイムズ・ランデイル外交担当編集委員は、ウクライナに関する西側の結束はこのところ揺らいでおり、一部の国がウクライナへの強力な支援の継続を呼びかける一方で、ロシアとの長期的関係に言及する首脳も出ていると指摘。ただし、ドイツ南部に集まった首脳たちは、立場の違いをなくす覚悟でいるという。
ロシアの国際的孤立は深まっているものの、ロシア軍はウクライナ東部で戦果を拡大し、25日には主要都市セヴェロドネツクを制圧した。
セヴェロドネツクを含む東部ドンバス地方は、ウクライナの一大工業地帯。ここを支配しようとするロシアと、防戦するウクライナとの戦いは、消耗戦になりつつあると、複数の軍事専門家が指摘する。ウクライナは火力でロシア軍に劣っており、ウクライナ政府は長距離重火器の供与を急ぐよう、西側諸国にあらためて呼びかけている。
●ウクライナ軍、敗北も「目標達成」 ロシア部隊消耗、次はドネツク州 6/27
ロシア軍の激しい攻撃にさらされたウクライナ東部の要衝セベロドネツクが25日、陥落し、ウクライナ軍はルガンスク州の支配権を喪失しつつある。
5月にアゾフスタリ製鉄所から精鋭部隊が投降して幕を閉じた南東部マリウポリ包囲戦に続く敗北。一方で「ロシア部隊を消耗させる主目標を達した」(米シンクタンクの戦争研究所)とも評価されている。
ロシア軍は5月にセベロドネツクへの攻撃を本格化させたものの、一進一退の戦闘は長期間に及んだ。今後、東部ドンバス地方を構成するドネツク州の制圧も目指すとみられるが、泥沼の地上戦で民間人の犠牲者や双方の戦死傷者がさらに増える恐れがある。
プーチン大統領は2月下旬、侵攻に先立ち、ドンバス地方を一部占拠してきた二つの親ロシア派を「独立国家」として承認。その領土は2州全域に及ぶと強弁し、支配の拡大に向けて作戦を命令した。ロシア軍はキーウ(キエフ)州を含む北部から撤退後、東部に戦力を振り向けた。
セベロドネツクはルガンスク州の事実上の州都として、ドネツ川対岸のリシチャンスクと共にウクライナ軍が死守していた。今回の動きは、有利な陣地に移り、新しい重火器を手にするための「戦術的撤退」(米国防総省当局者)とみられている。ロシア軍による制圧は「戦争の転換点にはならない」(戦争研究所)とも言われる。
ロシア側は、欧米の軍事支援が効果を出す前に、ドネツク州の事実上の州都クラマトルスクまで戦線を伸ばしたい考え。頓挫している停戦交渉の再開の可能性をにらみつつ、ドンバス地方をめぐる戦闘は「時間との闘い」にもなっている。プーチン氏は5月9日の戦勝記念日の演説で、ドンバス地方を「歴史的な土地」と表現した。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、2月下旬の侵攻開始前の状態までロシア軍を押し戻すことができれば「勝利と見なす」と強調しているが、支配地域や人命が奪われているのが実情。「重火器の数で10倍」とされたロシア軍との戦力差を埋めるべく、欧米の兵器・弾薬供与のさらなる充実を訴える声が一層強まりそうだ。 
●世界に飛び火 “サイバー市民戦争” パンドラの箱は開かれた  6/27
「間違った戦争だと感じました。許せなかった」ウクライナ政府の呼びかけに応じ、ロシアへのサイバー攻撃を行っている日本人の男性はそう語った。
終わりが見えないロシアとウクライナの戦いは、武力による戦闘だけでなく、サイバー空間での激しい攻撃の応酬へと舞台を広げている。そしていま、その戦いに戦闘員ではない世界の市民が、次々と参加する事態に発展している。
犯罪行為になるリスク、そして報復を招く危険性をもはらみながら拡大している市民が参加した“世界サイバー戦争”。
その危うさから、目を背けてはならない。
ウクライナ「IT軍」
ロシアによる侵攻開始から2日後。ウクライナのフョードロフ副首相が、SNS上で、こんな支援を呼びかけた。
「IT軍を創設します。デジタル分野の人を求めます われわれはサイバー戦線で戦い続けます」
「IT軍」=「IT Army of Ukraine」。ロシアへのサイバー攻撃に協力する人たちを、SNSで集めようというものだ。
6月22日の時点で、このSNSアカウントに登録する人は、25万人を超えている。
どんな人たちが集まっているのか。投稿のコメントを見てみると、多くはウクライナ語だが、中には英語でのやり取りも確認できた。
私たちは、およそ50人に直接メッセージを送って取材を試みた。
記者:「どこの国からの参加者ですか?」
返信:「アメリカから参加しています。職業はセキュリティーの専門家です。理由なく虐殺されそうな国を助けるのは私の責務です」
さらに、ヨーロッパやアジアから登録しているとするコメントも関連するSNSで確認できた。
世界中から参加が行われているとみられる。
「参戦」する日本人
取材を進めていくうちに、「IT軍」に複数の日本人が参加していることがわかった。
そのうちの一人が、直接、面会での取材に応じた。まず、なぜ「IT軍」に参加しようと思ったのかたずねると、男性は次のように話した。
「IT軍」に参加する男性 「ロシアの侵攻が始まって、これはおかしい、間違った戦争だと感じました。人の自由を踏みにじる、やりたいことを邪魔する、それはだめだと思います。僕はそういうのが許せなかった。これを見過ごしたら着々と進んでいた自由な世界がまた前世紀に戻ってしまう。ウクライナの副首相のIT軍の呼びかけは、世界中に発せられた“檄(げき)”だと感じたんです。戦争が早く終わるために、自分たちがやることで、少しでも戦争にストップがかかることに意義があればいいなと思いました」
長年、ITエンジニアをしているという男性は、コンピューターの知識はあったものの、これまでサイバー攻撃の経験はなかったという。
攻撃手法については独自に情報収集を進めた。インターネット上で公開されているツールを組み合わせることで、すぐに攻撃に参加することができるようになったという。
「IT軍」に参加する男性 「最初の頃は、ロシア側もあまりサイバー攻撃への防御をしておらず、外からバンバンたたけました。数で一気に圧倒していった感じです」
IT軍が仕掛ける「DDoS攻撃」とは
「IT軍」の指示に従って、男性が行っているのは「DDoS攻撃」と呼ばれるものだ。ウェブサイトやサーバーに対して大量のデータを送りつけることで大きな負荷をかけ、機能停止に追い込むサイバー攻撃の一つだ。
攻撃先は「IT軍」が毎日のようにSNSでリスト化して指示してくる。参加者はそれに従い、世界中から次々と攻撃を仕掛けていく。
さらに「IT軍」は、スキルのない人向けに、さまざまな攻撃ツールを提供している。
たとえば「千の針による死」と名付けられたソフトウエアは、ダウンロードして、起動するだけで攻撃を行うことができる仕組みになっていた。
現在、「IT軍」が攻撃対象としているのは、ロシアの金融機関や交通機関、メディアなど900余りに上っている。(6月22日時点)
「IT軍」の公式サイトには、攻撃対象としたサイトが、実際に機能停止しているかどうか、リアルタイムで状況を把握するページもあり、攻撃がどれほど効果を上げているのか、わかるようになっている。
市民に及ぶサイバー攻撃
市民に及ぶサイバー攻撃
こうした中、先月(5月)プーチン大統領は、ロシアへのサイバー攻撃で、市民生活への影響が深刻化していると、コメントを発表した。
プーチン大統領 「ロシアに対する明白な侵略行為、情報空間の戦争が起きている。著しい増加だ。重要な情報基盤のインターネット資源を無効にしようとする試みが行われている」
こうした「IT軍」が行うDDoS攻撃。目的は、ウェブサイトやサーバーの機能停止だが、長期間にわたって多くの攻撃を世界中の参加者から断続的に受け続ければ、防御する側の対応は難しい。
しかも、その被害は小さくないと、専門家は、指摘する。
NTTデータの新井悠氏 「たとえばショッピングサイトに攻撃を行えば、販売そのものができなくなり、収益を上げられなくなってしまう。じわじわ効いてくる攻撃のタイプで、経済的なダメージを与えたり、一般の市民に不便を強いたりすることによってロシア政府当局に対して、市民に不満を持たせようとしているという意図もあると見られる」
最初は葛藤も…サイバー攻撃が日常化
私たちは、「IT軍」に参加する日本人の男性に、攻撃の影響は、ロシア政府だけでなく、一般市民にも及ぶ可能性があること。そして、法律に触れる可能性があることを指摘した。
「IT軍」に参加する男性 「犯罪だという自覚はもちろんあります。ですから葛藤がありました。でもこれはもう、やらなければいけないことだと言い聞かせて続けています。攻撃した先のサイトの関係者、利用者がどれだけ困っているかイメージできますから、当初は、相当精神的に不安定になりました。手が冷たくなったり、体に震えが来たり、そんな状態が1週間くらい続きました。やっている行為自体は、キーボードを打っている、普段の仕事と変わりませんが、“戦争に参加している”という精神的なプレッシャーが大きかったです」
男性は、毎日午後、「IT軍」がSNS上に投稿する攻撃先リストを確認し、それに基づき、10ほどのウェブサイトなどに攻撃を行うよう、自身で組んだプログラムを動かすことを繰り返している。
そして、男性は、今、当初抱えていた葛藤は薄れてしまっていると話した。
「IT軍」に参加する男性 「今はIT軍は、組織的に動いていて、命令が来る時間もだいたい決まっているので、それを淡々と毎日繰り返しています。ルーティンワーク化して、ごはんを食べるのと一緒です。戦争がなじんでしまっている、生活の一部になってしまっている。これを麻痺していると言わないで、なんて言うんでしょうか」
「もしかしたら、実際の戦場で戦争に参加している人と一緒なのかもしれません。最初の1人を銃で撃つまでは、すごく怖いけど、10人撃ってからは、すごく機械的にこなせるようになってしまうんじゃないか…。そんな感覚と一緒なんじゃないかなと。そういう人間が、世界中に今25万人以上いるんです」
犯罪行為は推奨できず
世界中の“普通の市民”が参加しているウクライナ「IT軍」。
関連するサイトなどを詳しく調べると、攻撃手法が詳しく解説されたマニュアルが見つかった。そこには、こんなただし書きがあった。
「サイバー攻撃は多くの国で違法性が高く、捕まる可能性があることを認識しておいてください」
サイバー攻撃は、日本を含む多くの国で法的に禁止されている。多くの参加者たちが、サイバー攻撃が犯罪行為になるとリスクを理解したうえで、参加しているのかどうかはわからないが、そのリスクを認識し、さらに何らかの報復にあう危険性もあると、専門家は指摘する。
慶應義塾大学 土屋大洋教授 「ウクライナを助けたいと参加している人も多いかもしれませんが、IPアドレスで身元が特定されれば、不正アクセス禁止法違反などで検挙される可能性もありますし、相手から報復を受ける可能性も懸念されます。サイバー攻撃の影響力が甚大になるにつれて、実際に戦争に参加し、攻撃していると同じ、と判断される可能性も出ています」
ロシア側を支持するグループも
市民が参加する、サイバー攻撃。取材を進めると、ロシアを支持するグループも複数現れていることがわかった。
そのうちの一つ、ハッカー集団「KILLNET」=キルネット。
ロシアに敵対的だとみなせば、ウクライナ以外の国であっても報復すると宣言。アメリカの空港やイタリア政府のウェブサイトなどを攻撃したと、主張している。
アメリカの国土安全保障省は、「世界中の重要なインフラに脅威をもたらす」などとして、名指しで危険性を指摘している。
私たちは「キルネット」に取材を申し込み、回答を得ることができた。
キルネット 「私たちは、ロシアを取り巻く状況を好ましく思っていない普通のロシア人の集まりだ。堪忍袋の緒が切れた。祖国に対し、第三次世界大戦が仕掛けられているのに、ただじっとしているわけにはいかない」
NHK なぜウクライナ以外の国も攻撃するのか?
キルネット 「反ロシア的な政策をとり、ウクライナを支援している国を攻撃している。私たちにどんな力があるか、あなたたちは知るべきだ」
NHK 日本も攻撃対象なのか?
キルネット 「日本も例外ではない。現時点では優先順位は低いが、日本がロシアに敵対的であるという事実を忘れてはいない」
世界のハッカー集団を分析するアメリカのセキュリティー企業「マンディアント」の専門家は、報復が報復をまねき、サイバー戦がエスカレートしていく危険性を指摘した。
Mandiant インテリジェンス分析者 ジョン・ハルトクイスト氏 「ロシアは制裁で著しい圧力を受けており、報復としてサイバー攻撃を仕掛けることは当然の発想です。いまは単純な攻撃にとどまっていますが、いつ高度な攻撃に発展してもおかしくありません」
世界に飛び火するサイバー攻撃
実際に、ウクライナを支援した国などに対するサイバー攻撃は相次いでいる。
侵攻後に起きた世界の主なサイバー攻撃を分析しているスイスのNGO「サイバーピースインスティチュート」に取材したところ、侵攻後、NATO加盟国を中心に、50以上のサイバー攻撃が確認されているという。
たとえば、5月、ヨーロッパの国別対抗の歌謡祭「ユーロビジョン・ソングコンテスト」の開催中にライブ配信サービスなどに対するDDoS攻撃が行われたほか、フランスでは、大統領選を控えた3月にマクロン大統領の所属政党のウェブサイトのダウンを狙ったサイバー攻撃も確認された。
攻撃手法としては各国の政府のウェブサイトなどをダウンさせるものが多いが、中には、機密データの窃取を狙ったと見られるものもあった。
乱立するあらゆるアクター
ウクライナの「IT軍」やロシア側の「キルネット」以外にも、サイバー空間では、侵攻後、あらゆる攻撃グループが登場している。
ウクライナの「IT軍」の中には、日本人だけで集まったグループが確認され、またウクライナの大学生を中心に結成された数万人のグループもあった。
ロシア側では、中国人らが結成したとみられるグループもあった。
さらに「アノニマス」と呼ばれる、政治的な主張を目的としたハッカー集団は、ロシア側につくものやウクライナ側につくものなど、いくつかのグループが入り混じっている。サイバー空間は、これまでになく混とんとした状態になっている。
「サイバーピースインスティチュート」のデュギャン所長は、軍と民間と区分けが今や、つかなくなっていると現状を分析している。
Cyber Peace Institute ステファヌ・デュギャン所長 「誰もが戦闘員となって戦争に参加していますが、いかなる軍隊や軍人と同じように、民間人に影響を与えないように攻撃を行うという責任を負っているのです。侵攻以来、サイバー空間では、何が軍で、民間化を位置づけることができなくなっています」
パンドラの箱は開かれた
私たちは、今回、サイバー攻撃に関わっているとみられる100人以上にコンタクトを試みた。
ロシアによる侵攻に対して抱いた義憤を明かす者がいた一方で、すぐにこちら側に金銭を要求したり、下品なことばでからかったりするなど「お祭り感覚」で参加しているのではないかと疑わざるをえない人も一定数いた。 サイバー空間での「参戦」は、これまでになくハードルが低くなっている。
慶應義塾大学の土屋大洋教授は、その危うさについて、警告する。
慶應義塾大学 土屋大洋教授 「サイバー攻撃に加担することは、日本、そして欧米諸国でも明らかな犯罪行為であり、また報復が報復を呼ぶ、大きなリスクをはらんだ行為です。ウクライナの人たちを助けたいという、気持ちはわかりますが、面白半分でやると非常に危険です。報復が行われれば、家族や同僚まで巻き込んでしまうかもしれません」「これまでサイバー攻撃で人は死なないと言われて来ましたが、病院が攻撃で動かなくなれば、人が死んでしまうかもしれません。政府・軍だけでなく、民間企業、それに一般市民が参加する、新しいハイブリッド戦が展開されていて、何が正しいのか、わかりにくくなっています。今後、さまざまな戦争で、こうした世界の市民を巻き込む形のサイバー戦が展開される可能性があります。このことを日本政府、そして、私たちは考えていく必要があります」
紛争当事国の市民だけではなく、ほかの国の市民も巻き込んで拡大を続けるサイバー戦。
そこには、国境がなく、軍人や市民の区別もない。それが戦闘行為であるのか、その法的な線引きも曖昧だ。いつどこに飛び火するのか、誰も予想できない。
パンドラの箱は開かれた。“市民による世界サイバー戦争”。
私たちは、その危うさから、目を背けてはならない。
●武器の在庫一掃か、ウクライナ援助で見えたNATO各国の算盤勘定 6/27
NATOの旧東欧国は「ところてん式」で兵器の近代化を狙う
ロシア・ウクライナ戦争も4カ月が経過、ウクライナ東部では激しい攻防戦が続き、NATO(北大西洋条約機構)をはじめ西側・民主主義陣営はウクライナ軍への多大な武器供与で前線を支える。
そして、武器を援助する側はもちろん、「隣国を力任せに侵略し現状変更に挑むロシア・プーチン政権の蛮行を阻止する」という崇高な理念に従っているわけだが、「義理・人情」「浪花節」だけでは成り立たないのが国際政治の常。したたかな算盤勘定が働いているのでは?  と斜に構えて物事を捉える“眼力”も必要だ。そもそも古今東西、戦争とビジネスは切っても切れない関係にある。
算盤勘定は主に、「兵器の新陳代謝」「実戦テスト」「PR」の3点だろう。
まず「兵器の新陳代謝」だが、現在使用する旧式の旧ソ連系兵器をウクライナに送り、代わりに西側製兵器で更新、NATOの一員として共通化を加速させるというもの。いわば「ところてん方式」で、特に旧東欧諸国や旧ソ連邦構成国のバルト三国がこれに当たる。
これら国々の大半は冷戦期に旧ソ連圏/ワルシャワ条約機構加盟国だったため、旧ソ連製またはこれに準じた国産兵器で武装、その多くがいまだに自国軍で現役だ。だが西側兵器との互換性がないためNATO内の悩みの種となっている。一斉に西側兵器に交換したくても財政的に余裕がなく、しかも2010年代初め頃まで欧州はポスト冷戦の軍縮ムードたけなわ。「急いで交換しなくても」という雰囲気だった。
だが今回、皮肉にもこれが功を奏する結果になった。同様に旧ソ連邦の一員だったウクライナの軍隊も旧ソ連系兵器で武装するため、旧東欧圏のNATO加盟国から提供の旧ソ連系兵器は、少々旧式でもありがたい。ウクライナの将兵にとっては使い慣れ、すぐに前線で使えるからだ。西側兵器だった場合、小銃や携行型ミサイルなどなら数日〜数週間で習熟も可能だが、戦車や装甲車など大型兵器の場合、最低でも数カ月は訓練が必要である。
実際に具体例を見ると、例えばポーランドは現在戦車を約800台保有しうち約300台が旧ソ連のT-72戦車系(各種改良型を含む)。そこで同国はT-72系戦車230台以上を現地に送っている。
同様にチェコも数は未定だが、T-72系戦車や旧ソ連の規格の各種自走砲、旧ソ連製Mi-24ハインド攻撃ヘリなど重装備の提供を計画。
その他、エストニア、スロバキア、スロベニアも旧ソ連系大型兵器の供与に前向きだ。
一方、気になる“後釜”の兵器だが、基本的にアメリカやドイツなどNATO主要国から、大半は“軍事援助”という形で補填される模様で、NATO全体としては、ウクライナに「使える兵器」を早急に供与でき、しかも旧東欧圏の兵器を西側式にアップデートもでき、さらにNATOの結束力・実力をロシアに示すことができる。まさに“一石三鳥”だ。
具体的には戦車の場合、NATO加盟国の大半が装備し、デファクト・スタンダードとなっているドイツの「レオパルト2」になる見込み。
他にも「新陳代謝」や「在庫一掃」を意識した武器援助はいくつか見受けられる。即座に前線に送らなければならないため、取り急ぎ手元にある兵器で対応せざるを得ない、という事情もあるだろう。
中でも注目は、ドイツが公言した国産の「ゲパルト自走対空砲(対空戦車)」50台の供与(まだ実現せず)だろう。自国陸軍では2010年代に一線を退いた代物で、倉庫で保管していた文字どおりの「蔵出し」だが、ロシアのドローンや低空飛行の戦闘機・攻撃機に対しては効果的で、対空ミサイルよりもコストパフォーマンスに優れている。
カナダの動きも注目で、歩兵携行用の対戦車火器「カールグスタフ無反動砲」100門と「M72携行式対戦車ロケットランチャー」4500基の提供を決意。前者は30カ国以上が採用するスウェーデン製の優秀な兵器で陸上自衛隊も装備するが、1960年代初めに改良されたやや重たい旧バージョン。後者はアメリカ製の軽便・安価な使い捨て兵器で実戦経験も豊富だが、デビューは半世紀以上前のベトナム戦争で本家アメリカでは新型の対戦車兵器(スウェーデン製AT-4)と更新中。カナダは両火器を新型のものと取り替える好機と捉え、“総ざらえ”も兼ねた大量放出を行っているのかもしれない。
「ロシア正規軍の大戦車部隊が侵攻」は絶好のチャンス
次の算盤勘定は「実戦テスト」で、これも戦争にはつきものだ。新型兵器の開発者(軍や兵器メーカー)にとっては極めて重要で、開発した武器が本当に使えるか否かは、実戦で使ってみなければ分からない。
戦場で得たデータはまさに「値千金」で、これを兵器にフィードバックし不具合を修正したり改良型を造ったりして、常に時代にマッチするようにアップデートさせていくわけである。これは自国軍の戦力アップに不可欠なばかりか、海外輸出する際の強力な「売り」になる。
翻って今回のロシア・ウクライナ戦争は西側の軍や兵器メーカーにとって、またとない実戦テストのチャンスと映っているはずだろう。というのも第2次大戦後に発生した多数の紛争の中でも、独立国同士が激突した「国家間戦争」、つまり単なる内戦やゲリラ戦ではない正規軍同士の激突で、大砲や戦車など重装備が多数使われ、しかもNATO/西側の仮想敵・ロシアが直接戦っているからで、兵器テストには最高のお膳立てと言える。
アメリカがウクライナ軍に数千基単位で供与し続ける最新式の対戦車ミサイル「ジャベリン」はその典型だ。1990年代半ばにアメリカ軍で使われ始め、2000年代にはイラク戦争やアフガニスタン戦争にも“参戦”したが、いずれも相手が極端に弱いか、あるいはテロ・ゲリラなど「不正規戦」のレベルに過ぎなかった。
これに対し今回の戦争は西側にとっての宿敵・ロシア正規軍が多数の戦車で侵攻するという、類まれなシチュエーションで、特に対戦車火器の実戦テストには「持って来い」と言ってもいい。
携行式対戦車火器として注目の、イギリスとスウェーデンが共同開発した「NLAW(エヌロウ)」も同様で、さらにアメリカ製の携行式地対空ミサイル(SAM)「スティンガー」(常にバージョンアップしている)や、近くデンマークが供与予定の地上発射型対艦ミサイル「ハープーン」(アメリカ製で通常は艦艇や攻撃機から発射)、同様にノルウェー製の最新の地上発射型対艦ミサイル「NSM」(アメリカ海兵隊が導入中で、すでにウクライナに供与されているとの説も)などは、どちらかといえば実戦テストの意味合いのほうが強い供与と言える。
また、「もっと長距離砲を」と叫ぶゼレンスキー氏の切望に応える形で、欧米各国は多種多様な大砲を用意。アメリカは「M777榴弾砲」、フランスは「カエサル自走砲(装輪式)」、ドイツは「PzH2000自走砲(装軌式)」がその代表格で、大砲の世界では「新世代」と言える。
M777はアメリカが90門(他に豪州も6門、カナダも4門供与)を提供。もともとイギリスが開発し、これをアメリカ陸軍/海兵隊が2005年に採用した。
最大の特長は「軽さ」で、現用の同レベルの牽引式榴弾砲の重量が7〜10tであるのに対し、約半分の4.2tに過ぎない。このためヘリコプターによるスリング(吊下げ)空輸を行う場合、通常ならCH-47大型輸送ヘリコプター・クラスが必要なところ、これはUH-60レベルの中型汎用ヘリコプターでも十分可能。長射程の新型砲弾(射程40kmのM982エクスカリバーGPS誘導弾など)の性能確認はもちろん、前述の中型ヘリコプターを駆使した「急速展開・急速移動」の戦術を試していると見られている。
カエサルやPzH2000も同様で、前者の場合はいわゆる「トラック車載」という、軽快さと価格低下を目指した新コンセプトを、後者は正反対に世界最高峰の自走砲を目指し、重量は戦車に匹敵する重量でしかも驚異的な連続発射速度など重武装ぶりの効果をそれぞれ試す意味が込められているのは確実だ。
これ以外にも、アメリカが投入予定の「HIMARS」高機動ロケット砲システムやアメリカ製の「スイッチ・ブレード」ドローン(UAV)、トルコの「バイラクタルBT-2」UAVなどもこのカテゴリーに入る。
「対ロシア戦で活躍」という“箔つけ”
最後の算盤勘定「PR」は、前述した「実戦テスト」と表裏一体で、実戦に投入し武勲を挙げることを狙ったもの。要するに「ロシア軍との戦いでこれだけの性能を発揮したんだぞ」という“箔”がつけば、今後自国軍での採用数が増えるばかりでなく、海外からの受注も確実に増える。
先の実戦テストで列挙した兵器たちはまさにその代表で、2022年6月から続々と戦場に到着し始めたM777(アメリカ)、カサエル(フランス)、PzH2000(ドイツ)の「NATO長距離砲三羽烏」や、さらにアメリカのHIMARSは、今後外国からの引き合い急増が必至だ。
このようにロシア・ウクライナ戦争では「兵器開発・販売競争」という、もう1つの熾烈な戦いを各国は展開している。
反対に、西側製兵器にとっての“サンドバッグ”状態だったロシア兵器、特にT-72系戦車の評判はガタ落ちだ。ジャベリンなどであっけなく撃破され、その台数は数百台に上る。しかも砲塔自体が吹き飛ぶありさまで、「やられキャラ」「ビックリ箱」と揶揄されるほど。
ロシアにとって兵器は数少ない輸出競争力のある工業製品として極めて重要だが、これほどの「負けっぷり」では、ロシア製兵器の信頼度の根幹を揺るがしかねず、輸出額激減の可能性もある。現にロシアにとって今や最大の武器輸出先であるインドが、今後の対応に苦慮しているとも見られ、これまで旧ソ連/ロシア製兵器を参考にして国産兵器を開発してきた中国も、大幅な方針転換を迫られているとのこと。
なお余談だが、現在進行中のロシア・ウクライナ戦争では特に戦車の消耗が凄まじいが、近い将来停戦となった場合、ウクライナ軍の戦車戦力は現実問題として何でカバーするのだろうか。結論から言うならドイツのレオパルト2以外に選択肢はなさそうだ。
というのも、本来ならウクライナ支援の“立役者”アメリカのM1A2戦車と行きたいところ。実戦経験豊富で申し分ないが、最大のアキレス腱が「燃費の悪さ」だ。通常戦車のエンジンは、何の変哲もない「ディーゼル・エンジン」を採用するが、M1A2は何とガスタービン・エンジン。最大の特徴は瞬発力(加速力)で、敵が対戦車ミサイルで攻撃しても、0.1秒のタイミングで急発進し直撃を免れ即座に反撃に転じることを目的にしている。
だが、ガスタービン・エンジンはアイドリング状態でも走行時の60〜70%の燃料消費率でエンジンを回さなければならないのが玉に瑕。そのため、この戦車を採用する国は豪州や中東産油国 どまりで、自国に有力な油田がない限り燃料調達面で逆に弱点を晒すことになってしまいかねない。
もちろん、停戦後ウクライナがM1A2を保有するかもしれないが、それは少数にとどまり、現実問題としてレオパルト2系に落ち着くのでは、と見られている。
長期戦の雲行きが濃くなってきたロシア・ウクライナ戦争。「旧ソ連/ロシア兵器vs西側兵器」に視線を注ぐことに異論はないが、同時に多くの犠牲者が連日出ているという事実を忘れてはならない。
●ウクライナが韓国のように栄え、ロシアが北朝鮮のように孤立する  6/27
マリウポリ陥落後、欧米のウクライナ報道が変わった
5月17日、ウクライナ南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所に立て籠もっていたウクライナ政府軍とアゾフ連隊の戦闘員がロシア軍に投降し、2439人が捕虜になりました。マリウポリは黒海へ続くアゾフ海に面した要衝であり、このマリウポリの陥落を機に、西側メディアの報道の様相が変わりました。
2日後の19日、「ニューヨーク・タイムズ」に注目すべき社説が載りました。「バイデン大統領はウクライナに対して、ロシアと全面衝突はできないことや、兵器や資金の提供に限界があることを伝えるべきだ」と書いたのです。
民主党寄りでバイデン大統領の政策を後押ししている同紙の、しかも社説です。アメリカ国民にとっては、国内のインフレのほうが深刻な問題で、支援には限りがあるとウクライナに伝える時期に来ている、と与党系の新聞が主張したことは注目すべきことです。
西側メディアは、アメリカとウクライナの齟齬そご、ウクライナの苦戦やアメリカの政策転換を報じるようになったのです。
米紙「ウクライナはアメリカと情報共有したくない」
アメリカとウクライナの齟齬として、ウクライナの作戦や機密事項がアメリカに共有されていないということが報道されるようになりました。アメリカの国家情報長官のアブリル・ヘインズ氏は5月の上院の公聴会で、「われわれはおそらくウクライナよりもロシアに関する知見を多く持っている」と発言しています。
6月8日の「ニューヨーク・タイムズ」に掲載された、著名な軍事評論家であるジュリアン・バーンズ氏の分析記事にも同様の話が載っています。
「アメリカの情報機関はウクライナの作戦について思うほど情報を持っておらず、現役・元職員によれば、ロシアの軍隊、作戦計画、その成功や失敗についてはるかに優れたイメージを持っているとのことである。(中略) 米政府関係者によると、ウクライナ政府は作戦計画について機密事項の説明や詳細をほとんど与えず、ウクライナ政府関係者もアメリカ人にすべてを話したわけではないことを認めている。(中略) 米国はウクライナに対し、ロシア軍の位置情報をほぼリアルタイムで定期的に提供しており、ウクライナ側は作戦や攻撃の計画、防衛の強化にその情報を利用している。しかし、(米軍制服組トップの)マーク・ミリー統合参謀本部議長やロイド・オースティン国防長官とのハイレベルな会話でも、ウクライナ当局は戦略目標だけを話し、詳細な作戦計画を話さない。ウクライナの秘密主義により、米軍や情報当局はウクライナで活動する他の国々、ウクライナ人との訓練セッション、ゼレンスキー氏の公的コメントからできることを学ぼうとせざるを得ないと、米政府関係者は述べている。ウクライナは、国民に対しても、親しいパートナーに対しても、強いというイメージを植え付けたいと考えていると、当局者は述べている。ウクライナ政府は、ウクライナ軍の士気の弱まりを示唆するような、あるいは勝てないかもしれないという印象を与えるような情報を共有したくないのだ。要するに、ウクライナ政府関係者は、米国や他の西側諸国のパートナーに武器の供給を遅らせるような情報を提供したくないのである。」
アメリカは、ロシアのような敵対国に対する情報は詳細に集めています。しかし友好国であるウクライナに対してはそうではないため、政府から情報を直接得られなくても、非合法な手段で情報を集めようとはしません。
イギリス紙「ウクライナの弾薬はロシアの40分の1」
そして、ウクライナの苦戦を伝える報道も目立ってきました。6月9日のイギリス紙「インディペンデント」に載った記事は、〈ウクライナ軍、ロシア軍に最大40対1で劣勢、情報報告書で明らかに〉。
「ウクライナ軍は、ロシア軍に大砲で20対1、弾薬で40対1で圧倒され、大きな損失を被っていると、新しい情報源が語っている。ウクライナと西側の情報当局による報告書では、ウクライナ軍はロシア軍の砲撃に対応するのが非常に困難であることも明らかにされている。ウクライナ軍の砲撃範囲は25キロに制限されており、敵はその12倍の距離から攻撃できるのだ。」
これに対して、ウクライナ国防省の幹部も物量の差を認めていて、報道ほどではありませんが、「ロシアはウクライナの10〜15倍の大砲を保有している」と発言しています。
6月8日、イギリスの雑誌『エコノミスト』に〈ウクライナの紛争は消耗戦になりつつある 誰が一番長く続けられるか?〉と題する記事が載りました。ここでもウクライナの武器不足が指摘されています。ロシア軍の作戦を研究するアメリカの海軍分析センターのマイケル・コフマン氏の話です。
「マイケル・コフマンによれば、ウクライナではソ連標準の弾薬が不足しているか、それに近い状態だという。ポーランドなど旧ワルシャワ条約機構が保有する弾薬の在庫も、いずれ底をつくだろう。もしウクライナ軍が自国規格の武器に切り替えることができれば、西側諸国はより長期間の作戦を引き受けることができるようになる。ドンバス地方の軍事バランスはロシアに有利に見えるが、軍事バランスの全体的な傾向は依然としてウクライナに有利だ」とコフマン氏は主張し、「もし欧米の支援が継続されるなら」と述べた。欧州の多くの国々では、対戦車ミサイルなどウクライナに送られる武器の在庫が不足しており、生産量を増やすには何年もかかる可能性がある。また、ウクライナが新兵器を取り入れるのも簡単ではない。欧米の防衛関係者は、ウクライナ軍が新兵器を使いこなす速さに感心しているが、戦時下で何十もの新しくて不慣れなシステムを維持するのは容易なことではない。エコノミスト誌によれば、すでに多くの大砲が修理のためにポーランドに送り返されたとのことである。ロシアは依然として武器の面で優位に立っている。」
バイデン「ウクライナに非現実的な期待を抱かせることを懸念」
このような報道とともに、バイデン政権は発言内容を変えてきています。5月31日、バイデン大統領自身が「ウクライナでアメリカがすること、しないこと」というタイトルで、ニューヨーク・タイムズに寄稿しました。
「ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が語っているように、最終的にこの戦争は「外交によってのみ決定的に終結する」。すべての交渉は、戦場で起きていることに基づいて行われる。われわれが、ウクライナに大量の武器と弾薬を迅速に送ったのは、ウクライナが戦場で戦い、交渉の席で可能な限り強い立場に立てるようにするためだ。われわれは、NATOとロシアの間で戦争が起きることを望んでいない。私はプーチン氏に賛同しないし、彼の行動は言語道断だと思うが、プーチン氏の失脚を望んではない。」
3月に、「(プーチン大統領は)権力の座に留まるべきではない」と批判していたのに比べると、明らかなトーンダウンです。
6月3日、CNNでもこう報じました。
「4月、米国の目標はロシアが「失敗」することだと国家安全保障会議報道官は当時述べており、ロイド・オースティン国防長官が宣言したように、長期的にロシア軍を大幅に「弱体化」させることだった。これは、キエフ防衛に成功すれば、戦場でロシアを決定的に破ることができるかもしれないという楽観的な見方を反映したコメントだった。しかし、ロシアが東部で少しずつ戦果を上げ、ウクライナはますます武器や兵力で劣勢になっているという事実上の膠着状態が戦場で定着しているため、ジョー・バイデン米大統領を含む西側高官は、西側の最新兵器があっても、ウクライナの平和への見通しは最終的には外交にかかっていることを改めて強調している。」
6月16日には、このオースティン国防長官の「ロシア軍を弱体化させる」という発言に対して、バイデン氏は「やりすぎだと考えていた」「この発言がウクライナに非現実的な期待を抱かせ、アメリカがロシアと直接衝突する危険性が高まることを懸念し、言葉遣いを抑えるようにオースティン氏、ブリンケン氏に伝えていた」とアメリカのNBCテレビのニュースが報じました。
ロシアとの交渉内容は「何でもあり」
これまでバイデン政権が主張してきた「ウクライナの勝利を確信している」という言葉や「ロシアを弱体化させる」という言葉はは鳴りを潜め、その代わりに「外交による紛争の終結」「停戦」という言葉が目立つようになっているのです。
6月3日の「ワシントン・ポスト」でバイデン氏はこう述べています。
「【記者】和平を達成するためにウクライナは領土を諦めなくてはならないか。【バイデン】私は当初から、ウクライナに関しては同国が参加することなくして、何かを決めることはできないと繰り返し述べています。あそこはウクライナの人々の土地です。私は彼らに何かしろとは言えません。ただし、いずれかの時点で紛争は交渉によって解決されなければなりません。そこに何が含まれるかについては、私はわかりません。」
要するに、今後の交渉でどういう内容が入ってくるかについては、何でもありですよということです。随分と軟化しています。
戦争の行方が、ウクライナ抜きで語られ始めた
しかし、同日、CNNは、複数の情報源によるものとして、〈米政府関係者はここ数週間、英国や欧州の関係者と定期的に会合を持ち、停戦や交渉による戦争終結のための潜在的な枠組みを話し合っている〉〈ウクライナは、米国が“ウクライナ抜きでウクライナのことは何もしない”と約束したにもかかわらず、これらの議論に直接関与していない〉と報じています。
アメリカは「ウクライナのことはウクライナが決める」と言いながら、戦争の行方がウクライナ抜きで語られ始めたことがわかります。ではアメリカはどのような未来を思い描いているのでしょうか。
6月2日、「ワシントン・ポスト」のコラムニストであるデイヴィッド・イグナチウス氏は、こう指摘しました。
「バイデン大統領の最も緊急の課題は、紛争が長引くとコストがかかると心配する一部のヨーロッパの同盟国の間で、慌てて平和を求める動きがでることを抑制することである。ヨーロッパの指導者たちは今週、ロシアの海上石油輸送の禁輸を約束し、ドイツはウクライナに強力な対空防御と戦車を提供することに同意して、落ち着いた。ウクライナ戦争は、その勢いが激しく揺れ動き、ウクライナの抵抗に対する楽観的な見方から、朝鮮戦争のような長く疲れる作業に近い段階へと移行しつつあるのかもしれない。」
イグナチウス氏は、かつてレーガン大統領がゴルバチョフ書記長に向けて「ベルリンの壁を壊しなさい」と演説したときのシナリオを作った1人です。今もホワイトハウスに出入りしていて、アメリカ政府の意向を表明するコラムニストとして、非常に有名な人です。
このイグナチウス氏が言っているのが、バイデン大統領はウクライナにおける長期にわたる限定された戦争を準備しているということです。多くのアメリカ人は、1953年7月の韓国停戦は、勇敢な韓国の同盟者が破れたと思った。しかし、平和条約がいまだ存在していないにもかかわらず、今日、韓国は世界の経済的成功例の一つになっている。つまり、ウクライナが韓国のように栄え、ロシアが北朝鮮のように制裁がかけられたまま孤立した状態に置かれる。アメリカにとっては非常に魅力的な状況です。現時点では、これがバイデン政権の頭の中なのでしょう。
●G7、戦争犯罪者に制裁へ ロシア関税でウクライナ支援  6/27
米政府高官は27日、先進7カ国(G7)首脳がウクライナでの戦争犯罪を含む人権侵害や、ロシアによる穀物の盗難に関与した人物に制裁を科すことを決定すると記者団に語った。ロシア産品に対して課す新たな関税の収入をウクライナ支援に利用することも明らかにした。
米欧や日本は既にロシアの貿易上の優遇措置「最恵国待遇」を剥奪し、高関税を課すことを可能にしている。米政府高官は関税収入を利用することで「ロシアに代償を支払わせる」としている。
高官によると米政府は28日、ウクライナで人権を侵害し、国際人道法に違反したロシア軍部隊などに対する制裁を発表する。
●G7サミット開幕 各国首脳、内政問題を抱えながらウクライナ情勢など協議 6/27
主要7カ国首脳会議(G7サミット)が26日、ドイツ南部エルマウで始まった。バイエルンの美しい山野の中、1つの根本的な真実が際立っている。
民主主義国家が集まるこの会議では、各国首脳が自国の政治的、社会的ムードに沿った姿勢をそれとなく見せる。時には国による違いがはっきり表れる。
G7にはロシアという敵がいる。ロシアの指導者は、民主主義の圧力とは無縁だ。そして、西側の政治体制の弱点を鋭く見抜いている。
ここでは今、アルプスの山並みを背景に、厳重警備のもと、事前打ち合わせどおりの振る舞い、握手、笑顔の写真撮影が続いている。そうした中で、G7各国の力点の違いや、G7の存在を広く世界に印象づけたいという各国の願望を、順に検討していくのは意味のあることだ。
まず、内輪での違いだ。
イギリスのボリス・ジョンソン首相は、国内の政治問題に追い立てられながら、英連邦加盟国首脳会議が開かれていたルワンダからこの地に北上して来た。これは、よく知られていることだ。
首相は数日後には、スペインで開催される北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議へ向かうが、その時も内政問題に追い立てられているはずだ。
ジョンソン氏は1週間、イギリスを出ている。同国では保守党の閣僚ら地元に戻り、首相の将来について内々に考えを巡らせるだろう。
ただ、国内政治の圧力に直面している指導者は、ジョンソン氏だけではない。
解決急げば「不安定化招く」
例えば、フランスのエマニュエル・マクロン大統領だ。大統領に再選されてから数カ月の選挙で、フランス国民議会(下院)の主導権を失った。
イギリス政府は、ドイツと、特にフランスが、ウクライナでの戦争から派生する国内の政治圧力を強く感じていると見みている。
英官邸は、ジョンソン首相とマクロン大統領の会談後、「首相は、紛争をいま収束させようとすれば、永続的な不安定状態を招き、プーチン(ロシア大統領)が主権国家と国際市場の両方を永久に操作することを許可してしまうだけだと強調した」と話した。
リズ・トラス英外相もかなり似たようなことを、ウクライナの外相と連名で、英紙サンデー・テレグラフに寄稿している。
英官邸は公式には、マクロン大統領について、ウクライナに「膨大な」支援をしてきたと述べている。だが内々では、長期戦やそれに伴う負担を担う意欲をフランスが失いつつあると、英政府は懸念している。
「ギアチェンジ」と「ゲームチェンジャー」
G7内の外交を超えて、G7以外の国々を安心させようとする努力もみられる。物価上昇について、ロシアによる侵攻と同じくらい西側による制裁を非難している国もある。
アルゼンチン、インド、南アフリカなどは、今回のサミットの議論に加わるよう招待された。
27日には、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスの主要4カ国が会合を開くという。
ジョンソン首相の周辺は、制裁の「ギアチェンジ」が必要だとし、ロシア産金の禁輸は、そうした役割を果たす追加制裁だと考えている。また、軍事支援で形勢逆転につながるいわゆる「ゲームチェンジャー」も必要だとしている。そうした支援については、スペイン・マドリードで開かれるNATO首脳会議で協議される予定だ。
それらの実現には、今週もその先も、説得と忍耐が必要になる。そしてそれは、犠牲を伴う。
●ロシア軍 首都キーウを含むウクライナ各地をミサイル攻撃  6/27
ロシア軍は、首都キーウを含むウクライナ各地をミサイルで攻撃しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ドイツで開かれているG7サミット=主要7か国首脳会議の参加国をけん制するねらいがあると非難しています。
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州のセベロドネツクを完全に掌握したと発表したほか、北部や西部では、ウクライナ軍の訓練センターを巡航ミサイルで攻撃するなど攻勢を強めています。
こうした中、ウクライナの検察当局によりますと、26日朝、首都キーウ中心部もロシア軍のミサイル攻撃を受け、これまでに1人が死亡、女性と子どもを含む4人がけがをしたということです。
これについてウクライナのゼレンスキー大統領は、26日に公開した動画の中で、ロシアのミサイルによって首都キーウの幼稚園や集合住宅が被害を受けたことを明らかにしました。
そのうえで「37歳の男性が亡くなり、けが人の中には7歳の女の子やロシア人の母親が含まれていた」と述べ、ロシア軍の攻撃を激しく非難しました。
ゼレンスキー大統領は、首都キーウをねらったミサイル攻撃について「ロシアは国際的な行事があるたびに攻撃をエスカレートさせている」と述べ、ドイツで開かれているG7サミット=主要7か国首脳会議を念頭に、参加国をけん制するねらいがあると非難しました。
G7サミットに出席するためにドイツを訪れているアメリカのバイデン大統領は、26日、首都への攻撃について「野蛮だ」と非難し、各国首脳とロシアへの圧力強化について議論を深めていく考えを示しました。
一方のロシアのプーチン大統領は今週、旧ソビエトで勢力圏ととらえる中央アジアのタジキスタンとトルクメニスタンを軍事侵攻後初めて訪れる予定で、東側諸国の結束を強めるねらいがあるものとみられます。
●ロシアのキーウなどへの攻撃 G7けん制か ウクライナが批判  6/27
ロシア軍は引き続きウクライナ東部への攻勢を強めるとともに、首都キーウを含むウクライナ各地をミサイルなどで攻撃しました。ウクライナ側は、ロシアへの圧力強化などを巡り首脳会議を開いているG7=主要7か国をけん制するねらいで攻撃したとみて批判しています。
ウクライナ軍が東部ルハンシク州の拠点として激しく抵抗していたセベロドネツクについて、ロシア国防省は25日、完全に掌握したと発表しました。
これを受けてロシア軍は、セベロドネツクと隣接するリシチャンシクへの攻勢をさらに強めるものとみられ、地元のハイダイ知事は26日「リシチャンシクは空爆されている。敵の軍はルハンシク州の最後のとりでであるリシチャンシクを占領するため全力を注いでいる」とSNSに投稿し、危機感をあらわにしました。
さらにロシア国防省は26日、北部チェルニヒウ州、北西部ジトーミル州、それに西部リビウ州にあるウクライナ軍の訓練センターなどを巡航ミサイルで攻撃したと発表しました。
また、ウクライナの検察当局によりますと、26日朝、首都キーウ中心部の9階建ての集合住宅などがロシア軍のミサイル攻撃を受けたということです。
これまでに1人が死亡、女性と子どもを含む4人がけがをしていて、キーウのクリチコ市長は、この攻撃による被害状況を確認しているとしたうえで「いまも、がれきの下に取り残されている人がいる。早く救出できるよう最善を尽くしたい」と述べました。
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は26日「これはプーチン一味によるG7へのメッセージだ。『私は、キーウの中心部、君たちの大使館のすぐ近くにミサイルを撃っている。それで君たちはどうする?』と問うているのだ」とツイッターに投稿し、ロシアへの圧力強化などを巡りドイツで首脳会議を開いているG7=主要7か国をけん制するねらいでロシアが攻撃したとみて批判しています。
●ロシアの外貨建て国債 “デフォルト”が起きた認識広がるか  6/27
5月に利払いの期限を迎えたロシアの外貨建て国債をめぐって、複数の海外メディアは支払いの猶予期間が過ぎても投資家が資金を受け取っていないと伝えました。デフォルト=債務不履行が起きたという認識が市場で広がることが予想されます。
ロシア政府は5月27日、合わせて1億ドル、日本円でおよそ135億円のドル建てやユーロ建ての国債の利払い期限を迎え、期限までに外貨で支払い手続きをとったとしていました。
しかし複数の海外メディアは、30日間の猶予期間が過ぎても投資家が資金を受け取っていないと伝えました。
アメリカ政府が5月、自国の投資家がロシア国債の利払いなどを受け取れる特例を終了させたことが影響したとみられます。
海外メディアは「ロシアの外貨建て国債がデフォルトに陥るのは1918年以来だ」と報じていて、これによってデフォルト=債務不履行が起きたという認識が市場で広がることが予想されます。
ロシア政府は「利払いなどを行う資金も意思もある」としてきましたが、資金があるにもかかわらず経済制裁によってデフォルトに追い込まれる異例の事態となります。
デフォルトはロシアの政府や企業の資金調達の手段を狭めることになりますが、その可能性は広く予想されていたため、世界の金融市場に与える影響は限られるとみられています。
ロシア大統領府報道官 “5月に必要な支払いは行った”
これについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は27日、記者団にコメントを発表しました。
ペスコフ報道官は5月に必要な支払いは行ったとして、デフォルト=債務不履行に陥ったとする報道の内容について「同意できない」と述べ、受け入れない姿勢を示しました。
また支払った資金が投資家に届いていないのは「われわれの問題ではない」と述べ、現状をデフォルトと呼ぶ根拠はないと主張しました。
●G7、穀物盗難で制裁へ=ウクライナ侵攻めぐり 6/27
米政府は27日、軍事侵攻が続くウクライナで、穀物を盗み取るロシアに加担した人物に対し、先進7カ国(G7)首脳が制裁を科す方針だと発表した。また、ロシア製品に新たな制裁関税を発動し、そこから得た収益をウクライナ支援に充てることを検討していると明らかにした。 
このほか、米国務省と財務省がロシアの防衛関連の研究機関や企業、関係者を対象に追加制裁を科す方針も示した。ウクライナで活動する民間軍事会社や人権侵害への関与が明白なロシア軍部隊に対しても、制裁を講じていく構えだ。
米政府高官は27日、記者団に対し、ドイツ・エルマウで開催中のG7首脳会議で議論されている、ロシア産石油の価格に上限を設定する制裁について、「詰めの協議を行っている」と述べた。G7首脳が上限を定めるための枠組み構築に向け、関係閣僚に緊急に指示する方向で調整が進んでいるという。
●見えてきたサイバー戦 ハイブリッド戦 ウクライナで激しい攻防  6/27
終わりが見えないロシアとウクライナの戦い。サイバー空間では、通常の武力攻撃とは異なる、もう一つの激しい戦いが繰り広げられている。サイバー戦。その“見えない戦場”の実態に、独自取材で迫る。
本当に戦争が始まったのは“1月”
6月某日。戦闘が続くウクライナの某所。サイバー攻撃への防衛を担う拠点を、私たちは訪れた。ロシアの攻撃対象となるリスクを避けるため、撮影場所を明かさないことを条件に、情報通信当局の責任者が取材に応じた。
ウクライナ国家特殊通信・情報保護局 ユーリ・シチホリ局長「本当に戦争が始まったのは1月14日でした。その日、政府が最初のサイバー攻撃を受けたのです」
最初に語ったのは意外な認識だった。ロシア軍が侵攻を開始したのは、2月24日。だが、その1か月以上前に「事実上、戦争は始まっていた」というのだ。1月14日、政府機関のおよそ70の公式サイトが一斉に乗っ取られ、突然、脅迫メッセージが表示されるという「事件」が発生していた。
「サイバー爆弾」ワイパー
そして、この時、一部の組織に対して、極めて破壊力の強いコンピューターウイルスが使われていたことがわかった。アメリカのIT企業「マイクロソフト」が分析した。そのウイルスは「ワイパー」と呼ばれるものだった。通常、サイバー犯罪に使われるウイルスは、侵入したシステムからひそかに情報を抜き取るなどの機能を持っていることが多い。しかし、この「ワイパー」は、システムのプログラムを破壊するなど、いわば「爆弾」のようなサイバー兵器だった。
ウイルス解析の当事者は
ワイパーは、2月24日の侵攻直前にも仕掛けられ、大きな影響を与えていたことも、取材からわかってきた。ウクライナ政府の依頼で、ウイルスの解析を行ってきたスロバキアのセキュリティー企業「ESET」を訪ねた。
「ESET」 ロバート・リポヴスキ氏「より攻撃的で破壊性を増した『ワイパー』というウイルスを、数多く見つけました」
担当者は、侵攻の前日2月23日の午後5時ごろに「ワイパー」を発見した経緯を語った。
「ESET」 ロバート・リポヴスキ氏「ワイパーがなにを仕掛けようとしているのか、夜通し分析しました」
解析の結果、すでに、ワイパーは国内の数百台のパソコンに入り込んでデータを消去し、パソコン自体を使用不能にさせようとしていた。彼らを驚かせたのは、翌朝だった。
「ESET」 ロバート・リポヴスキ氏「実際の軍事侵攻が始まったのです。まさか、夜通しでウイルスの分析をしたその朝に実際に戦車が通りを走り回り、ミサイルが飛んでくる事態になるなんて想像もしていませんでした。恐ろしいことでした」
衛星通信にも打撃
さらにワイパーが、ウクライナの防衛体制の根幹を揺るがす場所にも仕掛けられていたことが、情報通信当局などへの取材でわかった。標的となったのはウクライナ軍と政府との連絡に欠かせない衛星通信網。衛星の電波を中継する基地局のシステムがワイパーによって破壊された。24日午前2時。ロシアが軍事侵攻を開始した3時間前のことだった。
ウクライナ国家特殊通信・情報保護局 ユーリ・シチホリ局長「このサイバー攻撃によって、ウクライナに大規模な通信網を持つ衛星が1か月以上使用できなくなり、ほとんど機能しなくなりました。ロシア軍は、インフラに対してサイバー兵器と通常兵器の両方で攻撃してきたのです」
戦局を変えた?サイバー攻撃
こうしたサイバー攻撃は、実際の戦局にも影響を与えうる。今回の取材で、その一端もみえてきた。3月はじめ。ロシア軍は、首都キーウを掌握しようと激しい軍事作戦を展開。しかし、戦いはこう着状態となり、3月末、ロシア軍は、キーウ掌握を事実上断念した。その要因の一つが、部隊の補給面での失敗だとされている。当時ロシアは、隣国ベラルーシの鉄道を使って、ウクライナ国境付近まで兵器や物資を運んでいた。この鉄道の運行システムをサイバー攻撃で停止させたと主張するグループがいる。「サイバーパルチザン」。ベラルーシを拠点に、政府機関へのハッキングを行うなど、高い技術を持つとされるハッカー集団だ。ベラルーシの現政権に対して、サイバー攻撃を仕掛けるなど、反政府組織として活動を展開してきたが、今回、ウクライナ支持を表明した。組織の広報を担当しているメンバーが、取材に応じ、ロシアの輸送路へのサイバー攻撃について明らかにした。
サイバーパルチザン ユリアナ・シェメトヴェッツ氏「われわれは鉄道の最適化システムを狙い、2日間、完全に停止させました。このシステムがないと列車や、信号の動きを制御できなくなり、どう運行させるのかわからなくなります」
さらに、このサイバー攻撃と合わせて、パルチザンの関連組織が、信号や分電盤の破壊工作も展開。鉄道を確実に停止させようとしたという。
サイバーパルチザン ユリアナ・シェメトヴェッツ氏「ロシアがキーウへの侵攻を断念した主な理由は、ウクライナ人が勇敢に、そして賢く戦ったからです。しかし、私たちのサイバー攻撃もベラルーシでのロシア軍の動きを止めるのに役立ったと考えています」
通信網を襲ったロシア側の“ハイブリッド戦”とは?
こうしたサイバー攻撃など、武力以外の攻撃を、実際の攻撃と組み合わせ、最大の軍事効果を与えようとする軍事戦略は『ハイブリッド戦』と呼ばれている。ロシア側のハイブリッド戦の一端も、今回の取材でわかってきた。標的となったのは、ウクライナ全土に通信網を持つ大手の通信事業者「ウクルテレコム」。キーウにある本社で、最高技術責任者が取材に応じた。事業所がある南部ヘルソン州の町がロシア軍によって制圧された3月。ロシア軍は、その過程で、事業所の従業員を数日間拘束し、暴行を繰り返したという。その目的は、サイバー攻撃に使用するための情報を引き出すことだった。
ウクルテレコム 最高技術責任者ドミトロ・ミキチュク氏「ロシア軍は社内ネットワークへの侵入方法、制御方法の情報を入手しようとしたのです。少なくとも4人の従業員がとらえられ、2人が重傷を負いました」
その後、ロシア側は、聞き出した情報をもとに社内のシステムに侵入。そこから、全土に広がる通信網を乗っ取ろうとしてきたという。この動きに気付いたウクルテレコムは、社内のシステムを直ちに遮断。この措置の影響で、国内200万人のユーザーが一時、通信ができなくなったが、ネットワークの管理権限を奪われるという最悪の事態は免れたとしている。
ウクルテレコム 最高技術責任者ドミトロ・ミキチュク氏「もしロシア軍の攻撃が成功していたら、通信ネットワークが崩壊していました。政府、ウクライナ軍、社会全体に通信を提供できなくなるところでした。戦場では敵は殺意を持って攻撃してきますが、サイバー攻撃も同じです。私たちのインフラを殺そうとしてくるのです」
狙われた「避難所」の町
通常の武力攻撃と組み合わせて行われるサイバー攻撃。ウクライナの情報通信当局は、発電所の電力システムの破壊を狙ったサイバー攻撃があったことも、私たちに明かした。ただ、ロシア側のサイバー攻撃の多くを、すんでのところで防いでいるという。
ウクライナ国家特殊通信・情報保護局 ユーリ・シチホリ局長「ハッカーは、200万人が住む地域の電力を供給している1つの電力会社を攻撃しました。このウイルスは、多数の避難民が住む地域で停電を起こすことが目的でした。それによって混乱のレベルを高め、政府への信頼を失墜させる目的があったのです」
ウクライナ政府の依頼で、この攻撃に使用されたウイルスの分析を行ったESETは、6年前にウクライナを襲い、停電を引き起こしたウイルスと酷似していると指摘している。ESETによると、このウイルスは、「サンドワーム」と呼ばれるロシア政府傘下のハッカー集団が作ったものとされている。
ESET ロバート・リポヴスキ氏「ウイルスを分析したら、すぐにこれは大きな問題だとはっきりとわかりました」
ウクライナ政府は、ESETとマイクロソフトの協力を得てウイルスの排除に成功したと発表している。
ESET ロバート・リポヴスキ氏「もしこの攻撃が成功していれば、最大で200万人が電力を失うはめになっていたかもしれない。今のところ戦争中に行われたサイバー攻撃の中で、最も重大な攻撃でした」
「準備はできていた」ウクライナインフラ企業
さらにロシア側のサイバー攻撃を、ほぼ完全に守り切ったというエネルギー企業を取材した。ウクライナ国内で高圧電送を手がける企業「ウクルエネルホ」。
ウクルエネルホ 最高情報責任者 セルヒイ・ハラハン氏「ほとんどの攻撃を阻止する準備ができていました。攻撃は1回も成功しませんでした」
ウクルエネルホには、侵攻開始後、ウェブサイトなどに大量のデータを送りつけて機能を麻痺させる「DDoS攻撃」と呼ばれるサイバー攻撃が相次いでいるという。その数は50件以上。しかし、現在のところ、送電に影響を及ぼす被害は出ていない。その理由について、ハラハン氏は、6年前の停電がきっかけだったと話す。
ウクルエネルホ 最高情報責任者 セルヒイ・ハラハン氏「サイバー攻撃による停電が発生した2016年以降、私たちはサイバーセキュリティーを改善するために真剣に作業を行ってきました。戦争の準備まではしていませんが、ハッカーによる残忍な攻撃の準備はしてきたのです」
ハラハン氏によれば、外部からの攻撃を遮断する「ファイアウォール」と呼ばれる機能を活用することで、今回のDDoS攻撃から組織を守ったとしている。今回、相次いでいるサイバー攻撃に対しては被害を防ぎきったと話すハラハン氏は、「非常に興味深い事実」として、こんなことを明かした。
ウクルエネルホ 最高情報責任者 セルヒイ・ハラハン氏「ロシアは、サイバー部隊に所属している人員ほとんどすべてを使い切ったと思います。なぜそこまでわかるかというと、サイバー攻撃の専門家でもない部門まで、攻撃にかり出されているからです」
ハラハン氏によると、ウクルエネルホのシステムに対して、ぜい弱性などがないか調べるサイバー空間での偵察行為「スキャン」がロシア政府の警護部門から、複数回行われたという。政府要人の警護などを担当する政府機関という、サイバーセキュリティーとは無関係の組織を動員しなければならないほど、ロシア側のサイバー戦略は窮地に追い込まれているのではないか。なりふりかまわないロシア側の行為に対して、ハラハン氏は、そう推察する。
ロシア側のもくろみはほぼ成功せず?
サイバー戦に詳しい慶応義塾大学の土屋大洋教授は、今回のロシア側から行われている激しいサイバー攻撃と、実際の武力攻撃を組み合わせたハイブリッド戦のもくろみは、現時点では「ほとんど成功していない」と分析する。その理由について土屋教授は大きく、2点を挙げる。一つは、エネルギー企業の証言にもあるように、ウクライナのサイバーセキュリティー技術の向上だ。土屋教授によると2014年のロシアによるクリミア併合以降、ウクライナは人員と資金を投入してセキュリティーを向上させるための準備を重ねてきた。NATOをはじめとした欧米各国から、最新の知見を得たり、サイバー攻撃に対応できる人材の育成に力を入れたりしてきた。
慶応義塾大学 土屋大洋教授「ロシアによる『ハイブリッド戦』を想定して、準備を進めてきたウクライナ側の想定内だったと言えるのではないか。NATOでは、何年も前からロシアがどんなハイブリッド戦を仕掛けてくるのか研究されてきた。ウクライナ側もそういった知識を踏まえて、政府と事業者の間で、何十回も重要インフラへの攻撃を想定して研修を行ってきた」
さらに大きいのは欧米企業の支援
さらに大きいのは、アメリカをはじめとする欧米のIT企業による支援だと指摘する。アメリカの「マイクロソフト」やスロバキアの「ESET」などは、ウクライナを襲ったコンピューターウイルスの防御や解析を行っていることを明らかにしている。また、「マイクロソフト」と「アマゾン」は、ウクライナの政府や教育機関などが保有する機密データなどを戦火やサイバー攻撃などから守るため、クラウドを提供して、データを移行させたとしている。また、アメリカの「スペースX」が開発した「スターリンク」と呼ばれる衛星通信網も、ウクライナ政府の求めに応じる形で、提供された。「スターリンク」は、宇宙空間に多数の衛星を配置して、地球の全域を対象にした高速インターネット接続サービスを展開するために開発されたもの。デジタル分野も担当するウクライナのフョードロフ副首相が、ツイッターで、スパースXのイーロン・マスク氏に支援を求めてから、わずか10時間余りでサービスが提供開始された。複数のセキュリティー関係者によれば「数多くの衛星が配置されているため、仮に、衛星の一部が破壊されたとしても、衛星網をダウンさせることは難しい。地上の通信施設が破壊されても、ウクライナがインターネット通信を維持できている大きな要因ではないか」と指摘している。フョードロフ副首相によれば、1日当たり15万人が利用しているという。
慶応義塾大学 土屋大洋教授「IT企業がウクライナの抵抗を支えている。これは新しい現象です。指揮命令に、デジタル技術が使われるようになり、それを支えているのがIT企業です。この協力なくして、いまは(戦争を)遂行できなくなっている現実が出てきている。アメリカからの本格的な軍事支援がない中で、民間企業が持つ役割は大きく、アメリカの民間企業の協力がなければ戦況が変わっていた可能性もある」
サイバー攻撃の被害は市民に
ウクライナ情報通信当局の責任者は、武力であれ、サイバー攻撃であれ、狙われるのは、民間の一般市民だと強調した。
ウクライナ国家特殊通信・情報保護局 ユーリ・シチホリ局長「ロシア側は、ミサイル攻撃の標的は軍事施設だとしていますが、ほとんどの場合は民間インフラです。サイバー攻撃でも同様です。民間の物流やエネルギー施設、それに、一般市民が利用する通信網を攻撃してくるのです。みなさんにわかってほしいのは、サイバー空間での戦いに終わりはないと言うことです。地上戦で勝利したとしても、サイバー攻撃は続くのです」
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から4か月。通常兵器による武力攻撃とサイバー攻撃が表裏一体となって繰り広げられる現代の戦争の実像が、次第に見えてきた。
●露侵攻から「誤った教訓導き出す国が出ないように」…岸田首相 6/27
岸田首相は26日夜(日本時間27日未明)、先進7か国首脳会議(G7サミット)で、台湾への軍事的圧力を強める中国を念頭に、ロシアによるウクライナ侵攻から「誤った教訓を導き出す国が出ないようにしていかないといけない」と訴えた。中国による東シナ海でのガス田開発を「力による一方的な現状変更の試み」とみなし、断固として許容しない姿勢を鮮明にした。
中国の問題を提起したのは、外交・安全保障の議論の場だ。首相は「ウクライナ侵略のような力による一方的な現状変更がまかり通る世界を拒否し、国際秩序を強化していかないといけない」と指摘。「インド太平洋でも一方的な現状変更の試みが継続、強化されている」と警鐘を鳴らした。
首相は、中国が日本との合意なく構造物の建設などを進めるガス田開発や、中国による尖閣諸島(沖縄県)への領海侵入を挙げ、「東・南シナ海の状況は極めて深刻だ」と危機感を示した。
核・ミサイル開発を進める北朝鮮については「深刻に危惧する」と表明。「ウクライナ侵略への対応に国際社会が注力している中で、ミサイル開発を進める窓が開いたと誤信させてはならない」と強調した。
●プーチンの「核のカバン」を運んでいた元側近もヤられた?物騒過ぎるロシア 6/27
このところ、ウラジーミル・プーチン大統領とつながりのある当局者や実業家に関わる謎の事件が次々に起きているが、今度はロシアの元治安機関幹部バディム・ジミン(53)が自宅で撃たれているところを発見された。
ロシアの大衆紙モスコフスキー・コムソモーレツによると、ジミンは20日、モスクワ近郊クラスノゴルスクの自宅で「血の海のなかに」倒れていたという。弟が発見し、ジミンは病院に搬送されたが、昏睡状態に陥っていて、楽観的はできないという。
発見された時点でジミンは頭部に銃弾を受けており、横にはIzh 79-9TMエアピストルが転がっていたと報じられている。
同紙によれば、ジミンは贈収賄疑惑で捜査の対象となっていた。中央関税局の上級職という地位を利用して、政府と締結した契約に関して分け前を要求したという。彼は不正を否定したが、職を解かれ、自宅軟禁となっていた。
同紙によると、銃撃の前日、ジミンの弟は、収賄事件の経過を知るためにダゲスタン共和国からモスクワにやってきたという。
銃撃があった日、弟は、自殺するつもりだと言ったジミンを思いとどまらせた。その後、別の部屋で撃たれているのを発見した。同紙によると、ジミンは仕事と収入を失ったため、落ち込んでいたという。
プーチンの周辺で相次ぐ死
ジミンはロシアの主要な治安機関である連邦保安庁(FSB)で大佐に昇進、プーチン大統領の核ボタンのカバンを運ぶ役目を務めていた。プーチンのそばでカバンを持つジミンの姿が写真に残っている。彼が初めてカバンを運ぶ任務についたのは、エリツィン元大統領の時代だった。
この核のカバンはロシアのコーカサス地方の山にちなんで「チェゲト」名付けられており、実際には核兵器の発射ボタンは入っていないが、発射命令をロシア参謀本部の中央軍司令部に送信することができる。
核のカバンは西側に対する象徴的な脅威だ。今年4月にモスクワの大聖堂で行われた極右政治家ウラジーミル・ジリノフスキーの葬儀にプーチン大統領が出席した際は、軍の警備員が携行していたと伝えられている。
本紙はロシア政府にコンタクトをとったが、同政府はこの事件に関してまだ何もコメントしていない。
プーチンのウクライナ侵攻が始まって以来、ロシアの高官や実業家たちの原因不明の死が相次いで報じられている。
開戦翌日の2月25日には、国営エネルギー大手ガスプロムの幹部アレクサンドル・トゥルヤコフの遺体が発見された。
ロシアのガス大手ノバテックの幹部セルゲイ・プロトセンヤ、元ロシア政府幹部でガスプロムバンク元副社長のウラジスラフ・アバエフも死体で発見された。3月24日には億万長者の実業家バシリー・メルニコフ、5月8日にアレクサンドル・スブボティンの遺体が発見されている。
●プーチン侵攻後初の外遊…旧ソ連2か国訪問、G20議長国インドネシアと会談  6/27
ロシア国営テレビは26日、プーチン大統領が中央アジアの旧ソ連構成国タジキスタンとトルクメニスタンを相次ぎ訪問すると報じた。30日には、G20(主要20か国・地域)の議長国を務めるインドネシアのジョコ・ウィドド大統領と露国内で会談する見通しだ。
プーチン氏の外国訪問は、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻後初めてとなる。プーチン氏の健康不安説が流れる中、健在ぶりをアピールする狙いもある。
プーチン氏はタジキスタンを訪問後、トルクメニスタンで29日に開催されるカスピ海沿岸5か国の首脳会議に出席する。先進7か国(G7)や北大西洋条約機構(NATO)の枠組みで首脳会議を相次いで開く米欧に対抗する意図がある。
プーチン氏は11月に開催予定のG20首脳会議に出席する可能性を示唆しており、ジョコ氏との会談では、ロシアのG20追放を求める米国をけん制する展開になるとみられる。  

 

●G7サミットで食糧危機支援に2億ドル拠出表明…ウクライナ支援にも1億ドル  6/28
岸田首相は27日午前(日本時間27日午後)、先進7か国首脳会議(G7サミット)で、ロシアのウクライナ侵攻の影響で生じている世界的な食料危機への支援のため、2億ドル(約270億円)を拠出すると表明した。ウクライナへの人道復旧支援に新たに1億ドルを拠出する方針も示した。
首相は、ウクライナ情勢を議題とする会合で支援策を明らかにした。食料関連の拠出金は、ロシアが黒海沿岸の港湾を封鎖した影響で食料危機に直面している中東・アフリカ諸国への食料支援と、ウクライナ国内の穀物貯蔵能力の強化に充てる。貯蔵庫の増設費などを想定している。
首相は、追加支援をあわせて、日本のウクライナ関連支援の総額は約11億ドル規模に上ると説明した。オンラインで会合に参加したウクライナのゼレンスキー大統領からは、迅速な支援への謝意が示されたという。
●ショッピングモールに露ミサイル…ゼレンスキー氏「1千人以上いた・・・」 6/28
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は27日、自身のSNSを通じ、中部ポルタワ州の都市クレメンチュクのショッピングモールにロシア軍のミサイルが着弾したと明らかにした。
SNSでゼレンスキー氏は、ショッピングモールには1000人以上がいたと指摘し、「被害者の数を想像することさえできない」との認識を示した。ゼレンスキー氏はショッピングモールには「戦略的な価値は全くない」と強調し、ロシアが住民の無差別殺害を狙ったと非難した。
大統領府副長官によると、2人が死亡、約20人が負傷した。このうち9人が重傷という。建物は激しく炎上しており、死傷者は増える恐れがある。
一方、タス通信は27日、東部ルハンスク州の全域制圧を目指す露軍側が、ウクライナ軍が管理する最後の拠点都市リシチャンスクに5方向から市内に進入していると伝えた。州知事はSNSを通じ、露軍は「教会や住宅など何もかも破壊している」と非難し、市内から直ちに退避するよう住民に呼びかけた。ウクライナ軍側も抗戦しており、激しい攻防が続いているとみられる。
●G7首脳、ウクライナ支援・対露制裁継続を表明… 6/28
ドイツ南部エルマウでの先進7か国首脳会議(G7サミット)は27日午前(日本時間27日午後)、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がオンラインで出席し、ロシアによるウクライナ侵攻への対応を協議した。G7はウクライナ支援と対露制裁を必要な限り続けると明記した首脳声明を発表した。
ゼレンスキー氏は岸田首相やバイデン米大統領らが出席したサミット2日目のウクライナ支援をめぐる議論に参加し、東部戦線でロシアと激しい戦闘が続いている現状を説明した。
欧米メディアが各国政府高官の話として伝えたところによると、ゼレンスキー氏はロシア軍との消耗戦はウクライナ国民の利益にならないとして、「数か月以内」での決着に向けた軍事支援の強化を要請した。ロシアと交渉する可能性についても言及したが、「今はその時ではない」とし、戦況で優位に立つ必要があると訴えた。
ウクライナ大統領府によると、ロシア軍が東部戦線から離れた首都キーウ(キエフ)などの大都市へのミサイル攻撃を強めていることを受け、ゼレンスキー氏は最新の防空ミサイルシステムの供与を求めた。要請を受け、米国は追加軍事支援として供与する方針を伝えた。
ゼレンスキー氏はロシアの将来の侵略を抑止するため、ウクライナの「安全を保証」する国際合意を関係国や機関と結ぶよう求めた。G7は首脳声明で安全の保証について「用意がある」と明記した。
ウクライナ支援に関するG7首脳声明は「財政、人道、軍事、外交的な支援を引き続き提供し、必要な限りウクライナと共にある」と強調した。軍事支援に関しては、「ウクライナの緊急の要求を満たすための取り組みを調整する」と記した。
軍事侵攻を続けるロシアと侵攻を支援しているベラルーシを強く非難し、無条件での即時停戦とウクライナ領内からの軍撤収を要求した。核兵器や生物、化学兵器の使用をちらつかせるロシアに「責任ある行動と自制を求める」とし、ロシアが核兵器搭載可能なミサイルをベラルーシに配備する可能性を示したことへの「深刻な懸念」を表明した。
ロシアによる黒海封鎖が招いた世界的な食料危機の責任はロシアが負うと非難し、封鎖解除を求めた。ウクライナの穀物を略奪して輸出したロシア関係者に制裁を科す方針も表明。ロシアからの輸入品に課した関税措置で得られた収入をウクライナ支援に充てることも掲げた。
対露制裁の継続については、「エネルギー依存を減らす適切な措置をとり、ロシアの輸出収入をさらに減少させる」と強調した。G7各国は、ゼレンスキー氏が会談で求めた追加の対露制裁として、ロシア産石油の取引価格への上限設定導入で最終調整に入った。
●ロシア軍の侵攻総司令官、ジドコ氏に交代か…人望ないドボルニコフ氏は更迭 6/28
米政策研究機関「戦争研究所」は26日、ロシアのウクライナ侵攻作戦を統括する総司令官が、ゲンナジー・ジドコ軍政治総局長に交代したとの分析を明らかにした。英国防省も25日、侵攻作戦全体を指揮していた南部軍管区のアレクサンドル・ドボルニコフ司令官の更迭を確認していた。
露軍がウクライナ東部ルハンスク州で制圧地域を徐々に拡大する中で指揮官が交代したのが事実であれば、プーチン大統領が戦況になお不満を抱いていることを反映したものとみられる。露軍は2月24日の侵攻開始当初から指揮命令系統が機能していないとの問題点を指摘されており、いまだに課題を解消できていないとも言えそうだ。
戦争研究所は、セルゲイ・ショイグ国防相が26日、ウクライナの前線を初めて視察した際、ジドコ氏がショイグ氏の隣席で戦況について説明した点などに注目した。露国防省が発表した写真ではジドコ氏の肩書を確認できないように修正していたという。露国防省は総司令官の人事を発表したことがない。
ジドコ氏は露極東地方を管轄する東部軍管区の司令官を務めた経験があり、ドボルニコフ氏同様、シリアでの軍事作戦を指揮した経験がある。
ドボルニコフ氏は今年4月、プーチン氏からウクライナ侵攻作戦で初の総司令官に任命されたとされる。だが、国際的な民間調査機関「ベリングキャット」の幹部は今月中旬、ドボルニコフ氏が酒浸りで部下の人望もないことを理由に解任されたとの見方を示した。南部軍管区トップも更迭され、航空宇宙軍のセルゲイ・スロビキン司令官が後任として、侵攻作戦の現場指揮を担っているとの情報もある。
東部ルハンスク州リシチャンスクの攻略は、中央軍管区のアレクサンドル・ラピン司令官が担当しているとされる。司令官同士が緊密に連携しているかどうかは不透明な面がある。
●ウクライナ中部の商業施設にミサイル攻撃、ロシアの戦争犯罪だとG7首脳 6/28
ウクライナ中部ポルタワ州クレメンチュクのショッピングセンターに27日、ミサイル攻撃があり、少なくとも18人が死亡、59人が負傷した。ロシア軍による攻撃とみられ、死者数は今後増える可能性がある。ドイツで集まっている主要7カ国(G7)首脳は、戦争犯罪にあたると非難声明を出した。
ミサイル攻撃は27日午後3時50分ごろに起きた。当時ショッピングセンター内は混雑しており、推定約1000人の民間人がいたと、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は説明した。
ゼレンスキー氏は、ショッピングセンターにはロシアにとって戦略的価値はなく、占領軍を脅かすものでもなかったとし、「日常生活を送ろうとする人だけがそこにいた。そのこと自体が、占領者を激怒させる」のだと述べた。
大統領はさらに、「欧州史上最も恥知らずなテロ行為」の1つだとした。
ウクライナ空軍司令部は攻撃について、長距離爆撃機「Tu-22M3」から発射された「Kh-22ミサイル」によるものだと発表した。BBCはこれが事実かどうか検証できていない。
ポルタワ州のドミトロ・ルーニン知事は、「人類に対する犯罪行為で、民間人に対する明らかな冷笑的テロ行為」、「戦争犯罪だ」と、メッセージアプリ「テレグラム」に書いた。
ロシア政府はこの攻撃についてまだコメントしていない。ロシアはこれまでも一貫して、民間人を標的にしたことはないと主張している。
クレメンチュクはウクライナ有数の工業都市のひとつで(2021年の国勢調査では人口約22万人)、ロシアの支配地域から約130キロ離れた場所にある。同市では4月に1回、10日前にも近くの製油所への攻撃が確認されている。
G7首脳会議の最中の攻撃
ドイツ南部エルマウで首脳会議を開いているG7各国首脳は、ショッピングセンター攻撃を「忌まわしい」と非難。共同声明で、「罪のない民間人への無差別攻撃は戦争犯罪にあたる」とした。
そして、「ウクライナへの財政的、人道的、軍事的支援を必要な限り継続する」と表明した。
アントニー・ブリンケン米国務長官は、「残虐行為が相次ぐ中、またしても新たな攻撃が起きた」と述べた。
ボリス・ジョンソン英首相は、「このとんでもない攻撃は、ロシアの指導者がいかに残酷で野蛮かをあらためて示した」と述べた。
「街の中心部」が標的に
インターネット上の複数の画像では、ショッピングセンターの建物が炎に包まれ、真っ黒な煙が立ち上っている様子が確認できる。
ウクライナ国家緊急サービスによると、57の部隊が消火活動にあたった。
通信アプリ「テレグラム」に投稿された画像には、屋根が陥没し、黒く焦げた建物の骨組みが写っている。
攻撃の直後に撮影された動画では、1人の男性が「生きている人はいるか(中略)誰か生存者は?」と呼びかけているのがわかる。その後すぐに救急車が到着し、負傷者は病院へ搬送された。
夜になると、救助隊が拠点を置いている通り沿いのホテルに、行方不明者の家族が集まり知らせを待った。ロイター通信によると、現場には証明や発電機が運び込まれ、捜索を夜通し続けられる状況だという。
目撃者のヴァディム・ユデンコさんは、「以前は街の郊外が攻撃されていました。今回は街の中心部です」とBBCに語った。
「まったく言葉になりません。自分の街にこんなことが起きるなんて予想していませんでした」
東部では給水中の市民が死亡
ショッピングセンターが攻撃の標的となった数時間後、東部ルハンスク州リシチャンスクで給水をしていた市民の間にロケット弾が着弾し、8人が死亡、21人が負傷した。同州のセルヒィ・ハイダイ知事が明らかにした。
知事は声明と健康に対する現実的な脅威」に見舞われているとして、市民に直ちに避難するよう命じた。
リシチャンスクは、近隣の街セヴェロドネツクをロシア軍が掌握した後もウクライナ軍の支配下にある、最後の主要都市となっている。
●ロシア軍攻撃 商業施設で75人死傷 ウクライナは厳しく非難  6/28
ロシア軍は27日、ウクライナ各地に相次いで攻撃を行い、中部のポルタワ州ではショッピングセンターがミサイル攻撃を受け、少なくとも16人が死亡、59人がけがをしました。ウクライナのゼレンスキー大統領は「ヨーロッパの歴史上、最も挑発的なテロ行為のひとつだ」として、ロシア側を厳しく非難しました。
ウクライナの非常事態庁によりますと、27日、中部のポルタワ州のクレメンチュクで、ショッピングセンターがロシアによるミサイル攻撃を受け、これまでに少なくとも16人が死亡、59人がけがをしたということです。
現地からの映像では、建物が激しく燃え、大量の黒煙が立ち上っているほか、消防隊などが消火活動を行うとともに、重機を使ってがれきを取り除きながら捜索する様子が確認できます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、新たな動画を公開し、ショッピングセンターでは、防空警報を受けて中にいたおよそ1000人のうち、多くの人が避難したものの、当時まだ残っていた人たちがいて、犠牲者の数ははっきりしていないと明らかにしました。
そして「ロシアによるショッピングセンターへの攻撃は、ヨーロッパの歴史上、最も挑発的なテロ行為のひとつだ」と述べたうえで「このような対象にミサイル攻撃ができるのは、完全に常軌を逸したテロリストだけだ。これは誤爆ではなく、計算された攻撃だ」として、ロシア側を厳しく非難しました。
一方、G7=主要7か国の首脳は27日、声明を発表し「攻撃は言語道断だ」としたうえで「市民に対する無差別な攻撃は戦争犯罪だ。プーチン大統領は責任を問われることになる」と強調しました。
また、国連の安全保障理事会は、今回の攻撃を受けて対応を協議する緊急会合を、28日午後、日本時間の29日午前に開くことになりました。
ウクライナでは27日、ポルタワ州以外でもロシア軍による攻撃が相次ぎ、ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官によりますと、第2の都市、東部ハルキウの2つの地区が砲撃を受け、5人が死亡、22人がけがをしたということです。
また、東部ルハンシク州のハイダイ知事は、州内でウクライナ側の最後の拠点とされるリシチャンシクで、ロシア軍のロケット砲による攻撃があり、8人が死亡、20人以上がけがをしたとしています。
こうした中、アメリカ国防総省の高官は27日、記者団に対し、ウクライナでここ数日、ロシア軍によるミサイル攻撃が激化しているという認識を示しました。
その理由については、ドイツで開かれているG7サミット=主要7か国首脳会議や、アメリカが供与した高機動ロケット砲システム=ハイマースがウクライナに到着したことに反発した可能性があるとする見方を示しています。
●ロシアがショッピングセンター攻撃 国連安保理 緊急会合開催へ  6/28
ロシア軍から攻撃を受けたウクライナ中部のショッピングセンターでは、これまでに18人の死亡が確認され、59人がけがをしました。事態を重く見た国連の安全保障理事会は日本時間のあす29日午前に緊急会合を開くことを決め、市民に対する攻撃だとして、欧米のメンバー国が改めてロシアを厳しく非難することになりそうです。
ウクライナでは27日、中部ポルタワ州のクレメンチュクにあるショッピングセンターがロシア軍から攻撃を受けました。
現地からの映像では、建物が激しく燃え、大量の黒煙が立ち上っているほか、けがをした人たちが病院で手当てを受けている様子が確認できます。
このうち、頭などにけがをした45歳の男性は「やけどをしたり、血まみれになったりした人を大勢見ました。地獄のようでした」などと話しています。
ウクライナの非常事態庁によりますと、これまでに18人の死亡が確認され、59人がけがをしたということです。
この攻撃について、ウクライナ空軍は27日、ロシアの首都モスクワの南西にあるカルーガ州を飛び立った爆撃機、ツポレフ22M3が、ウクライナと国境を接するロシア西部クルスク州の上空から発射したミサイルによるものだったと発表しました。
一方、ロシア国防省は28日、欧米側からウクライナに送られた武器や弾薬が保管された倉庫を攻撃した結果、弾薬が爆発し、隣接するショッピングセンターで火災が発生したと説明しました。
しかし事態を重く見た国連の安全保障理事会は、28日午後、日本時間の29日午前に緊急会合を開くことを決めました。
6月の議長国、アルバニアのジャチカ外相は27日、自身のツイッターに「ウクライナのショッピングセンターに対するロシアの攻撃は、罪のない市民に対するロシアの戦争犯罪の一つだ。状況の重大さから安保理議長国として緊急会合を開催する」と投稿しました。
緊急会合では、市民に対する攻撃だとして、欧米のメンバー国が改めてロシアを厳しく非難することになりそうです。
アメリカ国防総省の高官は、ウクライナ情勢をめぐってドイツでG7サミット=主要7か国首脳会議が開かれる中、ロシア軍によるミサイル攻撃が激化しているという見方を示しています。
●セヴェロドネツクの陥落、ウクライナ情勢でどんな意味があるのか 6/28
ウクライナ東部の都市セヴェロドネツクの陥落は、必然のように思えたかもしれない。しかし、ウクライナにとって痛手であることに変わりはない。
セヴェロドネツクは何週間か前から、ロシアによる侵攻の主な目標となっていた。巨大な砲撃と空爆で、この古い工業都市の大部分はがれきと化した。
ついにはウクライナ側の指揮官らが、この廃墟を守ろうとすれば、あまりに多くの人命が失われると述べた。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領も、セヴェロドネツクがロシアに完全制圧されたと発表。その後の25日夜のビデオ演説では、ウクライナにとって「道徳的に、そして感情的にも」困難な日だと述べた。
ウクライナがどうにか持ちこたえていたルハンスク州の最大都市を失い、ロシアは重要な戦略目標の1つに1歩近づいたことは、否定しようがない。ウクライナ全土の占領を狙った最初の試みが失敗して以降、ロシアはドンバスと呼ばれる東部の広い地方の掌握に戦力を集中させてきた。
ドンバス地方は、ドネツクとルハンスクの2州で構成されている。どちらか一方を手中に収めれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、国民に真の成果として示せる。それは、侵攻初期に失敗したプーチン氏がまさに必要としていることだ。
だが、ロシアによるルハンスク州全体の掌握は、その可能性が高まっているとはいえ、保証されているわけではいない。ロシアの進路にはリシチャンスクがある。セヴェロドネツクから10キロも離れていないこの都市は、まだウクライナが保持している。
セヴェロドネツクを明け渡したウクライナ軍は、ここに退いたと考えられている。
リシチャンスクがなぜ大事なのかを理解するには、ルハンスク州の地理と、今回の戦争で同州がこれまで果たしてきた役割を理解する必要がある。
リシチャンスクとセヴェロドネツクは、シヴェルスキー・ドネツ川沿いにある。この川はドンバス地方を流れ、ロシアが大きな痛手を被った数々の戦いの舞台となってきた。
1カ月前には、ロシア軍がこの川を渡ろうとし、大隊の戦術グループ全体が犠牲になった。
兵士数百人と装甲車数十台が、対岸に移動しようとしたところでウクライナの砲撃を浴び、全滅した。
セヴェロドネツクとリシチャンスクを結ぶ橋がすべて破壊された現在、カーブを描いている川の流れが、ロシアの前進を妨げる天然の障壁となっている。
さらに、リシチャンスクは丘の上に位置しているため、ルハンスク州最後のウクライナ陣地となったこの都市を奪うのは、かなり苦しい戦いとなる。
米シンクタンク「戦争研究所」のアナリストらは、この紛争に関するブリーフィングを毎日発表している。6月24日には、「ロシア軍がウクライナ軍を包囲または孤立させることができなければ、ウクライナ軍はリシチャンスクの高台を占拠し、しばらくの間、ロシアの攻撃をはね返すことができるだろう」とした。
しかし、ロシアはまさに、ウクライナ軍の包囲と孤立化に集中しているようだ。ロシア部隊は南から押し寄せており、街を目視できる距離まで接近していると主張している。
ロシアが支援する勢力の報道官は、リシチャンスクとセヴェロドネツクを守ろうとするウクライナ軍の試みについて、「無意味で無益」だとした。
ルハンスク州でロシアが支援する部隊の代表者の1人であるアンドレイ・マロチコ氏は、「私たちの兵士の前進速度では、(自称)ルハンスク人民共和国の全土はまもなく解放されるだろう」と述べた。
「私たちの部隊はすでに、リシチャンスクの市街地に入っている。だから、私たちはウクライナ軍のすべての動きを完全にコントロールしていると言える」
最終目標は何なのか
鍵となる問いは、ロシアは最終的に何を目指しているのかだ。
ドンバス地方を占拠し、ウクライナに停戦を受け入れさせ、ルハンスク州とドネツク州を併合し、国境を引き直す――というものだろうか。
多くのアナリストが指摘しているとおりにロシア軍が疲弊しているならば、これは妥当だ。
ロシアではそれらを「成功」だと、国民に示すこともあり得る。「特別軍事作戦」によって、ドンバス地方あるいはそこに残されているものを「解放」したと説明できる。
ロシアとしては、現実政治が重みをもつことを期待するかもしれない。平和と世界の安定のため、領土を失うことを受け入れるよう、ウクライナに圧力がかかることを望む可能性がある。
しかし、ウクライナはまず間違いなくそれを拒否する。そして最終的には、紛争は凍結となるだろう。
あるいは、プーチン氏が自分が始めたことを終わらせようと、南部全域を手に入れるか、あらためてキーウに攻め込むだろうか。
その答えを知っているのはプーチン氏ただ1人であり、自分の計画を誰かと共有しようとはしない。そのため、この「特別軍事作戦」がどのように終わり得るのかのヒントを探るなら、プーチン氏の「言葉」に注目するしかない。
6月初旬の演説で、プーチン氏は公然と自らをピョートル大帝になぞらえた。そして、ロシアのウクライナ侵攻と、3世紀ほど前の同大帝の領土拡大戦争を同一視した。
これは暗に、自らの戦争が土地の収奪だと認めたことになる。
プーチン氏は、「(国土を)取り戻し、強化することを、私たちも求められているようだ」と述べた。若い企業家たちを前に、プーチン氏はほほ笑みを浮かべていた。同氏がウクライナ侵攻について語っていたのは明らかだった。
ロシアは戦争当初、決定的なミスを犯した。ウクライナ国民の抵抗の意思と、ウクライナ軍の能力を見くびったのだ。
ロシアは首都に急いで攻め込み、大敗を喫した。これは痛恨の経験だったが、貴重な教訓でもあった。
ドンバス地方にはゆっくりと、しかし執念深く軍を進めている。これは、ロシアが失敗から学び、同じ過ちは繰り返さないと決意していることを示している。
●ロシア、野党政治家ヤシン氏拘束か ウクライナ戦争を批判 6/28
ロシアの野党政治家イリヤ・ヤシン氏が27日にモスクワで拘束されたと、野党関係者の弁護士とロシアのジャーナリストがソーシャルメディアへの投稿で明らかにした。
閉鎖されたラジオ局「モスクワのこだま」で司会を務めていたイリーナ・バブロヤン氏はメッセージアプリ「テレグラム」で、友人のヤシン氏と公園を散歩中に同氏が警察に連行されたと述べた。
また、多くの野党関係者を弁護してきたバディム・プロホロフ氏はヤシン氏が警察に従わなかった疑いで拘束されているとし、「ヤシン氏との面会が許されていない」とフェイスブックに投稿した。
ロイターはこの情報を確認できていない。ロシア当局から拘束に関する発表もない。
ヤシン氏はロシアによるウクライナでの戦争を率直に批判している。
●ウクライナ情勢 G7、ショッピングモールへの攻撃は「戦争犯罪」と非難 6/28
ウクライナ中部クレメンチュクのショッピングモールへのロシア軍のミサイル攻撃で死者は少なくとも18人に上った。ゼレンスキー大統領は現場には当時1000人余りの民間人がいたと語っていた。主要7カ国(G7)首脳はこの攻撃を「戦争犯罪」と非難した。
ゼレンスキー大統領はG7首脳会議(サミット)にキーウからビデオリンク方式で参加し、今年末までに戦争が終わることを望んでいると語った。発言内容を知る関係者が明らかにした。北大西洋条約機構(NATO)は即応部隊を30万人以上に増強する野心的な計画を発表した。
オーストラリアのアルバニージー首相は中国政府に対し、ロシアのウクライナにおける「戦略的失敗」を教訓にするよう警告した。NATO首脳会議出席のため欧州に向かう機内で豪経済紙オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー(AFR)とのインタビューに応じた。
ウクライナのショッピングモール攻撃での死者18人以上に
ウクライナ中部ポルタワ州クレメンチュクのショッピングモールへのミサイル攻撃による死者は18人、負傷者は59人となった。国家非常事態庁がフェイスブックに投稿した最新データで明らかになった。
豪首相、ロシアの失敗から中国は学ぶべきだ
オーストラリアのアルバニージー首相は豪経済紙オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー(AFR)とのインタビューで、ロシアのウクライナ侵攻から中国が特に台湾との関わりにおいて何を学ぶべきかと問われ、ウクライナの戦争は「主権国に対して力で変化を強制しようとすれば抵抗に遭う」ということだと答えた。
NATO、新戦略概念で中国を「システムへの挑戦」と言及へ−関係者
NATOは新たな政策指針で、中国を「システムへの挑戦」と位置付けるとともに、同国とロシアの関係強化を強調する見通しだ。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。NATOの今後10年間の優先事項を定める「戦略概念」は、今週スペイン・マドリードで開催される首脳会議で採択される予定。2010年公表のこれまでの戦略概念では中国について言及されていない一方で、ロシアをパートナーと位置付けているが、この文言は削除される見込みだ。
ロシア国債の利息不払い「デフォルト」定義に該当−ムーディーズ
格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、ロシアのドル建ておよびユーロ建てソブリン債保有者が30日の利払い猶予期間中に利息を受け取れなかった事実は、同社の定義では、ロシア政府側のデフォルト(債務不履行)に該当するとの認識を示した。ムーディーズは「将来の利払いをさらに履行できない可能性が高い」と指摘した。そのような通貨の変更を契約条項が認めていない外貨建てソブリン債の元利返済をルーブルで行うことについても、デフォルト扱いとなる公算が大きいと同社は先に説明していた。
米大統領、バルト諸国の一部での軍配置変更を発表へ−報道
バイデン米大統領は、ロシアによるウクライナ侵攻前に承認していたバルト諸国での米軍の配置の変更を発表する。NBCが国防当局者2人と元政権当局者2人、欧州の当局者1人の話を引用して伝えた。同大統領はまた、ポーランド駐留米軍増強を延長することも公表する。
G7首脳、ショッピングモールへの攻撃は戦争犯罪と非難
G7首脳は声明で、ウクライナ中部クレメンチュクのショッピングモールへのロシア軍のミサイル攻撃について、戦争犯罪に該当する「言語道断」な攻撃だとロシアを非難した。首脳らはウクライナが必要とする限り、金融・軍事支援を続けるとも表明した。
ウクライナ中部のショッピングモール炎上、ロシア軍のミサイル命中
ウクライナ中部クレメンチュクのショッピングモールにロシア軍のミサイルが命中し、炎上したと、ゼレンスキー大統領が明らかにした。大統領はテレグラムで、「ショッピングモールが炎上している。救急隊員が消火作業に当たっているが、死傷者の規模はわからない」と伝え、モール内には当時1000人以上の民間人がいたと付け加えた。
●露軍がウクライナの穀物略奪、「ロシア産」と偽り輸出か…英BBC  6/28
英BBCは27日、ウクライナの占領地に駐留するロシア軍が、ウクライナ産の穀物を組織的に略奪し、ロシア産と偽ってシリアやトルコに輸出している疑いがあると報じた。
[深層NEWS]ロシア、飛び地に核搭載可能なミサイル配備「周辺に恐怖心植え付けている」
ウクライナ南部ザポリージャ州の露軍占領地域で、小麦畑を見張る露軍兵士(14日、AP)ウクライナ南部ザポリージャ州の露軍占領地域で、小麦畑を見張る露軍兵士(14日、AP)
BBCは、露軍が占領するウクライナ南東部の農家から奪った穀物輸送トラックの全地球測位システム(GPS)データを追跡した。トラックは今年3〜6月、ザポリージャ州を南下してクリミア半島の貨物駅に向かっていたという。クリミア北部ジャンコイ駅では6月、隣接する穀物貯蔵庫前に並ぶトラックが衛星画像で確認された。
クリミア周辺の船の動きを監視する専門家によると、クリミアに陸送された穀物はセバストポリなど主要な港で船積みされた後、対ロシア国境のケルチ海峡などでロシアの穀物と混ぜられロシア産の穀物と偽って輸出されるという。船はシリアやトルコに向かったという。
米宇宙企業マクサー・テクノロジーズは今月、セバストポリの港で5月中旬、ロシア国旗の船が穀物をシリアの港に輸送する衛星画像を公開している。
ウクライナは、ロシアがクリミアから海上輸送する穀物は略奪されたものだと主張しているが、その疑いが強まった。
●待望の重火器配備 対ロシア掃討体制整う 6/28
ウクライナ情勢をめぐって、現地で情報収集などにあたっている松田邦紀大使は、ゼレンスキー大統領らが各国に強く供与を要請していた重火器の前線配備が、先週末までに完了したことを明らかにした。戦局挽回に不可欠ともいうべき強力な援軍≠ナあり、これらの投入によって攻勢にさらされている東部での反撃態勢が整ってきた。
供与されたのは、米国から高機動ロケット砲システム(HIMARS)、ドイツ提供の155ミリ自走榴弾(りゅうだん)砲など。より長距離の攻撃が可能となるが、松田大使によると、ウクライナ軍高官は、これら火砲が力を発揮、すでに効果をあげ始めたと説明している。
ゼレンスキー大統領らウクライナ側は、重火器の数、規模においてロシアより著しく劣勢を強いられているとして、米国はじめ西側に矢の催促、供与の遅れに焦りと不満を隠していなかった。重火器配備と時期を同じくして、東部ルハンスク州の要衝、セベロドネツクをロシア側が制圧したと伝えられたが、大使は、次の作戦を行うためにウクライナ軍が「組織的、戦術的」退却した可能性があるとの米国側の見方を紹介した。
経済制裁は精密兵器製造に打撃か
ウクライナが、今後、徹底抗戦を貫き、持ちこたえられるかどうかについて松田大使は、「各国による強力な対露制裁の維持・強化、ウクライナへの軍事、財政支援の継続がカギになる」と指摘。欧州連合(EU)が「加盟候補国」の地位を与えたことの意義、重要性に言及した。
一方、西側による対露制裁は確実に効果をあげ、その結果、ロシアにおけるミサイルなど精密兵器に加え、半導体、先端技術製品、部品などの生産に打撃が出ているという。ロシアの経済専門家も悲観的な見通しを隠さず、最大手銀行ズベルバンクの総裁はロシア経済が2021年レベルに回復するまで10年以上がかかると予測している。
和平交渉「ウクライナの意志を無視するな」
中断している和平交渉再開の見通しは立っていないが、今後の戦局次第では夏の終わりごろまでには、ウクライナに有利な立場で再開にこぎつける可能性もあるという。ロシアに強硬姿勢をやわらげる姿勢がみられないと前置きしながら、大使は「国際社会がウクライナの意志を無視して、その将来を決めるようなことをすべきではない」と強調した。
この発言は、欧州の一部がウクライナに不利な和平構想で停戦を急ごうとしていることを念頭に、大国の論理≠ノよってウクライナを見殺しにすることがあってはならないとの警告とみられる。和平実現を待たずにウクライナ復興に向けた動きも始まっているが、第2次大戦後の自らの再建、イラクなど各国紛争後の支援などで日本がもつノウハウへの期待が高く、ウクライナ政府が発足させた「復興評議会」には、すでに日本人専門家も参加しているという。
岸田首相らにキーウ訪問の計画なし
戦闘の最中にも各国首脳が相次いでキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領らとの会談で全面支援を表明しているが、岸田文雄首相ら日本政府首脳らの訪問計画はないという。
各国が、閉鎖していたキーウの大使館を相次いで再開しているなか、日本大使館も条件が整い次第、再開する方針であることを明らかにした。キーウの日本大使館は3月初めに一時閉鎖、現在は隣国ポーランドのジェシュフに開設した臨時事務所で業務に当たっている。
松田大使インタビューの主な内容(後半)は次の通り。
――ウクライナが持ちこたえられるかどうかのカギは何か。 
大使 「国際社会の結束強化、強力なロシア制裁の実施、そして、人道・財政・軍事協力など、物心両面でのさまざまな支援につきる」「各国による武器供給や軍事訓練は確実に継続されている。6月中旬の北大西洋条約機構(NATO)国防相会合では、重火器や長距離システムの追加供与を改めて発表した」  
――それら重火器はすでに搬入されているのか。
大使 「6月21日、ウクライナのレズニコフ国防相は、ドイツ供与の155ミリ自走榴弾砲がすでに前線に配備されていると明らかにした。25日にはザルジニー軍総司令官も米国から提供された高機動ロケット砲システム(HIMARS)がやはり前線に投入され、ロシアに対する攻撃で成果をあげていると説明している」
――激戦が続いていたドンバス地方のルハンスク州セベロドネツクが陥落したと報じられたが。
大使 「米国防総省スポークスマンは、組織的、戦術的退却であり、次の作戦を効率的に遂行するための体勢強化だと、むしろ評価した。重火器の戦線投入で戦局がどう展開するのか、注目される」
――軍事以外での支援はどうか。
大使 「6月23日、ブリュッセルで開かれたEU首脳会議で、ウクライナに『加盟候補国』のステータスが正式付与されたのは重要な外交上の動きだ。ウクライナ政府は、高く評価、歓迎しており、国民も大きく勇気づけられている」
――事態収拾をめぐって西側に考え方の違いがあるようだ。独仏などは停戦を急ぐべきと主張、英、ポーランドのようにロシアの脅威を徹底的に除去すべきだと訴える国もある。
大使 「5月にイタリアが4段階の和平プランを国連に提出、国連事務総長に加えいくつかの国も仲介努力を行っているが、ロシア側は自らの強硬な立場を和らげて歩み寄ろうとする姿勢をまったく見せていない」
――各国の和平案に対するウクライナ側の姿勢は。
大使「6月6日にゼレンスキー大統領がいかなる和平案での交渉も行われていないと公に言明した。このような不協和音が伝えられる中で、6月16日、独仏伊3カ国首脳がそろってキーウでゼレンスキー大統領と会談した」
――3カ国首脳が、ウクライナに譲歩を迫ったりしたことはなかったのか。
大使 「ウクライナのクレバ外相によると、3カ国首脳は、『無理強いや説得、または圧力をかけることはなかった』と説明している。とりあえず団結と連帯は維持されたとみていい」
――「大国の論理」による解決を押し付けることは許されないと思うが。
大使 「ウクライナが懸命に祖国を守る努力を続けている時に、国際社会がウクライナの意思を無視して、その将来を決めるようなことはすべきではない」
――双方による直接の和平交渉が再開される見通しは。
大使 「和平交渉は侵略直後の2月下旬から始まり、オンライン形式も含めて継続されたが、5月中旬から中断している。交渉再開を予測するのは難しい」「6月18日、ウクライナの交渉団長で、与党『国民の奉仕者党』のトップも勤めるアラハミア氏が、いくつかの戦線でウクライナ軍が反転攻勢に出て、8月末には優位な立場で再開できると示唆したことは注目すべきだ」
各国大使館の再開状況は?
――ロシアに対する経済制裁は効果をあげているのか。
大使 「明らかだ。6月16日にサンクトペテルブルで開催された国際経済フォーラムで、ロシア中央銀行の総裁は、国内生産の15%が影響を受けて対外経済の条件が変化、経済の迅速な回復の可能性について悲観的な見通しを述べた。翌日、ロシア最大の銀行、ズベルバンクの総裁も経済が21年レベルにまで回復するには10年以上かかると悲観論を示した」
――軍事部門での影響は。 
大使 「欧米の軍事専門家の間では、半導体、先端技術、部品等の調達が困難になって軍需産業、とくにミサイルなど精密兵器の生産に大きな支障が出ているという分析もなされている」
――プーチン大統領の重病説がある。クーデターの可能性とあわせて何らかの情報をもっているか。
大使 「いろいろと報道されているが、それ以上の情報は持ち合わせていない」 
――日本はこれまで、対露制裁でG7と足並みをそろえて外交官追放など健闘してきた。各国首脳らのキーウ訪問が相次いでいるが、日本の首相らの訪問の可能性は。
大使 「現時点では計画はない」
――キーウの大使館を再開する国が増えているが、日本は。
大使 「開戦前、キーウには78の大使館及び国際機関代表部が置かれていた。(一時隣国などに移動した後)6月中旬になって、51がキーウに戻り、業務を再開している。わが国としても、現地の情勢などを注視しながら、総合的に検討している」
ウクライナ政府はすでに復興計画を検討
――戦後のウクライナ復興で日本が果たすことのできる役割は。
大使 「復興には長い期間と膨大な資金が必要。ウクライナは、第2次世界大戦後の再建、カンボジア、イラク、アフガニスタンの紛争後の支援、相次ぐ国内の自然災害からの復興を通じて、多くの経験とノウハウ、人材を持つ日本の役割に強く期待している」「政府・自治体・民間のオールジャパンで協力すれば、道路、鉄道、空港、橋、学校等の公共インフラ、製鉄所や化学工場等の産業施設の復旧・復興において大きな役割が果たすことができるだろう」
――ウクライナ政府はすでに復興計画を持っているのか
大使 「大統領のもとに設置された『国家復興評議会』の作業部会(WG)にはウクライナのほか日本人を含む外国人専門家が多数参加している。欧州統合、金融システム改革、戦争被害の評価、復員軍人補償、スポーツ、文化再建など、幅広い分野を網羅、検討している」「単なる戦後復興ではなくて、『Build Back Better』(よりよく作り直す)を標榜して再建を目指しているようだ」
――計画の具体的な進め方は
大使 「『後見制度』というアイディアを打ち出している。姉妹都市や経済関係を土台に、各国がウクライナの特定の州や産業セクターの復興を『後見する』という構想。英国がキーウ州及びキーウ市、デンマークがミコライフ州を後押ししたいと表明している」「日本からは、京都市とキーウ市、横浜市とオデーサ市が姉妹都市関係にある。横浜からはオデーサに、緊急時に10万人分の飲料水を供給できる移動式浄水器33台が寄贈された」
●G7首脳会議最終日 岸田総理“ウクライナ支援とロシア制裁”訴え 6/28
G7=主要7か国首脳会議は、きょうが最終日です。岸田総理はこれまで何を訴えてきたのでしょうか?同行している政治部官邸キャップ室井記者の報告です。
戦争が長期化し「ウクライナ疲れ」が一部で指摘される中、岸田総理は一貫してウクライナ支援とロシア制裁を緩めるべきではないとG7首脳らに訴えました。
背景にあるのは東シナ海などへの進出の動きを強める中国の存在です。
今回、岸田総理は中国を名指しし、▽尖閣諸島周辺の領海侵入が継続していることや、▽東シナ海において一方的なガス田の開発が行われている現状を説明し、「ウクライナ情勢から誤った教訓を導き出す国が出ないようにしていかなければならない」とG7首脳らに理解を求めました。
こうした中、27日にはウクライナ中部のショッピングセンターがミサイル攻撃を受け、15人が死亡、およそ150人がけがをしたということです。G7首脳は攻撃を非難する声明を発表し、プーチン大統領の責任を追及する方針です。
岸田総理は現在行われている最後のセッションで、来年の広島サミットへの抱負と開催時期について表明する見通しです。政権幹部によると「日本の梅雨の時期をさけた5月下旬になる」ということです。
この場でライフワークである「核なき社会の実現」についても触れる見通しです。
●G7サミット 成果文書にロシア産石油価格に上限や「中国への重大な懸念」 6/28
ドイツで行われているG7サミット=主要7か国首脳会議は、まもなく一連の日程を終え閉幕します。現地から中継です。
サミットでとりまとめる成果文書には、物価高対策や「中国への重大な懸念」など、日本の主張が盛りこまれる見通しです。岸田首相周辺は「G7の結束を訴えた結果だ」「点数をつけるなら90点だ」と評価しています。
複数の日本政府関係者によりますと、成果文書には、ロシア産石油の価格に上限を設けることや、ウクライナの穀物輸出に関する支援策などが盛りこまれるということです。
ある同行筋は、「日本がウクライナ支援やロシアへの制裁をいち早く実行したことが各国に評価されている」と話しています。
さらに、成果文書では中国を名指しした形で、南シナ海や東シナ海での現状変更の試みに重大な懸念を示すほか、新疆ウイグル自治区などでの人権問題についても触れるということです。
岸田首相が「ウクライナはあすの東アジアかもしれない」などと訴えたことで、G7各国が、中国の脅威を「じぶんごと」としてとらえた形です。
選挙期間中の異例の外国訪問で岸田首相は一定の成果を挙げたともいえますが、これがただちにウクライナ情勢の好転につながる訳ではありません。
岸田首相は29日、日本の首相として初めて、NATO=北大西洋条約機構の首脳会議に出席し、ウクライナ問題などでNATOとの連携強化を図る考えです。
●正規軍不在の中、クリヴィー・リフの「将軍」はロシア軍をこうやって撃退した 6/28
ロシア軍の占領地域からわずか50キロメートルのドニプロペトロウシク州クリヴィー・リフ市は現在、軍政下にある。ロシア軍がウクライナに侵攻した3日後の2月27日、副首相やドニプロペトロウシク州知事を歴任した地元の実力政治家オレクサンドル・ビルクル氏が中央政府によって軍政トップに任命された。
ビルクル氏の決断と迅速な対策がなかったら、世界最大級の鉄鉱石埋蔵量を誇るクリヴィー・リフは間違いなくロシアのウラジーミル・プーチン大統領の手に落ちていただろう。そしてロシア軍はクリヴィー・リフを足場にドニプロまで攻め入っていたかもしれない。
6月22日、筆者の単独インタビューに応じたビルクル氏はこう話しだした。
「ロシアは洗脳された全体主義国家」
「ウクライナの歴史には喪に服する日が2つある。1つはナチスドイツがウクライナに侵攻した1941年6月22日。今日がまさにその日だ。2つ目が“ナチスロシア”がウクライナに侵攻した2022年2月24日だ。プーチンに率いられたロシアは第二次大戦のナチスドイツよりひどい、と自信を持って断言できる」
「ロシア軍は平和に暮らしている人々を撃ち殺し、暴力を振るっている。彼らは人々を拷問し、平和な都市を攻撃している。ロシアは完全に洗脳された国だ。洗脳された全体主義国家だ」
親露派ビクトル・ヤヌコビッチ氏が大統領時代に副首相を務めたビルクル氏のことを、ロシア軍が侵攻してくる前までは「親露派」とみる向きもあった。
滑走路に建機やトラックを並べ、ロシア軍機の着陸を阻止
ビルクル氏は侵攻初日の2月24日を振り返った。
「クリヴィー・リフの軍事施設2カ所が4発のミサイルで攻撃され、完全に破壊された。翌25日、ロシア軍は輸送機IL76と戦闘機3機を空港に着陸させようとした。200メートルまで高度を下げたが、着陸できなかった。ロシア軍の侵攻で1968年にチェコスロバキア(当時)で起きたことが私の頭に浮かんだ」
「プラハの春でロシア軍は主要空港に夜間に着陸し占領した。この方法でチェコスロバキアを支配した。これを防ぐため24日、私はアスファルト舗装用の建設機械、掘削機、トラックなど大型車両30台をかき集めて滑走路に起き、空港の無線通信を遮断するようみんなに声をかけた。実はロシア軍の侵攻が始まった時、私たちはこの街に軍隊を持っていなかった」
結成されたばかりの領土防衛隊1個大隊と、2つの迫撃砲を持った600人の国家親衛隊があるだけだった。最初の2週間、ビルクル氏は民間人の力を結集し、ロシア軍の侵攻を止めるためあらゆる手段を使った。鉄鉱石の採掘場で使われる大型トラックや重機で街に入る道路を封鎖し、産業用爆薬で橋を爆破した。ビルクル氏は産業用爆発物の専門家だった。
侵攻2日目、2014年のマイダン革命でヤヌコビッチ大統領が失脚した際、ロシアに逃亡したウクライナ元内相からビルクル氏に電話がかかってきた。
ロシア軍はものすごいスピードでクリヴィー・リフに迫っていた。状況は時々刻々と変化している。元内相はこう言って脅してきた。
「これから何が起きるかは明白だ。ロシアとの友好協力・安全保障に関する条約にサインしろ」
ボディアーマー用ベストをフル生産する民間の縫製工場
元内相は「新しいウクライナで大きなポストをあなたのために用意している」と取引を持ちかけてきた。ビルクル氏は即座に拒絶した。
「14年にロシアに逃亡し、プーチンに協力する人もいるが、全体としてみれば大きな規模ではない」。ロシア軍は一時、数百メートルまで迫ったが、現在は50キロメートルまで押し返し、隣接のヘルソン州の25の村を奪還した。
ビルクル氏の右腕で親日家セルギー・ミリィウチン副市長は彼のことを「将軍」と表現する。その「将軍」の下、ロシア軍の北進を食い止める“対ロシア要塞線”と化したクリヴィー・リフの産業は事実上の総動員体制下にある。しかし法的な強制ではない。自由と民主主義を守ろうとビルクル氏を中心に地域が一つに団結したのだ。
ロシア軍が長距離ミサイルで攻撃してくる恐れがあるため場所は明らかにできないが、通訳のアントン氏の案内で民間のアパレル縫製工場を訪れた。2月24日まではTシャツやジーンズ、婦人服を作っていた。ビクトリアさんは5分遅れて生まれた3Dデザイナーの妹とともにこの工場で働いている。勤務歴20年。夫は地元の領土防衛隊に参加している。
「翌25日から前と後にそれぞれ4キログラムの鋼鉄板を入れる北大西洋条約機構(NATO)仕様のボディアーマー用ベスト(防弾ベスト)の生産に切り替えました。薄くて軽い婦人服の素材と、分厚くて丈夫なボディアーマー用ベストの素材は全然違うので戸惑いました。婦人服は6つのパーツでできますが、軍服には92ものパーツがあるんです」とビクトリアさんは説明した。
ハードワークを苦にしない労働者の魂と郷土愛が恐怖を上回る
ボディアーマーに入れる鋼鉄板は口径7.62ミリメートルの自動小銃AK-47を20メートル離れた距離から発射してもかすり傷がつく程度だ。前後で計8キログラムのボディアーマーを試着するとずっしりと重く、息苦しかった。責任者のコンスタンティン氏は「ウクライナの兵士は屈強だから、これぐらいの重さは何でもないよ」と胸を張った。
これまでに1万着以上のボディアーマー用ベストと1000着の軍服を生産した。ロシア軍が数百メートルの距離に迫っても、約50人の女性従業員は24時間態勢でベストを作り続けた。ロシア軍が迫ってくればくるほど忙しくなった。
10%の従業員が避難して工場からいなくなった。しかしハードワークを苦にしない労働者魂と郷土愛が恐怖心を打ち消した。
ロシア軍の占領地域が近いクリヴィー・リフでは今でも頻繁に空襲警報が鳴り響く。地元の従業員は気にしなくなったが、ロシア軍に包囲され、激しい砲撃を受けた南東部の港湾都市マリウポリから逃れてきた従業員は空襲警報が鳴るたび、地下の防空壕に身を隠す。従業員の10〜15%がマリウポリのほか、南部ヘルソンや東部ドネツクからの国内避難民だ。
コンスタンティン氏は「冬用の軍服は500ものパーツからなる。ロシア軍の侵攻でサプライチェーンが寸断され、材料が不足している。何かを犠牲にしなければ冬用の軍服は作れない。不安や恐怖心がないと言えばウソになる。しかしウクライナは勝つ、正義が実現すると信じている」と強調した。
預言者プーチンの論理
人口約64万6700人の命を守るため陣頭指揮を執るビルクル氏は今のロシアがナチスドイツよりひどくなった理由についてこう解説する。
「プーチンは全体主義的でカルトのような宗教を作り上げた。ロシア正教の伝統と、大祖国戦争(第二次世界大戦)の勝利に対する歪んだ解釈、レーニンのカルト、そして核のボタンを崇めることだ」
「プーチンが作り上げた疑似宗教における神、この宗教はキリスト教とは何の関係もない。この核のボタンこそが彼らが崇拝する神なのだ。プーチンの神は核のボタンだ。プーチンはその宗教の預言者のようなものだ。ロシア正教会の伝統はそのための見せかけに過ぎない。ただの隠れミノだ」
「隠れミノの下に預言者としてのプーチン、神としての核のボタンが存在する。プーチンは22年前に大統領になってから新しい宗教を作り上げたのだ。その効果は蓄積され、時間の経過とともに大きな影響力を持つようになった。この狂ったイデオロギーの影響下ですでに2世代が育っている。全世界にとっても非常に危険なことだ」
ビルクル氏は「西側諸国はこれに対処することができる」と断言し、北大西洋条約機構(NATO)加盟の見通しについてこう語る。
「大きくて狂った強国のすぐ隣にウクライナはある。わが国はロシアよりはるかに小さい。だからこそ相互防衛が働く安全保障システムの中にいる必要がある。ロシアが世界で2番目に強い軍隊を持っているというのは神話だった。ウクライナ軍はロシア軍と戦い、勝利を収めつつある。ウクライナはブロックの中で居場所を獲得している」
●G7声明 ロシアを強く非難 中国念頭に東シナ海などの状況に懸念  6/28
28日に閉幕したG7サミット=主要7か国首脳会議は首脳声明を発表し、軍事侵攻を続けるロシアを厳しく非難するとともに、ウクライナへの支援に結束して取り組む姿勢を打ち出しました。
また、声明では、中国が軍事活動を活発化させる東シナ海などの状況に深い懸念が示されたほか、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮への厳しい非難も盛り込まれました。
ドイツ南部のエルマウで今月26日から3日間の日程で開かれていたG7サミットは、日本時間の29日夜閉幕し、先ほど一連の会議の成果文書である首脳声明が発表されました。
この中で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「違法で不当な侵略だ」と厳しく非難するとともに「われわれはウクライナの側に立ち、必要な財政的、人道的、そして軍事的支援を提供していく」として、G7としてウクライナ支援に結束して取り組む姿勢を打ち出しました。
そのうえで「ウクライナの防衛を支援し、自由で民主的な未来を確保するため、関係国や関係機関と調整する用意がある」として、ウクライナの将来的な安全保障の強化に向け、支援する方針を示しました。
一方、ロシア産のエネルギーへの依存度を下げる「脱ロシア」については「妥協することなく取り組んでいく」としましたが、アメリカ政府の高官が合意が近いという見通しを示していたロシア産の石油に対する上限価格の設定については「今後模索していく」という表現にとどまり、合意には至りませんでした。
また、声明では、東シナ海と南シナ海の状況について「深い懸念を示す」としたうえで「力や威圧によって現状変更しようという、いかなる一方的な試みにも強く反対する」として、周辺で軍事活動を活発化させる中国を念頭にけん制しました。
そして台湾情勢について「われわれは台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、平和的な解決を呼びかける」としました。
さらに中国に対しては「ロシアに軍事侵攻を停止し、ただちに、かつ、無条件でウクライナから部隊を撤収させるよう圧力をかけることを求める」とロシアに軍事侵攻の停止に向け働きかけるよう呼びかけるとともに「中国の人権状況を深く懸念している。新疆ウイグル自治区での強制労働はわれわれにとって重大な懸念だ」として、中国の人権状況に重ねて懸念を示しました。
声明では、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮について「強く非難する」としたうえで「違法な大量破壊兵器と弾道ミサイル開発計画を破棄するよう求める」として、核・ミサイル開発を放棄するよう強く求めるとともに、非核化に向け対話のテーブルに着くよう呼びかけました。
このほか気候変動対策をめぐり「われわれは開かれた、協力的な気候クラブの目標を支持し、2022年末までの設立に向け友好国などと連携する」として国際的な枠組みを立ち上げ、対策を加速させる姿勢を強調しました。
●「冷戦当時に戻る」NATOが対ロシア方針転換へ プーチン氏はどう出る? 6/28
G7が対ロシアで結束を見せていたその真裏で、前線から離れたウクライナ中部クレメンチュクのショッピングセンターが、ロシア軍によってミサイル攻撃を受けました。
中には1000人以上がいたとみられ、ウクライナ政府によりますと、少なくとも20人が死亡し、40人が行方不明、59人が負傷しています。
ウクライナ、ゲラシチェンコ内相顧問:「買い物に来た女性や子どもが救助されている。見て下さい。ジュース、ビールなどを販売していた場所だ。ロシア人の手でウクライナ人が殺されている。プーチンのせいだけではない、ウクライナをサポートしない他のロシア人も同罪だ」
国際社会は、衝撃を持って受け止めています。
国連事務総長報道官、デュジャリック氏:「クレメンチュクにミサイルが着弾しました。戦火とは無縁だった街です。戦闘が激化するのを懸念しています。危険にさらされ、殺害され、けがをする一般の人々のことが心配です」
フランス、マクロン大統領:「昨日起きたショッピングセンターへの攻撃。その一報をG7首脳全員で聞きました。私たちはこの凄惨な戦争犯罪を断固糾弾します」
ロシアの蛮行はどうやったら止まるのか。NATO(北大西洋条約機構)は今後、加盟国ではないウクライナにさらに深く関わっていくことを決めました。
NATOでは今後10年間「ロシアは直接的な脅威」と位置付けることになりました。即応部隊は現在の4万人から30万人以上へと大幅に増加され、指揮系統や部隊配置、後方支援など全てが刷新されます。
NATO、ストルテンベルグ事務総長:「冷戦以来最大規模の集団防衛力と抑止力の見直しです。全ての同盟国が、ロシアを安全保障上の最大かつ直接的な脅威とみなすことになります」
ショッピングセンターへのミサイル攻撃について、ロシア国防省は「高精度のミサイルで西側の武器のための貯蔵庫を攻撃した。火災が起きた工場の隣にあるショッピングセンターは閉鎖中だった」としています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「攻撃できるのは無情なテロリストだけ。間違った攻撃ではない。計算されたロシアの攻撃」と批判。国連はウクライナから要請を受けて、ロシアの空爆について協議する緊急会合を日本時間29日未明に開く予定です。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。
(Q.ショッピングセンターへの攻撃をどう受け止めましたか?)
ロシアによる民間施設への無差別な攻撃は、ウクライナの別の場所でも見られましが、許されない行為です。ロシアは今回も含めて6回、クレメンチュクを攻撃していて、何らかの狙いがあるとみられます。
ロシアが主張しているように、ショッピングセンターに隣接して武器庫があったのかどうかは、いずれ真偽が明らかになると思いますので、追加情報を待ちながら見極めていきたいです。
EU・G7・NATOサミットが立て続けに行われていて、西側が結束しながらウクライナへの軍事支援、ロシアへの追加制裁を議論しようとしています。今回の攻撃は、欧米諸国へのけん制や、引き続きウクライナ全土を攻撃する意図があることを見せる狙いがあるのではないでしょうか。
(Q.NATOの方針転換をどう見ていますか?)
ロシアがこれだけの軍事侵略を行ったので、NATOの方針転換はある意味、当然だろうと思います。特にロシアと隣接するバルト3国やポーランドでは動揺が走っていますので、こうした国を安心させるためにも、全面的にロシアの脅威を打ち出しながら、東ヨーロッパの国々を防衛していくために、部隊増強をしていかなければいけません。
NATOはもともと、冷戦時代のソ連の脅威を念頭にできたアメリカ率いる軍事同盟です。冷戦が終わった今、かつてのNATOに戻りつつあるとも言えます。
(Q.NATOの方針転換に対し、ロシアが行動をエスカレートする可能性はありますか?)」
ロシア側の警戒は高まっていますので、すでにロシアの飛び地カリーニングラードでは軍備増強の動きが始まっています。
そして、ロシアの同盟国ベラルーシには、プーチン大統領が数日前、核弾頭を搭載可能な短距離弾道ミサイルの配備を表明しています。ベラルーシも巻き込む形で今後、ロシアとNATOの軍事的な緊張が高まっていく可能性があります。
(Q.ベラルーシは、弾道ミサイルの配置を望んでいますか?)
ウクライナ侵攻に関して、ロシア軍はベラルーシ領内から進軍しています。ただ、現時点でベラルーシは参戦まで踏み込んでいません。
NATOとロシアの軍事的緊張に、ベラルーシ自体は巻き込まれたくないが、プーチン大統領に逆らうことができない状況にあると思います。
今後、ベラルーシも交えた形で、NATOとロシアの軍事的緊張がどこまで高まっていくのか。ここに注目していきたいと思います。
●プーチン大統領 侵攻後初の外遊 中央アジア諸国へ 欧米けん制  6/28
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻に乗り出して以降初めてとなる外国訪問を始めました。
旧ソビエトの中央アジアの国々を歴訪して引き締めを図り、対立する欧米側をけん制する思惑もあるとみられます。
プーチン大統領は28日、中央アジアのタジキスタンを訪問しました。
ロシアのプーチン大統領がことし2月にウクライナ侵攻に乗り出して以降外国を訪問するのは初めてです。
プーチン大統領はタジキスタンのラフモン大統領と会談する予定で、ロシア大統領府のウシャコフ補佐官は、両首脳が経済や軍事技術の分野での協力や治安の悪化が懸念されるアフガニスタンの復興について話し合う見通しだとしています。
ウクライナ侵攻を続けるロシアに対し、欧米各国はG7サミット=主要7か国首脳会議に続いて29日からNATO=北大西洋条約機構の首脳会議も開き、圧力の強化など対応を協議することになっています。
こうした中、プーチン大統領としては今回の外国訪問を通じてロシアの勢力圏である旧ソビエト諸国の引き締めを図り、欧米側をけん制する思惑もあるとみられます。
プーチン大統領は29日には中央アジアのトルクメニスタンを訪問し、豊富な天然資源があると言われるカスピ海沿岸のイランやアゼルバイジャンなど5か国による首脳会議に出席する予定です。
●ロシア大統領、中央アジア訪問 侵攻後初外遊、結束確認 6/28
ロシアのプーチン大統領は28日、旧ソ連・中央アジアのタジキスタンを訪問、首都ドゥシャンベでラフモン大統領と会談した。ロシア国営テレビが報じた。プーチン氏の外国訪問は今年2月のウクライナ侵攻開始以来初めて。
会談冒頭でプーチン氏は経済や安全保障分野で協力を強化する意向を示した。ラフモン氏は空港でプーチン氏を出迎え、親密ぶりをアピールした。
タス通信によると、プーチン氏は29日には中央アジアのトルクメニスタンを訪問、カザフスタンやイランを含むカスピ海沿岸諸国の首脳会議に出席する。
●プーチン氏、アフガン「正常化」へ尽力 タジク大統領と会談 6/28
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は28日、ウクライナ侵攻開始後初となる外遊でタジキスタンを訪問した。同国大統領と会談したプーチン氏は、ロシアはアフガニスタン情勢について「正常化」に積極的に取り組んでいると述べ、当該地域におけるロシアの責任に言及した。
昨年8月、アフガニスタンではイスラム主義組織タリバンが復権。国境を接するタジキスタンの政情の不安定化を懸念する見方もある。
エモマリ・ラフモン大統領との会談でプーチン氏は、テレビ放送された発言の中で、アフガニスタン正常化への取り組みに加え、「情勢を支配している政治勢力との関係構築を試みている」と説明。
タジキスタンとロシアの両国が「共通の責任を有する」地域において「情勢を確実に安定させ、誰も脅かされることのないようにするために何をしなければならないかは、あなた(ラフモン氏)が一番よく知っている」と述べた。
タジキスタンは、旧ソ連構成国の中でも最貧国。同盟関係にあるロシアの主要な軍事基地が設置されており、経済的にもロシアに大きく依存している。
●プーチン氏の右腕「クリミア半島は永遠なるロシアの一部」… 6/28
ウラジーミル・プーチンロシア大統領の右腕であるドミートリー・メドヴェージェフ国家安保会議副議長は28日(現地時間)「NATO(北大西洋条約機構)加盟国がクリミア半島に侵攻すれば、第3次世界大戦が勃発するだろう」と語った。
ロイター通信などによると、メドヴェージェフ副議長はこの日、ロシアのインターネットメディアとのインタビューで「われわれにとってクリミア半島は永遠にロシアの一部だ」とし「クリミア半島に侵攻すれば、その全ての試みはわが国に対する宣戦布告だ」と語った。
また「それがNATO加盟国により行われれば、これは北大西洋同盟全体との衝突、すなわち第3次世界大戦を意味する。これは完全な災難となるだろう」と語った。
ロシアは2014年、クリミア自治共和国の投票を口実に、クリミア半島を強制的に併合した。クリミア半島は1950年代、ニキータ・フルシチョフ元共産党書記長がロシアからウクライナ共和国に割譲した領土である。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は最近、クリミア半島奪還の意志を強調しているが、この日のメドヴェージェフ副議長の発言は「ウクライナがNATOに加入しクリミア半島の領土回復を推進すれば、第3次世界大戦へと飛び火するおそれがある」という警告だとみられる。
メドヴェージェフ副議長は、プーチン大統領の代わりに2008年から2012年までロシア大統領を務めた、プーチン大統領の最側近である。
●ロシアへの経済制裁の“抜け道”となっていた、イスラエルとロシア正教会 6/28
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから4か月が過ぎた。この間、欧米をはじめとする西側諸国はウクライナを支援する傍ら、「経済制裁」によりロシアに圧力をかけ続けている。米国のデータ分析サイトによると、西側諸国がロシアに発動した制裁は、個人の金融資産凍結、国際的な決済ネットワークSWIFTからの排除、ロシア産原油の禁輸など、1万件を超えたという。しかし、ロシアのプーチン大統領は6月17日、「欧米による経済制裁は失敗」と明言している。ロシアへの経済制裁にどのような抜け道があるのか。そしてそれを塞ぐ手立てはあるのか。歴史作家の島崎晋氏が考察する。
6月16日、ロシアのウクライナ侵攻に関して、イギリス政府はロシア正教会の最高指導者であるキリル総主教に対し、ウラジーミル・プーチン大統領への支持とウクライナ侵攻への賛同を理由に制裁を科すと発表した。これにより、キリル総主教の英国内の資産が凍結され、イギリスへの渡航が禁止される。制裁対象となったロシア正教会の総主教キリルとはどんな人物なのか。
聖職者の家に生まれたキリルがモスクワ総主教に就任したのは2009年のこと。就任当初からプーチンと歩調を合わせ、〈2012年には、プーチン氏の統治こそソビエト連邦崩壊後の経済的混乱に終止符を打った「神の奇跡」だと評し、「ウラジーミル・ウラジーミロビチよ。あなたは、わが国の歴史のねじれを修正するため自ら大きな役割を果たした」と称賛した〉という。
その後も同性婚や性的多様性を罪と宣言するなど、保守的な態度を取り続けた。今回のウクライナ侵攻に関しては、〈軍事作戦を支持し、「国内外の敵」と戦うため結集するよう信者に呼びかけ〉るとともに、〈ロシアとウクライナの歴史的な「一体性」に反する「悪の勢力」との戦いについて語〉るなど、プーチンへの支持は揺るぎない。
このため、欧州連合(EU)欧州委員会がロシア産石油の段階的禁輸を含む対ロシア経済政策の一環として、ロシア政府関係者58人に対する経済制裁を検討した5月には、キリル総主教の名もリストに含まれていたのだった(その後、EU加盟国のハンガリーが反対したため、キリル総主教の名はリストから外された)。
今や国家権力の中枢に位置するロシア正教会だが、その歩んだ道のりは平坦ではない。15世紀に東方正教会から独立して以降、ロマノフ朝の前期(17世紀半ばまで)はツァーリ(皇帝)をも譲歩をさせる存在だったが、ピョートル1世(在位1682〜1725年)による改革を経て、ロマノフ朝が滅亡するまでの200年間は独立と自治権を失い、国家権力への従属を余儀なくされた。
神と宗教を否定した共産主義国家ソビエト連邦(ソ連)のもとでは、従属どころか完全なる冬の時代を耐えねばならなかったが、1985年のゴルバチョフ政権成立とともに雪解けが始まる。その後、ソ連の解体とエリツィン時代を経て、第1次プーチン政権が成立した2000年頃にはみごと復活。財政難のロシア政府に社会的弱者を救済する余力がない状況下、ロシア正教会は困窮者への給食サービスを続けた。
イスラエルのロシア系ユダヤ人
2010年の統計によれば、信者の総数は9000万人。世界最大の独立正教会組織として知られ、その財源は信者からの寄進が基本だ。ロシア正教会の財力を考える上では、大口の寄進者と思われるオリガルヒ(新興財閥)に加え、国外に散在するロシア人コミュニティーも無視できない。なかでも最大のコミュニティーは中東のイスラエルに存在する。
1980年代以前、イスラエルに居住するロシア系住民は少数の聖職者に限られた。それがソ連末期になり出国規制が大きく緩められると、「ユダヤ人」としてイスラエルへ移住する人びとが続出。その数はわずか数年で100万人にも達した(臼杵陽『イスラエル』岩波新書)。
イスラエル政府は受け入れる移民をユダヤ人に限り、1970年改訂の帰還法(国外のユダヤ教徒がイスラエルに移民することを認めるイスラエルの法律)では、ユダヤ人について、「ユダヤ人の母親から生まれた人、あるいはユダヤ教に改宗した人で、ほかの宗教に帰依していない者」と定義していた。
しかし、ロシアからの移民の半数以上は非ユダヤ人との指摘がある。仲介業者からユダヤ人証明者を購入することで、イスラエルの土を踏んだ者が多いという(『フォーサイト』2001年10月号 池内恵「“ユダヤ人”とは名ばかりのイスラエルへの移民」)。
既成事実ができてしまえば用済みというのか、新規のロシア系住民は「ユダヤ人」を装う素振りさえ見せず、ロシア正教会への帰依をあらわにする。信者の急増を受け、イスラエル国内ではロシア正教会の教会がいくつも新造されることとなった。
彼ら旧ソ連出身者は「イスラエル我が家」という独自の政党を築く。建国以来、過半数を占める政党が存在せず、連立内閣が常態化しているイスラエルでは、少数政党の意見が法制化されることが珍しくない。議席数は少ないながら、極右政党でもある「イスラエル我が家」の影響力は軽視することはできない。
ロシアのウクライナ侵攻に伴う欧米が中心の経済制裁についても、「中立」を掲げるイスラエルが抜け道になって効果が期待できないとの声が当初から囁かれていた。
キリル総主教を制裁対象に加えたのはEUを離脱したイギリス単独によるもの。ロシア経済に対する決定的な打撃とまではいかないまでも、抜け道の一つを潰す効果はあるはずである。
●プーチン氏、ブラジルへの肥料輸出継続に「尽力」 6/28
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は27日、南米の農業大国ブラジルのジャイル・ボルソナロ(Jair Bolsonaro)大統領に対し、同国が切望する肥料の輸出の継続に向けて「尽力」すると約束した。
ボルソナロ氏は首都ブラジリアでプーチン氏との電話会談について、「食糧安全保障」や「エネルギー不安」について協議したとだけ明らかにした。
ロシア大統領府(クレムリン、Kremlin)側も電話会談について、「(プーチン氏が)ロシア産肥料のブラジル農家への継続供給を保証する義務の履行に向けて尽力していると強調した」とした。プーチン氏は、ウクライナ侵攻をめぐる欧米の対ロシア制裁によって崩壊した食料と肥料の自由貿易体制の修復も求めたという。
ブラジルは農業大国だが、農務省によると、肥料の80%以上、カリウム肥料の96%を輸入に頼っている。輸入肥料の20%以上はロシアから輸入している。
ブラジルは肥料を賄うために、カナダやヨルダン、エジプト、モロッコなどと輸入に向けて協議を開始したと発表する一方、国内生産も強化するとしている。
●欧米に「逆経済制裁」科すプーチン大統領 バックに途上国の共感が..6/28
ロシアによるウクライナ侵攻から5か月。世界的な食糧危機や物価高が広がり、欧米メディアの中には「戦争疲れ」「支援疲れ」を懸念する声が出始めている、と報じるところが増えた。
事実、2022年6月26、27日にドイツ南部エルマウで開かれた主要7か国サミット(G7)の会場付近では、「ウクライナへの武器支援に反対する」デモが行われた。
そんななか、プーチン大統領が強気の姿勢を崩さない。むしろ、欧米諸国に「逆経済制裁」をかける勢いだ。背景にはなにがあるのか、エコノミストの分析を読み解くと――。
EUの「裏切り」に怒ったロシアの報復制裁
複数の欧米メディアによると、2022年6月27日、ロシアは外貨建て国債の利子計1億ドル(約135億円)分の支払いができず、デフォルト(債務不履行)に陥った。しかし、ロシア側は「支払う意思はある。送金手続きが進まないのは(西側諸国の)制裁が理由で、我々の問題ではない」と強気だ。
むしろ、プーチン大統領は6月23日のBRICS(新興5か国)のビジネスフォーラムを前にビデオ演説を行い、「西側諸国の軽率で利己的な行動によって、世界経済に危機的状況が生じた。彼らは自らの過ちを全世界に転嫁している」と批判するありさまだ。
ロシアがEU(欧州連合)の弱みに付け込み、「逆制裁」を科している実態を指摘するのは、ニッセイ基礎研究所経済研究部研究理事の伊藤さゆり氏だ。
伊藤氏のリポート「西側VSロシア〜勝者なき消耗戦」(6月23日付)では、EUの「裏切り」に怒ったロシアをこう書いている。
「ロシアにとっては、欧州連合(EU)が米英と足並みを揃えたことは、おそらく予想外だっただろう。EUの中核国である独仏は米英よりもロシアに宥和的な姿勢をとってきた。EUは化石燃料をロシアに依存するなど経済的な結び付きも緊密だ。その分だけ、EUによるロシアへの経済制裁の効果は高いが、EU側が受ける痛みも大きくなる」
だが、EUは、痛みを覚悟のうえで石炭禁輸、石油禁輸と立て続けに制裁を決めた。ただし、激変緩和のため、石炭禁輸は4か月、原油の禁輸は6か月、石油製品は8か月の移行期間を設けている。おまけに、パイプラインを通じて供給される原油は例外とすることで、なんとか全会一致に漕ぎ付けたから、実際に制裁の効果が出るのは先になる。
「ロシアは、こうしたEUの脱ロシアの動きを座視するつもりはないだろう。ロシアにとってもパイプライン・ガスの代替先の早期確保は難しいが、ロシアにはEUが脱ロシア・ガスを実現する前に供給停止のカードを切り、揺さぶりを掛けるインセンティブがある。すでにロシアが一方的に決めたガス代金のルーブル建てでの支払いに応じなかったなどの理由で、ポーランド、ブルガリアに始まり、ドイツ、イタリアなどへのガス供給を停止・削減している。ガスを巡るEUとロシアの攻防は、需要期となる今年秋口以降に向けて、激しさを増すことになるだろう」
プーチン大統領に共感する途上国政府
経済制裁で欧米と足並みを揃える日本から見ると、ロシアは世界で孤立しているような印象だが、現実は違う。制裁しているのはEU、G7(先進7カ国)のほかには韓国、オーストラリアなどわずかだ。
中国、インドにくわえ、中東、東南アジア、アフリカ、南米などのほとんどの国は制裁に加わっていない。中国は多角的にロシアと貿易・投資を進めているし、インドはロシアから石油を割引価格で買いつけている。
では、こうした諸国がなぜ欧米と足並みを揃えないのか。
NPO法人・国際環境経済研究所のウェブサイトに公開された「ロシアの戦争でこれまでの気候政策は終わる(3)」(6月24日付)は、米国の環境シンクタンク「ブレイクスルー研究所」創立者で、キヤノングローバル戦略研究所インターナショナル・リサーチ・フェローのテッド・ノードハウス氏の3回にわたる力作リポートだ。
ここでノードハウス氏は、ロシアの戦争が気候変動問題にどんな影響を与えたかを追求しているが、その中で、ロシア制裁に動く欧米の「偽善」と、それに反感を抱く発展途上国との対立にスポットを与えている。
「米国と欧州が国際社会を動員してロシアを政治的、経済的に孤立させようとする中で、あまり注目されなかった事象として、中国、インド、そして発展途上国の多くが乗り気でなかったことがある。これは実利的な面もある。ロシアは世界の多くの地域にとって食糧、燃料、肥料、軍需品、その他の重要な商品の主要な供給国である。だが、ロシア型の社会の腐敗、非自由主義、民族主義が、世界の多くの地域で、ルールではないにせよ、一般的であることも理由の1つだ。(中略)世界の多くの国の指導者は、冷戦後の時代を形成してきた西側の制度や規範に対するプーチンの広範な拒否に共感しているようだ」
彼らはなぜ欧米と戦うプーチン大統領に共感するのだろうか。
「欧米の指導者たちは、世界を気候変動から救うという名目で、発展途上国に対して自国の石油やガス資源の開発、および化石燃料へのアクセスによって可能になる経済成長をあきらめるよう促してきた。先進国経済が化石燃料に大きく依存していることから、アフリカをはじめとする途上国政府は、これを当然ながら偽善と判断することになる。(中略)一方で、貧しい国々では石炭火力発電を段階的に廃止するよう提唱しているのだ。富裕国政府は、自国の資源を利用し続けながらも、貧しい国々の化石燃料インフラ整備に対する開発資金をほとんど断ち切っているのである」
「恨みは深い。何十年もの間、欧米の環境NGOやその他のNGOは、政府や国際開発機関の間接的なあるいは直接的な支援を受けて、ダムから鉱山、石油・ガス採掘に至るまで、大規模なエネルギー・資源開発に幅広く反対してきたのだから。NGOの環境問題や人権問題に対する懸念は、たいてい本物である。しかし、これらの問題に対する欧米の取り組みが十字軍的で、しばしば恩着せがましいのは、(中略)NGOの地元キャンペーンが主に欧米によって資金が出され、人員が動員され、組織化されているという事実と結び付き、植民地時代から続く反欧米の深い溝を生み出してしまっているのだ」
それに対して、中国とロシアは環境問題などに躊躇せず、エネルギー、資源採掘、インフラへの投資をテコに地政学的利益を拡大してきたとして、ノードハウス氏はこう続ける。
「その意図は、モスクワと北京の経済的優先順位を高める形で開発途上国の依存関係を構築し、かつ国際的な影響力を生み出すことである。ウクライナ侵攻以来、この戦略の有効性は誰の目にも明らかである」
ロシア制裁を機に、西側諸国と途上国との軋轢強まる
ノードハウス氏のリポートと同様、西側諸国の主要国で構成するG7サミット(主要7カ国首脳会談)が機能不全に陥り、ロシア制裁を機に西側諸国と途上国との軋轢が強まっている、と懸念するのが野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏のリポート「問われる世界のリーダーによるG7サミットの意義」(6月27日付)には、こうある。
「ロシアのウクライナ侵攻、先進国による対ロ制裁を契機に、先進国と新興国との間には一気に軋轢が強まっている。そのため、G7は有効な対策を打ち出すことが難しくなっており、この点は今回のG7サミットでも改めて浮き彫りとなっている。(中略)ウクライナ産の小麦に依存するアフリカ・中東諸国の国々は、価格高騰のみならず、戦争の影響でウクライナ産の小麦の入手が難しくなっている。そうしたもとで、多くの国が輸出制限を実施していることが、食料危機をより深刻化させている」
国際食料政策研究所によると、ウクライナ侵攻以降、新興国を中心に合計26か国が、食料や肥料に対して全面的な輸出規制を導入している。各国政府にとって食料輸出規制は、物価高騰に対する国民の怒りを和らげ、国内供給を確保する手だてになるからだ。
このため、世界的に食料価格の高騰に拍車をかけている。しかし、G7サミットでは、食糧問題は議論の中心にはならなかった。木内氏は、
「G7サミットではバイデン米大統領が途上国へのインフラ整備支援を打ち出したが、これは、中国の『一帯一路戦略』に対抗するものだ。世界経済が抱える課題に対応するというよりも、先進国の利害に強く関わる政策だ。世界のリーダーたちが、国を超えて世界全体が抱える諸問題への対応を推進する、という本来のG7の意義は後退してしまっているのではないか」
と懸念を示す。また、G7サミットで議論された対ロ追加制裁の中に、ロシア産石油の取引価格に上限を設ける案もあったという。なぜなら、欧米諸国はロシアからの原油輸入の禁止・制限措置を決めているが、それにより原油価格が上昇し、逆にロシアを利する羽目になったからだ。
「フィンランドに拠点を置く独立系の『エネルギー・クリーンエアー研究センター(CREA)』がまとめた報告書では、ロシアの戦費は1日あたり約8億7600万ドルと見積もられている。
一方、CREAは、ロシアはウクライナにおける紛争が始まった2月24日から6月3日までの100日間に、化石燃料の輸出で970億ドルの収入があったとしている。1日に換算すれば9億7000万ドル程度である。(中略)ロシアの戦費は化石燃料の輸出による収入で賄われたことになる」
木内氏は、ロシア産石油の取引価格に上限を設ける制裁は現実的ではない、というのだ。
「取引価格を一定水準以下に抑えることを、石油タンカーでの船舶保険の利用条件とする案が浮上しているという。しかし、そうした枠組みが本当に有効に働くかどうかは疑問だ。実際には、ロシア産原油の輸出を抑制することに一定程度働く一方、一段の価格高騰を招くことにはならないか」
ロシアが戦争から得るのは中国との「腐れ縁」?
欧米諸国や日本がプーチン大統領に振り回される構図になっているわけだが、ところでプーチン大統領はこの戦争はいつまで続けるのだろうか。
双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦氏は「溜池通信:ロシアへの愛をこめて〜ウクライナ戦後への思考実験」(6月10日付)というコラムの中で、ナポレオンやヒトラーを撃退したロシア(ソ連)は何が起こっても負けないだろうという。
「考えれば考えるほどロシアの先行きは暗いけれども、『何があっても確実にロシアに残るもの』も少なからず存在する。例えば以下のような要素である」
   (1)広大な国土(地球上の陸地面積の6分の1を占める)
   (2)地下資源(ただし効果的に使えるかどうかは不明)
   (3)安保理常任理事国のステータス(拒否権は永遠なり)
   (4)膨大な量の核兵器
そして、軍事アナリスト小泉悠氏の論文を引用する形でこう述べている。
「ロシアは、世界最大の国土面積を有する巨大国家である。万一誰かに攻め込まれた場合には、戦略縦深の後退によっていくらでも時間を稼ぐことができる。その上で正規軍とパルチザンによる反撃が可能である。(中略)つまり守りに対しては絶対的に強いのだ。ロシアは海外から攻め込まれたときの勝率は100%」
「ただし自分たちが他国に攻め込んだときはその限りにあらず。露土戦争(1877年〜1878年)は負けているし、日露戦争(1904年〜1905年)もしかり。今回の対ウクライナ戦争も、多分にその公算が大である。守りの絶対王者は、攻めに回ると意外と心許ない。それでも、他国に攻め込まれて白旗を掲げる、ということだけは考えにくい。(中略)最後は必ず、プーチンを相手に『交渉』という形で終わらせることになるのであろう」
戦後のロシアはどうなるのだろうか。吉崎氏はこう分析する。
「『この戦争によってロシアが新たに得るもの』も検討しなければならない。それはおそらく『中国との腐れ縁』ということになるのではないか」
そして、米エール大学経営大学院が毎日更新しているロシアで活動を続けている企業リストを紹介した。欧米を中心に1000社近くが撤退しているなか、中国企業の「残留」が目立つ。
「西側のグローバル企業がどんどん撤退する中で、ロシア・ビジネスは彼らには『おいし過ぎて止められない』のではないだろうか。(中略)対ロシア経済制裁が長期化し、西側企業の撤退が続くにつれて、その穴を埋めるのは中国企業ということになるのであろう」
「ロシア産の資源をアジア勢がディスカウント価格で買っているお陰で、国際商品価格の上昇に歯止めがかかっているという現実もある。いずれにせよ、こういう状況が続くにつれて、ロシアは中国のジュニア(立場の低い)・パートナーとなることが避けられないのではないか」
ちなみに、野村総合研究所の木内登英氏も、リポート「国際経済フォーラムで強気姿勢を崩さなかったプーチン大統領」(6月20日付)の最後にこう記している。
「(サンクトペテルブルクで開かれた17日の国際経済フォーラムで)プーチン大統領は、軍事同盟ではない欧州連合(EU)へのウクライナ加盟を容認する姿勢を見せる一方で、それはウクライナの『半植民地化』を意味するとした。プーチン大統領は強気姿勢を維持するが、海外からの資金調達、支援が得られない中で戦争を続ければ、ロシア経済は一段と悪化していくことになる。海外企業のロシア国内での事業停止・撤退の痛手も今後本格的に出てくる。そうしたなか、ロシアは中国に一段と接近し、経済面では中国の『半植民地化』することを受け入れないと、この先、経済の発展は望めなくなるのではないか」
●プーチン氏、G20対面出席の意向 ロシア大統領府 6/28
ロシア大統領府は27日、インドネシアで11月に開催される20か国・地域(G20)首脳会議に、ウラジーミル・プーチン大統領が出席する意向だと発表した。
ユーリー・ウシャコフ大統領府補佐官は記者団に対し、正式な招待を受け、それに応じる回答をしたと明らかにした。
ウシャコフ氏は、G20サミットの開催日は11月15、16両日であり、それまでには「長い時間がある」として、参加形式には変更が生じる可能性もあるものの、「現時点では、招待を受けているのは対面出席の形だ」と説明した。
プーチン氏は、新型コロナウイルス感染症が流行していた昨年10月にイタリア・ローマで開かれた前回のサミットには、オンライン形式で出席した。
今回G20の議長国であるインドネシアは、会議にロシアを招待したことで物議を醸している。ロシアによるウクライナ侵攻と戦争犯罪の疑いを受け、西側諸国はインドネシアに対し、ロシアを排除するよう圧力をかけてきていた。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は、プーチン氏が対面出席したとしても自身が出席する可能性はあると述べ、最終決定は「出発直前」に行う考えを示した。同首相はまた、インドネシアがウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領も招待していることを明らかにした。
●G20サミット出席、悩む首脳 ロシア参加に抵抗感 6/28
28日閉幕の先進7カ国首脳会議(G7サミット)で、参加各国首脳が11月にインドネシアで開催予定の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席するかどうかが注目を集めている。ウクライナに侵攻しているロシアのプーチン大統領が参加を予定していることに、米国などは反発を強めている。
G7議長国ドイツのショルツ首相は27日、公共放送ZDFのインタビューで「G20を台無しにしたくない」と強調しつつ、G20サミットに出席するかどうかは「出発の少し前に決める」と述べた。出欠をこれまで明言していない首脳は多い。
一方、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は「もしプーチン氏が来るなら、面と向かってわれわれの考えを伝える方がいい」として参加する意向を示した。
G7内にはプーチン氏と同じテーブルに着くことへの抵抗感が根強い。4月には米政府がプーチン氏の出席に反対を表明。米政府高官は「バイデン大統領はG7に力を入れ、多国間協力の主要な枠組みとして昇華させてきた」と語り、G20よりG7を重視する姿勢を鮮明にした。
板挟み状態のG20議長国インドネシアのジョコ大統領はウクライナのゼレンスキー大統領も招待。G7サミット後にロシアとウクライナ訪問を予定するなど、調整に追われている。
G20には中国やインド、サウジアラビアなど、気候変動などで重要な役割を担う国も含まれる。ドイツ開発・持続性研究所のアクセル・ベルガー氏は「世界規模の課題解決にはG7は十分ではない。首脳らはG20サミットに出席すべきだ」と指摘している。
●プーチン氏、11月のG20首脳会議に出席しない見通し=伊首相 6/28
イタリアのドラギ首相は28日、20カ国・地域(G20)議長国を務めるインドネシアのジョコ大統領が、11月のG20首脳会議にロシアのプーチン大統領が出席する可能性を排除したと明らかにした。
さらに、プーチン大統領がリモートで参加するかどうかについては「成り行きに任せる」とした。
●プーチンの「偽悪戦略」に乗せられた人類 露がキーウまで攻め込んだ意図 6/28
突然のウクライナ軍事侵攻という歴史的暴挙に出たプーチン大統領。しかしその背景は、巷間語られているほど単純なものではない可能性もあるようです。今回の無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』では著者で国際情勢解説者の田中宇(たなか さかい)さんが、ロシアがウクライナ東部だけでなく首都キーウ近郊にまで軍を進めた理由を、人類を欺く「偽悪戦略」だったとする持論を展開。その画策者をプーチン大統領と米国ネオコンとした上で、なぜ彼らがかような戦略を進める必要があったのかを詳細に解説しています。
プーチンの偽悪戦略に乗せられた人類
今回のウクライナ戦争の、私にとって理解困難な謎の一つに「なぜロシアは2月24日の開戦時に、異様に大規模な全面戦争をいきなり始めたのか」というのがある。ロシアが今のウクライナ戦争で達成したいことは、ウクライナの極右政府や軍が東部2州(ドンバス)のロシア系住民をいじめたり殺したりしていたのをやめさせることだ。開戦前、ロシアの政府や軍は、ドンバスを助けるために軍事的なことをほとんどしていなかった。ロシアの軍や諜報機関の要員たちが私服でロシアからドンバスに越境して露系民兵団の顧問をしていただけだ。露軍はドンバスに入っていなかったし、兵器の支援もしていなかった(民兵団はウクライナ軍からの転向者が持ってきた兵器で戦っていた)。次の段階として、露軍がドンバスを助けるなら、まず兵器を越境支援するとか、露軍がウクライナ全土でなくドンバスだけに侵攻するといった展開が予測された。私はその線に沿って開戦を予測する記事を開戦前の今年1-2月に書いた。
だが、2月24日に実際に露軍がウクライナに侵攻した時、露軍は電撃的にウクライナ全土の制空権を奪い取り、ドンバスだけでなくキエフに北部などにも地上軍を入れた。露政府が発表したウクライナ侵攻(特殊作戦)の目的は、ドンバス露系住民の保護だけでなく、それよりはるかに広範な、ウクライナ全体の非武装中立化と極右勢力排除(非ナチ化)だった。私は、ロシアが一足飛びにウクライナ全土を戦争の対象にしたので驚いた。露軍が東部ドンバスだけに侵攻しても米国側は猛烈な対露制裁をやるのだろうから、それならロシアとドンバスを安全にするために非武装中立化や非ナチ化、全土の制空権剥奪といった大きな目標を掲げたのでないかと考えたりした。
もし2月24日に露軍がウクライナ全土でなく東部ドンバスだけを侵攻対象にして、ドンバスの露系住民がそれまでの8年間に米国傘下のウクライナ極右政権からいかにひどいことをされてきたかを世界に向けて強調して説明していたら、ロシアは今のように米国側から猛烈に敵視されなかったかもしれない(単に米国側に無視されて極悪のレッテルを貼られて終わっていたかもしないが)。これまでドンバスの露系住民をひどい目に合わせてきた「犯人・黒幕」は米国だ。ロシアは被害者の側だった。米国が2014年にウクライナに諜報的に介入して親露政権を転覆して米傀儡の極右の反露政権を就任させた後、極右政府はドンバスなどの露系住民に前政権が与えていた自治を剥奪し、弾圧してドンバスで内戦を勃発させ、8年間で1万4,000人の露系を殺した。米国はこの8年間、ウクライナを傀儡化してロシアの在外邦人である露系住民を殺し続ける「ロシアを怒らせる策略」を続けてきた。
ウクライナとロシアは別々の国だから、何の前提もなければロシアがウクライナに侵攻したら「戦争犯罪」になる。だが歴史的に見ると、ウクライナとロシアは1990年のソ連崩壊まで、ソ連という1つの国の中にあった。ソ連崩壊後も、ウクライナを含む旧ソ連各国にそれぞれ一定数のロシア人(露系住民)が住んでいる。露軍の重要なセバストポリ軍港があるクリミアが、ウクライナに属していたりする(ウクライナ系の権力者だったフルシチョフが1954年にクリミアの帰属を変更した)。ソ連崩壊後、ウクライナとロシアが別々の国であるには、ウクライナがロシア敵視にならず、国内の露系住民を大事にして、露軍がセバストポリ港を使うことを承認し続けることが必要だった。米国は、これを崩す目的で2014年にウクライナの政権転覆を扇動・実現して露敵視の極右政権を就かせ、露系住民の人権を剥奪し、セバストポリ港を露軍に使わせないと新政権に言わせた。米国はウクライナを傀儡化してロシアに宣戦布告したも同様だった。ロシアは正当防衛としてクリミアを分離独立させてロシアに併合した。露系住民の保護は後手になった。
歴史的な経緯をふまえると、ウクライナとロシアが別々の国であることは「事実の半分」でしかない。残りの半分は、この8年間のように米国がウクライナを傀儡化してロシア敵視をやらせた場合、ロシアが軍事的な報復をやることが「侵略戦争・人道犯罪」」でなく「正当防衛」である、ということだ。
しかし同時にいえるのは、ロシアが2月24日の開戦で東部ドンバスだけでなくウクライナ全土を軍事行動の対象にして、露系住民の保護だけでなくウクライナの非武装中立化や非ナチ化を軍事行動の目的にしてしまったため、上で述べた歴史的経緯を踏まえた正当防衛という見方が吹き飛んでしまい、ロシアが突然にウクライナを侵攻する戦争犯罪をおかした、という話だけが世界に流布することになった。「極悪なロシアを絶対に許すな」「プーチンを戦争犯罪者として裁かねばならない」「プーチン政権が潰れるまでロシアを徹底的に経済制裁せねばならない」という話になっている。この点でプーチンのロシアは大失敗した。……。そうなのか???
常識的には、世の中から「善人」「正義」とみなされれば成功だし強い。「悪」とみなされれば失敗であり弱い。常識的にはそうだ。だがロシアの場合、突然「外国」であるウクライナに大々的に軍事侵攻して「悪」「極悪」のレッテルを貼られ、米国側から猛烈に経済制裁されたものの、経済制裁はロシアでなく米国側に石油ガス資源食料類の高騰と物不足・経済破綻をもたらす半面、ロシアはインド中国など非米諸国との結束を強めてむしろ経済的に強くなっている。軍事的にも、米国側がいくらウクライナを支援してもロシアの優勢はゆるがず、すでに露軍はドンバスやクリミア周辺を安定的に占領し、軍事作戦(侵攻)を成功させている。米国側が「極悪なプーチンのロシアを許すな」と叫んで厳しい対露経済制裁を続けるほど、米国側は経済的に自滅し、ロシアは非米諸国と結束して覇権の多極化を進めて成功していく。ウクライナでは露軍が支配地域をじわじわと広げて勝っていく。
プーチンがドンバスだけでなくウクライナ全土を対象にする派手な侵攻劇を展開し、米国側が激怒してロシアに極悪のレッテルを貼って極度に経済制裁するように仕向けたことが、ロシアの優勢と米国側の自滅につながっている。プーチンは、あえて派手な侵攻劇を展開して極悪者になることで、経済と軍事の両面でロシアを勝たせ、米国側を自滅させている。プーチンはもしかして、常識的には大失敗である派手な侵攻劇を意図的に展開し、米国側がロシアに極悪のレッテルを貼って自滅的な対露制裁をやるように仕向ける「偽悪戦略」を事前に考えたうえで実行し、成功しているのでないか。
露軍がウクライナ侵攻を成功裏に進めていることは、ウクライナ市民の死者数の少なさにも表れている。国連(OHCHR)が6月16日に発表したところによると、2月末の開戦以来の戦闘で4,509人のウクライナの一般市民が死んだ。最近の記事で私は、ウクライナ市民の死者総数が5,000人ぐらいでないかと書いたが、それよりさらに少ない。露軍は4か月の戦闘で4,509人しかウクライナ市民を死なせていない。同時期に露軍は1万-2万人のウクライナ兵士を殺したことを最近の記事に書いた。露軍は開戦当初から、ウクライナの市民や街区や耕作地をできるだけ破壊せず、ウクライナの軍隊だけ破壊して非武装化と非ナチ化を効率的に進めると言っていたが、そのとおりにやっており、露軍の作戦は成功している。米軍はイラクで200万人(人口の1割)、アフガニスタンでも50万人以上を殺している。露軍が殺した数と桁が全然違う。殺した数から言うと、米国こそ戦争犯罪を重ねる極悪の国だ。
プーチンは先日のサンクトペテルブルクの経済フォーラムで、非米諸大国のゆるやかな同盟体であるBRICSのうち、最近やる気がない南アフリカをのぞいた4か国(露中印伯)と、インドネシア・イラン・トルコ・メキシコという大きめの4か国を合わせた8か国を、新たなG8と名づけることを提唱した。日本など米国側の「旧G8」がロシアを敵視して追い出してG7に戻ったので、それへの復讐としてロシアが非米諸国を束ねて新G8を作った。米国側の旧G8はインフレと経済破綻で急速に衰退して時代遅れの存在になっており、これからは非米側の新G8の時代だ、というのがプーチンの言いたいことだ。
こんな風にロシアはウクライナ開戦後、軍事的にも経済的にも予定通りに勝利・成功している。開戦時に派手な侵攻劇を展開する「大失敗」をやったことが、今後の経済面の「大成功」につながっている。派手な侵攻劇は「失敗」でなく意図的な「偽悪戦略」だったと考えられる。プーチンは米国側の親露政治家たちから「なぜあんな派手な侵攻劇をやって極悪のレッテルを貼られる大失敗をやってしまったのか。ロシアを擁護したくてもできないよ」と言われているらしく、最近「キエフなどウクライナ全土を軍事作戦の対象にする戦略は、私が命じたことでなく、軍の上層部の希望で進めたことだ」などと言い訳している。ロシアは重要なことを全部プーチンが決める。キエフへの派手な侵攻劇は、軍だけで決めて実行できるものでなく、プーチンが決めた策略である。プーチンは「大失敗しちゃったよ。ぽりぽり。でへへ」とニヤニヤしている。
近現代の人類の戦争では、オスマン帝国や日独からサダム・フセインまで、負ける側が戦争犯罪者として極悪のレッテルを貼られてきた。覇権を持つ英米はいつも正義で、いつも勝者だった。ベトナムやイラクやアフガンで米軍が極悪な戦争犯罪をやって敗退しても、マスコミ権威筋は米国に敗北や極悪のレッテルを貼らず、米国は無傷のまま次の戦争を展開してきた。日独の戦争犯罪は、戦時プロパガンダをそのまま「事実」にした誇張歪曲捏造だらけだが、今でも日独は極悪のレッテルを貼られたままだ。戦争犯罪は真偽と関係なく永遠の汚名だ。永遠の土下座。そのような常識からすると、プーチンの偽悪作戦はコペルニクス的転回だ。完全洗脳で軽信的な日独の人々(とくに知識人)には理解不能で想像もつかないだろう。
英米は、戦争をめぐる善悪関係を絶対的なものにしているので、米国側(英米傀儡)の人々は勧善懲悪の善悪観念に縛られ、プーチンのロシアを永久に極悪の戦犯とみなし、米国側を自滅させロシアを強化する極度の対露経済制裁をやめられない。欧州などはエネルギー資源不足になって窮乏しているが、対露制裁をやめるのでなく、制裁を続けるふりをして抜け穴を作って必要な資源類をこっそりロシアから輸入し続けている。米国側のネオコンや、その傀儡であるゼレンスキーとかが「もっとちゃんとロシアを制裁しなきゃダメだ」とネジを巻き直し続け、米国側の経済自滅を加速している。最近はリトアニアが、EUの対露制裁の一環として、ロシア本土から飛び地の領土であるカリーニングラードへの物資の輸送を止め始めており、それへの報復としてロシアが欧州へのガスなどの輸出をさらに減らし始めている。米国側、とくに欧州の経済自滅がこれからひどくなる。
このように大成功している偽悪作戦は、プーチンや側近群らロシア人の発案なのか??私の勘では、そうでなく、米国の諜報界のネオコンら隠れ多極派の発案だと思われる。多極派は、米国の覇権を自滅させて世界を多極化するために、ベトナムやイラク・アフガン戦争などで米国の政府や軍に稚拙で過激で残虐な殺戮を手がけさせて失敗させ、世界の人々が米国に愛想を尽かし、米国が自滅するとともに対米自立する国々が増えて覇権が多極化する流れを作ろうとした。だが実際は、親米だけでなく非米的な諸国まで、米国が覇権を保持していた方が便利だと考えて米国の残虐な戦争犯罪から目をそらし続け、善悪が歪曲された状態を容認し続けた。
米国はいくら極悪な戦争犯罪を重ねても人類から見てみぬふりをされ、ネオコンの隠れ多極化策は失敗し続けてきた。米国は何をやっても悪にされず、対照的に、米国が敵視した諸国は濡れ衣もしくは針小棒大に極悪にされる。それならば、その善悪歪曲の構図を逆手にとって、ロシアがウクライナで見かけだけ派手な侵攻劇(実際の市民の死者は戦争として僅少)をやって戦争犯罪のレッテルを貼ってもらい、それをテコに米国側が自滅的な対露制裁をやって覇権を失って多極化するというシナリオはどうだろう、良いじゃん、やろうぜ、とネオコンとプーチンが意気投合し、実行してみたら大成功して今の事態になっているのでないか。
プーチンの偽悪戦略は、中国など非米諸国を米国側と分離させて覇権の多極化を進めるための策でもある。世界が今のように米国側と非米側に分裂しておらず、米国覇権下の世界単一市場だった従来、世界各国は米国側と非米側のどちらに属すか二者択一で決める必要などなかった。だが今や中立は許されず、非米諸国はロシアと結束せざるを得ない。否応なく多極化が進む。
今後の時代、ロシアや中国への敵視は、資源を入手できなくする馬鹿者の態度だ。日本では、右翼が対米従属の一環として昔からソ連ロシア敵視であり、彼らは米覇権崩壊とともに存在そのものが消えていきつつある(代わりにちゃんとした右派・保守派が出てくればいいのに、右の人々は米覇権衰退にも気づかずダメなままだ)。他方、左翼政党はかつて中露に寛容だったのに、最近になって中露敵視に転向しており、こちらも米英ネオコンのうっかり傀儡の馬鹿者になっている。諜報界肝いりの国際共産主義運動から発生したくせに、ちゃんと世界を見ていない。
プーチンの偽悪戦略について長々と説明したが、これは私が開戦直後から直感的に思って書いてきたことでもある。私の文章を読んで敏感に理解する読者にとっては同じことの繰り返しだろう。だが、教条的な日本の左翼さま・知識人たちとかジャーナリストさま方とか、自分の頭は柔軟だと思い込んで実は全くそうでない人々は、どのように説明しても理解してもらえず、だってプーチンは無実のウクライナに侵攻したでしょ、極悪でしょ、などと、うっかり傀儡的なことを言ってくるのだろう。新聞とかテレビとかが言っていることは最近まったく頓珍漢、というか最悪だ。最大の戦争犯罪者とは実のところ、戦争反対とか地球温暖化対策とかコロナワクチンを全員にとか、インフレ対策として利上げすべきだとか言っている、永久に軽信的な人々だと思う。
●ロシア軍 ミサイル攻撃でG7けん制 プーチン大統領 外国訪問へ  6/28
ロシア軍は、ウクライナの首都キーウなど各地にミサイル攻撃を繰り返し、ウクライナへの軍事支援について話し合われているG7サミット=主要7か国首脳会議へのけん制を強めています。さらにプーチン大統領は、28日から軍事侵攻後初めてとなる外国訪問を行う予定で、旧ソビエトの友好国との結束を確認し欧米に対抗したい狙いとみられます。
ロシア国防省は27日、ウクライナ東部ルハンシク州で州内最後の拠点とされるリシチャンシクの周辺を攻撃したほか、東部のドネツク州やハルキウ州それに南部のミコライウ州でもミサイル攻撃を行ったと発表しました。
また、26日には首都キーウの兵器の工場を攻撃したと発表したほかウクライナ政府によりますと、27日には中部のポルタワ州でもショッピングセンターが攻撃され、民間人の犠牲者が出ています。
キーウなどに対する攻撃についてウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアは国際的な行事があるたびに攻撃をエスカレートさせている」と述べ、ウクライナへの軍事支援について話し合われているG7サミットに対して、ロシアがけん制を強めていると非難しました。
プーチン大統領 軍事侵攻開始以来の外国訪問へ
プーチン大統領は、G7サミットへの対抗とも受け取れる動きを見せています。28日には、ロシアとともにBRICS=新興5か国と呼ばれるブラジルのボルソナロ大統領と電話で会談しました。
ロシア大統領府によりますと、会談の主要な議題のひとつは食料安全保障で、プーチン大統領は、欧米の制裁が、食料や肥料の円滑な供給を妨げていると批判した上で、ロシアは農業大国のブラジルに途切れなく肥料を供給すると強調したということです。
さらにプーチン大統領は、ことし2月に軍事侵攻を始めて以来初めてとなる外国訪問を行う予定で、28日には中央アジアのタジキスタンで首脳会談に臨みます。
続く29日には、石油や天然ガスが豊富なカスピ海沿岸のトルクメニスタンを訪れ、イランやアゼルバイジャンなど沿岸5か国の首脳会議に出席し、ロシアが勢力圏と見なす旧ソビエトの友好国や、中東のイランとの結束を確認したい思惑とみられます。
また30日には、G20=主要20か国の議長国を務めるインドネシアのジョコ大統領とモスクワで会談する予定で、ロシア大統領府は、ことし11月のG20首脳会議にプーチン大統領が対面で出席する意向を27日に明らかにしました。
現在、ドイツで開かれているG7サミットの閉幕後、29日からはスペインでNATO=北大西洋条約機構の首脳会議が始まることから、プーチン大統領としては、外交攻勢に乗り出すことで、友好国との結束を確認し、欧米に対抗したい狙いがあるとみられます。 

 

●ロシア 商業施設への攻撃で20人死亡 国連安保理 緊急会合開催  6/29
ロシア軍はウクライナへのミサイル攻撃を強化していると見られ、27日に攻撃を受けたウクライナ中部のショッピングセンターでは、これまでに少なくとも20人の死亡が確認されたほか、行方不明者の情報が40件以上寄せられていて、救助活動が続けられています。
国連の安全保障理事会は日本時間の29日朝に緊急会合を開き、冒頭、ビデオメッセージでウクライナのゼレンスキー大統領がロシアを厳しく非難しました。
ウクライナ各地ではロシア軍によるミサイル攻撃が激化していて、ウクライナ中部のポルタワ州では27日、クレメンチュクにあるショッピングセンターがロシア軍から攻撃を受けました。
ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官によりますと、これまでに少なくとも20人の死亡が確認されたほか、59人がけがをしているということです。
また、行方不明者の情報も40件以上寄せられているということで、救助活動が続けられています。
一方、ロシア側は今回の攻撃はショッピングセンターを意図的に狙ったものではないと主張しています。
ロシア国防省は28日、欧米側からウクライナに送られた武器や弾薬が保管された倉庫を攻撃した結果、弾薬が爆発し、隣接するショッピングセンターで火災が発生したと説明し、ロシア大統領府のペスコフ報道官も「ウクライナ側が言うようなショッピングセンターへの攻撃ではない」としています。
この事態を受け、国連の安全保障理事会は、日本時間の午前4時すぎから緊急会合を開き、冒頭、ビデオメッセージでウクライナのゼレンスキー大統領が「ロシアによるテロ攻撃だ」などとロシアを厳しく非難しました。
このあと、欧米を中心とした各国からもロシアを強く批判する声が相次ぎました。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は28日、ウクライナへの軍事侵攻以降初めてとなる外国訪問として、中央アジアのタジキスタンを訪れました。
ラフモン大統領との首脳会談の冒頭、プーチン大統領は「われわれの関係は深い信頼に基づいており、あらゆる分野で積極的に協力している」と述べ結束を強調しました。
ロシアに対し欧米各国は、G7サミット=主要7か国首脳会議に続いて、29日からNATO=北大西洋条約機構の首脳会議も開き、対応を協議する中、プーチン大統領としてはロシアの勢力圏である旧ソビエト諸国の引き締めを図り欧米側をけん制する思惑もあるとみられます。
●英首相、プーチン氏が「女性だったらウクライナに侵攻しなかった」 6/29
イギリスのボリス・ジョンソン首相は28日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「女性だったら」ウクライナに侵攻しなかっただろうと述べた。そして、「クレイジーでマッチョな」侵略は「有害な男らしさを示す完璧な例」だとし、「権力のある地位にもっと女性」が必要だと呼びかけた。
ドイツ南部エルマウでの主要7カ国首脳会議(G7サミット)終了後、ジョンソン氏は独放送局ZDFのインタビューに応じた。
男女平等や教育の重要性について語る中、「権力のある地位にもっと女性が必要だ」と述べた。
そして、「もしプーチンが女性だったら。彼が女性ではないことは明らかだが、もし女性だったなら、彼はあのようなクレイジーでマッチョな侵略戦争や暴力行為に踏み出さなかったと思う」と、ジョンソン氏は述べた。
「有害な男らしさを示す完璧な例を挙げるとするなら、彼(プーチン氏)がウクライナでやっていることが該当する」
また、G7首脳はウクライナでの戦争の終結を「切に」望んでいるものの、現在のところ「利用可能な取引」はないとした。
ただ、G7首脳が合意に「どんどん近づいた」として、G7サミットを「驚くべきものだった」と評価した。
ジョンソン氏は、ロシアとの交渉が「最終的に実現した場合に」ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の立場を「可能な限り最善の状態」にするために、西側はウクライナの軍事戦略を支援しなければならないとした。
NATO首脳会議へ
29日からは、スペイン・マドリードで北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が始まる。加盟各国の首脳は、将来的な脅威への対応策について話し合うこととなる。ジョンソン氏はNATO加盟国に対し、防衛費の増額を要請する予定。
防衛産業への投資と、ウクライナへの13億ポンド(約2150億円)相当の軍事支援を行った結果、イギリスの国防費は国内総生産(GDP)の2.3%に達すると、英政府は予測している。
NATOは加盟各国がGDPの2%以上を国防費に充てることを目標に設定しているが、一部はこれを達成できていない。
ベン・ウォレス英国防相は28日、ロシアによる脅威を念頭に、自国軍への支出をさらに増やすようジョンソン氏に求めた。
NATO首脳会議に先立ち、ロシアの侵攻を受けてNATO加盟への意欲を示しているフィンランドとスウェーデンについて、トルコが一転して加盟を支持することで合意した。
●「テロ国家の権利剥奪を」 ゼレンスキー大統領 6/29
ウクライナのゼレンスキー大統領は、国連安全保障理事会でオンライン演説し、商業施設がミサイル攻撃を受けた問題を巡り、ロシアの権限剥奪を主張した。一方、ロシア国防省は隣接する工場の武器庫を攻撃したと主張。
ゼレンスキー氏、国連で演説
ウクライナ中部で起きたロシア軍による商業施設へのミサイル攻撃を受け、ゼレンスキー氏は28日、国連安保理でオンライン演説した。「テロリスト国家の権限剥奪を強く求める」と述べ、国連総会や安保理でのロシアの権利剥奪を求めた。ゼレンスキー氏は、ミサイル攻撃をロシアが否定するなら国連の調査委員会を派遣すべきだとし、国連憲章に繰り返し違反した加盟国について、国連総会が安保理の勧告に基づいて追放できる規定にも触れた。
露「武器庫を攻撃」
一方、ロシア国防省は商業施設がミサイル攻撃を受けた問題について、隣接する工場の武器庫を攻撃し、爆発した弾薬の火が商業施設に燃え移ったと主張。英BBCの特派員は、住民の証言や店内の動画などを引用して施設が攻撃されるまで営業していたことを報道。工場は、従業員がキュウリの栽培のために使用していた温室が破壊されたと伝えている。ウクライナ大統領府は28日時点で商業施設への攻撃により少なくとも20人以上が死亡したことを明らかにしている。
「苦難の終わりが見えない」
ゼレンスキー氏の妻オレナさんは米CNNの取材に応じ、ロシアによるウクライナ侵攻について、「苦難の終わりが見えない」と述べた。商業施設へのミサイル攻撃について、オレナさんは「テロ」だとした上で、「衝撃を受けた」と話した。
●ロシア軍、連日ミサイル131発 侵攻5カ月目で攻撃強化―ウクライナ 6/29
ウクライナ軍のザルジヌイ総司令官は28日、ロシア軍が24日から4日間に発射した巡航ミサイルが131発に上ったと通信アプリ「テレグラム」で明らかにした。1日当たりで最も多かったのは、ウクライナ侵攻開始から丸4カ月となった24日の53発という。
現地からの報道では、28日、中部ドニプロの自動車修理工場なども攻撃目標となった。
ロシアのプーチン政権は5カ月目に入り、各地への攻撃を強化した形。先進7カ国首脳会議(G7サミット)や北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の動きをにらみつつ、ウクライナと後ろ盾の西側諸国をけん制しているもようだ。
G7首脳は声明で、民間人の犠牲もいとわない攻撃を「戦争犯罪」と非難。ロシア国防省は軍事目標を狙ったという主張を続けている。
26日に首都キーウ(キエフ)中心部の集合住宅がミサイルで攻撃され、1人が死亡。27日には中部ポルタワ州クレメンチュクの商業施設にミサイルが撃ち込まれ、20人が犠牲となった。
ゼレンスキー大統領は28日、テレグラムで「民間施設をミサイルで攻撃できるのはテロリストだけで、地球上に居場所はない」と指弾。幼稚園や学校なども攻撃目標になっていると説明した。その上で「ロシアはテロ支援国家に指定されなければならない」と国際社会に呼び掛けた。
●英首相、プーチン氏が「女性だったらウクライナに侵攻しなかった」 6/29
イギリスのボリス・ジョンソン首相は28日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「女性だったら」ウクライナに侵攻しなかっただろうと述べた。そして、「クレイジーでマッチョな」侵略は「有害な男らしさを示す完璧な例」だとし、「権力のある地位にもっと女性」が必要だと呼びかけた。
ドイツ南部エルマウでの主要7カ国首脳会議(G7サミット)終了後、ジョンソン氏は独放送局ZDFのインタビューに応じた。
男女平等や教育の重要性について語る中、「権力のある地位にもっと女性が必要だ」と述べた。
そして、「もしプーチンが女性だったら。彼が女性ではないことは明らかだが、もし女性だったなら、彼はあのようなクレイジーでマッチョな侵略戦争や暴力行為に踏み出さなかったと思う」と、ジョンソン氏は述べた。
「有害な男らしさを示す完璧な例を挙げるとするなら、彼(プーチン氏)がウクライナでやっていることが該当する」
また、G7首脳はウクライナでの戦争の終結を「切に」望んでいるものの、現在のところ「利用可能な取引」はないとした。
ただ、G7首脳が合意に「どんどん近づいた」として、G7サミットを「驚くべきものだった」と評価した。
ジョンソン氏は、ロシアとの交渉が「最終的に実現した場合に」ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の立場を「可能な限り最善の状態」にするために、西側はウクライナの軍事戦略を支援しなければならないとした。
NATO首脳会議へ
29日からは、スペイン・マドリードで北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が始まる。加盟各国の首脳は、将来的な脅威への対応策について話し合うこととなる。ジョンソン氏はNATO加盟国に対し、防衛費の増額を要請する予定。
防衛産業への投資と、ウクライナへの13億ポンド(約2150億円)相当の軍事支援を行った結果、イギリスの国防費は国内総生産(GDP)の2.3%に達すると、英政府は予測している。
NATOは加盟各国がGDPの2%以上を国防費に充てることを目標に設定しているが、一部はこれを達成できていない。
ベン・ウォレス英国防相は28日、ロシアによる脅威を念頭に、自国軍への支出をさらに増やすようジョンソン氏に求めた。
NATO首脳会議に先立ち、ロシアの侵攻を受けてNATO加盟への意欲を示しているフィンランドとスウェーデンについて、トルコが一転して加盟を支持することで合意した。
●米バイデン大統領 ヨーロッパ展開の米軍態勢強化の方針発表  6/29
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、アメリカのバイデン大統領はウクライナに隣接するポーランドにアメリカ軍の司令部を新たに常設するなどヨーロッパに展開する軍の態勢を強化する方針を発表しました。
アメリカのバイデン大統領は29日、スペインのマドリードで開かれているNATO=北大西洋条約機構の首脳会議に合わせてヨーロッパに展開するアメリカ軍の態勢を強化する方針を発表しました。
それによりますと、ウクライナに隣接するポーランドにヨーロッパ東部では初めてアメリカ軍の司令部を常設し、NATOとの相互運用性を強化するとしています。
またロシアと地理的に近く今回の軍事侵攻に危機感を強めるバルト諸国には、特殊作戦部隊を含むアメリカ軍のローテーション方式での配備を強化するとしました。
さらにスペインに配置しているアメリカ海軍の駆逐艦を4隻から6隻に増やすほか、イギリスにある空軍基地に最新鋭のステルス戦闘機F35の部隊を追加するということです。
バイデン政権はウクライナ情勢の緊迫化を受けて、ことしに入ってからヨーロッパに合わせておよそ2万人の兵士を追加派遣し、現在地域全体に10万人以上が駐留しています。
バイデン大統領としてはアメリカ軍の態勢をさらに強化することで、ロシアの脅威に直面するヨーロッパの同盟国の防衛への関与は揺るがないという姿勢を強調するねらいがあるとみられます。
●NATOは兵力増強へ、北欧2国の加盟に向け正式始動 6/29
北大西洋条約機構(NATO)はマドリードで首脳会議を行い、「即応部隊」を30万人程度に増強する計画を打ち出した。NATOはフィンランドとスウェーデンの加盟に向けても正式に動き出した。
両国の加盟を巡り難色を示していたトルコが支持に回り、ロシアとの国境を接してNATOの拡大がほぼ確実となった。
インドネシアのジョコ大統領がウクライナでゼレンスキー大統領と会談。ロシアによる侵攻後、ウクライナを訪問したアジア最初の首脳となった。ジョコ大統領は30日にロシアを訪問する予定だ。
ウクライナ、捕虜交換で144人が帰国へ−侵攻開始後で最大規模
ウクライナ政府はロシア側と捕虜交換に合意。2月24日の侵攻開始後で最大規模の144人が帰国する。軍情報機関がテレグラムで明らかにした。このうち43人はマリウポリのアゾフスターリ製鉄所で抵抗を続けた「アゾフ連隊」に所属する。帰国する兵士の大半が重傷だという。
ゼレンスキー氏、G20首脳会議への出席は条件次第
インタファクス通信によれば、ゼレンスキー氏はインドネシアが議長国を務める今年の20カ国・地域(G20)首脳会議への出席について、安全を巡る状況と「出席者リスト」次第だとの考えを示した。ロシアのプーチン大統領もG20に招待されている。
NATO、スウェーデンとフィンランドの加盟を支持
NATO加盟国首脳はスウェーデンとフィンランドの加盟を正式に支持し、両国の加盟議定書に署名することに合意した。NATO首脳らは「フィンランドとスウェーデンの加盟により両国のさらなる安全と、NATOの強化、欧州・大西洋の一段の安定がもたらされる」と指摘。「フィンランドとスウェーデンの安全保障は加盟手続き期間も含めNATOにとっては重要」との見解で一致した。
英国、ロシアの富豪ポターニン氏に制裁−ノリリスク・ニッケルCEO
英政府はロシアに対する経済制裁の一環として、同国で最も富裕とされるウラジーミル・ポターニン氏に制裁を科した。ポターニン氏はニッケルやパラジウム、銅の生産で世界最大手の一角を占めるノリリスク・ニッケルのトップでもある。
対ロシア制裁は効果あるだろう−ウクライナ大統領
ウクライナのゼレンスキー大統領はNBCニュースとのインタビューで対ロシア制裁について、同国に多大な影響を及ぼすとの見解を示した。ただその時期については、時間の問題だと述べるにとどまった。
ウクライナ中部ドニプロなどにミサイル攻撃
ウクライナ中東部ドニプロペトロウシク州にロシア軍のロケット弾6発が着弾し、ドニプロ市内のガソリンスタンドや鉄道インフラなどが被害に遭った。レズニチェンコ同州知事がテレグラムの自身のアカウントで明らかにした。
軍事力による領土拡大は許されないと中国に示すべきだ−英首相
ジョンソン英首相は英国と同盟国はウクライナ支援という原則を守るべきであり、軍事力による領土拡大は許されないと中国に示さなければならないと述べた。NATO首脳会議出席のためマドリードに向かう機内で語った。
米財務省がロシアの金輸入禁止、防衛関連企業に制裁
米財務省はロシアからの金輸入を禁止すると発表し、防衛関連企業ロステックに制裁を科した。制裁対象には他の軍事関連企業数社、同業界に関係する個人も含まれる。
ウクライナのショッピングモール攻撃での死者、20人以上に
ウクライナ中部クレメンチュクのショッピングモールへのミサイル攻撃による死者は少なくとも20人となり、40人余りが行方不明だと、同国大統領府のティモシェンコ副長官がテレグラムで明らかにした。他に59人が負傷したという。モナスティルスキー内相は、損傷の激しい遺体は身元確認が困難だとし、多くが空襲警報を無視して建物内にとどまったようだと語った。ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、現場には約1000人がいたと指摘し、ロシア政府を「世界最大のテロ組織」だと非難した。ウクライナ非常事態庁はテレグラムで、2月24日の侵攻開始以来、ロシア軍の攻撃で約3000人の民間人が殺害されたと主張した。
●「プーチンの犬」メドベージェフ前大統領の転落が止まらない 6/29
ロシアの若き大統領がシリコンバレーを視察──。後にも先にも考えられないような光景が実現したのは2010年のことだ。
44歳のドミトリー・メドベージェフ大統領は、ロシアが資源依存型経済から脱却するためのアイデア(と投資)を求めて、グーグルやアップルなどの大手テクノロジー企業を訪問。ツイッターの共同創業者であるビズ・ストーンは、「ツイッターの歴史でも指折りの特別な日」と語った。
メドベージェフ自身もツイッターデビューを果たした。「ハロー、みなさん。私もツイッターを始めました。これが私6の初メッセージです」とロシア語で(打ち間違い入りで)ツイートした。
あれから12年。最近のメドベージェフのソーシャルメディア投稿には、欧米政府高官に対する口汚い批判や、アメリカを攻撃するとか、ウクライナを地図から消し去るといった好戦的な言葉が目立つ。
ウクライナ侵攻がロシア国内にもたらす混乱が日常生活に表れ始め、さらにウラジーミル・プーチン大統領の健康悪化がささやかれるなか、メドベージェフは自己防衛策を強化しているようだ。
「ロシアのエリートの間では不安が大きくなっている。プーチンに守られてきたエリートも例外ではない」と、英王立統合軍事研究所(RUSI)のマーク・ガレオッティ上級研究員は語る。「この先どうなるのかという不安から、目立たないように隠れているエリートもいれば、声高に強硬な発言をするエリートもいる」
メドベージェフは昨年10月、ロシアの日刊紙コメルサントに反ユダヤ主義むき出しの寄稿をした。ロシアがウクライナ国境に兵力を集める少し前のことで、ユダヤ系であるウォロディミル・ゼレンスキー大統領をナチスと非難するなど、支離滅裂な陰謀論と罵詈雑言に満ちた寄稿だった。
かつては温厚に見えたメドベージェフの変節は、ロシアがヨーロッパにとって厄介な隣人から、存亡を脅かす存在に変貌したことと一致する。
突然ウクライナを猛批判
2月のウクライナ侵攻以来、ロシア政界はナショナリズム色が極めて濃くなり、異論を認めない風潮が強まった。メドベージェフの過激な主張も、強硬派の監視の目を意識して繰り出された可能性が高い。
「ロシア政治で起きている非常に興味深い変化の1つだ」と、ロシアのコンサルティング会社R・ポリティクのタチアナ・スタノバヤ代表は語る。「ロシアは変わった。そしてメドベージェフは、自分が新しいロシアの一員であることを示す必要に駆られている」
リベラル派からはプーチンの犬と揶揄され、ロシアの安全保障当局からは、アメリカに擦り寄ったと疑念の目で見られて、近年のメドベージェフは孤立していた。だから余計に、プーチンの厚意にすがるしかなくなっていた。「メドベージェフはロシアの政治エリートで、最も立場が弱い1人だ」とスタノバヤは語る。
メドベージェフは6月のテレグラムへの投稿で、最近極端な愛国主義を唱えるようになった理由を説明した。「あいつらのことが憎いからだ。連中はろくでなしのクズだ」。この「連中」とはウクライナのことらしい。「私の命ある限り、あいつらを消滅させるために何でもする」
メドベージェフが大統領に就任したのは08年、プーチンが当時の憲法が定める大統領の任期上限に達して、ひとまずその座を降りなければならなくなったときだ。それはロシア国内にも欧米諸国にも、大きな希望を生み出した。
なにしろメドベージェフは、プーチンをはじめ過去のロシア(とソ連)の政治指導者たちとは大きく違っていた。
大学を卒業したのはベルリンの壁崩壊の数年前で、ソ連の政治に染まっていなかった。ロシアの「弱い民主主義」と「非効率な経済」は問題だと語るなど、言うことは言う。そしてテクノロジーが世界を変えるという当時の楽観論に同調しているように見えた。
そんな若きロシア大統領にチャンスを感じ取ったアメリカのバラク・オバマ大統領は、米ロ関係の「リセット」を目指して、就任1年目の09年にモスクワを訪問。ロシア経済学院の卒業式に出席して、「(ロシアとアメリカは)一緒に、人々が守られ繁栄が拡大し、われわれのパワーが真の進歩のためになる世界を築くことができる」と演説した。
だが、欧米諸国にこうした希望を抱かせることになったメドベージェフの特質が、ロシア政界では、保守派の愚弄と疑念を招く原因となった。
11年には、メドベージェフが大学の同窓会で、1990年代のロシアのヒット曲「アメリカン・ボーイ」に合わせて踊る動画がリークされ、ネット上で瞬く間に広がった。
「プーチン後」はどうなる
だがやがて、メドベージェフはプーチンが憲法上、大統領に復帰できるようになるまでの間、その席を温めておく存在にすぎず、首相であるプーチンの意向のままに動いていることが明らかになった。
ウィキリークスに流出した2010年の外交公電によると、駐ロシアのアメリカ大使は、2人の関係を「二頭政治のフォーマット」だと表現した。メドベージェフは11年に、大統領として再選を狙う可能性を一瞬ほのめかしたが、すぐに身を引いてプーチンに大統領復帰の道を開いた。
「それ以来、メドベージェフは独立した政治家としては隠遁したようなものだった」と、カーネギー国際平和財団でロシア・ユーラシアプログラムのディレクターを務めるユージーン・ルマーは語る。
ロシアの反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイは17年、ロシアの政治家による幅広い腐敗を暴露する動画を発表した。プーチンが大統領に復帰すると入れ替わるように首相に就任していたメドベージェフもターゲットの1人だ。
すると、その豪勢な暮らしぶりを知った多くの市民が全国で怒りのデモを繰り広げた。10代の若者たちは、黄色いアヒルのおもちゃを手にデモに参加した。メドベージェフの広大な別荘に、ヨットハーバーやスキー場やヘリ発着場だけでなく、アヒル小屋があることにちなんだ抗議だ。
支持率が38%に落ち込むと、メドベージェフは20年に首相辞任を発表した。それでも政界から消えたわけではなく、新設されたロシア安全保障会議副議長に就任した。「メドベージェフは無職になってはいない」とガレオッティは言う。「だが何の仕事をしているのかは誰も知らない」
人気がないメドベージェフが政治家として生き延びてこられたのは、プーチンが「従順な歩兵」に義理堅い証拠だ。「プーチンは変化を好まない。物事をかき回されることを嫌がる。側近集団の顔触れが変わることも好まない」と、ガレオッティは指摘する。
コロナ禍が始まってから2年、プーチンはいまだに群衆に近づこうとしないし、政府高官とさえ距離を置きたがる。このため欧米のメディアでは、「プーチン健康悪化説」が盛り上がる一方だ。
もちろんロシア政界も噂には気付いている。メドベージェフの最近の行動は、長年自分を守ってくれたパトロンも、政治的・肉体的な死と無縁ではないという思いと関係していると、スタノバヤは語る。
「メドベージェフは『プーチン後のロシア』における、自分の居場所を確保するために戦っているのだ」
●プーチン氏大誤算≠フ北欧2国NATO入り トルコが一転支持 6/29
NATO(北大西洋条約機構)は、ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアに対峙(たいじ)する態勢を強化する。トルコが、北欧フィンランドとスウェーデンの加盟を支持することで合意したのだ。スペイン・マドリードで開催されるNATO首脳会議(28〜30日)には、岸田文雄首相が日本の首相として初めて参加することでも注目されるが、G7(先進7カ国)首脳会議と同様、対中露で結束する議論が展開されそうだ。
「フィンランドとスウェーデンの加盟は、両国とNATO、欧州の安全保障にとって良いことだ」
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は28日、マドリードでの記者会見で、こう語った。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、フィンランドとスウェーデンは5月、NATO加盟を申請した。加盟には全加盟国の承認が必要だが、トルコはテロ組織と見なす非合法組織クルド労働者党(PKK)を2国が支援しているとして反対した。最終的に、トルコは2国が自国に武器禁輸をせず、テロ容疑者を引き渡す方針を示したため支持に回ったようだ。
トルコは火事場で漁夫の利を得た。ロシアは包囲網を強化され、打撃となるのは確実だ。
NATO首脳会議に先立ち、3日間の会期を終えたG7首脳会議では、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対し、「厳しい経済的代償を科し続ける」とする首脳声明を採択した。
親露的な姿勢を続ける中国にも、ロシアに無条件の撤退を即時突き付けるよう要求したうえで、東・南シナ海での覇権拡大に「深刻な懸念」を示し、力による一方的な現状変更の試みに「強く反対する」と言及した。
今回のNATO首脳会議では、今後10年間の行動指針となる新たな「戦略概念」を採択し、中国への立場を初めて示す見通しだ。
岸田首相は、NATO首脳会議でどんな役割を求められそうか。
国際政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「日本が、アジアにおいて強い存在感を持つ国と認識されていることに変わりはない。特に、インドや東南アジアの一部には、中露に対して中立的な立場を取りたい国もある。日本には、対中露でアジアをまとめるリーダーシップが求められている」と語った。
●「プーチン後継者」最有力のドミトリー・パトルシェフとは何者? 6/29
健康不安説が完全に払拭できない中、ロシア大統領選挙が1年前倒しされ、プーチン不出馬との情報が流れている。そして後継は、4年前の農相就任時からダークホースとされてきた、盟友パトルシェフ安保会議書記の子息ドミトリー氏だという。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は6月17日、「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム」の全体会合に登壇し、演説や発言を行った。発言に新味はなく、ウクライナ戦争の出口戦略も示さなかったが、声には張りがあり、健在を誇示した。
3時間40分にわたった生中継イベントへの登場は、欧米や独立系メディアで報じられる癌説、パーキンソン病説など、健康不安を払拭する狙いがある。ただし、6月に予定された国民とのテレビ対話は延期になり、憲法で規定されている議会教書演説も1年以上行われていない。
一方で、ロシアの通信アプリ「テレグラム」で話題の「SVR(対外情報庁)将軍」は、プーチン大統領の後継者問題で投稿を続け、ニコライ・パトルシェフ安保会議書記の長男、ドミトリー・パトルシェフ農相(44)が来年にも次期大統領に就任すると予測している。真偽は不明ながら、ロシアの政治専門家の間でも「ダークホース」と注目されている農相の人物像を探った。
大統領選を1年前倒しか?
クレムリンの内情を知る立場にあるとされる「SVR将軍」は5月27日、「プーチンは次女のエカテリーナ・チーホノワを与党・統一ロシアの党首に、自らの後任の大統領にドミトリー・パトルシェフを起用することに大筋で同意した」と投稿した。
与党の支持が低下し、女性党首を求める声があることから、不人気のドミトリー・メドベージェフ党首(安保会議副議長)に代わる新党首として、モスクワ大学理事などを務める次女のエカテリーナさんが候補に挙がっているという。
6月6日の投稿は、プーチン大統領が今年末にも大統領選を来年3月26日に前倒しで実施すると発表し、自らは出馬せず、パトルシェフ農相を後任に推薦すると伝えた。
「SVR将軍」は、「プーチンは国家評議会議長のポストを維持し、健康が許す限り、真の指導者の座に居続ける」とし、院政を敷くと予測している。
6月16日の投稿は、「権力移行に伴う政治プロセスが始まるため、ウクライナの戦争は10月か11月までに終了させる必要がある」「大統領に近いエリートの間で緊張が高まり、秋の終わりか冬の初めにピークに達する」と予測した。
ただし、6月17日のプーチン大統領の演説は、“特別軍事作戦”の成功に自信を示すなど、政権担当意欲が満々で、来年にも退陣するような素振りはなかった。来年3月の大統領交代説は、政権の動揺を狙ったフェイクニュースの可能性もある。
4年前の入閣から将来を嘱望
パトルシェフ農相は4年前に入閣した時から、将来を嘱望されていた。政権に近い政治学者、スタニスラフ・ベルコフスキー氏は2021年10月、独立系ラジオ局『モスクワのこだま』で、プーチン大統領の後継者で最有力なのはパトルシェフ農相だとし、「食料価格高騰などで各方面から叩かれているのは偶然ではない。深い政治的背景がある」と述べた。
同氏によれば、大統領に近いチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長も農相について、「偉大な政治家であり、真のプロフェッショナルだ」と評価したという。
政治評論家のパベル・シピーリン氏も2018年、農相抜擢について、「家柄だけでなく、ビジネスセンスもある。情報機関とも関係がある。地方知事などを経て最高権力者を目指すのではないか」と予測していた。
ロシア・エリートの研究で知られる著名な社会学者、オリガ・クリシュタノフスカヤ氏は2019年10月、カーネギー財団モスクワセンターのシンポジウムで、「シロビキ(武闘派)の子弟から後継者が出るとすれば、パトルシェフ農相だろう。エリートの子弟の多くは国営企業幹部になっているが、政府の役職はまだ少ない。その中でパトルシェフは、農相という極めて重要なポストを射止めた」と分析していた。
政権要人の子弟で政界入りしたのは、大統領の柔道仲間でオリガルヒの子弟、アンドレイ・トルチャク与党書記長兼上院第1副議長程度だ。
銀行家として手腕を発揮
パトルシェフ農相は1977年にレニングラードで生まれた。当時、父親はプーチン氏らと旧ソ連国家保安委員会(KGB)レニングラード支部で働いていた。長男の彼は国立経営専門大学を卒業後、働きながら、外務省外交アカデミー、連邦保安庁(FSB)アカデミーで学んだ。FSBにも籍を持ち、階級は中尉という。2008年に国立サンクトペテルブルク大学で経済学博士号を取得したが、論文盗用疑惑もあるという。
大学卒業後、運輸省で働いた後、対外貿易銀行に勤務し、副頭取も務めた。2010年から18年まで、ロシア農業銀行頭取。この間、サービスを多角化して売り上げを伸ばし、ロシアの「バンカー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたこともある。2018年5月、プーチン大統領の4期目発足に伴い、39歳で農相に抜擢された。大統領が長年の盟友の長男を優遇した形だ。
今年5月末には、天然ガス最大手、ガスプロムの取締役に就任した。ウクライナ侵攻後、ロシアとの癒着を批判されたゲアハルト・シュレーダー元独首相が取締役を辞職したことに伴う人事だ。「SVR将軍」は、「パトルシェフ農相は政権交代前にリスクを避けるため、政府を離れて中立的なポストに就く可能性がある」と伝えていた。
実弟はガスプロムの子会社幹部を経て、研究機関「北極イニシアチブ・センター」社長。
略歴を見る限り、農相はサラブレッドであり、情報機関の経験や銀行経営者としての手腕もある。プーチン大統領の後継者は、シロビキとオリガルヒの両方からの支持が不可欠であり、条件を満たしている。ただし、農業や金融以外の発言は知られておらず、外交・安保政策は未知数だ。
パトルシェフ書記と対立した大統領が孤立か
正体不明の「SVR将軍」は6月16日付で、気がかりな情報を投稿している。
それによると、プーチン大統領は14日に政権のインナーサークルを集めてウクライナへの「特別軍事作戦」について協議し、「近い将来、核戦争が避けられない。われわれは決定的な第一撃を行う準備をしなければならない」と述べた。大統領はこのところ、核攻撃の可能性を排除し、核の脅しもしなくなっていただけに、この発言は出席者を大いに驚かせたという。
長男が大統領になる可能性が出てきたパトルシェフ書記は、プーチン発言に反発するかのように、翌日ウクライナとの和平案に言及したという。確かに、パトルシェフ書記は6月15日、BRICS諸国代表との会議で、「ロシア指導部はウクライナとの停戦につながる外交的、政治的合意に早急に到達したい」と停戦を支持し、政府系メディアが大きく報じた。
大統領の腹心であるユーリー・コワルチュク・ロシア銀行会長、イーゴリ・セチン・ロスネフチ社長、セルゲイ・チェメゾフ・ロステク社長ら有力オリガルヒもパトルシェフ書記の立場を支持し、強硬派の大統領が孤立したという。
もっとも、「SVR将軍」は4月末の投稿では、「プーチンとパトルシェフ(父)は、大統領の健康状態が急激に悪化した場合、国の運営をパトルシェフ書記に移管することで一致した」とし、パトルシェフ父の後継説を指摘。その前には、パトルシェフ農相がウクライナ侵攻を受けて、他の一部閣僚と共に辞表を提出したとも伝えており、一連の投稿は整合性に欠けている。
女性・不動産スキャンダルも致命傷にはならず
有望株・パトルシェフ農相のアキレス腱は、女性スキャンダルや不動産スキャンダルかもしれない。
後継説が出始めた昨年11月、独立系メディア『ソベセドニク』は、「パトルシェフ農相には、2人の妻と計6人の子供がおり、広大な不動産を所有している」などと不透明な私生活を報道した。
農相は公式には「独身」だが、事実婚らしい。2020年の申告所得は1億3310万ルーブル(約2億6000万円)で、「畑で働くロシアの平均的な農民の427年分の年収」という。
『ソベセドニク』によると、農相はモスクワ郊外に運動場のある広大な邸宅や中心部の複数の高級マンションなどを所有する。事実婚の女性名義の不動産や高級車もある。「パトルシェフ農相がロシアでは控えめな閣僚にみえるのは、彼が慎ましい生活を送っているからではなく、それを注意深く隠しているからだ」という。
ただし、こうしたスキャンダルが致命傷になるとは思えない。エリートの大半がこうした特権、利権を享受しているからだ。政府要人の多くは、反政府活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏のグループによって汚職・腐敗や不透明な不動産取得を糾弾されたが、致命傷にはなっていない。結局、ロシアの歴史はエリートによって決められ、一般庶民は無力なのだ。
ウクライナ戦争の展開も、エリート層の動向がかぎを握りそうだ。
●ロシア、北欧のNATO加盟に反発 プーチン氏誤算か 6/29
フィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)に加盟する見通しになった。ロシアのリャブコフ外務次官は29日「拡大はNATO自らの安全保障の強化をもたらさず事態を不安定化する」と反発を示した。
メドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は28日、ロシア紙に対し「バルト海地域の非核化の地位は過去のものとなる」と述べた。軍事専門家らは、ロシアがバルト海に面した飛び地カリーニングラードやベラルーシに核兵器を配備する可能性を指摘している。
北大西洋条約は集団的自衛権を定め、加盟国に攻撃があればNATO全体で対応する。ロシアは自国への脅威と見なし、東方拡大を常にけん制してきた。
プーチン大統領はウクライナ侵攻開始当日の2月24日、テレビ演説で「NATOの継続的な拡大はロシアの生死にかかわる脅威だ」と述べた。5月にはニーニスト・フィンランド大統領との電話協議で同国の加盟方針は「誤りだ」と直接伝えていた。
だが、侵攻が北欧2カ国に歴史ある中立政策からの転換を決断させた。プーチン氏にとっては誤算だった可能性がある。
機能不全が指摘されたNATOも、危機意識の高まりで抑止力強化に向けた結束が一段と強まっている。
●プーチン大統領 “勢力圏”と結束強調 欧米側けん制か  6/29
ロシアのプーチン大統領は中央アジアのトルクメニスタンを訪問し、天然資源が豊富なカスピ海沿岸の5か国による首脳会議に出席しています。ロシアが勢力圏と見なす旧ソビエト諸国やイランとの結束を強調し、欧米側をけん制したい思惑があるとみられます。
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナへの軍事侵攻後、初めてとなる外国訪問を行っていて、28日に中央アジアのタジキスタンを訪れたのに続き29日にはトルクメニスタンを訪れました。
そして天然資源が豊富なカスピ海沿岸のトルクメニスタン、カザフスタン、アゼルバイジャンの旧ソビエト諸国、それにイランが参加する5か国の首脳会議に出席しています。
これに先立ちプーチン大統領はトルクメニスタンとの首脳会談で「今回の会議はわれわれの国や地域全体にとって非常に重要なイベントであり、有益なものとなるだろう」と述べました。
欧米を中心にロシア産の天然資源に依存しない「脱ロシア化」の動きがみられる中、プーチン大統領としてはエネルギー分野でのロシアの存在感を示すねらいもあるとみられます。
またNATO=北大西洋条約機構の首脳会議で、北欧2か国のNATOへの加盟などをめぐり協議が行われるのに対し、プーチン大統領としてはロシアが勢力圏と見なす旧ソビエト諸国や、中東のイランとの結束を強調し欧米側をけん制したい思惑があるとみられます。
訪問中、プーチン大統領はイランのライシ大統領などとの個別の首脳会談も行うことにしています。
●英、ロシア第2の富豪に制裁 6/29
英政府は29日、ウクライナ侵攻を受け、ロシアの大富豪らを新たに制裁対象とすると発表した。新興財閥オリガルヒの1人、ウラジーミル・ポターニン氏と、プーチン大統領と親戚関係にあるとされる石炭採掘会社の会長アンナ・ツィビレワ氏が含まれる。英政府は、ポターニン氏を「ロシアで2番目の富豪」としている。
発表では、ポターニン氏が、侵攻後もプーチン政権の支援を続けていると指摘。英国内の財産凍結や英国への渡航禁止などが科される。
英政府報道官は、プーチン氏がウクライナ侵攻を続ける限り、制裁でロシアを弱体化させるとコメントした。

 

●プーチンに衝撃!友好国・中国がロシア向け輸出を「激減」させていた 6/30
「ロシアを柵で囲うことは不可能」プーチン大統領の言葉は真実か?
ウクライナによる必死の抵抗は続くが、「ピョートル大帝(ピョートル1世)の栄光」を信奉するロシアのウラジーミル・プーチン大統領はますます自身の信念を深めているようだ。
プーチン大統領は、6月、モスクワで開催された「ピョートル1世生誕350年記念展」を見学した。その後、ロシアの若い企業家とタウンホール形式の会議を開き、冒頭で18世紀のスウェーデンとの戦争でバルト海沿岸を征服したピョートル大帝について振り返った。
「ピョートル大帝が征服した土地は、正真正銘のロシアである」「ピョートル大帝が占領した土地にサンクトペテルブルクを建設したとき、ヨーロッパのどの国もロシアのものだと認めなかった」「しかし、そこには昔から(ロシアの人口の多数を占める)スラヴ系民族も住んでいた」「ピョートル大帝は何も奪っていない。取り戻したのだ」
プーチン大統領は、肘掛け椅子にもたれながら、「ウクライナ戦争でもロシアは同じことをしている」と笑顔で話している。モスクワにある大統領の執務机の脇には、ピョートル大帝のブロンズ像が置かれているという。
ピョートル1世は、ロシア最初の皇帝だ。開明的だったとされ、サンクトペテルブルクに欧州の文化を取り入れ、ロシアに西洋の技術や文化をもたらし「欧州の窓を開いた」ことで知られている。
一方、現在のロシアは、ウクライナへの侵攻の結果、西欧諸国の猛反発に遭い、厳しい経済制裁が課されている。
しかしプーチン大統領は、その記念展で「ロシアはソビエト連邦のように世界から自らを閉ざすことはない」「米国や欧州連合(EU)がロシアとのビジネスを望まないとしても、アジア、ラテンアメリカ、アフリカの国々はビジネスを行うだろう」とも述べた。そして、「ロシアのような国を柵で囲うことは不可能であり、われわれ自身もそのような柵を設置するつもりはない」と話している。
「私は、ピョートル大帝と同じで、領土侵略をすると同時に開明的な指導者なのだ」と言いたいのだろう。
プーチン大統領が話したように、ロシアを「柵で囲おう」とする国際的な経済制裁は機能していないのではないかという疑念が渦巻いている。その大きな抜け穴の一つと目されているのが中国だ。
しかし、実はプーチン大統領を確実に追い詰めていることを示唆するデータもある。習近平国家主席がロシアへの「無制限の協力」を公言した中国ですら、ロシアに対する「輸出」を激減させているのだ。そのことがプーチン大統領にどれほどの打撃を与えるのか。調査結果を踏まえながら考察したい。
ロシアへの経済制裁に立ちはだかった中国とインド
今、ウクライナ戦争では、ウクライナが西欧諸国に期待する武器の供与が思うように進んでいない。そんな中、物量作戦を展開するロシア軍は、血みどろの損害を垂れ流しながら、しかし着実にウクライナへの侵攻を進めている。
ウクライナ東部の都市セベロドネツクは、数カ月にわたる過酷な戦闘の末、「完全にロシアの占領下にある」と、同市の市長が6月25日に述べた。その前日には、「セベロドネツクにいた最後の部隊は、防衛を続けることが不可能になったため、退去を命じられた」とも述べている。
セベロドネツクの戦いは、ウクライナ、ロシア双方にとって残酷なものになったようだ。市街戦では、激しい砲撃戦が繰り返され、双方に死傷者が出た。ウクライナ軍は、建物や路地を利用して接近し、ロシアの優れた火力を否定することで、ロシアの進撃を遅らせようとした。しかし、最終的にロシア軍が制圧することになった。
さらに悪いことに、欧米が課した経済制裁が、プーチン大統領を思いのほか苦しめていないのではないかという実態が明らかになっている。
ロシアの最大の輸出品である「石油」は、ウクライナの戦争で展開されるロシア軍の弾丸やロケットの資金源となっている。欧米は、制裁を通じてロシアの最大市場である欧州から切り離すことで、この石油という資金源を断ち切ろうとしていた。
しかし、そこに立ちはだかったのが中国とインドだ。
戦争が始まって約4カ月が経過したが、ロシアの原油輸出量は、わずかに減少した程度だ。中国とインドへの販売によって、激減した欧州向けの輸出を埋めてしまった。事実、5月にインドと中国の両国が購入したロシア産原油は1日約240万バレルで、ロシアの輸出量の半分を占めている。
中国とインドは、ロシアから世界の基準価格の30%引きで原油を購入しており、インフレ上昇に見舞われる世界の中で両国の経済は大きな恩恵を受けている。そんな大胆な値引きにもかかわらず、ロシアの石油価格は一時、世界的なエネルギー価格の恩恵を受けて1バレル100ドル以上まで上昇した。そうした相場上昇の結果、トータルでロシアの石油収入は増加している。
世界の知恵が結集した「ロシア包囲網」がプーチン大統領を追い詰めている証拠
このことは、ロシアへの経済制裁が短期的にはまるで機能していない可能性を示唆している。このまま、自らをピョートル大帝になぞらえるプーチン大統領が勝利してしまうのだろうか。
そんなことは決してない。
中長期的に、ロシアがかなりしんどくなっていくのは間違いなさそうだ。そのために、世界中が知恵を出し合っている。
まず、ウクライナ侵攻後、世界の対ロシア輸出は、制裁を発動した西側諸国だけでなく、中国を含む非制裁国からも激減したことが、新しい分析で示されている。
54カ国のデータを分析したピーターソン国際経済研究所の調査レポート「Export controls against Russia are working—with the help of China(ロシアに対する輸出規制は中国の協力の下で機能している)」によると、2月24日の侵攻開始からおよそ2カ月間で、制裁対象国のロシアへの輸出は約60%減少し、非制裁対象国の輸出は約40%減少したという。中でもロシアの友好国であり、ウクライナ戦争前の2021年にはロシアの総輸入の4分の1を供給していた中国の対ロ輸出も激減している。
「米国の輸出管理・制裁法では、中国企業がロシア向け機密品の販売禁止に違反すると、重要な技術、商品、通貨(主要な基軸通貨発行国は全て制裁に参加している)を入手できなくなる可能性があるとされている。中国の行動はこのリスクを反映している。侵攻後の対ロ輸出は、2021年後半と比較して38%減少し、非制裁国の平均と同水準となっている」(同レポート)
エネルギーの輸出によって、ロシア経済の下支えはなされているものの、ロシアが戦争を継続し、最先端産業を維持するために必要なものを手に入れにくくなっている。「ロシアは制裁を回避し、購入品を偽装して怪しい仲介業者を通す」(同)などの懸命な「努力」を続けているのだという。つまりは密輸入だ。
制裁や輸出規制の脅威がプーチン大統領の侵攻を抑止できなかったことは明らかだ。しかし、ロシア経済省が「2022年に最大12.4%の国内総生産(GDP)縮小」を予測したように、中長期的な展望は見えている。
ロシア支配下地域の行政幹部をウクライナのゲリラ戦闘員が殺害
経済分野だけではない。ロシアの無法な侵略によって、侵略された側の反ロシア感情が急激に高まっているのも事実だ。
ロシアがウクライナにおける領有権を主張するにつれ、占領された都市ではウクライナのナショナリズムが高まっている。さらに、ロシアによる弾圧や経済・人道状況の悪化に刺激されて、党派的な抵抗運動が拡大している。
米紙「ニューヨーク・タイムズ」(6月24日)によれば「最新の攻撃では、ウクライナのゲリラ戦闘員がロシア支配下の南部ケルソン地方でクレムリン(ロシア政府)の支持を受ける政治家を殺害したと主張した」という。「ウクライナとロシアの両政府関係者によると、同地域の青年・スポーツ局長のドミトリー・サヴルチェンコ氏は車の中で爆破された。ロシアが任命した行政の副代表であるキリル・ストレモウソフ氏は、この攻撃を『卑劣なテロ行為』と呼んだ」
長引くであろう経済制裁、そして武装組織によるテロリズム。ロシアが払う侵攻の代償は高まりつつある。
プーチン大統領は、ピョートル大帝時代に起こったことを念頭に、「今怒っている西側諸国もいずれ諦めるときがくる」と相手の足元を見ているようだ。ウクライナにとって、そして西側諸国にとって、試練の時が訪れている。
●ロシア軍が「空洞化」と英国防省 退役者で将校補充か ウクライナ撤退も 6/30
英国防省は28日、ロシア軍がウクライナ侵攻作戦で急速に戦力を消耗していると分析し、軍の「空洞化」が進んでいるとの見方を示した。
ロシア軍は死傷するなどして戦線を離脱した幹部の不足を補うため、退役将校や予備役を登用。東部ドンバス地方などでは戦闘能力が低下したまま消耗戦を展開しているが、「長期的には持続不可能」とみられている。
ウクライナ軍によると、ロシア軍は24〜28日に巡航ミサイル130発以上を発射した。27日には中部クレメンチュクの商業施設に旧ソ連製の長距離対艦ミサイルが着弾し、市民約20人が死亡。報道によれば、29日にも南部ミコライウで集合住宅が攻撃され、少なくとも3人が死亡した。
東部の要衝セベロドネツクを制圧したロシア軍は、隣接するリシチャンスクの攻撃に移行している。米シンクタンク「戦争研究所」は報告書で、ウクライナ軍が「戦いながらの撤退」を行っている可能性が高いと分析。近くリシチャンスクを放棄し、西方のセベルスクやスラビャンスク、クラマトルスクを拠点として態勢を立て直すことも視野に入れていると指摘した。
同研究所は、ロシアが国民総動員をかけずに消耗した戦力を補充する方策を模索しているとも分析した。米国防総省高官の話として、特に深刻化している将校の不足を補うため、退役者や予備役に依存しつつあるとの見方を示した。
一方、タス通信は29日、ロシア占領下にあるウクライナ南部ヘルソン州当局がロシアとの併合の是非を問う住民投票実施に向け、準備を始めたと報じた。ロシア当局は28日、協力を拒んだとして、州都ヘルソンのコリハエフ市長を拘束した。 
●ロシア軍 ウクライナの東部など広範囲で攻撃強める  6/30
NATO=北大西洋条約機構が首脳会議を開きロシアへの対応について議論を深める中、ロシア軍はウクライナの東部に加え南部や中部など広範囲にわたって攻撃を強めています。一方、ロシアのプーチン大統領は外交攻勢も強めていて欧米側をけん制する思惑があるとみられます。
ロシア軍は完全掌握を目指している東部ルハンシク州のウクライナ側の拠点、リシチャンシクへの攻撃を続けています。
さらにロシア国防省は29日、ロシア空軍が東部のドネツク州やハルキウ州、南部のミコライウ州などでウクライナ軍の指揮所や武器庫への攻撃を行ったと発表しました。
ウクライナの非常事態庁によりますと、南部のミコライウ市では29日朝、5階建ての集合住宅にミサイル攻撃があり、これまでに4人が死亡し、2人がけがをしたということです。
27日には中部ポルタワ州のクレメンチュクにあるショッピングセンターが攻撃を受けるなど、ロシア軍はこのところ東部に加え南部や中部など広範囲にわたって攻撃を強めています。
一方、ウクライナ軍の動きについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は28日「ウクライナ軍は近くリシチャンシクを含めルハンシク州から引きあげる可能性が高い」と分析し、ウクライナ側は部隊をより防御しやすい場所に移動させることでロシア軍の部隊を消耗させようとしているという見方を示しました。
プーチン大統領 外交攻勢強める 欧米側をけん制か
こうした中、ロシアのプーチン大統領は29日、中央アジアのトルクメニスタンを訪れて天然資源が豊富なカスピ海沿岸の5か国の首脳会議に出席し、資源開発や輸送ルートの整備などで協力を深めたい考えを示しました。
欧米を中心にロシア産の天然資源に依存しない「脱ロシア化」の動きがみられる中、プーチン大統領としてはエネルギー分野でのロシアの存在感を示すねらいもあるとみられます。
プーチン大統領は30日には首都モスクワでG20=主要20か国の議長国を務めるインドネシアのジョコ大統領と会談する予定です。
NATOが首脳会議を開いてNATOの拡大やロシアへの対応について議論を深める中、プーチン大統領としては外交攻勢も強めていて欧米側をけん制する思惑があるとみられます。
●露プーチン大統領、カスピ海沿岸国と首脳会議 連携をアピール 6/30
ロシアのプーチン大統領は29日、中央アジアのトルクメニスタンを訪れ、カスピ海沿岸国との首脳会議を行いました。NATO首脳会議を行っている欧米に対抗し、ロシアに近い国々との連携をアピールした形です。
29日、プーチン大統領はカスピ海沿岸国であるトルクメニスタン、アゼルバイジャン、イラン、カザフスタンとの首脳会議に出席しました。
会議の冒頭、プーチン大統領は、カスピ海地域を国際物流のハブに変えるなどと述べて、経済面などでの5か国の結束を促しました。
会議のあと発表された声明では、カスピ海沿岸の5か国の軍事協力の重要性を強調すると同時に、「カスピ海沿岸国に属さない軍隊をカスピ海に入れないこと」や、「カスピ海沿岸国の安定した軍備バランスを保つこと」などの原則を確認しました。
プーチン大統領にとってはウクライナ侵攻後初めての外国訪問ですが、スペインでNATO首脳会議が行われている同じ日に、ロシアに近い国々との連携をアピールする機会となり、陣営の結束を固める狙いがあります。
●黒海要衝の島、ロシアから奪還 ウクライナ成果も「戦争長期化」分析 6/30
ウクライナ軍は30日、黒海に浮かぶ要衝ズメイヌイ(蛇)島をロシア軍から奪還したと発表した。ロシア国防省も声明で、守備隊の撤退を確認。「穀物輸出の人道回廊をつくる国連の努力を妨害しないことを国際社会に示した」と述べ、善意の対応であると主張した。
同島では、ロシア軍が2月下旬の侵攻開始直後、ウクライナ軍の守備隊が「降伏要求」を拒否。結果的に制圧されたものの、ウクライナ側は抵抗の象徴と見なした。欧米が供与した対艦ミサイル「ハープーン」で攻撃するなど、奪還を試みていた。ゼレンスキー政権は成果を得た形だ。
ロシア軍は4月に黒海艦隊の旗艦「モスクワ」もミサイル攻撃で失っており、黒海での劣勢は南部の戦況に影響しそうだ。南部へルソン州ではウクライナ軍が反撃を強め、一部領土を奪還したとも伝えられる。
一方、ヘインズ米国家情報長官は29日、商務省の会合でウクライナ情勢報告を行い、ロシアのプーチン大統領がウクライナの大部分を占領することを依然目指しているとの見方を示した。ただ、戦闘による損失で弱体化したロシア軍の動きは緩慢で、近い将来の目標達成は困難だとし「戦争は長期間にわたり続く」と分析した。ロイター通信などが報じた。
●欧米が吹聴する「すべてプーチンが悪い」の大ウソ 複合戦争で勝利する中露 6/30
今や全西側諸国とロシアとの激突となったウクライナ戦争。しかしその決着はすでにつきつつあるようです。今回の無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』では著者で国際情勢解説者の田中宇(たなか さかい)さんが、この戦争を従来型のものとは異なる「複合戦争」とした上で、ロシアが勝者となる可能性が高い根拠を解説。さらに米中衝突においてもアメリカが敗北を喫することは必至であり、そのような結果に終わるにわかに信じ難い理由を明かしています。
複合大戦で露中非米側が米国側に勝つ
最近、ウクライナ戦争に関して複合戦争(Hybrid War)という言葉をよく目にする。複合戦争は、兵器を使って殺人や破壊をする従来型の戦争と、それ以外の分野の作戦が複合されて勝ち負けが決まっていく戦争、という意味らしい。従来型以外の分野は多種多様で、ひと括りにできない。複合戦争は曖昧な概念だ。そもそも従来型の戦争自体、諜報や傍受、撹乱、プロパガンダなど裾野が広いし、軍事と隣接して外交の分野があるので複合的である。細かい定義は重要でない。今回のウクライナ戦争がとくに複合的かつ世界的な「複合大戦」であるのは、米国と同盟諸国(米国側)がロシアを徹底的に経済制裁し、対抗してロシアが中国やインドなど非米諸国を引っ張り込んで米国側vs.非米側の経済対立・世界経済の分裂になっているからだ。
米国側がロシアをドル決済(SWIFT)から追放し、対抗してロシアは米国側にルーブルで石油ガス代金を払えと要求して対立し、結局ロシアが勝っている。EUは先日、加盟国がロシアにルーブルで払っても対露制裁違反でないと決めた。これまで、ルーブル払いがEUの対露制裁に違反しているのかどうか不透明だった。EU上層部が「違反です」と言った後、イタリアのドラギ首相が「違反じゃない(ようだ)」と宣言する展開もあった。結局EUは、違反でないと決めた。EUの対露制裁は無意味になり、ロシアはEUを打ち負かした。これは今回の複合戦争の一部だ。ロシアのラブロフ外相が5月14日に「米欧(米国側)がロシアに対し、経済制裁など全面的な複合戦争を仕掛けてきている。ロシアは中国やインドと協力してこれを乗り越える」と表明した。露政府は最近、複合戦争という言葉をよく使う。
そもそもEUはロシアの石油ガスに依存しており、その輸入を短期間で止めることは不可能だと開戦前からわかっていた。EUの親分である米国は、2014年から8年もかけて今回のウクライナ戦争の準備をしてロシアに侵攻させたのだから、米国がEUに石油ガスの輸入先をロシア以外に変えさせる戦争準備の時間はたくさんあった。開戦前にたっぷり備蓄することもできた。しかし実際は何の準備も行われず、ドイツは最後までノルドストリーム2を予定通り稼働させようと米国に頼み続けていた。開戦前のEUの石油ガス備蓄の増加も行われず、開戦時の欧州全体の天然ガスの備蓄量は、備蓄可能総量の5%しかなかった(開戦前から米国側に敵視されたガスプロムが欧州への送付を減らし続けたので)。欧州はロシアとの複合戦争において、戦う前から負けていた。米国は、NATOを通じて欧州と戦略を共有し、欧州に戦争準備をさせるべきだったのに、何もしなかった。米NATOの(意図的な)作戦負けである。
ウクライナ開戦で決定的になった米国側と非米側の対立において、世界の石油ガス鉱物や穀物など資源類の多くは非米側が持っている。米国側はカネだけ持っているが、このカネは大膨張した金融バブルであり、そのバブルはウクライナ戦争と並行して進んでいる米連銀のQE終了・QT(過剰造幣事業の収縮)によってバブル崩壊を引き起こすことが必至になっている。QE終了・QTによって、米国覇権の根幹にあったドルのバブルがこれから劇的に崩壊していくことが予測されたので、プーチンは勝てると気づいてウクライナに侵攻した。プーチンのウクライナ侵攻は最初から世界金融システムの大転換と連動しており、その意味で複合戦争だった。金融面のウクライナ複合戦争は、ロシアが勝つというより、米国側がQE終了・QTによって自滅的に金融崩壊して負けていく。
米国側は金融崩壊してドルの力が低下していく。人類が日々必要とする石油ガス穀物など資源類の多くは非米側が持っている。当然ながら、資源類のドル建て価格が上昇していく。インフレや食糧難が世界的にひどくなる。こうした「穀物戦争」の分野も、ウクライナ複合戦争の一部である。金融も石油ガス穀物も、米露だけでなく全世界を巻き込んでいる。今起きているのは単なる複合戦争でなく「複合世界大戦」、世界が米国側と非米側に二分されて勝敗がついていく「複合大戦」である。
米国側のマスコミは「世界的な穀倉地帯だったウクライナに侵攻した露軍は、畑を壊したり作付けを妨害した。露軍は穀物を輸出していたウクライナの黒海岸の港湾も封鎖し、世界への穀物輸出を止めた。だから世界は穀物不足で飢餓や食糧暴動になっていく。全部プーチンが悪い」と言っている。しかし、これらは大ウソだ。ウクライナでは今春、昨付け予定地の82.2%において種まきが行われた。なかでも春小麦に関しては、予定地の98%で種まきが行われた。ウクライナの農業は、露軍侵攻後もおおむね平常通りに運営されている。露軍はウクライナ人の犠牲を最小限にするために、農地や農家をできるだけ破壊しないように進軍したと露政府が言ってきたが、それは事実だったと考えられる。米国側のマスコミ権威筋の方がウソつきである。ロシアも今年は穀物が豊作(過去最高の1.3億トン)で、輸出先である中東アフリカ方面の飢餓や暴動を防げるぞとプーチンが言っている。「全部プーチンが悪い」と言っている人々の方が極悪だ。
露軍がオデッサなどウクライナの港を封鎖したから穀物を輸出できないという話もウソだ。ウクライナの港を封鎖したのは、露軍でなくウクライナ軍だ。開戦直後、ウクライナ政府は露軍の上陸を防ぐため、親分である米国に命じられ、オデッサなどの港湾を機雷で封鎖した。ウクライナ自身が、米国に言われるまま、穀物を輸出できないようにしてしまった。「全部プーチンが悪い」と言っている人々の方が極悪だ。米国や新興市場諸国のインフレや物不足はウクライナ開戦前の昨年からの現象で、米国や中国での港湾の滞船とコンテナ流通管理の崩壊などで流通網の詰まりが原因だ。そこにウクライナ戦争による資源の高騰や輸入停止が加わり、抑止不能なインフレ・物不足になっている。
インフレ物不足はロシアのせいでないのに、ロシアのせいにされている。この手の戦争プロパガンダも複合戦争の一分野である。悪者にされているロシアは、プロパガンダの複合戦争に負けていることになる。しかし「すべてプーチンが悪い」という戦争プロパガンダは、米国側諸国において「プーチン政権を倒すまでロシアからの石油ガス穀物などの輸入を止めるんだ。エネルギー危機や食糧難になっても我慢しよう」という「欲しがりません勝つまでは」政策になっている。「ロシアは間もなく崩壊する」というプロパガンダも流されてきたが、それは大間違いで、プーチン政権は倒れない。この状態が長引くと、米国側はエネルギー危機や食糧難がひどくなって厭戦的な政権に交代したりして負けてしまう。米国側で「すべてプーチンが悪い」というプロパガンダがうまくいくほど、米国側自身が自滅していく。
今回の戦争のプロパガンダのもう一つは「露軍は作戦失敗で負けている」というやつだ。米国側の人々の多くがそれを信じている。先日は、米国でこれまで「露軍は負けてない。順調に勝っている」と言っていた筆頭の元海兵隊員の分析者スコット・リッターが「米国側がウクライナ軍に送った対戦車砲などが戦地に届き、ハルキウなどで露軍の戦車部隊が撃退されて退却している。露軍は負けるかも」と言い出し、やっぱり米軍は負けてるんだ、という話になっている。しかし、戦争状態が長期化した方が米国側の自滅が加速するため、ロシアの政府や軍も、自分たちが負けているという偽情報を流したり放置したりしている。露軍不利説は簡単に信用できない。ウクライナ極右軍が立てこもっていたマリウポリ製鉄所の陥落などを見ると、民間の犠牲を減らすためにゆっくり(一進一退的に)戦争を進めていると言っている露軍の説明が正しい感じがする。
米中枢のエスタブ権威筋であるNYタイムスやキッシンジャー元国務長官も最近、ロシアが優勢なのでウクライナ政府はクリミアをあきらめるなど譲歩してロシアと和解して戦争を終わらせていくしかないと言い出している。NYタイムスは5月19日の社説で、米国側はもうウクライナでの戦争に勝てないので、限界を認めて現実主義に転じ、ウクライナはロシアと停戦交渉せねばならない、クリミア奪還は無理だと言い出した。キッシンジャーは5月23日にダボス会議で演説し「今後2か月以内にウクライナ戦争を終わらせないとウクライナでの露軍の勝利が確定し、覆すには米露の直接大戦しか手がなくなる。そうなる前にウクライナ政府がロシアに譲歩して停戦するしかない」という趣旨を述べた。軍事や経済など複合戦争の全面で、米国側が勝てる可能性が大幅に減った感じだ。
米諜報界とバイデン政権は、過激に稚拙にやって意図的に失敗して米覇権を潰して世界を多極化したい隠れ多極主義のネオコン系の勢力が牛耳っている。彼らは敗北や大失敗の誘発を意図的にやっている。負けるとわかっていても戦争状態をやめない。米国側が稚拙に負けて覇権が崩壊していく今後が、まさに彼らの真骨頂になる。米国側がもっと負けて覇権やドルの崩壊が大幅に進んだ後、再びキッシンジャーが出てきて「もう多極化を受け入れるしかない」とリアリストっぽいことを言うのかもしれない。ネオコンとキッシンジャーはボケとツッコミ的な仲間だ。
英独仏豪日など同盟諸国は、隠れ多極主義の米国と無理心中させられていく。独仏は、この戦争が米国側の敗北・覇権崩壊になっていくことを知っているので、ゼレンスキーのウクライナに対露和解をやらせたい。しかし、ゼレンスキーは米中枢を握るネオコン系の言うことしか聞かず、独仏を馬鹿にしている。米中枢は確固たる決意で自滅の道を進んでいるので、同盟諸国がいくら言っても方向転換しない。むしろ同盟諸国に対し、もっとウクライナを軍事支援しろ、ロシアの石油ガスを輸入するなと加圧してくる。米国は、同盟諸国の足抜けを許さない。中立を許さない。そのくせ非米諸国が中立を宣言しても米国は黙認する。同盟諸国は、敗北が決まっている米国の戦争マシンに隷属させられている。同盟諸国は、自由に中立を宣言してロシアの石油ガスを輸入し続けられる非米側の諸国がとてもうらやましい存在に見えてくる。
米国は、対ロシアだけでなく中国敵視についても複合戦争の形態を採っている。米政府はバイデンの日韓訪問を機に、経済分野の新たな中国敵視協定として「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を作った。米国は、台湾を使った軍事面の中国敵視と、経済面の中国敵視IPEFを絡ませた複合戦争をやっている。経済面の中国包囲網としては、オバマが作ってトランプが離脱して米国抜きで開始されたTPPもある。バイデンは、IPEFなんか作らないでTPPに入ればいいじゃないかという話になるが、TPPに入ると米国は関税を引き下げねばならず、米国内で不評になる。IPEFは、関税引き下げがメニューにないので米国内で反対されない。TPPから米国側の諸国間の自由貿易の機能を抜き取り、中国敵視の要素を追加したのがIPEFだ。
米日豪印韓ASEANのIPEF加盟諸国のうち米印など以外は、中国が主導するRCEP、日豪が主導するTPPにも入っている。それらの諸国はRCEPにも入っているのだから中国敵視をしておらず、むしろ「米中両属」になっている。米国は同盟諸国に対して「ロシアと貿易するな」と言えるが「中国と貿易するな」とはいえない。中国は世界経済にとってとても重要な国なので、対中国貿易を否定できないからだ。IPEFは、バイデン政権の付け焼き刃的な「なんちゃって組織」にすぎない。
バイデンは東京での岸田首相との共同記者会見で「米国は1つの中国の原則を認めており、それに基づくなら、中国が台湾に軍事侵攻して併合しても米国は認めざるを得ない。だが、もっと根本的に考えるなら、独裁国である中国が民主主義の台湾を武力で併合することは決して許されない。その意味で、中国が台湾に侵攻するなら、米国は軍事力を使って台湾を守りたい」という趣旨と解読できる発言を行った。だがその後、米大統領府は「米国は、1つの中国の原則を支持する姿勢を変えていない」と軌道修正し、バイデン発言を無効にしてしまった。バイデン発言は「言い間違い」として報じられた。
バイデンはこの9か月間に3回、同様の趣旨の発言を行い、そのたびに大統領府から「言い間違い」とレッテル貼り・訂正されてきた。要するに、大統領がいくら宣言しても、米軍が中国軍に戦争を仕掛けることはない。米国はこれから金融と覇権が崩壊していくのだから、今後ますます中国の敵でなくなる。米国が強い状態で台湾を傘下に入れ、中国が台湾を武力で併合できない事態が作られる可能性は今後さらに減る。台湾に兵器を供給する国もなくなって、台湾は防衛力が低下し、交渉で中国の要求を呑んでいかざるを得なくなる。それが見えているのだから、中国は台湾を威嚇するだけで侵攻しない。ロシアでも中国でも、複合大戦は露中非米側が米国側に勝っていく。
●ウクライナの「復興計画」がいま求められる理由 6/30
罪なき民間人に今もロシアの爆弾が降り注ぐ中、ウクライナの復興に考えを巡らせるのは難しい。だが危機と惨禍のときにこそ、私たちは次のステップを検討しなくてはならないのだ。とくに西側の主要国は、再建支援で中心的な役割を担う必要がある。
欧州委員会は先日、ウクライナ再建に向けて補助金と融資で構成される「リビルド・ウクライナ」制度の創設を提案した。もっとも、ウクライナ再建には巨費が必要となるため、新たな財源の確保が課題となる。凍結したロシア中央銀行の外貨準備のほか、制裁で押収したロシアの新興財閥オリガルヒの資産なども財源に加えるべきだ。
専門家は、ウクライナの再建では地震や洪水など災害からの復旧の視点が参考になると助言する。災害の初動対応で求められるのは止血だが、ウクライナの流血を止めるには、ロシアの侵略者を一掃せねばならない。これは、すでにロシアに占拠されているドンバス地方とクリミア半島も含めての話だ。
ウクライナを守る戦いに従事している人々が、戦争に勝利する勇敢さと決意、不屈の精神を備えていることは、日に日に明白となっている。ところが、ウクライナはまだ軍事的にも人道的にも十分な支援を受けておらず、ゆえに戦況も決定的にウクライナ有利へ傾くには至っていない。
これは「欧州の戦争」
つまりロシアが2月24日に残忍な侵攻を開始してから、ウクライナは片手を縛られたまま、欧州の最前線でこの戦争を戦っていることになる。武器の供給が許しがたいほど遅れているためだ。欧州の価値を守りロシアの帝国主義に対峙するという意味で、ウクライナは「欧州の戦争」を戦っているのに、欧州には自らの安全が脅かされていないかのように振る舞っている国が少なくない。
戦闘が続くウクライナだが、キーウ(キエフ)北部などロシア軍が撤退した地域では、住宅など日常生活の再建が始まっている。とはいえ、この戦争でウクライナには1日当たり何億ドルという被害が出続けており、欧州連合(EU)の試算によると、物的なインフラだけでも再建コストは少なくとも1000億ユーロ(14兆円以上)に上る可能性がある。再建はウクライナ一国で成し遂げられるものではない。
自由が戻った暁には、経済を一気に再始動し、国民に雇用をもたらすマーシャルプラン(第2次世界大戦後の欧州復興支援計画)のような戦後刺激策が必要だ。しかしウクライナの復興は、ロシアに破壊されたものを再建することにとどまらない。この復興を通じ、ウクライナは国として進化を遂げることになるからだ。
欧州国家ウクライナの誕生
私たちが戦争に勝利すれば、自由で現代的な欧州国家ウクライナが誕生するという壮大なビジョンがもたらされ、歴史的な惨禍を希望に変える好機が訪れる。ウクライナがEUと北大西洋条約機構(NATO)の信頼できるメンバーとなれることは、国民の戦いぶりによって証明された。その国家再建は、欧州のプロジェクトと足並みをそろえたものになるだろう。
ウクライナの再建は環境の持続可能性とも固く結び付いており、石油・ガスのロシア依存に終止符を打つものとなる。ウクライナはすでに欧州電力網との連結に着手。復興が本格化すれば、電力網を欧州と完全統合し、再生可能エネルギーの活用を加速する意向であり、EUが掲げる「欧州グリーンディール」の精神を体現するクリーンエネルギー大国となるに違いない。
EUが復興策を検討しているのは心強い動きだ。ウクライナにマーシャルプランのような復興計画を約束すれば、ロシアのプーチン大統領に対し「侵略は報われない」という強力なメッセージとなるだろう。ウクライナの自由と再建を支えることは世界の平和と繁栄につながる。ロシアの帝国主義的野望を阻止し国を再建するという難題を、ウクライナ国民だけに背負わせてはならない。
●北欧2国がNATO加盟へ 巧みな戦略でウクライナ戦争の勝者にトルコ 6/30
北欧のフィンランドとスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)への加盟が実現する見通しとなりました。両国のNATO加盟に反対していたトルコが一転して支持を表明。トルコが提示していた要求をフィンランドとスウェーデンが応じた形となったようです。上手に立ち回った印象が強いトルコ。そこで今回は、大きな意味を持つことになったクルド人問題について解説していきます。
クルド人に関して
クルド人というのは、中東のトルコからシリア、イラク、イランにまたがった、山岳地帯に住むイラン系の民族のことを言います。
ご想像の通り、政治的には非常に不安定な地域で、人口は推定3000万人と言われながら、これ実はサウジアラビアと同じ規模ですが、同時に「国を持たない最大の民族」と言われています。
こうなった理由は、100年前の西欧の都合に端を発していて、1916年、第一次世界大戦末期に、当時の強国だったイギリスとフランスとロシアが、敗北国であるオスマン帝国をどう分割するか、という協定を結びました。
これはサイクス・ピコ協定と呼ばれていますが、これは当時の2大植民地大国であるイギリスとフランスが、戦後の自分達の権益を確保するために勝手に決めたもので、この時クルド人が無視され、クルド人が住むエリアの真ん中に線を引きました。
その後、列強の都合で、トルコの国境を決め、そしてイラクやシリア、ヨルダンなどの国を誕生させていったのですが、クルド人は最初の線引きが尾を引いたことと、トルコが必死に領土分割を防いだこともあり、民族として国を持てず、結局クルド人はトルコ、シリア、イラク、イランという4か国にそれぞれ分割されるという、日本人には想像できない不幸な形となりました。
その後、それぞれの国で、少数民族として扱われながら、独裁者や強権政権、過去はサダムフセインのイラクや、シリアのアサド政権、そして今はエルドアン大統領のトルコなどに対して分離や独立を求めていきます。
しかし、それぞれの国は自国の領土分割に繋がる話を認めませんし、一方でこのエリアには、今でも数億バレルの石油が埋蔵されると言われている大権益の眠るエリアのため、一部のイラク領土内にあるクルド人自治区を除けば、まだまだ独立には長い道のりが続くと見られています。
トルコとクルド人
ここでトルコですが、トルコには最も多くのクルド人が住んでいて、その数は1500万人と言われています。これ人口比率でいうと20%近い割合ですが、トルコでは山岳トルコ人と呼ばれてクルド人としては認められず、しかもクルド人の若者の失業率も3人に2人だといい、社会問題としても大きいものとなっています。
そして今国際的に起こっている問題は、このトルコに住むクルド人の一部が1980年前後から過激武装化して、トルコ内でテロを含む武力闘争をしており、累計で4万人もの死者が出ている状況となっています。
彼らはクルド労働者党(PKK)と呼ばれている組織で、アメリカやEU、そして日本も、このPKKをテロ組織として指定しています。
エルドアン大統領としては、当然PKKを掃討すると言うことで、極端に言えば内戦状態となっており、PKKが逃げ込んでいるイラク北部に対し越境攻撃を加えている状況にあります。
実は今、この攻撃が激しさを増していて、5月には1年ぶりにトルコ軍の地上部隊をイラク北部に投入しました。これはれっきとした軍事行動ですが前回も述べた通り、エルドアン大統領としては国内のテロ組織を壊滅することによる「国民を守る強い大統領」というアピールもあると思います。
そして、北欧2か国のNATO加盟反対の理由が、このPKKと近い「クルド人民防衛隊」YPGと呼ばれる組織をスウェーデンが支持しているのでは、ということがエルドアン大統領の反対の口実ともなっています。
ここはロシアに恩を売り、国内支持へのアピールという政治的な部分が大きいと前回述べましたが、ただ、このYPGはIS、イスラム国掃討作戦の際に、アメリカもずっと支援してきた組織です。
●ウクライナに「タブリダ県」復活? ロシア支配地、地名変更の見方 6/30
ロシアがウクライナ南部を支配下に置いていた帝政時代の地名「タブリダ県」を復活させようとしている――。米シンクタンクの戦争研究所(ISW)が29日に発表した戦況分析で、ウクライナ当局のこんな見方を紹介した。
ロシアのプーチン大統領は、18世紀にウクライナ南部などで領土を拡大した皇帝エカテリーナ2世を尊敬しているとされる。また、ロシア紙「イズベスチヤ」によると、ウクライナ侵攻後の4月にはロシア下院内でタブリダ県の復活を求める声が出た。懐古的なロシア側の心情が地名復活の動きに影響している可能性もある。
ISWはロシア、ウクライナ双方の国防省をはじめとするSNSを読み込み、戦況分析を公表している。ISWによると、ロシアが併合を検討しているのはウクライナ南部のヘルソン州の一部と、東隣にあるザポリージャ州の一部。併合に先立ち、住民投票を行う準備も進めているという。
ISWが引用したウクライナ軍の関連組織「国民抵抗センター」の分析などによると、併合された地域はタブリダ県の名前でロシアに組み入れられる可能性がある。
タブリダはウクライナ南部クリミア半島の古い呼び名。帝政時代のタブリダ県も、クリミア半島や今のヘルソン、ザポリージャ両州にまたがっていた。
●戦争、インフレ、食糧不足......戦後最大の世界経済危機が迫っている 6/30
第2次大戦以降の国際経済秩序において注目すべき点は、深刻な危機に直面したときに世界各国の政府が発揮してきた「柔軟性」だ。
1970年代のスタグフレーション(不況とインフレの併存)と金本位制の終焉、1990年代のアジア通貨危機、2008年の世界金融危機に至るまで、主要経済国は協力策を見いだす業に驚くほどたけていることを示してきた。
それはまあ幸運だったのだが、今般の危機ではそれがついに途切れるかもしれない。
ロシアとウクライナの戦争、インフレ、世界的な食糧・エネルギー不足、アメリカの資産バブル崩壊、途上国の債務危機、コロナ禍で尾を引く閉鎖措置やサプライチェーンの問題などの負の連鎖が重なり、戦後最大の深刻な危機となる恐れがある。
そうであれば最大級のグローバルな協力が急務となるはずだが、みんなで協調して対処しようという機運は見られない。
皮肉なことに、協力関係の希薄化はおおむね過去の成功に起因する。さまざまな危機に対処し、混乱を乗り越え、世界的な成長軌道を回復できたことにより、以前より多くの国が豊かになったがために影響力も増し、それぞれ自国の利益を主張するようになった。経済的な優先課題より、領土やイデオロギー上の目標を優先する国もある。
その結果として諸国間で総意をまとめることはほとんど不可能になった。今回の危機で、世界は再び一致団結する方策を見いだすのではなく、競合的かつ部分的な対応を次々と打ち出すしかない状態にある。
いい例が6月12〜17日にジュネーブで開催されたWTO(世界貿易機関)の閣僚会議だ(2020年の予定がコロナ禍で延期)。いかなる合意も加盟164カ国・地域の全会一致が必要という原則のせいで、どうにも身動きが取れない。
例えば依然としてコロナワクチンの特許権の一時放棄を実現することに苦労している。世界の海で水産資源の乱獲をもたらす漁業補助金の抑制策についても、延々と20年以上にわたって交渉が続いている。
自国の事情を何より優先
かつてWTOは貿易のルール策定や紛争解決のために道筋をつけたものだが、今のサプライチェーン問題の解消には役立っていない。食糧危機への効果的な対応も無理なようだ。ウクライナとロシアからの穀物輸出が途絶えるなか、既に20以上の国が国内の供給確保を優先して輸出制限を課している。
1998年からの国境を越えた電子商取引に対する関税猶予措置についても、更新に向けた暫定合意は得られたものの解決は先送りで、インドや南アフリカなどは否定的な姿勢でいる。
もちろん、いつまでも同じ体制や機関が効果を発揮するというものでもない。世界各国の政府は歴史上、既存の組織では古くて対応が不十分だと分かると、創意工夫を凝らして新たな協力の道を切り開いたものだ。
例えば1970年代にも、今日の難題に負けないほど危険な情勢があった。
インフレの暴走、ベトナム戦争、中東戦争、石油ショックによる世界的なエネルギー価格の高騰、ブレトンウッズ体制下の金本位制の崩壊、米政界を揺るがしたウォーターゲート事件などが相まって、世界的に不安定と低成長の時代がもたらされた。
各国政府は初め、これら諸問題に取り組むために十分に協力することができなかった。もはや欧米流の資本主義では政治も行政も経済危機に対処できないのではないかと、「正統性の危機」が論じられもした。
だが1971年にアメリカのニクソン政権が金・ドルの交換を停止したのを機に、西側主要国の財務相が鳩首協議。新たな通貨制度の構築に向けて力を尽くした。その努力が実を結び、1975年に初の先進国首脳会議(G6)が開かれたのだった。
首脳たちは各国の低迷する経済を立て直すため、補強し合う手段を見いだすことを自らの課題とした。このグループは後にカナダが参加してG7となり(さらにロシアを加えてG8となるも2014年のクリミア併合後にロシアを除外)、西側の主要経済国の間で緩やかな調整機構として今日も存続している。
そんなG6サミットから20年ほどの間は、割と平穏無事な世の中が続いた。しかし1994〜95年のメキシコ、1997〜98年のアジア、1998年のロシアなど、相次ぐ通貨・金融危機で不安定になったところで、1999年にG20(20カ国・地域)首脳会議(当初は財務相・中央銀行総裁会議)が誕生した。
その頃までには新興経済国が台頭していたので、G20の発足はそういう現実の変化をなぞるものだった。G20には中国、インド、ブラジル、メキシコ、インドネシアなどが参加し、以前の富裕国クラブよりも大所帯となって、1990年代の経済の在り方を体現する集団へと発展していった。
G7と同じように財務相・中央銀行総裁会合が定期的に開かれていたが、2008年の世界金融危機で首脳会議に格上げされた。
対ロ制裁が招く西側の分裂
世界金融危機とその余波の中で、G20は経済成長を回復するための世界的な取り組みの中心となった。協調下の景気刺激策で世界経済の回復に拍車を掛けるとともに、金融の規制強化を図り、IMF(国際通貨基金)の融資枠も広げてきた。
むろん、このような協力の仕組みから大胆な変革が生まれることはめったにない。G7にもG20にも決定権はなく、互恵的な政策を各国に働き掛けるだけの場だ。そういう場で可能なのは事態の悪化を防ぐことくらいであり、危機を乗り越える壮大な計画の立案は無理だ。
世界金融危機の際のG20の主要な成果の1つは、加盟各国が世界的な景気の減速を悪化させる保護主義的対応を避けると固く誓い、その誓約を守ったことだ。こんな控えめな成果でも、国同士が対立したり、積極的に互いの経済的利益を損なったりするよりはましだった。
では、WTOが全会一致の規則のせいで身動きが取れず、G7やG20も有効性を失ったら、次はどんなグループや組織が救いの手を差し伸べればいいのか。
残念ながら答えはない。それだけ今回の危機の連鎖に対するグローバルな協調は難しい。
アメリカとその同盟国は、広範な制裁でロシア経済に打撃を与えるために積極的に働き掛け、それに反発したロシアは黒海の港を封鎖して、ウクライナの穀物輸出を妨げた。これによってG20は分裂し、力を失った。
ジャネット・イエレン米財務長官はG20からのロシア排除を要求し、ロシアが出席する場合は会合をボイコットすると脅した。4月にワシントンで開かれたG20の会合では、アメリカを含む複数の国の代表がロシア代表の発言中に席を立った。
この会議は、何らかの合意を示す共同声明の採択もなく終了した。だがロシア排除の試みは実現しそうにない。アメリカの要求に正式に加わっているのは、カナダとオーストラリアだけだ。今年のサミット開催国インドネシアは、11月に開催予定の会合にロシアを招待している。
ロシアが参加するだけでG20は機能不全に陥るかもしれないが、ロシアを排除しつつ世界経済を強化するという話に乗る国もほとんどない。中国は絶対にロシアとの関係を断たない。一方で中国は自給自足の体制強化を進め、いずれ欧米から現在のロシアのような制裁を受けた場合に備えようとしている。
欧米諸国や日本はG7などの場を通じて、対ロシア制裁の強化の度合いについて意見の相違はあるにせよ、今までになく結束を強めている。それは決して小さな成果ではない。この主要7カ国は依然として世界経済の半分近くを占めており、先端技術の開発でも世界を引っ張っている。
舵取り役がどこにもいない
アメリカと欧州は、鉄鋼、アルミニウム、航空機の貿易をめぐる論争をほぼ過去のものとした。これも立派な成果だ。しかし現在の複合的な危機は大きすぎて、G7だけで対応できる範囲を超えている。
例えばG7は50カ国以上の支持を得て、食糧安全保障にかなりの効果が期待できる提案をしている。各国が輸出規制などで世界の食糧市場をゆがめる措置を取らなければ、資金面や技術面の支援を拡大するという提案だ。
だがインドは5月に小麦の輸出を禁止し、今のところこの提案にも賛同していない。インドはまた、貧困国が農業部門の自給率を高められるよう、大国が余剰在庫を提供するという提案にも抵抗している。
ジョー・バイデン米大統領は小異を捨てて大同に就く方針で、各国と広範な協力体制を築こうと努力している。EUとは、輸出規制やデータ共有、戦略的に重要な技術の保護強化などの問題で協調できるよう、難しい調整を続けている。
5月に訪日したバイデン大統領は日本や韓国、インドを含む新しいインド太平洋経済枠組み(IPEF)を立ち上げた。まだ詳細は明らかでないが、この枠組みはデジタル貿易や脱炭素化、税制調整などで協力促進を目指している。
6月上旬にはロサンゼルスで米州機構(OAS)首脳会議(米州サミット)を開き、同様な議題を盛り込んだ「経済繁栄のための米州パートナーシップ構想」を発表した。
ただしこの会議には、ブラジルに次ぐ中南米第2の経済大国メキシコが出席していなかった。同国のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は、バイデン政権がキューバ、ベネズエラ、ニカラグアを排除したため会議をボイコットした。
だが、こうした創意工夫を凝らした取り組みも、現下の危機に対応するには不十分だ。これまでの危機では、世界の主要国政府はそれぞれの相違点を乗り越えた上で、しっかりとした対応策を打ち出すことができた。
だが今回は、そうした動きが全く見られない。こうした協力関係の崩壊は、今回の一連の危機がもたらした最も永続的かつ憂慮すべき影響かもしれない。
これまでのところ、一連の混乱が世界貿易全体に大きな打撃を与えた様子はない。食糧やエネルギーなどの分野は混乱しているが、昨年の貿易額は記録的な水準に達していた(ただし今年は減少している)。
だが今回の危機で、世界の主要経済国が抱いていた確信は崩れた。それまでは、互いにどんな相違があろうと、経済成長と安定を最重要視する点で一致し、目標達成のために可能な限り協力できると信じていられた。
しかし今回は、舵取り役がどこにもいない。
●NATO、ロシアと対決すれば「待っているのは破滅」… 6/30
スペインの首都マドリードで開かれていた北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議は6月30日、ロシアの侵略を受けるウクライナへの長期的支援を確認し、閉幕した。会議では、ウクライナ軍兵器の近代化を図る「包括的支援策」も決定した。29日に採択された首脳宣言では、新規加盟による同盟拡大を継続し、権威主義国に結束して対抗する欧米の意思を強調した。
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は30日、会議総括の記者会見で「NATOとロシアが対決すれば、待っているのは破滅だ。だから我々にはウクライナを全面支援し、状況の悪化を防ぐ必要がある」と支援の重要性を訴えた。
「包括的支援策」では、ウクライナ軍の兵器や装備の刷新が柱となる。旧ソ連の兵器を主力としていることから、軍事支援による最新兵器の実戦配備に時間を要し、欧米基準と適合する砲弾や弾薬も限定されていた。ストルテンベルグ氏は29日、「長期的視点でウクライナ軍の近代化を図り、NATOとの相互運用性を高め、防衛能力強化を支援する」と述べていた。
東欧でも旧ソ連の兵器を配備する国が多く、NATO全体の兵器近代化を進めることも確認した。NATOは欧州東部の防衛体制強化も決めている。加盟国間での兵器の相互運用性を高めることで、防衛戦略の効率化を図る。
30日には、加盟国から10億ユーロ(約1400億円)を募る「NATO革新基金」の署名式も行われた。人工知能(AI)などを開発する民間企業に投資し、ロシアや中国が進める最新技術の開発への対抗を図る。
首脳宣言では「NATOは門戸の開放を続ける」と強調した。スウェーデンとフィンランドの新規加盟も承認し、正式な手続きを進めることも盛り込んだ。加盟を希望するボスニア・ヘルツェゴビナやジョージア、ウクライナと隣接するモルドバの防衛能力を高める支援の推進も明記した。
米国のバイデン大統領は閉幕後の30日の記者会見で、最新鋭防空ミサイルシステムを含めた8億ドル(約1080億円)相当のウクライナへの追加軍事支援を数日中に発表すると明らかにした。
●プーチン氏にゼレンスキー氏の伝言手渡した−ジョコ氏 6/30
インドネシアのジョコ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領から預かったメッセージをロシアのプーチン大統領に手渡したと明らかにした。米国はウクライナに対し8億ドルの追加軍事支援を発表する予定だと、バイデン大統領がマドリードで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会談で語った。
ロシアは戦略的に重要な黒海の蛇島から部隊を引き揚げたことを認めた。これに先立ち、ロシア軍はミサイル攻撃などで蛇島からの撤退を強いられたと、ウクライナ側が発表していた。撤退について、ロシアはウクライナの穀物輸出を妨げていないことを示す目的だと説明している。
スウェーデンとフィンランドの加盟申請を認めるNATOの決定について、プーチン大統領は軍事力が増強されるなら対応すると警告。ストルテンベルグ事務総長は、今のところロシアは完全にウクライナに集中しているとの見解を示した。
ウクライナ、債務再編の選択肢を検討
ウクライナ政府当局者は債務再編の可能性を探っている。資金調達の選択肢が尽きる恐れがあるためだという。事情に詳しい関係者3人が明らかにした。複数のシナリオが検討されており、夏の終わりまで決定は下されない見通し。非公開の協議内容だとして関係者は匿名を条件に語った。ブルームバーグの試算によると、ウクライナは14億ドルの元利払い期日を迎える9月1日までは少なくとも時間的な猶予がある。
ゼレンスキー大統領のメッセージ、プーチン大統領に手渡した−ジョコ大統領
インドネシアのジョコ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領から預かったメッセージをロシアのプーチン大統領に手渡したと明らかにした。ジョコ大統領は29日にキーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談していた。30日にロシア大統領府でプーチン氏と会談した後、ジョコ氏はメッセージの内容については触れず、「両首脳の対話を後押しする用意があると表明した」と語った。
ロシア、G20サミットにプーチン大統領が直接出席しない可能性示唆
インドネシアで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)にプーチン大統領が直接出席する可能性もあれば、代理を派遣する可能性もあると、インタファクス通信がペスコフ大統領報道官の話として伝えた。同報道官は「ロシアの利益に最もかなう形を決定する」と述べたという。イタリアのドラギ首相は28日、プーチン大統領が現地入りして対面で出席することはないとインドネシアのジョコ大統領から聞いたと話したが、これに関してロシア大統領府はコメントを控えた。
米国、ウクライナに8億ドルの追加軍事支援発表へ−バイデン大統領
米国はウクライナ向けに8億ドル(約1100億円)の追加軍事支援を近日中に発表すると、バイデン大統領が明らかにした。新たな支援には「西側の新型高度防空システム」やミサイル発射装置、弾薬などが含まれるという。
NATO、「あらゆる事態に準備」−事務総長
北大西洋条約機構(NATO)はフィンランドとスウェーデンの加盟に伴う「あらゆる事態に備えている」と、ストルテンベルグ事務総長が述べた。NATOが軍事力を増強すればロシアは対応するとのプーチン大統領の発言について問われ、回答した。ストルテンベルグ氏はマドリードで開かれたNATO首脳会談後に、「全ての同盟国と、フィンランドとスウェーデンも当然守る用意がある」と明言。ロシアは今のところウクライナに「完全に集中している」とも語った。
ロシア軍、黒海の蛇島から撤退
ロシア軍は黒海のウクライナ領蛇島から部隊を引き揚げたと、ロシア国防省が発表した。これに先駆けてウクライナ軍は、ロシア軍が大規模な攻撃を受けて撤退したと主張していた。
ロシア産ガス禁輸想定を−ECBが配当計画巡り銀行に要請へ
欧州中央銀行(ECB)銀行監督委員会のエンリア委員長は30日、ユーロ圏の銀行に対し株主配当を検討する際、ロシアからのガス供給が止まった場合の経済的打撃を想定するよう求める方針を明らかにした。
ロシアが占領した黒海沿岸の港から穀物輸送、機雷撤去後
ロシアが占領したウクライナ領ベルジャンシクの港から穀物7000トンを輸送する商船が出発したと、現地の占領当局責任者の話としてロシア国営タス通信が伝えた。同港は機雷除去の後、再稼働しており、再開後で商船の出航は初めてだという。この占領当局責任者は、ロシア黒海艦隊の護衛でこの穀物は「友好国」に向かっているとしつつ、具体的な国名は挙げなかったという。
英国が10億ポンドの対ウクライナ追加軍事支援
英首相府はジョンソン首相がNATO首脳会議で10億ポンドの対ウクライナ追加軍事支援を発表すると明らかにした。電子メールで声明を送付した。これによりロシアの侵攻開始以来、英国のウクライナ軍事支援は総額23億ポンドになるという。
米国家情報長官、ロシアはウクライナで「過酷な苦闘」強いられる
ヘインズ長官は商務省産業安全保障局の年次会合で、米情報当局が想定した3つのシナリオのうち、これが最も可能性が高いと述べた。
ウクライナ、捕虜交換で144人が帰国へ−侵攻開始後で最大規模
ウクライナ政府はロシア側と捕虜交換に合意。2月24日の侵攻開始後で最大規模の144人が帰国する。軍情報機関がテレグラムで明らかにした。このうち43人はマリウポリのアゾフスターリ製鉄所で抵抗を続けた「アゾフ連隊」に所属する。帰国する兵士の大半が重傷だという。
ゼレンスキー氏、G20首脳会議への出席は条件次第
インタファクス通信によれば、ゼレンスキー氏はインドネシアが議長国を務める今年の20カ国・地域(G20)首脳会議への出席について、安全を巡る状況と「出席者リスト」次第だとの考えを示した。ロシアのプーチン大統領もG20に招待されている。
NATO、スウェーデンとフィンランドの加盟を支持
NATO加盟国首脳はスウェーデンとフィンランドの加盟を正式に支持し、両国の加盟議定書に署名することに合意した。NATO首脳は「フィンランドとスウェーデンの加盟により両国のさらなる安全と、NATOの強化、欧州・大西洋の一段の安定がもたらされる」と指摘。「フィンランドとスウェーデンの安全保障は加盟手続き期間も含めNATOにとっては重要」との見解で一致した。
●北欧2国のNATO加盟に合意 トルコが反対撤回 6/30
トルコのエルドアン大統領は28日、ロシアのウクライナ侵攻を受け、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請していた北欧フィンランドとスウェーデンについて、加盟に同意した。トルコは両国の加盟に反対していた。英国防省など複数の国防当局や研究機関は29日までに、ウクライナに侵攻するロシア軍を統括するドボルニコフ司令官が解任されたとの見方を明らかにした。
北欧2国のNATO加盟手続き開始
NATOに加盟申請している北欧フィンランド、スウェーデンの両国首脳と、トルコのエルドアン大統領が28日、NATOのストルテンベルグ事務総長を交え、スペイン・マドリードで会談した。エルドアン氏は北欧2カ国の新規加盟に難色を示してきたが、この会談で加盟を支持することに同意した。マドリードでは28日夜、NATOの首脳会議が開幕。首脳らは29日の協議で北欧2カ国の加盟支持に合意し、両国のNATO入りに向けた手続きをスタートさせた。フィンランド、スウェーデンはロシアのウクライナ侵攻を受けてこれまでの「中立政策」を転換し、5月中旬にNATOへの加盟を申請した。
バイデン氏、トルコ大統領に謝意
バイデン米大統領とトルコのエルドアン大統領は29日、スペイン・マドリードで開催されている北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせて会談した。バイデン氏は、トルコが北欧フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に同意したことに謝意を表明した。両首脳はロシアによる黒海の封鎖でウクライナの穀物輸出が滞っている問題などを議論した。
英首相発言に露大統領が反論
「もしプーチン(露大統領)が女性だったら、狂った、マッチョな侵略戦争に乗り出すとは思わない」。ジョンソン英首相が28日、独メディアにそう語ったことに対し、プーチン氏は29日、訪問先のトルクメニスタンで行われた記者会見で、サッチャー英首相時代のフォークランド紛争(1982年)を持ち出し、「女性も軍事活動の開始を決定した」と反論した。プーチン氏はこれまで上半身裸で乗馬する姿などを公開し、マッチョな指導者のイメージを打ち出してきた。
ロシア軍統括司令官を解任か 英国防省など指摘
英国防省など複数の国防当局や研究機関は29日までに、ウクライナに侵攻するロシア軍を統括するドボルニコフ司令官が解任されたとの見方を明らかにした。理由は不明だが、ウクライナ東部の攻略が進まないことに対し、ロシアのプーチン大統領が何らかの不満を抱いている可能性がある。
露スパイ数十人、スイスに集結の可能性
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、西欧各国がロシアの外交官らの追放に乗り出す中、国外退去を求めていない永世中立国のスイスにロシアの情報機関員らが集まっている可能性が指摘されている。スイス連邦情報庁(FIS)は6月27日に公表した安全保障に関する情勢報告書の中で、スイスにおけるスパイ活動が「さらに激しくなっている」と分析した。
●ロシア侵攻 各国の姿勢は一致?それとも温度差? 6/30
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって6月24日で4か月がたちました。停戦に向けた交渉は中断したまま進展は見られません。こうした中、欧米各国の足並みはそろっているのでしょうか?それとも、温度差があるのでしょうか?専門家の分析や、海外の調査を元に読み解きます。
そもそも各国の足並みはそろっているの?
国際安全保障に詳しい慶應義塾大学の鶴岡路人准教授は、各国の立場には一定の違いはあるものの、経済制裁などでロシアに対して圧力をかけていく点では結束していると分析しています。
「いつも『足並みが乱れている』と指摘されるヨーロッパ各国ですが、今回は足並みが極めてそろっています。アメリカとヨーロッパの間でも高いレベルで結束できています」
アメリカの姿勢は?
アメリカでは、バイデン大統領がウクライナへの兵器の供与や人道支援などを強化するため、約400億ドル、日本円にして5兆円余りの追加の予算案に署名し、法律が成立しました。(5月21日)
軍事面では、携帯型の地対空ミサイル「スティンガー」や対戦車ミサイル「ジャベリン」などを供与してきましたが、ウクライナが求める長距離ミサイルの供与には慎重で、ロシアを過度に刺激したくないという思惑もあるとみられます。
こうしたアメリカの姿勢について、鶴岡准教授は、ウクライナとの合意形成に基づく支援を行う姿勢を維持しているとした上で、次のように指摘しました。
「アメリカは、ヨーロッパ各国の中で、“ロシアに厳しい姿勢の国”と“甘い対応だと言われる国“との中間に位置しています。バイデン大統領は『ウクライナに関する決定をウクライナ抜きで行うことはない』と繰り返し強調しており、この原則は非常に重要です」
ロシアと地理的に近い国は?
ロシアと地理的に近いバルト3国は、今回の軍事侵攻に危機感を強めています。
このうちリトアニアでは、5月10日、議会がロシアの軍事侵攻を「ウクライナ人に対する集団虐殺」だとする決議案を全会一致で採択しました。
こうした国の姿勢について、鶴岡准教授は、ロシアに近い場所に位置するポーランドやバルト3国は「ロシアを負けさせるべきだという主張を非常に強く打ち出している」として、ロシアに最も厳しい姿勢で臨んでいる立場だと分析しています。
「これらの国々は、今回の侵略戦争によってロシア側にも得るものがあったという結末になってしまうと、ロシアが再び侵略すると考えています。その場合、次に侵略される対象が自分たちの国になると真剣に考えているんです」
フランスやドイツは?
フランスは、マクロン大統領が、フランスの新聞のインタビューで「ロシアに屈辱を与えてはならない。外交的な手段で出口を作ることができなくなるからだ」と述べました。(6月3日)
この発言は、停戦交渉でフランスが仲介役を担うためにもロシアのプーチン大統領と対話ができる関係を維持したいという考えを示したものでしたが、ウクライナ側の強い反発を招く結果となりました。
ドイツは、ショルツ首相が、5月13日、プーチン大統領と電話で会談し、一刻も早く停戦を実現し外交による解決を模索するよう促したほか、5月28日には、マクロン大統領とともにプーチン大統領との3者による電話会談を行いました。
この会談についてドイツ側は、ショルツ首相とマクロン大統領は、プーチン大統領にゼレンスキー大統領との直接交渉を呼びかけたとしています。
ただ、ロシアと対話するフランスとドイツの首脳について、ポーランドのドゥダ大統領は、ドイツメディアとのインタビューの中で「第2次世界大戦の最中に、ナチス・ドイツを率いるヒトラーと電話でやり取りするのと同じだ」と批判しました。(6月8日)
こうしたポーランドやバルト3国との姿勢の違いについて、鶴岡准教授は、次のように分析し、ロシアとの対話を重視する立場だと位置づけています。
「フランスとドイツには、ロシアの脅威に対する差し迫った切迫感はありません。ロシアを排除して孤立させても、中長期的にはヨーロッパの安全は保障できないと考えています」
各国の軍事支援などの支援額は?
各国が表明したウクライナに対する軍事支援や人道支援などを含む支援の額について、ドイツの「キール世界経済研究所」は、2022年1月から6月7日までの総額をまとめ、6月16日に発表しました。内容は次の表の通りです。
・アメリカ 426億ユーロ(約6兆円)
・EU=ヨーロッパ連合 155億ユーロ(約2兆2000億円)
・イギリス 48億ユーロ(約6800億円)
・ドイツ 32億ユーロ(約4500億円)
・ポーランド 27億ユーロ(約3800億円)
・総額 780億ユーロ(約11兆円億)※億ユーロ以下切り捨て
支援額が各国のGDP=国内総生産に占める割合については、ロシアに地理的に近く、歴史的にもロシアを脅威と捉えてきた国々が上位を占めています。
1.エストニア 0.87%
2.ラトビア 0.73%
3.ポーランド 0.49%
4.リトアニア 0.31%
5.アメリカ 0.22%
   |
13.ドイツ 0.09%
14. フランス 0.08% ※小数点第3位を四捨五入
ヨーロッパ各国の国内世論は?
ヨーロッパの調査研究機関「欧州外交評議会」が、2022年4月下旬から5月中旬にかけてヨーロッパの10か国で、あわせて8000人を対象に調査を行いました。
調査では「たとえ領土をロシアに渡すことになったとしても、もっとも大事なのは可能な限り早く停戦することだ」という回答を選択した人たちを「和平派」としています。
一方「たとえさらに多くのウクライナ人が殺されたり、避難を余儀なくされたりしても、もっとも大事なのは侵攻したロシアを罰することだ」という回答を選択した人たちを「正義派」としています。
調査結果は次のようになっています。
国別の「和平派」と「正義派」。
・イタリア 52%、16%
・ドイツ 49%、19%
・ルーマニア 42%、23%
・フランス 41%、20%
・スウェーデン 38%、22%
・スペイン 35%、15%
・ポルトガル 31%、21%
・フィンランド 26%、25%
・イギリス 22%、21%
・ポーランド 16%、41%
今後の国際社会の姿勢はどうなるの?
鶴岡准教授は、国際社会は次のような考えで一致しているとしています。
「ウクライナにとっては、領土内のロシア軍を押し返すことがいまの戦争の目的であり、それが勝利です。ロシアが勝ったという形にしてはならないというのが国際社会の一致した考えなのです」
その上で、鶴岡准教授は、戦闘の長期化が世界各国の政治経済にも影響すると指摘し、6月19日に行われたフランスの議会下院にあたる国民議会の選挙で、与党連合の議席が過半数を下回る結果になったことについて「ウクライナ情勢を受けた物価高騰に対応しきれなかった政府への不満が背景にあると言える」と分析しています。
こうした点を踏まえて、鶴岡准教授は、今後のロシアの姿勢について次のように指摘しました。
「ロシアにとって『物価高騰の責任は欧米各国の経済制裁にある』と主張することは、ほぼ唯一残された手段となっています」
●「プーチン氏はまだウクライナの大部分を狙っている」=米情報機関トップ 6/30
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、まだウクライナの大部分の占領を狙っている――。アメリカの情報機関トップが29日、そうした見方を示した。
米当局はロシア軍について、戦闘で弱体化しているため、徐々にしか領土を拡大できないとみている。
このことは、現在の戦争が長期化する可能性を示していると、アヴリル・ヘインズ米国家情報長官は、この日の米商務省の会合で述べた。
ロシア政府は3月、ウクライナで首都キーウなどの都市の制圧に失敗した後、東部ドンバス地方の掌握に力点を移している。
ヘインズ氏はプーチン氏について、ウクライナの大部分を手に入れるという、紛争開始当初と同じ目標を、まだ持ち続けていると分析。
しかし、ロシアがその目標をすぐに達成する可能性は低いとし、こう語った。
「この地域におけるプーチンの短期的な軍事目標と、ロシア軍の能力には、断絶があると思われる。彼の野望と軍が達成できることには、一種のミスマッチがみられる」
ロシアはキーウ占領という当初の目標を達成できず、東部ドンバス地方での領土奪取に戦力を集中させている。プーチン氏は、この広大な工業地帯でウクライナがロシア語を話す住民たちの集団虐殺を行ったと、誤った主張をしている。
ロシア軍はドンバス地方で前進している。最近、要衝のセヴェロドネツク市を制圧。だが、進軍のペースは遅い。ウクライナ軍は強力に抵抗している。
長期にわたる戦争
ヘインズ氏が、米情報機関の戦況分析について公の場で述べたのは、5月以来初めて。その中で、ロシアの侵攻が「長期間」続き、「かなり厳しい状況が続く」との見方を示した。
ヘインズ氏によると、情報機関は戦争の展開について、3つのシナリオを考えている。最も可能性が高いのは、紛争がゆっくり進むことだ。ロシアは「一気の進軍は果たせず、徐々に占領地を拡大していく」とする。
あまり可能性が高くないものとしては、ロシアが大きく躍進するというシナリオがある。さらに、ウクライナが小規模な戦果を挙げ、前線が安定するというシナリオも考えているという。
ロシアは、サイバー攻撃、エネルギー資源の管理、さらには核兵器など、攻撃の「非対称ツール」への依存度を高めるかもしれないという。
NATOが「大改革」へ
ヘインズ氏のこうした発言は、北大西洋条約機構(NATO)の首脳らが、必要な限りウクライナを支援し続けると宣言したタイミングで出た。NATOは、ヨーロッパ全域で部隊を増強し、フィンランドとスウェーデンを加盟国として迎え入れると表明した。
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、冷戦以来最大の同盟の大改革と説明。アメリカのジョー・バイデン大統領は、NATOが「陸空海のすべての領域で強化される」と宣言した。
北欧2カ国がNATOに加盟する可能性について、プーチン氏は、意図的に緊張を高めているとNATOを非難した。
訪問先のトルクメニスタンでプーチン氏は、「もしNATOの軍隊やインフラが配備されれば(ロシアは)対応せざるを得ないだろう」と述べた。
一方、イギリス政府はウクライナにさらに10億ポンド(約1660億円)の軍事支援を行う予定で、これまでの支援をほぼ倍増させる。イギリスを上回る軍事支援を行っているのはアメリカだけだ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアとの戦争の資金として毎月約50億ドル(約6800億円)が必要だとしている。
●「プーチンの『病気』は噂されているものより深刻だ」 6/30
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、これまでに噂されてきたものよりも「もっと深刻な病」に侵されている──ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がこう語った。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、プーチンの健康状態についてはさまざまな噂が囁かれてきた。血液のがん、パーキンソン病など、深刻な病気を患っているという話も繰り返し浮上している。ウクライナの情報機関を率いるキーロ・ブダノフ少将も、ロシア政府の複数の関係者から、「プーチンは2年以内に死亡する可能性が高い」という情報を得たと述べていた。
こうしたなか、ゼレンスキーは米NBCのインタビューの中で、自分はプーチンの健康状態に関する噂には興味がないと発言。だがプーチンは、ウクライナに脅威をもたらす「もっと深刻な病気」に侵されていると示唆した。
「ウラジーミル・プーチンに何が起きているのか、私は知らない。でも彼ら(ロシア政府)は1つの深刻な病気を患っていると思う。噂されているよりも、ずっと深刻な病気だ。それはウクライナ国民への敬意がないという病気であり、彼らが我々の領土に対して侵した侵略と拷問という病気だ」とゼレンスキーは語った。インタビューの動画は、6月29日にメッセージアプリ「テレグラム」のゼレンスキーのチャンネルに投稿された。
ロシアを安保理から除外するよう要求
ゼレンスキーは、さらにこう続けた。「プーチンの周りにいる多くの人が、病に侵されている。高望みをしすぎる、理解力がない、国際法や人の命を軽んじるという病だ。彼らは国際法も人の命も、何とも思っていないのだ。これは我々の国に脅威をもたらす病気だ」
ウクライナでの戦闘は5カ月目に突入しており、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の推定によれば、6月26日までにウクライナの民間人の犠牲者は4731人にのぼった。
さらに27日には、ウクライナ中部ポルタワ州のショッピングモールが、ロシア軍によるミサイル攻撃を受けた。この攻撃により、28日の時点で少なくとも20人の死亡が報じられている。ミサイル攻撃があった当時、ショッピングモールには1000人あまりの民間人がいたという。
ゼレンスキーはウクライナの民間人に対する攻撃が増えていることを受け、国連安保理の緊急会合にビデオメッセージを寄せ、常任理事国であるロシアを安保理から除外するよう呼びかけた。
●プーチン大統領「期限語る必要ない」軍事作戦続ける姿勢強調  6/30
ロシア軍が、ウクライナで広範囲にわたって攻撃を強める中、ロシアのプーチン大統領は30日、ウクライナへの軍事作戦に関する記者団の質問に対して「期限について語る必要はない」と述べ、計画に沿って軍事作戦を続ける姿勢を強調しました。
ロシア軍は、完全掌握を目指している東部ルハンシク州のウクライナ側の拠点リシチャンシクのほか、南部や中部など広範囲にわたってミサイルなどを使用した攻撃を強めています。
ウクライナの非常事態庁によりますと、このうち南部のミコライウ市では29日、5階建ての集合住宅にミサイル攻撃があり、これまでに4人が死亡したということです。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は30日、訪問先のトルクメニスタンで記者から「軍事作戦はいつ終わるのか」と聞かれたのに対して、「期限について語る必要はなく、私は決して言わない」と述べ、今後も計画に沿って作戦を続けていく姿勢を強調しました。
一方、NATO首脳会議に参加したウクライナのゼレンスキー大統領は29日、大統領府のホームページに新たな動画を公開し、「ウクライナへのミサイル防衛システムの供給を加速させ、テロ国家への圧力を大幅に高めるよう求めた」と述べ、NATO加盟国に対して、ロシアに対抗するため、さらなる武器の供給を求めたことを明らかにしました。
●ウクライナとロシア、最大規模の捕虜交換 プーチン氏はNATO拡大をけん制 6/30
ロシアがウクライナ侵攻を続けるなか、双方は29日、これまでで最大規模の捕虜交換を実施した。ウクライナ当局が明らかにした。互いに、捕らえていた兵士ら約150人を相手国側に返したとされる。
ウクライナ国防省によると、ロシアの捕虜になっていた144人がウクライナ側に戻った。侵攻が始まって以降で「最大の」捕虜交換だと、SNSのテレグラムで説明した。
同省によれば、ウクライナ側に返された捕虜のうち95人は、ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリのアゾフスタリ製鉄所を防衛していた兵士だった。半数近くは、評価が分かれる「アゾフ連隊」の所属だという。
ほとんどは、銃弾や砲弾の破片で負傷したり、爆発によるけが、やけど、骨折、手足の切断などによる重傷を負ったりしているとされ、すぐに前線に戻る可能性は低いとみられている。
解放された捕虜の最高齢は65歳、最年少はまだ19歳だったという。
ウクライナ当局は、ロシア側に返した捕虜の人数を明らかにしなかった。
ゼレンスキー氏、シリアと断交
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は29日、シリアとの外交関係を断つと発表した。
シリアは、ウクライナ東部でロシアの支援を受ける勢力が一方的に独立を宣言している自称「ドネツク人民共和国」と「ルハンスク人民共和国」を、正式に承認する動きを示している。
この2地域をロシア以外が承認するのは初めて。シリアはロシアの強力な同盟国。
ゼレンスキー氏の今回の発表は、こうしたシリアの動きを受けたもので、同氏は「価値のない話」だとしてシリアを非難した。
プーチン氏、NATO拡大をけん制
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、フィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)に加盟する見込みとなったことを受け、北欧の両国との間の緊張が高まる可能性があると発言した。
プーチン氏は、現在30カ国が加盟するNATOの拡大に一貫して反対してきた。
ロシアの通信社によると、プーチン氏は、フィンランドとスウェーデンとの間に新たな緊張が生じる可能性があると述べた。
また、両国にNATOのインフラが配備された場合、ロシアは同種の対応を取ると話した。
ウクライナで戦闘を続けていることについては、東部ドンバス地方全体の「解放」が最終目標だと説明。
ウクライナ中部クレメンチュクのショッピングセンターへのミサイル攻撃に関しては、ロシアが民間人を標的に攻撃することはないと言ったという。
このミサイル攻撃では、少なくとも18人が死亡。行方不明となっている人もおり、家族らが探している。
トルコ、北欧2国に「テロ」容疑者の引き渡し要求
トルコは29日、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟への反対を取りやめることで合意したのを受け、両国に33人の「テロ」容疑者の引き渡しを求めると表明した。
NATO加盟国のトルコは当初、フィンランドとスウェーデンの加盟に反対するとしていた。両国について、クルド人武装勢力を受け入れていると非難してきた。
しかし、スペイン・マドリードで開かれているNATO首脳会議で4時間にわたる協議の末、3カ国は28日遅く、妥協に達した。
トルコは、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を支持。北欧両国は「トルコから出され保留中となっている、テロ容疑者の強制送還や引き渡しの要求に迅速に対応する」ことで、合意した。
トルコのベキル・ボズダー法相は29日、北欧両国に対して「約束を果たす」よう求めると述べた。
フィンランドには、少数民族クルド人の武装組織「クルド労働者党」(PKK)のメンバー6人と、トルコ人宗教指導者で国外にいるフェトゥラ・ギュレン師の運動に関わっている6人の引き渡しを要求。
スウェーデンに対しては、PKKメンバー11人と、ギュレン師の運動の関係者10人の引き渡しを求めた。
PKKは、欧州連合(EU)、アメリカ、イギリスからテロ集団に認定されている。一方、ギュレン師の運動は、そうした認定がなされていない。
フィンランドとスウェーデンは、トルコの要求に対してまだコメントを出していない。
NATO首脳らは、会議終了までに、フィンランドとスウェーデンを正式な加盟国として迎えるとみられている。
ロシアのインタファクス通信によると、同国のセルゲイ・リャブコフ外務次官は、「マドリードのサミットでは、ロシアを積極的に封じ込めるというNATOの方針が確認された」と述べた。
英政府、プーチン氏のいとこに制裁
イギリス政府は29日、ロシアのプーチン大統領のいとこら側近を対象とする、新たな制裁措置を発表した。
英外務省によると、プーチン氏のいとこで大手鉱業会社社長のアンナ・ツィヴィレヴァ氏が、制裁対象に含まれている。
ロシア第2の富豪で、プーチン政権の主要支持者であるウラジーミル・ポタニン氏も制裁の対象となった。両氏は、資産が凍結され、渡航を禁止される。
英政府は今回の措置について、「ロシアの戦争マシーンの弱体化」が狙いだとした。
●ウクライナ商業施設攻撃、ロシア軍の関与否定 プーチン氏 6/30
ウクライナ中部クレメンチュク(Kremenchuk)の商業施設がミサイル攻撃を受け、18人が死亡したことについて、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は29日、自国軍の関与を否定した。
プーチン氏は訪問先のトルクメニスタン首都アシガバートで開いた記者会見で「わが国の軍は民間施設を攻撃しない。われわれには何がどこにあるか把握する能力がある」と述べた。
「われわれの中には、あのように無差別に撃つ者はいない。攻撃は通常、標的に関する情報に基づき、高精度兵器で行われる」と説明したプーチン氏は、「今回もまさしくこうした形で行われたと確信している」と断言した。
ウクライナ側は、27日に商業施設を攻撃したのはロシア軍だと非難しているが、ロシア側はこれを否定。ミサイルは武器庫を狙ったもので、商業施設は当時営業時間外だったと主張している。
●ロシア、核不拡散巡る対話に前向き=プーチン大統領 6/30
ロシアのプーチン大統領は30日、戦略的安定と核不拡散に関する対話に前向きな姿勢を示した。
プーチン氏はサンクトペテルブルクで行われたフォーラムで「戦略的安定の確保、大量破壊兵器の不拡散体制の維持、軍縮の状況改善に関する対話にロシアは柔軟だ」と述べた。
こうした取り組みは「骨の折れる共同作業」が必要で「現在(ウクライナ東部の)ドンバスで起きていること」の再発を防止する方向に向かうと語った。
ドンバス地方のロシア系住民などを迫害から守るためにロシアはウクライナで特別軍事作戦を行っていると改めて表明し、ウクライナを「人道に対する罪」で非難した。
●プーチン氏、侵略は「全てプラン通り」…東部住民を「保護するまでやめない」 6/30
ロシア大統領府の29日の発表によると、プーチン大統領は、ウクライナに対する「特殊軍事作戦」に関し、「全てプラン通りに進んでいる。何らかの期限の下に、せかせるのは正しくない」と語った。東部ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)の住民「保護」という目的達成まで侵略をやめない考えを改めて示した。
外遊先の中央アジア・トルクメニスタンで報道陣に述べた。ウクライナ中部クレメンチュクのショッピングモールへのミサイル攻撃を巡っては、「露軍が民間施設を標的にすることはない」と強弁した。
●プーチン大統領 NATOの動きをけん制 友好国との関係強化図る  6/30
ロシア軍はウクライナで東部ルハンシク州の完全掌握を目指し戦闘を激化させています。さらにプーチン大統領は、北欧2か国のNATO=北大西洋条約機構加盟の動きをけん制し、友好国との関係強化を図るなど外交の動きも強めています。
広範囲にわたってウクライナへの攻撃を強めているロシア軍は、完全掌握を目指す東部ルハンシク州でウクライナ側の拠点リシチャンシクに向けて戦闘を激化させています。
現地の親ロシア派の武装勢力側の幹部は30日、ロシアの国営メディアに対し、リシチャンシクの製油所や幹線道路を掌握したと主張しました。
一方、ルハンシク州のハイダイ知事は30日、自身のSNSに投稿し、リシチャンシクについて「ロシア軍はほぼすべての兵力を投入し、掌握を図っている。敵はあらゆる兵器で攻撃を続けていて、市内に安全な場所を見つけるのは難しい」として、激しい攻撃にさらされていることを明らかにしました。
イギリス国防省は30日に発表した分析でウクライナ軍について「戦闘を遅らせながら戦い、包囲される前に、秩序を保ちながら撤退している」と指摘し、戦術的な撤退も行いながら、ロシア軍を消耗させようとしているという見方を示しました。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は、軍事侵攻後、初となる外国訪問を行い、友好関係にある国の首脳たちと会談を続けています。
30日には訪問先の中央アジアのトルクメニスタンで、NATOにフィンランドとスウェーデンの加盟に向けた手続きを正式に始めると決めたことについて「軍の部隊やインフラが配備される場合、われわれは鏡のように対応し、同じ脅威を与えなければならないことを明確に理解すべきだ」と述べ、強くけん制しました。
プーチン大統領は、このあと、首都モスクワで、G20=主要20か国の議長国を務めるインドネシアのジョコ大統領と会談する予定です。
友好関係にある中国やインドなどもメンバーとなっているG20の議長国との会談を通じて、存在感を高める思惑があるとみられます。
●ロシアの兵員不足はチェチェン人が埋める? 6/30
北カフカスに位置するロシア連邦の共和国チェチェンの首長で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「忠実な配下」として知られるラムザン・カディロフは、チェチェン人兵士から成る「堂々たる規模の」大隊を新たに4個編成し、ウクライナに派遣すると発表した。
カディロフが6月26日にメッセージアプリのテレグラムに投稿した声明文によると、チェチェン軍は「北アフマト」「南アフマト」「西アフマト」「東アフマト」の4個大隊を「早急に」創設する計画を進めている。
「4個大隊はチェチェンの男たちのみで構成する部隊で、補充要員としてロシア軍部隊に組み込まれることになる」
ロシア国営タス通信は3月下旬、ロシア軍の発表として、ウクライナにおける戦闘で死亡したロシア兵は1351人に上ると伝えたが、これを最後にロシアは戦死者数の公表を控えている。
ウクライナ軍が6月8日に発表した推定によれば、ロシア軍は侵攻開始以来この時までに3万1500人の兵員を失ったとみられる。この数字が正しいなら、プーチンは早急に兵力を補充する必要がある。
アメリカ・カトリック大学の歴史学教授で、米国務長官の政策立案スタッフも務めたマイケル・キメージは先日、本誌の取材に応じ、ロシア軍は「非常に重大な」人的損失を被っており、「兵員不足が深刻な問題になっている」と語った。
声明文でカディロフは「堂々たる規模」の部隊を派遣すると述べているだけで、具体的な兵員数は明らかにしていない。派遣の時期についても、「早急に」部隊を編成するというだけで、何日先、あるいは何週間、何カ月先の話かはっきりしない。
カディロフはチェチェン共和国議会議長のマゴメド・ダウドフと共に、首都グロズヌイの東に位置するハンカラを訪れ、4個大隊のうち2つが使用する基地の建設用地を視察したという。
ウクライナで戦う4個大隊の兵員には、居住施設、射撃場、スポーツ・トレーニング施設など「あらゆる施設が完備した」環境が与えられると、カディロフは声明文で誇らしげに述べている。
「選り抜きの兵士たちから成る支援部隊を新たに編成しようと考えたのは、チェチェンの若者の間で愛国ムードが著しく高まっているからだ」と、声明文には書かれている。「母なるロシアを守るために特殊作戦参加を志願する若者が急増している。彼らにその機会を提供するのがわれわれの務めだ」
今回の発表に先立ち、カディロフは数週間前にもテレグラムにチェチェン軍のフル装備の兵士たちが壮大な広場に陸続と結集する動画を投稿した。カディロフは広場を埋め尽くした兵士たちを前に「西欧諸国はあらゆる手段でロシアを破壊しようとしている」と熱弁を振るい、「われわれは世界に平和のもたらすために戦うのだ」と檄を飛ばした。
本誌はチェチェン軍の参戦について、ロシアとウクライナ双方の国防省にコメントを求めたが、今のところ回答はない。 
 
 

 

●サハリン2、ロシア側に無償譲渡 プーチン氏が大統領令 7/1
ロシアのプーチン大統領は6月30日、同国極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の運営をロシア側が新たに設立する法人に移管し、現在の運営会社の資産を無償譲渡するよう命じる大統領令に署名した。同事業に日本から参加する三井物産や三菱商事は今後、運営の枠組みから排除される可能性が出てきた。
大統領令は新たな運営主体としてロシア側が設立する有限法人を指定。三井物産や三菱商事が出資する現在の運用主体であるサハリンエナジーから、すべての資産や従業員、権利関係を引き継がせる。
サハリンエナジーの外国株主は新しい有限法人の株主として参加できるが、ロシア当局から提示された条件に同意することが前提だ。条件をのめなければ、日本の商社はサハリン2への関与を失うことになる。
現在の運営会社サハリンエナジーには、ロシア国営ガス会社ガスプロムが約50%、英シェルが約27.5%、三井物産が12.5%、三菱商事が10%を出資する。サハリン2の液化天然ガス(LNG)生産量は年1000万トンで、うち日本向けは約600万トン。日本のLNG輸入量の約1割を占める。
三井物産は1日午前、「事実関係を確認中としかいえない」とコメントした。サハリン2は6月30日時点でもLNGを生産しており、日本への輸出も続いている。日本の電力会社や都市ガスはサハリンエナジーと10年単位の購入契約を結んでいるが、不透明感が強まっている。
サハリン2から日本勢が排除されれば収益への影響も避けられない。三井物産は22年3月期にサハリン2を含むLNGなどで純資産の減額を806億円、減損損失など209億円を計上。三菱商事もサハリン2で減額500億円を計上した。追加の減額や減損の可能性は「契約の中身がどうなっていくのか次第だ」(商社)と含みを残す。
ロシアによるウクライナ侵攻開始を受け、シェルは2月末に撤退方針を表明していた。報道によると同社はインドのエネルギー企業連合と権益の売却交渉を進めている。中国のエネルギー企業も買収に関心をもっているという。一方、日本の商社は株主としてサハリン2の事業に参画し続ける方針だった。
●日本に圧力?プーチン氏が命令 「サハリン2」ロシア企業へ譲渡 7/1
30日、プーチン大統領がある大統領令に署名を行いました。その大統領令とは、日本の商社も出資する「サハリン2」に関連するもの。プーチン氏の署名によって権利が全てロシア企業に譲渡されるといいます。
これは、日本に対する圧力なのでしょうか。
ロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」。
日本企業も出資するその運営会社の権利をすべて新しく作るロシアの企業に譲渡する。そう定めた大統領令にプーチン大統領が署名しました。
木原官房副長官:「あくまで一般論として申し上げると、我が国の資源にかかる権益が損なわれるようなことがあってはならないと」
「サハリン2」のプラントが完成したのは2009年。
稼働式典には当時の麻生総理大臣も出席しました。
麻生総理大臣(当時):「ロシアがアジア太平洋における建設的パートナーとなる歴史が始まる」
サハリン2にはロシアのガスプロムがおよそ50%、イギリスとオランダのシェルがおよそ27.5%。
そして日本の三井物産と三菱商事がそれぞれ12.5%、10%出資しています。
シェルはロシアがウクライナ侵攻を始めてすぐに撤退を発表しましたが。
岸田総理大臣:「権益については、これは維持すると」
経産省によると、2021年に日本が輸入したLNGのうちロシア産は5番目に多い8.8%。
大統領令では、引き続き権利を保有するには1カ月以内にロシア政府に申請する必要があるとしています。
岸田総理大臣:「大統領令に基づいて、どんな対応を正式に求めてくるのか、これを確認しないうちに何か申し上げることはできない」
プーチン大統領、欧米の指導者にも反撃しています。
それも相当、くだらないことで。
ロシア、プーチン大統領:「すべてが1人の人間の中で心も体も調和した形で発達すべきだ。だがそのためには酒の飲みすぎなど悪い習慣をやめ、身体トレーニングとスポーツに励む必要がある」
反論したのはG7首脳のあのやり取り。
イギリス、ジョンソン首相:「プーチンよりタフだと見せつけなければ」
カナダ、トルドー首相:「上半身むき出しで馬に乗るか」
イギリス、ジョンソン首相:「上を脱いで筋肉を見せつけよう」
やたらと裸を見せているプーチン大統領を揶揄(やゆ)したやり取りです。
ロシア、プーチン大統領:「上だけ脱ぎたかったのか、下まで脱ぎたかったのか知らないが、どちらにしろ気持ち悪い光景のはずだ」
揶揄を意識してか、車に乗り込む際には上着を脱ぐ様子も見せていました。
●サハリン2、ロシアが「接収」 プーチン氏が大統領令 7/1
ロシアのプーチン大統領は6月30日、日本の商社が参加する極東サハリン沖の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」に関し、ロシアが新設する会社に移管し、現在の事業会社の資産を無償譲渡するよう命じる大統領令に署名した。事実上、ロシア政府が接収するもので、ウクライナ侵攻を受けた対ロ制裁への報復とみられる。日本企業が事業を継続できるか不透明だ。
サハリン2の事業会社サハリンエナジーには、ロシア国営天然ガス独占企業ガスプロムが約50%、三井物産が12.5%、三菱商事が10%それぞれ出資。液化天然ガス(LNG)生産量の約6割が日本向けとなっている。大統領令は今回の対応を「幾つかの国などによる非友好的行為に関する特別経済措置」としており、事業会社が新会社に移管されることで、日本の調達に影響が出る恐れがある。
●プーチン氏G20参加協議か ロシア・インドネシア首脳が会談 7/1
ロシアのプーチン大統領は30日、モスクワでインドネシアのジョコ大統領と会談した。インドネシアのバリ島で今秋開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)へのプーチン氏出席をめぐり協議したとみられる。
会談後の記者発表で、プーチン氏は「G20サミット開催を準備するインドネシアの努力を支持する」と表明。一方、ジョコ氏は29日に会談したウクライナのゼレンスキー大統領からのメッセージをプーチン氏に渡したことを明らかにし「両首脳の接触を調整する用意がある」と述べた。
●ウクライナの穀物輸出、ロシアは妨げておらず=プーチン大統領 7/1
ロシアのプーチン大統領は30日、ロシアはウクライナの穀物輸出を妨げていないとした上で、ウクライナの農産物が世界の食料市場から失われたとしても影響は軽微との見方を示した。
プーチン大統領は「われわれはウクライナの穀物輸出を妨げてはいない。ウクライナ軍は港への経路に機雷を仕掛けているが、その機雷をの除去を妨げるものは誰もいない。われわれはそこからの穀物輸送の安全を保証する」と指摘。世界の食料市場における問題や食料価格の上昇は欧米の制裁に起因していると改めて主張した。
また、ウクライナ国内に積み上がっている小麦は500万トンと世界生産量の0.5%に過ぎず「世界市場に何ら影響を与えない量」とし、ウクライナが世界市場に与える影響を軽視した。
一方、国連は5月上旬にウクライナに積み上がっている穀物は2200万トンと推定。ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、今秋までに7500万トンに膨らむ可能性があると述べた。
●残忍な戦争の現実に直面する外国人部隊 ウクライナ 7/1
ロシアが侵攻したウクライナで外国人部隊のメンバーとなった戦闘員たちは、戦争の残忍さにショックを受けており、予想していた状況とは違うとの戸惑いも広がっている。
外国人部隊に参加した西側出身のポラックさんは、ウクライナで実際に起きていることに直面し、「アフガニスタンやイラクで戦ってきた連中が、準備ができていないと言っている」と話す。
ポラックさんはウクライナ東部ドネツク(Donetsk)州クラマトルスク(Kramatorsk)にあるカフェでAFPに対し、「正直に言えば、われわれの部隊には相当な数の臆病者がいる」と語った。「時には、初めての交戦を経験した後、『あんな状況には対処できない』と言って去る人もいる」という。
ポラックさんは、外国人部隊に「カナダやジョージア、クロアチア」など幅広い国の出身者が参加していることをうかがわせた。ただ、多くは砲撃を含むような戦争を想定した訓練は受けていない。
「最悪」の戦争
「イーロン・マスク(Elon Musk)よ、聞こえるか。われわれには助けが必要だ」。北東部ハルキウ(Kharkiv)で任務に就く元米兵は記者会見で、世界一の富豪マスク氏を名指ししてこう訴えた。
最近、オランダ、フランス、ドイツ、オーストラリア出身者がそれぞれ1人死亡し、外国人部隊が直面している現実が浮き彫りになっている。ロシアは6月初め、「外国人傭兵(ようへい)数百人」を殺害したと主張している。
外国人部隊のフランス人スポークスマン、ダミアン・マグルー(Damien Magrou)氏(33)は、部隊の多くのメンバーが戦闘現場での残虐性にたじろいでいる実態を認めた。
マグルー氏は「過去に6回も戦争を経験した米国人が、今まで見た中で最悪の状況だと言った」と話す。
さらに「ミサイルや砲撃など、彼らが予想していたと思われる状況とは大きく異なる」と指摘し、部隊の10〜30%のメンバーが前線に派遣される前に元の生活に戻ったと明らかにした。メンバーは、ウクライナ軍と契約を交わしているものの、いつでも離脱可能だ。
外国人部隊の構成について、「ほぼすべての志願者が元兵士で、3分の1は英語圏から来ている」とマグルー氏は述べた上で、「米国人は自由や西側の価値観を守るために戦い、ポーランド人は自国防御にもつながるため、ウクライナを守りたいと話している」と説明した。
ハルキウでAFPのインタビューに応じたドイツ人のミカさんは「テレビで映像を見て、ここに来たいと思った」と打ち明けた。そして、「軍隊にいたので役に立てるのではと考えた。ウクライナへの侵略者を阻止しなければ、別の国々が次々と侵略されることになる」との危機感を訴えた。
外国人部隊の中には、イタリアや韓国の出身者のように、「訴追される危険を承知の上で」参加している人もいる。
ただ、マグルー氏の状況は若干違う。首都キーウの法律事務所で2年間働いており、自ら戦地に赴いたというよりも、戦争の方が同氏に降り掛かってきたのだ。
AFPがキーウ中心部の街頭で、軍服を着たマグルー氏を取材していると、高齢の女性が手を振った。同氏は「ウクライナの人たちから感謝されており、食料を頂戴したり、われわれの行動に感謝の気持ちを示されたりする」と話した。
●駐日ジョージア大使らが振り返る「ロシア・ジョージア戦争とウクライナ侵攻」 7/1
駐日ジョージア大使のティムラズ・レジャバ氏、国際政治学者のダヴィド・ゴギナシュヴィリ氏が、6月29日発売の『Maybe!』(vol.13)「ビッグラブ」特集内の「愛で戦争を止めたい」に登場した。ともに1980年代にジョージアの首都トビリシに生まれ、2008年にロシアによるジョージアへの侵攻を経験した。「5日間戦争」と呼ばれた当時の侵攻の状況を振り返るとともに、現在起きている、ウクライナ侵攻について見解を語った。
ダヴィド氏:2008年のロシア・ジョージア戦争は、いまのウクライナ侵攻ほど注目を浴びませんでしたが、戦争自体の展開は非常に似ていました。戦争勃発前からミサイルが飛んできたり、ジョージア北部のいわゆる「南オセチア」(ジョージア北部のロシアが占拠する地域)で民間人がスナイパーに射殺されたりしました。2008年4月にNATOのサミットでジョージアは「NATOに加盟してもいい」というような宣言が出されたのですが、そこからロシア側の戦闘準備が加速して、7月には国境沿いでロシア軍が軍事演習を始めた。これもウクライナと同じですね。挑発的な攻撃に対してジョージアが反撃したら、大規模な戦争に発展したわけです。
レジャバ大使:ロシアにとっては、あの侵攻って実験みたいなものだったんですよ。どこまで攻撃したら国際世論が反応をするのか試していた。そして実際にいわゆる「南オセチア」を占領して、「これくらいなら大して非難もされずにクリーンに上がれるだろう」と思わせる成功体験を与えてしまったんじゃないかなと思いますね。実際ジョージアでの戦争は5日間で終わりましたし。「だったら別の所でも頑張ろう」というのがロシアの思いになったのではないかと。
ダヴィド氏:当時、国際社会が断固としてロシアを非難し、適切な処置をとっていたら、ロシアはウクライナを侵略する気にならなかったと思いますよ。
レジャバ大使:(プーチン大統領は)ウクライナを「非ナチ化している」と発言されていますから、良いことをしているつもりなんでしょうね。民間人を殺してもなんとも思っていないんじゃないですか。しかし、それは皮肉の他なんでもない上に、この無惨な行動は忘れられることはないでしょう。
●「ボルシチ戦争」、ウクライナが勝利 ユネスコの無形文化遺産に 7/1
国連教育科学文化機関(ユネスコ)は1日、ウクライナでのスープ「ボルシチ」の料理文化を緊急保護が必要な無形文化遺産に登録した。ウクライナが申請し、ロシアは強く反対していた。
ユネスコは、政府間委員会によってリストに登録されたと発表した。ロシアのウクライナ侵攻がもたらす「この伝統に対する悪影響」を踏まえ、通常より速い審査プロセスが取られたという。
ビーツを使って通常作られる栄養価の高いボルシチは、ロシアをはじめとする旧ソ連圏で広く食される一方、ウクライナは国民的料理と訴えていた。
ウクライナのトカチェンコ文化相は通信アプリ「テレグラム」で、「ボルシチ戦争でわれわれは勝利した」と表明。ロシア外務省のザハロワ情報局長は先に、ボルシチの遺産登録の動きを「一つの国家」に帰属させる試みだと非難していた。
●フィリピンにアジア初の「エクソシスト養成センター」  7/1
フィリピンにアジア初の「エクソシスト養成センター」が設置されるという。その名の通り、大ヒット映画「エクソシスト」(ウィリアム・フリードキン監督、日本公開1974年)にも登場する「悪魔払い」の養成機関のようだが、この時代にそうした施設ができる背景には何があるのだろうか。ジャーナリストの深月ユリア氏が専門家の見解を聞き、解説した。
英紙「デイリースター」によると、フィリピンのマニラでアジア初となる「エクソシスト養成センター」を建設中だという。
映画でもおなじみの「エクソシスト」とは、いうまでもなく、悪魔に憑(つ)かれた人・生き物・物体から悪霊を追い払う人々で、ギリシャ語の「追い払う」という言葉「Exorkizein」から由来している。
報道によると、マニラの 「エクソシスト養成センター」にはフィリピン・カトリック・エクソシスト協会(PACE)の本部や、「超常現象委員会」なる支部も置かれる予定とのこと。なぜ、この科学が進歩した世において、コロナやウクライナ戦争で不況なのに、わざわざ「エクソシスト養成センター」を建設するのか、疑問もあるだろう。
国連NGOのUPFの世界の宗教指導者が集まる会議で幾度も日本の仏教代表として参加し、宗教学に詳しい光寿院住職の酒生文弥氏に取材したところ、「コロナやウクライナ戦争のなか、心ならずも悪に手を染めてしまう人やストレスで心身に不調をきたす人が増えていることが背景にあります。光と闇の闘争を説くゾロアスター教の影響を受けて成立した旧約聖書では、堕天使ルシファーを『超越的』な悪魔として超越的な神と対峙(たいじ)させます。ユダヤ・キリスト・イスラム教という超越的一神教は、強烈な『二元論』であり、キリストが克服を試みた『目には目を』的な対立・闘争をあおる面が拭えません。よって、神への信仰を促すことと悪魔の誘惑を払うことが同時に行われます。カトリックを中心に悪魔払い(exorcism)は、『quick-fix (手っとり早い解決)』として、長く行われてきたのです」という。
実は、今世紀になって「エクソシスト養成センター」の建設をしているのはフィリピンのみではない。筆者の母国ポーランドのカトヴィツェでも「エクソシスト養成センター」が設立された。
ポーランドでは、既に神父でもあるエクソシストたちが活躍していて、ポーランド出身のローマ法王、ヨハネ・パウロ2世(1920−2005年)も実力あるエクソシストで3度の悪魔払いを行っていた。
エクソシストたちが「悪魔払い」をする際、「悪魔憑(つ)き」とされる人にたいして、イエス・キリストの御名により、ここより去り行くべし」という祈りを唱え十字を切る。儀式には、聖水や聖油、聖塩などが使用される。
(第266代)ローマ法王フランシスコは2017年12月13日に放送されたカトリック番組「TV2000」で信者に対し「悪魔に惑わされないように」と警告した。
「悪魔(サタン)といかなるコンタクトも避けるべきだ。サタンと会話を交わすべきではない。彼は非常に知性的であり、レトリックに長け、卓越した存在だ」「サタンは一人の存在であり、名前もある。彼はあたかも育ちのいい人間のような振る舞いをする。あなたが“彼が何者であるかに早く気がつかないと、悪業をするだろう。だから、彼から即離れることだ。サタンは神父も司教たちをも巧みにだます。もし早く気がつかないと、悪い結果をもたらす」(フランシスコ)
ここでいうサタンは形を持った怪物ではなく、「他人の弱みにつけこんでだます、極悪の魂」という比喩だと思われる。コロナ禍やウクライナ戦争で経済が落ち込み、残念ながら貧困から「悪」に心を惑わされ、悪行に手を染めてしまう人間は増えているのかもしれない。
マニラの 「エクソシスト養成センター」の意義について、フランシスコ・シキア所長は「悪魔に支配されている人々や貧しい人々や、社会から見棄てられているような環境にいる人々を救う」ことにあるという。つまり、超常現象的な「悪魔の憑依(ひょうい)」のみならず、社会的弱者が魂を「悪」に売り渡さないように守るという意義もあるのだろう。
●ロシアによるマリウポリの劇場攻撃は「明確な戦争犯罪」=アムネスティ 7/1
人権団体アムネスティ・インターナショナルは6月30日、ウクライナ南東部の都市マリウポリで3月にあった、ロシア軍による劇場の空爆について、「明確な戦争犯罪」だとする報告書を公表した。劇場には当時、数百人の民間人が避難しており、少なくとも12人が死亡したとしている。
アムネスティは報告書の中で、ロシア軍は建物が民間施設だと知りながら「意図的に狙った可能性が非常に高い」とした。また、500キロ爆弾2個を接近した場所に撃ち込み、同時に爆発させた可能性が「非常に高い」とした。
アムネスティはさらに、攻撃は「偽旗」作戦の一環として建物内で行われたとするロシア国防省の主張を含め、他の説明に関しては、説得力のある証拠は見つからなかったとした。
アムネスティ・インターナショナルのアニエス・カラマール事務局長は、「この攻撃はロシア軍による明確な戦争犯罪だと、私たちは結論づけた」と述べた。
「この無情な攻撃で、多くの人が死傷した。ロシア軍が意図的にウクライナの民間人を標的にしたことで、死者が出たとみられる」
劇場は、ソヴィエト連邦時代の巨大な建物で、市中心部の公園にあった。ロシア軍に包囲され、電気、水道、通信手段を失ったマリウポリの他の地域から逃れてきた住民たちの避難場所になっていた。また、「人道回廊」を利用して市外に出るための情報を求める人々の集合地点にもなっていた。
アムネスティによると、攻撃があった3月16日午前10時ごろに劇場内にいた人数は、正確には特定できないものの、数百人程度いた。目撃者や生存者らは当時の人数について、300〜400人から1000人までさまざまに述べた。大半は女性、子ども、高齢者だったとした。
アムネスティは、少なくとも12人が死亡したと推定。「もっと多くの死者」が報告されていないとした。ただ、これまで考えられていたより、実際の死者は「はるかに少ない」とみられると指摘した。
マリウポリ市議会は攻撃からまもなく、死者は300人に達すると推定していた。劇場にいた人たちの記録と、生存者からの直接の聞き取りに基づいて出した人数だった。
報告書によると、建物の被害状況は「2つの、しかし1つだとも思われた大型の爆弾が、空から同時に落とされ、互いに接近して爆発した状況に一致する」ものだった。「建物の中で2つの兵器が同時(またはほぼ同時)に爆発すれば、目撃者には1つの爆発のように見えたり聞こえたりする」という。
アムネスティが話を聞いた目撃者の1人、グリゴリー・ゴロヴニョフさんは、攻撃時は劇場から約200メートルの場所にいたという。彼は、「飛行機の音が聞こえた」、「(飛行機は)絶えず飛び回っていたので、真剣に注意を向けなかった」と話したという。
また、「その時、建物の屋根が爆発するのを見た。(中略)屋根は20メートル吹き飛ばされ壊れた」、「たくさんの煙とがれきを見た。(中略)劇場は避難所になっていたので、目を疑った」と述べたという。
画像からは、攻撃の少なくとも2日前から、劇場前の地面2カ所に、ロシア語で「子どもたち」を意味する文字が大きく書かれていたことがわかる。アムネスティは、劇場は「正当な軍事目標ではなかった」とし、付近にも「正当な軍事目標は1つもなかった」と述べた。
アムネスティの調査は、52人の生存者と目撃者への聞き取り、写真、ビデオ、衛星画像に基づいている。その結果は、攻撃の直後にBBCが報じた内容と合致している。
目撃者たちによると、劇場は民間人の避難所としてよく知られていた。攻撃当日の朝には、ロシア軍機がこの地域を飛ぶのを聞いたり、見たりしたという。また、劇場の建物は民間人しか使用しておらず、ウクライナ軍の基地ではなかったという。
ロシア側は劇場への攻撃を否定。国防省は声明で、ウクライナ軍のアゾフ連隊が攻撃を実行したと主張している。同連隊は、極右勢力とつながりのある民兵として発足した経緯がある。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、今回の戦争について、ウクライナを「脱ナチス化」するためのものだと、根拠のない主張をしている。アゾフ連隊は、そうした主張を擁護する人たちの格好の非難の的となっている。
ロシアによる数週間に及ぶ執拗な攻撃で、マリウポリではすべての地区が荒廃した。同市議会は、この戦争で少なくとも2万人が死亡したと推定している。ただ、この数字は独立した確認が不可能だ。
マリウポリは5月初旬、ウクライナ人戦闘員数百人が投降し、陥落した。
●ウクライナ 黒海の島奪還も ロシアがオデーサ州でミサイル攻撃  7/1
ロシア軍による侵攻が続くウクライナでは南部でも戦闘が激しさを増しています。
ウクライナ軍は、ロシアが占拠していた黒海の拠点の島を奪還したと強調しましたが、ロシア軍はオデーサ州でミサイル攻撃を行い、子どもを含む19人が死亡するなど市民への犠牲が広がっています。
ウクライナ南部のオデーサ州の沖合にあり、ロシア軍が占拠していた黒海のズミイヌイ島について、ウクライナのゼレンスキー大統領は先月30日「ズミイヌイ島は再び自由になっている」と述べ、島を奪還したと強調しました。
ズミイヌイ島は、ことし2月に軍事侵攻が始まった直後にロシア軍に占拠され、ロシア側が港湾都市オデーサとその周辺一帯を攻略する拠点と位置づけているとみられていました。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官も、自身のSNSに投稿し、ウクライナ製のりゅう弾砲が島の解放に重要な役割を果たしたと明らかにしました。
そのうえで「敵を打ち負かす手段を提供してくれた海外のパートナーに感謝する」として、ウクライナと、軍事支援を続けている欧米各国との連携もあって島を奪還できたとしています。
ロシア軍の撤退について、イギリス国防省は1日、「ウクライナ軍は過去数週間、ミサイルとドローンを使い、ロシア軍の駐屯地への攻撃を行った。さらに対艦ミサイルで島への補給を試みるロシア海軍の艦艇を阻止した」と指摘しています。
そのうえで「ロシア側は『善意の印』として部隊を撤退させたと主張するがロシア軍の駐屯地が孤立し、ウクライナの攻撃に対するぜい弱性が増したことで撤退した可能性が高い」と分析しています。
一方、ウクライナの非常事態庁によりますと、南部のオデーサ州で1日未明、9階建ての集合住宅と保養施設にミサイル攻撃があり、子どもを含む19人が死亡したということです。
また、子ども6人を含む38人がけがをしたとしています。
オデーサ州の当局は、ウクライナ軍の話として、ミサイル攻撃は、黒海方面からのロシアの軍用機によるものだと伝えています。
ウクライナ軍参謀本部は30日の会見で、ロシア軍によるウクライナ国内へのミサイル攻撃の回数について、6月後半の期間だけで202回に上り、急増していると明らかにしました。
ウクライナ側は、多くの民間施設が標的になっているとして市民に対する無差別攻撃だと強く非難しています。
●斧や銃で襲われ「血の海に倒れていた」 オリガルヒ連続「不審死」 7/1
現在はイギリスのロンドンで暮らす、ロシアの銀行家ゲルマン・ゴルブンツォフによれば、数カ月前からオリガルヒたちが続けざまに謎の死を遂げており、これは「偶然ではない」という。ウラジーミル・プーチン大統領に近い存在であり、巨額の富と権力を有する「新興財閥」オリガルヒたちに何が起きているのだろうか。
ゴルブンツォフは、「Secrets of the Oligarch Wives(オリガルヒの妻たちの秘密)」と題された新しいドキュメンタリーに出演。このドキュメンタリー作品は、ロシアのオリガルヒたちの女性パートナーを紹介し、プーチン政権の近くで目撃したことを話してもらうという内容だ。
このドキュメンタリーの中でゴルブンツォフは、オリガルヒの相次ぐ死について、「殺し屋は、一家を消すよう命じられると、独自の方法を考える」と話している。「似たような方法でも、斧だったり、銃だったりと、それぞれ微妙に違う。しかし皆、同じように死んでいる。一度や二度であれば偶然かもしれないが、これは偶然ではない。決して自殺ではない」
ゴルブンツォフとドキュメンタリーのナレーターは、オリガルヒたちの死について語る前に、ゴルブンツォフがロシアを去った後に起きた、ゴルブンツォフ自身の「暗殺未遂事件」について詳述している。
ゴルブンツォフがロシアを去ったのは、2人のビジネスパートナーにだまされそうになったためだ。このドキュメンタリーによれば、ゴルブンツォフはロシアの捜査当局に、2人の元パートナーに関する証拠を提出することになっていたが、命を狙われたため実現しなかった。
2022年1月末以降、6人のオリガルヒが謎の死を遂げている。1人を除いてすべてが、プーチンがウクライナに侵攻した2月24日以降の出来事だ。ゴルブンツォフは、自殺ではないと断言しているが、死の理由については何も語らなかった。同じくドキュメンタリーに出演している資本家のビル・ブラウダーは、ロシアに対する西側の制裁が一役買った可能性を指摘している。
「ロシアに対する制裁が始まってから、パイが小さくなったように見える」と、ブラウダーは話す。「つまり、少ない金を巡って大勢で争っているということだ。限られた資源と、強大な力を持つ人々がそろったとき、必ず人が殺され始める」
最初の死は、唯一ウクライナ戦争が始まる前に起きた「死」で、1月末に明るみに出た。CNNによれば、ガスプロム・インベストの輸送責任者だったレオニド・シュルマンが1月30日、ロシアのレニングラード州にあるコテージのバスルームで、自殺とみられる状態で発見された。
オリガルヒと家族の遺体が一緒に発見された例もある。一連の死のほとんどは、自殺として捜査されていると伝えられている。
また、オリガルヒではないものの、プーチンとつながりのある元ロシア高官が6月20日、自宅で撃たれた状態で発見された。大衆紙モスコフスキー・コムソモーレツは、元治安機関幹部である53歳のバディム・ジミンが、モスクワの自宅で「血の海のなかに」倒れているところを弟が発見したと報じている。
ジミンは、核兵器の発射コードが入ったブリーフケースを運んでいたこともある人物だが、贈収賄疑惑で捜査の対象となり、職を解かれ、自宅軟禁となっていた。
●プーチンが主張する「ウクライナ東部のロシア系住民を救う」のウソ  7/1
ロシアのプーチン大統領は「ウクライナ東部のロシア系住民が虐殺されている」と主張し、ウクライナに侵攻した。神戸学院大学の岡部芳彦教授は「私は過去に16回、東部のドネツクを訪ねたが虐殺とは縁遠い長閑な地方都市だった。しかし、ロシアは戦争の下準備として、かなり早い段階からこうした情報工作を行っていた」という――。
「私はロシア人だ」と言うウクライナ人に会ったことがない
2013年から14年にかけて、EUとの連合協定締結を拒否したウクライナのヤヌコーヴィチ大統領(当時)に反発する抗議デモが警察・機動隊と衝突した末に、同政権を失脚させたマイダン革命が起こりました。
その隙をついてロシアがクリミアを占領し、東ウクライナでは実はロシア軍が主体である「親露派武装勢力」とウクライナ軍の間で戦闘が起こり、8年にも及ぶ戦争が始まります。2014年8月のイロヴァイシクの戦い、2015年1月から2月にかけてのデバルツェボの戦いを経て、ロシア側に有利な戦況の下でミンスク合意が結ばれたものの散発的な戦闘が止むことはありませんでした。
2009年から2013年の間に、東部のドネツクに計16回訪れましたが、少なくとも僕は、「私はロシア人だ」と自分から言う人に出会ったことはありません。もちろん、「多様な国」ウクライナなので、ロシアを支持する人もいるでしょう。ただ、少なくともウクライナ国籍者で「ウクライナに住むロシア人」だと言う人に会ったことは全くありません。
ロシア人だと教え込まれ、戦場へ向かった子供たち
ドネツクは現在ロシアが主張するジェノサイドとは縁遠い長閑な地方都市に過ぎませんでした。ロシアに後押しされた一部の住民や社会のアウトサイダー、そして旧共産党幹部などが、その出世欲からドネツクとルガンスクに偽の共和国を作り、8年にわたり、この地のウクライナ人を抑圧的に支配してきたのが実態です。
また、2019年6月からは2つの人民共和国地域でロシアの国籍の付与、つまり旅券の「配布」も始まっており、プーチン大統領のいう、「東ウクライナのロシア系住民」は巧妙に作り出されてきたということになります。
また、その地域の子供たちは、急に「人民共和国民」とされて、自分たちはロシア人だという教育を8年間受けています。当時10歳だったとすると今は18歳となり、徴兵されて、マリウポリに送り込まれたりしています。
2014年、日本で目にしたロシアの「下準備」
マイダン革命が起こった2014年は僕にとっても不思議で、またもどかしく、苦い経験が数多くあるとともに、多くのことに気づかされた年でした。
マイダン革命から7カ月ほどが過ぎた2014年9月9日、この日は僕の人生にとって最悪な誕生日であったのでよく覚えています。7月17日にはマレーシア航空機が東ウクライナで撃墜され、情勢が混迷を深める中、永田町の衆議院議員会館では、あるロシア政治の権威とされる先生の講演がありました。本当は、あまり気が進まなかったのですが、僕はウクライナに詳しいので、その講演後にコメントをしてくれと主催者に言われしぶしぶ参加しました。
その先生はロシア正教会を中心にウクライナ国内の宗教事情を話し始めたのですが、今ほどウクライナに詳しくなかった僕の目から見ても、かなり間違いの多い内容でした。
親切心で間違っている箇所をいちいち指摘したかったのですが、あまりに多すぎたのと、学会での権威者ということもあり、人前で恥をかかせても可哀そうだなと思い、特に何も言いませんでした。
「ドネツク全域が火の海で人道危機が起こる」
お話が終わると、次に出てきたのがロシア連邦国際交流庁駐日代表部長の肩書を持つ方でした。日本とロシアで2つの博士号を持ち、ヤポニスト(日本学者)を自称して、まあまあ上手い日本語を話すこの男性は、普段からやや自意識、自信過剰なところがあり、日露交流をしている日本人の間でもあまり評判がよくありませんでした。
質疑の時間に入ったとたんに、したり顔で、ドネツクで撮影されたという5枚ほどの写真をクリップで止めて聴講者に配り始めました。そして一言「ドネツクでは今ロシア語系住民のジェノサイドが起こっており、また全域が火の海で第2次世界大戦以後最大の人道危機が起こる」と言いました。さすがにこれはないなと思ったのと、またドネツク州の広さを知っているのかと思い「戦闘自体は点と線で起こっており、さすがに全体が火の海はない」と言ったところ、気色ばんでロシア語交じりで反論してきました。
そこで「あなた、ドネツクに何回行ったことがある? 私はこの5年で15回以上訪問したが」と言ったところ、当然、彼は一度も行ったことがなかったのでしょう、押し黙ってしまいました。会合が終わって、スポーツマンシップにのっとってノーサイドで仲直りでもしておくかと名刺を持って行ったところ、受け取りを拒まれ、両手を挙げて肩をすくめながら足早に去っていきました。
ただ、今考えてみると、ロシア側は、このころから「東ウクライナでロシア系住民のジェノサイドが起こっている」と日本でも繰り返し主張していました。今回の戦争の情報戦の下準備はかなり早い段階で行われていたのです。
政府のプロパガンダを広めるロシア外交官の悲哀
同じ時期、これとは対照的な経験をしたこともあります。2014年当時、日本にいるロシアの外交官の言動は、先ほどの男性をはじめ、今と同じく支離滅裂でした。明らかにパニックを起こしていて、本国政府から赴任国向けに説明するように言われている内容を公式な場で述べるものの意味不明で、彼らの頭のなかで整理、理解ができていない様子でした。
ただ終始一貫していたのは「マイダン革命」が「非合法のクーデター」だと主張していたことです。この説明でいくと、正統で合法的な大統領はヤヌコーヴィチであり、現在の政権は「米国主導で正統な政権を崩壊させようとする違法なクーデター」によりできたことになります。
マイダン革命からしばらくして、あるロシアの外交官の講演会が大阪で開かれて僕もどんな主張をするか興味があり聴講しました。彼は日本語が上手く、頭脳明晰めいせきで、僕のゼミで非常にわかりやすい講義をし、学生からも好評でした。
しかし、この日は100%ロシア政府のプロパガンダを話そうとするものの、良識ある彼はどうしてもそれをうまく話せない様子で、外交官という職業の悲哀を感じました。
講演終了直後、僕を見つけた彼が小走りでやってきて、「ちょっと話がある」と声をかけられました。別室に移って2人きりになると彼は言いました。
「今回の件で、〈ウクライナ〉という国とウクライナ人について、わかったつもりでいただけで、本当はよくわかっていなかったことを思い知った。ロシアの外交官も同じで、しかもまだ気づいていない者も多い。ついては、ウクライナに詳しい貴方に、ロシア語で、我々の外交官向けにレクチャーしてもらえないだろうか」
プーチンは「ウクライナ人は歓迎する」と信じ切っていた
ロシア人が、ウクライナやウクライナ人について、日本人の僕に教えを請いたいということに驚きました。さすがにロシア人相手にロシア語で講義をするというのはあまりにハードルが高く、即座にお断りしました。
ただ彼は誠実な人物で、その出自は少数民族のタタール人です。もしかしたらウクライナを兄弟国家と教え込まれてきたロシア人だとそんな発想は思いつかなかったかもしれません。
漏れ伝わるところによれば、プーチン大統領は今回、自分の出身の情報機関からの「ウクライナを解放すればウクライナ人は歓迎する」といった誤った情報に基づいて侵攻の決断をしたといいます。あるいは本人もそのように信じ切っていた節もあります。
あの時、僕がロシアの外交官たちに、ウクライナの本当の姿や正しい政治情勢について話しておけば、少しぐらいは声が届いて、僅かながらでも今回の事態を避ける一助になったかもしれないと考えると今でも悔やまれてなりません。

