GW 外交デビュー

岸田総理
GW 外交デビュー
相変わらず 肩をゆすって歩く 考え事

インドネシア、ベトナム、タイ 繊細な働きかけ

イタリア、イギリス アジアの実情を理解してもらう

 


 
 
●岸田首相、就任後初の2国間訪問としてインドを公式訪問 3/20
岸田文雄首相は3月19日から20日にかけ、就任後初の2国間訪問として、日本との国交樹立70周年を迎えたインドを公式訪問し、ナレンドラ・モディ首相と会談した。両首脳は経済や安全保障などの各分野でさらなる協力を推し進めることで合意し、共同声明「平和で安定し繁栄した新型コロナ後の世界のためのパートナーシップ」を発表した。
経済分野では、2021年の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)でうたわれた全世界の排出量ネットゼロ達成に向け、日本とインド間でも電気自動車(EV)や、蓄電池を含むエネルギー貯蔵システム、EV充電インフラ、太陽光エネルギー、グリーンを含むクリーン水素・アンモニアなど各分野の成長を目指すとともに、エネルギー安全保障を目的とした新たな枠組み「日印クリーン・エネルギー・パートナーシップ(CEP)」の立ち上げも歓迎することを共同声明に盛り込んだ。日本からインドへの投資に関しては、今後5年間で官民合わせて5兆円を目標とすることで一致した一方、岸田首相からモディ首相に対し、日本企業のインドにおける円滑な活動のため、さらなる環境整備への支援を要請している。なお、農水産品の輸出入では、日本産リンゴのインドへの輸出解禁とインド産マンゴーの日本への輸出手続きの簡素化に合意した点にも言及した。
安全保障分野では、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、2国間の外務・防衛相が参加する協議「2+2」の次期会合の早期開催に両首脳が合意したほか、両国に米国、オーストラリアを加えた4カ国で構成するクアッド(QUAD)など複数国間のパートナーシップの重要性にも言及した。また、インドにとって重要な友好国であるロシア(2021年12月13日記事参照)に関し、国連安全保障理事会や国連総会でのウクライナ侵攻への非難決議でインドは棄権しているが、今回の共同声明では、両首脳はウクライナにおける紛争や人道的危機について深刻な懸念を示し、戦闘行為の即時停止や解決のための対話と外交の重要性を強調した。
首脳会談が行われた3月19日は、ジェトロやインド工業連盟(CII)などが主催する日印経済フォーラムも両首脳が出席して開催された。フォーラムでは、モディ首相の出身州のグジャラート州でスズキが新たにEVやEV向け車載用電池の現地生産、車両解体・リサイクル工場の建設を行うことを発表、同社とグジャラート州政府との間で約1,500億円規模の投資に係るMoU(覚書)が締結された。インドで最大の乗用車市場シェアを持つマルチ・スズキは、豊田通商グループとともに車両解体・リサイクル事業を行う合弁会社を立ち上げており(2021年12月6日記事参照)、今回発表された車両解体・リサイクル工場は、ニューデリー近郊のノイダに続いて2カ所目となる予定だ。なお、インド重工業省は2月11日、EVや燃料電池車(FCV)の国内生産を対象とした自動車(完成車)分野の生産連動型優遇策(PLI)で、スズキの100%子会社スズキ・モーター・グジャラートを含む20社を承認企業として認定したことを明らかにしている。
●閣僚がGW外遊ラッシュ コロナ影響で3年ぶり 4/28
4月下旬から5月上旬の大型連休は閣僚らの外遊ラッシュとなりそうだ。
岸田文雄首相は今月29日から8日間の日程で東南アジア3カ国とイタリア、英国を歴訪。閣僚は10人が海外出張を予定している。2020、21両年は新型コロナウイルス感染拡大の影響でほとんどの閣僚が外遊を控えたため、本格的な「連休外交」は19年以来3年ぶりとなる。
20年の大型連休はコロナに関する初の緊急事態宣言発令下で、全閣僚が外遊を自粛。21年は当時の菅義偉首相がインド、フィリピン両国を訪問予定だったが、インドでのコロナ感染急拡大を踏まえ取りやめた。同年の大型連休中の閣僚外遊は、茂木敏充外相(当時)による英国と東欧3カ国訪問のみだった。
政府は26日の衆院議院運営委員会理事会で、閣僚らの外遊予定を説明。林芳正外相が中央アジア、モンゴル、太平洋島しょ国を訪問するほか、日米防衛相会談に出席する岸信夫防衛相ら4閣僚は訪米する。
外務省幹部は「コロナは完全には収まっていないが、制約を乗り越えて対面外交が復活してきた。対面でないと話せないことがある」と語った。 
●インドネシア、ロシアに停戦求める 日本と首脳会談 4/29
岸田文雄首相は29日、インドネシアの大統領宮殿でジョコ大統領と会談した。ロシアによるウクライナ侵攻をめぐって協議した。ジョコ氏はこれに先立ち、ロシアのプーチン大統領と電話で話し、停戦と和平交渉を求めた。
インドネシアは2022年に20カ国・地域(G20)の議長国を務める。11月にバリ島で開く首脳会議(サミット)にプーチン氏を招待した。米国はG20からロシアを排除するよう求め、実現しない場合はウクライナを参加させるよう唱えている。
首相とジョコ氏はG20首脳会議に向けて協力を確認する。ウクライナをめぐり「力による現状変更に反対」と一致する見通しだ。日米などが主導する「自由で開かれたインド太平洋」の実現で連携する。
エネルギー問題も話し合う。日本は対ロ制裁でロシアからの石炭輸入を段階的にやめる。豊富な天然資源を持つインドネシアは代替地の候補だ。首相は脱炭素に向けた技術開発でアジア各国に協力を呼びかけている。
中国が軍事拠点化を進める南シナ海情勢についても意見を交わす。日本は海洋安全保障でインドネシアを支援する。
●日本とベトナムの首脳会談 ウクライナ紛争の即時停戦と人道支援で一致 5/1
1日、ベトナムのハノイで首脳会談を行った日本の岸田文雄首相とベトナムのファム・ミン・チン首相とは、ウクライナにおける紛争の即時停戦と、人道支援が重要であるとの認識で一致した。NHKが報じている。
日本の外務省によると、この会談で岸田首相は、いかなる地域においても力による一方的な現状変更を絶対に認めてはならないとの考えを示した。また両首脳は、国際法および国連憲章の基本的な原則、独立・主権や領土の一体性を尊重する原則が守られなければならないことを確認した。
ウクライナ情勢に関して両首脳は、即時停戦とウクライナへの人道支援が重要であるとの認識で一致した。
さらに会談で岸田氏は、中国を念頭にした南シナ海での一方的な現状変更に強く反対すると述べ、両首脳は国際法の遵守が南シナ海の平和と安定に不可欠との認識で一致した。
岸田首相は4月30日、ファム・ミン・チン首相が開いた晩餐会に出席し、ウクライナ情勢で連携する必要性を訴えた。
●核兵器の使用・威嚇に反対、日ベトナム首脳が一致 5/1
岸田文雄首相は1日、ベトナム首相府でファム・ミン・チン首相と1時間半ほど会談した。ロシアによるウクライナ侵攻に関し、核や化学兵器など大量破壊兵器による威嚇や使用、民間人や民間施設への攻撃に反対する考えで一致した。
両首脳は即時停戦と人道支援が重要だとの認識を共有した。国際法と国連憲章の基本的原則である独立や領土・主権の一体性を尊重することが必要だとも確かめた。
チン首相は共同記者発表でロシアが侵攻するウクライナへの人道支援で50万ドルを供与すると表明した。「関係者に平和的な解決を求める」と呼びかけつつも、ロシアを名指しした批判は避けた。
ベトナムは国連総会での対ロ非難決議を棄権し、ロシアの国連人権理事会の資格停止決議には反対した。旧ソ連時代から武器提供などで支援を受けてきた関係にある。岸田首相には今回の会談を通じ、ベトナムに対ロ包囲網への理解を促す狙いがあった。
岸田首相は会談後、記者団に「私の訪問を機会にベトナムとして初めてウクライナへの人道支援を発表したことを前向きな一歩として評価する」と明言した。
対ロ姿勢で温度差があるベトナムに関し「ロシアとの伝統的な関係があり、難しい立場があることは理解している」とも言及した。
両首脳は中国が南シナ海で軍事拠点づくりを進めていることについて意見交換した。岸田首相は共同記者発表で「力を背景にした一方的な現状変更に強く反対することで一致した」と訴えた。チン首相は国際法を順守する重要性を強調した。
岸田首相は年内に自衛隊がベトナム軍にサイバー防衛に関する訓練で協力を始めることを確認した。南シナ海問題を念頭に海上保安能力の向上に向けた支援も継続すると伝えた。
日本側によると、日本やベトナムが加盟する環太平洋経済連携協定(TPP)も議題になった。
岸田首相は中国からの加盟申請などを踏まえ「経済的威圧や不公正な貿易慣行を許容しないTPPの精神を守っていきたい」と話した。いまのルールを維持するために新規加盟国をめぐる対応で協力すると申し合わせた。
弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮や、国軍がクーデターで政権を掌握したミャンマーをめぐる情勢でも認識を擦り合わせた。
岸田首相は昨年11月、就任後初めて日本に迎えた海外の首脳としてチン首相と会談した。両氏の会談はそれ以来となる。5月1日にはベトナム最高指導者のグエン・フー・チョン党書記長やグエン・スアン・フック国家主席らとも相次ぎ会談した。
●対ロ認識、東南アジアと共有 国際世論の形成支援 5/3
岸田文雄首相は2日、タイのプラユット首相と会談し東南アジア5カ国首脳との一連の日程を終えた。ウクライナに侵攻するロシアを名指し批判するのは避けつつ停戦や人道支援の必要性の認識を共有した。対ロの国際世論形成を急ぐ米欧を側面支援する狙いだ。
米国はウクライナ侵攻で機密情報を公にするなど異例の情報戦を展開する。国際世論の流れを引き寄せればロシア制裁の抜け穴を塞ぎ、ウクライナへの支援拡大が期待できるためだ。岸田首相も首脳外交で東南アジアの対ロ認識に照準を定めた。
首相は2日、タイ首相府でプラユット首相と会談した。力による一方的な現状変更に反対する方針を確認した。
国際法や国連憲章の原則を守る重要性と人道支援を表明した。大量破壊兵器による威嚇や使用の反対でも一致した。プラユット首相は「すべての関係者に暴力を停止し最大の自制をするように呼びかけてきた」と述べた。
中国が軍事拠点化を進める南シナ海の情勢に連携して対処する。ウクライナや南シナ海は中ロによる軍事・経済力に基づく覇権主義の脅威で共通する。
防衛装備品の移転や技術協力を可能にする協定を締結した。日本の装備品を譲渡や輸出する場合、性能の情報も提供するため自衛隊とタイ軍の信頼構築にも役立つ。
東南アジア各国は大国とバランスを取りながら付き合うのが伝統的だ。ウクライナを侵攻するロシアを非難するのは避け、対ロ制裁に踏み切る日米欧とは距離がある。ベトナムやラオスは国連総会の対ロ非難決議も棄権している。
岸田首相は4月23日にカンボジア、ラオス、29日にインドネシア、5月1日にベトナムの首脳ともそれぞれ会談した。
首相は2日、バンコク市内で記者団にウクライナ情勢を巡り「主権と領土の一体性が尊重されなければならないこと、力による一方的な現状変更は許されないことは共通認識を確認できた」と語った。
各国で濃淡はあるものの、即時停戦や人道支援の必要性などを確かめた。首相はインドネシアなどの首脳会談を振り返り「中国に関しては東・南シナ海における力を背景とした一方的な現状変更、経済的な威圧に強く反対すべきだと述べた」と明かした。
推進力としたのが安保・経済の実利的な協力だ。ベトナムでは地球観測衛星の打ち上げによる防災能力向上のため円借款190億円をはじめ、官民で22件の協力案件の交換文書も取り交わした。
日本はベトナムとも2021年9月に防衛装備品移転の協定を結んでいる。首相は5月1日の首脳会談後に「先方から具体化すべく、話し合いを進めていこうという前向きな発言があった」と話した。
ベトナムなどロシアや中国と関係の深い国との外交交渉には妥協もつきまとった。首相は一連の東南アジア首脳との会談で自由や民主主義、法の支配といった価値観の重要性はほとんど触れなかった。
東南アジア諸国連合(ASEAN)各国は中国の影響力拡大を懸念し米国など他の大国とバランスを取りたいのも本音だ。複雑な事情に配慮しながら地域をまとめることができれば、首相の外交成果となりうる。
●岸田総理「できるだけ理解と協力を得るよう努力した」東南アジア3か国歴訪  5/3
東南アジア3か国の歴訪を終えた岸田総理大臣はウクライナ情勢について「首脳会談を通じてできるだけ理解と協力を得るよう努力した」と強調しました。
岸田総理「東南アジア3か国との首脳会談を通じて、理解と協力を得るよう努力をいたしました。できるだけ一致してロシアに対して明確なメッセージを発してもらう。こういった取り組みを促していかなければいけない」
インドネシア、ベトナム、タイの訪問を終えた岸田総理は東南アジアにはロシアと伝統的に関係が深い国もあることを指摘した上で、「繊細な働きかけが求められる。丁寧な取り組みが必要だ」と述べました。
岸田総理は、この後に訪問するイタリアやイギリスなど「G7各国にアジアの実情を理解してもらう努力を続けていくことが日本の役目だ」と強調しました。
●G7で中ロの結束に対抗 日伊首相が確認 安保協力を拡大 5/4
岸田文雄首相は4日、イタリアのドラギ首相と会談した。ロシアによるウクライナ侵攻は「国際秩序の根幹を揺るがす」と非難した。欧州にもアジアの安全保障への関与を求め、主要7カ国(G7)で中国とロシアの結束の動きに対抗する。
岸田首相は安全保障上、欧州とインド太平洋は切り離せないと指摘した。中国の南シナ海や東シナ海での威圧的な行動も「一方的な力による現状変更の試み」だと考えるからだ。
日本とイタリアは自由や民主主義、法の支配といった普遍的な価値を共有する。先に訪問した東南アジア各国の首脳との間では話題にならなかった共通項といえる。
岸田首相は共同記者発表で、インド太平洋への貢献策を盛ったイタリアの文書策定に触れ「地域に関与していく意思は大変心強い」と話した。ドラギ首相は首相の東南アジア訪問を評価した。
航空自衛隊は1月からイタリア空軍にパイロットの訓練委託を始めた。2021年秋には海上自衛隊とイタリア海軍がアフリカのソマリア沖で共同訓練にのぞんだ。
日本政府は欧州各国との安全保障協力を探ってきた。岸田首相は5日に英国でジョンソン首相と会談する。自衛隊と英軍が共同訓練をしやすくする「円滑化協定」の締結に向け意見を交わす。
ドイツのショルツ首相は4月に訪日し、アジアの安保に関与する姿勢を示した。
岸田首相の欧州入りはインドネシア、ベトナム、タイの訪問に続く日程だ。東南アジアでの中ロへの見解を伝え、6月に予定するG7首脳会議に向けメンバー国との認識をすり合わせる。
