天下分け目の総選挙

総選挙を占う  出城の初戦  横浜市長選 敗退
出陣式 総裁選なし  「エイ・エイ・オー」 となるか
菅自民党総裁  今のままでは 先陣・本陣・後陣  援軍のない総選挙

8/27 やはり 総裁選 実施 (9/12 告示 - 9/29 投開票)  「エイ・エイ・オー」 とはなりませんでした
9/3  菅総裁 総裁選不出馬 表明
   不人気 四面楚歌 孤立無援 孤軍奮闘 袋小路 八方塞がり 担ぎ手無し 負けは明らか
高市・岸田・河野 総裁選出馬表明  9/16 野田聖子参戦
   安倍の御神の後ろ盾期待か 岸田・河野 徐々に改革発言に靄  あいまいな政策表明にすり替わる
   政策 税金のバラマキ合戦 不足分はお札を印刷します 国の借金バブル 膨らませます
9/29 総裁選セレモニー 岸田文雄 圧勝
10/4 岸田総裁 衆参両院本会議の首相指名選挙で第100代首相に
   岸田内閣発足
10/19 衆議院選挙公示
 


8/238/268/288/308/31田原総一朗・・・
9/19/29/3 菅総理不出馬表明四面楚歌9/4・・・
9/79/109/119/12河野岸田高市・・・
雑話 9/15〜・・・
総裁選発表政策 / 河野岸田高市野田・・・
自民党総裁選 / 9/299/30・・・
10/110/210/310/4岸田内閣記者会見内閣噂話自民党役員悪い噂・・・
10/510/610/710/8 所信表明10/910/10・・・
10/1110/1210/1310/14 記者会見・・・
10/1510/1610/1710/1810/19 衆議院選挙公示10/20・・・
10/2110/2210/2310/2410/2510/2610/2710/2810/2910/3010/31・・・
選挙評価11/111/211/311/411/511/611/711/811/911/10・・・
 
 
 

 

菅自民党総裁の任期は9月末まで。10月21日には衆院議員の任期満了を迎える。菅が政権を担い続けるには、これから3カ月余りの間に、衆院選と総裁選という二つの戦いを乗り切らなければならない。 
 
 
 

 

●横浜市長選 当選の山中氏 “就任後速やかにIR誘致を撤回” 8/23
過去最多の8人が立候補した、横浜市長選挙で当選した山中竹春氏が23日、市役所で当選証書を受け取り、就任後速やかにIR=統合型リゾート施設の誘致の撤回を宣言するとともにコロナ対策として医療提供体制の確保などに取り組んでいく考えを示しました。
山中竹春氏は、横浜市長選挙で50万票以上を獲得して当選し、23日、市役所で当選証書を受け取りました。
このあと山中氏は記者団の取材に応じ「身の引き締まる思いだ。市民が住んでよかったと思える横浜を作るという強い責任感でいっぱいだ」と述べました。
そして、今月30日に市長に就任したあと速やかにIR誘致の撤回を宣言し、市の「IR推進室」を廃止する考えを示しました。
さらに、感染の急拡大が続く新型コロナ対策として今後、医療提供体制の確保やワクチン接種のスピードアップ、検査態勢の充実などに取り組む考えを示しました。
22日、投票が行われた横浜市長選挙で立憲民主党が推薦した元横浜市立大学教授の山中竹春氏が初当選したことを受けて横浜市民からは、さまざまな声があがっていました。
横浜市中区の自営業の男性(59)は「現職の市政が長かったので、そろそろ別の人をと期待する人も多かったのかなと思うし、自分も別の人を選びたいと思った」と話していました。
また、横浜市中区の男性(68)は「若い方なので行動力には期待しているが、市の財政問題に全く触れていないので、今後財政問題にどう取り組んでいくのか、お手並みを拝見したい」と話していました。
横浜市緑区の会社員の女性(26)は「新しい市長には若い人たちのワクチン接種率をあげることに力を入れてほしいのと、外出制限を呼びかけた際の経済的な支援をしてもらいたい」と話していました。
また、カジノを含むIR=統合型リゾート施設の誘致をめぐっては「自分もIR反対だったので、公約をぜひ実現してほしい」と話していました。
大差で勝利の背景は
取材にあたった横浜放送局の有吉記者に聞きました。
Q:山中さんの大差での勝利の背景はどこにあったでしょうか。
記者:市民の関心が「新型コロナ対策」に集まった点だと言えます。神奈川県内では連日のように2000人以上の感染確認が発表されています。山中さんはみずからを「コロナの専門家」として支持を訴え、街頭では野党の幹部も口をそろえて菅政権や林市政のコロナ対策を批判しました。不安や不満を感じている人たちを引きつけたと言えます。
Q:争点の1つとして挙げられていたIRは市民の投票行動にどう影響?。
記者:横浜市内では、去年、反対する市民団体や野党がIR誘致の是非を問う住民投票条例の制定を求める署名活動を行いました。20万近い署名が集まりましたが条例案自体は市議会で否決されました。ただ、山中さんを推薦した立憲民主党の関係者は「署名活動を通してIR反対の主張は市民に十分浸透していたため選挙戦がスタートした時点で争点はIRではなくコロナ対策に移っていた」と振り返っています。NHKの22日の出口調査では75%の人がIR反対と回答しました。菅政権の閣僚だった小此木さんも市民の理解が得られていないとしてIR反対を打ち出したためIRは争点としてわかりにくくなっていたという見方もあります。公明党の関係者は「新型コロナの感染急拡大と内閣支持率の低下影響を日増しに感じた」と受け止めています。小此木さんの陣営でも「コロナ対策を前面に打ち出す必要がある」とポスターや演説内容を変えたのですが、それは選挙戦の最終盤でのことでした。こうした結果、小此木さんは地元の鶴見区で山中さんを上回ったものの、菅総理の地元を含むすべての地域で及びませんでした。自民党の関係者から「ここまでひどい大敗とは夢にも思わなかった」「想像を超える大惨敗だ」という声が聞かれるほどです。
Q:今後、山中さんはどのように市政運営に当たっていくんでしょうか。
記者:横浜市議会で多数を占めているのは自民党の会派と公明党です。自民党の幹部は「IRの取りやめを訴えた小此木さんを支援した経緯を踏まえれば山中さんのIR反対に『反対』とは言えないが市議の一部はIR推進の林さんを支援した。どのように市議団をまとめていくかが問題だ」と難しい調整に頭を悩ませている様子でした。また公明党の幹部は「政治経験がない山中さんがどう市政の舵取りをしていくのかわからないが、是々非々で臨みたい」としています。山中さんの任期は今月30日からで、自身が選挙戦で訴えたIR誘致のとりやめや、コロナ対策の推進などをどのように実現していくのか、多くの市民が注目していると思います。

●自民、「菅離れ」拡大必至 お膝元敗北、政権に激震 横浜市長選 8/23
菅義偉首相の地元である横浜市の市長選で、首相自身が全面支援を打ち出した前国家公安委員長の小此木八郎氏が敗れ、政権に激震が走った。
衆院議員の任期満了まで残り2カ月。9月の自民党総裁選に向けて「党の顔にならない」と交代を望む声が広がるのは必至だ。
「ご苦労さま」。首相は22日夜、小此木氏から電子メールで選挙戦敗北の連絡を受け、こう返信した。首相側近の坂井学官房副長官はテレビインタビューで「自民党で小此木候補に推薦を出すことができなかった。まとめきれなかった」と敗因を語った。
自民党神奈川県連会長だった小此木氏は独自候補を立てられなかった責任を取るとして6月に閣僚を辞任し、市長選に出馬。党が過去2回推薦した現職の林文子氏も名乗りを上げ、保守分裂となった。「菅派」市議も割れた。
「自主投票」で臨む党の立場を離れ、個人として小此木氏支援を公言した首相の対応は異例だ。内閣支持率が低迷する中、お膝元で行われる重要選挙を制して反転攻勢に出たいとの思いもあったとみられる。今月3日の党役員会で「総裁の立場にあるが、友情支援する」と宣言した。
小此木氏は首相がかつて秘書を務めた彦三郎元建設相の三男。首相自ら地元有力者らに電話で支持を求めたといい、坂井副長官がビラ配りをした。
だが、深入りは裏目に出た。当初、カジノを含む統合型リゾート(IR)誘致が主な争点となったが、首相参戦により政府の新型コロナウイルス対策に焦点が当たる展開に。岸田派中堅は敗因について「首相への拒否感だ」と断言。麻生派の閣僚経験者は「首相を嫌い小此木氏から離れた人もいたはず」と語った。
昨年9月の菅首相就任以来、自民党は負け続き。3月の千葉県知事選は約100万票差で惨敗し、4月の衆参3選挙に全敗。7月の東京都議選は過去2番目に悪い結果だった。横浜市長選は「首相の敗北」という側面を持つ点で深刻だ。
自民党総裁選は衆院解散がなければ「9月17日告示、同29日投開票」の日程で行われる方向。今月26日に決定するが、与党内はにわかに浮き足立っている。二階派若手は「危機的だ。退陣論が噴き出す」と懸念。公明党関係者も「野党が勢いづく。このままではきつい」と危機感を隠さなかった。
一方、菅政権に土をつけた立憲民主党の江田憲司代表代行は、衆院選をにらみ「いい受け皿があれば自民党は恐るるに足りない。胸に響く政策を打ち出せるかが立民に突き付けられた課題だ」と記者団に語った。 

●菅首相お膝元の横浜市長選で敗北、支持率も過去最低−IR撤回へ 8/23
菅義偉首相が地盤とする横浜市長選で支援した前閣僚が、立憲民主党の推薦する候補に敗北した。自民党総裁選を控える首相の求心力低下は避けられず、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の横浜誘致も撤回となる見通しだ。
22日に投開票された選挙で、菅首相が支持した小此木八郎氏(前国家公安委員長)は、野党の推す山中竹春氏に及ばなかった。神奈川県選出の河野太郎行政改革担当相、小泉進次郎環境相も支援に回ったが、IRに反対する小此木氏と推進する現市長との間で自民が割れる分裂選挙となったことも響いた。菅首相は小此木氏の父・彦三郎元建設相の秘書を務めていた。
菅首相は23日午前、「大変残念な結果」とした上で、市民の判断を「謙虚に受け止めたい」と記者団に語った。総裁選については「時期が来れば出馬は当然」との考えを重ねて示した。
日本大学大学院の岩井奉信講師は、首相が小此木氏支持を明確に打ち出したことで政権にとっては「単なる地方選挙ではなくなった」と指摘。4月の衆参補欠・再選挙などに続く敗北となれば、「菅首相では選挙は勝てないという評価」をさらに印象付けるとの認識を示した。投開票日前の事前取材で語った。
東京五輪は日本選手の活躍で盛り上がりを見せたものの、大会期間中の感染急拡大で政権の新型コロナウイルス対策への批判は高まっている。ANNが21、22両日に実施した世論調査で、内閣支持率は25.8%と政権発足以来、最低となった。
総裁選
東京などへの緊急事態宣言は9月12日まで延長されており、任期満了が近づく衆院の解散を巡って菅首相は感染状況をにらんだ難しい判断を迫られている。自らの任期満了に伴う自民党総裁選の日程は26日に決まる見通しで、共同通信によると9月29日投開票を軸に調整が進んでいる。
菅首相は17日の記者会見で、解散について「選択肢はだんだん少なくなってきているが、その中で行っていかなくてはならない」と語った。総裁選には、首相に昨年敗北した岸田文雄前政調会長が再挑戦に意欲を見せるほか、高市早苗前総務相や下村博文政調会長、野田聖子幹事長代行も出馬を目指している。
選挙コンサルタントの大濱崎卓真氏は事前取材で、現在の感染状況を考慮すると9月中の解散は難しく、総裁選後に衆院選を実施する公算が高いとの見方を示した。総裁選に向けては、小此木氏が敗れると首相の「お膝元での敗北のショックは大きい」ことから、若手や中堅議員らからの不満が強まり「菅おろしの動き」につながる可能性もあるという。
読売新聞は23日、 菅首相が総裁選に勝利して求心力を回復した上で、10月前半の衆議院解散を模索していると報じた。ただ感染状況次第では、解散できずに10月21日の衆院議員の任期満了による選挙となる可能性もあるとした。
I Rの横浜誘致
菅首相は官房長官時代から訪日外国人客の誘致拡大の旗振り役で、日本でのIR開業も肝いりの政策の一つだった。
横浜市への誘致は2019年8月に現職の林文子市長が表明したが、コロナ禍で業界の先行きに不透明感が漂う中、米ラスベガス・サンズなど事業者の撤退も相次いだ。カジノ事業に反対する市民の声もあり、今回市長選に立候補した8人のうち6人が誘致に反対した。当選した山中氏は公約で「カジノ誘致の断固阻止」を掲げ、即時撤回を表明している。
政府は20年代後半に日本でIRを開業することを目標にしており、整備法では全国で最大3カ所に設置を認めることにしている。横浜市のほか、大阪府・市、和歌山県、長崎県が誘致に名乗りを上げている。
加藤勝信官房長官は23日の記者会見で、横浜市の対応については「個々の自治体の取り組み」として言及を避けた。国内でのIR開業に向けては「各自治体で誘致に向けた準備が進められている」と述べ、今後も必要な手続きを進める考えを示した。

●横浜市長選、菅首相を襲った「最側近惨敗」の痛撃 8/23
東京に次ぐ巨大都市・横浜の市長選結果が、全国的なコロナ感染爆発で苦闘が続く菅義偉首相を痛撃した。自らの地元での与野党対決型となった同市長選で、出馬した側近を全面支援したのに、事前の想定を超えて野党候補に惨敗したからだ。
2020年9月の菅政権発足以来、4月の衆参補欠・再選挙や7月の東京都議選など、与野党対決型の重要選挙はほとんど自民が敗北。今回横浜市長選でも惨敗したことで、迫りくる衆院選に向け、自民党内の「菅首相では戦えない」との声を拡大させている。
菅首相が全面支援の揚げ句の「惨敗」
東京五輪後も続く全国的なコロナ感染爆発で、多くの調査で内閣支持率は政権維持の危険水域とされる「30%割れ」が相次ぐ。秋の政局の起点ともなるパラリンピック閉幕後の9月12日まで緊急事態宣言が延長され、自民党総裁選先行論が台頭する中、自民党内の「菅降ろし」が顕在化すれば、菅首相の再選戦略も破綻しかねない。
カジノを軸とする統合型リゾート(IR)横浜港誘致の可否が主な争点となった横浜市長選(8日告示)は22日投開票され、誘致反対を旗印に立憲民主党など主要野党が支援した山中竹春・元横浜市大教授(48)が、小此木八郎前国家公安委員長(56)に18万票を超える大差をつけて初当選した。
小此木氏は菅首相の最側近。保守分裂となった地方首長選にもかかわらず、菅首相が小此木氏の全面支援を表明した揚げ句の惨敗だった。メディア各社の出口調査をみても、最大の敗因は「横浜での菅首相の不人気」(自民市連)であったことは否定できない。
政局にも直結しかねない大型地方選とあって、今回は各メディアの取材も過熱し、それぞれ期日前投票と投票日当日の出口調査を実施。テレビ各社などは投票終了後の午後8時に一斉に「山中氏当確」を速報した。
これを予測したのか、菅首相は22日夕刻から議員宿舎にこもり、小此木氏へメールする以外、沈黙を続けた。菅首相は、選挙戦終盤まで地元有力者などに直接電話で小此木氏の支持を要請したとされ、事前に報告される出口調査結果に「こんなはずではなかったのに」と自責の念を強くしたのは間違いなさそうだ。
そもそも、任期満了に伴う今回の横浜市長選は、与野党の候補者擁立作業も含めて異例ずくめの展開だった。横浜市民の多くがカジノ反対を叫ぶ中、IR誘致を推進してきた林文子市長(75)に対し、地元の自民党市連が「多選」を理由に出馬辞退を要求。さまざまな後継候補が取り沙汰される中、6月に突如出馬表明したのが小此木氏だった。
小此木氏はその時点で自民神奈川県連会長を務める一方、東京五輪警備の最高責任者の国家公安委員長に在任中だった。しかも、菅首相の肝いり政策で知られるIR横浜港誘致の取りやめを掲げての市長選立候補に、報告を受けた菅首相はしばし絶句したという。
中盤以降、山中氏が一気に引き離す
小此木氏は世襲政治家で、父親の彦三郎氏(故人)は通産相や建設相など要職を歴任した有力議員だった。その彦三郎氏の秘書から横浜市議を経て政界入りしたのが菅首相だ。
家族同然の関係の小此木氏は菅首相にとって側近中の側近だけに、誘致反対の小此木氏の支援をあえて表明し、首相の周囲を固める坂井学官房副長官と政務の首相秘書官まで小此木陣営に送り込んで必勝を期した。
これに対し、山中氏は立憲民主党が擁立、共産、社民両党などが支援する事実上の野党統一候補として誘致絶対反対を掲げて立候補した。現職の林氏は誘致推進派の横浜の財界や一部市議の後押しで出馬を決断し、松沢成文・前神奈川県知事(63)、田中康夫・元長野県知事(65)らも参戦する「有力候補だらけの選挙戦」(自民選対)となった。
選挙情勢は当初、小此木、山中、林の3氏による大混戦とみられていた。しかし、選挙戦中盤以降は小此木、山中両氏による「与野党対決」の構図となり、政府のコロナ対応に不満を持つ無党派層などの支持を得た山中氏が小此木氏を一気に引き離した。
山中氏は市大教授時代にコロナ対策での抗ウイルス抗体の研究などで知名度を上げ、選挙戦でもIR反対だけでなくコロナ専門家として政府の対応を厳しく批判した。
これに対し、誘致反対票を奪い合った小此木氏には、後ろ盾である首相のIRでの「政治的変節」や横浜市での感染爆発によるコロナ対応批判が強い逆風となり、自民、公明両党の分厚い組織票の半分もまとめられなかった。
敗北した小此木氏は22日夜、政界引退を表明。菅首相は「ご苦労様」とメールで伝えただけだった。一夜明けた23日朝に官邸で記者団のインタビューに応じた菅首相は、「大変残念な結果で、謙虚に受け止めたい」と必死に平静を装った。
一方、菅首相の命を受けて選挙戦に張り付いた坂井官房副長官は22日夜のテレビインタビューで「自民党で小此木候補に推薦を出すことができなかった。まとめきれなかった」とうなだれた。
菅首相への拒否感が全国に拡大
こうした状況に、与党幹部は「最も影響力を持つ横浜でも菅首相への不信、不満が拡大している証拠」(自民選対)と菅政権で次期衆院選を戦うことへの不安を隠さない。一部に「一地方選の特殊事情」(二階派幹部)との強気の声もあるが、自民党内には「菅首相への拒否感が全国的にも拡大している」ことへの危機感があふれる。
緊急事態宣言の期限延長もあって、与党内には今回の結果を受けて「ますます9月解散は困難になった」との声が広がる。これに伴い、自民党内でも解散先送りによる自民総裁選先行論が支配的となりつつある。
総裁選日程は8月26日の総裁選管理委で決まる。今のところ衆院解散がなければ「9月17日告示、同29日投開票」の日程が有力だ。ただ、自民幹部も「状況は危機的。総裁選前に退陣論が噴き出す」と浮足立つ。二階幹事長らは「総裁選を実施しても、菅首相の再選は当然」と繰り返すが、公明党幹部は「それでは野党が勢いづくだけ」と危機感を隠さない。
一方、今回の市長選で菅首相を追い詰めた立憲民主の江田憲司代表代行は衆院選をにらみ、「いい受け皿があれば自民党は恐るるに足りない」と胸を張る。立憲など主要野党は野党選挙共闘の拡大・強化に向け、調整を急ぐ構えだ。
菅首相は23日朝、改めて総裁選出馬の意思を明言したが、大派閥領袖の岸田文雄前政調会長が出馬に踏み切れば、党員・党友も含めたフルスペックの総裁選となるのは確実だ。全国的な感染爆発が収まらない中での総裁争いとなれば、菅再選が揺らぐ可能性も少なくない。