 

●マティス元米国防長官、「ロシアの衰退を目の当たり」 ウクライナ情勢に言及 7/2
マティス元米国防長官は1日、韓国の首都ソウルで行われた会合でウクライナ情勢に触れ、ロシアによる戦争を「非道」「作戦上おろか」と批判した。
マティス氏は「米国には『同盟国がある国は繁栄し、ない国は衰退する』との格言がある」と紹介したうえで、「我々はいまロシアの衰退を目の当たりにしている」と断じた。
ここまでの戦況から引き出せる軍事的教訓は何かとの質問に対しては、「一つには、無能な将官に作戦を指揮させてはならないということだ」と指摘した。
さらに、ロシア軍の戦いぶりを「哀れ」と形容。ウクライナでの軍事行動は「非道かつ戦術的に無能、作戦上おろかであり、戦略的にばかげている」とこき下ろした。
マティス氏はロシアを「諸国家の共同体」に引き入れようとした過去の米国の努力に言及しつつも、プーチン氏を指導者とするロシア相手ではそれは不可能との見方を示した。
「我々の時代の悲劇は、プーチン氏がドストエフスキーの世界からそのまま出てきたような人物であることだ。彼は毎晩、怒りや恐れにさいなまれながらベッドに向かう。ロシアが悪夢のような状況に囲まれていると考えながら毎晩就寝するのだ。こうした思考が彼を導いている」(マティス氏)
また、プーチン氏は自分に賛同しない者を周囲から排除してきたため、「ウクライナ国民が自身のことを歓迎すると思い込んでいたのだろう」とも指摘した。
●ウクライナ避難民は「テロ組織かも、監視すべきだ」…県議を厳重注意  7/2
福井県議会の最大会派・自民党福井県議会の斉藤 新緑しんりょく 県議(65)が、県議会委員会でウクライナ避難民について「監視すべきだ」などと発言した問題で、同会派は1日、仲倉典克会長が斉藤県議を口頭で厳重注意した。今後、発言の一部を議事録から削除する方針を決めた。
斉藤県議は6月28日の委員会で、避難民の受け入れについて「テロ組織が国内に入っているかもしれない。常に監視すべきだ」などと発言していた。
県議会は3月、ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議を可決。県内にはこれまでにウクライナから10人が避難しており、別の県議らから「発言内容には根拠がなく不適切だ」との声が上がっていた。
●ロシア軍、撤退の島で白リン弾使用か ウクライナが非難 7/2
ウクライナ軍は、ロシア軍が1日、前日撤退していた黒海(Black Sea)のズミイヌイ島(スネーク島、Snake Island)で、白リン弾を使用した攻撃を行ったと発表した。
ロシア国防省は前日、同島から軍を撤退させたと発表。ウクライナからの安全な穀物輸出の実現に向けた国連(UN)の取り組みをロシアが妨害しないことを示す「善意の印」だと説明した。一方でウクライナは、同国軍の砲撃とミサイル攻撃によりロシア軍が撤退を強いられたと主張している。
ウクライナ軍は、ロシア空軍のスホイ30(Su30)戦闘機が1日午後6時(日本時間2日午前0時)ごろ、2回にわたり同島で白リン弾による攻撃を行ったと説明。「自らの宣言さえ順守できていない」として、ロシア軍を非難した。
ウクライナ軍が公開した映像には、同島で戦闘機が少なくとも2回にわたり空爆を行い、爆弾の上に白い筋のようなものが上がっている様子が映されている。空に特徴的な白い尾を引く白リン弾は、国際条約で民間人への使用が禁止されているが、軍事標的に対する使用は認められている。
ウクライナは、ロシア軍が2月に侵攻して以来、民間人地域を含む標的に対して白リン弾を複数回にわたり使用したと非難しているが、ロシア側は否定している。
●プーチン氏初外遊で歓迎なし 接触恐れ、自ら希望?―トルクメン 7/2
ロシアのプーチン大統領が6月29日、ウクライナ侵攻後初の外遊で訪れた中央アジア・トルクメニスタンでの待遇が、臆測を呼んでいる。カスピ海沿岸5カ国の首脳会議に参加するため、各首脳が首都アシガバートの空港に降り立ったが、プーチン氏だけ出迎えがなかった。自ら望んだという説もある。
米政府系放送局が伝えた映像によると、空港でカザフスタンのトカエフ大統領やアゼルバイジャンのアリエフ大統領は、民族衣装の少年らから、ロシアや旧ソ連圏で伝統の「パンと塩」や花束などで歓迎を受けた。
だが、プーチン氏にこうした対応はなし。独りでタラップを降りると、歩きながら暑そうにジャケットを脱ぎ、専用車に乗り込んだ。異例の光景に、インターネット上では「毒を盛られることを恐れて、パンを口にするのを嫌ったのではないか」「人々との濃厚接触を恐れている」という声が上がった。
実際、ロシア大統領府は厳しい新型コロナウイルス対策で知られ、親密な歓待をあえて拒否した可能性もある。2月にモスクワを訪問したフランスのマクロン大統領は、警戒してロシア側の検査に応じず、プーチン氏と会談時、長いテーブルの端に座らされた。
プーチン氏との「距離」は今回のカスピ海沿岸5カ国の首脳会議でも話題になった。巨大な長方形のテーブルに、各首脳がマイクなしでは声が聞こえないほど遠く離れて着席。コロナ対策かどうかは不明だ。
●ロシア軍 ウクライナ南部にミサイル攻撃 子ども含む21人死亡  7/2
ウクライナ南部のオデーサ州ではロシア軍によるミサイル攻撃で子どもを含む21人が死亡しました。欧米からの圧力が強まる中、ロシアのプーチン大統領はインドのモディ首相と会談するなど友好国との連携強化に向けて活発に動いています。
ウクライナ東部ルハンシク州ではロシア軍による激しい攻撃が続いていて、ロシア国防省は7月1日、ウクライナ側が拠点とするリシチャンシクの市街地に部隊が到達したと発表しました。
さらに南部オデーサ州では1日未明、9階建ての集合住宅と保養施設がロシア軍によってミサイルで攻撃されました。
現地で撮影された映像からは建物が原形が分からないほどに崩れ落ちがれきの山となっている様子が確認できます。
ウクライナの非常事態庁によりますと、子どもを含む21人が死亡し、39人がけがをしたということです。
ロシアに対し欧米各国は、G7やNATOの首脳会議を立て続けに開いて対応を議論し圧力を強めていますが、こうした中で1日、ロシアのプーチン大統領は、伝統的に友好関係にあるインドのモディ首相と電話で会談しました。
ロシア大統領府によりますと、世界的な食料危機やエネルギー価格の高騰は、ロシアに対する欧米の制裁が原因だと批判し、インドに穀物やエネルギーを確実に供給していくと強調したということです。
プーチン大統領は同じ日、同盟関係にあるベラルーシで開かれた会合にもオンラインで出席し、友好国との連携強化に向けて活発に動いていて、欧米側へのけん制を続けています。
●仏大統領の外交努力むなしく プーチン氏侵攻  7/2
今年2月にウクライナ侵攻が始まるまでの数カ月間、エマニュエル・マクロン仏大統領は自身をロシアのウラジーミル・プーチン大統領と西側諸国の主な橋渡し役と位置付け、世界の外交舞台でフランスが主導的役割を担っていると主張した。
だが新たなドキュメンタリー番組は、プーチン氏の侵攻への決意によってマクロン氏の努力が踏みにじられた様子を浮き彫りにした。
マクロン氏はフランスが輪番制の欧州連合(EU)議長国を務めた半年の間、カメラ班の同行を認めた。このドキュメンタリーは、ロシアと緊張が激化する中でプーチン氏を外交に誘導しようとする取り組みの失敗、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との関係、侵攻に対する欧州の対応を形成しようとする努力についてのマクロン氏の記録映像になった。
この「A President, Europe and the War(大統領、欧州と戦争)」というドキュメンタリーは、プーチン氏の予測しがたく、意図的に誤解させる言動にマクロン氏が手を焼いている様子を示した。
マクロン氏はその中で、3月初旬のオラフ・ショルツ独首相との電話で「彼の方から(対立の)通常の展開を破り、毎回われわれの不意を突いてきた」と話した。
2月24日の侵攻開始に先立つ4日間に、マクロン氏とプーチン氏の電話にエマニュエル・ボン仏大統領補佐官(外交担当)ら側近が耳を傾けている様子を、撮影班は記録した。米国は侵攻が差し迫っていると警告していたが、欧州当局者は米国の情報を疑っていた。
マクロン氏はウクライナを巡る緊張を和らげようと、プーチン氏にジョー・バイデン米大統領との会談を勧めた。プーチン氏は理屈の上では同意するとしつつ、交渉準備は側近がするべきだと応じた。マクロン氏は、プーチン氏にバイデン氏と会談する用意があるとする共同声明を顧問らに準備させるよう呼びかけた。
これに対しプーチン氏は「何も隠し立てするわけではないが、アイスホッケーをしに行きたい」と返答し、ジムにいると言い添えた。「運動を始める前に、まず顧問たちに電話をかけることをあなたに請け合おう」
マクロン氏は側近たちに、電話がうまく行ったと伝えた。
マクロン氏は、プーチン氏が関与すれば「価値がある。第一に、われわれが最善を尽くしたことを示すからだ」と語った。この機会を「台無しにすれば」、プーチン氏ははるかに難しい立場に追い込まれると思う、と話した。
その数時間後、共同声明を出すという計画は問題に突き当たった。ボン氏はプーチン氏の外交政策顧問のユーリ・ウシャコフ氏と協議した後、プーチン氏が顧問らに声明で米ロ首脳会談に言及しないよう指示したと語った。
ボン氏はドキュメンタリーで「問題はプーチン氏がうそつきだということだ」とし、「もっと賢く立ち回れるかはわれわれにかかっている」と話した。
プーチン氏はその翌日にウクライナ東部のドネツクとルガンスクをロシアは独立国と認識すると表明した。
●プーチン大統領、米国の「一極体制」を崩す「多極体制化は不可逆の過程」 7/2
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、現在は世界秩序が一極体制から脱し「多極体制へと進んでおり、これは逆戻りできない過程だ」と述べた。ウクライナ戦争以降の世界秩序の変化を眺めるプーチン大統領の「戦略的世界観」が過不足なく明らかになった言及であり、注目を集めている。
プーチン大統領は30日、第10回サンクトペテルブルグ国際法律フォーラムで公開された映像での挨拶で、「最近ここで開かれた国際経済フォーラムに続き、多極化した世界で法律といったテーマについて議論することは非常に重要だ」とし、「実際、現在の国際関係は多極体制へと向かっており、これは逆戻りできない過程だ。これは我々の目の前で起こっていることであり、本質的に客観的なことだ」と述べた。さらに、「ロシアと他の多くの国々の立場は、このような民主的でより公正な世界秩序(多極体制)が相互尊重と信頼の上に作られなければならないというもの」だと付け加えた。
この発言は、米国中心の「一極体制」がロシアのような国家には公正でないため、ロシアや中国などが率先して多極秩序を作っていくという意味と解釈される。さらに、米国が主導してきた自由主義的な国際秩序を崩すための一つの方法としてウクライナに侵攻したという意味とも理解できる。
プーチン大統領はまた、米国に向けて「ある国々は国際舞台で彼らが優越性を喪失しつつあるという事実を受け入れる準備ができておらず、不正な一極モデルを維持するために必死になっている」とし、「彼らが規範に基づいた秩序と呼ぶ外皮の下で、彼らは世界的な手続きを任意に統制し、指示しようとしている」と皮肉を込めて指摘した。
プーチン大統領は米国中心の一極体制を崩すために、国連や主要20カ国・地域((G20)会議、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)、そして中国やインド、パキスタンなど8カ国の正加盟国を含む上海協力機構(SCO)などを通じて「関心のある国々と多極関係を発展させていく」と述べた。
これを実践するために、中国とロシアは先月23〜24日に中国の北京で開かれたBRICS首脳会議で、現在5カ国である加盟国を拡大することを決めている。その後、イランやアルゼンチンなどが加盟申請したことが確認されている。この日の発言からすると、プーチン大統領は多極体制を支持する国々の範囲を広げるため、11月にインドネシアのバリで開かれるG20首脳会議に直々に出席する可能性が高いと判断される。同大統領が会議に出席するとなれば、2月末のウクライナ侵攻以後初めてバイデン米大統領ら西欧指導者と直接顔を合わせることになる。 
●ウクライナ軍も大活用! 3Dプリンターが戦争を変えていた! 7/2
ロシア・ウクライナ戦争で、ウクライナ軍の戦力の要になっているドローン部隊。その華々しい活躍の陰で、実はもうひとつの民生技術が暗躍している。
銃に使われる小さな部品から大きな防護壁まで、なんでも作れる3Dプリンターだ。21世紀の戦争は、無限の可能性を持つ3Dプリンターを中心に回る!!
20年間は飛ばないが40日間は飛ぶ
圧倒的戦力を持つはずのロシア軍だが、戦線は膠着(こうちゃく)している。特に目立つのはウクライナ軍のドローン部隊だが、ドローンと同じく民生技術の3Dプリンターも活躍しているという。慶應義塾大学SFC研究所上席所員で、テクノロジーと軍事の関係に詳しい安全保障アナリストの部谷直亮(ひだに・なおあき)氏はこう話す。
「3Dプリンターはデジタルデータに合わせて、さまざまな素材を積層して立体物を"印刷"(成形)する工作機械です。その特長はなんといってもコスパの良さ。これまではひとつの部品を作るのにも、工場のラインを動かして、職人が金型を作って、材料を調達して、と時間も資金もかかりましたが、3Dプリンターを使えば必要なときに必要な分だけ製造できる。しかも、複雑で精巧なものも成形できるため、戦地で重宝されているのです」
では、実際にどのように使われているのか?
「ロシアの侵攻に対し、ウクライナは3Dプリンターで製造したドローンを偵察用に使ったり、対装甲手榴弾(しゅりゅうだん)に3Dプリンターで作ったフィンをつけたりしています。これは手榴弾をドローンで運んで落とす際、バドミントンのシャトルの羽根と同じ要領で真っすぐ落とすためです。これにより命中率が格段に上がり、隊列を組んでいたロシア軍のトラックを撃破しまくり、65qもの"キーウの大渋滞"を起こしたのです。また、ドローンや銃が破損した場合も部品を印刷して修理しています」
3Dプリンターが活用されているのは前線だけではない。
「兵士のプロテクター、敵情を偵察するための潜望鏡、ケガに使う止血帯のホルダー部分なども3Dプリンターで製造されたものが使われています。しかし、すべてがウクライナで作られたワケではなく、他国の3Dプリンターで製造されたものも多いんです」
特に大きいのは隣国・ポーランドからの協力だ。ポーランドの首都ワルシャワにある3Dプリンター企業SygnisのCEOが、戦地の物資不足に役立つことを期待して、ウクライナのリビウに住む技術者の友人に3Dプリンターや印刷用の材料を送ったところから始まった。
「ポーランドの技術者たちは組織を形成し、3Dプリンター本体だけにとどまらず、作った製品を送るムーブメントが起こりました。ウクライナのDX担当大臣の『戦車に対する最善の解決策は技術だ』という発言から『テック・アゲインスト・タンクス』と名づけられたそのネットワークはヨーロッパ中に張り巡らされています。世界中の技術者たちがSlack(メッセージアプリ)を用いて設計図のやりとりをしており、それによってオンラインでデザインをブラッシュアップすることも可能になっているんです」
止血帯や潜望鏡の設計図はウェブ上にアップロードされており、3Dプリンターさえあればボタンひとつで誰でも製造可能になっている。
「このプロジェクトに使用される3Dプリンターの数は1000台以上。それによって一日に1万もの物資を作ることが可能になっています」
この組織はウクライナ国防省と密にやりとりをしており、必要な物資や部品の連絡を受ければSlackで共有し製造しているという。
一方、ロシア側の3Dプリンター活用術は?
「ロシアは爆弾の弾頭を3Dプリンターで作り、中に火薬とベアリングを詰めてドローンで爆撃したケースが報告されています。ただ、やはりドローン同様、新しい技術をうまく使えているのはウクライナでしょう。ドローンも3Dプリンターもできることが無限大。ウクライナ軍がスゴいのは、その中で最適なコンボを叩き出しているところ。ドローンと3Dプリンターの組み合わせがまさにそれです」
両軍で多用されている3Dプリンターだが、軍事品として耐久性に問題はないのか。
「材料の多くは樹脂、つまりプラスチックで作られるので当然耐久性には限度があります。しかし、例えばドローンでいえば、20年間は飛ばないかもしれないが40日間は飛ぶ。軍事利用という視点でいえばそれで十分なんです。フランス海軍では3Dプリンターで作ったスクリューを艦艇で使う実験をしていますし、プリンターの種類によっては丈夫な部品も製造可能です。ただ、金属用の3Dプリンターは値段も高く、サイズも大きいため、ウクライナでは家庭で使える一般的なものが多用されていると思われます。なかにはコンクリートで印刷するものもあり、ウクライナではチェコの会社がそれを使って防護壁を作りました」
3Dプリンターは軍事と相性バツグン
民生技術である3Dプリンターの進歩は軍事技術に3つの多大な影響を与えていると部谷氏は言う。
「ひとつ目は開発への影響です。前述したように、これまでは試作するたびに高額な金型を作り直し、工場のラインを動かす必要がありました。でも、3Dプリンターであればトライ&エラーが低コストで簡単にできる。それによって開発スピードがかなり上がったんです。中国軍の極超音速兵器の開発が異様な速度で進んでいるのは3Dプリンターがあるからだといわれていますし、北朝鮮も核兵器やICBMの研究で使っていると考えられます。ふたつ目はサプライチェーンへの影響。3Dプリンターと設計図データと材料さえあれば自国内でほとんどなんでも作れちゃうので、これまでの原材料調達→生産管理→物流→販売というプロセスが大幅に圧縮できる。もっと言えば、平和的な外交手段である経済制裁の効果も無効化できちゃうんです。半導体のような精密な部品はまだ実用できるレベルでの製造には至っていませんが。それでもロシアは今後3Dプリンターに依存することになると思います。3つ目は修理への影響です。防衛装備品は製造されてから何十年も使用することが少なくありません。米軍のB−52戦略爆撃機なんてベトナム戦争の前から飛んでいましたがいまだ現役ですし。ただ、そういった旧式機はすでに多くの部品が製造されていないんですよ。それによって整備や修理もできず、兵器そのものを放棄しなければならなくなる問題が起きつつありました。しかし、3Dプリンターならそういった旧式機の部品が作れる。米軍からもらった旧式機を多く所有している台湾軍は、3Dプリンターでレプリカ部品を作り問題を解決しました。さらに、部品を軽量化することで性能向上も期待しているのです。以前、私の友人の自衛官が、米海兵隊とAAV7という水陸両用車に同乗していたら、後ろのアンテナの部品が壊れちゃったのですが、軍曹がその場で印刷したそう。今までだったら、防衛産業の工場で止まっていたラインを動かす必要がありました。防衛産業もその重要な収益源を手放したくなかった。しかし、米国防総省が権利の整理を行ない、印刷するたびに企業側にライセンス料を納入させるようにした。企業としては、儲けは減りますが、ラインの莫大(ばくだい)な維持費がかからなくなり、権利費がノーコストで入ってくるようになったので、決して悪い話ではないんです」 
しかし、大量生産する場合、3Dプリンターだと高コストになってしまうのでは?
「確かに、大量生産においては従来の生産方式のほうが安く済みます。しかし、軍用品って意外と生産数が少ないんですよ。"戦争"と聞いて、太平洋戦争のようなものを思い浮かべる人が多いと思うのですが、大量生産して大量破壊する戦争はもうほとんどないんです。技術の進歩によって爆撃の命中率も上がったため大規模に攻撃する必要がなくなった。例えば、米軍のF−22戦闘機の総生産数は197機、自衛隊の機動戦闘車の年間調達数は30両強でしかないのです」
戦争で変わってきているのは規模だけではないと部谷氏は指摘する。
「近代以降の総力戦体制から、中世の戦争に似てきたと感じます。軍事技術が生まれたのは近代以降で、それまでは火縄銃を作るのは鍋や釜を作っていた職人だったり、刀を作るのは包丁を作っていた鍛冶屋だったりした。
つまり、民生技術と軍事技術の境目があまりなかった。ドローンも3Dプリンターも同じですよね。ドローンなんてオモチャみたいなものが戦車を倒すなんて誰も想像していなかった。民間の技術によって戦争が発達しているんです」
国際情勢に変化は?
「世界中で3Dプリンターが発達すれば、中国が大量生産して各国に大量輸出していた構図が一気に変わるでしょう。オバマ元大統領も3Dプリンターでアメリカの製造業の雇用を取り戻すと発言していました。中国もそれを危惧して3Dプリンター技術に力を入れています。3Dプリンターが普及した世界で勝つのは"データの権利を持つ国"と"3Dプリンター本体を作る国"になるでしょう。また、そうなると各国のサイバー防衛能力も重要になる。設計図が盗まれたら終わりなので」
その中で日本は?
「国全体がデジタル化に遅れているので、当然、自衛隊も遅れています。正直、ロシアのほうが進んでいますよ。以前、陸上自衛隊が米海兵隊と同じ水陸両用車を新品で買ったのですが、70年代に開発されたものだったためラインを新しく作り直させたんです。だから高かった。米側から中古品を安く提供するという話もあったのにです。自衛隊が3Dプリンターをちゃんと活用できれば、中古品を安く購入し不具合を適宜修正するほうが安上がりだったはず。これからの世界は可能性が無限大なドローンや3Dプリンターなどの技術をどう扱えるか、という戦いになる。それはつまり個々人の知性が国力になるということです」
日本はすでに出遅れている3Dプリンターレース。その勝者が次の世界の覇権を握る?
●サハリン2の権益を失うか...弱い立場の日本はウクライナ戦争「最大の敗者」 7/2
ウラジミール・プーチン露大統領は6月30日、ロシアに新会社を設立し、極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の事業主体「サハリンエナジー」のすべての権利と義務を移管するよう命じる大統領令に署名した。新会社の財産は直ちにロシア政府の所有下に移される。ウクライナを攻めあぐむプーチン氏が「ガス戦争」を激化させた格好だ。
2008年以降、出荷を開始したサハリンエナジーはサハリン北部の油田より原油を生産、原油生産能力は日量15万バレルに達する。ガス田より産出する天然ガスの液化も行っており、年間960万トンのLNG(液化天然ガス)生産能力を有する。LNGの約6割を日本に供給しており、わが国にとってエネルギー安全保障上の意義は大きい(三菱商事)。
株主は露天然ガス独占企業ガスプロムが50%+1株、英エネルギー大手シェル(旧ロイヤル・ダッチ・シェル)が27.5%-1株、三井物産12.5%、三菱商事10%。シェルはロシア軍のウクライナ侵攻を受け、2月28日にサハリン2を含むガスプロムおよび関連企業との合弁事業から撤退すると発表した。
シェルのベン・ファン・ブールデン最高経営責任者(CEO)は「欧州の安全保障を脅かす無意味な軍事侵略行為により、ウクライナで人命が失われたことに衝撃を受けており、これを遺憾に思う」と述べ、3月8日には「英政府の新たな指針に沿って、原油、石油製品、ガス、LNGを含むロシアのすべての炭化水素への関与から段階的に撤退する」と表明した。
西側の結束に苛立ちを募らせるプーチン氏
主要7カ国首脳会議(G7サミット)が6月26日から3日間にわたりドイツ南部エルマウで開かれ、「財政的・人道的・軍事的・外交的支援を引き続き提供する。ウクライナの軍備増強のため資材・訓練・兵站・インテリジェンス・経済支援を提供するため引き続き調整する」との声明を発表した。西側のウクライナ支援が継続すればロシア軍は撤退を余儀なくされる。
これに苛立ちを爆発させた格好のプーチン氏は27日、ウクライナ中部ポルタワ州クレメンチュクのショッピングモールを長射程空対艦ミサイルKh-22で攻撃した。少なくとも18人が死亡、21人が行方不明になり、59人が負傷した。首都キーウも26日にミサイル攻撃を受け、1人が死亡、6人以上が負傷した。
その日の早朝、中部クリヴィー・リフの取材を終え、寝台列車でキーウに戻った筆者はタクシーに飛び乗り、攻撃されたキーウ中心部の現場に向かった。近くにはロシア軍が過去何度か攻撃した旧軍施設があった。長距離の誘導ミサイルは大砲(射程40〜50キロメートル)に比べ精度が高いことをうかがわせた。プーチン氏の脅しであることは明らかだった。
引き続き北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が28〜30日、マドリードで開かれ、加盟申請したフィンランドとスウェーデンの手続き開始が決定された。難色を示していたトルコも支持に転じ、北欧2カ国のNATO加盟は大きく前進した。インド太平洋地域から日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドがNATO首脳会議に初めて参加した。
ソフトターゲットの日本
「サハリン2」を巡るプーチン氏の大統領令はこのタイミングで発せられた。北方領土問題で長年にわたりロシアの顔色をうかがい、エネルギー自給率が11%と低い日本はプーチン氏から見ればソフトターゲットである。資源国オーストラリアのエネルギー自給率は346%、ニュージーランド74%。韓国は19%で日本より高い。日本を揺さぶっているのは明らかだ。
国内総生産(GDP)の257%にのぼる膨大な政府債務残高を抱え、円安が急激に進む日本はウクライナ戦争で「最大の敗者」になる恐れがある。米ブルームバーグによると、三菱商事は「サハリンエナジーに加え、パートナー企業や日本政府と連携して対応を協議中」とコメント。三井物産は「大統領令の内容について確認中だ」とだけコメントした。
三井物産と三菱商事はすでにサハリン2など純資産の減額をそれぞれ806億円、500億円と計上している(野村総合研究所)。岸田文雄首相は1日「大統領令に基づき契約内容としてどのようなものを求められるのか注視しなければならない。事業者ともしっかり意思疎通を図って対応を考えていく。すぐにLNGが止まるものではないと考えている」と語った。
サハリンエナジーの海外出資企業は、新会社でも現在と同じ比率の出資をできる。出資企業は新会社設立から1カ月以内にロシア政府に出資継続に同意する通知を行わなければならない。ロシア政府は3日間で出資継続を認めるか否かを決定する。ロシア政府が拒否した場合、4カ月以内にその企業の株式はロシア側に売却される。
日本はウクライナとの連携を深めよ
プーチン氏は2020年の憲法改正で国際法より自国憲法を優先し、大統領の権限を大幅に強化した。プーチン氏から提示された条件に同意できなければ、三井物産と三菱商事はサハリン2の権益を失い、損失はさらに膨らむ。シェルはサハリン2の株式売却のためインドのエネルギー企業連合と交渉中とされる。
シェルと日本勢の三井物産と三菱商事の差はどこにあったのか。新型コロナウイルス・パンデミックに関連して、医学研究を支援する英慈善団体ウェルカム・トラストの責任者ジェレミー・ファラー氏は自著『Spike: The Virus vs. The People - the Inside Story(筆者仮訳:ウイルス対人類の戦い)』でこんなエピソードを明かしている。
コロナの起源について人造ウイルスの疑いがあることを2020年1月、理事長のイライザ・マニンガム=ブラー元英MI5(情報局保安部)長官に報告すると、関係者は全員、現在の携帯電話や電子メールを捨てるよう助言された。シェルのCEOが的確な判断を下せたのも同じように軍や情報機関、外交コミュニティーから公式、非公式の助言があったはずだ。
北方領土やエネルギー問題を抱え、ロシアは日本にとって敵に回したくない国だ。ましてやプーチン氏と中国の習近平国家主席に手を組まれるのは最悪のシナリオである。しかし少女のレイプや民間人の拷問などロシア軍がウクライナで行っている残虐行為に目をつぶるわけにはいかない。米英両国はあらゆる形でウクライナ国内に入り込み、情報を収集している。
英特殊空挺部隊(SAS)と米海軍特殊部隊(ネイビーシールズ)がウクライナに入っているのはもはや公然の秘密である。元軍関係者の多くが民間人としてウクライナ国内で活動している。ボリス・ジョンソン英首相はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と頻繁に連絡を取るなど首脳外交も活発に行われている。
日本ももっと深く、ウクライナとの連携を強める必要がある。そうでないと生きた情報はとても取れまい。西側と中露の対立が深まる21世紀、日本は進路を誤るわけにはいかない。
●ウクライナ軍事作戦、ロシア人の半数が「今後半年以上続く」…世論調査  7/2
ロシアでプーチン政権と一線を画す独立系世論調査機関レバダ・センターが、6月下旬に実施したウクライナでの「特殊軍事作戦」に関する世論調査で、作戦が「今後半年以上続く」との回答が49%で、国民が侵略の長期化を予想していることが明らかになった。「半年以内に終わる」との回答は33%だった。
作戦への支持に関する質問では、反戦の主張に対する取り締まりが厳しい中、反対が5月(17%)から3ポイント上昇し、初めて20%台に乗った。支持は75%で5月(77%)から微減した。プーチン大統領の支持率は83%で5月と同じだった。
●プーチン大統領周辺でまた…謎の拳銃自殺未遂=@「核のカバン」運ぶ大佐 7/2
ロシアの政権中枢で不穏な動きが続いている。プーチン政権を含め20年以上にわたり大統領の核兵器使用に関わる「核のカバン」を運ぶ責任者だった人物が、拳銃で自殺未遂を図ったと複数のメディアが報じた。
20年以上責任者
「大統領の核のカバンを持っていた大佐が自殺を図った」
露大衆紙モスコフスキー・コムソモーレツ(電子版)が衝撃の見出しで報じた。元ロシア連邦警護庁(FSO)大佐だったバディム・ジミン氏(53)が、モスクワ近郊の自宅で負傷しているのが6月20日に発見されたという。自殺を図ったとみられ、昏睡(こんすい)状態で予断を許さないと伝えた。
英大衆紙デーリー・ミラーは、ジミン氏は「血の海の中で横たわっていた」と報じた。頭に傷があり、付近に拳銃があったという。
前出の露紙によると、ジミン氏はFSOを退いた後、税関幹部の職に就いていたが、贈収賄疑惑をかけられ自宅軟禁の状態だった。本人は不正を否定し、困窮について落ち込んでいたとされる。
FSOは、要人警護を担うボディーガードの組織として知られる。また、旧ソ連国家保安委員会(KGB)の後継機関として諜報活動も行う組織だ。なかでもジミン氏は1990年代のエリツィン政権からプーチン政権に至るまで、大統領が核攻撃を命じる機器が入った「核のカバン」を運ぶ責任者を務めたという。
ロシア政治に詳しい筑波大学名誉教授の中村逸郎氏は「猜疑(さいぎ)心の強いプーチン氏だけに身辺を固めるボディーガードは選り抜きで、『核のカバン』を持つ人物は特にエリートだ。『核のカバン』の保管場所から大統領自身の健康不安まで相当な機密を握っており、引退後も厳重に監視されていたと推測できる」と解説する。
オリガルヒ類似
ロシアではウクライナ侵攻と前後して、新興財閥「オリガルヒ」が相次いで死亡した。当局はその多くを自殺とするが、不審な点も多い。
中村氏はジミン氏の自殺未遂≠フ背景について「現場に銃が残されていたのはオリガルヒの不審死とも類似しており、疑惑自体が仕組まれたものかもしれない。ジミン氏が『反戦派』と手を組もうとするなど、中枢の権力闘争に巻き込まれた可能性もあるのではないか」との見方を示した。
●KGB出身のプーチン氏、スパイ強化を指示…自身は旧東ドイツで活動経歴も 7/2
ロシア大統領府によると、プーチン大統領は、ウクライナ侵略に伴う米欧の制裁強化を踏まえ、自国の情報機関に対し「産業・技術分野の発展と防衛力の強化を支援することが優先すべき任務だ」と述べ、外国での情報収集を活発化するよう指示した。プーチン氏は6月30日、モスクワにある情報機関「対外情報局」の本部で語った。
対露制裁ではハイテク製品が対象になっており、スパイも駆使して先端技術を入手しようとしている可能性がある。プーチン氏は旧ソ連の情報機関・国家保安委員会(KGB)出身で、旧東ドイツに駐在していた。 

 

●ロシア・ウクライナ戦争で拡がる世界的な物価高 各国で治安悪化の恐れも… 7/3
ロシアによるウクライナ侵攻から4ヶ月となるなか、欧米とロシアによる制裁報復合戦が後を絶たない。
ロシアへの制裁発動
米国のバイデン政権は先月27日、ロシアへの追加制裁として、ロシア産の鉄鋼やアルミ、木材など570品目への関税を現行から35%引き上げることを決定した。今後も米国は制裁発動を続けるだろう。
一方、プーチン政権は欧米主導の制裁措置には屈しない姿勢を内外に示し、中国やイラン、インドやブラジルなど他の国々との経済貿易関係の維持・拡大に乗り出している。
プーチン大統領は同27日、ブラジルのボルソナロ大統領と電話会談し、エネルギーや農業の分野で関係を強化していくことを確認した。ブラジルも中国同様、ロシアを非難せず、制裁を課さないポジションを維持している。今後とも大国間の対立は収まることはないだろう。
価格高騰で生活が脅かされる事態に
だが、世界に目を向ければ、ロシア・ウクライナ戦争による影響は物価高という形で諸外国の市民たちの生活を脅かしている。
南米のペルーやインド洋に浮かぶスリランカ、中東のイラクなど各国ではガソリンや小麦など生活必需品の価格が短期間のうちに急騰し、それに不満を爆発させた市民による抗議デモや暴動が相次いだ。
デモ隊による放火や商店への襲撃・略奪などがみられ、治安部隊と衝突するなどして死傷者が出る事態となった。それによって公共交通機関が麻痺し、政府が非常事態宣言を出す途上国も少なくなかった。
治安悪化の恐れも…
一方、欧州のベルギーや英国などでも物価高に反発する市民による抗議集会が発生し、中には空港職員や鉄道職員がストライキに踏み切るなど、ロシア・ウクライナ戦争は日常生活にも甚大な影響を与えている。
日本でも食品やエネルギーなど値上げドミノが止まらない。諸外国と比べると値上げ幅が大きくないことから、衝突や略奪など危険な事態は生じていないが、今後海外に渡航する人にとっては大きなリスクとなる。
ロシアもウクライナも世界有数の小麦輸出国で、中東やアフリカの多く国はロシア産やウクライナ産小麦に依存しているが、その小麦は主食の原材料になることから、それが安定的に輸入できなくなれば治安の悪化は避けられない。
問題は長期化
冒頭に述べたように、この問題は長期化する。たとえ軍事力を使った戦いは終わったとしても、経済貿易の領域での戦いは続くことになる。
経済貿易面での不安定が長期すれば、途上国での混乱はさらにヒートアップする恐れがある。世界各国での物価高の長期化は国内の治安を悪化させる可能性が大であり、今後海外へ渡航しようとする日本人にとっては大きな脅威だろう。
●「2日で297億円分」相次ぐロシアのミサイルは譲歩迫る新戦術か 7/3
ウクライナ各地で相次ぐロシアのミサイル攻撃は、今後の交渉での譲歩を狙った新戦術――。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問が2日、テレビ番組でこんな見方を示した。
ウクライナのテレビ局「24チャンネル」の番組に出演したポドリャク氏は、「ロシアは戦術を変えた。強力な巡航ミサイルで都市を攻撃し、パニックを引き起こそうとしている」と指摘した。
攻撃におびえたウクライナ国民が自国政府に対し、ロシアに譲歩するよう圧力をかける。それが、ロシアの期待していることだという。
また、民間人の被害が増え続ければ、西側諸国がウクライナに対し、ロシアとの交渉のテーブルに着くよう迫るだろう――。「新戦術」にはこんな計算もあるという。
ポドリャク氏は、ロシアのこうした試みは「うまくいかないだろう」と強調。そのうえで、自国へのミサイル攻撃を防ぐため、西側諸国からの防空兵器の提供がカギになると訴えた。
ウクライナでは6月下旬以降 ・・・
●リシチャンスク市は「自軍の支配下にある」、ウクライナとロシアの双方が主張 7/3
ロシアが完全掌握を目指すウクライナ東部ルハンスク州で、ウクライナ軍の最後の防衛拠点となっているリシチャンスク市をめぐり、ウクライナとロシアはそれぞれ、同市を支配下に置いていると主張した。
ウクライナは2日、リシチャンスクで自軍がロシア軍の激しい砲撃に耐えているとしつつ、街はロシア軍に占領されていないと主張した。
一方でロシアの後ろ盾を受ける分離主義者は、同市への侵入に成功し、市中心部に到達したと主張している。
ロシアのメディアは、分離主義者かロシア軍がリシチャンスク市内を行進しているように見える動画を複数報じた。
ロシア側の情報筋は、廃墟と化した街の行政センターに旧ソヴィエト連邦国旗が立てられたとされる動画をツイッターに投稿したが、これが事実かどうか検証できていない。
リシチャンスクは、ウクライナにとって一大工業地帯の東部ドンバス地方に位置するルハンスク州内で、ウクライナ軍の支配下にある最後の都市。ロシア軍は先月、近隣のセヴェロドネツク市を掌握した。
ルハンスク州のセルヒィ・ハイダイ知事は、リシチャンスクへの攻勢は衰えておらず、包囲されたこの街に四方八方からロシア軍が迫っていると述べた。
ロシアの後ろ盾を受ける勢力が一方的に独立を宣言している自称「ルガンスク人民共和国」のロディオン・ミロシュニク駐ロシア「大使」は、リシチャンスクは「制圧された」が「まだ解放されていない」とロシアのテレビ局に語った。
ロシアがウクライナの「非武装化」と「非ナチス化」のためと称して2月24日にウクライナ侵攻を開始して以降、国連や非営利調査団体ACLEDによるとウクライナで民間人と戦闘員が計1万人以上死亡し、少なくとも1200万人が家を追われている。
西側諸国はウクライナに武器を提供し、核保有大国で世界的エネルギー供給国でもあるロシアに対し、前例のない制裁を加えている。
各地で攻撃続く
ウクライナの第2都市ハルキウでは2日、相次ぐ攻撃で鉄道路線や送電線が損傷した。死傷者は報告されていない。
港湾都市オデーサへ続く重要なルートに位置する南部ミコライウ市は、複数の爆発に見舞われた。
ロシア国防省は、ロシア空軍がウクライナ軍の司令拠点5カ所と複数の弾薬庫を破壊したと発表した。この主張について、第三者による検証はされていない。
ロシア軍は前日1日にオデーサ州にミサイル攻撃を行い、1発が9階建て集合住宅に直撃。20人以上が死亡した。
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領はその後、ベラルーシの防空網がウクライナのミサイルを撃墜したとしたが、場所の詳細は明らかにしなかった。ルカシェンコ氏はロシアのウラジーミル・プーチンと緊密な同盟関係を築いており、2月にロシア軍がベラルーシからウクライナに侵攻することを容認している。
「(ウクライナは)我々を挑発している(中略) 3日前、もう少し前かもしれないが、ベラルーシ領内の軍事施設をウクライナ領内から攻撃しようとした」と、ルカシェンコ氏は主張した。「しかし、ありがたいことに、対空防衛システム・パーンツィリが全てのミサイルを迎撃した」。
また、「我々はウクライナで戦闘しようとしているわけではない」と付け加えた。
英国防省は、ロシアがソ連時代の対艦ミサイルを、設計の意図とは異なる「二次的な陸上攻撃」のために使用していると非難。中部クレメンチュクと南部オデーサで多くの民間人犠牲者を出した攻撃に「Kh-22ミサイル」と「Kh-32ミサイル」が使用された「可能性が高い」とした。
ウクライナ軍の支配下にあるドンバス地方の主要都市スラヴャンスクも、再びロシア軍の砲撃を受けた。ヴァディム・リャフ市長は使用が禁止されているクラスター弾で4人が死亡したと述べた。BBCはこの主張を検証できていない。
●「プーチン」に迫る孤立化の足音 同盟国とロシア国内での人心離反 7/3
6月30日に閉幕したNATO(北大西洋条約機構)首脳会議では、ロシアを「最も重大で直接的な脅威」として、事実上の“敵国”と認定する新たな戦略概念が採択された。同時にスウェーデンとフィンランドの北欧2か国のNATO加盟に向けた手続きの開始も決定され、プーチン大統領を取り巻く包囲網は狭められつつあるように見える。さらにロシア国内でもプーチン大統領の足元を揺るがす不穏な動きが進行しているのだ。
NATO首脳会議の結果を受け、プーチン大統領は「我々への脅威と同様の脅威を作り出すことを理解すべきだ」と牽制し、「(必要とあれば)対抗措置を講じる」と警告した。
その裏で28日に中央アジアのタジキスタンを訪れたプーチン大統領は翌日、トルクメニスタンを訪問。カザフスタンやアゼルバイジャンなどカスピ海沿岸5か国の首脳らと会議を開き、結束の維持を演出した。
ロシア政治が専門の筑波大学名誉教授の中村逸郎氏によると、この動きはプーチン大統領の焦りの裏返しという。
「“ロシアの衛星国”と呼ばれる中央アジアのなかで、プーチン支持を明確に打ち出しているのはタジキスタンしかなく、他の4か国には“プーチン離れ”ともいえる動きが起きています。ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、トルクメニスタンはいずれも欧米との経済的結びつきが強く、プーチン支持を打ち出すことで経済制裁を課される事態を恐れているのです。そのため“暗殺”などのリスクもあるなか、このタイミングで侵攻後初となる外遊に臨まざるを得なかったのが真相です」
国家総動員法の一部改正
中村氏によれば、実際、中央アジア4か国ではプーチン大統領からの国家勲章を辞退したり、国内でウクライナ侵攻のシンボルとなった“Z”マークのステッカーを車などに貼ると罰金刑に処すなどの動きが出始めているという。
さらにロシア国内でも“異常事態”が起きているとか。
「ロシアでは9月に14地域で知事選挙が実施される予定で、すでに60人以上の候補者が名乗りを上げています。しかし候補者のなかでウクライナ侵攻について明確に賛成しているのは3人のみ。反対を表明している候補者が2名いて、他の多くは賛否を明らかにせず、沈黙を守っているのです」(中村氏)
侵攻への賛否を明らかにしないと「反プーチン」の烙印を押される可能性もあるため、ロシアの政治家にとってはリスキーな行動となる。
一方で、プーチン大統領もそんな“変化”を敏感に感じ取っているフシがあるという。
「いまロシア連邦議会では国家総動員法の一部を修正する動きが進んでいます。柱は2つで、ひとつは軍事施設の安全が脅かされた際は国民などを動員して防衛に当たらせることができるようにするもの。そして、もう一点が大統領の警護を強化する内容です。自身の政権基盤が盤石でないことをプーチン大統領も認識している証左と見られています」(中村氏)
実態は“内憂外患”に直面しているというプーチン大統領。ウクライナ侵攻の成否はみずからの権力と直結するため、その重要性は日を追うごとに増している。
「“核の脅し”などを使って、欧米の結束とウクライナへの武器供与に歯止めを掛けようとしてきたプーチン大統領にとって、侵攻から4カ月経った現在の状況は誤算の連続といえます。そんななか、プーチン大統領が早い段階からウクライナの孤立化を狙って画策してきたのが、意図した難民の大量発生です」(中村氏)
現在、祖国を逃れたウクライナ難民の数は約750万人にのぼり、うち300万人以上が隣国・ポーランドに逃れているという。
「2011年の内戦勃発以降、大量発生したシリア難民は現在でも700万人近くが国外避難の身にありますが、当初は年間100万人前後で推移しました。この数字からも、ウクライナ難民の数がいかに異常かが分かると思います。ただでさえ、欧州各国はインフレなどで国民の不満が高まっており、そこに大量の難民が押し寄せることで支援の機運がしぼんだり、あるいは“反ウクライナ感情”醸成の素地ともなりかねない。それを見越した上で、プーチン大統領はウクライナで破壊の限りを尽くしているとの指摘がロシア国内で出始めている。つまりプーチン大統領がウクライナを焦土化させる勢いで攻撃の手を緩めないのは、難民という“人間兵器”を欧州各国に放つ意図だと考えられているのです」(中村氏)
“悪魔の計略”を前に日本や世界は何ができるか――。いま一度、考える必要がある。
●生誕地取材で見えてきた「プーチンが見誤った」ゼレンスキーの本質 7/3
ロシア軍の北進を防ぐ「対ロシア要塞線」になっているドニプロペトロウシク州クリヴィー・リフでウォロディミル・ゼレンスキー大統領は生まれ育った。
豪華なキーウの街並みを見たあと、ゼレンスキー氏の両親が暮らす高層の集合住宅を訪れると「質朴」というより労働者階級の「貧しさ」さえ感じさせた。
貧しい高層住宅の対極にある「腐敗の館」
キーウ北郊に、2014年2月に反政府運動「マイダン革命」で失脚し、ロシアに逃亡したビクトル・ヤヌコビッチ元大統領が愛人と暮らしていた「腐敗の館」がある。ドニプロ川を堰き止めた人工湖「キーウ海」を一望できる大邸宅の敷地は約140ヘクタール。ゴルフコースやテニスコート、ヘリポート、私設動物園まである。東京ドームの約30倍の広さだ。
5階建ての大邸宅にはウクライナ正教の礼拝所が設けられ、自分や家族を模したアイコンのモザイク壁画があしらわれていた。愛人のトイレには金メッキが施されたゴミ箱まで備えられている。この落差に筆者は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナの「非ナチ化」「非武装化」を唱えた戦争の虚構と本質を見る思いがした。
ゼレンスキー氏の“生家”のすぐそばでカフェを経営するナタリア・スタンさんはこう話す。
「私はゼレンスキー氏を誇りに思っています。彼を信じています。学生だった時も彼の目を信じていました。多くの人が彼を直接知る友人で、言葉を交わしたことがあります。“コメディアンがどうやって政府を運営できるのか”という批判的な声があるのも知っています」
「ゼレンスキーは私たちの顔、私たちのすべて」
ナタリアさんは「彼は言ったことを実行する正直な人です。父親は地元の大学で働いていて、正直な先生だと言われています。大統領の彼を評価すると、これまでの大統領を全員合わせたより、はるかに多くのことをしたと言えます。 この国には非常に複雑な腐敗のシステムがあり、根絶しなければなりません。彼は恐れずに、それをしています」と強調した。
「ヤヌコビッチはウクライナと私たち全員を裏切って逃げました。ペトロ・ポロシェンコ前大統領が発した言葉を守るのを私は見たことがありません。多くの人がこれまでとは違う社会と生活を望んでいます。ゼレンスキーは少しずつですが困難な約束を実行しています。彼は私たちの顔、私たちの声、私たちの目、私たちのすべてです。彼はウクライナの代表です」
ゼレンスキー氏はユダヤ系科学者の家庭に生まれた。ソ連が崩壊し、ウクライナが独立した時、大統領は12歳。イスラエル留学の機会を得たが、大学教授(コンピューターサイエンス)の父親の反対で断念した。クリヴィー・リフにある国立経済技術大学に進学。17歳の時、コメディーTV番組に参加し、その後ラブコメ映画にも出演する国民的人気者になる。
ゼレンスキー氏が法律を学んだ国立経済技術大学の経済研究所はロシア軍の侵攻後、市民に開放され、学生はオンラインで授業を受けている。学生時代に大統領がプレゼンテーションを行った部屋には大きな恐竜の眼が描かれていた。「恐竜はウクライナの若者世代に人気があり、創造性のシンボルです」とアンドリー・シャイカン学長代行は説明した。
「コメディーにはいろいろな教育効果がある」
シャイカン氏は「ウクライナではコメディーが人気です。笑いは健康によく、長生きの秘訣です。ゼレンスキー氏は楽天的でユーモアのセンスにあふれていました」とついこの間のことのように振り返った。
「ロシア軍侵攻のような恐ろしい出来事でもコメディーにすれば怖くありません。ところでコメディーにはいろいろな教育効果があるのをご存知ですか」
そう問いかけてきたシャイカン氏は実は学生時代、ゼレンスキー氏率いるコメディーチームのライバルチームのリーダーだった。
「コメディーにはコミュニケーションスキル、説得力、交渉術、パブリックスピーキング、励まし、動機づけなど、すべてのエッセンスが詰まっています。そしてチームを一つにするリーダーシップやチームワークが養われるのです」
ゼレンスキー氏の本質は「コメディアンというより、マネジャーやプロデューサーであり、リーダーなのです」とシャイカン氏は指摘する。ゼレンスキー氏は「危機の大統領」としてウクライナを団結させたのと同じように学生時代からコメディーの台本を書き、初めて舞台に立つ新人も含め、年齢や能力が異なるチームメートを見事に一つにまとめあげてきた。
ゼレンスキー、シャイカン両氏に金融を教えたナタリア・ヴォロシャニウクさんは「ゼレンスキー氏は生まれながらのリーダーです。どんな時もユーモアとハードワークを忘れません。いまウクライナは平和を愛する国だと世界中にアピールしています。と同時にこの戦争に勝利しない限り、本当の意味での独立は訪れないとも訴えているのです」と話す。
ウクライナの歴史を変えたTVドラマ『サーバント・オブ・ピープル』
ロシアがクリミア半島を併合した翌年の15年、ゼレンスキー氏はTVドラマ番組『サーバント・オブ・ピープル(筆者仮訳:国民への奉仕者)』を制作して自ら高校教師役を熱演。この教師が政府の腐敗撲滅を叫ぶ様子を生徒がこっそり撮影しネットに投稿したところ爆発的に拡散し、予期せずしてウクライナ大統領に就任する――というストーリーの政治風刺劇だ。
ドラマではウクライナが実際に直面する問題が取り上げられ、視聴者の9割がゼレンスキー氏演じる架空の大統領に共感を持った。有権者は彼が祖国の救世主になるという幻想を抱くようになり、「マイダン革命」の支持者だったゼレンスキー氏もそれに応えて19年の大統領選に出馬し、決選投票で現職のポロシェンコ氏をトリプルスコアで退けた。
この時、ウクライナの歴史は変わった。プーチン氏の顔色を見ながら腐敗に目をつぶるのではなく、決然と自由と民主主義への道を進み始めたのだ。
「プーチンはゼレンスキーを単なるコメディアンと見誤りました。彼の本質は傑出したリーダーです」
シャイカン氏とナタリアさんは声をそろえた。
ゼレンスキー氏はショービズネスで成功を収め、両親に高級車を買ってプレゼントしたことがある。父親は「私には自分の車がある。お前のようなビシネスの成功者は大きな高級車を持つ必要があるかもしれない。しかし学者の私には無用の長物だ。3杯のスープを同時に飲めない。ましてや皿まで食べることはできない」とゼレンスキー氏を叱り飛ばした。
このエピソードを教えてくれたあと、シャイカン氏は大学構内の1室に案内してくれた。14年以降の東部紛争や今回のロシア軍侵攻で少なくない学生が自ら志願して前線に赴いた。命を落とした学生もいる。ロシア軍が使用した砲弾の破片を手にしたシャイカン氏はコメディーの話をしていた時とは別人のような暗い表情を浮かべた。
ドイツとソ連(ロシア)という2つの大国に挟まれ、戦争だけでなく、人工的な飢饉(ホロドモール)やチェルノブイリ原発事故という大惨事に見舞われてきたウクライナにはコメディー(笑いの精神)で悲劇を乗り越えようという生きる知恵がある。ウクライナの人々にとって笑いは弱さではなく、逆に強さなのだとシャイカン氏は教えてくれた。
「俺たちには鋼鉄のオチンチンがついている」
ゼレンスキー氏は、プーチン氏やその操り人形であるヤヌコビッチ氏とは住む世界が完全に異なる人間なのだ。ゼレンスキー氏が育ったクリヴィー・リフは世界的な鉄鉱石の産地としても知られる。街の男たちは「俺たちには鋼鉄のオチンチンがついている。ゼレンスキーにもな」と豪快に笑う。
通訳のアントン氏の案内でルドメイン社の露天掘りの鉄鉱石採掘場を訪れた。多くの露天掘りは鉄分の少ない「マグネタイト鉱」だが、ルドメイン社の露天掘り鉄鉱石は鉄分が60%もある「マルタイト鉱」だ。鉄鉱石が他のミネラルと反応して流れ出し、採掘場やその周辺、犬まで赤茶色一色に染まっている。採掘場に行くことを隠語で「火星に行く」と言う。
「火星」で鉄鉱石を掘る「鋼鉄の男」たち
この採掘場ではロシア軍が侵攻してきた最初の数日から1週間だけ操業は止まったが、すぐに再開された。現場のビタリ・メルニィチェンコ氏は「現時点で生産量は50%まで回復した。しかしロシアとの戦争が終わらない限り100%には戻らない」と話す。
戦争で海外の専門家はウクライナに来られなくなった。燃料は不足して高騰し、機器の供給や鉄道輸送も滞る。ロシア軍はウクライナの黒海経由での輸出を妨害している。
屈強な作業員約1200人のうち153人がウクライナ軍や領土防衛隊に参加した。採掘場で働いていたメルニィチェンコ氏の弟も戦場で肩をひどく負傷し、片目を失った。しかし、彼は「この仕事は俺たちを強い勇者に鍛え上げてくれる」と誇らしげに語った。
この採掘場は深さ160〜180メートルで決して大きくない。親日家セルギー・ミリィウチン副市長は「クリヴィー・リフではこの140年間で深さ500メートルまで掘り進んだ採掘場もあるが、5000メートルまで鉄鉱石が埋蔵されている」と豪語する。良質な鉄鉱石は赤茶色ではなく深緑色をしているとメルニィチェンコ氏は教えてくれた。
その深緑色に筆者はウクライナとゼレンスキー大統領の強さを見た。
●親ロシア派 制圧を主張 東部 最後の防衛拠点  7/3
ウクライナ東部の最後の防衛拠点について、親ロシア派などが、制圧を主張した。
親ロシア派は2日、東部ルハンスク州の拠点リシチャンシクの行政の完全な掌握を主張したうえで、庁舎とみられる建物で旗を掲げる映像を、SNSに投稿した。
また、アメリカの戦争研究所も、現地からウクライナ軍が撤退した可能性が高いと分析している。
一方で、ウクライナ側は、戦闘が続いているとして、撤退などを認めていない。
●東部”最後の防衛拠点”リシチャンシク 「ロシア軍が掌握」米戦争研究所  7/3
ウクライナ東部で最後の防衛拠点となっているリシチャンシクをめぐり、アメリカの戦争研究所は「ロシア軍が掌握した」との見方を示した。
東部ルハンスク州のリシチャンシクについて、戦争研究所は7月2日、ロシア軍が掌握したとの分析を発表した上で、ウクライナ軍が意図的に撤退した可能性が高いと指摘した。
戦争研究所は、ルハンスク州の残りの地域についても、ロシア軍が今後数日間で支配権を確立する可能性が高いとの見方を示している。
一方、ロシア側もリシチャンシクの行政の完全な掌握を主張し、SNSで「勝利の旗が掲げられた」と主張しているが、ウクライナ側は戦闘が続いているとして、撤退やロシア側の制圧を認めていない。
●ロシア国防相「ルハンシク州全域掌握を大統領に報告」と発表  7/3
ロシア国防省は3日、完全掌握を目指すウクライナ東部2州のうち、ルハンシク州について「ショイグ国防相が州全域を掌握したとプーチン大統領に報告した」と発表しました。
ロシア軍はこのあと同じ東部のドネツク州の掌握もねらうものとみられ長期に及ぶ軍事侵攻の出口はなお見通せていません。
ウクライナのルハンシク州とドネツク州の東部2州の完全掌握を目指すロシア軍は、ウクライナ軍と激しい攻防を続けています。
こうした中、ロシアの国防省は3日、声明で、ルハンシク州内のウクライナ側最後の拠点とされるリシチャンシクをめぐり、市内とその周辺を支配下に置いたと主張したうえで「ショイグ国防相がルハンシク州全域を掌握したとプーチン大統領に報告した」と発表しました。
これまでのところ、ウクライナ側からの反応は伝えられていません。
これに先立ち、地元のハイダイ知事は3日、リシチャンシクについてSNSへの投稿で「リシチャンシクは炎に包まれている。ロシア軍は理解しがたいほどの残忍な戦術で街を攻撃した。ロシア軍は多くの犠牲を出しながらも、執ように前進している。そして、街に拠点を置き、近くの集落を破壊し続けている」として激しい攻撃にさらされていることを明らかにしていました。
リシチャンシクをめぐる状況については、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も2日「リシチャンシクではロシア軍が動き回り、ウクライナ軍はほとんど、もしくは全く残っていないとみられる」としていました。
ロシア軍はこのあと同じ東部のドネツク州の掌握もねらうものとみられ、長期に及ぶ軍事侵攻の出口はなお見通せていません。
●NATOはロシアを「最も重大で直接的な脅威」認定…戦争の恐怖 7/3
6月29日のNATO(北大西洋条約機構)首脳宣言では、ロシアを最も重大で直接的な脅威と位置づけた。反発するプーチン大統領は、相応に対応する必要があると警告。BSフジLIVE「プライムニュース」では専門家を迎え、ロシアと西側陣営双方の視点から現状を読み解き、今後の展開を予測した。
NATOはロシアに強い姿勢もプーチンの認識には大きなずれ
長野美郷キャスター: NATOの首脳宣言は、ロシアのウクライナ侵攻を強く非難。ロシアを最も重大で直接的な脅威と位置づけた。
高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長: 2010年頃、ヨーロッパの多くの国々は「我々は同盟国に囲まれているから安全」という見方だった。世界が完全に変わったことを首脳レベルで再確認したと言ってよい。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: ヨーロッパとアメリカ含め、今ウクライナで起こっていることをそのまま受け止めて、戦略概念に落とし込んだということ。
長野: これにプーチン大統領が反論。「NATOの同盟は過ぎ去った冷戦時代の遺物。スウェーデンとフィンランドがNATOに加盟しても心配の余地はない。だが軍事派遣団や軍事施設が配置されたら、私たちは同じように反応せざるを得ない」。
畔蒜: 実はプーチンの発言では、フィンランド・スウェーデンの2国とウクライナのNATO加盟はロシアにとって全く意味が異なり、ウクライナの加盟が問題だと強調している。プーチン大統領は、従来言っているロシアとウクライナとの一体性という歴史問題に大きなこだわりがあることが、今回のスピーチで改めて確認された。
高橋: フィンランドとスウェーデンについては、ロシアは間違いなくゴールポストを動かした。両国が最初にNATOに入りたいと言ったときは明確な核の脅しをしたが、止められないということでプーチン大統領は脅しをしなかった。ただし米軍の展開を認めないという形をとる。ロシアの地勢戦略的な状況は明らかに悪化しているが、現実を受け入れた上でより悪いシナリオを阻止するために動いていくということでは。
反町理キャスター: NATOは今回の会議を経て東欧でも部隊を増強、即応部隊を4万人から30万人規模に拡大すると。ロシアにとっては軍事的脅威度が増しているということか。
高橋: NATO即応部隊は、能力基準を満たした部隊。各国が有事の際、数日以内に展開できるよう自国内で編成している部隊で、イギリス軍が増員した即応部隊をスウェーデンに駐留させるといったことにはならない。ただ、30万人はウクライナに侵攻しているロシア軍より多く、すごい数。
畔蒜: ロシアに対する圧力は間違いなく高まっており、まさにそれがNATOの目的。だが、本当に不思議だが、プーチン大統領の捉え方との間に大きなずれがある。NATOの今回の措置は「それ以上バルト3国などNATO側へ、前へ出てくるなよ」というメッセージ。ただ、「それ以上前に出てきたら措置をとる」というメッセージだとは、プーチンは受け取っていないと思う。
NATOはロシアと中国の連携を警戒、アジア有事に有志で派兵も
長野: NATOは中国も牽制。「中国は我々の利益、安全保障および価値に挑戦するような野心を抱いている」「中国とロシアのパートナーシップの深まりと、両国によるルールに則った国際秩序を弱体化させようとする試みは我々と相反する」。中国は猛反発しているが、今回の言及の背景は。
高橋: NATOの中国への警戒感はここ数年継続して高まっていた。今回、中国が基本的にロシアを支持し、フェイクニュース拡散に加担していることへの不快感が非常に強い。それらが積み重なった。
畔蒜: NATOはウクライナとアジア太平洋の問題は密接にリンクしていると明確に意識し、特にロシアと中国の連携の可能性を非常に警戒している。
反町: 台湾有事などアジアにおける有事に、NATOはどれほどの軍事的プレゼンスを見せてくれるか。
高橋: アジア太平洋の有事にNATO軍が介入することは、米軍司令部の地域的な責任範囲の関係でありえないが、NATO加盟国が有志連合という形で部隊を派遣する可能性は十分にある。そのとき、中国や北朝鮮のICBM(大陸間弾道ミサイル)はヨーロッパに届くため、それに対してNATOとしての備えも必要になる。相互核抑止も意識の範囲には入っていると思う。
東部で戦果をあげたロシア 戦略の根底には変わらずプーチン史観
長野: ウクライナの最新の戦況。ウクライナ政府は6月24日時点で、部隊保全のため東部の要衝都市セベロドネツクからの撤退を選択したと見られる。この判断は。
高橋: 守り切れる可能性が少ない街で、補給線が完全に切られる前に部隊を逃がさなければいけなかった。ぎりぎり手遅れにならずに済んだが、もっと早く決断すべきだった。
反町: これは、ルハンスク州のほぼ全域を諦める判断をした?
高橋: ルハンスク州を諦めなければ部隊の保全はできない。ここの戦いはロシア側がある種主導権を握った形で展開した。ウクライナ側は補給線を脅かすロシア軍阻止のために兵力や装備を割いてしまったため、西側からの支援がもっと必要になってきた。
畔蒜: 東部はロシアにとって一番結果を出しやすい戦場。ロシアは戦闘継続のために、定期的にある程度の結果を見せていかなければいけない。
長野: 一方、ロシア軍の動き。イギリス国防省は6月25日、東部の大部分を確保する成果をあげたドゥボルニコフ総司令官の更迭を確認したと発表。アメリカのシンクタンク・戦争研究所は、ジトコ軍政治総局長に交代したと分析。ここで交代させる背景と狙いは。
畔蒜: ジトコという人物は軍政治総局長。5月9日の対独戦勝記念日に、ロシアの軍事史に関わる式典などを行う勝利組織委員会のメンバーに任命されている。プーチンが考えているのは、やはりロシア帝国の再興。彼の軍事・政治戦略の根底にあるのは歴史観ということなのだと思う。
兵力のウクライナ、火力のロシアという均衡が生まれている
長野: NATOの首脳宣言に対するゼレンスキー大統領の発言。ウクライナ軍の近代化などの支援強化に対し、「とても感謝しているが、戦争を長引かせないために最新ミサイルシステムがもっと必要」。ロシア側からミサイルがたくさん飛んでくるため、ミサイル迎撃システムも欲しいと言っているが、この供与は難しい?
高橋: 使っている国が少なく数は限られるが、まずはウクライナがずっと使っているS-300というミサイル防衛能力があるものを送っていくことになる。PAC3(アメリカ製の地対空ミサイル)を供与すると使う上で相当な訓練が必要で、全体のレーダーシステムとの連接も必要となり、難しい判断。
反町: 軍事支援の限界が見えてくる中で、ウクライナ軍はロシアを凌駕できるか。
高橋: 兵力の点では、70万人ほどが動員されているウクライナが優位にある。一方、火力はロシアが勝っている。こうした形でのちょっとした均衡が生まれている。ウクライナからすると、人はいるのだから装備をくれということ。
今後停戦が必要となるが、戦いは続いていく
長野: 11月に行われるG20の議長国・インドネシアのジョコ大統領の動き。G7への出席後、ウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と会談。そして、モスクワを訪問しプーチン大統領と会談。G20の出席についての話し合いとみられる。
畔蒜: インドネシアにとっての喫緊の大きな課題は、実はウクライナではなく米中対立だと思う。東南アジアの多くの国がそうだが、米中のどちらかを選びたくない。これまでそこにオルタナティブを与えてくれていたのがロシアの武器。恐らく、ロシアを完全に国際社会から孤立させることは自分たちの国益にかなわないと判断している。
反町: 11月のG20で、和平に向けたゼレンスキー・プーチン間の歴史的な会談が行われる可能性は?
畔蒜: うまくできるかは別だが、一旦はやはり停戦のようなものが必要となる。G20がそのタイミングに重なることはあり得るかもしれないが、ジョコ大統領はそれを念頭に動いてはいないのでは。また停戦しても、ロシアによるウクライナのロシア化の動き、ウクライナによる抵抗の動きは水面下で続く。現在より烈度の下がった形で、ある種の戦いが続いていく可能性がある。
長野: 一時的な停戦があったとしても、NATO対ロシアの緊張の高まりは解かれるものではないとすると、今の局面を歴史的な目線で見たときにどれほどのインパクトになるでしょうか。
高橋: 1990年ごろから30年ほどは、核戦争による人類絶滅の恐怖がなくなった世代。だが恐らくこの先30年ほどは、もう同じような意味で平和の感覚を味わうことはできない。常に戦争が頭の上にぶら下がっているような恐怖を感じながら過ごしていく世代。そういう時代の変化があったということではないか。 

 

●ロシアを抑止できなかった根因と経済制裁の限界 7/4
鈴木:前回はロシア・ウクライナ戦争の性質と、機能不全とも言われる国連の機能や役割について語り合いました。戦争が起こらない世界を作るためには現在の国連では不十分だというのは、私を含め3人の結論でしたが、そうした状況で戦争を止めるために唯一考えられるのは「抑止」の力です。
ロシアのウクライナに対する攻撃を止められなかったことについて、「抑止が効かなかった」という言い方をする場合があります。アメリカや西側諸国は、この戦争が始まる前から「ウクライナに派兵しない」ことを明言していました。戦争をすれば経済制裁をするとも明言していましたが、それではロシアを止めることができませんでした。
抑止は働かなかった
その意味で経済制裁では「抑止が効かなかった」と言えますが、他方、ロシアは過剰なまでに、アメリカやNATOの介入を嫌い、それを避けようとしています。
同時にアメリカも、例えば長距離ミサイルなど、ウクライナのロシア領内への攻撃を可能とする兵器は供与しないといった形で、アメリカがロシアを攻撃しているととられかねない支援は、極力避けているようにも見えます。その限りにおいて、米ロ双方がある程度行動を抑止していると見ることができます。
したがって、「抑止」はある程度効いていたのか、まったく効いていなかったのか、見方によって異なるとは思いますが、戦争を止めるための国際法や国際機関の機能が十分でないときに、抑止は重要な役割を果たすはずです。
そこで、抑止論など戦略問題を専門とされる神保さんにお聞きしたいと思います。今後の世界において、法の秩序と抑止力はどのようなバランスになっていくとお考えですか。また、抑止を実効性のあるものにするには、何が必要なのでしょうか。
神保:抑止力は「相手が自分に対して有害な行動を取ろうと思っても、それができないように自制する力を働かせる」という一般概念です。侵略によって得られる利益が、その行動に伴う損失より大きければ抑止力は効きにくい。一方で、その損失が利益より遥かに大きいと当事国が認識すれば抑止は効きやすいと考えられます。ただしこの利益と損失の計算は、当事国の持つ価値によって変化します。
今回のロシアのウクライナ侵攻では、ウクライナがNATOに加盟しておらず集団防衛のシステムの外側にいたことと、アメリカが予め軍事介入しないことを明言してしまったことが、ロシアの行動の自由を拡大したと考えられます。
また、ロシアはおそらくウクライナの短期攻略が可能だという甘い期待を抱き、侵攻による損失を過小に見積もってしまったことも、抑止が効かず戦争を止められなかった原因だと思います。
今後、同じような状況が生まれたときの教訓のためにも、今回、抑止を効かせられなかった要因を分析し、どうすれば抑止が効かせられたのか、そもそも、まったく不可能だったのかという問いも含め、検証を進める必要があります。
私自身は、ロシアのウクライナ侵攻を抑止することは可能であったと考えています。仮にアメリカが軍事介入の可能性を示唆し、NATO諸国がウクライナ侵攻に対抗する強い結束力を示していたら、ロシアの計算は変化したかもしれません。またウクライナ侵攻によってもたらされる損失、例えば欧州諸国の国防費の増額や、NATOの新規加盟国拡大という強烈なバランシング行動を予期し、経済制裁によるロシア経済へのダメージを未然にロシアに認識させていたら、これも結果は変わっていたかもしれません。
もちろん、これらは後出しの議論です。ウクライナ侵攻前に、以上のような抑止作用を働かせることは、事実上不可能だったという議論は納得できます。だとすると、今回と同様の事態を将来防ぐためには、侵略による損失がどれほど大きいか、ということを後世に残す必要があります。
最初は過剰に警戒しながら
細谷:私は歴史的視座からこの問題を考えてみたいと思います。歴史を振り返ってみても、基本的には完全な抑止というのは存在しませんでした。どの時代にも悪いことする人がいて、通常は、あのヒトラーでさえも、あるいはプーチンでさえも、最初は過剰に警戒しながら、つまり、学校の生徒と同じで、先生に怒られないかどうかを確かめながら小出しに悪いことをしています。それが、思ったほど怒られなかったりすると行動はエスカレートします。
ヒトラーの場合は、1935年のラインラント進駐(1925年のロカルノ条約で英独が非武装地帯に定めたドイツ西部のラインラントに、ドイツが陸軍を進駐させた)と1938年のズデーテン地方併合(ナチス・ドイツがチェコスロバキア解体を目論み、ドイツ系住民の多いチェコスロバキア西部のズデーテン地方を併合した)の際、イギリスやフランスが容認したことが、ナチス・ドイツの暴走を加速させました。
ヒトラーを参考にすると、近年のロシアの軍事的行動におけるプーチンの思考が読み取れると私は見ています。2011年に始まったシリア内戦では、オバマ政権は2013年に軍事介入すると明言しながら、結局、介入しませんでした。さらに、ロシアが2014年から2015年にかけてウクライナ領のクリミア半島を”併合”した際にも、オバマ政権は厳しい姿勢を示しながらも、経済制裁に留め軍事的な介入は避けました。これは、一種の宥和政策だったと私は思います。決定的だったのは、2021年8月のカブール陥落です。あのときも、バイデン大統領は軍事介入しないと繰り返しました。
この3つの出来事により、プーチン大統領はアメリカが世界の紛争に軍事介入することはないという確信を持ったのだと思うのです。最初はイギリスやフランスの反応を確かめながら周辺へと拡大していたヒトラーが途中からイギリスは介入しないと確信をもって暴走したように、各地の紛争で繰り返されたアメリカの不介入が、プーチンにアメリカの将来にわたる軍事不介入を確信させたのです。その帰結が今回の戦争だと考えます。
鈴木:冷戦後の世界では、アメリカが世界秩序の安定に大きな役割を果たしていました。そのアメリカがオバマ政権以降次第に内向きとなっていき、国際的な紛争の解決への関与に後ろ向きの姿勢を明確にしたことが、プーチンの行動をエスカレートさせたという点は重要なポイントだと思います。また、ウクライナ侵攻は短期決着できる、と、ロシアがある種の計算違いをしたことも抑止の有効性に影響があったと考えます。
経済制裁が効かない構造
鈴木:抑止とは、利益と損失の計算の問題ですから、国際的なルール違反への代償の大きさをメッセージとして伝えることは非常に重要です。その意味では、経済制裁がロシアに対してどれだけの損失を生み出すのかというメッセージが十分伝われば抑止効果があったかもしれません。
そこで、経済制裁についてもう少し議論を進めたいと思います。国際秩序や安全保障の問題は、軍事的な問題としてだけではなく、経済的な側面からも考えなければ実像は見えてきません。
今、世界各国がさまざまな形で経済制裁を発動して、ロシアの行動を制限しようとしています。しかし、経済制裁には即効性はないのですぐに結果が出るわけではなく、今のところ戦争が止まりそうな気配もありません。
一方で、経済制裁は諸刃の剣で、発動した側にも損失が生じます。例えば、原油や穀物の高騰です。経済制裁だけが理由ではありませんが、制裁を契機として物価上昇に拍車がかかっています。
そこで、生じてくるのが、経済制裁で本当に戦争を終結させることができるのかという疑問です。一方で、戦争を終結させ、ロシアの行動を変容させるだけの損失を出させることができるのか。他方で、制裁を発動する西側諸国に生じる経済的損失に発動国が耐えられるのか。
経済制裁にはおのずと限界がある
細谷:鈴木さんは、ロシア・ウクライナ戦争勃発当初から、「万能薬」のごとく、経済制裁に過剰な期待を寄せることを警告しておられましたね。私はその警告は正しかったと思います。国際関係は、基本的に相互依存と自己利益を基盤としていますから、経済制裁にはおのずと限界があります。
歴史的に見ると、国際連盟のときも、日本やドイツの領土的野心に対して、軍事的な介入はせずに経済制裁と国際世論だけを頼りに安全を維持しようとしましたが、暴走を止めることはできませんでした。経済制裁は自らが軍事力を行使することで血を流すことを避けて、いわば「楽をして」目的を達成しようとするツールです。そもそも相互依存と各国の自己利益という国際政治の現実を前提としていますから、自らが深刻なダメージを負うような経済制裁は、なかなか実行されません。いくら声は大きくても実際には空洞化してうまく機能しないことは、国際連盟でも経験したことです。
神保:経済制裁の目的がロシアの行動変容を促すことなのか、プーチンを失脚させ体制を変えてしまうことにあるのか、その目的をどこに設定するかによって評価は変わります。仮に、ロシアの国家運営に支障をきたすほどの効果を与えて、プーチンに今回の決断が失敗だったことを認識させ行動変容させることを目的としているとしても、今回の経済制裁がなぜ、そのレベルに達する見通しが得られないのかを考えるのが重要だと思います。
例えば、ルーブルは一時下落しましたが、直ちに元どおりになってしまいました。ロシア政府の歳入の4割は原油と天然ガスからの収入ですが、中国やインドが買い支える構造があり、欧州諸国も特に天然ガスでは脱ロシアには時間がかかります。また、ロシアは原油や食糧を自給できるため、対ロシア輸出制限をしてもあまり効力がないという構造もあります。
経済制裁の有効性を検証した学術研究によれば、20世紀以降の115事例の経済制裁で明確に成功したと言えるのは5件しかありません。1989年のインド・ネパール(ネパールの中国への接近などを契機に、インドが経済封鎖したことが誘因となり、ネパール民主化の実現につながった)がその典型です。
経済制裁が成功する条件を見てみると、1つは国際社会が一致して抜け道を作らない状態にしていることで、2つ目は対象国の輸入依存度が高く、制裁によるダメージを被る経済構造になっていること、そして 3つ目は、国民の不満に対するガバナンスが脆弱であることなどが挙げられています。加えて、経済制裁を発動する側の不利益が、対象国の不利益よりも小さいこと、つまり、返り血が少ないことも成功の条件のように思います。だとすれば、現状でロシアに対する経済制裁を成功させるのは、構造的になかなか難しそうだというのが私の見立てです。
相手国との関係次第で経済制裁の効果は変わる
鈴木:制裁する側の経済が大きく、対象国のそれが小さい場合、経済制裁は大きな効力を持ちます。神保さんご指摘のインド・ネパールはまさにその典型でした。インド経済に対するネパールの依存度は非常に高かったのですが、インドがネパールに依存していたのは電力ぐらいでした。
日本と北朝鮮の関係も同じです。日本側には痛みが小さいので制裁をかけやすいという構造があります。そのため、先ほどの細谷さんの言葉を借りれば、経済制裁には「楽する」というようなニュアンスがどうしても出てしまいます。
一方、比較的対等な関係では、経済制裁は発動した側の損失も大きい、つまり返り血を浴びることが避けられないため、経済制裁の効力は限定的にならざるをえません。自国民の不満を高めてしまうような思い切った制裁が難しいのです。
一方、制裁の対象国に民主的な選挙などの国民の不満を吸収するシステムが確立されている場合、経済制裁は効力を発揮します。2013年のイランがその典型でした。イランには権威主義的な国家で民主主義など機能していないといったイメージがありますが、実際には選挙があって国民の不満が政権交代に直結します。
当時、核開発を巡りイランはアメリカなどから経済制裁を受けていましたが、大統領選挙では、反米保守で核開発を推進した現職のアフマディーネジャード大統領が、制裁解除を公約に掲げたロウハニに敗れ、政権が交代しました。反対に、国民の不満を抑圧する国への制裁は効きにくいということです。
抜け道がある、輸入依存度が小さいことも含め、ロシアには経済制裁が効力を発揮する条件が十分整っていません。特に今回は西側諸国による制裁で、国連の制裁ではないため、制裁を実施しているのは四十数カ国です。中国やインドに加え、ヨーロッパ諸国も天然ガスを買い続けているため、ロシアに圧倒的な「痛み」を感じさせることが難しくなっています。
また、ロシアには選挙制度はありますが、民主的な選挙とは言い難い状況であるため国民の不満を吸収し、国民の声を反映させる仕組みもありません。そうしたことから、経済制裁による政策の転換や体制の変更を期待するのは難しいと思います。
カネと弾がなくなる状況を創り出す制裁
そうした状況でも効果がある経済制裁が2つあると私は見ています。
1つは金融制裁です。それにより戦費の調達を難しくすることです。戦費を得られなくなることで戦争継続を困難にして行動変容に追い込める可能性はあります。もう1つは半導体など、さまざまな武器の部品の供給を止めることです。
半導体は中国などが代替品を提供することはできますが、精密誘導兵器などのロシアの兵器は、ヨーロッパやアメリカの装置や部品に依存していた部分が大きいため、その供給を止めることで制裁の効果が出ることは期待できます。すぐに部品の調達先を変えたり、使用する武器そのものを変えたりするのは、兵士の訓練などもあり難しいからです。つまり、ミサイルや戦車を作れなくするのです。
簡単に言うと、戦争終結に向けて効果がある制裁は、カネと弾がなくなる状況を作ることだと思います。それがうまく行けば、ロシアの継戦能力の低下を期待できます。もちろん、在庫がありますから、すぐに効果が出るわけではありませんが、期待はできると思います。
●ウクライナ戦争で世界のCO2削減はかえって進む 7/4
欧州主要国のCO2ゼロ公約は無意味なものに
いま欧州は、ロシアの石油、ガス、石炭を代替供給源に置き換えることに躍起になっている。
ロシアによるウクライナ侵攻のわずか3カ月前にスコットランドのグラスゴーで開かれた国連の第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)において、欧州の主要国が表明したCO2ゼロの公約は、意味をなさないものになっている。昨年来エネルギー不足と価格高騰に悩まされていた国々が、ロシアの暴走に直面し、エネルギー安全保障の問題が再燃した。
冷戦終結後の数十年間、世界は安定し、エネルギーは容易に手に入った。このせいで、現代社会にとって豊富なエネルギーがいかに重要であるか、多くの人は忘れ去っていた。そして脱炭素ブームが起きて、社会が化石燃料に依存していることも忘れ去られていた。
しかし、石油、ガス、石炭の供給は、依然として国家の運命を左右している。過去30年間にわたって再生可能エネルギーへの移行に世界は莫大な資金を費やしたが、この基本的な事実は変わらなかった。
ウクライナでの戦争で、世界はまた新しい冷戦の時代に入った。そこではエネルギー資源の確保という根本的な問題が復活した。気候変動問題の優先順位は大きく下がった。
だが皮肉なことに、エネルギー安全保障に焦点が戻ることで、CO2の削減はかえって進むかもしれない。
安保・経済が軸のリアルポリティークが復活
過去30年間、国際的な気候変動対策は、結局のところCO2の排出量にあまり効果をもたらさなかった。けれども、安全保障と経済に軸足を置いたエネルギー現実政治(リアルポリティーク)が復活することで、これまで世界中で行われてきた気候変動対策の空想的な側面が消失し、具体的で国益に即した形で実際にCO2が大幅に減るかもしれない。
実際のところ、世界のGDPあたりのCO2排出量(=炭素集約度)、エネルギー効率の改善率、原子力の普及率など、いずれの指標を見ても、1992年にリオ・サミットで気候変動枠組条約が締結された以前の30年間の方が、その締結後よりも速く改善していた。京都議定書が採択された1997年以降には、総CO2排出量も1人当たりのCO2排出量も、それ以前より速く増加した。
冷戦時代の地政学的・技術的・経済的競争は、冷戦後に出現した気候変動対策よりも、世界経済の炭素集約度を下げることに成功していたのだ。
温室効果ガスの排出のない原子力発電技術は、米ソの軍拡競争から派生したものだ。初期の商業用原子力発電は、原子力潜水艦用の原子炉を転用したものだった。原子力の平和利用が可能となり、安価で安定した電力供給を実現するために、先進国は競ってそれを建設した。
イスラエルとアラブの戦争から派生した1973年のオイルショックは、その後20年にわたるエネルギー効率の目覚しい改善と、発電、暖房、産業などあらゆる部門における石油から他のエネルギーへの移行をもたらした。
日本は液化天然ガス利用の先駆けとなった。そして原子力も急速に増強された。原子力の先駆者であるフランスは、当時の恩恵により、現在においてもG7先進国の中で最も炭素集約度の低い経済になっている。
太陽光発電パネルは、大国の宇宙開発競争のために開発されたものだが、米国カーター政権のエネルギー自立化政策、日本のサンシャイン計画の一環として技術開発が推進された。自動車の燃費効率も飛躍的に向上した。
ロシアのガスはドイツの競争力だったが
世界的に見ると、原子力、水力、再生可能エネルギーといったCO2を出さないエネルギーによる電力の割合は、実は冷戦終結直後の1993年にピークに達していた。1992年以降語られてきた「世界が温室効果ガス削減という共通の目標に向かって協調してクリーンな電力に転じる」という期待は裏切られた。
むしろ冷戦後の平和と繁栄、そして豊富で安価なエネルギーが利用できたことで、安全保障のためにエネルギー分野に大規模な投資を行うという国家のインセンティブは劇的に低下したのだ。大きな戦争のない、統合された世界経済では、どこの国でも安価なエネルギーを大量に買い付けることができた。
ロシアのガスはドイツの産業競争力の源泉だった。中東の石油にアジアは依存するようになった。日本はその筆頭だ。そして最近では中国のソーラーパネルやバッテリーを買うこともできた。
そんな世界が、ロシアがウクライナに全面侵攻した2月24日に終わりを迎え、世界は21世紀の新冷戦の時代に入った。
ウクライナ侵攻後の新冷戦時代のエネルギー政策は、かつての冷戦時代と同様、エネルギー安全保障の要請によって衝き動かされてゆくだろう。各国のエネルギー政策は、CO2ゼロなどといった恣意的で現実感の乏しい「科学的目標」ではなく、自国が生存してゆくために確保できるエネルギー供給によって、切迫した、現実的な制約を受けることになる。
エネルギー安全保障が切望されるようになると、かつてオイルショックの時にそうであったように、非化石エネルギーや、その利用を可能にするインフラの開発に恩恵がもたらされるだろう。
例えば、先進諸国で長年にわたって行われてきた新規の原子力発電所建設に対する環境派の反対は、ウクライナ侵攻以前と比べるとはるかに通用しにくくなるだろう。同様に、風況の良い西欧北部から人口の多い南部へ風力エネルギーを運ぶ長距離送電線の新設についても、反対運動が成功する可能性は低くなるだろう。
現実的な省エネ対策が見直される
すでにドイツとEUは、認可を早めるために環境規制を緩和する動きを見せている。
日本が得意とするハイブリッド自動車、高効率な石炭火力発電なども、エネルギー安全保障を実現するための現実的な省エネルギー対策として見直されることになるだろう。
いずれの場合も、ウクライナ戦争で明白になった新冷戦という安全保障の緊急事態において、根拠がはっきりしなかった「気候変動の緊急事態」の下ではなし得なかったことの多くが実現される可能性がある。
これまでの環境保護運動は、あれもダメこれもダメといった規制による解決策に偏重し、太陽・風力は良いが他はダメといった具合に、技術を好き嫌いで恣意的に選ぶため、温暖化問題を本当に解決するような現実的な政策を提唱できずにいた。
皮肉なことに、気候変動の問題が中心から外れ、エネルギーの安全保障が切望されることで、気候変動に関する取り組みがこれまで達成できなかったことを、はるかに上回る効果が得られるだろう。
エネルギー供給の確保と安全保障は、依然として世界諸国共通の課題である。ロシア・中国に代表される独裁主義に対抗するためにも経済成長を達成し、そしてCO2を削減してゆくためには、この現実に対応する必要がある。
●プーチン氏が訪露要請、習近平氏「近い将来は困難」…侵略長期化で温度差  7/4
北京の外交筋によると、ロシアのプーチン大統領は、6月15日に中国の 習近平シージンピン 国家主席と電話会談した際、69歳の誕生日を迎えた習氏に祝意を示した上で、ロシア訪問を要請した。これに対し、習氏は新型コロナウイルス対策を理由として、近い将来の訪露は困難との認識を示したという。
両首脳は2月4日の北京五輪開幕に合わせたプーチン氏の訪中の際に対面で会談し、共同声明で「両国の協力に上限はない」と強調していた。その後、ウクライナ侵略が長期化する中で国際的な孤立の打破を図ろうとしているロシアと中国の間に、温度差も生じているようだ。
外交儀礼上は習氏が訪露する番となる。しかし、習氏は異例の3期目続投を見込む今年後半の共産党大会を控え、国内だけでなく対外環境の安定も模索しているとみられる。訪露することで、経済制裁などで対露圧力を強める米欧との対立がさらに深まるのを避けたい思惑もありそうだ。
また、習氏は新型コロナの感染が拡大した2020年1月下旬以降、外国を訪問していない。7月1日の香港返還25年の記念式典でも、前日に香港入りしながら、いったん隣接する中国本土に戻って宿泊した。政治的に敏感な時期であることから、感染リスクも含めた安全面を考慮した措置だったとみられている。
●ロシア ルハンシク州全域を掌握と発表 ドネツク州掌握へ攻勢か  7/4
ロシア国防省は3日、完全掌握を目指しているウクライナ東部2州のうちルハンシク州の全域を掌握したと発表しました。これに対しウクライナ軍の参謀本部は、武器や兵力などの面でロシア側が優位にあるとしたうえで「兵士の命を守るため撤退することを決めた」と強調しました。
ロシア国防省は3日、声明を出し、完全掌握を目指しているウクライナ東部2州のうち、ルハンシク州でウクライナ側最後の拠点とされるリシチャンシクを支配下に置いたと主張したうえで「ショイグ国防相がルハンシク州全域を掌握したとプーチン大統領に報告した」と発表しました。
ルハンシク州の親ロシア派の武装勢力の指導者パセチニク氏は3日、SNSに「われわれの歴史に永遠に刻まれる日だ」などと投稿しました。
これに対しウクライナ軍の参謀本部は3日SNSに投稿し、武器や兵力などの面でロシア側が優位にあるとしたうえで、リシチャンシクの防衛を続ければ致命的な結果を招くとして「兵士の命を守るため撤退することを決めた」と強調しました。
また、ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、新たな動画を公開し「敵が火力で勝る地域において前線から兵士を引き揚げることはリシチャンシクにも当てはまる。われわれの戦術と近代的な兵器の供給の増加によって、われわれは戻ってくるだろう」と述べました。
一方、隣接するドネツク州のスロビャンシクの市長は3日、SNSに動画を投稿し「これまでで最も激しい攻撃があった。多くの死傷者が出ている」と明らかにしました。
ウクライナの公共放送はドネツク州政府の報道官の話として、スロビャンシクへの攻撃で6人が死亡し、15人がけがをしたと伝えています。
また、親ロシア派の武装勢力の幹部はSNSでリシチャンシクから西に30キロほど離れたドネツク州の町で「戦闘がすでに始まっている」と述べていて、ロシア軍はルハンシク州に続いてドネツク州の掌握に向けた攻勢を強めるものとみられます。
●ロシア軍 ルハンスク州全域を制圧 アメリカ ウクライナ軍が“撤退”と分析  7/4
ロシア軍は、ウクライナ東部の最後の防衛拠点だったリシチャンシクを含めルハンスク州全域を制圧したと発表した。
ロシア側の発表によると、ショイグ国防相は3日、「リシチャンシクと近隣の集落を完全に支配下に置いた」とプーチン大統領に報告した。
そのうえで、東部ルハンスク州についても「解放した」と主張し、州全体の制圧を宣言した。
ロシア軍のリシチャンシク制圧について、アメリカのシンクタンク戦争研究所は2日、ウクライナ軍が意図的に撤退した可能性が高いと分析している。
ウクライナ側は、ルハンスク州の制圧を認めていないが、戦争研究所は、ロシア軍が今後数日間で支配権を確立する可能性が高いと分析している。
ウクライナ東部の完全な制圧を目指すロシア軍は、今後、残るドネツク州への攻撃をさらに強めるものとみられる。
●ウクライナ東部 最後の拠点陥落 ゼレンスキー大統領「必ず戻ってくる」  7/4
ウクライナ東部最後の防衛拠点だったリシチャンシクが陥落し、ゼレンスキー大統領は、撤退を認めたうえで、「必ず戻ってくる」と奪還する決意を示した。
ゼレンスキー大統領は、東部ルハンスク州のリシチャンシクから軍の撤退を認めたうえで、「最新鋭の武器を増やし、必ず戻ってくる」と述べ、奪還する決意を示した。
ロシア側は3日、リシチャンシクを含む、ルハンスク州全体の制圧を宣言し、今後、隣接するドネツク州にも、攻撃が強まるものとみられる。
一方、モスクワでは、住所変更に関するオンライン投票が行われていて、イギリス大使館周辺が、親ロシア派の名がつく「ルガンスク人民共和国広場」に変更する可能性が高くなっている。
モスクワでは6月、アメリカ大使館周辺の住所が「ドネツク人民共和国広場」に変更されたばかりだった。
●ゼレンスキー大統領 ルハンシク州全域から軍の撤退認める  7/4
ロシア国防省が、ウクライナ東部2州のうちルハンシク州全域の掌握を主張したのに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ルハンシク州最後の拠点とされるリシチャンシクから軍を撤退させたことを事実上認めました。
ロシア国防省は3日、声明で、ロシアが完全掌握を目指していたウクライナ東部2州のうち、ルハンシク州について全域を掌握したとの主張を発表しました。
これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、公開した動画で「敵が火力で勝る地域において前線から兵士を引き揚げることは、リシチャンシクにも当てはまる」と述べ、ルハンシク州最後の拠点とされるリシチャンシクから軍を撤退させたことを事実上認めました。
これに先立って、ウクライナ軍の参謀本部は3日、SNSに、リシチャンシクの防衛を続ければ致命的な結果を招くとして、「兵士の命を守るため撤退することを決めた」と投稿しました。
一方、ゼレンスキー大統領は3日、「ロシア軍はきょう、スロビャンシクやクラマトルシク、それにハルキウを多連装ロケットシステムなどで激しく攻撃した」と述べ、隣接するドネツク州やハルキウ州に対してロシア軍による攻撃が激しさを増していると明らかにしました。
そのうえで、「スロビャンシクだけで6人が死亡し、およそ20人がけがをした。来月に10歳になるはずだった女の子も犠牲になった」と述べ、ロシア側を強く非難するとともに、徹底抗戦する姿勢を強調し、欧米各国からの軍事支援の重要性を改めて訴えました。
●ロシアの欧州逆制裁とプーチンの思惑 7/4
6月14日、ガスプロムはノルド・ストリーム経由のドイツ向けガスの供給を40%削減すると発表した(翌15日にはこれを60%に拡大した)。その理由としてパイプラインの部品の定期修繕がカナダにあるシーメンスの工場で行われているが、それがカナダ政府の対ロシア制裁によって再納入出来なくなっているとの事情をあげているという。
しかし、その説明を鵜呑みにする向きはない。イタリアのドラギ首相が言うように、その説明は嘘であり、「小麦が政治的に使われているのと同様、これはガスの政治的利用である」に違いない。
既にポーランド、オランダ、ブルガリアに対するガス供給は停止されている他、幾つかの企業に対する供給も削減されているようであるが、ここに来て欧州の弱みに本格的につけ込む戦略の一手を打った(ガス需要が高まる冬には更なる削減を仕掛けるかも知れない)ということであろう。いわば西側の制裁に対して逆制裁をもって対抗する構えではないかと思われる。
その決定の背景には、エネルギー輸出が減っても、価格の上昇がこれを補って余りあるとの計算が働いたことがあるに違いない――ウクライナ侵攻以降100日のロシアのエネルギー輸出は930億ユーロで、2021年の輸出額の約40%を100日で稼いだことになるとの試算がある。
また、プーチン大統領が西側の制裁を乗り切れると信ずるに至ったこと(その判断の当否は別として)があるかも知れない。6月17日、サンクトペテルブルグの国際経済フォーラムで演説した同大統領は西側の制裁を「常軌を逸し(insane)」「狂気じみた(crazy)」ものと呼び、西側はロシア経済を暴力的に崩壊させることを予想したが、そうはならなかった、ロシア経済は正常化する、「ロシアに対する経済的電撃戦は最初から失敗する運命にあったのだ」と述べた。
欧州ではエネルギーと食料の価格が高騰し、5月のインフレ率が8.1%と高い水準を維持する状況にあって、6月9日、欧州中銀は7月に量的緩和政策を終了し政策金利を引き上げることを発表している。
これが債権市場の動揺を招き、イタリア国債の利回りは急上昇した。10年物国債の利回り(年初は1%)は急上昇して一時4%を超えたが(目下3.7%程度)、ユーロ圏の安定を不安視する向きもある。
耐えるしかない欧州
こういう状況を見て、プーチン大統領はガス供給を絞り、特に脆弱なドイツとイタリアを標的に、市民生活を直撃し、インフレを煽り、欧州経済に圧力をかけ、厭戦気分を醸成することを思いついたに違いない。小麦もそうである。ロシアがオデーサの食料倉庫を攻撃・爆破したとの報道があるが、世界的な食糧危機を更に進行させ、その責任を西側になすりつけることを思いついたのであろう。
欧州は耐えるしかない。ロシアの逆制裁を逆手に取ってエネルギーのロシア依存の脱却を急ぐしかないであろう。他方で、欧州連合(EU)はロシア原油の禁輸の徹底を急ぐ必要がある。
ロシア原油は中国とインドが調達を拡大しており、米欧の禁輸の実効性が失われている印象である――このような事態を防ぐために、ロシア原油を輸送するタンカーに対する海上保険の付与の禁止でEUと英国が合意したはずであるが、その効果を検証する必要があろう。
●ロシア撤退急ぐ外国企業、サハリン2の展開に戦々恐々 7/4
ロシアに残した資産をどう処分するか──。今なお、答えを探しあぐねている多くの外国企業にとって、プーチン大統領が極東サハリン沖の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」に関して署名した命令は、強烈な警告になった。
プーチン氏が、日本企業の参加している同事業の運営をロシア政府が新設する企業に移管するよう促したことで、他の外国企業も「とにかく早く決断しないとひどい目にあう」と肝に銘じたのだ。
現在もさまざまな外国企業が、金銭的な負担をできるだけ減らし、従業員を危険にさらさずにロシアから撤退する方法に頭を悩ませている。一部では将来ロシアに戻ってくる機会も確保できないかと考える向きさえある。
こうした中でロルフ・ラダウ氏が最高経営責任者(CEO)を務めるフィンランドのコーヒー製造・販売会社、パウリグは、いち早くロシアから手を引くことができた企業の1つだ。
ロシアのウクライナ侵攻に伴って欧米諸国が制裁を開始した時点でラダウ氏は、ロシア事業がもはや維持できないと判断した。コーヒーは直接の制裁対象ではなかったが、貨物会社がロシアと行き来する輸送を停止したため、コーヒー豆を同国に持ち込むのがほぼ不可能になったからだ。ルーブル建て決済も日増しに難しくなっていった。
そこで、ラダウ氏はウクライナの戦争が始まってから2週間でロシア撤退を決め、通常なら最長1年かかる買い手探しの手続きをその後の2カ月間で済ませた上で、5月にはインドの投資家に事業を売却する契約を結んだ。
もっともこうした成功例は、むしろ少数派に属する。同じように事業売却に合意した外国企業は、マクドナルドやソシエテ・ジェネラル、ルノーを含めて40社に満たない。
ロイターがこれまでにロシアの資産を処分した外国企業の経営幹部5─6人に取材したところ、迅速な売却がいかに難しく、なかなか成功が見通せなかったことや、売却に時間がかかった理由などが明らかになった。
浮き彫りになったのは、数々のハードルだ。具体的には、1)ロシア政府が外国企業にどんな行動を許可するのかを巡る混乱、2)制裁への報復をちらつかせるロシア側に対する従業員の不安、3)制裁によって限定される事業の買い手と、買い手候補を精査できる時間、4)足元を見られての売却価格の大幅な引き下げ、5)現地に出向いて拘束される懸念からバーチャル方式で交渉せざるを得なかった事情──などが挙げられている。
そして、ロシア政府が撤退を決めた西側企業のロシア事業を「接収」できるようにするための新たな法令を準備している以上、リスクは高まる一方だ。
ラダウ氏は、サハリン2の事業移管命令が出される前の時点で、ロイターに「まだ、資産売却手続きに着手していないか、引き続き売却に懐疑的な企業は、さらに立場が厳しくなる。ロシアが外国企業にあっさりと撤退を許すことで得られる利益は何もない」と語った。
見つからない正解
西側企業の多くは、ロシアから撤退する取り組みの面で壁に突き当たっている。
例えば、米ハンバーガーチェーンのバーガーキングは今年3月、ロシア国内の店舗への支援を停止した。だが、今でも約800店が営業を続けている。法律専門家の話では、合弁形式のフランチャイズ契約の複雑性に問題があるという。
イタリア大手銀行・ウニクレディトは、スワップ取引を通じて一部資産を処分できた。しかし、インドやトルコ、中国などの国まで買い手候補の範囲拡大を迫られた。
ロシアのウクライナ侵攻から4カ月が経過して、外国企業がこれらの厄介な事態から解放されるための「正解」にたどり着いた兆しはほとんど見当たらない。事業を手放せたルノーやマクドナルドにしても、売却金額は事実上ゼロだった。両社は事業の買い戻し条項を盛り込むことにも同意している。
一方、パウリグのラダウ氏は事業売却に当たって買い戻し条項を入れないと決めた。「道徳倫理上の諸問題があまりに深刻で、われわれがロシアに戻ってくる余地はない」という。
銀行の関与なし
外国企業による今回のロシア資産処分に異例さがつきまとう原因の1つは、通常なら重要な役割を果たす銀行が一切介在していないことだ。
複数の関係者は、銀行側が制裁違反を恐れて関与を避けていると説明する。
そこで外国企業は、ロシア国内の法律専門家や、ロシアでの事業の買い手探しに精通する国際的なコンサルティング企業を頼り、売却手続きの正当性や制裁の順守、金銭的な信用を確保しようとしている。
ただ、ある企業からは、ロシアのアドバイザーの間でさえ、その都度出てくる助言が以前の内容と矛盾していると嘆く声も聞かれた。
それでもサハリン2を巡るプーチン氏の命令によって、この先どうなるかがより明白になってきた。撤退作業に苦戦を続けている外国企業幹部の1人は「ロシア政府はまもなく報復に動く。ガスだけでなく、他の分野でも」と警戒感をあらわにしている。

 

●ウクライナ戦争は雑音に 露大都市で関心薄らぐ  7/5
DJのディマ・カルマノフスキーさん(35)は最近のある週末、その夜2巡目の仕事を終え、別のクラブに向かう前に一息入れていた。
「コロナ禍前でも、これほど忙しかったことはない」。ロシアの首都モスクワで人気のバー「Blanc」でカルマノフスキーさんはそう話した。
ウクライナへの軍事侵攻が5カ月目に入った今、モスクワやロシア第2の都市サンクトペテルブルクでは、戦争の表立った気配があまり見られなくなっている。一方で、多くの命が奪われ、住民が家を追われている。
ロシア最大級の都市にあるバーはあふれんばかりの客で賑わい、映画祭やジャズフェスティバルのチケットは完売している。モスクワ市内をパトロールする警官はアサルトライフル(突撃銃)で武装しているが、最近は抗議デモの鎮圧よりも、公共の場での飲酒に罰金を科すことに追われている。
サッカーのワールドカップ(W杯)が開催され、何十万人もの観光客を迎えた2018年の夏をほうふつとさせるお祭りムードがモスクワを覆っている。サッカーの試合以外で違っている点は、外国人の姿がほとんど見当たらないことだ。
「戦争に行った者もいる。だが、そうでない者はどうすべきか。ただじっと座って泣いていればいいのか」。市中心部で屋外レッスンを終えたばかりのヨガインストラクター、ナターリャ・ラクマトゥリナさんはこう言う。「これは正常な適応だろう。私たちは今、異なる世界に住んでいる。自分の生活を続けなくてはならない」
モスクワ周辺には、若干ながら目に見える戦争の証拠がある。一部の建物や車両、衣服には、侵攻のシンボルである「Z」や「V」の文字が描かれている。街へ続く主要道路には、ウクライナに言及していないものの、ロシア兵の姿を描き、「ロシアの英雄に栄光あれ」という言葉を添えた看板が並んでいる。
西側の経済制裁がロシア経済に浸透するには時間を要するが、一部にその影響がうかがえる。モスクワのあるショッピングモールでは、兵士のための衣類回収箱が空き店舗前に並んでいた。以前このモールに入っていた外国ブランドは、軍事侵攻を受けてロシアから撤退した。
この国が戦争中であることを、訪問者が気づくのは容易ではない。ロシア軍が国境を越えてウクライナになだれ込んだ2月24日、カルマノフスキーさんはスリランカで長期休暇を過ごしていた。日中はサーフィンをして、少なくとも数時間は戦争の恐怖から逃れようとした。だが4月にモスクワに戻ると、市内の様子がほとんど変わっていないことにあぜんとしたという。
「実にショックだった。人々は平穏なバブルの中に閉じこもろうとしている。私にはそれが正しい方法なのか分からない」。
戦争支持者の一部は、他のモスクワ市民が無関心なことにいら立っている。週末に「Z」がプリントされたTシャツを着て、家族とモスクワ川沿いを散歩していたあるエンジニア(29)は、ロシア軍を公然と支持する人がほとんどいないことに失望していると語った。
「人々は自分の生活を送り、誰ひとり隣人のことを気にかけない」
当初は最も大規模な反戦デモを繰り広げたモスクワやサンクトペテルブルクの住民が、今では戦争から大きく遠ざかっているのは、ロシア軍が貧しい地域から新兵を集める傾向があるからではないかと一部の政治アナリストはみている。そうした地域では、兵士になることがより良い将来を手に入れる手段だと考えられている。ロシアの独立系メディア「メディアゾナ」が公的に入手できるデータをもとにウクライナで死亡した約3800人のロシア兵について調べたところ、モスクワ出身の兵士はわずか8人、サンクトペテルブルク出身者は26人だった。
クレムリン(ロシア大統領府)はウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼び、これまで総動員を避けている。その結果、旧ソ連時代のアフガニスタンでの戦いと同じように、今回の紛争は雑音のようになっていると、カーネギー国際平和財団モスクワセンターのアンドレイ・コレスニコフ上級研究員は指摘する。
「実質的に、これは当局と結んだ新しい契約だ」とコレスニコフ氏は指摘。「われわれは軍事作戦を支持する。だが同時に、実地の参加は強要されない」というものだ。
こうした無関心の原因は、ウラジーミル・プーチン大統領による独裁体制が、人々は生活の向上に関心を向け、政治は国家に任せるという社会契約を築こうとしてきたことが大きいと考えられる。そう語るのは、キングス・カレッジ・ロンドンのロシア政治専門家グルナズ・シャラフトジノワ氏だ。
ロシア国民が軍事行動を支持していることを各世論調査は示唆している。だが、それはおおむね受動的な支持だと一部の専門家は指摘する。
「これは参加を伴わない支持であり、プーチンとクレムリンに有利に働く。人々は戦争が長期化しそうなこと、大勢の死傷者が出て、若い男性が命を落としていることに目を向けていない」とコレスニコフ氏は言う。
欧州で第2次世界大戦以降、最大の地上戦が起きたことの衝撃は次第に和らいでいる。ロシアの独立系世論調査機関「レバダセンター」によると、ロシア国民の関心は徐々に薄れており、3月には回答者の64%が少なくとも一定の関心を寄せていたが、5月にはこれが56%に低下した。
主に国営放送でニュースを視聴している、より高い年齢層はウクライナ情勢を注視する傾向にある。一方、若者は無視している。18〜24歳の回答者のうち、状況を追っていると答えた人は34%にとどまった。
反戦を訴えたい少数派は、絶望感に襲われている。当局が新たに法律を導入したためだ。新法の下、ロシア軍を批判したとして罰金を科されたり、逮捕されたりする人が多数出ている。また、最長15年の禁錮刑に処される恐れがある。
「ロシア国内にいて戦争を止める方法が人々には分からない」。軍事侵攻を批判し、すでに3つの軽罪に問われているイリヤ・ヤシン氏はこう話す。「止められない悲劇は見るに堪えない。だからわれわれは無力感に襲われる」
ヤシン氏はロシア国内にとどまり、投獄を免れている最後の著名な野党政治家の一人だ。自身の主な役割は、刑務所に入ることなく戦争の真実を語ることだと語った。同氏は6月27日夜、友人と公園を歩いていたところを拘束された。翌朝、警察に従わなかったとして15日間の拘留を言い渡された。自身へのあらゆる容疑は「茶番」だとし、今回の逮捕は戦争批判でより長期の刑を宣告される前触れだと考えていると同氏は述べた。
●なぜ、戦争は繰り返されるのか…ドキュメンタリー「ウクライナから平和を叫ぶ」 7/5
ドキュメンタリー「ウクライナから平和を叫ぶ〜 Peace to You All 〜」の特報が、YouTubeで公開された。
ウクライナはロシアとヨーロッパに挟まれるその立地から、親ロシア派と親欧米派が対立してきた歴史がある。2014年4月にはロシアを後ろ盾とする分離主義勢力によって、ウクライナ東部でドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立が宣言された。そこからウクライナは、反政府武装勢力と見なされた両共和国との紛争状態に陥った。本作ではスロバキアの写真家ユライ・ムラヴェツ Jr.が、ドネツク側とウクライナ側の両方の住民の証言を記録した。
特報映像では、ムラヴェツ Jr.が2015年にウクライナ入りして捉えた、分離主義勢力が支配する村や紛争の最前線の映像が映し出されている。終盤には「なぜ、戦争は繰り返されるのか」というテロップや「残念ながら21世紀になっても人は戦争がしたいのです」という男性の声が収められた。また劇場パンフレットにも寄稿するウクライナ出身の国際政治学者グレンコ・アンドリーより本作の推薦コメントが到着した。
「ウクライナから平和を叫ぶ〜 Peace to You All 〜」は8月6日より東京・ユーロスペースにて公開される。
グレンコ・アンドリー コメント
戦争とは、テレビで見られる燃えている建物の映像ではない。何十万人、何百万人の悲劇の積み重ねだ。出てくる人達の一部はウクライナを憎み、ロシアに助けを期待している。悲惨な目に遭いながら、この状況を起こしたロシアに感謝する、これほど悲しいことはないだろう。
この映画は、ロシアによる全面侵略の数年前に、ウクライナ東部での局地戦争が続いていたころに制作された。あの頃は、ドンバスだけが戦場となり、他の地域は直接な攻撃を受けなかった。ここで描かれている光景だけでも、戦争はいかに恐ろしいか、十分理解できるはずだ。
●復興はウクライナが主導的に...宣言採択 100兆円余りが必要との訴えも  7/5
ウクライナの支援について話し合う国際会議が開かれ、復興はウクライナが主導的に取り組むなどとした「宣言」を採択した。
スイス・ルガノで開催された「ウクライナ復興会議」は、EU(ヨーロッパ連合諸国)を中心に、日本やアメリカ、国際機関などが参加した。
5日に採択された「ルガノ宣言」では、復興はウクライナが主導的に取り組むこと、参加国が復興への道筋を支援すること、また資金の使い道は国際基準にのっとり、透明性を確保することなどを原則として取りまとめた。
会議ではウクライナのシュミハリ首相が、復興には100兆円余りが必要だと訴え、各国が凍結したロシア政府や新興財閥オリガルヒの資産を没収し、復興に充てるよう求めていた。
これについてロシアのペスコフ大統領報道官は、「完全に不法だ。絶対に反対する」と強く反発している。
●「復興には100兆円超必要」被害拡大のウクライナ、首相が支援訴え 7/5
ウクライナ情勢です。ロシアのプーチン大統領は東部ドンバス地方全域の支配に向け、攻勢を強める構えです。一方、ウクライナの首相は侵攻からの復興に100兆円を超える資金が必要だと訴えています。
外壁が激しく損傷した商業施設。道路にはロシアの侵攻を支持する「Z」の文字が書かれた軍用車が。ここは、東部ルハンシク州リシチャンシクです。戦闘の末、ウクライナ軍は撤退しています。
ロシア国防省はルハンシク州全域の制圧を表明、そしてプーチン大統領は。
ロシア プーチン大統領「東部・西部のグループを含む軍は、これまでの計画通り任務を遂行すべきだ」
ロシアはルハンシク州を含む東部ドンバス地方全域の支配を目指していることから、今後は残るドネツク州への攻勢を強めるとみられ、「同様の結果を得られることを期待している」としています。
現地から避難する市民もいますが、一方で。
「どこにも行きません。どこかに行くお金がないのです」「子どもと逃げた人も多くが戻ってきています。生活するお金がないからです」
こうした中、スイスでは4日、軍事侵攻による被害からの復興を話し合う国際会議が始まりました。EU=ヨーロッパ連合や、およそ40か国の政府関係者のほか、世界銀行など国際機関の代表が出席するなか、ウクライナの首相が訴えたのは。
ウクライナ シュミハリ首相「7500億ドル(100兆円超)と見積もられている復興資金を誰が支払うべきか」
日本円にして100兆円を超える復興資金が必要との見方を示し、「ロシアとその新興財閥の差し押さえられた資産を充てるべきだ」と主張しました。
また、ゼレンスキー大統領は「2102の教育施設、799の医療施設が破壊された」と明らかにし、支援を呼びかけました。会議ではウクライナが復興計画を示し、各国が支援方針を表明する予定です。
●ウクライナ復興会議、「ルガノ宣言」採択し閉幕…復興費用に踏み込まず  7/5
スイス南部ルガノで開かれていた「ウクライナ復興会議」が5日、閉幕した。ウクライナが主導的に復興に取り組むことなどを盛り込んだ「ルガノ宣言」を採択し、参加した欧米や日本など約40か国が協力することを確認した。
完全制圧のヘルソン州、親露派「州政府」発足…飛び地カリーニングラード幹部がトップ就任
スイスで開かれたウクライナ復興会議(5日)=APスイスで開かれたウクライナ復興会議(5日)=AP
宣言では、ウクライナ主導での復興推進のほか、復興のために集められる資金の使い道の透明性を確保することなどを、ウクライナ復興の原則とした。支援国が資金提供しやすい環境を整えることに重点を置いた内容だ。
ウクライナのデニス・シュミハリ首相は4日の会議で、復興計画に7500億ドル(約100兆円)が必要と訴えた。だが、ロシアによる侵略が継続していることに加え、積算の根拠が不明確なことなどもあり、閉幕式では、復興費用や具体的な支援内容への言及はなかった。
日本から参加した鈴木貴子外務副大臣は、戦後の経済発展や東日本大震災からの復興などの経験を踏まえ、「ウクライナも目覚ましい復興が可能だと確信している。経験を生かし、(ウクライナの復興に)積極的に貢献する」と述べた。
2日間の会議では、ウクライナの復興に向けて参加国が支援を続けていくことでは一致したが、多額に上るとみられる資金の確保については、難航が予想されることから積極的な発言や提案はなかった。
●ウクライナ復興の国際会議 日本は強力に支援する考えを表明  7/5
ロシアの軍事侵攻で甚大な被害を受けるウクライナの復興を話し合うため、スイスで開かれている国際会議は5日、各国の代表がそれぞれ支援の方針を説明しました。このうち、日本を代表して出席している鈴木外務副大臣は、震災からの復興などの経験を踏まえ、強力に支援する考えを表明しました。
スイス南部のルガーノでは、4日からウクライナ政府と、およそ40か国の政府関係者、それに世界銀行など、国際機関の代表が復興について話し合う国際会議が開かれています。
会議の最終日となる5日は、各国の代表が、今後、ウクライナをどう支援していくか、それぞれの方針を説明しました。
このうち、日本を代表して出席している鈴木外務副大臣は「日本は、戦後の荒廃の中から経済発展を遂げ、東日本大震災をはじめ、たび重なる自然災害からも復興を成し遂げてきた」と述べたうえで「これまでの経験を生かし、積極的に貢献していく」と述べ、国際社会と協力しながらウクライナの復興に向けて、強力に支援する考えを表明しました。
会議では、復旧や復興は、各国の協力のもと、ウクライナが主導して進めることや、復興のための資金が適切に使われているかなど、透明性を確保する必要性などを盛り込んだ「ルガーノ宣言」を採択しました。
会議は、スイスのカシス大統領とウクライナのシュミハリ首相が、締めくくりの会見を行って閉幕する予定です。
今回の会議で、ウクライナ政府は、復旧や復興を進めるためには、現時点で総額およそ7500億ドル、日本円にして100兆円余りが必要になると強調しています。
ウクライナ側は、今回の会議を復興の出発点と位置づけ、各国も、それぞれ支援する方針を確認した形ですが、ロシアの軍事侵攻が長期化し、先行きが見通せないなかで、ばく大な費用がかかる復旧や復興を、具体的にどう進めていくかが課題となります。
●ウクライナ復興の国際会議 宣言採択し閉幕 具体化が課題  7/5
ロシアによる軍事侵攻で甚大な被害を受けるウクライナの復興を話し合うためスイスで開かれていた国際会議は、5日、各国の協力のもとウクライナが主導して復興を進めることなどを盛り込んだ宣言を採択して閉幕しました。ただ、必要となるばく大な費用の確保など、見通せない部分も多くどう具体化させるかが課題です。
スイス南部のルガーノでは、4日から2日間の日程で、ウクライナ政府とおよそ40か国の政府関係者、それに、世界銀行など国際機関の代表がウクライナの復興について話し合う国際会議が開かれました。
5日は、各国の代表がウクライナへの支援をめぐるそれぞれの方針を説明しました。
このうち日本を代表して出席した鈴木外務副大臣は、「日本は、戦後の荒廃の中から経済発展を遂げ、東日本大震災をはじめ、たび重なる自然災害からも復興を成し遂げてきた」と述べ、これまでの経験を生かしウクライナの復興に向けて支援する考えを表明しました。
会議では、復旧や復興は、各国の協力のもとウクライナが主導して進めることや、復興のための資金が適切に使われているかなど透明性を確保する必要性などを盛り込んだ、「ルガーノ宣言」を採択しました。
締めくくりの記者会見を行ったウクライナのシュミハリ首相は「ウクライナは、国の復旧と復興のための計画を巡りパートナーの各国と議論を始めた。私たちにとって大きな希望をもたらす」と述べ、各国と協力して復興を目指す考えを強調しました。
ウクライナ政府は、復旧や復興には現時点で総額およそ7500億ドル、日本円にして100兆円余りが必要になると強調していますが、ばく大な費用の確保など、見通せない部分が多く戦闘も続くなかで復興をどう具体化させるかが課題です。
凍結資産利用 ロシア報道官「違法で断固として反対」
ロシアによる軍事侵攻で甚大な被害を受けているウクライナの復興について話し合う国際会議で、ウクライナ政府は復旧や復興にかかる費用の一部について、各国で凍結されているロシア政府の関係者らの資産をあてるべきだと提案しています。
これについてロシア大統領府のペスコフ報道官は5日、記者団に対し「そのような行動は完全に違法であり、国際法のあらゆる基準や規則に違反している。ロシアは断固として反対する」と述べ、強く反発しました。
鈴木外務副大臣「今必要なのは国際社会の連帯」
会議の閉幕後、鈴木外務副大臣は記者団に対し「ウクライナの人々は自由と民主主義を守るために日夜闘っている。今必要なのは、国際社会の連帯であり、希望だ。戦時下だが、復興、復旧に向けて、ウクライナの皆さんに希望を示すのに早すぎることはない」と述べ、軍事侵攻が続く中でもウクライナの復興を国際社会が支援する姿勢を示したことの意義を強調しました。
●政府 ロシア産の金輸入禁止など決定 ウクライナ侵攻の追加制裁  7/5
ウクライナへの軍事侵攻が続く中、政府はG7=主要7か国と連携して圧力をさらに強化する必要があるとして、5日の閣議でロシアと同盟国ベラルーシに対する追加の制裁措置を決めました。
具体的にはロシア産の金の輸入を禁止し、会計・監査、信託といったロシア向けの一部サービスの提供も禁止するとしています。
また、資産凍結の対象に、ロシアのグリゴレンコ副首相など57人と6団体、ウクライナ東部の不安定化に直接関与しているとされる親ロシア派のウクライナ人ら5人を加えるとしています。
さらに日本からの輸出を禁止する対象に、両国の合わせて90の軍事関連団体を追加するとしています。
松野官房長官は、閣議のあとの記者会見で「世界の平和秩序を踏みにじるロシアによる侵略を一日も早く終わらせるため追加の制裁措置をとる。今後も事態の改善に向けてG7をはじめ国際社会と連携し取り組んでいく」と述べました。
●NATO、北欧2国が加盟手続き開始−トルコはけん制 7/5
北大西洋条約機構(NATO)はスウェーデンとフィンランドの加盟手続き開始を正式に承認した。ウクライナ侵攻を受けてロシアに対する東部方面の防衛力強化に一歩近づいた。
トルコも他の加盟国とともに両国の加盟加盟手続き開始を認めたが、同国がテロリストと見なす容疑者の引き渡しに両国が応じなければ、加盟を阻止するとあらためてけん制した。新規加盟の実現には現加盟30カ国のそれぞれの議会が承認する必要があり、長い期間を要する可能性もある。
ストルテンベルグ事務総長は「歴史的な日だ」とコメント。「ロシアは欧州の平和を粉々にした。従って、この重要な時に団結することが重要だ」と語った。
ロシア・ルーブルが下落、安全な米ドルに投資家が逃避
5日の外国為替市場で、ロシア・ルーブルが4カ月ぶりの大幅安。一時11%安の1ドル=62.30ルーブルとなった。ロシアは資本規制を緩和し、企業に輸出で得た収入をルーブルに換金する義務を撤廃した。
ロシアの主要パイプライン、完全復旧は「最もあり得るシナリオではない」−ゴールドマン
ロシアが天然ガスを欧州に供給する主要パイプライン「ノルドストリーム1」が今月予定するメンテナンス後、フル稼働で復旧することはないかもしれないと、ゴールドマン・サックス・グループが指摘した。ノルドストリーム1は今月11−21日にメンテナンスのため稼働を停止する見通しで、需給ひっ迫への懸念からここ数週間はガス価格が上昇している。ロシアは既に同パイプラインの稼働率を約40%に引き下げていた。ゴールドマンのアナリストはリポートで、「ノルドストリーム1はメンテナンス後に完全に復旧すると当初は見込んでいたが、もはやこれが最もあり得るシナリオだとはみていない」との見解を示した。
トルコ、北欧2カ国のNATO加盟をあらためてけん制
北大西洋条約機構(NATO)はスウェーデンとフィンランドの加盟手続き開始を正式に認め、加盟への道を開いた。ただ、トルコは両国の加盟に拒否権を行使する可能性をあらためてちらつかせた。チャブシオール外相は4日、先週のNATO首脳会議で合意した覚書に基づくテロ対策と容疑者引き渡しの約束を加盟申請国が守らない場合、トルコは加盟を承認しないと述べた。
ロシア、ウクライナ・ザポリージャ州の穀物を中東に輸出したい考え
ロシアが支配するウクライナ・ザポリージャ州の占領当局者は、穀物輸出で合意に達したと明らかにした。ロシア国営タス通信が伝えた。輸出先は主に中東で、米国と同盟関係にあるイラクやサウジアラビアも含まれると、この当局者は述べたという。
サハリン2巡るロシア大統領令の細部の「説明求めている」−萩生田経産相
大統領令を巡り、萩生田光一経済産業相はサハリン2に出資する三井物産と三菱商事が1カ月以内にロシア側が事業を移管する新会社の株式取得を申請する必要があるとされる件も含め、ロシアに詳細な説明を求めていると語った。
米女子プロバスケのグライナー選手、米大統領に書簡で訴え
ロシアに入国する際、大麻オイルを所持していた疑いで逮捕され拘束中の米女子プロバスケットボールのブリトニー・グライナー選手はバイデン米大統領宛ての書簡で、自身を含めロシアに拘束されている米国人を帰国させるよう訴えた。AP通信が報じた。グライナー選手の書簡は代理人がホワイトハウスに届けたという。同選手は東京五輪とリオデジャネイロ五輪の女子バスケットボールで米国代表として金メダルを獲得したスター選手。
ウクライナ、今年の資金需要は最大650億ドル−国際会議で表明
ウクライナは資金需要を満たすため年内に600億ドルから650億ドルを必要とすることを示唆した。これは同盟国がこれまでに約束できている金額を上回るもので、国防や安全保障関連の支出は含まない。この金額は、スイスのルガーノで同日開かれた国際会議でウクライナが示した長期的な復興計画の一部。長期計画の総額は7500億ドルを超える見通し。
ウクライナ、自国の穀物をロシアが輸出するのを阻止する構え
ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアが違法に輸出したウクライナの穀物を「文明国」が受け取ることがないよう、国連とトルコと共に取り組んでいると明らかにした。スウェーデンのアンデション首相とのキーウでの会談で語った。
●ウクライナ情勢、不公正慣行に懸念 米中協議 7/5
米財務省によると、イエレン米財務長官は5日に中国の劉鶴(りゅうかく)副首相と行ったオンライン会談で、ロシアのウクライナ侵攻による世界経済への影響や、中国の「不公正、非経済慣行」について取り上げた。エネルギーや食糧などの価格高騰についても「率直かつ実質的な討議」を行ったとしている。
中国側が求めたとする対中制裁関税の扱いについては、米国側の発表では触れられていない。
●プーチン氏、ロシア軍を称賛 ルハンスク州制圧で 7/5
ロシアのプーチン大統領は4日、同国軍がウクライナ東部ルハンスク州で「勝利を収めた」ことを祝福した。
ロシア国営メディアがテレビ放送した会合の中で、ショイグ国防相はプーチン氏に対し、ロシア軍のルハンスク州での前進について報告した。
それによると先月19日以降、ロシア軍の部隊は独立を宣言した「ルガンスク人民共和国(LPR)」の民兵組織の部隊などと連携し、首尾よく攻撃作戦を遂行。LPRの領土を解放したという。
ショイグ氏はさらに、州の主要都市リシチャンスクとセベロドネツクを2週間以内に包囲したと説明。伝えられるところによるとウクライナ軍は戦闘で5469人の兵士を失ったと付け加えた。
プーチン氏はショイグ氏に対し、LPRでの戦闘に貢献した軍要員はその「勇敢さ」が報われることになるだろうと述べ、今は「休養」をとるべきだと語った。
「東部や西部の部隊など他の部隊も、事前に示された計画に従い、それぞれの任務を果たさなくてはならない。すべてが首尾よく遂行されるのを期待する。当該の地域(ルハンスク州)でそうなったように」(プーチン氏)
プーチン氏はまた、LPRの民兵組織も「英雄的行動」を示したと称賛。祝福と感謝の言葉を贈った。
●ジリ貧プーチン。西側とロシアの間に下ろされた新たなる“鉄のカーテン” 7/5
開戦から130日を超えたウクライナ紛争。先日行われたG7サミットやNATO首脳会合などでも改めてウクライナへの支援が確認されましたが、ロシアの一歩も引かない構えに変化は見られません。戦争当時国の国民のみならず全人類に好まざる影響を与えるプーチン大統領の蛮行は、この先いつまで続くのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、当紛争をウクライナ東部での戦況を中心に詳説するとともに、ロシアの敗退時期を予測。さらにプーチン大統領の意図をくじくため、各国がなすべき事柄について考察しています。
ロシア経済の危機
ドイツへのガス供給削減、サハリン2の接収などと天然ガスと石油依存経済がおかしくなっている。勿論、ガス供給削減される欧州や日本も大きな影響を受けるが、原発再稼働などの対応策はあり、乗り越えることができるが、ロシアはそれができずに収入が減る事態になっている。この今後を検討する。
ウクライナ東部での戦争は、ロシア軍は攻撃を緩めないが、ウ軍もハイマースとUAVでイジューム方面の弾薬庫や司令部などを次々と破壊している。
ウ軍はリシチャンスクで防衛しいるが、リシチャンスクへの補給路T1302高速道路の防衛ができず、ロ軍に切断された。リシチャンスクの包囲も完成したようであり、ウ軍はリシチャンスクから撤退して、スラビアンスクの防御を固くした方が良いと思うが、まだ、リシチャンスクからの撤退はしていない。補給もできなくなる。
ロ軍は、シベリアから戦車BTGを大量に東部に送り込み、合わせて退役軍人を再徴収して下士官不足を埋め、戦線を維持・攻撃をしている。ウ軍も東部に人員を集めて、ロ軍の全縦深攻撃対応で、ここの防衛を厚くしたことで、他の地域の反撃ができなくなっている。
しかし、ロ軍の全縦深攻撃を止めることができていない。ロ軍が徐々に占領地を拡大している。ウ軍の将兵の損耗も大きくなっているようだ。
ウ軍にハイマースやNATO軍型兵器が実戦に出てきているが、まだ火力量からは負けている。ロ軍の方が押している状態に変わりがない。平原地帯ではロ軍の圧倒的な火砲・戦車群を用いる全縦深攻撃を止めることが難しいのかもしれない。ハイマースやM777榴弾砲の砲撃でロ軍の消耗も大きい。
そして、ロ軍の電子戦兵器クラハ8に対しては、やっとスイッチ・ブレードでの破壊を始めた。スイッチ・ブレードは通信しないで自立して、目標物を破壊できるので、これを利用するしかない。
クラハ8による電波妨害でウ軍のUAVが使えないので、電波を使わないスイッチ・ブレードが最適である。そして、クラハ8は装甲が薄いので、スイッチ・ブレードで容易に破壊できるし、アンテナが特徴的であり、目印もある。
そして、リシチャンスクを包囲するために、ロ軍が集中する場所はスラビアンスクの北の地域とポパスナから南の地域であり、ここの防衛を厚くして、ハイマースで砲撃して戦車BTGを潰し、突破されても次の陣地を構築して、そこで第2・3軍を抑えるしかない。しかし、すでに突破されているので、ウ軍は後退してスラビアンスクで迎え撃つしかないようにも思う。
このように、東部地域ではロ軍優勢の状態が続いている。ロ軍の全縦深攻撃を止める戦術をウ軍は早く確立しないと、東部地域全体を失うことになる。
最近のウ軍勝利は、オデーサ沖の60キロのスネーク島にウ軍国産155mm自走榴弾砲ボーダナで大量の砲撃をして、とうとうウ軍が奪還した。ロ軍はオデーサへの上陸作戦を放棄したようである。しかし、ロ軍のキロ級潜水艦が付近にいるために、オデーサから穀物の輸出ができるとは思えない。
しかし、対艦ミサイル「ハープーン」は射程距離220キロであり、クリミア半島の黒海艦隊基地のセヴァストポリを射程内に収めたことになり、次にはスネーク島にハープーンを設置して、セヴァストポリ攻撃になるはずである。ウ海軍は、大きな成果を収めている。米国から巡視艇クラスを供与されるようであるが、大型の艦船はトルコがボスボラス海峡の通行禁止のために運べない。
また、ロ軍は、地対地の誘導ミサイルもなくなり、50年前の対艦ミサイルを地上攻撃に使用しているので、目標から400m以上も離れた商業施設を破壊した。
最近、ロ軍が民間施設ばかり攻撃しているのは意図的なものではなく、単に古いソ連製ミサイルを使っているので、精密攻撃ができないだけだとウ軍の将軍は分析している。
この攻撃は、G7サミットで西側がロシアへの対抗の意志を示したことで、久しぶりにキーウへのミサイル攻撃もしたが、ウ軍も、このミサイルを撃ち落せていない。
この防御のために、ドイツ製防空システム「IRIS-T SLM」を供与するが、この最新鋭の防空システムでも、短距離弾道ミサイルしか撃ち落せない。そして、有効射程も短距離級と中距離級の中間くらいまでである。供与予定のアメリカ/ノルウェー製防空システム「NASAMS」も短距離級のものである。
ウ軍が欲しいのは、アメリカ製パトリオットPAC-3であるが、機密性が高く供与はしないはず。
ウクライナ戦争とは、ウ軍の少し前の近代兵器対ロ軍の旧ソ連時代の兵器の戦いでもあるが、旧ソ連の物量対知能的な少数の近代兵器の戦いとも言える。
また、ウ軍の戦車の消耗も激しいが、旧ソ連戦車が東欧諸国でもなくなり、ウクライナに供与できないので、旧式のNATO型戦車も供与するとNATO首脳会合で米バイデン大統領は表明した。その表明した供与する兵器とは、
   •14万発の対戦車ミサイル(疑問符:数が多すぎ)
   •600台以上の戦車
   •ほぼ500台の野戦砲
   •60万発の砲弾
   •高度な多連装ロケット
   •地対艦ミサイル
   •地対空ミサイル「NASAMS」
であり、8億ドルの大規模な武器の供与となる。その上、「われわれはウクライナをいつまでも支援していく」と語った。これでウ軍の反撃を支えることになる。これに対して、ロシア軍は、シベリアの部隊の多くを動員したことで、追加の援軍がないことになる。
しかし、供与リストの中にMQ-1ドローンや欧米戦闘機がないのは残念であるが、機密性が高く供与はしないのであろう。
TB2があるのでMQ-1がなくても、徐々に形勢はウ軍有利になる。英国のウ軍兵士訓練が順調に行けば、今年の秋から冬にはロ軍は敗退する可能性が高い。
もう1つ、中欧・東欧の諸国は、ウクライナに積極的に旧ソ連製兵器を供与したことで、近代的な欧米製兵器になり、NATO軍の装備が標準化したことで、今後の部隊運用が楽になっている。ウ軍もソ連製兵器の消耗が激しく、次からの供与される兵器は徐々に欧米兵器になるので、NATO軍との連携性が高くなる。しかし、訓練時間は長くなるので、実戦配備に時間かかることになる。
6月30日閉幕したNATO会議では、今後の防衛・安全保障で新たに中国への懸念も示した「戦略概念」を採択し、ウクライナ侵攻を続けるロシアを「直接の脅威」と位置づけ、フィンランド・スウェーデンのNATO加盟にも合意した。
2023年以降、危機時に対応する即応部隊を30万人以上に増強するし、バイデン大統領は、ロシアの脅威に対抗するため、ポーランドに常設の陸軍司令部を新設し、陸海空の部隊を欧州全域に追加配備するとした。
このようなNATO会議を受けて、ロシアのラブロフ外相は、ロシアと西側諸国の間に新たな「鉄のカーテン」が下りてきているとした。
NATO会議の前に開かれたG7では、中国の「不透明で市場をゆがめる」貿易慣行を非難するとともに、同国への「戦略的依存」を減らしていくと声明を出した。中ロへの経済的な依存を減らして、同盟国内部で補完するということである。
中ロとの新たな「鉄のカーテン」が下りてきているのであろう。
敵対国ロシアに対して、リトアニアからは、カリーニングラードへの鉄道貨車便の通過を禁止され、ノルウェーからは、スバルバル諸島のロシア人居住地域への物資輸送を止められた。
ロシア国債のデフォルトも起き、新しい外貨建て国債の発行ができなくなった。SWFITから追い出されたロシアは、インドに輸出する石油代金受取りには人民元を利用するようである。
ロシアの同盟国である中国からも、ロシア向け輸出が60%も減っているという。米国もロシアに軍事転用される中国製民生品への制裁を強化して、その企業への半導体輸出を禁止するという。このため、中国企業もロシアへ輸出できなくなっている。このため、輸入より輸出が多くなり、大幅な黒字でルーブルの価値が上がっている。
前回でも述べたように、ロシアは石油施設や天然ガス施設の維持メンテもできずに、その生産量を減らしている。このため、欧州や日本への供給を減らすしかない。同盟国中国とインドへの石油・天然ガスの供給は止められないが、その代金は欧州や日本への販売価格の半分であり利益が減り、ガスプロムも今年の配当はできないと表明した。
もう1つが、ロシア最大(世界第二)の「ウレンゴイ・ガス田」の「パイプライン火災」は続いているようで、火災の規模が拡大中である。真の原因は「地下の埋蔵ガス田」に火が移り、鎮火には数年かかる可能性があるようだ。それも欧米技術が必要であり、このため、このガス田のガスが採取できずに、ドイツへのガスを60%削減したようだ。
このため、他での増収が必要になり、サハリン2は日本企業への支払いがあり、この支払を止めてガスプロムの収入を増やして、国家財政への目減りを少なくする必要があった上に、日本の岸田首相が、G7でロシアを非難したことで、プーチンは接収を強行した。
日本の設備を奪うことになり、日本は二度とロシアでの投資をしてはいけない。欧米日など先進国はロシアとは経済的絶縁状態になる。
このため、ロシアの国家財政と経済の危機になることが見えてくる。今はソ連時代の兵器などの備蓄があり、それを倉庫から出して使用できるが、徐々に損耗がすると、それもできなくなる。ジリ貧な状態になっていく。
しかし、プーチン大統領も東部攻撃の成功で、再度、ウクライナ全土の支配を狙っていると、米軍情報機関は述べている。このプーチンの意図をくじく必要があるので、欧米諸国も大量の武器援助をウクライナに続ける必要になっている。
ウクライナもEUからの軍事支援がないと戦争を継続できないので、ウクライナで稼働している原発での電気をEU諸国に供給して、ロシアからEUへの天然ガス供給削減の影響を小さくするようだ。
日本も原発を再稼働させて、電力不足を解消して、ウクライナ戦争の影響を少なくする必要がある。
さあ、どうなりますか?
●68兆円没収、プーチン大統領ら資産を復興資金に ウクライナ首相が要請 7/5
ロシアのウクライナ侵攻を受けて西側諸国が凍結したプーチン大統領らの資産「3000億〜5000億ドル(約41兆〜68兆円)」について、ウクライナ側は没収したうえで甚大な被害を受けた自国の復興に充てるよう求めた。実現すれば、プーチン氏らは侵攻のツケを払わされることになる。
ウクライナのシュミハリ首相は4日、同国が受けた被害の復興計画に必要な資金が「既に7500億ドル(約102兆円)に上ると見積もられている」と指摘、復興の資金源として各国が凍結したロシア政府や同国の新興財閥オリガルヒの資産を没収し、充当するよう訴えた。シュミハリ氏は「この血なまぐさい戦争を始めたのはロシアで、甚大な被害の責任は彼らに負わせるべきだ」と強調した。
米国や欧州連合(EU)、日本などはロシアへの制裁として、プーチン大統領やラブロフ外相ら政府関係者や議員、新興財閥「オリガルヒ」の資産を次々と凍結した。推計により幅はあるが、金などの海外資産を中心に「3000億〜5000億ドル」とみられる。
EUのフォンデアライエン欧州委員長は5月下旬、EUが凍結した資産をウクライナ復興のための資金源に充てることを提案している。
一方、ロシア企業の株式や債券への投資をめぐっては、日本の公的年金の積立金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が3月末時点の評価額を基本的にゼロにした。
投資比率は小さく年金財政に大きな影響はないという。市場機能が回復すれば評価額を見直すが、現状では紙くず∴オいとなっている。
●プーチンと「一蓮托生」は御免だ。露に“優しくない”習近平の本音 7/5
ウクライナ東部のルハンシク州を制圧し、隣接するドネツク州の掌握を目論むロシア軍に対し、警戒度のレベルをさらに引き上げたNATO。識者はここにまで至ってしまった世界情勢を、どのように見ているのでしょうか。今回のメルマガ『uttiiジャーナル』では著者でジャーナリストの内田誠さんが、NATOは既に対ロシア戦時体制に入っているのではないかとして、そう判断せざるを得ない理由を解説。さらにそのような状況下において、日本の防衛力の強化を訴える声については「賛成」としつつも、「5年間で防衛費を2倍にする」という自民党提言の乱暴さや、核兵器を巡る日本政府の姿勢に対して疑問を呈しています。
例えばテレビ朝日のモーニングショーみたいなね、ワイドショーの発展系と言うべきか、そのような番組、玉川徹氏が頑張っておられますけれど、ウクライナに関する情報が非常に少なくなってきていますね。先週、確か「ウクライナ疲れ」なんてことを言う人が出てきていると申しましたが。そんなことを言っているのはもしかしたらロシアのスパイではないかという人までいたりしますが、つまり「疲れ」だけでなく「飽き」が来ているというようなね。情報に対する飽きが来ているという側面があるのだろうと思います。もう、ウクライナの話は分かったよ、と考えてしまう人たちが一定数おられて、そのような人たちの視聴率も是非ほしいというふうに考えるテレビ局あるいはそのような番組は、ウクライナのニュースはやったとしても番組の終わりの方でちょろっと触れるくらいでいいよ、くらいに考えておられるのではないかと思います。
私は、そんなことはないと思っています。相変わらず、そうですね、…2008年のクリミアの話から見た方が良いのかもしれませんが、ここ10年20年のなかでこんなに大きなニュースはないんじゃないかというくらいのことだと思うんですね。あるいはもっと長いスパンで見て、歴史的な大変化が起ころうとしている、そういう時期ではないかと。とくにこの1週間、そのような思いを強くしました。
なぜかと言いますと、実はもう色んなものが動き始めている感じがする。国際会議がいくつかあり、NATOの会合、G7があり、あるいはロシア側が仕掛けたBRICSの会合があったりしていると。様々首脳級の政治家がウクライナの問題を巡って動いている。イギリスのジョンソン首相などは、またキーウを訪問したようです。相変わらずミサイルを撃ち込まれたりしている場所でもあるわけで、まあ、もう、イギリスは特に熱心ですけれど、戦争の最中にある、くらいの認識を持っているのかもしれないですね。そんなふうに推測が出来るくらい、よく動いておられます。
これはちょっと前ですけれど、NATOのこの前の会合に関して言えば、12年ぶりでしたかね、NATOの重要な概念というか「戦略概念」といわれるものですね。これ、NATOの行動指針に関わる戦略概念で、これを12年ぶりに改訂し、ロシアについて「安全保障に関する最大で直接的な脅威」だというふうに位置づけた。なんの不思議もない、その通りだと思いますが。それから、中国に初めて言及したことが大きく報じられていますね。アメリカおよび日本の関心からすれば、中国の問題は大きいですし、これから先、世界経済のかなりの部分を占めていくことになるアジア、そこで権益を巡っての争いの中に首を突っ込んでおきたいと考えるヨーロッパのG7の国もたくさんある。ドイツが軍艦を派遣したりしているわけですよね。そういう形で動いていることがある。NATOは対ロシア戦時体制に入っているのではないかというくらいの状況で。
このことの是非については色々な議論があると思いますけれど、トルコが反対していたフィンランドとスウェーデンのNATO加盟に関して、エルドアン大統領が妥協したということがあって、NATOとの間で妥協して、クルド労働者等の扱いについてエルドアンさんは、これでよいということになった。これでフィンランドとスウェーデンはNATO加盟の方向に大きく踏み出した。もうフィンランドは1,300キロにわたる対ロ国境にフェンスを作ろうとしている。国境にフェンスというと、すぐにトランプさんのことを思い出しますけれど(笑)、もっと切実な。トランプさんはメキシコ軍が責めてくると言ったわけではないですが、ヨーロッパの現状はそっちなわけですね。国境のどこを破ってくるか分かりませんが、そのような心配を抱きつつ、NATOに加盟していくことになったわけですね。
しかもこれ、6月の初旬というか、9日10日でしたかね、ポーランドのバルト海沿岸部でドローンとミサイル防衛、戦闘機も出てきた大きな演習が行われています。これ、加盟国やパートナー国17カ国が参加して、主な国はポーランドとチェコ、スロバキア…それからイギリス、なんですね。航空機と、航空、防空、地対空ミサイルの訓練をやっている。で、これ、色んな国の軍隊が一緒に動くための訓練なんですね、どうやら。そういう体制に入っています。これ、訓練そのものは毎回やられていることなんでしょうが、今年は意味が少し違いますよね。超具体的な意味合いが出てきている。NATOの形でアメリカも入る、そこに日本も招待される。ヨーロッパの国の中ではフィンランド、スウェーデンもNATOに加盟していく。NATOが大きな塊であって、それ以外、ロシアあるいは中国を中心とした塊。この2極構造みたいな方向に急速に世界が2分されていく感じがありますよね。
でも、中国の本音って多分ちょっと違っていて、ロシアと一蓮托生は、本当はかなわないなと思っているのではないかと思いますが、とはいえ、アメリカと一緒にやることはできない中国からすれば、ロシアに対する批判は控え、しかし、現実にはロシアが要求したものを売らなかったり、とかですね。
結構、ロシアに優しくないですよね。オリンピックの時に香港の問題や台湾の問題を指摘されて、中国、特に香港ですね、そしてウイグルの問題、とにかく反民主主義的と攻撃され、アメリカを含む多くの国が「外交的ボイコット」という挙に出た、あの北京オリンピック。そこにやってきたのがプーチンさんでしたから、いわばその恩を返す範囲でロシアに協力的な姿勢を見せるということはあったのかもしれませんね。でも、それ以上、NATOが急速に結束を固めて、いつでも戦争が始められそうなところに突き進んでいるのと同様の意味で、中ロが接近しているかというと、そんなことは多分ないのではないかという感じがしています。どうなんでしょう。そのあたりの現状認識というのは、日本が外交的にこの問題で口を挟んでいく上で、すごく重要な要素になるのではないかと思うんですけれどもね。まあ、資源になると言ったらいいか…。
なぜか分からないけれども、カネの問題を先に言うわけですよね。NATOがそのように各国に要求して、要求しているから各国がその通りにしているかというとそうでもなくて、ドイツは1.5%だった、それを今議会の方に2%にしようという提案をシュルツさんがしているようですけれど、必ずしもすべての国がクリアしているわけではないNATOからの要望である軍事費のGDP比2%。これを真似てというか、NATOがそう言っているのだから日本もそうしましょうよと言う論理はそのままでは真面目に受け取れない話ですよね。冗談でしょと。そういうふうに決まっていくものですかと。そうではなくて、何が必要で、何が必要でないか、日本の防衛ということについてどう考えるべきかということから説き起こしていくべきで、その結果として2%を超えたとしても、本当に必要なことならばしょうがないという話になるかもしれない。そういうことだと思うんですね。
それについては数々、とにかくアメリカの要求に従っていわゆる正面装備を買いそろえたはいいけれども、それを全部ちゃんと運用できるように必要なお金は計算されていますか、ということになる。だからその辺はしっかり考えていただきたいと思うのですが。この間、日本のこれからということについても含め、考えるべきチャンスが来てしまった。
これこんなに、核が使われたら大変だねということを具体的に考えなければならない時代が来るとはね。対立している国が核で武装しているということは現実にあるわけで、核戦争は抽象的な可能性としては常にあったわけですけれど、ロシア軍が今以上にボロカスに負けて、プーチンさんのポジションが怪しくなったときに何をするか分からない。核のボタンを押してしまうかもしれない。それは、生き延びようと思ったら戦略核のボタンは押さない訳なので、戦術核なのでしょうが。それにしても核を使う可能性がこんなに具体的に迫ってきた時代はかつてなかった。キューバ危機以来と言うべきか。そこで色々な議論が沸き起こってくるわけですが、日本の基本方針はもちろん「非核三原則」があり憲法9条があるなか、どうするのかということなんですけれど。
安倍さんが変なこと言ったり、何でしたっけ。各共有論みたいなね。しかし、それはそういうシステムで日本も事実上の核武装が出来るのだという姑息な話に見えますけれど、それ自体はそうなんだと思いますけれど、ただ、我々が日米安保条約を結んでいる相手のアメリカ軍は、核で武装した軍隊だと。核兵器による破壊力を前提にした軍事組織を持っているということ。これは間違いのないことなので、そのことをじっくり考えるべきですよね。で、だからこそ、核禁条約にオブザーバー参加さえしないというのは、核に関して無関心すぎる。核に関心があるのなら、それはオブザーバーでも参加しなければおかしいですよ。最低でも。そこにも典型的な対米従属の姿勢が現れているわけですよね。
例えば自衛隊の関係者だとか色々な人が、自民党の国防族とか、そういう人たちがGDPの話を含めて議論している、発言しているのは間違いないですが、その議論の中に絶対に出てこないのは、日米の軍事一体化の問題。これをどうするつもりなの。ずーっとべったり行くつもり、という角度で言う人はさすがにいないのですよね。中国と日本の軍事力を比較するときに、すごく単純な計算で、中国は飛行機を何機、船を何隻持っている、潜水艦を何隻持っている。これに対して日本は艦船は何隻、航空機は何機、えーと、ここには在日米軍の分を足しておきましょうと。そうするとこんな感じですよねという「議論」になっている。
でも、在日米軍と自衛隊の立場って同じではないですよね。だからそのへんを真面目に議論するのかそこからはじめなければならないので現状の装備が日米同盟と言われるものの中でどのように機能しているのかということ。もっと言えば、日本はヘリ空母を既に2艘から3艘ですかね、持っていますけれど。それが北朝鮮の方向に向かう米軍の艦船の護衛をやるとかね。共同行動を盛んにやっている。そうしたことについての評価もキチンとしないと、単純に。あらゆる複雑なものをかなぐり捨てて防衛費を1%から2%にしましょうという、そんな話はない、ということではないでしょうか。
参議院選挙の争点になっているのかどうか分かりませんが、選挙は皆さん行きましょうね。私は必ず行きますけれど。今回は難しいですね。自民党と公明党と国民民主党、日本維新の会、このあたりはきっちり、露骨に連携しているわけではないのでしょうが、日本の将来を考えたときに、その人たちの力が大きくなれば、ある一定の方向に走り出してしまうのではないかという危惧も抱いておりますが、皆さんはいかがでしょうか。
●またも裏切られたプーチン。今度はどの国が彼の手を離したのか 7/5
トルコ、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を支持へ
プーチンは、ウクライナ侵攻の理由の一つに、「ウクライナのNATO加盟を阻止すること」をあげています。その目的は、達成されるかもしれません。
ところが、「副作用」が出てきました。これまでNATO非加盟で、中立を維持してきた北欧のフィンランドとスウェーデンが、一転NATO加盟を目指すようになった。両国は5月18日、そろってNATO加盟申請を行いました。
「ウクライナのNATO加盟を阻止しようとしたら、フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟したくなった」
プーチンは、驚愕したことでしょう。しかし、希望もありました。独裁者同士仲良しのトルコのエルドアン大統領が、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に反対してくれている。
トルコはNATO加盟国ですが、エルドアンは独裁者なので、欧米と複雑な関係にあります。実際、エルドアンは、欧米より、プーチンといい関係にありました。東京新聞3月28日。
「(トルコは)NATOの反対を押し切って2020年10月、ロシア製地対空ミサイルS400を導入。当時のトランプ大統領を激怒させたこともあります。また、両国は経済的には関係を深めています。トルコは天然ガス輸入の4割以上をロシアに依存しています。2020年にはロシアから黒海を経由してトルコに天然ガスを送る全長930キロ超のパイプラインが完成しています。」
そして、加盟国の一国でも反対すれば、フィンランドもスウェーデンもNATOに入れないのです。
ところで、どうしてトルコは、フィンランド、スウェーデンの加盟に反対なのでしょうか?両国が、トルコからの独立を目指すクルド人の活動家をかくまっているからです(クルド人活動家は、エルドアンから見ると、「テロリスト」「分離主義者」になります)。
しかし、私は6月25日号で、こんなことを書きました。
「中立国だったフィンランドとスウェーデンがNATOに加盟申請しました。現状トルコが反対していますが、いつまでも反対しつづけることはできないでしょう。」
そして、実際エルドアンは、一転両国のNATO加盟支持に回ったのです。読売新聞オンライン6月29日。
「北大西洋条約機構(NATO)へのスウェーデンとフィンランドの新規加盟を巡り、加盟に反対していたトルコが28日、テロ組織の活動抑止などの要求が受け入れられたとして加盟支持に転じ、北欧2国のNATO入りが固まった。」
これで、フィンランド、スウェーデンのNATO加盟が確実になりました。プーチンは、地団駄を踏んで悔しがったことでしょう。
エルドアンの行動基準
エルドアンがプーチンを裏切るのは今回がはじめてではありません。
ウクライナ軍が善戦していますね。その大きな理由は、トルコがウクライナに、軍事用ドローン「バイラクタルTB2」を輸出しているからです。
ロシア軍が首都キーウに迫った時、ウクライナ軍はバイラクタルを使い、ロシアの戦車部隊を破壊しつくしました。それで、バイラクタルは、歌にもなっています。
最近では、こんなニュースも。産経新聞7月4日。
「ウクライナの駐トルコ大使は3日、ウクライナで盗まれた穀物を積んだロシアの貨物船がトルコの関税当局に「拘束された」と述べた。大使は穀物を押収したいとの意向を示し、4日にトルコの捜査当局と協議する予定だとしている。」
エルドアンの行動は、とても興味深いです。
プーチンと仲良し。アメリカの反対を押し切ってロシア製地対空ミサイルS400を導入。ロシアとトルコをつなぐガスパイプラインを建設した。
その一方で、ウクライナに軍事ドローン「バイラクタル」を与え、ロシア軍に大きな打撃を与えている。
フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に反対してプーチンを喜ばせた。しかし、支持に転向して、プーチンを悲しませた。これは、何なのでしょうか?
要するに、エルドアンは、「自国の利益のみ」を貪欲に追求している。プーチンとか、トランプさんと同じ系列の指導者ということなのでしょう。
自国ファースト。実をいうと、中国やインドも同じです。確かに二大国とも、ロシアと通常の貿易関係をつづけています。そして中国、インドは、ロシアからの石油、ガスの輸入を激増させている(30%割引価格で輸入しています)。
しかし、両国とも「セカンダリー・サンクション」をおそれて、制裁品の取引は行っていないようです。結果、4月末時点で、中国の対ロシア輸出は38%減少しました。ダイヤモンドオンライン6月30日。
「ロシアの友好国であり、ウクライナ戦争前の2021年にはロシアの総輸入の4分の1を供給していた中国の対ロ輸出も激減している。「米国の輸出管理・制裁法では、中国企業がロシア向け機密品の販売禁止に違反すると、重要な技術、商品、通貨(主要な基軸通貨発行国は全て制裁に参加している)を入手できなくなる可能性があるとされている。中国の行動はこのリスクを反映している。侵攻後の対ロ輸出は、2021年後半と比較して38%減少し、非制裁国の平均と同水準となっている」(同レポート)」
というわけで、「中国、インドがいるから、ロシアは大丈夫」というのは怪しいですね。
3月2日に行われた国連総会のロシア非難決議。賛成は141か国でした。棄権と意思を示さずが47か国だった。この中に中国、インドも入っています。この47か国は、「中立」といえます。
しかし、どういうわけか、とてもたくさんの人が、「棄権」「意思を示さず」の国々を、「ロシアの味方」にカウントしています。これは、おかしいでしょう。
もちろん、中国は、心情的にはロシアの味方に違いありません。だからといって、「制裁破りをしてロシアを助け、セカンダリーサンクションをくらう」ほどの決意はないのです。これは、その他の国々も同じことです。
ちなみに、「ロシア非難決議」に反対した国々がロシア以外に4か国ありました。北朝鮮、シリア、ベラルーシ、エリトリア。これが「ロシアの味方のメンツ」です。とても「強力な布陣だ」とはいえません。
ロシア、ウクライナ東部ルガンスクの戦闘では、なかなか健闘しているようです。実際、ルガンスク州のほぼ全域を支配下におくことに成功しました(一方で、南部ヘルソン州では、ウクライナ軍が押しています)。
しかし、ウクライナ侵攻前から書いているように、【大戦略的敗北】は必至です。ウクライナとの戦闘に勝っても、「地獄の制裁」はつづいていく。ロシアの国際的信用は失墜し、味方はシリア、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリアだけ。
「ルガンスク州を制圧した」4か月以上かけてあげた【戦術的戦果】。ですが、【大戦略的失敗】を取り戻すことは不可能です。
●「ロシアへの制裁は有効か、答えはイエスだ」…ジョセップ・ボレルEU外相 7/5
米欧日などが露軍のウクライナ侵略開始以来、対露経済制裁を続けている。プーチン露大統領の暴挙を止めるために制裁の実効性は上がっているのか。欧州連合(EU)のジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表(外相)が読売新聞オンラインに寄稿した。
ロシアに対する制裁は有効か。答えはイエスだ。制裁は既にウラジーミル・プーチンとその共犯者たちに打撃を与えており、ロシア経済への影響は時間の経過とともに大きくなっていく。
ロシアがウクライナに侵攻し、国際法を故意に破って以来、EUは6つの対露制裁パッケージを採択してきた。我々の措置は現在、ロシアの約1200人と98団体のほか、多くの経済部門を対象としている。こうした制裁は先進7か国(G7)と協調しながら採択された。その効果は、(伝統的に中立的な国々を含む)40を超える国々がこうした制裁あるいは同様の措置を採用したことによって、さらに高まっている。
EUは2022年末までにロシアからの石油輸入を90%削減し、ガス輸入も急速に減らしている。こうした決定は、ウラジーミル・プーチンの攻撃性を前に政治的選択を長期にわたって妨げてきた依存状態から我々を徐々に解放しつつある。
欧州はエネルギーを依存しているから制裁に踏み切る勇気はないと、彼はおそらく考えていたのだろう。この誤算は、ロシアのこの政権が現下の紛争で犯した多くの誤算の中で最も取るに足らないもの、というわけでもない。
もちろん、我々からロシア産エネルギーを急激に絶てば、多くのEU加盟国や経済のいくつかの部門に深刻な困難をもたらすことにもなる。しかし、これは、民主主義諸国と国際法を守るために支払わなければならない代償であり、我々は完全な連帯の下に、こうした問題への対処に必要な措置を取っているのである。
こうした制裁措置は本当にロシア経済に影響を与えるのか、という疑問もあるだろう。単純な答えはイエスだ。ロシアは多くの原材料を輸出しているが、自国で生産しない高付加価値製品を多く輸入せざるを得ない。先端技術に限って言えば、ロシアは欧州に45%、米国に21%依存している。中国に対しては11%にすぎない。
ウクライナで起きている戦争との絡みで決定的な意味を持つ軍事分野について言えば、制裁によって「イスカンデル」や「KH101」などの精密ミサイルの生産能力が制限されている。また、外国の自動車メーカーのほとんどがロシアからの撤退を決め、ロシアの自動車会社が生産する数少ない車種はエアバッグや自動変速機を搭載せずに販売されることになる。
石油産業は外国企業の撤退だけでなく、水平掘削など先端技術の利用も難しい状況だ。ロシアの産業界が油田を新たに稼働させる能力は限られているとみられる。
最後に、ロシアは、保有する航空機の大半を退かせて必要な予備部品を確保することによって、残りの航空機を飛行させ、航空交通を維持しなければならない状況に陥る。金融市場も利用できなくなり、世界の主要な研究ネットワークから遮断され、大規模な頭脳流出が発生している。
ロシア経済に対して中国が提供している代替案は、現実にはまだ限定的であり、特にハイテク製品についてはそうだ。先進国への輸出に大きく依存する中国は、これまでのところ、欧米による制裁回避のための支援をロシアに提供していない。中国の対露輸出は欧米諸国と同程度に減っている。
こうした重大かつ拡大しつつある影響によって、ウラジーミル・プーチンは自身の戦略的な計算を修正するだろうか。そのようなことはおそらく当面ないだろう。ウラジーミル・プーチンの行動は経済的な論理を中心に導かれているわけではない。だが「バターか銃か」の選択を迫ることで、制裁は、徐々に締まっていく万力のように、彼を締め付けていく。
制裁が第三国、特にロシア、ウクライナ産の小麦や肥料に依存するアフリカ諸国に与える影響をめぐり、食糧危機の責任がどこにあるかは明確だ。EUの制裁はロシア産の小麦や肥料の輸出を一切標的にしていないが、ウクライナは黒海の封鎖やロシアの侵略による破壊によって、小麦の輸出を阻まれている。
我々の制裁に関連し、そのような問題が仮に起きた場合、適切な措置を取って対処する用意がある。私はこのことをアフリカ諸国の相手方に伝え、我々の制裁措置をめぐるロシア当局の不実な情報に惑わされないよう呼びかけてきた。
世界のエネルギー・食料市場における諸問題に対する真の答えとは、戦争を終わらせることである。これは、ロシアの独善的な命令を受け入れることによっては達成できず、ロシアのウクライナからの撤退によってのみ実現されるのである。
諸国家の領土一体性の尊重と武力の不行使という原則は、欧米特有のものというわけではない。これらの諸原則は全ての国際法の基礎をなすものである。ロシアはそれを平然と踏みにじっている。このような侵害行為を受け入れれば、弱肉強食のおきてが地球規模で根付くことにつながってしまう。
我々がほんの数年前まで無邪気に考えていたのとは対照的に、経済的な相互依存というものは、国際関係が平和になっていくことを自動的に意味するわけではない。私が就任当初から訴え続けてきたように、欧州は、影響力を有する存在へと移行することが必要不可欠なのである。
ウクライナ侵攻に直面している我々は、挑発された時には欧州として対応できるということを示しており、そのことによって、意図から行動へと移行し始めたのである。EUはロシアとの戦争を望んでおらず、侵略に対する対応は経済制裁が中核をなしている。こうした措置はすでに効果を上げ始めており、今後数か月でさらに高まるだろう。

 

●プーチン大統領側近 日本をけん制する発言相次ぐ 制裁に反発か  7/6
ロシアのプーチン大統領の側近から、日本をけん制する発言が相次ぎ、日本が欧米と歩調をあわせてロシアに制裁を科していることに反発し、揺さぶりをかける狙いがあるとみられます。
ロシアの前の大統領で、現在は安全保障会議の副議長を務めるメドベージェフ氏は5日、SNSに投稿し、岸田総理大臣が「ロシア産の石油価格の上限を現在の半分に設定しようとしている」と指摘し「そうなると市場に出回る石油が減り、価格は上がるだろう」と反発しました。
そして「日本はロシアから石油もガスも得られなくなる。サハリン2にも参加できなくなるだろう」と日本をけん制しました。
「サハリン2」は日本の大手商社も出資し、ロシア極東で進められている石油・天然ガス開発プロジェクトで、ロシアのプーチン大統領は先月30日、「サハリン2」の事業主体をロシア企業に変更するよう命じる大統領令に署名し、日本側が運営に関われなくなる可能性も指摘されています。
またプーチン大統領の最側近の1人、パトルシェフ安全保障会議書記は5日の会合で、北方領土を含む地域について「日本が報復的な志向を強めている」と一方的に主張し、日本を非難しました。
日本が欧米と歩調をあわせて制裁を科していることにロシアは反発を強めており、プーチン大統領の側近たちから強硬な発言が相次ぐ背景には、日本に揺さぶりをかける狙いがあるとみられます。
●ロシア国防相“侵攻推進”強調 ウクライナ軍は支援受け攻勢へ  7/6
ロシアのショイグ国防相は、プーチン大統領の指示に従い、ウクライナへの軍事侵攻を推し進める姿勢を強調し、今後、東部ドネツク州の完全掌握を目指すとみられます。これに対し、ウクライナ側は欧米の軍事支援を受けて攻勢に転じる構えで、戦況は東部を中心に激しい攻防が続く見通しです。
ロシア国防省は5日、ウクライナ東部のドネツク州やハルキウ州、南部のミコライウ州など各地をミサイルで攻撃し、指揮所や弾薬庫、兵器などを破壊したと発表しました。
ロシア軍はすでに東部ルハンシク州の全域を掌握したと宣言していて、今後は隣接するドネツク州の完全掌握を目指すとみられています。
ロシアのショイグ国防相は5日、軍の幹部と会議を行い「欧米側はウクライナでの紛争を長引かせようと、ウクライナ政府に大規模な兵器の供与を続けている」と批判しました。
そのうえで「特別軍事作戦は、最高司令官が定めた任務が完了するまで継続される」と述べ、プーチン大統領の指示に従い、軍事作戦を推し進めると強調しました。
一方、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は4日、「ウクライナ軍は、アメリカから提供された高機動ロケット砲システム=ハイマースなどを使用し、掌握された地域の奥深くにあるロシア軍のインフラ施設を標的にすることが増えている」と分析し、ウクライナ軍がドネツク州などで欧米から供与された兵器を効果的に活用し、ロシア軍の弾薬庫などを破壊していると指摘しました。
ウクライナ側は欧米の軍事支援を受けて攻勢に転じる構えで、ウクライナ東部を中心に激しい攻防が続く見通しです。 
●ロシア軍 ドネツク州完全掌握に向けてウクライナ側拠点に攻勢  7/6
ロシア国防省は、ウクライナ東部ドネツク州でウクライナ側の拠点への攻撃を仕掛け、完全掌握に向けて攻勢を強めています。こうした中、ロシアのラブロフ外相は、G20=主要20か国の外相会合を前にベトナムを訪問して良好な関係をアピールし、欧米に対抗していく構えです。
ロシア国防省は、ウクライナ東部ルハンシク州を掌握したと宣言し、隣接する東部ドネツク州の完全掌握に向けて戦力を集中させ、攻勢を強めています。
戦況を分析しているイギリス国防省は6日、ウクライナ側が拠点の1つとするスロビャンシクに対し、ロシア軍の部隊が北におよそ16キロの位置に迫っているとする分析を示しました。
そのうえで、「スロビャンシクでの戦いが、東部ドンバス地域での戦況を左右する次のカギとなる可能性がある」と指摘しています。
ロシア外相 G20外相会合出席へ
こうした中、ロシアのラブロフ外相はベトナムを訪問し、6日に首都ハノイでブイ・タイン・ソン外相と会談しました。
ベトナムは、ロシアとは旧ソビエト時代から兵器の売却などで結び付きが深く、ラブロフ外相は会談後の記者会見で、「ベトナムはロシアに対する制裁に加わることを拒否するなど、バランスをとった立場を示していることに感謝している」と述べ、良好な関係をアピールし、欧米に対抗していく構えです。
さらにラブロフ外相は、7日からはインドネシアで始まるG20外相会合に出席する予定です。
欧米などが軍事支援や制裁でロシアに対する圧力を強める中、G20の場を通じて中国やインドなどとも関係を深める思惑があるものとみられます。
ドネツク州 スロビャンシクで少なくとも2人死亡
ドネツク州のキリレンコ知事はSNSでロシア軍が5日、スロビャンシクの中央市場を砲撃し少なくとも2人が死亡、7人がけがをしたと発表しました。
そのうえでキリレンコ知事は、「ロシア軍は、市民が集まる場所を故意にねらっている。完全なテロだ」と非難しました。
現場の映像では、建物から炎と大量の黒い煙が立ちのぼり、駆けつけた消防士が消火にあたる様子が確認できます。
●米国務長官、中国外相と「率直な意見交換」へ 7/6
ブリンケン米国務長官は今週、インドネシア・バリ島で開催される20カ国・地域(G20)外相会合に合わせて、中国の王毅外相とロシアのウクライナ侵攻について率直に意見交換する予定だ。同長官はG20外相会合に出席するロシアのラブロフ外相との個別会談は予定していない。バイデン米大統領はウクライナ侵攻を理由にG20からのロシア除外を求めている。
米国のバーンズ駐中国大使は4日、ウクライナでの戦争を巡りロシアの「うそ」拡散を控えるよう中国外務省に求めた。米国の駐中国大使が直接的かつ公に非難を展開するのは異例。
北大西洋条約機構(NATO)はスウェーデンとフィンランドの加盟手続き開始を正式に承認した。ウクライナ侵攻を受けてロシアに対する東部方面の防衛力強化に一歩近づいた。
米国務長官、中国外相と「率直な意見交換」へ
ブリンケン米国務長官はG20外相会合出席のため、6日にバリ島に向け出発。同会合はウクライナ侵攻に伴う影響が中心議題となる見通し。同長官は中国の王毅外相とも意見交換する。クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)が5日、ワシントンで記者団に明らかにした。クリテンブリンク次官補は「米国はロシアによる野蛮なウクライナ侵攻を巡り、中国だけでなく他の責任ある国際社会のメンバーにわれわれが期待することについて、ハイレベルで連絡を取り合ってきている」と説明。「この件で率直に意見交換し、ウクライナ問題でわれわれが中国に期待する行動と期待しない行動とを伝える上で、今回は新たな機会になると思う」と付け加えた。
米国務長官、ロシア外相との会談予定せず−G20外相会合に合わせ
ブリンケン米国務長官はG20外相会合に出席するロシアのラブロフ外相との個別会談は予定していないと、国務省のプライス報道官が5日先に明らかにした。
ドネツク州知事、クラマトルスクとスラビャンスクの住民に退避勧告
ウクライナ東部ドネツク州のキリレンコ知事はロシアの攻撃が激化しているとして、同州のクラマトルスクとスラビャンスクにとどまる住民に対し退避を促した。
ロシア・ルーブルが下落、安全な米ドルに投資家が逃避
5日の外国為替市場で、ドル高進行を受けてロシア・ルーブルが4カ月ぶりの大幅安。一時11%安の1ドル=62.30ルーブルとなった。ロシアは資本規制を緩和し、企業に輸出で得た収入をルーブルに換金する義務を撤廃した。
ロシアの主要パイプライン、完全復旧は「最もあり得るシナリオではない」−ゴールドマン
ロシアが天然ガスを欧州に供給する主要パイプライン「ノルドストリーム1」が今月予定するメンテナンス後、フル稼働で復旧することはないかもしれないと、ゴールドマン・サックス・グループが指摘した。ノルドストリーム1は今月11−21日にメンテナンスのため稼働を停止する見通しで、需給ひっ迫への懸念からここ数週間はガス価格が上昇している。ロシアは既に同パイプラインの稼働率を約40%に引き下げていた。ゴールドマンのアナリストはリポートで、「ノルドストリーム1はメンテナンス後に完全に復旧すると当初は見込んでいたが、もはやこれが最もあり得るシナリオだとはみていない」との見解を示した。
●スイス大統領、凍結ロシア資産没収とウクライナ復興充当要請には冷淡 7/6
スイスのカシス大統領兼外相は記者会見で、同国ルガノで開かれた「ウクライナ復興会議」でウクライナのシュミハリ首相が各国に、凍結しているロシア新興財閥らの資産の没収とウクライナ復興への利用を求めたことについて、問題への対処にはバランスが必要だとの冷ややかな反応を示した。
復興会議はロシアの侵攻で甚大な社会・経済的被害を受けたウクライナを支援するため各国が参集。シュミハリ氏は会議終了後の記者会見で、米国や欧州連合(EU)や英国が凍結した総額3000億─5000億ドルの資産はウクライナの破壊された学校や病院や住宅の再建資金に充てることができるはずだと主張した。
これに対してカシス氏は「大部分の民主主義国家のルールに従えば、われわれは資産の出どころを明らかにするための資産凍結はできる」と発言。ただ、資産とウクライナ情勢との関係が不透明な場合や、取るべき措置のバランスの問題などをスイスとしては解決しないといけないと距離を置く姿勢をにじませた。また、国家権力から個人を守ることや、資産没収には法的根拠を立てることが重要だとも述べた。
永世中立国のスイスは今回、EUの対ロシア制裁に同調。5月には国内に凍結したロシア資産が63億フラン(65億ドル)あることを報告している。ただ、この自動的な接収には抵抗。スイスはロシアのエリート層に以前から人気の土地で、ロシア富裕層の資産の置き場所にもなってきた。
●ロシアの民間軍事会社、刑務所で「志願兵」勧誘か… 7/6
ロイター通信によると、ウクライナ東部ドネツク州の主要都市スラビャンスクの市場や住宅地が5日、ロシア軍の攻撃を受け、2人が死亡、7人が負傷した。ウクライナへの侵略を続ける露軍は、完全掌握を図る東部ドンバス地方のうちルハンスク州を制圧済みで、残るドネツク州への攻勢を強めている。
ドネツク州知事は5日、SNSへの投稿で、「人々が集まる場所をロシアがまた意図的に攻撃した。まさにテロだ」と指弾し、住民に避難を呼びかけた。ただ、「州内に、爆撃を受けない安全な場所はない」と厳しい状況も打ち明けた。ルハンスク州知事もウクライナのテレビで、「ドネツク州に大量の装備が送り込まれている」と警戒を促した。
一方、ロシアの独立系メディアは4日、露民間軍事会社「ワグネル」が、露西部サンクトペテルブルクの刑務所で、ドンバス地方に投入する「志願兵」を集めていると報じた。
受刑者の親族がこのメディアに語ったところでは、6か月間の任務から生還すれば、「20万ルーブル(約43万円)の報酬と恩赦」を約束された。死亡した場合は家族に500万ルーブル(約1080万円)が支払われるという。「(生きて)帰還する人はほとんどいないだろう」との説明もあったが、同意した一部の受刑者が派遣に向けて準備しているという。
報道が事実だとすれば、露軍が東部戦線で失った兵員を補充するため、軍事会社に頼った可能性がある。
●兵役義務、来年再導入へ ウクライナ侵攻受け―ラトビア 7/6
ラトビアのパブリクス国防相は5日、兵役義務を再導入する方針だと語った。ウクライナ侵攻を続ける隣国ロシアとの緊張が高まっていることを踏まえた措置。
パブリクス氏は記者団に「現在のラトビアの軍事制度は限界を迎えている一方、ロシアが行動を変えるとは考えられない」と述べた。兵役義務の適用対象は男性で、来年から復活する。パブリクス氏はまた、南東部に新たな軍事基地を建設する計画も明らかにした。
●対ロシア戦でウクライナが書き換える新たな『戦争の方程式』とは? 7/6
「ウクライナ軍は開戦以来、旧ソ連製兵器、T72戦車など50%を失った」
去る6月17日、ウクライナの首都・キーウを電撃訪問し、「この訓練で『戦争の方程式』を変えられる」との声明を発表した英国のジョンソン首相。ロシアとの戦いにおいてウクライナが変えてしまう可能性のある『戦争の方程式』の真意とは一体何なのか。
元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補に解説してもらった。
「まず、一番単純な戦争とは、ウクライナとロシアが自国の軍隊だけで戦い、兵力の大きな方が小さい方をすり減らしていき、片方の国が無くなるというものです。これがこれまでの『戦争の方程式』です。ただ、今回の戦争は新しい戦争形態となっているので、その方程式が変っていきます」
6月18日の報道によるとウクライナ軍は、これまでの戦闘で戦車400両、歩兵戦闘車1300台、ミサイル発射システム700基など装備の50%を失ったことを自ら明らかにしたという。
「装備を半分失ったと自ら発表してしまうのが、『戦争の方程式』の変化の第一段階です。自分たちの損害を積極的に明らかにするのは、敵に有利な情報与えてしまうことになるので通常は行いません。しかしこれは、旧ソ連製の古い兵器が50%分、新しい西側からの装備に切り替わった、との報告なのです。ウクライナ軍の失った装備に代わる装備を、NATO(北大西洋条約機構)や米国がポーランド国境経由で補給し、軍隊が回復してロシア軍と戦う。これが『戦争の方程式』が新しい形に変化する第二段階です」
6月25日の報道によると、ウクライナ軍トップは米参謀本部議長と電話会談し、「ロシア軍と同等の兵力が必要だ」と伝えたという。そんな大兵力の補充はNATO地上軍でも派遣しなければ到底無理なのではないだろうか。
「今、ロシア軍の侵攻兵力は総計10数万人と想定されます。これと同じ兵力をウクライナ軍が準備すればいいので、そんなにハードルは高くないのです。今までの戦争では兵力が足りなくなると、自国の後方で備える軍の様々な兵科の教育部隊からそこの学生、教官を引き抜いて最前線に補充してきました。これをやると、次回補充する時に新兵の教育ができなくなり、兵の質が格段に落ちます。そこで、英国がウクライナに、最大4か月かけて英国内にてウクライナ軍兵士1万人の訓練を行う、と申し出ました。ここからが『戦争の方程式』を変える第三段階です。本来、自国の国力を使って新兵の訓練をすべきところを、他国でやってもらう。英国が新兵訓練を開始すれば、他のNATO諸国も開始します。同時に、米国やNATOからの膨大な額の軍事援助によって、凄まじい量の西側戦闘装備が無料で届けられています。即ち、ウクライナは兵隊だけを出し、その訓練、持つ兵器、それに掛かる費用全て他国が援助するという形の戦争を今、やっているのです。このやり方だと、ウクライナの国力が落ちない。国力と軍事力が大きい方が勝つ、というこれまでの『戦争の方程式』が書き換えられるのです」
ロシア軍兵士は訓練が不十分で質が落ちているのを、ロシア民間軍事会社「ワグネル」の傭兵、チェチェン人部隊を頼りにしている。
「部隊の損耗率が15%になると部隊の交代や人員の補充・再編成が必要となります。逆に部隊の15%の新兵を常に補充できる教育訓練が出来ていれば、ずっと元気はつらつな部隊が最前線にずっといる状況となる訳です。しかし、兵隊はずっと最前線で戦えません。精神が壊れてくるので、ある程度戦ったら休ませないと持ちません。ここで英国での兵隊訓練が効果を発揮してきます。最前線の部隊を交代させ、一度ウクライナ国外に出して、英独仏などの後方でリフレッシュさせます。国外で休養し、再訓練して元気になり、また最前線に戻って来るサイクルが完成します。ロシア軍はずっと最前線で戦わせられるので、どんどんと心がすり減り、損耗していきます」
即ち、『戦争の方程式』はこう変わっていく。
まず、旧ソ連製装備が破壊されて、それが全て西側の最新型の戦闘装備に無料で切り替わる。さらにそれを扱う新兵訓練を、ウクライナ国外の英国やNATO諸国にて無料で行う。そして、西側の最新兵器を携え扱えるウクライナ軍新兵が最前線へと次々に投入される。最前線にいた疲れ切ったウクライナ軍兵士は国外に出て、英国やNATO諸国で休養、その地で再訓練し最前線に戻って来る。
HIMARS 地対地多連装ロケットシステム、射程80km。いまこの装備の配備が遅れ、ウクライナ軍は自国東部戦線でロシア軍の展開する重火力戦を受け敗退し続けているこれこそが英首相の「『戦争の方程式』が変えられる」発言の真意なのだ。
「今、ロシア軍はウクライナ東部に兵力を集中してくれたので、分散せずに集まっています。そこをボコボコにして、速く綺麗にしやすい戦況になっています」
『戦争の方程式』は書き換えられ、次のフェーズへと動き出し始めている。

 

●G20外相会合 米ロともに対面で出席予定 ウクライナ巡る議論は  7/7
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して以降、初めてとなるG20=主要20か国の外相会合が7日からインドネシアで開かれます。
ロシアからはラブロフ外相が対面で出席する予定で、ウクライナ情勢を巡り、G20としてどのような議論を行えるかが焦点となります。
G20の外相会合は、7日と8日の2日間にわたってインドネシアのバリ島で開かれ、ことし2月にロシアがウクライナに軍事侵攻を開始して以降初めてG20の外相が集まり意見を交わします。
ロシアからはラブロフ外相が対面で出席する予定のほか、アメリカのブリンケン国務長官も対面で出席するということです。
また、G20のメンバーではないものの、ウクライナのクレバ外相も招待されています。
会合では、ウクライナ情勢が主要な議題になる見通しで、8日、全体で集まり、世界的なエネルギー価格の高騰や懸念が高まる食料危機への対応などについて議論が行われるとみられます。
ロシアへの対応を巡っては、G20のメンバーの中で、考えや立場が大きく異なり、アメリカをはじめとする欧米各国はロシアに制裁を科して厳しく非難していますが、中国はロシアへの制裁に反対する姿勢を示しています。
今回の会合では、ロシアも参加するため、各国の主張が激しく対立することも予想され、G20としてどのような議論を行えるかが焦点となります。
ロシア外務省「世界の利益のために決定がなされるべき」
ロシア外務省は6日、G20=主要20か国の外相会合を前に声明を発表しました。
この中で、「ロシアはG20を多国間による統治のための効果的なメカニズムとみていて世界の利益のために決定がなされるべきだ」としてG20の枠組みを重視する考えを強調しています。
そのうえで、「ロシアは食料とエネルギーの安全保障の強化に貢献していて、ことしは、およそ5000万トンの穀物を輸出する予定だ。また、石油や石油製品、天然ガスを輸出する地域を拡大していく。欧米の違法で一方的な制裁によって、食料や肥料、燃料の不足が深刻化していて、その影響の矛先が、発展途上国に向かっている」として、欧米のロシアへの制裁が世界の食料やエネルギー事情を悪化させていると批判しています。
また、11月に開かれるG20サミットについて、ことしの議長国のインドネシアに対し、プーチン大統領が参加する意向をすでに伝えたと表明する一方で、参加の形式は、国際情勢や新型コロナなどの感染状況を見極め検討していくとしていて、オンラインでの参加の可能性も示唆しています。
G20 ロシアへの制裁など巡り対応大きく異なる
G20=主要20か国のメンバーの間では、ロシアへの制裁などを巡り対応が大きく異なっていて、今回の会合でどこまで実質的な議論ができるかが課題となります。
G20のうち、アメリカ、イギリス、日本などのG7=主要7か国と韓国、オーストラリア、EU=ヨーロッパ連合は、ロシアに対する制裁を続けています。
アメリカは、ロシアからの原油や天然ガスの輸入を禁止するなどの経済制裁を科していて、ウクライナへの侵攻を続けるロシアへの締めつけを強めようとしています。
さらに、先月、G7は、首脳が集まるサミットでロシアを厳しく非難し、各国が結束して対応する姿勢を確認しました。
一方、中国やインド、それに議長国のインドネシアなどは、ロシアへの制裁は行っていません。
特に中国は、ロシアへの制裁に反対する姿勢を示していて、貿易をこれまで通り続けるとしています。
中国がことし5月にロシアから輸入した原油と液化天然ガスの量は去年の同じ月と比べてそれぞれ50%あまり増えています。
ロシアへの対応が各国で大きく異なるなかで、今回の会合でどこまで実質的な議論ができるかが課題となります。
●ロシア前大統領「核大国への制裁は愚か」、米に警告 7/7
ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は6日、ウクライナ戦争を理由にロシアのような核保有大国を制裁しようとする西側諸国の試みは人類を危険にさらす恐れがあると米国に警告した。
メドベージェフ氏は、先住民の殺りくや日本への原爆投下、ベトナムやアフガニスタンなどでの多くの戦争を例示し、米国は世界中で血を流した帝国だと表現。ウクライナでのロシアの動きを調査するために裁判所や法廷を使うのは無駄で、世界的な荒廃を招く恐れがあると訴えた。
メドベージェフ氏は対話アプリ「テレグラム」で「核開発能力が最大級の国を制裁する考えは非常識だ。そして人類の存続を脅かす恐れがある」と語った。
米科学者連盟(FAS)によると、米国とロシアはともに核弾頭を約4000個保有し、両国で世界全体の約9割を占めている。
2008―12年にロシア大統領を務めたメドベージェフ氏は西側諸国との関係改善を望む改革者として振る舞っていたが、ウクライナ侵攻以降はロシア大統領府の声高な強硬派となっている。
メドベージェフ氏は「米国の歴史そのものが、先住民の征服に始まる血みどろの壊滅戦だ」とも言及した。
●ロシアの目標、あくまで「ウクライナの非ナチ化」…軍事作戦さらに長期化か  7/7
ロシアのプーチン大統領の最側近とされるニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記は5日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権の転覆を意味する「非ナチ化」など侵略開始時に掲げた目標の達成を目指す方針を強調した。タス通信が伝えた。露軍はドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の制圧を侵略の戦果とするとみられていたが、軍事作戦のさらなる長期化を示唆した可能性がある。
パトルシェフ氏は、露極東で開いた安全保障に関する会合で発言した。また、セルゲイ・ショイグ露国防相も5日、軍幹部らとの会議で同様に、この目標が達成されるまでは「特殊軍事作戦」は継続するとの立場を明言した。
米政策研究機関「戦争研究所」は5日、パトルシェフ氏の発言を受け、「プーチン政権が、ドンバス地方を超えた領土を切望している」との分析を示した。「非ナチ化」のほか、ウクライナ軍の非武装化を狙っているとされる「非軍事化」といったロシア側が改めて明示した目標は「ウクライナ軍の完全な敗北と、ゼレンスキー政権の降伏によってのみ可能となる」とも指摘されているという。
露下院は今月に入り、政府が企業に対し、露軍や治安機関への物資やサービスの提供を要求することを可能にする法案の審議を進めている。また、労働法を改正し、軍需関連産業を念頭に置いたとみられる特定企業で残業や休日出勤などを指示する権限を政府に付与する法案も審議中だ。ウクライナ侵略の長期化を見据え、武器生産も含め官民で軍を支える事実上の「総動員令」との見方も出ている。
一方で、ウクライナ軍が南部などで反攻し、攻防が長期化している中、露軍が今後も軍事作戦継続が可能であると強調することで、ウクライナ側に揺さぶりをかけている可能性もある。
5日、ウクライナ東部スラビャンスクで、砲撃により炎上した市場近くを自転車で通る男性(ロイター)5日、ウクライナ東部スラビャンスクで、砲撃により炎上した市場近くを自転車で通る男性(ロイター)
ウクライナ警察は6日、ドネツク州内で24時間の間に、露軍から主要都市スラビャンスクなど13か所に砲撃を受けたと発表した。集合住宅や学校など計44か所の民間施設が被害を受けた。スラビャンスクでは中央市場が砲撃され、2人が死亡し、7人が負傷した。
●「ロシア国防省はでたらめ」 調査報道で判明、戦果水増しか 7/7
ロシアの独立系メディア「プロエクト」は6月末、ロシア国防省が発表するウクライナ侵攻でのロシアの「戦果」が「でたらめ」だとの調査報道を公表した。同省は侵攻開始以来、報道官が戦況を毎日発表。しかし、一つの集落を4回も「制圧」したことになっていたり、撃墜したとする軍用機の数がウクライナ軍の保有総数より多かったりと、戦果を水増しした形跡が明らかだという。
ロシア国防省で発表を担当するのはイーゴリ・コナシェンコフ報道官。国営メディアを通じて国民に広く知られるロシア軍の「顔」だ。軍で広報畑を歩んだとされ、2015年のシリア軍事介入で戦況報告を担当し、国内外で有名になった。侵攻開始時の階級は少将だったが、功績を認められ、侵攻さなかの6月上旬、プーチン大統領の命令で中将に昇進した。
プロエクトの記者らは、日に複数回行うこともあるコナシェンコフ氏の6月26日までの記者発表(計196回)について、内容を詳細に分析した。それによると、ロシア側はウクライナ軍が保有するヘリコプターの88%、固定翼機の108%を「撃墜」。トルコ製の攻撃ドローン「バイラクタルTB2」に至っては、135%を撃ち落としたことになっている。
戦車を含む兵器の破壊数でも矛盾が生じている。累計は数字が増えていくはずだが、ロシア側の発表では、ウクライナ軍の兵器の損失数の累計が時々減っている。
プロエクトは、今回の調査報道で「ロシア軍が撤退したり、小さな村を大きな犠牲を払って制圧したりしている時でさえ、コナシェンコフ氏は戦果を平然と報告している」と痛烈に批判。プーチン政権の戦時プロパガンダの在り方に疑問を投げ掛けている。
●クレムリン内部を着々と固めるプーチン大統領  7/7
開始から5カ月目に入ったウクライナ侵攻。フィンランドなど北欧2カ国の北大西洋条約機構(NATO)加盟が決まり、ロシアの安保環境は一層厳しくなった。しかしこれをよそに、プーチン大統領は「次のクレムリンの主」の座を狙う政権最高幹部らに競争をさせながら、内政面での自らの求心力を高めるのに成功している。
健康不安説も流れているプーチン氏からの「後継指名」を狙ってライバルたちはプーチン流の強硬なタカ派発言を声高に繰り返し、トップの歓心を買おうと必死だ。このままでは、仮にプーチン氏が近い将来退陣しても、次に登場するのは治安機関に支えられた反西側的「プーチン亜流政権」となる恐れが強まっている。
失敗した幹部を解任せず
さらに、こうしたプーチン政権の安泰ぶりの背景にあるのは、どんな失敗があっても政権最高幹部たちを解任せず、さらにその子どもたちにも政治的地位と富を分け与えるという、プーチン流の家族丸ごとの政権幹部囲い込み戦略がある。クーデターの動きを封じ込めるためにクレムリンの権力構造を世襲化しようというプーチン氏の動きに対し、反政権派グループは「王朝化だ」と強く批判している。
これまで水面下で進んでいた跡目争いを一気に表面化させたのは、前大統領であるメドベージェフ安全保障会議副議長の2022年6月初めの発言だ。メッセージアプリ「テレグラム」での自らのチャンネルで、ロシアに制裁を加えた欧州連合(EU)に対し「大バカ者」と呼んだうえで「世界経済で革命という大火事が起こるだろう」と予告したのだ。この発言には西側から批判が出たが、同氏の過激発言はさらにヒートアップ。「彼らはわれわれロシアの死を望んでいる。彼らを私は憎んでいる。彼らはろくでなしで、変態だ」と、口汚い言葉を並べた。
こうしたメドベージェフ氏の過激な言動について、メディアからは「プーチン以上にプーチン」との驚きの声が起きた。プーチン氏と言えば、米欧への強い攻撃的言辞と、政敵への罵り言葉が代名詞だったからだ。大統領就任直後から「テロリストは必ず見つけ出し、便所の中で血まみれにしてぶっ殺す」などギャングのスラングを公然と口にしてきた。今回のメドベージェフ氏の一連の発言は、明らかに自分こそプーチン流政治(プーチニズム)の後継者と名乗りを上げることが狙いだ。
憲法の3選禁止規定に従い、2008年にプーチン氏から譲られる形で2012年まで大統領職を1期務めたメドベージェフ氏は、盟友プーチン氏とは対照的に政治路線は比較的穏健で、対米欧協調政策を取った。アメリカのオバマ政権との間でこじれていた米ロ関係の改善を図る「リセット」路線で合意した。このため「西欧派」と国内では揶揄されていた。しかし今回の豹変に対し、プーチン氏を強力に支持する極右民族主義団体のサイト「ツァリグラド」も驚きつつも歓迎したほどだった。
さらに、メドベージェフ氏に負けじと新たに後継争いに加わったのはキリエンコ大統領府第1副長官だ。クレムリンにおける内政チームの最高責任者でウクライナ政策も担当している同氏は、これまでは実務を淡々とこなすテクノクラートとみられていた。しかしここへ来て積極的に自らの大物政治家としての存在感をアピール。実務家としての自らの「仮面を取った」と評された。
6月半ばにはそんな前のめりの姿勢が災いして、一度有力紙に掲載された自らの論文が削除されるという勇み足事件も起きた。政府系イズベスチヤ紙のネット版に掲載されたこの論文では、ウクライナ侵攻によって東部・南部でロシア領土を拡大したことを評価。この拡大した領土を「今度10年後も維持することを保証する」と次の大統領への出馬発言とも受け取れるような内容だった。しかし論文はその直後に削除された。キリエンコ氏本人の判断か、政治的に出過ぎた内容とクレムリンが判断した結果かどうか、真相は不明だ。
抑えられたエリート間の対立
こうした最高幹部による後継争いの激化について、クレムリンの元スピーチライターでクレムリンの内情に精通している政治評論家のガリャモフ氏は、あくまでプーチン氏による統制の下での現象と説明する。「今のプーチン政権は、政治エリート間の競争の上で成り立っている。互いの対立が体制にとって破壊的な程度まで過熱しないように、大統領がバランスを取っている。エリート間の行き過ぎた対立はクーデターをもたらす『第2の要因』。『第1の要因』である国民の反乱はすでに抑え込んでいる」と解説する。
その『第1の要因』である世論に関して、プーチン氏は80%という高い支持を保っている。制裁でモノ不足が生じ、生活が苦しくなってもロシア人は驚くほどがまん強い。そして強い指導者の下に結集する。これはロシアに計8年暮らした筆者の実感でもある。欧米から批判されても、一度始めたウクライナ侵攻をプーチン氏が最後までやり遂げることを望んでいるのだ。これは外国人にはわかりづらいロシア人独特の心理だ。
そんなプーチン氏の最近の心の内について、ガリャモフ氏はこう解説する。「元気を取り戻した。まだ侵攻で敗戦が決まったわけではない。勝利は可能だと思っているのだ。ロシアには耐久力があるが、米欧にはそれがないと考えている」。
こうした心の内の背景には、80%という今の支持率がある。今回のウクライナへの侵攻へ道を開いた第1次侵攻とも言うべき2014年のクリミア併合を、国民は熱狂的に支持した。60%前後に落ちていた支持率が一気に80%台に上がった。この岩盤支持層は「クリミア多数派」と呼ばれている。ガリャモフ氏は今の状況について「クリミア多数派はまだ残っている」と指摘する。戦争になれば、何が何でも政権を支持する層が80%になるということだろう。
こうして国民の支持を繋ぎとめているプーチン氏にとって、次に大事なのは先述した「第2の要因」、つまりクレムリン内部の掌握だ。この絡みで最近目立っているのが、政治中枢部に対する、家族も含めた丸ごと抱え込みの動きだ。
これを象徴するのがショイグ国防相の処遇だ。侵攻での当初の失敗で軍部への批判が高まり、司令官クラスが解任されたが、ショイグ氏は職にとどまったままだ。今後、国防相の職を解かれる可能性はあるが、個人的な友人でもあるショイグ氏をプーチン氏は何らかの形で政権に残すとみられている。
さらにプーチン氏の後継者問題とも絡んで今注目を集めているのが、パトルシェフ安保会議書記の息子であるドミトリー・パトルシェフ氏だ。2018年、元々銀行家だったドミトリー氏を、プーチン氏は農業相に任命した。その彼が、次の大統領に指名されるのではないかとの臆測が急速に浮上している。その要因は彼の経歴だ。事実上の政権ナンバー2である父親の存在。そしてまだ40代半ばと年齢的にも次の長期政権を築くうえで適しているという見方だ。
プーチン氏の次女も俎上に
本来であれば次期トップ候補として最有力であるはずの父親のパトルシェフ氏だが、彼には大きなネックがある。年齢問題だ。同氏は69歳でプーチン氏より1歳上。これを理解しているパトルシェフ氏は、後継者に自分でなくドミトリー氏を据えることを望んでいるとの見方が強まっている。ドミトリー氏が連邦保安局(FSB)のアカデミーを卒業しており、プーチン氏が好む治安機関出身者であることも強みだ。
このクレムリン内での権力世襲化をめぐる臆測は、プーチン氏周辺でも出始めている。プーチン氏の次女であるエカテリーナ・チーホノワ氏を最大与党「統一ロシア」の党首に据えようとしているのではないか、との観測だ。
この情報の確度はまだ不明だが、一つだけ確実なことがある。最近、彼女の名前がメディアで露出する機会が増えていることだ。元々プーチン氏は、エカテリーナ氏ら娘2人の情報が報道されるのを異常なまでに嫌っていた。多くの政府系メディアも腫れ物に触るように報道してこなかった経緯がある。
それが一転して露出度が増えていることについて、反政府派指導者で現在収監中のナワリヌイ氏派の幹部ウォルコフ氏は「公式の場で触れられることを避けてきた娘たちの存在を公然化する動きだ」と指摘する。娘2人はすでに、さまざまな事業に成功して富豪と言われており、同氏は多くの高官の子息・子女がオリガルヒと呼ばれる新興財閥を含め「互いにビジネス上の関係を持っている」と指摘する。
その典型的例が、先述したキリエンコ氏の息子のウラジーミル氏だ。2021年末にロシアのネット企業VKontakte(フコンタクテ)社の社長に就任した。同社はロシアのネットの半分を支配すると言われる大企業だ。元々は、プーチン氏の友人である新興財閥でロシアを代表する富豪であるウスマノフ氏が保有していた。同氏は侵攻を受け、アメリカ政府から制裁されている。
さらに2022年6月末には、先述のメドベージェフ氏の息子で20代のデジタル系ビジネスマンであるイリヤ氏も与党・統一ロシアに入党したことが正式に発表された。これが、プーチン氏が就任から20年かけて築いてきた巨大な権力・富の壮大な「クレムリン・ピラミッド」の一端だ。政権高官や家族、さらにオリガルヒたちががっちりそのピラミッドに組み込まれている。
プーチン氏の友人で、かつて政権ナンバー2と言われていたイワノフ国防相が軍改革に失敗。プーチン氏は職を解いたが、政権の外には放り出さず、安保会議内に名誉職的なポストを与えた。つまり、クレムリン内部で最高幹部たちはプーチン氏に逆らわない限り、その政権内での地位を保証されているのだ。
早期に完了させるというウクライナ侵攻が当初の計画から崩れて難航している今、プーチン氏は政権内での反乱防止のためにこの「ピラミッド」を一層強固なものにしようと図っている。ただ、プーチン氏が神経を尖らせているのは、オリガルヒによる造反の動きだ。制裁で打撃を受けた富豪たちが自分たちのビジネスを守ろうと、プーチン亜流政権誕生を阻止しようとする動きがあるとのうわさは常にある。次の指導者が引き続き治安機関出身者(シロビキ)になることを恐れているとの臆測だ。
経済界の離反も防ぐ
こうしたシナリオを意識したのか、プーチン氏がオリガルヒへの融和的配慮を見せたのが2022年6月17日にサンクトペテルブルクで開催された国際経済フォーラムでの演説だ。国際的制裁により、製造業はじめロシア企業は打撃を受けており、経済運営でプーチン氏が政府統制強化を打ち出すのではないかとの見方が事前にあった。しかし、逆にプーチン氏は経済発展に向け、民間企業を重視していく姿勢を強調。政府からの規制をさらに減らしていくとの方針を示して、参加していたオリガルヒたちを安心させた。プーチン氏による巧みなオリガルヒの離反防止策だった。
その後、その一員であるアルミ王のデリパスカ氏からは制裁による悪影響を指摘する発言も出たが、治安機関とともにプーチン体制を支える政商集団であるオリガルヒ全体へのプーチン氏の統制は緩んでいないようだ。
以上述べてきたように、プーチン政権は米欧の包囲網が広がりながらもしぶとく政権の動揺を押さえ込んでいる。反政権派が問題にしている「王朝化」についても、国民から批判が起きる可能性はない。指導者の特権的生活を認める風土があるためだ。つまり、近い将来、プーチン政権が反政権派の抗議活動はもちろんのこと、政権内でのクーデターなどで転覆され、侵攻作戦が停止される可能性は限りなくゼロと言える。
となれば、この流血の事態を食い止めるに国際社会はこれからどう行動すべきなのか。「軍事的勝利」の誇示を目指すプーチン氏に領土面でウクライナが譲歩して、何らかの停戦を実現するのか。あるいはウクライナが米欧の支援を得て大がかりな反攻作戦を行い、侵攻作戦を破綻に追い込むのか。このいずれの道しかあり得ない。筆者はロシア軍の兵力・兵器供給が息切れする可能性のある2022年末以降をターゲットに、侵攻継続をロシアに軍事的に断念させるべきと考える。
もちろん深刻さを増すエネルギー問題などで、米欧の「援助疲れ」はこれから強まるばかりだろう。プーチン氏もこの米欧軟化の事態を期待している。そのうえ、核兵器使用というロシアの脅しも潜在的に大きな脅威だ。しかし領土面で妥協して一時的に停戦したところで、「歴史的ロシア」復活を夢見るプーチン氏が将来、対外侵攻を再開する恐れがある。ウクライナと国際社会が粘り強く対抗することが大事だ。
軍事作戦を停止に追い込むことでプーチン氏に国民が抱く一種の「不敗神話」を打ち砕き、国民の目を覚まさせることが必要だ。それによって国民に「プーチニズム」からの決別をしてもらう必要がある。 
●ウクライナ検察、ロシアによる戦争犯罪の疑いで「2万1000件を捜査」 7/7
ウクライナは、ロシアによる戦争犯罪と侵略犯罪の疑いのある事案を2万1000件以上調査していると明らかにした。イリナ・ウェネディクトワ検事総長は、1日に200〜300件の戦争犯罪の報告を受けていると、BBCに話した。ウェネディクトワ氏は、多くの裁判が欠席裁判で行われるであろうことを認めた。だが、訴追を続けるのは「正義の問題」だと強調した。ロシアは2月24日にウクライナに侵攻した。戦争犯罪については、疑惑を全面的に否定している。
「全員を法廷に立たせる」
ウェネディクトワ氏は、BBCの番組「アウトサイド・ソース」に出演。民間人を殺害、拷問、レイプしたロシア兵について、「全員が法廷に立つのは時間の問題だと理解すべきだ」と警告した。同氏はまた、自らのチームがウクライナ全土で活動しているが、すべての事件を「適切かつ効果的に」調査するのは不可能だと述べた。一部の人や地域にアクセスができないからだと説明したが、これはロシア軍に占拠されたウクライナ領土を指しているとみられる。同氏は5月、すでに約600人の容疑者を特定し、80件について起訴の手続きを始めたと発表している。
ウクライナで裁判にかけられた最初のロシア兵のヴァディム・シシマリン被告(軍曹)は5月、民間人1人を殺害した罪で終身刑を言い渡された。ウクライナによると、首都キーウ近郊のブチャ、ボロジャンカなどの町で、多数の死体が埋められた場所が見つかった。それらの町は、ロシア部隊に一時的に占拠されていた。国際刑事裁判所は、ウクライナを「犯罪現場」と呼び、複数の捜査を支援するため、過去最大の捜査チームを派遣している。ロシアは、民間人を標的にしていないと、繰り返し主張している。
ウクライナ軍によると、ロシア軍は東部ドネツク州で攻撃の準備をしており、いくつかの町を砲撃している。ロシアは先週末にかけ、同州に隣接するルハンスク州のほぼ全域を制圧。両州でなるドンバス地方全域の掌握を目指している。ウクライナ軍は最新の報告で、強力な攻勢を受けているが、これまでのところロシア軍を抑えているとした。ウクライナの管理下にある主要都市スラヴャンスクでは、市場がロシア軍に攻撃され死傷者が出た。住民らは翌日、西方へと避難するよう求められた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「西側のパートナーからの大砲がとても強力に機能し始めたので、占領者の損失は今後増加の一途だ」と話した。
●アイルランド、ロシアのウクライナ侵攻は「ジェノサイド」 7/7
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、アイルランドに対して、ウクライナ難民の受け入れと、ロシア軍によるウクライナ侵攻を「ジェノサイド(集団殺害)」とした決議の採択について感謝の意を示した。
ゼレンスキー氏はウクライナ首都キーウ(キエフ)で、アイルランドのマーティン首相と共同記者会見に臨んだ。ゼレンスキー氏によれば、両首脳は食料安全保障やエネルギー危機、ロシアに対する制裁の第7弾の準備について協議した。
マーティン氏は、ウクライナは欧州連合(EU)に属していると述べ、アイルランドはウクライナと一歩ずつ歩みを進めると述べた。
マーティン氏は「ロシアによる、美しい民主主義国に対する野蛮な戦争は国際法の恐ろしい違反だ」と指摘。アイルランドの価値観とはかけ離れていると強調した。
マーティン氏によれば、アイルランドは戦争を逃れたウクライナ人4万人を受け入れている。マーティン氏は「必要なだけ滞在することを歓迎する。我々の家はあなたたちの家だ」と述べた。
●経済制裁で痛んでいるロシア経済だが「戦争特需で実はかなり儲かっている」 7/7
ロシア国防省は6日、ウクライナ東部ドネツク州でアメリカがウクライナに供与した高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」2基とハイマース用ロケット弾を保管する弾薬庫2カ所を破壊したと発表した。この発表を受け、ウクライナ軍は「でっち上げだ」と否定している。
辛坊)最新のニュースでは、ロシア議会が、ウクライナに侵攻した軍の活動を支えるため、「特別措置」発動の権利を政府に与える法案を、あっという間に可決させました。どういう法律かというと、政府が企業に指定した量と金額で物品を納入するよう義務付けることが可能になります。要するに、物品の徴用みたいなことができるということですね。また、労働者の残業や夜間労働、休日出勤も政府が指示できます。国民総動員法みたいな感じですね。欧米メディアは、事実上の「戦時経済体制」への移行だと報道しています。
ロシアでは武器弾薬がなくなってきているため、武器弾薬の増産態勢に入って、人手も必要になっていることがうかがえます。そうなると、なかなか読めないことがあります。ロシア経済は、西側諸国の経済制裁により相当痛んでいるだろうと一般的には思えます。ただ、ロシアは産油国であり、インドをはじめ西側の制裁に同調していない国が積極的に買っているという現実もあります。原油価格は高騰しており、ロシアが高値で原油を輸出できると考えると、実はかなり儲かっているという見方もあるんです。戦争特需ですね。
ロシアで武器弾薬が枯渇し始めているのは事実でしょう。ロシアは戦車「T62」を最前線に投入しています。T62は名前から分かるように、1960年代の主力戦車です。設計は50年代で、70年代には生産が終わっています。いくら頑丈にできているとはいえ、そんな古い戦車を最前線に投入しているようでは、どうなんでしょうね。ウクライナのショッピングセンターに撃ち込まれたミサイルも、80年代前半頃までに開発された空対艦ミサイルでした。こうした状況を踏まえ、戦況をどう読み解くかが難しいところです。
●露、ウクライナ東部ドネツク州で攻勢強める 9人死傷 7/7
ウクライナ東部ドネツク州のスラビャンスク市の当局者は5日、ロシア軍による市内の住宅街などへの攻撃で、9人が死傷したと明かした。米シンクタンク「戦争研究所」は5日、ロシアは戦闘長期化に備えており、ウクライナのゼレンスキー政権の転覆も狙っているという見解を発表した。米バイデン大統領は、ロシアで拘束されている女子プロバスケットボール選手について「帰国実現のためにあらゆる手段を講じていく」と家族に伝えた。
露軍、ドネツク州の住宅街に攻撃
スラビャンスク市の当局者は5日、ロシア軍による市内の市場や住宅街への攻撃で、少なくとも2人が死亡し、7人が負傷したと明かした。ロイター通信などが報じた。同州のキリレンコ知事はフェイスブックへの投稿で「ロシア軍が再び、市民が集まる場所を意図的に狙っている」と非難した。
ロシア、戦闘長期化に備えか
ロシア軍がウクライナ東部ドンバス地方(ルガンスク、ドネツク両州一帯)にとどまらず、さらに広い地域の支配を目指しているとの見方が出ている。米シンクタンク「戦争研究所」は5日、ロシアは「領土的野心」を維持し、戦闘長期化に備えているとの見解を公表した。ウクライナのゼレンスキー政権の転覆も依然として狙っているという。プーチン政権は最近のルガンスク州攻略では満足しておらず、さらに支配地域を拡大するため、「戦闘の長期化に備えている」とも分析している。
米大統領、露拘束の選手帰国に「あらゆる手段」
バイデン米大統領は6日、ロシアで2月から拘束されている女子プロバスケットボール選手ブリトニー・グライナーさんの家族に電話し、「帰国実現のためにあらゆる手段を講じていく」と伝えた。グライナーさんは違法薬物所持の疑いで拘束されたが、米国内では政治的な駆け引きに利用する「人質」(米紙ワシントン・ポスト)としてロシア側が拘束したとの見方もあり、米政府は「不当な拘束だ」として釈放を要求している。
●ウクライナ情勢で悪化 食料安全保障に日本拠出の支援金 7/7
国連食糧農業機関はウクライナ情勢により悪化した食料安全保障のため日本政府が拠出した支援金について、輸出の代替ルート実用化などのためにあてると説明しました。
国連食糧農業機関 ウクライナ国別事務所 ピエール・ヴォティエール 代表「(穀物を貯蔵する)建物などが破壊されました。軽微なものについては修復が可能でしたが、穀物が失われたケースもあります。現在は占領されているので貯蔵がもうできないということです」
穀物輸出大国であるウクライナでは、ロシアによる侵攻で輸出ルートが断たれたことで、平時は毎月600万トンあった穀物の輸出が先月時点でおよそ100万トンにとどまり、貯蔵施設の30%が去年収穫した穀物で埋まっています。
国連食糧農業機関は、日本政府から拠出されたおよそ23億円の支援金を利用し、輸出の代替ルートの実用化や新たな貯蔵施設の建設にあてると説明しました。
●ロシア軍戦車を展示 ウクライナ侵攻で破壊―ポーランド 7/7
ウクライナ侵攻時に同国軍に破壊されたロシア軍車両2台が、ポーランドの首都ワルシャワの王宮広場に展示されている。ウクライナが自国だけでなく欧州全体の自由と民主主義のために戦っていることを訴える狙いがあり、ウクライナ、ポーランド両国政府が共催した。
2台はロシア軍の戦車と自走榴弾(りゅうだん)砲。首都キーウ(キエフ)近郊と北東部ハリコフでウクライナ軍に押収され、泥や草が付いたまま展示された。キーウからポーランドに母親と逃れたサシャ君(8)は「(2台は)戦争が現実ということを示している」と話した。母親のカタリナさんは「息子はいつかキーウに戻り、兵士になることを夢見ている」と語った。
2台はワルシャワで数カ月にわたり展示した後、南部クラクフに移動する。ウクライナ国防省はマドリードやリスボンなど欧州各地でも公開する計画だ。
●ウクライナ侵攻 中央アジアなどで約7100万人が貧困状態に UNDP  7/7
UNDP=国連開発計画は、ウクライナ情勢を受けたエネルギーや食料の価格の高騰が発展途上国に与える影響について報告書をまとめ、中央アジアなどで3か月間に新たにおよそ7100万人が貧困状態に陥ったと指摘し、国際社会に支援を呼びかけています。
UNDPが7日に公表した報告書によりますと、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を背景としたエネルギーや食料の価格高騰によって、発展途上国では貧困層の生活に重大な影響が及ぶ懸念があるとしています。
とりわけ、ロシアやウクライナと地理的に近い中央アジアなどや、食料などを輸入に頼るアフリカの国々では、市民生活が圧迫されているうえ、政府も財政難に陥って十分な対策がとれなくなっているということです。
そして、こうした国々を中心にことし3月からの3か月間で、新たにおよそ7100万人が、一日3.2ドル未満で暮らす貧困状態に陥ったと指摘しています。
UNDPのシュタイナー総裁は「すべての発展途上国は、パンデミックや多額の負債に加え、食料価格の上昇とエネルギー危機への対応に苦心し、世界から取り残されてしまう危機に直面している」として、国際社会に対して債務の返済を猶予するなどの支援を呼びかけています。
●ロシア ラブロフ外相 制裁強める欧米側に対抗する姿勢を強調  7/7
G20=主要20か国の外相会合に出席するためインドネシアを訪問しているロシアのラブロフ外相は、中国の王毅外相と会談し、ウクライナ情勢をめぐってロシアへの制裁を強める欧米側に対抗する姿勢を強調しました。
G20の外相会合に出席するためインドネシアのバリ島を訪れたロシアのラブロフ外相は7日、現地で中国の王毅外相と会談しました。
会談の冒頭でラブロフ外相は「より公正で民主的な世界秩序を形成するためには、ロシアと中国の建設的かつ戦略的な結び付きが重要だ」と述べ、両国関係の強化を訴えました。
そのうえで「欧米側は、国際情勢における特権的な地位と支配を維持しようと、攻撃的な対応をとっている。これとは対照的に、われわれの立場は、多くの国々に理解され、支持されている」と述べ、ウクライナ情勢をめぐってロシアへの制裁を強める欧米側に対抗する姿勢を強調しました。
ラブロフ外相は、G20の外相会合とは別に、現地で、中国やトルコ、それにブラジルや南アフリカなど新興国の外相と会談するとみられ、伝統的に友好関係にある国々との連携を確認しようとしています。
ロシアのリャプコフ外務次官は、ラブロフ外相とアメリカのブリンケン国務長官がG20=主要20か国の外相会合にあわせて現地で会談を行うかどうか、7日、記者団に質問されたのに対して「何も予定されていない」と答えました。
そのうえで「現状を考えれば、われわれは大使館を通じた接触と、時々行われる電話会談で十分対応している」と述べ、会談が不可欠な状況ではないとの認識を示しました。
●ウクライナ周辺で避難民を支援した学生ボランティア 無力感を抱き得た経験 7/7
ロシアが軍事侵攻したウクライナからの避難民を支援するため、周辺国に派遣された日本の学生ボランティアが帰国して7日、東京都内で活動報告会を開いた。子どもの世話や物資の配布、清掃を担ったといい「力不足を感じた」「これからの人生に生かしたい」などと語った。
日本財団ボランティアセンター(東京)が30人を2班に分けて派遣し、6月下旬までの約2週間、避難民の一時滞在所があるポーランドのプシェミシルなどで活動した。
1班の代表として発表した兵庫県立大2年、上田琳さん(19)=同県西宮市=は、子どもとの交流を振り返って「元気で遊ぶことが好きな子ばかり。ただ、日常生活でロシアの悪口を言う場面もあり、紛争が幼い心にも刻まれていると感じた」と話した。
避難民からは、防空壕の写真や銃弾の破片を見せられた。初めて戦争を実感して「もっとできることがあるのでは」と無力感を抱くこともあったという。
国際医療援助団体「国境なき医師団」の看護師になるのが夢といい「医療の専門知識や技術だけでなく、語学力も高めて人の役に立ちたい」と力を込めた。
このほか「支援物資は豊富だったが、夏用の洋服が不足するなど偏りがあった」などの報告があった。
●ロシア国防省が戦果誇張か 独立系メディアが調査報道 7/7
ロシアの独立系メディア、プロエクトは、ウクライナ侵攻の戦果に関するロシア国防省の発表を分析した結果、現実とさまざまな矛盾が生じていると指摘した。戦果を誇張しているためとみられ、軍事作戦が順調に進んでいるとPRするロシアの政治宣伝(プロパガンダ)の実態が明らかになった格好だ。
プロエクトによると、コナシェンコフ国防省報道官が毎日行う戦果報告を検証した結果、東部ルガンスク州で同じ村を4度も制圧していた。占領地の数を水増しした可能性が高いという。地図で確認できない地名を挙げるケースもあった。
ロシア軍が6月26日に「破壊した」と発表したウクライナの軍用機の累計数は215機に上るが、侵攻開始前のロシア国防省の説明では、ウクライナ軍が保有する軍用機は152機だった。コナシェンコフ氏は侵攻が始まってからテレビ出演が急増し、6月にはプーチン大統領が中将に昇進させた。
●なぜ?イギリス ジョンソン首相“窮地”に 与党党首を辞任へ7/7
イギリスでは、今、異例の事態になっています。ジョンソン首相が7日、与党・保守党の党首を辞任することを表明すると、イギリスの公共メディアBBCなど複数メディアが一斉に伝えたのです。いったいどういうこと?解説します。
ジョンソン首相は何を表明するの?
BBCなど、複数のメディアは、ジョンソン首相が7日、与党・保守党の党首を辞任することを表明すると一斉に伝えました。BBCによりますと、ジョンソン首相は新たな党首が決まるまでは、首相としての職務を続ける意向だということです。
イギリス政界では何が起きているの?
7月5日、財務相と保健相が辞任したのです。また、6日には、ウェールズ担当相が辞表を提出しました。40人を超える政府高官が次々に辞任を表明しています。さらに、6日には、ウェールズ担当相が辞表を提出しました。さらに、これまでにおよそ50人の政府高官などがすでに辞任を表明していて、新たに登用できる人材が足りなくなっているとも指摘され、政権運営にも影響が出始めていました。
なぜ閣僚らの辞任が相次いでいるの?
ジョンソン首相を巡る一連の問題を受けてです。これまでに、以下のようなことなどに対して、批判が高まっていました。
・新型コロナウイルスの厳しい規制が続く中、首相官邸などでパーティーが繰り返された。
・ジョンソン首相が任命した与党・保守党の幹部が性的なスキャンダルで辞任した。
・議会下院の2つの選挙区の補欠選挙で、与党・保守党がいずれも大差で敗れた。
与党幹部の性的なスキャンダルでは、首相が、この与党幹部が過去にも同じような問題を起こしていたにもかかわらず、虚偽の説明などをしていたことがわかり、批判がさらに高まりました。こうしたことを受けて、2人の主要な閣僚が辞任に踏み切ったことで、首相を「見限る」動きが一気に広がっていたのです。
これまでのジョンソン首相の反応は?
首相は、6日、議会で行った答弁で続投する意向を重ねて表明していました。一方で、保健相を辞任したジャビド氏は「問題は組織のトップにあり、このままでは変わらないという結論に達した。どこかの時点で『もうたくさんだ』と判断すべきで、今がそのときだ」と強く辞任を迫りました。イギリスメディアは、複数の閣僚が、首相に直接辞任を促したものの、首相は断固として拒否したと報じていました。
そもそもジョンソン首相とは?
ジョンソン首相は、EUからの離脱が最大の争点になった2019年の総選挙で与党・保守党を圧勝に導き、離脱を実現させるなどその実績をアピールしてきました。また、2022年2月、ロシアがウクライナに軍事侵攻して以降は、プーチン大統領に対して一段と強硬な姿勢を示してきました。一方で、ウクライナの首都キーウをたびたび訪問して、ウクライナへの積極的な支援を打ち出すなど存在感をアピールしてきました。しかし、いわゆる「パーティー問題」が表面化し、最大野党・労働党にも支持率でリードされる状況となるなど、保守党内でもジョンソン首相に対する圧力はいっそう強まっていました。
●スリランカ大統領 ロシア プーチン大統領に燃料輸入で支援要請  7/7
インド洋の島国、スリランカのラジャパクサ大統領は6日、深刻な経済危機を乗り切るため、ロシアのプーチン大統領に燃料を輸入するための支援を要請したことを明らかにしました。
スリランカは、過大なインフラ整備で膨らんだ借金の返済で外貨が不足して経済が危機的な状況に陥り、ことし4月、大手格付け会社「S&Pグローバル・レーティング」は、外貨建ての国債が部分的なデフォルト=債務不履行に陥ったと認定しました。
国内では燃料など輸入に頼ってきた物資の不足が深刻化し、先月下旬からは、都市部ではすべての学校が休校となっているほか、政府機関の職員は在宅勤務となるなど、影響が広がっています。
こうした中、スリランカのラジャパクサ大統領は6日、みずからのツイッターに「ロシアのプーチン大統領と非常に生産的な話し合いをした。これまでのすべての支援に感謝するとともに、現在の困難な経済状況を打ち負かすため、スリランカに燃料を輸入するための支援を求めた」と投稿しました。
また話し合いでは、現在停止しているロシアの旅客便の運航についても再開を求めたとしています。
スリランカ政府は、IMF=国際通貨基金のほか、つながりの深い隣国のインドや中国、それに日本などにも支援を求めています。
●ロシアの軍資金を断つ「経済制裁とどめの一手」  7/7
ロシアのプーチン大統領の侵略戦争を止めるには3つの経済制裁措置が必要だが、欧米などウクライナの支援国はすでにそのうちの2つを講じている。強力な金融制裁とロシア産原油の禁輸だ。欧州連合(EU)は今年末までにロシア産原油の大部分を禁輸することで合意している。だが私たちには、この制裁のパズルを完成させる3つ目の措置が欠かせない。ロシア産原油の海上輸出はプーチン氏の資金源となっており、直ちに締め上げる必要がある。
ウクライナ侵攻後に導入された金融制裁は効果を上げている。中央銀行の外貨準備を凍結されたことで、ロシアはショックに対する国家的備えの多くを失った。以来、通貨ルーブルの安定は厳しい資本統制と石油・ガスの輸出収入だけが頼みとなっている。つまりロシアはさらなるショックに対し極めて脆弱な状況となっているわけだが、EUはこうしたショックを与える枠組みをすでに持っている。
海上輸送されるロシア産原油の輸入を今後5カ月間で停止するという決定がそれだ。ロシアがEUに海上輸出している原油は1日当たり約125万バレル。その停止は、プーチン氏の資金源とルーブルの信用、そしてすでに不安定化しているロシアの金融システムに大打撃を与えるものとなるだろう。
とはいえ、プーチン氏の軍資金を断つのに5カ月もかけるのは容認できない。ロシア軍に殺されるウクライナ人の数は日々増え続けているのだ。
心臓を突く緻密な制裁
直感にはやや反するが、制裁のパズルを完成させる3つ目の措置は、EUの船舶によるEU域外への原油輸出まで禁止する「全面禁輸」としてはならない。こうした乱暴な策は原油価格をさらに高騰させ、世界に痛みを広げるばかりか、制裁に応じない国々への原油輸出でプーチン氏が手にする資金をむしろ膨らませる公算が大きい。
ただ、制裁の内容をしっかりと設計すれば、負の影響を軽減することはできるし、場合によっては完全に回避することすら可能となる。その意味で私たちが支持するのは、イエレン米財務長官とドラギ伊首相が少し前に行った提案だ。
ロシア産原油に対するバレル当たりの支払単価に上限を設ける案である。ロシア産原油の大部分(およそ7割)を運んでいるのはEUや英国などの船であり、こうした状況を利用すればEUはロシアに対して優位に立てるかもしれない。ロシアの石油生産コスト(限界費用)は並外れて低いため、プーチン氏の資金源を圧迫するには価格上限を底値水準に設定する必要があるだろう。
ロシア産原油の上限設定へ
価格上限の導入方法としては、価格を直接制限するやり方のほかに、輸入関税を賦課する方法などが考えられる。関税といった税を課す方式の利点は、EUで避難生活を送っている約500万人のウクライナ難民の受け入れ費用をカバーしたり、プーチン氏の侵略戦争の影響で生活がさらに苦しくなった低所得者層を支援したりする税収を生み出せることだ。
もちろん、ロシアが安値での原油供給を拒む可能性はある。ただコロナ禍で原油価格が1バレル=20ドル前後にまで暴落していたときでさえ、ロシアが原油を最大限輸出することに強い関心を示していたことは覚えておくべきだ。さらに、輸出を拒んで産油量を減らせば、ロシアは石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国で構成される「OPECプラス」のメンバーとしての地位を実質的に失うことになる。ロシア経済への打撃は明白で、ルーブルも甚大な下落圧力にさらされよう。
外貨が手に入らなくなれば、プーチン氏は他国からの武器調達に難儀するに違いない。また、戦費調達のために自国通貨を増発すれば、国内のインフレは加速する。ウクライナに対するプーチン氏の戦争を止める制裁措置の立案において西側は大きな進歩を遂げている。仕事を完遂するのは今だ。
●「アラスカはロシアの領土」──米ロの軍事衝突招く危険なゲーム 7/7
ロシア下院のビャチェスラフ・ボロージン議長は6日、ロシアはアメリカからアラスカを取り返す権利があるとの主旨の発言をした。ボロージンはウラジーミル・プーチン大統領の側近だ。
AP通信によればボロージンは、ロシア高官らとの会議の席で「彼ら(米連邦議会)がロシアの在外資産を横取りしようとするなら、ロシアが返還を求めるべきものもあることを認識すべきだ」と述べたという。
ロシアがウクライナに侵攻し、西側諸国から前例のない厳しい制裁を科されて以降、アメリカとロシアの間の緊張は高まっている。ウクライナ向けの武器を運ぶアメリカやNATOの車両への直接攻撃をちらつかせたり、ウクライナ国外にも戦線を拡大させる気配を見せたこともある。今回のボロディンの発言は、制裁への報復としてアラスカを標的にする可能性を示唆したものだが、そんなことをすれば米ロの軍事衝突も招きかねない。
米連邦議会図書館によれば、アラスカはかつてロシアの一部だったが、1867年3月30日にアメリカが720万ドルで買収した。当時のウィリアム・シューワード国務長官にちなんで「シューワードの愚かな投資」だとか「シューワードの冷蔵庫」と揶揄されたが、1896年にアラスカでゴールドラッシュが始まると批判の声は吹き飛んだ。アラスカは準州を経て、1959年に正式なアメリカの州となった(ハワイと同年)。
国境の島と島の距離は数キロ
ロシアがアラスカを手放してから100年以上経つが、アラスカとロシアが非常に近い距離にあるのは間違いない。アラスカ州の公式ウェブサイトによれば、ロシア領のラトマノフ島(ビッグダイオミード島)とアメリカ領のリトルダイオミード島の間は5キロも離れていない。アラスカ本土とロシア本土との距離も、最も近いところでは80数キロだ。
アラスカをアメリカから取り戻せと発言しているのはボロージンだけではない。下院議員のオレグ・マトベイチェフはロシア国営テレビに対し、ロシアは「アメリカなどに占有されてきた、本来ロシアの所有であるすべてのものについて、ロシア帝国のものもソ連のものも現ロシアのものも含めて」返還を求めるべきだと語った。
アラスカもその中に含まれるのかと問われ、マトベイチェフはそうだと答えた。
この発言を受けてアラスカのマイク・ダンリービー知事はこうツイートした。「いちいちコメントをする気にもならないが、せいぜい頑張ることだ。アラスカの武装した何十万人もの州民や軍人の(アラスカの帰属に関する)見方は違うはずだ」
本誌はロシア外務省とアメリカ国防総省、ロシア国会を通じてボロディンにコメントを求めたが回答は得られていない。
●ロシア下院「経済動員令」を可決 軍への支援強化のため 7/7
ロシア下院は6日、特別軍事作戦と称するウクライナ侵攻で軍への支援を強化するため、企業の従業員らが休日や夜間でも必要に応じて働くよう定めた特別措置法案を可決した。事実上の「経済動員法」となる。下院は経済制裁回避に向け、企業の取引情報を公表しないようにする法案も可決。戦闘の長期化を見据えた経済統制の動きが、ロシア国内で強まっている。
特措法の可決は独立系メディア、メドゥーザなどが伝えた。法案では、政府が企業などに対し「労使関係の特別な規制」を設ける権利を得る。企業は国の方針に沿って時間外や夜間、祝祭日も従業員を働かせられる一方、国家防衛のための調達契約を拒否できなくなる。製造業や金融関係企業が対象とみられる。
下院は同日、日米欧からの新たな制裁を防ぐため、一部のロシア企業の取引情報を原則非公表とする法案も可決。情報を拡散したメディアや市民には罰金を科すと定めている。
5日に可決された別の法案では、軍事作戦に参加した民間人や医師らを退役軍人として扱うことを規定した。国は住宅購入や家賃を補助し、必要に応じて義眼や義足を提供する。ペスコフ大統領報道官はこれまで「総動員は考えていない」としてきたが、好待遇を提示することで前線の兵力を補充する構えとみられる。
英字紙「モスクワ・タイムズ」によると、一部の国営企業では従業員に対し、軍事作戦の契約兵となるよう勧めている。地方では、契約兵に平均月給の5倍以上となる20万ルーブル(約43万円)の報酬を約束する例もみられる。
ロシア軍が攻勢を強める東部では、親ロ派武装勢力「ルガンスク人民共和国」が「領土」とするルガンスク州を越えて戦闘を続けるなど、地上戦は西に拡大している。ロシア側はドネツク州の全面掌握を目指して6日も進軍する一方、同日から7日にかけて南部オデッサ州と東部ハリコフ州をミサイルで攻撃した。
●消耗戦で物量に勝るロシアが優位に、米欧は形勢逆転できるか 7/7
ウクライナ軍が東部戦線で後退を強いられている。ロシア軍がウクライナ東部制圧を目指して仕掛けた飽和攻撃により、砲兵火力で10分の1以下のウクライナ軍はどうしても劣勢に立たされる。互いに兵力を磨り潰す消耗戦は長引けば長引くほど、ウクライナより人口が多く、経済力でも軍事力でも優位に立つロシアが有利になる。米欧はこの力学を逆転させる必要がある。
露大統領府によると、ロシア軍は東部ルハンスク州の主要都市セベロドネツクに続き、7月3日、リシチャンスクを制圧、州境を掌握した。これを受け、ウラジーミル・プーチン大統領は翌4日、セルゲイ・ショイグ国防相に会い、中央グループ司令官と南部軍管区第8軍副司令官に「ロシアの英雄」の称号を与えるとともに部隊に休息を取らせるよう指示した。
ウクライナ軍は死者2218人、負傷者3251人を出し、戦車など装甲車196両、航空機12機、ヘリコプター1機、ドローン(無人航空機)69機、長距離地対空ミサイルシステム6基、多連装ロケット砲97基を失った。リシチャンスクから撤退する際、戦車など装甲車39両、対戦車ミサイル48基、スティンガーシステム18基、ドローン3機を放棄した(露大統領府)。
プーチン、ショイグ両氏はリシチャンスクとルハンスク州の制圧をロシア軍にとって大きな勝利と位置づけた。しかし2014年の東部紛争で親露派分離主義武装勢力を指揮したロシア民族主義者イゴール・ガーキン元ロシア軍司令官は、自身のテレグラムチャンネル(約40万人が登録)で高すぎる代償を払ったリシチャンスク奪取の意義に疑問を呈するなど、ロシア国内から戦略に対する批判の声が上がり始めている。
「みんな前線に出てしまって分隊長も素人の民間人」
一方、5月28日から6月30日にかけポーランドとウクライナ各地を取材した筆者にもウクライナ軍の劣勢はひしひしと伝わってきた。医療支援を行うNGO(非政府組織)は5月下旬の時点で「ウクライナにいる障害者は約300万人で、手や足がない人の割合はその3%だ。今の激しい戦闘状態が続けば、この数字は10%に上昇する恐れがある」と予測した。
ウクライナ西部リビウの避難民宿泊施設で会った東部ルハンスク出身のヨハンは「東部戦線の第二戦線で戦っている兄から『ロシア軍の砲撃は激しく、重傷者が出ているので絶対に志願するな』と釘を刺された。両親も行くなと止める。それでも祖国を守るために戦いたい」とすでに死を覚悟しているような静かな表情を見せた。
キーウがロシア軍のミサイルで攻撃された6月26日に首都のバーで隣り合わせたスウェーデン人の青年で元同国軍の職業軍人だったアクセルは、志願兵や領土防衛隊の民間人に銃の扱い方など基本を指導している。「みんな前線に出てしまって分隊長も素人の民間人。18歳から65歳まで全部で200人ぐらい。太りすぎていたり年を取りすぎていたりして軍隊にいるべきじゃない人もいる」と言う。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると、クリミア侵攻に続く東部紛争で14年4月から21年12月にかけ、ウクライナ軍は4400人の死者を出した。今回のロシア軍侵攻で4月の米紙ニューヨーク・タイムズの報道ではウクライナ軍は5500〜1万1000人の犠牲を出し、大砲戦になった現在、1日100〜200人が命を落としているとされる。
英陸戦専門家「ウクライナ軍の死傷者は1万8000人以上」
ウクライナの大統領顧問は英紙ガーディアンの取材に対し、毎日150人が死亡、800人が負傷していると語っている。シンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所」(RUSI)のジャック・ワトリング研究員は6月28、29日に開かれた陸戦コンファレンスで「ウクライナ軍はこの4カ月間で英陸軍の歩兵部隊(1万8000人)よりも多くの死傷者を出した」と分析した。
ロシアが4月時点でウクライナ兵2万3000人を殺害したと発表したのは脇に置くとしてもウクライナ軍がかなり消耗しているのは疑いようがない。ウクライナ軍参謀本部によるとロシア軍の死者は3万6350人(7月5日時点)。北大西洋条約機構(NATO)高官も3月下旬に最大4万人が死傷、または不明・捕虜になったと分析した(死者は7000〜1万5000人)。
一方、兵力・物量で勝り、消耗戦で優位に立つロシアも、一部の装備面では「在庫切れ」を起こしている可能性が高い。例えば、長射程の誘導ミサイルだ。どうやらロシア軍はこれを使い果たしつつあるようだ。
英国防情報部は7月2日「防犯カメラの映像分析により6月27日に死者20人を出した中部クレメンチュクのショッピングセンターを攻撃したのは空中発射型の超音速巡航ミサイルKh-32(射程600〜1000キロメートル)だった可能性が高い」と指摘した。
Kh-32は「ソ連時代の長射程空対艦ミサイルKh-22キッチン(同600キロメートル)のアップグレード版」(英国防情報部)だ。本来なら敵の空母を攻撃するために使われる大型空対艦ミサイルである。それを地上攻撃に用いた理由について、英国防情報部はこう分析する。
「6月30日にオデーサ州に撃ち込まれた2発のミサイルもKh-22キッチンだった可能性が高い。正確な近代兵器の備蓄が減少しているためと思われるが、ロシア軍は空中から発射される対艦ミサイルを陸上攻撃に使っている」
空爆に匹敵する破壊力を発揮する米ハイマース
しかしロシア軍は不正確で古い大砲をうんざりするほど持っている。自ら志願して5月上旬からウクライナ軍に参加している元米陸軍兵士マーク・ロペス氏は「自走式多連装ロケットランチャー『ウラガン』や『スメルチ』の射程は通常45〜90キロメートル。最も数が多い『グラート』システムは15〜45キロメートルだ」と筆者に解説する。
「ロシア軍はすべてのロケット砲を使って一定の地域にできるだけ多くの攻撃を加える飽和攻撃を行っている。152ミリメートル砲の標準的な射程は約40〜80キロメートルだが、通常40〜50キロメートルで使われる。最大の大砲である203ミリメートル砲の射程は37〜55キロメートルだ。砲身が摩耗し始めると射程が短くなり、精度が低下する」と言う。
NATO首脳会議が開かれたマドリードでジョー・バイデン米大統領は6月30日「50カ国以上がウクライナに14万基近い対戦車システム、600両以上の戦車、500基近い大砲システム、60万発以上の砲弾、さらに最新の多連装ロケットシステム、対艦システム、防空システムを供与する」ことを明らかにした。
バイデン氏は大統領就任以来、約70億ドルに達した対ウクライナ安全保障支援に加え、最新の防空システムNASAMSを含め新たに8億ドルを支援する。7月中旬までに8基が配備される米M142高機動ロケット砲システム「ハイマース」(射程約70キロメートル)の一斉射撃は精密誘導爆弾を搭載した攻撃機による空爆に匹敵する破壊力を発揮するという。
「ウクライナの勝利は可能だが、そのためには国際的な支援が不可欠」
英国もドイツもそれぞれ3基の多連装ロケットシステムをウクライナに供与する。前出のロペス氏らウクライナ入りしている外国人志願兵は、「西側の武器供与や資金援助が途切れず、射程の長い大砲でロシア軍占領地域の武器・弾薬・燃料の兵站を叩くことができれば、領土内からロシア軍を駆逐できる」と口をそろえる。問題は西側にその意志と結束力があるかどうかだ。
バイデン氏はロシアとの核戦争へのエスカレートを回避するため「ハイマース」でロシア領土を攻撃しないことをウクライナ側に約束させた。しかし「ハイマース」を供与したバイデン氏は「エスカレーション・リスク」を背負って、ロシア軍が大砲と塹壕の消耗戦で優位に立つ戦局を逆転させようと決断したのは間違いない。
RUSIのワトリング氏は最新の報告書『ウクライナが生存から勝利への道を開くために』の中で「ウクライナはロシア軍を作戦上、敗北させる意志を持っている。しかし現時点ではロシア軍の優位性とウクライナ軍の弱点がいくつかあるため消耗戦となり、最終的にはロシアに有利な長期戦になる恐れがある」と分析する。
「ウクライナの勝利は可能だが、そのためには国際的な支援が不可欠だ。それがなければウクライナは消耗して経済的に疲弊するか、数年に及ぶ長期的で血なまぐさい戦争に巻き込まれるかもしれない。ウクライナへの効果的な支援には、提供される装備の合理化と、プラットフォームと軍需品の標準化、適切なメンテナンスが必要だ」(ワトリング氏)
ウクライナが勝利するための戦術的要件
そう語るワトリング氏はウクライナが勝利するための戦術的要件を列挙する。
第一に、ウクライナ軍はロシア軍の砲兵優勢を抑えるため大規模砲兵の兵站を破壊する。
第二に、ウクライナ軍は自軍の火砲を使用して、ロシア軍が集中するのを防がなければならない。
第三に、ウクライナ軍はロシア軍の電子戦アーキテクチャを攻撃し、大砲戦に勝利するためターゲットの位置を特定して伝達するキルチェーンを機能させる。
第四に、ウクライナが地上作戦で攻撃に転じるため、歩兵技能の大規模訓練、ウクライナの旅団・師団計画の支援、砲撃にも耐えられる機動力を提供する。
第五に、ウクライナの訓練基地、重要な国家インフラ、人口集中地区をロシアの長距離精密攻撃から守るため、巡航ミサイル追跡システムとポイント・ディフェンスを提供する。
装備の優先順位は(1)多連装ロケットシステム、(2)155ミリメートル榴弾砲と弾薬、(3)電子戦アーキテクチャを破壊する対レーダー徘徊型兵器、(4)安全な戦術的通信手段、(5)NLAW、ジャベリンなど対戦車誘導兵器、(6)スターストリークのような携帯式防空ミサイルシステム、(7)砲撃下も移動できる装甲車だという。
ワトリング氏は「これらの装備を満たすには備蓄分では追いつかず、新たな生産が必要となる。ロシア軍がキーウから撤退しなければならないと判断したようにロシアに侵略を止めることが最善策だと分からせるためには、ウクライナの備蓄と西側の意志を磨り減らす長期戦では勝てないことをクレムリンに確信させなければならない」と指摘している。
●G20外相会合、開幕 ロシア、西側諸国が出席 ウクライナめぐり外交戦 7/7
インドネシアのバリ島で7日夜、20カ国・地域(G20)外相会合の歓迎レセプションが開かれた。
全体会合は8日に行われ、林芳正外相、ブリンケン米国務長官のほか、ウクライナに侵攻したロシアのラブロフ外相も出席予定。ロシアと西側諸国の外相が対面するのは侵攻後初となり、どのような外交戦が展開されるのか、注目される。
11月にはG20首脳会合(サミット)が予定され、ロシアのプーチン大統領が出席を検討。米国はロシアの参加に反対しているものの、G20メンバーの対応は割れている。外相会合はサミットの行方を占う場ともなる。

 

●「我々はまだ本気を出していない」 さらなる軍事力投入もありえると警告 7/8
ウクライナ侵攻をめぐり、ロシアのプーチン大統領は「我々はまだ本気を出していない」として、さらなる軍事力投入もありえると示唆し、欧米をけん制しました。
ロシア・プーチン大統領「彼らは戦場で我々を打ち倒そうとしていると聞く。ならばやってみるがいい」
プーチン大統領は7日、「ウクライナ人が最後の一人になるまで西側はロシアと戦うつもりだと聞いている。ウクライナ国民にとっては悲劇だがそうなりつつあるようだ」と話しました。
そのうえで「我々はまだ本気を出していない」として、さらなる軍事力投入もありえると示唆し、欧米をけん制しました。一方で「停戦交渉は拒否していない」とも発言。ただ、「先に進めば進むほど交渉は難しくなる」と述べています。
●さらなる攻勢へ「余力」強調 ウクライナ侵攻でロ大統領 7/8
ロシアのプーチン大統領は7日、ウクライナ侵攻について「われわれがまだ何も本格的に始めていないことを誰もが知るべきだ」と語り、さらに攻勢を掛ける余力があるとの構えを強調した。下院の各会派代表らとの会合で語った。
ロシアが「和平交渉を拒否していない」とも述べ、話し合いを拒んでいるのはウクライナ側だとする従来の主張を繰り返した。ウクライナ側の拒否が長引けば、交渉は「難しくなる」と揺さぶりをかけた。
●プーチン氏、欧米に「ロシアを敗北させてみろ」 7/8
ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は7日、露下院の各党代表らとの会合で、ウクライナを支援する米欧諸国に対し「ロシアを敗北させられるなら試してもらおう」と述べ、強気の姿勢を崩さなかった。また、ウクライナのゼレンスキー政権を念頭に「停戦交渉を拒否するほど、私たちとの合意は困難になると理解すべきだ」とし、降伏を勧告した。
ただ、一連の戦闘ではロシア軍にも相当な損害が出ているほか、露国内では制裁による生産力の低下や経済の縮小が進みつつある。プーチン氏に発言には、ウクライナを早期に降伏させて「勝利」し、状況を打開したいとの思惑がにじんでいる可能性もある。
プーチン氏は、米欧は軍事支援によってウクライナ人が最後の一人になるまで戦うよう仕向けていると主張。「これは悲劇だが、全てがそこに向かっている。ロシアはまだ本気になっていない」とし、米欧が支援を続ける限り攻撃を強化すると警告した。
また、「制裁は露経済に困難をもたらしたが、米欧側が望むような結果は出ていない」とし、米欧企業の露撤退は国内産業の発展を促したとも主張した。
さらに「ロシアが戦争を始めたといわれるが、米欧が戦争を解き放ったのだ」と強調。侵攻の責任は、ロシアの影響力を弱めるためにウクライナの親欧米派勢力と結びついて反露政策を推し進めた米欧側にあるとする持論を繰り返した。
●西側主要国の制裁でロシア経済はいつまで耐えられるのか 7/8
ロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始してから、4カ月以上が経過した。プーチン大統領の当初の目論見とは裏腹に、彼がいう「特別軍事作戦」は、ロシア軍の総力を挙げた攻撃にもかかわらず、東部戦線で膠着状態に陥っている。戦争が長期化するか否かは、ロシア軍の兵站次第であり、より大きな視点で見れば、ロシア経済の今後の動向にかかっている。
2014年のクリミア併合時をはるかに凌駕する規模と強度で欧州連合(EU)や先進7カ国(G7)が繰り出した経済制裁が目に見えて効果を発揮するのは、いよいよこれからである。以下では、Q&A方式により、経済制裁下のロシア経済の見通しについて見ていく。
ロシア経済への打撃はどの程度か
Q1 現状では、ロシア経済は大きく混乱してはいないように見えるが、本当に経済制裁は効果をもたらすのか? 
経済制裁の効果は、経済主体の反応行動として引き起こされる、財・金融市場の混乱・停滞(市場ショック)と、制裁の直接効果の2つに分けて考えるのがよい。
前者の市場ショックの予測は2008年世界金融危機後の経済動向が、後者の制裁の直接効果の予測は2014年クリミア併合後のそれが、直近の歴史的経験として大いに参考になる。2009年のロシアの経済成長率はマイナス7.8%、2015年はマイナス2.0%であった。
今回の経済制裁が、2008年金融危機と同等の市場ショックを引き起こし、なおかつ、制裁規模がクリミア併合時の5倍と仮定すると、市場ショックと制裁直接効果の重複部分を差し引けば、今年3〜12月のGDP(国内総生産)は年率換算で10%のマイナスになっても不思議ではない。
世界銀行による今年のロシア経済見通しがマイナス8.9%であるように、多くの国際機関やシンクタンクのGDP成長率予想が10%±3ポイントの範囲にあるゆえんである。
ロシア連邦統計局が5月中旬に発表した4月の消費者物価指数は、前年同月比で17.8%上昇した。制裁による通貨ルーブルの大幅な変動が要因である。物価の急激な上昇は、国民経済活動を直撃するだろう。
2022年2〜4月間の小売店での万引き件数が前年同期比で18%増加しているという事実や、医薬品の買い占め現象も、ロシアの市民生活が苦境に陥りつつあることを示唆している。
制裁の影響はすでに顕在化しているとみてよい。しかし、2014年クリミア併合に対する経済制裁の際にも制裁発動と実際の影響の間には一定のタイムラグがあった。その経験に照らすと、今回の制裁措置が目にも明らかな効果をもたらすのは、まさにこれからだといえる。
Q2 では、ロシア経済が崩壊し、ロシア市民がプーチン大統領に反旗を翻す日は近いのか? 
ソ連崩壊直後の経験に照らしてみれば、ロシアでは、GDPが20%落ち込むと、市民の生活が明らかに困窮化する。
逆に言えば、そのようにロシア市民の「冷蔵庫が空になる」(ロシア国民のプーチン政権への見方に大きな転換が生じるきっかけになるというスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ=ノーベル文学賞受賞者の発言)のは、現行の制裁措置が強力に維持されると仮定してもかなり先になるだろう。
ロシア市民による反戦活動拡大はすぐには期待薄
現在、ロシア国内では、国営メディアの世論操作が非常に有効に機能しているようである。そのため、紛争当初期待されたロシア市民による反戦活動の大きな盛り上がりは、これからもすぐには望めないかもしれず、ゆえに「プーチンの戦争」を早期に止めるためには、ウクライナがロシアを軍事的に打ち負かすか、ないしはロシア政府の戦費を干上がらす、いわゆる「兵糧攻め」に期待するしかない。
Q3 対ロシア制裁は、SWIFT(国際銀行間通信協会)除外などの金融制裁、貿易規制、政権幹部らの資産凍結といった広範な内容を含んでいるが、最も打撃を与えている手段は何か? 
これまでに採用された制裁措置のうち、ロシア経済に極めて大きな打撃を与えうるのは、約6000億ドルといわれるロシア中央銀行の国際準備資産の一部凍結と、ロシア有力銀行のSWIFTやユーロクリア(国際証券決済機関)などからの排除の2措置である。
これらの金融制裁は、国有銀行・政府関連銀行の資産凍結・取引制限、VISAなどの民間国際決済システムの取引停止、Western Union社などによる海外送金サービスの停止によって補完されている。
また、ロシア産化石燃料の輸入禁止措置も、さまざまな技術的理由からその完全実現には時間を要するが、ロシア政府や産業界を強く動揺させるだろう。6月開催のG7エルマウサミットは、ロシア産金の禁輸に合意した。金は化石燃料に次ぐロシアの輸出品であり、発動のタイミングはやや遅きに失した感はあるが、この措置も一定の兵糧攻め効果を発揮するであろう。
このほか、ロシア・ベラルーシの道路輸送事業者によるEU域内での輸送禁止やロシア籍船舶のEU域内港湾へのアクセス禁止なども、EUと英国が共同決定したロシア産石油輸送タンカーへの保険禁止措置と相まって、金融・エネルギー制裁と比せば効果は小さいものの、ロシア企業に相当の打撃を与えるだろう。
実際の効果より政治メッセージ重視の制裁もある
一方、政府高官、議員、オリガルヒ(新興財閥)およびそれらの家族・親族の資産凍結・行動制限や、高級品・奢侈品・ハイテク品目の輸出制限・禁止、ロシアへの直接投資制限、最恵国待遇の剥奪、国際機関・国際的協調スキームからの排除、外交官の追放を含むそのほかの措置は、政治メッセージ的な意味合いが強いか、ないしは、あくまで中・長期的な効果があるものに限られる。
カナダ政府は、制裁措置の一環として凍結した個人や団体の資産を没収し、ウクライナの被害者補償に充てるための措置を検討していると表明した。仮に同様の措置をほかのG7や欧州諸国が採用したとしても、ロシア経済全体に大きな打撃を与えることにはならないが、オリガルヒやプーチン大統領の取り巻きの危機感や焦燥感を醸成する効果は期待できる。デュープロセス(法に基づく適切手続き)の問題が立ちはだかると思われるが、各国政府の知恵と工夫に期待したい。
以上のとおり、経済制裁は、特定のいくつかの措置を除いて、短期的な「兵糧攻め」効果を望むことはできない。しかし、ロシア経済の政策的封鎖が、企業と市民の行動様式や将来予測を悲観的なものへと変えることにより、経済活動に多大な悪影響をもたらす間接効果(市場ショック効果)は大きい。
英シェル、仏ルノー、米マクドナルドに象徴される300社超を数える外資系企業撤退のロシア市場への心理的・実際的効果も小さくない。6月26日、ロシアの外貨建て国債はついに債務不履行に陥った(ロシア側は認めていない)。通貨ルーブルの価値急落とこれに伴うロシア金融市場の混乱は目前である。
一方で、こうした経済的混乱や景気後退が、ロシア市民のプーチン政権への怒りを、戦争を止めるに十分なレベルにまで高めるか否かは判断が難しい。
ロシアでは、自家農園を利用した食料の自給自足や地縁・血縁を介したインフォーマルな経済交換ネットワークが深く浸透している(特に、プーチン支持率が高い地方や農村地域に多い)。長らくこのシステムが、フォーマルな経済活動の悪影響を緩和する「ダンパー」の役割を果たしてきた。
ロシア独特の強靱性と制裁の抜け穴には注意
ロシア経済のこうした二層構造の強靭性を過小評価すると、経済制裁効果の評価と将来予測を大きく損なう恐れがある。さらに、プーチン政権の資源配分能力は非常に強力で、ロシア国民に困窮生活を強いてでも、軍産複合体を維持し続ける可能性は十分にある。この点を軽視してはならない。
Q4 暗号資産やCIPS(中国の人民元国際決済システム)を通じた資金のやり取りや欧州へのロシア産化石燃料の供給継続が、制裁効果を緩和すると指摘されている。どのような対策が必要か? 
EUやG7政府が組織立って制裁の抜け穴をすべて効果的に封鎖できるとは考えられない。
暗号資産やCIPSを介した資金取引に注目が集まっているが、このほか、外交特権で税関などで中身の確認が行われない外交行嚢(封印袋)を使ったクーリエ(外交文書の運搬)による現金輸送や、中国やそのほかの親ロシア的な国々を介した金融仲介・信用供与、海外のロシア人や企業、さらにロシア・ウクライナ戦争の継続から利を得る勢力からのサポートといった制裁崩しも考えられる。これらの対抗策をすべて効果的に抑止することは難しい。
こうした制裁回避行動よりもっと大きな問題は、ドイツを中心とする欧州諸国の多くが、依然としてロシアからの石油・ガス輸入を続け、その代金をSWIFTから除外されていないロシアの銀行を通じて支払い続けているという事実にほかならない。
欧州委員会は、ロシア最大手ズベルバンクのSWIFT排除に加えて、2022年内のロシア産原油の全面輸入停止をも盛り込んだ追加制裁案を公表した。とはいえ、EUによるエネルギーの全面禁輸は一朝一夕には実現しないであろう。
例えば、EUのLNG基地能力には限界があり、パイプライン経由で輸入しているロシア産天然ガスの全量をLNGで代替する場合、輸入量の約30%分に相当する年4000万トンの基地能力が不足している。
プーチンの戦争を一日でも早く止めたい民主主義陣営にとって、この問題はまさにジレンマである。G7エルマウサミットは、ロシア産原油の輸出価格に上限を課す措置を採用した。入念な制度設計が必要であるが、その効果に期待したい。
中国やインドはロシア産原油輸入を拡大している
中国やインドが、ロシア産原油の輸入を増やしている点にも注意が必要である。ロシアは、国際価格より大幅にディスカウントした価格で、これら2カ国や第3世界に原油を提供しており、これらの国々が飛びついた形になっている。
中国の5月の原油輸入量は、ロシア産がサウジアラビア産を抜いて2021年12月以来5か月ぶりに首位になった。ロシア産は841万トン、サウジアラビア産は781万トンであったという。金額ベースでは、前者の58億ドルに対して、後者は63億ドルであるから、ロシアはかなり安価に中国へ原油を輸出している。
これらの国々にとって、割安なロシア産原油を調達する経済的メリットは大きく、この流れを食い止めるには、民主主義陣営による相当の外交的努力が必要であろう。
以上のとおり、EUやG7による対ロ制裁措置の効果を相殺する動きはどうしても避けられない。しかし、それを加味しても、少なくとも短期的には、ロシア経済が一連の制裁によって強く圧迫されることは間違いないと思われる。
Q5 ロシア・ウクライナ戦争の経済的帰結をどう予測するか? 
今回の紛争は、次のように考えられる両極端なシナリオの間のどこかに着地するだろう。
一方の極端は、ロシアがウクライナを占領したうえ、東欧・コーカサス・北欧諸国にも軍事的侵攻を続けるか、ないしは西側諸国と激しく冷戦対峙するというものである。
この場合、ロシアは、ソ連時代に匹敵する厳しい経済封鎖の下で、ウクライナ復興と軍事行動・軍拡への多大な財政投入を余儀なくされる。国内の経済的疲弊も進み、徐々にしかし確実に衰退するだろう。
ただし、数年をかけて、中国などの権威主義諸国を利用しつつ、西側諸国の経済封鎖をかいくぐるシステムを構築し、非常に低水準だが拡大再生産を実現する道を確保するだろう。
もう一方の極端なシナリオは、ウクライナがロシアを軍事的に打ち負かし、その反動としてプーチン体制が瓦解し、自由民主主義的な政権が樹立されるというものである。この場合、ロシア新政府は、ウクライナへの戦争犯罪を認め、その補償として、ウクライナに対する長期間かつ極めて多額な財政支援を余儀なくされるだろう。
どちらのシナリオでもロシア経済の衰退は不可避
世界銀行は、ロシアの軍事侵攻によるウクライナの直接的な被害額を600億ドルとする評価を公表し、ウクライナ政府は、間接的な被害も含めると損害額は5649億ドルに達すると見積もっている。
現時点でも非常に多額の損失だが、戦争が継続すれば損害額はさらに膨れ上がることが避けられない。この戦争被害をロシア財政で全面補填するとなれば、その副作用としてロシア経済の衰退が加速するだろう。
後者のシナリオは、世界経済へのロシアの復帰が見込まれる分だけ、ロシア経済にとってはよりよい道になるかもしれないが、この場合でも、同国の市民生活は長期にわたって厳しい状況に陥ると予測する。
学術・技術開発活動の大幅な後退はいわずもがなであり、頭脳流出や人口危機の加速も伴って、じりじりとロシア経済の潜在力を蝕むだろう。未来が両極端なシナリオの間のどこに着地しようとも、ロシアの経済的将来は暗い。 
●ウクライナ「再建には100兆円…凍結したロシア資産を売却しよう」 7/8
ウクライナ政府は、ロシアの侵攻によって破壊された国土の復興には約7500億ドル(約103兆円)が必要だと述べた。また、戦争を引き起こしたロシアに責任を取らせるために、各国が「凍結」しているロシアの資産を、再建事業の財源として用いるべきだと提案した。
ウクライナのデニス・シュミハリ首相は4日、スイス南部のルガーノで開催された「ウクライナ再建会議」で、戦争による被害からの復興には約7500億ドルが必要だとする推定値を提示しつつ、「(各国がロシアに対する制裁として凍結している)ロシアの凍結資産は3000億〜5000億ドルほどだと推定される。ロシア政府がこの血なまぐさい戦争を開始し、大量破壊を引き起こしたのだから、彼らが責任を取るべきだ」と語った。ウクライナ再建に必要な財源の半分程度を、米国などが凍結中のロシア資産を売却して使用したいという見解を明らかにしたのだ。だが、資産を「凍結」することと、それを「売却」して使うこととは全く異なる問題であるため、この提案が実現するかは未知数だ。
シュミハリ首相は続いて、再建事業は「緊急度」を考慮し、第1次として水道や橋などの日常生活に密接に関連する社会間接資本の復旧、次いで学校、病院、住宅などの再建、最後は長期的な経済回復を目標にするという3段階のアプローチを提示した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領もオンライン演説で「この会議の決定は民主主義の歴史的な勝利の第一歩となるだろう。ウクライナの再建は一国ではなく民主的な世界の共通課題だ」と述べた。
ウクライナとスイスの政府が共同開催した同会議には、韓米日や欧州の主要国など40カ国あまりと欧州連合(EU)、世界銀行、北大西洋条約機構(NATO)なども参加した。当初はウクライナの改革を支援するための会議として計画されていたが、2月末の開戦を受けて、テーマが「再建支援」に変更された。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長はこの日、「EUは(ウクライナの戦後復興事業に)特別な責任と戦略的関心がある。この旅程のすべての歩みにおいてウクライナの側に立つだろう」と述べた。
韓国からは外交部のイ・ドフン第2次官が会議に参加した。イ次官は5日の全体会議での発言で、ウクライナ再建の基本的方向性に対する韓国政府の立場を説明するとともに、国際社会と努力を共にするとの考えを明らかにした。
●ウクライナ兵1000人以上「英国で訓練」…プーチン氏「打ち負かしたい?」  7/8
ウクライナのオンラインメディア「ウクライナ・プラウダ」などによると、同国の軍参謀本部は7日、英国でウクライナ軍兵士1000人以上が訓練を開始したと明らかにした。訓練は、供与を受ける兵器の操作方法などを習得することが目的だ。ドイツでも最近まで訓練が行われていたという。
また同本部は7日、英軍とウクライナ軍の制服組トップがキーウで会談し、英国などからの支援について協議したと発表した。
ウクライナは欧米から提供された兵器で、反撃に転じたい考えだ。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7日、米CNNのインタビューで、「時間通りに強力な兵器が供与されれば、年末までに戦争を終わらせることもできるだろう」との見方を示し、米欧に兵器の供与を急ぐよう訴えた。ゼレンスキー氏は、バイデン米大統領のキーウ訪問も改めて求めた。
ロシアのプーチン大統領は7日、露下院の政党代表者らと会い、「我々を打ち負かしたいと耳にしているが、試してみるといい」などと欧米に反発した。
露軍はウクライナ東部ドネツク州の制圧に向け、攻撃を続けている。同州の知事らによると、露軍は7日、主要都市クラマトルスクでホテルや集合住宅などにミサイルを発射し、少なくとも1人が死亡、6人が負傷した。知事は「民間人を意図的に狙った」と非難した。
一方、ウクライナ軍などは7日、露軍から6月30日に奪還した黒海のズミイヌイ(蛇)島に、ウクライナ国旗を掲げた空撮動画をSNSに投稿した。露国防省は7日、ウクライナ軍がこの動画を撮影していた際、同島をミサイルで攻撃し、一部の兵士が死亡したと主張した。ウクライナ軍参謀本部は、兵士の死亡は否定したが、南部オデーサ州の報道官も7日、島に露軍がミサイル2発を撃ち込み、桟橋が損壊したと発表した。
●プーチン氏、ロシア倒したいなら「試すがいい」  7/8
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は7日、ロシア下院幹部らに向けた演説で、西側諸国が戦場でロシアを打ち負かしたいなら「試すがいい」と述べた。また、ロシアはまだ本格的な攻撃には出ていないとし、ウクライナへの侵攻をめぐり強気な発言を展開した。
プーチン氏は、戦争が長期化すればするほどウクライナ側は交渉を行うのが困難になると主張している。
ウクライナの一大工業地帯でもある東部ドンバス地方は、ドネツクとルハンスクの2州で構成されている。ロシア軍はルハンスク州のウクライナ軍の最後の防衛拠点だったリシチャンスク市を制圧し、同州全域を掌握。現在はドネツク州に向けてゆっくりと前進を続けている。7日にはミサイル攻撃で少なくとも1人の民間人が死亡した。
一方で南部ではウクライナ軍側にとって、いくらか進展がみられている。ウクライナ軍は、ロシア軍が今月初旬に黒海の北西部にあるズミイヌイ(英語名スネーク)島から撤退した後、島に再びウクライナ国旗を掲げた。同島はウクライナ軍の戦略上、大きな役割を果たしてきた。
ゼレンスキー氏、辞任表明の英首相に謝意
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7日、辞任を表明したイギリスのボリス・ジョンソン首相に謝意を伝えた。ジョンソン氏は、新型コロナウイルスのロックダウン中に首相官邸などで「飲み会」が開かれた「パーティーゲート」問題や、痴漢疑惑が持ち上がっていた議員を党要職に任命した問題などで、与党内でも反発が強まっていた。
報道によると、ゼレンスキー氏はジョンソン氏に電話で、「私だけでなく、ウクライナ社会全体が大いに同情している」、ウクライナを助けるためにジョンソン氏が取った「断固たる行動」に感謝していると伝えた。
「我々はイギリスの支援継続を確信しているが、あなた個人のリーダーシップとカリスマ性によって、それが特別なものとなった」と、ゼレンスキー氏は述べたという。
両首脳は2月の侵攻開始以降、親密な関係を築いてきた。4月には、ジョンソン氏が主要7カ国(G7)の首脳として初めてキーウを訪問。6月半ばにも訪問している。
ウクライナにドローン提供
リトアニアで、ウクライナに提供されるドローンが公開された。
リトアニアのテレビチャンネル「Laisves TV」は当初、ドローン購入のためクラウドファンディングで600万ユーロ(約8億2600万円)を募った。
しかしその後、トルコのメーカーが無償提供を決めた。
クラウドファンディングで募った資金は今後、ドローンの武装化のほか、人道支援にもあてられる予定。
ロシアによる戦争犯罪「2万1000件超」
ウクライナ検察は現在、ロシアによる戦争犯罪と侵略犯罪の疑いのある事案を2万1000件以上調査している。
イリナ・ウェネディクトワ検事総長は、1日に200〜300件の戦争犯罪の報告を受けていると、BBCに話した。
ロシアは2月24日にウクライナに侵攻した。戦争犯罪については、疑惑を全面的に否定している。
ウクライナはすでに、ウクライナ北東部チュパヒフカ村でオレクサンドル・シェリポフさん(62)を殺害した罪でロシア軍戦車部隊の戦車長ヴァディム・シシマリン被告(21)を収監している。
ただ、指揮官やプーチン大統領自身を訴追するのは、困難とみられている。
●ロシア、西側諸国が同席=「ウクライナ戦争終結を」と議長―G20外相会合 7/8
インドネシアのバリ島で8日、20カ国・地域(G20)外相会合の実質討議が行われた。ウクライナに侵攻したロシアのラブロフ外相と、ブリンケン米国務長官ら西側諸国の外相が、侵攻後初めて同席した。
会合の冒頭、議長国インドネシアのルトノ外相が演説し、「世界はまだ新型コロナウイルス禍から回復していないのに、ウクライナでの戦争という新たな危機に直面している」と指摘。「戦争を早く終わらせるのが私たちの責任であり、戦場ではなく交渉の席で相違を解消すべきだ」と訴えた。 
●G20外相会合 ウクライナ情勢めぐり全体議論始まる  7/8
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻以降、初めてとなるG20=主要20か国の外相会合は8日、ウクライナ情勢をめぐって全体での議論を始めました。欧米各国とロシアとで主張が対立することも予想され、G20として事態の打開につながる方向性を打ち出せるかが焦点です。
インドネシアのバリ島で7日から始まったG20の外相会合は8日、全体での議論が行われ、アメリカのブリンケン国務長官やロシアのラブロフ外相らが対面で参加しています。
議論はさきほど始まり、ウクライナ情勢をめぐって意見を交わしているとみられ、現地時間の午後からは世界的なエネルギー価格の高騰や懸念が高まる食料危機への対応などについて議論します。
食料価格の高騰について、欧米各国はロシアがウクライナの港を封鎖するなどして輸出を妨げていると非難している一方、ロシアは欧米による経済制裁が原因になっていると反発しています。
今回の会合では、7日行われた歓迎レセプションをG7=主要7か国が欠席したことが明らかになるなど、ウクライナ情勢をめぐる欧米各国とロシアとの対立がすでに表面化しています。
8日の全体での議論では、欧米各国とロシアとで主張が対立することも予想され、G20として事態の打開につながる方向性を打ち出せるかが焦点です。
中国の王毅外相「分裂ではなく団結を重視すべき」
中国の王毅外相は、G20外相会合が行われているインドネシアのバリ島で7日、インドのジャイシャンカル外相と会談しました。
中国外務省によりますと、この中で、王毅外相はロシアによるウクライナ侵攻への対応をめぐり「冷戦思考をあおり、陣営の対立をかきたてることに反対する。世界は、分裂ではなく団結を重視すべきで、必要なのは対立ではなく対話だ」と述べました。
さらに「ウクライナの危機を口実に一方的な制裁を乱用するのは、正当ではなく、合法でもない。国際貿易のルールにも反しており、ウクライナの危機をより拡大させている」と主張しロシアへの制裁を強める欧米側をけん制しました。
海外報道陣からロシア外相に「いつ戦争をやめるのか」
G20の外相会合の会場では、現地時間の8日午前9時半ごろから議長国を務めるインドネシアのルトノ外相が各国の外相を出迎えました。
ロシアのラブロフ外相が到着し、ルトノ外相と一緒に写真を撮影していた際には、取材をしていた海外の報道陣から「いつ戦争をやめるのか」と声が上がりました。
ラブロフ外相は何も答えず、写真撮影を終えると会場へと歩いて向かいました。
その後、声を上げた報道陣の1人はインドネシア政府の関係者によって、取材の場から出される事態となりました。
またG20のような国際会議では、出席者全員で集合写真を撮影することが通例となっていますが、8日は撮影はありませんでした。
インドネシア政府の関係者によりますと、ルトノ外相の指示で撮影を取りやめたということで、ロシアの出席に難色を示している欧米各国に配慮したとみられます。
●G20外相会合閉幕 欧米各国とロシアとの対立 一段と鮮明に  7/8
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって以降、初めてとなるG20=主要20か国の外相会合は、8日閉幕しました。会合では、欧米各国がロシアを非難したとみられ、ウクライナ情勢をめぐる対立が一段と鮮明になりました。
インドネシアのバリ島で7日始まったG20の外相会合は8日、全体での議論が行われ、アメリカのブリンケン国務長官やロシアのラブロフ外相らが対面で出席しました。
8日はウクライナ情勢を背景にした世界的なエネルギー価格の高騰や、懸念が高まる食料危機への対応などについて各国が意見を交わし、日本時間の午後6時ごろ閉幕しました。
閉幕後、会見したインドネシアのルトノ外相は「各国は、平和と安定のための環境づくりには、国家間の信頼関係が重要であると確認した」と述べました。
一方で、会合の中で複数の国がロシアによるウクライナへの軍事侵攻を批判したことを明らかにし、欧米各国がロシアを非難したとみられます。
これに対してラブロフ外相は「欧米側が、交渉ではなく、戦場でロシアを打ち負かそうとするのであれば、話すことは何もない」と欧米各国を批判しました。
今回の会合では、G20として事態の打開につながる方向性を打ち出せるかが焦点となっていましたが、ウクライナ情勢をめぐる対立が一段と鮮明になりました。
林外相 ロシアによるウクライナ侵攻を非難
一連の討議で、林外務大臣は、ロシアによるウクライナ侵攻は、先の大戦後、国際社会が築いてきた法の支配などに基づく秩序の基盤を破壊しようとしていると非難しました。
そのうえで、法の支配を選ぶのか、むきだしの力による支配を選ぶのか、各国の選択が今後の世界の行く末を決めることになると指摘し、国際秩序を守るための連携を呼びかけました。
また、林大臣は、世界的な食料危機は、ウクライナからの穀物輸出をロシアが阻んでいることなどによるもので、G7=主要7か国の制裁が原因だとするロシア側の主張は完全な誤りだと強調しました。
そして、ウクライナや途上国へのおよそ2億ドルの食料支援など、日本の取り組みを説明し、国際協調の重要性を訴えました。
林外相 韓国外相と立ち話 “健全な関係に戻すため尽力を”
G20=主要20か国の外相会合に出席するため、インドネシアを訪れた林外務大臣は、韓国のパク・チン(朴振)外相と短時間、立ち話を行い「非常に厳しい日韓関係を健全な関係に戻すために尽力いただきたい」と呼びかけました。
この中で、韓国のパク外相は、安倍元総理大臣が銃撃された事件について、深い遺憾と憂慮の意を示しました。
また、日韓関係について、林大臣は、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題などを念頭に「非常に厳しい日韓関係を健全な関係に戻すために尽力いただきたい」と呼びかけました。
●ウクライナ情勢をめぐり王毅部長が3つの懸念を表明 7/8
G20外相会合出席のためバリ島に滞在中の王毅国務委員兼外交部長(外相)は7日、インドのジャイシャンカル外相とウクライナ問題について意見交換し、現在のウクライナ情勢をめぐる中国側の3つの懸念として、以下を挙げた。
(1)これを利用して冷戦思考を煽り立て、陣営対立を宣伝し、「新冷戦」を作り出すことに反対する。厳しく複雑な試練を前に、世界は分断ではなく団結を重視し、対立ではなく対話を必要としている。中国は引き続き揺るぎなく歴史の正しい側に立ち、和平交渉促進の側に立っていく。
(2)ダブルスタンダードを用いて、中国の主権及び領土的一体性を損なうことに反対する。いくつかの国々はウクライナ問題においては主権原則を強調するが、台湾地区問題になると中国の主権と「一つの中国」原則に絶えず挑戦し、さらには意図的に台湾海峡情勢に緊張を作り出している。これは露骨なダブルスタンダードだ。中国は、ウクライナ危機と台湾地区問題を同列に論じる企てを拒絶し、自らの核心的利益を断固として守っていく。
(3)他国の正当な発展権益を損なうことに反対する。ウクライナ危機を口実に、中国など他国への一方的制裁を発動する国があるが、これは正当でも合法的でもなく、国家間の正常な交流を損ない、国際貿易の通常のルールに違反し、ウクライナ危機の複雑化と拡大も招いている。各国はこれを共同で阻止し、開放的で公平かつ差別のない国際協力環境の構築に努力するべきだ。
●ウクライナ情勢を受け、石炭火力発電所の稼働を延長 7/8
英国の系統運用事業者ナショナル・グリッドESO(NGESO)と英国発電大手ドラックスは7月6日、ロシアによるウクライナ侵攻などを受け、今冬にかけてのエネルギー安全保障強化のため、英国政府の要請を受けて石炭火力発電所の稼働を一時的に延長することに合意した[ドラックスの6月6日付発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、およびクワシ・クワルテング・ビジネス・エネルギー・産業戦略(BEIS)相がウィル・ガーディナー・ドラックスCEOに宛てた同日付書簡PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)]。
今回対象となる発電所は、ドラックスのヨークシャー発電所にある2つの石炭火力発電ユニット。2022年9月末での閉鎖が予定されていたが、今回の合意に伴い、2023年3月まで稼働が延長されることとなった。ドラックスは最大約40万トンの追加石炭を調達し、NGESOから指示された場合にのみ稼働する。
クワルテング・ビジネス・エネルギー・産業戦略相は、同日付のツイッターで「ロシアが欧州各地へのガスを遮断している中、今回の措置は賢明な予防策といえる。私はエネルギー担当相として、この冬に十分な供給を確保する責任がある」と述べた。
ドラックスの火力発電ユニットは、2023年の閉鎖後、2027年までに炭素回収・貯留型バイオマス発電(BECCS)プロジェクトとして再開発することが計画されている。
エネルギー安全保障を目的に、政府の要請で火力発電所の稼働を延長する動きは、フランス・エネルギー大手EDFの英国子会社EDFエナジーのウエストバートンA発電所でもみられる。同発電所も2022年9月末に廃止予定だったところ、2023年3月まで稼働を延長する旨を2022年6月14日に発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。ドラックスとEDFエナジーはともに、自社の火力発電所の稼働延長について、あくまでエネルギー安全保障の支援のための緊急的措置で、延長期間には商業運転はしないとしている。
●安倍元首相死去 プーチン大統領「すべての人の心に永遠に残るだろう」 7/8
安倍元総理の死去をうけ、ロシアのプーチン大統領が声明を発表しました。
プーチン大統領は声明で「犯罪者の手は、長い間、日本政府を率いて、両国間の良好な隣人関係を発展させるために多くのことをした優秀な政治家の人生を断ち切った」「シンゾウとは定期的に連絡を取り合い、彼の優れた資質は十分に発揮されていた。この素晴らしい人物のよき思い出は彼を知るすべての人の心に永遠に残るだろう」と記しています。
●開戦は欧米側に責任、プーチン氏主張 東部ドネツク州では6人死亡 7/8
ロシア軍が侵攻を続けるウクライナでは、8日までに東部や北東部を中心に激しい攻撃が続いた。
東部ドネツク州のキリレンコ知事によると、同州では7日、クラマトルスクやスラビャンスクなどへのロシア軍の砲撃によって市民6人が死亡、21人が負傷した。北東部ハルキウ州のシネフボウ知事によると、同州でも7日夜、ロシア軍の砲撃によって市民3人が死亡したという。
一方、プーチン大統領は7日、ロシア下院の幹部らと会談。ウクライナ侵攻を「米国支配の世界秩序の根本的な破壊の始まりを意味する」と位置づけ、欧米を強く牽制(けんせい)した。侵攻の背景として「米国が率いる西側は数十年間、ロシアに対して非常に攻撃的な姿勢だった」と指摘。「欧米が、ロシアとの戦いの新たな段階に移行するために紛争を起こしたかったのなら、それはある程度は成功したと言える」とし、開戦の責任は欧米側にあると主張した。

 

●プーチン氏「制裁は壊滅的なエネルギー価格高招く」、西側に警告 7/9
ロシアのプーチン大統領は8日、ウクライナでの戦争を巡りロシアに対する制裁を継続すれば、世界中の消費者に壊滅的なエネルギー価格の上昇を招くリスクがあると西側諸国に警告した。
ロシアに科された制裁は経済戦争の宣戦布告と指摘。西側諸国がロシア産エネルギーの依存度を下げるよう呼びかけたことが世界の市場を「熱狂」させ、石油価格やガス価格が高騰したと述べた。
その上で「ロシアに対する制裁は制裁を科した国々にはるかに大きな損害を与える」とし、「さらなる制裁は、世界のエネルギー市場に深刻な、誇張でなく壊滅的な結果をもたらすかもしれない」とした。
また「欧州がロシア産エネルギーの代替源を模索していることは認識している。しかし、このような行動の結果、スポット市場でガス価格が上昇し、最終消費者のエネルギー資源のコストが上昇することが予想される」とした。
●G20外相会合 ウクライナ情勢を巡る対立が鮮明に  7/9
G20=主要20カ国・地域の外相会合が閉幕しましたが、ウクライナ情勢を巡る対立が一段と鮮明になり、事態の打開に向けた方向性は打ち出せませんでした。
ロシアのラブロフ外相も出席した8日の会合で、複数の国がウクライナへの軍事侵攻を批判しました。
ロイター通信によりますとアメリカのブリンケン国務長官は「ウクライナの穀物はロシアのものではない。
なぜ港を封鎖するのか」と食料危機に対するロシアの責任を追及したということです。
一方でラブロフ外相は記者団に対し、「欧米側が交渉ではなく、戦場でロシアを打ち負かそうとするのであれば、話すことは何もない」と反発しています。
会合ではウクライナのクレバ外相が招待を受けオンラインで演説しましたが、演説中、ラブロフ外相は退席しました。
対立は一段と鮮明になり、ロシアのプーチン大統領が参加を表明している11月の首脳会合への展望は見えず、G20は具体的な成果がないまま閉幕しました。
●ロシア、ウクライナ南部から撤退する可能性低い=ロシア駐英大使 7/9
ロシアのアンドレイ・ケリン駐英大使は、ロシア軍がウクライナ南部から撤退する可能性は低いと述べた。また、ロシア軍はウクライナ東部ドンバス地域全域でウクライナ軍に勝利するとの見方を示した。
ロイターに対し「われわれはドンバス全域を解放する」と言明。「もちろん、ロシア軍がウクライナ南部から撤退するとは見込みにくい。撤退後に挑発行為が始まり、あらゆる人々が撃たれることをわれわれはすでに経験しているからだ」と語った。
ロシア側は、ウクライナが2014年以降、親ロシア派が実効支配するドンバス地域を攻撃し、繰り返し市民を殺害してきたと主張している。
ケリン大使は、ウクライナは遅かれ早かれロシアと和平協定を結ぶか、破滅に向かい続けるかを決めなければならないとした。
その上で、戦争が激化する可能性は当然あるとの認識を示し、「兵器の動きがロシアの戦略的状況や防衛を危険にさらすような形で組織されれば、われわれはそれに対して重大な措置を取る必要がある」とした。
また、西側諸国は戦争の本当の要因を理解しておらず、ロシアの懸念を無視していると指摘。「論拠は非常に端的で『ロシアが罪のないウクライナに対して攻撃的になっている』というものだが、これは全く真実ではない」とした。
●ウクライナ軍、南部で本格反攻準備 住民に避難要請 7/9
ロシアの侵攻を受けるウクライナのベレシチュク副首相は8日、近くウクライナ軍が本格的な反攻作戦を開始するとして、南部ヘルソン州とザポロジエ州内の露占領地域の住民に即時の避難を呼びかけた。火砲の使用が予定されており、巻き添えとなるのを避けるためだとした。ウクライナメディアが伝えた。
ウクライナ国軍のマロムシュ大将も8日、同国メディアで、米欧から供与された兵器の習熟が完了しつつあると指摘。「今後3〜4週間で大規模な奪還作戦が始まり、南部から露軍を駆逐できるだろう」との見通しを示した。米シンクタンク「戦争研究所」も6日、「ウクライナ軍がヘルソン方面で反攻を準備している」とする分析を公表している。
ただ、露軍も南部の占領地域で防衛線を構築。ウクライナ軍が反攻を本格化させた場合、激しい戦闘が起きる見通しだ。
一方、ロシアが全域の制圧を目指す東部ドンバス地域(ルガンスク、ドネツク両州)のうち、ウクライナ側がなお4割超を保持するドネツク州では8日も攻防が続いた。ウクライナ軍参謀本部は同日、同州の中心都市スラビャンスク方面に前進を図った露軍を撃退したと発表。露軍が同州の複数の集落に砲撃を続けているとも発表した。
ロシアはドンバス全域を制圧後、ドンバスと南部の占領地域を「割譲」する条件でウクライナに停戦をのませる思惑だとみられる。一方、ウクライナはドネツク州を死守する間に、南部の奪還を進める方針だ。
米CNNテレビによると、米国は8日、ウクライナに対し、新たに高機動ロケット砲システム「ハイマース」4基と弾薬、155ミリ榴弾(りゅうだん)砲用の高精度な新型弾薬1千発など、4億ドル(約540億円)相当の追加支援を行うと発表した。
●安倍元首相の訃報、ロシアで何度も放送「プーチンが唯一、気を許した首相」 7/9
ロシア出身のタレントでコラムニストの小原ブラス(30)が8日、ツイッターを更新。自民党の安倍晋三元首相が銃撃されて死去した事件について、ロシア国営放送でもトップニュースで繰り返し報じられたことを紹介し、同国のプーチン大統領が「唯一、気を許し耳を傾けた日本の首相だったと思います」として追悼した。
小原は「ロシア国営放送でも、安倍元首相の件はトップニュースで何度も報じられています」と伝え、「プーチンが唯一、気を許し耳を傾けた日本の首相だったと思います。ご冥福をお祈りいたします」と悼んだ。
安倍氏は長期政権となった第2次安倍内閣で、北方領土問題の交渉などでロシアのプーチン大統領と首脳会談を重ね、ファーストネームで呼び合う信頼関係を築いた。 
●ウクライナ侵略を「戦争」と呼んだモスクワ区議、禁錮7年判決… 7/9
タス通信によると、モスクワの裁判所は8日、ロシア軍によるウクライナ侵略を巡り、露軍に関する「虚偽情報」を広めた罪に問われたモスクワのアレクセイ・ゴリノフ区議に対し、禁錮7年の判決を言い渡した。ゴリノフ氏は今年3月の区議会の会合で、侵略を「戦争」と表現したとされる。
ロシアでは3月、軍に関する虚偽情報の拡散を禁じる条項を刑法に追加し、最長禁錮15年の罰則を設けた。タス通信は、今回が追加条項を適用したケースで初の実刑判決だとしている。
プーチン露政権はウクライナ侵略を「特殊軍事作戦」と称し、戦争と呼ぶことを禁じている。
●ウクライナ住民「選別収容所」、ロシアが18か所設置「100万人以上強制連行」  7/9
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は8日、ロシアがウクライナ住民について反露的かどうかを強制的に調べる「選別収容所」を、両国内に少なくとも18か所設置したことを米当局が確認したと報じた。ロシア軍による人権 蹂躙じゅうりん への懸念が高まっている。
同紙によると、米国の全欧安保協力機構(OSCE)代表部幹部が7日の会合で明らかにした。米当局は、ロシアが2月24日のウクライナ侵略の開始前から、住民リストを作成するなど選別の準備を始めていたと分析。ウクライナ側は、収容所経由で100万人以上の住民がロシアに強制連行されたと主張している。
一方、タス通信によると、東部ドネツク州の親露派武装集団の「議会」は8日、死刑執行の一時停止を撤回した。ウクライナ軍に参加した英国とモロッコの戦闘員3人の死刑執行を可能にし、英国などを揺さぶる狙いがある。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は8日、露軍が全域制圧を目指して攻勢を強める東部ドネツク州に隣接するドニプロペトロウシク州の前線を視察した。大統領府副長官によると、露軍は9日、州内のゼレンスキー氏の出身地クリビー・リフをミサイルなどで攻撃し、20歳の女性が死亡した。
●欧米と露対立 異例の集合写真なし G20外相会合閉幕 7/9
インドネシア・バリ島で開催された主要20カ国・地域(G20)外相会合は8日に終わったが、ロシアによるウクライナ侵攻を巡る欧米、日本とロシアの対立を象徴するかのように、参加者全員による集合写真が撮影されない「異例」の一幕があった。林芳正外相はこの外相会合で、ロシアによるウクライナ侵略を名指しで批判した。
食料・エネルギー議論空転
バリ島でのG20外相会合は最終日の8日、世界的な食料・エネルギー危機への対応などについて協議した。ロシアによるウクライナ侵攻を巡って欧米とロシアの間で激しいやりとりが展開される中、打開策の糸口を見つけることすら厳しい状況。ロシアのプーチン大統領も出席の意向を示している11月の首脳会議に向け、対立の深さが浮かび上がる前哨戦となった。会合は8日午前、議長を務めるインドネシアのルトノ外相が各国の代表を出迎え、個別に写真撮影する形で始まった。通常は参加者全員で集合写真を撮るが、欧米側がロシアのラブロフ外相との撮影を拒否したとみられる。
林外相がロシア非難
林芳正外相は8日、バリ島でのG20外相会合に出席し、「ロシアによるウクライナ侵略は、国際秩序や多国間主義の基盤を破壊しようとしている」とロシアを名指しで批判した。会議には、ロシアのラブロフ外相も出席していた。同日開催されたセッションでは、ロシアのウクライナ侵攻が多国間主義に与えた影響などについて話し合った。林氏は「国際社会は、戦争の惨禍を二度と繰り返すことのないよう、紆余(うよ)曲折を経ながらも法の支配に基づく国際秩序を築き上げてきた」と述べ、ロシアの侵攻により「主権や領土一体性、法の支配といった戦後の国際社会を支えてきた基本原則」が脅かされていると説明した。
ゼレンスキー氏、辞任表明の英首相に謝意
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、主要閣僚らの離反で同日辞任を表明した英国のボリス・ジョンソン首相と電話協議し、これまで受けた支援に謝意を伝えた。ロイター通信が報じた。ウクライナ大統領府の公式発表によると、ゼレンスキー氏は電話協議で辞任表明について「英国の支援は続くと確信しているが、あなたの指導の下では格別だった」と述べ、感謝した。ジョンソン首相の辞任で英国の対露強硬路線が変化する可能性も指摘されている。
●バイデン大統領、CIA職員を称賛 プーチン氏の意図分析で 7/9
バイデン米大統領は8日、米中央情報局(CIA)の本部で演説し、ロシアによるウクライナ侵攻前、プーチン大統領の意図を読み切る優れた分析を示したとして複数のCIA職員の功績をたたえた。
分析結果は侵攻に備え、同盟国の結集を促した米国の指導力に重要な役目を果たしたと指摘。「情報機関当局者の仕事は世界に(侵攻を)警告することを可能にした」と称賛した。
バイデン氏はこの中で、CIAの尽力に触れ、「我々は彼(プーチン大統領)が進めている事柄、彼が集結させている兵力や彼が練っている計画を知ることが出来た」と評価。このおかげで「プーチンの作戦をさらけ出してその口実に巨大な穴を開け、ウクライナで米国がしていることへの彼のうそを覆した」と説明した。
プーチン大統領に関する諜報(ちょうほう)は、北大西洋条約機構(NATO)をウクライナの自主性を維持させる努力で連携させ、ロシアの侵攻を押し戻すことに貢献したと続けた。
●ロシア兵の死者3万7千人、将官は10人 ウクライナ政府幹部 7/9
ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は8日、侵攻したロシア軍兵士の死者数は3万7000人で将官は10人、負傷した兵士は9万8000〜11万7000人に達するなどとSNS上で明らかにした。
破壊された戦車は1605両で、航空機やヘリコプターは計405機とした。CNNはこれらの数字の真偽を独自に立証出来ていない。
ポドリャク氏のこれら数字への言及は、ロシアのプーチン大統領が先に「ロシアはウクライナではまだ本気を出していない」などの趣旨の発言を受けたもの。
プーチン氏はまた、ウクライナ戦争は「ウクライナ人が最後の1人になるまで続く」とも言い切っていた。
ポドリャク顧問は「ロシアはまだ戦闘を始めていない?」とし、「ロシアは戦争をスターリン式の計算で考えているのだろう……2000万人の人命損失?」とも皮肉った。
●中国・ロシアとの関係が冷え込む中「両国指導者と話せる政治家を失った」 7/9
近年の日本の平和や繁栄を築いてきたリーダーがなくなった。日本は大きな財産を失ってしまった。安倍元首相は、本来長野県での応援演説を予定していたが急遽予定を変更し、7月8日朝飛行機で奈良へ向かった。しかし、奈良で演説を開始してから1分が経過した直後、近くいた男が突然背後から安倍元首相に向かって銃撃し、残念ながら帰らぬ人となってしまった。この事件では明らかになっていないことも現時点で多いが、国際問題をウォッチングする筆者としていくつかのポイントを紹介したい。
まず、この事件はテロなのかどうかだ。今日、世界ではテロ、テロリズムという言葉に厳格に決まった定義は存在しない。専門家の数だけテロの定義があるとも言われる。だが、厳格に決まった定義はないにしても、広く共有されている考えがあり、それは、1つの暴力行為に政治性があるかどうかだ。
海外ではアルカイダなどイスラム過激派やその支持者によるテロが欧米を中心に発生してきたが、アルカイダなどは権威主義的なアラブ諸国の政府を打倒し、イスラム法による政教一致的な国家を作るという政治的なビジョンがある。また、近年、欧米社会で頻発する白人至上主義テロでも、そこには白人優位の社会を取り戻す、移民難民など非白人を排斥するなどといった政治的なビジョンがある。
今回の事件で、実行犯の40代の男は、「母親が関係する宗教団体にのめり込んでいき、同団体と金銭トラブルになって我が家が破産した、安倍氏が団体を国内で広めたと思い込んで恨むようになり、殺害しようと決断した」と動機を明らかにした。しかし、それは一方的な個人的な動機であり、学術的にはテロには該当しない。
しかし、厳格な定義が存在しないように、暴力行為の無差別性、被害規模、社会的影響力なども、テロかどうかを判断する上で影響を与える場合も少なくない。今回の事件は、日本元首相、しかも選挙中での事件ということもあり、行為としては政治性を帯びやすい。メディアや政治家からはテロという言葉が何回も聞かれる。テロと決定づける機関、人は存在せず、研究者、政治家、メディア、政府・治安当局がどう判断するかも大きく影響する。いずれにせよ、今回の事件がテロかどうか、これについてはさらなる検証が必要と言えよう。
一方、安倍元首相を失ったことは日本の安全保障においても大きな損失だ。岸田政権が中国やロシアへの対抗姿勢を強める中、9年近く首相の座にいた安倍元首相は習氏やプーチン大統領とも建設的な関係を維持、発展させるため独自に関係を築いてきた。
今回の事件後も、習氏やプーチン大統領は既に哀悼の電報を送っている。プーチン大統領は、「犯罪者によって日露の善隣関係の発展に貢献した傑出した政治家の命が奪われた」と死を惜しんだ。習氏も、「日中関係改善の努力を進め有益な貢献をした」と評価を示した。
中国・ロシアとの関係が冷え込む中、日本は両国指導者とまともに話せる政治家を失ってしまったといえる。
●ロシア・プーチン大統領「いつまでも心に残る」  7/9
ロシアのプーチン大統領は、安倍氏の母洋子さんと昭恵夫人に「深い哀悼の意」を表す弔電を送った。大統領府が発表した。首相在任中、プーチン氏と親密な関係を築き、北方領土交渉で通算27回にわたり直接会談した。
プーチン氏は、日ロの友好関係発展に多大な貢献をした「傑出した政治家」だと安倍氏を評価。「シンゾウとは常に連絡を取り合い、そのたびに彼の素晴らしい人柄と職業的精神が発揮された」と振り返り「彼の記憶はいつまでも心に残るだろう」と悼んだ。
ペスコフ大統領報道官は記者団に「安倍氏は日本の国益を考える愛国者だったが、対話による問題解決を目指したためプーチン大統領と良好で建設的な関係を持つことができた」と指摘した。

 

●ロシアの「勢力圏」と広がる欧州の範囲 7/10
ウクライナとモルドバが6月23、24日の欧州連合(EU)首脳会議で、加盟候補国として承認されたが、これには大きく二つの意味合いがあるように思われる。
一つは欧州の地理的概念を黒海沿岸まで広げたこと。もう一つは、より重要なことだが、「ロシアの勢力圏(Sphere of influence)は認めない」との立場をEUとして明確にしたことである。
ウクライナへの支持
指摘されているようにウクライナとモルドバ、特に戦争中のウクライナを加盟候補国として認めたことには高度な政治判断があった。ロシアの侵略と戦うウクライナに全面的な支持を与えるとともに、ロシアに対して「侵略は絶対に認めない」とのシグナルである。今年2月のロシアの侵攻直後、EU加盟に立候補すると表明したウクライナを強く支持したのは、EU27カ国のうちポーランドやバルト3国の東欧。一方、フランス、オランダ、デンマークを中心に大勢は慎重だった。3月10日の仏ベルサイユでのEU首脳会議でも激論の末、結論を見送った。今回、その大勢を覆した要素は三つある。一つは、ロシアを相手に一歩も引かないウクライナに対する欧州世論の強い共感。二つ目は、ウクライナのゼレンスキー大統領の熱心な働きかけ。オンラインでEUの会議に参加する都度、同大統領は慎重姿勢の首脳一人ひとりに語りかけた。親露のハンガリーのオルバン首相には「ロシアか我々か、あなたはどちらにつくのかはっきりしてほしい」と迫った。三つ目は、EUのフォンデアライエン欧州委員長の根回しだ。同委員長はロシアの侵攻直後から「ウクライナは欧州の一員であり、我々と共にあることを願う」と述べ、早くから加盟候補国とすることを支持し、フランスやドイツに働きかけていた。EU首脳会議1週間前に仏独伊3国の首脳がそろってキーウ(キエフ)を訪問したのは、主要3カ国がウクライナを加盟候補国とすることで一致したことをゼレンスキー大統領に伝えるためでもあった。
黒海沿岸まで欧州
モルドバとウクライナがEUの加盟候補国となったことで、欧州の地理的概念は黒海沿岸まで広がることになった。欧州とはどこまでを指すのか、EUの東方拡大に伴って議論となっていたが、黒海沿岸まで範囲に含めることになるとは少し前までは考えられなかった。旧社会主義の東欧諸国が初めてEUに加盟したのは2004年(第5次拡大)で、ポーランド、バルト3国など8カ国が一挙に加盟国となった。当時、欧州の政治家や識者の間では、EU拡大の範囲は旧ユーゴスラビアを含むバルカン半島が境界であろうというのがほぼ一致した見解だった。加盟国が増え続けるとEU内の結束を保てなくなることと、域外の国々の加盟希望を入れると際限がなくなり、欧州としての性格を失っていくとの懸念があった。実際に第5次拡大後、07年にブルガリアとルーマニアが、13年にクロアチアと、バルカン半島の国々の加盟が続いた後、新規加盟は止まっている。ではバルカン半島の以東と以南の域外国との関係はどうするか。第5次拡大と並行して、同じ04年にEUが打ち出したのが欧州近隣政策(ENP)だった。EUに加盟せずともEUと利益を共有できるとの目的で、政治や経済改革を支援し、またパートナーシップ協定などに基づきEUとの間での自由貿易圏の形成も選択肢に入れた。
ウクライナ加盟に消極的だったEU
ウクライナはこうした政策を受け入れつつ、将来的なEU加盟期待を繰り返し表明した。しかしEUはウクライナとの関係強化には終始消極的だった。ウクライナ国内の政治、経済の不安定もあったが、ロシアの影響力が強かったことが大きな要因だった。ウクライナはいわばロシアにとって西側に対する緩衝地帯で、かつ勢力圏で、そこに手を突っ込むことはEUとしてちゅうちょがあったのだ。ロシアがクリミア半島を併合して2年半後のEU首脳会議(16年12月)のときでさえも、EU加盟を望むウクライナに対して、加盟候補国の前段階である「欧州の展望を備えた国」の資格も認めなかった。
EUを変えた侵攻の衝撃
こうした流れを押さえると、今回のウクライナとモルドバの「加盟候補国」承認が、「拡大はバルカン半島どまり」「ロシアの勢力圏には入らない」という従来のEUの一線を大きく越えたものであることが分かる。ロシアのウクライナ侵攻の衝撃が、ことここに至らせたと言うこともできる。ただウクライナが抱える政治、経済などの諸問題を考えれば加盟交渉の道のりも容易ではないのも確かだ。これを想定して、23、24日の首脳会議では「欧州政治共同体」という新しい枠組みを立ち上げることも決めた。マクロン仏大統領が今年5月に提案したもので、EU加盟国と加盟候補国の対話と協力のプラットフォームとなる。現在の加盟候補国はトルコ、北マケドニア、モンテネグロ、セルビア、アルバニアの5カ国で、これにウクライナとモルドバを加えて、加盟に向けて緊密に意思疎通を図り、妨害や干渉(ロシア、中国などを想定)を防いでいこうというもの。加盟候補国の「いつまで待てばいいのか」というフラストレーションを和らげる狙いもある。ロシアのプーチン大統領はウクライナのEU加盟について、北大西洋条約機構(NATO)と異なり軍事的かつ政治的な機構ではないとして「反対しない」と述べた。しかしまともには受け取れない。EUは政治、経済の共同体であると同時に、人権、民主主義、法の支配といった普遍的な価値の共同体である。この「価値の共同体」が自国と国境を接することに、ロシアの本心は穏やかではないはずだ。権威主義体制の価値秩序を切り崩しかねないこともある。ウクライナとモルドバのEU加盟候補国入りは、ある意味、NATOの東方拡大以上に中長期的にインパクトがあるかもしれない。
●ロシアの原油生産量、3.5%増 プーチン氏 7/10
ロシアのプーチン大統領は10日までに、今年の年初以降の国内の原油生産量は前年比で3.5%増を記録したと発表した。
ロシア国営のタス通信によると、政府関連会合で述べた。天然ガスの生産量は1〜5月に減ったものの、わずか2%の落ち込み幅だったとも主張した。
プーチン氏はまた、国内企業に対しロシア産原油の禁輸措置と欧州連合(EU)による新たな制裁案に対処する準備を整えるよう警告した。EUは今年5月、ロシアから調達する原油の90%を締め出すことで合意していた。
プーチン大統領は、西側諸国はほかの国に対しエネルギー源の生産増大を強いることを試みているとし、「ロシアの市場は安定しており、大きな混乱は起こりえない」とも述べた。
●ロシア軍 部隊再編し大規模攻勢か 戦闘さらに激化の可能性も  7/10
ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州の完全掌握に向け、兵員の補充など部隊の再編を行ったうえで、大規模な攻勢に乗り出すとみられていて、今後戦闘がさらに激しさを増す可能性が出ています。
ロシア国防省は9日も各地でミサイル攻撃を続けていて、東部のドネツク州やハルキウ州、南部のミコライウ州、さらに中部のキロボフラード州などでウクライナ軍の武器庫や燃料庫といった軍事インフラを破壊したと発表しました。
ウクライナ当局によりますと、ゼレンスキー大統領の出身地の中部のクリビーリフでも9日、ロシア軍の多連装ロケットシステムによるとみられる砲撃があり、女性2人が死亡したということです。
SNSで公開された、着弾の瞬間の映像では、せん光とともに大きな爆発音が響き渡り、市民が屋内に避難していました。
ドネツク州の完全掌握を目指すロシア軍は今後、兵員や装備品を補充し、部隊を再編したうえで、拠点都市への大規模な攻勢に乗り出すとみられています。
ロシア軍の部隊について、イギリス国防省は9日「ロシアは国中から予備の部隊を移動させ、将来の攻撃作戦のためウクライナの近くに集めている」と分析していて、今後、戦闘がさらに激しさを増す可能性が出ています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、9日に公開した動画のメッセージで、ロシア軍の攻撃により各地で死傷者が出ているとしたうえで「ドンバスでのロシア軍砲兵部隊の残忍な攻撃は一日たりともやまない。このようなテロ行為を本当に止めることができるのは高精度かつ強力な兵器だけだ」と述べました。
そして、アメリカの国防総省が追加の軍事支援を行うと発表したことに謝意を示し、ロシア軍への抵抗を続ける姿勢を強調しました。
●米国務長官、「対ロ・台湾」で懸念 中国外相とウクライナ侵攻後初会談 7/10
ブリンケン米国務長官は9日、滞在先のインドネシア・バリ島で中国の王毅国務委員兼外相と会談し、ウクライナに侵攻したロシアと中国の緊密な関係や台湾情勢をめぐる中国の動きに懸念を示した。米国務省が発表した。
ウクライナ侵攻後初めて行われた米中外相会談は、昼食も交え、5時間を超えた。ブリンケン氏はウクライナ問題に加え、米中間の不測の事態を回避する危機管理手段も取り上げた。中国外務省によれば、両外相は「建設的で誤解を減らすのに資する対話だった」との認識で一致した。
ブリンケン氏はウクライナ情勢に関し、「侵攻を非難するために立ち上がるべき時だ」と述べ、ロシアとの連携を続ける中国をけん制した。王氏は7日、20カ国・地域(G20)外相会合出席のためバリ島を訪れたロシアのラブロフ外相と会談し、対ロ制裁を強める欧米への非難で足並みをそろえていた。
ブリンケン氏はまた、「米中関係は世界にとっても非常に重大だ。われわれは責任ある形で競争を管理していく」と述べ、意思疎通を継続していく姿勢を強調。台湾への軍事的圧力を強める中国の動きにも懸念を示し、「台湾海峡の平和と安定の維持の重要性」を訴えた。
中国外務省によると、王氏は台湾問題をめぐり「米側は言行を慎む必要があり、『台湾独立』勢力にいかなる誤ったシグナルも発してはならない」と警告。バイデン米政権がインフレ抑制に向けて検討する対中制裁関税の見直しを念頭に、「米側はできるだけ早く対中追加関税を取り消し、中国企業に対する制裁を停止すべきだ」と要求した。
米中首脳会談の開催に向けた調整も行ったもようで、中国外務省によれば、両外相は今回の会談で「将来のハイレベル交流」に向けた条件を一層整えたという認識で一致した。対面での米中外相会談は昨年10月にローマで行われて以来。
●米中外相会談“5時間以上” ウクライナ侵攻などで応酬  7/10
アメリカと中国の外相会談が、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻後、初めて対面で行われた。アメリカのブリンケン国務長官と中国の王毅外相による会談は、5時間以上行われた。
アメリカ・ブリンケン国務長官「米中間のような複雑で重要な関係においては、話すべきことがたくさんある」
両者は、対話が重要との認識で一致した一方で、ブリンケン長官は、中国側にウクライナに侵攻したロシアと足並みをそろえていることに懸念を示したとしている。
王毅外相は、アメリカが中国に課している追加関税を速やかに撤廃し、一方的な制裁をやめるべきと強調した。
●いまさら聞けない「ウクライナ現代史」…ソ連編入、独立、そして再びの悲劇 7/10
悲劇のウクライナ人
1917年、ロシア革命で、ロシア帝国が崩壊し、レーニンの率いるソヴィエト政権が誕生すると、ウクライナは独立し、ウクライナ人民共和国が成立します。この時、初めて、「ウクライナ」という名称が正式な国号の中で用いられました。
しかし、ソヴィエト政権はウクライナの独立を認めず、軍事侵攻し、1917年、ウクライナ・ソヴィエト戦争が勃発します。
そして4年に及ぶ激戦の末、ソヴィエト軍がウクライナを制圧します。1922年、ウクライナは正式にソヴィエト連邦に編入されます。
ウクライナ人はソ連時代も、弾圧され、多くのウクライナ人の知識人や民族運動家が処刑されました。
レーニンの死後、スターリンが独裁を強めていく中、ウクライナ支配を強化していきます。ソヴィエト政権は1932年から1933年にかけて、強制的な農業集団化政策により、ウクライナ農民の土地を没収し、強制労働に従事させます。
推定で400万から1000万人のウクライナ人が餓死したとされています。ウクライナ人にとって、スターリン時代が最も悲惨な時代とされ、ウクライナ人のロシアへの憎悪が刻み込まれていきます。
第2次世界大戦とチェルノブイリ
第2次世界大戦がはじまると、ドイツが侵攻し、ウクライナが独ソ戦の舞台となり、国土が焦土と化します。
ウクライナ人の死者は、兵士や民間人合わせて、800万人から1400万人と推定され、大戦中の最大の犠牲者を出した民族とされます。
ウクライナ人の5人に1人が死んだ計算となります。ドイツが約500万人の犠牲者、日本が約300万人の犠牲者ということと比較しても、ウクライナの被害がどれほど甚大であったかがわかります。
一般的な統計では、ウクライナ人の犠牲者は「ソ連の犠牲者」として表記されるため、気付きにくいのですが、「ソ連の犠牲者」の多くがウクライナ人です。
つまり、このことは、ソ連軍が危険な前線にウクライナ兵を意図的に投入し、ドイツ侵攻の際、ウクライナの民間人が危険に晒されても、守らなかったということを意味しています。世界史の中で、これ程の多数の犠牲者を一度に出すような経験をした民族はウクライナ人だけです。
1953年、スターリンが死ぬと、ウクライナ懐柔政策がはじまります。ソ連によって懐柔されたウクライナ人は法外な給与が支給され、飼い慣らされ、特権化します。一方、多くのウクライナ農民はスターリン時代と同じく、搾取され続け、貧困に喘いでいました。
1971年、キエフの北110キロ、ウクライナ北部に位置するチェルノブイリ市近郊で原子力発電所が建設されはじめます。ソ連は原発をウクライナに置くことを一方的に決定し、周辺のウクライナ人に何の説明もないまま、1978年、原子炉を稼働させます。
そして、1986年4月26日、チェルノブイリ原発事故が発生しました。弱い立場のウクライナ人が原発の負の側面を全て、引き受けさせられたのです。
出口の見えないウクライナの混乱
1991年、ソ連崩壊とともに、ウクライナは独立しました。独立後、西部ウクライナ人と東部ロシア系住民との対立が表面化します。東部ロシア系がロシアの支援を背景に、豊富な資金力で勢力を拡大し、固い団結をしているのに対し、西部ウクライナ人は利害の調整が進まず、一枚岩になっていません。
ロシア系住民の多い東部はドネツク州を中心に、ウクライナからの分離独立を目指し、武装勢力を結成します。ウクライナ東部には、資源採掘地や重化学工場が集中しています。東部の分離を認めると、西部はそれらを全て、失ってしまいます。
2014年、マイダン革命(後段詳述)の勃発とともに、ウクライナ東部で、ロシア系住民とウクライナ人との対立が激化し、ウクライナは内戦状態になります。ロシアのプーチン政権は住民保護という名目で、ウクライナに軍事介入しました。
この混乱の中、ロシアはウクライナ南部のクリミア半島で、ロシア系住民のデモを煽り、意図的に混乱を引き起こし、軍事介入の口実をつくります。そして、住民投票を経て、2014年3月18日、クリミア半島をロシアへ編入しました。
ロシアにとって、クリミア半島の奪還は歴史的悲願でした。19世紀のクリミア戦争での激闘の舞台となった歴史的因縁の地セバストポリで、クリミア帰還の大祝典が行われました。
ロシアにとって、今も昔も、クリミア半島は死活的に重要な戦略拠点です。ロシアは現在、クリミアに基地を置き、黒海全域の制海権を握り、西方のバルカン方面、南方のトルコ、ジョージア(グルジア)、アルメニア方面に睨みを効かせています。
クリミア半島併合後も、ロシアはウクライナへの介入を強め、親ロシア派を支援し、内戦が激化しました。ウクライナ人とロシア系住民は言語も宗教も近い同じ東スラブ民族ですが、互いに殺し合い、多くの犠牲者が出ます。
ウクライナ問題は、ウクライナ人の迫害の歴史から生じているロシア人への激しい憎悪とも深く関連しており、感情的にも、妥協できないのです。その後も、ウクライナ政府軍と親ロシア派による戦闘と停戦を繰り返し、今日に至ります。
ロシアのプーチン政権は2014年から続く紛争をウクライナ人同士の「内戦」と位置付けていました。2022年、プーチン大統領はウクライナ東部の親ロシア派の独立を承認し、彼らの要請に基づき、軍事介入をしました。ウクライナ軍は善戦し、首都キエフを守りましたが、ウクライナ東部はロシアの事実上の支配下にあります。
反政府デモが発端の「マイダン革命」
ゼレンスキー政権以前のウクライナもまた、様々な問題を抱えており、今日の問題はこうしたことの延長上にあります。
ゼレンスキー大統領以前に、ユシチェンコ(2005〜2010年)、ヤヌコーヴィチ(2010〜2014年)、ポロシェンコ(2014〜2019年)の三人の大統領がいました。
ユシチェンコ(ユーシェンコ)は中央銀行総裁時代にインフレを抑制したことで、国民の支持を獲得し、首相を務め、最終的に大統領となります。2004年、大統領選挙の際、ダイオキシン毒を何者かに盛られ、顔が一変したことで知られます。
ユシチェンコは親露派の与党候補ヤヌコーヴィチと選挙戦を戦っており、敗北と伝えられたものの、ヤヌコーヴィチ陣営の不正疑惑が発覚します。民衆が抗議行動を起こし(オレンジ革命)、同年、再選挙が実施されました。
この再選挙で、ユシチェンコが勝利します。ユシチェンコは民主化・西欧化を進めますが、首相のティモシェンコ(「美しすぎる首相」として知られる)と次第に対立をするなどして、内政を混乱させ、2010年の大統領選挙で敗退します。
ヤヌコーヴィチはティモシェンコとの決選投票で勝利します。ヤヌコーヴィチは親露政策を進め、EUとの連合協定締結の署名を撤回し、西側諸国と距離を置こうとします。
2013年末、これに反発した野党や市民が抗議デモを起こします。ヤヌコーヴィチは武力鎮圧をしたため、デモは過激化しました。一部の過激化した勢力が武装闘争を展開し、キエフは騒乱状態になります。これは「マイダン革命」と呼ばれます。
「マイダン」はウクライナ語で「広場」の意味で、キエフ独立広場で行われた反政府デモが発端となっているため、こう呼ばれます。民衆の武装闘争は過激化し、ヤヌコーヴィチは2014年2月にキエフを脱して、ロシアに亡命します。
ロシアに譲歩した「ミンスク合意」
この混乱の隙を突くかたちで、ロシアは3月にクリミア半島に侵攻します。
また、ロシアはウクライナ東部のドネツィク州とルハンシク州の一部におけるロシア系住民と呼応して、「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」というかたちで、ウクライナから分離独立させます。ウクライナは事実上の内戦状態に陥ります。
この混乱の中で行われた大統領選挙に勝利したのがポロシェンコです。ポロシェンコはユシチェンコ政権やヤヌコーヴィチ政権で外相や経済相を務めた実力者で、その実務的な手腕が評価されて、ティモシェンコに大差をつけて当選しました。
ポロシェンコは内戦状態になっている国内をまとめなければなりませんでした。そこでポロシェンコは強大な軍事力を誇るロシアと直接対決する路線をとらず、構造改革によって経済を向上させて、国内を建て直し、EUと北大西洋条約機構(NATO)加盟を目指す路線を歩みます。
2015年、ドイツとフランスの仲介によって、ポロシェンコはロシアと「ミンスク合意」を結びます。
この合意は、ドンバス地方の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」 に自治権を与えるとするもので、親露派の多い同地域の事実上の分離独立を認めたと言っても過言ではない合意でした。
ポロシェンコはロシア軍の更なる攻撃を防ぐために、ロシアに譲歩するしかなかったのです。しかし、国内からは批判に晒されました。
「オリガルヒ」とは何か
また、ポロシェンコ政権の改革は汚職が原因で、ほとんど進みませんでした。政権の要人らは「オリガルヒ」と呼ばれる産業・金融界を支配する少数の新興財閥と癒着しており、彼らの利権のためにだけ動きました。
オリガルヒは前政権のユシチェンコ政権やヤヌコーヴィチ政権の中枢にも食い込んでいました。「オリガルヒ」という言葉は「寡頭制」を意味するギリシア語の「オリガーキー」に由来します。オリガルヒは1990年代のソ連崩壊後に、国営企業の民営化で莫大な利益を得て、急成長し、ロシアだけでなく、ウクライナでも多く生まれました。
ウクライナのオリガルヒとして有名なのがリナト・アフメトフとイーホル・コロモイスキーらです。アフメトフはエネルギーやガス、農業、メディア、通信などの事業を手掛けており、コロモイスキーは石油ガス、銀行、国営メディア、化学や冶金、輸送などを手掛けています。
2019年の大統領選挙で、俳優出身のゼレンスキーが立候補し、こうしたオリガルヒと政権の癒着を厳しく糾弾して、支持を拡大し、圧勝します。
ところで、コロモイスキーは2022年、ロシアのウクライナ侵攻の際に、ロシアから「ネオナチ」と批判されて有名になったアゾフ大隊に資金提供していることでも知られています。他にも、ドニプロ大隊やアイダール大隊などの国粋主義組織に資金提供をしています。コロモイスキーはユダヤ人です。
これまで、ポロシェンコ政権などはオリガルヒと強く癒着し、協調体制が取られていましたが、ゼレンスキー大統領の登場で、そのような協調体制が崩れ、ウクライナ内政に混乱が生じたところを、ロシアに狙われたという側面もあります。
ロシアはウクライナを少し突くだけで、内部から自壊するだろうと考えていたかもしれません。
●英のウクライナ支援に影響か 主導的役割のジョンソン氏辞意 7/10
ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナへの支援に熱心なジョンソン英首相が7日に辞意表明したことを受け、英政府の対ウクライナ政策に影響が及ぶ可能性がある。ジョンソン氏はゼレンスキー・ウクライナ大統領と個人的な関係を築き、欧米の対ロシア制裁や武器供与で主導的役割を担った。「ジョンソン後」も支援は続く見込みだが、首相交代により政府方針に微妙な差異が生じるのは避けられない。
辞意表明後、ゼレンスキー大統領は通信アプリで「ウクライナ人全員が悲しんでいる」と表明。英国のこれまでの支援に「特別な謝意」を表した上で、今後も同様の関与を継続するよう望むとし、欧米首脳の中でも特に支援に熱心だったジョンソン氏の退陣を惜しんだ。
ジョンソン氏は4月、先進7カ国(G7)首脳で最初に侵攻後のウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問。ロシア軍が周辺から部隊を撤収させたばかりで、戦禍の生々しい市内をゼレンスキー氏と歩く姿は英国の「揺るぎない」(ジョンソン氏)連帯の姿勢を印象付けた。同氏は6月にもキーウを再訪。軍事支援強化を強く呼び掛け、英国内でウクライナ兵の訓練を施すなど積極関与を続けてきた。
しかしジョンソン氏は秋までに首相の座を去る。有力後継候補に挙がっているのはモーダント通商政策担当国務相、スナク前財務相、トラス外相ら。ロシアに厳しい姿勢を取るトラス氏が後任に就けば、それまでの方針がある程度踏襲されるとみられるが、他の候補者たちのスタンスは不明だ。有力候補の一人とされ、ジョンソン氏と共にウクライナ支援に携わってきたウォレス国防相は9日、「現在の任務に集中する」として与党保守党党首選への不出馬を表明した。
ウクライナのメディア「キーウ・インディペンデント」は、「ジョンソン氏が提示してきたウクライナ関連のイニシアチブの多くにブレーキがかかる可能性がある」とする地元専門家の見方を伝えた。  
●ゼレンスキー大統領「最新兵器だけがテロ止める」 米追加支援に謝意 7/10
ウクライナのゼレンスキー大統領が「最新兵器だけがテロ行為を止められる」とアメリカの追加軍事支援に感謝を示しました。
ゼレンスキー大統領は9日、ロシアが「完全制圧」を目指すウクライナ東部のドンバス地方や、第2の都市ハルキウなどを攻撃し、多数の死傷者が出ていると発表しました。
アメリカが最新兵器などの追加支援を決定したことに謝意を述べ、こうした最新の兵器のみがロシアの「テロ行為」を止められると強調しました。
ロシア国防省は9日、ウクライナ各地へのミサイル攻撃で武器庫などを破壊したと発表しました。
ドネツク州ではウクライナ兵30人を殺害したとしています。
●ウクライナ ドネツク州の集合住宅にミサイル攻撃 “15人死亡”  7/10
ロシア軍が完全掌握を目指して攻撃を続けるウクライナ東部ドネツク州では9日、北部の町で5階建ての集合住宅がミサイルで攻撃され、ウクライナの非常事態庁は少なくとも15人が死亡したと明らかにしました。
ロシア軍はウクライナ各地でミサイル攻撃を続けていて、ロシア国防省は東部のドネツク州やハルキウ州、南部のミコライウ州、さらに中部のキロボフラード州などで武器庫や燃料庫といった軍事インフラを破壊したと発表しました。
ドネツク州では9日夜、北部の町で5階建ての集合住宅がミサイルで攻撃され、ウクライナの非常事態庁はこれまでに少なくとも15人が死亡し、5人がけがをしたと明らかにしました。
ドネツク州のキリレンコ知事は「住民によると9歳の子どもを含む34人が住んでいた可能性が高い。現在、救助活動が行われている」としています。
現場を撮影した映像からは、建物が大きく壊れて、がれきの山になっているなか、救助隊員たちが手や重機を使ってがれきを取り除きながら、救助活動を行っている様子が確認できます。
ロシア軍はドネツク州の完全掌握を目指していて、今後、兵員や装備品を補充し、部隊を再編したうえで、拠点都市への大規模な攻勢に乗り出すとみられ、戦闘がさらに激しさを増す可能性が出ています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日に公開した動画のメッセージで「東部でのロシア軍砲兵部隊の残忍な攻撃は1日たりともやまない。このようなテロ行為を本当に止めることができるのは高精度かつ強力な兵器だけだ」と訴えました。
そして、アメリカの国防総省が追加の軍事支援を行うと発表したことに謝意を示し、ロシア軍への抵抗を続ける姿勢を強調しました。
●ロシア軍がウクライナ東部にミサイル攻撃 子どもなど負傷  7/10
ロシア軍の攻勢が続く、ウクライナ東部のハルキウ州やドネツク州でミサイル攻撃があり、6人が死亡した。
ハルキウの地元当局は9日、ミサイル攻撃で12歳の子どもを含む、少なくとも6人が負傷したことを明らかにした。
隣のドネツク州でも、住宅にミサイル攻撃があり、6人が死亡した。
ゼレンスキー大統領は、ビデオ声明で、住宅などへの攻撃を非難した。
また、アメリカによる追加の軍事支援に感謝の意を示し、高機動ロケット砲システム「HIMARS」などの最新兵器が、ロシアの攻撃から市民たちを守ると強調した。
一方、アメリカのシンクタンクは、ロシア軍が、ドネツク州の完全掌握に向け大規模攻撃の準備をしている可能性があると指摘していて、東部での戦闘がさらに激しくなるおそれがある。
●ロシアの裁判所、侵攻批判のモスクワ区議に懲役7年 7/10
ウクライナ情勢です。ロシア軍が制圧に向けて東部での攻勢を強めるなか、侵攻に批判的な発言をしたモスクワ区議に実刑判決が言い渡されました。
ウクライナの東部ドネツク州では、9日、各地の住宅地に攻撃があり、破壊された5階建ての集合住宅では、6人の死亡が確認されたということです。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「このようなテロ行為を止められるのは、高精度で強力な最新鋭兵器だけだ」
ゼレンスキー大統領は、ロシア軍が民間人を標的にしていると非難しました。
こうしたなか、モスクワの裁判所は、8日、ウクライナ侵攻に批判的な発言をしたモスクワ区議に対し、懲役7年の実刑判決を言い渡しました。プーチン政権は、3月に軍の活動に関し虚偽の情報を拡散した場合、最大で懲役15年を科すとする改正法を成立させていました。
●英のウクライナ支援に影響か 主導的役割のジョンソン氏辞意 7/10
ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナへの支援に熱心なジョンソン英首相が7日に辞意表明したことを受け、英政府の対ウクライナ政策に影響が及ぶ可能性がある。
ジョンソン氏はゼレンスキー・ウクライナ大統領と個人的な関係を築き、欧米の対ロシア制裁や武器供与で主導的役割を担った。「ジョンソン後」も支援は続く見込みだが、首相交代により政府方針に微妙な差異が生じるのは避けられない。
辞意表明後、ゼレンスキー大統領は通信アプリで「ウクライナ人全員が悲しんでいる」と表明。英国のこれまでの支援に「特別な謝意」を表した上で、今後も同様の関与を継続するよう望むとし、欧米首脳の中でも特に支援に熱心だったジョンソン氏の退陣を惜しんだ。
ジョンソン氏は4月、先進7カ国(G7)首脳で最初に侵攻後のウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問。ロシア軍が周辺から部隊を撤収させたばかりで、戦禍の生々しい市内をゼレンスキー氏と歩く姿は英国の「揺るぎない」(ジョンソン氏)連帯の姿勢を印象付けた。同氏は6月にもキーウを再訪。軍事支援強化を強く呼び掛け、英国内でウクライナ兵の訓練を施すなど積極関与を続けてきた。
しかしジョンソン氏は秋までに首相の座を去る。有力後継候補に挙がっているのはモーダント通商政策担当国務相、スナク前財務相、トラス外相ら。ロシアに厳しい姿勢を取るトラス氏が後任に就けば、それまでの方針がある程度踏襲されるとみられるが、他の候補者たちのスタンスは不明だ。有力候補の一人とされ、ジョンソン氏と共にウクライナ支援に携わってきたウォレス国防相は9日、「現在の任務に集中する」として与党保守党党首選への不出馬を表明した。
ウクライナのメディア「キーウ・インディペンデント」は、「ジョンソン氏が提示してきたウクライナ関連のイニシアチブの多くにブレーキがかかる可能性がある」とする地元専門家の見方を伝えた。 