欧州はもともと地理的に遠い中国の軍事動向への危機感は薄く経済的な協力相手とみなす傾向があった。ウクライナ侵攻を機に中国がロシア支持に動くのは、民主主義陣営を脅かす覇権主義国の結束と映り始めている。
●日英首脳会談 “力による現状変更認めず” ロシアや中国念頭に  5/6
イギリスを訪れている岸田総理大臣は、ジョンソン首相と首脳会談を行い、ロシアや中国を念頭に、力による一方的な現状変更は世界のいかなる地域でも認められないという認識で一致しました。また両国の安全保障協力を強化するため、自衛隊とイギリス軍が共同訓練などを円滑に進めるための協定の締結で大枠合意しました。
岸田総理大臣とジョンソン首相との首脳会談は、日本時間の5日午後7時半ごろからロンドンの首相官邸で2時間近く行われました。
この中で両首脳は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は国際秩序全体の根幹を揺るがす事態だという認識で一致し、G7をはじめ国際社会が結束・連携して強力な制裁とウクライナ支援を継続していくことを確認しました。
また、岸田総理大臣の今回の東南アジア訪問を踏まえ、両首脳は、アジア・アフリカなどへの働きかけが重要だという認識で一致しました。
そして、ロシアによる軍事侵攻や、覇権主義的行動を強める中国を念頭に、ヨーロッパ・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分であり、力による一方的な現状変更は世界のいかなる地域でも認められないという認識で一致しました。
そのうえで「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、両国で緊密に連携していくことを改めて確認しました。
会談では、両国の安全保障協力をさらに強化するため、自衛隊とイギリス軍が共同訓練を行う際などの対応を定める「日英円滑化協定」の締結で大枠合意し、今後、協定の早期署名に向け作業を加速させることを確認しました。
航空自衛隊の次期戦闘機のエンジン開発をめぐり、ことしの年末までに協力の全体像を合意することで一致しました。
また、経済安全保障やエネルギー安全保障の重要性を共有し、ウクライナ情勢で顕在化したリスクを踏まえ、日英両国やG7で連携を強化していく方針を確認しました。
さらに、イギリスのTPP=環太平洋パートナーシップ協定への加入をめぐって意見を交わしたほか、ジョンソン首相から、原発事故のあと続けてきた福島県産食品などの輸入規制措置について議会手続きが進めば、来月末までに撤廃する方針が伝えられました。
このほか、4日に北朝鮮が弾道ミサイルを発射したことを踏まえ、北朝鮮の核・ミサイルや拉致問題への対応に引き続き連携していくことを改めて確認しました。
●岸田首相、東南アジア・欧州歴訪 訪問で浮き彫りとなった各国との溝や課題 5/6
東南アジアとヨーロッパを訪問していた岸田首相が、一連の日程を終えました。今回の訪問で浮き彫りとなった各国との溝や今後の課題について、前野記者の報告です。
岸田首相「今回の訪問の成果を踏まえ、平和秩序、自由と民主主義を守り抜く新時代リアリズム外交を本格的に動かしてまいりたい」
岸田首相は各国首脳との対面外交に「手応えを感じた」と強調しますが、ロシアへの対応をめぐっては、インドネシア、ベトナム、タイの首脳がいずれもロシアを名指しして批判することを避けるなど、欧米各国との立場の違いが浮き彫りとなりました。
東南アジアのこうした姿勢に対し、イギリスなどG7各国が不満を募らせる中、岸田首相は両者の「橋渡し役」として一致点を見いだしたい考えでしたが、すぐには溝は埋まりませんでした。
東南アジアでことし秋に開かれるG20、ASEAN、APECの3つの首脳会議では、プーチン大統領の参加を認めるかどうかで各国の意見が対立しています。
ある外務省幹部は、「3つの枠組みには民主主義体制でない国も多い。『G7がG20などの枠組みを壊した』と言われないよう注意が必要だ」と指摘しています。
各国訪問の間、「国際社会はロシアとの関係をこれまで通りにはできない」と繰り返した岸田首相。しかし、具体的にどう対応していくかは明確にはなっておらず、今後に向け大きな宿題を抱えた形になりました。
●海外歴訪の岸田首相 帰国の途に ロシアへの新たな制裁措置発表  5/6
東南アジアとヨーロッパを歴訪していた岸田総理大臣は、一連の日程を終え、日本時間の6日未明、最後の訪問国イギリスを出発し、帰国の途につきました。これに先立って岸田総理大臣は記者会見で、ロシアに対する新たな制裁措置を発表しました。
岸田総理大臣は先月29日から8日間の日程で、インドネシア、ベトナム、タイ、イタリア、バチカン、イギリスを歴訪し、各国の首脳らと会談しました。
一連の首脳会談では、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアや、覇権主義的行動を強める中国を念頭に、いかなる地域でも力による現状変更は認められないという基本的な姿勢を共有するとともに自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、緊密に連携していく方針で一致しました。
岸田総理大臣は、日本時間の5日夜、最後の訪問国イギリスで記者会見し「国際社会が歴史的な岐路に立つ中、東南アジア、ヨーロッパの合わせて6か国を『平和を守る』との目的で訪問し確かな成果を得たと手応えを感じている」と強調しました。
そのうえで、G7と連携してロシアに対する圧力をさらに強化するとして、資産凍結の対象となる個人をおよそ140人追加するなどとした新たな制裁措置を発表しました。
一方、岸田総理大臣は、新型コロナ対策をめぐって「感染状況は大都市圏を中心に減少が続いているが、連休中の人出増もあり予断は許されない」と指摘しました。
そして、保健医療体制の維持・強化やワクチン接種を引き続き着実に進め、大型連休後の感染状況を見極めたうえで、来月にも専門家の見解も踏まえつつ、水際対策を含めた新型コロナ対策を段階的に見直していく考えを示しました。
一連の日程を終え、岸田総理大臣は、日本時間の6日午前1時半すぎ、政府専用機で現地をたち、帰国の途につきました。
●東南アジアで外交攻勢を仕掛ける岸田首相―香港メディア 5/7
2022年5月5日、中国メディアの参考消息は日本がアジアで外交攻勢を仕掛けていると伝えた。
記事は、香港メディアのアジア・タイムズ・オンラインが3日に発表した「岸田文雄首相が東南アジアで強力な魅力攻勢を展開している」とする文章を紹介した。以下はその概要だ。
岸田首相は東南アジアを初の海外歴訪地の一つに選んだ。直近の日本の首相3人はいずれも東南アジアを最初の訪問地に選んでおり、東南アジアが日本の地域戦略の中心的地位にあることを示している。東南アジア諸国連合(ASEAN)にとって大きな貿易、投資パートナーの一つである日本は、フィリピン、インドネシア、ベトナム、マレーシアといった東南アジア諸国にとって重要な防衛、戦略的パートナーでもある。
今回の東南アジア訪問で、岸田首相は東南アジア地域諸国との戦略的関係を強化、拡大すると同時に、「中国への対抗」への支持や、ロシアによるウクライナ侵攻への非難を求めようとしている。
この1世紀近く、日本は東南アジア地域の工業化、経済発展のエンジンとなり続けた。そしてこの10年、経済的な影響を利用してASEANの重要国との防衛、戦略関係の発展を進めてきた。安倍晋三元首相は2013年に「ASEANと日本はすでに経済的な関係を超越し、地域の安全保証の責任を担う関係を結んだ」と語り、先月には日本とフィリピンの防衛相、外相が「2+2」対話を実施して双方が防衛協力拡大に同意した。
インドネシアは現在G20の輪番議長国であり、ロシアに対する今年のG20サミット招待取り消しを拒否する姿勢を示す一方で、ウクライナのゼレンスキー大統領をサミットに招待することを決定した。このため、G20サミットの場でロシアとウクライナの首脳の直接交渉が行われる可能性がある。
ベトナムでは岸田首相が温和さを見せつつロシアとの間でこれ以上防衛、戦略関係を強化しないよう説得しようとした。ベトナムはこの数十年、潜水艦や戦闘機を含む80%の防衛装備をロシアから輸入している。
また、米国の条約上の盟友でありながらインドネシア同様に中国対して友好的な立場を取っているタイについても、中国への対抗に参加させることが日本の最重要戦略任務となっている。
●首相欧州歴訪 対露圧力の国際協調を強めよ  5/7
ウクライナ危機は事態の改善が見られない。日本は国際社会の緊密な連携を主導し、対露圧力をさらに効果的にしていく必要がある。
岸田首相がインドネシアなど3か国に続き、イタリア、バチカン、英国を歴訪した。
首相は記者会見で「国際社会は大きな歴史の岐路に立っている」と強調し、「世界の平和秩序を守り抜くため、今こそG7(先進7か国)の結束を強固なものとしていかねばならない」と訴えた。
ジョンソン英首相、ドラギ伊首相との会談では、G7が結束して対露制裁とウクライナ支援に尽力することを確認した。アジアやアフリカへの働きかけが重要だという認識でも一致した。
対露制裁を主導するG7と、制裁に慎重な東南アジアの間で政策を調整し、国際協調の体制作りを積極的に進めた意義は大きい。
今月下旬には東京で日米首脳会談と日米豪印首脳会談があり、6月にはドイツでG7首脳会議が開かれる。様々な機会を通じて、各国の認識をすりあわせていくことが不可欠である。
首相の訪欧中、ロシアは日本による制裁への報復として、首相や閣僚、国会議員、報道関係者ら日本人63人を無期限で入国禁止とする制裁措置を科すと発表した。
見当違いも甚だしい。現在の事態を招いた全ての責任がプーチン露大統領にあることは明白だ。自らの行動を棚に上げて日本を批判するのは受け入れられない。
首相は記者会見で、資産凍結の対象拡大などを柱とする追加制裁を発表した。プーチン氏に近い有力者らに打撃を与え、侵略の継続を困難にすることが重要だ。
欧州連合(EU)では、ロシア産石油の輸入禁止案が浮上している。日本も、各国と入念に協議していきたい。
首相が一連の歴訪で、ウクライナ危機はアジアにも深刻な影響を与えると訴えたのは適切だ。
英国とイタリア両首脳との会談では、覇権主義的な行動を強める中国を念頭に、「欧州とインド太平洋の安全保障は不可分」との認識で一致し、安保協力を強化していくことを確認した。
英国とは、自衛隊と英軍の共同訓練などをしやすくする円滑化協定について大枠合意に達した。英国がインド太平洋への関与を強めれば、中国への 牽制けんせい となる。
福島県産などの食品輸入に関し、英国は6月末までに規制を撤廃する見通しだという。日英の友好関係はさらに深まろう。
●首相5カ国歴訪 温度差埋める努力 続けなければ 5/8
岸田文雄首相が大型連休に合わせ、東南アジア(インドネシア、ベトナム、タイ)と、欧州(イタリア、英国)の5カ国を歴訪。ロシアによるウクライナ侵攻などを中心に協議した。
欧州勢とは、これまでも先進7カ国(G7)の枠組みで制裁強化を確認しており、今回の訪問もその延長線上にある。日本は来年の議長国として、さらなる結束と円滑な意思疎通などに努めなければなるまい。
一方、東南アジア勢との協調は容易ではない。3カ国ともロシアに対して配慮すべき個別の事情を抱えているためだ。岸田首相との首脳会談でも、主権や領土の一体性尊重に言及しながら名指しの批判を避けるなど、温度差がにじんだ。埋めるための努力は、日本に求められる大きな役割と心得たい。
ベトナムはロシアと旧ソ連以来の友好関係にあり、軍事装備品の依存度が高い。インドネシアは20カ国・地域(G20)議長国として公平な運営を明言し、今秋の首脳会議にロシアを招待する意向だ。アジア太平洋経済協力会議(APEC)議長国のタイは、「全方位外交」の伝統から中立的立場を堅持する。制裁重視の日米欧と距離を置いていると言わざるを得ない。
国連人権理事会からロシアを締め出す資格停止決議では、ベトナムは反対しインドネシアとタイは棄権した。G7は国際社会全体で圧力を強め、ロシアを孤立させる戦略を描くが、先進国の価値観を一方的に押し付けるようなことがあれば、温度差が広がるのは必至だ。
それぞれの立場を理解し、尊重することが求められるのは言うまでもない。アジアの国々が足並みをそろえてロシアに対峙(たいじ)する意義を、日本は訴え続けていく必要がある。
5カ国との首脳会談のもう一つのテーマは、海洋進出を強める中国への対応だった。一定の前進があったようだ。タイとの「防衛装備品・技術移転協定」に署名し、ベトナムと海上保安能力の向上などで合意。インドネシアとも国際法に基づく平和的解決の重要性を確認した。今後も連携を深め、地域の平和と安定に寄与する日本の責任を果たさねばならない。
中国の動きには欧州各国も関心を寄せる。英国とは「自由で開かれたインド太平洋」の実現へ、新たな協定締結を含む安全保障協力の強化で一致。イタリアとも危機感を共有した。より多くの国の目を向けさせることで、中国をけん制する効果は高まる。世界のどの地域においても、力による現状変更は許されない。国際社会が改めて認識を同じくし、発信したい。
岸田首相は今年1月の施政方針演説で、現実を直視した「したたかな外交」を掲げた。アジア唯一のG7メンバーとして、米欧との橋渡し役を担いたい意図もあろう。温度差を埋めるためには対話を重ねるしかない。したたかさとともに、粘り強さと胆力が求められている。
●岸田首相が海外歴訪を終了、その成果とは? 5/8
5月6日、岸田文雄首相が東南アジアと欧州の歴訪の全日程を終えた。岸田首相は、インドネシア、ベトナム、タイ、そしてイタリア、英国を訪問したが、これは6月にドイツで予定されているG7(主要7カ国)首脳会議を前にした一連の2国間協議の一部となるものである。訪問は公式的なものではなく、協議されるテーマや結ばれる合意の内容は国によって異なるが、すべての国に共通したテーマとなったのは、自由で開かれたインド太平洋地域の実現に向けた協力とウクライナ情勢を背景とした安全保障分野での協力の強化である。
2022年11月、インドネシアとタイは重要なサミットの会場となる。11月15日から16日にかけて、インドネシアはG20(主要20カ国・地域)首脳会議を開催、また11月18日から19日にかけては、タイはAPEC(アジア太平洋経済協力会議)サミットを開催する。つまり、岸田首相がこの国を訪問先に選んだのは偶然ではない。
今回、岸田首相が最初に訪問したのはインドネシアで、首相はサミットの開催を成功させるために最大限の支援を行うと約束した。日本とインドネシアは2023年に祝われる外交関係開設65周年を前に、戦略的パートナーシップを強化し、自動車製造、燃料エネルギー、都市高速鉄道、スマートシティ、離島開発などの分野における協力を継続していく意向を確認した。離島開発分野において、日本は巡視船の供与を予定している。