●首相、総裁選出馬「変わりない」…横浜市長選敗北は「謙虚に受け止める」 8/23
横浜市長選の開票から一夜明けた23日午前、菅首相は自らが全面支援した前国家公安委員長の小此木八郎氏が野党系候補に惨敗したことについて、「大変残念な結果だった。市民が、市政が抱えるコロナ問題とか様々な課題について判断されたわけだから、謙虚に受け止めたい」と述べた。
首相官邸で記者団に語った。お膝元で手痛い敗北を喫した首相の求心力が低下するのは確実とみられる。9月30日に自民党総裁、10月21日に衆院議員の任期満了を控え、「選挙の顔」として不安視する声が拡大しており、党内の動きが活発化しそうだ。
首相は党総裁選について、「時期が来れば出馬させていただくのは当然だと話してきた。その考え方に変わりはない」と明言し、改めて出馬する意向を示した。
市長選は、立憲民主党が推薦した元横浜市立大教授の山中竹春氏が、小此木氏に18万票の大差をつけて初当選した。市内全18区のうち、小此木氏の得票が山中氏を上回ったのは鶴見区のみ。首相の地元である衆院神奈川2区を構成する西区、南区、港南区の三つの区を含む17の区では、いずれも山中氏を下回った。
自民の森山裕国会対策委員長は23日午前、国会内で記者団に対し、「地方自治における選挙の結果が国政に反映することはないと思う」と述べ、政権運営への影響を否定した。立民の安住淳国対委員長は記者団に「野党が結束すれば、地滑り的勝利を起こすと立証できた」と語り、野党共闘の手応えを強調した。 
 

 

●高市早苗氏、安倍前首相に「出たるわ」と啖呵 8/26
自民党総裁選への意欲を示す高市早苗前総務相が26日、BS日テレ「深層NEWS」に出演。奈良弁を交えながらコロナ対策、経済政策、対中国も含めたリスク対応、憲法改正につき考えを述べた他、態度表明につながった安倍前首相との会話も明らかにした。
――総裁選に出馬する?
いたします!「これからの日本」を考えた時に、自分の中で湧き上がる、燃え上がるような強い危機感があった。この夏も災害・感染症で多くの人命が失われた。また、今の痛んだ日本経済をきちっと立て直していかなきゃいけない。日本が直面する様々なリスクへの備え、そのための法整備を何としてもやり抜きたい。その一念だ。
――推薦人20人確保にむけた手応えは?
わかりません。これからの努力(次第)だと思う。ただ、派閥所属議員も多い。衆院選に出る候補者たちは、誰ひとり(党からの)公認をいただいてないので、なんか、みんな竦(すく)んじゃっている。変な硬直感があったんで、私も本当に歯を食いしばって、死ぬ思いで手を挙げた。
――態度表明を前に安倍前首相とどんな会話を?
菅総理の任期は今年の9月まで。その後に総理には、私はやっぱり安倍晋三さんだと強く思っていた。2月から安倍さんの部屋に通い詰めて、勉強会を何度もやってきた。再々登板する際の「ニュー・アベノミクス」等の政策を打ち立てて出てほしいと思って。昨年末以降、「そんだけ元気になったんだから(次の総裁選に)出ますよね?」と言い続けてきた。でも(安倍さんは)「自分があんな辞め方したあと、やってくれてるのに申し訳ないから」と。義理人情で「菅総理を応援せなあかん」ということだった。7月下旬に最後の確認をした。しつこく「0.1%も出ないですか?」とかきいたら、「もう絶対、出ないから」と言われて。「これまで積み上げてきた政策をどないするんですか?」と尋ねたら、「高市さん、発表すりゃいいじゃん」と突き放されるように言われた。思わず「ほんなやったら、私、出たるわ」と啖呵(たんか)を切ってしまった。
――安倍前首相から黙認を得たと?
そりゃ、安倍さんにきいていただかんかったらわからんことですけど。まあ、とめられもせんかったし、勧められもせんかったです。
――総裁選、どう戦う?
ずいぶん長いこと私は無派閥だったから、ナニ派ということにこだわらず、いろんな政策で共鳴する方に、まずはお電話でお願いしたり、お会いしてみたいなと思っている。地方票が一番困ってまして。菅総理と岸田前政調会長は去年の総裁選に出ているので、(支持を呼び掛ける際に参考にできる)全国党員名簿をお持ちだ。私は持っていない。自民党の野田毅選対委員長には「(公約をまとめて)選挙公報のようにして党本部から一括で送ってくれるとうれしい」とお願いしておいた。もう一つ、菅総理が一生懸命コロナ対策も含めて様々な課題にお取り組みだから「菅総理のご負担を少なくしてほしい」と申し上げた。
――首相・総裁に求められる資質とは?
もう菅総理、寝る間も惜しんで一生懸命やってらっしゃる。閣僚の方々も必死だ。でもやっぱり本当の情報が見えない、先が見えない不安感って、すごく大きい。私は「先見性を持って、リスクを最小化する」、それから「日本を守り抜くという強い責任感」、未来を切り拓いていく覚悟を示せるか、だと思う。不都合な情報であっても、それは丁寧に説明しながら、ときには国民の皆様からは歓迎されない政策かもしれないけど、「こういう理由で必要なんだ」「今やんなきゃいけないんだ」と説得をしていく力は必要だ。
――コロナ対策
「感染者数を減らすための取り組み」に加えて、やっぱり「重症者、死亡者の極少化」だ。軽症患者も最初の1週間のうちに抗体カクテルを何とか打てるようにせないかん。抗体カクテルと、主に中等症患者に使われるレムデシビルが日本国産じゃない。重症者用の日医工のデキサメタゾンも含めて国産体制を作りたい。スイスのロシュ社の子会社は中外製薬だ。(抗体カクテルを)日本国内で作れる形を、政府が投資をしてでも、できるようにしたい。自宅療養者をゼロにしたい。かなり国費もかかるけど、ホテルも、借り上げるんだったら見込まれている利益と、できれば風評被害の分もしっかりと手当をして借り上げる。国費でパルスオキシメーターね(配布したい)。これ一家に1台、これからずっとあっても、無駄になんない。あと救急搬送体制もうまく回っていけばいいなあとすごく強く思っている。
――経済政策は?
私は「ニュー・アベノミクス」と呼んでいる。「サナエノミクス」というと厚かましいかなと。第1の矢は同じ「大胆な金融緩和」。第2の矢は「緊急時のみの機動的な財政出動」。マクロ経済的にどんどんお金を出すっていうんじゃなくて、災害だとか今回のような感染症に絞り込んでいく。第3の矢は、私の場合は「危機管理投資」。人の命に関わるようなリスクを最小化するための投資とか、もっと経済が成長するために今やんなきゃ間に合わない投資に大胆にお金をかける。経済格差対策は税制でも対応できる。「分厚い中間層を作る税制」が重要だ。麻生内閣のときに1回検討された「給付付きの税額控除」は勤労している低所得の方に控除していくものだから進めるべき。あと例えば「ベビーシッター減税」「家事支援減税」はやりたい。
――憲法改正への意気込み
憲法は改正しなければなりません。今の技術革新に追いついてないし、日本が直面しているリスクにも対応できない。今まで議員立法に励んできたが、「憲法の壁」に行き当たった。例えば、憲法21条「通信の秘密」に引っかかってしまって、諸外国でやってるような大胆な犯罪捜査やサイバー攻撃対策がなかなかできない。防衛政策もこれは私たちの命に関わる問題ですから、新しい態様の攻撃にしっかりと応えられる防衛政策、こういうことも総裁選で議論したい。

●菅首相失速!総裁選を前に、自民党は未曽有の混乱 8/27
総裁選の日程が決まった
自民党総裁選管理委員会は8月26日、9月末で任期満了を迎える自民党総裁選を、9月12日告示・9月29日投開票の日程で行い、党員投票をも実施すると発表した。現総裁の菅義偉首相は「その時期が来たら出馬したい」と述べ、他に高市早苗前総務大臣や下村博文政調会長も出馬の意欲を見せている。そして岸田文雄元外務大臣は午後に会見を開き、次期総裁選に正式に出馬することを表明した。岸田氏は昨年の総裁選では、最も影が薄かった。議員票こそ79票を得て2位となったが、都道府県票はかろうじて2桁の10票にすぎなかった。しかもその議員票は、「石破に負けてはならない」と他の派閥から回されたものだった。それゆえだろうか。総裁選が終わった後のぶら下がりでは、石破茂元幹事長が比較的簡単にインタビューを済ませたのに対し、岸田氏はそれよりも長く、かみしめるように敗戦の弁を述べていた。それはおそらく、この時の総裁選で石破氏は党内の「鉄板の天井」を改めて認識し、一方で岸田氏は自分の力不足を痛感したからではなかったか。どちらがより悔しいかといえば、後者の方に決まっている。
岸田氏の大きな決断
だからこそ、岸田氏は8月26日の出馬会見で次のように述べたのではなかったか。「昨年の総裁選で敗北し、『岸田は終わった』との声が出た。その後、初心にかえって1年にわたり、国民の声を聞いた。それを野党時代から綴っているノートに書き入れているが、1年に3冊で30冊もある。私の大切な財産だ」故・中曽根康弘首相は若い頃から「首相になったら、実現すべきこと」をノートに書き綴り、膨大な量のノートと共に官邸入りした。それらが国鉄改革やNTT・専売公社の民営化などを実現することになったが、岸田氏は「私がやるべきことは、新しい選択肢を示すことだ」と主張する。では「新しい選択肢」とは何かというと、それは「政治の信頼を取り戻すこと」に尽きるのではないか。というのも岸田氏は、「比例区の定年73歳を堅持し、党の役員に中堅若手を抜擢し、1期1年で3期までとする」「政治とカネの問題は国民に丁寧に説明し、透明性を高める」を挙げている。前者は自民党幹事長に5年間も居座り、いまだその座を手放す様子を見せない二階俊博氏、後者は桜を見る会問題で検察審査会から「一部不起訴不当」議決を突き付けられ、2019年の参議院選では広島県選挙区から河井案里氏の擁立を決めた安倍晋三前首相へのアンチテーゼと解することができるのだ。
党内ではすでに負けムード
実際に党内には「このままでは自民党は衆議院選でボロ負けする」と非常な危機感に満ちている。同日昼に開かれた二階派の会合では、菅首相に対する不満が噴出したという。さらに午後には派閥を超えて当選回数3回前後の若手有志が集まった。「青年局のメンバーの集まりという体裁だが、実際は反菅の集まりだ」と関係者は説明する。昨年の総裁選は派閥のパワーがものをいった。主要派閥が次々と菅氏を支持し、菅首相誕生への流れを作ってしまった。だが今回はかなり様子が違う。清和会の細田博之会長や近未来研究会の石原伸晃会長が菅支持を決したが、「派閥の意向はそうかもしれないが、個人の意向は別だ」と冷静に区別する議員は少なくない。党内の不信を増大させる原因のひとつが、自民党本部が行い、一部の幹部のみが数字を知る世論調査の結果だ。「8月21日と22日に行われた調査では、減少する議席数は50±10」と言われているが、「それは修正された数字で、実態はもっとひどい」という声も聞いた。まるで2009年夏の政権交代前夜のようにも思える。ただしあの時は開票結果が出るまで、まさか自民党が下野するとは多くの人は思わなかったが、今は違う。今年7月の東京都議選では自民党は「50超議席は獲れる」と予想されたが、実際には33議席にとどまり、8月の横浜市長選では菅首相が応援した小此木八郎前国家公安委員長が当初は優位と思われたが、立憲民主党の推薦候補に18万票も差を付けられて敗退した。そもそも菅政権が発足して以来、4月に行われた3つの国政選挙の補選・再選挙で与党は全敗。千葉県知事選や静岡県知事選でも負けているのだ。
これまでの驕りのツケが……
「悪夢の民主党政権」
2012年12月に民主党(当時)から政権を奪還した安倍前首相は、そう言い続けることで有権者の不満をそらし、その権力を盤石にした。しかし民主党は2016年に維新の党を吸収合併して民進党となり、その民進党の名称も2018年に消滅。そしてコロナ禍で、国民の不満は政府に向けられるようになった。その中にはもちろん、自民党長期政権への不満も存在する。だからなおさら、次期衆議院選は自民党にとって厳しいのだ。
「誰が総理総裁でも、自民党は厳しい。ならば次期総裁は菅首相で良いのではないか」
党内にはこういった投げやりな意見もあるが、それでは日本のためにはならない。現在の野党には政権担当能力がなく、その気概もない。コロナ禍にあえぐ現在とそれ以上に大変な国際競争の波にもまれるポストコロナ社会において、もっとも重要なことは政治が安定し、かつ強いリーダーシップを発揮することだ。
そのためには国民の信頼を取り戻すことが急務となる。そういう意味で、今回の自民党総裁選の責任は極めて重い。

●自民党総裁選に向けた動き本格化 8/27
9月17日告示、29日投開票の日程が決まった自民党総裁選挙。27日の発言や動きをまとめました。
岸田前政調会長 各派閥幹部らにあいさつ
自民党総裁選挙への立候補を表明した岸田前政務調査会長は27日、二階幹事長に報告するとともに、各派閥の幹部らにあいさつに訪れました。岸田前政務調査会長は26日に記者会見を開き、来月末の任期満了に伴う自民党の総裁選挙への立候補を正式に表明しました。岸田氏は27日午後、自民党本部で二階幹事長とおよそ10分間会談し、立候補を表明したことを報告したのに対し、二階氏は「コロナ禍で難しい選挙だが、党勢拡大のために頑張ってください」と応じたということです。また岸田氏は、細田派会長の細田元幹事長や、麻生派の甘利税制調査会長、石破派の鴨下元環境大臣、それに谷垣グループの中谷・元防衛大臣らのもとにもあいさつに訪れました。岸田氏は記者団に対し「きのうの会見の後、電話やメールをたくさんもらっているが、投票日まで5週間近くあり、まだまだこれからだ」と述べました。そのうえで「党の中堅・若手をしっかり登用したい。人事が適度に動いていかなくては、そうした登用も難しい」と述べ、党役員の任期に制限を設ける考えを説明しました。
高市前総務相 石破派 鴨下元環境相らと面会
自民党総裁選挙への立候補に意欲を示す高市前総務大臣は27日、石破派の鴨下元環境大臣らと面会し、協力を求めました。鴨下氏は「頑張ってください」と応じたということです。そして議員会館の事務所で自民党の国会議員に電話で支援を呼びかけるなど、立候補に必要な20人の推薦人の確保に向け、本格的な活動を進めています。
下村政調会長「自由かったつに議論する必要」
自民党の下村政務調査会長は27日朝、地元の東京 板橋区で街頭演説を行った後、記者団の取材に応じました。そして「自民党は今、国民から相当厳しい目で見られており、いろいろな人が手を挙げて総裁選挙を通じて、自由かったつに議論する必要がある。多くの方々に賛同してもらうため準備していきたい」と述べ、総裁選挙への立候補に重ねて意欲を示しました。また26日夕方、安倍前総理大臣と会談し、立候補への理解と協力を求めたことについて「しっかりと話は聞いていただいた」と述べました。
小泉環境相「菅首相 自身のことばで届ける姿勢を」
小泉環境大臣は閣議の後の記者会見で、菅総理大臣の再選を支持する考えに変わりはないか問われたのに対し「もちろんだ」と述べました。そのうえで「国民が菅総理大臣に期待したことは、派閥に気を遣って政権を担うことではなく、無派閥だからこそ遠慮せず、当たり前の改革を行う姿勢だったが、残念ながら今、そう見られていない。菅総理大臣には不退転の決意で、戦う姿勢で総裁選挙に臨んでもらいたい」と述べました。そして「危機の中にあるからこそ、官僚の作ったことばだけでなく、政策で足りないところは認めて、自身のことばで届ける姿勢をとってもらいたい」と指摘しました。一方、岸田前政務調査会長の立候補表明については「菅総理大臣と何が違うのかが最大のポイントだが、新型コロナ対応では大きな方向性に違いはない。今の政権に欠けているところを岸田氏に指摘していただき、政策論争を活発にやる環境ができればプラスなことだ」と述べました。
自民 世耕参院幹事長「建設的な政策論争ができる総裁選挙に」
自民党の最大派閥・細田派に所属する参議院議員は27日朝、30人余りが出席してオンラインで会合を開きました。この中で世耕参議院幹事長は「派閥の力学や次の衆議院選挙のためだけではなくしっかり建設的な政策論争ができる総裁選挙にすることが重要だ」と指摘しました。そして、会合では総裁選挙の対応について丁寧に議論していくことを確認しました。
立民 辻元副代表「自民 情けない、衆院選で鉄つい下されるべき」
立憲民主党の辻元副代表は記者団に対し「自民党の総裁選挙は、あくまでコップの中の権力闘争にすぎない。今こそ堂々と国会を開いてコロナ対策などを審議し、万機公論に決すべきだ。自宅療養で苦しんでいる人もいるのに総裁選だけにかまけている与党・自民党の姿を見ていると情けなくなり、衆議院選挙で鉄ついが下されるべきだ」と述べました。
共産 田村政策委員長「やるべきは臨時国会だ」
共産党の田村政策委員長は記者会見で「緊急事態宣言の対象は拡大の一途でいつが感染のピークなのかも見えず、重症者も増えている。そうした中でやるべきは自民党の総裁選挙ではなく臨時国会だ。総裁選挙優先で国会を開かないのであれば、自民党に国政を担う資格があるのかと指摘しなくてはいけない」と述べました。

●自民総裁選、派閥の結束問われる事態も…若手「首相支持」に拒否反応 8/27
自民党の各派閥は26日、党総裁選に関する協議を本格化させた。党内7派閥のうち5派閥が雪崩を打つように菅首相(党総裁)の支持に回った昨秋とは異なり、意見集約に手間取る派閥も出ている。派閥幹部と若手の温度差も目立ち、各派の結束が問われる事態も生じそうだ。
「私どもは引き続いて首相をしっかりと支えていきたい」
石原派(10人)を率いる石原伸晃・元経済再生相は26日の派閥会合後、記者団に、派として首相再選を支持する方針を明らかにした。会合では石原氏が総裁選対応への一任を取りつけ、昨秋の総裁選に続く首相支持に異論は出なかったという。
だが、すんなりとまとまった石原派は例外だ。選挙基盤の弱い若手議員らが、内閣支持率が低迷する首相のもとで衆院選に臨むことに、不安を募らせているためだ。
二階幹事長が独断で派としての首相支持を宣言した二階派(47人)。26日の在京議員懇談会は、二階氏が欠席したこともあってか、荒れ模様となった。「派として誰を支えるかは議論してほしい」と注文がついたほか、「この支持率の低さでは、全員討ち死にだ」と怒号も飛んだ。
竹下派(52人)は26日の会合で方針決定を見送った。会長代行の茂木外相は「竹下(亘)会長は、基本的に菅政権を支えることに変わりはない」との方向性を示すにとどめた。茂木氏は会合後、記者団に「それぞれ国民の反応を聞いている。そうしたことも踏まえ、最終的な方向を見極めたい」と語った。前回同様に首相支持でまとめるには、丁寧な手続きが必要と判断したとみられる。
麻生副総理兼財務相は26日、国会内で、麻生派(53人)の幹部らと意見交換を行ったが、結論は出さなかった。
最大派閥の細田派(96人)は会長の細田博之・元官房長官が首相再選支持を表明したが、派としては具体的な議論に着手できていない。同派は、所属衆院議員に占める当選3回生以下の割合が55%に上る。昨年に続く「首相支持」に拒否反応を示す若手も多い。同派の下村政調会長が出馬に意欲を示していることも、事態を複雑にしている。
派閥を超えて局面打開を目指す動きも出てきた。当選3回を中心とした派閥横断の衆院議員15人ほどが26日、国会内で集まり、求められる党や総裁のあり方を取りまとめることを確認した。福田達夫衆院議員(細田派)は記者団に「派閥が先ではなく、一人ひとりがなぜ(その候補を)選んだかを示さなければならない」と語った。ふさわしいと考える候補がいない場合、独自候補の擁立も視野に入れる。