 

●岸田首相の求心力維持に反感 参院選でプーチン政権―ロシア 7/11
ロシアのプーチン政権は、参院選で与党が過半数を獲得し、岸田文雄首相の求心力が保たれる見通しとなったことに反感を強めている。ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧米と足並みをそろえて対ロ制裁を強化する岸田政権をプーチン政権は敵視しており、日ロ関係は険悪な状態が続くことになりそうだ。
ペスコフ大統領報道官は6日、「日本はロシアとの関係において、極めて非友好的な立場を取っている」と強く批判した。ウクライナ侵攻が始まった2月以降、ロシアは3月に北方領土問題を含む日本との平和条約交渉の中断を一方的に表明。両国は4月に互いに外交官を追放した。
ロシアは5月に岸田首相を含む日本人63人の入国禁止を発表。「岸田政権は中傷や直接的な脅迫を含め、受け入れ難い言葉を用いて、前例のない反ロシアのキャンペーンを展開した」(ロシア外務省)と敵意をむき出しにしており、日ロ関係は悪化の一途をたどっている。
●東部ハルキウ州の親露派「ここは歴史的にロシア領」… 7/11
ロシア通信によると、ウクライナ東部ハルキウ州の親ロシア派幹部は8日、同州は「歴史的にロシア領土の一部だ」と主張した。ロシアは攻防が続くドネツク州だけでなく、隣接するハルキウ州でも併合に向けた動きを強めている。
露軍はハルキウ州南東部イジュームなど州全体で約20%とされる制圧地域に親露派「暫定当局」を設置しており、8日には「戒厳令」を出した。プーチン露政権は行政の専門家チームの派遣も検討している。
ハルキウ州知事によると、露軍は10日未明、州都の都市ハルキウの教育施設や集合住宅を砲撃した。また、ドネツク州当局によると、州北部の町で9日夜、5階建ての集合住宅が砲撃され、15人が死亡した。20人以上が生き埋めになったとの情報もあり、死傷者が増える恐れがある。
ロシアの駐英大使は7日、ロイター通信に、露軍がドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の全域制圧後も南部の占領地にとどまる見通しを明らかにした。
●WTO、ウクライナ侵攻によるG20の輸出制限を報告 7/11
WTOは7月7日、G20の貿易関連措置に関する第27回監視報告書(モニタリングレポート)を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。
WTO事務局は、ロシアによるウクライナ侵攻への対応として、財貿易において、G20のうち9カ国・地域がロシア向けに43件の貿易制裁を課したと報告した(2022年5月15日時点)。貿易制裁には、エネルギーや金属などの分野での輸入制限や軍事転用の恐れがあるデュアルユース品目の輸出管理策、ロシアに対する最恵国待遇(MFN)の撤廃といった措置を含む(注)。
貿易制裁に加えて、ウクライナ侵攻に対しては、G20が導入した輸出制限措置14件が確認されている。これらは5カ国・地域による措置で、幅広い農産品(小麦やヒマワリ油、野菜油、砂糖など)への輸出割当制度や一時的な輸出禁止を含む。措置の対象となる貿易額は522億ドルと推計している。
一方、ウクライナ侵攻に関する輸入促進措置は、10カ国・地域による8件が特定された。農産品や燃料製品の輸入関税などの撤廃・削減を含む。対象となる貿易額は推計287億ドルに上る。5カ国・地域は、ウクライナからの輸入関税を全面的に停止している。
ンゴジ・オコンジョ=イウェアラWTO事務局長は、ウクライナ侵攻による食料安全などの人道的な危機に対する懸念を表明し、「G20が貿易制限措置の導入を抑制し、開かれた互恵的な貿易を支えるために指導力を発揮しなければならない」と述べている。
新型コロナウイルス感染症への対応では、財貿易の貿易関連措置がこれまで156件確認されている。このうち、113件は貿易促進措置、残りの43件は貿易制限措置(うち輸出制限措置が40件)に分類される。貿易制限措置43件のうち、22件は段階的に撤廃され、21件が継続している。
WTOの試算によると、2022年5月15日時点で、G20の継続中の輸入制限は約1兆8,020億ドル、G20の総輸入額の10.87%、世界の総輸入額の8.19%に相当する。
(注)貿易制裁には、渡航禁止や資産凍結は含まれない。
●「サハリン2」接収 英シェルのしたたかな動きがロシア政府の反感買ったか 7/11
民間企業でありながら、世界中に張り巡らせた情報網を駆使して、危険な地域でも国益に資するビジネスを展開する──そんな日本に独特な業態が「総合商社」だ。しかし、プーチン大統領の横暴によって今、商社マンたちが心血を注いだプロジェクトが窮地に追い込まれている。
戦略目標であるウクライナの東部2州を制圧しつつあるロシアのプーチン大統領が、突然、その牙を日本に向けてきた。
日英露で共同開発している樺太の天然ガス採掘事業「サハリン2」(企業名はサハリン・エナジー・インベストメント)を、ロシア政府が事実上“接収”するという大統領令を出したのだ(6月30日)。
サハリン2にはロシアの国営ガスプロム(約50%)と日本の三井物産(12.5%)、三菱商事(10.0%)、石油メジャーの一角で英国のシェル(約27.5%)が出資。年間1000万トンのLNG(液化天然ガス)生産量の6割を日本に輸出し、日本のLNG総輸入量の約9%を占める。ちなみに岸田文雄・首相の地元の広島ガスもLNGの約5割(年間約20万トン)をサハリン2から購入している。
問題の大統領令は「ロシア国民や法人に対する制限措置を取る米国や米国側に立つ諸外国、国際機関の非友好的かつ国際法違反の行動に関連し、ロシアの国益擁護を目的に次の点を決定する」として、
【1】サハリン・エナジーのすべての権利と義務をロシア政府が設立する新会社に移管する
【2】新会社の財産は直ちにロシア政府の所有下に移管され、無償利用のため新会社に引き渡される
【3】(サハリン・エナジーの)出資企業は新会社に同比率の出資ができるが、ロシア政府が拒否した場合、4か月以内に株式はロシア側に売却される
──という内容だ。
経済制裁に対する報復でサハリン2の事業も資産も丸ごと“国家接収”するというのである。
資源エネルギー論が専門の岩間剛一・和光大学経済経営学部教授は、「日本のエネルギー供給の生命線が狙われた」と指摘する。
「サハリン2のLNGは日本の電力・ガス会社に長期契約で供給されている。契約価格は現在の市場のスポット価格(1回ごとに行なう売買取引の際の取引価格)の3分の1〜4分の1で、運搬も中東産のLNGが2週間ほどかかるのに比べ、サハリン2なら3日で日本に着く。日本では原発事故以来、電力の8割を火力発電に依存し、そのうち3割以上がLNG火力。今やサハリン2は日本のエネルギーの生命線の一つになっている。
ロシアが夏の電力需給逼迫のタイミングでサハリン2の事実上の国家接収を迫ってきたのは、明らかに経済制裁で欧米と共同歩調を取る日本政府への揺さぶりでしょう」
「ここまでやるとは」
この異例の措置は経済界に衝撃を与えた。日本商工会議所会頭の三村明夫・日本製鉄名誉会長の発言が、ショックの大きさを物語る。
「信じられない。契約によって投資したものを何の理由もなく国有化するようなことを本当にやるのであれば、将来、ロシアに投資をしようという民間企業はほとんどいなくなってしまう」
事業を“接収”される危機に立つ側の三井物産、三菱商事はどう受け止めているのか。
そもそもロシアのウクライナ侵攻に対して欧米と日本が経済制裁を決めた時、英国のシェルがいち早く「サハリン2」からの撤退方針を発表したのに対し、日本政府は「権益を手放した時に、第三国がただちにそれを取ってロシアが痛みを感じないことになったら意味がない。フリーズした状態なら権益を持ちながらしばらく様子をしっかり見ていくことも一つの方法ではないか」(3月8日、参院経産委員会での萩生田光一・経産相の説明)という方針を取り、両社はそれに従って状況を見極めようとしていた。
そこに今回の“プーチン指令”が出ると、商社内部の受け止め方は二つに分かれた。「ついに来たか」そう腹をくくる声と、「ここまでやるとは」と、率直に驚く声だ。
だが、「七つの海」を股にかけて数多くの国家と取引してきた商社マンたちは、いわばリスクを取るのが商売だ。政府と違って修羅場にフリーズしていては沽券にかかわる。ただちに情報収集に動いた。サハリン2に関わる商社関係者の話だ。
「現地のブランチを含めて大統領令の詳細な内容と狙いを探っているところです。ロシアのLNG事業はサハリン2以外にもある。ロシアの企業とフランスの企業が共同開発している北極海のヤマルのLNGは、ほぼ全量が欧州に供給されているが、現在も止まっていない。フランスの企業は『ヤマルは必要だから継続する。権益を持ち続ける』と明確に言っており、欧州諸国もロシアもLNGを全部止めるわけにはいかないわけですが、ではなぜサハリン2が狙われたのかという話になってくる」
そうしたなかで浮上してきたのが、ロシアに強い制裁を科している英国のシェルのしたたかな動きだという。
同社は撤退を決めたサハリン2の権益をインド企業に売却する交渉を進行中と報じられた。前出の商社関係者が続ける。
「撤退表明したシェルは株を売却すると言いながらまだ具体的な交渉はしていない。その間にサハリン・エナジーから配当を得たり、サハリン2のLNGをスポット市場で売却して利益をあげている。それがロシア政府の反感を買ったという見立てがある。だからロシアはシェルが株を売却する前に、サハリン2の権益を新会社に移管して売れないようにしたいと考えているのではないか」
経済制裁に同調する日本を牽制しながら、英国シェル社の“権益食い逃げ”も阻止しようとするロシアの思惑の中で、商社マンたちは事態打開の道を見出そうとしている。 ・・・ 
●ウクライナ戦争、最貧国を深刻な飢餓に追いやる  7/11
深刻化する世界的な食料危機の犠牲となった子どもたちが、名前のない墓に埋葬されている。混雑した栄養失調者用病棟では、病気の子ども1人が退院するのを待って親が次の子どもを連れてくる。母親たちは供給が細る食料市場から手ぶらで帰宅する。市場ではここ数カ月で、主食となる一部の食品価格が2倍に急騰した。
ソマリアなど一部の世界最貧国は、過去半世紀で最悪の飢餓緊急事態に苦しんでいる。ロシアのウクライナ侵攻や新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による経済の混乱を受けて、長引く紛争やますます極端になる異常気象による影響が深刻化している。
世界食糧計画(WFP)によると、3月以降の食料と燃料の価格上昇により、さらに4700万人が深刻な食料不安の状態に陥り、生命と生計を維持するのに十分なカロリーを摂取できなくなっている。その数は世界全体で3億4500万人に達した。このうち約5000万人が飢餓の危機にひんしているという。
ソマリア、エチオピア、南スーダン、イエメン、アフガニスタンでは、既に90万人近くが飢餓と死に直面している。これは2019年比で10倍を超える急増だ。2022年と2023年には、悲惨な結果をもたらした1960年代にかけての中国の悲惨な「農業大躍進政策」以降のどの年よりも多くの人々が、飢餓で死亡する可能性があるという推定もある。
穀物など一部の食料の国際市場価格はここ数週間で下落しているが、サプライチェーン(供給網)の研究者は、こうした価格下落がアクセスしにくい国々に波及するには何カ月もかかる可能性があると警告している。これでは、現在飢えに苦しむ何千もの家族にとって遅過ぎる。一方、燃料価格の高騰は、食料援助の輸送から飲料水のトラック輸送に至るあらゆるコストを押し上げ続けており、借り入れが困難なことと相まって、地元の貿易業者を破産に追い込んでいる。
タフツ大学世界平和財団のアレックス・デ・ワール事務局長は「現在見られるさまざまな要因の組み合わせは、ソマリアのような国で最も深刻な影響を及ぼしており、今後さらに大きな規模で発生する事態の前触れとなる可能性がある。それは予測可能であり、予防可能だ」と話した。同氏は2018年の著書「大飢餓の歴史と未来(仮訳)」で、1870年代後半以降の飢饉(ききん)による死亡例を調査している。
モガディシオ郊外の広大なキャンプで下痢と嘔吐(おうと)に一晩苦しみ、先月末に死亡した生後2カ月のムアド・アブディちゃんは、現在起きている危機の初期の犠牲者の1人だ。
母親のハワ・アブディさんは「彼が白目をむいた時、もう私と一緒にいないと分かった」と語った。その視線の先にあるトタン板と砂は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記者とカメラマンがキャンプに到着するほんの数分前に、亡くなった赤ちゃんの墓にかぶせられたものだった。
ムアドちゃんの兄アブディラーマンちゃん(2)は、混雑した病院で感染症と闘っていた。彼の抵抗力は深刻な栄養不足で弱っていた。彼の妹のハビバちゃん(1)は、母親の腰に弱々しくもたれかかっていた。
アブディさんによると、3カ月前までは、夫がときどき建設の仕事で1日1〜2ドルを稼ぎ、6人家族に対して1日2食分のコメと豆を持ち帰ってきていた。1日1〜2ドルでは現在、辛うじてコメ1日1食分にしかならない。
アブディさんによると、「支援機関でさえ、ウクライナでの戦争のせいで、われわれに渡せるだけの十分な食料がないと言っている」という。アブディさん一家は2020年にこのキャンプに逃れてきた。気象学者によると、ソマリアでは2020年に過去40年で最悪の干ばつが始まった。
人道支援組織は、ウクライナでの戦争によって、人命を救うのに必要な物資の価格が急騰する中、他の危機から注目や資源が奪われていると警告する。WFPが支援プログラム向けに調達する食料のコストは、2019年比で46%増加した。植物油、栄養不足の子どもの治療に必要とされる特別な栄養ペーストや、輸送にかかるコストが急騰したことが響いた。支援団体は配給と支援対象者の数を減らしている。
WFPソマリア事務所の代表、エル=キディール・ダロウム氏は、「われわれは空腹の人々に与える分の食料を、飢餓状態の人々に回している」と話した。ソマリアの人口1600万人のうち、710万人は深刻な食料不安、21万3000人は飢餓状態に陥っている。国連児童基金(ユニセフ)によると、ソマリアでは5歳未満の子どものうち深刻な栄養不足に陥っている者の比率は、21世紀で最悪の干ばつによってソマリアで25万人以上が死亡したとされる2011〜12年より高くなっている。
まだ幼かったムアドちゃんが埋葬されたキャンプには、干ばつから逃れるため、毎日続々と家族が到着し、棒と布でドーム状のテントを立てる。そうしてごく最近やって来た中に、アルボ・アリさん(25)と6人の子たちがいた。10日前に生まれた1番小さい子のハリマちゃんは、力なく母親の腕の中に横たわっていた。
アリさんは、双子姉妹の1人としてハリマちゃんを出産したが、ソマリア南部では支援を得られず、双子のうちもう1人は2日後に死亡したという。アリさん一家が飼っていた200頭の牛は、ソマリア南部の干ばつで死んだ。アリさんは「穴を掘って死んだ娘を埋めた。彼女には名前さえ付けてあげられなかった」と話した。
アリさんは、発熱して母乳を飲まなくなったハリマちゃんのことを心配していると話した。アリさんの横では、2歳の息子アブディラーマンちゃんが空腹で泣きながら、手に付いた砂をなめていた。アリさんは、子どもたちの次の食事がどこから得られるか分からないと話した。子どもたちは昨晩、キャンプの隣人から小さなボウル1杯のご飯をもらって以降、何も食べていないという。
このキャンプで活動している英国を拠点とする援助団体「ヒューマン・アピール」のファティマ・サイド氏は「一部の母親たちは、子どもの気力を高めることだけを目的に、空っぽの鍋を火にかけている」と語った。寄付が食料価格の上昇と、支援を求める人数の増加に追い付かないため、ヒューマン・アピールは最近、毎月の援助の量を削減した。6人家族向けの援助の場合、以前は50キロだったコメと小麦粉がわずか25キロに減らされた。食用油は10リットルから3リットルに、粉ミルクは2.5キロから900グラムに減らされた。
WSJの記者とカメラマンが広大なキャンプの一角を訪れると、そこには過去48時間に死亡した子どもの墓が3つ並んでいた。何人かの母親は、地方の家からキャンプに向かう旅の途中で子どもが死んだと語った。このうちアルボ・ハファウさんの場合、8歳の息子が道路脇で死んだ後、5歳の息子と7歳の娘がキャンプ到着後何日かで死んだ。
ハファウさんのいとこ、ハッサン・カルモール氏によれば、死んだ子どもはみな栄養失調だったという。ハファウさん自身は、話ができないほど取り乱していた。
空腹の影響で死に至るリスクが最も大きいのは、小さな子どもだ。人々が密集する避難キャンプでは、はしか、コレラなどの病気が急速に拡大するが、栄養不足の小さな子どもは、こうした病気と闘うには体力が低下し過ぎている。モガディシオのハマル・ジャジャブ・ヘルス・センターを運営するムハメド・オスマン医師によれば、生き残った子どもも、発達の遅れや発育不全など、長期的な健康問題を抱えることになるという。
同センターの安定期病室では、母親のサルマ・ロブルさん(30)が、生後11カ月の娘のマイダちゃんを抱いていた。ロブルさんによれば、干ばつと食料価格上昇で食事回数を減らさざるを得なくなる前には、マイダちゃんは這い回って5人の兄や姉と遊んでいたが、今は体力低下で座ることすらできないという。
マイダちゃんは、栄養不良症状が胃炎の発作によって危険な状態となったため1週間前に入院したが、その時のマイダちゃんの体重は11ポンド(約5キロ)しかなかった。オスマン氏によれば、マイダちゃんと同じ年齢、身長の子どもなら、22ポンド前後の体重が普通であり、マイダちゃんが自宅に戻れるだけの体力を回復するには、さらに1週間の入院が必要だという。
しかしロブルさんのもとに夫からかかってくる電話の内容は、日々切迫感が強まっている。夫婦の下から2番目の子どもで2歳になるマーサルちゃんが、嘔吐と下痢の症状で日々弱っているという。ロブルさんは「息子をここに連れてくるため、急いで自宅に戻らなければならない」と語った。
●ベラルーシ軍将校が「ロシアとの心中」を拒否、反乱の可能性も 7/11
ベラルーシ軍の幹部が最近、ロシアによるウクライナ侵攻への反対を表明した。同国のアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、軍幹部の反乱に備えなくてはならないかもしれない。
ベラルーシ軍特殊部隊第5旅団の幹部は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と親しいルカシェンコ大統領に宛てた公開書簡で、ウクライナに軍隊を派遣することは「純粋な自殺行為」だと警告した、と英デイリー・エクスプレス紙は9日に報じた。
「ウクライナとの戦争に参加することで、ベラルーシは文明国の共同体から追い出され、今後何年にもわたって国際社会からのけ者扱いされるだろう」とこの幹部は書いた。
2月下旬にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、ベラルーシは、ロシア軍の駐留と大規模な軍事訓練の実施を認めてきた。またベラルーシ国防省によると、ベラルーシも軍の戦闘即応性をテストするため、5月に大規模な軍事訓練を開始した。
だが、ベラルーシ軍の一部メンバーは引き続きロシアのウクライナ侵攻を非難し、ルカシェンコへの書簡の中で、「ロシアが国際的に認められたウクライナの領土を占領し、(わが国の)友邦であり、主権国家であるウクライナに対する一方的な侵攻にベラルーシを引き込もうとすることは、ベラルーシの主権の破壊としか思えない」と述べた。
国民も参戦に反対
ベラルーシ軍幹部はさらにこう続けた。「特殊部隊第5旅団の将校は、ロシアの最高政治指導者によるベラルーシ憲法第1条の最も深刻な侵害を確認した。この条項により、ベラルーシ共和国は自国の領土における優位性と完全な権威を維持している。また、内政と外交の独立を享受している」
英王立国際問題研究所が発表した新しい世論調査によると、ベラルーシ国民もウクライナに対する戦争を支持していない。同研究所によれば、ロシアを支持する人は3月の時点で28%、6月の調査では23%にとどまった。一方、同研究所のベラルーシ担当ディレクター、ライゴール・アスタペニアによれば、ベラルーシ軍がロシア軍と共にこの戦争に参加すべきと考える人は全体のわずか5%だという。
7月初め、ルカシェンコは他の旧ソ連諸国に対し、ロシアによるウクライナ侵攻後、ロシアから離反してはならないと警告した。
そして「ソビエト崩壊後の世界において、旧ソ連諸国が主権と独立を守りたいのであれば、ベラルーシ・ロシア連合国家との関係改善に真摯に取り組むべきである」と述べた。「われわれは力をあわせることによって、初めて世界的な難問に対処することができると確信している」
プーチンは7月1日、ベラルーシの都市グロドノで開かれたフォーラムで、欧米からの制裁が「ロシアとベラルーシの結びつきを加速させている」と述べ、ベラルーシとロシアの同盟関係を強調した。
●ウクライナ、米欧供与の兵器で「ロシア軍の11の標的に打撃」… 7/11
ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相は10日公開された英紙サンデー・タイムズとのインタビューで、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領から南部のロシア軍制圧地域の奪還を命じられたと明らかにした。ウクライナ軍は、南部の露軍施設への攻撃を強めており、奪還作戦が本格化した可能性がある。
ウクライナのイリナ・ベレシュチュク副首相は8日、南部ヘルソン、ザポリージャ両州の住民に即刻退避を要請していた。
ウクライナ大統領府のオレクシイ・アレストビッチ顧問は10日、米欧から供与された高機動ロケット砲システム(HIMARS)を使って、南東部マリウポリなどで露軍の弾薬庫など11の標的に打撃を与えたとSNSで明らかにした。
ヘルソン州当局者は、自身のSNSを通じ、ウクライナ軍が10日、ヘルソンの露軍拠点をミサイルで攻撃したと明らかにした。
ウクライナ軍の南部での反撃強化は、東部ドネツク州の制圧を目指す露軍の動向に影響しそうだ。
8日、ウクライナ外務省報道官が投稿した、ウクライナ南部ザポリージャ州の穀物畑の火災の様子(ツイッターから)8日、ウクライナ外務省報道官が投稿した、ウクライナ南部ザポリージャ州の穀物畑の火災の様子(ツイッターから)
一方、露軍の制圧地域では、収穫期を迎えた穀物畑での火災の報告が相次いでいる。ウクライナ外務省報道官は8日、南部ザポリージャ州で広大な穀物畑が炎に包まれる写真をツイッターに投稿した。露軍による放火だと指摘し「ロシアは世界の食料の安全保障に配慮しているとでたらめを言っている」と非難した。
●ウクライナ全住民に対象拡大 ロシア国籍取得簡素化でプーチン氏 7/11
ロシアのプーチン大統領は11日、これまでウクライナ東部の親ロシア派住民や、ウクライナに侵攻したロシア軍が制圧した南部ヘルソン州などの住民に導入してきたロシア国籍取得手続きの簡素化に関し、対象をウクライナ全土の住民に拡大する大統領令に署名した。ウクライナ全土で「ロシア化」を進める構えを示し、抗戦を続けるゼレンスキー政権を揺さぶる狙いがありそうだ。
●東部ミサイル攻撃で15人死亡、がれき下に23人閉じ込め 7/11
ウクライナ東部ではロシア軍の砲撃が激化し、集合住宅などがミサイル攻撃を受けた。住民ら15人の死亡が確認され、さらに23人ががれきの下に閉じ込められている模様だ。ゼレンスキー大統領は「露軍の残忍な攻撃がやまない。住宅地を狙い撃ちにしており死傷者が出ている」と非難し、各国にさらなる武器供与を呼びかけた。
ロシア軍、ドンバス地方で砲撃激化
ウクライナ東部ドンバス地方(ルガンスク、ドネツク両州一帯)の完全制圧を目指すロシア軍の砲撃が激化している。9日にはドネツク州アルチェモフスク近郊の集合住宅などがミサイル攻撃を受け、住民ら15人の死亡が確認された。
ウクライナ、駐独大使を交代
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、駐ドイツ大使など複数の大使を交代させたと発表した。理由については明らかにしていない。ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム」のメンテナンスを巡るウクライナとドイツの対立などとの関連が取り沙汰されている。
欧州「新冷戦」 アジアにも?
ウクライナ情勢を巡り、欧州では新冷戦とも呼びうるような対立状況が出現している。果たして、諸国が二つの陣営に分かれて対峙(たいじ)し合う冷戦は、アジアにも波及するのだろうか。高原明生・東京大法学部教授が「時代の風」を読み解く。
●欧州で加速するウクライナ“忘れ”の現実。なぜ熱狂は一気に覚めたのか 7/11
2月24日のプーチン大統領による軍事侵攻開始から4ヶ月半。その間、ロシアに対して厳しい経済制裁を科してきた西側諸国に、じわじわと「ウクライナ疲れ」が広がりつつあると報じられてきましたが、欧州ではさらに事態が「悪化」しているようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、国連会議出席のため訪れたドイツで肌で感じた、「ウクライナ離れ」が加速している現実を紹介。さらに彼らがNATOについて抱えているという違和感を取り上げるとともに、そのNATOと深く関わることを選択した日本政府がなすべきことを提示しています。
ウクライナ“忘れ”が加速する欧州
今週は国連の会議出席のため、ドイツに出張しています。主に議長を務める気候変動問題の遵守委員会会合への出席が目的なのですが、ボンに来る際にはボン大学での特別講義もさせていただいております。今回の話題はもちろん【ロシアによるウクライナ侵攻】なのですが、副題には「欧州統一への挑戦」という内容も含まれていました。
ウクライナ情勢について、何か違った視点からの分析を見たいと思っていただいたのか、いつもにも増してたくさんの聴講生が来てくれました。
講義においては、まず私から様々な見解を紹介し、残りの時間のほとんどを聴講生との双方向での議論に費やしたのですが、出た意見の中で私が驚いたのが、ドイツではすでに議論は“ウクライナ疲れ”から“ウクライナ問題を避ける”段階に移っている傾向が見えたことです。
街のいたるところに「ウクライナと共に」というスローガンが掲げられてはいるのですが、今回お会いした方たちの傾向は【できればもうウクライナのことは話したくない】という内容が多かったように思います。
聞いた話を整理すると、5月あたりから、ロシアに対する制裁の影響が市民生活に物価上昇(特にエネルギー)という形で直接悪影響を与えだし、関心は「いかに自分たちの生活を立て直すか」や「いかに耐えるか」という内向きの内容に変わってきたようです。
6月中旬くらいからは、ニュース番組などでもウクライナの話題を取り上げる頻度が下がり、仮にウクライナ情勢に触れたとしても、アングルはウクライナでの戦況ではなく、ショルツ首相の対ロシア・ウクライナ政策転換への評価や、いつ終わるかわからない急激なエネルギー危機にいかに対処すべきか、という内容に変わってきたとのことでした。
今週は、いろいろな方たちと食事をしながら語りましたが、政治のお話が大好きなイメージがあるドイツの人たちも、「もうあまりウクライナの話はしたくない」と言い出しました。
2月24日にロシアがウクライナ全土への侵攻を始めてからしばらくは、ドイツでも自身の安全保障にかかわる“自分事”として捉えられ、「いつ戦火がドイツにも及ぶかもしれないので、何とかしてそれを防がなくてはならない」と非常に熱い議論がなされ、ショルツ首相が進める防衛費の増額(注:メルケル政権では封印されてきた方向性)にも賛同し、「そう戦争も長続きしないだろう」、「ロシアの企みも欧米が一致して臨めば挫かれるだろう」と信じて、エネルギー価格などの高騰も受け入れる雰囲気が存在していたとのこと。
しかし、次第にエネルギー価格の高騰が直に家計に響きだし、ウクライナ紛争も一進一退の様相を呈しだすと、“熱狂”は一気に覚め、次第に自らに降りかかる目前の現実に目が移りだし、関心の低下と“疲れ”が目立ちだしたと、今回話し出した方たちも言っていました。
今回、友人の計らいで、以前も出演させていただいたDeutcheWelleのニュース・討論番組に出していただいたのですが、内容は紛争そのものの話ではなく、“ウクライナ後の国際情勢”や“欧州統合に向けた次の展開”といった内容が多かったのが印象に残ります。
その中で「ウクライナがEUの加盟候補国になったのはよい流れで、それなりのメッセージをプーチン大統領に送ったのだとは思うが、ウクライナが本当にEUの加盟国にふさわしいかと尋ねられたら、それは疑問だ。あくまでも欧州としてロシアによる蛮行に対する一致した抗議であり、意思表示であり、ウクライナの人々との連携を示す例だと思うが、EUとして、現在の紛争が終結した後、ウクライナの復興の責務を負うことができるかと尋ねられたら、それはまた別の次元の話だろう」といった意見が出たことは、現時点でのEU、特にドイツが抱えるジレンマを示した例ではないかと思います。
またある専門家は「ウクライナが欧州かと言われたら疑問だ。ロシアへの抗議とウクライナへの連帯の熱で現実を見失ってはいけない。ウクライナの前に、まだ多くの国の加盟について考える必要がある。その順序に特例は存在するべきではない。そろそろ冷静になることが必要。特に現在のウクライナでの戦争が終わった後、EUがどの程度、その復興に携わるかという度合いについては、注意しないといけない。EUが負担することは、同時にドイツへの負担を意味することを忘れてはならない」と述べ、「ロシアへの依存度を下げるという流れには大賛成だが、果たして私たちはどこまでそれができるのかについて、冷静に考え、対処しないといけない」と警鐘も鳴らしていたことはとても印象的でした。
私からは「ウクライナ紛争に対しての関心が下がっているのは、残念ながら世界的なトレンドだと思う。また今回のロシアによる侵攻に対する国際社会の分断が明確化されたこともとても気になる。欧米諸国とその仲間たちは、程度の差こそあれ、ロシアに対する制裁措置に参加しているが、アジアやラテンアメリカ、アフリカ、中東などの“ほかの地域”に目を向けた時、今回の紛争に対する姿勢は大きく異なる。一方的な侵攻に対しては非難の声が強いが、制裁措置については距離を置き、巧みに欧米とロシア・中国陣営との間でバランスを取ろうとしている国が多いように思われる。国を名指しするのはあまりよくないと思われるかもしれないが、その中でも特にこれまでのところうまく振舞っているのは、トルコとインドだろう。どちらにも意見が言える国として、国際社会における発言力が高まっている。今回の戦争が長引くと思われる中、いかにこれらの国々との距離感を測り、対処していくかがとても大事になるだろう」と述べました。
また「私から警鐘を鳴らしたいのは、あまりにも私たちの目がウクライナに向き過ぎて、他の地域で起こり、悲劇を生んでいる紛争や案件への対応が疎かになっていることだ。以前、あれほど騒いでいたシリア問題は、トルコとの取引材料に使われ、根本的な問題を意図的に見過ごしてはいないだろうか。また、人権問題で大騒ぎしたミャンマーの内戦状態や、解決の糸口が見えず、ジェノサイド案件との批判も出たエチオピアのティグレイ紛争も、対応を要するトップアジェンダから外れている。実際には異常気象による食糧難も悪化しており、衛生状態の著しい悪化もあるにもかかわらず、UNをはじめ十分な対応ができているとは言い難い。ほかにも南スーダンの人道的危機なども急を要する案件だと思うが、十分に注意を払えていない。食糧危機を悪化させているのは、これまでアフリカの国々が依存していたウクライナ産の穀物、特に小麦の供給が途絶えていることも大きな原因だが、今回のロシアはずしによってマヒ状態に陥っているUN安全保障理事会の状況も大きな元凶と言える。UN安保理の件については、ロシアや中国を非難するのは簡単だが、非難したところで動かないこともよくわかったはずなので、早急に実効性のある対応策を練り、実施しないといけないだろう。現在起こっている国際社会の分断とブロック化は、残念ながら不可逆的なものに思える」と述べました。
この番組の後、この街および近郊に住むロシア人とウクライナ人の元同僚たちと共に、夕食を取りながらいろいろと話をしました。
幸い友人たちの間での口論もなく、ケンカにもならなかったので安心しましたが、どちらも【プーチン大統領とロシアがウクライナに侵攻した意図については理解しているが、決して正当化できないこと】【在外のロシア人たちは、自国が行っていることに対して恥じており、支持できないと考えていること。しかし、ロシア国内の同胞たちがプーチン大統領を支持している状況については、それはそれで理解できること】【ウクライナの18歳から65歳までの男性たちが、家族を避難させてからウクライナに戻り戦っていることが称賛され、英雄視されているが、実際には逃げることを望んだ人も多い中、ゼレンスキー政権が発令した法律によって、半強制的に呼び戻されたケースも多いこと】【プーチン大統領の思考回路が、帝政ロシアの思考回路になっていて、その勢力圏を取り戻し、彼独自の帝国を作るまで、または彼が亡くなるまでは、止まらないだろうということ】【仮にウクライナを堕とし、“取戻した”としても、ジョージアやモルドバに対しての意欲は変わらない。恩をあだで返したカザフスタンについては分からないが、東欧諸国にまではちょっかいはかけないと思われる。特にNATOの基地がある国については、なかなか手出しはしない】【中国の影響力は無視できないが、親近感は存在せず、信用していない。経済的な利益を与えてくれる限りは付き合うが、政治やその他のことに対して口出しされることは許さない】といった考えはシェアしているようで、とても勉強になりました。
ウクライナ人の友人たちからは「日本を含め、各国が示してくれるウクライナへの連帯は素直に嬉しい」「でも、この戦いが停止した後(注:終わった後とは言いませんでした)、各国はどこまでウクライナの復興に携わり続けてくれるかは心配。スイスで行われた復興会議は勇気づけられるものであると思うが、アフガニスタンに対する支援状況の推移を見ていると、正直心配である」「プーチン大統領とロシア軍の上層部は許せないが、ロシアの人々も今回の蛮行によって傷ついたことは忘れてはならない」と言っていたことはとても印象的で、同時に驚きました。
しかし、私が懸念を抱き、恐怖さえ覚えたのは、たまたま同じレストランで食事をしていたドイツ人のグループが大きな声で罵倒してきたことで、もしかしたら当該のウクライナ人やロシア人よりも“分断”されているのではないかと感じたことです。私に対しても暴言を吐いていたようですが、幸か不幸か、早口のドイツ語だったため、実際に何を言われているのか分かなかったので、圧倒されるだけで済みましたが、同じテーブルの友人たちの反応を見ていると、あまりよくない内容だったようです。
とはいえ、このような反応をするということは、まだ“ウクライナ忘れ”は進行していないのかもしれませんが。
今回のドイツ出張中に気づいたことは、こちらでもロシア側の情報は遮断されていることです。
プーチン大統領が行っていることに対して、動機について理解はしても、決して支持しませんが、最近、ドイツのショルツ首相やフランスのマクロン大統領が【そろそろ対話・交渉による停戦を】と呼びかけ、「プーチン大統領とも話す必要がある」と言っている割には、まだ一方通行の情報しか与えないのだなと、ちょっと不安も抱いています。
今回、私が久々にドイツにきていることを聞きつけて、新幹線でアクセス可能な欧州各地から友人たちが集まってくれました。ボンはさすがに少し不便なので、各地からの新幹線が乗り入れるケルンで会いましたが、今回のウクライナ紛争がいかに欧州社会に暗い影を落とし、各国に影響を及ぼしているかを知ることが出来ました。
またNATOの拡大に潜む欧州のジレンマについても話を聞くことが出来ました。トルコが180度方針転換をして、スウェーデンとフィンランドの加盟手続きが急ピッチで進んでいますが、これはトルコを翻意させるには時間が掛かるだろうが、揉めている間にできる準備をしておこうという方針が功を奏している“だけ”だそうです。
しかし、NATOへの両国の加盟に対する加盟国からの支持は、アメリカ国務省が集めるというNATOの構図にも見られるように、欧州の安全保障がいまだに大きくアメリカの抑止力に依存するという“変わらない形式”を明らかにしているという点には、欧州各国の政府はとても不思議な感覚を感じているとのことでした。特に欧州独自の防衛体制を提唱してきたフランス政府については、国内での政争の材料にも挙げられているようですし、NATO本部がある国際都市・ブリュッセル(ベルギー)やオランダ、そしてドイツも違和感を持たざるを得ないという声は、認識しておく必要があると考えます。
特に日本の首相として初めてNATOの首脳会談に出席した岸田総理は、今後もNATOの首脳会談に参加することを表明していますし、実際に日本の政府代表部もすでにありますので、このようなNATO内部の不思議な力の構造と加盟国の深層心理についても認識した上で、域外国としていかに振舞うかを慎重に決めておかないと、ウクライナでの紛争が一段落した後の対応に窮することになるかもしれません。
特にNATOの域外のマターである中国対応とNATOを結びつけることを、アメリカと共に意図するのであれば、具体的にどのように適用できるかを明確に理解し、政府内でシェアされていなくてはなりません。恐らく官邸や外務省、防衛省内ではすでにしっかりと検討されていると思われますが。
ウクライナに対する欧米諸国の対応の温度差を理解し、国際社会における分断の拡大と明確化を認識したうえで、今後、日本がどのような外交を展開するか、そして不安定要素満載の北東アジア地域における安全保障問題をいかに国際情勢の範疇で具体的に考え行動するのか。今週末に参議院選の結果が出たら、日本は迅速に行動可能な方針を練り、示し、stand readyの状態にしておく必要があると考えます。
また長くなってしまいましたが、以上、国際情勢の裏側でした。
●ウクライナ軍、南部ヘルソン奪還作戦へ 住民に避難指示 7/11
ウクライナ軍はロシア軍に占拠された南部ヘルソン州の州都ヘルソンの奪還作戦に入ったもようだ。戦闘に備え当局は住民に避難を呼びかけ、地元メディアによると10日までにヘルソンのロシア軍施設にミサイル攻撃をしかけた。一方、東部ドネツク州ではロシア軍による砲撃が続き、民間の集合住宅で少なくとも26人が死亡した。
ウクライナ国営通信ウクルインフォルムは目撃者などの話として、ウクライナ軍のミサイルが10日早朝にヘルソンのロシア軍施設に命中し、火災が起きたなどと報じた。ロシアのタス通信もミサイル攻撃で病院などに被害が出たとしている。
ウクライナのベレシチュク副首相は8日、ヘルソンや隣接するザポロジエ州のロシア側支配地域の奪還作戦を予告し、住民に即時避難を呼びかけていた。軍事侵攻が始まった初期の3月までにロシアが制圧し、その後通貨ルーブルの流通やロシア国籍を証明する身分証発行が始まるなど実効支配が進んでいた。
ウクライナのレズニコフ国防相は10日の英タイムズ紙のインタビューで、ゼレンスキー大統領が南部沿岸地域の奪還作戦を軍に命じたと明らかにした。
米欧から供与された新型兵器を有効に使えるようになってきたと説明した。レズニコフ氏は9日、自身のツイッターでも米国から6月に引き渡された高機動ロケット砲システム「ハイマース」が大きな戦果を上げていると述べていた。
一方、ウクライナ非常事態庁によると東部ドネツク州の北部チャソフヤールでは9日夜、ロシア軍のロケット砲が民間の集合住宅に着弾し、11日までに26人の死亡が確認された。なお生き埋めの人がいるとみられ、救助活動が行われている。
北東部ハリコフでも10日夜から11日早朝の間、住宅街などに砲撃があった。地元当局によると、3人が死亡し20人以上が負傷した。
英国防省は11日、ロシア軍は10日もドネツク州北部で大規模砲撃を行ったが、目立った支配地域の拡大はなさそうだとの分析を公表した。計画通りの戦果が得られないことで士気が低下し、ロシア国防省が苦慮している可能性があると指摘した。 

 

●見通し立たぬ宇露の停戦交渉 7/12
主要7カ国(G7)首脳会議(6月26〜28日)、そして北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(同29〜30日)と日本を含めた西側諸国の重要会議が終了した。筆者(小田)は世界中がウクライナ戦争について何か新たな対応を打ち出すかどうか、特に停戦あるいは和平への動きが垣間見られるかどうかに注目したが、変化は確認できなかった。
ロシア軍が2月24日にウクライナに侵攻を開始して既に4カ月が過ぎた。ウクライナ東部でのロシア軍の攻勢が伝えられ、その一方で米欧諸国からの軍事支援を受けてウクライナ軍の抵抗が続いている。
今は双方が必死に戦っている最中であり、停戦、和平への動きが見られないことは当然かもしれない。しかし、いずれウクライナとロシアが交渉の場を持つことは間違いない。G7とNATOの重要会議が終わった今、関係国の首脳や知識人の発言、メディアの論評をもとに交渉の可能性を展望してみた。
交渉の可能性は戦闘状況と密接に関係する。その戦況がウクライナ軍に不利に展開していることは多くの中立的な軍事専門家が認める。ウクライナ軍に勝って欲しいとか、ロシア軍を追い出して欲しいといった希望は別にして、これが現実だ。今後、ロシア軍がウクライナから退却するといった形での敗北の可能性は低い。
では、停戦あるいは和平の可能性はまったくないのかどうか。G7もNATOも今回、そうした展望があることを一切うかがわせなかった。
欧州3首脳が交渉の必要性に言及
しかし、実は、ウクライナとロシアは侵攻開始直後の2月28日から数度交渉を重ねたという経緯がある。交渉は3月29日のイスタンブールでの会合を最後に事実上、止まっているが、この間、米欧諸国、さらにはウクライナのウォロジミル・ゼレンスキー政権の中からも、交渉の必要性、あるいは妥協の可能性についての言及があることにも注目しておきたい。
まずフランスのエマヌエル・マクロン大統領。6月3日にフランスのメディアとの会見で、戦闘が収まることを前提に、外交的解決への道筋を描く必要を強調、さらにロシアを「辱めることを避ける」よう強調した。ドイツのオーラフ・ショルツ首相、イタリアのマリオ・ドラギ首相とともにウクライナを訪問する直前の6月15日にルーマニアを訪問した際には、戦争は外交でのみ終結すると述べた。
マクロンの6月3日の発言をEUの外交担当のジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表が6月中旬、フランス紙、ル・ジュルナル・デュ・ディマンシュとのインタビューで支持、「我々はこの大陸でロシアと共存していかなければならない」と付け加えた。
イタリアのドラギ首相も交渉の必要を指摘してきた。5月19日にイタリア上院で「できるだけ早く停戦を実現すべきだ」と述べ、同時にロシアが交渉の場に出てくるよう経済圧力を強めるべきだと述べた。
この上院での発言の直後、イタリアのラ・レプッブリカ紙など欧米メディアは、イタリア政府が独自に作成した和平案を国連やG7に提出したと伝えた。イタリア政府は発表していないが、報道では、まず停戦を実現し、停戦ラインに非武装地帯を設けることや、ウクライナがNATOに加盟せず中立国となり、ウクライナのセキュリティを国際的に保障することが盛り込まれている。
ドイツのショルツ首相も同様の考えだとみられる。ショルツ首相はロシアがウクライナに侵攻する直前の2月19日、ミュンヘンでの安保フォーラムに出席したゼレンスキー大統領と直接会い、ウクライナが中立国となり、それを米国とロシアが条約の形で保証することを提案している。
ゼレンスキー大統領はこの時、ウラジーミル・プーチン大統領が信用できる人物ではないなどと言ってショルツ首相の提案を受け入れなかったという。この話は4月1日に米国のウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じて明らかになった。
マクロン、ショルツ、ドラギの3首脳は6月16日にキーウ(キエフ)を訪問、ゼレンスキー大統領と会談した。その際、3首脳はウクライナがロシアに一定の譲歩を示し、交渉を開始するよう迫るのではないかとの観測が事前に流れた。
会談後の説明では、3首脳は引き続きウクライナを支援すると約束したとされたが、交渉の可能性をゼレンスキー大統領に打診したことはありうる。
大きな発言力を持つ米国のジョー・バイデン政権の姿勢はどうなっているか。バイデン大統領は当初、極めて強硬で、交渉など論外だった。3月16日、ウクライナへの8億ドルの軍事支援を発表した後、ホワイトハウスで記者団に「プーチンは戦争犯罪人だ」と述べた。
またロイド・オースチン国防長官はアントニー・ブリンケン国務長官とともにウクライナを訪問した後、ポーランドに戻り4月25日に記者会見、「ロシアがウクライナ侵攻でやったようなことができない程度までロシアを弱体化させたい・・・彼らがその能力をすぐには回復できないようにしたい」と述べた。ロシアの戦争遂行能力を潰しておきたいと言ったに等しい。
バイデン大統領自身の今の立場は、5月31日のニューヨーク・タイムズ紙への寄稿に現われているとみられる。「プーチン氏には同意できないし、彼の行動には怒りを覚えるが、米国がモスクワにいる彼を追放するよう試みることはない。米国と我々の同盟諸国が攻撃されない限り、我々はこの紛争に直接関係することはない。ウクライナでの戦争に米兵を送ることもロシア軍を攻撃することもない」と論じた。
交渉の可能性についての言及はないが、侵攻直後に示した怒りの感情は抑え込んでいるように思われる。
バイデン大統領は6月3日、記者会見で「和平のためにウクライナは領土を割譲しなければならないのか」と聞かれ、「それ(注、ウクライナ)は彼らの領土だ。彼らがこうすべきだとか、こうすべきでないなどと言うつもりはない・・・でもどこかの時点で交渉による解決が必要になるだろう」と答えた。
領土をロシアに譲ることなどあり得ないではないかと一蹴せず、それはウクライナ自身が決めることだと、言わば一呼吸入れた対応であり、バイデン大統領が領土の割譲の可能性を排除しなかったと一部メディアは受け止めた。
実はバイデン政権の中からは、早くから大統領と同じような意見が聞かれた。3月29日にホワイトハウスのケイト・ベディングフィールド広報部長が述べている。
こうした一連の米欧首脳らの発言や論評について注意すべきは、将来の交渉を見据え、少なくとも今はウクライナの交渉上の立場を強めておく必要があるとの認識が前提にあることだ。戦況がウクライナに不利な状況のままでは、ロシアは交渉に応じないだろうし、交渉が始まっても多くの譲歩を迫られてしまう。したがって、できるだけ形勢を挽回できるよう軍事援助も制裁強化も必要である点では一致する。
キッシンジャー発言の波紋
欧米の政治家の中に停戦あるいは和平の交渉を今、急ぐべきだと公言する者は見当たらないが、在野にはそうした主張が結構多い。ここでは2つ例を紹介しておきたい。
1つはヘンリー・キッシンジャー(リチャード・ニクソン大統領およびジェラルド・フォード大統領の下で国務長官と国家安全保障担当補佐官を務めた)の早期交渉論だ。
キッシンジャーは御年97歳。5月23日、ダボスでの世界経済フォーラム年次総会に登場、向こう2カ月以内に交渉を再開すべきだと述べた。そうしないと取り返しがつかなくなると指摘、ウクライナ軍とロシア軍の停戦ラインを2月24日の侵攻前の状態(ステータス・クオ・アンティstatus quo ante)に戻すことが理想的で、これ以上戦闘を続けてもウクライナのためにはならないと論じた。
キッシンジャーが言うステータス・クオ・アンティとは、2014年にロシアが併合したクリミアや親ロ派が支配する東部ドンバス地方の領土割譲を意味するとウクライナでは受け止められ、ゼレンスキー大統領らが強く反発した。大統領はキッシンジャーを第二次世界大戦前にアドルフ・ヒトラーの懐柔を試みたナチス宥和主義者にたとえたほどだ。
もう1つ交渉を求めた例として5月19日のニューヨーク・タイムズ紙掲載の同紙論説委員会の記事がある。
ロシア軍の強力な戦力を考えると、ウクライナがクリミアやドンバスを奪還し勝利を収めることは「現実的な目標にはなりえない」と論じた。ウクライナは、自らの戦力、またどのくらい破壊に耐えられるか「現実的評価」を下すべきだとも主張、妥協を薦めた。
では、ロシアの交渉に対する姿勢はどうか。ロシアは2月中から交渉に応じ、3月29日のイスタンブールでウクライナ側が示した和平提案を一時は高く評価していた。これにはウクライナがNATO加盟を断念し、中立国となること、さらにはウクライナのセキュリティの問題と領土の問題を切り離して交渉するとの方針が盛り込まれていた。
プーチン大統領は4月26日、モスクワを訪問したアントニオ・グテレス国連事務総長と会った際、イスタンブールでいったんは「突破口を開くことができた」と思ったのだが、ウクライナがその後、ブチャ(キーウ近郊の町)の虐殺事件を持ち出し、交渉態度を変えたため中断したと述べた。
ロシア側交渉代表団のレオニード・スルツキー下院議員は5月27日に、ウクライナとの交渉は目立たない形で続いていると明らかにし、ロシアとしてまったく接触を拒否してはいないようだが、最近では、ロシア側からの交渉に関する言及はほとんどない。
ブリンケン米国務長官は6月29日にマドリッドで開かれたアトランティック・カウンシル主催のフォーラムで、プーチン大統領が外交を通じて戦争を終わらせることに何の関心も持っていないと述べた。
ウクライナ側の交渉団のダビド・アラハミア国会議員は6月17日に米国メディアの「アメリカの声」に対し、8月末までに交渉が再開されるとの見通しを示した。ただし、その頃にはウクライナ軍が反撃して交渉上の立場を強めているだろうと付け加えており、ウクライナの反転攻勢が前提になっているようだから、確かな見通しとは言えない。
一筋縄ではいかぬ領土問題
こうして停戦あるいは和平の交渉が始まるメドは立っていない。したがってその交渉の展望を語ることは時期尚早ではあるが、これまでの経緯を踏まえると、交渉の焦点は大きく分けて2つある。ウクライナのNATO加盟断念と中立化、もう1つはクリミア、セバストーポリ、ドンバス地方を対象とする領土問題の扱いだ。
前者の問題はそう難しくないのではないか。ウクライナ代表団が3月29日にイスタンブールで示した和平案は、ラトビアに本拠地を置きロシア情勢に強いメディア「メドゥーザ」によると、ウクライナの「永世中立」を打ち出している。
ウクライナは国際的に安全を保障されることを条件に中立国であると宣言し、どのような軍事同盟にも加盟せず、外国の軍事基地や部隊を配備しないとウクライナ側が提案したのだ。ただし、ロシア軍の蛮行に怒り心頭に達しているゼレンスキー大統領が今も同じ方針を堅持しているとは限らないことは付け加えておく。
ウクライナが中立国になるという考えは、既に2014年のウクライナ危機の際にキッシンジャーやズビグネフ・ブレジンスキー(ジミー・カーター大統領の国家安全保障担当補佐官)が提唱している。ドイツのショルツ首相が2月19日にゼレンスキー大統領に打診したことは既に指摘した。
NATO加盟国は長年、ウクライナを加盟国として歓迎すると言ってきたが、特に2014年以降はロシアとの紛争を抱えていることから本音では加盟は無理と考え、バイデン政権の中にでさえ、慎重論が強かった。
後者の領土問題は一筋縄ではいかない。2014年と2015年に成立したミンスク合意では、ドンバス地方のドネツク州とルハンスク州がウクライナ領土としてとどまるが、大幅な自治権を持つとされていた。しかし、ロシアとドンバスの反キーウ政権の武装勢力はキーウが合意をまったく実行しようとしないと業を煮やし侵攻を開始した。
領土問題はロシアが侵攻し支配地域を拡大している今、侵攻前に比べてますます複雑になっている。
係争地域は、(1)2014年にロシアが併合したクリミアとセバストーポリ、さらに同じ年にウクライナからの分離独立を宣言した「ドネツク人民共和国」と「ルハンスク人民共和国」、(2)これら両人民共和国の外のドンバス地方(ドンバス地方は両人民共和国のほかの地域も含まれる)、(3)ロシア軍が2月24日の侵攻以降新たに支配した地域――の3つになるだろう。
ゼレンスキー大統領はこれら全てがウクライナの領土であり、譲るつもりはないと明言している。領土交渉は成立せず、平和条約の締結は不可能であるようにも思われる。
しかし、それでも、領土交渉を長期の問題として棚上げし、平和条約でなく、とりあえず休戦協定を結ぶという手はある。
朝鮮戦争の休戦協定という案
ワシントンDCにあるアメリカン大学で教鞭を取るジョン・ウン・リーは5月12日、米国のニュースサイト「ザ・ナショナル・インタレスト」に朝鮮戦争のように、休戦協定を結び、停戦する案を紹介した。
これだと戦闘は収まり、ウクライナもロシアも両人民共和国も領土の要求を取り下げる必要はない。ただし、その場合でもどこに停戦ラインを引くかで揉める可能性は高い。
今はウクライナ、米欧諸国、さらに敵対するロシアにも、休戦協定はおろか、和平交渉の気運は高まっていない。しかし、マクロン大統領が言ったように、戦争は外交でのみ終結する。長期の消耗戦が続けば、いずれそうした機会がやってくるだろう。それが年内になるのか、年明け以降の相当先になるのか、予断を許さない。
●NATOの結束に影を落とす「戦争疲れ」 7/12
1.結束を示したNATOサミット
   大きな画期となるサミット
6月下旬に、ドイツのエルマウとスペインのマドリードで、二つの首脳会談があった。G7(主要7カ国)サミットとNATO(北大西洋条約機構)サミットであり、この二つに日本の岸田文雄首相も参加することになった。
日本の首相のNATOサミットへの参加は初めてのことである。また今回はNATOのアジア太平洋パートナー(AP4)である日本、オーストラリア、ニュージーランド、そして韓国の四カ国が招待され、この四カ国による首脳会談も開かれている。あわせて、今回のNATOサミットは、12年ぶりの「新戦略概念」改定となる重要なサミットであり、その文書の中でもアジア太平洋のパートナー諸国との協力の重要性が強調された。
ドイツでのG7サミットと、スペインでのNATOサミットの二つのサミットは、ロシアによるウクライナ侵略と、その後の戦争が継続する中での開催となった。それゆえ、ウクライナに対するG7やNATOとしての支援策や、ロシアを非難して制裁をさらに強化する必要性が論じられた。
また、これまでトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の反対によって座礁していた、スウェーデンとフィンランドという北欧の中立国2カ国のNATO加盟問題に重要な光が当てられた。マドリードNATOサミットでは、トルコ、スウェーデン、フィンランドに、NATO事務総長が参加する四者会合が開かれて、妥協が成立したことでスウェーデンとフィンランドのNATO加盟が合意された。なんとかNATOの結束を示すことに成功した今回のサミットは、ロシア・ウクライナ戦争の今後を展望する意味でも、大きな画期となるであろう。
   「対ロ政策の転換」が焦点に
このNATO首脳会談をめぐっては、開催前からさまざまな提言や想定がなされていた。
たとえば、プリンストン大学名誉教授で、シンクタンクのニュー・アメリカCEOも務める国際政治学者アン=マリー・スローターは、ロシアを孤立させ、包囲するに至るフィンランドやスウェーデンのNATO加盟には慎重な姿勢を示している。スローターは、それによりヨーロッパが再び二つに分断され、「統一され自由なヨーロッパ」の確立が遠のいていくことを懸念している。
とはいえ、スローターのような意見は必ずしも主流とは言えない。彼女が国務省政策企画室長を務めたオバマ政権時に、アメリカは米ロ関係の「リセット」をして関係改善へと動いたが、結局は2014年のクリミア半島の一方的な併合と、ウクライナ東部での戦争勃発でアメリカの期待は裏切られる。その後の経緯を見れば、ウラジーミル・プーチン大統領のロシアに善意を示すことが、必ずしも戦争終結や平和には繋がるわけではないことが分かる。
そのような経緯もあり、これまで政府内で対ロシア政策や東欧諸国に対する政策に携わってきた三人の元政府高官が連名で、従来の対ロ政策を大きく転換する必要を論じている。具体的には、1997年のNATOロシア基本文書における合意が、ロシアの一方的な軍事行動でもはや無効となったことを前提に、従来の旧東欧諸国の領土にNATO軍の通常戦力を常駐させないという保証を見直す必要を説いている。NATO首脳会談では、明示的に基本文書の効力を失効させる宣言はなされなかったが、「新戦略概念」においてポーランドに米軍の常設司令部設置や旅団規模のローテーション方式での配備をするなど、従来よりも米軍の関与が強化される結果となっている。
NATO国防大学研究部長のティエリー・タルディは、これまで「新戦略概念」策定へ向けた提言文書をまとめるなど、積極的にその過程に関与しているが、『ル・モンド』紙において合意に含めるべき点を四つ指摘し、それぞれ矛盾して相対するベクトルに一定の均衡点を見出す必要を論じている。たとえば、アメリカとヨーロッパでどの程度負担を分担するかについても、一定の合意が必要となり、とりわけヨーロッパ側がよりいっそうの防衛力に貢献しなければならないと論じる。
ロシアと国境を接する諸国にとって、ウクライナでの戦争は現実の脅威であり、戦線の拡大もある程度想定し、準備をせねばならないであろう。ポーランドやバルト三国は、実際のロシアの軍事侵攻の可能性を肌身で感じているがゆえに、NATO加盟国の中でもとりわけロシアには強硬な姿勢を示している。
リトアニア大統領のギタナス・ナウセダは、NATO首脳会議開催の直前に『ワシントン・ポスト』紙に寄稿して、もはやロシアとの協力は不可能となったとして、NATOの抑止力と防衛力をよりいっそう強化する必要を説いている。
マドリード・サミットで採択されたNATOの「新戦略概念」の文書において、NATO設立以降初めて、ロシアは強い言葉で「脅威」と位置づけられた。またそれと同時に、NATO即応部隊の規模は大幅に拡大されて30万人となった。このような合意がなされたのは、これらの諸国からの強い働きかけがあったからであろう。
とはいえ、欧州諸国が十分な防衛努力をせずに、米軍に一方的に依存するような状況は望ましくない。ドイツを初めとする欧州諸国が、国防費の大幅な増加をすでに宣言しているが、実際どの程度増強し、またNATOの抑止と防衛を強める役割を担うかは未知数である。
アトランティック・カウンシルのシニア・フェローであるエマ・アシュフォードは、アメリカ国内でヨーロッパの加盟国の防衛努力の不足に対する不満が鬱積していると同時に、ヨーロッパの側にもトランプ政権における同盟批判の記憶や、インド太平洋重視のアメリカの政策への不安など、どの程度真剣にアメリカがヨーロッパ大陸でロシアの脅威に対峙する意思があるか、不安が残っているという現実に触れている。
   韓国左派系メディアが激しい批判
他方で、尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領が韓国大統領としてはじめてNATOサミットに参加するに際して、韓国の国内ではとりわけ左派系メディアが厳しい批判を行っている。たとえば『ハンギョレ』紙の社説は、今回のマドリードNATO首脳会談では「反中・反ロ政策の固定化」がなされていき、中国の反発を招くことを懸念してNATOとの協力には慎重であるべきだと指摘している。
実際に中国は、今回のNATO首脳会談の「新戦略概念」採択、さらにはアジア太平洋四カ国のサミット参加に厳しい批判を行っている。サミットが開幕した6月28日の『環球時報』紙においては、「NATOのアジア太平洋化」を牽制し、かつての冷戦の遺物であるNATOが「新しい冷戦」を生み出しつつあると説明する「社评:亚太国家不应站在北约的危墙之下(社説 ーアジア太平洋諸国は危ういNATO に近寄るべきではない)」、『環球時報』、2022年6月28日]。そして、NATOはヨーロッパの安全保障危機への「治療薬」ではなく、「毒薬」となっていると述べ、この「毒薬」を東アジアにばらまくことは悪質だと攻撃する。ここではとりわけ、日本と韓国のサミット参加に批判の矛先が向けられている。これまで中国は、日米韓三カ国の安全保障協力や、「クアッド」のような、アジアにおける民主主義諸国の連携を強く嫌ってきた。
かつてオーストラリアに対して行ったように、アメリカの同盟諸国を一国ずつ分断、そして孤立化させて、圧力をかけるのが中国が頻繁に用いる手法である。だとすれば、それらの同盟諸国が結束し、アジア太平洋地域で中国を包囲するような連携に、特別な警戒感を抱いているのも不思議ではない。
2 ロシアへの妥協は必要か
   話題を呼んだキッシンジャーとソロスの論争
はたして、どのようにすれば戦争の終結が可能なのだろうか。ロシアはこれまでになかった水準の厳しい制裁を科されながらも、ウクライナに激しい攻撃を続けており、依然として戦争の出口は見えてこない。そのようななかで国際論壇においても、この戦争をどのように終結させるか、そしてロシアに対してどのような姿勢を示すべきかをめぐり、見解が分かれ、論争が見られた。
中でもとりわけ話題を呼んだのが、国際政治学者であり、元米国国務長官のヘンリー・キッシンジャーと、投資家であり政治活動家でもあるジョージ・ソロスとの、今年のダボス会議での論争である。
キッシンジャーは、ロシアを過度に周縁化することなどによる国際秩序の不安定化を懸念し、イデオロギー色を排して、2014年にウクライナが失った領土をロシアの領土に編入させる必要を論じる。他方でソロスの場合は、ロシアに対する戦争の勝利は、「文明を守る」ためにも必要だと論じ、そのために最大限ウクライナを支援する必要を説いている。
戦争の早期終結のために、ウクライナが一定程度譲歩をするべきだという意見は、キッシンジャー以外にも見られる。ジョージタウン大学教授で、外交問題評議会のシニア・フェローでもあるチャールズ・カプチャンは、戦争を終結させるためにはロシアに対して、ウクライナや国際社会が一定の譲歩を示すことが不可避だと論じる。
ロシアはウクライナから撤兵させる姿勢を示しておらず、戦争がこのまま続けばより危険な段階へと進む。プーチン大統領を追い詰めることは、戦争終結の可能性が遠のくことを意味し、無制限なウクライナへの武器供与は被害を拡大させるだけだとカプチャンは論じる。そして、ロシアとの外交交渉を「宥和政策」と同一視して最初から度外視する姿勢を戒めている。
またハーバード大学教授の著名な国際政治学者のグレアム・アリソンも、ウクライナ情勢についてのインタビュー記事の中で、かつてフランクリン・ローズヴェルト米大統領やウィンストン・チャーチル英首相がソ連のヨシフ・スターリンと会談し、またリチャード・ニクソン米大統領が毛沢東国家主席と交渉したように、西側諸国がプーチン大統領と交渉すべきだと述べている。ロシアとの共存を摸索しなければならないというアリソンの議論は、かつて彼が刊行した『米中戦争前夜』という著作の中で、「ツキジデスの罠」という用語を通じて、中国との共存の必要性を論じたことと重なる。
バーミンガム大学教授のパトリック・ポーターらは、ウクライナとそれを支援する西側諸国の利益が一致しているわけではないとした上で、西側の対ロ強硬姿勢のレトリックがウクライナの期待を吊り上げてしまっており、よりいっそう戦争終結が難しくなっていると論じる。ウクライナへの感情的な同情と、自国の冷静な国益の評価を混交するべきではなく、ウクライナから一定の距離を置くことも必要だと示唆する。
ソ連外交史が専門の大家である、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)教授のヴラディスラブ・ズボクは、プーチン体制の今後について歴史的視座からの洞察を示している。
プーチン体制においては、厳しい弾圧を行わずとも、それに批判的な国際派の人々はすでに海外に脱出しており、それ以外の国民構成においては世界経済との繋がりをあまり必要としていない。それゆえ西側諸国からの制裁や貿易制限を受けても、それらの国内派の人々は直接的にはあまり損失を被ることはなく、プーチン体制への批判は強まらない。むしろプーチンは、かつてのミハイル・ゴルバチョフ大統領とは異なり、保守的なイデオロギーを媒介にしてロシア国民のノスタルジーの感情に訴えている。それゆえ、西側諸国の経済制裁が直接、プーチン体制を打破する結果には至っておらず、西側諸国は、制裁により弱体化しながらも独裁的であり続けるプーチン体制と、共存をしていかなければならないだろうと予測する。的確であり、鋭い洞察である。
   楽観主義の後退
実際に、戦争勃発直後、ロシア軍の侵攻が停滞して、ウクライナ軍が勇敢にロシアの占領地拡大を阻止していた頃の楽観主義は大幅に後退した。
たとえば、外交問題評議会のリチャード・ハース理事長は、一方の側が他方に自らの意思を強制するような「勝利」が得にくい現実を指摘して、長期戦になることを想定した戦略を検討することが重要だと論じる。そして、アメリカはこの戦争を、民主主義を求めたものではなく、国際秩序の問題のフレームして、国際世論の支持を拡大する重要性を説く。ハースは、ウクライナの領土をロシアに割譲するべきではないと論じる。というのも、1938年のチェコスロバキアのズデーデン地方の割譲の例のように、攻撃された国が領土を割譲する前例をつくれば、それがさらなる同様の事態を生み出す結果になるからだ。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は、『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄稿して、「戦争疲れ」が浮上する中でもウクライナへの継続的な支援を続けて、ロシアを打倒しなければならないと論じる。すなわち、ウクライナが「負けない」というだけではなく「勝つ」必要があるのだ。
実際、最近の国際論壇に少なからずあるウクライナの妥協を求める声は、いわゆる「戦争疲れ」に由来する部分もあるはずだ。クレバ外相によれば、ロシアに勝利するためには経済制裁が鍵であり、長期的にロシア経済を弱体化させることが重要だ。しかし終戦交渉の席に着かせるには、あくまでもロシアが戦場での敗北を続けることが必要になる。ウクライナの領土的譲歩による戦争終結を求める声を退けることが、現在のウクライナ政府の重要な目標であろう。
   ウクライナ支援を強く説くイギリス
欧州諸国の中で、最もロシアに対して強硬な姿勢を示し、またウクライナに対する支援継続の必要を強く説いているのがイギリスである。リズ・トラス英外相は、クレバ外相との共同執筆の記事をイギリス保守系の新聞、『テレグラフ』紙に掲載した。
ここでは、人々が自らの未来を自由に選択する重要性が説かれており、そのような原則を擁護することが戦争の目的でもあるという。同時にそれは、プーチン大統領が忌み嫌うことでもある。プーチンにとっては、この戦争を通じて自由民主主義が成功し、権威主義体制が挫折するような結果に至ってはならない。またこの記事では、ウクライナの主権や安全、領土保全を犠牲にして、独仏両国を中心にまとめたミンスク合意も批判される。欧州諸国の中でも、戦争継続への意志の強さには濃淡があり、次第に亀裂が見られるようになっている。
同様に、ボリス・ジョンソン英首相も『タイムズ』紙に寄稿して、ウクライナへの支援を継続する必要と、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が提示する条件での戦争終結を求める必要を説いている。
プーチンがその目的を達成したならば、あらゆる独裁者が力を用いてでも自らの目標を達成するようになることが常態化する。それゆえ、西側諸国は迅速にウクライナへと武器や弾薬を供与して、戦争継続が可能となるように援助を続けることが死活的に重要だとジョンソン首相はいう。
このように欧米諸国の中でも、戦争終結のためにロシアに譲歩して、すでにロシアが支配下に置いているウクライナの主権的領土を割譲する必要を説く者から、徹底してロシアを打倒してウクライナへの支援を継続する必要を説く者まで、多様な主張が見られる。ただし、マドリードNATOサミットではNATO加盟諸国がウクライナへの支援を強化して、ウクライナを勝利に導くための協力をする姿勢を示した。戦争終結までの道は見えないが、それでも現在の政策を継続することが最良だと判断したのであろう。 ・・・
●財政破綻、人口減少だけではない 破綻国家となりつつあるウクライナの窮状 7/12
7月4日から2日間にわたりウクライナの復興について話し合う国際会議がスイス・ルガーノで開催された。ウクライナを長期的に支援するための原則を盛り込んだ「ルガーノ宣言」が採択された。
会議に出席したウクライナのシュミハリ首相は「復興計画に必要な金額は7500億ドルに上る。主要な財源として接収したロシアの資産を充てるべきだ」と主張した。
西側諸国の制裁により、ロシア政府の外貨準備が約3000億ドル、同国の富豪などの個人資産が約300億ドル差し押さえられた。だが、これらの資金をウクライナ復興に流用するには国際法上の制約がある。宣言は採択されたものの、具体的な財源の目途は立っていないのが実情だ。
この会議の目的はあくまで戦争終了後の長期的な復興計画の策定であり、戦争が続く現在のウクライナの窮状を支援する性格のものではない。
ロシアによるウクライナ侵攻から4ヶ月が経過し、戦争で荒廃したウクライナの財政は厳しさを増すばかりだ。ウクライナの今年の国内総生産(GDP)は前年比40%以上のマイナスになることが見込まれている。
ウクライナ政府の収入の大部分を占める関税収入はロシアによる侵攻前の4分の1に落ち込んでいる。関税の対象である輸入が大幅に減少しているからだ。
一方、支出は青天井で増えている。軍人の給与負担が大きく、毎月50億ドルの資金不足が生じている。海外からの資金援助に頼ることができず、その穴を埋めるために中央銀行は紙幣を増刷する状況が続いている。
軍事作戦から年金に至るまであらゆる支出を捻出するため、ウクライナの中央銀行は国債の買い入れを続けてきたが、「既に限界だ」との悲鳴が聞こえてくる。
ロシア国債が債務不履行(デフォルト)となったことが話題になったが、ウクライナの国債がデフォルトになるのも時間の問題だ。
苦肉の策
財政がパンク状態にあるウクライナ政府は苦肉の策を講じ始めている。
ウクライナ政府は6月30日「欧州連合(EU)向けの電力輸出を開始した」と発表した。当初の輸出量は10万kWで、輸出先はルーマニアだ。ウクライナはスロバキアとハンガリーにも電力を輸出する計画を有しており、最終的な輸出量は400〜500万kWになると見込んでいる。
400〜500万kWという規模は原子力発電所4〜5基分に相当する。電力インフラが毀損しているはずなのに、ウクライナはなぜ電力を大量に輸出できるのだろうか。
その理由はウクライナ国内の電力需要が急減していることにある。国連によれば、ロシアのウクライナ侵攻後、近隣諸国に逃れたウクライナ国民は500万人を超えている(総人口の12%超)。ウクライナで生活する国民が急減したことで電力供給に大幅な余裕ができたというわけだ。
ロシアの侵攻前から、多数のウクライナ人が仕事を求めて西欧諸国にわたっている。
ウクライナは他の旧ソ連圏の国々と同様、貧しくともソ連時代の遺産として教育水準が高く、西欧諸国から「安価で良質な労働力」として歓迎されてきた。
その結果、ウクライナは独立以来30年間で、人口が5200万人から4500万人に減少した(総人口の約15%)。
ウクライナ政府は前述の国際会議で「世界最先端のデジタル国家を目指す」としているが、若者や高等教育を受けた人々が多数流出している状況をかんがみると、「絵に描いた餅」になる可能性が高いと言わざるを得ない。
戦争の爪痕は人材の問題にとどまらない。
ウクライナ政府は6月24日「ロシアとの戦争後に国内の地雷と爆発物を全て撤去するには少なくとも10年かかる」との見方を示した。地雷などが埋められている可能性がある地域は約30万平方キロメートルに達する。ウクライナの国土の約半分、イタリアとほぼ同じ面積だ。
民主主義に疑問を呈さざるを得ない事態も
ウクライナはさらに深刻な問題を抱えていることも明らかになっている。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)は6月27日「ロシアによるウクライナ侵攻により違法薬物の製造が拡大する恐れがある」と警告を発した。
UNODCによれば、ウクライナで摘発・廃止されたアンフェタミン(合成麻薬)の製造拠点は2019年の17カ所から20年には79カ所に増加したという。79という摘発件数が世界最多だった。戦争状態が続けば摘発する警察もいなくなり、ウクライナの合成麻薬の製造能力がさらに拡大することは間違いないだろう。
ウクライナの民主主義に疑問を呈さざるを得ない事態も生じている。
ウクライナ政府は6月20日、同国の最大野党「生活のためのプラットフォーム党(OPFL)」の政治活動を公式に禁止し、OPFLの財産を没収した。ロシアとの良好な関係を模索してきたOPFLの2019年議会選挙の得票率は13%であり、昨年の世論調査ではゼレンスキー大統領が率いる「国民の僕」を上回る人気を誇っていた。
戦時中とはいえ、「少数派の尊重」という民主主義の原則を踏みにじる決定を行うのはいかがなものか。
ウクライナは旧ソ連が侵攻したアフガニスタンのように「破綻国家」への道をひた走っているように思えてならない。一刻も早い停戦が望まれる。
●ウクライナ「侵攻」と言わせない報道統制か…ロシア検察 7/12
ロシア検察は、国際ジャーナリスト連盟(IFJ)に加盟する「ロシアのジャーナリストとメディア職員の労働組合」(ジャーナリスト労組)の解散を求め、モスクワ市裁判所に申し立てた。大手紙ベドモスチが10日伝えた。「特別軍事作戦」と称するウクライナ侵攻の報道を統制する狙いとみられ、IFJ側は「当局の行動は不当で政治的」と反発している。
検察は、ジャーナリスト労組の解散を求める理由として「ロシア軍の信用を傷つける行動」を挙げた。一方、労組は「われわれへの干渉は市民の権利を侵し、社会に害を及ぼす」と反論している。裁判所は4日に労組の活動停止を命じ、近く解散させるかどうかを判断する。
ロシア政府は3月、軍事作戦を「侵攻」や「戦争」と表現することを禁じ、国防省などの発表を基に報道するよう定めており、これまでに150人以上の記者が弾圧を恐れて国外脱出した。労組は報道の自由を掲げ、違法に拘束された記者の支援を行ってきた。組合員は600人以上とされる。
モスクワ市裁判所は8日にも、軍事作戦を「戦争」と表現して非戦を訴えたモスクワのアレクセイ・ゴリノフ区議に対し、禁錮7年の判決を言い渡している。
●ウクライナ穀物輸出、トルコ大統領がプーチン氏と対面会談へ… 7/12
トルコのタイップ・エルドアン大統領は11日、ロシアのプーチン大統領、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とそれぞれ電話会談し、露軍による黒海封鎖でウクライナ産穀物の輸出が滞っている問題について協議した。
露大統領府の発表によると、プーチン氏とエルドアン氏は近く、対面で首脳会談する見通しで、穀物輸送船が黒海を安全に航行できる「回廊」の設置を中心に協議することになりそうだ。
ゼレンスキー氏はエルドアン氏との電話会談後、「ロシアがウクライナの穀物を奪うのを防がねばならない」とSNSに投稿した。トルコ大統領府によると、エルドアン氏は「ウクライナの穀物が世界の市場に届くことを確実にする国連の計画に関し、取り組みを続ける」と述べた。
これに関連し、世界食糧計画(WFP)のデイビッド・ビーズリー事務局長は11日、日本記者クラブでの記者会見で、ロシア、ウクライナ、トルコ、国連を交えた会合が近く、イスタンブールで開かれると明かした。
一方、ウクライナ国営通信などによると、露軍は11日、黒海に面する南部オデーサ州を複数のミサイルで攻撃し、農地も標的とされた。州知事らは、夜には港湾施設が被害を受けたと説明した。
11日、ウクライナ東部ドネツク州で、ロシア軍の攻撃を受けた住宅を調べるレスキュー隊(ロイター)11日、ウクライナ東部ドネツク州で、ロシア軍の攻撃を受けた住宅を調べるレスキュー隊(ロイター)
ウクライナ軍参謀本部によると、露軍はドネツク州でも攻撃を続けた。地元メディアによると、州知事は11日、住民の約8割が州外に退避したと明らかにした。
●攻防続くウクライナ “犠牲になった市民は5000人超” 国連  7/12
ロシア軍は、ウクライナ東部のドネツク州で支配地域を徐々に広げていると見られますが、これに対してウクライナ側も反撃を強めています。こうした中、国連によりますとウクライナで犠牲になった市民は5000人を超え今後、さらに増えることが懸念されています。
ロシア軍はウクライナ東部のドネツク州で砲撃やミサイルによる攻撃を強めていて、ウクライナ非常事態庁によりますと、9日にはウクライナ側の町で5階建ての集合住宅がミサイルで攻撃され、31人の死亡が確認されました。
一方、ロシアのインターファクス通信は、ロシアが掌握したとする南部ヘルソン州の町で、ウクライナ側の攻撃により子どもを含む市民7人が死亡したと伝えました。
国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによる軍事侵攻が始まったことし2月24日から今月11日までに、ウクライナで子ども343人を含む少なくとも5024人の市民が死亡したとしていて、市民の犠牲は今後、さらに増えることが懸念されています。
こうした中、イギリス国防省は12日、ロシア軍の動きについて「ウクライナ軍に対して軍事的なプレッシャーをかけながら、近い将来のさらなる攻勢に向け、軍を再編成しているものと見られる」という分析を示しました。
一方で、ロシア国防省が民間の軍事会社に人材の採用を頼るなど、これまでになかった方法で兵員の確保を進めていると指摘した上で「もしこの動きが本当なら、著しい死傷者が出ている兵の補充が困難になっていることを示していると思われる」として、ロシア側が兵員の補充に苦慮している可能性を指摘しました。
●ウクライナ軍、7000人超と連絡取れず 捕虜の可能性 7/12
ウクライナ公共放送は11日、ロシア軍の侵攻開始以降、これまでにウクライナ軍や治安部隊の約7200人と連絡が取れない状態だと報じた。軍人らの大半はロシア側で「捕虜になっている」とみられるという。ロシア国防省は6月30日、ウクライナ側の6000人以上が投降するなどして捕虜になったと主張していた。
捕虜交換は何度か行われているが、6月下旬の両国各144人が一度での最多。残る大勢の捕虜の扱いは今後、停戦交渉でも駆け引きの材料になりそうだ。
こうした中、親ロシア派武装勢力は、捕虜とした外国人雇い兵への死刑執行も示唆。ウクライナだけでなく、軍事支援する西側諸国もけん制している。
ウクライナのレズニコフ国防相は、英紙タイムズ(電子版)のインタビューで、占領された南部の奪還作戦をゼレンスキー大統領が命じたと指摘した。一方のロシア軍は東部ドンバス地方の制圧を目指しており、停戦交渉は頓挫している。
●収監中のナワリヌイ氏、汚職追及団体を設立…反プーチン政権の活動継続  7/12
収監中のロシアの反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は11日、自身のSNSを通じ、国際的な汚職追及団体を設立したと発表した。ナワリヌイ氏が創設した、プーチン政権の腐敗を追及する団体は「過激派組織」に認定されてロシア国内で活動が禁じられており、国際組織化に活路を求めた。
団体の監査役は、元ベルギー首相のヒー・フェルホフスタット氏のほか、優れた報道に贈られるピュリツァー賞の受賞歴のある米国人ジャーナリストらが務める。
団体のホームページでは、ロシアが続けるウクライナ侵略に関し、「殺人者に不当な利益を享受させない」と主張している。
ナワリヌイ氏は収監された後もSNSに投稿し、プーチン政権への批判を続けているが、今年6月中旬に監視が厳しい刑務所に移送された。新たな団体設立により、活動継続の姿勢を強調する意図もあるとみられる。
●ロシア側に引き続き照会 サハリン2「接収」問題 萩生田経産相 7/12
萩生田光一経済産業相は12日の閣議後記者会見で、ロシアのプーチン大統領が日本の商社も出資する石油・天然ガス開発事業「サハリン2」を事実上接収する大統領令に署名したことに対し、「引き続き外交ルートで(ロシア政府に)照会している」と明らかにした。「具体的なやりとりを行っているが、中身については控えたい」と説明した。

 

●ロシア併合のクリミア、住民が抵抗運動…露側に襲撃警告のビラ配布も  7/13
ウクライナの高官は11日、ロシアが2014年に併合した南部クリミアで、住民による露軍への抵抗運動が始まっているとSNSで明らかにした。ウクライナ軍は、侵略後に占領された南部ヘルソン州などで露軍の拠点への攻撃を続けており、軍民連携で占領統治を揺さぶっている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がクリミアに設置している常駐特別代表が明らかにした。ウクライナ軍の関連組織「国民レジスタンスセンター」も10日、クリミアの拠点都市セバストポリで、露側に襲撃を警告するビラが配布されていると伝えた。
抵抗運動は各地に広がっている模様で、東部ハルキウ州では10日、親露派幹部が乗車中の車を爆破され、死亡した。
ウクライナ軍は11日、ヘルソン州の露軍の弾薬庫を破壊したと発表した。12日未明には南部ザポリージャ州エネルゴダルの親露派拠点に無人機(ドローン)による攻撃があった。同州メリトポリ近郊の露軍駐屯地でも複数回の爆発があった。
一方、露軍は12日も、制圧を目指す東部ドネツク州を中心に激しい砲撃を続けた。9日の州北部チャシフヤールの集合住宅への攻撃による死者は38人となった。
タス通信によると、露大統領報道官は12日、プーチン大統領が19日にイランを訪れ、トルコのタイップ・エルドアン大統領と個別に会談する見通しを明らかにした。ロイター通信によると、ウクライナ産穀物の輸出停滞問題を巡り、トルコ・イスタンブールで13日、ロシアとウクライナに国連を交えた協議が開催される。
●ロシア軍女性兵士が戦死 ウクライナ軍との戦闘、女性では初めてか 7/13
国外に拠点を構えるロシア系独立メディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は13日、ロシア軍の女性兵士がウクライナ軍との戦闘で死亡したと報じた。同メディアによると、ロシア軍の女性兵士の戦死は初めてという。
ロシア軍の退役軍人組織の代表者が、死亡の情報を確認したという。女性兵士の階級は上等兵で、35歳だった。近親者や知人によると、軍務に就くことがこの女性兵士の幼い頃からの夢で、18歳でロシア軍と契約を結んだ職業軍人だとしている。
●欧州委、ウクライナ情勢とエネルギー価格高騰を受け、国家補助ルールの緩和 7/13
欧州委員会は7月11日、ロシアのウクライナ侵攻により影響を受けた企業に対する国家補助規制の一時的な緩和策である、国家補助に関する暫定危機対応枠組み外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの改正案を、加盟国に対して送付したと発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。
EUでは、域内競争を不当にゆがめる可能性があるとして、加盟国による特定の企業に対する国家補助は原則として禁止されており、自然災害やその他の非常事態の場合など一定の条件を満たし、域内市場の原則に合致する場合にのみ、例外的に認められている。欧州委は3月8日、ロシア産化石燃料からの脱却計画「リパワーEU」の概要とともに、ロシアによるウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格高騰の影響を受けた企業に対する支援策として、国家補助に関する暫定危機対応枠組みを設置する方針を発表(2022年3月11日記事参照)。同月23日には、同枠組みを採択していた。
同枠組みでは、(1)今回の危機により影響を受けたあらゆる産業の企業1社当たり最大40万ユーロまでの補助金や税制上の優遇などの支援(ただし、農業・漁業などは1社当たり最大3万5,000ユーロまで)、(2)政府保証や補助金付き融資による流動性支援、(3)エネルギー料金の高騰に対する補助(高騰するガスや電気料金による負担が多いエネルギー多消費産業の企業などは1社当たり、対象費用の3割以下、最大200万ユーロまでの支援。ただし、営業損失を出している企業に対しては最大2,500万ユーロ、特に影響を受けている業界の企業に対しては最大5,000万ユーロまで支援)の実施を、加盟国に対して認めている。
欧州委は今回、長期化するロシアによるウクライナ侵攻の影響や、省エネ・エネルギー供給の多角化・再生可能エネルギーへの移行の加速からなる「リパワーEU」の詳細(2022年5月20日記事参照)を発表したことから、その実現に向けた施策を考慮する必要があるとして、以下の修正を提案している。
・農業・漁業を含む、今回の危機により影響を受けたあらゆる産業の企業に対する、直接的な補助金を含む支援上限の引き上げ
・「リパワーEU」に沿った、グリーン水素などを含む再生可能エネルギーへの投資促進のための追加支援策(迅速な実施が可能な簡易的な入札手続きスキームの設置など)
・エネルギー効率の改善や産業の脱炭素化などに向けた追加支援策(新たな入札に基づくスキームの設置、あるいは一定の上限までの入札によらない直接的な事業支援。中小企業や特にエネルギー効率の良い事業などに対する支援の上乗せなど)
なお、同枠組みは、2022年末までの時限的な措置とされているものの、欧州委は、年末の期限までには延長の必要性を検討するとしている。
●ボジョレー・ヌーヴォー受難 大幅値上げ、一部は年明け発売も  7/13
11月17日に販売解禁されるボジョレー・ヌーヴォー。だが今春に勃発したウクライナ侵攻を背景に、受難の年となりそうだ。各社が発表した今年の商品政策にも苦境がにじむ。
ボジョレー・ヌーヴォーの出荷量はピークの04年から約3分の1に減少したが、本国フランスを除くシェアでは日本が昨年も46%を占め、依然として最大の輸出市場だ(ボジョレーワイン委員会調べ)。
昨年は思わしくない作柄となったものの、コロナ禍で落ち込んだ料飲店需要が戻り始めたことで、市場は回復が進んだ。だが続く今年は、最大の試練を迎えようとしている。
コロナの影響から世界的に容器・包材など資材の需要が増加する一方、生産の停滞で供給難が発生。さらに、大きな影を落としているのがウクライナ情勢だ。
「2月末にウクライナ侵攻があり、ロシア上空を飛行できなくなった。輸送のための飛行時間が延びて燃料使用量が増え、燃料スペース確保のため搭載量は減少。ルート制限による減便もあり、航空運賃の大幅な上昇が見込まれる」「本当に発売ができるのかというかなり難しい局面に立たされた」。
日本で圧倒的ナンバー1ブランドの「ジョルジュ・デュブッフ」を展開するサントリーのワインカンパニー・稲葉響子課長は説明する。同社では今年の商品数を絞り込むとともに、参考小売価格を昨年の1.3〜2.2倍と大幅に引き上げた。
例年の2千円台から1千円も値上がりすることになり「3千円以上という値段が本当に受け入れられるのか、われわれも非常に不安だった」(稲葉氏)。しかし消費者調査ではこの価格でも一定の需要があることが確認できたといい、社内で議論を重ねて発売に踏み切った。
アイテムは4種6品に集約して製造効率を高め、包材の調達リスクを回避。新商品ではガラス瓶より軽量なPETボトルを採用した。ラインアップ縮小と店頭価格上昇から、販売数は減少を見込む。
またサッポロビールでは、タレントIKKOさんの「書」をモチーフにした商品など6種8品を発売する。
このうち2品については航空運賃の急激な上昇を極力回避するため船便で輸入することから、発売は来年1月となる見通しだ。
キリンビールのラインアップは、11月2日に発売する「シャトー・メルシャン」の新酒日本ワインを含め、2種3品のみ。商品の安定供給を最優先に、最小限の品ぞろえに集約した。
このうち「アルベール・ビショー」のボジョレー・ヌーヴォー2品については航空運賃の高騰を考慮し、今年から新たに展開するハーフサイズを含めたPETボトルで発売する。フルボトル(750ml)の参考価格は、前年の2120円から4310円と2倍に引き上げられた。
●トルコが関係国と協議、黒海からの穀物輸出再開目指し 7/13
トルコは13日、ロシア軍が封鎖した黒海の港から穀物輸出を再開する方法についてウクライナとロシア、国連と協議を開始した。世界食料市場への負荷緩和を目指す。
ロシアが天然ガスの供給を停止した場合に備え、欧州連合(EU)は全域を対象にした一連の緊急対応を計画している。影響を抑えるために、冷暖房使用の節減などが含まれるという。
ウクライナから略奪したとされる石炭や穀物、その他食品には手を出さないよう、スイスの検察トップであるブレットラー連邦検事総長が商品業界に事実上の警告を発した。戦争犯罪に問われる恐れがあるという。
ウクライナ、7月に44億ドルの支援受け取る見通し
ウクライナは今月、世界の同盟諸国から44億ドル(約6000億円)を受け取る見通しだと、マルチェンコ財務相が明らかにした。テレビ取材に応じた同財務相によれば、ウクライナは6月も同額の支援を受け取っている。同氏は月間50億ドルが必要だとあらためて訴えた。
北朝鮮、「ドネツク人民共和国」の独立認める
ウクライナの一部地域でロシア派武装勢力が一方的に宣言したいわゆる「ドネツク人民共和国」の独立を、北朝鮮が認めたと同共和国の指導者デニス・プシリン氏が明らかにした。インタファクス通信が報じた。
プーチン氏の娘、制裁に伴う影響への対応支援へ−RBC紙
プーチン大統領の娘であるカテリーナ・チホノワ氏は、同国で最も強力な産業ロビー団体、ロシア産業企業家同盟(RSPP)で新たな役職を任されたと、ロシアの経済誌RBCが報じた。RBCによれば、チホノワ氏はRSPPで輸入代替の取り組みを調整する委員会の共同議長に指名され、対ロ制裁による影響を乗り切る取り組みを支援する。同氏自身も米国などから制裁を受けている。
中国の1−6月対ロシア貿易額、前年同期比27%増
中国の今年1−6月(上期)の対ロシア貿易総額は前年同期比27%増の5190億元だった。中国税関当局が発表した。1−5月は対ロ輸出が減少する一方で輸入は急増。輸入の大半を石油、ガス、石炭が占めた。
カナダがタービン返送認める期間は最長2年−報道
カナダは国内で修繕されたロシア所有の「ノルド・ストリーム1」用タービンのドイツへの返送を認めることで合意したが、合意でカバーされる期間は今後最長2年間であり、タービン6基の修理・返送を認めることになると、カナダ紙グローブ・アンド・メールが匿名の政府当局者2人を引用して伝えた。
米国、ウクライナの小麦収穫量見通しを引き下げ
米農務省はウクライナの小麦収穫量見通しを200万トン引き下げた。月次の世界農作物報告書で明らかにした。
ウクライナ、米国から17億ドルの医療支援
米国から医療向けに17億ドル(約2324億円)の支援を確保したと、ウクライナ財務省がウェブサイトに掲載した声明で明らかにした。6月29日にも米国から13億ドルを受け取っていた。
プーチン大統領、イランとトルコの大統領と来週会談へ
ロシアのプーチン大統領は19日にイランの首都テヘランを訪問し、同国のライシ大統領およびトルコのエルドアン大統領と会談する予定だ。ロシア大統領府のペスコフ報道官によれば、この3カ国の仲介でシリア和平を目指す「アスタナ会合」の枠組みでシリア情勢を協議するほか、2国間協議も行われる見通しだ。
EU、ウクライナに10億ユーロの融資を承認
欧州連合(EU)財務相らはウクライナへの10億ユーロの緊急融資に合意した。これは5月半ばから欧州委員会がウクライナ向けに準備を進めてきた90億ユーロ(約1兆2380億円)規模の新たなマクロ財政支援策の一環となる。
●NATOはどこへ行く〜世界最大の軍事同盟とロシアの脅威〜  7/13
東西冷戦時代に共産主義陣営に対抗するために、西側の欧米諸国が集団的自衛権と核抑止力を掲げて結集したNATO=北大西洋条約機構。冷戦終結後も30か国が加盟する世界最大の軍事同盟として存続しながら、統率が乱れた内情をフランスのマクロン大統領から「脳死状態」とやゆされたこともある。しかし、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻以来、にわかにその存在は脚光を浴びてきた。長年中立的な立場をとってきた北欧のフィンランドとスウェーデンも加盟を申請。さらにNATOはロシアに加え中国への警戒も強め、日本や韓国などとも関係を強化して、いまや地域を越えた「民主主義諸国の砦」の色彩も帯び始めている。一方でその拡大と強大化は、ロシアや中国の猛烈な反発を招いている。NATOは果たして「世界大戦を防ぐ防波堤」となるのか、それとも「世界の対立と分断の象徴」となるのか。「開戦」以来、NATOをさまざまな視点から取材してきた記者たちが、考えた。
軍事侵攻と向き合うNATO
「ヨーロッパの安全保障にとって重大な瞬間だ」
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めた2月24日。
記者団の前に現れたNATOのストルテンベルグ事務総長はこわばった表情でこう語った。
ストルテンベルグ事務総長「NATOは歴史上もっとも強力な同盟だ。われわれはすべての加盟国を、いかなる攻撃からも守る。NATO加盟国の領土をすみずみまで守る」
事務総長はその後も、記者会見のたびにこのことばを繰り返した。
事務総長の念頭にあるのはもちろん、加盟国が攻撃を受けた際に各国が集団的自衛権を行使すると定めた、北大西洋条約第5条だ。そしてメッセージを送る相手は、目の前にいる記者たちではなく、ロシアのプーチン大統領であることは疑う余地がなかった。
ウクライナに侵攻するロシアが、NATO加盟国のバルト3国やポーランドなどに指一本触れることも許さない、そのときはあらゆる手段で反撃するという、世界最大の軍事同盟の本質があらわにされた。
その一方で、NATOが発信し続けてきたもう1つのメッセージがある。
それは「攻撃の矛先が非加盟国のウクライナにとどまるかぎり、ロシアと直接衝突するつもりはない」というものだ。
ときあたかも、ロシアがウクライナ各地への攻撃を広げていた3月4日。NATO本部での記者会見で、1人のウクライナ人記者がすがるように質問したが、ストルテンベルク事務総長はすかさず突き放した。
記者「なぜNATOはロシア軍機による攻撃を防ぐため、ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定しないのか」
ストルテンベルグ事務総長「飛行禁止区域を設定すれば、侵入してきたロシア軍機を撃墜することになり、ロシアとの直接の衝突につながりかねない。NATOにはこの戦争がウクライナの外に拡大するのを防ぐ責任がある」
「歴史上最強」の軍事力をもちながら、それはあくまで加盟国だけを守るもので、ロシアの矛先がウクライナにとどまるかぎりNATOは参戦しないという、冷徹な現実を示すものだった。
5月、ロシアの軍事侵攻による緊張の傍らで、NATOには思わぬ「追い風」が吹く。
長年、ソビエト、ロシアとの関係への配慮から軍事的な中立政策を保ってきた北欧のフィンランドとスウェーデンが、そろって加盟を申請したのだ。
NATO拡大に終始反発してきたロシアにとっては大いなる「誤算」、逆にNATOにとっては想定外の「効用」だった。
両国の大使が加盟申請の書類を携えブリュッセルの本部を訪れると、折しも新型コロナの感染から職務に復帰したばかりのストルテンベルグ事務総長は、満面の笑みを浮かべ「きょうは素晴らしい日だ」と歓迎した。
フィンランドとスウェーデンが加盟を果たせば、NATOはバルト海沿岸をぐるりと固め、同盟は一段と強化される。
加えてロシアがNATO拡大に反対するなかでの加盟申請は、NATOとしてロシアの圧力に屈しない姿勢をアピールするものだった。
6月、スペインで開かれた首脳会議で、NATOはさらに勢いづく。
冷戦終結後、NATOはヨーロッパ全域の協調を通じて平和を追求することを、標ぼうしてきた。
現に1997年には、ロシアと文書を交わし、互いを敵とみなさず強く安定したパートナーシップを発展させると確認した。
ところが今回の首脳会議で採択された新しい戦略概念では、従来の方針を大転換させ、ロシアを「最も重大で直接の脅威」と位置づけた。
さらに新しい戦略概念では、中国についても「NATOの安全保障や利益、価値観に挑戦する存在」として警戒対象とし、日本や韓国などアジア太平洋諸国との連携を強めていく姿勢を鮮明にした。
NATOはもはや地域を越えて「権威主義的な国々」と対じする「民主主義諸国の砦」へと、変貌しようとしている。
加盟に揺れる北欧2か国
ニーニスト大統領「この事態を引き起こしたのはあなた自身だ。鏡を見ろと言いたい」
NATOへの加盟申請へと踏み切ったフィンランドのニーニスト大統領は、プーチン大統領をこう痛烈に批判した。
1300キロの国境をロシアと接するフィンランドは、第2次世界大戦で当時のソビエトによる侵攻を受け、多くの犠牲を出しながらもかろうじて独立を保った歴史がある。そうした教訓から冷戦中も軍事力は維持しながら、ソ連やロシアを刺激しないよう軍事的中立を宣言してきた。
そのフィンランドが一転して、NATO加盟へと大きくかじを切ったのだ。国防省の高官も「NATOに加盟すれば、有事の際にも各国が駆けつけてくれる」と期待をにじませた。
国民の間でも急速に加盟支持の声は高まり、近年の世論調査で20%前後だった加盟支持は、5月一気に70%を超えた。
一方、隣国のスウェーデンもフィンランドとともにNATOへの加盟申請をしたが、両国の間には微妙な温度差もあった。
19世紀のナポレオン戦争以降、「軍事的中立」を外交の基本方針として貫いてきたスウェーデン。冷戦後には国防費を大幅に削減し、核軍縮や世界各地の紛争の調停、人道外交をリードしてきた。
「軍事的な非同盟は、スウェーデンのアイデンティティーだ」
スウェーデンの専門家から聞いたことばだ。
NATOへの加盟によって軍事的中立を放棄することは、安全保障政策の大転換にとどまらず、長年にわたって培ってきた国のアイデンティティーを揺さぶられるに等しい。
実はアンデション首相自身も3月の時点では、「NATO加盟は地域の安定を崩す」と加盟に反対の立場を示していた。
ところがウクライナ情勢が悪化し、これまで安全保障面で協力してきたフィンランドが加盟へと踏み出すと、歩調を合わせる以外選択肢はなくなった。
NATO加盟国になれば、これまで以上にバルト海などでの合同演習が頻繁に行われ、軍事同盟の一員としての役割と責任は増していく。
アンデション首相は今後も核軍縮などに向けて行動していく決意を示したものの、軍事的中立を放棄したあと果たしてどこまで「国是」を守っていくことができるのか。スウェーデンはその「アイデンティティー」を問い直されることになりそうだ。
国民の間ではなお加盟に慎重な声が根強く、政府が加盟申請を決めたときストックホルムで取材したある大学生の女性は、こう憤りをあらわにしていた。
「こんな大切な問題を、なぜ政治家だけで決めるのか。EU加盟の時には国民投票があった。国民を巻き込んで議論するべきだったのに」
台風の目、トルコ
勢いに任せ北欧2か国の加盟へと動きだしたNATOに、公然と待ったをかけたのが、加盟国の中でもひときわ異彩を放つトルコだった。
エルドアン大統領「北欧の国々はテロ組織のゲストハウスのようなものだ」
エルドアン大統領は記者団にこうすごんだ。
長年トルコが摘発を続けてきたクルド人の武装組織のメンバーたちを、両国が人道上の理由から国内にかくまっている以上、両国のNATO加盟には同意できないというのだ。NATOの「北欧拡大」は、思わぬ不協和音によって暗礁に乗り上げた。
1952年のNATOの第1次東方拡大で加盟を果たしたトルコ。
加盟国の中でも屈指の軍事大国として、70年にわたり対ソ連、対ロシアの「防波堤」の役割を担ってきた。
その一方で、欧米主導のNATOにあって、さまざまな場面でほかの加盟国とギクシャクした関係に陥ってきた。
10年以上にわたる隣国シリアの内戦をめぐっては、トルコは欧米とともに反政府勢力を支援したものの、欧米側がクルド人武装組織を支援したのに対し、トルコはこれを敵視し越境攻撃を行い、欧米との足並みを大きく乱した。
アメリカとは近年、武器の購入をめぐって折り合えず、ロシア製の防空ミサイルシステムの導入に踏み切ったことで、確執を深めた。
ヨーロッパとの間では、長年EU=ヨーロッパ連合への加盟を目指しながら、人権問題などを理由に交渉が進まず、国内では「イスラム教徒のわれわれは欧州の一員には迎えられない」という自嘲的な声も絶えない。
先頃ウクライナがあっさりとEUの加盟候補国として認められたのを、トルコは心中穏やかならぬ思いで見ていた。
NATOの中にあっても同調圧力をはねのけてきたエルドアン大統領。北欧2か国の加盟への「抵抗」は、ロシアを前に結束を示したいNATOの指導部を、大いに慌てさせた。
しかし、6月の首脳会議を前に、フィンランドとスウェーデンの首脳と顔をつきあわせ、テロ組織への具体的な対応を示した合意文書がまとまったことで、最終的には態度を軟化させた。
積もる思いはあっても、NATOの加盟国であることは、いまなおトルコにとって最大の「外交上のアイデンティティー」だ。
NATOの一翼を担いながら、ことあるごとに欧米主導に異を唱え存在感を示すトルコの動向は、この先もNATOの歩みに少なからぬ影響を及ぼすことになるだろう。
日本に急接近するNATO
ロシアとの対決姿勢に加え、中国への警戒感も打ち出したNATOは、もはや欧州から遠く離れた日本にも、無視できない存在になっている。
6月にスペインで開かれた首脳会議には、初めて日本の岸田総理大臣も参加。NATO側と具体的な協力内容を盛り込んだ新文書を取りまとめることを確認し、サイバーや海洋安全保障などの分野で協力を進展させる方針で一致した。
NATOと日本の軍事部門どうしの交流は、この数か月、加速してきた。
ことし5月、ベルギーで開かれたNATO軍事委員会主催の参謀総長会議には、自衛隊トップの山崎幸二統合幕僚長の姿があった。
加盟国でない日本の自衛隊トップが出席したのは初めてで、防衛省によるとNATO側からの要請で実現したという。
会議には、日本のほかにオーストラリア、ニュージーランド、韓国といった、NATOがアジア太平洋地域のパートナー=「AP4」と位置づける国々の軍のトップも招かれていた。
防衛省関係者の1人は、NATO側のねらいは中国に明確なメッセージを送ることだったと見ている。
防衛省関係者「新型コロナの影響もあって実現しなかったが、実は参謀総長会議への統合幕僚長の参加は、数年前から打診されていた。NATOは、ウクライナ侵攻以前から、今後の安全保障の焦点は、中国が海洋進出の動きを強めるインド太平洋地域だという危機感を持っていた。自衛隊トップが参加すれば、中国に対するメッセージになると考えたのだろう」
ウクライナに侵攻したロシアと対じするNATOとしては、インド太平洋地域での中国の力による現状変更にも、警戒を強めている。
一方、日本としても、中国に加え、ロシア、北朝鮮と同時に向き合うには、NATOの協力は欠かせないという立場だ。双方の接近はある種の必然だったとも言える。
6月にはNATOのバウアー軍事委員長が日本を訪問。
山崎統合幕僚長は記者会見で「今やヨーロッパとインド太平洋の安全保障は不可分だ。日本とNATOの連携のさらなる強化は、世界の平和と安定に不可欠だ」と語気を強めた。
直接的な軍事支援を行うことができない日本としては、まずは共同訓練や高官どうしの交流を通じて結び付きを強め、それを対外的に発信していこうとしている。それが「力による現状変更」の試みへの抑止力になるという考えだ。
バウアー委員長の公式訪問のあと、海上自衛隊はNATO軍のほか、フランスやイギリス、スペインの海軍との共同訓練を、矢継ぎ早に実施・発表した。
7月上旬には、今度は吉田陸上幕僚長がイギリスとドイツを訪問、陸軍種のトップと会談して共同訓練の実施などを呼びかけ、さらに井筒航空幕僚長も7月中にNATO本部などを訪れるという。
防衛省関係者「5月の参謀総長会議でも、NATOの要人から、中国による台湾侵攻の可能性に強い関心が示された。『ウクライナの次は台湾だ』と思われているのだろう。ロシアの行動を見た中国に『力による現状変更が可能だ』と誤解させるようなことは、あってはならない。日米同盟はもちろん、多国間の連携を深め、どうやって中国を思いとどまらせるかに腐心しなければならない。その意味で、NATOとの連携強化は極めて重要な意味を持つ」
かつてNATOがロシアとの融和を目指した時期に、5年にわたり事務総長を務めたラスムセン氏。
私たちの取材に対し、「プーチン大統領の領土的野心を過小評価していた」と悔恨した。そして「権威主義的な指導者を前に、われわれは強く結束し妥協しない姿勢を示すことで、過ちを繰り返してはならない」と語った。
ロシアによる軍事侵攻はNATOの拡大と強大化をもたらし、それがロシアと中国のさらなる反発を招けば、分断と対立はますます深まっていく。
その連鎖が世界に何をもたらすのか、いまは誰にもわからない。
●「米国式世界秩序」崩壊に向かってる、プーチン大統領が主張 7/13
ロシアのプーチン大統領は先週、連邦議会下院の指導者や党首らを招いた会合で、ウクライナ侵攻の正当性を強調した上で、戦争は「米国式世界秩序の根本的な崩壊のはじまり」を示すもので、止めることはできないなどと説いた。
ロシア大統領府が発表した英訳によると、プーチン氏は、今日の戦争はロシアではなく、「2014年に違法な武装クーデターを組織、支持」した西側諸国が始めたものと主張。西側は、ドンバスの人々の虐殺を奨励し、正当化しており、戦争の「直接的な扇動者」だと説明した。
経済制裁について、困難を敷いられているのは事実としながらも、西側は期待通りの成果は上げていないと指摘。さらに、制裁の狙いは、経済に打撃を与える以上に、ロシア社会を内紛と混乱に陥れ、人々に混沌をもたらすことだとも主張した。
一方、プーチン氏が「特別軍事作戦」と呼ぶところのウクライナ侵攻について、開始当初から西側は敗北を認識していたはずで、なぜなら「米国式世界秩序の根本的な崩壊のはじまり」を意味しているからだと説明。「リベラル-グローバリストな米国の自己中心主義が、利己的なルールに基づかない、真に多極的な世界へと移行しはじめている」と述べ、「このプロセスは止めることができない。歴史は容赦せず、西側が、残りの国々に課そうとする新世界秩序は、破滅の運命にある」と話した。
また、かつて「民主主義の原則」をかかげた欧米は、「全体主義」へと退化していると述べ、その影響は国民生活全体に及んでいるほか、「キャンセルカルチャーを含むこの全体主義的リベラリズムのモデルを、世界に押し付けようとしている」と非難した。
プーチン氏は来週テヘランを訪れ、ライシ大統領とトルコのエルドアン大統領の3者会談を予定している。シリア問題が話し合いの焦点とみられている。この一方で、ホワイトハウスは先日、イラン政府が武器の搭載が可能な数百台規模のドローンをロシアに提供する準備しており、月内にもドローンを使用するための訓練をロシア兵に施す準備を進めているとの情報があると発表。両者の動きに警戒を示した。
●「ゼレンスキーに疲れた…」西側がそう思った瞬間、プーチンは核のボタンに手 7/13
ウクライナ軍を圧倒的な物量で潰し、東部地域での支配を確立しつつあるロシア軍。規模で劣るウクライナ軍を消耗させ、長期戦に持ち込む……それこそがプーチンの狙いだった。しかもプーチンは国営放送を使って、「西側諸国に核ミサイルの照準を合わせている」との脅しまで始めた。
前編『プーチンの「鉄人形」が恐怖のひと言…巨大核ミサイルが「ホワイトハウス」を狙ってスタンバイ中』に続いて、プーチンが画策する「次の一手」を読み切る。
独・仏はてのひらの上
ロシアの中高年層にはもっぱらテレビを見てばかりの人も少なくない。彼らはウクライナや西側諸国への憎悪を煽る国策番組を眺め、憂さを晴らすのだ。ロシアの政治や歴史認識に詳しい、北海道大学特任助教の西山美久氏が言う。
「ロシアの独立系調査機関『レバダセンター』が6月6日に発表した世論調査では、82%の人がNATOに悪印象を抱いているとの結果でした。プーチン大統領は『ウクライナは独立国家ではなくロシアの一地域だ』という認識を示していますが、一般のロシア人にも彼ほどではないにせよ、ウクライナに対する『上から目線』がある。
『ウクライナのNATO加盟はロシアの脅威になる』といった考えは決してプーチン大統領ひとりの妄想ではなく、一定の支持を得ているのです」
少なからぬロシア国民がプーチンの戦争を支持しているのは、経済制裁の効果が案外弱いためでもある。ロシアの外貨建て国債は6月末にデフォルト(債務不履行)に陥ったが、そもそも利払い額が135億円と小さいため、影響がほとんどなかった。ロシア国民の肌感覚は「マクドナルド撤退? 別に、もともと好きじゃないから問題ないよ」という程度なのだ。
状況が膠着を続け、夏を越えれば、さらにロシアの杉雄立場は有利になる。やがてヨーロッパに厳しい寒さがやってくるためだ。防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄氏が言う。
「EU諸国の泣き所は、ロシアからの天然ガス輸入問題です。秋以降に暖房需要が増えて本格的にガス不足になれば、ロシアへの制裁を強化したくてもできなくなる。それまでに中東からの輸入を増強したり、シェールガスを調達できなければ、ロシアからガスを買いながらウクライナに武器を供与するという矛盾した状況に、拍車がかかることになります」
ロシアにビビるEU中枢国
スペイン・マドリードで開催されたNATO首脳会議で、各国はロシアをNATO加盟国に対する「重大かつ直接的な脅威」と名指しした。だが実際には、ドイツ、フランス、イタリアはウクライナ支援に及び腰か、ロシアの面子を潰さないよう慎重に立ち回ろうとしている。例えば6月中旬には、ドイツ政府が自走砲などの重兵器を供与すると表明したにもかかわらず、一向に届かないとウクライナ政府が不満を示す騒ぎがあった。
アメリカのシンクタンク・CSISシニアアドバイザーのエドワード・ルトワック氏が言う。
「NATO加盟国で対ロシアの足並みが揃っているのはアメリカとイギリス、北欧諸国くらいで、EU中枢の大国は死に体です。特にドイツの政治家は言うこととやることが違いすぎる。彼らは冬に暖かく過ごすこととソーセージを茹でることしか考えていないのでしょうか。結局、ロシアに恨まれるのが怖いのです」
加えて、これまでウクライナ支援におよそ5兆5000億円を拠出し、中核的役割を果たしてきたアメリカにも懸念がある。11月の中間選挙で、与党民主党の敗北が濃厚なのだ。保守派の共和党が上下両院で多数を占め、国民のあいだで「アメリカ第一」の世論が強まれば、バイデン政権はこれまでのような巨額支援を続けられなくなる。
EU諸国の首根っこには、天然ガスのパイプラインが巻き付いている。アメリカのバイデンは政権基盤維持のため、ウクライナどころではなくなる。そのうち世界は疲れて、ウクライナを見放す……。プーチンは虎視眈々と、そんな「勝利」の瞬間を待っているのだ。
新たなる火薬庫
本誌でも以前報じた通り、プーチンは「ネオ・ユーラシア主義」なる思想に突き動かされている。ユーラシア大陸、果ては全世界の支配を目指す帝国主義イデオロギーだ。このネオ・ユーラシア主義に基づけば、プーチンにとってウクライナ侵攻は通過点に過ぎない。
次なる焦点となるのが、ロシア唯一のバルト海に面する不凍港・カリーニングラードである。現在、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟手続きが進んでいる。手続きが完了し次第、ロシアの飛び地であるカリーニングラードは周囲すべてをNATO加盟国に囲まれることになる。
「そうなれば、カリーニングラードを拠点とするロシアのバルト艦隊は出口を塞がれ、欧州地域でロシアが自由に使える港は冬季に凍るサンクトペテルブルグだけになってしまいます。バルト海がNATOの海になることを、プーチンは許さないでしょう」(国際地政学研究所上席研究員の奥山真司氏)
さらにカリーニングラードをめぐっては、ロシアからの経由地であるリトアニアと小競り合いも発生している。リトアニア政府が同地への貨物輸送を制限し、ロシア側を激怒させたのである。
「ロシアはカリーニングラードに核を搭載可能な弾道ミサイルのほか、約1万5000人の兵力と最新兵器を置いています。NATOが同地を脅かすような動きをすれば、プーチンは強硬な手段に訴えるかもしれません。
考えられるのが、デモンストレーションのための限定核攻撃です。ウクライナで人的被害をあまり出さない形で戦術核を使用し、NATOに対する見せしめにする可能性は否定できません」(奥山氏)
独裁者の思考回路は読めないということを、世界はこの4ヵ月半で嫌というほど思い知った。世界が「ウクライナ疲れ」を感じ始めたその裏で、プーチンは次なる戦いの筋書きを、すでに練り始めているのかもしれない。
●ウクライナ全土でロシア国籍の取得簡素化 プーチン大統領 7/13
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は11日、ウクライナ東部や南部の一部地域の住民に導入してきたロシア国籍取得手続きの簡素化に関して、対象をウクライナ全土の住民に拡大する大統領令に署名した。
ロシアは2019年、ウクライナ東部ドネツク州とルハンシク州の住民を対象にロシア国籍の取得手続きを簡素化。今年2月下旬にウクライナに侵攻したあと、適用対象を南部のヘルソン州とザポリージャ州の住民にも広げていた。両州は現在、ロシアが大半の地域を支配下に置いている。
ロシアは6月、ヘルソン州ヘルソンとザポリージャ州メリトポリの住民にパスポート(旅券)も発行している。
AP通信によると、ドネツク州とルハンシク州では2019〜22年に住民約72万人がロシアのパスポートを受け取ったという。
ロシアは1990年代以来、外国に支配権を及ぼす狙いから、周辺国などのロシア系住民や少数派にロシアのパスポートをばらまく「パスポータイゼーション」と呼ばれる政策を進めてきた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は昨年、ドネツク州とルハンシク州でのロシア国籍取得簡素化について、ロシアによるこの地域の併合というより大きな策動を示す動きだと警戒感をあらわにしていた。
ロシアは先週、ルハンシク州でウクライナ側の最後の拠点とされるリシチャンシクを制圧したとし、同州全域を掌握したと主張した。ドネツク州では9日、5階建ての集合住宅がロシアのミサイル攻撃を受け、ウクライナ当局によると24人が死亡した。
●「アベノサクラ」の記憶…安倍晋太郎・晋三“親子2代”でロシアに植樹 7/13
アベノミクスにアベノマスク。安倍晋三元首相をめぐっては数々の新語が生まれたが、モスクワに「アベノサクラ」とでも言うべき木がある。2013年にプーチン大統領と会うため、日本の首相として10年ぶりにロシアを公式訪問した際、本人が植えた桜だ。
250本の「桜の園」
振り返れば、評価が分かれる安倍の日ロ外交は、この頃から本格化した。途中、14年のクリミア半島併合を含むウクライナ危機で、日本も対ロ制裁を発動。一方で、安倍が現実路線を歩み、27回の首脳会談を重ねたことは、なかなか真似できない。
13年4月の大切な訪問で桜をテーマにしたのには訳があった。
「亡き父の遺志を継ぎ、春に満開となるモスクワの桜のように日ロ関係を発展させたい」
訪ロ前、国営タス通信のインタビューでこう強調。晋太郎元外相が1986年の訪ソ時に植樹したエピソードをロシアに紹介した。恐らくプーチンの耳にも届くように。
安倍は若き日、外相秘書官として父に同行。ロシア科学アカデミー付属植物園の日本庭園に桜を植えたことを覚えていた。タスに語る。
「当時は数本にすぎなかったが、今では250本まで増え、毎年春に満開になると聞いている」
27年後に再訪した「桜の園」では父ゆかりの木と再会。この桜から分けた苗木を昭恵夫人とスコップを手に植樹し、ロシアの大地に根付かせた。
現地に駐在していた筆者は、この場面を取材する機会に恵まれた。ロシア側が「平和の木(ツリー)です」と謝意を示すと、安倍は「いや、平和条約(トゥリーティー)だ」と場を和ませた。
プーチンはウクライナ侵攻中に弔電
ロシア大統領から「シンゾー」と呼ばれた政治家は、北方領土問題を解決できないまま20年に首相を辞任した。ウクライナ侵攻が始まると、日ロ関係は最悪の状態まで冷え込んだ。もはや「氷河期」という中、安倍は凶弾に倒れた。
「この素晴らしい人物の記憶は、彼を知るすべての人々の心に永遠に残るだろう」
プーチンは衝撃の事件当日、遺族宛てに弔電を送った。世界を敵に回す男も、この日ばかりはシンゾーとの思い出が浮かんだのではないだろうか。ボイコットされなかったソチ冬季五輪開会式、山口県の長門湯本温泉で傾けたという地酒の杯、そして毎回のように足を運んでくれたウラジオストクの東方経済フォーラム。
日ロ関係は岐路に立たされたが、父子の桜は毎年5月の大型連休ごろ、満開となる。平和の木の「見頃」はいつ到来するのか。 ・・・
●ウクライナ 激しい攻防続く プーチン大統領は外交攻勢も強化へ  7/13
ロシア軍が、ウクライナ東部のドネツク州で攻撃を強めているのに対して、ウクライナ軍はヘルソン州など南部で反撃し、激しい攻防が続いています。一方、ロシアはプーチン大統領が来週、イランとトルコの大統領と会談を行うとするなど、外交攻勢も強めようとしています。
ロシア国防省は12日、ウクライナの東部ドネツク州を空爆し、ウクライナ軍の兵士180人を殺害し、兵器などを破壊したほか、南部オデーサ州では短距離弾道ミサイル「イスカンデル」による攻撃で、アメリカが供与した対艦ミサイル「ハープーン」を破壊したと発表しました。
ロシア軍はドネツク州の完全掌握を目指して攻撃を強めていて、ウクライナ非常事態庁は12日、今月9日に行われた東部ドネツク州のウクライナ側の街へのミサイル攻撃で、これまでに子ども1人を含む45人が死亡したと発表し、救助活動が続いています。
これに対しウクライナ軍は、ロシアが掌握したと主張する南部ヘルソン州で反撃に転じているとみられ、ロイター通信によりますと12日、ロシア側の弾薬庫などを攻撃したということです。
この攻撃でウクライナ軍は、ロシア側に52人の死者が出たとしていますが、ロシア側は死者は7人で、市民や民間施設にも被害が出たと非難しています。
プーチン大統領 来週イランとトルコの大統領と会談へ
一方、ロシア大統領府は12日、プーチン大統領が来週19日にイランの首都テヘランを訪問し、ライシ大統領と首脳会談を行うと発表しました。
プーチン大統領はテヘランを訪れるトルコのエルドアン大統領とも会談に臨むほか、3か国の首脳会談も行う見通しです。
プーチン大統領としては、欧米との対立が深まる中で、友好関係にある国々との連携を強調したい思惑で外交攻勢も強めようとしています。
●西側がロシア攻撃を画策 ベラルーシ大統領 7/13
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ(Alexander Lukashenko)大統領は12日、西側諸国がベラルーシ経由でロシアに攻め込む計画を立てていると主張した。
ルカシェンコ氏は士官学校の卒業生と将校を前に演説。11日にロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領と本件について協議したと明らかにした。
ルカシェンコ氏は「ロシアを攻撃する戦略計画が策定されている」として、西側が「ウクライナとベラルーシ経由で」ロシアに攻め込もうとしていると訴えた。
さらに「歴史は繰り返す」とも述べた。1812年にフランス皇帝ナポレオン・ボナパルトの「大陸軍」が、1941年にナチス・ドイツ(Nazi)がロシアに侵攻したことを指すものとみられる。
西側がロシアへの攻撃計画を公にしたことは一度もない。しかし、ルカシェンコ氏は北大西洋条約機構(NATO)が拡大を続けている点に触れ、「新たな十字軍」がロシアを攻撃するための「機甲部隊を編成している」と述べた。
「ベラルーシとロシアの周辺できょう繰り広げられている出来事のために、われわれは最大限の警戒と集中を必要としている」
また、西側が世界を「大戦争」に追い込んでおり、ベラルーシ軍は「万全の準備」を整えておく必要があると述べた。
ロシア外務省のマリア・ザハロワ(Maria Zakharova)報道官も12日、米国とその同盟国がウクライナ危機を引き起こし、「わが国とのあからさまな軍事衝突」のリスクを冒していると非難。「こうした衝突が核戦争に発展するリスクを伴うであろうことは明らかだ」と述べた。
●ロシア当局、野党政治家ヤシン氏に対する捜査開始 「偽情報」拡散で 7/13
ロシア当局が12日、野党政治家イリヤ・ヤシン氏に対する刑事事件の捜査を開始したことがわかった。ヤシン氏の弁護士が明らかにした。ロシア軍に関する「偽」の情報を拡散させたとしている。
同弁護士によれば、捜査員から連絡が入り、ヤシン氏の家宅捜索が始まったことがわかったという。
ヤシン氏はモスクワ市議会の議員を務めた経験があるほか、ロシアの反政権運動家アレクセイ・ナワリヌイ氏とも近しい関係にある。ヤシン氏は、ウクライナに対するロシアの戦争について公に反対しているほか、ロシアのプーチン大統領を長年にわたって激しく批判している。
ヤシン氏は6月28日の夜に拘束され、翌日には警察に従わなかったとして逮捕された。
ヤシン氏はナワリヌイ氏とともに野党政治家として出発し、2011〜12年のプーチン氏の大統領職3期目に反対する大規模な抗議デモで広く知られるようになった。
●ロシアの原油、天然ガス報復制裁と欧州の景気後退リスク 7/13
ロシアは報復制裁をちらつかせる
G7(主要7か国)がロシア産原油の取引価格に上限を設定することを議論する中、ロシアのプーチン大統領は、先進国の追加制裁には報復制裁で応じる構えを示している。
プーチン大統領は、ロシアに対する制裁措置は確かにロシア経済に打撃を与えるが、既に物価高騰に苦しむ先進諸国はそれ以上の打撃を被る、と8日に発言している。また、追加制裁が行われれば、世界のエネルギー市場は破壊的な結果を生む、と先進国を脅している。この発言は、G7がロシア産原油の取引価格に上限を設定するという追加制裁を行う場合、ロシアは原油輸出量を削減することで、世界の原油価格を押し上げ、先進国に打撃を与えることを検討している、との懸念を先進国で生じさせている。
ロシアは既に欧州に対して、天然ガスの輸出削減を報復制裁として実施している。6月にはロシアとドイツとを結ぶ海底パイプライン、ノルドストリーム1を通じたドイツへの天然ガスの供給を、6割削減している。そして11日には、ノルドストリーム1による欧州への天然ガスの供給が停止した。運営会社は21日までの「定期点検」としているが、実際にはロシア政府による報復制裁の可能性が高い。そのため、21日が過ぎても再開されない可能性が考えられる。
また先週には、黒海の港からロシアの友好国であるカザフスタンが原油を輸出することを30日間停止する命令を、ロシアの裁判所は出している。
欧州は厳しい冬を覚悟
国際エネルギー協会(IEA)は、今年の冬に、ロシアからの天然ガスの供給は完全に止まる事態に備えるよう、欧州に呼び掛けている。フランスのルメール経済・財務相も10日に、「ロシア産天然ガス供給の完全停止を覚悟しよう。それが現時点で最も可能性の高いシナリオだ」とした。そのうえで、欧州の景気後退リスクはエネルギー危機の行方次第、との考えを示している。
欧州連合(EU)は、運輸・通信・エネルギー担当大臣による理事会合を7月26日に開き、冬季のガス備蓄確保に向けた危機管理計画を協議する。しかし、ロシア産天然ガスのEU向け供給を完全に停止すれば、その分を他地域からの調達で完全に補うことは難しくなる。冬場にかけて、EUの経済は厳しい状況に追い込まれる可能性が高い。
浮上する欧州の景気後退見通しと目前に迫るドルユーロのパリティ
ブルームバーグが11日に公表したエコノミストへの調査(7月1日〜7日)の結果によると、物価上昇率が歴史的水準にある中で、さらに天然ガスが不足することで、景気後退(リセッション)のリスクが高まっている、との見方が示された。
向こう1年間にユーロ圏経済が景気後退に陥る可能性については45%と5割に近づいた。ウクライナ問題前にはその確率は20%、6月時点の調査では30%であったことから、7月調査では景気後退の予想確率が一気に高まったことを意味している。ドイツ経済については景気後退の予想確率は55%と5割を超えた。
景気後退の見通しが強まっている背景には、物価高騰を受けて欧州中央銀行(ECB)が利上げ(政策金利引き上げ)姿勢をにわかに強めたこともある。エコノミストらは、現在−0.5%の政策金利が、年末までに0.75%、来年3月には1.25%まで引き上げられると予想している。
欧州経済の先行きに対する金融市場の悲観論を反映しているのが為替市場だ。12日には、ユーロが対ドルで20年ぶりの安値を付け、パリティ(等価)、つまり1ユーロ=1ドルに近づいた。ECBも9月に利上げに踏み切る見通しだが、米連邦準備制度理事会(FRB)の急速な利上げにはペースが追い付かない、との観測もユーロ安を後押ししている。
米国ではFRBの急速な金融引き締め策が、来年にも米国の景気後退を招くとの観測が強まっている。しかし、ロシアとの間で制裁合戦が高まると、ロシアからのエネルギー供給に依存してきた欧州の景気により大きな打撃が及び、米国に先立って欧州地域が景気後退に陥る可能性が出てきたのである。

 

●略奪されたウクライナの商品、手を出せば戦争犯罪−スイス検察が警告 7/14
ウクライナから略奪したとされる石炭や穀物、その他食品には手を出さないよう、スイスの検察トップが商品業界に事実上の警告を発した。戦争犯罪に問われる恐れがあるという。
ブレットラー連邦検事総長は現地ルタン紙に13日掲載された論説で、国外で起きた経済犯罪であっても、スイスの組織と関連があれば国内の検察が追究し得るとして、詳細を説明した。
国際刑事法では通常、大量虐殺や人道に対する犯罪などが想像されがちだが、実際に起きている紛争から遠く離れた場所での犯罪でも場合によっては紛争に直接関与している可能性があるとブレットラー氏は指摘。「特に略奪がそれに該当する」と続けた。
同氏は「略奪した原材料の商品化は戦争犯罪となり得る」と指摘した上で、「私の知る限りでは、これに関して有罪になったケースはまだない」と続けた。
●ロシア強制連行のウクライナ人は「90〜160万人」…ブリンケン氏「戦争犯罪だ」 7/14
米国のブリンケン国務長官は13日の声明で、侵略を続ける露軍によってロシアに強制連行されたウクライナ人は「90万〜160万人」に上るとの認識を示した。このうち約26万人が子どもだとし、強制連行は、民間人の保護を定めたジュネーブ条約に違反する「戦争犯罪だ」と非難した。
ブリンケン氏はロシアに対し、ウクライナの支配地域に設置した「選別収容所」や連行先の施設に外部の独立監視団を受け入れるよう求めた。選別収容所では、ウクライナ住民が反ロシア的かどうかを強制的に調べられている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は13日、韓国で開かれた国際会議にオンラインで参加し、ロシアに強制連行されたウクライナ人が「連絡手段や身分証明書を取り上げられるなどし、帰国が困難になっている」と訴えた。選別収容所には、数万人規模が足止めされているとの見方も示した。
ウクライナ検察庁は13日、露軍の侵略開始以来、ウクライナの子ども1000人以上が死傷したと明らかにした。同日朝までに349人の子どもが死亡し、652人以上が負傷したという。露軍の攻撃で被害を受けた学校などの教育施設は2126か所で、このうち216か所が全壊した。
東部では、露軍とウクライナ軍の激しい攻防が続いている。タス通信によると、親露派武装集団幹部は13日、ドネツク州のシベルスク市に進入したと主張した。一方、ウクライナ軍参謀本部は同市の南方の都市などで露軍を撃退したと発表した。 
●経済制裁はロシアに打撃 年内には停戦になるだろう=駐日ウクライナ大使 7/14
ロシアとウクライナの戦争が4カ月以上続く。欧米や日本を含む西側諸国の対ロシア経済制裁は戦争にどのような影響を与えているのか。また、長いロシア支配下の時代には、ウクライナ語が禁止されるなど苦難もあった。セルゲー・コルスンスキー大使に戦争の現状とロシアとの歴史などを聞いた。(聞き手=桑子かつ代/藤枝克治・編集部)
―― ウクライナの東部、ルハンシク州やドネツク州でロシア軍の厳しい戦闘が続く。西側の経済制裁にも関わらず、ロシア軍の攻撃は止まらない。経済制裁が効いていないのではないか。
コルスンスキー大使 そんなことはない。ロシアの経済・政治学の専門家セルゲイ・カラガノフ氏はロシア語メディアとのインタビューで、ロシア経済について、ロシアの航空機が修理のための部品不足で、既存の飛行機の一部を解体して修理部品を調達しなければならないと語っている。ロシアで自動車製造がほとんど止まっているという話もある。こうした状況は経済制裁の具体的な効果の表れだ。
―― ロシアはエネルギー資源国としての強みがある。欧米や日本がロシアからエネルギーを買わなくても、中国やインドが買うことで、ロシアは戦費を調達することが出来る。同時にロシアはこうした国から物資の購入も可能だ。
コルスンスキー大使 確かに制裁の弱いところでもある。中国とインドが何倍、何十倍も石油の購入量を増やしている。G7(主要先進7カ国)は対抗策としてロシア産石油の取引価格に上限を設定し、価格を半分に下げることを検討している。こうしたエネルギーの供給問題は難しい状況で、ロシアで政権交替が起きるまで続くと思う。しかし、私は政権交替までそんなに長くはかからないとみている。
―― 今後の停戦に向けどう考えているのか。
コルスンスキー大使 年末までに停戦になると思う。ロシアが戦闘地域を拡張し厳しい状態だが、我が国が必ず勝利する。
―― その時に東部のドンバス地方(ルハンシクとドネツクの2州)がロシアの支配下でも停戦になるのか。
コルスンスキー大使 ウクライナの領土を他国が支配するような形は許さない。停戦は1991年の独立の時の国境の状態に戻すということだ。ウクライナのシュミハリ首相は7月4日、ウクライナの復興についての国際会議でロシアの侵攻で受けた被害の復興計画に必要な資金が「既に7500億j(約101兆円)に上ると見積もられている」と語った。
―― 日本政府、企業に今後どのような支援を望むか。
コルスンスキー大使 まず経済制裁のきちんとした執行だ。今ウクライナで起きていることはアジアでも繰り返されることがあり得る。そうなると世界規模で大変に残酷なことになる。ウクライナが戦争で勝利した後、日本には復興への多大な参加を期待する。日本企業がロシアに設けた製造拠点の代わりに、ウクライナに来てほしい。特に将来性のあるウクライナのハイテク業界への後押しを望む。独立国であるウクライナの公用語はウクライナ語だ。しかし、歴史的に長い間、ロシアの支配下にあり、過去にはウクライナ語の使用禁止が繰り返された。
―― ウクライナ独立前のソ連時代は、公用語はどのようなものだったのか。
コルスンスキー大使 私が教育を受けた時はまだソ連時代だった。政府機関の言語、研究所はすべてロシア語だった。91年のウクライナ独立の時、私はすでに政府の機関で働いていた。当時、92年1月1日から政府の書類をロシア語からウクライナ語に変えるので準備をすると言われ、驚くと同時に喜びを感じたことをよく覚えている。それまではすべてロシア語で作成していた。
―― 学校では何語が話されたのか。
コルスンスキー大使 ソ連当時の学校はウクライナ語とロシア語と半分くらいだった。今はウクライナ語の学校が多い。私自身は小中学校がロシア語、大学はウクライナ語だった。当時、私の世代はロシア語とウクライナ語とバイリンガルが当たり前だった。家庭の希望や意思で、子供の教育の言語を選ぶことが出来た。
―― 過去にウクライナ語の使用が禁止されたこともあった。
コルスンスキー大使 ロシアの帝政期、18世紀のピョートル大帝からニコライ2世の時代まで、ロシアの皇帝(ツァーリ)が何度かウクライナ語の会話や読み書き、出版での使用を禁止した。ソ連のスターリン独裁時代は、1921年からの大飢饉(ホロモドール)や、37〜38年のスターリンによるウクライナ共産党の大粛正などがあり、この期間にウクライナは人口の半分を失った。大量の人口減少に対して、ウクライナから遠い、例えばウラル山脈地方から、ウクライナ語と全く関係がない多くのロシア人が移住した。これはウクライナ語の使用を広げたくない当時のソ連政府の政策だった。
―― 現在のウクライナはウクライナ人を中心に多民族国家だ。公用語と多民族の言語をどう使い分けているのか。
コルスンスキー大使 ウクライナでは少数民族のすべての言語が法律で守られている。私の母はロシア出身で、家族の言語はロシア語だった。今も母に対してはロシア語で話すが、それは私がロシア人になることにはならない。他の場面では私はウクライナ語だ。今ウクライナでは何語を話すかについての問題は存在しない。私は今もプーシキン(19世紀初頭のロシアの国民的詩人・作家)の「オネーギン」(ロシア文学史上最高傑作のひとつとされる韻文小説)の半分以上、同様にシェフチェンコ(19世紀のウクライナの国民的詩人)の詩をそれぞれの言葉で引用出来る。
―― 現在も地域により異なる言語がある。
コルスンスキー大使 重要なことは、ロシア語を使う人が自動的に親ロシア派になるわけではない、ということだ。言葉は家族の習慣と伝統によるものだ。ウクライナの西部にはルーマニア語、ポーランド語、ハンガリー語、スロバキア語などを話す人が多い。クリミアではタタール語だ。どの言語を話すかは問題になっていない。
―― ロシアとの戦争で言葉への影響があるか。
コルスンスキー大使 ロシアによる攻撃が始まってからは、ロシアが行った戦争犯罪や野蛮な行為を受けて、多くのウクライナ人がロシアの文化や言語に対して、良くない感情を持つようになったと思う。
―― 日本へのウクライナからの避難者の状況は。
コルスンスキー大使 現時点で1500人程度のウクライナ人が日本に避難している。今後、大幅に増えることはないと思う。増えても100人くらいだろう。自治体から健康保険、子供の教育の手配、住宅の提供などを受けている。日本政府からの支援はとてもうまく機能しており、感謝している。ウクライナが安全になったら帰国したい人が多いと思う。
●ウクライナが求める「勝てるだけの武器」がグローバルな食糧危機を救う 7/14
ロシアがウクライナに侵攻して以来、アメリカのバイデン政権とその西側同盟国が最も気を配ってきたことは何か。
この戦争をウクライナの国境と黒海の内側に封じ込めること、そしてロシアとの直接対決と解釈されかねない行為を避けることだ。
ウクライナ側に提供してきた武器を見れば分かる。仮にNATO軍がロシアと戦うなら射程の長いミサイルや火砲を投入し、空軍力を駆使し、敵機の侵入を阻む飛行禁止空域を設定するはずだ。
しかし今までウクライナ側に供与してきたのはロシア軍と同程度の射程のミサイルや火砲、それに小型のドローン程度だ。
それでも初期段階ではロシア軍の進撃を阻むことができた。しかし戦力が同程度では決着がつかず、現在の東部・南部戦線を見れば明らかなように、戦闘は長引く。結果として先の見えない消耗戦に追い込まれ、ウクライナ兵や市民の死傷者は増える一方だ。
これではウクライナ軍を生命維持装置につないでおくようなもの。ひたすら戦い続けるしかないが、それでもロシア軍の容赦ない砲撃で町や村は次々と抹殺されていく。
ここへきて高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)や多連装ロケットシステム(MLRS)など、より強力な兵器が投入されているが、それでも最前線の戦況は変わっていない。
こうやって戦域をウクライナと黒海に限定しておけば、NATOとロシアの直接対決は回避できるかもしれない。だが、そのせいでウクライナの農家が生産した2500万トンの穀物が輸出できず、畑のサイロで眠っている。その結果、飢餓に直面している国もたくさんある。
「グレーイーグル」が必要
今はちょうど小麦の収穫期だが、前年の収穫の多くが輸出できずに残っている。だから今年の収穫を保管する場所がない。ウクライナ政府は陸路での輸出ルートを確保しようとしているが、時間的な制約もあって実効性のある対策は難しい。
ちなみに、いま市場に出回っている「ウクライナ産」小麦の大半はロシア軍が占領地で略奪したもので、クリミア半島から直接、あるいはロシアの属国シリアなどを経由して輸出されている。
世界銀行によると、この戦争と海上封鎖のせいで、今年は世界各地で深刻な食糧不足に見舞われる人が、2020年比で4000万人近く増えるものと予想される。既に小麦粉やパンなど基本的な食料品の値上がりや燃料価格の高騰が多くの途上国で社会不安を引き起こしている。
歴史を振り返れば明らかなように、フランス革命から「アラブの春」に至るまで、食糧価格の高騰はクーデターや革命、内戦の引き金になってきた。そうでなくとも、食べるものがなければアフリカや中東の国々から大量の難民が流出する恐れがある。
こうしたリスクはアメリカ政府も承知しているが、それでもロシア軍による黒海の封鎖を解除する具体的な行動に出ない。だからウクライナの小麦は途上国に届かない。
ウクライナ軍は海上でも善戦し、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を撃沈したほか、水陸両用艇や哨戒艇も何隻か沈めている。
民生用の衛星画像や米スペースX社の衛星通信事業「スターリンク」を使い、トルコ製の軍用ドローン「バイラクタル」や国産の対艦巡航ミサイル「ネプチューン」、戦術ミサイル「グロム」などを駆使して敵の攻撃態勢を弱めてきた。
6月30日には黒海の要衝スネーク島からロシア軍を排除した。これで島内にネプチューンかデンマーク提供の対艦ミサイル「ハープーン」を配備すれば、ロシアの黒海艦隊には相当な脅威となる。
ただし、この島からミサイルを発射しても、貨物船がオデーサ(オデッサ)からトルコのボスポラス海峡に至るまでの航路(約500キロ)の最初の3分の1までの範囲にしか届かない。小麦を積んだ商船の安全を守るには、もっと長射程の武器が必要だ。
アナス・フォー・ラスムセン前NATO事務総長をはじめ、一部の有識者は米軍かNATO軍の艦艇にウクライナの商船を護衛させるという提案をしている。
だが米バイデン政権は、ロシアとの直接対決につながりかねないとして拒否した。首都キーウ(キエフ)上空の飛行禁止区域設定を拒んだのと同じだ。
NATO軍による護送が困難な理由はほかにもある。仮にもロシア軍の艦艇に攻撃を仕掛けるような事態になれば、欧州の結束が揺らぐのは必至だ。ドイツを含む多くの国にとって、戦線の拡大は越えてはならない一線だ。
そもそも、黒海の玄関口であるボスポラス海峡を支配するトルコが米欧の軍艦の通過を認める可能性は低い。トルコ政府は2月以来、全ての軍艦の海峡通過を禁じているからだ(黒海に常時展開している艦艇の通行は可)。
だが、もっと賢明な方法がある。小麦を積んだ商船の安全を守るために必要なあらゆる武器、とりわけ大型の無人航空機(UAV)をウクライナに提供すればいい。
既にウクライナにはHIMARSとMLRSが供与されているから、大型UAVを追加してもアメリカの軍事支援のスタンスが劇的に変わるわけではない。アメリカやフランスなど西側諸国は従来よりも強力な兵器をウクライナに供与しているが、それでロシアがNATOとの対立をエスカレートさせる気配はない。
バイデン政権がウクライナへの400億ドルの支援策の一環で供与を表明したUAV「グレーイーグル」4機があれば、ロシアの海上封鎖を打破できるだろう。
この大型の無人固定翼機は強力な空対地ミサイル「ヘルファイアー」やGPS誘導爆弾を搭載可能で、時速約296キロで約25時間飛行できるため、オデーサ港とボスポラス海峡間を航行する船舶を護衛し、敵を攻撃し、航路を守る能力がある。
だが発表後まもなく、バイデン政権はウクライナへのグレーイーグル提供を撤回した。国防技術安全保障局が、グレーイーグルに搭載した最先端のレーダーや監視機器の技術がロシアの手に渡る可能性に懸念を示したからだ。
もう一つの懸念は、グレーイーグルの航続距離が長いことだろう。西側諸国の間には、ロシア領内を攻撃できるような武器をウクライナに与えないという暗黙のコンセンサスがある。戦域の拡大は誰も望んでいない。
このコンセンサスがある以上、ウクライナがロシア領を攻撃しないと確約しない限り、アメリカはグレーイーグルを供与できない。
陸海でロシア軍をたたく
しかしグレーイーグルがあれば、ウクライナの商船を守ることができる。またルーマニアから哨戒機「P-8ポセイドン」を飛ばし、ロシアのキロ型潜水艦を探知し、ターゲットの情報をウクライナ軍に伝えることもできる。こうした軍事情報の共有は、今でもやっていることだ。
グレーイーグルを使えば、強力で正確なGPS誘導爆弾で潜水艦を攻撃することができる。潜水艦を撃沈できなくとも、ダメージを与え、その場を離れさせることはできるから、商船隊は安全に航行できるだろう。
ウクライナ東部と南部の戦線でも、グレーイーグルは威力を発揮できる。これから供与されるはずの中距離防空ミサイルなどと併用すれば、今度こそウクライナ軍は「NATO並み」の戦力でロシア軍と対峙できる。
ウクライナ軍は最近、敵陣の背後にあるロシアの弾薬庫や司令部を攻撃し、一定の成果を上げている。
だが射程の長いミサイルの在庫は尽きつつある。しかもロシア軍は多方面に進出している。だからウクライナには、ロシアの重要な指揮・兵站拠点を素早く見つけ、精密兵器で確実に標的を破壊できるグレーイーグルのような航空機が必要だ。
もちろん、グレーイーグルがロシア軍に撃墜される可能性はある。しかし彼らの防空能力では、バイラクタルのような低速無人機に対応するのがやっとだ。しかも彼らのセンサーや迎撃ミサイルでは狭い空域しかカバーできない。
つまりドンバス地方での都市攻防戦には有効でも、ウクライナ南部の広い範囲や黒海の上空では役に立たない。
だからアメリカは、この戦争へのアプローチを変える必要がある。黒海の封鎖を解いて小麦を世界に届け、グローバルな人道危機を回避することの重要性は、ロシアがアメリカの軍事技術を手に入れるリスクをはるかにしのぐ。
ウクライナの海を封鎖しておけば、ロシア軍は地上戦でも圧倒的に優位に立てる。短射程の古典的な砲撃戦ならお手のものだし、弾薬はいくらでもある。だからこそ、今は陸と海の両方でロシアをたたく必要がある。
供与する武器の能力を制限し、戦闘をウクライナ領内に封じたい気持ちは分かる。だが、この戦争の影響は既に世界中に及んでいる。西側諸国の代わりにロシアと対峙しているウクライナは当初から、勝てるだけの武器をくれと西側に要請してきた。今はそれを、世界中が望んでいる。
●ウクライナの農産物海上輸送に向け協議進展 戦況はこう着  7/14
ウクライナの港からの小麦などの輸出が滞っている問題では、ロシアとウクライナの協議で進展がみられ、食料供給の増加につながるかが注目されています。一方、ロシア軍はウクライナ各地に砲撃を続けているものの、激戦地の東部ドネツク州では新たな領土の掌握はみられず、戦況はこう着しています。
ロシアとウクライナは13日、ロシア軍による封鎖で黒海に面するウクライナ南部の港からの小麦など農産物の輸出が滞っている問題をめぐり、仲介役のトルコと国連を交えた4者による実務者レベルの協議をトルコで行いました。
協議のあと、トルコのアカル国防相は黒海の海上輸送の調整にあたる機関をイスタンブールに設置することや、航行の安全を確保する方針などで一致したと発表し「来週、合意文書に署名するためトルコで再び協議する」と明らかにしました。
ウクライナは、小麦やトウモロコシ、それにヒマワリ油などの世界有数の輸出国で、各国で食料価格が高騰し食料危機への懸念が強まるなか、供給の増加につながるかが注目されています。
一方、ロシア国防省は13日、南部ミコライウ州ではミサイルによる攻撃などで、ウクライナ軍の兵士420人以上を殺害し、指揮所や弾薬庫などを破壊したと発表しました。
ただ、ロシア軍が東部ドネツク州で部隊を再編しながら、攻撃を続けていることについて、イギリス国防省は14日「ロシア軍は、前線の広い範囲で砲撃を行うが過去72時間で大きな領土の掌握はない」と指摘しました。
また、ロシア軍は兵器が老朽化しているうえ、「旧ソビエト時代の戦術」が今も使われていると指摘し、ロシア側の勢いが失速する可能性もあると分析しています。
そのうえでロシアとウクライナは農産物の輸出をめぐる協議で進展がみられる一方、停戦に向けた交渉は、依然として厳しいという見通しを示しました。
国連事務総長「重要な一歩が踏み出された」
トルコで行われた4者による協議の結果を受けて、国連のグテーレス事務総長は13日、ニューヨークの国連本部で急きょ記者会見を開き「ウクライナの穀物などを黒海を通じて安全に輸出するため、きょう、重要な一歩が踏み出された。世界中の飢餓に苦しむ人を減らす希望の光だ」と述べ、成果を強調しました。
グテーレス事務総長は、技術的な作業が残っているとしながらも、来週にも最終的な合意ができることに期待を示し、ロシアとウクライナの両政府と仲介にあたったトルコ政府に感謝すると述べました。
そのうえで「きょうの合意は、当事者どうしが建設的に対話できることを示す非常によいニュースだ。しかし、平和のためには長い道のりがある」と述べ、国連として、対話を通じた事態の打開に向け仲介の役割などに引き続き取り組む考えを示しました。
ゼレンスキー大統領「食料危機の深刻さ 緩和できる」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、13日に公開したビデオメッセージで「国連とトルコのそれぞれの努力に感謝している」と述べました。
そのうえで「協議の成功はわが国だけではなく、誇張なしに、全世界が必要としている。黒海の航行に対するロシアの脅威を取り除くことができれば、世界の食料危機の深刻さを緩和することができる」として世界の市場への食料供給を回復するために、努力を続けていると強調しました。
ゼレンスキー大統領は協議で一定の進展があったと報告を受けたとしていて、詳細については近く、合意するという見通しを示しました。
ウクライナ軍“ロシア軍の弾薬庫を攻撃 車両など破壊”
一方、ロシア軍は東部ドネツク州の完全掌握を目指して攻撃を続けているほか、13日には南部ミコライウ州の各地をミサイルで攻撃し、指揮所や弾薬庫などを破壊したと発表しました。
これに対しウクライナ軍は、ロシアが掌握したと主張する南部ヘルソン州でロシア軍の弾薬庫をロケットで攻撃し、兵器や軍用車両を破壊したとしています。人工衛星から12日に撮影された画像を前日と比べると弾薬庫とみられる建物がなくなっているほか、地面に穴ができ周辺が黒く焦げているのが確認できます。
●「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」とは何か? 7/14
ウクライナ東部で親ロシア派が一方的に独立を宣言する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を7月13日、北朝鮮が国家として承認した。これを受けて、ウクライナ政府は北朝鮮と国交断絶すると宣言した。これらの「人民共和国」の独立を承認するのはロシア、シリアに続いて北朝鮮が3カ国目。自称国家「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」とは何なのか解説しよう。
ウクライナ侵攻の2日前にロシアが独立承認していた
「ドネツク人民共和国」はドネツク州、「ルガンスク人民共和国」はルガンスク州で親ロシア派の武装勢力が名乗っている自称国家の名前だ。2014年に一方的な独立宣言をして、ウクライナ政府との間で内戦になっていた。
ロシアのプーチン大統領は2月22日、「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認。これらの地域に「平和維持」を目的としてロシア軍を派遣することを指示した。その2日後に、ウクライナ全土に軍事侵攻を始めている。
ロシア国営のタス通信によると7月13日、「ドネツク人民共和国」の指導者・デニス・プシーリン氏はSNS「テレグラム」に「朝鮮民主主義人民共和国は今日、ドネツク人民共和国を承認した」と投稿。「ドネツク人民共和国の国際的地位とその国家はますます強くなっている。これは私たちにとってもう一つの外交的勝利である」と続けたという。
同日には「ルガンスク人民共和国」の「外務大臣」を務めるヴラディスラフ・デイネゴ氏は、北朝鮮から送られた手紙について「ナチスの侵略とアメリカの衛星国家からの独立のために戦っている私たちへの支持の言葉を提供している」とタス通信に述べたという。
2014年に独立宣言。ロシア軍の支援を受けてウクライナ東部の実効支配を続けてきた
2つの「人民共和国」があるドンバス地域は、ドネツ炭田の周辺に広がるウクライナ屈指の重工業地帯。旧ソ連時代に多くの労働者が移住してきた関係で、ウクライナでも特にロシア系の住民が多い。
ワシントン・ポストによると、2022年のロシア軍のウクライナ侵攻前の時点で「ドネツク人民共和国」には230万人、「ルガンスク人民共和国」には150万人が住んでいると推定されていた。クリミアを除くウクライナ全体(4159万人)の1割程度の計算だ。住民の多くはロシア系で、日常的にロシア語が話されている。
ロシアがクリミア半島を併合した翌月の2014年4月7日、ドネツク州で政府の建物を占拠した親ロシア派勢力が「ドネツク人民共和国」の建国を宣言。同年5月11日には、ルガンスク州でも親ロシア派勢力が「ルガンスク人民共和国」の独立を宣言した。
この2つの「人民共和国」をウクライナは承認せず、ウクライナ軍との間で激しい戦闘になった。小泉悠さんの『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)によると、一時期は「人民共和国」がドネツク州とルガンスク州の大半を勢力下に収めたものの、やがてウクライナ軍に対して劣勢になった。しかし同年8月、約4000人のロシア軍を両地域に投入されて、ウクライナ軍を押し返したという。
ロシアとウクライナなどは、2014年から2015年に2回に渡って「ミンスク合意」を結んだ結果、戦線は膠着状態になった。
ワシントン・ポストによると2022年2月のロシア軍侵攻前の時点で、内戦による死者は1万4000人以上。国家分裂と暴力、景気後退が地域にダメージを与えた結果、200万人以上が逃亡したという。
ルガンスク州は全域を制圧。ドネツク州では約6割を支配
池上彰さんの記事によると、2つの「人民共和国」はドネツク州とルガンスク州の全域を自分の領土だと「憲法」で定めているいる。しかし、2022年2月までの支配地域は、両州の3分の1程度に過ぎなかった。
ロシアは2つの「人民共和国」が「憲法」で定めた国土を支配できるように支援するという理屈で、2022年2月24日からウクライナ全土への軍事侵攻を始めた。
この結果、7月3日にはルガンスク州全域を制圧したとロシアが主張。ウクライナも撤退を認めており、今後は全域を「ルガンスク人民共和国」が支配するとみられる。
ドネツク州でもロシア軍の侵攻で要衝マリウポリなどが陥落。6月末時点で「ドネツク人民共和国」の支配領域が州全体の約60%まで広がっている。
●ロシアの“飛び地”をめぐりEUやNATOと緊張高まる  7/14
バルト海に面したロシアの飛び地、カリーニングラード。NATOとEUの加盟国ポーランドとリトアニアに挟まれ、ロシア本国からは離れた飛び地です。いまこの飛び地をめぐりロシアとEU・NATOの緊張が高まっています。EUはロシアからの様々な物資の禁輸措置を経済制裁として科しました。
カリーニングラードはプーチン政権になって軍事的な拠点としての重要性を強めていました。また、経済特区として外国投資を呼び込み、自動車産業などが発展してきました。
しかし、ロシアによるウクライナ軍事侵攻によって、“陸の孤島”となる危機に直面しています。
プーチン大統領はどのような対抗措置をとるのか?NATO加盟を正式に申請しているフィンランドとスウェーデンの動きはこの緊張にどのような影響を与えるのか? ロシア・旧ソビエトを長年取材してきた石川解説委員が解説します。
カリーニングラードはなぜ飛び地に
もともとケーニヒスベルクと呼ばれて13世紀、ドイツ人の東方植民によってできた町です。東プロイセンと言われた地域で、19世紀ドイツ統一の主体となったプロイセン王国の中心都市のひとつでもありました。
バルト海に面した港町でバロック建築のドイツ風の町並みが残る町です。また琥珀の産地としても有名です。
ロシアの飛び地となったのは第二次大戦に伴うヨーロッパの領土変更の結果です。ソビエトはこの土地をソビエト領の中のロシアの一部としました。ソビエトは独立国だった周辺のバルト三国も併合しましたので、ソビエトの枠内では飛び地問題は解消しました。1991年にソビエト連邦が崩壊した結果、今度はロシアの飛び地となったのです。
軍事的な拠点であり経済特区
バルト艦隊の本拠地があり、プーチン政権になって軍事的な拠点としての重要性を強めていました。核兵器搭載可能な短距離ミサイル・イスカンデルも配備されています。そうした軍事的な側面とともに、ポーランドとリトアニアに挟まれているという地の利を生かして、経済特区としてカリーニングラードは外国投資を呼び込み、自動車産業などが発展してきました。
●EU、軍事支援追加へ−再び民間施設攻撃で22人死亡 7/14
ロシア軍は前線から遠く離れ明確な軍事的重要性がない民間施設への攻撃を継続している。先週末のミサイル攻撃で48人の死亡が確認されたドネツク州の集合住宅では、救援作業が縮小された。14日にはウクライナ中部ビンニツァが複数のミサイルで攻撃され、子供を含む22人が死亡したとみられている。
ゼレンスキー大統領はビンニツァへの攻撃を「あからさまなテロ行為」だと非難。その後、オランダのハーグに向けたビデオ演説で、ロシアの行為に国際的な責任を負わせるよう呼び掛けた。
欧州連合(EU)加盟国は18日の外相会合で、ウクライナ向け軍事支援を5億ユーロ(約700億円)追加することに合意する見通し。合意すれば、EUのウクライナ軍事支援は総額25億ユーロとなる。
ロシア中銀、西側銀行接収の要求に抵抗−ロイター
ロシアの一部当局者や企業は西側諸国の銀行が持つロシア事業の経営権を接収するよう中央銀行に求めているが、中銀は抵抗しているとロイター通信が伝えた。そのような行為は預金者の資金引き出しを促しかねないと中銀は懸念しているという。オーストリアのライファイゼン・バンク・インターナショナル(RBI)やイタリアのウニクレディト、米シティグループなど外国銀行は2021年末時点で、ロシアの銀行資本の11%を占めていた。
ウクライナは領土の喪失を受け入れるべきだ−ロシア
将来に和平合意が成立するならば、ウクライナは中立化と非核化に加え、クリミアとドネツク、ルガンスク両州における「領土の現実」を受け入れる必要があると、ロシアのルデンコ外務次官がインタファクス通信に語った。ウクライナ政府は領土の割譲を繰り返し否定している。ロシア側には交渉を再開する意思があるが、こうした要求に対して「まず明確な回答を得ることを求める」とルデンコ氏は述べた。
ブレント原油下落、ロシアのウクライナ侵攻以降の上昇消す
14日の原油先物市場で北海ブレント価格が下落。1バレル=96.84ドルを下回り、ロシアがウクライナに侵攻して以来の上昇分を全て消した。
ウクライナ南部の穀物畑が炎上、ロシア軍の攻撃で
ウクライナ南部ミコライウ州やオデッサ州の一部では穀物畑がロシア軍の砲撃で炎上し、収穫予定だった穀物が台無しにされていると、ウクライナ軍南部司令官の報道官が今週語った。
EU、一部ロシア人への制裁撤回を検討
EUはウクライナ侵攻に関与したとして制裁を科した一部のロシア人について、制裁解除を協議している。制裁の根拠が薄弱だった可能性があるとEUの法律専門家が判断したためだと、事情に詳しい関係者が明らかにした。
穀物輸出再開協議、ウクライナとロシアが前進認める
ウクライナ産穀物輸出の封鎖解除を巡る協議は建設的だったと、話し合いに参加したウクライナとロシア、トルコ、国連の4者が認識を示した。世界への食料供給を増やし、苦境に立たされているウクライナの農業セクターを支援するため、最初の一歩を踏み出した格好。ロシア国営タス通信が匿名の関係者情報として伝えたところによると、交渉は今月20−21日に再開する可能性がある。
EU、ロシアのガス全面カットを警告
欧州委員会のジェンティローニ委員(経済担当)は14日、ロシアがガス供給を完全に断つリスクは「単なる仮定のシナリオ以上に大きくなった。欧州はこれに備える必要がある」とブリュッセルで語った。
米財務副長官とウクライナ財務相、ロシア産石油価格制限巡り協議
アデエモ米財務副長官とウクライナのマルチェンコ財務相はロシア産石油価格に上限を設定する計画の進展状況について協議した。ホワイトハウスが協議内容を公表した。
「不釣り合い」な兵器が有効とウクライナは台湾に示した−米国務次官補
ルイス米国務次官補は、米国がウクライナに供与した対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」について、戦力で劣る軍隊が強い敵に立ち向かうのを助けることができる「不釣り合い」な兵器だとした上で、ウクライナの戦争はこうした兵器が有効だということを台湾に示したと語った。
北朝鮮、ウクライナの新ロ派を国家承認−KCNA
北朝鮮はウクライナ東部の親ロシア派武装勢力「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を独立国家として承認した。国営の朝鮮中央通信(KCNA)が報じた。
●ロシア軍がウクライナ中部攻撃、子ども3人含む23人死亡 7/14
ウクライナ中部の都市で14日、ロシア軍によるミサイル攻撃があり、子ども3人を含む少なくとも23人が死亡した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「明らかなテロ行為」とロシアを非難した。
攻撃は、前線から数百キロ離れたビンニツァ(Vinnytsia)で白昼に起きた。当局が公表した写真には、茶色い煙が立ち上る中、焼け焦げ骨組みだけになった建物の脇に、自動車数台がひっくり返っている様子が捉えられている。
ゼレンスキー氏はソーシャルメディアに投稿した声明で、ロシアを「殺人国家、テロリスト国家」と非難。「毎日、ロシアは市民を殺し、子どもを殺し、軍事的な標的ではなく民間施設へミサイル攻撃を行っている。これが明らかなテロ行為でないとしたら一体何なのか」と糾弾した。
その後、オランダ・ハーグで開かれた戦争犯罪に関する会合にビデオ会議で参加したゼレンスキー氏は、ミサイル8発が発射され、うち2発がビンニツァに着弾したと説明。子ども3人を含む死者20人に加え「多数の負傷者」が出ていると述べ、国際刑事裁判所(ICC)などに対してロシアの侵攻をめぐる特別法廷の設置を訴えた。
救助当局はこの後、死者数が23人になったと説明。39人の捜索を続けているとした。
ウクライナ中部は、ロシア軍が攻勢を強める東部ドンバス地方に比べて比較的平穏な状態が続いていた。推定66万人が住むビンニツァは、首都キーウの南東約250キロに位置している。
●米財務長官「ロシア大統領代理、G20に場所ない」 ドル高にも言及 7/14
イエレン米財務長官は14日、インドネシアのバリ島で開催される20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の会場で会見し、ロシアのプーチン大統領の代理人に居場所はないと述べた。
同会議にはロシアも参加する。
イエレン氏はウクライナ戦争が世界中に悪影響を及ぼしていると述べた。戦争とエネルギー価格の高騰、食料不安の高まりについて、国際社会にロシアの責任を追及するよう訴えた。
4月の前回会合時と同様にロシア当局者の発言時に退席するかとの質問には明確に答えず、ロシアのウクライナ侵攻を「最も強い言葉で」非難すると表明した。
「ロシアがこうした会議に参加することに関して、通常通りというわけにはいかないことを明確にしたと思う」とし、ウクライナ財務相の参加を心待ちにしていると述べた。
ロシア産原油の上限価格設定はエネルギー価格の低下につながるとして、引き続き実現に向けて取り組む考えを示した。
このような措置を取らなければ石油価格が上昇するとし、中国とインドが国益にかなうと考えて参加することを期待すると述べた。
「(上限価格の設定により)ロシアに石油の輸出を続ける道を残し、中国やインドを含む世界中の消費者は価格の高騰を避けることができる」と指摘した。
イエレン氏はまた、低所得国の債務再編に参加していない中国を非難し、高債務国への救済策をまとめるよう中国を含むG20の債権国に働きかけることが重要な目的の一つと述べた。
「容認できない高い」インフレ率への対応がバイデン政権の最優先課題の一つだとも発言。米連邦準備理事会(FRB)の利上げに支持を表明した。
米利上げは新興国に悪影響を及ぼしているかとの質問には、新興国への影響は主にウクライナ戦争を背景とする燃料・食料価格の上昇に起因していると指摘。
米利上げでドルが上昇しており、ドル建て債務を抱える国に一定の影響が出る可能性があることも認めた。石油などコモディティーを輸出する一部の途上国が価格上昇で恩恵を受けているとも発言した。
●露で「戦時経済体制法」成立 企業、政府の管理下も 7/14
ロシアのプーチン大統領は14日、ウクライナに侵攻した露軍の活動などを支えるためとして、露政府機関が企業に対して「経済的特別措置」を発動できるようにする法案に署名し、成立させた。タス通信が伝えた。欧米メディアは、この法律が企業を政府の管理下に置くことを可能にし、ロシアを事実上の「戦時経済体制」に移行させるものだと指摘している。
法律によると、露国防省や露連邦保安局(FSB)などの政府機関が特別措置に基づいて物やサービスの提供に関する契約を企業に求めた場合、企業側は契約を拒否できない。政府側は契約後であっても、物の量やサービスの内容を変更できる。さらに、労働者の残業や夜間勤務、休日出勤などについて、政府側は企業に指示することが可能になる。
このほかにもプーチン氏は同日、ウクライナ側に立って戦闘に参加した露国民に国家反逆罪を適用することを認める法案や、6歳以上の未成年者の育成を目的とした「全ロシア運動体」の創設を定めた法案にも署名した。露メディアは「運動体の創設により、旧ソ連式の愛国主義教育が再開される」と指摘している。

 

●ロシアでメディア統制を強化する改正法成立 プーチン大統領が署名 7/15
ロシアで、国内外のメディアが誤った情報を広めたとみなされた場合、検察当局が活動の停止や禁止を命じることができる改正法が成立しました。
14日、プーチン大統領が署名して成立した改正法では、国内外のメディアが誤った情報やロシア軍の信用を損なう情報などを広めたとみなされた場合、検察当局は一定期間の活動停止を命じることができ、違反が繰り返されれば活動禁止を命じることが可能になります。
また、外国でロシアメディアの活動が制限された場合、対抗措置としてその国のメディアについてロシア国内での活動を制限できるとしています。ロシアでは今年3月、軍に関する虚偽の情報を広めた場合に最大で懲役15年を科す改正法も成立していて、情報統制を強める狙いがあるとみられます。
この日はさらに、国外で活動するロシア軍を支援するために政府が特定の企業に対し、物資やサービスの提供を強制できるほか、従業員に休日労働などを求めることができるとする法律も成立しました。
ロシアではウクライナ侵攻のさらなる長期化を見据えて法整備が進められています。
●七光で出世した「闇将軍」パトルシェフ書記 ウクライナ侵攻の共謀者か 7/15
ロシアのプーチン大統領が無理のあるウクライナ侵攻を決め、短期戦には失敗した。トップの判断がまずければ、周囲が全力で阻止していたはずで、やはり共謀者がいたことになる。本連載で側近を何人か挙げたが、この人物に触れないわけにいかない。ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記だ。
親の七光で長男は閣僚
安保会議は、開戦に至るまでの「御前会議」として先に紹介した。ソ連共産党政治局の現代版とも言え、書記はその要。プーチンは旧ソ連国家保安委員会(KGB)で「中佐」、パトルシェフは後継機関でも昇進した「上級大将」。大統領よりKGB歴は長い。
プーチンの後を継ぐ形で1998年に大統領府監督総局、99年に連邦保安局(FSB)のトップを歴任。ボスには絶対的な忠誠を誓っているとされる。
書記という肩書こそ地味だが、米大統領補佐官(国家安全保障担当)のカウンターパートで、核軍縮を含めて超大国間の最重要問題はこのラインで99%が決まる。「闇将軍」という例えも過剰ではない。
ただ、ロシア・バレーボール協会会長を務めたスポーツ好きという一面を除き、素性は見えてこない。強いて言えば、息子2人が政府機関や国営企業で「親の七光」で出世していることか。うち長男ドミトリーは2018年、40歳で農相に大抜擢。戦争が小麦や肥料の需給に直結することは今回、誰もが実感した。
「ナチ根絶」叫ぶ最強硬派
「ナチズムは100%根絶されなければならない」。いわゆる特別軍事作戦が始まって丸3カ月の5月下旬、パトルシェフ(父)は週刊紙「論拠と事実」の取材にこう強調し、長期戦もあり得るという立場を示した。5月末には「ポーランドがウクライナ西部を奪おうとしている」と発言。4月に政府系ロシア新聞に対し、隣国が「分断国家」と化する可能性にも言及していた。
彼こそウクライナをネオナチと呼ぶ最強硬派。「プーチンが手術を受ける間、権限を委譲される」とのうわさ話まで飛び出したが、仮に代行になっても、恐らく主戦論に変更はない。なお、大統領が欠けた場合の権限の継承順位は首相、上院議長の順。「法治国家」の建前もあるからややこしい。
5月9日の戦勝記念日で、今年70歳になる指導者に「後継者」が現れた(テレビに映った)との報道があったが、専門家は見向きもしなかった。プーチンに親しげに話し掛けていたのがパトルシェフ(子)だとすれば、筆者も信じたかもしれない。 ・・・
●40カ国以上、捜査で協調へ ウクライナでの戦争犯罪 7/15
欧米など40以上の国が14日、国際刑事裁判所(ICC)本部のあるオランダ・ハーグで国際会議を開き、ロシア軍が侵攻したウクライナでの戦争犯罪の捜査に協調して対応することで合意した。
会議には欧州連合(EU)諸国や米国、英国、カナダ、メキシコ、オーストラリアなどが参加した。
ウクライナでの戦争犯罪をめぐっては、約2万4000件の捜査が進められているが、異なる国が捜査を指揮している。合意によって、捜査の重複を回避する狙いがある。
会議にオンラインで出席したウクライナのゼレンスキー大統領は、14日朝もロシアが中部ビンニツァに巡航ミサイルで攻撃を加え「家屋や医療施設が破壊され、車も路面電車も火に包まれた」と強調。「これはロシアによるテロ行為だ」と訴えた。ロシアはこれまで、民間人を意図的に狙った攻撃などの戦争犯罪行為には関与していないと主張している。 
●ウクライナ大統領夫人「共通の歴史持つ韓国が支援を」  7/15
「今回の戦争に中立はありません。戦争はウクライナだけでなく、世界の民主主義の価値を脅かしています。韓国人がウクライナ戦争を自分と無関係だと考え、惨状から目を背けないことを願います」――。ウクライナのゼレンスキー大統領のオレナ夫人(44)は14日、聯合ニュースとの書面インタビューで、ロシアによる侵攻が5か月近く続くウクライナに対する韓国の軍事・人道支援を要請した。韓国メディアとのインタビューは今回が初めてとなる。
オレナ氏は、ウクライナと韓国が自由と民主主義のために戦ったという歴史上の共通点があると強調。「韓国はわれわれと同様に、核兵器で世界を絶え間なく脅かす隣国のそばに暮らしている」としながら、「西側諸国は1950年代に韓国が自由のための戦争に勝利するよう集まり、今はウクライナを中心に団結している」と説明した。
オレナ氏は戦争初期からSNS(交流サイト)などでロシアの攻撃の不当性を批判し、悲しみと喪失感に陥ったウクライナ国民への関心を呼びかけるメッセージを発信してきた。
今回のインタビューでも「もう大抵の戦争のニュースにも人々は動じなくなった」として、「どうか戦争に慣れてしまわないでほしい」と訴えた。
オレナ氏は、戦争によって「ファーストレディー」の役割が完全に変わったとする。
その一例として、戦争前は学校給食のメニューについて考えていたが、今は子どもたちが飢え死にしない方法を考えるのが自分の仕事になったとして、「21世紀の欧州の中心にある国のファーストレディーがこのようなことをしなければならないと(誰が)予想しただろうか」と反問した。
個人的な恐怖心も率直に吐露した。自身は夫に続きロシアが命を狙う2番目のターゲットであるためだ。
オレナ氏は「もちろん恐ろしい」とする一方、「夫と離れて子どもたちを守らなければならない数百万人のウクライナの母親が私を見つめているため、落ち着いてパニックに屈しないようにしている」と明かした。
現在の関心事は、自身の安全よりも戦争で傷ついた子どもたちだ。 
ロシアが侵攻を開始した2月24日、ウクライナの子どもたちは強制的に「大人」にされてしまったという。
家族が乗った車が銃撃され、負傷した大人の代わりにハンドルを握って避難した少女や脚を失った母の面倒を見る少年など、一人ひとりに心を寄せる。「われわれの子どもたちを『失われた世代』にさせたくないのです。子どもたちが戦争という衝撃的な経験を生きる意欲に変えるよう、手助けしなければなりません」。
オレナ氏自身も、ロシアの侵攻によって飢え死にした母親の墓のそばで泣いている子どもを「大丈夫」と慰める自信はないという。それが「子どもたちを言葉で安心させる代わりに、行動で示すことにした理由」だと説明した。
戦争で疲弊したウクライナの再建のため、オレナ氏は23日に「ファーストレディー・ジェントルマンサミット」を開催する。昨年ウクライナの首都、キーウで初開催されたこのイベントは、今年はオンラインで開かれる。
オレナ氏は「今年のサミットでは戦争における心身の回復、難民、教育、子ども、女性問題などを幅広く話し合う」とし、ウクライナ戦争の情報発信に関しても議論する計画だと説明した。
また、「無関心は戦争に反対する行動を止めかねないという点で間接的な殺人だ」とし、「メディアはウクライナ戦争を継続して報じなければならない。ウクライナに対する関心が実質的な支援へとつながる」と強調した。
オレナ氏は続けて、「戦争が終わった後、ウクライナ国民が家に戻るのはわれわれにとって非常に重要なことだ」とし、「ウクライナで共に勝利を祝い、国を再建し、未来を作っていく」と力を込めた。
●ウクライナ、ロシア軍支配の南部で反撃準備 7/15
ウクライナ軍は、ロシアが支配する南部地域のロシア軍検問所などを攻撃し、13人を殺害した。南部での反撃準備を進めている模様だ。ウクライナ中部ビンニツァでは、ロシア軍によるミサイル攻撃により市民ら20人が死亡した。
ウクライナ、露軍施設を攻撃
ウクライナ軍は14日、ロシア軍が支配する南部ヘルソン州ノバカホフカのロシア軍検問所などを攻撃し、13人を殺害したと明らかにした。11日にも同地域のロシア軍弾薬庫を砲撃しており、南部での反撃の準備を進めているとみられる。ロイター通信によると、ウクライナの当局者がウクライナ軍による情報として伝えた。ウクライナ軍は欧米から供与された精度の高い兵器を使用し、前線から離れた弾薬庫などへの攻撃を強めている。
露のミサイル攻撃で市民20人死亡
ウクライナ中部ビンニツァの中心部で14日、ロシア軍によるミサイル攻撃があり、子ども3人を含む市民ら20人が死亡した。ロイター通信が報じた。警察当局によると、さらに15人が行方不明となっているほか、病院で手当てを受けた90人のうち約50人が深刻な状態といい、犠牲者は増える可能性がある。
●ロシア軍 ウクライナ都市部を組織的にミサイル攻撃か  7/15
ロシア軍が侵攻を続けるウクライナでは、西部の町の中心部がミサイル攻撃を受け、子どもを含む少なくとも23人が死亡し、行方不明者の捜索が続いています。ロシア軍は東部や南部でも都市部に対して組織的にミサイル攻撃を行っていると指摘され、市民の犠牲が拡大することが懸念されます。
ウクライナ西部のビンニツァ州では14日、町の中心部がロシア軍のミサイルによる攻撃を受け、ウクライナの非常事態庁は、子ども3人を含む少なくとも23人が死亡したと発表しました。
ゼレンスキー大統領は「残念ながら行方不明者が何十人もいると報告されている。ロシアをテロ国家と正式に認めなければならないことが、改めて証明された」と強く非難しました。
この攻撃について、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は14日、ロシア軍が潜水艦から巡航ミサイル「カリブル」を発射したとするウクライナ側の分析を紹介したうえで、「ロシアは、東部のハルキウ市や南部のミコライウ市でも都市の住宅地への組織的なミサイル攻撃を続けている」と指摘しています。
これに対してロシア国防省のコナシェンコフ報道官は15日「カリブル」での攻撃だったと認めたうえで「ウクライナ軍の駐屯地にある幹部の住居を攻撃した。軍の幹部と外国の兵器会社の代表者が兵器供与について会議を開いていて、参加者を排除した」などと主張しています。
また、ロシア軍が掌握を目指すドネツク州の状況について分析しているイギリス国防省は15日、ロシア軍がウクライナ軍の拠点のスロビャンシクとクラマトルシクを攻略するため、東側からゆっくりと進軍させ、まずは周辺の町の掌握を目指しているという見方を示しています。
一方、ウクライナ軍がロシア側から奪還した黒海の拠点のズミイヌイ島について、イギリス国防省は「ロシア側は、ウクライナがこの島を拠点とするのを阻止しようとしているが、ロシア軍の戦闘機は攻撃に失敗した」と指摘しています。
ウクライナ政府はズミイヌイ島を奪還したことで、ドナウ川沿いにある港から黒海を抜けて農作物を輸出するルートが開放されたとしていますが、この島をめぐってもロシアとウクライナの間で激しい攻防が続いているものとみられます。
●衆院議員384人のロシア入国禁止…日本政府の制裁に報復 7/15
ロシア外務省は15日、ウクライナ侵略を巡って日本政府が今年4月に発動した対露制裁の報復措置として、日本の衆院議員384人にロシアへの入国を禁じる制裁を科したと発表した。
ロシア側が公表した対象リストには、自民党の麻生副総裁と菅前首相、立憲民主党の泉代表、国民民主党の玉木代表らが記載されている。鈴木貴子外務副大臣らは対象外となっている。
露外務省は15日の声明で、対象とした議員らが「非友好的な反露の立場を取り、ウクライナでの軍事作戦を巡ってロシアを根拠なく非難している」と主張した。
日本政府は今年4月中旬、露下院の議員384人などを資産凍結の対象とする制裁を発表していた。ロシアは日本の制裁への報復として、岸田首相らの入国を禁止しているほか、「非友好国」に指定し、日本との平和条約交渉の中断を表明するなど反発を強めている。
●ロシアの訴えをスポーツ仲裁裁判所が却下 7/15
スポーツ仲裁裁判所(CAS)は15日、ロシアサッカー連盟(FUR)と一部クラブからの上訴を却下したことを発表した。
事の発端は、今年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻。今もなお続いている状況ではあるが、この軍事侵攻によりサッカー界も大きな影響を受けた。
多くのウクライナ国民が避難するなか、ウクライナの国内サッカーは停止。カタール・ワールドカップ(W杯)出場を目指していたウクライナ代表もプレーオフが残っていたものの延期となっていた。
この件を受け、国際サッカー連盟(FIFA)と欧州サッカー連盟(UEFA)は、ロシア代表、そしてロシアのサッカークラブをあらゆる大会から締め出すことを決定していた。
ロシアもカタールW杯の欧州予選プレーオフに残っていたが失格。UEFAの大会にもロシアのクラブが参加できないことが決定し、それは新シーズンも継続されることとなった。
この件に関し、FURがFIFAとUEFAにそれぞれ1件ずつ、さらにゼニト、ソチ、CSKAモスクワ、ディナモ・モスクワの4クラブがUEFAに対して上訴しており、合計6件の訴えがあったが、全てが却下されることとなった。
CASは7月5日、11日に関係者たちとビデオでヒアリングを実施。CASは声明で「全てのケースにおいて、パネルはロシアとウクライナの間の紛争の激化、及び世界中の国民と政府の反応が、FIFAとUEFAが対応しなければならない不測かつ、前例のない状況を作り出したと判断した」とし、「そのような状況が続く間、ロシア代表とクラブは、彼らの支援の下で大会に参加すべきではないと判断した上で、パネルは当事者がそれぞれの規約と規則の下で与えられた裁量の範囲内で行動したと判断した」と説明している。
また、責任はFURやクラブにはないとしながらも、世界中で行われるサッカーイベントの安全性を守るためには仕方ないものだとまとめた。
「このように判断した上で、パネルはロシアとウクライナの間の紛争の性質を特徴付ける必要はなく、影響を受ける競技に対するこのような紛争の影響にのみ焦点を当てることにしました」
「パネルは、ロシアのサッカーチーム、クラブ、選手には何の責任もないウクライナでの現在の軍事行動が、FIFAとUEFAの決定により、彼らやロシアサッカー全体にこのような悪影響を及ぼしたことは残念であります。しかし、パネルの見解では、こうした影響は、世界の他の国々のために、安全かつ秩序あるサッカー競技を行う必要性によって、相殺されるものでありました」
●“言論弾圧” 強めるロシアとベラルーシ  7/15
国際社会、特に欧米の人権団体からは、ロシアとベラルーシ国内の言論弾圧を批判する声が高まっています。
モスクワのゴリノフ区議会議員と20歳の大学生ペレドニャさんは、今月、ロシアとベラルーシの裁判所でそれぞれ有罪判決を受けました。
ゴリノフ区議会議員は、ことし3月、区議会で「隣の主権国家で敵対的な行動が行われている」と述べ、ロシアによる軍事侵攻を批判する発言をしました。この発言が問題視され「ロシア軍に関するうその情報を広めた」として拘束され、禁錮7年の実刑判決が言い渡されたのです。
言論弾圧は、ロシアの同盟国ベラルーシでも起きています。20歳の大学生ペレドニャさんは、ネット上にロシアによる軍事侵攻に反対し、プーチン大統領とルカシェンコ大統領を批判するメッセージを掲載したところ、拘束されたのです。今月、ベラルーシの国益を害し大統領を侮辱した罪で禁錮6年半の実刑判決を言い渡されました。
欧米の人権団体はいずれも不当な判決だと強調して釈放を訴えています。さらに、「この2人は氷山の一角にすぎない」としています。
●ゼレンスキー大統領 “ロシアはテロ国家” ロシアは統制強化か  7/15
ウクライナ西部の街へのミサイル攻撃で、少なくとも23人が死亡したことをうけて、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアがテロ国家だと認められなければならない」と強く非難しました。一方、ロシアでは、軍事侵攻の長期化を見据えた複数の法律が成立していて、国内の統制を強化するねらいがあるとみられています。
ウクライナ非常事態庁は14日、西部ビンニツァ州の街の中心部がロシア軍のミサイル攻撃を受け、子ども3人を含む少なくとも23人が死亡したと発表しました。
ゼレンスキー大統領は、この日に公開した動画で「残念ながら行方不明者が何十人もいると報告されている」と述べ、さらに犠牲が増えるおそれがあるという見方を示しました。
そのうえで、「ロシアがテロ国家だと正式に認められなければならないことが、改めて証明された」と強く非難しました。
また、国連のグテーレス事務総長は報道官を通じてコメントを出し「市民や民間施設に対するいかなる攻撃も非難し、説明責任を求めていく」と強調しました。
こうした中、ロシアではウクライナへの軍事侵攻のさらなる長期化を見据えて、14日、複数の法律が成立していて、国内の統制を強化するねらいがあるとみられています。
1つは、国家への反逆行為を罰するもので、軍事行動や紛争の途中で敵側についた場合、最大で懲役または禁錮20年の刑に処することなどが定められています。
また、政府が特定の企業に対し、物資の提供を強制する法律も成立し、これによってプーチン政権は、ウクライナでの「特別軍事作戦」に必要な兵器の修理や物資の供給に関する需要に対応できるようになります。
このほか、国内外のメディアに対しても圧力を強める姿勢を鮮明にしていて、誤った情報や偽のニュースを伝えたとみなされた場合、一定期間の活動停止や登録の無効を命じる権限を、検察トップの検事総長に与える改正法も成立しています。
●東部戦線でロシア軍を砲撃 米国供与の155ミリ榴弾砲 7/15
ハルキウ、ウクライナ、7月15日(AP)― ウクライナ軍は7月14日、ハルキウ州の東部戦線に、米国から供与されたM777 155ミリ榴弾砲を投入して、ロシア軍を砲撃した。155ミリ榴弾砲は、今年の2月にウクライナに侵攻したロシア軍に対抗するために、米国がウクライナに供与した軍事物資の一部で、6月には追加の牽引式榴弾砲が供与された。M777は毎分最大5発の砲弾を発射することが可能で、射程は通常弾で24キロ、ロケット補助推進弾で30キロにおよぶ。ウクライナには30カ国以上が軍事物資などを提供している。
●安倍元首相の好意に報いなかった「気まずさ」がある…冷徹なプーチン"弔電" 7/15
「素晴らしい個人的資質が開花していた」と悼む
7月8日に凶弾に倒れた安倍晋三元首相に対して、ロシアのエリートが次々に弔意を示し、対露外交への貢献を高く評価した。
プーチン大統領は昭恵夫人と母の安倍洋子氏に弔電を送り、「私はシンゾーと定期的に接触していた。そこでは安倍氏の素晴らしい個人的、職業的資質が開花していた。この素晴らしい人物についての記憶は、彼を知るすべての人の心に永遠に残る」と突然の死を悼んだ。
ロシアのウクライナ侵攻が長期化する中、日露間では制裁合戦が進むが、束の間の「安倍休戦」と安倍氏の不在を経て、日露関係はさらに険悪化しそうだ。
27回の首脳会談でも「石ころ一つ返ってこない」
明治以降最長在任の首相となった安倍氏の内外政策の成果は多いが、こと対露政策については「失敗」との評価が定着しつつある。
日露平和条約締結を悲願とした安倍氏は27回首脳会談を行い、11回訪露するなど、プーチン大統領との交渉にのめり込んだ。
2014年のロシアのクリミア併合後も、米国の反対を押して対話を重ね、対露経済協力の「8項目提案」を発表。2018年には、国是の「4島返還」を放棄し、歯舞、色丹2島の引き渡しをうたった1956年日ソ共同宣言を基礎にした「2島」路線に舵を切った。しかし、ロシアは強硬姿勢を崩さず、ゼロ回答に終わった。
立憲民主党の野田佳彦元首相は、長野県で行った参院選の遊説で、「プーチン大統領に経済協力を提案し、北方4島の返還交渉が進展するという甘い幻想の下に進んできた。でも、資金はどんどん吸い取られたけども、島一つどころか、石ころ一つ返ってこなかった」と酷評した。
袴田茂樹・青山学院大学名誉教授も安倍外交について、「プーチンはそれを強者ロシアに対する弱者日本の卑屈な態度と侮蔑的に見ていた」と指摘した。
「プーチンに時間を費やして後悔はないか」との質問に…
安倍氏は亡くなる1カ月半前、英誌『エコノミスト』(5月26日付)のインタビューに応じ、「プーチンに政治資産と時間を費やしたことを後悔していないか」との質問にこう答えた。
「後悔はまったくない。私は常々、北方の脅威を減らし、南西部の戦力を強化すべきだという考えを持っている」
「私はロシアと平和条約を結び、北方4島の問題を解決するために交渉することが義務と考えた」
「今、ロシア人は北方領土の日本への返還に圧倒的に反対している。このような状況では、ロシアの指導者が国内で強力な権力基盤を持たなければ、領土問題を解決するのは困難だ。私はプーチンが適任だと考えた。日本との平和条約締結の中長期的なメリットを理解してくれると信じていた」
「しかし、残念ながら、プーチンといえども、絶対的な権力を持っているわけではないし、1人ですべてを決めることはできない。強い反対を前に、躊躇していたのだと思う」
感情的な弔電を送ったプーチンの胸の内
安倍氏は退任時の会見で、平和条約交渉が挫折したことを「痛恨の極み」と述べたが、交渉の細部は語っていなかった。英誌への発言には、交渉失敗を取り繕(つくろ)う「後付け」の要素もありそうだ。
なぜ「4島」を放棄したのか、「2島」で勝算があったのか、「2島」を提示した2018年11月のシンガポール会談でどのようなやりとりがあったのか。安倍・プーチン交渉には多くの謎が残っている。
岸田首相はロシアのウクライナ侵攻を「許されざる暴挙」と非難し、欧米諸国と連携して厳しい対露制裁を発動し、安倍融和路線を撤回した。北方領土問題でも、「ロシアの違法占拠」を非難し、4島返還に戻す姿勢を打ち出した。
岸田首相が6月、国会で北方4島の返還を目指す考えを明言すると、安倍氏は周囲に、「(4島返還と)言って返ってくるなら、みんな言う」と漏らしたという(北海道新聞、7月9日付)。岸田首相が安倍路線を簡単に撤回したことに、安倍氏は不満だったようだ。
安倍氏があれほど尽力した日露交渉も見果てぬ夢に終わった。プーチン大統領の弔電が、外交儀礼を超えてやや感情的だったのは、安倍氏の好意に報いなかった気まずさが感じとれる。
ロシア・エリートが安倍氏を称賛する理由は…
ロシアの指導層からも、安倍氏を称賛する発言が続いた。
ウクライナ問題で強硬な反欧米レトリックを強めるメドベージェフ前大統領は「安倍氏は日本の政治家の中で、ロシアとの関係発展を進めた数少ない人物だ」と述べた。
ペスコフ大統領報道官は「安倍氏は常に日本の利益を守り、外交交渉で実践した。そのため、プーチン大統領とは非常に良好で建設的な関係を築いた。このような政治的意思は現在、多くの国で不足している」と語った。
コサチョフ下院副議長は「安倍氏が長年にわたりロシアとの効果的な協力計画を指揮したことは永遠に記憶される」と称えた。
ガルージン駐日大使も「戦略的、長期的ビジョンを持った政治家で、ロシアとの緊密な善隣関係が日本の長期的利益になると考えた愛国者」とし、安倍氏を継承する政治家の登場を望むと指摘した。
モスクワの日本大使館には、市民の要請で献花台が置かれ、多くの市民が花をたむけたという。
ウクライナ侵攻で西側から強烈な経済制裁を浴びる中、ロシア側は、安倍氏の対露融和外交のありがたさを想起したかにみえる。日本国内で低い安倍氏の対露外交への評価がロシアで高いのは、結果的にロシアを利するものだったことを意味する。
安倍氏という「重し」が取れ、関係はさらに険悪化する
安倍氏の「不在」で、今後の日露関係はますます険悪化しそうだ。
ロシアのバシキン上院議員は「安倍氏は日露の友好に大きく貢献したのに、岸田首相がすべてを破壊した」と非難した。下院国際問題委員会のチェパ第一副委員長は「複雑化する日露関係が改善される見込みはまったくない」と述べた。
ウクライナ戦争後、欧米諸国を非難するプーチン大統領自身が日本を名指しで非難することはなかったが、親しい安倍氏の死で重しが取れ、今後は対日批判に乗り出すかもしれない。
ロシアは日本企業が出資するサハリン沖の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」を接取する方針を示したのに続いて、同じく日本企業が参加する「サハリン1」についても、「ロシアの管轄下に置かれる方向にある」(ザワリヌイ下院エネルギー委員長)という。
ガルージン大使も「日本の一連の対露敵対政策は、対抗措置に遭うことになる」と警告した。
ロシアは経済面の報復制裁に加えて、日本周辺での対日軍事威圧も強めている。ウクライナ侵攻で愛国主義が危険なほど高まるロシアを過度に刺激しない外交も必要になる。
●プーチン氏、侵略長期化へ「戦時経済」法案署名…東部総攻撃で志願兵部隊  7/15
ロシアのプーチン大統領は14日、軍や治安・情報機関の国外での活動を支援するため、政府が企業に対し物品やサービスの提供を義務づける「特別経済措置」の発動を可能にする法案に署名した。ウクライナ侵略作戦の長期化に備えた法律が成立したことで、ロシアが事実上の「戦時経済」に移行するとの指摘が出ている。
法律によると、特別経済措置が発動されれば、労働者の残業や夜間、休日出勤といった労働条件を政府が指示できる。軍事作戦の継続に必要な装備の調達や修理などを想定し、政府側は契約後も、数量の変更や価格の引き下げができる。英国防省はこの法律に関し「政治的に敏感な(問題である)戦時動員の発令を避ける狙いがある」との見方を示した。
徴兵も長期戦を意識する。米政策研究機関「戦争研究所」は13日、露軍がウクライナ東部ドネツク州への総攻撃に向け、露国内で志願兵の部隊を編成し、8月末までに約3万4000人の増員を目指していると指摘した。
ウクライナ非常事態庁などによると、14日の中部ビンニツァ中心部へのミサイル攻撃の死者は23人となった。負傷者数は100人超で、34人が重傷だ。39人が行方不明という。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日夜のビデオ演説で、ビンニツァの医療機関が被害を受け、犠牲者には4歳の女児も含まれていたとし、「ロシアをテロ国家と認定しなければならないことが改めて証明された」と非難した。
●ロシアの“武器”は天然ガス?ドイツでいま何が?日本に影響は? 7/15
「ロシアはエネルギーを“武器”にドイツを攻撃している」
ドイツのショルツ首相の発言です。ロシアからのガス供給が完全に止まるのではないかと懸念が広がるドイツ。ヨーロッパ最大の経済大国で今、何が起きているのか。ロシアからのガスが止まるとドイツはどうなるのか。日本でもロシアからの調達がこれまでどおりできるか不透明になるなか、ドイツの現状をわかりやすく解説します。
ドイツで何が起きているの?
ロシアからドイツに天然ガスを送る主要なパイプライン「ノルドストリーム」が7月11日以降、供給を停止しました。これについてロシアの国営ガス会社ガスプロムは、7月21日までの定期的な点検だとしています。この点検自体は以前から行われていて、終わればガス供給は再開されてきました。ただ、ガスプロムは6月にも設備の問題などをあげて「ノルドストリーム」の供給量をすでに60パーセント削減しています。このため、欧米とロシアが政治的に対立する中で、ロシア側が点検後も供給を再開しないのではないかという懸念が広がっているのです。
供給停止されると影響は大きいの?
ドイツにとって天然ガスは暮らしと経済を支える重要なエネルギーです。寒さの厳しい冬には家庭用暖房の燃料として欠かせないほか、製造業に必要な電力の燃料、さらには、自動車部品などの製品の原料としても使われています。ドイツ政府は暖房需要が増える冬に備えて、今年11月1日には天然ガスの貯蔵率を90パーセントに引き上げる目標を掲げていますが、7月14日時点の貯蔵率はおよそ64パーセント。仮に供給が止まり、それが長引けば、この目標を達成できないおそれも出てきます。そうした場合、ドイツ政府は「緊急事態」を宣言する可能性があり、ガスの供給に国が介入し、供給先の優先順位決めに関与することになります。有力紙「ツァイト」は電子版で「国の繁栄はパイプライン次第だ」と伝えるなど、危機感が広がっています。
どうしてそんなに影響が大きいの?
ドイツが、エネルギーをロシアに依存しているからです。ドイツは石炭や石油もロシアから輸入してきましたが、とりわけ天然ガスは輸入に占めるロシア産の割合がロシアによるウクライナ侵攻前は55パーセントに上っていました。侵攻を受けてドイツはロシア産の天然資源に依存しない「脱ロシア」を進めています。それでも、ことし4月時点でロシア産のガスが35パーセントを占めるなど、短期間で代替の調達先を確保するのは非常に難しいのが現実です。
なぜ供給停止の懸念が広がっているの?
ロシアがガスを政治的な“武器”として使い、ドイツに揺さぶりをかけていると受け止められているからです。ドイツの政治経済界では、ガスの輸入はドイツに有益なことであるだけでなく、ロシアも潤い、互いにメリットがあることという受け止めでした。しかし、ロシアのプーチン大統領は7月8日、クレムリンでエネルギー関係の会合を開き「ヨーロッパ諸国はロシア産からの代替エネルギーを求めているが価格の高騰につながるだろう。さらなる制裁は世界のエネルギー市場に、より深刻で破滅的な結果をもたらすかもしれない」と欧米側を強くけん制しています。パイプラインの点検でガスの供給が止まることはこれまでもありましたが、いずれも一時的なものでした。しかし、今回は大きく状況が異なります。欧米とロシアの対立が深まる中、ショルツ首相は「ロシアはエネルギーを“武器”にドイツを攻撃している」と強く反発しています。
ロシア側の説明は?
ロシアのガスプロムはガスの供給を停止している理由について、「ノルドストリーム」で使われるタービンの1つが、整備を行ったカナダの工場から現地に戻せなくなっていることを挙げています。
ロシア外務省の報道官も「いかなる臆測も受け付けない」と述べ、ガスの供給停止には政治的な意図はないと主張しています。
ドイツ政府の対応は?
冬に使えるガスを残しておくための“節ガス”の呼びかけを始めています。さっそく呼びかけに応じて公共のプールではガスで温めている水温を下げたり、団地でお湯が使える時間を限定したりといった動きが伝えられています。また、首都ベルリンの観光名所ブランデンブルク門では、夜間ライトアップの中止も検討すべきという声も上がっています。さらにドイツ政府は発電でのガスの消費を抑えるため、一時的に石炭火力発電所を稼働させて必要なエネルギーを補う方針も決めました。脱炭素社会の実現を目指し石炭の利用からの脱却を進めてきたドイツですが、これまでとは逆行する対応まで迫られる事態になっています。環境政策を重視する「緑の党」の前党首、ハーベック経済・気候保護相は不本意な対応を迫られる悔しさをあらわにしています。
ハーベック経済・気候保護相「ロシアはエネルギーを“武器”にドイツに攻撃を加えている。そのために二酸化炭素の排出を増やすことになる。極めて不愉快だ」
市民の受け止めは?
首都ベルリンで市民に話を聞くと、先行きへの不安の声が多かった一方、これまでの政府の対応を批判する声も聞かれました。
男性「いまはシャワーを2日に1度にしてガスを節約しています。ただ、冬場も続けられるかはわかりません」
女性「自宅の暖房にはガスを使うので再開して欲しいと願っていますが、再開されることはないでしょう。年金暮らしなのでガスが止まれば価格が上がり、生活が苦しくなります」
男性「ロシアへの依存は最大の失敗でした。過去の政治家たちはロシアを信用しすぎました」
供給は止まってしまうの?見通しは
複数の専門家に話を聞きましたが、パイプラインの点検が終わる21日のあとのはっきりした見通しを得ることはできませんでした。ロシアへのエネルギー依存を深めたために、エネルギー供給の決定権をロシア側に握られてしまった状態ですが、専門家はこう指摘します。
ケルン経済研究所マルテ・キューパー氏「ドイツ政府や専門家はことし6月にロシア側がガスを大幅に削減した際の説明はうそで、意図的な削減だと受け止めている。それを踏まえ、ロシアが定期的な点検を口実にさらなるガスの削減をもくろむことが懸念されている」
日本とどう関係しているの?
今のドイツの状況は、エネルギーを海外から輸入する日本にとってもひと事ではありません。ロシアのプーチン大統領は6月30日、日本企業も参加する極東での石油・天然ガスの開発プロジェクト「サハリン2」について、事業主体をロシア企業に変更するよう命じる大統領令に署名。ガスプロムを除く株主に、1か月以内に出資分に応じた株式の譲渡に同意するかどうか通知するよう求め、日本に対しても揺さぶりをかけています。ドイツは、「脱ロシア」のためLNG確保を進める方針で、世界のエネルギー獲得競争がさらに激しさを増すことは必至です。天然資源に乏しい日本にとっては、「サハリン2」の問題だけでなくドイツ国内のエネルギー事情がどうなるかも、今後のエネルギー安全保障に大きな影響を与える可能性があるのです。
●ロシア産LNG途絶に対策を 電事連会長、自家発電活用 7/15
電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は15日の定例記者会見で、ロシア極東での石油・天然ガス開発事業「サハリン2」を巡り、液化天然ガス(LNG)が調達できなくなる事態を前提に、計画を立てるべきだとの考えを示した。ロシア以外の調達先からの代替確保や、事業者の自家発電活用などを対策として挙げた。
サハリン2は、プーチン大統領がロシアの支配下に置く大統領令に署名し、日本の権益維持が不透明になっている。池辺氏は、冬の電力需給の逼迫が強く懸念される中で「急にLNGが来なくなれば受け身が取れない」と危機感を示した。
●ロシア産LNG途絶想定し、取り得る手段全ての準備が必要=電事連会長 7/15
電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は15日の会見で、ロシア産の液化天然ガス(LNG)が途絶することを前提に、取り得る手段を全て準備することが必要だと指摘した。
今冬の電力需給は厳しい見通しにある中、ウクライナ情勢の影響でロシアからの燃料調達が途絶えると「状況はさらに悪化する」とし「強い危機感を持って対策に取り組む」とした。
ロシアのプーチン大統領は、石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の事業主体をロシア企業に変更するよう命じる大統領令に署名した。日本が持つ権益について、池辺会長は「守る方向でやって欲しい」と述べた。ただ、冬が迫る中でサハリンから急にLNGが輸入できなくなるという事態を懸念しているとし「今なら冬まで5カ月ある。途絶した場合を考えて、取れる手段を全てとる準備が必要」と指摘、強い危機感を示した。
手段としては、LNGの長期契約の積み増しやスポットでの調達、廃止を考えていた石炭火力の稼働などが考えられるとした。
岸田文雄首相は14日、今冬の厳しい電力需給に対応するために、原発を最大9基稼働させる方針を示した。これについて、池辺会長は「原発を持つ会社に対して、冬に運転できるように工事・検査に取り組むようにとの叱咤激励」と受け止めているとした。岸田首相が「日本全体の電力消費量のおよそ1割に相当する分を確保する」などと述べたことも踏まえ「原子力への期待は大きい」とも述べた。
ただ、電力各社は需給が厳しい時期には運転することを前提にしているはずとし、9基がどこを指しているか不明ながら「すでに織り込んでいるのではないか。厳しい状況に変わりはない」とした。
●米財務長官がG20でロシア非難−EUが軍事支援拡大へ 7/15
イエレン米財務長官は15日にインドネシア・バリ島で始まった20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、ウクライナに侵攻したロシアの当局者に対決姿勢を示し、「ロシア当局者は、プーチン体制を引き続き支えることでこの戦争の恐ろしい結果を増幅していると認識すべきだ」と語った。
ロシア軍は前線から遠く離れ明確な軍事的重要性がない民間施設への攻撃を継続している。先週末のミサイル攻撃で48人の死亡が確認されたドネツク州の集合住宅では、救援作業体制が縮小された。14日にはウクライナ中部ビンニツァが複数のミサイルで攻撃され、子供3人を含む23人が死亡したとみられている。
欧州連合(EU)加盟国は18日の外相会合で、5億ユーロ(約700億円)のウクライナ向け追加軍事支援で合意する見通し。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
イエレン米財務長官がロシアを非難−G20会合で
イエレン米財務長官は15日、インドネシア・バリ島でのG20財務相・中央銀行総裁会議の冒頭演説で、商品相場を高騰させ、世界中でインフレをあおっている負の経済的波及の責任はロシアが「唯一の責任を負っている」と非難した。同長官はまた、ウクライナへの支援物資供与の拡大と加速を国際社会に呼び掛けた。
国連事務総長、ビンニツァ市へのミサイル攻撃に「がくぜんとした」
国連のグテレス事務総長は「ウクライナ中部ビンニツァ市がきょうミサイル攻撃を受けたことにがくぜんとした」と述べた。同事務総長の報道官が明らかにした。同報道官は「事務総長は民間人ないし民間インフラへの攻撃については、それがどのようなものであろうと非難する」と語った。
EU、18日に5億ユーロの対ウクライナ追加軍事支援で合意か
EU加盟国は18日の外相会合で、5億ユーロのウクライナ向け追加軍事で合意する見通し。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。合意すれば、EUのウクライナ軍事支援は総額25億ユーロとなる。
●デジタル資産による決済を禁止する法案、プーチン大統領が署名 7/15
ロシアのプーチン大統領は、デジタル金融資産の決済を禁止する法案に署名した。この法案はロシア議会下院(国家院)に提出してから1カ月以上が経過していた。
ロシア国家院の報告によれば、プーチン大統領が「銀行と銀行活動に関する」既存の連邦法の特定の部分を停止する法案に署名し、人々が商品やサービスの支払いに仮想通貨を使用することを事実上違法にした。6月7日の法案の初期草案では、「ロシア連邦の領土に他の通貨単位や通貨代替物を導入することの禁止」が明記されていた。
6月8日に下院議長が法案を承認し、修正などの検討を経て、7月8日に議会の上部機関である連邦内閣が法案を承認した。ロシア連邦憲法では、すべての法案は大統領が署名して成立する前に、両院の承認を受ける必要がある。
ロシア議会は現在、デジタル資産に関連する他の2つの法案を検討している。1つは、仮想通貨マイナーの国内での活動を規制する可能性があり、事業者として登録するために一定の手続きを踏むことを義務付けるものだ。もう1つは「デジタル通貨について」と名付けられたもので、デジタル資産取引を扱う企業に対して、ライセンスやリスクやデータプライバシーに関する情報開示などの要件を提案するものである。 

 

●ウクライナ 市民の犠牲増加 ロシア軍は東部で反撃受け苦戦か  7/16
ウクライナでは各地でロシア軍によるミサイル攻撃などが相次ぎ、15日にも少なくとも11人が死亡し、連日、市民の犠牲が増え続けています。一方で、ロシア軍は部隊を集中させている東部でウクライナ軍の激しい反撃を受け、苦戦を強いられているものと見られます。
ロイター通信などによりますと、ウクライナ東部のドニプロでは15日、ロシア軍のミサイルが工業施設と隣接する通りに着弾し、通りがかった路線バスの運転手など3人が死亡、10人以上がけがをしました。
また、東部ドネツク州でもロシア側の砲撃により各地で8人が死亡し、ロイター通信は、15日だけでも合わせて少なくとも11人が犠牲になったと伝えています。
前日の14日には西部のビンニツァ州へのミサイル攻撃で、子ども3人を含む23人が死亡していて、連日、市民の犠牲が増え続けています。
一連の攻撃について、ロシアのショイグ国防相は、ウクライナ側の攻撃からロシア側の市民を守るためのものだとして、作戦の強化を指示したということで、国内外に攻撃の正当性をアピールするねらいがあるものと見られます。
一方で、ロシア軍は部隊を集中させている東部で、ウクライナ側の激しい反撃を受け、苦戦を強いられているものと見られます。
戦況を分析しているイギリス国防省は16日、「ロシアは部隊を進軍させていると主張しているが、実際の攻撃の規模や範囲は縮小している」とする一方、ウクライナ軍については「ロシア軍を前に戦力を集中させ撃退に成功している」と指摘しています。
●4歳少女、笑顔の直後に露軍ミサイルで死亡 7/16
ロシア軍のミサイル攻撃で犠牲となった4歳の少女が、亡くなる直前に笑顔で街を歩いていたかわいらしい姿がネット交流サービス(SNS)上で拡散し、怒りと悲しみが広がった。
かわいらしい姿拡散、広がる怒り
14日にウクライナ中部ビンニツァで市民20人以上が死亡したロシア軍によるミサイル攻撃では、3人の子供も犠牲となった。このうちの1人、リザ・ドミトリーバちゃん(4)の母親は、攻撃の直前に娘と街を歩く様子をSNSに投稿していた。ツイッターなどではリザちゃんの動画や画像が拡散。ミサイル攻撃が日常を残酷に襲い、小さな命を奪ったことに、大きな怒りや悲しみが広がっている。
EU欧州委、ロシア産金の輸入禁止を提案
欧州連合(EU)の行政執行機関にあたる欧州委員会は15日、ウクライナへの侵攻を続けるロシアに対する追加制裁として、露産の金の輸入を禁止する提案を発表した。各加盟国による協議を経て発効を目指す。
露、日本の衆院議員384人を入国禁止に
ロシア外務省は15日、日本政府が4月に露下院議員の一部に制裁を科したことへの対抗措置として、日本の衆院議員384人を入国禁止にすると発表した。
●G20閉幕 共同声明まとめられず ロシアとの対立深まる中で  7/16
インドネシアで開かれていたG20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議は16日閉幕しました。世界的なインフレへの対応などを議論しましたが、ウクライナ情勢をめぐる欧米各国とロシアとの対立が深まる中、共同声明をまとめられませんでした。
インドネシアのバリ島で15日から始まったG20の財務相・中央銀行総裁会議には日本から鈴木財務大臣と日銀の黒田総裁が出席し、世界的なインフレへの対応などをテーマに議論を行いました。
16日に会議は閉幕し、鈴木大臣は記者団に対して共同声明をまとめられなかったことを明らかにし「国際秩序の根幹を揺るがす侵略行為を続けるロシアが参加をする中で、すべての国が合意可能な共同声明に至らなかったということだと理解している」と述べました。
これまでの議論で日本や欧米各国はロシアによるウクライナ侵攻によって世界経済が困難に直面しているなどとしてロシアを厳しく非難したのに対し、ロシアはインフレの原因は欧米各国の経済制裁にあるなどと主張し、対立が深まっていました。
G20の財務相会議は前回、4月も共同声明が採択されず、世界経済の課題に対して協調した姿勢を示すことができない状況が続いています。
鈴木財務相「ロシアに圧力かけ続ける必要」
鈴木財務大臣は「ロシアの侵略戦争によって世界経済は多くの困難に直面しているが多くの国が食料危機などの課題に対処するため尽力している。日本をはじめ国際社会がロシアに圧力をかけ続ける必要がある」と述べ、G20の機能を取り戻すためにも国際社会が連携してロシアへの圧力を続ける必要があると強調しました。
また、外国為替市場で円安が加速していることを踏まえ「欧米などで金融引き締めが進む中、金融市場に及ぼす影響にも注意が必要だ。為替市場では急激な変動が見られており、高い緊張感を持って市場動向を注視する必要がある」と述べました。
価格上昇が加速 通貨安でさらなるインフレ懸念も
ロシアによるウクライナ侵攻を背景に、世界各地でエネルギーや食料の価格上昇が加速したこともあり、記録的なインフレが起きています。
先月の消費者物価の伸び率はアメリカで9.1%と40年半ぶりの水準、ユーロ圏で8.6%と過去最大を更新しました。
先進国だけではありません。新興国でもインフレは深刻な状況となっています。OECD=経済協力開発機構のまとめによりますと、ことし5月の消費者物価の上昇率は、トルコで73%、アルゼンチンで60%、ブラジルでも11%などとなり、アルゼンチンでは物価の急激な上昇に不満を持つ市民が抗議活動を行いました。
新興国ではさらに通貨安が急速に進んでいる国もあります。
G20のメンバーの中でも、インドのルピーはドルに対してことしはじめと比べて7%余り値下がりし、過去最安値となったほか、韓国のウォンはことしはじめと比べて11%余り値下がりし、およそ13年ぶりのウォン安となっています。
通貨安によって輸入品の価格が上昇し、さらにインフレを招く事態となっているほか、今後は大規模な資金の流出が起きないかという懸念もあります。
●プーチン氏、軍支援の新法に署名 「戦時経済体制」へ移行か 7/16
ロシアのプーチン大統領は16日までに、国外で「対テロやほかの作戦」を遂行する軍を支えるため政府に特別経済措置の発動を認める法案に署名した。
ロシア政府はウクライナ侵攻を戦争と形容することを拒んでいるが、今回の新法は侵攻を支援するため国内産業を戦時経済体制の下に置くことを実質的に意味するとも受け止められている。
特別経済措置が出された場合、企業は政府契約を拒否することが出来ず、従業員は夜間や休日での勤務も強いられることになる。
政府には、暫定的に動員能力を復活させたり、国が備蓄している物的資産を放出したり出来る権限も付与される。
プーチン氏はまた、政府が外国のエージェントと見なす個人や組織により厳しい対策も盛り込んだ法案にも署名した。
●ロシアの「闇の傭兵部隊」が募集サイト開設 採用条件、月給は? 7/16
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が、インターネットのサイトでウクライナに派遣する戦闘員を募集していたことがわかった。ロシアの経済紙RBCが報じた。
ワグネルはプーチン大統領に近い非合法の傭兵(ようへい)部隊で、虐殺など非人道的な行為に関与したという指摘もあるが、その実態の一端が明らかになるのは極めて異例の事態だ。
ワグネルはロシア軍参謀本部の情報総局(GRU)出身のドミトリー・ウトキン氏が設立したとされる。資金を提供するのは「プーチン氏の料理長」とも呼ばれる新興財閥(オリガルヒ)のエフゲニー・プリゴジン氏だ。外食産業で成功し、プーチン氏と親密な関係を築いた。
2千〜3千人規模の戦闘員がいるとされ、ロシア軍の「別動隊」としてシリアやウクライナのほか、アフリカでも活動してきた。
ただ、プーチン政権はワグネルの存在を否定。ロシアの大手メディアもほとんど報じていない。そのため活動の実態は闇に包まれている。
今月9日付のRBCによると、ワグネルの募集サイトが開設されたのは今年5月ごろ。ロシアでなくオランダで登録されたという。ワグネルのこうした募集サイトが報道されるのは極めてまれだ。日本時間16日未明時点では閲覧できなくなっている。
シリアでの活動を紹介するビデオが掲載され、「ワグネルはすでにウクライナで、(シリアに次いで)再び勝利している」と書いて実績を誇っていた。
サイトには、申し込み欄に加え、ロシア各地の代表の電話番号やSNSのアカウント名を掲載している。ウクライナ東部の親ロシア派地域の番号もあった。
RBCの記者は志願者を装って各地の代表に電話。仕事の内容や待遇、訓練などについて聞いた。
それによると、対象年齢は24〜50歳。契約軍人の経験があれば23歳、ウクライナでの戦闘経験があれば22歳でも可能だ。50歳超は経験による。
契約期間は約4カ月。1週間の訓練後、ウクライナに送られる。手取りの月給は24万ルーブル(約57万円)とロシア平均の約4倍。実績に応じて15万(約35万円)〜70万ルーブル(約166万円)の賞与も支払われるという。
ワグネルをめぐっては、戦闘員が、シリアで拘束した人を笑いながらハンマーで打ち付け、頭部や手足を切断した様子を撮影したとされるビデオがインターネットで公開されたことがある。欧米メディアは、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャの虐殺に関与したと伝えている。
●「外国人と雑談」でスパイ認定、処罰の可能性も ロシア当局の恣意的運用 7/16
ロシアのプーチン大統領は14日、欧米側のスパイを意味する「外国の代理人」の指定を簡易化する法案に署名した。ウクライナ侵攻を非難する日米欧などを「敵」とみなし、国民の団結を図る狙いがありそうだ。
独立系メディア「メドゥーザ」によると、従来、外国からの金銭的支援が要件となっていた代理人の指定は、今後「外国からの影響を受けた人」なら誰でも当局の判断次第で指定が可能となる。外国人と雑談や食事をしたロシア人も、反体制派とみなされればスパイとして罰せられる。
プーチン氏はウクライナ侵攻前、代理人の指定について「当局の恣意しい的な運用を防ぐ」と説明してきたが、方針を覆した格好だ。
一方、下院は今月初旬から国家反逆とスパイ行為に対する厳罰化を進めてきた。国家機密を漏らす目的での他国組織との接触などを禁じており、ウクライナでのロシア兵の投降を防ぐ狙いもあるとされる。
人権活動家らによると、国家機密の定義はあいまい。公開情報であっても「ロシアを危険にさらす目的で収集した」と裁判所が判断すれば罰せられる可能性があり、外国メディアへのけん制と受け止められている。
●政府、サハリン2の権益維持へ 商社のロシア新会社参画を認める方針 7/16
政府は極東サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の権益の維持を目指す方針を固めた。ロシアのプーチン大統領は事業を新会社に移行してロシアの支配下に置く大統領令に署名し、外資が入るには制限があるが、エネルギーの安定供給のためにはサハリン2からの液化天然ガス(LNG)が当面は不可欠であると判断した。
政府方針を受け、事業に出資する商社側は今後、新会社に参画して権益を維持する方向で調整を進める。
サハリン2は露ガス大手ガスプロムが約50%、英シェルが約27・5%を出資するほか、日本勢では三井物産(12・5%)と三菱商事(10%)が出資している。プーチン氏は6月30日、西側諸国が対露制裁を強めていることを理由にサハリン事業を支配下に置く大統領令に署名。シェルは既に撤退を表明しており、権益を維持してきた日本勢の対応が注目されていた。
岸田文雄首相は15日に萩生田光一経済産業相と会談し、権益維持を目指す方針を確認。政府は商社側とも水面下で協議を続けてきたが、日本が輸入するLNGの8・8%がロシア産で、その大半はサハリン2からの供給であることを踏まえ、権益維持のためにロシアの設立する新会社に商社が参画することを認める方針だ。
引き続き出資者としてとどまるには、新会社の設立から1カ月以内に参画の意向をロシア側に通知する必要がある。ロシア側は参画にはロシアが提示する条件への同意を前提にするとしており、日本に厳しい内容となる可能性もある。ロシアが外資の参画を拒否することもできるため、権益を維持できるかは不透明だ。

 

●安倍元首相「国葬」が前代未聞の弔問外交に プーチン・バイデン・トランプ 7/17
参院選の街頭演説中に凶弾に倒れた安倍晋三元首相の政府主導による葬儀について、岸田文雄首相は秋に日本武道館で「国葬」(国葬儀)として実施すると明らかにした。国葬は各国から特使が送られることで外交の舞台にもなる。専門家は「海外での影響力が非常に強い安倍氏の国葬は、過去最大級の弔問外交の舞台となる可能性もある」と語る。
首相経験者の国葬は1967年の吉田茂元首相以来2回目。吉田氏の国葬を手掛けた帝都典礼のホームページによると、日本武道館で実施され、推定3万5000人が参列した。費用は当時の金額で約1800万円だが、2020年の中曽根康弘元首相の内閣・自民党の合同葬では約2億円の費用が計上された。安倍氏の国葬も同程度の費用が予想される。
海外でも首脳経験者が国葬で見送られるケースは多い。米国では辞退したニクソン元大統領らを除き、大統領経験者には基本的に国葬が実施される。英国の国葬は王室関係者が対象だが、チャーチル元首相ら特段の功労者には例外的に執り行われてきた。
国葬には諸外国から要人が弔問に訪れる。今年5月には、亡くなったアラブ首長国連邦(UAE)のハリファ前大統領に弔意を示すため、ジョンソン英首相やフランスのマクロン大統領、ハリス米副大統領らが駆けつけた。長期にわたり外交分野で存在感を見せてきた安倍氏には、すでに世界中の要人から弔問を希望する連絡が寄せられ外務省が対応に追われている。
世界中から要人が集結すれば、日本は大規模な弔問外交の舞台になる。国際政治に詳しい福井県立大学の島田洋一氏は「岸田首相はG7(先進7カ国)首脳会議に続き、NATO(北大西洋条約機構)首脳会議にも参加した。自由主義圏という輪のもとで欧米諸国とアジア諸国が軍事的にも連携を強めており、その舞台が日本での弔問外交となるという見方もできる」と解説する。
ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領も安倍氏との親交が知られる。プーチン氏は安倍氏が死去した8日のうちに弔電を送っている。島田氏は「一部では安倍氏の国葬を機にロシアとウクライナの停戦を日本が仲介できるという予想もあるが、戦況次第だろう。両国にとって停戦に移ってもいいタイミングであれば1つのきっかけを担える可能性はある」とみる。
米国からはバイデン大統領の弔問が予想されるほか、海外メディアによると安倍氏と関係が深いトランプ前大統領も葬儀への参列を検討しているという。
島田氏は「安倍氏はオバマ政権、トランプ政権と長期にわたり首相として関係を持ち、超党派で人脈を築き上げた。バイデン氏とトランプ氏がそろって弔問する可能性は十分あるが、両者への待遇に差がつけば関係に亀裂が生じかねない。難しい判断が求められる」との見方を示した。
●ベラルーシは「侵略の共犯者」…祖国がウクライナ攻撃の「発射台」にされた  7/17
ベラルーシの反政権派指導者でリトアニアに亡命中のスベトラーナ・チハノフスカヤ氏(39)が14日、読売新聞のインタビューにオンラインで応じた。アレクサンドル・ルカシェンコ政権をロシア軍のウクライナ侵略に加担した「共犯者」と批判、政権打倒に向け西側諸国に対ベラルーシ経済制裁の強化を求めた。
ベラルーシはロシアと同盟関係にあり、露軍にウクライナ侵略の軍事拠点を提供する。チハノフスカヤ氏は「ベラルーシがロシアの占領下にある」との認識を示し、「国民の8割超は戦争に反対だ。ルカシェンコ(大統領)は国をロシアのミサイルや戦闘機の『発射台』にした責任を負わなければならない」と非難した。
ベラルーシでは「反戦」に対する言論統制が敷かれ、反政権派の 恣意しい 的な拘束が一段と強まっているという。米欧の経済制裁で物価高騰など経済的打撃が深刻化しているが、「国民は戦い続ける用意がある」と述べ、制裁に加わっていない国に行動を呼びかけた。
チハノフスカヤ氏は、2020年の大統領選で直前に逮捕された夫に代わり、立候補。旋風を巻き起こし、選挙後のルカシェンコ氏に対する大規模な退陣要求デモの拡大につながった。
強権支配加速に懸念
チハノフスカヤ氏は読売新聞のインタビューで、ロシアがウクライナ侵略に成功すれば、侵略に加担したルカシェンコ政権の強権支配が勢いづきかねないことに、強い危機感を示した。その上で、ルカシェンコ政権に徹底抗戦を続ける考えを強調した。
「ウクライナに自由や平和がなければ、ベラルーシの(反政権派の)人々が再び立ち上がることが困難になる」。チハノフスカヤ氏はインタビューでこう語った。両国は旧ソ連構成国で、ロシアの影響下に置かれているなど共通点が多い。チハノフスカヤ氏は「両国の運命は相互依存にある」と指摘。ウクライナが対ロシアで勝利すれば、ロシアの後ろ盾を失ったルカシェンコ大統領が「最も弱い立場に陥る」として、「その瞬間に反政権派が再び立ち上がり、政権を追い出さなければならない」と訴えた。
政権への反発は市民の間に浸透している。ロシアのウクライナ侵略開始前後、「サイバー・パルチザン」を名乗るベラルーシのハッカー集団は、鉄道網にサイバー攻撃を仕掛け、露軍の移動を妨害した。ベラルーシ人数千人がウクライナ側の外国人兵として参戦し、戦場ではベラルーシ人部隊が編成され、うち10人が死亡したことも明かした。
ロシア側へのベラルーシ軍の参戦もささやかれるが、チハノフスカヤ氏は「ベラルーシ軍にそのような士気はない」と語り、可能性は低いと指摘した。
1994年から実権を握るルカシェンコ氏は、「欧州最後の独裁者」とも言われる。2020年の大統領選で、6選を果たしたと主張。選挙の不正疑惑への抗議から退陣要求に発展したデモを鎮め、反政権派や独立系メディアへの弾圧を強めた。チハノフスカヤ氏は、ルカシェンコ政権がロシアの侵略に加担したのは、大統領選でロシアの全面的支援を受けた「借り」を返すためだったと指摘した。
侵略開始以来、ベラルーシでは強権的支配が加速している。チハノフスカヤ氏は、SNSに「戦争反対」と書き込んだ女性が収監されたことなどを挙げ、「声を上げた者は誰でも拘束されている」と懸念を示した。政治関連の収監者は最大1500人に上り、760の民間活動団体(NGO)が解散させられたという。
チハノフスカヤ氏は、西側諸国にルカシェンコ政権への圧力強化を働きかけているが、「非常に困難な戦いだ」との認識も示した。国内では反政権派への弾圧が続いているためだ。「我々が疲弊してはならない。長い戦いに備えなければならない」と心境を明かした。
●ウクライナめぐる対立に揺れたG20財務相会合、共同声明採択できず 7/17
インドネシアで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は16日、世界的な食料不安と債務増への対応を確約したが、ウクライナ侵攻で各国が分裂する中、政策面での成果はほとんど得られなかった。
イエレン米財務長官は、各国の相違により共同声明は発表できないが、深刻な食料安全保障に対応する必要性で「強い合意」が得られたと述べた。
議長国のインドネシアは議長総括を発表する。ムルヤニ財務相は、ウクライナに関する部分を除き、ほぼ全ての項目で合意が得られたと述べた。
イエレン長官は「ロシアはG20の一員であり、ウクライナ戦争について他の国々と意見が一致しなかった」としつつ、こうした不一致が緊迫した世界的な問題の進展を妨げるべきではないと指摘した。
ロシアの財務相はオンラインで、財務次官は直接出席した。ウクライナの財務相もオンラインで参加し、「的を絞った厳しい制裁」を求めた。
インドネシア財務相は、ウクライナを巡り分裂したG20をまとめるのは困難としながらも、食料問題に特別な注意が必要との点で全加盟国が同意し、供給を妨げている通商問題の解消を訴えた。
G20は、食料・肥料の供給問題に対処するため、財務相・農相による共同フォーラムを設置する。
共同声明で合意できなかったことについて専門家からは、強力な経済グループだったG20の脆弱性を示しているとの指摘が出ている。
●ロシア国防相 作戦強化指示 ドネツク州完全掌握へ地上作戦か  7/17
ウクライナの東部ドネツク州で一進一退の攻防が続く中、ロシアのショイグ国防相は軍事作戦の強化を指示しました。ロシア軍が部隊の再編を終わらせ、ドネツク州の完全掌握に向けて再び、本格的な地上作戦に乗り出すのではないかという見方が出ています。
ロシア国防省は16日、各地をミサイルで攻撃し、東部ドネツク州では、ウクライナ側の拠点の1つ、シベルシクを空爆するなどして、2日間で600人以上のウクライナ兵を殺害したと発表しました。
また16日には、ショイグ国防相が軍事作戦に関わる前線を視察したと発表し、ショイグ国防相は「ウクライナ側の攻撃からロシア側の市民を守る」と主張したうえで、作戦の強化を指示したということです。
ロシア軍は、激しい戦闘の末、今月3日、東部ルハンシク州の掌握を宣言したものの、その後は、兵士の休息や、補充など部隊の再編を優先させ、次の本格的な地上作戦に向け準備を進めてきたとみられていました。
これについて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は16日までの分析で「ロシア軍は作戦の休止状態を終わらせつつある。ショイグ国防相の発言や最近のロシア軍の戦況がそれを裏付けている」と指摘しました。
そのうえで、ロシア軍の地上部隊が、ルハンシク州に隣接するドネツク州の掌握に焦点をあて、再び、攻勢を強めるという見方を示しました。
これに対してウクライナ軍は、高機動ロケット砲システム=ハイマースなど欧米から供与された兵器を活用して、ロシア軍を迎え撃つ構えで、ウクライナ軍の報道官は16日、「ロシア軍は明らかに攻撃作戦の新たな段階に向けた準備を行っている」と警戒感を示しました。
イギリス国防省は17日の分析で「ロシア軍は、南部の支配地域で防衛態勢を強化している。ウクライナ軍は、南部ヘルソン州では1か月以上、ロシア側に圧力をかけ続けてきた」と指摘しました。
そして、ショイグ国防相が作戦の強化を指示した背景には、ウクライナ軍の攻撃に対応するねらいもあったとしたうえで、南部で攻勢に転じるウクライナ軍は、ロシア軍にとって深刻な脅威になっていると分析しています。
●「ロシア軍の攻撃 約7割が民間施設など標的」ウクライナ国防省  7/17
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、各地でロシア軍のミサイル攻撃が相次いでいて、市民の死傷者が増え続けています。ウクライナ国防省は、ロシア軍による攻撃のおよそ7割が民間施設などを標的にしているという見方を明らかにし、最新鋭の防空システムといった欧米の軍事支援が必要だと改めて強調しました。
ウクライナでは14日、西部ビンニツァ州へのロシア軍によるミサイル攻撃で、子ども3人を含む24人が死亡し、60人以上がけがをして病院で手当てを受けています。
また、南部の港湾都市オデーサでは、16日、ミサイル攻撃で男性1人がけがをし、広い範囲で火災が起きたほか、北東部ハルキウ州のチュフイウにも攻撃があり、3人が死亡、3人がけがをしました。
ロイター通信のまとめによりますと、14日以降の都市部への攻撃で、ウクライナ全土で合わせておよそ40人が死亡したということです。
各地で相次ぐミサイル攻撃について15日、モナスティルスキー内相から報告を受けたゼレンスキー大統領は「ロシアは民間人を標的にし、そのふるまいはテロリスト国家そのものだ。われわれは犯罪の命令を下した者と命令に従った者を見つけ出し、罰するためにあらゆることをする」と述べました。
こうした中、ウクライナ国防省の報道官は15日、ロシア軍によるウクライナへの攻撃のおよそ7割が民間施設などを標的にしていて、軍事施設などに向けられたのは3割にとどまるという見方を明らかにしました。
そのうえで報道官は、発射されたミサイルを破壊することが重要だとして、最新鋭の防空システムといった欧米の軍事支援が必要だと改めて強調しました。
●ウクライナ ミサイル攻撃で市民の死者増加 士気低下ねらいか  7/17
ウクライナでは16日も、南部オデーサなど、各地でロシア軍によるミサイル攻撃が相次ぎ、市民の死傷者が増え続けています。専門家は「ロシア軍は、戦線から離れた場所にも攻撃することで、ウクライナ国民の士気をくじくねらいがある」と分析しています。
ウクライナでは14日、西部のビンニツァ州へのロシア軍によるミサイル攻撃で、子ども3人を含む24人が死亡し、60人以上がけがをして病院で手当てを受けています。ウクライナの公共放送は、この攻撃で亡くなった4歳のリーザちゃんについて詳しく伝えています。
リーザちゃんはダウン症で、生後6か月のときに心臓の手術も受けたということです。攻撃を受けたのは、母親のイリーナさんに連れられてセラピーを受けた帰りで、リーザちゃんはその場で死亡し母親も大けがをして病院で治療を受けているということです。
ロシア軍によるミサイル攻撃はほかでも相次いでいて地元当局などによりますと、16日は、南部の港湾都市オデーサで男性1人がけがをしたほか、広い範囲で火災になりました。
また、北東部ハルキウ州のチュフイウにも攻撃があり、3人が死亡し、3人がけがをし、ロイター通信のまとめでは、14日以降の都市部への攻撃でウクライナ全土で合わせておよそ40人が死亡したということです。
ウクライナの軍事専門家「ミサイル攻撃は世論影響ねらいか」
ウクライナの軍事専門家はNHKのインタビューで、各地で相次いでいるロシア軍のミサイル攻撃について「人々に恐怖を植え付け、国内世論に影響を与えることをねらっている」という見方を示しました。
ウクライナ軍に長年在籍した経験がある軍事専門家のセルヒー・ズフーレツ氏(54)は、ロシア軍によるミサイル攻撃がウクライナ各地で相次いでいることについて、「ウクライナの人々に恐怖を植え付けることでロシアと交渉すべきだという国内世論を高め、政府への圧力につなげようとしているのではないか」と分析しました。
また、ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州の掌握に向け、部隊を立て直しているとみられることについて、「部隊の再編がいつ終わるか判断することはできないが、2週間から1か月かかるのではないか。ただ、完全に休止するのではなく攻撃は引き続き行われている」と指摘しました。
一方、ズフーレツ氏は、南部でウクライナ軍が反撃の構えを見せていることについて、本格的な戦闘は始まっていないとの見方を示したうえで「南部のへルソン州を奪い返すためには2、3か月しか残されていない」と述べ、降雨量が増える季節が到来することを考慮すると時間的な猶予はあまりないとの見方を示しました。
そして「東部の戦況次第で、南部にどれだけの兵力を振り分けられるかが決まる」として、東部の戦況が南部の戦線にも重要な意味を持つと指摘しました。
このほか、アメリカやイギリスなど欧米諸国からの武器の支援について「高機動ロケット砲システム=ハイマースは、前線での状況を好転させられると信じている。ただ、われわれの分析ではハイマースなどは少なくとも56基が必要だが、今のところ20基ほどしか提供の約束をされていない」として、さらなる武器の支援が必要だと強調しました。
●「ウクライナで戦いたくない」、徴兵忌避するロシアの若者 7/17
ダニラ・ダビドフさん(22)が母国ロシアを離れたのは、政府がウクライナ侵攻を開始してから数週間後のことだった。支持しない戦争で血を流すことを恐れたからだという。
デジタル・アーティストのダビドフさんは、サンクトペテルブルクで暮らしていた。紛争が長引く中で、ロシア政府が自分のような若者に対し、軍務に就くよう圧力をかけるのではないかと懸念している。
ダビドフさんは現在の勤務地であるカザフスタンでロイターの取材に応じ、「戦争にも刑務所にも行くのは嫌だったから、国を出る意志を固めた」と語った。
弁護士や人権活動家によれば、ウクライナ侵攻が始まった2月末以来、ダビドフさんのように兵役義務を逃れようとするロシアの若者が増加している。ロシア社会における紛争への複雑な思いが垣間見られる。
若い男性の中には、国を離れる人もいれば、兵役免除など別の道を探るべく助言を求める人もいる。あるいは、召集を無視して当局による訴追がないことを期待するだけという例もある。ロイターでは、兵役回避を模索している男性7人のほか、弁護士や人権活動家5人に話を聞いた。
ロシアでは18─27歳の男性に兵役が義務付けられており、拒否すれば罰金または2年の禁固刑が科されるリスクがある。ある男性はロイターに対し、兵役を拒否したことで、兵役は若者の義務だと信じている家族との間が険悪になったと語った。
ダビドフさんは、国外で採用が決まっていたので兵役登録を解除し国を離れることができたと語る。いずれは母国に戻りたいと言いつつ、しばらくは無理だろうと嘆く。「ロシアを愛しているし、とても寂しく思う」
兵役回避の規模やロシア軍の兵力運用に対する影響の有無についてロシア政府にコメントを求めたところ、窓口として国防省を紹介されたが、回答は得られなかった。国防省はウェブサイト上で、「陸軍・海軍における任務はロシア国民の名誉ある義務であり、将来においてかなりの優遇が約束される」としている。
ロシア政府は、現在「特別軍事作戦」を遂行中であり、計画通りに進行していると述べている。ロシアのプーチン大統領は、国家のために戦う兵士らは「英雄」であり、ロシア語話者を迫害から救い、「ロシアを崩壊させようとする西側の計画」を挫折させている、と称賛している。大統領は3月、ロシアより西側に近い考えを持つ者は、「裏切り者」であると述べた。
2月24日、ロシアは万単位の兵力をウクライナに投入し、第二次世界大戦以来で最大となる地上侵攻を開始した。キエフ近郊からロシア軍部隊が撤退した後、戦況は膠着気味となり、ロシア政府はウクライナ東部の確保に注力して砲撃の応酬による消耗戦が繰り広げられている。
プーチン大統領が頼りにしているのは職業軍人で構成される陸軍だが、西側諸国によれば、開戦以来相当の損失を被っているという。ロシア陸軍が十分な志願兵を補充できなければ、同大統領の選択肢は、ロシア社会を巻き込んで徴集兵を動員するか、自身の野望を縮小させるか、ということになる。
プーチン大統領は、徴集兵をウクライナ紛争での戦闘に参加させるべきではないと繰り返し公言しているが、国防省は3月初め、すでに一部の徴集兵がウクライナで戦っていると述べている。6月にはロシア軍検察官が国会上院において、約600人の徴集兵が紛争に動員されており、その結果、10数人の将校が懲戒処分を受けたと証言している。
ウクライナでは戒厳令が敷かれ、18歳から60歳までの男性は出国が禁止されている。ウクライナ政府は、ロシアによる侵攻は一方的な帝国主義的な領土奪取であり、最後まで戦い抜くと表明している。
「怯えている人は多い」
ピョートル大帝がロシアを欧州の大国として変貌させて以降、ロシアの支配者は、世界屈指の規模の戦闘部隊である巨大なロシア軍の一部を徴兵制に頼る例が多かった。対象年齢の男性は、1年間の兵役に就かなければならない。ロシアは年2回行われる召集により、年間約26万人の兵士を集めている。ロンドンを本拠とする国際戦略研究所(IISS)によれば、ロシア軍の兵力は合計約90万人である。
学業や医療上の理由による応召延期などの合法的な手段も含め、兵役回避は以前から定着している。だがここ数カ月、兵役回避の方法について支援を求める若い男性が増加していることが、そうした助言や法的支援を提供している弁護士や人権活動家4人への取材から明らかになった。そのうち2人によれば、大半はモスクワやサンクトペテルブルクなど大都市の若者だという。
無料の法律相談を提供している団体の1つが、ロシア出身で現在キプロス在住のドミトリー・ルツェンコ氏が共同運営者を務める「リリース(解放)」だ。ルツェンコ氏によれば、徴兵忌避の方法について助言を求める人々のために「リリース」がメッセージングアプリ「テレグラム」上で運営している公開グループでは、ウクライナ侵攻前に約200人だった参加者が、現在では1000人以上に膨れあがっているという。
もう1つの人権団体「シチズン・アーミー・ロー(市民・軍・法)」は、軍ではなく病院などの国営機関で働くなど、兵役以外の形での公的奉仕を模索する人への助言に力を入れている。この団体によれば、問い合わせる人は、昨年の同時期には40人前後だったのが、最近ではその10倍に当たる400人以上に増加したという。同団体のセルゲイ・クリベンコ氏は、「怯えている人は多い。実際に戦闘に従事している軍には入りたくないのだ」と語る。
「プリツィブニク(徴集兵)」と呼ばれる法務支援団体の会長を務める弁護士のデニス・コクシャロフ氏は、具体的な数は明らかにしなかったものの、ウクライナ侵攻当初、兵役回避についての助言を求める人の数が約50%増大したと話す。問い合わせの件数はその後減少し、最近では戦闘を志願する若者の数が増えていると話す。
コクシャロフ氏はこうした変動について、人々が紛争という状況に慣れ、「愛国心を示そうとする」人が増えたのではないかと推察している。
母国を離れて
サンクトペテルブルク出身のフョードル・ストレリンさん(27)は、侵攻開始直後には戦争に抗議していたが、2月末にはロシアを離れる決意を固めたという。
現在ジョージアの首都トビリシに移ったストレリンさんは昨年、近視を理由に免除を認められて兵役を回避していたが、全面的な動員の懸念があることからロシアを離れることを選んだと話す。「故郷を離れて寂しいし、自分の居場所を失ってしまったという思いがある」とストレリンさんは言う。
軍務に就くよう召集を受けた若い男性の中には、当局が他で十分な人数を確保していることを当て込んで召集を無視する人もいるという。ロイターの取材に応じた若者や弁護士、人権活動家6人が明らかにした。
テクノロジー分野で働くロシア南部出身のキリルさん(26)の場合、4月に召集令状が届いた後、5月には身体検査を受けるよう電話があった。だが、ウクライナでのロシア軍の作戦を支持していないため、応じなかったという。
キリルさんによれば、そのせいで戦争を支持し、誰もが兵役義務に応じるべきだと考える家族や友人の一部との関係が緊張したという。「ウクライナの人々は兄弟のようなものだ。あの国は知り合いもたくさんいるし、こうした軍事行動は支持できない」とキリルさんは説明する。
キリルさんによれば、6月、彼が不在のときに警察が自宅を訪れ、母親になぜ息子が兵役を忌避しているのか尋ねたという。キリルさんの証言の裏付けを得ることはできなかった。ロイターは、ロシア内務省のメディア広報担当部署に取材を試みた。電話に出た担当者には別の電話番号を教えられたが、何度かけても応答がなかった。
戦争と平和
ウクライナ政府と同国を支援する西側諸国政府は、ロシアはすでに、1979−89年のアフガニスタン侵攻の際にソ連軍が失った1万5000人と同程度かそれ以上の犠牲を出していると推測している。ロシア政府は3月末、ウクライナでの軍事作戦開始以来、ロシア軍兵士1351人が戦死し、数千人が負傷したと発表したが、その後公式の戦死者数は更新されていない。
ロシアが兵員の補充を模索している兆候はある。5月、プーチン大統領は軍への志願者に対する40歳の年齢上限を撤廃する法律に署名した。このとき国会議員らは、この改正により先端的な装備やエンジニアリングなどの専門分野における経験豊富な人材が集まるはずだと述べていた。
匿名を希望する30代のロシア人男性はロイターに対し、いくつか個人的な事情を確認したいという建前で、軍のオフィスに出頭するよう電話で要請されたと語った。オフィスでは、軍服を着た正体不明の男性が過去の従軍歴について質問し、ウクライナでの戦闘に参加すれば月額30万ルーブル(約65万円)の報酬を出すと申し出たという。
ロイターではこの証言について独自の裏付けを得ることができなかった。
この男性は、自分は職業軍人ではなく、兵役を終えて以来1度も十を発射したことがないことを理由に、このオファーを断ったという。
「30万ルーブルもらっても、死んでしまっては何もならない」とこの男性は話した。
●ウクライナへの支援はいつまで続けられるのか 7/17
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が、6月3日で100日目を迎えた。欧州連合(EU)は5月、ウクライナに対し、年内に90億ユーロ(約1兆2000億円)の追加融資を行うと発表した。天然ガス以外にも、食料品などの価格高騰が進むEUは、この苦境をどう切り抜けていくのか。
EUは2014年以降、ロシアの軍事侵攻開始までの約8年間、ウクライナにEU近隣政策として17億ユーロの助成金、56億ユーロの融資、2億ユーロの人道支援などを提供してきた。
欧州投資銀行(EIB)のベルナー・ホイヤー総裁は5月、ロイター通信に対し、「欧州だけに負担させてはならない。ウクライナ復興は、数億どころか数兆ドル規模の話になる」と警戒した。新型コロナウイルスによる経済不況から回復していないEUにとって、本来は耳が痛い話だ。
ユーロ圏内の消費者物価指数(IPC)は、5月に前年比8.1%上昇。エネルギーは39.2%、食料は7.5%と日ごとに増している。それらの主な原因は、天然ガスと穀物の不足だ。
想定外のロシア産天然ガスのカットで、欧州各国は、クリーンエネルギー政策への転換を一旦、中止せざるを得ない局面に立たされている。
EUのフォンデアライエン欧州委員長は、産業活動継続のためにも、ロシア産の天然ガス依存から逃れ、「原子力と石炭が必要になってくるだろう」と言及。苦肉の策を選ばざるを得ない状況だ。
その上、EU首脳は5月30日、ロシア産原油の部分的輸入禁止にも合意。ロシアのプーチン大統領を徹底的に追い込み、制裁を貫く考えを示している。
エネルギー不足に加え、EU域内全体の食料品価格の高騰も日々、深刻な状況に陥っている。欧州の取引所大手「ユーロネクスト」によると、ロシアによるウクライナ産穀物の輸出規制などで、EUでは2月以降、穀物インフレが約40%を記録。小麦粉の値段は、2倍近くに跳ね上がっているという。
ローマ教皇庁(バチカン)のフランシスコ教皇は6月1日、サンピエトロ広場で「主に貧困国において、何百万人もの人々が依存するウクライナ産穀物の輸出が禁止されることは、とても不安」と指摘。「食事の基礎となる小麦粉を、戦争の武器にしてほしくない」と訴えた。
天然ガス同様、穀物も短期的な解決策は見込めない。ウクライナ侵攻と食糧難は、今後しばらく続き、他地域に紛争が連鎖する可能性もある。EUの体力にも限界がありそうだ。
●ウクライナ侵攻の引き金がプーチンの「積年の怒り」とは本当なのか? 7/17
ロシアによるウクライナ侵攻の引き金となったのは、プーチン大統領の「積年の怒り」――。世界中の多くの研究者が予想できなかった戦争は、本当に個人的な感情が起因しているのだろうか。慶應義塾大学総合政策学部教授の廣瀬陽子さんが読み解く。
――欧米やNATOに対する積年の怒りが、今回のウクライナ侵攻を引き起こしたのではないか。その考察を、もう少し詳しく解説してください。
おそらくプーチン大統領は、自分とロシアを同一人格ととらえているのではないかと思います。そして、「ずっと弾圧を受け続け、自分の尊厳がどんどん切り崩されている」と被害妄想を募らせてきた。振り返れば、1991年のソ連解体を「20世紀最大の悲劇」と表現し、ソ連解体を経たロシア連邦成立後の30年もNATOが東方拡大し、ロシアに対するミサイル防衛システムがヨーロッパに構築されたことや、欧米がロシア周辺国に対する影響力を拡大してきたことなど、全てが許し難いことだった。それらが怒りの源泉となり「ロシアはずっとバカにされてきた」と思い、被害妄想を募らせてきた。
そもそも、ロシアは、第2次世界大戦において「ナチスからヨーロッパを救ったのはソ連だ」という強い自負があるのに、いつの間にか忘れ去られ、しかも自分の間近で再び「ナチス」が増殖しているといった考えに収斂されてきてしまっています。プーチン大統領がウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ」と非難しているのは、独ソ戦、すなわち大祖国戦争という歴史と現状を重ね合わせて国民の愛国心を煽るという意味合いがありますが、もしかしたらそれ以上にプーチン大統領にとっては「自分たちが再びナチスを倒す」という大義を本気で信じているのかもしれません。
もう一つ、鍵となるのが「アイデンティティ」です。昨年7月に新しい国家安全保障戦略が発表されましたが、その中では「ロシアの伝統的価値が国家の安全保障の根幹である」ということが強調されています。安全保障についての話なのに「ロシアの伝統的価値」という言葉が使われている。つまり、ロシアの安全保障もプーチン大統領自身のアイデンティティと非常にリンクしていて、ロシアの伝統的価値を体現することこそが自分の仕事だと思っている可能性は高い。自分が大切にしているものを奪われ、尊厳が乱され、ここで何か行動を起こさなければ手遅れになる――。一般的に見たらまったく合理性はないのですが、プーチン大統領の中では「尊厳を守る」という意味において合理性があったのかもしれません。
――米国がバイデン政権になったことも影響があったのでしょうか?
あったとみています。バイデン大統領は就任後、「これからは民主主義と専制主義の戦いだ」と打って出ました。その発言を、おそらくプーチン大統領は、アメリカの敵は中国であり、自分たちは中国より下に見られている、軽んじられている、と受け取ったのではないか。相当頭にきて、だったら中国よりも世界をかき乱す存在になってやる、もう一度世界の主役に躍り出てやるという意地もあったのでは、と思います。
米国の政治学者フランシス・フクヤマは著書『IDENTITY(アイデンティティ)』で「承認欲求で歴史は動く」と説いていますが、まさにプーチン大統領の積年の怒りと承認欲求によって今回の戦争が起きてしまった。そう言っても過言ではありません。
――フクヤマの論を受け、廣瀬先生はコラムで「施政者の個性に踏み込んだ分析が必要となりそうだ」と述べられています。今後、研究にどのようなアプローチが必要でしょうか?
さまざまな仮説がある中で考えたのは「プーチン大統領を極端に怒らせるような事件が起こると、極端な逸脱行動を取るのだろう」ということでした。しかし、怒りの感情は個々人によって異なり、ある人にとっては許せないことが、他から見たら「なんでそんなことで怒っているの?」と理解できないことはよくあります。そうした個人の認知レベルが国際関係に入ってくると、分析や今後の展開の検討はますます難しくなると思っています。
今回のウクライナ侵攻も、いわば「プーチン大統領の戦争」になっていて、その内面に踏み込まないとわからないことがあまりにも多い。おそらく幼い頃からネガティブに積み上げてきた負の感情も含め、家族関係や育ってきた地域の環境、国の状況、どんな歴史の中で過ごしてきたか……そういったすべてのバックグラウンドがウラジーミル・プーチンという人間を作り上げている。そこを子細に見ていく必要があり、心理学的アプローチなども必要になってくるかもしれません。そうなると、これまで私がやってきた研究では一切歯が立たないのです。
とはいえ、これまでやってきた研究が無駄になるとは思っていません。どこまで私が想定していたロシアの行動原理が生きて、どこからプーチン大統領の個人的な感情が先走ったのか。これまでの研究に欠けていて、かつ今回の侵攻理由のキモになっているのが、まさにプーチン大統領の個性や尊厳、思い。それがどのように培われてきて、どういう刺激や感情が彼を侵攻に仕向けたのか、そのプロセスを解き明かすしかないのかな、という気はしています。
そしてもう一つ重要なのは、プーチン大統領を大統領たらしめているロシア人の性格です。ロシア人の多く、少なくとも半数くらいの人は、今回の侵攻でもまだプーチン大統領を支持しています。そして、プーチン大統領を選び、高い支持率で支えてきたのはロシア人に他なりません。もちろん、選挙の不正などがあったことは認識していますが、それでもプーチン大統領の支持率は常に半数以上はあったと言えるわけです。少なくとも半分くらいのロシア人がプーチン大統領を選び、その政策を支持しているということの意味は大きいと思います。
そもそもロシア人は、強いリーダーを求めてきました。他方で、冷戦期に米国と二大大国として世界を代表してきたソ連を解体したゴルバチョフをロシア人は「墓掘り人」と呼び、蔑んできました。そしてソ連に対してノスタルジーを感じる人はやはり半数を下回った事がなく、特に経済状況が悪化するとソ連ノスタルジーが強く感じられるようになるようです。つまりロシア人は強いロシアの復活を望み、それを叶えてくれる強い指導者を希求してきたと言って良いでしょう。
このことは、仮に、問題がプーチン大統領の排除で収束しないことを暗示しているのではないでしょうか。プーチン大統領が失脚したり、死去したりした場合も、多くの国民は米国に負けたと考える可能性が高いです。プーチン大統領のような強い大統領ですら米国に負けてしまったのだから、もっと強い大統領を選ばなければならないということで、第2、第3のプーチンが生まれる可能性もあるのです。プーチン大統領個人のアイデンティティにとどまらず、ロシア人のアイデンティティを分析する作業も必要となってくる気がします。
――日本も含め、西側のメディアでは「ロシア悪、ウクライナ善」という勧善懲悪の構図として報道され、そういった視座でしか見られなくなっている面もあります。一方で、「キューバ危機を思い出せ」と論じたジョン・ミアシャイマー、アメリカやNATOの非を指摘したノーム・チョムスキーやエマニュエル・トッドなど、少数ですが異なる意見を論じる西側の識者もいます。今回の侵攻、そして世界情勢に関して、私たちはどのような視座を持つべきだと考えますか?
私たちから見たら合理性も大義もないように見える今回の侵攻ですが、とはいえ、少なくともロシアが一体何を考え侵攻に至ったのかについては、ある程度理解していないと、対抗策を考えたところで机上の空論で終わってしまいます。そして、理解した上で対話する、話を聞く必要があったのでは、と。実は、昨年12月にロシアはいわゆるレッドラインを示す形で、米とNATOに安全保障に関する提案書を示し、欧米は到底受け入れることはできないものの話は聞こうと、今年1月にはかなりハイレベルの欧米・ロシア間の会合が精力的に行われました。自分たちの気持ちを聞いてもらうだけでもロシアの怒りはかなりガス抜きされるのではと期待したのですが、結局はそれでは気が済まなかったのでしょう。歴史に「if」はありませんが、もしもっと早い段階から対話を重ねロシアの気持ちを理解し、お互いに譲歩できる線を探ることができていたら、今回の侵攻を防ぐことはできたのかもしれません。
ロシアの思惑や、ましてやプーチン大統領の怒りに寄り添うことはできなくても、今回の戦争がなぜ起きたのか、なぜ止められなかったかを考える。サイバー戦争が当たり前となり、真偽のわからない情報が溢れている今、ネットリテラシーを含め、情報を見極め考える必要があるでしょう。そして私たち研究者は、起きてしまった事象を分析し、「なぜ」を紐解くことで世界平和に貢献しなければならないし、そういう研究に取り組んでいきたい。そう心を新たにしています。

 

●ロシア軍、東部ドンバス地方の攻勢再強化… 7/18
ウクライナ侵略を続けるロシア軍が、東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の制圧に向け、攻勢を再び強化し始めている。露軍が部隊の補充を完了し、作戦の「小休止」も終えた模様だ。ウクライナ軍は東部や南部で露軍の補給拠点を攻撃し、抵抗を強めている。
露国防省は7月初めにルハンスク州の制圧を宣言した後、兵力の補充と一部の部隊の休養を発表していた。米政策研究機関「戦争研究所」は16日、セルゲイ・ショイグ露国防相がウクライナ東部の前線を視察し、各地で攻撃強化を指示したことから、作戦を再開したとの見解を示した。
露軍は当面、ドネツク州北部の要衝都市に向け、隣接するハルキウ州とルハンスク州から進軍を図るとみられる。
ウクライナ軍は、米国から供与された高機動ロケット砲システム(HIMARS)などで露軍の兵器庫などを破壊している。ウクライナのウニアン通信などによると、ルハンスク州知事は16日、露軍が弾薬を倉庫に保管することをやめ、ロシア領内から前線に直接運ぶケースが出ていると指摘し、「補給が困難になり、攻撃減少につながっている」と強調した。
ウクライナ国防省情報総局のトップは16日、ロシアが併合している南部クリミアの軍事施設をHIMARSなどを使って攻撃すると述べた。露軍がクリミアから南部に兵器などを補給するのを妨害する狙いだ。黒海艦隊も攻撃し、南部や中部に向けられるミサイル攻撃に対抗する意思も示した。
英国防省は17日、「露軍が、占領した南部各地で防衛体制を強化している」との分析を発表した。南東部マリウポリや南部ザポリージャなどで部隊を移動させているという。 
●ロシア軍の攻撃で子ども3人含む24人が死亡  7/18
ウクライナのゼレンスキー大統領は、検察の職員らがロシアに協力しているとして検事総長らを解任しました。
17日、ウクライナ中部ビンニツァで行われたのは先週ロシア軍の攻撃によって亡くなった4歳の女の子リザちゃんの葬儀です。この攻撃では子ども3人を含む24人が亡くなりました。増え続ける市民、そして子どもの犠牲。
こうした事態に対し、ロシアのクレムリン前には抗議する人が。
「プーチンは殺人者だ。352人の子どもが亡くなった。あなたがやめるには、あと何人の子どもが死ななければならないのか」
この女性は、ロシア政府系テレビ局の元職員で3月、生放送中に「戦争反対」のメッセージを掲げて当局に拘束されたマリーナ・オフシャンニコワさんです。
17日、自身のSNSで再び拘束されたことを明らかにしました。その後、釈放されたということですが、拘束の理由について「インタビューでウクライナでの戦争は犯罪だ。プーチン大統領による権力保持のための過激な試みだと答えたこと」としています。
侵攻を続けるロシア軍。イギリス国防省は、南東部マリウポリや南部ヘルソンなどの占領した地域を防衛するための態勢を強化していると分析しています。
一方、ウクライナでは。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「検事総長と保安局長官を解任することを決めた」
解任されたのはベネディクトワ検事総長とバカノフ保安局長官で、ゼレンスキー大統領は「検察と保安局の職員60人以上がロシアの占領地域にとどまり、国に反する活動をしている」と明らかにしました。
ベネディクトワ検事総長は、ロシアによる戦争犯罪の訴追のため中心的な役割を務め、バカノフ保安局長官はゼレンスキー氏の長年の友人だったとされています。
しかし、大統領は「国の安全保障の根幹に対する一連の犯罪、ロシアとのつながりは機関のトップに重大な疑問を引き起こした」と解任の理由を説明しています。
●ロシアのウクライナ民間人虐殺は断罪されるだろうか 7/18
旧ユーゴスラビア連邦で民族対立が起き激烈な内戦が広がっていた1995年7月、ボスニアのスレブレニツァでセルビア軍が住民らを連行し、虐殺した後ひとまとめに穴に埋めた。犠牲者は8000人を超え、全員がムスリムのボスニア人男性だった。国連が派遣したオランダ平和維持軍が近くにいたが、彼らはセルビア軍を阻止しなかった。
27年が経過した今月11日、ボスニアを訪問したオランダのカイサ・オロングレン国防相は、当時虐殺を放置した自国軍の行為について謝罪した。追悼式に参加した国防相は「おぞましい大量虐殺の責任はセルビア軍にあるが、国際社会が住民を適切に保護できなかったことも確かだ」と認めた。
「虐殺の過去」の責任を転嫁する加害国
バルカンの「ジェノサイド」(集団虐殺)で最も残虐な事件であるスレブレニツァの虐殺は、責任者を罰するための国際社会の努力が集中した事案だ。戦争犯罪者と名指しされたラドヴァン・カラジッチやラトコ・ムラディッチなどの当時のセルビア人指導者たちは、1995年にただちに国際ユーゴ戦犯裁判所(ICTY)で起訴された。1999年に国連事務総長名義の事件調査報告書が発表され、2002年にはオランダ政府の報告書が出された。2005年には米国議会が、2009年には欧州議会が虐殺を糾弾し、戦犯の責任を問う決議案を採択した。
当時の状況を記録したビデオが公開され、集団埋葬地が追加で発掘され調査が行われる間、「ダッチバット(Dutchbat)」、すなわちオランダ軍の過去の行為は、再三にわたり非難を受けた。単に無力であっただけでなく、助けてくれと哀願するボスニアの住民数人を虐殺者に渡し、結局は殺害されることになった状況が明らかになった。2002年、当時のウィム・コック首相は「誤ちもあるが、非難される理由はない」と述べ、最終的には辞任に追い込まれた。
困難な過程を経てオランダ国防相の謝罪にまでたどり着いたが、あまりすっきりしない印象を受けるのも事実だ。何より、オランダは虐殺の主犯ではない。虐殺を犯したセルビア側も、2010年に議会が謝罪したことはあった。しかし、議員の過半数をわずか2票超えただけだった。セルビアの中では、事件を否定する声が語られ続けた。2012年、当時のセルビアのトミスラヴ・ニコリッチ大統領は「虐殺はなく、あの戦争犯罪は一部のセルビア人が犯したものにすぎない」と述べた。「ボスニアの虐殺者」と呼ばれた戦犯のカラジッチが2008年にようやく拘束されたのも、セルビアの保護によるものだったという指摘が多かった。
国際社会も、一貫して真相を明らかにしようと努力したとはいえない。端的な例として、虐殺20周年の2015年7月、この事件をジェノサイドと規定し、公式に糾弾しようとしていた国連安全保障理事会の決議案が、ロシアの拒否で失敗に終わった。しかし、ロシアがウクライナを侵攻し、虐殺と拷問などの反人道的犯罪を犯して非難を浴びると、オランダの「過去の歴史に対する謝罪」が出てきた。政治的な解釈がついてまわらざるを得ない。オランダが謝罪する前日の今月10日、欧州連合(EU)のジョセップ・ボレル外交安全保障政策上級代表は、当時の事件の意味を再確認する声明を出した。「ウクライナで起きている大量殺人と戦争犯罪は、1990年代のバルカン戦争に対する人々の記憶を鮮やかに蘇らせている。スレブレニツァの虐殺を欧州共通の歴史として記憶することが、いつにもましても我々の義務になっている」
オランダの謝罪が釈然としない印象を与えるもう一つの理由は、オランダの過去そのものにある。インドネシアのスラウェシ南部で起きた虐殺も、彼らの歴史的な犯罪の一つだ。第2次世界大戦の終結直後、日本軍に一時占領されていたかつての植民地を再占領したオランダ軍は、南スラウェシの独立運動を鎮圧しようとして、大規模な軍事作戦を行った。ゲリラを捕らえ次第殺害する即決処刑で報復したり、村を包囲した後、成人男性を集め虐殺したりした。スレブレニツァの虐殺とまったく同じジェノサイドだった。インドネシア側は当時4万人が虐殺されたと主張し、オランダの学者の調査では3000〜4000人が犠牲になったと推定された。ジャワ西部のラワグデでも、オランダ軍は約400人を集団虐殺した。
正義を取り戻そうとする被害者の戦いは、長い時間を要した。ラワグデ事件について、オランダの裁判所が「戦争犯罪には時効がない」として政府の責任を認めたのは、2011年になってからのことだった。2年後の2013年、マルク・ルッテ首相は「1945〜1949年にオランダ軍によってインドネシアで起きた処刑について、公式謝罪する」と述べた。しかし、過去の軍事作戦全体ではなく「処刑」に対してのみ謝罪するのだという注意書きをつけた。
独立戦争で10万人のインドネシア人が亡くなったと推定されているが、オランダ政府が完全に責任を認めることはなかった。1969年にも「公式調査」を行ったが、「わが軍は全般的に正しく行動した」という結論を下した。2005年には「歴史の誤った側に立っていた」と認めたが、謝罪はしなかった。今年2月に謝罪しながらも、ルッテ首相は「この報告書は法的な観点ではなく、歴史的な観点で書かれたもの」だと述べ、戦争犯罪が賠償責任につながることを避けようと努めた。
普遍的人権の立つ場所はどこか
過去の残虐な行為を糾明し、加害者が被害者に謝罪することは、歴史を学び顕彰する重要な方法の一つだ。しかし、そのような謝罪が出てくるまでには、つねに厳しい戦いが必要になる。今日の強者が昨日の強者の側に立つことが多くあり、時には過去が現在に利用されたりもする。第1次世界大戦時代、オスマン・トルコ帝国がアルメニア人を虐殺すると、英国はその残酷性を広く知らしめ、当時帝国領に住んでいたアラブ民族の独立闘争を扇動する材料として活用した。今世紀になりトルコがEU加盟を強く求めていた時、ムスリムのトルコ人労働者が押し寄せるのではないかと心配した欧州各国は、100年ほど前のオスマン・トルコ帝国のアルメニア人虐殺を問題視した。
「アルメニア人ジェノサイド」は、クルド人に対する迫害とともにトルコの人権問題を批判する主要な材料になっていた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、スウェーデンとフィンランドのNATO(北大西洋条約機構)加盟をトルコが妨害すると、米国はクルド人への支援を中断し、トルコをなだめた。中国のウイグル人弾圧も、米国政府が中国に圧力をかける「人権の基準」として活用されているが、ロシアに対抗しなければならないという大義の前では、そのうちひっそりと消えるかもしれない。米国のアントニー・ブリンケン国務長官が中国の王毅外相に会い、ロシアに対する封鎖への協力を論議し、11月には両国の首脳会談を準備するという状況にある。
普遍的人権は最も重要な価値だが、国際政治の前では容易に揺れ動く。歴史の真実は、書物ではなく現実政治の中で見出してこそ光輝くものであり、その断面は、つねに美しく広げられるものではない。
●マスク氏の衛星通信、ウクライナの戦い下支え  7/18
ウクライナとロシアが対峙する前線の大半では、停電に加え、ロシアによる砲撃や通信妨害のせいで、音声通話やインターネットサービスを提供する携帯電話用の商用基地局が使えない状態が続いている。
しかしイーロン・マスク氏のスターリンク――人工衛星群を使ってインターネット接続を提供するスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)のサービス――は順調に稼働している。マスク氏はこれまでウクライナにスターリンクの通信用キットを大量に送っており、ウクライナは同氏が世界展開を目指すサービスの注目の試験場と化した。
ウクライナ当局者や司令部、戦闘地域にいる将校は、兵士がいつでも連絡をとることができるのはスターリンクのおかげだと考えている。
東部イジュームの戦線を指揮する小隊の指揮官は「スターリンクがなければ、われわれは既に戦争に負けていただろう」と話した。ロシア軍はドンバス地域の掌握に向けてイジュームから南下しようとしている。
スターリンクが宣伝通りに機能しなければ、マスク氏の評判は傷つく恐れがある。同氏がウクライナ側について戦争に介入したことで、ロシア政府の怒りを買ったり、ロシアに友好的、あるいはロシアを恐れる政府が警戒したりする可能性もある。その中にはスターリンクの潜在的な市場が含まれているかもしれない。
ロシアのウクライナ侵攻以降、ウクライナに支援を提供している西側の企業はスペースXだけではない。例えば、マイクロソフトはウクライナ政府がサイバー攻撃を撃退できるよう支援していることを明らかにしている。
特に、ウクライナの指導者らからスターリンクの提供に称賛の声が上がっている。オレクシー・レズニコフ国防相は、通常の携帯電話サービスが使えない地域にいる部隊と司令官がやり取りするのにスターリンクは不可欠だとインタビューで述べた。国防相は最近、マスク氏に感謝の意を伝える書簡を送り、さらに多くのスターリンク用機器が必要だと説明したことを明らかにした。
「スターリンクは極めて優秀な機器だ」とレズニコフ氏は話した。「殺傷能力はないが、非常に効果的だ」
光ファイバーによる接続とは異なり、スターリンクでは携帯型の衛星通信用アンテナが人工衛星群とやり取りしてインターネット接続を提供し、すぐさま近くの機器にWiFiの信号を送る。
ほとんどの衛星インターネットシステムもそうだが、スターリンクは従来の光ファイバーや携帯電話のネットワークの帯域幅と一致しない。携帯電話の基地局や埋設された光ファイバー線に依存していないため、戦闘地域ではより堅牢だ。スターリンクの衛星用アンテナはコンパクトで簡単に移動させることが可能で、ウクライナのような危機に見舞われた国のバックアップ用インターネットサービスのニーズに応えるのに適していることが明らかになりつつある。
スペースXとロシア政府にそれぞれコメントを要請したが、回答はなかった。5月には当時、ロシア宇宙機関ロスコスモスのトップだったドミトリー・ロゴジン氏がマスク氏について、ウクライナの軍事通信を可能した「責任を大人として問われる」ことになると述べた。
スペースXの幹部によれば、ウクライナ戦争が始まる前に同社は規制当局の承認を得ようと努力を重ねていた。ロシアの侵攻が始まってから2日後の2月26日、ウクライナのデジタル変革相のミハイロ・フェドロフ氏がマスク氏にツイートを送り、スターリンクの端末を要請した。
数時間後、マスク氏は「スターリンクは今、ウクライナで使用できる。さらに多くの端末を送った」と返信した。スペースXのグウィン・ショットウェル社長は3月の記者会見で、このやり取りがウクライナ当局の承認だと述べた。「彼らが私の上司にツイートを送った。それがわれわれへの承認だった」
戦場でウクライナ軍の指揮統制を支える役割以外にも、当局はスターリンクを使ってロシアの占領から解放された町を早急にインターネットに接続している。ネットが使えるようになり、兵士は大切な人々と連絡を取り合うことができるようになった。南東部の都市マリウポリの製鉄所で孤立していた数千人のウクライナ兵はスターリンクを使って自らの窮状を記録した写真や動画を送信し、ネット上で公表したり、外の世界に公的、私的なメッセージを送ったりした。彼らは5月に降伏した。
マスク氏が最近ツイッターに投稿したスペースXの資料によると、ウクライナにこれまでに提供されたスターリンクのユーザーキットは約1万5000点に上るという。キットには屋外に設置する円形か長方形のアンテナが含まれている。アンテナは機内持ち込み用のバッグとほぼ同じ大きさだ。
ウクライナ軍の将校によると、スターリンクは戦場で欠かせない存在になっている。ウクライナ第2の都市ハルキウの北に位置する前哨基地では、現地の軍司令官が森の外れにいるロシア側の戦列に迫撃砲弾を誘導しようと、自分のiPhone(アイフォーン)を使って、屋上にいる監視係や数マイル離れたところにいるドローン操縦士、砲撃部隊と電話会議を開いた。この通信を可能にしたのがスターリンクだ。
同じ村の別の施設では、地下室の壁にこの施設用のスターリンク端末のパスワードが書かれていた。地下室は兵士が任務の合間に休憩を取る場所で、いつでもネットにログインしてニュースをチェックしたり家族と近況を伝え合ったりすることができた。
ドンバス地方のリシチャンシクやセベロドネツクなど前線にある主要都市には4月以降、携帯電話サービスが届いていない。リシチャンシクは最近、ロシア軍に掌握されたが、それ以前は市内にあるウクライナ政府の施設では、スターリンクが部隊や文民当局との唯一安全な通信手段だった。スターリンクは一般市民にも提供され、地元住民は政府の施設に出向き、国内の比較的安全な地域にいる家族と連絡を取って退避の計画を立てていた。
●ゼレンスキー氏、側近の検事総長と情報機関長官を解任… 7/18
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は17日、イリーナ・ベネディクトワ検事総長と情報機関「保安局」のイワン・バカノウ長官を解任した。両氏が管轄する機関で、計60人以上の職員が、ウクライナに侵略するロシアに協力した疑いがあり、責任を取らせたものだ。
解任した2人はいずれもゼレンスキー氏の側近で政権運営には痛手となる。
ゼレンスキー氏は17日、国民向けのビデオ演説で、「国家反逆」などの疑いで、650件超の捜査が進められていると説明した。露軍に制圧された地域で、職員らが「我々の国に反抗している」とも述べた。露軍や親露派の指示に従うなどしたものとみられる。
ベネディクトワ氏は、露軍による戦争犯罪に関する捜査で先頭に立って情報発信し、ウクライナを訪問した米司法長官と会談するなど欧米各国とも連携してきた。今後、捜査に影響を与える可能性もある。
バカノウ氏はゼレンスキー氏の幼なじみで、2019年の大統領選で陣営を率いた一人だ。ゼレンスキー政権発足後、保安局トップに任命されたが、経験不足から手腕に批判も上がっていた。
ウクライナでは16日、ロシアに併合されたクリミアを担当する保安局の元幹部らがスパイ容疑などで拘束された。ロシアの特殊機関などに機密情報を渡したとされている。
5月末には東部ハルキウ州を担当する保安局の幹部も、侵略の対応を巡る「職務怠慢」を理由に解任された。露軍の激しい攻撃が続く東部や南部では、露軍の攻撃の標的選定に情報を与えているなどとして、ウクライナ当局が住民らを拘束する事案も相次いでいる。
●ロシア国防相 前線部隊視察 “ミサイルなど優先的に攻撃”指示  7/18
ウクライナへの軍事侵攻を指揮するロシアのショイグ国防相が前線部隊を視察し、ウクライナ軍のミサイルなどを優先的に攻撃するよう指示しました。欧米から供与された兵器で抵抗を続けるウクライナ軍の攻撃能力をそぐねらいがあるとみられます。
ロシア国防省は18日、ショイグ国防相がウクライナで戦闘を続ける前線部隊を視察し司令官から戦況の報告を受けたと発表しました。
そしてショイグ国防相が「敵側は長距離ミサイルと大砲を使い、東部ドンバス地域の住宅地や小麦畑などを攻撃している」と主張し、ウクライナ側のこうした兵器を優先的に攻撃するよう指示したということです。
ウクライナ軍はアメリカからの高機動ロケット砲システム=ハイマースをはじめ、欧米の軍事支援を受けて東部や南部で徹底抗戦を続けていて、ショイグ国防相の発言はウクライナ側の攻撃を警戒し、その能力をそぐねらいがあるとみられます。
こうした中、イギリス国防省は18日、ロシアが民間軍事会社「ワグネル」の部隊を最前線に投入しロシア軍の兵員不足などを補っているとして、特に東部ルハンシク州での最近の戦闘では「ワグネル」が中心的な役割を果たしてきたと指摘しました。
一方で、「ワグネル」のトップを英雄視したことで、ロシアの正規軍兵士の士気の低下につながる可能性があるうえ、「ワグネル」は刑務所の受刑者を雇うなどして十分な訓練を受けさせていないため、ロシアの作戦に影響を与える可能性が高いとも分析しています。
●ロシア、孤立も後退もせず 西側の制裁で=プーチン大統領 7/18
ロシアのプーチン大統領は18日、ロシアを世界から断絶するのは不可能で、西側諸国の科す制裁がロシアの発展の時計の針を巻き戻すことはないと言明した。
プーチン大統領は政府高官らとのビデオ会議で「外国ハイテク製品へのアクセス制限にとどまらず、ほぼ全面的な締め出しが意図的にロシアに対し行われている」と指摘。「ロシアにとり大きな課題であることは明白だが、われわれはあきらめたり、混乱状態に陥ることもない」とした。さらに、一部の予想のように「ロシアを何十年も前の状況に後退させることもない」とし、ロシア独自の技術やハイテク企業を発展する必要があると強調した。
シルアノフ財務相は、国内ハイテク部門への支援が優先課題としつつも、国家支援1ルーブルに対し、少なくとも3ルーブル分の民間投資が必要という考えを示した。
●「何とも情けない」──対ロシア制裁を緩和し、プーチンを付け上がらせるEU  7/18
バルト海に面したロシアの飛び地カリーニングラードとロシア本土を結ぶ鉄道をめぐって緊張が高まっている。
ウクライナ侵攻の制裁として、欧州委員会はロシア産の鉄鋼や金属製品などのEU域内の通過を禁じる方針を打ち出した。
これを受けて、カリーニングラードに隣接するリトアニアは先月、制裁対象物資を積んだ鉄道の自国内の通過を禁止。ロシアはリトアニアへの報復をちらつかせて、EUに撤回を求めていた。
7月13日、欧州委員会は対ロシア制裁の新たな指針を発表し、武器以外の制裁対象物資を載せた列車の通過を認める方針を表明した。道路での輸送は引き続き禁じられるものの、これは大幅な緩和だ。
だが、この変更はロシアのプーチン大統領を付け上がらせる屈辱的な対応だとして批判が殺到。リトアニアの隣国エストニアのイルベス元大統領は「何とも情けない」とツイートし、EU各国の高官やメディアもEUの弱腰を嘆いている。
●クリミア攻撃を示唆 ロシア前大統領は「実行すれば終末の日に」と警告  7/18
ウクライナのアレストビッチ大統領府長官顧問は16日、ロシアによって2014年に併合された南部クリミア半島とロシア本土を結ぶ大動脈のクリミア橋(総延長19キロ)について「技術的に可能となれば攻撃対象となる」と発言した。ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は「実行に移せばウクライナにとって終末の日になる」と警告し、戦闘拡大の火種になる恐れが出ている。
米国から供与された長距離ロケット砲使用を示唆
国防省付属の情報機関幹部は、クリミア橋の破壊に向け、米国から供与された長距離ロケット砲「ハイマース」を使用する可能性を示唆。アレストビッチ氏は、バイデン米大統領らが兵器提供の条件として、ロシア領を攻撃しないよう求めていることに対し「クリミア橋はロシアによる違法な建築物なので問題はない」との認識を示した。
ウクライナ政府はクリミアへの攻撃の可能性を示すことでロシア軍の兵力を分散させ、欧米の軍事支援の効果を誇示する狙いがあるとみられる。
ロシアのイズベスチヤ紙によると、橋は防空システムで守られており、これまでウクライナ軍が長距離ミサイルを持たないことから攻撃を受ける恐れは低いとみられていた。ウクライナが現在供与を受けているハイマースの射程は80キロに制限されているが、本来の射程は300キロ超とされ「実際に橋が破壊されれば『クリミア支配は万全』とのロシア側の論理は崩れる」(米政治学者)との声も上がっている。
ロシアは、クリミア支配継続に核使用辞さない構え
橋はクリミア支配の象徴として、プーチン大統領の命令で建設され、2018年に開通した。総工費は2280億ルーブル(約5570億円)。
プーチン氏はウクライナ侵攻直前の2月7日、ウクライナが米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)に加盟してクリミアの奪還を図れば、米欧は「ロシアとの戦争に巻き込まれる」と主張。「ロシアは核保有国でありその戦争に勝者はいない」とも述べ、クリミア支配を継続するために核兵器の使用を辞さない考えを示している。

 

●グーグルに罰金500億円 「ウクライナ侵攻の偽情報削除せず」ロシア裁判所 7/19
ロシアの裁判所は、ウクライナでの軍事作戦に関する虚偽の情報を削除しなかったとして、アメリカのIT大手グーグルに対し日本円でおよそ500億円の罰金を命じました。
ロシアメディアによりますと、モスクワの裁判所は18日、グーグルの動画投稿サイト「ユーチューブ」がウクライナでの軍事作戦をめぐり、ロシア軍の信用を損なう虚偽の情報などを削除しなかったとして罰金およそ217億ルーブル、日本円でおよそ500億円を支払うよう命じました。
罰金の金額は、グーグルのロシア国内における売り上げの10%に設定されたということで、IT会社への罰金としてはロシアで過去最高額とみられるということです。グーグルは、去年12月にもおよそ72億ルーブルの罰金が科せられています。
●ウクライナ、戦争捕虜の人道的扱いをロシアに要求 違法扱い非難 7/19
ウクライナ外務省は18日、ロシアがウクライナ人戦争捕虜を不当に扱い、政治利用していると非難するとともに、外国人戦闘員捕虜を含め人道的に扱うよう要求した。
「ウクライナはロシアによるウクライナ人捕虜の違法な扱い、特に自国の政治利用を糾弾する」とした上で、「ウクライナ部隊に関連のある戦争捕虜の扱いにおいて、特に(1949年の)ジュネーブ第4条約(戦時における文民の保護に関する条約)の国際人道法厳守を求める」と発表した。
●訴追の恐れは「永遠に」 ウクライナでの戦争犯罪で 欧州委員 7/19
欧州連合(EU)のレインデルス欧州委員(司法担当)は18日、ロイター通信とのインタビューで、ウクライナで起きた戦争犯罪の加害者について、訴追される恐れが「永遠に」付きまとうことを知っておくべきだと警告した。
米欧など40以上の国は、ロシア軍による残虐行為をめぐる訴追や裁判を支援するため、証拠の収集などで協力。戦争犯罪やジェノサイド(集団虐殺)、人道に対する罪はオランダ・ハーグに本部がある国際刑事裁判所(ICC)が処理することになる。一方、ロシア側は戦争犯罪への関与や意図的に民間人を攻撃したことを繰り返し否定している。
レインデルス委員は「(犯罪の責任を負わせるのに)数週間や数カ月、数年間、場合によっては数十年かかるだろう」と指摘。「しかし、ロシア当局に明確なメッセージもある。こうした捜査と訴追、裁判のリスクは残りの人生の間も付きまとうということだ」と強調した。
また同委員は、終戦前でも戦争犯罪の加害者を裁判にかけようと国際社会が協力を始めたのは、ウクライナ戦争が初めてだと語った。
●ウクライナ戦争を超え「ロシア-西側」経済戦争…「数か月以内に勝者が決定」 7/19
ウクライナ戦争の影響によりロシアと西側諸国が経済戦争を繰り広げている中、「数か月以内に勝者が決定するだろう」という分析が出ている。
対露制裁によりマクドナルドやナイキなど数百の企業が撤退したロシアと、高騰するエネルギー価格により困難に直面している西側諸国のうち、どちらがより長く経済的被害に耐え抜くことができるかが「鍵」である。
17日(現地時間)米ウォールストリートジャーナル(WSJ)によると、英国の経済分析機関“エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)”は、最近発表した報告書を通じて「ことしの戦争により、全世界的な被害額は約1兆ドルに達するだろう」と推定した。またEIUは「世界経済が2.8%成長する」と展望した。これは、ウクライナ戦争前の展望値3.9%より0.9%下向修正された数値である。
EIUは、ウクライナ戦争により最も大きな被害を受けた国として、イタリア・ドイツ・フランス、そして全ての西側諸国をあげた。
このことについて、米ピッツバーグ大学のTymofiy Mylovanov経済学科副教授(ウクライナ政府高官出身者)は「ロシアは西側諸国を試していて、西側諸国はそれに対応している。これは、実質的な戦争を行なっているロシアとウクライナだけでなく、西側諸国にとっても “消耗戦”だ」と指摘した。
米国は戦争の初盤において、前例のない対露制裁を加えた当時「ロシアにだけ莫大な費用を負担させる」という目標をもっていた。対露制裁がブーメランとなって世界経済に被害をもたらす逆効果を避けることも、目標の一つであった。
西側諸国による対露政策は意図した通り、ロシア経済に大きな打撃を与えることに成功した。今月4月ロシア中央銀行は「ことしにおけるロシアのGDP(国民総生産)は8〜10%減少する」と予測した。
英シンクタンク“パンテオン・マクロエコノミクス”のユーロ圏エコノミストは「ロシアは確実に危機を感じている」と見通した。
また、ジョーバイデン米政権の高官も「対露制裁により望んだ効果を収めていて、ホワイトハウスは経済戦争で勝利している」と断言し「ロシア経済が悪化したことで、ウラジーミル・プーチンロシア大統領は戦争の方向性を変えなければならない圧力に直面している」と語った。
しかし、ルーブルは対露制裁の初盤においては暴落したが、ロシア中央銀行の金利引き上げ・資本統制・輸出増加と輸入減少により回復した。このことについてWSJは「バイデン大統領が望んでいたほど、ロシアの生産が減少しない可能性もある」とし「最も悲観的なシナリオだ」と懸念した。
一方、分析家たちは「西側諸国の状況も大きく変わらない」と診断している。制裁による供給網問題とエネルギー価格そして投資家の懸念が全て合わさったことで、原資材価格の上昇に莫大な影響を与えているためだ。
●プーチンの下でロシア語が変わってしまった 7/19
「ロシアは欧米から侮辱され、つまはじきにされている。」
このプーチン流の考えが、プロパガンダでロシア中に広められている。
ロシア人にこう信じさせる手法と言語も開発され、拡大した。
ジョージ・オーウェル(1903〜1950)の小説『1984』(1949年発表)では、独裁政権が独特の表現である“ニュー・スピーク”(新しい言葉、表現)を使う。
今、ロシアでも“ニュー・スピーク”が拡大している。それは真実を説明するためではなく、歪曲した“事実”を構成するための言語だ。
そして戦争関連のみならず、一般生活でも、“ニュー・スピーク”の拡大が見られる。
ロシア人の“耳に麺をぶらさげる”
ロシア語で、プロパガンダ漬けにすることを、“耳に緬をぶらさげる”と表現する。
今、ロシア人は、次のプロパガンダのメッセージを、常に“耳にぶらさげている”。
「ウクライナは8年間ドンバスを爆撃し、ロシア人の大量虐殺を行ってきた。ウクライナは、その報いを受けなければならない。」「ウクライナにナチス政権が存在する。我々はナチスと戦っている。」「我々は攻撃しているのではなく、自衛している。」「我々は軍事目標に対してのみ、高精度の攻撃を行う。」「我々に対する非難は、すべて虚偽と脚色である。」「欧米は我々に経済戦争を宣戦した。」「西側諸国はロシアをつまはじきし、追放しようとしている。」「プーチンは8年間続いてきたこの戦争を終わらせようとしている。」(国防省コナシェンコフ報道官の発言)「プーチンはNATOからロシアを守っている。」「自軍の敗北を願うべきではない。」
対ウクライナ侵略で使われる“ニュー・スピーク”
ロシアはウクライナに戦争をしかけたのではなく、“特殊作戦”を行っていると説明する。
厳密な意味での“特殊作戦”は、民間人を苦しめないものであるべきであり、その点で戦争と異なるはずだった。
プーチンは、ウクライナ中部ポルタワ州クレメンチュクのショッピングセンターに対するロシアのミサイル攻撃(6月27日)を、“肯定的に”評価することができず、「ロシア軍は民間人を攻撃しない、その必要がない」と嘘を混ぜた説明をした。
ウクライナ軍による黒海のズミイヌイ島への攻撃の結果、ロシア軍は膨張式(インフレータブル)ボートで一夜にして島を脱出した(6月30日)。
ロシア国防省は、ロシア軍が黒海のズミイヌイ島から「善意のジェスチャーとして」自主的に退去したと発表した。
SNSでは、「ハイマース砲(米陸軍の自走多連装ロケット砲)がもっと増えれば、“善意”ももっと増える」、「プーチンが死ぬことで、“善意”のジェスチャーを示せる」といった反響があった。
実際のロシアでの報道から見つけてきた、対ウクライナ侵略で使われる“ニュー・スピーク”を紹介しよう。矢印の左が真実の内容、矢印の右がロシアのマスコミで使われる“ニュー・スピーク”である。
「ロシア軍は町を占領する」「町をコントロールする」
「ロシア連邦は平和的都市を攻撃した」「ロシア連邦は都市を封鎖した」
「住宅地での戦闘」「掃討」
「都市のインフラを破壊し、人々を殺害し、大量虐殺を行う」「ロシア語話者を守る」
「ロシア軍が撤退する」「部隊の計画的再配置」
「ウクライナでの戦争に赴く」「軍事演習に赴く」
プーチン下での一般生活での“ニュー・スピーク”
戦争関係のみならず、一般生活でも“ニュー・スピーク”が拡大している。
ロシアのメディアでは、例えば家庭用ガスが爆発して階段が丸ごと崩れ死者が出ても、「爆発」という言葉を使わず、「打つ事/打つ音」という奇妙な言葉に置き換える。
ロシア以外の場所での爆発は「爆発」と表現される。しかしロシアでは、「打つ事/打つ音」と表現されるのだ。 
例えば、「モスクワの家でガスの“打つ事”が起きた」となる。このような表現は非常に多く見られる。
その他の一般生活での“ニュー・スピーク”を紹介しよう。矢印の左が本来の表現、矢印の右が“ニュー・スピーク”である。
「洪水」「浸水」、「川の水位が上がる」
「飛行機の墜落」「飛行機は硬着陸した」
「賄賂」「越権」
「購買力の低下」「否定的な成長」
「所得が減少する」「否定的な所得の伸びの傾向がある」
「ロシアのオリガルヒ」(=プーチンの友人達)「ロシアの金融家と産業家」
「ルーブルの下落」「ルーブルの渦動性」
「ルーブルの暴落」「ルーブルレートの補正」
ルーブルのレートについて言えば、この2ヶ月間「ルーブルがドルやユーロに対して強まった」との報道がロシアで溢れ、ロシアのメディアはルーブルを「最高の通貨」とすら呼び始めた。
しかしこのレートが人為的なものであり、「強まり」の後には必ず「崩壊」が待っていることを説明するのを忘れている。
一般生活でも“ニュー・スピーク”が拡大しているのは非常に興味深い現象だ。
生活の隅々まで都合よく操作しようとするプーチン政権の本質が露骨に現われてきたということだろう。 
市民の抗議を表現する“ニュー・スピーク”は?
政権を批判する市民は、孤立した闘いを強いられている。
“一人のデモ”も、“ニュー・スピーク”では“騒動”と表現される。
今日一人で行うデモすら不可能になる中、人々は別の方法で抗議をし、時にはかなりの独創性を発揮する。
エカテリンブルクでは、誰かが屋外のガス管にプーチンの写真を貼り付け、柵の格子越しに見えるので、あたかも獄中にいるかのようにした。
このような独創的な行為をどう表現するかは、“ニュー・スピーク”の作者達の作業もまだ追いついていないようだ。
●ウクライナ大統領夫人が訪米 米国務長官らと会談 支援を訴える  7/19
ウクライナのゼレンスキー大統領の妻、オレーナ氏がアメリカを訪れ、ブリンケン国務長官らと会談し、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの支援を訴えました。
オレーナ氏は18日、首都ワシントンでブリンケン国務長官と会談しました。
国務省の発表によりますと、会談ではウクライナへの支援をめぐって意見が交わされ、ブリンケン長官は、ロシアが民間人の殺害を続けていると厳しく非難しました。
そのうえでブリンケン長官は被害を受けた市民に対して、オレーナ氏が主導して行っているメンタルヘルス対策などを含め、ウクライナへの支援を続けていくと強調したということです。
また、同じ日、オレーナ氏は対外支援などを行っている、国務省傘下のUSAID=アメリカ国際開発庁のパワー長官とも会談を行い、人道支援などについて意見を交わしました。
ホワイトハウスなどによりますと、オレーナ氏は滞在中、ジル・バイデン大統領夫人と会談するほか、20日にはアメリカの連邦議会で演説を行うことになっていて、改めてアメリカ、そして国際社会にウクライナへの支援を訴えるものと見られます。
●「ロシア兵が防護服着けず」原発内へ、9人死傷か… 7/19
ウクライナ南部ザポリージャ州エネルホダルの市長は18日、ロシアが占拠する欧州最大規模のザポリージャ原子力発電所内で露軍兵士9人が負傷し、死者も出ている情報があるとSNSで明らかにした。
ウクライナ国営原子力企業エネルゴアトムは19日、「露軍(兵士)が防護服も着けずに原子炉の放射能ゾーンなどに入った」とSNSに投稿し、露軍が安全基準を守らずに原発を占拠し続けていると非難した。
露軍が3月に占拠したこの原発を巡って、同企業の幹部は今月15日、露軍が原発敷地内にミサイルシステムを配備し、兵士最大500人が駐留していると分析した。そこから別の場所を攻撃しているとの見方も示した。エネルゴアトムは19日、「原子力安全への直接の脅威だ」と訴えた。
露軍は同州の約6割を掌握している。ロシア通信によると、同州の親露派幹部は18日、一方的に「州政府」の設置を発表し、露西部ボログダ州政府の高官がトップを務めると主張した。ウクライナ軍の反撃を受ける中、露側は直接支配を強め、「ロシア化」を急ぐ構えだ。
●東部戦線、米供与の高機動ロケット砲HIMARSで「状況安定」… 7/19
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は18日、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長と電話で会談した。ザルジニー氏はSNSで、「米国が供与した高機動ロケット砲システム(HIMARS)のおかげで、状況を安定化させた」と謝意を表明した。
東部の地上戦では、露軍がルハンスク州の全域制圧を宣言するなどウクライナ軍は劣勢とみられてきた。ザルジニー氏の投稿は、HIMARSの供与により戦況が変化しつつあるとの認識を示したものだ。
ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相とオースティン米国防長官も18日に電話会談し、両国による連携を確認した。レズニコフ氏はSNSに「良いニュースが米国からもたらされる」と投稿し、追加の武器供与への期待感を示した。
南部では露軍による民間施設を標的にした攻撃が続いている。ミコライウ州当局は18日、露軍が州都ミコライウ近郊の高層ビルを攻撃し、民間人4人が死亡したと発表した。南部オデーサでは橋と軍事施設がミサイル4発の攻撃を受け、損壊した。一方、露軍が制圧する南部ヘルソン州では、ウクライナ軍が弾薬庫二つを破壊したと発表した。
キーウ市は18日、ロシアによる侵略を受けて国内から市内に戦火を逃れてきた避難民が約10万人に上ると発表した。このうち1万5000人が子供という。2014年のクリミア併合以降、首都への避難民は累計27万人以上となっている。
●HIMARS使用を高く評価されるウクライナ軍だが、いずれロシアに研究される 7/19
ロケット砲が爆発するのを、ウクライナ兵たちが遠く離れた場所から見つめている。ロシア軍の陣地から、大きな噴煙が舞い上がる。
最初は歓声を上げていたウクライナ兵だが、アメリカから供与された高機動ロケット砲システム(HIMARS)の威力を目の当たりにして、やがてささやくような声で話し始める。
「おい、見ろよ、ロシア兵が死んでいくぞ」。ソーシャルメディアに載って世界を駆け巡ったこの動画の中で、ウクライナ兵の1人がつぶやく。
ウクライナにはアメリカに供与されたHIMARSが8基あり、ロシア軍に大きな被害をもたらしている(さらに4基が追加予定)。英BBCのロシア語放送によれば、6月にはHIMARSがロシア軍の弾薬庫14カ所を破壊した。
HIMARSによる攻勢が強まっていることを受けて、ネット上には戦闘服を着て爆発を見つめている柴犬をあしらったマスコットも誕生。ウクライナ側は、少なくとも1人のロシア軍司令官が爆発で死亡したとみている。
ネット上に流れる一部の情報とは裏腹に、ウクライナ軍はロシアを相手に劣勢に立たされている。ロシア軍は東部でルハンスク(ルガンスク)州の大半を掌握し、その西のドネツク州でもさらに攻勢を強めている。
それでもHIMARSに加えて、60キロ以上離れた場所から標的を狙える誘導式多連装ロケットシステム(GMLRS)がアメリカから到着したことで、形勢逆転の希望も見えてきた。
「見ろよ、ロシア兵が死んでいくぞ」という兵士の言葉は、5カ月目に入って消耗戦の様相を呈し始めた戦闘の中で、ウクライナ側の抵抗の機運を象徴するスローガンになっている。
専門家のみるところ、ロシア側にとって消耗戦への突入は想定外だった。ロシアの当局者らは、アメリカがウクライナに精密誘導ミサイルを供与することをかなり前から知っていた。4月には米国務省に外交文書を送り、バイデン政権による武器供与を阻止しようとまでした。
機敏さを欠くロシア軍
ロシアが神経をとがらせていたのには理由がある。HIMARSは重さが約18トンで、一度に6発の精密誘導ミサイルが発射可能だ。機動力が高く、発射後すぐに逃げられるから、東部ドンバス地方でウクライナ軍の約3倍を誇るロシアの砲撃能力に打撃をもたらすこともできる。
だがロシアは、ウクライナが反撃する余地を残したままにしていた。
侵攻当初には首都キーウ(キエフ)に向かうロシア軍の補給車両が無防備にも長い列を作り、ウクライナ軍の奇襲攻撃を受けた。そして今、当時と同じような待ち伏せ攻撃を受けている。
米外交政策研究所の研究員で、米海兵隊にも所属したロブ・リーは、ロシアの備えが不十分だったのは明らかだと指摘する。
「ウクライナが以前から、HIMARSの供与を求めていたことは分かっていた。入手すれば攻撃を仕掛けてくることも、ミサイルの性能についても分かっていた。しかし、ロシアは何をしただろうか。十分な対策を講じたようには、全く見えない」
当局者らによれば、米国防総省はウクライナへのHIMARSの供与に時間をかけた。ウクライナに使いこなせるかどうかが不安だったからだ。この点は、歩兵戦闘車ブラッドリーに搭載する多連装ロケット砲を供与したドイツとイギリスも同様だった。
だがアメリカとヨーロッパの当局者らは、ウクライナ軍の標的の選び方を高く評価しているという。ウクライナ軍は体系立てて標的を選び、ロシア軍の補給線を阻み、指揮所を攻撃して、敵の進軍をほぼ完全に停止させようとしている。
あるウクライナ軍高官によれば、軍は国内にあるロシア軍の全ての施設を破壊するため、前線の後方およそ8キロの地点にある標的を狙って攻撃を繰り返している。
「ウクライナ軍は組織的に標的を選び、それらを正確に攻撃し、ロシア軍の能力を確実に低下させている」と、米国防総省のある高官は先頃、記者団に語った。前出のウクライナ軍高官はフォーリン・ポリシー誌に対し、ロシア軍は攻撃を受けて指揮所を前線から後退させているが、対応は機敏さに欠けると述べた。
ウクライナを待つ冬将軍
だがウクライナ当局者らは、今ある武器では形勢逆転には不十分だと考えている。例えばウクライナは、HIMARSの車体から発射可能で射程が約300キロの陸軍戦術ミサイル(ATACMS)の供与を要請しているが、バイデン政権はこれに応じるつもりはなさそうだ。
ウクライナがロシア国内の標的を攻撃し、紛争をエスカレートさせることを恐れているためだ(ウクライナ側はそのような攻撃はしないと言明している)。
反汚職活動センター(本部キーウ)の共同創設者で、西側諸国からの一層の武器供与に賛同するダリア・カレニウクは「現状では効果的な反撃には不十分」と言う。「これまでウクライナ軍にできたのは、何とか損失を減らすことだけだ」
ウクライナ軍には時間との戦いもあると、カレニウクは指摘する。厳しい冬が始まる11月頃までに、ロシア軍に占領された地域の解放を始めなければ、ロシアが得意とする長期戦にもつれ込む可能性があるという。
前出のウクライナ軍高官は、最終的に数十基のHIMARSが供与されることを期待していると語った。カレニウクはウクライナが反撃を開始するためには、ATACMSを搭載した砲台40基と、ロシアの反撃をより回避しやすい自走榴弾砲「パラディン」が必要だとの見方を示した。
ウクライナの当局者らが懸念するのは、いずれロシアがHIMARSへの対抗策を見つけることだ。加えてイランがロシアに対し、最大100基の戦闘用ドローンを供与する可能性があることにも不安が広がっている。HIMARSは空からの攻撃に太刀打ちできないというのだ。
専門家は、HIMARSによって今後ロシアの弾薬庫がさらに破壊されたとしても、現在の膠着状態をさらに長引かせるだけではないかと考えている。
「指揮所や弾薬庫を攻撃すれば、ロシアの攻勢を失速させられる」と、外交政策研究所のリーは言う。「だからといって、HIMARSがウクライナに領土奪還の能力をもたらすことにはならない」
●ロシア侵攻 日常戻りつつあるウクライナと“もうひとつの現実” 7/19
ビールで乾杯。響く楽しそうな笑い声。軍事侵攻が続くウクライナの首都キーウは、明るい雰囲気に包まれていました。街の中は、一見「日常」を取り戻しつつあるかのように見えました。ただ、街を歩いてみて見えてきたのは「もうひとつの現実」でした。
にぎわうオープンテラス
たくさんの客でにぎわうレストラン。よく冷えたビールで乾杯する人たち。楽しそうな笑い声が響く街の中。それまで、日本でウクライナ情勢の動きを追っていて、街なかは暗い雰囲気に包まれているんじゃないかと想像していた私にとって、「キーウの今」は少し意外でした。キーウに初めて入ったのは7月初旬。オープンテラスにはテーブルといすが並び、客たちは名物のボルシチや豚料理などに舌鼓を打っていました。防空警報は、数か月前にはキーウでも1日に何度も鳴っていたといいますが、現在は、ほとんど鳴ることはありません。一緒に取材する現地のスタッフによると、軍事侵攻が始まってから、たくさんの店が営業を休止していましたが、最近では、侵攻前に比べて8割くらいの店が再開している感覚なのだといいます。一時は国外などに避難していた人が少しずつ戻り、「日常」を取り戻しつつあるのかもしれないと、その時は感じました。
街の中に増えているもの
ただ、街の中を歩いてみると、ウクライナが今もロシアの侵攻を受けていることを思い起こさせるものがたくさんありました。「アゾフスターリ(製鉄所)マリウポリを守った兵士を解放せよ」キーウ市の市庁舎の正面に掲げられた横断幕にはこう書かれていました。アゾフスターリ製鉄所は、東部の要衝マリウポリでウクライナ側が拠点としていた場所です。ロシア軍に包囲され、ウクライナの「アゾフ大隊」(※)がロシア軍と激しく戦いました。しかし5月、「アゾフ大隊」の兵士が投降し、2400人以上が捕虜となりました。一部は解放されましたが、ほとんどの兵士は、今も居場所や安否すら不明のままとなっています。横断幕に書かれていたのは、こうした兵士たちの解放を訴えるものでした。※アゾフ大隊 / 2014年、ウクライナ東部の親ロシア派の武装勢力と戦うため義勇兵などで結成。ウクライナの準軍事組織の精鋭部隊として、製鉄所を拠点に徹底抗戦した。
広場にあるたくさんのウクライナ国旗
また、中心部にある独立広場を訪れると、数え切れないほどたくさんのウクライナ国旗が立ち並んでいるのが見えました。近づいてよく見てみると国旗には文字が書き込まれていました。それは亡くなった兵士やジャーナリストたちの名前でした。その数は、取材に訪れた時点で500以上。ウクライナ東部では今も激しい戦闘が続いているため、現地スタッフによると、国旗の数は増え続けているということです。またその場には、追悼の言葉をつづるノートも置かれていて、道行く人が足を止めて書き込んだり、写真を撮ったりしていました。
日常の中の“戦場”
このほかにも、今も戦闘が続いている現実と向き合わざるをえないものもありました。独立広場とは別の広場を訪れると、大破したロシア軍の戦車や装甲車が展示されていました。兵士たちが最前線でロシア軍と今も戦う現状を意識してもらおうと、国立軍事史博物館が企画した展示です。展示されたものの中でも目をひいたのが、緑色の乗用車でした。ボンネットにはロシア兵が理解できるよう、ロシア語で「子ども」と書かれた紙がテープで貼り付けられていて、フロントガラスは銃弾が当たったのか、割れていました。車内を見ると、乾いた血の跡のようなものも見えました。展示された緑色の車には、当時の様子を説明するパネルはありませんでしたが、子どもを連れた家族がこの車で避難する途中で、ロシア軍によって攻撃されたとみられています。焼け焦げた戦車や装甲車の大きさに比べれば、とても小さな緑色の車。ただ、その場では、大きな存在感を示していました。
キーウの人たちは
一見、戻りつつある「日常」と、今も続く激しい戦闘。キーウにいる人たちは、どう思っているのか話を聞いてみると、多くの人たちが胸の内を語ってくれました。
「夫はガンで治療が必要なので、これからドイツに行きます。戦闘が長期化していることにとても疲れていて、自宅から逃げた時を思い出すと涙が出ます。キーウが平穏なのはいいことですが、早くロシア軍の侵攻が終わってほしいです」(ロシアが掌握したとする南部のヘルソン州から、夫と逃げてきたという61歳の女性)
「レストランや映画館で楽しむ自由、私たちの日常を守るために、東部で戦っている兵士たちを誇りに思っています。将来は自分も兵士としてウクライナを守りたいです。一方で、ロシア軍に対しては、憎悪を通り越して、もはや人間ではないとすら感じています。キーウの街は平穏を取り戻していますが、家族や友人たちとは毎日、戦闘の話、特にウクライナ軍がロシア軍に勝利した戦いの話をしています」(戦車を見に来た19歳の男子学生)
自由な暮らしが取り戻せるように
キーウの美しい街を歩いていると、この国が今もロシアによる侵攻を受けているという現実を、忘れてしまいそうになります。ただ、窓ガラスが割れた緑の車、名前の書かれたたくさんの国旗、人々の複雑な心境などを見たり聞いたりすると、東部で激しい戦闘が続き、各地にミサイルが撃ち込まれている現実にすぐに引き戻されました。ウクライナの人たちが再び、自由で平和な日常が取り戻せるように。そのために、ウクライナは戦闘を続けるという選択肢を選んでいる。突然始まったロシアによる軍事侵攻が突きつけている理不尽な現実の中で、ウクライナの人たちが暮らしている。そんなウクライナの今をかいま見た気がします。
●小麦が山積みのウクライナの農場倉庫…「輸出できないと農業は大惨事に」 7/19
ロシアによる軍事侵攻の影響で、ウクライナ産の穀物の輸出が滞り農場の倉庫には出荷できない小麦がうず高く積まれたままになっている。農場のオーナーは「このまま輸出できないとウクライナの農業は大惨事となり壊滅する」と嘆いた。
世界屈指の穀倉地帯ウクライナは輸出大国
私たちは6月下旬、首都キーウから車で1時間半ほど南にある、農場へと向かった。青空の下には収穫前に大きな実をつけた黄色い小麦畑が一面に広がっていて、この色はウクライナ国旗カラーのもとになったといわれている。別の場所ではひまわりも植えられていて、8月には一面に黄色い花が咲くという。
実はウクライナは世界屈指の穀倉地帯で、ひまわり油の輸出量は世界1位である。さらにトウモロコシは世界4位、小麦も世界5位にランクインする輸出大国だ。
しかし、この農場の倉庫ではある“異変”が起きていた。
小麦の収穫を前にしても倉庫のスペースがない
倉庫内に足を踏み入れると、去年収穫された小麦がうずたかく積まれたままになっていた。例年だと6月末は倉庫は空になり、次の収穫に備えて消毒作業を行っているそうだ。しかし収穫まで2週間を切ったにもかかわらず新たな穀物を納めるスペースがない。
小麦だけでなく、ひまわりの種やトウモロコシも出荷できないまま倉庫で山積みになっているのは、ウクライナ侵攻で黒海に面する港がロシアに占拠され、船で穀物を輸出できないからだ。
陸路でポーランドを経由して輸出はできているが国境では通関待ちのトラックが列をなしている。また陸路ではどうしてもヨーロッパが中心となり、アフリカや中東には十分な量を輸出できないのだ。
農場のオーナーオレクサンドルさんは、来年にかけて事態はさらに深刻になると警鐘をならす。
「ウクライナから穀物が輸出できないのは世界的な問題になります。 来年は収穫量が半減すると思います」
「来年は収穫量も半減・・・ウクライナの農業は大惨事に」
その理由としてあげたのは2つ。
1つ目は輸送コスト上昇とウクライナ産小麦の値崩れ。オレクサンドルさんによると、ウクライナ侵攻の影響でガソリン価格が高騰し、輸送コストは3倍にあがったという。
さらに陸路で輸出できているヨーロッパでは小麦はある程度供給されているため、ウクライナ産の穀物の値段が下がり、出荷するほど赤字になるという。高く売れるアフリカや中東に輸出できないため、出荷しても損失がかさむだけで、この状況が続くと農家は穀物を作らなくなると危機感をあらわにした。
そして2つ目の理由は、農場の多くが占拠されたこと。オレクサンドルさんの農場や事務所、倉庫の多くはロシア軍によって支配されたエリアにあり、倉庫の穀物やトラックなど90台が盗まれた。被害損失はなんと2億ドル(日本円でおよそ270億円)にのぼるという。
GPSをたどると盗まれた車両はロシア支配エリアに
盗まれた農業機械やトラックのGPSをたどってみると、クリミア半島のロシアが支配するエリアあたりまで移動し、記録が途切れていることがわかった。他にもロシアが支配する東部のルハンシク州まで移動した車両もあった。盗まれた車のうち数台は今も行方を追うことができるが、ロシアによって占拠された場所にあり簡単には取り戻すことはできない。
農場のオーナーは「ロシアは盗んだ車で我々の穀物を海外に転売している」と主張する。
「港が解放されて船での輸出が再開されないと、ウクライナの農業は大惨事となり壊滅する」と訴えるオレクサンドルさん。WFP=国連世界食糧計画は、「侵攻が続けば、4700万人が新たに飢餓に直面」するとしている。穀物輸出再開をめぐる協議で、ロシアとウクライナが合意できるのかが注目される。
●プーチン大統領 トルコ大統領と会談へ 小麦の輸出再開めぐり  7/19
ロシアのプーチン大統領は19日、イランでトルコのエルドアン大統領と軍事侵攻後、初めて対面での会談を行う予定で、ロシア軍による封鎖で滞っているウクライナ南部の港からの小麦などの輸出再開について意見を交わす見通しです。
小麦の輸出量が世界第5位のウクライナではことしの収穫が始まっていますが、ロシア軍による封鎖で、黒海に面する南部の港からの輸出が滞っているため出荷のめどが立たず、農家には不安が広がっています。
このうち、首都キーウ近郊の農家、ビクトル・シェリメタさんの小麦畑ではおよそ2500トンの収穫が見込まれていますが、軍事侵攻が始まってからは、出荷が止まっています。
シェリメタさんは「港の封鎖が続けば出荷できず、多くの農家が破産するだろう」と話していました。
こうした中、プーチン大統領はイランの首都テヘランを訪問し、19日、トルコのエルドアン大統領と軍事侵攻後、初めて対面での会談を行う予定です。
世界的な食料危機への懸念が強まる中、小麦など農産物の輸出再開を目指してロシアとウクライナ、仲介役のトルコと国連による大詰めの協議が開かれるのを前に、最終合意に向けて意見を交わす見通しです。
また、イランのライシ大統領や最高指導者ハメネイ師とも会談を行い、イランの核開発問題や欧米の経済制裁への対応が議題となる見通しで、経済など両国の戦略的な連携を強化し、欧米をけん制するものとみられます。
●プーチン氏、ハイテク品の入手で「大きな困難」 ロシアの切り離しはできない 7/19
ロシアのプーチン大統領は18日、閣僚会議で、西側諸国による経済制裁を受けて、ロシア政府はハイテク品の入手で大きな困難に直面していると認めた。しかし、プーチン氏は、ロシアを世界経済から切り離すことは不可能だとも述べた。
プーチン氏は「彼らは我々の発展を妨げようと障壁を設けようとしている。明らかに、これは我が国にとって大きな挑戦だ」と述べた。
それでも、プーチン氏は、あきらめることはしないし、数十年前に逆戻りすることもないと指摘。「逆に、我々が直面している困難の大きさを認識し、集中的かつ有能に新しい解決策を模索する」と述べた。
プーチン氏はさらに、ロシアを世界から切り離そうとする試みは「不可能」だとの見方を示した。
●「何とも情けない」──対ロシア制裁を緩和し、プーチンを付け上がらせるEU 7/19
バルト海に面したロシアの飛び地カリーニングラードとロシア本土を結ぶ鉄道をめぐって緊張が高まっている。
ウクライナ侵攻の制裁として、欧州委員会はロシア産の鉄鋼や金属製品などのEU域内の通過を禁じる方針を打ち出した。
これを受けて、カリーニングラードに隣接するリトアニアは先月、制裁対象物資を積んだ鉄道の自国内の通過を禁止。ロシアはリトアニアへの報復をちらつかせて、EUに撤回を求めていた。
7月13日、欧州委員会は対ロシア制裁の新たな指針を発表し、武器以外の制裁対象物資を載せた列車の通過を認める方針を表明した。道路での輸送は引き続き禁じられるものの、これは大幅な緩和だ。
だが、この変更はロシアのプーチン大統領を付け上がらせる屈辱的な対応だとして批判が殺到。リトアニアの隣国エストニアのイルベス元大統領は「何とも情けない」とツイートし、EU各国の高官やメディアもEUの弱腰を嘆いている。
●英軍参謀長「ウクライナの民間人被害には心理戦の要素も」 7/19
イギリス軍の制服組トップはロシア軍の攻撃でウクライナの民間人の被害者が増えていることについて「心理戦の要素がある」との見方を示しました。一方でプーチン大統領の健康不安説を「希望的観測」と切り捨てました。
ロシア軍は14日、ウクライナのビンニツァをミサイルで攻撃、幼児を含む少なくとも24人が死亡しました。
イギリス軍の制服組トップであるラダキン参謀長は、17日放映のBBCのインタビューでロシアの攻撃で民間人の被害者が多数出ていることについて「ロシアによる心理戦の要素がある」との見方を示し、「プーチン大統領が民間人の殺害を承認している」と非難しました。
その上で「これはロシアが苦戦していることの表れでもある」と述べました。
また、ラダキン参謀長は「プーチン大統領の体調が良くないとか、誰かがプーチン氏を暗殺するとかいった物言いは希望的観測にすぎない」と一部にある憶測を否定しました。
ラダキン氏は「ロシアの政権は比較的安定しているし、プーチン大統領は反対派をことごとく潰すことに成功している」と指摘。
「さらに権力機構の上部はプーチン氏と利害が一致しているので誰も彼に立ち向かおうとしない」とした上で「ロシアとの対峙は長年にわたって続く」との見通しを示しました。
●大統領令の背景に何が?サハリン2をめぐるロシア国内法の動き  7/19
6月30日、ロシアのプーチン大統領が署名した大統領令。「サハリン2」の運営を新たに設立されるロシア企業に移すよう命じています。今回は大統領令の内容を紹介し、こうした判断に至った背景を探ります。
大統領令の骨子
ロシア政府と「サハリン・エナジー」(サハリン2の事業主体)との間で1994年に締結されたPSA=生産物分与協定の履行について、複数の外国企業と個人に違反があった。
ロシア政府が新たにロシア法人を設立。そこに「サハリン・エナジー」のすべての権利、義務が移管される。
「サハリン・エナジー」の資産は直ちにロシア政府に移され、PSAの定める期間、これを無償で利用する権利が新会社に譲渡される。
新会社の資本金の持ち分について。「ガスプロム」は、「サハリン・エナジー」への出資割合に応じて取得。その他の株主も出資割合に比例して取得するが、これらの株主に株式が引き渡されるまではロシア政府が管理する。
「ガスプロム」以外の「サハリン・エナジー」の株主は、新会社設立から1か月以内にロシア政府に対し、今の出資割合で新会社の株式を取得することに合意する通知書を提出しなければならない。
ロシア政府は通知書が届いてから3日以内に提出書類を確認。今の出資割合に応じて新会社の株式を引き渡すか、引き渡しを拒否するかを決定する。
ロシア政府は決定した先にすみやかに株式を引き渡し、ロシア政府によるその管理は終了する。
新会社の株式を取得しない会社について、その株式持ち分は、ロシア政府が査定し、ロシア政府が定めた手順で基準にあったロシア企業に売却される。株式の査定と売却は、引き渡し拒否の決定がなされてから4か月以内にロシア政府が行う。
売却によって得られた現金は、サハリン・エナジーの株主の名義で開設したルーブルの口座に入金される。サハリン・エナジーの株主は、ロシア政府が財務や環境、技術などの監査で損害の額を確定し、賠償の責任を負う者を決めるまでは、口座に入金された資金を処分することはできない。
ロシア国内で高まるPSAへの批判
この大統領令を読み解くうえで知っておきたいのは、「PSA」と呼ばれる枠組み。外国企業がロシア政府と協議して開発する区域を定めたうえで、生産された原油や天然ガスの取り分などを決めておく仕組みです。
ロシア政府と企業との契約によってその内容を決める方式で、大型の開発プロジェクトで採用されました。
1995年にはPSA法というロシア国内の法制度として整備されています。
外国企業にとっては、契約であらかじめ条件を決めておくことでロシア政府による一方的な条件変更を免れるメリットがあると考えられ、開発の権利を取り上げる、いわゆる「接収」のリスクも低いとされていました。
日本が深く関わる「サハリン1」と「サハリン2」のプロジェクトは、このPSAのもとで石油や天然ガスの生産が続けられてきました。
しかし、ロシア内部では、以前から、PSAの契約で守られている外国企業が資源を安く調達し、利益をあげているなどとして不満の声があがっていました。
ロシアの軍事侵攻後、日本がG7各国と協調してロシアへの制裁を強めたことで、こうした批判がさらに強まり、ことし6月にはボロジン下院議長が「日本はPSAのおかげで利益を得ているのにロシアへの制裁措置を行っている。日本はプロジェクトから撤退するか態度を改めるべきだ」と発言しています。
このように大統領令が発出された背景には、ロシア国内の開発プロジェクトで利益を上げる外国企業への不満があり、制裁を強化する日本をけん制するねらいがあるとみられます。
「地下資源法」の改正は大統領令の布石?
一方、大統領令発令の2日前(6月28日)には、その布石ともなる動きがありました。
原油や天然ガスなど地下資源の利用のルールを定めたロシアの国内法、「地下資源法」の改正です。
地下資源法は、ソビエト連邦の崩壊後1992年に定められ、地下資源利用のライセンス制度を初めて導入しました。
今回の改正では、ライセンスを与える対象をロシア法人に限定し、すでに開発にあたっている外国企業は、90日以内にロシア法人を設立したうえで、改めてライセンス発行の申請をする必要があると定めました。
今のサハリン2の事業主体「サハリン・エナジー」は大西洋のバミューダ諸島に法人登記しており、地下資源法にもとづくライセンスではなく、ロシア政府とのPSA契約によって事業を展開しています。
こうした中で、今回、地下資源法を改正し、その直後に大統領令を出したねらいはどこにあるのか。
JOGMEC=石油天然ガス・金属鉱物資源機構の原田大輔 調査課長に話を聞きました。
JOGMEC 原田調査課長「地下資源法を改正してライセンスを与える対象をロシア法人に限定することで、外国法人の権益を守ってきたPSA法との間にあえて法律的なそごを生み出し、この状態を解決するために2つの法律の上位にある大統領令を出して「サハリン2」の事業主体をロシアの企業に移管するという手続き的な正当性を演出したのではないか。今後、ロシア側がどのような条件を示してくるのか、それがPSAで守られてきた契約内容に影響が出るのかどうかが焦点となる」
ロシアは、大統領令や法律を駆使して「サハリン2」への関与を強め、欧米と歩調を合わせて制裁を続ける日本に対して揺さぶりをかけているとみられます。
その際、どのような根拠で具体的な行動に移すのか。
ロシア国内の法制度や国際的なルールとの整合性も含め、しっかり分析する必要があると思います。
●プーチンが非合法で超残虐な「アルバイト戦闘員」を急募! 7/19
虐殺王プーチンがまたしても悪あがき──。ウクライナ制圧を諦めないロシアが、新たな補強策を繰り出した。
ロシアの経済紙RBCが報じたところによれば、プーチン大統領に近いロシアの民間軍事会社「ワグネル」が、ウクライナに投入する新たな戦闘員を募集していたことがわかった。
ワグネルは非合法な傭兵部隊で、拘束した人の頭部や手足を切断するなどの残虐行為に及んだこともあるという。
募集要項はというと、対象年齢は24歳から50歳で、契約期間は4カ月。1週間の訓練を受けてからウクライナに派遣されるのだといい、
「月給は手取りで57万円。これはロシア国民の平均額の4倍です。実績に応じて35万円から166万円のボーナス支給もあるそうです」(社会部記者)
兵士不足と士気の低下がウクライナでの戦況を不利にしているとされるロシアだが、それでも非道行為をやめようとしないプーチンの「次の一手」に、ウクライナははたしてどう対抗するのか。
いや、この戦争を続けるロシアのデタラメぶりが次々に明るみに出る中、そもそも応募するロシア人はどれほどいるのか。
●ロシアの面目丸つぶれ、スーダン海軍基地建設計画が頓挫 7/19
アフリカ北東部のスーダンに海軍基地を整備しようとしていたロシアの計画が頓挫したという。米国の外交・安全保障専門誌『フォーリン・ポリシー』(FP)が最近報じた。スーダンは、スエズ運河を通して地中海とつながる紅海に面した国だ。ここに海軍基地を建設することで、世界のコンテナ物流量の30%が通過する紅海に影響力を及ぼし、アラビア半島とペルシャ湾はもちろん、遠くはインド洋にまで海軍の行動半径を拡大しよう−というロシアの戦略にブレーキがかかったのだ。
FP誌によると、ロシアは2017年にスーダンと交渉を始め、2年後の2019年に海軍基地建設協定を結ぶことに成功した。スーダン最大の貿易港であるポートスーダンにロシア海軍300人を常駐させ、軍艦4隻が同時に停泊できる施設を作るというのが骨子だった。ロシアはこの過程で、スーダンを30年間統治してきた独裁者のオマル・アル・バシール大統領にかなり手こずった。プーチン大統領がアル・バシール大統領と直接会って説得し、戦闘ヘリのような兵器も安値で渡した。
ところが2019年にアル・バシール大統領が失脚したことで、海軍基地事業がおかしくなり始めた。極度の経済難と物価高騰で反政府デモが続き、軍事政権が新たに発足した。切羽詰まったロシアは2020年12月、海軍基地建設協定を結んだ事実を公開し、新政権にこれを履行することを要求した。しかしスーダン新政権は「前政権で進められたことであって、議会の批准も得ていない」と拒否した。
昨年10月に再び軍部のクーデターが起きてスーダンに新政権が誕生すると、ロシアは海軍基地事業の復活に乗り出した。ところが今度は政権ナンバーワンとナンバー2の対立が足を引っ張った。軍部の最高指導者、アブデル・ファタ・ブルハン将軍は親ロ傾向だが、逆にナンバー2で「急速支援部隊(Rapid Support Forces)」司令官のモハメド・ハムダン・ダガロ将軍は、西側およびアフリカの周辺国との関係を考慮してロシアの要求に否定的だったという。
FP誌は、米情報当局関係者の話を引用し「その後も状況は進展せず、ロシアの海軍基地事業は事実上白紙になったものとみられる」と伝えた。米国のアフリカ戦略研究センター(ACSS)は「(基地建設で)ロシアが得る戦略的利益に比べ、スーダンがロシアから得る利益は大きくないことをスーダン政府が悟ったらしい」と分析した。
●ロシア、原油基準価格を60ドルに引き上げへ 基金繰り入れ=現地紙 7/19
ロシア財務省は石油輸出収入の一部を安定化基金に繰り入れる基準価格(カットオフ価格)を1バレル=60ドルに引き上げることを提案している。現地紙ベドモスチが19日伝えた。
この制度では、原油価格が基準価格を超えた場合、収入の一部で外貨を購入する。直近の調整は2018年で、1バレル=40ドルに設定した。プーチン大統領はこの仕組みを7月末までに見直すよう政府に命てた。
財務省はまた石油生産量を日量950万バレルとすることを提案した。
ベドモスチによると、ライファイゼン・バンクのエコノミストはこのルールの下で、政府の余剰収入は約2兆5000億─4兆5000億ルーブル(440億─800億ドル)に上ると推計している。政府系ファンド「ナショナル・ウェルス・ファンド(NWF)」に繰り入れられるという。 