岸田首相が訪問したアジア3カ国での首脳会談における政治分野のテーマは、ほぼ同じであった。首相は、各国は、ウクライナ、東シナ海、南シナ海、北朝鮮の情勢を含めた多くの脅威に直面していると述べた上で、法が支配する自由で開かれた国際秩序を維持、強化することが重要だと強調した。インドネシアとタイは、日本と同様、3月2日にウクライナにおけるロシアの特別軍事作戦を非難する国連総会決議を支持し、両国指導者は武力の行使や脅威を用いて、国家主権や領土保全の破壊を許してはならないとの立場を表し、ロシアとウクライナの紛争を早急に平和的手段で解決するよう呼びかけた。
一方、この対ロシア決議案に対する投票を棄権したベトナムでの首脳会談で、岸田首相は、伝統的にロシアと緊密な関係を持っているベトナムがウクライナへの人道支援を一番に発表した点を指摘し、これを「前向きな一歩」であると評価した。また岸田首相は、ロシアとの関係を含め、さまざまな理由からウクライナでの状況に対し、G7と同じ対応をしていない国は相当数存在するとも強調し、このような国からできるだけ理解と協力を得るよう努めることが重要だとした。ベトナムのグェン・スアン・フック国家主席との会談では、国際社会、アジア太平洋地域における行動を緊密に調整し、地域の安全保障問題を解決し、地域の関係を強化していく意向が確認された。両首脳はまた、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の枠内での協力、脱炭素社会への移行、サプライチェーンの多元化、デジタルトランスフォーメーション、技術革新、衛星からのモニタリングを使用した防災能力の向上などに向けた協力についても協議した。このほか、岸田首相は、日本は防衛分野、とりわけベトナム軍へのサイバー分野の能力構築支援、海上保安能力向上のための協力を一層推進していくと言明した。
これより前の4月19日、ベトナムとロシアは、複雑な状況における軍事的課題を遂行する際の非標準的な作戦を策定する合同軍事演習を実施することで合意した。
タイでの首脳会談で大きな成果となったのは、日本からの防衛装備品の輸出などに関する協定を締結することで合意がなされたことである。これは安全保障分野における協力の強化を目的としたものであり、また今年2022年に迎える日タイ修好135年に合わせたものでもある。日本はすでにインドネシア、ベトナム、マレーシア、フィリピンとの間でも同様の合意を結んでいる。具体的な内容と合意の実現に向けた詳細は、11月に開催される特別閣僚会議で話し合われることになる。さらに両国は、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議成功に向けた緊密な連携を申し合わせたほか、国連安保理改革や核軍縮・不拡散の問題でも協力していくことで一致した。
イタリアでの首脳会談では、G7を含む国際社会はウクライナ危機に毅然と対応するべきだとの考えが確認された。また両首脳は、世界のエネルギー供給問題、世界経済の停滞、新型コロナウイルスの影響などについても意見を交わした。また両首脳は、自由で開かれたインド・太平洋地域の実現に向けた協力を継続していくことで一致したほか、11月4日に北朝鮮が行った日本海に向けた弾道ミサイルの発射を含む、核・ミサイル問題など、北朝鮮問題の解決でも協力するとした。
次に、ローマ教皇フランシスコとの会談では「核なき世界」の実現に向けた協力が確認された。広島の選挙区から選出された岸田首相にとって、この問題は特別な意義を持つものとなっている。
そして英国で両首相は、予想に反せず、共通の立場を確認した。外務大臣時代にも会談を実施している2人は、欧大西洋地域とインド太平洋地域の安全は切り離せないものであり、国際問題の解決に向けた英国と日本のアプローチは、多くの部分で一致しているとの認識を改めて確認した。
●岸田総理が東南アジアと欧州の両方を歴訪した「もう1つの理由」 5/8
外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が5月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロンドンで行われた日英首脳会談について解説した。
日英首脳会談 〜共同訓練の円滑化協定で大枠合意
岸田総理大臣は5月5日、ロンドンでイギリスのジョンソン首相と会談した。両首脳は自衛隊とイギリス軍の相互訪問時の法的基盤となる「円滑化協定(RAA)」締結に向けた大枠合意を確認。また、ジョンソン氏は2011年の福島第一原発事故後にイギリスが導入した福島県産などの食品の輸入規制を6月末までに解除する方針を伝えた。
飯田 / 円滑化協定に関して、見出しを立てて報じているところもあります。
日英同盟の復活 〜AUKUSを含め、米豪英とより連携を強める
宮家 / 誤解を恐れずに言えば、日英同盟の復活ですよね。イギリスはEUから離れ、ヨーロッパ大陸とは少し違う立場。日本もアジア大陸とは違う島国です。やはり海洋国家として共通の利益があるわけです。
飯田 / 日本とイギリスは。
宮家 / Reciprocal Access Agreement(RAA / というのは、すなわち相互アクセス協定です。これを「円滑化協定」と呼んでいるのだけれども、何が重要かと言うと、お互いの軍隊が相手国に滞在する場合には、自衛隊やイギリス軍の課税の免除、事件・事故の際の裁判権の問題などを整理して相互のアクセスを円滑化する。要するに地位協定に似た概念ですよね。
飯田 / 地位協定に。
宮家 / もちろん相互アクセスですから、Status of Forces Agreement(SOFA / とは違うのですけれどもね。駐留ではないのですが、いかに両軍の協力が緊密になり得るかということです。さらに大事なことは、アメリカとは地位協定があり、RAAという相互アクセス協定はオーストラリアとも結んでいるということです。オーストラリアとアメリカ、そしてイギリスが絡めば、それは「AUKUS(オーカス」ですよね。
飯田 / なるほど。
宮家 / 必ずしも地位協定ではないけれども、AUKUSの国々と、それに似た法的な地位をお互いに認め合う協定を結んだということは、より安全保障面で連携していくということです。これは極めて大事な動きですよ。
日米英豪 〜海洋同盟の方向に動く
宮家 / さらに大きなことを言うと、かつてはロシア帝国が拡大し、脅威となって、20世紀の初めに日英同盟ができました。
飯田 / そうですよね。
宮家 / あのときと同じように、私はいつも「島国同盟」と言っているのですが、同じ島国で海洋国家であり、大陸に巨大な脅威、覇権国が出てくることに対して「島国同士で協力しましょう」ということです。
飯田 / 島国同士で。
宮家 / 日米同盟も実はこれと同じです。私はアメリカは世界一の島国だと思っているし、その次の大きな島国はオーストラリアです。ですから米豪英はみんな島国で、日本も島国なので、これらの国々が海洋同盟の方向に動いているというのは、極めて戦略的には合理的だと思います。
島国として「シーレーンをどのように確保するか」 〜利益を共有する日英
飯田 / まさに日露戦争などの前の、大陸国家と海洋国家のぶつかり合いという。
宮家 / そんなに単純ではないのですけれどもね。地政学論者にとってはシーパワーとランドパワーという話になるのでしょう。でも、より重要なことは日本がこれから何を得られるか。イギリスが何を得られるか。おそらく共通の利益があるということだと思います。
飯田 / それこそが、海を介しての利益と。
宮家 / 島国が大陸の沖にあって、人々は優秀だけれども資源がないとします。そうすると、その国は自由貿易で生きていくしかないのです。加工貿易で。それに必要なのは島国にとってのシーレーンなのです。「シーレーンをどうやって確保するか」ということが日本の懸念だったわけですが、これはイギリスも同じことです。大英帝国ですからね。そういう意味では、日英ともに非常に似た利益を共有していると思います。
フル稼働する岸田外交 〜戦略的な外交の見直しに
飯田 / 岸田総理は、アジア3ヵ国を訪問し、そしてイタリア、イギリスにも行きました。
宮家 / この間、ドイツの首相が来られました。そして、G7のことを考えると、この後、アメリカの大統領が日本に来る。それから今度は、クアッドの首脳会合もあります。となるとヨーロッパ、特にウクライナで物事が動いているわけですから、ヨーロッパに行ってイタリア、そしてイギリスと意見交換をする。それからローマ教皇ですね。あとはフランスくらいでしょうが、それはまた追ってやればいいのです。
飯田 / フランスは選挙があったばかりです。
宮家 / 岸田外交は本格的なフル稼働という感じがします。ロシアのウクライナ侵攻という大事件があったわけですから、当然、いろいろな形で戦略的に見直すべきは見直さなければならない。中国だけではなく、ロシアも関わってきたのですから。そうした国家安全保障戦略の微調整はもう始まっているということだと思います。
日本によるロシアへの経済制裁は中国に向けたものでもある 〜抑止力としての制裁の一面も
宮家 / また、今回岸田総理はインドネシアやベトナム、タイにも行かれているわけです。当然のことですが、ウクライナ情勢をきっかけとして、世界の戦略的な構造が少しずつ変わりつつある。そのなかでアジア諸国、特にASEAN諸国は「どうしたらいいのか」と悩んでいるはずなのです。中国にも近いですし。
飯田 / そうですね。
宮家 / 今回の外交で最大の特徴は、ロシアだけではなく、中国が念頭にあるということです。ウクライナ情勢が動くことによって、「日本はロシアに対して厳しすぎではないか」と言う人もいるのです。しかし、それに対する私の答えは簡単で、中国の問題がなかったら、日本はここまでやらないです。やる必要はないのです。
飯田 / 中国の問題がなければ。
宮家 / しかし、中国の問題がある。ウクライナと同じようなことがインド太平洋地域で起きるかも知れないと考えたら、それは絶対に起こしてはいけないわけです。そのためには、「万一そんなことをしたら、こんな痛い目に遭うのだぞ」ということを抑止力として中国に示さなければいけない。そういう意味では、厳しい対露制裁は正しい判断だと思います。
岸田総理の今回の外遊はアジアと欧州の両方に行ったことがポイント
宮家 / アジアに行き、アジアのいろいろな人たちと話をした上でG7に行くのですが、最終的にはG20もある。世界全体の世論形成を考えると、今回、総理自身がアジアと欧州の両方を訪問したということがポイントだと思います。
飯田 / 両方に行ったことが。
宮家 / 普通なら日本の閣僚は5月の連休中みんな外遊するわけです。しかし、今回は「大臣になったので、初めてワシントンに参りました」というようなものではありません。今回は防衛大臣がアメリカに行きましたが、これは「初めまして」ではないですからね。
飯田 / オースティンさんは日本に来て会談もしているし、2プラス2もやっている。
宮家 / 二人は親しい関係にあり、ウクライナ後の安全保障問題を議論しています。
飯田 / 通訳だけ残して、1対1での会談も行ったくらいです。
ウクライナ情勢における日本の判断は正しい
宮家 / これは大事なことなのです。更に安全保障という観点では、国家安全保障局長の秋葉さんが同じ時期にワシントンに行って、サリバンさんやブリンケンさんとも会っているわけです。
飯田 / 国務長官とも。
宮家 / 先ほど申し上げた、ウクライナに端を発する新しい国際情勢に、どのように対応するかという点で、日米がいろいろな意見交換を積み重ねておくことが大事だと思います。これが安全保障面、軍事面、そして経済産業大臣の萩生田さんもワシントンに行っている。これは非常に大事なのです。経済産業大臣が行かれて、ウクライナ情勢を受けてLNGの増産を要請したということですが、それだけではないでしょうね。経済安全保障の問題についても突っ込んで意見交換されているのだろうと思います。もう日米関係は物見遊山の「新しく大臣になりました。よろしくね」といった関係ではないのです。いい意味での本格的な外交の見直しをしつつ……。
飯田 / 全部実務という感じですか?
宮家 / 実務ですよ。これで出遅れたら、周回遅れになってしまうのだけれども、遅れないどころか、ウクライナ問題については、日本は早い段階で正しい判断をしたと思います。
日本で開催されるクアッド首脳会合で日本が正しいメッセージを出すことができるか
飯田 / タイミングも擦り合わせながら、日本としては次に何ができるか。そのような話も含めてやっている。
宮家 / 次は当然、アメリカの大統領が日本へ来て、クアッドの首脳会合を開くわけです。そこで「どのような正しいメッセージが出せるか」ということがポイントになると思います。
飯田 / 正しいメッセージを。
宮家 / 繰り返しますが、この問題はウクライナとロシアの問題だけではなく、必ずインド太平洋地域の中国の問題に波及するのです。そのことを常に念頭に置いて考えないと、戦略的に正しい判断はできないだろうと思います。
飯田 / 次の焦点は5月末に行われるクアッド。そうすると、ロシアに対してあまり強く出られないインドをどうするか。
宮家 / インドはなかなか手強いですよ。インドは長いロシアとの歴史もあるし、非同盟の伝統もある。しかし、インドが逆の方向に行かないようにすることはできると思います。 
●ポスト岸田レースが大揺れ、「有力候補7人」全滅の恐れも 5/10
「ポスト岸田は岸田」を揺るがす“ファクターS”とは?
昨年9月の自民党総裁選で、当時の首相だった菅義偉氏を不出馬に追い込む形で権力の頂点に立った岸田文雄首相。世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの感染拡大第6波という高波を越え、3月の「まん延防止等重点措置」全面解除から支持率が上向いている。
マスコミ各社の世論調査では昨秋の政権発足時からいずれも上向き、日本経済新聞の4月の調査では64%と高水準にある。3月下旬から岸田氏はインドやカンボジア、ベルギーを相次いで訪問し、大型連休中は東南アジアや欧州を訪れる「首脳外交」に精を出す。
高い政党支持率に支えられる自民党。今夏の参議院選挙でも優位は動かず、「ポスト岸田」レースも本命不在とあれば、2024年の党総裁選で岸田氏の再選は不動というのが大方の見方だ。だが、ここで順風満帆なはずの岸田氏を揺るがす「ファクターS」が登場する。
首相の再選は困難と見るのは、全国紙のあるベテラン記者だ。「コロナ対策では未知の要因として『ファクターX』が注目されましたが、自民党の次期総裁選では『ファクターS』、つまりは菅前首相の動向が鍵を握ります。菅氏のことを蛇蝎のごとく嫌う岸田氏としてはいら立たしい動きでしょうが」。
ポスト岸田レース「有力候補7人」の現在地は?