●石破氏、出馬排除せず 自民総裁選、姿勢に変化 8/27
自民党の石破茂元幹事長は27日、菅義偉首相の任期満了に伴う党総裁選への対応について「現時点で全くの白紙」と述べた。
これまでは新型コロナウイルス禍を踏まえ、総裁選を衆院選後に先送りすべきだと主張していた。総裁選を先行実施する流れとなり、姿勢を変化させたとみられる。
地元・鳥取市内で記者団の質問に答えた。石破氏は「(9月17日の)告示前日まで考えないといけない。出るにせよ出ないにせよ、まだ時間はある」と語り、熟慮する考えを示した。
さらに「自民党の地域支部や青年部などから、お前が出ないでどうするんだという電話やメールが山ほど来る。同僚議員からも声をいただく。まだこれから先、いろんな変化があると思う」とも語った。出馬する場合、推薦人20人の確保が課題になるとの認識も示した。  
 

 

●岸田氏、地元で出馬報告 自民総裁選、支援要請 8/28
自民党の岸田文雄前政調会長=衆院広島1区選出=は28日、広島市内のホテルで党広島県連の会合に出席した。菅義偉首相の総裁任期満了に伴う総裁選(9月17日告示、29日投開票)に出馬を決意した経緯を報告。続いて地元の財界関係者らとも会合を開き、支援を要請する。
岸田氏は26日の記者会見で、総裁選への立候補を正式に表明。「総裁を除く党役員は1期1年、連続3期まで」とする党改革案や、衆院選の比例代表候補に適用される「73歳定年制」の堅持を打ち出した。

●菅続投へ「わかってるよな」の党内恫喝…自民総裁選のヤバイ内実 8/28
自民党総裁選は9月17日告示、29日投開票が決まった。
今のところ正式に出馬表明したのは岸田文雄前政調会長ひとり。候補は「続投」を目指す菅義偉首相、ほかに高市早苗元総務相、下村博文政調会長が「強い出馬意欲」を示している。
一方、次の総理候補として常に人気NO.1の石破茂元幹事長、野田聖子幹事長代理、そして令和の運び屋・河野太郎規制改革担当相などが取り沙汰されている。自民党長老議員が言う。
「石破は前回で総裁選4連敗、派閥会長を辞することになった。20人の推薦人は集まりそうもない。初の女性宰相が期待された野田は、頼りの二階幹事長が菅続投に躍起で、野田の面倒を見きれなくなっている。放置状態だね。河野は菅内閣の主要閣僚だし、副総理である麻生の派閥にいるから、今回の出馬は難しいだろう。
ただ、麻生派内も実は『派閥として菅首相支持』でまとまってはいない。それどころか、河野太郎を担ごうという勢力が十数人規模に拡大している。総裁選開票日まで何が起きるかわらない波乱要因がある」
自民党内では、総裁選に向けすでに激しい権力闘争が繰り広げられているのである。数の力で押し切れると考えていた二階幹事長だが、1年前の「安倍政権から菅政権」では、雪崩をうって菅支持を表明した各派閥が、この度は態度保留で「様子見」を決め込んでいるのだ。1にも2にも、新型コロナ感染状況がどうなるのか、ほぼ全国に蔓延した感染爆発の推移を見守っていなければならないからだ。
「新規感染者が東京4000〜5000人、大阪3000人といった状況が続くのであれば、菅首相は総裁選出馬を見送る可能性さえありますからね。それでも菅続投とすれば、衆院選挙はバンザイ突撃となって、過半数を割り込む大敗だってあり得る。オセロゲームのように勝敗が簡単にひっくり返っていく小選挙区の怖さは、あの民主党政権誕生の時に体験しているのですから」(自民党有力者)
慎重・日和見の岸田が立った理由
いち早く立候補を正式表明した岸田文雄は、新型コロナ対策に全力を注いでいる菅義偉首相に敬意を示しながらも、こう語った。
「国民の声が政治に届いていないのではないか。私はこの10年、国民の声をノートに書き留め30冊になった。政治がやらなければならないことはこの小さなノートの中にあると考え、総裁選挙に出馬することを決意しました」
重鎮に付き従う姿は「若手」のようにも見えるがすでに64歳。派閥の2番手が台頭していくなか、「これが最後のチャンスかも」という声も少なくない。
恫喝と人事で懐柔の「北風と太陽」作戦
一方、横浜市長選挙でまさかの大敗を喫した菅首相。地元横浜でも、選挙ポスターはちぎれ、落書きされ、厳しい批判がなお鬱積しているのが見て取れる。
「菅・二階陣営は、細田派97人、麻生派53人、竹下派52人、二階派47人、石原派10人に加えて無所属議員の抱き込みによって国会議員票はすでに300票を固めたと豪語しています。しかし、安倍・麻生は派閥をまとめきれていない。無所属議員に対しても『対立候補を立てるなら9月14日に解散総選挙にするつもりだ。そのことを重々理解した上で行動しなさいよ』という恫喝まがいの電話が入ってます。反体制議員の封じ込めを強化していますね。
横浜市長選挙以降、二階さんは幹事長室に籠もってあっちこっちに電話をかけまくっていました。菅首相は『党にすべてを任せる』という心境でしょうが、簡単に再選できる状況ではありませんね」(自民党県連の幹部)
菅陣営はこうした党内状況に二の矢三の矢と攻撃を準備している。閣僚経験者が証言した。
「総裁選日程が決定した今、執行部はメンツをかけて菅続投の秘策を繰り出してくる。解散カードだってすでにちらつかせていますから。さらに、緊急事態宣言の“延長”。そうなったら、総裁選をフルスペックではできないというもっともらしい理由をつけて菅に有利な総裁選を仕立てるでしょう。選挙後の改造内閣人事でカラ手形が乱舞しているのも、露骨な懐柔工作です。
かつての自民党には、例えば『田中角栄から三木武夫』というような大きな振り幅がありました。党内でも、考えの違いがあったし、それが政策の違いに現れた。しかし今の自民党にはそれがない。安倍長期政権は自民党を本当に腐らせてしまった。これでは、民主政治と言えません」
国会議員票383、党員票383、総数766票。菅陣営が300を超える議員票を固めているのなら党員票が80票余りあれば過半数超えで「続投」だ。自民党の良識がどう示されるかは、総裁選の結果を待つほかない。
が、いずれにしても、その後の総選挙で国民の審判を受けることになるのだ。大幅な議席減が予想されている今、「総選挙より目先の総裁選」にうつつを抜かしているときではない。今、国民は「不自由民主党」の党内政治を冷静に見ている。 

 

●総裁選、安倍氏への接近が活発に 首相周辺はうらみ節も 8/30
菅義偉首相の自民党総裁任期満了に伴う総裁選をめぐり、安倍晋三前首相の動向が焦点となっている。先に首相の再選支持を表明した安倍氏だが、最近は表だった動きを見せずに静観の構えだ。立候補予定者からは秋波が相次ぎ、首相周辺は警戒している。
総裁選への立候補を表明している岸田文雄前政調会長は30日、安倍氏の事務所を訪れ、約10分間面会した。関係者によると、安倍氏は岸田氏が26日に開いた出馬会見に触れ、「評判いいね」と語り、エールを送ったという。
岸田氏は、昨秋の総裁選に引き続き、安倍氏の支援に期待を寄せる。安倍氏の意向は、出身の党内最大派閥である細田派だけではなく、党内第2派閥の麻生派を率いる麻生太郎副総理兼財務相のほか、党内の保守系議員にも大きな影響を与えるためだ。
出馬会見で岸田氏は、党改革案として、党役員の任期を「1期1年、連続3期まで」と提唱。安倍、麻生両氏とのすきま風がささやかれる二階俊博幹事長の幹事長「続投」を事実上否定した。さらに、岸田氏が一度は「前向きに議論をすべき課題」と述べた選択的夫婦別姓制度については、「引き続き議論しなければいけない」と述べるにとどめ、制度導入に慎重な安倍氏への配慮が透けた。
安倍氏との面会では憲法改正にも意欲を示したといい、安倍氏への「接近」が鮮明になっている。
安倍氏に秋波を送るのは、立候補に意欲を示す高市早苗前総務相も同じだ。
高市氏は26日、記者団に「立候補したいと思ったのは安倍内閣のやり残した案件がいくつもあるからだ」と強調。自身の経済政策を「ニュー・アベノミクス」と説明し、安倍政権の政策の継承・発展を訴える。
高市氏は無派閥とはいえ、保守系議員として安倍氏とはもともと近い関係にある。最近でも電話などでやりとりを続けており、立候補に必要な「推薦人20人」に向けて保守人脈などを頼りに動き始めている。
ただ安倍氏は周囲に、「人間として菅さんを支持する」と語っており、官房長官として自身の政権を長く支えた首相の再選支持の態度を崩していない。
一方、党内では岸田、高市両氏の活発な動きを安倍氏が「黙認」しているとの見方も強まっている。そうした安倍氏の姿勢に、首相周辺からは「裏切りだ」との声も出始めている。 
 

 

●安倍前首相が自民総裁選“岸田氏切り捨て”か… 8/31
菅首相と岸田元外相の2人が名乗りを上げている自民党の総裁選。はたして、キングメーカーを狙う安倍前首相は、どちらを支持するのか。2人を両天秤にかけているのだろうとみられていたが、ここにきて「岸田氏を切り捨てた」という臆測が広がっている。
事実上、安倍前首相が率いている党内最大派閥「細田派」(96人)は、派内の意見がまとまらないため、総裁選は「自主投票」も想定していたという。ところが、安倍前首相が派閥幹部に電話をかけ「自主投票はよくない。菅支持で行くべきだ」と伝えたという話が流れているのだ。
「現在、安倍さんは無派閥ですが、衆院選後には派閥に戻り、領袖に就く予定です。だから、派閥がバラバラになることを危惧したのだと思う。派閥に所属している下村博文氏が出馬表明していることもあって、もし自主投票となったら、派内は“菅支持”“岸田支持”“下村支持”と四分五裂しかねない。派内が割れないように一致結束、まとまるべきと考えたのでしょう」(自民党関係者)
と同時に、岸田氏に不安を感じた可能性があるという。岸田氏も安倍前首相からの支持を期待しているはずだが、出馬表明して以来、“政治とカネの透明化”を掲げ、買収事件で逮捕された河井夫妻に渡った党のカネ1億5000万円についても解明すべきだ、と訴えているからだ。あの1億5000万円は、安倍政権時代に支出されたもの。まさに、安倍前首相が当事者である。1億5000万円に注目が集まったら、また安倍前首相に疑惑の目が向けられる。
「岸田さんがどこまで1億5000万円の“真相解明”に本気なのか分からないが、優柔不断で世論に迎合しやすいだけに、安倍さんが“総理総裁にしたら危険だ”と考えたとしても、おかしくありません」(前出の自民党関係者)
安倍政権の8年弱、岸田氏はひたすら安倍前首相に忠誠を尽くし、禅譲を期待したが、結局、前回の総裁選ではハシゴを外された。また、同じ道をたどるのか。

●菅首相に「総裁選不出馬」の仰天情報!外堀埋めて自民重鎮が引導か 8/31
政府・与党は30日、野党が求めていた9月上旬の臨時国会召集に応じないことを決めた。自民党総裁選前に国会が開かれなければ、菅首相にとって9月中の解散を封じられたことを意味する。まさかの「総裁選不出馬」説まで浮上し、政局は混沌としてきた。
臨時国会見送りは、30日午前、森山国会対策委員長が加藤官房長官と国会内で協議して決まった。その後、森山氏が安倍前首相の事務所を訪ねたことが臆測を呼んでいる。
「森山国対委員長は二階幹事長と一心同体。召集見送りは幹事長の意向でしょう。しかし、今は何の役職でもない安倍先生のところへわざわざ説明に行ったのはなぜなのか。今後の政権運営について話し合ったとしか思えません。つまり、『一致して菅首相支持』か『菅降ろし』のどちらかです」(自民党国対関係者)
そんな中、自民党政権御用メディアの読売新聞が28日の紙面で、菅首相が総裁選に出ない可能性にサラッと触れていた。河野ワクチン担当相の態度を巡り<首相が不出馬という事態が起きれば、出馬の余地は生じる>と書いたのだ。
「菅総理が総裁選で負けることはあっても、出ないという選択肢は想定していなかった。しかも読売がそんなことを書くのだから、『おや?』と思いますよね。不出馬があり得るのかと、党内でも話題になりました」(自民党若手議員)
30日午後、二階幹事長が官邸を訪れると、党内は「すわ、引導か」と色めき立った。表向きは菅支持を崩していない二階氏だが、同日に時事通信のインタビューで、菅首相再選について<われわれが支持しないと言えば、彼(菅首相)は立候補するかどうかも分からない。われわれが支持しないとなれば根本が崩れる>と話している。いつ菅首相に見切りをつけてもおかしくないのだ。
「総裁選では二階氏の処遇も焦点になる。二階氏を切ってでも続投するという執念が菅首相にあるのか。菅首相のままで総選挙を戦えば下野する可能性が高ければ、二階氏、安倍氏、麻生氏ら党の重鎮が外堀を埋めて、首相を不出馬に追い込む可能性も考えられます」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
体調不良を理由に菅首相が総裁選不出馬を発表、新総裁で内閣支持率がハネ上がるのは、野党が最も嫌がるシナリオだ。党を救うために退くような殊勝なタマとは思えないが、国民に不人気な上に党内基盤も弱い菅首相は、主要派閥の支援なしには総裁選を戦うことができない。
菅首相は29日、宿舎で終日過ごしたことがニュースになった。丸1日の休みを取ったのは3月28日以来、154日ぶりだという。このところ、広島市の原爆死没者慰霊式・平和記念式で原稿を読み飛ばしたり、長崎市の祈念式典には1分遅刻したりするなどミスが相次いでいたが、その頃から「総理は疲れている」との報道が相次いだ。さらには、21日にJR東京総合病院を受診して体調不良が心配された。このパターン、なんだか見覚えがある。
昨年、安倍氏もコロナ対応で147日間の連続勤務がニュースになったと思ったら、激務による体調不良説が出てきた。吐血情報も流れた。その後、8月17日に慶大病院を受診。同28日に突然、辞任を表明したのだ。
これで菅首相に吐血報道でも出てきたら、連続勤務も体調不良説も退陣への地ならし報道と見て間違いない。総裁選不出馬は十分あり得る。 
 

 

●政権奪還以来の最低支持率で荒れる総裁選? 田原総一朗に聞く 8/31
自民党が政権を奪還して以来、最低支持率を記録した菅内閣。8月26日、任期満了に伴う自民党総裁選は「9月17日告示、29日投開票」に決定した。東京オリンピック・パラリンピック後に衆議院を解散、その後に総裁選をもくろんでいた自民党幹部にとって、衆院選を後回しにすることは苦渋の決断となった。総裁選には岸田文雄前政調会長が立候補を正式に表明、高市早苗前総務相らも立候補に意欲を示す一方で、下村博文政調会長が立候補を断念するなど、自民党内は荒れている。果たして自民党の行方は? そして総裁選のカギとなる河野太郎行政・規制改革相の出馬は? ジャーナリスト・田原総一朗氏に見解を聞いた。
――東京オリンピックが閉幕し、9月5日までパラリンピックが開催されています。田原さんはスポーツにご関心はありますか?
1964年開催の東京オリンピックの時は、テレビ局の社員をしていて、バレーやマラソンなど相当、熱中して見ていたよ。今回は競技自体の放映はあまり見ていないけれど、ニュースでは見ているよ。
――今回の東京オリンピックは、コロナ禍における開催を巡って相当、波紋を呼びましたが、イベント自体は大きな混乱もなく、ほぼ無事に閉幕しました。一方で、国内の新型コロナウイルスは急速に感染拡大しています。4回目の緊急事態宣言を発出した7月12日に新たに確認された感染者数は1504人、東京都では502人でしたが、8月25日時点で2万4321人、東京都では4228人の感染が確認されています。
東京オリンピック自体は、開会式の平均世帯視聴率は関東地区で56.4%、関西地区で49.6%(ビデオリサーチ)で、その後の競技も高視聴率を維持。蓋を開けてみれば多くの国民が関心を寄せた。閉幕後、米・バイデン大統領も東京オリンピックは成功したと評価した。しかし、東京オリンピックの開催で、菅さん(菅義偉首相)がもっとも期待していた内閣支持率の上昇はなく、むしろガクンと落ち込んでいる。NHKの調査では支持が29%、不支持が52%(8月7〜9日に実施)、共同通信の調査では支持率は31%、不支持率は50%(8月14〜16日に実施)、ANNの調査では支持が25%、不支持が48%(8月21、22日に実施)、毎日新聞の調査では支持率は26%、不支持率は66%(8月28日に実施)と、2020年9月の内閣発足後最低を更新、2012年に自民党が政権を奪還して以降、最低を記録した。7月12日の緊急事態宣言の再発出によって、2週間たてば新型コロナの感染拡大は落ち着くと政府はみていたが、落ち着くどころか東京を中心に爆発的に拡大が進んでいる。もはや歯止めが効かなくなっており、政府は打つ手を見いだせていない。頼みの綱はワクチンだけだ。新型コロナがここにきて猛威を振るっている理由として一般的に言われているのは、ひとつは感染力の強いデルタ株。そしてもうひとつは「人流」だ。緊急事態宣言を出しても人の流れが減っていない。国民が宣言に慣れてしまった。さらに、国民に都道府県間の移動の自粛を促しておきながら、一方で、世界中から国境を越えて人が集まり、国が主体となってスポーツの祭典が行われている。これでは国民の緊張感が緩むのは当然だろう。国民は緊急事態宣言にはもはや効果がないと考え、政府の対策を信用できなくなっている。政府は何とか人の流れを抑えようと、緊急事態宣言の発令を13都府県に拡大し、期限を9月12日までに延長した。政府の小出しの対策に国民が呆れ、人流は減らない、すると政府がまた対策を小出しする――。悪循環に陥ってしまっているのだ。菅さんは今、どうすべきか、頭を抱えている。病床数を思い切って一気に拡大しようと考えたが、なかなか病院側の理解を得ることができない。菅さんに近い人物は僕に「困った」と言っている。八方塞がりだ。
――8月25日、菅首相は自身の任期満了に伴う自民党総裁選を公選規程に従い9月下旬に実施し、衆院選を後回しにする意向を固め、二階俊博幹事長に伝え、翌26日に総裁選は「9月17日告示、29日投開票」に決定しました。
菅さんとしては、東京オリンピック・パラリンピックを成功させた後に衆議院を解散して勝利、その後に総裁選で無投票再選を果たしたいと考えていただろう。しかし、この異常な支持率の低さの中で、「この先、菅内閣ではやっていけない」という意見が自民党内で強まっているため、順番を逆にせざるを得なかった。二階さんはとても苦しみ、迷ったはずだ。
――総裁選で複数の候補者が論戦を繰り広げれば注目が集まり、自民党のアピールができる。そうすればその後の衆院選も自民党に有利に進めることができると。
本来は与党の支持率がこれほど下がれば、野党の支持率が上がるはずだが、逆に下がっている。さらに問題なのが、かつての自民党であれば、ここまで支持率が下がれば、「首相に代わってオレがやる」という人が必ず出てきた。岸(信介)内閣の時は池田勇人が出てきたし、田中(角栄)内閣の時は、何と、閣僚だった三木武夫や福田赳夫らが、こんな内閣でやれるかと辞任し、総裁の後継に名乗りを上げた。海部(俊樹)内閣の時は、小選挙区導入反対派の山崎拓、加藤紘一、小泉純一郎のいわゆる「YKK」を中心に党内から倒閣運動が起こった。小泉さんはその後、「自民党をぶっ壊す!」と言って総裁選に出馬したね。こういう人が今は出てこない。
――熱意や信念のある政治家が減ったのでしょうか?
僕は今の選挙制度に問題があるのだと思う。小選挙区制では、選挙に当選するためには、自民党執行部の公認が必要だ。そのため、公認権を握る自民党執行部の力が強まり、派閥が弱まった。結果、自民党議員は安倍さんや菅さんのイエスマンばかりになってしまっている。皆、ゴマをすってばかりだ。僕は第2次安倍内閣の時に、当時の幹事長だった石破さん(石破茂衆議院議員)に、このままでは自民党内で政策に関する健全な論争が起こらない。元の中選挙区制に戻すべきだと言った。でも石破さんは消極的だった。中選挙区制はあまりに金がかかりすぎると。その後、次の幹事長の谷垣さん(谷垣禎一元自民党総裁)にも伝えた。中選挙区制とは言わないが、選挙制度は変えるべきだと。その時、谷垣さんは、その通りだ、変えましょうと言った。でもその2カ月後、僕に会いたいと言う。会って話を聞くと、選挙制度を変えることには与党も野党も反対だ、彼らは今の選挙制度で当選しているから、下手に変えたくないのだと言う。その後、谷垣さんはけがで辞任することになり、二階さんが幹事長となった。
――総裁選には8月26日時点で岸田前政調会長が立候補を正式に表明、また、高市早苗前総務相も出馬に意欲を示しています。安倍前首相が高市氏を推す可能性はあると思いますか?
あると思う。
――田原さんは、「ポスト菅」に河野太郎行政・規制改革相の名前を挙げていますが、次期総裁選に河野氏が出馬する可能性についてはどう思われますか?
河野さんは非常にまじめで、変に政治的な駆け引きもしないし、「自分のために」という私心もない。それを周囲の人がわかっている。だから菅さんは新型コロナウイルス感染症対策担当大臣に任命した。好き嫌いではなく、党内でもっとも信頼できると思ったのだろう。菅内閣が力を持ったまま終わるのであれば、菅さんも二階さんも河野さんを推すだろうから、そこであえて河野さんが総裁選に出ることはないはずだ。でも、このまま菅内閣の支持率が上がらず、安倍さんや麻生さんが菅内閣を見限ることになれば、出馬する可能性はあるのではないか。 