 

●西側の対ロ制裁は時間切れ、戦争はプーチンの勝ち? 7/20
ウクライナへの侵攻を受けて、西側諸国が発動した一連の対ロシア制裁は、ロシア経済を機能不全に陥らせ、大きな影響力を持つオリガルヒ(新興財閥)たちを孤立させ、社会に不安をもたらし、ロシア政府を揺さぶることが目的だった。
しかし今、揺さぶられているのはロシアではなく、西側諸国の方だ。
ウクライナでの戦闘と対ロ制裁は、ロシアより西側諸国にさまざまな問題をもたらしている。物価やガソリン価格は高騰し、数カ月後には冬がくるというのに暖房に欠かせない天然ガスの確保の見通しが立たない。ヨーロッパでは政治不安も生じつつあり、イギリスでは、ヨーロッパで最も熱心なウクライナ支持者の一人だったボリス・ジョンソン首相が辞意を表明。イタリアでは、政権内の混乱から、マリオ・ドラギ首相が辞意を表明した。
一連の問題からは、ウクライナに対する世論の支持がいつまでもつだろうかという疑問が浮上する。EUの政策執行機関である欧州委員会によれば、ロシアは依然として、EUにとって原油、天然ガスと石炭の主要な輸入先だからだ。
プーチンの思うつぼ
米ジャーマン・マーシャル財団の客員上席研究員であるブルース・ストークスは、「誰に話を聞いても、みな今後数カ月の見通しを警戒している」と述べた。「高いエネルギー価格、インフレや経済の先行き、ロシアに対する強硬姿勢に世論の支持が続くのかどうかを注視している」
ウクライナでの戦闘と厳しい対ロ制裁がもたらした混乱は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に有利に働いている。
元米国務副長官で現CIA長官のウィリアム・バーンズは、アトランティック誌のインタビューに対して、「ある程度の混乱は、プーチンにとって都合がいい」と指摘した。
バーンズは、国内で不安感が高まり、市民が民主国家の諸制度への信頼を失うと、ロシアのような権威主義国家を利することになるという。「西側諸国の混乱や分裂が深まるほど、プーチンは余裕を感じ、ロシアの侵略に対する西側諸国の抵抗の効果が弱まる可能性が高い」
2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始して以降、西側諸国はロシア政府を罰するためのさまざまな制裁を導入してきた。海外にあるロシア資産の凍結や、ロシア産原油の輸入制限、国際送金・決済システム「SWIFT」からロシアの大手銀行を排除するなどの制裁だ。
ロシア政府を標的としたこれらの制裁に加えて、米ホワイトハウスによれば2月以降、推定1000社を超える米企業・多国籍企業がロシア事業の停止や撤退を決定しており、それに伴い何千人もの労働者、何百万ドル相当もの生産力に影響が出ている。
NATOの政策立案者たちは当初、一連の制裁によって「ロシアが過去15年分の経済成長を失う」ことになると予想していた。フランスのブリュノ・ルメール財務相は3月に、制裁の目的は「ロシア経済を崩壊させる」ことだと述べていた。
もちろん、ロシア経済は打撃を受けている。対外貿易は大幅に減り、貧困率も上昇している。ロイター通信によれば、インフレ率は14.5%近く、モノ不足が徐々に表面化しており、2022年のGDPはマイナス7.1%になる見通しだ。
だが制裁がロシアの特定のセクター以外の、ロシア経済全体にどんな影響を与えているかについては、まだはっきり分かっていない。
ロシアの政治科学者イリヤ・マトベーエフは米ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)とのインタビューの中で、西側諸国による対ロシア制裁が成功と言えるかどうかは基準によって異なるが、プーチンに軍事行動を思いとどまらせる効果から考えれば失敗だ、と述べた。
ロシアは「戦争前より収入が増えている」
「この戦争に対するプーチンの決意は非常に固い。戦闘の長期化に向けた覚悟もある。現在のような制裁で彼の考えを変えることはできない」と彼女は言う。まして、一部の専門家が当初予想したような「ロシア経済の即時崩壊」は起こらなかった。
ロシアの通貨ルーブルは、西側諸国の制裁発動を受けて2月に史上最低水準まで落ち込んだものの6月には反発し、対ドルで7年ぶりの高値をつけた。ブルームバーグによれば、ルーブルは2022年に入って最も好調な通貨だ。
また米シンクタンク「戦略国際問題研究所」によれば、対外貿易が大幅に減ってはいるものの、ロシア最大の輸出品目である石油と天然ガスによる収益は、前年比で80%近く増えている。
6月に開かれた米上院の欧州および地域安全保障協力小委員会の公聴会で、エイモス・ホックスティーン上級顧問は、ロシア政府が原油や天然ガスの販売で、ウクライナ侵攻の数カ月前よりも多くの利益を得ているかどうかを問われると、「それは否定できない」と述べた。「ロシアが石油でこれほど儲けて、経常収支が黒字化するというのは、予想外だった」
インディアナ大学ブルーミントン校のエコノミストであるミハイル・アレクセーエフは、これらの収入源に加えて対外債務が低水準にあることで、ロシアは一連の制裁の最悪の影響を回避できているのだと指摘。「ロシア市民が飢えに苦しむことはない。飢饉が起きることはないだろう」と彼はNPRに述べた。「ただ彼らが生産・消費できるものの種類が減っていくだけだ」
アレクセーエフは、制裁の効果は、どれだけの時間をかけたかによって変わってくると述べた。
「制裁の目的が、ロシア経済を迅速かつ完全に崩壊させることならば、効果は出ていない。ロシア経済は今も機能している」「だがもしもその目的が、時間をかけてロシア経済を弱らせていくことならば、一連の制裁は100%機能していると言えるだろう」
だが残念ながら、制裁の支持者たちには「時間切れ」が迫っているかもしれない。
駐米ロシア大使のアナトリー・アントノフは、本誌とのインタビューの中で、西側諸国は一連の制裁のしっぺ返しを食らうことになるだろう、と警告した。
「制裁によってロシア経済を押さえつける計画は、うまくいかない」「無分別な規制は、米経済の状況をいっそう悪くするだけだ」と、彼は主張する。「米政府は、不可能なことを両立させようとしている」
世論の支持は低下傾向
ジョー・バイデン米大統領は「必要である限り」ウクライナへの支援を続けると宣言しているが、最近の複数の世論調査によれば、米国内での食品およびエネルギー価格の高騰(それぞれ前年比で9%近くと7.5%高騰)を受けて、対ロシア制裁への支持は低下しつつある。
ジャーマン・マーシャル財団のストークスは、その理由について、「多くの人は、ウクライナでの戦闘はきわめて迅速に収束するだろうと見込んでいた」と指摘する。
しかし、そうした見方に反して戦闘は5カ月目に突入。usinflationcalculator.comによれば、2022年6月までの12カ月のアメリカのインフレ率(年率)は、9.1%に達している。ロナルド・レーガン大統領(当時)の就任1年目だった1981年(10.33%)以来、最も高い水準だ。
調査会社モーニング・コンサルトの調査データによれば、アメリカの有権者のうち、国内の物価高騰を招いても対ロシア制裁を支持する人は47%と、4月の56%から減っている。ウクライナを守るのはアメリカの義務だと考えている有権者はさらに少なく、全体のわずか44%だった。
米上院外交委員会のメンバーで、6月にマドリードで開催されたNATO首脳会議の会合にも出席したクリス・クーンズ上院議員は、この世論の変化を大いに懸念している。
「幅広い国で、戦争の経済的コストや戦争が突きつけるその他の差し迫った問題を受けて、国民の間に戦争疲れが生じることを懸念している」と、彼はニューヨーク・タイムズ紙に語った。
ストークスも、問題は時間との戦いだと指摘する。
「ロシアが持久戦に持ち込んできたなら、我々も経済制裁を長期にわたって維持し、それがいずれ彼らを弱体化させることを期待するしかない」と彼は言う。
「ヨーロッパのある政治家が、私にこう言った。自分はあらゆる対ロシア制裁を支持しているが、有権者たちは、冬になれば家を暖めるための燃料も必要なのだと」
●ユーロが売られる、ウクライナ戦争の拡大やロシア産ガスの供給不安で 7/20
ユーロが売られる、ウクライナ戦争の拡大やロシア産ガスの供給不安で=ロンドン為替概況
ロンドン市場は、ユーロが売られている。あすのECB理事会を控えて利上げ幅に関心が集まるなか、ユーロドルは序盤に高値を1.0273レベルまで伸ばした。市場では0.25%と0.50%の利上げ幅の観測が拮抗している状況。その後、やや上値が抑えられるなかで、露外相が、ウクライナ特別作戦の地域をドンバス地方のみならずその他地域へと拡大したと発言。ロシア産ガス供給への不安も加わってユーロ売りが強まった。ユーロドルは一時1.0174レベルまで下落。欧州株や米株先物・時間外取引も下げに転じる動きがみられた。リスク警戒感が広がるなかで、ユーロ円も141円台半ばから140.60付近まで下落。ユーロポンドは序盤の上昇を消した。ポンドは連れ安となり、対ドルでは1.20台割れから1.1965近辺へ、対円では166円台前半から165.40付近まで下落した。この日発表された英消費者物価指数は前年比+9.4%と一段と上昇加速したが、ポンドは売り反応を示していた。そのなかで、ドル円は138.20付近での揉み合いを続けており、ほとんど反応していない。
ドル円は138円台前半での取引。ロンドン時間入ってからも138.20付近での揉み合いが続いている。あすの日銀やECB理事会での金融政策発表を控えて動きにくくなっている状況。欧州株や米株先物・時間外取引は買い先行も、売りに転じる動き。米債利回りは低下と、リスク警戒の動きが優勢になっているが、ドル円はほとんど反応していない。
ユーロドルは1.02近辺での取引。序盤に1.0273レベルまで高値を伸ばしたあとは、上値を抑えられている。1.0250割れ辺りから急速に売りが強まり、一時1.0174レベルまで下落。その後は1.02付近へ下げ渋っている。ユーロ円も朝方に141.93レベルの高値をつけたあとは、売りが強まり140.62レベルまで急落。その後は141円付近へと下げ渋り。対ポンドでは上に往って来い。ウクライナ戦争の拡大懸念、ロシア産ガス供給不安などロシアをめぐるネガティブな報道が重石に。
ポンドドルは1.19台後半での取引。東京市場で1.2038レベルの高値を付けた後は上値重く推移。ロンドン時間にはユーロドルの下落とともに1.1965レベルまで一時下げた。ポンド円は166円台前半から売りの押されて165.40付近の安値を広げた。ユーロポンドは序盤に0.8540近辺まで上昇、その後は0.85ちょうど付近まで下落と上に往って来い。この日発表された英消費者物価指数は前年比+9.4%と一段と上昇加速したが、ポンドは売り反応。コア前年比が+5.8%と前回から若干低下したことに反応したもよう。
●プーチン氏がイラン訪問、旧ソ連以外への外遊は侵攻以来初 7/20
ロシアのプーチン大統領は19日、イランを訪問し、最高指導者ハメネイ師やライシ大統領と会談した。2月にウクライナへの侵攻を開始して以来、プーチン氏にとっては初の旧ソ連圏外への外遊となった。
トルコのエルドアン大統領が加わった3カ国協議では、シリア情勢を巡る協議が行われた。さらに、プーチン大統領とエルドアン大統領によるウクライナ侵攻後初の直接会談では、ウクライナに滞留する穀物の輸出再開などを巡り協議した。
イラン国営テレビによると、ハメネイ師はプーチン大統領にイランとロシアの長期的な協力を呼びかけ、両国が「西側の偽り」を警戒する必要があると語った。
ハメネイ師は、プーチン大統領がロシアの米国からの「独立維持」を確実にしたとし、貿易で自国通貨の利用を目指す国に支持を表明。「米ドルは世界貿易から段階的に排除されるべき」と述べた。
ウクライナ情勢については、プーチン大統領が「イニシアチブを取っていなければ、相手(西側)が戦争を起こしただろう」とし、ロシア政府には他に手段はなかったという考えを示した。
ライシ大統領もプーチン大統領との会談後、「両国はテロ対策に優れた経験を持ち、これが安全をもたらしてきた」とし、プーチン大統領の訪問が「独立した両国の協力を拡大させることを願う」と述べた。
プーチン大統領のイラン入りに先立ち、イラン国営石油(NIOC)とロシアのガス生産会社ガスプロムは、エネルギー協力に関する約400億ドル規模の了解覚書に調印した。
また、ウクライナからの穀物輸出再開に向け、ロシア、ウクライナ、トルコ、国連の各代表団が今週末にも合意書に署名する見通しについて、プーチン大統領はエルドアン大統領との会談後、「エルドアン氏の仲介によって前進した」と謝意を示し、ロシアとトルコが先週イスタンブールで開かれた4者協議の結果に「満足している」と語った。
プーチン大統領はさらに、ロシア、イラン、トルコの3カ国が内戦の続くシリアの「正常化」に向けた努力を続けることにコミットしているとした。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー報道官は、プーチン大統領のイラン訪問について、ウクライナ侵攻後、ロシアがいかに孤立しているかを示していると語った。さらに、イランがロシアにドローン(無人機)を供与した兆候は確認していないと述べた。
●プーチン氏がイラン訪問、関係強化図る ウクライナ大横領夫人は訪米 7/20
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は19日、イランの首都テヘランで同国とトルコの首脳らと会談した。2月にウクライナに侵攻を開始して以来、2度目の外遊となる。
具体的な発表はほとんどなかったものの、プーチン大統領にとっては、ロシアがどこでものけ者にされているわけではないと示す機会となった。
会談では、ウクライナの黒海経由での穀物輸出の再開が話し合われた。プーチン大統領は、協議に進展があったと述べた。
また、シリア内戦についても協議が行われた。トルコとロシアはこの内戦でそれぞれ反対勢力を支援している。
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師はプーチン氏との会談後の記者会見で、イランはロシアとの関係を強化するべきだと発言。また、ウクライナ侵攻の非は西側諸国にあると示唆した。
ハメネイ師はプーチン氏に対し、「もしあなたがイニシアチブを取らなかったら、向こうがイニシアチブを取って戦争を起こしただろう」と述べたという。
プーチン氏とエルドアン氏が初会談
アメリカ政府はこの会談について、ウクライナ侵攻をきっかけにロシアがいかに孤立しているかを示していると指摘。
米当局は先週、イランがウクライナでの戦争に向け、ロシアに何百機ものドローンを供給することを計画していると主張した。ロシアのエネルギー大手ガスプロムも、イランの国営石油会社と数百万ドル規模の契約を結んでいる。
一方、プーチン氏とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の直接会談は今回が初めて。トルコは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国だが、トルコは国際的な対ロシア制裁には参加しておらず、仲裁役になろうと努めている。
トルコ政府は特に、黒海経由の穀物輸出が停止していることについてロシアと交渉を重ねようとしている。現在、ロシア海軍が封鎖している海域以外のルートには、大量の機雷が設置されているという。
プーチン氏はこの日、この問題について進展が見られたと発言。ロシアとウクライナの橋渡し役を担うエルドアン大統領に感謝の言葉を述べた。
その後の記者会見では、「ロシア産穀物輸出のための空輸に関するすべての制限」が解除されれば、ロシア政府はウクライナ産穀物の輸出を促進すると話した。
BBCは先に、ロシア政府がウクライナ産穀物を盗み出し、輸出している証拠を報じた。
ウクライナ保安局での更迭が加速
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は19日、保安局(SBU)のウォロディミル・ホルベンコ副長官と地方治安当局のトップ数人を解任した。
17日には、SBUと検察当局でロシアに協力する反逆行為が多数見つかったとして、イワン・バカノフSBU長官ととイリナ・ウェネディクトワ検事総長を解任していた。
ゼレンスキー大統領は、ロシアが占領した地域で60人以上の元政府職員が、ウクライナに敵対し、ロシアに協力していると述べた。さらに、法執行機関の職員がロシアに協力したりウクライナに敵対したりした疑いで、計651件の事件捜査に着手していると話した。
バカノフ氏をめぐってはここ数週間、2月のロシアの侵攻を食い止められなかったとして、ゼレンスキー氏が解任を求めていたと報じられている。
バカノフ氏とウェネディクトワ氏は国家反逆罪には問われていない。しかし両氏共、ロシアの干渉によって開戦当初のウクライナの抵抗能力に影響を与えたと思われる機関を運営していた。
ウクライナのファーストレディーが訪米
ウクライナのファーストレディー(大統領夫人)のオレナ・ゼレンスカ氏が18日、アメリカに到着した。政府高官との協議に加え、連邦議会で演説を行う予定。
ゼレンスカ氏は18日にアントニー・ブリンケン国務長官と会談。19日には米ファーストレディーのジル・バイデン氏と面会した。
ジル氏は5月にウクライナを訪問しており、2人の会談は2回目となる。
連邦議会での演説は20日に予定されている。夫のゼレンスキー大統領も4カ月前、ビデオ通話で議会で演説し、武器供与を訴えた。
ゼレンスカ氏はウクライナ政府で公式な役職を持っていない。しかしロシアの侵攻開始から5カ月近くがたった今、ウクライナ政府はさらに、アメリカからの兵器供与と政治的な支援を必要としている。
米議会はすでに、ウクライナ支援に400億ドル(約5兆5000億円)を投入することを決めており、9月末までに完了する見込み。
ゼレンスカ氏は18日に米国際開発庁(USAID)のサマンサ・パワー長官とも会談。USAIDは人道面でウクライナ政府に数十億ドルの支援を行っているほか、ロシアの侵攻によって引き起こされている世界的な食糧不足にも対応している。
テニスのカサチナ選手がカミングアウト、ロシア政府を非難
女子テニスでロシア1位のダリア・カサトキナ選手(25)が、自身が同性愛者であると公表した。ロシア政府の同性愛者に対する態度を批判し、ウクライナ侵攻をやめるよう訴えた。
ロシアでは同性愛行為は違法ではないが、未成年に「同性愛のプロパガンダ」を広めることは禁止されており、同性愛嫌悪が広がっている。
現在、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイ首長国に住むカサトキナ選手は、「ロシアでは非常に多くの話題がタブーになっている」と述べた。
先に開催されたテニスの英ウィンブルドン選手権では、ロシアとベラルーシの選手の出場が禁止された。ツアーには参加できるものの、代表選手としては出場できない。
人生で最も望んでいることは何かという質問に対し、カサトキナ選手は「戦争が終わること」と答え、ウクライナ侵攻は「本当の悪夢」だと付け加えた。
また、ロシアに戻れないと「怖く」なることはないかと聞かれると、涙ぐみながら「はい、それを考えたことはある」と話した。
ロシアではウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼んでおり、「戦争」を含むその他の呼称は認められていない。
●戦いを拒んで帰国し、迫害されるロシアの少数民族兵士 7/20
ウラジーミル・プーチン大統領が主導する対ウクライナ戦争の前線で、ロシア軍の一部兵士は戦闘への参加を拒み、帰国している。そのなかには、凍傷にかかって手足の一部を切断せざるを得なかった者がいたことを、兵士らの故郷の人権活動家が明らかにした。
この活動家と軍事弁護士が独立系英字紙モスクワ・タイムズ紙に語ったところによると、プーチンのウクライナ侵攻からわずか数週間の3月、ロシア軍のある部隊の兵士300人が命令に反してウクライナ東部ドネツク州の陣地を離れ、故郷であるダゲスタン共和国の町ブイナクスの基地へ戻ってきたという。
同記事によれば、兵士たちは契約軍人で、基地に戻ってから契約解除の手続きを開始し、その後、脱走兵として扱われた。
契約軍人らから弁護を依頼された軍事弁護士は、モスクワ・タイムズ紙に対し、ウクライナでの戦闘に加わることを拒否して無断で任地を離れたことによって、彼らが重罪に問われる可能性が出てきたという。
「兵士らは軍服や武器に問題があったと主張している」と、この弁護士は語った。「軍人が10日以上勤務地を離れた場合、刑事責任が問われる可能性があり、現在、軍検察庁が調査している」
ある人権活動家によると、帰国時に手足が凍傷にかかっていた兵士もいて、何人かは「黒くなった部分を切り落とさなければならなかった」ため、障害者になった。
この活動家によると、兵士たちの軍服や備品には問題があり、支給された武器は「欠陥品」だったという。一部の兵士は親族や地元当局からの圧力でウクライナに戻った。
モスクワ・タイムズ紙は、兵士たちの帰国にはプライベートな事情がからみ、退役したことを恥じる気持ちもあるため、兵士に直接話を聞くことはできなかったとしている。
本誌は、これらの主張を独自に確認することができず、ロシア外務省にコメントを求めている。
今回のケースが報道される前にも、ブリヤート共和国出身のロシア軍兵士100人がウクライナでの戦闘を拒否して帰国していたことが、反戦団体によって報告された。
ブリヤート族が結成した反戦運動団体「フリー・ブリヤート財団」によると、ロシア国防省との契約を解除した軍人150人を乗せた飛行機が、7月9日にモンゴル国境近くのロシア領内に着陸したという。
同財団の創設者アレクサンドラ・ガルマジャポワは、軍人らの妻たちは今年6月、ロシア軍に従軍中の夫は契約を打ち切ろうとしており、契約解除後は帰国させてほしいと訴える動画を作成し、ブリヤート共和国の首長に請願した、とウクライナのテレビ局に語った。
帰国の途に就く前、軍人らはウクライナ東部ルハンシク州の収容所に数日間拘束され、訴訟を起こすと脅かされたという。
ロシアの軍事専門家パベル・ルジンは3月、ガーディアン紙に、戦死する兵士の多くがブリヤート、カルムイキア、ダゲスタンといった貧しい「少数民族」共和国の出身であることが明らかになりつつある、と述べた。
これらの地域出身者は、ロシア軍の下級兵士に多いとルジンは言う。
ロシアの調査報道機関インポータント・ストーリーズが収集したデータによると、ダゲスタンとブリヤートは共に、ロシアの対ウクライナ戦争で公式に報告された死傷者の数が最も多い地域となっている。
●シリア、ウクライナと断交 7/20
シリアは20日、ウクライナとの断交を表明した。ウクライナが先に、シリアがウクライナ東部ドンバス(Donbas)地方の親ロシア派支配地域「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認したのを受け、シリアとの断交を表明したことへの対抗措置だとしている。
匿名で取材に応じたシリア外務省高官は国営シリア・アラブ通信(SANA)に対し、「相互主義の原則に基づき、ウクライナ政府の決定に呼応する形で断交を決定した」と述べた。
●ロシア国防相 無人機破壊を指示 ウクライナ軍は要衝の橋を攻撃  7/20
ウクライナへの侵攻を指揮するロシアのショイグ国防相が前線部隊を視察して、ウクライナ軍の無人機を破壊するよう指示し、ウクライナ側の攻撃能力をそぐねらいがあるとみられます。一方のウクライナ軍はロシアが掌握を主張する南部ヘルソン州で交通の要衝の川にかかる橋を攻撃したとみられ、反撃を続けています。
ロシア国防省は20日、ショイグ国防相がウクライナで戦闘を続ける前線部隊を視察したと発表しました。
ショイグ国防相は現地の司令官から戦況の報告を受けたうえで、「ロシアとの国境地帯で攻撃を行うウクライナの無人機を破壊するペースを加速させるよう指示した」としていて、ウクライナ軍がロシアが掌握した地域で無人機を使って攻撃を仕掛けているとして作戦を強化するよう指示しました。
ショイグ国防相はこのところ前線部隊の視察を相次いで行っていて、18日にも現地の司令官に対し「敵側は長距離ミサイルと大砲で攻撃している」としたうえで、ウクライナ軍が使用するミサイルを優先的に攻撃するよう指示するなど、ウクライナ軍の攻撃能力をそぐねらいがあるとみられます。
ロシア軍は掌握を目指す東部ドネツク州で地上作戦を本格化させようとしていますが、一方のウクライナ軍は欧米から供与された兵器を使ってロシア側が掌握したと主張する南部ヘルソン州などで反撃を続けています。
戦況を分析するイギリス国防省は20日、ウクライナを縦断しヘルソン州から黒海につながる交通の要衝のドニプロ川で、19日、ウクライナ軍が川にかかる橋を攻撃したと指摘しました。
イギリス国防省によりますと、ロシア側はヘルソン市を含むこの地域を重視していて、この橋はロシア軍にとって物資の補給や部隊を撤退させるために必要なルートだったため、今後もロシア軍がこの橋を支配し続けるかどうかはこの地域の戦況の重要な要素になると分析しています。
●ウクライナ大統領夫人 アメリカ大統領夫人と会談 支援訴えたか  7/20
ウクライナのゼレンスキー大統領の妻、オレーナ氏は19日、ワシントンのホワイトハウスで、ジル・バイデン アメリカ大統領夫人と会談し、オレーナ氏は、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの支援を訴えたものとみられます。
ウクライナのゼレンスキー大統領の妻オレーナ氏は19日、ワシントンのホワイトハウスで、アメリカのバイデン大統領とファースト・レディーのジル氏の出迎えを受けました。
このあと、ジル氏とオレーナ氏が会談し、ジル氏は冒頭、ことし5月にウクライナにある避難民の受け入れ施設を訪問したことを振り返り、「悲しみや痛みを感じずにはいられなかった」と述べ、避難した母子の精神的なケアについて、アメリカとして検討を進めていると明らかにしました。
会談の内容は明らかになっていませんが、オレーナ氏は、ロシアによる侵攻が続くウクライナへの支援を訴えたものとみられます。
オレーナ氏は20日、アメリカの連邦議会で演説を行うことになっています。
●ロシア軍「穀物50万トンを略奪」…ウクライナ「農地の30〜40%占領された」  7/20
ウクライナのミコラ・ソリシキー農業政策・食料相は、19日に配信された英紙フィナンシャル・タイムズとのインタビューで、ウクライナを侵略しているロシア軍が、これまでにウクライナの農地全体の「30〜40%」を占領し、「50万トンの穀物を略奪した」と指摘した。
ソリシキー氏は、露軍の黒海封鎖が続けば、ウクライナ国内で今後、小麦や大麦の種まきが「30〜60%減少する」との懸念を示した。穀物輸出が停滞して収入が減ったうえ、肥料や燃料の価格が高騰しており、農家の経営が危機に直面しているとも訴えた。
ソリシキー氏によると、露軍が占領地域で穀物を「盗む」行為は依然として続いているという。奪った穀物はロシア本国に運ぶほか、ロシア産と称して輸出しているとされる。ソリシキー氏は、ロシアの支援を受けるシリアがこうした穀物を輸入していると指摘し、侵略が終わっても、シリアにはウクライナ産穀物を輸出しない可能性も示唆した。
●AMDAウクライナ支援報告“軍事侵攻長期化も支援継続必要” 7/20
ウクライナからの避難民の医療支援を行ってきた岡山市の国際医療ボランティア団体「AMDA」が20日、現地での活動を報告し「軍事侵攻が長期化しても支援を継続することが必要だ」と訴えました。
AMDAは、ことし3月から徳島県の団体とともに、隣国ハンガリーに医師や看護師などを派遣し、これまで12人が、ウクライナからの避難民の医療支援にあたっています。
20日、現地で活動した看護師と医学部の学生が岡山市で記者会見を開きました。
このなかで、7月まで4か月近く隣国ハンガリーで活動してきた榎田倫道看護師は、父親をウクライナに残し、母親と避難してきた6歳くらいの男の子のストレスを和らげようと、絵を描いてもらったところ、ロシア語で「お父さん」と書き、多くのストレスがかかっていることを実感したと話しました。
また軍事侵攻の長期化で、現地で活動するボランティアの数が減ってきているため、一部のボランティアに負担がかかっていることや、多くのウクライナ人が支援がなくなる恐怖を抱えていることから、継続した支援が必要だと訴えました。
AMDAでは、現在も看護師など2人をハンガリーに派遣しウクライナ避難民の医療支援にあたっていて、今後も、追加の派遣を検討しているということです。
●ロシア プーチン大統領 小麦輸出停滞 事態打開に取り組む姿勢  7/20
ロシアのプーチン大統領はトルコのエルドアン大統領と会談し、ロシア軍による封鎖で黒海に面するウクライナの港から小麦などの輸出が滞っている問題をめぐり、事態の打開に向けて取り組む姿勢を示しました。一方でロシア軍はウクライナ東部ドネツク州で、集合住宅や弾薬庫にミサイル攻撃を行うなど攻勢を強めています。
ロシアのプーチン大統領は19日イランの首都テヘランを訪問し、同じくテヘランを訪れたトルコのエルドアン大統領と、ウクライナへの軍事侵攻後初めて対面で会談しました。
会談の冒頭プーチン大統領は、ロシア軍による黒海の封鎖でウクライナ産の小麦などの輸出が滞っている問題について「トルコの仲介の努力に感謝したい。われわれは前進した。すべての問題が解決したわけではないが事態が動くことはよいことだ」と述べ、事態の打開に向けて取り組む姿勢を示しました。
この問題をめぐっては、ロシアとウクライナ、それに仲介役のトルコと国連を交えた4者が今週にも大詰めの交渉を行う見通しです。
世界的に食料価格が高騰する中、今回の会談がウクライナからの小麦などの輸出の再開につながるかどうか、今後のロシアの対応が焦点となります。
一方ウクライナ東部ドネツク州の知事は19日、クラマトルシク中心部で集合住宅がロシア軍のミサイル攻撃を受け、少なくとも1人が死亡し6人がけがをしたとSNSに投稿しました。
またロシア軍は、ドネツク州でミサイル攻撃によって装甲車や弾薬庫を破壊したと発表し、今後州全域の掌握に向け、地上作戦を本格化させるとみられています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は18日の分析で、ロシア軍がドネツク州内で、まずはウクライナ側が拠点としているスロビャンシクの周辺の町から徐々に攻勢を強めるという見方を示しています。
プーチン大統領 “エネルギー価格の高騰 欧米側に責任”
ロシアのプーチン大統領はイランでの一連の会談を終えたあと、ロシアメディアなどとの個別会見に応じ、ドイツに天然ガスを送る主要なパイプライン「ノルドストリーム」について言及しました。
「ノルドストリーム」を運営するロシアの政府系ガス会社ガスプロムは、定期点検を理由に今月11日からガスの供給を停止していますが、ロシア側が点検が終わる予定の21日以降も、経済制裁を科すドイツに対し揺さぶりをかけるため、供給を再開しないのではないかという懸念が出ています。
プーチン大統領は、供給を再開するかどうかについて明言しませんでしたが「われわれのパートナーが、自分たちの失敗の責任をロシアやガスプロムに押しつけようとしているが、全く根拠がない。ガスプロムは常にすべての義務を果たしてきたし、今後もそうし続けるだろう」と述べ、エネルギー価格の高騰などは欧米側に責任があると批判しました。
そのうえで「最近、ロシア産の石油の量と価格を制限しようとするばかげた話を耳にするが、ガスと同じことになる。価格が高騰するだけだ」と述べ、欧米側のさらなる経済制裁をけん制しました。
また、プーチン大統領は現在のエネルギー危機を解決するためには、ウクライナ情勢を受け、ドイツが計画を停止した新たなパイプライン「ノルドストリーム2」を稼働させる必要性にも言及し、欧米側に揺さぶりをかけるねらいがあると見られます。
●プーチン大統領 “小麦輸出協力もロシアの輸出 制限解除必要”  7/20
ロシアのプーチン大統領は訪問先のイランでトルコのエルドアン大統領と会談し、ロシア軍による封鎖で黒海に面するウクライナの港から小麦などの輸出が滞っている問題をめぐり事態の打開に取り組む姿勢を示しました。
ただその後の会見では、ロシアの穀物輸出に関する制限措置の解除も必要だと主張していて、今後のロシアの対応が焦点となります。
ロシアのプーチン大統領は19日、訪問先のイランの首都テヘランでトルコのエルドアン大統領とウクライナへの軍事侵攻後、初めて対面で会談しました。
会談の冒頭、プーチン大統領は、ロシア軍による黒海の封鎖でウクライナ産の小麦などの輸出が滞っている問題について「われわれは前進した。すべての問題が解決したわけではないが、事態が動くことはよいことだ」と述べ、事態の打開に取り組む姿勢を示しました。
ただ、その後に行ったロシアメディアなどとの個別会見でプーチン大統領は「輸出再開に協力するが、ロシア産の穀物の輸出に関するすべての制限措置が解除されることも必要だ。国際機関との交渉ではパッケージにしていて、アメリカを含め、今のところ誰も反対していない。近い将来どうなるか見てみよう」と述べました。
ウクライナ産の小麦などの輸出の問題をめぐってはロシアとウクライナ、それに仲介役のトルコと国連を交えた4者が今週にも大詰めの交渉を行う見通しです。
これを前に欧米によるロシアへの制裁の解除を求める姿勢を改めて示した形で、世界的に食料価格が高騰する中、ウクライナからの小麦などの輸出の再開につながるかどうか、今後のロシアの対応が焦点となります。
シリア内戦では立場の違い
今回のロシア、イラン、トルコの3か国の首脳会談では、内戦が続くシリアをめぐっても意見が交わされました。
この中で、トルコのエルドアン大統領は「テロ組織をシリアから一掃すべきだ。ロシアとイランにも支持してほしい」と述べ、シリア北部のクルド人武装組織に対してトルコが軍事作戦を行う計画を容認するよう求めました。
これに対し、イランのライシ大統領は「シリアの運命は外国の介入なしに、シリア国民が決める必要がある。軍事的措置は状況を深刻にする」と述べて、政治的解決を訴えました。
また、プーチン大統領も「この地域を安定化させ、正当なシリア政府の支配下に戻すために、3か国協議の場でさらなる措置を講じることが望まれる」と述べるにとどまり、シリア内戦をめぐるトルコと両国の立場の違いが浮き彫りになった形です。
●ウクライナの学校でロシア人教師による「歴史修正教育」が始まる 7/20
ロシアが占領下のウクライナへ、何百人もの教師を送り込んでいる。9月から始まる来年度に向けて、ウクライナの子供たちにロシア寄りに「修正された」歴史教育を施せば、大金を約束するというのだ。
モスクワから約650キロ東に位置するチュヴァシ共和国では、ある学校長が教師たちのチャットグループに、月給2900ドル以上がもらえる見込みだと書き込み、希望者を募った。この地域の平均月給は約550ドルなので、その5倍を超える額だ。
学校長のメッセージにはこう書かれていた。
「緊急:ザポリージャとヘルソン地方で夏期講習の教師を募集。日当8600ルーブル(約2万1000円)。仕事は新学期のための学校の準備。往復の交通費は支給。宿泊費と食費についても検討中」
この好待遇に一部の教師の心は揺れた。
プーチンの「ロシア化」計画
プーチン政権は、ウクライナ人の歴史観、民族観、そして言語さえも消し去ろうと、占領地域で猛烈に「ロシア化」を進めているとみられる。
そこでカギとなる戦略は、子供たちの教育内容を狙うことだ。ロシアのクラフツォフ教育相は6月末に、ウクライナの教育は「修正されなければならない」と語っている。
ロシア南部ダゲスタン共和国のウェブサイトに掲載されたリスト(現在は消去されている)によると、250人近くの教師がウクライナ派遣に申し込んでいた。ダゲスタンだけでなく、ロシア全土から手を挙げた教師たちだ。
行き先は、ロシア政府が支援する分離主義地域のルハンスクとドネツク、ザポリージヤ、ヘルソンなど。ダゲスタン教育省は、教師の現在の給与に加え、1日8000ルーブル(約2万円)を支払うと宣伝していた。
給料目当てで申し込んだゲオルギー・グリゴリエフは、少なくとも1年間はウクライナで教えるつもりだと語る。「そして、おそらくそこに留まることになるでしょう。向こうでアパートを購入してね」
ロシア版「ウクライナ国家の歴史」
プーチンのロシア化計画の熱心な支持者の一人であるクラフツォフ教育相は、6月中旬にウクライナ南部のメリトポリに飛び、ウクライナの子供たちにロシア版「国家の歴史」を教えるというモスクワの決意を強調した。
「重要な仕事は、生徒に完全な真実、兄弟の関係にある私たち民族についての真実を伝えることだ」
7月に入り、ロシア人教師の「旅団」がウクライナに到着したと発表された数日後、クラフツォフは北東部の都市を訪れ、言語や歴史などのロシア語教科書の第一陣も到着したと述べた。いわく、ウクライナの子供たちはロシア人との「友好の伝統」を学ばなければならない。そうすれば、結果として「私たちの幸せな子供たちが生まれるだろう」。
こうした動きは、ロシアの教育制度が大きく見直される流れとも呼応している。ロシアでは安全保障のトップが新しい「愛国的」世代を育てるよう学校に呼びかけ、歴史の教科書は「ウクライナはもともと実在しなかった」というプーチンの見解を反映するように改訂されつつある。
「呪われた金」を稼ぎに行くのか
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで教師をしているラリサ(姓は匿名を希望)は、この戦争に反対し、ウクライナに教えに行くことは道徳的に許されないと考えている。そこには、ロシアの攻撃によって殺されたり、避難を余儀なくされた何百万人もの人々がいるからだ。
「でも残念ながら、その呪われたお金を稼ぐためにウクライナに行く教師はいるでしょう。彼らがどんな気持ちで鏡に映る自分の姿を見ることができるのか、私にはわかりません」
ラリサは、歴史の教師が最も苦労することになるだろうと予想する。ウクライナの生徒の自国の歴史に対する見方を、ロシア政府の要求通りに変えなければならないからだ。
「うまくいくとは思えません」と彼女は言う。「殺されたり罰せられたりする脅威に怯えている子供たちは、ロシア人教師の言うことを信じるふりはできるでしょう。でも心の底では信じておらず、復讐の機会を待つのではないでしょうか」
●西側の対ロ制裁は時間切れ、戦争はプーチンの勝ち? 7/20
ウクライナへの侵攻を受けて、西側諸国が発動した一連の対ロシア制裁は、ロシア経済を機能不全に陥らせ、大きな影響力を持つオリガルヒ(新興財閥)たちを孤立させ、社会に不安をもたらし、ロシア政府を揺さぶることが目的だった。
しかし今、揺さぶられているのはロシアではなく、西側諸国の方だ。
ウクライナでの戦闘と対ロ制裁は、ロシアより西側諸国にさまざまな問題をもたらしている。物価やガソリン価格は高騰し、数カ月後には冬がくるというのに暖房に欠かせない天然ガスの確保の見通しが立たない。ヨーロッパでは政治不安も生じつつあり、イギリスでは、ヨーロッパで最も熱心なウクライナ支持者の一人だったボリス・ジョンソン首相が辞意を表明。イタリアでは、政権内の混乱から、マリオ・ドラギ首相が辞意を表明した。
一連の問題からは、ウクライナに対する世論の支持がいつまでもつだろうかという疑問が浮上する。EUの政策執行機関である欧州委員会によれば、ロシアは依然として、EUにとって原油、天然ガスと石炭の主要な輸入先だからだ。
プーチンの思うつぼ
米ジャーマン・マーシャル財団の客員上席研究員であるブルース・ストークスは、「誰に話を聞いても、みな今後数カ月の見通しを警戒している」と述べた。「高いエネルギー価格、インフレや経済の先行き、ロシアに対する強硬姿勢に世論の支持が続くのかどうかを注視している」
ウクライナでの戦闘と厳しい対ロ制裁がもたらした混乱は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に有利に働いている。
元米国務副長官で現CIA長官のウィリアム・バーンズは、アトランティック誌のインタビューに対して、「ある程度の混乱は、プーチンにとって都合がいい」と指摘した。
バーンズは、国内で不安感が高まり、市民が民主国家の諸制度への信頼を失うと、ロシアのような権威主義国家を利することになるという。「西側諸国の混乱や分裂が深まるほど、プーチンは余裕を感じ、ロシアの侵略に対する西側諸国の抵抗の効果が弱まる可能性が高い」
2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始して以降、西側諸国はロシア政府を罰するためのさまざまな制裁を導入してきた。海外にあるロシア資産の凍結や、ロシア産原油の輸入制限、国際送金・決済システム「SWIFT」からロシアの大手銀行を排除するなどの制裁だ。
ロシア経済を崩壊させるはずが
ロシア政府を標的としたこれらの制裁に加えて、米ホワイトハウスによれば2月以降、推定1000社を超える米企業・多国籍企業がロシア事業の停止や撤退を決定しており、それに伴い何千人もの労働者、何百万ドル相当もの生産力に影響が出ている。
NATOの政策立案者たちは当初、一連の制裁によって「ロシアが過去15年分の経済成長を失う」ことになると予想していた。フランスのブリュノ・ルメール財務相は3月に、制裁の目的は「ロシア経済を崩壊させる」ことだと述べていた。
もちろん、ロシア経済は打撃を受けている。対外貿易は大幅に減り、貧困率も上昇している。ロイター通信によれば、インフレ率は14.5%近く、モノ不足が徐々に表面化しており、2022年のGDPはマイナス7.1%になる見通しだ。
だが制裁がロシアの特定のセクター以外の、ロシア経済全体にどんな影響を与えているかについては、まだはっきり分かっていない。
ロシアの政治科学者イリヤ・マトベーエフは米ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)とのインタビューの中で、西側諸国による対ロシア制裁が成功と言えるかどうかは基準によって異なるが、プーチンに軍事行動を思いとどまらせる効果から考えれば失敗だ、と述べた。
ロシアは「戦争前より収入が増えている」
「この戦争に対するプーチンの決意は非常に固い。戦闘の長期化に向けた覚悟もある。現在のような制裁で彼の考えを変えることはできない」と彼女は言う。まして、一部の専門家が当初予想したような「ロシア経済の即時崩壊」は起こらなかった。
ロシアの通貨ルーブルは、西側諸国の制裁発動を受けて2月に史上最低水準まで落ち込んだものの6月には反発し、対ドルで7年ぶりの高値をつけた。ブルームバーグによれば、ルーブルは2022年に入って最も好調な通貨だ。
また米シンクタンク「戦略国際問題研究所」によれば、対外貿易が大幅に減ってはいるものの、ロシア最大の輸出品目である石油と天然ガスによる収益は、前年比で80%近く増えている。
6月に開かれた米上院の欧州および地域安全保障協力小委員会の公聴会で、エイモス・ホックスティーン上級顧問は、ロシア政府が原油や天然ガスの販売で、ウクライナ侵攻の数カ月前よりも多くの利益を得ているかどうかを問われると、「それは否定できない」と述べた。「ロシアが石油でこれほど儲けて、経常収支が黒字化するというのは、予想外だった」
西側諸国を待ち受けるしっぺ返し
インディアナ大学ブルーミントン校のエコノミストであるミハイル・アレクセーエフは、これらの収入源に加えて対外債務が低水準にあることで、ロシアは一連の制裁の最悪の影響を回避できているのだと指摘。「ロシア市民が飢えに苦しむことはない。飢饉が起きることはないだろう」と彼はNPRに述べた。「ただ彼らが生産・消費できるものの種類が減っていくだけだ」
アレクセーエフは、制裁の効果は、どれだけの時間をかけたかによって変わってくると述べた。
「制裁の目的が、ロシア経済を迅速かつ完全に崩壊させることならば、効果は出ていない。ロシア経済は今も機能している」「だがもしもその目的が、時間をかけてロシア経済を弱らせていくことならば、一連の制裁は100%機能していると言えるだろう」
だが残念ながら、制裁の支持者たちには「時間切れ」が迫っているかもしれない。
駐米ロシア大使のアナトリー・アントノフは、本誌とのインタビューの中で、西側諸国は一連の制裁のしっぺ返しを食らうことになるだろう、と警告した。
「制裁によってロシア経済を押さえつける計画は、うまくいかない」「無分別な規制は、米経済の状況をいっそう悪くするだけだ」と、彼は主張する。「米政府は、不可能なことを両立させようとしている」
世論の支持は低下傾向
ジョー・バイデン米大統領は「必要である限り」ウクライナへの支援を続けると宣言しているが、最近の複数の世論調査によれば、米国内での食品およびエネルギー価格の高騰(それぞれ前年比で9%近くと7.5%高騰)を受けて、対ロシア制裁への支持は低下しつつある。
ジャーマン・マーシャル財団のストークスは、その理由について、「多くの人は、ウクライナでの戦闘はきわめて迅速に収束するだろうと見込んでいた」と指摘する。
しかし、そうした見方に反して戦闘は5カ月目に突入。usinflationcalculator.comによれば、2022年6月までの12カ月のアメリカのインフレ率(年率)は、9.1%に達している。ロナルド・レーガン大統領(当時)の就任1年目だった1981年(10.33%)以来、最も高い水準だ。
調査会社モーニング・コンサルトの調査データによれば、アメリカの有権者のうち、国内の物価高騰を招いても対ロシア制裁を支持する人は47%と、4月の56%から減っている。ウクライナを守るのはアメリカの義務だと考えている有権者はさらに少なく、全体のわずか44%だった。
米上院外交委員会のメンバーで、6月にマドリードで開催されたNATO首脳会議の会合にも出席したクリス・クーンズ上院議員は、この世論の変化を大いに懸念している。
「幅広い国で、戦争の経済的コストや戦争が突きつけるその他の差し迫った問題を受けて、国民の間に戦争疲れが生じることを懸念している」と、彼はニューヨーク・タイムズ紙に語った。
「暖房用の燃料だって必要だ」
ストークスも、問題は時間との戦いだと指摘する。
「ロシアが持久戦に持ち込んできたなら、我々も経済制裁を長期にわたって維持し、それがいずれ彼らを弱体化させることを期待するしかない」と彼は言う。
「ヨーロッパのある政治家が、私にこう言った。自分はあらゆる対ロシア制裁を支持しているが、有権者たちは、冬になれば家を暖めるための燃料も必要なのだと」
●プーチン氏、ノルドストリーム1再開に疑念 7/20
ロシアのプーチン大統領は20日、ロシアから欧州に天然ガスを供給するパイプライン「ノルドストリーム1」について、カナダで修理されたタービンが「どのような状態で返却されるかは不明」で、スイッチが切られていればノルドストリーム1を通じたガス供給は停止する可能性があるという認識を示した。
ノルドストリーム1は定期メンテナンス終了後、21日に稼働を再開すると見込まれている。
ロシア国営ガスプロムは6月、カナダで修理中のタービンの返却が遅れていることを理由に、ノルドストリーム1のガス供給量を40%に削減していた。
また、プーチン大統領はこの日、設備の保守点検が遅れているため供給量をさらに絞る可能性があるとも警告していた。

 

●ロシア外相「制圧対象はウクライナ東部だけでない」 作戦の目標拡大鮮明に 7/21
ロシアのラブロフ外相は20日、ウクライナにおけるロシア政府の軍事作戦は現時点で親ロ派勢力が一部を実効支配する東部ドンバス地域を超えたとし、戦争の目標を拡大したことを鮮明にした。
ロシアのプーチン大統領は2月にウクライナ侵攻に踏み切った際、ウクライナ領土を占領する計画はないと言明していたものの、ラブロフ外相は国営メディアのインタビューで、3月下旬のウクライナとの和平交渉で突破口が開けなかったことを受け、状況は変化したと指摘。
「もはや(親ロシア派支配地域の)ドネツク人民共和国やルガンスク人民共和国のみではない。(南部)ヘルソンやザポロジエ地域、他の多くの地域も含まれる」とし、制圧を目指す地域がルガンスク・ドネツク2州のドンバス地域から拡大していることを明示した。
さらに、西側諸国がウクライナに対し高機動ロケット砲システム「ハイマース」など長距離兵器の供給を続ければ、ロシア軍による地理的な作戦が「現在のラインからさらに拡大する」と警告した。
ウクライナのクレバ外相はラブロフ氏の発言に反発。「ロシア外相はウクライナの領土をさらに奪うという夢を告白し、ロシアが外交を拒否して戦争やテロ行為に焦点を当てていることを証明した。ロシアが求めているのは血であり、話し合いではない」と批判した。
米政府はロシアによるウクライナ領土の併合に抵抗すると表明。当局者は前日に、ロシアがウクライナで制圧した地域を正式に併合するために準備を整えているとの認識を示していた。
米国務省のプライス報道官は20日の定例会見で「武力併合は明確な国連憲章違反だとわれわれは説明してきたし、それがまかり通る状況にはさせない」と述べた。
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長はドンバス地域はまだロシアの手に落ちていないと指摘。ウクライナ軍は既にルガンスク州から撤退している。
オースティン米国防長官は、ウクライナに対しハイマース4基を追加供与すると明らかにした。
一方、南部ザポロジエ州でロシア側が一方的に設置した行政府は、同州にある原子力発電所にウクライナ側が無人機で攻撃したが、原子炉に被害はなかったと発表した。ロイターは真偽を確認できていない。
●「戦争のためでなく家を守るための武器を」 大統領夫人、米議会で演説 7/21
アメリカを訪問中のウクライナのファーストレディー(大統領夫人)、オレナ・ゼレンスカ氏が20日、米連邦議会で演説し、ロシア軍と戦うウクライナ軍への支援強化を求めた。
「私は武器を求めているのです。他国の領土で戦争をするためではなく、家を守るための武器を」と、気持ちを込めて訴えた。
演説に先立ち、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は20日、ウクライナでの軍事目標を東部地域だけでなく南部にも拡大していく方針を表明。西側諸国がウクライナに、これまでよりさらに射程距離の長い武器を供与したのが、その原因だと示唆した。
●“ウクライナの顔”解任…情報漏洩か 7/21
ウクライナ東部ハルキウで20日、またも市民の命がロシア軍によって奪われました。
バス停にミサイルが直撃し、3人が死亡。1人は13歳の少年です。15歳の姉も重傷を負い、深刻な状態だといいます。
地元警察「警察は、これらの犯罪をすべて記録しています。記録したものは、国際法廷に提出する予定です」
攻撃は翌日も行われました。この日も少なくとも3人が死亡。狙われたのは商業施設や住宅街で、クラスター弾が使用されたという情報もあります。
ドネツク州でも、学校や病院が標的にされています。
ルハンシク州全体が陥落して2週間あまりが経過。ドネツク州への攻撃は激しさを増していますが、その割にはロシア軍の侵攻速度は鈍っているのが現状です。
一方で、南部に目を向けると、ウクライナ側の奪還攻勢が勢いを増しています。
戦況の変化をもたらしたのは、やはり欧米から届いた高機動ロケット砲システム『ハイマース』でした。
ウクライナ、レズニコフ国防相「ウクライナ軍は8基のハイマースの使用を開始し、これまで約30カ所の指令所や弾薬庫を破壊しました。これにより、砲撃力を劇的に衰えさせ、ロシア軍の進撃を大幅に遅らせています」
ハイマースが実戦投入されて1カ月。ウクライナ軍は遠距離から相手の後方部隊をピンポイントにたたけるようになりました。
へルソン州では、ロシアの補給路を無力化しつつあり、反転攻勢の原動力になっていることは明らかです。
アメリカはさらに4基、追加供与を発表しました。ロシアとしては黙っていられません。
ロシア、ラブロフ外相「西側諸国は自分たちがしたこと、その影響を考えなければならない。現在は地理的目標も変わってきている。ドンバス2州だけでなく、ヘルソンやザポリージャ、他の多くの地域も含まれることになる」
これは、長距離兵器をウクライナに流し続ければ、攻撃対象を東部2州から拡大するぞという脅しです。
これまでウクライナ全土が攻撃されてきたことは誰もが知っていますが、これがロシアお得意の“揺さぶり”です。
同時に、別の揺さぶりもかけてきました。
ロシアの天然ガスをヨーロッパに運ぶ『ノルドストリーム1』。10日ほど前から、メンテナンスを理由にガスの供給を止めていました。
21日は、そのメンテナンスの終了日ですが、その前日、プーチン大統領からこんな発言がありました。
ロシア、プーチン大統領「点検修理が終わったと言うが、どのような基準で終了したのか。もしかしたら、稼働させても突然止まってしまうかもしれない。そうなれば終わりだ。ノルドストリームはストップしてしまう。なぜなら、修理された部品は、カナダから持ち込まれるからだ」
ノルドストリーム再開はまだかもしれない。資源エネルギーを盾にとった揺さぶりです。
21日にメンテナンスが終わり、ガスの供給は再開されました。もちろん100%ではなく“かつての40%”。EU(ヨーロッパ連合)への当てつけのように減らした供給量は、もとに戻すことはありませんでした。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。
Q.天然ガスの供給をめぐる動きは、ロシア流の揺さぶりということですか?
ロシアから揺さぶりをかけることによって、相手の動きを制するという、いつものロシア流の外交手法になります。今回、ロシア側から供給の停止をちらつかせることによって、ドイツ側から天然ガスの完全な禁輸に踏み込めないように揺さぶりをかけたことになります。他方で、サハリン2を通じて日本に対しても、ロシアは揺さぶりをかけているので、決してドイツだけではありません。
Q.40%とはいえ、供給を再開したことは何かのサインですか?
ロシア側から100%供給を停止するつもりではないということです。部分的に供給を絞る、停止することによって、完全な禁輸に踏み込んだ場合、どういう状況になるのかをドイツ側に実感させながら、今後のドイツのエネルギー事情などに不安・懸念を呼び起こす、政治的な狙いがあると思います。
Q.ロシア軍の作戦は「東部に留まらない」という、ラブロフ外相の発言はどう読み取ったらいいですか?
ウクライナ軍はハイマースを使って、南部にいるロシア軍の軍事拠点に効果的な攻撃を続けています。ロシアとしても、アメリカなどがハイマースをウクライナ軍に供与すること自体、一定の脅威として受け止めているわけです。今後、欧米が引き続きハイマースの供与を強めることになれば、ロシアは戦線を拡大して長期戦に持ち込むんだと。東部2州のみならず、南部やそれ以外の地域を含めて、徹底抗戦していく姿勢を、ラブロフ外相が欧米諸国に外交的に示しながら、欧米諸国による追加の軍事支援をけん制しているんだと思います。
ウクライナ国内では、ゼレンスキー大統領が盟友と言われる、ベネディクトワ検事総長と保安局のバカノフ長官を解任しました。「部下の職員60人以上がロシアに協力した反逆の疑いがある」としています。
Q.盟友まで切ってしまった。ウクライナで何が起きていますか?
ベネディクトワ検事総長は、ブチャなどの残虐行為が戦争犯罪にあたるとして捜査しています。また、欧米諸国に対して、ロシアの残虐行為を積極的にアピールしている“ウクライナの対外的な顔”のような人です。バカノフ長官は、ゼレンスキー大統領の幼馴染で、ゼレンスキー大統領を大統領選挙で勝たせた立役者でもあります。こういう盟友・側近を解任する事態になったということは、ロシア軍にかなり情報が流れていたのではないでしょうか。ウクライナ軍の位置情報や軍事拠点の情報がロシアに流れたことで、ロシア軍が効果的な攻撃を行っていたのではないか。戦況に影響しつつあり、ゼレンスキー大統領としても、看過できなかったということだと思います。ただ、これはゼレンスキー大統領の足もとが揺らいでいることにもなります。ゼレンスキー政権の権力基盤の強さがどこまで維持されるのか。ロシアも注目していると思います。
Q.今後の戦況は、どうなっていくとみますか?
ロシアのペースで展開しつつある印象を受けるので、少し潮目が変わってきているのではないかと。外交面からすると、外交的な揺さぶり・攻勢をかけながら、ロシアも欧米諸国に対して強気の外交姿勢を展開しています。アメリカなども中間選挙をかかえて、バイデン大統領も内向きになっていますし、イギリスのジョンソン首相が辞任を表明するなど、欧米諸国のウクライナに対する支援疲れもロシアは感じ取っていると思います。戦況に関しては、ロシアは長期戦に持ち込みながら、拙速することなく、確実に歩を進めていく。ロシア軍の焦りも、最近は見られなくなりました。
Q.戦況がウクライナに有利になるとしたら、どういう可能性がありますか?
一にも二にも、欧米諸国がどの程度の兵器支援をいつまで、どのレベルで続けられるのかにかかると思います。いずれにしても、残念ながらウクライナ戦争は長期戦が避けられないと思います。
●ロシアは核威嚇でウクライナの反転攻勢を止めにくる?──米戦争研究所 7/21
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ロシアが支配しているウクライナのヘルソン、ザポリッジャ(ザポリージャ)、ドネツクとルハンスク(ルガンスク)の各地域でウクライナ側の反撃を阻止するために、核の脅しを使うかもしれない──アメリカのシンクタンクが、このような見方を示した。
国際紛争を監視するシンクタンク「軍事研究所(ISW)」は、7月19日に新たな戦況分析を発表。この中で、ロシア政府がもし(現在ロシア軍が占領している)これらの地域を直接的または間接的に併合した場合、「ロシアの領土を守るための核兵器使用を認める」という方針が、これらの地域にも適用されることになると指摘した。
ロシアの軍事ドクトリンは、ロシアの領土に対するあらゆる攻撃に対して(それが核兵器による攻撃ではなくても)、核兵器の使用を認めている。2000年以降に発表された複数のドクトリンにはいずれも、ロシアは自国や同盟国に対する「いかなる類の大量破壊兵器を使用した攻撃があった場合、それに対応するために核兵器を使用する権利を有する」と明記されている。
ロシアが推し進める「併合戦略」
ISWは戦況分析の中で、「ウクライナが占領地域の奪還を目指して反撃を続けるなか、これらの地域がロシアに併合されれば、ウクライナとそのパートナーが核の脅威にさらされることになる」と指摘した。
このISWの戦況分析に先立ち、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は、ロシアが現在占領しているウクライナの複数の地域について、併合の準備を進めていると警告。2014年にクリミア半島を併合した際に用いた戦略を繰り返していると述べた。
カービーはホワイトハウスで行った記者会見の中で、新たに機密解除された諜報を引用し、「ロシアは併合戦略とも言えるものを展開し始めている」と述べた。
さらに彼は、ロシアが早ければ今年の秋にも、ヘルソン、ザポリッジャ、それにドネツクとルハンスクの全地域をはじめとする占領地域の併合を計画していることを示唆する「十分な証拠がある」と主張。ロシアが複数の占領地域で自国通貨のルーブルを流通させ、代理の当局者を任命し、一部の住民にロシア国籍の取得を強制して、パスポートを発行していると述べた。
ロシア安全保障会議のドミトリー・メドベージェフ副議長は17日、クリミア半島に対する攻撃があれば、ウクライナに「終末の日が訪れるだろう」と述べ、迅速かつ断固たる対応を取る考えを示した。
ISWは戦況報告の中で、プーチンは「壊滅的なウクライナ侵攻により、ロシアの従来型の抑止力が打ち砕かれた」ことを受けて、核の脅しや核兵器の使用によってその抑止力を回復させることができると考えている可能性があると指摘。ただし、過去にロシア政府が核兵器使用をちらつかせた発言については、いずれも「口先だけだったことが判明」してきたともつけ足した。
その上でISWは「ウクライナと西側のパートナー諸国にとって、ロシア政府が占領地域を併合する前に、ウクライナがこれらの地域で反撃に出るのを支援するチャンスは、限られたものになりつつあるのかもしれない」と指摘した。
またISWは戦況報告の中で、ロシア政府に対しては、国家総動員令を発令するよう求める圧力が高まっていると分析した。プーチンはこれまでのところ、ウクライナでの戦闘を「特別軍事作戦」と位置付けているが、ウクライナに対する全面戦争を宣言すれば、法の定めにより徴兵を行い、予備役を動員することができる。
●ロシア ウクライナ南部の掌握も視野 米はハイマース追加供与へ  7/21
ロシア軍は東部や南部で激しい攻撃を続けていて、ラブロフ外相は東部2州にとどまらず南部など周辺地域の掌握も視野に入れていることを明らかにしました。一方、アメリカは、射程が長く精密な攻撃が可能な高機動ロケット砲システムを追加で供与する方針を明らかにし、ウクライナ軍が欧米からの軍事支援を受けて反転攻勢に出られるかが焦点です。
ロシア国防省は20日、東部ドネツク州の武器庫などをミサイルで攻撃したほか、南部オデーサ州ではアメリカの対艦ミサイル「ハープーン」を破壊したと発表しました。
ロシアのラブロフ外相は20日、国営通信社が伝えたインタビューで「今や地理的な目標は変わった。ドンバス地域だけでなく、ヘルソン州やザポリージャ州、さらにほかの地域も含まれる」と述べ東部2州にとどまらず、南部や南東部など周辺地域の掌握も視野に入れていることを明らかにしました。
ラブロフ外相の発言は支配地域の目標を拡大するもので、東部2州以外への攻撃も正当化するとともに、掌握した地域を将来、一方的にロシアに併合することも視野に入れ、南部などで「ロシア化」を進めたい思惑もあるとみられます。
一方、アメリカのオースティン国防長官は20日、ウクライナに高機動ロケット砲システム=ハイマースを追加で4基供与する方針を明らかにしました。
ハイマースは射程が長く精密な攻撃が可能とされる兵器で、アメリカはすでに12基を供与し、ウクライナ軍はロシア軍の弾薬や物資の供給網のほか指揮所など軍事拠点に対する攻撃に使っています。
オースティン長官は、記者会見で「ウクライナには砲撃に耐え反撃するための火力が必要で、支援の勢いを維持し強化するために、われわれは力強く後押ししていく」と強調しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は20日に公開した動画で、ハイマースなどの追加供与を歓迎したうえで、「ウクライナへの近代的な兵器の供給を増やし、有効な防空手段を提供することが必要だ」と述べていて、ウクライナ軍が欧米からの軍事支援を受けて反転攻勢に出られるかが焦点です。
●ロシア再攻勢か ウクライナ・ハルキウ 地面にミサイル突き刺さったまま 7/21
ウクライナ情勢をめぐり、ロシア軍は北東部にある第2の都市ハルキウ制圧を果たせず5月に一旦撤退しましたが、ここにきて再び街への攻撃を強めています。JNNはその最前線近くで任務に当たるウクライナ軍を取材しました。
ウクライナ北東部にある第2の都市ハルキウ。ロシアが完全制圧を目指す東部ドンバス地方に近く、侵攻当初から激しい攻撃にさらされました。
ロシアのラブロフ外相は、東部だけでなく南部の制圧も目指していると表明。さらに、アメリカのシンクタンクは先週、「プーチン大統領がハルキウの奪取を指示した可能性がある」との見方を示しました。ハルキウをめぐっては、5月にロシア軍が撤退する動きも見せましたが、先月下旬から再び攻撃を強めています。
今回JNNは特別な許可を得て、ハルキウ郊外でウクライナ軍が任務にあたる現場を取材しました。
記者「ここで24時間、毎日、前線の方を確認しながら防衛にあたっているということです」
ウクライナ兵「砲撃やミサイル、ロシア兵の動きや、ロシア軍の場所を目視して砲撃部隊に伝えることで、敵をたたくための場所です」
ここから前線までは5〜6キロほど。日によっては1キロほどの場所で戦闘になるといいます。
ウクライナ兵「戦う準備はできています。毎日、24時間」
付近の集落を訪れると…
記者「両側に民家がずらっと立ち並ぶ場所なんですが、あちらにはミサイルが地面に直接突き刺さっています」
放置されたロケット弾のすぐ横を車が通り過ぎていきました。
集落の住民「3キロ先のところに避難していましたが、2か月で戻ってきたんです。家主にこれ以上受け入れられないと言われたので…」
砲撃は取材中にも…
記者「これがあなたの日常ですか?」
集落の住民「いまのは静かな方だよ」
日夜、恐怖に身をすくめる住民たち。命を落とす人も多くいます。
集落の住民「ロケット砲の音が響いているとき、夫は心臓発作を起こし死んでしまったんです」
インタビューをしていると…
兵士「ここはとても危険な状況になりました」
記者「いまインタビュー中ですが、危険だから取材を終えて戻るということになりました」
付近で正体不明のドローンを確認したとの情報を受信。ロシア側が飛ばした可能性があるということで、取材クルーも現場を離れましたが、これに関連した攻撃は確認されませんでした。
侵攻開始からまもなく5か月。戦闘終結の兆しはみえないままです。
●プーチン氏はなぜ暴挙に至ったのか?〜元首相らが語った素顔〜  7/21
ウクライナ侵攻という暴挙に及んだプーチン大統領。背景にはアメリカが世界各地で推し進めてきた民主化の動きをみずからへの脅威として受け止めてきた経緯があります。
NHKスペシャル「混迷の世紀」取材班はプーチン大統領を間近で見ていた2人の人物にインタビューし、プーチン大統領の素顔や知られざるエピソード、そして、今後のウクライナ情勢の行方について聞きました。
“プーチン大統領は普通の人だった” 元顧問の証言
「混迷の世紀」取材班が向かったのは、ロシアの首都モスクワ。ロシア大統領府でメディア戦略などを担当したグレブ・パブロフスキー氏のもとを訪ねました。
パブロフスキー氏はエリツィン大統領の時代から、プーチン政権1期目・2期目、そしてプーチン氏が首相を務めたメドベージェフ政権時代まで、長年ロシアの政界を内側から見ていた人物です。
プーチン大統領の第一印象を尋ねると意外な答えが返ってきました。
パブロフスキー氏「何の印象も受けませんでした。私は当時すでに5年エリツィン大統領のもとで働いていましたが、誰が後継者に選ばれるかはどうでもよいと思っていました。プーチンはロシア大統領府で働いていたので私は会議などで彼と顔を合わせていましたが、いたって普通の人でした。『次の大統領候補はエリツィンよりも若く、健康でなければならない』という条件を彼は満たしていました」
当時のプーチン氏は、今、私たちが目にしているのとはまったく異なる印象の人物だったと、パブロフスキー氏は語りました。
パブロフスキー氏「今とはまったくの別人です。彼は陽気で誠実な人でした。何か際立つ特徴があったわけではありませんが、飲み込みが早く、合理的で理知的な人物でした。エリツィンの後釜に就くと、プーチンは自分がエリツィンより弱いわけではなく、自分も『ロシアの主人』なのだということを証明しなくてはなりませんでした」
ロールモデルはあのアメリカ元大統領だった
パブロフスキー氏はプーチン大統領が当時ロールモデルとしていた人物として、意外な名前を挙げました。
パブロフスキー氏「プーチンは、アメリカのブッシュ大統領を手本にしていました。彼のことをとても気に入っていたのです。彼はブッシュが好きでしたし、ブッシュも彼のことが好きでした。彼らには政治的ロマンスがあったと言ってもいいでしょう。彼らは友人でした」
2001年9月、アメリカで同時多発テロ事件が起きると、プーチン大統領はアメリカと協調する姿勢を見せました。
当時ロシア国内でも首都モスクワや南部のチェチェンなどでテロ事件が起き、対応に苦慮していたプーチン大統領は、いち早く同時多発テロ事件の現場を訪れ、ブッシュ大統領を強く支持。
その後、ブッシュ大統領は「テロとの戦い」を掲げ、力には力で対抗するという強硬な姿勢を示し、アフガニスタンでの軍事作戦を開始しました。
パブロフスキー氏「プーチンはブッシュのやり方が気に入っていました。ブッシュのやり方とは権威主義的なやり方です。当時言われていたように“軍事皇帝”のやり方でした。プーチンも“軍事皇帝”になりたかったのです。そして彼はブッシュを見て、どのように振る舞うべきかを学びました」
さらに、当時プーチン大統領はNATO=北大西洋条約機構に対しても、いまとはまったく異なった考えを抱いていたとパブロフスキー氏は明かしました。
パブロフスキー氏「私はプーチンに『NATOに入りたいのか?』と尋ねました。するとプーチンは言いました。『なぜそんなことを聞く?もちろんだ。ほかに選択肢などない』と。なぜなら彼はNATOとして結束する西側に力があると考えていたからです。ロシアは当時テロ攻撃にさらされていましたが、NATOこそがロシアの安全を保障できると考えたのです。しかしその後、ブッシュ大統領の任期が終わる頃に、アメリカで金融危機が起きました。ブッシュ大統領はそれに対応することができず、プーチンは自分があてにしてきた力がそこに無いということに気づいたのです」
“ロシアは当初NATO入りを検討していた” 元首相の証言
今回、私たちの取材に応じたもうひとりの人物。それは、プーチン政権が発足した2000年から4年間、首相を務めたミハイル・カシヤノフ氏です。カシヤノフ氏はいまロシア国外に身を移し、プーチン政権への批判を強めています。カシヤノフ氏は居場所を明かしておらず、オンラインでのインタビューとなりました。
カシヤノフ氏にもプーチン大統領の第一印象を尋ねると、パブロフスキー氏とは別の角度からの答えが返ってきました。
当初プーチン大統領が民主的なロシアを築くと期待していましたが、次第に強権化する姿を目の当たりにして、たもとを分かったと言います。
カシヤノフ氏「2000年当時、プーチンを支持し一緒に働いていた人たちは皆、彼が民主主義の原則を信奉し、民主主義国家と市場経済を築こうとしている新しいリーダーだと思っていました。エリツィンも私もそう思っていました。私が首相として一緒に働くときに出した条件は、『すべての改革の主導権を私に認めてほしい』ということでした。彼は『そうする』と約束しました。一方、彼が出した条件は『私の領域には口を出すな』というものでした。『私の領域』とは、治安当局に関連する活動。つまり、警察・諜報活動、軍、特殊部隊などのことです」
カシヤノフ氏は当時政権内部で、ロシアのNATO入りが検討されていたと証言しました。
カシヤノフ氏「私自身、『ロシアはNATOの加盟国となることを切望している』と公言していました。プーチンはもう少し控えめで慎重に『ロシアのNATO加盟の可能性を排除しない』と言っていました。加盟は実現しませんでしたが、前進もありました。2002年5月にローマで開催されたNATO首脳会議で『NATO・ロシア理事会』が設立されたのです。“加盟”という形ではありませんでしたが、協力関係ができて、政治面でも軍事面でも合同の会議などが開かれるようになりました。ですから、『遅かれ早かれロシアも加盟するだろう。正しい道を進んでいる』と考えられていました」
欧米型民主主義への不信を深め敵視するように
しかしカシヤノフ氏は2004年にウクライナで起きた「オレンジ革命」を機に、プーチン大統領が民主主義に不審を抱くようになったと言います。
市民の抗議活動をきっかけに、ロシア寄りの政権が欧米寄りの政権に取って代わられたのです。
カシヤノフ氏「ウクライナで民主主義を志向する人々が、ヨーロッパの価値観に支えられた発展の道は正しいと、国民の大半を説得できたことに、プーチンはひどく落ち込みショックを受けました。市民が路上に出て、憲法で保証された権利、例えば選挙の開票作業の徹底を求めることで、運命が決まることさえありえるのだと彼は理解しました。彼はすぐに、同じようなことがロシアで起きるのではないかと恐れるようになりました。それで、野党勢力への弾圧を始めたのです」
この頃ロシアが勢力圏と見なす旧ソビエトのジョージアやキルギスにも民主化の波が押し寄せていました。
いわゆる「カラー革命」です。
当時プーチン大統領に顧問として仕えていたパブロフスキー氏によれば、プーチン大統領は民主化の動きの背後にアメリカがいると、さいぎ心を深めていったと言います。
パブロフスキー氏「プーチンは思考の構造上、陰謀論者です。民主化革命がアメリカの陰謀だと確信していました。ウクライナ大統領府に対してアメリカは非常に強い影響力を持っていました。当時私は間近にいたので、プーチンがアメリカのせいだと考えていたことをよく覚えています。プーチンはアメリカの影響力の拡大を止めたいという思いを強めていきました」
“プーチンのNATO脅威論はでっち上げ” 元首相の分析
以来、欧米が掲げる民主主義を敵視するようになったプーチン大統領。
元首相のカシヤノフ氏は、プーチン大統領がNATOを脅威と捉えてウクライナ侵攻に及んだとする見方は誤りだと考えています。
カシヤノフ氏「戦争を始めた根拠は常に変化しています。当初プーチンはNATOのせいだと言っていましたが、それはでっち上げです。NATOはすでにエストニアとラトビアにまで拡大していて、ロシアと国境を接しています。しかしプーチンは何の脅威も感じていません。彼が最も恐れているのは、ロシアの隣国ウクライナがもし民主主義国家として繁栄した場合、ロシア国民が『なぜ自分たちはそうなれないのか』と疑問に思い始めることです。『まともで繁栄した国家を築くための資源はウクライナの何倍もあるのに、ロシアはどんどん落ちぶれていく』と。ウクライナが繁栄した国家になることは脅威なのです」
プーチン大統領はロシア国内で民主化の動きが強まり、みずからの政権が脅かされるのを防ごうと強権化していった。
カシヤノフ氏はそう指摘した上で、民主主義を敵視する姿勢が、ウクライナ侵攻の動機にもなったと見ています。
「ロシアはこれまで完全な民主主義国家だったことがありません。今や完全な権威主義国家となり全体主義へと向かっています。“プーチンのロシア”という全体主義です。彼は自分が作り上げた国家機構が敬われるべきだと考えていますが、世界からは認められません。プーチンはそれが気に入らないのです。彼は『民主主義国家を締めつけてやろう』、『民主主義国家には選挙や議会があるが、ロシアでは必要ない』と考えています。それで戦争も始めたというわけです」
長期化が懸念されるウクライナ侵攻 今後の行方は
ウクライナ侵攻の長期化が懸念される中、今後の行方を2人はどう見ているのか。
パブロフスキー氏は一刻も早く終わらせなければならないとしながら、同時にそれは非常に難しいという見通しを語りました。
パブロフスキー氏「ロシアにもウクライナにも交渉文化の経験がありません。どちらも交渉するすべを持っていないのです。私は交渉がうまくいったケースを1つも思い出すことができません。ですから戦争を終わらせるというのは極めて難しい課題です。しかし着手しなければなりません。理不尽な戦争に踏み切ったのは誤った決断でした。ただロシアを崩壊させることができないのも事実です。なぜならロシアの国家体制はこの30年間、攻撃への抵抗を基盤として築き上げられてきたからです。確かに人々の暮らし向きは悪くなるでしょうし、失業率は少し上がるでしょう。経済ももちろん落ち込むでしょう。しかし私たちはすでに何年もゼロ成長の中で暮らしているのです。人によっては実感さえ湧かないかもしれません」
一方、カシヤノフ氏が最後に語ったのは、世界が冷戦終結後に築き上げてきた国際秩序を守ることの重要性でした。
今年2月、国連の安全保障理事会では、ロシアに対してウクライナからの軍の即時撤退などを求める決議案がロシア自身の拒否権によって否決されました。
安保理が機能不全に陥っているという批判が高まる中、カシヤノフ氏は国連改革の必要性にも言及しました。
カシヤノフ氏「プーチンは新たな国際秩序が必要だという考えを世界に押しつけようとしています。しかしそれを受け入れてはなりません。侵略者を止め、既存の秩序を守らなければならないのです。国際秩序はすべての国々が信奉する価値に基づいています。その第1の価値は『人権の尊重』。そして第2の価値は『民主主義体制』、つまり国民がみずからの政府を選ぶということです。今求められているのは、複数の穴をふさぐ仕事です。国連、ヨーロッパの安全保障体制、国際的な金融機関、それらの枠組みの中で何を修正できるか考えなければなりません。プーチンが生み出した今日の諸問題を教訓として既存の制度を改善すべきなのです。ウクライナ侵攻のようなことが2度と起きないように」
●ロシア軍と中国軍の艦艇 活発な動き 時間差で日本列島を周回  7/21
ロシアのウクライナ侵攻後、日本周辺でのロシア軍の艦艇の航行が相次いで明らかになっています。中でも注目を集めたのが、先月、中国軍の艦艇と時間差で行った日本列島を周回するような航行でした。
ロシア軍艦艇の動き
一連の航行の始まりは6月9日でした。
北海道の根室半島の南東、およそ170キロの太平洋でロシア海軍の駆逐艦とフリゲート艦、合わせて5隻が活動しているのを海上自衛隊が確認しました。
6日後の6月15日には、この5隻に、別の駆逐艦などを合わせた7隻が、襟裳岬の南東、およそ280キロの海域を南下しているのが確認されます。
7隻は翌16日には千葉県沖を航行し、さらに17日にかけて、伊豆諸島の須美寿島と鳥島の間を通過。
そして、2日後の6月19日には、駆逐艦1隻とフリゲート艦1隻を除く5隻が、沖縄本島と宮古島の間を北西に進み、東シナ海に入ったのが確認されます。
5隻は、2日後の6月21日には、対馬海峡を通って日本海に入り、結果的に、ロシア海軍の船団は艦艇を入れ替えながら10日余りをかけて、日本列島の周りを航行しました。
中国軍艦艇の動き
一方、中国軍の艦艇も、同じような時期に日本列島を周回するように航行しました。
6月12日から13日にかけて、ミサイル駆逐艦や情報収集艦など4隻が対馬海峡を北東に進み、日本海に入ったのが確認されます。
その後、4隻は2隻ずつ二手に分かれ、ミサイル駆逐艦2隻が、6月16日から17日にかけて宗谷海峡を、情報収集艦など2隻が、6月16日に津軽海峡を、それぞれ東に向けて通過しました。
そして、6月19日には、情報収集艦を除く3隻が、宮城県沖およそ220キロの太平洋を南下しているのが確認されます。
3隻は、先に太平洋を南下していたロシア軍の艦艇と同じようなルートを通って、6月21日に伊豆諸島の須美寿島と鳥島の間を通過。
そして、6月29日から30日にかけて、沖縄本島と宮古島の間を北西に進み、半月ほどをかけて日本列島を、ほぼ1周しました。
時間差で、それぞれ日本列島を周回するように航行したロシア軍と中国軍の艦艇。
海上自衛隊で司令官を務めた元海将の香田洋二さんは「ロシアによるウクライナ侵攻以降、インド太平洋地域をめぐって同調する姿勢を強める日本とアメリカに対し、中ロの連携や海軍力を誇示するねらいがあったと思う。こうした航行は今後、増える可能性がある」と話しています。
防衛省はそれぞれの航行の目的について情報収集と分析を進めています。
自衛隊基地に米軍無人機を配備 監視態勢強化へ
東シナ海などで活動を活発化させる中国を念頭に、警戒・監視態勢を強化するため、日米両政府は、アメリカ軍の無人機を自衛隊の基地に初めて配備する方針を決め、鹿児島県にある海上自衛隊鹿屋航空基地への配備計画が進められています。
配備される無人機は
配備が計画されているのは、アメリカ軍の無人偵察機「MQ9」で、全長はおよそ11メートル、航続距離は8500キロです。
過去にはアフガニスタンやイラクでの軍事作戦に投入されたことがありますが、防衛省によりますと、今回、鹿屋基地に配備が計画されている無人機は、情報収集のための偵察型で武器は搭載しないとしています。
防衛省は7月以降、およそ2か月の準備期間を経て、無人機8機を1年間運用する計画だとしていて、準備作業にあたるアメリカ軍の関係者が20日に現地に入りました。
防衛省は、無人機の配備に伴って、アメリカ軍の関係者が最大でおよそ200人駐留し、市内のホテルに宿泊すると説明しています。
米軍の無人機配備 地元は
日米両政府は、ことし1月に行われた外務・防衛の閣僚協議、いわゆる「2プラス2」で海洋進出の動きを強める中国を念頭に両国の施設の共同使用を増やしていくことで一致。
鹿屋基地で現地調査を行ったうえで、ことし5月、地元の鹿屋市に対し、無人機を配備する意向を伝えました。
鹿屋市の中西市長は7月11日、安全保障上の観点などから「容認はやむをえない」として計画の受け入れを表明し、その後、住民への説明会を開いて受け入れを決めた経緯を説明しました。
鹿屋基地にアメリカ軍の部隊が長期間、駐留するのは過去に例がなく、住民からは事件や事故の発生といった市民生活への影響や、部隊駐留の長期化、それに施設の共同使用の拡大による“米軍基地化”などを懸念する声が出されました。
こうした中、鹿屋市は21日、配備の期間は1年で延長は行わないこと、国は事件や事故の未然防止に努め、発生した場合は国の責任で適切に対処すること、それに地域振興の取り組みに国が最大限協力することなどを定めた協定を九州防衛局と結びました。
●停戦交渉「全土からの撤退が条件」 ゼレンスキー氏側近 単独インタビュー 7/21
ロシアのウクライナへの軍事侵攻から、まもなく5カ月を迎える中、ゼレンスキー大統領の側近であるポドリャク大統領府顧問が、FNNの単独インタビューに応じ、停戦交渉で1歩も譲らない姿勢を強調した。
インタビューが行われたのは、大統領府内の執務室。
軍事侵攻開始以降、側近としてゼレンスキー大統領を支えてきたポドリャク氏は、執務室で過ごす時間がほとんどで、いすの上には、着替えや大量の資料が積み重なっていた。
停戦交渉団の中心メンバーであるポドリャク氏は、ウクライナ幹部の象徴的な色でもあるカーキ色のシャツで姿を現し、ロシアとウクライナ双方が参加している穀物の輸出をめぐる交渉について、懐疑的な見方を示した。
ポドリャク大統領府顧問「おそらくロシアは、穀物輸出に関する合意に違反するだろう。すでに違反しようとしている。いわゆる穀物輸出回廊や輸送船団に関する交渉は、極めて限定された地域の問題であり、大きな停戦交渉プロセスの枠の外にある」
ポドリャク氏は、ロシアの対応に疑念を呈したうえで、穀物の輸出と停戦交渉は別の問題だと明言した。
停戦交渉についても、ポドリャク氏は「ロシアがウクライナ全土から撤退しないかぎり、交渉には応じない」と語り、2014年にロシアが一方的に併合したクリミアからの撤退も交渉の条件にする意向を強調した。
大統領府の窓辺には、攻撃に備えた土のうが積まれ、ロシアへの警戒が解けない現状を物語っていた。
●露、ウクライナ第2の発電所を制圧する狙いか ドネツク北東の町へ接近 7/21
英国防省は21日、ロシア軍がウクライナ東部ドネツクの北東約50キロの町、ボホレヒルスクに近づいているもようだと分析した。露軍は侵攻後、原子力発電所などのインフラ施設の制圧を優先目標にしており、この町には国内で2番目に大きい発電所がある。英国防省は発電所を制圧し、ドネツク州クラマトルスクやスラビャンスクなどの要衝獲得に向けた足掛かりにする狙いもあるとみている。
露側は東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)制圧を目指している。ただ、米シンクタンク「戦争研究所」は20日、露軍はスラビャンスクへの進軍を図っているものの、大きく前進できていないと分析していた。
一方、ウクライナのクレバ外相は20日、露側がドンバスに加え、南部ザポロジエ州やヘルソン州の確保も視野に入れたことを受け、「ロシアが外交より戦争を欲している証拠」と非難し、米欧側にさらなる支援を求めた。
ロシア通信によると、ラブロフ露外相は20日、米欧がウクライナに高機動ロケット砲システム「ハイマース」など長距離攻撃兵器を供与していることを受けて、「条件が変わった」と強調。軍事作戦の目標がヘルソン州やザポロジエ州にも拡大されたとしていた。
露軍は掌握したヘルソン、ザポロジエ両州で実効支配の既成事実化を進めており、ウクライナ軍は奪還作戦を本格化。オースティン米国防長官は20日、米国がすでに12基を供与しているハイマースをさらに追加で4基供給すると表明した。
●シリア、ウクライナと断交 7/21
シリアは20日、ウクライナとの断交を発表した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は6月にシリアとの断交を発表していた。ウクライナによる断交は、シリアのアサド政権がウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認したことを受けて発表された。
シリアの国営シリア・アラブ通信(SANA)は外務省当局者の発言を引用し、シリアはウクライナ政府の決定を受け、相互主義の原則にのっとり、ウクライナとの外交関係の断絶を決定したと伝えた。
親ロシアのシリアはドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立をロシアに次いで承認した。シリアは両共和国との国交樹立の意思を示していた。
シリア政府は10年にわたってロシアからの支援に頼っている。ロシア政府は国連安全保障理事会でシリアを擁護しているほか、兵器や人員などの支援も大量に行っている。
ロシアは、ウクライナに侵攻する6年前から、アサド政権を支えるための軍事作戦をシリアで開始していた。
アサド政権は2018年、親ロシア派が支配するアブハジアと南オセチアについて独立を承認した。両地域は国際的にはジョージア(グルジア)の一部とみなされている。
●プーチン大統領、欧州への天然ガス供給“完全再開”に懐疑的 7/21
ヨーロッパへの天然ガスの供給を停止しているロシアのパイプライン「ノルドストリーム」について、プーチン大統領は供給の完全再開に懐疑的な見方を示した。
ロシアとドイツを結ぶパイプライン「ノルドストリーム」は、ロシア側が「定期点検」を理由に21日までの予定でガスの供給を止めている。ロシアがウクライナへの侵攻を続ける中、ロシア産エネルギーに依存するヨーロッパ各国に揺さぶりを掛けているとも指摘されている。
そうした中、プーチン大統領は20日、「ノルドストリーム」の部品を預かり修理しているカナダが意図的に部品の返却を遅らせているとして、「予定通りガスの供給を再開できるかは不透明だ」と述べた。また、カナダが部品の返却を遅らせるのは「自分の国で生産した天然ガスをヨーロッパ各国に売りつけるためだ」と持論を展開している。
一方、ガスの受け取り先であるドイツ側の運営会社は、予定通り21日から供給が再開されると発表している。しかし、ロシア側が供給量を大幅に削減するのではないかとの憶測も広がっている。
●プーチン氏の健康不安説を否定、ロシア大統領報道官 7/21
ロシアのペスコフ大統領報道官は21日、プーチン大統領の健康状態は良好だとし、健康不安説を否定した。
報道官は、西側諸国でここ数カ月、健康状態を巡る憶測が浮上しているが、プーチン大統領が病気だとの報道は「偽り以外の何物でもない」と述べた。
プーチン氏は20日、公の場に姿を見せた際、咳き込んだが、インタファクス通信によると、同氏は前日のイラン訪問中に軽い風邪をひいたと説明。「昨日のテヘランはとても暑く、気温が38度あった。現地では冷房がとても効いていた」と述べた。
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は20日、「(プーチン大統領は)健康すぎる」と発言した。
●ロシア産石油の価格上限設定、12月までの実施見込む−米財務副長官 7/21
アデエモ米財務副長官は20日、ロシア産石油の価格上限設定が12月までに実施されるとの見通しを明らかにした。欧州連合(EU)がロシア産石油輸送への保険提供を禁止する措置を導入するのに合わせる。
同副長官はコロラド州で開かれたアスペン・セキュリティー・フォーラムで、「われわれは欧州の行動に追随する」と説明。「欧州は価格上限の構想を提示したが、保険禁止についても12月までに実施する計画を示している」と述べた。
ロシア産エネルギーが市場に流入し続け、世界のエネルギー価格押し下げに役立つよう、価格上限の設定を保険禁止措置と合わせることを目標としていると、アデエモ氏は発言した。
イエレン米財務長官は、ロシア産石油の価格上限導入を同盟国に働き掛けてきた。ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン政権から主要な資金源を奪い、保険禁止が実施された際の価格高騰を回避するために必要だと訴えている。
イエレン長官、「乞うご期待」と語る−ロシア産原油の上限価格計画で
EUは海上輸送によるロシア産の原油と精製燃料の輸入を2023年までに禁止する計画。それを実施するためのメカニズムとして、ロシア産石油を運ぶ船舶への保険サービス提供を禁止する。
●安倍元首相「国葬」参列者にプーチン大統領の名前 問題は警備面 7/21
政府は参院選中に銃撃され死亡した安倍晋三元首相の国葬を9月27日に東京・北の丸公園の日本武道館で行う方向で調整に入った。バイデン米大統領やトランプ同前大統領ら、世界中の要人の参列が見込まれる中、なんとロシアのプーチン大統領訪日の話が飛び交っている。
戦後の首相経験者として2例目となる国葬を巡っては、野党から反発の声が上がっていた中、政府は日程を決めた。これは長期政権で外交に力を入れていた安倍氏とあって、外国の首脳が多数、国葬への出席が予想されるため。安倍氏が8日に亡くなった際も各国首脳は現地の日本大使館を弔問し、安倍氏の死を悼んでいた。
訪日が見込まれる外国首脳には、プーチン氏もリストアップされている。プーチン氏は安倍氏と27回も会談し、信頼関係を結んでいた仲。安倍氏が死去した際、「シンゾウとは常に連絡を取り合い、そのたびに彼の素晴らしい人柄と職業的精神が発揮された。彼の記憶はいつまでも心に残るだろう」と昭恵夫人と安倍氏の母親・洋子氏に弔電を送っていた。また、ガルージン駐日大使が通夜に訪れた。
「参院選後に安倍氏がロシアを訪れ、プーチン大統領と会談し、ウクライナ侵攻で何らかの和平案をとりつけるのではないかとの話もあったほど。プーチン大統領もにっちもさっちもいかない状況で、安倍氏の弔問を理由に来日し、弔問外交で打開策を図りたい狙いがあるのでは」(永田町関係者)
日本政府はロシアのウクライナ侵攻後、プーチン氏の資産を凍結し、在日ロシア大使館の外交官らを国外退去させれば、ロシア側も15日に日本の国会議員384人にロシアの入国禁止措置を取ったばかりで、日ロ間は“絶縁関係”にある。
「現実的には欧米の要人が訪れる中で、プーチン大統領が顔を出す事態は想像できないし、拘束のリスクやテロなどの身の危険もある。それでも訪日となれば、五輪やサミットとは比べものにならない警備態勢が敷かれることになる」(同)
過去にも弔問外交で対立関係にあった国が対話をするきっかけになった例は多いが、プーチン氏来日なら武道館周辺の完全封鎖では済まない事態になりそうだ。 

 

●ロシア軍死者は1万5000人 英米情報当局 7/22
英国と米国の情報機関トップは、5か月に及ぶウクライナ侵攻で死亡したロシア兵は推定1万5000人に上るとの見解を示した。ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の想定をはるかに上回る戦死者だとしている。
英対外情報部「MI6」のリチャード・ムーア(Richard Moore)長官は21日、米コロラド州で開かれているアスペン安全保障フォーラム(Aspen Security Forum)で、1万5000人は「恐らく控えめな見積もり」であり、短期間で勝利できると思っていたプーチン氏にとっては「面目が丸つぶれ」となる事態だと指摘した。
ムーア氏は、「1980年代のアフガニスタン侵攻の10年間の戦死者とほぼ同じ数だ」と述べた。
さらに、犠牲になっているのは「サンクトペテルブルク(St. Petersburg)やモスクワの中流階級の子どもたちではない」と指摘。その上で、「彼らはロシアの地方出身の貧しい子どもたちだ。シベリア(Siberia)のブルーカラーが住む町の出身だ。少数民族の子も不釣り合いに多い。こうした子どもたちが使い捨ての兵士にされている」との見方を示した。
米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ(William Burns??)長官も20日、諜報(ちょうほう)活動による見積もりでは「(ロシア側の)死者は1万5000人前後で、負傷者は恐らくこの3倍の数に上っている」と話した。
バーンズ長官は「これはかなりの損失だ。ウクライナ側もこれよりわずかに少ない数の死者が出ており、負傷者の数も非常に多い」と述べた。
ウクライナは今月、ロシアの戦死者は約3万6200人に上ったとし、米英に比べてはるかに大きな数字を示している。一方、ロシアはこれまで2回しか死者数を発表しておらず、3月25日に1351人という数字を公表して以降、情報は途絶えている。
●もうひとつの戦争犯罪? 〜破壊されるウクライナの文化財〜 7/22
がれきと化す博物館、燃え上がる修道院。ウクライナ国内ではいま、ロシアによる軍事侵攻後、次々と歴史的な建造物など文化財が破壊されています。その数は160か所以上にものぼるとされていますが、全容はわかっていません。「文化財への攻撃は私たちのアイデンティティーに対する攻撃だ」(ウクライナの文化相)そんな声も高まる中、関係者へのインタビューや、現場の映像・衛星画像の分析から、その被害の実態を探りました。
次々と破壊される文化財
ウクライナへの軍事侵攻の開始以降、文化財が破壊されたという報告があとを絶ちません。ウクライナのゼレンスキー大統領が6月4日にSNSに投稿した動画には、修道院の聖堂が激しく燃え上がる様子が映し出されていました。ウクライナ東部ドネツク州にある「スビャトホルシク大修道院」は16世紀ごろに建設された、ウクライナ国内に3つしかないウクライナ正教会の「大修道院」のひとつです。聖堂は、旧ソビエトの支配下で一度破壊されましたが、2000年代に再建された国内最大級の木造の聖堂です。精緻に丸太が積み重ねられた美しい姿は、巡礼者や観光客を魅了していましたが、ロシア軍が東部に攻勢を強める中で砲撃が直撃し、瞬く間に火が燃え広がりました。こちらの動画は、ウクライナ東部ハルキウ州にある「ロゾバ市文化会館」の近くにある監視カメラの映像です。5月20日にロシア軍のミサイル攻撃を受けた瞬間を捉えています。施設には、音楽ホールやダンスホール、映画館などが入っていて、街の文化の中心地でしたが、ミサイルが直撃し、黒煙が大きく上がる様子が鮮明に捉えられています。
ユネスコは早い段階から危機感
世界の文化や歴史的建造物の保護にあたるユネスコ(国連教育科学文化機関)は侵攻開始直後の3月、すでに危機感を表明していました。声明で「私たちは“過去からの証言”としてだけでなく、未来の“平和と結束の懸け橋”としてウクライナの文化遺産を守らなくてはいけない」と呼びかけましたが、その後も文化財への攻撃はいっこうに収まりませんでした。ユネスコは文化財の被害の情報収集を続けていて、7月18日時点で計164の文化財が破壊されたと公表しています。ウクライナ当局は文化財への攻撃は400回を超えると発表していて、被害の実態はまだわかっていないのが実情です。
被害の実態を調べると・・・
被害を受けたのは、どんな場所で、どれほどの損害を受けているのか。その文化財が破壊されたことを地元の人はどう思っているのか。NHKでは、現地の写真や衛星画像を探すとともに、現場近くにいる人たちを探して連絡をとり、被害の実態を調べました。こちらは東部ドネツク州にある「聖ニコラス教会」です。親ロシア派の武装勢力と戦って命を落とした兵士たちをたたえ、慰霊する場として、2018年に建造されたという比較的新しい教会ですが、3月、ロシア軍による空爆で、シンボルだった黄金のドームや木造の壁が破壊されて崩れています。人工衛星から撮影した画像です。攻撃前は整然としていた教会の周辺ですが、攻撃後は色が変わっていて、がれきのようなものが散らばっているのが分かります。地元の人たちにふだんから親しまれている文化財も次々と被害に遭っています。こちらはウクライナ北部のチェルニヒウにある若者向けの図書館、「旧タルノブスキー博物館」です。施設を管理する館長によりますと、19世紀の半ばごろに建てられ、その後、19世紀の終わりごろにこの地域では珍しいゴシック様式の建物として再建されたといいます。しかし、3月、攻撃で変わり果てた姿となってしまいました。屋根や窓枠にあった繊細な装飾や草花に覆われた庭園は見る影もなくなってしまいました。人工衛星から撮影された画像では、建物の形状が崩れている様子だけではなく、隣接する広い競技場にも砲弾かミサイルの跡と見られる大きな穴があいていたり、観客席が大きく壊れたりしている様子も確認できます。そして、こちらは中庭を撮影した写真です。大きなクレーターができているのが分かります。この施設を管理するセルギー・ライエブスキー館長によりますと、3月10日から11日かけて、2発の爆弾の爆発で、建物のおよそ7割が破壊されたということです。図書館から200メートルほど離れたところに軍事施設があるとは言え、文化施設が意図的に狙われた可能性もあるとライエブスキー館長は感じています。
ライエブスキー館長「この建物は地元の人にとって、重要なシンボルです。ロシアがウクライナの歴史的な文化財を破壊してウクライナの歴史をなくそうとしているように感じていてとても怖いです」
狙われた?博物館の現場は
ロシア軍が意図的に攻撃した疑いが強く指摘されている文化財もあります。東部ハルキウ市の近郊にあるスコボロダ文学記念博物館は「ウクライナのソクラテス」とも呼ばれるウクライナの代表的な哲学者で、詩人でもある、フルィホーリィ・スコボロダが晩年を過ごした家です。ことし、ちょうど生誕300年となるスコボロダはウクライナの500フリブニャ紙幣に肖像が使われているほど、ウクライナ国民、誰もが知る存在です。18世紀に建てられた博物館にはスコボロダの著作物や彼が集めた哲学書や詩集、絵画など貴重な資料が展示されていて、毎年数万人もの人が訪れる有数の文化施設です。ところが博物館によると、5月、夜間にミサイルが直撃し、博物館が炎上。一部の展示品などは避難させていて無事でしたが、多くの書籍や絵画が焼けたほか、ミサイルが着弾した屋根や床には大きな穴が空きました。そして、博物館の象徴として、館内の中心に置かれていたスコボロダの像。攻撃後、屋根が落ち、黒焦げになりながら、風雨にさらされるようになってしまいました。博物館の担当者のオレーナ・リブカさんは、地元では軍事関連の施設は周囲にはなかったにもかかわらず、攻撃を受けたことに大きな怒りを感じていると言います。
スコボロダ文学記念博物館 オレーナ・リブカさん「ミサイルで意図的に狙ったのです。文化財が破壊されないよう、ハルキウ州のウクライナ軍は、博物館の周辺に軍事的な施設を一切置かないようにし、できる限り攻撃を受けるリスクが少なくなるようにしていましたが、それでも残念ながら守り切れませんでした。博物館はロシア軍にとって、とても魅力的な標的だったのです。7月6日にはスコボロダの名を冠した教育大学も破壊されましたし、これは文化財への意図的な破壊だとしか思えません。ただの破壊ではなく、私たちの文化の破壊です」
文化行政のトップ “アイデンティティーへの攻撃”
こうした状況について、NHKのインタビューに応じたウクライナのオレクサンドル・トカチェンコ文化情報相は、プーチン大統領がウクライナ人の存在そのものを否定していることの表れだと訴えています。
オレクサンドル・トカチェンコ文化情報相「プーチンは、千年以上の歴史や言語といったウクライナ独自の文化や遺産が存在することを認めていないと何度も強調しています。プーチンがウクライナ人やその領土に対してだけでなく、文化財に対しても攻撃を行うことは、わたしたちのアイデンティティーに対して攻撃をしかけていることとまったく同じなのです」
裁けるか “もうひとつの戦争犯罪”
文化財は、これまでも戦争や紛争の中でしばしば攻撃の対象になってきました。アフガニスタンのタリバンによるバーミヤンの仏像の爆破や、IS=イスラミックステートよるシリアのパルミラ遺跡の破壊などです。戦争で文化財を攻撃対象にしてはいけないと定める国際法もある上、国際刑事裁判所(ICC)は戦争犯罪の定義の一つに「宗教、教育、芸術、科学、または慈善のために供される建物、歴史的建造物、病院及び傷病者の収容所であって、軍事目標以外のものを故意に攻撃すること」を挙げています。ウクライナ政府は今後、文化財への攻撃をロシアによる戦争犯罪として追及していく考えです。ただ、民間人への攻撃と同様、文化財への攻撃もその意図があったかどうかを立証していく作業は簡単なものではありません。
ウクライナ文化遺産保全の専門家はー
2015年からウクライナの文化遺産の保全に関わってきた筑波大学の上北恭史教授は次のように指摘しています。
筑波大学 上北恭史教授「『自分たちの文化に対じするものは破壊してもいい』という考え方を持つ人たちがいると、いざ戦争などが起きた時、文化財保護の国際条約が守られないということがこれまでも起きています。ユネスコの文化財保護の取り組みはまだ完全に達成できていません。『相手を理解することによって平和を獲得する』というユネスコの信条を大切にしながらも、文化財保護のために、これまでとは違う、より実効性のある方法を生み出していかないといけないと思います」
取材を終えて
今回取材した文化財は、いずれも、祈りや交流を通して、人々の記憶や歴史に刻まれてきた場所ばかりです。話を聞かせてくれた人たちからは文化財が突然失われた怒りや悲しみ、やるせなさが伝わってきました。みずからのアイデンティティーと深くつながる文化財の破壊は、ウクライナの人たちの心の中に暗い影を落とし、ロシアへの根深い不信感を生み出しているように感じます。プーチン大統領は「ロシア人とウクライナ人は1つの民族」などと主張してきましたが、現状は、ロシアとウクライナの国民の間の分断を深めてしまっているように見えます。
●ウクライナ穀物輸出 再開に向けた協議大詰め 合意の可能性も  7/22
ウクライナ産の小麦などの輸出が滞っている問題でロシアとウクライナ、それに仲介役のトルコと国連を交えた協議が大詰めを迎えています。日本時間の22日夜にも、合意が交わされる可能性があり、世界的に食料価格が高騰する中、事態の打開につながるのか注目されます。
ロシア軍による封鎖で黒海に面するウクライナの港から小麦などの輸出が滞っている問題をめぐって、ロシアとウクライナは仲介役のトルコと国連を交えて交渉を続けています。
4者はこれまでの協議で、黒海の海上輸送の調整にあたる機関をトルコのイスタンブールに設置することなどで一致していて、港周辺に敷設された機雷への対応や、農産物を積んだ船の航行の安全をどのように確保するかなどをめぐって、協議を続けてきました。
これについて、トルコのカルン大統領首席顧問は21日「世界の食料安全保障に重要な穀物輸出の署名式が22日、イスタンブールで開催され、国連のグテーレス事務総長やロシア、ウクライナの代表団が参加する」と述べ、22日にもイスタンブールで4者による合意が交わされる可能性を示唆しました。
また、国連も21日、グテーレス事務総長がすでにイスタンブールに
到着したと明らかにしたほか、ロシアのショイグ国防相も日本時間の22日夜、イスタンブールに到着しました。
一方、ロシア外務省のルデンコ次官は21日、合意が近いことを示唆しながらも「ロシアの穀物の問題も解決されるべきだ」と述べ、ロシア産の農産物の輸出への制限措置も解除されるべきだなどとして、ウクライナ側との主張に隔たりも見られます。
世界的に食料価格が高騰する中、このあと双方の間で合意が交わされ、事態の打開につながるのか注目されます。
●ロシア軍 地上攻撃適さない防空ミサイルで標的外れ市民被害か  7/22
ウクライナでは、ロシア軍によるミサイル攻撃で連日、市民が犠牲になっていて、イギリス国防省は、地上への攻撃に本来の目的とは違う防空ミサイルが使われているために、標的が外れて市民の被害がさらに広がるおそれがあると指摘しています。
ロシア軍は21日もウクライナ東部への攻撃を続けていて、ウクライナの非常事態庁や現地のメディアによりますと、ドネツク州のクラマトルシクや、ハルキウ州で学校や住宅地などが相次いで砲撃を受け、市民合わせて4人が死亡し、20人以上がけがをしたということです。
ロシア軍の攻撃について、イギリス国防省は22日、地上攻撃用のミサイルが不足していて、代わりに防空ミサイルを攻撃に使用するようになっているという分析を明らかにしました。
攻撃には、航空機などを撃墜する地対空ミサイルシステム「S300」などが使われているとみられ、地上への攻撃には適さないうえ、兵士も訓練をほとんど受けていないため、攻撃の標的が外れて、市民の被害がさらに広がるおそれがあると指摘しています。
一方で、イギリスの対外情報機関「MI6」のムーア長官は21日、「ロシア軍は失速寸前だ。今後、数週間にわたって人員の補充や物資の補給がますます難しくなっていくだろう」と、ロシア軍が苦戦しているという見方を示したうえで、「ロシア軍は休息を必要としていて、それがウクライナに反撃のチャンスを与えるだろう」と述べ、ウクライナ側が反転攻勢に出る可能性を示唆しました。
●ウクライナ大統領夫人、9歳の息子の変化を語る 7/22
ウクライナのオレナ・ゼレンスカ大統領夫人が今週、アメリカを訪問し議会議事堂で演説した。ロシアが民間人を激しく攻撃していることを改めて報告しウクライナへの追加支援を訴えた。ロシアの侵攻が始まってから夫人がアメリカを訪れるのはこれが初。
夫人はマスコミの取材にも応じ、ウクライナの惨状を語っている。テレビ局NBCのレポーターには息子の変化について話した。夫人とウォロディミル・ゼレンスキー大統領の間には18歳の娘と9歳の息子がいる。「戦争前、息子はフォークダンスのアンサンブルに通っていました。ピアノを弾き、英語を習っていました。もちろんスポーツのクラブにも参加していました」と夫人。しかしロシア軍の侵攻ですべてやめてしまった。「今の息子が望んでいるのは武術とライフルの使い方を学ぶことだけです」。ウクライナの多くの少年たちも同じだと夫人は話している。
夫人は現状で最優先するべきなのはウクライナの人々の安全と子どもたちや家族が平穏な生活を取り戻すことだと話す。「そして確実に息子が子ども時代を取り戻し、彼が自分の人生を最大限に楽しめる状況を作りたい」。
議事堂のスピーチでも「すべての人、すべての母親が自分の子どもに『もう空爆もミサイル攻撃もないから安心して眠りなさい』と言えるようにしたい。これはそんなに大それた望みでしょうか?」と語っていた夫人。彼女の願いが1日も叶うよう祈りたい。
●オルバン首相 再選の背景に迫る  7/22
ロシアによるウクライナ侵攻から1か月余りが経った4月上旬。“ロシア非難”で結束していた欧州を揺るがす出来事が起きた。
EU(ヨーロッパ連合)加盟国の首脳の中でも、プーチン大統領と“最も親しい”といわれる、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相が、議会選挙で圧勝し、再選を果たした。
プーチン大統領との親密な関係が逆風になるのではないかという当初の予想を覆し、その強さを見せつけたのだ。2月24日以降も、軍事侵攻には反対の姿勢を示すものの、ロシア産の石油や天然ガスの禁輸制裁措置には反対するなど、“独自路線”をとるオルバン首相。
なぜ、多くの国民が、そうした人物を支持するのか?その深層に迫るため、私たちは現地へ向かうことにした。
首都ブダペストで出会った“Z”を掲げた市民たち
私たちがハンガリーの首都ブダペストに降り立ったのは、6月上旬。
空港で合流した現地コーディネーターと、初日の取材内容について打ち合わせをしていた時のことだった。
「このあとウクライナ大使館の前で集会があるけど、行ってみないか?」
ウクライナを支持する集会だろうか。
詳しいことはわからなかったが、とにかく現地の空気感を知りたいと、早速向かうことにした。
そこで私たちが目にしたのは、驚きの光景だった。
“Z”と書かれたTシャツを着た極右団体が、ウクライナ大使館の周りを取り囲み、ロシアによる軍事侵攻を支持する演説を繰り広げていたのだ。
極右団体の演説「ウクライナは世界の中心ではない。謙虚に振る舞い、何が戦争を引き起こしたのか考えるべきだ」「ウクライナ人は、我々が彼らの味方をしないことを非難するが、我々を戦争に巻き込むな。自分たちでまいた種は自分たちで摘み取れ」
オルバン首相の“独自路線”を支持する声
こうした中、オルバン首相の“独自路線”を支持する声が広がっている。
いったいなぜなのか。
私たちは、4月の議会選挙でオルバン首相率いる与党「フィデス」に投票したという市民に話を聞くことにした。
訪ねたのは、ウクライナとの国境に近い村できゅうり農家を営むトート・マーリアさん。
自らの収入で、家族5人を養っているという。
「なぜオルバン首相を支持しているのか」
そう尋ねる私たちに、トートさんが取り出して見せたのは、電気代の明細だった。
トート・マーリアさん「オルバン政権のエネルギー政策のおかげで、これまで通りの料金で済んでいます。野党が勝っていたら、値上がりどころではなかったかもしれません」
トートさんが期待をかけているのが、オルバン政権が打ち出している独自のエネルギー政策だ。
実は、今年2月、各国がロシアの動きを警戒する中、モスクワを訪問し、プーチン大統領と会談を行っていたオルバン首相。
この時、合意を取りつけていたのが、2035年までの天然ガスの安定的な供給についてだった。
現在、EU加盟国の多くが、ロシアから石油や天然ガスの供給を大幅に減らされ、価格の高騰に喘いでいるが、ハンガリーは、いまも変わらず供給を受けられているという。
トートさん「オルバン首相は、国民に戦争の影響が及ばないよう、最大限の努力をしてくれています。戦争の影響を最も受けるのは、貧困層です。私たちは農業をしていますが、肥料や農薬が値上がりし、食料も軒並み値上がりしました。ウクライナの方たちには同情しますが、やはり何より大切なのは自分や家族の生活です。人道主義だけで家族を食べさせることはできません」
“ハンガリー車以外お断り” 深まるEUとの分断
ロシアと良好な関係を維持することで、エネルギー価格の上昇を抑えることに成功しているハンガリー。
EUとの間には亀裂が生じ始めていた。
給油のため、市内のガソリンスタンドに立ち寄った時のこと。
レジでは、客が、何かを提示しているようだった。
ディレクター「何を見せていたんですか?」
客「車検証を見せないといけないんだ。ハンガリーナンバーなのか、外国ナンバーなのかを判別するために。重要なのは、ハンガリーナンバーの車には割り引きが適用されていることだよ」
実は、2月24日以降、ハンガリーのガソリンスタンドには、少しでも安くガソリンを入れたいと、周辺国から給油に訪れる客が殺到する事態になっていた。
これを受けて、政府は「外国ナンバーの車両からは別料金を徴収する」と発表。
一方のEUは「人や物が自由に移動できるというEUの規則に反している」と批判するなど、対立が生じているのだ。
1リットルあたりのレギュラーガソリンの価格は、ハンガリーナンバーなら480フォリント(約173円)だが、外国ナンバーなら768フォリント(約276円)と、その差は100円以上(6月11日時点)。
この日出会ったスロバキアナンバーの客は、複雑な思いを語ってくれた。
スロバキアナンバーの客「ハンガリー国民を守るためだとわかっているので、受け入れるしかありません。ただ、EUの加盟国同士なのですから、もう少し協力し合えるといいのですが…」
強権化を進めるオルバン首相
自国第一主義を掲げて、国民の支持を集めるオルバン首相。
しかし、その影では強権化を進めているといわれている。
その一つが、メディアへの介入だ。
訪ねたのは、ハンガリー最大の独立系オンラインメディア「インデックス」の元編集長ドゥル・サボルチさん。
政権批判を恐れず、オルバン首相とも対峙してきたが、おととし、突如解任に追い込まれた。
ドゥル・サボルチさん「突然、外部の顧問から、編集部門の組織改革を行うと告げられました。編集スタッフを切り離し、外部に委託すると言ったのです。現在、オルバン政権は、戦略的に政権寄りのメディアの数を増やしています。この国の報道の自由は、急速に失われつつあります」
メディアの実態を調査するNGOの分析では、いまや報道機関の約8割がオルバン首相に近い実業家などに経営資本を押さえられているという。
“プロパガンダはやむを得ない” 失われつつある報道の自由
この日は「オルバン政権下のメディア」をテーマにした討論会に参加するというドゥルさん。
私たちも同行させてもらうことにした。
まず、話題に上がったのは、オルバン政権下ではメディアの独立性が保たれているかどうか。
すると、ある政治雑誌の編集長が「プロパガンダはやむを得ない」と、自らの考えを述べ始めた。
政治雑誌の編集長「この中には、政治の影響を受けていないという人がいますが、それは自己欺瞞です。私は長年この仕事をしてきたので、読者が何を求めているか知っています。大多数の人々は、メディアを通して事実を知りたいのではありません。自らが票を投じた政権が“支持するに値するのか”を、確かめたいのです」
これに対して、反論するドゥルさん。
ドゥル・サボルチさん「読者が読みたいものばかりを伝えるのが、メディアの役割ではありません。我々の読者の大多数は野党の支持者ですが、我々は野党の問題点にも言及します。客観的な事実を伝えることが、大事なのではありませんか?」
結局、議論は平行線のまま終了した。
独自路線の背景にあるEUへの失望
なぜ、自由や民主主義を掲げるEU加盟国でありながら、メディアへの締め付けや、“反移民・難民”の姿勢を打ち出すなど、EUの価値観に挑戦するのか?その背景に何があるのか?
長年、オルバン首相を支持しているという市民への取材から、その一端が見えてきた。
ぶどう農家のセチュクー・フェレンツさんが話し始めたのは、ハンガリーがまだ社会主義政権下にあった1980年代のこと。
民主化し、西側諸国の一員になれば、同じ豊かさを享受できると信じていたという。
セチュクー・フェレンツさん「当時、私は小さな子どもでしたが、父と一緒に西側のラジオを盗み聞きするのを楽しみにしていました。そして、夢を見ていました。20〜30年たてば、この国も西ヨーロッパのようになると信じていたのです」
1989年に悲願の民主化を果たしたハンガリーは、2004年にEUにも加盟。
しかし、現実は思い描いていたようなものではなかった。
それまで経験したことがなかった市場の競争にさらされ、自分たちのぶどうが安く買い叩かれるようになったという。
セチュクー・フェレンツさん「市場はイタリア産やスペイン産など、西ヨーロッパの商品であふれ返っています。取引を握っているのは、外資系の大企業だけですが、彼らが求めているのはハンガリー産の商品ではありません。私は、ただ平等に扱ってもらえることを望んでいただけなのに、結局ただの生産工場になってしまいました」
EUに加盟しても、経済格差が埋まらない現実。
市民への取材を続けると、フェレンツさんのように、かつて抱いたEUへの憧れが、失望へと変わった人が少なくないことが分かってきた。
そうした人々の多くが、EUが掲げる価値観に挑戦し、“国益”を重視した独自路線を打ち出しているオルバン首相に期待を寄せているのだと感じた。
世界の潮流を理解するために
ハンガリーでの取材最終日。
ブダペストの中心部で私たちは1枚の旗を目にした。
中央の焼かれた部分には、旧ソビエトの国章が描かれていたそうだが、民主化を求める市民たちが、抵抗の印として燃やしたという。
かつては、自由と平等を求め、旧ソビエトなど大国の支配からの脱却を目指していたハンガリーの人々。
その彼らが、いま「自由よりも毎日の生活だ」と口にし、独自路線をとるオルバン首相を支持する姿を見て、この数十年の間に彼らに何が起きたのかを、もっと知りたいと強く感じるようになった。
それを知ることこそが、現在、世界各地で、欧米型の民主主義に背を背ける国が増えている背景を少しでも理解することにつながると考えたからだ。
冷戦後、平和と繁栄を求めて急速に成長を遂げてきた世界。
その影で、ハンガリーの人々がどのような人生を歩んできたのか、より深く取材をしていきたいと考えている。
●「我々はまだ本気を出していない」ロシア・プーチン大統領 7/22
「我々はまだ本気を出していない」プーチン大統領の強気の発言の背景にあるものや、ロシア国内の”みじかい夏”の空気感。イランへの接近や今後の戦況について、元産経新聞モスクワ支局長で大和大学の佐々木正明教授の解説です。
―――ロシアのラブロフ外相が、制圧地域の目標をドネツク州、ルハンシク州だけでなく、ヘルソン州、ザポリージャ州に拡大すると話しました。ついこの間まで「東部2州の解放」が今回の特別軍事作戦の目的と言ってたのにですよ。佐々木先生、ウクライナ全体の制圧をまだ諦めてないということですか?
佐々木正明教授「8年前にクリミア半島とドネツク州、ルハンシク州を一部制圧しましたよね。その8年後にキーウを攻め込もうとした。となりますと、この南部の州もですね、支配を確立しますと、ここを足がかりにして今度は逆にキーウを攻めやすくなるわけです。つまり、プーチン大統領がいる限りですね、ウクライナはロシアの一部であると言っていますので、これは変わらないと思います。そしてヨーロッパの一部はその意図をですね、完全に把握してますんでロシアに対して完全勝利を目指すという国々がありますね。バルト三国だったり、英国だったりポーランドだったり。今頃ヘルソン州ザポリージャ州に拡大するといってもですね、この2州でも多くの方々が亡くなっていますし、ちょっと意図がよくわからないんですね」
プーチン大統領「まだ本気を出していない」発言の真意は?
―――まもなく侵攻5ヶ月ということになります。プーチン大統領「我々はまだ本気を出していない」というふうに非常に強気の発言をされています。先生によりますとこれは国内向けのパフォーマンスではないか?
佐々木正明教授「まずですね、この発言、国家リーダーが言うのは、ちょっとおかしいんですけども、プーチン大統領は”ちょいワルオヤジ”みたいな発言をして人気を集めてきた過去があります。その延長線上にあるんだろうな、というのがまず1点。そしてプーチン大統領ことあるごとにですね、西側の危機を強調して言ってるんですね。つまりエネルギー危機だったり、食料危機だったり、物価上昇というのは我々のせいではないと。つまり西側の対ロ制裁が原因であるということを言っているんですね。このことばかり国内放送というのはプロパガンダを流しております。例えば、ある国でガソリンが上がったとか、ある国で企業が倒産したとかの報道を、国民たちは注目して見ているんですね。ロシアというのは物価上昇もあまりないですし、ルーブルも安定していますし、普通なんじゃないかということで、私は連日のようにロシアに取材をしているんですが、本当に短い夏を謳歌していて、旅行に行ったりとか、普段と変わらない夏を過ごしている感じがします」
―――ロシア国内には『今もウクライナで侵攻続いてるよ』という空気はあまりないんですか?
佐々木正明教授「これはおそらく麻痺しています。知らない部分を通り過ぎて麻痺しています、知ろうとしていない。ウクライナ国内で連日、一般人が亡くなってるんですね。攻撃を受けて。そのことも知ろうと思えば知れるのですが、それを知ろうとしない。ちょっとおかしい夏だなって感じがします」
ロシア国内で「外資系企業の撤退」「失業者の増加」経済制裁の効果出ている?
―――経済制裁の影響はじわりじわり。相次ぐ外資系企業の撤退、失業者が増えています。新規採用しない企業がロシア国内で52%半分以上ですね。16%の企業が従業員を解雇、もしくは今後解雇するというデータが出てきている。2022年には大幅なマイナス成長、5月の実質GDP成長率は前年の同じ月と比べてマイナス4.3%ということなのでこの経済制裁自体は効いているのではないかということでしょうか?
佐々木正明教授「まず失業率について指摘したいんですけども、これは隠れ失業者もおります。例えば、給料未払いだったりとか、給料がかなり減っているというのもありますので、失業者の増加というのが今後どう影響が出てくるか。企業もアンケートをとりますと、採用しないと言ってますんで、そうすると大黒柱が家族の中で失うということですので、どう出てくるのかというのはまずポイントです。実質GDP、マイナス成長というのは、これも報道ベースなんですけども、車とか旅客機がですね、もう部品がなくて、一つは修理用に壊しているっていうのは報じられているんですが、最近はスマートフォン、電子機器、パソコンだったりもそのような状況になって、どんどんロシア人が持つものが質が悪くなってくる。それがこのマイナス4.3%のところに、ハイテク部品とかパーツ不足というのが現れているというふうに感じます」
イランを訪問した「プーチン大統領」狙いは?
―――イランを訪問しているプーチン大統領7月19日、ウクライナの穀物輸出に協力するが、ロシアからの穀物輸出に関する制限も解除される必要があるというふうに話しました。
佐々木正明教授「様々な影響が出てきます。オセロの白が黒に変わって黒が白に変わるような現象がたくさん出てきている。その一つがこのロシアとイランの関係強化、核開発で反米制裁を受けているイラン、そしてロシアがさらに近づくと、結びつけるものはドローンなんですね。今のウクライナでドローンってのは非常に大きな役割で、ロシアの報道なんですけども、民生品、つまり我々が使うようなドローンが減っている。その理由はおそらくですが、ウクライナの戦場で使われてるんじゃないか、ということは言われております。そしてイランのドローンを買い始めるとなりますと、これは多分初めてだと思いますが、ロシアにですね、軍事的に支援している国ってのはなかったと思うんです。表向きは、裏ではやってるかもしれませんけども。イランがですねここで帰ってきますと、少し戦争の構図が変わってくる。そしてこのドローンはですね、戦場で効果を発揮してきますと戦況も変えかねない。つまりこういうことが、ますます起こってくる、長期化すると、予測しないことが起こってくるというのが今後の現状だと思う」
●プーチン強行姿勢を後押しする非欧米世界の拡大 7/22
ロシアによるウクライナ侵攻から来月で早くも半年となるが、プーチン大統領は欧米に屈しないどころか独自の路線を突き進んでいる。
プーチン大統領は7月19日、イランの首都テヘランを訪問し、ライシ大統領とトルコのエルドアン大統領と会談した。なお、プーチン大統領が旧ソ連圏以外の国を訪問するのはウクライナ侵攻後初めて。3者はシリア内戦の終結、ウクライナ産の穀物輸送などの問題で協議し、イラン最高指導者ハメネイ師との会談では、イランによるロシア支持の立場が明らかになった。また、プーチン大統領は「西側によるロシアに対する経済制裁を解除すれば、速やかにウクライナからの穀物輸出再開に合意する用意はある」と述べるなど、欧米に対して強気の姿勢を改めて示した。
このほぼ半年あまり、欧米主導のロシア制裁の範囲は拡大し、マクドナルドやスターバックス、アップルなど世界的企業が相次いでロシアからの撤退を発表し、ロシア経済にとってはダメージが続いている。最近もスウェーデンのカジュアル衣料大手H&Mがロシアで展開してきた事業から完全に撤退する方針を明らかにした。H&Mはロシアがウクライナに侵攻した直後の3月からロシアでの事業を一時停止していたが、現在の状況では事業継続が不可能と判断したようだ。
なぜプーチン大統領は強気の姿勢を維持できるのか。当然ながら、ロシアが権威主義国家であり、プーチン大統領の考え方次第とも主張できるが、やはり“国際政治の中で非欧米世界が拡大している”ことは大きいのだろう。実際、欧米主導のロシア制裁に参加しているのは世界193か国中40か国あまりで、全体で見れば少数なのである。しかも、中国やインド、ブラジルなど新興大国はロシア制裁に参加しないどころか、むしろロシアへ経済的に接近するなど欧米と一線を画している。
プーチン大統領は6月にもブラジルのボルソナロ大統領と電話会談し、エネルギーや農業の分野で関係を強化していくことを確認した。ボルソナロ大統領はウクライナ侵攻したロシアを非難せず、制裁も実施しておらず、ブラジルも中国と似たような立ち位置にある。また、中国税関総署が6月、5月のロシアからの原油輸入量が前年同月比で55パーセント、天然ガスが54パーセントそれぞれ増加したと明らかにしたように、中露間の経済的接近は数字としても表れている。
こういった非欧米世界が国際政治全体の中で拡大すればするほど、プーチン大統領にはさらなる政治的余裕が生まれ、欧米の対抗姿勢は強くなるだろう。「欧米なんて怖くない、やれるものならやってみろ」、プーチン大統領の心の中はこれで満たされている。
●ドラギ伊首相退任、対露圧力に不安 親露派台頭の恐れ 7/22
イタリアのドラギ首相の辞任決定は、ウクライナを支援する民主主義圏の結束に不安を投げかけた。ドラギ氏は対ロシア圧力で、米欧同盟や先進7カ国(G7)と歩調を合わせてきたが、総選挙では、親ロシア派が勢力を伸ばす可能性がある。
イタリアは戦後、西欧最大の共産党を擁し、ソ連時代からロシアと経済関係が深い。ガス輸入の約4割をロシアに頼ってきた。1990年代に登場した右派のベルルスコーニ首相はプーチン露大統領と親しく、別荘を訪ね合う間柄だった。
だが、ドラギ氏は対露制裁を支持してきた。2月のウクライナ侵攻後、銀行の国際決済ネットワークからのロシア排除をいち早く唱えた。ガス供給元を北アフリカや中東に広げ、ロシア依存の脱却を進めた。
今回の辞任劇は今春、ウクライナへの武器供与に、左派与党「五つ星運動」が反対したのが発端だった。五つ星は米主導の欧州安全保障に懐疑的で、ドラギ路線に異議を唱え、低迷する支持率の回復を狙った。
国民の間では早期停戦を望む声が強い。6月の欧州世論調査では「ウクライナは譲歩しても、和平を急ぐべき」とする意見が52%にのぼった。対象となった10カ国の中で最高で、欧州平均の35%を上回った。ドラギ氏は欧州中央銀行(ECB)総裁時代、ユーロ圏債務危機の収束に貢献し、国内外の名声で大連立政権の親ロシア派を抑えてきた。
9月に行われる総選挙では、右派連合の伸長が予想されている。中でも、「フォルツァ・イタリア」を率いるベルルスコーニ氏、「同盟」のサルビーニ前内相は、ロシアと強い関係を持つ。サルビーニ氏は5月、「戦争をやめるため」として訪露を計画。その際、通貨ルーブル調達でロシア大使館の支援を受けたことが発覚した。
ドラギ首相の退任は、欧州分断を狙うロシアを喜ばせたのは間違いない。メドベージェフ露前大統領はSNS「テレグラム」で、ドラギ氏とジョンソン英首相の顔写真を並べて「次は誰か?」と問いかけ、西欧の政局不安を嘲笑した。

 

●ロシアのプロパガンダ、反NATO・反米のセルビアを席巻 7/23
ウクライナ人のリュボフ・マリッチさん(44)が、セルビア人の夫との結婚に終止符を打つ決め手になったのはロシアのプロパガンダだ。
12年間連れ添ったマリッチさん夫婦には以前から隙間風が吹いていたが、今年2月にロシアがウクライナを侵攻して以来、夫はロシアのプロパガンダをうのみにするようになった。ウクライナの民族音楽は「ナチズム信奉者」のものだと言い始め、息子に聴くことを禁じた。
「夫はロシア人以外のすべての人を非難し始めました」とマリッチさんはAFPに語った。
程なくしてマリッチさんは荷物をまとめ、戦禍に見舞われているウクライナに帰国した。
セルビアは北大西洋条約機構(NATO)への嫌悪と反米感情が強く、ロシア政府のプロパガンダを受け入れる国民も少なくない。
ほとんどの欧州諸国がロシアメディアを規制する中、セルビアでは多くの場合、国営メディアもロシア政府の主張を垂れ流しにしている。
「真実はその間のどこかにあると思うのですが、誰もそれを伝えようとしません。だからロシアと西側両方のメディアを追い掛け、行間を読むようにしています」と、グラフィックデザイナーのダリオ・アシモビッチさん(27)は言う。「彼ら(西側)はロシアメディアを遮断しているので、他方の意見を聞かない。結果として人々は、疑心暗鬼を抱くようになるのです」
プーチン氏の「神格化」
セルビアのメディアはアレクサンダル・ブチッチ政権の見解に従うことを強いられ、わずかに残る独立系メディアも常に当局に圧力をかけられている。
ウクライナ侵攻開始前、セルビアの大手タブロイド紙「インフォーマー」は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を称賛する記事を数多く掲載。侵攻2日前には「ウクライナがロシアを攻撃」と報じた。
「セルビアの親政府系のプロパガンダ機関は、プーチン氏を個人崇拝する空気をつくり出している。ブチッチ氏に対するものの比ではない」とノビサド大学のディンコ・グルホニッチ准教授(ジャーナリズム)は指摘する。「プーチン氏は、まさに神格化されている」
セルビアの首都ベオグラードを拠点とする、民主主義の推進団体「Crta」による最新の世論調査では、セルビア国民の約67%がロシアに「シンパシー」を感じていると答え、75%は「NATOが拡大を目指したせいで」ロシアは戦争に追い込まれたと回答。セルビアは長年、欧州連合(EU)加盟を目標としてきたが、代わりにロシアと同盟を結ぶべきだと答えた割合は40%に上った。
この調査報告書をまとめた研究者のブヨ・イリッチ氏は「政府寄りのメディアは明らかにロシアに肯定的で、EUには中立的、ウクライナには否定的だ」と説明する。「EUに頼らなくても、ロシアという選択肢があれば、セルビアはやっていけるとの論調を有権者に示している」
「西側の言うことは真実ではない」
セルビアとロシアはともにスラブ系で、正教徒が多く、文化的・歴史的なつながりは何世紀にも及んでいる。ベオグラードでは、プーチン氏の顔をあしらったTシャツが土産物屋で売られ、ロシアの対ウクライナ侵攻の象徴となっている「Z」の文字があちこちの壁に描かれている。
1999年のコソボ紛争におけるNATO軍の旧ユーゴスラビア空爆は、今も多くのセルビア人に深い傷を残している。
年金生活者のティホミール・ブラニェシュさん(73)は、「西側のメディアは信用できない」とAFPに語った。「戦争中、セルビア人について報道された内容を覚えている。私たちはまるで動物みたいに描かれていた。当時も真実ではなかったし、今、ロシア人について(西側で)言われていることも真実ではない」
これに対し、駐セルビア・ウクライナ大使は「セルビア国民は正しい情報を得ていない」と抗議の声を上げている。
しかし、セルビアでウクライナ紛争に関する正確な情報を入手するのは容易ではない。マリッチさんのようにウクライナ人であれば、自国から生の情報を得ることができるが、それでもセルビアにあふれる偽情報やあからさまなプロパガンダに惑わされずにいるのは難しい。
「彼らのプロパガンダは非常に巧妙で、5分も読めば、自分の考えの方がおかしいのではないかと思えてきます」とマリッチさんは話した。
●ウクライナから農産物輸出へ 安全航行手順などで合意  7/23
ウクライナ産の小麦などの輸出が滞っている問題で、ロシアとウクライナ、それに仲介役のトルコと国連は、ウクライナ南部の港から農産物の輸出に向けて安全に船を航行させる手順などで合意しました。
世界的に食料不足への懸念が高まる中、今後は合意内容が確実に履行され食料供給の安定につながるかが焦点となります。
ロシア軍による封鎖で黒海に面するウクライナの港から小麦などの輸出が滞っている問題をめぐって、ロシアとウクライナは仲介役のトルコと国連を交えて交渉を続けてきましたが、22日、4者は最終的な合意に達しました。
トルコのイスタンブールでは、22日午後5時すぎ、日本時間の22日夜11時すぎ、ロシアのショイグ国防相とウクライナのクブラコフ・インフラ相が、トルコのエルドアン大統領、国連のグテーレス事務総長を介して、合意文書に署名し、交換しました。
小麦やトウモロコシなどの世界有数の輸出国であるウクライナからの輸出が滞り、世界的に食料価格の高騰や食料不足への懸念が高まる中、今後は合意内容が確実に履行され食料供給の安定につながるかが焦点となります。
4者協議の合意の内容
合意文書によりますと、ウクライナの農産物は今後、黒海に面した南部のオデーサなど3つの港から地中海へとつながる決められたルートで、運び出されます。
また、船が港を出入りする際にはウクライナ側が機雷が敷設されていない安全なルートに誘導するとしています。
さらに、船の安全な航行を共同で監視していくため、海上輸送の調整に当たる機関をイスタンブールに設置するとしています。
そのうえで、ロシアとウクライナが航行する船や関連する港湾施設へのいかなる攻撃も行わないことや、海上からウクライナに兵器が運び込まれないよう、トルコの港で船を検査する、などとしています。
さらに、合意は120日間有効で、双方から修正などの求めがなければ、自動的に同じ期間延長されるとしています。
ロシア “国連と農産物の輸出制限解除含めた覚書交わす”
ロシアのショイグ国防相は「トルコと国連の積極的な仲介のおかげで署名が可能になった。世界の食料安全保障の問題を解決するための実質的な貢献になることを期待している」と評価しました。
一方、ショイグ国防相は、この合意とは別に、国連との間でロシア産の農産物の輸出制限を解除することを含めた覚書を交わしたと明らかにしたうえで「2つの文書は相互に関連している」と主張し、今回の合意がロシアからの農産物の輸出の再開にも道を開くという考えを示しました。
また、ロシアのラブロフ外相も声明を発表し、ベロウソフ第1副首相が国連のグテーレス事務総長との間で覚書を署名したとしています。
そして「主な目的はロシアの農産物と肥料を世界市場に確実に円滑に届けることだ。とりわけアメリカやEUによる金融や保険に関する障害を取り払うため、農産物の輸出がロシアに科された制限から除外されることを目的としている」と述べました。
ロシアとしては、今後はロシア産の農産物と肥料の輸出再開に向け、働きかけを強めるとみられます。
トルコ エルドアン大統領「和平への希望に」
エルドアン大統領は署名式で「両国の期待と懸念を率直に話し合った。世界の食料危機に対する解決策が導き出されたことを誇りに思う」として、合意を歓迎しました。
そのうえで「私たちは戦争に勝者はいないと繰り返してきた。両国との歩みが和平への希望をよみがえらせる新たな道しるべとなることを願う」として、今回の合意をきっかけに停戦交渉の再開にも意欲を示しました。
国連 グテーレス事務総長「希望のともし火」
今回の合意について国連のグテーレス事務総長は「黒海の希望のともし火だ」と述べたうえで「疑いの余地なく、この合意は世界の人々のためのものだ。飢餓の瀬戸際にいる最も弱い立場の人々を救うだろう」と述べ、世界的な食料不足への懸念が高まる中、重要な合意だと評価しました。
また「合意の実現のために取り組んだすべての人たちに感謝したい」と述べ、ロシアとウクライナの両政府、それに仲介にあたったトルコ政府に謝意を表しました。
そのうえで「合意は完全に履行されなければならない。私はすべての当事者に対して合意の履行に向け努力を惜しまないよう求める」と強調しました。
そして最後に「紛争の両当事者による前例のない合意だが、紛争は続いていて、戦闘は日々、激しさを増している。この地域と地球にとって試練と激動の時代に、この希望のともし火を人々の苦しみを和らげ、平和を確保するための道しるべとなるようにしよう」と呼びかけました。
EU ボレル上級代表「速やかに そして誠実に履行を」
EU=ヨーロッパ連合の外相に当たるボレル上級代表は声明を発表して今回の合意を歓迎したうえで「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が引き起こした世界的な食料不安を解決するための重要な一歩だ。実を結ぶかどうかは、合意が速やかに、そして誠実に履行されるかにかかっている」と述べました。
そして、EUとしてもウクライナから陸路で穀物を運び出す取り組みを進めていることに触れ「EUは今後もできるだけ多くの穀物をできるだけ早く世界市場に届けられるよう、ウクライナを支援していく」と強調しました。
●ロシア軍に毎日数百人の死傷者、指揮系統が混乱=米国防総省筋 7/23
米国防総省の高官は22日、ウクライナ戦争でロシア軍が1日当たり数百人の死傷者を出しており、これまでに数千人の将校を失っているため指揮系統が混乱しているとの見解を示した。
ロシアは平時でも軍の死者数を国家機密としており、戦時も公式の死傷者数をほとんど更新していない。3月25日時点では死者数を1351人と発表していた。
バーンズ米中央情報局(CIA)長官は20日、ウクライナ戦争でこれまでにロシア側の死者が約1万5000人、負傷者は4万5000人に達したとの見方を示した。
●プーチン氏が希望しても…安倍氏国葬への出席拒否へ  7/23
政府は、安倍晋三・元首相の「国葬(国葬儀)」を巡り、ロシアのプーチン大統領の出席を認めない方向で調整に入った。複数の政府関係者が22日、明らかにした。
ロシアのウクライナ侵略に伴う日本の対露制裁で、プーチン氏を含むロシア政府高官は事実上、入国禁止の対象となっている。仮にプーチン氏が国葬の参列を希望しても、拒否する方針だ。安倍氏は首相在任中、北方領土問題などを巡ってプーチン氏と会談を重ねた。
●ウクライナ大統領、輸出再開に向けた合意文書に署名 7/23
ウクライナ侵攻により黒海から穀物の輸出が滞っていた問題で、ロシアとウクライナなどが輸出再開に向けた合意文書に署名し、ゼレンスキー大統領も合意を歓迎した。
ロシアとウクライナに加え、仲介役のトルコと国連の間で22日に合意された文書には、ウクライナ南部のオデーサなど、3つの港から穀物を安全に輸出できる航路の確保が定められている。数週間後には、船の出港が再開され少なくとも2500万トンの穀物が輸出される見通しだという。
「合意書は公開されていて、その内容はウクライナの国益に完全に合致している」(ウクライナ・ゼレンスキー大統領)
ゼレンスキー大統領は22日、この合意を歓迎し、仲介を務めた国連のグテーレス事務総長とトルコのエルドアン大統領に感謝すると述べた。また、合意は「ウクライナが戦争に耐えられることを示すものだ」とも語り「ロシアはこの戦争に勝てない」と強調している。
●ウクライナ軍 反転攻勢も ロシア兵1000人以上包囲  7/23
ウクライナの政府高官は、ウクライナ軍が反転攻勢を強めている南部・ヘルソン州で、ロシア兵1,000人以上を包囲していると明らかにした。
ヘルソン州はロシア軍が制圧を宣言しているが、7月に入り、ウクライナ軍が一部を奪還したと主張し、補給などで重要な橋を攻撃していた。
ウクライナの大統領府顧問は、SNSにウクライナ軍がヘルソン州でロシア兵1,000人以上を包囲していると明らかにするとともに、「これはほんの始まりにすぎない」と投稿した。
またロシアメディアも、ロシア側が兵士を避難させるための人道回廊の設置をウクライナ側に求めたと報じている。
一方、アメリカ政府高官は22日、「ロシアが全戦力のうち、すでに85%をウクライナに投入している」としていて、ロシアが兵力の調達に苦労しているとの分析を明らかにした。
こうした中、アメリカ政府は、ウクライナ軍に初めてアメリカ製の戦闘機を供与する検討を始めたと明らかにした。
実現すれば、ウクライナ軍の戦力の大幅な増強につながり、ロシアの反発は必至。
●長期化する「プーチンの戦争」、終結へのカギはロシアの国内世論… 7/23
読売新聞と日本テレビは23日、ロシアのウクライナ侵略をテーマにした討論会を開き、BS日テレが「深層NEWS2時間生討論“プーチンの戦争”終結への羅針盤〜日本が果たす役割は〜」として生放送した。戦況の見通しのほか、国連や日本が果たすべき役割などをテーマに議論した。
討論には兼原信克・元内閣官房副長官補、兵頭慎治・防衛省防衛研究所政策研究部長、飯塚恵子・読売新聞編集委員のほか、ポーランドから松田邦紀・ウクライナ大使が中継で参加した。
戦争の長期化が予想される中、戦争終結のカギについて兵頭氏は「ロシア国内」を挙げた。対露経済制裁などの影響で、ロシアの国民生活が悪化すれば、「ロシア人の多くで『何のために戦争を続けるのか』との思いが高まる」と分析した。
松田氏は「制裁」と「支援」がカギになると指摘した。「半導体など軍事生産に直結する戦略的物資の対露輸出が止まったことが、兵器生産に大きな影を投げかけている」と述べ、制裁の重要性を強調した。同時に、ウクライナへの軍事、人道支援の強化も訴えた。
常任理事国のロシアが拒否権を発動した国連安全保障理事会について、兼原氏は「安保理の実効性と正当性が傷ついている」と指摘。拒否権は持たないものの任期が比較的長く、常任理事国に近い発言力を持つ「準常任理事国」を創設すべきだと訴えた。
飯塚氏は、日本が「準常任理事国」として安保理入りすることは「米国も反対しない」と指摘。岸田首相が8月末にチュニジアで開かれるアフリカ開発会議(TICAD)に参加することを例に挙げ、「日本は、アフリカをはじめ途上国や新興国の仲間を広げることで、世界を引っ張っていくべきだ」と語った。
●「クレムリンの殺し屋」プーチンに相応しい最期は近付いている... 7/23
海外での情報活動を行う英秘密情報局(MI6)のリチャード・ムーア長官は21日、米西部コロラド州で開かれた米シンクタンク、アスペン研究所の安全保障フォーラムで講演し、「戦争はまだ終わっていないが、スウェーデンが200年に及ぶ中立を捨て北大西洋条約機構(NATO)に加盟するなど、ロシアは戦略的な誤りを犯した」と語った。
ムーア氏はウラジーミル・プーチン露大統領にはウクライナに侵攻する際、3つの目的があったと振り返った。「一つはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を排除すること。2つ目は首都キーウを支配すること。次にNATOに不和の種をまくことだった」。しかしプーチン氏は緒戦で約1万5000人を無駄死にさせ、3つの目標だけでなく、面目も完全に失った。
「ロシア軍はここ数週間、数カ月間で少しずつ前進しているが、それは微々たるものだ。前進したのは数マイルで、占領した街は破壊され尽くしている。ロシアは力尽きようとしている。今後数週間、ますます人員や物資の供給が困難になり、何らかの形で休止せざるを得なくなる。士気が高く、良い武器を供給されたウクライナ側には反撃の機会が訪れる」
ムーア氏は「ウクライナがロシアに対して反撃する能力を示すことが重要だ。それが軍の高い士気を維持するとともに、ウクライナは勝てるという強いメッセージを欧州に送ることになる」と述べた。米ファンタジーTVドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』の『冬来たる』というエピソードを引いて「これからかなり厳しい冬に入る」と指摘した。
「彼が深刻な病に苦しんでいるという証拠は何一つない」
冬になれば欧州でロシア産天然ガスの需要は増し、プーチン氏はロシア依存度の高い欧州諸国に揺さぶりをかけやすくなる。さらにプーチン氏の重病説について米CIA(中央情報局)のウィリアム・バーンズ長官と同じように、ムーア氏も「彼が深刻な病に苦しんでいるという証拠は何一つない」と断言した。
「私たちはウクライナ侵攻などプーチン氏の計画を事前に公表してきたことからも分かるようにクレムリンの動きを追跡してきた」と強調し「ロシアはウクライナのナショナリズムと侵攻した際に反撃される程度を完全に過小評価していた。正しい情報が得られていなかったことに加え、ロシアの情報機関の仕事は権力者に真実を伝えることではなかった」と語った。
ウクライナ侵攻後、ロシアの外交官として活動していた情報機関メンバーの約半分に当たる約400人が欧州から追放され、ジャーナリストを装ったロシアの協力者も次々と逮捕されている。このため、欧州におけるロシアの情報収集網はズタズタに引き裂かれ、ウクライナ戦争を巡る欧州の動きが正確に把握できなくなっているという。
中国の情報収集システムは「ブラックボックスだ」
中国の脅威について、米連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官と英情報局保安部(MI5)のケン・マッカラム長官が7月6日、「われわれの経済や安全保障にとって長期的な最大の脅威」(レイ氏)と警告した。イギリスの航空専門家は中国の情報機関とつながりを持つ企業から「魅力的な就職」を持ちかけられ、軍用機情報の提供を求められたという。
ムーア氏も「中国がもたらす脅威について、政府や社会全体が認識を深めている。私の場合、中国がもたらす脅威に対して情報の上流から取り組んでいるが、中国との貿易であれ、気候変動であれ、かなり不透明なシステムだ。どのように組織化し、どのような戦術的意図を持ち、どのような能力を構築しているのか、ブラックボックスだ」と強い懸念を示した。
中国はロシアのウクライナ侵攻に対する西側の対応について台湾侵攻の教訓としてどう見ているかについてムーア氏は「それを語るのは時期尚早だ。しかし私たちがこの冬を乗り切ることが非常に重要だ。中国の習近平国家主席はタカのように目を凝らして見ている。彼は西側の弱点について非常に凝り固まった考え方を持っている」と指摘した。
元NATO軍最高司令官のジェイムズ・スタヴリディス氏らが戦争を念頭に書いた共著『2034 米中戦争』に関し、ムーア氏は「戦争が不可避だとは思わない。台湾海峡の両側で違いを平和裏に解決しようという意志がある。習主席が台湾で何をするかしないかを計算する時に、誤った判断で侵略しないよう明確にメッセージを送る方法を見つける必要がある」と言う。
プーチン氏の血生臭い人生を追跡してきた『キラー・イン・ザ・クレムリン(クレムリンの殺し屋)』の著者で元BBC記者のジョン・スウィーニー氏はCIAやMI6とは異なりプーチン氏を苦しめる可能性のある病気としてがんのリンパ節転移や血液がん、肝臓がんを挙げ、「プーチン氏はステロイドを過剰摂取しており、この世を去るのはそう遠くない」と予測する。
「プーチン氏は病気だ。将軍がプーチン氏を殺すかもしれない。オリガルヒ(新興財閥)が毒を盛るかもしれない。プーチン氏はそのまま目を覚まさないかもしれない。私好みのシェークスピア的なエンディングはプーチン氏自らが毒を飲んで自分の人生を終わらせるというものだ」とスウィーニー氏は語る。
プーチン氏を権力から取り除く安全で確実な方法とは
「プーチン氏を権力から取り除く安全で確実な方法はウクライナがロシアを軍事的に打ち負かすことだ。そうすれば日露戦争と第一次大戦に敗れたニコライ二世(帝政ロシア最後の皇帝)と同じ運命がプーチン氏を待ち受けている」(スウィーニー氏)
同氏によると、ロシアの大砲は射程10〜15マイル(約16〜24キロメートル)しか届かないが、ウクライナに計16基が配備される「切り札」米M142高機動ロケット砲システム「ハイマース」の射程は40マイル(約65キロメートル)だという。
リーチの長いボクサーが有利なように、7月になってロシアの武器庫が「ハイマース」によって破壊されるようになり、ウクライナは射程の長い多連装ロケットシステムや榴弾砲、弾薬の到着を待っている。スウィーニー氏は「キーウには東部ドンバスやクリミア半島出身者が多いので、ロシア軍をウクライナから完全に追い出すことを望んでいる」と語る。
「プーチン氏が通っていた柔道とソ連の格闘技サンボの教室の指導者はギャングだった。その墓碑銘には『マフィアは不滅だ』と刻まれている。スパイになる前、プーチン氏はギャングだった。ギャングの鉄の掟は忠誠だ。プーチン氏はギャング仲間に忠誠を尽くしたが、同時に忠誠を求めた。プーチン氏の仲間たちはいま孫と過ごすため引退したがっている」
「プーチン氏は自分の命を狙うかもしれない新顔がインナーサークルに入ってくるのを嫌っている。(ロシアの軍事的な敗北が確実になっても)クレムリン内にはプーチン氏を脅かす新興勢力は現れないだろう」とスウィーニー氏は断言する。
プーチン氏は1989年、ベルリンの壁が崩壊するのを旧東ドイツのドレスデンで目の当たりにした。
「ベルリンの壁が崩壊したように、プーチン氏は市民の抗議デモがロシア全土で沸き起こるのを恐れている。反体制派アレクセイ・ナワリヌイ氏を投獄したあと生かしているのも、徴兵制を全面的に導入できないのも大衆蜂起を恐れているからだ」とスウィーニー氏は語る。プーチン氏の「終わり」は着実に近づいている。
●プーチン大統領は「むしろ健康すぎる」CIA長官は重病説を否定 7/23
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が20日、健康不安がうわさされるロシアのプーチン大統領について、「むしろ健康すぎる」と重病説を否定する発言をした。米コロラド州で開催されたアスペン安全保障フォーラムに出席した長官は、「CIAとしての正式な分析ではない」と前置きした上で、プーチン大統領の健康状態に関して多くのうさわがあるが、「我々の知る限りではむしろ全くもって健康だ」と述べたと米CNNなどが伝えている。
ウクライナ侵攻を続けるプーチン大統領の健康問題を巡っては、これまで多くの欧米メディアが血液のがんなどによる重病説やパーキンソン病を患っている可能性などを伝えており、4月にはがんの極秘手術を受けたと報じている。また、余命宣告を受けたことや影武者を使っていることなども取り沙汰されていた。
一方で、19日にイランのテヘラン入りしたプーチン大統領は、プライベートジェット機を降りる際に横向きになって最後の階段のステップを不器用に降りる様子が目撃されており、帰国した翌20日にも公の場でせき込む姿が見られ、健康不安説は依然としてくすぶっている。これに対し、ロシアのペスコフ大統領補佐官は21日、「テヘランでは気温が38度あり、冷房が効いた室内と温度差があったことから軽い風邪を引いただけ」と説明。「大統領の健康状態は良好」だと話し、偽り以外の何ものでもないと重病説を否定した。
●ロシア、ばらまきで内政維持 資源供給で米欧揺さぶりも 7/23
ロシアではプーチン大統領が資源収入を原資に国民の不満を抑えるばらまき策を相次ぎ実施し、高支持率を維持している。豊富な資源は天然ガスの供給停止をちらつかせるなど、欧米の足並みの乱れを狙う取引材料でもある。
ロシアの独立系調査機関レバダセンターによると、プーチン氏の支持率は侵攻後に急上昇し8割超で推移、6月は83%だった。ウクライナ侵攻を「支持する」との回答は7割を超え、年齢が上がるにつれて支持が高まる傾向がある。
プーチン氏は6月以降、最低賃金の10%引き上げや年金の増額を相次いで実施した。主な歳入源である資源の価格上昇が、国民の支持を狙ったばらまき策を可能にしている。
一方で欧州各国には天然ガスの供給停止を示唆し、揺さぶってきた。ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」は21日に定期点検を終えて再稼働したものの、ガス供給量は4割にとどまる。
ロシアは資源の輸出先を欧州からアジアや中東へシフトし、これらの地域との外交にも力を入れる。ロシアから原油を陸路でも調達できる中国では、5月の原油輸入量は前年比55%増えた。インドも割安なロシア産原油の輸入を増やしている。
資源の輸出先を全面的にアジアなどに振り替えるには、設備の整備が課題になる。ロシアはモンゴルを経由して中国に向かうガスパイプライン「シベリアの力2」の建設プロジェクトの具体化に着手した。年間輸送能力はノルドストリームに匹敵する。
だが「現在の欧州向け販売を中国向けに振り替えるためのガスパイプライン設備を整えるには、12〜15年の期間が必要」(ロシアの石油ガス専門家)との声が出ている。
●ウクライナ侵攻5カ月、見えぬ停戦 プーチン氏「ウクライナが拒否」 7/23
ウクライナが侵攻されてから24日で5カ月がたつ。ロシア軍は今月上旬、東部ルハンスク州の制圧を宣言したが、その後は足踏み状態だ。一方、ウクライナは侵攻初期にロシアが占領した南部の奪還へ動き、戦線は広がりそうな気配だ。停戦の兆しも見えていない。
「我々は事実上合意に達した。だが、ウクライナはその実行を拒否した」
ロシアのプーチン大統領は19日、ウクライナ侵攻後では初めての旧ソ連圏外への外遊となった訪問先のテヘランで記者団にこう述べ、当面の停戦協議再開を改めて否定。責任はウクライナ側にあると主張した。
3月末、ウクライナが軍事的中立を受け入れることで歩み寄ったかに見えた両国だが、ロシアは直後に欧米から噴出したキーウ(キエフ)郊外での「戦争犯罪」を糾弾する声に態度を硬化させた。ロシア軍が包囲した南東部マリウポリで攻撃を激化させるなどして、交渉は暗礁に乗り上げた。
●穀物輸出再開、国連事務総長「黒海に希望の光」…ロシアは翌日冷や水  7/23
トルコとともに仲介役を担った国連のアントニオ・グテレス事務総長は22日、イスタンブールで行われた署名式で「黒海に希望の光がともった。血みどろの紛争を続ける二つの当事者による前例のない合意だ」と意義を強調し、停戦協議の進展や和平に向けて全力で取り組む姿勢を強調した。
穀物輸出再開の合意翌日、ロシアがオデーサ港をミサイル攻撃…ウクライナが「背信行為」と非難
国連のグテレス事務総長(ロイター)国連のグテレス事務総長(ロイター)
国連高官は22日、記者団に対し、今回の合意は輸送船などを対象にした「事実上の停戦だ」と自賛した。ウクライナ南部オデーサなど黒海沿岸の3港から穀物などを運ぶ船舶の安全な航行を可能にする「回廊」の設置を指したものだ。
国連は安全保障理事会が拒否権を持つ常任理事国ロシアによる侵略を前に機能不全の状態が続く。さらに侵略の長期化で加盟国の間ではウクライナ情勢への関心が徐々に薄れつつあり、ロシアへの批判よりも自国に影響する食料危機への対応を重視する国が出てきているのが実情だ。
そうした中、グテレス氏が紛争当事者を巻き込んで穀物輸出再開に道筋を付けたのは加盟国の不安に対応したと言え、「国連の存在感を明確に示すことができた」(国連外交筋)と評価する声も出ている。
ただ、オデーサへの23日のミサイル攻撃は合意翌日にいきなり冷や水を浴びせたものと言え、船舶の安全確保を含め、合意が完全に履行されるのかどうか懸念が強まりそうだ。別の国連外交筋は「戦況が悪化すれば、ロシアは合意を履行しなくなるのではないか」と先行きを不安視する。
●穀物積み出しのオデーサ港にロシアがミサイル 食料輸出合意の翌日に 7/23
ウクライナ軍によると、23日午前、同国南部の黒海に臨むオデーサ港がロシア軍のミサイル攻撃を受け、一部の施設が爆発した。同港は22日に国連、トルコがロシア、ウクライナとそれぞれ署名した食料輸出再開のための合意文書で積み出し港に定められている。関係者は相次ぎ攻撃を非難した。
発射された4発のうち2発は迎撃されたが、2発が港の施設に命中したという。同国農業省はオデーサ港に数日内の輸出再開に向けた穀物がすでに用意されていたとしている。ウクライナのウニアン通信は、着弾したのは揚水設備で、同じ区域内の穀物倉庫は無事だったと伝えた。
合意を仲介したグテーレス国連事務総長の副報道官は23日、「事務総長は本日のオデーサへの攻撃を明確に批判する」との声明を出した。さらに合意について「昨日、すべての関係国、機関がウクライナの穀物と関係産物を世界市場に確実に移送することを誓った。完全な履行は必須だ」とし、輸出を再開するよう釘を刺した。
ロイター通信によると、ウクライナのゼレンスキー大統領は「(攻撃が)意味するのは、ロシアは何を約束しても実行しない方法を見つけ出すということだ」とコメントした。ニコレンコ外務省報道官も「ロシアのプーチン大統領はグテーレス氏や(ともに合意を仲介した)エルドアン・トルコ大統領の顔につばを吐いた」と批判した。一方で、ウクライナの担当閣僚は「食料輸出再開に向けた技術的な準備を続ける」とし、合意を履行する意思を示した。

 

●ウクライナ侵攻5か月 混迷深まる 輸出再開へ合意の翌日に攻撃  7/24
ロシアがウクライナに軍事侵攻を始めてから24日で5か月となります。ウクライナ産の小麦などの輸出再開に向けてロシアとウクライナがトルコと国連の仲介のもとで合意した翌日に輸出拠点である南部オデーサの港湾施設がロシア軍によるものとみられるミサイル攻撃を受け、一段と混迷が深まっています。
ロシアは2月にウクライナへの軍事侵攻を開始し、24日で5か月となります。
ロシア軍は、ウクライナ東部で攻撃を続ける一方、ウクライナ軍も欧米から兵器の供与を受けながら抗戦を続けています。
黒海に面する南部オデーサではロシア軍による封鎖でウクライナ産の小麦などの輸出が滞っていましたが、トルコと国連の仲介のもとで両国は22日、輸出再開に向けて合意しました。
その翌日・23日、ウクライナ軍などはロシア軍が巡航ミサイルでオデーサの港を攻撃し、2発が港のインフラ施設に命中したと発表しました。
ウクライナ軍の関係者は、この攻撃で港にあるポンプ場で一時火災が発生したと述べたほかオデーサ州の知事はけが人が出ているとSNSを通じて明らかにしました。
この攻撃についてウクライナのゼレンスキー大統領は23日、「ロシアは何を言おうが、約束しようが、それを履行しない方法を見つけるということだ」と述べ、非難しました。
一方、トルコの国防省はアカル国防相の声明を発表し「ロシアは、決してこの攻撃に関与しておらず、詳細を調査しているところだと私たちに話した」として、ロシア側はミサイル攻撃への関与を否定していることを明らかにしました。
これまでにロシア政府からの反応は出ていませんが、食料供給の安定に向けて関係各国が合意を歓迎したやさきの攻撃となり、ロシアのウクライナ侵攻は一段と混迷が深まっています。
ロシア軍 東部攻撃も苦戦か
ロシア軍は、ウクライナ東部で攻撃を続ける一方、南部では、一部地域の支配の既成事実化を図る動きを強めています。
ウクライナ軍も欧米から兵器の供与を受けながら抗戦を続けていて、軍事侵攻から5か月がたったいまも、戦闘が収まるめどは立っていません。
ロシア国防省は、今月3日、ウクライナ東部ルハンシク州全域を掌握したと発表し、その後、ドネツク州の完全掌握も目指してウクライナ軍の重要拠点となっているスロビャンシクなどへの激しい攻撃を続けています。
ただ、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は今月20日の分析で「ロシア軍は大きく前進することはできていない。小規模な町への攻撃で戦力は低下し続けている」としていて、双方の消耗戦が続いているとみられます。
士気くじくねらいか
戦況がこう着するなか、ロシア軍はウクライナ側の士気をくじくねらいか、東部以外でも人が密集する場所へのミサイル攻撃を強めています。
先月27日には中部ポルタワ州にあるショッピングセンターが攻撃を受けて20人が死亡したほか今月14日、西部ビンニツァ州でも子どもを含む26人が死亡、200人以上がけがをしました。
ウクライナ側は、ロシア軍による攻撃の7割が民間施設などを標的にし、軍事施設などに向けられたのは3割にとどまると非難しました。
南部支配の既成事実化図る
一方、ロシアは、すでに掌握したとしている南部など一部の地域の支配の既成事実化を図る動きを強めています。
アメリカ政府は、ヘルソン州やザポリージャ州などの一部の地域にロシア側が当局者を送り込み、併合に向けてロシア編入への賛否を問う見せかけの住民投票を行う見通しだと警戒しています。
ウクライナ軍 南部で反撃
こうした動きに対して南部では、ウクライナ軍がロシア軍への反撃も続けています。
ウクライナ側は、黒海にある戦略的な拠点ズミイヌイ島を先月末にロシア軍から奪還したほか、ヘルソン州でロシア軍の物資の補給や部隊の撤退に必要なルートだった橋に大きな損害を与えました。
こうした攻撃に効果的だとされるのが、射程が長く精密な攻撃が可能な高機動ロケット砲システム=ハイマースなど欧米から供与されている兵器です。
ゼレンスキー大統領は20日、「近代的な兵器の供給を増やし有効な防空手段を提供することが必要だ」と述べウクライナ軍が欧米からの支援を受けてどこまで反転攻勢に出られるかが焦点です。
“原発を盾にしながら攻撃”
ロシア軍による掌握が続くウクライナの原子力発電所について、ウクライナ側は、ロシア軍が原発の近くで不発弾の爆破処理をしたり、敷地にミサイル発射装置を持ち込んで原発を盾にしながら攻撃を行ったりしているとして、強く非難しています。
ウクライナ南東部にあるヨーロッパ最大規模のザポリージャ原子力発電所は、ロシア軍によって3月上旬から掌握されています。
ザポリージャ原発が立地するエネルホダル市のドミトロ・オルロフ市長は20日、NHKのオンラインインタビューに対し、ロシア軍がことし3月、原発から200メートルほどしか離れていない場所で不発弾の爆破処理を行ったとしたうえで「原発に対するテロ行為だ」と非難しました。
さらに、オルロフ市長は「ロシア軍の兵士が安全上のルールを無視して原発の建物に立ち入っている」と指摘しました。
原発でのロシア軍の行動をめぐってはウクライナの原子力発電公社も19日、「ロシア軍の兵士が、原発内部にある放射線に関する厳しい管理が求められる区域に防護服も身につけずに立ち入った」とSNSに声明を投稿していて、オルロフ市長はこうした行動は放射性物質を拡散するおそれがあると非難しています。
これまでのところは放射線による健康被害の情報は入っていないということですが、オルロフ市長は「ロシア軍の兵士は自分たちだけでなく、住民や環境までも危険にさらしている」と述べ、原発からロシア軍を撤退させるために、国際社会からの一層の圧力を求めました。
ザポリージャ原発を巡っては、ウクライナの原子力発電公社のトップも、15日、NHKの取材に対し、ロシア軍が敷地にミサイル発射装置を持ち込み、原発を盾にしながら、ウクライナ側を攻撃していると明らかにしています。
ウクライナでは、ロシアによる軍事侵攻から5か月がたったいまも、ロシア軍によって原発が危険な状態に置かれていると懸念されています。
●穀物輸出再開の合意翌日、ロシアがオデーサ港をミサイル攻撃… 7/24
ウクライナ軍はロシア軍が23日朝、黒海沿岸の南部オデーサ港に高精度巡航ミサイル「カリブル」4発を発射し、2発が港湾施設に着弾したと明らかにした。ウクライナ産穀物の輸出が停滞している問題を巡り、22日に海上輸送再開に向けた合意が成立したばかりで、ウクライナ側は背信行為ととらえて激しく反発している。
ロシア、ウクライナ、トルコ、国連の4者が22日にイスタンブールで海上輸送再開に向けて署名した合意では、穀物の一大輸出拠点となっているオデーサ港を含めた3か所の港を再開の対象としていた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は23日、米下院議員団との会談で「ロシアはどんな合意をしても、履行しない口実を見つけ出そうとすることが証明された」と非難した。一方、ロイター通信によると、合意に署名したウクライナのインフラ相はSNSへの投稿で、輸出再開に向けて引き続き準備を進めるとの意向を示した。
同国の外務省報道官も、合意の署名式に出席した国連のアントニオ・グテレス事務総長、トルコのタイップ・エルドアン大統領の顔にプーチン露大統領が「つばを吐きかける行為だ」との表現でミサイル攻撃を非難した。グテレス氏も報道官を通じ、「断固として非難する」との声明を出し、合意の完全な履行も求めた。
ロイター通信によると、トルコのフルシ・アカル国防相は23日、「ロシアから攻撃に一切関与していないと説明があった」と明らかにした。「このような事態が発生したことを非常に心配している」とも語った。
ウクライナ侵略は24日で5か月となる。ウクライナはロシアへの不信感を強めており、停戦協議が再開する兆しはない。ゼレンスキー氏は22日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで「戦闘停止は、露軍に休養を与え、さらなる戦闘につながるだけだ」と語り、領土を奪還するまで停戦に応じない意向を示した。
●ロシア外相、ウクライナ戦争の最中にアフリカ歴訪の一環としてエジプトを訪問 7/24
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、外交的孤立とウクライナ侵攻に対する西側の制裁を打破するため、カイロに滞在しエジプト政府関係者と会談している。
ロシア国営放送RTによると、ラブロフ外相は土曜日遅くにカイロに到着し、エチオピア、ウガンダ、コンゴ民主共和国にも立ち寄るアフリカ歴訪の最初の行程となった。
エジプト外務省によると、サーメハ・シュクリ外相は日曜日の朝、ラブロフ外相と会談した。
ロシアの首席外交官は、日曜日の後半にアラブ連盟のアーメド・アブール・ゲイト事務総長と会談する予定であった。また、彼は汎アラブ組織の常任代表に挨拶する予定であるとRTは報じた。
アラブ世界で最も人口の多い国であるエジプトは、2月にウクライナで戦争が始まって以来、モスクワと西側の両方と密接な関係を維持し、どちらかの側につくことを拒否している。エジプトは世界最大の小麦輸入国のひとつであり、その多くはロシアとウクライナから輸入している。
エジプトのアブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と個人的に親密な関係を築いている。両首脳はここ数年、二国間関係を大幅に強化している。
ラブロフ外相のカイロ訪問は、ロシアの国営原子力企業であるロスアトムが先週、エジプトで建設中の4炉式発電所の工事を開始したことによる。
●ロシア、オデーサ港のミサイル攻撃認める…穀物輸送再開で合意直後  7/24
ウクライナ産穀物を輸出する一大拠点になっている南部オデーサ港の港湾施設が23日、ミサイル攻撃を受けたことに関し、ロシア国防省は24日の発表で、高精度巡航ミサイルで攻撃したことを認めた。
露国防省は「ウクライナ軍の艦艇と米国が供与した対艦ミサイルシステム『ハープーン』の保管庫を破壊した」と主張し、軍事施設を標的にした攻撃だったと強調した。
オデーサ港への攻撃を巡っては、ウクライナ軍が、ロシアの巡航ミサイル「カリブル」で攻撃を受けたと発表したの対し、トルコのフルシ・アカル国防相は「ロシアから攻撃に一切関与していないと説明があった」と述べていた。
トルコは、露軍の黒海封鎖によって輸出が停滞しているウクライナ産穀物の海上輸送再開に向けた協議で仲介役を務めている。
ウクライナとロシアは22日、トルコと国連の仲介で、オデーサ港を含む3港からの海上輸送の再開に向けた合意文書に署名した。
●ウクライナ侵攻5か月 小麦輸出再開は不透明 東部は戦況こう着  7/24
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で5か月となりました。ウクライナ産の小麦などの輸出再開に向けて、ロシアとウクライナが国連などの仲介で合意した翌日に南部の輸出拠点がロシアによるミサイル攻撃を受け、合意が確実に履行されるのか、早くも不透明な情勢となっています。
ロシアは、ことし2月にウクライナへの軍事侵攻を開始し、24日で5か月となりました。
ロシア国防省は、東部2州のうちルハンシク州の全域を掌握したと主張したあと、ドネツク州の全域掌握もねらって激しい攻撃を続けていますが、ウクライナ軍も徹底抗戦し、戦況はこう着しているものとみられます。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は23日の分析で、ドネツク州にあるウクライナ軍の拠点の1つ、シベルシクの東側やバフムトの南側で、ロシア軍の地上部隊が進軍を試みて、局地的な戦闘が行われたと指摘しました。
こうした中、ウクライナ軍などは黒海に面する南部の港湾都市オデーサで23日、ロシア軍が巡航ミサイルで港を攻撃し、けが人が出たほか、インフラ施設が被害を受けたと発表しました。
オデーサの港はウクライナ産小麦の輸出拠点で、ロシア軍による封鎖で輸出が滞っていましたが、ウクライナとロシアはトルコと国連の仲介のもとで22日、輸出再開に向けて合意したばかりでした。
攻撃についてロシア国防省の報道官は24日、「港の敷地内で、ウクライナ軍の艦艇と、アメリカが供与した対艦ミサイル『ハープーン』の保管庫を巡航ミサイルで破壊した」と主張しました。
食料供給の安定に向けて関係各国が合意を歓迎したやさきの攻撃で、合意が確実に履行されるのか、早くも不透明な情勢となっています。
一方、ロシアは、軍が掌握したと主張する地域で支配の既成事実化を図る動きを加速させています。
このうち南東部ザポリージャ州では、親ロシア派の幹部が24日、ロシアの国営通信社に対して州の警察トップにロシアから派遣された人物が着任したと主張したほか、将来的には軍の常駐を求めたいという考えを明らかにしました。
イギリス国防省は24日に発表した分析で、ロシアのラブロフ外相が、ウクライナの南部や南東部の掌握も視野に入れていると明らかにしたことについて「ロシアは戦争を『拡大』したのではない。こうした地域を含めて長期的な支配を維持することが、軍事侵攻の当初からの目的であったことは、ほぼ間違いない」という見方を示しました。
ウクライナでロシア軍の戦争犯罪 捜査続く
ウクライナでは、ロシア軍の戦争犯罪を追及するため検察や警察が捜査を続けています。検察によりますと、ロシアによる戦争犯罪とみられるケースは、今月22日の時点で2万4000件以上に上るということです。
ウクライナ当局が行っている捜査を現地で支援したオランダ軍警察の捜査チームの責任者、ムールマン副司令官が、NHKの取材に応じました。
この捜査チームは、ことし5月からおよそ3週間、ウクライナの首都キーウ近郊のボロジャンカなどで、住民から証言を得たり、ウクライナ当局がロシア軍の捕虜などから押収した携帯電話の通信記録や画像を調べるなど、証拠の収集を行ったりしました。
捜査の状況について、ムールマン副司令官は「ウクライナの司法システムは機能してはいるが、捜査すべき事案の数が膨大なのでまだまだ人手が必要だ」と訴えました。そして、戦争が続くなかで、すでに戦争犯罪をめぐる捜査が行われている現状について「これまでは事案が起きて何年もたち、戦争が終わってから捜査が始まることが多かったが今回は事案が起きて数週間で捜査ができ、証拠も多く残されている」と述べ捜査に有利だという認識を示しました。
ただ、ムールマン副司令官は「通常の犯罪現場は封鎖されるが、今回は、遺体が収容されたり、捜査が行われる前に周辺がきれいにされたりしてその過程で現場に残されたDNAが混ざり合う可能性なども考慮しなくてはならない。どうすれば信頼に足る証拠を集められるかが課題だ」と指摘しました。
ムールマン副司令官は、より詳細な捜査を行うため今後もほかの国から捜査チームが派遣されることに期待を示したうえで「より多くの人員が派遣されるようになれば、より統率のとれた連携が必要になる」と述べ、戦争犯罪を1件でも多く立件していく上でウクライナと各国当局の連携が鍵になるという認識を示しました。
イギリス参謀総長 “プーチン大統領の健康不安 希望的観測”
イギリス軍の制服組トップのラダキン参謀総長は、今月17日のBBCのテレビ番組で、一部の欧米メディアがロシアのプーチン大統領について健康不安を指摘する見方を伝えていることに関連して「希望的観測だ」と否定しました。
そのうえでラダキン参謀総長は、「ロシアは比較的安定した政権であり、プーチン大統領は反対勢力を一掃することができる。上層部は、プーチン大統領にたてつく野心は持っていない」と述べ、強権的な体制が継続するロシアは、イギリスにとって脅威であり続けると強調しました。
また、ラダキン参謀総長はロシア軍の損害について「われわれはロシア軍が陸上における30%以上の能力を失ったとみている。5万人のロシア兵が戦闘により死亡するか負傷し、1700台の戦車と4000台近くの装甲車が破壊された」と明らかにしました。
そして、ウクライナ各地で民間施設を標的にしたロシア軍による攻撃が相次いでいることについては「プーチン大統領は民間人の犠牲を承認している」としたうえで「ロシアは、心理的な圧力をかけなければならない状態になっている」と指摘し、徹底抗戦を続けるウクライナの市民に対して精神的な圧力をかけて士気をくじくねらいだと分析しました。
●英ジョンソン首相 ウクライナ兵士を激励 退陣後も支援強調  7/24
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から5か月となる中、イギリスのジョンソン首相は国内で訓練を行っているウクライナ軍の兵士の激励に訪れました。ジョンソン首相としてはみずからの退陣後も、イギリスがウクライナを積極的に支援しつづけることの重要性を強調した形です。
イギリスはこれまでウクライナに対して多連装ロケットシステムなどの兵器の供与に加え、ウクライナ軍の兵士をイギリスに招いて訓練するなど積極的な支援を行っています。
こうした中、イギリスの首相官邸は23日、ジョンソン首相がイングランド北部にある訓練場を迷彩服姿で視察し、ウクライナ軍の兵士たちを激励する映像を公開しました。
ジョンソン首相は視察中、みずからも対戦車ミサイルについての説明を受けたり、訓練用の手りゅう弾を実際に投げたりしていました。
ジョンソン首相は視察のあと、「今後4か月でおよそ1万人のウクライナの兵士を訓練したい」と述べました。
ジョンソン首相は与党・保守党の党首を辞任することを表明していて、ことし9月に新たな党首が決まりしだい首相の座からも退くことになっていますが、ジョンソン首相としてはみずからの退陣後も、イギリスがウクライナを積極的に支援しつづけることの重要性を強調した形です。
●プーチンが繰り返す「ロシアとウクライナは同じ民族」支配と独立の関係とは  7/24
ウクライナ侵攻に踏み切って以来、ロシアのプーチン大統領は「ロシアとウクライナは同じ民族だ」と主張している。言うまでもなく両国は異なる主権国家であり、仮に同じ民族だとしても、武力による現状変更を正当化することはできない。だが、プーチン大統領が「同じ民族」という主張を繰り返す理由は、ロシアとウクライナの歴史をひもとくことで見えてくる。『地政学×歴史で理由がわかる ロシア史 キエフ大公国からウクライナ侵攻まで』(朝日新聞出版)が、その詳細を解説している。
ロシアから東欧にかけて分布する民族を「スラブ系」と呼んでいる。現在のウクライナ西部からポーランド東部にかけての地域が故地であると考えられ、7世紀頃からゆっくりと居住地を広げ、東スラヴ系、西スラヴ系、南スラヴ系に分かれた。ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人は、同じ東スラヴ系に属する。
ただ、民族とは言語や文化、宗教を共有する人間の集団のことで、人々が帰属意識を持っていることも重要。「民族」の範囲は必ずしも固定的ではない。ウクライナ語とロシア語は似ていると思われがちだが、実はウクライナ語は、ロシア語と文法や語彙(ごい)がかなり違っていて、語彙(ごい)の面ではポーランド語とのほうが共通するものが多いと言っていい。1991年にウクライナが独立して以降は、「ウクライナ語が国語である」と憲法に記載されるなど、「ウクライナ人」としての意識が強まっていた。特に、2014年にロシアがクリミア併合を強行してからは、東部のロシア系住民さえもウクライナ人としてのアイデンティティーを強めていった。プーチン大統領の主張とウクライナ人の意識は、相当に乖離(かいり)しているのだ。
歴史的にみると、ウクライナの歴史はロシアとは切っても切れない関係にあることは確かだ。
ウクライナはアジアからヨーロッパへの入り口にあたり、国土も平たん。古来、多くの民族や国家が進出し、翻弄(ほんろう)されてきた。9世紀にはキエフ大公国が繁栄したが、13世紀以降はモンゴルやリトアニア、ポーランドなど異民族による支配が続く。15世紀になるとウクライナの草原地帯には自治的な武装集団「コサック」が現れる。17世紀、ウクライナ・コサックの首領フメリニツキーはポーランドに反乱を起こし、事実上のウクライナ人国家を建設。彼はポーランドへの対抗上、モスクワ大公国の保護下に入るが、これがのちに、ロシアがウクライナを併合する口実となる。
18世紀後半、ウクライナの大半はロシアに併合されるが、西部に関してはオーストリア領となった。ロシア帝国時代、皇帝の専制によってウクライナのロシア化が進行していく。
ウクライナ人に独立の機会が訪れたのは、1917年。ロシア革命である。
帝政の打倒を受けて、ウクライナでも民族主義的な政府が成立したが、ロシアに成立したソヴィエト政府は独立を認めず、内戦の末にウクライナはソ連の一共和国となった。30年代初頭には、急進的な農業集団化と行き過ぎた穀物の徴発によって大飢饉(ききん)が起き、数百万人が命を落とす。民族主義や文化も抑圧され、ウクライナ人の政治家や知識人の多くが粛清の犠牲となった。
80年代になってやっと、ゴルバチョフ政権下で自由化が進められ、ウクライナでも民族運動が高揚。86年のチェルノブイリ原発事故も、ソ連への不信を強めることになった。91年8月、ウクライナは独立を宣言し、ソ連は解体に向かう。独立後のウクライナは、経済的にはロシアに依存しつつ、政治的には親露派と親EU派がせめぎ合う状態が続いた。世論が親EUに傾いたのは、2014年のウクライナ紛争以後のことだ。
プーチン政権は、キエフ大公国以来のロシア人とウクライナ人の同質性を強調するが、その思いとは裏腹に、ウクライナはロシアの強権的な姿勢を前に、かえって反発を強め続けていたのだ。
●ロシア、「非友好国」を拡大 欧州5カ国追加 7/24
ロシアのミシュスチン首相は24日までに、「非友好国」の数を拡大し、ギリシャ、デンマーク、スロベニア、クロアチアとスロバキアを新たに含める法令に署名し、公式サイト上で発表した。
ロシアは「敵意ある行動を示す」国家を非友好国と位置づけ、以前にはチェコと米国もその対象に入れていた。
プーチン大統領は今年4月、非友好国指定に関する法令に署名した。対象国は在ロシアの大使館、領事館や国家機関の事務所でロシア人を職員として雇用することに制限が課された。
今回の新たな法令によると、ギリシャが雇用可能なロシア人職員の上限は34人に定められ、デンマークは20人、スロバキアは16人となった。スロベニア、クロアチア両国は米国の場合と同様、大使館や領事館を含め採用が出来なくなった。

 

●キーウに空襲警報も…緊迫感なく休日楽しむ姿“戦争疲れ”の声 7/25
ロシアのウクライナ侵攻から24日で5か月をむかえました。戦闘が長期化する中、首都キーウでは人々の間に「戦争疲れ」も広がり始めています。
キーウ市内では、24日3度の空襲警報が出されました。
ただ市内に緊迫感はなく、警報が解除された午後には、人々は中心部の大通りに繰り出し、休日を楽しんでいました。
侵攻が長期化する中、市民からは、戦争への疲れを訴える声が多く聞かれました。
「私は前線にいませんがつらい気持ちです。疲れました」「以前は毎日ニュースを見ていましたが、ストレスになるので今は見ません」
ウクライナ軍は、アメリカなどから供与された武器などを使い東部で抵抗を続けている他ロシアの制圧下におかれた南部・ヘルソンの奪還にむけ攻勢を強めています。
●ロシア、ウクライナ兵92人を起訴 「人類の平和と安全に対する犯罪」に関与 7/25
ロシア連邦捜査委員会のトップは、ウクライナ軍の兵士92人を、人道に対する罪で起訴したと明らかにした。
同委員会のアレクサンドル・バストルイキン委員長は、政府系ニュースサイトのロシースカヤ・ガゼータに、1300件以上の犯罪捜査を開始したと述べた。
また、国際法廷を開くよう提案。法廷は、ボリビア、イラン、シリアなどの国々で構成されるべきだと主張した。
同委員長によると、軍司令官51人を含む96人ほどが指名手配されている。それらのウクライナ人は、「人類の平和と安全に対する犯罪」に関与しているという。
BBCは、そうした主張の正当性を確認できていない。ウクライナ側は、コメントを出していない。
国連支援の裁判は「疑わしい」
ウクライナ侵攻をめぐる犯罪捜査は、ウクライナも独自に進めている。当局は今月、ロシア軍が犯したとされる戦争犯罪や侵略犯罪を2万1000件以上捜査していると発表した。
一方、国際刑事裁判所(ICC)も、捜査員と科学捜査専門家らのチームを現地に派遣している。ICCはウクライナを「犯罪現場」と呼んでいる。
ロシアは、戦争犯罪や、民間人を標的にする行為を全面的に否定。ウクライナが自国のインフラを砲撃し、市民らを殺害していると、たびたび非難している。ただ、そうした非難は、世界の多くの指導者らによって退けられている。
バストルイキン委員長は、西側諸国を「ウクライナのナショナリズム」を公然と支援していると非難している。そして、国連が支援する裁判について、「極めて疑わしい」との見解を示している。
大量破壊兵器開発の疑いでも捜査
ロシアは「特別軍事作戦」の正当化のため、ウクライナがネオナチに牛耳られているとの誤った主張を繰り返している。
バストルイキン委員長は、ロシースカヤ・ガゼータの取材で、国際法廷の設置を提案。「ウクライナ問題で独立した立場」を取る国々で構成されるべきだとし、シリア、イラン、ボリビアを特に挙げた。
同委員長はまた、ウクライナ保健省の職員らを、大量破壊兵器を開発した疑いで捜査していると述べた。証拠は示さなかった。
さらに、イギリス、アメリカ、カナダ、オランダ、グルジアからの雇い兵と疑われる人たちについて、捜査中だと話した。
ウクライナ東部のロシアの代理法廷では6月、ウクライナ側で戦っていたところを捕らえられたイギリス人2人とモロッコ人1人に死刑が宣告された。
3人は雇い兵だとして起訴されたが、イギリス人2人の家族は、彼らは長年ウクライナ軍に所属していると主張している。
一方、ロシア軍兵士の戦争犯罪をめぐっては、ウクライナで5月に最初の裁判が開かれ、民間人を殺害したとして戦車長に終身刑が言い渡された。
●ウクライナ侵攻は「欧州の結束力」への戦争―独大統領 7/25
ドイツのシュタインマイヤー大統領は24日、西部パーダーボルンで行った演説で、ロシアのプーチン大統領が始めたウクライナ侵攻は「欧州の結束力に対する戦争」でもあると述べた。
シュタインマイヤー氏は「われわれは、われわれ自身を分断させてはならないし、明るい将来を見据えて始めた結束した欧州という壮大な取り組みを破滅させてはならない」と指摘。欧州が一枚岩でロシアに対峙(たいじ)する必要性を強調した。
●ウクライナ産輸出再開不透明 ロシア 軍用車両にも損失拡大か  7/25
ロシアはウクライナ産の小麦などの輸出再開に向けて、国連などの仲介のもとでウクライナと合意した翌日に、輸出拠点をミサイルで攻撃し、合意が確実に履行されるかは不透明な状況です。一方、イギリス国防省はロシアは兵員不足に加え、戦闘で必要な軍用車両などにも損失が広がっているという見方を示しています。
ウクライナ軍などは、南部の港湾都市オデーサで23日ロシア軍によるミサイル攻撃があり、けが人が出たほか、港のインフラ施設が被害を受けたと発表し、ウクライナ側は非難を強めています。
オデーサの港はウクライナ産の小麦の輸出拠点で、ロシア軍による封鎖で輸出が滞っていましたが、ウクライナとロシアは、トルコと国連の仲介のもとで輸出再開に向けて22日、合意したばかりです。
一方、ロシア側は攻撃を認めたうえで、ロシア産の農産物も輸出できるよう欧米の制裁を解除すべきだと主張しています。
また、ロシア大統領府のペスコフ報道官は25日「出荷に何ら影響を与えない」と述べ、オデーサでの攻撃対象は軍事施設で、輸出再開に向けた合意とは関係がないものだと主張していて、合意が確実に履行されるかは不透明な状況です。
こうした中、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は24日、ロシアはウクライナでの戦闘に必要な兵力を確保するため北西部のボログダ州や中部のキーロフ州などロシアの地方都市を中心に契約軍人を募っていると指摘しました。
また、イギリス国防省は25日の分析で、ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州に、軍用車両の整備や修理を行う施設が確認されたとしています。
そのうえで「戦闘車両や装甲車両それにトラックなど、少なくとも300台の損傷した車両がある」と指摘し、ロシアは兵員不足に加え、戦闘で必要な軍用車両などにも、損失が広がっているという見方を示しています。
●プーチン氏、安倍氏国葬出席せず 報道官が表明 ロシア 7/25
ロシアのペスコフ大統領報道官は25日、プーチン大統領が9月27日に行われる安倍晋三元首相の国葬出席のために訪日する予定はないと明らかにした。タス通信が報じた。ペスコフ氏は「プーチン氏が日本を訪問し、葬儀に出席する予定はない。参列者のレベルは今後決定される。プーチン氏は行かない」と述べた。ロシアのウクライナ侵攻を受け、プーチン氏は日本政府の制裁対象となっている。 
●プーチン政権の弱体化が始まった 7/25
米イェール大学のティモシー・スナイダー教授(歴史学)は7月23日、ツイッターへの投稿で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の支配は「弱体化」しつつあり、来たるべき権力闘争に備えた動きが出ていると指摘した。
スナイダーはドミトリー・メドベージェフ前大統領らロシア政府の元高官の一部が、ウクライナと西側諸国に対し警告めいた発言をしていることを取り上げ、プーチンの「抑えが効かなくなっている」証拠だ、と述べた。
メドベージェフはプーチンの盟友だが、ロシアのウクライナ侵攻に対する欧米の対応によってウクライナが今残っている領土まで失い「世界地図から消える」かも知れないと警告した。
「こうした発言があると、危機感を煽るロシアのプロパガンダだと思うところだ。だが肝心なのは、メドベージェフらが自分たちもこうした発言をして構わないと感じ始めていることだ。侵攻前はこれほどではなかった」とスナイダーは述べた。
こうした脅迫めいたプロパガンダはプーチンへの忠誠心を示す一方で、「プーチン後の権力闘争」に向けた動きである可能性もあるという。
「ロシアが戦争に負けたら、今過激なことを言っている人々は自己保身に走るだろうが、私自身は、過激な発言はロシアの大物たちが自国の旗色が悪いと受け止めている証拠だと見ている」とスナイダーは述べた。
「プーチン後」を見すえたイメージ戦略
「メドベージェフはプーチンのリベラル寄りの交代要員と長年見られてきた人物で、彼がメッセージアプリのテレグラムで発信してきた反ユダヤ的、反ポーランド的、反欧米的なヘイトスピーチを本気で信じているとは思えない。(自身のテクノクラートという側面がかつて役に立ったように)そのうち役に立つかもしれない(タカ派という)側面を作っているのだ」とスナイダーは述べた。
またスナイダーによれば、プーチンの弱体化は、彼の立てた目標をロシア軍が達成できていないことからもうかがえる。同様の見方は一部の高官などからも聞かれる。アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は、プーチンがウクライナでの戦略的目標を達成するのに失敗したと述べた。
「プーチンは政敵や移ろいやすい世論、軍をうまくコントロールし、その均衡の上に居座ってきたが、今は費用ばかりかかって先の読めない戦争に脅かされている。プーチンはこれまでうまくわれわれを煙に巻いてきたが、今となっては彼自身が戦争という煙の中で迷子になっているようだ」とスナイダーは述べた。
6月、スナイダーはロシアによる黒海封鎖がウクライナからの輸出穀物を妨げていると批判。難民を作り出すことでEUの不安定化を狙ったものだ、と述べていた。
「プーチンの飢餓計画は、通常ならウクライナ産の食糧の供給を受けている地域、つまり北アフリカや中東からの難民を生み出すことを意図している。これはEUに不安定化を生む要因になる」とスナイダーはツイッターに書いた。
黒海に面したウクライナの港は侵攻のせいで閉鎖を余儀なくされ、その結果、他国への食糧供給が脅かされている。ウクライナとロシアは22日、トルコと国連の仲介により、穀物輸出の再開に向けて黒海の港の封鎖を解くことで合意した。平時であれば、オデーサを初めとするウクライナの港には、1日あたりコンテナにして約3000個分の穀物が運び込まれる。
だが合意から数時間後の23日、ウクライナはロシアがオデーサの港をミサイルで攻撃したと非難。AP通信はウクライナ軍南方司令部の話として、ロシアの巡航ミサイル「カリブル」2基が港湾施設に着弾したが、けが人は出ていないと伝えた。一方でAP通信は、人数は不明だがけが人が出ているというオデーサ州知事の話も伝えている。
●「プーチンは顔に唾を吐いた」 合意翌日のミサイル攻撃ロシア認める 7/25
ロシア国防省は24日、黒海での穀物輸出の再開でウクライナと合意した翌日の23日にウクライナ南部オデッサの港湾周辺を巡航ミサイル「カリブル」で攻撃したと発表した。国際社会ではロシアが船舶の安全確保などの合意を履行するか疑念が強まっており、8月下旬の穀物輸出再開に不透明感が漂っている。
ロシア国防省は「ウクライナの軍用船と(欧米側が供与した対艦ミサイル)ハープーンの保管庫を破壊した」と説明。ザハロワ外務省情報局長も通信アプリに「軍事施設が標的」と投稿し、攻撃を正当化した。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアとの対話の可能性を打ち砕く一撃だ」と反発。トルコのアカル国防相によると、ロシア側は今回の攻撃直後に「全く関与していない」と事実と異なる説明をしていたという。
ウクライナ外務省報道官は「穀物輸出のために力を尽くしてきた国連のグテレス事務総長とトルコのエルドアン大統領の顔に、ロシアのプーチン大統領は唾を吐いた」と非難。欧米メディアによると、ブリンケン米国務長官も23日、「ロシアは信頼性を深刻なまでに損なった」と述べた。
ウクライナとロシアは22日、国連とトルコの仲介で、オデッサを含む三つの港からウクライナ産穀物の輸出再開に向けた合意文書を締結。穀物を積んだ貨物船の航行安全を保障することなどが柱で、ロシアのウクライナ侵攻で引き起こされた食糧問題が緩和されるとの観測が出ていた。
●ロシアのラブロフ外相「食糧危機は欧米の過ちから始まった」…制裁批判 7/25
ロシア外務省は24日、セルゲイ・ラブロフ外相がエジプトを訪問し、首都カイロでアブドルファタハ・シシ大統領らと会談したと発表した。ラブロフ氏は27日までの日程でアフリカを歴訪し、欧米による対露経済制裁の解除に向け、ロシアの主張を浸透させる狙いがあるとみられる。
ラブロフ氏はカイロで、シシ氏にプーチン露大統領からの親書を手渡し、外相会談も行った。会談後の共同記者会見では、「食糧危機は、新型コロナウイルスの感染拡大と欧米諸国の過ちから始まった」と述べ、欧米の制裁措置を批判した。
ラブロフ氏は24日、カイロに本部を置くアラブ連盟(22か国・機構)の事務局長とも会談した。露外務省は、ロシアとアラブ諸国の経済協力強化の必要性を確認したとしている。
ラブロフ氏はエジプトのほか、コンゴ共和国とエチオピア、ウガンダを訪問する。各国に自国産穀物を売り込む考えがあるとみられる。

 

●プーチンのイラン訪問で反米同盟強化の路線は鮮明に 7/26
ロシアのプーチン大統領のイラン訪問は両国が反米同盟の強化を誇示する形で終わった。米欧から厳しい制裁を受ける国同士の引かれ者の小唄≠ニ揶揄する声がある一方、大統領がイラン最高指導者ハメネイ師からウクライナ侵攻に対する「お墨付き」を得たのが最大の成果だろう。イランは新たに結成された「中東防空同盟」に脅威を感じており、中東情勢は波乱含みの展開が続く。
ハメネイ師「NATOは危険な同盟」
プーチン大統領の訪問はウクライナ侵攻後、初めて旧ソ連邦以外の外国を訪れるものだ。本来はシリア情勢の正常化に関する協議が目的で、トルコのエルドアン大統領が同じ時期にテヘラン訪問したのはそのためだ。だが、バイデン米大統領の中東歴訪から1週間後のプーチン氏のイラン訪問は米国の動きを十分に意識したものであったのは確実だ。
ロシアとイランの2国間関係はかつてロシアがイランの一部を占領した歴史的な経緯もあり、戦後もさほど緊密ではなかった。近年では、プーチン政権がイスラエルやアラブ諸国との関係を優先し、イランとの関係は大きく進展してこなかった。
だが、ウクライナ戦争が状況を一変させた。欧米から厳しい制裁を受けて政治、経済の両面で国際的孤立を深め、同様に制裁にさらされるイランに接近せざるを得なくなった。
イランのライシ大統領が、ウクライナ侵攻が取り沙汰されていたことし1月、モスクワを訪問してプーチン氏と会談、6月にもトルクメニスタンでの国際会議の際に会い、訪問への地ならしが行われた。プーチン氏の最大の狙いはウクライナ侵攻に対してイランから支持を取り付け、欧米の制裁に屈していない姿を内外に誇示することであった。
その狙いは予想以上にうまくいった。ハメネイ師がロシアのウクライナ侵攻を明確に支持したからだ。イラン側の発表によると、同師は北大西洋条約機構(NATO)を危険な同盟≠ニ呼び、ロシアがウクライナで支配権を握らなければ、NATOがクリミア奪回を口実に同じ戦争を開始していただろう、とプーチン氏を全面的に支持した。これほど強力な支持は旧ソ連邦の衛星国∴ネ外になく、同氏にとっては望外の援護射撃になった。
プーチン氏は頼みの綱とする中国から「腰の引けた支持」(専門家)しか取り付けられず、失望感を深めていたことから、ハメネイ師の支持はなおさら嬉しかったに違いない。同氏が今回、訪問で具体的にイラン側へ目論んだものは1戦略協定の締結、2「ユーラシア経済同盟」との自由貿易協定締結、3「上海協力機構」への正式加盟――などで、この線に沿っての協議が進んだもようだ。
「ドルのくびき」からの解放も協議
プーチン大統領は特に、2国間貿易にドル決済ではなく、自国通貨を使用する新しい方法を設計していることを明らかにした。これはいわば「ドルのくびきからの解放」だ。
国際間取引の基軸となってきた米ドルではなくロシアとイランの自国通貨で決済することにより、米欧の制裁の影響を排除しようという試みだ。ハメネイ師も米ドルが世界的な取引から徐々に排除されるべきとの考えを表明し、援護射撃した。
首脳会談と並行して進められた協議としては、ロシア国営の天然ガス企業ガスプロムによるイランの石油・天然ガス開発契約問題がある。400億ドルに上る大型プロジェクトで、イラン核合意から米国が離脱して以来、ロシアによるイランの資源開発構想は停止状態にあった。
またイランからのドローン(無人機)購入問題も議論されたとみられている。米紙はイランが攻撃用と偵察用のドローン300機を供与する準備を進めていると報道。ロシア兵の訓練も始められる予定で、ロシア代表団が6月に2回にわたってイランを訪問した。これについて米高官はロシアが「イランに助けを求めなければならないほど孤立している」と指摘している。
しかし、ロシアとイランの同盟関係は短命に終わるのではないかとの根強い見方もある。米欧の同盟が民主主義などの理念を土台にしているのに対し、「独裁」と「イスラム」という体制の異なる2国には統一した理念はない。あるのは「反米」という旗印だけで、「世界の主流からつまはじきにされた者同士がくっついたにすぎない。長くは続かない」(専門家)という意見も多い。
事実、安全保障問題に関して言えば、イスラエルを不倶戴天の敵とみなすイランと、親密な関係を維持するロシアとでは距離感がまるで違う。核開発についても、イラン核合意を支持するロシアと制限なき核開発を志向するイランとは基本的な考えが異なる。制裁下での石油売却についても、両国が売却先の奪い合いという競争関係にある。
イラン「中東防空同盟」に危機感
イランはアラブ世界がイスラエルとの関係を強化することに懸念を深めてきた。近年トランプ米前政権の主導で、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、モロッコがイスラエルと国交を樹立し、国交のあるアラブ諸国は過去に関係正常化を達成したエジプト、ヨルダンを加えて5カ国に増えた。
特に今年3月、イスラエルでUAEらアラブ4カ国と米国のブリンケン国務長官らによる6カ国外相会議が開催され、具体的なイラン包囲網づくりが始まった。これにイランが「イスラエルとの関係を正常化するいかなる行為もパレスチナの人々の背中に刃物を突き刺すものだ」とパレスチナ問題に関連付けて反発した。
しかも米紙によると、米国が3月、イランによるミサイルや無人機の開発に対抗するため、イスラエルとアラブ諸国の軍事トップとの秘密会合をエジプトで開催したが、イランはこれに神経をとがらせていた。とりわけ会合には、ペルシャ湾をはさんでイランを敵視するアラブの大国サウジアラビアも参加していたことがイランに衝撃を与えたようだ。
イスラエルのガンツ国防相によると、イスラエルは米国の支援を受け、アラブ諸国との間で「中東防空同盟」の構築を開始しており、その中にはイランからの攻撃を瞬時に共有する通信システムなども含まれている。イスラエル紙は同国がすでに、イランによるイラクからの無人機攻撃を阻止することに成功したと伝えている。
バイデン大統領が今月のサウジ訪問の際、湾岸協力会議(GCC)とアラブ3カ国の合同首脳会議に出席したのも、「中東防空同盟」の強化という裏の狙いがあったとみられている。バイデン政権は中国対応のため、中東に展開してきた軍事力をアジアに転換しつつあり、「中東防空同盟」という集団防衛体制が米軍の空白を埋める一助となることを期待している。
イランはこの「中東防空同盟」が反イランに傾斜していることに深刻な危機感を抱いており、ウクライナ侵攻に承認を与えたのも、見返りとして、ロシアからレーダーや防空システムなどの最新兵器の供与を期待しているからに他ならない。中東を舞台にした離合集散は新たな対決の危機を生もうとしている。
●ロシア、長期戦へ経済動員法 「ウクライナ疲れ」期待か―兵員不足に課題 7/26
ウクライナ侵攻が失速したと指摘されるロシアが、長期戦を見据えて国内の態勢固めを進めている。今月14日には、事実上の「経済動員令」に当たる法律がプーチン大統領の署名で成立。欧米の制裁に耐えている間、時間の経過とともにウクライナ軍の士気が下がり、欧米に「支援疲れ」が広がることに期待しているとみられる。
政府との契約拒否できず
「われわれがまだ何も本格的に始めていないことを誰もが知るべきだ」。プーチン氏は7日、下院各会派代表との会合で、ウクライナと欧米を強くけん制した。
緒戦で首都キーウ(キエフ)を含む北部の電撃制圧に失敗したロシア軍は今春、東部ドンバス地方の親ロシア派支配地域を拡大する方針に転換した。ただ、戦力の消耗が激しいことから、作戦を持続可能にするためにも特に兵員の補充が課題に浮上している。
徴集兵の前線投入には国内の反対論が根強い。プーチン氏が5月の戦勝記念日の演説で「特別軍事作戦」の位置付けを「戦争」に変更し、国民に総動員をかけるのではないかとの観測もあった。結局、世論に配慮し「禁じ手」を選ばなかったもようだ。
こうした中、プーチン政権は6月末、ロシア軍の作戦の続行を支えるための「特別措置」を、政府が発動できるようにする法案を下院に上程した。法案は今月6日に可決され、その2日後には上院で承認された。プーチン氏の署名で成立したこの法律は、具体的にはロシア経済の動員を可能にするもので、独立系メディアによると、発動されれば「企業は軍需品を含む政府との契約を拒否できない一方、従業員を夜間や休日・祝日も働かせることができるようになる」とされている。
一方、肝心の兵員については、幅広い年齢層の予備役やロシアの民間軍事会社「ワグネル」の傭兵(ようへい)を投入し、補強しているもよう。プーチン政権が受刑者に恩赦と報酬を提示し、ワグネルに加わるよう組織的に勧誘しているとも伝えられる。
戦死傷者、毎日数百人
対するウクライナ軍は、米国の高機動ロケット砲システム(HIMARS)など重火器の支援を受けて形勢を立て直しつつある。この影響でロシア軍は、兵力の損失にあえいでいるとみられ、英国の対外情報機関、秘密情報部(MI6)のムーア長官は21日、「今後数週間、人員と物資の供給がますます困難になるだろう」と分析した。
ロイター通信によると、米国防総省筋はロシア軍が毎日数百人の戦死傷者を出していると推計されると語った。米中央情報局(CIA)のバーンズ長官も20日、「約1万5000人が死亡し、その3倍の数の負傷者が出ている」と指摘。今後、仮に軍を支える国内経済が持ちこたえても、慢性的な兵員不足が作戦継続の足かせとなりそうだ。 
●ウクライナ戦争で浮き彫りとなった「世界的穀物不足」の行方 7/26
ウクライナ戦争でにわかに食糧問題に注目が集まっている。
輸出の停滞や作付けができない、といった原因で穀物価格が上昇。結果、経済基盤がぜい弱な貧困国が食糧を購入できず、深刻な飢餓問題に直面しているというものだ。ロシア、ウクライナは7月22日に穀物輸出再開の合意文書に調印したものの、その翌日23日にはウクライナ南部の貿易拠点であるオデーサ港をロシア軍が攻撃。再び輸出再開は不透明になっている。
とはいえ、飢餓に直面しているのは貧しい国で、あくまでも“対岸の火事”というのが我々日本人の一般的な認識だろう。価格は上昇するにせよ、食糧が手に入らないということは日本では考えられないからだ。実際、米国農務省で公表しているデータを見る限り世界の穀物の需給はバランスが取れている。しかし、我々が「前提」としているデータに異を唱えるのが立命館大環太平洋文明研究センターの高橋学特任教授だ。
「米国農務省が提示している消費量というのは、人間が食べる分だけじゃなくて、家畜の飼料やバイオ燃料として消費される分も含まれており、主食など人の食用として消費されるものは全体の43%程度です。問題は全体の約36%を占める家畜や養殖魚のえさとなる分。経済的に貧しかった国々が豊かになっていくにつれて肉を大量に消費するようになってきている。結果、家畜の飼料になる穀物の量がドンドン増えてきている。つまり人間の食べる分が牛や豚にドンドンとられているという事なのです」
家畜は穀物の消費という点では非常に効率が悪い。たとえば牛の場合、牛肉1kgの生産に必要な穀物の量はとうもろこし換算で11kg、同じく豚肉では7kg、鶏肉では4kg。これまで穀物中心の食生活だった人たちが牛肉や豚肉を食べだすと、むしろ穀物の消費が急増していくというわけだ。
「みんなで肉を食べることを止め、牛や豚の生産農家をつぶしてでもみんなで穀物を食べましょう、という事ができればいいですが、そうはならないのが現実です。なぜか?牛や豚の生産、流通などで経済が成り立っているという点を抜かしても、人間は一度おいしいものを食べたらもうマズいものは食べられないからです」(高橋特任教授)
一方、経済的に急成長を遂げた中国の穀物輸入は急激に伸びている。大豆の輸入量は2010年には5000万トンだったものが現在は1億トンを超え、小麦、トウモロコシに至っては2010年にはそれぞれ100万トン程度だった輸入量が、2021年には小麦が1000万トン、トウモロコシが2800万トンと十〜数十倍という異常な伸びとなっている。大豆、トウモロコシは多くが飼料用で、本来食用の小麦も飼料として転用できることを見越して輸入されている。中国が消費するこの膨大な輸入穀物は、主に牛や豚の腹の中に消えている。もちろん家畜が猛烈に消費する穀物を増産できればいいのだが、今の技術でそれは不可能だ。
「第一次世界大戦前の1906年にドイツで空中窒素固定法というものが発明されました。それまで不可能だった空気中にふんだんにある窒素をアンモニアとして取り出すことに成功したのです。これによって肥料の三大要素である窒素、リン酸、カリウムのうち窒素を無尽蔵に作ることができるようになり、食糧の生産が飛躍的に伸びました。しかし、それ以降画期的な食糧の増産方法は見つかっておらず、もう地球上での生産能力には限界が来ており100億人分の食糧しか作れません。一方、世界の人口は80億人になろうとしており、すでに約8億人が飢餓に瀕している。にもかかわらず、年に1億人ずつ増えているのです。単純計算でも20年後には食糧の絶対量が不足するのですが、家畜は人以上に増えドンドン食糧を食べてしまいます。あと10年もしないうちに深刻な食糧危機が世界を襲い、お金のない国から国民が餓死していくことになると思います」(同前)
10年後には訪れるであろう食糧危機でも、今のウクライナ戦争と同じように日本はやはり“対岸の火事”として済ませられるのであろうか?
「米は余っているからなんとかなる、と思っている人がけっこういるんですね。でも、それはパンや麺類を食べている人がたくさんいるからで、なんらかの理由で穀物が輸入できなくなれば米はまったく足りません。日本の食糧自給率は37%しかないのですから」(同前)
主な先進国の食糧自給率を見ると、カナダ266%、アメリカ132%、フランス125%、ドイツ86%、イギリス65%、イタリア60%となっており日本は群を抜いて低い。日本は食糧安全保障がまったく機能していないのである。そして、ここにきて起こったのがウクライナでの戦争である。ウクライナは小麦が世界5位、トウモロコシは世界4位の輸出国だが、ウクライナ経済省によれば、ロシア侵攻前に比べ、小麦、トウモロコシとも月間ベースで輸出量が1/4に落ち込んだという。ウクライナだけが舞台の戦争で、これだけの穀物がまるまる世界の市場から消えてしまったのだ。もし、戦争が世界規模になっていれば、日本はたちまち世界の食糧争奪戦に巻き込まれ餓死者が出たハズだ。さらに日本には特有の大きなリスクがある。
「私が一番心配しているのは近いうちに必ず来るであろう南海トラフの巨大地震です。南海トラフ地震の場合、太平洋沿いの工業地帯、名古屋、大阪だけでなく首都圏も壊滅的な被害を受ける可能性が十分あります。工業地帯や人口密集地が軒並み被災するという点で、東日本大震災とは比べ物にならない被害となるのです。港湾や高速道路などのインフラがズタズタになってしまえば、そもそも人口が密集している都市部の人々へ食糧を運ぶことができなくなります」
また、東日本大震災の被災地は、基幹部品・素材の工場の集積地だったため、直接被害を受けなかった地域においても、これら部材を原材料として使っていた企業の生産に支障がでた。
「部品が手に入らず、工場も破壊され、港湾施設も使えないとなれば、もう日本は製品を海外に売ってお金を稼ぐことができない。みるみる貧しい国に転落してしまうでしょう。その時、値段が高騰している穀物を買う事ができるのか?私ひとりの杞憂であれば良いのですが、環境史・土地開発史・災害史に基づく災害リスクマネジメントをやってきた私にはそうは思えないのです」(同前)
日本の農業従事者は全人口の1パーセント程度の130万人で、しかもそのうち90万人は65歳以上。そして、あちこちに耕作放棄の水田や農地が広がっている。ウクライナ戦争をきっかけに日本は食糧安全保障に目覚める必要があるのではないだろうか。
●ウクライナ侵攻から5か月 生活再建進める首都キーウ 仮設住宅は… 7/26
ロシアによるウクライナ侵攻から5か月。首都キーウ近郊では生活の再建が進む一方、戦争の長期化は住民に新たな課題を突きつけています。ウクライナの首都キーウ。この夏、ある商品の売れ行きに「異変」が起きていました。
記者「キーウ市内の家電量販店では、暖房がすでに飛ぶように売れているということです」
9月には、早くも冷え込みが厳しくなってくるウクライナ。戦争の長期化への不安から、冬への備えとしてコンパクトな電気ストーブが人気だといいます。
客「冬に向け電気ストーブを買います。ガスや燃料がどうなるか分からないので」
一日に20台売れることもあるということで、店の担当者も「夏にここまで売れるのは異常だ」と驚きを隠せません。一方、ロシア軍に一時占拠され、大きな被害をうけたキーウ近郊の村では、この「冬への備え」に新たな問題が生じていました。
記者「ここのお家も壊れた家の前にプレハブの仮設住宅を建てて住んでいますね」
全壊した自宅のすぐ脇に支援団体が用意した仮設住宅。まずは入居できることを急いだため、壁は薄く、小さな部屋の中には暖房も設置されていません。
住民「仮設住宅で冬を過ごすのは大変です。冬は越せないと思います」
ここに住む夫妻は、冬になったらキーウ市内の息子一家の元に行くことを考えているといいます。また、自宅を再建しようとしている女性は、資金が足りず、工事が進められないといいます。
住民「冬は無理です。一時的にしか住めません。どうすればいいのか…。子供たちが家にいればいいですが、軍に行ってますから」
こうした中、避難者らの住宅をめぐっては別の課題も持ち上がっています。キーウ市内では今、戦争の影響で、アパートなどの不動産価格が下落。さらに、多くの人が避難したため、空き部屋が侵攻前の3倍になるなど、物件が大量に余っています。しかし、それでも市内の物件は避難者らには高価で、手が届かないといいます。
不動産店 担当者「避難者はキーウ近郊で安くアパートを借りて、仕事を探します。でも仕事はキーウ市内にしかないんです」
戦争が長期化する中、冬に向けた住宅をめぐる課題は山積しています。
●「軍艦標的」英は疑問視 ロシアのオデッサ港攻撃―ウクライナ 7/26
ウクライナ南部の穀物輸出の拠点となるオデッサ港をロシア軍が23日に攻撃したことについて、英国防省は26日付の戦況報告で、軍艦などを狙ったとして攻撃を正当化するロシア側の説明は疑わしいという認識を示した。
報告は、ロシア国防省が先に「ウクライナの軍艦と対艦ミサイルを攻撃した」と主張したことに言及し、「ミサイルの着弾地点にこれらの標的が存在していたことを示すものはない」と指摘した。
ロシアとウクライナは22日、トルコと国連の仲介で、世界的な食料危機を拡大させかねない穀物輸出停滞の解消を進めることで合意した。合意文書では「輸出に使われる港湾施設」への攻撃禁止がうたわれている。標的が軍事関連でなければ、ロシアが明確に合意に違反した形となる。
一方、ウクライナのメディアによると、南部ミコライウ州で、ロシア軍による激しいミサイル攻撃があった。ウクライナ当局者が26日、明らかにした。同州の港湾施設が標的になったという情報もある。
●ウクライナ南部で「ロシア化が進んでいる」…公務員給料をルーブル払い  7/26
ロシアNIS経済研究所の服部倫卓所長と筑波大の東野篤子教授が26日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、ロシアのウクライナ侵略について議論した。
ロシアがウクライナ産穀物の海上輸送再開の合意後に行ったオデーサ港への攻撃について、服部氏は「合意を隠れみのにオデーサの港を軍事目的で使うようなことはするなと(ウクライナ側に)手荒なくぎを刺したのではないか」と分析した。東野氏は、ヘルソン州など南部で「ロシア化がどんどん進んでいる。公務員の給料をルーブルで払うなど深刻な事態が進んでいる」との見方を示した。
●来月5日にプーチン氏と会談 トルコ大統領がソチで 7/26
トルコのエルドアン大統領は8月5日、ロシア南部ソチを訪れ、プーチン大統領と会談する。アナトリア通信が26日報じた。トルコがロシアとウクライナの合意を仲介した穀物輸出問題を含め、ウクライナ情勢について意見交換する見通し。
●米国務次官 “ロシアへの圧力緩めず G7が一致した対応が重要”  7/26
アジアを歴訪しているアメリカのヌーランド国務次官がNHKのインタビューに応じ、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアへの圧力を緩めず、日本をはじめとしたG7=主要7か国が引き続き一致した対応を取ることが重要だと強調しました。
今月28日までの日程で日本と韓国を訪れているアメリカのヌーランド国務次官は26日午前、都内でNHKのインタビューに応じました。
ヌーランド次官は、オバマ政権下でヨーロッパ・ユーラシア担当の国務次官補として、2014年にロシアによるクリミアの一方的な併合への対応に当たるなどウクライナをめぐる外交政策に長く携わってきた人物です。
インタビューでヌーランド次官は、軍事侵攻を続けるロシアについて「制裁の効果は必ずしもすぐには表れないものだがロシアは徹底的な経済圧力を受けていると確信している」と述べたうえで、今回の来日でロシアへの制裁やウクライナへの人道支援などについて日本政府と協議したことを明らかにしました。
そして「最も重要なことは、この圧力を維持し緩めないことだ」と指摘し、ロシアへの制裁やウクライナへの支援などで日本をはじめとしたG7=主要7か国が引き続き一致した対応を取ることが重要だと強調しました。
さらにヌーランド次官は「中国も、ウクライナの戦争に対する民主主義国の結束した対応を注視している。中国に正しいメッセージを送らなければならない」と述べ、ロシアへの制裁に反対する立場を示している中国に警戒感を示しました。
さらにプーチン大統領が事業主体をロシア企業に変更するよう命じた、日本の大手商社も出資する天然ガスの開発プロジェクト「サハリン2」をめぐり、「エネルギーをプーチンが日本に対抗する武器にさせてはならない。時間をかけて依存を終わらせるため日本とエネルギー需要について協議している」と述べ、ロシアからの輸入を減らすため日本と連携していくと強調しました。
また、今月演説中に銃で撃たれて亡くなった安倍元総理大臣に弔意を示したうえで、ことし9月に行われる「国葬」へのアメリカからの出席者について、「多くのアメリカの指導者たちが来日を望んでいる」と述べ、調整を進めていると明らかにしました。
●ウクライナ駐日大使「核兵器廃絶」訴え ロシアによる軍事侵攻から5か月 7/26
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から5か月。ウクライナのコルスンスキー駐日大使が26日、東京都内で会見し、ロシアによる核の脅威を念頭に核兵器廃絶への想いを強調しました。
コルスンスキー駐日ウクライナ大使は日本記者クラブで会見し、甚大な被害を受けたブチャやハルキウなどの写真を見せながら、現在の状況などを説明しました。
また、ロシアによる核の脅威についても言及し、「核兵器は辞書からだけでなく、実践の場からもなくさなくてはいけない」と主張しました。
その上で、来月1日からアメリカ・ニューヨークで開催されるNPT(=核拡散防止条約)の再検討会議に向けて、日本などと連携して核兵器廃絶のメッセージを発信したいと強調しました。
コルスンスキー駐日大使「核兵器の脅威にさらされた国は世界中でウクライナと日本の2か国だけです。(NPT再検討会議は)核の脅威に関心を向けさせる良い機会であり、私たちは日本に全面的に協力します」
大使はさらに、日本の若者に向けて「ウクライナで起きていることは日本からは遠いかもしれないが、平和の尊さに関心を持ってほしい」とメッセージを送りました。
●ガス 電気 水道も… ロシア軍 生活基盤破壊がねらいか  7/26
ロシアによる軍事侵攻から5か月。罪のない一般市民が攻撃にさらされ続けています。市民に対する暴力や人権侵害に加え、目立っているのが市民の生活基盤を破壊するロシア軍の攻撃です。激しい戦闘が続く、東部ドンバス地域からの避難民が集まる町でその実態を取材しました。
ドネツク州 無差別的攻撃でライフラインが破壊
首都キーウから、車で5時間、中部ポルタワ州です。道路脇には土のうが高く積み上げられ、戦闘地域に近いことを実感させます。ポルタワ州には、激しい戦闘が続く東部からおよそ6万人が逃れています。
ドンバス地域などから逃れた人たちの避難場所になっている幼稚園には107人が身を寄せ、行政の支援を得ながら避難生活を続けています。
そのひとり、ライーサ・オロブチェンコさん(73)です。ことし4月、東部ドネツク州のスロビャンシクから、夫と孫とともに逃れてきました。
スロビャンシクは、ドネツク州の完全掌握を目指すロシア軍による攻撃が激しくなっています。無差別的な攻撃で市民のライフラインが破壊されているといいます。
ライーサさんは「故郷は、ガス、電気、それに水道も止まっています。どこに戻れというのでしょうか。最初は1か月も避難すれば戻れると思っていました。でも、すでに避難して4か月です」と話していました。
こうした中でも娘のオルガさんはスロビャンシクにとどまり続けています。いつか家族が戻れるようにと家を守っているのです。
ライーサさんは、娘のオルガさんに電話で今の様子を聞きました。オルガさんは「けさ、3回ほど砲撃音が聞こえました。近くの町にはきのうの夕方から何度も砲撃がありました。数週間前に攻撃を受けた市場にはもう行けなくなりました」と答えていました。
ポルタワ州行政当局「市民生活への脅威」
避難先であるポルタワ州にもロシア軍の攻撃は及んでいます。戦線から離れた都市部に対してもロシア軍のミサイル攻撃が強まっているのです。
6月には多くの市民が利用するショッピングセンターにミサイルが撃ち込まれ、22人が死亡、100人以上がけがをしました。
また、火力発電所も破壊され、およそ18万人に影響が出ています。
ポルタワの行政当局は、市民の生活基盤を破壊することがロシア側のねらいだとみています。バレリ・ポルホメンコ副市長は「ロシア軍の攻撃を見れば、ミサイルで生活インフラを狙っている。市民生活への脅威だ。住宅、暖房、水道などをどう提供できるかが課題だ」と話していました。
●特殊部隊しか持っていない銃で副社長が一家心中…「民間人の不審死」 7/26
ロシアの新興財閥「オリガルヒ」はこれまでプーチン大統領を支える立場だと言われてきた。ところが、このところオリガルヒ幹部の不審死が相次いでいる。一体何が起きているのか。池上彰さんに増田ユリヤさんが聞く――。
ロシアの新興富裕層も公然とプーチン批判を始めた
6月28日、ロシアのオリガルヒの一人であるオレグ・デリパスカ氏が、ウクライナへの軍事侵攻を批判しました。「AFP=時事」は、次のように報じています。
〈ロシアが軍事攻撃によりウクライナを破壊するのは「途方もない間違い」だと指摘した。実業界の大物からの自国非難はまれ。デリパスカ氏は、ロシアのアルミ製造会社ルサールの創業者で、西側諸国による対ロシア制裁の対象となっている。首都モスクワで行われた記者会見で、デリパスカ氏は「ウクライナを破壊することはロシアの利益となるのか。もちろん違う」と言明。〉
新興財閥オリガルヒは、プーチン大統領を支える立場だと解釈されてきました。しかしデリパスカ氏のように、政権を公然と批判する人もいます。実際にはどんな存在で、大統領との関係はどうなっているのでしょうか。
オリガルヒというのは、「少人数での支配」や「寡頭制」を意味するギリシャ語です。ソ連が崩壊した際の経済自由化に乗じて勃興した、新興財閥のことです。
エリツィン大統領の時代に「独占資本家」となった
ソ連時代は、すべての産業が国営企業でした。国営ということは、全国民が株主になる権利があるということになります。そこで、1991年のソ連崩壊後、ボリス・エリツィン大統領によって多くの企業が民営化されることになったとき、バウチャーを発行してすべての国民に無料で配ったのです。バウチャーを持ってくれば、好きな会社の株券と引換えてくれるという仕組みです。
ところが社会主義しか知らない国民には、資本主義の仕組みやバウチャーの意味がわかりません。そこへ目端の利いた共産党の幹部がやって来て、「そのバウチャーを買ってあげますよ」と持ちかけます。役に立たない紙切れを買ってくれるならありがたいというわけで、多くの人が話に乗りました。そうやってたくさんのバウチャーを買い占め、株式に引き換えて大株主になっていった人が、オリガルヒの始まりです。
エネルギーや資源などの重要な産業分野で、独占資本家が次々に生まれました。テレビ局や新聞社を買収するなど大きな影響力をもつようになり、政権を批判する報道も増えます。
政権批判でシベリアの刑務所へ送られたケースも
プーチンが大統領に就任すると、政権に反対的なオリガルヒへの弾圧が始まりました。脱税などの罪で次々に捕まえていったんです。身の危険を感じて、海外に逃亡するオリガルヒも出てきました。エリツィン時代はわが世の春だったのに、プーチン大統領の言うことを聞かなかったためにシベリアの刑務所へ送られたオリガルヒもいます。
プーチン大統領の支持基盤には、元KGBや軍出身者から構成される勢力があります。彼らは「シロビキ」と呼ばれます。プーチン大統領は、言うことを聞かないオリガルヒを弾圧して、国営企業のトップにこういった仲間を据えたりもしました。結果として、プーチンの言うことを聞く体制派のオリガルヒが生き残ったわけです。
オリガルヒは、現在200人くらいいるそうですね。プーチン大統領に影響力をもつこの人たちが反対すれば、侵攻が早く終わるのではないかという期待もありました。
ウクライナへの侵攻に対して、西側諸国はロシアに経済制裁を科しました。その中にオリガルヒに対する制裁も含まれているので、彼らは莫大な損失を被っています。そのため、デリパスカ氏のようにプーチン大統領を批判したり、距離を置くオリガルヒが出てきたのは事実です。
批判派のオリガルヒでは「自宅で一家心中」が続発
ニューヨークに拠点を移しているオリガルヒのアレックス・コナニキン氏は今年3月、「ロシアおよび国際法にのっとり、プーチンを戦争犯罪者として捕らえた人に100万ドルを支払う」とフェイスブックに投稿しました。
有名な起業家のオレグ・ティンコフ氏も、4月に「正気ではないこの戦争には1人の受益者もいない!  罪のない人々や兵士が死んでいる」「親愛なる『西側のみなさん』、プーチン氏に面目を保つための明確な出口を与え、この大虐殺を止めてください。もっと理性的、人道的になってください」とインスタグラムに書き込んでいます。
一方で相次いでいるのが、オリガルヒの不審死です。
   2022年に死亡が報じられたオリガルヒの代表例
・1月29日、投資会社ガスプロム・インベスト幹部のレオニド・シュルマン氏(浴室で遺体で発見)
・2月25日、国営ガス会社ガスプロム幹部のアレクサンドル・チュリャコフ氏(自宅ガレージで遺体で発見)
・3月23日、医薬品会社メドストムの元幹部ワシーリー・メルニコフ氏(自宅で妻・子ども2人と遺体で発見)
・4月18日、大手銀行ガスプロムバンク元副社長ウラジスラフ・アバエフ氏(銃を握った状態で妻・娘も遺体で発見。無理心中か)
・4月19日、天然ガス大手ノバテク元副会長セルゲイ・プロトセーニャ氏(スペインのリゾート地で首つり。妻・娘も遺体で発見。無理心中か)
・5月1日、レストランチェーン「カラバエフ兄弟の料理店」共同創業者、ウラジーミル・リャキシェフ氏(自宅で銃で撃たれ死亡。拳銃自殺か。妻が発見)
・5月8日、石油会社ルクオイルの元トップ・マネジャー、アレクサンドル・スボチン氏(霊媒師宅の地下室で遺体で発見。急性心不全)
「わざと証拠を残して殺す」はソ連時代からの伝統的な手口
この人たちは、どうして亡くなったんでしょうか。無理心中や一家心中をする日本と違って、ロシア人には自殺に家族を道連れにする発想はありませんよね。みな殺されたのでしょうか。
一家心中というのはロシアでは珍しい。そう考えると、怪しいですよね。まともな捜査など行なわれないでしょうから、よくわからないというのが実際のところです。
ガスプロムバンク元副社長のアバエフ氏が握っていた銃は、ロシアの特殊部隊しか使っていないタイプだそうです。かりに殺害だとすれば、銃を残していく必要はないわけですから、明らかな見せしめでしょう。
不審な死に方をするオリガルヒが相次げば、ほかの人たちへの警告になります。ロシアではソ連時代から、事故や自殺に見せかけるのではなく、明らかに殺されたとわかる方法を使ったり、わざと証拠を残したりする暗殺が伝統なんです。
スターリンと対立してメキシコへ亡命したトロツキーは、スターリンが送り込んだ刺客にピッケルで後頭部を打ち砕かれて殺されました。現場で逮捕された犯人ラモン・メルカデルは、身元が判明しても単独犯だと主張しましたが、メキシコで20年服役したのち、ソ連に戻り、ソ連の最高勲章であるレーニン勲章を授与されています。
殺害を命令するのは必ずしも最高権力者ではない
ブレジネフ書記長時代の1981年に発生した、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世の暗殺未遂事件もそうです。バチカンのサン・ピエトロ広場で教皇を銃撃したのは報酬目当てのトルコ人でしたが、事件はKGBが計画し、ブルガリアの情報機関に実行を指示していました。
犯行の理由は、東西冷戦の中でローマ教皇が目障りだったこと。殺害できなくてもいいから、脅しをかけたかったのでしょう。社会主義国では、ローマ教皇がどういう存在か、よくわからなかったようです。スターリンが権力を握ったとき、部下が「ローマ教皇は大変な力をもっています」と言ったら、「どれだけの軍隊をもってるんだ?」と訊いたというエピソードがあります。精神的な影響力というものがスターリンは理解できず、力とは軍事力だと考えていたようです。
ですが、殺害を命令するのは必ずしも最高権力者というわけではありません。ソ連崩壊後の1990年代は嘱託殺人も横行し、台頭したオリガルヒたちもたくさん殺されました。反プーチンのジャーナリストや実業家が殺される事件がよくありますが、プーチン政権が命じて実行したというよりは、マフィア間の利権抗争に巻き込まれたとか、ビジネスの利権を巡って殺害されたのではないかというケースもあるんです。
ウクライナのオリガルヒは、ロシア以上に大きな存在
ウクライナでは、オリガルヒ自身が政権を握ってきましたね。
ユリア・ティモシェンコ元首相は、親欧米派のオリガルヒでした。ヴィクトル・ヤヌコヴィチ元大統領は、親ロ派のオリガルヒ。ペトロ・ポロシェンコ前大統領も、「チョコレート王」と呼ばれたオリガルヒです。
現在、ウクライナ最大の資産家と言われるイーホル・コロモイスキー氏は、ゼレンスキー大統領と近い関係だったと言われています。マリウポリのアゾフスタリ製鉄所の所有者リナト・アフメトフ氏は、ロシア政府に対して200億ドル(約2兆6000億円)の損害賠償を求める訴訟を起こしています。
ウクライナのオリガルヒはロシア以上に大きな存在で、政治腐敗や経済停滞の原因になっているとも指摘されています。ゼレンスキー大統領はオリガルヒによる腐敗・汚職を阻止することを掲げて当選し、昨年9月にはオリガルヒと認定された個人に対し、政党への献金や大企業の民営化への参加を禁止する法案をウクライナ議会で可決しましたが、その前日、側近のセルヒー・シェフィール大統領首席補佐官が銃撃されています(AFP・21年9月24日)。一筋縄ではいきません。

 

●ロシア、8月末に極東で軍事演習 中国軍参加するか焦点 7/27
ロシア国防省は、極東地区(東部軍管区)で8月30日から9月5日にかけて戦略軍事演習「ボストーク」を実施すると発表した。演習が実施される地域にはシベリアの一部のほか、中国との国境に近いハバロフスクなどが含まれる。
国防省は一部の外国部隊も参加するとしたが、具体的な国名は明らかにしていない。ベラルーシで昨年実施された演習にはアルメニア、インド、カザフスタン、キルギスタン、モンゴルの軍隊が参加した。
国防省は声明で、ロシアはウクライナで「特別軍事作戦」を展開しているものの、こうした軍事演習を実施する能力は損なわれていないと強調。「ウクライナにおける特別軍事作戦に投入されているのはロシア連邦軍の一部にすぎない」とし、演習には必要な要員や機材が全て動員されるとした。
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は先週、2月のウクライナ侵攻開始以降、ロシア軍の死者は1万5000人と、旧ソ連によるアフガニスタン侵攻による死者数とすでに同水準に達しているとする米政府の推計を発表している。
英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の軍事専門家マシュー・ブーレグ氏は「ウクライナには東部軍管区からもすでに多くの兵士が動員されており、機材なども投入されている」とし、今回のボストークでロシアが何を実施できるか注意深く見守っていると述べた。
18年に実施されたボストークには中国軍を含む約30万人が参加。今回も中国が参加するか、参加する場合はどの程度の規模になるのか、中ロ関係を推し測る上で重要な手がかりになるとみられている。
●ロシア、ISSから2024年に離脱へ プーチン氏が了承 7/27
ロシアの宇宙機関ロスコスモスのボリソフ総裁は26日、プーチン大統領との協議で、ロシアを含む15カ国で運用してきた国際宇宙ステーション(ISS)について、現在の運用期限である2024年以降に離脱すると報告した。「ロシアの宇宙ステーション建設を優先する」と述べ、プーチン氏も了承した。
ボリソフ氏は「すべての義務は履行する」と期限前の離脱は否定したが、離脱はすでに決定したと述べた。また、「宇宙からのサービスをロシア経済に提供する必要がある」とし、通信や気象、ナビゲーションシステムなどに力を入れる考えを表明。有人宇宙飛行も続けると強調した。 
●ウクライナ対応での米欧の失敗、ランド研の提言はエネルギー増産だった 7/27
ロシアがウクライナに侵攻し5カ月が経過した。今回の軍事衝突の裏で、米国の保守系シンクタンク、ランド研究所の報告書が米政権の戦略に影響を与えたと指摘する声がある。だが、事態がここに至ったのは米欧の戦略ミスである。ランド研究所の提言を読み解いてみよう。
敵を「拡張」させて疲弊させる
「今般のウクライナでの戦争は、ランド研究所の報告書に基づき、米国がロシア弱体化を狙って仕掛けたもので、台湾においても同様な戦略を取って中国をけしかけ弱体化を図る可能性がある」という言説がある。ネット上で容易に記事がいくつか見つかるが、1つだけリンクを張っておこう。
ここで引き合いに出されているのが米ランド研究所の2019年の報告書「ロシアを拡張する:有利な条件での競争」である。
けれども、よく報告書を読むと、そうは言っていない。以下、説明しよう。
この報告書は、ロシアとの国家間の競争は避けられないと認識したうえで、米国が有利になるような領域を探索したものだ。
検討されたのは、ロシアの軍事、経済、政治的な力を弱体化しうる軍事・非軍事の両面の手段である。
そこでは、米国が優位に立つ領域や地域でロシアが競争するように仕向け、ロシアに軍事的・経済的な過剰な「拡張」を促し、国内外での政権の威信と影響力を失わせるなどの作戦だ。
敵を「拡張」させて疲弊させるという手段は古来多く用いられてきた。
ウクライナの紛争はリスク大と否定的
米ソの関係に絞っても、以下の前例がある。
1980年代のカーター政権とレーガン政権の間、大規模な国防強化が行われた。戦略防衛構想(SDI、別名スターウォーズ)も開始された。欧州への中距離核ミサイル配備、アフガニスタンの反ソ抵抗勢力への支援、反ソのレトリック(いわゆる悪の帝国)の強化、ソ連とその衛星国の反体制者への支援などもあった。いずれも、それに対抗するためにソ連は莫大なコストを払うことになった。
それぞれがどの程度の効果があったかは不明ながら、これらの作戦の結果として、ソ連は破綻し、冷戦は終結した。
かかる「拡張」の手段として、同報告では、たしかにウクライナでの戦争も検討している。
だが書きぶりは否定的である。
つまり、ウクライナに強力に支援をすることは、ロシアを疲弊させるという意味で便益は大きいかもしれないが、事態のエスカレーションを引き起こすためコストとリスクが高く、また成功する可能性も五分五分、とされている。以下、何カ所か引用しよう。
ロシアを拡張する方法の1つは、ロシアの対外的なコミットメントをよりコスト高にすることであるが、これは米国とその同盟国やパートナーにとってかなりリスキーであることが判明している。ウクライナとコーカサスにおけるロシアの対外公約は比較的コンパクトで、ロシアと隣接し、少なくとも一部の地元住民が友好的で、地理的にロシアが軍事的に有利な場所にある。本項目で検討する措置は、ロシアが逆エスカレーションを起こす危険性があり、米国が効果的に対応するのは困難であろう。
ウクライナ軍はすでにドンバス地方でロシアに出血させている(その逆も然り)。米国の軍事装備や助言をさらに提供すれば、ロシアは紛争への直接的な関与を強め、その代償を払わされることになりかねない。ロシアは新たな攻勢をかけ、ウクライナの領土をさらに奪取することで対抗するかもしれない。これはロシアの犠牲を増やすかもしれないが、ウクライナだけでなく米国にとっても後退を意味する。
欧州でも中東でも、こうした措置のほとんどは、ロシアの反発を招き、大きな軍事的犠牲を強いる危険性がある。米国の同盟国には大きな政治的コストがかかり、米国自身にも大きな負担となる。ウクライナへの軍事的助言と武器供給を増やすことは、これらの選択肢の中で最も実現性が高く、最も大きな影響を与えるが、そのような構想は、広く拡大する紛争を避けるために非常に慎重に調整されなければならないだろう。
推奨していたのはエネルギーの増産
むしろ、じつはランド研究所が推奨していたのは戦争ではなく、エネルギーの増産である。
ランド研究所はロシアの弱点を以下のように分析している。
米国との競争において、ロシアの最大の弱点は、経済規模が比較的小さく、エネルギー輸出に大きく依存していることである。ロシア指導部の最大の不安は、体制の安定と持続性である。
ロシアの最大の強みは、軍事と情報戦の領域である。ロシアは先進的な防空、大砲、ミサイルシステムを配備し、米国やNATOの防空管制や大砲の対砲撃能力を大きく上回っている。このため、米国の地上軍は制空権を持たない中、劣勢な火力支援で戦わざるを得ない可能性がある。ロシアはまた、嘘の情報、破壊、不安定化という旧来の手法に新しい技術を適合させている。
ロシアに対する最も有望な対策は、これらの脆弱性、不安、強みに直接対処し、ロシアの現在の優位性を損なわずに弱点分野を開拓することである。
あらゆる形態の米国エネルギー生産を継続的に拡大し、他の国にも同じことを奨励することは、ロシアの輸出収入、ひいては国家予算や防衛予算に対する圧力を最大化することになる。
あらゆるエネルギーの中で、特に、米国の石油生産の拡大は、便益が大きく、コストとリスクは低く、成功する可能性が高いとされている。米国経済にとっても利益をもたらすうえに、多国間の承認も必要ない。
原油価格低下ならロシアを直撃
米国の石油生産を促進することは、さまざまなメリットをもたらす。最も直接的なのは、原油価格が下がることであり、その結果、ロシアの輸出収益は激減する。これはロシアの最も脆弱な部分を直撃する。
米国内では、企業や消費者の物価を引き下げることができる。企業がトラックの燃料として石油のお金を使う代わりに、例えば、雇用の創出、賃金の上昇、近代的なインフラ整備への投資、株主への高配当に充てることができる。消費者は、石油製品に使うはずだったお金を、他の商品やサービスの購入に回し、国内および世界経済の拡大に貢献することができる。
同様に、ロシアのガス輸出に対抗することも便益は大きいとされた。これには、米国のガス増産と欧州への輸出、ロシアから欧州へのガスパイプライン建設の阻止、欧州において環境問題を理由に採掘が進んでいなかったシェールガスの開発などが含まれる。
ただこれについては、欧州にとってはロシアからのパイプラインに比べて割高なガスとなり、経済的なコストがかかるので、その協力が得られるかどうかに正否が依存するとされていた。
さてそれで、米国と欧州は何をしたか? 
ランド研究所の提言の真逆をやったのだ。
まず米国はウクライナの軍備強化を支援し、ロシアとの緊張を高めた。
のみならず、バイデン政権は「グリーンディール」を掲げ、CO2を排出するとして自国の化石燃料産業を目の敵にした。
結果として高まったロシアへのガス依存
バイデン大統領は2019年に「化石燃料を終わらせる」と約束した。この約束は、米国の石油、ガス、石炭の膨大な埋蔵量を考えれば、ロシアやサウジアラビアが同じことを約束するのとほとんど同じ意味を持った。バイデン大統領はカナダの油田と米メキシコ湾岸の製油所を結ぶキーストーンXLパイプラインを就任初日に阻止するなど、米国の石油・ガス開発を妨げてきた。
欧州は「ネット・ゼロ」を掲げ、温室効果ガスを排出する石炭、石油の利用を減らし、また足下にあるガスの採掘もしなかった。それに代えて再生可能エネルギーを導入したが、十分ではなく、結果としてロシアのガスへの依存がどんどん高まった。
米欧がこのようなエネルギー政策を取った結果、世界の石油・ガス価格は2021年に高騰し、ロシアは潤沢な資金を得て、対ロシア依存という脆弱性を抱える欧州の足下を見てウクライナ侵攻に踏み切った。
いまになって、欧州は慌ててロシア依存を脱しようとして、世界中からガス、石油、石炭を買い漁っている。だがこれは、ランド研究所が提言したように、戦争を招く前にしておけばよかったことだ。
時すでに遅し、である。
●ゼレンスキー「プーチンのいちばん恐ろしいところ」を語る 7/27
ウクライナに侵攻したロシア軍と戦うこと数カ月、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領について、最も恐ろしいと思うことを明らかにした。
イギリスのジャーナリスト、ピアーズ・モーガンとのインタビューで、ゼレンスキーは、現在進行中のウクライナでの戦争で「最も恐ろしいこと」は、ロシアの侵略が引き起こした惨状を、プーチンが理解していることだと語った。
「プーチンは狂人というわけではなくまったく正気で、自分が何をしているのか理解している。それが最も恐ろしいことのように私には思える」と、ゼレンスキーは言う。「彼は自分のしていることを理解し、自分が人を何人殺したかを知っている。何人がレイプされたか、何人の子どもが殺され、祖国を追われたかを知っている」
さらにゼレンスキーは、「この状況を生み出し、このような人物の出現を許したのはこの世界だ」と言い、だからウクライナでの戦争の責任は「全世界」にあると述べた。
一緒にインタビューに応じたゼレンスキーの妻のオレナ・ゼレンスカ夫人は、プーチンに対する気持ちを「言葉にするのは難しい」と述べた。
「たった一つの曲がった考えが、全人類を中世に投げ込んでしまうなんて、理解できない」と、彼女は語った。「本当に何と言っていいかわからない。この状況を言い表す正常な言葉が存在しないので、声に出して何も言いたくない」
ジョンソン首相との絆
最近、イギリス議会の反発で退陣に追い込まれたボリス・ジョンソン首相のことを、ゼレンスキーはウクライナ戦争の渦中で最も近しい盟友だった、と呼んだ。
「われわれは1日おきに連絡を取り合った」と、ゼレンスキー。「公的な外交ルートだけではない。2日に1回は電話をかけることができた。キエフ占領後、状況が少し落ち着いた後は、週単位で連絡を取り合うようになった。月に1回、半年に1回という程度のつながりではない」
ジョンソンとの親密な関係から、ゼレンスキーは次に誰がイギリスを率いるのかを「心配」していると言い、ジョンソンの後任候補のリシ・スナク前財務相とリズ・トラス外相のどちらからも「同じレベルの支援」が得られることを望む、と付け加えた。
イギリスの政治に翻弄されることなく、ゼレンスキーはジョンソンを「ウクライナの大親友」と呼んだ。
「ジョンソンには、政界のどこかで重要な地位についてほしい。このまま消えて欲しくはないが、その決定はイギリス人の手に委ねられている」と、ゼレンスキーは述べた。「しかし、彼がどのような立場になろうとも、常にウクライナと共にあることは間違いない。これは心からの言葉だ」
●ロシア、欧州へのガス供給を絞る戦略継続の公算大 7/27
ウクライナを巡る対立が続く限り、ロシアは欧州向けのガス供給を最小限に絞り続ける公算が大きい。ウクライナ侵攻でロシアに厳しい姿勢を取る欧州連合(EU)に対し圧力を強めるためだと、ロシア政府首脳に近い関係者が明らかにした。
ロシア政府、欧州へのガス供給を絞る戦略継続へ−関係者 (1)
ロシアの国営天然ガス企業ガスプロムは欧州向け供給で残る主要パイプライン「ノルドストリーム1」の輸送稼働率をモスクワ時間27日午前7時(日本時間同午後1時)から20%前後に引き下げるとしている。さらにもう1基のタービンの保守点検を行う予定だとガスプロムは説明したが、ドイツのハーベック経済相は「ばかげた話」で「真実ではない」と断じた。
EU加盟国は冬のガス使用量を15%削減することで政治合意に達した。ロシアが欧州向けのガス供給を完全に遮断する可能性が強まっていることが背景にある。
EU加盟国、冬のガス使用15%削減で合意−ロシア供給遮断に備え (1)
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
ウクライナ国営ナフトガス、デフォルトは不可避と表明
ウクライナの国営エネルギー会社ナフトガスは国債市場で発行した債券の支払いを期限の26日までに履行できず、デフォルト(債務不履行)に陥るのは避けられない見通しだと明らかにした。
同国政府がナフトガスに支払い猶予を目指すよう義務付ける法令を先週発令したが、債権者はこれを拒否している。
ロシア、欧州へのガス供給絞る戦略継続へ−関係者
ウクライナを巡る対立が続く限り、ロシアは欧州向けのガス供給を最小限に絞り続ける公算が大きい。ウクライナ侵攻でロシアに厳しい姿勢を取るEUに対し、圧力を強めるためだと、ロシア政府首脳に近い関係者が明らかにした。
ロシアは表向きには、文書の不備やタービンの保守点検など技術的な問題が理由でここ数週間の供給を削減せざるを得なかったと説明している。だが関係者によると、現実には「ノルドストリーム1」の障害を、対ロシア制裁とウクライナ支持を欧州各国の首脳に再考させるための道具に利用している。
ロシア、国際宇宙ステーションの共同運用から離脱へ
ロシアが日米欧との国際宇宙ステーション(ISS)の共同運用から2024年で撤退する方針を決めたことが、26日明らかになった。
ロシア国営宇宙開発企業ロスコスモスの社長に今月就任したユーリ・ボリソフ氏が、24年でISSを離脱することが決まったとプーチン大統領に話す会議の様子がテレビ放映された。
ロシア、国際宇宙ステーションの共同運用から離脱へ−24年で撤退
トルコ、ウクライナ穀物輸出の調整機関を27日開設
トルコのアカル国防相はイスタンブールに設置されるウクライナの穀物輸出を支援する調整機関の27日の開所式に出席する。同国国防省が明らかにした。同機関の設置はウクライナとロシア、トルコ、国連による先週の4者協議合意で決まった。
●ロシア、中央アジア移民を募集か 極東演習、兵力不足否定の狙いも 7/27
米シンクタンク、戦争研究所は26日、ウクライナ情報機関の分析を引用し、ロシアが兵力を補うため、目的を隠して中央アジアからの移民を募集しているとの見方を示した。西部州では従軍経験がある20〜50歳の志願兵の採用を進めているとも指摘。戦闘が長期化する中、ロシア軍の人員不足が深刻化しているもようだ。
一方、ロシア国防省は26日、極東ハバロフスクに司令部を置く東部軍管区で8月30日〜9月5日に戦略的軍事演習「ボストーク2022」を実施すると発表。ウクライナから遠い地域での演習には、兵力不足との欧米側の指摘を否定し、士気を高める狙いもある。

 

●狡猾なプーチンの「グレーゾーン侵略」 安上りで報復不可能、被害は甚大 7/28
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、西側諸国に対抗する新たな武器を造り出した。「避難民の波」である。
ロシア軍が侵攻して以来、ウクライナから600万人以上がEU諸国に逃れた。加えて今は、ウクライナ産穀物の輸出停止によって影響を受けた国々からも避難民がEUに押し寄せている。今年上半期のEUの難民認定申請者数は、昨年同時期のほぼ2倍だ。
プーチンは「避難民の波」によってヨーロッパを不安定化させることで、ウクライナ以外の国々には軍事力を直接行使することなく悪影響をもたらしている。いかにもプーチンらしい狡猾なやり方だ。
今年上半期のEU諸国への不法入国者は11万4720人。この数字には、EUが受け入れを表明しているウクライナ人の大半は含まれていない。不法入国者の出身国で増えているのは、アフガニスタンやバングラデシュ、エジプト、チュニジア、シリア、イラクなどだ。
EUの国境警備を担う欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)の統計によると、北アフリカから地中海中央ルートを経てEUへ渡った不法入国者は、今年上半期には昨年の同じ時期から23%増の2万5164人に上った。出身国で多いのは、バングラデシュ、エジプト、チュニジアだ。
これよりはるかに激増しているのが、西バルカン諸国経由の不法入国者だ。このルートによる不法入国者は昨年同期比で200%近く増え、東地中海を渡ってキプロスで難民認定申請を行った避難民は125%増となった。
FRONTEXのアイヤ・カルナヤ代表代行は7月半ば、「ウクライナからの穀物輸送が妨害されていることにより、『避難民の波』が生まれる」と指摘。EUは「食料確保の問題があるためにウクライナ以外の地域からやって来る難民にも、備えるべきだ」と警鐘を鳴らした。
ウクライナは年間4億人分の食料を生産
ウクライナは通常、年間4億人分の食料を生産している。国連食糧農業機関(FAO)によると、アフリカ・中東を中心に50カ国の輸入小麦の少なくとも30%をロシアとウクライナ産が占め、世界食糧計画(WFP)も小麦の半分をウクライナから調達していた。ロシアの侵攻前にウクライナ産小麦を輸入していた国の上位は、エジプト、インドネシア、バングラデシュ、トルコ、チュニジアだった。
ロシアがウクライナの港を破壊・封鎖したために、世界の穀物貿易の柱の1つが機能不全に陥った。河川や鉄道を利用したウクライナの農産物の輸送量は6月には250万トンだったが、通常の月間輸送量である500万〜800万トンには遠く及ばない。
いまヨーロッパに押し寄せているのは、ウクライナ侵攻の間接的な犠牲者の第1波でしかない。今後、その数が激増することはほぼ確実だろう。
「密入国の斡旋業者から、ヨーロッパに渡れば楽な暮らしができると吹き込まれて、決断する人もいる」と、イエズス会難民サービス国際部門のトーマス・スモリッチ代表は言う。「避難民を生まないように各国政府が連携してやれることは、何であれ重要だ」
さらにスモリッチは「ウクライナ侵攻の影響を受けている国々で、多くの人々が状況を見極めようとしている」と続けた。「彼らは今後の食料事情とインフレの高まりを考え、いつ避難すべきかと検討している。他国への避難を考えている人は大勢いる」
だが「政治家や治安当局はこの問題がもたらすリスクに気付いていない」と、昨年8月までアフガニスタンでNATO上級民間代表を務めていたステファノ・ポンテコルボは言う。「避難民の絶対数はまだ少なく、政治家はその数字しか見ていない。避難民を乗せたボートが毎日何隻もやって来るようになってから慌てても、もう手遅れだ」
武力を使わず他国にダメージを与える作戦
イルバ・ヨハンソン欧州委員(内務担当)も同じ考えだ。彼女は先頃、密入国斡旋業者が集まるニジェールとの連携強化に触れて、「国境地帯に危機が訪れるまで待つのではなく、もっと早い段階から手を打つ必要がある」と語った。
だが物価高騰に終わりは見えず、密入国対策でニジェール当局と連携を強化しても今の流れは変えられそうにない。各国が何年も前から国境警備を強化していることを受けて、密入国の斡旋業者も新たなルートを見つけているようだ。
こうした混乱こそ、まさにプーチンが狙っていたことかもしれない。さしものプーチンも、ウクライナの穀倉地帯への攻撃や黒海の輸送路の遮断が食料危機を引き起こすことを最初から意識していたわけではなかった可能性はある。しかし、彼が今までも甚大な影響をもたらす大混乱を意図して引き起こしてきたことは間違いない。
プーチンの盟友であるベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が昨年やったように、プーチンも不法移民を利用して、「グレーゾーン侵略(武力行使を伴わずに他国に被害をもたらす作戦)」を進めている。この作戦がもたらす混乱は、今後ますます大きくなるだろう。
EUはこの狡猾な作戦に、どう対抗していくのか。人為的に大勢の避難民を生み出してロシアに向かわせるのは実行不可能だし、倫理に反する。
今回の「避難民の波」だけでなく、これまで数々の戦争がヨーロッパに大量の難民をもたらしてきた。例えば1980年代のイラン・イラク戦争では、両国から無数の若者がヨーロッパに逃れた。
アメリカも無関係ではない。これまでアメリカが戦った数々の戦争から、大量の避難民が生まれた。昨年EUに難民申請を行った人々の出身国トップ3は、シリア、アフガニスタン、イラクだった。
いずれにせよEUは、ロシアが引き起こした避難民の波を食い止めなければならない。まず取り組むべきは、多くの避難民を出しているエジプトからバングラデシュに至る各国が、ウクライナ以外の供給元から小麦を調達するのを手助けすることだ。ジョー・バイデン米大統領は既に、中東と北アフリカに10億ドルの食料支援を行うと表明している。
さらに長期的には、各国が認識を新たにすることも必要だ。グローバル化された現代の世界では、失うものがほとんどない国が、安上がりでリスクを伴わない混乱を引き起こし、恩恵を被ることができる。そして、他の国々がその動きに報復することは、ほぼ不可能なのだ......と。
●ウクライナ侵攻を支援するチェチェン、ベラルーシはなぜロシアに屈したか 7/28
「グルジア」が「ジョージア」になった理由
プーチンのロシアが軍事侵攻した周辺諸国はウクライナだけではありません。2008年には南オセチア紛争を起こしています。
ジョージア北部に、イラン系民族のオセット人が住んでいます。オセット人は古代イラン民族のスキタイ人やサルマタイ人など、黒海北岸一帯で活動した民族の後裔と考えられています。サルマタイ人の一派であるアラン人が強大化し、コーカサスのイラン系民族を率いたので、彼ら全体が次第に「アラン人」と呼ばれるようになります。中世に「アラン」が「アス」と呼ばれるようになり、グルジア人がこれを「オウス」と発音したため、そこから「オセット」という呼び方となり、現在に至ります。
ソ連時代、スターリンはオセチア人を分断統治するため、オセチア地方を南北地域に分け、北はロシア共和国、南はグルジア共和国の行政管轄下に置きます。1991年、ソ連邦が解体されると、北オセチア(現人口は約80万人)はロシア、南オセチア(現人口は約6万人)はグルジアに、それぞれ別個の国家に属することになり、完全に引き裂かれてしまいます。
南オセチアはグルジアからの分離を求めて独立闘争を展開し、ロシアに協力を求め、接近します。2008年、ロシアが南オセチアへの協力を正式表面したため、グルジアを強く刺激しました。
グルジアのサアカシュヴィリ政権は独立の動きを封じるため、南オセチアに軍を派遣します。この時、ロシアのメドベージェフ大統領(当時)は避暑休暇に出ており、プーチン首相(当時)は北京オリンピック開会式に参加していました。グルジアはロシア首脳部の隙を突くつもりでしたが、ロシアはグルジアの侵攻に充分に備えており、ただちにロシア軍が南オセチアに介入し、グルジア軍を駆逐しました。ロシアは南オセチアの独立を一方的に承認しました。
ロシア軍はその勢いでグルジアに侵攻し、首都トビリシの近郊にまで迫りました。しかしロシアはそれ以上、進撃せず、グルジアと停戦協定を結びます。ロシアは南オセチアを事実上独立させ、親ロシア勢力を形成することができ、成果を上げることができました。
南オセチアを事実上失ったグルジアはロシアと国交断絶し、それまでロシア語読みであった国号の「グルジア」の読み方を変更し、英語読みの「ジョージア」と改めました。
欧米諸国は黙認した
2022年のロシアのウクライナ侵攻で、ロシアの世界的指揮者ヴァレリー・ゲルギエフはプーチン大統領に近いという理由で、ヨーロッパ各地での公演を降板させられて、話題となりました。ゲルギエフは南オセチアのオセット人の出自です。2008年、グルジアが南オセチアに軍を派遣した時、サアカシュヴィリ大統領を批判し、ロシアの軍事介入を支持しました。これをきっかけにゲルギエフはプーチン大統領と懇意になります。
ロシアはグルジア侵攻の際、南オセチアを独立させたのみならず、グルジアからの分離独立運動を展開していた西方のアブハジアを軍事支援し、独立させています。アブハジアは人口25万人程度で、人口の過半数を占めるアブハジア人はジョージア人と同じコーカサス人ですが、独自のアブハジア語を持ち、言語が異なります。
当時、このようなロシアの力による現状変更に対して欧米諸国は批判をしたものの、事実上、黙認し、制裁を科そうとはしませんでした。
なぜチェチェン部隊は率先してウクライナを攻撃したか
コーカサス地方では、民族紛争が絶えません。地政学的に複雑な山岳地帯において、複数の民族が歴史的に独自の言語や文化を維持し、互いに軋轢を生じさせています。
特に、チェチェン人のロシアに対する独立闘争は最も激しいものとして知られています。チェチェンは現在、ロシア連邦の一部であり、今年のロシアのウクライナ侵攻でも、チェチェン部隊は率先して、ウクライナを攻撃しました。チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長は「キエフのナチスどもよ。降伏せねば、おまえたちは終わりだ」と言ってウクライナを挑発し、物議を醸しました。カディロフ首長はプーチン大統領に忠誠を誓っています。
チェチェン人は民族的にコーカサス人で、言語はコーカサス諸語のチェチェン語です。人口は約120万です。チェチェン人は16世紀以来、イスラム教に帰依しています。
18世紀から19世紀にかけてチェチェン人はロシア帝国の南下拡大に抵抗しましたが、1859年、アレクサンドル2世の時代に、チェチェンをはじめとするコーカサス全域が併合されます。以降、ソ連時代も含め、チェチェン人はロシアに支配されます。
祖国と民族を裏切ってまでロシアに接近
チェチェン人はソ連末期の混乱期に1990年、西側に隣接するイングーシ人(チェチェン人に近似する民族)とともに、ソ連邦からの独立を宣言します。翌年、チェチェン共和国とイングーシ共和国に分かれます。
しかし、ソ連は彼らの独立を認めませんでした。ソ連崩壊後のロシア連邦政府(エリツィン政権)もチェチェンの独立を認めず、軍事侵攻します(第一次チェチェン紛争)。1995年、ロシア軍がチェチェンの首都グロズヌイを制圧しますが、武装勢力のゲリラ闘争が続き、翌年、停戦が合意されます。
しかし、その後もチェチェンの武装勢力はモスクワで爆弾テロを繰り返しています。また、1999年、武装勢力はイスラム主義を掲げ、同じくイスラム教を信奉する隣国ダゲスタン共和国を併合するため、侵攻しています。
ロシアは武装勢力を放置することができず、1999年、チェチェンに軍事侵攻します(第二次チェチェン紛争)。この間、2000年にエリツィンからプーチンに、大統領が変わっています。ロシアは2000年、チェチェンを再びロシア連邦内の自治共和国に戻し、前述のカディロフ首長の父アフマド・カディロフを暫定政府大統領に任命し、チェチェンに親露派政権を形成することに成功しました。
アフマドは元々、第1次チェチェン紛争で、ロシアとの戦いを「ジハード(聖戦)」と位置付けていましたが、紛争終結後、チェチェン人同士で対立し、排斥されていく中で、本来、敵であったはずのロシアに接近します。アフマドはチェチェンをロシア連邦に帰属させることを約束し、それと引き替えに、ロシアの後ろ楯でロシア連邦内チェチェン共和国の初代大統領になったのです。
アフマド・カディロフはいわば、祖国と民族の裏切り者です。その息子で三代目大統領となったのが息子のラムザン・カディロフ首長です。彼はプーチン大統領に忖度して「国家に大統領は1人だけ」として、2010年、自ら「大統領」を名乗るのをやめ、「首長」と名乗り、現在に至ります。
2000年、チェチェンがロシア連邦に帰属した後も、独立派の武装勢力はロシアや親露派に対し、テロを繰り返します。プーチン政権も、独立派の要人たちを次々と暗殺し、武装勢力を徹底的に潰したのです。2009年に、ロシアは一応、掃討作戦を終えます。2度の紛争による死者は10万人〜20万人に上ると見られています。
ベラルーシ人はどのようにロシア人から分離したのか
ベラルーシの「ベラ」は「白」を意味しているので、かつて日本では、「白ロシア」と呼ばれていました。モンゴル人が来襲した時、彼らは方角を色で表現し、西を「白」としたことから、「ベラルーシ」という呼称となったという説などがありますが、その名称の由来がはっきりとわかっていません。
ベラルーシ人はその名の通り、ルーシ族を祖先に持つ民族で、ロシア人と同族でした。しかし、14世紀、リトアニア大公国が勢力を拡大させ、ベラルーシを領有します。この時、リトアニア大公国の一部となったベラルーシはロシア本体とは切り離され、18世紀まで、ロシアと異なる歴史を歩むことになり、両者の区分も明確になっていきます。
リトアニア大公国の人口のほとんどはベラルーシ人で、支配者層のリトアニア人は少数でした。リトアニア人はすぐにルーシ化され、リトアニア大公国は実質、ルーシ国家になります。
1386年、リトアニア大公のヤギェウォはポーランド女王ヤドヴィガと結婚し、ポーランド・リトアニア連合王国(ヤギェウォ朝)が形成されます。ヤギェウォ朝は民族的には、ベラルーシ人とポーランド人の連合です。東欧の中でも、ポーランド人は民族的にロシア人に最も近いとされますが、正確には、ベラルーシ人に近いと言えます。ヤギェウォ朝時代に、ベラルーシ人とポーランド人の混血が進んだからです。
ヤギェウォ朝は強大化しますが、1572年、王統が断絶し、貴族や地主などの支配層が構成する議会で、国王を選出する選挙王制が行われます。選挙王制で政治が混乱し、ポーランドは弱体化し、18世紀末、ロシア、プロイセン、オーストリア三国によって、分割され、国家が消滅します。この時、ロシアがポーランドから奪い取り、併合した領土がベラルーシです。以後、ベラルーシ人はロシア帝国の下、ロシア人によって支配されます。
ロシア帝国はウクライナ人を弾圧したことに対し、ベラルーシ人には自治権を認めるなど、一定のレベルで寛容さを示しました。ベラルーシ人が帝国に恭順していたからです。また、ベラルーシ語はロシア語とほとんど同じであるため、ウクライナ語禁止のような言語統制が敷かれることもありませんでした。
ベラルーシ人は「亡国の民」
しかし、ベラルーシ人はかつてポーランド国家に属していた「亡国の民」とみなされ、明らかに差別されました。ウクライナ人と同様、ベラルーシ人の多くが農奴として酷使されたのです。
ベラルーシ人はポーランドの国教であったカトリックを信奉していましたが、ロシア帝国に併合されて以降、ロシア正教会(東方正教会)に改宗する者が増え、今日では、ベラルーシ人のほとんどがロシア正教を信奉しています。一方、ロシア帝国の併合後、ベラルーシ領域内で、ルーシ人よりもポーランド人に近いと考える人々も多くあり、彼らはロシア正教会への改宗を拒み、カトリック信仰を貫きました。そのため、帝国から弾圧され、多くがポーランドへ亡命します。
1919年、ロシア革命の影響で、ベラルーシ社会主義共和国が成立し、1922年には、ソ連邦の一共和国として組み込まれます。1991年、ソ連の崩壊に伴い、ベラルーシ共和国として独立します。
1994年以来、ルカシェンコ大統領の独裁政権が続いており、2020年、不正選挙に反発した民衆が大規模な反政府デモを起こしました。ルカシェンコ大統領はプーチン大統領のウクライナ侵攻を積極支援しています。
●ロシア、併合準備本格化か ウクライナ東部の占領地域で 7/28
ウクライナの情報機関である保安局(SBU)は26日、ロシアがウクライナ東部の占領地域の併合を正当化するための「住民投票」実施に向けた動きを本格化させていると発表した。2014年のウクライナ南部クリミア半島併合の際にも「住民投票」が行われており、米政府は「決して認めない」と警告。「投票」の実施に踏み切れば、ロシアと西側諸国のさらなる対立激化を招くことは確実だ。
SBUによると、東部のドネツク州やルガンスク州では親ロ派組織を利用して「住民投票」を実施し、ロシアへの編入を図る計画が進められている。さらに南部のヘルソンやザポロジエ、北東部のハリコフなどの各州にも活動範囲を広げているという。SBUは親ロ派が作成した文書を含む計画の内容も公開した。
占領地域の併合をめぐっては、米政府も19日に「ロシアが詳細な計画を検討している」として、非難したばかりだ。
米シンクタンクの戦争研究所は26日付の戦況報告で、ロシアで統一地方選が行われる9月11日ごろに占領地域で「住民投票」が行われる可能性があると指摘した。一方で、同研究所は「ロシア軍が初秋までにウクライナの占領地域を大きく拡大することはなさそうだ」と分析した。
ロシア軍は25日から26日にかけて東・南部で攻撃を継続し、東部バフムトの周辺でわずかに前進した。これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は26日の国民向けビデオ演説で「必ず反撃する」と強調した。
ロシアとウクライナが合意した黒海を経由した穀物輸出をめぐっては、週内に再開する方向で準備が進んでいる。 
●ロシアはウクライナ全土の征服を 親ロ派指導者 7/28
ウクライナ東部ドネツク州の一部を実効支配する親ロシア派武装勢力「ドネツク人民共和国」の指導者デニス・プシーリン氏は27日、ロシアにウクライナ全土を征服するよう求めた。
プシーリン氏はメッセージアプリのテレグラムに「ロシア人が建設したロシアの都市を解放する時が来た。キーウ、チェルニヒウ、ポルタワ、オデーサ、ドニプロ、ハルキウ、ザポリージャ、ルツクだ」と投稿した。
これらの都市は、ウクライナのほぼ全土をカバーしている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナを占領するつもりはないと主張している。しかし、ウクライナ南部にロシアが設置した当局は、ロシアへの併合に向けた住民投票の準備を公然と進めている。
●ロシア、東部で主導権失う 米欧から供与の兵器使いウクライナが反攻 7/28
英PA通信は27日、西側当局者の話として、ウクライナ東部ドンバス地域(ルガンスク、ドネツク両州)でロシアが戦闘の主導権を「決定的に失った」と報じた。ウクライナは南部ヘルソン州でも反転攻勢に出るなど米欧が供与した兵器が威力を発揮している。対するロシア軍には人員不足や戦略的葛藤も露呈する。
西側当局者は、ロシアがドネツク州全域を今後数カ月で制圧する可能性は一層低くなったと指摘。南部でロシアの補給路となっていた橋をウクライナが攻撃したことも痛手になっているとの見方を示した。
ウクライナの現地メディアは25日、ヘルソン州でウクライナ軍が交通インフラを一部奪還したと伝えた。レズニコフ国防相は、欧米から供与された高機動ロケット砲システム「ハイマース」でロシアの50の弾薬庫を破壊したと明らかにした。
「南部はウクライナが生きていく上で取られたくない地域だ」と解説するのは、元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏。作戦の背景を「南部は、クリミア半島と東部ドンバスをつなぐ兵站線が通過する戦略的地域で、露軍が『航空優勢』を得られていない地域でもある。黒海沿岸の港湾は輸出の拠点で、ウクライナ経済にとっても重要だ。露軍は東部に戦闘力を集中しているため、弱点となっており、南部の奪回は可能と見積もったのだろう」と解説する。
英秘密情報局(MI6)のムーア長官は21日、「われわれはロシアが今後数週間にわたって人員供給が徐々に難しくなると考えている。何かしらの形で一時的に戦闘をやめなければならなくなる」と述べ、一時停戦の可能性を指摘した。
ロシア側の兵力について渡部氏は「正規軍ではない準軍事組織や、占領地域の現地での徴兵などに頼っており、人員補充がきかない。プーチン大統領は自身の存立基盤を危うくするため、総動員令もかけられない状況だ」とみる。
米国による軍事支援は約76億ドル(約1兆円)に上る。ハイマース4基に加え、自爆型無人機「フェニックスゴースト」最大580機、3万6000発の砲弾なども追加供与され、ハイマースは計16基となった。
渡部氏は「約80キロの射程があるハイマースにより対砲兵戦でも安全な場所から攻撃が可能となった。フェニックスゴーストも詳細は不明だが、電波妨害を受けたり撃墜されるなど弱点があったこれまでの無人機より効果を発揮しているとみていい」と話す。
今後の戦局はどうなるか。渡部氏は「ゼレンスキー大統領は、クリミア半島も奪還目標としている可能性もある。ロシア側は東部で反撃されるリスクもあって兵力を削減できないというジレンマを抱えている。長期戦になれば、士気が低下する露軍はさらに離脱を生み、確実に排除される。プーチン氏の戦略目的は明らかに達成できず、獲得地域の保持ですら無残に打ち砕かれるだろう」との見通しを示した。
●ウクライナ、西側金融機関幹部を戦争犯罪で追求へ…ロシア石油企業へ 7/28
ウクライナは欧米の大手金融機関の幹部を戦争犯罪で追求すると、ゼレンスキー大統領の顧問であるオレグ・ウステンコが述べている。
彼は、ロシアの石油を取り引きする企業への融資を止めるよう金融機関に要請した。
ウステンコが7月26日にCNBCに語ったところによると、ウクライナは金融機関の情報を集めており、それを国際刑事裁判所に提供するつもりだという。
ウクライナは、JPモルガン・チェース、シティグループ、およびその他の西側大手銀行の幹部に対し、ロシアへの間接的な資金提供に関する戦争犯罪の追及を進めている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の経済アドバイザーを務めるオレグ・ウステンコは、2022年7月26日のCNBCでのインタビューでそう語った。
「ロシアがウクライナでウクライナ人に対して戦争犯罪を犯していることは間違いない」とウステンコは言う。
「ウクライナで残忍なことをしている戦争犯罪者に資金を提供する者も、戦争犯罪を犯していることになる」
7月初め、ウステンコはJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン、シティグループとHSBCの幹部に対し、ロシアの石油を取引したり、ガスプロムやロスネフチといったロシアの石油・ガス企業の株を販売したりする企業との関係を切るよう求める文書を送ったという。
●“人間の盾”に…「地下室監禁」の実態 遺体の横で子どもが遊ぶ状況も 7/28
ロシアのウクライナ侵攻から5か月、戦争は人々の日常を突然、変えてしまいました。私たちは、ロシア軍によって、ほぼ全ての住民が1か月近く地下室に監禁されたという村を取材しました。
ウクライナ北部にある小さな村「ヤヒドネ」は3月はじめ、ロシア軍に占領されました。住民のイワンさんが、村の学校にある地下室を案内してくれました。この地下室に、住民のほぼ全員、350人あまりが1か月近く監禁されました。当時、ロシア軍は学校を拠点にし、イワンさんら住民は、攻撃されないための“人間の盾”として使われたのです。
ロシア軍に監禁されたイワンさん「私が家族といたのは、この部屋です」
イワンさんが案内してくれたのは最も大きな部屋で、乳児から大人まで136人が収容されたといいます。住民が解放直後に撮影した写真では、人々がひしめきあう様子がわかります。今も室内には、当時の物が残されています。
イワンさん「ここに、私は家族と座っていました。足がしびれるので立って寝ることもあった。でも、立とうとすると、足元には別の人の手があるんです」
壁には、子どもたちの描いたという絵が至る所にありました。
記者「『戦争はやめてほしい』と書いてあるそうです」
住民たちの携帯電話は破壊され、外部との接触を絶たれました。トイレなどのために短時間、外に出られることもありましたが、全てはロシア軍の気分次第だったといいます。食料不足や酸欠などで体調を崩し、高齢者10人が亡くなりました。
イワンさん「ここに動けない人や、亡くなった人を寝かせました」
遺体のすぐ側で、子どもが遊ばざるを得ない状況だったといいます。別の部屋にいた住民は、さらに過酷な環境で、通気口のない部屋に約20人が押し込められました。
イワンさん「誰が室内にいたかを書いています。生きて出られないと思ったので」
地下室の壁には、亡くなった人の名前のほか、日付を忘れないようにするためのカレンダーも。暗闇の中、わずかな明かりを頼りに書いたといいます。「明日生きられるか分からない」終わりの見えない地下室での生活でした。しかし、ロシア兵は、監禁から約1か月後の3月30日に撤退し、村から姿を消しました。翌日、ウクライナ軍が村を解放し、人々は、ようやく自由を取り戻したのです。
ロシア軍が拠点にしていた学校の校舎に入りました。
記者「ロシア軍が持ち込んだ食料が残されています。スープのようです」
他にも、酒やたばこ、服など生活の痕跡が今も残っていました。当時、ロシア兵と会話した住民は――
監禁された住民「『おばあちゃん、心配しないで。あなたをロシアへ避難させて、ここは全部復興します』って」
しかし、実際には、ロシア兵は住民に暴力を加え、地下室の中で亡くなった人以外に、少なくとも7人が殺害されたこともわかっています。
イワンさん「ロシア軍を人間と呼べますか? あんなの人間じゃない。私たちにとって、この戦争は悪夢です。早くこの悪夢から目覚めたい」
村の復興は少しずつ進んでいますが、住民の心の傷が癒えることはありません。
●サイバー戦にイスラエル企業の影  7/28
終わりが見えないウクライナとロシアの戦い。西側諸国の多くの民間企業が、ウクライナへの支援を明らかにしています。ITの分野でも、マイクロソフトや、スターリンクと呼ばれる衛星通信網を持つイーロン・マスク氏のスペースXなどが支援を行ってきました。このうち、サイバー攻撃に使われるコンピューターウイルスやハッキングの手口を分析し、サイバー防衛の観点から支援しているイスラエル系のセキュリティー企業のトップにインタビュー。民間のセキュリティー企業が、どのように戦いに関わってきたのか、その一端が明らかになりました。
政府とのチャネル 舞台裏での暗躍
アメリカ・ボストンに本社を置く世界的なセキュリティー企業「サイバーリーズン」ハッカー集団によるサイバー攻撃の分析が強みで、世界50か国以上に顧客がいます。創業者のリオ・ディブCEOは、「8200部隊」と呼ばれるイスラエル国防軍のサイバー部隊の司令官として諜報活動や攻撃作戦のオペレーションを担った経験があります。ディブ氏は、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐって、会社としてウクライナに直接的な支援を行ってきたことを明かしました。
ディブCEO「私にとってロシアや中国など、世界のあらゆる場所でハッカーが何をしているかは謎なことではありません。イスラエルは、各国の政府、民間企業などが互いに緊密に協力し合う緊密なエコシステムを持っています。わが社も、アメリカ政府だけではなく、多くの政府当局とつながりを持っています。ウクライナ政府の目標達成や抵抗活動を支援するために、舞台裏では、ウクライナ政府とわれわれのような企業の間で、非常に多くの対話が行われています」
2017年からウクライナにチームを派遣
ディブ氏によると、会社は、2017年からウクライナ政府への直接的な関与を行ってきたと言います。2017年、「NotPetya」と呼ばれるコンピュータウイルスが、ウクライナの政府機関や通信会社、銀行のシステムなどを一時的にダウンさせる被害をもたらしました。アメリカとイギリス政府は当時、ロシア軍の指示のもとに行われた攻撃だったと発表。攻撃者はロシア連邦軍の参謀本部情報総局=GRUの部隊だと断定しましたが、ロシア政府は否定しました。サイバーリーズンはこの時、アメリカやイギリス当局による調査とは別に、ウクライナにチームを派遣して、攻撃に使われたハッキングの手口を解析しました。「NotPetya」は、身代金と引き換えにアクセスを制限する身代金要求型のランサムウエアでしたが、通常のものとは異なり、破壊活動を目的に使用されたことが特徴とされます。サイバーリーズンのチームは、「NotPetya」のプログラム内に、キルスイッチ(=活動を停止するための条件)があることをつきとめ、ウクライナは、これによって攻撃を無効化し、結果的に致命的な被害を受けることを防いだとしています。
「これはわが社が目立つ形で支援を行ったあくまで一例にすぎません。ほかのセキュリティー企業も同様の支援を行っていて、われわれのような存在は『防御者グループ』と呼ばれています。政府当局との連携も会社の使命の1つだと考えています」
サイバーリーズンは、アメリカに本社がありますが、創業したのはイスラエルのテルアビブで、イスラエル国防軍出身者が経営幹部に名前を連ねているイスラエル系の企業です。いまも開発拠点をイスラエル国内に置いています。イスラエルは中東にあって、周辺国との戦火が絶えず、高い技術を持つサイバーセキュリティーの企業が数多くあります。イスラエルは、アメリカの戦略的な盟友とされますが、今回のロシアのウクライナ侵攻では、イスラエル政府は目立ったロシア非難を打ち出さず、しばらく「中立的な立場」にありました。しかし、この裏で、民間のセキュリティー企業は、アメリカ政府とも深い関わりを持ちながら、積極的にウクライナ支援を行っていたのです。
早くから侵攻を予期 1月15日、あるロシア系ハッカーの逮捕
ロシアはことし2月24日にウクライナへの軍事侵攻を開始しました。今回のインタビューで、ティブCEOは、この1か月以上前に世界で大きく報じられたある事件に関して、興味深い「見立て」を明かしました。「レビル」と呼ばれる、ロシアを拠点とする大物ハッカー集団のロシア政府による摘発です。ことし1月15日、ロシアの治安機関、FSB=連邦保安局が複数のメンバーを拘束。アメリカの企業に対して大規模なサイバー攻撃を行っていた疑いでした。AppleやPCメーカーのAcer、それにアメリカ州政府など数十の組織の攻撃に関わったとされています。その前年、バイデン大統領がプーチン大統領と会談した際に、サイバー犯罪の取り締まりを要請した経緯もあり、ロシア側も一連の摘発の結果をアメリカ政府側に伝えたとしています。ロシアがハッカー集団を摘発したのは、アメリカの要望に応じたものだと受け止められ、ロシア政府も表向きはアメリカに協力してハッカーたちを逮捕した形をとりました。ところが、サイバーリーズンの見立てはこれとは違っていました。実は、ロシア政府のねらいはハッカー集団を取り込むことだったと言うのです。ハッカー集団の攻撃の関与をつぶさに観察する中で得られた分析結果だとしました。
ディブCEO「今回の逮捕で起きたことは、彼ら(ハッカーたち)が国家によりコントロールされるようになったということです。これまで、ハッカー集団は、国家が黙認する集団として存続していました。しかし、この時はハッカーたちがこのあと実際に起きるウクライナ戦争を推進するために直接的に採用されたのだと考えています。ロシア政府はウクライナへの侵攻に関して、自分たちの目標を達成するためにこれらのグループをコントロールし、利用するようになったとみるべきです」
この見立てが正しいとすると、ロシア政府の摘発は高度なサイバー攻撃の能力を持つハッカーたちをリクルートし、ウクライナ攻撃へ備えるためだったとみることもできます。ディブCEOは侵攻の前から、軍事侵攻の可能性をたびたび警告。侵攻前の2月15日にはリポートを発信し「ロシアの軍事侵攻が差し迫っている」と警鐘を鳴らしていました。
侵攻後もサイバー攻撃は活発化
サイバーリーズンの調査では、ことしの初めの数週間、世界中でランサムウエアの攻撃件数が突然減少していました。分析では、これが攻撃の予兆だったとみています。ところが2月下旬以降、再びランサムウエアの攻撃件数は増加、今もサイバー攻撃は活発化していると指摘します。
「ロシアは非常に強力なサイバー能力を持っています。彼らは今回の戦いでは、その能力をまだ十分に発揮しているとは言えず、今後もサイバー能力をますます増大させていくと考えています」
また、イスラエルに本社を置くセキュリティー企業「サイバージム」もウクライナ侵攻後のサイバー空間の緊迫化を指摘しています。「サイバージム」では、ロシアから断続的に続いた激しいサイバー攻撃に対して、ウクライナ側の防御は「成功に近い結果」となっていて、その背景に西側諸国のセキュリティー関連企業の支援があるとしています。オフィール・ハソンCEOは、ウクライナをはじめとする東ヨーロッパに多くの従業員を抱えていることから、雇用の維持が支援の目的の1つだと話します。そのうえでハソンCEOは「ウクライナは西側諸国の支援を受けたことでサイバー空間では善戦したが、今後はウクライナを支援する西側諸国などへのサイバー攻撃が拡大するおそれがある」と現状を分析しています。ウクライナ侵攻が仮に終結したとしても、ロシア系のハッカー集団の活動の終えんを示すものではないと指摘します。
ハソンCEO「ハイブリッド戦がロシア・ウクライナ間だけではなく、アメリカ、EU、NATO、その他の同盟国などを大きく巻き込んでいます。ほとんどのロシア側の攻撃は成功しませんでしたが、サイバー空間の活動はむしろ活発化しています。今後は領土の拡大といった目標だけではなく、(例えば物流や生産拠点がねらわれて食料の安全保障が脅かされるなど)サイバー戦争は次のステージに移って拡大していくかもしれません」
中国のハッカー集団の動きは
インタビューの後半、ディブCEOが語ったのが、こうしたサイバー攻撃のリスクに日本もさらされているということでした。なかでも中国系のハッカー集団が、アメリカや日本の企業を対象に知的財産を目的とした大規模なハッキングを行っていると話しました。サーバーリーズンがまとめた報告書では、中国系のハッカー集団が日本企業をはじめとするテクノロジー企業や製造業で偵察活動を続け、この数年間で機密文書、設計図、それに製造関連のデータなど、数百ギガバイト以上も搾取しているとしています。ウクライナ侵攻後もハッカー集団の活動は世界的に活発だとしています。特徴的なのは、攻撃から2〜3か月後には再度、攻撃が繰り返される傾向があということです。情報の搾取だけではなく、将来のサイバー攻撃の土台となっている危険性があると、指摘しています。
ディブCEO「中国のハッカー集団にみられるのは非常に洗練された手法です。日本で起きていることを分析すると、製造業を中心に非常にユニークな知的財産を持つ多くの企業が、定期的に攻撃を受けています。知的財産の情報の窃取は何度も試みられていることをわれわれは観測しています。彼らは、みずからが望むデータを収集できるようになるまで、その試みをやり続けるでしょう。このようなタイプの攻撃から身を守らなければならない日本企業には今まさに大きなプレッシャーがかかっています」
ロシアによるウクライナ侵攻の影で繰り広げられているサイバー戦の一端を明らかにしたディブCEOですが「戦いが終結すればもっと多くの情報をお伝えできる」とも語っていました。今回のウクライナ侵攻をめぐっては、イスラエル系の企業は関与をはっきりとは公にしていませんでしたが、今回のインタビューで、サイバーセキュリティーの分野では政府当局とも深い関係を結びながら具体的な支援が行われていたことがわかりました。軍や政府機関だけでなく、民間企業も巻き込みながら拡大している高度なサイバー戦。今後も、より活発に展開されていくと見られます。
●ウクライナ大統領 顧問 “ロシア軍に第2の発電所制圧された”  7/28
ロシア軍は、ウクライナの東部や南部でインフラなどへの攻撃を続けています。一方ウクライナ側も、南部ヘルソン州で、ロシア軍が補給路として使っていたとみられる橋を攻撃するなど反撃に出ていて、戦闘は各地で激しさを増しています。
ロシア軍は、全域の掌握をねらう東部ドネツク州や南部の各地で攻撃を続けています。
ウクライナ大統領府で顧問を務めるアレストビッチ氏は27日、ドネツク州にあるウクライナ第2のブフレヒルシク発電所が、ロシア軍に制圧されたと発表しました。
ドネツク州のキリレンコ知事がSNSで明らかにしたところによりますと、州内では、27日の攻撃で市民5人が死亡し、8人がけがをしたということで、市民の犠牲者が増え続けています。
また、ウクライナのベレシチュク副首相は28日、SNSで「敵は意図的に民間のインフラを破壊し続けている。ガスや電気、水の供給に問題があるかもしれない」と述べたうえで、ドネツク州の市民に対し、避難するよう呼びかけました。
一方、ウクライナ側も、ロシアが掌握したとする南部のヘルソン州で、このところ反撃を強めています。
ウクライナメディアによりますと、ゼレンスキー大統領は27日、ロシア軍が支配地域への補給路として使っていたとみられる、アントニウスキー橋を攻撃したと明らかにしました。
これについて、戦況を分析しているイギリス国防省は、橋は使用できなくなった可能性が高いと指摘し「ヘルソンは、ほかの占領地から事実上切り離されている。この損失は、占領を成功させようとするロシアにとって大きな障害になるだろう」と述べました。
ウクライナ軍は、ヘルソン州の奪還を目指して反撃を強めていて、南部でも戦闘が激しさを増しています。
●米ロ外相会談へ ロシアのウクライナ侵攻後初めて  7/28
アメリカのブリンケン国務長官はロシアのラブロフ外相と近く電話会談を行うと発表しました。
両外相の会談はロシアによるウクライナへの軍事侵攻後、初めてとなります。
ブリンケン長官は7月27日「近日中にロシアのラブロフ外相と、軍事侵攻以来、初めて話をする予定だ」と話し、会談ではロシアとウクライナが合意した、ウクライナからの穀物の海上輸送の再開などが議題になると述べ、「合意が実行されているか見守っている」と強調しました。
また、ロシアに拘束されているアメリカの女子プロバスケットボール選手らの解放についても取り上げるとしています。
米ロ外相の会談が実現すれば、2月のロシアによる軍事侵攻以来初めてとなります。
一方、ブリンケン氏はロシアがウクライナの支配地域を併合する動きを強めているとして、「領土を力づくで併合することは国連憲章の重大な違反だ」と批判しました。
●ウクライナ、リトアニアから海上経由で燃料輸入開始 7/28
ウクライナは海上経由で、リトアニアから石油製品の輸入を開始する。燃料危機の中、新たな輸入ルートを開拓したもようだ。
リフィニティブのデータによると、リトアニアのクライペダ港でガソリン約7600トンを荷積みしたマルタ籍のタンカー「マナス号」は、28日にウクライナのレニ港に到着する予定。
トレーダーによると、バルト海経由でのタンカーによる燃料輸入は初となる。
また市場関係筋は、7月に地中海諸国からディーゼルを中心とした石油製品がレニ港に向け出荷されたと明らかにした。
レ二港はドナウ川左岸に位置し、重要な輸送拠点となっている。
ウクライナはロシアからの軍事侵攻を受け、3月に国内港を閉鎖した。現在はポーランド、ルーマニア、リトアニア、ブルガリアから陸上経由でガソリンとディーゼルなどの燃料を輸入している。
●ロシア軍が弱いのは対NATO攻撃に備えて戦力を温存してか──NATO分析 7/28
ロシアの主力戦闘機ミグ29の編隊飛行(2021) Tatyana Makeyeva-REUTERS
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、将来のNATO加盟国への攻撃に備えて、戦力と空中火力を温存している可能性があるというリポートが発表された。
NATO国防大学が7月27日に発表した「ウクライナ後のロシア軍:倒れるが、まだ負けない」は、ウクライナと戦争中の現在のロシア軍の状態が、NATO加盟国への更なる攻撃につながる可能性を検証している。
それによると、ロシアは多くの軍人、装甲車、航空機と砲を失ったが、ウクライナ侵攻では「まだ軍の最大限の力を出していない」という。
「ロシアは総動員令を発しなかった。NATOを攻撃するために必要な場合に備えて軍事力を温存していると考えれば、ウクライナ侵攻以降にロシア軍が見せた『意外な弱さ』を説明できるかもしれない」
「たとえば、限られた空軍力しか使わなかったこと、戦力の逐次投入を行い、それも旧式の無誘導兵器システムを出してきたこと、サイバー攻撃が思ったより少ないこと、などだ」
「ロシアがやっていることの肝は、現状の打破だ。そう考えれば、NATO加盟国に対する攻撃の可能性は排除できない」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は6月、NATO首脳に対して警告していた。「来年は、ウクライナだけでなく、他にも数カ国が攻撃されるかもしれない。そしてそれはNATO加盟国かもしれない」
NATOのリポートはゼレンスキーの主張を反映し、ロシア軍のこれまでの弱さに騙されてはいけないと警告する。「ウクライナ侵攻後、最初の数カ月にロシア軍が見せた弱さと人的・物的損失の大きさは逆に、NATO攻撃の際のロシア軍の余力を思わせる」
●トルコでのサッカー試合で「プーチン」連呼 対ウクライナ戦で 7/28
欧州チャンピオンズリーグ予選で、トルコ・イスタンブールで同国のフェネルバフチェとウクライナのディナモ・キーウが27日に対戦した際、先制点を取られたフェネルバフチェのサポーターが「ウラジーミル・プーチン」とロシア大統領の名前を連呼する不規則な言動があった。
ロシア軍の侵攻を受けているウクライナのバシル・ボドナル駐トルコ大使は28日、「フェネルバフチェのファンから、われわれの国を爆撃しているロシアの殺人者であり侵略者を支持する言葉を聞いたことはとても悲しい」とツイッターに投稿した。
ソーシャルメディアに投稿された映像によると、スタジアムを埋め尽くしたフェネルバフチェのファンの一部が、プーチン氏の名前を連呼した。ディナモ・キーウのサポーターをあおり立てようとしたものとみられる。
激怒したディナモ・キーウのミルセア・ルチェスク監督は、相手チームのサポーターの言動に抗議するため、試合終了後の記者会見への出席を拒否した。監督はトルコのメディアに対し、「あのような連呼は予想していなかった。残念だ」と述べた。
試合は、ディナモ・キーウが2対1で勝利した。
ウクライナ軍は、トルコ製の無人攻撃機「バイラクタルTB2」を運用し、ロシア軍に対する戦果を上げている。ウクライナには現在、「バイラクタル」というラジオ局もあり、ウクライナを軍事的に支援するトルコは概して、ウクライナ国民の間で好感を持たれている。
●フック国家主席、プーチン大統領と祝辞交換 包括的・戦略的パートナーシップ 7/28
グエン・スアン・フック国家主席とウラジーミル・プーチン大統領は27日、ベトナムとロシアの包括的・戦略的パートナーシップ構築10周年を記念して祝辞を交換した。
ベトナムとロシア(旧ソ連)は1950年に外交関係を樹立。2001年に両国関係を戦略的パートナーシップへ、2012年にはさらに包括的・戦略的パートナーシップへと格上げした。
フック国家主席はこれに先立つ2021年11月、ロシアを訪問してプーチン大統領と会談した。両首脳は会談後、あらゆる分野での両国間の協力を方向付ける2030年までのベトナム・ロシア包括的・戦略的パートナーシップのビジョンに関する共同声明を採択した。
双方は共同声明の中で、相互の独立・主権・領土保全および国益を害する形で第三国と提携または合意を行わないこと、両国関係の強化が第三国に敵対するためのものではないこと、両国の最高レベルかつ実質的な政治対話を継続的に推進することを確認した。

 

●ロシア、サハリン2のLNG購入企業にロシアの銀行通じた決済求める 7/29
ロシアは石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」から液化天然ガス(LNG)を調達している企業に対し、ロシアの銀行を通じて決済するよう求めている。プーチン大統領の大統領令によるサハリン2の事業主体変更の一環。
事情に詳しい複数の関係者によると、サハリン2の現在の事業主体サハリン・エナジー・インベストメント・カンパニーはLNGの買い手に対し、事業主体の名称や本拠地、決済銀行など契約書の変更事項を通知した。通貨や販売量、価格、輸送先などの条件は変わらないという。
買い手は対ロシア制裁違反に当たらないよう確認するため、決済銀行の変更でプロセスは複雑になる恐れがあると関係者らは語った。変更の手続きでLNGの輸送が遅れる可能性もある。
事情に詳しい関係者1人によれば、ガスプロムの金融部門、ガスプロムバンクが新たな事業主体になる新設ロシア企業との取引に使われる見通し。通常の営業時間外にガスプロムバンクにコメントを求めたがこれまでに返答はない。サハリン・エナジーとロシア政府からも返答はなかった。
●ロシア軍が占拠する南部ヘルソン奪還へ、ウクライナが攻勢強化  7/29
ロシア軍が占拠するウクライナ南部ヘルソンを巡り、ウクライナ側が反撃を強めている。ヘルソンを含むヘルソン州など南部2州では、ロシアが9月にも住民投票を実施し、「圧倒的な民意」を演出して支配を正当化する恐れが高まっているためだ。露軍も対抗し、戦力を補強している模様だ。
ウクライナ国防省情報総局は27日、ヘルソンで親露派の車両が爆発し、2人が死傷したと発表した。ウクライナ側の攻撃とみられる。露軍の主要補給路であるヘルソンの「アントノフ大橋」への攻撃も続いており、親露派幹部は27日、大橋が損傷し、修復のため通行止めにしたと説明した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は27日夜、ビデオ演説で「橋を修復するのは我々だ」と述べ、ヘルソンを奪還する構えを示した。
ロシア側は、ウクライナ側のヘルソン攻撃に手を焼いている。親露派は27日、「住民輸送」目的のフェリーの運航開始を発表した。ウクライナ側の攻撃を避けて補給路を維持するため、戦闘と関係がないよう装っているとの見方がある。ウクライナの政府幹部は27日、地元メディアに対し、「露軍はヘルソンに戦力を集中させようとしている」と述べ、露軍がヘルソンを重視し、占拠維持に躍起になっていると指摘した。
キーウ州警察当局などによると、露軍は28日朝、州内に複数のミサイルを撃ち込み、15人が負傷した。黒海から発射された巡航ミサイルとみられる。一方、ウクライナ大統領府の顧問は27日、東部ドネツク州で国内第2の規模とされる火力発電所を露軍が制圧したと認めた。
●米中首脳会談 台湾情勢めぐり意見対立際立つ 対話継続では一致  7/29
アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席が電話による首脳会談を行い、台湾情勢をめぐってはバイデン大統領が一方的な現状変更に反対したのに対し、習主席はアメリカの干渉だと強く反発し、意見の対立が際立つ形となりました。一方で、両首脳は対話は継続し、今後、対面での首脳会談の時期を模索していくことで一致しました。
アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席は日本時間の28日夜、電話による首脳会談を行い、ホワイトハウスによりますと会談はおよそ2時間20分続いたということです。
ホワイトハウスは会談後、声明を発表し、台湾情勢について、バイデン大統領がアメリカの「1つの中国」政策に変更はないとしたうえで、「現状を変更したり、台湾海峡の平和と安定を損なったりする一方的な行動に強く反対する」と強調し、中国をけん制したとしています。
これに対し、中国外務省は会談後の発表で習主席が「火遊びをすれば必ずやけどをする。アメリカはこれをきちんと理解すべきだ」と強く警告したとしていて、台湾をめぐり意見の対立が際立つ形となりました。
またペロシ下院議長の台湾訪問が取り沙汰されていることに中国が強く反発していることについてバイデン政権の高官は「それは議長の判断だ」と述べるにとどめ、首脳会談の中でやりとりが行われたかどうかについても明らかにしませんでした。
一方、この高官は、両首脳は対話は継続し、対面での初めての首脳会談の時期を模索していくことで一致したとしています。
また中国外務省も「さまざまなレベルで意思疎通を維持し、協力を推進しなければならない」とした上で、安定したサプライチェーンやエネルギー、それに食料安全保障問題についても意思疎通を続けていくべきだとしていて、利益が重なる分野も含め対話を継続することを再確認しました。
●ロシア軍、ウクライナ中部など攻撃 死者相次ぐ 7/29
ウクライナでは28日、中部など各地でロシア軍による軍事施設や住宅への攻撃が相次ぎ、数人が死亡した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「ミサイルテロ」だとして非難した。
同国はこの日、ゼレンスキー氏が先に制定を発表していた「ウクライナ国家の日」を初めて迎えた。
最も被害が大きかった攻撃は、中部キロウォフラード州で発生。同州のアンドリー・ライコビッチ知事はソーシャルメディア上に投稿した動画で、5人が死亡し、25人が病院に搬送され治療を受けていると投稿した。
インタファクス・ウクライナ通信はライコビッチ氏や同州の州都クロピウニツキー市当局者の話として、航空機や航空機器、近隣の建物が被害を受け、負傷者には兵士12人が含まれると伝えた。
クロピウニツキーは首都キーウの南約300キロに位置し、先週末にはロシア軍による鉄道や軍事施設への攻撃により、ウクライナ兵1人を含む3人が死亡した。
ウクライナ軍幹部のオレクシー・フロモフ氏によると、28日にはキーウの北30キロにある町の軍事基地もロシア軍の攻撃を受け、建物1棟が破壊された。2014年にロシアに併合されたクリミア半島から発射されたミサイルが着弾したという。
中部ドニプロ州の知事によると、同州でも攻撃があり、少なくとも1人が死亡、2人が負傷。東部ドンバス地方のトレツクでは5階建ての集合住宅がロシア軍の攻撃を受け、地元当局によると2人が死亡した。
ゼレンスキー大統領はソーシャルメディアに、「物騒な朝だ。またミサイルテロが起きた。われわれは諦めない」と投稿した。 
●ウクライナでの戦争犯罪で終身刑のロシア兵、禁錮15年に減刑 7/29
ウクライナの裁判所は29日、ロシアによる侵攻開始後初めて行われた戦争犯罪をめぐる裁判で、民間人を殺害した罪でロシア兵に対して言い渡されていた終身刑を、禁錮15年に減刑した。
首都キーウの控訴裁はウェブサイトで、ワディム・シシマリン被告(22)の弁護側の控訴内容が部分的に認められ、被告は禁錮15年に処されると発表した。
シシマリン被告は、2月にウクライナ北東部チュパキウカ村で非武装の民間人男性(62)を殺害した罪で5月に有罪が確定し、終身刑を言い渡されていた。
被告は、車を強奪してロシアへ逃亡しようとしたところを男性に目撃され、別の兵士から圧力を受けて男性を撃ったと主張していた。
被告の弁護人は、判決には「社会的圧力」が影響したとして、上訴の意向を示していた。
●ロシア、民間戦闘員をウクライナ前線に投入 兵員不足=英国防省 7/29
英国防省は29日、ロシアはウクライナ戦争で、兵員の不足により前線任務の一部を民間軍事会社の戦闘員に託しているとの見方を示した。
ロシアの民間軍事会社ワグネルの戦闘員が正規軍兵士の穴埋めをしたり、ロシアの侵攻の軌道を変えたりする公算は小さいとの見方を示した。
ツイッターへの投稿で国防省は、ワグネルは2015年以降、正規軍の任務とは異なる役割を主に引き受けていたが、今回は異なった活用をしていると指摘した。
ワグネルとロシア大統領府のコメントは得られていない。
●「何のために戦っているのか」捕虜になったロシア側戦闘員は… 7/29
取材場所を絶対に明らかにしてはならない。携帯電話を持ち込んでもいけない。そうした条件のもとで入った、ウクライナにある厳重なセキュリティーで守られた施設。そこでは、戦争捕虜となったロシア側の戦闘員が収容されていました。中は、どうなっているのか。取材しました。
公開された収容所
ロシアによる軍事侵攻で、激しい戦闘が続く東部地域。今何が起きているのかを知ろうと取材を続けていると、ある連絡が。ウクライナの司法省は、NHKを含む複数の外国メディアに、所在地や戦争捕虜の顔を明かさないことなどを条件に、7月15日に国内にある捕虜の収容所の内部を公開するというのです。さらに、捕虜となったロシア側の戦闘員に取材する機会も設けるとのことでした。インタビューを受ける捕虜は、ウクライナの司法省が本人の意向を確認して対応可能な捕虜を選び、取材の際には、NHKが直接、本人の同意を得た上で、ウクライナ司法省の立ち会いの下で話を聞くことになりました。また、事前にICRC=赤十字国際委員会(※)に連絡を取り、捕虜の取材では、顔と氏名を出さず、本人が特定されることのないよう加工をした上で報道するよう助言を受け、それに沿って取材することにしました。
※ICRC=赤十字国際委員会
武力紛争やその他の暴力などによって苦しむ人たちを支援する組織。国際人道法や人道上の原則の普及と強化に取り組む。
収容所の中は
有刺鉄線と高い塀に囲まれ、ウクライナの国旗が掲げられた収容所。取材に同行するウクライナ司法省の担当者によると、この施設はもともと刑務所で、ロシアによる軍事侵攻以降は、捕虜の収容所として使われているということでした。収容所内部に入るためには、いくつものセキュリティーチェックを通過する必要がありました。
そして、捕虜がいる部屋に入ると、机に向かって作業をしていた男性たちは動かしていた手を止め、一斉にこちらを向いて立ち上がりました。不安そうな表情を浮かべる人もいれば、力強い視線で見ている人もいました。ただ、いずれの男性も黙ったままこちらを見ていました。
捕虜となっているのは
収容所にいる捕虜の人数は明かされませんでしたが、確認できる範囲では、少なくとも20人は収容されていました。ウクライナ司法省によると、取材した7月15日の時点で、収容されているのはいずれも男性で、20代が多く、18歳が最も若く、50代の戦闘員もいました。そして、捕虜となっているのは、ロシア軍だけではなく「親ロシア派の武装勢力」の戦闘員も含まれているということでした。実は、ウクライナへ軍事侵攻を続けているのはロシア軍だけでなく、「親ロシア派の武装勢力」もウクライナに対して戦闘を行っています。ウクライナでは、東部の地域で、2014年からロシアの後ろ盾を受けた「親ロシア派の武装勢力」がドネツク州とルハンシク州の一部を占拠し、その後、ウクライナからの独立を一方的に表明しました。ドネツク州やルハンシク州は、ロシアと国境を接していて、歴史的にも経済的にもロシアとつながりが深く、幼い頃からロシア語で生活してきた住民が多い地域で、ここの一部を占拠する「親ロシア派の武装勢力」はロシア軍と連携し、ウクライナ軍と戦っているのです。
戦闘員は何を語った?
施設の取材を終えたあと、捕虜を取材する時間が設けられました。取材に応じたのは、ドンバス地域でウクライナ軍と戦闘をしていた「親ロシア派の武装勢力」の29歳の戦闘員。黒い帽子と黒い作業着を着用し、手錠など身体を拘束する器具は付けられていませんでした。がっしりとした体格のその男性は、取材の間、体の後ろに腕を組み、インタビューでは慎重に言葉を選んで、短く答えました。 以下、主なやりとりです。
Q)戦闘に参加したきっかけは?
A)1月17日にルガンスク人民共和国(※)と契約を結んだ。どこに行って何をするか、何も伝えられないまま出発した。上官は、最初、戦闘は3日間で終わり、家に戻ることができると話していた。
Q)戦闘では何を見たのか?
A)戦闘が行われた村では、壊れた住宅など多くの破壊を見た。電気も止まっていた。
Q)軍事侵攻についてどう思うか?
A)何のために戦っているのか分からない。双方で多くの人が死んでいる。政治的に解決すべきだ。
Q)プーチン大統領の評価は?
A)政治的な質問は分からない。しかし、彼のやっていることは、もちろん間違っている。
※「ルガンスク人民共和国」
親ロシア派の武装勢力は、ウクライナ東部を占拠し、ウクライナからの独立を一方的に表明した際、「ルガンスク人民共和国」「ドネツク人民共和国」という国家の樹立を相次いで宣言した。
ウクライナ司法省は
外国メディアに収容所や捕虜の取材を許可したウクライナのビソチカ副司法相は、施設内にある捕虜のための診療所、運動場、食堂などを案内し、次のように強調しました。
「私たちは、ICRCの訪問を受け入れるなど、捕虜を国際人道法に基づいて扱っている」
一方で、ロシアとの捕虜交換を巡る交渉を進める上で、捕虜の存在が必要だとも指摘しました。
「ウクライナ人の捕虜を取り戻すためにも、ロシア兵などの捕虜が必要だ」
“交換の材料”となる捕虜
NHKのような外国メディアにも取材を許可したウクライナ側の意図は、「ウクライナ側は捕虜を人道的に扱っている」というメッセージを広く伝え、ロシアで捕虜となっているウクライナ兵も人道的に扱うようロシア側に求めるねらいがあるのではないかと感じました。ビソチカ副司法相の「ロシア兵などの捕虜が必要」という言葉は、それだけたくさんのウクライナ兵がロシアで捕虜となっているということを表しているといいます。一方で、生身の人間が“交換材料”になるという、紛争下の現実の一端を見た気がしました。
●略奪した穀物を積んだシリアの船がレバノンに停泊している ウクライナ主張 7/29
米国の制裁下にあり、ウクライナが言うところのウクライナから略奪した大麦を運んでいるシリアの貨物船がレバノンに停泊していると、在レバノンのウクライナ大使館は28日、主張した。
ベイルートのウクライナ大使館によると、貨物船ラオディケア号はレバノン第2の都市トリポリの港に入港した。同大使館によると、その船は小麦粉5000トンと大麦5000トンを運んでいた。
米財務省は2015年、シリアのバッシャール・アサド大統領の政権と関係があるとしてラオディケア号に制裁を課した。
ロシアが2月末にウクライナに侵攻して以来、ウクライナの領土から穀物や鉄鋼を略奪している、とウクライナは非難している。ベイルートのウクライナ大使館は、ウクライナが言うところの大麦の略奪の経緯について詳しく説明したり、発言したりしていない。
船舶交通や海上の船舶の位置を監視しているMarine Trafficも28日、トリポリに停泊している船舶を確認した。ラオディケア号は当初、シリアのタルトゥース港に向かっており、今週初めに同港に到着する予定だった。
レバノンへとルートを変更した理由や、そこで荷下ろしをしているかどうかは不明だ。
ウクライナ大使館の声明によると、ウクライナのイホル・オスタシュ大使は28日、レバノンのミシェル・アウン大統領と会談し、ロシアから盗品を購入すれば「二国間関係に悪影響をもたらす」と警告した。ウクライナは以前、レバノンがロシア・ウクライナ戦争に関してロシアを非難したことを称賛していた。
ウクライナはレバノンに小麦を輸出すると約束している。レバノンは現在、深刻な食糧安全保障危機、経済危機に陥っている。
レバノンのアミン・サラム暫定経済相はこの船の詳細を明らかにしなかった。トリポリ港の総支配人であるアフマド・タメル氏は当初、この船が到着したことを知らなかったと述べ、さらなるコメントを求める要求に応じなかった。
●ロシア軍補給路の三つの橋を攻撃、ウクライナ軍が「勢い増している」… 7/29
ウクライナの戦況を分析する英国防省は28日、ロシアが掌握する南部ヘルソン州の奪還を目指すウクライナ軍が「勢いを増している」と指摘した。米欧から供与された長距離砲で、露軍が補給路とする三つの橋を損傷させ、州都ヘルソンを事実上、他の占領地から切り離したとの見方を示した。
ウクライナのオンラインメディア「ウクライナ・プラウダ」によると、ヘルソンの南部を流れるドニエプル川に架かる交通の要衝「アントノフ大橋」が損傷で通行止めになった後、ヘルソンで物資が品薄になっている。露軍は渡河のため、車両などを載せてタグボートで引航する浮桟橋の建設を試みているという。
親露派は、補給に影響はないと主張している。
ウクライナ大統領府顧問は、露軍が戦力を東部から南部に「大規模に再配置している」との認識を示し、ヘルソン防衛に力点を移し始めているとの認識を示す。
ウクライナ空軍報道官によると、露軍は28日、黒海やベラルーシなどからキーウ州など複数箇所にミサイル約20発を発射。中部キロボフラード州では航空大学などが標的となり5人が死亡した。この日はゼレンスキー政権が新設した「国家の日」で、あえて広範な攻撃を仕掛けた可能性がある。
●ウクライナに滞留の穀物輸出、再開へ…国連機関が買い上げ検討  7/29
国連のマーティン・グリフィス事務次長(人道問題担当)は28日、ロシアの侵略でウクライナに滞留している穀物の輸出が29日にも再開するとの見通しを明らかにした。輸出再開で、世界的に高騰する穀物価格の安定化が期待される。
グリフィス氏は28日、加盟国向けに説明したオンライン会合で「数日以内、早ければ29日にも第1便が出港する」と述べた。食料危機にあえぐソマリアなどを支援するため、世界食糧計画(WFP)がウクライナから搬出される穀物を買い上げることを検討していることも明らかにした。
ウクライナからの穀物輸出再開はロシアとウクライナ、仲介したトルコと国連の4者が22日に合意。これに基づき、輸送船の出入りなどを管理する「調整センター」が27日、トルコのイスタンブールに開設された。
同センターでは、合意の履行に必要な手続きについて協議が続いているという。グリフィス氏は「手続きがなければ、船舶の安全な航路を管理できない」とも語り、再開がずれ込む可能性があることも示唆した。
ウクライナには2000万トン以上の穀物が滞留しているとされる。グリフィス氏は国連本部で記者会見し、南部のオデーサ港など黒海沿岸の3港からの輸出能力を、ロシアの侵略以前の毎月計約500万トンの水準に戻したい考えも示した。
ウクライナからの穀物輸出を巡っては、4者による合意の翌日にロシアがミサイルでオデーサ港を攻撃し、実現が危ぶまれていた。
●ウクライナ侵略に抗議、元テレビ局職員に罰金11万円の有罪判決  7/29
ロシア国営テレビの番組中にウクライナ侵略に抗議して注目を集めた元テレビ局職員マリーナ・オフシャンニコワさん(44)について、ロシアの裁判所は28日、SNSで軍の信用を失墜させたとして有罪判決を言い渡し、5万ルーブル(約11万円)の罰金を命じた。
オフシャンニコワさんは今月15日、SNSで「プーチン(大統領)は人殺しだ」などと訴えるポスターを手に抗議する様子を紹介し、後日、身柄を拘束された。ロイター通信によると、法廷では「裁判の目的は戦争に反対する人を威嚇することだ」と主張したという。
ロシアでは、侵略に関して政権の意に沿わない言動が禁じられ、最大で禁錮15年が科される。
また、タス通信などは28日、メディア規制当局が、侵略に批判的な独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の報道機関としての登録を取り消すよう求める訴訟を起こしたと報じた。
ノーベル平和賞を受賞したドミトリー・ムラトフ氏が編集長を務める同紙は再三の圧力を受けて3月に活動を停止。登録が 剥奪はくだつ されれば、活動再開の道が断たれる恐れがある。スタッフらは今月15日に雑誌「ノー」を創刊したが、「軍の信頼を損ねた」として1週間でサイト接続の遮断に追い込まれた。
●ロシアの希望的観測…メドベージェフ前大統領が「戦後のウクライナ」地図公開 7/29
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「忠臣」として知られる、ドミトリー・メドベージェフ前大統領が、これが「戦後のウクライナ」だとして東ヨーロッパの地図をインターネット上に投稿した。そこではウクライナのかなりの部分が、ロシア連邦に吸収されていることになっている。
ウクライナのニュースサイト「ウクラインスカ・プラウダ」によれば、現在はロシア連邦安全保障会議の副議長を務めるメドベージェフは、7月26日にメッセージアプリ「テレグラム」の自身のアカウントに、問題の地図を投稿。地図は「西側の複数のアナリスト」によって作成されたものだと主張したが、それらのアナリストの名前は明らかにしていない。
この地図に示されているウクライナはキーウ州のみで、ドンバス地方を含む大半の地域が、ロシアの領内に入っている。東部ドンバス地方(現在は多くの地域が親ロシア派勢力の支配下にある)のほかに、ドニプロ(ドニエプル)、スーミ、ザポリージャ、ヘルソン、チェルニヒウ、クロピヴニツキー、チェルカッスイやミコライウなどの地域も、ロシアの支配下に入り、さらにオデーサ港もロシア領として示されている。
ウクライナは「地図から消える可能性」と警告
興味深いことに、ビニンツァとチェルニはルーマニアの占領地域として示されており、ウジホロドをはじめとするその他のいくつかの地域は、ポーランドとハンガリーの支配下に入っている。そしてなぜか、ロシアの忠実な盟友であり、ロシアによるウクライナへの侵攻を支持しているベラルーシには、一切の領土の「割り当て」がない。
メドベージェフは地図の投稿に先立ち、「現在展開されている出来事の結果として」、国家としてのウクライナは地図上から消えるかもしれないと警告していた。
メドベージェフはウクライナについて、2014年の政変の後は国家としての独立性を失い、西側諸国の直接の支配下に入ったと主張。ウクライナ政府は、NATOが自分たちの安全を保証してくれると考えるようになったと指摘している。さらに現在起きている戦闘の結果、ウクライナは国の主権を失い、世界地図から消える可能性があると警告した。
ソーシャルメディア上ではこの地図について、メドベージェフは「アルコールが原因の認知症」だと揶揄する声や、ロシアが「他国の土地を盗んでいる」と非難する声が上がっている。
キーウ・ポスト紙のジェイソン・ジェイ・スマート記者は、メドベージェフの地図は「ロシアの計画を予言する」ものだと指摘した。彼はさらに、ウクライナ東部の親ロシア派組織「ドネツク人民共和国」を率いるデニス・プシリンがベラルーシを訪問したことや、「キーウ、ルツクとオデーサを解放すべき時」と述べたことについてもツイートした。
プシリンはベラルーシのブレスト要塞で、第二次大戦時の戦いを称える献花式に出席し、次のように述べていた。「いま再び、ロシア人が築いたロシアの都市を解放すべき時が来ている。キーウ、チェルニヒウ、ポルタワ、オデーサ、ドニプロ、ハルキウ(ハリコフ)、ザポリージャとルツクだ」
●昨秋にチェルノブイリへ工作員 ロシアが「無血開城」地ならし 報道 7/29
ロシア軍が2月下旬のウクライナ侵攻開始直後から1カ月以上占拠した北部のチェルノブイリ原発について、ロイター通信は28日、プーチン政権が昨年11月の段階で「無血開城」を目指し、工作員を送り込んでいたと伝えた。
原発の保安担当幹部に接触し、戦闘が起きないよう画策していたという。
報道内容が事実なら、ロシアは昨年春から断続的に国境付近に大軍を集めるのと並行して、ウクライナ国内でも開戦に向けて着々と地ならししていたことになる。
ロイターが関係筋への取材を基に伝えたところによると、ロシア軍は侵攻開始当日の2月24日、ベラルーシ国境経由でチェルノブイリ原発に侵入。ウクライナ国家親衛隊の部隊が待ち構えたが、2時間弱で169人が武装解除に応じたという。原発はその後、ロシア軍が北部一帯から撤退するまで占拠し、停電や作業員が交代できないなどのトラブルが続いた。
また、チェルノブイリは、情報機関のウクライナ保安局(SBU)からロシア側に対し、金銭と引き換えにウクライナ軍の内部情報を提供する舞台になっていたという。ウクライナ国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は、ロイターに「外敵だけでなく、残念ながら内なる敵も存在する」と警鐘を鳴らした。
SBUをめぐっては、やはり侵攻開始から間もなく南部ヘルソン州が制圧されたことに絡み、地方幹部が国家反逆容疑で拘束された。ゼレンスキー大統領は今月17日、SBUの一部職員がロシアに協力していると指摘し、バカノフ長官らの解任を発表している。 

 