昨年の自民党総裁選で、政権を支えていた二階俊博幹事長(当時)への「岸田氏による執拗な攻撃」(二階派議員)に遭い、内閣改造・党役員人事もできないまま退陣に追い込まれた菅元首相。昨秋の岸田政権発足後は「非主流派」に転じ、政府や党のポストから離れて目立った活動も控えてきた。その菅氏がいよいよ再始動を決め、今夏の参院選後に80人規模の「勉強会」を発足する。
この動きが総裁選に与える影響を全国紙政治部記者が解説する。
「菅氏は史上最長の安倍晋三政権を官房長官として支え、一時は冷え込んだとも言われましたが、安倍氏との関係は盤石です。所属議員が90人を超える自民党最大派閥のトップと、80人規模となる『菅グループ』のトップが組めば、総裁選での勝負は圧倒的に有利となるでしょう」
今夏の参院選での獲得議席にもよるが、400人に達しない自民党所属の国会議員の中で「安倍派+菅グループ」の総勢は過半数に迫る。他派閥にも安倍氏に共鳴する保守政治家は多数存在しており、「安倍・菅連合」が協調すれば、絶大な権力を握る現職宰相といえども対抗するのは数字上困難となる。
言い換えれば、2年後の自民党総裁選の勝利者は安倍氏も菅氏も「乗れる」ことが条件になるというわけだ。では、「ポスト岸田」候補の誰がその条件に当てはまるのか。
最も先に消えるのは、他ならぬ岸田氏である。菅氏とは4月22日にも議員会館に赴いて会談しているが、「ほとんど視線も合わせないような関係」(政治ジャーナリスト)とされ、総裁選で「菅グループ」が推すことは考えにくい。
次に、昨年の総裁選で安倍元首相の全面支援を得て、3位の188票(議員票114票、党員票74票)を獲得した高市早苗・自民党政務調査会長はどうか。
高市氏は「歩みを止めない」と宣言し、ポスト岸田への立候補に向けて安倍派への復帰が予想された。ところが、「帰れるかなと思っていたが、特にお誘いもない。しばらく一人ぼっちかもしれない」(高市氏)という状況で、安倍派内にも高市氏の復帰には異論がある。菅グループとも距離があるとされ、「条件」には当てはまらない。
では、前回総裁選で2位だった河野太郎・自民党広報本部長(元ワクチン相)は適合するのか。
昨年は退陣直後の菅氏が支援に回り、若手・中堅にも改革手腕に期待する「河野シンパ」が多い。ただ、安倍氏サイドには「河野氏は何をするのか分からない危うさが残っている」(安倍氏周辺)との見方がある。今度は安倍氏がみこしを担げないというわけだ。
有力候補には、林芳正外相の名も挙がる。首相を目指して参院議員から衆議院にくら替えした、閣僚経験が豊富な政治家ではある。しかし、地元・山口県では父親の代から安倍氏側としのぎを削ってきた関係だ。衆院小選挙区の区割り見直しに伴って山口県の定数は1減となる予定で、ライバル関係にある林外相を安倍氏が推すことは考えにくい。
最大派閥・安倍派には、かつて安倍氏の「秘蔵っ子」といわれた稲田朋美元防衛相や下村博文元文部科学相など、総裁選への意欲を示す人々もいる。稲田氏には、安倍氏も「国のかじ取りをしていくトップを十分に目指していく実力はあると思っている。日本初の女性首相を目指して頑張ってもらいたい」とエールを送るが、保守色が強い候補に菅グループが乗れるかは疑問だ。
政策力や外交力が高いと評される茂木敏充・自民党幹事長も3月末、「いずれかのタイミングで皆さんの期待に応えていかなければならない。その思いを強くした」と意欲を示した。
昨年12月に開かれた茂木派の政治資金パーティーでは、岸田氏とともに初当選同期の安倍氏から「残されている国の重要ポストはあと一つぐらいしかないのではないか」と持ち上げられ、菅氏との関係も悪くはない。その意味では「有資格者」だ。
ただ、「高市氏を含めた党内調整力には疑問符がつきます。閣僚時代から言われていた『パワハラ』も嫌悪されており、仮に茂木氏を担ぐ方向でまとめようとしても集約できないのではないでしょうか」(自民党のベテラン秘書)と不安視する向きもある。
意味深長な安倍元首相の発言 その「真意」は?
絶対的な「有資格者」が見えず、混沌としているかのように思えるポスト岸田レース。菅氏は意中の人物の名を挙げることを控えているが、安倍氏は前出の茂木派の政治資金パーティーでこう発言して笑いを誘ったことがある。
「同期で一番の男前は岸田文雄。一番頭が良いのは茂木敏充。そして、性格が良いのが安倍晋三といわれている」
先ほどの茂木氏を首相に推薦するかのような意味深長な発言と併せて、安倍氏の真意はどこにあるのか。参院選後に自民党第2勢力になると見られる「菅グループ」に参加する予定の議員の一人は、こう解説する。
「前回の総裁選で安倍氏は『河野氏だけは勝たせたくない』と決選投票で岸田氏支援に回った。しかし、最初から同期の岸田氏を応援したわけではない。それと同じで、初めから茂木氏を担ぐつもりはないでしょう」
その上で、こう断言した。
「安倍派と菅グループが乗る候補者が勝つことになるのは間違いない。しかし、いま名前が挙がっている中にはいない別の人物になるな」
現職宰相はまたも総裁選で不出馬に追い込まれるのか。ダークホースは一体、誰なのか。それは首相経験者である2人が垣間見せる「性格の良さ」から見ていくしかない。 
 
 


2022/5 
 
●ロスネフチ、「サハリン1」で日本勢などを提訴 2018/7/24
ロシア国営石油大手ロスネフチが樺太沖の資源開発「サハリン1」で不当な収入を得たとして、日本の官民が出資する資源開発会社など5社に対し、総額891億ルーブル(約1570億円)の支払いを求めて提訴したことがわかった。ロスネフチは詳細を明らかにしていないが、係争が続けば今後の開発や日ロ間の協力が停滞する可能性がある。
タス通信などが23日に伝えた。サハリン1の権益を持つ5社が対象で、経済産業省や伊藤忠商事、丸紅などが出資するサハリン石油ガス開発(SODECO)や米エクソンモービル、インド石油天然ガス公社のほかロスネフチ子会社2社を含む。30%を所有するSODECOへの請求額は267億ルーブルにのぼる。
訴状を受理したサハリン州仲裁裁判所の発表によると、訴訟は「不当な収入」と「他者の資金の利用」に対して申し立てられた。サハリン1に隣接するロスネフチ管轄の油田との原油生産の分配をめぐり、5社とロスネフチの間で意見の相違があったとの情報もある。
ロスネフチは23日、日本経済新聞の取材に「コメントしない。技術的な問題だ」と答えた。エクソンモービル側は提訴を不服として対抗措置を検討する考えを示した。
菅義偉官房長官は24日の閣議後の記者会見で、「『サハリン1』は我が国にとって重要なプロジェクトだ。事実関係の把握に努めつつ、関係者間の協議を見守っていきたい」と述べた。
5社とロスネフチは和解に向けて水面下で協議を続けてきたもようだ。金額面などで折り合いをつけるのを待たずにロスネフチが提訴に踏み切ったとみられる。
同社は米欧による対ロ制裁の指定を受けて資金調達が制限されており、現金の確保に動いたとの見方もある。過去には別の資源開発事業「サハリン2」で、日本勢などが開発権益の過半数をロシア側に譲渡することを強いられた経緯もある。
ロスネフチを率いるイーゴリ・セチン社長はプーチン大統領側近の実力者とされる。同社による企業買収に絡み、法廷闘争や現役閣僚の逮捕に発展した例がある。国際的な孤立からの脱却をめざすロシアの外交との関係があるか否かも含め、今回の提訴の行方が注目を集めるのは確実だ。
サハリン1は2005年に原油生産を開始し、06年に日本などへ出荷が始まった。経産省によると、サハリン1を含むロシアからの原油は日本の輸入量の6%を占める。日本側の関係者は「訴訟は取引に影響しない」としている。日ロ間ではサハリン1以外にも複数の資源開発事業の共同実施が検討中で、裁判が長引けば対ロ投資への懸念が広がる可能性がある。 
●シェル「サハリン2」撤退 合弁事業進める日本商社 難しい対応  2022/3/1
ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けてイギリスの石油大手がロシア極東 サハリンでの石油や天然ガスの開発プロジェクトから撤退すると発表。合弁で事業を行っている大手商社の三井物産と三菱商事は今後の対応について検討を進めるとしていますが、エネルギー安全保障にも関わる問題だけに難しい対応を迫られそうです。
ロシア極東のサハリン北部で行われている「サハリン2」には、ロシア最大の政府系ガス会社ガスプロムが主導するプロジェクトの合弁会社に、イギリスのシェル、そして日本の三井物産と三菱商事が出資しています。
シェルは28日、サハリン2について、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けて合弁を解消して撤退すると発表しました。
これについて三井物産と三菱商事は「シェルの発表内容を詳細に分析したうえで、日本政府およびパートナーと今後の対応について検討を進める」とするコメントを発表しました。
「サハリン2」で生産される天然ガスは、LNG=液化天然ガスにして多くが日本に輸出されています。
中東などに比べて地理的に日本に近いという利点をいかし、日本の電力会社やガス会社が長期契約で購入しています。
日本とロシアの経済関係やエネルギー安全保障にも関わる問題だけに、大手商社は難しい対応を迫られそうです。
日本が輸入するLNGの約1割占める
ロシア極東のサハリンで進めてきた「サハリン2」は、総事業費が2兆円を超える、石油と天然ガスの大型開発プロジェクトです。
事業主体の「サハリンエナジー」社には、ロシア最大の政府系ガス会社、ガスプロムが50%、今回撤退を決めた、イギリスの大手石油会社シェルが27.5%、日本からは、三井物産が12.5%、三菱商事が10%を、出資しています。
事業に参加する三菱商事によりますと、原油の本格的な生産は2008年から、LNG=液化天然ガスの生産は2009年から始まっていて、生産能力は原油が1日15万バレル、LNGが年間960万トンとなっています。
サハリン北東部のオホーツク海の大陸棚で採掘された天然ガスを全長800キロのパイプラインでサハリン南部のLNGの生産施設に運び、液化したうえで専用のタンカーで輸出します。
日本と地理的に近いため、生産されるLNGのおよそ6割は日本の電力会社とガス会社が長期契約で購入していて、日本が輸入するLNGのおよそ1割を占めています。
プロジェクトが本格的に始まったのは1994年。
当初は、欧米の石油資本、日本の商社2社の外国資本100%によるプロジェクトでした。
2000年にプーチン氏が大統領に就任。
2000年代に入るとロシアでは「資源ナショナリズム」が台頭し、資源開発は外国に頼らず、自国で行うべきだという世論が高まりました。
こうした中、2006年、ロシア政府は環境対策の不備を主な理由に、サハリン2の事業認可を取り消しました。
結局、シェルの前身の「ロイヤル・ダッチ・シェル」と日本の商社2社が、サハリン2の事業主体である「サハリン・エナジー」の株式の過半数をロシアの政府系ガス会社「ガスプロム」に8800億円で譲渡することで基本合意しました。
その内容はプーチン大統領にも報告されました。
日本とロシアはエネルギー分野で結びつきを深め、サハリン2は、両国が進める経済協力の象徴的なプロジェクトとなっています。
松野官房長官 “現時点でエネルギー輸入に支障はない”
松野官房長官は、午後の記者会見で「サハリン2への影響については、シェルの参画にかかわらず操業が継続されるため、現時点で日本のエネルギーの輸入に支障はないとの報告を受けている。政府としては、サハリン2プロジェクトを含むロシア関連事業は、エネルギー安全保障の観点も含め、G7=主要7か国をはじめとする国際社会と連携しつつ適切に対応していきたい」と述べました。 
●シェル ロシアの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」から撤退  3/1
イギリスの大手石油会社シェルがロシア・サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」から撤退すると発表しました。サハリン2は、日本の大手商社も出資する大規模プロジェクトで日本側の対応が問われることになりそうです。
サハリン2は、サハリン北部の天然ガスからLNG=液化天然ガスを生産するなどの国際的な開発事業で、ロシア最大の政府系ガス会社ガスプロムが主導する合弁会社にイギリスのシェル、そして日本の三井物産と三菱商事がそれぞれ出資しています。
これについてシェルは、28日、ロシアの全事業から撤退し、サハリン2についても合弁を解消して撤退すると発表しました。
また、ロシアからパイプラインでドイツにガスを供給する事業、ノルドストリーム2についても関与を終了するとしています。
シェルは声明で、「世界各国の政府と協議しながら関連する制裁を遵守する」と述べており、シェルの撤退で日本側の対応が問われることになりそうです。
サハリンで生産されるLNGの多くは日本向けに輸出されており、日本にとってはエネルギー安全保障の観点から重要なエネルギーの調達先となっています。
萩生田経産相「G7などの議論踏まえ対応」
日本の大手商社も出資するロシア サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」からイギリスの石油大手シェルが撤退すると発表したことについて、萩生田経済産業大臣は1日の閣議後の記者会見で「エネルギー関連事業についても、G7などでの議論を踏まえて適切に対応していきたい」と述べ、エネルギー安全保障の観点も含め、対応していく考えを示しました。
一方、萩生田大臣は1日夜、閣僚レベルでIEA・国際エネルギー機関での会議が開かれることを明らかにしました。
そして、萩生田大臣も出席するとした上で、石油備蓄の協調放出などについてIEA関係国と緊密に連携していく考えを明らかにしました。 
●米石油大手 日本政府や商社参加の「サハリン1」から撤退へ  3/2
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、ロシア極東のサハリンで行われている石油・天然ガス開発事業「サハリン1」からアメリカの石油大手が撤退の手続きを始めると発表。この事業には日本政府や大手商社も参加していて、難しい対応を迫られることになります。
「サハリン1」は「サハリン2」とともに、ロシア極東のサハリン北東沖で行われている石油と天然ガスの大型開発プロジェクトの1つで、日本も深く関わっています。
中心となっているアメリカの大手石油会社エクソンモービルが1日、撤退に向けた手続きを始めると発表しました。
この事業には日本政府が50%を出資する「SODECO・サハリン石油ガス開発」に大手商社の「伊藤忠商事」と「丸紅」などが参加し、この会社を通じてプロジェクトの30%の権益を保有しています。
サハリン石油ガス開発はNHKの取材に対し「現在、情報を確認中だ」としています。
また、経済産業省は「現在、情報を収集していて、今後の対応について検討している」としています。
原油輸入の大半を中東に依存している日本にとって、サハリン1の原油は調達先の分散につながるほか、地理的に近く、輸送コストを抑えることができるというメリットがあります。
ただ、アメリカの大手石油会社が撤退を表明するなかで、難しい対応を迫られることになります。
「サハリン1」とは
「サハリン1」は、サハリン2とともにロシア極東のサハリン北東沖で日本が参加する形で進められている大型の石油と天然ガスの開発プロジェクトで、現在は主に原油を出荷しています。
総事業費は1兆3000億円余り。アメリカ、ロシア、インド、日本が共同で出資する形で事業を行っています。
中心となっているのは、アメリカの石油大手「エクソンモービル」で権益の比率は30%、それにロシアの政府系のエネルギー企業が20%、インドの国営石油会社が20%となっています。
日本勢は政府が50%を出資する「SODECO・サハリン石油ガス開発」に大手商社の「伊藤忠商事」と「丸紅」、それに政府が出資する「石油資源開発」などが参加し、この会社を通じてプロジェクトの30%の権益を保有しています。
サハリン2に比べて日本政府の関与が強いのが特徴で、官民をあげて開発を進めてきました。