●八紘一宇 (はっこういちう)
神武(じんむ)天皇が大和(やまと)橿原(かしはら)に都を定めたときの神勅に「六合(くにのうち)を兼ねてもって都を開き、八紘(あめのした)をおおいて宇(いえ)と為(せ)んこと、またよからずや」(日本書紀)とある。ここにあるのは「八紘為宇」という文字であるが、1940年(昭和15)8月、第二次近衛(このえ)内閣が基本国策要綱で大東亜新秩序の建設をうたった際、「皇国の国是は八紘を一宇とする肇国(ちょうこく)の大精神に基」づくと述べた。これが「八紘一宇」という文字が公式に使われた最初である。爾来(じらい)、教学刷新評議会で「国体観念をあきらかにする教育」を論ずるなかなどで頻繁に使用された。国柱会(こくちゅうかい)の田中智学(ちがく)もしばしばこの文字を使った。すべて「大東亜共栄圏の建設、ひいては世界万国を日本天皇の御稜威(みいづ)の下に統合し、おのおのの国をしてそのところを得しめようとする理想」の表明であったとされるが、太平洋戦争における日本の敗戦によって、万事休した。
「世界を一つの家にする」を意味するスローガン。第2次世界大戦中に日本の中国、東南アジアへの侵略を正当化するためのスローガンとして用いられた。『日本書紀』のなかにみえる大和橿原に都を定めたときの神武天皇の詔勅に「兼六合以開都、掩八紘而為宇」 (六合〈くにのうち〉を兼ねてもって都を開き、八紘〈あめのした〉をおおいて宇〈いえ〉となす) とあることを根拠に、田中智学が日本的な世界統一の原理として 1903年に造語したもの。 40年第2次近衛文麿内閣が「基本国策要綱」で東亜新秩序の建設を掲げるにあたり、「皇国の国是は八紘一宇とする肇国の大精神に基づく」と述べ、以後東亜新秩序の思想的根拠として広く唱えられた。
(「宇」は家のこと) 地の果てまでを一つの家のように統一して支配すること。「日本書紀‐神武即位前己未年三月」の「兼二六合一以開レ都、掩二八紘一而為レ宇」に基づくもので、元来は国の内を一つにする意であったが、太平洋戦争期、海外進出の口実ともなった。
地の果てまでを一つの家のようにするということ。世界を一つの家にするという意。[使用例] 聖戦の意義や東亜民族の解放や八紘一宇や、ありとあらゆる戦時教育をあたえられ[石川達三*風にそよぐ葦|1949〜51][解説] 太平洋戦争期、日本が国家の理念として打ち出し、軍国主義のスローガンとなり、海外進出の口実ともなったもの。「八紘」は四方と四隅の意味で、天下、地の果てのこと。「宇」は家で、「一宇」は一家、一家族という意味になります。
大東亜共栄圏建設の理念として用いられた言葉。第2次近衛文麿内閣が決定した基本国策要綱の中の〈八紘ヲ一宇トスル肇国ノ大精神〉に由来。日本書紀の〈八紘(あめのした)を掩(おお)ひて宇(いえ)にせむ〉を全世界を一軒の家のような状態にすると解釈したもの。日本の大陸進出正当化に利用された。
《神武紀の「八紘をおほひて宇(いへ)とせむ」から》全世界を一つの家にすること。第二次大戦期、日本が海外侵略を正当化する標語として用いた。
・・・(2)日本国民は臣民として、古来より忠孝の美徳をもって天皇に仕え、国運の発展に努めてきた、とする主張。(3)こうした国柄(〈国体〉)の精華は、日本だけにとどめておくのではなく、全世界にあまねく及ぼされなければならない(〈八紘一宇〉)、という主張である。 こうした歴史観は、《古事記》や《日本書紀》、あるいは《神皇正統記》や《大日本史》等にその淵源を求めるものであるが、そもそも、明治維新以降の日本における近代史学の形成は、こうした大義名分論的な歴史観からの独立、それとの対決を通じてなされていった。・・・
・・・この語源は、神武天皇が即位された際に作られたとされる「橿原建都の詔(みことのり)」に遡ります。「八紘(あめのした)を掩(おお)いて宇(いえ)と為(せ)むこと、亦可(またよ)からずや」つまりは「世界のすみずみまでも、ひとつの家族のように仲良く暮らしていける国にしていこうではないか」という建国の理念です。この詔を編入した日本書紀が完成したのは720年で、実に1300年以上も前に、国民を「おおみたから」と呼んで慈しみ、自分より他人を思いやる利他の精神、絆を大切にするこころや家族主義のルーツが記されていたのです。「八紘一宇」を予算委員会で用いた時、私は清水芳太郎氏の「建国」を解説として引用しました。これには「清水芳太郎は『日本的ファシストの象徴』と言われた北一輝の流れをくむ国家主義者ではないか」との批判をいただきましたが、私はそうは理解していません。清水芳太郎研究で知られる平井一臣鹿児島大学教授の著書「『地域ファシズム』の歴史像・国家改造運動と地域政治社会」によると、清水氏は農村の貧困問題に取り組み、創生会を結成して運動を展開していました。ファシストというより、弱者救済を国レベルで成し遂げようとした人ではなかったのかというのが私の理解です。さらに「八紘一宇」は二・二六事件の「蹶起趣意書」にも記載されていたために、軍事クーデターの原因となったとみなされがちですが、この事件が勃発するきっかけになったのも、農村の貧困問題でした。特に東北で長年農業恐慌が続いたことに加え、1931年と1934年に大凶作が起こり、少女の身売りや欠食児童問題が深刻になりました。これらを見ると、多くの人々が困窮して国が疲弊している時こそ「八紘一宇」の重要性が叫ばれていたという歴史的事実が浮かび上がります。「八紘一宇」は混乱の時代にあって、人々を救済するスローガンだったと思うのです。(三原じゅん子/2015/4)・・・

●「蹶起趣意書」 二・二六事件
謹んで惟(おもんみ)るに我が神洲たる所以(ゆえん)は万世一系たる 天皇陛下御統帥(とうすい)の下に挙国一体生成化育を遂げ遂に八紘一宇(はっこういちう)を完(まっと)うするの国体に存す。
此(こ)の国体の尊厳秀絶は天祖肇国(ちょうこく)神武建国より明治維新を経て益々体制を整へ今や方(まさ)に万邦に向つて開顕進展を遂ぐべきの秋(とき)なり。
然(しか)るに頃来(けいらい)遂に不逞凶悪の徒簇出(ぞくしゅつ)して私心我慾(がよく)を恣(ほしいまま)にし至尊絶対の尊厳を藐視(びょうし)し僭上(せんじょう)之れ働き万民の生成化育を阻碍(そがい)して塗炭の痛苦を呻吟せしめ随(したが)つて外侮外患日を逐(お)うて激化す、所謂(いわゆる)元老、重臣、軍閥、財閥、官僚、政党等はこの国体破壊の元兇なり。
倫敦(ロンドン)〔海軍〕軍縮条約、並に教育総監更迭に於ける統帥権干犯至尊兵馬大権の僭窃(せんせつ)を図りたる三月事件或(あるい)は学匪(がくひ)共匪大逆教団等の利害相結んで陰謀至らざるなき等は最も著しき事例にしてその滔天(とうてん)の罪悪は流血憤怒真に譬(たと)へ難き所なり。中岡、佐郷屋(さごや)、血盟団の先駆捨身、五・一五事件の憤騰(ふんとう)、相沢中佐の閃発となる寔(まこと)に故なきに非ず、而(しか)も幾度か頸血(けいけつ)を濺(そそ)ぎ来つて今尚些(いささ)かも懺悔反省なく然も依然として私権自慾に居つて苟且偸安(こうしょとうあん)を事とせり。露、支、英、米との間一触即発して祖宗遺垂の此の神洲を一擲(いってき)破滅に堕せしむは火を賭(み)るより明かなり。内外真に重大危急今にして国体破壊の不義不臣を誅戮(ちゅうりく)し稜威(みいつ)を遮り御維新を阻止し来れる奸賊(かんぞく)を芟除(さんじょ)するに非ずして宏謨(こうぼ)を一空せん。恰(あたか)も第一師団出動の大命渙発せられ年来御維新翼賛を誓ひ殉死捨身の奉公を期し来りし帝都衛戍(えいじゅ)の我等同志は、将(まさ)に万里征途に登らんとして而も省みて内の亡〔世〕状に憂心転々禁ずる能はず。君側の奸臣軍賊を斬除して彼の中枢を粉砕するは我等の任として能くなすべし。
臣子たり股肱(ここう)たるの絶対道を今にして尽さずんば破滅沈淪(ちんりん)を飜すに由なし、茲(ここ)に同憂同志機を一にして蹶起し奸賊を誅滅(ちゅうめつ)して大義を正し国体の擁護開顕に肝脳を竭(つく)し以つて神洲赤子の微衷を献ぜんとす。
皇神皇宗の神霊冀(こいねがわ)くば照覧冥助(めいじょ)を垂れ給はんことを!
   昭和拾壱年弐月弐拾六日   陸軍歩兵大尉 野中四郎   外同志一同
 
 
 

 

●菅義偉総裁、起死回生の戦略? 安倍晋三前首相を自民党幹事長に抜擢か 9/1
自民党総裁選挙は「9月17日告示、同29日投開票」の日程が決まり、目前に迫った衆院選(衆議院議員総選挙)の「顔」選びが事実上スタートした。再選を目指す菅義偉首相が頼る二階俊博幹事長は、いち早く再選支持を打ち出した。
“鉄の結束”二階派で菅支持に非難
二階幹事長は策士策に溺れる、というにふさわしい結末を見せる。26日、二階派の在京議員懇談会が催された。欠席した二階氏に代わり、同派幹部が再選支持の方針を説明すると、10人近い所属議員から「意思決定はみんなの意見を聞くべきだ」「メンバーが生き残れる道を考えてほしい」と二階派としての支持を公然と批判する声が続出。菅首相を非難する怒号も飛び交ったという。
二階氏によるヤラセか
“鉄の結束”をほこる二階派ですら、足下がぐらついたのか、と思われた方もいるだろう。しかし、野党幹部は次のように語る。「あれは二階さんが仕掛けたヤラセ。大体、派閥の懇親会なのに情報が管理されず、メディアに筒抜けというのがおかしい。つまり、二階氏は公では菅義偉総裁の再選を支持すると同時に、自派の議員をけしかけ、菅批判をやらせた。そうなれば、『派閥がまとまらないので、菅さんを派としては支持できない』という理由がつくでしょう。だから、菅氏が総裁になりそうでも、厳しい情勢でも、どちらにでも転べるように二階氏は動いた」
岸田文雄前政調会長が二階外しを公言
だから、策士策に溺れるのだ。総裁選に出馬表明の岸田文雄前政調会長が二階外しを公言。5年も金と権力を握る幹事長を二階氏が続けていることに対する他派閥の不満もある。自分に最後までの忠誠を尽くすのでなく、天秤にかける二階氏に菅首相も愛想を尽かしてしまい、8月31日、一気に政治は動いて、菅首相は二階氏の交代を決断した。これが事の真相だ。
後任はキングメイカー・安倍晋三氏か
では、後継の幹事長は誰になるのか。永田町でささやかれているのが、安倍晋三前首相の幹事長登用だ。ベテラン記者が語る。「安倍前首相は現在、無派閥ですが、細田派(清和研)の実質的なオーナーです。安倍氏を登用すれば、最大派閥の細田派が菅再選にまわる。安倍氏に借りのある二階派もまとまる。小泉純一郎前首相は当時、2003年の総選挙前に総裁と幹事長は別派閥から出すという「総幹分離」の慣例を破って、人気の安倍晋三氏を幹事長に就けた。安倍人気はまだ衰えていない。しかも、総裁経験者を幹事長に就けるということは、安倍氏が自民党総裁だった谷垣禎一元法務相を就けたという前例もあります。ネックは、安倍氏が桜を見る会の問題で、東京第1検察審査会から『不起訴不当』と議決されたこと。疑惑の渦中にあることはマイナス要因です」
他候補は「帯に短したすきに長し」
他に幹事長として名前があがっているのは、環境相の小泉進次郎氏、文科相で安倍氏側近の萩生田光一氏、元総務相の高市早苗氏。いずれも、帯に短したすきに長し、だ。別の野党幹部はこう漏らす。「幹事長はお金が自由に動かせるので安倍さんとしては最高ですね。もちろん人事権も得られるので最高でしょう。自民党内での事情は理解出来ますが、安倍さんが幹事長でも選挙にプラスにはならないでしょう。我が党としてはこのまま菅義偉総裁で行き、自民党が過半数割れしてくれれることを願いたい」
自民党総裁選はやらない?
さらに、ウルトラプランがある。それは自民党役員人事と内閣改造を来週に行い、自民党総裁選を取りやめて解散に突っ走るというものだ。菅首相は人事を一新して、新しい顔ぶれで選挙に臨むという最後の賭けとなる。三木武夫首相以来の任期満了解散という汚名も避けられる。そうなると、人事の肝はやはり幹事長だ。はてさて、安倍幹事長という菅首相の起死回生のサプライズは起こりうるのか。今後の動きを注視したい。 
 

 