●東部の収容所で捕虜50人以上死亡 ウクライナ、国連と赤十字に調査要請 7/30
ロシア軍が占領するウクライナ東部ドネツク州の収容所で、戦争捕虜50人以上が殺害された問題で、ウクライナ政府は国連と赤十字による調査を呼びかけている。
ドネツク州オレニフカの収容所で何が起きたのか、詳細は判明していないが、ウクライナとロシアの双方は相手が収容所を砲撃したと互いを非難している。未検証のロシア側の映像には、壊れた簡易ベッドがねじ曲がった残骸や、焼け焦げた遺体が映っている。
ウクライナ政府は、ロシアによる拷問や殺害の証拠を隠滅するため、ロシア軍が砲撃したのだと主張。ウクライナ軍参謀本部は、国連と赤十字に調査を呼びかけた。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「ロシアの意図的な戦争犯罪」だと非難した。
対するロシア側は、ウクライナが高精度の多連装ロケット砲で収容所を砲撃したのだとしている。
ウクライナの新しい検事総長、アンドリイ・コスティン氏は、収容所砲撃について戦争犯罪として捜査に着手したと明らかにした。
ウクライナの陸軍参謀本部は国連と赤十字に対し、調査を要請。ロシアが戦争捕虜の扱いを隠蔽(いんぺい)するために、この収容所を攻撃したのだと主張した。
陸軍参謀本部はソーシャルメディアで、ウクライナ兵のマリウポリ避難を仲介した国連と赤十字は、ロシアが戦争捕虜を適切に扱い、その安全を保証するという仲立ちをしただけに、今回の実態を調査する必要があると書いた。
赤十字国際委員会は声明で、「現在の最優先事項は負傷者が確実に救命措置を受け、命を落とした人たちの遺体が確実に丁重に扱われるようにすることだ」と述べた。現場に入れるようロシアに要請し、負傷者の避難に協力すると申し出たという。
収容所に拘束されていた中には、5月に南東部マリウポリの攻防戦で捕虜になったアゾフ連隊の兵士も含まれるとみられる。ロシア側はアゾフ連隊のことを、ネオ・ナチスや戦争犯罪人だと主張している。
収容所で何が起きたのか
いわゆる「ドネツク人民共和国」を自称する親ロシア派のダニイル・ベズソノフ報道担当は、「捕虜を収容する兵舎が直撃された」と述べた。
ロシア国防省は、アメリカがウクライナに提供した機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」による攻撃だと主張。ウクライナが「意図的な」挑発行為に及んだと非難した。同省は、HIMARSが発射したロケット砲の破片だと主張するものを証拠として示している。
他方、ウクライナ側は砲撃や爆撃を否定。ゼレンスキー大統領の顧問は現場の様子から、放火のようだと指摘。ミサイル砲撃だった場合、遺体は飛散していたはずだと主張した。
格納庫のような宿泊施設が破壊された様子を写した映像は、29日朝からオンラインに登場。ロシア国営テレビ「ロシア1」の映像から、建物外の破壊や流血の映像に切り替わる。
建物内部の様子と屋外の様子が、同じ建物の内外なのか、BBCは検証できていない。
ただし、BBCの「リアリティー・チェック」チームは、建物の外で撮影された映像は、ウクライナ東部ドネツク州オレニフカの近くにある第120刑務所の様子に一致すると確認した。
この刑務所は2022年2月以前は無人で、その後はロシアの「濾過(ろか)」手続きを通過していない戦争捕虜や民間人の収容に使われた。ロシアの「濾過」手続きとは、ウクライナで拘束したものを尋問した後、次の移送先を決定するもの。
ウクライナのアゾフ連隊を創設したアンドリー・ビレツキー氏は、収容所で死亡した中に、連隊の兵士が複数含まれていると話した。
今年5月までマリウポリのアゾフスタリ製鉄所に立てこもり、ロシア軍に抵抗していたアゾフ連隊から、複数の兵士が投降後に、オレニフカへ移送されたことが確認されている。
ウクライナ当局は、オレニフカに運ばれた戦争捕虜は拷問されたと主張してきた。
オレニフカ収容所とは別に、ロシアが占領するドンバス地方のセヴェロドネツクで撮影されたとみられる映像が29日、オンラインで広まり、ウクライナ人に衝撃を与えた。
映像では、ロシア側の兵士が戦争捕虜の性器を切り落とす様子が映っている。ロシア兵は、ロシア南部チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長が率いる部隊の一員だと特定されている。
解説 誰による戦争犯罪なのか――ポール・アダムスBBC外交担当編集委員(キーウ)
オレニフカ近郊にある「濾過収容所」内部の様子は、地獄のようだ。
破れたトタン屋根の合間から差し込む陽光があらわにするのは、ひしゃげてねじまがった金属製の簡易ベッドと、無数の焼死体だ。中にはベッドに横たわったままの遺体もある。おそらく眠っている最中のことだったのだろう。
屋外の映像では、木製のすのこの上に血の跡と、さらに複数の遺体が横たわる。ここの遺体は焼かれてはいないが、出血している。どれもやせ細っている。
第三者の報道機関が現場に入れない以上、ウクライナとロシアによる食い違う主張を検証していくほか、できることは今はほとんどない。
ウクライナ側は、大量の証拠を得ているとしている。親ロシア派分離勢力が、複数の爆破工作について話し合う無線通話もその中に含まれるという。ロシアの民間軍事会社ワグネルの雇い兵による犯行だという、ウクライナ側の意見もある。
中立な専門家チームが徹底的に調査する以外、真相を確立する方法はない。そうした専門家たちがこの恐ろしい現場にいつか立ち入ることが許されるのかは、疑わしい。
●ロシア ウクライナから略奪の穀物輸出か レバノン政府が調査  7/30
中東のレバノンの港に入った貨物船に、ロシアがウクライナから奪った穀物が積まれている疑いがあるとして、ウクライナ側は積み荷を降ろさないよう要請し、レバノン政府が調査に乗り出す事態となっています。
中東の複数のメディアによりますと、レバノン北部の港に27日入港したシリア船籍の貨物船に、ロシアがウクライナから奪った小麦などの穀物合わせて1万トンが積まれている疑いがあるということです。
この船は、ロシアが8年前、一方的に併合したウクライナ南部のクリミアを出港したと報じられています。
これを受けてレバノンに駐在するウクライナ大使は28日、レバノンのアウン大統領と会談し、ロシアが奪った穀物を輸入することは受け入れられないと懸念を示したうえで、積み荷を降ろさないよう要請しました。
ロシアがこれまでウクライナからの穀物の略奪を否定していることから、レバノン政府は調査に乗り出し、確認が取れるまでは荷降ろしをしないとしています。
小麦の輸入のおよそ7割をウクライナに頼ってきたレバノンでは、ロシアの軍事侵攻によって小麦の輸入が滞り、パンなどの価格が2倍以上に高騰するなど、市民生活に深刻な影響が出ています。
●NATOの現行戦略でウクライナ勝利出来ず、ハンガリー首相 7/30
ハンガリーのオルバン首相は30日までに、北大西洋条約機構(NATO)の現在の支援戦略ではウクライナはロシアを敗北に追い込むことが出来ないとの見方を示した。
同時にウクライナ情勢が欧州経済にもたらす悲惨な結末の到来も警告。ウクライナでの戦闘が続く場合、欧州連合(EU)が景気後退をどう回避し得るのかを明確にしていないとも主張した。
訪問先のオーストリア・ウィーンで記者団に語った。オルバン氏は「現在のNATOのやり方ではこの戦争に勝てない」と強調。「これまで見た限り、兵器や訓練でウクライナを支えるとのNATOの戦略が奏功しないことを示している」とも断じた。
戦略を変えなければ和平への道筋もみえないだろうとも指摘。ウクライナでの和平なしではEU全体が戦時体制に追いやられるだろうとも占った。
オルバン首相と共に記者団の取材に応じたオーストリアのネハンマー首相は、EUによるロシア産天然ガスの禁輸発動を警戒する姿勢を表明。「あり得ない」とも述べた。
「ハンガリー、オーストリアは共にロシアのガスに依存している。ドイツの産業界も同様だ」と説明。「仮に独経済が崩壊したら、オーストリア経済も滅びる」とし、「大量の失業が発生する」と述べた。
同首相はまた、EUの行政執行機関の欧州委員会は多くの発表事項を連発しているが、実行は非常に少ないとの不満も口にした。エネルギー危機への組織全体の対処に触れ、欧州委が打ち出したEU共通のガス購入方式が現実化される兆候もないと批判した。
●兵士の葬儀中、ウクライナ人司祭に「十字架」で殴りかかったロシア人司祭 7/30
ウクライナ人兵士の葬儀がしめやかに執り行われているところに、ロシア人の司祭が乱入し、ウクライナ正教会の司祭を十字架で殴りつけるという「事件」が起きた。ウクライナ人司祭が葬儀の場で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領について語っていた言葉に、腹を立てたことが原因だった。
7月22日にウクライナ中部の都市ビンニツァで執り行われたオレクサンドル・ジニビーの葬儀のもようを撮影した動画には、ウクライナ人司祭のアナトリー・ダドコが告別の辞を述べていたところに、ロシア人の司祭(地元活動家のセルヒー・ティムコフによれば、ミハイロ・バシリュクという名前)が駆け寄ってくる様子が捉えられていた。
ウクライナ正教会の司祭ダドコは、ロシアのプーチン大統領がウクライナに軍事侵攻を行った理由のひとつは、ウクライナにおけるロシア正教会の信者たちを守ることだったと発言。さらにロシア正教会はこの国への侵略者を支援しているとし、これを聞いたバシリュクが葬儀に乱入してきたと報じられている。
動画には、バシリュクがダドコの首にかかっていた十字架を取り上げようとした後、自分の手に持っていた十字架で彼を殴りつける様子が映っている。現場にいた複数の軍人が止めに入ってバシリュクを引き離し、葬儀は続けられた。地元メディアによれば、ジニビーはウクライナ南部のミコライウに近いビンニツァで死亡した兵士だった。
警察が刑事事件として捜査を開始
ティムコフは今回の騒動の詳細をフェイスブックに投稿し、殴られたダドコは軽傷を負ったと明らかにした。
「今回の一件は、傲慢さという点であらゆる一線を越えていると思う」と彼は書き込み、さらにこう続けた。「法執行当局には争いが起きた場合に、どのような集まりであっても秩序が守られるよう、一層の取り組みをお願いしたい」
ウクライナのメディア「Vinbazar.com」によれば、ビンニツァの警察は今回の一件について通報を受けており、刑事事件として捜査が開始されている。
ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領補佐官は6月にBBCに対して、1日あたり100人から200人のウクライナ兵がロシアとの戦闘で命を落としていると述べていた。その1週間前にはウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、1日あたりの兵士の犠牲者は60人から100人近くだと述べていた。
一方のロシア軍の犠牲について米ホワイトハウスは7月27日、ウクライナでの戦闘で死亡または負傷したロシア兵の数は7万5000人超との推定を示した。ロシア軍が2月の侵攻開始時にウクライナに派遣した兵士の、約半分にのぼる人数だ。侵攻開始に向けて、ロシアはウクライナとの国境地帯に15万人の兵士を集結させたと報じられていた。
●穀物輸出合意 実行求める 侵攻後初 米ロ外相電話会談 7/30
アメリカのブリンケン国務長官は29日、ロシアのラブロフ外相と電話会談し、ウクライナからの穀物輸出について、合意を着実に実行するよう求めた。
両外相の会談は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻後、初めてとなる。
アメリカ・ブリンケン国務長官「けさ、ラブロフ外相と会談した。わたしたちは率直で、直接的な会話をした」
ブリンケン氏は、会談で「ウクライナからの穀物の輸出再開をめぐる合意を、ロシアが履行する必要がある」との考えを伝えたほか、ロシアが占領したウクライナの領土を併合する動きを見せているとして、「世界は併合を認めない」と忠告したとしている。
一方、ロシアのラブロフ外相は、ロシア産穀物に関連する欧米の制裁解除を求めた。
こうした中、ウクライナ産の穀物を積んだ船が出港を待つ南部オデーサをゼレンスキー大統領が訪れ、「きょうか、あすにも出荷が始まると信じている」と表明した。
ウクライナの当局者は、さらに17隻の輸送船が、穀物などを積み込むために港で待機しているとしている。
ロシアは、輸出再開で合意した翌日にオデーサ港をミサイルで攻撃しており、予断を許さない状況が続いている。
●プーチン氏、ウクライナで「プランA、B、C失敗しDを模索」 英国防相 7/30
英国のウォレス国防相は29日、ウクライナ戦況に触れ、ロシア軍は現在、様々な作戦面で失敗しているとの見方を示した。
英スカイテレビとの会見で表明した。「プーチン(大統領)のプランA、同B、同Cは成功せず、おそらく同Dを模索している」と指摘。
「ロシアに対する抗戦は崇高な理想に基づくものであり、ウクライナを侵攻したファシスト国家との戦いである」とも評した。
ウォレス国防相はウクライナに対戦車兵器、装甲車両や弾薬などを供与する英国の試みを統括。「誰もが侵攻は間違いであり、残忍であると信じている」とも述べた。
●ラトビアへのガス供給停止 「取引条件に違反」 ロシア 7/30
ロシア国営天然ガス独占企業ガスプロムは30日、隣国のラトビアへのガス供給を停止したと発表した。
ラトビアがガスの取引条件に違反したためとしている。
ロシアは具体的な違反内容を明らかにしていないが、ラトビアのガス企業は29日、ロシアからガスを購入する際、ロシア側が求める同国通貨ルーブルではなく、ユーロで支払っていると説明していた。
ロシアはこれまでに、ポーランド、ブルガリア、フィンランド、オランダ、デンマークへのガス供給を停止。これらの国は、プーチン大統領が求めたロシアの銀行での口座開設と、ルーブルによるガス代金の支払いを拒否していた。 
●萩生田経産相、「サハリン2」権益維持の方針を米国に説明… 7/30
萩生田経済産業相は29日、米ワシントンで開かれた日米経済政策協議委員会(経済版2プラス2)の会合後に開いた記者会見で、日本の大手商社が持つロシア極東の資源事業「サハリン2」の権益を維持する方針を、米国側に伝えたことを明らかにした。
萩生田氏によると「撤退すれば第三国に権利を譲ることになって、ロシアが莫大(ばくだい)な利益を得ることになる」と米側に説明した。先進7か国(G7)はロシア産エネルギーからの脱却を進めているが、日本の立場に理解を求めた。
サハリン2には、三井物産が12・5%、三菱商事が10%出資し、電気・ガス大手が液化天然ガス(LNG)を輸入している。日本が輸入するLNGの約9%がサハリン2からで、調達ができなくなった場合、電気やガスの供給に支障が出る恐れがある。
ロシアのプーチン大統領は、サハリン2の事業をロシア政府が新設する会社に移管するよう命じる大統領令に署名した。日本側に揺さぶりをかける狙いがあるとみられ、今後、ロシア側がどのような条件を提示するかが注目されている。
●公共施設でお湯使用禁じる、天然ガス不足で 独ハノーバー市 7/30
ドイツの北部ハノーバー市は30日までに、ウクライナ情勢に絡むロシア産天然ガスの供給減などを踏まえ、政府関連の建物、ジムやプールを含む公共施設でのお湯の使用を禁止し、暖房の削減を狙う措置の導入を発表した。
同市の市長室は報道発表文で、全キロワット時での節約はガス貯蔵タンクでの減量阻止につながると訴えた。
ドイツの都市で公共施設で冷水のみの使用を求め、手洗いなどでの温水利用を禁じた措置を打ち出したのは初めて。
同市はまた、建物の正面部や噴水での照明も消すように要請。同市のオーナイ市長はエネルギー源の消費量を15%まで減らすことを狙っていると指摘した。
天然ガスの確保不足が起こり得る現状の中でドイツの各地方自治体は大きな試練に直面しており、特にハノーバーのような大都市での危機感は強いとも主張した。
天然ガス不足は欧州連合(EU)加盟国内で広範に起きており、各国は冬場に備えて節約や備蓄を強化する措置に走っている。EUのエネルギー政策担当閣僚は最近、今年8月から来年3月にかけ域内のガス消費量を15%までに原則引き下げる政策でも合意していた。
●日米、拡大抑止の信頼確保へ連携 外相会談、中朝ロを念頭に 7/30
林芳正外相は29日(日本時間30日未明)、米ワシントンの国務省でブリンケン米国務長官と会談した。米国が核兵器と通常戦力で日本防衛に関与する「拡大抑止」の信頼性を確保するため、緊密に連携することで一致。核兵器の使用を示唆するロシアのほか、核開発を続ける中国や北朝鮮への対処が念頭にあるとみられる。
両氏は、中国が軍事的圧力を強める台湾情勢を巡り「台湾海峡の平和と安定の重要性」を改めて強調。台湾に関する両国の基本的な立場に変更がないことや、両岸問題の平和的解決を促す方針を確認した。
ロシアが侵攻するウクライナ情勢についても意見交換した。

 

●奪還目指し…ウクライナ軍が発表“ロシア側兵士100人以上を殺害” 7/31
ウクライナ軍は30日、ロシア軍からの奪還を目指す南部ヘルソン州などでの戦闘で、ロシア側の兵士100人以上を殺害したと発表しました。
ロシア軍は30日も各地で攻撃を続けていて、東部ハルキウの市長によりますと、学校にミサイルが着弾し、校舎が破壊されたということです。
一方、ウクライナ軍はロシア軍がほぼ全域を占領しているヘルソン州を含む南部の戦闘でロシア側の兵士100人以上を殺害し、鉄道ルートを遮断したと30日、発表しました。
ヘルソン州奪還に向け、ウクライナ軍の反撃が激しくなっているとみられます。
こうした中、ドネツク州の親ロシア派地域にある刑務所への攻撃ではゼレンスキー大統領が29日、「戦争犯罪であり、ウクライナ人捕虜50人以上が死亡した」とロシア側を非難しました。
ロシア側はウクライナ側からの攻撃だとしていて、双方の主張が対立しています。
●避難命令のドネツク州「冬の暖房なし」 ロシア軍がガス供給網を破壊 7/31
ウクライナのゼレンスキー大統領は7月30日のビデオ演説で、ロシア軍との激しい戦闘が続いている東部ドネツク州の住民に強制的な避難を命じる考えを示した。同州と隣接するルガンスク州の戦闘地域には、数十万人規模の市民が残されているといい、その安否も案じてみせた。
ウクライナ紙「ウクラインスカ・プラウダ」(電子版)によると、ウクライナ政府は29日、ドネツク州の住民避難のための対策本部の設置を決めた。ベレシチューク副首相は、州内の天然ガスのパイプラインが露軍に破壊されたため、「ドネツク州では冬の暖房が全くないだろう」と指摘。冬を迎える前に避難させなければならないと説明している。
ロシア攻勢、州内60%を制圧か
米シンクタンク「戦争研究所」は30日、露軍がドネツク州のバフムトやドネツク市で攻勢を強めているとの見方を示した。これまでロシア側は州内の約60%を制圧し、9月に自国への編入の是非を問う住民投票を準備しているとされる。同研究所は「住民投票の前に、露軍がドネツク州で、できる限り領土を確保したいという意図だろう」と分析した。
またドネツク州では29日、親露派武装勢力支配地域にある捕虜施設が攻撃されて、捕らわれていたウクライナ兵50人以上が死亡する案件も起きていた。ブリンケン米国務長官は同日、ウクライナのクレバ外相と電話協議を実施。施設への攻撃について「ロシア軍による残虐行為」と非難し、ロシアの責任を追及すると立場を伝えた。国務省のプライス報道官が30日明らかにした。
捕虜施設への攻撃を巡り、ロシア側は、ウクライナ軍が米国から供与された高機動ロケット砲システム「ハイマース」で攻撃してきたと主張。これに対して、ウクライナ側はロシアによる「戦争犯罪だ」として非難している。
一方、国連などの仲介で合意したウクライナ産穀物の海上輸送は、8月1日に再開する可能性が出ている。ロイター通信によると、出航予定の輸送船の船長は「31日の昼までには積み込み作業を終える予定だ」として、その後、トルコに向けて出発する見通しを示した。トルコの大統領報道官は、1日に再開の第1便がウクライナを出発する可能性が高いと述べた。
ロシアのウクライナ侵攻で穀物輸出が滞っている問題を巡っては、両国と仲介に動いていたトルコ、国連の4者が7月22日、穀物の海上輸送の再開に向けた合意文書に署名。しかし、翌23日にロシアがオデッサの港湾施設を攻撃しており、本格的な再開につながるのか懸念する声もある。
●ロシア「クリミアにドローン攻撃」 ウクライナ軍は否定 7/31
ロシア当局は31日、ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島にドローンによる攻撃があり、6人が負傷したと明らかにした。セバストポリにある黒海艦隊の司令施設が狙われたという。
セバストポリのラズボジャエフ市長は通信アプリ「テレグラム」に「ウクライナの国粋主義者たちが今朝、ロシアの『海軍の日』を台無しにしようとした」と書き込んだ。「海軍の日」に絡むセバストポリの行事は中止になり、住民に対し「できる限り」屋内にとどまるよう求めた。
これに対し、ウクライナ軍関係者は31日、関与を否定し「クリミア解放は別の形でもっと効率的に行う」とテレグラムを通じ反論した。
●NPT再検討会議が開幕へ、核軍縮合意は難しい状況…岸田首相が渡米  7/31
核軍縮や核不拡散の進め方を議論する核拡散防止条約(NPT)再検討会議が1日、ニューヨークの国連本部で開幕する。ウクライナに侵略したロシアが核による威嚇を行い、中国が核戦力を増強する中、核軍縮に向けた合意を実現するのは難しい状況だ。
会議は5年に1度、条約や過去の会議の合意内容の履行状況を点検し、今後の方向性を示すために行われる。今回で10回目。2020年に開催予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大で延期されていた。
26日までの会議では、参加国が核軍縮と核不拡散、原子力の平和利用の3テーマに沿って協議を重ね、最終文書の採択を目指す。国連によると、各国の首脳や閣僚らが演説する1〜4日の一般討論演説に、116の国・地域(7月25日時点)の代表が参加する予定だ。岸田首相は31日夜、会議出席のため政府専用機で羽田空港を出発した。日本の首相の出席は初めてとなる。
15年の前回会議では、中東の非核地帯構想を巡って決裂し、最終文書を採択できなかった。今回は、世界の核兵器の大半を保有する米露がウクライナ情勢を巡って対立を深めているほか、非核保有国間でも、日本など米国の「核の傘」を含む核抑止を安全保障の基軸に据える国と、核廃絶を急ぐ国との対立が目立っている。参加国が核軍縮で協調するのは厳しい情勢だ。
核拡散防止条約(NPT) 核戦争が起きる危険を軽減するための取り決めで、冷戦期の1970年に発効。締約国は現在、191か国・地域。核兵器保有国を米露英仏中の5か国に限定し、それ以外への拡散防止や核軍縮交渉を行う義務などを定める。非保有国には原子力の平和利用を認め、核兵器の製造・取得を禁じている。
●ウクライナ政府、東部ドネツク州の住民に退避命令… 7/31
ウクライナ政府は7月30日、ロシア軍との攻防が続く東部ドネツク州のウクライナ政府が管理する地域の住民に退避を命じた。29日には、主要都市クラマトルスク、スラビャンスクの住宅が再びミサイル攻撃を受けた。露軍の攻撃を受ける各地ではこれまでも退避を呼びかけてきたが、ウクライナ政府が一段と対応を強めた。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は30日のビデオ演説で「多くの人が退避すれば、露軍に殺される人が減る」と訴えた。ウクライナ国営通信によると、イリナ・ベレシュチュク副首相も30日、「住民保護のため強制力のある措置だ。拒否するなら自己責任と言わざるを得ない」と説明した。退避の理由には、戦闘でガス供給関連施設が破壊され、厳冬期に暖房が機能しなくなることも挙げている。
ゼレンスキー氏は30日、ドネツク州で親露派武装集団の捕虜収容施設で50人以上が死亡した29日の攻撃についても、改めて露軍の仕業だと非難し、米国などにロシアを「テロ国家」として認めるよう呼びかけた。
一方、インターファクス通信は31日未明、露国防省が国連と赤十字国際委員会に対し、現地調査を受け入れる意思を伝えたと報じた。ロシアは攻撃がウクライナ側によるものだと主張しており、露側へ強まる批判に対抗する狙いとみられる。
●EU、ロシアのウクライナへの侵略に対し「維持と調整」措置を採択 7/31
7月21日、ロシアによるウクライナへの侵略戦争が続いていることを受け、EU理事会は、ロシアに対する既存の経済制裁を強化し、その実施を完璧なものとし、効果を強化するための新たな措置を採択した。
「維持および調整」措置は、ロシアを原産地とし、ロシアからEU域内、またはそれ以降の第三国へ輸出された金の購入、輸入、譲渡を、直接的にも間接的にも禁止する。この禁止は宝飾品も対象となる。
本措置はまた、ロシアの軍事・技術強化または防衛・安全保障分野の発展に寄与しうる規制品目のリストを拡張し、二重用途と先端技術に関する輸出規制を強化する。さらに、制裁の回避を避けるために、既存の港湾アクセス禁止を錠前にまで拡大し、預金受け入れ禁止の範囲を、第三国に設立されロシア国民またはロシアに居住する自然人が過半数を所有する法人、団体または組織からのものに拡大した。禁止されていない国境を越えた取引のための預金の受け入れは、各国の管轄当局による事前認可を受ける必要がある。
世界の食糧およびエネルギー安全保障に対する潜在的な悪影響を回避する観点から、EUは、農産物取引および第三国への石油輸送に関して、特定の国有企業との取引禁止の適用除外を拡大することを決定した。より広範には、世界中で食糧不安につながる可能性のあるあらゆる措置の回避を約束している。ウクライナ情勢を不安定にするロシアの行動を考慮して本日およびそれ以前に採択された措置はいずれも、第三国とロシアの間の小麦や肥料を含む農産物および食品の取引をいかなる形でも対象としていない。同様に、EUの措置は、第三国およびEU域外で活動するその国民がロシアから医薬品や医療品を購入することを妨げるものではない。
経済制裁に加え、理事会は、個人および団体の追加リストアップと報告義務の強化を決定し、制裁対象者の資産凍結を促進するために、資産申告の負担を制裁対象者に負わせる。
●「脱ロシア依存」のカギに?再エネ率90% ドイツ南部の街で見た“地熱” 7/31
こちらはロシアとドイツを結ぶ天然ガスのパイプライン、ノルドストリームです。ロシアは27日から供給量を8割削減すると発表しドイツのショルツ首相は危機感を滲ませています。ロシアから天然ガスを輸入している日本にとっても対岸の火事ではありません。ドイツの「脱ロシア」の動きを追いました。
天然ガスで揺さぶるロシア 対抗のカギは?
ロシア プーチン大統領「(天然ガス供給を)稼働しても突然止めてしまうかもしれない。そうしたら終わりだ」
ロシア産エネルギーを武器にヨーロッパ各国に揺さぶりを掛けるプーチン大統領。ロシアからの天然ガス供給が8割削減され市民生活に影響が出ているドイツ。今、「脱ロシア」の動きが加速しています。その中心が、南部最大の都市ミュンヘン。再エネ率は、何と90%。特に大きな期待が寄せられているのが“地熱”です。
山口豊アナウンサー「新しくこちらには、住宅とか学校を作っているんですが、そのすぐ目の前、こちらにあるのがフライハム地熱プラント。ここで地熱の熱をこの地域一帯に供給している」
近代的なこの建物も“地熱プラント”ドイツでは都市部に作る事で効率良く熱を供給しています。こうした地熱施設は、ミュンヘン周辺だけでも20カ所以上あるといいます。
山口豊アナウンサー「あれが今地下に繋がっている配管ですね」
地熱プラントの内部は、どのようになっているのでしょうか。
山口豊アナウンサー「奥に見えている黒いのがタービンですね。タービンが回って、このシャフトが繋がっています。このシャフトで繋がっている手前の黄色いのがジェネレーター。ここで電気を生んでいるということです」
この発電機でおよそ3万5千人に電気を供給することができるそうです。電気だけではありません。ドイツの地熱プラントは、“熱そのもの”も暖房や給湯用として家庭に供給しています。さらに、この装置は、太陽光や風力で作り過ぎた電気を熱に変えるシステム。発電や熱供給と合わせ、余すところなく地域にエネルギーを供給しています。
グリュンバルト地熱発電所所長「私たちはエネルギーを自分たちの足元、バイエルンの土地から生産します。そして、プーチンのような、ならず者への依存から脱却するのです」
なぜこうした施設を作ったのか。およそ20年前、ミュンヘンの隣町で市長を務めていたクナペクさんが教えてくれました。
ドイツ地熱協会 クナペク名誉会長「プーチンは当時ウクライナから欧州でガスを止めていました。地元住民は、この状況が続けば、いつかはガスがなくなると考えました。ならば住民の意思で自分たちで作ったエネルギーを使った方がいいと考えました」
価格をめぐる対立から、ロシアは2006年、ウクライナへの天然ガス供給を停止。当時もヨーロッパの多くの国が、ロシア産エネルギーに依存していた事もあり影響が広がりました。この対抗策として地元の人たちが選んだのが、“地熱プラントの建設”でした。
ロシアへの対抗策 地熱が秘めた可能性
家庭ではどう使われているのか。クナペクさん宅の地下には…
ドイツ地熱協会 クナペク名誉会長「これが自家用の地熱装置です」
近くの地熱プラントから配管で直接お湯が運ばれています。天然ガスに頼らず、シャワーや床暖房が利用できるのです。
ドイツ地熱協会 クナペク名誉会長「現在、ガスは2倍近く高騰していて非常に高い。(安い)地熱をすぐにでも利用したい人は多いと思います」
地熱というと、暖房のイメージが強いですが…
山口豊アナウンサー「この建物の中は非常に涼しいんですね」
この企業では、地熱を使った冷房を開発したのです。
開発企業の担当者「この技術は元々とても古いものです。手の上に水を乗せ、風を吹き付けると蒸発して冷気が出ます」
原理は“打ち水”と同じ。水が蒸発する時、周りの熱を奪う力「気化熱」を利用して温度を下げています。
開発企業の担当者「ロシアがウクライナに侵攻した2月24日以降、(問い合わせの)電話が鳴り止みません。エネルギー供給でロシアなどのガス・石油に依存しないことを人々は望んでいます」
ドイツでは地熱開発への支援体制も整いつつあります。1つのプロジェクトにつき井戸8本まで掘削費用の40%を助成する制度が新たに始まろうとしています。一方、日本は世界3位の地熱資源があるものの、実際の導入量は10位。億単位で掛かる掘削費用を支援する制度が脆弱で地熱を十分に活用できていません。記録的猛暑による電力需給の逼迫、さらにロシアとの天然ガス開発事業でも権益を失う可能性があり、日本のエネルギー問題は待ったなしです。
ドイツ地熱協会 クナペク名誉会長「日本でも冬は寒いと思いますので熱は必要です。建物や工場などの熱の資源がどこから来ているかよく考えてみて下さい。これらは全て地熱で賄えます。日本はそれができるほどの技術大国です」
●「海軍力で国守る」とプーチン氏 黒海、北方領土周辺に言及 7/31
ロシア軍は31日、北西部サンクトペテルブルクで「ロシア海軍の日」を記念する恒例の海上軍事パレードを行った。視察したプーチン大統領は演説で、海軍力を強化し「国益にとって経済的、戦略的に重要な地域を守る」と表明。ウクライナ侵攻で交戦が続く黒海のほか、日本が引き渡しを求める北方領土の周辺海域についても言及し、国境防衛への決意を示した。
また、ロシアが開発した極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」を「世界に類例のない最新兵器」と評価。数カ月中に実戦配備すると述べた。
サンクトペテルブルクでの海上軍事パレードは2017年から毎年7月に実施されている。
●数カ月中に極超音速兵器納入 北方領土周辺も「防衛海域」―ロシア大統領 7/31
ロシアのプーチン大統領は31日、新型の極超音速ミサイル「ツィルコン」について、今後数カ月中に海軍への納入が始まると表明した。「海軍の日」に合わせて北西部サンクトペテルブルクで実施された大規模な観艦式で明らかにし、ウクライナ侵攻を続ける中、軍事力を誇示した。
また、ロシアの国益があり、防衛すべき海域として、北極海やウクライナ軍との戦闘が続く黒海などとともに「クリール諸島(北方領土と千島列島)の諸海峡」と述べ、実効支配する北方領土周辺を挙げた。
プーチン氏はツィルコンに関し「世界に類似したものがない」と強調し、海軍フリゲート艦に搭載されると説明。同艦の任務海域は「ロシアの安全保障上の利益に基づいて選ばれる」と述べた。
●プーチン大統領 “海上発射型の極超音速ミサイル 近く配備” 7/31
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、東部ドネツク州で攻勢を強め、ウクライナ政府は現地の住民を避難させる考えを示す一方で、南部で反転攻勢に出ています。こうした中、ロシアのプーチン大統領は海軍の記念式典で演説し、海上発射型の極超音速ミサイル「ツィルコン」を近く配備すると明らかにし、アメリカなどをけん制したものとみられます。
ロシア軍は、全域の掌握をねらうウクライナ東部ドネツク州で攻勢を強めていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、30日の分析で、中心都市ドネツク市やその北にあるバフムトの周辺で戦闘が今後激化するという見通しを示しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は30日、ドネツク州に残る住民に避難を命じる考えを示し、ベレシチュク副首相も、冬を迎える前に避難を終える必要があると強調しました。
一方、ウクライナ軍は、南部で反転攻勢に出ていて、29日にはロシア軍兵士100人以上を殺害し、戦車7両を破壊したと主張するなど、反撃をさらに強める構えを示しています。
こうした中、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクでは、海軍の創設を記念する式典が開かれ、海上発射型の巡航ミサイル「カリブル」を搭載した艦艇や潜水艦など合わせて40隻余りの軍艦のほか、42機の航空機、それにおよそ3500人の海兵隊員が参加しました。
式典では、プーチン大統領が演説し「重要なのは海軍力だ。海軍力は、国の主権と自由を侵害するあらゆるものに迅速に対応し、ロシアの国境や、世界の海洋のあらゆる地域で戦略的な任務を確実に遂行することができる」と述べたうえで、海上発射型の極超音速ミサイル「ツィルコン」を数か月以内にフリゲート艦に搭載する方針を明らかにしました。
また、プーチン大統領は「『ツィルコン』を搭載した艦艇の任務領域は、ロシアの安全保障上の利益に基づき決定される」と述べ、ウクライナとともにアメリカなどをけん制したものとみられます。
 
 

 

●穀物輸出再開か…仲介役「第1便出港8月1日午後の可能性」ウクライナ情勢  8/1
ウクライナ産の穀物を積んだ船が8月1日午後にも出港する予定となった。
ロシアはウクライナ南部に激しい攻撃を行っていて、貨物船の安全が確保できるか依然として予断を許さない状況。
輸出再開の仲介役となったトルコの大統領府報道官は、第1便の出港は1日午後になりそうだと表明、トルコのメディアは、貨物船の船団が16隻になる見通しだと報じた。
こうしたなか、ロシアはウクライナ南部ミコライウなどに激しい攻撃を行っている。
ウクライナ政府は、この攻撃で、ウクライナの大手穀物輸出企業の経営者夫妻が死亡したと発表、事故ではなく意図的な殺害だとロシアを非難した。
●プーチン氏演説、クリル諸島など「断固として防衛」…ツィルコン配備  8/1
ロシアのプーチン大統領は7月31日、「海軍の日」に合わせて西部サンクトペテルブルクで実施された水上軍事パレードで演説し、米国のミサイル防衛網の突破が可能とされる極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」の本格配備を数か月以内に開始すると述べ、海軍を強化する立場を表明した。
プーチン氏は、初の実戦配備としてツィルコンを搭載するのは、北極圏の防衛を担う北方艦隊所属のフリゲート艦になると説明した。同艦が任務を行う海域は「ロシアの安全保障に基づいて決定する」と述べた。
演説では、ウクライナ侵略に直接の言及はなかった。ツィルコンは海上発射型で、射程は約1000キロ・メートルで音速の9倍(マッハ9)で飛行する。フィンランドとスウェーデンの加盟を認めた北大西洋条約機構(NATO)をけん制する狙いもありそうだ。
露大統領府によると、パレードには艦艇40隻以上、軍用機42機、兵士約3500人が参加。プーチン氏は演説で「我々の主権と自由を侵害すると決めた全ての者に即座に報復する」と述べた。北極海、黒海、バルト海、オホーツク海やクリル諸島(北方領土と千島列島)の諸海峡などを挙げて「全手段を用い、断固として防衛する」と強調した。
プーチン氏は31日、海洋安全保障政策の指針となる「海洋ドクトリン」を改訂する大統領令に署名した。改訂は2015年以来となり、海洋安保においても米国やNATO拡大を脅威と位置付けた。アジア太平洋地域の複数の国への物資や装備の補給拠点設置、露極東での空母も含む造船分野の強化方針を盛り込んだ。
ロシアが併合したウクライナ南部クリミアのセバストポリの首長は31日、同地にある露軍黒海艦隊の本部の敷地で無人機(ドローン)による攻撃があり、6人が負傷したとSNSに投稿し「ウクライナのナチは我々の『海軍の日』を壊そうと決めた」と主張した。一方、ウクライナ海軍はSNSで露側の主張を否定した。
●ロシアが火をつけた「石油地政学」戦争、米国の覇権に亀裂を入れるか 8/1
石油政治学あるいは石油地政学という言葉がある。英語では「ペトロ・ポリティクス」という。石油と政治学を合わせた言葉だ。石油に代表されるエネルギー、より広くとらえて資源に関する国家間の地政学だ。
1973年のイスラエルとアラブの第4次中東戦争で、アラブの産油国がイスラエルを支援する西側諸国などに対する石油の禁輸を発動し、石油の武器化を行ったのが代表的な例だ。米国がドルのみで決済される石油決済システムでドル覇権を守っていることも、石油地政学の核となっている。
中国やインドなどがロシア産を大量輸入
ウクライナ戦争の勃発以降、石油地政学が激変している。西側がロシアに厳しい経済制裁を加えたことに対し、ロシアは西側にガスの武器化で対抗している。戦争の勝敗は、長期的にはウクライナの戦場ではなくエネルギーを核とする経済の戦場で決まる公算が大きい。
このような石油地政学の展開に従って、米国の覇権が主導する「規則にもとづいた国際秩序」が保たれるのか、それとも中ロ主導の新たなブロックができる多極化秩序へと向かうのかが決まることになった。経済力で優位に立つ西欧がロシアに経済制裁を加えている一方で、ロシアが欧州に対してガスの武器化で逆攻勢をかけているためだ。むしろロシアと中国は、これを機にエネルギーをテコとして米国の覇権秩序に亀裂を入れ、自分たちのブロックを作ろうとしている。
米国のジョー・バイデン大統領がサウジアラビアのジッダを訪問し、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子に会った15日、BRICS(ブリックス)国際フォーラムのプルニマ・アナンド議長はサウジ、エジプト、トルコが「まもなく」BRICSに加入できるだろうと報告した。バイデン大統領は、今回の訪問の最大の目的であるサウジの石油増産についての確実な返答は得られなかったが、むしろサウジは中ロに片足をかけようとしているということだ。
BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカが参加する新興国の集まりで、今年6月に14回目の首脳会議をオンラインで開催した。BRICS諸国はウクライナ戦争勃発以降、西欧の対ロシア制裁に参加しておらず、むしろ石油などのエネルギーや肥料などのロシアからの輸入を大幅に増やしている。
中ロはウクライナ戦争勃発後、米国中心の国際秩序を主導する西側主要国の集まりである「G7」に対抗する集まりへとBRICSを発展させる意向を示している。今回の首脳会議ではインドネシア、タイ、アラブ首長国連邦など13カ国が中国の招待で加入を申請した。中国の習近平国家主席はBRICS首脳会議に先立つ6月22日に行われたフォーラムで、米国主導の制裁は「高い塀のある小さな庭」を作るだけだと批判している。
ウクライナ戦争勃発後、BRICS諸国と加盟対象国との貿易量は急増。西欧がロシアの輸出に制裁を加えて以降、BRICS諸国がエネルギーなどの資源をロシアから安価に輸入しているためだ。インドは今年6月までにロシア産原油を昨年の総輸入量の5倍以上輸入している。中国はドイツを抜いてロシア産原油の最大輸入国になった。サウジも今年第2四半期に入ってからロシア産精製油の輸入を2倍に増やしている。農産品輸出国であるブラジルはロシア産の石油と肥料への依存度を高めているほか、軽油もできる限り購入すると表明している。
BRICS加盟国や加盟対象国のブラジル、インドネシアなどの「ミドルパワー」諸国は、燃料、食糧、肥料という「3F(fuel、food、fertilizer)」原材料で交易ブロックを形成しつつある。これらBRICS内外の原材料交易は、これらの国々の通貨バスケットと決済システムの構築環境を造成しつつあるため、米国の覇権秩序の核心であるドル体制に亀裂を入れる可能性を秘めている。
ロシアとインドをつなぐ新たな交易圏と交易路の開拓も始まっている。過去20年間、夢想に過ぎなかったいわゆる「国際南北輸送回廊(INSTC)」も現実のものとなりつつある。INSTCはロシアのサンクトペテルブルクからユーラシア中央とイランを経てインドへとつながる7200キロメートルの鉄道・高速道路・海路の交易網だ。ロシアが西側の制裁で西への交易が封鎖されている中、インドやイランなどとの交易が増えたことで、INSTCプロジェクトが試験稼動していると「アルジャジーラ」は27日に報じている。
イランは6月、ロシアから出発しホルムズ海峡にある自国の港バンダルアバスを経てインドへと向かう試験的な初の物流輸送プロジェクトを発表した。合板を積んだ2隻のコンテナ貨物船を皮切りに、7月までに少なくとも39隻の貨物船がロシアからアラビア海に面するインドのナバシェバ港に向かう。インドの国家安保委員会事務局の分析官だったバイシャリ・バース氏はアルジャジーラに対し、これは始まりに過ぎないとして、このようなすう勢なら、2030年ごろにはINSTCは毎年2500万トンの貨物輸送能力を持つとの予測を示した。これはユーラシア、南アジア、湾岸地域の間の全貨物量の75%に当たる。
INSTCが開発されて活性化されれば、ロシアとインドとの間の輸送時間はこれまでの40〜60日から25〜30日へと短縮される。貨物量が増えれば、ロシアからカスピ海周辺、イランを通る陸路や鉄路なども自然と開発され、活性化される。
大陸勢力の行方は
これは単なる交易の拡大と迅速化にとどまらず、近代以降の地政学の最大のテーマであるユーラシア心臓部と三日月地帯の結合という意味を持つ。ハルフォード・マッキンダー以降、ニコラス・スパイクマン、ズビグネフ・ブレジンスキーに至るまで、西側の地政学者たちは、英国から米国へとつながる西側の海洋勢力の覇権を維持するためには、ユーラシアの内陸であるハートランドに存在する大陸勢力がユーラシア周辺の沿岸地域の三日月地帯に進出することを防がなければならないと一貫して指摘してきた。すなわち、中国とロシアがイランやインドなどに進出して結びつくことを防がなければならないということだ。
ウクライナ戦争は今、中国とロシアがユーラシア沿岸地域に進出して新たなブロックを作り出すか、それとも西側がロシアを枯死させてその芽を摘み取るか、という長期戦へと向かっている。西側とロシアとのエネルギー戦争と石油地政学戦争はその過程である。
●ウクライナ大統領、穀物生産半減の恐れ ロシア軍砲撃で輸出会社オーナー死亡 8/1
ウクライナのゼレンスキー大統領は31日、同国の今年の穀物生産量が、ロシアによる軍事侵攻の影響で「半減する恐れがある」とツイッターで表明した。
近く再開される見通しの穀物輸出については「世界的な食料危機を防ぐことが目的だ」として、推進する姿勢を強調した。
ウクライナ南部ミコライウでは30日から31日にかけ、ロシア軍による激しい砲撃があり、ウクライナの大手穀物生産・輸出会社のオーナー夫妻が死亡した。現地メディアによれば、砲弾が直撃した夫妻の自宅は大破し、ポドリャク大統領府顧問は「事故ではなく(ロシア側による)意図的な殺害だ」と非難した。
●米欧を手玉<鴻Vアにも接近のサウジアラビア皇太子 8/1
サウジアラビアのムハンマド皇太子がこのほど、反体制派ジャーナリスト殺害事件後、初めて欧州を訪問、国際的な孤立からの完全復権を果たした。ウクライナ戦争によるエネルギー危機でサウジの重要性が劇的に上がり、米欧首脳は批判してきた人権問題そっちのけでサウジ詣=B皇太子はロシアとも太いパイプを維持しており、したたか手腕を印象付けている。
国際的な孤立から一転
父親のサルマン国王を後ろ盾にサウジを牛耳るムハンマド皇太子は2年前、国王の実弟で叔父のアハメド・アブドルアジズ王子やムハンマド・ナエフ前皇太子らを拘束、王位継承の可能性のあるライバルたちを表舞台から粛清し、権力基盤を固めた。
一方で皇太子は厳格なイスラム体制を見直す国内改革を進め、女性への運転免許交付など権利拡大にも取り組んだ。特に皇太子が力を注いでいるのが国家改造だ。
石油に依存する「レンティア国家」からの脱却を目指した「ビジョン2030」を推進、未来都市「ネオム」の建設に着手した。30歳以下の若者が7割を占める若年社会の雇用の創出も進めた。
「だが順風満帆で権力者の道を突き進んでいた皇太子には独裁者特有の奢りが生んだ2つの問題があった。1つはイエメン内戦への軍事介入であり、もう1つは在米の反体制派ジャーナリスト、カショギ氏の殺害だ」(ベイルートの消息筋)。カショギ氏殺害は反対派に対する残虐な弾圧が露呈したものだった。
米情報機関が指摘したように「殺害は皇太子の命令」だった公算が強く、世界中から皇太子への非難が集中、皇太子は国際的に孤立した。しかし、ウクライナ戦争によるエネルギー危機がサウジと皇太子の立場を激変させた。石油生産量世界第2位のサウジの増産なしに危機の深刻化を回避できないからだ。
「リヤドの気候のように暖かい」ロシアとの関係
ウクライナ戦争直後の3月に英国のジョンソン首相、7月にバイデン米大統領がリヤドを訪問し、国王やムハンマド皇太子と会談。世界経済を悪化させないためサウジの増産支援を要請した。フランスのマクロン大統領も石油価格が高騰の兆しを見せていた昨年12月にサウジを訪問、同様の要請を行った。
しかし、皇太子は明確な増産の確約はせず、バイデン大統領は「手ぶら」(ロイター通信)で帰国せざるを得なかった。「皇太子は結局のところ、のらりくらりとした対応に終始した。カショギ事件で非難されたことへの報復にも見えるが、欧米を手玉≠ノ取り楽しんでいるのではないか」(同)。
加えて欧米が皇太子に苦慮しているのがロシア対応だ。ウクライナ戦争で欧米の対ロシア制裁に参加しないのは無論のこと、プーチン政権と太いパイプを維持している点に苦り切っている。
6月にはサウジのアブドルアジズ・エネルギー相がロシアを訪問してノバク副首相と会談。「(両国関係は)リヤドの気候のように暖かい」と友好ぶりを誇示した。
皇太子は今回のギリシャ、フランス訪問に先立って、トルコなど中東3カ国を歴訪。マクロン大統領とは復権をアピールするかのように長い握手をして見せたが、フランスの人権派議員からはエリゼ宮の晩餐会のメニューには「カショギ氏のばらばら遺体も載せられているのではないか」と辛らつな批判も出た。 
トランプ復活も視野
欧米とロシアの間を巧みに泳いでいるかのような皇太子は約2年後の米大統領選も見据えているようだ。それはトランプ前大統領の復活である。バイデン大統領はホワイトハウス入りする前、皇太子を「世界ののけ者にしてやる」とまで断罪し、大統領就任後も皇太子を冷たくあしらってきた。
リヤドでの会談でも、皇太子が嫌がる人権問題を議題に取り上げており、「2人の関係は全く良くなっていない」(ベイルートの消息筋)。バイデン氏は人権などの理念を重視する政治家であり、皇太子は反体制派弾圧で知られる強権的な人物。2人の相性が合わないのは当然だろう。
だが、イランの軍事的な脅威にさらされるサウジにとって米国の軍事的な庇護は不可欠であり、対米関係は最も重要なものであることに変わりはない。「このためムハンマド皇太子はバイデン以後を見据えて動き出している。その具体的な動きがサウジ政府系ファンドの主催するゴルフツアー『LIV招待』にトランプ前大統領を巻き込むことだった」(同)。
トランプ氏は選挙期間中こそ、米国同時テロ9・11の絡みでサウジを批判していたが、大統領に就任後は急速にサウジとの関係を深めた。その役割を担ったのが大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー氏だった。
同氏は皇太子と肝胆相照らす仲になり、サウジの砂漠のテントで一夜を過ごすなど親交を重ねた。トランプ氏は皇太子がカショギ事件で責任を問われた際も皇太子を擁護し、批判を避けた。
トランプ氏が再選に失敗し、ホワイトハウスを去った後もサウジとの関係は続いた。米紙によると、クシュナー氏は自らの新規企業に対し、サウジ側に20億ドルを投資させ、トランプ氏の側近だったムニューシン前財務長官も10億ドルの資金をサウジの政府系ファンドから引き出したという。
トランプ氏も「LIV招待」に賛同
皇太子がトランプ氏周辺とのつながりを切らさないのは24年の次期大統領選で同氏が返り咲くことに期待しているからだろう。「金にあかしたツアー」と揶揄される「LIV招待」が皇太子のイメージアップを狙うスポーツイベントの一環であり、皇太子のツアーへの後押しがあるのは間違いない。
今週末の同ツアーはトランプ氏所有の「トランプ・ナショナル・ゴルフクラブ・ベドミンスター」(米ニュージャージー州)で開催されおり、同氏もプロアマ戦に出場、ツアーへの支持を表明した。「LIV招待」は既存の米ツアーから強く批判されているが、トランプ氏の支持を得たことはツアー継続の大きな力となる。次期大統領選の出馬に意欲を示している同氏を巻き込んだことに、皇太子の意向が反映されているのは確実だ。
10月の「LIV招待」最終戦もフロリダ州のトランプ氏所有のゴルフ場で開催される予定で、2人の関係は今後、新ツアーの拡大とともに深まっていくと見られている。バイデン氏に見切りをつけたとも思われる皇太子の思惑が奏功するのかどうか、大統領選のもう一つの焦点だ。
●1日からNPT再検討会議 核軍縮に向け一致できるか焦点 8/1
世界の核軍縮の方向性を議論するNPT=核拡散防止条約の再検討会議が、ニューヨークの国連本部で日本時間の1日夜から始まります。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で核の脅威が高まる中、核保有国を含む国際社会が核軍縮に向けて一致できるかどうかが焦点です。
NPTは、国連加盟国のほとんどにあたる191の国と地域が参加している国際条約で、核兵器を保有するアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国に核軍縮に向けた交渉を義務づける一方、そのほかの国には核兵器の開発や保有を禁止しています。再検討会議は条約の履行状況を確認し、核軍縮の方向性について合意を目指すもので、今回は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で7年ぶりの開催となり、国連本部で日本時間の1日夜開幕し、1日から26日までの4週間にわたって協議が行われます。世界の核軍縮をめぐっては、去年、核兵器の非保有国が中心となってNPTとは別に核兵器の開発や保有を禁止する核兵器禁止条約を発効させ、核保有国や核の傘のもとにある各国との間で足並みが乱れています。また、ことし2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻のあと、核兵器が使用されることへの懸念が高まり、ヨーロッパなどで軍備を増強する動きが広がっているほか、東アジアでは中国や北朝鮮の核戦力の増強への警戒も高まっています。核をめぐる国際社会の対立や分断が深まる中、再検討会議では各国が合意文書をまとめることができるかが、焦点となっています。また今回の会議には岸田総理大臣も出席して核軍縮の必要性を改めて訴えることにしていて、唯一の戦争被爆国、日本の対応も問われることになります。
NPTとは
1970年に発効したNPT=核拡散防止条約は、国連加盟国のほとんどにあたる191の国と地域が参加し、世界の核軍縮に向けた基本的な枠組みとなっています。条約では、▽核兵器を保有するアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国に核軍縮に向けた交渉を義務づける一方で、▽そのほかの国には、核兵器の開発や保有を禁止しています。また、各国に原子力発電など原子力の平和利用の権利を認めるとともに、兵器の開発に転用されないようIAEA=国際原子力機関の査察を受けることも義務づけています。5年に1度条約の再検討会議が開かれ、各国が条約の履行状況を確認し、核軍縮の方向性について全会一致で合意を目指すことになっています。一方で国連加盟国のうち、インドとパキスタン、イスラエルは条約に参加しておらず、核・ミサイル開発を推し進める北朝鮮は2003年に一方的に脱退を宣言しています。
再検討会議これまでの経緯
NPT=核拡散防止条約に参加する国と地域は、5年に1度、再検討会議を開き、各国が条約の履行状況を確認し、今後の核軍縮の方向性について、全会一致での合意を目指してきました。前々回の2010年には、核保有国が核兵器の完全な廃絶を目指して後戻りできないかたちで取り組むことを確認するなどとした、「最終文書」を採択しました。一方、前回7年前の2015年には、核軍縮の遅れにいらだつ核兵器の非保有国が核兵器を法的に禁止すべきだと訴えて、核保有国と鋭く対立。さらに中東の非核化構想をめぐる議論でも交渉が紛糾し、結局「最終文書」は採択できませんでした。今回の会議は当初2020年に予定されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて2年以上延期されての開催です。この間、去年には核兵器の非保有国が中心となり核兵器禁止条約を発効させた一方、ことし前半にはロシアによるウクライナへの軍事侵攻で核兵器が実際に使用される脅威が高まっていて、NPTのあり方が厳しく問われる中での再検討会議となります。
世界の核弾頭は再び増加か
世界の軍事情勢を分析するスウェーデンのストックホルム国際平和研究所は、ことし6月に発表した年次報告書の中で、減少傾向にあった世界の核弾頭の総数が再び増加に転じる可能性があるという見方を示しています。報告書によりますと、各国が保有する核弾頭の総数は2022年1月時点で1万2705発と推計され、去年から375発減少していました。世界全体の核弾頭のおよそ9割を保有するロシアとアメリカが、老朽化した弾頭の解体を進めたことで弾頭が減少したと分析していて、最も多いロシアが5977発、アメリカが5428発となっていました。一方で両国は、核弾頭やミサイルの運搬システムなどを改良する核兵器の「近代化」などの計画を進めているほか、ほかの核兵器の保有国も安全保障政策の中で核戦力を明確に位置づけようとしていて、減少傾向が続いてきた世界の核弾頭数は今後10年間で増加に転じる可能性があるとしています。報告書はさらに、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、核兵器の使用の可能性に言及していることにも触れ「核兵器が使われるリスクは冷戦終結以降で最も高まっている」と警鐘を鳴らしています。
専門家「危機の中の交渉」
8月1日から開かれるNPT=核拡散防止条約の再検討会議を前に、会議に日本政府代表団のアドバイザーとして参加する一橋大学の秋山信将教授は、NHKのインタビューに応じました。秋山教授はロシアのウクライナへの軍事侵攻によって、核兵器が使用される脅威が高まっている現状について、「ロシアが侵略の中で核兵器による脅しを使ってきている。それによってアメリカやNATO諸国が抑止されているし、ロシア自身もアメリカの核によって抑止されている。核兵器の役割が改めて注目されてしまっている」として、核軍縮に逆行する動きが出ていることに危機感を示しました。さらに、「ウクライナが核兵器を持っていなかったからロシアに侵略されたんだという政治的な言説がある程度有力なものとして国際社会の中で受けとめられている状況を懸念しないといけない」と述べイランや北朝鮮が核開発をさらに推し進め、核の不拡散の観点からも好ましくない状況になっていく恐れがあると指摘しました。そのうえで今回の再検討会議について、「核への考え方において分断が深まっている状況は、NPTの枠組みの中で締約国が協力して、方向性を打ち出す際に大きな障害となる可能性がある」と述べ、交渉が紛糾するのは避けられないという見通しを示しました。一方で「核兵器を持っている国々の間の戦略的な競争や、深刻化する対立の中で、核戦争にあるいは核兵器の使用へと、対立がエスカレートしないように、核保有国が具体的にどのような措置をとるのか注目したい」と述べ、差し迫った危機への対応が議論されることに期待を示しました。また、岸田総理大臣が、日本の総理大臣として初めて出席することについて「会議の場でNPTの重要性などを訴えるだけでなく、日本が核保有国と非保有国の橋渡しの役割について、具体的にどう取り組んでいくかを示す必要がある」と述べ、唯一の戦争被爆国としてより具体的な貢献が問われるという認識を示しました。さらに会期前半に広島と長崎の原爆の日を迎えることについて、「参加している国々の外交官たちにとっては、まさに自分たちがなぜここに集まっているのか。何のために外交をやっているのかということを強く意識させるきっかけになるのではないか」と述べ、その意義を強調しました。
●北方領土「あらゆる手段で守る」 プーチン大統領が演説 戦略的に重要と強調  8/1
ロシアのプーチン大統領は演説を行い、北方領土の周辺海域を戦略的に重要だとしたうえで、「あらゆる手段を使って確実に守る」と述べた。
プーチン大統領は7月31日、北西部サンクトペテルブルクで、「ロシア海軍の日」を記念する軍事パレードを視察した。
ロシア・プーチン大統領「われわれはロシアの国益上の領域を明確に示した。バルト海やクリル(北方領土など)周辺海域で、あらゆる手段を使って確実に守る」
パレードに先立ち、プーチン大統領は、海の安全保障の指針を決める文書「海洋ドクトリン」の改訂版を承認する大統領令に署名し、ウクライナ南部の黒海のほか、北方領土を含む島々の周辺海域が戦略的に重要だと強調した。
●ウクライナ南部ミコライウに激しい砲撃 プーチン氏は「海軍の日」式典で演説 8/1
ウクライナ南部ミコライウで7月31日早朝、ロシア軍による大規模な砲撃があり、少なくとも1人が死亡した。ロシアのプーチン大統領は同日、「海軍の日」の式典で演説し、「あらゆる手段で」国土を防衛するとの決意を改めて表明した。
ミコライウのセンケビッチ市長は声明で、建物の窓やバルコニーがクラスター爆弾で破壊されていると報告。「これまでで最も激しい攻撃だろう」と述べた。
現地のCNN取材班も攻撃による爆発音や火災を伝えた。CNNがインタビューした住民らも、この日の砲撃はロシアの侵攻が始まってから最大の規模だと話した。
一方、プーチン氏は同日、ロシア北西部サンクトペテルブルクで演説した。ウクライナ侵攻には言及しなかったが、ロシアの現状には「断固とした行動」が求められていると述べ、防衛の要は海軍の力だと強調。国家の主権と自由を侵害しようとする者に、海軍は「稲妻の速さ」で対抗することができると語った。
また、5月に実験成功を発表した極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」について、今後数カ月のうちに納入が始まると述べた。
ウクライナ東部ドネツク州では複数の村落がロシア軍のロケット砲による攻撃を受け、州当局によると少なくとも3人が死亡、8人が負傷した。民家11棟と高層ビル、警察署、市場、食堂が損壊したという。
同州オレニウカでは29日、数カ月前に南東部マリウポリの製鉄所で投降したウクライナ兵らを収容する刑務所が攻撃を受け、少なくとも40人が死亡した。
ウクライナのゼレンスキー大統領はこの攻撃を、ロシア側による「意図的な戦争犯罪」と非難。英国のシモンズ駐ウクライナ大使は30日のツイートで「最悪の人権侵害」と断じ、調査を求めた。
●ロシア大統領「米国が主な脅威」、新たな海洋戦略に署名 8/1
ロシアのプーチン大統領は31日、米国を主要なライバルと位置付け、北極圏や黒海など重要な領域における軍事的な野心を示した新たな海洋戦略に関する大統領令に署名した。
「海軍の日」を記念する式典で演説し、ロシアが開発した極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」を数カ月中に北方艦隊のフリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」に配備すると表明。ロシアにはいかなる侵略者も打ち負かす軍事力があると誇示した。
新たな海洋戦略では「世界的な海洋支配を目指す米国の戦略的政策」と、北大西洋条約機構(NATO)による国境付近での動きがロシアに対する主な脅威だと指摘。
ロシアは外交・経済的手段が尽きた場合、世界の海洋状況に応じて適切に軍事力を行使することが可能とした。
また、インドとの戦略・軍事的協力関係、およびイラン、イラク、サウジアラビアなどとの全般的な協力関係の構築を優先事項に掲げた。
●ロシア・ガスプロム、ラトビアへのガス供給停止 8/1
ロシアの国営ガスプロムは31日、ラトビアがガス供給に関する条件に違反したとして、同国への供給を停止したと発表した。
ロシアは既にポーランド、ブルガリア、フィンランド、オランダ、デンマークへのガス供給を停止している。ロシアの銀行にルーブル建ての口座を開設してガス代金を支払うよう求めたプーチン大統領の要求に応じていないため。
ガスプロムは、ガス供給のどの条件にラトビアが違反したか明らかにしていない。
ラトビア経済省のエネルギー政策担当高官は、ロシアのガス輸入を2023年1月1日から禁止することを既に決定しているとし「こうした動きによる大きな影響はないとみている」と述べた。 
●ロシア軍がミサイル40発、ゼレンスキー氏「戦争開始以降最も残忍な砲撃」… 8/1
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7月31日のビデオ演説で、ロシア軍の同日のウクライナ南部へのミサイル攻撃について、「戦争開始以降の全期間で最も残忍な砲撃の一つだ」と述べ、侵略を続けるロシアを強く批判した。
ウクライナ国営通信などによると、警察当局は1日、ミコライウ州に約40発のミサイル攻撃があり、集合住宅や宿泊施設など70か所以上が被害を受けたと明らかにした。国内最大手の穀物商(74)と妻が死亡した。ミコライウ州には穀物輸出第2の主要港があるが、ウクライナとロシアが7月に国連やトルコと交わした合意で輸出再開の対象にはなっていない。
一方、対象港がある南部オデーサ州では、採石場にミサイル2発が着弾した。輸出再開の準備が大詰めを迎えていたタイミングで、ロシアに挑発の意図があったとみられている。
インターファクス・ウクライナ通信などによると、死亡した穀物商は、小麦やトウモロコシの生産と輸出を専門とし、輸送船や造船所も所有する国内最大級の穀物企業を経営していた。海上輸出再開の交渉にも関わっていたという。ウクライナ大統領府顧問は、砲弾は寝室に正確に命中しており、意図的に狙われたのは「疑いの余地がない」と訴えた。ゼレンスキー氏も「世界の食料安全保障を保証してきたのは、まさにこのような人々、このような企業だ」と述べ、反撃すると強調した。
ウクライナ国営通信によると、露軍の支配が続くウクライナ南部ヘルソンでは、国内有数の造船所への立ち入りが禁じられた。造船所幹部が30日、「経営陣や従業員の出入りを露軍が許可しなくなった」と明らかにした。輸出再開で需要が見込まれる造船所の操業が今後、難しくなる恐れがある。
●ウクライナで戦うベラルーシ人部隊の苦悩 8/1
ベラルーシの反体制派の人々が部隊を編成し、ウクライナでロシア軍を相手に戦っている。ルカシェンコ大統領の弾圧を逃れポーランドなどで暮らしていた、軍隊経験のない普通の人々だ。ベラルーシ人がウクライナで信頼を得るのは難しい。ベラルーシ国民は微妙な立場にある。
正面にはロシア軍。背後に控えるのもロシア軍。まるで戦争に「おまえはここで何をしているのか?」と問いかけられている気がした──そう話してくれたのは、ベラルーシ人兵士のアレクサンドル・ナウコビッチ氏(33歳)だ。同氏はベラルーシ人反体制派の寄せ集め部隊に参加しウクライナのために戦っている。
ナウコビッチ氏に話を聞いた頃まで、部隊は幸運に恵まれていた。最初の4カ月間、戦闘の犠牲者は数人だった。ところが最近、悪い知らせが聞こえてくる。部隊のカリスマ指導者だったイバン・マルチュク氏が、ドンバス地方のリシチャンシク近郊でロシア軍戦車の侵攻を阻止する作戦の後、亡くなった。2人がロシア軍に捕らえられ、3人が戦闘中に行方不明になったという。
逃亡先のポーランドから
今年の初め、子ども相手のエンターテイナーだったナウコビッチ氏はポーランドで暮らしていた。ベラルーシの多くの反体制派と同じく、2020年の選挙で独裁的なアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が再選を果たした後、ポーランドに逃げてきたのだ。同大統領は、不正な手段で選挙に勝利し、それに抗議した人々をまとめて拘束した上で拷問を加え、反対運動を押しつぶした。
ポーランドでの新しい暮らしは、やや退屈であったものの快適で安全だった。しかし、戦争が始まり、すべてが変わった。恥じ入る気持ちと罪悪感が身体を駆け巡った。ロシア軍の戦車や飛行機、ミサイルが、祖国ベラルーシを拠点にウクライナを襲い、人々の命を奪っている。それはひとえに、自分のような人間がルカシェンコ大統領を引きずり下ろせなかったからだ──。
ナウコビッチ氏は軍隊経験を持たない。だが彼の本能は、行くべきだと告げていた。そこで荷物をリュックに詰め、国境に向かった。
しかし、ベラルーシ人のこの気持ちは、ウクライナの国境警備の係官には理解されなかった。「入国目的は」と、係官は皮肉な笑みを隠そうともせずに尋ねた。「ウクライナのために戦おうと思って来ました」と答えると、厳しい言葉が返された。「ベラルーシ人は入れません。侵略の共犯者ですから」。いくら自分は違うと誓っても、懇願しても、理屈を並べても、係官の判断は変わらなかった。
ナウコビッチ氏はうちひしがれ、この体験をインスタグラムに書き込んだ。すると返信で、自分のような者のための部隊が編成されていることを知った。同氏はこの部隊に志願し、3月6日、同じ思いのベラルーシ人で満員のバスに乗り、意気揚々と国境を越えてウクライナ入りした。
ウクライナで信頼を得るため
首都キーウ(キエフ)のカフェでナウコビッチ氏に話を聞いたのは6月、厳しい結果に終わるリシチャンシクでの作戦に部隊が向かう直前だった。同氏は髪型を、ウクライナ伝統のコサック風に刈り上げていた。
最初の頃、部隊は混乱し、喜劇のようだったとナウコビッチ氏は振り返った。軍隊経験のある者もいたが、大半は未経験者だった。ジャーナリスト、IT(情報技術)専門家、溶接工、トラック運転手など、仕事も様々だ。・・・
●ゼレンスキー妻が演説「戦争のためではなく家を守るための武器を」 8/1
ウクライナのゼレンスキー大統領の妻オレナが7月20日、ワシントンを訪れ米議会で演説した。ウクライナの惨状を語り、「戦争のためではなく家を守るための武器」を供与してほしいと訴えた。
その前日には、国外に出られない夫の代わりに積極的なファーストレディー外交を展開するオレナを、バイデン米大統領が妻ジルとホワイトハウスで出迎えた。
●戦争が始まって以来、ウクライナで最初の穀物船がオデーサを離れる 8/1
ウクライナとトルコの当局者は、安全な通過協定の下、月曜日にウクライナのオデッサ港を出港し、穀物を積んだ船が、5か月前に黒海を通過するのを阻止したロシアの侵略以来の最初の出発であると述べた。 。
ウクライナの外相は、特に貨物の混乱による食糧不足と飢餓の脅威にさらされている国々にとって、これを「世界の救済の日」と呼んだ。
先月、トルコと国連がロシアとウクライナの間で穀物と肥料の輸出協定を仲介した後、帆は可能になりました。
「ロシアの侵略以来最初の穀物船が港を出港した」とインフラ大臣のオレクサンドル・コブラコフは述べた。 「今日、ウクライナはそのパートナーとともに、世界の飢餓を防ぐために新たな一歩を踏み出している。」
トルコ国防相は先に、シエラレオネ籍船のラッツォーニがレバノンに向かうと述べた。
2月24日のロシアのウクライナ侵攻は世界的な食糧とエネルギーの危機を引き起こし、国連は今年、複数の飢餓のリスクについて警告しました。
ロシアとウクライナは世界の小麦輸出のほぼ3分の1を占めています。 しかし、ロシアに対する西側の制裁とウクライナの東海岸での戦闘は、穀物船が安全に港を離れることを妨げてきました。
この取引は、オデッサ、チョルノモルスク、ビブドニー港との間の穀物輸送の安全な通過を可能にすることを目的としています。
ドミトロ・クレーバ外相はツイッターで、「ロシアの封鎖が数ヶ月続いた後、最初のウクライナの丸薬がオデーサを離れるとき、特に中東、アジア、アフリカの友人たちにとって、世界救済の日」と述べた。
モスクワは食糧危機の責任を否定し、輸出を遅らせたことに対する西側の制裁を非難し、ウクライナはその港を採掘したことを非難した。
トルコ国防相のフルシ・アカルは、ラゾニが火曜日の午後にイスタンブール沖のボスポラス海峡に停泊し、ロシア、ウクライナ、国連、トルコの代表者の合同チームによって検査されると述べた。
「問題がない限り、その後も続くだろう」とアカール氏は語った。
ウクライナの大統領当局者は、黒海の港に停泊している17隻の船が、約60万トンの貨物(主に穀物)を積んでいると述べた。
クブラコフ氏は、さらに多くの船が続くだろうと述べた。 彼は、港を開くことはウクライナ経済に少なくとも10億ドルの外貨収入を提供し、農業部門が来年の播種期を計画することを可能にするだろうと言った。
キーウの米国大使館は、「世界は、数百万トンの封鎖されたウクライナの穀物を世界中の人々に供給するために、この協定の継続的な実施を監視するだろう」と述べ、輸送の再開を歓迎した。
南と東の貝殻
穀物輸送の飛躍的進歩にもかかわらず、陸上での戦争は他の場所にあります。
この地域の知事、パブロ・キリレンコは、過去24時間に、ドネツク地域でのロシアの砲撃で3人の民間人(バクムットで2人、近くのソレダールで1人)が殺害されたと述べた。
工業都市であり重要な交通ハブであるバクムットは、クレムリン軍がドネツク全体を占領しようとしているため、この1週間でロシアの砲撃を受けました。
それは、ロシアのほぼすべてが占めているルハンシク地方のリシチャンシクとシエビエロドネツクの都市に接続されています。 ルハンシク州知事SerhiyGaidaiは、セベロドネツクで戦っているウクライナ人に武器を届け、その地域から人々を避難させるために、このルートが重要であると述べた。
この地域の知事、オレ・セネグボフ氏は、ロシアのストライキは、ウクライナで2番目に大きな都市であり、ロシアとの国境近くにあるハルキウも月曜日に襲ったと述べた。 彼は2人の民間人が負傷したと述べた。
戦争の初期に首都キーウを迅速に占領できなかった後、ロシアはその軍隊をウクライナ東部と南部に移し、ドネツクとルハンシクで構成されるドンバス地域を占領することを目指しました。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアが一部の軍隊をドンバスからヘルソン南部とザポリージャ地域に移動させていると述べた。
ロシアは2014年にクリミアを併合し、キーウはモスクワがドンバスと同じことをしようとしており、それを南部のクリミアに結び付けていると述べています。 ロシアの支援を受けた分離主義者は、侵略前にこの地域の一部を支配していた。
ロシアは、隣国を非軍事化するための「特殊作戦」と呼ばれる方法でウクライナを侵略しました。 ウクライナと西側諸国は、これを根拠のない戦争の口実として却下しました。
日曜日に、ロシアのミサイルは、主にロシアが占領したヘルソン地域の境界にある黒海沖のブーク川の河口にある港湾都市ムィコラーイウを攻撃した。
ムィコラーイウ市長のオレクサンドル・センケビッチ氏によると、12回以上のロケット攻撃(おそらく戦争の5か月で市内で最も強力な攻撃)が家や学校を襲い、2人が死亡、3人が負傷した。
ミコライウ州知事のヴィタリー・キムは、ウクライナの穀物大物オレクシー・ヴァダトルスキー、農業会社ニポロンの創設者であり所有者と彼の妻が彼らの家で殺されたと言いました。
ゼレンスキー氏は、ウクライナで最も裕福な人々の1人であるビジネスマンが、貨物駅とエレベーターのネットワークを備えた近代的な穀物市場を構築していると述べました。
「世界の食料安全保障を確保したのは、まさにウクライナ南部のこれらの人々、これらの企業でした」とゼレンスキーは毎晩のスピーチで述べました。 「それはいつもこうだった。そしてまたそうなるだろう。」
ゼレンスキー氏は、戦争による農業の混乱により、ウクライナは今年、通常の半分の量しか収穫できなかったと述べた。 農民は、彼らの畑へのロシアの爆撃と近くの町や村の間で収穫を試みたと報告した。
●キーウ近郊、ロシア軍拷問の遺体 警察発表、300人が行方不明 8/1
ウクライナのネビトフ・キーウ州警察長官は7月31日、首都キーウ近郊の村でロシア軍の拷問を受け殺害された男性1人の遺体を発見したと通信アプリで発表した。近郊を一時占領したロシア軍は4月初旬までに撤退したが、州内の約300人が依然として行方不明という。
遺体は手を縛られ、首にもひもと金具があり、ネビトフ氏は「戦争犯罪の証拠だ」と強調した。
ウクライナ当局は戦争犯罪の捜査を継続。ネビトフ氏は既に発見された遺体のうち216人の身元が特定されていないとし、さらにベラルーシで拘束されている人もいると明らかにした。
●ドナウ川河口で船爆発、貿易商夫妻は「暗殺」… 8/1
ウクライナを侵略しているロシア軍は7月31日、ウクライナの穀物輸出第2の主要港がある南部ミコライウや、南部オデーサを攻撃した。黒海からのウクライナ産穀物の輸出再開に向けた作業は大詰めを迎え、8月1日朝にも再開される見通しが示されているが、露軍は挑発行為を続けている。
ミコライウ市長はSNSに、31日未明にロケット弾40発が着弾し、2月の侵略開始以降で最も激しい攻撃だったと投稿した。住宅のほか、教育機関やホテルなどが被害を受け、輸出再開交渉に深く関わっていたという大手貿易商夫妻が死亡した。ウクライナ大統領府顧問は、露軍が意図的に貿易商の住宅を狙った「暗殺行為」だと非難している。
ウクライナ軍によると、露軍は31日、核兵器を搭載可能な短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を2発、ロシアが併合した南部クリミアからオデーサに向けて発射した。採石場に着弾し、死傷者はいなかった。
オデーサなど黒海に面する港が封鎖されたのを受け、ドナウ川沿いの港から黒海へ抜ける輸出代替ルートとして使われているドナウ川河口の水路では31日、輸送船の水先船が爆発した。爆発装置が仕掛けられていたという。水路は 迂回うかい 路として7月中旬に稼働し始めたばかりだったが、爆発を受けて一時閉鎖された。
ロイター通信によると、黒海沿岸のルーマニア、ブルガリア、トルコ軍は31日、機雷の除去作業を行った。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は31日、今季の穀物収穫が昨季から半減する見通しを伝え、「世界の食料危機回避のため、穀物輸送の方策を探っていく」とツイッターに投稿した。
●“ウクライナの港から最初の貨物船が出港へ”トルコ国防省発表  8/1
再開の時期が焦点となっていたウクライナ南部の港からの小麦などの輸出について、トルコ国防省は最初の船が現地時間の1日朝に出港すると発表しました。ロシアの軍事侵攻を受けて止まっていたウクライナ産の小麦などの輸出が再開に向けて動き出すことになります。
ロシア軍による封鎖でウクライナ南部の港から小麦などの輸出が滞っている問題をめぐっては、ロシアとウクライナが仲介役のトルコと国連とともに交わした合意に基づき設置された「共同調整センター」を通じて、輸出の再開に向けた協議が続けられてきました。
トルコ国防省は「ウクライナの港から最初の船が出港する」として、現地時間の1日午前8時半、日本時間の1日午後2時半に貨物船が南部のオデーサの港から出発するとツイッターで発表しました。
実際に船が出港したかは確認できていませんが、センターでの合意を受けて、最初の船はトウモロコシを積み、中東のレバノンに向かうとしています。
船が出港すれば、ロシアの軍事侵攻を受けて止まっていたウクライナ産の小麦などの輸出が再開に向けて動き出すことになります。
●プーチンの「ほぼ完全なポチ」になった男
イギリスの国防省は7月31日、ロシアによるウクライナ侵攻に関する情報当局の最新の分析を発表。ウクライナ侵攻を支持しているベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は「ほぼ完全にロシアに従属する」ようになったとの見方を示した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとって、今やルカシェンコは大切な盟友だ。2月に始まったウクライナ侵攻でロシア軍が行ったとされる戦争犯罪や、そもそも侵攻を正当化するだけの根拠がない点について、プーチンは世界各国の指導者から糾弾されている。
英国防省の分析によれば、ルカシェンコは以前に増して専制的になるとともに、ますますプーチンに従属的になっているという。
英国防省はルカシェンコが「ウクライナ紛争についてロシア政府の路線に従い続けている」と指摘。
さらに「死刑(の対象)を『テロ行為の準備』に拡大するなど同政権はさらに専制的になっている」と述べるとともに、「ベラルーシとウクライナに対する西側の陰謀という根拠のない非難をさらに強めていることは、彼がほぼ完全にロシアに従属していることを示していると思われる」とした。
また英国防省はロシア軍がベラルーシ領内から「ウクライナ北部にミサイルを少なくとも20発打ち込んだ」という情報も伝えた。
さすがに戦闘への参加は拒んだようだが
本誌はベラルーシ外務省にコメントを求めたが回答は得られていない。
ほぼ全ての欧州諸国がプーチンのウクライナ侵攻を非難しており、ルカシェンコは欧州首脳の中でほぼ孤立している。多くの国々がロシアに制裁を科したり、ウクライナに軍事的または人道的援助を行ったりしている。
以前からロシアと緊密な関係にあったとはいえ、ルカシェンコのようにロシアによる侵攻を支持している首脳は珍しい。ベラルーシ軍を戦闘に参加させるには至っていない(プーチンからは要請があったと伝えられる)ものの、自国の領内からロシア軍がウクライナに攻撃を加えることは容認している。
ベラルーシはウクライナ北部と国境を接しており、ロシア軍に対しウクライナの首都キーウ近郊への戦略的な「入り口」を提供している。侵攻の初期、ロシア軍はベラルーシ経由でウクライナに侵入してキーウ近郊を侵略したが、キーウを陥落させることはできなかった。
ルカシェンコは最近、プーチン支持の姿勢をさらに強めている。
ベラルーシ政府は29日、イギリス政府の「敵対的」な行動を理由に駐英大使を自国に呼び戻した。これはルカシェンコが欧米と距離を置く一方で、一貫してプーチンを支持していることを示している。
7月に入り複数のウクライナ当局者は、ベラルーシがウクライナ国境に近いジャブロフカ空域の「完全な制空権」をロシアに明け渡したとも述べている。
●ロシア軍の戦死者は本当は何人なのか? ロシアの公式発表によると1351人 8/1
両国の激しいプロパガンダ合戦の影響もあって、ロシアのウクライナ侵攻の実態はやぶの中だ。ロシア当局は3月下旬に戦死者数を1351人と発表して以来、その数字を更新していない。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は7月26日のビデオ声明で、ロシア軍の戦死者が約4万人に上ると語って自国軍を鼓舞した。ただし、数字の根拠は明らかにされておらず、他国の推計はもう少し控えめなようだ。
イギリスのラダキン国防参謀総長は、ロシア軍の犠牲を戦死者と負傷者合わせて5万人と発言。CIAのバーンズ長官は、戦死者が1万5000人、負傷者は4万5000人と指摘している。
   1351人 / ロシアが3月に発表した自国軍の戦死者数
   約4万人 / ウクライナのゼレンスキー大統領が語ったロシア軍の戦死者数
   1万5000人 / CIAのバーンズ長官が挙げたロシア軍の戦死者数
●ロシア、世界に広がる「海洋大国」目指す プーチン氏が新戦略に署名 8/1
ロシアのプーチン大統領は31日、新たな海洋戦略に関する大統領令に署名した。全世界に広がる「海洋大国」としての野望を打ち立て、中でも北極海や黒海を重視する姿勢を打ち出した。
この中で、米国をロシアの主要なライバルと位置付けるとともに、北極圏や黒海など重要な領域における軍事的な野心を示した。
「海軍の日」を迎えたこの日、サンクトペテルブルクで行われた式典でプーチン氏は演説。同市を築いたピョートル大帝がロシアを海洋大国にし、同国の世界的地位を向上させたと称賛した。
演説に先立ちプーチン氏は、海の安全保障の指針となる海洋ドクトリンに署名した。海軍の戦略的目標と、全世界に広がる「海洋大国」としての野望を打ち立てた。
それによるとロシアにとって主な脅威は「世界の海洋を支配しようとする米国の戦略的政策」と、国境線に近づく北大西洋条約機構(NATO)の拡大だとしている。
外交や経済などの手段が尽きた場合、ロシアは国益を守る手段として軍事力の行使が可能だと主張している。プーチン氏の演説で、ウクライナへの言及はなかった。
ただこの海洋ドクトリンは黒海とアゾフ海において「ロシアの地政学的地位の強化」をうたっているほか、特に重要な海域として北極海を挙げている。米政府は、ロシアがこの海域における軍備増強を進めていると繰り返し指摘している。
プーチン氏はさらに、極超音速ミサイル「ツィルコン」を数カ月以内に配備すると明らかにした。ロシアの主権に対する脅威に「電光石火のスピード」で対応できるようにすると主張した。極超音速兵器は音速の9倍の速度で移動できる。
ロシアはこの1年、艦船や潜水艦からツィルコンの発射実験を繰り返してきた。
●北方領土「あらゆる手段で守る」 プーチンが演説 “戦略的に重要”と強調 8/1
ロシアのプーチン大統領は演説を行い、北方領土の周辺海域を戦略的に重要だとしたうえで、「あらゆる手段を使って確実に守る」と述べた。
プーチン大統領は7月31日、北西部サンクトペテルブルクで、「ロシア海軍の日」を記念する軍事パレードを視察した。
ロシア・プーチン大統領「われわれはロシアの国益上の領域を明確に示した。バルト海やクリル(北方領土など)周辺海域で、あらゆる手段を使って確実に守る」
パレードに先立ち、プーチン大統領は、海の安全保障の指針を決める文書「海洋ドクトリン」の改訂版を承認する大統領令に署名し、ウクライナ南部の黒海のほか、北方領土を含む島々の周辺海域が戦略的に重要だと強調した。

 

●「北方領土など防衛」 ロシア海軍の日でプーチン氏演説  8/2
ロシアのプーチン大統領は七月三十一日、第二の都市サンクトペテルブルクで「ロシア海軍の日」を記念して演説した。「経済、戦略面を含めてロシアの国益にかなう地域を揺るぎなく守る」と強調し、重要な防衛対象として北極海やウクライナとの戦闘が続く黒海、クリール諸島(北方領土と千島列島)を挙げた。
プーチン氏はロシアが開発した極超音速ミサイル「ツィルコン」を「世界に例のない兵器」と自賛。数カ月以内に北方艦隊所属のフリゲート艦に実戦配備する意向を示した。
プーチン氏は同日、海洋戦略に関する重要文書「海洋ドクトリン」の改訂を大統領令で承認。米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)の「活発な動き」や太平洋における米国の「覇権拡大の動き」をロシアの安全保障上の「重大な脅威」と定義した。ロシアにとって、外交などの手段が尽きた場合には「状況に従って軍事力を行使する」とも記されており、ウクライナへの軍事支援を続ける米欧をけん制した格好だ。
●プーチン大統領「核戦争に勝者はいない」 「核の脅し」との批判に反論 8/1
ロシアのプーチン大統領は1日、核拡散防止条約(NPT)再検討会議の開幕に合わせて声明を発表し、「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない」と強調した。ロシアはNPT締約国の一つとして「条約の文言と精神を一貫して順守している」とも述べ、ウクライナ侵攻に絡んで「核の脅し」をしているとの批判に反論した。
声明でプーチン氏は、NPTが半世紀以上にわたって国際的安全保障の秩序と戦略的安定の要となってきたと指摘。原子力の平和利用を検証する機関としての国際原子力機関(IAEA)の役割も高く評価した。
その上で、NPTを順守する全ての国に追加条件なく原子力平和利用の権利が与えられるべきだと強調。今後も原子力エネルギー分野の経験を分かち合う用意があるとし、国際的な原発建設協力を進める考えを示した。 
●「いま停戦しても、ロシアはまた戦争する」ゼレンスキー氏“側近” 8/2
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から8月で半年を迎える。7月下旬には東部ドネツク州の親ロシア派支配地域でウクライナ人捕虜収容施設が攻撃を受け、約50人が死亡した。両国が相手による攻撃だと互いに非難しあうなど、「停戦」に向けた交渉が始まる気配は今のところ感じられない。
そうした中、FNNはウクライナ側の停戦交渉団の中心メンバーであるポドリャク大統領府顧問に日本メディアとして初めて単独インタビューを行った。1時間15分間のインタビューで語られたのは「停戦交渉の現在地」「両国の戦略の変化」、さらには「ウクライナの覚悟」など、強い言葉の数々だった。
消灯したままの廊下、“土のう”が積まれた窓枠
私たちがポドリャク氏にインタビューを行ったのは7月20日。指定された待ち合わせ場所にバリケードが設置されていたため、車から撮影機材を降ろし徒歩で大統領府に入った。荷物検査などを済ませ、インタビューを行う部屋まで案内してもらったのだが、途中あることに気がついた。廊下、階段、すべてが薄暗いのだ。日中だったため窓の外からの光があり、“真っ暗”というわけではないものの、大統領府のスタッフによれば、「軍事侵攻が始まってから廊下の電気はほとんどつけていない」という。さらに、外光が差し込む窓枠に目をやると”土のう”が数十個積み上げられている。攻撃を受けた際、窓ガラスが飛び散らないようにするためだそうだ。
週6日寝泊まり「ここで生活している」
この大統領府はゼレンスキー大統領も執務している建物だ。軍事侵攻直後、大統領が自撮り動画をアップし「私はここにいる」とのメッセージを発信して話題になったが、その動画に一緒に写っていたのが側近であるポドリャク氏だ。
「ここから帰ることはほとんどない。ここで働いて、生活している」。私たちがポドリャク氏と挨拶したとき、開口一番にこう言った。
ポドリャク氏も2月24日以来、平均して週に6日ほどこの建物内に寝泊まりしているそうで、執務室の至るところには何枚もの着替えが無造作に置かれていり、迷彩柄のヘルメットなどもあった。会議用の机にはたくさんの書類や本、タブレット端末などが積み重なっており、「雑然」とした印象の部屋でインタビューは始まった。
「いま停戦してもロシアは再び攻撃する」
最初に質問したのは停戦交渉の“現在地”だ。取材時の状況としては、「ゼレンスキー大統領が年内終戦に向けて支援を要請した」ことや、停戦交渉の代表団アラハミア氏が「8月に停戦交渉が再開する可能性がある」と述べていたためこれらのことを前提に質問をした。
――3月にトルコ・イスタンブールでの停戦交渉が最後?その後何か水面下で動きは?
「はっきり言います。交渉はイスタンブールでこの戦争での立場を表明した後、実質的にストップしている。現在までに捕虜交換や避難のための人道回廊、穀物輸出再開などの作業を議論する「小委員会」での作業が行われているが交渉の政治的な部分はストップしている。(中略)罪のない人が殺されている戦争犯罪が起きている間は交渉のテーブルにつくことはできない」
――7月19日、イランを訪問したプーチン大統領は、「ウクライナ側が停戦交渉に関心を示していない」との考えを述べたがそのことについてどう考えるか?
「もし、今、仮に“ミンスク3“のような署名を結んだとして、つまりウクライナの領土を失ったうえで何らかの協定に署名するのであれば半年か一年後にロシアは再び占領した領土に対する脅威を口実に、さらに大きな戦争を起こすだろう。ロシアに譲歩するということはロシアがさらにエスカレートするということを理解しなくてはいけない。だからこそロシアとの交渉は強い立場で行うことが必要だ」
ポドリャク氏は戦争によって自国民への影響、また経済の打撃が続くため「長期化しないことが望ましい」と前置きしているものの、仮に現時点で停戦ラインを引いたとしても再びロシアが口実を作って攻撃をするだろうと主張している。だからこそウクライナにとって「有利な条件」で交渉に臨むべきであり、今はそのタイミングではないと繰り返し強調した。
さらに、停戦合意の“仮定”として「“ミンスク3”のような署名」と表現していたことも、見逃せないポイントだ。ウクライナ東部紛争についての和平合意である「ミンスク1(2014年)」、「ミンスク2(2015年)」が、ウクライナ側にとって不利なものであったことへの不信感を改めて示した形で、「同じ轍は踏むまい」との覚悟も感じられる。ではなぜ、ウクライナ側から「8月にも停戦交渉再開」との話が出ているのだろうか。
――停戦交渉団メンバーのアラハミア氏は「8月に交渉再開の可能性」に言及したが?
「いい質問だ。これは戦争であり、その行方はさまざまな要因に左右されている。その中で重要なのは、その時々に最も適した兵器を必要な数だけ提供を受けることだ。今、長距離砲による攻撃が行われている。このような戦争で、ウクライナが流れを変えるためには、十分な数の多連装ロケットランチャーを含む大砲が必要だ。(中略)停戦交渉の際、(ウクライナ側に有利な)条件をつけることができるかどうかは、この要素にかかっている。今、単純に停戦してもロシアが得するだけだ。(中略)だからこそ、いつ、どれくらいの武器を手に入れられるかによって、交渉のテーブルにつく時期や条件提示の内容も変わってくる」
交渉再開の時期については「ウクライナがロシアと対等に渡り合える時期」と位置づけることにより、“武器提供次第”であると欧米諸国を含む世界に支援の継続を呼びかけている。私たちが「8月交渉再開の可能性」について尋ねた質問に対して「いい質問」と反応しながらも、直接的な明言を避けたのは武器調達の交渉が水面下で動いている可能性もあるのではないか、とも邪推してしまう。
ロシアは「長期化狙い」 ウクライナは「冬の前までに」
では、ウクライナのこうした戦略は、軍事侵攻が開始された2月から同じだったのだろうか。ロシア側の“変化”について、ポドリャク氏はこう分析する。
「ロシアは当初、ウクライナの首都キーウを素早く占拠し、ウクライナ国家を破壊、ここに傀儡政権を樹立するという計画だっただろう。しかしその計画が失敗した今、ロシアはこの戦争をできるだけ長く続けることに関心がある。現在、世界では大規模な食糧危機、移民危機、エネルギー危機、物価高が起きている。(ロシアは)欧米、日本などの市民社会に圧力をかけるため、西側諸国でこうした危機を引き起こし続けたい。そして、それらの国の人々が自国政府に圧力をかけ、ウクライナにロシアの条件を受け入れさせ、その条件で戦争を終わらせるというシナリオだ」
――しかし、ウクライナ側は停戦交渉を急いでいるわけではない?
「違う。戦争は早く終結しなければいけないが、それはウクライナ側の条件で終わらせる必要がある。
(前述の)ロシア側の戦略に対して、ウクライナ側の計画は非常に単純だ。現在ウクライナ軍に不足している長距離砲などを十分な量まで確保し、ロシアに戦術的敗北を与える。そして、できれば冬になる前までに、ロシアをウクライナの領土から追い出す。そして最終的に交渉を再開し、ウクライナの領土保全と、旧占領地の開放を交渉する」
――停戦の条件について。かつてゼレンスキー大統領は、2月24日、つまりロシアが軍事侵攻する前の位置まで撤退と位置づけていたが、今もそれは変わらない?
「その後、ロシアによる戦争犯罪や、すでに多くの都市が部分的に消滅してしまったという実態を私たちは見てきた。その上で、ロシアが『ある程度のライン』まで後退すればいい、というのは論外だ。ロシアはウクライナの(クリミア半島などを含む)全領土から撤退しなければいけない。これはゼレンスキー大統領も繰り返し言っていることだが2月24日の“でっち上げの口実”による戦争を再び引き起こさないためにウクライナの領土はすべて取り戻さなければいけない」
この「全領土」とは、2月の軍事侵攻後にロシアが実効支配を進めた東部ドネツク・ルハンスク両州に限らず2014年に一方的にロシアに併合されたクリミア半島も含まれると解釈される。ウクライナにとって、戦争は2022年2月からではなく2014年から続いているものであることが改めて強調されただけでなく、2月以降のロシア軍による“非道さ”によってウクライナ側の「停戦へのハードル」も高くなったとの主張を国際社会にアピールしている。また、その時期の“メド”としては、「冬になる前までに」との認識も示している。
穀物輸出再開も“違反”を予想
このインタビューの2日後、トルコ・イスタンブールでウクライナ産穀物の輸出についての合意調印式が行われた。国連のグテーレス事務総長が自ら出席するなどアフリカなどで深刻化する食糧危機の「希望の光(グテーレス氏)」となる合意と目されていた。
その調印直前、ポドリャク氏はロシアが合意を守るかどうかすでに懐疑的な見方を示していた。
――今回の“穀物回廊”についてまもなく合意される見通し。今回の穀物交渉がうまくいけば停戦交渉にもつながる可能性は?また、調印すればウクライナ産穀物は安全に輸出が可能となる?
「穀物輸出のための海上回廊の交渉については“ローカルな交渉”だ。より大きな停戦交渉のプロセスの一部にすぎない。(中略)前線を停戦させるとか軍隊を撤退させるという話ではなく、あくまで黒海の海域の狭い範囲での停戦。これはロシアではなくトルコと国連が確保するという話だ。
また、ロシアは合意に署名することにより、それを破る方法をすでに考えている。直接的にではなく、ある種のエスカレーションのための条件を作り出す」
――ロシアは合意しても破ってしまうということ?
「ロシアはそれに従わず合意事項を破ろうとするでしょう。合意事項を守らせる責任はトルコと国連にある」
そして、合意調印の約20時間後の7月23日、ロシア軍はウクライナ産穀物輸出の拠点となる南部オデーサ港をミサイルで攻撃した。合意内容には「港湾施設攻撃も行わない」との事項も含まれており、早くも出鼻をくじかれた形となったが(ロシア側はあくまで軍艦などを攻撃したと主張)、ポドリャク氏が攻撃の3日前のインタビューで語ったことが現実となっていた。「直接的に破棄するのではなく、エスカレーションのための条件」、言い換えれば“軍事行動の拡大”を作り出す、という言葉がぴったりとそのまま現実に当てはまる。それほどロシア軍の挑発的な行為はウクライナ側からしてみれば「いつもの行動パターン」ということなのだろうか。
今回のポドリャク氏への単独インタビューで繰り返し強調されたのは、「ウクライナ側が有利な条件になるまで停戦交渉には応じない」ということと「そのために、欧米からの武器提供が不可欠」の2点だった。ロシア軍の撤退ラインは「クリミア半島を含むウクライナ全領土」であることも今回新たにわかった。ポドリャク氏は「そうしなければ、半年後か1年後にまたロシアは口実を作って戦争を起こす」というロジックについて、何度も丁寧に―まるで授業をする教師のように―私たちに説明したのが印象的だった。長い歴史の中でのロシアの戦法がわかっているからこその発言ともとれる。
外国人であり取材者の私がウクライナで生活する市民や学校に行けない子供たちを見て、「早く戦争が終わってほしい」と思う気持ちはある。一方でポドリャク氏が指摘する「ウクライナ市民が抱える停戦後の脅威」についても国際社会は注視しなければいけない。
●現地を取材した記者に聞くウクライナ国内、人々の様子は? 8/2
「当たり前だったものの大切さを学ぶことになりました」ウクライナ国内に残る男性は、取材に対してこう話したのだそうです。今もロシアによる侵攻が続くウクライナ。現地の人たちはどんなことを思い、どういった生活を送っているのでしょうか。現地を取材した記者に話を聞きました。
今回、話を聞いたのは?
5月中旬から約1か月間ウクライナの首都キーウを拠点に取材した、国際部の鈴木陽平記者です。2011年に入局し、初任地は鹿児島局。次の横浜局では県警キャップなどを務めたあと、国際部へ異動。ウクライナ情勢などを取材しています。(以下は、鈴木記者の話)
ウクライナにはどうやって行ったの?
向かったのは、ウクライナの首都キーウ。日本からは直線距離で約8000キロ離れていて、日本との時差はマイナス6時間です。羽田空港から出発し、トルコのイスタンブール空港で乗り継ぎ、丸1日かけて、まずは隣国ポーランドにある南東部の都市ジェシュフに到着しました。ジェシュフはウクライナとの国境に近くにある都市なので、次の日の朝早くジェシュフを出発して、徒歩で国境を通過してウクライナに入りました。そこからは事前に手配した車に乗って、8時間半かけて首都キーウに到着しました。
ウクライナ国内の様子は?
ウクライナの面積は日本の約1.6倍ありますが、ロシアによる軍事侵攻以降は、旅客機が運航できない状態が続いていて、鉄道か車で移動するしかありませんでした。車でキーウに近づくにつれて、ウクライナ軍の検問所が多く設けられていて、通過する際は1台ずつ止められ、厳しいチェックが行われていました。ロシア軍の侵攻を阻むために設置されたバリケードも多く見られました。また、幹線道路にある道路標識は塗りつぶされていました。キーウまでのルートが分からないようにするためだということでした。街の至る所に、銃を持ったウクライナ兵の姿があり、パスポートの提示を求められたり、スマートフォンの写真やSNSのメッセージを確認されたりすることもありました。ちなみに、兵士や検問所の撮影は禁じられていました。
首都キーウの状況は?
当初ロシア軍は首都制圧を目指して、一時キーウ近郊まで迫りましたが、ウクライナ側の抵抗により、4月上旬までに撤退しました。それ以降、キーウには少しずつ人が戻り始めています。営業を再開する飲食店なども増えてきていて、街にはにぎわいが戻りつつあるように感じました。カフェやパブで食事やアルコールを楽しむ人の姿も多く見られました。ウクライナに入る前は「物資が不足しているんじゃないか」と思っていましたが、キーウにある市場やスーパーには食料品がそろっていました。空になっている棚も見当たりませんでした。
キーウには日常が戻っているの?
物流の停滞による影響は出ていました。市場の人たちによると、物流が滞って、2倍近く値上がりしている野菜などもあるとのことでした。また、燃料不足も深刻でした。ウクライナの製油施設が攻撃を受けた影響などで、多くのガソリンスタンドが休業となっていました。そして、営業しているスタンドには、長蛇の列ができていました。「1回の給油につき20リットルまで」などと、制限を設けている所がほとんどで、ドライバーの中には「燃料を満タンにするため、丸1日かけている」と話す人もいました。
キーウで危険を感じることはないの?
私が取材している間、キーウをはじめとして各地で夜間の外出禁止令が出されていました。また、毎日のように防空警報が出されてサイレンが鳴っていました。キーウ市内では、警報が1日に2、3回出されていて、その際は、町じゅうにサイレンの音が響き渡りました。深夜や未明にサイレンが聞こえることもあり、不安な気持ちになりました。街の人たちからも「サイレンが鳴るたび、不安に襲われる」という声が聞かれました。ウクライナで取材を続けていた6月5日には、ロシア軍の爆撃機がキーウ市内に5発の巡航ミサイルを発射し、このうち4発が鉄道車両の修理工場に着弾して、作業員1人がけがをしました。また、私が帰国したあとではありますが、6月26日にはキーウ中心部に近い地区で、集合住宅などが4発のミサイルの攻撃を受けて、男性1人が死亡しています。一見キーウでは日常が戻りつつありましたが、キーウの市民の中には「ミサイルでいつ攻撃されるかわからない」「再びロシア軍が首都に迫ってくるのではないか」と話す人もいて、依然としてロシアによる軍事侵攻下にあることを実感しました。
キーウに残った人の暮らしは?
ウクライナでは、防衛態勢を強化するため18歳から60歳の男性の出国が制限されています。このため、女性や子どもは国外に避難していますが、多くの男性は国内にとどまっています。私は、ウクライナに残る、アブラホフ・タラスさんという56歳の男性を取材しました。妻と2人の娘は国外に避難していて、アブラホフさんは、キーウ近郊の自宅にひとりで暮らしていました。アブラホフさんは、バラエティー番組や映画の撮影に使うスタジオを経営していますが、テレビは軍事侵攻のニュース一色になり、スタジオは使われることがなくなったといいます。収入が減り、従業員の雇用を維持することも難しくなっているということでした。また、苦労していると話していたのが、毎日の食事作りなのだそうです。これまでは妻が作ってくれていたので、慣れない自炊生活が続いているということでした。大切な家族との日常が突然奪われ、共に残った愛犬だけが話し相手だと話すアブラホフさん。心境について次のように語っていました。
「この戦争によって、私たちは当たり前だったものの大切さを学ぶことになりました。普通に暮らしていると、それがどれだけ幸せなのか分かりません。失って初めて、いかに大切なのかが分かるのです」
ウクライナの子どもたちはどうしているの?
キーウの街を取材していると、公園などで子どもたちの姿が見られるようになっていました。子連れの人に話を聞くと、避難先からキーウに戻って来たと話す人もいました。ただ、国外に避難している女性や子どもたちは今も数多くいて、戦闘が長期化する中で、現在夏休みで休校となっている学校をどう再開させるのかなどが課題となっています。また、幼稚園などは、子どもたちが避難していて子どもの数が少なくなっているため、いくつかの幼稚園を統合して運営する動きもあるということでした。
支援の動きはどうなっているの?
各国から支援が行われています。キーウ近郊のボロジャンカでは、6月1日にサッカーグラウンドの敷地内に仮設住宅が完成しました。この仮設住宅は、隣国ポーランドの支援で設置されたもので、350人が入居できるということでした。同様の仮設住宅は、ほかの地域でも建設が進められていました。また、仮設住宅では、トルコの支援を受けて食事の提供などが行われていました。
ウクライナの人たちはロシアをどう思っているの?
話を聞いた人たちの中には、ロシア軍に対する強い処罰感情を持っている人が多い印象でした。ロシアは軍事施設を攻撃したなどと主張していますが、一般住宅も多く破壊され、多数の市民が命を落としているからです。ウクライナでは現在、民間施設や市民への攻撃といった「戦争犯罪」を立証するための捜査と、それを公開の法廷で裁く裁判が同時に進められています。ロシア軍の攻撃は広い範囲で行われていて、すべてを立証するには長い時間がかかるとみられています。ウクライナの人たちの多くは、ロシア軍の戦争犯罪の実態を明らかにした上で、裁かれることを期待していました。
取材をして心に残っていることは?
日常が突然奪われるという、理不尽な現実です。キーウ中心部は、一見平穏を取り戻したかのようでしたが、車で30分ほど移動すると、風景は一変します。イルピン、ブチャ、ボロジャンカなど、ロシア軍による激しい攻撃にさらされた地域では、町は破壊され、住宅などには、銃弾の跡が生々しく残っていました。住宅の近くでは、ジャガイモが散乱していたり、破壊された子どもの遊具が残されたりしていました。道ばたには破壊されたロシア軍の戦車も残っていて、草むらには「地雷」と赤字で書かれた看板もありました。地雷は至る所に埋まっていて、撤去作業が進められていますが、ウクライナの非常事態庁は、国内のすべての地雷を除去するのに、少なくとも10年はかかるという見通しを明らかにしています。ウクライナの日常は突然奪われただけでなく、今後も元どおりになるのには、非常に長い時間がかかるという現実に、理不尽さを感じました。
●詰んだ欧州。米英主導の対プーチン制裁という詐欺策に乗って自滅するEU 8/2
プーチン大統領のウクライナ軍事侵攻を受け、ロシアに対して一丸となり厳しい経済制裁を科している西側諸国。しかしこの「対ロ敵視」には裏があり、まんまと乗せられた欧州各国は着実に自滅への道を辿りつつあるようです。今回の無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』では著者で国際情勢解説者の田中宇(たなか さかい)さんが、対ロ制裁が欧州各国の首を絞めるだけに終わる理由を解説。さらに彼らは今後も親ロに舵を切れないとし、そう判断する根拠を示しています。
自滅させられた欧州
ウクライナ戦争は、欧州を自滅させた。今年2月末にロシアがウクライナ侵攻を開始したとき、米国の最上層部である諜報界は、石油ガス輸入停止など厳しい対露経済制裁を行えばロシアは短期間で経済破綻し、ウクライナでの露軍の稚拙な作戦展開と相まって、ウクライナや欧米の勝利とプーチン政権の崩壊を実現できると自信満々だった。EUや独仏の上層部はその見方を軽信し、米英主導の対露制裁とウクライナ軍事支援に全面的に乗った。だが米諜報界は、米国覇権・欧米支配の体制を自滅させたい隠れ多極派に乗っ取られており、対露経済制裁とウクライナ支援でロシアを倒せるというシナリオは、欧米とくに欧州を自滅させるための歪曲話だった。
欧州経済はロシアからの石油ガスに強く依存している。代わりの輸入先の開拓には10年以上かかる。ロシアからの輸入を止めたら欧州経済は破綻に瀕する。欧州の上層部はそれに気づき、ロシアからの石油ガス輸入を止めると口で言いつつ実は輸入を続けるというウソ戦略をとった。だが同時に欧州は、米国の言いなりでウクライナに兵器を送り続けるなどロシア敵視を続けたため、ロシアは報復として欧州に石油ガスを送る量を減らし続けた。ロシアから欧州への天然ガスの最大の輸送路であるノルドストリーム1パイプラインは先日の定期点検後、流量が平常の20%にまで減らされた。欧州はロシア敵視をやめず、深刻な天然ガス不足が今後も続くことが確定的だ。欧米の指導者や分析者の中には、これで欧州の対露制裁の失敗が確定したと宣言する者たちが増えている。ハンガリーの親露的なオルバン大統領などがそうだ。
米諜報界は傘下の米英マスコミを使ってウクライナ戦争の報道を歪曲し、ロシア軍が惨敗して自暴自棄になって街区の破壊や市民の殺戮などの戦争犯罪をガンガンやったかのような話が世界に流布した。だが実際のロシア軍は、当初から現在までウクライナでの作戦を成功裏に進めており、街区の破壊も市民の殺害も最小限にとどめている。国連によると、ウクライナ市民の戦死者数は、開戦から5ヶ月近く経った7月12日にようやく5,000人を超えた。毎月平均1,000人ずつしか市民が死なない戦争は珍しい。露政府が「戦争」でなく「特殊軍事作戦」と呼んでいるのは理解できる。米国はイラクやアフガニスタンで開戦から5か月間で10万-20万人ぐらいずつ殺した。ロシアは、最終的にウクライナを自国の傘下に入れたいので、街区破壊や市民殺害をできるだけやらない作戦を遂行し、成功している。
ウクライナの街区を破壊したのは露軍でなく、ウクライナ軍内のアゾフ大隊など極右民兵勢力だ。ウクライナ市民の半分かそれ以上は、ロシアを敵視していない親露派か中立派だ。ロシア敵視の極右民兵団はロシアを敵視しない自国民を嫌悪し、街区の破壊や市民の殺害を積極的に展開し、それをロシア軍の仕業だとウクライナ当局が言い、米国側のマスコミが鵜呑みにしてロシアを極悪に報道し、多くの人が報道を軽信した。破壊や殺戮の戦争犯罪を犯したのはロシアでなく、ウクライナの極右民兵団と、極右を背後から操ってきた米英諜報界である。
ソ連崩壊で独立したウクライナには、露軍港があるクリミアやドンバスなどロシア系の領域がいくつもあり、ウクライナがロシア敵視になるとロシアの安全保障が脅かされる状態だった。それを知りつつ米英は2014年にウクライナを転覆して反露な極右政権を作り、ドンバスでの殺戮や、クリミア露軍港使用禁止策をやらせた。ロシアがウクライナを奪還しようとするのは正当防衛だった。2014年からの全体をウクライナ戦争としてみると、侵略者は米英である。ロシアは悪くない。
欧州の上層部は、このようなウクライナ戦争の真の構図を知っていたはずだが、NATOとしての対米従属の国是を重視し、米国が敷いた善悪逆転のロシア敵視路線に乗った。それでNATO・米国側が勝ってロシアを譲歩させられるなら、それでも良かった。しかし実のところ、ウクライナ戦争での米国側楽勝のシナリオは最初から、米諜報界の隠れ多極派が仕掛けた落とし穴であり、その路線に入り込んだ欧州は案の定、経済と安保の両面でひどく自滅させられ、経済が大不況への道をたどり、市民の多くが窮乏生活を強要され始めている。
ウクライナの極右政権を軍事支援し、ロシアを経済制裁して潰そうとする策は、最初からうまくいかない詐欺的な策だった。欧州がそれに乗ったのは馬鹿だった。ロシアは今後、ウクライナで実質的な占領地をさらに拡大していく。すでに露軍がウクライナ軍を追い出してウクライナからの分離独立状態が確立したドンバス2州だけでなく、その周辺のロシア系住民が多い地域でも住民投票を行い、ウクライナからの分離独立を進めていく。いずれ、ドンバスから沿ドニエストルまでのウクライナ南部の全体が、ノボロシアとしてロシアの影響下に入れられていく。それを止める方法はもうない。米露核戦争に発展しかねないので、米軍が直接ウクライナに出ていくことはない。米軍が出ていかないので、ロシアの動きは止められない。
ウクライナは、東部と南部をロシア側に取られていく。残されたウクライナ西部は、歴史的にポーランドとのつながりが深い地域だ。ウクライナのネオナチなど極右勢力の支持者は、もともと親ポーランドの西部に多かった。ウクライナの極右政権は2月の開戦後、ポーランドの傘下に入る傾向を強めている。ウクライナとポーランドの政府は相互の人的な行き来を自由化しており、ウクライナ西部はポーランドに編入されていく感じだ。ロシアがウクライナの東部と南部を取ったら、ポーランドが残りのウクライナ西部を併合し、ウクライナという国がなくなってしまう可能性がある。プーチンの側近であるロシアのメドベージェフ元大統領が「今の事態(戦争)が終わるときウクライナはなくなっているかもしれない」と言っている。もしくは、小さくなったウクライナがポーランド傘下の国として残るかもしれない。
どちらにせよ、欧州など米国側が開戦時に軽信していた「ウクライナがクリミアを奪還し、プーチンのロシアが潰れる」というシナリオの実現性は、すでに確定的にゼロになっている。米国側はもうロシアに勝てないのだから、ロシアを経済制裁して石油ガスの輸入を止め続ける意味もない。ロシアは、米国側に輸出していた石油ガスをインド中国など非米側に輸出できるので経済制裁が続いてもかまわない。困っているのは、石油ガスが足りなくなっている欧州など米国側の方だ。欧州がロシアの石油ガスの輸入を止め続けると、欧州自身の経済の自滅がひどくなり、社会や政治も崩壊していく。制裁を続けても、ロシアの拡大とウクライナの縮小は止められない。むしろ欧州が対露制裁をやめて、ロシアと和解して石油ガスの輸入を再開するとともに、ロシアとウクライナの間を仲裁すれば、ロシアはこれ以上ウクライナでの支配地を拡大せず、ウクライナの領土がこれ以上削られずに平和を実現できるかもしれない。欧州は、ロシア敵視をやめることで石油ガス不足を解消でき、経済社会政治の自滅も防げる。
しかし、この方法も多分うまくいかない。欧州(EU、独仏)がロシア敵視をやめると、米英とウクライナが欧州を猛然と非難し、敵視すら開始する可能性がある。ウクライナの極右政府は米英の傀儡であり、欧州の言うことなど聞かない。ゼレンスキーはドイツを馬鹿にしている。EUの中でも、ポーランドやバルト三国などはロシア敵視をやめることに強く反対する。独仏がロシア敵視をやめようとすると、その時点で米英と鋭く対立してNATOが崩壊し、ポーランドなども反対してEUも内部崩壊する。この崩壊によって米国側の全体が弱体化し、米国覇権の低下と露中の台頭・多極化に拍車がかかる。独仏が米国覇権や欧米優位の世界を壊したと非難される。
そもそも、独仏やEUの上層部、政界官界マスコミなどエリート層には、米諜報界の傀儡勢力がたくさんいて、その傀儡たちが、欧州がロシア敵視をやめようとすると猛反対して阻止する構図ができている。欧州は米諜報界に入り込まれ、そもそもロシア敵視をやめることなどできない。欧州がロシア敵視をやめるとしたら、それは今後もずっと欧州がロシア敵視を続けてロシアからの石油ガス輸入が止まり続け、欧州の経済社会政治が今よりもっとひどく自滅していき、独仏など欧州各国で次々とエリート系の政権が選挙で転覆され、エリート支配を壊すポピュリストたちが政権を取って、その後の長いエリート層との政争に勝ってからだ。そこに行き着くまで何年かかるのかわからない。その間に米国の政治崩壊や金融バブル崩壊も起こりうる(日本はずっと自民党政権で安定し続けているだろうが)。
先日、ドイツの左派(SPD)のシュレーダー元首相がロシアを訪問し、ロシア側(プーチン?)と会談してロシアから欧州へのガス輸出の再増加をお願いしている。シュレーダーは親露派で、ノルドストリームのパイプライン建設計画の推進者だった。彼は、2月のウクライナ開戦後、ドイツや欧州のエリート層全体が強烈なロシア敵視を開始した後も「欧州はロシアの石油ガスなどが必要だ」と言って親ロシアを貫き、欧州のマスコミ権威筋などから猛烈に非難されても態度を変えなかった。今後、欧州のエリート層がロシア敵視をやめられずに経済社会政治の自滅が加速していくと、シュレーダーのような親露派の出番が再び出てくる可能性が増す(安倍晋三のように殺されなければ)。左派エリート政党であるSPDがシュレーダーの親露路線を再び受け入れれば、ドイツはポピュリスト政権にならずに親露派に転向(出戻り)しうる。
どのような道をたどるにせよ、そこまで行くにはかなり時間がかかる。欧州は、今よりもっと崩壊しないと対露制裁をやめられない。ロシアが早くウクライナで支配地を拡大し、ウクライナがロシアとポーランドに分割されて国家消滅するのが早いと、欧州など米国側がロシア敵視に見切りをつけるのも早くなる。展開が早いと、米国覇権・欧米優位体制の崩壊があまり進まないうちにウクライナ戦争の構図が終わり、米国覇権が温存されてしまう。プーチンも米多極派も、それを望んでいない。プーチンはおそらく、米国覇権・欧米優位の体制が完全に壊滅するまでウクライナ戦争の対露制裁が続き、中途半端でなく完全に多極型の世界が出現することを望んでいる。だからロシアは、ウクライナでの軍事作戦をできるだけゆっくり進め、米国側が対露制裁を続けて自滅していくウクライナ戦争の構図をできるだけ長引かせている。ウクライナ戦争の構図は、少なくとも来年まで続く。3年ぐらい続くかもしれない。
プーチンは米国覇権の崩壊と多極化を望んでいる。その方がロシアが封じ込められず、発展するからだ。米国の資本家層の意を受けた米諜報界の隠れ多極派も、世界の非米側の地域が発展できる多極化を望んでいる。プーチンと米多極派がどの程度結託しているかはわからない。相互に連絡をとらなくても多極化を進められる。欧州は、今回のウクライナ戦争の前から、非現実な地球温暖化への対策としての自滅的なエネルギー政策の強要(効率的な化石燃料の禁止と、非効率な自然エネルギーの拡大)、新型コロナ対策としての都市閉鎖の超愚策をやらされるなど、米諜報界がマスコミ権威筋やエリート層を巻き込んでやらせたいくつもの謀略によって、経済的に自滅させられてきた。米国だけを潰しても、欧州など同盟諸国が米国を助けて覇権を維持してしまうので多極化できない。欧州と米国を同時に潰すことが必要だ。そのための欧州自滅策として、ウクライナ戦争の対露制裁はとてもうまくいっている。
●ウクライナ 穀物積んだ船出港 業界団体幹部は歓迎も警戒感示す  8/2
ウクライナ南部から穀物を積んだ最初の船が出港したことについて、ウクライナの穀物の業界団体幹部は歓迎する一方で、再び輸出の停止につながるような攻撃が起きないか、ロシアの今後の動向に警戒感を示しました。
ロシア軍による封鎖で黒海に面するウクライナの港から小麦などの輸出が滞っている問題をめぐっては、1日、穀物を積んだ最初の船が南部オデーサの港を出発しました。
これについて、ウクライナ穀物協会のセルヒー・イワシチェンコCEOは、現在、ウクライナ国内に小麦やトウモロコシなどおよそ2500万トンの穀物が留め置かれ、輸出を待っている状態だと指摘したうえで「輸出の再開は、ウクライナの農業市場にとってよいチャンスだ」と歓迎しました。
一方で「ロシアが合意を守らなかったり穀物を運ぶ船や港を攻撃したりするリスクもある。これは重大な問題だが、起こりえることだ」と述べ、再び輸出の停止につながるような攻撃が起きないか、ロシアの今後の動向に警戒感を示しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領も1日に公開した動画で「ロシアがウクライナの輸出を妨げないという幻想を抱いてはならない」と指摘しています。
トルコ国防省によりますと、最初の船は、トウモロコシを積み、中東のレバノンに向かうということで、2日にも黒海沿岸のイスタンブールの沖合に到着し、積み荷などの検査を受ける見通しだとしています。
●ウクライナ難民1000万人超 ロシア侵攻後 国連 8/2
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は2日、ロシアの侵攻を受けた2月24日以降にウクライナから国外へ逃れた難民が、1000万人を超えたことを明らかにした。
UNHCRによると、今月1日時点の集計でウクライナからの越境者は約1017万人。脱出先では隣国ポーランドが約508万人と最多で、ハンガリーが約108万人などと続いている。
一方、2月28日以降にウクライナ国外から祖国へ戻った人は420万人に上る。UNHCRは「ウクライナ全土の情勢は極めて不安定かつ予測不能であり、帰国の動きは持続的とは限らない」と説明している。
●核軍縮の道「打ち砕く」=ウクライナ侵攻で危険な威嚇―米ロの緊張高まる 8/2
世界の核兵器の約9割(計1万1800発)を保有する米ロ両国の核軍縮交渉は、「核なき世界」を掲げたオバマ米政権(2009年1月〜17年1月)の半ばに停滞し、トランプ前政権下で後退していた。今年2月に起きたロシアのウクライナ侵攻は、「核軍縮が平和への現実的な道だという主張を完全に打ち砕いた」。
核管理を模索
バイデン米大統領は21年6月、ジュネーブでロシアのプーチン大統領との初会談に臨んだ。約3時間の話し合いの中で、少ない成果の一つが「核管理の対話開始」だった。米ロはこれに先立ち、新戦略兵器削減条約(新START)の5年間延長で合意していた。
新STARTはオバマ政権時代の11年2月に発効。米ロが共に戦略核弾頭の配備数を1550発以下にすることなどが定められている。
核廃絶を目指すオバマ氏は新STARTの「後継体制」なども模索したが、ロシアは中距離核戦力(INF)全廃条約に違反して戦術核の配備を開始。トランプ前政権はINFから離脱し、核兵器の役割を再評価した。
戦術核使用の可能性
バイデン氏は20年の大統領選への出馬で、核保有の目的を敵国からの核攻撃の抑止と核攻撃への報復に限るという「唯一目的化」を提唱した。プーチン氏との初会談で核軍縮に焦点を当てたのはこうした流れを踏まえたものだ。しかし米国が再び「核廃絶」へかじを切るという期待は、雲散霧消となる。
「ロシアは世界で最も強力な核保有国の一つだ。わが国への直接攻撃は侵略者の壊滅と悲惨な結果につながることは疑いの余地がない」。プーチン氏はウクライナ侵攻時の演説で「核のサーベル」(バイデン氏)を鳴らした。
プーチン氏が20年に承認した核兵器使用の条件には「国家存立を脅かす通常兵器による攻撃」が含まれる。ロシアの軍事専門家パベル・ルージン氏は、ロシアの求める停戦条件をウクライナ側に受け入れさせるために無人地域や船舶が航行していない海域で戦術核を使う可能性はある、との見解を示す。
制約なしの状態も
ロシアが今回の軍事侵攻で核を「実践の兵器」として誇示したことは世界に衝撃を与えた。バイデン政権は3月に公表した核政策の指針「核態勢の見直し」(NPR)の概要で、核の「唯一目的化」の明記の見送りを余儀なくされた。
米軍備管理協会のシャノン・ビュゲス上級研究員は取材に対し、「新STARTが4年足らずで失効すれば、米ロの核兵器は何の制約も受けず、(第1次戦略兵器制限交渉が妥結した)1972年以前のような状態になる。両国が今後緊張を高めていけば、際限ないエスカレーションにつながる」と警告している。
●冬に向けて「脱ロシア化」準備中──じわじわ効果を上げる経済制裁 8/2
ロシアのウクライナ侵攻から5カ月、アメリカとその同盟国による空前の経済制裁がもたらす効果について、当初の楽観的な見方は色あせ始めている。
通貨ルーブルは2月上旬の1ドル=75ルーブルから3月には135ルーブルまで下がったが、5月末には侵攻前を上回る55ルーブルに急上昇。生産高も、好調とは言い難いが、大打撃を受けているわけではない。
それはつまり、制裁が失敗だったことを意味するのだろうか。いや、そうは言えない。
軍事侵攻に対して科した制裁とはいえ、制裁自体は経済的なものであるが故に、軍事攻撃のような速度で効果が表れることを期待してはいけない。制裁の目的は、ロシアの経済活動を抑制し、それを軍事力の抑制につなげることだ。
だがそれも、一夜にして実現はできない。欧米企業のロシア撤退など、ロシア経済を弱体化させる措置が、兵士への給与支払い能力を奪い、兵器製造能力を低下させる。
輸出制限は外国からの兵器・技術購入力を損なう。輸入制限は産業設備の維持を困難にし、ハイテク兵器製造を妨げる。ダメージは徐々に進み、ロシアの兵站(へいたん)と技術力をじわじわと痛めつける。ロシア政府もそれに気付いているだろう。
彼らが東部攻略に固執する理由もそこにある。戦争遂行能力が尽きる前に、何らかの勝利を収めたいからだ。つまり、ロシア経済は既に大打撃を受けている。株式市場は2月以降、大幅に縮小し、大手多国籍企業は撤退。為替相場の回復も、(ルーブル払いを強制する)政府の金融的抑圧の結果にほかならない。
さらに踏み込んだ規制を
ただ、プーチン政権にとって唯一の希望はいまだ健在だ。国際エネルギー機関(IEA)は5月、ロシアの石油収益が年初比で50%上昇したと発表した。アメリカとEUへの石油輸出が消えても、急激な価格高騰と、インドと中国による購入増加で十分に埋め合わせできているのだ。
おのずと劇的な脱ロシア化が進むとはいえロシアの輸入はほぼ半減しているだけに、石油収入が増えても得られた外貨は活用できない。さらに、欧州は石油や天然ガスの脱ロシア化を急ピッチで進めている。
今のところ、欧州の大部分を襲うインフレの主因がエネルギー価格高騰であることから見ても、ロシアが対欧州エネルギー供給の支配によって影響力を保持していることが分かる。だが冬が近づき事態が深刻化すれば、おのずと劇的な脱ロシア化が進むだろう。
そんなわけで、段階的で動きは鈍いものの、ロシアでは兵士の給与支払いが滞り、故障した機械は部品不足で修理できず、電子システムには障害が発生し始める。
おそらく現状の制裁を強化する最も有望な方法は、エネルギーと金融分野でさらに踏み込んだ規制を行うことだ。
エネルギーでは、欧州諸国でロシアの石油と天然ガス禁輸を段階的に実施すること。関税引き上げにも同様の効果があり、税収を各国国民の生活支援に回すこともできる。
金融分野においては、まだ制裁を免れているロシア主要銀行やロシアに投資する欧米企業、ルーブル建て取引などを標的にすることもできる。
制裁が十分な速さで効いていないというなら、スピードアップすればよいのだ。
●世界は一歩間違えれば核で破滅=国連事務総長 8/2
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は1日、核拡散防止条約(NPT)再検討会議で演説し、世界は一歩間違えれば破滅的な核戦争に陥るとし、冷戦時代以来の危機にあると警告した。
NPT再検討会議はこの日、国連本部で開幕。グテーレス氏はその冒頭で加盟国を前に演説した。
グテーレス氏は、「私たちはこれまで非常に幸運だった」、「運は戦略ではない。また、地政学的な緊張が核戦争に発展するのを防ぐ盾にもならない」と主張。
世界が核兵器による破滅を避けられてきた「運」は長続きしないかもしれないと述べ、すべての核兵器の廃絶に向けた努力の刷新が必要だと強調した。
そして、世界的に緊張が高まる中で、「人類はたった一つの誤解、一つの誤算で、核兵器による消滅を迎える」と訴えた。
また、こうした緊張は「過去最高に達している」と警告。例として、ロシアによるウクライナ侵攻と、朝鮮半島や中東での緊張の高まりを挙げた。
NPTは、核戦争に最も近づいたとされるキューバ・ミサイル危機の後の1968年に成立。5大核保有国を含むほぼすべての国が加盟している。核兵器の拡散を防ぎ、廃絶させるのが究極の目標。
ただ、核兵器保有が知られている、または疑われているインド、イスラエル、北朝鮮、パキスタンなどは加盟していない。
プーチン氏が会議に書簡
核兵器をめぐっては、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2月のウクライナ侵攻からまもなく、同国の核戦力を高度の警戒態勢に置いて緊張をエスカレートさせたとして、広く非難された。
プーチン氏はまた、ロシアの邪魔をすれば誰であろうと「歴史上見たことがない」結果に直面すると脅した。ロシアは核戦略の一部として、自国の存立が脅かされた場合は核兵器を使うとしている。
プーチン氏は1日、NPT再検討会議に書簡を送り、「核戦争に勝者はなく、決して起こすべきではない」と訴えた。
それでも同国は、会議で批判を浴びた。
アメリカがロシアを非難
アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官はこの日の会議で、ロシアが軍事力による威嚇を続けていると非難。ウクライナについて、ロシアなどから将来の安全保障をめぐって保証された後の1994年に、ソヴィエト連邦時代の核兵器をロシアに引き渡していたと指摘した。
その上で、「自国の主権と独立を守り、侵略を抑止するために核兵器が必要だと考える世界中の国に対して、これはどんなメッセージを送るのか」、「最悪のメッセージだ」と述べた。
現在、核兵器を保有する9カ国の兵器庫には、約1万3000発の核兵器が使用可能な状態で残っていると考えられている。これは、1980年代半ばのピーク時の推定6万発を大きく下回っている。
●プーチンと親しく…「ハンガリーのトランプ」が17年間も首相を続けられるワケ 8/2
今年4月、ハンガリーの総選挙で右派の与党が勝利し、オルバン首相が4選を決めた。オルバン首相はロシアのプーチン大統領と親しく、EUの加盟国でありながら、ロシアへのエネルギー制裁に反発している。なぜ多くの国民が支持するのか。今年3月と6月にハンガリーを訪ねたジャーナリストの増田ユリヤさんに、池上彰さんが聞く――。
EU各国ではガソリン価格が高騰しているが…
【増田】ロシアによるウクライナ侵攻、そのロシアに対する経済制裁によって、先進国を中心にロシア産原油の取引停止や供給不安が高まり、原油の価格が高騰しています。日本でも2020年7月に1リットル当たり130円程度だったレギュラーガソリンの価格が、2022年7月25日には170.4円まで上がってしまいました。
企業や国民の生活に大きな影響を与えていますが、政府は有効な施策を打てていません。
私はこの6月末に、東欧のハンガリーやスロバキアを取材してきました。ハンガリーでは原油高に対してガソリン価格の上限を決め、5月26日に「一度に50リットルまで、1リットル当たり480フォリントで販売する」と宣言し、翌日から実行しました。480フォリントは、現在のレートで言うと大体160円くらいです。
EU(欧州連合)各国は税制の問題や脱炭素政策の推進などもあり、ガソリン価格はもともと高かったうえに、ウクライナ事態でさらに高騰しています。イギリスではレギュラーガソリンがリッター当たり300円を超えるまでになってしまっていると報じられています。
ハンガリーの車だけはガソリン価格が安くなる
【増田】原油価格上限が決められたことでハンガリーのガソリン価格が周囲の国々よりも安くなったため、他国からハンガリーにガソリンを入れに来る、あるいは安く買って自国で高く売ろうとする人々が出てくる可能性もありました。
ヨーロッパ諸国には、加盟国圏内を自由に行き来できるシェンゲン協定があり、ハンガリーも加盟していますから、放っておけば隣接する国々から、どんどんハンガリーにガソリンを求める客が殺到していまいます。そこで、この価格が適用されるのはハンガリーに登録されている車両のみと決め、ナンバープレートで見分けて対象外の車両に対しては、市場価格で売るという方法を取っています。
【池上】EUは統一のナンバープレートを使っていますが、EUのマークの横に「H」などとどの国の車両化を区別する記号がついているんですよね。だからプレートを見れば、どこの車両かすぐにわかるわけです。
「自国の利益第一」が政策のモットー
【増田】この原油価格に上限を設けることを決めたのが、オルバン・ヴィクトル首相(59歳)です。1998年に初めて首相となり、2002年にいったん下野していますが、2010年に再選。その後は2022年まで連続4回の勝利を重ね、首相在任は通算で17年目という長期政権を敷いています。
トランプ前大統領自身が手法をまねたとされているほどで、「ハンガリーのトランプ」などと言われています。実際、トランプ氏はオルバン首相の強硬な移民政策を称賛しています。ハンガリーは2015年に中東や北アフリカから移民・難民がヨーロッパに押し寄せた時には真っ先に受け入れを拒否したんです。
EUと足並みをそろえてロシアに対する制裁に参加するとはしながらも、自国の利益はしっかり守ることを第一としているのがハンガリーのスタンスです。私は今年の3月にもハンガリーへ取材に行きましたが、4月3日に行われた国民議会選挙でも、元々行ってきたロシアからの天然ガスや原油の輸入をやめるか否かも争点になっていました。
当初はEUに対して「制裁に参加します」と、ある意味「いい顔」を見せながらも、エネルギー制裁には反発し、オルバン首相自ら国民に「安心せよ」とFacebookで直接呼びかけていました。ハンガリーは天然ガスと原油のほとんどをロシアに依存していますから、ロシアからの輸入を止めれば経済的な打撃が避けられないというのです。親ロ派とも言われてきたオルバン首相でしたが、ウクライナ有事があっても選挙は圧勝。
「オルバンは弱者の気持ちを分かっている」
【増田】ハンガリーはウクライナと隣接しているため、戦火を逃れてきたウクライナ難民を多く受け入れてもいますが、一方で6月末に取材に訪れた際には、ロシアによる侵略そのものに対する関心は薄れてきているような印象でした。報道も減ってきていますし、やはり関心があるのはガソリンの高騰や日々の生活など「自分たちの身の回りのこと」。取材中も、出てくるのは「オルバンはうまくやっている」という評価の声でした。
首相として5期目ともなれば、選挙を経ているとはいっても「独裁ではないか」という批判が出てもおかしくないところ、ハンガリーの少なくない人たちはむしろ「オルバンはエリートが理想を語っているのとは違う、われわれ生活者、弱者の気持ちを分かってくれている」と評価しているのです。
実際、社会福祉は充実しています。例えばアレルギーのある子供には、保育所での特別な食事も、医療費も、すべて無料になるんだそうです。もちろん批判はありますが、子育て世代が暮らしやすいような施策は打っている。4人以上の子どもを産んだ女性は、一生、所得税を免除する「生涯免除」を導入したり。抑えるところは抑えているので「うまくやっている」という評価になるのでしょう。
「消費税」は27%だが、国民の不満は聞こえず
【池上】福祉が充実している、となると税金の高さが気になりますね。
【増田】日本で言う「消費税」にあたる「付加価値税」の標準税率は27%、とこれだけ聞くと驚くのですが、穀物や小麦などを使用した製品、乳製品などは18%、牛乳、卵、鶏肉、豚肉、魚などの食品、医療品、本、飲食店での食事、インターネット接続サービス、新築住宅など特定の品物・サービスに関しては5%に軽減されています
取材中に、「税金が高くて困っている」というような不満の声は聞きませんでしたし、話題にも出ませんでした。
オルバン政権になって、経済成長が著しいことも影響しているかもしれません。2012年にはマイナスだった経済成長が、以降、約2〜5%の成長を続け、2020年はコロナで一時的に落ち込んだものの、2021年は実に7%を超える経済成長率を達成しました。
中国との深い関係が経済成長のカギ
【池上】ハンガリーの経済成長の理由はなんでしょうか。
【増田】理由の一つは、中国との関係です。この6月にも、中国パソコン大手のレノボが欧州で初めてハンガリーに設立した工場が稼働し始めました。オルバンは中国との関係を深めており、中国の名門である復旦大学のブダペストキャンパスを誘致してもいます。
しかし中国の大学は学費が高いから、結局は欧州に通う中国人学生が通うだけで、地元の人間には何の益もないのではないか、とか、あるいは当初の設立資金は中国が出してくれるけれど、結果的にはハンガリーが負担することになるのではないか、という懸念があり、現地では反対運動も起きています。
その先頭に立っているのが首都ブダペストのカラーチョニ・ゲルゲイ市長で、市内の道路に「香港自由通り」などと中国の嫌がる名前をつけて、「復旦大学・ブダペストキャンパス誘致反対」の姿勢を強く打ち出しています。ただ、政策としての中国傾斜は、オルバン首相に対する直接の批判にはつながっていません。
同性愛について話すことを禁じる“反LGBT法”
【増田】オルバン首相はほかにも、「ハンガリーという国では、多様性を認める必要はない」と言い放ちました。LGBTなど性的少数者の権利を認める必要はない、とし、男の子同士が仲良くしている場面がある絵本を販売した書店に罰金が科せられるという事態になりました。
「この本には通常とは異なる表現がある」という表示がなかったための罰金、つまり「R18指定」のような表示がないのが違反だ、という理由だったのですが、昨年6月、子どもへの教育の場などで、同性愛や性転換に関わる情報を伝えることを禁じる新法(反LGBT法)が成立したことが影響しています。とはいえ、表立ってLGBTを批判したり、反LGBT法を適用したりすることもありませんでした。
その後、反LGBT法が改正されて、こうした内容の表現物(18歳未満向け)は禁止するという内容が盛り込まれました。ハンガリーは、基本的にカトリックの教えを重んじる国柄ということもありますが、これに対しても国民から強い反対の声は上がっていません。
【池上】国際社会の多様化推進の流れに、明らかに逆行しています。7月15日、欧州委員会は、この新法が性的少数者の基本的権利を侵害しているなどとして、EU司法裁判所に提訴すると発表しています。
【増田】ハンガリーの中でも、都市部か郊外や農村部かでかなり国民の感覚も違っている面はあると思います。また、「同性間の恋愛や、体の性と心の性が違う人たちをあえて否定もしないけれど、歓迎しろと言われるとそれは違う」というくらいの感覚の方が、郊外の、特に高齢者には多いのではないでしょうか。実際、オルバン首相が再選された国民議会選挙でも、野党が勝ったのはブダペストをはじめとした都市部の地域だけでした。
また、オルバン首相は行政区画の名前を、昔の呼び名に戻そうという政策も進めています。日本でいえば、現在の都道府県を藩や「武蔵国」「越後国」といった旧国名に戻そうというような運動です。国民は「何を言い出したんだろう、首相は」とあきれているようで、「昔に戻って、オルバン自身が王宮にでも入るつもりなのか」という批判も出てはいます。
しかしこうした時代錯誤的な発言や政策が決定的な支持率の低下につながっていないのは、やはり経済成長、もっと言えば国民生活の向上に関しては実現しているからではないでしょうか。ガソリン定額制をはじめ、国民生活への目配りも重要だと改めて思います。
●ウクライナ兵の男性器をカッターで切断…拷問ビデオがネット拡散 8/2
ウクライナ政府によると、親ロシア勢力がウクライナ兵の生殖器を切断しているとみられる映像がネットで出回っており、捜査に乗り出しているという。
おぞましい動画がいくつも投稿されているのは、テレグラムの親ロシア派のチャンネルだ。男の一団が、ウクライナ軍の戦闘服を着た戦争捕虜を去勢したり、処刑したりしている様子が映っている。その男たちの1人には、親ロシアの象徴である「Z」マークが見てとれる。
約11分間の動画のなかでは、Zマークとロシアの愛国心を示すオレンジと黒のリボンを軍服につけた男が、縛られた状態の捕虜の男性器を緑色のカッターナイフで切り取っている。男がその手に着用しているのは、手術用の青い手袋のようだ。
また別の動画では、捕虜の頭部に1発の銃弾が撃ち込まれる瞬間が映し出されている。
ウクライナ大統領顧問のミハイロ・ポドリャクは、動画のなかの男たちを、拷問を楽しむロシアの「宣伝屋」だと表現。「我々は、お前たち一人ひとりを特定し、捕まえてやる」とツイートした。
現在、調査報道ジャーナリストや紛争インテリジェンスの団体、一般のSNSユーザーなどが、動画に映っている男たちを特定しようと、ネット上に出回るロシア軍の他の映像との照合に努めている。
これらの動画は1、2年前に撮影された古いもので、今になってネットに投稿されたのではないかとの見方もあるが、英調査報道機関「ベリングキャット」のアリック・トラーはその可能性を否定する。
トラーは、ひとつの動画の背景に映る車に、Zが描かれていることを指摘。Zは、ロシアによるウクライナ侵攻を支持する象徴となったマークであり、侵攻が始まる前に撮られた映像であるとは考えにくいという。
「この恐ろしい攻撃は、ウクライナ人の命と尊厳をないがしろにした、ロシア軍による所業の新たな一例である」と非難したのは、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの東欧・中央アジア担当ディレクターを務めるマリー・ストラザーズだ。
アムネスティと欧州連合(EU)はウクライナ政府の捜査を支持すると表明している。
EUのトップ外交官であるジョセップ・ボレルは、これらの動画を戦争犯罪に相当する「非人道的な蛮行だ」と糾弾。「EUは、ロシア軍とその代理勢力による残虐行為を最も強い言葉で非難する」とした。
この件に関し、ロシア政府からのコメントは出ていない。

 

●ロシア軍、南部防御へ東部から「大量」転戦か…東部住民が畑に放火し抵抗  8/3
米政策研究機関「戦争研究所」は1日、ロシア軍部隊が、ウクライナ南部の防御を支えるために、東部のドネツク州北部から移動を続けているとの分析を示した。同州の主要都市スラビャンスクで作戦を当面停止している可能性があるとも指摘した。
露軍は南部で反撃態勢を強化するウクライナ軍への対応を迫られ、東部から大量の部隊を転戦させている模様だ。英国防省は1日、兵員の転戦規模は「大量」だとの認識を示した。露軍が制圧を宣言した南東部マリウポリの市長顧問は1日、露軍が南部ザポリージャ州方面へ、大規模な車列を移動させたと投稿した。
ウクライナの州当局者は1日、やはり露軍が全域制圧を宣言した南部ヘルソン州で、これまでに46集落を奪還したと述べた。反撃はザポリージャ州でも強まっているとみられている。
高機動ロケット砲システム(HIMARS)=AP高機動ロケット砲システム(HIMARS)=AP
ウクライナの国防相は1日、SNSを通じ、米国の高機動ロケット砲システム(HIMARS)4基とドイツの多連装ロケットシステムが新たに「到着した」と投稿した。HIMARSはヘルソン州でも露側の主要補給路への攻撃に使われており、東部、南部ともに攻勢を強める見通しだ。
東部では、住民の露軍への抵抗が広がっている模様だ。マリウポリの市長顧問は1日、「(露軍の支配下に入った)穀物畑に火を放ち、軍の修理基地も延焼した」と指摘。ルハンスク州知事は7月30日、住民が鉄道の信号などの制御装置を焼き打ちし、露軍の弾薬輸送に打撃を与えたとしている。
●ウクライナ軍が南部で反転攻勢 最初の穀物船はトルコ沖合到着  8/3
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍に対し、ウクライナ軍は欧米の軍事支援も受けて南部で反転攻勢に出ていて、双方の攻防がさらに激しくなるとみられます。一方、ウクライナから出港した穀物を積んだ最初の船は、経由地のトルコ沖合に到着し、3日、積み荷などの検査を受ける予定で、農産物の輸出の継続に向けて安全の確保が焦点となっています。
ロシア軍が全域の掌握をねらうウクライナ東部では、戦況のこう着が伝えられる一方、南部では、ウクライナ軍がアメリカから供与された高機動ロケット砲システム=ハイマースなどを活用し、支配地域の奪還を目指して反転攻勢に出ています。
ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は、2日、ウクライナ軍がアメリカが供与したハイマースで攻撃を続けていると指摘したうえで「ウクライナ軍は、アメリカと事前に調整して標的を定めて攻撃している。アメリカがウクライナの紛争に直接関与している証拠だ」と主張しました。
またロシアのショイグ国防相は2日に行われた会議で、ハイマース6基を含め、欧米側がウクライナに支援した多くの兵器を破壊したと主張し「制御のないウクライナへの兵器の供与は地域の安全保障を深刻に脅かしている」と述べ、警戒感を示しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、1日「ロシア軍は東部ドネツク州からウクライナ南部の防衛拠点へ部隊の移動を続けている」として、南部でのウクライナ軍の反転攻勢に対し、ロシア軍が対応を迫られているという分析を示し、双方の攻防がさらに激しくなるとみられます。
一方、ロシア軍による封鎖で黒海に面するウクライナ南部の港から農産物の輸出が滞っている問題を巡り、トウモロコシを積んだ最初の船が1日、出港し、中東のレバノンに向かっています。
船は2日夜、経由地のトルコのイスタンブールの沖合に到着し、3日、積み荷などの検査を受ける予定となっていて、安全に目的地のレバノンまで航行できるか関心が集まっています。
農産物の輸出について、ウクライナ側はさらに16隻の船が出港に向け待機しているとしていて、南部で双方の攻防が激しくなるとみられるなか、今後も輸出を継続できるか安全の確保が焦点となっています。 
●ロシア、アメリカがウクライナの戦争に「直接関与」と非難 8/3
ロシア政府は2日、ウクライナでの戦争にアメリカが直接関与していると、初めて非難した。
ロシア国防省の報道官イーゴリ・コナシェンコフ中将は、ウクライナ軍がアメリカ製M142高機動ロケット砲システム(HIMARS)を使って攻撃する標的を、アメリカが承認していると主張した。
「ウクライナ政府が承認した、大勢の民間人の死につながったドンバスやそのほかの地域の住宅地や民間インフラ施設に対する全てのロケット攻撃の直接の責任は、バイデン政権にある」
コナシェンコフ氏は、ウクライナ政府関係者の通話を傍受し、両国のつながりが明らかになったとしている。BBCはこれを独自に検証できていない。
ロシアは以前、アメリカ政府がウクライナで「代理戦争」を行っていると非難していた。
米国防総省の報道官は、ウクライナ側に「彼らが直面する脅威を理解し、ロシアの侵略から国を守るために役立つ、詳細かつ一刻を争う情報」を提供したと述べた。
HIMARSは70キロ先にある目標に複数の精密誘導ミサイルを発射することができる多連装ロケットシステム。その射程距離はウクライナがこれまで所有していた大砲をはるかにしのぐ。
また、ロシア側の同等の兵器よりも精度が高いと考えられている。
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は4月、ウクライナに数十億ドル相当の武器を供給するというアメリカのジョー・バイデン大統領の決定をめぐり、「NATO(北大西洋条約機構)は代理国を通して実質的にロシアと戦争をしており、その代理国を武装している。戦争は戦争を意味する」と警告した。 ウクライナでの紛争をめぐり、ロシアは数々の戦争犯罪や人道に対する犯罪行為を行っていると非難されている。先週にはウクライナ政府が、ロシアによる拷問や殺害の証拠を隠滅するため、親ロシア派の分離主義者が支配するウクライナ東部ドネツク州の収容所をロシア軍が砲撃したと非難した。
BBCは、ロシア軍と治安部隊の双方がウクライナ人捕虜を拷問したり殴打したりした疑惑を記録している。
●ロシアは交渉による解決望む、ウクライナ戦争で=元独首相 8/3
ドイツのシュレーダー元首相は3日、ロシアはウクライナ戦争について交渉による解決を望んでおり、穀物輸出に関する先月の合意が事態の進展をもたらす可能性があるとの見解を示した。
ロシアのプーチン大統領と親しいシュレーダー氏はメディアとのインタビューで「穀物を巡る合意が最初の成果だった。もしかするとこれを徐々に停戦まで広げられるかもしれない」」と話した。プーチン氏とは先週モスクワで会ったと明らかにした。
ロシアが併合したクリミアのような重要問題に関する解決策は時間をかけて見いだされる可能性があると指摘。「香港のように99年もかからず、次の世代かもしれない」とした。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟の代替案として、オーストリアのような武装中立があり得ると述べた。
ウクライナ東部ドンバス地域についてはスイスの州モデルに基づく解決策を見つける必要があるとし、停戦した場合にプーチン大統領が戦前の「コンタクト・ライン」に戻るかどうかは今後分かるとした。
シュレーダー氏は、プーチン氏と今、距離を置くことは状況の改善につながらないと述べた。
●「プーチン大失敗」は、もはや自明...米英の諜報機関による「ロシアの現状分析」 8/3
長期化するロシアのウクライナ侵攻。攻防は続いており、大量の難民も生んでいる。こうした軍事的な争いは、ウクライナのゼレンスキー大統領が述べてきた通り、交渉によって終わらせるしかない。
ただロシア側の姿勢も少し変化が見られる。例えば、ロシア軍が黒海を封鎖していたことでウクライナから農産物の輸出ができなくなっていたが、ロシアは穀物の輸出を許すことで合意し、8月1日にトウモロコシを乗せた第一便が出港している。
またプーチン大統領は8月1日、核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議に書簡を送り、「核戦争に勝者はいない」として核兵器は使うべきではないと主張している。
今後の行方が注目されるウクライナ情勢だが、今回の侵攻では、当初から情報戦の激しさが指摘されてきた。そもそもアメリカの情報機関の分析によって、米政府が2021年10月には「ロシアがウクライナに侵攻しようとしている」と主張していたことに注目が集まった。
その後も、アメリカのCIA(米中央情報局)やイギリスのMI6(秘密情報部)による情報リークや、ロシアのスパイ機関であるFSB(ロシア連邦保安庁)などの情報工作などが入り混じり、この侵攻のナラティブが作り上げられてきた。
7月22日、ワシントンDCに拠点を置くシンクタンク「アスペン研究所」が米コロラド州で「アスペン安全保障フォーラム」というイベントを開催した。著名な国際政治専門家や軍事関係者だけでなく、世界各地から元首脳なども参加して、議論が行われた。中国の秦剛駐米大使も登壇している。
その中で特に興味深かったのは、CIAのウィリアム・バーンズ長官と、MI6のリチャード・ムーア長官が、それぞれイベントに登壇して、現在のウクライナ情勢の最新事情を語ったことだった。
2人とも「プーチン重病説」を一蹴
バーンズ長官は、ウクライナの情報機関とは毎日のように連絡を取り合っていると認め、ロシアは侵攻前には簡単にウクライナに勝利できると誤った認識を持っていたと話した。しかも2021年10月にプーチンと会い、その時の印象を「まだ取り返しのつかないところまで行っていない」と、プーチンとの対話の後にバイデン大統領に伝えたとも語っている。
MI6のムーア長官は、プーチンは今回の侵攻に「失敗」しただけでなく、かなり苦しい状況に自らを追い込んだと述べている。
そして両者の発言でもっとも興味深かったのは、話がプーチンの健康状態に及んだ時だった。CIA長官も、MI6長官も、口を揃えて言う。プーチンの健康状態が悪いとは聞いていない、と。これまでメディアなどで話題になってきた「プーチン重病説」などを一蹴したのである。
両者はこれから先も、ロシアが勝利するのは難しいという認識で一致しているようだ。
●ウクライナ情勢、南部ヘルソン州で緊張高まる 8/3
ウクライナ当局者は3日までに、南部ヘルソン州で緊張が高まっていると明らかにした。ロシア軍はウクライナ軍の長距離兵器の影響を避けようとすると同時に防御態勢の強化を図っているという。
同州の軍民行政府の顧問は2日、ロシア軍が徐々に、人員や大隊戦術グループ、装備をヘルソン州に移していると述べた。
同幹部によれば、ロシア軍は舟橋で道を作るなどしているほか、トラクターで民生品とともに軍装備品を移動させている。
同幹部によれば、ドニプロ川にかかる橋が2本破壊された後、カホフカ水力発電所に隣接する橋には大規模な交通渋滞が起きていた。
同幹部は、同州の人口密集地からは依然として距離はあるものの、市街戦が起こる危険性は大きいとの見方を示した。
ヘルソン州北部でも戦闘が続いている。同州の軍民行政府のトップ代行は53カ所の集落をロシア軍から解放したと明らかにした。しかし、ほとんどすべての地域が絶え間ない砲撃にさらされているという。
●首相「難局突破へ全力」 コロナ、ウクライナ情勢 8/3
岸田文雄首相(自民党総裁)は3日の党両院議員総会で、今後の政権運営について「参院選で頂いた政治の安定を難局突破のための力に変え、全力を尽くさなければならない」と強調した。直面する課題として新型コロナウイルス感染症、ウクライナ情勢、物価高騰を挙げ「戦後最大級の難局だ」と訴えた。
茂木敏充幹事長も「国民から政治の安定という力を与えてもらった。支持や期待に応えなければならない」と語った。
●ロシア「米国は紛争に直接関与」 ウクライナ支援と批判 8/3
ロシア国防省は3日までに、ウクライナ情勢を巡り「米国が紛争に直接関与している」との見方を示した。ウクライナ軍が米国から供与を受けたロケット砲を使い、米政府が提供した情報が攻撃に活用されていると主張した。ロシアは米国が「代理戦争」を行っていると指摘していたが、より強い表現でバイデン米政権の関与を批判した。
ウクライナは米国から高機動ロケット砲システム「ハイマース」の供与を受け、ロシア軍との戦闘に活用している。ウクライナ軍高官は2日付の英紙デーリー・テレグラフとのインタビューで「非常に優れた衛星画像を得ている」などと語り、ミサイル発射にあたり米英の情報当局の支援を受けていると明らかにした。
ロシア国防省は2日の声明でこの記事を取り上げ「ホワイトハウスや米国防総省の説明と異なり、米政府がウクライナでの紛争に直接関与していることを示す明確な証拠だ」と主張した。ハイマースでのロシア側への攻撃について「バイデン政権に直接の責任がある」と強調した。
ウクライナ軍高官が米英から「情報から装備までほぼすべての提供を受けている」とも指摘した。「あらゆる種類のリアルタイム情報を分単位で得ている」といい、両国の支援が侵攻するロシアへの抵抗に貢献していると説明した。
●「悲劇に目をつむらないで」ウクライナ大統領夫人が訴え  8/3
ウクライナのゼレンスキー大統領の妻、オレーナ氏は、NHKのインタビューに対して、ロシア軍の攻撃による子どもたちの犠牲が後を絶たない中、「私たちの悲劇に目をつむらないでほしい」と述べ、ウクライナへの関心を持ち続けてほしいと訴えました。
オレーナ氏は2日、NHKのインタビューに答え、初めにロシア軍による攻撃で子どもたちの犠牲が後を絶たないことを強調しました。
この中で、オレーナ氏は、障害者福祉の活動を通じて知り合った4歳のダウン症の女の子が、西部ビンニツァ州の中心部へのミサイル攻撃で死亡したことについて「今もとてもつらい。ものすごく明るくていい子だった」と述べ、自身も大きなショックを受けたとしています。
ただ、2人の子どもの母親であるオレーナ氏は「子どもたちの前では見本を示さなければならない」とも述べ、子どもたちには不安を感じさせないよう努めていると明かしました。
一方、連日の攻撃で心身に傷を負う国民が増えているとして「身体的、精神的な『人間の復興』こそが私たちの課題だ」と述べ、手足を失った人のリハビリや、精神的なケアの充実が今後の重い課題になるという認識を示しました。
また、軍事侵攻が長期化する中で、ウクライナに対する各国の「支援疲れ」が伝えられていることについて、オレーナ氏は「どんなに強い力を持つ国でも隣国を襲うことは決して許されないのだと世界に知らしめたい。どうか私たちの悲劇に目をつむらないでほしい」と述べ、ウクライナへの関心を持ち続けてほしいと訴えました。
●ロシア侵攻「人為的な核災害に」 ウクライナ、各国も非難 8/3
ロシアの軍事侵攻で脅かされるウクライナの核・原子力問題について協議する関係国会合が2日、核拡散防止条約(NPT)再検討会議に合わせ米ニューヨークの国連本部で開かれた。ウクライナのトチツキー外務次官は「欧州で人為的な核災害のリスクが高まっている」と強い危機感を表明。各国代表からはロシアを非難する声が相次いだ。
ロシア軍は欧州最大級のウクライナ南部ザポロジエ原発を3月に占拠、現在は兵士約500人が駐留しているとされる。トチツキー氏は、稼働中の原発上空をミサイルが飛び交い深刻な事態につながる恐れが生じていると懸念を示した。
●「ウクライナ侵攻めぐるいかなる疑惑についても強く否定」ロシア代表が演説 8/3
アメリカ・ニューヨークで開かれている核軍縮への道筋などについて話し合うNPT再検討会議は2日目を迎え、ロシアの代表がウクライナへの軍事侵攻を改めて正当化しました。
ロシア外務省 核不拡散担当「我々に向けられたウクライナ侵攻をめぐる、いかなる疑惑についても強く否定したい」
ロシアの代表は冒頭、「核戦争に勝者はいない」などとするプーチン大統領のメッセージを代読。そのうえで、ウクライナへの軍事侵攻について、「東部ドンバスのロシア系の人々をウクライナの民族主義者が迫害してきた」とこれまでの主張を繰り返し、正当化しました。
一方、中国の代表は日本の福島第一原発から放出する処理水を「汚染水」と表現、「国際機関などと協議すべき」としましたが、日本側は「放射性物質の濃度は基準を大きく下回っていて、汚染水ではない」と反論しました。
●プーチン氏「ノルドストリーム2でガス供給可能」、元独首相に説明 8/3
ロシアのプーチン大統領は、シュレーダー元ドイツ首相と先週会談した際、ロシアの天然ガスを欧州に送るドイツに通じる2本目のパイプライン「ノルドストリーム2」が利用できる状態にあると説明した。ペスコフ大統領報道官が3日、明らかにした。
ペスコフ氏によると、プーチン氏は会談で、欧州向けの供給は、ポーランドを経由する「ヤマル・ヨーロッパ」パイプラインがポーランドの制裁下となったことや、ウクライナが経由パイプラインを止めた影響で日量1億6700万立法メートルから3000万立法メートル程度まで減少したと語った。

 

●北海道も我が領土。プーチンを「ウクライナ侵攻」で止めなければならない訳 8/4
勃発から160日を超えるも、未だ出口の見えないウクライナ戦争。西側諸国による厳しい対ロ経済制裁も長期に及び、各国とも自国経済へのダメージが顕著となっています。「自らの生活を犠牲にしてまで制裁を続ける意義があるのか」という声も各国国民から上がっていますが、ここで制裁を緩めるべきではないとするのは、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。北野さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で今回、ロシア政府高官らの発言等を紹介しつつ、制裁によりプーチン大統領の蛮行を止めなければならない理由を解説しています。
プーチンが欲しいもの=北海道、アラスカ、ウクライナ全部
今回は、読者のYさんからのご質問にお答えします。
北野先生
いつもメルマガを楽しみにしております。読者のYと申します。ロシア制裁で世界的に経済が苦しくなっていますが、そこまでしてロシアを制裁しなければならないのでしょうか。メルマガか雑誌の投稿などで触れていただけると嬉しいです。
確かに世界経済が苦しくなっています。アメリカや欧州では、インフレ率が8〜9%まで上がっている。アメリカの実質GDP成長率は4〜6月期、前期比で0.9%減少。中国の実質GDP成長率は4〜6月期、前年同期比で0.4%増にとどまりました。中国の場合、ロシアのウクライナ侵攻とはあまり関係なく、コロナ問題(上海のロックダウンと、北京の行動制限)と不動産バブル崩壊が原因です。
一方、日本の4〜6月期の数字はまだ出ていません。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの予想では、前期比+0.8%、年率換算+3.4%だそうです。ずいぶんいい数字が期待できそうですね。
しかし、皆さんご存知のように懸念もあります。一つは、ウクライナ侵攻による、エネルギー価格、食糧価格の値上がり。それに伴うインフレ。もう一つは、新型コロナ第7波。さらに、「サル痘」で、NY州に非常事態宣言がでました。今後、「サル痘パンデミック」が起これば、2020年の悪夢が戻ってきます。
それでもロシア制裁は必要?
世界を苦しめているインフレ。ロシアによるウクライナ侵攻と、対ロシア制裁で起こっている。それで読者のYさんは、
ロシア制裁で世界的に経済が苦しくなっていますが、そこまでしてロシアを制裁しなければならないのでしょうか。
という疑問を持たれたのです。こういう疑問を持っているのは、Yさんだけではありません。ロシアへのエネルギー依存度が高い欧州、特にドイツ、フランス、イタリアなどでは、よく聞かれる意見です。
どうなのでしょうか?そもそもなぜ、ロシアに制裁しなければならないのでしょうか?ロシアが国際法を破って、主権国家ウクライナを侵略しているからです。
これに関して、ロシア擁護派もいて、「一方的にロシアだけが悪いとはいえない」などといいます。その主な理由は、
•冷戦終結時16か国だった反ロシア軍事同盟NATOが、30か国まで拡大している。これは、ロシアにとって明白な脅威である
•ウクライナ軍は、東部ルガンスク、ドネツクのロシア系住民に残虐行為をしていた、
などです。長くなるので、詳細な説明は省きます。しかし、【国際法的に】解釈の余地はありません。国際法には、【合法的戦争】と【非合法的戦争】があります。
【合法的戦争】とは、
1.自衛戦争
「攻撃されたから自衛権を行使した」
たとえば、アメリカのアフガン戦争は、こういう解釈でした。
2.国連安保理が認めた戦争
たとえば、1991年の湾岸戦争がこれに当たります。
では、ウクライナ戦争はどうでしょうか?
ウクライナはロシアを攻撃していません。だから、これは自衛戦争ではありません。国連安保理は、この戦争を認めていません。ですからロシアのウクライナ侵攻は、解釈の余地なく完全に国際法違反の侵略戦争です。この事実を否定できる人は、世界に一人もいません。これを見逃してしまうと、人類が戦後築き上げてきた世界秩序が崩壊します。
世界秩序崩壊後は、弱肉強食の世界に逆戻り
既存の世界秩序が崩壊すると、どうなるのでしょうか?
国際機関、国際法がまったく意味をなさない【弱肉強食の時代】に逆戻りします。
すると?
ロシアがルガンスク、ドネツクで止まる理由は、あるでしょうか?
ありません。
実際、ロシアは、ヘルソン州もザポリージャ州も支配しているではありませんか。ロシアがそこより先に進まないのは、「進まない」のではなく「進めない」のです。欧米から武器支援を受けているウクライナ軍が善戦している。しかし、ロシアは、「可能であれば」どこまでも先に進む可能性があります。
「北海道はロシア領」と主張
ロシア政府の高官がどんなことをいっているか見てみましょう。時事4月9日。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて日本が対ロ制裁を科す中、ロシアの政党党首が「一部の専門家によると、ロシアは北海道にすべての権利を有している」と日本への脅しとも受け止められる見解を表明した。
「北海道はロシア領」だそうです。こういう発言をしているのは、クレイジーな下っ端政治家なのでしょうか?いえいえ。
見解を表明したのは、左派政党「公正ロシア」のミロノフ党首で、1日に同党のサイトで発表された。公正ロシアは政権に従順な「体制内野党」。ミロノフ氏は2001〜11年に上院議長を務めた。(同上)
「北海道はロシア領」発言をしたのは、「元上院議長」です。いってみれば、大物政治家。そのロジックが、驚愕物です。
「どの国も望むなら隣国に領有権を要求し、正当化する有力な根拠を見いだすことができる」と明言した。(同上)
これ、わかりますか?
ロシアが、他国の領土を欲しくなった。その時、「正当化する有力な根拠を見出すことができる」というのです。
たとえば、プーチンが「北海道を手にいれたい」と思った。その時、「北海道はロシア領である」という「有力な根拠」を見出すことができる。要するに、「作り出すことができる」と。
ちなみに、ロシアが力をつけてきたら、どうやって北海道を奪うのでしょうか?小野寺まさる先生から聞いた話では、「アイヌは、ロシアの少数民族だ。ロシアの少数民族アイヌは、日本で迫害されている。だから、ロシアはロシアの少数民族アイヌを迫害から守るために、北海道に侵攻しなければならない」というロジックなのだそうです。
「ルガンスク、ドネツクのロシア系住民は、迫害されている。だから、救わなければならない」と同じようなロジックですね。
「アラスカはロシア領」との主張
次にニューズウィーク7月7日を見てみましょう。
ロシア下院のビャチェスラフ・ボロージン議長は6日、ロシアはアメリカからアラスカを取り返す権利があるとの主旨の発言をした。ボロージンはウラジーミル・プーチン大統領の側近だ。
今度は、現役下院議長の発言です。
「アラスカを(アメリカから)取り返す権利がある」そうです。
アラスカをアメリカから取り戻せと発言しているのはボロージンだけではない。下院議員のオレグ・マトベイチェフはロシア国営テレビに対し、ロシアは「アメリカなどに占有されてきた、本来ロシアの所有であるすべてのものについて、ロシア帝国のものもソ連のものも現ロシアのものも含めて」返還を求めるべきだと語った。アラスカもその中に含まれるのかと問われ、マトベイチェフはそうだと答えた。(同上)
どうでしょうか?
断言しますが、ロシア政府高官たちが、北海道やアラスカは「ロシア領」というのは、「冗談」ではありません。彼らは、心から、自分の主張の正当性を信じているのです。
では、なぜロシアは、北海道やアラスカに侵攻しないのでしょうか?「現状、そうするだけの力がないから」です。力をつけたら、必ずそうすることでしょう。
「ウクライナは地図から消える」主張
7月29日ニューズウィークを見てみましょう。
<メドベージェフがSNSに投稿した「戦後の地図」によれば、ウクライナはキーウ州を残してすべてロシアや周辺国に吸収されることになるという>
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「忠臣」として知られる、ドミトリー・メドベージェフ前大統領が、これが「戦後のウクライナ」だとして東ヨーロッパの地図をインターネット上に投稿した。そこではウクライナのかなりの部分が、ロシア連邦に吸収されていることになっている。
この地図に示されているウクライナはキーウ州のみで、ドンバス地方を含む大半の地域が、ロシアの領内に入っている。東部ドンバス地方(現在は多くの地域が親ロシア派勢力の支配下にある)のほかに、ドニプロ(ドニエプル)、スーミ、ザポリージャ、ヘルソン、チェルニヒウ、クロピヴニツキー、チェルカッスイやミコライウなどの地域も、ロシアの支配下に入り、さらにオデーサ港もロシア領として示されている。
どうですか、これ?今度は、メドベージェフ前大統領の発言です。
「ロシアは、ルガンスク、ドネツクのロシア系住民を救う」のが目標だったのでは?実際は、ウクライナのほとんどをロシア領にしたい。
メドベージェフは地図の投稿に先立ち、「現在展開されている出来事の結果として」、国家としてのウクライナは地図上から消えるかもしれないと警告していた。(同上)
なぜ対ロシア制裁が必要なのか?
どうでしょうか?元上院議長は、「北海道はロシア領」と主張。下院議長は、「アラスカはロシア領」と主張。前大統領は、「ウクライナは世界地図から消える」と主張。私たちが相手にしている国のトップは、こんな人たちなのです。繰り返しますが、この発言は、すべて事実です。
確かに、制裁の結果、日本でもインフレが深刻です。しかし、ここでプーチンを止めなければ、いったいどんな暗黒世界が現出するのでしょうか?そして何よりも、プーチンが逃げ切れれば、今度は習近平が台湾侵攻にゴーサインを出します。その時起こってくる悲惨さは、今とは比較になりません。
習近平に台湾侵攻の決断をさせないためにも、プーチンをウクライナで止める必要があるのです。
●ウクライナの穀物船再開初便、レバノンに向けボスポラス海峡通過 8/4
ウクライナの港を出たウクライナ産穀物輸出再開の最初の貨物船が、レバノンへ向かう途中でボスポラス海峡を通過した。ウクライナ戦争の開始後で初めてとなり、世界的な食糧危機の緩和に向けた第一歩となることが期待されている。
2万6527トンのトウモロコシを積んだラゾニ号は今月1日に黒海沿岸のオデーサ(オデッサ)を出港し、2日夜ボスポラス海峡の入口で停泊した。
今回の輸送はトルコと国連が先月、ロシアとウクライナの穀物と肥料の輸出に関する合意を仲介したことで可能となった。
イスタンブール近郊の「共同調整センター(JCC)」でロシア、ウクライナ、トルコ、国連の職員による検査終了後、ラゾニ号は1130GMT(日本時間20時半)ごろボスポラス海峡に入った。
ウクライナによると、さらに17隻の穀物を積んだ船が出航の承認を待っている。
駐レバノンのウクライナ大使館によると、ラゾニ号は4─5日かけてレバノンのトリポリ港に到着予定。
第1便の出港後にトルコ政府高官は匿名で、黒海の3つの港のいずれかから毎日3隻が出発する可能性があると明らかにした。以前は1隻の予定だった。
国連のステファン・デュジャリック報道官は、3日にウクライナからさらに出航することが計画されているとし、27隻程度が輸出契約の対象になっていると述べた。
●ウクライナ捕虜収容施設攻撃、国連が調査団組織へ 8/4
ウクライナ東部ドネツク州のオレニウカにある捕虜収容施設に攻撃が行われた事案を巡り、国連のグテーレス事務総長は3日、記者団に対し、事実関係を調べる調査団を組織する意向を明らかにした。捕虜収容施設への攻撃により、ウクライナの戦争捕虜50人が死亡したほか、多数が負傷した。
グテーレス氏はロシアとウクライナの双方が調査を求めていると述べた。グテーレス氏は、調査団が調査を始める前に、ロシアとウクライナが付託条項を受け入れる必要があると付け加えた。
グテーレス氏は、調査団について、犯罪捜査を行うものではないとし、国連は独立したメンバーを探しているとした。
ロシア国防省は7月30日の声明で、ロシアが国連と赤十字国際委員会(ICRC)の専門家を招待したと明らかにしていた。
しかし、ICRCはCNNに対し、現場入りが認められなかったと述べていた。
ウクライナ国防省の情報部門は、収容施設での爆発について、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が実行したと主張した。ワグネルの戦闘員は、ロシアのウクライナ侵攻に関与しているほか、アフリカや中東での紛争にも参加している。
ウクライナ国防省情報部門は裏付けとなる証拠を示しておらず、CNNはその主張について独自に検証できていない。 
●ウクライナ軍 南部ロシア側支配地域で列車攻撃など 攻防激化  8/4
ウクライナ軍は南部のロシア側が支配する地域でロシア軍の輸送列車を攻撃するなど交通や物流の重要なルートへの攻撃を強めているとみられ、双方の攻防がさらに激しくなることが予想されます。
ウクライナ軍は南部のロシア側が支配する地域の奪還を目指して、ロシア軍の輸送列車や鉄道橋など交通や物流の重要なルートを攻撃する動きを強めているとみられます。
イギリス国防省は3日「ウクライナ軍は南部ヘルソン州でロシア軍の弾薬を運ぶ列車を攻撃した。クリミア半島とヘルソンを結ぶ鉄道が稼働し続ける可能性は非常に低くなっている」と指摘しました。
そのうえで「ロシア軍は数日で鉄道を修復するとみられるが、クリミアからヘルソンへの補給路はぜい弱な状態が続く」と分析しています。
一方、ウクライナからの農作物の輸出はロシア軍による黒海の封鎖で、滞っていましたが、輸出が再開され今月1日に最初の船がトウモロコシを積んで南部オデーサを出港しました。
民間のホームページ「マリントラフィック」によりますと、日本時間の4日正午現在、船はトルコのイスタンブールから南西におよそ100キロ離れたマルマラ海を航行しています。
船は最終目的地のレバノンに向かっていて、トルコメディアによりますと、今週中にもレバノンに到着する見通しだということです。
ウクライナ南部の港では、今も農作物を載せた貨物船がおよそ20隻待機していて、安全に輸出を継続できるのかが焦点となっています。
●ソ連にだまされ送られた「悪魔の棲む町」…シベリア抑留男性 8/4
ロシアによる侵略が続くウクライナでは、市民が殺され、逃げ惑い、祖国を追われている。「ロシアのいつものやり方だ。断じて許せない」。77年前、シベリア抑留を生き延びた仙台市太白区の庄子英吾さん(95)は、自身の記憶とウクライナを重ね、ロシアの暴挙に憤る。(後藤陵平)
福祉施設の一室で生活し、ごつごつとした右手の中指1本でキーボードに触れて文字を打ち込む。声はかすれ、会話は難しいが、戦争体験を文章に残してきた。
仙台市出身。1944年冬、18歳で満州(現中国東北部)の陸軍軍官学校へ入った。翌年の8月9日、ソ連が中立条約を破って侵攻を始めると、前線に召集された。消耗した日本軍には肉弾戦しかない。爆弾を背負って戦車に体当たりする自爆訓練を続けた。8月15日にラジオで玉音放送が流れると、涙があふれた。
「トウキョウ、ダモイ(東京に帰る)」。1か月後、ソ連兵に告げられ、列車に乗り込んだ。しかし目が覚めると、故郷に向かうはずの列車は、朝日を背に西へ走っていた。「ソ連にだまされた」。着いた先は、炭鉱の町「ブカチャーチャ」。ロシア語で「悪魔の 棲す むところ」という意味だと聞かされた。
零下40度を下回る極寒の地で、森林の伐採や石炭の運搬などの強制労働が始まった。手袋をしていても凍傷になる。食事は限られ、硬い「黒パン」と雑穀のスープを分け合った。
飢え、寒さ、そして伝染病が大勢の命を奪った。発疹チフスで多い日は20人近くが死亡した。自身も感染して高熱で1週間以上、気を失った。「船が来たぞ! 国に帰るんだ!」と絶叫しながら凍死した人もいた。
意識が戻り、課せられたのは死んだ仲間の「処理」だ。凍った遺体6、7人分をまとめて縄で縛り、台車に乗せて墓地へ運ぶ。凍った土は硬い。穴を掘ることを諦め、雪をかぶせた。死を悼む気持ちはない。あるのは、「明日は我が身」という恐怖だけだった。入校時375人いた同期は、抑留中に83人が犠牲になったという。
3年間の抑留生活を終えて帰国。結婚して2人の子宝に恵まれた。だが、シベリアでの記憶は家族にも明かさなかった。
母校の仙台高校に招かれて体験を語ったのは10年前だ。ともに生還した仲間も大半が鬼籍に入り、「今語り伝えなければ、永久に消えてしまう」と焦りを覚えた。100ページに及ぶ体験記を執筆、製本して母校や知人に配った。
終戦から77年を迎える夏。ロシアによるウクライナ侵略が続く一方で、日に日に国内の報道は減ってきた。日本人が「対岸の火事だと思っているのか」と憂慮し、あの苦しい体験を死ぬまで記録し続けることにした。「二度と戦争を起こさぬ様にする為」。ゆっくりと入力した15文字に、反戦の決意を込めた。
庄子さんは、子ども向けに内容を要約した冊子を作り、希望者に無料で送付している。問い合わせは、庄子さんが入居する施設「時のかけはし」(022・226・7221)まで。

シベリア抑留 =第2次世界大戦後、ソ連全域とモンゴルの収容所に、日本兵ら計57万5000人が移送された強制抑留の総称。厚生労働省によると、5万5000人が死亡したとされる。
●ロシア・ウクライナともに関与否定の捕虜収容施設攻撃、国連が調査団設置  8/4
国連のアントニオ・グテレス事務総長は3日の記者会見で、ウクライナ東部ドネツク州の拘置施設が7月下旬に攻撃を受けて多数の死傷者が出た問題を巡り、事実関係を解明するための調査団の設置を決めたと明らかにした。ウクライナ侵略を続けるロシアと、ウクライナの双方から、調査の要請があったという。
ドネツク州オレニウカの拘置施設は親露派武装集団の支配下にあり、捕虜になったウクライナ兵らが収容されていたとみられている。ロシアとウクライナはいずれも攻撃への関与を否定し、相手側による攻撃だったと主張するなど互いに非難している。
グテレス氏は記者会見で、調査団の権限などを検討し、メンバーの人選を進めていると説明した。調査団の派遣が実現した場合、「必要な全ての施設を訪問し、必要な情報を入手できるよう期待している」と述べた。
拘置施設への攻撃を巡っては、ウクライナ国防省情報総局が3日、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の雇い兵が引火性の高い物質を使用し、建物を燃やしたとの見方を示した。
また、ロシア軍は捕虜交換に応じる意図がなかったとする報告書も公表した。露軍は、施設に収容されていたとされるウクライナの「アゾフ大隊」などの兵士を「ネオナチ」とみなし、日常的に拷問していたという。
●ASEANとの外相会議 林外相“力による一方的な現状変更認めず”  8/4
日本とASEAN=東南アジア諸国連合に加盟する国との外相会議がカンボジアで開かれ、林外務大臣はウクライナ情勢などをめぐり、いかなる地域でも力による一方的な現状変更は認められないという考えを強調しました。
3年ぶりに対面で開かれた会議は、カンボジアの首都、プノンペンで、日本時間の正午前から1時間余り行われました。
この中で林外務大臣は、新型コロナ対策で支援を継続することや、ASEANが打ち出しているインド太平洋地域に関する独自の構想「アセアン・アウトルック」を支持する考えを改めて伝えました。
そのうえで、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、国際法の明白な違反だと厳しく非難し、いかなる地域でも力による一方的な現状変更は認められず、主権と領土の一体性を尊重することが重要だと強調しました。
さらに中国の海洋進出を念頭に、東シナ海や南シナ海での力を背景とした現状変更の試みを継続・強化する動きに強く反対する考えを示したのに対し、ASEAN側からも航行や上空飛行の自由の重要性を指摘する意見が出されました。
また、林大臣はミャンマー情勢をめぐり、アウン・サン・スー・チー氏の側近だった議員らの死刑が執行されたことに深刻な憂慮を伝え、ミャンマーに対し、暴力の即時停止や拘束している人たちの解放などを改めて求めました。
そして、来年、日本とASEANの友好協力関係が50周年を迎えるのに合わせて各国の首脳を日本に招いて開く特別首脳会議で将来のビジョンを打ち出す考えを明らかにし、今後も各国と緊密に連携していくことを確認しました。
●ASEANと日中韓の外相会議 食料危機への対応などの連携を確認  8/4
ASEAN=東南アジア諸国連合と日中韓の外相会議が4日、カンボジアで開かれ、ウクライナ情勢を背景にした食料危機への対応などに連携して取り組んでいく方針を確認しました。
カンボジアの首都プノンペンでは、ASEANの一連の外相会議が開かれていて、4日、日本の林外務大臣と中国の王毅外相、それに韓国のパク・チン(朴振)外相がASEAN加盟国の外相との会議に臨みました。
冒頭、パク外相は「3か国が相違を乗り越え、地域の平和と繁栄に貢献することを望む」と述べ、連携を呼びかけました。
また、王外相はASEANに、日本、中国、韓国を加えた枠組みを念頭に「この協力の枠組みを堅持し、地域の平和と安定、発展のもとに共存するという初心と誠意は揺るがない」と述べました。
各国によりますと、会議ではウクライナ情勢を背景にした食料危機への対応などについて話し合われ、食料の増産や供給網の強化などに連携して取り組む方針を確認したということです。
一方、アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問で緊張が高まる中、会議前、林外務大臣とパク外相が談笑する一方で、王外相が2人と長くことばを交わす様子は確認できませんでした。
台湾情勢について、ASEANは、大国間の対立を懸念し、挑発的な行動を控えるよう求める一方で「一つの中国」政策を支持するとした声明を発表していて、外交筋によりますと、王外相はASEANの支持に感謝の意を伝えたということです。
●日パキスタン外相が会談 アフガン安定へ連携 8/4
カンボジアを訪問中の林芳正外相は4日午後(日本時間同)、パキスタンのブット外相と会談した。
林氏は、アフガニスタンで昨年8月にイスラム主義組織タリバンが全権を掌握した際、パキスタンが邦人らの退避に協力してくれたことに謝意を表明。両氏はアフガンの平和と安定に向けて緊密に連携していくことで一致した。
また、経済や人的交流などの分野で2国間協力を強化することを確認。ウクライナ情勢をめぐっては、林氏が「強力な対ロ制裁とウクライナ支援に引き続き取り組む」と伝え、ブット氏は「平和的な解決を望む」と語った。 
●ウクライナでの核使用「あり得ない」 ロシア ガルージン駐日大使 8/4
ロシアのガルージン駐日大使は3日、RCCの単独インタビューに応じました。ウクライナでの核兵器の使用は「あり得ない」と話しました。
ガルージン大使は、広島への原爆投下について、「77年たっても謝罪を表明する意図が全く見られない」とアメリカを批判しました。
ロシア ガルージン駐日大使「あの原爆がアメリカによる戦争犯罪だったと、わたしは思っています。広島の市民を対象にした事実上、核実験となりました」
一方、ロシアがウクライナに侵攻して以降、プーチン大統領は「主権を守る必要がある場合には使用する」と発言するなど、核兵器の使用をちらつかせています。
こうした状況に、ニューヨークで開かれているNPT(核拡散防止条約)の再検討会議では…。
国連 グテーレス事務総長「人類は広島・長崎の恐ろしい炎から得た教訓を忘れつつある」
国連のグテーレス事務総長は、ロシアの軍事侵攻などを念頭に「核の脅威は冷戦の最盛期並み」だと指摘しました。
ガルージン大使は、「ロシアが核兵器使用について言及したことはない」と反論したうえで…。
ガルージン駐日大使「ウクライナにおけるロシアによる核兵器の使用があり得ないということ、明確に広島の市民のみなさんに言っておきたいと思います」
核兵器使用の可能性を明確に否定しました。また、「『核兵器のない世界』の達成に向けて目的を共有している」とも述べました。
一方で、核兵器の保有や使用などを全面的に禁止する核兵器禁止条約については…。
ガルージン大使「核禁条約が結ばれたのは、残念ながら、それは大間違いだというふうにわれわれは思っています」
条約の誕生で「核保有国と非保有国に必要のない摩擦が生まれた」と指摘しました。
ロシア ガルージン大使「この核軍縮、核兵器の最終的な廃絶というものは、やっぱりNPT条約に従って行われるべき」
ガルージン大使は、核抑止力を維持したうえで核軍縮を進める必要性を強調し、「最終的に核兵器の全廃に向けて努力を続けていく」と述べました。
●プーチン政権から離反の元高官、欧州で入院 神経障害症状など 8/4
ロシアのプーチン政権と今年3月にたもとをわかっていた元高官が神経障害などを発症する「ギラン・バレー症候群」を患い、欧州諸国の病院に入院していることが4日までにわかった。
ロシアの著名ジャーナリストのクセニア・サプチャク氏が明らかにした。病院がある国は不明。
この元高官は環境問題に関する大統領特別代表を務めていたアナトリー・チュバイス氏。ロイター通信は2人の消息筋の情報に基づき、チュバイス氏はウクライナ侵攻が原因でロシアを出国したと伝えていた。
ロシア大統領府は今年3月、同氏の辞任を確認。国営タス通信によると、チュバイス氏は2020年4月以降、特別代表の職務に就いていた。
サプチャク氏は、接触したチュバイス氏の妻の話として、「夫の状態は不安定で、突然気分が悪くなる症状が出る。手足の感覚がなくなり始めている」と明かしたと述べた。
サプチャク氏はロシア・サンクトペテルブルク市のアナトリー・サブチャク元市長の娘で、アナトリー氏はプーチン大統領の政治的な助言者ともされる。サプチャク氏は18年のロシア大統領選の候補者で、ウクライナ侵攻を含めたプーチン氏の国政運営に批判的な姿勢を示してきた。
サプチャク氏はチュバイス氏が直接話した内容として、欧州内のクリニックの一つに入院し、「ギラン・バレー症候群と診断された。症状は中程度で安定している」とも説明した。
米疾病対策センター(CDC)によると、同症候群の発症はまれとしている。
チュバイス氏は1990年代、エリツィン元大統領の下で頭角を現していた。プーチン氏が権力を掌握後、政敵と見なした時期もあったとされ、1999年の一連の会見ではチュバイス氏が就任を打診された大統領府の職位を退けたことにも触れていた。
チュバイス氏は近年、経済改革を公の場で要求し続け、プーチン政権内に残るわずかなリベラル派の一人とも目されていた。
●「サハリン2」3日以内に新運営会社設立…ロシア政府、資産の無償譲渡命じる  8/4
ロシア政府は3日、日本企業も出資している露極東サハリンの石油・天然ガス事業「サハリン2」について、新たな運営会社を3日以内に設立することなどを定めた政令を発表した。
新会社の設立は、プーチン大統領が今年6月末に署名した大統領令に基づく。新会社にサハリン2の事業を移管し、現在の運営会社の資産を無償譲渡するよう命ずるものだ。
新会社は、現在の運営会社「サハリン・エナジー・インベストメント社」の幹部がトップに就任するという。出資している三井物産、三菱商事は、新会社設立から1か月以内に、新会社の株式取得に同意するかどうかを通知する。
●ロシア「サハリン2」新運営会社の設立決定、萩生田経産相「権益維持を続ける」 8/4
ロシア政府は3日、日本企業も出資している露極東サハリンの石油・天然ガス事業「サハリン2」について、事業を引き継ぐ新たな運営会社の設立を決定したと発表した。
発表によると、新会社は本社をサハリン州ユジノサハリンスクに置き、現在の運営会社「サハリン・エナジー・インベストメント社」の幹部がトップに就任する。決定は2日付で、3日以内に法人登録など必要な手続きを行うとしている。
ロシアのプーチン大統領は6月30日、政府がサハリン2を新会社に移管し、現在の運営会社の資産を新会社に無償譲渡するよう命じる大統領令に署名していた。ロシアはウクライナ侵略で対露制裁を科した日本などに対し、資源輸出を報復手段に活用して揺さぶりを強めている。
サハリン2の現在の運営会社には、露国営ガス会社ガスプロムが50%強、英国の石油大手シェルが27・5%弱、三井物産が12・5%、三菱商事が10%を出資する。シェルは米欧の対露制裁に同調し、撤退を決めた。
萩生田経済産業相は、日米両政府が7月29日に開いた日米経済政策協議委員会(経済版2プラス2)の初会合で、三井物産と三菱商事が保有する権益の維持を目指す方針を米側に伝えた。萩生田氏は8月4日、報道陣の取材に、「エネルギー安定供給のために極めて重要な拠点だ。(権益の)維持を続けていく」と述べた。
日本は火力発電の燃料や都市ガス向けに調達するLNG(液化天然ガス)の約9%をロシア産に依存し、大半をサハリン2が占める。政府が権益維持にこだわるのは、輸入が止まれば電気やガスの供給に支障が出る恐れがあるためだ。
商社2社が権益を維持するには、従来の出資比率で新会社の株式保有に同意することを新会社設立から1か月以内にロシア側へ通知する必要がある。その場合、ロシア側は3日以内に株式を譲渡するか判断するとしている。情勢が流動的になったことから、2社は2日、サハリン2の資産価値を計2177億円減額した。4日にはそれぞれ「日本政府やパートナーと今後について協議し、適切に対応する」などとコメントした。
●ロシアが「サハリン2」新会社設立命令 三井物産、三菱商事は対応迫られる 8/4
ロシア政府は3日、極東サハリンの石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」の事業を引き継ぐ新会社をサハリン州ユジノサハリンスクに設立することを命じる政令を公表した。ミシュスチン首相が2日付で署名した。
プーチン大統領は6月30日、サハリン2の事業主体「サハリンエナジー」社を新企業に変更し、その資産を同社に無償譲渡することを命じる大統領令に署名。
外国企業に対して設立から1カ月以内に株式譲渡に同意するかどうかロシア側に通知する必要があるとした。
日本に約600万トン、輸入量の6.7%のLNG(液化天然ガス)を供給しているサハリンエナジーには三井物産が12.5%、三菱商事が10%をそれぞれ出資しており、対応を迫られる。
日本政府は、エネルギー安全保障の観点からサハリン2を重視しており、現地で生産されるLNGの安定供給が確保できるよう官民一体で対応する方針だが、新会社に参画するための詳細な条件などが不透明なことから、ロシア側の出方を見極めたうえで今後の対応について判断する。
●スウェーデン・フィンランドのNATO加盟で何が変わるか 課題は反ロシアの程度 8/4
長く軍事的中立を守ってきたスウェーデンとフィンランドのNATOに加盟にロシアが両国への軍事施設設置を危惧しているという。北欧を中心とした欧州国際政治が専門の大島美穂・津田塾大学総合政策学部教授に聞いた。AERA 2022年8月8日号の記事を紹介する。
―――スウェーデンとフィンランドのNATO加盟で具体的に何が変わるのか。NATOの永続的な軍事基地を2国に置く可能性はあるのか。ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は、「両国に軍事施設が置かれれば相応の対抗措置を取る」と警告している。
大島美穂教授(以下、大島教授):「私は置かない方向になると見ています。1949年にノルウェー、デンマーク、アイスランドがNATOに加盟したときにも、当時のソ連はノルウェーに2回、覚書を出しています。最初は『外国の軍事基地を置くな』、次は『加盟するならソ連とも不戦条約を結べ』と。ノルウェーは『ソ連との友好関係を持ち続ける。理解してほしい』と答え、後者は拒否しましたが、返事はありませんでした。結果としてノルウェーは軍事基地を置かず、北部での軍事演習も21世紀になるまで禁じられてきました。スウェーデンもフィンランドも『ロシアが言うのだからしかたない』というエクスキューズを利用して、『置かない』という『ノルウェーフォーマット』を考えているのでは。実質はNATOに加盟しているけれども、平時においては軍事的に緩衝地帯を維持する。そんな形を模索するかもしれません」
―――加盟でロシアとの関係が悪化する懸念はないのだろうか。
「経済面で言えば、スウェーデンは輸出入の対ロシアに占める割合はわずか1〜2%。ただ、フィンランドの対ロシア輸入は12%ほどはあり、国内にあるロシア企業の支社約20社も年間約37億ユーロ(約5100億円)の売り上げがある。ロシアとの関係を完全に切るのは難しい状況です。エネルギーもロシアの天然ガスに一定割合依存している。ただ、石油輸出国であるノルウェーから石油を輸入するなどの解決策は考えられますし、経済的にロシアに完全に首根っこを押さえられているわけではありません」
「課題もあります。例えば、ノルウェーの領土だけれどもどの国も経済的にフリーにアクセスできる『スピッツベルゲン』という島。ロシア人もたくさん住んでいますが、いまロシアに対する経済政策の一環として同島のロシア人には必要物資の供給が中止され、ロシアともめています。このような過度な人権侵害は、北欧の人権外交、平和外交といったこれまでの路線とは相当ずれてくる。今後、2国がNATOに加盟してどの程度『反ロ』でいくのかは問われてきます。すべてにおいて『NATO寄り』では、さまざまな面でロシアとの遺恨や自国の行動制限が存在しかねない。非常に難しいバランスが求められると思います」
●「人為的な挑発」 ペロシ氏訪台にロシアで批判相次ぐ 中露共闘 8/4
ペロシ米下院議長の台湾訪問について、ロシアでは批判的な見方が相次いだ。ウクライナ侵攻で欧米の対露批判が高まるなか、中国との共闘を強化する姿勢を打ち出した格好だ。
ぺスコフ露大統領報道官は4日、中国軍が台湾周辺で始めた大規模な軍事演習は「中国の主権」の範囲内の行動だとした。また、台湾周辺で緊張が高まったのは「人為的な挑発」によるものだとし、「訪問はまったく必要がなく、不要な挑発だった」と評した。
タス通信のアレクサンドル・ジュジン記者は4日、香港発の論評記事で、米中間選挙が11月に迫るなかでのペロシ氏の訪問には、民主党への支援を求める内政面の狙いがあったと指摘。訪問による米中の関係悪化は「中露の戦略的パートナーシップの強化を促すものになりうる」との見方を示した。中国軍の演習は、「台湾問題の強硬な解決策のシナリオ」を誇示するものだと位置づけた。
中国の習近平国家主席は6月、プーチン露大統領との電話会談で、「主権や安全など核心的利益や重大な関心事に関わる問題」で、相互に支持することを望むと強調していた。
●独首相、ガス供給減でロシア非難 「タービン、妨げるものない」 8/4
ロシアがタービンの返却遅れを理由にドイツへの天然ガス供給を大幅に削減している問題で、ドイツのショルツ首相は3日、タービンが一時保管されている独西部ミュールハイムの工場を視察し、「(ロシアに)タービンを輸送し、設置することを妨げるものは何もない」とロシア側の対応を非難した。
ロシア国営ガス大手ガスプロムはカナダで修理中のタービンの返却が対露制裁で遅れているとして、6月半ばからドイツにつながる海底パイプライン「ノルド・ストリーム(NS)」のガス供給量を大幅に削減。カナダ政府は制裁を緩和し、修理を終えたタービンの返却を決めたが、タービンは7月中旬以降、経由地のドイツにとどまっていた。
ショルツ氏はロシア側が供給減の根拠とする技術的な理由は「すべて事実として理解できない」と指摘し、ロシア側が意図的に通関手続きを遅らせている可能性を示唆した。ロイター通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は3日、輸送を妨げているのは書類の不備だと反論した。
一方、ロシアがウクライナ侵攻を開始した後もロシア企業の幹部にとどまり批判を浴びたドイツのシュレーダー元首相(78)は、先週モスクワでプーチン露大統領と会談したと明らかにし、ロシア政府がウクライナとの戦争について「交渉による解決を望んでいる」と述べた。複数の独メディアが3日、シュレーダー氏のインタビューを公開した。
シュレーダー氏はウクライナからの穀物輸出の再開が交渉によって合意されたことを踏まえ、「徐々に停戦へと発展させられるだろう」と述べた。ロシア産ガスの供給不足については、NSと並行する新パイプライン「ノルド・ストリーム2」を稼働させれば解決するとの持論を展開した。
●プーチンに「複数の影武者」説 「耳の形、癖、身長も違う」とウクライナ当局者 8/4
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「複数の影武者を使っている」と、ウクライナの情報当局がここに来て再び主張している。明確な証拠はないものの、健康悪化説がささやかれるなかで、プーチンとして公的な場に姿を現しているのは「偽物」なのか。
ウクライナの情報機関を率いるキーロ・ブダノフ少将は8月2日、同国のニュース番組に出演し、プーチンが公的な場に姿を見せた最近の数回の映像を見ると、癖や外見ばかりか、身長まで微妙に違うことが分かると語った。
「画像を見ると、例えば耳の形が違う。耳の形は指紋のようなもので、人それぞれに異なり、同じ形をした人は2人といない」。ただ番組内では、この主張を裏付ける画像などは示されなかった。
ブダノフによれば、プーチンが重病であることはもはや公然の秘密で、公的な場に出られるような状態ではなく、表に出ることを避けて影武者を使っているという。「彼ら(プーチンの影武者たち)は習慣も癖も歩き方も違う。場合によっては、注意して見ると、身長まで違うことが分かる」
ロシア側は「重病説」を強く否定
プーチンの健康状態をめぐる憶測は以前から流れていたが、ロシア軍がウクライナに侵攻を開始した2月24日以降は、ネット上などで様々な動画とともに、さらにこの説が取り沙汰されるようになった。
手足の震えや妙にこわばった動きが見られる動画を挙げて、パーキンソン病を疑う向きもある。ロシアの独立系調査メディア「プロエクト」によると、2016年から2019年にかけてプーチンが何度か遠出をした際には、甲状腺癌専門の外科医など医師団が同行したという。
ブダノフの発言が伝えられた前日には、7月31日のロシアの海軍記念日の行事でサンクトペテルブルクを訪れたプーチンが顔の右側に飛んできた蚊を右手で追い払うのではなく、わざわざ左手で払い、その後も左手で顔や頭を掻く様子をとらえた動画を西側のメディアが公開した。
ロシア政府はプーチン重病説を一貫して否定している。ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は7月の記者会見で、ここ数カ月間噂されているプーチンの健康不安について聞かれると、「フェイクニュース以外の何物でもない」と吐き捨てた。
ウクライナ情報機関の幹部バディム・スキビツキー少将も8月1日に英紙テレグラフのインタビューでブタノフと同様の見解を述べた。
スキビツキーによると、プーチンは「心身共に健康な状態とは言えず」、側近たちは「彼の健康を危ぶんでパニックに」なり始めているという。「何人もの影武者を使っている......本物のプーチンか影武者か、容易に判別がつかないこともある」
ただ、そうした状態でもプーチンが戦争をやめることは当面期待できないと、スキビツキーは語った。
プーチンの「最大の戦略目標は一貫して変わらない」というのだ。「それは国家としてのウクライナを完全に破壊することだ。プーチンはやめないだろう。今さら変更する余地はない。ウクライナがしぶとく抵抗を続けることは、彼も分かっている。だから手段を選ばない。目標達成を妨げると見れば、何でもたたき壊す気だ」
●ウクライナ侵攻で露呈した中国の二股体質 打算で成り立つ中露の蜜月関係 8/4
中国は、ロシアによるウクライナ侵攻で、一番得をしたのか?
ジョー・バイデン米大統領も、ボリス・ジョンソン英首相も当初、「民主主義を守れ」と叫び、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を支援した。が、長期化とともに疲労が目立ち始めた。
米国民はウクライナに関心が薄く、バイデン氏の支持率はわずか36%。一方、ロシアにおけるウラジーミル・プーチン大統領の支持率は83%である。日本のメディアは英米の複写機だから、このような冷たい空気が読めず、いまも「ウクライナが正義」と誤解している。
ゼレンスキー氏は、英米のお膳立てで西側主要国の国会で演説できた。ところが、「武器をくれ、金をくれ」ばかりで、イスラエルでは猛反発を食らった。米国は、高機動ロケット砲システム「ハイマース」や、「155ミリ榴弾砲」など高性能武器を送ったが、戦果は芳しくなくロシアのしぶとさが浮上した。そのうえ、武器の横流しが懸念されている。
ロシアへの制裁に加わらなかった中国はダンピング価格で、しかも恩着せがましく石油とガスを輸入し、インド、トルコなどが続いた。
プーチン氏が弱みを見せると、中国の習近平国家主席が居丈高となり、偉そうに振る舞う。
もし、このままプーチン氏がへたると、習氏は「沿海州(=極東ロシア)を返してもらおうじゃないか。もともと、ウラジオストクは中国領だったし」などと言い出すだろう。
ピョートル大帝を敬愛するプーチン氏は沽券(こけん)にかけても中国に譲渡しない。両国の蜜月関係は打算だけで成り立っている。
まして、中国のミサイル、空母、エンジンなど多くの軍事物資はウクライナ製であり、ウクライナのエンジニアが中国に拾われて生産してきた。ロシアとしては、これも欣快(きんかい=非常にうれしく気持がいいこと)な事態ではない。
どさくさに紛れ、中国の王毅国務委員兼外相は10日間かけて南太平洋に浮かぶ島嶼(とうしょ)国家群を回り、とりわけ、ソロモン諸島と中国は安保協定を結んだため、米国とオーストラリア、ニュージーランドが慌てた。次に、ミャンマーへ足を伸ばした。
高関税、新型コロナ、ウイグル問題で、中国のサプライチェーンが寸断。孔子学院廃校、ハイテクスパイ摘発と続き、巨大経済圏構想「一帯一路」は、パキスタン、スリランカで失敗した。しかし、米ウォール街は中国投資を継続している。
長期的には、米国と英国、NATO(北大西洋条約機構)、そしてロシアの疲労を待ち、一気に国際秩序の主導権を握る耐久戦に臨んでいるのが昨今の習近平氏だと理解できる。
●ウクライナ大統領、同性間の婚姻関係認める方針を表明 8/4
ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は、結婚の平等を求めた署名嘆願に応え、同性婚の合法化に道を開く方針を明らかにした。
ネットに投稿した返答の中でゼレンスキー大統領は、同性婚を合法化するためには憲法を改正する必要があり、戦争が続く間は不可能だとしながらも、政府は人権と自由を保障する観点から、結婚と同等の権利を認める「シビルパートナーシップ」登録の合法化に関する解決策を見いだしたと説明した。
ウクライナでは戦争によってLGBTQ+(性的少数者)の従軍者が増え、結婚した市民と同等の法的保護を認めるよう求める声が強まっていた。
「ウクライナ憲法によると、結婚は女性と男性の自由な同意に基づく」。ゼレンスキー大統領は大統領府の公式サイトへの投稿でそう説明。「戒厳令あるいは非常事態が続く間はウクライナ憲法の改正はできない」としながらも、閣僚と連携して国民全員の権利と自由を保障すると強調し、「現代世界において、民主主義社会の水準は、全国民の平等な権利保障を目指す国家の政策を通じて測られる」と指摘した。
大統領はまた、署名を寄せた2万8000万人あまりの積極的な行動にも謝意を表している。
ウクライナの法律では、2万5000以上の署名が集まった嘆願については大統領が審査しなければならないと規定している。
国連は今年6月、LGBTQ+の人たちは戦争によって特に大きな影響を受けると指摘し、ウクライナのLGBTQ+難民は疎外、搾取、暴力、虐待などのリスクが高まるとしていた。
ウクライナではソ連崩壊後に同性愛が合法化されたが、反LGBTQ+的な姿勢や法律は今も残る。

 

●欧州は第二次大戦後で最も危険、ウクライナ戦争で=NATO 8/5
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は4日、ウクライナでの戦争は欧州に第二次世界大戦以降で最も危険な状況をもたらしており、ロシアの勝利を許してはならないと述べた。
その上で、ロシアの勝利を阻止するためにNATOおよびその加盟国は今後、長期にわたりウクライナに軍事支援などをし続ける必要があるかもしれないと語った。
講演で「この種の攻撃的な政策が成功しないことはわれわれの利益となる」と指摘。「ウクライナで起きていることはひどいことだが、ロシアとNATOの間で戦争が起きれば、一段と悪化する」とした。
また、ロシアの「特別軍事作戦」は現在の世界秩序に対する攻撃とし、NATOは戦争拡大を防ぐ必要があると強調。「第二次世界大戦以来、欧州で最も危険な状況だ。プーチン大統領がジョージア(グルジア)やモルドバ、ウクライナにしたようなことをNATO加盟国にすれば、NATO全体が直ちに関与することになる」とした。
●孤立したロシア軍を狙い撃つ! ウクライナ軍の「ハイマース」戦略を徹底解説 8/5
ウクライナ南部で、ウクライナ軍とロシア軍の激戦が続いている。現在のリアルな状況を元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補に解説してもらった。
「今回の戦争でドローン無人機が戦場での戦い方を激変させました。いまウクライナで両軍がやっているのは、最新の対空ミサイル網で戦闘機が上空を飛行することを不可能にし、塹壕戦で最強だった戦車や装甲戦闘車を片っ端からドローンと対戦車ミサイルで撃破するということ。結果、両軍は第一次世界大戦と同じ『砲兵戦』をやらざるをえなくなった。まずこのことを理解しないとなりません」
その砲兵戦でいま、ウクライナ軍が戦局を有利に進めている理由のひとつに、米軍から供与された、射程80kmの精密誘導ミサイルを6発装備したハイマース(高機動ロケット砲システム)の存在がある。
「いまのところハイマースは『戦略兵器』になっていますね。ウクライナ軍の使い方は上手だと思います。あのミサイルは一発2,700万円します。6発撃てば1億5000万円超が吹っ飛びますが、その価値がある戦果を出しているといえます。『精密誘導兵器』なのでロシア軍の手が届かない場所から、正確に目標を破壊しています」ハイマースの移動発射機の台数はわずか16基。1990年後半、湾岸戦争でイラクのフセイン大統領は、自国の西部から移動発射機でスカッドミサイルをイスラエルに撃ち込んだ。アラブ連合との協力が崩れようとした時、英米は最精鋭の特殊部隊をイラク西部砂漠地帯に投入し、スカッド狩りを開始、発射機を潰しまくった。 それと比較すると、ロシア軍の特殊任務部隊「スペツナズ」がウクライナ国内で暗躍することで、たった16基ごときのハイマースを潰すことはできないのか?
「ハイマースの発射場所は分かっていても、そこにロシア軍は空軍機による空爆、ミサイル攻撃が出来ないのでしょうね。ロシア軍は緒戦で、ウクライナ国内へ多方面から侵略する外線作戦を行いましたが失敗。布陣を立て直しているうちにウクライナ軍は、多方向から攻撃に対処しなければならない苦しい内戦作戦でしたが、防空ミサイルと対機甲部隊防御陣地を確立しました。まだ戦争には勝つことはできませんが、負けない態勢を作ったのです。
南部にいまロシア空軍機を入れれば全機撃墜されるじゃないですか。だから、空軍の出番が無かった第一次世界大戦の地上砲兵戦となり、射程の長く機動力優れたハイマースの有利さが際立っています」
一体、ハイマースの何が際立っているのだろうか?
「ウクライナ南部のヘルソン辺りではまず、ロシア軍の弾薬・装備集積地を徹底的に正確に叩き、そこが補給路になっている場所に架かる橋に一車線だけ大きな穴を開けて、次々と使用不能にしました」
ヘルソンを占領しているロシア軍は補給路を失って孤立している。いよいよ周辺国から供与された戦車と装甲車両の機甲部隊の突入で解放、というシナリオも浮かぶ。
「私が司令官ならば、それはやらないです。敵には補給の手立てが無く、動けない訳です。だから、手元にあるだけのMLRS多連装ロケット砲からロケット弾、155mm榴弾砲から砲弾をそこめがけて昼夜撃ち込み続ければいい。退路が無い所にわざわざ出れば、噛まれるだけです。降伏を待って砲撃を続ければ、ウクライナ軍の損害を最小限にしながら、敵戦力を撃破することができます」
理に適った恐ろしい戦い方である。
「なので、その間にウクライナ南部・ザポリージャ州の南20kmあたりにハイマースを密かに移動させ、射程80kmでザポリージャの中心地であるメリトポリのロシア軍弾薬庫、装備集積場を狙い撃ちにします」
簡単にその場所は分かるのだろうか。
「ロシア軍は自軍の塹壕、野外の弾薬集積所を作る際にパワーショベル、ブルドーザーの建築機械を使っています。その重機のキャタピラ痕がどこに入ってどこに出たか、無人ドローンから見れば一目瞭然で見つけるのは簡単です。陸上自衛隊では防御の時は、キャタピラ痕やタイヤ痕を消せと厳しく指導します。円匙(えんぴ:シャベル)とほうきで確実に消していきます」陸上自衛隊はその「証拠隠滅」を徹底しているが、ロシア軍はそれをやっていないため、ハイマースが狙いを定め、正確に着弾するのだ。
「メリトポリには打撃部隊をすぐに投入するでしょう」
ウクライナ軍のT72戦車を擁する機甲部隊の出番だ。
「最低4〜5個旅団は必要です。一気に攻撃してロシア軍戦力を潰します。その後にはその場所を解放し、土地の治安を安定させる戦力を置かなければいけませんが、ここに投入すべきが英国で新兵教育を受けた兵士ではないでしょうか」
ウクライナ軍の反撃は果たして、本当に始まっているのだろうか...?
●ロシアの格好の餌食となるイタリアの政権崩壊 8/5
イタリアのドラギ政権が崩壊した。7月14日、食料・エネルギー価格の高騰とインフレに対処するための260億ユーロの支援パッケージについて上院で投票が行われたが(下院では可決済み)、連立の一角を占める「五つ星運動」がこの投票をボイコットした――パッケージ自体は議席数321のうち172の賛成票を得て可決された。ドラギは、同日、この政権を継続する条件はもはや存在しないとして辞意を表明し、政治危機が再燃することとなった。
マッタレッラ大統領の意向を受けて、ドラギは7月20日に議会で演説し、政権継続の可能性を探り信任投票が行われたものの、「五つ星運動」、極右「同盟」、中道右派「フォルツァ・イタリア」が棄権し、結局、信任されなかった。連立政権の崩壊を受け、マッタレッラ大統領は議会を解散、9月に総選挙が行われることとなった。
ウクライナ戦争、ロシアによるガス供給停止の脅威、インフレ、コロナウイルス、あるいは政治危機を反映した国債利回りの上昇という緊迫した状況にあるので、政治空白の期間における混乱は避けられないであろう。来年度の予算編成あるいはEUの復興基金から次のディスバースを得るために必要な改革にも支障が生ずるかも知れない。
今回の政治危機の引き金を引いた「五つ星運動」は2018年3月の総選挙で最大政党として登場したが、当時の支持率33%は今や13%程度にまで低下している。18年以来4年間、政権の一角に常に位置して来たが、その間に貧困解消と格差是正を旗印とする反エスタブリッシュメントの勢いを削がれ、内部の路線対立もあって多くの離党者を出し、党勢の衰えから来る混迷の状態にある。
去る6月21日には、外相のディ・マイオ(五つ星運動)がドラギのウクライナ支持政策に反対する党首のジュゼッペ・コンテ――彼はウクライナに対する武器支援は戦争を長引かせるだけだとも主張している――は無責任で未熟であると非難して、約60人とともに党を離脱し新党(未来に向けてともに)を結成するに至った――もっとも、ディ・マイオの行動が単純に外交政策に起因するとは言い切れず、沈む船から早きに及んで逃げ出したい心理も働いたであろう。
なお、政治専門誌Politicoが報ずる7月9日時点の主要政党の支持率は次の通りである。イタリアの同胞:23%、民主党:22%、同盟:15%、五つ星運動:11%、フォルツァ・イタリア:8%。
厭戦を党利党略に
懸念すべきことの一つは、五つ星運動の党首ジュゼッペ・コンテは市民のウクライナ疲れを焚きつけることをして党勢の挽回を図ろうとしているように見えることである。ウクライナ戦争に起因する悪影響が加わって市民生活を圧迫し、国内問題に転化するに至り、呉越同舟の連立内部の動揺を誘っているが、コンテはドラギが市民生活を守るために十分なことをしていないとして諸々の要求をドラギに突きつけて来た経緯がある。
欧州に対するガス供給の停止を仄めかすロシアの狙いは、市民生活を圧迫し、市民のウクライナ疲れと厭戦気分を醸成し、更には欧州の分断を図ることにあると考えられるが、イタリアは殊に脆弱な状況にある。政治状況は既に十分脆弱であるが、市民生活の圧迫を党利党略に利用する政党があれば、状況は更に悪化するであろう。
ドラギが退陣に追い込まれ、総選挙が行われるに至った状況では、イタリアはロシアの工作の格好の対象となろう。本来は政治家ではなくフィレンツェ大学の無名の教授であったコンテ(彼は18年に五つ星運動と同盟の連立政権の首相に請われて就任以来、ドラギ政権誕生まで首相を務めた)が何故にこのような行動に出ているのか理解出来ないが、無責任の誹りを免れないであろう。
●NY原油 1バレル90ドル割り込む ウクライナへの侵攻後初めて  8/5
4日のニューヨーク原油市場では国際的な原油の先物価格がロシアによるウクライナ侵攻後初めて一時、1バレル=90ドルを割り込みました。アメリカや中国など世界的な景気減速への懸念が強まったことが背景にあります。
4日のニューヨーク原油市場では国際的な原油取り引きの指標とあるWTIの先物価格が一時、1バレル=90ドルを割り込んで1バレル=87ドル台後半まで値下がりしました。
1バレル=90ドルを割り込むのは、ことし2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻を行って以降初めてです。
背景には中国や欧米の景気が今後減速し、原油の需要が落ち込むとの見方が強まっていることが大きく影響しています。
また、3日にアメリカのエネルギー情報局が発表した原油とガソリンの在庫が増加し、供給不足への警戒が和らいだことも価格下落につながっています。
ロシアによる軍事侵攻でWTIの先物価格はことし3月初旬に一時、1バレル=130ドルを超え、世界的なインフレを加速させる要因となりました。 
●戦争とパンデミックを背景に世界の経常収支が拡大 8/5
ウクライナでの戦争により一次産品価格が上昇。世界の経常収支が今年、一段と拡大する一因となるだろう。
長引くパンデミックとロシアのウクライナ侵攻は、世界経済成長への後退につながっている。パンデミックと戦争は貿易や一次産品価格、資金の流れに影響しおり、これらすべてが経常収支の動向を変えている。
最新の対外セクター報告書(ESR)によると、世界の経常収支(全ての国の対外赤字と黒字の総額)は2年連続で拡大 している。経常収支は長年にわたり縮小した後、2020年に世界の国内総生産(GDP)の3%に拡大し、昨年はさらに3.5%へ拡大。今年も再び拡大すると予想されている。
経常収支が拡大すること自体が必ずしも悪いとは限らない。しかし、過剰な経常収支(人口動態や所得水準、潜在成長率などの各国の経済ファンダメンタルズや、改定されたIMFの手法を用いて設定した望ましい政策が変わったことによって正当化されない部分)は、貿易摩擦と保護主義的姿勢を助長する可能性がある。これは、国際的な経済協力の拡大を推し進める取り組みを後退させることとなり、通貨や資本フローが混乱するリスクを高める可能性もある。
2021年のパンデミックの影響
パンデミックによって世界の経常収支が拡大した。各国への影響の度合いは、その国が観光や医療品の輸出国か輸入国かなどによってまちまちだ。
パンデミックとそれに伴うロックダウンにより、旅行や娯楽への出費が減り、消費がサービスから商品へ移行した。赤字を抱える先進国が黒字の新興市場国からのモノの輸入を増やすにつれて、世界的な経常収支が拡大する要因となった。2021年は、この変化が米国の赤字を国内総生産(GDP)の0.4%増やし、中国の黒字をGDPの0.3%押し上げる一因となったと推定する。
中国のような黒字国は、米国などの赤字国への医療品の出荷が増えたことも黒字拡大の要因となった。輸送費の高騰も、2021年の世界の経常収支が拡大する一因だった。
2022年の戦争と金融政策の引き締め
一次産品価格は対外収支の最大の要因のひとつである。原油価格が昨年、パンデミックの安値から急上昇したことは、輸出国と輸入国に対照的な影響を与えた。2月に起きたロシアのウクライナ侵攻は 、 エネルギーと食品、その他の一次産品価格の高騰を悪化させ、一次産品輸出国の黒字を押し上げることで世界の経常収支が拡大した。
インフレ率の上昇に伴い多くの中央銀行が金融刺激策の縮小を加速しており、こうした金融政策の引き締めが通貨の動きを変えている。米国の金融引き締めのペースに対する見通しが改定されたことを受け、今年は通貨が大幅に調整され、経常収支が拡大するとの見方が広がる一因となった。
2022年の新興国市場への資本フローは、戦争に端を発したリスク回避の高まりによって混乱した。先進国における金融引き締めのペースが加速する中で、資本が一段と流出している。新興国市場からの流出額は累積で約500億ドルと非常に大きく、2020年3月の流出に匹敵する規模であるが、流出ペースは当初より遅い。
来年以降は、パンデミックと戦争の影響が和らぐにつれ、世界の経常収支が徐々に縮小するとの見通しだが、これには大きな不確実性が伴う。赤字国の財政再建に予想以上に時間がかかった場合、世界の経常収支は拡大し続ける可能性がある。さらに、ドル高により米国の経常赤字が増え、世界の経常収支が拡大することが考え得る。
経常収支を広げる可能性のある他の要因としては、戦争が長引き一次産品価格が長期にわたって高止まりすることや各中央銀行の金利上昇ペースの格差のほか 、経済の細分化やサプライチェーンの混乱、国際通貨システムの再編を引き起こす可能性のある地政学的緊張の高まりが挙げられる。
細分化された貿易システムは、貿易ブロックがどのように再構成されるかによって、世界の収支を左右する。いずれにせよ、貿易システムの細分化は技術移転を抑制し、低所得国における輸出主導型の成長の可能性を押さえ込み、グローバリゼーションによる福祉の恩恵を大きく蝕むことになろう。
政策の優先課題
ウクライナでの戦争は、インフレとの戦いと経済回復の促進、また、影響を受けた人への支援と財政バッファーの再構築など、政策当局者の既存のトレードオフを悪化させている。多国間協力は、人道危機への対処を含め、パンデミックと戦争によって出てきた政策課題に対処する上で重要である。
対外収支の均衡を取り戻すための政策は、個々の経済の状況やニーズによって異なる。米国など、巨額の財政不足を反映した妥当な水準を上回る経常赤字を抱える国では、歳入の増加と支出の減少を組み合わせて政府赤字を削減することが重要だ。
ドイツやオランダのように過剰な黒字を抱える国にとっては別の方策が良いだろう。公的および民間の投資を奨励し、過度の民間貯蓄を阻止する改革を強化することによって黒字を削減することができる。一部の新興市場においては社会的セーフティネットを拡大することで必要以上の民間貯蓄を妨げられるだろう。
●ウクライナ大統領、情勢は「地獄」 東部で苦戦 8/5
ウクライナ東部で、ロシア軍とウクライナ軍の戦闘が再び激化する様相を見せている。当局によると、ウクライナ軍は幾つかの村を一時奪還したが、ロシア軍の激しい攻撃で後退。ゼレンスキー大統領は東部情勢について「地獄だ」と述べ、ロシア軍の容赦ない砲撃に自国部隊が強い圧力にさらされていることを認めた。
ロイター通信によれば、ウクライナ軍高官は4日、ドネツク州北部スラビャンスクに近い二つの村の奪回にいったん成功したと強調した。しかし、ロシア軍の反撃で後退を強いられたと説明した。
プーチン大統領が支配を狙うドンバス地方のうち残るドネツク州の掌握をロシア軍は急いでいる。州北部で持ちこたえてきたウクライナ部隊が前線を構えた中部ドネツク市郊外の村ピスキでも攻撃を強化。ロシアのタス通信は5日、ロシア軍と親ロシア派の部隊がピスキを占領したと伝えた。
ドネツク州知事によると、州中部トレツクでは4日、公共交通機関の停留所が砲撃を受け、集まっていた8人が死亡した。タス通信は5日、スラビャンスク市とドネツク市の中間に位置するバフムート市内での戦闘発生も報じた。
戦禍が拡大する中、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは4日、報告書を公表し、ウクライナ軍がドンバス地方の学校や病院などに陣地を築き「住民を危険にさらしている」と批判した。ウクライナ政府は強く反発している。
ゼレンスキー大統領は4日夜のビデオ演説で、報告書に関し「ロシアのテロ行為に口実を与える」と強く批判。「ロシアの侵略が正当化される条件は一切ない。犠牲者と侵略者を同等と見なすような報告は容認できない」と憤りを示した。
●核兵器使用をほのめかすロシアが「新START条約」見直しにまんざらでも・・・ 8/5
国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が8月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。広島の原爆慰霊碑に献花し、ウクライナでの核兵器の使用を否定したロシアのガルージン駐日大使について解説した。
駐日ロシア大使が広島の原爆慰霊碑に献花、ウクライナでの核兵器の使用を否定
8月6日、広島は原爆の日を迎える。これを前に、ロシアのガルージン駐日大使が8月4日午前、広島市の平和記念公園を訪れ、原爆慰霊碑に献花した。ウクライナ侵略で核兵器の使用をほのめかし、ニューヨークで開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議でも批判が相次ぐなかでの訪問となった。ガルージン氏は「アメリカが行った原爆投下での犠牲者の方々を追悼するために来た」と話し、「ウクライナでの特別軍事作戦でロシアが核兵器を使うことはあり得ない」と強調した。
飯田)平和記念式典に招待されていないということがあり、事前の訪問となりました。いままさに核を使う可能性がいちばん高い国ではないでしょうか?
神保)ロシアはウクライナ侵攻の数日後に、プーチン大統領が「ロシアの戦略核部隊を特別警戒態勢に上げる」と言い、あからさまな核の脅しをNATO側にかけました。さらにロシアの軍事ドクトリンでは、紛争のエスカレーション、徐々に緊張が高まっていく中期段階で核兵器をデモンストレーション的に使うことで、「このまま紛争規模が拡大すればロシアは核を使う準備がある」ということを示し、相手の介入を阻止するという考えもあるようです。
核保有国のなかで最も核兵器を使いやすいロシアが、一方では新START条約の見直しもまんざらでもない 〜ウクライナとの戦いで核の重い問題を再認識
神保)そういう意味で言うと、おそらくロシアは核兵器保有国のなかで、最も核兵器を使いやすい国になっているのだと思います。ロシアの複雑なメッセージ、「核兵器を使う準備がある」、「世界の終わりに導くつもりか」という脅しが一方にあり、他方でNPTの再検討会議におけるロシア側の発言は比較的慎重な方向に振れています。
飯田)NPTでは。
神保)不思議な現象なのですが、ウクライナで戦争が起きているにもかかわらず、バイデン大統領側もロシア政府側も、2026年に延長しなければならない新START条約の見直しについて、まんざらでもない雰囲気なのです。私は交渉自体が成り立たないのではないかと思っていましたが、それだけ(ウクライナ情勢は)核というものが重い問題なのだと再認識する数ヵ月だったのではないかという気がします。
ハイブリッド戦略を使い、戦場の領域を変えるロシアの戦い 〜または核兵器を早期に使用して戦況を劇的に変える
飯田)ロシアの核戦略として「デモンストレーション的に使う」というのは、人がいないところや海上にまず核兵器を撃ち込んで炸裂させ、「このような状況が市街地で起きたらどうするのだ」と脅しをかけるということですよね。ロシアはそれを研究してきたらしいですね。
神保)ロシアにとって、この数十年間は、かつてのような通常戦力での西側に対する優位性をもはや担保できないと。
飯田)ソ連時代のような。
神保)現状では、通常戦力やハイテク兵器はアメリカやNATOが更新し続けて、ロシアはその更新ペースに通常戦という意味でもついていっていません。
飯田)ロシアは。
神保)1つはハイブリッド戦略を使って、戦場のドメイン(領域)を変えてしまい、そこで戦うというやり方。もしくは核兵器を比較的早期に使用することによって、オフセットと言いますが、戦況を劇的に変えていくような効果を使うというのが、いまのロシアの戦力的な考え方です。
ロシアの核戦略を学ぶ北朝鮮 〜より低出力の核兵器を、戦争しながら使うという戦略を示す
飯田)ハイブリッド戦の話が出ましたが、偽の情報を流したり、あるいは正規軍ではなさそうな部隊を投入するなど、グレーなところを全部使うようなことをやりつつ、オプションのなかに核を含めていく。そういう国が日本の目の前にあります。ロシアのやり方は、北朝鮮や中国に対しても影響があるのではないかと思うのですが、いかがですか?
神保)北朝鮮については、核兵器の有効性・効果を再認識するきっかけになったと思います。北朝鮮は核兵器の開発をいまでも続けていますが、かつてであれば「アメリカの介入を阻止するための最終兵器」、つまり「これ以上エスカレートしたら、アメリカとその同盟国に対して撃ち込める能力があるのだぞ」という形で、抑止戦略を取ろうとしていたのだと思います。
飯田)これまでは。
神保)ただここ数年は、より低出力の核兵器を、戦争しながら使うという戦略を示しています。これは非戦略核のエスカレーション抑止のための利用という見方なのですが、いろいろな形で北朝鮮もロシアの核戦略から学んでいるのだと思います。それが有効だということをアメリカに示せば、北朝鮮も現在の状況を有利に展開できるかも知れないと。
中国は2030年代には戦略核を1000発まで増やす 〜厳しい環境のなかで「どのように対応していくか」日本にとって重要な課題
神保)アメリカ国防総省の年次報告書によれば、中国は2030年代には、戦略核を1000発まで増やすかも知れないということです。核兵器をめぐる環境は、これから10年間、ますます厳しい状況になります。
飯田)これから10年間。
神保)そのなかでNPTが開かれています。岸田総理は核軍縮を進めたい、来年(2023年)のG7広島サミットに向けてしっかりと動きを起こしていきたいのだと思います。しかし、この厳しい核の環境のなかで、異なる核兵器のレイヤー別の問題にどう対応していくのか。この辺りが日本政府にとっても、岸田総理にとっても重要な考えどころだろうと思います。
緊張が高まったときの階段の真ん中が抜けている 〜中距離ミサイルの射程範囲内における抑止構造が中国に圧倒的に優位
飯田)新STARTの話が出ましたが、中距離の核ミサイルに関しては、中国は枠組みの外にいるからつくれるし、実際に持っています。米露はそれを持つことができない状態で、力の不均衡が広がっています。しかも、中距離の核は日本には届きますが、アメリカには届かないではないかと。これは日米同盟にとって、本当に穴になる可能性がありますよね。
神保)「抑止の階段」と言いますが、徐々に緊張が高まったときの階段の真ん中がすっぽり抜けているのです。最終戦争になれば、戦略核の撃ち合いで均衡しているのですが、その下にある戦域、数千キロにわたる中距離ミサイルの射程範囲内における抑止構造が、いまは中国に一方的に有利な形になっているのです。
飯田)一方的に中国が有利な形に。
神保)これをどのような形で均衡させ、バランスを保っていくのかが重要なのですが、日米から見ると我々は海の環境・空の環境です。中国の陸の環境に比べ、戦略用語で言うと重心性に欠けるのです。
「抑止の階段」の均衡をどのように保つか 〜通常戦力を含め戦略論の重要な論点
神保)新しいアセットを置くにしても、「どこに置いておくのか」、「どのように展開するのか」ということで、著しく不利な環境なわけです。どのように階段の真ん中の均衡を保つのか、いろいろな手段で考えていかなければならないというのが、いまの戦略論の重要な論点です。
飯田)それは通常戦力を含めてということですか?
神保)その通りです。「統合作戦コンセプト(Joint Warfighting Concept)」を通じて、陸・海・空・海兵隊の統合化をどう前線に持っていくのか、第一列島線のなかでどのように戦っていくのか。この辺りの議論を整地化していく必要があると思います。
●ロシア・プーチン大統領とトルコ・エルドアン大統領の会談の「最大の案件」 8/5
国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が8月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領の会談について解説した。
ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領が会談へ
トルコ大統領府の発表によると、エルドアン大統領は8月5日にロシア南部のソチを訪れ、プーチン大統領と会談する予定である。トルコと国連による仲介で、ロシアとウクライナが合意したウクライナ産穀物の海上輸送や、トルコがシリア北部で検討している軍事作戦などについて議論するとみられる。
最大の案件は穀物の輸出をめぐる問題 〜ウクライナ産の小麦が輸出できないことが世界中の穀物価格に影響
飯田)両首脳は7月19日にイランで会談したばかりです。トルコは独特の動きをしますね。
神保)両国で話し合うべき最大の案件は、穀物の輸出をめぐる問題です。ウクライナ産の小麦などの農産物は、黒海から出港して世界の市場へ出て行くのですが、それをロシアが止めていて、世界中の穀物価格に大きな影響を与え、食料安全保障という問題になっています。
ウクライナからの穀物輸出に関する合意文書に署名 〜この合意を履行させ、安全を保つことを確認し合うことが重要
神保)これを打開するために、7月にロシアとトルコで交渉が続けられ、7月22日に「120日間有効である」という合意をしました。農産物を載せた貨物船がロシア軍から攻撃を受けないようにウクライナ、ロシア、トルコが署名したのです。
飯田)120日間有効であると。
神保)また、いま黒海には機雷などが浮かんでいて、迂回して安全に航行しないと商業船は通れませんので、それをウクライナの艦艇が導きながら進む邪魔をしないということです。この合意をしっかりと履行させて、安全を保つことを確認し合うのが重要なので、トルコに「お願いします」と世界中の目線が集まっているわけです。
飯田)積み出しするオデーサ港に対して、署名したと思ったらロシア軍が攻撃したということもあり、「本当に履行できるのか」ということが注目されています。
神保)1つひとつの安全が脅かされる事態が起こると、民間商船はどうしようもないわけです。合意を履行する条件がロシア軍の各部隊に徹底されていないと安全が確保できないので、それを確認する意味も込められていると思います。
ウクライナの小麦などの穀物に依存している中東やアフリカ
飯田)食料安全保障というお話がありました。穀物価格の高騰は、中東やアフリカの国々では政情不安まで引き起こすのではないかと言われています。
神保)ウクライナ産の小麦は大きなシェアを占めていて、小麦などの穀物を輸入に依存している国々にとっては、何とかして海上のサプライチェーンを維持して欲しいと願っています。それがロシアとトルコの交渉に委ねられているため、ここは大事なポイントになりそうです。
トルコが穀物の検査をすることも重要 〜原産地と輸出形態についての証明
飯田)他方、ロシア側がウクライナ国内で占領したところから収奪した穀物を、産地を偽るような形で出そうとし、エジプトで拒否されたというニュースがありました。この辺りの安全性や正当性はどのように確保していけばいいのでしょうか?
神保)どこまで原産地と輸出形態について証明できるのか、トルコは検査をして、ボスポラス海峡から外に出していくことができます。検査体制が敵対的にならないような範囲で安全に履行することは、「どこでつくられた小麦が、どの市場へ出ていくのか」というトレーシングの視点からも重要だと思います。
いろいろなところに顔を利かせながら、安全保障を推進しているトルコ
飯田)トルコ独特の立ち位置が注目されています。ボスポラス海峡を持っていることは大きいのですね。
神保)確認しなければいけないことは、トルコはNATO加盟国であり、西側の一員としてNATOの軍事戦略を支える国だということです。NATO加盟国であるにもかかわらず、最近はS400という高性能な地対空ミサイルをロシアから輸入しています。あるいは自らのクルド問題やトルコの地政学的な環境を、ロシアとの協力によって有利にしようという外交さえ見せています。いろいろなところに顔を利かせながら、安全保障を推進している国という点で興味深いですね。
奥深い態度で多角外交を行うトルコ 〜NATOにすべてを依存してもトルコの安全保障は成り立たない
飯田)あの地域での地域覇権国になろうとしているのですか?
神保)ヨーロッパとアラブ世界の結節点にいるという環境を、最大限に利用しようとしているのだと思います。一方でトルコの周りには、コーカサスやシリアなど不安定な地域があり、安全保障上の懸念も強いのです。NATOに加盟しているからと言って、地域的な紛争要因にすべてNATOが対応できるわけではありません。トルコの言い分としては、安全保障を担保するためにも、柔軟な外交を保たなければいけないということです。ウクライナにもバイラクタルを売っていましたね。
飯田)無人機ですね。
神保)もちろんトルコは、「それはトルコ政府ではなく民間企業が売っている」と言っていますが、そんな説明は通用しません。多角外交という点で言うと、本当に奥底深い態度を取っていると思います。
飯田)何枚舌なのかという話ですよね。ロシアのミサイルシステムを入れたがために、NATO加盟国にもかかわらず、アメリカの最新鋭の戦闘機が入ってこないという事態も起こっています。
神保)アメリカ議会はトルコに関し、きわめて厳しい姿勢を取っています。対露強硬路線で、トルコに同じ目線になって欲しいと強く願っているのです。ただトルコにもさまざまな言い分があり、NATOにすべてを依存しても、トルコの安全保障は成り立つものではないということです。
飯田)トルコの立場としては。
神保)しかも強い交渉力を持ち、NATOのなかで活動しています。例えば、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟問題についても、トルコは取れるものをすべて取って認めさせたという経緯があります。
飯田)「クルドを支援するような国はNATOには入れさせない」という感じで、ギリギリまで粘りましたものね。
神保)北欧諸国は民主主義や人権に対する強い立場を示すことが大事なのですが、「NATO加盟」という戦略的な目的のためには、ある程度妥協せざるを得ない。それを導き出したのがトルコだということですよね。
日本がトルコをモデルにすることは難しいが、その強かな外交は参考になる
飯田)この交渉力は日本も学ぶべきところがありますか?
神保)トルコがモデルになるかと言うと、なかなか難しいです。トルコ自身はガバナンスの問題や人権問題を抱えている国なので、そのようなところを参考にすることにはならないと思います。ただ同盟国のなかで、どのような「テコ」を持ってアメリカや他の同盟国と付き合っていくかという点において、強かな外交でここまでできるということは参考になると思います。
●人権団体がウクライナ批判 「学校や病院に陣地」と主張 8/5
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは4日の報告書で、ロシア軍の侵攻を受けるウクライナ軍が東部ドンバス地方の学校や病院などに陣地を築き「住民を危険にさらしている」と批判した。
ウクライナ側は、住民に危害を加えているのはロシア軍だとして反発している。
ポドリャク大統領府顧問は「人権団体のような組織がロシアの宣伝戦に加担しているのは残念だ」と主張。レズニコフ国防相も「ロシアの侵略とウクライナの自衛を同一視するのは不適切」との認識を示した。
ロシア軍はウクライナ南東部の欧州最大規模のザポロジエ原発を軍事拠点化。「核の盾」に使って反撃を免れていると非難されている。
一方、東部ドネツク州のキリレンコ知事によると、同州トレツクで4日、ロシア軍の砲撃があり、公共交通機関の停留所にいた住民ら少なくとも8人が死亡、4人が負傷した。負傷者のうち3人は子供という。
キリレンコ氏は、教会や集合住宅も被害を受けたと説明。「(ロシア軍は)毎日のように民間人を攻撃し、死傷者を出している」と述べた上で、州内の住民に改めて避難を呼び掛けた。
●ウクライナ、民間人居住地域に軍事拠点 アムネスティが批判 8/5
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは4日に公表した報告書で、ロシアの侵攻を受けているウクライナの軍が、民間人居住地域に軍事拠点を設け、市民の命を危険にさらしていると批判した。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、アムネスティはロシアのウクライナ侵攻を後押ししており「責任を加害者から被害者に転嫁しようとしている」と強く反論した。
報告書によると、アムネスティ調査員はウクライナ東部と南部の最前線地域で、同国軍が住宅地に軍事拠点を設け、兵器システムを運用しているのを確認した。
アムネスティのアニェス・カラマール事務総長は「ウクライナ軍が人口密集地域で活動する際に市民を危険にさらし、戦時国際法に違反する状況を確認した」と指摘。ウクライナ政府に対し、軍を人口密集地域から離れた場所に配置するか、全ての民間人を避難させるよう求めた。
ゼレンスキー大統領は「ロシアによるウクライナ攻撃が正当化されるような条件は、決して存在しない」と強く反論。クレバ外相もアムネスティに「偽りの現実を作り出すのをやめる」よう求めた。
●渡部陽一、ウクライナ「人道回廊」で撮った衝撃の写真 8/5
ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まって5カ月が過ぎた。
収束の兆しは見えない。それどころか、制圧地域を拡大すると明言したロシア軍と応戦するウクライナ軍の間で、戦況悪化が懸念される。
現場のウクライナはどんな様子なのか。
侵攻開始以来、3度にわたりウクライナ取材を敢行した戦場カメラマン・渡部陽一氏が「1000枚の戦場」(渡辺陽一氏が撮り続けた「戦場」の写真から、戦場のリアルを伝える動画コンテンツ)の中で明かしている。
今回はその中から、軍事侵攻が始まって3ヵ月後の2022年5月、2度目のウクライナ取材後のレポートを紹介する。
10日間の滞在期間で渡部が回ったエリアは、首都キーウをはじめ、ロシア軍による虐殺が行われたというイルピン、ブチャ、ホストメルなど。
開戦時にロシア側から宣言されていた攻撃対象以上の破壊の現場を、その目で確認し、カメラに収めてきた。
一方で、ニュースなどでは伝えられていない、戦場以外のウクライナの姿にもファインダーを向けた。
悲しみの傷痕と、穏やかな日常。渡部は言う。――「影と光のウクライナが存在した」。前後編の前編となる今回は「悲しみの傷跡」とそれを残す意味について。
各国メディアが「ジェノサイド」と称したその傷痕
ウクライナを取材するなかで、侵略戦争の残虐な傷跡が“むき出し”のまま残っていたのが、イルピン、ブチャ、ホストメルという、首都キーウの近郊一帯だった。
大量虐殺犯罪を意味する「ジェノサイド」が行われたと、ウクライナのゼレンスキー大統領をはじめ、世界各国のメディアがしたのが、このエリアだ。
一帯には、空港や軍事施設だけでなく、一般市民の暮らしもあった。しかしロシア軍の容赦ない爆撃によって、家屋は燃え尽くされ、灰と化す(冒頭の写真)。
イルピンでは蜂の巣にされた一般市民の車と、それらが集められ、積み上げられていた。
これらの車への攻撃は「人道回廊」で行われたものだ、と渡部はいう。
人道回廊とは、一時的に双方が戦闘を停止するなかで、一般市民が避難するルートのこと。
「今回の戦争でも、一定期間は攻撃を停止するという約束が結ばれたんですが、実際は、動くものは攻撃され、破壊されていた。その現実がはっきりと確認できたのが“車”でした」(渡部陽一氏)
この地で多くの市民が犠牲となった。ロシア軍の残虐性が取材のなかではっきりと見えたと渡部は語る。その傷痕を証明するのがこの一枚だ。
爪痕から、ロシア軍の兵器を知り、戦争犯罪を暴く
もともとは地域の人々が気軽にお茶をしたり、お酒を飲んだりする場所。――焼け崩れたその場所には、従来の爆撃の痕跡とは異なる、最新兵器による傷痕が残っていたという。
「ここは、ブチャとホストメルのちょうど重なる地域です。攻撃によってじわじわ燃えたというよりも、兵器そのものが発する強い熱によって溶かされた、そんな状況なんですね。ロシア軍が持つ最新兵器、最前線で使われる機動性の高い兵器、それらを使った戦い方。現地入りから撤退までのスピード性。それは『ジェノサイド』と発言させるほどの壊滅的な“面”の攻撃。面で捉えて、面で殺戮を広げていく。こんな状況を、イルピン、ブチャ、ホストメル、さらにその広いエリアで確認してきました」
ホストメルとイルピンの県境地域には、瓦解された一般家屋や車両などに「V」という文字が記されている。
この地域がロシアの管理下となったこと、これ以上の攻撃は止めることを示し、勝利を表すロシア軍が残した「V」サインである。
「5月中旬の段階では、このマークは至る所にむき出しに残っていました。ウクライナではもとの暮らしに戻ろうと動き始めている場所がたくさんあります。けれども、あえて残虐な現場を残し、ロシア軍の戦争犯罪を検証しようとしています。この戦いでどんな武器が使われ、どれほどの高熱が発せられたか。ここで爆撃を受けたことによって想定される犠牲者、その広さ、使われた兵器。化学兵器が使われたのかなど、戦争犯罪を調べる上で大切な物証なんです。それらを写真や映像で残してきました」(渡部陽一氏)
●打ち砕かれたプーチンの野望。ロシアの軍事的完封に成功した欧米 8/5
2月24日の侵攻開始以来5ヶ月以上に渡り、ウクライナで侵略行為を続けるプーチン大統領。西側諸国はロシアに対して厳しい経済制裁を科していますが、エネルギー問題などで揺さぶりをかけられているEU各国が早期停戦を望んでいるとの声も聞かれます。しかし、欧州が停戦を急ぐのはエネルギー供給不安が原因ではない、とするのは立命館大学政策科学部教授で政治学者の上久保誠人さん。上久保さんは今回、EU各国に戦争を継続する意義がなくなった理由と、ウクライナの徹底抗戦と領土の回復について、日本がもっとも強く支持すべき訳を解説しています。
NATO拡大の完成により、ロシアは既に負けた
ロシアがウクライナに軍事侵攻してから5か月が経った。ロシアが、東部ドンバス地域ルガンスク州、ドネツク州の完全掌握を目指して攻勢を強めている。また、東部2州にとどまらず、南部など周辺地域の掌握も視野に入れることを表明した。さらに、東部の占領地域併合の正当化のために「住民投票」を実施する動きを本格化させるとも発表している。
ロシアは、欧米の経済制裁に対抗し、外交でも攻勢を強めている。ロシアは、中国、インド、ブラジル、南アフリカとともに新興5か国(BRICS)首脳会談を開催した。会議では、習近平中国国家主席が米欧主導の経済制裁に同調しないことをあらためて示した。
また、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、イランのイブラーヒーム・ライーシー大統領、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領の3首脳はイラン・テヘランで「第7回アスタナ和平プロセスサミット」を開催した。
シリアの最近の状況やテロ対策強化について意見交換を行うことが目的だったが、トルコが「いかなる口実の下でも東ユーフラテス地域に米軍が存在することは正当化できず、その地域から撤退すべき」と主張するなど、米国への批判を強める会談となった。
ロシアは、BRICSや中東など、欧米が弱い多国間枠組みを活用し、その背景にいる対ロ制裁に慎重な中東やアジア、南米などの国々への影響力を強化することで、欧米に対抗する思惑があると考えられる。
一方、ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まって以降、ロシアからの石油・ガスパイプラインに依存していない米英を中心に、欧米諸国は一枚岩となってロシアに経済制裁を科してきた。例えば、欧州連合(EU)は、ロシアからの石油の輸入を年内に92%減らすほか、ロシア銀行最大手のズベルバンクを国際的な資金決済網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から排除することを決めている。
その欧米諸国の間に、不協和音が生じている。ロシアが、欧州へのエネルギー供給を大幅に削減したからだ。例えば、ロシア国営エネルギー会社ガスプロムが、ドイツにつながる「ノルドストリーム1」パイプラインの流量を半分に減らし、輸送能力のわずか20%にすると発表した。そのため、今冬に欧州で深刻な天然ガス不足を引き起こす懸念が出て、欧米諸国に動揺が走っているのだ。
元々、フランスのエマニュエル・マクロン大統領やドイツのオーラフ・ショルツ独首相らは、対話によって早期の停戦を何とか進めようとする立場だ。ウクライナ戦争開戦後も、プーチン大統領、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と対話を粘り強く続けてきた。これからは、より強く停戦の仲介に動く可能性がある。
一方、ウクライナを強力に支援し、ロシアに対する経済制裁を主導してきた英国のボリス・ジョンソン首相が不祥事の責任を取って辞任を表明した。これら首脳間のパワーバランスの変化によって、今後欧米諸国の結束が乱れていく懸念がある。
ウクライナ戦争の戦況が現状のまま停戦交渉が進めば、ロシアによるウクライナ領の占領という「力による一方的な現状変更」を容認することになる。それは一見、「ロシアの勝利」を意味するように思われる。
だが、欧米は、エネルギー供給不安という負い目だけで停戦を急ぎ、「ロシアの勝利」の既成事実化を許すわけではない。むしろ、ロシアに対する勝利を確信したからこそ、エネルギー供給不安を我慢して戦争を継続する意義がなくなっているからなのである。
欧米のロシアに対する勝利を決定づけたのが、スウェーデン、フィンランドのNATO加盟決定だ。この両国は、長年NATOとロシアの間で「中立」を守ってきた。スウェーデンは、過去200年以上に渡り軍事同盟への加盟を避けており、第2次世界大戦中でさえ中立を保ってきた。一方、ロシアと1,300キロメートルに渡って国境を接しているフィンランドは、ロシアとの対立を避けるために、NATO非加盟の方針を貫いてきた。その両国が、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けて、中立政策の歴史的な転換を決定したのだ。
加盟交渉は当初、NATO加盟国の1つであるトルコが反対して難航するかと思われた。だが、あっさりとトルコは翻意した。前述のように、トルコはロシアとも密接な関係を保ってきた。ウクライナとロシアの停戦交渉の仲介役を担ったこともあった。ウクライナ戦争をめぐり、最もしたたかにふるまっている国だといえる。そのトルコが、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟を認めた背景には、米国などから相当の「実利」を得られたからだろう。
いずれにせよ、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟が正式に決定した。両国のNATO加盟は、単にNATOの勢力圏が東方拡大したという以上に、ロシアの安全保障体制に深刻な影響を与えることになる。
まず、地上において、NATO加盟国とロシアの間の国境が、現在の約1,200キロメートルから約2,500キロメートルまで2倍以上に伸びることになる。ロシアの領域警備の軍事的な負担が相当に重くなる。
海上においても、ロシア海軍の展開において極めて重要な「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になる。バルト海にNATOの海軍が展開し、ロシア海軍の活動の自由が厳しく制限されることになるのだ。
その上、EUはウクライナとモルドバを加盟候補国として承認し、ジョージアについても、一定の条件を満たせば候補国として承認する方針で合意した。正式な加盟には長い年月がかかる。だが、今後これらの国では、民主化がますます進み、経済的にEUと一体化していくことになる。
ウクライナは、ロシアによる軍事侵攻が始まった直後の2月末に、EU加盟を正式に申請し、モルドバ、ジョージアもそれに続いて加盟申請していた。つまり、ロシアの軍事侵攻という行為自体が、NATO、EUの東方拡大をさらに進める結果となり、それは旧ソ連領だった国にまで及ぶという結果となってしまったということだ。
私がこれまで何度も主張してきたことだが、そもそもウクライナ戦争が始まる前から、ユーラシア大陸における勢力争いで、ロシアは欧米にすでに敗北していた状況だった。
東西冷戦期、ドイツが東西に分裂し、「ベルリンの壁」で東西両陣営が対峙した。旧ソ連の影響圏は、「東ドイツ」まで広がっていた。しかし、東西冷戦終結後、旧共産圏の東欧諸国、旧ソ連領だった国が次々と民主化した。その結果、約30年間にわたって北大西洋要約機構(NATO)、欧州連合(EU)は東方に拡大してきた。
ベラルーシ、ウクライナなど数カ国を除き、ほとんどの旧ソ連の影響圏だった国がNATO、EU加盟国になった。ロシアの勢力圏は、東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退したのだ。
2014年のロシアによるクリミア半島占拠は、「大国ロシア」復活を強烈に印象付けたようにみえるが、実際はボクシングならば、リング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれてダウン寸前のボクサーが、かろうじて繰り出したジャブのようなものにすぎなかったのだ。
それでは、ウクライナ戦争が始まる前、「大国ロシア」が復活していたかというと、それも違う。むしろ、ロシアにとって欧米の力関係は2014年よりも深刻な状況だった。クリミア半島併合後、ウクライナでは自由民主主義への支持が高まった。NATO・EUへの加盟のプロセスも、具体的に動いてはいなかったが、実現可能性が高まっていた。
ウクライナ戦争が開戦した時、プーチン大統領は「NATOがこれ以上拡大しないという法的拘束力のある確約」「NATOがロシア国境の近くに攻撃兵器を配備しない」「1997年以降にNATOに加盟した国々からNATOが部隊や軍事機構を撤去する」の3つの要求をしていた。ロシアがいかにNATOの東方拡大によって、追い込まれていたかがわかる。
そして、ウクライナ戦争開戦から5か月が経ち、ロシアは、ウクライナ東部を占領し大攻勢に出ているというが、欧州全体の地図を眺めれば、NATOの勢力圏が拡大し、ロシアがさらに追い込まれたことがわかる。ロシアは完敗しているのである。
ウクライナ国民にとっては大変申し訳がないことだが、欧米にとって、エネルギー供給危機のリスクを取ってまで戦争をこれ以上継続する積極的な理由はない。一方、停戦が実現しても、ウクライナの領土をロシアが占領し続ける限り、経済制裁は続く。ただし、ロシア産石油ガスは制裁対象から外されるだろう。プーチン政権を一挙に倒すことはできないが、それでもジワジワと追い詰めることはできる。欧米にとっては、それで十分である。
現在、欧米諸国の結束が乱れているようにみえるが、NATOの拡大がさらに進み、ユーラシア大陸においては、ロシアを軍事的に封じ込める完勝を収めたという背景があることを、見誤ってはいけない。
「新冷戦」という言葉があるが、少なくともユーラシア大陸において「新冷戦」という状況はない。繰り返すが、欧米とロシアの勢力争いは、すでに欧米の完勝に終わっており、追い込まれたロシアが窮鼠猫を噛む的に暴れたにすぎないからだ。
「新冷戦」というものがあるとすれば、その主戦場は「北東アジア」である。中国の軍事力・経済的な急拡大によって、中国の南シナ海の支配、台湾侵攻、尖閣諸島侵攻の懸念、米中や日中の経済安全保障をめぐる対立、「一帯一路構想」をめぐる対立、それらから世界中に広がる「民主主義vs.権威主義」の対立がある。
欧米が、ロシアによるウクライナ領土の支配のままウクライナ戦争の停戦を認めてしまった場合、日本は難しい立場に陥る。「新冷戦」の前線に位置する日本は、侵略を試みる国が、「屁理屈」を弄して侵略を「正当化」する余地を、絶対に与えてはならないからだ。
例えばロシアは、「ウクライナ国内のネオナチ勢力がロシア系住民を虐殺している」と主張し、「ロシア系住民を救うためであり、侵略ではない」と軍事侵攻の「正当性」を訴えてきた。
それに日本が少しでも理解を示し、中途半端に「力による一方的な現状変更」を認めることになったらどうなるのか。日本を狙う国々が、さまざまな屁理屈を弄して日本への侵攻を決断する契機を与えることになるかもしれないのだ。
つまり、ロシアによる「力による一方的な現状変更」を絶対に認めないことは、単にウクライナ紛争に対する日本の立場を示すこと以上の意味がある。それが、日本の領土を侵し、国民の命を奪うことは絶対に認めないという姿勢を示す「安全保障政策」そのものとなっている。
繰り返すが、これから冬に向けて起こることは、欧米という勝者による、ロシアの「力による一方的な現状変更」を事実上認めた形で戦争を終結させようとする動きだ。一方、日本はウクライナ戦争の勝者ではない。日本の勢力圏が拡大したわけではない。これから領土を脅かされる懸念がある国だ。
最も強く認識すべきことは、日本は一見穏健そうな国のイメージとは違い、ウクライナの徹底抗戦と領土の回復を、米英独仏伊など、どの国よりも最も強く支持する「最強硬派」でなければならない立場だということだ。日本の置かれた厳しい現実を、日本国民がどこまで理解しているのかが問題だ。
●サハリン1、年内の株式売却禁止 プーチン氏が大統領令―ロシア 8/5
ロシアのプーチン大統領は5日、日本の官民が参画しているロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン1」に関し、「非友好国」の企業が株式売却などを行うことを今年12月31日まで禁止する大統領令に署名した。日本は「非友好国」に指定されている。タス通信が報じた。
サハリン1は、ロシア国営石油大手ロスネフチのほか、日本の官民出資会社サハリン石油ガス開発(東京)が3割の権益を保有。同社には経済産業省が50%出資し、伊藤忠商事や石油資源開発、丸紅なども出資者に名を連ねる。米石油大手エクソンモービルもサハリン1に加わっていたが、ロシアのウクライナ侵攻開始後の3月に撤退を表明した。
ウクライナ侵攻を受けて欧米エネルギー企業のロシアからの撤退が続いており、大統領令はこうした流れを封じようとした可能性がある。大統領令は「金融と燃料エネルギー分野における特別経済措置」としており、ロシアの「戦略的企業」や銀行の株式売却も禁じた。
日本政府は「情報収集中」としている。
●サハリン2、新会社設立 法人登記掲載―ロシア 8/5
ロシア極東サハリン沖の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の新たな運営会社が5日付で設立された。ロシア政府のサイトに5日、法人登記に関する情報が掲載された。参画する三井物産と三菱商事は新会社設立から1カ月以内に、従来の出資比率に応じた出資に同意するかを決める必要がある。
会社名は「サハリンスカヤ・エネルギヤ」で、サハリン州の州都ユジノサハリンスクに設立された。従来の運営会社サハリンエナジーの代表がトップを務め、事業を引き継ぐ。
●サハリン2新会社へ参画要請 三井物産と三菱商事に―萩生田経産相 8/5
萩生田光一経済産業相は5日の閣議後記者会見で、ロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」をめぐり、三井物産と三菱商事に対し、ロシアが設立する新会社への参画を要請したと明らかにした。萩生田氏は「けさ、三井物産の堀健一社長と面談し、新会社への参画を前向きに検討してほしいと伝えた」と説明。三菱商事にも事務方を通じて同様の要請を伝えた。
萩生田氏は会見で「日本の企業の権益を守り、液化天然ガス(LNG)の安定供給が守られるように官民一体で対応していきたい」と強調した。サハリン2には三井物産が12.5%、三菱商事が10%それぞれ出資している。
●「サハリン2、日本なくなる」 石油価格上限に反発―ロシア前首相 8/5
ロシアのメドベージェフ前首相は5日、先進7カ国(G7)が対ロ制裁の一環で検討しているロシア産石油の取引価格への上限設定をめぐる岸田文雄首相の発言を受け、「日本はロシアから石油もガスも得られなくなる。(ロシア極東の石油・天然ガス開発事業)『サハリン2』の参加もなくなる」と反発した。通信アプリに投稿した。
岸田首相は3日の東京都内での街頭演説で「ロシア産石油は今の半分程度の価格を上限とし、それ以上では国際社会で買わない仕組みをつくる」と述べていた。これを受け、メドベージェフ氏は「市場の石油は大幅に減り、価格もはるかに高くなるだろう」とけん制。日本はロシア産の石油やガスを得られなくなり、サハリン2の参加もなくなるとどう喝した。
一方、ロシアのプーチン大統領に影響力を持つ最側近のパトルシェフ安全保障会議書記は5日、日本が北方領土をめぐり「報復主義的な志向」を強めていると主張し、警戒感をあらわにした。極東ハバロフスクの会合での発言をタス通信が報じた。
パトルシェフ氏は極東における国境の状況に関し、「米国とその同盟国が北極圏とアジア太平洋で軍事的プレゼンスを高め、新たな軍事ブロックの創設によって日本は報復主義的な志向を強めている」と述べた。
●プーチン大統領署名 “非友好国に株式売却禁止”サハリン1含む  8/5
ロシアのプーチン大統領は5日、ロシアが非友好国と位置づける国などとの経済活動に関連した大統領令に署名しました。
ロシア国営のタス通信によりますと、大統領令は、ロシアが、アメリカや日本を含めて非友好国と位置づける国の一部の個人や団体が、ロシア企業の株式を売却することなどをことし12月31日まで禁止するとしています。
禁止の対象は、日本の伊藤忠商事や丸紅といった大手商社なども参加する形で、ロシア極東のサハリン沖で進められている石油・天然ガス開発事業「サハリン1」が含まれるとしています。
プーチン大統領は、ことし6月、日本のほかの商社が出資している「サハリン2」についても、事業主体を、新たに設立するロシア企業に変更し、その資産を新会社に無償で譲渡することを命じる大統領令に署名しています。
経済産業省 情報収集進める
経済産業省は、情報収集を進めるとともに、日本勢が権益を保有する「サハリン1」の事業への影響などを分析し、今後の対応を検討することにしています。
「サハリン1」とは
「サハリン1」は、「サハリン2」とともにロシア極東のサハリン北東沖で行われている石油と天然ガスの開発プロジェクトです。
総事業費は120億ドル、日本円で1兆6000億円を超え、アメリカ、ロシア、インド、日本が参加しています。
中心となっているのは、アメリカの石油大手「エクソンモービル」で、権益の比率は30%。
それに、ロシアの国営石油会社が20%、インドの国営石油会社が20%となっています。
日本勢は政府が50%を出資する「SODECO・サハリン石油ガス開発」に大手商社の「伊藤忠商事」と「丸紅」、それに「石油資源開発」などが参加し、この会社を通じてプロジェクトの30%の権益を保有しています。
このうち、アメリカの石油大手「エクソンモービル」は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ことし3月にプロジェクトからの撤退を表明しています。
2005年以降、3つの油田で原油の生産が行われていて、200キロ余り離れた極東ハバロフスク地方の沿岸にある出荷ターミナルまでパイプラインで輸送し、そこから日本などにタンカーで輸出しています。
今後、天然ガスも開発し、LNG=液化天然ガスを日本などへ輸出することなどが検討されています。
●プーチンがキーウ再侵攻の準備も。ベラルーシ巻き込み戦況打開を図るロシア 8/5
ウクライナ東部及び南部の完全制圧に向け一時は圧倒的優位が伝えられていたロシア軍ですが、ここに来てウクライナ軍の巻き返しが激しさを増しているようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、欧米供与の武器により大きく変わったウクライナ紛争の戦況を紹介。さらにプーチン大統領が存在する限り戦争が拡大する可能性は否定できないとし、限定的核戦争の危機も指摘しています。
ウ軍優勢に逆転した
ウクライナ情勢が大きく動き始めた。ハイマースにより、ロ軍の弾薬庫、指揮所、兵器保管庫など100ケ所以上が破壊されて、ロ軍の砲撃が止まり、ウ軍が反撃に出ている。今後を検討しよう。
ウクライナ東部での戦闘では、ロ軍は優勢ではなくなり、一部でウ軍に攻撃される事態になっている。勿論、大きな前進もない。
しかし、スラビアンスクの南に位置するバクムットには、ロシアの傭兵会社ワグナー部隊の攻撃で、火力発電所や小さな街を取られている。
ウ軍は、スラビアンスクの北に位置するイジューム方面では、パンカやヤレミカなどに進撃して、その近くの森に陣地を作り、ロ軍部隊を待ち伏せ攻撃している。イジューム方面ではロ軍は、ハイマースで弾薬庫、司令部、防空システム、駅などを破壊されて、補給ができない状況になり、ここに展開していた大隊戦術群(BTG)を南部やバクムット、ベラルーシに転戦させたようであるが、ウ軍も守備が薄いところをロ軍に攻撃されて取られているので、油断はできないようだ。
しかし、鉄道の拠点クビャンスクやボルチャンスクなどへの砲撃で鉄道による補給ができなくなっているようだ。このため、こちらからのスラビアンスク攻撃をせずに、スラビアンスクの東や南に位置するバクムットやリヒチャンスクからの攻撃に変化している。
しかし、この方面でもほとんど前進できていない。ワグナーが展開しているバクムットの一部で前進できているが、ほとんどでは攻撃を撃退されている。しかし、ワグナーの司令官の一人で、シリア、リビア、ドンバスと転戦してきたセルゲイ・コノノフが東部戦線で戦死したという。ワグナーも勇敢な攻撃をするので、戦死者が増えている。
東部は、ウ軍の偵察隊がロ軍の守備が甘い地域を見つけて、そこを攻撃しているようである。全般的には、東部は膠着した状況だ。
ドネツクでは、ロ軍の捕虜施設をハイマースで砲撃して、ウ軍捕虜が50人が死亡したが、誤爆のようである。このようなこともある。しかし、ゼレンスキー大統領はロシアによる攻撃としたので、その可能性もあるのかもだ。
ドネツク方面をハイマースで多くの個所を攻撃しているが、ロ軍は対応策を取れないので、このような行為で止めたいのかもしれない。今は、どちらがか分からない。
キーウ方面ではM270MLRSを投入して、ロシア領内ブリャンスク州のクリモビ基地を砲撃した。ベラルーシとの国境付近にロ軍とベラルーシ軍がウクライナのチェルニーヒウ州に侵攻の準備をしているので、その対応策であろう。
ロ軍の不利な状況を打開するために、再度、キーウへ侵攻を準備しているようである。ベラルーシ軍も巻き込むようで、戦線が拡大することになる。ルカシェンコ大統領もプーチンに逆らえなかったようだ。
南部ではウ軍は、反撃に出ている。ロ軍の防空システムを破壊したことで、ウ軍の戦闘機やドローンが自由に行動できるようになり、ウ軍優勢の状況になっている。これに対して、ロ軍は東部のイジューム方面から3BTGを南部に送り、南部の防衛を固めたいようである。ロ軍は現状10-13BTGをヘルソン州に展開しているが、包囲された1BTGがウ軍に既に降伏している。
また、南部ヘルソンのドニエプル川に架かるアントノフスキー橋を複数回砲撃して破壊、車両が通行できなくなった。もう1つ、ヘルソンに通じるインフレッツ川にかかるダリフスキー橋も破壊、その横にある鉄道橋も破壊して、ヘルソン市へのロ軍の補給ができにくくなっている。
このため、ロ軍は、インフレッツ川に船橋を複数設置したが、ドニエプル川の川幅が広く、船橋が構築できないので、フェリーで補給を行うようだが、ヘルソン市への十分な補給ができない。
そして、ヘルソン市近郊でウ軍は、ロ軍の防衛線を突破して市街地から10km地点まで到達したが、ここからヘルソンの市内の検問所や弾薬庫、兵舎などをパルチザンや砲撃、ドローンで破壊して、市内ロ軍を弾薬欠乏状態にするようである。市内ではパルチザンが市民にヘルソン市内から退避するようにと宣伝している。
ヘルソン市内への攻撃をいつ、ウ軍が始めてもおかしくない状況である。しかし、このこともあって、ウ軍も情報統制が厳しく、事態はよくわからない。
ヘルソン州の中部ロゾベでも、ウ軍はインフレッツ川に船橋を掛け、ロシア占領地に橋頭保を築き、その地に大量の部隊を展開しているが、この部隊でどうするのかも情報統制で分からない。どちらにしても、ヘルソン州全体で攻撃をウ軍は行うようである。
ザポリージャ方面でも、ウ軍が前進しているが、ロ軍の攻撃はまだない。このため、徐々に前進中である。この方面のロ軍はいないのであろうか、非常に手薄になっている。このままであると、メルトポリまで進軍できる可能性がある。そして、マリウポリである。
全体的にウ軍が押している状態であり、このため、ラブロフ外相は、ウクライナ全土に攻撃を拡大するというし、事実、ベラルーシ国境に多数のロ軍とベラルーシ軍がいる。
そして、ウクライナ全体を解放すると言うし、キーウ近郊や中部の都市を巡航ミサイルで攻撃して、市民を多数死亡させている。しかし、ウ軍の軍事施設などに攻撃できていない。
徐々にロ軍の巡航ミサイルの迎撃もできてきている。今後米国から新規の防空システムも届き、防空性能も上がるはずである。
一方、ロシアのグロナス位置衛星は、2006年以降更新できずに、位置精度がでないし、ロシアの精密な偵察衛星もないのであろう。ウクライナ国内の軍事施設などが見えないようだ。ロ軍は、模型飛行機レベルのオルラン10無人機しかないが、イランからドローンを供給されるようであり、このドローンがどのような物か、そのうちわかるのであろう。
また、ロシアは民間航空機の修理もイランで行うことで合意した。イランがロシア経済制裁の抜け道になってきた。イランの武器も多数、ロシアに提供されるのであろう。イランとロシアは本格的な同盟関係になったようである。
しかし、現状では、ロ軍戦死者数は4万人を超え、ロ軍の限界にきている。正規軍15万人、予備兵9万人、地方軍4万人、チェチェン軍1万人で、総兵力は30万人程度であり、負傷兵などを含めると12万から16万人程度が既に戦線離脱している。軍総兵力の約半分である。これでは兵員不足になる。民間軍事会社の手も借りるしかない。
このため、ロ軍は、東部か南部かの選択をするべき時期に来たようである。しかし、ここでキーウ方面に戦線拡大を行う可能性が出てきた。ロ軍の負けが見えてきたので、それを逆転させる手に出てきたようである。
キーウで新政権を樹立させて、停戦させたいのであろう。政権内の親ロ派がロ軍侵攻と同時にクーデターを行うのであろうか?疑問。
そして、攻勢にあるウ軍には、フェニックスゴーストが580機も供与される。このドローンの使用方法が不明であるが、5,000キロ上空を24時間以上も偵察できるドローンをウクライナの副首相が西側諸国に供与を要請していたが、この要請に米国は応えたようである。
ということで、「見えない不死身」という名前が示すように、偵察ドローンであり、ロ軍のレーダーでも捕捉できないのであろう。このドローンの目的はハイマースの標的の発見であり、米衛星で見つけた候補を低い位置で長時間監視して、標的かどうかを見極めるためのドローンである。このドローンで発見しハイマースやM270MLRSで叩くことで、ウ軍有利になってきたのだ。
対抗処置としては、ロ軍は偽装工作をする必要があるが、その工作ができていないようであり、現時点では正確に目標を見極めることができている。
このようにロ軍が負け始めたことで、プーチンは、欧州への天然ガスの供給を80%も削減して、ドイツやイタリアなどでエネルギー不足を起こし、ロシアへの譲歩で停戦を引き出したいようだ。欧州はロシア産天然ガスに55%も依存していたので、この大部分がなくなる。
ドイツは今まで、ロシアからの天然ガス供給維持のために、ウ軍への武器供与を控えていたが、ロシアが天然ガス供給を大部分止めたことで、一気に武器供与を積極的に行い始めた。
ロシアは、現状での停戦を主張しているが、ウクライナは2月24日以前の状態での停戦と、停戦条件で折り合わない。ウクライナを停戦に持ち込ませるには、ウ軍へ最新鋭の武器を供与し、自国領土を取り返すことが重要になってきた。積極的な武器供与で、短期に戦争を終わらせる方向に欧米諸国は一致して行動を開始したようである。
7月29日の米ロ外相会談で、ブリンケン米国務長官は、ロシアで拘束されている米国人の解放や、ウクライナ産穀物の海上輸送再開に向けた合意の履行を要求した。また、ロ側がウクライナでの支配地域併合の「計画を進めれば、さらなる重大な代償を払うことになる」と警告した。この代償というのが、ATACMSでの攻撃なのであろうとみる。
ということで、米国も、ハイマースに搭載できる300キロ以上の射程があるATACMSの供与を行う方向で検討しているが、秘密裏に数本の提供をしたとも見える。これを使い、クリミア大橋(ケルチ大橋)の攻撃を計画するのであろう。ロ軍とベ軍がキーウ方面への侵攻を開始した時点で、攻撃に出る可能性がある。
そして、ドイツは天然ガスの代替で原発や石炭火力など稼働して、今年の冬を乗り切る計画である。
一方、ウクライナと同じようなロシア衛星国は、ロシアの侵略に身構えることになり、カザフスタンは、脱ロシアになり、ウクライナを支援する。ポーランドはポーランドの持つ232両の全P-91S戦車をウ軍に供与して、韓国から大量の戦車を輸入することにした。
ウクライナの食糧輸出では、オデーサ港にロ軍が執拗にミサイル攻撃を行うので、NATO軍とトルコなどが、黒海で合同演習を行い、ロ軍が航路妨害などをした場合の対応を行うようである。ロ海軍の動きを封鎖するようで、特にキロ級潜水艦を標的にしている。
しかし、一歩、核戦争に近づいたような気もする。ロシアのプーチンがいなくなるまで、戦争を拡大する可能性も否定できない。
第2次大戦後の秩序維持ルールが大きく試される事態になり、世界は核戦争への覚悟を必要とし始めた。限定的核戦争にはなる気がする。
ということで、日月神示とヨハネの黙示録の時代である。
さあ、どうなりますか?

 

●ウクライナからの穀物輸出、さらに3隻が出航 露・トルコは首脳会談 8/6
ロシアが侵攻したウクライナで穀物輸出が滞留していた問題で、ロイター通信は5日、新たに貨物船3隻がウクライナの港を出航したと伝えた。3隻は南部オデッサやチョルノモルスクを出発し、アイルランドや英国などに計5万8千トンのトウモロコシを運ぶ。
ウクライナでは1日、穀物を積んだ貨物船の第1便が出航して輸出が再開されており、これで計4隻となる。ロシアとウクライナに加え、仲介役のトルコと国連の4者がトルコ・イスタンブールに設置した「合同調整センター」の担当者が積み荷を検査した後、黒海を出て地中海に向かう。
一方、プーチン露大統領とトルコのエルドアン大統領は5日、露南部ソチで会談した。2人は7月19日、イランで同国のライシ大統領を交えて会談したばかり。ロシアは欧米の対露制裁に同調しないトルコとの関係を重視している。
タス通信によると、プーチン氏はウクライナとともにロシアの穀物輸出の正常化にも尽力したとして、エルドアン氏に謝意を示した。エルドアン氏は露企業がトルコ南部アックユで建設中の原子力発電所など、エネルギー協力についての協議に意欲を示した。
両首脳は会談で軍事技術協力の方策も話し合った可能性がある。ぺスコフ露大統領報道官は会談に先立ち、ロシアとトルコのドローン(無人機)共同生産について協議するかは明らかにしなかったが、トルコがウクライナに供与した無人機はロシアとの戦闘で効果を挙げているとされる。
●プーチン大統領 トルコ・エルドアン大統領と会談 8/6
ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領が会談し、関係強化をアピールしました。
会談は5日にロシア南部のソチで行われ、プーチン大統領は冒頭で、黒海からのウクライナの穀物輸出を巡って「問題が解決した」とトルコの協力に感謝を述べました。
それに対し、エルドアン大統領は「両国の関係の新しいページが開かれる可能性がある」と応じました。
プーチン大統領はNATO(北大西洋条約機構)の加盟国でありながら、ロシア寄りの姿勢も見せるトルコとの関係を重視しているとみられます。
●「サハリン1、2」めぐるロシア政府 一連の動き 対抗措置か  8/6
日本の大手商社も出資するロシア極東の石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」をめぐり、ロシア政府は5日、事業を引き継ぐ新たなロシア企業を設立しました。さらに、プーチン大統領は、「サハリン1」をめぐっても非友好国と位置づける国の企業などがロシア企業の株式を売却することなどを禁止する大統領令に署名し、ロシアに対して制裁を科す欧米や日本への対抗措置とみられます。
ロシア政府は5日、石油・天然ガスの開発プロジェクト「サハリン2」をめぐり、これまでの運営会社から事業を引き継ぐ新たなロシア企業「サハリンスカヤ・エネルギヤ」を設置したと発表しました。
プーチン大統領はことし6月、「サハリン2」の事業主体を、新たに設立するロシア企業に変更することなどを命じる大統領令に署名し、株主は、新会社の設立から1か月以内に、株式の譲渡に同意するかどうかロシア側に通知する必要があるとしていました。
日本の大手商社、三井物産と三菱商事もそれぞれ出資していることから日本側は、対応を迫られることになります。
さらに、プーチン大統領は5日、大統領令に署名し、ロシアがアメリカや日本を含めて非友好国と位置づける国の企業などが、ロシア企業の株式を売却することなどをことし12月31日まで禁止するとしました。
対象は、伊藤忠商事や丸紅なども参加する形でサハリン沖で進められている石油・天然ガス開発事業「サハリン1」も含まれるとしています。
サハリン1をめぐっては、アメリカの大手石油会社エクソンモービルが撤退を表明するなか、ロシア側としては非友好国とする企業のさらなる撤退などを防ぐ思惑もあるとみられます。
サハリン1、2を巡る一連の動きは、ロシアに対して制裁を科す欧米や日本などへの対抗措置とみられます。
外国企業撤退に危機感か
「サハリン1」は、アメリカの石油大手、エクソンモービルやロシアの国営石油会社、ロスネフチなどが参加する形で進められていますが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、ことし3月、エクソンモービルは、プロジェクトからの撤退を表明しています。
これに関連してロスネフチは、4日発表した声明で、エクソンモービルがほかの参加企業と合意することなく一方的に活動を停止し始めたと主張した上で、サハリン1の生産活動は5月15日以降、事実上、止まっていると明らかにしました。
そして、「サハリン1の生産活動の再開に向けてロシア政府などの関係者と努力しているものの、見通しは立っていない」としています。
ロシア極東の大統領全権代表を務めるトルトネフ副首相は先月、サハリン州の来年の歳入は、ことしに比べて最大で26%減少するだろうとして、外国企業の撤退や制裁の影響を受けて、エネルギー開発に支えられてきたサハリン州や、極東地域全体の経済に大きな影響が出るおそれがあると危機感を示しました。
プーチン大統領が、非友好国と位置づける国の企業などが、ロシア企業の株式を売却することなどを禁止するとした背景にはこうした事情があるとみられます。
●「サハリン2」事業引き継ぐロシアの新会社が設立 プーチン氏が大統領令 8/6
日本も出資するロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」をめぐり、事業を引き継ぐロシアの新会社が設立されました。
新たな会社の名称は「サハリンスカヤ・エネルギヤ」で、サハリン州の州都ユジノサハリンスクに5日付で設立されました。
「サハリン2」をめぐっては、プーチン大統領が6月に運営主体をロシアの新会社に変更することを命じる大統領令に署名。出資する日本の大手商社、三井物産と三菱商事は新会社設立から1か月以内に新会社への出資継続に同意するかどうかをロシア側に通知する必要があります。
一方、プーチン大統領は5日、日本の官民が参加する「サハリン1」を含む「戦略的企業」について、日本など「非友好国」の企業が株式の売却を行うことを今年12月31日まで禁じる大統領令に署名しました。
「サハリン1」は日本の「サハリン石油ガス開発」が権益の30%を保有していて、日本政府のほか伊藤忠商事や丸紅などが出資しています。
●プーチン大統領 “ロシア産の穀物も制裁に妨げられず輸出を”  8/6
ロシアのプーチン大統領は、トルコのエルドアン大統領と会談し、ウクライナの港からの穀物の輸出継続に向けて協力する姿勢を示す一方、ロシア産の穀物や肥料についても欧米の制裁に妨げられずに輸出される必要があると強調しました。
ロシアのプーチン大統領は5日、ロシア南部のソチを訪れたトルコのエルドアン大統領と会談しました。
ウクライナでは、ロシア軍による封鎖で黒海に面する南部の港から農産物の輸出が滞っていますが、先月、トルコと国連の仲介によって輸出再開で合意しました。
会談の冒頭、プーチン大統領は「ウクライナからの穀物輸出は、あなたと国連事務総長の仲介で解決され供給が始まった」と述べ、謝意を示しました。
会談後、ロシア大統領府が発表した共同声明でも、ウクライナ産の穀物の輸出継続に向けて協力する姿勢を示す一方、ロシアからの穀物と肥料の輸出についても妨げられないようにする必要があると強調していて、欧米側の制裁をけん制した形です。
ウクライナ南部の港からは、今月1日、穀物を積んだ最初の船が出港したのに続き、5日には新たに3隻の船が出発していて、今後の継続的な穀物輸出につなげられるかが課題となっています。
一方、ウクライナの戦況では、南部を中心にウクライナ軍も反撃していて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は4日「ウクライナが戦略の主導権を握り、ロシア軍はウクライナ軍の反撃に対応して戦力の再配置などを余儀なくされているようだ。ウクライナが初めて積極的に戦況をつくることを可能にしているとみられる」と指摘しました。
具体的には、ロシア軍は掌握を目指してきた東部ドネツク州で、ウクライナ側の拠点、スロビャンシクなどの攻略を断念したとみられる一方で、ウクライナ軍が反撃を続ける南部ヘルソン州や南東部ザポリージャ州を防衛するため、部隊や装備の移転を進めているとしています。
また、ロシアが一方的に併合した南部クリミアについてもロシア軍は大砲や航空機などを再配備していると指摘し、欧米からの兵器を活用したウクライナ軍の反撃への対応に追われている可能性が出ています。
●ロのウクライナ侵攻で世界4千万人が食料不足に=米国連大使 8/6
米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は5日、ロシアのウクライナ侵攻によって4000万人が食料不足に陥り、サハラ以南のアフリカが最も大きな打撃を受けると指摘した。
主要7カ国首脳会議(G7サミット)で食料安全保障のために45億ドルを支援することで合意し、うち米国は27億6000万ドルを拠出している。
トーマスグリーンフィールド氏は、米国がアフリカに対して新たに1億5000万ドルの人道的開発援助を拠出する計画もあり、議会の承認を待っていることも明らかにした。アフリカの人々は冷戦が繰り返される中で「どちらかの側につくように圧力をかけられるのを望んでいない」ものの、事実を知る必要があるとした。
また、 エネルギーや気候変動、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)、紛争が世界の食料供給問題の根本的原因である一方、「飢餓の最も陰湿な原因」は「戦争の武器として使われること」だと指摘した。
ウクライナ戦争について「ロシアが外交的な解決策を受け入れるという兆候は全く見られない」との見解も示した。
●ガス供給で自らの首を絞めたプーチン、ロシア国益を大きく毀損 8/6
プロローグ 世界の耳目を驚かすプーチン大統領
今年2022年6月、ロシアでは世界の耳目を驚かすビジネス関連事件が2件、唐突に続発しました。ロシア(露)からバルト海経由ドイツ向け天然ガス海底パイプライン(以後、P/L)輸送量が唐突に削減されました。理由は、露ガスプロムが修理に出した「ノルト・ストリーム1(以後、NS1)」用ガスタービンが戻ってこないというロシア側説明です。露V.プーチン大統領(69歳)は6月30日、大統領令416号に署名。サハリン島北東部沖合のオホーツク海にて原油・天然ガスを探鉱・開発・生産している「サハリン-2プロジェクト」に対し、事業会社「サハリン・エナジー社」の権益を、今後新規に設立されるロシア法人に無償譲渡させる内容です。この大統領令により、サハリンから日本向けLNG(液化天然ガス)供給契約に黄信号が灯りました。上記大統領令を受け、ロシア政府は8月2日、政令1369号を発令。この新規ロシア法人は、サハリン州の州都ユージノ・サハリンスク(旧豊原)に設立されることになると発表されました。ただし、具体的にいつ設立されるのかは現時点では不明です。世界の耳目を驚かせた、東西2つの事件の本質は同根です。この点を指摘している日系マスコミは皆無で、とてもおかしな解説記事も流れています。雑誌『選択』(2022年8月号)「サハリン2 謀略の真相」のように、間違いだらけの記事も流れています。本稿では、ロシアによるこの2つの暴挙を概観することにより、≪問題の本質は何か≫を考察したいと思います。
今、何が起こっているのか、問題の本質は?
結論を先に書きます。ロシアは天然ガスを政治の道具に使いました。これが今起こっている問題の本質です。ガスタービン問題とNS1の天然ガス輸送量減少・停止は、直接の物理的関係はありません。露大統領令416号によるLNG対日供給問題と、三井・三菱の権益問題も直接の関係はありません。この問題を理解するためには、ソ連邦崩壊直後の新生ロシア連邦の混乱した経済の姿を知ることが必要です。ソ連邦崩壊のカギを理解するためには、過去の油価動静を概観する必要があります。なぜ、雑誌『選択』記事が間違いだらけなのかを理解するためには、PSA(生産物分与契約)とは何かと、過去のガス価格動静を理解する必要があります。ゆえに本稿では、過去の油価・ガス価格動静、ガスタービン問題とは何か、露大統領令416号とは何か、政令1369号とは何かを概観したいと思います。なお、LNG専門家から種々有益な情報をいただきましたが、本稿はすべて筆者の文責であることを明記しておきます。
露大統領令416号と露政令1369号
最初に、2022年6月30日付け露大統領令416号と8月2日付け露政令1369号を概観します。V.プーチン大統領は2022年6月30日、ロシア極東サハリン州にて石油・天然ガスの探鉱・開発・生産・輸送プロジェクトを運営する事業会社「サハリン・エナジー投資会社」(Sakhalin Energy Investment Company Ltd./以後、サハリン・エナジー社)に対し、ロシアの新会社に資産移管を命令する大統領令416号に署名しました。サハリン島(旧樺太)北東部沖合のオホーツク海では現在、外資が参画する2つの石油・ガス開発プロジェクトが同時進行中です。1つ目は「サハリン-1プロジェクト(以後、S-1)」、2つ目は三井物産・三菱商事が権益参加しているサハリン-2(同S-2)にて、今回の大統領令416号はサハリン-2に関する大統領令です。本稿では、今回の大統領令が何を意味するのか、およびS-2プロジェクトの現況と今後の対日LNG供給契約の行方を考察します。
今回の2022年6月30日付けロシア大統領令416号の要点は以下の通りです。
サハリン・エナジー社の全権益・義務を今後設立されるロシア法人に移管する。
新ロシア法人設立後1カ月以内に、外資権益参加者は参加継続・非参加を通知する。
外資が撤退する場合、権益は新規ロシア法人に譲渡される。譲渡権益は補償されるが、評価額は露側が決める。補償される金額はタイプC(ルーブル口座)に支払われる。
新規に設立されるロシア法人にS-2プロジェクトに権益参加している三井・三菱が引き続き権益参加するかどうか日本で話題になっていますが、実は権益維持と対日LNG供給は直接の関係はありません。換言すれば、三井・三菱が権益維持すれば対日LNG供給が維持されると考えるのは幻想にすぎません。理由は簡単です。LNG輸出は事業会社サハリン・エナジーが担当しています。LNG供給契約は同社とLNG購入者との契約であり、サハリン・エナジーの株主はLNG売買契約の直接当事者ではありません。日本のLNG輸入業者は、今後ロシアに設立されるロシア法人と売買契約を締結することになります。もちろん、サハリン・エナジーの権益はそのまま新ロシア法人に無償譲渡されることになっているので、LNG売買契約も新ロシア法人に移管されます。しかし、本当に既存売買契約が遵守されるのかどうかは不透明であり、むしろ遵守されないと考える方が現実的です。上記より、法的にはS-2事業に権益参加する三井・三菱の事業継続・撤退問題と、サハリン・エナジーと日本のLNG輸入者間のLNG売買契約とは別物であり、直接の関係はないことが判明します。もちろん、日本企業が権益参加していれば、日本向けLNG輸出が優先される点は論を俟ちません。露政府は8月2日、政令1369号を発令しました。この政令によれば、S-2事業会社「サハリン・エナジー」の権益を譲渡される新ロシア法人はサハリン州の州都ユージノ・サハリンスク(旧豊原)に設立されることになりますが、いつ設立されるのかは不明です。この原稿を書いている8月4日現在では、まだ設立されたことは確認されておりません。サハリン・エナジーの正式名称は「Sakhalin Energy Investment Company Ltd.」 ですが、今後新規に設立されることになる新ロシア法人の名称は有限責任会社「サハリンスカヤ・エネルギア」になる由。何のことはない、英文名称がロシア語に変わっただけで、ロシア側も芸がないですね。
大いなる幻想
英シェルはロシアの石油・ガス事業から全面撤退決定済みです。シェルが抜ければ、S-2LNG事業は破綻必至です。天然ガス生産量は徐々に低下して、早晩LNG工場も稼働不能になるでしょう。岸田首相は「S-2権益を維持する」と決意表明していますが、三井・三菱が権益維持する・しないとLNG対日供給が保障されるかどうかは、上記の通り直接の関係はありません。日本は国際P/Lがないので、天然ガスは全量、LNGの形で輸入しています。ちなみに、2021年のLNG輸入量の約9%(6.6百万トン)がロシア産LNGであり、そのうち約6百万トンがサハリン産LNGです。S-2LNG生産量は年間約10百万トンなので、生産量の約6割が日本向けになっていることになります。付言すれば、露Novatek社がオーナーとなっている既存の北極圏ヤマル半島ヤマルLNGも、対岸のグィダン半島に建設中のArctic LNG 2プロジェクトも、仏トタール社が全面撤退すればLNG事業継続は不可能になるでしょう。2022年6月16日付け露コメルサント紙によれば、Arctic LNG 2プロジェクトは既に9割完成しており、残すは動力源の米ベーカーヒューズGE製タービン(モデル名LM9000)を据え付けるのみとなっている由。ところが欧米による対露経済制裁措置を受け、米BHGEはArctic LNG2 用ガスタービン供給を拒否したので、物理的にLNG工場が完成しても、動力(エンジン)がなくて工場は稼働しないことになります。露コメルサント紙報道が事実であれば、グィダン半島のArctic LNG 2プロジェクトは既に実質破綻状態に陥っていることになります。仮に既存のヤマルLNGが崩壊して、建設中のArctic LNG 2が稼働しないともなれば、オーナー会社の露Novatek社倒産も視野に入ってくるのかもしれません。この点を指摘している日系マスコミ報道は皆無です。単に知らないのか、あるいは知っていても恐ろしくて報道できないのか、そのどちらかではないでしょうか。
欧米による対露経済制裁措置は効果大
欧米による対露経済制裁措置強化は効果大です。露ウラル原油は既にバレル$70を割っています。ウラル原油が$60以下になれば露国庫財政は大幅赤字となり、戦争どころではなくなるでしょう。8月3日付け独FAZ(フランクフルター・アルゲマイネ紙)によれば、7月下旬に訪莫してプーチン大統領と面談した独シュレーダー元首相は「クレムリンは停戦交渉を望んでいる。プーチン大統領はノルト・ストリーム2で対独ガス供給可能と言っている」と、会談内容を明らかにしました。これはプーチン大統領の本音であり、それだけプーチン大統領は苦境に陥っていることを意味しているのではないでしょうか。露ウラル原油はバナナの叩き売り状態になり、油価は2022年の国家予算案想定油価$62.2に迫りつつあり、既に戦費で国家予算は赤字。露ガスプロムの2021年の株主配当金1.2兆ルーブルを全額国庫に没収して、かろうじて戦費を賄っている状態です。露国民福祉基金資産残高も急減しています。本来ならば戦費に流用できないのです。しかし、法律を改訂して戦費にも流用できるようにしてしまいました。「欧米による対露経済制裁は効果ない」と書いたり・話したりしている評論家もいますが、現実は正反対です。効果大であり、早晩、目に見える形で表面化するでしょう。最近、ロシアの統計にアクセス困難・不能になってきたのですが、上記がアクセス困難の背景と筆者は愚考しております。
露ウラル原油/油価推移 (2021年1月〜22年7月)
現在の世界最大の産油国・産ガス国は米国であり、米国は石油(原油+石油製品)とガスの純輸出国です。米国は2018年から天然ガスの純輸出国に、2020年から石油の純輸出国になりました。原油の性状(比重や硫黄分含有量等)は採取される油田鉱区毎に異なり、油価に反映されます。ロシアの代表的油種ウラル原油は西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレント原油で、中質・サワー原油(同1.5%程度)です。ウラル原油は英語ではURALsと複数形のsが付きます。NYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)に2006年10月、ブランド名REBCO(Russian Export Blend Crude Oil)で登録されました。ちなみに、日本が輸入しているロシア産原油はS-1ソーコル(鷹)原油・S-2サハリンブレンド・ESPO原油の3種類です。すべて軽質・スウィート原油で、日本はウラル原油を輸入しておりません。2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ全面侵攻を受け急騰した油価は、その後急落。7月25〜29日の週間平均油価は北海ブレント$109.28/bbl(スポット価格)、米WTI $99.60(同)、露ウラル原油(露黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)$68.66になりました。北海ブレントと露ウラル原油の価格差は、品質差により従来はバレル$3〜4程度でしたが、この値差が10倍以上に拡大。露ウラル原油はバナナの叩き売り状態となりました。これは露ウラル原油が欧米市場から敬遠されていることを示唆しています。ウラル原油のみならず、ロシア産石油製品の欧米向け輸出量も減少。安くなった露ウラル原油を中国と印度が追加購入しています。ウラル原油はサワー原油ゆえ、製油所脱硫装置の能力が隘路になっていますが、インドの石油会社はウラル原油を安く輸入して自社で精製、軽油と重油を国際価格で輸出して莫大な利益を得ています。これは一種のオイル・ロンダリングとも言えましょう。
ガス価格動静(1992年〜22年7月)
油価推移の次に、ソ連邦崩壊直後の1992年から2022年7月までのガス価格推移を概観します。旧ソ連邦西シベリアから西欧向けには、天然ガスP/Lで天然ガスを輸出していました。旧ソ連邦は早くからメートル法を採用しており、輸出価格は天然ガス千立米当たりいくら(xxドル)で契約していました。一方、欧米メジャーは、液体としてのLNG価格をカロリー単位で設定しており、LNGビジネスの世界では、mmBtu(百万英国熱量単位)当たりいくら(xxドル)で価格を設定します。では、天然ガス価格を概観します。天然ガス価格は市場により大きく異なります。最初のグラフはソ連邦が崩壊して、新生ロシア連邦が誕生してからの10年間のガス価格推移、2番目のグラフは2019年1月から2022年7月までのガス価格で、資料出所は共に世界銀行統計資料です。上記2つのガス価格推移グラフより、1990年代前半の欧州ガス価格は$2台/mmBtuであり、2021年後半から、特に欧州ガス市場で天然ガス価格が急騰していることが分かります。この欧州市場における1990年代前半のガス価格推移は、当時のサハリン-2 PSA(生産物分与契約)交渉過程で重要な論点になっていましたので、上記グラフにご留意くださいませ。ご参考までに、千立米とmmBtuの換算率はどの程度かと申せば、カロリー単位で換算すれば、mmBtu価格を約36倍すると、千立米あたりの天然ガス価格になります(もちろん概算です)。
ノルト・ストリーム1用ガスタービン修理問題
天然ガスは気体としてパイプライン(P/L)輸送される天然ガスと、液化して液体(液化天然ガス/LNG)として輸出する2つの輸送方法があります。ちなみに、天然ガスP/Lにはコンプレッサーステーション、石油(原油・石油製品)P/Lにはポンプステーションが必要です。気体としての天然ガスをP/L輸送する方法は、圧縮して送圧します。この送圧基地がコンプレッサーステーション(以後、CS)です。一方、液体としての液化天然ガス(LNG)はLNGタンカーで輸送します。現在話題になっているNS1のコンプレッサーステーションとタービンを概観します。コンプレッサーステーションとは、コンプレッサー(圧縮機)とその動力源 (タービン) のセットです。旧ソ連邦の時代、西シベリアから西独向け天然ガスP/Lの送圧は75気圧(P/L口径56インチ)にて、P/L用大径鋼管の材質は75気圧に耐えられる鋼種でした。送圧を上げると、輸送能力が向上します。当初75気圧でしたが、その後100気圧となり、今では露国内でも一部120気圧送圧になっています。陸上P/Lの場合、数百km毎にCSを建設して、リレー方式で天然ガスを輸送します。しかし海底P/Lの場合、途中でCSを建設することはできないので、出荷基地から超高圧で受取基地まで一気に送圧します。露ヴィボルク出荷基地(起点)からバルト海経由独グライフスヴァルト(終点)までの天然ガス海底P/L NS1は全長約1220kmあり、P/L口径48インチ、年間輸送能力は27.5bcm。2本建設・稼働しており、年間輸送能力は計55bcmです(bcm=10億立米)。NS1出荷基地における送圧は約220気圧で、受取基地で約100気圧程度になります。超高圧のため、起点のヴイボルク出荷基地には8基のCSが据え付けられており、うち1〜2基は予備として、他のCSが保守点検・定期修理の際、順番に稼働して、出荷基地全体としての送圧(=輸送量)が落ちないようしています。石油(原油と石油製品)P/Lも天然ガスP/Lも毎年必ず、保守点検・定期修理のため1〜2週間ほど停止します。しかし、顧客(輸入者)に迷惑をかけないために供給者(輸出者)は事前に通告して、代替路を用意します。備蓄タンクから供給する場合もあります。上記の通り、過去長年にわたり、何の問題もなく天然ガスはドイツに供給されてきました。今年6月、露ガスプロムは突然、修理に出したNS1用タービンが戻ってこないことを理由にドイツ向け天然ガス供給量を削減。7月11日には全面停止、21日に40%操業で再開、27日には20%操業と目まぐるしく輸送量を変えています。現在論点となっているNS1のタービンは、英ロールスロイス(RR)製ジェットエンジン(モデル名Trent 60)を独シーメンス(Siemens)が地上型に改造したSGT-A65(能力65MW)です。独シーメンスはこのビジネスから既に撤退したので、タービン修理はRRしかできません。ですから、対象タービンはカナダRRに送られて修理中でした。本日8月4日現在、修理済みタービンはドイツに保管されており、まだ露ガスプロムの出荷基地に送られていません。タービン返却問題で物理的に輸送能力が減少したり、突然ゼロになったり、またタービンが戻ってこないのに供給再開したりということは物理的にはあり得ないことです。では、なぜこのようなことになっているのかと申せば、露ガスプロムは天然ガスP/L輸出を政治の道具に使っているということです。もちろん、プーチン大統領の意向・指示であることは論を俟ちません。換言すれば、欧米による対露経済制裁措置強化は効果大であり、ロシアはそれだけ困っているということになります。このP/L政治利用によるブーメラン効果は、中長期的にはロシア経済に致命的な悪影響を与えることでしょう。
ノルト・ストリーム2(NS2)完工
ここでご参考までに、上記のNS1に並行して建設された海底P/Lノルト・ストリーム2(以後、NS2)を概観します。NS2は、露ウスチ・ルガ(起点)から独ルプミン基地(終点)までほぼ同じ全長です。完工しましたが、欧米による対露経済制裁措置強化の影響を受け、稼働していません。露側起点はNS1とNS2では少し離れていますが、独側終点グライフスヴァルト基地とルプミン基地は隣接しています。ロシアのフィンランド湾からバルト海経由ドイツの天然ガス受入基地まで全長約1230kmの天然ガス海底P/L “ノルト・ストリーム2” (NS2)は2021年6月4日、1本目が完工。2本目は9月6日に完工し、海底P/Lとドイツ側陸上受入基地との接続も完了。NS2に天然ガス充填も完了し、P/Lはシステムとして稼働態勢が整いました。NS1は独国内の天然ガスP/L OPALとNELに接続され、NS2はEUGALに接続されています。NS1の受入基地独GreifswaldとNS2の受入基地Lubminは隣接しており、相互に有機的に接続されています。NELはオランダ方面と英国方面の天然ガスP/Lと接続されており、欧州域内の幹線天然ガスP/Lは相互に有機的に接続されており、欧州域内幹線P/L網を形成しています。しかし欧米による対露経済制裁措置強化により、NS2がいつ稼働可能かは現状未定です。今回のプーチン大統領提案は、この完工済み・未稼働のNS2でドイツ向けに天然ガス供給可能という提案です。要するに、ロシアは欧州向けにP/Lガス輸出を継続・拡大したいのが本音です。既存インフラが稼働せず、そのまま風化すれば、ロシア経済に大打撃をもたらすこと必至ですから。
ソ連邦崩壊の底流は長期油価低迷
ロシア経済は油価依存型経済構造です。1986年以降油価低迷が15年間続き、国庫は空状態になり、ソ連邦は1991年12月25日に崩壊。新生ロシア連邦のB.エリツィン初代大統領は1999年12月31日に辞任しました。ソ連邦崩壊に関しては様々な政治的要因も絡んでいますが、その底流にあるのは油価低迷です。この点に気づいていない学者・評論家がなんと多いことでしょうか。また、陰謀論者にとりソ連邦崩壊は格好の材料になっています。米国の画策により油価が急落し、ソ連邦が崩壊したとの説を流布している人もいますが、これは事実と異なります。ソ連邦崩壊の引き金は1985年9月13日のサウジアラビア・ヤマニ石油相の原油増産発言です。もちろん、ヤマニ石油相は油価下落がソ連邦崩壊をもたらすとは夢にも思っていなかったはずですが、このヤマニ発言により以後油価は長期低迷。結果として、ソ連邦崩壊のトリガーになりました。
ロシア経済は油価依存型経済構造
プーチン新大統領が登場した2000年から2022年までの露国庫税収と油価(ウラル原油)の関係を概観します。2000年から21年までは露財務省発表の実績、22〜23年は国家予算案の見通しです。下記グラフより明らかなごとく、油価と露国家予算の石油・ガス税収(地下資源採取税と輸出関税)の間には正の相関関係が存在します。油価がバレル$100超の時期は、露国庫在入の半分以上が石油・ガス税収でした。2015年に油価が大幅下落すると(実際には2014年末から油価下落)、石油・ガス税収は激減。2020年は油価急落により、石油・ガス税収は期首予算案では36.7%でしたが、28.0%にまで下落しました。
2022年ロシア国家予算案概観と国民福祉基金資産残高
2021年の露国家予算案想定油価(ウラル原油)はバレル$45.3でしたが、実績は$69.0になりました。2022年の国家予算案想定油価はバレル$62.2です。今年7月度のウラル原油平均油価は$78.41、今年1〜7月度の平均油価は$83.27になりました。実際の油価が予算案想定油価よりも高い場合、増収分の輸出関税収入は「露国民福祉基金」に積み立てられることになっています。同基金の別名は「次世代基金」であり、主要使途は次世代用基金と年金補填、赤字予算の場合の補填です。ゆえに2021年の露国民福祉基金資産残高は大幅増加となり、また今年に入っても国民福祉基金資産残高は増大するはずでしたが、昨年9月以降、資産残高は減少しています。2021年9月1日現在の資産残高は過去最高の14.02兆R(ルーブル)、今年2月1日現在12.94兆R、7月1日現在10.77兆Rまで減少。増えるはずの資産残高が急減していることは、この分がロシア軍によるウクライナ侵攻用軍事費に転用されていることが透けて見えてきます。その傍証として、プーチン大統領は2022年3月中旬、ロシア政府に対して国民福祉基金を「優先順位の高い目的」への使用許可を示達して、翌4月にその旨の新政令が採択されました。
ロシアから欧州向け天然ガス供給路
ロシアから欧州顧客向け天然ガス主要輸送路は以下5系統あります(bcm=10億立米)。
陸上経路3系統:
1ベラルーシ〜ポーランド経由ドイツ(旧東独)(公称年間輸送能力33bcm)
2ウクライナ〜チェコスロバキア経由ドイツ(旧西独)とオーストリア(116bcm)
3ウクライナ〜ルーマニア〜ブルガリア〜ギリシャ経由トルコ(26bcm)
(上記以外に、露からフィンランド向け天然ガスP/L 6bcmあり)
海底P/L2系統:
4黒海経由トルコ:ブルーストリーム(16bcm)+トルコストリ―ム(31.5bcm)
5バルト海経由ドイツ:ノルト・ストリーム1 (NS1/55bcm)+ノルト・ストリーム2(NS2/55bcm)
上記の公称輸送能力は45の海底P/L以外、あくまで公称にすぎません。
特にウクライナ〜チェコ・スロバキア経由欧州向け天然ガスP/Lは1970年代に建設された古いP/Lであり、年間実働稼働能力は70〜80bcm程度とも言われております。トランジット国はP/Lトランジット料金を徴収する条件として、P/Lの保守点検・定期修理などの管理を求められています。ウクライナ側はEUに対し、このトランジット輸送量を現行契約の40bcm以外、さらに55bcm増量を求めました。この55bcmとはノルト・ストリーム2の年間輸送能力(27.5bcm×2本)と同じです。すなわち、NS2を使わないで、ウクライナ経由天然ガスを輸入してほしいとEUに要求したわけです。
PSA (生産物分与契約)とは?
ロシアの法体系優先順位は、≪1憲法 2法律 3大統領令 4政令≫です。ゆえに、大統領令により連邦法を修正・変更することはできません。今回の6月30日付けプーチン大統領令416号は、ロシアの法律たる既存PSA(生産物分与契約)条件を毀損する内容になります。PSAの特徴は、「商業契約」であると同時に、実質その国の「法律」になっている点です。PSAに付帯する「祖父条項」(grandfather clause)は「当該契約よりも悪い条件となる法律が将来制定された場合、その法律は適用されない」と云う投資家保護内容です。この点こそPSAと通常の商業契約の本質的な相違であり、S-1とS-2商業契約は1995年12月に制定された露PSA法により、法律に昇華しました。地下資源、例えば石油やガスの探鉱・開発・生産・輸送計画は20〜30年以上の長きにわたるプロジェクトになります。投資家は長期に亘り莫大な資金を投入するので、例えば将来、プロジェクト対象国の税制が変わり、増税になる事例なども想定されます。このような不安材料があれば、投資家は誰も投資しません。ですから、契約時の契約条件がPSA期間終了まで遵守されることを保証するのが「祖父条項」です。PSA期間が終了すると、既存の関連インフラはすべて、その国に所有権が移転します。ゆえにS-2契約期間が終了すれば、S-2の全インフラはロシア国家に所有権が移転します。今回のプーチン大統領令はロシアの法律に違反しています。なぜなら、このS-2契約はPSA(生産物分与契約)であり、PSAには「祖父条項」が付帯しており、「法律」になっているからです。戦時の場合、一時的に大統領令が法律の上位となることはあります(露憲法第80条)。非常事態の場合(例えば戒厳令布告)、連邦法は一時的に執行停止となり、大統領令が優先します。しかし、今は「戦時」ではなく「平時」です。ですから、大統領令は連邦法の下位に位置します。サハリン・エナジー社の本社がバミューダに登録されているので、ロシア法人のみに地下資源開発権を付与するという改訂資源法に違反するとの指摘もあります。しかし、PSAには「不利となる法律が後日制定された場合、それは適用されない」と明記されています。かつ、サハリンで事業活動しているサハリン・エナジー社サハリン支店は、サハリンに登録されたロシア法人です。「ロシア法人」としてロシアでビジネス展開しているのですから、「ロシア法人のみに地下資源開発権を付与する」との条件に適合しています。ここで、PSAに関して誤解されている点も多々あるので、PSAを概観したいと思います。「PSAは法体系が整備されていない国の契約形態である」と言われることもありますが、それは違います。先進国にもPSAは存在します。地下資源の探鉱・開発には20〜30年以上の契約期間が必要故、投資家保護の観点からPSAが存在する次第です。次によく誤解される点は「PSAは外国投資家に有利な契約である」という批判ですが、間違いです。PSAは外国投資家に有利なのではなく、投資家を保護する契約形態です。投資家には外資も国内投資家もいます。今回の大統領令は「PSAは外資に有利なので、ロシア法人に権益を移管する」という趣旨になっていますが、上記の通り事実と異なります。ロシアの石油・ガス企業も莫大な利益を得ており、国家財政に貢献しています。仮にPSAが成立しなかった場合、サハリン島北東部沖合のオホーツク海では、石油・ガス等の天然資源は今でも眠ったままになっているはずです。サハリン・エナジー社のホームページに掲載されている同社の2020年決算書(第7章)によれば、S-2プロジェクト開始から2020年までにロシア連邦政府(サハリン州を除く)に支払った金額は200億ドルに達しており、うち2020年だけでも25億ドル支払っています。2021年以降の数字は不明ですが、油価とLNG価格が急騰していることを考慮すれば、さらなる金額がロシア連邦政府の収入になっているはずです。シェルが撤退して、S-2プロジェクトが衰退すれば、この収入も減少します。外資の資金と技術・ノウハウを導入して自国企業と共存共栄を推進する政策と、外資を排除して自国資源の温存を図る(実態は開発不能)政策のどちらが国益に寄与するかは、論を俟たないと思います。
間違いだらけの『選択』記事
上記をご理解戴いた上で、『選択』(2022年8月号)に掲載された「サハリン2 謀略の真相」を概観します。この記事は無署名記事なので誰が書いたのか不明ですが、書き手は恐らくロシアに関しても、石油ガスに関しても知見のない人が書いたと思われます。筆者はこの記事を何度も読み返しましたが、筆者は頭が悪いのか、何が「謀略」で何が「真相」なのか理解できませんでした。この記事の中に「露タス通信や英ロイター通信の記事を和訳しているだけの日本メディアの現地報道は当てにならない」(64頁)と書いてあります。では、あなたの書いたこの記事は当てになるのでしょうか?取材内容を何の検証もしないまま垂れ流しにしているのが、あなたの記事ではないでしょうか?「サハリン2の事業主体がバミューダ法人であることを知っていた記者はどれほどいたか」(64頁)。プロジェクト関係者は全員知っています。「知っていない記者」にはあなたも含まれていることでしょう。反省すべきはあなたです。付言すれば、本社登録はバミューダですが、事業活動を展開しているサハリン支店はロシア法人です。サハリン・エナジー社はPSAに従い、納税しています。「PSA法とは外資保護法である」(65頁)。違います。PSA法とは「投資家保護法」です。投資家には外資も国内投資家もいます。「改訂「地下資源法」とPSA法は矛盾する。この矛盾こそ大統領令を正当化する根拠と言っていい。ロシア憲法裁判所には『連邦法に齟齬がある場合は大統領令による解決が可能』という判例がある」(65頁)。違います。露連邦法間に齟齬がある場合の露憲法裁判所の判例に言及していますが、PSAには「後日、不利になる法律が制定された場合は適用されない」のですから、この判例は適用されません。PSAとはあくまで、将来不利な法律が制定されることを前提に成立しています。ですから、露憲法裁判所判例は適用外です。「シェルに買い叩かれるまま、LNGの安値枠を差し出したのだ。それをシェルは現在、40ドル前後で売っている」(65頁)。この記事の書き手は、このことを「謀略」と言っているのかもしれません。しかし、当時のガス価格は2ドル前後でした。ですから、「安値枠」でも何でもありません。その価格帯が当時の標準価格でしたから。現在儲けていることは事実ですが、それは、昨年後半から欧州ガス価格(スポット価格)が高騰したからです。現在高値になっているのは、単なる結果論にすぎません。「三菱商事は、インドネシアのドンギ・スノロLNGのオペレーターを務めており、シェルの技術者が抜けた穴を埋めることもできる」(66頁)。いいえ、できません。気象条件の厳しい海洋鉱区における石油・ガスの探鉱・開発・生産・輸送事業は、欧米メジャーとハリバートンやシュランベルジャーなどのサービス会社抜きには不可能です。LNG工場は保守点検・定期修理が必要であり、欧米による対露経済制裁措置が強化されている現状、保守点検・定修を請け負う海外企業は出てこないでしょう。取材源の言い分を垂れ流しにしているのはあなたです。あなたには、「露タス通信や英ロイター通信の記事を和訳しているだけの日本メディアの現地報道は当てにならない」と言う資格はありません。残念ながら、あなたが誰か筆者には分かりませんが、あなたが名乗り出ればいつでも公開討論会に応じます。
エピローグ 日本向けLNG供給契約の行方は?
上述の通り、今回のプーチン大統領令416号は、ロシアの法律たる既存PSA条件を否定する内容になります。ロシアのS-1とS-2契約は同時にロシアの法律ですから、論理的には「プーチン大統領自ら、ロシアの法律を破った」ことを意味します。これが今回の大統領令の不都合な真実です。既に、ロシア市場から撤退する外資系企業が続出しています。石油サービス企業のハリバートン、シュランベルジャー、ベーカーヒューズ等もロシア市場からの撤退を発表。今後、ロシアの石油・天然ガス生産量低下に直結すること必至です。換言すれば、今回の大統領令416号は外資のロシア撤退の動きをさらに加速させることになり、ロシア石油・ガス産業衰退の契機となるでしょう。では、今回のロシア大統領令416号により、日本向けLNG供給契約は今後どうなるのでしょうか?繰り返します。1日本企業が引き続きS-2に権益参加するかどうか、2今後新設されるロシア法人が対日LNG輸出契約を遵守するかどうか、この2つの問題に直接の相関関係はありません。サハリンに設立される新ロシア法人が対日LNG供給契約を遵守するかどうかは、あくまでも日本側LNG輸入者と新ロシア法人の交渉次第になります。通常はサハリン・エナジー社の契約はそのまま新会社に移管されることになりますが、今回は大統領令自体が法律に違反しているので、この既契約がスムーズに移管されるのかどうかは未知数と言えましょう。大統領が自国の法律を自ら反故にするような国に、海外の投資家・企業家は投資するでしょうか?ロシアの国益を標榜する大統領自らが、結果として、ロシアの国益を毀損しているのが実態です。プロイセンの鉄血宰相ビスマルク曰く、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」。賢明なるロシア国民の健全なる歴史観が期待されるところです。 
●ロシア ウクライナ南部の支配地域に戦車移動 戦闘一段と激化か  8/6
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは南部での攻撃に備えて、東部地域から南部の支配地域に向けて戦車などを移動させているとみられ、イギリス国防省は「ウクライナでの戦争は新しい局面を迎えようとしている」と指摘し南部などを中心に戦闘が一段と激しくなるという見方を示しています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐっては、南部を中心にウクライナ軍が反撃しているとみられ、イギリス国防省は6日、「ウクライナ軍が南部の地域でロシア軍が補給ルートとする橋や鉄道網などを標的に攻撃する回数を増やしている」と指摘しました。
またロシア軍はウクライナ軍からの反撃に備えてほぼ間違いなく南部に軍を集結させていて、東部ドンバス地域から戦車など兵力を移動させ、南部ヘルソンのロシア軍の支援にあてられるだろうと分析しています。
そのうえで「ウクライナでの戦争は新しい局面を迎えようとしている。最も激しい戦闘は、ザポリージャ付近からヘルソンに至るおよそ350キロの前線に移っている」として、南部や南東部を中心に戦闘が一段と激しくなるという見方を示しました。
一方、ウクライナ南東部にあるザポリージャ原子力発電所近くで5日砲撃があり、ウクライナの原子力発電公社エネルゴアトムによりますと、原子力発電所の送電線が損傷したということです。
発電所は引き続き稼働していて、放射能漏れは検出されていないということです。
エネルゴアトムは砲撃について「ロシア側が砲撃した」と主張し強く非難する一方、ロシア国防省は「ウクライナ側の砲撃だ」と主張しています。
砲撃は複数回あったとみられ、ウクライナ側とロシア側双方が相手による攻撃だと非難の応酬となっています。
●核戦争勃発の可能性は「過去最大」“戦力増強”求める声も…核廃絶に暗い影 8/6
77回目の「原爆の日」を迎えた広島。6日に行われた平和記念式典には、被爆者や遺族をはじめ、世界99カ国の代表などおよそ2800人が参列しました。
「核兵器が存在する限り、人類を滅亡させる力を使ってしまう指導者が出てきかねないという現実を直視すべきです」(広島県 湯崎英彦知事)
2月末から、いまも続いているウクライナ侵攻。
「私たちが何を持っているのかを知るべきだ。我が国の主権を守る必要がある場合にはそれを使用する」(プーチン大統領、6月の国際会議で)
プーチン大統領が、核兵器の使用も辞さない姿勢をみせる中、世界中で「核戦争」への危機感が高まっています。ニューヨーク市は先月、“核攻撃を受けた際にとるべき行動”を説明する動画を公開しました。
「慌てるのではなく、常に積極的に備えておこう」(ニューヨーク市 エリック・アダムズ市長)
世界の核弾頭数は今年1月時点で推定1万2705発。その9割をロシアとアメリカが占めています。複数の国が核兵器を増強しているとみられ、中でも中国は2030年までに少なくとも1000発の保有を目指している可能性が指摘されています。
米ロの核戦力差は“10倍” 機能しない核抑止力
世界の核軍縮はどこへ向かうのでしょうか。サタデーステーションは、アメリカの核戦略策定に専門家として携わる、米議会諮問委員会(安全保障)のピーター・プライ博士に話を聞きました。
「これまでで核戦争勃発の可能性が最も高いのは今現在です」(プライ博士)
今回のウクライナ侵攻により、アメリカの核兵器による抑止力が“機能不全”だと証明されたといいます。
「核抑止力の目的は戦争の発生を抑止することです。ロシアはNATOの報復を恐れウクライナに侵攻しないという想定でした。しかし、ロシアは恐れていなかった、侵攻してみせたのです。むしろ今、恐怖を感じているのは我々の方です。ロシアの核兵器を恐れるあまり、ウクライナへの決定的な武力介入に踏み込めないでいる。今やアメリカが“抑止されている側”なのです」(プライ博士)
現在の“ロシア優位”の状況は、核戦力のパワーバランスの崩壊が要因だというプライ博士。
「あまり知られていませんが、アメリカは今、最新の核ミサイルを保有していません。新たな核兵器も製造しておらず、冷戦期の“おさがり”を持っているだけです。ロシアの核戦力は今やアメリカの10倍かそれ以上でしょう。『量』ではなく、最新技術による『質』の差です」(プライ博士)
アメリカに対する通常戦力の劣勢を補うため、核兵器を重視する戦略をとってきたロシア。アメリカのミサイル防衛システムを突破するとされる新型の弾道ミサイルも年内に実戦配備する見通しです。
「バイデン政権は史上最も反核意識が高い政権です。アメリカはあと数年で、ロシア、中国に次ぐ3番手の核保有国に陥落するでしょう。バイデン政権には警告していますが、全く聞く耳を持ちません」(プライ博士)
オバマ政権が掲げた「核なき世界」の継承を目指す、バイデン政権。プライ博士は「もはやアメリカの核の傘では日本や諸外国を守ることはできない」と訴えます。
「私は本当に心を痛めています。日本国民がアメリカをいまだに信じていることについてです。こうしている間にも北朝鮮はミサイルを発射できるのです。それでも日本国民は“アメリカが守ってくれる”と信じています。ウクライナを見てください。いつ気付くでしょうか。“警察は守ってくれない”“自衛するしかない”と」(プライ博士)
「無責任だ」核廃絶目指す取り組みに“逆風”も
国内でも「核共有」による防衛力強化を主張する声が上がる状況にただならぬ危機感を抱いている被爆地・広島。核廃絶に向けて活動する若者団体ではある“異変”が起きていました。核廃絶に向けて活動する、「カクワカ広島」共同代表の田中美穂さん(27)は、ウクライナ侵攻後、異変を感じたといいます。
「『核共有を議論してはいけないっていう発言は無責任じゃないか』とか『なんでそんなことが言えるんだ』っていう反応をいくつかいただいておりまして。ここまで反応があることはこれまでなかったので、まずその量に驚きました。やっぱり最初読んだ瞬間はグサッとくるといいますか」(田中美穂さん)
カクワカ広島に届いたメッセージ
「ノンビリお茶の間平和主義者」「北海道にロシアが攻めてきた場合どう対応するのでしょうか?」「発言に関して無責任だと感じました」
活動を非難するメッセージにもひとつひとつ返信しながら、核廃絶を訴え続けます。
「現に核兵器が存在してから戦争は各地で起こっているわけで、核抑止は働いていないんじゃないかと私は思うんです。核兵器が使われてしまったらどういったことが起こるか。使われた瞬間や当日だけでなく、その後の被爆者の方が受けてきた差別や暴力っていうものは、まだまだ日本国内でも伝わり切れてない。やっぱり核抑止は安全ではないし、安全を高めるためにはなくすしかないと思います」(田中さん)
被爆者の証言を絵に 次世代に経験をつなぐ取り組み
被爆者が高齢化するなかで、“どう伝え続けるか”も課題となっています。服は燃え、皮膚がはがれた、おびただしい数の遺体。広島市の高校生・サンガーさんが、被爆者の証言をもとに原爆投下翌日の光景を描いた絵で、6日から広島国際会議場で展示されています。
「原爆の絵の制作を通して、平和に対する向き合い方が変わりました」(広島市立基町高校 サンガー梨里さん)
会場には、3歳の時に広島で被爆し、その体験を証言した飯田國彦さん(80)の姿もありました。
「原爆はこの世の地獄のようであったという人がいるけどね、それは全然違う。遺体が、遺体の恰好をしていないんですよ。似ても似つかないほど、原爆の方が悲惨なんです。殺人兵器ですから、これは無くさなきゃいかんです」(飯田國彦さん)
●ウクライナを第二のシリアにしてはならない/青山弘之氏 8/6
ウクライナ情勢はまずい方向に向かっているのではないか。
ロシアによるウクライナ侵攻から半年が経とうとしているが、日々伝わってくる戦況は、一進一退を繰り返しながら、戦力に勝るロシアが徐々に支配地域を拡げているというものだ。しかし、アメリカから新しい武器の供与があると、一時的にウクライナが失地を回復するなど、以前にこの番組でも指摘したとおり、この戦争の帰結がもはやアメリカ次第になっていることが、日に日に明らかになってきている。
元々年間の軍事費で10倍以上の差があるロシアとウクライナではまともな戦争にはならないところを、アメリカがウクライナに武器を供与することで、その軍事力の差を埋めている。それがこの戦争の当初からの実情だった。しかし、紛争勃発後のアメリカの対ウクライナ軍事援助は既に165億ドル(約2兆円)に達しており、それはウクライナの年間軍事予算59億ドル(約6,000億円)の3倍に当たる金額だ。もはやこの戦争がロシア対アメリカの代理戦争であることは誰の目にも明らかではないか。ちなみにアメリカの年間軍事予算は約8,000億ドル(約90兆円)、ロシアは約659億ドル(約7兆円)だ。
残念ながらアメリカにとってこの戦争は、自ら兵力を送ることなく軍事産業を潤すことができ、同時にロシアを弱体化させることができる「理想的な戦争」だ。今後、アメリカ国内の世論がよほど大きく変わらない限り、アメリカはロシアとの全面衝突は避けつつも、ウクライナが負けない程度に絶妙な軍事支援を続ける可能性が高い。つまり、アメリカは意図的に戦闘状態を長引かせることができる立場にいるのだ。
言うまでもなく此度のロシアのあからさまな軍事侵攻に正当化の余地はない。しかし、現在の状況が続けば、ウクライナの人的犠牲と国土の荒廃はさらに進み、ウクライナがかつて列強諸国の代理戦争の舞台となった国のような悲惨な運命を辿ることは避けられない。
アラブ政治が専門の青山弘之東京外語大学教授は、昨今のウクライナ情勢とオスマントルコ時代から欧米の列強がシリアに対して繰り返し行ってきた介入との共通点を指摘した上で、分裂国家としての運命を辿ったシリアの運命がウクライナにも降りかかることへの懸念を露わにする。
多くの人種、宗教、宗派が存在し、多様な文化が集うシリアは、それ自体がシリアに空前の発展をもたらした原動力だった。しかし、ヨーロッパからアジアやアフリカへ抜ける交通の要衝となるシリアの支配権を維持したいイギリス、フランス、ロシアの列強は、その多様性を逆手に取り、人種・宗派間の対立を煽ることで、クリミア戦争やバルカン戦争などを仕掛け、シリアの分断ならびに弱体化を図った。その結果、度重なる代理戦争の舞台となったシリアの国土は焦土と化し、国家は常に分裂状態に陥ることとなった。
特にシリアの場合、21世紀に入ってからも、大国の代理戦争を肩代わりさせられ続けた。2010年に始まったアラブの春がシリアに波及してくると、「民主化勢力」を支援するアメリカ及び西側諸国とアサド政権を支えるロシアとの間で内戦が勃発し、その間隙を縫うようにヌスラ戦線、アルカイダ、ISILなどのテロリスト勢力がシリア国内で支配地域を拡大していった。今もシリアは、国土が少なくとも3つの勢力に分断され、そこにロシアとトルコとアメリカが軍を駐留させている状態にある。
ウクライナの場合も、ソ連崩壊後、ロシアと隣接する東部2州では、人口で多数を占めるロシア系住民が、ウクライナ人から差別を受けたり迫害されるなど、国内に人種・民族問題の火種を抱えていた。さらに東部では、今や対ロシア戦の英雄のような扱いになっているアゾフ連隊がネオナチ的な活動を繰り広げており、それがロシアがウクライナに介入する絶好の口実を与えていた。
ウクライナはシリアのようなヨーロッパからアジア、アフリカへ通じる交通の要衝とは異なるが、ヨーロッパとロシアの緩衝地帯という意味で、特にロシアにとっては戦略的に重要な意味を持っている。ロシアがウクライナ国内のロシア系住民の支援を口実に介入したのに対し、アメリカを中心とする西側陣営がウクライナ政府をバックアップすることでこれに応戦し、そこにシリアと同じような代理戦争の構図ができあがっていったのだった。
しかし、オスマントルコの時代や冷戦下とは大きく異なる要素が、現在の国際政治にはある。かつて世界の富を独占し、軍事力で圧倒的な力を誇っていた西側先進国、とりわけG7諸国の国際社会における力が相対的に低下しているのだ。一時は世界全体のGDPの7割を占めていたG7諸国だが、今やその支配率は4割にまで下がり、中国、インド、トルコ、ブラジルなどが参加するG20では、ロシアに対する制裁決議を採択することすらできなくなっている。依然として軍事費ではアメリカの圧倒的優位は揺るがないが、経済力や軍事力を背景に一部の「列強」が勝手気ままに振る舞える時代は、もはや過去のものとなっている。
ただ、少なくとも現状では日本にとっての国際社会はあくまでG7に限定されているようだ。そのような立場から、ウクライナの軍事的支援を支持し続けることが正しい道なのか、ひいてはそれが本当にウクライナの利益につながるのかについて、日本のような紛争当事者ではない国では、もう少し冷静な立場から議論があっていいのではないか。
今回はウクライナのシリア化を懸念する青山教授に、どのような歴史を経てシリアが現在のような分断国家となってしまったのかや、ウクライナが同じ道を歩んでいることが懸念される理由などを問うた上で、日本にどのような選択肢があるのかなどについて、青山氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
●ロシア軍の兵力不足が顕在化、刑務所でも集める 西側分析 8/6
西側諸国当局者は6日までに、ウクライナ侵攻が続く中でロシア軍の兵力不足が顕在化し、刑務所などで新兵を募る新たな対応策を迫られる事態となっているとの見方を示した。
人員補充のため民間の軍事企業との協力も明らかに増えていると指摘。兵士の欠如は、前線での戦法にも影響しているとした。
ロシア軍兵士の死者や負傷者は相当に多いともし、ロシアの指導部が事前に予想していた水準に収まってはいないとも分析。戦闘部隊は約7万5000人の兵力を失っており、このうち最大2万人が死亡、5万5000人が負傷したと推定した。
新兵の大半は都市部ではなく、田舎の出身者であり、兵士を新たに集める巧妙な手段とも評した。それだけ兵士不足が深刻となっていることを反映しているとも指摘した。
戦闘の進め方にも影響が出ており、古参兵などの不足を受け、大隊や旅団規模ではなく中隊など人数がより少ない態勢で臨んでいると説明。編成が少人数の場合、作戦遂行がしやすくなる側面もあるが、戦果の獲得では限界もあると述べた。
●プーチン氏、トルコ大統領と4時間会談…輸出再開の妨害示唆し制裁解除狙う  8/6
ロシアのプーチン大統領とトルコのタイップ・エルドアン大統領は5日、露南部ソチで会談後に共同声明を出した。声明では、ウクライナ産穀物の海上輸送再開に関し、露産穀物や肥料の輸出が阻害されない必要性にも言及した。輸送再開で仲介役を務めたトルコを通じて米欧などによる対露制裁の解除を狙うロシアの思惑がにじむ内容となった。
露大統領府によると、プーチン氏とエルドアン氏は、国連を交えた4者によるウクライナ産穀物の海上輸送を巡る合意の「完全な履行の重要性」を強調した。
ウクライナのインフラ相は5日、外国船籍の貨物船が6日にも南部チョルノモルシク港に入港する見通しを明らかにした。インフラ相がロシアによる侵略開始後初めての外国船の入港になると期待感を示した一方、共同声明は、ロシア産品の輸出に関連した決済などの制裁解除が進まなければ、ロシアが妨害に転じる可能性も示唆している。
共同声明は、ロシアによるトルコでの原子力発電所建設などエネルギー分野での協力強化や貿易拡大を図る方針も確認した。ロシアの副首相によると、会談ではトルコが、ロシア産天然ガス代金の一部をロシアの通貨ルーブルで支払うことでも合意した。首脳会談は約4時間に及んだ。
米ブルームバーグ通信は5日、主要20か国・地域(G20)のうち、ロシアを含めれば半数の10か国が対露制裁を支持していないと報じている。プーチン氏が対露包囲網を切り崩せると踏んでいる可能性がある。
●米当局が「プーチンの愛人」に制裁、元新体操選手の39歳 8/6
米財務省は8月2日、以前からロシアの「プーチン大統領の愛人」と噂されてきた元体操選手のアリーナ・カバエワに対する制裁を発表した。
財務省が2日の声明で、プーチンと「親密な関係にある」と指摘したカバエワは、2014年以来、ロシア最大のメディアコングロマリットを率い、親ロシア派の新聞やテレビ、ラジオ局を支配している。
彼女は2007年から2014年まで、プーチンが支配する政党の「統一ロシア」所属の国会議員を務めていた。英国と欧州連合(EU)はすでにカバエワを制裁対象に指定している。
ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、米当局は今年に入りカバエワへの制裁を検討したが、「事態のエスカレーションを避けるため」に踏みとどまっていたという。
プーチンは長年、カバエワとのロマンチックな関係を否定してきたが、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、米当局は、カバエワがプーチンの愛人であり、少なくとも3人の子供の母親だと認識しているという。また、彼女とその子供たちはスイスに住んでいる模様という。
現在39歳のカバエワは、ロシア政府とつながりを持つ前は新体操選手として活躍し、2004年のアテネ五輪で金メダルを獲得したほか、14の世界選手権で入賞していた。
●キーウ近郊の拷問部屋を公開 壁に弾痕、「市民処刑された」 8/6
ウクライナ警察は5日、首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで、ウクライナに侵攻したロシア軍が市民を拷問し、殺害したとされる地下室を報道陣に公開した。壁に複数の弾痕があるなど現場の状況から、警察幹部は「市民は処刑された」と改めて主張した。
ロシア軍は3月下旬に首都近郊から撤退し、警察によると、ブチャではこれまでに市民約420人の遺体が見つかり、多くが銃で殺害された。ウクライナや欧米の「大量虐殺」との非難に対し、ロシアのプーチン大統領は「フェイクだ」と述べ、ロシア軍の関与を否定している。
拷問部屋は子どもが夏に利用するキャンプ場の宿舎の地下。
●プーチン大統領 “ロシア産の穀物も制裁に妨げられず輸出を”  8/6
ロシアのプーチン大統領は、トルコのエルドアン大統領と会談し、ウクライナの港からの穀物の輸出継続に向けて協力する姿勢を示す一方、ロシア産の穀物や肥料についても欧米の制裁に妨げられずに輸出される必要があると強調しました。
ロシアのプーチン大統領は5日、ロシア南部のソチを訪れたトルコのエルドアン大統領と会談しました。
ウクライナでは、ロシア軍による封鎖で黒海に面する南部の港から農産物の輸出が滞っていますが、先月、トルコと国連の仲介によって輸出再開で合意しました。
会談の冒頭、プーチン大統領は「ウクライナからの穀物輸出は、あなたと国連事務総長の仲介で解決され供給が始まった」と述べ、謝意を示しました。
会談後、ロシア大統領府が発表した共同声明でも、ウクライナ産の穀物の輸出継続に向けて協力する姿勢を示す一方、ロシアからの穀物と肥料の輸出についても妨げられないようにする必要があると強調していて、欧米側の制裁をけん制した形です。
ウクライナ南部の港からは、今月1日、穀物を積んだ最初の船が出港したのに続き、5日には新たに3隻の船が出発していて、今後の継続的な穀物輸出につなげられるかが課題となっています。
一方、ウクライナの戦況では、南部を中心にウクライナ軍も反撃していて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は4日「ウクライナが戦略の主導権を握り、ロシア軍はウクライナ軍の反撃に対応して戦力の再配置などを余儀なくされているようだ。ウクライナが初めて積極的に戦況をつくることを可能にしているとみられる」と指摘しました。
具体的には、ロシア軍は掌握を目指してきた東部ドネツク州で、ウクライナ側の拠点、スロビャンシクなどの攻略を断念したとみられる一方で、ウクライナ軍が反撃を続ける南部ヘルソン州や南東部ザポリージャ州を防衛するため、部隊や装備の移転を進めているとしています。
また、ロシアが一方的に併合した南部クリミアについてもロシア軍は大砲や航空機などを再配備していると指摘し、欧米からの兵器を活用したウクライナ軍の反撃への対応に追われている可能性が出ています。
●ロシア産農産物輸出も求める姿勢 プーチン大統領がエルドアン大統領と会談 8/6
ロシアのプーチン大統領はトルコのエルドアン大統領と会談し、ウクライナからの穀物輸出とともにロシア産農産物についても輸出を求めていく姿勢を示しました。
ロシア プーチン大統領「ウクライナからの供給開始とともに、ロシア産農産物と肥料の世界市場への供給についても合わせて決定されたことに感謝申し上げる」
プーチン大統領は5日、ロシア南部のソチでエルドアン大統領と会談し、黒海を通じた輸出再開への協力に謝意を表明するとともに、ロシア産農産物についても輸出を求めていく姿勢を改めて示しました。
これに対し、エルドアン氏は「両国関係の新たなページが開かれると期待する」と応じたということです。
両首脳は先月19日にもイランで会談を行ったばかりで、今回、エネルギー分野をはじめとする両国の経済協力を新たなレベルに引き上げることで合意したとしていて、トルコはNATO=北大西洋条約機構の加盟国でありながらロシアとの関係を深めています。
また、トルコのアナトリア通信によりますと、両首脳はシリア内戦の「恒久的な解決」に向けた政治的プロセスの重要性を強調、「シリア内のテロ組織との戦いにおいて連帯していく」ことを再確認しました。
シリア内戦でロシアはアサド政権を支援しています。そのアサド政権が「テロリスト」と呼ぶ反体制派をトルコは支援していて、アサド政権と共存関係にあるクルド人組織を「テロリスト」と呼んでいます。
また、シリアの場合と同様、それぞれ対立する勢力を支援しているリビアについては「リビアの主権、国土の一体性」への強い支持と「リビアでの自由かつフェアな選挙の実施の重要性」を強調しました。

 

●ウクライナ侵略の激戦地、南部に移行へ…ロシア軍が兵力集結と英国防省分析  8/7
英国防省は6日、ロシア軍が兵力や装備をウクライナ南部の占領地に集結させてウクライナ軍による反撃強化に備えており、激戦地が南部に移って、双方の攻防が新たな局面に入りつつあるとの分析を明らかにした。南部ザポリージャ原発では5日、2度にわたる砲撃があり、双方が相手による攻撃だと非難した。欧州最大規模の原発で大惨事が発生する危険性が増している。
英国防省はザポリージャ州付近からヘルソン州にかけてのドニプロ川沿いの約350キロ・メートルの区間を激戦地として挙げた。2月24日の侵略開始以降、主要な激戦地は東部となってきた。
ザポリージャ原発は露軍が占拠し、 要塞ようさい 化を進めている。
ウクライナの国営原子力企業「エネルゴアトム」はSNSで、原発が5日午後2時半頃と夕方、原発を占拠している露軍の攻撃を受け、高圧線や一部施設が損傷したと発表。露軍が、原発に配備した地対空ミサイルで原発が立地するエネルホダル市の変電所なども破壊し、大規模な停電と断水が起きたと訴えた。
6日の投稿では原発の状況に関し、「火災発生や放射性物質飛散の危険性が依然ある」と説明した。
一方、露国防省は5日、緊急声明で、一連の攻撃はウクライナ軍によるものだと発表し、ゼレンスキー政権による「核テロ」だと主張した。ウクライナ国防省情報総局は7月下旬、原発付近の露軍駐屯地を自爆型無人機で襲撃したことを認めていた。露軍には反転攻勢をけん制しつつ、ウクライナ非難の世論作りにつなげる思惑があるようだ。
●ロシア 掌握地域で支配の既成事実化進める ウクライナは反発  8/7
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン政権は、掌握したと主張する地域に政権幹部を派遣し、現地を視察させたほか、ロシアのパスポートの利用を拡大させるなど支配の既成事実化を進め、ウクライナ側は反発しています。
ロシア国防省は6日、ウクライナの東部ドネツク州や南部ヘルソン州でウクライナ軍の拠点などを砲撃したほか、東部ドニプロペトロウシク州では外国人部隊の拠点をミサイルで攻撃し、80人以上を殺害したと発表しました。
ドネツク州のキリレンコ知事は6日、SNSにメッセージを投稿し、州内で5人が死亡、14人がけがをしたと述べました。
こうした中、ロシアのプーチン政権は、掌握したと主張するウクライナの東部や南部で支配の既成事実化を進めています。
5日には、都市開発などを担当するフスヌリン副首相が激しい戦闘で街のほとんどが破壊されたウクライナ東部のマリウポリを訪れ、建設現場などを視察する動画が公開されました。
親ロシア派勢力によりますと、フスヌリン副首相は今後、インフラ施設の復旧に関与していく方針を改めて示したということです。
またロシアが掌握したと主張する地域では、ロシアのパスポートの利用を急速に拡大させる動きがみられ、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」によりますと、南部のヘルソン州や南東部のザポリージャ州で携帯電話を契約する際などにロシアのパスポートの提示が求められるようになっているということです。
「戦争研究所」はロシア側のねらいとして、住民にロシアのパスポートを取得させるとともに、反発する住民を監視しようとしていると指摘し、ウクライナ側はこうした動きに反発を強めています。 
●ウクライナ戦闘激化 ゼレンスキー大統領 米供与兵器で抗戦強調  8/7
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、東部ドネツク州などで戦闘が一段と激しさを増しています。ウクライナのゼレンスキー大統領はアメリカから供与された兵器を活用して抗戦する姿勢を強調しています。
ロシア国防省は6日、ウクライナの東部ドネツク州や南部ヘルソン州でウクライナ軍の拠点などを砲撃したほか、東部ドニプロペトロウシク州では外国人部隊の拠点をミサイルで攻撃し、80人以上を殺害したと発表しました。
一方、ウクライナ軍の参謀本部は6日、SNSに投稿し、ウクライナ東部ドネツク州スロビャンシクなど複数の都市でロシア軍から激しい攻撃を受けたもののロシア軍に多くの損失を与え、退けたと指摘しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、新たに公開した動画で「ロシア軍はウクライナ軍と比べて技術で劣っている」としたうえで、「ロシア軍は目の前にあるすべてを破壊して廃虚にしようとしている」と非難しました。
また、アメリカが高機動ロケット砲システム=ハイマースに使われるロケット弾など追加の軍事支援を決めたことに感謝するとともに「わが国の防衛戦略のために、可能なかぎり的確かつ有益に使用する」と述べ、アメリカから供与された兵器を活用して抗戦する姿勢を強調しています。
●ウクライナ ザポリージャ原発に砲撃 IAEA「全く容認できない」  8/7
ロシアが侵攻するウクライナでヨーロッパ最大規模の原子力発電所への砲撃が行われ、IAEA=国際原子力機関は原子炉の損傷はないとする一方、「原発の安全を危険にさらし、全く容認できない」と強い懸念を示しました。
ウクライナでは5日、ロシア軍が占拠する南東部のザポリージャ原子力発電所への砲撃が行われ、ゼレンスキー大統領が「あからさまな犯罪でテロ行為だ」とロシア側を強く非難する一方、ロシア国防省は「ウクライナ側の砲撃だ」と主張しています。
IAEAは6日、この砲撃で発電所の外部の電力供給システムが損傷を受けたことや、稼働している3つの原子炉のうち1基で緊急保護システムが作動し、送電系統から切り離されたとウクライナ側から連絡を受けたとしています。一方、原子炉の損傷や放射性物質の漏えいはなく、負傷者もいないとの報告を受けているとしています。
グロッシ事務局長は声明で「ザポリージャ原発の安全を危険にさらす軍事行動は、全く容認できず、避けるべきだ」と強い懸念を示しました。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「ロシア軍は、ウクライナに軍事支援を行う欧米の意欲を低下させるため核の災害に対する恐怖に乗じて原発を利用しているとみられる。ウクライナ側の攻撃を防ぐために『核の盾』としても原発を有効に利用している」とする見方を示しています。
ウクライナでは東部の戦況がこう着し、ウクライナ軍が反撃を続ける南部では、ロシア軍が対応に追われているとみられています。
イギリス国防省は7日の分析で、「ロシア軍の戦果が乏しいことでその代償として、軍事侵攻後、司令官、少なくとも6人が解任された可能性が高い。また、少なくとも10人のロシア軍将校も殺害され、こうした影響がロシアの作戦を困難にしている可能性がある」と指摘しています。
●ウクライナ大統領、中国に直接話し合う機会を要請 8/7
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日までに、ロシアとの戦争について中国と直接話し合う機会を求めていることを明らかにした。香港の新聞「サウスチャイナ・モーニングポスト」との単独会見で述べた。
「直接、意見交換をしたい。1年前、習近平(シーチンピン)国家主席と話を交わしたことがある」と説明。
ロシアが今年2月下旬、侵攻に踏み切った後、ウクライナは中国に対し会話の機会を公式に求めたことも明かした。この会話は役立つものになると信じているとしながらも、実現していないことも認めた。
同紙によると、ゼレンスキー氏は、中国は政経両面でロシアに影響力を及ぼすことが可能との見方を示した。経済力を活用してロシアに圧力を加えられるだろうが、中国はウクライナ戦争で偏りのない立場の維持を望んでいるのだろうとも指摘。
その上で、中国にロシアに対する姿勢を見直すことを求めた。
中国外務省の報道官は、ゼレンスキー大統領による中国側との会談要請に返答したのかどうかの質問に対し、ウクライナとは外交ルートを通じて密接な接触を保っており、これが中断などしたことは決してないとだけ述べた。
●戦争犯罪とはなにか――占領下のブチャ、“ある通り”の住民たちの証言 8/7
7月29日、ウクライナ東部のロシアが実効支配を進めるドネツク州の捕虜収容所が攻撃され、ウクライナ兵の捕虜ら約50人が死亡した。ウクライナ側は「ロシアによる戦争犯罪だ」と主張しているが、ロシアも「ウクライナによるものだ」と主張し、互いに非難の応酬となっている。映像からわかることは、そこにいたウクライナ兵とされる捕虜の遺体は痩せ細っていたということだ。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻からまもなく半年。私たちは「戦争犯罪」の証拠や証言について多く耳にしてきた。「戦争犯罪」とは何か。様々なかたちがあるが、そのひとつが「一般市民への攻撃、殺害」である。今回、私たちがキーウやブチャでの取材で出会った人々が証言した「戦争犯罪」の一部をここに記録する。
「子供」と書かれた車
ウクライナの首都・キーウには、鮮やかな色の聖堂が多く存在する。爽やかなスカイブルーの外壁の「聖ムィハイール黄金ドーム修道院」もその一つだ。その目の前の広場は、5月ごろから様子が一変した。巨大な戦車が十数台並べられているのだ。いずれも車体は赤黒く焦げているロシアの戦車や軍事車両でウクライナ軍によって破壊されたものだ。ウクライナ軍がいかにロシア軍に打撃を与えているかを市民に伝えるための展示で、人々は自由に触ったり写真を撮ったりと観光名所のようになっていている。
焦げた戦車が並ぶ中、蛍光グリーンの「一般車両」が一台場違いに思えるほど目立っている。フロントガラスには銃弾の痕がある。そして車体には、大慌てで貼り付けたとみられる紙が4枚。それぞれに手書きで文字がひとつずつ書かれている。その4文字の単語は、ロシア語で「子供」という意味だそうだ。運転席のシートには赤黒い血の跡が今も残っている。後部座席には、寒かった時期なのだろうかダウンジャケットが置かれたままだ。この車の持ち主はブチャ在住で、3月14日にロシア占領地域からキーウ州内を逃げる途中に銃撃されたという。この車ともう一台、あわせて2台の車には大人3人と子供6人が乗っていたが大人2人が大きなケガを負ったとされている。「子供が乗っています」とアピールしている車がこんなにも激しい攻撃を受けたのかと思うと言葉に詰まった。彼らは大慌てでロシア軍が支配するブチャから逃げたのだろう。
スマホ内の写真を調べるロシア兵
ブチャとキーウは車で一時間ほどの距離だ。2月下旬から1カ月ほど、ロシア軍はブチャを占拠していたとされている。街の中心部は隣街イルピンなどに比べると爆撃などの爪痕は少なく、一見普通に見える。自転車をこぐ子供がいたり、公園でくつろぐひともいるほどだ。
虐殺の被害者が多くいるとされる住宅街に向かった。かなりひっそりとはしていたものの、後片付けをする住民の姿も数人見かけた。よく見てみるとアスファルトの地面に黒いタイヤ痕が残っている。戦車だろうか。そしてすぐ脇には、ぐちゃぐちゃになった青い乗用車があり、車体にはロシア軍部隊を示すとみられる「V」のマークがあった。
その近くに住む44歳の女性、スビトラーナさんと出会った。家が被害にあっていることが一瞬わからなかったが、ロシア軍に攻撃されたため現在は土台だけになっている。この家を建てるまで15年ほどかかったという大切な2階建てマイホームが一瞬にしてなくなり、今はその裏にある小さな“離れ”で生活していた。
3月、地下室に身を潜めていたところロシア兵がやってきた。隠れている人数を数えこう言ったという。「携帯電話の写真を見せろ」。スビトラーナさんがスマホを差し出すとロシア兵は写真をチェックしはじめた。ちょうど趣味であるスキー場から帰ったばかりだったため、その写真ばかりが出てきた。スビトラーナさんは、「おかげで無事でした。もしかしたら(ウクライナ軍に情報を流すような)スパイを探していたのかもしれない」と話す。
その翌日の3月10日。スビトラーナさん家族は別の街に逃げた。
――もし逃げていなかったらあなたはどうなっていたと思いますか。
「お向かいの家族と同じに運命になっていたと思う。彼らは拷問され手や足が切られた」
拷問を受けたという家族は教師の一家だったという。憶測だが、ロシア兵は反ロシア教育の象徴として「教師」をあえて狙い虐待や拷問をした可能性もある。
自宅でロシア兵が“生活”の痕跡…「仕返しがしたい」
スビトラーナさんの家から3軒ほど隣に住むイヴァンさんは、明るい性格の30代の男性だ。英語を話し、映像を撮影するディレクターで「どうぞ入って!」といって私たちを敷地内に入れてくれた。
ブチャから避難をしたのは3月5日。イヴァンさんによると、その時点で「ブチャの9割はロシアに占拠されていた」という。4月に自宅に帰ってきたとき、家は様変わりしていた。
兄弟の車はめちゃくちゃに破壊されていた。さらに軒先にはタイヤ痕、おそらく軍事車両のものだと思われる(衛星写真で確認したところ、自宅の駐車場にロシアの軍事車両が乗り入れているのがわかったという)。軒先には装甲車のドアの部品が落下していた。私も持ってみたが、かなり重くて持ち上げるのがやっとだった。
家の中の被害もある。天井に銃で撃ち抜かれた跡があったのと、テレビにはおそらくスクリュードライバーで傷つけたかのように「ウクライナに行こう」と書かれていた。
ロシア兵がここを拠点に生活していたのは間違いない。そう確信した決め手は、庭先に落ちてあった「ロシア兵が食べ終わった弁当容器」だった。5カ月経った取材当時でもそこにあり、袋に書かれた星形のマークから、ロシア軍が兵士に支給しているものであろうということが分かる。
自宅で起きたことを淡々と説明してくれるイヴァンさんに尋ねた。
――もし逃げていなかったら?
「間違いなく殺されていた。私は若いし、愛国者だから」
――ロシア兵が生活した自宅に戻り住み続けるのはどんな気分ですか?
「複雑な気持ち。ロシア人の友達もいたしロシアの領土がほしいわけではない。でも……ロシアに仕返しがしたい」
ブチャでの虐殺を巡っては、ロシア側が「ウクライナ側のでっち上げだ」と国連などで主張している。しかし、これらが「多くの人に知ってほしい」と言って顔と実名での取材に応じてくれたブチャの人々から語られる事実なのだ。
●ロシアがスーダンで奪う金、ウクライナ侵攻を後押し 8/7
スーダン・ハルツーム(CNN) ロシアがウクライナに残忍な戦争をしかけてから数日後、赤茶色の砂に囲まれたスーダン首都ハルツームの滑走路にはロシアの貨物機の姿があった。積み荷目録にはクッキーと記載されている。スーダンからクッキーが輸出されることは、仮にあったとしても、ごくまれだ。
ハルツーム国際空港のバックオフィスでは、職員の間で激しい議論が繰り広げられていた。機内検査をすることで、親ロシア色が強まりつつあるスーダン軍指導部の機嫌を損ねるのを職員たちは危惧していた。これまで何度か怪しいロシア貨物機の出発を阻止しようとしたこともあるが止められていた。だが最終的に、職員は機内に乗り込むことに決めた。
貨物室の中には、色とりどりのクッキーの箱がずらりと並んでいた。箱の真下に隠されていた木箱には、スーダンでもっとも貴重な資源が納められていた。金だ。ざっとみて1トンはあった。
この1年半、アフリカ第3の貴金属産出国スーダンからロシアが金を密輸したのは、わかっているだけでも16回。そのうちの1回が、スーダン当局筋がのちにCNNに語った今年2月のこの出来事だ。
スーダン政府高官や米国政府職員との度重なる取材や、CNNが検証した山のような文書から、ロシアの巧妙な策略が浮かび上がってくる。厳しさを増す西側諸国からの制裁に対抗し、ウクライナでの戦争を支えようと、スーダンの富を略奪しているのだ。
ロシアが苦境にあるスーダン軍指導部と手を組んで、スーダンの国家機構を迂回(うかい)して数十億ドル相当の金を持ち出し、貧困国の歳入となるはずだった数億ドルを奪っていることも証拠から示唆されている。
それと引き換えに、ロシアは次第に人望を失っているスーダン軍指導者に政治的・軍事的支援を提供している。そして軍指導部は同国の民主化運動を暴力で制圧する。
米国政府の現職および元職員がCNNに語ったところでは、ロシアは2021年にスーダンで起きた軍事クーデターを積極的に支援していたという。暫定文民政権を転覆させたこのクーデターは、その2年前にオマル・バシル大統領を失脚させたスーダンの民主化運動に壊滅的な痛手を負わせた。
「ロシアがスーダンの天然資源を搾取していることは、ずいぶん前から知っていた」と事情に詳しい元米国職員はCNNに語った。「こうした資源へのアクセスを維持するために、ロシアは軍事クーデターを支援したのだ」
「全世界が(ロシアを)包囲する中、ロシアがスーダンの将官とこうした関係を結び、彼らが権力の座に居座れるよう力添えをすることで得られるものは大きい」と元職員は続けた。「そうした『力添え』は、軍事訓練や諜報(ちょうほう)支援に始まって、奪ったスーダンの金の利益配分に至るまで多岐にわたる」
このようなロシア政府とスーダン軍事政権による持ちつ持たれつの関係の中心にいるのが、ロシアの新興財閥(オリガルヒ)でウラジーミル・プーチン大統領の重要な協力者であるエフゲニー・プリゴジン氏だ。
厳しい制裁を科されている61歳のプリゴジン氏が牛耳る怪しげな企業ネットワークには、準軍事組織ワグネルもある。シリアや中央アフリカなど戦争により荒廃した国々で、拷問や大量殺戮(さつりく)、略奪に関与したとみられる組織だ。プリゴジン氏はワグネルとの関係を否定している。
スーダンにおけるプリゴジン氏の足がかりとなっているのがメロイー・ゴールド社だ。同社はプリゴジン氏が所有するMインベスト社の子会社で、米国の制裁対象にもなっている。CNNが確認した請求書によれば、同社は金採掘を行う一方で、スーダン軍や民兵組織に武器や軍事訓練を提供している。
「プリゴジン氏はメロイー・ゴールドや自社従業員とゆかりのある企業を通じてアフリカ諸国に介入し、現地政府を支援する見返りとして、これらの国々の経済資源を略奪する戦略を作り上げた」。こう語るのは、ロンドンに拠点を置くドシエセンターの調査員デニス・コロトコフ氏だ。同センターではロシア政府と関わりのある様々な人物の犯罪活動を追っている。創設者のミハエル・ホドルコフスキー氏はかつてロシア最大の富豪だったが、現在はロンドンで亡命生活を送っている。
CNNはドシエセンターの協力を得て、ワグネルの上級工作員のうち少なくとも1人、アレクサンドル・セルゲービチ・クズネツォフ氏が、ここ数年スーダンの主要な金採掘地や加工・搬送地で操業の監督をしていることを突き止めた。
「ラチボア」や「ラジーミル」の呼び名で知られるクズネツォフ氏は誘拐の前科があり、隣国リビアでは戦闘に参加し、14年にはワグネル最初の攻撃偵察隊の指揮を執った。ロシアの勇敢勲章を4度授与され、17年にはプーチン大統領やワグネルの創設者ドミトリー・ウトキン氏と並んで写真にも写っている。21年には、欧州連合から制裁対象とされた。
スーダン軍指導者とロシアの癒着が深まることで、複雑な金密輸ネットワークが生まれた。スーダン当局筋の証言や、飛行機の運航を追跡するツイッターユーザーGerjonの協力でCNNが検証したフライトデータによれば、昨年スーダン当局は少なくとも16本のフライトを阻止しようとしたが、それはいずれもロシアの主要空軍基地があるシリアの港町、ラトキア発着の軍用機だった。
複数のスーダン当局筋やドシエセンターによれば、金の輸送は陸路でも行われ、ワグネルが圧政政権の後ろ盾となっている中央アフリカに運ばれる。ワグネルは中央アフリカで国民に対する残虐極まりない戦術を実施したと報じられている。
CNNはロシア外務省、ロシア国防省、プリゴジン氏が運営する企業グループの親会社にコメントを求めたが、いずれからも返答はなかった。
CNNの調査結果に対し、米国務省の報道官は「こうした問題は我々も注意深く監視している。これにはメロイー・ゴールドや、ロシアが支援するワグネルグループ、スーダンやこの地域、金取引を通じた他の制裁対象者の報道された行動も含まれる」と述べた。
「人権を尊重し、民主的で繁栄した国を追求するスーダン国民を我が国は支援する」と報道官は付け加えた。「スーダン軍関係者には、ワグネルやメロイー・ゴールド、その他人物が及ぼす悪影響に対する我々の懸念を今後も引き続き明言していく」
裏に消えていくロシアの取引
スーダンの金にロシアが本格的に干渉を始めたのは14年、クリミア侵攻で西側諸国から相次いで制裁を科された後だった。金の輸送は富の蓄積と移動に効果的な方法であることが証明された。国際金融監視システムを回避しながら、ロシア政府の懐を潤すことができた。
「金の欠点は物体であるため、使用の際は国際送金よりもはるかにかさばるという点だ。だが裏を返せば、不可能ではないにしても、その凍結や押収はずっと困難なものになる」と、制裁に詳しいシラキュース大学政治学部のダニエル・マクドウェル准教授は語った。
ロシアの金採掘事業の中心地はスーダン北東部の砂漠の奥地にある。白茶けた景色にぽっかり空いた割れ目が点在し、鉱山労働者たちが灼熱(しゃくねつ)の暑さの中で根気よく作業している。休息が取れるとすれば、シートの切れ端と砂袋で作ったテントの中だけだ。
毎朝こうしたへき地の小規模鉱山から、鉱山労働者たちが「黄金の町」と呼ばれるアルイバイディヤに集まる。金の入った袋をロバが引く荷車に積んで、舗装されていない道沿いに運んでくる。自分たちの商品に最高値をつけるのは、ほぼ間違いなく近くの加工工場から派遣される商人だと人々は言う。地元の人々はこの工場を「ロシアの会社」と呼んでいる。
ロシアの金密輸の中核にあるのは雑な売買プロセスだと情報筋はCNNに語る。CNNが確認した公式統計によれば、スーダンの金の85%前後がこうしたやり方で売買されている。鉱山の内部告発者や治安当局者など複数の情報筋によれば、こうした取引のほとんどは記録されず、またロシアが市場を独占している状況だという。
少なくとも10年間、ロシアはスーダンでの金取引を公式な記録から隠ぺいしてきた。ロシア政府による膨大な金取引を示す多くの証拠があるにもかかわらず、スーダンの公式海外貿易統計には11年以降、ロシアからスーダンへの金輸出量がゼロと一貫して記載されている。
ロシアは政府の把握しない多数の場所で利益を得ているため、スーダンから持ち出された金の正確な量を確認するのは困難だ。だが少なくとも7人の事情通が、スーダンの金密輸の大部分を進めているのはロシアだと非難している。公式統計によれば、近年ではスーダンの金の大半が密輸に流れている。
スーダン中央銀行の内部告発者がCNNに提示した集計表の写真には、21年に32.7トンの金が所在不明であることが記されていた。現在のレートで換算すれば、1トン6000万ドル(約81億円)計算で19億ドル(約2600億円)相当の金が行方知れずということになる。
だが複数の現旧の当局者は、行方知れずの金の数量はさらに多いと言う。非公式の小規模鉱山で産出される金の量をスーダン政府が大幅に低く見積もっているため、実際の数字がゆがめられているというのだ。
CNNに内部情報を提供した人々の多くが、スーダンで産出される金の約90%が国外に密輸されていると主張する。これが事実なら、ざっと134億ドル(約1兆8000億円)相当の金が関税や規制を逃れていることになり、政府の歳入が数億ドル失われている可能性がある。CNNはこの数字について独自に確認できていない。
数年にわたりロシアの金取引を追ってきたスーダンの汚職対策捜査官が、ロシアの主要加工工場の位置をCNNに提供してくれた。CNNが現地に行ってみると、そこはアルイバイディヤから8キロほど離れたところで、施設の頭上にはソビエト連邦の旗がはためいていた。施設前にはロシアの給油トラックが1台停まっていた。
偶然出くわした警備員は施設がいわゆる「ロシアの会社」だと認めた。警備員との軽いやりとりは、すぐさま緊迫した状況に転じた。
「ロシア人のマネージャー」と話をしたいというCNNの要望を警備員がトランシーバーで伝えると、スーダン人男性の一団が現場に駆けつけて取材陣に退去を命じた。その後CNNの車両は警備部隊に跡をつけられた。
「ここから立ち去れ」と別のスーダン人の工場従業員も取材陣に告げた。「ここはロシアの会社じゃない。アルソラジというスーダンの会社だ」
アルソラジはスーダン企業だが、米国の制裁対象となっているロシアの鉱山企業メロイー・ゴールドのダミー会社だ。このことは5人のスーダン当局筋とCNNが検証した会社登記簿で確認されている。
昨年アルソラジが設立されたことで、スーダンでのロシアの目に見える存在感は重要な転機を迎えた。新たなビジネスモデルでは、ロシアの取引は裏に消えて、その段取りはより一層スーダン軍指導部の手にゆだねられるようになった。ロシア側は地元企業を装って、海外企業を対象にした規制を含め政府機関をさらに回避できるようになった。CNNはスーダン軍指導部にコメントを求めたが、返答は得られなかった。
「あまりにも厳しいアメリカの監視」
21年、ロシアのウラジーミル・ゼルトフ駐スーダン公使は、スーダンの鉱山当局者との臨時会議を呼びかけた。
会議を直接知るスーダン鉱業省の内部告発者によると、ゼルトフ公使は見るからに神経をとがらせ、「あまりにも厳しいアメリカの監視」の対象になったメロイー・ゴールドを「目立たなくする」よう要求した。
ゼルトフ公使の要求は今年6月までに実現した。メロイー・ゴールドの資産をスーダン企業のアルソラジに移し替える作業はすでに完了しているようだ。両社の登記簿を調べたところ、法令上の罰を受けたリストが全く同一であるなど、類似性が極めて高かった。
スーダンの法律では、資産を譲渡したい企業は、企業に不利な決定も譲渡する必要がある。また、申告していない外国のパートナーを持つことは違法とされる。
この件を直接知っている文民の元当局者によれば、スーダンの民主化を支援する監視機関として発足した汚職対策委員会が、法の目を潜り抜けようとするこの試みを阻止した。21年9月、汚職対策委員会はメロイー・ゴールドがアルソラジに資産を移行している証拠を記載した詳細な報告書を軍に送り、委員会がいうところの「国家に対する犯罪」を止めるよう要請した。
同委員会は軍がロシアの取引に加担しているとも非難し、これが軍指導部の怒りを買った。この元当局者によれば、軍は委員会が「軍を傷つけている」と厳しく批判した。
「ロシアとスーダンの職員は、政府内の文民を自分たちの策略の邪魔者とみなしていた」とその元当局者は付け加えた。
汚職対策委員会がメロイー・ゴールドからアルソラジへの資産譲渡を阻止してから1か月が経過した21年10月、スーダン軍はクーデターを起こし――米当局者や元当局筋は、ロシアが裏で肩入れしていたと非難している――軍事政権はただちに委員会を解体した。
「ロシアは寄生虫だ」と元当局者はCNNに語った。「スーダンを略奪した。民主化計画の息の根を止め、政治的に非常に大きな罰を与えた。民主化計画はスーダンをすばらしい国にすることができたはずだった」
準国軍部隊「迅速支援部隊(RSF)」の指導者モハメド・ハムダン・ダガロ将軍は、ロシアの支援で恩恵を受けている主要な人物で、ロシア政府から武器や軍事訓練を受けている。CNNのスーダン情報筋は、スーダン軍のトップであるアブドゥル・ファッターハ・ブルハーン氏もロシアから支援を受けているとの見方を示す。
人権団体は、ブルハーン氏とダガロ(通称ヘメッティ)氏が03年に勃発したダルフール紛争で戦争犯罪や人道に対する犯罪に関わっていたと示唆している。
22年にロシアがウクライナ侵攻を開始したのと同じ日、ヘメッティ氏は両国間の「関係強化」のためにモスクワでスーダン代表団を率いていた。
現地で活動するワグネル工作員
19年3月、ほこりの立ちこめる中央アフリカとスーダンの国境で、眼鏡をかけた34歳のロシア人が大慌てで上司であるメロイー・ゴールドのオーナー、ミハイル・ポテプキン氏に助けを求めた。
「誰も事前に知らされなかったことに、ラジーミルが怒っている」。ドシエセンターがCNNに提供したテレグラムのやりとりで、アレクセイ・パンコフ氏はこう書いている。ここで同氏が言及しているのは、スーダンの諜報(ちょうほう)工作員とともに国境に配置されたワグネルの威嚇的な上級工作員、クズネツォフ氏のことだ。
「『内密の』作戦だったとラジーミルに伝えろ。だから彼には知らせなかった」とポテプキン氏は返信した。
「くそっ、ラジーミルは恐ろしい奴だ。クソを漏らすかと思った」と、パンコフ氏は返信した。
CNNが入手した一連の証拠からは、クズネツォフ氏がスーダン各地の要衝でワグネルの任務を遂行する重要人物であることが示されている。前述のやりとりはその一つだ。
さらにスーダン政府の公式声明の中には、アルイバイディヤ近辺のロシア加工工場で警備を統轄していたクズネツォフ氏を「問題の多い」武装ロシア人と呼んでいるものもあった。メロイー・ゴールドのスーダンでの業務に詳しい情報筋がCNNに語ったところによれば、クズネツォフ氏はハルツームにある同社の事務所にも足しげく通っていた。
ドシエセンターによると、ワグネル工作員は交替でスーダンに配属される。クズネツォフ氏もスーダンに配属されたワグネル工作員の1人と思われる。ロシアの密輸の仕組みはウクライナ戦争が勃発して以来重要性を増しているが、こうした仕組みを守るために工作員は戦略的に派遣される。
情報筋の話では、ロシア政府がスーダンからの金供給の掌握を強める中で、こうしたワグネル工作員は同国で高まりつつある恐怖の存在の一部になっているようだ。
本記事を書くにあたり、CNNが参照したいくつかの現地報道ネットワーク――ムジョプレス、アルバシュム、活動家でジャーナリストのヒシャム・アリ氏のフェイスブックページなど――はこの数か月で標的にされ、関係者は暗殺の脅迫を受けて亡命を余儀なくされている。6月だけでも抗議デモ中に銃で撃たれた10人のうち3人が民主化運動の著名な活動家だった。CNNの治安当局筋は、みな意図的に標的にされたと考えている。
スーダン政府の複数の高官はCNNのニマ・エルバジル記者に、抗議デモの現場には近づかないよう何度も念を押した。複数のスーダン治安当局筋の話では、CNNがこの記事の調査を始めてからというもの、エルバジル記者は軍事政権の暗殺リストに名前が挙がっているという。
2月下旬、ウクライナ首都キーウを包囲しようとするロシア軍戦車の映像がハルツーム国際空港のテレビ画面に映し出される中、空港職員はクッキーと金を積んだ飛行機が離陸するのを眺めていた。結局は上級将校が介入してきたのだった。そして不吉な予感が走った。
事情に直接詳しい情報筋によると、密輸品を発見した職員の一部は転属となり、地方に飛ばされたり、軍の予備部隊に派遣されたりした。
「みな自分の仕事をしたがために代償を払うことになった」とその情報筋はCNNに語った。
●北朝鮮がウクライナに侵攻したロシア支援のため10万人の「派兵」を提案!? 8/7
韓国紙「ソウル新聞」に驚くべき記事が掲載されていた。米国の日刊紙「ニューヨークポスト」の5日付の記事を引用し、北朝鮮がウクライナに侵攻したロシアの支援のため「10万人の義勇兵を派遣することを申し出た」と報じたのである。
情報元はロシアの国防専門家イーゴリ・コロチェンコ氏で、「ニューヨークポスト」はコロチェンコ氏が5月5日(現地時間)にロシアの国営テレビ「One TV」に出演した際の発言を紹介していた。
コロチェンコ氏は番組で「10万人の北朝鮮義勇兵が(ウクライナに)来て紛争に参加する準備ができているとの幾つかの報告がある」と発言し、「彼らは対砲兵戦で多くの戦闘経験を持っている」と解説していた。
「ニューヨークポスト」はこの発言はウクライナが6月から戦場に投入し、効果を発揮している高速機動砲兵ロケットシステム(HIMARS)を意識したものではないかと推測しているが、コロチェンコ氏は続けて「もし北朝鮮がウクライナでファシズムと戦うという国際的な義務を果たす意思を表明するなら、我々(ロシア)はそれを受け入れるべきだ」と提言したとのことだ。
確か、4月上旬に「ロシアのショイグ国防相が3月中旬に北朝鮮を極秘訪問し、消耗した弾薬やミサイルなどの支援を要請し、北朝鮮がこれに応えた」とのウクライナ発の未確認情報が駆け巡ったことがあった。
ウクライナのニュース放送「TSN」がイスラエルに亡命中のロシア最大石油企業ユコスの元最高経営責任者(CEO)レオニード・ネブズリン氏の情報として発信していたが、今回はロシア発で、それも国営テレビ発信されたロシア国防専門家の発言だけに軽視はできない。
北朝鮮がロシアのウクライナ侵攻を一貫して支持しているのは周知の事実である。
侵攻が始まった翌日の2月26日には早くも「ウクライナ政府によって虐げられてきた人々を保護するためだ」とロシアを全面的に擁護し、28日にも「他国に対する強権と専横に明け暮れている米国と西側の覇権主義政策に根源がある」と欧米批判を展開していた。実際に、国連総会ではベラルーシ、シリア、エリトリアの3か国と共にロシア非難決議に反対票を投じていた。。
ロシアの祖国戦争勝利記念日にあたる5月9日には金正恩(キム・ジョンウン)総書記自らがロシアのウクライナ侵攻は「国の尊厳と平和と安全を守るための偉業」であるとしてプーチン大統領に連帯を表明していた。そして、先月13日にはウクライナ東部を実効支配している親ロシア派の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認し、外交関係を樹立していた。
北朝鮮は独立を承認しただけでなく、ロシアのマツェゴラ駐北朝鮮大使がロシア紙「イズベスチヤ」とのインタビューで明らかにしたところでは建設労働者を派遣し、二つの地域での復旧作業にあたるとのことだ。
終戦下でもなく、停戦状態にも置かれてない危険地域に派遣するのは当然リスクが伴う。従って、労働者の派遣が既成事実ならば、安全が担保されなければならない。そのためにはウクライナ戦でのロシアの勝利が前提となる。
仮に戦時中の派遣ということになると、労働者以外に建設現場の治安を維持するための「治安維持部隊」を派遣しなければならない。そうでなければ、一般労働者ではなく、軍後方総局所属の軍人が主体となるだろう。
それにしても、10万人とは多い。しかし、ベトナム戦争が終結するまでの6年間に延べ30万人以上の軍人を派兵した韓国と比較すると、その3分の1である。また、北朝鮮の正規軍は110万から120万人と言われている。10万人と言えば、その10分の1である。労働力が余っている北朝鮮からすると、大した数ではないのかもしれない。
本当に北朝鮮は10万人もの軍人を「派兵」するのだろうか?