2005年以降、3つの油田で生産が行われていて、2018年には1日30万バレルの原油を生産しています。
生産された原油は200キロ余り離れた極東ハバロフスク地方の沿岸にある出荷ターミナルまでパイプラインで輸送されたあと、日本などにタンカーで輸出されています。
また天然ガスについても今後開発し、LNG=液化天然ガスを生産して日本などへ輸出することなども検討されています。
官房長官「関与の在り方について検討」
松野官房長官は午後の記者会見で「エクソンモービルの判断については答える立場にない。国際的なロシア制裁強化の動きの中で、エネルギーの安定供給に支障を来さないことを大前提にG7=主要7か国とも歩調を合わせ、プロジェクトへの関与の在り方について検討していきたい」と述べました。 
●欧米資源大手撤退で商社のロシア事業が立たされる“難局” 3/5
欧米の資源大手がロシアの権益から撤退を相次ぎ表明している。日本の総合商社も同国の原油・ガス事業に参画しており、難局に立たされている。日本はロシアと共同で水素やアンモニアなどの新エネルギー、二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)開発に取り組んでおり、中長期的なカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現も国際情勢の煽りを受ける可能性がある。(森下晃行)
米石油大手のエクソンモービルは1日、ロシアの原油ガス開発事業「サハリン1」から撤退すると発表。事業にはエクソンのほか、経済産業省や伊藤忠商事、丸紅などが出資するサハリン石油ガス開発(SODECO)も出資している。エクソンの発表を受け、SODECOは今後の方針を検討している。
英石油大手のシェルもロシアの原油ガス開発事業「サハリン2」から撤退を表明した。サハリン2は三井物産が12・5%、三菱商事も10%出資しており、三井物産と三菱商事は今後について政府や関係者と協議を進めていると説明する。
三井物産はサハリン2のほか、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と共同で液化天然ガス(LNG)事業の「アークティック2」も開発中だ。同事業については「事実関係を含め状況を精査している」(三井物産)という。
日本はLNG輸入量の約1割をロシアに依存している。電力・ガス会社が在庫を積み増しているため足元では影響が出ていないものの、先行きの不透明感が増している。
新エネ・CCS、日ロ共同開発 脱炭素実現に影
LNGは石油や石炭に比べCO2排出量が少なく、脱炭素移行時の重要資源として位置付けられる。また、より直接的に脱炭素と関連する事業として日本はロシアと共同で新エネやCCSの開発を進めてきた。経産省とロシア国営天然ガス独占企業のガスプロムは21年、水素やアンモニア、CCSなどに関する協力合意に署名した。今後は「情勢を見ながら個別に対応する」(経産省)という。
三井物産は2月、ガスプロム子会社とCCSの共同調査で合意したと発表。伊藤忠は東シベリアから日本へアンモニアのサプライチェーン(供給網)構築に向けイルクーツク石油と事業性調査を進めている。どちらもまだ調査の段階で事業化には至っていないが、三井物産・伊藤忠は情勢を注視し情報収集を急いでいる。
丸紅執行役員経済研究所長の今村卓氏は「(日ロの)プロジェクトがすぐに終了するのではなく、日本とロシアの関係、日本を含む西側諸国とロシアの関係の極端な変化を踏まえ、その認識をプロジェクト参加者が共有した上で、拡大や新規投資の計画は止める、現在稼働しているプロジェクトはさらに日本政府と参画企業・団体が日本の国益に照らして継続するか協議して判断を下すという展開になるのでは」と指摘。ただ、将来的に脱炭素戦略の見直しを迫られる可能性もあり「原子力発電に焦点が当たる可能性がある」(丸紅経済研究所の榎本裕洋所長代理)という見方がある。 
●岐路に立たされるか? サハリンの石油・天然ガスプロジェクト  3/8
北海道・稚内市の北、わずか43キロにある島・サハリン。ロシア極東の島には総額3兆円を超える巨額資金が投じられ、石油・天然ガスの生産が行われています。
日本もこの島から多くのエネルギーを調達していますが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に抗議する形でイギリスの石油大手シェル、アメリカのエクソンモービルが次々と撤退する意向を表明。欧米の経済制裁が強まるなか、日本はどのように対応するのか、難しい局面に立たされています。
水面下の動きを追いました。
未明に突然の連絡
日本時間3月1日午前0時前。サハリン2に参加する大手商社の幹部のところにイギリスの石油大手シェルから連絡が入りました。「数時間以内にサハリン2から撤退方針を決めるかもしれない」というものでした。このとおり、日本時間未明にシェルはロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けて合弁を解消して撤退すると発表しました。別の商社担当者は「まったくの不意打ちだった」と驚きを隠せないようすでした。
サハリンでのエネルギー開発の歴史
サハリンの石油・天然ガス開発と日本は深いつながりがあります。地理的には北海道のすぐ北にある南北800キロの細長い島で、戦前は南半分が南樺太と呼ばれ、日本の領土でした。この大型のエネルギー開発プロジェクトの起源は1970年代にさかのぼります。第1次オイルショックで大きな打撃を受けた日本は、政府が関わる形でエネルギーの安全保障上の観点から、原油の中東依存を脱却する道を模索し始め、その候補地の1つにサハリンを選定したのです。中東と比べて地理的にはるかに近く、輸送コストを抑えられるという大きなメリットがありました。
2つのプロジェクト
その後、旧ソビエトは崩壊し、ロシアになっても開発は続けられ、2つのプロジェクトが本格稼働します。サハリン1とサハリン2です。サハリン1にはアメリカの石油メジャー「エクソンモービル」やロシアの国営石油会社「ロスネフチ」とその子会社、インドの国営石油会社が加わっています。日本勢は政府が50%を出資する「SODECO・サハリン石油ガス開発」に大手商社の「伊藤忠商事」と「丸紅」、「石油資源開発」などが参加し、この会社を通じてプロジェクトの30%の権益を保有しています。主に石油を生産し、日本や中国、韓国などアジアに輸出しています。サハリン2は事業主体が合弁の「サハリンエナジー」社。この会社にロシアの政府系ガス会社「ガスプロム」が50%、石油メジャーの「シェル」が27.5%、日本からは大手商社「三井物産」が12.5%、「三菱商事」が10%を出資しています。天然ガスを南部にある施設まで運び、LNG=液化天然ガスにして日本などに輸出しています。JOGMECによりますと、日本が輸入する原油のうち、サハリン1の原油が占める割合は1.5%(2021年)、一方、輸入するLNGのうちサハリン2が占める割合は7.8%(2020年)だということです。
シェルに続きエクソンも
シェルがサハリン2から撤退を表明したのに続き、日本時間2日午前にはサハリン1を主導するエクソンモービルがロシアによるウクライナ侵攻への対応としてサハリン1の稼働を中止し、撤退に向けた手続きを始めると発表しました。衝撃はプロジェクトに関わる企業と関係省庁を駆け巡りました。
議論噴出
エネルギーを所管する資源エネルギー庁は担当者が緊急招集され、対応を協議。議論の焦点となったのはサハリン1と2の構成メンバーの違いでした。サハリン2は日本勢は民間企業だけの参加ですが、サハリン1は政府が深く関わっています。G7各国がロシアへの制裁を強化するなかで、政府が関与するロシアのエネルギー事業を続けて大丈夫なのかという意見が沸き起こったとある政府関係者は語ります。
サハリン2については発電所の燃料であるLNGを生産していることもあり、当初からエネルギー安全保障上、撤退することはありえないという意見が大多数でした。一方、サハリン1はエクソンモービルというアメリカ政府とのパイプもある石油メジャーの決断だけに重く受け止めるべきだとの意見も出たということです。ある企業関係者も「ロシア・ウクライナの戦時中という過去に経験のない出来事。やめるとなってもしかたがないと思っている」と、難しい胸中を明かしました。
サハリン1について、アメリカと日本とでは立場が違うという見方を示す企業関係者もいました。この関係者は「エクソンモービルからするとサハリン1は数あるプロジェクトの1つ。国際政治情勢や企業の評判を考えて撤退を表明したに過ぎない。しかし、日本はサハリン1から原油の供給を受け、中東に依存しない場所に権益を持っているというのは非常に重い意味がある」と話していました。別の関係者は、仮に撤退という道をたどると参加企業は株式や権益を誰かに売らないといけないが、果たして売れるのかと疑問を投げかけます。そして二束三文でたたき売ることになれば企業価値を損ない、株主からの代表訴訟リスクにさらされ、それは企業としてとても耐えられるものではないと力説します。
即時撤退は否定的か
政府内や企業のあいだで、議論が重ねられました。そして両方のプロジェクトともすぐに撤退を決めることにはならない方向で落ち着きつつあります。萩生田経済産業大臣は8日の参議院経産委員会で「撤退することがロシアに対する経済制裁になるのだったら1つの方法だが、われわれが今心配しているのは、その権益を手放したときに第三国がただちにそれを取ってロシアが痛みを感じないことになったら意味がない」と述べました。ある政府関係者は、この第三国とは暗に中国を示すと解説します。仮に日本が1970年代から時間と労力をかけて手にしたエネルギー権益を手放す事態になり、それを第三国が取得することになったらエネルギー安全保障上、大きな損失だとこの関係者は力説します。
それでも残るリスク
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は原子力施設への攻撃なども相次ぎ、どのような展開になるか予想もつきません。こうしたなかで関係者がリスクの1つとして恐れているのが、投資家や人権団体などからロシアで事業を行う企業や国に対する批判が沸き起こることです。3月8日、アメリカのイエール大学は世界の200以上の企業がロシア事業の撤退や縮小を表明したと発表。一方で事業を継続する数十の企業があるとも指摘。事業継続が主に海外から思わぬ反発を招く可能性は排除できない状況です。現時点で英シェル、米エクソンモービルとも具体的にどのように撤退するのかは明らかにされていません。関係者のなかには「撤退を表明して世論の批判をかわし、時間がたてば事業に戻るというのが彼らの戦略だ」と過去の経緯もふまえて語る人もいます。一方、シェルにしてもエクソンモービルにしても高い技術力をもつ石油メジャーが仮に撤退すると、日々の生産はなんとか継続できたとしても、メンテナンスや新規事業、さらに故障や事故が起きたときにどのように対応するのか、将来の事業継続を不安視する声も聞こえてきます。
難しい局面続くか
エネルギー資源に乏しい日本がエネルギーの安全保障を確保しようとこれまで時間をかけて築き上げてきたサハリンの石油・天然ガス開発。ロシアの軍事侵攻という異常事態のなかでG7がロシアへの経済制裁をさらに強めることになった場合にどのような選択肢があるのか。事態は日々目まぐるしく変わりますが、難しい局面であることだけは確かなようです。 
●継続も撤退もリスク…ロシアLNG調達で日本が立たされた岐路 3/14
ロシアによるウクライナ侵攻の先行きが見えない中、同国での液化天然ガス(LNG)事業の不安が拡大している。サハリンでの石油・ガス開発事業から欧米の石油大手が相次ぎ撤退を決め、米国は経済制裁の一環としてロシア産の原油、天然ガスの輸入禁止を決めた。ただロシアの天然ガスに大きく依存する欧州は共同歩調はとれず、日本もサハリンをはじめとするロシアでの上流開発をどうしていくのか、岐路に立たされている。
日本企業がロシアで出資する主なエネルギー事業は、原油生産が中心のサハリン1、LNGのサハリン2、さらにギダン半島のアークティックLNG2プロジェクトやイルクーツクの共同探鉱事業(石油天然ガス・金属鉱物資源機構=JOGMECなど出資)がある。LNGの契約ベースではサハリン2やアークティック2のほか、建設に日本企業が参加したヤマルLNGからも調達実績がある。
サハリン1から米エクソンモービルが、サハリン2を含め英シェルがロシアから全面撤退を表明、英BPはロシアの石油大手のロスネフチの持ち株約20%の全売却、仏トタルエナジーズは同国での新規投資の停止など、欧米企業の撤退が相次ぐ。ロシア産の天然ガスに5割以上依存するドイツも、新規パイプラインのノルドストリーム2を中止し、同国初のLNG受入基地の建設を決めるなど、欧州のロシア依存から脱却する動きは急だ。
日本の判断は難しい。「ベースは先進7カ国(G7)と同じ対応だが、エネルギー安定供給と自主開発の重要性を考えると軽々に撤退とは言えない」と、小山堅日本エネルギー経済研究所専務理事は指摘する。
資源のないわが国が国策としてサハリン事業を進め、原油の約4%、LNGの10%弱を輸入している現実がある。それ以上に、日本の撤退が経済制裁に直結せず、ロシアの利になるのではという見方もある。「撤退すれば日本への仕向け分を中国が人民元建てで買い取る」(エネルギー分野のアナリスト)可能性があるからだ。昨冬のような厳冬でスポット調達が増えると、日本が中国経由でプレミアが着いたロシア産LNGを買うこともあり得る。
萩生田光一経産相は7日の国会で「日本が抜けても第三国が入れば制裁にならない」と答弁した。欧米が一部のエネルギー決済の銀行を除く大半の大手銀行の国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除を決めたが、その抜け穴になる可能性が指摘される。
ロイター通信によると、このほどイタリアの官民の金融機関がアークティックLNG2に対し約5億ユーロ(約630億円)の融資の中止を決めたという。このプロジェクトはロシア企業が6割、中国資本が2割、日仏が各1割を出資する。国際協力銀行(JBIC)が21年11月に17億1000万ユーロ(約2160億円)のプロジェクトファイナンス(国際協調融資)を結んだばかりだ。足元では継続にも撤退にもリスクが伴う。
ロシアは09年にサハリン2でLNG輸出国となり、21年3月には35年までに最大1億4000万トンのLNGを生産する長期計画を発表した。脱炭素化への移行期に重要なLNGをわが国がいかに確保するのか。事業投資への判断はプーチン政権後を見越した長期的な視点も必要だ。 
●木原副長官、サハリン撤退慎重  3/27
木原誠二官房副長官は27日のフジテレビ番組で、政府や企業が参画するロシア極東サハリンでの石油・天然ガス開発事業について、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた撤退には慎重な考えを示した。「エネルギーは国益に直結する。日本が権益を持っているので、しっかり確保しながら対応したい」と述べた。
北朝鮮の新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)を巡り、日本の領土や領海に着弾しない場合に迎撃するかどうかを問われ「米国に向かうミサイルが(集団的自衛権を発動できる)存立危機事態に該当すれば対応可能だ」と説明した。 
●BP、ロシア資産巡りアジアなど国営エネルギー大手に接触−関係者 3/31
英エネルギー大手BPは、アジアや中東の複数の国営石油企業に接触していたことが事情に詳しい関係者の情報で明らかになった。BPはロシア資産を手放す方策を模索している。
BPはロシアの国営石油会社ロスネフチの株式20%程度を保有している。同関係者によれば、この保有株の売却を巡り中国石油天然ガス集団(CNPC)と中国石油化工集団(シノペック)に予備的な接触を行った。このほか、買い手候補となり得る中東の数社にも選択的に連絡を取った。関係者は情報が非公開だとして匿名を条件に述べた。
さらにBPがロシアに持ついくつかの石油・ガス開発計画の権益について、インド石油ガス公社(ONGC)やインド石油などの関心を探っていたという。