●菅首相、「二階外しで衆院解散」シナリオの大誤算 9/2
衆院選と自民党総裁選が複雑に絡み合う政局秋の陣は、9月を迎えて「百鬼夜行の状況」(自民長老)となってきた。菅義偉首相(自民党総裁)がパラリンピック閉幕後の9月6日の週早々にも二階俊博幹事長の交代を軸とする党・内閣人事を断行。9月16日までの解散断行も視野に入れているという報道もあり、永田町に疑心暗鬼が広がっている。仮に解散が先行すれば、9月17日告示・29日投開票の総裁選は自動的に衆院選後に延長される。菅首相の本筋の戦略は総裁再選を前提とした解散見送りによる任期満了選挙とみられるが、いずれの場合でも衆院選は衆院議員任期である10月21日の前の10月5日公示・同17日投開票となる見通しだ。
解散先行案に党内の不満が爆発
菅首相はもともと、議員任期を超えての衆院選には否定的で、ここにきて「10月17日の投開票しかないと腹を固めた」(周辺)とされる。これも踏まえ、解散権行使か任期満了かの選択に悩み、「解散で勝負したい」(同)との思いも秘めていた。しかし、8月31日夜にそれが漏れたことで、党内に「殿ご乱心」との不信感が爆発。菅氏支持の安倍晋三前首相や麻生太郎副総理兼財務相も不快感を示したことで、菅首相も翌朝には解散先行を否定せざるをえなかった。現状では、菅首相が解散断念による任期満了選挙を決めても、その前の総裁選で対抗馬である岸田文雄前政調会長に勝てる保証はない。すでに党内には「菅首相のままの衆院選では自民大敗は避けられない」との危機感があふれており、菅首相が解散先行を狙っても、解散決定閣議で多数の閣僚が署名拒否で抵抗する可能性も高い。岸田氏は「堂々と総裁選で勝負すべきだ」と解散先行論を批判。最高実力者の安倍、麻生両氏の対応次第では、1976年のいわゆる「三木降ろし」と同様に、解散権を封じられ、「菅降ろし」につながる可能性がある。さまざまな情報が飛びかう中、菅首相は9月1日、「最優先は新型コロナウイルス対策だ。今のような厳しい状況では解散ができる状況ではない」と解散先行論を否定した。前日からの自民党内の強い反発も考慮し、騒ぎの沈静化を図ったとみられる。さらに、菅首相は「総裁選の先送りも考えていない」と17日告示・29日投開票の総裁選実施も明言。そのうえで「そういう中で(衆院選などの)日程は決まってくるだろう」と語った。8月26日に岸田氏が総裁選への出馬を表明して以降、自民党内には「複雑怪奇な動き」(長老)が相次いでいる。その背景には必死に延命策を探る菅首相の焦りと苛立ちが浮かび上がる。
岸田氏の提言を機に「二階外し」へ
岸田氏が出馬表明であからさまに二階氏の交代を求める党改革を打ち出し、党内の評価を受けたことが、今回の騒動のきっかけとなった。政権発足前から二階氏とタッグを組んできた菅首相にとって、「菅・二階連合維持への損得勘定」(周辺)を突き付けられたからだ。対抗策として急浮上したのが、「二階外し」の断行だった。菅首相は8月30日午前に総裁選出馬を公言していた下村博文政調会長を官邸に呼び、「出馬するなら政調会長を辞めろ」と通告し、出馬を断念させた。さらに菅首相は同日午後、二階氏を官邸に呼び、パラリンピックの閉幕直後に党役員人事を断行する際、二階氏を交代させる意向を伝達。二階氏も「自分に遠慮なく人事をやってほしい」と交代を受け入れた。これにより、政府与党内では6日にも党役員人事とそれに伴う内閣改造が行われるとの観測が一気に拡大した。併せて、総裁選の日程通りの実施を前提に、菅首相が解散を断行することを見送り、9月中旬にも10月5日告示・17日投開票の任期満了選挙を閣議決定するとの見方が大勢となった。菅首相がこうした人事断行を決めたのは、党内の強い不満の対象となっている二階氏の幹事長交代で、岸田氏の勢いを削げると判断したからだ。しかし、党内では「菅首相が代わらなければ、衆院選は厳しいままだ」(若手)との声が噴出した。追い詰められた菅首相は31日には議員宿舎で二階氏や森山裕国対委員長らと会談。党役員人事と内閣改造を行ったうえで、9月中旬に衆院解散に踏み切ることも検討していると伝えたとされる。総裁選前に解散すれば、衆院議員がいなくなることで総裁選は自動的に衆院選後に先送りとなる。総裁選での苦戦が予想される菅首相にとって「一か八かの勝負ができる」(自民幹部)というわけだ。
「解散先行論」は無理筋だった
この会談を受けて、31日夜には各メディアが一斉に「菅首相が9月中旬解散の意向を固める」などと報道。これに対して岸田氏は「堂々と総裁選を実施すべきだ」と反発。党内からも「コロナ禍の中での解散先行は自民党にとって自殺行為」との声があふれ、菅首相も軌道修正を余儀なくされた。そもそも、冷静に政治状況をみれば、「解散先行論は無理筋」(閣僚経験者)だ。ここにきて全国のコロナ感染は鈍化し、先行指標となる東京の新規感染者数も減少が目立つ。しかし、重症者数などから9月12日を期限とする緊急事態宣言の再延長は避けられそうもない。菅首相はコロナと解散の関連性を問われるたびに、「コロナ対応が最優先」と繰り返してきた。緊急事態宣言下の解散についても「法律上はできる」と説明してきたが、「現実にはこの段階での解散は国民に対する重大な裏切り行為」(自民幹部)となることは間違いない。自民党が8月後半に実施した衆院選の全国情勢調査でも、「自民の単独過半数確保も危うい」という結果だったとされる。個別に数値を示された自民の衆院選候補者らは「選挙の顔を変えないと落選する」との危機感を募らせ、それが菅首相続投への逆風を加速させた。菅首相は今のところ、人事刷新による求心力の回復を狙う構えだ。しかし、党内には「国民のための政治を掲げた菅首相が自らの延命のための『個利個略』に走れば、その時点で国民から見放される」との見方が支配的だ。
他人事ではない「三木降ろし」
菅首相が反転攻勢を狙って断行する予定の党役員・内閣改造人事についても、「政権浮揚どころか党内混乱を露呈するだけ」との指摘もある。焦点となる新幹事長についても、野田聖子幹事長代行の昇格や萩生田光一文科相の抜擢、さらには小泉進次郎氏や石破茂氏の名前まで取り沙汰されている。ただ、一部で浮上した岸田幹事長説は、岸田氏自身が明確に否定。新人事での対象とされる各候補者の間でも「話が来ても断るしかない」との声が相次ぐ。「泥船に乗って一緒に沈みたくない」との政治家心理からだ。このため、政権浮揚に結び付く新体制づくりも難航必至だ。半世紀近く前に「三木降ろし」と呼ばれた政争は、1975年から1976年にかけて続いた三木武夫首相(当時)の退陣を狙った自民党内の倒閣運動だ。今回と同様、衆院解散か任期満了選挙かをめぐり、三木首相と大派閥領袖の福田赳夫、大平正芳両氏(いずれも元首相)らが熾烈な権力闘争を展開した。弱小派閥の領袖だった三木氏は持ち前の粘り腰で退陣を拒否し続け、解散断行も試みたが、当時副総理だった福田氏ら15人の閣僚の反対で挫折。結局、任期満了選挙を余儀なくされ、選挙での自民敗北で福田氏に政権を奪われた。今回は当時と党内事情が異なるが、無派閥の菅首相にとって「三木降ろしは他人事ではない」(自民長老)。手練手管で総裁再選にこぎつけ、衆院選も乗り越えて続投するのか。それとも、総裁選前に出馬断念に追い込まれるのか。今後の展開はまだ誰にも読めない。

●「延命の解散許されない」党内に批判…  9/2
菅首相は1日、9月中旬に衆院を解散し、自民党総裁選(9月17日告示・29日投開票)を先送りする可能性を否定した。首相は6日にも党役員人事と併せて内閣改造を行い、態勢を立て直したい考えだ。
首相は1日、衆院解散について「最優先は新型コロナウイルス対策だ。今のような厳しい状況では解散ができる状況ではない」と首相官邸で記者団に語った。総裁選に関しても「先送りは考えていない」と明言した。
衆院解散を巡っては、首相が9月中旬に踏み切り、総裁選を先送りするとの観測が広がり、党内では「延命のための解散は許されない」などと批判が高まっていた。8月31日には安倍前首相や小泉環境相が首相に対し、解散を思いとどまるよう伝えた。小泉氏は1日も首相官邸で約30分間、首相と会談した。
首相が9月中旬に解散に踏み切るのは困難な情勢だ。衆院を解散しない場合は、総裁選を行った上で、解散せずに「任期満了選挙」とすることを模索している。9月中下旬に衆院選の日程を閣議決定し、10月5日公示・17日投開票とする方向だ。総裁選で首相以外の候補が勝利し、衆院を解散すれば、衆院選は10月21日以降にずれ込む可能性がある。
一方、首相は3日に臨時の党役員会と総務会をそれぞれ開き、役員人事の一任を取り付ける方針だ。
歴代最長の在任5年以上にわたった二階幹事長は交代させる。党四役の刷新を検討しており、うち1人は二階派から起用する方向で調整している。焦点の後任幹事長には、知名度の高い石破茂・元幹事長、河野行政・規制改革相、野田聖子幹事長代行らの名前が取りざたされている。
ただ、総裁選直前という異例のタイミングでの人事に党内では不信感が高まっており、調整は難航する可能性もある。

●菅首相「先送り論」打ち消し、岸田氏に追い風… 9/2
自民党総裁選への出馬を表明済みの岸田文雄・前政調会長は、政策面などで着々と準備を進めている。菅首相(自民党総裁)が衆院解散による総裁選先送りを検討しながらも、党内の激しい反発を受け、打ち消しに追われたことは、首相の求心力低下につながったとの見方が広がる。岸田氏に「追い風」が吹くが、岸田派では石破茂・元幹事長の出馬を警戒する声も上がる。
岸田氏は1日、出馬報告のため、議員会館の党所属議員の部屋を回った。首相再選支持を表明した石原派会長の石原伸晃・元幹事長からは激励を受けた。その後、議員会館の自室で2日の政策発表の準備に時間を割いた。
総裁選先送り論が駆け巡った8月31日夜は、衆院解散を阻止する手段がない岸田派内に動揺が広がった。だが、結果として岸田派以外からも首相への不満が噴出し、「岸田氏に良い流れ」(周辺)となった。
中谷元・元防衛相は1日、谷垣グループの会合で「勝手な個人の都合で(総裁選日程を)変更すれば党の信頼を失う」と訴えた。福田達夫衆院議員(細田派)ら派閥横断の中堅・若手で作る有志グループは「衆院選前に総裁選を実施すべきだ」との意見で一致した。
そもそも首相が先送りに傾いたのは、岸田氏の勢いに危機感を強めているためだ。首相が二階幹事長の交代を決断したのも、岸田氏が掲げた党役員の任期制限を含む党改革案が引き金になったとみられている。
党内では、苦境の首相が「岸田氏を幹事長に就け、総裁選回避を狙う」(党関係者)との臆測も飛んだ。強気の岸田氏は8月31日のBS日テレの番組で、幹事長を打診されても「受けることはない」と明言した。
岸田氏はテレビ出演や記者会見などで露出を増やし、党員・党友票獲得につなげたい考えだ。政策では「政治とカネ」の透明性向上や、中間層の拡大を目指す「令和版所得倍増」などを訴える。ただ、政府の新型コロナウイルス対策への批判には派内に慎重意見が多い。岸田氏は安倍内閣時代に党政調会長も務め、同派若手は「継続案件も多く、下手に批判すれば、跳ね返ってくる」と語る。
世論調査で支持を集める石破氏の動向も警戒している。同派幹部は「『選挙の顔』として期待される石破氏は脅威だ」と明かす。
石破氏は1日、東京都内で、参院竹下派に影響力を残す青木幹雄・元参院議員会長と面会した。安倍前首相と石破氏の一騎打ちとなった2018年総裁選で、青木氏は石破氏を支援した。竹下派幹部によると、石破氏は「今回は迷惑をかけません」と伝えたという。青木氏は、「出馬見送り」と受け止めたとされる。
首相は、近く踏み切る党役員人事と小規模な内閣改造で、石破氏の要職打診を検討している。石破氏が要職に就けば、総裁選に出馬しない公算が大きい。

●首相、揺れる再選戦略…「総裁選先送り」案は党内の猛反発でトーンダウン 9/2
自民党総裁選(17日告示・29日投開票)を巡り、菅首相の再選戦略が揺れ動いている。求心力の低下に危機感を強め、衆院解散で総裁選を先送りする強硬案を検討したものの、党内の猛反発を受けてトーンダウンさせた。今後は自民党役員人事による浮揚効果を慎重に見極める考えだ。
「新型コロナウイルス対策最優先だから、そんな状況にはない。ここは明快に申し上げておく」。首相は1日、首相官邸で記者団から解散について問われると、こう強調した。
主要閣僚の一人は首相の発言について、「今、この瞬間は解散を考えていないということだ。状況は刻一刻と変わっており、何が起きるか分からない」と解説した。「解散の可能性はわずかだけでも残しつつ、情勢を見守りたい」というのが首相の本音のようだ。
首相は当初、5日の東京パラリンピック閉幕後に解散に踏み切り、衆院選で勝利したうえで先送りした総裁選は無風で乗り切ることを目指していた。しかし、感染拡大に歯止めがかからず、9月上旬の解散は難しくなった。
首相の地元で行われた横浜市長選が敗北で終わると、党内の「菅離れ」は加速し、総裁選では岸田文雄・前政調会長に対して劣勢がささやかれるようになった。
このため、首相は自らに近い森山裕国会対策委員長の助言を踏まえ、〈1〉解散せず、閣議決定による「任期満了選挙」(10月17日投開票)〈2〉9月中旬の解散、総裁選先送り――の2案を検討するようになった。
任期満了選挙では、まず総裁選で勝利する必要があり、首相は解散案へと一気に傾いた。
ただ、解散への反発は党内で強く、首相が解散権を行使できる余地はほぼなくなっている。首相を「選挙の顔」とすることを危ぶむ中堅・若手議員の間では、両院議員総会の開催を求め、総裁解任を迫る案などが一時、取り沙汰された。安倍前首相は8月31日、党内の混乱を懸念し、解散に反対する考えを首相に伝えたとされる。小泉環境相も解散による総裁選先送りは自滅行為だとして直接翻意を迫った。
党内では、「首相が『解散できる状況にはない』と明言したことは重く、もはや閣議決定の任期満了選挙しかない」(閣僚経験者)との受け止めが広がっている。首相周辺は、「党役員人事で思い切った人物を起用し、総裁選と選挙に向けて空気を変えるしかない」と語った。

●高市早苗・前総務相 “総裁選出馬” にブーイング 9/2
要職も経験した自民党中堅女性議員は困惑気味に明かす。
「先輩の女性議員から『高市さんの推薦人になれないか』という相談がありました。でも、私は高市さんとは、ほとんどお話ししたことすらない。存じ上げない方なんですよ」
9月29日投開票が決まったことで、自民党総裁選は号砲が鳴った。いま注目を集めるのは “落日の首相” よりも、高市早苗前総務相(60)だろう。
安倍晋三前首相(66)の “路線踏襲” を打ち上げた高市氏は、10月が有力視される総選挙を “新総裁” で迎えたい若手議員からも支持が厚い。
「高市さんといえば、前政権時に『安倍ガールズ』の一角を自任していたほどで、第2次安倍内閣では歴代最長の4年間も総務相を務めた。ところが、菅義偉内閣であっさりと交代になりました。
その背景には2019年夏に発覚した、かんぽ生命の不祥事への処分をめぐって、当時官房長官だった菅首相と対立したことがある、といわれています。菅政権が続く限り、高市さんが閣僚や党役員に就ける可能性はほぼないでしょう」(自民党関係者)
しかし、冷や飯を喰わされた菅政権は失策続きで、「総裁選に勝つ可能性は菅さん8割、高市さん2割」(永田町関係者)と健闘予想の声まで出てきた。
「推薦人が集まらなくても、『やっぱり壁は厚いんだ』となるだけで、“女性首相” へのチャレンジで失うものはない、と思い切って手を挙げたのでしょう。今回は有力な出馬候補もいないし、政権はガタガタ。初の女性首相どころか、総裁選に出馬できた時点で話題になりますから」(同前)
だが、ほかの女性議員たちとの間には冒頭で中堅女性議員が語ったような “溝” がある。
「国会でも党内でも “場” をともにしたことがないんですよ。彼女は女性議員の会合や議連にもほとんど顔も出さなくて」(前出・中堅女性議員)
別の若手女性議員も「私も高市さんとは挨拶程度の関係しかありません。だって、彼女は女性の社会進出などについて、非常に保守的な方ですから。“女性活躍” への思いが、ほかの女性議員とはまったく違うんです。その彼女が “初の女性首相” と騒がれることへの印象ですか……初の女性首相にふさわしい方とは……」と答えにくそうに話すのだった。
なによりも自民党内には、女性議員たちのなかで “長女” を自負する議員がいる。
「野田聖子さんは、自分こそ自民党の女性議員のトップという思いで、実際に政治家として女性活躍を実現する旗振り役を担ってきた。それなのに『高市出馬』にはだんまりです。
高市さんは無所属で初当選し、自由党、新進党などを経て自民党に入り、極度に保守化した経緯がある。
野田さんと高市さんでは政治的なスタンスが違いすぎるとはいえ、女性首相候補について “無言” を貫く野田さんの態度が、まさに高市さんへの自民党女性議員たちの気持ちを如実に表わしていますよ」(前出・自民党関係者)
同性議員全員から支持されれば、首相就任も夢じゃないのに。

●森友問題、政府は説明すべき 自民・岸田氏 9/2
自民党の岸田文雄前政調会長は2日のBS―TBS番組で、学校法人森友学園をめぐる問題について「国民が納得するまで説明を続けることが政府の姿勢として大事だ」と述べた。
 

 

●菅首相 総裁選に不出馬表明 「選挙との両立は莫大なエネルギー必要」 9/3
菅義偉首相は3日午後1時、記者団に対し、「総裁選に出馬を予定していたが、新型コロナ対策と選挙との両立は莫大なエネルギーが必要。新型コロナ対策に専任したい」と、自民党総裁選(9月17日告示、29日投開票)に立候補しない意向を表明した。菅政権は、就任から約一年で幕引きを迎える。
同日の自民党臨時役員会で菅首相は「新型コロナウイルス対策に専念したいので総裁選に出馬しない。任期は全うする」と述べた。6日に予定されていた党役員人事も実施しない。
菅首相は「総理大臣になって1年間、コロナ対策を中心に国が抱えるさまざまな問題に全力で取り組んできた。私自身、総裁選出馬を予定する中で、コロナ対策と選挙活動を考えると、莫大なエネルギーが必要で、やはり両立はできない。国民に約束している新型コロナ感染拡大を防止するため、専任したい」と述べた。
菅首相は安倍政権を官房長官として約7年支え、安倍晋三首相が持病悪化で辞任した後の昨年9月16日に第99代首相に就任した。新型コロナウイルス感染拡大で、対策が後手後手だと批判を浴び、内閣支持率が低迷していた。 

●菅首相が辞意 総裁選不出馬を表明 9/3
菅義偉首相(72)は3日の自民党臨時役員会で、党総裁の任期満了に伴う総裁選(17日告示、29日投開票)に立候補しない考えを明らかにし、事実上の辞意表明をした。臨時役員会で「新型コロナウイルス対策に全力を尽くし、総裁選に出馬しない」と語った。来週予定していた党役員人事と閣僚人事も見送る。
菅内閣は政府の新型コロナウイルスへの対応などを巡って支持率が低迷。次期衆院選を前に自民党内からも「菅首相では戦えない」との声が強まっていた。
就任以来、「コロナ対策が最優先」と訴えてきた菅首相は1国民へのワクチン接種の加速や東京オリンピック成功を実績に衆院選で勝利2自身の任期満了(30日)に伴う党総裁選で無風再選を果たす――ことが当初の戦略だった。
しかしコロナ感染は収束せず、国民に行動自粛を呼びかける緊急事態宣言の相次ぐ延長・拡大に、世論の不満が噴出。東京五輪を経ても内閣支持率は上向かなかった。
その間、与党は4月の衆参3選挙で不戦敗を含む全敗を喫したほか、7月の東京都議選で苦戦。8月の横浜市長選では菅首相が全面支援した候補が大敗した。与党内で「菅首相では選挙の顔にならない」と交代論が高まっていた。
首相はこの局面を打開しようと、自民党役員人事と閣僚人事で執行部の布陣を刷新し、総裁選前の9月中旬に衆院解散に踏み切る道を模索。しかし党内から猛反発を浴び、1日には記者団に「今は解散ができる状況ではない」と釈明せざるを得なくなった。
一方、総裁選には岸田文雄前政調会長が立候補を表明し、他にも出馬を探る動きがある。菅首相は2日に会談した小泉進次郎環境相に「(衆院選の日程は)総裁選で選ばれた人が決めるべきだ」と伝達。昨年の前回総裁選で菅首相を支持した主要各派閥の一本化が難しい情勢の中、出馬しても総裁再選は困難と判断したとみられる。
菅首相は2012年の第2次安倍政権発足時から20年まで官房長官を務めた。同年9月、安倍晋三前首相の電撃辞任で実施された総裁選で圧勝し、第99代首相に選出された。安倍政権の継承を掲げる一方、派閥に所属せず、国会議員の親族を持つ世襲でもない、異例の「無派閥・非世襲」の首相だった。デジタル改革や孤独・孤立対策なども看板政策に掲げていた。