 

●侵攻後初の外国船入港 ウクライナ 8/8
ウクライナのインフラ省は7日、黒海に面した南西部チェルノモルスクの港にバルバドス船籍の貨物船が到着したと発表した。ロシアによる2月の侵攻開始後、外国籍の船が入港したのは初めて。
●人権団体アムネスティ ウクライナ代表が辞任 調査結果に抗議か  8/8
国際的な人権団体の「アムネスティ・インターナショナル」が、ウクライナ軍が市民を危険にさらす戦術をとっているとして国際人道法に違反しているという調査結果を公表したことを受けて、この団体のウクライナ事務所の代表ポカルチュク氏は5日、辞任したことを明らかにしました。
ポカルチュク氏はSNSへの投稿で「調査結果はロシアのプロパガンダの道具になってしまった」と指摘していて、辞任は抗議の意思を示した形とみられます。
調査結果を巡っては、ゼレンスキー大統領も非難するなどウクライナ側は強く反発しています。
ウクライナ側の反応に対してアムネスティ・インターナショナルは7日、海外メディアに対し、市民が保護されて犠牲にならないことが優先事項だとしたうえで調査結果には何の問題もないという考えを示しました。
一方、「ウクライナ軍の行為がロシア側の違反を正当化するものではないことは明白だ」とも指摘し、あくまでも軍事侵攻を行っているロシア側に責任があるという考えを強調しました。
●ウクライナ 貨物船4隻が新たに出港 輸出再開が加速するか焦点 8/8
ウクライナ南部の港からは、トルコと国連の仲介による合意を受けて、農産物を積んだ4隻の貨物船が新たに出港しました。世界的な食料危機への懸念が続く中、輸出再開の動きが加速するかが焦点です。
ウクライナではロシア軍による封鎖で黒海に面する南部の港から農産物の輸出が滞っていましたが、先月トルコと国連の仲介によって輸出再開で合意しました。
これを受けて今月1日と5日、穀物を積んだ船、合わせて4隻が南部の港から出発しましたが、トルコ国防省は7日、さらにトウモロコシやひまわり油などを積んだ4隻の船も新たに出港し、中国やイタリアなどに向かうと発表しました。
また、ウクライナのインフラ省は7日、ロシアによる軍事侵攻後、初めてウクライナの港に貨物船が入港したと明らかにしました。
クブラコフ・インフラ相は「『穀物回廊』が港の出入りの両方に使えるようになったと言える」と強調しました。
ロシアのプーチン大統領はウクライナからの輸出の継続に協力する姿勢を示す一方、ロシア産の穀物と肥料の輸出についても妨げられないようにする必要があると欧米側の制裁をけん制していて、世界的な食料危機への懸念が続く中、輸出再開の動きが加速するかが焦点です。
一方、ウクライナの原子力発電公社エネルゴアトムは、ロシア軍が南東部にあるザポリージャ原子力発電所の周辺を6日再び攻撃し、使用済み核燃料の貯蔵施設近くが砲撃されたと発表しました。
エネルゴアトムは「核の大惨事は奇跡的に免れたが奇跡は永遠には続かない」としてロシア軍の即時撤退などを改めて求めました。
これに対して、ロシア側はウクライナ側が再び原発を攻撃したと主張し、反論しています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「ロシア軍は、ウクライナに軍事支援を行う欧米の意欲を低下させるため核の災害に対する恐怖に乗じて原発を利用しているとみられる。ウクライナ側の攻撃を防ぐために『核の盾』としても原発を利用している」とする見方を示しています。
●ザポロジエ原発に再び攻撃か 侵攻後初の外国船入港―ウクライナ 8/8
ウクライナ南東部にある欧州最大規模のザポロジエ原発が6日夜、攻撃を受け、関連施設に被害が出たもようだ。同原発では5日にも砲撃があり、ロシア軍とウクライナ軍は相手が攻撃したと非難合戦を展開。情報は錯綜(さくそう)しており、詳細は明らかになっていない。
ウクライナ国営原子力企業エネルゴアトムは7日、通信アプリで「ロシア軍が原発にミサイルを発射し、使用済み核燃料の貯蔵施設付近を破壊した」と非難した。作業員1人が負傷したという。AFP通信によれば、ロシア側はウクライナ軍の砲撃で管理棟が損傷したと主張している。
一方、ウクライナのインフラ省は7日、黒海に面した南西部チェルノモルスクの港にバルバドス船籍の貨物船が到着したと発表した。ウクライナ産穀物が積み込まれる予定で、クブラコフ・インフラ相はフェイスブックで「『穀物回廊』が使用できるようになったと明言できる」と歓迎した。ロシアによる2月の侵攻開始後、外国籍の船が入港したのは初めて。
クブラコフ氏は「2週間以内に、1日当たり少なくとも3〜5隻の船舶を受け入れるようにする計画だ」と説明。「月間300万トンの農産物」の輸出を目指すと明らかにした。
また、インフラ省によると、南西部オデッサとチェルノモルスクの港から7日、合計で16万トン以上の農産物を積んだ4隻の船が出港した。
こうした中、ウクライナ軍は南東部ザポロジエ州や南部ヘルソン州のロシア軍占領地の奪回作戦を続けている。英国防省は6日の戦況分析で、ロシア軍がウクライナ軍の反撃に対抗するため、戦力を東部ドンバス地方からザポロジエ、ヘルソン両州に移動させつつあると指摘。激戦地が南部に移る「新たな局面」に入ろうとしているという見方を示した。
●ウクライナ南東部 原子力発電所の近くで2日連続の砲撃  8/8
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナにあるヨーロッパ最大規模の原子力発電所近くで2日連続で砲撃があり、原発の安全性を脅かしかねないとして、国際社会の懸念が強まっています。
ロシア軍がことし3月から掌握しているウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所では、今月5日、周辺に砲撃が行われ、ウクライナ・ロシア双方が「相手の攻撃だ」と主張しています。
ウクライナの原子力発電公社エネルゴアトムは、翌日6日にも使用済み核燃料の貯蔵施設近くが攻撃され、職員1人がけがをして病院に搬送されたほか、貯蔵施設の近くに設置されたモニタリング装置が損傷し、放射性物質の漏れなどが即時に検知できなくなっていると発表しました。
ゼレンスキー大統領は7日、公開した動画で「原発を攻撃されて安心できる国などない。取り返しのつかないことが起きてしまえば、放射性物質の拡散を止めることは誰にもできない」と述べ、ロシアを改めて非難するとともに「国際社会の確固たる対応が今すぐに必要だ」と訴えました。
一方、ロシア国営のタス通信は「ウクライナ側が攻撃した」とするロシア側の見解を伝え、反論しています。
ヨーロッパ最大規模の原発への攻撃をめぐっては、EU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領がゼレンスキー大統領と議論したことをツイッターで明らかにし「ザポリージャ原発の安全性は大きな関心事だ」としています。
また、日本を訪問している国連のグテーレス事務総長は8日、記者会見で「原発への攻撃はみずからを危険にさらす行為にほかならない。直ちに攻撃を止め、IAEA=国際原子力機関が原発の安全を確保することを望む」と表明するなど国際社会の懸念が強まっています。
●ロシア、ウクライナ戦争で目的達成する=メドベージェフ氏 8/8
ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長は8日、ウクライナ戦争でロシアは思い通りに目的を達成すると表明した。また西側はロシアを破壊する長期的な計画を持っていると述べ、警戒感を示した。
タス通信のインタビューで「ロシアはウクライナで特別軍事作戦を行っており、われわれの条件に基づいて平和を達成している」と述べた。
2008年のグルジア戦争、北大西洋条約機構(NATO)の拡大、ウクライナ戦争は、米国と同盟国によるロシア破壊の試みの一部と主張。「目標は同じで、ロシアを破壊することだ」と語った。
●ロシアの戦争犯罪疑い、約2.6万件捜査=ウクライナ検察高官 8/8
ウクライナは2月24日のロシア侵攻以来、戦争犯罪が疑われる事件約2万6000件を捜査中で、これまでに135人を起訴した。検察庁の戦争犯罪担当責任者がロイターに明らかにした。
起訴されたうち15人がウクライナで拘束されているが、残りの120人は現在も逃走中という。また13件で公判が行われ、7件について判決が言い渡された。
5月には侵攻後初の戦争犯罪裁判で、非武装の民間人を殺害したとして21歳のロシア兵に終身刑が言い渡された。
首都キーウ(キエフ)でインタビューに応じた検察の担当者は「なぜこのような低い肩書の人物を捜査するのか問われたことがある。それは、彼らが物理的にここにいるからだ。もし司令官クラスの人物がここにいて拘束可能なら、確実にその者を捜査する」と述べた。
●戦時下で結婚急ぐ若者急増、首都では8倍超に ウクライナ 8/8
ウクライナ中部クレメンチュク(Kremenchuk)で、テチアナさん(31)は6月の結婚式当日、大きな音にたたき起こされた。シャンパンのコルク栓を抜く音なら良かったのだが、実際は自宅近くにロシアのロケット弾が着弾した音だった。
デザイナーのテチアナさんはAFPに「最初は雷鳴かと思ったが、空に雲はなく、砲撃だったと気付いた」と述べ、砲弾の直撃に備えて部屋から廊下に急いで避難したと振り返った。
夜明け前の攻撃による被害に動揺したものの、テチアナさんと婚約者タラスさんは、6時間後に迫った式を決行する意思を確かめ合った。
「初めは式をキャンセルすべきではないかと思ったけれど、婚約者から予定通りにしようと言われた」と語ったテチアナさんは、「戦争に、私たちの計画を台無しにする権利はない。私たちには家族をつくり、人生を満喫する権利がある」と強調した。
長期化する戦争
クレメンチュクが位置するポルタワ(Poltava)州では、2020年に1300組が結婚したのに対し、2月24日にロシアがウクライナに侵攻した後の6週間で1600組が結婚した。
首都キーウでは、結婚の急増ぶりはさらに顕著だ。5か月間に9120件の婚姻届が提出され、2021年の結婚式の数が1110件だったことから、8倍以上も増加したことになる。
キーウ中心部の役所ではある土曜日、40組以上のカップルが門出を迎えた。
アナスタシアさん(22)との結婚を控えたビタリーさん(25)は、戦地に赴くため軍服を身にまとっていた。「戦争の最中に結婚するのは最も勇敢かつ困難な決断だ。次に何が起こるか分からないのだから。すぐに前線へ行くかもしれない」と話した。
ウクライナでは婚姻手続きが簡素化され、届けを出したその場で結婚できるようになったことも、増加を後押ししている。ビタリーさんは「戦争は続く。今結婚した方がいい」という考えだ。
ウクライナ人の反骨精神
公務員のチャルニフさん(21)は3月初め以降、息をつく暇もなく結婚儀礼を執り行っており、戦時中の特別な役割を果たしていると自負している。「公務員として国民を心の面で支えることで、国のためになれるはずだ」
戦時下では、若者が恋愛を結婚へと急いで成就させる傾向が強いことは歴史的に証明されている。第2次世界大戦(World War II)中の1942年、米国では180万組が結婚したが、この数字はその10年前と比べて83%の増加だった。
チャルニフさんによると、特に兵士の間での結婚が増えているという。「こういう困難な状況の中では、あす何が起こるか分からない。皆、可能な限り早く結婚しようとしている」
中部ビンニツァ(Vinnytsia)のヨガ講師ダリア・ステニュコワさん(31)は、ビタリー・ザバリニュクさん(30)との結婚式を何週間もかけて計画してきたが、式を翌日に控えて最悪の事態に見舞われた。
ロシア軍の巡航ミサイルが市中心部に着弾。26人が死亡し、婚姻登録を受け付けている役所に被害が出たほか、ステニュコワさんのアパートも破壊された。
ステニュコワさんは「ショックは受けたけれど、結婚式を行う決意は揺るがなかった。諦めるのは問題外だった。家は破壊されてしまったけれど、私たちの人生はそうではない」と語った。
市内に祝宴を催せるようなムードはなく、友人や家族を呼ぶ会は延期せざるを得なかった。ただ、何とか婚姻手続きだけは別の場所にある役所を探して済ませようと決めたステニュコワさん。
「どの役所も新たな1組を受け入れる余裕はなかった。可能性はないと断られたが、とにかく行ってみることにした」ところ、「一日中待つ覚悟だったが、到着して3分で結婚することができた」という。
ステニュコワさん夫妻は、結婚を記念し、攻撃を受けたアパートで写真撮影するというユニークな試みを行い、注目を集めた。「ウクライナ人がどれほどたくましいのか、その反骨精神を世界に示すメッセージだった。ロケット弾が頭上を飛来していても結婚する準備はできている」
●「核戦争リスク、高まっている」 グテレス国連事務総長が警告 8/8
広島市で開かれた平和記念式典に出席したグテレス国連事務総長は8日、日本記者クラブ(東京都千代田区)で記者会見し「地政学的な状況が過激化しており、核戦争のリスクが高まっている」と警告した。ウクライナ侵攻を続けるロシアが仮に核を使った場合は「国連にも対応できない」と語り、核の脅威を改めて強調した。
ウクライナ侵攻を巡っては、国連は穀物輸出の再開などで仲介役を担ったが、本格的な停戦交渉は停滞している。グテレス氏は会見で「ウクライナは領土を奪われることを容認できず、ロシアは占領地域を併合できないのが受け入れられない。この単純な事実が停戦を難しくしている。長い戦争になると懸念している」と指摘。露軍が占拠しているウクライナ南部ザポロジエ原発で砲撃があったことについては「原発への攻撃は自殺行為だ。すぐに攻撃がやみ、国際原子力機関(IAEA)が現場にアクセスできるようになることを願う」と訴えた。
また、台湾周辺で中国が軍事演習を行い緊張が高まっている点については「重要なのは、良識を持ってエスカレーションを抑制することだ」と述べ、当事者に自制を求めた。
グテレス氏は国連事務総長として2010年の潘基文(バンキムン)氏以来12年ぶりに平和記念式典に参列。あいさつでは核保有国に対し、核兵器の先制使用をせず、非核国への核使用と核による脅迫をしないよう改めて呼びかけた。
●ウクライナ侵攻「停戦困難な状況 当面は人道支援で」国連総長  8/8
日本を訪れている国連のグテーレス事務総長は都内で記者会見を行い、ロシアによるウクライナ侵攻について、双方が譲歩できず停戦が困難な状況にあるという認識を示したうえで、国連として当面はさまざまな人道支援に向けた実務的な仲介に当たり、事態の打開につなげたいという考えを示しました。
広島市の平和記念式典に出席するため日本を訪れていた国連のグテーレス事務総長は8日、都内で記者会見を行いました。
この中で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が長期化している現状について「領土を奪われることを受け入れられないウクライナと、占領した地域を併合するか独立させようとしているロシアとの間で、歩み寄りが見られない。停戦は極めて困難で、戦争が長引くことを非常に心配している」と述べ、強い懸念を示しました。
そのうえで「国連として強力な人道支援を行っており、これからもさまざまな問題の解決に向けた実務的な仲介を行う用意がある」と述べ、当面はさまざまな人道支援に向けた仲介に当たり、事態の打開につなげたいという考えを示しました。
また、中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を行い緊張が続いていることについて「『一つの中国』を原則とする国連総会の決議を尊重しつつ、事態の平和的な解決を期待している。重要なのはそれぞれが常識ある自制的な態度で臨むことだ」と述べ、冷静な対応を呼びかけました。
グテーレス事務総長はまた、気候変動問題にも言及し、日本を含む一部の国が石炭火力発電への融資を続けている現状について「クリーンな石炭火力というものはない。日本の政府や企業が石炭火力への資金を完全に止めることを期待したい」と述べ、一層の取り組みを促しました。
●米上院議員、ロシアの「テロ支援国家」指定求める 8/8
ウクライナ産の穀物を積んだ船団の第2陣が7日朝、黒海沿岸の港を出港した。ウクライナのクブラコフ・インフラ相が明らかにした。安全航行を巡る合意後第1陣の外国貨物船は6日遅くに到着し、現在は積み込みを待っている。またウクライナ産トウモロコシを積んだ貨物船のレバノン到着が遅れている。
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は、ロシアによるザポロジエ原子力発電所への5日の砲撃について、「大惨事をもたらす恐れがある」と述べた。ウクライナはロシアの攻撃を「テロ行為」と糾弾。ロシアは関与を否定している。
ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領は5日、ロシアの保養地ソチで4時間近くにわたって会談。トルコ政府は穀物輸出を巡る画期的な合意を受け、ウクライナでの戦争終結に向けた仲介役を果たそうと取り組んでいる。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
米上院議員、ロシアの「テロ支援国家」指定求める
米上院議員2人がバイデン政権に対し、ロシアを「テロ支援国家」に指定するようあらためて呼び掛けた。
民主党のブルーメンソル議員はCNNの番組「ステート・オブ・ザ・ユニオン」で、「米政権はイランやキューバのようにロシアを事実上のけ者にすると通告すべきだ」と発言。共和党のグラム議員も、テロ支援国家の指定は「ウクライナへの被害について米国の裁判所にロシアを提訴することが可能になる」などを意味すると指摘した。
上院は先月、ロシアのテロ支援国家指定をバイデン政権に求める決議を可決。この決議案の取りまとめを主導したのがブルーメンソル、グラム両議員だった。
ロシア軍、原発周辺を2日連続で砲撃−エネルゴアトム
ロシア軍の砲弾が6日、ウクライナ南東部ザポリージャ(ザポロジエ)の原子力発電所にある使用済み核燃料の保管場所の近くに着弾し、作業員1人が負傷した。同原発を運営するエネルゴアトムがソーシャルメディアのテレグラムへの投稿で明らかにした。
同社は6日夜の攻撃について、使用済み核燃料を貯蔵する屋外の容器を狙ったものだったようだと指摘。放射線モニタリングの装置が損傷を受けたと説明した。同原発を占拠している最大500人のロシア軍兵士が砲撃中にバンカーに退避したことも指摘した。
ウクライナ産トウモロコシ積んだ貨物船、レバノン到着遅れる
ウクライナ産トウモロコシを積んだ貨物船のレバノン到着が遅れている。レバノンのハミーヤ公共事業・運輸相がツイートで明らかにした。同貨物船は7日にレバノンのトリポリに到着する予定だった。遅れの原因は不明。
ウクライナから穀物輸送第2船団が出航−インフラ相
ウクライナのクブラコフ・インフラ相はツイッターで、同国の黒海に面した港から7日朝、4隻の貨物船が出航したと明らかにした。ウクライナとロシアが穀物輸送船の運航再開で7月22日に合意して以来、船団としては第2陣となる。
●萩生田経産相「サハリン1、権益維持の方針変わらず」ロシアの大統領令に対応 8/8
萩生田光一経済産業相は8日の閣議後会見で、ロシア極東サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン1」に関して、「日本企業の権益を維持していく方針に変わりはない」と強調した。ロシアのプーチン大統領が5日署名した大統領令で、ロシアに経済制裁を行っている日米欧の「非友好国」の企業が「サハリン1」の株式売買を年末まで禁止したことへの政府の対応の一環。
萩生田氏は「原油輸入の約9割を中東に依存するわが国にとって、サハリン1は貴重な中東以外の調達先」とも指摘。三井物産と三菱商事が出資し、液化天然ガス(LNG)に関する権益維持の方針を固めている石油・天然ガス開発事業「サハリン2」同様に権益を維持し、エネルギーの安定調達につなげる考えも示した。
サハリン1には米石油大手エクソンモービルが、露石油大手ロスネフチ、日本の「サハリン石油ガス開発」などが出資している。サハリン石油ガス開発の出資比率は30%。
サハリン石油ガス開発には、経済産業省、伊藤忠商事、丸紅、石油資源開発、INPEXが出資している。
●ウクライナ軍壊滅の日は近い? ロシアから見える現在の戦況 8/8
2019年3月4日付『赤星』紙上に、ロシア連邦軍参謀総長のワレリー・ゲラシモフ上級大将が軍事科学アカデミー総会で行った『軍事戦略発展のベクトル』と題する演説が報じられている。
このゲラシモフ演説は、今日のウクライナ戦争の様相を予見し、それに備えるための軍事戦略を提唱している。
将来戦の様相を予測し、理論と実践の両面から戦略原則を明示し、情報、編成装備、運用、兵站、人事、訓練など、軍事力全般にわたる諸要素が含まれている。
さらに国家全体としての戦争の予防・準備・遂行についての採るべき態勢にも言及している。
その方針に沿って、5年以上の歳月をかけて、ロシアは軍のみならず国家総力を挙げて戦争の準備と遂行に備えてきた。
その成果が、今回のウクライナ戦争に現れている。
すべての軍事領域にわたる基本戦略
ゲラシモフが提唱した『軍事戦略発展のベクトル』では、軍事的脅威の変容、戦略概念の定義、その理論と実践の一致、戦争の予防・準備・実施の原則、戦争シナリオの予測体系、領域外での「限定行動戦略」とその枠内での部隊運用、国家の軍事組織間の相互関係、情報空間での敵対関係などについて、総合的に述べられている。
「戦略」の定義について、ゲラシモフは、「戦争の予防、準備、実施に関する知識と行動の体系」であるとしている。
また戦争の主体は、主権国家の軍隊と並び、様々の武装組織、民間軍事会社、他国から承認されていない「疑似国家」など、多様化している点を指摘している。
これは、シリア内戦などの経験から、様々の武装組織、ISなどの「疑似国家」や欧米の軍事会社などが戦争の主体として戦っていた実態を踏まえた分析とみられる。
このような多様な戦争主体の活用という戦略が、東部ドンバスでのロシア系住民の武装抵抗活動に対する、ハイブリッド戦争とも称される、民兵、特殊部隊などを使った支援という戦い方にも反映されている。
ゲラシモフ演説では、経済・政治・外交・情報などの非軍事的な「圧力手段」が活発に使用され、軍事力はこれらの非軍事手段の効果を高めるために誇示されると指摘している。
ここで言われている軍事力の誇示とは、仮想敵国近傍での、単独または共同の軍事演習、哨戒飛行、艦隊の航行、実弾射撃訓練、ミサイルの発射訓練などが挙げられる。
ウクライナ戦争開戦前後にも、中露合同艦隊の日本周回、爆撃機などの連携飛行、北海道東部での大規模演習などのロシア軍による軍事的圧力が行使されている。
なおゲラシモフ演説では、「軍事力が行使されるのは、非軍事手段では初期の目的が達成できなかった場合」であると述べているが、逆に言えば、非軍事手段の圧力では限界があると見た場合は、いつでも軍事力の行使に移行しうることも意味している。
クリミアでもウクライナでも大規模演習による威圧行動からそのまま軍事侵攻に移行している。
情報敵対行動の脅威と非対称戦争への備え
米国やその他のNATO(北大西洋条約機構)加盟国、さらにはNATO化を進めるウクライナを意識したとみられる、「地政学的競争相手たち」の戦い方について、以下のようにその脅威を強調している。
すなわち米国などの「競争相手たち」は、地域紛争以外の場でも自らの目的を達成しようとして、活発な「情報敵対行動」をとりつつ、空中・海洋・宇宙から発射される精密誘導攻撃により「高度の技術力を有する敵」と戦うと述べている。
このような条件の下で、ロシア軍としては、新しい型の戦争および軍事紛争への備えとして、古典的な作戦能力と非対称の作戦能力を整備しなければならないとしている。
このような安全保障観は、習近平中央軍事委員会主席も、2017年の第19回党大会において、「総体国家安全観」として強調している。
米軍も、サイバー、宇宙、電磁波などの新領域や情報戦なども含めたソフトパワーを重視しており、米ロ中いずれも、これまでより幅広い戦争観を強調している。
このような戦争観を受けてゲラシモフ演説では、軍事戦略の理論と実践の最大の意義は、「多様な敵に対する戦争遂行に関する合理的な戦略を追求すること」にあると、多様な敵への備えを強調している。
そのためには、科学としての軍事戦略を、戦争に関する知的体系の発展と、戦争の予防・準備・遂行に関する実践的活動の改善の二つの方向に沿って、発展させねばならないとしている。
戦争の準備・遂行における総合一体化
軍事戦略の研究において、政治・経済・情報などの非軍事手段が、一国内において、軍事力とともに複合的に使用されるケースが多くなっている。
軍事戦略の研究においては、戦争の推移や帰結に影響するすべての非軍事的手段について研究し、軍事力を効果的に使用するための条件を生み出すことが求められる。
その際に、各領域における作戦は、その領域固有の戦略、作戦の手段、資源を提示するものであり、共通の目的を達成するためには、各領域を個別に管理するのではなく、それらの総合一体化・協調を図らねばならないと強調されている。
これは米軍のマルチドメイン作戦戦略の発想に類似しており、各ドメイン間の調整と協調による総合一体化が重視されている点は共通している。
そのためには、国防省の研究機関、連邦行政機関の力を結集し、困難な課題について、学術界と軍の実務者との対話が不可欠であると強調している。
中国の軍民融合、米国の全政府・民間も一体となったアプローチと共通した考え方と言えよう。
戦争の予防・準備・遂行原則
戦争の予防についての原則は、軍事的リスクと脅威をリアルタイムで把握、それに対応することを目的とし、軍事的・政治的戦略環境の展開を予測することであるとしている。
戦争の準備についての原則は、軍の戦闘即応態勢と動員態勢を常時維持しておくこと、および戦略予備と後備予備を維持しておくことにより実現されるとしている。
戦争遂行の原則を発展させ実現するためには、軍事手段と非軍事手段を協調させることが重要であるとしている。
その中でも、戦略行動が敵の意表に出ること、その打撃が決定的なものであり、かつ連続的であるという、奇襲の原則を強調している。
そのためには、「迅速な行動により、自らの予防的措置によって敵の機先を制し、敵の脆弱点をリアルタイムに発見し、敵に対して耐えがたい損害を和えられるような攻撃的脅威を作り出さねばならない」と強調している。
またそれは、「戦略的主導権を奪取し、それを維持すること」により可能になるとしている。
このような戦略奇襲の原則は、ウクライナ戦争において発揮されている。
戦争は、NATO側が予期していたよりも早い時期に奇襲的に始まった。当初はキーウ正面に半数以上の約10万人の兵力を集中し、主攻が北部に指向されているかのように欺騙した。
しかし10万の兵力で約300万人の人口を有するキーウを攻略するのは、5倍以上の兵力を必要とする市街戦の攻撃兵力として明らかに過少であり、軍事常識上あり得ない。
すなわち、当初から欺騙行動としてキーウ攻略が実施されたとみるべきであろう。
ロシア軍は、首都防衛にウクライナ側の戦力を拘束しつつ、キーウ攻略が頓挫し撤退したかのように見せかけながら、ウクライナ側の防御が手薄な東部と南部正面に迅速に戦力を転用、集中し、泥濘期明けまでに態勢を固め、予期よりも早く攻勢に出て、東部ドンバスでのその後の両翼包囲戦を有利に進めた。
このように、上記のゲラシモフが述べた軍事戦略に沿った戦争指導方針が実践されている。
合理的な戦争推移予測システム
「実践なき理論は無益」であり、軍事戦略の実践には科学的な基礎が必須であると強調されている。
そのためには、すべての科学者からなる共同体の力を結集しそれを継続して、有効で根拠づけられた新たな原則を確立する必要があるとされている。
日本学術会議は軍事的研究をいまだに忌避している。また憲法第九条の戦争放棄条項をめぐり自衛隊は違憲か否かの論議が日本では行われている。
ゲラシモフの戦略論からみれば、このような議論は何ら実践に結びつかない空理空論に過ぎない。
戦略実践の基礎として、戦争推移のシナリオを予測するための研究体系を打ち立てることが重視されている。
そのためには、「起こりうる紛争を予期して、裏付けのある予測を行うことは、軍事力行使の形態および手段を開発する際の、出発点として有用である。今日の、軍事力行使の合理的体系は、理論的に裏打ちされ、実践により裏付けられており、この合理的体系は、戦略的抑止行動の重要な構成部分である」としている。
その際に、米国のその当時の動向から、「軍事・政治的状況の先鋭化、軍事的脅威の出現につながりかねない」と警告しているのは注目される。
その具体例として、ロシア国境に直接接する地域における軍事プレゼンスの拡大、ミサイル防衛システム制限条約からの米国の脱退、INF条約の効力停止、新戦略兵器削減条約の延長拒否などの事象を列挙している。
ロシア国境に直接接する地域での軍事プレゼンスの拡大とは、バルト三国のNATO加盟に続く、ウクライナにおけるポロシェンコ親米政権誕生とNATO軍化の進展などが念頭にあるとみられる。
まさに、ゲラシモフ演説が為された2019年3月当時、ロシアにとり最大の軍事的脅威は、ウクライナ軍のNATO軍化であったと言えよう。
それに連動した、米国の戦略核戦力とミサイル防衛システムの増強への対処も、ロシアにとり国家安全保障上最も深刻な脅威であり、それを突破できる攻撃兵器システムの開発配備が急務とみられた。
また、ウクライナ領土に、米国の戦略・戦域核戦力と連動するレーダシステムや弾道ミサイルが配備されることは最も深刻な脅威であったとみられ、その可能性を芽のうちに排除することも不可欠とみられていたと言えよう。
このようなロシア側の脅威認識が、ウクライナ侵攻の背景にあったとみられる。
開戦当日2月24日のウラジーミル・プーチン大統領の演説でもその点は明確に述べられている。
さらに、宇宙空間の軍事化、軍事利用の脅威にも言及している。
国際宇宙ステーションからのロシアの離脱がウクライナ戦争にともない、2022年7月に表明されたが、今後、対衛星攻撃兵器の搭載など、宇宙の軍事利用をめぐる軍拡競争が激化するとみられる。
ウクライナ戦争でも、世界が知らないところで既に熾烈な戦いが宇宙空間でも行われている可能性は高い。
戦略的抑止手段
以上の脅威認識を踏まえて、軍事戦略の発展にとり差し迫った最大の課題は、核と非核の抑止手段を裏付のあるものにし改善することであるとされている。
非軍事的手段についても、「すべての仮想敵は、ロシアおよびその同盟国に対するあらゆる圧迫には望みがないことを理解すべきだ」としている。
このゲラシモフ発言は、現在NATOや日豪などが行っている、ロシアへの経済制裁や外交的孤立、宣伝情報戦などの非軍事的手段が効力を発揮しない態勢を構築することを意味している。
ロシアはこのような非軍事的圧迫を予期して、過去5年以上備えてきたとみられる。
もしそうであれば、資源国で食糧輸出国でもあるロシアにとり、経済封鎖への対抗手段として備蓄、代替、別の供給国・輸出国の確保などの対応をとることは容易であろう。
経済制裁は、ロシアに対し効果的ではなく、備えの不充分な自給率の低い日本や欧州諸国にとりむしろ厳しい経済落ち込みを招くことになるのではないだろうか。
外交的にも、対露制裁決議に中印、中東、東南アジア、中南米、アフリカなどの諸国は賛成しない国が大半である。
核抑止力については、多種多様な新型の核運搬手段の開発配備の進展を紹介し、「世界の最先端を走っているという事実に疑いをはさむ余地はない」との自信を示している。
その具体例として、「アヴァンガルド」、「サルマート」、新兵器「ペレスウェート」、「キンジャール」は高い有効性を示し、「ポセイドン」、「ブレヴェストニク」の試験は順調に進み、「海洋配備型極超音速ミサイル「ツィルコン」の開発計画も進んでいる。
地上配備型の短・中距離極超音速ミサイル複合体の研究・設計作業も実施が決定された」と述べている。
これらの新兵器については、2018年3月の年次教書演説において、プーチン大統領自ら紹介し、その成果を誇示している。
また、ウクライナ戦争においても、核弾頭搭載可能な極超音速空対地ミサイル「キンジャール」が世界で初めて実戦に使用された。
北朝鮮は2022年前半に、かつてない数の多種多様なミサイルの発射を連続して行っているが、その中にロシアのイスカンデル型に類似した、短距離・中距離の地上配備型極超音速ミサイルの発射試験も含まれている点は注目される。
北朝鮮がロシアから請け負い、ロシアに代わり発射試験を行っている可能性もある。
また「火星」シリーズのロケットエンジン「白頭山」は、もともとウクライナ製である。
しかしウクライナ戦争下でも北朝鮮が、「火星17」と自称しているが「火星15」とみられるロケットや「火星17」大型ICBMの発射試験を相次いで行っていることは、ロシアからのロケットエンジンの供与または技術支援があることを示唆している。
予算面についても、「予定された軍事予算の範囲内で、必要な数の新兵器を開発することができる」とし、ロシア経済に負担をかける「新たな軍拡競争に引きずり込まれることはない」と、財政的裏付けがある点を強調している。
北朝鮮の発射試験請負は、ロシアにとっては武器輸出拡大と研究開発予算の削減につながるというメリットもある。
今後の方向として、西側はロシアを「脅威に対抗しなければならないという脅威に追い込むべく、将来的にわが意思決定中枢を攻撃することを計画している」と警告を発している。
特に「その中には、ロシア領内の目標に巡航ミサイルを実戦で使用できる発射装置も含まれている」として、「将来型の兵器の追求・取得に関する研究」と「宇宙空間での(そして宇宙空間からの)軍事行動の可能性に対抗する方法の追求に関する研究」を活発化させねばならないと強調している。
ここでも再び、宇宙空間での軍事行動や宇宙空間からの脅威に備える必要性が強調されている。
対衛星攻撃システムの開発配備、宇宙ステーションの軍事利用、極超音速兵器の発見・追尾・撃墜のためのコンステレーション(星座)型低軌道衛星ネットワークシステムの構築などについて、米露中の間の熾烈な開発配備競争が今後生起するとみられる。
これに連動して、地上の指揮司令・通信施設、衛星追跡施設やミサイルの緊急発射・ミサイル防衛施設などの防護とサイバーセキュリティなども、重要な安全保障上の課題になるであろう。
航空・宇宙分野は民間も巻き込んだ国家総力を挙げた競争分野になるとみられる。
ロシア領域外での「限定行動戦略」
ゲラシモフ演説では、シリアでのロシア軍の経験に基づき、「限定行動戦略」の枠内でロシアの領域外での国益の保護および増進に関する任務を遂行することを追求するとしている。
一般的に言えば、国外での制限戦争の任務遂行のための軍事戦略を意味していると言えよう。
これは明らかに、ウクライナでの限定目的の軍事作戦遂行を任務とする、軍事戦略の策定とそれに基づく任務の遂行を追求することを念頭に置いた発言である。
その政治的目的の指針は、ブーチン大統領が軍に対し明示したものであろう。
軍事は、非軍事的手段では特定の政治目的が達成できなくなったときに、その政治目的を達成するために使用されると、ゲラシモフは明言している。
ウクライナ戦争の目的についてプーチン大統領は、開戦当日の2月24日に以下のように述べている。
「ロシア連邦評議会の承認を得て、本年2月22日に連邦議会がドネツク人民共和国およびルガンスク人民共和国と批准した友好および相互扶助条約に従い、特別軍事作戦を実施することを決定した」
「その目標は、キエフ政権によって8年間迫害とジェノサイドにさらされてきた人々を保護することにある」
「これを実行するために、我々は、ウクライナの非軍事化と非ナチス化のために努力するとともに、ロシア連邦市民を含む民間人に対して多数の血なまぐさい犯罪を犯した人々を裁く」
「しかし、我々の計画にはウクライナ領土の占領は含まれていない。私たちには、力ずくで誰かに何かを押し付けるつもりはない」
このようにプーチン大統領は、ドネツク地域でのロシア系住民保護を目的とする「特別軍事作戦」を命じている。
2019年のゲラシモフ参謀総長の軍事戦略で言及されている、「限定行動戦略」は、今回のウクライナ戦争の基本戦略そのものと言えよう。
ゲラシモフ演説では、「限定行動戦略」の基礎は、「軍の中でも特に高い機動性と課題解決能力を有するある軍種の部隊を基本として、自立的行動が可能な部隊集団を作ること」であるとされている。
シリアでこのような役割を担ったのは、航空宇宙軍であったとされている。
また、このような戦略を実現する上で最も重要な条件は、「指揮システムの準備態勢および全方位的な保障措置の優越によって情報優越を獲得及び維持すること」並びに「所要の部隊集団を秘密裏に展開させること」であるとされている。
このような体制作りは、ウクライナ戦争でも実行されている。
その運用単位は、ウクライナ戦争では地上軍の大隊戦術群であった。その秘密裏の展開が開戦時、北部を中心に実施され、戦略奇襲が行われた。
作戦の過程では、軍事戦略は、ロシア軍の部隊集団、関係国の軍事編制、各派の軍事機構など、紛争参加勢力が用いる軍事行動と非軍事行動を計画し、調整するという役割を担うとされている。
これは、シリアでの経験による教訓であろう。
ウクライナ戦争では、ロシア軍単独作戦であり、北部・東部・南部の各正面の部隊集団間の計画と調整の基本方針を示す軍事戦略として、ゲラシモフの「限定行動戦略」が適用されたと推測される。
「限定行動戦略」における部隊の運用形態
ゲラシモフ演説では、以下の2つの戦略の発展方向が指摘されている。
一つは、現代的な情報通信技術を基礎として、部隊、偵察手段、攻撃手段、部隊と武器の統制手段を統合した統一システムの構築と発展である。
同様の戦略方針は、米軍でも統合全ドメイン指揮統制システム(JADC2)として、追求されている。
そのために、リアルタイムに近い状態で、観測し目標指示を行い、戦略及び作戦戦術レベルの非核兵器を用いて枢要な目標に選別的な打撃を行うことが求められており、軍事科学は複合的な攻撃システムを基礎づけなければならないとされている。
もう一つの方向性は、ロボット複合体の大規模な使用に関するものであり、広範な任務を遂行するための無人航空機に関連するものおよび無人航空機や精密誘導兵器に対抗する兵器システムの構築である。
対抗システムの構築では、目標の種類、その構成、時間的な緊要性に基づいて選択的に影響を及ぼす電子戦部隊およびその手段が決定的な役割を果たすとされている。
この分野での軍事科学の課題は、ロシア連邦軍の無人兵器の対抗システムに関する戦略策定問題を検討し、将来型戦略電子戦システムの基礎を築くとともに、これを統一システムに統合することであるとされている。
その成果は、ウクライナの戦場でも発揮されている模様である。
開戦当初ロシア軍の戦車撃滅などに威力を発揮した、トルコ製の「バイラクタルTB2」や米国が供与した「スイッチブレード」などの無人機が、ロシア軍の防空システムと電子戦により大半が撃墜または無力化されたとロシア側は報じている。
また、デジタルテクノロジー、ロボット化、無人システム、電子戦などはいずれも、軍事戦略を含めた軍事科学発展の課題であると強調している。
これらの認識は、米軍などの認識と共通しているが、情報処理の中枢となるAI、量子コンビューターなどへの直接の言及はない。この点は、先端技術への認識の遅れを感じさせる。
軍事組織の構成部分の相互関係
現代の軍事紛争では、破壊工作、テロ活動により国家の領域内部での安全保障が不安定化されるという特徴があるとし、領域防衛のシステム、その構成や常時即応態勢の構築は、軍事戦略の発展と軍事科学の重要課題であると指摘している。
そのためには、国防は単に軍や国防省だけではなく、軍事・非軍事の多くの課題解決が、関係省庁の課題となっているとしている。
これも前述したように、米中など各国にとっても共通課題になっている。
特に、軍事的エスカレーションや危機的事態発生時に備え、他の行政機関に対し、各連邦行政機関の部隊の活動の調整、それぞれの権限の分割、領域防衛の任務遂行の指揮に関する問題の対処について考えておくことを要望している。
侵略の危機が差し迫った場合に、敵国は情勢を不安定化させ、混沌とした統制不可能な情勢を作り出そうとするであろう。
それに対抗して、死活的に重要な国家インフラ施設をあらゆる面で保護するためのシステム作りが最も緊急を要する課題であると強調されている。
このシステム作りは、軍事戦略の理論と実践にとり新たな課題であり、総合的な学問的検討が必要である。
その成果が理論の基礎となるべきであり、実践においては、多様な省庁の部隊および手段が総合的な安全保障を提供できるような制度が構築されねばならないとされている。
ここで、各省庁の「部隊」という表現が使われているが、ロシアにはソ連時代から、国内軍や国境軍など、国内治安や国境警備に専従する準軍隊が他省庁の管轄下に存在する。
また、徴兵制をとり約200万人の予備役制度が整備されているロシアの場合、各省庁も戦時下では部隊として再編され、軍と一体となり組織的に行動できる制度になっているものと推測される。
情報空間における敵対
現代の戦争の特徴として、伝統的な軍事活動遂行空間である陸海空に並び、情報空間の重要性が相対的に増大していることが指摘されている。それゆえに、情報技術こそ将来性のある武器であるとしている。
情報空間では明確な国境線はなく、遠隔的かつ秘密裏に働きかけを行うことができ、その標的は最重要の情報インフラのみならず、国民そのものであり、国家の安全保障状況に絶えず影響を与えることができる。
軍事科学においては、情報活動の準備と遂行が最重要課題であると、情報空間での軍事活動の重要性を強調している。
ウクライナ戦争でも、サイバー戦や宣伝・心理戦が熾烈に戦わされている。
ウクライナ側は民間のサイバー人材のみならず海外のサイバー技能者まで募り、また欧米メディアを味方につけ、情報戦分野では優位に戦いを進めてきた。
しかし今年4月2日付『タイムス』紙は、中国がロシアによるウクライナ侵攻直前に、ウクライナに大規模なサイバー攻撃を加えていた証拠があると報じている。
またロシアは2007年にエストニアに対し大規模なサイバー攻撃をかけたとみられており、サイバー戦では世界に先行している。
ウクライナ戦争ではロシア自身による大規模なサイバー攻撃はまだ特定されていないが、今後実施されるか、既に行われているがロシアと特定されていないだけかもしれない。
ロシアがサイバー戦、宣伝・心理戦を重視していることは確かである。
戦闘力向上のための編制の改善
軍事戦略の優先分野の一つとしてロシア軍の戦闘力向上が挙げられる。
戦闘力向上の研究成果が、ロシア軍の編制の質と量、充足率と装備の技術的水準、士気、練度、部隊の戦闘準備態勢と戦闘力を決定するとされる。
そのための具体策として重視されているのが、契約軍人制度である。ゲラシモフ演説では、契約軍人の数を2025年までに47万5000人にすると明言されている。これに伴い、徴兵の需要は減少するとみられている。
その具体的成果として、以下の事例が紹介されている。
すでに、軍の将校団は訓練された職業軍人により構成されている。軍レベルでは各軍種の全指揮官が、陸軍の軍レベル以下大隊、独立中隊に至る全指揮官の96%が実戦経験を有している。
装備も現代化され、戦略近郊の維持に決定的役割を有する核の3本柱(大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル、戦略爆撃機)が強化され、核戦力の82%が現代化された装備になっている。
また戦闘準備態勢の抜き打ち検閲により、部隊を適時に長距離機動させ、各戦略正面の部隊集団を増強する能力を確認できるとし、部隊と軍指導者の運用と戦闘準備の水準が顕著に向上している。
また、住民のイデオロギー、倫理的・精神的安定、特に軍人のそれらの精神要素を改善することが、伝統的に重視されており、そのために軍は軍事・政治業務システムの改善を行った。
以上の軍人のプロフェショナル化のための、長期契約勤務、専門的技能・指揮能力の向上、訓練水準の向上、軍人や一般住民の精神面での強化などの施策も、ウクライナ戦争では相応の成果を挙げているとみられる。
特に、セベルドネツクの陥落以降、ロシア軍の進撃速度が上がり、NATOの武器援助にもかかわらずウクライナ軍は劣勢に立っている。
占領地行政の施策も併行的に進められており、ロシア軍の占領地支配も固まっている。
ロシア系住民がロシア軍の占領を歓迎し、ウクライナ軍への支持が弱まり戦意が低下しているとすれば、今後数カ月以内にウクライナにとり戦争遂行そのものが困難になるとみられる。
国防省と国防生産複合体の連携
軍事戦略と経済の連携についても重視されている。
その発展をもたらすための新たな手法として、「まず戦略として、どのような戦争のために、どのような分野に対して経済システムの準備態勢を整備するのかを明確にしなければならない。さらにそれらの残存性と安定性をどのようにして確保するのか、経済施設の防護を配慮しどのように配置すべきかなども明らかにする必要がある」と述べている。
ロシアには「経済は軍事的作戦の特性に自らを適応させることができる」という伝統的な軍事戦略のテーゼがあり、国防省と国防生産複合体の連携においても、少なからぬ成果が上がっていると指摘し、以下のような効果的な連携システムが出来上がったとしている。
科学研究機関は、軍事作戦の経験に関する分析を基礎として兵器に対する要求の作成に参加し、概念設計から国家試験に至る開発の全期間において、その実現を監督している。
また軍事科学の役割として、戦争の将来像を描き、将来型の兵器や軍用装備品がどのようなものであるべきかを決定し、それらの運用の形態及び手段について研究することが、挙げられている。
米国の国防高等研究計画局(DARPA)に類似した、将来戦様相と将来の装備体系、その運用に関する専門の高等研究機関が存在するのであろう。
また、部隊装備の即応態勢の重要性も指摘されている。現代の兵器は複雑なため、軍事作戦が始まってから短期間で生産に移行することはまず不可能であるとし、必要なものは平時のうちに所要数を生産し、部隊に配備しておかねばならないと強調している。
この点はウクライナ戦争でも、兵站支援面で最重視されたとみられ、十分な数の装備品やミサイル、弾薬などが事前に増産され部隊に配備されていたことを示唆している。
ただし、戦争様相を短期戦と予測し、あるいは、装備品の損耗、弾薬やミサイルの射耗数の見積りが甘ければ、不足をきたすことになったともみられる。
開戦当初の北部でのキーウ攻略が衝撃的効果を発揮して、短期間にゼレンスキー政権を屈服させられるとロシア側が予期していたとすれば、そのような兵站支援の枯渇と攻勢戦力の停滞を招いたであろう。
ただしその後のロシア軍の東部と南部への戦力転用とマリウポリやドンバス地区での激しい砲爆撃の様相から見る限り、相応の長期戦を予期して軍需物資の増産や備蓄など兵站面の準備も行っていた可能性が高い。
「我々は、あらゆる仮想敵に対しての技術、テクノロジー、組織面の優越を全力で確保する必要がある」とし、技術面の優越を図ることも強調している。
以上の要求は、「国防生産複合体に対し新兵器開発の課題を出す場合のカギとなる。これにより企業側は、長期的な計画を立てられるようになり、研究機関も軍事科学における基礎研究と応用研究の方向性を定めることができる」と述べている。
将来戦の予想に基づく最先端装備について、軍学民を挙げた長期的な研究開発と生産計画の追求とそれらの努力による技術的優位の確保の必要性が強調されている。
研究開発と部隊での実践の重要性
ゲラシモフ演説は最後に、今日の軍事科学にとり重要な課題は、「今後生起する可能性のある軍事紛争の特性を規定し、軍事・非軍事行動の形態及び手段のシステムを策定し、兵器及び軍用装備システムの発展の方向性を規定するため、実践に先んじて、間断のない、合目的的な研究を行うことである」と、軍事研究の重要性を再度強調している。
また、何よりも重要なこととして、「基礎研究および応用研究の成果を適時に部隊における実戦に取り入れることである」とし、部隊での適時の戦力化の重要性も強調している。
ウクライナ戦争でも、「キンジャール」などの最新兵器を使用し、HIMARSの性能を上回る「タルナード」多連装ロケットランチャーを多数展開するなど、軍事科学技術の成果を部隊に迅速に実戦配備するとの方針が伺われる。
軍の科学研究複合体は、近年目覚ましい成果を挙げてきたとして、「参謀本部から課された科学研究作業の枠内において、中期(2021-2025年)における軍事計画のための初期データシステムが作成された。これは新たな期間における「国防計画」文書を修正・策定する際の基礎となるものである」と述べている。
このことは、現在のウクライナ戦争の勃発に備え、最新の将来戦予測に基づくデータにより修正された「国防計画」が作成されたことを示しており、ロシア軍が現在ウクライナで実行している軍事作戦・戦術の基礎となる軍事戦略が、2019年の段階ですでに策定し終わっていたことを示している。
さらに、「我々の軍事科学は、問題が発生した時点から、それを見抜いて明らかにし、随時に処理して解決の方途を見出す点において、常に卓越してきたのである」と、軍事科学の成果とそれに基づく軍事戦略に対する自信のほどを示し、ゲラシモフ演説は終わっている。
周到な戦争準備がロシアに勝利もたらす
ウクライナ戦争は長期消耗戦になっているが、依然としてロシア軍が優勢を維持し、占領地域を拡大している。
ケルソン州のドニエプル河西岸地域ではウクライナ軍が反攻を準備中とされ、ロシア軍も東部やクリミア正面から兵力を南部に転用し増強中とみられている。
しかし、ロシアは、前述したプーチン大統領の開戦当日の演説でも明らかなように、NATOの東方拡大の脅威がついに隣国ウクライナにまで及んだことを、国家安全保障に対する直接的脅威と受け取っている。
このような直接的脅威に直面し、ウクライナでの将来戦を予期して2019年の数年前のポロシェンコ親西欧政権の成立の頃から、軍事戦略の科学的研究、編制装備の在り方、戦力の向上、軍需生産インフラの整備などに国家を挙げて取り組んできたことは、ゲラシモフ演説でも明確である。
その計画通りにすべて実現したとは言えないにせよ、その成果の一部はウクライナ戦争でも発揮されているとみられる。
そうである以上、単にNATOの装備や教義を取り入れNATO軍化を進めてきただけのウクライナ軍は、国家総力を挙げて5年以上をかけて、独自の軍事戦略・軍事研究に基づき戦争準備を進めてきたロシア軍に対抗できないであろう。
ロシアの国家総力をあげた周到な準備が、ロシアに最終的な勝利をもたらす可能性は高い。 

 

●プーチン大統領 9月の国連総会出席せず 8/9
ロシアのプーチン大統領は9月の国連総会に出席せず、ビデオ演説なども行わない予定だということです。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は8日、プーチン大統領は9月に予定されている国連総会に出席せず、ビデオ演説なども行わないと述べました。ロシアの代表団はラブロフ外相が率いるということです。
●ウクライナ 原子力発電公社総裁「大惨事起きるおそれ」  8/9
ロシア軍が侵攻するウクライナのヨーロッパ最大規模の原子力発電所では連日、砲撃が続いていて、現地の原子力発電公社の総裁は「大惨事が起きるおそれがある」として、強い危機感を示しました。
ウクライナ南東部にあり、ロシア軍が掌握するヨーロッパ最大規模のザポリージャ原子力発電所では5日以降、砲撃が相次いでいます。
ウクライナの原子力発電公社、エネルゴアトムのコティン総裁は8日、「今後とも、砲撃が続いて使用済み核燃料の保管容器が複数、損傷するなどした場合、福島第一原発やチョルノービリ原発レベルの大惨事が起きるおそれがある」と強い危機感を示し、発電所や周辺からロシア軍の部隊を撤退させる必要があると訴えました。
これに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官は8日、「ウクライナ軍による原発への攻撃は潜在的に非常に危険だ。ウクライナ政府に影響力を持つ国々が攻撃を止めさせるべきだ」として、ウクライナ軍による攻撃だと主張し、双方の対立が続いています。
ザポリージャ州 親ロシア派が住民投票の実施へ準備開始
一方、ザポリージャ州では、親ロシア派勢力が8日、ロシアへの編入の賛否を問う住民投票の実施に向け準備を開始するとした政令に署名したと発表しました。
ウクライナでは、南部のヘルソン州でも住民投票の動きがでていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は7日、「ロシアの当局者が非合法的な住民投票の準備を加速させている可能性がある」と分析する一方、ウクライナ側の住民が抵抗を続けていて、ロシア側が投票の実施計画を常に変更する状況になっているとも指摘しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、住民投票が実施されればロシアとの交渉の道は断たれると述べるなど強く反発しています。
●米国防総省、ウクライナ侵攻でロシアは兵死傷者8万人と装甲車4000両を失った 8/9
米国防総省は8日、ロシア軍が2月24日に始めたウクライナ侵攻で、これまでに兵士7万〜8万人の死傷者を出しているとの推計を明らかにした。ウクライナへの10億ドル(約1350億円)規模の追加軍事支援も発表した。
コリン・カール国防次官(政策担当)は記者会見で、ロシア軍がウクライナでの戦闘で3000〜4000両の装甲車を失ったとみられるとも指摘した。ロシア兵死傷者の多さは「ロシア軍がプーチン大統領の目標を何も達成できていないことを考慮に入れると、かなり驚くべきことだ」と述べた。
米政府によるウクライナへの追加支援は、米国が既に供与している高機動ロケット砲システム「ハイマース」用の砲弾や地対空ミサイルシステム「ナサムズ」用の弾薬、携帯型対戦車ミサイル「ジャベリン」千基など。155ミリ砲弾7万5000発、120ミリ迫撃砲システム20基と弾薬2万発、装甲医療車両50台も含む。
国防総省は声明で「ウクライナの人々が国を守るために効果的に使用している弾薬や武器、装備を大量に供与する」と強調。「刻々と変わる戦場での需要に応えるため、米国は同盟・友好国と協力して戦力を提供し続ける」とした。
米国の対ウクライナ軍事支援はロシアによる侵攻後、計90億ドルを超えた。昨年1月のバイデン政権発足後では計約98億ドルに上る。
●ロシアがヘルソン州を住民投票・併合準備? 最悪シナリオ「核の脅し」 8/9
ロシアがウクライナ侵攻を開始してから5カ月がすぎた。ウクライナの東部と南部の一部がロシア軍に占領されたが、南部でウクライナ軍が巻き返している。だが、物量で勝るロシアは反撃し、9月にも占領地を自国領に併合する構えだ。その先には「核使用の脅し」という最悪のシナリオも否定できない。
イギリス国防省は7月28日、ウクライナ軍の反攻について次のようにツイートした。
「ウクライナは南部ヘルソン州での反攻にはずみがつきつつある」「ロシア軍が占領する政治的に最も重要な都市、ヘルソン市は他の占領地から実質的に遮断された。同市を失うようなことがあれば、ロシアが占領をバラ色に描くのは難しくなるだろう」
ヘルソン州は、東部ドンバス地方と南部クリミア半島を結ぶ要衝の地。ロシアが、ウクライナへの本格侵攻直後、州のほぼ全域を占領した。ロシア側は早ければ9月、ロシア併合を問う住民投票を予定する。そのため、ウクライナが早期に奪回できるかどうかが焦点だ。
州内でロシアが占領する土地は大河ドニプロ川を挟み、両岸にまたがる。その主要な橋を7月、ウクライナ軍が破壊した。イギリス国防省は補給が難しくなったとして、「ロシアの占領軍は脆弱になった」と評価した。
橋を破壊したアメリカ製HIMARS(ハイマース、高機動ロケット砲システム)は射程が80キロあり、ロシアの砲の射程外から撃ち込める。
両軍はこれまで遠くから大砲を撃ち合う戦いを続け、砲弾がウクライナの10倍以上あるロシアが優勢だった。
しかし、数週間前からアメリカからウクライナにハイマース16門が供与され、両軍の攻防の焦点となったヘルソン州でもロシアの弾薬庫や指揮所の多くが攻撃された。
アメリカのワシントン・ポスト紙(7月28日)は次のように報じる。
「主導権はロシアからウクライナに移りつつあり、ハイマースがその鍵を握る」
ウクライナのゼレンスキー大統領は7月28日、ヘルソン情勢をめぐり次のように述べた。
「敵の補給路はすべて断ち、敵のどんな計画もあらゆる手段で阻止する。ウクライナの領土が回復されるまで」
ゼレンスキー政権がヘルソン奪回を急ぐ理由の一つは、9月にも予定される住民投票が実施されれば、クレムリン(ロシア大統領府)が「核カード」を使う恐れもあるためだ。
ヘルソン州ではロシアが州民にパスポートを配布するなど、「ロシア化」が進む。住民投票では「ロシア側は7割前後が賛成したとしてロシア連邦への『ヘルソン編入』を既成事実化するだろう」との見方がウクライナ側にある。
その場合、クレムリンは、ヘルソンへの攻撃を「ロシアへの攻撃だ」とみなし、ウクライナや西側諸国に「核使用の脅し」をかける最悪のシナリオが現実味を帯びる。
ウクライナ侵攻後、クレムリンは「核の脅し」を行ってきた。プーチン大統領は2月、核戦力を含むロシア軍の戦力を特別態勢にするよう命令した。核カードで西側の制裁をけん制する狙いだった。
だがヘルソンを「ロシア領」とした上で「核の脅し」に踏み切った場合、事態はさらに深刻だ。ウクライナ軍がヘルソンに手出しが難しくなったり、西側の軍事援助が鈍ったりする可能性も生まれるからだ。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は7月19日、次のように警告した。
「プーチン大統領は、ヘルソン、ザポリージャ、ドネツク、ルガンスク各州を併合した後、ウクライナ軍の反攻を抑止するため、核の脅しをレバレッジとして使うかもしれない。プーチンは核使用を認めるロシアの防衛政策が新たに併合した領土にも適用されると声明し、それがウクライナや友好国の脅威となるかもしれない」
ウクライナでのロシアの戦争は第3段階を迎えている。キーウ攻略を主目的にして失敗した第1段階(2月末〜3月末)、東部ドンバスの全面占領を目指すとした第2段階(3月末〜)を経て、ラブロフ外相が7月20日、戦線を改めて拡大する意向を次のように述べた。
「(「特別軍事作戦」は)ドネツク・ルガンスク人民共和国だけのことではなく、ヘルソン州、(ロシア軍が一部を支配する南部)ザポリージャ州や他の多くの地域にも及ぶ。このプロセスは首尾一貫しており、粘り強く続くものだ」(ロシアのメディア「レンタ・ルー」より)
ロシアの占領地域を可能な限り拡大しロシアに編入する意向が見え隠れする。その手段が住民投票だ。ロシア紙イズベスチア(7月26日)はヘルソン州の親ロシア派勢力トップの言葉を次のように伝えた。
「住民投票は行われる。ヘルソンはロシア連邦の構成主体になる」
しかし、住民投票の実施は戦況次第だ。南部のパルチザン(ゲリラ戦をする非正規部隊)は住民投票を進める勢力を標的にしている。ヘルソンの親ロシア派勢力の暗殺も続き、そのトップも「いつ死ぬかわからない」とSNSで弱音もはく。
ヘルソンの戦況は不透明だ。イギリスのテレグラフ紙は次のように予測する。
「橋の破壊でロシア軍の増強が不可能になれば、いつか州都ヘルソンも奪回できる。今のところウクライナ軍の前進は限定的だ。今後、ロシアの防御陣地を崩せるだけの歩兵や装甲車両を持てるかどうか注視する必要がある」
戦争研究所も情報源とするロシアの軍事ブロガー「ルィバリ」はウクライナの戦力増強に注目する。
「イギリスで、ウクライナ軍の機械化旅団3個(計約1万人)が訓練を受けている。ウクライナにはすでに彼らのための装備が用意されている。それらがロシア軍に攻撃をしかけてくる」
ロシアの「独立新聞」(7月24日)は、住民投票には国際法の裏付けがないとしつつも、ロシア側は強行するとの見方を示した。
「ロシアはヘルソン州と(その東隣の)ザポリージャ州で9月11日にむけ住民投票をしようと準備を急ぐ。その際、ロシア政府は間違いなく法的な根拠について無視する。国際社会はその結果を認めないだろう」
それでも「結局はウクライナ人の理解をえて住民投票は実施される」との識者談話を紹介した。9月11日はロシア各地で州知事選がある。それに合わせてヘルソンでも住民投票をするとの見方だ。
ロシアは7月、ウクライナ軍の動きを見越し、ウクライナ南部方面の兵員数を1.5倍に増強し、三重の防衛線をしいた。
ゼレンスキー大統領は7月31日、「ロシア軍は南部の占領地域の態勢強化を目指し、ドンバスの部隊の一部をヘルソン、ザポリージャ両州へ移動させている」とSNSで述べた。
「それは事実か」。ロシアのメディアからこう尋ねられたロシアのペスコフ大統領府報道官は8月1日、明言を避けつつも否定はしなかった。
住民投票が行われるか否か。それが「核の危機」を招かないか。今後1〜2カ月の戦いが帰趨を決める。
●ロシア大統領、制裁下の銀行に為替業務の一部停止認める 8/9
ロシアのプーチン大統領は8日、西側諸国の制裁により外貨資金を凍結されたロシアの銀行に対し、当該通貨に関する法人顧客向け業務の停止を認める大統領令に署名した。
ロシア当局は、ウクライナ侵攻を理由に対ロ制裁を科した「非友好国」通貨の使用を減らす取り組みを強化してきた。
大統領令によると、今回の措置は外貨取引を損なう制裁が解除されるまで維持される可能性がある。
西側の制裁でロシアの多くの銀行は国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されたほか、米アップルと米グーグルはロシアでデジタル決済サービスの利用を制限し、ロシア人は海外でマスターカードとビザのクレジットカードを使えなくなっている。
銀行は現金で保有する外貨がすでに少なく、国内の資本規制や海外で資金が凍結されるリスクから外貨を運用する選択肢もほぼない状態。このため、手数料を導入する銀行も出ていた。 
●ゼレンスキー氏、クリントン元大統領とビデオ会談 8/9
ウクライナのゼレンスキー大統領が米国のクリントン元大統領とビデオ会談を行ったことがわかった。ウクライナ大統領府が明らかにした。
ウクライナ大統領府によれば、ゼレンスキー氏はクリントン氏に対して、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降の支援について謝意を示した。
ゼレンスキー氏は、米国はロシアが今回の戦争を「凍結」しようとしているのを阻止していると指摘。「凍結された戦争」で何が起こるのかはわかっており、戦争が何年も何十年も引き延ばされることを許すことはできないと述べたという。
ゼレンスキー氏はクリントン氏に対し、個人的な権限を活用して、ザポリージャ原子力発電所への砲撃や地雷の敷設、ロシアによる核を使ったテロ行為について世界の注目を集めるよう求めた。
ゼレンスキー氏は「自由と民主主義が基本的な価値である社会がウクライナでの戦争について切迫感を失わないことが我々にとって非常に重要だ。だからこそ、今回のような会話が我々にとって非常に有益だ」と述べた。
●ようやく輸出再開のウクライナ穀物、受け取り拒否で入港できず… 8/9
黒海経由のウクライナ産穀物の輸出再開第1陣としてウクライナ南部オデーサを1日に出港した貨物船が、最終目的地であるレバノンの買い手に受け取りを拒否されたため、入港できずにいる。在レバノン・ウクライナ大使館が8日、SNSで明らかにした。
ロシアの侵略開始以来、5か月以上納入が遅れたことを理由に拒否されたという。貨物船は2万6000トンのトウモロコシを積んでおり、レバノン以外の国も含め、別の買い手を探しているという。
一方、第2陣の貨物船の1隻は8日、最終目的地のトルコに到着し、侵略後、初の海上輸出が完了した。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 8/9
親ロシア派勢力 “ロシアへの編入賛否問う住民投票実施へ準備”
ロシアが掌握したとするウクライナ南東部ザポリージャ州の親ロシア派勢力は8日、ロシアへの編入の賛否を問う住民投票の実施に向け準備を開始するとした政令に署名したと発表しました。これは、親ロシア派勢力の幹部がザポリージャ州の都市メリトポリで行われた集会の中で明らかにしたもので、SNSに投稿された動画には、その場にいた人たちが拍手をしている様子が写っています。実施日などの詳細については明らかになっていませんが、一部のロシアメディアは、来月にも住民投票が行われると伝えています。ウクライナでは、南部のヘルソン州でもロシアへの編入の賛否を問う住民投票の動きがあり、ゼレンスキー大統領は7日、住民投票が実施されれば、ロシアとの交渉の道は断たれると述べるなど、強く反発しています。
ロシア編入の住民投票 メリトポリ市長「9割がロシアに反対」
ウクライナ南東部のザポリージャ州で来月ロシアへの編入の賛否を問う住民投票が行われる可能性が出てきたことについて、中心都市メリトポリのフェドロフ市長は9日「ロシアを支持する住民は1割にも満たない。9割はロシアの侵略に反対している」とSNSで述べました。そのうえで「ロシアは支持を集めようと躍起になっているが、誰も支持しない状況で住民投票ができるはずがない」と非難しました。
英国防省 “ロシア軍前進距離 計画を大幅に下回っている”
ロシア国防省は8日も東部ハルキウ州のほか南部のヘルソン州やミコライウ州をミサイルで攻撃し、ウクライナ軍の兵士を殺害したほか、装甲車などを破壊したと発表しました。一方、戦況を分析するイギリス国防省は9日、ロシア軍が東部ドンバス地域で前進した距離について「過去30日間、最も成功した地域でおよそ10キロ、ほかの地域では3キロしか前進しておらず、計画を大幅に下回っている。前進できるだけの十分な戦闘歩兵が確保できていない」と指摘しました。
ウクライナから日本に避難した人 7日時点で1701人
出入国在留管理庁によりますと、ウクライナから日本に避難した人は7日時点で1701人となっています。内訳は、ことし4月に政府専用機で避難してきた人が20人、政府が座席を借り上げた民間の航空機で避難してきた人が合わせて169人、そのほかの手段で避難してきた人が1512人です。性別は、男性が437人、女性が1264人となっています。年代別では、18歳未満が371人、18歳以上60歳以下が1108人、61歳以上が222人です。入国日を月別にみると、3月が351人、4月が471人、5月が332人、6月は282人、7月は224人、8月は7日までに41人となっています。入国した人のうち、少なくとも57人がすでに日本から出国しているということです。政府は避難してきた人たちに90日間の短期滞在を認める在留資格を付与し、本人が希望すれば、就労が可能で1年間滞在できる「特定活動」の在留資格に変更することができます。この在留資格に変更すると、住民登録をして国民健康保険に加入したり、銀行口座を開設したりすることができ、7日までに1402人が「特定活動」に資格を変更したということです。ロシアがウクライナに軍事侵攻を始めて今月で半年になります。日本での避難生活が長期化する中、ことばや就労、教育などについてニーズに応じた支援が求められています。
ロシア 米との核軍縮条約に基づく査察の一時停止を通告
ロシア政府は、アメリカとの核軍縮条約に基づく関連施設への査察の受け入れを一時的に停止することをアメリカ政府に通告したと発表しました。アメリカの制裁などが原因だとしていて、ウクライナ情勢をめぐる米ロ間の対立が核軍縮にも影響を及ぼしています。ロシア外務省は8日、声明を発表し、去年(2021年)延長することで合意したアメリカとの核軍縮条約「新START」に基づく関連施設への査察活動について一時的に査察の受け入れを停止することをアメリカ政府に通告したと発表しました。この決定について、ロシア外務省は、「アメリカ政府はアメリカ領土での査察を実施する権利をロシアから奪おうとしているため、この手段に訴える必要がある」としていて、アメリカの制裁措置によってロシアの査察官のアメリカへの渡航などが難しくなり、条約に基づくロシア側の査察活動ができなくなっていると主張しています。そのうえで、「今回の措置は一時的なものだ。ロシアは条約の全条項を順守することを約束している」として、アメリカ側に問題があると主張し、対応を求めました。
ゼレンスキー大統領「ロシアの原子力産業に新たな制裁を」
ウクライナのザポリージャ原子力発電所への砲撃が続く中、ゼレンスキー大統領は8日、動画を公開し、「原子力災害の脅威を生み出していることについて、ロシアの原子力産業全体に対して新たな制裁を科すべきだ」と述べ、ロシアの攻撃だと非難し、国際社会による一層の圧力を訴えました。またゼレンスキー大統領は、「ウクライナは、ロシアに一時的に掌握されている地域をすべて取り戻さなければならない」と述べ、反転攻勢への強い決意を示しました。
ウクライナ出発の貨物船 レバノンに入港できず
ロシアによる侵攻後、初めてウクライナの港から中東のレバノンに向かっていた穀物を積んだ貨物船について、レバノンにあるウクライナ大使館は、積み荷の買い手が到着の遅延を理由に、受け取りを拒否したため、入港できなくなっていると明らかにしました。レバノンのウクライナ大使館は8日、ウクライナ南部のオデーサの港を出発し、レバノンの港に向かっていた貨物船について、ツイッターで「レバノン側の積み荷の買い手が到着の遅れを理由に受け取りを拒否している」と明らかにしました。この貨物船はウクライナからの船舶での穀物輸出の再開を受け、今月1日、トウモロコシを積んで出港し、先週中にもレバノンの港に入る見通しでしたが、レバノンの当局者は8日の時点で、「貨物船から入港を求める連絡を受けておらず、到着の見通しがたっていない」としていました。ウクライナ大使館によりますと、荷主側はレバノンの国内外で新たな荷受人を探しているということです。
米 ウクライナに最大で10億ドルの追加の軍事支援
アメリカのバイデン政権は、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナに対して最大で10億ドル、日本円にしておよそ1350億円相当の追加の軍事支援を行うと発表しました。具体的には、高機動ロケット砲システム=ハイマースに使われるロケット弾や、対戦車ミサイル「ジャベリン」1000基などを供与するとしています。アメリカ国防総省のカール国防次官は8日、記者会見で、ウクライナ東部の戦況について、「ロシア軍は少しずつ前進しているが、それほど大きくなく、大きな犠牲を伴っている。ウクライナ軍のすぐれた働きと彼らが得たすべての支援の成果だ」と述べて、ウクライナへの軍事支援を続ける考えを示しました。
米国防総省 ロシア側の死傷者 7万〜8万人
アメリカ国防総省のカール国防次官は8日、記者会見で、ことし2月にウクライナへの軍事侵攻が始まって以降、ロシア側の戦死者と負傷者は合わせて7万人から8万人にのぼるという見方を示しました。カール次官は「ロシアが侵攻を開始したときのプーチン大統領の目標を何一つ達成していないことを考えるとこれは注目すべきことだ」と述べました。
世界銀行 ウクライナに45億ドルの追加の資金支援
世界銀行は8日、ウクライナ政府に対して45億ドル、日本円でおよそ6000億円の追加の資金支援を行うと発表しました。ロシアによる軍事侵攻で甚大な被害を受けているウクライナ政府が行政サービスを維持するための緊急の需要に応えるもので、市民の福祉に欠かせない医療サービスや年金などの支払いができるようにして戦争の影響を和らげるとしています。世界銀行は、ロシアによる軍事侵攻の直後からウクライナへの資金支援を続けていて、今回の追加の支援はアメリカからの助成金でまかなわれるということです。世界銀行のマルパス総裁は、「ウクライナは、生活環境や貧困のさらなる悪化を防ぐために医療や教育、社会保障といった政府によるサービスの継続を必要としている」とコメントしています。
両国のIAEA大使 原発への視察や調査 受け入れる姿勢示す
ウクライナのザポリージャ原子力発電所への砲撃について、ウクライナとロシアの双方が相手方による攻撃だと主張する中、両国のIAEA=国際原子力機関の大使は、IAEAなどによる原発への視察や調査を受け入れる姿勢を示しました。このうち、ウクライナのツィンバリュクIAEA大使は8日、オーストリアのウィーンで会見を開き、ロシア軍がザポリージャ原発にある使用済み核燃料の貯蔵施設のすぐ近くを攻撃したと主張しました。そのうえで、「IAEAなどが主導する形で、ザポリージャ原発に国際的なチームが派遣されることを期待している」と述べ、IAEAなどによる原発への視察や調査が必要だとの考えを示しました。また、ロシアのウリヤノフIAEA大使は国営のロシア通信に対し、「ザポリージャ原発へのIAEAの視察を受け入れる用意がある」と述べ、ロシア側としてもIAEAの視察などに協力する姿勢をアピールしました。
“福島第一原発やチョルノービリ原発レベルの大惨事のおそれ”
ウクライナの原子力発電公社、エネルゴアトムのコティン総裁は8日、テレビ局のインタビューで、ザポリージャ原子力発電所について「今後とも砲撃が続いて使用済み核燃料の保管容器が複数、損傷するなどした場合、福島第一原発やチョルノービリ原発レベルの大惨事が起きるおそれがある」と述べ、強い警戒感を示しました。またコティン総裁は、「発電所を非武装化する必要がある」と述べ、発電所や周辺から軍の部隊を撤退させる必要があると訴えました。東京電力福島第一原子力発電所とチョルノービリ原子力発電所の事故は、放射性物質の放出量などから、国際的な基準に基づく評価で最も深刻な「レベル7」とされた史上最悪レベルの原発事故で、「レベル7」となった事故は、この2つしかありません。
●「台湾有事」はウクライナ次第か「中国は前例として観察、ロシア勝てば・・・」 8/9
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってからまもなく半年になるが、依然として先行きが見えない状況だ。一方、中国が台湾周辺での軍事演習を続けており、日本にも緊張感が走っている。こうした不穏な世界情勢を受け、ジャーナリストの深月ユリア氏がウクライナ出身の国際政治学者、アンドリー・グレンコ氏に話を聞いた。
長引くウクライナ戦争。ウクライナ東部で親ロシア派が一方的に独立を宣言している「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」をシリアに次いで、北朝鮮も7月13日に国家として承認する声明を発表した。そして、開戦当初は「核の使用」をちらつかせていたロシアのプーチン大統領だが、8月1日、核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議向けの書簡で、「核戦争に勝者はおらず、そのような戦争を決して起こすべきではない」と主張している。
しかし、欧州最大の原発、ザポボリージャ原発でロシア・ウクライナでも両軍の激しい戦闘が行われていて、万が一、原発が爆撃されたら欧州全体に被害が及ぶことになる。さらに、同2日、米・民主党のペロシ下院議長が台湾を訪問したことで、中国軍が台湾を取り囲むような大規模な軍事演習を続け、台湾を威嚇していることから、「台湾有事」の可能性もささやかれている。ますます、混とんとする世界情勢はどこに向かうのか。筆者はウクライナの国際政治学者、アンドリー・グレンコ氏にインタビューした。
――現在の戦況状態はどのようになっていますか。
「ここ数カ月の戦況は膠着(こうちゃく)状態で、ロシア軍は南部に集中していましたが、西側からの武器供与が増えて、ロシア軍の勢いが弱まっています。なので、ロシア軍は西側を脅す為にザポリージャ原発を攻撃しました」
――ドネツクやルガルンスクはクリミアのようにロシアの傀儡(かいらい)地区になりますか。
「シリアや北朝鮮が主張しても影響なく、すべては戦況により決まります」
――ロシアは核兵器を使用しないと言っていましたね。
「プーチンはいつも嘘をつきますので、戦況が不利になれば使用する可能性は否定できないでしょう。しかし、通常兵器でウクライナを制圧できると思っている限り、使用しない。今年は使わないでしょう。独裁国家の核の脅威に屈せず、西側の核保有国がロシアをけん制するしかないと思います」
――「台湾有事」は起きると思いますか。
「ウクライナ戦争次第です。というのも、中国はいま前例としてのウクライナ戦争の状況を観察しています。ロシアが勝ったら、『独裁国家が好き勝手できる』という前例になるので、台湾有事はありえるでしょう」
――その場合、アメリカは米軍を派遣しますか。
「バイデン大統領はかねて台湾を助けると言ってます。バイデンは思ったことを正直に言う大統領で、主義を大事にしているので出すでしょう。逆に主義より実利を重視するトランプ(前大統領)なら出さないでしょうね」
――台湾有事を防ぐことはもちろんですが、早くウクライナ戦争も終戦するとよいですね。
「そのためには、西側からの武器と、独裁国家の脅しに屈しないという断固した姿勢が必要ですね」
独裁国家が武力による脅威で好き勝手できるか、民主主義が守られるか、今まさに世界はその瀬戸際にある。グレンコ氏が指摘するように、平和を取り戻すには、理想論のみならず、断固として立ち向かう姿勢も必要だろうと、筆者は考える。
●ウクライナの原発へ砲撃続く IAEA視察実現で鎮静化つながるか  8/9
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナにあるヨーロッパ最大規模の原子力発電所では連日、砲撃が続いています。こうした中、ウクライナとロシア両国はIAEA=国際原子力機関などによる視察や調査を受け入れる姿勢を示し、原発の安全性の確保に懸念が強まる中、視察などが実現して事態の鎮静化につながるかが焦点となっています。
ウクライナ南東部にありロシア軍が掌握するザポリージャ原子力発電所では5日以降、砲撃が相次いでいます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日に公開した動画で「原子力災害の脅威を生み出していることについて、ロシアの原子力産業全体に対して新たな制裁を科すべきだ」と述べ、ロシア側の攻撃だと非難して国際社会による一層の圧力を訴えました。
これに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官は8日「ウクライナ軍による原発への攻撃は潜在的に非常に危険だ。ウクライナ政府に影響力を持つ国々が攻撃を止めさせるべきだ」として、ウクライナ軍による攻撃だと主張しました。
双方が相手による攻撃だとして非難の応酬となる中、ウクライナとロシア両国はIAEAなどによるこの原発への視察や調査を受け入れる姿勢を示しました。
砲撃が続くザポリージャ原発の安全性の確保に国際社会からの懸念が強まっていて、IAEAなどによる視察や調査が実現し事態の鎮静化につながるかが焦点となっています。
●米・バイデン政権 ウクライナに1350億円相当の追加軍事支援 8/9
アメリカのバイデン政権は8日、ウクライナへの追加軍事支援として、高機動ロケット砲システムの弾薬など、1350億円相当の供与を発表しました。
アメリカ国防総省によりますと、追加の軍事支援には高機動ロケット砲システムHIMARSの弾薬や地対空ミサイルシステムNASAMSの弾薬、りゅう弾砲の砲弾7万5000発などが含まれます。
10億ドル、日本円で1350億円相当の供与となり、ウクライナ侵攻以降のアメリカの軍事支援は総額およそ91億ドルにのぼることになります。
国防総省の高官は、今回の軍事支援が「ウクライナが東部でのロシアの攻撃に対抗し、南部で進展するのに有効だ」と強調しています。
●プーチンの「思惑通りだ」… ウクライナ軍が「兵力ダウン」「戦費枯渇」 8/9
ウクライナ軍がいよいよ追い詰められてきた――。前編記事『ウクライナ軍の焦り「ドローン攻撃が、ロシア軍に効かない」…!  米国製「ロケット砲」も“効き目なし”で、いよいよ大ピンチへ…! 』では、これまでは効果があったドローン攻撃がロシア軍に読まれ始めて戦果をあげられなくなっているうえ、頼みの綱であった米国製ロケットでも状況を打開できないウクライナの苦境ぶりをレポートした。
最近では世界中でウクライナ情勢をめぐるニュースが減ってきている中で、いま本当に現場ではいったい何が起きているのか――その最新事情をレポートしよう。
背水のウクライナ
米国政府は引き続き軍事支援を続けているものの、ウクライナ軍の戦闘の行方については悲観的になっている(6月29日付CNN)。
新たな兵器システムが戦況を即座に変えるとは見ておらず、ウクライナが戦闘で失った領土を奪還できるという確信は大きく揺らいでいるという。
このように、西側諸国の間で「ウクライナがロシアの攻撃に耐えられない」と見方が広がっていることに焦っているのはウクライナ政府だ。
7月23日付ニューヨークタイムズは「ウクライナは『ロシアに対する反撃は可能だ』と主張して西側諸国に軍事支援の拡大を説得しようと血眼になっている」と報じた。
「戦費」が枯渇し始めた!
ウクライナのレズニコウ国防相は、7月26日に「兵器製造企業にとってロシアの侵攻を受けたウクライナは自社の製品の質などを試せる格好の実験場だ」とアピールして、西側諸国に対し軍装備品の追加供与を懇願した(米国政府がハイマースを供与する目的はウクライナを支援するためではなく、ロシア軍の防空ミサイルシステムの性能を調査することにあるとの指摘もある)。
そこへきて、ウクライナ政府にとってさらに頭が痛い問題が浮上している。
ロシア軍を自国領土から追い出すための戦費が枯渇し始めているのだ。
ロシアの侵攻により、ウクライナの戦費は今年2月の2億5000万ドルから5月には33億ドルへと膨れ上がり、その後も「うなぎ登り」の状態が続いている。
ウクライナ政府は戦費を捻出するために日常的なサービスへの支出を大幅に切り詰めているが、歳入拡大の余地はあまりないのが実情だ。
ロシアの侵攻後に停止された付加価値税と輸入関税は再び導入されている。「企業への増税」という選択肢はあるが、戦闘で疲弊している経済が急速に悪化するリスクがある。
財務相が「非常に危険だ」と…
是が非でも戦費を確保したい状況の中、「頼みの綱」となっているのはウクライナ中央銀行だ。
侵攻以降、ウクライナ中銀は77億ドル分の国債を買い入れており、事実上の紙幣増刷を余儀なくされている。
ウクライナのインフレ率は20%に達し侵攻前の2倍になっており、マルチェンコ財務相は「紙幣の増刷に頼り続ければインフレをあおることになり非常に危険だ」と警告を発している。
追い詰められたウクライナ政府は戦費の財源として外貨準備にも手を付け始めている。
ウクライナ中銀は「6月だけで外貨準備高の約9パーセントに当たる23億ドルを取り崩した」ことを明らかにしている。
激減している外貨準備を温存するため、ウクライナ中銀は通貨フリブナの対米ドルレートを25%切り下げたが、外貨準備は近いうちに底を打つことは間違いない。
「綱渡り」だ
「青息吐息」のウクライナ政府に対し、西側諸国はようやく救いの手を差し伸べた。
ウクライナ政府は20日、主要債権国などとの間で8月1日以降の外債の元利払いを2年間延期することで大筋合意を取り付けた。
合意が成立したものの、格付け会社フィッチ・レーテイングスは「デフォルトと同様のプロセスが開始された」との認識を示し、ウクライナ政府の格付けをこれまでの「CCC]から「C」に引き下げた。
これによりウクライナ政府は60億ドル分の支出を当面回避できたが、この額は毎月発生している財政赤字(約90億ドル)にも満たない。
ウクライナ財政の「綱渡り」の状況は一向に改善されたことにはならない。
焼け石に水
穀物輸出が再開されれば、毎月約8億ドルの輸出関税収入が得られることになる。
しかし、「火の車」となったウクライナ財政にとって「焼け石に水」に過ぎない。
ゼレンスキー大統領を始め政府首脳は好戦的な態度を崩していないが、戦費を賄うことは早晩できなくなる。
ロシアとの停戦に応じざるを得なくなるのではないだろうか。
●石油資源開発、サハリン1権益「重要という気持ちは同じ」 8/9
石油資源開発の山下通郎専務は9日の決算会見で、官民が共同出資する「サハリン石油ガス開発(SODECO)」を通じ権益を持つロシア極東サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン1」に関して、「日本にとって重要な権益であるという気持ちは(政府と)全く同じだ」と述べた。サハリン事業の権益をめぐっては、大手商社の間でウクライナ危機を踏まえ資産価値を見直す動きもあるが、同社は見直しは行わないとしている。
ロシアのプーチン大統領は5日、対露経済制裁を行っている日米欧の「非友好国」の株主が、サハリン1の株式を売買することを年末まで禁止する大統領令に署名。これについて、山下氏は「(出資先の)SODECOが政府や、パートナーと適切な調整を行う」と述べるにとどめた。
サハリン1にはSODECOが30%を出資。SODECOには石油資源開発の他に、経済産業省、伊藤忠商事、丸紅、INPEXが出資。石油資源開発は約15%を出資している。
また、同社が9日発表した令和4年4〜6月期連結決算は燃料価格高騰に伴い販売収支も上振れし、売上高は前年同期比17・0%増の586億円、本業のもうけを示す営業利益は約2・9倍の98億円、最終利益は2・2倍の156億円の増収増益だった。
●三井・三菱出資のサハリン2強奪<vーチン大統領が強硬手段 8/9
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が強硬手段に乗り出した。日本の大手商社が出資する極東サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」について、運営会社をロシア企業に変更する大統領令に署名したのだ。ロシアメディアが6月30日に伝えた。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、日本政府は「力による現状変更」に断固反対する一方、サハリンでの権益を死守する姿勢を示してきた。参院選(10日投開票)で「エネルギー安全保障」が焦点の1つとなるなか、ロシアに対峙(たいじ)するNATO(北大西洋条約機構)首脳会議に出席した岸田文雄首相は国益を守り切れるのか。
ロシア有力紙のコメルサントは6月30日、プーチン氏がサハリン2の所有権を、すべてロシアに譲渡する大統領令を出したと報じた。日本の大手商社が新たな条件下でのプロジェクトにとどまることを拒否した場合、株の売却などを伴うという。
ロシア政府は、日本が欧米諸国とともにウクライナ侵攻への金融制裁や輸出入規制などの対ロ制裁へ乗り出したことを受け、日本を「非友好国・地域」と指定していた。
ロシアのヴャチェスラフ・ヴォロジン下院議長は5月25日、「日本や英国などはロシアを罵(ののし)りながら、巨額の配当を黙って受け取っている」と批判したうえで、サハリン2の出資比率の見直しを提案していた。
サハリン2は、ロシア初の液化天然ガス(LNG)プロジェクトで、1999年に原油の生産がスタートし、2009年にLNGの出荷が開始された。ロシア国営ガスプロムが約50%、英石油大手シェルが約27・5%、三井物産が12・5%、三菱商事が10%を出資しており、これまでの投資総額は約200億ドル(約2兆7150億円)以上という。
生産能力は、原油が1日15万バレルで、LNGが年間1100万トン。LNGの約6割は日本向けに供給されている。日本のLNG需要量の約9%をサハリン2から輸入しており、電力供給力の3%に相当する。
シェルは、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、2月下旬にロシアの全事業から撤退すると発表していた。
これに対し、岸田首相は3月31日の衆院本会議で、「(サハリン2は)エネルギー安全保障上、極めて重要なプロジェクト」との認識を示したうえで、撤退しない方針を明かしていた。また、5月31日の参院予算委で、萩生田光一経産相は「日本政府も含めた日本企業の権利を有しているものでありますから、どけと言われてもどきません」と明言していた。
今回の大統領令をどう分析するか。
ロシア事情に詳しい筑波大学名誉教授の中村逸郎氏は「サハリン2における日本の権益を守るのは極めて厳しい」といい、こう続けた。
「ロシアに権益を奪われることは、プロジェクト開始時からのリスクだった。日本が対抗することが難しい、参院選のタイミングを狙ってきたとみる。日本国内で対立を起こし、混乱させることでダメージを与えることもできる。ロシアは日本向けだった天然資源を、中国や北朝鮮などの友好国へ輸出し、結束を高めるだろう」と語った。
記録的な猛暑で電力逼迫が指摘されるなか、「安価で安定的な電力供給」は政府の責任である。岸田政権は「エネルギーの安定供給」に向けて、早急に政策の見直し・修正に着手すべきではないか。
●ロシアのお家芸「偽旗作戦」の謎…チェチェン紛争でも“でっち上げ”疑惑が浮上 8/9
相手の攻撃をでっち上げて、一方的に反撃する──。これがウクライナ侵攻で盛んにいわれた「偽旗作戦」の簡単な説明だろう。大義名分がないなら、つくってしまう。日本が南満州鉄道の線路を爆破して「中国の仕業」に見せかけたのが柳条湖事件。古典的な手口だが、ロシアは懲りずにやっている。
スターリン顔負けの強制移住
プーチン大統領が2月下旬に東部ドンバス地方の独立を承認して「住民保護」名目の戦争を始める少し直前。親ロシア派はロシア側への「住民退避」に着手した。「ウクライナによる虐殺」は見られず、実態はスターリン顔負けの「強制移住」。茶番で100万人以上の人生がもてあそばれた。
並行してドンバス地方などで謎の砲撃が報告される。気付いた頃には「ロシア世界の救世主」気取りの男が勇ましく開戦を発表。事前に米英がこうした手の内を明かしていたのに、恥ずかしげもなく実行に移した。
化学兵器を使用して「ウクライナの仕業」にするのではないかとも警戒された。ロシアはよく「大量破壊兵器がなかったのにイラク戦争を起こした」と米国を糾弾するが、どの口が言えたものか。
思い起こせば、プーチンのうそは、きのうきょう始まったものではない。
連邦保安局(FSB)長官などを経て首相に就任した1999年、高層アパート連続爆破事件が起きた。武装勢力の犯行と断定され、第2次チェチェン紛争に突き進む。ところが、300人以上の死者を出したこの事件は「自作自演」説が付きまとった。元スパイが権力の座に上り詰める頃の話。犠牲者はいつも罪のない市民だ。
ウクライナが越境攻撃
話を2022年に戻す。ウクライナ侵攻開始後、国境付近のロシア西部などで石油施設が炎上するといった事態が相次いだ。「さらなる大規模な攻撃のため」のでっち上げとも疑われたが、そうだろうか。口実は最初こそ必要なもので、四六時中は必要ない。
浮上したのは、ウクライナによる「越境攻撃」説。トルコ製ドローン「バイラクタルTB2」を保有し、敵軍の補給線を断ち切るのは自衛策としてあり得る。
実際、7月に入ってロシア軍の侵攻スピードが落ちると、反転攻勢が試みられた。米国の高機動ロケット砲システム(HIMARS)など重火器が届いたのだ。バイデン米政権によって「ロシア本土を攻撃しない」という条件で提供されたものだったが、ウクライナ国防省高官は南部クリミア半島への攻撃を示唆するなど、意気揚々としていた。・・・ 
●ロシア大統領、制裁下の銀行に為替業務の一部停止認める 8/9
ロシアのプーチン大統領は8日、西側諸国の制裁により外貨資金を凍結されたロシアの銀行に対し、当該通貨に関する法人顧客向け業務の停止を認める大統領令に署名した。
ロシア当局は、ウクライナ侵攻を理由に対ロ制裁を科した「非友好国」通貨の使用を減らす取り組みを強化してきた。
大統領令によると、今回の措置は外貨取引を損なう制裁が解除されるまで維持される可能性がある。
西側の制裁でロシアの多くの銀行は国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されたほか、米アップルと米グーグルはロシアでデジタル決済サービスの利用を制限し、ロシア人は海外でマスターカードとビザのクレジットカードを使えなくなっている。
銀行は現金で保有する外貨がすでに少なく、国内の資本規制や海外で資金が凍結されるリスクから外貨を運用する選択肢もほぼない状態。このため、手数料を導入する銀行も出ていた。
●ユーラシアの行方を握るインドの大国外交 8/9
ウクライナ危機では、インドとロシアの深い結びつきが改めて注目された。インドは地政学的な制約から北西方向を唯一の出口とする「閉ざされた国」でありながら、ウクライナ危機によって、ユーラシアにおけるアクターとしての存在感を一気に増し、アフガニスタンの行方についても地域大国としての役割も増している。日米印、そして中ロ印という、ユーラシアにおける対立軸の結節点として外交を多面化させるインド、そしてこれからの対インド関係について考える。
ロシアとの紐帯
2022年2月24日に国連安全保障理事会に提出されたロシアのウクライナ侵攻を非難する決議案の採択で、25日、15か国中、11か国が非難決議に賛成しロシアが孤立する中、インドは中国などとともに棄権に回った。印ロの結びつきの強さを特に軍事面から確認しておく。
ロシアはインドにとっての最大の武器調達国。空母「ヴィクラマディティヤ」はロシア海軍から譲り受けたものを改装、超音速巡航ミサイル「ブラモス」はロシアと共同開発、そしてロシア製地対空ミサイル「S400」は2021年11月にインドへの供給が始まった。中国やパキスタンと国境紛争を抱えるインドにとってロシアは、国土への侵入を防ぐための高性能の兵器や装備を、弾薬や部品とともに提供し、保守やシステムの更新まで行ってくれる貴重な存在である。モディ首相、プーチン大統領はほぼ毎年、相互に相手国を訪問し良好な関係を維持し、同年末の首脳会談では今後10年間の軍事技術協力や兵器の共同生産に合意している。
インドがソ連(ロシア)と密接な関係を深めるきっかけになったのは、1962年の中印国境紛争での敗戦とその翌々年の中国の核実験だ。国産の武器を作る力がなかったインドに、ソ連の武器が流れ込んでいった。1965年の第二次印パ戦争で、アメリカがパキスタンに戦闘機F104を供与したのに対し、ソ連はインドにミグ21を提供している。中国よりソ連と結ぶ道を選択したインドは1979年のアフガニスタン侵攻を非難せず、ソ連側も1971年の第三次印パ戦争でインドの軍事行動を止める国連決議に拒否権を行使した。冷戦時代に社会主義の経済体制をとっていたインドの製品は品質が悪く国際競争力を持たなかったが、ソ連はそのインド製品を購入して武器を調達する資金を提供した。
武器の調達だけではない。1998年、インド人民党が核実験を強行するとロシアはインドを強くは非難せずアメリカや日本などが課した経済制裁の列に加わらなかった。
筆者がNHKの記者としてデリーに駐在していた2000年には、アメリカのクリントン大統領と、大統領に当選したばかりのプーチン氏が相次いで訪問した。インドと「戦略的パートナーシップ」を結んだプーチン大統領は、インドと商業用原子炉輸出契約を取り交わした。核技術の分野でソ連時代と同じようにロシアがインドに深く関与する姿勢を示し、その証としてインドのタラプル原子力発電所への燃料の供給に動いた。これは単なる燃料の提供ではなく、核実験の制裁で孤立していたインドに対していち早く事実上の「核保有国」としての特別な地位を承認するという意味があった。
インドは防衛装備の調達先をヨーロッパやアメリカに多国籍化してきており、ロシアもパキスタンへの武器売却に動いているが、核保有国としての両国の共感や、長年の武器取引の信頼にもとづく結束は決して甘くみるべきものではない。
中央アジアとの関係
現在のインドからの北西への広がりにはパキスタンとアフガニスタンという二枚の壁があり、インドはその先にある中央アジア諸国と関係強化を図っている。化石燃料に乏しいインドは資源が豊富な中央アジア諸国との関係を重要視しており、「TAPI(トルクメニスタン、アフガニスタン、パキスタン、インド)天然ガスパイプライン」構想の構成国にもなっている。タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンの三か国はアフガニスタンと国境を接しているため、アメリカ軍撤退後の地域協力を進める上で重要な存在となっている。2021年暮れにはインド・中央アジア対話の第三回外務大臣会合がニューデリーで開催され、貿易と経済協力を確認した。中央アジア5か国の外相は、モディ首相を表敬訪問し、インド各紙は、2022年のインドの共和国記念日の主賓は中央アジア5か国の首脳になると報じた。
1月26日の共和国記念日はインドの祝日で、1950年のこの日にインド憲法が発布されたことを祝う。8月15日の独立記念日や10月2日のガンディー生誕記念日とともにインド国民にとって最も重要なものとなっている。軍の壮大なパレードが行われる式典には外国の首脳が主賓として招かれることが慣例となっており、式典への招待はインド国外の首脳に贈られる最高の栄誉とされている。2018年には東南アジア諸国連合(ASEAN)10か国の指導者がまとめてゲストとして招待され、インド外交の多極化と地域大国としての影響力の確立を示した。共和国記念日への中央アジア諸国の主賓参加は新型コロナウイルスの感染拡大で見送られたが、インドを含む六か国はオンラインでの首脳会議を記念日の翌日の1月27日に開催し、アフガニスタン問題など広範なテーマについての協力を確認した。
モディ首相は2015年にすべての中央アジア諸国を訪問し接近を続けてきた。中国は中央アジア5か国と同様のオンライン形式による国交30周年記念の首脳会議を行っている。
多面化するインドの外交
以上みてきたように、ユーラシアの中の重要な位置にありながら、陸の孤島として国内のインド世界に閉じこもっていたインドはユーラシア世界の将来を左右する大国としての存在感を強めている。
1960年代までは非同盟、そしてそれに続く印ソの同盟に近い関係が基軸にあり、1990年代にはソビエト連邦の解体を受けインド外交は対米重視にシフトしていった。2000年代に入ると新興経済国がBRICs として注目を集め、インドの外交もグローバル・プレーヤーとしての大国を意識するものに変化した。植民地からの独立、非同盟、地域大国、超大国へと拡大の一途をたどっている。
2012年に公開された報告書『非同盟2.0──21世紀におけるインドの外交戦略政策』は、自国の基本対外政策を文書に示さないインドが長期的な外交指針として大国を志向する路線を示したものとして注目された。2014年の総選挙で勝利したインド人民党は、綱領で「卓越したインド」を掲げた。そして2018年のインド独立記念日の式典では、モディ首相が「眠っていた象が起き上がって走り出したことに世界が驚いている」と語った。
大国化する今後のインドがユーラシアにおいてどのような役割を果たすことになるのかについて、筆者は「二つの三角形」を考えてみたい。
一つは印米日の三角形である。民主主義と法の支配の理念を基調とするもので「海」を舞台にした連携の動きが注目される。もう一つは印中ロの三角形である。こちらは歴史と土地の支配の現実を基調とするもので「陸」を舞台にした駆け引きが注目される。インドはこの二つの三角形のいずれの頂点にもなっている。
まず一つ目は、印米日の三角形である。三角形の各辺を見ると、インドは日本との間では東南アジアを介した地理的な近接性を持っている。そしてアメリカとの間では地理的な遠隔性が故の外交的な接近があり、具体的には原子力協力、情報通信、印僑などのつながりがある。印米を結ぶこの辺は先述のアフガニスタンの対テロ戦や合同演習などの海洋安全保障の連携の動きが含まれる。
インドが頂点となっているもう一つの三角形は印中ロである。こちらの三角形は、習近平主席、プーチン大統領という強い指導者による長期政権が続いている。選挙で指導者を選ぶ日本やアメリカは指導者が比較的短期で交代することが多いが、インドは民主主義国であるものの現在のモディ政権が議会での安定多数と高い支持率を維持し、「強い指導者」となっている。三角形の各辺を見ると、ロシアとの間では軍事・エネルギーで古くからの強い結びつきがあり、中央アジアを交えた地域開発でもロシアは敵にはできない関係である。中国との関係においては、アジアの二大大国として利益を共有する場面も多い。
つまりインドは欧米諸国との関係を維持しながらも、歴史的に結びつきの強いロシアとの協力は重視している。海軍の潜水艦をロシアから購入する計画で、中国に対しても、インドは友好的な経済関係の強化を求めている。つまり、この三国は、協力の度合いを強めているといえる。もう一つの局であるヨーロッパは、民主主義や法の支配の理念と、歴史と土地の支配という、インドにとって二つの三角形の双方の要素を併せ持つ存在として重要である。
ウクライナ危機によって、ロシアの友好国であるインドはユーラシアにおけるアクターとしての存在の重さを一気に増すことになったのはいうまでもない。アフガニスタンの今後に責任を持たざるを得ない地域大国としての役割も増している。さらにインドは南アジア地域協力連合(SAARC)で主導的な役割を果たしているが、より広域の国際場裏ではまだ超大国としての地位を築いたとはいえず、国連や西側先進国の外交の舞台では十分に自国の立場を主張できない場合があり、アジア太平洋経済協力(APEC)にも参加していない。このため上海協力機構、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、BRICSの枠組みなど、自国の独自外交を展開できる場での活動を活発化させ、多極化する世界の中で静かに世界潮流のキャスティングボートの位置を確実にしていくだろう。
日本の対インド外交
最後に、外交を多面化し大国としての存在感を増すインドと日本はどのような外交を行っていくべきなのか。日本は印米日の当事者として三角形の視点の中だけに陥ることなく、印中ロの動きから目を離してはならないだろう。
冷戦の時代、日本は日米同盟を基軸とする自由主義経済を進め、非同盟外交と閉鎖的な経済体制をとっていたインドとは接点を小さくしていた。接近を始めたのはバブル崩壊の時代に入った1990年以降で、日本は経済的苦境を抜け出すための新しい市場や投資先としてインドに焦点をあて、1991年、インドを襲った経済危機でインドの外貨が底を突いた際に日本が支援をしたのを機に、インドも資本や技術を提供する日本との関係を強化する方向に向かった。1998年、インドの核実験実施により関係は冷え込むが、現在は日印首脳が一年おきに互いに相手国を訪れるという関係を維持している。
日本はインドとの間で二国間の協力を急速に進めているが、今後はユーラシアでの中長期的なインドの役割を十分に考慮に入れた多国間の外交を進めていく必要があるだろう。パキスタン、アフガニスタン、中国といった近隣の国々だけでなく、南アジア、中央アジア、東南アジア、欧州という地域ブロック、アメリカ、ロシアなどの大国プレーヤーのインドとの関係を踏まえておく戦略が求められる。特にアフガニスタンの民主化と安定、エネルギー政策、テロ拡散防止、サイバー情報通信、地球環境などのグローバルなテーマについてインドと手を結ぶことで、日本は広域で有効なユーラシア外交を展開することができるはずである。

 

●ロシア軍 東部で兵力不足と指摘も 南部クリミアの基地で爆発か  8/10
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は掌握を目指す東部で部隊の前進を阻まれ、兵力の不足が指摘されています。一方、ロシアが8年前に一方的に併合した南部クリミアのロシア軍の基地で爆発があったと伝えられ、ウクライナ軍が反転攻勢を続ける中、ロシア側は警戒を強めています。
アメリカ国防総省「ロシア軍の戦死者と負傷者7〜8万人」
ロシア国防省は9日も、各地をミサイルで攻撃し、東部ドネツク州や南部のミコライウ州とヘルソン州で指揮所や弾薬庫などを破壊したと発表しました。
戦況を分析するイギリス国防省は9日、ロシア軍が東部ドンバス地域で前進した距離について「過去30日間、最も成功した地域でおよそ10キロ、ほかの地域では3キロしか前進しておらず、計画を大幅に下回っている。前進できるだけの十分な戦闘歩兵が確保できていない」と指摘しました。
また、アメリカ国防総省のカール国防次官は8日の記者会見で、ことし2月に軍事侵攻が始まって以降のロシア側の戦死者と負傷者の数が合わせて7万人から8万人にのぼるという見方を示しました。
カール次官は「侵攻を開始したときの、プーチン大統領の目標を何一つ達成していないことを考えると、注目に値する」と述べ、ロシア側の人的な損害が非常に大きい可能性も出ています。
南部クリミア ロシア軍基地で爆発か
一方、ロシアの国営メディアやロイター通信などは9日、ロシアが8年前に一方的に併合したウクライナ南部のクリミアで複数の爆発音や大きな煙が上がっている様子を伝え、その後、ロシア国防省はクリミアに駐留するロシア軍の基地で爆発があったと発表しました。
爆発があったのは、クリミア半島の西部にある軍の飛行場で、ロシア国防省は、航空機の弾薬の施設が爆発したと主張する一方、攻撃を受けたのではないとしています。
また、地元のロシア側の当局者は、ロシアの国営メディアに対し、この爆発で1人が死亡したと説明しています。
ウクライナ国防省は9日、フェイスブックに「クリミアの飛行場の火災について、国防省は原因を特定できていない。火災の事実が情報戦に利用される可能性がある」などと投稿しました。
ウクライナ軍が南部で反転攻勢を続ける中、ロシア側は警戒を強めていてクリミアに対する攻撃も繰り返しけん制していました。
●核危機高まる…ロシア「米の核査察、受け入れられない」 8/10
ウクライナを侵攻した後、米国と激しく対立しているロシアが、「新戦略兵器削減条約(新START)」によるロシアの核兵器施設に対する米国の査察を受け入れないと明らかにした。ウクライナとロシアが、欧州最大の原子力発電所があるウクライナ南東部ザポリージャで激しい交戦を繰り広げており、欧州全体に核危機が高まっている。
BBCなどによると、ロシア外務省は8日、「米国が、ロシアが米国内で核兵器の査察を行う権利を奪い、一方的に自国に有利な状況を作った」とし、現状況を考慮せず査察を再開するという米国の主張は受け入れられないと明らかにした。西側諸国の制裁で、ロシアの軍事専門家は米国の核施設を査察できないのに、米国の査察だけ続くのは不当だという論理だ。
ただし、「新STARTの完全な順守に向けて最善を尽くしている」とし、関連問題が解決され次第、査察停止を取り消すことができるとした。西側がまず制裁を解けば、ロシアも核査察を受け入れるということだ。
米国とロシアは、核兵器実践配備の規模を制限するために、2010年に新STARTを結んだ。ロシアのウクライナ侵攻後、両国の対立が激化し、核兵器強国の中国が参加していないことも、実効性に欠けると批判されてきた。バイデン米大統領が1日、「新STARTに代わる新規軍備削減体制を迅速に協議しよう」と提案したが、ロシアは明確な反応を見せていない。
3月からロシアが占領しているザポリージャ原発をめぐるロシアとウクライナの攻防が停止されなければならないという声も大きくなっている。国際原子力機関(IAEA)は、ロシアに原発に対する現場調査を求めたが、ロシアは調査のための日程を遅延させる手法を使っている。
バイデン政権は8日、ウクライナに高機動ロケット砲システム(HIMAS)、対戦車ミサイル「ジャベリン」など10億ドル(約1兆3千億ウォン)の兵器を支援することを明らかにした。ロシアの侵攻後、単一支援では最大規模で、ウクライナ軍がザポリージャ、ヘルソンなどに兵力を集中させているロシア軍と対抗するうえで大きな助けになるとみられる。
●ゼレンスキー氏、戦争は「クリミアで終わる必要がある」 半島解放に言及 8/10
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、クリミア半島で始まったロシアの戦争は「クリミアで終わらねばならない」と述べ、同半島の解放が必要との認識を示した。
ゼレンスキー氏は夜の演説で「ウクライナ、そして全ての自由な欧州諸国に対する戦争はクリミアで始まった。そして、クリミアの解放とともに終わらねばならない」と述べた。
現時点ではそれがいつになるか予想できないとしつつも、ウクライナはクリミア解放に必要な要素を絶えず付け加えていると説明。「クリミアはウクライナのものであり、我々は決して諦めない」とした。
ゼレンスキー氏はまた、ロシアによるクリミア占領は欧州大陸全体や世界の安定にとっての「脅威」だとの見解も示した。
さらに、ウクライナ国民にとってのクリミア半島の歴史的重要性を改めて訴え、「我が国にはクリミアで民族の文化や願いが形成された人たちが住む。従って、クリミア半島の解放に取り組むとき、我々は領土の一体性を回復し、ウクライナの先住民の故郷を取り戻すために戦っているのだ」と述べた。
クリミア半島では9日、ロシアの軍用飛行場付近で複数の爆発が報告された。ウクライナ側から攻撃についての言及はない。ロシアによる侵攻開始後、ウクライナがクリミアを攻撃した例は確認されていない。
ロシアは2014年、クリミア半島に侵攻し、その後ウクライナから併合した。
●英仏首脳、ウクライナへの軍事支援が「大きな効果」 8/10
英国のジョンソン首相とフランスのマクロン大統領は9日、電話会談を行い、両国によるウクライナ軍への支援が、ロシアとの戦争において「大きな効果」をもたらしていると述べた。
英首相府の公表した電話会談の内容によれば、両首脳は、英仏によるウクライナ軍への訓練や装備の供与がロシアとの戦争で大きな効果をもたらしていることで合意した。
両首脳はまた、西側諸国が戦争疲れに陥ることも認められないということで一致した。
仏大統領府の声明によれば、両首脳は「必要な限り」ウクライナを支援するとの決意を改めて表明した。
両首脳は、ロシアのウクライナ侵攻によって引き起こされた食糧危機など他の問題についても話し合ったという。
●露、占拠の原発からクリミアに送電計画か 8/10
ロシア軍が占拠しているウクライナ南部ザポロジエ州の原子力発電所について、同国国営原子力企業エネルゴアトムのコティン総裁は9日、露軍がウクライナ国内への送電網を遮断し、ロシアが一方的に併合した南部クリミア半島への送電を計画していると述べた。ウクライナのニュースメディアが伝えた。
同原発では5、6日に砲撃があり、コティン氏は送電網を遮断する計画の一環として露軍が実行したとの見方を示した。クリミアではロシアによる2014年の併合後、電力不足がしばしば問題になってきた。
露軍はウクライナ侵攻後の3月にザポロジエの原発施設を占拠し、兵士約500人を常駐させて軍事拠点にしているもよう。ロシアは原発攻撃はウクライナ軍が行ったと主張している。
ウクライナ軍は、露軍が制圧した南部ヘルソン州の奪還に向けて攻勢を強めている。同州はクリミアに隣接する地政学上の要衝。ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、「ロシアのウクライナと欧州に対する戦争はクリミア(の併合)で始まった。戦争はクリミアの解放で終結しなくてはならない」と決意を述べた。
●ロシアの港で大規模火災、国境付近のアゾフ海沿岸 8/10
黒海北東部のアゾフ海に面したロシアの港湾都市エイスクで、大規模な火災が発生した。
エイスクの対岸には、ロシア軍が軍事侵攻の初期から激しい攻撃を仕掛け、5月に制圧したウクライナ南東部の港湾都市マリウポリがある。
SNSに投稿された動画や写真には、街の上空に広がる黒い煙がうつっている。大規模な爆発の現場をとらえた映像もある。
ロシア国営タス通信は、広さ550平方メートルの格納庫から火が出たと伝えた。地元緊急対策当局によると、死傷者は報告されていないという。
当局から公式のコメントは出ていない。
●イスラエル、ユダヤ系非営利団体の禁止に向けたロシアの動きを懸念 8/10
イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領は9日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談を行い、ユダヤ人のイスラエルへの移住を支援する、世界最大のユダヤ人非営利団体を禁止しようとするロシアの動きについて協議した。
ロシア司法省は、プライバシー保護法に違反した疑いがあるとして、「イスラエルのためのユダヤ機関」ロシア支部の清算を目指している。
イスラエルの一部の政治家は、ロシアがウクライナ侵攻を非難するイスラエルに報復している可能性や、二国間の緊張がロシア国内のユダヤ人コミュニティに及ぼしかねない影響について懸念を表明している。
シリアに関するロシアとイスラエルの意思疎通を損なう恐れがあることを憂慮する政治家もいる。シリアでは、同国政府を支援するためにロシアが空軍を展開し、イスラエルは「イラン関連の軍事目標」と呼ぶものを攻撃している。
「電話会談は率直で誠実なものだった。両大統領は、イスラエルとロシアの重要な協力分野に力点を置き、連絡を取り続けることに合意した」と、ヘルツォグは声明で述べている。
クレムリンは、ユダヤ機関に関して両国が連絡を取り続けることに両大統領は合意した、と発表している。
約60万人のロシア人が、ユダヤ人であることを理由にイスラエルに移住する資格を有しており、当局者によると、今回の議論が始まって以来、申請者数は増加している。
多分に象徴的なポストである大統領職に就くイツハク・ヘルツォグ氏は、プーチン氏との電話会談は、ロシアのウクライナ侵攻を非難するヤイール・ラピード・イスラエル首相と調整したうえでのものであると述べている。
●岸田改造内閣、露は防衛相に関心 8/10
ロシアのタス通信は10日、第2次岸田改造内閣で、浜田靖一氏の防衛相就任を中心とする記事を配信した。浜田氏は2008〜09年に防衛相を経験しているとした上で、「自民党内の防衛問題の専門家の1人だと考えられている」と紹介した。ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は7月末、「国益がある地域」として不法占拠している北方領土の周辺海域を挙げており、日本の防衛政策に関心を寄せていることを示した。
●「ロシア人を入国禁止に」 ゼレンスキー氏が西側諸国に要請 8/10
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は9日、西側諸国に対し、ロシア人の入国を禁止するよう要請した。ロシアは反発している。
ゼレンスキー大統領は米紙ワシントンポストの取材で、「ロシア国民はその哲学を変えるまで自分たちの世界で生きるべきだ」と発言。ロシアの飛行機や政府関係者の西側諸国への入国を拒否することは制裁よりも効果が大きいと説明した。
ロシア国民は現在、欧州連合(EU)やアメリカへの渡航ビザ(査証)を申請することが可能だ。
しかしゼレンスキー氏をはじめ一部の欧州首脳は、これを制限するべきだと提言している。
一方、ロシアのドミトリー・ペスコフ政府報道官は、ゼレンスキー氏の提案を非難し、「非常にマイナスの方向にしか受け取れない」、「ロシアやロシア国民を孤立化させようという動きに未来はない」と述べた。
ゼレンスキー氏は、「最も重要な制裁は国境を封鎖することだ。ロシア人は他人の土地を奪おうとしているからだ」と話した。
同氏は先に、ロシアのウクライナ侵攻を後押ししているロシア産の石油とガスの輸入を、西側諸国が全面禁止しなかったことを非難している。
禁止要請への賛同も
エストニアのカヤ・カラス首相は9日、「ロシア人に観光ビザを発行するのはやめよう。欧州に来るのは人権ではなく特権だ」とツイートした。
先月にはラトヴィアの外相がニュースサイト「ポリティコ」の取材で、EU加盟国はロシア人へのビザ発行を、人道的な理由の場合を除いて制限するべきだと語っている。
8日には、ロシアの隣国フィンランドもこの動きに賛同。サナ・マリン首相は国営テレビに出演し、「ロシアがヨーロッパで攻撃的で残忍な侵略戦争を繰り広げているのに、その国民が普通に生活し、ヨーロッパを旅行し、観光できるのはおかしい」と語った。
さらに、エストニアとフィンランドはこの件を、近くEU外相会議で取り上げる見通しだ。
EUでは国境を越えた人の自由な移動を可能にする「シェンゲン協定」により、域外からの渡航者でも最大90日間、観光やビジネスなどで加盟国間を自由に行き来できる。
同協定にはEU加盟国の22カ国と、アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタインが加盟している。
ロシア人も、目的地への直行便がなくても、ほとんどのEU加盟国を行き来することができる。ただし、西側諸国の制裁により渡航禁止措置を受けているロシアのオリガルヒ(富豪)やウラジーミル・プーチン大統領、軍関係者は入国できない。
エストニアとラトヴィアはすでに、ロシア人へのシェンゲンビザの発行を停止している。しかし、ロシア人が他の協定加盟国でビザを取得し、両国に入ることは可能だ。
ブルガリアはロシアと外交紛争を起こしており、互いに観光ビザの発行を取りやめている。
ただ、ゼレンスキー氏の要請に対する支持は、限定的かもしれない。ロシアは制裁を受けてはいるものの、世界各地でビジネスを展開しており、エジプトやトルコ、アラブ首長国連邦(UAE)などでは、ロシア人が観光客として歓迎されている。
また、2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、西側の厳しい制裁を受けて数万人のロシア人が外国にわたった。これには反政府活動家なども含まれているが、政治とは無関係にロシア国外に機会を見いだした人も多数いる。
ロシアへの反発は言語や文化でも
ロシアの侵攻を受け、ウクライナではロシア語やロシアの文化への反発も高まっている。
ウクライナでは数百年にわたりロシア語が使われ、現在でも広く使用されている。しかしウクライナの著名人の中には、公共の場でロシア語を使わないとソーシャルメディアで宣言する人もいる。
首都キーウでは今年前半、ロシアや旧ソ連と関連する名前の地下鉄駅について、オンライン上で新しい名前の公募があった。
その結果、「レオ・トルストイ広場」駅はソ連時代の詩人兼反政府活動家の名前を取って「ワシル・ストゥス」駅に、「ヘロイフ・ドニプラ(ドニエプルの英雄)」駅は「ヘロイフ・ウクライニ(ウクライナの英雄)」駅に、「ドルズビイ・ナロディフ(人民の友情)」駅は、近くの国立植物園にちなんで「ボタニカル」駅となった。
各国の反ロシア的な動きやウクライナのナショナリズムに対し、ロシアのペスコフ報道官は、第2次世界大戦直前のようだと批判した。
「こうした国々の多くは、友好的でないからこそ、物忘れに陥っている。だから、80年前にヨーロッパの中心の国々から聞いたような発言に頼ることになる」
●北欧2カ国がNATO加盟申請 ロシアはシュートのつもりが…オウンゴール確定 8/10
ロシアによるウクライナ侵攻のさなか、プーチン大統領の「オウンゴール」が早くも確定した。陸や海を隔てて北方にあるフィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)加盟を申請し、承認されてしまった。力で自国の安全を得ようとする暴挙に出なければ、こんな失態にはならなかった。
自らまいた種
キーウ(キエフ)公国という歴史・文化の源流がある旧ソ連構成国を、NATOに入らせないために侵攻したはずが、地政学的に見るとあだに。北欧2カ国がせっかく中立を保っていたところ、西側の軍事ブロックに加盟する種を自らまいたのだ。
冷戦期、東西陣営は長大な前線すべてで直接にらみ合うのではなく、欧州に中立的な「緩衝地帯」があることで微妙なバランスが保たれてきた。中欧のスイスやオーストリアがそれだったし、ムーミンで知られる国は2度の戦争を経てソ連に歯向かわない「フィンランド化」政策を取った。スウェーデンはナポレオン戦争後、軍事非同盟を続けていた。
もちろん、NATOにも問題はある。冷戦が終結してドイツが統一される際、「NATOは東方拡大しない」という「口約束」があったとされる。ところが、ソ連崩壊後のロシアの国力低下に乗じ、旧共産圏の東欧やバルト3国などをのみ込んだ。そこに人口約4000万人のウクライナも入りたいと言ったところで、プーチンの堪忍袋の緒が切れたというのが、侵攻の背景だった。
ウクライナでは当初、軍事ブロック入りまで求めておらず、2013年からのデモで叫んでいたのは欧州連合(EU)加盟だ。そこに翌年、プーチン政権が軍事介入したことで、NATO加盟論を後押しすることになった。現地でよく言われる。「ロシアはクリミア半島を得たが、ウクライナを永遠に失った」
200年の歴史を変えた
侵攻前の1月、国境付近に大軍を集結させて緊張をあおる中、欧米との外交交渉が連日実施されていた。詳しくは触れないが、安全の法的な保証に向けて西側は「満額回答」の手前まで譲歩。ロシアが、ここで下りるか交渉を続けるかを選んでいれば、戦争は起きていない。そして、フィンランドとスウェーデンを敵の陣営に逃げ込ませることもなかった。
今回はこうも言えるかもしれない。「ロシアはドンバス地方を得たが、北欧2カ国を永遠に失った」。それにしてもプーチンは歴史を動かしてしまった。200年以上も続いたスウェーデンの中立政策を撤回させたのだから。 ・・・

 

●クリミア軍用飛行場の爆発、ウクライナのパルチザン関与説…ロシアは「事故」 8/11
ロシアが併合したウクライナ南部クリミアのノボフェドリウカ付近のサキ軍用飛行場で9日に発生した大規模な爆発の原因を巡り、露国防省が「事故」だったと強調する中、ウクライナによる攻撃や破壊工作など様々な観測が広がっている。プーチン露政権はクリミアへの攻撃を「越えてはならない一線」と位置付けており、ウクライナの関与が確認された場合は、無差別なミサイル攻撃などの報復に出る可能性もある。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、ウクライナ軍高官の証言として、同軍の指揮下で活動しているパルチザンが爆発に関与したと報じた。高官はウクライナ製の装置を使ったとも述べた。ウクライナ軍は露軍に占領された地域の住民向けに工作活動の手法などを紹介し、抵抗運動が広がっている。
ミハイロ・ポドリャク大統領府顧問は9日、SNSに「キーウは関与していない」としつつも、「これは始まりだ」と投稿した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領も9日夜のビデオ演説で、爆発には触れず、「ロシアとの戦争はロシアによるクリミアの占領で始まった。クリミアで終わらせねばならない」と述べた。
ウクライナが管理する地域から、サキ軍用飛行場までは約200キロ・メートル離れている。米国がウクライナ向けに供与している高機動ロケット砲システム(HIMARS)の砲弾の射程は約80キロ・メートルで、ウクライナ軍の保有が確認されている地上攻撃型のミサイルやロケット砲では届かない。
ただ、米政策研究機関「戦争研究所」は9日、事故だとする露側の説明に疑念を示し、ウクライナ側の破壊工作や、ウクライナ軍による攻撃だった可能性は「排除できない」との見解を示した。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は10日、ウクライナ政府当局者の証言に基づき、軍の特殊部隊が関与したと報じた。
ロシアが一方的に任命しているクリミアの「首長」は9日、爆発を受け、SNSを通じて、テロ警戒レベルの引き上げを発表した。
●ウクライナ侵略でロシアが行った非正規戦、その卑劣な実態 8/11
ここでは、「交戦の資格を有する軍隊(識別可能な徽章を装着している)」による戦いのことを正規戦、「交戦の資格を有しない者」による戦いあるいはその支援のことを非正規戦と呼び使用する。
非正規戦の実態は、表舞台に出てくることは少ない。その理由は、秘密裏に進められ、公表されることは少ない上に、証明されないからである。
砲弾やミサイルを撃ち合うなどのような目に見えるものではないので、正規戦の陰に隠れてしまっている。
とはいえ、非正規戦が正規戦と連携して実施される場合、その成果いかんによっては正規戦の成否を左右する場合がある。
非正規戦について、我が国の防衛白書に記述はない。
記述がないので、国民の関心は少ない。だが、国民がこのことを知っておかねば、国家が簡単に乗っ取られてしまうことになりかねない。
ロシアのウクライナ侵攻で、ウクライナはロシアが行った非正規戦について報告している。実際の戦争における非正規戦についての報告は、戦史からみて珍しいことだ。
また、戦史の記述にもあまりないことなので、ここで補足を加えて紹介する。
ウクライナ政府・軍による取り締まり
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7月17日、検事総長と情報機関の保安局長官を解任した。
両氏が管轄する機関の職員60人以上が、侵攻するロシア軍の作戦に協力した疑いがあるという理由からだ。
また、国家反逆の疑いで、650件を超える数の捜査が進められていると説明した。具体的には、
(1)ロシア軍や親露派の指示に従った
(2)クリミアを担当する保安局の元幹部らが、ロシアの特殊機関などに機密情報を渡した
(3)ハルキウ州を担当する保安局の幹部らが、侵略の対応を巡り職務怠慢があった
(4)ロシア軍に射撃目標選定に資する情報を与えた。射撃目標とする目印を付けた
(5)スマートフォンなどを使って、ウクライナ軍に関する情報を提供した、などである。
ゼレンスキー暗殺計画と失敗
ゼレンスキー大統領は、ロシアの特殊部隊(ロシア軍の戦闘服を着用していない)に8回も殺害されそうになった。
ロシアは、ウクライナ侵攻と同時にキーウに潜入し、ウクライナの大統領を暗殺するか、拉致して連れ去ろうとしたのだ。
国のトップを殺害して、政権を転覆しようとしたのだ。
特殊部隊兵がウクライナに事前に入国し、ウクライナ人になりすまし、大統領の近くにいたということだ。
特殊部隊の侵攻前の入国には、親ロシア派の有力者の手引きがあっただろう。
もしも、暗殺が成功していれば、プーチン氏が指名した大統領が出現していたかもしれない。
暗殺と軍事作戦が連携し成功していれば、ウクライナは1か月で占領され、ロシア軍がポーランドの国境まで進出していただろう。
ウクライナ軍や警察は、よくぞ大統領を守り切ったものだ。
もし、日本で敵国の特殊部隊が総理大臣や沖縄県知事を暗殺しようと襲撃してきた場合、警察では対応できない。
装備する武器の威力が負けているからだ。
現在、自衛隊に総理や沖縄県知事を守る部隊があるか、また、そのような訓練をしているのか。
東京・市ヶ谷の防衛省でさえ、警備会社が主に警備をしているのだから、政府や自衛隊には準備がない、構想さえもないだろう。
神父がロシア軍を手引き
空挺作戦で、大部隊が空中機動し、落下傘降下やヘリで降着するためにはどうするか。
事前に、特殊作戦能力を有する誘導部隊が、降着地の安全を確認し、地上から航空機の侵入経路を誘導してから降着を実施する。
地上の安全確保と地上からの誘導がなければ、降着時に敵部隊から簡単に撃滅されてしまうからだ。
米軍の82空挺師団や自衛隊の第1空挺団には、必ず誘導部隊が存在する。
空挺作戦の降投下(イメージ)
ヘリボーン作戦の降着(イメージ)
ロシア軍の侵攻(2月24日)では、侵攻と同時に空挺部隊とヘリボーン部隊が、キーウのホストメリ空港を空中襲撃して、その日のうちに占拠した。
約3000人(1個旅団)が、空中からの襲撃によりたった1日で占拠してしまったのだ。ここまでは、戦史から見て、歴史的大成功であった。
ANNニュース(5月7日)によれば、ロシア正教会系とみられる神父2人が、輸送機やヘリを誘導したとされる。
私は、ウクライナ兵の姿に変えた部隊が事前に潜入し、管制塔や警備員を殺害した可能性があるとみている。
神父とみられるのは、ロシア特殊部隊兵が神父や民間人に成りすまして、作戦を実行したものだろう。
たった1日で占拠できたのは、事前に100〜200人の兵が潜入して準備していたからだと見るべきだろう。
ウクライナ軍は、ロシアの増援空挺部隊を輸送する「IL-76」大型輸送機とヘリボーン攻撃のヘリを撃墜した。
報道によれば、輸送機に搭乗した増援部隊は、滑走路が破壊されたために、着陸が不可能となり、増援ができなかったとされている。
滑走路が使用できなくなったことは事実であろう。だが、落下傘部隊の兵や兵器は、落下傘を付けて降下させればよい。
ロシアは兵器や物量を降下させ、着地に優れた逆噴射の技術を取り入れているわけだから、滑走路が破壊されたからといって、実行できなかったというのは、戦理に合わない。
ロシア軍が侵攻前年の12月から、ウクライナに侵攻する可能性があると、かなりの確率で見積もっていた。
キーウに至る空港は、作戦当初に実行されると読むのが、軍事専門家としては当然のことだ。
ウクライナ軍は、ロシア軍の作戦を読み取っていて、降着した時点と空中機動間に打ち落とす作戦を取ったのではなかろうか。
私は、米国のサイバー専門家や通信情報収集機関が入手した情報が役に立ったのではないかと考えている。
ヘリボーン作戦に対する攻撃(イメージ)
日本に置き換えた場合、石垣空港、那覇空港、対馬空港などが、空挺攻撃された場合、自衛隊は対応の準備ができているだろうか。
特に、反撃のための戦車や火砲による攻撃準備が必要だ。
ウクライナ軍装った高射砲搭載トラック
ロシア軍の高射(防空)機関砲を搭載したトラックが、キーウ市内でウクライナ軍に破壊された。
そこには、ウクライナ兵の戦闘服を着たロシア兵2人の死体が横たわっていた。
これは、ロシア軍特殊部隊兵が、ウクライナ軍の戦闘服を着用して、ウクライナ兵に成りすましてキーウに潜入したことを物語っている。
そして、強奪したか、あるいは協力者から提供されたウクライナ軍トラックで市内の各所を、高射砲で乱射した。
市内を混乱させる狙いがあったのだろう。
敵国の軍服を着て、敵国軍を装って潜入し、攻撃行動をするのは、戦時国際法における背信行為である。
日本に置き換えた場合、中国兵が漁民の服装をして、あるいは自衛隊の戦闘服を着用し、尖閣諸島、南西諸島に、機関銃などを隠し持って上陸、攻撃する可能性があると考える。
北朝鮮工作員が漁船の形をした工作船で、対馬や日本海側に上陸するケースもある。
2017年11月北海道の松前小島に漂着した北朝鮮の漂着船は、「北朝鮮人民軍第854部隊」の表記が付いていて、船員は漁民の体格ではなく工作員・兵士の体格であったことから、工作船と見られる。
秘密工作員を使って原発を占拠
ロシアは侵略のかなり前にウクライナにエージェントを派遣し、当局と接触していた。ロシア軍は、その秘密工作員の助けを借りて、チェルノブイリ原子炉を占拠した。
軍が敵の重要施設を攻撃する場合、施設の要点や警備員の配備等を事前に調べる必要がある。
秘密工作員が、事前に潜入して、原発に関する情報を収集していたということである。
ロシアは、ザポリージャ原子力発電所を「ウクライナのエネルギーシステムから切り離す」ために砲撃している。
米国の戦争研究所は、次のように報告している。
「ロシアがザポリージャ原子力発電所を利用して西側諸国の支援を弱めている可能性が高い」
「ロシア軍がこの発電所を『ウクライナでの核災害に対する西側諸国の恐怖をあおる』ために使用する可能性が高い」
英国の情報機関によれば、「ロシア軍は、原子力発電所を使用して、設備や人員がウクライナに攻撃されるリスクを軽減している」とも述べた。
原発は、侵攻の当初から攻撃目標となりやすいことを裏付けている。
占拠されれば、「原子炉爆発がある」と脅されることで、そこに砲弾を撃ち込むことはできず、敵の意のままに使用されることになる。
原発警備の重要性を認識するとともに、自衛隊・警察の投入と連携が必要になる。
親ロシア住民が情報提供
ドネツク州でロシア軍への協力者8人が、ウクライナ兵の所在や軍事装備や車両の動きに関する情報を漏らした。
ウクライナでは、戒厳令中にこのような情報を漏らした場合、最高で12年の禁固刑が科せられる。
以前KGBの一員であった者が、ロシアに軍事基地に関する情報を提供した。
基地の座標が記された地図が含まれ、その場所を砲撃するために使用された。この攻撃により、50人のウクライナ兵が死亡し、150人が負傷した。彼らは反逆罪で起訴される。
住民約1000人が避難していたマリウポリ市内の劇場が、ロシア軍機の爆撃を受けた。
狙い撃ちされたのは、劇場が攻撃目標として、ロシア側に情報提供された結果なのだろう。
親ロシア派が、ロシアの傭兵を捕らえるウクライナの作戦について、ベラルーシに情報を漏らした。
また、ロシアの侵略中にヘルソン州の防衛を妨害し、軍事装備の緊急購入を遅らせた。
敵に対して、射撃目標となる情報や占拠することにより作戦に重大な影響を及ぼす重要施設(橋梁・原発・水門・テレビ塔などの通信施設)に関する情報が提供されてしまうと、戦況に重大な結果を及ぼす。
敵に重大な情報を易々と渡してしまうことがあってはならない。
ウクライナによるロシア非正規戦の解明
ロシア軍の侵攻作戦当初には、ウクライナに住む親露派の政府要人、政府関係者、民間人がロシアに内通していて、ロシア軍をウクライナに招き入れていた。
そして、侵入に対して抵抗させなかった。また、ロシア軍に射撃目標とする重要な情報を提供して、ロシア軍の作戦に協力していた。
以前、クレムリンを支持する政党であったウクライナ議会の議員が、ザポリージャ州のロシア支配地域の占領行政長官となった例もある。
ウクライナで要職にあったものが、ロシア側に協力しているのだから、ウクライナの非正規戦は、現在もかなり厳しいものだ。
KGB出身の大統領だからこそ、このようなことを兵士にやらせているのだろう。
ロイター通信によると、「クレムリンは、これらの内通者による協力により、ロシアが数日以内にウクライナを占領するのを助けるだろうと信じていた」という。
一方で、ウクライナは、侵攻から約5か月になる頃に、反逆罪の疑いで650件を捜査対象としている。
ロシア軍の侵攻当初には、ロシアに都合よく機能していたのだが、次第にウクライナ政府機関に発見されて、逐次拘束されていった。
つまり、ロシア軍としては、ウクライナに侵攻すれば、親露派の中央・地方の政府要人が引き入れてくれると想定していたが、内通している人々が、早期に拘束されて、途中からロシア軍を引き入れることができなくなり、失策となったといえる。
日本も非正規戦に注目すべき時になった
日本では、非正規戦の実情については報道されず、防衛白書にも記述されない。
非正規戦対処について、政府や自衛隊は、国民監視に繋がるから避けてしまいたいことなのだろう。
だが、非正規戦は、正規戦の成否に大きく影響するものだ。
日本には、中国籍人口が70万人を超え、日本の土地購入もなされている。
日本に住む中国人は、有事、国防動員法の規定により、中国に協力する義務がある。
中国の危機を認識すれば、非正規戦について、注目すべき時期になったと言える。 
●クリミア半島のロシア軍基地に大きな被害 衛星写真で明らかに 8/11
ウクライナ南部クリミア半島のロシア空軍基地で9日に起きた爆発は、被害が広範囲にわたり、複数の戦闘機が破壊されたことが、最新の人工衛星写真から明らかになった。
クリミア半島は、ロシアが2014年に一方的に併合。西岸のノヴォフェドロフカに近いサキ軍事基地では9日、複数の爆発があり、1人が死亡した。ウクライナは、この爆発には関与していないとしている。しかし、今回の新たな証拠によって、この基地を標的に攻撃した可能性が出ている。アメリカに本拠を置くプラネット・ラブスが発表した今回の衛星写真では、広範囲にわたって焦土と化した大地が見て取れる。
基地の主要滑走路は無事に見えるが、少なくとも8機の航空機が損壊したと思われる。また、複数のクレーターも確認できる。被害を受けたとみられる航空機の多くは、基地内の格納庫から離れた、開けた場所に駐機してある。
プラネット・ラブスは、ウクライナ全土をカバーする数百もの人工衛星写真をモニタリングしている。同社が発表した爆発前後の写真は、この基地の被害を示す初の独立した証拠となった。これまでは、爆発の影響の詳細は不明だった。しかし、基地がどのように被害を受けたのかや、爆発の原因はまだ分かっていない。
ロシアは、防火規則の違反によって、倉庫の弾薬が爆発したと説明している。一方のウクライナも、基地を攻撃したとは発表していない。同国のオレクシイ・レズニコフ国防相も、ロシア兵のたばこの不始末が原因だろうと示唆した。
ウクライナ空軍は、この爆発で複数のロシア戦闘機が破壊されたと述べたが、ロシアはこれを否定していた。しかし、人工衛星写真によって、ロシアの主張が間違っていることが確認された。
イギリスのベン・ウォレス国防相は、爆発が2回あったことから、事故ではなく攻撃ではないかと述べた。その上で、ウクライナがクリミア半島を攻撃する正当性を支持した。
クリミア半島をめぐって応酬
9日の爆発を受け、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は演説で、戦争が終わる前にクリミア半島を奪還すべきだと訴えた。ウクライナによるクリミア半島への攻撃は、戦争の激化と見なされる。ロシアのドミトリー・メドヴェージェフ前大統領は7月、ウクライナが同半島を攻撃すれば「審判の日がすぐに訪れる」と警告した。
ロシアは2014年、ウクライナで親ロシア派の大統領が親欧派によって辞任に追い込まれた直後、クリミア半島に侵攻。いくつかの要衝を掌握し、早々に住民投票を行い、同年3月にロシアに併合した。国際社会はこの投票を違法だと判断している。多くのウクライナ国民が、この時がロシアとの戦争の始まりだと認識している。
8年後の今年2月には、ロシアがウクライナ侵攻を開始。クリミア半島の軍事基地からも部隊を送り込んでいる。
●クリミアのロシア軍基地爆発 “ウクライナが関与”米有力紙  8/11
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアに駐留するロシア軍の基地で起きた大規模な爆発について、アメリカの複数の有力紙は、ウクライナ側が攻撃に関与したという見方を伝えています。ロシア軍の航空戦力が損害を受けたとも指摘され、南部をめぐる攻防がさらに激しくなる可能性が出ています。
ロシアが8年前に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島では、西部にあるロシア軍の基地で、9日、大規模な爆発がありました。
ロシア国防省は、飛行場にある航空機の弾薬庫が爆発したと発表し、攻撃を受けたものではないと主張しています。
一方、ウクライナ側は、関与について公式に言及していませんが、アメリカの有力紙、ワシントン・ポストは10日、ウクライナ政府当局者の話として、攻撃はウクライナの特殊部隊が行ったと伝えました。
また、ニューヨーク・タイムズは、ウクライナ政府高官の話として「ウクライナ政府に忠誠を尽くすパルチザン部隊が関与した」とするなど、ウクライナ側が攻撃に関与したという見方を伝えています。
ロシア国防省は、航空機などに被害は出ていないとしていましたが、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は10日「衛星画像では少なくとも8機のロシア軍の航空機が破壊された」として、航空戦力が損害を受けたと指摘しています。
そして「ロシア側は混乱しているだろう。ウクライナ側がどこからどのようにして攻撃を行ったか、まだわかっていないかもしれない」とする見方を伝えています。
クリミアをめぐっては、ウクライナ政府は、ロシアからの返還を目指して去年、友好国の首脳などを招き初めて立ち上げた国際会議を、ことしも今月23日に行う考えを示していて、ゼレンスキー大統領は9日「クリミアから始まったロシアの戦争は、クリミアの解放で終わるべきだ」と述べるなど、南部をめぐる攻防がさらに激しくなる可能性が出ています。
●内閣改造でなぜロシア協力相を続ける必要があるのか 8/11
侵略国との経済協力をまだ継続するのか。
10日に行われた内閣改造で、「ロシア経済分野協力担当相」ポストの存続が明らかになった。日本はロシアのウクライナ侵入を受けて強い制裁を課し、共同経済活動も見合わせている。その一方で、「協力」を推進するというのだから、矛盾はなはだしいというほかはない。
ロシアからは足元を見られ、連携してきた主要7カ国(G7)からは疑念の目を向けられるだろう。懸念されていた対露制裁からの日本の落伍が現実になるのだろうか。
ロシアを刺激したくなかった?
松野博一官房長官が10日午後、新しい閣僚名簿を読み上げた。西村康稔経済産業相のくだりで、他の兼任ポストとともに、「ロシア経済分野協力担当」と明確に述べた。過去の資料でも誤って読み上げたのかとも思ったが、訂正されることはなかった。
同日午後にアップされた時事ドットコムは、サハリン2からの日本向け天然ガス供給をめぐって、「ロシアが日本に揺さぶりをかけており、先方を刺激するのは得策ではないと判断した」と報じた。
この方針について、同日夕に記者会見した岸田文雄首相の口から何の説明もなく、メディア側から質問もでなかった。官邸詰めの記者は不思議に感じなかったようだ。
同日夜、就任会見した西村新経産相は、冒頭発言でこのポストに触れ「ウクライナ情勢を踏まえた日露経済分野における協力プランに参加した企業への対応」と述べたにとどまった。
経済協力見合わせなのに何を担当?
ロシア経済分野協力担当相は2016年9月に新設された。この年5月、安倍晋三首相(当時)がプーチン大統領に、エネルギー開発、医療・など8項目の経済協力を提案、合意した経緯があり、これら事業を促進することが目的だった。
同年12月には、安倍首相の地元、山口・長門で行われた日露首脳会談で、北方領土での風力発電、養殖漁業など5項目の共同経済活動開始でも合意した。安倍政権が、ロシアとの経済協力に前のめりになった年であり、北方領土交渉を促進するという思惑からだった。
しかし、ロシアとの経済協力に慎重な意見が国内にあり、北方領土での共同事業にしても、日本固有の領土であるにもかかわらず、いずれの法律を適用すべきかなどで対立、進展を見ていなかった。そうした中で、ことし2月、ロシアのウクライナ侵略が始まった。
その直後、の3月2日、岸田首相が参院予算委で「ロシアとの経済分野の協力に関する政府事業は当面見合わせることを基本とする」と表明。松野官房長官も同月11日の衆院内閣委で、「幅広い分野で関係全体を発展させるよう粘り強く平和条約交渉を進めてきたが、ウクライナ情勢を踏まえれば、これまで通りはできない。8項目を含む協力事業は当面見合わせる」と説明した。
見合わせている事業のために担当相を存続させて何をさせようというのだろう。兼任とはいえ理解不能だ。「見合わせ」は一時的であり、時機を見て復活させようという思惑なのか。
これまでは、強い制裁を課してきたが
今回のロシアによるウクライナ侵略を受けて日本は当初から、対露制裁、ウクライナ支援でG7各国とよく協調してきた。
ウクライナに対して、食糧、シェルターなど2億ドルにのぼる人道支援、3億ドルの円借款に加え、防衛装備品の供与を断行。防弾チョッキ、ドローン 防衛装備品にヘルメット、双眼鏡など攻撃用武器との境界が微妙な物品も含まれた。
ロシアに対しては、最恵国待遇除外、プーチン大統領らロシア要人の資産凍結など矢継ぎ早に行い、もっとも強い手段として、東京のロシア大使館員8人を「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからぬ人物」として追放した。ロシア外交官を日本政府が一挙に8人もの多数を、しかも、制裁の一環として追放するのははじめてだった。 
ロシアの侵略直後、日本はどの程度の制裁を打ち出せるか懸念する向きが少なくなかった。
というのも、2014年、ロシアがクリミアを併合したときの日本の制裁は、ビザ発給緩和の停止、関係者23人へのビザ停止など軽微な内容だったからだ。しかし、日本がとった措置は、こうした懸念を払しょくするに十分だった。
それだけに、今回の「ロシア経済分野協力担当相」の存続は、「やはり」という疑念を再び呼ぶことになるだろう。
サハリン1、2の権益維持も念頭か?
日本政府は石油などロシア極東の資源開発事業「サハリン1」、天然ガス開発事業「サハリン2」について、従来通り堅持したい方針を示している。これに対し、プーチン大統領は制裁への報復として、サハリン1の株式取引を禁じ、サハリン2をロシアの新会社に譲渡するよう命じた。
萩生田光一経産相(当時)は8月8日、サハリン1について、「われわれはいままでの方針を維持する」と述べ、サハリン2については、日本の商社に対して、ロシアが設立したあらたな運営会社に出資継続を求めた。
担当相ポストの継続は、こうした方針とも関係があるのかもしれない。西村経産相は就任会見で、同様に権益維持の方針を表明したが、冒頭に「参加した企業への対応」と述べたのは、商社への働きかけを指しているとみられる。
しかし、日本が事業を継続した場合、各国からの非難は免れないだろう。ロシアのウクライナ侵略直後、米国のエクソンモービル、英国石油大手のシェルがそれぞれ「サハリン1」、「サハリン2」からの撤退を決めている経緯からだ。
日本国内でも侵略開始の翌日の2月25日、自民党の佐藤正久外交部会長が党内の会合で「片方で制裁と言いながら、片方で共同経済活動を続けたら、各国は日本をもう信用しない」と強い調子で中止を主張、与党内で同調が広がっていた。
再び制裁の「弱い部分」になるのか
1989年の中国の天安門事件をめぐって各国は強い制裁を課した。日本も同調したが、日中国交正常化20年の1992年、天皇(現上皇)の訪中を契機に制裁解除の先鞭をつけた。中国とは地政学的に各国と異なる立場にある日本独自の判断だった。
当時、中国外相だった銭其琛氏は回想録の中で、西側の制裁の輪の中でもっとも弱かったのは日本であり、そこに狙いをつけたと告白。結果的に利用された日本側は悔しさを隠せなかった。
日本は今度は対露制裁で「もっとも弱い部分」になるのだろうか。銭其琛氏の回想をよもや忘れまい。
●ウクライナで戦えば自由の身に、ロシア刑務所での新兵募集の実態 8/11
自由になれる、大金も手にできる。そんな約束が監房に押し込まれた受刑者たちに持ちかけられる。彼らは取り乱した様子で身内に電話をかけ、申し出を受けるべきか考えを巡らす。やがて、受刑者たちは姿を消す。あとに残された身内は、病院に担ぎ込まれる負傷者の報告を、血眼になって調べることになる。
このような場面が、ロシア中の受刑者の間で展開する。正規軍をぎりぎりまで酷使しつつ、半年近くに渡って悲惨な作戦を遂行する血みどろのウクライナ侵攻。こうした中、ますます多くの証拠から、クレムリンによる醜悪な選択の実態が明らかになった。自分たちの醜悪な戦争のため、彼らはロシアの受刑者たちを兵士として採用している。
1カ月にわたる調査を通じ、CNNはロシアの最新の新兵募集システムに取り込まれた受刑者とその家族、友人らと話をした。活動家らの見解によれば、ロシア全土の数十カ所の刑務所に収容された数百人に対し、こうした募集がかけられている。受刑者の中には殺人犯や麻薬犯罪者もいる。。
CNNは受刑者らが家族との間で交わした数十件のチャットメッセージを確認。ウクライナで戦う見返りの詳細を明らかにした。ただし死の危険は大きい。最新の西側の評価によると、侵攻開始以降に死傷したロシア軍兵士の数は7万5000人とみられる(ロシア軍はこの主張を否定している)。
1人の受刑者が、自身の監房からの映像を通じてCNNの取材に応じた。背景では猫が1匹、2段ベッドの周りをうろつき、年代物のテレビの上に据え付けられた扇風機が房内に涼しい空気を送ろうとしている。薬物犯罪で複数年収容されているこの受刑者は匿名を条件に、不正入手したスマートフォン(ロシアの刑務所では割とよくある話だ)を使って具体的な募集の条件を説明した。
「彼らは殺人犯は受け入れるが、強姦犯や小児性愛者、過激主義者、テロリストは受け入れない」「半年で恩赦を与えるというのが売り文句だ。月10万ルーブル(約21万円)程度の報酬を持ちかけてくることもあれば、20万のときもある。千差万別だ」と、この受刑者は語った。
申し出をする人物は身元を明かさないが、民間の軍事請負会社の一員と思われる。彼らは7月の前半に刑務所へやってきた。募集プログラムに応じると、ロシア南部のロストフ州で2週間の軍事訓練を受けることになる。この受刑者は2年間軍役についていたが、採用担当者の側に軍隊経験を強く求める様子はみられなかったという。
「自分の場合、条件が本当なら断然それに乗る」と、同受刑者は話す。「自分にとってはものすごく大きい。10年近く刑務所にいるのと、運が良ければ半年で出られるのと。あくまでも運が良ければだが。とにかく家に帰って子どもに会いたい。なるべく早く。こんな選択ができるなら、乗らない手はない」
これまですでに50人の受刑者が新兵として選ばれ、刑務所内で伝染病予防のための隔離を受けていると、この受刑者は明かした。聞くところによると、400人が応募したという。ロシアの刑務所システムに携わる人権活動家らは、7月初め以降、全国から不安を抱える家族に関する報告が大量に寄せられていると話す。受刑者である身内の命運を案じる内容だ。
受刑者の人権擁護に取り組む団体を率いるウラジーミル・オセチュキン氏は、「7月の最後の3週間に、ロシアの受刑者数千人を集めて戦争に送り込もうとする、極めて大きなプロジェクトの波があった」と指摘する。
同氏によれば、受刑者らが死亡した場合、その家族に対して500万ルーブル(約1100万円)の支払いを約束したケースもある。ただそうした金銭的報酬の約束が完全に履行されるとは限らない。「保証は何もない。本当の契約ではなく、合法でもない」と、オセチュキン氏は強調する。
受刑者とその家族の中には、募集が進むことを望んでいるように見受けられる人々もいるとオセチュキン氏。こうした反応を示す受刑者の家族は、CNNが取材した中にもいた。
オセチュキン氏の推測によると、受刑者らは事実上囮(おとり)に使われている。ウクライナ軍の陣地からの砲火を引き付けることで、ロシア側の正規軍は正確な反撃が可能になる。「受刑者らが最初に進み、ウクライナ軍は彼らを見つけて攻撃する。それを見たロシア軍がウクライナ軍の位置を確認し、そこを爆撃する」
CNNはロシア国防省と刑執行庁(FSIN)に対し、受刑者を募集してウクライナで戦わせているとの疑惑についてコメントを求めたが、どちらからも返答はなかった。
受刑者の募集は始まって日が浅いが、負傷した受刑者に関する最初の報告がすでに家族の間で浮上している。これらの受刑者が搬送された病院は、ロシアの支援を受ける分離派勢力が押さえるウクライナ東部ルハンスク州にあるという。
CNNは、すでに前線へ送られたとみられる受刑者の親類同士がやり取りを交わすチャットメッセージを閲覧した。そこでは1人の妻が、負傷してルハンスクの病院にいる夫とどうやって連絡を取ったかを詳細に語る。妻によると、夫の部隊にいる受刑者10人のうち、まだ生存しているのは3人のみ。CNNは当該の負傷した受刑者の身元を関知しているが、本人の入院は確認できていない。分離派勢力地域の医療施設は、情報が表に出てこないからだ。
別の家族らのメッセージも、受刑者たちが静かに追い込まれている実態を具体的に示している。彼らを取り込むロシアの司法システムは、99%の裁判を有罪とする。また汚職が大きな影響を持つ、過度に厳しい刑罰制度が敷かれる。
今月、受刑者1人がメッセージアプリ「ワッツアップ」で兄弟にメッセージを送った。内容は戦場に行く決断についてだ。
受刑者:自分は行くつもりだが、母親には何も言うな。その方がいい。でないと心配しすぎて、どんなニュースにも反応するようになる。
兄弟:それはそうだ。どんなニュースにも反応する。どこへ行って何をするのか、それを伝えてくれたら、まだ冷静でいられる。少なくともどの地域を見ていればいいのか分かるから。
受刑者:それすら分からない。何でも現実の状況次第だ。
受刑者:分かっているのは第12刑務所に行くということ。そこに集まってから、ロストフに2週間。そこには施設があって、次に支配地域に向かう。
受刑者:喜んでいくつもりだ。(人生には)選択肢が沢山あるものだが、今は1つしかない。だから受け入れることにした。
兄弟:刑務所で勉強だってできる。本を読んで、資格を取ればいい。ITとか語学とか。
受刑者:この年でそんなのは無理だ。
ロシア政府にとっての人的資源に関する選択肢は、5カ月以上にわたり狭まり続けている。原因は不首尾で消耗の厳しい侵攻だ。プーチン大統領は当初、徴収兵は戦争に派遣していないと明言したが、その後国防省が徴収兵を前線から撤退させたことを認めた。彼らの派遣は手違いの結果と考えられるとした。
活動家や受刑者らによると、刑務所での兵士の募集は、ロシアの民間軍事組織「ワグネル」の援助で行われているという。同組織は受刑者の雇用を禁じるロシア軍の規定の対象とならない。受刑者は自分たちの契約の写しを家族や活動家と共有することが一切ないので、正確な契約内容や雇用者については不明のままだ。
明確なことが分からず、受刑者本人からも何も告げられない状況は、家族を一段と不安にさせる。兵士として派遣される申し出を受けた受刑者の姉妹だというオクサーナさんは、自身の母親について、当初は息子の軍役で得られる給与を受け取りたい気持ちでいたと話す。ところが息子が自分たちのメッセージアプリに投稿しなくなってからは、心配でいても立ってもいられない状態だったという。
「彼がロストフ州にいたのは分かっている」とオクサーナさん。実際本人から、別の刑務所の工場にいるという話も聞いていた。7月10日、息子から母親に新しいワッツアップの番号から連絡があり、母親のパスポートのコピーを送るよう頼んだという。そうすれば自分の給与を受け取れるようになるとの説明だった。オクサーナさんによれば、これは息子が刑務所にはいない公算が大きいことを意味する。刑務所の労働で得られる受刑者の賃金は、通常受刑者自身の口座に振り込まれるからだ。
受刑者の家族の多くと連絡を取ると、どこも同じパターンだと、オクサーナさんは語る。パスポートの詳細を送らせ、その後は音信不通になる。「受刑者は国民の中でも最も守られることのない人たちだ。プーチンは徴集兵が送られることはないと言ったが、実際には送られていた。受刑者の場合、送られていることを明らかにするのは極めて難しいだろう」(オクサーナさん)
安全上の懸念から、オクサーナさんは本名とは別の名前で取材に応じている。
7月下旬、母親の下にまた新しい番号から連絡があった。見覚えのあるたどたどしい文章で、息子のメッセージだと分かる。体調に問題はなく元気だと伝えているものの、具体的な居場所は明らかにしなかった。「時間はあるにはあるが、あっという間に過ぎる」「電話できるようになったらする」。息子はそう書いていた。
その後母親に対して「会計士」を名乗る人物から電話があり、息子の給与を現金で1週間後に届けると約束した。

 

●クリミアの飛行場爆発、ロシア「軍用機9機失った」…ゼレンスキー大統領演説  8/12
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は10日のビデオ演説で、ロシアが併合した南部クリミアのサキ軍用飛行場で起きた大規模爆発に関し、「侵略者は軍用機9機を失った」と指摘し、クリミアや占領地域の住民に領土奪還に向けた協力を呼びかけた。ウクライナ軍の関与が取りざたされる爆発原因には触れなかった。
英BBCなどは10日、米宇宙企業プラネット・ラボが公開したサキ軍用飛行場の爆発前後の衛星画像に基づき、飛行場に駐機していた複数の露軍機が大破するなど被害が広範に及んだと伝えた。
飛行場はクリミアを拠点にする露海軍黒海艦隊の航空部隊が使用していた。空爆に使う弾薬の保管庫も併設している。ロシアが一方的に任命しているクリミアの「首長」は10日、飛行場周辺にある計約80棟の住宅や商業施設も被害を受けたと説明した。
露国防省は兵士の死傷者数を公表していない。プーチン政権は強い衝撃を受けているものとみられる。
一方、露軍が占拠しているウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所に11日、再び砲撃があった。砲撃は今月5日以降、断続的にあり、ロシアとウクライナの双方が相手による攻撃だと非難している。国連安全保障理事会は11日、同原発の安全管理に関する協議を行う予定だ。
露軍は原発からの無差別攻撃を続けているとみられる。原発から約20キロ・メートル離れたニコポリ一帯では、地元当局者によると、9日から11日までの攻撃で16人が死亡した。
●ウクライナ 南部地域の奪還目指し反撃 ロシア側は住民投票準備  8/12
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアで起きた爆発ではロシア軍の航空戦力が打撃を受けたとみられ、ウクライナ側は南部を中心に支配された地域の奪還を目指して反撃を続けています。これに対しロシア側は軍事侵攻によって掌握した地域の併合に向け、住民投票の準備を進めていて、双方の攻防が一段と激しくなるとみられます。
ロシアが8年前に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島では9日、ロシア軍の基地で大規模な爆発があり、ロシア側は飛行場の弾薬庫が爆発したが攻撃を受けたものではないと主張しています。
一方、ウクライナ政府は公式に関与を認めていませんが、アメリカの複数の有力紙はウクライナ側が攻撃に関与したという見方を伝え、ゼレンスキー大統領は10日「ロシア軍はクリミアで9機の戦闘機を失った」と述べてロシア軍が大きな損害を被ったと強調しました。
また、ウクライナ軍は軍事侵攻によってロシアが掌握したとする南部ヘルソン州で、要衝の橋を攻撃して通行できなくしたと発表するなど、ロシア軍の補給路を狙ったとみられる攻撃も続けています。
これに対しロシア側は7割以上を掌握したと主張する南東部ザポリージャ州で、地元の親ロシア派の幹部が11日、ロシアの新聞「イズベスチヤ」へのインタビューの中で、ロシアへの編入の賛否を問う住民投票について「ロシアで地方選挙が行われる9月11日にあわせて実施できれば望ましい」と述べました。
一方で、住民投票はロシア軍が掌握を進める東部2州や南部ヘルソン州と一斉に行うことも親ロシア派の間で協議され、こうした地域で戦闘が続く中、投票に向けた準備が予定通り進んでいないとも指摘しています。
ロシア側は掌握したと主張する南部や南東部の併合に向けた既成事実化を進めたい狙いですが、支配された地域の奪還を目指すウクライナ軍の反撃に直面し、さらにウクライナ側の住民も根強く抵抗していると指摘され、双方の攻防が一段と激しくなるとみられます。
ウクライナ ゼレンスキー大統領 さらなる支援を呼びかけ
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日に公開した動画で「ロシア軍はクリミアで9機の戦闘機を失った」と述べ、ロシア軍はクリミアでも多大な損害を被ったと強調しました。
そのうえで「ウクライナがより多くの武器や財政的な支援を受けられれば、より早くウクライナとヨーロッパの人々が再び、平和で安定した生活を送ることができる」と述べ、武器の供与などさらなる支援を改めて各国に呼びかけました。
ウクライナの原発公社 “ザポリージャ原発 11日再び攻撃受けた”
8月に入って攻撃が相次いでいるウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所について、ウクライナの原発公社エネルゴアトムは11日、原発が再び攻撃を受けたと発表しました。
一方、ザポリージャ州の親ロシア派の幹部も攻撃があったと主張し、ウクライナとロシアの双方が「相手の攻撃だ」と非難し合っています。
エネルゴアトムはSNSを更新し「11日、ロシア軍は再びザポリージャ原発を攻撃した」としたうえで、核物質が貯蔵されている場所の近くに砲撃があったほか、原発の近くにある消防署の敷地内にも砲撃があったと明らかにしました。
周辺の放射線量に変化はないとしたものの、攻撃によって放射線量を測定する一部のセンサーが損傷したとして状況は悪化しているとしています。
一方、ザポリージャ州の親ロシア派の幹部もSNSでザポリージャ原発の敷地内などでウクライナ側による砲撃があったと主張しました。
ザポリージャ原発をめぐっては、8月5日以降に攻撃が相次ぎ、いずれもウクライナとロシアの双方が「相手の攻撃だ」と主張して繰り返し非難し合っていて、ヨーロッパ最大規模の原発の安全性の確保に懸念が強まっています。
●ウクライナ南部原発への攻撃激化 露と非難の応酬 8/12
ロシア軍が占拠しているウクライナ南部ザポロジエ州の原子力発電所で11日、砲撃が相次ぎ、現地の親露派勢力とウクライナ側は互いに相手が攻撃したと非難した。ザポロジエ原発は欧州最大級で、事故が起きれば1986年のチェルノブイリ原発事故を上回る被害が出るとの懸念が高まっている。国連のグテレス事務総長は、ザポロジエ原発周辺での軍事行動を停止するよう双方に呼びかけた。
タス通信によると、ザポロジエ州の一部を制圧したロシアが一方的に設けた「軍民行政府」のロゴフ幹部は11日、ザポロジエ原発があるエネルゴダールの町や原発施設に、ウクライナ軍が無人機による攻撃や砲撃を行ったと述べた。ロシア製防空システムですべて迎撃したとしている。
一方、ウクライナ国営原子力企業エネルゴアトムは11日、原発をロシア側が攻撃したため、勤務を終えた職員を乗せるバスが引き返し、引き続き業務を続けざるを得なくなったとした。双方とも、小規模な火災が起きたが負傷者はいなかったとしている。
ザポロジエ原発には5、6日にも砲撃があり、ウクライナとロシア側が非難合戦を展開した。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は11日の国連安全保障理事会で演説し、原発の安全性を確保するために立ち入り調査の実施を求めた。ロシアのネベンジャ国連大使は「早ければ月内にも立ち入りが可能だ」と述べたが、十分な調査を実施できるかは不透明だ。
同原発はウクライナに侵攻した露軍が3月に占拠した。稼働中の原発が戦闘の標的になったのは史上初とされる。露軍は兵士500人を常駐させて兵器を搬入し、軍事拠点として使っているもよう。原発の安全性を懸念するウクライナ軍が反撃できない「核の盾」だとして、ブリンケン米国務長官らが批判していた。
ロシアは侵攻後にチェルノブイリ原発も一時制圧するなど、ウクライナのインフラ掌握を主要な目標としてきた。エネルゴアトムのコティン総裁は9日、ロシアはザポロジエ原発を制圧し、一方的に併合した南部クリミア半島への送電を計画しているとの見方を示した。
●反戦訴え辞職の元ロシア国営放送職員 プーチン大統領に「人殺し」プラカード 8/12
ロシアの国営放送の生放送中に反戦を訴え辞職した女性ジャーナリストが別の反戦活動で起訴された問題で、裁判所はおよそ2カ月間の自宅軟禁を言い渡しました。
元ロシア国営テレビ職員のオフシャンニコワさんは、7月にロシア大統領府の周辺でプーチン大統領について「人殺し」などと書いたプラカードを掲げた抗議活動が「ロシア軍について故意に虚偽の情報を広めた」として罪に問われました。
ロシアメディアなどによりますと、モスクワの裁判所は11日、オフシャンニコワさんに対して10月9日まで、およそ2カ月間の自宅軟禁を言い渡しました。
その間、親族や弁護士以外との通信や、インターネットの使用を禁じられるとのことです。
オフシャンニコワさんの自宅軟禁中の9月11日にはロシア全土で統一地方選が予定されています。
●ロシアの“反戦”女性に再び有罪判決 屈せず法廷でメッセージ掲げる 8/12
裁判所の階段を上がってきたのは、迷彩服や制服姿の数人の屈強な男女。過剰にも見える警備陣に囲まれた女性はガラスのケージに入れられました。
マリーナ・オフシャンニコワさん:「今のロシアはプラカードを持っている方がピストルを持っているより危険なのね」
抗議の声を上げる女性は、3月にロシアの国営テレビの生放送中に反戦メッセージを掲げて乱入したオフシャンニコワさんです。当時はすぐに拘束され、罰金3万ルーブルの判決を受けました。
オフシャンニコワさんは、先月もロシアの大統領府クレムリンの周辺でプラカードを持って抗議行動を起こしますが、再び連行されます。
そして、再び罰金刑になりました。
今回は、ロシア大統領府周辺での抗議でプーチン大統領について「人殺し」などと書いたプラカードを掲げたことが「ロシア軍について、故意に虚偽の情報を広めた」として罪に問われていた裁判でした。
ロシアメディアなどによりますと、裁判所が言い渡したのは「約2カ月間の自宅軟禁」。その間、親族や弁護士以外との通信やインターネットの使用も禁じられるといいます。
オフシャンニコワさんは、ここでもプラカード。カメラに映らないように警備員が必死で隠そうとしますが、オフシャンニコワさんも抵抗します。
そんななか、ウクライナ国営の原子力企業「エネルゴアトム」は11日、ロシア軍が占拠するザポリージャ原発が再び砲撃を受けたと発表しました。
けが人は出ていませんが、砲弾5発が放射性物質の保管場所のすぐ近くなどに着弾したということです。
一方、ロシア側は「攻撃はウクライナ軍が行ったものだ」と主張しています。
●メドベージェフ前ロシア大統領がウクライナ東部・親ロ派支配地域を訪問 8/12
ロシアのメドベージェフ前大統領がウクライナ東部の親ロシア派支配地域を訪問しました。侵攻後に支配地域に入ったプーチン政権幹部としては最高位となります。
メドベージェフ前大統領は11日、自らのSNSにウクライナ東部の親ロシア派支配地域「ルガンスク人民共和国」を訪問し、トップのパセチニク氏と隣接する「ドネツク人民共和国」のトップ・プシーリン氏と会談を行ったと投稿しました。訪問はプーチン大統領の指示によるもので、両「共和国」の安全保障を確保するためだとしています。
メドベージェフ氏はロシア国家安全保障会議の副議長を務め、今年2月の侵攻開始後にロシア側の支配地域に入ったプーチン政権幹部としては最高位となります。
会談にはロシア大統領府第1副長官のキリエンコ氏、ロシア連邦保安局長官のボルトニコフ氏らも参加。ロシアの法律にあわせて、両「共和国」の法整備を進めることやインフラの復旧などについて協議したとしていて、ロシアによる地域への影響力を一層強化する狙いがあるとみられます。 
●メドベージェフ前ロシア大統領がウクライナ東部・親ロ派支配地域を訪問 8/12
ウクライナ情勢です。ロシアのメドベージェフ前大統領が東部の親ロシア派支配地域を訪問しました。侵攻後に支配地域に入ったプーチン政権幹部としては最高位となります。
メドベージェフ前大統領は11日、ウクライナ東部の親ロシア派支配地域を訪問し、親ロシア派武装勢力が主張する2つの“共和国”のトップと会談したと明らかにしました。訪問はプーチン大統領の指示によるものだとしていて、軍事侵攻開始後、ロシア側の支配地域に入った政権幹部としては最高位となります。会談にはロシア大統領府高官らも参加し、ロシアの法律にあわせて法整備を進めることなどについて協議したとしています。
こうした中、ウクライナ南部ザポリージャ原発への相次ぐ攻撃をめぐり、11日、国連安保理で会合が開かれ、IAEA=国際原子力機関は配電盤付近が被害を受け、原子炉1基が稼働を停止していると明らかにしました。
IAEA グロッシ事務局長「原発の安全性に差し迫った脅威はない。しかし、状況はいつでも変化しうる」
出席した欧米各国はロシアによる砲撃を非難しましたが、ロシアの国連大使は、「砲撃はウクライナによるものだ」と従来の主張を繰り返しています。
●ウクライナ戦争後、イスラエルへのロシア人移民が急増 8/12
イスラエル政府中央統計局は10日、2月24日から始まったウクライナ戦争で、同国に移住したロシア人とウクライナ人の移民総数を発表した。2021年の移民統計の中で特筆した。
同発表によるとウクライナ、ロシア両国の移民総数は3万1066人。前年同期比の両国の移民数の数倍に激増した。しかも、ウクライナよりもロシアからの移民が多いという結果になったのだという。
ウクライナからの移民は3月に1800人の大台に乗ってピークに達した後、下降に転じた。一方で、ロシアからの移民は1000人を超える週が目立ち、7月に入ってようやく減少に転じた。
プーチン政権下から逃れるロシアからの移民が相次いでいる?
イスラエル中央統計局によると、ウクライナからの移民の大半は女性で、男性は少数だった。戦争中の18〜60歳の男性が同国を離れられないことが原因とみられる。一方で、ロシアからの移民は「男女の割合は均等だった」という。米経済誌記者はこの現象について、次のように語る。
「開戦当初、ロシアから高等教育を受けたテック系の人材や、富裕層が(ロシア隣国で西側諸国とも交流のある)ジョージアや、ウクライナ―ロシア間の外交交渉で仲介役を務めるトルコなどに脱出する事例が相次ぎました。イスラエルもその選択肢のひとつでした。例えば、西側の文化に慣れ親しんでいたロシア人が、国内の言論統制や今回の戦争に疑問を持って国を離れることを決心したとします。しかし、相互制裁で空路が途絶えている米国やNATO(北大西洋条約機構)諸国に移民すれば、プーチン政権が存続する限り、“祖国に残した親族に会いに一時帰国”というのは難しくなります。そのためイスラエルなどが行先に上がってくるのだと思います。国民の流出は社会や経済にとって甚大な損失です。ロシアも少なからず戦争の打撃を被っているということだと思います」
●ロシア兵器 部品の多くが外国製 日本企業は2番目に多い 英調査  8/12
イギリスのシンクタンクは8日、ウクライナへの軍事侵攻でロシアが使用した兵器に、欧米や日本など外国の企業が製造する部品が数多く使われ、日本企業の部品は国や地域別で2番目に多かったとする調査結果を発表しました。
イギリスのシンクタンク、王立防衛安全保障研究所は8日、ロシアがウクライナへの軍事侵攻で使用した無人偵察機や巡航ミサイルなど、27種類の兵器や装備についての調査報告書を発表しました。
それによりますと、兵器や装備からは欧米や日本などで製造された、外国製の部品が450種類以上見つかったということです。
国や地域別では、アメリカに拠点を置く企業の部品が最も多く318個、次いで日本の企業が34個、台湾の企業が30個などとなっています。
このうち、ロシアの無人偵察機「オルラン10」には、日本の大手メーカーが製造するビデオカメラのほか、日本の別のメーカーのエンジンも搭載されていたということです。
さらに調査報告書は、ロシアは輸出規制の対象となっている外国製の部品の多くを、香港の企業などを窓口とする調達ルートを通じて入手していると指摘しています。
そのうえで、報告書は「ロシア軍は西側諸国の技術に依存している。適切な対処をすればロシアの軍事力を恒久的に弱体化させることができる」として、第三国などを経由して部品がロシアに渡ることを防ぐため、各国の協力が必要だと結論づけています。
●軍事侵攻で休業中も1万人の従業員賃金を支払い… マクドナルド、営業再開 8/12
ウクライナにあるマクドナルドの現地法人は、ロシアによる軍事侵攻を受けて営業を停止していた店舗を再開すると発表した。再開するのは首都キーウや西部の一部店舗で、時期は今後数カ月のうちにとしている。
マクドナルドは、軍事侵攻を受けて2月24日からウクライナ国内の109店舗を閉鎖していたものの、1万人以上の従業員に賃金を払い続けていたという。一方で、マクドナルドはロシアにあった850店舗をフランチャイズの契約先に売却し、ロシア市場から撤退している。
マクドナルド・ウクライナのFacebookには「良い知らせをありがとう」「楽しみにしています」など多くのコメントが寄せられている。
●しっかりしてよ朝日新聞 「降伏しないウクライナ」は批判されるべきなのか 8/12
朝日新聞(2022/08/12朝)に豊永郁子さんという早大の先生が「ウクライナ 戦争と人権」という文章を寄稿しています。さすが専門家ですから論理的で美しい文章ですが、読んでひたすら悲しくなりました。紙面の三分の二を占める長い文章にはロシアの侵略を糾弾する箇所は一か所もない。ロシアの侵略をやめさせ、ロシア軍をウクライナから撤退させるために何をするべきか? 日本人はそのために何ができるか? は何も書かれていない。そもそも、ロシアに触れているのは「ロシアのプーチン大統領の行動は独裁者の行動としてみればわかりやすく、わからなかったのがウクライナ側の行動だ」という部分「ロシアを、プーチン氏を敗退させることが現実的にどこまで可能かも疑問だ」という部分、「戦争の長期化は、ロシア国内におけるプーチン氏の権力を弱体化するのではなく、強化する可能性がある」という文章だけ。あとはひたすらゼレンスキー政権とそれを支援する西側諸国への批判が続くのです。
「……英米の勧める亡命をゼレンスキー氏が拒否し、『キーウに残る、最後まで戦う』と宣言した際には耳を疑った」と書かれていますから、筆者は、ゼレンスキー氏は亡命すべきだったと思っているのですが、それはキーウを短期間で占領してゼレンスキー政権を瓦解させるという、プーチンの当初の計画が実現していたことを意味します。それでいいのでしょうか。それが最善だったのでしょうか。短期間に占領し傀儡政権をつくるというプーチンの計画を打ち砕いたウクライナ人の抵抗は批判されるべきなのでしょうか?
結論的な部分では、第二次大戦で、ナチスドイツに屈して併合を受け入れたチェコのプラハ、無防備都市宣言をして無血開城し破壊をまぬがれたたパリが賞賛されています。筆者は4千万人のウクライナ人が抵抗をやめ、降伏して全土をロシアに明け渡すことを提案しています。
戦争が悲劇的で非人間的、非人道的な絶対の悪であることは、ウクライナをめぐる日々の報道に少しでも触れていれば分かります。ロシアの侵略によって破壊されつくされた街、砲弾や瓦礫に押しつぶされて殺されていく人びとのことを考えると眠れなくなります。だが、その地獄のような状況の中で、明日は殺されるかもしれないという恐怖を振りほどいて、ウクライナ人は侵略者と戦っているのではないでしょうか? それは、筆者が書いているような「国際秩序のため」とか「民主主義を奉じるすべての国のため」とかではなく、また、「マックス・ウェーバーのいう、信念だけで行動して結果を顧みない『心情倫理』の人」としての行動などではなく、侵略者を追い出さねば自分自身が殺される、自分自身の人生のすべてが奪われるという、絶対的な恐怖をはね返すための唯一の選択だからだと私は思います。
筆者の立場に立てば、ウクライナにはロシアの傀儡政権が樹立され、プーチンにとってのロシアの「本来の領土」の一つが回復される。そうなれば、次はモルドバやバルト三国が狙われるのではないでしょうか。これらの国もまた、プーチンにとっての「本来のロシアの領土」なのですから。旧ソ連圏の小国とポーランド、チェコなど旧東欧諸国はそうした危機感を表明して、米英仏独などよりも真剣にウクライナを支援していますが、これらの国の危機感には根拠がないのでしょうか? それとも、ウクライナを手に入れたロシアが次の標的とした国に攻め入ったとき、それらの小国も抵抗を放棄して、ロシアに全土を明け渡すべきなのでしょうか?
筆者の立場を敷衍すれば、日本帝国主義の侵略戦争と戦った中国人民も間違っていたことになると思いますし、アメリカ帝国主義と戦ったベトナム人民も、そして今、中国の帝国主義的な政策によって軍事的に包囲されている台湾が中国軍の脅威に対して軍備を固め、抵抗する姿勢を示すのも間違いだということになるでしょう。そうなのでしょうか?
知識人の皆さま。朝日への寄稿者の皆さま。これでいいんでしょうか? しっかりしてよ、知識人。しっかりしてよ、朝日新聞。
●狡猾なプーチンの「グレーゾーン侵略」安上りで報復不可能、被害は甚大 8/12
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、西側諸国に対抗する新たな武器を造り出した。「避難民の波」である。
ロシア軍が侵攻して以来、ウクライナから600万人以上がEU諸国に逃れた。加えて今は、ウクライナ産穀物の輸出停止によって影響を受けた国々からも避難民がEUに押し寄せている。今年上半期のEUの難民認定申請者数は、昨年同時期のほぼ2倍だ。
プーチンは「避難民の波」によってヨーロッパを不安定化させることで、ウクライナ以外の国々には軍事力を直接行使することなく悪影響をもたらしている。いかにもプーチンらしい狡猾なやり方だ。
今年上半期のEU諸国への不法入国者は11万4720人。この数字には、EUが受け入れを表明しているウクライナ人の大半は含まれていない。不法入国者の出身国で増えているのは、アフガニスタンやバングラデシュ、エジプト、チュニジア、シリア、イラクなどだ。
EUの国境警備を担う欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)の統計によると、北アフリカから地中海中央ルートを経てEUへ渡った不法入国者は、今年上半期には昨年の同じ時期から23%増の2万5164人に上った。出身国で多いのは、バングラデシュ、エジプト、チュニジアだ。
これよりはるかに激増しているのが、西バルカン諸国経由の不法入国者だ。このルートによる不法入国者は昨年同期比で200%近く増え、東地中海を渡ってキプロスで難民認定申請を行った避難民は125%増となった。
FRONTEXのアイヤ・カルナヤ代表代行は7月半ば、「ウクライナからの穀物輸送が妨害されていることにより、『避難民の波』が生まれる」と指摘。EUは「食料確保の問題があるためにウクライナ以外の地域からやって来る難民にも、備えるべきだ」と警鐘を鳴らした。
ウクライナは年間4億人分の食料を生産
ウクライナは通常、年間4億人分の食料を生産している。国連食糧農業機関(FAO)によると、アフリカ・中東を中心に50カ国の輸入小麦の少なくとも30%をロシアとウクライナ産が占め、世界食糧計画(WFP)も小麦の半分をウクライナから調達していた。ロシアの侵攻前にウクライナ産小麦を輸入していた国の上位は、エジプト、インドネシア、バングラデシュ、トルコ、チュニジアだった。
ロシアがウクライナの港を破壊・封鎖したために、世界の穀物貿易の柱の1つが機能不全に陥った。河川や鉄道を利用したウクライナの農産物の輸送量は6月には250万トンだったが、通常の月間輸送量である500万〜800万トンには遠く及ばない。
いまヨーロッパに押し寄せているのは、ウクライナ侵攻の間接的な犠牲者の第1波でしかない。今後、その数が激増することはほぼ確実だろう。
「密入国の斡旋業者から、ヨーロッパに渡れば楽な暮らしができると吹き込まれて、決断する人もいる」と、イエズス会難民サービス国際部門のトーマス・スモリッチ代表は言う。「避難民を生まないように各国政府が連携してやれることは、何であれ重要だ」
さらにスモリッチは「ウクライナ侵攻の影響を受けている国々で、多くの人々が状況を見極めようとしている」と続けた。「彼らは今後の食料事情とインフレの高まりを考え、いつ避難すべきかと検討している。他国への避難を考えている人は大勢いる」
だが「政治家や治安当局はこの問題がもたらすリスクに気付いていない」と、昨年8月までアフガニスタンでNATO上級民間代表を務めていたステファノ・ポンテコルボは言う。「避難民の絶対数はまだ少なく、政治家はその数字しか見ていない。避難民を乗せたボートが毎日何隻もやって来るようになってから慌てても、もう手遅れだ」
武力を使わず他国にダメージを与える作戦
イルバ・ヨハンソン欧州委員(内務担当)も同じ考えだ。彼女は先頃、密入国斡旋業者が集まるニジェールとの連携強化に触れて、「国境地帯に危機が訪れるまで待つのではなく、もっと早い段階から手を打つ必要がある」と語った。
だが物価高騰に終わりは見えず、密入国対策でニジェール当局と連携を強化しても今の流れは変えられそうにない。各国が何年も前から国境警備を強化していることを受けて、密入国の斡旋業者も新たなルートを見つけているようだ。
こうした混乱こそ、まさにプーチンが狙っていたことかもしれない。さしものプーチンも、ウクライナの穀倉地帯への攻撃や黒海の輸送路の遮断が食料危機を引き起こすことを最初から意識していたわけではなかった可能性はある。しかし、彼が今までも甚大な影響をもたらす大混乱を意図して引き起こしてきたことは間違いない。
プーチンの盟友であるベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が昨年やったように、プーチンも不法移民を利用して、「グレーゾーン侵略(武力行使を伴わずに他国に被害をもたらす作戦)」を進めている。この作戦がもたらす混乱は、今後ますます大きくなるだろう。
EUはこの狡猾な作戦に、どう対抗していくのか。人為的に大勢の避難民を生み出してロシアに向かわせるのは実行不可能だし、倫理に反する。
今回の「避難民の波」だけでなく、これまで数々の戦争がヨーロッパに大量の難民をもたらしてきた。例えば1980年代のイラン・イラク戦争では、両国から無数の若者がヨーロッパに逃れた。
アメリカも無関係ではない。これまでアメリカが戦った数々の戦争から、大量の避難民が生まれた。昨年EUに難民申請を行った人々の出身国トップ3は、シリア、アフガニスタン、イラクだった。
いずれにせよEUは、ロシアが引き起こした避難民の波を食い止めなければならない。まず取り組むべきは、多くの避難民を出しているエジプトからバングラデシュに至る各国が、ウクライナ以外の供給元から小麦を調達するのを手助けすることだ。ジョー・バイデン米大統領は既に、中東と北アフリカに10億ドルの食料支援を行うと表明している。
さらに長期的には、各国が認識を新たにすることも必要だ。グローバル化された現代の世界では、失うものがほとんどない国が、安上がりでリスクを伴わない混乱を引き起こし、恩恵を被ることができる。そして、他の国々がその動きに報復することは、ほぼ不可能なのだ……と。

 

●ベラルーシ軍用飛行場で爆発…ロシア軍が弾薬移送に使用か  8/13
ベラルーシ南東部のジャブロフカ軍用飛行場で、10日深夜から11日未明にかけて爆発があった。ベラルーシの独立系軍事監視団体によると、爆発は少なくとも8回発生したという。ウクライナ国境から約25キロ・メートルに位置する飛行場には露軍が駐留し、ウクライナ戦線への弾薬移送などに使用しているとの情報がある。
ウクライナ空軍の報道官は11日、同国のテレビに対し、「ベラルーシの抵抗勢力がウクライナを助けてくれている」と述べ、反露組織の関与をほのめかした。一方、ベラルーシ国防省は11日、エンジン交換の際に発火した事故で、負傷者はいないと説明した。
9日にはロシアが併合したウクライナ南部クリミアのサキ軍用飛行場で大規模な爆発があったばかりだ。
●ウクライナがロシアと離れたい経済的な理由 8/13
戦争が終わらなければウクライナの戦後の経済発展はない。プーチン大統領の「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」という論文を字義通りに解釈すれば、ロシアが戦争をしたのは、ウクライナとロシアは一体でなければならないからだ。しかし、ウクライナはロシアと一体になりたいなどと少しも思っていない。
ヘンな思想に凝り固まって暴力的なロシアなんかとはさっさと分かれて、自由になりたいと思っているだけだ。ソ連崩壊前、自分たちと同様に貧しかった東欧諸国は豊かになった。2021年、ポーランド、ハンガリー、ルーマニアの一人当たり実質購買力平価国内総生産(GDP)は3万ドルを超えている。ウクライナは1.3万ドルにすぎない(日本は4.1万ドル、米国は6.3万ドル)。
民主主義と腐敗と経済発展
ウクライナがこれまで発展できなかったのは、ロシアを向くか欧米を向くか、国策が定まらなかったからではなく、腐敗が酷いからだという説もある。確かに、ウクライナの腐敗は酷い。
ウクライナは、民主主義指数で世界167カ国中の86位、腐敗認識指数で世界188カ国中の122位、後述する東欧、ヨーロッパの旧ソ連構成国の中で、それぞれ下から5位と2位である。民主主義の程度が高ければ、報道の自由と野党の活動によって、通常は、腐敗はかなり抑えられる。
民主主義と腐敗と経済発展の関係を考えるが、その前に、ここで用いる民主主義指数、腐敗認識指数の説明をしておく。民主主義指数は、エコノミスト誌の傘下のエコノミスト・インテリジェンス・ユニットが、各国の政治の民主主義のレベルを5つの部門――選挙過程と多元性、政府機能、政治参加、政治文化、人権擁護――で評価し、かつ統合した民主主義の指数を作っている。数が大きいのが、民主主義の評価が高い。
トランスペアレンシー・インターナショナルは、世界各地の公務員と政治家が、どの程度汚職していると認識できるかという指数を作っている。この腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)は、毎年ほぼ10の機関が調査したアンケート調査から作成している。10の機関とは、アジア開発銀行、アフリカ開発銀行、ベルテルスマン基金、世界銀行、エコノミストインテリジェンスユニットなどである。
調査対象は、世界中のビジネスマンと政府の分析専門家などである。調査対象に「一般市民」ではなく、ビジネスマンや専門家を選んでいるのは、彼らが、いわゆる小口の汚職・腐敗よりも、政治資金、談合など大口の腐敗を、より熟知しているからである。数が大きいほど腐敗が少ない。
両指数とも北欧の国々とニュージーランドが最上位層を占めている。腐敗指数については、シンガポールが世界4位の評価を得ている。ちなみに、日本は民主主義で17位、腐敗で18位である。
民主主義指数、腐敗認識指数と一人当たり実質購買力平価GDPの関係を、旧ソ連の欧州地域と東欧の国々で見ると、図1、図2のようになる。これらの指数と1人当たり実質購買力平価GDPの両方のデータが得られる国を選んでいる。民主主義の程度が高いほど、腐敗の程度が低いほど、1人当たりGDPが高くなる。
ここでロシアとベラルーシが、民主主義の程度が低いにもかかわらず、1人当たりGDPが大きい例外的な国であると分かる。ロシアについては、石油、天然ガスなどの資源によるものである。
ベラルーシが高い理由は、おそらく、原油、天然ガス、岩塩などの産出がある程度経済を支えていること(原油、天然ガスは国内消費の数割を賄える程度である)、ロシアから援助を得られていることにあるのだろう。ベラルーシの人口は940万で、ロシアが支えることは可能だろうが、ウクライナの人口は4500万で、ロシアとしては、搾取はしても援助できる規模ではない。
図1と図2から、当然、民主主義と腐敗の低さとの相関が高いと予想される。それを確認したのが図3である。確かに、民主主義指数が高いほど、腐敗の程度が低くなり、ベラルーシとロシアは、民主主義指数が低い割に腐敗の程度が高くないということになる。
もちろん、民主主義指数が高いから腐敗の程度が低いのか、腐敗の程度が低いから民主主義指数が高くなるのか、この図だけからでは分からないが、民主主義が報道の自由や野党の活動によって腐敗の程度を低めると解釈した方が自然だろう。
腐敗が経済発展を阻害する
民主主義のレベルが高いほど豊かなのか、豊かだから民主主義を実践できる余裕があるのかは分からないが、腐敗の程度が低ければ経済がより発展できるのは自明だろう。賄賂を取らなければ、インフラの建設はそれだけ順調に進む。開発途上国では、事業費の一定割合を賄賂として受け取るマダム/ミスター10%、あるいは100%という権力者がいることもあるが、予算が抜かれなければ、それだけきちんとインフラが建設できる。
また、国営企業が多ければ、売上はそれだけ政府の意向で変化して、人々のニーズにマッチするものではなくなる。国営企業を民営化すれば、自然と汚職は減少する。また、前述のように、民主主義は当然、言論の自由を含むので、スキャンダルは当然に書き立てられる。『週刊文春』と『週刊新潮』などの週刊誌は、日本の民主主義の増進と腐敗削減に、ひいては経済発展にも貢献している。
自由な経済の中に自由でない経済を持ち込めば、それだけ腐敗の余地は高まる。オリンピックとは、オリンピック委員会が、その活動において独占企業を指定して、協賛金を得るという仕組みである。
東京地検特捜部が、大会組織委の高橋治之元理事、電通元専務が、スポンサー選考の際にAOKIホールディングスからスポンサー選定の見返りに賄賂を受け取ったとして捜査している。AOKI はスポンサー料として約5億円を支払ったが、別途、高橋理事とコンサルタント契約を結び、4500万円を支払った。さらに、高橋元理事が経営するコンサルタント会社に2億3000万円を支払った。
うち、数千万円は日本セーリング連盟と馬術競技の団体に提供されたが、残りの約1億5000万円は元理事側の手元に残ったという(「組織委元理事に直接要望か AOKI側、五輪事業絡みで」日本経済新聞2022年8月2日朝刊、など)。売上が賄賂で決まるなら、健全な企業活動は低迷し、経済は停滞する。
ウクライナの腐敗は改善される
ロシアの体制をウクライナ国民が憎んでいるのだから、国営企業は民営化される。言論は自由で野党もあるのだから汚職や賄賂は報道され、批判される。ウクライナの腐敗指数も民主主義指数も大きく改善されるだろう。
欧州先進国の基準では、ポーランドの民主主義も腐敗度も高く評価はされている訳ではない。ポーランドは民主主義で51位、腐敗で42位である。しかし、それでも1人当たりGDPが3万ドルを超えている。ウクライナがポーランド並みになるのは確実である。
ウクライナも問題を認識し、汚職撲滅のために、オルガルヒ(財閥)の政治献金を禁止し、メディアへの影響力を縮小させる「反オルガルヒ法」を施行し、空席だった特別汚職対策検察庁を指名し、政治に動かされない若い世代の裁判官の登用を進めるという。
●「ザポリージャ原発周辺に非武装地帯を」国連事務総長が要望、ロシアは拒否  8/13
ロシア軍が占拠しているウクライナ南部のザポリージャ原発に砲撃が相次いでいることを受け、国連のアントニオ・グテレス事務総長は11日の声明で、安全確保のため原発周辺に非武装地帯を設定するよう求めたが、ロシアは拒否した。
グテレス氏は軍事活動の即時停止も求めたが、ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は記者団に、原発への砲撃が、「挑発行為やテロ攻撃である可能性を排除できない。我々が保護しなければならない」と述べ、露軍部隊の駐留を続ける考えを示した。
11日にはロシアの要請で、国連安全保障理事会が緊急会合を開いた。オンラインで出席した国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は、今月5日の砲撃で配電盤が損傷し、原子炉1基が運転を停止したと明らかにした。
IAEAの専門家は、原発の安全性を直ちに脅かす損傷はないと分析しているというが、グロッシ氏は「原発を取り巻く状況は急速に悪化している」と警告した。IAEAは現地調査のため専門家派遣を求めており、ロシアとウクライナの双方が受け入れる用意を表明しているが、実現するかどうかは不透明だ。
欧州最大の規模を持つザポリージャ原発には5日から3日連続で砲撃があった。安保理会合を控えた11日にも砲撃があり、原発の司令部がある区域などに着弾したとされる。この区域には放射性物質の保管所が近接しているという。
一連の砲撃については、ロシアとウクライナ双方が相手の攻撃だと非難し合っている。11日の安保理会合ではロシアの侵略が根本的な原因だとして、原発周辺での軍事活動停止や、ウクライナ側への管理引き渡しを求める声が目立った。 
●ウクライナ、ロシア軍拠点に奇襲攻撃か 8/13
英国防省は13日、ロシア軍が制圧しているウクライナ南部ヘルソン州で、ウクライナ軍がドニエプル川に架かる2つの橋を攻撃して使用不能になったと分析した。橋は州内のロシア兵数千人に物資を輸送する主要ルートになっており、武器弾薬の供給が滞って露軍の孤立が深刻化する可能性がある。ヘルソン州はロシアが2014年、一方的に併合したクリミア半島に隣接する戦略上の要衝。
一方、ロイター通信によると11日、露軍が攻撃拠点として使っていたベラルーシ南東部ゴメリ近郊の軍用基地で爆発があり、ベラルーシ国防省は「技術的な事故」だと説明した。
9日にはクリミア半島の軍用基地で大規模爆発が起きたばかり。2件の爆発についてウクライナ政府は公式には関与を否定しているが、ポドリャク大統領府長官顧問は「技術的な事故が多発している」と述べ、ウクライナが奇襲攻撃を行っている可能性を示唆した。
米シンクタンク、戦争研究所は12日、露大統領府が国内の軍需産業に休日を返上して兵器製造を行うよう号令をかけたと分析した。ロシア最大の戦車製造工場が欧米の経済制裁で経営難に陥るなど、計画通りに兵器が製造できないケースも出ており、政府は支出を増額して支援する方針だとしている。
ウクライナで再開された農作物の輸出では、12日までに計14隻が出航し、同日には初めて小麦を積んだ船が出港した。
●戦況を一変させるか? 「米国がウクライナに『HARM』供与」の衝撃度 8/13
アメリカがウクライナにHARM(ハーム)と呼ばれるミサイルの供与を行ったことを認めました。
これは、ミリタリー関係者にとっては、高機動ロケット砲システム「HIMARS」(ハイマース)の供与にも勝るとも劣らない衝撃のニュースです。最初に破片が確認されたとの情報が入ってきた段階では、戦況への影響の大きさから、疑問視する声が大きいくらいでした。欧米の識者の中には、「少し危険に見える」とロシアによる過剰な反発を懸念する声さえあります。
しかし、8月8日にアメリカのコリン・カール国防次官が、ウクライナに供与される最近のパッケージに「ウクライナの航空機から発射できる多数の対レーダーミサイル」が含まれていると発言し、AGM-88 HARMミサイルの供与が明らかとなりました。
以下では、このHARM供与が、ロシアによるウクライナ侵攻に与える意義と影響を考察してみたいと思います。
「HARM」とは何か? 
HARMは「High-Speed Anti Radiation Missile」(高速対レーダーミサイル)を略したもので、正式な名称は「AGM-88」となります。
HARMが配備される以前に、AGM-45およびAGM-78という2種のARM(対レーダーミサイル)があり、それらよりも高速なARMであることから、このように呼ばれます。
レーダーは、目標を捕らえるために電波を放射(Radiate)します。ARMは、その電波を逆探知し、この電波放射源に向けて飛翔することで、レーダーを破壊するミサイルです。主として、警戒管制レーダーや地対空ミサイル(SAM:Surface-to-Air Missile)のレーダーが標的となります。
ARMの出現以前は、事前の偵察でそうしたレーダーの位置を把握していなければ、レーダーを攻撃することが困難でしたが、このARMの出現によりレーダーを随時攻撃することが可能となりました。戦争において航空機が重視される結果となった重要な要素の1つです。
HARMは、1983年にA型が開発され、D型まで配備されている現役のARMですが、アメリカでは後継となるAGM-88E(AARGM)も運用が始まっています。今回供与されたHARMの型に関する情報はありませんが、あまり古いモノは湾岸戦争などで使い尽くされているはずなので、恐らくC型かD型だろうと思われます。アメリカでは、AARGMに置き換わりつつあるため、古い型をウクライナに供与しても問題ないと判断したのでしょう。
ウクライナ軍は何が可能となるのか? 
HARMを入手したことでウクライナ軍は、ロシア軍のレーダー、特にウクライナ空軍の活動を脅かすSAMのレーダーを攻撃することが可能となります。
HARMの目標となるのは、ロシア軍SAMの中でも強力なS-400、S-300、ブークなどですが、短射程のトールも目標捕捉にレーダーを使用しているため、ターゲットに含まれます。
HARMによって、これらの撃破ができれば、ウクライナは、対地攻撃機であるSu-25やバイラクタルTB2などのUAV(無人航空機)を、自由に運用することが可能になります。識者の一部が、強力過ぎるとして懸念する理由もこのためです。
HARM発射のプラットフォームは? 
今回、カール米国防次官が「ウクライナの航空機から発射できる多数の対レーダーミサイルが含まれている」と発言したことにより、一定の結論がでましたが、HARMの破片が発見された際、HARMを発射したプラットフォームが何なのか議論になりました。上記で述べたように、極めて強力なミサイルであり、そのプラットフォームが限定されるためです。
HARMは、最新鋭のF-35戦闘機でも運用が可能ですが、米軍で主にこのHARMを運用しているのは、海軍のF-18Gグラウラーと空軍のF-16などです。
特に、F-16に関しては、三沢でF-16を運用している米空軍第35戦闘航空団のテイルコード(尾翼に書かれた2文字のコード)が「WW」となっていることに言及しておかなければなりません。
「WW」は、ワイルド・ウィーゼル(Wild Weasel:凶暴なイタチ)の略で、敵のSAMを攻撃し敵防空網制圧 (SEAD) 任務を行う部隊・航空機を意味します。三沢の第35戦闘航空団は、このHARMを用い、北朝鮮などのSAMを破壊する専門部隊なのです。
少し話がそれましたが、三沢のF-16にしても、海軍のF-18Gにしても、機体側に敵レーダーの情報を感知するとともに、その情報をHARMに伝送する能力が必要です。そのため、Mig-29やSu-25といった旧東側の機体しか保有しないウクライナでは、HARMを供与されても運用できないのではないか、という疑問がありました。
ウクライナは、かねてからHARMの供与を望んでいましたし、それとセットとも言えるF-16の供与を望んでいました。そのため、極秘でどこかの国がF-16を供与したのではないかと疑惑も出ています。
また、地上発射装置を急遽作ったのではないかとの声もありました。HARMの破片が初確認された日は、たまたま(なのか怪しいですが)「ウクライナ空軍の日」だったこともあり、ウクライナ国防省がこのようなツイートをしていたことも、疑惑に拍車をかけています。
しかし、アメリカが今まで否定し続けている航空機自体の供与を極秘で行ったとは考え難いことです。
また、地上発射装置では、目標となるレーダーからの電波を受信することが難しく、適切なタイミングでミサイルを発射することが困難です。
さらに、地上発射するためには、AGM-88D型であれば可能な一部の機能を使用するとしても、ミサイルの飛翔プログラムを変更することが必要で、結果的にミサイル本体の改造が必要になります。とても現実的とは考えられません。
そのため筆者は当初から、ウクライナ軍機を用い、一部性能が低下することを承知の上で、HARMのモードを限定して運用しているのではないかと推測していました。
もともとHARMは、開発当時にワイルド・ウィーゼルの任を担っていたF-4G用として設計されました。これをF-16で運用するために、HARM Targeting Systems(HTS)と呼ばれるAN/ASQ-213ポッドが開発されます。しかし、このHTSが開発される以前でも、離陸前に地上で目標の電波諸元をHARMに入力することで、F-16もHARMを運用することができました。
この方法でHARMを運用する場合、F-16の機体からHARMにどの程度の信号が渡されていたか不明ですが、電波諸元は既に入力されている状態なので、HARMのシーカー(目にあたる部分)が目標となるレーダーからの電波を捕らえていれば、後はHARMを発射するだけで良いはずです。
このHARM搭載とは関係無しに、戦闘機には「RWR」と呼ばれる装置が搭載されています。機体がレーダーに捕捉された際、パイロットに警報するものです。目標とするレーダーが存在する場所に向けて飛行し、RWRが警報を発した段階でHARMを発射すれば、搭載しているHARMもレーダーを捕らえているはずです。
電波諸元が事前に入力されていれば、HARMは発射指令を受けるだけで、目標に向かって飛翔できると思われます(ただし、発射までHARM内蔵のバッテリーを使用せずに済むように、発射までは給電する必要もあります)。
この方式で射撃する場合、機体にはほとんど改修の必要がありません。HARMをMig-29などの旧東側の機体で運用していることは、カール国防次官が明らかにしました。この方式で運用しているのではないかと思われます。
ただし、この方式で運用する場合、発射前にレーダー波を捕らえる状態とするため、D型で可能な長射程で運用するためのモードは使用できず、最大射程は減少すると思われます。
ロシア側の対抗戦術とSEAD/DEADの成否
ワイルド・ウィーゼルがHARMを用い、地上のレーダーを破壊する作戦は、敵防空網制圧 (SEAD:シード) と呼ばれます。また、これに近い概念で敵防空網破壊(DEAD:ディードと読みます)というものもあります。
SEADは、必ずしも目標を破壊せず、活動を妨害できれば作戦遂行ができたと考えます。対して、DEADは破壊することで目標達成となります。DEADを狙いつつ、結果SEADの達成のみで終わるケースもあるなど、分類が難しいことも多いため、両者を合わせてSEAD/DEAD(シード・ディード)と表現することもあります。
HARMを使用し、SEAD/DEADが行われる場合、攻撃を受けるレーダー側は当然対抗戦術を採ります。
レーダーで使用する周波数などを変更する方法もありますが、HARMに変更した周波数も入力されていた場合は全く無意味です。そのため、基本はレーダーを停止させます。レーダー波が停止すると、HARMは慣性航法装置(INS)によって、それまでレーダー波を捕らえていた方向に向かって飛翔します。
しかし、HARMがレーダー波の方向を計測する際にも誤差がありますし、風の影響も受けます。遠距離でレーダーが停止されるとHARMは命中しません。
ですが、これで問題ありません。これにより、SAMは戦闘ができなくなるため、この間に航空機は弾薬貯蔵所や空港など、SAMが防護している重要な目標を攻撃することができます。つまり、SEADは、本来の目標を破壊するための補助作戦なのです。
ワイルド・ウィーゼルのモットーの1つに、“First In, Last Out”というものがあります。作戦を行う際、最も早く戦闘空域に入ることで敵のSAMを沈黙させ、作戦が終了するまでその危険な空域に留まり、最後に戦闘空域を出るからです。
このように、SEADにおけるHARMの使用方法は、目標を必ず破壊するというものではなく、牽制の意味合いが強いものなのです。湾岸戦争の「砂漠の嵐」作戦においては、約1000発のHARMが発射されましたが、破壊されたイラクのSAMは200基でした。
HARMのみの使用ではDEADは難しいため、DEADが必要とされる場合、ワイルド・ウィーゼルでは、HARMと共にJDAM(Joint Direct Attack Munition:統合直接攻撃弾)を搭載し、HARMによって目標SAMのレーダーを停止させ、JDAMでこれを破壊します。
なお、目標である敵SAMがS-300などの高度なものの場合、HARMをミサイルで迎撃してくる可能性もあります。しかし、迎撃に失敗すればHARMが命中する可能性も高くなるため、結果は、双方のミサイルの命中率と、どれだけの数のミサイルを撃つかにかかってきます。
ウクライナにおける戦場の変化
ウクライナでは、プラットフォームがMig-29などであるため、上記のように性能が限定される使用法で運用されている可能性があります。また、JDAMが供与されているとの情報もなく、ワイルド・ウィーゼルと同じ運用はできないでしょう。
それでも、HARMの供与により、ウクライナの戦場では大きな変化が起きるはずです。
ロシア軍のSAMは、徐々に破壊されるでしょうし、レーダーの稼働が消極的にならざるを得ません。これによって、ウクライナ空軍機やバイラクタルTB2のようなドローンが、地上を攻撃できる可能性が飛躍的に高まります。
弾薬庫など、重要な物資は、周辺にSAMを配置して防護しているはずです。しかし、ウクライナの攻撃部隊にHARMがあることで、少なくとも攻撃の間はこのSAMが活動できない結果となり、SAMによる防護が無意味なモノと化します。
8月9日に発生したクリミアのサーキ飛行場の爆発は、HARMの使用によってロシアの防空網を制圧(SEAD)した間に、ミサイルや航空機で攻撃した可能性もありました。
現在でもHIMARSを利用した前線を越えたロシア勢力圏内への攻撃が行われていますが、HARM提供により、さらに強力で、さらに奥地への攻撃が行われる可能性が高くなります。
2月24日のウクライナ侵攻開始直後から私が言及し、最近ではウクライナ首脳陣からのコミットが増えたクリミア大橋への攻撃も実現できる可能性が高くなりました。
今後の戦況の変化に注目したいと思います。
●ウクライナ 奪還目指し反撃 ロシア併合に向け住民投票準備  8/13
ウクライナ軍は掌握された地域の奪還を目指して南部で反撃を続け、ロシア軍の補給路が打撃を受けていると指摘されています。一方、ロシア側は東部や南部の併合に向けた住民投票の準備を進めていて、ウクライナ側の住民が激しく抵抗しているほか、アメリカ政府は追加の制裁を警告するなど強くけん制しています。
ウクライナ軍は、ロシア軍に掌握された地域の奪還を目指し、欧米から供与されたロケット砲システムなどを活用して南部で反撃していて、弾薬庫や補給路などを標的に攻撃を続けています。
イギリス国防省は13日、南部ヘルソン州を流れるドニプロ川で、ロシア軍の補給ルートとなっている要衝の橋2つがウクライナ軍の攻撃で通行が難しくなったと指摘しました。
このため、対岸にいる数千人のロシア兵への補給物資を船で運ばざるを得なくなり、ロシア軍の補給の持続性が課題となっていると分析しています。
一方、アメリカ政府の高官は12日、ロシアがヘルソン州や南東部ザポリージャ州、それに東部のドネツク州とルハンシク州で併合に向けた住民投票の準備を進めていると改めて指摘し、東部ハルキウ州でも住民投票の動きがあると明らかにしました。
そして「住民投票は早ければ数週間以内に実施される可能性がある。仮にロシアが計画を進めれば、われわれは追加の制裁を科し、迅速かつ厳しく対応する」と述べ、ロシア側を強くけん制しました。
現地の親ロシア派は、ロシアで地方選挙が行われる来月11日に合わせて住民投票を行いたいという考えを示しています。
一方、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「ウクライナのパルチザン組織が、併合の動きを混乱させようと住民投票を準備する親ロシア派や協力者を標的にしている可能性が高い」として、住民の抵抗運動でロシアの思惑どおりには準備が進んでいないという見方も示しています。
●ウクライナ、南部で反撃強める 橋破壊、ロ軍の補給に打撃 8/13
ウクライナ軍が、ロシア軍に占拠された南部で反撃を強めている。英国防省の12日の戦況報告によると、南部ヘルソン州で主要な橋2カ所に攻撃を加えて使用不能とし、ロシア軍の補給線に大きな打撃を与えた。
橋が使えなくなったことで、ヘルソン州のドニエプル川西岸への補給が困難になった。英国防省は「西岸でこれまでにどれだけの物資を蓄えていたかが、(ロシア)部隊の耐久力を左右する決定的要因になる」と分析している。
一方、ロシアが併合したウクライナ南部クリミア半島のロシア軍基地で9日に起きた爆発について、損害が「1人死亡、軍用機の被害なし」としたロシア側の説明より大きいとの見方が強まっている。
米国防総省は12日の声明で「ロシア機と弾薬に大きな被害が出たのは明らかだ」と指摘。ウクライナは、少なくとも60人が死亡したとしている。爆発の原因は不明だが、ウクライナの特殊部隊が関与したとの観測も出ている。
●ウクライナから 小麦積んだ貨物船出港へ ロシアとの合意後初  8/13
ロシア軍によるミサイル攻撃が各地で続く中、ウクライナ軍は南部を中心に反撃を続けています。一方、農産物の輸出に関するロシアとウクライナなどの合意に基づき、ウクライナ南部の港から近く、穀物を積んだ船がアフリカに向かう見通しで、食料危機に直面するアフリカへの継続的な輸出にもつながるのかが注目されています。
ロシア軍は地上部隊の動きがウクライナ軍の反撃を受けてこう着する中、ミサイルなどの攻撃を強化しているとみられています。
ロシア国防省は12日の発表でも各地をミサイルで攻撃し、このうち東部ドネツク州では、アメリカから提供されたとするレーダー設備を破壊したと主張しました。
これに対し、ウクライナ軍は、支配された地域の奪還を目指し南部を中心に反撃を続けています。
こうした中、トルコ国防省は12日、小麦を積んだ貨物船が、黒海に面するウクライナ南部の港からトルコ北西部に向けて出港したと発表しました。
ロシアとウクライナがトルコと国連の仲介で農産物の輸出に合意したあと、12日までにウクライナを出た船はあわせて14隻になりますが、小麦が輸出されるのは今回が初めてです。
また、EU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領は12日「WFP=世界食糧計画の船がまもなく穀物を積み、オデーサの港からエチオピアに向かう」とツイッターで明らかにしました。
ロシア軍のウクライナ侵攻によってアフリカでは、食料危機への懸念が高まっていて、アフリカへの継続的な輸出にもつながるのかが注目されています。
●ロシア軍の戦闘機「深刻な被害を受けた」…黒海艦隊の航空戦力著しく低下 8/13
ウクライナ南部ザポリージャ州の親ロシア派武装集団の幹部は12日、露軍が占拠しているザポリージャ原発周辺の防空態勢を強化したと露国営テレビで語った。国連などが求めていた原発周辺の非武装地帯設置を拒否する姿勢を改めて示した。
同幹部は「防空態勢が強化、拡大され、何が飛んできても撃墜できる」と主張した。ロシアのメドベージェフ前大統領も12日、ウクライナや米欧が原発を攻撃しているとして「新たなチョルノービリ(チェルノブイリ)を作り出そうとしているようだ」と訴えた。
欧州最大規模の同原発には5日以降、砲撃が相次ぎ、ロシアとウクライナ双方が相手の攻撃だと非難している。双方とも国際原子力機関(IAEA)の現地調査団を受け入れる意向を示しているものの、早期実現は困難とする見方がある。
一方、南部クリミアの軍用飛行場で9日にあった大規模爆発で、ウクライナ政府高官は12日、パイロットなど露軍関係者60人が死亡し、100人が負傷したとする推計を示した。米紙ニューヨーク・タイムズが報じた。これまでの被害推計を大きく上回るという。
英国防省は12日、この爆発で被害を受けた露軍の戦闘機について「少なくとも5機の『スホイ24』と3機の『スホイ30』が破壊されたか、深刻な被害を受けた」との分析を公表した。露軍の航空戦力全体では重大ではないとしつつ、「黒海艦隊の航空戦力は著しく低下している」と指摘した。
●ウクライナ 総動員令など11月まで延長の法案提出 長期戦に備え  8/13
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアによる軍事侵攻を受けて出している戒厳令と総動員令を、ことし11月まで延長する法案を議会に提出しました。ウクライナとしては、ロシア軍に掌握された地域の奪還を目指して反撃を続ける中、長期戦に備える構えです。
ロシア国防省は13日、ウクライナ東部のドネツク州でウクライナ側の拠点を攻撃したと発表し、アメリカから供与された高機動ロケット砲システム=ハイマースの発射装置と弾薬庫を破壊したと主張しました。
これに対し、ウクライナ軍は、ロシア軍に掌握された地域の奪還を目指して、南部へルソン州で反撃を続けています。
地元メディアによりますと、ウクライナ軍の高官は「南部にあるロシア軍の補給路のほぼすべてを攻撃することが可能だ」と強調し、ハイマースなどの欧米から供与された兵器を駆使しながら、ロシア側への攻勢を強める姿勢を示しています。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は12日、ロシアによる軍事侵攻を受けて出している戒厳令と総動員令について、今月23日に期限を迎えるのを前に、ことし11月下旬まで延長する法案を、議会にあたる「最高会議」に提出しました。
法案が可決されれば、防衛態勢の強化のために行われている、18歳から60歳の男性の出国制限が今後も続くことになり、ウクライナとしては、ロシアとの長期戦に備える構えです。

 

●ウクライナ大統領 “原発のロシア兵 われわれの特別な標的”  8/14
ウクライナにあるヨーロッパ最大規模の原子力発電所で砲撃が相次ぐ中、ウクライナのゼレンスキー大統領は「原発に向かって撃ったり、原発から撃ったりするロシア兵は、われわれの特別な標的となっている」と述べ、ロシア軍を強くけん制しました。
ウクライナ南東部にあるヨーロッパ最大規模のザポリージャ原子力発電所では今月5日から砲撃が相次ぎ、ウクライナとロシアの双方が「相手の攻撃だ」と主張しています。
こうした中、ゼレンスキー大統領は13日「ロシア軍は、原発に隠れて近隣の町を攻撃するとともに、原発の敷地内への砲撃で挑発を繰り返している」と述べ、ロシア側を非難しました。
そのうえで「原発に向かって撃ったり、原発から撃ったりするロシア兵は、われわれの特別な標的となっている」と述べ、原発を掌握しているロシア軍を強くけん制しました。
ウクライナ情勢をめぐっては、ロシア国防省が13日、東部のドネツク州でウクライナ側の拠点を攻撃したなどと発表した一方、ウクライナ軍はロシア軍に掌握された地域の奪還を目指して南部へルソン州で反撃を続けています。
ゼレンスキー大統領は12日、軍事侵攻を受けて出している戒厳令と総動員令を、ことし11月下旬まで延長する法案を議会にあたる「最高会議」に提出しました。
法案が可決されれば、18歳から60歳の男性の出国制限が今後も続くことになり、ウクライナとしてはロシアとの長期戦に備える構えです。
●ウクライナ 南部の奪還目指す ロシア軍も部隊移動 攻防激化か  8/14
ウクライナ軍は南部で支配された地域の奪還を目指していますが、兵器が不足しているとしてアメリカなどにさらなる軍事支援を求めています。一方、ロシア軍は南部に部隊を移動させているとみられ、南部をめぐる攻防がさらに激しくなるとみられます。
ウクライナ軍は、ロシアが掌握したとする地域の奪還を目指し、南部ヘルソン州などを中心に反撃を続けていて、ロシアが一方的に併合した南部クリミアにあるロシア軍の基地で9日に起きた爆発では、ロシア軍の航空戦力が打撃を受けたとみられています。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は13日、SNSでアメリカ軍の制服組トップ、ミリー統合参謀本部議長と電話で会談したことを明らかにし「侵攻したロシア軍の部隊の5分の1を破壊した」と、戦果を説明したということです。
一方で、「ロシア軍は1300キロにわたる最前線で攻撃を行っている。ウクライナ側は砲撃の支援を緊急に必要としていることを強調した」としていて、アメリカなどにさらなる軍事支援の必要性を訴えたとしています。
アメリカの有力紙、ワシントン・ポストは12日、ウクライナ軍当局者の話として「反撃に十分な数の兵器がそろっていない」として、ウクライナ軍の兵器が不足しているという訴えを伝えています。
また、ウクライナ側の分析として、ロシア軍が反撃に対応するため南部に部隊を移動させていて、「先週だけでおよそ3000人のロシア兵がヘルソン州に到着し、州内を流れるドニプロ川の対岸には少なくとも1万5000人のロシア兵がいる」とする見方を伝えています。
戦況を分析するイギリス国防省は14日、「この1週間、ロシアの優先事項は、ウクライナ南部を強化するための部隊再編だったとみられる」と指摘していて、南部をめぐり、戦力を強化するロシア軍と欧米の兵器で反撃を目指すウクライナ軍との間でさらに攻防が激しくなるとみられます。
●ウクライナ軍、ロシア占領の南部ヘルソンで主要な橋をまた破壊と 8/14
ウクライナ軍は13日、ロシア軍が占領する南部ヘルソン州で移動に欠かせない主要な橋をまたひとつ破壊したと発表した。ウクライナは、ロシアが侵略開始から間もなく占領したヘルソン州を奪還しようと、激しい戦闘を展開している。
ウクライナ軍によると、ノヴァ・カホフカのダムにかかる橋はもはや通行不能だという。この主張の客観的な検証はされていない。南部軍管区はフェイスブックに、「ノヴァ・カホフカのダムにかかる道路橋の破壊が確認され、使用できなくなった」と書いた。
ウクライナ軍は7月末にも、ヘルソン州を流れるドニプロ川の渡河に重要なアントニフスキー橋を通行不能にした。西側消息筋は、アメリカ製の高機動ロケット砲システム「ハイマース」によって、この橋は「使用不能になった」としている。
イギリス国防省は13日、連日定例の戦況分析で、ウクライナ軍による8月10日の精密攻撃で、重い軍用車両はノヴァ・カホフカの道路橋でドニプロ川を渡ることができなくなったと指摘した。ノヴァ・カホフカは、ヘルソン市から約55キロ北東にある。
イギリス国防省はさらに、アントニフスキー橋についてロシアは場当たり的な修復しかできておらず、橋は構造的に破損したままだと説明。先週にはヘルソン近くの主要な鉄道橋もさらに破壊された。このため、ロシア軍は7月末から、鉄道橋の近くで浮橋を設置して補給を運んでおり、ドニプロ川の西側にいる数千のロシア兵は、「わずか2カ所の浮橋を使った渡河ポイント」に「ほぼ完全に依存している」という。
「たとえロシアが各地の橋をかなり修復したとしても、重要な脆弱(ぜいじゃく)カ所であり続ける」と、イギリス国防省は指摘している。
また複数の軍事アナリストは、ドニプロ川の西にいるロシア軍部隊は、他の占領軍から切り離され孤立する恐れがあると指摘している。
ウクライナ軍は橋の破壊によって、各地のロシア軍部隊を孤立させ、究極的にはヘルソン州を奪還したい考え。開戦前には人口約29万人だった同州は現在、ロシアが後押しする行政官が統治している。
2月末の侵攻開始以降、ロシア軍が新たに制圧した州都はヘルソン市のみ。それだけに、その奪還はウクライナにとって大きな成果となる。
ロシア編入の住民投票へ
ロシアは先月、ウクライナでの軍事目標は東部のみに限らず、南部のヘルソン州とザポリッジャ州の制圧も視野に入れていると方針の拡大を明らかにしていた。
ロシアの国営タス通信によると、ロシアが後押しするヘルソン市の行政当局は、正式なロシア編入に向けた住民投票の実施計画を進めている。
アメリカは、こうした住民投票を通じて、ロシアが占領したウクライナの各地域を違法に併合しようとしていると批判している。
ウクライナ政府で、一時的に占領された地域の再統合を担当するイリナ・ヴェレシュチュク再統合相は、被占領地域で行われるこうした住民投票は、決して国際社会で承認されないと批判した。さらにヴェレシュチュク氏はあらためて、被占領地域にとどまるウクライナ人に避難を呼びかけた。
●ウクライナ外貨建て国債 部分的なデフォルトと認定 格付け会社  8/14
ロシアによる軍事侵攻を受けているウクライナについて、大手格付け会社「S&Pグローバル・レーティング」は外貨建ての国債が部分的なデフォルト=債務不履行に陥ったと認定しました。
ウクライナ政府は、先月、ロシアによる軍事侵攻を受けて国防支出を優先するための外貨保全策として、外貨建ての国債の元利払いについて2年間延期することを債権者に要請し、今月10日、条件を変更することで合意したと発表していました。
これを受けて、大手格付け会社「S&Pグローバル・レーティング」は12日、ウクライナが発行する外貨建ての国債の信用度を示す格付けを引き下げ、部分的なデフォルト=債務不履行に陥ったと認定しました。
また、別の格付け会社「フィッチ・レーティングス」も12日、ウクライナが発行する外貨建ての国債について、部分的な債務不履行を示す格付けに引き下げました。
●ロシアのGDP伸び率 4〜6月は5期ぶりにマイナス 欧米の制裁影響  8/14
ロシアのことし4月から6月までのGDP=国内総生産の伸び率は去年の同じ時期と比べてマイナス4%となりました。ウクライナへの軍事侵攻に対する欧米などの制裁の影響を受け、5期ぶりにマイナスに転じました。
ロシアの統計庁が12日発表したことし4月から6月までのGDPの伸び率は、去年の同じ時期と比べてマイナス4%となりました。
これは、新型コロナウイルスの影響を受けた去年の第1四半期以来5期ぶりのマイナス成長で、ウクライナへの軍事侵攻に対する欧米などの制裁が響いた形です。
このうち、卸売業の売り上げがマイナス15.3%、小売りの売り上げがマイナス9.8%、製造業がマイナス3.3%と、幅広い分野で低迷し、外資系企業の撤退やブランド品の購入が難しくなるなど制裁の影響が指摘されています。
ロシアの中央銀行は先月、ことしの通年のGDPの見通しについて4%から6%減少すると発表しています。
一方、IEA=国際エネルギー機関は、ロシアのことし6月の原油輸出の収入が原油価格の高騰を受けて去年より増加したことや、ヨーロッパなどに代わって中国やインド向けの割合が増えていると指摘していて、エネルギー収入が引き続きロシア経済を下支えしているとみられます。
●核兵器「先制不使用」求める草案 歩み寄れるか NPT再検討会議  8/14
世界の核軍縮の方向性を協議するNPT=核拡散防止条約の再検討会議では、核兵器の保有国が「先制不使用」の政策などをとるよう求める「最終文書」の草案が示されました。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって核の脅威が高まる中、こうした方針をめぐり今後、各国が歩み寄れるかが焦点となります。
今月1日からニューヨークの国連本部で開かれているNPTの再検討会議は、4週間にわたる会期の前半を終え、各国が合意を目指す「最終文書」の作成が始まっています。
このうち、核保有国の軍縮について話し合う第1委員会では、13日までに委員長が最終文書の最初の草案をまとめ、各国に示しました。
草案では、核保有国が核攻撃への反撃を除いて核兵器を使わない「先制不使用」の政策をとることや、核の非保有国に対する核の使用や威嚇を行わないことを約束し、法的な保証に向けた交渉を始めることなどを求めています。
草案には直接の言及がないものの、委員会ではウクライナに侵攻したロシアの核による威嚇に対して批判が上がっていることから、こうした議論も影響しているものとみられます。
また、NPTとの関係が焦点となっている核兵器禁止条約について、草案では、ことし6月に初めての締約国会議が開催され、核廃絶に向けた行動計画が採択されたことなどに言及しています。
再検討会議では今後、最終文書の作成に向け交渉が本格化しますが、核の保有国と非保有国との対立に加え、ウクライナ情勢を受け核保有国どうしの対立も深まる中、激しい駆け引きが予想されます。 
●黒沢年雄 「ウクライナに援助は止めよう…戦争が長引くだけだ」 8/14
俳優の黒沢年雄(78)が14日、ブログを更新。長引くウクライナ戦争に言及した。
今年の2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻したことで始まったこの戦争は依然として終結する気配はない。
この戦争について、日本は支援を続けていたが、黒沢は「ウクライナに援助は止めよう…戦争が長引くだけだ」と支援が続けることが逆効果であるという見解を示した。
その理由について黒沢は「初めのうちは感情がウクライナ側にあったが、余計なお世話だと思う。ロシアとウクライナ…共に長〜い歴史、文化、宗教がある。思想は変えられない」とロシア・ウクライナ間の特有の文化や歴史は日本人には及びもつかないものがあるとし「プーチンと同様…傲慢な中国に備えて、他国の援助よりは、まずは自国の平和、安心、安全の為の、確固たる備えに集約する事だ!」とむしろ自国を守ることの重要性を訴えた。
その上で「動物は賢い…腹を満たせばそれ以上欲しない。しかし…人間の欲望は際限がない…愚かな動物だ!これは永遠に変えようがない…。」などと人間の愚かさを嘆いた。
●ウクライナ侵攻背景に原油価格上昇 サウジ国営石油 大幅増益  8/14
日本が輸入する原油の4割を供給する、中東サウジアラビアの国営石油会社、サウジアラムコのことし4月から6月までの最終的な利益は、ウクライナへの軍事侵攻を背景とした国際的な原油価格の高止まりを受け、前の年の同じ時期に比べて1.9倍と大幅に増えました。
サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコは14日、ことし4月から6月までの決算を発表しました。
それによりますと最終的な利益は484億ドル、日本円にしておよそ6兆4000億円で、前の年の同じ時期に比べて1.9倍と大幅に増えました。
国際的な原油市場ではロシアによるウクライナへの軍事侵攻に伴い、供給不安などの影響で価格が高止まりし、サウジアラムコは「原油価格が上昇し、販売量も増えたため」などと高い原油価格が好調な業績につながったと説明しています。
ただアメリカのニューヨーク原油市場では今月、中国や欧米の景気が今後減速し、原油の需要が落ち込むとの見方が強まったことを背景に、国際的な原油取り引きの指標となる先物価格が一時、ロシアによる軍事侵攻後初めて1バレル=90ドルを割り込むなど、値下がりの兆候もみられ始めています。

 

●ウクライナ 南部で攻防激化 ゼレンスキー大統領 “圧力を”  8/15
ウクライナでは南部でロシア軍とウクライナ軍の攻防が激しくなっていて、ゼレンスキー大統領は14日、戦闘を少しでも早く終結させるため、各国にロシアに対する圧力を強めるよう改めて呼びかけました。
ウクライナ軍は、ロシア軍に支配されている地域の奪還を目指し、反撃を続けていて、14日、ウクライナ南部のヘルソン州でロシア軍の弾薬庫2か所を破壊したと発表しました。
また、ウクライナの国営通信は、ウクライナ軍がヘルソン州内を流れるドニプロ川の橋を攻撃しロシア軍の補給路をほぼ遮断したと伝えました。
一方ロシア国防省も14日、軍の部隊がヘルソン州にあるウクライナ軍の拠点を攻撃し、35人を殺害したと発表するなどウクライナ南部で、ロシア軍とウクライナ軍の攻防が激しくなっています。
ウクライナのベレシチュク副首相は、ヘルソン州の住民に対して「避難してほしい。厳しい冬が待ち構えている。寒さと敵からあなたたちを守らなければならない」と述べるとともに、戦闘が長期化するという見通しを示しました。
こうした中、ゼレンスキー大統領は、戒厳令と総動員令を延長する法案を、議会にあたる「最高会議」に提出するなど戦争の長期化に備える構えを示しています。
そのうえで、ゼレンスキー大統領は14日公開した動画で「ウクライナが強くなれば、ロシアは弱くなり、この戦争が続く時間は短くなる」と述べ、各国にロシアに対する制裁強化など圧力を強めるよう改めて呼びかけました。
●ロシア軍の補給ルート遮断、孤立化狙う…ウクライナ軍が南部要衝の橋攻撃  8/15
ウクライナ軍の同国南部を管轄する部隊の報道官は14日、ロシア軍が制圧する南部ヘルソン州ヘルソンのアントノフ大橋を再び攻撃したと明らかにした。ウクライナの国営通信などが伝えた。同国軍は、ドニプロ川西側に駐留する露軍部隊の補給路遮断と孤立化を図っている。
ドニプロ川下流にかかる橋は、大橋を含めて計3本あり、露軍は南部クリミアなどからの主要な補給ルートとして利用してきた。ウクライナ軍は7月下旬にも大橋を攻撃し、8月13日には、車両用の別の橋を攻撃したと発表していた。
同報道官は、露軍の司令部隊が川の東側に移動していると指摘。橋への攻撃を受け、ヘルソンからの撤退に動いている可能性がある。南部ザポリージャ州メリトポリの市長も14日、司令部隊が同市に拠点を移し始めているとの見方を示した。
市長は「住民の抵抗勢力が準備している」とも強調した。同市では露軍への抵抗運動が活発で、12日には、露政権与党の関係者が爆発で負傷したと伝えられた。13日にも、抵抗勢力によるとみられる爆発が起きた。
一方、ウクライナの国営原子力企業「エネルゴアトム」は14日、欧州最大規模のザポリージャ原発があるエネルホダル市内で同日にあった砲撃について、露軍によるもので、同原発の職員1人が死亡、2人が負傷したとSNSで発表した。これに対し、同州の親露派幹部は、砲撃したのはウクライナ軍だと主張した。
●ロシア高官、米が資産差し押さえなら二国関係崩壊と警告 8/15
ロシア外務省の高官は、米国がロシア資産を差し押さえれば二国間関係が完全に崩壊するとの見方を示した。タス通信が13日に報道した。
ロシアのウクライナ侵攻を受け、米国をはじめとする西側諸国はロシアに対し前例のない金融・経済制裁を発動している。
ロシア外務省のアレクサンドル・ダルチエフ北米局長は、タス通信のインタビューで「われわれは米国に対し、このような行動は二国間関係を永久に損なうことになり、双方の利益にならないと警告している」と述べた。具体的にどの資産に言及したかは不明。
米政権によると、米と欧州の同盟国は、ロシアのプーチン大統領と関係のある富裕層が保有するヨット、ヘリコプター、不動産、美術品など300億ドル相当の資産を凍結した。
米司法省は、オリガルヒ(ロシアの新興財閥)の資産差し押さえで、より広い権限を議会に求めている。
ダルチエフ氏は、ロシアをテロ支援国家と認定すれば、外交関係が大きく傷つき崩壊する可能性さえあると米国に警告したと述べた。
ウクライナ情勢については、ウクライナ政府への米国の影響力は「米国がますます紛争の直接の当事者となる」レベルに高まっていると指摘した。
また、ロシアの裁判所から今月、麻薬所持と密輸の罪で実刑判決を受けた女子バスケットボール米国代表のブリットニー・グライナー選手、および元米海兵隊員ポール・ウィラン氏を、ロシアの大物武器商人ビクトル・ボウト受刑者と交換する方向で、両国が協議に入っていると確認した。
●トランプ前大統領、機密文書をロシアに流出させていた可能性と米メディア報道 8/15
米フロリダ州パームビーチに所有する別荘マー・アー・ラゴが8日に米連邦捜査局(FBI)の家宅捜索を受け、機密文書が押収されたトランプ前米大統領が、ロシアに機密文書を流出させていた可能性が浮上した。
ロシアの国営テレビの司会者がFBIの家宅捜査について言及し、「ロシアは押収された文書にアクセスした」と述べたことを受け、米FOXニュースの司会者エリック・ショーン氏が番組の中で「トランプ氏は機密文書をロシア人やサウジアラビア人に売ろうとしたか、共有しようとしたのではないか」と疑問を呈した。
元諜報(ちょうほう)員でロシアの専門家であるレベッカ・コフラー氏とのインタビューで、トランプ氏は持ち出した機密文書で何をしようとしていたのか質問し、文書が誤って取り扱われたり、違法に第三者の手に渡る恐れについて指摘した。
これに対してコフラー氏は、機密文書の保管場所としてのマー・アー・ラゴは「防諜の悪夢」と表現し、米国の機密情報が流出するリスクがあるとの見解を示した。ロシア、中国、その他の世界中のスパイが常に米国の機密情報を狙っていると語り、「米国はロシアのプーチン大統領と諜報機関の最大の標的だ」と述べた。
FBIはスパイ防止法違反の疑いで捜査令状を得ていたことも判明しており、押収品リストには「最高機密」を含む11組の機密文書が含まれていた。その中には核兵器に関する機密文書が含まれていた可能性も取りざたされている。
スパイ防止法では国防に関する情報を合法的に所有する人物が、取得を許可されていない人物に提供、または提供しようとすることも違反になるという。違反が認められ、裁判で有罪となった場合、罰金または最大10年の実刑判決となる可能性があると米メディアは伝えている。 
●ウクライナ「クリミア奪還作戦」の2つの狙い 8/15
ウクライナの当局者は、南部奪還を目指す反撃の第1段階と呼んだ。8月9日、ロシアが2014年に併合した南部クリミア半島にあるサキ空軍基地が攻撃を受け、8機以上の軍用機が破壊された。
ウクライナの反撃はクリミアとウクライナ本土を結ぶ橋梁にも及んだとみられる。橋への攻撃を機に、移住していたロシア人の大量脱出が始まった。
ドンバス地方の戦線が膠着するにつれ、ウクライナ側の関心は南部ヘルソン州に移っている。同地域は2月にプーチン大統領が本格的な侵攻を命じてからわずか数日でロシア軍に占領された。
ウクライナ政府はこの夏、ヘルソン占領を支えるロシアの補給網に打撃を与えるため、米政府に追加支援を求めてきた。
「全ての補給網の起点はクリミアだ」と、ウクライナ議会のサーシャ・ウスティノワ議員は言う。「今の私たちはヘルソンを取り戻し、ミコライウ州を維持すべく、南部での反撃に焦点を当てている」
今回の攻撃はウクライナ特殊部隊の手で実行されたと、ワシントン・ポスト紙は報じている。
この作戦をよく知るウクライナ当局者によれば、狙いは2つ──ヘルソンの占領軍を強化するロシアの補給線を断つことと、クリミアからウクライナへの長距離ミサイル攻撃を防ぐことだ。
ウクライナ空軍は、ロシア軍機9機を破壊したと発表している。あるウクライナ軍関係者は匿名を条件に、ロシアはサキ空軍基地に多用途戦闘機ミグ35と迎撃戦闘機ミグ31を配備していたと語った。
ウクライナのゼレンスキー大統領は攻撃直後のビデオ演説でウクライナの関与を明言しなかったものの、戦争終結までにクリミア半島奪回を果たすと宣言した。
ただし、ウクライナの当局者や議員によると、今すぐ奪還作戦に乗り出すわけではない。ここ数週間はヘルソンへのロシアの補給能力を弱体化させることに注力していたという。
この一帯をロシアに併合するための住民投票の計画は、ゲリラ戦を展開するパルチザンの激しい抵抗に遭っている。
ウクライナ議会のオレクシー・ゴンチャレンコ議員によれば、ウクライナ軍はヘルソン市南側の境界を形成するドニプロ(ドニエプル)川右岸にいるロシア軍の孤立化を図り、黒海の要衝スネーク島から撤退した6月末の再現を狙っている。
ウクライナ軍は既にヘルソン近郊の橋をいくつか爆破しており、7月には高機動ロケット砲システム(HIMARS)で戦略上重要なアントニフスキー橋を通行不能にした。
「戦闘ラインに近い補給網と倉庫は破壊した」と、前出のウクライナ軍関係者は語る。「次の段階は戦闘ラインから離れた施設も破壊し、ロシアの攻撃を止めることだ」
あるヨーロッパの外交筋は、ゼレンスキーは増援部隊が南部へ到着する今後2週間、砲弾の支援を急ぐようNATO諸国に求めていると語る。
戦場の拡大は紛争の激化につながる可能性がある。ウクライナ側から見れば、民間人への直接的被害が増えることで戦争に対するロシア国民の支持の低下が期待できる。
「ロシアにとって、状況が変わりつつある」と、ウスティノワ議員は言う。
「これまでは何の心配もなく、ウクライナ人を黒海から攻撃するだけだった。だが今の彼らは、自分たちにも危険が及びかねないことを理解している」
戦争の焦点は南部に移りそうだ。
●ロシア軍「任務遂行」と主張 ウクライナ侵攻でプーチン大統領 8/15
ロシアのプーチン大統領は15日、ウクライナに侵攻したロシア軍が「全ての課された任務をしっかりと遂行し(ウクライナ東部)ドンバスを着実に解放している」と主張した。モスクワ郊外で開幕した兵器展示会のあいさつで語った。 
●ロシア、世界に先進兵器販売 軍事技術開発で協力の用意=大統領 8/15
ロシアのプーチン大統領は15日、ロシアは世界の同盟国に先進的な兵器を販売し、軍事技術の開発で協力する用意があると述べた。
プーチン氏はモスクワ近郊で開催された兵器展示会で行った演説で、ロシアの兵器は他の国よりも先進的だと表明。中南米、アジア、アフリカ諸国との関係を重視しており、最新兵器を提供する用意があるとし、「小火器から装甲車、大砲、無人飛行機に至るまで、最新の兵器を同盟国に提供する用意がある。ほとんどすべての兵器が実戦ですでに複数回使用されている」と述べた。
ロシアがウクライナ侵攻を開始してから半年が経過。西側諸国のアナリストはロシア軍の兵器の能力の低さが露呈しているため、これまでロシアの兵器に依存してきたインドなどの国への兵器輸出に影響が出る可能性があるとの見方を示している。
ただプーチン大統領は、ウクライナ東部ドンバスでロシア軍と親ロシア派勢力は全ての任務を果たしているとし、「一歩一歩、ドンバスを解放しつつある」と表明。「ロシアは広範で包括的な軍事・技術協力の発展を支持している。これは多極化しつつある世界で特に重要だ」と述べた。
●ロシア経済、18年の規模に逆戻り−ウクライナ侵攻響きマイナス成長 8/15
ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を開始して以降の影響が完全に反映される最初の四半期、今年4−6月(第2四半期)の国内総生産(GDP)が12日に発表された。心配されたほど大幅な落ち込みではなかったが、経済規模は4年前に逆戻りした。
ウクライナ侵攻が大きな重しとなる中で、ロシア経済は1−3月(第1四半期)の前年同期比プラス成長から、4−6月は4%のマイナス成長に転落した。マイナス成長は5四半期ぶり。
ブルームバーグ・エコノミクスによれば、今回のGDPの縮小を考慮すると、ロシア経済は今や2018年とほぼ同じ規模に相当する。
ロシア担当エコノミスト、アレクサンダー・イサコフ氏は「経済は4年分の成長を失い、第2四半期に18年の規模に戻る。金融緩和に支えられ、10−12月(第4四半期)にかけ縮小ペースが鈍るとわれわれは予想する。ただ、欧州のエネルギー禁輸で輸出が抑制されることにより、23年も2%のマイナス成長になるだろう」と分析した。
ロシア中央銀行は12日に公表した今後3年の政策で、1.5−2.5%の潜在成長率に戻るのは25年までかかると予測。22−24年の見通しは据え置き、今年が4−6%、来年は1−4%のマイナス成長を見込む。
世界経済の状況が一段と悪化し、ロシアの輸出に追加制裁が科されるリスクシナリオの下では、09年の世界的な金融危機より深刻な落ち込みを来年経験する恐れがあり、25年になるまでプラス成長の回復は期待できない。
4−6月が10%のマイナス成長になるとある時点でアナリストらは予想していたが、これまでのところ政策対応もあって、ロシア経済はソフトランディング(軟着陸)により近い状態にある。JPモルガン・チェースやシティグループのエコノミストは見通しをしており、今年のGDPの落ち込みは 3.5%にとどまることもあり得る。
しかし、ロシア中銀は7−9月(第3四半期)の成長率がマイナス7%となり、10−12月は場合によって一段と縮小するとみている。

 

●占領下のウクライナで進むロシア化 8/16
ウクライナ南部の都市ヘルソンは、ロシアによる侵攻直後に無傷のまま占領された。ロシアの占領政策は、ウクライナ人のロシア支持者を通じて進む。欺瞞(ぎまん)的な住民投票も噂される。日常生活が徐々にロシア化されていく中で、住民はウクライナ軍による解放に希望を抱く。
ウクライナ南部の都市ヘルソンの住民は、ロシア軍に占領された当初、わずかに残された従来の生活に懸命にしがみつこうとした。ウクライナの通貨フリブナや旧来の電話番号を使い続けた。子どもたちはこれまでと同じ教科書を使い、リモート授業を受けていた。
しかし、ロシアによる侵攻開始から6カ月。ウクライナ人国家の生活インフラは徐々に浸食されてきた。ヘルソンでは「ロシア化」が着実に進行している。
フリブナを扱っていた最後の銀行は、数週間前から閉じられたままだ。ウクライナの電話の電波が届いていたわずかな場所も数が減り、ついに消えてなくなった。地元の商店に並ぶ食料品や日用品は、今ではロシア産や、ロシアに併合されたクリミア半島産のものばかりだ。
ある住民は、この目まいがするような日常生活の変化を、SFの異世界転移ものになぞらえた。主人公が空想上の別の世界や別の時代に移動する設定のこの種のSFは、ロシアで特に人気がある。「目が覚めたらジョージ・オーウェルの『1984』の世界にいたような感じだ」と、この住民は語った。
この人物は、安全上の懸念を理由に名前を明かさなかった。本紙(英フィナンシャル・タイムズ)が7〜8月に電話でインタビューしたヘルソンの住民はほぼ全員、同じように匿名を希望した。
「協力者」による傀儡政府
ヘルソンは、ロシアが2月24日に全面侵攻を開始して以降、無傷のままロシア軍に占領された唯一のウクライナの大都市だ。ドニエプル川以西で占領された唯一の地域でもある。
ウクライナ軍は現在、30万の人口を擁して繁栄していたこの都市を解放すべく、軍事攻撃を計画している。最近では、ヘルソンとドニエプル川東岸のロシア占領地域とを結ぶ3つの橋のうち2つを砲撃した。その間にもロシアは、目立たない形でヘルソンの支配を強めている。
造船で知られ、地域の中心都市だったヘルソンは、ウクライナの領土を占領・併合しようとするロシア政府が進める最新の取り組みにおいて最重要拠点となった。最終的に待っているのは、恐らく住民投票だ。多くの者は、9月にも実施されるかもしれないこの投票は、併合の口実にされるだけのでっち上げになるとみる。
ヘルソンで採用されている占領モデルは、クリミアや、8年間の抗争の末にウクライナからもぎ取られた東部の州で使われた方式と同じだ。
その占領モデルは、通貨ルーブル、愛国者、パスポート、食料品、テレビ、インターネット、プロパガンダを駆使する。最近ではそこに、道路脇に立てられたいくつもの看板が加わった。看板はウクライナ人に、「ロシアと共に、一つの人民だ」と信じるよう訴えている。
ヘルソン市の幹部、ドミトロ・ブトリー氏は次のように語った。「彼らは市を掌握した直後に、自分たちの仲間──協力者──を使って傀儡(かいらい)政府をつくらせた」
「この協力者たちは、行政経験はなく、経済にも、一般市民にも関心がない。彼らがしているのは、ただひたすらウクライナのアイデンティティーを破壊することだ」。ブトリー氏は今、逃亡先で暮らしている。
最初の頃は侵略者に対して抗議する動きもあったが、今では、通りは暗く静まりかえっている。とはいえ、ウクライナ軍による砲撃が、ヘルソンが同胞から忘れられていないことを思い出させてくれる。
街に残るある教師は、「ウクライナのほかの街では銃撃や爆弾の音におびえているだろうが、ヘルソンでは、音がやんだときのほうが心配になる」と語った。ある配管工は、ウクライナ軍の砲撃の音を聞くと「いずれ解放されるという希望と自信が湧いてくる」と言う。
ヘルソンに今も残る10万人ほどの住民の大半にとり、日々の暮らしは、消耗と順応に苦闘しつつ、機会があればわずかな抵抗を示す、というだけのものになってしまった。
ATM(現金自動預払機)でウクライナの貨幣が下ろせなくなると闇市場が現れた。ウクライナ政府から今も電子的に振り込まれる公務員の給料を、街角で人目を避けて現金に交換する。手数料は15%だ。
ウクライナの電話ネットワークが使えなくなると、高齢者でさえVPN(仮想私設網)の使い方を覚えてウクライナのニュースを見るようになった。住民は、通信アプリ「テレグラム」でフォローしているチャンネルや、写真やメッセージを削除するやり方にも慣れた。突然あちこちに置かれるようになった検問所を通過しやすくするためだ。
あるウクライナ文学の教師は、空いた時間を利用して、高層アパートの窓から見える街の悲劇を追いかけている。彼女が目にしたのは「この時をずっと待っていた裏切り者たちが突然、大物になった」様子だ。勤務先の学校の校長は、ロシアのカリキュラムの導入を拒んだ後に解任され、新しい校長が任命されたという。
この教師は「これが私たちの日常だ。身の回りの出来事を観察しながら、同時に普段通りの暮らしを自分に課している」と語った。
行方不明者が数百人
インタビューに応えてくれた人々によると、ロシアの占領政策は、実際的な権限を持つ役職にあるロシア支持者の手で進められているようだ。ヘルソン市の元市長、ウラジーミル・サリド氏が、今では地域全体のロシア行政府の長官だ。市のゴミ収集は、ロシア政府に忠実な地区管理者が引き継いだ、とある住民は説明した。
別の住民は「彼ら(ロシア人)は民間人の服を着てカフェに来る。けれど、彼らは我々と全然違う。ロシア人だとすぐに分かる。それに、言葉のなまりが身元をはっきりと示している」と語った。
ロシア人との衝突が悲劇を生むこともある。特に検問所や、いわゆる「ろ過収容所(選別センター)」では、逃れようとすると、時には何日も詳細な尋問を受けることになる。
ロシア兵に家を荒らされた人もいる。前出の配管工は「彼らに憎しみを感じる」と話した。武装したロシア人が8人、家にやってきて、薬や武器をあさっていったという。
住民たちによると、姿が見えなくなった人々が数百人いる。家族が掲示する人探しの張り紙から、人々が急にいなくなったことが分かる。
戦前の暮らしに戻ることを切望する住民たちが心配しているのはウクライナ軍による反攻だ。市の奪還を目指すと噂されている。地元で農業企業を経営するセルヒー・ルイバルコ氏は、可能な者は早々に水や食料を備蓄し始めていると語る。
「激しい戦闘になることが分かっているのだ」(ルイバルコ氏)。ヘルソンも、この戦争で標的となったほかの都市と同じ運命に直面するのではとの不安をにじませる。
ルイバルコ氏は「解放に時間がかかることは分かっている。けれど、ハルキウのように、解放された後、ヘルソンが(ロシア軍から)砲撃されることも心配なのだ」と語った。
●「クリミアのキノコ雲」が告げるロシア・ウクライナ戦争の新たな局面 8/16
危険と機会を併せ持つ「ウクライナの意思表示」
ロシアが支配するウクライナ領クリミア半島西部のサキ空軍基地で8月9日に起きた大爆発は、ウクライナ側のミサイル攻撃、ないしは破壊工作の可能性が指摘されており、その場合、戦争が新段階に入ったことを意味する。
開戦から半年になるロシア・ウクライナ戦争で、ウクライナ側が初めてロシアの支配地域に大規模な攻撃を仕掛けたことになる。英国のロシア専門家、マーク・ガレオッティ氏は「戦争の形態が変わる可能性がある。ウクライナが戦争をエスカレートできるという意思表示であり、危険と機会の両方を併せ持つ」と指摘した。
ロシアは今秋、ウクライナの東部と南部を併合する住民投票を計画しており、ウクライナ側はそれを阻止するため南部奪還作戦に着手している。8、9月の戦況が重大局面になる。
サキ空軍基地の大爆発では、これまでの戦況と異なる情景がみられた。過去半年間はロシアがウクライナの民間施設を攻撃したり、虐殺、暴行、略奪と残虐行為を繰り返したが、今回はロシア人がパニックになって逃げまどった。
ロシアの独立系メディア「ノバヤ・ガゼータ」欧州版によると、9日午後3時過ぎ、クリミア西部の空軍基地で断続的に大爆発が起こり、大音響とともにキノコ雲のような噴煙が広がった。基地に近い黒海沿岸の保養地ノボフェドロフカのビーチにいた観光客はパニックになって逃げ出し、ロシアとクリミアをつなぐクリミア大橋に一斉に車で向かった。「ウクライナ人の復讐だ」と叫ぶ人もいた。
基地周辺は防空サイレンが鳴り、近くのホテルでは飛び出した客を、従業員が地下室に誘導。子供たちが泣き叫んだ。震源から数キロ離れた地点でも爆風を感じ、基地周辺の建物の窓ガラスがほぼすべて割れたという。
サキ空軍基地は、黒海艦隊付属の第43海軍航空連隊の拠点で、Su30戦闘機やSu24爆撃機が駐留。弾薬庫に引火して大爆発を起こし、航空機9機が破壊されたとされる。1時間に少なくとも6回の爆発があった模様だ。
ロシアが実効支配する「クリミア共和国」のセルゲイ・アクショーノフ首長は「基地に隣接する集合住宅62、商業施設20、数十棟の民家が被害を受け、数十台の車が破壊された」と述べた。この爆発で1人が死亡、子供を含む9人が負傷したという。基地内の犠牲者は公表されておらず、ロシアのSNS、「テレグラム」では、軍人24人の死亡説が流れた。
ロシア国防省は、「爆発原因は火災防止の法令違反」とし、偶発的事故を装っている。ロシアではこれまでも兵器庫の大爆発がしばしば発生し、キノコ雲の写真が報じられたこともある。
特殊部隊が基地内に潜入か
ラトビアに拠点を移したロシアの反政府系メディア「メドゥーサ」(8月11日)は、謎の爆発について、キノコ雲が数百メートル離れた3カ所で発生しており、外部からの同一弾による攻撃か、破壊工作員が基地内に爆弾を仕掛けて爆発させた可能性が強いと分析した。
サキ空軍基地に最も近いウクライナ軍の前線は200キロ以上離れており、ウクライナ軍が使用する米国製高精度多連装ミサイル「ハイマース」の射程は80キロだ。国産や英国製の対艦ミサイルは約300キロの射程を持つが、対艦ミサイルは速度が遅く、通常ならロシアの防空網が対応可能だ。ミサイルの飛来に関する目撃情報は伝えられていない。
「メドゥーサ」は、ミサイルより、ウクライナの特殊部隊が空軍基地に潜入し、爆弾を数カ所に仕掛けた可能性の方が高いとしている。ウクライナ側は現時点で犯行声明を出していない。
米シンクタンク、戦争研究所は、爆発の原因はまだ特定できないとしながら、基地の数カ所でほぼ同時に爆発が起きたことから、ロシアの主張する偶発的な火災は考えられないと指摘。破壊工作やミサイル攻撃の可能性はあるが、その場合、警備体制の怠慢や防空システムの不備が問われると指摘した。
米国防総省の高官は12日の定例会見で、「ウクライナが標的を選び、攻撃したが、どんな兵器を使用したかは不明だ」と述べた。しかし、国防総省はその後、「不正確な発言だった」として、高官の発言を撤回している。
米紙「ワシントン・ポスト」(8月11日)によれば、ウクライナ軍当局者は同紙に対し、ロシア軍の戦線の背後で破壊工作を行うパルチザン組織の犯行であることを示唆した。同紙は、ウクライナ人の間では、4月のロシア黒海艦隊旗艦「モスクワ」の撃沈に匹敵する祝賀ムードが漂っているとし、「ウクライナ軍はロシアが安全と考える領域まで攻撃することで、ロシア軍に防衛力を再配置させ、戦争の構図を変えることができる」と指摘した。
ウクライナ側もロシア領攻撃
サキ空軍基地は、ロシア軍のウクライナ南部攻撃の拠点だった。2月以降、Su24などの航空機が頻繁に南部のウクライナ軍拠点を爆撃し、ロシア軍は3月、比較的容易にヘルソン、ザポロジエ両州を制圧できた。従って、今回の爆発は、ウクライナ側の「敵基地攻撃」の可能性がある。
ウクライナ内務省のアントン・ジェラシェンコ顧問は「これで、何十機ものロシア軍戦闘機が南部に爆弾を落としに来ることはないだろう」とSNSに書き込んだ
ロシア軍の侵攻では、ウクライナ領が常に戦場になったが、ウクライナ側が境界を超えてロシア側を攻撃することもあった。
「メドゥーサ」の調査報道によれば、爆弾を積んだウクライナのドローンが6月、ロシア南部ロストフ州の石油精製所を自爆攻撃した。7月31日には、無人機が黒海艦隊基地を2度にわたって攻撃し、艦隊司令部は当日予定された式典を中止した。
7月には、米国から提供された自爆ドローン「スイッチブレード」を使って、国境に隣接するロシアのブリャンスク州でロシア要人の暗殺を試みたという。
8月11日には、ベラルーシがロシア軍に提供したベラルーシ南部のジャブロフカ空軍基地で数回の爆発炎上があったと報じられた。
ウクライナ政府はハイマースから発射される射程300キロの地対地ミサイル、ATACMS(エイタクムス)の提供を米政府に求めているが、ジョー・バイデン政権は戦争のエスカレートを恐れ、承認していない。しかし、米議会は超党派で同ミサイルをウクライナに提供するよう主張し、政権側と協議しているという。
ウクライナ軍が精密誘導の長射程ミサイルを保有すれば、「敵基地攻撃能力」が拡大することになる。
南部のロシア併合を阻止へ
ウクライナが今回、クリミアの空軍基地を攻撃したとすれば、南部奪還作戦の一環となる。ロシア側はこれまでに、ヘルソン州の9割、ザポリージャ州の7割を制圧しているが、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は7月末、「あらゆる手段で南部の領土を取り戻す」とし、作戦の本格化を指示した。ウクライナ軍はロシアの補給路を遮断するため、ドニエプル川の3つの橋を攻撃している。
米国のニュースメディア「ポリティコ」(8月10日)によれば、ウクライナの複数の当局者は、サキ空軍基地攻撃は南部での反転攻勢開始を示唆するものだとし、「8月と9月が軍事的観点から非常に重要な月になる」と指摘した。
ウクライナが南部奪還を急ぐのは、ロシアがヘルソン、ザポリージャ両州でロシア連邦加盟を問う住民投票を計画しているからだ。セルゲイ・ラブロフ外相も7月、「ロシアは東部だけでなく、南部の制圧も目指している」ことを初めて明らかにした。既にロシアの中央選管関係者が現地入りし、地元親露派指導部に住民投票の方法を指示したとの情報もある。
仮にロシアが南部2州で住民投票を実施し、2州併合を決めるなら、ロシアの領土が広がり、戦争形態が変わることになる。ウラジーミル・プーチン政権は2月以降、ウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」とし、「戦争」と呼称していなかった。
しかし、南部や東部をロシア領と宣言する場合、「特別軍事作戦」は主権国同士の戦争となり、プーチン大統領は憲法に沿って「戦争状態宣言」(戒厳令)を発動、総動員令を敷く可能性がある。ロシア側の論理では、国外の局地戦が全面戦争に発展することになる。
一方、タカ派的な言説を強めるドミトリー・メドベージェフ安保会議副議長(前大統領)は7月にブログで、「ウクライナがクリミアを攻撃すれば、『審判の日』が即座に訪れる」と警告していた。
「審判の日」とは、核戦争による世界の終末を警告した1991年のハリウッド映画『ターミネーター2』の原題“Terminator2:Judgment Day”をイメージしているようだ。ウクライナのクリミア攻撃で、プーチン政権は再び「核の恫喝」を駆使するかもしれない。
●プーチン亡命か暗殺か。近づくウクライナ戦争の終焉とロシアの後始末 8/16
8月24日で開戦から半年を迎えるウクライナ戦争ですが、侵略行為を続けるロシア軍の旗色がここに来て悪化の一途を辿っているようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、各地でロシア軍が追い詰められつつある最新の戦況を解説するとともに、プーチン大統領がカザフスタン侵攻を行う兆しを見せているという驚きの情報を紹介。さらにそう遠くないうちに訪れる「ロシア敗戦後の世界」において、日本が果たすべき役割と国として目指すべき方向性を考察しています。
ウクライナ戦争の推移
ウクライナ戦争はウ軍が優勢であり、ロ軍は守勢になってきた。今後は、ロシア敗退後の世界の秩序体制をどうするのかが課題になる。これを検討しよう。
ウクライナ東部での戦闘では、ロ軍部隊は攻撃力が弱まり、ウ軍陣地への攻撃も反撃に合い、ほとんどがすぐに撤退している。ウ軍の主力部隊は、南部ヘルソン州やザポリージャ州であるが、西側からの大砲やロケット砲の大量援助で、東部でもロ軍に砲撃を加えることができるようになった。
これにより、ロ軍が攻撃してもウ軍の砲撃に合うことで、ロ軍の損耗もその分、大きくなっている。
そして、スラビアンスクの南に位置するバクムットには、ロシアは傭兵会社ワグナー部隊を使い攻撃していたが、リシチャンスク方面に傭兵会社ワグナー部隊を移動させたようで、フリホリツカなどで激戦になっている。正規軍の兵員不足で、戦闘の多くの部分をワグナー部隊に割り当て始めている
しかし、最強のワグナー部隊がくると、ウ軍も苦戦している。ワグナーはロシアの刑務所から囚人を恩赦を餌に動員しているので、正規軍より兵員がいることによるが、それでも、この部隊の損耗も大きくなっているようだ。
ウ軍が苦戦する理由が、囚人を突撃させて、ウ軍火砲の位置を確かめ、そこを砲撃する。このために囚人を利用しているからだ。よって、囚人部隊の損耗は激しいようである。どんどん囚人を募集して、1ヶ月の訓練後、前線に送っている。
しかし、兵站を攻撃されて弾薬不足からロ軍の砲撃の頻度が少なくなり、逆にウ軍は、大量の大砲と弾薬を西側諸国から供与されて、砲撃量が大幅に増加して、砲撃戦でも同等になってきた。まだ差があるが、以前と比べて差が縮小している。
このため、Pzh2000自走砲を15両供与したが、その内8両が砲身寿命で現在使用できない状態だという。それだけ、大量に砲撃をしているということである。
しかし、ドネツク方面では、ロ軍TOS-1が猛烈に砲撃して、ウ軍苦戦中になっている。ロ軍も一点集中で戦果を上げようとしている。
ザポリージャ方面でも、ウ軍とロ軍が砲撃戦をしているが、激しい戦闘にはなっていない。増員したロ軍は陣地を構築して、立てこもっているようだ。このため、静かである。
そして、サポリージャ原発では、核を盾にして、ロ軍の武器などの保管場所をしているが、原発に対して、砲撃もあり、ロ軍、ウ軍がお互いに非難している。このため、IAEAが両国に査定の承認を求めたが、ロシアは拒否した。
南部ヘルソン州ではウ軍は、HIMARSやM270などで、ロ軍の指揮所、弾薬庫、兵員宿舎、陣地、兵站拠点など多数を攻撃している。アントノフスキー橋をロ軍が修復して、通行できるようになった途端、再度砲撃して通行不能にした。次にカホフカ橋を砲撃して、通行不能にしたが、同じ場所にあるノバカホフカのダムを壊さないで、橋だけを破壊するという曲芸をウ軍は披露している。
これにより、ヘルソン州のドニエプル川右岸では補給の問題が出ている。ドニエプル川を渡る橋がすべてなくなった。ヘルソン市周辺のドニエプル川でのフェリーによる輸送しかない。非常に限定的な補給しかできないことになった。大量の装甲車両も運べなくなっている。
このため、ヘルソン州全体を指揮するロ軍司令部がヘルソン市街地(ドニプロ川の右岸)から後退し、ドニプロ川の左岸に移動した。このためか、30の大隊戦術群(BTG)がいるはずのヘルソン州中西部などでのロ軍の攻撃もきわめて少ない。
それと、5月から始まった英国のウ軍新兵教育が終了して、今後毎月1万名の新兵が戦場に出てくることになる。1万人ということは、3個旅団分の人員が戦場に新しく投入できることになる。
このようなことで、1年以内にヘルソン州を解放すると、ウ軍現地司令官は述べているが、ドニエプル川右岸の可能性はあるが、川左岸はどうであろうか?
もう1つ、ウ軍に対レーダーミサイルのAGM-88HARMが供与されて、ロ軍の防空システムのレーダーを最初の3日で17基も破壊したようであり、電子兵器クラハ8も同様に破壊されている。このため、ウ軍のミサイルやロケット、航空機、ドローンを迎撃できなくなっている。
その上、マリウポリの対岸にあるロシア南部イエスクの石油備蓄施設で爆発火災があるとか、クリミア半島の東側の付け根チョンガル付近で大規模爆発とか、クリミア半島のノバフェドロフカのサキ海軍航空基地で、複数回の大規模爆発が起きたとかウ軍の攻撃が続いている。
爆発時に飛行弾道が見えないことから、巡航ミサイルや航空機による爆弾投下ではなく、パルチザンの攻撃でもなく、弾道ミサイルによる攻撃のようである。
パルチザンでは、このような大きな爆発物を複数個、基地内に気が付かれずに持っていくことは不可能である。ウ軍の特殊部隊の成果であるとウ軍は公表したが、それもない。
そして、サキ海軍航空基地のあるクリミア半島から脱出するロシア系住民や観光客の車列でクリミア大橋(ケルチ橋)は、大渋滞した。クリミア半島のロシア系住民もやっと、避難し始めたようだ。
この成果は、ヘルソン州の北中部ロゾベのウ軍橋頭保への空爆も少なくなったことでもわかる。
このサキ海軍航空基地への攻撃に対して、ロ軍は安全規則違反による爆発であり、死亡は1人、航空機は損傷していないと声明しているが、衛星写真では8機のSU24とSU30が完全に破壊され、多数が損傷しているし、ウ軍は操縦士や技術者ら60人が死亡、100人が負傷したとの分析を明らかにした。相当に大きな損害であったことになる。
なぜ、ロ軍はウ軍の攻撃ではなく、自軍の過失というのか不思議であるが、メドベーシェフ前大統領が「クリミア半島への攻撃は、即審判を受ける結果になる」と発言し、この意味は限定的核兵器使用をすることだ。
しかし、これを使用すると、世界的な批判とNATO軍からの核報復を覚悟する必要があり、プーチンは核使用を躊躇しているようである。
対して、ゼレンスキーの演説では、「戦争はロシアのクリミア半島占領から始まった。半島の解放で終わらなければならない」と述べている。このクリミア半島解放を始めるということのようだ。
ということで、クリミア半島も戦火が及ぶことになるが、トルコ政府は、外国籍のクリミア・タタール人に長期居住権を与えるとし、通常8年間のトルコでの居住歴が必要だが、それも免除され長期居住権がもらえるとなり、クリミア半島から大量のタタール人がトルコに出ていくことになる。
しかし、イエスクもチョンガルもサキ基地もウ軍支配地から200km以上も離れている。このため、攻撃がHIMARSのロケット弾ではない。
何で攻撃かとなり、射程300kmの対艦ミサイルのネプチューンを地上攻撃用に改造した可能性とか、ウクライナは独自で、ロ軍のイスカンダル短距離ミサイルと同等なミサイルを開発中で、それが実戦で使われた可能性とか、秘密裏にATACMSを供与されていて、それをNATO承認の元で使用とか、いろいろと言われている。
しかし、米軍は、米国製兵器を使用していないと声明を出したので、ATACMS使用の可能性はなくなったようだ。
しかし、どれでも、もう少しでケルチ橋も攻撃できることになる。そして、このような長距離弾道弾をウクライナが手に入れたとするなら、今後の展開は、大きく変わることになる。
もう1つ、ベラルーシ南東部のロ軍の管理下にあるジャブラフカ飛行場でも8回の大きな爆発が起きたが、国境から20kmの所にあるので、ウ軍HIMARSの攻撃を受けたようだ。ウ軍は現地パルチザンが攻撃したと声明を出し、ウ軍の攻撃を否定している。
しかし、ベラルーシは、エンジン火災の事故という。ベラルーシ軍の1万3,000人程度はロ軍とともに戦うことを了承したというが、ウクライナは、警告の意味で、ベラルーシの空港を攻撃したように見える。
ロシアもベラルーシ軍の意向を汲み、8月の下旬、カザフスタンとの国境に近いアストラハン州のアシュルクで、ロ軍とベラルーシ軍が合同軍事演習を行う。もしかして、カザフスタン侵攻を行うのであろうか?
ロシアは、CCCP(ミニソ連邦)への移行の準備をしているので、この1つにカザフも入れようとしているのかもしれない。どちらにしても、プーチンは「ソ連邦再建の夢」を実現したいようである。しかし、ウクライナとの戦争の上に、カザフスタン侵攻はおかしい。
もしかして、プーチンにウクライナでのロ軍の状況が入っていずに、勝っていると思い、次の目標をカザフにした可能性がある。独裁者に戦場の真実が入らない可能性を考えるしか理解できない。
これに対して、欧米は、ウクライナにテコ入れをして、ロシアの夢を潰す方向で援助を拡大するようである。その1つにA-10サンダーボルト2攻撃機の供与が実現しそうである。このA-10はロシアとの戦車戦に対抗する目的で開発された機体であり、ウ軍の反転攻撃時には、強力な武器になる。
それと、ロシアは敗戦に向けて、軍事力の消耗が著しいことになっている。最近鹵獲されたロシア軍のT-80BVM戦車の爆発反応装甲の蓋を開けて見ると、鉛のはずがゴムの板しか入っていない物や何もないものまである。形だけの爆発反応装甲である。退役した戦車を管理庫から出し、形だけの爆発反応装甲を付けて戦場に送り出しているようである。汚職が蔓延するロ軍はどうしようもない。その上、独裁者には真実を伝えることもできない。
ロシアには、ソ連時代の大量の退役兵器があり、それを管理庫から出して、前線に送り出しているが、兵員と弾薬・食糧は補給しないと兵器だけでは、何の価値もない。この兵站部分をウ軍に狙われているので、南部ヘルソンではロ軍は攻撃できない事態になってきた。
現時点は全前線で膠着状態であるが、ウ軍への西側からの武器援助と新兵補充が整った時点で、南部から奪還の反撃が始まるようだ。
そろそろ、ロシア敗戦に向けて、次の世界秩序を考えて、その準備をする必要になってきたように見える。
どうも、中国もロシア敗戦を織り込み、特にカザフスタン攻撃をロシアが行う可能性が出て、米国と調整したいようである。
11月米国の中間選挙後に、米中首脳会談を行うように習主席は、米バイデン大統領に要請した。
次の世界秩序構築を中国も見て、動き始めたようだ。
ロシア敗戦後の世界秩序
ロシア敗戦は、クリミア半島やウクライナ全土の占領地を失い、プーチンの亡命や暗殺で終わる。
すでに、シリアへの亡命を準備しているとも聞く。
しかし、なぜロシアはカザフスタン攻撃を準備するのか、訳が分からない。中国を敵にすることになる。カザフは、中国に相談して、外交政策をしているので、プーチンは血迷ったとしか思えない。
どうも、民族国家は、他国への侵略を意図しないが、多民族を統治する帝国では、国家統一のために、敵を作る必要があり、常に戦争が必要になっているようだ。それも勝てる戦争である。
米国も常に戦争をしている。この意図は国家の分断を阻止する必要からで、敵を作ることで国家統一を維持している。今、米国内中西部と沿岸地域に国論が分裂しているが、それぞれの地域の人たちの性格が違い、かつ民族などの連帯を維持する要素もないことで、他地域の人たちを理解できない。
これは、ロシアや中国でも同じである。米国は民主主義を発展させるという理想で国家を維持してきたが、貧富の差が大きくなり、その理想での国家維持ができなくなってきている。
一方、ロシアと中国は、国家を拡大する方向で国民を統合しているので、どうしても、領土拡大を目指すことになる。勝つ戦争の志向が国家統治の面からも、組み込まれている。
そして、米国の力と中国の力とロシアの力がぶつかりあうと、大戦争になる。米国は民族国家を助けて、民主主義を守るという理想があり、ロシアと中国とは反対方向である。
今、ロシアはウクライナへ侵略したが、これを認めると、次の侵略を繰り返すことになる。カザフへの侵略もウクライナでは、これ以上戦争に勝てないので、勝てる戦争として、弱いカザフを狙うことになる。勝てないと経済困窮を説明できないから、どうしても勝てる戦争が必要になっている。
中国もカザフへの影響力があり、中国でも勝つ戦争願望のロシアの行動を容認できない状況になってきたので、カザフを巡り、米中がタッグを組みそうである。
もう1つが、米国の対中経済制裁で、中国は現在でも不動産不況から金融不況と複合不況になりそうであり、その上に西側企業の撤退や中国企業のNY株式市場上場廃止になると、中国経済が持たないことになる。このため、中国も正式にロシアと敵対することで、米国の対中経済制裁を緩めたいようである。
しかし、そうすると、ロシアの敗戦が必然となる。このため、ロシア敗戦後の世界秩序を考える必要になる。
中央アジア諸国の支配権は中国に譲ることは仕方がない。ロシアをどうするのかである。
ロシアの民主化は必然となり、ナヴァーリヌイ氏を民主化のトップに据えることになる。しかし、これだけでは、また「ロシアの夢」を将来、言う人が出てしまう。
ということで、ロシア連邦の民族国家化であろう。ロシア内の共和国を分離独立させて、帝国化を防ぐしかない。
中国はロシア沿海州を自国領土であり、その返還を要求してくる。日本も千島列島、樺太の領有権を主張すればよい。というように、シベリアの自国領土化を中国、モンゴル、日本が主張するはずであり、北方領土以外は、住民投票で決めることにすればよい。
となるはず。それに向けて、日本も中国、モンゴルと調整することである。林外相は、中国との関係が良いので、打って付けである。
ロシアの共和国が民族国家化した後、日本は中国けん制のために、シベリアの民族国家群と経済安全共同体を構築して、中国包囲網を作る必要がある。というような、大まかな構想をもって、政治家は、日本を指導してほしいものだ。
ロシアとベラルーシのカザフ攻撃準備で、事態が大きく変化しているようだ。
さあ、どうなりますか?
●プーチン大統領 戦闘の継続を強調 長期化も辞さない構えを示す  8/16
ロシアのプーチン大統領は演説で、ウクライナへの軍事侵攻をめぐり「1歩ずつ、東部ドンバスの土地を解放していくという任務を着実に遂行する」と述べました。
戦闘の継続を強調し、さらなる長期化も辞さない構えを示した形です。
ロシアのプーチン大統領は15日、モスクワ郊外で始まった国際軍事フォーラムで演説し「ロシア軍は、いつの時代も国の主権と安全を守り、他の民族に自由をもたらしてきた」と主張しました。
そのうえで、ウクライナ侵攻をめぐり「1歩ずつ、東部ドンバスの土地を解放していくという任務を着実に遂行する」と述べました。
プーチン大統領としては、軍事侵攻を始めてまもなく半年となる中、戦闘の継続を強調し、さらなる長期化も辞さない構えを示した形です。
一方、プーチン大統領は「多極化する世界の防衛に貢献したい」と述べたうえで、南米やアジア、アフリカ諸国に装甲車や無人機といった兵器を輸出したり、軍事技術分野で協力したりしていくことに意欲を示しました。
プーチン大統領は、今回のイベントでは37か国から6000人以上の将校や兵士が参加するなどと強調していて、ウクライナ侵攻を受けて欧米から厳しい制裁が科される中、国際社会から孤立していないと改めてアピールするねらいもあるものとみられます。
●ロシアとの戦局で主導権を握り始めたウクライナ  8/16
2022年8月に入り、米欧からの大規模な軍事支援を受けたウクライナ軍のロシア軍に対する攻勢が目立ち始めた。これは戦局の主導権が徐々にウクライナに移りつつあることを示すもので、膠着状態が続いていた戦争は開始から半年を前に大きな転換点を迎えている。
ロシア空軍基地へのパルチザン攻撃
これを象徴した出来事が2022年8月9日、ロシアに併合されたウクライナ南部クリミア半島にあるロシア軍サキ空軍基地での大規模な「爆破事件」だ。本稿執筆時点でロシア軍は保管していた弾薬の暴発事故としか発表しておらず、ウクライナ政府も事件について自国の関与を正式には認めていない。しかし現地事情に精通している西側外交・軍事筋は筆者に対し、基地内で働くウクライナ人による攻撃だったと述べた。
この攻撃では少なくともロシア軍機8機が爆破されたが、このウクライナ人たちが1機ごとに爆破していったという。ニューヨーク・タイムズ紙が報じたところでは、事件では戦闘機などだけでなく、操縦士や技術者ら60人が死亡したもようだ。
ロシア空軍基地が受けた被害としては第2次大戦後最大規模といわれる今回の爆破事件が持つ意味は何か。同筋は、雇員が自分たちの勤めている基地で実行したことだと指摘する。2014年の併合後もクリミアでは、反ロシア的言動をしないウクライナ人雇員をそのまま基地で雇い続けたという。つまり、「反ロシア派ではない」とされてきた雇員が破壊活動を始めたことで、ロシア占領地にある他の基地・軍事施設でも同様の破壊活動が次々に広がる可能性が出てきたわけだ。「これはロシア軍にとっては衝撃的な事態だ」と同筋は言う。
ロシア軍が事件の真相を発表できないのはこのためだという。この破壊活動は雇員たちがウクライナ軍特殊部隊と連携した「パルチザン活動」とみられる。この事件に続いて、同様のパルチザン活動の可能性があると思われる事件もすでに起きた。隣国ベラルーシ南部ゴメリ州のジャブロフカ空軍基地付近でも2022年8月11日未明に複数の爆発があった。この事件でも詳しい発表はない。いずれにしても今後、クリミアを含めた各地のロシア軍基地で同様のパルチザン攻撃が波状的に起こるかどうかが焦点となる。
中でもロシア軍が懸念しているのは、クリミア半島南部セバストポリにある黒海艦隊への攻撃だろう。18世紀に当時のロシア帝国がオスマン・トルコとの戦争の結果、併合したクリミアに築かれたセバストポリ軍港と黒海艦隊はロシア海軍の象徴である。この母港が攻撃を受ける事態となれば、プーチン政権にとっては侵攻開始以来最大の面目失墜となる。黒海艦隊をめぐっては、すでに2022年4月に首都の名前を冠した旗艦「モスクワ」がウクライナ軍のミサイルによって撃沈されるという屈辱的出来事が起きている。
受け身に立たされたロシア軍の現状を物語る事態は他にもある。ロシア軍はウクライナ軍が奪還を目指し攻撃を強めている南部ヘルソン州へドネツク州など東部から部隊を転戦させようとしている。しかし上記の西側外交・軍事筋によると、ウクライナ軍の攻撃を避けるため、南部に直接向かわせることを避けているという。部隊を一度ロシア本土に戻したうえで、わざわざ遠回りして弧を描くような動線で、クリミア半島を経由して南部に派遣しようとしている。この際、ロシア部隊はロシア南部クラスノダール地方とクリミア半島をつなぐクリミア大橋を通る。
クリミア大橋への攻撃はなるか
このため注目されているのはこのクリミア大橋である。サキ基地での攻撃を受けて、ウクライナ軍がクリミアとロシア本土を繋ぐ唯一の貴重なルートであるこの橋を通行不能にする目的で攻撃するのではないかとの観測が出始めている。
全長18キロメートルの鉄道道路併用橋であるクリミア大橋は、2019年末に全面開通したヨーロッパ最長の橋である。プーチン大統領の友人である新興財閥のローテンブルク兄弟が建設を受注した。プーチン氏からすれば、ロシアによるクリミア併合の「完了」を象徴する大事業であった。逆にウクライナからすれば、併合の「固定化」を象徴する、おぞましいシンボルである。
アメリカ政府はこれまで、ウクライナ軍によるロシア領内への攻撃に反対していると言われている。一方でウクライナ側はクリミアについて「不当に占領されているものの、あくまで自国領であり、ロシア領への攻撃には当てはまらない」と主張している。ウクライナ大統領府長官顧問のオレクシイ・アレストビッチ氏は、必ずクリミアを攻撃すると言明している。
さらにここへ来て、アメリカ政府がクリミア大橋などクリミアへの攻撃を黙認する構えだとの観測もウクライナ側で流れ始めている。ウクライナ軍によるクリミアのロシア軍への攻撃について、アメリカ国防総省高官が2022年8月12日に行った会見で、「われわれはウクライナ側に対し、どう戦えとは言っていない。ウクライナ軍は自分たちがどう戦いたいか、自分たちで選択している」と述べ、含みを持たせた。
さらにウクライナ軍が現在、集中攻撃をしているのが南部ヘルソン州だ。ヘルソン州は侵攻開始直後、南にあるクリミアから北上したロシア軍地上部隊によって制圧されていた。2022年9月以降とも言われる本格的反攻作戦開始への準備段階として、ウクライナ軍は南部他地域やクリミアからのヘルソンへの補給路を断つため、その間にあるドニエプル川に架かる4つの橋を2022年8月12日までに砲撃などで損傷させた。これにより、ドニエプル川西岸にあるヘルソンは当面、ほぼ補給路を断たれたと言われる。
ロシア軍の苦境は、東部など他の戦線でも隠しようがない状況になっている。イギリス国防省は2022年8月9日、ロシア軍がウクライナで過去30日間に収めた最大の戦果は東部ドネツク州バフムトに向けた攻撃だが、10キロメートルほど進軍したに過ぎないとの分析を発表した。これに関連して、同筋はドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)の他の場所での前進はわずか1キロメートルに過ぎないことを明らかにした。
2022年7月初めにドンバス地方のうち、東側のルガンスク州をほぼ制圧するのに成功し、勢いに乗ったかに見えたロシア軍だが、西側のドネツク州では前進がほぼ止まっているようだ。これは、ウクライナ軍地上部隊の頑強な抵抗に遭っているためだが、それに加えてアメリカが供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」など西側から提供された圧倒的な火力が効果を発揮している。
こうした中、ロシア軍は占拠しているウクライナ南部にあるヨーロッパ最大級のザポロジエ原子力発電所に向けて攻撃を繰り返している。ロシア側はウクライナ軍による攻撃だと主張しているが、ウクライナ側が原発や住民を危険に晒す理由は見当たらない。これがロシア側の得意のニセ情報であることは間違いない。
原発攻撃は停戦交渉への誘い水
この危険なロシアの行動をめぐってはさまざまな臆測が流れているが、先述のアレストビッチ氏は「ウクライナをロシアとの何らかの交渉のテーブルに付かせるための威嚇戦術に過ぎない」と言い切っている。原子炉の損傷による核事故の恐怖で米欧を威嚇し、停戦協議を拒んでいるゼレンスキー大統領に対し、交渉に応じるよう圧力を掛けさせる狙いという見方だ。
しかし、一時米欧からも浮上したウクライナによる「領土割譲と引き換えの和平論」の実現性は今や霞んでいる。ウクライナ政権側がこれを受け入れる下地がほぼないからだ。ウクライナ国民の間でも、ロシアとの間で早期の交渉解決を望む声は極めて少数派だ。
ウクライナの国家民主化研究所が2022年7月1日に発表した世論調査結果によると、ロシアとの停戦を受け入れる条件として、回答者の89%が2014年のクリミア併合前の状態に戻すことを挙げた。つまり、ロシアが占領している東部ドンバス地域(「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」)のみならず、クリミアの奪還が不可欠との立場だ。
こうした世論も意識してか、ゼレンスキー大統領は2022年7月末、「すべての領土」を取り戻すまで戦い続けると言明。東部の占領地域のみならず、クリミアも奪還するとの意向を表明した。それのみならず、大統領は2022年9月ごろまでにヘルソン州南部とザポロジエ州の占領地を回復しなければならないとも述べ、本格的反攻作戦の開始を急ぐ構えを見せた。冬になれば作戦実施が困難になるからだ。こうしたゼレンスキー氏の強硬姿勢の背後には、停戦に向けた前提として、戦場でウクライナ軍にロシア軍に対する一定の勝利をさせることを決めたという、米欧側の戦略転換があるのは間違いない。
新たな領土併合に向け、占領地での「住民投票」を2022年9月11日に実施する構えだ。東部ドンバス地方の両「人民共和国」に、南部ヘルソン州とザポロジエ州を加えた4地域で行うべく準備が始まった。プーチン政権としては、クレムリンが仕組んだ形だけの「住民投票」を経て違法に併合を宣言した2014年の「クリミア・シナリオ」を再現する狙いとみられる。
しかし、攻勢に転じているウクライナ側がこの「クリミア・シナリオ」の再現を簡単に許すとは思えない。先述した、ヘルソン奪還に向けた攻撃や、それに加えて各地で活発化しているパルチザン攻撃などで住民投票を実施させない構えだ。つまり、2022年9月上旬に向け、ロシア軍とウクライナ軍の間で戦闘がさらに激化しそうだ。
これに関して、ロシアの有力な軍事専門家、ユーリー・フョードロフ氏はヘルソン州での今後の戦闘の帰趨に関し、興味深い分析記事をニュースサイト「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」2022年8月12日付に寄稿している。
それによると、ヘルソン奪還を目指すウクライナ軍の本格的反転作戦の構えを受け、クレムリンはパニック状態に陥った。ヘルソンが奪還されれば、クレムリンにとって大きな政治的ダメージとなるだけでなく、住民投票やヘルソンの併合そのものが不可能になるからだ。このためプーチン氏自身がヘルソンを死守せよとの命令を軍に直接発した。この結果、ロシア軍は2022年8月10日までにヘルソン州とザポロジエ州にウクライナ全土に派遣している全兵力の65%を投入したという。
戦略的罠にはまったロシア軍
しかし、この兵力集中こそロシア軍が自らを「戦略的罠」に追い込んだとフョードロフ氏は指摘する。兵力を集中させることで不可欠になるのは、より大規模な兵たんだ。しかし、先述したように、ドニエプル川西岸はウクライナ軍による補給路攻撃で弾薬、燃料の供給が難しくなっており、このままではロシア軍の弾薬がいずれ尽き「投降するか、パニックになって敗走する運命にある」と強調している。
ウクライナの軍事専門家であるオレフ・ジュダノフ氏は軍情報部の情報として、すでにロシア軍の作戦立案にかかわっている一部将校団が任を解かれ、取り調べを受けていると述べた。失敗の責任をめぐって、治安機関と軍との責任のなすり合いが激化していると語った。
一方で、最近になってウクライナ軍の本格的反撃作戦の開始が延期されていると言われる。これについて前出のフョードロフ氏はこう解説する。ロシア軍の兵たん補給が難しくなる見通しを受けて、当面は通常の交戦でロシア軍に弾薬を使わせて、消耗するのを待つ作戦という。そのうえで本格的な反攻作戦を始める戦略という。戦争でウクライナ軍が主導権を握ったことを象徴する事態だ。
この窮地をプーチン大統領はどう切り抜けるのか。しかし、それ以前の問題として、軍部から耳当たりのよい情報しか入らないプーチン氏がはたして侵攻作戦の窮地をどこまで認識しているのか、という根本的問題もある。ロシアでは1991年8月のクーデター未遂事件や2000年8月の原子力潜水艦クルスク号の沈没事故など、8月は軍にとって「鬼門の月」と言われる。これから9月にかけ、ロシアとプーチン政権にとって試練の時になることは間違いなさそうだ。
●ウクライナ東部ドンバス「一歩ずつ解放」プーチン大統領 任務遂行を強調 8/16
ロシアのプーチン大統領は軍事技術に関するフォーラムに出席し、ウクライナでの軍事作戦について東部ドンバス地方を「一歩ずつ解放している」と述べました。
ロシア・プーチン大統領「特別軍事作戦において我が軍はドンバスの兵士と共に任務を果たし、一歩ずつ(ウクライナ東部の)ドンバス地方を解放している」
プーチン大統領は15日、モスクワ郊外で開幕した軍事技術に関するフォーラムに出席し、ウクライナでの軍事作戦についてロシア軍側は「定められたすべての任務をしっかりと果たしている」と強調しました。
また、プーチン氏は南米やアジア、アフリカ諸国との関係強化に言及。戦闘機などの最新兵器を提供する用意があるとして、欧米に対抗していく姿勢を示しました。
フォーラムでは、軍事作戦に投入されているとする第5世代の戦闘機が展示されているほか、国営の宇宙開発企業「ロスコスモス」が、2024年以降の離脱を決めたISS=国際宇宙ステーションに代わるロシア版宇宙ステーションの模型を公開しています。
●南部へルソンのロシア軍司令部、州都から移動か…ウクライナ軍反撃 8/16
ウクライナ南部ヘルソン州の制圧を宣言しているロシア軍が、州都ヘルソンに置く司令部を移動させたとの見方が出ている。ウクライナ軍の反撃で補給路が被害を受けたためとみられる。
ウクライナ軍南部方面の報道官らは14日、地元メディアに対し、露軍が司令部をドニプロ川西岸の州都ヘルソンから東岸に移したと指摘した。ウクライナ軍が、露軍の補給路となっていたアントノフ大橋を含む計3本の橋を攻撃し、使用不能にしたことが影響している模様だ。
一方、ロシアのプーチン大統領は15日、モスクワ郊外で開かれた国内最大級の兵器展示会で演説し、「ロシアの兵器は競合国よりも何年も先を行っている」と述べ、自国兵器の性能の高さを誇示した。欧米の対露制裁に同調しない南米やアジア、アフリカの国々と緊密な関係にあることを強調し、最新の露製兵器を供給する用意があると主張した。ウクライナ軍の抵抗により一部で苦戦が伝えられており、国内外の不信感を払拭(ふっしょく)する狙いがあるとみられる。今年の展示会への参加は72か国で、昨年の117か国から激減した。 
●朝鮮戦争化するロシア・ウクライナ戦争 8/16
ウクライナの苦しみ
ロシアは2月24日にロシア軍をウクライナに侵攻させた。ロシア軍がウクライナに侵攻すると戦争は短期間でロシアの勝利に終わると予測された。だが予測に反してウクライナ軍は強くロシア軍は弱かった。ウクライナ侵攻から1ヶ月でロシア軍は損害を受けてウクライナ北部から撤退。その後戦力をウクライナ東部に移動させた。
ウクライナ北部に位置するベラルーシからロシア軍が侵攻したことで、ベラルーシ軍も参戦すると思われた。だがベラルーシ軍は参戦せず、さらにウクライナ軍もベラルーシに侵攻しない。
欧米はウクライナに軍事支援はするが軍隊を派兵しない。NATOをウクライナに派兵すれば戦局を左右することは明らかだが、未だに派兵されていない。さらに欧米はウクライナと一定の距離を保ったままで戦争を早期に終らせる道を選んでいない。
ウクライナに足枷はあるのか?
ウクライナはアメリカから軍事支援を受けているが、ロシア領を攻撃しないことが条件にされていることが囁かれている。アメリカ軍のロケット砲システム「ハイマース」がウクライナ領内で戦果を上げていることは知られている。ハイマースがロシア軍の弾薬庫を正確に破壊したことで、ロシア軍の砲撃を半減させたと言われる。
それほどの能力がハイマースにあるのならば、ロシア領内のロシア軍兵站基地を攻撃することで戦略として優位になれる。射程距離と精密攻撃がロシア軍を越えているなら、ウクライナ領内のロシア軍兵站基地とロシア領内の兵站基地を攻撃すれば、ロシア軍の心臓を止めることが可能になる。
・小規模兵站基地:師団の25km後方
・中規模兵站基地:師団の50km後方
・大規模兵站基地:師団の100km後方
兵站基地を置く距離は各国の軍隊で共通している。しかも紀元前のローマ軍の時代から現代まで普遍の距離。それだけ根本的な距離なので、破壊できれば戦略で優位になれる。実際にウクライナ軍はウクライナ領内の小規模・中規模兵站基地を攻撃して戦果を上げた。
だがウクライナ軍はロシア領を攻撃していない。ハルキウ付近からロシア領のロシア軍兵站基地を攻撃することは可能。実行すればウクライナ東部に展開するロシア軍の首を締め上げるのと同じ。これをウクライナ軍は知らないわけがない。こうなると、アメリカがロシア領を攻撃しないことを条件に軍事支援していることも頷ける。
朝鮮戦争と同じ制限戦争
人類3000年の戦争史を見ると、戦争目的は全面戦争・限定戦争・制限戦争に区分される。人類の戦争の大半は限定戦争であり、全面戦争と制限戦争は一部の国が行うだけ。しかも全面戦争を始めたのは第二次世界大戦時のアメリカであり、制限戦争を始めたのも戦後のアメリカ。
全面戦争は交戦国を消滅させることが目的で、端的に言えば部族間抗争の概念。当時の交戦国であるドイツと日本は辛うじて国は残ったが徹底的に叩かれた。基本的な国家間の戦争は限定戦争であり、戦争は“政治の延長”。それに対して制限戦争は“政治の破断”の違いがある。
アメリカが第二次世界大戦で全面戦争を持ち込んで戦争を悲惨にした。このことをアメリカは認識したらしく、戦後の朝鮮戦争から戦争目的を制限戦争に変更している。これはアメリカが戦争の反省から導き出した答えなのだが、今度はアメリカが勝てる戦争を勝てない様にした。アメリカが反省するのは良いのだが、何故か限定戦争ではなく異質な制限戦争に執着する。
   戦争目的
・全面戦争(All-out war) :交戦国の政権を否定する
・限定戦争(Limited war) :戦争目的が限定されている戦闘と交渉
・制限戦争(controlled war):政治が軍事に介入する
   制限戦争論:キッシンジャー(アメリカ)
・交渉と戦闘は段階的に推進すべき。戦略の目的は敵政治意志の譲歩であって敵軍の撃破ではない
アメリカのキッシンジャーの言葉を借りれば、敵国の政治意志の譲歩のための戦闘。だが制限戦争論は軍事的合理性からかけ離れている。なぜなら、軍事作戦が外交から干渉と拘束を受けると勝利できない。実際に朝鮮戦争・ベトナム戦争でアメリカは勝てなかった。
本来ならばウクライナ軍は限定戦争でロシア領を攻撃するはず。だがウクライナ軍はウクライナ領内での戦闘に終始している。これは朝鮮戦争と同じで戦域が制限されている。朝鮮戦争の時にアメリカ軍のマッカーサーは中国領を攻撃することを計画する。これは当時のアメリカ政府から反対され実行されなかった。
北朝鮮軍は中国から支援を受けており、中国と北朝鮮の国境付近は兵站基地だった。ならば中国領の兵站基地を破壊するのは軍事の基本。実行されていればアメリカは勝利できていたかもしれない。これと同じことがウクライナで実行されている。つまり、ウクライナは勝てる戦争で勝てないように足枷を付けられたのだ。
皮肉なことに
制限戦争は“勝利なき戦争”。戦域が制限されているので隣国は安全。結果論だが世界大戦にならない。仮に当時のアメリカが北朝鮮の隣国である中国とソ連を攻撃していれば世界大戦になっていた。さらにソ連が日本を攻撃していれば世界大戦になっていた。原因は不明だが、当時の参戦国が制限戦争を選んだことで世界大戦にならなかった。
アメリカがウクライナに制限戦争を押し付けたとすれば、ロシア・ウクライナ戦争は勝利なき戦争になる。これはロシアには好都合で、ロシア軍に大損害が出てもロシアは敗戦国にならない。何故ならNATO・ウクライナ軍がロシア領に侵攻しないなら安泰。しかも政治でプーチン大統領の地位は安泰となる。
仮にNATOがバルト三国・フィンランドからロシア領に侵攻すると制限戦争から限定戦争に移行する。これは世界大戦となるが、NATOがウクライナ限定で活動するなら制限戦争に留まる。実際に朝鮮戦争で国連軍が投入されたが制限戦争に留まった。
ロシアのプーチン大統領はアメリカの制限戦争を喜んで受け入れるだろう。これでロシアは敗戦国にはならず自分の地位は安泰。だからこそ制限戦争を受け入れる。これを知っているからウクライナの朝鮮戦争化を嫌うのだ。だが我々はどちらを選ぶ?
限定戦争で勝利を選ぶと世界大戦の道。もう一つは、制限戦争で世界大戦を回避する道。この場合はウクライナを犠牲にした偽りの平和。どちらを選ぶ?
●ゼレンスキー猛抗議...なぜ国際人権団体は、「被害者」ウクライナを批判した 8/16
ウクライナの市民団体などが、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルのアニエス・カラマール事務総長の辞任を求めて請願活動を開始した。きっかけは、アムネスティが報告書でウクライナ軍を批判したことだ。
8月初旬に発表された同報告書は、ウクライナ軍が「国際法違反」の戦略を取っていると指摘。市街地に陣地を置くことで「市民を危険にさらしている」とした。これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は「侵略者から被害者に責任を転嫁しようとしている」と強く反発。次いで市民団体や慈善団体、ジャーナリストらがカラマールの辞任を求めて声を上げた。
請願書は、アムネスティが「ウクライナの人々をさらなる危険にさらす」「こうした被害者たたきは人権保護とは相反する」と批判。アムネスティ側は「ロシアの蛮行や戦争犯罪も常に報告している」「侵略行為を正当化することは決してない」と火消しに追われている。
●ベラルーシのロシア軍に大規模なミサイル攻撃の兆候 8/16
軍事情報を追跡するある独立系グループによれば、ロシアは「ウクライナへの大規模攻撃」に備えてベラルーシに地対空ミサイルシステムを集結させているという。
「ベラルーシアン・ハジュン」プロジェクトという名のグループが8月15日のテレグラムに投稿したところによれば、衛星画像の分析により、ウクライナ国境からおよそ40キロに位置するベラルーシのジアブロウカ飛行場に兵器が集められていることがわかったという。グループは、ベラルーシがロシアの軍事行動を支援する場合に備えて監視してきた。
「飛行場の状況の分析により、ベラルーシからウクライナ領土へのロケット攻撃の可能性があるだけでなく、ロシアが今後数週間のうちにウクライナへの大規模なミサイル攻撃をおこなう準備を進めているらしい兆候が見てとれる」と、ベラルーシアン・ハジュンは述べている。
また、7月28日に最後に大規模な攻撃がおこなわれて以来、ベラルーシからはウクライナに向けて1発のロケットも発射されていないことも指摘している。
米国の宇宙技術企業マクサー・テクノロジーズの衛星画像を使った分析として同グループが述べているところによれば、ジアブロウカ飛行場には、超長距離地対空ミサイル「S-400トリウームフ」10〜14基、近距離対空防御システム「パーンツィリ-S1」2基、「KASTA-2E2」および「48Y6 Podlet」のレーダーシステム3基があるという。
またこの飛行場には少なくとも15〜60発のS-400地対空ミサイルの保管にも使われているが、さらに多くがロシア航空宇宙軍から届けられる見込みだという。
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、2月に開始されたロシアによるウクライナ侵攻が国際的に非難されているにもかかわらず、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の強固な味方であり続けている。
ベラルーシは、ロシアともウクライナとも国土を接していることから、ルカシェンコはロシア軍にベラルーシ国内の通過を許可し、ロシアからウクライナの首都キーウへと至る近道を提供していた。
謎の爆発の正体は
戦争初期にロシア軍がキーウ陥落に失敗したあとの4月には、ロシアはベラルーシを利用して軍の再配置をしている、と米国防総省が述べていた。
ベラルーシアン・ハジュンは8月11日、目撃者の話をもとに、ジアブロウカ飛行場付近で「少なくとも8回の爆発」があったと伝えている。ベラルーシ当局は爆発について、エンジン交換後に車両に火がついたものとして、犠牲者はいないと説明した。だが、ベラルーシアン・ハジュンは飛行場近くの「大きな閃光」をとらえた動画を投稿し、「エンジン火災」の状況には合致しないと指摘した。
ベラルーシアン・ハジュンが8月15日の投稿で述べているところによれば、前週の爆発で「T-72」戦車1台が破壊され、この攻撃で犠牲者が出たことが衛星画像で示されているという。爆発の原因については説明されていない。
●小麦価格、どう決まる? ウクライナ情勢悪化で高騰―ニュースQ&A 8/16
政府は、輸入小麦を国内製粉会社に売り渡す価格について、10月以降も現在の水準に据え置く方向で検討に入った。ロシアのウクライナ侵攻を背景に小麦相場は急騰。売り渡し価格を抑えることで、食品などの相次ぐ値上げに苦しむ家計へのさらなる打撃を防ぐのが狙いだ。
――そもそも小麦はどのくらい輸入しているの。
需要の8〜9割を海外に依存している。2016〜20年度の平均年間流通量を見ると、国産82万トンに対し、輸入は488万トン。このうち米国が49.8%と最大で、カナダ33.4%、オーストラリア16.8%と3カ国が大半を占める。
――政府が小麦の価格を決めているの。
小麦はパンや麺類など多くの食品の原料となる。品質の良い小麦を大量に安定供給するため、政府が大口の購入者となって外国から仕入れているんだ。政府は輸入小麦を製粉会社に売却するが、毎年4月と10月にその売り渡し価格を改定する。
――売り渡し価格はどう決まるの。
国家貿易として政府が小麦を買い付けるようになったのは終戦後だが、小麦の国際市況を反映した現行制度が始まったのは07年4月。海上運賃や為替動向も含めた直近6カ月間の平均買い付け価格に、国産小麦の生産振興費などを上乗せして決める仕組みだ。
――小麦の価格は上昇しているの。
昨年夏の干ばつで米国やカナダ産小麦が不作になり、小麦の国際価格は高水準で推移していた。そこに、世界有数の小麦輸出国であるウクライナ情勢の悪化が加わり、供給懸念が一気に高まったんだ。農林水産省は、今年10月の改定で、売り渡し価格は4月より2割程度上昇すると試算。現行制度での最高値だった08年10月の1トン当たり7万6030円を更新するとみていた。
――据え置きで暮らしは少し楽になるのかな。
そうとも言えない。農水省によると、小麦関連製品の小売価格に占める原料小麦の割合は、食パンで8%、外食のうどんや中華そばで1%にすぎない。調理のための電気やガス、食用油など他の原料も高騰しており、効果は不透明だ。
●ウクライナ東部の親ロシア派「ドネツク人民共和国」 8/16
ウクライナ情勢です。東部の親ロシア派は外国人5人を傭兵の罪で起訴しました。このうち3人については死刑の可能性があるとしています。
ロシアメディアによりますと、ウクライナ東部の親ロシア派「ドネツク人民共和国」は15日、外国人5人を傭兵の罪で起訴したと発表しました。このうちウクライナ南東部マリウポリ周辺で捕らえられたイギリス人、スウェーデン人、クロアチア人の3人は死刑の可能性があるとしています。
プーチン大統領は東部の戦況をめぐり、「一歩ずつ解放している」と強調しました。
ロシア プーチン大統領「特別軍事作戦において、我が軍はドンバスの兵士と共に任務を果たし、一歩ずつ(ウクライナ東部の)ドンバス地方を解放している」
そして、ロシア側について「定められたすべての任務をしっかりと果たしている」としています。
一方、ウクライナを支援するイギリスでは。
英陸軍 ステンハウス司令官「安全な環境を提供するため、英国内で訓練を続けています」
南東部の基地で行われた訓練。戦闘経験の少ないウクライナ兵に前線におけるスキルや応急処置などを教えていて、120日間で最大1万人を訓練しているということです。
また、ロシアが占領するウクライナ南部のザポリージャ原発をめぐり、国連のグテーレス事務総長はロシアのショイグ国防相と電話で会談、安全に操業するための条件について話し合ったということです。
●ライン川の水位低下に港湾ストも。欧州の物流は混乱長期化の恐れ 8/16
欧州を襲う熱波の影響でライン川の水位が低下し、欧州域内物流への影響が懸念されている。ドイツ当局の発表によると、15日時点で独カウプのチェックポイントの水位は30センチ台を記録。船舶の航行が困難なレベルにまで到達しているという。今後水位低下が解消されるめどは立っておらず、欧州主要コンテナ港で混雑が続く中、さらなるサプライチェーン混乱の一因となりそうだ。
船社発表によると、ウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰が続く中、欧州では石炭のバージ輸送の需要が急拡大。ウクライナ産穀物の輸出再開などの要因も加わり、バージ輸送の需給逼迫(ひっぱく)が続いていた。
こうした中、欧州の河川輸送を担うライン川では連日の猛暑や雨不足が重なり、水位が大幅に低下。低水位時の特別サーチャージの適用や、船舶への貨物積載量を減らして運航するなどの措置を取っていたが、先週末から水位が40センチを割り込み、船舶の運航が困難な局面に直面している。
外電によると、ドイツ政府は既に同国のエネルギー危機を回避するため、これまではしけで輸送していた石炭などのエネルギー関連貨物を、優先的に鉄道で輸送することなどを検討している模様で、他の輸送モードにも混乱が波及する恐れがある。
欧州の港湾では、英最大のコンテナ港フェリクストウ港で今月末にストライキの実施が予定されている。ドイツ港湾での労使交渉も平行線をたどっており、物流全般で混乱が長期化しそうだ。
●侵攻から半年“南部攻防”が激化…クリミア半島で爆発が起きた背景は? 8/16
ロシアによるウクライナ侵攻開始から半年が経過しようとしているなか、現在の戦況は、南部での攻防に移りつつあります。
ウクライナは南部で着々と奪還地域を増やしていて、ロシアに占領されている州都へルソンの年末までの奪還を目指しています。
反撃の原動力となっているのが、アメリカから提供されている高機動ロケット砲システム『ハイマース』です。ウクライナメディアによりますと、ドニプロ川に架かる橋をハイマースで再び攻撃。ロシア軍の補給路が利用できなくなりました。
ハイマースは、遠方の標的をGPS誘導弾で正確に攻撃できます。相手の後方拠点をピンポイントで無力化することが可能で、ロシアの民間軍事会社『ワグネル』の拠点の破壊にも成功したようです。
ただ、戦地に投入できるハイマースの数は十分ではありません。加えて、ロシア側も部隊の再編成を進め、南部の防衛力を増強しています。つまり、さらなる戦争の長期化は避けられない状況です。そうしているうちにロシアは、住民向けにパスポートを発行するなど“ロシア化”を着実に進めていきます。
ウクライナの頼みの綱は、欧米からの支援が途切れないこと。
ゼレンスキー大統領:「ウクライナへの軍事援助を増やさねばならない。武器が強く広範囲で使えるほど、この残酷な戦争は早く終わるだろう」
必要なのは武器だけではありません。戦争の長期化を見据え、イギリス軍はウクライナ兵の訓練を今後も続けていく方針を発表しました。
2014年にロシアに一方的に併合されたクリミア半島。前線から遠く離れたここでも、ロシア側に損害が出ています。
1週間前には基地で爆発があり、ロシア軍の戦闘機8機が破壊。16日にも弾薬庫などで大きな爆発がありました。もしこれがウクライナ側の攻撃だとすれば、侵攻開始から半年で、初めてクリミア半島に攻勢を仕掛けたことになり、新たな局面を迎えることを意味します。
同じ南部にあるザポリージャ原発でも緊張が続いています。ロシアが掌握しているヨーロッパ最大の原発周辺に連日のように攻撃が行われています。
EU(ヨーロッパ連合)やアメリカなど42カ国はロシア軍に対して、原発から即時撤退することを求める共同声明を発表。ただ、ロシア側はウクライナによる攻撃だと主張しています。
プーチン大統領は相変わらず、西側諸国への批判を繰り返しています。
プーチン大統領:「(アメリカなどは)独立国家を脅し、自分たちの意思に沿うよう、他人のルールに従うよう強要している。支配を維持する目的のために、そんなことが行われている」
ロシア・ウクライナ双方に大きな被害が出ています。
ウクライナ側では、民間人の犠牲が5500人以上。兵士の犠牲は6月時点で1万人を超えています。侵攻したロシア側にも甚大な被害が出ていて、兵士の死傷者は7〜8万人に上っているとされています。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治さん
(Q.ロシアの侵攻からまもなく半年が経ちます。どう受け止めていますか?)
まもなく半年経ちますが、半年経ってもこの戦争の出口が全く見えません。犠牲が拡大するなか、この戦争に対する関心の低下が気掛かりです。
(Q.戦闘がウクライナ南部に移っている背景は何ですか?)
ウクライナ軍が南部で集中的に反転攻勢をかけようとしています。そこには2つの理由があるとみています。
1つは、ロシア軍が東部ドンバス地方の完全制圧を目指しているため、ウクライナ軍は南部を攻撃することで、ロシア軍の兵力を分散させる狙いがあると思います。
もう1つは、南部のヘルソン州やザポリージャ州で、ロシアの通貨ルーブルの導入など、ロシア化の動きが着実に進んでいて、9月頭にも編入に向けた住民投票が行われるとみられています。こうしたロシア化の動きを早く阻止するためにも、ウクライナ軍は南部への攻撃を強化せざるを得ないと思います。
(Q.クリミア半島のロシア基地で起きた爆発についてどうみていますか?)
爆発があったのは、ロシア海軍の黒海艦隊に所属する航空部隊の基地ということです。航空写真などを見ると、少なくとも8機程度のロシア軍機が破壊されていて、クリミア半島の航空戦力にダメージを受けているとみられています。
今回の爆発について、ロシア側は「弾薬庫の爆発事故だ」として攻撃とは認めていませんが、アメリカなどのメディアは「クリミア半島の中にウクライナの特殊部隊、あるいはウクライナ寄りの勢力がいて、内部からの破壊工作を行っているのではないか」という見方が強まっています。
事実上、ロシアに併合されているクリミア半島の中で工作が行われているとなれば、ロシアは認められないし、今後の戦況に大きな影響を与える可能性があります。
ゼレンスキー大統領はこれまで、当初の戦闘目的は「開戦前の状況に戻す」ということで、クリミア半島の奪還までは短期的な目標として掲げていませんでした。今回、ウクライナ軍が何らかの形でクリミア半島に攻撃したとなれば、これまでのウクライナ側の短期的な攻撃目標にクリミア半島も含まれることになります。
今回、ロシア側は強く反応していませんが、クリミア半島の中での破壊工作が続いていった場合には、プーチン大統領がどのような反応をしていくのかも気になります。
(Q.プーチン大統領は15日「ドンバスを一歩一歩解放している」と発言しました。南部にはあまり触れず、東部に焦点をあてた発言の意図は何ですか?)
プーチン大統領の発言からは2つの意味が読み取れると思います。
1つは、引き続きドンバス地方の完全制圧。中でもドネツク州はまだ完全制圧ができていないので、ここを最優先に考えていることが確認できます。
2つ目は「一歩一歩解放している」という表現です。ロシアは拙速することなく、長期戦の構えで、時間をかけながら東部2州の完全制圧を行っていこうという意図があると思います。
ただ、ウクライナ軍はハイマースなどを使って効果的な攻撃をしていて、ロシア軍も東部2州に戦力を集中させることが難しくなっていて、東部と南部に武器と兵力を分散させながらの対応を余儀なくされている状況だと思います。
(Q.今後のポイントはどこですか?)
ロシアは、9月に“政治の季節”に入ります。9月11日に統一地方選挙があり、色んな選挙が行われる予定です。これに合わせた南部2州の編入に向けた住民投票も行われるのではないかという観測もあります。
統一地方選挙で、プーチン大統領率いる与党が圧勝した場合、強気のウクライナ政策を展開していく可能性があります。クリミア半島の攻撃もエスカレートしてくると、これまで踏み込むことができなかった、いわゆる“戒厳令”も国家総動員という形で、兵力を大幅に増強する可能性も出てきます。
9月以降のプーチン大統領の反応を注目していく必要があると思います。
(Q.無関心になっていくと、ロシアに利することになりますか?)
戦争が長期化するなか、ロシア・西側の我慢比べのようなところがあります。ロシアも経済制裁を受けていますが、西側もウクライナに長期的な支援を続けざるを得ません。
欧米諸国は選挙などを抱え、国内の圧力も高まっていくため、長期戦ではロシアの方が分があると、プーチン大統領は認識しているのではないかと思います。
●ウクライナで「核使用必要なし」 ロシア国防相が主張 8/16
ロシアのショイグ国防相は16日、ウクライナ侵攻をめぐり、「軍事的な観点から見れば、目的を達成するためにウクライナで核兵器を使用する必要性はない」と主張した。ロシアの核兵器は「核攻撃の抑止が目的」と説明し、ロシア軍がウクライナで戦術核や化学兵器を使用する可能性を指摘する報道は「すべて虚偽」と語った。
モスクワで開かれた安全保障に関する国際会議での演説で語った。会議ではロシアのプーチン大統領がビデオメッセージを寄せ、ウクライナ侵攻を改めて正当化。「米国はこの衝突を長引かせようとしている」と非難した。
●プーチン氏、ロシア文化を廃絶しようとする試みは「無駄」 8/16
ロシアのプーチン大統領は15日、クリミアで開かれたアートフェスティバル「タブリダ・アート」でビデオ演説し、ロシア文化やロシアそれ自体を廃絶しようとする試みは「無駄だ」と切り捨てた。
プーチン氏は「ただ愚かなだけだ。そうでないと考える人々は残念ながら歴史の教訓を学んでいない」と付け加えた。
プーチン氏は今年のフェスティバルのチームには「解放された地域」である「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の出身者もいると指摘した。
プーチン氏は、ウクライナ・ドンバス地方のボランティアや戦闘員など「ロシアの英雄」に謝意を示した。
ロシアは2014年、ウクライナのクリミア半島を自国の領土として併合した。ウクライナ政府やその同盟国はこの併合を認めておらず、ロシアの支配下にあるとみなしている。
ウクライナ東部の大部分を意味するドンバス地方は、14年以来、ロシア政府との紛争の最前線となっている。ドネツク市やルガンスク人民共和国は現在、ロシアの支配下にある。
●ロシア・プーチン大統領「地域不安定化させる戦略」米下院議長の訪台を批判 8/16
ロシアのプーチン大統領は、アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問について「地域を不安定化させるアメリカの戦略だ」と批判しました。
ロシア プーチン大統領 「台湾でのアメリカの無謀な試みは、単なる無責任な政治家個人の旅行ではなく、周到に計画された挑発である」
プーチン大統領は16日、モスクワ郊外で行われた安全保障に関する国際会議でこのように述べ、「地域と世界の情勢を不安定化させるアメリカの戦略の一環だ」と批判しました。
アメリカがウクライナでの紛争を長引かせるだけでなく、アジア、アフリカ、中南米でも同様に紛争をあおっていると主張。そのうえで、西側諸国がNATO=北大西洋条約機構のようなシステムをアジア太平洋地域に拡大させようとしていると述べました。
一方、ショイグ国防相は会議の中で、「軍事的観点から見てウクライナでの目標達成のために核兵器を使用する必要はない」と発言。核兵器や化学兵器使用の可能性を指摘する報道は「すべてうそだ」と否定しました。
●ウクライナ、ロシア軍事会社の拠点攻撃 8/16
ウクライナ当局は15日、ロシア民間軍事会社「ワグネル(Wagner)」の東部ルガンスク(Lugansk)州内の拠点と、ロシア占領下にある南東部メリトポリ(Melitopol)近郊の橋を攻撃したと発表した。
ルガンスク州のセルヒー・ハイダイ(Sergiy Gaiday)知事は、ワグネルの拠点が「精密攻撃によって破壊」されたと語った。
ワグネルの実態はほとんど知られていないが、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)で、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領と近い関係にあるエフゲニー・プリゴジン(Yevgeny Prigozhin)氏が関与しているとみられている。
ウクライナ当局はまた、メリトポリ南西の鉄道橋を破壊したと主張した。
メリトポリのイワン・フョードロフ(Ivan Fedorov)市長は、攻撃によって「クリミア(Crimea)半島からの軍用列車は完全に通行できなくなるだろう」と、メッセージアプリのテレグラム(Telegram)に投稿した。
2014年にロシアが併合したクリミア半島は、ウクライナ南部に展開するロシア軍にとって必須の補給基地となっている。
ウクライナ側は、南部で多数の村を奪還しており、ロシア軍をドニエプル(Dnieper)川の対岸に後退させようとしている。