協議は継続中で、BPの資産処分がどのような形になるのか何も確定していない。
BPの広報担当者は、ロスネフチの株式売却と同社とのロシア事業解消を引き続き目指していると述べたが、それ以上のコメントは避けた。CNPC、シノペック、および両社の上場会社の担当者にコメントを求めたがまだ返答は得られていない。ONGCとインド石油の広報担当者もコメント要請には応じなかっった。 
●ロシア資源開発「撤退しない」 経産相、安全保障重視 4/1
萩生田光一経済産業相は1日の記者会見で、日本が権益を持つロシアでの石油や液化天然ガス(LNG)の資源開発事業について「撤退しない方針だ」と述べた。日本の商社などは現地で「サハリン1」「サハリン2」「アークティックLNG2(アーク2)」の3事業に出資している。いずれもエネルギー安全保障上、今後も欠かせないと判断した。
萩生田氏は極東でのサハリン1、サハリン2について「権益があり長期の引き取り手が確保されている。現状のようなエネルギー価格の高騰局面では市場価格より安価に調達できる。エネルギー安全保障上極めて重要だ」と説明した。
北極圏でのLNG開発事業のアーク2についても「撤退しない方針だ」と述べた。経済制裁により、欧州からロシアへのエネルギー分野への新規投資が禁止された。アーク2に出資する日本やフランスの企業は新規投資ができなくなっている。萩生田氏は「制裁の影響を分析して適切に対応したい」とも述べた。
ロシアのプーチン大統領は3月31日、米欧日など「非友好国」の企業がロシア産天然ガスを購入する場合にルーブルでの支払いを義務付ける大統領令に署名した。萩生田氏は対象が限定されているとの認識を示し「ただちに日本に影響があるとは思っていないが、注視したい」と話した。
サハリン1は経産省、伊藤忠商事、石油資源開発、丸紅、INPEXが出資している。サハリン2は三井物産と三菱商事が出資。アーク2は三井物産と独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が出資している。 
●ロシア産ガス、停止に備え日本で「プランB」議論 実効性に慎重論 4/1
ロシア産の液化天然ガス(LNG)供給停止に備え、日本のエネルギー企業の間では、代替手段を模索する動きが出ている。複数の企業はロシア以外のLNGプロジェクトからの購入も視野に交渉の可能性を探っている。日本政府も、電力の安定供給に支障をきたさないよう、業界を越えて融通できる体制作りを促している。一方、これらの対応策だけで不足分を補えるのか慎重な見方も根強い。
日本は年間8500万トンのLNGを輸入しており、このうちロシアの割合は約9%。
複数の関係筋によると、この大部分を占める極東ロシアの天然ガス開発事業「サハリン2」プロジェクトについて、岸田文雄首相や萩生田光一経産相らが3月上旬に協議し、撤退しない方針を決めた。日本は、主要7カ国(G7)での合意に沿って、ロシアへのエネルギー依存度を徐々に引き下げる方針だ。これが日本の基本的な立場だ。
ただ、プーチン大統領が突然、天然ガスの対価をルーブルで支払うよう要求するなど、ロシアのエネルギー戦略は不透明感が強く、読みにくい。「プランB」として、供給が止まった場合の対応策を官民でも議論している。
経済産業省の関係者は、1)電力・ガス会社には2―3週間の在庫があり、この在庫をしっかり持ってもらう、2)電力・ガスの業界を越えて融通し合うよう協議してもらう、としており、企業側に対応を要請しているという。
大手電力の関係者は、在庫確保のため、「買っていないところのプロジェクトから買う、すでに買っているところでは増量してもらう、そういう交渉は鋭意、可能性を探っている」と話す。同関係者は、電力各社とも、調達リスクの管理上、探りは入れているだろう、という。
LNGを使った火力発電は発電電力量の約4割に上る。石炭や石油など他の化石燃料に比べて、二酸化炭素の排出量が少なく、東日本大震災後に原発の稼働率が低下する中でエネルギー源として依存度を高めてきた。
大阪ガスの藤原正隆社長は3月18日の会見で、LNGの調達問題は「国のエネルギー政策そのもの」としたうえで、「スポットからの調達や他のプロジェクトからの購入など最善の努力を行いたい」と話した。
実効性
「プランB」の必要性を再認識させた「ルーブル払い要求」。
G7のエネルギー担当相はこの要請を拒否することで合意したが、プーチン大統領は31日、外国の買い手は4月1日からロシア産天然ガスの代金をルーブルで支払う必要があるとする法令に署名したと明らかにし、支払いが行われない場合は契約を停止するとした。
経産省幹部は「ガスを止めるか、契約に基づいて出すかはロシア政府次第」と話す。
ただ、実際にロシアからの供給が停止した場合、調達に向けた企業の契約交渉だけではすべての量を確保することは現実的に難しい。
日本エネルギー経済研究所専務理事の小山堅氏は「天然ガスは、短期的な代替供給源は存在していない。ロシアの供給が止まった分、世界全体の供給のパイが小さくなり、小さくなったパイをみんなで取り合う構造になる」と述べ、世界中でLNG争奪戦が始まると危惧する。
資源エネルギー庁のある幹部によると「サハリン2」の調達価格は10ドル程度と言われているなか、スポット価格を50―60ドルとすれば「2―3兆円追加コストが増えると試算できる」という。
大阪ガスの藤原社長は、長期契約中心に調達しているものの、スポットでの調達となった場合、「日本のエネルギー価格は高騰する。暮らしやビジネスに相当影響を与える」と懸念する。
このほか、緊急対応策として、石炭などを使った火力発電の稼働を強化することも選択肢として考えられる。「今回のエネルギー価格高騰で脱炭素はいったん見直しが必要」(元経産省幹部)との極論もあるが、「金融市場は世界的に脱炭素。シェール開発など火力発電関連にファイナンスは付きにくい」(自民党中堅議員)のが実情。どこまで補えるか慎重な見方もある。
原発再稼働のスケジュールを早めることも「この夏の参院選前は難しい」(与党関係者)とされ、さらに政治的にもハードルが高い。
最後のカード
資源エネルギー庁幹部は、需要側に対応を求める「節電」などには否定的で、「工場の操業が下がったり、国民生活にも影響が出る」として、あくまで最後のカードとして考えているという。
一方、専門家からは、より厳しい見方も出ている。
住友商事グローバルリサーチ、経済部担当部長の本間隆行氏は「調達にめどがつく間は、細かいことを積み重ねて、需要を減らす算段を付けないと、今までの生活ができない」と指摘する。
小山氏も電力やエネルギー供給を止めないことが最重要事項となるとし「東日本大震災後には天然ガス、石炭、石油と、とにかく全て使い、足りない分は節電でやった。似たようなことが起こるのではないか」とみている。 
●なぜ日本は「ロシア権益」から撤退しないのか エネルギー安保と国益 4/6
ウクライナ危機下の“ロシア依存” 日本のスタンスは
ロシアによるウクライナへの侵攻から1ケ月以上が過ぎ、ウクライナの街が次々と破壊されていく様子を世界が日々、目の当たりにする中で、日本政府がその重い腰をようやく上げ始めた。
3月31日、経済産業省は初めて、ロシアへの依存度が高い戦略物資やエネルギーについて、安定的な確保を検討する会合を開いた。「対策を早急に講じる必要がある物資」として、石油やLNG(液化天然ガス)、パラジウムなど7品を特定。新たな供給先の確保や、権益取得に向け取り組みを強化していくことなどを打ち出した。
一方で岸田総理大臣はじめ日本政府は、日本が権益を持つロシアでの石油・ガス開発事業「サハリン1」、「サハリン2」などについて、「日本のエネルギー安全保障上、極めて重要なプロジェクト」だとして、撤退しない方針を発信し続けている。
日本はウクライナ危機下のエネルギー安全保障をどうとらえているのか。
石油メジャー、欧州は即反応
日本とは対照的なのが、欧米各国や「石油メジャー」と呼ばれる海外の大手エネルギー会社の対応だ。
イギリスのシェルは2月28日、ロシアのウクライナへの侵攻開始から4日後には、27.5%を保有する「サハリン2」から撤退すると表明。イギリスのBPはすでにその前日、ロシアの国営エネルギー会社ロスネフチの株式をすべて処分するとして、ロシアでの事業から事実上撤退する方針を発表している。BPの損失は最大、250億ドル(約3兆円)に上る可能性もあるという。
これに続き、アメリカのエクソンモービルも3月1日、30%を保有する「サハリン1」から「撤退に向け、操業停止のプロセスを開始する」と明らかにした。
日本以上にロシア産エネルギーへの依存度が高いヨーロッパは、去年から続く天然ガスや石油などの価格高騰も受けて、苦しい立場に置かれていた。しかしそのヨーロッパも、EU(ヨーロッパ連合)が3月11日、2027年までにロシアの化石エネルギーへの依存脱却を目指し、5月にも具体策を提案すると発表。フォンデアライエン欧州委員長は「早期に依存から脱却することが重要だ」と力強く宣言した。
とりわけ世界を驚かせたのが、ドイツの劇的な方針転換だ。
天然ガスの55%、石炭の45%、石油34%をロシアに依存するドイツ。その比重の大きさは日本とは比べ物にならない。ロシアの侵攻前、ウクライナへの支援をためらっていると批判されていたが、ロシアがウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立を承認したことを受けて、ドイツのショルツ首相は2月22日、ロシア産天然ガスを運ぶパイプライン「ノルドストリーム2」の計画停止を明らかにした。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、「ノルドストリーム2」は約1兆2000億円の事業費をかけすでに完成しているが、ドイツが計画凍結を決めたことで稼働のめどが立たなくなっている。ドイツは別なパイプライン「ノルドストリーム1」によって、ロシアから天然ガスの供給を受け続けているが、ハベック経済相は「短期的には価格は上昇する」として、痛みを伴うことも説明し国民に理解を求めている。
さらにドイツは3月25日、ロシアからの原油輸入量を今年半ばまでに半減させ、年内には「ほぼ自立」する方針にも踏み込んだ。最も依存度が高い天然ガスも、2024年半ばまでに「ほぼ完全に脱却する」などと、ロードマップも明らかにしている。
「ヨーロッパの陰に隠れていれば」…”何もしない”が日本の方針か
ある日本の政府関係者によると、経済産業省からは当初、「(日本は)ヨーロッパの陰に隠れていればいい」と声すら聞こえてきたという。しかし、ロシアへのエネルギー依存度がはるかに高いヨーロッパが具体的に時期を設定し脱却する方針を示したことは、日本政府にとっては誤算だったかもしれない。
ロシアでのエネルギー開発事業で、日本政府が特に「重要」と位置付けるのが、日本のLNG(液化天然ガス)輸入量の約9%を賄う「サハリン2」だ。経済産業省によると、2021年のLNG輸入実績は649万トン。「サハリン2」の年間生産量の約6割に上っている。
経済産業省が作成した内部資料には、「配給途絶が起これば、電気・ガス需給圧迫リスクを起こしかねない」として、「エネルギー安全保障の観点から、エネルギー構成全体の中で対応を考えていく」と、まるで何もしないことを前提としているかのような対処方針が示されている。
「脱ロシア」で何が起こる? 「年間1兆7000億円の国民負担」
では今後、日本が欧米と同様に、ロシア依存からの脱却を目指そうとすればどのような問題・影響があるのか。ここで日本政府や関係者が想定している「脱ロシア」のリスクを検討してみよう。
出資する大手商社のリスクが多く指摘されるが、「サハリン2」から即時撤退した場合、何が起こるのか。影響がさらに大きいのは、LNGの供給を受けるガス、電力業界だろう。
筆者が入手した「日本ガス協会」の資料からは、強い危機感が伝わってくる。
その理由の一つが、現在の輸入価格の安さだ。「サハリン2」からのLNGは通常長期契約に基づき、価格が抑えられている。財務省の統計によると、今年1月のロシアからのLNGの輸入価格は英国熱量単位あたり約14ドル。一方で、一回の取引ごとに成立する「スポット」と呼ばれる市場価格は去年夏ごろから高騰し、ウクライナ侵攻で3月4日には一時、84ドル台まで急騰している。
日本ガス協会は、「スポット」による調達価格と、長期契約で調達した場合の差額は、1年間で約1兆7000億円に上ると独自に試算する。また、代替調達ができなかった場合に、「電気・ガスの供給制限および使用制限が必要となる可能性が高い」と、国民生活に直接的な打撃になると訴える。
さらに国内での政治的圧力となるのが、地方のガス会社のロシア産LNGへの依存度の高さだ。
日本ガス協会によると、岸田総理大臣の地元である広島ガスのロシアからの調達割合(2020年度)は47.7%と、ほかのエネルギー企業に比べても圧倒的に高い。次いで、九州電力17.9%、東邦ガス15.9%に上っている。
資料には同時に、業界として、「日本政府が輸入禁止措置を取れば、全国的に需要抑制が必要であることをセットで考える必要があることについて理解を求めていく」などと、「サハリン2」からの撤退がいかに困難かを訴える内容がふんだんに盛り込まれている。
政府が警戒する「中国の影」
そして、政府やエネルギー業界関係者が最も懸念するのが、「日本が撤退したら中国に権益を奪われる」というシナリオだ。日本が手放したLNGを中国が安いコストで調達できるようになれば、「脅威」となった中国経済をさらに利することになりかねないという。
萩生田経済産業大臣は3月8日、「サハリン1、2」について、「第三国がただちにそれを取って、ロシアが痛みを感じないことになったら意味がない」と、中国への警戒感を滲ませた。
さらに、ロシアが安価な長期契約の日本への輸出分を「スポット」での高値で転売すれば、ロシアを逆に潤すことになりかねないと、エネルギーの専門家は指摘する。
「国策プロジェクト」は本当に“重要”なのか
一方、この情勢下で固執し続けることに首を傾げざるを得ないプロジェクトもある。
日本政府は、原油を輸入している「サハリン1」も「極めて重要」として、撤退しない方針を堅持している。経済産業省の資料によると、2021年の日本の原油輸入量でロシア産が占める割合は3.6%にすぎない。日本への原油はサウジアラビアが約40%、UAE=アラブ首長国連邦が約35%と中東依存度が高く、もともとロシアでの権益確保は、エネルギーの中東依存度を下げることが目的だった。
だが、ウクライナでの惨状を受けて、各国や企業が次々とロシアからの撤退を進める中、「3.6%」が本当に国益上「極めて重要」なのか。
「サハリン1」の事業主体を見ると、その背景も透けて見えるように思える。撤退の方針を表明した米エクソンが30%、そして日本のサハリン石油ガス開発(SODECO)が30%を保有。さらに、このSODECOの内訳を詳しくみると、経済産業大臣(日本政府)が50%、国が筆頭株主のJAPEX(石油資源開発)が15%、伊藤忠14%、丸紅12%と、ほぼ国策会社だ。
日本政府が関わるロシアでの資源開発はほかにもある。
その一つが、2023年の稼働を目指す北極海の「アークティック2」。安倍元総理大臣が肝いりで進めたLNG開発事業だ。日本勢では、三井物産や石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などが参画する。2019年、G20大阪サミットでのプーチン大統領と当時の安倍総理との首脳会談にあわせて契約が署名された、まさに国策プロジェクトと言える。
だが、「アークティック2」をめぐっては、権益の10%を保有するフランスのエネルギー大手トタルエナジーズが3月22日、権益は手放さないものの資金提供はしないと凍結を表明するなど、今後の資金調達が危ぶまれている。
それでも、4月1日、萩生田大臣は「アークティック2」からも撤退しない方針を明言した
失敗を何よりも避けたがる霞が関官僚の論理では、国が進めた事業から容易には撤退できない。そして、結論を先送りし、対応が遅れる。これまで様々な問題で繰り返し見てきた「霞が関」的なやり方が、この問題でも続いているのだろうか。
「戦略」? 危機対応の「欠陥」? 