●総裁選不出馬の説明は2分、会見せず 9/3
菅義偉首相は3日の自民党臨時役員会で党総裁選への不出馬を表明後、官邸のエントランスで記者団の質問に答える「ぶら下がり取材」に応じたが、追加質問を受け付けず、わずか2分程度で終わった。通例では、首相が国内外に大きな影響を与える退陣を決断したら、すぐに正式な記者会見を開いて理由などを説明していた。
首相は記者団の取材に対して、新型コロナウイルス対策と総裁選の両立は莫大ばくだいなエネルギーが必要で困難だと指摘。「来週にでも改めて記者会見をしたい」と述べると、小野日子ひかりこ内閣広報官が「終わります」と宣言して打ち切った。
記者から「今日は最後まで答えてください」「丁寧な説明をお願いします」と呼び掛けて追加の質問を求めたが、首相は振り向かずにそのまま立ち去った。
政府は来週にも、東京や愛知など計21都道府県に12日までの期限で出されている新型コロナの緊急事態宣言の取り扱いについて、解除するかどうかを判断する。首相は新型コロナ対応に関する記者会見を開く予定で、その場で退陣についても説明する考えとみられる。
安倍晋三前首相は昨年8月、辞意を表明した日に、コロナ対策として設定されていた記者会見で辞める理由などを説明した。
菅首相の発言
先ほど開かれました自民党役員会において、私自身、新型コロナ対策に専任をしたい、そういう思いのなかで、自民党総裁選挙には出馬をしない、こうしたことを申し上げました。
総理大臣になってから、まさに新型コロナ対策中心とするさまざまな国が抱える問題について全力で取り組んできました。そして、今月17日から、自民党の総裁選挙が始まることになっていまして、私自身、出馬を予定する中で、このコロナ対策と選挙活動、こうしたことを考えたときに、実際、ばく大なエネルギーが必要でありまして、まあ、そういう中で、やはり、両立はできない。どちらかに選択をすべきである。国民のみなさんにお約束を何回ともしています。新型コロナウイルス、この感染拡大を防止するために、私は専任をしたい、そういう判断をしました。
国民のみなさんの命と暮らしを守る、内閣総理大臣として私の責務でありますので、専任をして、ここをやり遂げたい。このように思います。また来週にでもあらためて記者会見をしたい。このように思います。以上です。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

●四面楚歌
助けがなく、まわりが敵・反対者ばかりであること。
敵の中に孤立して、助けのないこと。周囲が敵、反対者ばかりで味方のないことのたとえ。[使用例] 主君の不人気が彼の所領の人民を四面楚歌におとしいれたこともたしかであろう[尾崎士郎*人生劇場|1933][使用例] 秋水は殊に、入獄中の若い同志の妻を寝取ったという非難と悪あく罵ばの中に立たされ、続々、同志に離反され四面楚歌の立場に追いこめられていたから、是が非でも、寒村の同意書を必要としたのだった[瀬戸内晴美*遠い声|1970][使用例] 五月七日、ついにドイツは敗北した。〈略〉おなじころ沖縄では、日米両軍および沖縄在住の非戦闘員が、吹きすさぶ鉄と血の嵐に翻弄されていた。四面楚歌とは、このことである[辻真先*あじあ号、吼えろ!|2000][解説] 秦代末期の武将・項羽と劉邦の戦いは、歴史書「史記」に描かれています。項羽が劉邦に敗れる場面で出てくるのが「四面楚歌」のエピソードです。項羽が率いる楚の軍隊は劣勢となり、垓がい下かの地に追い詰められます。兵の数は少なく、食糧も尽きました。周囲は劉邦の漢軍に幾いく重えにも囲まれています。夜になって、四面(周囲)の漢軍の中から楚の国の歌が流れてきました。項羽は大いに驚き、敗北を覚悟します。「漢はすでに楚を手に入れたということか。歌う楚人の何と多いことだろう」味方の歌が聞こえたのだから、援軍が来た――わけではなく、楚の民衆が漢に寝返ってしまった、自分たちは完全に孤立化した、と項羽は悟りました。現代、「四面楚歌」は孤立無援の状態を表します。四面から歌が聞こえれば楽しそうですが、実はつらく苦しい意味です。文字から受ける印象と、実際の意味とにギャップのあることばです。
敵に囲まれて孤立し、助けを求められないことのたとえ。周りに味方がなく、周囲が反対者ばかりの状況をもいい、孤立無援ともいう。中国、楚(そ)の項羽(こうう)が、漢の高祖に敗れて垓下(がいか)でその軍に包囲されていたとき、四方を取り囲む漢の軍中で盛んに楚の歌を歌うのを聞いて、「漢皆已(すで)に楚を得たるか、これ何ぞ楚の人の多きや」といって、敵の軍中に楚人の多いのを嘆じた、と伝える『史記』「項羽本紀」の故事による。しかしこれは、高祖の仕組んだ心理的な計略であった。
(楚の項羽が漢の高祖に垓下(がいか)で包囲されたとき、四面の漢軍の中から楚国の歌がおこるのを聞いて、楚の民がもはや多く漢軍に降服したかと思って驚いたという「史記‐項羽本紀」の故事から) 敵の中に孤立して、助けのないこと。周囲が敵、反対者ばかりで味方のないことのたとえ。楚歌。
《楚の項羽が漢の高祖に敗れて、垓下(がいか)で包囲されたとき、夜更けに四面の漢軍が盛んに楚の歌をうたうのを聞き、楚の民がすでに漢に降伏したと思い絶望したという、「史記」項羽本紀の故事から》敵に囲まれて孤立し、助けがないこと。周囲の者が反対者ばかりであること。
…〈垓下の歌〉を作り、天に見放された不運を嘆き、愛馬の騅(すい)と虞美人(ぐびじん)の行く末を案じたあと、奮戦してみずから命を絶った。〈四面楚歌〉はこの故事にもとづく。…
…5年にわたる楚・漢抗争のすえ、前202年に項羽は劉邦の漢軍によって垓下(がいか)(安徽省霊璧県)に囲まれた(垓下の戦)。夜、四面から聞こえてくる楚の歌に、項羽は郷里の楚も漢におちたことを悟り(四面楚歌)、虞美人をかたわらに決別の酒宴をひらいた。項羽は悲憤慷慨し、涙して辞世の詩をうたうと、彼女も唱和し、みな泣き伏したという。…
…漢代初年に広く流行した。項羽が漢の高祖と天下を争い、垓下(がいか)に包囲されたとき、包囲軍が〈四面楚歌〉したとあるように、元来は民衆的な流行歌謡であったと考えられるが、現在にのこるのは英雄や皇帝、皇族たちの作品とされるものが多い。項羽の〈垓下の歌〉、漢の高祖の〈大風の歌〉、戚夫人の〈永巷の歌〉〈舂歌(しようか)〉など、みな高ぶった感情を表現したものである。…

●孤立無援
たった一人でいて、だれも助けてくれる人がいないこと。
仲間・味方だれもおらず、助ける者もいないさま。自分だけで戦う様子。
仲間がいずに一人ぼっちで、援助する者のいないこと。※経国美談(1883‐84)〈矢野龍渓〉後「又もや数年前の如き孤立無援の有様に陥り」
頼るものがなく、ひとりぼっちで助けのないさま。「無援」は助けがないこと。「無援孤立むえんこりつ」ともいう。用例/毛利方から火薬、武器、食糧の補給をうけていた大坂の石山城は、まったく孤立無援となった。<辻邦生・嵯峨野明月記>
仲間がいずに一人ぼっちで、援助する者のいないこと。[使用例] 私はこの大きな都会の真中の真空のような場所でいま自分が孤立無援であることに、ぞっとした[伊藤整*若い詩人の肖像|1954〜56][使用例] 日独伊同盟はすでに一片の反古になっていた。日本はもはや孤立無援の状態で、世界中どちらを見渡しても敵ばかりだけれど[阿川弘之*米内光政|1978][解説] 「無援」は助けのないこと。
仲間や味方がおらず、一人ぼっちで助けてくれる人がいない状況を指します。「孤立」とは助けがなく、周りから引き離された状態を指しており、「無援」は誰からも助けや援助がない事となります。また孤立している状況というのは、その孤立している個人に問題があるケースもありますが、排他的な周りによって孤立せざるを得ない状況もあります。例えば小中学生のいじめ問題などは、本人に問題がなくてもターゲットとされる事で周りから排除される様な事が起きます。周りの人間もいじめを恐れて助けられない状況ですから、これは完全に孤立無援と言えるのです。

●孤軍奮闘
孤立した少数の軍勢でよく戦うこと。 また、援助するものもない中で、ひとりで一所懸命に努力すること。
援軍もなく孤立した中でよく戦うこと。また、だれの援助も受けずに一人で努力すること。
孤立した少数の軍勢でよく戦うこと。また、援助するものもない中で、ひとりで一所懸命に努力すること。※淋しい人(1950)〈檀一雄〉「私一人、孤軍奮闘の防禦戦を試みたものである」
支援する者がない中、一人で懸命に戦うこと。また、一人で難事業に向かって鋭意努力すること。孤立した少数の軍勢が、敵と懸命に戦う意から。「孤軍」は味方から孤立した少人数の軍隊のこと。
援軍が来ることを期待できない状態で必死に戦うこと。または、他人の手助けを受けることなく、難しい仕事をこなすために一人で必死に努力すること。「孤軍」は味方から離れ、援軍が期待できない状態にある、少数の部隊のこと。「奮闘」は全力を出して戦うこと。味方から孤立し援軍も期待できない小数の部隊が、全力で敵軍と戦うという意味から。
援軍などの助けがなく孤立した状態でただひとり懸命に闘っていることや、誰の援助も受けずに努力していることを意味します。また、孤立した少数の軍勢でよく戦うことを指す場合もあります。そして援軍が来なければ尽きてしまうかもしれない、という将来の危機を抱えている背景も同時に表しています。
孤立した少数の軍勢でよく戦うこと。また、援助するものもない中で、ひとりで一所懸命に努力すること。[使用例] しかし、母を呼びに下りては、金さんの面目が失墜するだろうと思って、私一人、孤軍奮闘の防禦戦を試みたものである[檀一雄*淋しい人|1950][使用例] 昔はお母さんひとりが孤軍奮闘してたんだけど、今日では、お母さんの味方の方が多いの[丹羽文雄*幸福への距離|1951][解説] 「孤軍」は援軍と連絡が取れずに孤立した軍隊。「奮闘」は勇気をふるい、敵と戦うこと。
助けのない場所で、少数の味方だけで死力を尽くして戦うこと。援助なしで1人で努力すること。「孤軍」は、援軍がない孤立した軍隊。「奮闘」は、勇気をふるって敵と戦うことの意味。〔例〕「孤軍奮闘して会社のために尽くした」といったり、また、人の成功をたたえて、「今でこそ、鈴木くんの開発した商品はわが社のヒット商品として、ロングセールを続けておりますが、これまでになるには鈴木くんの孤軍奮闘の努力があったからであります」などのように使ったりする。
「孤軍奮闘」とは、〈だれも助けてくれない中で、力を尽くしてものごとに取り組む〉ことを表す四字熟語。いかにも中国の歴史書にでも出て来そうな風格を備えたことばですよね。でも、中国の古い書物をいくら探しても、実際に使われている例は見つからないのです。「孤軍」と「奮闘」に分解すると、それぞれ、古くから中国の書物で用いられているのですが、この2つをつなげた例は見あたりません。一方、日本ではどうかというと、明治の比較的早い時期から使用例があります。つまり、どうやら日本生まれの四字熟語のようなのですが、その出自について、それ以上の情報は得られないままでおりました。ところが、先日、国会図書館のHPで蔵書検索をしていたところ、とある詩吟の本の目次に、「城山(孤軍奮闘)」とあるのを見つけたのです。どうやら詩吟でうたわれる漢詩に「城山」というタイトルの作品があって、それが「孤軍奮闘」という別名で知られているらしいのです。その作品とは、次のようなものです。
   孤軍奮闘 囲みを破って還(かえ)る 一百の里程 塁壁の間
   吾が剣は既に摧(お)れ 吾が馬は斃(たお)る 秋風 骨を埋(うず)む 故郷の山
大意としては、〈援軍もないまま敵軍の包囲を破り、敵陣の間を縫って遠いところを帰ってきた。剣は折れ馬も死んでしまったからには、秋風が吹くこの故郷の山をわが死に場所にするとしよう〉といったところ。西道仙(にし どうせん。1836〜1913)という文人が、西郷隆盛の最期をうたった漢詩です。この作品は、西南戦争で西郷が自刃した翌月、1878(明治10)年の10月に発表されています。以来、西郷の人気もあって、詩吟の世界ではずっとうたわれ続けている名作とされているようです。もちろん、この漢詩以前に「孤軍奮闘」の使用例がなかったとは限りません。しかし、かつては詩吟を嗜む人が今よりもずっと多かったことを考えると、「孤軍奮闘」が多くの人に使われる慣用表現になるにあたって、この作品が大きな役割を果たしたことは間違いないでしょう。

●袋小路 
行き止まりになっていて通り抜けられない小路。転じて、物事が行き詰まった状態。「議論が―に入る」
行きどまりになっている路地。袋道。物事が行きづまって先に進めない状態。袋道。「審議は袋小路に入ってしまった」
建てこんだ家に行きあたったりなどして、通り抜けられない小路。また、物事が行きづまった状態にいう。袋露地。袋道。※或る女(1919)〈有島武郎〉前「葉子が据ゑた道を━行きどまりの袋小路を━天使の昇り降りする雲の梯のやうに思ってゐる」

●八方塞がり 
陰陽道(おんようどう)で、どの方向に向かってもすべて不吉の結果を招くこと。転じて、どの方法もふさがれてしまって、どうにもならないこと。
方途がなく、活路が見いだせない状況などを意味する表現。もともとは陰陽道において、いずれの方角も悪く、どの方向にも進むことのできない状況を指したとされる。
陰陽道(おんようどう)で、どの方角に向かって事を行っても、不吉な結果が予想されること。どの方面にも差し障りがあって、手の打ちようがないこと。
九星占いで、自分の生まれ年の星が方位盤の中央に位置している状態をいいます。吉凶が激しく、一度悪い方に向かうと、よくないことが立て続けにおきる年のため、慎重な行動をしたほうが良いとされています。9年に一度は、八方塞がりの年が巡ってまいります。数え歳で十の位と一の位を足して10になる歳、例えば19歳、28歳、37歳、46歳、55歳、64歳、73歳などが八方塞がりの年となります。(平成21年は九紫火星が八方塞がり)厄年と同じく、厄除祈願をお勧めしております。

●(類語)
進退窮まる / 抜き差しならない / 膠着状態 / 堂々巡り / 空転状態 / 万事休す / 万策尽きる / 打つ手なし / 五里霧中 / 立ち往生 / 前門の虎後門の狼 / 身動きが取れない / 絶体絶命 / ニッチもサッチもいかない  
 

 

●「お前と一緒に沈められねえだろ」退陣表明前夜、“2A”から首相に三くだり半 9/4
2日夜。菅義偉首相は、自民党役員人事の一任を取り付けるため、麻生太郎副総理兼財務相と接触した。
同じ神奈川県選出で信頼する麻生派の河野太郎行政改革担当相を要職に起用できないか―。だが、麻生氏は声を荒らげた。「おまえと一緒に、河野の将来まで沈めるわけにいかねえだろ」
首相は説得を試みたが、麻生氏は最後まで首を縦に振らなかった。
もう1人、首相の後ろ盾である安倍晋三前首相にも党人事への協力を求めたが“三くだり半”を突き付けられた。首相が「孤立」した瞬間だった。
一夜明けた3日午前11時半、自民党本部8階。居並ぶ党幹部を前にした首相は静かに目を閉じた。事務方が用意した「党役員人事は6日に行う」という書類には目を落とさず、こう言葉を絞り出した。
「1年間、コロナ対策に全力を尽くしてきた。総裁選を戦うには相当のエネルギーを要する。総裁選は不出馬とし、コロナ対策を全うしたい」
3日午前11時20分ごろ、菅義偉首相は自民党役員会に出席するために訪れた党本部で、二階俊博幹事長に辞意を伝えた。
前日には総裁選出馬の意向を示していた菅氏の突然の変心。驚いた二階氏は留意したが、首相は無言だった。
首相はこれに先立ち、官邸で麻生太郎副総理兼財務相にも面会。「しんどいです」。首相の気力はすでに失われていた。
新型コロナウイルス対策では「後手」批判を浴び続け、東京五輪の政権浮揚効果も不発。8月にあった地元の横浜市長選でも支援候補が「大敗」した。
党内には「首相のもとでは選挙は戦えない」という声が日増しに高まる。支持を期待する麻生氏も周囲に「このままだと、選挙は厳しいな」と漏らすようになった。
追い打ちを掛けたのが、9月の自民党総裁選で対抗馬になる岸田文雄前政調会長の「二階切り」を含む人事改革案。党内の中堅、若手から歓迎する声が上がり、総裁選の流れは岸田氏に傾き始めた。
焦りを募らせた首相や側近議員たちは、総裁選の先送りを模索。そこで浮上したのが、総裁選前に衆院解散し、与党勝利をもって党総裁選を乗り切る「9月中旬解散説」だ。
東京・赤坂の衆院議員宿舎で8月31日、首相は二階氏に既定路線とされた任期満了選挙に加え、9月中旬解散が選択肢にあることを伝達。二階氏は首相の判断に委ねると返答した。
だが、31日夜にこの話は漏れ伝わり、党内から「道連れ解散だ」「無理心中するつもりか」との批判が一気に広がった。麻生氏から9月解散説を知らされた安倍晋三前首相は、首相に電話で「総裁選はしっかりやるべきだ」と忠告。首相が重用している小泉進次郎環境相も「総裁選を先送りしたら首相も党も終わりです」と進言した。
翌1日朝、首相は官邸で「解散できる状況ではない」と表明。首相は「解散カード」を封じられた上、党内の信頼も同時に失った。
首相が、岸田氏の「二階切り」への対抗策として打ち出した人事刷新案もこの解散騒動で行き詰まる。
首相は安倍、麻生両氏と折り合いが悪い二階氏を幹事長から外すことで歓心を買い、さらに知名度の高い河野太郎行政改革担当相や小泉氏らを要職に起用することで刷新感を演出するはずだった。
だが、総裁任期まで1カ月を切る中での異例の人事案は「保身のためという狙いが透けて見える」(中堅議員)など、遠心力を招くばかり。麻生氏は河野氏に人事要請を受けないよう求め、安倍氏の出身派閥の細田派も距離を置き始めていた。
総裁選で菅氏が敗れることを想定すれば、菅氏の人事案に乗ることはリスクが高い。「誰も引き受け手はいない」(首相周辺)。無派閥で党内基盤のもろい首相に残された手は、もう残っていなかった。
二階氏は首相と面会した2日夜、派閥議員たちに「菅さんはやる気満々だ」との印象を伝えた。菅政権を支えてきた森山裕国対委員長も、菅氏が辞意表明する3日朝まで総裁選戦略や人事案などについて思案していた。
首相は3日、官邸で辞意の理由について「コロナ対策と総裁選は両立できない」と語った。だが、人事が見込みも立たず、孤立無援の末に1人で辞任を決めざる得なかったのが実情だ。
首相側近はテレビで首相の辞意を知り、こう嘆いた。「人事権も解散権も封じ込まれた総理総裁なんて見たことがない。最後は裸の王様だったよ」