 

●クリミアで再び爆発 ロシア国防省「破壊工作を受けた」  8/17
ロシアが8年前、一方的に併合したウクライナ南部のクリミアで弾薬庫が爆発し、ロシア国防省は「破壊工作を受けた」として、ウクライナ側から攻撃を受けた可能性を示唆しました。クリミアでは今月9日にもロシア軍の基地で大規模な爆発が起きていて、ロシア側は神経をとがらせているものとみられます。
ロシア国防省は国営の通信社に対して「破壊工作を受けた」として、ウクライナ側から攻撃を受けた可能性を示唆したほか、重大事件を扱うロシア連邦捜査委員会は、現場で捜査に着手したと発表しました。
一方、ウクライナ空軍のイグナト報道官は、地元メディアに対し、SNSなどで流れている映像から、ロシア軍の武器や戦闘機の多くが爆発で失われているとする見方を示しました。
また、ウクライナ大統領府のイエルマク長官はSNSで「ウクライナ軍の作戦は領土の占領状態を完全に脱するまで継続される。クリミアはウクライナだ」と投稿しました。
クリミアでは今月9日にも駐留するロシア軍の基地で大規模な爆発があり、ロシア軍の戦闘機などの航空戦力が打撃を受け、アメリカの複数の有力紙は、ウクライナ側が攻撃に関与したという見方を伝えています。
ウクライナでは、ゼレンスキー大統領が今月15日、クリミアの奪還をめざし新たな諮問機関を設置したほか、23日には、各国との協調を図る国際会議がオンラインで開かれる予定で、ロシア側は神経をとがらせているものとみられます。
ゼレンスキー大統領 クリミア奪還へ諮問機関を設置
ウクライナのゼレンスキー大統領は、15日、ロシアが8年前、一方的に併合したウクライナ南部のクリミアの奪還をめざして新たな諮問機関を設置したことを明らかにしました。
新たな諮問機関について、ゼレンスキー大統領は、「奪還に向けた方策とすべてのプロジェクトを調整し、『クリミア・プラットフォーム』の活動を保障するためだ」と述べ、合わせて40以上の国と国際機関の代表が出席し去年8月、初めて開催された国際会議で立ち上げた「クリミア・プラットフォーム」と呼ばれる多国間の枠組みと連動する考えを示しました。
クリミア奪還をめざして各国との協調を図る2回目の国際会議は、今月23日、オンラインで開催される予定で、ウクライナ政府は、南部で反撃を続けるとともに、多国間の枠組みを通じてロシアに圧力をかけるねらいがあるとみられます。
●14年前、意に沿わない国をねじ伏せた ジョージア侵攻でプーチンが学んだこと 8/17
プーチン 戦争への道 2008年8月 ジョージア衝突
世界を混迷に陥れたロシアによるウクライナ侵攻から、間もなく半年が過ぎようとしています。唐突にも見えたプーチン大統領の決断ですが、これまでの経緯を丹念にたどってみると、紆余(うよ)曲折を経ながらも一歩、そしてまた一歩と開戦に向かって進む一筋の道が浮かび上がってきます。

ジョージア(グルジア)中部の都市ゴリは、ソ連の独裁者スターリンの生地として知られる。08年8月11日の午後、私はそこから車で北へ向かった。砲撃音が聞こえ、畑に掘った塹壕(ざんごう)の中に装甲車を隠すジョージア軍部隊が見えた。リヤカーを引いてゴリの方向へ避難する住民らにも出会った。
突然、「バリ、バリ」と銃声が響いた。「逃げろ」。誰かが叫んだ。ロシア軍が地上から侵攻してきたのだ。
3日前の8月8日、遠く離れた北京で五輪が開幕した。その日、ジョージア軍が分離独立派が支配する北部の自国領・南オセチアを攻撃。これに同派の後ろ盾のロシア軍が介入した。ジョージアの首都トビリシ近郊やゴリ、黒海沿岸を空爆し、両国の軍事衝突に発展した。
当時ローマ支局長だった私は、トルコで取材中に東京から連絡を受け、空爆下で最後となる航空便でトビリシに入った。11日は空爆の合間を縫ってゴリで取材し、そこから北上してロシア軍が地上侵攻を始める場面に出くわしたのだった。
ジョージアはウクライナと同じく1991年のソ連崩壊で独立した。政府は一貫して親欧米路線でロシアと対立した。これに対しロシアは90年代初めから民族の違いなどを理由にジョージアからの独立を宣言していた南オセチアなどの地域紛争に介入して分離独立派を支え、ジョージア政府に圧力をかけ続けてきた。
銃撃戦があった夜、ゴリから東へ60キロのトビリシまで戻ると、宿の近くに近所の人が集まっていた。輪の中にいた宿の主人は「ロシア軍がトビリシに突入したら、どうやって娘を逃がすか相談している」と言った。10代の娘がロシア兵にレイプされると本気で恐れていた。
ロシア軍はその夜トビリシの数十キロ手前まで迫っていた。ゴリは占領され、トビリシと黒海沿岸を結ぶ大動脈の幹線道路は遮断。ロシア軍は停戦が発効した後も撤退せず、一方的に「緩衝地帯」と宣言した地域に10月まで駐留した。
ロシアは侵攻後、南オセチアと、同様にジョージアから事実上の分離独立状態にあったアブハジア自治共和国をそれぞれ「独立国」として承認した。ロシアはソ連崩壊後、ロシアの影響下から逃れようとする旧ソ連国に対し、その国の親ロシア的な分離独立派を支援して地域紛争に介入してきた。ただ、この時まで紛争当事国の主権を無視してまで特定の地域を「国家承認」することはなかった。ジョージアの街は反ロシア一色に染まった。当時ロシアのプーチン氏は憲法上の任期制限のために大統領から首相職に回っていたが、トビリシ中心部の歩道にはプーチン氏の顔が多数描かれ、通行人が踏みつけて歩いた。
北大西洋条約機構(NATO)はロシア軍侵攻前の4月に首脳会議でジョージアとウクライナを「加盟候補国」とするのを見送っていた。9月、トビリシの大学で講演した当時のデホープスヘッフェルNATO事務総長に学生らが「加盟候補国になっていれば侵攻は起きなかった」と激しく詰め寄ったのが印象に残る。
NATOは一方でジョージアとウクライナを「将来の加盟国」と位置づけることには合意していた。ただちに両国を加盟交渉開始を意味する候補国とするよう主張した米国に対し、ロシアの反発を恐れる独仏などが抵抗した結果の妥協の産物だった。それでもプーチンは「ロシアの利益が無視されている。NATOは自らの安全保障のためにロシアの安全保障を犠牲にしている」と怒りをあらわにした。欧米各国は、同じ論理を14年後のウクライナ侵攻前にもプーチン氏から繰り返し聞かされることになる。
ロシアはジョージア侵攻の理由に「自国民の保護」をあげた。ロシアは事実上支配下に置いた南オセチアで住民らに以前からロシア国籍を与えていたからだ。
「互いの領土と独立を尊重する」という1991年の独立時に旧ソ連国間で交わされた合意は踏みにじられた。ソ連崩壊で多くの旧ソ連国にロシア系住民が取り残された。ジョージアでのロシアの行動は、今度こうした国々がロシアと争いを起こせば、「自国民の保護」を口実にロシアによる軍事介入や領土割譲の脅威にさらされることを意味した。その懸念は6年後、ウクライナ南部のクリミア半島併合で早くも現実のものになる。
ジョージアに対するロシアの軍事介入は、ジョージアが事実上独立状態にあった南オセチアに軍を侵攻させたことをきっかけに始まった。当時のサアカシュビリ大統領はロシア軍の挑発があったことを強調したが、この経緯は事態を複雑化させた。その後国内でロシアの介入を招いたことに批判を受けたサアカシュビリ大統領は野党弾圧を強め、強引な政権運営を進めた。
欧米はロシアのジョージアへの軍事侵攻や南オセチア、アブハジアの「国家承認」を強く非難したが、12月のNATO外相会議では独仏などの反対でジョージアとウクライナを加盟候補国とすることは再び見送られた。いったん凍結された「NATO・ロシア理事会」も翌09年には再開する。当時NATOは最も力を入れていたアフガニスタンの復興でロシアの協力を必要としていた。
欧米でも、米国や常にロシアの脅威を感じるポーランドやバルト3国と、ロシアとの冷静な関係を望むドイツやフランスとの間には温度差がある。強引な力の行使で欧米との間に亀裂を走らせても、大国間のバランスを利用すれば決定的な孤立は避けられる。ジョージア侵攻は、ソ連崩壊後のロシアが意に沿わない国を直接力でねじ伏せる最初の例となった。プーチン氏はここでウクライナ侵攻につながるルビコン川を渡ったのかもしれない。 ・・・ 
●多数の兵士を無駄死に…プーチン大統領がいまだに暗殺されない本当の理由 8/17
「暗殺されれば平和が戻る」と考えるかもしれないが…
ウクライナへの軍事侵攻を決断したのは、言うまでもなくプーチン大統領だ。今後さらに続けるか撤退するかについても、間違いなく最大の決定権を持っている。
ではもし、プーチンが大統領の座を退くことがあれば、戦闘は一気に終結するのではないか。いっそ暗殺されれば、世界に平和が戻るのではないか。平和を願う誰もが一度はそう考えたかもしれない。まして、身内をロシア軍に多数殺害されて怒りに震えるウクライナの人々なら、それを望むのは理解できる。
その可能性はどこまであるのか、本稿で探ってみたい。もちろん道義的、法的に正しいのか、デリケートな問題でもあるが、国際的にどう議論されているか、また国家間のルールである国際法の観点から思考実験することには相応の価値がある。
ロシア軍によるクーデターはあるのか
ロシア国内でのプーチン政権の転覆、つまりクーデターの可能性はあるのだろうか。
クーデターを起こすには、物理的に政権を掌握しなければならないため、武力を使って実力行使に出る能力が欠かせない。だとすれば軍部、あるいは治安機関、情報機関の高位の人物が関与することが前提条件となる。
歴史を振り返れば、ロシアは帝政ロシアの時代から、ロシア革命、ソ連の崩壊、現代ロシアへと、体制変革を何度も経験してきた。またソ連崩壊後からプーチンが第2代大統領に就任するまでの約9年間の激動期にも、いずれも失敗したもののクーデターは何度も起きている。
1991年には、国防相やKGB議長を含む保守派がクーデターを行うが失敗。初代大統領ボリス・エリツィンが権力を掌握する流れを決定づけた。また93年には、元軍人のアレクサンドル・ルツコイ副大統領がクーデターを画策したが失敗、エリツィン大統領が勝利した。
さらにクーデターと呼ぶほどではないが、98年には退役軍人のレフ・ロフリン将軍が政党を組織して政権掌握を目指したが、別荘にてなぜか妻に銃で殺された。陰謀論など多くの憶測を呼ぶ事態となったが、体制に影響はなかった。
軍やKGB幹部と協力し、失脚に追い込む
成功例を挙げるなら、むしろ体制そのものが強固だったソ連時代のほうが多い。まず独裁者スターリンが死去した直後の1953年、ソ連は集団指導体制に移行するが、中でも事実上の最高権力者となったのがラヴレンチー・ベリア内務相だった。ところがわずか3カ月後、共産党書紀だったニキータ・フルシチョフらによって唐突に権力の座から引きずり下ろされ、その半年後には銃殺された。
このクーデターが成功したのは、フルシチョフらに独ソ戦の英雄でもあるジューコフ将軍など軍の協力があったためとされている。ベリアは内務省のトップだったため、フルシチョフは諜報(ちょうほう)機関の協力を得にくかったようだ。
その11年後の1964年には、フルシチョフも後任のブレジネフにより失脚させられた。このときは軍と諜報機関であるKGBのトップ、ウラジーミル・セミチャストヌイ議長の協力が大きかったと言われている。フルシチョフはセミチャストヌイをKGB議長に任命した張本人だが、裏切られる格好になったわけだ。
軍内部の監視構造では、現在のプーチン体制はどうか。政権が発足してから20年以上が経過し、政治体制が比較的安定していることを考えると、参考になるのは90年代ロシアの不安定期より、ソ連時代の安定期かもしれない。
士気が下がっている軍部に“期待”する声もあるが…
ただし、スターリン以降のソ連時代は集団指導体制だったが、今日のロシアはプーチンに権力が一極集中し、独裁体制である。対抗できる権力者、強い野党指導者なども存在しない。したがって軍も治安機関もすぐに担ぎ上げる人物がいない。その意味では、クーデターの可能性はそもそも低いと言える状態だ。
一部には、軍部からの行動に“期待”する声もある。一連の侵攻計画があまりに杜撰(ずさん)で、ロシア兵に想定外の犠牲が出たことは周知のとおりだ。最前線で戦う身としては、士気も下がり、軍上層部や政権に対する不満も強いと考えられる。いっそ最高司令官さえ消えてくれれば、という発想になったとしても不思議ではない。
しかし、彼らがクーデターを起こす可能性は、今のところ極めて低い。クーデターの可能性が取り沙汰されるたび、セルゲイ・ショイグ国防相などの名前は挙がってくるが、プーチンとショイグはもともと休日をともに過ごすほど親しい関係にある。戦況の悪化を受けて関係が悪化している可能性はあるとはいえ、ショイグがクーデターを起こす可能性は極めて低いのではないか。
また制服組トップのゲラシモフ参謀総長とプーチン、ショイグとの関係についても、プーチンを失脚させる意図を持つほどの大きな対立が生まれているかは不明だ。もっとも、不和が外部に伝わるようではクーデターなど絶対に成功しないだろう。
なぜロシアではクーデターが起きにくいのか
なお、歴史を振り返っても、古くは帝政ロシア時代の1825年に青年将校らが決起した「デカブリストの乱」が失敗して以降、ロシアでは軍によるクーデターはほとんど成功していない。そもそも、内部からクーデターが起きにくいというロシア軍独特の構造がある。FSB(ロシア連邦保安庁)による監視が極めて強いからだ。
FSBは、ソ連時代の1954年に設立された有名なスパイ組織KGBを前身とするロシアの情報機関だが、軍の監視は、KGB時代からの伝統的な任務だ。軍の中に不穏な動きがないか、裏切り者がいないかを、常に軍内部にスパイを潜ませて調べている。
KGBやFSBといえば、若き日のプーチンが所属していたことでも知られる。FSBについては、トップも務めていた。対外的な諜報活動や防諜活動(カウンターインテリジェンス)を担うイメージが強いが、実は身内である軍も監視対象にしているわけだ。
しかもプーチンは大統領に就任すると、情報機関の相互監視を一段と強化させていると見られる。もしクーデターのような不穏な動きを見せれば、たちまち極刑に処せられることは言うまでもない。体制変革に向けて主導的な役割を果たせるような将軍や大佐などの幹部人材はそもそも生まれにくい環境なのである。
もし軍部が何らかの動きを見せることがあるとすれば、それは本当に国家が危機に瀕(ひん)するか、もしくは自分たちの組織の存亡が危うくなったときだろう。
在任が長いほど「代わりの人物」が生まれにくい
ならば、その軍を監視しているFSBが反乱を起こす可能性はないのか。
それも限りなく低いと見られている。軍や官僚など政府内の不穏分子を排除する仕事を担っている以上、自身の組織内部に対しても監視の目を向けているのは当然だ。そもそも職員が互いに監視し合うことを前提とした組織であり、相互不信の精神がなければ務まらない。2〜3人が集まって話すだけでも疑念をかけられ、報告の対象になるとの見方もある。これは、KGBから受け継いだ文化の一つでもある。
実際、先に述べたとおり1991年のクーデター未遂事件はKGB議長が首謀者の1人だったが、行動をともにする部下が少なかったのが失敗の一因とも言われている。そもそも上司と部下、トップと組織の信頼関係が存在しなかった証左だろう。
今日のFSB長官はアレクサンドル・ボルトニコフ。2008年からずっとこの地位にあり、権力基盤は十分安定している。ただ、プーチンの側近中の側近であり、関係も深いので、クーデターを起こすことは考えにくいとされる。
またこれだけキャリアが長いため、今のFSBの中堅・若手職員はボスといえばボルトニコフしか知らない。また国家のトップといえばプーチンしか知らない。仮に不平・不満があっても、代替できそうなボスや指導者、あるいは政策を思いつけないのである。その意味でも、クーデターを引き起こせる環境にはないのかもしれない。
150人を一斉に“粛清”したプーチンの思惑
ただし、開戦から2カ月弱ほどたった4月ごろから、プーチンとFSBの間に大きな緊張が生まれている。明るみに出たのは、FSB情報要員150人が解雇・追放されたためだ。旧ソ連諸国をロシアの勢力圏に留(とど)める任務を持つ「第5局」の職員が中心と見られるが、一部は逮捕されたとの情報もある。また第5局局長のセルゲイ・ベセダ准将、副官のアナトリー・ボリョクらも逮捕され、刑務所に投獄されたとの情報が出ている。これは、ほとんど粛清に近い。
この事態から想像すると、FSBとプーチンの間で、あるいはFSB内部で何らかの権力闘争に近い事態が進行していた可能性もある。プーチン側が何らかの動きを察知して、先手を打ったのかもしれない。
実際に何が起きているかは不明だが、いずれにせよ政権を揺るがすような大事には至らなかった。実はもう一つ、不穏な動きを事前に察知する仕組みがあるからだ。
ロシアには、FSB以外にも複数の治安機関・情報機関が存在する。これらも互いに牽制(けんせい)し合っているのである。例えば以下の組織だ。
監視役を互いに競争させ、台頭を許さない
   FSO(ロシア連邦警護庁)
先にも紹介したが、プーチン大統領の警護などを担う組織。大統領の核兵器発射ボタンへのアクセスを常に確保しておく任務も担う。
   SVR(ロシア対外情報庁)
セルゲイ・ナルイシュキン長官がトップ。開戦直前に開かれた会議で、プーチン大統領に叱責される映像が話題となったが、大統領との関係は非常に深い。
   FSVNG(ロシア連邦国家親衛軍庁)
2016年にプーチンが新設。「ロスグヴァルディア」とも呼ばれる治安維持組織。事実上、プーチンの親衛隊のような組織と見なされている。ウクライナではキーウ攻略戦などに参戦したとも報道されており、12人の要員がウクライナへの派遣を拒否して解雇されたと見られる。
   GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)
ショイグ国防相がトップを務める軍の情報機関。
ざっと挙げただけでも、これだけの組織が存在し、相互に監視している状態だ。特に抜きん出て強大な権限や能力を持つ情報機関は存在しない。組織間の相互不信もあるので、仮にある機関が突出しそうなら、他の機関によって妨害されるだろう。この体制によって利するのはプーチンただ一人だ。組織間で互いに競争させ、抑止させることで、自らの身を守る体制を築いてきたとも言われる。
プーチンを唯一蹴落とすことができる存在とは
ではプーチン政権は盤石かといえば、決してそうでもない。
今のところほぼ唯一、プーチンを蹴落(けお)とすことができる集団があるとすれば、それはウクライナ軍だろう。彼らがどれだけ粘り強く抵抗し、どれだけロシア軍を損耗させるか。国際社会の制裁を長引かせ、どれだけロシアを軍事的にも経済的にも疲弊させることができるか。この一点にかかっているのではないだろうか。
ウクライナ軍の奮闘と西側による経済制裁が相まって、いよいよロシア国内にプロパガンダでは覆い隠せないほどの厭戦(えんせん)ムードが漂い、市民が経済的に困窮すれば、さしものプーチンの地位も危うくなる可能性は出てくる。治安機関も「状況は変わった」と判断するかもしれない。もっとも、それには膨大な時間と犠牲が必要になるだろう。
「ロシア革命」の再来はあるのか
プーチンはしばしば「現代ロシアの皇帝」とも呼ばれる。ロシアの歴史を振り返れば、真の意味での最後の皇帝はロシア帝国のニコライ二世だった。
今から105年前の1917年、彼はロシア革命によってその座を追われ、やがて一家もろとも銃殺された。革命の原動力になったのは、折からの第1次世界大戦による国内の疲弊、そして無数の労働者による決起だった。なんとなく、昨今のロシアと似ている気がしないでもない。
ウクライナでのロシア軍の苦戦、ロシア経済の悪化など、今起こっていることはすべてプーチンの権力基盤の弱体化につながるものであり、決して強化するものではない。時間はかかるだろうが、やがて私たちは「歴史は繰り返す」の故事を目の当たりにすることになるのだろうか。
●ウクライナ「最悪のシナリオは消耗戦」元国防長官が警告 8/17
ウクライナにとっての「最悪のシナリオは長期にわたる消耗戦に陥ること」と指摘する人がいます。
アメリカのオバマ政権時に国防長官やCIA長官を務めた、レオン・パネッタ氏です。アメリカの国防政策の中枢を担ってきたパネッタ氏がこれまでのウクライナ情勢をどう見てきたのか。研究所を置くカリフォルニア州立大学モントレーベイ校でインタビューしました。
ロシアがウクライナに侵攻した背景は?
(以下、パネッタ氏の話)
プーチン大統領が、ここ数年の間に、アメリカとその同盟国の弱体化を嗅ぎ取ったことに疑いの余地はありません。プーチン氏は弱い者いじめをする乱暴者であり、他者の弱みを利用します。プーチン氏がクリミア侵攻やシリア、リビアへの介入、そしてアメリカとその選挙システムへの大胆なサイバー攻撃といった攻撃的な行動に向かった背景にあるのは、「アメリカとその同盟国は弱い」という認識だったと私は見ています。なぜなら彼は一度も、その代償を支払わされてこなかったからです。
そして、プーチン氏がウクライナへの侵略をもくろんでいた時、バイデン大統領がアフガニスタンからの軍の撤退によって求心力を低下させ、アメリカの信頼度への評価が、同盟国内でも割れていることをプーチン氏は目の当たりにしました。ですから、「アメリカは弱い」という認識に基づいて、プーチン氏はウクライナへの侵攻に踏み切ったのです。
ただ、彼が予期していなかったのは、アメリカとNATOの加盟国が長い歴史の中で初めて、結束したことです。そして、侵攻に踏み切れば、ロシアが高い代償を支払うことになることをしっかりと明確に示したことです。
アメリカにもっとできることはなかったのか?
プーチン氏を変える手だてがあったのかどうかは分かりません。元CIA長官として言及しなければならないのは、プーチン氏にまつわる基礎情報は、すべて彼がKGB(旧ソビエトの情報機関)の要員だったということから始まるということです。
彼のアメリカやそのほかの世界に対する見方は、スパイとしてのものの見方です。プーチン氏は常に、アメリカはロシアの安全保障を脅かす存在だと見てきましたし、常にアメリカの安全保障と、私たちの民主主義を傷つけることに身をささげてきました。それがプーチン氏なのです。
プーチン大統領はなぜこうも軍事力に頼るのか?
プーチン氏は弱い者をいじめる暴君です。ヒトラーと同じです。ヒトラーは当時、チェコスロバキアやフランスに侵攻し、ヨーロッパを征服しようとしたわけですが、それも軍事力によってでした。ヒトラーが唯一、重く受け止めたのは、自分自身に対して向けられた軍事力でした。だからアメリカと同盟国は一致して対抗し、ナチスが世界を征服することなど許さないことを明確に示しました。
同じメッセージをプーチン氏にも送らなければなりません。彼は容赦なく主権国家を侵略し、残忍なやり方で無実の住民や子どもたちを殺りくしましたが、そのような戦争には勝つことなどできないというメッセージを送るのです。こうした意味で、ウクライナでの戦争は重要な意味を持つのです。
民主主義陣営に問われることは?
ウクライナでの戦争は、転換点となる戦争です。なぜなら、ウクライナで起きていることは、21世紀の民主主義に何が起こり得るかについて、多くのことを示唆するからです。ウクライナは主権を有する独立した民主主義国家であり、ウクライナの人々は民主主義の下で生きる決断をしました。
プーチン氏の考え方は、市民には、統治の形態を選択する権利などないというものです。ですから、ウクライナでの戦争はまさに民主主義と専制主義の戦いなのです。アメリカとその同盟国が強く結束し続け、ウクライナを支援し、プーチン氏のウクライナを占領するという目標を最終的に打ち砕くことができれば、ロシアだけでなく、中国、北朝鮮、イランなどに対して、「民主主義陣営は結束して専制主義に対抗していくのだ」という重要なメッセージになるのです。
ウクライナでの戦争はこれからどうなる?
アメリカと同盟国が強く結束してウクライナを支援し続けることが非常に重要です。私たちはすでにロシアに強力な経済制裁を科し、ロシアの外貨建て国債は1918年以来の債務不履行に陥りました。いま、ロシア経済は打撃を受けているのです。
もう1つ重要なのは、ウクライナにとって必要な武器の提供を続けることです。それも高性能な武器、特にロシアのミサイルを撃ち落としたり、発射拠点を叩いたりすることができるシステムの提供です。
無人機や弾薬の供給も必要です。いま起こりうる最悪のシナリオは、この戦争が長期にわたる消耗戦に陥ることです。なぜならそれはまさにプーチン氏がもくろんでいることだからです。プーチン氏は、アメリカとその同盟国の力を時間をかけて弱らせようとしています。そうなるのを許してはならないのです。私たちは強く、結束していなければならず、ウクライナがロシアを確実に押し戻せるよう、必要なあらゆる対策を講じるべきなのです。それこそが今まさにやらねばならない最も重要なことです。
日本などがいま取り組むべきことは?
ウクライナで起きたこと、そしてアメリカとNATOが協力してロシアに対抗したことから得られた教訓は、アメリカが日本や韓国、オーストラリア、インド、そしてASEANなどと協力して、太平洋地域にNATOのような枠組みを作り出さなければならないということです。そのことが、中国に対する非常に強力なメッセージになるのです。そうすれば、中国はもはや、南シナ海や台湾で、自分たちがやりたいようにやることはできなくなります。中国が世界の一部を自分たちの思いのままにできなくなれば、中国経済の成功は、究極的にはアメリカやその同盟国などと協力して、太平洋に平和と繁栄がもたらされるよう努力することによってしかもたらされないということになります。
中国に許してはならないのは、プーチン氏が犯したのと同じ間違いをさせることです。つまり、アメリカとその同盟国のことを「弱い」と思わせることです。中国には力を背景に向き合うべきで、アメリカと同盟国がまとまって、よりよい安全保障環境を生み出せば、軍事力によって中国が太平洋を支配することなどできないことが明確にできます。
ウクライナでの戦争はいつ終わる?
戦争には終わりがあるということに疑問の余地はありません。それがいつなのかが今、焦点なのですが、いずれ終わりを迎えます。プーチン氏は当初、ウクライナに侵攻して2日以内に首都を制圧してウクライナ政府を転覆させられると考えながら、それを達成できませんでした。私はそのこと自体が、最終的にはロシアに敗北をもたらすと見ています。しばらく時間はかかるかもしれません。しかし、プーチン氏はウクライナでの戦争に踏み切る決断をしたことにより、最終的には弱体化します。その結果、ロシアの力は弱まることになるでしょう。
●ザポリージャ原発 相次ぐ周辺での砲撃 安全性への懸念強まる  8/17
ウクライナ南部では、ロシア軍とウクライナ軍の攻防が激しくなっています。ヨーロッパ最大規模の原子力発電所・ザポリージャ原発の付近で攻撃が相次ぎ、原発の安全性への懸念がいっそう強まっています。IAEA=国際原子力機関は、原発の視察や調査を求めていますが、原発を掌握しているロシア側と隔たりがあり、早期の視察が実現するか不透明な情勢です。
●ウクライナ軍、ロシア軍の大型偵察ドローン「Eleron T28ME」初撃破 8/17
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。そして両軍でドローンの撃墜が繰り返されている。
2022年8月にはウクライナ軍がロシア軍の大型監視・偵察ドローン「Eleron T28ME」を破壊した写真を公開した。ウクライナ軍によると「Eleron T28ME」が撃破された写真は初めてとのこと。「Eleron T28ME」はロシア軍の偵察ドローン「Eleron-3」の大型版で5キロメートル上空での3時間の飛行が可能。
ロシア軍は主にロシア製の偵察ドローン「Orlan-10」で上空からウクライナの監視・偵察を行っている。またロシア製の攻撃ドローン「KUB-BLA」や「ZALA KYB」で攻撃を行っている。これらのドローンが撃破された残骸の写真はよく公開されているので頻繁に見かける。
2022年2月にロシア軍が侵攻してから、攻撃ドローンや監視・偵察ドローン合わせて約750台のロシア軍のドローンがウクライナ軍によって撃破されている。
上空のドローンを迎撃するのは、電波を妨害(ジャミング)してドローンの機能を停止させるいわゆる"ソフトキル(soft kill)"と、対空機関砲のように上空のドローンを爆破させる、いわゆる"ハードキル(hard kill)"がある。爆弾などを搭載していない小型の監視・偵察ドローンならばジャミングで機能停止させる"ソフトキル"で迎撃できるが、中型から大型の攻撃ドローンの場合は対空機関砲や重機関銃のような"ハードキル"で上空で爆破するのが効果的である。
地対空ミサイルシステムや防空ミサイルのような大型システムで監視ドローンを攻撃して爆破させるのはコストもかかるし、大げさかと思うかもしれない。しかし監視ドローンこそ検知したらすぐに破壊しておく必要がある。監視ドローンは小型でも大型でも「上空の目」として戦場では敵の動向をさぐるのに最適である。
監視ドローンで敵を検知したらすぐに敵陣をめがけてミサイルを大量に撃ち込んでくる。監視ドローンとミサイルはセットで、上空の監視ドローンは敵からの襲撃の兆候である。また部品を回収されて再利用されないためにも徹底的に破壊することができる"ハードキル"の方が効果がある。
●中国軍、ロシアの演習に参加=対米連携アピールへ 8/17
中国国防省は17日、ロシアが30日から極東で実施する大規模軍事演習「ボストーク(東方)2022」に中国軍が参加すると発表した。「ボストーク」は4年ごとに行われ、中国軍は前回2018年の演習に初参加した。中ロの軍事的連携を誇示する狙いがあるとみられる。
中国国防省は「各国軍との友好協力を深め、戦略的連携水準を高め、脅威への対応能力を強化する」のが目的と説明。米国などの警戒を見越し、中国の参加は「今の国際・地域情勢と無関係だ」と強調した。中ロ主導の上海協力機構(SCO)加盟国のインドやタジキスタンなども参加する。 
中ロの連携は深まっており、魏鳳和国務委員兼国防相は16日、モスクワ国際安全保障会議でのビデオ演説で「各国は共に覇権行為を拒む必要がある」と対米連携を訴えた。ペロシ米下院議長の台湾訪問を批判しながら「中国軍はあらゆる敵に勝つ自信と勇気がある」とも主張した。
同会議ではロシアのプーチン大統領もビデオ演説し、ペロシ氏の訪台を「計画的な挑発」と非難。中国外務省の汪文斌副報道局長は17日の記者会見で、プーチン氏の発言を「高く評価する」と称賛した。
●エストニア、ソ連時代の記念碑を撤去 ロシア国境の都市で物議 8/17
バルト三国のエストニアは、公共の場にあるソ連時代の記念碑などを撤去することを決めた。ロシアのウクライナ侵攻を受け、「社会でさらに敵意をあおり、古い傷をこじ開ける」ことを防ぐための措置だという。
ロシア国境のナルヴァに設置されていたソ連の戦車「T-34」のレプリカは、エストニア戦争博物館に移送される。同国第3の都市ナルヴァでは、人口6万人のうち97%がロシア語話者だ。
エストニアは、ソ連崩壊後の1991年に独立した。
公共放送ERRによると、ナルヴァの戦車のレプリカは16日午前に撤去され、軍のトレーラーで運ばれた。当局は戦車周辺のほか、市内の他の記念碑へのアクセスを制限しているという。
エストニアは、ロシアのウクライナ侵攻によって、特にナルヴァで緊張感が高まっていると懸念している。
カヤ・カラス首相は声明の中で、「ロシアが過去を利用してエストニアの平和を阻害するようなことは許さない」と述べた。
「ナルヴァの記念碑をめぐる緊張感や混乱の加速を受け、我々は迅速に公共の秩序と国内安全保障の確保に努めなければならない」
ウルマス・レインサル外相は、ソ連時代の記念碑は、ロシア占領時代を美化するのもので、エストニアの公共の場にはふさわしくないと述べた。
戦車に加え、第2次世界大戦墓地も移転され、「中立的な墓碑」が建てられるという。政府は、この問題も緊張を高めるかもしれないと認めている。
ロシアは反発
ロシアは先週、エストニアのこうした計画に怒りを表明。ウラジーミル・プーチン大統領の報道官は、「これは歴史、ましてや共通の歴史に対する戦争であり、ヨーロッパをファシズムから救った人々のための記念碑を廃棄することは、もちろん言語道断だ」と述べた。
エストニアはさらに、ロシア国民に発行している推定5万件の渡航査証(ビザ)を無効にするとしている。
レインサル外相はこれについて、「ウクライナの地で行われている残虐行為に対して、ロシア社会もまた、消極的な道徳的責任を負っていることを認めなければならない」と説明した。
ラトヴィア、リトアニア、チェコもロシア国民へのビザ発行の大半を停止している。フィンランドはロシア国民へのビザ割り当てを10%縮小した。

 

●ウクライナはロシアの補給線を狙う戦略、奪還への大規模攻勢には慎重 8/18
ウクライナ軍はここ数週間、戦略的に重要な地域やヘルソン市を占領するロシア軍の補給線を組織的に狙う戦術をとっている。だからと言って、奪還に向けた大規模な攻勢が近いという意味ではない。
米国や欧州から新型兵器を供給されてはいても戦力的に劣勢のウクライナ軍は、ドニエプル川に面し戦争初期にロシア軍の手に落ちたヘルソン市への大規模な攻撃を今のところ避けている。代わりに注力しているのが敵を消耗させる作戦で、米国が供給した高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」など長距離兵器でヘルソン市西岸にあるロシア軍の補給に利用される橋などを相次ぎ破壊した。
ウクライナは南部の反転攻勢を準備している可能性が高いが、前進できる自信があり、ロシア軍の兵站(へいたん)や補給線にさらなる打撃を与えられる場合にのみ実行するだろうと、事情に詳しい西側当局者2人が語った。前進すれば攻撃を受けやすくなるリスクもあるため、ウクライナ軍は慎重だという。
戦争開始から6カ月近くが過ぎ、ウクライナ東部ドンバス地方の完全制圧に向けたロシア軍の進軍は遅々としている。一方でヘルソン州ではウクライナ軍の圧力が強まり、ロシアは南部戦線への兵力増強を余儀なくされた。ヘルソン市西岸のロシア軍をおびき出し分断する戦略は、奪還への猛攻撃ではなく、占領軍を消耗させる数週間もしくは数カ月にも及ぶ長期的な戦いの先触れである可能性がある。
ウクライナがヘルソンを数カ月以内に奪還する「可能性」はあるが、それより早い時期に実現する公算は小さいと、アレストビッチ大統領府長官顧問は10日のインタビューで述べた。ウクライナの領土の「完全な解放」を達成するため、戦争は少なくとも新年まで、恐らく来年夏まで続くかもしれないとの認識も示した。
●国連事務総長がウクライナに到着 クリミア爆発で緊張続く 8/18
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部のクリミアで起きた爆発についてロシア側は、アパートや住宅あわせておよそ80棟が被害を受けたと明らかにするとともにウクライナ側が攻撃に関与したという見方を示しました。現地で緊張した状況が続く中、国連のグテーレス事務総長がウクライナ西部に到着し、ゼレンスキー大統領などと会談を行うことにしています。
ウクライナ南部のクリミア半島では16日、北東部にある弾薬庫で爆発があり、8年前にクリミアを一方的に併合したロシアの国防省は、破壊工作を受けたことを認めました。
ロシア側の消防当局は17日、この爆発で近くの町にあるアパート9棟と住宅およそ70棟が屋根や窓が壊れるなどの被害を受けたと明らかにしました。
またロシア側の地元議会の議長はロシアメディアに対し「このような破壊工作には当然ウクライナ政府が関わっている」と述べ、ウクライナ側が攻撃に関与したという見方を示しました。
ウクライナ政府は公式に関与を認めていませんが、ポドリャク大統領府顧問はイギリスの有力紙ガーディアンのインタビューで「われわれの戦略は補給路や弾薬庫を破壊し軍を混乱させることだ。今後2、3か月の間にさらなる攻撃が行われる可能性がある」と述べました。
クリミアをめぐっては、ロシアのプーチン大統領が「われわれの歴史的な土地だ」と主張して譲らず、前の大統領で、安全保障会議のメドベージェフ副議長は先月「クリミアへの攻撃などが起きれば、ウクライナは瞬時に破滅的な状況にさらされる」などと威嚇しています。
クリミアでは今月9日にも駐留するロシア軍の基地で大規模な爆発が起きるなど緊張した状況が続いていますが、こうしたなか国連のグテーレス事務総長が17日、ウクライナ西部のリビウに到着しました。
18日にはウクライナのゼレンスキー大統領、トルコのエルドアン大統領と三者で会談するほか、ゼレンスキー大統領との間では個別の会談も予定されていて、ウクライナ情勢をめぐる緊張緩和に向けた取り組みなどについて意見を交わす見通しです。
国連副報道官「農産物輸出、原子力発電所、緊張緩和が議論に」
国連のグテーレス事務総長は17日、ウクライナ西部のリビウに到着し、18日にはウクライナのゼレンスキー大統領、トルコのエルドアン大統領と三者で会談するほか、ゼレンスキー大統領との間では個別の会談も予定されています。
これについて国連のハク副報道官は17日の定例会見で「事務総長は農産物の輸出やザポリージャ原子力発電所の問題、現地の緊張緩和のために取り組んでおり、これらが議論の一部になるだろう」と述べ、ウクライナ情勢をめぐってさまざまな懸案について意見を交わすことになるという見通しを示しました。
●ロシアが住宅攻撃、6人死亡 北東部ハリコフ―ウクライナ 8/18
ウクライナ北東部ハリコフで17日、ロシアの攻撃でアパートが崩壊し、ハリコフ州のシネグボフ知事によれば、少なくとも6人が死亡、16人が負傷した。
ゼレンスキー大統領は通信アプリのテレグラムで、攻撃について「正当性がなく、侵略者の無力ぶりを示している」と非難。「われわれは決して忘れず、報復する」と強調した。
ハリコフでは15日にもロシア軍の砲撃があり、警察当局者によると1人が死亡、6人が負傷した。
●ウクライナ情勢の影響で米原油輸出が過去最高を記録=米国株 8/18
日本時間の23時半に米週間石油在庫統計が発表になっていたが、原油在庫は705万バレル減となり、原油相場は買いで反応している。一方、米国の原油輸出が過去最高を記録したことも明らかとなった。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて欧州がロシア産原油の輸入を禁止する前に、欧州の精製業者は新たな供給ルートの確保を急いでいることが反映された格好。週間の米原油輸出は日量500万バレルに達し、わずか1カ月前に記録した過去最高水準を上回った。
●イスラエルとトルコ首脳が電話会議 外交関係改善で合意  8/18
中東のイスラエルとトルコの首脳が電話会議を行い、パレスチナ問題などをめぐって悪化していた外交関係を改善させることで合意しました。両国は東地中海でのガス田開発の連携など共通の思惑があり、今後どこまで経済関係を強化できるかが焦点です。
イスラエルとトルコは2010年、パレスチナのガザ地区に向かっていたトルコの市民団体の船がイスラエル軍に拿捕されたことなどを受けて外交関係が断絶状態に陥るほど悪化していましたが、ことし5月には15年ぶりに外相会談を行うなど関係改善に向けた動きが進められていました。
こうしたなか17日、イスラエル政府は、ラピド首相とトルコのエルドアン大統領が電話会談を行い、外交関係を完全に改善することで合意したと発表しました。
ラピド首相は声明で「トルコとの完全な関係改善は地域の安定強化に寄与し、イスラエルにとって経済的にも良いニュースだ」と意義を強調しました。
またトルコのチャウシュオール外相も「イスラエルに駐在する大使を任命する予定だ」と述べていて、両国は今後互いに大使を復帰させ、外交関係の改善を進めることになります。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻以降、ヨーロッパでロシアに代わるエネルギーの供給源を探す動きが広がるなか両国は東地中海でのガス田開発の連携など共通の思惑があり、今後どこまで経済関係を強化できるかが焦点です。 
●ウクライナ、戦闘は「戦略的膠着状態」 国連総長の訪問控え 8/18
ウクライナ軍は18日、南部ヘルソンでロシア軍を撃退したと発表した。一方、北部ハリコフではロシア軍による砲撃があり、7人が死亡した。
国連のグテレス事務総長は同日、ウクライナ西部の都市リビウで同国のゼレンスキー大統領、およびトルコのエルドアン大統領と会談する。
ウクライナのオレクシー・アレストビッチ大統領顧問は動画で「先月以来、ロシア軍の前進は最小限にとどまっており、われわれが前進した場面もあった」と指摘。「われわれが目にしているのは『戦略的膠着状態』だ」と述べた。
ウクライナ当局によると、第2の都市ハリコフの住宅街で17日夜、ロシアによる砲撃があり、7人が死亡、16人が負傷。ゼレンスキー氏はメッセージアプリ「テレグラム」で、「これは市民に対する正当性のない攻撃だ」と非難した。
ウクライナの軍事アナリスト、オレグ・ジダーノフ氏によると、ヘルソン北東のビロヒルカ町付近でウクライナ軍がロシア軍の進撃を阻止した。
ウクライナ軍は29人を殺害したほか、大砲、装甲車、軍需品倉庫を破壊したと発表した。
ロイターは戦況報告を独自に確認できなかった。
米国、アルバニア、フランス、アイルランド、ノルウェー、英国はウクライナ戦争の影響を議論するため、ロシアの侵攻から6カ月となる24日に国連安全保障理事会を開催するよう要請した。複数の外交筋が明らかにした。
ロ黒海艦隊の司令官交代
一方、ロシア通信(RIA)は17日、ロシア黒海艦隊の新司令官にビクトル・ソコロフ氏が就任したと関係筋の情報として伝えた。これまで司令官を務めていたイーゴリ・オシポフ氏は解任されたもようで、この情報が確認されれば、ロシアのウクライナ侵攻開始以降で最高位の軍幹部の解任となる。
また、国連が仲介した穀物輸出協定に基づき、ウクライナから新たに3隻の穀物船が17日出港した。協定に基づいてウクライナを出港した船は24隻となった。
●アメリカ、ゼレンスキーに不信感 習近平に救援を求めたのは大失点か 8/18
そうでなくとも対ウ支援金の30%しか戦地には届かず汚職にまみれているとみなし始めたアメリカでは、ゼレンスキーの習近平に対する救援表明で、すっかり信頼が揺らいでいる。「笑う習近平」が現実味を帯びだした。
習近平に助けを求めたゼレンスキー
8月4日付の香港のSouth China Morning Post(サウスチャイナ・モーニング・ポスト、南華早報)は、ウクライナのゼレンスキー大統領に単独インタビューをして<独占 ゼレンスキーは、ロシアのウクライナ侵略を終わらせるために中国の習近平との「直接会談」を求めている>というタイトルの英文情報を発表した。
そこには概ね以下のようなことが書いてある。
1.ゼレンスキーは、中国と他の国々がウクライナの復興を支援するために「団結」することを望んでいる。とりわけ、習近平はロシアのプーチンに紛争を終わらせるよう圧力をかけるだけの、途方もない政治的・経済的影響力を持っているとゼレンスキーは考えている。そのため、ゼレンスキーは習近平と「直接」話す機会を求めている。
2.そもそもウクライナと中国は、ウクライナ紛争が始まる何年も前から、一貫して緊密な関係を保ってきたし、「1年前には習近平国家主席と直接会話をしたことがある」とゼレンスキーは言った。中ウ両国は30年にわたる正式な二国間関係があり、2021年になっても、中国はウクライナ最大の貿易相手国であり、在中国ウクライナ大使館の数字によると、貿易売上高は約190億米ドルに上った。
3.ゼレンスキーは、「習近平はウクライナを少なくとも一度は訪問した数少ない世界の指導者の一人であり、昨年の中ウ国交締結30周年記念で両首脳は電話会談をし、ウクライナは東欧諸国へのかけがえのない橋渡しの役割をしてることを確認し合った。
4.戦争で荒廃した国の再建に中国の支援を歓迎するか否かという質問に対して、」ゼレンスキーは「中国とのより強い絆に基づいて、戦争で荒廃した国の再建を中国に支援してほしいと考えている。中国企業と全世界が再建のプロセスに貢献することを強く望んでいる」と答えた。
5.さらにゼレンスキーは「全世界がこのプロセスで団結することを強く望む」とした上で、「私はロシアの専制政治に対抗して全世界を一つに統一することに集中したい。ある国は助けているが、別の国はそうではないという、団結を弱体化させるようなことをせずに・・・」と語った。
6.ゼレンスキーは、「ロシアのための中国市場がなければ、ロシアは完全な経済的孤立に陥っていただろう。中国は、ロシアとの貿易を制限すべきで、それは中国にできることだ」と言った。
7.モスクワは、「キエフがウクライナ東部でロシア語話者を虐待しているので、侵略は正当である」と主張している。今週初めの南方早報の単独インタビューで、シンガポール駐在のロシア特使ニコライ・クダシェフは、「欧米の非難にもかかわらず、アジアにおけるモスクワの地位は揺るぎなく、ロシアを孤立させる努力は失敗した」と付け加えた。
8.北京当局者は、欧米がウクライナのロシアに対する悪意を煽り、戦争を勃発させる上で大きな役割を果たしたと示唆している。
記事の概要は以上だが、南華早報は北京寄りのメディアなので、7や8には、中国目線の内容も盛り込まれている。
中国外交部の反応
中国の外交部は8月4日夕刻の定例記者会見の模様を以下のように公表している。
ロシアの記者が「ゼレンスキーがサウスチャイナ・モーニング・ポスト(南方早報)の取材を受けて、習近平主席と直接対話をして、ウクライナ紛争に関して討論したいと言っているが、中国は何か、このことに関して決めているか」と質問した。
すると華春瑩報道官は「中国はウクライナ危機に関して、ウクライナを含む関係者と緊密なコミュニケーションを維持している」とのみ答えて、記者の質問に対する直接の回答は避けた。
拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』でも縷々(るる)述べたように、中国は旧ソ連崩壊の時点からウクライナとは非常に仲が良く、特に軍事技術の全てを吸収しようというほど、ウクライナの軍事関係の技術者を最優遇してきた。習近平政権になってからは、「一帯一路」のヨーロッパへの架け橋となる拠点として、ことのほかウクライナを大事にしてきたので、ゼレンスキーが言うのはもっともなことではある。
特に戦争によって破壊された都市の再建に関しては、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』を執筆していた3月時点で、すでに駐ウクライナの中国大使とは話し合いができていたことは拙著で書いた通りだ。
したがって、これもまたゼレンスキーの言う通りではあるのだが、しかし、南華早報の概要の5や6に書いているように、何というか、「世界はウクライナのために、こうすべきだ!」というニュアンスのメッセージは、世界から「上から目線」として、「ゼレンスキー疲れ」現象を招いていることも否めない。
アメリカでは又、まったく別の角度からの「ゼレンスキー疲れ」現象が表れ始めている。
ニューヨーク・タイムズが書いた「ホワイトハウスとゼレンスキーの間の不信感」
まだ南方早報のゼレンスキーへの単独取材が報道される前の8月1日、アメリカのニューヨーク・タイムズが<ペロシの台湾訪問が全く無謀な理由>という見出しの評論を載せているのだが、そこにはチラッと There is deep mistrust between the White House and President Volodymyr Zelensky of Ukraine — considerably more than has been reported.(ホワイトハウスとウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との間には、報道されているよりも遥かに多くの、深い不信感がある)と書いている。
具体的には何か、に関しては書いてないのだが、8月6日、アメリカの民主党寄りのCBSニュースが<ウクライナに対するアメリカの軍事援助の30%だけしか最前線に届いてない>とツイートしながら、その後すぐにそのツイートを削除した。
すると8月8日、アメリカの共和党寄りのFOXニュースが<CBSニュースは、「ウクライナに対するアメリカの軍事援助の約30%だけしか最前線に届いていない」というツイートを削除した>というタイトルでウクライナの腐敗問題を報道した。要は、ウクライナは腐敗にまみれていて、アメリカ国民の血税はウクライナの腐敗分子を肥え太らせているだけだという趣旨のことが書いてある。
ニューズウィークが大々的にゼレンスキー批判を展開
それらが本格的なゼレンスキー批判へと発展していったのは、何と言ってもアメリカのニューズウィーク(英語版)が8月10日に報道した<ゼレンスキーの物語は変化しつつある>という記事だと言っていいだろう。
「ウォロディミル・ゼレンスキーは、ますます彼の本性を明らかにしている」という書き出しからして衝撃的だ。
結論は「プーチンは凶悪犯で、ゼレンスキーは腐敗した独裁者だ」ということなのだが、その証拠の一つとして、ゼレンスキーがプーチンと同じように、ウクライナのすべての野党メディアを閉鎖し、野党の政党結成を禁止したことを挙げている。またCBSが報道しておきながら削除したように、ウクライナは腐敗に満ち、ゼレンスキーはアメリカの納税者から巻き上げた何千億ドルもの金を戦場の最前線や国民の命を守るためには使わず、「世界はもっとウクライナを支援すべきだ」と大声で呼びかけ、結局は戦争をエスカレートさせていると非難している。
最も許せないのは、ゼレンスキーが香港に本拠を置くサウスチャイナ・モーニング・ポスト(南華早報)とのインタビューで習近平に救いを求めたことだと、怒りが収まらない報道ぶりだ。「ゼレンスキーは公然とアメリカの最も危険な敵、中国共産党を勧誘している。専制的で虐待的な北京へのこの哀れなアピールで、ゼレンスキーは人権の模範のような振りをした信頼を完全に失っている」と手厳しい。
そもそも習近平は、プーチンからの大規模な石油購入を通じて金儲けをしているのであり、その習近平にウクライナ戦争に対して直接資金を提供するよう乞い願うというのは、戦争の両陣営に通じているようなもので、正気の沙汰ではない。
そうでなくとも、アメリカが国民の血税からウクライナに540億ドル以上を送る中、NATOの同盟国とされる連中は、ロシアのエネルギーを得るために、プーチンに一日に最大10億ドルを送っているのだ。ウクライナの戦いは重要なアメリカの国益を伴わない。バイデンの介入はアメリカに害を及ぼし、黒海寡頭支配者の戦いで駒となったウクライナ国民の窮状を悪化させるだけだ。
ニューズウィークは概ねこのように論理展開し、「プーチンは凶悪犯で、ゼレンスキーは腐敗した独裁者だ」と結んでいる。
筆者は『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の帯で「狂気のプーチン、笑う習近平」と書いたが、どうやら、それが現実になりつつある雲行きだ。
●“クリミアで相次ぐ爆発 ウクライナが関与” 米CNN  8/18
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部のクリミアで相次ぐ爆発について、アメリカのCNNテレビはウクライナ政府の内部報告書をもとにウクライナが関与したと伝えました。
緊迫した状況が続く中、国連のグテーレス事務総長がウクライナに到着し、18日にゼレンスキー大統領などと会談を行うことにしています。
ウクライナ南部のクリミア半島では先週以降、駐留するロシア軍の基地や弾薬庫で爆発が相次いでいます。
8年前にクリミアを一方的に併合したロシアは、16日の弾薬庫での爆発について破壊工作を受けたとしていますが、ウクライナ政府は公式に関与を認めていません。
こうした中、CNNテレビは17日、ウクライナ政府で共有された内部報告書の内容をもとに、一連の爆発についてウクライナが関与したと伝えました。
CNNによりますと、報告書でウクライナ側は「今月9日の爆発はロシアにとって痛手だが一度きりの損失だった」とした一方「その後の攻撃はクリミアを標的とするウクライナの組織的な軍事能力の証拠だ」と説明していると伝えています。
一方国連のグテーレス事務総長は17日にウクライナ西部のリビウに到着しました。
18日にはウクライナのゼレンスキー大統領、トルコのエルドアン大統領と三者で会談するほか、ゼレンスキー大統領との間では個別の会談も予定されていて、ウクライナ情勢をめぐる懸案について意見を交わす見通しです。
東部ハルキウ ロシア軍が集合住宅を砲撃
ウクライナの非常事態庁は17日、ウクライナ東部のハルキウで3階建ての集合住宅がロシア軍による砲撃を受け、少なくとも7人が死亡し16人がけがをしたとSNSで明らかにしました。
現地からの映像では、激しく燃える建物に向かって消防隊が放水する様子が確認できます。
住民の女性は「バンという音がして、灰色の煙が立ちこめた。階段が崩れかけていて住民たちは助け合っていた。ここには50人ほどが住んでいる」と話しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は攻撃を非難する声明をSNSに投稿し、「住民に対する非道な攻撃で、決して正当化できない。民間人への攻撃は侵略者の無力さを示している。私たちは必ず報復する」と述べています。
●ロシア軍、クリミアから戦闘機24機など撤収…軍用飛行場の爆発受け  8/18
ウクライナ国防省情報総局は17日、ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミアの軍用飛行場から、少なくとも戦闘機24機とヘリコプター14機を撤収したとSNSに投稿した。軍用飛行場などで起きた爆発を受けた措置だという。
爆発は、今月9日にサキ軍用飛行場で、16日には北部の弾薬保管場で、それぞれ発生した。ロシア軍は爆発で軍用機9機を失ったとみられ、さらなる損失を防ぐため、戦闘機などの撤収を決めた模様だ。爆発の原因は明らかになっていないが、ウクライナ大統領府顧問はウクライナ側の関与を示唆し、露軍の関連施設での爆発は続くとの認識を示している。米CNNもウクライナ側の関与があったと報じた。CNNが入手したウクライナ政府の報告書によると、9日の爆発は手応えがあったが、露軍にとっては一時的な損失にとどまったとの見方が示されているという。
ロシア通信は17日、露軍の黒海艦隊に新任の司令官が着任したと伝えた。軍関係者には伝えられたが、公表はされていないという。前任の司令官は、4月に海軍旗艦の大型巡洋艦「モスクワ」が黒海沖で多数の死傷者を出して沈没した後、更迭されていた。
ウクライナ軍は南部で攻勢を強めている。ウクライナ軍は17日、ロシア軍が全域制圧を宣言している南部ヘルソン州の軍事拠点を攻撃し、露兵10〜15人が死亡したとSNSに投稿した。
一方、ウクライナ東部ハルキウの州知事は17日、露軍が住宅街を攻撃し、6人が死亡、16人が負傷したとSNSで明らかにした。負傷者には11歳の少女も含まれるという。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はSNSで、「ミサイルによる攻撃だ。市民への卑劣な攻撃は正当化できない。報復する」と述べた。
●国連事務総長との三者会談前にウクライナとトルコの大統領会談  8/18
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、ウクライナを訪れている国連のグテーレス事務総長とゼレンスキー大統領、それにトルコのエルドアン大統領の三者による会談が行われるのに先立って、ゼレンスキー大統領とエルドアン大統領が個別に会談を行いました。
ウクライナ西部リビウでは、18日、現地を訪れている国連のグテーレス事務総長と、ゼレンスキー大統領、それに同じく現地を訪れているトルコのエルドアン大統領との三者による会談が行われます。
トルコの政府系通信社アナトリア通信は、これに先立ってエルドアン大統領とゼレンスキー大統領が会談したと伝えました。
18日は、国連のグテーレス事務総長とゼレンスキー大統領との個別の会談も予定され、ロシア軍が掌握する南東部にあるヨーロッパ最大規模のザポリージャ原発やその周辺で攻撃が相次ぎ、原発の安全性への懸念が深まっていることから安全確保について協議すると見られます。
そして、グテーレス事務総長は、ゼレンスキー大統領、エルドアン大統領との三者会談では、世界的な食料危機への懸念が続く中、ロシアとウクライナがトルコと国連の仲介で合意し、再開した農産物の輸出の継続に向けて意見を交わすということです。
三者会談を前にトルコ側は「戦争の終結に向けた可能性を協議する」としていて、長期化する戦闘の終結に向けた道筋が見いだせるかも注目されます。
ロシア 南部クリミア半島の航空機など移動
ウクライナ国防省の情報総局は17日、ロシアが一方的に併合した南部クリミア半島にあるロシア軍の基地などで爆発が相次いだあと、ロシア軍が少なくとも航空機24機とヘリコプター14機を、ロシア本土や半島内の別の飛行場に移動させていると発表しました。
イギリス国防省などは爆発で戦闘機が破壊され、ロシア軍の航空戦力が低下したと指摘しており、さらなる損害を防ぐため、移動させた可能性もあるとみられます。
●経済制裁どこ吹く風。世界の石油市場を支配するプーチンの恐ろしさ 8/18
プーチンは世界の石油市場を支配している
ご存じのように2022年2月24日、ロシアが隣国ウクライナへの侵攻を開始しました。ウクライナがNATOに加盟申請することに、ロシアは強硬に反発しており、実力行使に出たのです。世界がまだ新型コロナによるダメージから抜け出せていない中で、世界経済はさらにダメージを受けることになりました。
ウクライナ侵攻が始まると、NATOなどの欧米諸国は、ロシアに厳しい経済制裁を科しました。そうすることで、ロシア経済を破綻に追い込み、ロシア内部からウクライナ侵攻を止めさせようというわけです。
アメリカを中心とする西側諸国はロシアからの石油、天然ガスなどの輸入を縮小し、ロシアに進出している企業などが相次いで営業停止や撤退を決定しました。またロシアの中央銀行や高官などがアメリカやその同盟国に置いている資産を凍結しました。
この資産凍結というのは、国際貿易を行う上で非常に強力な影響を持っています。世界の国々は貿易の決済を行うために、他国の銀行などに外貨などを置いているものです。特にアメリカには、多額の外貨が置かれています。その外貨などが使えなくなってしまうので、貿易が非常にやりにくくなってしまうのです。
戦前の日本は、アメリカからこの資産凍結をされてしまったために、開戦を決断したほどです。ロシアは、6,000億ドル(約80兆円)ほどの外貨を持っていたのですが、この資産凍結のためにその半分以上が使えなくなったと見られています。これらの経済制裁により、ロシア経済はすぐに崩壊するのではないかと予測する専門家なども多数いました。が、案に反し、ロシア経済は、持ちこたえています。
経済制裁が発動された当初、ロシアの通貨であるルーブルは大幅に下落しました。それまで1ドル=80ルーブルほどの相場だったので、経済制裁発動後の3月7日には1ドル=150ルーブルにまで価値を下げたのです。ルーブルの価値は約半分になったわけです。が、ルーブルの為替相場はすぐに持ち直し、4月の半ばにはほぼ制裁前の水準に戻りました。
その大きな理由はロシア経済が意外に盤石だからです。ロシアは莫大な天然資源があり、広大な農地もあります。それは国内の需要を満たすだけではなく、世界中に輸出され、世界経済の一翼を担っています。もし経済制裁を受けても、最悪自給自足ができる国なのです。日本などは経済制裁を受ければ資源不足のためにすぐに干上がってしまいますが、ロシアはそういうことはないのです。ロシアはGDPの規模からいえば世界で11位であり、韓国よりも下です。が、GDPでは計れない国の地力の強さを持っているのです。
というより、ロシアは世界の石油市場を支配しているといってもいいほどの影響力を持っているのです。
石油輸出シェアの大半を握るOPECプラスとは?
現在、世界の石油市場に大きな影響力を持つ組織として「OPECプラス」というものがあります。OPECプラスというのは、OPECにプラスして産油国数カ国が加わった組織です。OPECの拡大版というわけです。
このOPECプラスの主要メンバーは、サウジアラビアとロシアです。というより、OPECプラスは、サウジアラビアとロシアの結託によってつくられたものです。当然、両国がOPECプラスを主導しています。
OPECプラスの元の組織であるOPEC(石油輸出国機構)というのは、サウジアラビアなど中東の産油国を中心につくられた産油国のグループです。70年代にオイルショックを主導したことで知られています。世界の石油市場に大きな影響力を持ち、73年のオイルショックのときには、世界の原油生産量の51.5%を占めていました。だからこそ、オイルショックは世界に強烈なインパクトを与えたのです。
しかし、近年になって、OPECの影響力は大きく減じました。ロシアの原油生産量などが激増し、またアメリカでシェールオイルの生産が爆発的に増え、OPECのシェアが低下したのです。シェールオイルというのは、岩盤層から抽出して生成される石油のことです。以前は、コストが高く生産が難しかったのですが、2000年代に新しい技術が確立したのです。また石油の価格上昇により、コストが見合うようになり、世界の石油市場に大きなインパクトを与えました。
アメリカはシェールオイルの埋蔵量が非常に多く、この新しい技術により、石油生産が激増しました。その結果、2018年にはアメリカは世界一の石油生産国となりました。逆にOPECは、その存在価値が低下し、世界原油生産量の40%程度しか占められなくなったのです。
OPECとしては、どうにかしてかつてのような世界的な影響力を持ちたいと考えていました。OPECの加盟国は石油が国家収入の柱となっており、石油市場の動向は国家の存亡にも関わっていたからです。そんなときに、世界第3位の産油国であるロシアが、OPECの中心国であるサウジアラビアに歩み寄ってきたのです。
ロシアとサウジアラビアが急接近する
ロシアとサウジアラビアは、昔から良好な関係だったわけではありません。近年、急激に接近した関係なのです。ロシアは、ソ連時代からイランと非常に良好な関係を持ってきましたが、サウジアラビアはイランと非常に仲が悪いのです。サウジアラビアはイスラム教のスンニ派の総本山であり、イランはイスラム教シーア派の総本山であるという宗教上の諍いもあります。
しかもサウジアラビアは第二次大戦後から一貫してアメリカの同盟国です。だからロシアとサウジアラビアは、これまであまり仲は良くなかったのです。
が、プーチン大統領は、サウジアラビアと積極的に交流を持とうとし、サウジアラビア側もそれに応えたのです。2017年10月には、サルマーン国王が、サウジアラビアの国王としては初めてロシアを訪問しています。このとき行われたプーチン大統領との首脳会談では、サウジアラビアは、ロシアからS-400防空システムを購入することになったとされています。アメリカの同盟国であるサウジアラビアがロシアから武器を購入するのは異例のことであり、ほかにはトルコしかいません。
また両国は、このときエネルギー、貿易などにおいても協定を結び、数十億ドルの共同投資にも合意したと見られています。ロシアが北極圏で行っている液化天然ガス開発「アークティック2LNGプロジェクト」にも、サウジアラビアは資金支援をする計画があります。
しかも2018年には、ロシアとサウジアラビアが結びつく重大な事が起きます。トルコのサウジアラビア領事館で、政府に批判的なサウジアラビア出身の記者ジャマル・カショギ氏が殺害され切断されるという事件が起きたのです。この事件をアメリカは重大視し、サウジアラビアの高官らに対して制裁措置を発令しました。またアメリカ政府は、皇太子への制裁はしなかったものの、皇太子が殺害に関与したことを報告書で発表しました。
もちろん、サウジアラビア側は、アメリカに猛反発し、両国の関係は急激に冷え込みました。しかしロシアは、この事件に対してほとんどアクションをしなかったので、サウジアラビアとしては外交的にロシアに依存する傾向が強くなってきたのです。
2019年6月には、サウジアラビアのムハンマド皇太子とプーチン大統領が、日本で行われたG20のときに、協調して石油の減産を行うことに合意しました。産油国にとって「石油の生産量を調整し価格を維持すること」は至上命題だったのです。
そして2019年7月、ロシアとOPECは、「OPECプラス」を恒久的な機構とすることを合意しました。「OPECプラス」というのは、前述しましたようにOPECと非OPECの主要産油国で形成されるいわば「産油国クラブ」のようなものです。
が、このOPECプラスにはもう一つ大きな意味合いがあります。それは、「アメリカへの対抗」ということです。OPECプラスは、世界の主要産油国の集まりなのですが、世界最大の産油国であるアメリカは加盟していないのです。このOPECプラス全体の加盟国を見ると、アメリカ、カナダ、ノルウェーなどの西欧諸国以外のほとんどの産油国が参加しているということがわかります。つまりは、アメリカや西側諸国に対抗するという姿勢が明確に見えるのです。
またOPECプラスの中には、サウジアラビアとイランのような政治的、宗教的な対立を持つ関係もあります。そういう政治的な立場を乗り越えて、「自国の産油権益を守るために結束している」という関係なのです。
現在、世界一の産油国であるアメリカは、しかし、自国での石油消費も世界一です。そのため、石油の輸出量から輸入量を差し引いた純輸出量はそう大したものではありません。
アメリカの石油輸出量は、世界で5位であり、2位のロシアの半分の量にも満たないのです。またアメリカは、ガソリン価格の高騰を防ぎ自国の消費を賄うために石油輸出を禁止する可能性もあります。だから、世界の石油市場におけるアメリカ石油はそれほど大きな存在感はありません。
アメリカ以外の国が輸入している石油のほとんどは、OPECプラスによるものなのです。つまり、世界の石油市場の大半は、OPECプラスが握っているのです。
実際に日本も石油の90%程度をOPECプラスの国から輸入しています。同盟国アメリカからの輸入は微々たるものなのです。だから石油の輸入に関する限り、アメリカ以外の国は、OPECプラスには逆らえないのです。そして繰り返しますが、このOPECプラスを主導しているのがロシアとサウジアラビアなのです。
    2021年石油輸出国ランキング
   1位 サウジアラビア  1,595億ドル
   2位 ロシア      1,411億ドル
   3位 アラブ首長国連邦  906億ドル
   4位 カナダ       819億ドル
   5位 アメリカ      694億ドル
   6位 イラク       532億ドル
   7位 クウェート     460億ドル
   8位 ノルウェー     370億ドル
   9位 ナイジェリア    330億ドル
   10位  ブラジル      306億ドル
●半年で2万3000円増! 前例ないエネルギー危機で「光熱費」はどこまで高騰? 8/18
私達の家計を直撃している「物価高」。18日からはそのニュースをさらに深掘りしてお伝えします。題して…「家計クライシス」初回のテーマは『光熱費』。世界がエネルギー危機に直面するなか、どこまで値上がりするのかに迫ります。
家族4人で都内に暮らす宮本さん。最近、家計簿アプリを見入る時間が増えました。
宮本莉帆奈さん「玉ねぎが高いので、カレーとか作ろうと思っても、材料・野菜を入れるだけでも、すごく割高で損した気分」
物価高により、スーパーでの買い物は1回で3000円ほど、月で1万2000円上がりました。
さらに家計を圧迫しているのが光熱費です。オール電化の宮本さん一家。半年で2万3000円ほど増えました。冷房効率を高めたり、子供たちと図書館で過ごしたり、節電にも努めていますが…
宮本莉帆奈さん「頑張っても結局、(光熱費が)上がっているのは悲しいし痛い。頑張らなかったら、どこまで上がってしまうのかを考えるとすごく怖い」
東京電力と東京ガスでは、標準家庭のケースで料金はこの1年でおよそ3割値上がり。負担はあわせて2万2000円増えました。また、東京ガスは燃料高騰が続くと10月からさらに毎月最大300円ずつ値上がり、半年で負担は最大6300円増える計算です。
光熱費はどこまで上がるのか。カギを握るのは…
「いま、見えてきました。巨大なプラントです。あれがサハリン2です」
日本がLNG(液化天然ガス)の1割を依存するサハリン2です。LNGはガスとしても、電気を作るのにも使われています。
日本の商社が出資するサハリン2。プーチン大統領が突然、運営をロシアの新会社に移し、権益が守られるのか、分からなくなっています。
安く買える長期契約が切られ、他から買おうとすれば、調達価格は数倍に跳ね上がるのでは…
LNGの1割をサハリン2に依存する東京ガスの内田社長は心配します。
東京ガス 内田高史社長「(サハリン2からの輸入が止まると)大変なことになります。調達できたとしても、とんでもなく高いLNGになるので、国富の流出という意味では2兆円、3兆円というような流出になる。(調整価格)10数ドル⇒(他から買うなら)40〜50ドルに」
17日、西村経済産業大臣は。
西村康稔 経済産業大臣「(ロシアの新会社からサハリン2について)現時点で何か契約締結を困難にさせるような新たな条件などは、提示されたとは聞いていません」
しかし、まだ油断はできないようです。
政府関係者「ロシアの今後の出方は読めない。途絶する可能性を想定して対応しないと」
ロシアから突然ガスが届かなくなる事態がヨーロッパでは起きています。
EU フォンデアライエン委員長「ロシアは私たちを脅迫しています。ロシアは天然ガスの輸出を武器として使っています」
ドイツはロシアからのガス供給量が7月から2割にまで減らされ、来年にはガス料金が3倍に跳ね上がるという見通しも。
専門家は日本でも値上がりがどこまで続くかは読めないといいます。
日本エネルギー経済研究所 小山堅 専務理事「全てのエネルギー源が同時に上がっていて、これまで我々が経験したことのないエネルギー危機の状況になっている。エネルギー価格は過去最高値を更新するような流れになっても不思議ではない」
岸田総理は8月末、LNGの増産分をめぐり、争奪戦が起きているカタールなどを訪問する方向です。
エネルギー不足や光熱費の高騰で宮本さんは最近、考えが変わりました。
宮本莉帆奈さん「太陽光発電にして、自分で電気なども多少賄えるようなスタイルにしていかなくては」

 

●プーチン氏 「国民に選ばれた強い指導者」という伏線 そして侵攻は始まった 8/19
「我々は国の一体性を復活させるため多くのことを成し遂げた。ロシアは、その意見を無視できない国として国際政治の場に戻ったのだ」
プーチン・ロシア大統領は就任20年の節目となる2020年をこんな言葉とともに始めた。1月15日、プーチン氏がクレムリンそばの展示会場で教書演説を読み上げるのをモスクワ支局に残った私はテレビの生中継で聞いた。ウクライナのゼレンスキー大統領と顔をあわせたパリの4カ国首脳会談から1カ月後のことだ。
演説でプーチン氏は「ロシアがロシアであり続けられるのは、主権国家としてだけだ」とも言った。
プーチン氏が使う「主権」という言葉は特別な意味を帯びている。他国の干渉を許さないという意味だけではない。00年代後半からプーチン政権内では、ロシアの民主主義はロシア独自の伝統の上に成り立ち、欧米の民主主義とは異なるという主張が主流となり、「主権民主主義」という言葉が使われるようになった。そこには、主権の主体は国民だが、選挙という民主主義の基本を維持すればその国民が選んだ強い指導者による強力な国家管理が認められるという意味が込められていた。
この演説で、プーチン氏は通算4期目の折り返し点で自らさらに体制を固める憲法改正を打ち出した。改正案には「歴史的真実の擁護」「祖国防衛の偉業の軽視を許さない」などプーチン氏の個人的な思想を前面に出した条項が次々入った。「在外同胞の権利、利益、文化的同一性保持の支援」の条項は周辺国への介入にお墨付きを与えるものだ。極めつきは36年までプーチン氏の続投を可能にする条項。下院での採決直前に国民的英雄の女性宇宙飛行士テレシコワ氏が追加提案する手の込んだ演出で加わった。テレシコワ氏はプーチン氏の続投が「社会の安定の要だ」と言った。
改憲の賛否を問う国民投票はコロナ禍で延期を強いられたが、賛成78%と政権にとっては上々の結果で成立した。本来憲法の規定上はこの改憲には国民投票は求められていなかった。それでもあえて「全ロシア投票」という名をつけて国民の信を問う形にしたのは、さらに長期にわたる体制を固めるにあたって自らが「国民に選ばれた強い指導者」であることを証明する必要があったからだ。
14年のクリミア併合で国民は強いロシアの復活に熱狂し、プーチン氏の支持率は90%近くに跳ね上がった。18年の大統領選では投票日をクリミア併合4周年の3月18日に設定。政敵は選挙から排除され、プーチン氏は過去最高の得票率78%で通算4選を果たした。
プーチン氏は、ロシアが冷戦の敗者として扱われてきたと感じる国民のうっ屈した気持ちに巧みに働きかけた。大統領選直前に行った議会向け演説では米国のミサイル防衛をかいくぐる新兵器の数々を紹介し、「これまで誰もロシアの声を聞かなかった。これからは聞くべきだ」と言った。クリミア半島併合は、18世紀のトルコとの戦争の結果ロシア帝国が併合した同半島がソ連時代の1954年に当時のソ連の指導者フルシチョフによってロシアからウクライナに移管され、ソ連崩壊でウクライナ領となった経緯から、「奪われたものを取り返したのだ」と強調した。
英国でロシアの元スパイが兵器級の神経剤で襲われ関与が疑われたときも、ドーピング疑惑でロシア代表団が五輪から排除されたときも、欧米の批判を「ロシア嫌悪症ヒステリー」と断じ、国民にロシア封じ込めに対抗するよう訴えた。独立系の世論調査機関レバダ・センターのレビンソン社会文化研究部長は「プーチンは『敵に囲まれている』と信じ込ませ、国民世論を要塞(ようさい)の中に閉じ込めた」と話した。
国民の団結が強調され、少数派は排除された。20年の憲法改正後、反体制派やジャーナリストへの弾圧は激しさを増した。政府から活動にさまざまな制約を課される「外国の代理人」の指定を受けたメディア、ジャーナリストは、1年ほどの間に100団体・個人を超えた。
プーチン氏は、首相から大統領に返り咲いた12年の大統領選で政権私物化を批判する激しい反対運動に直面した。それをきっかけに強化したのが市民団体の活動への規制と、歴史の政治利用だ。「ナチズムを倒したソ連の偉業」である第2次大戦の対独戦勝を国民結集の核にした。
ウクライナとナチズムを結びつけるプーチン政権のレトリックに過去からの刷り込みが利用された。例えば、ロシアで「大祖国戦争」と呼ばれる第2次世界大戦の対独戦が始まったときナチスドイツに協力し、後にソ連に暗殺された民族主義者ステパン・バンデラ。私がモスクワにいた間、国営テレビで「バンデラを崇拝するネオナチたち」がウクライナの街を行進する映像を見ない日はなかった。14年の危機以降、民族主義政党が議会でほとんど議席を持てなくなったウクライナの現実とはかけ離れていた。
ウクライナはロシアと同じスラブ系で言語も近い。しかし東部、中部は17世紀以降ロシアに併合されながら同化はせず、西部は第2次世界大戦までオーストリアやポーランドの支配下にあった。ソ連崩壊に際しては、国民投票で独立が圧倒的な支持を得た。ソ連からの独立後ロシアとの関係をめぐって国内の考え方は分かれたが、欧州とロシアの間で独自の道を歩むことにはおおむね異論がなかった。
一方、ロシアではキーウを中心に広がった中世の大国「キーウ・ルーシ大公国」を継承したのがロシアだと見なされ、同じ大公国に源流を持つウクライナやベラルーシをロシアと不可分ととらえる。彼らが独自性を強調することは「反ロシア主義」と受け止められがちだ。ウクライナに「民族主義」のレッテルを貼る政権のプロパガンダが受け入れられやすい素地が国民の側にもあった。
徐々にプーチン氏に歴史をめぐる極端な言動が目立ち始めた。第2次世界大戦開戦から80年の2019年には、ソ連自身が後に非を認めたナチスドイツとの密約によるポーランド領やバルト三国の併合を正当化した。昨年7月には論文「ロシア人とウクライナ人の一体性について」を発表し、19世紀以降高まったウクライナの民族意識を「ロシア封じ込めを狙った西欧諸国」によって作られたものと断じた。その秋、プーチン氏はウクライナ国境に10万の部隊を集結させ、ウクライナ侵攻は秒読みの段階に入った。
プーチン氏が親ロシア派支配地域を「国家」として承認した今年2月21日。プーチン氏と政権幹部との会議がテレビ中継された。政権の枢軸を担う最側近の面々がプーチン氏から10メートル以上離れて並ばされ、次々とプーチンに同調する意見を述べていく。プーチン氏と同じ旧ソ連のKGB(国家保安委員会)出身のナルイシキン対外情報庁長官が「欧米に最後のチャンスを与えることも可能」と唯一異論らしき見解を口にし始めたが、即座に「(賛否を)はっきり言ってくれ」と突っ込まれ、しどろもどろで「賛成します」と答えた。プーチン氏は政権内でさえ、孤高の人になっていた。・・・
●ロシア、極超音速ミサイルを飛び地に配備 8/19
ロシアは18日、極超音速弾道ミサイルを搭載した戦闘機3機をバルト海(Baltic Sea)沿岸の飛び地カリーニングラード(Kaliningrad)に配備した。
軍事施設が集中するカリーニングラードは、リトアニアとポーランドに挟まれている。両国はいずれも欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)加盟国で、ロシアの侵攻を受けるウクライナを強く支援している。
ロシア国防省の発表によると、極超音速弾道ミサイル「キンジャル(Kinzhal)」を搭載した戦闘機ミグ31(MIG31)3機がカリーニングラードのチカロフスク(Chkalovsk)飛行場に配備され、今後「24時間体制の戦闘任務」に就く。
2018年に公開されたキンジャルは、音速の10倍で飛行し、ミサイル防衛システムによる迎撃が極めて困難であることから、同国のウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領から「理想兵器」と評されている。
●スペイン提案「ガスパイプ構想」欧州巻き込む議論…仏・消極姿勢、独・乗り気  8/19
ロシアによるウクライナ侵略を受け、欧州で露産天然ガス供給への不安が高まる中、スペインがフランスに対し、天然ガスパイプライン敷設構想の再開を呼びかけ、他国を巻き込んだ議論となっている。スペインは、北アフリカなどから輸入したガスを欧州に供給する狙いだが、フランスは否定的で、欧州連合(EU)諸国間の危機対応をめぐる思惑のずれを浮かび上がらせている。
再開構想が出ているのはスペイン北東部からピレネー山脈を越えて仏南東部を結ぶ約190キロ・メートルのパイプラインだ。当初このパイプラインを通じ、スペインがアルジェリアから輸入した天然ガスを欧州各国に供給することが期待されていた。だが、建設コストがかさみ、環境保護団体の反対もあり、2019年に中止された。
ロシアが今年2月、ウクライナを侵略すると、スペインはEU諸国のロシア産天然ガスへの依存度を減らす一環として、構想復活の可能性に言及してきた。スペインは、アルジェリアやカタール、ナイジェリアなどから輸入したガスをEU諸国へ供給することで、域内での存在感を高めたい思惑があるとみられる。
AFP通信によると、仏政府は、「稼働には時間がかかり、現在の危機に対応できないかもしれない」と、消極的な姿勢を示している。
EU諸国の中で、ロシア産天然ガスへの依存度が高いドイツもスペインに加勢した。ショルツ独首相は今月11日の記者会見で構想について、「実現していれば、天然ガス供給の(厳しい)状況に多大な貢献をしていただろう」と述べた。ロシア国営ガス会社「ガスプロム」は、タービン修理を名目にパイプライン「ノルトストリーム1」のガス供給量を引き下げており、ドイツでは冬場のガス不足を警戒している事情がある。供給源多様化のためにはフランスの協力が欠かせない。
スペインのテレサ・リベラ環境移行相は12日、地元メディアに対し、ショルツ氏の発言を歓迎したうえで、「スペイン側ではパイプラインは8〜9か月で稼働可能だ」と述べ、仏側に対応を迫った。16日にはペドロ・サンチェス首相が「供給網の改善で、欧州諸国の結束をより示せるようになる」とも語った。
フランスは、ロシア産天然ガスへの依存度が低く、ドイツに比べ危機感は薄い。更に一層の自立を図るために、次世代型原子炉6基の建設などに優先的に資金を回す方針で、スペインの構想が実現するかは不透明だ。
●北欧2国のNATO加盟で激変するパワーバランス:プーチンを脅かすフィンランド 8/19
北欧のスウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟手続きが着々と進んでいる。早ければ年内とうわさされる両国の正式加盟はNATOとロシアのパワーバランスに大きな影響を及ぼす可能性が高い。中でもロシアと国境を接するフィンランドには、ウラジーミル・プーチン露大統領が内心穏やかでいられなくなりかねない軍事インフラの影が差す。
2国のNATO接近に神経をとがらせたロシア
NATOは2022年6月29日、スペインで開かれた加盟国の首脳会議で合意した文書「マドリード首脳会議宣言」を発表し、フィンランドとスウェーデンの加盟に向けた手続きを正式に始めることを明らかにした。両国の加盟にはNATO全加盟国の承認が必要だが、クルド問題等で難色を示していたトルコが6月28日までに支持に転じたことで、両国の加盟に向けた動きは大きく前進した。
各国の承認と批准を経て両国が正式加盟する時期は、早ければ年内との声もある。この2国の加盟が実現すれば、ロシアとNATOの軍事バランスが激変する可能性がある。
ウクライナで戦火が拡大していた22年3月4日、米国のジョー・バイデン大統領がロシアのウクライナ侵攻後、初めてホワイトハウスに招き、直接、面会した外国の首脳は第二次大戦後、東西のはざまで中立を保ち続けてきたフィンランドのサウリ・ニーニスト大統領だった。
米フィンランド首脳会談では、両国の安全保障関係を強化し、NATOの門戸開放政策の重要性で一致したという。会談後、バイデン大統領は「ニーニスト大統領と欧州の安全保障について話をした。会談の最中、我々はスウェーデンのマグダレナ・アンダーソン首相に電話を掛けた」ことを自身のSNS上で明らかにし、フィンランドとスウェーデンは「米国とNATOにとって重要な防衛上のパートナー」と呼んだ。
このようなフィンランド、スウェーデンの米国(NATO)との急接近を警戒したのだろうか、3月2日、ロシア空軍のSu-27戦闘機2機とSu-24攻撃機2機がスウェーデンの領空侵犯を行った。Su-24攻撃機はその時、戦術核模擬爆弾を搭載していたと3月末にスウェーデンのテレビ局が報じた。ロシアにとって全長1340キロメートルにわたって国境を接するフィンランドがNATO加盟国になることは、NATOとの巨大な境界線が出現することを意味するため、大きな脅威と受け取られても不思議ではない。
プーチンが恐れる軍事インフラとは?
フィンランドとの国境からロシアの首都、モスクワまでは、800キロメートル足らず。プーチン大統領の出身地でロシア第二の都市、サンクトペテルブルクまでは、フィンランドの首都、ヘルシンキから約300キロメートルに過ぎない。
だが、NATOに正式加盟するまでは、両国はNATO全軍による防護対象にはならない。ではNATO加盟国になるまでの当面の安全保障の手段は確保できるのか。そこで注目されたのが英国の存在。両国がNATOに正式加盟するまでの間、英国がスウェーデン、フィンランドにそれぞれ、安全保障上の支援を行うことになった(共同声明、5月11日付)。フィンランドと英国の共同声明には「フィンランドと英国は共通の安全保障上の利益を共有し、英国は必要なあらゆる手段でフィンランドの努力を支援する準備ができている」と記述されている。
英国は戦術核兵器を保有していないが、戦略核兵器として、ヴァンガード級ミサイル原子力潜水艦に最大16発搭載できる射程1万2000キロメートルのトライデントUD5潜水艦発射弾道ミサイルを保有(運用)している。同ミサイルには、100キロトン級核弾頭が最大12個搭載可能。「英国の必要なあらゆる手段」に、英国の戦略核兵器が含まれているかどうかは、気になるところだ。
ではNATOに両国が加入したら、安全保障環境のパワーバランスはどうなるのだろうか。フィンランドとロシアとの国境は前述の通り、約1340キロメートル。フィンランドとロシアの国境からモスクワまでは、800キロメートルもない。さらに、2国が加盟すれば、バルチック艦隊の二大拠点、サンクトペテルブルクも飛び地のカリーニングラードも、NATO諸国に包囲される位置関係になる。
ロシアはこの2国のNATO加盟申請をどのように見ているのか。22年5月16日、プーチン大統領はロシアを中心とする旧ソ連の6共和国で構成される安全保障条約機構(CSTO)の首脳会合で、「全く問題ない。NATOのこれらの国(フィンランド、スウェーデン)への拡大に伴い、ロシアに直接の脅威はない。しかし、(NATOの)部隊を展開したり、軍事インフラをこれらの領土に拡大するなら、確実に我々の側の反応を呼び起こすだろう」と述べていた。
つまり、スウェーデン、フィンランドの加盟によってNATOが拡大しても、それだけではロシアへの脅威にはならない。しかし、両国にNATOの軍事インフラが作られるなら話は別だ、ということなのだろう。ではプーチン大統領が指摘するNATOの軍事インフラとは、具体的には何を指すのだろうか。一般的には軍事基地などを指すのだが、ことフィンランドに限っては、ロシアにとって気掛かりな影が漂う。
戦闘機F-35A「ブロック4」の実力
フィンランドは現在保有する戦闘機、F-18ホーネットに代えて、米ロッキード・マーチン社が開発した第5世代戦闘機、「F-35AライトニングUステルス戦闘機」を64機導入する予定で、2026年から国内配備が始まる。また、このF-35Aと共に、JAASM-ER空対地ステルス巡航ミサイル200発を導入する見通しだが、このミサイルはAGM-158B2と呼ばれるタイプであり、射程は1000km以上。フィンランド国内から物理的にモスクワに届く可能性が高い。
また、このF-35Aは全機「ブロック4」というタイプであることをフィンランド国防省が明らかにしている。米議会調査局の報告書「F-35 Joint Strike Fighter (JSF) Program(2022年5月2日)」によれば、F-35Aブロック4は、「Adds nuclear weapons capability(核兵器能力を付与される)」と明記されている。具体的には、米軍最新の「B61-12核爆弾」を運用可能となる能力を持つという。
広島に投下された原子爆弾「リトルボーイ」の威力が約16キロトンと推定されるのに対し、B61-12 の爆発威力は、0.3、1.5、10、50キロトンの選択式。そして、B61-12核爆弾は従来の米軍の核爆弾と異なり、全地球測位システム(GPS)で標的に精密に誘導する装置を用いて命中精度を向上させている。地表まで約100秒で弾着するように航空機から投下すると、弾着精度を示す平均誤差半径(CEP)は、現行の米軍の核爆弾が100メートル以上だったのに対し、B61-12 では30メートル前後になるとされ、弾着精度の高い核爆弾となっている。F-35Aの航続距離は2200キロメートル、作戦行動半径は約1093キロメートルとされる。
フィンランドには現状、核兵器を導入する計画はない。しかし、 NATO内ではドイツ、ベルギー、イタリアなどが米軍の管理下、米軍の核兵器を国内に配備し、いざという時には、自国の作戦機にその核兵器を搭載し運用するという、いわゆる核共有を行っている。
フィンランドの核共有の可能性
フィンランドはNATO加盟後の核共有について明言していないが、将来、フィンランド空軍のF-35Aブロック4戦闘機がモスクワまで行って何らかの作戦行動を行い、フィンランドへ帰投することが物理的に可能となる。つまり、F-35Aブロック4の導入は、はた目にはフィンランドが将来、政治的にも技術的にも条件がクリアされれば、核共有に踏み切る布石のようにも見える。
また、興味深いのは、フィンランドにGPS誘導爆弾であるJDAMのGBU-31(120発分)、GBU-38/54(150発分)のGPS誘導装置や訓練弾が引き渡されることになっていること。これらのGPS誘導JDAM弾は核爆弾ではないが、フィンランド空軍のパイロットや地上要員にとっては、これらの爆弾を通じて、航空機から投下されるGPS誘導爆弾の取り扱いを学ぶことにもなる。
繰り返しになるが、B61-12もまた、GPS誘導爆弾の一種である。フィンランドのサンナ・マリン首相はNATO加盟を申請した翌日の5月19日、インタビューに答えて「(NATO内では)フィンランドに核兵器や基地を置くことには関心さえない」と発言したという。
この発言はプーチン大統領の意向を勘案したものなのかどうか、それをロシアがどう受け止めているかは不明だが、マリン首相は22年1月19日にフィンランドが自らの首相任期中にNATO加盟を申請する可能性について「非常に低い」と述べていた人物。その当人がNATO加盟申請を果たした。微妙な表現の発言を駆使しながら用意周到に防衛装備の整備を進めるフィンランドが将来、自国内に米国の核兵器を置き、ロシアに匕首(あいくち)を突きつけることになるか否か、ロシアにとって大いに気掛かりなことだろう。 
●インドネシア大統領 “G20首脳会議に中国とロシア出席見通し”  8/19
G20=主要20か国の議長国を務めるインドネシアのジョコ大統領は、ことし11月にバリ島で開催されるG20の首脳会議に、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が対面で出席する見通しだとメディアとのインタビューで述べました。
G20の議長国を務めるインドネシアのジョコ大統領は18日、アメリカのメディア、ブルームバーグのインタビューに応じました。
この中でジョコ大統領は、11月にバリ島で開かれる予定のG20の首脳会議について「習近平国家主席は来るだろう。プーチン大統領も来ると言った」と述べ、中国とロシアの両首脳が対面で出席するという見方を示しました。
一方、ロシア大統領府は18日、プーチン大統領とジョコ大統領が電話会談を行い、G20首脳会議に向けた準備や食料安全保障について意見を交わしたと発表しましたが、プーチン大統領の出席の形式については明らかにしていません。
プーチン大統領の出席をめぐっては欧米各国が難色を示しているほか、インドネシア政府が会議に招待しているウクライナのゼレンスキー大統領もことし6月、どう対応するかはほかの出席者によると述べ、プーチン大統領が出席するとしていることに反発しています。
これについて、中国外務省の汪文斌報道官は19日の記者会見で「もし情報があればそのつど発表します」と述べるにとどめ、習近平国家主席がG20の首脳会議に対面で出席するかどうか、明言を避けました。
●英情報機関「プーチン大統領は情報戦に負けた」 8/19
イギリスの情報機関のトップがロシアのウクライナ侵攻に関して「プーチン大統領は情報戦に完敗している」との見方を示しました。
イギリスの情報機関政府通信本部のフレミング長官は「エコノミスト」誌に寄稿し、ロシアのウクライナ侵攻に関して、双方がサイバー能力を駆使していると分析しました。
ロシアは地上での侵攻と同様に、インターネット上での計画に失敗していて、攻撃的なサイバーツールを無差別に使用していると指摘しています。
そのうえで、「これまでのところプーチン大統領はウクライナと西側諸国における情報戦に完敗している」との見解を述べました。
一方で、ロシアの情報戦での失敗は喜ばしいことだが、ウクライナや西側諸国以外の地域で、ロシアの誤った情報がどのように展開されているか過小評価すべきでないと警告しています。
●プーチン氏側近 「反ロシア運動を主導」と日本を批判 8/19
ロシア安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記は19日、訪問先のタシケントで、日本について「全力でロシア嫌いの世界的運動における主導的な立場を占めようとしている」と批判した。ロシアのウクライナ侵攻への対応を巡り、日本への不満がプーチン政権内で高まっている現状を示している。タス通信などが伝えた。
パトルシェフ氏はプーチン大統領の側近だ。軍事から経済まで幅広い分野でロシアの国家方針を協議して決定する安保会議の書記として政権内で強い発言力を持つ。19日はタシケントで、中国や中央アジア諸国などとつくる上海協力機構(SCO)の会合に出席した。
SCO会合で、パトルシェフ氏は「米国と属国」が「歴史の書き換えを含めて冷笑的な噓にあからさまに訴えている」と指摘した。そうした「ロシア嫌いの運動」を主導する国の例として日本をあげた。
パトルシェフ氏はまた「アジア太平洋地域で米国とその同盟国が閉鎖的なブロックを形成し、反ロシアと反中国を根源とする活動に、できるだけ多くの国を引き寄せようとしている」と反発した。
閉鎖的なブロックの例として、米英豪による軍事的枠組みAUKUS(オーカス)や日米豪印のQuad(クアッド)に言及した。パトルシェフ氏は、日本や米国への批判を通じ、台湾問題などで同じく米国との関係が悪化している中国との連携を一段と強化する考えだとみられる。
●「スタバ」撤退で「スタズ」? ロゴもそっくり新ブランド店「スターズ・コーヒー」 8/19
ウクライナへの軍事侵攻で、ロシア国内から完全撤退した、コーヒーチェーン大手の「スターバックスコーヒー」。その元店舗に18日、新たなコーヒーチェーンの1号店がオープンした。その名は、「スターズコーヒー」。名前も雰囲気も、元のスターバックスコーヒーそっくりに見える。
さらによく似ているのが、ロゴ。2つを比べてみると、どちらも流れる髪の女性が描かれていて、頭の上に星がある。それでも、スターズコーヒーのロシア人オーナーは、「丸以外に共通点は見当たらない」と話す。
ロシア人オーナー「ロゴマークは、どちらも丸ですが、われわれは、その輪っかの中に、ロシアの伝統的な飾りをかぶったロシア美人を描いています」
スターバックスコーヒーが王冠をかぶっているのに対し、スターズコーヒーでは「ココシニク」と呼ばれる、ロシアの飾りをつけているので違うと主張。
ロシアでは2022年6月、撤退したマクドナルドの店舗に「フクースナ・イ・トーチカ(おいしい ただそれだけ)」という名前でハンバーガーチェーンをオープンしたばかり。
今回の「スターズコーヒー」という名前について、ロシアの人からは...。
ジャーナリスト「言いやすい名前ですね。“おいしい ただそれだけ”という、変な名前よりいいです」
スターズコーヒーは、9月末までにおよそ130店舗を順次オープンさせる予定だという。
●ウクライナで約400のバプテスト派教会失われる、ロシアによる軍事侵攻で 8/19
ロシアによる軍事侵攻が始まってから間もなく6カ月がたとうとするウクライナでは、これまでに約400のバプテスト派教会が失われたという。ウクライナには約2300のバプテスト派教会があるとされ、そのうちの約2割が失われたことになる。
ウクライナ西部リビウにあるウクライナ・バプテスト神学校(UBTS)のヤロスラフ・ピシュ学長が12日、米南部バプテスト連盟(SBC)が運営するメディア「バプテスト・プレス」(英語)の取材で明かした。一方、ピシュ氏は「(教会の)建物を建て直しても、教会を指導する牧師がいなければ、何の役にも立ちません」と話し、リーダーシップの立て直しの必要性を強調。バビロン捕囚後にエルサレムに帰還し、神殿再建を指導したネヘミヤの物語を引き合いに出し、「本当の課題は、ネヘミヤの課題と似ています。エルサレムの城壁を再建することだけではないのです。イスラエルという国を再建し、神を礼拝することを回復させるのです。それは、ここウクライナでも同じです」と語った。
ピシュ氏は、多くの牧師が戦火の激しい地域から離れなければならなかったとする一方、国内にとどまる牧師も多くおり、教会が戦時下の人々の必要に大いに応えてきたと語った。
ウクライナ国内には現在、地域教会の伝道活動から発展し、各地域の自治体と協力して設立された人道支援センター「ウィ・ケア・センター」が6つあり、UBTSの卒業生や在校生ら約150人がボランティアとして働いている。UBTSは、ボランティアがカウンセラーとして奉仕できるよう訓練を提供。SBCによる寄付も、センターの働きのために用いられているという。
ピシュ氏は、こうした教会が関わる人道支援センターについて、「基本的な考え方は、教会が互いに協力して地域社会に奉仕するためのプラットフォームを提供することです」と説明。「戦時中のニーズに応えるだけでなく、実際に地域社会の中に長くとどまることができるものをつくるのです」と話す。
ピシュ氏によると、ウクライナのインフレ率は30パーセント近く、市民の生活を圧迫している。そのため、UBTSは現在、授業料の徴収を停止し、無償で教育を提供しているという。その代わり、教育活動を継続するための資金調達に力を入れている。一方、ウクライナに対する寄付は戦争が長引く中、大幅に減少しているとし、ピシュ氏は継続的な支援を訴えている。
●ウクライナ ザポリージャ原発の非武装化 ロシア側は拒否 8/19
ロシア軍が掌握しているウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所について、国連のグテーレス事務総長らが非武装化を主張していることに対してロシア側は拒否する考えを示していて、国際社会から原発を盾にしていると非難の声が相次いでいます。
ウクライナでは東部ハルキウで、17日から18日にかけて住宅などへの砲撃があり、州知事によりますと、子どもを含む17人が死亡するなど激しい攻撃が行われています。
またザポリージャ原子力発電所や、その周辺では、今月に入り砲撃が相次いでいて、ウクライナとロシアが互いに相手の攻撃だと非難を繰り返しています。
こうした中、西部リビウを訪れている国連のグテーレス事務総長は18日、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談し「原発の周辺は非武装化されるべきだ」とロシア側に軍事行動の停止と部隊の撤退を求めたことを明らかにしました。
またアメリカ国務省のプライス報道官も18日、「ロシアが核の安全を軽視していることに対し、最も強いことばで非難する」と述べ、原発の管理をウクライナ側に戻すよう求めています。
これに対してロシア外務省の副報道官は、「受け入れがたい」と述べて拒否する考えを示し、「非武装化すれば原発の安全性がさらにぜい弱になる」と主張しています。
さらにロシア国防省の報道官は、国連のグテーレス事務総長のウクライナ訪問について、「ウクライナは国連事務総長の訪問中の19日に原発での挑発行為を準備している」と非難しました。
一方ウクライナ側も「ロシアが国連事務総長のウクライナ滞在に合わせてテロ攻撃を行う可能性がある」と主張していて、双方が非難を繰り返す事態となっています。
IAEA=国際原子力機関は原発の安全性を確保するため視察や調査に入ることを目指していますが、実現に向けた手続きは難航することが予想され、国際社会からは、ロシアが原発を盾にしていると非難の声が相次いでいます。

 

●ロシア本土を結ぶ「クリミア大橋」付近で爆発…ウクライナ側がドローン攻撃か 8/20
ロイター通信は18日、ウクライナ南部クリミアにあるロシアのベルベック軍用飛行場近くで4回の爆発が起きたと伝えた。ロシアに属する地元当局も同日、露本土とクリミアを結ぶ「クリミア大橋」付近で爆発音があったと明らかにした。ウクライナ側がドローン(無人機)の攻撃を繰り返している可能性がある。
ベルベック飛行場での爆発に関しては、地元当局幹部が防空システムでドローンを撃墜したとSNSに投稿した。別の地元当局幹部は18日、クリミア大橋がかかるケルチでも防空システムが作動したとしている。
ウクライナ軍参謀本部は18日夕の戦況報告で、露軍が南部に重火器などの装備を伴った大隊戦術群(BTG)二つを転戦させたと分析。18日には、露軍が多数の地対空ミサイル「S300」をウクライナとの国境付近に輸送したことを確認したと明らかにした。これに対し、ウクライナ軍は南部で弾薬庫など露軍の拠点への攻撃を続けている。
一方、ウクライナ国営通信によると、東部ハルキウ州の検察当局は19日、ハルキウ市で17〜18日に2度にわたって起きた露軍の砲撃による死者は計21人になったと明らかにした。同市では19日朝にも3地区で露軍の砲撃があり、少なくとも1人が死亡した。
ロシアのインターファクス通信は18日、露軍が南部ヘルソン、ザポリージャ両州の占領地域で、治安や産業振興などを担う幹部にロシア人行政担当者を任命したと報じた。露側は両州で、親露派を前面に立てた支配を進めてきたが、ロシア人担当者を送り込み、直接支配に乗り出している模様だ。
●ロシア、ウクライナ占領地の併合に向けた住民投票延期も−侵攻停滞で 8/20
ロシア政府はウクライナ南部および東部の占領地を併合するための住民投票を延期する可能性について検討している。これら地域での進軍が停滞しており、住民投票が延期となれば、支配を固めたいロシアの計画がくじかれる格好になる。
事情に詳しい関係者によると、住民投票は当初、9月に実施することを目標としていた。だが、ロシアが併合を狙う地域をまだ完全に支配できていないため、投票は12月か来年1月にずれ込む可能性があるという。投票が遅れる可能性については、 独立系のロシア語メディア「メドゥーザ」が18日に他社に先駆けて報じた。
ただ、現時点でロシアは9月に住民投票を実施する望みを捨てておらず、準備も続いていると、関係者は述べた。ロシアの占領当局者は公的には、状況が安全になれば日程を決定すると説明している。
住民投票を実施しても、違法だとして国際的には受け入れられないとみられる。ただロシアには、戦争の象徴的な勝利として国内向けに投票を利用する狙いがある。ロシアは2014年にクリミアを併合する際にも、似たような投票を急きょ実施した。
●国連事務総長 ウクライナ南部の港訪問 農産物輸出増へ決意示す  8/20
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナで、国連のグテーレス事務総長は南部オデーサの港を訪問し、ウクライナ産の農産物の輸出をさらに増やしていくため、一層取り組む決意を示しました。一方、南東部の原子力発電所をめぐってフランスのマクロン大統領はロシアのプーチン大統領との電話会談で、原発の安全性が脅かされていると懸念を示しました。
ウクライナを訪れている国連のグテーレス事務総長は19日、南部オデーサの港でウクライナ産の小麦が船に積み込まれる様子などを視察しました。
ロシアとウクライナは先月トルコと国連の仲介でウクライナの農産物の輸出を再開することで合意し、国連などによりますとこれまでにオデーサの港などから60万トン以上の穀物を運び出したということです。
グテーレス事務総長は記者団に対し「世界で最も弱い立場にある人たちの希望だ」と述べ、世界的な食料危機が懸念されるなか、輸出をさらに増やしていくため一層取り組む決意を示しました。
一方、ロシア軍が掌握するウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所をめぐり、フランスのマクロン大統領とロシアのプーチン大統領が19日、電話会談を行い、両首脳は、IAEA=国際原子力機関による調査団の早期派遣の重要性で一致したということです。
原発やその周辺では今月に入り砲撃が相次いでいて、フランス大統領府によりますと、会談でマクロン大統領は、プーチン大統領に対し、原発の安全性が脅かされていると懸念を示したということです。
これに対して、ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は、ウクライナ軍が原発への砲撃を行っていると主張したうえで、広い範囲での放射能汚染につながるおそれがあると強調したということです。
ウクライナの原子力発電公社「エネルゴアトム」は19日に声明で「ロシア軍が発電設備の運転を停止し、ウクライナの電力網から切り離すことを計画しているという情報がある」と発表しました。
ザポリージャ原発をめぐって国連のグテーレス事務総長は、軍事行動の停止と部隊の撤退を求めていますが、ロシア側は拒否する姿勢を示していて、国際社会の間で原発の安全性への懸念が深まっています。 
●「ロシア嫌い運動のリーダーになろうと懸命」プーチン氏側近が日本批判 8/20
プーチン大統領側近のロシア高官が日本について「ロシア嫌い運動のリーダーになろうとしている」と主張しました。
ロシア通信によりますと、パトルシェフ安全保障会議書記は19日、ウズベキスタンで行われた上海協力機構の会議に出席。「アメリカとその属国は自らの外交的冒険を正当化するため、歴史の書き換えや嘘に頼ることをためらわない」と批判しました。
そのうえで、日本について「世界的なロシア嫌い運動のリーダーになろうと懸命になっている」と主張しました。
パトルシェフ氏はプーチン大統領の側近として知られています。
ロシア側は経済関係を含めた日本の反応を見ながら、当面けん制を続ける構えです。
●ロ大統領、ウクライナ経由の原発視察に同意 仏首脳と電話会談 8/20
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、フランスのエマニュエル・マクロン大統領との電話会談で、ロシアが占拠しているウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所に国際原子力機関(IAEA)の視察団をウクライナ経由で派遣することに同意した。仏大統領府が19日、発表した。
仏大統領府によると、プーチン氏は視察団がロシア経由で現場に向かうことを要求していたが、「再考した」という。
3月以来ロシア軍に占拠されているザポリージャ原発の周辺では最近、戦闘が頻発。1986年のチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故に匹敵する核災害が起きる懸念が高まっている。
プーチン氏とマクロン氏の電話会談は約3か月ぶり。ロシア大統領府も先の声明で、両氏はIAEAの専門家が「一刻も早く」原発を視察すべきだとの考えで一致したとしていた。プーチン氏はさらに、ウクライナ軍がザポリージャ原発に「組織的な砲撃」を行い、「広大な領土の放射能汚染につながる大災害の危険性を生んでいる」と警告したとされる。
プーチン氏はまた、ロシアが食品や肥料の輸出で障害に直面しているとマクロン氏に説明。ロシア大統領府は、輸出面での障害は「世界の食料安全保障問題の解決に貢献しない」ものだと指摘した。一方で仏大統領府は、こうした障害は存在しないとして、ロシア側の主張を否定した。
●プーチン大統領 調査受け入れ表明 ロシア軍占拠の原発  8/20
ロシア軍が占拠しているウクライナのザポリージャ原発について、プーチン大統領は、IAEA(国際原子力機関)の立ち入り調査を受け入れる意向を示した。
ザポリージャ原発では、砲撃が相次ぎ、重大事故の懸念が高まっている。
プーチン大統領とフランスのマクロン大統領は19日、電話会談し、IAEAによる原発の視察をできるだけ早く実現することが重要との考えで一致した。
プーチン大統領は、「調査団に必要な支援を提供する用意がある」と、調査団の派遣を了承したという。
両首脳が電話会談するのは5月以来で、調査団の派遣前に、再び話し合うとしている。
●プーチン氏、ザポリッジャ原発でIAEA視察を受け入れると 8/20
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は19日、ウクライナ南部でロシア軍が掌握するザポリッジャ原子力発電所について、国際原子力機関(IAEA)の視察を受け入れる方針を示した。プーチン氏がフランスのエマニュエル・マクロン大統領と電話で会談後、ロシア政府が発表した。
ロシア政府はプーチン氏とマクロン氏の電話会談後、IAEAによるザポリッジャ原発視察に向けて「必要な支援」の提供にプーチン氏が合意したことを発表した。両大統領は、「現場の状況」把握のため、IAEAの専門家を原発に派遣することの「重要性に留意」したという。
IAEAのラファエル・グロッシ事務局長は、ロシア政府のこの発表を歓迎し、ザポリッジャ原発視察団の団長を自ら務める意向を示した。
「きわめて不安定で破綻(はたん)しやすいこの状況で、世界最大級の原子力発電所の安全と保安をこれ以上、危険にさらすような新たな行動をとらないようにすることが、欠かせないほど重要だ」と、グロッシ事務局長は述べた。
プーチン大統領がIAEA視察を容認する前には、国連のアントニオ・グテーレス事務総長がBBCに対して、ザポリッジャ原発周辺での軍事行動停止の必要性を述べ、IAEAの視察受け入れをロシア政府に呼びかけていた。
ロシアは原発を軍事基地に転用か
ロシア軍は3月初めにザポリッジャ原発を制圧。それ以降は、ロシア軍の監視下でウクライナの技師たちが、原発の稼働を管理し続けている。
ウクライナ政府によると、ロシア軍は原発を軍事基地に転用し、軍の装備や兵器を運び込んだほか、兵約500人を駐留させている。ロシア兵たちは原発を「盾」に、ドニプロ川の対岸地域を砲撃しているという。
原発周辺では数週間前から激しい砲撃が繰り返され、ロシアとウクライナの両政府がお互いを非難し合っている。
18日にはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とトルコのレジェプ・タイイップ・エルドアン大統領、国連のグテーレス事務総長がウクライナ西部リヴィウで会談。ゼレンスキー氏は、ロシアが「わざと」原発を攻撃していると非難した。
ロシアは原発の武装解除を拒否
ロシア政府は、ザポリッジャ原発のIAEA視察について歩み寄る姿勢を示しているものの、原発の武装解除については拒否し続けている。
ロシア外務省のイワン・ネチャエフ情報報道部副部長は19日の記者会見で、原発を武装解除すれば、原発はさらに「脆弱(ぜいじゃく)な状態」になると述べた。
他方、ロシア政府は国連安全保障理事会に対して、ウクライナがザポリッジャ原発で計画する「挑発行為」について詳述する書簡を提出した。
ロシアの国連代表部によると、ウクライナは「小規模だと考える事故」を起こして放射性物質を流出させることで、これをロシアによる「原発テロ」だと非難し、言いがかりをつけるつもりだという。
ロシアによるこの書簡は、ロシア軍が兵器を原発敷地内に保管している事実はないと主張。また、原発を攻撃しているのはウクライナ側だという非難を繰り返した。
●ザポリージャ原発でロシア軍車両とみられる映像 通信社が配信  8/20
ロイター通信は、ウクライナ南東部にあるヨーロッパ最大規模のザポリージャ原子力発電所で撮影されたとする映像を20日配信しました。
映像では、ロシアの軍事侵攻のシンボルとなっている「Z」の文字が書かれた、ロシア側のものとみられる車両が止まっているのが確認できます。
ロイター通信は、映っているのが原発内の建物であることは確認できるとする一方、撮影された日付けなどは不明だとしています。
また、アメリカのCNNテレビは同じ映像について、映っているのはロシア軍の車両5台とみられ、撮影されたのは原子炉からわずか130メートルにあるタービン建屋だと伝えています。
これまでウクライナや欧米側は、ロシア軍が原発内に武器などを運び入れたうえで、原発を盾に攻撃を続けていると非難し、一刻も早く撤退するよう求めています。
●残虐行為を目撃し飢餓と恐怖に耐えた子供の心と体に「戦争後」に起きること 8/20
なぜママたちと一緒におうちを出ることになったの? ユリア・ミチャエワの6歳の娘ソフィアはそう聞かれても答えようとしない。
普段は元気いっぱいの幼稚園児だ。お気に入りのキャラクターに扮して遊ぶのが大好きで、ロシアが祖国ウクライナに侵攻する2週間前にはバレエの発表会でキツネ役を演じたばかりだった。そんなソフィアも戦争の話となると黙り込み、自分がいる場で誰かがその話をすることも嫌がる。
母親のユリアは先日、2時間近くを割いて脱出までの凄絶な体験を本誌に語ってくれた。語り終えると彼女は逆に記者に質問した。
公園に友達の笑い声ではなく、近くに落ちたミサイルの爆発音が響いたら? 大切なぬいぐるみやオモチャばかりか、ガーフィールドという名の猫とサーシャという名の大好きなパパと別れて、祖国を出ることになったら?
それでもその子は大丈夫なの? 子供はどのくらい恐怖や悲しみに耐えられるものなの?
ユリアの問いに対する誠実な答えは、必ずしも彼女が、そしてウクライナの親たちが聞きたがるようなものではない。
長引く血なまぐさい紛争で家を追われた子供たち──ウクライナだけでなく南スーダン、イエメン、アフガニスタン、シリアなどの子供たちは、安全な場所に避難すればそれで安心とはいかない。
戦火を生き延びた人々に関する膨大な文献、古くは1944年にさかのぼる調査結果は、戦争が子供たちの心に深い傷を残すことを示している。
高齢になっても目に見えない傷に苦しむ
戦地で過ごす時間が長いほど、大人になってから病気になったり、メンタルの不調を抱える確率が高くなる。戦争は平均身長の低下や教育の中断を招き、高度な職業能力の習得を妨げ、生涯賃金を減少させかねない。
幼い日に戦争を体験した人は高齢になっても目に見えない傷に苦しみ続けることがあるのだ。
それなのに現実はどうか。NGO「セーブ・ザ・チルドレン」の最新報告書によると、2020年に紛争地域で暮らす子供の数は過去20年で最多の4億5000万人以上に達した。世界の子供6人に1人の割合だ。しかも、これはロシアがウクライナに侵攻する前の数字である。
ウクライナの人口は4400万人。侵攻後数週間で、その3分の1、オランダの人口にほぼ匹敵する推定1500万人が難民となった。これは欧州大陸では過去75年余りで最大の数字で、その90%超が女性と子供だ。
ウクライナの子供の60%が家を追われたと、ユニセフ(国連児童基金)は推測している。国外に脱出した子供は200万人、国内に避難した子供は250万人に上るとみられる。
これほど多くの子供をどう救うのか。そこは援助機関の出番だと言いたいところだ。近年の活動を通じて援助機関は紛争の影響から子供たちを守るスキルを蓄積している。ただ、その一方で活動の限界を露呈してきたことも否めない。
ウクライナ危機は、国連によれば「最も迅速かつ寛大に」難民支援の寄付が集まった危機でもある。シリアやアフガニスタン、南スーダン、あるいはミャンマーのロヒンギャ支援に比べ、ざっと7、8倍という未曽有の寄付金が集まった。
こうした資金を活用して、援助ワーカーや児童保護の専門家ら専門的なスキルを持つ多数の人材がソフィアのような子供たちに支援の手を差し伸べる。
ウクライナ危機は、たまたまパンデミック対策としてオンライン授業の導入が進んでいた時期に起きたという意味でも、これまでの危機とは条件が違う。
とはいえ絶えず移り変わる前線の向こうに大勢の子供たちが足止めされている状況では、支援しようにも子供たちに近づけないジレンマがある。たとえ資金が潤沢にあっても、紛争中の支援は一筋縄ではいかない。
「子供の心のケアについては経験やスキルが蓄積されているが、問題は支援が必要な子供たちにどうアクセスするかだ」と、ユニセフのセーラ・ボーダス・エディーは話す。
母親の手を握りしめ、そばを離れなかった
2月24日木曜未明、ソフィアは母親のユリアとマンションの16階で寝ていて、雷にしては異常に大きな音に驚き目を覚ました。窓から外の様子をうかがったユリアは爆撃が始まったことを知った。ウクライナ侵攻を開始したロシア軍はまず首都キーウ(キエフ)に狙いを定めたのだ。
その日の夜は空襲警報がひっきりなしに鳴った。一家はほかの3家族と共に近くの建物の地下に避難した。マンションは軍事基地の近くにある。ソフィアは怯えて、母親の手をしっかりつかんでそばを離れなかった。
翌日、親子3人とユリアの両親、それに猫のガーフィールドも一緒に車に乗り込み首都から逃れた。途中、キャリーバッグに荷物を詰めて徒歩で逃げる人たちの長い列や、車のルーフに家具やかばんをくくり付けて逃れる人たちを見掛けた。
ミチャエワ一家は車を1時間ほどほど走らせて、キーウの東約65キロの所にある別荘に到着。近くの村で2週間分の食料を買い込み、テレビのニュースを見ながらこれからどうするか話し合った。別荘はドニプロ(ドニエプル)川の支流の近く、ブチャという村のそばに位置していた。
「その時はとりあえずここなら安全だと思っていた」と、ユリアは話す。「2、3日様子を見て、どうするか決めようということになった」
2日後、それまでは遠くで響いていた爆発音が明らかに大きくなった。別荘はロシア軍とウクライナ軍の陣地に挟まれた空白地帯にある。程なく電気が止まり、携帯電話が通じなくなり、外界との通信が完全に断たれた。
戦闘がやんで、辺りが静かになったときには、ソフィアは祖母に注意深く見守られて外で遊ぶか、お下がりの衣装でキャラクターに扮して遊んでいた。夜になると、一家は暗闇で身を寄せ合うようにして横になったが、近くで絶えず爆音がとどろき、ろくに眠れなかった。そのうち食料が底を突き始めた。
そして、ミチャエワ一家は決めた。車に荷物を積み込み、白い旗と「CHILDREN(子供)」と書いた紙を貼った。
その頃にはユリアは体重が5キロ近く減っていた。ソフィアは食事は十分に取れていたが、いつでもどこでも踊っていた活発な子がおとなしくなっていた。もう何週間も踊っていない。泣いてばかりいる娘がユリアは心配だった。
路肩に止まっていた車を通り過ぎると、前方に別の車が止まっていた。道路の真ん中で隣人が必死に手を振っていた。すぐ先でロシア軍が彼らの車に発砲してきたのだ。
ユリアはソフィアを自分の膝に乗せた。8歳と13歳の兄弟が乗ってきた。血まみれで手に包帯を巻いていた。弟は黙り込んでいた。兄は「かすり傷だよ」と言ってソフィアをなだめようとした。
近くの臨時病院で隣人家族を降ろし、ユリアたちはいったん別荘に戻った。
程なくして、ラジオを聞いていた父親のサーシャは、「人道回廊」の交渉がまとまって安全な避難経路が確保されたことを知った。危険ではあるが、選択の余地はなさそうだった。
げっそりと痩せ、汚れ、疲労困憊していた
一家は再び出発し、車15台の列に加わり、さらに100台ほどの大きな隊列に合流した。サーシャはロシア兵の姿を見て、ロシア側の検問所を通過しているのだと悟った。
彼らは奇跡的に街を出ることができた。ウクライナ西部にたどり着いた一家の姿に、友人たちは驚いた。げっそりと痩せ、汚れていて、疲労困憊していた。
ソフィアは、どうしてこんなにたくさん兵士がいるのか、どうしてロシアが攻めてきたのか、どうして彼らは人を殺そうとするのかと、繰り返し尋ねた。このときはまだ、知りたがっていたのだ。
20世紀の戦争から学んだ重要な教訓の1つは、時間は敵であるということだ。第2次大戦までさかのぼった多くの研究によると、戦闘地域に2、3週間いただけで、子供の人生の軌跡は恒久的に、取り返しのつかないほど大きく変わり得る。
だからこそユニセフのような組織は、できるだけ多くの子供を危険から遠ざけることを第一の目標としている。
その意味では、ソフィアは幸運と言えるだろう。彼女は戦闘を目の当たりにしてから約3週間後の5月10日、状況がさらに悪化する前に脱出した。空腹に耐えるという経験もなく、病気にもならなかった。
戦争の最も広範な影響は、得てして暴力に直接さらされることではないと、国連大学世界開発経済研究所シニアリサーチフェローのパトリシア・ジャスティノは言う。むしろ、暴力を避けようとする人々が安全を確保するために耐え忍ぶ飢餓や病気が深刻な影響をもたらす。
塩漬けの豚肉がなくなるとミチャエワ家のような人々はどうなるのか。マリウポリで多くの人が経験し、今もウクライナ東部で数百万人が経験しているように、電気もなく、ひどく寒いぬれた地下室や瓦礫の中で身を寄せ合って、恐怖に怯えながら何週間も過ごす。
生活の維持に必要なインフラが破壊される。公衆衛生も医療も不足し、警察は機能せず、破壊された残骸の中で無秩序と悪が育まれる。そして何よりも、絶え間ないストレスが過酷な犠牲を強いる。
ブルンジやルワンダ、ボスニア、南スーダン、インドネシアのバンダアチェの戦争生存者に関する研究でも、明確な影響が証明されている。前線が移動するたびに、その後ろに閉じ込められた子供を救うことは時間との戦いになると、ウクライナの救援活動に携わる人々は知っている。
重要な社会的発達の機会を奪われる
小児科医の言う「毒性ストレス反応」を和らげる上で、親は重要な役割を担う。ストレスホルモンのコルチゾールが引き起こす生物学的な反応の連鎖は、後年のさまざまな健康問題に関連する。
長時間のストレスがアドレナリンの分泌を促し、闘争・逃走反応を一気に活性化させて、さらなるストレスに備えるための酵素を体内に送り込む遺伝子のスイッチをオンにする。
そのため、毒性ストレスを受けた子供は感情のコントロールが難しくなる。さらに、体が常に過敏な状態になって正常な発達が阻害される。
さまざまな紛争を生き延びた子供に関する研究から、長引く紛争に耐えている子供は早めに避難した子供より背が低く、成長しても体が小さいことが分かっている。一方、紛争地の学校は基本的に危険な場所で、教育上の障害は完全には回復しない。
戦争を経験した子供の多くは紛争地域に戻らないが、戻った子供、特に最も幼い生存者は、重要な社会的発達の時期を逃す。
体内ではストレスホルモンが遺伝子のスイッチを切り替え、化学反応の変化が始まっている。こうした課題は経済学の研究でも、子供時代に戦争を生き延びた成人の賃金減少、失業率の上昇、労働成果の低下として表れている。
ルワンダとブルンジの子供を対象にしたブリュッセル自由大学のフィリップ・バーウィンプ教授(開発経済学)の研究によると、1990年代に紛争にさらされたことが、その後の人生で身長と体重の大幅かつ持続的な減少に関係している。こうした変化が教育と収入の低下につながるとする研究も多い。
ウクライナ政府は、新型コロナウイルスのパンデミックの際に構築された遠隔学習のインフラを動員して、子供と学校のつながりを維持しようと積極的に働き掛けている。
防空壕からタブレット端末でやりとりをする子供もいれば、ヨーロッパに移住した後も遠隔授業に参加してクラスメイトと連絡を取り合う子供もいる。
ユニセフやセーブ・ザ・チルドレンなど、ウクライナの現地で活動する支援団体は当初から、すぐにアクセスできなくなるかもしれない地域に食糧や浄水タブレット、衛生用品、医療品を届けるだけでなく、前線近くに「レクリエーション・キット」や「教育キット」を配っている。
教育キットは携帯しやすく、ペンや紙のほかに算数などの指導マニュアルもあって、近くにいる大人が教えることができる。
レクリエーション・キットは小型トランクほどのブリキ缶に、数種類のボール、ボードゲーム、空気入れ、ネット、チーム分け用のビブスなどが入っており、爆撃の合間にサッカーやバレーボールを楽しめる。
ストレス解消のために、ほんの少しでも平常心を取り戻そうとすることによって、コルチゾールなどのストレスホルモンの分泌が抑えられることが分かっている。
その一方で、国連やNGOなどの援助機関は、ウクライナ支援に多額の寄付や拠出金が殺到して、世界の他の紛争地での援助活動が手薄になることを危惧している。
世界の紛争地で5000万人の子供が栄養失調
ロシアのウクライナ侵攻は、アフガニスタンやイエメンなど非白人・非欧州諸国の紛争に苦しむ子供たちのニーズが、おそらく過去最大に高まっているときに起きた。
こうした国々に向けられるはずの資金が、ウクライナに回されているという直接的な証拠はない。だが、赤十字国際委員会(ICRC)は5月の時点で、今年の人道援助計画の42%しか資金が確保できていないと米NBCニュースに明かしている。昨年の同時期は52%だった。
ユニセフによると、今、世界の紛争地などで生命を脅かす栄養失調に陥っている子供は5000万人に上り、年内にさらに900万人増える恐れがあるという。
資金不足はさまざまな地域での援助活動に打撃を与える。
例えば、アフリカの角地域では、歴史的干ばつによって飢餓と人口移動が加速しており、安全な飲み水や医療の不足も深刻になっている。これにはソマリアとエチオピアとケニアにおける人道援助活動が、過去最大の資金不足に直面していることも影響している。
さらに心配なのは、アフリカの角にある国の多くが、食糧をウクライナ産とロシア産の小麦に頼っていることだ。
今回の戦争でその供給は激減し食糧価格が高騰、世界的なサプライチェーンも大混乱に陥っている。このため、この地域の飢餓は一段と悪化する恐れがある。
もちろんウクライナの戦闘地帯では、ウクライナの子供たちが同じように悲惨な状況に置かれている。この地に取り残された数百万人に援助物資を届けるのは至難の業だ。
ロシア政府とウクライナ政府は事実上交渉をストップしているから、外交的な打開策は見込めない。援助機関は、こうした地域に食料や医療品の備蓄があることを祈るしかない。
今年5月、激戦地マリウポリの広大な製鉄所の地下に避難していた市民の一部が、ICRCの手配したバスで250キロほど西に位置する街ザポリッジャ(ザポリージャ)に退避したことが報じられた。
ザポリッジャには、マリウポリだけでなく、東部のさまざまな地域から避難してくる人たちを受け入れるトランジットセンターが設けられている。
ここでは清潔な衣服と食料と水が支給され、シャワーも浴びることができる。救急車も待機していて、高度な治療が必要な人は、近隣の医療機関に搬送される。栄養の専門家や心理カウンセラーもいて、命からがら逃げてきた人たちを温かく迎え入れ、状況を「静かに」説明する。
だが「多くの子供たちは茫然自失の状態で、何も聞きたがらない」と、ユニセフの緊急対応専門家エリアス・ディアブは語る。「2カ月間地下に隠れていた子供は、『ずっとお日さまを見ていなかった』とポツリと語った。子供たちは皆、何らかのストレスに苦しんでいる」
大人に同伴されていない子供は、特別な支援が必要だ。それ以外の子供と家族のほとんどは、ユニセフなどの援助機関が用意した休憩施設に案内される。
ここで親はお茶を飲みながらくつろぎ、子供たちはおやつをもらい、子供らしく遊び回ることができる。塗り絵やおもちゃが支給されることも多い。
物静かな子供には特に目を光らせる
そんななかでソーシャルワーカーが特に目を光らせるのは、物静かな子供だと、国際NGOプラン・インターナショナルのグローバル人道ディレクターであるウニ・クリシュナンは語る。
トラウマ的な経験をした子供は(大人もだが)、自分の中に引きこもることが多いからだ。「ショックやトラウマは人間の感覚を麻痺させることがある」
想像を絶する破壊と流血と死を見てきた子供たちは、そうした経験を説明する言葉を知らないことも多い。
「沈黙が彼らのストーリーのこともある」と、クリシュナンは語る。「世界を信じられなくなってしまうのだ。筆舌に尽くし難い恐ろしい経験をしてきたのだから」
こうした子供たちが遊びや音楽や工作を通じて自分の気持ちを表現したり、ストレスを発散したり、それを引き出してくれる熟練カウンセラーと話をできる場をつくることは極めて重要だと、クリシュナンは言う。
子供の心は「風船のようなものだ」と彼は言う。「空気を逃がす機会をつくらなければ、破裂してしまう」
だが、ユニセフのディアブは、子供のレジリエンス(再起力)を信じている。現在40代の彼は、10歳になる前にレバノン内戦を経験し、避難民としてあちこち放浪した経験がある。家族と2カ月間避難所で暮らし、ようやく自宅に戻ってみると、壁という壁は弾痕だらけで、窓ガラスは一枚も残っていなかった。
それでも法学の修士号を取得し、今やユニセフに勤務し、有意義で生産的な人生を送れているのは、両親のおかげだと彼は言う。
「両親は、『これから旅行に行くよ。すごく楽しくなる!』と私たちに言い聞かせた」と彼は振り返る。「とても危険な未来が待っていると分かっていたけれど、子供たちができる限り楽しめる状況をつくってくれた」
親の果たす役割は大きい
ディアブの経験は、子供が戦争のトラウマを乗り越える上で、親の果たす役割の大きさを物語っている。
だからユニセフは、戦闘地帯にいる子供を避難させたり、援助物資を届けたりするだけでなく、親や保護者をサポートしたり、家族とはぐれた子供たちが避難先で家族と再会できる活動にも力を入れている。
親のレジリエンスと安定した暮らしのために投資すれば、子供に及ぶリスクを低下させられることは、多くの研究で明らかにされている。
このことが今、特に重要なのは、戦争のプレッシャーがドメスティックバイオレンス(DV)の急増につながることが、近年の内戦や紛争の研究から分かっているからだ。
家族で地下に身を隠し、わずかでも音を立てれば武装兵に気付かれて、家族もろとも命を失いかねない緊迫した状況では、平時は世界一穏やかだった親も、子供を守りたい一心で、子供に厳しく当たってしまう可能性がある。そうした状況に置かれている大人に、子供に手を上げずにストレスに対処する方法を教えるだけでも、子供の福祉に大きなインパクトを与えることができる。
今はユリアも、娘のソフィアの将来を楽観している。ユリアとソフィア、そしてユリアの両親は最近、ドイツのケルンにたどり着き、友人の家に滞在している。ソフィアは週に1回、地元の幼稚園にも通えるようになった。
ソフィアが戦争について話したがらないのは、異常なことではないとソーシャルワーカーは言う。
いずれ話す気になるかもしれない。今、何より大切なのは、ソフィアがまた自由に走り回って、笑えるようになったことなのだ。
●「プーチン大統領の支持率が71%」ロシア国民がウクライナ侵攻に賛成する理由 8/20
真実が知られないようメディア統制を強化
ロシアのプーチン大統領が命じたウクライナ侵攻は、次第に無差別攻撃の様相を呈し、学校や病院、原発を攻撃するなど泥沼化してきた。
残虐な戦争の実態はロシアでは報道されず、逆に愛国主義が高揚し、2月28日の世論調査では国民の68%が「特別軍事作戦」を支持。反対は22%だった。プーチン大統領の支持率も侵攻1週間で71%に上昇した。
政権側は反政府系メディアや外国報道機関の活動を統制するなど、戦争の真実が国民に知られないよう躍起になっている。
プーチン大統領の暴走を阻止できるのは、政権内部のクーデターと国内の反戦運動だが、政権の亀裂は現実的でない。国内の反戦世論が今後どう広がるかを探った。
学校では「これは平和維持活動」と教育
プーチン政権は前例のない報道管制に着手した。政権の支配下にある上下両院は3月4日、「ロシア軍に関する虚偽情報を広める行為」に最大15年の禁固刑を科す法案を可決。ロシアへの制裁を支持する行為にも最長3年の禁固刑を科すとしている。
政権は反政府系ラジオ局「モスクワのこだま」やテレビ局「ドーシチ」を閉鎖に追い込み、メディア各社の検閲を強化した。シンクタンクのサイトも更新されておらず、学者らにも反戦論調の禁止を命じている。西側主要メディアもモスクワでの報道活動を自粛した。
国営テレビはウクライナ政府の東部での「ジェノサイド」(大量殺戮)を非難するキャンペーンを延々と報道。2022年3月時点では、ロシア側が市民退避ルートの「人道回廊」を提案しても、ウクライナ側が拒否したと一方的に非難している。
ウクライナ侵攻を支持するシンボルとして、アルファベットの「Z」が社会に拡散している。
独立系メディア「メドゥーサ」によれば、ロシアの学校に、ウクライナ戦争に関するガイダンスが配布された。それによると、生徒が「これはウクライナとの戦争なのか」と質問した場合、「戦争ではなく、ロシア語圏の人々を弾圧する民族主義者を封じ込める特別な平和維持活動」と答えるよう指示されている。
ロシア人セレブ、スポーツ選手らが停戦を呼びかけ
国民を闇に包む「愚民政策」の一方で、SNSやツイッターでは反戦論も発信されている。
英国で活動するロシアのベストセラー作家、ボリス・アクーニン氏は「ロシア人が精神を病んだ独裁者の蛮行を止められなかったことは、ロシア人全員の責任だ」と強調した。
1990年代に日露交渉に携わったゲオルギー・クナーゼ元外務次官も「精神異常者の愚行を止められなかったことをウクライナの人々に謝りたい」と書いた。
経済学者のアンドレイ・チェレパノフ氏は「真実を伝えるメディアがあれば、戦争終結を求める反乱が起きたはずだ。クレムリンはそれを極度に恐れた」と指摘した。
このほか、大統領選に出馬したタレントのクセニア・サプチャク氏、映画監督のロマン・バシャノフ氏、テニスのダニール・メドベージェフ氏、ノーベル平和賞を受賞した「ノバヤ・ガゼータ」紙編集長のドミトリー・ムラトフ氏、「アルミ王」と呼ばれた新興財閥のオレグ・デリパスカ氏ら多くのセレブやスポーツ選手らが停戦を要求した。
即時停戦を求めるオンライン署名は100万人を超え、医師や建築家ら各業界の抗議書簡も発表された。
50都市以上で反戦デモが行われているが…
詐欺罪などで投獄されている反政府運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は獄中から発信し、プーチン大統領を「狂気の皇帝」と非難。「ウクライナ侵略戦争に気づかないふりをする臆病者の国になってはならない」とし、不服従の抗議デモを毎日行うよう国民に呼びかけた。
ナワリヌイ氏は2020年夏、シベリアで化学兵器の一種であるノビチョクを何者かにもられて重体となり、ドイツの病院で療養。昨年1月に帰国した際、空港で逮捕され、有罪となった。
ナワリヌイ氏らの呼びかけに応じ、2月24日の開戦以来、50都市以上で反戦デモが週末に行われ、数万人が参加。3月6日までに約7000人が拘束された。
ロシアでは、選挙不正や年金改革に反発するデモは発生するが、反戦デモは異例だ。とはいえ、モスクワのデモは3000人規模にとどまっており、参加者の多くは警察に連行された。政権に打撃を与えるには10万人規模に広がる必要がある。2011年の下院選の不正に反発する反プーチン・デモは、若者や中産階層を中心に10万人以上に膨れ上がり、警察は座視するだけだった。
「プーチンはエリートの間で支持を失っている」
2014年にロシアが無血でクリミアを併合した時、国民は陶酔状態となってプーチン支持に結集した。しかし、8年後のウクライナ戦争は凄惨な市街戦となり、エリートや知識層の間で動揺が広がっているようだ。
著名な社会学者、オリガ・クリシュタノフスカヤ氏は、「プーチンはエリートの間で支持を失っている。政権幹部の忠誠心にも陰りが出始めた。情報源をテレビからネットに切り替える人が増えており、誰もが真実の情報を求めている」と分析した。
ロシアは口コミ社会で、犬の散歩や台所の会話で、人々は情報交換し、激しい議論を展開しているという。
欧米が発動した過去最大の経済制裁も今後、庶民の生活を脅かし、生活水準低下を招くのは必至だ。生活苦も反戦機運を高める要素となる。
社会学者のグリゴリー・ユーディン氏は「メドゥーサ」のインタビューで、「反戦デモに参加すれば、脳震盪(のうしんとう)を起こすほど殴られたり、刑務所で下着を脱ぐよう命じられたり、前科一犯として就活が難しくなると警告される」としながら、「ウクライナへの電撃戦が失敗したのは明らかだ。ロシア側はすでに大量の死傷者を出し、焦ってクラスター爆弾を使用するなど非人道的攻撃をしている。ウクライナに親戚を持つロシア人も多く、無謀な戦争への反発が高まっている」と述べた。
「ロシアの歴史上、最も無意味な戦争」(同氏)とされるウクライナ戦が長引くほど、ロシア社会の反戦機運も高まる可能性がある。
戒厳令を敷けば無期限の「戦時大統領」に?
ロシアの今後の方向としては、プーチン政権が反政府運動を鎮圧し、外国との交流を制限する「要塞」化のシナリオが有力だ。
頑固なプーチン大統領は、ウクライナ軍の抵抗や欧米の制裁がいくら強くとも、ウクライナの分割・解体という最終目標に向けて突き進むだろう。停戦や撤退は敗北を意味し、政権基盤を揺るがすことになる。
プーチン氏にとって、政権のサバイバルは至上命題であり、国内の反戦論や国際社会の制裁に対抗し、戒厳令を導入する可能性もある。インターネットやSNSを遮断し、国際関係を制限し、総動員令を敷いて危機突破を図るというシナリオだ。
戒厳令を発動する場合、2024年3月に実施予定の大統領選も中止されよう。プーチン氏は「戦時大統領」として強権体制を維持、強化することになる。

 

●避難民500万人以上を受け入れ、想像超えるポーランドのウクライナ支援体制 8/21
ポーランド第2の都市クラクフで、8月16日の夜、若者たちがウクライナの平和を訴える集会を開いていた。
それは、旧市街地に広がる中央市場広場を偶然通りかかったときのことだった。それでなくても休暇シーズンなので、ヨーロッパ各地から多くの人がこの美しい中世の街を訪ねていて、まっすぐ歩くのも難しいほどの人出だったのに、ある一角だけ、若い人がさらに密に集まって、歌や踊りでウクライナ戦争を糾弾していたのだ。
ポーランド語が全くできない身の上では、正確な理解は程遠い。それでも、プーチンとか、テロだとか、ロシア(あるいはその派生語)といった言葉が並べ立てられているのは理解できた。それと、「ポーランド」と「ウクライナ」を連呼していたのも印象的だった。
一部ではあるが英語で行われたシュプレヒコールを聞いていると、自由のために戦争を止めろ、そのためにポーランドも戦う、といった趣旨の主張を唱えていた。
群を抜いているウクライナ避難民の受け入れ数
今回のポーランド滞在はわずか3日だった。これから、列車やバスでパリまで移動することになっている。いま、この原稿はオーストリアのウィーンで書いている。
今回、渡航先の1つにポーランドを入れたのは、ポーランドがウクライナに強く肩入れする背景には何があるのか、という疑問を抱いたからだ。専門としている文化学からのアプローチである。
そうやってアンテナを張っていると、時事的な側面もちらちらと目の中に入ってくる。いくつかの数字を紹介しておきたい。
時事通信社の公開しているデータでは、8月16日現在で各国が受け入れたウクライナ避難民は、モルドバが57万人、ルーマニアが161万人、ハンガリーが119万人、スロバキアが69万人であるのに対し、ポーランドは544万人と群を抜いている。
ポーランドがウクライナに手を差し伸べる動きは、早いうちから見られた。戦争が始まってひと月半ほどが経過した4月15日には、ポーランドが受け入れたウクライナからの避難民は270万人に達し、ワルシャワの人口の17%をウクライナ人が占めるようになったという。また、ウクライナで1日に必要とされる支援物資1000トンのうち、大部分がポーランドから送られていたという。
当初はこうした支援がポーランド経済にとって大きな負担になるのではないかと懸念されていたが、6月1日、ポーランドのモラウィエツキ首相は、ウクライナへの支援がポーランドを経済的に後押しすることにもなるとの考えを示した。
それが追い風になったのかは定かではないが、それからひと月半後の7月19日時点では、33万5000人のウクライナ人がポーランドで就職している。
街のいたるところに黄色と青のコンビネーション
そうした傾向は、ポーランドの街中の光景も変えている。まず、これまでもメディアが報じてきたように、大都市の駅には簡易避難所が設けられている。しかも、1つの駅にいくつかあるのだ。列車の待ち時間に見ただけなので、それぞれの避難所が同じ機能を持った場所なのか、それとも避難所に複数の種類があるのかまでは、残念ながら確認することができなかった。
首都ワルシャワにしてもクラクフにしても街のいたるところで、ウクライナの国旗を象徴する黄色と青のコンビネーションが目に飛び込んでくる。
ワルシャワの大通りを歩いていても、ところどころでウクライナの国旗が表示板などで表示されていた。ウォーターパークのポスターと思しきものは、黄色いゴム製の浮き具に、ブルーを付け加えてデザインされている。
あるいは、クラクフで買い物をしていても、ウクライナの国旗があちこちに描かれていたり、表示されたりしている。
クラクフ駅構内のドラッグストアでは、香水の広告パネルが、ウクライナの国旗や、赤と白のポーランドの国旗を思わせるデザインになっていた(本記事の冒頭の写真)。いや、よく見ると、赤と青を組み合わせたものもあり、まるでポーランドとウクライナがともに心を一つにしているとでも言いたげだ。
日本人の想像をはるかに超えているウクライナへの協力体制
単純な例えだが、ポーランドを日本に置き換えたときに、日本人は韓国あるいは台湾に対してポーランドと同様のことができるだろうか。おそらくそこまでのメンタリティはないだろう。
なぜ無理なのかは話が逸れてしまうので、それは別の話に譲るとして、ポーランドの国だけでなく、一般の国民におけるウクライナへの協力体制は、日本人の想像をはるかに超えているのではなかろうか。
ちなみに、今、私が滞在しているオーストリアや、その周辺に位置するハンガリーやチェコなどでは、もちろんウクライナの国旗を街で見かけることはあるが、ポーランドほどの力の入れようではない。
なぜポーランドはこれほどウクライナに傾倒するのか。私にとっては、純粋に興味深いテーマである。それは、単に現在の地政学的影響だけでなく、ポーランドの歴史やそれに育まれてきた文化が影響しているに違いない、というのが私の今現在のぼんやりした考えだ。
そもそもポーランドの歴史は一筋縄ではいかない。フランスやイタリアの影響を受け、ドイツ、オーストリア、ロシアからも支配された。それらすべてがごちゃ混ぜとなり、そのなかでアイデンティティを築いてきたのだ。その強固な精神を読み取るのが、私の目的である。
今回の滞在中に、何度かウクライナの人たちを見かけた。1回目はワルシャワのレストランで、スープとパンで夕食を済ませた家族だった。いったい何語で話しているのかわからなかったが、店員に対しては英語だった。不思議に思って聞いたら、ウクライナからの避難民だという。
彼らの食事の量が少ないのが気になったが、それについて尋ねる勇気は、私にはなかった。でも彼らにとっては、連休初日のささやかな贅沢だったのだろう。食事が済むと、楽しそうに店をあとにした。
彼らの姿を思い出すと、クラクフで若者たちの叫び声もよみがえる。自由のために戦争をやめろ。彼らはそう訴えていた。
●ロシア国民が「強いリーダー」を強烈に支持するワケ 8/21
ロシア・ウクライナの戦争が起こり、世界は今、緊張感が高まり、分断へと向かっている。日本にとっても、ロシアは隣国の1つであり、外交上でも重要な国であるにもかかわらず、私たちは意外とロシアのことをわかっていない。今回は『ビジネスエリートの必須教養 「世界の民族」超入門』の著者で元外交官、世界96カ国を訪れた経験を持つ山中俊之さんに「ロシアとはいったいどんな国なのか?」を詳しく聞いた。ロシアの人々はどんなメンタリティを持っているのか。そして、どんなリーダーを求めるのか。そして、さらには今後世界はどのようになっていくのか。国際経験豊富な山中さんならではの「今後の世界の未来予想図」を語ってもらった。(取材・構成/イイダテツヤ)
18世紀、ロシアが強くなり始める
――ロシア・ウクライナの戦争によって両国が注目を集めていますが、ロシアは日本にとっても隣国のひとつであり、存在感はすごくあるように思います。その一方で、「どういう国なのか」がわからないところもあります。実際、ロシアとはどういった国だと山中さんは捉えていますか。
山中俊之(以下、山中) あれだけの大国ですから、当然ロシアの人たちにも大国意識はあるのですが、一方で西洋に対するコンプレックスもあるし、嫌悪感もある。そんな複雑な意識をロシア人は持っていると思います。
ロシア人というと、私たちはすぐに白人を思い浮かべますが、アジア系の顔立ちをしている人もたくさんいますし、たとえばレーニンもその1人でモンゴル系の血が入っていると言われています。
ロシアという国は、もともとのスラブ系にモンゴル系が溶け込んでいくことで文化的にも豊かになった一方で、ロシア人のなかに西ヨーロッパへのコンプレックスが生まれてきたのも事実です。
「自分たちはヨーロッパの一員である」と自認するにもかかわらず、ヨーロッパ諸国からは「アジア的」とみなされている。そんな背景もロシア人のコンプレックスの一因と言えるのではないでしょうか。
歴史を振り返れば、17世紀以前、ヨーロッパにおけるロシアのプレゼンスはあまり大きくありませんでした。その後、ピョートル大帝が現れて、実際には18世紀初頭くらいから西洋化を進めるようになってきて、いろんな戦争に勝ってきたこともあり、どんどん大国になっていくんです。
そのなかで「おれたちもけっこうできるじゃないか」と自信を持ってきた国。そんな印象でしょうか。
その後、19世紀には素晴らしい芸術が花開いて、軍事的にも、芸術文化的にも大国になっていった。そんなふうに私は捉えています。
ロシアの知識人階級はとても賢い
――ロシアの芸術文化というと、トルストイ、ドストエフスキー、チャイコフスキーなど有名な人たちが次々と浮かぶのですが、実際、ロシアの人たちの教養は高いのでしょうか。
山中 ロシア人全体を捉えて「教養が高いか、低いか」を語るのはむずかしいですね。それはどこの国も同じで、人によって大きく異なりますから。ただし、いわゆる上流階級というか、エリート層の教養は極めて高いと思います。
世界のいろんな情勢を知っていますし、外国語もできる。当然、ロシア文学や音楽などにも精通しています。そういった人たちは世界の「あるべき姿」についてもすごく考えています。
ロシアの上流階級とか、エリート層を見ていくと、歴史的にも非常に複雑な社会構造というか、社会矛盾のようなものを抱えてきたと言えます。
たとえば、トルストイやドストエフスキーにしてもエリート層の生まれですが、農奴問題について積極的に触れているんですよね。「自分たちはヨーロッパの端くれだ」「先進的な社会だ」と誇っていながら、19世紀半ばまで、奴隷が売買されていました。そうした(当時の)現状、社会矛盾に対する問題意識は非常に高いわけです。
トルストイの『戦争と平和』にも出てきますが、「農奴を開放して自由にするべきだ」というような、当時としては先進的、人道的な貴族階級の人たちもいたわけです。
しかし、そういう人がなかなか多数派にはならない。そんな上流階級の人たちの葛藤や社会矛盾のようなものがロシアにはすごくあると思います。
そして、この言い方は適切ではないのかもしれませんが、そうした社会矛盾があるからこそ、哲学的な思索を深めている。そんな側面もあるような気がします。
歴史的にロシアが抱える社会矛盾の中から生まれている芸樹や文化も相当あるように私は感じています。
ちょっと話は逸れますが、ロシア・ウクライナの戦争が起こったとき、情報統制をされていて「ロシアの人たちは世界の現実を知らない」とか「ロシアの人たちは何もわかってない」というような論調も一部にはありましたが、必ずしもそれは真実ではないでしょう。
情報統制で言えば、中国に比べればそこまで厳しくないですし、日本人だって日本で報道されているもの以外、海外のメディアにどれだけの人がアクセスしているかと言えば、そこまで多くはないように感じます。ロシアの人たちのなかにも、世界の情報をキャッチしている人もいれば、そうでない人もいる。それはどの国でも同じなのではないかと私は思います。
「絶対的に強いリーダー」を求めるロシア
――『ビジネスエリートの必須教養 「世界の民族」超入門』のなかにはロシア人が求める「リーダー像」についても記述があります。ロシアという国は歴史的に見てどんなリーダーを求める傾向にあるのでしょうか。
山中 書籍にも書いたのですが、あるロシア人に「ロシアにおけるリーダーシップとは、アメリカと違うのでしょうか?」と質問したとき「ロシアは政治が専制的なところがあるので、『私はリーダーシップを取ります』という発言は良しとしませんよ。出過ぎる杭は大統領に打たれる」と言っていたのは印象的です。
笑いながら語っていたので、半分は冗談かもしれませんが、半分は真実を突いているように私は感じました。
実際、ロシアでは「絶対的に強いリーダー」を求める傾向が歴史的にあると思います。さきほども述べたように、ロシアでは19世紀まで農奴制やそれに近い仕組みがありました。そうした仕組み自体は世界中にあったものですが、19世紀まで続いていたのはめずらしいと言えるでしょう。
農奴は領主の所有物であり、移動も、結婚も領主の許可なしでは行なえませんし、売買されていた記録もあります。
そのように自由を奪われ、従うことに慣れ、自立を諦めた人たちが、支配者に全部任せて「どうか暮らしをよくしてください。困ったら面倒を見てください」と願うようになるのも不思議はありません。
そんな状況が続いていたら、リーダーは強ければ強いほど「頼りがいがある」となっていくのも当然ではないでしょうか。
また、現在のロシアは14の国と陸地で接しています。それだけ安全保障上の問題も生じやすくなるわけです。北極海は氷に閉ざされていますし、こうした閉塞感や対外的な恐怖感があって、より強いリーダーを求めるようになっていると私は感じています。
分断の後、世界は協調へと向かっていく
――なるほど。そんなふうに説明してもらうと、ロシアとか、ロシアの人たちが「強いリーダー」を求める背景が理解できるような気がしますね。
山中 ロシア・ウクライナの戦争以降、世界は確実に分断に向かっていて、これからも不安定な状態が続くかもしれませんが、それがずっと続くのかと言えば、そんなことはないと私は思っています。
歴史を振り返れば、大きな混乱があったとき、その後はやっぱり協調へ向かっているんです。もしかしたら、それは5年、10年という年月を要するかもしれませんが、世界はいずれ協調へ向かっていくでしょう。
感染症の問題にしても、地球環境や経済の問題など、今世界で起こるあらゆる問題は、協調していかなければ、誰も勝者とはなり得ません。それは軍事紛争も同じです。軍事紛争は一時的に見れば、どちらが勝った、負けたがあるかもしれませんが、どちらにしても大きな傷跡を残します。
だからこそ、世界は協調に向かっていくのだと私は思っています。
たとえば、いま現在「ロシアはダメだ」とか、「あの地域はダメだ」「やりとりをしない方がいい」「ビジネスはできない」と感じることがあるかもしれませんが、私はもっと長期的に物事を見ていくことが大事だと考えます。
人類は苦しみを経験すればするほど、必ず協調へと向かっていく。協調へと向かわざるを得ない。そんなふうに私は思っています。やや希望的過ぎるかもしれませんが、歴史を紐解けば、やはりそれが1つの真理なのではないでしょうか。
●クリミアで攻防激化 ロシア軍の黒海艦隊司令部を無人機が攻撃  8/21
ウクライナでは、ロシアが8年前一方的に併合した南部クリミアで、ロシア軍の黒海艦隊の司令部が無人機で攻撃されるなど、双方の攻防が激しくなっています。
ウクライナ南部クリミアの軍港都市セバストポリでは、8年前のロシアによる一方的な併合のあと、行政府のトップとなったラズボジャエフ氏が20日、ロシア軍の黒海艦隊の司令部が無人機で攻撃されたことを明らかにしました。
詳しい状況は分かっていませんが、無人機は司令部の上空で撃墜したとしています。
一方、ウクライナ政府は、この無人機による攻撃についてこれまでのところコメントしていません。
クリミアでは今月9日にも駐留するロシア軍の基地で大規模な爆発が起き、ロイター通信は19日、欧米の当局者の話として、この爆発で黒海艦隊に所属する戦闘機の半分以上が運用を停止していると伝えました。
こうした中、ロシアの有力紙コメルサントは19日、黒海艦隊の新しいトップにビクトル・ソコロフ氏が就任したと報じました。
イギリス国防省は今月16日、黒海艦隊について「効果的に制海権を行使することに苦慮している」と分析していて、ロシアとしては、ウクライナ軍が南部で反転攻勢を強める中、黒海艦隊のトップを刷新することで戦力を立て直したいねらいもあるとみられます。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は20日に公開した動画で「ロシアによるクリミアの占領は一時的なものだ。ウクライナがクリミアを取り戻すと感じることができるだろう」と述べ、クリミアの奪還を目指す決意を示しました。
そして、今月24日でロシアによる軍事侵攻から半年となることに触れ、ウクライナの勝利のため国民の団結を呼びかけました。
●プーチン氏の盟友ドゥーギン氏の娘、モスクワ近郊で車が爆発し死亡 8/21
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の世界観に大きく影響したとされる国家主義思想家の娘が20日夜、モスクワ近郊で車が爆発したため死亡したという。複数の現地メディアが伝えた。現地報道によると、思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏(60)の娘ダリヤさん(30)は、車で帰宅中だった。
ロシア・メディア「112」によると、ドゥーギン親子は20日夜に集まりから帰宅中だった。当初は同じ車に同乗する予定だったが、直前になってドゥーギン氏は娘と別の車に乗ることにしたという。
「プーチンの脳」とも呼ばれるドゥーギン氏を対象にした攻撃だったのか、明らかになっていない。
通信アプリ「テレグラム」に投稿された未確認の現地映像では、救急車などが到着した現場で、大破して炎上する車両の前で、呆然(ぼうぜん)とした様子のドゥーギン氏の様子が映っている。映像の内容をBBCは独自に検証できていない。
匿名の警察関係者はロシア国営RIA通信に、モスクワ州オディンツォヴォの高速道路で車が炎上したと確認したが、詳細は明らかにしていない。
ロシア当局からの正式な発表はまだない。
「プーチンのラスプーチン」
ドゥーギン氏はロシア政府内の正式な肩書を持つわけではないが、プーチン大統領と親しく、思想的に大統領に大きな影響力をもつとされ。このため、帝政ロシア末期に皇帝一家に近く、影響力を持った僧侶グリゴリー・ラスプーチンになぞらえて、「プーチンのラスプーチン」などと呼ばれてきた。
「ロシアは、欧米とは異なる価値観のユーラシアという独自の空間」だという「ネオ・ユーラシア主義」を提唱するドゥーギン氏の国家主義思想が、プーチン氏の世界観に大きく影響したとされており、ウクライナ侵攻を正当化するプーチン氏の理論形成にも関わっているとされる。
ウクライナ侵攻を支持するドゥーギン氏は2015年、ロシアによる2014年のクリミア併合に関与したとして、アメリカの制裁対象に加えられた。
20日夜に車の爆破で死亡した娘のダリヤさんも、親プーチン派メディアのジャーナリストで、ウクライナ侵攻を支持するコメンテーターとして知られていた。イギリス政府は、ロシアによるウクライナ侵攻についてオンラインの「偽情報」に加担しているとして、ダリヤさんを制裁対象にしていた。
●「ロシアは私の死を望んでいる」6年間の沈黙破った「パナマ文書」匿名提供者 8/21
各国首脳の不正蓄財などタックスヘイブン(租税回避地)の実態を暴露し、2016年に報道が始まった「パナマ文書」の匿名提供者がこのほど、6年間の沈黙を破ってインタビューに応じた。文書で巨額取引が暴かれたロシアのプーチン大統領の側近が、ウクライナ侵攻を巡って西側の制裁対象となったことを歓迎する一方「(ロシアの報復は)私が生きる上で共にするリスクだ。ロシアは私の死を望んでいる」と、報復を危惧していることも明らかにした。
各国首脳らとタックスヘイブンとの関わりを暴くきっかけを作った匿名の情報提供者は、文書を渡した欧州有力紙、南ドイツ新聞の元記者フレデリク・オーバーマイヤー氏とバスチャン・オーバーマイヤー氏のインタビューに応じた。ドイツ有力誌「シュピーゲル」をはじめ、パナマ文書を合同取材し一斉に報じた国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)参加のメディアなどに内容を共有した。
パナマ文書が指摘したのはプーチン氏の「金庫番」とされる友人のチェロ奏者ロルドゥギン氏。今年2月に欧州連合(EU)が、6月に米国が資産凍結の対象とした。 情報提供者は、タックスヘイブンに設立した法人は「プーチン氏の最大の味方」と指摘した上で「ロシア軍に資金提供する回避地法人は、プーチンのミサイルがショッピングセンターを狙うように、ウクライナの罪のない一般市民を殺害している」と批判した。
ロシアでは、プーチン氏に近い多くの富豪らがタックスヘイブンを使った取引に関与し、資産隠しをしている疑いがある。情報提供者は「(金融取引規制が緩和された海外地域である)オフショア世界の謎を解き明かすためには並外れた努力が必要」と指摘。「問題は(解明しようとする)政治的な意思があるかどうかだ」と述べた。
パナマ文書は、タックスヘイブンでの法人設立を代行するパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の内部資料で、1150万通に及ぶ。提供を受けた南ドイツ新聞がICIJに合同取材を要請し、共同通信を含む76カ国の100を超える報道機関の記者が膨大な資料を分析し取材、各国首脳らの金融取引の実態を暴いた。タックスヘイブンとのつながりが判明した政治家、政府高官は実に91カ国・地域の330人。アイスランドのグンロイグソン首相やパキスタンのシャリフ首相(いずれも当時)は文書を巡り辞任に追い込まれた。文書には回避地法人に関連する日本人約230人、日本企業約20社なども含まれていた。
情報提供者は「パナマ文書の結果に驚いている。ICIJが成し遂げたことは前例のないことで、パナマ文書の結果として大きな改革がなされたことを非常に喜ばしく、誇りに思う。同じような規模のジャーナリズムのコラボレーションが後に続いたという事実もまた勝利だ」と文書が公になったことへの手応えを語った。 一方で「残念なことに、それはまだ十分でない。一つの法律事務所のデータを公開することで、人間の本質を変えるだけでなく、世界的な腐敗を完全に解決できるとは思っていない。政治家は行動しなければならない」と訴えた。
情報提供者は17年にドイツ連邦警察にモサック・フォンセカの資料を提供したことも明らかにし、「最初から政府当局と協力するつもりがあった。パナマ文書が物語る犯罪の起訴が必要であることは明白であるように思えた」と理由を説明。「(ドイツ政府と)公平と思われる取り決めを結ぶことができた」としたが、「残念ながらドイツ政府はほどなくその合意に違反し、私の安全を危険にさらした」と不信感をあらわにした。
パナマ文書報道に参加し、政治家の不正を追及したマルタの記者や、政界疑惑を調査していたスロバキアの記者が殺害されたことにも触れ、捜査の徹底を当局に求めた。 情報提供者は、南ドイツ新聞にパナマ文書の提供を持ちかけた時のことを「これから何が起こりうるか全く分からなかった。多くのジャーナリストに連絡したが、彼らは関心を持たなかった。ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、ウィキリークスがそこに含まれる」とした。
報道が始まったのは16年4月3日(日本時間4日)。情報提供者は「
いつもの日曜日と同じようだった。食事をするため何人かの友人と会っていた。(米国の国家安全保障局によるスパイ活動を暴いた米中央情報局元職員の)エドワード・スノーデンがツイッターでこのプロジェクトを取り上げて、関心を盛り上げていることを知り驚いた」と振り返った。
さらに「ソーシャルメディアで何千という投稿が飛び交うのを見たのを覚えている。今までに私が見たことがないようなものだった。文字通り情報爆発だった」と語った。自身が果たした役割については「最も気にかけている何人かだけには話した」という。 情報提供者は、16年4月にパナマ文書の報道が始まった直後、「犯罪責任追及のための暴露だった」とする声明を発表したが、その後6年間、沈黙を守っていた。
ファシズムや権威主義が世界的に台頭する中「声を上げたい衝動に駆られたことは、何度かあった。世界は破局に近づきつつあるように思え、(不正告発による)介入の必要性を感じた」としたが、自身や家族の身の安全を考慮する必要があったと述べた。 内部告発をしようとする人へは「センシティブな事柄について真実を語ることは決して簡単ではない。冷静さを保つことがいかに難しいかが過小評価されていると思う。話す相手がジャーナリストであれ、政府当局者であれ、全ては非常にゆっくり進むことを覚悟しなければ」と助言した。
時間を戻したとして、同じように情報提供するかどうか問われると「迷うことなくする」と答えた。
●クリミア・セヴァストポリでドローン攻撃 ロシア黒海艦隊の司令部 8/21
ロシア占領下のクリミア半島南西部にあるセヴァストポリで20日、ロシア黒海艦隊の司令部がドローンによる攻撃を受けた。ロシア政府が設置した現地行政当局が、黒海艦隊を狙ったウクライナのドローンを撃墜したと発表した。ロシアが2014年に併合したクリミアでは今月、ロシア軍の基地や武器庫などへ、ウクライナによる攻撃が相次いでいる。
セヴァストポリの現地映像では、黒海艦隊の司令部がある付近から黒煙が上がる様子が見て取れる。BBCはこの映像の内容を独自に検証できていない。
ロシア政府に選ばれた現地のミハイル・ラズヴォジャエフ知事は、艦隊の防空システムがドローンを探知し、撃墜したと説明。ドローンは「司令部の屋根に墜落」したものの、「大きな被害はなく、けが人はない」と述べた。
知事は同日、この後にも、セヴァストポリの防空システムが作動したと発表したが、詳細は明らかにしなかった。
セヴァストポリとその周辺では18日に空軍基地がドローン攻撃を受け、19日には湾内が攻撃された。
今月9日には、セヴァストポリから北約60キロにあるサキ空軍基地で爆発があり、空軍機9機が破壊された。この攻撃による黒煙は近くの海水浴場でも目撃され、ソーシャルメディアには多くのロシア人観光客が逃げ出す様子が投稿された。
クリミアで相次ぐ攻撃について、ウクライナ政府は関係を認めていない。ロシアは、一部の攻撃はウクライナ軍の特殊部隊によるものか、あるいはウクライナ政府のために活動する勢力による破壊工作かもしれないとしている。
西側当局は、ロシア人観光客がリゾート地から逃げ出す原因になった一連のクリミア攻撃が、作戦の上でも心理面でも、ロシア政府やロシア軍に大きな打撃を与えていると分析する。
ロシアは2014年にクリミアに侵攻し、併合した。ウクライナはその奪還を誓っている。
●プーチン氏の「頭脳」と呼ばれる側近の娘が爆死か 帰宅中の車爆発 8/21
ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領の世界戦略観に大きな影響を与えたとされ、「プーチンの頭脳」とも呼ばれる極右地政学者のアレクサンドル・ドゥーギン氏(60)の娘ダーリアさん(29)が20日夜、モスクワ郊外で自動車爆弾で殺害されたとロシアのメディアが報じ、テロの可能性が浮上している。
米オンラインメディアのデイリー・ビーストによると、ロシアの報道機関がSNSテレグラムに爆発して炎上する車の映像を投稿して、ドゥーギン氏の娘が爆発で即死したと伝えているという。映像では炎に包まれた車の残骸を前に両手で頭を抱えて取り乱すドゥーギン氏らしき人物の姿も映っている。爆発に関して、当局から正式な発表はなく、現時点で運転手の身元も公表されていない。
またロシアの情報機関による情報として、ドゥーギン氏とダーリアさんは文学と音楽の祭典に参加し、自宅に帰る途中だったという。ドゥーギン氏はダーリアさんと一緒に同じ車に乗る予定だったが、直前になって別の車に乗ることになったとの情報もあり、ウクライナ侵攻を背後で導いたとも言われるドゥーギン氏を狙ったテロだった可能性も指摘されている。爆発はダーリアさんが運転を始めて10分後に起きたと伝えられている。
ウクライナ東部ドネツク州の親ロシア派指導者デニス・プシーリン氏は、ウクライナ政権のテロリストがドゥーギン氏を暗殺しようとし、娘を爆死させたと非難している。親ロシア派のSNSには、ウクライナが爆発の原因だと非難する声が多く寄せられ、ロシア国民に「復讐」を呼びかける投稿も相次いでいるという。
ウクライナ侵攻を支持していたダーリアさんは父の跡を継いで哲学者、政治学者、政治評論家としてのキャリアを追究していたといい、親子で米国の制裁対象になっていた。
●右派思想家の娘、車爆発で死亡 プーチン氏に影響力も ロシア 8/21
ロシアのプーチン大統領への影響力が指摘され、ウクライナ侵攻に全面的な支持を表明したロシアの右派思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリヤ氏が運転していた車が20日、モスクワ郊外で爆発・炎上し、ダリヤ氏は死亡した。
連邦捜査委員会は21日、爆発物が仕掛けられていたとして、殺人事件として捜査を開始したと発表した。
捜査委は「犯行は事前に計画されていたとみられる」と説明した。ドゥーギン氏もこの車に乗る予定だったが、直前になって別の車に変更したと報じられている。ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力「ドネツク人民共和国」幹部のデニス・プシリン氏は、通信アプリ「テレグラム」で「ウクライナのテロリストがドゥーギン氏を抹殺しようとしたが、彼の娘を吹き飛ばした」と非難した。
一方、AFP通信によると、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は「ウクライナは爆発とは無関係」と関与を否定した。
「プーチンの頭脳」とも称されるドゥーギン氏は「ネオ・ユーラシア主義」を提唱し、反欧米の立場を取ってきた。ロシアが2014年にウクライナ南部クリミア半島を併合した際に支持を表明し、米国などの制裁対象となっている。
●ウクライナは「新兵器の実験場」だった…"新しい大量破壊兵器"の正体 8/21
2017年、ウクライナのすべての企業はロシアのサイバー攻撃の影響を受けた。ATMは止まり、メールは送受信できず、原発の計測システムも作動しなくなった。だからウクライナ市民は、次にロシアがどんな攻撃を仕掛けてくるのか、身構えていたという。ニューヨーク・タイムズ紙のニコール・パーロース記者が報告する――。
ロシアの攻撃は「クリミア併合」後も続いていた
二〇一七年六月二七日、NSA(アメリカ国家安全保障局)のサイバー兵器を使ったロシアのウクライナ攻撃は、史上最悪の破壊と被害をもたらした。その日の午後、あちこちのウクライナ市民は真っ黒なパソコン画面を目にした。
ATMから現金を引き出せず、ガソリンスタンドで支払いができなかった。メールの送受信もできなければ、電車の切符も買えない。食料品を買えず、公共料金も支払えない。
何より市民を恐怖に陥れたのは、チョルノービリ原発の放射線レベルの計測システムが作動しなくなったことだろう。ウクライナ国内だけでも、これだけの被害が起きていた。
ロシアのサイバー攻撃は、ウクライナ国内で事業を展開しているすべての企業を襲った。従業員がたったひとり、欧米の本社から遠く離れたウクライナの街で働いているだけでも、その企業のネットワーク全体が停止した。
世界的な製薬会社である、アメリカのファイザーやドイツのメルクのコンピュータも乗っ取られた。コペンハーゲンに本拠を置く海運コングロマリットのA・P・モラー・マースク。物流大手のフェデックス。あるいは英国の菓子メーカー、キャドバリーがタスマニア島で操業するチョコレート工場のコンピュータも停止した。
サイバー攻撃はブーメランとなってロシアに里帰りし、ロシア最大の国営石油会社ロスネフチと、ふたつの新興財閥(オリガルヒ)が所有する鉄鋼大手エブラズのデータも破壊した。ロシアはNSAから盗まれたコードを使って、マルウェアを世界中にまき散らした。
この時、世界を襲ったサイバー攻撃の被害は、メルクとフェデックスだけで一〇億ドルに及んだという。
一度の攻撃で、被害額は100億ドル超
二〇一九年に私がキーウを訪れた時にはすでに、そのたった一回の攻撃がもたらした被害額は一〇〇億ドルを超え、さらに増えるものと思われた。輸送や鉄道システムはいまだ本来の稼働率を回復していなかった。
ウクライナ全土で配送追跡システムがダウンしたことから、追跡不能になった荷物を市民はいまも捜していた。年金の小切手も配布されず、未払いのまま。誰がいくら融資を受けたのかという金融機関の記録も、きれいさっぱり消えてしまった。
セキュリティ・リサーチャーは、この攻撃に使われたウイルスに不運な名前をつけた。「ノットペーチャ」(ペーチャ/ペトヤ。ピョートルの愛称)。
当初、リサーチャーはこのウイルスを「ペーチャ」と呼ばれるランサムウェアとみなしていた。ところがのちにロシアのハッカーが、このマルウェア(ノットペーチャ)を、ありきたりのランサムウェアに見せかけて設計していたことが発覚した。
これはランサムウェアではなかった。たとえランサム(身代金)を支払ったところでデータが戻ってくる可能性はなく、大量破壊を目的とした、国家主導で開発されたサイバー兵器だったのだ。
分断と勝利のために、ロシアは手段を選ばない
私はキーウのアメリカ大使館を訪れ、アメリカ人外交官にも話を聞いた。トランプ大統領の「ウクライナ疑惑」をめぐって弾劾裁判が行なわれ、ウクライナの大使館員らが、その騒ぎに巻き込まれる直前のことである。
私が大使館を訪問した日、彼らはロシアのディスインフォメーション攻撃にすっかり頭を抱え込んでいた。ロシアのトロールは、ウクライナの若い母親がよく訪れるフェイスブックのページに、ワクチン接種反対プロパガンダを大量に送りつけていた。
この時、ウクライナは近代で最悪のはしかの流行に見舞われていた。
ウクライナは世界でもワクチン接種率が極めて低く、ロシア政府はその混乱に乗じた。ウクライナのはしかの流行はすでにアメリカにも飛び火し、ロシアのトロールは反ワクチンのミーム(インターネット上でバズる画像や動画)をアメリカにも送りつけていた。
アメリカの当局者は、ミームの拡大をどう封じ込めればいいのか、途方に暮れている様子だった(あれから一年が経ち、ロシアがパンデミックの混乱に乗じて、「新型コロナウイルス感染症はアメリカが開発した生物兵器だ」とか、「ワクチンでひと儲けを目論んだビル・ゲイツの不吉な策略だ」という陰謀論をまき散らした時、アメリカの当局者はやはり為す術がなかった)。
分断と勝利のために、ロシアは手段を選ばないようだった。
「あれは21世紀のチョルノービリだった」
ところが二〇一九年冬、たいていの者が思ったのは、ノットペーチャはロシア政府によるこれまでで最も大胆な攻撃だということだった。私がキーウに滞在した二週間に会った人のなかで、あの攻撃を忘れた者はただのひとりもいなかった。
コンピュータ画面が真っ黒になった時、自分がどこにいて何をしていたかを誰もが覚えていた。彼らにとって、あれは二一世紀のチョルノービリだった。
そして、キーウから北に一五〇キロメートルほど離れたその古い原子力発電所で、コンピュータ画面は「黒く、黒く、黒く」なった。チョルノービリの技術管理者である、ぶっきらぼうなセルゲイ・ゴンチャロフは当時の体験を教えてくれた。
ゴンチャロフがちょうど昼食から戻り、時計の針が午後一時一二分を指した時だった。二五〇〇台のコンピュータ画面が、七分間にわたって一斉に真っ黒になったのだ。あちこちから次々と連絡が入り始める。
何もかもがダウンしていた。ゴンチャロフがチョルノービリのネットワークを躍起になって回復させようとしていた時、放射線レベルを監視するコンピュータ画面が真っ黒になったという連絡が入った。
三〇年以上も前の一九八六年に爆発した原子炉の放射線量をセンサーするコンピュータ画面のことである。放射線量レベルが安全域にあるのか、それともいままさに不吉な破壊攻撃を受けているのか、誰にもわからなかった。
よみがえる30年前の原発事故の記憶
「あの時はコンピュータを回復させることに必死で、どこから攻撃を受けているのか考える余裕はなかった」ゴンチャロフが続ける。「だが、いったん頭を落ち着かせて、ウイルスが広まっていく速さを見た時に、いま見ているものはもっとずっと大きなものだ、自分たちは攻撃されているんだとわかった」
ゴンチャロフはメガフォンを使い、自分の声がまだ聞こえる者に向かって、コンピュータのコンセントを壁から引き抜けと叫んだ。それ以外の者には、外へ出て、立入禁止区域の放射線レベルを手動で観測するように命じた。
ゴンチャロフは寡黙な男だ。人生最悪の日の話をする時でさえ、淡々とした口調だ。感情を露悪的に表したりしない。しかしながら、ノットペーチャ攻撃を受けた日のことはこう言った。「精神的なショックに陥ったよ」あれから二年が経ち、彼がそのショックから立ち直ったのかどうか、私にはわからなかった。
「私たちはいま、まったく違う時代に生きている」ゴンチャロフが言った。「いまとなっては、ノットペーチャ前とノットペーチャ後の生活だけだ」
私がウクライナで過ごした二週間、どこへ行っても、ウクライナ人はみな同じように感じていた。
憲法記念日を狙った嫌がらせ
バスの停留所で出会った男性は言った。「ちょうど車を買おうとしていたんですが、販売店の店員に断られてしまったんです。ウクライナの中古車販売で、そんなことは初めてだったのではないでしょうか。でも、登録システムがダウンしてしまったんです」
コーヒーショップで知り合った女性は、オンラインで小さな編み物用品の店を開いていたが、顧客に発送した荷物が追跡できなくなり、破産に追い込まれてしまったという。
みな、現金やガソリンがなくなった時の話をした。だが、ほとんどの人が覚えていたのは、ゴンチャロフが語ったように、何もかもが停止した時のあまりのスピードだった。
攻撃を受けた日が、ウクライナの憲法記念日だったというタイミングを考えれば、点と点をつなぐのに時間はかからなかった。
あのろくでもない悪党、母なるロシアが、またしても嫌がらせに出たのである。
だが、ウクライナ人はすぐにへこたれるような人たちではない。旧ソ連から独立して二七年間の悲劇と危機を、ダークユーモアで乗り越えてきたのだ。何もかもがダウンしたことを、こんなジョークで笑い飛ばす者もいた。
ヴォーヴァ(ウラジーミルの愛称。プーチンのニックネーム)は、ウクライナの憲法記念日の休暇を数日、余分にくれたんだ。あるいはこんなふうに言う者もいた。あの攻撃のおかげで、ウクライナ人は数年ぶりにフェイスブックから解放されたよ。
「今回も二年前の送電網攻撃も、単なるリハーサルだよ」
この時の攻撃で、あれほどの精神的ショックと経済的な打撃を受けたにもかかわらず、ウクライナの人たちはもっと最悪の事態を覚悟していたらしい。
企業の営業部門や顧客サポート部門のシステムは大きな被害を受けた。重要なデータは二度と復元できない。それでも致命的な惨事は免れた。旅客機や軍用機を墜落させるか、恐ろしい爆発を起こすこともできたのだ。チョルノービリの放射線レベルの監視システムだけではない。ウクライナには、フル稼働している原子力発電所がほかにもあるのだ。
ロシア政府も最後には手心を加えた。二年前に送電網にサイバー攻撃を仕掛けた時にも、ロシアのメッセージをウクライナに思い知らせるという目的を遂げたあとは、すぐに停電を終わらせたように、ノットペーチャの被害もかなり穏便な程度にとどめた。
もっとやり放題にウクライナに被害を与えることもできたのだ。ロシアはウクライナのネットワークにいくらでも侵入でき、自由に使えるアメリカのサイバー兵器も手に入れていたのだから。
そのNSAのサイバー兵器を使って、ロシアはNSAを嘲笑ったのではないかと考える者もいた。だが、私がインタビューしたウクライナのセキュリティ専門家が教えてくれたのは、それ以上に不安を掻(か)き立てる仮説だった──今回のノットペーチャも二年前の送電網攻撃も、単なるリハーサルだよ。
それが、サイバーセキュリティ起業家オレフ・デレヴィアンコの意見だった。このブロンドのウクライナ人はある夜、ヴァレニキと呼ばれるウクライナの水餃子と、茹でた肉と野菜をゼリーで固めたアスピックを食べながら、私にそう話してくれた。
「ウクライナはロシアの実験場にすぎない」
デレヴィアンコの会社は、サイバー攻撃の最前線にあった。彼の会社がフォレンジック調査を繰り返すたびに、ロシアが単に実験を重ねているだけだとわかった。
ロシアは、容赦ない科学的手法を用いていた。こっちでひとつの性能を試し、あっちで別の方法を試し、ウクライナを舞台にスキルに磨きをかけ、自分たちにはどんなことができるのかをロシアの権力者に実践して見せ、点数を稼いでいたのだ。
ノットペーチャが破壊的な威力を発揮して、ウクライナにあるコンピュータの八〇パーセントのデータを消去したことには理由がある、とデレヴィアンコは言った。
「ヤツらは自分たちの失敗から学んでるんだ。新しい戦争の新しい兵器だ。ウクライナはヤツらの実験場にすぎん。ヤツらが今後、あの兵器をどう使うつもりなのか、我々にはわからんよ」
だがウクライナはこの二年というもの、あれほど大規模なサイバー攻撃は受けていない。あと二週間足らずに迫った二〇一九年のウクライナ大統領選で、ロシアが介入を企てているという証拠があるにせよ、サイバー攻撃の間隔が開くようになっていた。
「ヤツらが次の段階に移ったという意味だ」
デレヴィアンコが言った。
次に何が起こるか、人々は知っていた
私たちは黙って肉のアスピックをつつき、支払いを済ませて、凍てつく外へ出た。身を切るような暴風は、ようやく収まったようだった。それでも、普段は観光客で賑わう古キーウの丸石敷きの通りに人影はなかった。
私たちはキーウのモンマルトルと呼ばれる、石畳の続く細く曲がりくねったアンドリーイ坂をのぼり、画廊やアンティークショップ、アートスタジオの前を通り過ぎ、聖アンドリーイ教会のほうへ向かった。
白と淡いブルーの壁や緑の屋根に、金色の縁取りが美しいこの教会は、もともと一七〇〇年代にロシアの女帝エリザベータ一世の夏の宮殿として建てられたものである。
聖アンドリーイ教会の前でデレヴィアンコが立ち止まり、街灯の黄色い灯りを見上げた。「もしヤツらが」
彼が口を開いた。「ここの街灯を消したら、数時間は電力が使えなくなるかもしれない。だけどもしヤツらが、同じことを君たちに……」
彼は最後までは言わなかった。だが、その必要はなかった。その問いなら、もう何度も繰り返し、ウクライナ人からもアメリカの情報源からも聞かされてきたからだ。
次に何が起こるか、みなわかっていた。

 

●ウクライナ戦争が影響?プーチン氏が少子化対策、子ども10人育てたら奨励金 8/22
ロシアのプーチン大統領は15日、ソ連時代に「母親英雄」の称号を贈っていた制度を復活させ、10人以上の子どもを持つ母親に、100万ルーブル(約220万円)の一時金を支給すると発表した。
Foxニュースによると、母親英雄は1944年に始まり、ソビエト連邦が崩壊した1991年まで続いた。10番目の子どもが1歳の誕生日を迎えた時点で、すべての子どもが生存していることや、「健康、教育、身体、精神、道徳的発達のための適切なレベルの育児」を行っているなどの条件が設けられている。ニューヨークポスト紙によると、ロシア人の平均年収は75万ルーブルだという。
プーチン氏は、ウクライナ戦争について言及していないものの、ロシアの専門家は、出生率の低下に加え、ウクライナ侵攻による死傷者数の増加や、人口流出など戦争の影響を指摘している。
スラブ・東欧の研究者でロンドン大学のクリスティン・ロス・エー准教授は、ワシントンポスト紙に対し、制度は第二次世界大戦の終わりに「出産奨励主義」の一環として導入されたと説明。当時、第二次世界大戦で人口減少に対する人々の不安が高まったと述べ、現在も同様の状況にあるとの見解を示した。
元米国防情報局のロシア担当職員で「プーチンのプレイブック」(Putin’s Playbook: Russia’s Secret Plan to Defeat America)の著者レベッカ・クフラー氏はFoxニュースに、制度は「第二次世界大戦や飢餓、スターリンによる粛清で失われた人口を補うための」国家の長期的な計画だったと振り返った。
一方、現在のロシアでは「道理をわきまえた若い女性」が10人の子どもを育てるのは、現実的ではないと指摘。経済的観点や、子だくさんの文化がないこと、旧ソ連時代に宗教が非合法化されたことなどの理由をあげた。
なお、プーチン大統領は2007年にも、夫婦が妊娠するための「国民受胎の日」を設けるなど、少子化対策を発表している。先のクフラー氏は、ロシアの合計特殊出生率は1.824人で、人口置換水準の2.2を上回っておらず、問題は解決されていないと述べた。
●クリミア半島が新たな火薬庫に、米はウクライナに1兆ウォン規模の武器支援 8/22
ロシアのウクライナ侵攻が24日で6ヵ月目に入り、クリミア半島が新たな火薬庫になり得るという見通しが出ている。2014年にロシアがウクライナから武力で併合したクリミア半島は、ウクライナ戦争の南部戦線でロシア軍兵站基地の役割をしている。クリミア半島のロシア軍の黒海艦隊の司令部などで、今月だけで爆発が3回以上発生した。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは20日、ウクライナの無人機(ドローン)がクリミア半島のロシア海軍基地を攻撃したと報じた。同紙は、「黒海艦隊に象徴的な打撃を与えた」と伝えた。これに先立ち9日には、クリミア半島のサキ空軍基地の爆発で、ロシア軍の軍用機9機が破壊された。16日には軍部隊の臨時弾薬庫で火災が発生し、19日にもベルベク空軍基地付近で数回爆発があった。
外信は、相次ぐクリミア半島の爆発で黒海艦隊の航空戦力が半分ほどダメージを受けるなど深刻な打撃を受けたと分析した。
米CNNは、ウクライナ政府の資料を引用して、「9日と16日のクリミア半島の大爆発の背後はウクライナとみられる」と報じた。ウクライナ政府は公式に認めていない。一部では、一連の連鎖爆発を皮切りに、ウクライナがクリミア半島奪還作戦に乗り出す可能性があると見ている。AP通信は、「クリミア半島がウクライナ戦争の最前線であり激戦地になる可能性がある」と見通した。
米国は、ウクライナの追加武器支援に乗り出した。バイデン政権は19日、ウクライナに偵察無人機「スキャンイーグル(ScanEagle)」を含め約1兆354億ウォン規模の武器を追加支援することを明らかにした。今年2月24日の開戦以降、米国の単一支援としては2番目に大きな規模だ。戦争が長期化してウクライナとロシアの双方が十分な兵力と武器を補強できない状況であり、今回の支援でウクライナが優位になることを米政権は期待していると、外信は伝えた。
ロシア軍が占領したウクライナのザポリージャ原発で事故が発生する懸念も大きくなっている。英国の時事週刊誌エコノミストは20日、「ザポリージャ原発で、チェルノブイリ原発のような大災害が起こる可能性は少ないが、放射能漏れの可能性はある」と指摘した。ザポリージャ原発は最近、誰の犯行か確認されていない砲撃が続き、高圧電源供給線4本のうち2本が破壊された。ザポリージャ原発関係者は、「2本しか残っていない電力線を補完するディーゼル発電機も砲撃で破壊され、核燃料棒の冷却に問題が生じる場合、90分で放射性物質漏れが始まる恐れがある」と話した。 
●ウクライナ兵士約9000人死亡、ロシアとの戦争で=総司令官 8/22
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は22日、ロシアとの戦争でこれまでに約9000人のウクライナ兵士が死亡したと発表した。ただ、詳細には踏み込まず、国境警備隊員など、全ての犠牲者数が含まれるかは不明。
また、ロシアが侵攻を開始した2月24日以降に死亡したウクライナの民間人およびロシア側の死者数には言及しなかった。
ウクライナ軍当局の推定によると、ロシア軍の死者は4万5400人。
●黒海周辺で攻撃続く 独立記念日前に激化懸念―ウクライナ 8/22
ウクライナ南部の黒海周辺で、ロシア軍によるとみられる攻撃が続いている。南東部ドニプロペトロウシク州のレズニチェンコ知事は22日、通信アプリを通じ、ロシア軍が軍事基地化しているザポロジエ原発の対岸にあるニコポリが攻撃を受け、複数の負傷者が出たと明らかにした。
21日には、ウクライナ産穀物輸出の拠点港を抱える南部オデッサにミサイルが撃ち込まれた。ウクライナ当局は、24日の旧ソ連からの独立記念日を前に、ロシア軍の攻撃激化を懸念している。
インタファクス・ウクライナ通信によると、ウクライナ軍のザルジニー総司令官は22日、ロシアとの戦争でこれまでに約9000人のウクライナ兵が死亡したと述べた。
レズニチェンコ氏によれば、ニコポリでは幼稚園や商店などの建物が損傷。送電線も故障し、最大2000人が停電の被害に遭っているという。
●「ザポロジエ原発はウクライナに」とNPT会議最終文書素案 ロシアの反発必至 8/22
米ニューヨークで開催されている核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、核不拡散を扱う第2委員会は21日、最終文書の素案を改訂した。ロシアが占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発の状況に「重大な懸念」を表明。ロシアを名指しし、同原発の管理をウクライナに戻すよう求める内容を加えた。ロシアの反発は必至で、最終文書合意はさらに困難になった。
改訂案では「ロシアの軍事活動」により、ウクライナ当局がザポロジエ原発を管理できなくなっていると指摘。安全性への深刻な悪影響に懸念を示し、国際原子力機関(IAEA)などによる安全確保のための活動が妨げられていることに「留意する」と記した。
その上で「ロシアによるザポロジエ原発と関連施設の管理をウクライナに戻すよう求める」と明記した。ロシアに直接言及しなかった従来の素案と比べ、同国への非難を強める欧米諸国の意向が反映された形だ。ロシアはこれまで、最終文書でウクライナ情勢に触れること自体に「政治的だ」などと反発しており、今回の改訂で態度をさらに硬化させるのは避けられない。
1日に開幕した再検討会議は、22日に主要3委員会の討議を終える見込み。その後、スラウビネン議長が各委員会の素案に基づき最終文書案を作成し、26日の最終日に向けて全会一致の合意を目指す。
●プーチン大統領「ロシアは強力で独立した大国だ」動画で強調  8/22
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は、動画で「ロシアは強力で独立した大国だ」などと強調し、戦闘の長期化を懸念する国民が増える中、改めて愛国心を高め、政権への支持を呼びかけたいねらいもあるとみられます。
ロシア国防省は21日、ウクライナ南部オデーサ州で高機動ロケット砲システム=ハイマースに使われるロケット弾などの弾薬庫を破壊したほか、東部ハルキウ州などでウクライナ軍の指揮所を砲撃したと発表するなど、南部や東部で攻撃を続けています。
南部ミコライウ州のキム知事は22日、SNSに「午前3時ごろミコライウ州は再び砲撃を受けカフェが火災になった」と投稿し、ロシア軍による民間施設への攻撃が続いていると批判しました。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は22日、大統領府の公式サイトで動画を公開し「ロシアは強力で独立した大国だ。祖国の利益に合致する政策のみを国際舞台で実現することを固く決意している」と強調しました。
ロシアでは、ウクライナへの軍事侵攻が続く中、戦闘の長期化を懸念する国民が増えているという調査結果もあり、動画を通して、改めて愛国心を高め、政権への支持を呼びかけたいねらいもあるとみられます。
一方、イギリス国防省は22日、ウクライナ東部のルハンシク州にいるロシア軍の部隊の一部が、戦闘への参加を拒否した様子だとする動画がSNSで出回っていると指摘しました。
イギリス国防省は、ロシアの兵力増強について「金銭的動機づけに頼っているが、一部の部隊は信頼できないと見なされている」として、ロシアが兵士の士気を高めることに苦心していると分析しています。

 

●ウクライナ兵の死者約9000人 軍総司令官が公表 8/23
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー(Valeriy Zaluzhny)総司令官は22日、ロシア軍による侵攻開始以来、9000人近いウクライナ兵が死亡したことを明らかにした。インタファクス・ウクライナ(Interfax-Ukraine)通信が伝えた。
軍事関係の討論会で講演したザルジニー氏は、ウクライナの子どもたちは「父親が前線に行き、死亡した9000人近い英雄の一人になった可能性もあるため」特別な配慮が必要だと語った。
ウクライナ当局はこれまで、半年近く続くロシアの侵攻での軍事的損失についての詳細をほとんど公表していない。直近では、ウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領が4月、最大で3000人のウクライナ兵が死亡し、1万人が負傷したと発表していた。
●ロシアの侵攻から半年「戦争は一つの大きなヤマ場を迎えている」 8/23
ロシアのウクライナ侵攻から8月24日で半年となるのを前に、福井県福井市出身の松田邦紀・駐ウクライナ大使が22日までに福井新聞の書面インタビューに応じた。戦闘が長期化する中、ウクライナ軍は各地で攻勢に出ているとし「戦争は一つの大きなヤマ場を迎えている」との見方を示した。
松田大使は戦況について、ウクライナ北東部から南部に至る700キロ以上の長い戦線で激戦が続く中、「ロシアの戦争の目的は既に失敗したというのが大方の評価」と国際的な見解を紹介。ただ、今後を明確に見通すことは「容易ではない」と指摘し、「ウクライナ軍の攻勢の帰趨(きすう)を見極める必要がある」と慎重な姿勢を示した。
ロシア、ウクライナ、国連、トルコの穀物輸出再開の合意に基づき、8月初旬から貨物船がウクナイナ南部から出航していることについては「世界的な食料危機の解決に向けた重要な一歩」と評価。日本は、今後収穫期を迎えるウクライナの穀物の貯蔵能力の強化も重要視し、国際機関と連携して支援していく考えだという。
ウクライナ危機によるエネルギー価格の高騰が日本にも影響していることに懸念を示し、「日本として国際的なエネルギー市場の安定化に努めている」と説明した。ロシア産エネルギー依存からの脱却に向け、石油や天然ガスの供給源の多角化に加え、再生可能エネルギーや原子力などの活用を追求していくことが重要だと強調した。
ウクライナの復興には、各国や国際援助機関からの支援に加え「民間企業からの投資や技術移転に大きな期待が寄せられている」と訴えている。
松田大使は現在、ウクライナとの国境から約80キロ離れたポーランドのジェシュフの臨時事務所で在留邦人の安全確保や避難民の渡航支援などに当たっている。
●ロシア軍の補給路「アントノフ大橋」、高機動ロケット砲の攻撃受け爆発  8/23
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は22日、オンライン形式で23日に開かれる外交枠組み「クリミア・プラットフォーム」に、約60か国・機関が参加すると発表した。大統領や首相など首脳級も約40人が参加するといい、クレバ氏は「クリミア問題で全世界がウクライナ側の味方だと示している」と訴えた。
クリミア・プラットフォームは、ロシアが2014年に併合した南部クリミアの脱占領を目指し、ウクライナが昨年創設した。昨年は欧州を中心とした46か国・機関の代表が参加したが、今年はアフリカなどからの参加表明もあり、「正真正銘グローバルな」会議になるという。
クレバ氏は「ロシアの侵略は、クリミアの占領を終わらせるという問題がいかに緊急であるかを示している。クリミアを取り戻すことは、黒海全域、欧州、そして世界の安全を保証することになる」と述べた。
一方、戦況をめぐっては、ウクライナ軍が南部で攻勢を強めている。ロシア軍が制圧する南部ヘルソンの当局者などによると、露軍の補給路となっている「アントノフ大橋」が22日、高機動ロケット砲システム(HIMARS)による攻撃を受けて爆発、15人が負傷した。
露海軍黒海艦隊の司令部があるセバストポリ近郊で22日夜、露軍の防空システムが無人機(ドローン)を撃墜したと、ロシアが一方的に任命した「市長」が明らかにした。セバストポリ当局は、ウクライナ側による新たな攻撃に備え、避難用シェルターの状況を確認したことも公表した。
ウクライナのソ連からの独立記念日にあたる24日を控え、ウクライナ政府が警戒するなか、露軍の攻撃も相次いでいる。
南部ザポリージャ近郊ニコポリでは、露軍のミサイルが40発以上撃ち込まれ、高層住宅や民家、バス停、市場が破壊され、民間人4人が負傷した。南部ミコライウでも、ミサイルにより住宅などが壊された。
●攻撃継続、対決姿勢崩さず ウクライナ侵攻でロシア―24日で開始から半年 8/23
ロシアが2月にウクライナ侵攻を開始して、24日で半年となる。ロシアは短期での攻略に失敗し、人的損失も拡大しているが、プーチン大統領は軍が任務を遂行し、ウクライナを「着実に解放している」と強弁。ウクライナに兵器を供与する欧米に責任転嫁し、対決姿勢と攻撃継続の構えを崩していない。中途半端な形で侵攻をやめて国内で批判が高まることをプーチン政権は恐れており、侵攻の泥沼化に歯止めがかからない状況だ。
原因は「欧米」
「覇権を維持するために(欧米は)紛争を必要としている。だからこそ彼らは、ウクライナ国民に『大砲の餌食』となる運命を用意した」。プーチン氏は16日、モスクワ近郊で開かれた安全保障関係の国際会議でビデオ演説し、持論を展開。「(欧米が)ネオナチ思想の流布と(ウクライナ東部)ドンバス地方の大量殺りくに目をつぶり、ウクライナに重火器を含む兵器を供与し続けている」と訴えた。
また、侵攻は「ロシアとわが国民の安全を守り、ドンバス住民をジェノサイド(集団殺害)から守ること」が目的だと改めて正当化。「米国は衝突を長引かせようとしている」と非難した。
戦争で求心力維持
プーチン氏が強気の姿勢を崩さないのは、自身の支持率が侵攻開始以降、高水準を維持していることも背景にありそうだ。独立系世論調査機関レバダ・センターによると、7月の支持率は83%で、3月以降は80%を上回っている。プーチン氏は過去にもチェチェン紛争や2014年のウクライナ南部クリミア半島併合で支持率を上げており、「戦争」が求心力維持の手段となってきた。
ロシア国民の関心も低下している。「過去4週間で記憶に残った出来事」として「ウクライナでの特別軍事作戦」を挙げたのは、3月の75%から7月は32%に低下。侵攻に伴うロシア軍の死者は「約1万5000人」(バーンズ米中央情報局=CIA=長官)ともされるが、徹底した情報統制でロシア国内には実態が伝わっていない。
レバダ・センターのボルコフ所長らは米シンクタンク「カーネギー国際平和財団」に寄せた最近の論考で、ロシア国内の反応について「軍事行動や制裁によって経済に生じた多くの問題は、いつものことと受け止められている。物価は上がったが『(世界の)どこでも上昇している』というわけだ」と指摘。「出国も禁止されておらず、国民の総動員もないため、最低限の平常が保たれている」と分析した。
進軍は大幅減速
一方、ロシア軍の進軍ペースは、ここに来て大幅に落ちているもようだ。ロシアは7月3日にウクライナ東部ルガンスク州全域の制圧を宣言。現在は隣接するドネツク州の掌握を目指しているが、独立系メディア「メドゥーザ」は今月18日、ロシアが支配しているのはドネツク州の60.25%で、1カ月前の59.7%からほとんど拡大していないと報じた。
ロシアはウクライナ東部や南部の占領地域で、ロシア編入の是非を問う住民投票を目指しているとされる。メドゥーザはロシア大統領府に近い筋の話として、政権はロシアで統一地方選が行われる9月11日の住民投票強行を諦めていないものの、実施を冬まで遅らせる可能性も高まっていると伝えた。
●ロシアの軍事侵攻から24日で半年に クリミアめぐる攻防も激化  8/23
ウクライナは24日の独立記念日を前に、ロシア軍が攻撃を激化させる可能性があると警戒を強めています。一方、ウクライナ政府は23日に、南部クリミアの奪還を目指した国際会議を開催する予定で、軍事侵攻の開始からまもなく半年となる中、クリミアをめぐる攻防も激しくなっています。
ロシア国防省は、22日も南東部ザポリージャ州や南部ミコライウ州、そして東部のハルキウ州やドネツク州など、各地をミサイルで攻撃し、ウクライナ軍の指揮所や装甲車などを破壊したと主張しました。
ウクライナでは、24日、ソビエトからの独立記念日を迎えるのを前に、ロシア軍が攻撃を激化させるという見方が出ていて、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は「23日から24日にかけて、ウクライナの都市に向けたミサイル攻撃が増えるだろう。首都キーウも対象に含まれる」と述べ、警戒感を強めています。
一方、反転攻勢を目指すウクライナ軍は、南部ヘルソン州で、22日も、ロシア側が占拠していた橋を攻撃したと明らかにしました。
また8年前ロシアが一方的に併合し、今月に入ってロシアの軍事施設などで爆発や攻撃が相次いでいる南部のクリミアでは、22日、軍港都市セバストポリでロシア側の行政府のトップを務めるラズボジャエフ氏が「セバストポリ郊外で防空システムが作動し、無人機を撃墜した」とSNSで報告しました。
こうした中、ウクライナ政府は23日、クリミア奪還を目指して各国との協調を図る2回目の国際会議をオンラインで開催する予定です。
これを前にウクライナのクレバ外相は22日、会議にはおよそ60の国や国際機関が参加すると見通しを示したうえで「クリミアはこれまでもこれからもウクライナであり続ける」と述べ、各国との連携を強化し、ロシアに圧力をかけるねらいを強調しました。
軍事侵攻が始まってから24日で半年となる中、クリミアをめぐる攻防も激しくなっています。
侵攻から半年 長い消耗戦になるおそれ
ロシア軍は、ウクライナ東部の完全掌握に向けて攻撃を続け、すでに掌握したとする東部や南部の一部地域では、ロシアへの併合に向けた住民投票の準備が進んでいます。
これに対してウクライナ側は、欧米の軍事支援を背景に徹底抗戦の構えを崩さず、長い消耗戦になるおそれが強まっています。
“首都攻略失敗”からこう着へ
2月24日、プーチン大統領は「特別軍事作戦」を行うと宣言し、ウクライナへの軍事侵攻を始めました。
ロシア国防省は3月中旬、南部のへルソン州全体を掌握したと発表しましたが、3月下旬には首都キーウやその周辺での軍事作戦の大幅な縮小を表明し、首都の早期掌握は事実上、失敗したとみられています。
4月下旬、ロシア軍は軍事作戦が第2段階に入ったとして、東部のルハンシク州とドネツク州、それに南部で攻勢を強め、激しい戦闘のすえ、5月下旬には東部の要衝マリウポリを完全に掌握しました。
7月初めにはルハンシク州の完全掌握を宣言したものの、ドネツク州の各地でウクライナ側の抵抗にあい、戦況はこう着しました。
抵抗を支えているのが欧米の軍事支援です。
対戦車ミサイルの「ジャベリン」や高機動ロケット砲システム「ハイマース」など性能の高い兵器が前線で運用されるようになり、ロシア軍の攻勢を押し返す原動力となっています。
ウクライナ軍は南部で反転攻勢を強め、6月末、黒海に浮かぶ戦略拠点のズミイヌイ島を奪還しました。
また7月から8月にかけて南部ヘルソン州で、ロシア軍が使っていた複数の橋を攻撃し、補給や部隊の移動に打撃を与えました。
戦闘はクリミアにも拡大 緊張高まる
戦闘は、ロシアが8年前一方的に併合したウクライナ南部のクリミアにも拡大しています。
8月9日、クリミアにあるロシア空軍の基地で大規模な爆発があり、戦闘機が破壊されたほか、16日には弾薬庫が爆破され、ロシアは、ウクライナ側から攻撃を受けた可能性を示唆しました。
さらに20日には、クリミアのセバストポリにあるロシア海軍・黒海艦隊の司令部の上空で無人機が撃墜され、緊張が高まりました。
ゼレンスキー大統領は9日に公開した動画の中で「クリミアから始まったロシアの戦争は、クリミアの解放で終わるべきだ」と述べ、クリミアを含むすべての領土を奪還する考えを強調しています。
支配地域併合に向けた動きも 今後どうなる
ロシア側は、すでに掌握したとする東部や南部の一部の地域で、支配の既成事実化を図り、早ければ9月中にも、ロシアへの編入の賛否を問う住民投票を実施しようと、準備を進めています。
これに対してゼレンスキー大統領は7日、住民投票の実施に踏み切れば交渉の道は断たれると述べ、ロシア側をけん制しました。
ウクライナ大統領府のイエルマク長官は7月31日、NHKの取材に対し「冬が来る前に事態を打開すべきだ」と述べ、冬までに領土を奪還し、戦闘を終結させたい考えを明らかにしました。
一方、防衛省防衛研究所の高橋杉雄防衛政策研究室長は今後の見通しについて「ロシア側も決め手を欠くのは間違いない。欧米からウクライナへの軍事支援が今後大きく増えない場合には、戦闘がいったん落ち着き、かなり長い消耗戦になる」と述べています。
●ロシア、インフラ標的に新たな攻撃準備−米当局が警告 8/23
ロシアは向こう数日間にウクライナの政府施設やインフラへの攻撃を強化する準備を行っている。米当局者が23日に明らかにした。
ロシアのプーチン大統領は、思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘が車の爆発で死亡したことについて「卑劣な」犯罪だと非難した。ロシア連邦保安局はウクライナの仕業だと主張。ウクライナ当局は関与を否定した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所の防衛に加わり捕虜となったウクライナ兵が裁判にかけられた場合、ロシアとの対話は不可能になると述べた。ウクライナの一部地域を占拠している親ロシア派武装勢力は、捕らえられたウクライナ軍兵士を近く裁判にかけると示唆したが、ロシア当局はこれを確認していない。
ゼレンスキー大統領は、ロシアの軍事侵攻開始からちょうど半年に当たりウクライナ独立記念日でもある24日に合わせて「ロシア軍が特に卑劣で残虐な攻撃を仕掛けようとする可能性がある」と警告した。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
ロシアがインフラ標的に新たな攻撃も−米当局者
ロシアは向こう数日間にウクライナの政府施設やインフラに新たな攻撃を仕掛ける準備を行っている。米当局者が情報当局の報告を基に明らかにした。匿名を条件に語った同当局者は、新たな攻撃で民間人へのリスクが高まる恐れがあると説明した。キーウの米国大使館はウェブサイトに掲載したでウクライナに滞在中の米国民に対し、脅威が高まっているとして国外退避を促した。
ロシアの攻撃で原発の変圧器に被害−ウクライナ当局
ウクライナ原子力規制局は、ロシア軍の攻撃でザポリージャ原子力発電所の変圧器2基が被害を受け、一時的に通信ラインが遮断されたことを明らかにした。欧州最大のザポリージャ原発周辺の攻撃を巡りウクライナとロシアは互いを非難し合っている。国際機関の当局者は大惨事につながりかねないと警告している。
国連、捕虜死亡で調査団派遣へ
ウクライナ東部ドネツク州オレニフカにあるウクライナ人捕虜収容施設への先月の攻撃で捕虜数十人が死亡した問題について、国連は事実調査団を派遣する。グテレス事務総長は、調査団を率いる責任者にブラジルの退役中将カルロス・アルベルト・ドス・サントス・クルス氏を任命した。
米、駐米ロシア大使に警告
米当局者は今月18日にロシアのアントノフ駐米大使と国務省で面会し、ウクライナでの事態のエスカレートについて警告していた。ウクライナ国内の原発周辺での軍事作戦を停止するよう求めたという。国務省報道官が匿名を条件に記者団に説明した。
子供の死傷者は少なくとも972人−ユニセフ
ロシアによるウクライナ侵攻が約半年前に始まって以来、ウクライナでは少なくとも972人の子供の死傷が確認された。国連児童基金(ユニセフ)のラッセル事務局長が電子メールで配布した発表資料で明らかにした。「実際の数字はこれよりもかなり大きいとわれわれは考えている」とコメントした。
プーチン氏、「卑劣な」犯罪と非難−思想家の娘死亡で
ロシアの極右思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリアさんが20日に車の爆発で死亡したことについて、プーチン大統領は「卑劣で凶悪な犯罪だ」と非難した。プーチン氏の弔意のメッセージが大統領府の「テレグラム」のチャンネルに掲載された。ロシア連邦保安局はウクライナ特殊部隊による仕業だと主張。ウクライナは関与を否定した。
ウクライナ兵の死者は約9000人
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は、ロシアとの戦争で9000人近くのウクライナ兵が死亡したことを明らかにした。テレビで放映された退役軍人とのフォーラムで発言した。ゼレンスキー大統領は同じフォーラムで、陸軍や治安当局で約100万人が従事していると指摘した。ロシアとウクライナは敵の死傷者の数字にはたびたび言及しているが、自国の犠牲者数について触れるのは異例。
ラトビア、旧ソ連時代の記念碑撤去に着手
ラトビア当局は、首都リガにある旧ソ連時代の第2次世界大戦記念碑の撤去に着手した。高さ約80メートルの記念碑はフェンスで囲まれ、撤去作業のための機器が運び込まれている。
●侵攻半年 揺れるEU、燃料高騰・制裁疲れ色濃く 対露姿勢で東西の亀裂も 8/23
欧州連合(EU)は、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化で、エネルギー価格の高騰に揺れている。「制裁疲れ」が広がり、ウクライナ支援に手詰まり感が漂う。対ロシア姿勢で西欧と東欧の違いも浮き彫りになり、EUの結束は試練に立たされている。
ドイツの民間機関「キール世界経済研究所」によると、8月3日までにEUがウクライナに拠出表明した軍事、経済、人道支援の総額は162億ユーロ(約2兆2000億円)。独仏、東欧など主要国の2国間援助を合わせても、米国の約445億ユーロ(約6兆円)の半分以下にとどまる。独仏伊などEU主要国からの支援表明は7月、ほぼゼロだった。
EUを牽引する独仏は当初、ウクライナ、ロシア間の和平仲介を目指した。ウクライナが不快感を示し、空振りに終わった。EU内の対露強硬派であるポーランド、バルト諸国からも不信の目を向けられる始末で、独仏は当面、米国とウクライナ支援で共同歩調をとりながら、出番を探る構えとみられる。マクロン仏大統領は19日、約3カ月ぶりにプーチン露大統領との電話会談を再開した。ドイツは重火器の供与が遅れていたが、多連装ロケットシステム「MARS」の現着が1日に発表された。
東西欧州の対立は、ロシアの脅威に対する認識の違いに基づく。6月発表の世論調査によると、「ウクライナがロシアに譲歩しても、和平を構築すべき」という意見がイタリアで52%、ドイツで49%にのぼった。これに対し、ポーランドでは16%。「ロシアの敗北だけが、和平への道」と考える人が4割を超える。
紛争長期化は、EU各国の内政にも影を落とす。イタリアでは7月、対露経済制裁を支持してきたドラギ首相が辞任に追い込まれた。中道左派の与党がウクライナへの武器供与を批判し、生活支援の拡充を訴えて、造反に動いたのが引き金になった。
ロシアはEUの足並みの乱れに乗じ、パイプラインを通じた天然ガス供給を削減して揺さぶりをかける。EUは昨年まで、ガス輸入の4割をロシアに依存したため、暖房需要の高まりを前に、ガスの備蓄と省エネに懸命だ。物価高が家計を直撃する中、マクロン氏は、「自由と価値を守るための代価を受け入れてほしい」と仏国民に訴えた。欧州のウクライナ支援の行方は、「この冬をどう乗り越えるか」にかかっている。
●「何もかも嘘だった」 国外へ脱出のロシア兵、ウクライナ戦争を批判 8/23
ロシアがウクライナで行っている戦争を公然と批判したロシア空挺(くうてい)部隊の元隊員がCNNの取材に応じ、ウクライナ侵攻を正当化するロシア側の主張は「何もかも嘘(うそ)」だと訴えた。
パベル・フィラティエフ氏(33)は2週間前、ウクライナでの戦争を批判する長文の証言をSNSに投稿し、その後ロシアを離れた。ウクライナ侵攻を公然と批判して出国した現役のロシア兵は同氏が初めてだった。CNNは同氏の身の安全のため、取材場所は明らかにしていない。
取材に応じたフィラティエフ氏は、仲間のロシア兵たちは疲労し、飢え、幻滅していると証言。ロシアの戦争は「平和な生活を破壊している」と語り、「私たちは、単純に街を破壊するだけで実際には誰も解放していない衝突に自分たちが引きずり込まれたことに気づいた」と話した。
「自分たちの政府が私たちに説明しようとしている理由が見当たらないことに、私たちの多くが気づいた。何もかも嘘だったと」「私たちはただ、平和な生活を破壊している。この事実は私たちの士気に重大な影響を与えた。私たちは何ひとついいことをしていないと感じた」
母国では腐敗と抑圧が蔓延(まんえん)しているとフィラティエフ氏は訴える。クリミア半島に駐留していた同氏の部隊は衝突が始まって間もなく、ウクライナのヘルソン州に派遣されたが、装備は不十分でロシア軍の侵攻理由に関する説明はほとんどなかったと振り返った。
兵士も司令官もウクライナで自分たちが何をすべきか知らなかったとフィラティエフ氏は言う。ヘルソンに到着し、「解放」を望んでいない地元住民の抵抗に遭ったことで、ロシア政府の侵攻理由に幻滅したと言い添えた。
フィラティエフ氏の部隊は南部の港湾都市ミコライウ制圧を目指す作戦にも関与したが、同氏は負傷して第一線を退いた。
自分が戦闘の最前線にいた当時、ロシア軍には基本的な装備も、ドローンなどの無人機もなかったと同氏は話し、「兵舎はおよそ100年前の古いもので、兵士全員は収容できない。私たちの兵器は全てアフガニスタン時代のものだ」と指摘した。
「ヘルソンを包囲してから数日たつと、私たちの多くは食料も水も寝袋もなくなった」「夜はとても寒かったので眠ることさえできなかった。私たちはごみやボロ布を見つけ、体に巻いて暖を取った」
ヘルソン制圧はロシア軍にとって重大な成果だった。ウクライナは今、同市の奪還を目指して南部で戦闘を激化させている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が何を考えているのか分からないとフィラティエフ氏は言う。「国外に出て、銃を持たなくなった今、これは自分たちの政府がやり得る限りで最悪かつ最も愚かなことだと私は思う」「政府が私たちをどこへ導いているのか分からない。次はどうなるのか? 核戦争か?」
「私の国に起きていることを見ると恐怖に駆られる。何もかも破壊され、腐敗している」「唯一機能しているのは抑圧的な法律だけだ」
フィラティエフ氏はある程度のメディア取材に応じた後に出国したが、自分の発言をめぐって政府に報復されるかもしれないと予想してこう語った。
「私は刑務所に入れられるか、あるいは彼らが私を排除して黙らせるかのどちらかだろう。過去にそうしたケースはたくさんあった」
「ほかに脱出する道は見えない。なるようになるだろう」
●軍事侵攻から半年 隣国ポーランド 熱意に頼る支援活動に限界も  8/23
ウクライナからの避難者を最も多く受け入れてきたのが、隣国のポーランドで、避難した人は延べ500万人を超え、今も120万以上の人が、ポーランドに滞在しているとみられています。
ただ、NHKが今月15日、ポーランドとウクライナの国境の様子を取材したところ、今も避難してくるウクライナの市民はいましたが、当初のように国境付近が避難者で混み合う様子は見られず、支援活動の拠点となっていたテントも多くが撤去されるなどしていました。
ポーランドの首都ワルシャワには、3月初めから避難者に食事を提供しているテントが今もありましたが、軍事侵攻から半年が経過する中で、活動を支えてきた個人や企業などからの寄付は減っているといいます。
当初は、多い時で300人分用意できた食事も、この日は25人分しか作れませんでした。
また、企業などから寄付された食品や衣服を避難者に提供してきた別の団体も、資金不足でこの取り組みを6月に打ち切りました。
団体のメンバーは「人々は、今も物資や支援者を必要としています。ただ、私たちもボランティアでやっているので、支援を受けなければ活動は続けられません」と話していました。
ポーランド政府は、ウクライナからの避難者に一時金を支給したほか、避難者を受け入れた家庭や団体には資金面で支援することで、避難者の滞在先を確保しようとしてきました。
しかし、今では「人道的な支援」から避難者の「自立を目指す支援」に力点を置く方針に変わっています。
ただ、避難生活を続ける人たちの中には、自立が容易ではない人も少なくありません。
3月上旬からワルシャワで避難生活を送るオレーナ・ナドトチーさん(43)です。
空いていたアパートの部屋を紹介され、3歳の双子の娘と暮らしてきました。
家賃も当初、無償とされましたが、来月からは部屋の所有者が戻ってくるとして、退去するよう求められています。
ネイリストとして働くナドトチーさんにとって、子どもの世話で仕事ができる時間は限られます。
十分な収入が得られないなかで、新しい部屋は見つかっていません。
ナドトチーさんは「もっと働くことができればアパートを借りられるのですが、高い部屋ばかりで私には払えません」と話していました。
ワルシャワ大学移民研究センターのマルタ・ヤロシェビッチ氏は「だれも戦争がこんなに長く続くとは思っていませんでしたから、人々は支援に疲れてしまったのです。政府による組織的な支援が必要です」と述べ、人々の熱意に頼る支援活動には限界があると指摘します。
そのうえで、ヤロシェビッチ氏は「十分に支援を受けられず、滞在先を失う人がこれから出てくるかもしれません。気温が下がってくれば、より多くの人がまた避難し始めるでしょうし、厳しい状況が秋に生じるかもしれないと懸念しています」と話していました。
●侵攻あす半年 “G7と連携 ロシア制裁 ウクライナ支援を”首相  8/23
ロシアのウクライナ侵攻が始まって24日で半年となるのを前に、政府は関係閣僚会合を開き、岸田総理大臣はG7=主要7か国などと今後も緊密に連携して、ロシアに対する制裁やウクライナへの支援に当たるよう指示しました。
総理大臣官邸で開かれた会合には、松野官房長官や林外務大臣、それに西村経済産業大臣らが出席したほか、新型コロナに感染し、隣接する公邸で公務を続けている岸田総理大臣もオンラインで参加しました。
会合では、ロシアによるウクライナ侵攻のさらなる長期化が懸念される中、ウクライナ国内の戦況や関係国による外交交渉の状況、それに世界のエネルギー市場や物価の動向などについて、最新の情報を共有しました。
そのうえで、岸田総理大臣は関係閣僚に対し、G7をはじめとした国際社会と今後も緊密に連携し、ロシアに対する制裁やウクライナへの支援に当たるとともに、今もウクライナにいる日本人の保護に取り組むよう指示しました。
また、ウクライナ侵攻をきっかけに国際情勢が不透明さを増す中、エネルギーの安定供給や日本の防衛体制の確保なども指示し、政府を挙げて万全の対応をとっていくことを確認しました。
松野官房長官「政府一体となって対応」
松野官房長官は記者会見で「侵略が長期化する中、内閣改造で一部の閣僚が交代したことも踏まえ、関係閣僚の間で現状認識を改めて共有するとともに、今後の政府全体の対応について議論を行った。岸田総理大臣の指示を受け、引き続き高い緊張感を持って情報収集に当たり、関係省庁間の連携を密にし、政府一体となって対応していく」と述べました。そのうえで「日本としては今般の侵略の中で核兵器が使用される可能性を深刻に懸念している。唯一の戦争被爆国として、ロシアの核兵器による威嚇も使用も、あってはならないということをさまざまな機会に強く訴えていく」と述べました。
林外相「課題に全力で取り組む」
林外務大臣は記者団に対し「私からは来年、G7=主要7か国の議長国となる日本として、引き続き国際社会と連携し、厳しい対ロ制裁とウクライナ支援を行っていくことや、TICAD=アフリカ開発会議や国連総会などの機会を捉え、国際秩序の原則を守る重要性を訴えていくことなどを申し上げた。外務省として、引き続き高い緊張感を持って、対ロ制裁やウクライナ支援、また、在留邦人保護といった課題に全力で取り組んでいく」と述べました。
浜田防衛相「できるかぎりの支援を」
浜田防衛大臣は記者団に「ロシアによるウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがす行為であり、決して許されない。このような力による一方的な現状変更はインド太平洋地域でも起こりうるものであり、あらゆる選択肢を排除せず、現実的に検討し、わが国の防衛力を抜本的に強化していく」と述べました。また、ウクライナへの追加の支援について「岸田総理大臣からの指示を踏まえて、できるかぎりの支援を行っていきたい」と述べました。
西村経済産業相「エネルギーの安定供給に全力を」
西村経済産業大臣は会合のあと記者団に対し「会議では特にサハリンなどの状況について説明を行った。岸田総理大臣からはエネルギーの安定供給に万全を期すようにという趣旨の指示があったので、しっかり受け止めて、今後も安定供給に全力を挙げていきたい」と述べました。そのうえで、ロシア政府が設立したサハリン2の事業を引き継ぐ新会社に、日本の大手商社が参画するかどうかについて「来月4日までに同意するかどうかロシア側への返事が求められている。それぞれにおいて検討を急いでいると思うが、政府としても意思疎通をしっかりはかりながら対応したい」と述べ、官民で連携して対応する考えを重ねて示しました。一方、電力の需給ひっ迫が見込まれるこの冬に向けての対応については「原子力も再生可能エネルギーも火力もあらゆる選択肢を追求しながら安定供給に万全を期していきたい」と述べました。
鈴木財務相「G7をはじめ国際社会と適切に対処」
鈴木財務大臣は会合のあと記者団に対し、「総理からG7と緊密に連携し、対ロ制裁を含む外交上の対応を継続すること、ウクライナへの積極的な支援を継続することなどの指示があった。財務省としては総理の指示を受けて、引き続き、G7をはじめとする国際社会と適切に対処していきたい」と述べました。また、これまでのロシアに対する制裁の効果については「金融制裁はG7各国が緊密に連携して広範な措置を科していて、ロシア経済に打撃は与えている。ただ、ロシアの撤退とか、侵略を止めさせるとか、そこまでには至っていないというのが現実だ」と述べました。
松田ウクライナ大使 キーウ入り
ロシアのウクライナ侵攻が始まって24日で半年となるのを前に、外務省は、ポーランドのジェシュフ連絡事務所で業務にあたっている松田邦紀ウクライナ大使が、現地時間の22日、安全状況を含む現地の情勢を視察するためウクライナの首都キーウに入ったと発表しました。キーウ滞在中、松田大使はウクライナ政府の関係者などと意見交換を行うということです。
●ウクライナ侵攻半年 双方の軍死者2万数千人超 停戦なお見えず 8/23
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始し、24日で半年となった。両国が多数の兵員と兵器を投入した戦争は、激しい攻防を経て膠着(こうちゃく)の度合いが強まっている。ウクライナ軍や欧米当局の推計で、両国の軍関係者の死者は少なくとも計2万数千人を超えるとみられるが、譲歩を拒む双方に停戦を探る動きはない。民間人の犠牲者も増え、露軍が占拠したウクライナ南部の原発周辺で交戦に発展。国際社会を巻き込んだ熾烈(しれつ)な戦争は、さらに長期化する懸念が強まっている。
ウクライナ軍参謀本部の23日の発表では、同国軍は露軍の1900両以上の戦車、230機以上の戦闘機などを撃破。ザルジニー総司令官によると、自軍の戦死者数は約9千人という。
一方、露国防省は22日、ウクライナ軍の戦車や歩兵戦闘車4300両以上、260機以上の戦闘機を破壊したと主張している。
ロシア側の発表の根拠は明確ではなく、露軍の死者数について米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が7月中旬、「1万5千人近く」との推計を示した。欧米当局は、露軍がウクライナ側を上回る死者を出しているとみている。
ただ、ロシアのプーチン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領とも、歩み寄る意向をみせていない。ゼレンスキー氏は今月18日、「露軍が完全撤退しない限り、停戦交渉には応じない」と表明。6日も「戦争は交渉で終わるが、そこに至るまでの道は長く多くの血が流れる」と述べた。
ロシア側も、自国で産出する天然ガスなどの燃料について、欧州向けの供給を絞るなどし、燃料の需要期を迎える冬場に向け欧州を揺さぶる。ウクライナを支援する欧米の結束に、ほころびが生じることを狙い、長期戦を辞さない姿勢だ。
●ロシアによる軍事侵攻から24日で半年 市民5500人超が死亡  8/23
ウクライナでロシアによる軍事侵攻が始まってから24日で半年となりますが、国連人権高等弁務官事務所は、ウクライナでこれまでに少なくとも5500人を超える一般市民が死亡したと発表し、軍事侵攻の長期化で犠牲者がさらに増えることが懸念されています。
ロシア国防省は22日も南東部ザポリージャ州や南部ミコライウ州、そして東部のハルキウ州やドネツク州など、各地をミサイルで攻撃し、ウクライナ軍の指揮所や装甲車などを破壊したと主張しました。
これに対し反転攻勢を目指すウクライナ軍は、南部ヘルソン州で、ロシア側が占拠していた橋を攻撃したとするなど、ロシアによる軍事侵攻が始まってから24日で半年となる中、依然として攻防が続いています。
国連人権高等弁務官事務所は、軍事侵攻の開始以降、今月21日までに、ウクライナで少なくとも5587人の一般市民が死亡したと発表しました。
犠牲者の多くは、砲撃や空爆などで命を落としたということですが、国連人権高等弁務官事務所は激しい戦闘が行われた地域では死傷者の数が正確に把握できないとして、実際の死者数はこの人数を大きく上回るという見方を示しています。
軍事侵攻の長期化で犠牲者がさらに増えることが懸念されています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は22日に公開した動画で「残酷な者たちは、180日間、私たちの国のあらゆる場所で攻撃をやめていない。これまでにウクライナに対して使用した巡航ミサイルの数は3500発近くになる」と述べ、ロシアを厳しく批判しました。
●米国民 ウクライナに対するバイデン政権の対応支持も関心低下  8/23
ウクライナに対するバイデン政権の対応についてのアメリカ国民の評価は軍事侵攻の開始以来、大きくは変わっていませんが、関心は著しく低下しています。
ABCテレビと調査会社イプソスが行った世論調査によりますと、ロシアの軍事侵攻をめぐるバイデン大統領の対応について、
侵攻直後のことし3月上旬は「支持する」が48%、「支持しない」が51%
今月上旬は「支持する」が43%、「支持しない」が55%でした。
ただ、イプソスが行っている世論調査によりますと、「アメリカが直面する最も重要な問題は何か」という質問に対し、「戦争と外国の紛争」と答えた人の割合は、3月上旬は、「経済、失業、雇用」と答えた人の割合に次いで2番目に多い17%だったのに対し、今月中旬はわずか2%でした。
一方、「経済、失業、雇用」が最も重要な問題だと答えた人の割合は3月上旬は24%でしたが、今月中旬は5ポイント上がって29%と最も多くなり、記録的なインフレが影響していると見られています。
アメリカ市民の声は
ロシアの軍事侵攻に対するアメリカのバイデン大統領の対応について首都ワシントンで話を聞きました。
このうち、70代の男性は「バイデン大統領の対応を支持する。私たちにはウクライナを支援する義務がある」と話していました。
60代の男性は「まずはヨーロッパがウクライナを支援する義務があると思うが、アメリカはNATO=北大西洋条約機構のリーダーとして支援する義務がある」と話していました。
また、西部カリフォルニア州から来たという女性は「インフレでガソリン価格は高騰しているがロシアに対する制裁はいいことだ。ロシア軍の撤退につながるのであれば、その代償は喜んで支払う」と話していました。
一方、20代の男性は「ウクライナは非常に大事だが、ウクライナだけが重要なわけではない。たとえば、医療保険の問題にはもっと取り組んでほしい」と話していました。
米 専門家「国民の間に『ウクライナ疲れ』の兆し」
国際関係が専門のジョージタウン大学のチャールズ・カプチャン教授は「バイデン大統領はロシアの軍事侵攻への対応をめぐって国民の強力な支持を得てきたが、国民の間には『ウクライナ疲れ』の兆しが見える」と述べ、軍事侵攻の長期化がガソリン価格の上昇など国民生活に影響し、ウクライナ支援への関心が低下する兆しがあると分析しました。
そのうえで今後のバイデン政権の対応については「戦闘の終結を最優先し、ウクライナへの武器の供与を停戦や領土をめぐる交渉に向けた外交戦略と結び付けることが重要だ」と指摘しています。
●侵攻半年 揺れるEU、燃料高騰・制裁疲れ色濃く 対露姿勢で東西の亀裂も 8/23
欧州連合(EU)は、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化で、エネルギー価格の高騰に揺れている。「制裁疲れ」が広がり、ウクライナ支援に手詰まり感が漂う。対ロシア姿勢で西欧と東欧の違いも浮き彫りになり、EUの結束は試練に立たされている。
ドイツの民間機関「キール世界経済研究所」によると、8月3日までにEUがウクライナに拠出表明した軍事、経済、人道支援の総額は162億ユーロ(約2兆2000億円)。独仏、東欧など主要国の2国間援助を合わせても、米国の約445億ユーロ(約6兆円)の半分以下にとどまる。独仏伊などEU主要国からの支援表明は7月、ほぼゼロだった。
EUを牽引する独仏は当初、ウクライナ、ロシア間の和平仲介を目指した。ウクライナが不快感を示し、空振りに終わった。EU内の対露強硬派であるポーランド、バルト諸国からも不信の目を向けられる始末で、独仏は当面、米国とウクライナ支援で共同歩調をとりながら、出番を探る構えとみられる。マクロン仏大統領は19日、約3カ月ぶりにプーチン露大統領との電話会談を再開した。ドイツは重火器の供与が遅れていたが、多連装ロケットシステム「MARS」の現着が1日に発表された。
東西欧州の対立は、ロシアの脅威に対する認識の違いに基づく。6月発表の世論調査によると、「ウクライナがロシアに譲歩しても、和平を構築すべき」という意見がイタリアで52%、ドイツで49%にのぼった。これに対し、ポーランドでは16%。「ロシアの敗北だけが、和平への道」と考える人が4割を超える。
紛争長期化は、EU各国の内政にも影を落とす。イタリアでは7月、対露経済制裁を支持してきたドラギ首相が辞任に追い込まれた。中道左派の与党がウクライナへの武器供与を批判し、生活支援の拡充を訴えて、造反に動いたのが引き金になった。
ロシアはEUの足並みの乱れに乗じ、パイプラインを通じた天然ガス供給を削減して揺さぶりをかける。EUは昨年まで、ガス輸入の4割をロシアに依存したため、暖房需要の高まりを前に、ガスの備蓄と省エネに懸命だ。物価高が家計を直撃する中、マクロン氏は、「自由と価値を守るための代価を受け入れてほしい」と仏国民に訴えた。欧州のウクライナ支援の行方は、「この冬をどう乗り越えるか」にかかっている。
●ウクライナから出国1100万人 帰還者も 国連統計、民間人死者5千人超す 8/23
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の19日の発表によると、ロシアが2月に軍事侵攻を開始して以降、ウクライナからの出国者は1115万人を超えた。
隣国ポーランドへの出国者が最多で、約544万人。首都キーウで戦闘が沈静化して以降、避難先から帰国する人も多く、欧州からウクライナ側への越境者は470万人を超えた。欧州で、約670万人が難民として認定されている。
ロシアへの出国者は約220万人。このうちウクライナへの帰国者は「データ不在」で明らかにされていない。同国のゼレンスキー大統領は7月、「ロシアは約20万人の子供を拉致した」と非難した。
一方、国連人権高等弁務官事務所は22日、ロシアの侵攻により、21日までにウクライナで民間人5587人が死亡したと発表した。戦闘が悪化するルガンスク、ドネツクの東部2州が、3317人を占めた。
●NPT「最終文書案」まとまるも“ロシア侵攻”などで合意の見通し立たず 8/23
1日から開かれている国連のNPT(核拡散防止条約)の再検討会議は会期の最終週に入り、「最終文書案」がまとまりました。しかし、ロシアによる軍事侵攻などの影響で合意の見通しは立っていません。
NPT再検討会議では「核軍縮」「核不拡散」「原子力の平和利用」を扱う3つの主要委員会の議論が22日に終わり、最終文書案がまとめられました。
最終文書案では、攻撃が相次ぐウクライナのザポリージャ原発について「重大な懸念」であると明記したうえで、ロシアによる支配からウクライナの管理下に戻すよう求めています。
しかし、ロシアは一貫して原発への攻撃はウクライナによるものだと反発しています。
NPT再検討会議は26日の最終日まで議論が続きますが、最終文書の採択にはロシアを含む全会一致が必要で、交渉は難航が予想されます。
●「自給自足」の時代を模索するロシア 車も冷蔵庫も生産落ち込む 8/23
ロシアのウクライナ侵攻開始後、西側諸国はロシアに厳しい経済制裁を幾重にも科して停戦圧力を加えてきた。経済的に孤立を深める一方で、プーチン政権はソ連時代のような「自給自足」の経済を探って市民生活への影響を抑えようとしており、欧米が期待した成果が上がっているとは言いがたい。
ロシアから撤退した米スターバックスの資産を買収したロシア資本の「スターズ・コーヒー」の1号店が18日、モスクワ中心部にオープンした。店のロゴはスタバそっくり。カップに名前を書くなどサービスもスタバそのままだ。
本格的に営業を始めた19日には店の外に行列ができ、期待の高さをうかがわせた。店員は「やっと開店できてうれしい」と満面の笑みで接客していた。年内に旧スタバの130店舗を再開させ、約2千人の雇用の多くが継続する見通しだ。
ウクライナ侵攻後、欧米や日本など西側諸国は、ロシアの中央銀行が国外に預けた資金の凍結や、プーチン政権に近い新興財閥(オリガルヒ)と呼ばれる実業家の資産の差し押さえなどの制裁を次々に敢行した。
中でも注目されたのが、ロシアの主要銀行を事実上、国際的な決済ができなくするため「国際銀行間通信協会(SWIFT〈スイフト〉)」のシステムから排除する制裁措置だ。ロシア側とのビジネスを難しくする象徴的な制裁で、1千を超える欧米や日本などの大手企業が事業の停止や撤退を決める一因となった。
ロシアの企業活動や市民生活に支障が出れば、戦争を始めたプーチン政権への不満がロシア国内でも高まり、停戦圧力になる――。制裁を主導する欧米政府の最大の狙いだった。
ただ、モスクワの市民生活には現状、そこまでの混乱は表れていない。
スターバックスと同じように、米マクドナルドもロシア企業に事業を売却した。ほかにもロシア側との売却交渉が進む。
●ロシアが和平交渉打診、狙いは時間稼ぎ ウクライナ高官 8/23
ウクライナのミハイロ・ポドリャク(Mykhailo Podolyak)大統領府顧問は22日、ロシアがここ数週の間に新たな和平交渉を打診してきていると明らかにする一方、新たな攻勢に備えて部隊を再編するための時間稼ぎにすぎないの見方を示した。
ポドリャク氏は、ロシア側は交渉中の「戦況の固定化と占領地域の現状維持」を望んでいると分析。「(ロシア側は)さまざまな仲裁者を通じて打診してくる」と述べたが、具体的な仲裁者には言及しなかった。ウクライナは現在、ロシアと断交している。
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)大統領はこれまでに数回、仲裁役を務める用意があると語っている。エルドアン氏は8月初めにロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領と会談する一方、19日には半年ぶりにウクライナを訪問している。
ポドリャク氏によると、ウクライナ側の見解は、ロシア側は実は真剣な和平交渉を望んでおらず、新たな攻勢に備えて自軍に「作戦上の小休止」を取らせようとしているというものだ。
ウクライナはロシア占領地について、交渉による解決を一切拒否。今回の侵攻でロシアに占領された領土だけでなく、東部の親ロシア派武装勢力に占領された領土と、2014年にロシアに併合されたクリミア(Crimea)半島の完全奪還を目指している。
ポドリャク氏は「他のすべてのシナリオは、戦いの新局面の前に危険な小休止を与えるだけだ」とし、「ウクライナ国民は必要な限り抵抗を続ける」と述べた。
「これは存亡をかけた戦いであり、他に解決策はない。戦いを断念することは、ウクライナ国家だけでなく、全国民の破滅をも意味する」
ロシアによるウクライナ侵攻開始から24日で半年となる。侵攻開始後、間もない時期に最初の和平交渉が行われたが、具体的な成果はもたらされなかった。
●あすで侵攻から半年 ロシア“天然ガス”で揺さぶり…ドイツ“異例の事態” 8/23
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、24日で半年となりますが、戦争長期化の影響は、各国のエネルギー政策にも及んでいます。ロシアからの天然ガスの供給量が低下するなか、ドイツでは店頭の薪(まき)が品切れになるなど異例の事態となり、「エネルギー価格などが上昇するなら、ロシアへの制裁を支持しない」という声も増えています。
21日、ドイツのショルツ首相が市民との写真撮影に応じていると、突然、女性2人が上半身裸になって、「今こそガス禁輸を!」と声をあげ、一時騒然となりました。ロシア産天然ガスの輸入禁止を求め、抗議したとみられています。
ロシアのウクライナ侵攻から24日で半年。今、このガスをめぐる問題がヨーロッパを揺るがしています。
18日、ドイツ西部の都市・デュッセルドルフにあるベーカリーを訪ねました。店内は焼きたてパンの香ばしい香りでいっぱいですが――
ベーカリーのオーナー「店の存続の危機です、ガスなどの価格がとても上がっています」
この店ではこの冬、ガス価格が3倍以上に跳ね上がる見込みで、廃業も覚悟しているといいます。
先月、ロシアからヨーロッパへの天然ガスの供給量は20%にまで低下しました。制裁を科す国への揺さぶりとみられています。ロイター通信によると、輸入天然ガスの約半分をロシアに頼っていたドイツでは、この冬、エネルギー不足に陥る懸念が高まっているのです。
ドイツ北部の都市・ハノーファーでは、ガスの節約に動き出しました。
記者「ここは市営の温水プールですが、今はガスで水を温めるのをやめているため、水の温度は24℃ほどとなっています」
19日、市営の温水プールを訪れると、プールの水もシャワーも冷水になっていました。
利用者「ガス節約のためだとわかっていますが、プールが温かくなくて残念です」
さらに、発電に使うガスを節約するため、街中では噴水が止まりました。観光スポットになっていた市庁舎のライトアップも取りやめで、夜は真っ暗に。
こうした中、暖炉などに使われる薪が、例年の倍以上の売れ行きだといいます。
薪業者の責任者「多くの人が薪を買おうとしていて、市場は空っぽです」
実際に薪を買った人の自宅に案内してもらうと、薪の山が地下室やガレージ、家の外にまでぎっしり。
ハノーファー市民 イナさん「暖炉用の薪は暖炉のそばや、この地下室などに置いています」
普段はインテリア同然の暖炉ですが、今年はガスの節約のために、例年の3倍の薪を買いだめしたといいます。
しかし、ガスの節約だけでは、冬のエネルギー需要をまかなえません。そこで、ドイツ政府は温室効果ガスを多く排出する石炭火力発電所の再稼働を決定しました。クリーンエネルギーの“旗振り役”だったドイツも、政策の転換を迫られているのです。
ヨーロッパ各国でも、こうした方針転換の動きがみられ、オーストリアは脱化石燃料を掲げていますが、石炭火力発電所の再稼働を決めました。さらに、オランダなど5か国が、石炭火力発電所の稼働期間を延長することなどを決めています。
こうした動きに、ドイツでは「エネルギー価格などが上昇するなら、ロシアへの制裁を支持しない」という声がじわじわと増えています。infratest dimapによると、「エネルギー価格などが上昇しても対露制裁を支持するか?」の問いに「不支持」と答えた人の割合は、3月は26%でしたが、7月には38%と増加しました。
ハノーファー市のオナイ市長は、「こうした世論の変化こそが、ロシアの狙いだ」と警鐘を鳴らします。
ハノーファー市 オナイ市長「(これまでの失策で)ロシアへのガス依存を招き、プーチンがそれを利用しています。プーチンに屈して、ウクライナが譲歩したり、戦争で負ければ日常が戻るというのは、ばかげた思い込みです」
「対ロシア制裁」というヨーロッパの人々の決意に、揺らぎも見え始めています。

 

●ウクライナへの軍事侵攻から半年 各国の動き・立場は  8/24
ロシアによる軍事侵攻が始まってから24日で半年となります。国際社会では立場の違いも浮き彫りになっています。各国の姿勢や支援の動きなどについてまとめました。
アメリカ 軍の基地から物資を輸送
アメリカからは今も連日、ウクライナに軍事物資が送られています。
アメリカ東部デラウェア州にあるドーバー空軍基地はアメリカがウクライナに供与している武器や弾薬の輸送拠点になっていて、今月10日、NHKに基地の取材が認められました。
基地の倉庫にはウクライナ軍が砲撃に使っているりゅう弾砲の砲弾などが並べられ、兵士たちが専用の台に物資を乗せてこん包したあと、大型の輸送機に次々と積み込んでいました。
このあと輸送機はウクライナの隣国、ポーランドに向けて出発しました。
基地によりますと物資の空輸は侵攻開始以降、これまでにおよそ130回行われ、今も連日、輸送が行われているということです。
ドーバー空軍基地で物資の輸送などを担当する指揮官のバリー・フラック大佐は「われわれはウクライナの人たちに希望を与え、最大限の支援をしたいと思っている。必要なかぎり、この活動を継続する」と話していました。
米による軍事支援 約1兆3000億円
アメリカ国防総省によりますとロシアによる軍事侵攻が始まって以降、アメリカがこれまでにウクライナに行った軍事支援は総額で99億ドル、日本円にしておよそ1兆3000億円に上ります。
バイデン政権はロシアを過度に刺激してアメリカとの衝突につながらないよう、供与する兵器を慎重に選びながら戦況に合わせて軍事支援を行ってきました。
侵攻開始当初は対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」など、兵士が1人で持ち運べる機動性を兼ね備えた兵器を供与し首都キーウ近郊などで活用されました。
その後、ロシア軍がウクライナ東部に作戦の重点を移したのに合わせて建物などの障害物が少ない開けた場所での大規模な砲撃戦に対応できるよう長距離から攻撃できる兵器を供与しています。
ことし4月からは大口径の砲弾を敵の陣地などに撃ち込むりゅう弾砲を、6月からは射程がさらに長く、精密な攻撃が可能だとされる高機動ロケット砲システム=ハイマースを送っています。
国防総省によりますとこれまでに銃弾5900万発、「ジャベリン」8500基、「スティンガー」1400基、りゅう弾砲142門、ハイマース16基などを供与したということです。
米 安全保障専門家「支援なしにウクライナの活動維持できない」
安全保障が専門でアメリカのシンクタンク、「スティムソン・センター」のエライアス・ユーシフ氏はアメリカの軍事支援について「ウクライナに対する支援はその内容と規模において前例のないもので、短期間にこれほど拡大した例はほかにないだろう。ロシアのプーチン大統領が当初、予想していたような短期間での勝利を防ぐという点で不可欠だった」と指摘しました。
そのうえで「戦争の明確な解決策を見いだせておらず、長距離砲撃に依存する消耗戦になっているため、ウクライナ側には西側諸国からの砲弾などの供給が必要だ。支援なしには短期的にも中期的にもウクライナの活動を維持できない」と述べて今後も軍事支援は続くという見方を示しました。
またユーシフ氏は軍事支援に対するアメリカの世論の動向について、「一般市民の間でも『これはアメリカが行うべき支援だ』という合意が得られていると思うが、戦争が長引き、インフレなどの経済的な打撃が続くと世論は変化するかもしれない。バイデン政権はなぜウクライナでの戦争を気にかける必要があるのか、国民と対話を続けることが重要だ」と述べました。
中国 一貫してロシア寄りの姿勢を示す
中国は、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を行って以降、一貫してロシア寄りの姿勢を示してきました。
中国とロシアは、習近平国家主席とプーチン大統領が会談を重ねることで関係を強化してきたと指摘されています。
ロシアのウクライナ侵攻直前のことし2月4日には、北京オリンピックの開会式に合わせて行われた首脳会談のあと「両国の友好関係に限りはない」などとした共同声明を発表し、かつてないほど緊密な関係を印象づけました。
中国は、ロシアから事前にウクライナへの軍事侵攻について知らされていたかはわかりませんが、軍事侵攻が始まった翌日のことし2月25日と、ことし6月に両首脳が電話会談を行い、6月の会談では経済や軍事面での協力を拡大させることで一致しました。
中国がロシアとの関係を重視する背景には、アメリカに長期的に対抗していくためにもロシアとの連携強化は有益だと考えていることがあります。
中国は、アメリカがかつて行った「NATO=北大西洋条約機構を拡大させない」という約束を破り、拡大を続けてきたことが、現在のウクライナ情勢を招いたとしてアメリカを批判しています。
こうした中、欧米などがロシアに経済制裁を科していることについて強く反対しています。
経済面で、中国は、ロシアとの間でこれまでどおり貿易を続ける考えを示していて、ロシアからのエネルギーの輸入増加が続いています。
中国が先月、ロシアから輸入した原油の量は去年の同じ月と比べて7.6%、LNG=液化天然ガスの輸入量は20.1%それぞれ上回り、いずれも4か月連続で増加しました。
一方、軍事面では、ことし5月、両国の空軍が日本海や東シナ海の上空で合同パトロールを行ったほか、今月下旬から来月上旬にかけてロシア極東で実施される大規模な軍事演習に中国軍が参加すると発表するなど軍事的な結び付きを深めています。
しかし、中国は、欧米などからみずからが制裁を受けるような事態は避けたいとみられ、ロシアに対する軍事的な支援などには慎重な姿勢です。
中国は、5年に1度の共産党大会を控え、習近平国家主席が党トップとして異例の続投を見据える中、停戦に向けた仲介に乗り出してリスクを負うことには消極的とみられます。
欧州 各国で立場の違い浮き彫りに
ヨーロッパでは、ロシアに警戒感を抱き対立姿勢を鮮明にする国とエネルギーの供給をロシアに依存しているため対話での解決を模索する国との間で立場の違いが浮き彫りになっていて、今後、各国がウクライナへの支援で結束していけるのか、見通せない状況になっています。
このうちロシアと地理的にも近いバルト3国やポーランドでは、ウクライナと同様に軍事的な脅威にさらされる危険性があるとの警戒感が根強く、ロシアへのエネルギー依存からの脱却を急ピッチで進めてきたこともあり、ウクライナへの軍事的支援を継続して徹底抗戦で臨むべきだという立場です。
一方、ロシアにエネルギーの多くを依存するドイツやイタリアは、ロシアからの天然ガスの供給が大幅に減って国民生活にも影響が出ていることを踏まえ、ロシアに対して強硬姿勢で臨むだけでは事態を打開できないといった国内世論を背景に難しい立場に立たされています。
またフランスのマクロン大統領は今月20日にもプーチン大統領と電話会談を行うなど、ロシアとの対話を重視する姿勢を崩していません。
ヨーロッパでは、ロシアに対して対立姿勢を鮮明にする国と対話での解決を模索する国との間で立場の違いが浮き彫りになっていて、今後、各国がウクライナへの支援で結束していけるのか見通せない状況になっています。
●ウクライナ軍事侵攻から半年 「独立記念日」攻撃激化に警戒  8/24
ロシアによる軍事侵攻から、24日で半年となる。
この日は、ウクライナの独立記念日で、ロシアによる攻撃激化に警戒が強まっている。
首都の防衛を担う軍事組織「アゾフ・キーウ」の司令官が23日、FNNの取材に応じ、攻撃に対し「いつでも準備はできている」と語った。
アゾフ・キーウ マキシム・ゾリン司令官「独立記念日のような象徴的な日を口実に、テロ攻撃や犯罪に利用される可能性を理解している。市内にいる全部隊は、あらゆる状況の進展に備えている。明日何が起ころうとも、戦闘準備が整っている」
マキシム・ゾリン司令官が指揮していたアゾフ大隊は、南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所で抵抗を続けていた。
アゾフ・キーウ マキシム・ゾリン司令官「戦争はウクライナの勝利で終わると確信している。ロシアにはチャンスがない」
こうした中、ゼレンスキー大統領はロシアが一方的に併合した、南部クリミア半島の奪還を呼びかける国際会議を開き、侵略するロシアとの戦いに勝利すると強調した。
会議ではフランスのマクロン大統領がロシアに対し「ウクライナ全土からの撤退」を求めたほか、イギリスのジョンソン首相も支援を強調するなど、参加した60ほどの国や地域の首脳が連帯を示した。
●ロシア支配下の生活「奴隷と同じ」・完全にたたきのめせ…憤るウクライナ  8/24
ロシアの侵略から24日で半年となるウクライナでは、市民が徹底抗戦の覚悟を強めている。避難先から首都キーウに戻った人たちは、攻撃の手を緩めないロシアを許せない心情をあらわにした。
ロシア軍が前線で放棄した戦車などが陳列されたキーウの目抜き通りに21日、多くの市民が集まった。国旗を掲げたり、民族衣装で記念写真を撮ったりとまるで勝利したかのような雰囲気だ。「もっとたくさん露軍の戦車が破壊されたのを見たい。露軍はまだ我々の領土にいる。完全にたたきのめさねばならない」。オレクサンダー・ボイコさん(65)は興奮気味に語った。
ウクライナの研究機関「ラズムコフ・センター」などが8月5〜12日に実施した世論調査によると、75%以上が領土を奪還するまでの戦争継続を支持し、92%がウクライナの勝利を信じている。
戦争の長期化は、市民生活を苦境に追い込んでいる。7月の消費者物価指数は前年同月比で22・2%上昇した。それでも、停戦を主張するのはタブー視されている。5歳と10歳の娘を持つナタリア・ステパウスカさん(35)は「子供たちのことを考えれば戦争は早く終わってほしい。でも、文句を言っていられない。あらゆる犠牲を受け入れなければ」と言う。
激しい戦火にさらされる地域の住民さえ、徹底抗戦を唱えている。露軍が全域制圧を宣言する南部ヘルソンから8月上旬、7日がかりでキーウに避難してきたビクトル・ブラヒンさん(46)は「ロシア国旗の下で暮らすのは、奴隷になるのと同じだ。だから戦わざるを得ない」と言い切った。
兵士や市民の犠牲は増え続けている。だが、犠牲が増えるほど、停戦は遠のくと見る向きもある。オレクサンドル・ミハイレウコさん(71)は「戦争を止めたい。でも、遺族や負傷兵が何のための犠牲だったのかと言って停戦を許さない。だから勝つまで戦い続けなければならないのだろう」とため息をついた。
ロシアでは、主要メディアを通じたプーチン政権のプロパガンダが浸透している。侵略当初は盛り上がった「反戦」の機運はしぼみ、市民は関心を失っている。
露独立系世論調査機関レバダ・センターの最新調査によると、ウクライナでの「特殊軍事作戦」への支持は76%と高止まりしている。
モスクワ郊外の物流倉庫で働くアレクセイさん(49)は、「当初は特殊軍事作戦に賛成か反対か判断がつかなかったが、今は支持している」と話した。ウクライナに関する報道を見ることは少なくなったという。特殊軍事作戦については、「来年春頃に終わるといい」と語った。
侵略開始直後に全国に広がった反戦を訴える街頭デモやSNSへの投稿は、当局の厳しい弾圧で息を潜めている。
プーチン政権は戦闘の長期化について、「米欧がウクライナに兵器を送り込んだためだ」と強調する。現在のロシア国旗が初めて公式に使われたとされる「ロシア国旗の日」の22日には、各地で愛国心を高揚させるイベントが開催された。プーチン大統領は「外国の覇権を許さない。ロシアは大国だ」とする国民向けメッセージを出し、米欧をけん制した。
運転手のアンドレイさん(65)は、こうした政権側の主張を受け入れており、「米欧がウクライナへの支援を強めれば、ロシアにも戦闘が広がるのでは」と米欧への不満を示した。
●ウクライナへの軍事侵攻半年 戦闘長期化 緊迫の度合い強まる  8/24
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて24日で半年となり、ウクライナ軍は欧米の軍事支援を受けながら南部を中心に反転攻勢に乗り出しています。一方、ロシア軍は、戦況のこう着が続く中、掌握した原子力発電所を盾にして攻撃を激化させているともみられるなど、戦闘が長期化する様相と緊迫の度合いが強まっています。
ロシアが軍事侵攻を続けているウクライナでは、東部では戦況はこう着していますが、ヘルソン州など南部ではウクライナ軍が欧米から支援された兵器を効果的に活用してロシア軍の弾薬庫や補給路を破壊するなど反転攻勢を強めています。
今月に入ると、ロシアが8年前に一方的に併合した南部クリミアのロシア軍基地で爆発が起き、黒海艦隊の航空部隊が打撃を受けるなど戦線はクリミアにまで拡大しているもようです。
一方、ロシアはウクライナ軍の施設だけでなく、市街地へのミサイル攻撃も続けるとともに、掌握している南東部にあるザポリージャ原子力発電所を盾にして攻撃を激化させているともみられています。
ロシア軍は深刻な兵員不足が指摘されていますが、プーチン政権は国民の強い反発が予想される総動員は避けながら、ロシアの地方などで兵士を募集して戦地への派遣を進めているとされています。
また、ロシア側は、掌握したとする東部や南部ヘルソン州、南東部ザポリージャ州などで支配の既成事実化を強め、早ければロシアの地方選挙が行われる来月にも将来の併合をにらんで住民投票を実施する準備を進めているとみられます。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて24日で半年となりますが、戦闘が長期化する様相と大規模な原子力事故への懸念も含めて緊迫の度合いが強まっています。
ウクライナの軍事専門家「和平交渉で終わることはない」
ウクライナの軍事専門家はNHKのインタビューで「この戦争は和平交渉によって終わることはないだろう」と述べ、双方の交渉による停戦は困難で戦闘は長期にわたって続くという見通しを示しました。
ウクライナの軍事専門家、ミハイロ・サムス氏はNHKのインタビューで、侵攻から半年となる現在の戦況について「ウクライナが高機動ロケット砲システム=ハイマースを本格的に使い始めた7月以降、各地でロシア軍は大きく進軍できていない。ウクライナ軍がロシアの補給路を攻撃し、進軍を妨げている」と分析しています。
また、ロシアが8年前に一方的に併合した南部クリミアで攻撃や爆発が相次いでいることについて「ロシアの黒海艦隊の司令部にドローン攻撃が行われたことはロシアの防空システムを乗り越えたことを意味する。つまり、ウクライナ側による有効な諜報活動が行われていることを意味する」と分析したうえで、司令部への攻撃はロシア軍にとって心理的な打撃が大きいとしています。
一方、今後の展開については「この戦争は和平交渉によって終わることはないだろう」と述べ、ロシアが一部地域を占領したままの状況では交渉による停戦は困難で、戦闘は長期にわたって続くという見通しを示しました。
ロシア外交評論家 プーチン大統領は欧米と完全に決別する方向
ロシアの外交評論家のフョードル・ルキヤノフ氏はNHKの取材に対し、プーチン大統領は軍事侵攻の長期化に伴って欧米と完全に決別する方向にかじを切り、中国やインドなど、非欧米諸国との関係強化に軸足を移しているという見方を示しました。
ルキヤノフ氏は、このところのプーチン大統領の演説で注目していることとして「特に西側支配への完全な否定に重点を置いている。それは以前もあったが、今では、一切の反論を許さない断固としたものになった」と述べました。
そして「ソビエト崩壊後の目標は、西側が主導する世界のシステムにロシアの居場所を見つけることだったが、一連の理由で失敗した。今や、その目標は存在しないという決定が下された」と述べ、欧米との関係は冷戦時代より激しい対立状態にあると指摘しました。
そのうえで「ロシアが『西側中心主義』に戻ることはない。今や中国だけでなくアジア全体が世界の出来事の中心になりつつある」と述べ、プーチン大統領は、中国をはじめ、インドやイランなど非欧米諸国との関係強化に軸足を移しているという見方を示しました。
また、もうひとつプーチン大統領の演説で注目していることばとして、ルキヤノフ氏は「歴史的ロシア」という表現を挙げ、プーチン氏が帝政ロシア時代のピョートル大帝にみずからを重ね合わせながら「ピョートル大帝は何も征服しなかった。彼は領土を取り戻したのだ」と発言したことにも注目しているとしています。
この発言の背景としてルキヤノフ氏は、31年前のソビエト崩壊を挙げながら「ロシアは不当に失った一部の領土を取り戻さなければならないという理屈に立っている。歴史的にロシアの拡張領域に属していた地域であるウクライナは、その主要な部分だ」と述べ、プーチン大統領は「歴史的ロシア」という思想を侵攻の正当性に結び付けているという見方を示しました。
一方、軍事侵攻が半年に及んでいることについてルキヤノフ氏は、プーチン政権にとって誤算だったとしたうえで「具体的な軍事目標はなくなっているかもしれない」と指摘しました。
そして「領土をゆっくりと占領しながら、激しく、血まみれになって前進している。到達すべきラインがどこにあるのか明確な理解はなく、前進できるだけ進んでいる状況だ」と分析しました。
また、経済制裁の影響については「短期的な影響は、予想以上に小さかった」と主張しながらも、今後については「経済全体の大規模な立て直しが求められる深刻な危機を迎える」と危機感を表していました。
そして、ルキヤノフ氏は、プーチン政権が総動員令の発動を避けて多くの国民をできるだけ軍事作戦に引き込まないかわりに、国民から作戦へ支持を取り付け侵攻の継続を可能にしているという見方を示しました。
そのうえで「ロシアもウクライナも武力によって事態を変えられると考えている。将来の平和を期待することは全くできない」と悲観的な見通しを示しました。
日本政府 ロシアへの制裁とウクライナ支援を継続
事態のさらなる長期化が懸念される中、日本政府はロシアに対する制裁やウクライナへの支援を継続する方針です。
ウクライナ情勢をめぐり、政府は23日、関係閣僚会合を開き、最新の戦況や関係国による外交交渉の状況などの情報を共有しました。
軍事侵攻以降、政府は「力による一方的な現状変更の試みは許されない」などとロシアを強く非難し、G7=主要7か国と足並みをそろえる形で、ロシアと同盟国のベラルーシに対し政府関係者らの資産凍結や輸出入の制限などの制裁を科してきました。
また、ウクライナに対しては経済面での支援や破壊されたインフラの復旧などを進めてきたほか、避難した1700人以上を受け入れ生活を支援しています。
事態のさらなる長期化が懸念される中、政府はG7をはじめとした国際社会と連携しながらロシアなどに対する制裁やウクライナへの支援を継続する方針です。
一方、ウクライナ侵攻を背景とするエネルギーや食料などの価格高騰は、国内経済や国民生活に影響を広げています。
政府は、輸入小麦の売り渡し価格の据え置きや、地方創生臨時交付金の増額などの支援策を来月上旬をめどにまとめることにしていて、今後も実情を踏まえながら追加の経済対策を講じ、国内への影響を最小限に抑えたい考えです。
●双方の軍死者2万数千人超 停戦なお見えず 8/24
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始し、24日で半年となった。両国が多数の兵員と兵器を投入した戦争は、激しい攻防を経て膠着(こうちゃく)の度合いが強まっている。ウクライナ軍や欧米当局の推計で、両国の軍関係者の死者は少なくとも計2万数千人を超えるとみられるが、譲歩を拒む双方に停戦を探る動きはない。民間人の犠牲者も増え、露軍が占拠したウクライナ南部の原発周辺で交戦に発展。国際社会を巻き込んだ熾烈(しれつ)な戦争は、さらに長期化する懸念が強まっている。
ウクライナ軍参謀本部の23日の発表では、同国軍は露軍の1900両以上の戦車、230機以上の戦闘機などを撃破。ザルジニー総司令官によると、自軍の戦死者数は約9千人という。
一方、露国防省は22日、ウクライナ軍の戦車や歩兵戦闘車4300両以上、260機以上の戦闘機を破壊したと主張している。
ロシア側の発表の根拠は明確ではなく、露軍の死者数について米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が7月中旬、「1万5千人近く」との推計を示した。欧米当局は、露軍がウクライナ側を上回る死者を出しているとみている。
ただ、ロシアのプーチン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領とも、歩み寄る意向をみせていない。ゼレンスキー氏は今月18日、「露軍が完全撤退しない限り、停戦交渉には応じない」と表明。6日も「戦争は交渉で終わるが、そこに至るまでの道は長く多くの血が流れる」と述べた。
ロシア側も、自国で産出する天然ガスなどの燃料について、欧州向けの供給を絞るなどし、燃料の需要期を迎える冬場に向け欧州を揺さぶる。ウクライナを支援する欧米の結束に、ほころびが生じることを狙い、長期戦を辞さない姿勢だ。
●プーチンのエネルギー戦争で独最大のエネ企業が破綻寸前に 8/24
ドイツへの天然ガス供給量をロシアが削減したため、独最大の電力・ガス企業が倒産の瀬戸際に追い込まれている。独政府は約2兆円の公的資金を投入して救済することを決めた。ロシアがガス供給を止めた場合、今年冬に向けて、ドイツ経済は第2次世界大戦後最も深刻な危機に直面する。

7月22日、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、経営難に陥った電力・ガス企業大手ユニパー(本社デュッセルドルフ)の救済策を公表した。同社は、ロシアによるガス供給量削減で経営難に陥り、政府に救済を要請していた。政府は同社の倒産を防ぐために、約150億ユーロ(約2兆1000億円)を投じる。
約1万1200人の従業員を雇用するユニパーの2021年の売上高は、約1640億ユーロ(約23兆円)だった。ユニパーは、売上高では独最大のエネルギー企業である。
ユニパーは、大手エネルギー企業エーオンが機構改革をした際、同社からスピンオフ(分離・独立)され、火力発電とガス販売を主軸とする電力会社として16年にスタートした。独国内で100を超える火力発電所、水力発電所を運転している他、英国、ロシア、スウェーデンなどに約90の発電所を保有している。
独最大のエネ企業を部分的に国有化
ショルツ政権の救済プログラムは、独エネルギー企業に対するものとしては過去最大の規模だ。ユニパーは、部分的に「国有化」される。政府は第三者割当増資によりユニパーの株式の30%を買い取って資本参加するとともに、77億ユーロ(約1兆円)相当の強制転換社債を保有し、同社の自己資本を強化する。自己資本を強化するのは、信用格付け会社による大幅な格下げを防ぐためだ。
さらに政府は、政府系金融機関のドイツ復興金融金庫(KfW)がユニパー向けに設定している緊急融資枠も現在の20億ユーロ(2800億円)から90億ユーロ(1兆2000億円)に拡大した。政府は同社の監査役会(独企業における最高の意思決定機関で、取締役会を監視する)に監査役を送り込み、経営を監視する。支援措置が実施されている期間中、ユニパーは株主への配当の支払いを禁止され、役員報酬も制限される。
ユニパーが倒産の瀬戸際に追い込まれた背景に、ロシアへの依存度の高さがある。同社は、ドイツで最も多くロシア産ガスを買っていた。同社が昨年輸入した天然ガス3700億キロワット時(kWh)のうち、約54%がロシア産だった。同社はロシアを「信頼できるエネルギー供給国」と見なしていた。ロシアで発電事業も行うなど、同国と深く関わっていた。
だがロシアは、ウクライナ侵攻開始後に態度を一変させた。今年6月16日から海底パイプライン「ノルドストリーム1(NS1)」を通じた天然ガスの1日の輸送量を通常の40%に減らした(7月27日以降は、通常の20%まで減っている)。
ロシア側は削減の理由について、「パイプラインのガス圧縮装置のタービンが故障したため、カナダで修理していた。このタービンが、対ロシア経済制裁措置のためロシアに届いていない」と説明している。独政府は、「これは口実にすぎない。ロシアはドイツ経済を攻撃し、市民を不安に陥れようとしている」と主張し、ロシアがドイツへのガス供給を完全に停止するのは時間の問題と見ている。ロシアはすでにポーランド、ブルガリア、デンマークなどへのガス供給をストップしている。
ロシアのガス供給削減で逆ザヤ状態に
ショルツ政権がユニパー救済に踏み切ったのは、連鎖倒産を防ぐためだ。ユニパーは自社の天然ガス火力発電所などで発電した電力を売るだけではなく、ガスを外国から輸入してドイツの地域エネルギー供給企業100社に卸売りしたり、多数の化学メーカーなどに産業用ガスを販売したりしている。
だがロシアがガス供給量を激減させたため、ユニパーは、ロシアとの長期購入契約よりもはるかに価格が高いガスをスポット市場で買って、不足分を補っている。このためユニパーでは、費用が売上高を上回る逆ザヤ状態が発生。同社は1日当たり平均6000万ユーロ(約82億5000万円)の損失を出し続けている。1日の損失額が1億ユーロ(約140億円)を超える日もあった。
さらに同社はNS1に平行して走るパイプライン「ノルドストリーム2(NS2)」にも融資していた。ロシアがウクライナに侵攻する直前に独政府がNS2の稼働を禁じたため、このプロジェクトに投じた資金を回収できる見込みがなくなった。このためユニパーはNS2への融資額10億300万ユーロ(約1400億円)を全額損失として処理せざるを得なかった。
同社は8月17日の記者会見で、今年上半期に124億1800万ユーロ(約1兆7000億円)の当期赤字を記録したと明らかにした。創業以来最大の赤字額だ。同社によると、この赤字の約半分に当たる65億ユーロ(約9000億円)がガス調達コストの高騰によるもの。プーチン大統領が主導したガス供給量削減は、独エネルギー業界を未曽有の混乱に陥れたのである。
ユニパーの株価は昨年8月19日には33.13ユーロだった。しかし部分的国有化と、巨額の赤字が公表されてからは、売り注文が殺到。同社の株価は約80%下がり、今年8月18日には6.52ユーロとなった。
ユニパーは、ドイツでは「経済システムの維持に不可欠の企業」と定義されている。同社が破綻すれば、数百万人の市民、企業へのガス供給が危険にさらされる。政府はユニパー倒産が引き金となって、他の企業もドミノ倒しのように倒産することを恐れた。ショルツ政権は、「エネルギー業界のリーマン・ショック」と呼ぶべき事態を防ごうとしているのだ。
ガス調達コスト高騰分の90%を消費者に転嫁
さてショルツ政権が発表した救済策の中で最も重要なのは、ガス調達コストが高騰した分の90%を消費者に転嫁することを、政府がユニパーなどガス輸入企業に対して許したことだ。
つまりユニパーが支払うガス購入コストの上昇分の大半は、消費者が負担する。ショルツ政権は8月15日、原則として全てのガス消費者にガス1kWh当たり約2.5セントの賦課金を義務付けると発表した。施行は今年10月1日から。
価格比較サイトVERIVOXなどの試算によると、年間ガス消費量が2万kWhの標準世帯では、1年のガス料金が575ユーロ(約8万円)増える。毎年1200ユーロ(約16万5000円)のガス料金を払っている筆者の友人は「10月1日以降、ガス料金が60%増えて1920ユーロ(約26万4000円)になる」との通知をガス会社から受けた。
ドイツ連邦統計庁によると、ドイツ人の税引き前の平均月収は20年、1世帯当たり4715ユーロ(65万円)だった。毎月の手取り収入が2000ユーロ台の市民も少なくない。失業者、年金生活者などの低所得層にとって、ガス賦課金の導入は大きな負担となる。
しかも賦課金の額は今後さらに引き上げられる可能性がある。欧州のガス卸売市場Dutch TTFのウェブサイトによると、1メガワット(MWh)時当たりのガスの卸売価格は、8月19日の終値が244.55ユーロ。ウクライナ戦争が勃発した後で最高の水準に達している。プーチン大統領がNS1の天然ガス供給量をゼロにした場合、卸売価格がさらに高騰し、ユニパーなどのガス調達コストはさらに増える恐れがある。
ガス調達コスト高騰に伴うユニパーの損失が70億ユーロ(約9600億円)を超えた場合、独政府は追加的な支援措置を実施する方針だ。この損失額はすでに65億ユーロ(約9000億円)に達しており、ショルツ政権が追加的な支援措置を発動するのは、時間の問題と言える。
連邦系統規制庁のミュラー長官は7月14日、「市民が将来払うガス料金は前年の3倍になる可能性がある」と発言した。一部の失業者や年金生活者にとっては払えない水準だ。ドイツ賃貸住宅テナント連盟のルーカス・ズィーベンコッテン会長は8月7日に、「所得が最も低い人々、つまり市民の約3分の1は、ガスなどのエネルギー費用を払えなくなるだろう」と警告している。このためショルツ政権は、失業者に支給する家賃補助額の引き上げや、低所得層を対象にしたエネルギー支援金の導入などを検討している。だが、具体策の公表には至っていない。 
ガス供給停止の場合、製造業界に深刻な打撃
ロシアからのガス供給が途絶した場合、ドイツの製造業界にとって大きな打撃となる。ドイツが消費するガスのうち、製造業界が消費する比率は約37%と最も多いからだ。政府はロシアのガス供給が止まった場合、緊急事態を宣言し、化学メーカー、製鉄業、金属加工業、製紙業などガスを大量消費する企業約2600社を対象に、ガスの配給制度を導入する。企業は、産業用ガスを自由に購入することができなくなる。
企業にガスを供給するか否かは、国民経済への影響、企業がこうむる経済的損害の額などに基づいて政府が決める。政府からガスの配給を受けられず、操業停止に追い込まれて倒産する企業も現れるかもしれない。配給を受けられないことによって企業に生じる経済損害をだれが補償するのかについても、決まっていない。
ドイツ最大の化学メーカーBASFのマルティン・ブルーダーミュラー社長によると、同社は使用するガスの約50%をロシアから輸入している。これが途絶した場合、約4万人が働く本社工場の操業がストップする可能性が高い。その場合、自動車産業、製薬業、肥料製造業など多くの業界のサプライチェーン(供給網)が寸断される恐れがある。化学・エネルギー業界の労働組合IG・BCEも「ロシアからのガス供給が停止すると、数十万人が失業する恐れがある」と警告する。
個人世帯や小規模の事業所、病院、介護施設へのガス供給は制限しない予定だ。けれども、この国の経済の屋台骨であるものづくり業界で生産活動や雇用が悪影響を受ければ、こうした生活インフラへの影響も避けられない。
プーチン大統領が進めるエネルギー戦争は、ドイツの景気にすでにブレーキをかけている。独連邦統計庁は7月29日、「今年第2四半期の国内総生産(GDP)の成長率はゼロになる」という予測を公表した。独経済の第1四半期は、前年同期比0.8%とかろうじてプラスの成長率を示したものの、足踏み状態に陥っている。前年同期の成長率(2.0%)に比べると大幅な失速だ。連邦統計庁は「インフレ、ウクライナ戦争、中国などで続くコロナ・パンデミック(感染大流行)、サプライチェーンの寸断などが大きく影を落としている」と指摘している。
国際通貨基金(IMF)も7月、世界経済見通し(WEO)においてドイツ経済の成長率予測(通年)を大幅に下方修正した。22年の成長率予測を2.1%から1.2%に、23年の成長率予測を2.7%から0.8%に引き下げた。23年の成長率予測は、3カ月前の予測の3分の1未満にしぼんだ。
7月のWEOによると、ドイツの今年の成長率予測はユーロ圏の成長率(2.6%)の半分にも満たない。本来は欧州経済をけん引する機関車であるべきドイツ経済が、ユーロ圏の成長率を引き下げる「劣等生」の座に転落した。
独ifo経済研究所は4月13日に「ロシアからのガス供給が停止すると、我が国には22年と23年に2200億ユーロ(約30兆3000億円)の損害が生じる。23年のGDP成長率はマイナス2.3%に落ち込む」という悲観的な予測を打ち出していた。
ドイツにとって最大のアキレス腱(けん)は、液化天然ガス(LNG)の陸揚げターミナルがないことだ。G7(主要7カ国)の中で、LNGの陸揚げターミナルがないのはドイツだけだ。ロシアからパイプラインで送られてくるガスの方がLNGより割安だったので、ドイツはLNG陸揚げターミナルを建設してこなかった。
政府とエネルギー企業は、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから慌てて3カ所に陸揚げターミナルの建設を始めた。その完成は早くても24年の夏になる。それまでは、事実上の「敵国」ロシアの最高指導者であるプーチン大統領が、独製造業界の生殺与奪の権を握る。ドイツにとって最悪のシナリオが現実化したのだ。
今回のガス危機は、ドイツにとって1970年代の石油危機に相当する深刻な事態だ。同国は、石油危機をきっかけにロシアからのエネルギー輸入を開始した。同時に、原子力発電所の建設を始めた。だがこの国が、製造業界の血液とも言うべきガスの不足を経験したことは、一度もない。今年から来年の冬へ向けて、ドイツは第2次世界大戦後最も深刻な経済危機に直面しようとしている。今日のドイツ人たちは、過去のエネルギー政策の失敗のために、高い代償を支払わされる。
ドイツは国際法違反や人権侵害などに目をつむり、貿易拡大に専念してきた。この「政経分離主義」の失敗は、我々日本人にとっても対岸の火事ではない。 
●プーチン氏は「ウクライナ支援疲れ」期待 EU外相インタビュー 8/24
欧州連合(EU)の外相に当たるジョセップ・ボレル(Josep Borrell)外交安全保障上級代表は23日、AFPのインタビューに応じ、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は、物価高騰がEU市民の家計を直撃することで欧州内に「ウクライナ支援疲れ」が出てくることを期待している、との考えを示した。
EUは来週、チェコの首都プラハで外相ならびに国防相会合を開く。ボレル氏としては、ロシアの侵略行為を前に結束してきたEUの外交姿勢をさらに強化したい考えだ。
EU加盟国はこれまでに、プーチン氏側近とロシアの経済部門に対する一連の制裁で合意。しかし現在、エネルギー価格の高騰とインフレ高進を受け、一部加盟国は深刻な景気後退入りのリスクに直面している。ボレル氏にとっては、EUの結束を維持することが急務となっている。
●迫る「第2のソ連崩壊」ロシア国民の反発増大、プーチン大統領の終わり・・・ 8/24
ロシアのウクライナ侵攻開始から24日で半年となった。首都キーウ(キエフ)制圧に失敗するなど誤算続きのプーチン大統領だが、国内でも9月の統一地方選で、「反プーチンの民意」が反映される可能性があると指摘するのは筑波大名誉教授の中村逸郎氏だ。1991年のソ連崩壊は構成共和国の反乱がモスクワに波及したが、中村氏は、地方選が「第2のソ連崩壊」のきっかけになるとの見方を示す。
24日はウクライナがソ連からの独立を宣言して31年の記念日。ゼレンスキー大統領は20日のビデオ演説で「侵略者は今の状況を想像すらできなかったはずだ。われわれは勝利する」と国民に結束を呼びかけた。
東部と南部に戦力を集中させるロシアに対し、ウクライナは米欧の軍事支援を受けて徹底抗戦し一部を奪還。攻防は2014年にロシアが強制編入した南部クリミア半島に波及しつある。
紛争の長期化が必至の情勢のなか、ロシアの統一地方選挙が9月11日に行われる。中村氏によると、125地区あるモスクワの区議選や15の州知事選のほか、地方自治体の首長選や議会選などが実施されるが、「露骨にプーチン氏個人を批判しにくい中で、地方から不満の声や反プーチン票が出やすい状況になっている」という。
露独立系日刊紙「ザ・モスクワ・タイムズ」(電子版)が7月に報じた全連邦1800人を対象とした世論調査では、クリミア強制編入後、食費の節約を余儀なくされたのは56・5%、家計の収入減は39・1%、失業したのは11・8%だった。戦争での「勝利」について、55%が「何の役にも立たない」と回答、庶民の厳しい生活がうかがえる。
昨年の下院選ではプーチン政権の与党「統一ロシア」が圧勝したが、一部野党は電子集計の不正を主張した。ロシアの選挙が公正に行われるのか不透明な部分もある。
「今のプーチン政権が恐れるのは地方から『静かなる革命』が起こることだ。今回も不正選挙が起こる可能性がある。特に極東や西シベリアは天然ガス、レアメタルなど天然資源の宝庫だが、モスクワに収奪されているとの意識が強く、距離感がある」と中村氏。
ロシアと旧ソ連を構成した中央アジア諸国には亀裂も生じている。6月下旬の国際経済フォーラムで、プーチン氏と会談したカザフスタンのトカエフ大統領は、ウクライナの親露派地域を「国家」として承認しないと表明した。
「シベリアや極東地域はモスクワよりも中央アジアや、多くの労働者が往来する中国との交流を深めるとも考えられる。『第2のソ連崩壊シナリオ』になる可能性がある」と中村氏。ウクライナ戦線への影響についても「プーチン氏の敵が国内に出てくれば、軍事作戦終了を一方的に宣言せざるをえないのではないか」と強調した。
●軍事侵攻半年で“ウクライナ疲れ”も? 各国の対応に変化は?  8/24
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて24日で半年となりましたが、現地での戦闘は、長期化する様相と緊迫の度合いが強まっています。ウクライナやロシアの現状や各国の支援をめぐる対応などについてのほか、「ウクライナ疲れ」とも指摘されている、現地への関心の低下についてもまとめました。
【現地での戦闘は】
ウクライナ軍は反転攻勢強める
ロシアが軍事侵攻を続けているウクライナでは、東部では戦況はこう着していますが、ヘルソン州など南部では、ウクライナ軍が欧米から支援された兵器を効果的に活用してロシア軍の弾薬庫や補給路を破壊するなど、反転攻勢を強めています。今月に入ると、ロシアが8年前に一方的に併合した南部クリミアのロシア軍基地で爆発が起き、黒海艦隊の航空部隊が打撃を受けるなど、戦線はクリミアにまで拡大しているもようです。
ロシア軍 深刻な兵員不足指摘も地方から新たに派遣か
一方のロシアは、ウクライナ軍の施設だけでなく、市街地へのミサイル攻撃も続けるとともに、掌握している南東部にあるザポリージャ原子力発電所を盾にして攻撃を激化させているともみられています。ロシア軍は、深刻な兵員不足が指摘されていますが、プーチン政権は、国民の強い反発が予想される総動員は避けながら、ロシアの地方などで兵士を募集して戦地への派遣を進めているとされています。また、ロシア側は、掌握したとする東部や南部ヘルソン州、南東部ザポリージャ州などで支配の既成事実化を強め、早ければ、ロシアの地方選挙が行われる来月にも将来の併合をにらんで住民投票を実施する準備を進めているとみられます。
ロシアでは依然「軍事作戦に高い支持」か
独立系の世論調査機関レバダセンターは、先月下旬ロシア国内の1600人余りを対象に対面形式で調査を行いました。それによりますと、「ロシア軍の行動を支持するか」という質問に対して「明確に支持する」「どちらかといえば支持する」が合わせて76%で、ことし3月と比べて5ポイント下がったものの、依然として高い支持を保っています。NHKの取材に対し、調査を行った独立系世論調査機関のレバダセンターのデニス・ボルコフ所長は、プーチン政権による軍事作戦への支持が依然として76%と高い支持を保っている背景については「無条件の支持は45%程度で、30%ほどは留保付きで支持するグループだ。作戦は必要なかったかもしれないと答える一方で、大統領が決定を下した以上、支持しなければならないという考えだ。留保付きの支持のうち10%程度は、作戦への反対を打ち明けることを恐れているのだろう」と分析しています。
そして「社会の安定こそがこの先も特別軍事作戦を継続させることにつながる」と述べ、プーチン政権としては、軍事作戦の継続のためにも社会の秩序と安定の維持に懸命になっていると指摘しました。
対ロシア制裁 効果に懐疑的な見方も
フランス国際関係戦略研究所のパスカル・ボニファス所長は、欧米などによる制裁は「ロシアの経済成長や社会のダイナミズムに大きな打撃を与える」としています。
ただ「最大の欠陥は、制裁に参加しているのが、日本やオーストラリアなど欧米の同盟国にとどまっていることだ。アフリカやラテンアメリカ、アジア諸国などは制裁に加わっておらず、ロシアの政策に変更を促すほどのインパクトがないのは明らかだ」と述べました。さらに「歴史を振り返っても国の死活的な利益がかかっている場合に他国による制裁がその国の政策を変えたことはない」という見通しを示しました。
ボニファス所長は、ロシアよりも、制裁を加えているヨーロッパ諸国の方がはるかに大きな影響を受けるだろうとしたうえで、「今のところ欧米の世論がプーチン大統領に屈する様子はないが、早晩、本当に制裁を続けるべきかどうかという意見が出てくる可能性はある」と述べました。
またロシアの外交評論家のフョードル・ルキヤノフ氏はNHKの取材に対し、プーチン大統領は、軍事侵攻の長期化に伴って欧米と完全に決別する方向にかじを切り、中国やインドなど、非欧米諸国との関係強化に軸足を移しているという見方を示しました。そのうえで経済制裁の影響については「短期的な影響は、予想以上に小さかった」と主張しながらも、今後については「経済全体の大規模な立て直しが求められる深刻な危機を迎える」と危機感を表していました。
【各国の動きは】
アメリカ 軍事支援総額99億ドル=約1兆3000億円
バイデン政権はロシアを過度に刺激してアメリカとの衝突につながらないよう、供与する兵器を慎重に選びながら戦況に合わせて軍事支援を行ってきました。侵攻開始当初は対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」など、兵士が1人で持ち運べる機動性を兼ね備えた兵器を供与し、首都キーウ近郊などで活用されました。その後、ロシア軍がウクライナ東部に作戦の重点を移したのに合わせて建物などの障害物が少ない開けた場所での大規模な砲撃戦に対応できるよう長距離から攻撃できる兵器を供与しています。ことし4月からは大口径の砲弾を敵の陣地などに撃ち込むりゅう弾砲を、6月からは射程がさらに長く、精密な攻撃が可能だとされる高機動ロケット砲システム=ハイマースを送っています。さらに、欧米のメディアは23日、アメリカがウクライナに対し近くおよそ30億ドル日本円にして4000億円余りの追加の軍事支援を発表すると伝え、半年前に侵攻が始まって以降、1度の支援額としては最大になる見通しです。
欧州各国 支援かロシアとの対話か 違い浮き彫りに
ロシアと地理的にも近いバルト3国やポーランドではウクライナと同様に軍事的な脅威にさらされる危険性があるとの警戒感が根強く、ロシアへのエネルギー依存からの脱却を急ピッチで進めてきたこともあり、ウクライナへの軍事的支援を継続して徹底抗戦で臨むべきだという立場です。一方、ロシアにエネルギーの多くを依存するドイツやイタリアは、ロシアからの天然ガスの供給が大幅に減って国民生活にも影響が出ていることを踏まえ、ロシアに対して強硬姿勢で臨むだけでは事態を打開できないといった国内世論を背景に難しい立場に立たされています。またフランスのマクロン大統領は今月20日にもプーチン大統領と電話会談を行うなど、ロシアとの対話を重視する姿勢を崩していません。
ヨーロッパでは、ロシアに対して対立姿勢を鮮明にする国と対話での解決を模索する国との間で立場の違いが浮き彫りになっていて、今後、各国がウクライナへの支援で結束していけるのか見通せない状況になっています。
中国 一貫して“ロシア寄り”
中国がロシアとの関係を重視する背景には、アメリカに長期的に対抗していくためにもロシアとの連携強化は有益だと考えていることがあります。経済面で、中国は、ロシアとの間でこれまでどおり貿易を続ける考えを示していて、ロシアからのエネルギーの輸入増加が続いています。中国が先月、ロシアから輸入した原油の量は去年の同じ月と比べて7.6%、LNG=液化天然ガスの輸入量は20.1%それぞれ上回り、いずれも4か月連続で増加しました。一方、軍事面では、ことし5月、両国の空軍が日本海や東シナ海の上空で合同パトロールを行ったほか、今月下旬から来月上旬にかけてロシア極東で実施される大規模な軍事演習に中国軍が参加すると発表するなど軍事的な結び付きを深めています。しかし中国は、欧米などからみずからが制裁を受けるような事態は避けたいとみられ、ロシアに対する軍事的な支援などには慎重な姿勢です。中国は、5年に1度の共産党大会を控え、習近平国家主席が党トップとして異例の続投を見据える中、停戦に向けた仲介に乗り出してリスクを負うことには消極的とみられます。
【国外避難の状況は】
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、ウクライナから国外に避難した人の数は、今月16日の時点でおよそ1115万人に上ります。
主な避難先は、ポーランドがおよそ543万人、ハンガリーがおよそ118万人、ルーマニアがおよそ104万人、スロバキアがおよそ69万人、モルドバがおよそ57万人などとなっています。また、ロシアに避難した人はおよそ219万人となっています。日本の出入国在留管理庁によりますと、ウクライナから日本に避難した人は8月21日時点で1775人となっています。
隣国ポーランドでは
このうち隣国のポーランドでは、今も120万以上の人がポーランドに滞在しているとみられています。ただ、NHKが8月15日、ポーランドとウクライナの国境の様子を取材したところ、いまも避難してくるウクライナの市民はいましたが、当初のように国境付近が避難者で混み合う様子は見られず、支援活動の拠点となっていたテントも多くが撤去されるなどしていました。ポーランドの首都ワルシャワには、3月初めから避難者に食事を提供しているテントが今もありましたが、軍事侵攻から半年が経過する中で、活動を支えてきた個人や企業などからの寄付は、減っているといいます。当初は、多い時で300人分用意できた食事もこの日は、25人分しか作れませんでした。また、企業などから寄付された食品や衣服を避難者に提供してきた別の団体も、資金不足でこの取り組みを6月に打ち切りました。団体のメンバーは「人々は、今も物資や支援者を必要としています。ただ、私たちもボランティアでやっているので 支援を受けなければ活動は続けられません」と話していました。
ポーランド政府は、ウクライナからの避難者に一時金を支給したほか、避難者を受け入れた家庭や団体には資金面で支援することで避難者の滞在先を確保しようとしてきました。しかし、今では「人道的な支援」から避難者の「自立を目指す支援」に力点を置く方針に変わっています。ただ、避難生活を続ける人たちの中には、自立が容易ではない人も少なくありません。
現地で支援のNGOへの寄付落ち込みも
自然災害や紛争などの被害にあった人を支援している国際NGOの「アドラ・ジャパン」は、軍事侵攻が始まった2月24日の翌日から募金を受け付け、ウクライナの人たちに生活必需品を送るなどの支援を続けています。3月には、募金やチャリティーグッズの販売などを通じて日本国内で19万5000件余り、金額にしておよそ4億8000万円の寄付が集まり、4月から6月にかけても月に1500件から4700件ほどの寄付が寄せられたということです。しかし、先月は870件、今月もこれまでに880件余りと、3月の1%以下にまで落ち込み、NGOは、侵攻が長期化するなか、日本での関心が低下しているおそれがあるとしています。一方で現地では今も日用品や医療品などが不足し、今後は冬に備えて衣服なども必要になるため、継続的な支援が必要だと訴えています。「アドラ・ジャパン」の杉本亜季さんは「1人ができることは小さくても集まれば大きな支援につながるので、関心を持ち続けてもらい、できる範囲で行動を起こしてほしい」と話しています。
【「ウクライナ疲れ」指摘の中で今後の見通しは】
支援を含めた関心の低下は「ウクライナ疲れ」とも呼ばれています。23日にはゼレンスキー大統領も言及し“その状態になるなら世界は破滅する”として支援継続を強く訴えました。国際関係が専門でアメリカのジョージタウン大学のチャールズ・カプチャン教授は「バイデン大統領はロシアの軍事侵攻への対応をめぐって国民の強力な支持を得てきたが、国民の間には『ウクライナ疲れ』の兆しが見える」と述べ、軍事侵攻の長期化がガソリン価格の上昇など国民生活に影響し、ウクライナ支援への関心が低下する兆しがあると分析しました。そのうえで今後のバイデン政権の対応については「戦闘の終結を最優先し、ウクライナへの武器の供与を停戦や領土をめぐる交渉に向けた外交戦略と結び付けることが重要だ」と指摘しています。
「関心持ち続けて」日本に避難している人たちの思い
ウクライナへの関心の低下は、日本に避難した人たちも感じとっています。しかし取材に応じてくれた人たちからは今後の平和のために日本を含めた世界の人たちにも関心を持ち続けてほしいと願う声が聞かれました。京都市に避難しているマルハリタ・ニクリナさん(18)は「ことしのうちに終わるとは思いません。激しい戦闘がずっと続いているからです。もし戦いが続いていることが忘れられたら、戦闘は止まることはありません。それだけはあってはならないと思います」と話していました。鹿児島県に避難しているカテリナ・ヴォズニュクさん(20)は「ウクライナに関するニュースは以前に比べて減りましたし、人々の話題にも上らなくなくなっていることはとても悲しいです。関心が薄れていくことはしかたのないこととはわかっています。でも、ウクライナのことにもっと声を上げてほしいし、支援してほしいです。ウクライナの人たちに平和が訪れることを祈っています」と話していました。
●ウクライナ侵攻半年 寄付件数が当初の1%以下に 8/24
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから半年となる中、現地の支援にあたっているNGOに寄せられた寄付の件数は当初の1%以下にまで落ち込んでいることがわかりました。今も、さまざまな団体が募金などを通じて支援を呼びかけています。
ウクライナ侵攻半年 避難者1775人
出入国在留管理庁によりますと、ウクライナから日本に避難した人は8月21日時点で1775人となっています。
避難してきた人のうち、日本に親族や知人などの受け入れ先がない人については、政府が一時滞在先のホテルを確保して、生活支援を行っていますが、条件面などから長期間受け入れ先が決まらないケースもあり、8月21日の時点で、108人がホテルに滞在しています。
“関心薄れるのでは”危機感
ウクライナから避難し、7月に来日して茨城県日立市の日本語学校に通っているアナスタシア・モトルナさん。母国に残る両親を心配するとともに、ウクライナ情勢への関心が薄れてしまうのではないかと危機感を抱いています。
アナスタシアさんは、ウクライナの首都、キーウに両親と暮らし、大学に通っていました。
ことし3月、自宅の隣のマンションが爆撃されるなど、身の危険を感じたことからドイツに避難しましたが、両親は今もキーウに残っているということです。
大学で日本語を学んでいたアナスタシアさんは、日本各地の日本語学校でつくる支援団体の援助を受けて7月24日に来日し、日立市の日本語学校で学んでいます。
住まいは日立市から市営住宅の提供を受けています。軍事侵攻が始まってから半年、アナスタシアさんは、ようやく落ち着いて勉強に集中できることに安心する一方、キーウにいる両親のことが常に心配だといいます。
また、軍事侵攻が長引くにつれ、ウクライナ情勢への関心が薄れてしまうのではないかと危機感を抱いています。
アナスタシアさん「侵攻がいつ終わるかわからず、ウクライナに残る子どもや若者の将来のためにはこれからも世界のサポートが必要です。自分の今後のキャリアがどうなるのか何もわかりませんが、夢は先生になることなので、勉強を続けます」
寄付件数1%以下の団体も
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから半年。
現地の支援にあたっているNGOに寄せられた寄付の件数は当初の1%以下にまで落ち込んでいることがわかりました。
自然災害や紛争などの被害にあった人を支援している国際NGOの「アドラ・ジャパン」は、軍事侵攻が始まった2月24日の翌日から募金を受け付け、ウクライナの人たちに生活必需品を送るなどの支援を続けています。
3月には、募金やチャリティーグッズの販売などを通じて19万5000件あまり、金額にしておよそ4億8000万円の寄付が集まり、4月から6月にかけても月に1500件から4700件ほどの寄付が寄せられたということです。
しかし、7月は870件、今月もこれまでに880件あまりと、3月の1%以下にまで落ち込み、NGOは、侵攻が長期化するなか、日本での関心が低下しているおそれがあるとしています。
一方で現地では今も日用品や医療品などが不足し、今後は冬に備えて衣服なども必要になるため、継続的な支援が必要だと訴えています。
「アドラ・ジャパン」杉本亜季さん「1人ができることは小さくても集まれば大きな支援につながるので、関心を持ち続けてもらい、できる範囲で行動を起こしてほしい」
●ウクライナへの軍事侵攻半年 ロシア市民の声は  8/24
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて24日で半年となりました。
長期化する軍事侵攻に、ロシアの市民はどのような思いを抱いているのか、各地でたずねました。
首都 モスクワでは
首都モスクワで暮らし、ウクライナ東部のドンバス地域に親戚がいるという52歳の男性は「ロシアの同胞はどんな形であれ守る必要がある」と軍事侵攻を支持しました。
そして、ロシア語を話す人はウクライナの南部でも多いと主張し、プーチン政権がさらに1年以上をかけて、こうした地域で旧ソビエトの勢力圏を回復するだろうという持論を展開しました。
一方、ことし大学を卒業した22歳の男性は「就職したかった外資系企業はみな撤退してしまい、厳しい状況になった」と不満を示しました。
男性は、軍事侵攻をめぐる情報に接すると、強い不安を感じるため、徐々に遠ざけるようになったとし「今は興味がない。ニュースを見る気も読む気も起きない」と心境を語りました。
運送業界で働く26歳の女性は「ずっと不安な状態のまま半年が過ぎた。早く終わってほしいと思うが、きっと長引くのだろう。欧米各国との対立は、まだ始まったばかりだ」と将来への不安を口にしました。
極東 ウラジオストクでは
ロシア極東のウラジオストクなど地方都市では、軍事侵攻の開始直後、モノ不足や物価上昇といった生活への悪影響を懸念する声が高まりました。
しかし、今は市民生活への影響はそれほど大きくないと受け止められ、ウラジオストクに住む自営業の30代の男性は「生活の中で、全く変化を感じない」と話していました。
そのうえで「当局がソーシャルメディアを規制し、何が本当で何がうそなのかが分からなくなった。最初はニュースを追っていたが、何となく遠ざかりこの1、2か月は現地で何が起きているのかさえ分からない」と話し、プーチン政権が厳しい情報統制を敷いた結果、幅広い情報に触れることが難しくなり、ウクライナ情勢への関心そのものを失いつつあるという心情を述べました。
第2の都市サンクトペテルブルクでは
プーチン大統領の出身地で、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクでは、長期化する軍事侵攻に対する不安の声が相次ぎました。
25歳の息子がいる女性は、戦闘で死傷者が増える中、自分の息子もいずれ徴兵され、戦地へ送られるおそれがあると不安を示しました。
そして「私が指導者ならとっくに停戦しているし、そもそも始まることさえなかった」とプーチン政権を批判しました。
そのうえで「ロシアにも、人を殺してはいけないと信じる人間が少なくないことを海外の人たちに理解してもらえたらうれしい」と話していました。
22歳の男子大学生も「心の中では何でもありだと思っている」と述べ、いつ動員されてもおかしくないと不安を口にしました。
そして軍事侵攻については「解決策の一つであっても、人が犠牲になる以上、最良の選択ではない。翌朝、目が覚めたらすべてが終わっていてほしい」と話していました。
●ベラルーシ大統領、ウクライナは「良好な隣国」 独立記念日を祝福 8/24
ベラルーシのルカシェンコ大統領は24日、ウクライナの独立記念日を祝福する声明を発表し、「数世紀にわたり両国民が築いてきた誠実で良好な隣国としての絆の基盤が、今日の矛盾によって壊されることがないと確信している」と強調した。ベラルーシはロシアの同盟国で、ロシア軍のウクライナ侵攻ではベラルーシ領内も攻撃拠点となっている。
ルカシェンコ氏は声明で「ベラルーシは全てのレベルで調和の保持を支持し続ける」と主張。「友好的かつ相互に尊重する接触」に基づき、ウクライナとの協調関係を発展させたい考えを示した。
●ウクライナ独立記念日、ロシアから奪った戦車を展示 不安募らせる住民 8/24
ウクライナは24日、ソ連から離脱して31年目の独立記念日を迎える。これまでは毎年、祝賀行事やパレードが行われていたが、今年の独立記念日はロシアの侵攻開始から半年目と重なる。
首都キーウなどではロシアによる攻撃を想定して、イベントが禁止になった。
パレードに代わり、ロシアが首都制圧を試みて失敗した証しとして、ロシア軍から奪った戦車などの軍事車両がキーウのフレシチャーティク大通りに展示されている。
独立記念日の前日、フレシチャーティク大通りには大勢の人が集まった。さびついた戦車によじ上る子どもたちや、車両の残骸の前で記念写真を撮る人たちもいた。
8歳の息子を連れて「鉄くずパレード」を見に来たという女性は、ロシア軍の戦車によじ上る息子を見守りながら、キーウの住民の多くは戦争のことを忘れていると語り、この展示は戦争のことを思い出させる良い機会になると話した。
戦闘の最前線にいる夫からは、キーウを離れて別荘に移るよう促されたが、女性はそれを拒んだといい、たとえ「(24日に)キーウがミサイルで集中攻撃されたとしても、私たちは離れない」と語気を強めた。
自宅には「放射能汚染に備え、ミサイルに備えて」非常用袋を用意し、十分な衣類なども蓄えていると女性は説明。「私たちはもう、簡単にはおびえなくなった」と打ち明けた。
「(独立記念日の)お祭り気分にはならない」と女性は言い、夫や兄弟が戦線にいることを考えると悲しみを感じると話す。ウクライナ国旗を持った別の女性(35)もCNNの取材に応じ、ロシアと戦っている家族がいると語った。「父は戦線にいて、親類の多くも戦線にいる。だから明日はお祭りではなく、独立をたたえ、感じる。今回の感情はこれまでの30年とは違う」
ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は23日、ロシア軍が独立記念日を狙ってミサイルなどの攻撃を仕掛ける可能性があると警告。米政府も同日、米国人に対して直ちにウクライナを離れるよう呼びかけた。
CNNがキーウで話を聞いた人の多くは、ロシアによる攻撃の可能性について不安を口にした。
「私たちは明日ここへ来る予定だったが、明日については警報がたくさん出ているので、自宅にとどまることにした」。妻とともにパレードを見物していた男性(51)はそう語り、「私たちは鉄くずのパレードを見に来た。(ロシアに)私たちの祝典を台無しにされたからだ。去年の独立記念日はここで(ウクライナ軍の)パレードを見ていた。あれは素晴らしかった」と振り返った。
29歳の男性は「明日はお祭り気分にはなれない」と話し、首都に対するミサイル攻撃が不安だと話している。
68歳の女性は「ロシア人に対する憎しみが大きくなりすぎて張り裂けそう」と語った。勤務先のクリニックからは、今後数日は在宅で勤務するよう指示されたといい、「私は戦争の間も(ずっと)働いてきた。砲撃の中で帰宅することもあった」と話す。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領については、まるで「手投げ弾を持ったサル」のように予想がつかないと形容し、「彼が実際に何を考えているのか誰にも分からない」と訴えた。
●ロシアの超大国イメージ吹き飛ぶ、6カ月の戦争で軍の実力不足が露呈 8/24
プーチン大統領のウクライナ侵攻から6カ月がたった。この戦争で、ロシアの軍事力と経済に関する根本的な仮定が覆された。
今年初めに米国がロシアのウクライナ侵攻が近づいていると警告した際、規模ではるかに勝り装備でも優れるロシア軍が短期間でウクライナ軍を圧倒するだろうと、欧米の当局者やアナリストは一様に想定した。プーチン氏は弱い自国経済に手足を縛られるだろうとの見方も示していた。
米国のミリー統合参謀本部議長は議会で、キーウは侵攻開始から72時間以内に陥落する恐れがあるとすら警告した。バイデン大統領はロシアの通貨ルーブルを紙くずにすると述べた。一方、ロシア政府内でプーチン氏とその側近は、ウクライナを無能な指導者に率いられた分断国家で、戦う意思などないだろうと決めつけていた。
しかし、こうした思惑は全くの見当違いだったことが証明された。
これが最終的に意味するところは、戦争の結果と同様に不透明だ。ウクライナはロシアとの戦争を半年持ちこたえ、独立を守っている。明らかなのは、プーチン氏が望んだようなロシアが世界の軍事大国として再び台頭する展開ではなく、ウクライナ侵攻でロシアの通常戦力の能力を巡り深刻な見直しが始まったことだ。中立だったフィンランドとスウェーデンは北大西洋条約機構(NATO)加盟を決意するなど、NATOのさらなる拡大も招いた。
ロシアは「米国と軍事的に対等」ではなく、米国よりも小さいNATO加盟国にすら劣ると、英スコットランドのセントアンドルーズ大学で戦略研究を専門とするフィリップス・オブライエン教授は指摘。今回の戦争で、ロシアは「英国やフランス、イスラエルが実行できるようなやり方で複雑な作戦を遂行できないことが明らかになった。その意味で、二流の軍事大国ですらない」と語った。
ロシア軍の進軍が低調にとどまっている理由の一つは、軍が人員面の投資不足を隠しおおせると考えていたことで、これが戦争になってから明らかになったと、ワシントンの安全保障シンクタンク、CNAのロシア軍事力に関する専門家であるマイケル・コフマン氏は分析する。
ロシア軍はミサイル発射装置と防空システム、兵站、約50台の戦車と軍用車両を備える大隊戦術グループ(BTG)で構成される。それぞれのBTGには700人から900人の兵士が所属するとされ、それに基づくとウクライナ侵攻前に国境に終結したロシア軍兵士の数は約15万人に上ることが示唆された。だが現実には1BTGの兵員数は平均で600人かそれ以下でしかなく、侵攻開始時のロシア正規軍総兵力は9万人程度だった可能性があると、コフマン氏は最近、ポッドキャストで説明した。
制裁が輸入を阻む中で、ロシアが技術的に進んだ兵器を生産する能力は一層後退する公算が大きい。ウクライナの戦場で奪取したり破壊したりしたロシアの軍用品に関する研究によって、ドローンやミサイル、通信装備など27の重要な軍用システムで450の外国部品が使われていたことが判明。これら部品の大半は米国製で、残りは主にウクライナを支援する諸国からだった。
●ウクライナ戦争で暗転する欧州経済、頼みの綱は雇用維持 8/24
欧州は今年、輝かしい1年になるはずだった。新型コロナウイルスのパンデミックを乗り越えた高揚感と政府の大規模支出に後押しされた消費拡大が経済を引っ張り、2年間にわたる感染対策の規制に疲れ切っていた各家庭は、以前の生活を取り戻そうとしていたからだ。
だが、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻は、事態を一変させた。普通の暮らしは消え去って危機が当たり前となり、景気後退(リセッション)はほぼ確実に到来しそうだ。物価上昇率は2桁に迫り、エネルギー不足に陥る冬が駆け足で近づいてきている。
仏小売り大手・カルフールのボンパール最高経営責任者(CEO)は、投資家に「危機が新しい日常だ。過去数十年間続いてきた低インフレ、国際貿易活動が終わりを迎えている」と語った。
変化は劇的だ。1年前、ほとんどの専門家は今年の欧州経済は5%近い成長を遂げると予想していたのに、今や景気後退が基本シナリオと化した。
家計と企業は、いずれもウクライナの戦争がもたらした食料とエネルギーの価格高騰にあえいでいる。さらに深刻な干ばつと河川の水位低下で物資輸送が制約を受け、状況はさらに悪化している。
9%というユーロ圏の物価上昇率は、過去半世紀の間に目にしたことがないほどの高さだ。その結果、ガソリンや天然ガス、各種生活必需品に余分な出費を強いられる人々の購買力は、損なわれる一方だ。
暖房需要期の始まりを数カ月先に控え、既に小売売上高は急減し、消費者は財布のひもを引き締めている。6月の欧州の小売売上高は前年比約4%減少し、特にドイツは9%減と過去最大の落ち込みを記録した。
消費者は高額商品の購入を諦め、ディスカウント店での買い物に移行。独衣料ネット販売大手・ザランドのゲンツ共同CEOは記者団に「生活費用が割高となり、消費者は支出に消極的になっている」と説明した。
企業は今のところ、根強い供給制約のために最高度の価格決定力を有しているおかげで、うまく対応してきている。それでもエネルギー集約型セクターは、苦境に置かれ始めた。欧州のアルミニウムと亜鉛の精製施設は稼働率が50%近くまで下がり、天然ガスに依存する肥料生産はほとんど停止している。
パンデミック期間に積み上がった貯蓄の一部を旅行に使おうという動きがある上に、この夏は2019年以降で初めて行動制限がなくなったため、欧州の観光産業は数少ない経済の明るい分野と言える。
ただ、このセクターも、パンデミック中に解雇した労働者がなかなか戻ってくれないので、人手不足が足かせになっている。フランクフルトやロンドンなどの主要空港では、乗客に対応するスタッフを確保できないというだけの理由で、運航便数を絞らざるを得なくなった。
短期的な代償
ロシアが欧州向けのガス供給をさらに減らした場合、社会経済の痛みはもっと強まる公算が大きい。
キャピタル・エコノミクスのキャロライン・ベイン氏は「足元のガスショックは、われわれが1970年代に経験した石油ショックのほぼ2倍の大きさだ。過去2年間で欧州の天然ガスのスポット価格は、10─11倍になっている」と述べた。
欧州連合(EU)は、再生可能エネルギーへの移行加速と2027年までにロシア産ガスの輸入をゼロにする計画を披露し、長期的にはより強固なエネルギー安全保障体制を確立しつつある。
だが、目先の話で言えば、供給不足を踏まえて域内の今年のガス消費を15%減らすよう求めており、エネルギーの独立性向上には代償を伴うことが分かる。
これは一般市民にとっては当面、自宅やオフィスがより寒い空間になることを意味する。例えば、ドイツ政府がこの冬に要望しているのは、公共スペースにおける暖房温度設定を以前の約22度から19度に下げる措置だ。
企業の立場では、ガス消費縮小は生産減につながり、特に工業部門で一段と成長が阻害される。
ドイツの卸売りガス価格は、1年間で最大5倍に跳ね上がった。もっとも消費者は長期契約で守られているため、これまでのところ打撃はこの値上がり幅よりずっと小さい。
しかし、消費者も政府が導入した賦課金を支払う必要があるし、長期契約の期限が到来すれば、価格は一気に高騰する。つまり悪影響は時間差でやってくるだけのことで、物価には持続的な上昇圧力がかかる。
だからこそ、大半とは言わないまでも多くのエコノミストが、ガス依存度が高く、経済規模が欧州でそれぞれ第1位と第4位のドイツとイタリアが間もなく景気後退に突入すると見込んでいる。
心強い材料
同じく米国も景気後退入りの公算が強まっているものの、欧州とはその原因がかなり異なる。
米国は労働需給の逼迫(ひっぱく)と賃金の急上昇に見舞われ、米連邦準備理事会(FRB)が迅速な利上げを進めるとともに、物価上昇を抑えるためには景気後退を招く危険をあえて避けない覚悟を明確に示している。
対照的に欧州中央銀行(ECB)はこれまで1回利上げして政策金利をゼロに戻したに過ぎず、今後も慎重な引き締めペースを維持するだろう。
イタリアやスペイン、ギリシャなど多額の債務を抱えるユーロ圏諸国は、借り入れコストが上がれば借金返済を続けられなくなるのではないかとの懸念が増大しかねない、と肝に銘じているからだ。
だが、欧州が景気後退に入るとしても、いくつかの心強い材料は備わっている。
域内の雇用水準は過去最高に達しており、企業は何年も前から広がっている働き手不足に悪戦苦闘中。さらに景気悪化局面を迎えるに際して、企業が比較的しっかりした利益率を保ったままである点からすれば、雇用維持には積極的になるだろう。
そうなれば購買力は痛手を受けず、景気の落ち込みが相対的に小さくなり、足元で過去最低の失業率はさほど上がらなくて済む。
ECBのシュナーベル専務理事はロイターに「引き続き労働力が大幅に足りず、失業率は歴史的低さで、求人件数は非常に多い。これは恐らく、われわれが景気下降局面に突入しても、企業は広範な規模での人員削減をかなりためらう可能性を示唆している」と述べた。
●凍死や餓死が続発か。ウクライナ戦争を止めぬ米国に殺される西側市民 8/24
勃発から6カ月を経過するも、停戦の兆しさえ見えないウクライナ戦争。西側諸国が一体となってロシアに厳しい経済制裁を科していますが、限界を迎えつつある国も少なくないようです。今回の無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』では著者で国際情勢解説者の田中宇(たなか さかい)さんが、ロシアへのエネルギー依存度が高かったドイツが直面している危機的状況を紹介するとともに、それでも独政府が対ロ制裁から「降りられない」理由を解説。さらに生活苦から政権批判の声を上げる市民を非国民扱いするショルツ政権に対しては、「ナチスの再来」と強く批判しています。
潰されていくドイツ
米国が起こしたウクライナ戦争は「敵」であるはずのロシアを潰さず、逆に台頭させている。そして「味方」であるはずのドイツなどEU諸国と、ウクライナを自滅させて潰している。最大の要因は、石油ガスなど資源類の貿易だ。ロシアは米国側に制裁されても石油ガスを中印など非米側に輸出できる。逆にドイツなどEUは冷戦後ずっと経済発展をロシアからのガス輸入に依存しており、輸入が止まると致命的だ。
気体の天然ガスをパイプラインで消費地に送ることは、LNG(液化天然ガス)や石油などに比べて安いエネルギーであり、冷戦後のドイツはロシアからウクライナ経由や北海海底ノルドストリームなどのパイプラインで送られてくる安い天然ガスを使った工業で経済成長してきた。だがウクライナ開戦後、ドイツやEUは、米同盟国としてロシアとの経済関係をすべて断絶する対露制裁を義務づけられ、ロシアからの天然ガス供給は平時の20%に減った。今後さらに減ってゼロになるとEU当局が予測している。ドイツやEUの経済は破綻し、市民の暖房費や電気料金が高騰し、貧困層の生活苦がひどくなっている。ドイツなどでは石油ガスのさらなる高騰が予測されるため、今冬の暖房用に樹木の薪を集め出す人が増えている。他人の土地の枯れ木や薪を盗む事件も頻発している。事態は先祖返りしている。
ウクライナ戦争は、ロシアの優勢で今後もずっと続く。劣勢なウクライナ政府が敗北を認めてロシアと和解するなら、米国側は対露制裁をやめてロシアからドイツへの天然ガス送付も再開しうる。だが米国は、傀儡であるウクライナが、ゲリラ戦やテロリスト的な戦法も併用しつつずっと戦争を続けるよう誘導している。ウクライナ側は最近、ロシア国内での破壊工作(クリミア無人機攻撃)、テロ(ダリア・ドギナ爆殺)などの非正規戦法を強めている。ウクライナ戦争は今後もずっと続く。ドイツの経済相(Robert Habeck)は最近「安いロシアのガスに依存してきたドイツの成長モデルは二度と戻らない」と宣言した。エネルギー価格が高騰したままになりそうなので、これまでドイツで操業していた工場群が国外に逃げ出している。ドイツでは電力やガスの料金がこの2か月で2倍、2年間で6倍になっている。
ウクライナに勝つ見込みがあるなら、エネルギー危機が続いてもウクライナが勝つまで我慢する戦法もあり得る。だが、ウクライナが勝つ見込みはない。戦況の逆転にはNATO軍の参戦が必要だが、それをすると人類破滅の米露核戦争になる。現実的には今後、ロシアがウクライナの東部と南部を占領して住民投票などをやって分離独立とロシアへの併合を促進していき、残ったウクライナ西部はポーランドの傘下に入って国家機能を何とか維持し続ける。ウクライナ政府は、移住してきたポーランド人に自国民と同等の権利を与えている。ウクライナ人のかなりの部分(3割ぐらい?)がすでに、ゼレンスキー政権の弾圧政治と戦争を嫌がって欧州やロシアに移住してしまっている。その穴埋めとしてポーランド人が招き入れられている。ポーランドは、ウクライナを併合して大きくなってドイツに対抗したいのだろう。
ウクライナは、東西に分割された状態で、大した戦闘がなくても何年も戦争状態を続けそうだ。米国は対露制裁をやめない。ドイツも、対米従属を国是とする限り対露制裁に参加せざるを得ず、ロシアから石油ガス資源類を輸入できない。ドイツ経済は破綻した状態がずっと続く。冗談じゃない!今すぐロシアからのガス輸入を再開するしかないぞ。ドイツ政界の有力政治家(副議長。Wolfgang Kubicki)は最近、そんな風に提案した。それは、経済的に正しいのだが、国際政治的には許されない。ドイツは対米従属をやめられないので対露和解できない。ドイツなど欧州は、ロシア以外の国々からの石油ガス輸入を急増できれば良いが、それはうまくいっても数年かかる。しかも、サウジアラビアなど他の石油ガス産出国は、表向き米欧との親しさを保ちつつ、こっそり非米化してロシアの味方になっており、欧米への輸出を増やしたがらない。
ドイツは反原発運動のせいで原発をどんどん停止しており、原発を止めるのを延期して稼働を続ければエネルギー危機を緩和できる。だが、それすらも国内政治の対立の中で簡単にやれない状況だ。ドイツなど欧州諸国は今冬、エネルギーや食糧が欠乏し、貧困層の間から凍死者や餓死者がたくさん出てきそうな感じになっている。英国も、今冬の凍死者と餓死者が予測されている。独英など欧州諸国は、ウクライナ戦争の戦場になっていないしロシアと直接戦争しているわけでもないが、資源不足によって産業と国民生活が機能不全に陥って破綻しており、まるで対露参戦して戦場になっているかのような状態だ。
ウクライナ戦争によって経済が破綻している独英など欧州諸国と対照的に、ロシアは参戦国なのに経済的な打撃をあまり受けておらず、国民生活も破壊されていない。むしろ開戦以来の石油ガス価格の高騰により、国家経済の中心である石油ガスの利益が急増し、露政府は大儲けしている。外貨準備も急増している。中国インドなど非米的な諸国はロシアの資源を旺盛に買ってくれるし、イランやサウジなど産油国もロシアに協力して石油ガスの国際価格を高止まりさせてくれている。
「善悪」の面でも、米国側のマスコミ権威筋はロシアを歪曲的に極悪に描き続けているが、実のところウクライナ政府を傀儡化してロシア系住民を殺し続け、ロシアに脅威を与え続けてきたのは米国(米英)であり、ウクライナ戦争で極悪なのは米ウクライナの方だ。露軍による「虐殺」も、米国側によるプロパガンダであり、米国側の多くの人が間違いに気づかず延々と軽信している。
なぜこんなことになっているのか。大きな原因の一つは、独英EU日など同盟諸国に、政策決定に必要な状況の全体像や予測などの情報を供給する米諜報界(隠れ多極派)が、意図的に大間違いの情報を発信し続けているからだ。米国は諜報界だけでなくバイデン政権も多極派に乗っ取られており、開戦直前にロシアが侵攻しそうだと察知してそう発表したのに、ロシアに警告して開戦を食い止めることをしなかった。そのくせ米国は、ロシアが開戦したら、過激で稚拙な対露全面経済制裁を開始し、ドイツなど欧州がロシアを制裁して資源輸入を長いこと止めたら経済破綻するとわかっていながら、欧州にも厳しい対露制裁を強要した。
開戦後、米諜報界は、ウクライナでの露軍の作戦が失敗しているのでロシアは自滅し、短期間でウクライナが勝利して戦争が終わる、という全くウソの分析を流し続けた。独英など欧州各国の上層部が、このウソをどの程度信じていたか不明だが、素人の私ですら、開戦の数日後には露軍の優勢を把握していた。欧州各国はロシア・ウクライナに対する独自の諜報網も持っており、露軍の優勢とウクライナ側の不利、米諜報界のウソを見破っていた可能性が高い。だが、欧州各国は国是が対米従属であり、米国の覇権運営を担当する諜報界の見立てや命令、忠告をウソ扱いして拒否することは政治的に不可能だ。米国側の各国は、政府マスコミ財界などエスタブ全体が米諜報界の傀儡だから、情報が間違いだと感じても鵜呑みにせざるを得ない。
ドイツなど欧州のエスタブたちの中に、このままではダメだ、停戦や対露和解をしてロシアからの石油ガス資源類の輸入を再開しないと欧州は破綻してしまうという危機感が強まっている。だが、それを公式に表明するエリートは少ない。開戦後、米諜報界とその傘下のウクライナ政府が流す歪曲ウソ情報によって「ロシアは戦争犯罪国」「極悪なロシアを許すな」という間違った善悪観が米国側で席巻・固定化しており、対露和解を提唱する者は「非国民」扱いされ、受け入れられない。ドイツの「極右」政党AfDなど、エスタブの外にいる勢力は「ウクライナ政府はロシアと和解して中立国家になるべきだった」と正しいことを言っているが、AfDは(今のところ)野党なので国家的な決定に結びつかない。
エスタブ以外の庶民は全欧州的に、石油ガス高騰、経済破綻による失業など、生活苦がひどくなっている。ネット上では、エスタブ系マスコミ以外の情報発信者たちが極右とか陰謀論者とレッテル貼りされつつ、米諜報界(深奥国家)やマスコミのロシア敵視の間違いを指摘する情報も流れており、庶民はしだいにマスコミの間違いに気づき、政府エスタブが歪曲情報に基づいて対露制裁しているのが悪いんだと理解し、政府批判を強めるようになっている。ドイツ政府は、物価高騰に不満をつのらせて反政府運動に参加する人々を「国家の敵」と呼び始めている。まるでナチスの再来だ。以前のコロナ危機で都市閉鎖やワクチン強要などの超愚策に反対していた人が、今回のウクライナ戦争でも政府や米国のウソに気づいて反政府運動している。彼らは「覚醒」(左翼リベラルがいうインチキな覚醒運動でなく真の)しているのだが、軽信者たちから、国家の敵・陰謀論者・極右呼ばわりされている。
正しいことを指摘する人々を非国民・国家の敵扱いするドイツなどの政府は、すでに破綻に向かっている。ショルツ独首相の支持率は、史上最低を更新し続けている。ゼレンスキーは犯罪者で、プーチンの方が正しいと、世界の庶民のしだいに多くが気づき、ネットの言論はそっちに向かっている。ドイツではいずれ選挙でAfDなどのエスタブ外の政党が政権を握るようになる。そうなると、ドイツは対米従属をやめて対露和解し、ロシアからの石油ガスの輸入を再開できるかもしれない。そこまで行くのに何年かかるかわからないが。
東欧や南欧など欧州の周辺諸国は、世界有数のドイツの経済力を頼りにしてEUに加盟したいと考えてきた。だがドイツは今、ロシアからの安いガスを絶たれて経済破綻しつつある。周辺諸国はドイツに頼れなくなっていく。ドイツの経済崩壊が進むと、EUの求心力も失われて解体しかねない。
米国は11月の中間選挙で「草の根化・非エスタブ化」した共和党が議会多数派を握り、覇権を放棄していく。米国は、同盟諸国の安全を保障しなくなる。共和党のランド・ポール上院議員は「同盟国が戦争を仕掛けられたら自動的に米国が参戦して助けねばならないというNATOの5条は、米国の国権をないがしろにしており憲法違反だ。米国はNATOを離脱すべきだ」という思考を持っている。2024年に大統領に返り咲きそうなトランプも似たような考え方だ。
米国は覇権を放棄していく。ドイツなど同盟諸国が、ウクライナ戦争で自滅しても対米従属を維持するのは馬鹿げたことになっている。同盟諸国は、対米自立を余儀なくされていく。この流れは、米諜報界を握る隠れ多極派が、米覇権を壊すため意図的に作っているものだ。米国覇権は、対米従属の同盟諸国によって支えられている部分が大きいので、多極派は同盟体制を破壊している。ウクライナ戦争は、ドイツなどEUが対米従属をやめるまで続く。米国の覇権を牛耳っていた英国も潰れていく。NATOやEUは機能不全が進み、解体していく。ウクライナ戦争の前には、新型コロナも超愚策によって欧州や豪加など同盟諸国の経済を破壊したが、あれも多極派による米覇権自滅策だったと考えられる。
米同盟諸国の中でも、独英などに比べて日本はあまり自滅させられていない。日本政府はサハリン2の天然ガス利権を維持し、日本のロシアからの天然ガス(LNG)輸入は損なわれていない。米国は日本に厳しい対露経済制裁を強要せず、寛容な姿勢をとってくれている。ドイツがロシアからの天然ガス輸入停止を米国から強要され、経済を自滅させられているのと対照的だ。ペロシの訪台など米中対立も激化しているが、日本は中国と良い関係を何とか保持している。これまた米国は、日本に中国敵視を強要してこない(日本のマスコミとその軽信者たちは、くそみたいなことばかり言ってるが)。
日本だけでなく韓国も、中露敵視を米国から強要されていない。米国に中露敵視を強要されたら、日韓は中長期的に経済自滅だったが、米国は独英などにだけ自滅を強要し、日韓には強要してこない。コロナの時も、独英豪加など欧州系の同盟諸国は、都市閉鎖など経済を自滅させる超愚策を延々とやらされたが、日本は都市閉鎖もワクチン強制もやらずにお目こぼしされている。
なぜ米国(諜報界多極派)は、独英など欧州系の同盟諸国だけ潰して、日本や韓国は放置・黙認しているのか。一つの理由は、独英豪加などが米国覇権の下支え役を主体的に担っているのと対照的に、日韓は米国覇権に従属しているだけの色彩が強く、多極派の米覇権潰しの対象外だからだろう。また多極派は、目標である米覇権解体と中露台頭・覇権多極化を達成するため、中国の台頭に協力しうる日韓を経済破綻させない戦略なのだろう。
もし日本が本気で中国を敵視していたら、米国(多極派)は、コロナでもウクライナ戦争でも台湾危機でも、日本にも独仏などと同様、経済自滅の策をやれと強要してきていただろう。中露を敵視せず日本を米中両属に導いた安倍晋三は正しかった。安倍の路線を継承して親中親露を目立たないように保っている岸田も正しい。マスコミとその軽信者の方が、自民党の親中路線を攻撃することで、日本を自滅させようとする大間違いをやっている。
●ロシア 軍事侵攻の重要性 子どもに教える愛国合宿などが増加  8/24
ロシアでは、ウクライナへの軍事侵攻開始から半年となるなか、子どもたちに政権が説明する侵攻の重要性を教え込み、国を守るために愛国的な人材を育成する合宿などが各地で増えています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから今月24日で半年となるなか、ロシアではプーチン大統領が主導して3年前に始まった軍事愛国的な人材を育成するための施設の建設が各地に広がり、ことしは去年よりも30か所ほど増えて70か所以上にのぼっています。
施設はロシア国防省が自治体と協力して運営していて、夏休みには子どもたちを対象に無料の合宿が行われています。
このうちことし初めて開催されているロシア極東のサハリン州の合宿には州が事実上管轄する北方領土も含む各地域から10歳から17歳までの男女合わせて180人が参加し、来月3日までの20日間、さまざまな訓練が行われています。
合宿では元軍人などが教師になり、走り込みなど身体を鍛える訓練だけでなく、ロシアの伝統的な戦闘の手法や銃の組み立て方などを学んでいます。
参加した16歳の男性は「とても楽しいです。過去に何が起きたかを知り、母なる国を愛し尊敬し、今後起きるかもしれない戦争に備えるためにも重要な合宿だと思います」と話していました。
教師の1人、ウハトキン氏は「私たちの仕事は子どもたちに将来の戦争に向けて準備をさせることです。今こそロシアは力を誇示する必要があり、愛国心を示す時です」と述べました。
一方、ロシア極東・ウラジオストクの地元の子どもたちおよそ270人が通う愛国クラブでは夏休みに合わせて特別授業が開かれています。
教師を務めるのは国境警備隊や海軍などに所属していた人たちで、ことし2月にウクライナへの軍事侵攻が始まったことを受けて授業はより愛国的な内容になっています。
授業では教師が「ニュースを注視している人は手を挙げて」と呼びかけ、子どもたちの軍事侵攻についての質問に答えながらプーチン政権の主張を説明していました。
そして生徒の1人から「ウクライナでの武力紛争はなぜ半年も続いているのか」という質問が出ると、教師は「われわれの目的はウクライナからナチス的な要素を取り除くことだ/わが軍を守り、人々の命を救うためにゆっくり確実に行っている」と述べ、戦争ではなくあくまで“特別軍事作戦”で、ウクライナ東部のドンバス地域を解放するためだとするプーチン政権の主張を繰り返し伝え、作戦に遅れが出ているわけではないと強調しました。