紛争において、エネルギーがいかに大きな武器となりうるのか、ロシアのウクライナ侵攻は改めて世界に突き付けた。ロシア依存からの脱却を表明したヨーロッパだが、経済への一層の打撃など困難が予想される。
それでも、EUのフォンデアライエン委員長は3月8日、「我々を露骨に脅す供給元に頼ることはできない。今行動が必要だ」と、結束を呼び掛けた。迅速な意思決定と行動は、危機を乗り越えようとする国際社会への強いメッセージとともに、ロシアへのプレッシャーにもなる。
国際社会の動きに押されるように、萩生田大臣は3月15日、「ロシアへのエネルギー依存度の低減をはかる」として、再生可能エネルギーも含めたエネルギー源や調達先の多様化を進める方針を示した。そして、冒頭触れたように、侵攻から1か月以上経過して、日本政府は初めて、「戦略物資やエネルギーの安定的な確保を検討する会合」を開き、対策を発表した。しかし、ここでもロシアでの権益をどうするのか、具体的な方針は示していない。
日本のエネルギー業界のある重鎮は、「簡単に権益を手放す判断をすべきではない」と日本政府の対応を評価しながら、「ウクライナでの状況が悪化すれば、人道的な観点から撤退も考えざるを得ないだろう」と語る。
資源のない日本にとって、エネルギーの権益確保と調達の多様化は最重要ともいえる課題であることは疑いない。だが、「戦争犯罪」も問われるロシアに、欧米各国らが結束して対応しようとしている中で、すべてのロシア権益を一様に、「極めて重要」として固執し続けるのか。
日本政府の対応はしたたかな戦略的「忍耐」なのか、それとも単に危機対応の遅れなのか。その「忍耐」は責任ある主要国の一員として容認されうるのか。国民、そして国際社会への説明はあまりに乏しい。 
●エネルギーの脱ロシア化を模索するヨーロッパ 一方、日本は… 4/8
ウクライナ・ゼレンスキー大統領がロシアへの制裁で石油の輸入禁止を求めました。ロシアの石油・ガス関連の依存度が高い欧州でも、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャで多くの市民が亡くなったことを受け、液化天然ガスをアメリカから供給を受けようとするなど、脱ロシアを図ろうとしています。
ゼレンスキー大統領 「ロシア産石油の輸入禁止」求める
有働由美子キャスター「ゼレンスキー大統領がロシアへの制裁として求めたのが石油の輸入禁止です。ロシアの収入源は石油・ガス関連が4割から5割を占めていますので、制裁の効果は大きいわけですが、ただヨーロッパはロシアへの依存度が高いので簡単にはのめないという話でした」
小栗泉・日本テレビ解説委員「そうなんです。ただ、(ウクライナ)ブチャで多くの市民が亡くなったことを受けまして、流れが変わってきたという見方があるんです。国際安全保障が専門・慶応義塾大学の鶴岡路人准教授は、『ブチャをみて、ロシアにエネルギーの代金を払い続けるのが本当に正しいんですか?戦争を続ける資金を渡していることと同じでは?という意識が確実に高まっている』と話しています。『ただ、石油や天然ガスの輸入を禁止するにしても、ほかの確保先を見つけてからになるだろう』ということです」
「脱ロシア化」 気になる確保先は?
有働「ほかの確保先は見つかるんでしょうか」
小栗「EU(=欧州連合)はですね、液化天然ガスをアメリカに多く供給してもらおうとしたり、ドイツもですね、中東カタールから長期にわたりガスの供給を受けるための協議をしたりと、脱ロシア化を図ろうとされているんです」
日本企業も出資…ロシアの石油・天然ガス開発事業はどうなる
有働「日本でいいますと、石炭の輸入禁止も表明していないわけですから、石油・ガスとなると、これは止めないということですか」
小栗「そうですね。さらに日本企業も出資するロシアの石油・天然ガス開発事業『サハリン2』についても、岸田総理大臣は『事業から撤退しない』と述べているんです。ただ、もしEUなど他の国が石油や天然ガスの輸入を止めた場合には、『撤退の検討も視野に入れざるを得ない』という声も聞かれます」
有働「もし撤退したらどうなるんですか」
小栗「その点をですね、国際経済に詳しい経済評論家の加谷珪一さんに聞きました。『サハリン2』から調達しようとしている天然ガスは、日本全体の1割以下なんだそうです。とはいえ、この分を他の国から急きょ調達しようとすると割高になって、ガス代や電気代が2割くらい上昇するということは、十分あり得るということなんです」
有働「こういったことも含めて、廣瀬さんどう考えていますか?」
廣瀬俊朗・元ラグビー日本代表キャプテン「日本の現状を踏まえると、撤退しないというのは現実的選択かもしれませんけれども、今のプーチン大統領を見ていると、多少の痛みがあったとしても結束して圧力をかけるということは大事なことかなと思います」
有働「現地の映像を見て、『どうにかロシアを止められないか』ということを毎日のように思うわけですけれども、といっても日本にできる『経済制裁』を強くすれば私たちの生活にもダメージがある。これが、戦争です。痛みや苦しみをどれほど分かち合うのか、私たち一人ひとりの覚悟が問われているんだと思います」 
●日本に重要なサハリン1、2 実はサハリン9まである 事業の経過をたどる 4/11
ロシアに対する非難が強まる中、日本が石油・天然ガスの権益を持つサハリンでの事業をめぐり、共同で参画していた欧米の国際石油資本(メジャー)が相次いで撤退を決めた。
「サハリンでは大規模な石油・天然ガスの埋蔵量が確認されており、我が国に地理的に極めて近いことから、供給源の多角化に資する重要なプロジェクト」
国は折に触れて日本の北方にあるその土地と資源の重要性を強調してきた。欧米各国が制裁を強める中、日本企業は難しいかじ取りを迫られている。
サハリン1、サハリン2がクローズアップされるが、石油開発のサハリンプロジェクトはこのほか、中国企業が参画するサハリン3をはじめ、サハリン9まで存在する。
原油価格(WTI)が1バレル120ドルを超えて高騰した2008年、筆者はロシアでの石油開発事業に当たっていた。当時の経験と記憶を踏まえ、サハリンプロジェクトの始まりと1〜9の各案件を概説する。
「サハリンプロジェクト」の興り
サハリンでの石油・天然ガスの開発事業の歴史は1960年代まで遡る。
経団連が、旧ソ連側との国家プロジェクトの組成などを目的として1965年に立ち上げた貿易・投資の窓口機関「日ソ経済委員会」(現日本ロシア経済委員会)を通じ、大型案件の実現に動いていた。
ソ連への外資参入が規制されるなか、日本側が資金や技術を提供する形で、石炭や木材など種々の資源開発が行われた。サハリンでの石油開発事業もその一つだった。
サハリン島の陸棚に賦存している、つまり眠っていると目された莫大な石油資源の探鉱・開発に向け、1972年に両者の間で具体的な協議が始まった。提案を受け、日本側では1974年に開発の実施主体となる半官半民の会社が設立された。「サハリン石油開発協力」、通称「旧SODECO」(Sakhalin Oil Development Cooperation Co., Ltd; ソデコ)だ。1975年に同社とソ連の外国貿易省との間で、探鉱・開発・生産と日本への生産物供給に関する基本契約(General Agreement)が結ばれた。
ただ、この事業が日の目を見るのは、四半世紀以上先のこととなる。この間、日本側にとっての成果は捗々しくなかった。
一方、ソ連側は日本との協働を通じ、「西側」欧米メジャーの開発技術の移転という実利を得た。ソ連の真の狙いはそこにあった。
四半世紀は無為に過ぎたわけではなく、開発・生産に見合う埋蔵量は確認されていた。物探(物理探査)船による調査や試掘を経て発見された油ガス田がサハリン1、2へとつながっていくこととなる。
サハリン1――新SODECOが継承
ソ連時代に、どの程度石油が採掘できそうかを確かめるための「評価井」の掘削まで進んだものの、この日ソ共同探鉱は1980年代に幕を閉じた。
その後、1991年のソ連崩壊を経て、ロシアで外資の本格参入が認められるようになり、立ち消えになっていたソ連時代のプロジェクトが再始動することとなる。
ただ、日ソの共同事業からコンソーシアムの顔ぶれは変わることとなる。外資側はエクソンモービルが1993年に参画し、日本勢と同じ30%の権益比率を保有した。日本勢はソ連に「協力」する立場だった旧SODECOから、「協力」の名を取った「サハリン石油開発」として再出発した。サハリン石油開発の株主は伊藤忠商事、石油資源開発、丸紅、INPEX、そして独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構から成る。
1995年、ロシアにおける生産分与(PS; Production Sharing)法の制定に基づき、1996年にようやく開発プロジェクトのPS契約が発効となった。
エクソンがオペレーター(操業主体)として事業を先導し、ソ連時代に発見されていた「チャイボ」と「オドプト」の油ガス田に加え、「アルクトン・ダギ」が対象鉱区となった。これが「サハリン1」と総称されるようになったプロジェクトだ。2001年に商業化に移行し、2005年に原油、2008年に天然ガスの生産がそれぞれ始まった。
権益は、エクソンと日本勢の各30%のほか、サハリンモルネフテガス(SMNG)が11.5%、ロシア最大の国営石油会社ロスネフチが8.5%とロシア勢が計20%、そしてインドのONGCが20%という比率になっている。
ウクライナ侵攻を受け、エクソンが同事業からの撤退を決めたのは周知の通りだ。
サハリン2――ロシア初のLNG事業
同じく日ソ間で1970年代以降に進められた共同探鉱により見つかった「ルンスコエ」と「ピルトン・アストフスコエ」の構造は、ソ連独自に継続した調査を経て、「サハリン2」へと引き継がれた。
国営石油が参画したサハリン1に対し、サハリン2は世界最大のガス企業、ロシア国営のガスプロムが権益の過半を持つ。外資は、ロイヤル・ダッチ・シェルと三井物産、三菱商事の3社が参画する。
ロシア初のLNG(液化天然ガス)事業であり、1999年に生産が始まった。当初はシェルが55%、三井物産が25%、三菱商事が20%ずつ出資するプロジェクト会社「サハリンエナジー」による外資単独の事業だった。しかし、ロシア政府が環境アセスメントの不備を理由にサハリン2の開発中止を命じた。
その後、各社が折衝し、ガスプロムがサハリンエナジーの株式の50%+1株を取得する形で参画が決まり、外資3社の株式は半減した。
シェルもエクソンと同様、ウクライナ侵攻後に事業撤退を決めている。
サハリン3――中国国営石油が参加
サハリン3以降は、同1、2に比べて日本の関与度が低いため、あまり報道される機会がない。ただ、中韓が高い関心を寄せるなど、東アジアの資源外交、地政学上、重要な意味を持つ。
まずサハリン3は、「東オドプト」「アヤシ」「キリンスキー」「ウェーニン」の4つの鉱区から成り、それぞれ権益の保有者が異なる。当初は鉱区のオークションで外資が落札した経緯があるが、曲折を経て現在はロシアがほぼ完全にコントロールしている。
「東オドプト」は1993年に現エクソン・モービルが落札したものの、目立った探鉱の成果はなかった。その後、2004年にPS(生産分与)対象の鉱区外となった後、2009年にガスプロムの子会社「ガスプロムネフチ」が権益を取得した。
「アヤシ」の鉱区も1993年にエクソンが落札したが、現在はガスプロムネフチがすべての権益を持つ。
「キリンスキー」は1993年の入札でエクソンとテキサコがそれぞれ33.3%の権益比率を保有するも、PSの対象外鉱区となり、2008年にガスプロムが権益の100%を持つに至った。翌2009年に試掘するなどし、2013年に生産を始めている。
「ウェーニン」には1993年の入札時に応札者が現れなかったという。旧SODECO時代に行われた試掘の結果が芳しいものではなかったためだ。
ただ、サハリン1、2での生産移行の状況や掘削技術の向上を踏まえ、2000年代にはあらためて同鉱区への関心が高まった。2000年代にMOU(覚書)を結んだ韓国石油公社(KNOC)や、サハリン1に参画するONGCが関心を寄せていた。結局、現在はロスネフチが74.9%、残り25.1%を中国国有の中国石油化工(シノペック)が権益を握ることとなった。両社は2005年に探鉱事業に当たる合弁会社を設立、2006年に試掘を行っている。
一方、ウクライナ侵攻に伴う各国の制裁強化の動きを背景に、シノペックはロシアへの化学工場などへの投資協議を中断している。
サハリン4、5――英BPが撤退
サハリン4には「アストラハン」と「シュミット」の2鉱区があり、ロスネフチが51%、英BP(British Petroleum)が49%の権益を持っていた。ただ、2000年代に試掘の不成功などを踏まえ、BPは撤退している。
「東シュミット」(カイガンスキー・ ヴァシュカンスキー)を対象鉱区とするサハリン5の権益比率は、サハリン4と同様、ロスネフチが51%、BPが49%だった。1998年にロシア側51%、BP49%の出資比率で「エルヴァリ・ネフテガス」を設立、その後同社がライセンスを取得した。2004年に最初の試掘を実施、相応の石油・ガスが発見された。しかし、その後の探鉱結果を踏まえ、商業性が見いだせないとして、2012年にBPは撤退を決めた。
サハリン4、5はいずれも、国際石油資本・BPの持つ高度な技術の導入を図りたいという思惑があった。
サハリン6――1998年に始動
サハリン6は陸と海にかかる「ポグラニーチヌイ」鉱区が対象で、1998年に始動した。現在ペトロサハとサハリン州政府がそれぞれ97%と3%を保有し、2005年には油兆が確認されている。サハリン大陸棚の中では最大の鉱区とされる。
サハリン7〜9――目立った動きなし