●菅首相 急転退陣の真相 進次郎氏が説得「あらゆる選択肢をご意見した」 9/4
3日昼の自民党臨時役員会で党総裁選(17日告示、29日投開票)への不出馬を表明した菅義偉首相。事実上の辞意は、あまりにも突然の決断に見えた。2日夕に会談した二階俊博幹事長には出馬の意思を伝達。二階氏は首相の意向について「今朝聞いた」と話した。就任から約1年。戦闘モードに入っていた首相の退陣の真相とは――。
党役員人事の一任を取り付けるはずだった役員会でまさかの不出馬表明。6日に予定していた人事も実施しないと述べた。その直前に党本部で二階氏らと向き合った首相は「気力を失いました」と辞意を伝え、「うそだ」と声を上げる二階氏らに「決めたんだ」と慰留を拒んだ。これに先立ち、官邸で面会した麻生太郎副総理兼財務相には「正直、しんどい」と漏らした。
官邸に戻った首相は記者団には「コロナ対策と総裁選の選挙活動には莫大(ばくだい)なエネルギーが必要で、両立できない。感染防止に専念したい」と述べた。ペーパー棒読みではなくカメラに目を向け一方的に話した2分間。コロナ対応を理由にし、白旗とは認めなかった。記者会見を来週開くという。
終わりの始まりは8月22日の横浜市長選。選挙で負け続きの中、お膝元で全面支援した候補が惨敗、「首相では戦えない」との空気が充満し、総裁選再選がおぼつかない政治的な緊急事態に陥った。
後手対応が代名詞だが、局面打開へ先手、先手で攻勢。総裁選に手を挙げた岸田文雄前政調会長が菅批判票や反二階票の受け皿となっていく中、同31日に「禁じ手」「異例中の異例」といわれる総裁選前の人事に着手。さらに、劣勢の総裁選先送りを狙った9月中旬解散という暴挙まで画策。翌日、解散を打ち消したが、時すでに遅し。「個利個略」などの批判が噴出、若手ばかりか領袖(りょうしゅう)クラスの間でも菅離れが加速した。
最後の望みとして人事に執着。幹事長など4役の刷新を目指し、人気の高い河野太郎行政改革担当相(麻生派)や小泉進次郎環境相(無派閥)らの取り込みをもくろんだ。しかし、各派とも人を出し渋り人事は難航。「先手のつもりが独断専行が過ぎ、各派総スカンで事実上の菅降ろしの状況となった。自滅だ」(自民党関係者)。
もはやレームダック(死に体)と化した首相。再選支持を明言し、この日まで5日連続で首相と会っていた小泉氏は記者団に「現職の首相が(負けて)ボロボロになってしまったら、やってきたいいことすら正当な評価が得られない」ことを危惧、「あらゆる選択肢をご意見した」と述べ、不出馬の進言をしたことを示唆した。一方、河野氏の処遇を巡り、首相と麻生氏が2日夜に電話で激しい応酬を繰り広げたとの情報が永田町を駆け巡った。首相支持の意向とされた麻生氏だが、麻生派がまとまらない中での河野氏の一本釣り。河野氏の後継指名まで話が及び、麻生氏が「辞めろ」と迫ったという「麻生氏引導説」まで飛び交った。
人事断行に対する反対意見はさらに強まっていて、役員会での一任取り付けは厳しいとの見通しも伝えられていたようで、悪あがきは詰んだ。地元の神奈川県連が菅推し運動はしない方針を固め、戦意もそがれていった。
国民の気持ちばかりか党内の空気さえ読めなかった首相。コロナ下の政治空白につながる混沌(こんとん)とした状況だけが残った。

●「権力に酔って、権力に負けた」悲しき首相の最後 9/4
まさに、逃げるような退任劇だった。菅義偉首相の自民党総裁選不出馬が報じられた3日、13時からの囲み取材では「総裁選よりもコロナ対策に専念する」とだけ語り、記者の相次ぐ質問を振り切った。この1年の菅政権とは一体何だったのか。ほぼ何も説明もせず、首相の座を放り出した菅氏とは、結局、どのような人物だったのか。官房長官時代から「天敵」として菅氏を鋭く追求してきた東京新聞の望月衣塑子記者に聞いた。
――急転直下の辞任劇でした。内閣支持率が危険水域に入り、「菅おろし」の声も大きくなってはいましたが、総裁選直前にこのような形で辞任するとは想定外でした。どう受け止めましたか。
世論の逆風が吹く中で総裁選モードに突入しましたが、途中までは実に菅さんらしいやり方だったと思っていました。8月30日に下村博文政調会長に対して「(総裁選に)立候補するなら政調会長を辞任しろ」と迫り、出馬を断念させました。さらに岸田文雄前政調会長が出馬を正式表明し、「党役員を刷新する」と明言した途端に、力技で二階俊博幹事長を交代させる方針を打ち出し、総裁選の「争点隠し」を図りました。そして総裁選前に党役員人事を行って解散総選挙に打って出るという「禁じ手」のようなことまで模索していた。どんな状況でも、人事権を行使して、なりふり構わずに自分の権力を最大限に見せるよう執着している姿は、いかにも菅さんらしいと感じていました。ただ、リークも含めて解散総選挙の腹案がマスコミに漏れ、自民党内部から想像以上の反発が上がったあたりから、今までとは様相が違ってきました。すぐに菅さんは「今は解散できる状況ではない」と火消しに走り、小泉進次郎環境相と5日連続で会談して意見を仰ぐなど、迷走の度合いを深めているように見えました。この状況下で、小泉さんしか進言してくれる人がいないのかと不思議に思いましたし、そうだとしたら相当な“菅離れ”が進んでいると感じました。しかし表面上は強気の姿勢を貫いていたので、総裁選から降りるという選択をしたのは驚きました。よほど、助け舟がなかったか、安倍晋三前首相や麻生太郎財務相らの「菅おろし」の圧力がすさまじかったのだろうと察します。
――菅首相といえば「勝負師」「ケンカ師」などとも呼ばれ、負け戦でも勝負に出る性格であると言われています。過去の政局でも“賭け”に出たこともありますし、東京五輪開催の判断について「俺は勝負したんだ」と発言したとの報道もありました。今回はなぜ勝負に出なかったと思いますか。
選挙を戦う自民党議員にとっては、ここまで世論の支持を失っている菅さんは、「選挙の顔にはならない」というのが一致した見解だったのではないかと思います。その一方で、ほとんど脅しに近い形で下村さんの立候補をとりやめさせたあたりから、菅さんの圧力のかけ方は常軌を逸していきました。これまで霞ケ関の官僚たちは人事権を握られ、言う事を聞かざるを得なかったのでしょうが、自民党議員に同じことをしても、理解は得られません。周囲に圧力をかけすぎた結果、「いいかげんにしろ」と与党内での反発が広がり、菅さんを引きずり降ろそうとする圧力が想像以上に働きました。辞任を受けて、涙していた小泉さんも「解散をしたら自民党が終わる」と菅さんに迫っていたわけで、ある意味、慕っている側近たちからも、権力維持に固執し、解散の可能性を探る菅さんに「NO」が出されていたわけです。結果、自らの策に溺れた感がありました。外堀を埋められて自分でやれることがほとんどなくなってしまった。解散権が封じられてしまい、頼みの党役員人事も受け手が見つからずに相当難航していたようです。人事権を行使しようとしても状況を変えられない、人を従わせられないという状況は菅さんにとって相当つらかったと思います。それこそが、菅さんの権力の源泉だったわけですから。さらに、自身の選挙区である神奈川2区でも野党候補優勢という情報が永田町で出回っているなかで、このまま解散総選挙に突っ走り、政権交代でも起こったら、政治家生命が絶たれかねないという恐怖もあったかもしれません。そんなことになるくらいなら、選挙の「顔」からは降りて総裁選を盛り上げれば、少なくとも与党には恨まれず、野党にはダメージを与えられる。自民党を政権与党として存続させるために「身を引いた」政治家として評価される可能性があると思ったのかもしれません。いずれにせよ、人事権を行使しても状況を変えられないと悟った以上、もう自分を強くは見せられないと判断したのだと思います。
――結局、菅義偉という政治家はどのような人だったと思いますか。
菅さんは権力を維持するために人事を操り、頂点まで上り詰めた人です。でも、その権力が無力化すると、予想以上に弱かった。権力に酔っていた政治家が、最後は権力に負けたということだと思います。裏で参謀として権力を振るうことにはたけていても、日本をどうしたいのかという国家観を語れず、コロナ禍で浮き彫りになったのは、ワクチン一本打法で、市民の命を犠牲にし、五輪利権に血眼になっている菅さんの姿でした。記者会見では、相変わらずかみ合わない質疑が続きました。そこから市民の命と健康を預かっているという覚悟は感じられませんでした。菅さんの語る言葉には、市民を思う魂が込められておらず、これほど言葉に重みがない政治家はいなかったと思います。今、国民のためにやるべきことは、臨時国会を開いてコロナ対策の議論をすることです。それしかありません。外交的には、総裁選の最中、アフガンでの救出作戦も体制を立て直さなければいけない。当初退避予定者は、JICAや大使館の関係者含めて総勢500人と言われていましたが、日本が救出できたのは、わずか1人です。総裁選に明け暮れている裏で、多くのアフガニスタン人の命が現在もなお危険にさらされ続けているのです。国会でもこの問題は何よりもまず議論されなければならないはずですが、菅さんは、野党から追及されるのは、選挙で不利になるからと国会を開く気配さえない。アフガンに関しても興味を示さず、五輪開催のときと同じでまさに人命軽視の政治が繰り広げられました。こうした姿を見せられ続けた結果、菅さんがやっている政治は単なる政権維持の手段であって、市民のための政治ではなかったのだとはっきりわかってしまった。裏方の官房長官時代には、わかりづらかった菅さんの政治家としての本質的な姿勢が、首相として表に出てきてから、より鮮明にはっきりと浮かび上がってしまいました。そして最後は、菅さんの周りからは人が次々といなくなり、市民の心も離れていった。結局は、市民のために尽くす思いがない人が政治家、ましてや首相などやってはいけなかったということに尽きると思います。これから次の総裁選に向けての新たなレースが展開されます。忘れてはならないのは、首相を目指す人は、権力のトップに立つことを目的とせず、日本や世界に住む人々の命を預かる仕事をするのだ、という当たり前の覚悟を誰よりも深めるべきだと思います。

●「ショック」「明るくなる」 菅首相の退陣表明で霞が関 9/4
菅義偉首相の退陣表明を受け、中央省庁の幹部らは「本当にびっくり」「これほど急に政局が動くのは見たことがない」と一様に驚いた。同時に、官房長官から9年近く政権中枢にいた菅氏について「長かった」と弊害を指摘する幹部もいた。
菅氏は官房長官時代の2019年、電気や農業の利水ダムを水害対策に使う方針を決定。省庁の縦割りを破る施策で、国土交通省幹部は「災害対応に並々ならぬ強い意識を持っていた。馬力があった」。
50年に温室効果ガスの排出を実質ゼロとする目標を打ち出すなど地球温暖化対策にも意欲的で、環境省幹部は「ショックだ」と肩を落とす。パラリンピック開催中の退陣表明となったが、文部科学省幹部は「(大会を)やり遂げる強い意志があった。感謝している」と話した。
来年度予算編成作業を本格化させる財務省。幹部は「ぼろぼろになる前に辞任を表明して良かった。体面は保たれたが、政治的な影響力はもうなくなるだろう」。菅氏は成長戦略の具体化策の取りまとめを指示したが、この幹部は「新しいことは次の首相がやるのでは」と話した。
政府は14年、省庁幹部人事を一元管理する「内閣人事局」を設置。官邸が人事を掌握し、官僚の過度な忖度(そんたく)を生んでいると批判された。ある省幹部は「長かった。同じ人がずっと人事をやっていると好き嫌いが出てくる。霞が関も明るくなるのでは」と語った。
人事で中央官庁ににらみを利かせてきた菅氏だが、退陣の引き金となったのは自民党役員人事。別の省幹部は「人事で局面を打開してきたのに、人事でだめだった。皮肉な結末だ」。  
 
 
 

 

●安倍氏「森友」再燃を警戒 高市氏支援、岸田氏けん制か― 9/7
自民党総裁選をめぐり、安倍晋三前首相が高市早苗前総務相(60)の出馬を支援する背景には、岸田文雄前政調会長(64)をけん制する狙いもあるとみられる。岸田氏が、安倍政権で強い批判を浴びた森友学園問題などについて説明の必要性を訴え、安倍氏は再燃を警戒しているためだ。
「国民が納得するまで説明を続けることが政府の姿勢として大事だ」。岸田氏は2日夜のBS―TBS番組で、森友問題についてこう強調。党本部から河井克行元法相夫妻側へ支出した1億5000万円や「桜を見る会」など、安倍政権で相次いだ「政治とカネ」の問題に関しても、同様の考えを示した。
退陣する菅義偉首相(党総裁)が新型コロナウイルス対応などの「説明不足」と厳しく批判されたことを踏まえ、岸田氏は総裁選で、国民に説明する姿勢をアピールしている。課題の党員票を掘り起こす思惑からだ。特に、政治とカネの問題は、河井夫妻の選挙買収事件を受け、地元広島で陣頭指揮を執った4月の参院選挙区再選挙で惨敗したことも影響しているようだ。
これに対し、安倍氏は4日までに、出身派閥・細田派幹部へ高市氏の推薦人確保に協力する考えを伝えた。高市氏は政治信条が近く、政調会長など要職に起用してきた。支援は保守勢力へのアピールになる。安倍氏は、岸田氏が夫婦別姓推進派の議員連盟の呼び掛け人に名を連ねたことにも不満を漏らしていた。
安倍氏は衆院選後にも細田派へ復帰し、「キングメーカー」として党内に影響力を発揮したい考えとされる。森友問題が再燃すれば障害となりかねず、細田派中堅は「岸田氏への十分なけん制になる」と指摘した。
ただ、高市氏の当選は見通せない。一方、安倍氏は以前、初当選同期の岸田氏を「ポスト安倍」の有力候補とみていた。このため、高市氏支持で細田派の一部をまとめ、岸田氏が「勝ち馬」と見れば支援に転じる可能性もある。
岸田氏にとってはジレンマだ。主張を曲げれば安倍氏の支援を期待できるかもしれないが、党員票が離れかねない。岸田派関係者は「撤回というわけにはいかないが、今後は言い方を考える必要がある」と語った。  
 

 

●自民党総裁選候補の顔ぶれと主な政策 9/10
岸田文雄
金融政策 / 物価安定目標2%を維持。大胆な金融緩和(および財政、成長戦略)によるデフレ脱却最優先。
財政政策・税制 / 新たに数十兆円規模の経済対策、PB目標は「流れ見て判断」。予算の単年度主義是正、消費税は当面維持「増減税、与せず」。金融所得課税見直し。
コロナ対策 / 健康危機管理庁(仮称)の新設。医療難民ゼロを実現、ワクチンパスポートの普及。
成長戦略 / 「令和版」所得倍増、分配重視の日本型資本主義を構築。デジタル田園都市の実現、経済安全保障推進法の策定と専任大臣の設置。科学技術投資拡充のため年度内に大学ファンド10兆円規模。
外交・防衛 / 台湾海峡などの課題に米など台湾海峡などの課題に米など土領海守るため国家安全保障戦略を改定、インテリジェンス機能を充実。地球温暖化、核軍縮不拡散などでリーダーシップを発揮。中国との対話は維持。
河野太郎
金融政策 / 物価安定2%目標「今の状況では厳しい」、インフレ率は経済成長の結果。金融政策は日銀に委ねる、日銀は市場との対話を。
財政政策・税制 / GDPギャップは22兆円ある。「有事の財政(出動)避けられない」。経済対策の原資は国債「規模感は研究」。未来につながる投資は必要。コロナ禍でPBは様々な議論必要、消費税率は維持。
コロナ対策 / ワクチン接種を迅速に進め、必要な3回目接種を準備。ワクチン2回接種後の経済・社会の「平常化プログラム」を提示。検疫を強化し新たな変異株の国内侵入防ぐ。
成長戦略 / デジタルの力で日本を前に進める。アベノミクスで企業収益はあがったが、賃上げまで至っていない。
外交・防衛 / 新たな脅威に対応する国家安全保障戦略の見直しと防衛力の整備・強化。拉致問題解決に全力。一方的な現状変更の試みには国際社会と足並みをそろえ対処。価値観共有できる国と連携。
高市早苗
金融政策 / 日本経済強靭化計画「サナエノミクス」を推進。金融緩和、緊急時の機動的な財政出動、雇用と所得拡大につながる危機管理・成長投資を通じ、物価目標2%を達成。
財政政策・税制 / 物価目標2%達成までは時限的にPB規律を凍結。戦略的財政出動を優先し、早期に補正予算を編成「規模は丁寧に積み上げ」。低所得者に給付つき税額控除、災害損失控除を創設。消費税率は10%維持。
コロナ対策 / コロナ治療薬の早期投与による重症者・死亡者の極小化、ワクチン接種を推進。経営基盤強化へ大胆な財政支援。ロックダウン(都市封鎖)を可能とする法整備検討。
成長戦略 / 環境に優しい小型核融合炉の開発推進、国産量子コンピュータの開発。「令和の省庁再編」にチャレンジ。耐震化対策や送電網、通信網の強靭化で10年間で100兆円の中期計画。
外交・防衛 / 激増するサイバー攻撃に金融制裁含むサイバーセキュリティ対策。経済安全保障包括法(仮称)を整備、防衛関連の研究費を増額。
 

 