 

●「クリミアのキノコ雲」が告げるロシア・ウクライナ戦争の新局面 8/25
8月9日、クリミアのロシア空軍基地で起こった謎の大爆発は、ウクライナによる「敵基地攻撃能力」のアピールだった可能性がある。今秋に計画されるヘルソン、ザポリージャ2州での住民投票は同地域のロシア併合に道を開き、この戦争を「主権国家同士の全面戦争」へと変貌させかねない。その阻止を企図するウクライナの南部奪回作戦が本格的に開始されたとも考えられる。
危険と機会を併せ持つ「ウクライナの意思表示」
ロシアが支配するウクライナ領クリミア半島西部のサキ空軍基地で8月9日に起きた大爆発は、ウクライナ側のミサイル攻撃、ないしは破壊工作の可能性が指摘されており、その場合、戦争が新段階に入ったことを意味する。
開戦から半年になるロシア・ウクライナ戦争で、ウクライナ側が初めてロシアの支配地域に大規模な攻撃を仕掛けたことになる。英国のロシア専門家、マーク・ガレオッティ氏は「戦争の形態が変わる可能性がある。ウクライナが戦争をエスカレートできるという意思表示であり、危険と機会の両方を併せ持つ」と指摘した。
ロシアは今秋、ウクライナの東部と南部を併合する住民投票を計画しており、ウクライナ側はそれを阻止するため南部奪還作戦に着手している。8、9月の戦況が重大局面になる。
サキ空軍基地の大爆発では、これまでの戦況と異なる情景がみられた。過去半年間はロシアがウクライナの民間施設を攻撃したり、虐殺、暴行、略奪と残虐行為を繰り返したが、今回はロシア人がパニックになって逃げまどった。
ロシアの独立系メディア「ノバヤ・ガゼータ」欧州版によると、9日午後3時過ぎ、クリミア西部の空軍基地で断続的に大爆発が起こり、大音響とともにキノコ雲のような噴煙が広がった。基地に近い黒海沿岸の保養地ノボフェドロフカのビーチにいた観光客はパニックになって逃げ出し、ロシアとクリミアをつなぐクリミア大橋に一斉に車で向かった。「ウクライナ人の復讐だ」と叫ぶ人もいた。
基地周辺は防空サイレンが鳴り、近くのホテルでは飛び出した客を、従業員が地下室に誘導。子供たちが泣き叫んだ。震源から数キロ離れた地点でも爆風を感じ、基地周辺の建物の窓ガラスがほぼすべて割れたという。
サキ空軍基地は、黒海艦隊付属の第43海軍航空連隊の拠点で、Su30戦闘機やSu24爆撃機が駐留。弾薬庫に引火して大爆発を起こし、航空機9機が破壊されたとされる。1時間に少なくとも6回の爆発があった模様だ。
ロシアが実効支配する「クリミア共和国」のセルゲイ・アクショーノフ首長は「基地に隣接する集合住宅62、商業施設20、数十棟の民家が被害を受け、数十台の車が破壊された」と述べた。この爆発で1人が死亡、子供を含む9人が負傷したという。基地内の犠牲者は公表されておらず、ロシアのSNS、「テレグラム」では、軍人24人の死亡説が流れた。
ロシア国防省は、「爆発原因は火災防止の法令違反」とし、偶発的事故を装っている。ロシアではこれまでも兵器庫の大爆発がしばしば発生し、キノコ雲の写真が報じられたこともある。
特殊部隊が基地内に潜入か
ラトビアに拠点を移したロシアの反政府系メディア「メドゥーサ」(8月11日)は、謎の爆発について、キノコ雲が数百メートル離れた3カ所で発生しており、外部からの同一弾による攻撃か、破壊工作員が基地内に爆弾を仕掛けて爆発させた可能性が強いと分析した。
サキ空軍基地に最も近いウクライナ軍の前線は200キロ以上離れており、ウクライナ軍が使用する米国製高精度多連装ミサイル「ハイマース」の射程は80キロだ。国産や英国製の対艦ミサイルは約300キロの射程を持つが、対艦ミサイルは速度が遅く、通常ならロシアの防空網が対応可能だ。ミサイルの飛来に関する目撃情報は伝えられていない。
「メドゥーサ」は、ミサイルより、ウクライナの特殊部隊が空軍基地に潜入し、爆弾を数カ所に仕掛けた可能性の方が高いとしている。ウクライナ側は現時点で犯行声明を出していない。
米シンクタンク、戦争研究所は、爆発の原因はまだ特定できないとしながら、基地の数カ所でほぼ同時に爆発が起きたことから、ロシアの主張する偶発的な火災は考えられないと指摘。破壊工作やミサイル攻撃の可能性はあるが、その場合、警備体制の怠慢や防空システムの不備が問われると指摘した。
米国防総省の高官は12日の定例会見で、「ウクライナが標的を選び、攻撃したが、どんな兵器を使用したかは不明だ」と述べた。しかし、国防総省はその後、「不正確な発言だった」として、高官の発言を撤回している。
米紙「ワシントン・ポスト」(8月11日)によれば、ウクライナ軍当局者は同紙に対し、ロシア軍の戦線の背後で破壊工作を行うパルチザン組織の犯行であることを示唆した。同紙は、ウクライナ人の間では、4月のロシア黒海艦隊旗艦「モスクワ」の撃沈に匹敵する祝賀ムードが漂っているとし、「ウクライナ軍はロシアが安全と考える領域まで攻撃することで、ロシア軍に防衛力を再配置させ、戦争の構図を変えることができる」と指摘した。
ウクライナ側がロシア領を攻撃したことも
サキ空軍基地は、ロシア軍のウクライナ南部攻撃の拠点だった。2月以降、Su24などの航空機が頻繁に南部のウクライナ軍拠点を爆撃し、ロシア軍は3月、比較的容易にヘルソン、ザポリージャ両州を制圧できた。したがって、今回の爆発は、ウクライナ側の「敵基地攻撃」の可能性がある。
ウクライナ内務省のアントン・ジェラシェンコ顧問は「これで、何十機ものロシア軍戦闘機が南部に爆弾を落としに来ることはないだろう」とSNSに書き込んだ
ロシア軍の侵攻では、ウクライナ領が常に戦場になったが、ウクライナ側が境界を超えてロシア側を攻撃することもあった。
「メドゥーサ」の調査報道によれば、爆弾を積んだウクライナのドローンが6月、ロシア南部ロストフ州の石油精製所を自爆攻撃した。7月31日には、無人機が黒海艦隊基地を2度にわたって攻撃し、艦隊司令部は当日予定された式典を中止した。
7月には、米国から提供された自爆ドローン「スイッチブレード」を使って、国境に隣接するロシアのブリャンスク州でロシア要人の暗殺を試みたという。
8月11日には、ベラルーシがロシア軍に提供したベラルーシ南部のジャブロフカ空軍基地で数回の爆発炎上があったと報じられた。
ウクライナ政府はハイマースから発射される射程300キロの地対地ミサイル、ATACMS(エイタクムス)の提供を米政府に求めているが、ジョー・バイデン政権は戦争のエスカレートを恐れ、承認していない。しかし、米議会は超党派で同ミサイルをウクライナに提供するよう主張し、政権側と協議しているという。
ウクライナ軍が精密誘導の長射程ミサイルを保有すれば、「敵基地攻撃能力」が拡大することになる。
南部のロシア併合を阻止へ
ウクライナが今回、クリミアの空軍基地を攻撃したとすれば、南部奪還作戦の一環となる。ロシア側はこれまでに、ヘルソン州の9割、ザポリージャ州の7割を制圧しているが、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7月末、「あらゆる手段で南部の領土を取り戻す」とし、作戦の本格化を指示した。ウクライナ軍はロシアの補給路を遮断するため、ドニエプル川の3つの橋を攻撃している。
米国のニュースメディア「ポリティコ」(8月10日)によれば、ウクライナの複数の当局者は、サキ空軍基地攻撃は南部での反転攻勢開始を示唆するものだとし、「8月と9月が軍事的観点から非常に重要な月になる」と指摘した。
ウクライナが南部奪還を急ぐのは、ロシアがヘルソン、ザポリージャ両州でロシア連邦加盟を問う住民投票を計画しているからだ。セルゲイ・ラブロフ外相も7月、「ロシアは東部だけでなく、南部の制圧も目指している」ことを初めて明らかにした。既にロシアの中央選管関係者が現地入りし、地元親露派指導部に住民投票の方法を指示したとの情報もある。
仮にロシアが南部2州で住民投票を実施し、2州併合を決めるなら、ロシアの領土が広がり、戦争形態が変わることになる。ウラジーミル・プーチン政権は2月以降、ウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」とし、「戦争」と呼称していなかった。
しかし、南部や東部をロシア領と宣言する場合、「特別軍事作戦」は主権国同士の戦争となり、プーチン大統領は憲法に沿って「戦争状態宣言」(戒厳令)を発動、総動員令を敷く可能性がある。ロシア側の論理では、国外の局地戦が全面戦争に発展することになる。
一方、タカ派的な言説を強めるドミトリー・メドベージェフ安保会議副議長(前大統領)は7月にブログで、「ウクライナがクリミアを攻撃すれば、『審判の日』が即座に訪れる」と警告していた。
「審判の日」とは、核戦争による世界の終末を警告した1991年のハリウッド映画『ターミネーター2』の原題“Terminator2: Judgment Day”をイメージしているようだ。ウクライナのクリミア攻撃で、プーチン政権は再び「核の恫喝」を駆使するかもしれない。
●国連安保理 ゼレンスキー大統領が支援と協力を呼びかけ  8/25
ウクライナ情勢をめぐって国連の安全保障理事会で会合が開かれ、オンラインで演説したウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアが新たに鉄道の駅を攻撃し死傷者が出たとして非難したうえで、国際社会に対しウクライナの独立を守るために支援と協力を呼びかけました。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて半年となった24日、国連安保理ではアメリカなどの要請で緊急の会合が開かれました。
はじめにグテーレス事務総長が「きょうは悲劇的な節目の日だ。この間、世界は、国際人権法や国際人道法の重大な違反が、ほとんど説明責任が果たされることなく行われるのを見てきた」と述べ、ウクライナの人々のためにいますぐ平和をもたらす必要があると強調しました。
このあとオンラインで参加したウクライナのゼレンスキー大統領は、安保理会合の前にロシアがウクライナ東部の鉄道の駅に攻撃を行い、少なくとも15人が死亡しおよそ50人がけがをしたと述べ、ロシアを非難しました。
そのうえで「もしロシアをいま、ウクライナで止めなければ、ロシアの殺人者はヨーロッパやほかの地域まで襲うだろう。われわれの独立はあなたたちの安全で全世界の安全でもある」と述べ国際社会に支援と協力を呼びかけました。
会合で欧米各国からは、ロシアの軍事侵攻を強く非難し、軍を撤退させるよう求める意見が相次ぎました。
これに対しロシアのネベンジャ国連大使は「ウクライナの独立に対する唯一の脅威はウクライナ政府だ」と主張し、軍事侵攻を改めて正当化しました。
●軍事侵攻半年 欧米側がウクライナへの軍事支援を相次いで発表  8/25
ロシアのウクライナへの軍事侵攻から24日で半年となり、欧米側はウクライナに対する新たな軍事支援を相次いで表明しました。一方、ロシアのプーチン政権は、軍事侵攻を継続する姿勢を改めて強調し、ウクライナでの支配の既成事実化も強めています。
ロシアの軍事侵攻から半年となったウクライナでは24日、ロシア軍が攻撃を激化させることへの警戒が続き、首都キーウでもたびたび防空警報が鳴り市民が地下通路に避難する姿が見られました。
ニューヨークで開かれた国連安全保障理事会の会合にオンラインで参加したウクライナのゼレンスキー大統領は、東部ドニプロペトロウシク州の鉄道の駅がロシアによる攻撃を受け少なくとも15人が死亡し、およそ50人がけがをしたと述べました。
ゼレンスキー大統領は「これがわれわれの日常だ。これがきょうの安保理会合のためにロシアが準備したものだ」と述べ、ロシアを非難しました。
そのうえで「もしロシアをいま、ウクライナで止めなければ、ロシアの殺人者はヨーロッパやほかの地域まで襲うだろう。われわれの独立はあなたたちの安全で全世界の安全でもある」と述べ、国際社会に支援と協力を呼びかけました。
こうした中、イギリスのジョンソン首相がキーウを訪れてゼレンスキー大統領と会談し、最新鋭の無人機合わせて2000機を含む日本円でおよそ87億円の追加の軍事支援を表明しました。
また、アメリカのバイデン政権もウクライナに対し日本円にして4000億円余りの追加の軍事支援を発表し、侵攻が始まって以降、1度の支援額としては、最大規模だとしています。
さらにドイツ政府もロケットランチャーや防空システムなど日本円でおよそ680億円にのぼる兵器を供与すると発表しました。
欧米側は長期戦に備えるウクライナを支援する姿勢を鮮明にしています。
これに対し、ロシアのショイグ国防相は24日「特別な軍事作戦は計画どおりに進められ、すべての目標は達成される」と述べ、軍事侵攻を推し進めると強調しました。
また、プーチン大統領は24日、ウクライナ東部のドネツク州、ルハンシク州、ハルキウ州、そして南部ヘルソン州、南東部ザポリージャ州で新学期が始まるのを前に、6歳から18歳の子どもの親に対して1万ルーブル、日本円でおよそ2万3000円を教育の一時金として支給する考えを表明しました。
プーチン政権は、軍事侵攻を続けるとともに、ウクライナでの支配の既成事実化も強めています。
専門家「勝者がいない戦争になる可能性が非常に高い」
戦争が起きる要因などを研究している早稲田大学の多湖淳教授は、ロシアによる軍事侵攻は、国力の低下が見込まれることに危機感を抱いた指導者が戦争を仕掛けることで挽回を図ろうという、歴史上これまでも見られた戦争の形態だとも指摘したうえで、1年以上にわたり、長期化する可能性を指摘しています。
この中で多湖教授は、ロシアがウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったことに関連して「指導者自身の能力が落ちてしまうとか、国力が下がるという予測がある時にまだ能力があるうちに相手国を攻撃してしまおうという動機が働く」と述べ、経済面などでロシアの国力低下が指摘されるなか、欧米からの援助を受けるウクライナに対してプーチン大統領が警戒を強めたことが背景にあると指摘しました。
こうした危機感を抱いた指導者が、挽回を図ろうと戦争を仕掛けたケースは、19世紀からこれまでに起きた100余りの戦争のなかでも見られる形態だということです。
多湖教授は「戦争は何を動機にして始まったかで終わり方も変わるというのが国際政治学の通説だ。今回の場合は、自分の力を挽回するというのが最終的な目的だとすればそれが達成されるまで戦争は続く。1年以上もしくは数年続くのではないか」と述べロシア側の動機から長期化する可能性に言及しました。
一方で「ゼレンスキー大統領もここまで来ると中途半端な交渉とはいかなくなる。アメリカも同盟の信ぴょう性に傷が付くのでウクライナを支援しないということはありえない」と述べ、ウクライナ側の事情からも戦闘の終結は見通せないとしています。
そして多湖教授は、戦争終結の道筋について「ずるずると朝鮮戦争のように休戦も含めて戦争状態が続くのではないか。勝者がいない戦争になる可能性が非常に高い。もしくは、両者がここで線引きをしようとなって交渉で合意するか、そのどちらか2つの終わり方しかない」と話しています。
●米高官 “長期戦になっても最後までウクライナ支援続ける”  8/25
アメリカ・ホワイトハウスの高官はロシアがウクライナへの軍事侵攻をやめる様子は見られないとしたうえで、長期戦になってもアメリカとして最後まで支援を続ける考えを強調しました。
アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は24日、記者団に対し、ロシアの軍事侵攻から半年になることについて「バイデン大統領は侵攻が直ちに終わることを望んでいる。プーチン大統領が正しく判断し、ウクライナから軍を撤退させれば直ちに終わらせることができるが悲しいことにロシア側にその様子は見られない」と述べて長期戦になる可能性があるとの見方を示しました。
そのうえで、アメリカとしては最後まで支援を続ける考えを強調しました。
また、カービー氏はウクライナのゼレンスキー大統領が8年前にロシアに一方的に併合された南部クリミアの奪還を目指すとしていることについて、「アメリカ政府は当初からこの戦争はゼレンスキー大統領が指揮するものだと考えており、目的や計画はゼレンスキー政権が言うべきことだ」と述べました。
その一方で必要な兵器の供与は続けるとしています。
バイデン大統領は25日にゼレンスキー大統領と電話会談を行い、アメリカ側のこうした考えを伝えるとしています。
●軍事侵攻から半年で国連安保理会合 共同声明で即時撤退求める 8/25
ロシアによるウクライナ侵攻から半年になるのにあわせて、国連・安保理で公開会合が開かれました。
国連・安保理では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から半年になる24日、ウクライナ情勢をめぐる公開会合が開かれました。
会合にはゼレンスキー大統領もオンライン形式で出席。会合の準備をしている際に、ウクライナ東部の鉄道駅に攻撃があったとの報告を受けたとしたうえで、「これが私たちの日常だ。この国連の会合にあわせてロシアが準備したことだ」と非難しました。
また、「ウクライナの勝利によって終わらなければ、ロシアの殺人者たちは他の国にも行きつくだろう」と述べ、「団結して行動する必要がある」と呼びかけました。
欧米各国の代表もロシアによる軍事侵攻を非難し、即時撤退を求める声が相次ぎましたが、ロシアのネベンジャ国連大使は「ウクライナの非ナチ化と非武装化のために作戦を始めるしかなかった」と従来の主張を繰り返しました。
安保理ではロシアによる軍事侵攻以降、度重なる会合が開かれてきましたが、いずれも拒否権を持つロシアの反対で決議の採択には至っていません。
記者「安保理としては一致した対応をとることができないまま半年を迎えましたが、ロシアによる侵攻を改めて非難しようと数多くの国の外交官が集まってきます」
ウクライナ キスリツァ国連大使「私たちはウクライナでのロシア軍によるミサイル攻撃を最も強い言葉で非難する」
会合後、欧米や日本など54か国の代表が集まり、「ウクライナの市民や民間施設を狙った攻撃など、ロシアの敵対行為を即時に止めることを求める」などとする共同声明を発表しました。
●ロシア当局、ウクライナ侵攻批判の政治家ロイズマンを拘束 8/25
ロシア当局は、政府に対する批判で知られるエカテリンブルク元市長、エフゲニー・ロイズマン氏を拘束した。タス通信が24日報じた。ロイズマン氏はロシアのウクライナ侵攻にも反対している。
タス通信はエカテリンブルク市治安当局の発表として、同氏が「ロシア軍に対する名誉毀損(きそん)」の疑いで捜査を受けていると伝えた。
ソーシャルメディアに投稿された動画には、ロイズマン氏が自宅で拘束され、迷彩服姿の男たちに連行される様子が映されている。この動画の中でロイズマン氏は記者団に対し「『ウクライナ侵攻』という一言」のために逮捕されたと語った。
国営のロシア通信(RIA)が公表した動画によると、ロイズマン氏は連行される際「戦争を戦争と呼んだ。それだけのことだ」と述べた。
ロイズマン氏は、収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏に対する明確な支持を表明。プーチン氏が2012年に大統領に返り咲いたことを受けた野党への支持の高まりを背景に、13年に第4の都市エカテリンブルク市の市長に選出されたが、18年に辞任。ロイズマン氏は自身に対する政治的な事情が背景にあったとしていた。
ロシアはウクライナ侵攻を自国の安全保障確保のための「特別軍事作戦」としており、侵攻を戦争と表現したりロシアの行動を批判したりした人物を多数捜査している。人権弁護士のパーベル・チコフ氏によると、ロシア軍に対する名誉毀損で国内裁判所はこれまでに約3500件を扱っており、ほぼ全てで有罪判決が下されている。
●側近の娘爆死事件、プーチン氏が殺害を企てた可能性 一部専門家が指摘 8/25
ロシアのプーチン大統領に近しい強硬派の国家主義思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリアさんが、20日に首都モスクワ郊外で運転していた車に仕掛けられた爆弾が爆発して死亡した事件を巡り、プーチン大統領が黒幕だった可能性がささやかれている。
ロシアの連邦保安局(FSB)は22日、ウクライナの特殊部隊による犯行だと非難し、実行犯はウクライナ人女で犯行後に車で隣国エストニアに逃亡したと発表している。
一方のウクライナ側は、「ロシア側の作り話」と関与を全面否定している。
「プーチンの頭脳」とも呼ばれ、プーチン大統領の外交政策に影響を与えた可能性も指摘されてるドゥーギン氏が標的だった可能性が高いとみられており、真相は不明ながら反プーチン勢力がその後に犯行声明も出している。
そんな中、裏付ける証拠はないとしながらもプーチン大統領自身によってドゥーギン氏殺害が企てられた可能性が一部専門家の間で指摘されていると、米ニューズウィーク誌が伝えている。
英国会議員のトム・トゥーゲントハット氏は、ドゥーギン氏のロシア政府への最近の批判が原因でプーチン大統領が殺害を企てた可能性があると示唆。また、ドイツの政治専門家もロシアが主張するウクライナ特殊部隊による犯行はうそだと述べ、公開された実行犯とされる女の写真や身分証明者は加工されていると専門家は指摘しており、証拠は捏造(ねつぞう)されたものだと主張している。
西側の情報機関の高官もFSBによる偽旗作戦の可能性を示唆しており、ロシアへのスパイ活動に長く関わってきた元CIA諜報(ちょうほう)員のジョン・サイファー氏は、「誰が何の目的で行ったかは分からないが、ロシア政府がうそをついていることだけは確か。ウクライナによる犯行の可能性は最も低い」と述べている。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領の顧問を務めるミハイロ・ポドリアック氏は、ダリアさんの死によってロシア政府はプロパガンダのシンボルを作り、ドゥーギン氏の国家主義の考えを広め、他の政府宣伝者に対する従順になるための脅しになることなどを理由に、犯行はFSBによるものであるとの見方を示している。
●アレクサンドル・ドゥーギン氏とは何者か、過激なロシアナショナリズムの支柱 8/25
20日に自動車爆弾で殺害されたダリヤ・ドゥーギナ氏の父親、アレクサンドル・ドゥーギン氏(60)は、ロシア政府内で影響力を増しつつある過激なナショナリズムの精神的支柱といえる存在だ。
ロシア軍将校の家庭に生まれたドゥーギン氏の歩みは特筆に値する。かつて異端の思想家だった同氏はいまや、ロシアを欧米の退廃に対抗する「ユーラシア」帝国の中心に位置づける有力な思想潮流の主導者になった。「ロシアの世界」という言葉の生みの親でもある。
その過程で、この思想潮流はロシアの外で形成されたウクライナのアイデンティティーに対する強い嫌悪感を抱え込むことになった。
ドゥーギン氏はロシアによる2014年のクリミア併合前、ウクライナ領の一部を含む地域を指す「ノボロシア(新しいロシア)」という表現の復活に寄与した。プーチン大統領は14年3月にクリミアをロシアの一部と宣言した際、この言葉を使用した。
ドゥーギン氏は長年、「母なるロシア」への同化に抵抗するウクライナ人に強い嫌悪感を示してきた。14年5月、ウクライナ南部オデーサで親ロシア派のデモ隊数十人が殺害された後には、「ウクライナは地球から消し去られて一から再建されるか、奪取されなければならない。ウクライナ人はすべてのレベル、すべての地域で全面蜂起する必要がある。軍政に対する武装蜂起が必要だ。南部から東部にかけての地域だけでない」と発言した。
さらに「私の考えは殺せ、殺せ、殺せだ。これ以上の対話はありえない。これは私の大学教授としての意見だ」とも述べた。
その翌年、ドゥーギン氏は「ウクライナの平和や安全保障、安定、主権、領土の一体性を脅かす行動や政策に加担した」として、米国から制裁対象に指定された。
ユーラシア主義の誕生
ドゥーギン氏を一躍有名にしたのは1997年の著作「地政学の基礎」だ。同氏はこの中で、アイルランドのダブリンから極東ウラジオストクまで広がるユーラシア帝国のビジョンを披露した。米国内に不安定化と反乱の種をまくことも提唱しており、16年米大統領選の前後の偽情報工作を予告する内容となっている。
同書の一節には「特に重要なのは、米国の国内活動に地政学的混乱をもたらし、あらゆる種類の分離主義や民族・社会・人種対立を促進し、過激派や人種差別主義者、宗派集団による反体制運動を積極的に支持して、米国の内政を不安定化させることだ」とある。
同書は混乱を極めたエリツィン政権の末期に執筆され、ロシアでベストセラーになった。
米スタンフォード大フーバー研究所の上級研究員、ジョン・ダンロップ氏は04年、「ロシアの軍や警察、国家統制主義的な外交政策エリートにこれほど影響を与えた」本は他にないと指摘している。
この本をきっかけにドゥーギン氏は研究者としてのキャリアを歩み始め、一時はモスクワ大学社会学部で国際関係論の教授を務めたこともある。
ドゥーギン氏は常にプーチン大統領への支持を公言してきた。07年には「プーチン氏にもはや敵はいない。仮にいたとしてもその人物は精神病で、医学的な検査を受けるべきだ。プーチン氏はあらゆる場所にいる。プーチン氏は全てであり、絶対的で、替えが効かない存在だ」と述べていた。
徐々に、そして確実に、ドゥーギン氏の見解はロシアの政治的議論の非主流から主流に躍り出た。
11年には、当時首相だったプーチン氏が「ユーラシア連合」について言及し始めた。ドゥーギン氏は当時を振り返り、プーチン氏には「イデオロギー、(3期目の大統領として)再登板する理由」が必要だったと語っている。
ロシアが14年にウクライナ東部ドンバス地方の分離主義者を支援し始めると、ドゥーギン氏は「ユーラシア青年同盟」で存在感を発揮した。この組織は自称「ドネツク人民共和国」のために戦う軍隊経験者の採用を行った。
ドゥーギン氏はまた、ウェブサイト「ゲオポリティカ」を通じて大量のプロパガンダを流しつづけた。米国は同氏がサイトを管理していると主張。米財務省は今年、このサイトについて「欧米人などの視聴者に対してロシアの超国家主義者が偽情報やプロパガンダを拡散するプラットフォームの役割を果たしている」と指摘した。
敵には事欠かず
ロシア拡張主義の思想的支柱の1人であるドゥーギン氏は「2人の」プーチン氏がいると言及しており、「プーチン対プーチン」と題した書物を著したこともある。
ドゥーギン氏はその中で、プーチン氏には現実的で慎重な「月の」側面と、ユーラシア帝国の再興や欧米との衝突に注力する「太陽の」側面があると説明している。
ウクライナ侵攻から1カ月後の3月には、モスクワ紙とのインタビューで「『太陽』のプーチン氏が勝利を収めたこと、これが起こるべくして起こったことは間違いない。私は1年前どころか、何年も前からそう言ってきた」と指摘。「ロシアは一線を越えた。このことを私は個人的に非常にうれしく思っている」とも述べた。
ドゥーギン氏はロシア国内の敵には事欠かない。19年のインタビューでは「ロシアで権力の座にいる人間は全員カスだ。プーチン氏を除いて」と語っていた。
今年には、「ユーラシア主義」を強く信奉する姿勢は「地政学の基礎」を書いた頃と変わらないと説明。「中心となるのはロシア国民だ。ロシア国民と運命を共にすることに前向きな人に対しても開かれている」とも語った。
ドゥーギン氏にとってウクライナ紛争とは、停滞する欧米と、伝統やヒエラルキー、キリスト教正教会に基づく社会との間の存亡を賭けた戦いの一部に他ならない。
ドゥーギン氏の世界では、ロシアの運命は「全ての東スラブ人とユーラシアの兄弟を広大なひとつの空間にまとめ上げるまで完結しない。この運命の論理から全てが導き出される。ウクライナについても同様だ」という。
●「プーチンの頭脳」の娘暗殺にロシアが怒り…エストニアが緊張 8/25
ロシア連邦保安庁(FSB)がプーチン大統領の「頭脳」とされるアレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリヤ氏を殺害した容疑者としてウクライナの秘密要員ナタリア・ウォウク氏(43)を特定し、エストニアに逃走したと発表した。ロシアがダリヤ氏の死を機に戦列を整えて報復を予告した中で、容疑者の逃避先と名指されたエストニアは万が一火の状況に緊張を緩めずにいる。
23日(現地時間)、フィナンシャルタイムズ(FT)、ニューヨークタイムズ(NYT)などによると、ロシアの重鎮議員であるウラジーミル・ザバロフは「ウォウク氏を明け渡さない場合、エストニアに強硬な措置を取る」と警告した。エストニアのシンクタンク国際防衛安全保障センターのインドレック・カンニック所長は「ダリヤ氏の死亡事件でウクライナに続きエストニアまでロシアの非難の対象に含まれる可能性がある」と懸念を示した。
これに先立って、20日、ダリヤ氏はモスクワ郊外の高速道路で乗っていたSUV車両下部の爆弾が爆発する事故で即死した。プーチン大統領はダリヤ氏家族に哀悼の意を表するとともに「卑劣で残酷な犯罪」と非難した。セルゲイ・ラブロフ外相は「ダリヤ氏の死に関与した者に慈悲を与えない」と脅しをかけた。
FSBが捜査一日でウォウク氏を容疑者に特定してエストニアに向かったと明らかにすると、ロシア極右主義者たちは「エストニアに行ってウォウク氏を捕まえなければならない」と声を高めている。カンニック所長は「ダリヤ氏の死亡はFSBの独自作戦であり、ロシアの『偽りの旗』作戦である可能性がある」と分析した。
エストニアはロシアのウクライナ侵攻後、「反ロシア」の先頭に立ってきた。侵攻直後の今年3月、ロシア市民権者の自国内観光ビザ発給を中断し、4月にはロシア産天然ガス輸入を全面中止した。ドイツのキール世界経済研究所(IfW)によると、エストニアは国内総生産(GDP)の0.83%をウクライナに支援し、対GDP比支援規模では世界1位だ。
旧ソ連の残滓清算にも積極的に乗り出した。16日にはロシアと国境を接する都市ナルバに展示しておいたソ連製タンク「T−34」を撤去して首都タリンの博物館に移した。ナルバは住民の85%がロシア系だ。ウルマス・ラインサル外相は「社会内部の分裂を起こす可能性があり、緊張を避けるために撤去した」と説明した。
エストニア政府は開戦直後、学校や幼稚園などでロシア語の使用を禁止することにし、来年から全面施行する計画だ。ロシア国営テレビチャンネルの放映を中止し、住民がロシアの国境を越えることも制限した。議会ではロシア市民の地方選挙投票を阻止しようという提案が議論されている。
エストニアは人口133万人のうち24%(約32万人)がロシア系だ。主にロシアとの国境地帯である北東部に居住し、ロシアに随時行き来している。ロシア語を使ってニュースもロシアのテレビ放送を通じて聞いた。
ロシア系住民たちは、政府の反露政策で生活が制限されると強く反発していると、ポリティコが23日伝えた。英紙ガーディアンは「エストニア政府が率いる『プーチンのロシア』に対する反対が自国内のロシア人に対する拒否に解釈される恐れがある」と懸念を示した。
ロシアはエストニアの反露行動に不快感を露骨に表わしてきた。ロシア外務省報道官のマリア・ザハロワ氏は、「(エストニアの行動が)どのような結果につながるか、我々はすでにウクライナで見ている」と脅かした。ロシアのハッカー集団「キルネット」は18日、報復レベルで大々的なサイバー攻撃に踏み切った。NYTは「15年ぶりにエストニアが体験した最も大きな規模のサイバー攻撃」と伝えた。
●ロシア軍支配地でまた支持集めの「バラマキ」か、プーチン氏が教育費支援  8/25
ロシア大統領府の発表によると、プーチン大統領は24日、露軍の支配地域があるウクライナ東部と南部の5州で、6〜18歳の子どもを持つ家庭に教育費支援として1万ルーブル(約2万3000円)を支給するよう指示した。
ロシアへの併合に向けた住民投票の実施方針が示されている東部のドネツク州とルハンスク州、南部のヘルソン州とザポリージャ州に加え、東部ハルキウ州も対象とした。ハルキウ州での露軍の制圧地域は州全体の2割ほどだが、ロシアは直接支配を強める動きを見せている。
9月1日に学校が新学期を迎えるのを前に、ロシア支配への支持を高める狙いがあるとみられる。
プーチン政権は過去にもウクライナ東部、南部の退役軍人らに一時金の支給を発表するなど、制圧地域でたびたび現金のバラマキを打ち出している。 
●ウクライナ戦争とコロナが触発した半導体戦争 8/25
「この50年間の地政学は石油がどこに埋蔵されているのかにより定義されたが、今後の50年はチップ(半導体)製造工場の位置により決定されるだろう」。
米インテルのゲルシンガーCEOが5月のダボスフォーラムでした話だ。これからは「半導体チップがどこで作られるか」が国際政治の決定的変数になるという意味だ。
半導体戦争はすでに始まった。国際社会の2大事件(ウクライナ戦争とコロナ禍)により半導体の地政学がすでに確認された。
ジャベリンの精密打撃、ロシアの戦車無力化
2月にロシアの戦車部隊がウクライナ国境を越えた当時、数日で首都キーウは占領されると予想された。しかしキーウに足を踏み入れることもできなかった。
戦車部隊を無力化した1等功臣は米国のジャベリンミサイルだ。ウクライナの人々は「守護聖人」という意味で「セントジャベリン」と呼ぶ。
「やり投げ」という意味のようにジャベリンは携行兵器だ。精密打撃が可能な赤外線誘導方式の対戦車ミサイルだ。正確性は高画質赤外線カメラと誘導システムのおかげだ。1991年に開発されたが高性能チップ250個でアップグレードし先端兵器になった。空中で撃てばミサイル自体の推進力で高く上昇し2キロメートル離れた戦車を探して急降下、砲塔を貫通する。
ジャベリンは1発で1億ウォンと高価だ。だが「ワンショット、ワンキル」で数十億ウォンの戦車を爆破する。特にウクライナのような平原ではより有効だ。そのため米国は2018年以降ジャベリンをウクライナに集中援助した。
これに対し、ロシアの低いIT能力もジャベリン成功の背景だ。ロシアの主力戦車であるT72やT80だけでなく最新型のT90まですべてミサイル対応能力が低かった。戦車部隊に先立ち周辺を偵察するドローンもなかった。通信は依然として旧型無線機を利用しておりリアルタイムでモニタリングされた。
一方ではロシア軍のレーダー、ミサイル、攻撃ヘリコプターなどからは米国製半導体チップが大挙発見された。いずれも家電製品で使う程度の低仕様製品だった。国際密売組織を通じて流れて行ったと推定される。米国は1980年代のレーガン大統領時代からソ連(ロシア)に対するIT関連輸出を統制してきた。
ウクライナ戦争の教訓は明確だ。半導体チップなど先端技術が戦争を左右する。先端技術統制は世界でのヘゲモニー維持に必須だ。ロシアに対しては成功した。残ったのは中国だ。
コロナが呼び起こした半導体大乱
新型コロナウイルスは経済産業の側面で半導体の地政学的重要性を呼び覚ます契機になった。
コロナ禍で自己隔離と在宅勤務が増え電子製品の需要が急増した。これに使われるシステム半導体の場合、世界の生産量の半分を台湾のTSMCが担っている。TSMCはコロナ禍で外部活動が減ったため自動車の需要も減ると予想した。車載用半導体生産を減らしコンピュータ用とスマートフォン用の生産に集中した。
ところが電気自動車の需要が増え半導体需要は急増した。ガソリン車両は300個前後の半導体が使われるのに対し、電気自動車は2000個以上の先端半導体が必要だ。車載用半導体大乱が起きた。米国の産業界でも自国内に半導体生産施設を確保すべきという声が高まった。
半導体生産アジア偏重はよくない
インテルのゲルシンガーCEOがダボスで主張した半導体地政学の結論も「半導体生産のアジア依存度を減らすべき」だ。現在世界の半導体の80%がアジアで生産される。システム半導体は台湾のTSMC、メモリー半導体は韓国のサムスンが代表的だ。
30年間加重されてきたアジア集中は市場の論理であり米国の戦略だった。半導体の母国である米国の企業は1980年代まで設計から生産まですべて直接やっていた。そうするうちに半導体産業が大きくなり技術が発展して米国企業は生産に必要な人件費と設備投資負担を減らすために外注を始めた。こうした流れに合わせて委託生産(ファウンドリー)専門企業として登場したのがTSMCだ。サムスンもこうした流れに乗った。台湾と韓国は国レベルの戦略投資が可能だったので競争で生き残った。
国際政治の変化も作用した。1980年代末にソ連と東欧の社会主義圏没落後、米国は世界単独覇権を掌握した。半導体サプライチェーンの世界への分散が可能だった。台湾と韓国に半導体生産を任せることが外交安保次元でリスクではなかった。
そうした半導体サプライチェーンのアジア依存が問題として浮かび上がったのは基本的に中国のためだ。習近平時代の中国は米国の覇権に挑戦状を投げつけた。
中国は2015年に「製造2025」というグランド戦略を出した。その最初の戦略目標が「半導体崛起2025」だ。2025年までに半導体の70%を自給自足するという目標だ。国レベルの基金で10年間に200兆ウォンを投じることにした。
しかし米国の牽制で目標は未達だ。代表的な例が2019年の通信機器会社ファーウェイに対する制裁だ。米国の技術を利用したすべての製品をファーウェイに売れないようにした。台湾のTSMCがシステム半導体の納品を中断することによりファーウェイは事実上世界の舞台から消えた。ファーウェイはその後中国政府の支援を受けて独自の半導体生産能力を備えるための努力を継続している。だが最先端技術の結集体である半導体の場合、自力更正には想像以上の資金と時間が必要だ。
米CHIPS法、異例の超党派協力
こうした状況で米国が中国の半導体崛起に釘を刺した。8月9日にバイデン大統領が「CHIPS法」に署名した。
CHIPS法が作られた過程からして最近の国際政治的流れが反映されている。法案検討が始まったのはトランプ大統領時代の2020年からだ。上下院がそれぞれ法案を出したが実効性をめぐる議論は少なくなかった。現在の世界的サプライチェーンがより市場親和的であり効率的だという反論が多かった。バイデン大統領の言葉のように「中国の反対ロビー」も作用した。
しかしウクライナ戦争が勃発し、半導体大乱が起こって反対論理は徐々に静まった。上下両院の議論はますます「CHIPS法強化」の側に流れた。その結果二極化した米国議会で見るのも稀な超党派的支持を受けて法案が通過される異変を生んだ。
骨子は連邦財政2800億ドルを半導体に投資するということだ。核心はそのうち390億ドルを米国内に半導体製造施設を作る会社に補助金として与えるというものだ。半導体生産施設を米国に引き込む戦略だ。
台湾のTSMCと韓国のサムスンを狙った。すでに両社は米国に工場を持っており、現在も作っていて、さらに作ると約束している。補助金は副次的な問題だ。生き残りの問題だ。米国の要求に応じてこそ技術・装備・素材を確保できるためだ。
代わりに補助金を受ける企業は米国の規制も受けなければならない。向こう10年間は中国に先端半導体関連投資をできない。TSMCは南京、サムスンは西安に半導体工場を運営している。新規投資ができない場合には時間が過ぎたら工場を閉めなければならない。米国との協力はそのまま中国封鎖に向けた半導体同盟「チップ4」入りを意味する。
最も危険な台湾
米国の立場では特に台湾TSMCが心配だ。
TSMCは世界の半導体委託生産の半分を担っている最大のファウンドリーだ。米国の兵器に使われるシステム半導体もほとんど引き受けている。最先端の生産能力を誇る。ところが地政学的にとても脆弱だ。
中国の習近平主席は10月の党大会(共産党全国代表大会)で3期目続投が確実視される。毛沢東とトウ小平以降で初めてだ。彼が革命指導者級の隊列に上るための業績として掲げるのは「台湾吸収統一」だ。もちろん平和的な方法、一国二制度を強調してきた。
しかし香港に対する強圧的措置を見た台湾人は「一国二制度」を疑う。習近平も「武力も辞さない」という意志を隠さない。3日のペロシ米下院議長の訪問後に台湾を包囲した実態調査に当たる演習で事実上島を孤立させた。
習近平の立場で台湾TSMCは半導体崛起を可能にさせる如意宝珠も同然だ。習近平の3期目の任期が終わる2027年はちょうど人民解放軍創軍100周年だ。
そのため台湾は世界で最も危険な国に選ばれる。地政学的に台湾と最も似た国が韓国だ。
●「ウクライナはこの戦争に勝つ」 ジョンソン英首相が最後のキーウ訪問 8/25
ロシアがウクライナへの本格的な侵攻を開始してから6カ月の節目を迎え、またウクライナの独立記念日にあたる24日、間もなく退任するジョンソン英首相はキーウ(キエフ)でゼレンスキー大統領と会談した。
英首相官邸はツイッターでジョンソン氏のキーウ訪問を発表し、マリア宮殿の外でゼレンスキー大統領と話すジョンソン氏の写真を公開した。写真には「ウクライナはこの戦争に勝つことができ、勝つだろう」というジョンソン氏のメッセージが添えられた。
ジョンソン氏は、ロシアの一方的な攻撃から自国を守ろうとするウクライナを最も声高に支持している人の1人で、今回のウクライナ訪問は2月末の戦争開始以来3回目となる。
同氏は4月下旬に危険を伴うウクライナ訪問を実行した最初の外国人指導者の1人となり、6月に再び電撃訪問した。英首相官邸は来月退任するジョンソン氏にとって今回が最後の訪問だと述べた。
ジョンソン氏はゼレンスキー氏と親密な関係を築いており、ゼレンスキー氏は先月、与党保守党がジョンソン氏を辞任に追い込んだ際、同氏が去ることを残念に思うと述べた。
ゼレンスキー氏は24日、「我が国と欧州全体のために行ってきた仕事」に敬意を表してジョンソン氏に自由勲章を授与した。
「ウクライナは誰もが得ることのできない友人を持つことができて幸運だ」とゼレンスキー氏は述べ、英国から受けた援助により「本当に勝利に近づけている」とした。
英首相官邸の声明によると、ウクライナ侵攻が始まって以来、英国はウクライナへの軍事・財政援助に23億ポンド(約3720億円)以上を拠出してきた。
●ウクライナの鉄道駅にロシア軍の攻撃、子ども含む22人が死亡 8/25
ウクライナ・ドニプロペトロウシク州チャプリネで24日、鉄道駅がロシア軍のロケット弾攻撃を受け、22人が死亡した。ウクライナ当局が明らかにした。
ロシアによる侵攻開始から半年にあたるこの日は、ウクライナの旧ソ連からの独立記念日でもあった。
ウクライナによると、東部の町チャプリネでの攻撃による犠牲者のうち5人は車内で焼死したという。また、11歳の少年も死亡した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、国連安全保障理事会の会合の最中に、攻撃があったと発表。約50人が負傷したとした。
ゼレンスキー氏は安保理でのオンライン演説準備中に攻撃のことを知ったという。「ロシアはこうやって、国連安全保障理事会に備えていた」。
「現在、客車4両が燃えている(中略)死者数が増えるかもしれない」と、ゼレンスキー氏は述べた。
24日の独立記念日を前に、ゼレンスキー氏は「ロシアはとりわけ醜悪で、とりわけ残酷な真似をするかもしれない」と国民に警戒を呼びかけていた。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「無意味な戦争」はウクライナ国内外で何百万人もの人々を極度の貧困に追いやる可能性があると述べた。
ロシアはこれまでのところコメントしていない。ロシアはこれまで、民間インフラへの攻撃は行っていないと繰り返し主張している。
4月には、東部ドネツク州クラマトルスクの鉄道駅にロケット弾が撃ち込まれ、子どもや女性を含む50人以上が死亡した。
●ウクライナ侵攻から半年、巨額損失で「万策尽きた」プーチン 8/25
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、これまでにウクライナでの戦争で被った最も大きな5つの損失が、合わせて10億ドル以上にのぼることが分かった。
米フォーブス誌の計算によれば、ロシア軍にとって最大の痛手となったのは、ロシア黒海艦隊の旗艦であるミサイル巡洋艦「モスクワ」の沈没だ。4月に沈没した「モスクワ」の価値は、7億5000万ドル相当とされている。ウクライナ側は自分たちが対艦ミサイルを命中させて沈没させたと主張したが、ロシア側は艦上での火災が原因だったと主張している。
残る4つの重大損失は、8600万ドル相当のイリューシンIL76輸送機、7500万ドル相当の大型揚陸艦「サラトフ」、5000万ドル相当のスホーイSu30SM戦闘機、4000万ドル相当のスホーイSu34戦闘機で、これらを合計すると10億ドルを上回る計算になる。
フォーブスの計算によれば、軍事侵攻を開始した2月24日から8月24日までの6カ月間で、ロシア軍は1万2142点の軍事装備品を失い、その価値は合計で165億6000万ドル相当にのぼる。ミサイルは、この合計額には含まれていないという。
「迅速な勝利」の目論見が崩れた
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、ウクライナの独立記念日でもあった8月24日に、開始から半年の節目を迎えた。ロシアが迅速に勝利を収めるだろうという一部の予想は、西側諸国の支援を受けたウクライナ側の粘り強い抵抗によって打ち砕かれた。この数週間は、ウクライナがアメリカの高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)など、西側諸国から供与された兵器を駆使して、ロシア側の標的への攻撃を成功させている。
ウクライナ側が次々と攻撃を成功させるなか、ロシア政府は兵員を補充するために強制徴用を行い、今いる兵士にも、士気を上げるために現金支給のインセンティブを与えているとみられる。
元米陸軍大将のバリー・マッカフリーは8月22日、ツイッターへの投稿で、プーチンは「万策尽きて」おり、彼にとっての状況は今後、急速に悪化していくだろうと述べた。マッカフリーはまた、ロシア軍は「作戦面で困難な状況にあり」、ロシア全体に「軍事的な損失と経済的な孤立のの深刻なひずみが生じ始めている」とも指摘した。
だがマッカフリーの評価とは対照的に、ロシアはこの「特別軍事作戦」を成功させる自信があると主張し続けている。ロシア外務省情報出版局のイワン・ネチャーエフ副長は、18日の記者会見の中で、ウクライナにおけるロシアの目標は達成されるだろうと語った。
「ロシアの目標が達成されて初めて、地域の平和、安定と安全を保障することが可能になる」とネチャーエフは述べた。
ロシア軍と比較して、ウクライナ軍が今回の戦闘でどれだけの損失を被ったのかは、はっきり分かっていない。米議会調査局は6月後半に発表した報告書の中で、ウクライナ軍が装備の半分を失ったという、地上部隊後方支援司令官ウォロディミル・カルペンコ准将の推定を紹介した例があるぐらいだ。
●クリミア半島「取り戻す」ゼレンスキー大統領発言でロシアの反発増大か 8/25
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授・土屋大洋(つちや・もとひろ)が8月25日(木)、ニッポン放送『飯田浩司のOK! Cozy up!』に出演。ロシアによるウクライナ侵略について、戦争が長引いている背景について分析した。
土屋は、ロシアによるウクライナ侵略から半年、今回の戦争について「ここまで長引くとは思わなかった」と振り返った。
また、今回の戦争が長引いている理由として、ウクライナが、8年前のロシアによる「クリミア併合」時の教訓を活かし、IT戦術を絡めたハイブリッド型な戦いに備えたのが大きいと分析。そして、アメリカをはじめ、ヨーロッパ各国がウクライナを支援し続けていることも大きな要素だと語った。
さらに、24日にウクライナのゼレンスキー大統領がそのクリミア半島も「取り戻す」と宣言したことについて触れると、今後は、よりロシア側の反発も大きくなるのではと分析した。
ウクライナ情勢の今後については、どれだけ民主主義陣営が団結して権威主義に立ち向かえるかが問われている、と締めくくった。
●ウクライナの独立記念日、前線で戦い続く 南部の戦場からBBC記者 8/25
クエンティン・サマヴィル、BBCニュース(ウクライナ南部へルソン近郊)
ここはウクライナ南部へルソン近郊の前線。ロシア軍の位置から約13キロ離れている。
ウクライナ陸軍第59独立自動車化歩兵旅団の砲兵たちが次々とトラックから飛び降りて、小麦畑の乾いた土の中に、ソ連時代の榴弾砲(りゅうだんほう)をしっかりと固定する。
敵軍の砲弾が1発、頭上を通過し、近くの畑に落下する。ウクライナ兵たちは作業の手を止めず、ただちに撃ち返す。
この旅団が半年前、司令本部に連絡をとり補給を要請したところ、司令本部の反応は驚愕(きょうがく)そのものだった。ロシアの侵攻開始から3日後のことだ。
「殲滅(せんめつ)されたものとばかり思っていた」と、そのとき司令部は言った。
あれから半年。今日は独立記念日だが、それでもほかの日とほとんど変わらない。激戦は続いている。ウクライナ軍の榴弾砲は、ロシアの砲撃で受けた傷跡だらけだ。砲身には砲弾の破片があちこちに埋まっている。
旅団の兵士たちも傷ついている。先週にはロシアの攻撃で数人を失った。
それでも彼らは、まだまだ戦わなくてはならない。
ウクライナはヘルソン市を奪還するため、ここから反撃を開始するつもりだという。ロシアが侵攻開始以来、ドニプロ川の西側で唯一制圧した都市がヘルソンだ。ヘルソンがロシアの支配下にある限り、南西部の主要都市オデーサは危険にさらされている。主要港オデーサがその状態にある間は、ウクライナは黒海に思うままにアクセスできない。
しかしロシア側も、ここで態勢を固めている。追い出すのは、そうそう簡単なことではない。
外国からの軍事援助は、確かに威力を発揮している。しかし、ウクライナがこの戦争で必要としている突破口を確保するには、ロシア軍の絶え間ない砲撃に互角に応戦しなくてはならない。そのためには、追加の軍事援助が必要だ。
●NPT再検討会議 ウクライナ情勢めぐり対立続く 8/25
世界の核軍縮の方向性を協議するNPT=核拡散防止条約の再検討会議は、ウクライナ情勢をめぐり対立が続いていて、会期が残り2日となる中、議長が示す「最終文書」の修正草案をめぐって各国が歩み寄れるのか、予断を許さない情勢です。
ニューヨークの国連本部で今月1日から開かれているNPTの再検討会議では、24日、合意を目指す「最終文書」について非公開の全体会合が開かれたほか、個別の2国間交渉なども断続的に行われました。
交渉を受けてスラウビネン議長は、これまでに示した「最終文書」の草案を一部修正した上で、改めて各国に示す方針です。
これまでの草案では、核保有国に「核の先制不使用」の政策をとるよう求める内容や、NPTと核兵器禁止条約の関係をどう定めるかなどをめぐって、各国の対立が続いています。
さらに草案は、ロシア軍が掌握し攻撃が相次いでいるウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所について、ウクライナ当局の管理下に戻すよう求めていて、ロシアが強く反発しています。
会議ではこのあと修正草案をもとに大詰めの交渉が行われますが、各国の対立は根深く、残る2日間の会期で歩み寄ることができるのか予断を許さない情勢です。
NPTの再検討会議は前回7年前も最終文書を採択できず、今回も合意に至らなければ世界の核軍縮がさらに停滞するのは避けられないだけに、交渉の行方に関心が高まっています。
●ウクライナ ロシア軍砲撃で25人死亡 原発へのIAEA派遣が焦点に  8/25
ウクライナでは、軍事侵攻から半年となる24日も東部の鉄道の駅などがロシア軍のミサイルで攻撃され、子どもを含む25人が死亡しました。一方、大規模な原子力災害への懸念が高まるウクライナの原子力発電所をめぐり、IAEA=国際原子力機関が専門家チームの派遣に向け調整を進めていて、実現できるかが焦点となっています。
ウクライナ東部、ドニプロペトロウシク州のチャプリネでは24日、鉄道の駅やその周辺が相次いで攻撃され、ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官は25日、11歳と6歳の子ども2人を含む25人が死亡し、31人がけがをしたと明らかにしました。
これについてロシア国防省は25日、「短距離弾道ミサイル『イスカンデル』で攻撃し、軍用列車に命中した。東部ドンバス地域に向かうウクライナ兵200人以上を殺害し、軍の装備品を破壊した」として、ウクライナ軍を標的にした攻撃だったと主張しました。
ゼレンスキー大統領は「われわれは必ず、ロシア側にすべての行いの責任を負わせる。そして必ず、われわれの土地から侵略者を追い出す」と徹底抗戦を呼びかけました。
一方、軍事侵攻から半年がたち、ロシア軍の部隊の前進は停滞していると指摘されています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は24日、「ロシア軍はウクライナに最も深く進軍したとみられる3月21日以降、デンマークより広いおよそ4万5000平方キロメートルもの支配地域を失った」として、ロシア軍は勢いを失い、ウクライナ軍が掌握された地域を奪還していると分析しています。
こうした中、イギリス国防省は25日、砲撃が相次ぐヨーロッパ最大級の南東部ザポリージャ原子力発電所について、衛星写真の分析からロシア軍が原子炉の60メートル以内に装甲車を配備し、軍事プレゼンスを強化していると指摘しました。
そして「ロシア軍が原発の掌握を続ければ、原子炉の冷却システムの混乱やバックアップ電源の損傷、そして、ロシア軍の圧力による従業員の人的ミスが起きるなどリスクがある」と警告しています。
ザポリージャ原発をめぐり、IAEAのグロッシ事務局長は23日に発表した声明で「調整がまとまれば、数日以内に専門家チームの派遣が行われる可能性がある」と明らかにし、24日には、トルコでロシア国営の原子力企業ロスアトムのリハチョフ総裁と会談するなど、調整を加速させているもようです。
また、ロシア国防省は25日、ショイグ国防相がフランスのルコルニュ国防相と電話会談し、ショイグ国防相が、IAEAの専門家がザポリージャ原発を訪問することは重要だとし、支援する用意があると表明したとしています。
原発の砲撃について、大規模な原子力災害への懸念が高まっていて、IAEAの専門家チームの派遣が実現できるかが焦点となっています。
ティモシェンコ副長官 SNSで被害の状況明らかに
ウクライナの東部ドニプロペトロウシク州の鉄道の駅などが砲撃を受けたことについて、ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官は25日、SNSのテレグラムに投稿し現場での救出活動が終わったとしたうえで「25人が死亡し、31人がけがを負った」と明らかにしました。
そして「死者のうち2人は子どもだった。11歳の男の子が家屋のがれきの下敷きになり、また別の6歳の子どもは駅の近くで車両火災に巻き込まれて死亡した」と述べ、被害の状況を明らかにしました。
ロシア国防省報道官「短距離弾道ミサイルで攻撃」
ウクライナ東部、ドニプロペトロウシク州のチャプリネで24日、鉄道の駅やその周辺が相次いで攻撃されたことについて、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は25日、「チャプリネ駅で短距離弾道ミサイル『イスカンデル』で攻撃し、軍用列車に命中した。そして、東部ドンバス地域に向かうウクライナ兵200人以上を殺害し、軍の装備品を破壊した」と主張し、ウクライナ軍を標的にしたものだと強調しました。
一方、コナシェンコフ報道官は、市民への犠牲については言及していません。
●プーチン氏 ロシア軍13万7000人増員命じる 兵員不足補う狙いか 8/25
ウクライナ侵攻の長期化でロシアの兵員不足が指摘される中、プーチン大統領はロシア軍の兵士を13万7000人増員する大統領令に署名しました。
プーチン大統領は25日、ロシア軍の兵士を13万7000人増やし、およそ115万人にする大統領令に署名しました。これに伴い、軍の職員などを含めたロシア軍の総定員はおよそ204万人となります。大統領令は来年1月1日に発効するということです。ウクライナ侵攻が長期化し、兵員不足が指摘される中、プーチン政権は国民の反発が予想される総動員は避け、増員の形で補う狙いとみられます。
一方、ウクライナ東部ドニプロペテロウシク州で24日にあった駅などへの攻撃による死者は25人に増えています。
ロシア国防省は弾道ミサイル「イスカンデル」で軍事用の輸送列車を攻撃したと発表。「東部ドンバス地方に向かうウクライナ軍の予備役200人以上に損害を与えた」と主張したものの、民間人の被害については言及していません。

 

●行き詰まり目立つロシア軍、国防相「意図的にテンポ遅らせた」…  8/26
ロシア大統領府などによるとプーチン大統領は25日、露軍の兵員を13万7000人増やす大統領令に署名した。ウクライナ侵略での露軍兵士の死傷者数は半年で「7万〜8万人」(米高官)に上るとされており、兵力を補充する意図があるとみられる。
大統領令の発効は来年1月からで、侵略作戦の越年を視野に入れた準備に乗り出した可能性があることも浮き彫りになった。
露軍の実際の兵員数は90万人程度とみられている。
プーチン氏が「特殊軍事作戦」と称して、2月24日に開始したウクライナ侵略の初期段階には約15万人を投入したとされる。英国防相は24日の英BBCとのインタビューで「露軍は死傷者を含め約8万人が離脱した」との見方を示した。増員兵士が全てウクライナ戦線に投入されるわけではないが、露軍は兵力の補充が急務になっている。
戦況をめぐっては露軍に行き詰まりが目立つ。
セルゲイ・ショイグ国防相は24日、ウズベキスタンで開かれた上海協力機構(SCO)の国防相会合で「民間人の犠牲を避けるため、意図的にテンポを遅らせている」と主張した。米政策研究機関「戦争研究所」は24日、この発言は「言い訳」と指摘した。
露軍の行き詰まりが指摘される背景には、露民間軍事会社「ワグネル」の雇い兵や露国内各地からの「志願兵」で兵力を補充し、士気や戦闘能力が低いことがある。プーチン氏が戦争状態への移行を宣言し、総動員令を出せば兵力の補充が可能になる。
ただ、ロシアの独立系調査報道メディア「IStories」は23日、複数の露軍参謀本部関係者の話として、プーチン氏が世論の反発を警戒して依然反対しており、ショイグ氏はプーチン氏に「打診することを恐れている」と報じた。
プーチン氏は、侵略作戦に関し、ショイグ氏の頭越しに最前線の司令官から直接、報告を受けているという。首都キーウを短期間で陥落させ、大規模な動員も不要と報告していたショイグ氏への不信感を強めたのが理由という。
●原油高騰はウクライナ戦争のせいではない 米FRBの政策と相場との関係 8/26
「ロシアのウクライナ侵攻という外的ショックによる物価高騰が、世界各国の経済を襲っている」とは、6月下旬、ドイツでの主要7カ国首脳会議(G7サミット)に出席したときの岸田文雄首相の発言で、いかにもそうだとばかりにメディアが報じた。間違いである。
原油高騰はウクライナ戦争のせいではない。カネのなせるわざである。
グラフは、代表的な油種である米国のウエストテキサス・インターミディエイト(WTI)の翌月先物価格と、米連邦準備制度理事会(FRB)のドル資金供給量の各推移を組み合わせている。先物とは、前もって将来の売買価格を決めて行う取引のことで、価格変動リスクを回避できる。商品投機の手段であると同時に、先行きの相場の動向に大きく影響する。
原油相場の上昇は2020年夏に始まっている。ロシア軍のウクライナ国境越えは今年2月24日だが、それより1年数カ月以上前から上向き、次第に速度を上げてきた。そして、高値のピークは今年5月で、6月以降は下落に転じている。原油高騰はウクライナ戦争のせいだと騒ぐのは、無知をさらけ出すようなものだ。
第2に、原油相場はFRBの金融政策と密接な関係がある。FRBは20年3月に中国・武漢発の新型コロナウイルス・パンデミック(世界的大流行)が勃発すると、金融の量と金利の両面で超緩和政策に踏み切った。ドル資金供給残高は20年2月に4・2兆ドル(約576兆円)だったが、5月には7・14兆ドル(約980兆円)と急速に膨張し、その後も量的拡大を続けた。
後を追うように原油相場上昇が続く。資金供給量は今年1月には8・91兆ドル(約1224兆円)、4月の8・99兆ドル(約1235兆円)で量的緩和を打ち止め、5月から漸減傾向にある。原油相場のピークは先述したように5月であり、量的緩和の終了とタイミングが合う。
原油相場はもちろん需給関係を反映する。供給面で需給逼迫(ひっぱく)のきっかけをつくったのは20年5月、サウジアラビアなど石油輸出機構(OPEC)加盟国にロシアなど非加盟生産国も加えた「OPECプラス」が協調減産を決めた。過去最大規模となる日量970万バレルにもなる大規模減産だった。
当時はコロナショックのために石油需要が減るとの予想から、原油相場は20年4月に1バレル当たり18ドル台にまで落ち込んだが、協調減産合意後、反転し、上昇軌道に乗った。
なぜドル資金と原油相場は関連が深いのか。まず原油などの国際商品価格はドル建てであり、ドル資金が一挙に増えると原油ばかりでなく、穀物、金属・鉱物など国際商品市場に流れ込んでくる。原油先物市場の年間取引規模はニューヨーク株式市場取引の1日分にも満たないほどだ。
その資金の担い手は投機ファンドである。投機勢力はFRB政策に敏感だ。FRBが3月の利上げ開始、さらに量的緩和打ち切りに動くと、原油先物買いを手仕舞う。原油相場の軟調は今後も続きそうだ。
●「サハリン権益喪失」でも原発稼働台数は3分の1に減らせる? 8/26
ウクライナ侵攻が変えた エネルギー見通し
ロシアのウクライナ侵攻や対ロ制裁で世界のエネルギー事情が大きく変わった。
西側諸国は、ロシアの原油や天然ガスに依存することができなくなり、欧州連合(EU)は天然ガス使用量を15%削減し、ロシア産ガスへの依存を減らす方策について合意した。
日本に対してもプーチン大統領は三井物産と三菱商事が出資するロシア極東の液化天然ガス(LNG)・石油開発事業「サハリン2」の運営を新たに設立するロシア企業に移譲するよう命令する大統領令に署名した。
日本企業が石油や天然ガス開発事業から締め出される懸念が強まる。
「サハリン2」から日本に供給されるLNGは、国内消費の約1割に相当する600万トン程度だが、もしこの供給がなくなれば、老朽火力発電所の再稼働や節電で代替するのは難しいと言われる。
代替LNGをスポットで調達すると、追加コストが2兆円近くになるとも言われる。
だから原発再稼働や新増設を急げという声が高まるが、ここは冷静に考える必要がある。
原発再稼働を急ぐことは 「正解」なのか
ウクライナ戦争長期化やロシアの対応を受けて、原油やLNGをロシアに頼ることは、経済安全保障の観点から大きな問題だ、したがって原子力への依存を高めるべきだとの声が強まる。
岸田文雄首相は7月14日の会見で、この冬に原子力発電所を最大9基稼働させる方針を示した。さらに、原発再稼働や原子力利活用に向けた取り組みも始める必要があるとした。24日のGX(グリーンエネルギー)実行会議では次世代の原発の開発・建設について検討を指示した。
首相の一連の発言は、エネルギー供給基本計画実現のために原発再稼働や新増設を急ぐべしという議論が出てきていることを受けたものだろう。
サハリン権益の喪失は 長期的には大問題とは言えない
では、サハリン権益を喪失することになれば、日本のエネルギー事情にどれほどの影響を与えるだろうか?
第6次エネルギー基本計画では、電力需要を、2013年の9896億kWhから30年には8640億kWhへと12.7%減らすとしている。比例配分で計算すれば、20年から30年では7.5%程度の減少になる。
その上で計画は電源構成でのLNGの比率を現在の37%から30年には20%に減らすとしている。計画通りになればLNGの必要量は、現在の半分程度に減るだろう。
このように考えると、サハリン権益の喪失によってLNGの供給量が1割減ったとしても、30年における日本のエネルギー需給に大きな影響を与えることはないといえる。
第6次基本計画は、将来の経済成長率についてかなり高い値を仮定している。しかし、実際にはその成長率を実現できない可能性が高い。
そうだとすれば、30年のLNGの必要量はもっと少なくてすむだろう。
もちろん近い将来では、供給削減に対応できず、需給が逼迫する事態は考えられる。また、サハリン産LNGをあてにしていた企業は痛手を被るかもしれない。しかし、日本経済が全体として受ける長期的な影響はさほど大きくないと考えられる。
第6次エネルギー基本計画で 想定する経済成長率は高め
第6次エネルギー基本計画で、将来の経済成長率が高めに想定されているという基本的な問題は、それだけで終わらない。
前回コラム「日本の脱炭素化は『化石賞』、ウクライナ前に決定したエネルギー基本計画の深刻度」で指摘したように、第6次エネルギー基本計画で発電に占める原子力の比重はかなり高めに見積もられている。
エネルギー需要は、経済成長率に強く依存する。高い成長率を想定すれば、将来のエネルギー需要は増える。しかし成長率が低ければ、カーボンニュートラルの制約の下でも、非化石電源を増やす必要性は弱まる。
だから、原子力にさほど頼らなくてもすむということになるのだ。
第6次基本計画では、将来の経済成長率をどのように想定しているのだろうか?
2030年度のエネルギー需給見通しを描いた長期エネルギー需給見通し(2015年7月策定)の 「マクロ経済の前提」では、「財政収支試算」(中長期の経済財政に関する試算、内閣府)の「経済再生ケース」で想定している成長率が使われている。
つまり13〜22年度の実質経済成長年率の平均値は1.7%だ。この値を、第6次基本計画では24年度以降にも適用している。その結果、実質GDPは、22年度の約600兆円から30年度には711兆円と18.4%増になる。
しかし1.7%という成長率は、「経済再生ケース」という架空の数字だ。そして、かなり高めの数字である。
OECD予測のGDPは基本計画の86% 発電量も少なくて済む
実際、OECDの改定長期予測(21年10月)によれば、2030年における日本の実質GDPは20年の10.3%増になるとされている。
実績成長率をみると、もっと低い。年平均成長率は、13〜21年の間では0.44%、15〜21年の間では0.24%、2000〜21年の間ではでは0.65%だ。
仮に0.24%をとれば、30年のGDPは22年の1.7%増にしかならない。
したがって、30年におけるGDPは第6次基本計画の想定値の85.9%に留まる。
こうなれば、状況はかなり変わってくる。
総エネルギー需要は、計画が想定するより減少し、LNGの需要も上で見たよりは減るだろう。
他の電源の構成維持すれば 原発稼働台数は10基に減らせる
経済成長率の想定を変えると、原子力発電に対してどのような影響があるか?
第6次エネルギー基本計画での必要な原発の稼働数は30基とされている。
GDPが計画ほど成長せず電力需要が減っても、上記のように85.9%程度になるだけだから、単純計算したところ、必要稼働数は26基程度に減少するだけで依然として状況は厳しいように思われる。
しかし、実はそうではない。その理由は、つぎのとおりだ。
第6次基本計画では、電源構成における原子力のウエイトを21%(正確には20〜22%)にするとしている。つまり原子力以外の電源が79%を占める。
原子力以外の発電絶対量を維持したままで、全体の電力需要を減らせるとすれば、原子力が受け持つべき発電量を減らすことができるはずだ。
そうすれば、あまり無理しなくてもよい範囲にまで原発のウエイトを縮小することが可能かもしれない。
具体的に計算して見ると、次の通りだ。
今、22年のGDPの規模を1と指数化しよう。すでに見たように、基本計画では、30年のGDPは1.184だ。発電総量は1.184a。aはGDPから発電量に換算する係数だ。
基本計画では、総発電量のうち79%を原子力以外が担当する。これは、発電量でいえば、0.79x1.184a=0.93aだ。
ところで、仮に30年のGDPが、1.184ではなく、実績の成長率から見て現実的と思われる1.017に留まるとしよう。
その場合には、発電量は1.017aだ。原子力以外の発電絶対量を変えなければ、その比率は0.93a/1.017a=0.914になる。
つまり、原子力以外の比率は79%から91.4%に、12.4%ポイント上昇する。
そうすれば、原子力のウエイトを21%から8.6(=21−12.4)%に引き下げることができる。
すると、30年の原子力の所要発電量は次のようになる。
計画では、総発電量1.184aの21%だから0.25a。いまの計算では、総発電量1.017aの8.6%だから0.087a。これは、計画の35.1(0.0877a÷0.25a)%だ。
稼働台数でいえば、30基とされているものを、その35.1%である10基程度にまで引き下げることができる。
これは基本計画とはかなり異なる姿だ。
非現実的な前提では対応誤る 正確な将来像をつかむことが重要
なお、この前提では原子力以外の発電絶対量を維持するとしたが、この中には火力のような化石燃料を使うものも含まれている。カーボンニュートラルの観点からその絶対量は減らすべきだとの意見があるかもしれない。
その場合には再生可能エネルギーだけを絶対発電量維持としてもよいが、この場合でも原発所要台数を減らすことができる。
このように、経済成長率のいかんによって将来のエネルギー問題の性格は大きく変わるのだ。
誤解のないように付記するが、私は経済成長率が低いほうがよいと言っているわけではない。
経済活動のさまざまな側面で、高い経済成長率が問題を解決する。だから成長率の引き上げに努力すべきだ。
しかし、現実的ではない高い成長率を想定することは、将来の姿を歪んで捉えることを意味する。その結果、問題解決の方向付けを誤る危険がある。
原子力発電にどの程度、依存するべきかという問題は、その一つの例だ。
重要なのは将来の姿をできるだけ正確に捉えることだ。 
●NPT再検討会議 ウクライナ情勢めぐり対立のまま最終日へ  8/26
世界の核軍縮の方向性を協議するNPT=核拡散防止条約の再検討会議は、会期の最終日を迎えましたが、ウクライナ情勢をめぐる各国の対立が続いています。議長がまとめた「最終文書」の草案は、ロシア軍が掌握するザポリージャ原子力発電所について、ウクライナ当局が管理する重要性を指摘していますが、ロシアは強く反発しており、最終的に合意できるのか予断を許さない情勢です。
4週間にわたってニューヨークの国連本部で開かれてきたNPTの再検討会議は25日、スラウビネン議長が全会一致での合意を目指す「最終文書」の草案を改めて示しました。
草案では、ロシア軍が掌握し砲撃が相次いでいるウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所について、周辺での軍事活動に重大な懸念を示すとしながらも、ロシアへの配慮からロシアを名指しで非難することは避け、「ウクライナ当局による管理の重要性を確認する」という表現にとどめられました。
しかし、外交筋によりますと、ロシアはなお反発しているほか、ウクライナやヨーロッパの一部の国は逆に表現が弱められたことに不満を示しているということです。
また、草案をめぐっては、NPTが本来議論すべき核軍縮に向けた措置への言及が不十分だと主張する国もあるということです。
このため最終文書が採択されるかどうかは最終日26日の交渉に委ねられることになり、日本時間の27日朝にかけて各国の激しい駆け引きが続きます。
NPT再検討会議は、前回7年前に最終文書を採択できず、今回も合意できなければ世界の核軍縮がさらに停滞するのは避けられないだけに、交渉の行方が注目されます。
ザポリージャ原発めぐり「最終文書」表現修正も
NPTの再検討会議では、ロシア軍が掌握するヨーロッパ最大規模のザポリージャ原子力発電所について、「最終文書」にどのような文言を盛り込むかをめぐり各国の対立が続いています。
ヨーロッパ各国などからは、原発の安全に強い懸念を示しロシアを非難する声が相次ぎ、このうちウクライナの代表は「現在起きているロシアの侵略による深刻な挑戦と脅威、原発を違法に掌握し攻撃し続けていることも草案に反映させるべきだ」と述べていました。
こうした意見を受けて草案は一度は表現が強められ、今月21日の草案では、原発周辺でのロシアによる軍事活動に重大な懸念を示し、ロシアの管理からウクライナ当局の管理下に戻すよう求めました。
しかしロシアは、こうした表現について猛烈に反発。「断じて受け入れられない」と主張してきました。
「この文書で推進しようとしているのは一部の国の意見だけ、ロシアにとって受け入れがたいものだ」。
その結果、修正草案では、ロシアを名指しする下りは削除され、「ウクライナ当局による管理の重要性を確認する」という表現に弱められました。
しかし、外交筋によりますと、この修正草案に対してもロシアはなお反発しているうえ、ウクライナやヨーロッパの一部の国は表現が弱められたことに逆に不満を示していて、会期が残り一日となっても対立が続いています。
「核の先制不使用」の文言は
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で核の脅威が高まる中、核兵器が使用されるリスクを減らす措置の一つとして、核保有国が核攻撃への反撃を除いて核兵器を使わない「核の先制不使用」の方針が「最終文書」に盛り込まれるかどうかが注目されていました。
国連のグテーレス事務総長もさまざまな機会で「先制不使用」について言及してきました。
再検討会議が終盤を迎えた今月22日には、国連安全保障理事会の会合で「核保有国は『核の先制不使用』を約束しなければならない。核の非保有国に対して、核兵器の使用や威嚇をしないと保証し、核の透明性を確保しなければならない」と訴えました。
再検討会議の議長が示した当初の草案には、核保有国に対して「先制不使用」の政策をとるよう求める内容が盛り込まれました。
これに対して、核保有国などが核抑止力が弱まることに懸念を表明したということです。
その結果、修正草案では、「核の先制不使用」の文言は削除されました。
一方、核兵器の非保有国からは、核兵器が使用されるリスクを減らす措置とともに、NPTが本来目指してきた核軍縮への取り組みが不十分だという指摘もあがっています。
先週の段階でオーストリアの代表は「核軍縮の進展が急務であるにもかかわらず、草案には明確な危機感も示されず、具体的な約束もスケジュールも目標も定められていない」と、強い不満を示しています。
専門家「核軍縮に向けた取り組みの議論不十分」
世界の核軍縮などに取り組む国際NGOのアリソン・ピットラックさんは、世界の核軍縮について研究し、今回のNPTの再検討会議も欠かさず傍聴してきました。
ピットラックさんは、核兵器が使用されるリスクを低減する措置について「これまでずっと議論されてきたテーマだが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻をきっかけに喫緊の課題となった」と指摘します。
そのうえで再検討会議がザポリージャ原子力発電所をめぐる議論に追われていることについて、「各国の代表らがここにいる間にもザポリージャ原発などウクライナの状況は悪化していて、それが会議を緊迫させている。会議の議論は、核のリスク軽減への道筋や核軍縮に向けたステップを示す方向に進んでいない」と述べ、本来の核軍縮に向けた取り組みについて十分な議論が行われていないと、懸念を示しました。
●砲撃戦で逆転したウクライナ 「ブラック・ホーネット」領土奪還の市街戦に前進 8/26
ボリス・ジョンソン英首相はロシアのウクライナ侵攻から半年、ウクライナの31回目の独立記念日に当たる8月24日、キーウをサプライズ訪問した。これで3回目のサプライズ訪問である。2000機の最先端ドローン(無人航空機)と徘徊型兵器を含む5400万ポンド(約87億2700万円)の追加軍事支援を約束した。
ジョンソン氏はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を前にこう強調した。
「わが国もウラジーミル・プーチン露大統領の戦争によって引き起こされたエネルギー高騰が原因でインフレと戦っている。プーチンの愚行と悪意で無謀にも引き起こされ、悪化した経済的困難を乗り越える強さと忍耐力がわが国にはある。プーチンが成功すれば、世界中の独裁者にゴーサインを出すことになり、国境は力ずくで変えられるという合図になる」
「これからの冬は厳しいものになる。プーチンはエネルギー供給を操作して欧州の家庭を苦しめようとしている。ウクライナの友人として最初の試練はその圧力に耐え、消費者を助け、同時に自国の供給を増強することだ。この冬を乗り切れば、私たちの立場は強化され、逆にプーチンの立場は週を追うごとに弱くなる」と西側にウクライナ支援の継続と団結を訴えた。
ジョンソン政権は対戦車ミサイル6900基、超軽量の携行式対戦車ミサイル(NLAW)5000基、装甲車120両、近距離防空ミサイル「スターストリーク」、対艦ミサイル、多連装ロケットシステム(MLRS)6両、ドローンなど欧州の中で金額ではポーランドに次いで多くの武器をウクライナに供給している。また最大1万人のウクライナ人新兵を同盟国と協力して訓練している真っ最中だ。
手のひらに乗るヘリコプター型ドローン
保身のためのウソを塗り重ねて自滅し、9月上旬に辞任するジョンソン氏だが、その直感力には驚嘆させられる。袋小路に陥った欧州連合(EU)離脱交渉を強行突破し、コロナ危機では世界に先駆けワクチンの予防接種を展開、今回のウクライナ戦争でもいち早くウクライナへの武器供与に踏み切り、ロシアが圧倒的に優勢とみられていた戦争の流れを変えた。
「操作が簡単で丈夫、発見されにくく、市街戦に適している」
ジョンソン氏の置き土産となった最先端ドローンの中には手のひらサイズのマイクロドローン「ブラック・ホーネット」850機も含まれる。市街戦での使用に特化して設計され、建造物の影に隠れた敵兵の位置を正確に探り出す。小さなヘリコプター型ドローンの操縦は20分以内の訓練で習得できる。
ライブビデオと静止画像を送信し、歩兵部隊が安全に市街戦を戦えるようにする「切り札」だ。
ウクライナ国防省は「キーウへ再びようこそ、ジョンソン首相。 850機のマイクロドローンを含む5400万ポンドの英国の新パッケージはウクライナ軍を大いに支援する。われわれは絶対に降伏しない」とツイートした。オモチャのヘリコプターのように見える全長16.8センチメートルの「ブラック・ホーネット」はアフガニスタン戦争で英軍が使用した。
ノルウェーで開発され、重さ32グラム、1機1万ポンド(約162万円)。最高速度は時速17.7キロメートル、航続距離約1.9キロメートル、飛行時間25分。コントローラーで遠隔操作するが、全地球測位システム(GPS)を利用した自動航行も可能で、暗視機能も備わっている。ローター音は静かで、建造物内でも敵兵に気づかれず接近できる。
機首に内蔵された前方、前方下向き45度、真下のマイクロカメラ3台からリアルタイムで送られてくる高画質の映像や画像を17.8センチメートル弱の液晶ディスプレイで視ることができる。ウクライナ当局はロシアとの市街戦能力を向上させるため、羽虫のように敵兵の位置を探る「ブラック・ホーネット」の提供を西側に求めてきた。
ノルウェーのビョルン・アリルド・グラム国防相は「わが国が開発したドローンは世界市場をリードする。米国や英国を含む多くの同盟国で使用されているこのドローンは偵察や標的の確認に使用される。操作が簡単で丈夫、発見されにくく、特に都市部での戦闘に適している。これはウクライナに対する西側の戦闘支援に新たな方向性をもたらす」と胸を張った。
英国のベン・ウォレス国防相も「ノルウェーと英国はウクライナと肩を組み続ける決意を持っている。これらの最先端ドローンはプーチンの残忍でいわれなき侵略から国を守るために戦うウクライナの軍隊に戦場での重要な優位性をもたらすだろう」と強調した。市街戦は民間人が暮らす市街地や集落など、建造物が密集する複雑な地形の中で行われる。
ロシア軍占領地域で進む「軍事的空洞化」
大砲や戦車の能力ではウクライナに対し圧倒的な優位を確保していたはずのロシアがここまで苦戦を強いられている理由はなぜか。ウクライナ軍の死傷者が4万人とみられる一方で、ロシア軍の死傷はその倍の8万人とされる。ウクライナ軍が「領土」を犠牲にしてロシア軍を市街戦に誘い込んで叩く縦深防御、すなわち肉を切らせて骨を断つ戦略をとったからだ。
英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)によると、ロシア軍は戦車2800両と装甲車1万3000両を配備するとともに、戦車1万両と装甲車8500両を備蓄している。ウクライナ軍発表ではロシア軍はすでに戦車1936両と装甲車4251両を失った。市街戦では建造物やバリケードが障害になり動きが鈍った戦車や装甲車が狙い撃ちされやすいことを浮き彫りにした。
市街戦では待ち伏せできる防御側が有利になる。兵員のさらなる損傷を回避するため、ロシア軍、ウクライナ軍双方とも大規模な地上作戦は控え、戦況は表面上、膠着状態に陥ったように見える。しかしロシア軍はこれまで安全に前線に兵員や武器・弾薬、食料、水を補給する兵站を担ってきたクリミア半島の拠点まで攻撃され、パニックに陥ったとされる。
精密誘導弾による空爆に匹敵する破壊力を持つM142高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」(射程80キロメートル)16両やM270 MLRS(同)12両の供与を米欧から受けるウクライナ軍は不利だった砲撃戦の流れを逆転させた。遠方からの精密砲撃で弾薬庫、指揮統制拠点、橋梁を次々と破壊されたロシア軍占領地域では「軍事的空洞化」が進む。
今回のウクライナ戦争は完全にドローンの戦いになった。正確な射弾観測にはドローンが欠かせず、レーダーなどの攻撃にも徘徊型兵器の「神風ドローン」が使われる。ウクライナ軍がロシア軍に占領された領土を奪還するには大規模な地上作戦を展開する必要がある。「ブラック・ホーネット」の供与はその日がいつか訪れることを予感させる。
●“プーチンの戦争” 終わりは? ロシア外交の専門家が分析 8/26
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって半年。各国が注目するのはプーチン大統領が「いま何を考え、今後どうするのか」です。「プーチン大統領は欧米と完全に決別する方向にかじを切った」。そう言い切るのがロシアを代表する外交評論家のフョードル・ルキヤノフ氏です。ロシアの政治の中枢、クレムリンに近いシンクタンクのトップで、プーチン大統領が議長を務める安全保障会議や外務省にもみずからの分析を伝え、助言もしています。ロシアの外交政策上、影響力のある専門家の1人でもあるルキヤノフ氏に軍事侵攻開始から半年を前に、ロシア国内でインタビューしました。(聞き手・権平恒志 モスクワ支局長)
プーチン大統領の最近の演説から読み解けることは?
特に西側の支配への完全な否定に重点を置いています。これまでもこうした考えはありましたが、今では、一切の反論を許さない断固としたものになりました。もともとソビエト崩壊後の目標は、西側が主導する世界のシステムに、ロシアの居場所を見つけることでしたが、一連の理由で失敗しました。いまやその目標は存在しないという決定が下されました。西側社会とは対立、対決状態にあり、ある意味で冷戦当時よりも激しい対立状態にあるといっていいと思います。今や中国をはじめアジア全体が世界の出来事の中心になりつつあります。ロシアが『西側中心主義』に戻ることはありません。
軍事侵攻の正当性はどう考えているのか?
プーチン大統領が演説で「歴史的ロシアの復活」という言葉をよく使うようになったことに注目しています。つまり、ロシアは一部の領土を不当に失っていて、取り戻さなければならないという考え方を導入したのです。プーチン大統領はみずからを帝政ロシア時代のピョートル大帝と重ね合わせ、『ピョートル大帝は何も征服しなかった。彼は領土を取り戻したのだ』と言っています。そして自分はその継承者として、ソビエト崩壊後にロシアが不当に失った一部の領土を取り戻さなければならないという理屈に立っています。歴史的にロシアの拡張領域に属していた地域であるウクライナはその主要な部分なのです。
半年にわたる侵攻をどうみる?
誰もこのような長期的な軍事作戦を想像していなかったと思います。そもそもプーチン大統領が、どのような計画を作成し、どの程度早く、何を達成しようとしていたのか知りません。ただ、明らかに比較的、短期間での作戦を見込んでいました。具体的な軍事目標はもうなくなっているかもしれません。ロシア軍はウクライナの領土をゆっくりと占領しながら、激しく、血まみれになって前進していますが、到達すべきラインがどこにあるのか、明確な理解はなく、前進できるだけ進んでいる状況です。どこかのタイミングで、両国が「いまのやり方では何も達成できない」という意識になると思います。そうなれば交渉が始まりますが、いまはまだその段階にまったく達していない状況だといえます。
欧米の経済制裁は効いているの?
短期的な影響は思ったよりも小さいものでした。ロシアはソビエト時代よりもはるかに変化に適応する能力があります。市民生活に必要な基本的なものはすべてあります。ただ、欧米諸国がいうように制裁は徐々に効き、その効果は蓄積していくと思います。経済制裁のせいで、天然ガスや原油、金属などの資源価格が急騰し、ロシアは資金を得ています。西側の欧米諸国にかわって中国やインドが購入し、かなりのところを埋め合わせているからです。ただヨーロッパ諸国も徐々にロシアからの資源がなくなる状況に適応していくでしょう。こうしたことからロシア経済全体でみれば、いずれ大規模な立て直しが求められる深刻な危機を迎えると思います。
中国とはどこまで接近するの?
いまの状況下で中国はナンバーワンの「パートナー」です。アメリカに感謝しなければいけませんが、アメリカの対中政策が、中国を、ロシアにとってより都合のよい方向に変えています。海洋進出を進める中国はいま、ロシアを信頼できる安全な『後方』だと高く評価し始めています。ロシアも中国を恐れず、ともにいて心配ないと感じている唯一の隣国です。もちろん中国に過度に依存する危険性はあります。両国間に存在する不均衡な経済や人口動態の状況を見れば明らかです。ただ、これが直接的な危険だとは思いません。ロシアと中国はこの先ますます接近していくでしょう。
日本との北方領土問題を含む平和条約交渉はどうなる?
ロシアが領土問題の交渉に戻る可能性はすでに非常に低くなったと思います。日本はアメリカ側に立ち、制裁を科し関係を制限するなど明確な立場をとりました。われわれが過去35年間やってきたことは事実上終わりました。かつてゴルバチョフ氏が領土問題の存在を認めましたが、いまロシアではこの外交は間違いだったとみなされています。このテーマでロシア側からこれ以上協議することはないと考えます。
ロシア国内の反応はどうなの?
ロシア国内でプーチン政権の危機が起きうる兆しは見られません。政権側は国民の総動員を行っていません。いま軍事侵攻に参加しているのは兵士たちです。一般の人たちではありません。だから今回のウクライナへの侵攻を「戦争」ではなく、あえて「作戦」と呼んでいるのです。政権としては国民を総動員しないかわりにこの「作戦」への支持を得て、国民は総動員されないかわりに、一定程度支持する。政権側も国民側も持ちつ持たれつで、互いに干渉しない状態にあります。
今後どうなる?
見通しはまったく想像できません。出口戦略について話すのは時期尚早でしょう。ロシア側もウクライナ側も武力によって事態を変えることができると考えています。妥協案が一切ない一方で、ロシア側もウクライナ側も武力による手段が使い果たされたという感じがしません。将来の平和を期待することは全くできません。1950年代初頭の朝鮮半島有事の時は確か2年から2年半にわたって戦線は変わりませんでした。双方がもうどうしようもないと理解するところまでいきました。どうにかして、この状態までもっていかなければいけません。ただ残念ながら、将来のロシアとウクライナの共存は、いまのところまだ誰にも想像できない状況です。
●「反ロシアか」選別、住民取り調べた刑務所・学校特定…「戦争犯罪」  8/26
米エール大の研究所は25日、ロシアがウクライナ住民らを反露的かどうか選別するための施設について、ウクライナ東部ドネツク州やその周辺に少なくとも21か所存在することを特定したとする報告書を発表した。選別は組織的に行われたと指摘し、ロシアに国連や国際人権団体による現地調査を受け入れるよう求めた。
研究所は、民間の人工衛星が撮影した画像や公開情報を基に分析した。刑務所や学校などが、ロシア軍や親露派武装勢力による住民らの取り調べや収容などに使われていたとみられることが分かったという。
報告書は、露軍による戦争犯罪や残虐行為の証拠を収集・公開するために米国務省が5月に始めた事業の一環としてまとめられた。国務省は25日の声明で、「住民らの不法な移送や強制退去は戦争犯罪に該当する」と非難した。
●プーチン氏、ロシア軍増強の大統領令に署名 戦闘要員を約10%増員へ 8/26
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は25日、ロシア軍の人員を13万7000人増員する大統領令に署名した。大統領令の発効は2023年1月1日から。ロシアはウクライナへの侵攻が長期化し、兵力不足が指摘されている。
現在のロシア軍の規模は最大約190万人(軍人100万人強、軍属約90万人)に設定されている。
今回の大統領令は、「ロシア連邦軍の規模を203万9758人(うち軍人は115万628人)とする」としている。
●ロシア軍の定員13万7千人増、プーチン氏大統領令に署名…「総動員令」回避  8/26
ロシアのプーチン大統領は25日、露軍の兵員の定員を13万7000人増やし、約115万人とする大統領令に署名した。増員の方法は明らかではないが、消耗戦となっているウクライナ侵略への兵員を補充する上で、国民の不満が高まりかねない総動員令などを避ける狙いとの指摘が出ている。
大統領令の発効は来年1月からとなる。今回の措置は、侵略の越年を視野に入れての準備とみられる。露軍は死傷者を含めて離脱した兵士が「約8万人」(英国防相)に上るとの見方があり、兵員補充が課題となっている。
米政策研究機関「戦争研究所」は25日、大統領令について「プーチン氏がすぐに大規模な動員を命じる可能性は低く、動員を避ける意思を持ち続けていることを示している」と分析した。定員数を増やすことで、強制的な総動員令などは避けながら、増員を図るとの考えを示したものだ。
ただ、現行の露軍兵員の定員は約101万人だが、実際の兵員数は90万人程度とみられ、そもそも充足できていない。新たな兵員が任務に向かうには一定期間の訓練が必要だ。戦争研究所は「ロシアは、多くの兵員を迅速に追加するには障害に直面するだろう」としている。
●プーチン暴走で安全装置部品が枯渇「走る棺桶」揶揄も飛ぶロシア国産車 8/26
ウクライナへの侵攻を続けるロシアの製造業に、混乱が広がっているという。
ロシアでは現在、欧米を中心とした西側諸国からの経済制裁が続いており、半導体や工作機械など様々な分野での部品調達が困難になっている。
特に顕著なのが自動車産業だ。ロシアの国産車「ラーダ」でも、制裁の影響でやはり部品が入手できなくなり、最新モデルにもかかわらず一部にはABS(アンチロックブレーキシステム)が装備されていない車両もあるという。そのため、これから路面が凍結する冬を前に、ドライバーからは心配の声があがっているのだ。
「またエアバッグについても装備ナシで、そのぶん安さをアピールしていたのですが、さすがにマズイと思ったのか『ラーダ』を生産するアフトバズは8月24日、一転して標準装備すると発表しました。ただし運転席のみで、助手席への装備は上級モデル限定。ABSについては触れられていません。この事態にカーマニアからも『マジでロシアにとって損しかない戦争。一体いつまで続けるつもりなのか…』『いまどきABSとエアバッグがない車とか、もはや走る棺桶としか思えない』などといった呆れた声が広がっています」(クルマ雑誌ライター)
思わぬところで不便を被ることになったロシア国民には同情しかないが、一歩間違えば生死にかかわるだけに、プーチン大統領への思いも複雑なのではないだろうか。
●ウクライナ侵攻から半年 プーチンが得た収穫とは 8/26
8月24日でロシアがウクライナに侵攻してからちょうど半年となった。当然ながら日本ではロシア、プーチンのイメージは急激に悪化し(もともと悪かったともいえるが)、ウクライナをどう支援するかが大きなポイントになった。しかし、プーチンは強気の姿勢を崩していない。依然として、ウクライナに侵攻したのはウクライナに住むロシア系住民が抑圧されていたからだと、その正当性を強調している。今、プーチンは何を考えているのだろうか。
この半年間、ロシアにとっての出来事をプラスとマイナスで分けてみたい。まず、マイナス面だ。この半年、米国を中心に欧米諸国はロシアを強く非難し、ロシアへの経済制裁を強化する一方、ウクライナへの軍事支援を拡大させてきた。経済制裁が強化される中でマクドナルドやスターバックスなど世界的企業がロシアから次々に完全撤退し、経済的損失を受ける形となった。また、欧米から支援を受けたウクライナ軍の善戦もあり、プーチンが始めに描いていたウクライナ攻略は既にフィクションと化している。
しかし、プラス面も少なくない。世界全体で見ると、ロシアへ圧力を強化したのは欧米や日本など40カ国あまりであり、今後さらに大国となる中国やインド、ASEANや中東、アフリカの殆どの国も欧米に追随していない。むしろ、中国やインドとロシアの経済的結び付きは強くなる傾向にあり、この半年間で、欧米主導の対露制裁の抜け道も明るみになった。
おそらく、プーチンはウクライナへ侵攻すれば欧米から経済制裁を食らうことは織り込み済みだった一方、ここまで軍事面で苦戦することは想定してなかったと思われる。しかし、それ以上にプーチンが感じたのは、“各国とも自分たちの国益を最も重視し、侵略や戦争が発生しても道義的以上に実利的に外交を展開するというリアリズムの世界”だろう。
今年秋にG20を開催するインドネシアは、同会議にプーチンを招待することを発表し、インドは安価なロシア産エネルギーの輸入は避けられないとし、ロシアと距離を置くよう求める欧米の要請を一蹴した。また、8月はじめに米国ナンバー3といわれるペロシ米下院議長が台湾を訪問した際、中国は台湾を包囲するような軍事演習を実施するだけでなく、それを常態化させる仕草を示した。
こういった米国の要請や圧力に屈せず、自国の利を第一に、国益が合致すればロシアとも実利的接近を試みる各国の姿は、プーチンを強く後押ししている。これがこの半年でプーチンが発見した最大の収穫かも知れない。
●ロシアが賭ける停戦シナリオ、冬のガス不足で西側が根負け 8/26
ロシアはかつて、「冬将軍」の加勢を得てナポレオンとヒトラーを打ち負かした。プーチン大統領は今、欧州がこの冬にエネルギー不足やとその価格高騰に根負けし、ウクライナに停戦を迫るというシナリオに賭けている。しかもロシアの望む条件で。
大統領府の考え方に詳しい2人のロシア筋は、これが同国の想定する唯一の和平への道だと語る。ウクライナは同国全土からロシアが撤退しない限り交渉に応じない姿勢だからだ。
ロシア筋の1人は、「われわれには時間があり、待つことができる。この冬は欧州にとって厳しい季節になるだろう。抗議活動や社会不安が起こる可能性もある。欧州の一部指導者らは、ウクライナを支援し続けるべきかどうか考え直し、交渉に応じる時が来たと思うかもしれない」と語った。
もう1人は、既に欧州の結束にはほころびが見えており、冬の厳しさの中でそれに拍車がかかるというロシア政府の見方を紹介。「戦争が秋冬まで長引けば、本当に厳しくなるだろう。だから(ウクライナ側が)和平を申し出ると期待できる」と述べた。
ロイターはロシア政府にコメントを要請したが、回答を得られていない。
ウクライナと、同国を強力に支援する西側諸国は、降参するつもりはないとしている。複数の米高官は匿名を条件に、ウクライナへの支援が揺らぐ兆しは今のところ皆無だと述べた。
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長はウクライナ独立記念日の24日、「EUはこの戦いにおいて当初からあなた方の味方だ。必要とされる限り、味方であり続けるだろう」とツイートした。
ウクライナは、戦場において状況を変えられる可能性があると考えている。
ウクライナのポドリャク大統領顧問はロイターに対し「ロシアとの交渉を可能にするには、前線の現状をウクライナ軍優勢に変える必要がある」と述べた。「ロシア軍が戦術的に大敗を喫することが必要だ」という。
意志のテスト
欧州諸国はこの冬、ロシアに代わるエネルギーの供給源確保や省エネによって冬を乗り切ろうと模索しているが、需要を全て賄えると予想するエネルギー専門家はほとんどいない。
駐欧州陸軍司令官を務めたベン・ホッジス氏は「米国は中間選挙、英国は首相交代を控え、ドイツは天然ガス不足を死ぬほど心配し、ライン川の水位が大幅に低下している以上、われわれが(ウクライナの戦争への)関心を失うことをロシアはもちろん期待しているだろう」と話す。
「戦争とは兵站、そして意志のテストだ。試されるのは、われわれ西側がロシアに勝る意志を持っているか否かだろう。厳しい試練になると考えている」
ロシア当局の考え方に詳しい1人目の関係筋によると、ロシアが将来仮に和平合意に応じる場合には、領土を確定し、ドンバス地方全体を掌握し、ウクライナに軍事的中立を約束させることを望む見通しだ。
両軍は長い消耗戦に入っており、どちらも決定的な打開策を見出せていない。
ポーランド在住の軍事アナリスト、Konrad Muzyka氏は、ウクライナ東部のいくつかの地域ではロシア軍が主導権を握っているが、装備や人員の大幅な増強がない限り、一方が優位に立つとは考えにくいと指摘。「それができる者が戦争に勝つだろう」と語る。
ロンドンのシンクタンクRUSIのアナリスト、ニール・メルビン氏の見立てでは、今から冬にかけての戦況が戦争の行方を決する可能性がある。
「ウクライナは西側の支持国に、戦闘に勝てることと勢いがあることを納得させる必要がある。この期間にロシアを押し返し、その勢いを維持できることを示せれば勝ちだ」とメルビン氏は言う。
しかし、戦争が長引くほど燃料、ガス、電気、食料の価格高騰による痛みは激しくなり、西側がウクライナを巡って分裂するリスクは増す。
「全ての経済指標が今、マイナスに転じている。ウクライナが勝ちそうな様子が見えない限り、アパートで震えている人々を(苦難を受け入れるよう)動機付けるのは難しくなるだろう」とメルビン氏は予想する。そうなると政治的な和解を求める圧力が高まり、EUと北大西洋条約機構(NATO)双方に亀裂が入りかねないという。
核兵器使用のリスク
元駐ロシア英国大使のトニー・ブレントン氏は、ウクライナが何らかの突破口を開けない限り、西側諸国は「ある時点で」ウクライナに「不愉快な妥協を飲ませる必要が出てくる」かもしれないと指摘する。そしてロシアは屈辱的な敗北に直面した場合、紛争をエスカレートさせる恐れがあると警告する。
「ロシアにとっての選択肢が、負け戦を続けて大敗し、プーチン氏が倒れる、もしくはデモンストレーション的に核兵器を使用する、という二者になった場合、核兵器のデモンストレーション的使用を選ばないとは限らない」とブレントン氏は話す。
ロシアは、戦術核を使用する必要があるという考えを繰り返し否定してきた。
「ロシアのウクライナ戦争への道」の著者であるサミール・ピュリ氏は、ウクライナは戦争の力学を変えられない限り、自国領土の最大4分の1がロシアの支配下に置かれ、事実上の分割統治を強いられる恐れがあると言う。
「ロシアは腰を据えて領土獲得を狙い続けることができそうだ。残念ながら、中期的に最も可能性の高い結末は分割統治だ」とピュリ氏は語る。
もっと楽観的な意見もある。
元駐欧州陸軍司令官のホッジス氏は、「ロシアの兵站システムは疲弊しており、すぐに良くなることはないだろう」と指摘。「米英を中心とする西側諸国が約束したものを提供し続ければ(中略)ウクライナが年末までにロシアを2月23日の線まで押し戻すことは可能だと楽観視している」と話す。
●ロシアにザポロジエ原発明け渡しを要求 バイデン、ゼレンスキーと電話会談 8/26
バイデン米大統領は25日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談し、ロシア軍が占拠するウクライナ南部のザポロジエ原発を同国に明け渡すようプーチン露政権に求めることで一致。両首脳はロシアに対して同原発の管理権をウクライナ側に完全に戻し、国際原子力機関(IAEA)の調査団を受け入れるよう要求した。
バイデン氏は会談で、24日に発表したロシアの侵攻後の軍事支援で最大規模となる29億8千万ドル(約4100億円)の追加支援などを説明。米国としてウクライナへの支援を継続することを改めて伝えた。
また、24日が旧ソ連からの独立記念日とロシアによる侵攻から半年だったことを受け、露軍から自国を守り続けているウクライナ国民への称賛を表明した。
 

 

●ウクライナ 原発の安全性に懸念 IAEAが専門家常駐させたい考え  8/27
ロシア軍の侵攻が続くウクライナでは、原子力発電所の周辺で砲撃が相次ぎ、安全性への懸念が高まっています。近く現地入りする意向を示すIAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は、IAEAの専門家を現地に常駐させたい考えを示し、安全性が確保されるかが焦点となっています。
ウクライナ南東部にあり、ヨーロッパ最大級のザポリージャ原子力発電所では、周辺で砲撃が相次いでいて、25日には、原発付近で発生した火災により原発への送電線が切断されるなど安全性への懸念が高まっています。
これによって、原発からウクライナの送電網への電力供給が停止していましたが、ウクライナの原子力発電公社「エネルゴアトム」は26日、「25日、運転を停止した原子炉が、送電網につなげられた」として26日になって再開したことを明らかにしました。
一方、ロシア国防省は26日、「ザポリージャ原発が過去24時間に2回、ウクライナ軍から砲撃された」などと主張しています。
アメリカのシンクタンク、「戦争研究所」は25日、「ロシア側は、明確な根拠を示さずにウクライナ軍が攻撃したと非難している。一方、原発は戦闘が続く前線から遠く離れ、差し迫った危険がないにもかかわらず、ロシア軍は原発で軍事化を進めている。一連の活動からはロシア軍が原発や周辺の攻撃に関与している可能性が高い」と指摘しています。
こうした中、IAEAのグロッシ事務局長は原発の状況を調査する専門家チームを率いて、数日以内に現地に向かう意向を明らかにしています。
グロッシ事務局長は26日に公開されたフランスの有力紙「ルモンド」のインタビューの中で、「事故のシナリオを排除できない」と述べ、現状への危機感をあらわにしました。
そのうえで「現地では、使用済み核燃料プールを調査し原子炉の冷却に不可欠な電力供給の問題に取り組む」と述べ、IAEAの専門家をザポリージャ原発に常駐させたい考えを示しました。
ロシア軍は原発の敷地内に軍の部隊を増強させていると指摘されていてIAEAが施設に立ち入り安全性が確保されるかが焦点となっています。
ザポリージャ原発 ウクライナの送電網へ電力供給を再開
ヨーロッパ最大級のザポリージャ原子力発電所をめぐって、ウクライナの原子力発電公社「エネルゴアトム」は、25日、付近で発生した火災により送電線が切断され「侵略者の行動により、原発が送電網と完全に切り離された」と発表していました。
これについて、「エネルゴアトム」は26日、SNSへの投稿で、「25日に運転を停止した原子炉が26日午後に送電網につなげられた」と書き込み、ウクライナの送電網へ電力の供給を再開したことを明らかにしました。
また、IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長も、26日の声明で原発と送電網との接続が復旧したことを歓迎しながらも改めて懸念を示し、「願わくは数日後に専門家チームの調査を行えるよう、すべての関係者と調整を進めている」として、近くIAEAによる専門家チームを現地に派遣することに意欲を示しました。
●TICAD開幕へ発言力増すアフリカ 日本の存在感高められるか課題  8/27
日本が主導してアフリカへの支援や投資について話し合うTICAD=アフリカ開発会議の首脳会議が、27日からチュニジアで開かれます。人口が急増し、国際政治での発言力も増すアフリカをめぐっては影響力の拡大を図るロシアや中国に対抗し、アメリカも関係強化に乗り出していて、日本の存在感をどう高めるかが課題になります。
アフリカでは人口が急増し、国連の推計では2050年までに24億人を超え、世界の人口のおよそ4人に1人がアフリカの人々になると予測されていて、巨大市場としての注目が高まっています。
また、国連加盟国の3割近い54の国を抱え、国際政治での発言力も増していて、アフリカとの結び付きを深める国が増えています。
このうち、ウクライナへの軍事侵攻によって欧米との対立が続くロシアは、アフリカ各国との関係をこれまで以上に重視し、資源開発や武器の輸出などを通じて影響力の拡大を図っています。
ことし3月、国連総会でロシアのウクライナ侵攻を非難する決議案の採決が行われた際には、アフリカ諸国のうち、チュニジアなど28か国が賛成し、欧米や日本と歩調をあわせたのに対して、ウガンダや南アフリカなど17か国は棄権し、ロシアに一定の配慮をしたと受け止められました。
ロシアのラブロフ外相は、7月、アフリカ4か国を訪問し、ウガンダでは、「ウクライナ情勢をめぐるバランスの取れた立場に感謝する」などと述べ、ロシアの石油を提供する考えを示したということです。
また、中国は、巨大経済圏構想「一帯一路」のもとインフラ建設や巨額の融資を続けることでアフリカ諸国との結び付きを深めています。
一方、アメリカは8月、サハラ砂漠以南のアフリカについての新たな外交戦略をまとめ、中ロ両国に対抗する姿勢を鮮明にしていて、ことし12月には首都ワシントンでアフリカ諸国との首脳会議を開き、関与を強めようとしています。
アフリカを舞台に大国間の思惑が絡んだせめぎ合いが激しさを増す中、日本がTICADを通してどう存在感を高めることができるかが課題になります。
TICAD経緯 「援助から投資へ」
TICAD=アフリカ開発会議は日本政府が中心となってアフリカ各国の首脳や国連などの関係機関が集まり、1993年から定期的に開かれている国際会議です。
TICADの当初の焦点はアフリカの開発援助でしたが、今では「援助から投資へ」を合言葉に民間企業のビジネスチャンスの拡大をどう進めていくかが、焦点となっています。
その背景にあるのが、人口増加を続けるアフリカの市場としての魅力です。
2022年のアフリカの人口は14億人あまりと、世界全体のおよそ18%ですが、2050年までには24億人を超え、世界の人口の4人に1人がアフリカの人々になると予測されています。
平均年齢も世界全体と比較して若く、その将来性に注目が集まっています。
インターネットの普及を背景に、保健医療や物流、農業などこれまで課題を抱えていた分野で新たなサービスを生み出すスタートアップ企業も多く生まれていることから、世界から多くの投資が集まり続けています。
今回のTICADをきっかけに日本からも官民をあげてさらに投資を増やしていけるのか、アフリカ側の期待とともに日本としても「共に成長するパートナー」を目指し存在感を高めたい考えです。
ウガンダで見る米ロ外交
東アフリカのウガンダは、ことし3月の国連総会でロシアのウクライナへの軍事侵攻を非難する決議案の採決が行われた際には、「棄権」に回った国です。
この決議案では、アフリカの28か国が賛成し、日本やアメリカと歩調を合わせてロシアを非難しましたが、棄権した35か国のほぼ半数の17か国が、ウガンダを含むアフリカの国々でした。
そのウガンダをロシアのラブロフ外相は7月下旬、アフリカ歴訪の際に訪れ、ムセベニ大統領と会談しました。
ウガンダの国営新聞によりますと会談後の記者会見でラブロフ外相は、「ウクライナ情勢をめぐるウガンダのバランスの取れた立場に感謝する」と発言したうえで、「ロシアはアフリカに石油を提供する用意がある」と述べたということです。
これに対しムセベニ大統領は「ロシアを非難するよう求める人もいるが、ロシアとは長年、共にある」と応じたということです。
一方、その翌週の8月上旬、今度は、アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使がウガンダを訪れ、ムセベニ大統領と会談しました。
トーマスグリーンフィールド国連大使は記者会見で食料価格の高騰の原因はロシアの軍事侵攻にあるとしたうえで、ウガンダに対して、食料危機などに対応するため2000万ドルの援助を行う方針を発表しました。
また、「ロシアとの石油の貿易は、制裁破りとなる可能性がある」と述べ、ウガンダがロシアの石油を受け入れることにくぎを刺したと受け止められました。
ロシアとアメリカの双方から外交的な働きかけを受けていることについてウガンダのオドンゴ外相は、8月16日、首都カンパラでNHKのインタビューに応じ、「ロシアを支持するわけでもアメリカを支持するわけでもなく、ウガンダの国益に基づいて誰とでも関係を持っている」と述べました。
そのうえでロシアとの関係については「旧ソビエトはウガンダを含むアフリカの植民地支配からの独立闘争を支援した」と述べ、国連総会で、「棄権」したことについて「紛争当事国を孤立させるのではなく、関与し対話することで紛争を終わらせることができると判断したからだ」と説明しました。
ウガンダ政府の対応について地元マケレレ大学政治学部のカサイジャ・アプーリ教授は「ウガンダはロシアからは多くの武器を購入しているほか、原子力発電計画ではロシアからの支援が約束されている。棄権したことは倫理的に問題ではあっても失うものは特にないと考えたのだろう」と述べ、ロシアへの配慮から棄権に回ったとの見方を示しました。
ロシア ウクライナ侵攻 アフリカとの関係 これまで以上に重視
ウクライナへの軍事侵攻を受けて欧米との対立が続くロシアは、アフリカ各国との関係をこれまで以上に重視し、関係を深めようとしています。
かつてのソビエトが冷戦時代から社会主義陣営の勢力圏を広げる舞台としてアフリカを重視していましたが、ソビエト崩壊以降、経済の衰退とともに関係はいったん弱まりました。
しかし、2000年に「大国ロシアの復活」を掲げて就任したプーチン大統領のもとインフラ整備や資源開発、それに武器の輸出や軍事訓練を通じて再びアフリカでの影響力の拡大に乗り出しました。
2019年にはアフリカ54か国の首脳などを招いて「ロシア・アフリカ経済フォーラム」が初めて開かれ、プーチン大統領は、「アフリカ各国との関係構築はロシアの外交政策の優先事項の1つだ」と強調しました。
ことし3月、国連総会で、ウクライナに侵攻したロシアを非難し軍の即時撤退などを求める決議案の採決が行われた際には、棄権した35の国のうち半数近い17か国がアフリカの国々でした。
ロシアのラブロフ外相は、7月、アフリカ4か国を訪問しましたが、その際に出された声明ではウクライナ情勢をめぐって「強い外圧にもかかわらずアフリカ各国のバランスのとれた立場に感謝する」として対ロシア制裁に加わらない姿勢を評価しました。また、アフリカではロシア産の小麦などに依存してきた国も多く、世界的な食糧危機への懸念が高まるなか、ロシアとしては、穀物や肥料などの供給を新たな強みにして、アフリカとの関係をさらに深めようとしています。
中国 「一帯一路」のもと巨額融資 軍事面でも存在感
中国が2000年からアフリカ諸国と定期的に開いている国際会議が「中国アフリカ協力フォーラム」です。
去年、西アフリカのセネガルで開かれた会議には習近平国家主席がオンライン形式で参加し、新型コロナウイルスのワクチンを10億回分提供すると表明するなど、いわゆる「ワクチン外交」を展開する姿勢を示しました。
また、習主席はアフリカからの輸入を促進して3年間で総額3000億ドルを目指すことも明らかにし、影響力の拡大に向けた動きを活発化させています。
中国は、巨大経済圏構想「一帯一路」のもと、鉄道などのインフラ建設や巨額の融資を続けるとともに、アフリカ東部のジブチに海外で初めての基地を建設し、経済だけでなく軍事面でも存在感を高めてきました。
ただ、アフリカの一部の国は債務を返済できず、中国からインフラの運営権の譲渡などを迫られる「債務のわな」の問題が懸念されています。
アメリカ・ボストン大学のグローバル開発政策センターのまとめによりますと、中国によるアフリカへの融資は2000年から2020年までの総額で1599億ドル、日本円でおよそ22兆円にのぼったということです。
このうち、中国から運輸や電力などの分野を中心に101億ドルの融資を受けてきたアフリカ南部のザンビアは返済に苦しみ、IMF=国際通貨基金と債務の再編を条件に資金支援を得ることで合意しています。
中国はこれまでほかの債権国との交渉には積極的ではありませんでしたが、ザンビアについては共同議長として協議に参加し、再編の条件をまとめたことから中国が懸念の払拭に努めようとする新たな動きとして注目されています。
米 中ロ両国に対抗する姿勢を鮮明に
アメリカのバイデン政権は8月、サハラ砂漠以南のアフリカについての新たな外交戦略をまとめ、中ロ両国に対抗する姿勢を鮮明にしています。
外交戦略ではこの地域について、人口の増加が著しく天然資源に恵まれているほか、国の数が多く、国連の中で加盟国の3割近くを占め、最大規模だとしたうえで「アメリカが世界的な課題に取り組む上で非常に重要だ」としています。
また、この地域で影響力を拡大させる中国やロシアについては、「中国はルールに基づいた国際秩序に挑戦するためこの地域を重視し、地政学的な利益の拡大やアメリカとアフリカの関係の弱体化を図っている。ロシアは安全保障や経済的な結び付きを利用し、ウクライナ侵攻に対するアフリカの反対の声を弱体化させている」と強く批判したうえで、中ロ両国に対抗しアフリカ各国との関係強化を打ち出しています。
具体的には、新型コロナウイルスの影響で傷ついた経済の回復や食料の安定的な確保、それにテロ対策などで協力を進めていくとしています。
一方、ここ数年は、軍事クーデターなどが相次いでいるとして、「アメリカは同盟国や友好国と連携し、こうした動きに歯止めをかけ、民主主義の後退や人権侵害に対抗していく」として、いわゆる「アメとむち」を用いて対応し、人権侵害などには制裁を科すことも辞さない構えを示しています。
ブリンケン国務長官は8月、南アフリカとコンゴ民主共和国、ルワンダの3か国を訪問してこの外交戦略について説明し、民主主義や人権を重視する姿勢を強調するとともに経済関係の強化に意欲を示しました。
さらに、バイデン政権はことし12月には首都ワシントンにアフリカ各国の首脳を招待して首脳会議を開くことにしています。 
●ベラルーシ、爆撃機に核搭載できるよう改修… 8/27
ベラルーシの国営通信などによると、同国のアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は26日、爆撃機「スホイ24」を改修して核兵器の搭載を可能にしたと明らかにした。実際に搭載するかどうかについては言及しなかった。
改修は、今年6月にルカシェンコ氏がロシアのプーチン大統領と会談した際、プーチン氏から欧米に対抗する措置として検討するよう持ちかけられていたという。ルカシェンコ氏には、実際に改修したことでロシアとの結束の強さを示す狙いがあるとみられる。ルカシェンコ氏は、米欧諸国から挑発があったと見なした場合、「即座に対抗する」と述べた。
●プーチン氏、ロシア軍増強に署名 兵力は13万7千人増へ 8/27
ロシアのプーチン大統領は27日までに、ロシア軍の規模を現行の約190万人から204万人に拡大する大統領令に署名した。来年1月1日に発効する。
同国の公式情報を流す政府系のインターネットサイトによると、兵力は13万7000人上積みされ計115万人に増える見通し。
2017年11月17日時点での大統領令によると、ロシア軍の総数は190万2758人で、このうち兵力は101万3628人だった。
一方、ロシア国営のタス通信は27日までに、同国が強制併合したウクライナ南部クリミア半島のセバストポリに司令部を置く黒海艦隊の新たな司令官にビクトル・ソコロフ氏(海軍中将)が任命されたと報じた。
2019年5月に就任したイーゴリ・オシポフ司令官の後任となる。
黒海艦隊をめぐってはクリミア半島のロシア軍拠点で最近爆発が複数回起きており、深刻な人的損失なども伝えられている。また、今年4月にはウクライナが黒海艦隊の旗艦だったミサイル巡洋艦「モスクワ」をミサイル攻撃で沈没させたことを明かし、艦隊の応戦能力の欠陥も指摘されていた。
ロシアは同巡洋艦の沈没は弾薬類の失火が原因と主張していた。
●ウクライナ軍、南部へルソンとの通行遮断…橋への攻撃で補給妨害  8/27
ウクライナ軍の南部方面部隊は26日、ロシア軍が制圧を続ける南部ヘルソン州で、州都ヘルソンに通じる橋を攻撃し、通行を遮断したと発表した。露軍の補給を妨害する狙いがある。ウクライナ軍は同州のドニプロ川西岸域の奪還に向け、ヘルソン周辺などで攻勢を続けている。
ロシア通信などによると、南部ザポリージャ州で露軍が支配する港湾都市ベルジャンシクで26日、爆発が起き、親露派の警察幹部が死亡した。詳細は不明だが、ウクライナ国営通信は、警察車両が爆発したとの目撃情報を伝えており、露軍の支配に対する抵抗運動の可能性がある。
一方、露軍が占拠を続けるザポリージャ原子力発電所では、26日も砲撃情報があり、緊張が続いている。タス通信によると、親露派幹部は、放射性物質の保管場所がある区域にウクライナ軍が砲撃したと主張した。放射線量に異常はないとしている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は26日夜のビデオ演説で、ザポリージャ原発について「非常に危険な状況が続いている」と述べ、露軍の撤退を改めて求めた。
●“ザポリージャ原発に砲撃” ウクライナ・ロシア双方が発表  8/27
ウクライナの原子力発電公社「エネルゴアトム」は27日、この1日の間で、南東部にあるロシア軍が掌握するザポリージャ原子力発電所の敷地内で、ロシア軍による砲撃が繰り返しあったと発表しました。
発表では、発電所の建物が被害を受け、水素漏れや放射性物質の拡散などのおそれがあるとしていますが、調査中だとして詳しい状況は明らかにしていません。
また、IAEA=国際原子力機関が専門家チームの近日中の派遣を目指す中、ロシア軍が原発の従業員に対して、原発での犯罪行為や軍事施設として使用している事実について口外しないよう圧力をかけていると訴えています。
一方、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は27日、「過去24時間の間に、ウクライナ軍が原発に対して17発の砲弾を発射した。このうち4発が核燃料貯蔵施設の屋根に命中した」などと主張し、ウクライナ側の攻撃だと非難しています。
そのうえで、「原発の放射線レベルは正常だ」としています。
●ウクライナ、ローマ教皇発言に反発 ロシア思想家の娘爆殺で 8/27
ウクライナ外務省は27日までに、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇がロシアの右派思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘が車の爆発で死亡した事件に触れ、「戦争の犠牲となった罪のない人」と評した発言に失望を表明した。
教皇の言葉は、加害者と被害者を不公平にも同等に扱っていると指摘。ロシア領内で起きたロシア人の死亡をウクライナでの軍事衝突に絡めて言及することは混乱を生じさせるとし、ウクライナはこの死亡に関与していないことを主張しているともした。
ウクライナ政府は同国に駐在するバチカン大使を呼び、教皇の言動についての見解を説明したという。
フランシスコ教皇は今月24日、モスクワ市内で20日に起きた車爆発事件で殺害されたドゥーギン氏の娘のダリヤ氏は戦争で殺された「罪のない人間」の一人と形容。「車の座席の下の爆弾で宙に吹き飛ばされたこの可哀想な少女のことを考えている」とし、「罪のない人間が戦争の代価を支払った」とも続けていた。
ロシア側は事件はウクライナの治安機関の仕業と主張しているが、ウクライナは一切の関与を否定している。
●ウクライナ全土で急ピッチで新設される防空壕、生徒のために 8/27
ウクライナでは新しい学年は祝福で始まる。子どもたちはおめかしをして、教師に花束をプレゼントする。
だが、幸せな1日にロシアの侵攻が影を落とす。学校に戻ってくる子どもたちのために、国内の教育施設は現在急ピッチで防空壕(ごう)や地下シェルターを建設している。
学校が9月の始業式に向けて準備を進める中、多くの教育者は学校が攻撃に遭っても生徒たちの身の安全を守り、保護者を安心させることができないという事実と格闘している。「我が国の学校は防衛施設としての使用を想定して設計されていない」と、ウクライナの教育行政監察員セルヒー・ホルバチョフ氏はCNNに語った。
首都キーウ郊外の緑豊かなイルピンでは、第17学校の校舎のあちこちが戦闘で損傷を受けた。町でもとくに大規模な部類のこの学校では、6歳から17歳まで2400人以上の生徒が通っている。爆弾の破片で校舎の屋根は破損し、窓はすべて割れている。
色鮮やかな校舎の壁や床にぽっかりと空いた穴は、コンクリートや漆喰(しっくい)で修復された。学校内の地下シェルターは国連児童基金(UNICEF)の協力で再建が進められている。「安全で快適に過ごせるように、子どもたちが怖がらず、保護者が安心できるようにするためだ」と、第17学校のイバン・プタシュニク校長はCNNに語った。
17日に校舎を訪れた9学年のアンナ・クラシュクさんは、友人や先生に会えなくて寂しいとCNNに語った。「とても学校に行きたい。友達とハグしておしゃべりできる日が待ち遠しい」とクラシュクさん。隣にいる2年生のイバン・ピンチュクくんは「ウクライナが勝って、(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチンが死ぬこと」だけが望みだと語った。
戦争が勃発してからの6か月間、国が途方もない困難に見舞われている時期に、クラシュクさんやピンチュクくんをはじめとする子どもたちは新年度の準備を進めている。東部ではウクライナ軍が迫りくるロシア軍と戦闘を繰り広げ、国内経済はぼろぼろだ。
戦争により、子どもたちの生活や将来にも犠牲が及んでいる。ホルバチョフ氏の話では、戦争勃発から少なくとも361人の子どもたちが命を落とし、1072人が負傷した。ウクライナ政府が6月に行った調査によれば、ウクライナで暮らす570万人の就学児童(3〜18歳)が戦争の被害を受け、そのうち280万人が国内で避難生活を送っていると推定される。
国連の推計によれば、国外避難者は少なくとも630万人。その多くが女性や子どもたちだ。
デジタル化が進んでいることで知られるウクライナは、ロシア侵略の打撃が教育インフラに及ぶや、ただちにオンライン学習へシフトした。だが6月の教育ニーズ評価調査によれば、デジタル機器や高速インターネットの欠如が課題となっている。調査でも、オンライン学習の実施には生徒および教師用に20万3000台のタブレットと16万5000台のラップトップPCが必要だと指摘されている。
教育当局の関係者によると、ウクライナ国内1万7000カ所の学校のうち2300校が戦闘で損傷した。セルヒー・シュカルレット教育相は23日、大学を含む全学校のうち約59%は9月からの対面授業の再開には間に合わないだろうと述べた。どのぐらいの生徒が対面授業に出席できるのか、まったく予想ができない。
「今年度は困難を極めるだろう」とホルバチョフ氏も言う。「予測不可能で、非常に困難な状態でのスタートになるだろう。ロシアのミサイルはいたるところを攻撃してくるため、実際のところウクライナには安全な場所はひとつもない」
学習格差
新型コロナウイルスで2年間、戦争で半年を過ごした後、教育者はウクライナの子どもたちの間に広がる学習格差を懸念している。
NPO教育団体「Teach For Ukraine」を率いるオクサナ・マティアシュ氏によれば、生徒の習得度の尺度として信頼の高い「経済協力開発機構(OECD)国際学習到達度調査(PISA)」の2018年のスコアを見ると、ウクライナの地方と大都市で生徒の習得度に2年半の開きがあったという。同団体では低所得コミュニティーの学校に勤務する若手教員の訓練と採用を行っている。
PISAの結果からは、ウクライナの15歳の平均スキルが大半のEU諸国より低いことも判明した。パンデミック(世界的大流行)以降は最新の評価は発表されていないが、マティアシュ氏の考えでは学習格差は相当広がっているという。「ウクライナの多くの人々が、子どもや教員の支援、有償の学業支援にまで手が回らない状態だ。ウクライナの子どもたちは何カ月も、ひょっとすると何年も学習機会を失ってきたのではないだろうか」
保護者たちは安心して我が子を学校に送り出せるかどうか、決断を迫られるだろう。当然ながら、多くの保護者が二の足を踏んでいる。ホルバチョフ氏の話では、東部の前線付近で暮らす家庭ではオンライン学習を選択しているという。今やウクライナの各都市で日常生活の一部となった、絶えまない砲撃の危険と空襲サイレンがその理由だ。
11歳のズラータ・パブレンコさんが最後に1学年通して対面授業を受けたのは19年だった。
現在キーウの日当たりのよいアパートで両親と暮らすパブレンコさんはライラック色のベッドカバーの上に座りながら、パンデミックがきっかけで20年からオンライン学習をしていると語った。21年に1学期だけ学校に戻ったが、新たな感染の波で再び自宅学習を余儀なくされた。
子どもの教育の権利はもちろんのこと、ウクライナの生活がロシアの侵攻でことごとく支障をきたしている中、教室に戻りたいというパブレンコさんの希望も潰えた。パブレンコさんは家族とともにキーウを離れてウクライナ西部に避難。5月には戻って来られたが、36人のクラスメートの半数はいまも国外に留まっている。
パブレンコさんは9月1日の始業式には教室で授業を受けたいと心から願っているそうだが、学校内の地下シェルターは少人数の生徒しか収容できない。母親のハンナ・コバレンコさんの話では、シェルターの収容人数に合わせて子どもたちを分散登校させるか、あるいは完全にオンライン授業になるのか、近日中に判明するという。
「母親としては、自宅学習のほうが大変だ」と、会計士として働くハンナさんはCNNに語った。「(オンライン学習をしていると)子どもたちは互いにコミュニケーションをとることができない。だから娘には対面学習をさせたい」
精神的な支障
論理的思考スキルや問題解決能力を形成する社交生活は、学習でも大きなウェートを占める。そうした理由から、「最終的にはすべての子どもが学校に戻って、教室内で学習できる日が来てほしい」と、UNICEF代表のムラト・シャヒン氏はCNNに語った。
だが、戦争によって「子どもたちは満足に学習できず、交流もできず、当たり前の生活を送れていない」。同氏の説明によれば、UNICEFではウクライナ教育省と連携して、教員や家庭教師が少人数の子どもたちと定期的に連絡をとって「一緒に遊んだり、考えたり、さらには宿題も一緒に取り組めるよう」サポートする計画を立てているそうだ。
「幼い子どもたちや1年生にとって、大人と直に接することが必要不可欠だ。子どもは大人だけでなく、同年代の子どもと接することで多くを学ばなくてはならない。リモート形式でこれを達成するのは非常に難しい」とホルバチョフ氏も言う。
また戦争で教師の頭脳も国外に流出した。同氏によれば、ウクライナの教育者43万4000人のうち(大半が女性)2万2000人が国外に避難し、さらに大勢が国内で避難生活を続けているという。
国内に留まった人々も次第に不安を募らせている。「350人の教師を対象にアンケートを実施したところ、全員が子どもへの責任が増したことでつねに不安で胸がいっぱいだと答えた」と、Teach for Ukraineのマティアシュ氏は語った。
戦争によるストレスやトラウマは子どもたちにも広がり、学習能力にも支障をきたしている。パブレンコさんもおびえながら、「ロシア人がやって来て、戦車が私たちの町を走り回り、彼らが家のドアをノックすること。それが怖い」と語る。
ウクライナ教育省は23日に声明を発表し、ロシア人作家やベラルーシ人作家の作品の大半を外国文学課程およびロシア語の授業から除外したと発表した。ウクライナの歴史と世界史も改訂され、「最新のカリキュラムではソビエト連邦を帝国型の国家だとみなしている」とした。
「ウクライナではかれこれ2年ほど、法律により学校でロシア語だけを教えることはできない。ロシア語の授業に関しては、自分が民族的にロシア人だと考える保護者が申請書を提出すれば、マイノリティーの言語としてロシア語を学ぶことが認められる」とホルバチョフ氏は語った。「何より、我々はあちらの言語を理解できるが、あちらは我々の言語を理解できない。そういった点で、我々の方がロシア人より圧倒的に有利だ」
「失われた世代」
当然ながら教育者は、ヘルソンやザポリージャといったウクライナ南部のロシア占領地域で暮らす子どもたちの環境を懸念している。
ホルバチョフ氏によれば、現地で暮らす教師から「占領者の教育プログラムにしたがって勤務するよう強制されている」というメッセージが500件近く寄せられ、「ウクライナ語やウクライナ史は(教育)課程から撤廃された」という。また親ウクライナ派の教師は自宅から立ち退きを迫られ、逮捕・処刑の脅迫を受けているという報告もあると付け加えた。
「占領地域に残っている方々……教師の皆さんにお伝えしたい。ウクライナへの忠誠心を失わず、自発的に占領者への協力に屈せずにいることには非常に感謝している。だが(皆さんの)命のほうがもっと重要だ」(ホルバチョフ氏)
最重要課題は子どもたちを日常生活に戻し、戦争の恐怖から子どもたちの気を逸(そ)らせ、教育に再び価値を見出すことだとマティアシュ氏は言う。その理由として、同氏はTeach for Ukraineが行った別のアンケートを引き合いに出した。アンケートでは調査対象の子どもの半数近くが、重度のストレスを抱えていると回答した。また子どもたちは「身の回りのものがすべて崩壊しているのに、勉強する意味が分からない」と感じていると同氏は付け加えた。
「この戦争で失われた世代が生まれるリスクが出ている」と同氏は続けた。それを示す例が、国外に避難した人々が「ウクライナに戻らない一番の理由として子どもの教育を挙げている」点だ。
「だからこそ、最優先課題として適切な防空壕を校内に設置する必要がある。子どもたちが絶えず身の安全を気に病むことなく、しかるべき教育を継続して受けられるように」
●「毎日14万人が避難」ポーランド大使が語るウクライナと戦争 8/27
ウクライナから日本に避難している子供6人が参加したサマーキャンプが、愛媛県砥部(とべ)町の山間にある小学校跡地で開かれた。ポーランド人の子供3人も加わり、日本の子供たちと楽しんだ。言葉の壁はあったものの、次第に互いの理解を進め笑顔で交流していた。
日本に来てほっと
サマースクールは8月上旬に開催。松山市に拠点を置く「郷土愛媛と国際社会を考える会」(松下文治会長)が主催し、今年で第36回となる。開催場所は松山市から車で1時間ほどの山間部にある旧砥部町立高市小学校跡地だ。
日本の子供52人に加え、駐日ポーランド大使館のパヴェウ・ミレフスキ大使の7〜15歳の子供3人と、ロシアの軍事侵攻の戦火を逃れて来日している5〜11歳のウクライナ人6人も参加した。
6人は日本に避難後、東京にある「ウクライナ日曜学校」に籍を置いている。同校は日本在住のウクライナ人に、同国の文化や言葉を教える目的で設置されており、引率したスウェド・オリガさんによると、子供たちは普段は日本の学校に通い、日曜日に同校に来ているという。
オリガさんは「子供たちは長い避難生活でとても疲れている。やっと日本に来てほっとしているところ。キャンプは面白そうだと思って来ました」と話した。
オリーヴィア・ジブロフシカさん(11)は弟のヤン君(8)とキャンプに参加した。ウクライナのリビウを経てポーランドのワルシャワへ、そして3月末ごろ、日本にやってきた。「さまざまなイベントに期待しています。いろいろなところを回ったり、新しいことを見たり聞いたりしたい」と話した。
ポーランド大使の思い
ウクライナ人の参加は、駐日ポーランド大使館(東京)の仲介と協力で実現した。
サマースクールを開いた松下会長は柔道の指導者でもあり、NPO法人「国際交流支援協会」理事長として活動を続けている。ポーランドとも長年の関係を構築していることから、ミレフスキ大使は松下さんの活動に共感。自らの3人の子供をこの夏のキャンプに預けたいと声をかけたのが始まりだった。同時にミレフスキ大使は隣国支援の一つとして、ウクライナの子供たちにも参加してもらおうと考えたという。
8月7日、東京へ帰る子供たちを迎えるため、エルジュビエタ夫人とともに松山市内の松下さん宅を訪れたミレフスキ大使は、産経新聞のインタビューに答える形でウクライナから避難している人々の状況などについて述べた。
今年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻で、ポーランドには当初、毎日約14万人が国境を越えてきた。そのほとんどは女性と子供だった。一時は約520万人に達し、今も約240万人がポーランドで避難生活を送っているという。
「ヨーロッパの歴史で、それだけの避難者を受け入れた国はありません。ウクライナの人たちは戦争が終われば、すぐにでも家族に会いたいと願うもの。それで隣国のポーランドを選んでいるのです」
ポーランドではウクライナから避難してきた人々を「難民」とは呼ばないとミレフスキ大使は強調した。「大統領が『難民と思わず、友達、親族だと思って受け入れよう』と国民に呼びかけている。実際に戦火を逃れてきた人々をそれぞれ家庭で受け入れている。証明カードを提示すれば、教育や食事、医療などは無料で受けられるようになっている」という。
「アジアで一番、日本人、日本政府が心配してくれていることに私は感動しています。ウクライナ人を受け入れ、復興に協力すると言ってくれている」。そう話すミレフスキ大使は6日、広島市で行われた「原爆死没者慰霊式・平和祈念式」(平和記念式典)に出席していた。
その体験を踏まえて日本人が遠く離れた東欧の出来事に強く心を寄せる事情について、「ワルシャワも第2次世界大戦で壊滅状態になった。日本も同様に戦災に遭っているので、ウクライナが大変なことを理解しやすいのでしょう」と話し、戦争の痛みを今も知っている国だから、人ごとではないとウクライナに思いを寄せることができるのだという見解を示した。
「私はウクライナの平和を心から願っている。ロシアの侵略がいつ終わるか分からないが、終息すれば日本とポーランドが協力して、早く復興するようにしたい」と話した。
国際色豊かにキャンプ
サマーキャンプにはマレーシアからの留学生3人、ザンビアの元大統領補佐官、ジウカニ・スワレさんも参加した。体育館で行われた開校式で、松下会長が「地球上に住んでいる人はみんな幸せに暮らしたいと願っている。そのためには、友情や愛情が大切です。子供のときに一緒に楽しんでいたら、大人になっても楽しくともに生きられる。それを考えるのがこのキャンプの目的です」とあいさつし、開校を宣言した。
キャンプ地となった砥部町の佐川秀紀町長は「今、ウクライナではロシアによる侵攻で戦争状態になっている。一日も早く終息し、平和が戻るよう願っています。国際色豊かなサマースクールを楽しんでください。よい思い出になるよう期待します」と話した。
●プーチンを掲げる露のテロル集団が登場?ダリア・ドゥーギン暗殺事件 8/27
ここ最近、ウクライナ関連で、ネットで一種異様な盛り上がりを見せているのが、「国民共和軍」への関心である。
8月20日、「プーチンの頭脳」と呼ばれるロシアの極右思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリア氏が暗殺された。
翌日に犯行声明を出したとされるグループが「国民共和軍」。英語にするなら「National Republican Army」である。
しかし欧州の大手メディアは、取り上げるのに慎重である。この組織は実態が確認されていないからだ。組織名を名乗っているが本当に集団なのか(一人だけ?)、本当に犯行を行ったのか、そもそも本当に存在するのかすら不明なのだ。逆に、存在するとしたら、誰が何が背後にあるのかもわからない。
それなのに、なぜネットで異様に湧き上がるのか。それは、この集団は反プーチンを掲げており、あたかもプーチンを打倒すべく立ち上がった、テロルを目的とした秘密結社であるかのような印象を与えるからに違いない。ああ、なんだかあまりにもヨーロッパ的だ・・・。
この「組織」の存在に信憑性を与えている唯一といっても良い存在が、ロシアの元国会議員のイリヤ・ポノマレフである。彼が、ダリア氏への襲撃は、ロシアの無名のグループ「国民共和軍」が犯行声明を出したと述べたのである。
ポノマレフ氏は、ロシアでは政治家としても実業家としても、重要人物の域に入る人物だった。
自分のもとに送られた「国民共和軍」の声明文を許可のもとに披露するとして、彼は自分のネットのアカウントで紹介、そして彼らのマニフェストも紹介している。
「プーチン大統領は憲法を改ざんし、スラブ民族間の戦争を引き起こし、ロシア兵を確実で無意味な死へと導いた戦争犯罪者であることを宣言する」
「我々は、ロシアに住むすべての人々に自由を与え、新しい社会を築くのだ。寡頭制のない社会、汚職のない社会、役人の恣意性のない社会、屈辱的な貧困のない社会だ」
「プーチンは我々によって退陣させられ、滅ぼされるのだ」
「自由ロシア万歳!」
気骨ある野党の政治家、ポノマレフ
イリヤ・ポノマレフは、2007年から2016年までロシアの下院議員だった。
プーチン大統領率いる与党「統一ロシア」党を、「詐欺師と泥棒」と呼んで注目された。2014年3月、彼はクリミア併合に反対票を投じた、唯一の国会議員だった。
ちなみに母親は上院議員で、ロシアの国会で反マグニツキー法に反対票を投じた唯一の議員で、辞職に追い込まれたという(マグニツキー法についてはここをクリック)。反骨精神がしっかりしているのは、家族の環境かもしれない。
2007年から2013年まで、野党の社会民主主義政党「A Just Russia」の中央委員会委員を務めた。
アメリカ滞在中に帰国が禁止されてしまい、その後はウクライナに住み、2019年には同国の市民権を取得した。
戦争が始まってからは自ら動画チャンネル「Utro Fevralya(2月の朝)」をYouTubeに設立し、キーウから反戦運動の情報を放送していた。彼は反ロシアではなく、反プーチンの活動であると主張している。
ダリア・ドゥーギンが暗殺された翌日の8月21日、彼は自分のチャンネルの19時の放送で、ダリア氏への襲撃について、ロシアの無名のグループ「国民共和軍」が犯行声明を出したと述べた。
英『ガーディアン』は、彼は「昨夜、モスクワ近郊で重大な事件が起きた。この攻撃は、プーチン主義に対するロシアの抵抗に、新しいページを開くものだ。新しい、しかし最後ではない」と述べた報じている。
ベルギーの『ラ・リーブル』によれば、彼は、「国民共和軍」は、ロシアの支持者たちが地下作戦で、プーチン政権を転覆させようとしているグループだという。
さらに、ロシアの支援者たちは、クレムリンにつながる高官をターゲットにした同様の攻撃を他にも行う用意があるとも主張しているという。
自分はメンバーではないが、支援しているとも別途述べている。また、「国民共和軍」は、組織というよりは、むしろ「ネットワーク」であり、区分けされ自律した秘密の細胞から構成されているとされていると述べている。
以下は、彼のツイートである。
<訳>国民共和軍は、プーチンのファシストの背後に第2の戦線を開いた。主戦論者ども、資金提供者、戦争の「志願者」はもはや安全ではない。 ブチャや他の第64「衛兵隊」旅団の処罰者、ブチャの死刑執行人、および他の戦争犯罪者は安全ではない。
また、彼のSNSテレグラムのチャンネル「rospartizan」に、国民共和軍のマニフェストが(組織の許可のもと、ということで)公開された。
それによると、「我々はロシアの活動家、軍人や政治家、今や国民共和軍のパルチザンである。我々は、主戦論者ども、ロシアの人々の簒奪者であり抑圧者を非合法化する」、「ある者には貧困と棺桶を、他の者には宮殿をーーそれが彼(プーチン氏)の政策の本質である」、「選挙権を奪われた人々には、暴君に反抗する権利があると我々は信じている」等とある。
ただしマニフェストのほうには、ドゥーギン親子の名前や、娘の暗殺に関する内容は出てこない。
真実は、まだ誰にもわからない。グーグルでは、フランス語検索では「A gauche.org」の記事が上位に来るが、そこには「実際には中心となるのはポーランドである」と書かれている。もしこの組織が真に存在するなら、そうかもしれないとも思うし、違うかもしれない。
一方、ロシア側は、露連邦保安庁(FSB)が、ダリア氏を殺害したのは、1979年生まれのウクライナ人女性であり、犯行翌日にはエストニアに逃亡したと発表した。
ウクライナ当局のほうは関与を否定している
ベルギーの『7 sur 7』によると、ロシア治安機関による「偽旗作戦」ではないかとの見方もあるという。
戦争反対派への国民の敵意をあおり、ウクライナに対するより厳しい弾圧を正当化するために、ドゥーギン氏の娘を犠牲にしたという説である。
真相はわからない。
ちなみに「国民共和軍」は、侵攻開始以来、戦争反対派のロシア人のシンボルとなりつつある「白・青・白」のロシア旗を使うように勧めている。
旗を考案した人達は、ロシア国旗の赤は、今や血と暴力、ツァーリズム(ロシア皇帝絶対君主制)、軍国主義や権威主義的な強さを連想させるので、外したのだという。
ポノマレフ氏の考えていること
ポノマレフ氏は『キーウ・ポスト』のインタビューに対して、「国民共和軍」は「社会正義を受け入れ、オリガルヒを排除し、長期的にはエリツィンやプーチンの新自由主義的アプローチから離れます」と説明している。
また「私の直感では、実際の核は十数人だと思います」と述べている。
さらに「私は最近、『プーチンは死ななければならないのかーーウクライナに負けたロシアが民主化するまでの物語』という本を書きました。そこには、プーチンを政権から排除することが急務であり、ウクライナが勝利することが確実であるという私の意見がはっきりと書かれています。プーチンが権力を握っている限り、世界は安全ではありません」とも述べている。
そして、「国民共和軍」への支持を発表してからの反響について問われ、「ロシアの野党の多くの人たちを不安にさせました。プーチンに狙われたくないということで、来週予定されていた野党の会合から私は外されました」、「しかし、私は常に、言葉よりも行動が重要だと考えています」と語った。
<ポノマレフ氏のYouTubeアカウント>
それと、「国民共和軍」と、なぜ「軍」という名前がついているのか。
これに対する疑問は、『スペクトル(Spektr)』のインタビューで、大変興味深い言及があった。
インタビュアーが「国民共和軍は、あなたにメディアで代表する権利を委任したのでしょうか。あなたの話は、アイルランド共和軍(IRA)がシン・フェイン党という政治的な翼を持ち、その党首ゲリー・アダムスがほとんどIRAの公式なパイプ役とみなされていた1970年代から1980年代の北アイルランド紛争に、非常によく似ていますね」と尋ねた。
ポノマレフ氏は「あなたの言っているモデルは、かなり像に近いと思います」と認めた。
ただし、「今のところ、IRAのように、統一司令塔である軍事評議会が存在する組織はありません。IRAは1つの司令部を持つ軍事組織でした。
国民共和軍には、指揮権の統一は見られません。クラウド・ネットワーク構造であり、そこにはイデオロギーの中心であるようなものがあることがわかります」と答えている。
またインタビュアーは、国民共和軍はマニフェストからして、明らかに左翼思想を理解した有能な人物が書いたものであると述べ、活動員は誰なのか、「郊外の労働者階級」の代表者には見えないと尋ねている。
これに対しポノマレフ氏は、自分が書いたのではないと否定している。
そして「『草の根』からの素朴さを持った人たちがいます」「彼らは少数派です」、「私が(創設した)左翼戦線に取り組んでいたときの個人的な経験によると、ロシアのさまざまな急進的な若者で、人々の一部は都市の郊外、社会的底辺から来ました。
とはいえ、彼らのほとんどは教育を受けた人々で、目が燃えていました。おそらく、彼らは20世紀初頭にボルシェビキを支持した人々と変わらないでしょう」と答えた。
また「今、ロシアには平和的な抵抗勢力は存在しません。ロシアでは平和的な抵抗を少しでもすると、牢屋に入れられるんです」、「残るはただ一つです」と言った。
その後インタビューは、ロシアのテロの長い歴史についての会話があった後、彼は「純粋なテロ組織が権力を握った例として、例えば南アフリカのアフリカ民族会議があります(※この軍事部門「民族の槍」は、1961年から1991年までアパルトヘイトに対するテロ活動を行った。後に南アフリカ初の黒人大統領となるネルソン・マンデラが、キューバ革命に触発されて創設)。さらに5つほどの例を挙げることができます」と答えている。
さらに、インタビュアーは「過去100年間でのロシア社会の最悪の恐怖、つまり革命への恐怖、内戦への恐怖を踏みにじったと思いませんか。この恐怖が、暴力的な闘争方法を忌み嫌っているリベラルな見解を持つ多くの人々を、あなたから遠ざけていると思いませんか」と質問した。
これに対しポノマレフ氏は、「最も恐ろしい恐怖はエリートの間にではなく、言ってみれば「深層の人々」にあるとしましょう。これは内戦の恐怖ではなく、国の崩壊の恐怖です。プーチンが評価されている業績は安定であり、彼が国の崩壊を止めたという事実です」と答えた。
続けて「それどころか、彼はいま国の崩壊を引き起こしていると思いますが、市民は別の受け止め方をしています」、「プーチンはすでに戦争を始めているのです。内戦を呼びかけるようなことは当然してはなりません。かわいそうなウクライナを助けるべきだ云々と言って去っていったリベラルの人たちが理解していないのは、私たちは戦争状態にあるということです。ロシアでも、みんながそれを理解しているわけではありません」と述べている。
以上、いかがだっただろうか。
ダリア氏殺害は誰によるものなのか、結局、真相はわからないし、「国民共和軍」の実態を確認できたメディアは、現段階では存在しないことは改めて述べておきたい。
それでも一部で大変な反響があるのは、ヨーロッパ人らしい感度というべきだろうか。
余談だが、欧州の歴史で学んできたようなことが、いま現実に起きているなんて、戦争のフロントに勝るとも劣らないくらい、社会に起きていることがショックの連続で、心の立て直しが大変なくらいである。
命を賭けた戦いを報じる側は、彼らの足元にも及ばないにせよ、書く方にも今までに経験したことのない疲れをもたらしている。
●NPT再検討会議 ロシアの反対で「最終文書」採択できず  8/27
世界の核軍縮の方向性を協議するNPT=核拡散防止条約の再検討会議は最終日の会合が開かれましたが、ウクライナ情勢をめぐる対立が解けず、「最終文書」の草案にロシアが反対したことから、文書は採択されませんでした。
再検討会議が前回7年前に続いて合意に至らなかったことで、世界の核軍縮がさらに停滞するのは避けられない事態となりました。
4週間にわたってニューヨークの国連本部で開かれていたNPTの再検討会議は26日午後、日本時間の27日午前8時半ごろから最後の全体会合が開かれました。
この中でスラウビネン議長は合意を目指してきた「最終文書」について「残念ながらただ1つの国が異議を唱えている」と述べ、続いてロシアの代表が発言を求め「文書は各国の立場を反映しバランスが取れていなければならない。残念ながらこの文書はそうなっていない」と述べ、合意できないという姿勢を示しました。
この結果、全会一致での合意には至らず、「最終文書」は採択されませんでした。
最大の争点となってきたのは、ロシア軍が掌握し砲撃が相次いでいるウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所をめぐる扱いで、ロシアとウクライナやヨーロッパの一部の国の間で対立が続いてきました。
前日に議長が示した「最終文書」の草案は、原発周辺での軍事活動に重大な懸念を示しながらも、ロシアを名指しで非難せず「ウクライナ当局による管理の重要性を確認する」という表現にとどめられましたが、ロシアはなお難色を示していました。
今回の再検討会議はウクライナ情勢の影響を受け終始議論が紛糾し、前回7年前に続いて最終文書を採択できなかったことでNPT体制への信頼が揺らぎ、世界の核軍縮がさらに停滞するのは避けられない事態となりました。
ロシア代表「採択には応じられない」
ニューヨークの国連本部で開かれているNPT=核拡散防止条約の再検討会議で26日、最後の全体会合が開かれ、ロシアの代表は最終文書の草案について「文書は各国の立場を反映しバランスが取れていなければならない。残念ながらこの文書はそうなっていない」と述べ、異議を唱えました。
そのうえで「いくつかの項目を変更する必要がある。もし希望があれば、われわれは時間をかけて合意に向けて対応する。しかし、それを望まないのであれば、この草案の採択には応じられない」と述べ、合意できない姿勢を示しました。
アメリカ代表「会議決裂の責任はロシアにある」
NPT=核拡散防止条約の再検討会議でロシアの反対によって最終文書が採択されなかったことについて、アメリカの代表は「最終文書の草案ではザポリージャ原発にもたらされている危機を反映できなかった」と述べました。
そのうえで「会議が決裂した責任はロシアにある。ロシアが求めた草案上の変更は小さなものではなく、ウクライナを地図から消そうという企てを覆い隠そうとするものだった」として、草案の文言の変更を求めたロシアを非難しました。
EU代表「ロシアの侵略行為などで合意困難に 強く失望」
NPT=核拡散防止条約の再検討会議でロシアの反対によって最終文書が採択されなかったことについて、EU=ヨーロッパ連合の代表は「会議では核軍縮、核の不拡散、核の平和利用について、いずれも具体的な進展につながる議論が行われていたのに、合意に至らなかったことに強く失望している」と指摘しました。
そして「ロシアのウクライナに対する容認しがたい侵略行為などによって、合意にいたることは非常に困難だった。われわれはロシアの不当な侵略を引き続き糾弾する」とロシアを非難しました。
さらにロシア軍が掌握し砲撃が続いているウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所の状況に懸念を示したうえで「ロシアに対し原発をウクライナ当局の管理下に戻すよう求める。ロシアが直ちに侵略を終わらせ、ウクライナの領土から軍隊を撤退させるよう、繰り返し訴えていく」と述べました。
オーストリア外務省局長「ビジョン共有できず 現状維持に」
NPTとの関係が焦点となっている核兵器禁止条約の成立に尽力し、ことし6月に開かれた初めての締約国会議で議長も務めたオーストリア外務省のクメント局長は「一部の国の見方が他の国の安全保障を犠牲にすることがあってはならない。私たちはNPTが目的を達するというビジョンを共有できず、現状維持にとどまる結果になった」と述べ、会議の結果への失望感を示しました。
そのうえで「4週間にわたるNPTの会議は、同時に核兵器禁止条約への理解を広げる場でもあったが、それが不可能であることがわかった。私たちは核による悲劇をなんとしても防ぐために、努力し続けなければならない」と述べ、NPT体制の限界を指摘しました。
ウクライナ代表「会議でロシアの孤立が明らかに」
NPT=核拡散防止条約の再検討会議でロシアの反対によって最終文書が採択されなかったことについて、ウクライナの代表は「残念ながらロシアにはNPT体制を積極的に支持する意思がない。今回の会議を通じてロシアがいかに孤立しているかが明らかになった」と述べ、ロシアの姿勢を非難しました。
一方で「各国はウクライナへの強い支持を表明し、ウクライナが核兵器保有国による攻撃にさらされる中、私たちは孤立していないと実感することができた」と、各国からの支援に感謝の意を示しました。
また、ロシア軍が掌握し砲撃が相次いでいるウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所について「ロシア軍から絶えず攻撃を受け、原子力災害の危機が迫っている」と述べ、強い危機感を示しました。
この発言のあと会場では数十秒にわたって拍手が続き、各国がウクライナへの連帯の意思を示しました。
NPT スラウビネン議長「ロシアと交渉続けたが合意得られず」
26日に閉幕した、NPT=核拡散防止条約の再検討会議のスラウビネン議長は会議の終了後、会場となった国連本部で記者会見を開き、最終文書を採択できなかった理由について「ロシアの代表団がロシアの管理下にあるウクライナの原子力発電所について、重要な変更をしなければ賛成できないとの立場を示したためだ」と説明しました。
そのうえで「ロシアも受け入れられるような表現を探ろうと、最後の全体会議を数時間遅らせて交渉を続けたが、合意を得ることはできなかった」と述べました。
長崎 被爆者団体議長「問題放置されれば 核兵器が野放しに」
NPT=核拡散防止条約の再検討会議が前回7年前に続いて最終文書を採択できなかったことについて、長崎の主な被爆者団体の1つ「長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会」の川野浩一議長は「再検討会議が始まる前から、合意に至らないのではないかという懸念があったが『やっぱり合意に至らなかったか』と感じた。妥協に向けて各国の歩み寄りの姿勢が当初からなかったのではないかと思う。NPTが今回も合意できなかったことはNPTという核拡散防止の条約体制が全く機能しないという現実に世界がどう対応していくのかという新たな問題が出てくる。問題が放置されれば核兵器が野放しになっていき、それは非常に恐ろしいことだと思う」と話していました。
また会議の中でNPTを重視する日本政府が『橋渡し』役を果たすとして各国に歩み寄りを求めて活動したことに関連しては「日本が日米安保に軸足を置いたまま『橋渡し』と言っても他国は振り向いてくれないと思うし、そういう結果だったと思う。『橋渡し』と言うが、日本はことばだけで何もしていないので、日本の信頼感も失われると思う」と懸念を示しました。
広島 被爆者「がっかりのひと言 生きているうちに核兵器ゼロに」
世界の核軍縮の方向性を協議するNPT=核拡散防止条約の再検討会議の「最終文書」が採択されなかったことについて、広島県被団協=広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之 理事長は、NHKの取材に対し「世界の核軍縮が進むことを期待していたが、文書が採択されず広島の被爆者としては、がっかりのひと言だ。今の状況ではNPT体制には価値がないように思ってしまう。生きているうちに核兵器をゼロにすることが目標だが、『核軍縮』ということばすら宇宙のかなたへ行ってしまっているように感じる」と話していました。
また、再検討会議に合わせて現地を訪れたもう1つの広島県被団協の佐久間邦彦 理事長はNHKの取材に対し「最終文書が採択できなかったのは非常に残念だ。今後、別の機会を設けて改めて議論してほしい。決裂しても広島からやっていくことに変わりはないので、これまでどおり核兵器廃絶を訴えていきたい」と話していました。
スピーチ行った被爆者「核保有国の傲慢や不誠実さが結果招いた」
NPT=核拡散防止条約の再検討会議が前回7年前に続いて最終文書を採択できなかったことについて、今回の再検討会議で現地でスピーチも行った長崎の被爆者の和田征子さんは、NHKの取材に対し「今回の会議でどこか光を見いだせることができればと思っていましたが、最終文書を合意できなかったことは本当に残念です。今回の結果を招いたのは核保有国の傲慢や不誠実さであり、核廃絶というゴールは同じだと言っているのにそういった兆しさえ見えない現状を悔しく思います。それでも諦めるわけにはいかないので、被爆者としてこれからも訴え続けていきたい」と話していました。
広島県被団協 箕牧理事長「日本政府の対応に疑問」
NPT=核拡散防止条約の再検討会議で最終文書が採択されなかったことについて広島県被団協=広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之 理事長は「被爆者としては、激しい怒りや残念さ、歯がゆい気持ちを感じる。NPTの存在感がこれから薄れていってしまうのではないか。何が起こるかわからない時代になるのではないかと心配している」と話していました。
そのうえで「少なくとも被爆者が生きている間には核兵器をなくしてもらいたい。核兵器が非人道的だと訴えてきたが、なかなか政治家は聞いてくれない。広島でG7サミットもあるので、核兵器が使われた時の実相をみて理解してもらいたい」と話していました。
また、再検討会議での日本政府の対応については「核兵器の保有国と非保有国の間を取り持つといいながら存在感が見えなかった。日本政府の対応は非常に疑問だ」と批判しました。
広島県被団協 佐久間理事長「被爆国としての役割果たせず」
NPT=核拡散防止条約の再検討会議で最終文書が採択されなかったことについて再検討会議にあわせて現地を訪れた被爆者で広島県被団協=広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦 理事長は「2回連続で会議が決裂することはないだろうと思っていたが残念だ。今回の会議で日本は唯一の被爆国として核兵器廃絶を訴える役割を十分に果たせていなかったと感じる」と話していました。
そのうえで「NPTの精神をそれぞれの締約国が守りいかにして核をなくすための方針を作っていくかを皆で考えていかなければならないと思う。これからも核兵器の悲惨さを訴え続けていきたい」と話していました。
日本被団協 代表委員「くじけず合意できなかったこと克服を」
NPT=核拡散防止条約の再検討会議が前回7年前に続いて最終文書を採択できなかったことについて、日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会の田中煕巳 代表委員はNHKの取材に対し「今回の会議で核廃絶に向けて前進する方向で合意できれば私たちの運動もさらに発展させることができた。ロシアによるウクライナ侵攻もあって、会議の成果に期待をしていただけに、最終文書が採択されなかったことは非常に残念に思う」と述べました。
そのうえで「核廃絶に向けてこれまではNPTしかなかったが、今は核兵器禁止条約があり、それを武器に前進させることができる。ここでくじけずに今回合意できなかったことを克服していかないといけない。被爆者は高齢化しており、若い時のようにはいかないが、これからもますます力強く核廃絶の運動を広げていきたい」と話していました。
広島 松井市長「核兵器廃絶願う被爆者の願い断ち切るもの」
NPT=核拡散防止条約の再検討会議で最終文書が採択されなかったことを受けて広島市の松井市長はコメントを出しました。
この中では「核兵器廃絶を願う被爆者の願いをいわば断ち切るもので極めて残念だ。前回に続いて交渉が決裂したことは核兵器のない平和な世界の実現を目指すこととした人類の決意に背くとともに武力によらず平和を維持しようとする困難な理想を追求することを放棄することになり、真に危機的な状況を招くことになるのではないか」と指摘しています。
そのうえで「広島市としてはこうした動きを押しとどめるべく、最終文書の策定過程の中で若い世代の被爆地訪問や被爆者との交流の重要性が指摘されたことを重く受け止めて、いっそう『迎える平和』の取り組みを強化していきたい」としています。
また、松井市長は核兵器廃絶を目指す国内外の自治体でつくる「平和首長会議」の会長として「世界の加盟都市の首長と共に市民の安心・安全な生活を守るためにあらゆる暴力を否定する平和文化を振興し為政者が核抑止力に依存することなく、対話を通じた外交政策を目指す環境づくりを推進していきたい」とするコメントを出しました。
長崎 田上市長「核保有国は特別な責任負っていること自覚を」
長崎市の田上市長はコメントを発表し「被爆地長崎として大きな失望を感じるとともに、強い憤りを感じる。今回の結果はNPT体制そのものへの信頼を大きく損なわせるものであり、最終文書案に反対したロシア政府をはじめ核保有国におかれては、NPTによって特別な責任を負っていることを自覚し、条約義務及びNPTの枠組みにおける過去の合意の完全な履行に向け、即時の行動をとるよう強く求める」としています。
武井外務副大臣「ロシアのみがコンセンサスをブロックした」
NPT=核拡散防止条約の再検討会議に出席した武井俊輔 外務副大臣は、ロシアの反対によって最終文書が採択されなかったことについて「最後の最後までできる限りの努力をしたが、ロシアのみがこのコンセンサスをブロックし、成果文書の採択に至らなかったことについて、強い遺憾の意を表明した」と述べ、ロシアの対応を強く批判しました。
一方で、NPTの再検討会議が2度続けて合意に至らなかったことについて「これまでの交渉の過程において各国の代表団は立場を超えて真剣に、かつ精力的に合意を模索してきた。NPTの維持強化や重要性については締約国間で認識を共有できたと考えている。ロシア自身もNPT体制そのものについては否定する発言をしておらず、締約国が目指している方向性が毀損されたとは思っていない」と述べ、一定の成果があったという認識を示しました。
また岸田総理大臣が会議初日に表明した核兵器の廃絶に向けた日本の行動計画、「ヒロシマ・アクション・プラン」について「日本の考え方や具体的な提案、特に教育プログラムについて非常に多くの国の理解と支持を得た。今後の核軍縮の一定の流れを作りだせたと認識している。今回の会議での議論を踏まえて前を向いて進んでいかなくてはいけない」と述べ、意義を強調しました。
ICAN 川崎委員「核軍縮進めるための国際体制強化が急務」
NPT=核拡散防止条約の再検討会議が前回7年前に続いて最終文書を採択できなかったことについて、ICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンの川崎哲 国際運営委員はNHKの取材に対し「最終文書に反対したロシアの責任は非常に大きいが、それとともに核保有国全体の問題でもあると思っている。この1か月の議論で核保有国の身勝手なふるまいが非常に目立ち、そういったわがままや傲慢さが結果として表れたと感じている」と述べ、核保有国の姿勢を非難しました。
そのうえで「核保有国が自分たちに嫌なものはすべてブロックすることが繰り返されるNPTだけでは、核兵器廃絶はとても無理だということが今回明らかになった。さらに、国際法の信頼性が揺らぐような事態が繰り返されたことで、法ではなく力に頼るしかないという流れに世界が向かっていくことを非常に危惧している。ここは何とか踏みとどまってNPT体制を立て直し、それだけに頼るのではなく、根本的に核兵器はいけないというメッセージを持った核兵器禁止条約の参加国を増やすことで核保有国を包囲する大きな国際世論を形成し、核軍縮を進めていくための国際体制を強化していくことが急務だ」と指摘しました。
専門家「核廃絶に向け 原点に立ち返り再確認することが重要」
NPT=核拡散防止条約の再検討会議が前回7年前に続いて最終文書を採択できなかったことについて、国際政治が専門の明治学院大学の高原孝生教授はNHKの取材に対し「2回続けて最終文書を採択できなかったことでNPTの存在意義が揺らぎ始めてしまうことは、国際協調主義が後退することにもつながりかねず非常に残念だ。NPTはすべての核保有国が加盟していないなど、限界があることはこれまでも指摘されている。核兵器が世界のすべての国の問題であり、核廃絶に向けて国際条約で核兵器を規制していくことの必要性を原点に立ち返って再確認することが重要だ」と指摘しました。
一方で、今回の最終文書について多くの国が受け入れる姿勢を示したことを踏まえ「最終文書の合意寸前まで至ったということは、各国が同意できる着地点が見えていたということであり、そこには前回の会議よりも進んだ点があったのだと思う。今回の会議で国際合意ができかけていることが確認できた事項は今後の議論のとっかかりになるわけであり、それは進展だと言える。最終文書が合意できなかったからといって会議に意味がなかったということではない」と話しています。
専門家「失敗に終わったと片づけず 目標に向かって進むべき」
NPT=核拡散防止条約の再検討会議に日本政府代表団のアドバイザーとして参加した一橋大学の秋山信将教授は、会議の終了後、NHKのインタビューに応じました。
この中で秋山教授は、今回の再検討会議について「ある国家が別の国家に侵略行為を行い、戦争状態にあるという前代未聞の状況の中で開催された」と述べ、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が会議に大きく影響したと指摘しました。
最大の焦点となった、ロシア軍が掌握したウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所について、最終文書の草案には一時、ロシアによる軍事活動に重大な懸念を示す文言が盛り込まれましたが、その後、ロシアを名指ししない表現に弱められました。
これについて秋山教授は「草案はロシアを名指ししなくても誰にでも分かるような表現になっていたことから、ロシアとしては受け入れられなかったのではないか」と述べ、最終文書の草案のウクライナ情勢をめぐる文言をロシアが受け入れなかったことが文書を採択できなかった要因だという見方を示しました。
そして「最終文書が2回続けて採択されなかったことは非常に残念なことだ。採択されないことでNPTの意義やそのプロセスに疑問をもつ人は少なからずいる」と指摘したうえで「失敗に終わったというふうに片づけず、国際社会が核軍縮という目標に向かって少しずつ進んでいかないといけない」と述べました。
また今後の日本の役割について「核保有国と非保有国、それから異なった利害を抱える国々の間で、共通の利益を見いだすことがとても重要であることが今回の再検討会議で認識された。今後、日本が自覚と責任を持って橋渡しの役割を行っていくことが求められる」と強調しました。

 

●ウクライナ穀物の輸出、100万トン超える ゼレンスキー大統領 8/28
国連やトルコが仲介し、今月再開していたウクライナ黒海沿岸からの穀物などの輸出について、ゼレンスキー大統領はこれまでの輸出量が100万トンを超えたと明らかにしました。
ロシアが軍事侵攻後、黒海を封鎖したことで停滞していたウクライナ産穀物など、農産品の輸出は、国連とトルコの仲介を受けて今月1日から再開しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は26日までに100万トンが輸出されたと明らかにしました。
これまでに44隻の船が15か国に輸出していて、今後、目標となる輸出量は毎月300万トンとしています。
国連によりますと、輸出先はトルコやイラン、韓国、中国などで、一部はジブチにも出荷されたということです。
国連の調整官は、次の収穫に向けて貯蔵施設のスペースを確保するためにもさらに輸出を進めていく必要があると話しています。
●ウクライナ東部、南部で戦闘続き原発の安全見通せず 8/28
ウクライナに侵攻したロシア軍は27日、親ロ派が支配地を拡大する東部ドンバス地域や、2014年に強制編入したクリミア半島につながる黒海沿岸の南部を中心に軍事作戦を続けた。南部にある欧州最大のザポロジエ原発周辺での戦闘も止まっておらず、原発の安全は見通せない状態だ。
プーチン大統領は27日、ドンバスの親ロ派「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」などからロシア領内に避難した人々に無期限の国内滞在を許可し、年金などの支払いを命じる大統領令に署名。親ロ派の住民を支える姿勢を鮮明にした。
ロシア国防省の27日の戦況説明によると、ロシア軍は東部ハリコフ州でウクライナ軍の機械化旅団と空挺(くうてい)部隊を攻撃し200人以上を殺害。南部ヘルソン州ではウクライナ部隊の渡河を阻止し130人以上を殺害した。東部ドネツク州や南部ザポロジエ州でもウクライナ軍陣地を攻撃。東部ドニエプロペトロフスク州では米国が供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」の弾薬庫を破壊したとしている。
タス通信によるとウクライナ側も27日夜、ドネツク州やヘルソン州でロシア側への砲撃を続けた。 
●IAEA ウクライナの原発立ち入り調査を調整 安全性の確保なるか  8/28
大規模な事故への懸念が高まるウクライナの原子力発電所をめぐり、IAEA=国際原子力機関が今週にも現地入りする方向で調整を進めています。ただ、原発を掌握するロシア軍が、敷地内で進める軍の増強について従業員に口外しないよう圧力をかけているとも指摘され、原発の安全性の確保につなげられるかが焦点となっています。
ウクライナ南東部にあるヨーロッパ最大級のザポリージャ原発では、27日も敷地内で砲撃が繰り返しあり、ウクライナとロシアの双方が相手の攻撃だと非難しています。
また、ロシア国防省は28日「過去24時間に、ウクライナ側から原発の敷地内に2回、砲撃があった」と主張した上で「原発周辺の放射線のレベルは通常だ」としています。
大規模な事故への懸念が高まる中、IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長が今週にも専門家チームを率いて現地入りする方向で調整を進めています。
ただ、ウクライナの原子力発電公社「エネルゴアトム」は、ロシア軍が原発の従業員に対して敷地内で進める軍の増強などについて、口外しないよう圧力をかけていると訴えています。
一方、国営のロシア通信は、ウクライナ軍に情報を提供するなど協力した疑いで原発で働く従業員2人をロシア軍が拘束し、ことし3月にロシア軍が原発を掌握して以降、26人の従業員が拘束されていると24日、伝えています。
ロシア軍は原発の軍事拠点化を進めているとみられていて、IAEAの立ち入り調査によって原発の安全性の確保につなげられるかが焦点となっています。
また、ロシア軍は各地で攻撃を続けていて、ロシア国防省は28日、東部のドネツク州をミサイルで攻撃しウクライナ兵250人以上を殺害したなどと発表しました。
一方で、ロシア軍にも深刻な人的被害が出ているとみられていて、プーチン大統領は今月25日の大統領令で、ロシア軍の兵士の数を13万人余り増やし、およそ115万人にする方針を指示しました。
これについて、イギリス国防省は28日に発表した分析で、「ロシア軍がどのように増加分の人員を埋めようとしているのか不明なままだ。ウクライナでのロシア軍の戦力増強が実質的に進展する可能性は低い」と指摘し、どのように兵力を増やすのか課題が残されているという見方を示しています。
●ロシア、ウクライナがNATO加盟断念しても戦争やめない=前大統領 8/28
ロシアのプーチン大統領の盟友メドベージェフ前大統領は26日、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)への加盟を正式に断念しても、ロシアはウクライナでの軍事行動を継続する考えを示した。
現在はロシアの安全保障会議副議長を務めるメドベージェフ氏は、フランスのテレビのインタビューで、ロシアは一定の条件下でウクライナのゼレンスキー大統領と会談する用意があるとも述べた。
ロシア政府は2月のウクライナ侵攻以前から、ウクライナのNATO加盟を容認できないと表明していた。
ロシアの通信社が伝えたところでは、メドベージェフ氏はこのインタビューで「(ウクライナが)NATOへの参加を断念することは今や不可欠だが、平和を確立するには既に不十分だ」と発言。ロシアは目標が達成されるまで軍事行動を続けるだろうと述べた。
ウクライナとの協議再開については、「状況次第だ。われわれは以前から(ゼレンスキー氏に)会う準備はできていた」と述べた。
また、ウクライナに既に供給されている高機動ロケット砲システム「ハイマース」などの米国製兵器はまだ実質的な脅威になっていないとした上で、より長い距離の標的を攻撃できるようになればロシア連邦の領土への直接の脅威となり得ると語った。
●兵士不足で“短期契約兵士”や受刑者が戦場へ? 「軍の質落ちた」 8/28
ウクライナ侵攻をめぐり、ロシア国内では兵士募集のチラシを配ったり、短期契約での兵士募集、刑務所にいる受刑者を戦地へと送る動きが出てきています。
恩赦と引き換えに受刑者も募集
ロシアの地方都市では、前線に送り込むためか、戦車など数多くの軍用車が、列車で運ばれていきます。
「モスクワ中心部に現れた、このパネル。今のウクライナでの軍事作戦と第二次世界大戦をあえて関係付けています。」
首都モスクワでは、ウクライナで戦う兵士と、第二次世界大戦で戦った兵士の写真を並べて展示。いずれも「ナチスからウクライナを救った英雄」だとして、今回の軍事作戦の正当性をアピールします。
一方で、当初はロシア軍の圧倒的優位が伝えられていたウクライナでの戦況ですが、今は膠着状態に―。
ロシア国内では、プーチン大統領を支持してきた右派からも、批判の声が上がり始めています。
ドンバスで親ロ派武装勢力を率いた イゴーリ・ギルキン氏「ドネツク人民共和国の全領土の解放はおろか、スラビャンスクの占領も不可能だろう。軍事戦略の破綻は『明白』だ。」
戦闘が長引いて、兵士不足が深刻化しているのでしょうか。プーチン大統領は25日、ロシア軍の規模を190万人から204万人に増員させる大統領令に署名しました。
ロシアの徴兵事務所に貼られたチラシには、給与は20万ルーブル=日本円でおよそ45万円以上、年齢は60歳以下とあります。兵士としては、高齢な人材も集めざるを得ないようです。さらに―。
「ロシアの調査報道サイトによりますと、この刑務所から少なくとも107人の受刑者がウクライナへと送られたということです。」
今月24日には、大統領による恩赦と引き換えに、107人の受刑者がウクライナに兵士として送られたと言います。
短期契約の志願兵1万人超が戦地へ
SNS上には、“志願兵”を募集する呼びかけも―。
「今、ロシアの存亡がかかっている。まともなロシア人男性がいなければ、どんな戦いにも勝てない。」                 
我々はこの「ドンバス志願兵同盟」という団体を直撃しました。
Q. こんにちは。ドンバス志願兵同盟でしょうか?
ドンバス志願兵同盟ドネツク代表 アナスタシアさん「そうです。ドンバスや“旧ウクライナ”の領土を解放するための部隊編成をしています。」
志願兵はどんな契約のもと戦っているのか聞くと―。
アナスタシアさん「給料はあまり高くはありませんが、今の仕事を辞めても困らない額です。“2カ月契約”で、そのあとはいったん休んでもらいます。確実に1万人以上を(戦地に)送っています。」
戦地には、緊急募集された“短期契約の志願兵”が多数送られているようです。
国外脱出のロシア兵証言「軍の質落ちた」
ロシア空挺部隊 元隊員 パベル・フィラティエフ氏「いま、囚人や定年が近い年齢の人々を(ロシア軍が)雇っています。そのせいでロシア軍の質は落ちました。」
こう証言するのは、ヘルソン占領などの戦闘に参加したパベル・フィラティエフ氏(34)。ロシア軍の精鋭「空挺部隊」の元隊員です。ウクライナ侵攻を批判する手記を、実名で公表し、今月中旬、身の安全のため、ロシア国外に脱出したばかりです。居場所を明かさない条件で、我々の取材に応じてくれました。
パベル・フィラティエフ氏「街が破壊され、多くの人々が家を失い、飢えて、逃げ惑っています。子どもを含む多くの民間人が犠牲になっています。彼ら(ロシア人)に真実を公開し、いまの状況を伝えたい。ウクライナにはファシストとナチスばかりだと信じる人たちに。」
フィラティエフ氏は、今回の侵攻に大義がないことが兵士不足に拍車をかけていると指摘します。
パベル・フィラティエフ氏「私のようにウクライナに行った兵士の多くは、再び戦地に戻ることを拒否しています。理由は恐怖ではなく、実際に多くの者が何が起きているか、真実を見たので、戦争に加担したくないのです。」
“プーチン氏の頭脳”思想家の娘 死亡
「プーチン大統領の頭脳」とも呼ばれる極右の思想家、アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘、ダリヤ氏が運転していた車が爆破されました。
父親 アレクサンドル・ドゥーギン氏「我々が支払わざるを得なかった死の代償は、勝利で報われるのです。」
父のドゥーギン氏は、長年ウクライナの併合を提唱してきた人物で、娘のダリヤ氏も政治評論家として、今回の侵攻を支持していました。
殺害されたダリヤ氏「キエフ政権はテロ政権だ。」
ロシアの情報機関「FSB」は、事件の2日後には“ウクライナの情報機関”による計画的な犯行だと断定。
ロシア ラブロフ外相「犯行の計画者、依頼者、そして実行者どもを決して容赦しない。」
ウクライナで戦う、ロシア側の部隊には、砲弾に「ダリヤよ、安らかに」と書き記し、発射する兵士も―。映像には、ダリヤ氏の名を書いた砲弾をドローンで投下する様子も映っていました。
●ロシアによるウクライナ侵攻から半年 プーチンが強気の姿勢を貫く理由は… 8/28
欧米はロシアに対して一斉に経済制裁を強化した。それでもプーチンが何もなかったような顔で強気の姿勢を貫ける理由は…。欧米はウクライナに侵攻したロシアに対して一斉に経済制裁を強化したが、それには限界が見え始めている。なぜプーチンは強気の姿勢なのか。
世界が震撼したこの半年
2月24日、世界は震撼した。多くのロシア専門家も予想しないなか、ロシアがウクライナに侵攻したのだ。それ以降、ロシアが首都キーウに向かって進軍するなか、あちこちで建物が破壊され、多くのウクライナ人が家を追われ、隣国のポーランドやモルドバをはじめ世界各国に避難した。
この惨劇を引き越したプーチン、ロシアに対する風当たりも日に日に強くなり、米国など欧米はウクライナに対する軍事支援を強化し、今日では一進一退の戦況となっている。現在、戦況はプーチンの描いた構想は全く上手くいっていない。
強気の姿勢を貫くプーチン
また、経済的には、欧米や日本はロシアに対する経済制裁を強化した。既にマクドナルドやスターバックスなど世界的な企業が相次いでロシアから完全撤退し、ロシア人従業員の雇用に問題が出るなど、ロシア経済には一定のダメージとなった。
ロシアが被った代償はあまりにも大きいことは言うまでもないが、プーチンは何もなかったような顔で強気の姿勢を貫いている。
多くの国は非難・制裁していない
プーチンが強気の姿勢を貫けるには理由がある。しかもそれは時間が経過するごとに明るみになっている。じつは、欧米日本以外の多くの国はロシアを非難、制裁していないのだ。
特に、欧米と対立する中国、ロシアと伝統的友好関係にあるインドなどの大国は、安価なロシア産エネルギーを重視し、経済的にロシアとの関係を深めている。
また、東南アジアや中東、アフリカの国々も欧米に追従せず、ロシアを非難せず、制裁を実施してない。こういった地域の多くの中小国は、米国や中国、ロシアなどによる大国間対立に巻き込まれることを強く警戒し、自国の国益を第一に考え行動している。
さらにエスカレートする恐れも
このような情勢に、プーチンは喜んでいるはずだ。欧米から制裁を受けても、中国やインドなど多くの抜け道を既に発見できている。
非欧米的な世界が今後ますます強くなれば、プーチンによる行動はさらにエスカレートする恐れがあろう。既に多くの国際政治学者の中でも、欧米中心の世界は終わったという見解は根強い。ロシアによるウクライナ侵攻から半年たち、我々はそれを強く認識する必要があろう。
●「だからプーチンは想定外の苦杯をなめた」 ウクライナの"デジタル戦" 8/28
ロシアのウクライナ侵攻について、世界中から非難の声があがっている。なぜこうした状況になったのか。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「ロシアは『デジタル戦』でウクライナに負け、情報統制に失敗した。これはプーチン大統領にとって想定外の事態だったはずだ」という――。
ロシア政府に都合の悪い情報は次々と削除
ロシアとウクライナとの停戦交渉に少しずつ変化が見られるようになった。ロシアとしては、勝利と呼べるだけの戦果をあげ、それを盾に交渉を有利に運びたいところだが、戦況は依然として膠着こうちゃく状態だ。その要因は情報戦での失敗だ。
ロシアの通信規制当局ロスコムナゾルは、ロシア軍がウクライナへの侵攻を始めた2日後の2月26日、独立系メディアに対し、ロシア軍のウクライナでの軍事行動を、「攻撃」や「侵攻」といった表現で報じた記事の削除を要求した。
これを受けて、ノーベル平和賞受賞者のドミトリー・ムラトフ氏が編集長を務める独立系の新聞「ノーバヤ・ガゼータ」は、要求からおよそ1カ月後、休刊を余儀なくされている。
情報統制はさらに続き、3月に入ってからは、SNSのTwitter、Facebookもロシア国内でのアクセスがブロックされた。
モスクワ在住のロシア人に聞けば、3月下旬までは、海外のSNSにアクセスできるVPN(ヴァーチャル・プライベート・ネットワーク)を使用すれば閲覧することができたが、今はほとんど使用できなくなり、ロシア発祥のSNS「テレグラム」も、政府にとって都合の悪い情報は検閲によりかなり削除されているという。
21世紀型の戦争はデジタルが鍵を握る
情報統制のあおりを受けたのは、独立系メディアやSNSだけではない。国営のロシア通信も、侵攻して2日後の2月26日、「ウクライナはロシアに戻ってきた」などとする戦勝を祝うような記事を配信した後、すぐに削除している。
3月14日には、ロシア国営テレビの女性スタッフが、生放送で「反戦」を叫ぶ珍事も起きたが、それを除けば、国内での情報統制は想定通り進んだと言っていいかもしれない。
ところが、現段階で言えば、ロシアはウクライナに情報戦で負けている。
21世紀型の戦争は、銃火器を使っての攻撃や空爆だけにとどまらない。開戦前もそうだが、開戦して以降も、自国に都合のいい情報だけを公表し、一般市民への海外からの情報は遮断し、反戦機運が高まらないよう徹底して抑え込むことが不可欠になる。
相手国に対しては、サイバー攻撃や通信基地への攻撃を行い、デマを流したり、相手国の軍を違う目標に誘導したり、あるいは、インターネットやSNSを使用できなくしたりするデジタル戦争も重要な鍵となる。
得意なはずの情報戦でプーチン大統領が苦戦
その点、ロシアは、情報統制によって国内の不満分子をある程度抑え込み、ウクライナ軍の無線通信を電波妨害で遮断し、前線で戦う兵士に虚偽の指令を送信して別の目標へと誘導するなど、これまで得意としてきた戦術を駆使してきた。
しかし、その一方で、ウクライナの通信システムを破壊できず、ゼレンスキー大統領(以降、敬称略)をはじめとするウクライナ政府の幹部、一般市民による自由な発信を許してしまっている。
ゼレンスキーらを支えたものについては後述するとして、ロシアのプーチン大統領(以降、敬称略)にとって最大の誤算は、「侵攻後、2日か3日で首都キーウは陥落させられるだろう」という見通しが甘すぎたことのほかに、ゼレンスキーがSNSを通じ、圧倒的な「メッセージの物量作戦」で国民を鼓舞し、国際社会の多くを味方に引き入れたこと、そしてウクライナ市民も、日々刻々と変わる戦場の様子を国際社会に向け発信し続けたことだ。
プーチンは得意なはずの情報戦で敗れ、苦戦を強いられているのだ。まさに、ことわざで言う「川立ちは川で果てる」(川に慣れている者は川で死ぬことが多い=人は得意な部分で油断し失敗しやすい)である。
台湾統一を目指す中国にとって「先行研究」に
一方、習近平国家主席(以降、敬称略)が、台湾統一を「核心的利益」と呼び「中国の夢」と主張する中国の情報統制はどうなっているだろうか。
最近では、3月4日、北京パラリンピックの開会式で、国際パラリンピック委員会のアンドルー・パーソンズ会長が平和を訴えた部分を中国国営中央テレビが翻訳しなかったことは記憶に新しい。
「中国は、今でも中国政府にとって都合が悪い情報を国民に知らせていないのか。とんでもない国だな」
筆者もこう感じたものだ。
ただ、習近平からすれば、ロシア軍によるウクライナ侵攻は、格好のモデルケースになる。「侵攻した場合、国際社会はどう出るか」だけにとどまらず、国内の情報統制や相手国に対する自由な発信の封じ込めについても学べる「先行研究」になっているはずだ。
中国ではグーグル検索やYouTubeは使えない
中国でもアメリカ発祥のSNS、TwitterやFacebookは規制の対象となっている。「金盾」(グレートファイヤーウォール)と呼ばれるネット検閲システムによって、グーグルなど海外の検索サイトも閲覧することはできない。
グーグルは2010年に中国政府の検閲方針に反対して中国から撤退、以後、Gmailを含めほとんどのサービスが使えない。グーグルのサービスであるYouTubeももちろん見られない。LINEも同様だ。
これらを見たいなら、先に述べたVPNを使用するしかない。筆者の知人の日本メディアの支局員や日系企業の駐在員は、日本に住む家族や友人と連絡を取る際、VPNを使用している。中国政府公認のものではないが、海外のSNSやニュースサイトにもアクセスでき、「使っていて特に問題はない」と言う。言うなれば「抜け穴」である。
中国にはロシア同様、独自のSNSも存在する。ウィーチャット(微信)やウェイボー(微博)がその代表格だ。中国国内での対話や議論のほかに、日本をはじめ海外在住の中国人が、これらを通じて中国国内に無数の情報を流し続けているというのも大きな特徴だ。
「ネット空間は既存のメディアよりは信頼できる」
中国で留学生活を送ってきた日本人学生に聞くと、こんな答えが返ってきた。
「いつもネットで日本や世界のニュースは見ていましたよ。北京オリンピックで羽生結弦選手が中国で大人気になりましたけど、あれも日本のニュースを見たり、友人から情報が届いたり、翻訳機能とかを使って理解したりしているから、あのような現象になったのだと思います」
「さすがに中国政府に対しての批判は控えていますが、情報統制があるとはいってもネット空間は自由な部分もあって、テレビや新聞といった既存のメディアよりは信頼できます」
振り返れば、2021年7月、河南省を襲った集中豪雨で死者の数を少なく公表した中国当局に疑問の声が相次いだのはウィーチャットでの話だ。
また、女子テニス選手の彭帥ほうすいさんが、2021年11月2日、中国共産党元政治局常務委員の張高麗前副首相から性的な関係を強要されたと告白し、それが世界に拡散されたのもウェイボーを通じてである。
これらも「抜け穴」と言えるものだが、死者数ごまかしの指摘程度なら黙認しても、習近平や中国共産党への批判、あるいは政治的に敏感な話題などは、AI(人工知能)で自動検閲され、投稿してからすぐ削除される仕組みになっている。
彭帥さんの場合、その後、2週間失踪したが、国際的な関心事にならなければ失踪したままの状態だったかもしれない。
習近平批判を許さない不健全国家の狙い
中国では、2021年6月の全人代(全国人民代表大会)で、中国の国家安全を損ねるようなデータ収集に対し、法的責任を追及する「データ安全法」が成立した。また中国政府は2021年11月末、国内のニュースサイトで転載してもよいメディアのリストを公表した。
その翌月のアメリカの有力紙、ワシントンポストには、中国当局がTwitterなどを24時間体制で監視し、中国に批判的な外国人の個人情報を大量に収集しているとの記事も掲載されている。
また、監視社会の中国では、近年、2億台を超える監視カメラによる統治が続いている。とりわけ、「天網」と呼ばれ、監視カメラとAIを組み合わせたシステムは、監視カメラで人民の動きを追跡し、AIによる顔認証で個人を特定する優れモノである。
習近平指導部への批判は、国内外を問わず一切許さない、不満分子はどこまでも追いかけるといった情報統制や監視システムの強化は、健全な国家がやることではない。
その不健全な超大国は、虎視眈々と台湾、そして尖閣諸島を狙っている。
台湾侵攻に踏み切る場合、国内的には、ロシアがウクライナ侵攻後に実施したように、独立系メディアを徹底排除し、VPNをはじめ、ウィーチャットやウェイボーなども規制することが想定される。その辺りはプーチンの成功例に学べばいい。
そして、ロシアがウクライナでのSNS発信までは統制できなかった失敗例から、台湾国内の通信網にも触手を伸ばす可能性は極めて高い。
ウクライナのデジタル戦を支える「Starlink」
話をロシア軍によるウクライナ侵攻に戻そう。
人前にほとんど出てこないプーチンとは異なり、ゼレンスキーは日本や欧米での議会演説、TwitterなどSNSを通じてのスピーチなど精力的に発信を続けている。軍事力で10倍近い差があるロシアを相手に「言葉」で戦っていると言ってもいいくらいだ。
その発信を支えているのが「Starlink」である。これは、人工衛星で宇宙からインターネットに接続できるサービスを提供するシステムで、立ち上げたのは、アメリカの電気自動車テスラや宇宙開発を行う「スペースX」の創業者として知られるイーロン・マスク氏だ。
ゼレンスキーが大統領に当選した2019年の時点からSNS戦略を指揮してきたミハイロ・フョードロフ氏(現在の副首相兼デジタル改革相)が、ロシア軍が侵攻を開始した2日後、Twitterでマスクに「システムを提供してほしい」と呼びかけ、協力が実現した。
人工衛星を介する「Starlink」も、地上の通信機器が標的となれば危うい。しかし、光ファイバーケーブルを陸に揚げ、通信基地と接続する通常のインターネットの場合、基地が攻撃によって破壊されれば完全に使用できなくなる。
侵攻当日、ゼレンスキーから対ロシア情報戦を指揮する仕事も任されるようになった31歳のフョードロフは、途切れることなくゼレンスキーや自身の発信を続けるため、より安全な「Starlink」に目をつけ、ロシア軍にデジタル戦争を挑んだ。
「ロシア=悪玉」を定着させたデジタル担当相の手腕
「私たちはここにいます。自由のために戦います」
「世界は私たちとともにあります。勝利は私たちのものになります」
軍の兵士や市民に「勇気を与える」として話題になったゼレンスキー語録は、フョードロフとマスクの協力によって築いたプラットフォームから国際社会に発信されている。
それだけでなく、各国首脳にSNSでロシアへの制裁とウクライナへの支援を求め、「ロシア=悪玉、ウクライナ=善玉」として、ロシアを世界経済から遮断することまで成功したのである。その手腕はただ見事というほかない。
筆者は1995年に現地を取材したボスニア紛争を想起した。ボスニア紛争では、ボスニア政府がアメリカの大手PR会社と提携し、欧米の世論を味方につけることに成功した。対するセルビア政府は、情報戦を甘く見たために、悪玉のレッテルを貼られ制裁を受け、最終的には敗北した。
「武器も弾薬も使わないのに、これほど国際社会の見方が変わるのか」
筆者は、セルビアの首都ベオグラードで、制裁によって陳列棚に何ら食べ物がないスーパーを歩きながら、情報戦の重要性を初めて実感した。
このボスニア以上のことを成し遂げたのがフョードロフ、と言えるだろう。
海に囲まれた台湾は中国の侵攻にどう対応するか
これを中国の台湾侵攻に置き換えれば、中国側はロシアの轍を踏まないよう、「Starlink」が使えない手段に出るはずだ。
マスクの場合、フョードロフの依頼を受け、48時間以内にネット接続が可能な端末をトラック1台分、ウクライナに送り込んだ。しかし、陸路で搬送が可能なウクライナとは異なり、台湾は海に囲まれた島だ。
元自衛隊統合幕僚長の河野克俊は、中国の出方について、
「中国は、台湾が支配する金門島や馬祖島を攻略し、それらの島を起点に台湾を海上封鎖する可能性がある」
と語る。また、尖閣諸島を行政区域として抱える沖縄県石垣市の中山義隆市長も、
「中国はかなりの数の艦船で、まず尖閣諸島や台湾周辺の海を抑えるでしょうね」
と話す。そうなれば、ウクライナと同じようにはいかない恐れもある。
ただ、台湾には、ゼレンスキー同様、メッセージ力に優れた総統、蔡英文がいる。また、35歳でデジタル担当相に抜擢された唐鳳(オードリー・タン 現在は40歳)氏もいる。中国と台湾の軍事力の差は、まさしくロシアとウクライナの関係に匹敵するが、情報戦では引けをとらない、むしろその上をいくのではないかと筆者は見る。
中国がロシアから学んでいるように、台湾もウクライナから学んでいるはずである。だとすれば、台湾有事が生じた場合、戦闘機や艦船の数もさることながら、情報戦、もっと言えばデジタル戦争が勝敗を決するのではないかと思ってしまうのである。

●対ロ制裁は効いているのか? 8/29
半年前、ロシアがウクライナに侵攻した。戦場では消耗戦が繰り広げられ、死と破壊の前線は1000キロもの長さに及んでいる。
その前線を超えたところでは、もう一つの戦いが激しさを増している。
1940年代以来見たことのない規模と獰猛さの経済紛争だ。西側諸国は制裁の新兵器を投入し、1兆8000億ドル規模のロシア経済をマヒさせようとしている。
この輸出入禁止措置の効果は、ウクライナの戦争の帰結を左右する重要なポイントになる。
だが、その一方で、自由民主主義諸国が2020年代後半以降までその力を世界的に投射し、中国に対しても影響力を振るう能力についても多くを明らかにする。
心配なことに、制裁戦争はこれまでのところ、予想されたほどには順調に進んでいない。
ウクライナ侵攻で前例のない制裁
欧米とその同盟国は今年2月から、何万というロシアの企業や個人に対し、過去に例のない禁止令の集中砲火を浴びせている。
ロシア政府は外貨準備5800億ドルの半分を凍結され、ロシアの大手銀行の大半は世界的な資金決済システムから切り離された。
米国はもうロシアの原油を購入しておらず、欧州の禁輸措置も来年2月に全面施行される。ロシア企業はエンジンから半導体に至るまで、様々な部品の購入を阻まれている。
オリガルヒ(新興財閥)や政府高官は入国禁止や資産凍結の憂き目に遭っている。
米司法省が立ち上げたタスクフォース「クレプトキャプチャー」は、ファベルジェの卵(宝石や純金でできた装飾用の卵)を積んでいたかもしれないスーパーヨット1隻を押収した。
これらの対応策は西側諸国の世論を満足させるだけでなく、戦略的な目的を持つ。
短期的には、少なくとも当初は、ロシアの流動性・対外収支危機の引き金を引き、ウクライナでの戦費の調達を困難にしてクレムリンに考え方を改めさせることを目指していた。
長期的には、ロシアの生産能力と技術の高度化を損なうことを狙っている。
もしウラジーミル・プーチン大統領がほかの国の侵略を切望することがあっても、資源をあまり利用できない状況にしておこうというわけだ。
そして最終的には、ほかの国々が主戦論に傾かないようにすることを目標としている。
西側の新たなドクトリン
そのような野心的な目標の背後には、西側の新しいドクトリンがある。
米国の強さが抜きん出ていた1990年代の一極支配は遠い昔の話となり、イラクやアフガニスタンの戦争以降は西側諸国が軍事力の行使に消極的になっている。
そんななか、21世紀の経済の中心に位置する金融や技術のネットワークの支配を通じて西側が力を行使できる制裁が、こうした問題の答えになると思われた。
そして過去20年にわたり、制裁は人権侵害を罰したり、イランやベネズエラを孤立させたり、華為技術(ファーウェイ)のような企業の活動を妨害したりするのに利用された。
だが、ロシアに対する禁輸措置は、世界で11番目に大きな経済国、エネルギー、穀物、その他コモディティーの生産で世界最大級の輸出量を誇る国を狙うことで、制裁を新たなレベルに引き上げている。
では、制裁の成果はどうか。
3〜5年のスパンで考えるなら、西側市場からの切断はロシアに大打撃をもたらすだろう。2025年までには民間航空機の2割が交換部品不足のため飛行できなくなる可能性がある。
通信ネットワークの更新にはすでに遅延が生じており、消費者は西側ブランドの商品が手に入らなくなる。
また、国家や実業界の有力者が自動車工場からマクドナルドの店舗に至る様々な西側企業の資産を手に入れることから、縁故資本主義がさらに拡大する。
トップレベルの有能な市民の流出も見受けられる。独裁の現実や、自国が中国のガソリンスタンドになる見通しに嫌気をさし、国を出ているのだ。
まだ実現しないノックアウトの打撃
問題は、ノックアウトの大打撃がまだ具現化していないことだ。
国際通貨基金(IMF)によれば、ロシアの国内総生産(GDP)は2022年に6%縮小する見通しで、今年3月に多く見られた15%減という予想よりもかなり小さく、ベネズエラで観察された経済不振よりも小規模だ。
エネルギー販売によって今年の経常収支は2650億ドルの黒字になり、中国に次ぐ世界第2位の黒字国になる見込みだ。
一度は苦境に陥ったロシアの金融システムも落ち着きを取り戻しており、一部の輸入品については中国など新たな供給国が確保されている。
片や欧州では、エネルギー危機によって景気後退が引き起こされる恐れがある。
ロシアが供給を絞ったことを受け、天然ガス価格は8月第4週だけでさらに20%も上昇した。
制裁という兵器にはいくつか欠点があることが分かってきた。
まず挙げられるのはタイムラグの存在だ。
西側が独占している技術の利用を阻止しても、その効果が出るには数年を要する。
また独裁国家は国内の資源を集めることができるため、輸出入禁止措置による最初の打撃を吸収することに長けている。
次に、制裁相手からの反発がある。
GDPで言えば西側はロシアよりはるかに大きいものの、プーチン氏はガス供給の元栓をしっかり支配しており、たとえ祈ってもそれが変わることはない。
そして最大の欠点は、世界のGDPの40%を占める100カ国以上の国々が通商禁止を一部、あるいはまったく実行していないことだ。
ウラル山脈の原油はアジアに流れ込んでいる。ドバイはロシアマネーであふれ返り、モスクワにはエミレーツ航空などの旅客機が1日7便飛んでいる。
グローバル化した経済はショックや機会にうまく対応する。ほとんどの国が西側の政策を実行したくないと思っているのだから、特にそうなる。
相手が中国だと効果なし
従って、ロシアよりも大きな独裁国家である中国と対峙する場合、制裁が安価なうえに西側しか使えない手法になるという幻想を捨てなければならない。
台湾侵攻を抑止したり罰したりするために西側諸国が中国の外貨準備3兆ドルを差し押さえたり、中国の銀行をネットワークから排除したりすることは、やろうと思えばできる。
だが、ロシアの場合と同様、それによって中国経済が破綻することはない。
北京の中央政府が報復を始める恐れもある。例えば電子部品や電池、医薬品などを西側に供給するのを停止し、米ウォルマートの棚を空っぽにして混乱を引き起すかもしれない。
最大の貿易相手国として米国よりも中国に依存する国が多いことを考えると、世界規模での輸出入禁止措置の導入はロシアの時よりもさらに難しくなる。
ウクライナとロシアから得られる教訓とは、攻撃的な独裁国家との対峙には複数の前線での行動が必要になる、というものだ。
軍事力などのハードパワーは必要不可欠だ。また民主主義国は、敵対勢力の支配下にある要衝への依存度を引き下げなければならない。
制裁は重要な役目を担うが、西側はそれを多用すべきではない。
西側から将来制裁を科されることを各国が恐れるようになればなるほど、他国に今日制裁を加えることに消極的になるからだ。
封鎖を超えて
良い知らせがあるとすれば、それは侵攻が始まって180日が経過し、民主主義国もこの現実に適応しつつあることだ。
ウクライナには重火器がどんどん流れ込み、北大西洋条約機構(NATO)は欧州諸国とロシアとの国境の守りを固めている。
欧州はガスの新たな供給源を確保して、クリーンエネルギーへのシフトを加速している。
米国は中国のハイテク製品への依存度を低下させる一方、台湾に防衛力の強化を促している。
落とし穴があるとすれば、それはすべての独裁国家、特に習近平国家主席の率いる中国もロシアとの制裁戦争を研究しており、同じ教訓を得るのに忙しいことだ。
ウクライナは軍事、技術、金融という異なる要素が絡み合う21世紀型紛争の新時代の幕開けとなっている。
だが、それは自分たちの方が優位だと西側が決めてかかることのできる時代ではない。ドルと半導体だけで攻撃に対抗できる国はないのだ。
●ロシア、ウクライナで大幅な兵力拡大に向け準備  8/29
ロシア軍は、ウクライナ東部や南部掌握に向けた作戦が停滞する中、ウクライナ国内での大幅な兵力拡大を試みている。これらの地域では併合に向け住民投票が予定されている。
政府当局者や軍事専門家らによれば、ロシア国内ではここ数週間で複数の義勇軍が編成され、ウクライナへの派兵に向け準備が進められている。この中にはウクライナ東部での新たな攻勢や、南部でのウクライナ軍による抵抗への対応強化のため編成された大規模な地上部隊も含まれるという。
モスクワ東方約400キロにあるロシア軍基地で第3軍団が訓練しているとされる映像がネット上に掲載されたが、アナリストによると、ウクライナにはほとんど配備されていない最新兵器が映っているという。
しかし、米国のシンクタンク「戦争研究所」は27日のリポートで、この軍団編成がウクライナでの軍事バランスを変化させる可能性は低いとし、「装備が優れていても、隊員の訓練や規律が十分でなければ、必ずしも有効な軍隊にはならない」と指摘した。
ウクライナ戦争が7カ月目に突入し作戦が停滞する中、ロシアは勢いを取り戻すべく新たな兵力確保に向け試行錯誤している。一方でウクライナ政府もロシアに支配された地域にあるロシア軍インフラへの攻撃を継続している。
28日に米NBC「ミート・ザ・プレス」に出演した退役米海軍大将のジェームズ・スタブリディス氏は、兵力を巡る現在の状況は、ロシア側の大きな窮状を示すもので、ウクライナ側が間もなく大規模な攻勢に出る可能性があると述べた。
元北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍最高司令官でもある同氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領について、「戦略的なレベルでは、彼はこの戦争でミスを犯し、今後挽回できるとも思えない。だがドンバス地方の掌握には注力したい考えだろう。これこそが彼の新たな目的であり、そのために新たな兵力が必要になっている」と指摘している。
●TICAD閉幕 「チュニス宣言」採択 国際ルール順守の開発金融を  8/29
チュニジアで開かれたTICAD=アフリカ開発会議は、中国によるアフリカへの巨額融資を念頭に国際ルールを順守する健全な開発金融の重要性などを盛り込んだ「チュニス宣言」を採択して閉幕しました。
北アフリカのチュニジアで開かれたTICADは、日本時間の28日夜、2日間の議論の成果を盛り込んだ「チュニス宣言」を採択して閉幕しました。
「チュニス宣言」ではアフリカの持続可能な経済成長には民間の投資が不可欠だとして、日本とアフリカの間の技術移転や人材育成を強化するとともに若者や女性によるスタートアップ企業を支援するとしています。
また中国によるアフリカへの巨額融資を念頭に、国際ルールを順守する健全な開発金融が重要だとしてすべての債権者に対して公正で開かれた貸し付けを行うことを求めています。
そして新型コロナの感染拡大を踏まえすべての人に質のよい保健・医療サービスを提供する「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」の達成に向けて取り組み、危機的な状況の際にはワクチンや医薬品にアクセスできるようにするとしています。
さらに気候変動や自然災害、廃棄物の管理や砂漠化などといったアフリカの環境問題に取り組むことが急務だとして、国際社会に対して支援の拡大を呼びかけています。
一方、ウクライナ情勢をめぐっては深刻な懸念を表明するとしたうえで、対話と国際法の原則を尊重して平和と安定を保全することが重要だと強調し、食料やエネルギー価格の上昇を克服するためアフリカ諸国を支援するよう求めています。
このほか核兵器の使用がもたらす非人道的な結末を認識して「核兵器のない世界」の実現に向けた関与を再確認し、NPT=核拡散防止条約の維持強化に取り組むことや国連安全保障理事会の改革を加速させるために協力していくことも盛り込んでいます。
岸田総理大臣はオンラインで記者会見に臨み「日本はアフリカと『共に成長するパートナー』でありたいと考えており、課題の克服にともに取り組むことにより成長に力強く貢献し、それを通じて日本も学び成長する」と述べました。
TICAD 共同議長 “多くの課題を議論 大きな成果”
TICADの共同議長を務める開催地チュニジアのサイード大統領は共同記者会見で「今回多くの課題について議論できたことは大きな成果だ。一方でアフリカはいまも暴力や貧困、テロなどに悩まされている」と述べ、課題の解決に向けてさらなる協力が必要だという認識を示しました。
また「今後も世界のパートナーたちと協力して、アフリカが誇る豊富な人材やさまざまな天然資源を活用していきたい」と述べ、地域全体の経済発展のため引き続き日本などとの関係強化を進めていきたい考えを示しました。
AU=アフリカ連合 議長 “テロ対策に財政的な支援を”
AU=アフリカ連合の議長を務めるセネガルのサル大統領は共同記者会見で「アフリカは新型コロナウイルスとウクライナ情勢という2つの危機による経済的な打撃を受けている」と述べた上で、日本と協力を深めながら自由貿易の推進に欠かせない通信環境の整備などを進めたい考えを示しました。
また、サル大統領は協力が急がれる分野として、西アフリカの国々で深刻化するテロへの対策をあげ「平和と長期的な安定が発展に欠かせない。テロ対策のための財政的な支援を求めたい」と訴えました。
●ロシアが兵力確保に躍起、囚人も強引に勧誘か  8/29
ロシアが兵力増強に向けて、国内で入隊を促す取り組みに乗り出した。ウラジーミル・プーチン大統領は再び攻撃を強める考えを示唆しており、ウクライナ侵攻で数千人を失ったとされる兵士の確保を急ぐ。
侵攻開始から半年がたち、ロシア軍は失速が鮮明となっているが、政治的にリスクの大きい国家総動員を選択することは見送っている。
ロシア当局はむしろ、屋外掲示板やウェブサイト、公共交通機関、市の公式ポータルに広告を打って、国民に入隊を促している。臨時の勧誘センターも各地に設けられており、当局は傭兵組織や囚人、退役軍人グループなどにも働きかけている。ロシアの入隊勧誘を追っている軍事専門家や活動家が明らかにした。
ロシアは目下、ウクライナ東部と南部の2つの前線で進軍を目指している。プーチン氏は先月、「総じて、まだ全く本気を出していない」と述べ、これから本格的に攻勢を強めることを示唆している。
しかし、戦局はいずれも膠着(こうちゃく)状態にあり、6週間余り全く支配地域を広げられていない。軍事専門家はこれについて、兵力不足が一因だと分析している。
ランド研究所のロシア軍事戦略専門家、ダラ・マシコット氏は、ロシアは目標を達成するのに必要な兵力が不足していると指摘する。 「ロシア軍に大規模な攻撃を仕掛ける能力はないと思う。なんとかしのぎながら、少しずつ領土を奪うだろうが、強力に突破することはないだろう」
ロシアは3月、ウクライナ侵攻以降、兵士1351人が死亡したと明らかにした。それ以降は最新情報を公表していない。米国防総省はロシア兵の死傷者は最大8万人に上ると推測している。ロシア政府は米国防総省の推定についてコメントを拒否した。
マシコット氏によると、ウクライナに展開するロシア軍の兵士は15〜20%程度不足している可能性がある。同氏の分析は、戦いに敗れたロシア軍の第136独立自動車化狙撃旅団から回収した文書に基づいている。
同氏は「これはロシアの典型的な部隊で、(全般的な)不足も平均で同じ程度であるかもしれない」と話す。
米国は2月の侵攻開始前、ロシアがウクライナ国境付近に戦闘部隊を最大19万人に集結させていると推定。3月にはそのほぼすべてがウクライナに入ったとの見方を示していた。
だが、西側やロシアの軍事専門家は、投入数はそれをかなり下回っておるとみており、一部の西側専門家は8万〜10万人と推定している。
西側諸国の軍による分析では、ロシア軍の兵力は90万人で、このうち戦闘参加が可能な兵士は30万人だとされる。これはロシアが発表している数字とは開きがある。残りは1万4000マイル(約2万2530キロ)に及ぶ国境の警備や、妨害工作やテロ攻撃に対する国家施設の護衛などとして国内に配備されている。
このうち徴集兵は25万人程度だ。ロシアでは27歳未満の男性には1年間の兵役義務があり、4カ月間の入隊と特別軍事訓練をへて初めて戦闘に参加できる。
もっとも、プーチン氏は、ウクライナでの「特別軍事作戦」に参加するのは職業軍人に限ると公言している。ただ、これまで徴集兵およそ600人を戦場に送ったとして、命令違反で一部の幹部は処罰を受けている。
こうした中、プーチン氏は戦争に対する国内での高い支持を維持するため、徴集兵の参加や国家総動員令の発令を避けているとの指摘も出ている。ロシアは近年、いかなる紛争においても国家総動員令を命じたことはない。
そのため、ロシア政府は自発的に入隊するよう、さまざまな手段を駆使している。
プーチン氏は25日、ロシア軍の兵士を2023年から13万7000人増員するよう命じた。ロシア側によると、全体の兵力は現在の101万人から約115万人に拡大するという。大統領令は具体的な方法には言及していない。
これを受けて、ロシア全土で入隊を促す広告が随所に出現した。
モスクワ南部トゥーラの新聞には、「母国を守れ」と市民に促す広告が掲載された。入隊すれば月給37万9900ルーブル(約86万円)のほか、手厚い社会保障が受けられ、政府から自宅を支給される可能性があるとうたっている。
ロシア軍は囚人にも目を向けている。囚人の人権擁護団体「グラグ・ネット」の拷問・汚職防止独立委員会に寄せられた刑務所関係者や当局の情報提供者、囚人の家族らの報告で分かった。
グラグ・ネットの創設者、ウラジーミル・オセチキン氏は設置したホットラインには6〜7月、入隊勧誘に関する報告が数百件あったと明かす。
囚人の中には、入隊を強制されたと話す者もいるという。
同氏によると、当局はウクライナの戦争に6カ月従軍すれば、金銭的な報酬のほか、残る刑期を減免すると囚人に持ちかけているようだ。
ウクライナ軍によると、ロシアの民間軍事会社ワグネルは、深刻な打撃を受けた精鋭部隊の補充に向けて、兵士を勧誘しているとしている。
ロシアの連邦刑執行庁と国防省は、兵力不足や勧誘に関するコメントの要請に応じていない。
ロシア当局はこれまで、公の場で兵士勧誘について言及していない。
ロシアの軍事専門誌の編集長で、元大佐であるビクトル・ムラコフスキー氏は、新たに兵士を増員すれば、現在は戦闘に参加していない職業軍人を動かすことができ、戦争に再配置できると述べる。そうなればロシアは秋にでも、追加部隊を投入できる見通しだという。
ただ、西側の専門家は、このような付け焼き刃的な勧誘手法ではむしろ軍の結束が弱まり、最終的にはロシアの戦況が不利になりかねないとみている。
前出のマシコット氏は「このような場当たり的なアプローチでは、当面は何とかやり過ごせても、ロシアが目指す戦略目標の達成は数年かけても難しいだろう」と述べる。
兵力が不足していることで、ロシアは重火器など、圧倒的に優位に立つ軍装備への依存を強めざるを得ないと専門家は指摘している。 
●ロシア軍の増員、ウクライナでの戦争で効果なし=英国防省 8/29
ロシアは兵士の増員を計画しているが、ウクライナでの戦争で効果を生む可能性は低い――。イギリスの国防省が28日、そうした見方を示した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は25日、同国の軍人を13万7000人増やし、115万人以上にする大統領令に署名した。
これについて英国防省は、増員が志願兵の募集によって実現されるのか、徴兵を増やすことで達成するのか明確ではないと、ウクライナの戦況分析の定期更新で指摘。
さらに、兵士の増員によってロシアの戦闘力が高まる可能性は低いとし、その根拠として、ロシアの以下の事情を挙げた。
・何万人もの兵士が失われた
・徴兵によらない新たな兵士の採用がほとんどない
・徴兵された兵士は厳密には、ロシア領外で任務につく必要がない
西側当局は、ロシアが半年前にウクライナに侵攻して以来、ロシア兵7万〜8万人が死傷したとみている。
ロシアは当初、短期間の作戦で決着をつける計画だった。しかし、ウクライナの抗戦で作戦は思うように進んでおらず、ここ数週間は前線がほぼ動いていない。
そうした状況で、ロシア軍は兵士の募集を強化している。リクルーターが刑務所を訪れ、受刑者に自由と金銭報酬を約束して入隊を勧めているとも報じられている。
ロシアでは現在、18〜27歳の男性が徴兵の対象となっている。ただ、医療上の理由による免除や、高等教育への入学によって、通常1年間の兵役を回避または短縮できる人は多い。
ロシア軍の規模は、軍人100万人強と文民職員約90万人に制限されている。
ザポリッジャ原発敷地に砲撃
ウクライナは28日、ロシア軍が過去24時間の間に再びザポリッジャ原発の敷地内を砲撃したと非難した。これに対しロシアは、ウクライナ軍が原発を砲撃していると主張している。
原発を運営するウクライナ国営企業エネルホアトムのトップ、ペトロ・コティン氏は、原子炉の横に保管されている使用済み燃料にミサイルが命中すれば、放射能が局地的に放出される恐れがあると警告している。
エネルホアトムはテレグラムで、「定期的な砲撃の結果、発電所のインフラが損傷し、水素漏れや放射性物質飛散の危険性があり、火災の恐れが高い」とした。
現地の関係者は、ロシアの砲兵隊が原発から、ドニプロ川を隔てたウクライナの町を砲撃していると報告している。
このほか28日には、ロシアが占拠しているヘルソン州ノヴァ・カホウカ町の工場を、ウクライナ軍が砲撃。同州のウクライナ側高官は、ロシア軍がこの工場を軍事基地として使っていると話した。
BBCは、どちらの主張についても正当性を独自に確認できていない。

 

●ウクライナ軍、南部ヘルソンで反撃と発表 ウクライナは失敗したとロシア 8/30
ウクライナ軍は29日、ロシアが占領しているヘルソン州で、ロシアの「第1防衛線」を突破したと主張した。南部奪還を目指すウクライナが、反撃を開始しているとみられる。対するロシア側は、ウクライナが攻勢に失敗して「大きな損失」を被ったと主張している。
ウクライナ軍の南部の部隊「カホウカ」は同日、ロシアの支援を受けている1個連隊がヘルソン州の陣地から撤退したと報告した。支援していたロシアの空挺部隊も戦場から逃げ去ったという。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の顧問を務めるオレクシー・アレストヴィッチ氏も、ウクライナ軍が「数カ所で前線を突破した」と述べた。
補給路をめぐって
州都ヘルソン市と、そこから北東に約55キロ離れたノヴァ・カホウカ市からは、爆発音が聞こえたとの証言が報告された。両市にはドニプロ川を渡るための重要なルートがあり、ウクライナ軍はここ数週間、ドニプロ川の西岸に陣取るロシア軍の主要補給路を断つため、攻撃を繰り返してきた。
ウクライナ当局によると、ドニプロ川にかかる3つの橋を破壊するため、アメリカから供給された高機動ロケット砲システム「ハイマース」を使っているという。
ロシア軍は、補給をこの橋に頼っている。
ロシア国営RIAノーヴォスチ通信によると、ノヴァ・カホウカでは一晩中、電気と水道の供給が途絶えた。
「ロシア兵は逃げる時だ」
ロシアの複数の国営通信社は、同国国防省の話として、ウクライナ軍がヘルソン州と、隣接するミコライウ州で攻撃を試みたと伝えた。攻撃は失敗し、ウクライナ軍は「大きな損失を被った」という。
双方の主張は、独立した検証がなされていない。
ゼレンスキー大統領は29日深夜のビデオ演説で、ロシア軍に向けて厳しく警告。「生き残りたいなら、ロシア兵は逃げる時だ。家に帰れ」と訴えた。
ゼレンスキー大統領とウクライナ政府高官らは、報じられている反撃の詳細について口を閉ざしている。ウクライナ国民には忍耐を求めている。
ロシア側が住民投票を準備
ロシアは2月24日に侵攻を開始すると、大きな抵抗を受けずにヘルソン市とその周辺地域を占領。以来、ヘルソン州の大部分を占領するに至っている。
侵攻前は29万人が暮らしていたヘルソン市は、ロシア軍が占領した唯一の州都で、現在はロシアの支援を受けた当局者が治めている。
ロシアのタス通信によると、ヘルソン州では、ロシアへの正式加盟を問う住民投票の実施計画を当局者が進め始めている。アメリカはこれを、ロシアが不法に自国に併合する準備をしている可能性があると非難している。
ロシアは先月、ウクライナ東部だけでなく南部のヘルソン州とザポリッジャ州も、軍事的に重視していると述べた。
「原発施設の屋根に穴」とロシア
ロシアが任命したザポリッジャ州当局者は29日、ウクライナのミサイル攻撃によって、ザポリッジャ原発の燃料貯蔵施設の屋根に穴が開いたと主張した。
この主張は、独自に検証されていない。
ここ数週間、ウクライナとロシアの両国は、ザポリッジャ原発を砲撃していると互いを非難している。ロシアは3月上旬に、ヨーロッパ最大の原発である同原発を占拠。それ以来、ウクライナの職員を使って同原発を運営している。
ウクライナのゼレンスキー大統領は先週、ロシアのせいで、同原発で放射能漏れ事故が起こる寸前だったと述べた。
国連の国際原子力機関(IAEA)によると、ザポリッジャ原発にIAEAの視察団が今週、到着する予定となっている。
●ウクライナ戦争で強まったベラルーシ民主化への動き 8/30
スラヴォミール・シエラコウスキー(独外交評議会シニア・フェロー)がプロジェクト・シンジケートのサイトに8月17日付で「ベラルーシの反対派は強くなっている」との記事を書いている。記事の主要点は、次の通りである。
2020年8月の大統領選挙でチハノフスカヤはほぼ確実に現職のルカシェンコに勝っていたが、ルカシェンコは選挙結果を捏造、自身が80%の票を得たとして居座り、その後、大きな抗議活動が起こった。ルカシェンコ政権は抗議デモにテロと大量逮捕で応え、治安特殊部隊の残酷な介入によってかろうじて政権を保った。
しかし、今やベラルーシ人は20年8月以前の受け身の彼らとは異なる。ベラルーシは文化的にロシアとは違い、ベラルーシ人は彼らが近代的で民主的なリベラルな社会に住んでいると自己認識している。
ウクライナでのロシアの失敗しつつある戦争は、ベラルーシに機会を提供しうる。20年以降、ベラルーシ社会は長期の抵抗のやり方を学び、海外に基盤を置く自由なメディアを作った。そして今、たぶん初めてベラルーシの抵抗勢力は武器を持ち、ウクライナで反プーチンの闘争に参加している。
抗議から2周年、すべての政治勢力はチハノフスカヤを首班とするベラルーシ亡命政府に合意し、それを作った。これはヴィルニュスの彼女の事務所、国家危機管理局、ワルシャワに基盤を置く元制服組の組織BYPOL、サイバー・パルチザンを含む抵抗組織、ウクライナで戦っているパホニア(注:ベラルーシの愛国歌)部隊を含んでいる。2年前の抗議の際に作られた調整理事会は議会の代わりになりつつある。
大きな変化は、亡命政府は既に武装部門(ベラルーシ人20万以上が登録済み)を持っており、機会があればルカシェンコに対し蜂起する準備ができていることである。最近まで、ベラルーシの兵士も政府の役人も代替策を持っていなかった。しかし今は、ミンスクの正統性のない政府か、20年の戦挙で過半数を得て選ばれたチハノフスカヤを首班とする正統性のある政府かの選択を持っている。ウクライナでのロシアの屈辱がクレムリンを混乱に落としいれるときに出てくる機会に、この選択は行われるだろう。
ロシアのウクライナ戦争を同盟国として支援している国は、ベラルーシだけと言ってよいが、そのベラルーシの状況について、この記事はベラルーシの反体制派の動きを紹介している。ベラルーシではルカシェンコがひどい独裁政治をやっているが、ルカシェンコが政権の座にとどまっているのは、プーチンがロシア治安部隊の派遣などを通じてルカシェンコを支持しているからである。
2年前のベラルーシ大統領選挙では、ルカシェンコが80%の得票をしたと発表されたが、それを信じている人はいない。プーチンはベラルーシ国民の意志を尊重した対応をすべきであったが、ベラルーシ国民よりもルカシェンコを選んでしまった。
プーチン自身が不正な選挙で当選している面があり、ルカシェンコ支持がロシアの政情の安定、ベラルーシに対する影響力保持に資すると考えたのであろうが、あまり適切な判断ではなかった。普通に対応していれば、ウクライナもベラルーシも自然に親ロシアの国家、国民であり続けたのではないかと思われる。誇大妄想と被害妄想にとらわれて、プーチンはウクライナもベラルーシもその国民をロシア離れするようにしてしまっているように見える。
ルカシェンコにも危機感
ウクライナ戦争との関係では、ベラルーシはキーウ攻略のための通路に当たる。キーウ攻略はロシアが当初狙ったが、ウクライナ側に押し返された。
それで今はウクライナ東部と南部にロシア軍が集中されている。今後の戦争の推移はまだわからないが、ロシアがキーウを占領するシナリオはなく、ウクライナ全土を支配下に置くロシアの目論見が実現する可能性はほぼない。
ルカシェンコは、最初の話と違い、戦争が長期化している、長期化すると不測の事態が起きかねない、などと言っている。ルカシェンコの発言は支離滅裂であるが、ウクライナ戦争の帰趨が自分の政権維持に悪い影響を与える、チハノフスカヤ政権が成立しかねないと本能的に感じている可能性が大であるように思われる。
なお、ウクライナは人口が4000万以上であるが、ベラルーシは1000万に足りない。ベラルーシ軍は空軍、陸軍からなるが、4万少しの兵員しかいない。20万人が亡命政権の武装部門に登録しているというのは相当大きい数字である。 
●プーチンが示した「長期戦覚悟」の明らかなサイン  8/30
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は8月25日、同国軍の兵員を大幅に増やすよう命じた。ロシア政府が肥大化した軍隊を長年にわたりスリム化しようとしてきたことを考えると、大きな方針転換だ。これはまた、ロシア側に甚大な被害をもたらしているウクライナとの戦争の長期化にプーチンが備えを講じていることを改めて示すものでもある。
大統領府によって押印され、ロシア政府のウェブサイトに掲載されたこの命令は、目標とする現役兵員の数をおよそ13万7000人増やし、来年の1月時点で115万人確保するものとしており、必要な予算を確保するよう政府に命じた。
プーチンがロシア軍全体の兵員数を変更する命令を出したのは、この5年間では今回が初めてだ。今回の命令についてロシア当局は一切説明しておらず、国営放送でもほとんど言及されていない。
推計最大8万人の死傷者が出ている
ウクライナの全土、あるいは大半を再びロシアのものにするという目標の実現には依然としてめどが立たず、ロシア軍が人員不足に苦しむ中で、プーチンは今回のような行動を起こした。アメリカとイギリスの軍当局の推計によれば、2月に侵攻を始めて以来、ロシア軍はこれまでに最大で8万人の死傷者を出している。
こうした損害や前線の膠着状態から一部のアナリストは、今回の命令を、戦闘開始から6カ月がたった今もプーチンには攻撃の手を緩めるつもりがないことを示すシグナルと位置づけている。
「間もなく戦争が終わると考えているのなら、このような行動は起こさないだろう」。ランド研究所のダラ・マシコット上級政策研究員は「今回のような行動を起こすのは、争いの長期化に向けて何らかの計画を立てているからだ」と指摘する。
ただ軍事アナリストからは、国民を勧誘して強引に志願させる試みをすでに行っているロシア軍が、大規模な徴兵を行うことなく、ここまで大幅に兵員を増やせるのか、といった疑問も上がっている。
ウクライナでの戦争が来冬、あるいはそれ以上に長く続く可能性は大いにある。ウクライナ東部および南部でのロシアの攻撃ペースは落ちているが、両国は交渉や妥協に応じる構えを一切見せていない。ウクライナ国家安全保障会議の高官は先日、この戦争で最も過酷な時期はこれから訪れることになるかもしれない、と警告した。
ロシア国防省は軍事活動のペースを落としたという発表を行っているが、西側の軍事アナリストによると、これは何週間と軍事的な成果を上げられていない状況についてロシア政府が何らかの説明を行わなければならなくなった状況を映し出している。
現実には、ロシアは今もウクライナの各地で激しい砲撃を続けているからだ。24日にはウクライナ東部の駅がミサイル攻撃され、二十数人が死亡した。ロシアは2014年にクリミア半島を強制併合したときと同様に、占領地域で近く偽りの住民投票を実施する可能性があるとアメリカ当局は警告している。併合や親ロシア派の実効支配によって、ロシアへの帰属が正当なものであるかのように見せかける手法だ。
戦闘激化、動員拡大を求める極右の声
プーチン氏は8月に入り、ロシア軍はウクライナ東部を「解放しつつある」と述べたが、戦争を支持する評論家らは、さらに多くの国民や資源を動員し、攻撃を強めるようプーチン氏に求めてきた。
戦闘強化を求める声は、極右の評論家ダリア・ドゥーギナ氏がモスクワ郊外で車を爆破されて殺害されたことや、ウクライナ軍が前線から遠く離れたクリミア半島で破壊工作やドローン攻撃を行ったことを受けて、一段と強まっている。
より積極的な軍事行動を求める声と、作戦は計画通りに進んでいると主張して譲らないロシア政府。こうした状況の中でアナリストらは、プーチン氏の次の一手を見極めるのに苦慮している。プーチン氏は軍事活動をさらに激化させるのか、現在のペースを保つのか、それとも終戦の道を模索するつもりなのか——。
ソビエト連邦時代にKGBで諜報員を務め、パンデミック期間の大半を、側近も含めほとんど誰とも会わないようして過ごしていたプーチン氏の行動を予測するのが難しいことは、ロシアを専門とするアナリストらのほとんどが認めるところだ。
なにしろ、予測に使える材料すら乏しい。ところが、25日に発せられた兵員増強を命じる大統領令は、プーチンが戦争継続の準備を進めていることを示している。もっとも、ロシア軍がプーチンの兵員増強目標を達成できるのかどうかは未知数だ。
前出のマシコット氏は「懸念すべき発表だが、目標を達成できる能力があるのかどうかは疑問だ」と話す。
プーチン氏の下でロシア当局は、徴兵に頼ったソ連時代の軍隊から、西側諸国のように職業軍人を中心とする軍隊へとロシア軍を変えようと試みてきた。国防省は契約軍人の採用に長年力を入れ、18〜27歳の男性に課せられる兵役期間を1年に短縮している。
40歳の年齢上限もすでに撤廃
ロシア政府はウクライナでの戦闘に参加している部隊は契約軍人と志願兵のみで成り立っていると主張。今回の戦争も「特別軍事作戦」と呼称し続けている。しかし、ロシアに占領されたウクライナの地域では男性が軍役に強制的に就かされているほか、ロシア国内で徴兵された兵士が前線に送られているという情報も浮上している。
アメリカのシンクタンク、海軍分析センターでロシア研究の責任者を務めるマイケル・コフマン氏は「私のみるところ、今回の命令は必ずしもより大規模な徴兵や動員の前触れとなるものではない」とツイートした。「そうした可能性もなくはないが、(現在ロシアが行っている)さまざまな兵士採用の取り組みを支援することが目的ではないか」
ウクライナ東部で国家として独立したと主張する地域には親ロシア派の武装勢力がいる。こうした勢力をロシア軍に組み込む計画かもしれないとコフマン氏は述べている。これら地域の「併合を(ロシアが)行った場合にはとくに」こうした計画が実行される可能性があるという。
ロシア当局は高額な報奨金やその他の手当を提示することで人々を軍に勧誘。ウクライナでの戦闘に参加させるために、シリアで兵士を雇い入れてもいる。さらに5月にプーチン氏は、40歳を上限とする志願兵の年齢制限を撤廃する法律にも署名している。
●ウクライナ軍、南部の領土奪還へ多方面で反撃開始…露軍「第1防衛線」突破  8/30
ウクライナ軍南部方面の報道官は29日の記者会見で、ウクライナ軍が、南部ヘルソン州などロシア軍が占領する地域の奪還に向け、多方面での反撃を開始したと明らかにした。南部の領土奪還を目指し本格的な反転攻勢に乗り出した可能性がある。東部ドネツク州制圧を重視する露軍の侵略作戦や戦況全体に影響しそうだ。
南部のウクライナ軍部隊は、露軍が侵略初期の3月から占領するヘルソン州に構築している「第1防衛線」を突破したと強調した。
露国防省は29日、ヘルソン州や隣接するミコライウ州で少なくとも3方面から攻撃されたと認めた。その上でウクライナ軍に「多大な犠牲が出た」と反論した。
ウクライナの国防相は7月、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領から南部の領土奪還作戦に着手するよう指示されたことを明らかにしていた。
●ウクライナ軍、南部で大規模反攻か 「ロシア軍の防衛線突破」 8/30
ロシアが占拠するウクライナ南部ヘルソン州で、ウクライナ軍が占領地奪還を目指し大規模な反攻に出ているもようだ。ウクライナ軍は29日、フェイスブックで「ロシア軍の防衛線を突破した」と主張。英国防省は30日、「ウクライナ軍が南部の最前線で砲撃を強化している」との見方を示した。
ウクライナ軍は、ロシア軍が使用する大型の橋のほぼ全てを破壊したと説明。ロシアは一方的に併合したクリミア半島からの補給路を断たれたと述べ、「領土を取り戻す大きなチャンスだ」と強調した。
●ヘルソン奪還作戦が本格化か ウクライナ「戦争新段階」 8/30
米CNNテレビは29日、ロシアが制圧を宣言したウクライナ南部ヘルソン州で、同国軍が州都ヘルソンに近い四つの村を奪還したと報じた。ウクライナ軍事筋は「われわれの主要目標はヘルソンだ」と明言。軍の南部担当の報道官も多方面での反攻開始を認め、奪還作戦が本格化しているもようだ。
ヘルソンはドニエプル川の河口近くに位置する南部の要衝。イエルマーク大統領府長官は「非道な戦争の新たな段階に突入している」と強調。欧米に新たな措置を取るよう呼びかけた。
アレストビッチ大統領府長官顧問も、ヘルソン州の複数の地区で「前線を突破し、奥に攻め込んだ」と表明した。
●ウクライナ戦争で米弾薬在庫が激減 8/30
ウクライナでの戦争により、米国の一部の弾薬在庫が枯渇しつつある。国防総省が迅速に補充できていないため、米軍の戦闘準備態勢が危機にさらされるのではないかとの懸念が当局者の間で生じている。
米国はこの6カ月、16基の高機動ロケット砲システム「ハイマース」、何千もの銃やドローン、ミサイルなどの装備をウクライナに提供してきた。複数の国防当局者によると、これらの装備や弾薬の多くは米国の在庫から直接供給されており、予期しない脅威に対処するための備蓄が枯渇しつつあるという。
国防総省が供与した最も殺傷能力の高い兵器の一つは、重さ約100ポンド(約45キログラム)の155ミリ高性能弾薬を発射するりゅう弾砲で、数十キロ離れた標的に正確に命中させることが可能だ。米軍は8月24日時点で、ウクライナに155ミリ砲弾を最大80万6000発供与したと発表したが、年初に何発保有していたかについては明らかにしていない。
ある国防当局者は、ここ数週間で米軍の倉庫に保管されている155ミリ砲弾が「不快なほど低い」水準まで減ったと話した。米国が大規模な軍事紛争には関与していないため、在庫水準はまだ危機的ではないとしつつも、「戦闘に参加したい水準ではない」と述べた。
米軍は先週、シリアでイランが支援する複数の武装集団を攻撃するためにりゅう弾砲を使用している。155ミリ砲弾の激減は、いかなるシナリオにも対処できることを目指す軍にとってますます懸念材料となっている。
陸軍は「自国向け供給分」を確保しながらウクライナを支援する方策を判断するため、「弾薬の産業基盤の精査」を行っていることを明らかにした。また、陸軍の弾薬工場の機能を向上させるため、年5億ドル(約695億円)の予算を議会に要求しているという。一方、陸軍関係者によると、既存の契約を利用して弾薬の製造を増やしているが、在庫補充に必要となる量に対応する新規契約はまだ締結していない。
米軍関係者によると、マーク・ミリー統合参謀本部議長(陸軍大将)は米国が備蓄する兵器を毎月調べ、ウクライナでの弾薬需要を踏まえて適切な準備態勢を維持できているかを判断している。米国はこのほど、ウクライナにりゅう弾砲向けに別のサイズ(105ミリ)の砲弾を供与したが、これは155ミリの砲弾の在庫に懸念があることが一因だったという。
この問題に詳しい人物らによると、差し迫る弾薬不足の原因は資金不足ではない。米国は先週、ウクライナに約30億ドルの長期的な軍事支援を提供すると発表した。これにより、ウクライナ向けの兵器に費やされる額は総額で140億ドルになった。国防総省は来年に向けて7730億ドルの予算を要求している。
ワシントンのシンクタンク「アメリカンエンタープライズ研究所」の上級研究員を務めるマッケンジー・イーグレン氏は「これは知り得たこと、予想可能だったことであり、業界のリーダーなどから国防総省に事前に警告されていた。そしてそれは簡単に修正できるものだった」と述べた。
必要なのは問題を解消するために政府が資金を使うことだとイーグレン氏は話した。「世の中にはカネで解決できる問題もある。これもその一つだ」
国防総省の軍装備購入プロセスは通常、軍が必要な品目を決めるところから始まる。その内容が検討された後、民間企業に対して入札を実施する。だが2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、そうした必要品目について国防省は常に連絡してくるわけではない、と業界関係者は不満を漏らす。品目はしばしば変更され、遅延が生じ、防衛関連企業は追加生産の準備ができないという。
休止状態の生産ラインを急に稼働させるのはたいてい不可能であり、稼働中の生産ラインでも増産には時間がかかる。防衛関連企業は既に155ミリ弾薬を生産しているが、国防総省が在庫を補充するのに必要な態勢はまだできていない。
防衛産業関係者によれば、米国の場合、武器弾薬は発注から生産されるまでに13〜18カ月を要する。ミサイルやドローンなど、より先進的な武器の在庫を補充するには、もっと時間がかかる。
戦闘において消耗されるペースによっては弾薬不足はあっという間に生じる可能性があるため、1年の遅れでも問題となる。
「各国は戦争が起きないというリスクを負い、必要なときには対応できると想定している」。米シンクタンク、ランド研究所のサプライチェーン・セキュリティー部門ディレクターのブラッド・マーティン氏はこう指摘した。「(生産を早急に)拡大できるというのは真実ではないかもしれない」
こうした問題に詳しい国防当局者や議会関係者らは、弾薬不足について多くの要因を挙げている。国防総省の官僚機構は在庫補充のために新規契約を結ぶのが遅く、長期的需要に関する業界との情報共有に消極的だという。
ウクライナへの武器供与を急ぐ国防総省の部門と、武器購入を担当する官僚機構との間の調整不足も指摘されている。ある議会関係者は「契約プロセスは在庫減少よりはるかに遅い。この点についてできることは多くない」と語った。
ロッキード・マーチンのジム・テイクレット最高経営責任者(CEO)は、7月19日の決算発表の際、国防総省は武器弾薬を追加購入する契約をまだ結んでおらず、業界との調整も行っていないと述べた。こうしたプロセスは2、3年かかることが多い。
テイクレット氏は、国防総省が業界に追加受注の準備を促したいなら「ギアチェンジ」が必要だが、「クラッチはまだ作動していないと思う」と語った。
●本人も困惑している「プーチンの負け戦」──主導権はウクライナ側へ 8/30
まさか、まさかの展開である。2月24日の開戦から半年が過ぎたというのに、まだウクライナ戦争は続いている。侵攻を決断したロシア大統領ウラジーミル・プーチン自身を含め、ほとんど誰も予想できなかった事態だ。
しかしウクライナは大国ロシアの軍勢を相手に、なんとか持ちこたえている。西側からはそこそこの武器供与がある程度で、各国政治家の口先支援はあっても援軍は来ていないのに、だ。
祖国の存亡が懸かっているから、ウクライナ兵の士気は高い。対するロシア兵にはまともな現地指揮官がいないし、支給される武器は劣悪で、補給も当てにならない。
そもそも最高司令官のプーチンが兵士たちの足を引っ張っている。プーチンは情勢を読み誤り、ウクライナ政府を転覆できると信じて侵攻を命じた。その後は東部ドンバス地方の制圧に目標を変えたが、うまくいかずに兵力を消耗させるばかりだ。
しかも制服組トップの将官たちの意見を聞かず、気に入らなければクビを切っている。戦場で死んだ将官も10人以上だ。残る将官はプーチンの怒りを買うまいと、(米情報当局の推測によると)不都合な情報を隠している。
プーチンはロシア国民とも戦っている。自由を奪い、ロシア軍の損失についての実情を明かさない。戦死者の遺体や傷病兵を人目につかないよう夜間に移送させ、親族への通知も遅らせている。
アメリカの軍部や情報機関の高官たちは本誌に、この戦争は想定外のことだらけだと語った。しかし最も重要なのは、プーチンが自分の部下をまったく信用していない点だという。
匿名を条件に取材に応じた情報機関の高官に言わせれば、プーチンは「独裁者の常として、自分が誰よりも、軍隊よりも、どんな専門家よりも賢いと信じている」。
勝利確実との思い込み
プーチンが軍隊にいたのは1975年のほんの数カ月だけで、ソ連軍の砲兵隊に所属していた。その後はずっとKGB(国家保安委員会)にいた。そしてロシア政府を率いてきた過去22年間で3つの国内戦とシリアでの作戦を指揮した。
それで自分は有能な最高司令官だと思い込み、ついでにロシアの軍隊は絶対に負けないと信じるようになった。そんな肥大したエゴの持ち主のいいかげんな判断で、この戦争の行方は決まる。前線の兵士は使い捨てだ。
これは今や米軍と情報機関全ての見解が一致しているところだが、プーチンはロシアの軍隊がウクライナの民衆に「解放軍」として歓待されるものと確信していた。
彼はかねてからロシアとウクライナの両国は歴史、文化、宗教、そして言語さえも共有する一つの国であると説いていた。だから8年前にクリミア半島とドンバス地方の一部を強奪すると、次なる作戦の計画を練った。そして、この8年でウクライナは一段と弱体化したと信じた。
なにしろ今のウクライナの指導者(つまり大統領のウォロディミル・ゼレンスキー)はコメディアン出身で、勝利体験としてはダンスの腕前を競うリアリティー番組で優勝したことくらい。そんな男を失脚させ、ウクライナ全土を掌握するのは簡単だと、プーチンは判断した。
だからこそ、まずは数万のロシア兵を同盟国ベラルーシに送り、北からウクライナの首都キーウ(キエフ)に攻め入ることにした。
数的優位は明らかだから、最短72時間で首都を攻略できるとプーチンは踏んだ。ある意味、西側諸国もそういう判断を助長した。西側はロシアの戦争能力を過大評価する一方、ウクライナの防衛力を過小評価していた。
結果はどうだったか。首都へは迫れず、プーチンの戦争計画の大前提が崩れた。地上部隊は迅速に動けない。戦車や装甲車は道路で立ち往生し、物資等の補給は途絶えた。送り込んだ特殊部隊や空挺部隊は待ち伏せされた。ウクライナの防空システムを無力化するミサイル攻撃も失敗した。
柔軟性を欠くロシア
米CIA長官ウィリアム・バーンズは7月に、短期決戦での勝利を逃したのは「プーチンにとって戦略的な失敗」だったと指摘している。
戦いが長引いたことで、ウクライナ側は西側からの武器供与を待つことができた。同国のオレクシー・レズニコフ国防相は言った。「こちらの資源は限られているから、ロシアのような戦い方はできない」
違う戦い方ができるのは、高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)など、精密攻撃のできる兵器が届いたからだ。おかげでドニプロ(ドニエプル)川に架かる橋や後方のロシア軍陣地も攻撃できる。
それでもなおロシア側の戦術は変わらない。プーチンの固い縛りがあるからだ。
複数の米情報筋によれば、プーチンは将軍たちに激怒している。
だが最大の失態はプーチン自身が4方面作戦──北は首都キーウ、東はウクライナ第2の都市ハルキウ(ハリコフ)、南東はドンバス地方、南西は港湾都市オデーサ(オデッサ)──に固執した点にある。
短期決戦を前提に戦線を拡大したプーチンには長期戦に備える戦略がなく、代替策もなかった。
今のロシア軍はミサイルの在庫が手薄で、発射数を増やすことはできない。ウクライナ領内へロシアの爆撃機を飛ばすのも難しい。ウクライナの防空システムがしっかり機能しているからだ。
ロシア地上軍は戦力の3分の1以上を失い、攻勢に出る余力はない。ロシアとて無限の戦争能力を持っているわけではない。それでもプーチンは軍隊を前へ、前へと動かす。これは敗北への道だ。
ウクライナ側の損失も大きいが、今やロシア軍の7倍の兵力を動員できる。ウクライナの兵力は、報道されているよりもずっと多い。しかも新規の志願者が殺到している。
欧米にはまだ約20年前のイラク戦争時代の戦争観が残っていて、ウクライナ側の優位性を見落としがちだが、今の戦争は量より質の勝負。数字は当てにならず、ものをいうのは最新兵器の威力だ。
軍隊はたくさんの武器、たくさんの爆弾を欲しがるものだが、少数でも精度の高い兵器を用いて標的を正確に攻撃できれば、より大きな戦果を得られる。この点でウクライナはロシアの上を行く。
「西側の、そしてウクライナの決意を砕けると考えたプーチンは間違っていた」とCIAのバーンズは言う。そして計算違いに気付いたプーチンは「目的を縮小した」とみている。もはやウクライナ全土の支配はもちろん、ドンバス以遠の領土を奪うつもりもないという見立てだ。
開戦からわずか3週間で、プーチンは首都キーウ制圧を断念した。そして現場の指揮官を次々と解任し、入れ替えた。複数の米政府筋によれば、プーチンは情報機関のトップや国防相とも争い、異論を唱える者を遠ざけている。
そして現場の指揮官をさらに混乱させた。南部戦線の拡大にこだわり、ウクライナの黒海沿岸部の制圧を命じたことで、軍隊はドンバス地方の占領地確保という本来の任務に集中できなくなった。
これでプーチンと制服組の溝が広がったと、英軍情報部のジム・ホッケンハル中将は8月初めに指摘している。
禁じ手を使って兵士集め
米軍の情報部高官も、「プーチンの政治的な口出しが大損失をもたらしている」と本誌に語った。
「プーチンは革新を口にしながら、意思決定の中央集権化を進めている。権限を分散させ、開放的にし、現場のイニシアチブとリスクを引き受けなければ、硬直した戦略に逆戻りだ。結果、ロシア軍は今も火力と長射程の大砲、MRL(多連装ロケット砲)とミサイルによる攻撃に依存している」
こうしてロシア軍は、じわじわと前進しつつも甚大な損失を出している。ウクライナ軍の背後を攻めるチャンスなど、ありはしない。
プーチンの欠点や失敗も大きかったが、この戦争はロシア軍の情けない状態を容赦なくさらけ出している。
このところロシア軍の新しい「ハイブリッド戦争」については多くのことが語られてきた。それは数的優位と特殊部隊やサイバー攻撃を組み合わせたものとされるが、ウクライナではどれも大きな効果をもたらしていない。
一方、戦車、歩兵、砲兵といった伝統的な軍隊は、組織の問題で弱体化した。蔓延する汚職、古風で有害ないじめの横行、戦う兵士の体力や精神状態を無視した冷酷な動員計画が現場の兵士に疲労と恐怖、士気の低下、反抗的な空気を生み出している。
情報筋によれば、戦場から逃げ出す兵士や戦闘を拒否する兵士の数は異常なほど増えている。一方で死傷したロシア兵は既に8万人に上る。
ロシア国防省は、軍隊に入れそうな人間を探し出しては強引に引き入れ、ボーナスや上乗せ手当を支給しているが、それでも兵員の供給が追い付かない状態だ。
ロシアの傭兵、とりわけ正規軍を補うという名目で編成された悪名高いワーグナー・グループについては多くの批判があるが、この戦争の遂行には彼らの存在が不可欠だ。
ロシア政府が傭兵に頼るのは、正規兵には法律で決められた各種の規則や権利、給与水準があり、手続きも面倒だからだ。代わりにチェチェン人などの「ボランティア」で構成する部隊も動員している。
プーチンはまた、かつてのソ連時代にあったような青年運動を全国的に展開している。米情報筋によれば、この運動は国際メディアと西洋文化のロシアへの浸透に対抗すると同時に、社会全体の軍国化と、軍隊への支持を生み出すのが目的だという。
ウクライナに関する「フェイクニュース」を宣伝しているという口実で、既に既存メディアとインターネット上の言論の自由は剝奪されている。一般市民が戦争の犠牲者に対して示す同情も、社会における「弱すぎる姿勢」として非難の対象になる。
この戦争が始まって以来、何千人もの反戦デモ参加者が逮捕された。プーチンの弾圧がロシア社会に及ぼす影響は計り知れない。CIAの観測では、余裕のあるロシア人は既に国外へ逃れている。国外にいて、戻る気のない人も増えていて、この半年で200万人に迫るという。
新たな戦略の用意がなく、攻勢を強めようにも兵力と装備が足りないとなれば、さすがのプーチンも停戦交渉に入るか、偽りの勝利宣言をするしかあるまい。あるいは、核兵器の使用をちらつかせることが勝利(あるいは延命)への最善の道と考えるか。
米政府は当初から核兵器使用のリスクを考慮し、ウクライナ政府に対してはロシア領内の標的を攻撃しないよう、固くクギを刺してきた。結果、ロシアはある意味で戦術的な優位に立てた。
そうでなければウクライナ国境からわずか数キロのベラルーシ領やロシア領に陣を構え、出撃することなど不可能だった。その点で、核兵器の存在が抑止力になったのは確かだ。
だが、プーチンが核兵器を実際に使用するとは考えにくい。核兵器で攻撃するほどの軍事的標的がないからだ。
ウクライナ兵100万のうち、4分の3に当たる75万人は2400キロ以上に及ぶ前線と後方地域、国内各地の基地に分散している。
一方、第2次大戦ではナチス・ドイツとソ連・欧州連合軍が前線に1500万の兵力を集結させていた。「戦術」核兵器という概念が生まれたのは、これほどの兵士が戦場に集まっていた時代だ。
核兵器を擁護する人々の考えが間違っているのは、昔の戦場の状況を現代に当てはめている点にある。
ロシア軍がウクライナに送り込んだのはせいぜい11万人。ウクライナ侵攻を「戦後最大の戦争」などと不吉な言葉で表現するから、それなら核兵器を使う意味もあるという誤解が生じる。もちろん、プーチンがそんな妄想を抱いている可能性は否定できないが。
ロシア軍撤退の可能性はどうか。旧ソ連は1989年に、約10年に及ぶアフガニスタン戦争から撤退している。その前例に倣うことは可能だ。
今回の戦争では、ロシア軍は一貫して前進を続けているとされ、ウクライナは辛うじて持ちこたえているだけとみられてきた。
しかし、こうした見方はウクライナ側にとってプラスに働いた。手遅れになる前に武器と支援を送ってほしいという西側諸国への訴えに、切実さが増したからだ。
ロシア軍がキーウ周辺から撤退し、ドンバス地方での攻撃を再開して4カ月近くになるが、ウクライナに対して決定的な打撃を与えられずにいる。
セベロドネツクとリシチャンスクを占領したが、多大な人的犠牲を払った。ルハンスク(ルガンスク)州の大部分を掌握したが、その後は再び膠着状態に陥っている。地上部隊は徐々に前進しているが、ペースは遅く、戦死者があまりに多い。
こうした状況に、ロシア軍の士気は確実に低下している。一方、米政府およびNATOの情報機関によれば、ウクライナ軍も同程度の死傷者が出ているものの、士気は依然として高い。新たな部隊を次々と投入し、兵士の命を守るための作戦も講じている。
ウクライナ軍は量より質
プーチンの号令の下、ドンバス地方の残り半分(ドネツク州)の戦線ではもっぱら砲撃戦が続いている。接近戦では士気の高いウクライナ軍に勝てないから、ロシア軍は伝統的な砲撃戦を重視し、ミサイルやロケット弾の雨を降らせている。
今まではウクライナ軍が劣勢だったが、西側からの追加軍事支援により、長射程で精度の高い武器を使えるようになってきた。
オデーサを含む南部戦線では様相が異なる。ロシア軍は立ち往生し、ドニプロ川の西側の占領地域で孤立している。ウクライナ軍が、川に架かる主要な道路や鉄道橋を破壊し、補給線を断ったためだ。
前線で持ちこたえるのをやめ、ロシアの前線部隊への補給を断ち、兵糧攻めにする。ウクライナがそういう戦略に転換したため、この戦いは長引いている。もはや最前線の戦闘員を殺し、戦車を破壊すれば済む話ではない。今のウクライナ軍は後方にあるロシア軍の基地や弾薬庫、物資や燃料も攻撃できる。
南部戦線の司令官ドミトロ・マルチェンコは通信社RBCウクライナの取材に「いずれヘルソンは完全に解放される」と語ったが、その時期についての明言は避けた。
「予測は好きじゃないが」と彼は言った。「こちらが必要とし、供与を約束された武器が全て手に入れば、来年の春には勝利を祝えると思う」
今年の春までに戦争は終わると、プーチンは読んでいた。その読みを見事に覆したウクライナの人たちは今、自信をもって先を見据える。そう、勝負は「来年」の春だ。

 

●英首相「冷戦終結の勇気称賛」 ゴルバチョフ元大統領死去に  8/31
ジョンソン英首相は30日、ゴルバチョフ元ソ連大統領の死去を受けツイッターに、冷戦を平和裏に終結させた「勇気と高潔さを常に称賛してきた」と投稿、訃報に触れ「悲しみを感じている」とした。
ジョンソン氏は「プーチン(ロシア大統領)がウクライナに侵攻している時代に、ソ連社会を解放したゴルバチョフ氏のたゆまぬ努力はわれわれの手本であり続ける」とつづった。 
●ウクライナ戦争の帰趨を決める「ヘルソンの攻防」が始まった 8/31
ドニエプル川が黒海に注ぐ河口にあるウクライナ南部の港湾都市ヘルソンは、ウラジーミル・プーチンのロシア軍が本格的なウクライナ侵攻を開始した後、最初に制圧した主要都市だ。今、この都市は、ウクライナ軍が領土を奪還するための攻防の焦点だ。
ウクライナ側が同市の周辺にあるロシア軍陣地を攻撃したと発表したため、ヘルソン州を奪還するウクライナ軍の試みが進行しているのではないか、との憶測も呼んでいる。
「ロシアが支配するドニエプル川西岸へルソン州の占領地を奪還することは、ウクライナ政府にとって心理的にも政治的にも大きな勝利となるだろう」と、コネチカット州ウェズリアン大学のピーター・ラトランド教授(ロシア・東欧・ユーラシア研究)は言う。
ロシアの手に落ちた州都はヘルソン市しかない。ヘルソンを失えば、ロシアが対岸のオデーサを奪取することもはるかに難しくなる」と彼は本誌に語った。
「もっとも、ヘルソン市を奪い返してもなお、ドニエプル川東岸にはザポリージャー原子力発電所を含む広大なロシアの占領地が残る」
ウクライナ大統領府は8月30日、この地域で昼夜を問わず「強力な爆発」と「厳しい戦闘」があったと報告した。同報告書は、ウクライナ軍が弾薬庫と、ロシア軍が物資の運搬に必要とするドニエプル川の大きな橋をすべて破壊したと伝えた。
過度の楽観視は警戒
ロシアの通信社タス通信によると、30日にはヘルソンで5回の爆発があったが、これは防空システムの作動による可能性が高い。
一方、ウクライナ軍の南方作戦司令部は、ドニエプル川を渡るための舟橋やヘルソン地域の12カ所の司令部を破壊したと報告している。
本誌は、ウクライナとロシアの国防省にコメントを求めた。
ウクライナは6月下旬から、アメリカから供与された高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)でドニエプル川にかかる橋を攻撃し、ロシア軍の弾薬や重機の補給を中断させている。
反撃を始めたと発表したものの、ウクライナ当局は過度の楽観視を警戒している。オレクシー・アレストビッチ大統領顧問はテレグラムの自身のアカウントで、反撃について「敵を粉砕するためのゆっくりとした作戦」と表現した。
「わが軍が大規模な攻勢をかけ、1時間で居住地を奪還したというニュースを聞くことを、多くの人が望んでいる」と、彼は書いた。
だが今回の戦闘報道でわかったのは、スウェーデンの元首相で外交官のカール・ビルトが6月28日に語った「ヘルソン地域の支配権をめぐる戦いは、これまでのウクライナの戦争の最も重要なカギになる」という予測が確かだったということだ。
ビルトは、ヘルソンには「ウクライナを黒海から完全に切り離すというロシアの明確な意図がある」とツイートした。
譲れない重要拠点
ドニエプル川の両岸に広がるヘルソン市と州は、ロシアが2014年に占領したクリミア半島への玄関口にあたる。この地域を奪還すれば、ウクライナ軍のクリミア奪取に向けた攻撃の拠点になりかねない。ウクライナは関与を表明していないものの、クリミアではすでに、ロシアの軍事施設などを標的にした爆発事件が何度も起きている。
ヘルソンは戦争が始まってすぐに陥落したため、マリウポリやセベロドネツクといった都市のように破壊されずにすみ、ロシアの占領軍による政治支配が確立している。
キーウとウクライナ第二の都市ハルキウの占領に失敗したロシアにとって、ヘルソンを失うことはロシアが獲得した最も具体的な成果の一つを消し去ることになる。
また、この地域にはクリミアを支える発電所や貯水池があり、農業的にも経済的にも重要で、ウクライナの黒海を通じた穀物輸送の再開にも役に立つ可能性がある。
「この地域には象徴的、戦術的な重要性がある」と、地政学的戦略家のアルプ・セビムリソイは本誌に語った。
さらに、ウクライナがヘルソンを取り戻すことは、「クリミア再統合のビジョンを示す」だけでなく、「黒海におけるウクライナの軍事力を向上させる部隊の配置」が可能になると述べた。また黒海経由の穀物輸出でトルコとの協力関係を強化することもできるという。
●ウクライナ軍が南部の要衝奪還へ反攻開始、戦闘激化 8/31
ウクライナはロシア軍が占領する南部の要衝ヘルソン市奪還に向け同市の周辺で反攻を開始、激しい戦闘を繰り広げている。ウクライナ大統領府が明らかにした。ドニプロ川と黒海に面したヘルソン市はロシアの侵攻開始後間もなく陥落した。
ウクライナ南部軍司令部によると、同軍は前線の複数の地点で29日に反攻を開始、ヘルソン地域周辺のロシア軍拠点を砲撃した。ロシア国防相は声明で、ウクライナ軍の攻撃を認めた上で、作戦は「悲惨な失敗」に終わったとした。
欧州のエネルギー危機は深刻化した。ロシアの国営天然ガス会社ガスプロムは支払いを巡る不一致を理由に、フランスのエネルギー会社エンジーへの天然ガス供給を停止すると発表した。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
ガスプロム、仏エンジーへの天然ガス供給停止を通告
ロシアの国営天然ガス会社ガスプロムはフランスのエネルギー会社エンジーへの天然ガス供給を停止すると発表した。欧州のエネルギー危機が深刻化した。ガスプロムは発表資料で、7月供給分に対するエンジーの支払いが一部滞っているため、同社に9月1日からの供給停止を通告したと説明した。ガスプロムは先に、8月30日からエンジーへの供給を削減すると表明していた。
ロシアが輸入したイラン製ドローンに数多くの不具合−米国務省
米国務省のパテル報道官は、ロシアがウクライナでの戦闘で使用するため輸入したイラン製ドローンについて、「既に数多くの不具合が発生している」と指摘した。
ロシア軍事演習へのインド参加を米国は懸念−ホワイトハウス報道官
ホワイトハウスのジャンピエール報道官は、ロシアが9月1日から実施する予定の軍事演習にインドが参加することについて問われ、同演習に参加する全ての国に関して米国は懸念していると答えた。
●ロシア人ビザ発給制限で合意 優遇措置を凍結 EU外相 8/31
欧州連合(EU)は31日、チェコの首都プラハで2日目の外相会議を開き、ロシア人に対する観光ビザ発給を事実上制限することで合意した。
ロシアによるウクライナ侵攻を受けた措置。
会議終了後に記者会見したEUのボレル外交安全保障上級代表(外相)は、ロシア人のEU加盟国への渡航が「安全保障上のリスクになっている」と指摘。2007年にロシアと結んだビザ申請に関する協定の全面停止で一致したと明らかにした。
ボレル氏は、協定に基づくビザ取得の優遇措置を凍結することで、ロシア人の取得手続きはより困難になるとし、「新たに発給されるビザは大幅に減少するだろう」と強調した。
EU各国はこのほか、ロシアがウクライナ国内の占領地で発給したパスポートを認めないことなどでも合意した。 
●G20からのプーチン排除に失敗した米バイデンが見誤る世界の実状 8/31
NPT(核兵器不拡散条約)再検討会議において、ザポリージャ原発の問題を取り上げロシアの反発を招いたアメリカ。ロシアへの制裁もアメリカの思惑通りには動かない国が多くあり、米バイデン政権の戦略は袋小路に入っているようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、ジャーナリストの高野孟さんは、アメリカが多極化した世界の一員として振る舞うことを学ばなければ、11月にバリ島で行われるG20サミットにおいて孤立する可能性が高いと指摘。アメリカが恐れる「脱ドル化」へと進め始めた新BRICSによる動きについても伝えています。
バイデン政権の対露「政治制裁」路線は11月バリ島で行き詰まるのか?/G7 vs G20、BRICS……
NPT再検討会議が8月26日に閉幕日を迎えながら「最終文書」の採択を諦めざるを得なかったのは、米国がウクライナ戦争の渦中にある同国南東部のザポリージャ原発の問題を何としても同文書に盛り込んでロシアを政治的に非難する機会としようとしたことに、ロシアが反発したためである。
ザポリージャ原発をめぐる駆け引き
しかし、第1に、ザポリージャ原発がロシアとウクライナのどちらの手に落ちるかは、ウクライナ戦争の1つの戦術局面として由々しき問題であるけれども、NPT再検討会議そのものとは何の関係もない。5年に一度開かれる同会議は、核保有5カ国が核軍縮義務を果たしているかどうか、非核保有国に違反の動きがないかどうかを点検して「核なき世界」の実現に向け歩を進めようというところにある。
第2に、ザポリージャ原発をめぐって何が起きているかは双方からプロパガンダ情報が飛び交っているのでよく分からないが、確認される限りでは、ドンバス地方を抑えたロシア軍はその西のマリウポリ市を拠点とする「アゾフ大隊」を壊滅させ、ザポリージャ州とさらにその西のヘルソン州の大半を占領、クリミア半島への陸続きの道路・鉄道ルートを確保したと見られる(なかなか分かりやすい地図が見つからないので防衛省「ウクライナ」ページの地図の一部を切り取ったものを示す。
元々ロシアの主要関心事は、プーチンが予め宣言したように、ドンバス2州の多数を占めるロシア系住民の安全確保にあり、最初の段階でゼレンスキー大統領が素早く停戦に動いていれば、ドンバス2州を2014年の「ミンスク合意」に従ってウクライナ国内での高度の自治体制に置くのか、それとも独立させてロシアに併合させるのかの交渉が始まっていただろう。そうせずに「第3次世界大戦の始まりだ!」とでも言うような着地点なしの大戦争に踏み切って行ったために戦局は無駄に長引き、半年後の今、ロシアにアゾフ海沿岸からクリミアを経て黒海北岸までをベルト状に抑えられてしまった。
その過程で、これも確認されうる限りでは、ロシア軍は欧州最大の原発であるザポリージャ原発を占領し、従来通りウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムの職員に運転を続けさせている。その目的はどうも電力確保にあるようで、フランスの通信社AFPニュース8月10日付によると、ロシアは同原発の電力をクリミアに送電する計画であるという。同原発では砲撃が続いていて、ウクライナとロシアの双方とも相手側によるものとして非難の応酬を続けているが、少なくともロシア軍が占領している原発を自分で攻撃するとは考えられず、ウクライナの過激派による仕業である可能性が大きい。
従って第3に、NPT再検討会議の最終文書草案がロシアを名指しで非難しないようにしながらも同原発に関して「ウクライナ当局による管理の重要性を確認する」という表現を残したのは、ロシアを怒らせるための米国の挑発以外の何物でもなかった。
もちろん、ロシアのウクライナ侵攻そのものが不当であり、そこで起きている全てのことはロシアに責任があると言えばそうに違いないのだが、米国代表が「ロシアがこの表現を嫌ったのはウクライナを地図から消そうという企てを覆い隠そうとするものだ」と言い立てたのは、このローカルな1原発の管理問題というはっきり言って些事を以てNPTの大義をブチ壊し、ロシアの悪逆非道ぶりを際立たせようという米国の対露「政治制裁」作戦の一環である。
ロシアを叩けば米国が浮上するという錯覚
米国がこのように感情剥き出しでロシア叩きに狂奔するのは、かつて20世紀には疑いもない世界No.1覇権国であった時代へのノスタルジアからのことで、その時代が終わってしまった以上、米国は必ずしもNo.1ではなくなり、例えば今世紀半ばを待たずして中国にもインドにもGDPで抜かれてNo.3になることを見通して、多極化した世界の一員として振る舞うことを学ばなければいけないのに、その悟りを開くことができないという老大国の認知障害の表れである。
現にウクライナ情勢をめぐっても、7月にジッダを訪れたバイデンにサウジのムハンマド皇太子が教え諭したように「米国の価値観を100%押し付けようとすれば、付いていくのはNATO諸国だけで、それ以外の世界の国々は米国と付き合わないだろう」(本誌No.1168参照)というのが世界の実情であるのに、米国にはそれが見えない。
この問題にバイデンが否応なく直面せざるを得なくなるのは、今年11月15〜16両日バリ島で開かれる「G20」首脳会議となろう。G20サミットのホストであるインドネシアのジョコ大統領は18日、同会議にロシアのプーチン大統領と中国の習近平主席が揃って参加することになったと発表した。この発表は、日本のメディアでは誰一人そう解説していないが、米国の「プーチン排除」要求に対するあからさまな拒絶である。
ブルームバーグ・ニュースのコートニー・マクブライド記者によると「ロシアのウクライナ侵略直後から、米国はインドネシアに対しロシアをG20から除名せよ、プーチンをバリ・サミットに呼ぶなと圧力をかけてきた」(ジャパン・タイムズ8月22日付)が、対露経済制裁に加わることも拒んできたインドネシアがそのようなG20の枠組みを破壊するような計画に賛成するわけがない。それどころか、同じ文脈で、米国が8月にペロシ下院議長を台湾に送り込んで中国に対し無用の扇動を行ったことにも不快感を深めている。
困ったのがバイデンで、まさかG20をボイコットしてプーチンのやりたい放題を許すわけには行かない。そこで考えた次の一手は、ウクライナのゼレンスキーをリモートで参加させて発言させることで、そうすればプーチンはいたたまれずに会議そのものをスキップするかもしれない……。
しかしワシントンでは、バイデン政権に好意的な人々の間でも、このような対決的なやり方は効果が薄いと見る人たちがいる。例えば、オバマ政権の国防長官やCIA長官を務めたレオン・パネッタはブルームバーグTVのインタビューに答えてこう言った。「もし、最終的にロシアや中国と戦争をしたいのでなければ、お互い同士の対話への意志を通じて問題解決を図るしかない」と。
もはやG7よりG20、さらにはBRICSか?
G7は、1970年代のニクソンショック、石油ショックという大変動のなか、75年に米英仏独伊日の6カ国による「第1回先進国首脳会議」として始まり、翌年の第2回からカナダが加わってG7となった。冷戦終結後の1990年代に、米クリントン政権や英ブレア政権がロシアのエリツィン大統領の経済改革を支援し、またNATOの東方拡大に対するロシアの不安を和らげるなどの思惑から、98年の第24回英バーミンガム・サミットでロシアを正式メンバーに迎え「G8」となった。
ロシアは先進国の範疇には入らなかったので、この時から「主要国首脳会議」と呼称が変更された。ロシアは2013年まで参加し、14年にはクリミア侵攻を理由に資格を停止されたので、その年からまた「G7」に戻った。とはいえ、カナダを除く6カ国とロシアは20世紀前半までの帝国主義時代の「列強」で、そこにG7/G8の本質的な限界があるというのも1つの見方である。
実際、なぜロシアが入るのに興隆著しい中国は入らないのかは理屈では説明がつかず、その辺りから「G7/G8無用論」も語られるようになり、2008年リーマンショックによる金融大崩壊の最中、「G20サミット」が創設された。これはG7プラス12の有力な途上国、国際機関として欧州連合・欧州中央銀行の20カ国・機関で、いわゆる先進国だけでは世界経済の運営を語り尽くせなくなった時代の到来を象徴する。
となると今度は、いっそのことG7を抜きにした有力な途上国だけで語らう枠組みが有効ではないかとする考えが広がり、G20の始まりの翌09年にはロシア主導でブラジル・ロシア・インド・中国の「BRIC」が、11年の中国開催のサミットでは南アフリカが加わり「BRICS」が成立した。さらに今年6月23日にサマルカンドで開かれたサミットでトルコ、イラン、アルゼンチン、サウジなどが加盟を検討しており、近々「新BRICS」8〜9カ国となる方向が示唆された。
これらの関係をG20を主舞台として描くと……、
(1)G7    米英仏独伊日加
(2)新BRICS ロシア、中国、インド、ブラジル、南アフリカ、トルコ、イラン、アルゼンチン、サウジアラビア?
(3)その他  インドネシア、韓国、オーストラリア、メキシコ
(2)と(3)の中で米国の言うことを聞きそうなのは韓国とオーストラリアくらいで、(1)と合わせれば9カ国で数としてはほぼ拮抗するが、プーチンと習近平が目の前にいる席でバイデンが「この2カ国と訣別して私に従え」と言えるのかどうか。
新BRICSが「新国際基軸通貨」構想
この新BRICSが米国にとって脅威なのは、彼らが「脱ドル化」に向かって動き始めていることである。サマルカンドでのBRICSサミットでプーチンは、BRICSの国々の通貨バスケットによる新しい国際基軸通貨を創設することを検討中であると表明した。
習近平もこの席で「世界金融システムの支配的地位を利用して世界経済を政治化、道具化、武器化し、やみくもに制裁を加えることは、自らを傷つけるだけでなく他者をも傷つけ、世界中の人々を苦しめるだけだ」「強者の立場に執着し、軍事同盟を拡大し、他者を犠牲にして自国の安全を求める者は、安全保障の難局に陥るのみだ」と、ウクライナ戦争を機に米国がますます独善に傾いていることを強く非難した。
11月のG20サミットでは、こうした通貨を含む多極化世界の運営構想が大いに語られ、米国の孤立が浮き彫りになる可能性が大きいのではないか。
●「プーチンの奥深い正しい判断」信じるロシア国民...命とりになる? 8/31
2022年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻して半年が過ぎ、戦争は長期戦の膠着状態に入った。
西側諸国はロシアに厳しい経済制裁を幾重にも科し、停戦圧力を加えてきたが、欧米が期待するような成果はあがっていない。むしろ、エネルギー危機が拡大して欧州に歴史的なインフレが襲来、市民生活が脅かされる事態に陥っている。
果たして、ロシアへの経済制裁は効いているのか、いないのか? プーチン大統領が強気でいられる理由は? エコノミストの緊急リポートを読み解くと――。
最低賃金や年金引き上げ、子育て支援のバラマキ作戦
報道によると、経済指標の推移はロシア経済の意外な好調さを物語っている。2022年7月27日に発表したロシア国家統計局の統計によると、ウクライナ侵攻直後の3月のインフレ率は7.6%であったが、4月には1.6%となり、6月にはマイナス0.35%にまで低下した。
ロシアの失業率は、1月には4.4%だったが、3月には4.1%、5月には3.9%にまで下がっている。当初、外資系企業の相次ぐ撤退と経済混乱で、失業率が大幅に上昇するのではないかと予測されたが、公式統計を見る限り、逆に下がっているのだ。
欧米による経済制裁の発動直後は、市民が買いだめに走り、スーパーの棚から商品が消えたという報道が相次いだが、一時的だったようだ。これは、ロシア政府の素早い対応が功を奏したとみられる。ウクライナ侵攻直後、政府は最低賃金の引き上げ、年金受給額の引き上げ、軍関係者への一時金支給、子育て世帯への補助金支給の拡充などを積極的に行った。こうした各種バラマキ政策も景気と市民生活を下支えしたようだ。
朝日新聞(8月24日付)の「経済動じぬロシア ワイン・牛肉自給自足、石油・天然ガス高騰追い風」が、撤退した米スターバックスの資産を買収したロシア資本のコーヒー店に並ぶモスクワ市民の生活ぶりをこう伝える。
「ロゴはスタバそっくり。カップに名前を書くなどサービスもスタバそのままだ。(中略)米マクドナルドもロシア企業に事業を売却。国内チェーンの『おいしい。それだけ』が誕生し、市民は同じような味を楽しめている。輸入の制約で品薄が懸念されたスーパーやレストランには商品が豊富に並ぶ。2014年にウクライナ南部クリミア半島を併合後、ロシアは欧米の制裁への対抗措置としてワインやチーズ、牛肉などの国産化を進めた成果もあるようだ」
毎日新聞(8月25日付)の「制裁措置、双方に痛手 露、輸入減 供給網混乱」も、ニュアンスが少し厳しいが、こう伝える。
「大手マクドナルドの後継店『フクースナ・イ・トーチカ(おいしい、それだけ)』。(中略)。記者が店舗を訪れると、イワンさん(26)は『味は変わっていないが、メニューが少なくなったのが寂しい』とため息をついた」「商標権などの関係からビッグマックなど一部の商品がメニューから消えた。イワンさんは『ここに限らず全般的に選択肢が狭まっている』と言う」
ロシア港を出港する石油タンカーに変化はない
いったい、なぜ経済制裁の効果がみられないのか――。
日本経済新聞(8月30日付)の「中国が学ぶ対ロシア制裁の限界」という記事につくThink!欄の「ひと口解説」コーナーでは、慶應義塾大学総合政策学部の白井さゆり教授(国際経済学)が、
「対ロシア制裁は前例のない規模で行われているが、SWIFT(国際銀行間通信協会)からすべてのロシア系銀行を排除せずにガス関連の銀行の決済を可能にするなど完全な意味での制裁ができていないこと、および西側が適用した制裁に参加せずロシアとの取引を継続した国や企業があっても二次的制裁が適用しにくいことが、効果を弱めている」
と指揮したうえで、
「ロシア港を出港する石油タンカーの貨物量はウクライナ戦争前と変化がないとの指摘もある。ロシア経済の4〜6月期の経済成長率はマイナス4%とマイナス幅が小さかった。ロシアがノルドストリーム1のパイプラインを8月31日から9月2日まで閉鎖するためEUガス価格が急上昇しており、欧州経済への打撃も大きい」
と、むしろ欧州のほうの打撃が大きいと述べた。
ニッセイ基礎研究所研究理事の伊藤さゆりさんも、こう指摘した。
「ドル、ユーロ、円、ポンドなど制裁に参加した通貨が国際取引に占める割合は、国の数やGDPに占める割合より遥かに高い。金融制裁の効果が期待された理由だ。しかし、エネルギー収入が得られるロシアは、国際金融市場へのアクセスが制限され、資本流入が絞られても麻痺しなかった。逆に、国際通貨や国際金融市場での圧倒的地位を武器化したことで、西側通貨や金融市場の地位低下は進みそうだ。(中略)グローバル化は、供給網だけでなく金融面でもピークは過去のものになったのではないか」
制裁の「抜け道」にインド、トルコ、ブラジル、中国
大和総研 経済調査部エコノミストの増川智咲さんはリポート「対ロシア制裁は失敗なのか」(8月19日付)で、経済制裁の効果がなかなか表れない理由について「抜け道」の存在を指摘した。
ロシア産エネルギーの輸入停止に移行期間が設けられているが、2022年8月半ば時点で、エネルギー全般の輸入停止をしているのは、米国、カナダ、オーストラリアの3か国だけ。この3か国は、もともとロシア産エネルギーへの依存度が低いうえ、ロシアにとっても3か国に対する輸出額は全体の約4%と小さい。お互いにほとんど痛みを感じないわけだ。
問題は制裁に加わっていない国々だ。図表1は各国の対ロ輸入額を前年比で表したものだ。増川さんはこう指摘する。
「制裁に加わっていない国々がロシア産エネルギーの代替輸出先となっている点である。(中略)制裁参加国である米国、日本、韓国の輸入額が前年比で大きく低下しているのに対し、制裁に加わっていないインドやブラジルの対ロ輸入額は大きく増加している。インドは、アジアで中国に次ぐ石油精製能力を持つが、精製用の原油を輸入に依存している。そのため、割安なウラル産原油を購入し、石油製品を高価格で輸出することで、価格マージンを得るインセンティブが大きい。またブラジルは、ロシアへの依存度の高い、化学肥料や小麦の輸入を増加させている」
ただし、増川さんは2023年には「抜け道の大半が塞がれる」として、「制裁は失敗ではなく、ロシア経済に負の影響をもたらしているのは確か」と結んでいる。
英国民はこの冬、食事か暖房かを選ばざるを得なくなる
ロシアへの制裁がブーメランになって返ってきて、エネルギー危機による歴史的なインフレに直撃された欧州の苦境を、大和総研ロンドンリサーチセンター・シニアエコノミストの菅野泰夫氏がリポート「ロシアのガス供給戦略に翻弄される欧州 求められるのは脱・脱炭素か?」(8月25日付) で、ドイツと英国のケースを中心に伝えている。
図表2はロシアのドイツなどへの報復によって供給を減らされた天然ガスの量と、その分、高騰したガスと石油のスポット価格の推移だ。いかに凄まじい天然ガス不足が欧州を襲っているかがわかる。菅野氏はまずドイツの状況をこう伝える。
   図表2:大和総研の作成
「政府はガス配給制導入に向けて準備を進める一方で、シャワー時間を短縮するといった省エネを促し、冬までにガス施設の貯蔵量を引き上げようと必死の努力を続けている。一部都市では既に公共施設での温水供給や公園の噴水、歴史的建造物のライトアップを止めるといった涙ぐましい施策も導入されている。なお配給制となれば、一般家庭や病院、介護施設また発電など特定産業への供給が優先されるが、他のセクターへの供給は削減されることになり、経済への打撃は必至である。当局は大手企業からデータを収集し、規模や経済的なダメージ、特定施設の再開のコストや期間など6つの基準によって、配給制が導入されたときの休業リストを策定している」
といった状況だ。
英国の場合は、ロシアのウクライナ侵攻だけが原因ではない。急速な脱炭素社会への移行の反動や、化石燃料に対する投資の急減も加わって、「生活危機」の状況に陥った。
「コロナ危機による行動制限の緩和でガスの需要が急増したうえ、ロシアからの供給に懸念が生じたためにエネルギー価格は急速に上昇し、40年来の高水準となる10%を超えるインフレの主因となっている。政府は一度限りの400ポンド(約6万4800円)のエネルギー料金割引や、地方税の一部還付といった支援パッケージを策定したが、焼け石に水の感がある(食品価格も高騰しており、生活費危機は改善の糸口が見えない状態にある)」
「低所得層では冬にかけて、食事か暖房かを選ばざるを得なくなる事態も十分に考えられる。エネルギー料金の高騰で巨利を得たエネルギー企業への怒りも強まり、料金の支払いを拒否する市民運動も高まりつつある」
といったありさまなのだ。
バイデン大統領の狙いは「持続可能な経済制裁」?
ところで、経済制裁は一定の目的を果たしていることを、非常にユニークな視点から分析したのが、丸紅経済研究所のリポート「ロシアレポート特別号:制裁の目的はプーチンに戦略的失敗を理解させること」(8月15日付)だ。
リポートでは、
「経済制裁はロシアの侵攻を即時に停止させるようには効いていないようにみえる。それでは経済制裁の目的はなにか」
と問いかけて、こう続ける。
「ホワイトハウスのホームページをみると、『〜そして第2に、誰も制裁が何かが起こるのを防ぐことを期待していませんでした。これは時間がかかるでしょう(this is going to take time.)』というバイデン大統領の2月24日付発言がある。さらに調べると同日ダリープ・シン米国家安全保障補佐官は次のように述べている。『そして最後に、私が前に述べたように、それら(経済制裁)は持続可能でなければなりません。これらの制裁は長期的に機能します。それが私たちの設計を導くものです』そして2月26日付のホワイトハウス声明は、一連の制裁の目的を明示(We will hold Russia to account and collectively ensure that this war is a strategic failure for Putin.)している。要するに『持続可能、長期的、失敗をわからせる』が一連の経済制裁のキーワードなのだ。そう考えるとロシアからのエネルギーの流れを一定程度維持することで持続可能性を高めた今回の経済制裁はここまで一定の目的を果たしていると言える」
と、結んでいる。
「持続可能な経済制裁」で、プーチン大統領に失敗をわからせることがバイデン大統領の狙いだったとは......。しかし、プーチン大統領は「失敗」と認めているのだろうか。
軍事侵攻が続くと高まるロシア国民の米国・NATOへの敵対心
ロシアへの経済制裁があまり効いていないとなると、ロシア国民が「反戦」に目覚めることに期待するしかないが、そもそもロシア国民はウクライナ侵攻をどう思っているのか。
ロシア国内の世論調査の分析からこの問題に迫ったのが、公益財団法人・日本国際問題研究所のウェブサイトにリポート「ロシア国民はウクライナへの軍事侵攻を支持しているか?」を発表した溝口修平・法政大学法学部教授(現代ロシア政治外交)だ。
   図表:軍事侵攻に対するロシア国民の世代別支持率(日本国際問題研究所の作成)
上の図表は、ロシア政府と一定の距離を置く独立系世論調査機関レヴァダ・センターが発表しているによれば、プーチン大統領に対する支持率だ。溝口氏はこう指摘する。
「ロシア国内の世論調査では、開戦以来、国民の大半が『特別軍事作戦』を支持しているという状況が続いている。独立系世論調査機関レヴァダ・センターによれば、プーチン大統領に対する支持率は、2021年10月にロシア軍がウクライナ国境付近に展開した頃から上昇し、開戦を機に80%を超えた。これはクリミア併合後(2014年)と同水準の高さである。(中略)政府系世論調査機関の全ロシア世論調査センターの調査結果でも、開戦以来70%以上の人が特別軍事作戦を支持し続けている。このように、開始から半年が経過しても、軍事侵攻に対する支持はそれほど低下していない」
レヴァダ・センターの調査結果を詳しく見ると、3月時点でロシアが「特別軍事作戦」を始めた理由としては、ドネツク・ルハンシク(ウクライナ東部を実効支配する親ロシア派の自称国家)の「人民共和国」に住むロシア系住民の保護を挙げる人が最も多く(43%)、続いてロシアに対する攻撃の抑止が挙げられている(25%)。一方で、NATO拡大の阻止を上げた人は14%にとどまっていた。
「ただし、戦争を契機にロシア国民の中のNATOに対する脅威認識が強まっていることも事実である。『ロシアにはNATOに加盟する西側諸国を恐れる理由がある』と考える人は、クリミア併合が行われた2014年ごろをピークに減少傾向にあり、2021年11月にその割合は48%であったが、軍事侵攻開始後の2022年5月には60%にまで上昇した。また、半数以上(57%)が、ウクライナにおける死者や破壊の責任は米国やNATOにあると考えている。NATOに対して否定的な感情を持つ人も増加傾向にあり、2022年5月には82%にまで達した。このように、ロシアに根強い反米感情やNATOを敵視する感情が強化されていることは、国民の多くがウクライナへの軍事侵攻を支持している大きな要因になっていると考えられる」
つまり、軍事侵攻を続けるにつれ、ロシア国民の米国とNATOに対する反発が強まり、プーチン大統領の支持率上昇と結びついているわけだ。溝口氏は、こう結んでいる。
「西側諸国の協調のもとで大規模な経済制裁が行われてきたが、それが国民の戦争に対する意識を変化させるには至っていない。むしろ、米国やNATOに対する敵対意識は強化されており、それが国民の戦争に対する支持の姿勢を支えている。日本国内では、反戦運動の拡大がプーチン政権の行動を変えたり、プーチン政権を打倒したりすることを期待する声もあるが、現時点ではそのような傾向は見られていない」
戦争を長引かせているロシアの「二つの無関心」
公益財団法人・日本国際問題研究所研究員の伏田寛範氏も、リポート「長期化するウクライナ戦争―経済制裁のロシア経済・社会への影響の観点から―」(8月12日付)で、ロシアの世論調査を分析。政府系と独立系の、二つの世論調査機関の代表のコメントから、ロシア国民の戦争に対する考え方を浮き彫りにした。
伏田氏によると、プーチン大統領が高い支持率を集めている現状を、政府系世論調査機関の全ロシア世論調査センターのワレリー・フョードロフ所長は「ドンバス・コンセンサス」と名付けたという。「ドンバス」とは今まさに紛争の焦点になっているウクライナ東部のことだ。
「フョードロフ所長は、この「ドンバス・コンセンサス」の背景には、(1)2014年のクリミア併合以降、ロシアは西側の制裁を受け続けているが、その『ニューノーマル』の現状を国民は受け入れており『制裁慣れ』している。(2)今回の制裁にしても現時点では市民生活にそれほど大きな影響が出ていないために、人々には今回も危機を乗り越えられるにちがいないといった「自信」がある、といったことに加え、(3)ロシア国民はこれまでのプーチンの外交政策の『実績』を買っており、今回の戦争についても『自分たちにはとうてい理解の及ばない、プーチンの奥深く正しい判断に違いない』と考えている、といった要因があるのではないかと述べている」
一方、独立系世論調査機関の代表はどう見ているのか。
「独立系世論調査機関のレヴァダ・センターのレフ・グトコフ研究部長は、人々は日々の生活をどうするかで精いっぱいで政治や戦争に関心が向かっておらず、こうした人々の『無関心』が結果的にプーチン政権とその政策を支えているのだとみている。だが、制裁の影響が現実味をもって感じられるようになれば、人々は『無関心』ではいられず、いずれは政権批判につながっていくだろうと同研究部長は指摘する」
いずれにしても、日々の生活で精いっぱいという「無関心」と、「これまでのプーチンと同様、今回の戦争もきっと正しいに違いない」といった他人任せの「無関心」という、二つの「無関心」が戦争を長引かせているというのだ。
ロシアを襲う! 国債のデフォルトと原油価格下落
さて結局、経済制裁は効いてくるのだろうか。「戦争継続の障害になるほど強力なダメージとして効いてくる」と主張するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「ウクライナ侵攻半年の世界経済:景気を犠牲にした物価安定の回復とロシア経済・戦争継続への逆風が視野に」(8月22日付)の中で、こう述べている。
「先進国の対ロシア制裁が段階的に強化されていくなか、国防費の急増によりロシアの財政収支はマイナス2600億ルーブル超と、月次ベースで初めて赤字に転じている。もはや、エネルギー輸出で戦費は賄われない状況になってきているだろう。外貨建て国債が事実上のデフォルト(債務不履行)に陥るなか、ロシアは海外からの資金調達の道が閉ざされている。さらに外貨準備のほとんどは海外で凍結されてしまった。そのもとでは、対外収支はバランスする必要がある。そうした中で、輸出が制裁措置によって縮小を強いられれば、それに合わせて輸入も縮小することを強いられる。そうなれば、生活に必要な輸入品は減少し、物不足がインフレ圧力を高めるだろう。さらに、輸入部品、原材料が減少する中、ロシア国内での生産活動にも悪影響が及んでいく。それは軍需産業についても同様である」
ロシアの戦争資金を調達してきた原油価格が下落していることもマイナス材料だ。
「世界経済の減速懸念を背景に、すでに原油価格は下落傾向を見せ始めている。これは、ロシア経済、財政に一段と打撃となっているはずだ。さらに、欧州でロシア産天然ガスからの脱却が進められているなか、冬場の需要期を過ぎれば、天然ガスの価格も下落に転じるだろう。そうなれば、ロシア経済の苦境は一段と強まり、いよいよ戦争の継続にも大きな障害となってくるのではないか」
●G20、共同声明採択できず ウクライナ情勢が影響―環境・気候相 8/31
20カ国・地域(G20)環境・気候相会合が31日、インドネシア・バリ島で開かれた。気候変動対策や生物多様性保全などについて話し合ったものの、ウクライナ情勢をめぐって意見がまとまらず、共同声明を採択できなかった。
日本からは西村明宏環境相が出席。環境省によると、会合ではウクライナ情勢をめぐり、ロシアによるウクライナ侵攻を最大限非難するとともに、ウクライナ国民との連帯を表明した。他の国も同様に主張し、共同声明に盛り込むよう求めたが、合意に至らなかった。ロシアが反対したとみられる。7月のG20財務相・中央銀行総裁会議でも共同声明を採択できず、今回の会合でもウクライナ情勢が影を落とした形だ。
●ウクライナ市民のロシアへの強制移送 8/31
ロシア軍とその傘下の兵士は、戦闘から逃れてきた人を含むウクライナの一般市民を、ロシア連邦または同国がウクライナ国内で占領した地域に強制移送している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。
報告書「『選択の余地はなかった』:『フィルタリング』審査とウクライナ民間人のロシアへの強制移送で問われる戦争犯罪」(全71ページ)は、ウクライナの一般市民が強制的に移送される実態を調査・検証したもの。文民の移送は、戦争犯罪に該当するとともに、人道に対する犯罪に該当する可能性もある戦争法(戦時国際法)の重大違反。また、ロシアおよびロシア関連当局は、数千人〜数万人規模のウクライナ市民を対象に、「フィルタリング」審査と呼ばれる強制的で懲罰的かつ人権侵害的なセキュリティ・スクリーニングを実施した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの危機・紛争担当上級調査員で、本報告書を共同執筆したベルキス・ウィレは、「ウクライナの一般市民がロシアに行くよりほか選択がない状況に取り残されてはならない」と述べる。「そして、安全のためには人権侵害を伴うスクリーニングを受けるほかない、ということもあってはならない。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ロシア行きになった人、フィルタリング審査された人、家族や友人がロシアに移送された人、ロシアから脱出しようとしているウクライナ市民を支援した人など54人に聞き取り調査を実施。その大半はマリウポリ地域から避難した人びとだが、ハリコフ地域から移送された人もいる。 また、マリウポリ地域の紛争地帯から、ウクライナの支配地域にフィルタリング審査をされることなく避難できた数十人の市民にも聞き取り調査を行った。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは 2022 年 7 月 5 日、ロシア政府に対し、本報告書の調査結果の概要および質問事項を書簡で送付したが、回答はなかった。
ロシアおよびロシア関連当局は、包囲した南東部の港湾都市マリウポリから脱出した人びとの移送手段を組織的に用意した。ロシア占領下に留まるか、ロシアに行くしか選択肢はなく、ウクライナ支配地域に行くことは「忘れる」べきだと言われた市民もいる。マリウポリから移送されたある女性は、「そうできるなら、もちろんウクライナに行ったことでしょう」と語る。「でも私たちにはその選択も可能性もありませんでした。」
検問所にいる兵士やその他の要員が、避難するウクライナ市民に対し、ロシアか「ドネツク人民共和国」(DNR)に行くよう指示していたと証言する人もいる。当該地域はロシア軍が占領し、傘下の武装集団が支配しているドネツク地方に位置している。占領地域で一般市民を一斉検挙した軍関係者も同じことを言ったという。なかには、経済的に恵まれていたため、ウクライナの支配地域に避難する手段を自ら確保できた人もいる。
ロシアと国境を接するハリコフ地方東部の都市やいくつかの村の住民も、強制的にロシアに移送された。Ruska Lozova村の 70 歳の男性は、ロシア軍から「我々の支配下に暮らしていたのだから、ウクライナ軍が来たら罰せられ、処刑されるだろう」と言われたと語った。彼は脅しに屈しなかったが、何百もの家族が村を離れてロシアに向かった。
限られた例外を除いて18〜60歳の男性が国を離れることを禁じるウクライナ戒厳令を回避するためなどの理由で、自発的にロシアに行ったという証言もあった。
ロシアに移送されたウクライナ民間人の総数は不明のままだが、その多くは違法な強制となるような方法や状況で追放され、移送された。7月下旬、ロシア国営通信 (TASS) は、44万8,000人の子どもを含む 280万人超が、ウクライナからロシアに入国したと報じている。
スマートフォンやSNSを使うことができた人の中には、ロシアからエストニア、ラトビア、グルジアへの脱出を支援している活動家たちとつながることができたケースもある。とはいえ、ウクライナから避難する際に身分証明書を持ち出さなかったため、国境で問題に直面した人びともいた。
ロシア軍または傘下の軍が、ウクライナの一般市民を個別または集団でロシアに避難させることは戦争法で禁じられている。強制移送は戦争犯罪であり、人道に対する罪にも該当する可能性がある。住み続けた場合の暴力、強要、拘禁といった結末を恐れて同意したような状況での移送、占領勢力が文民を移送できるような強制的環境での移送のいずれも違法行為だ。文民の移送や追放は、引き金となった人道危機が占領勢力による不法行為の結果である場合、人道的理由から正当化できず、合法とみなされない。
マリウポリ地域で何千人もの住民が脱出しようとした際に強制的に受けさせられた「フィルタリング」審査の間、ロシア占領地域のロシア軍および傘下の関係当局は、一般市民の指紋や正面・側面の顔面画像といった生体認証データを広く収集した。加えて身体検査、私物および携帯電話の検査を行い、個人の政治的意見についても質問した。
マリウポリ出身のある男性は、彼を含む数十人のマリウポリ住民が、フィルタリング審査を受ける前の2週間を、村内の不潔な校舎で過ごしたと語った。多くの人が病気になり、先行きを心配していたという。「自分たちがまるで人質になったように感じました。」
ロシアには、自発的にロシア領土に入国しようとする人びとに対してセキュリティ・スクリーニングを実施する正当な理由はありうる。が、フィルタリング審査は、その範囲、そしてウクライナの一般市民がそれを強制された組織的な方法において懲罰的かつ虐待的であり、法的根拠もなく、プライバシー権を侵害している。
この審査に「失格」した人びとは、ウクライナ軍や愛国者集団とのつながりを疑われたとみられ、オレニフカの収容所など、ロシア支配地域内で拘禁された。この施設は7月29日に砲撃され、少なくとも50人のウクライナ市民が犠牲になったとされている。
占領地域にいるロシア軍および傘下の軍は、一般市民がウクライナ支配地域への脱出を望む場合は、その安全を確約すべきだ。バスに乗った人びとに行先をはっきりと知らせ、ロシアに向かいたくない人に選択肢を与えなければならない。ウクライナ市民にロシアに行くよう圧力をかけるのを止め、ウクライナへの帰国を望んでいる人がそうできるようにすべきだ。
ロシア当局はまた、ウクライナ内外で進行中の生体認証データの収集および保存プロセスを全面的に停止する必要がある。こうしたデータの収集は合法的かつ均衡性があり、必要な場合のみとし、データ収集の理由、使用方法、保存期間を対象者に通知しなければならない。
前出のウィレ上級調査員は、「同意なしに人びとをロシア占領地域、さらには、ロシアに向かわせることを直ちに停止すべきだ」と述べる。「ロシア当局および国際機関は、自らの意思に反してロシアに連れて行かれ、安全な帰国を望んでいる人びとを助けるために、可能なかぎりのことをしなくてはならない。」 
 
 
 
 
 


2022/6-