このほか、図示する通りサハリン7はサハリン南部〜南東部の陸棚、サハリン8は同南西部沿岸付近など、サハリン9まで鉱区が設定されている。ただ、今のところ顕著な成果は見られていないのが実情だ。 
●「1200億円をドブに捨てる覚悟が…」三井物産「アークティック2」という爆弾 4/14
「ロシアのウクライナ侵攻で情況は流動的だが、空前の資源バブルが続いており、総合商社の2022年3月期決算はかなり上振れした模様だ」(外資系証券会社の商社担当アナリスト)
最終利益の着地点は三菱商事、三井物産の「2M」が9000億円台。「もしかすると1兆円の大台に乗るかもしれない」(同)。伊藤忠商事も8200億円という。これまでの見通しを上回るのは確実の情勢だ。
利益のトップ争いは、三菱商事、三井物産のデッドヒート。僅差で伊藤忠と予想しておく。「商事は垣内威彦社長の最後の決算。中西勝也・新社長の最初の決算だから、トップを取りにくるだろう」(ライバル商社の広報担当役員)。
日本全体の対ロ貿易の実績を見ると、ロシアから輸入している金額の60%がエネルギーであり、ロシアの巨大エネルギープロジェクトにトップ争いをしている3商社が参画している。ロシア極東の液化天然ガス(LNG)開発、「サハリン2」から英石油大手シェル(旧ロイヤル・ダッチ・シェル)が撤退を表明した。原油・天然ガスの「サハリン1」もオペレーターのエクソンモービル(30%の権益を保有)が撤退を表明した。三井物産、三菱商事は「サハリン2」、伊藤忠は「サハリン1」に出資している。「サハリン2」の出資比率は三井物産が12.5%、三菱商事が10%である。
「サハリン1」はエクソンが30%の権益を持ち、SODECO(サハリン石油ガス開発)が同じく30%であった。SODECOには経済産業省が50%出資、伊藤忠グループが16.29%、丸紅が12.35%出資している。石油資源開発も15.28%、INPEX(旧国際石油開発帝石)が6.08%の資金を供出している。
「サハリン1」については日本側の過半の株式を経産省が保有しているわけで、政府(経産省)がどうするかで決まる。「サハリン2」の三井物産、三菱商事と「サハリン1」の伊藤忠の立場は微妙に異なるという見方がある。いずれにせよ、世界の主要企業がロシアのビッグプロジェクトから逃げる流れが加速している。日本企業だけがカヤの外で静観というわけにはいかない。
「短期的には安定供給優先、現状維持だが、中長期的にはロシアとのビジネスをどうするかという難問を解決しなければならなくなる。その先には中国がロシアのウクライナ侵攻のような侵略行為に出た場合、対中ビジネスをどうするかという超難問が待ち受けている。台湾が頭をよぎる」(首相官邸筋)
2兆円近い追加コスト発生の可能性も
「サハリン2」はロシア初のLNGプロジェクトだ。ロシア国営ガスプロムが50%強(50%プラス1株)、シェルが27.5%マイナス1株(約27.5%)だ。2009年に出荷を始めた。
年1000万トンの産出量のうち約6割は日本向け。ロシアからのLNG輸入のほぼ全量にあたる。このLNGは日本の電力・ガス会社に長期契約で供給され、これまではコストは安定していた。3日程度で届き、中東産のLNGが運搬に2週間かかるのに比べると断然短い。使い勝手がいいのだ。
経産省は商社らと一緒に撤退時のリスクを分析した。撤退なら当然、代替分をスポット市場で調達する必要が出てくる。「2兆円近い追加コストが出る」(大手商社のエネルギー担当役員)のは確実だ。そうでなくとも高騰している電力・ガス料金に跳ね返る。「サハリン2」から撤退すれば「権益を中国に取られる」(政府関係者)恐れが強い。
「サハリン1」についても事情は同じ。原油輸入量の3.6%を占めるロシア産原油の約4割が「サハリン1」だ。「エネルギーの権益は守るべきだ」「当面は現状維持だ」(自民党のエネルギー族議員)というのが大勢だが、その一方で撤退論もくすぶる。
経済同友会の櫻田謙悟代表幹事は3月1日の会見で、「ロシアが国際法違反を繰り返しながら、何もなかったように取引をするのは考えられない」と述べた。国際協力銀行の前田匡史代表取締役総裁も3月3日の会見で「日本だけが自国のエネルギー事情を言って、あたかも何もなかったように振る舞うのは違う。このまま同じように続けることはあり得ない」とし、「見直しは避けられない」との認識を示し、注目された。前田総裁は6月に退任が決まった模様で、これまでの行動や主張と、ほぼ180度違う見解を示したことになり、周囲を驚かせた。
というのも、前田氏はプーチン大統領の側近中の側近といわれている国営石油大手ロスネフチのイーゴリ・セチン最高経営責任者(CEO)とのパイプを生かし、日ロ平和条約交渉に関する極秘情報を入手し、安倍晋三元首相に急接近したことで知られているからだ。「ロシアのエネルギー戦略の理解者」(大手商社のエネルギー担当役員)と目されてきた。
物産のアキレス腱は「アークティック2」
三井物産は北極海に面したギダン半島の「アークティックLNGプロジェクト2」という爆弾を抱えている。ロシアの第2位のガス大手ノバテクが北極圏ギダン半島に建設している年産2000万トンの巨大LNG計画で、2023年の稼働を目指している。
「アークティック2」には三井物産は4500億円を出資し、10%の権益を確保している。物産の「アークティック2」に参画する契約の調印式は19年6月、「G20大阪サミット」の日ロ首脳会談に合わせて行われた。当時首相だった安倍氏とプーチン大統領が立ち会うなかで、物産の安永竜夫社長(当時、現会長)が署名した。
この案件は当初から「北方領土案件」と呼ばれていた。北方領土の返還に執念を燃やしていた安倍首相は「アークティック2」を日ロ経済協力のシンボルと位置付け、経済産業相の世耕弘成氏(当時)が音頭をとって推進したビッグプロジェクトだ。世耕氏はロシア経済協力分野担当大臣でもあった。
三井物産とともに参画を打診された三菱商事は「ロシアの新興企業のプロジェクトで危ない」(三菱商事の首脳)と判断して加わらなかった。先見の明があったということになる。物産が出資した4500億円のうち75%は経産省所管の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が資金支援しており、物産の実質負担は1200億円程度にとどまるとされている。それでも物産の浮沈を握る巨大プロジェクトであることに変わりはない。
物産の堀健一社長は「1200億円をドブに捨てる覚悟があるかどうかが問われている」のだ。そんなことをすれば安倍・世耕ラインが猛反発するだろうし、飯島彰己(元社長・会長、現顧問)以来、親ロ派の羽振りがよかった物産の経営陣の権力構造に激震が走ることにもなりかねない。
「安永会長は最近、『自分を親ロ派と言わないでほしい』と言っている」(物産の若手幹部)という、よくできた噂(フェイクに近い話なのだろう)が漏れ伝わる。とはいっても、ロシアの桎梏に悩まされている日本企業の筆頭が三井物産という指摘が従来からあった。当たらずとも遠からずであろう。
「総合商社にとって、エネルギー資源関連は社運を賭けるビッグプロジェクトだから、本音ではロシア・ビジネスから撤退したくないだろう。1度、プーチン大統領に資源(の権益)を接収されたら、それでオシマイ。2度と戻ってこない。この先20〜30年、ロシアの資源ビジネスに新たな投資ができなくなる」(前出の商社担当アナリスト) 
●インド、サハリン1などロシア資産取得検討を国営企業に指示=関係筋 4/29
インドが国営エネルギー会社に対し、ロシア石油資産の取得について検討するよう指示したことが、関係筋の話で分かった。
極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン1」における米エクソンモービルの権益や、英BPが保有するロシア石油大手ロスネフチの株式が対象という。
BPは保有するロスネフチ株19.75%を全て売却すると2月に発表した。
関係筋によると、インド石油省は先週、この株式について、石油天然ガス公社(ONGC)の海外事業部門ONGCビデシュ(OVL)、インド石油公社、バーラト・ペトロ・リソーシズ、ヒンドゥスタン・ペトロリアム傘下のプライズ・ペトロリアム、オイル・インディア、GAILインディアに取得を検討するよう指示した。
また、エクソンがサハリン1に保有する権益30%の取得について、OVLに検討を指示した。エクソンは同事業の運営会社。OVLは既にサハリン1の権益20%を保有している。
関係筋の1人によると、インド企業はロシア事業のリスクを踏まえ、割安に権益を取得できると期待している。別の関係筋は、各社は投資した場合の制裁の影響を検討する必要があるとし、デューデリジェンスはまだ開始していないと述べた。 
●英BP、見えぬロスネフチ株売却先 ロシア撤退損失3兆円 5/4
英石油大手BPが2022年1〜3月期に3兆円を超すロシア関連損失を計上した。ロシア石油大手ロスネフチに約2割出資し、資本面でも現地に深く根を張ってきたBPは、欧米石油メジャーの中でも巨額の損失を負った。
BPは06年にロスネフチに資本参加。13年にはBPが持つロシアの石油合弁会社TNK-BPの持ち分を、ロスネフチに譲渡。対価の一部としてロスネフチ株を取得し、出資比率は19.75%まで上昇していた。
ルーニー最高経営責任者(CEO)は3日の決算説明会で、ウクライナ侵攻で「根本が変わり国有企業であるロスネフチへの関与は続けられなくなった」と語った。
撤退の表明は素早かったが、売却先のメドが立っているわけではない。ロシア政府が外国企業の事業撤退や、外国人の株式売却を制限しているためだ。ルーニー氏は今後の見通しについて説明会で「コメントできない」と繰り返した。
ロスネフチの石油生産量(持ち分ベース)はBP全体の約3分の1を占めていた。BPは再生可能エネルギーなど低炭素分野への移行を急ぐ構えだが、ロシア事業を失う影響は無視できない。
欧米石油メジャーはロシア関連の損失を相次ぎ計上している。米エクソンモービルは「サハリン1」で約34億ドル、仏トタルエナジーズも液化天然ガス(LNG)開発などロシア事業で約41億ドルの損失をそれぞれ計上した。 
●丸紅、ロシア減損130億円 社長「サハリン1、撤退したい気持ち」 5/6
丸紅の柿木真澄社長は6日の決算会見で、前期中にロシア・ウクライナ関連事業で130億円程度の減損処理を実施したことを明らかにした。ロシアでの石油・天然ガス開発事業「サハリン1」は政府方針を受けて事業を継続するものの、「できれば戦時下なので撤退したい気持ちはある」と心情を吐露した。
同社のロシア向け長期エクスポージャーは、21年3月末の249億円から前期末には123億円へ減少した。社長は同社が海外に抱えるエクスポージャーが総額2.7兆円規模であることを紹介したうえで、ロシアは「0.5%以下の規模。今後全額、長期エクスポージャーに問題が発生しても、大きな支障ない」と訴えた。
同社は「サハリン1」事業を手掛けるサハリン石油ガス開発(SODECO)の株式評価額を減額。減損処理として、米国で航空機リース事業を営むグループ会社が保有するロシア・ウクライナ向けリース機体が没収される可能性を織り込んだ。
社長は今後のロシアでのエネルギービジネスについて「新規ビジネスをロシアでやることは頭から消え去っている」と強調。政府が継続方針を示しているサハリンは「従わざるを得ない」ものの、新規案件には「興味を示す示さない以前に、まずあり得ない」と述べた。 
●日本、ロシア産原油を禁止すると言いつつも…「サハリン事業の維持は矛盾」 5/11
日本政府が主要7ヶ国(G7)のロシア産原油輸入の中断に参加することを明らかにしたが、サハリン事業は維持するとしたことについて“矛盾”した決定だという指摘が提起された。
10日(きょう)付の日本経済新聞やロイター通信などによると、萩生田光一経済産業相は同日の記者会見で、G7のロシア産原油禁輸措置に関連して「日本経済に及ぼす可能性のある経済的影響を考慮し、時期と方法を決める」と述べた。
それと共に、「人材と企業活動に及ぼす悪影響を最小化する方式で段階的に廃止する方法を検討したい」として、「ロシア産の原油は米国またはカナダ産の原油に代替する案が最も有力だと見ている」と付け加えた。
これは岸田文雄首相が前日、G7首脳とのテレビ会議後に発表したものと同じ内容だ。岸田首相は「難しい決断だったが、G7の結束が何よりも重要な時期」だとし、ロシア産の原油禁輸措置は避けられないと強調した。
しかし、岸田首相はロシアのサハリンで石油・天然ガスを生産する『サハリン1』プロジェクトと『サハリン2』プロジェクトから撤退するのかという質問には「(日本が)権益を維持する立場から変わったことはない」とし、事業を継続する考えを明らかにした。
これに対して、日本経済新聞は矛盾する対応だと皮肉った。日本は原油輸入量の90%を中東に依存しており、ロシア産原油の割合は3.6%と微々たる水準だ。輸入額は約2570億円規模だ。
しかし、ロシア産原油輸入の40%をサハリン1を通して調達しており、残りの60%はロシアの石油企業とスポット入札を通した随時契約によって輸入している。
少なくとも170億ドル(約2兆2100億円)が投入されたサハリン1プロジェクトに日本のサハリン石油ガス開発株式会社(SODECO)は30%の持分を保有している。残りの持分はエクソンモービルが30%、インドのONGC Videshとロシア国営のロスネフチがそれぞれ20%を保有している。
日本経済新聞は「日本政府が引き続き事業を維持するならばSODECOも収益を上げるが、一部の利益はロシアに流れ込むことになる」とし、これはロシアが戦争資金とすることができる“資金源”を断ち切るというG7の方針と相反すると指摘した。
一方、G7は今後、ロシア産の液化天然ガス(LNG)に対しても禁輸措置を取る可能性がある。日本が2021年にロシアから輸入したLNGは全体輸入物量の9%で、原油と比較すると比重が高い。