●自民党総裁選 立候補表明の3人 政策をアピール 9/11
菅総理大臣の後継を選ぶ自民党総裁選挙で、立候補を表明している岸田前政務調査会長、河野規制改革担当大臣、高市前総務大臣の3人は、テレビ番組に出演したり、オンラインで中小企業の経営者らと意見を交わしたりして、それぞれが掲げる政策をアピールしました。
自民党の岸田前政務調査会長は、午後、東京都内の派閥の事務所で、中小企業の経営者らとオンラインで意見を交わしました。この中で、東京都内で菓子店を営む店主からは「大規模店舗の進出によって価格競争が激しくなり、地域の小規模な店舗が次々と廃業している」として、大規模店舗の出店規制などを求める声が出されました。これに対し岸田氏は「各地の中小零細の店舗で厳しい状況が続き、まだまだ対策が不十分だということは強く認識している。規制緩和や構造改革は大事だが、同時に多くの中小零細の店舗が元気に生きていくための方策を充実させなければならない」と応じました。そのうえで「利益を一部の人が独占するのではなく、地域で頑張っている方々にも分配され、所得が引き上げられることが大事だ」と述べ、みずからが掲げる、成長と分配の好循環を目指す経済政策の内容を説明し、支持を呼びかけました。
自民党の河野規制改革担当大臣はテレビ番組に出演したほか、国会近くの議員宿舎で、みずからを支援する議員と、今後訴える政策などをめぐって意見を交わしました。そして、議員宿舎で記者団の取材に応じ「派閥を挙げた支援を求めるか」と問われたのに対し、河野氏は「そんなことができる派閥はないと思うし、そんな必要もない。河野太郎の考えを理解してくれる一人ひとりの支援をいただいていきたい」と述べました。また、厚生労働省の在り方をめぐって「社会保障改革をやらなければいけない中で、年金や医療の改革をするとなると、1人の大臣で担当するのは、非常に大変ではないか。厚生労働省に特命担当大臣を置くやり方もあるだろうし、役所を分けるやり方まで、いろんなことが考えられる」と述べ、体制を見直す必要があるという認識を示しました。さらに河野氏は、核燃料サイクル政策について「核燃料の再処理をやめる決断は1日でも早いほうがいい。ただ、これまで協力してくれた自治体に迷惑をかけないよう、国は責任を持たなければならない」と指摘しました。
自民党の高市前総務大臣は、テレビ番組などに出演したほか、国会近くの議員宿舎でみずからを支援する議員らと支持拡大に向けた取り組みを協議しました。そして、高市氏は国会内で記者団に対し「きょうも全国各地で同志の議員が政策リーフレットを配るなどしてくれている。協力に感謝しながら1人でも多くの人に共鳴してもらえるよう頑張りたい」と述べました。また、10日に立候補を表明した河野規制改革担当大臣をめぐり、党内で「持論を封印したのではないか」という受け止めがあることについて問われ「河野大臣には河野大臣のやり方がある。私はあまり持論を封印しない方なので、あつれきもあるかもしれないが、信念は曲げないし、政策も変えることはない」と強調しました。一方、領海の警備などにあたる海上保安庁の武器使用について「今の法律では、現場で非常に厳しい判断を迫られ、一種のあいまいさもある。具体的に、どういう時に武器使用ができるのか明確化していく」と述べ、関連法の改正が必要だという認識を示しました。
自民党の石破元幹事長は午前、水戸市で街頭演説し「菅政権がたった1年で終わることをわれわれは国民におわびしなければならない。『説明が下手だ』などと言われるが、それを支えるのが自民党だったはずだ」と述べました。このあと、石破氏は茨城県筑西市で記者団に対し、総裁選挙への対応について「ギリギリになっても迷惑だが、納得がいかないまま拙速に決めることも避けたい。あす、そうしたことを考える1日になればいいと思っている」と述べ、近く最終的に判断する考えを示唆しました。
自民党の野田幹事長代行は、東京都内の自宅で党所属の国会議員に電話をかけ、立候補に必要な20人の推薦人の確保に向けて協力を呼びかけました。野田氏は、引き続き竹下派や二階派などの所属議員にも支援を呼びかけ、推薦人の確保を急ぐ方針です。
菅総理大臣は、午後、自民党の地方組織と意見を交わす、オンライン形式の会合に出席しました。この中で、菅総理大臣は「総理大臣に就任以来、新型コロナ対策を最優先に取り組んできた。足元の感染はようやく減少傾向にあるが、収束には至っていない状況で、緊急事態宣言が続く中、新型コロナ対策に専念すべきだという思いから、総裁選挙には出馬しないことにした」と総裁選挙への立候補を断念したことを報告しました。そのうえで「総裁選挙が終わると、すぐ衆議院選挙だ。新型コロナを乗り越え、古きよき伝統を守りながら、変えるべきことは思い切って変え、国を前に進めていくことができるのは自民党だけだ」と述べ、衆議院選挙に向けて地方組織や党員の結束を呼びかけました。

●安保/憲法/経済、3氏の政策比較 自民総裁選 9/11
自民党総裁選(17日告示、29日投開票)は、11日までに岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、河野太郎ワクチン担当相が立候補を表明し、構図が固まりつつある。3氏の政策を比較すると、外交・安全保障、憲法改正、経済政策などで独自色がうかがえる。
外交・安全保障
岸田氏は中国を念頭に、半導体など重要物資の確保や技術流出の防止のための「経済安全保障推進法」制定を掲げ、担当閣僚新設も視野に入れる。
高市氏は「敵基地の迅速な無力化」を主張、安倍晋三前政権で浮上した「敵基地攻撃能力」の保有議論を引き継いだ形だ。次期国会で中国の人権侵害などを非難する決議の採択を目指す考えも示している。
河野氏はサイバーなど新たな分野における自衛隊の能力強化を訴える。慰安婦問題では旧日本軍の関与を認めた河野洋平官房長官談話を引き継ぐと明言した。
憲法
岸田氏は自民党が示した緊急事態条項新設や自衛隊明記を含めた改憲4項目について、在任期間中の実現を目指すとしている。
高市氏も「時代の要請に応えられる日本人の手による新しい日本国憲法」の制定に意欲を示す。
河野氏は新しい時代にふさわしい改憲を訴えるが、10日の会見では日程や改憲項目には言及しなかった。
皇位継承
岸田氏は女系天皇に反対する立場を打ち出した。
高市氏も旧皇族の皇籍復帰を可能にする案を支持し、皇位継承の男系維持を訴える。
河野氏は過去に女系天皇容認ともとれる発言をしたが、旧宮家の男系男子の養子縁組を選択肢とした政府の有識者会議の中間整理を支持する考えを表明し、軌道修正した。
新型コロナウイルス
岸田氏は、医療難民ゼロやステイホーム可能な経済対策などを発表した。
高市氏は海外生産に依存する治療薬の国産体制の整備などにも意欲を示す。
河野氏は、3回目のワクチン接種の準備に加え、2回目接種後の経済・社会の平常化プログラムを示す意向を示した。高市氏と同様、感染症対策としてロックダウン(都市封鎖)の必要性にも言及している。
経済政策
岸田氏は岸田派(宏池会)創設者の池田勇人元首相に倣って「令和版所得倍増」を掲げ、子育て世帯の支援強化などを訴える。
高市氏は日本経済の強靱(きょうじん)化を目指す「サナエノミクス」として、金融緩和や財政出動などで2%の物価目標達成を目指す考えだ。
河野氏は2%達成は「かなり厳しい」と指摘。労働分配率を一定水準以上にした企業への法人税の特例措置などを打ち出す。

●原発、コロナ、アベノミクス…立候補3氏の主張は? 9/11
自民党総裁選は10日、河野太郎行政改革相が立候補を表明し、現時点で岸田文雄前政調会長と高市早苗前総務相と争うことは確実になった。河野氏がこだわってきた原発政策のほか、収束が見通せないコロナ禍への対応や低迷する経済の立て直しといった喫緊の課題について、3氏の主張を比較した。
どうする原発
政府が掲げる2050年までの脱炭素化に向け、3氏とも再生可能エネルギーを増やし、原発を一定程度活用する考えだ。だが、いつまで原発を使うかで立場が異なる。「脱原発派」で知られる河野氏は10日の出馬会見で、原発の新増設は「現実的ではない」と否定し、「いずれ原子力はゼロになる」と持論を述べた。一方、省エネや再エネを補うため、「安全が確認された原発を当面は再稼働するのが現実的」と、当面の再稼働は容認。公表した政策集には「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策」と記し、原発推進派も多い党内への配慮をにじませた。これに対し、高市氏と岸田氏は将来も原発を使う考えだ。高市氏は天候で発電量が左右される再生エネに懸念を示す。火力や原子力の必要性を強調し、原子力は地下にもつくれる小型炉や核融合炉などの開発に向けた大型投資を打ち出す。岸田氏も再生エネ「一本足打法」に疑問を呈し、核融合エネルギーについて国家戦略を策定するという。(新田哲史)
コロナ対策 ロックダウン可能に?
最も急がれる新型コロナへの対応をめぐっては、岸田氏は「国民の協力を得る納得感ある説明」を掲げる。菅政権の説明が不十分だったとの認識を示唆した。新型コロナと共生する社会のあり方を検討する専門家会議の立ち上げや、政府の権限を強化する「健康危機管理庁」の創設を打ち出したのが特徴だ。高市氏は、ロックダウン(都市封鎖)を可能にする法整備の検討を掲げた。軽症・中等症向けの治療薬の国内生産体制の構築をめざす。今後のワクチン接種では、理美容師や自衛隊員らも優先接種対象にする方向で順位を見直す。河野氏は、ワクチン接種の「1日100万回」の実現や7月末までの「高齢者接種完了」を実績としてアピール。3回目の接種に向けた準備や、治療薬や国産ワクチンの開発への強力な支援も打ち出した。ロックダウンの権限を政府にもたせる議論が必要だという考えも示した。(下司佳代子)
アベノミクス どう修正
9年近く続く安倍前政権の「アベノミクス」について、分配のあり方に修正を加えたいと訴えているのが、河野氏と岸田氏だ。河野氏は、アベノミクスは企業収益を増やす一方、賃金には波及が乏しかったと指摘。「労働分配率を一定水準以上にした企業に法人税の特例措置を設ける」など、重心を「企業から個人」に移すとした。岸田氏も、中間層への分配を増やすと主張。住居費や教育費の支援、医療従事者らの賃金アップなどを掲げる。一方、高市氏はアベノミクスを発展させると訴える。物価上昇率が2%になるまで、政府の財政再建目標を一時凍結し、「戦略的な財政出動を優先する」とする。「危機管理投資」と銘打ち、災害に備えた公共事業やワクチンの国産化などに巨費を投じる方針だ。
支援策は次々 国民負担は?
コロナ禍で生活が苦しい人らへの支援策にも違いがみえた。岸田氏は働く人すべてに社会保険を適用し、セーフティーネットを拡充させるとする一方、高市氏は、働きながら子育てや介護をする人を支えるため、ベビーシッターや家政士など家事支援職を国家資格にした上で、利用料の一部を税額控除にする考えを示した。河野氏は、必要な人に行政側から支援を届ける「プッシュ型」を拡充するとした。一方で、3氏とも国民負担増につながる施策の発信は少ない。消費税の税率引き上げはいずれも否定。財政再建についても、コロナ禍の収束が先決だとの立場で共通している。
石破氏、どう動く? 
立候補するか動向が注目される石破茂元幹事長は、具体的な政策の発信はまだ多くはない。ただ、コロナ禍については、医療機関で病床などが十分活用されていない点を問題視し、機動的な患者受け入れにつなげる法整備の必要性をたびたび訴えている。また、昨秋の前回の総裁選時には経済対策として、税負担の軽減などによる家計支援と、機動的な財政出動を掲げた。この時は「デフレに後戻りしないマクロ経済政策は継続する」とし、アベノミクスの骨格を維持する考えを表明。一方で、思い入れが強い「地方創生」をアピールし、東京一極集中の解消と地方主導の経済発展、内需主導型経済への転換を訴えた。貧困や格差の是正に向けて低所得者や子育て世代などへの支援拡充も掲げている。森友学園問題では、再調査に消極的な3氏と対照的に、「国民の納得のために必要なことであれば、やらなければならないだろう」と9日のテレビ番組で語っている。  
 

 

●大手メディアは報じない総裁候補4人「自民党内でのホントの評判」 9/12
ニュースは自民党総裁選ばかり。暗躍する党内各派の思惑が入り乱れる「報道」が興味深い。
次期総裁への期待は、世論調査によると、河野太郎が31.9%でトップ(共同通信)。一方、本誌が既報し、政治関係者が注目した「自民党員・党友調査」によると、石破茂が29%で1位だ。
河野と石破の人気には、唯一最大の共通項がある。安倍、麻生、二階との「ディスタンス」だ。この距離感こそが、権力におもねらない、志のある政治家としての石破、河野の評価に繋がっている。しかしというか、それだけに、自民党内の声は微妙だ。
河野と石破。自民議員の「本音」を聞いて歩いた
「河野太郎は今、権力を目前に猫をかぶっているだけ。総裁になったら、制御不能になる。脱原発、女帝容認の方向を明確にするだろう。党の方針なんて無視。トランプさながら『官邸発河野ツイッター』を炸裂させる。河野は、いわば日本のトランプ、リトル小泉純一郎なんだ」(細田派議員)
「河野は安倍政権で初入閣。このとき、父·河野洋平元自民党総裁が官房長官時代に発した、従軍慰安婦問題に関する『河野談話』を否定したじゃないか。つまり、踏み絵だ。同時に、脱原発ブログも閉鎖して権力におもねった。状況に応じてそういう変節が平気でできる。信用できるわけがないじゃないか」(無所属議員)
一方、国民人気No.1の石破だが、党内の声は手厳しい。
「石破茂の正論は、相手に逃げ道を作らせてやらないから、聞いていて息苦しくなる。しかも回りくどい口調が鼻につく。間違ったことは言わないが、あの調子で安倍·麻生批判をしたので嫌われた。顔も怖いし、なぜ世論がいつも『次の首相にふさわしい政治家』のトップに選ぶのか、ちっとも分からない」(麻生派議員)
「石破のように、野党と一緒になって体制批判をすればそりゃ人気は出るでしょう。外にいい顔しすぎて、自民党内では友達が少ない。派閥が大きくならないことが石破と党の関係性を如実に物語っているんですよね」(安倍周辺)
これが、世論から最も支持されている「自民党2トップ」の党内評判と現実だ。
主に若年層が支持する河野、実年層以上に人気の石破と支持層は明確に分かれる。逆にいえばこの2人で全世代をカバーしている。それなら、間近に迫った衆議院総選挙をこの2トップで挑めば、全世代対応で自民不人気の失地は挽回できるのではないか。だが、そうは簡単にいかないのが、自民党という政党だ。どちらも総裁には選出されないだろうと大方は見ているのだ。
高市はなぜ…?
では「女性初」の看板をもち最大派閥の細田派と安倍前首相が後ろ盾となった高市早苗が優勢なのか。
「高市は、野田聖子が総裁選に出馬したときの対立軸という役まわり。それに加えて、安倍が、支持団体の日本会議に向けて党として送ったメッセージという役割です。なんにしても、ツールに過ぎない」(中堅議員)
「女性初」が、リベラル寄りの野田聖子では、自民党コア支持層が離れてしまうという理屈らしい。哀れである。
結局「ふにゃふにゃ」の岸田は安倍の顔色最優先
そして岸田文雄。自民党有力代議士が解説する。
「岸田は、外相時代に安倍本人から政権禅譲というニンジンをぶら下げられ、総理の椅子を強く意識するようになった。そのとき、岸田派の名誉会長として隠然たる力を持っていた古賀誠元幹事長が目障りだった麻生が、『古賀切り』を条件に禅譲をちらつかせた。昨年暮れ、岸田はついに古賀を放逐して、今回の総裁選を迎えたんです」
どっぷり保守の安倍と麻生は、古賀にコントロールされている岸田派が安倍らに敵対する勢力になることを警戒した。そのため、根こそぎ排除したのだ。伝統の派閥「宏池会」の長老政治家を裏切り追いやった岸田には、総理の座が転がり込んでくるはずだったが…。
モリカケ、桜、河井夫婦への政治資金など解明されないまま放置されている安倍前政権の疑惑の数々。なかでもモリカケ問題について岸田は、BS番組で「さらなる説明をしないといけない」と発言。これが安倍の逆鱗に触れ、安倍と細田派は高市全面支持へと舵を切ることになったのである。
「岸田が安倍に謝った」(関係者)
直後に流れた怪情報とともに、岸田は「再調査は考えていない」と発言を一変させ、今度は「安倍の靴を舐めた」と世論からバッシングを受ける。波紋は拡大するばかりだ。
「総裁選は、どの候補者も過半数に達しないのがミソだ。決選投票で大派閥が票の流れを作る事になるだろう。おそらく、1回目の投票とはまったく違う結果がでることになる」
自民党の幹部は、含み笑いでそう言った。が、しかし、である。
党員票「383票」の大半を、河野なり石破がごっそりとかっさらい、万が一にも過半数に近い得票だったとき、世論はどのように反応するだろうか。
国民の声が反映されない総裁選を注視する
「党員·党友の声は、国民の声に近いのですから、本来なら反映されてしかるべきなんですが…」(関係者)
態度を保留している石破がもし不出馬を決めれば、党員票は河野に集中すると見られている。その後の決選投票で、議員票が他の候補に集中して党員投票の結果が覆されたら「自民総裁選は公正な選挙ではなく大派閥による数の力学、単なるセレモニーだった」と断罪されるだろう。国民は懐疑の目を向けるに違いない。もちろん、中堅若手が立ち上げるという「党風一新の会(仮称)」にも、同じ目が向けられることは言うまでもない。
「若手議員のなかには、迷いに迷っている者も少なくない」(ベテラン議員)
「派閥は一致結束して主流派を獲り、党四役のポストを獲るべしと言います。けど、僕らはとにかく、まずは選挙に勝てる総裁を選びたい。まずは議員バッジが必要なんです」(自民若手議員)
自民総裁選に一般の国民は投票権をもたないが、自民総裁は総理になるのだ。まるごと自民党の、すべての振る舞いをしっかり見届けるべき総裁選挙だ。この国のリーダーが決まる選挙なのだから。

●「安倍前首相」の懐刀の暗躍に不信感を拭えなかった「菅首相」 9/12
菅義偉首相が9月3日、自民党総裁選に出馬しない旨を明らかにしたとき、それを予想できた永田町の住民はほとんどいなかったという。予定される総裁選の前に解散に打って出ると報じられたことをキッカケに一気に「菅おろし」の声があがったのは間違いないが、首相がどこまで本気で「総裁選前の解散」を考えていたかが明らかになるにはもう少し時間がかかりそうだ。それよりも、菅首相が安倍晋三前首相の懐刀の暗躍に不信感を拭えなかったという指摘がある。水面下で対峙していた安倍vs菅の雌雄が総裁選で決するか。
懐刀とは安倍内閣で秘書官や補佐官を歴任し、戦後最長政権のかじ取りを担った経済産業省出身の官僚、今井尚哉氏を指す。
政治部デスクに聞くと、「今井さんが岸田(文雄)陣営の政策作りに関係しているという話が流れ、それを耳にした菅さんは不満を漏らすようになったと言います。今井さんは現内閣でも官房参与を務めていますから、菅さんの不満は一応筋が通っている。今井さんがそういう動きをするにあたっては安倍さんとは何らかのやり取りがあるはずでしょうから、菅さんは安倍さんに不信感を抱いたというわけです」
菅氏が、この件について安倍氏に直接ただしたなどという噂も出回っていたという。
「安倍さんが病気で首相の座を降りるにあたり、菅さんはいわば火中の栗を拾うようにして後を継いだわけです。しかも安倍さんはずっと『菅続投』を公言してきたわけで、菅さんとしては面食らったというか、いい面の皮だと思っていたのかもしれません」(同)
これに加えて、「ついでに言うと、今井さんと共に安倍政権を支えた北村さん(滋・前国家安全保障局長)は、岸田さんと私立開成高校で同窓。霞が関と永田町の関係者の会を立ち上げ、『岸田首相』実現の後押しをしています。この2人がちらついている時点で、菅さんも安倍さんの変心を意識しないわけにはいかなかったのでしょう」
別のデスクにも聞いてみると、「もちろん今井さんは岸田陣営に与していることを認めてはいないようです。が、岸田さんの政策は妙に具体的で実現性もあり、言葉は悪いですが今井さんの存在は“バレ”ていますよね(笑)。安倍さんが国政選挙で連戦連勝できたのは野党の体たらくもさることながら、解散のタイミングを進言するなどした今井さんの勘に負うところも大きい。その意味では、いわゆる『二階斬り』についても岸田さんにアドバイスした可能性はありますね」
要するに今井氏は、公式の立場こそ菅首相の部下だったが、心はすでに岸田氏のもとに行ってしまっていた、というわけだ。その岸田氏が出馬にあたって、目玉としてぶちあげたのが「自民党の役員人事を最長3年とする」という公約だった。
「自民党の幹事長として歴代最長となっている二階さんへの当てつけそのもので、安倍さんや麻生さん(太郎財務相)も望んでいたことだった。ここまではシナリオ通りだったと思いますが、その案を菅さんがパクるように幹事長交代の流れに走ったあたりから計算が狂っていったものと思われます。そして、最大の誤算は菅さんが降りたこと。人気のない菅さんと勝負したかったのですがそれは実現せず、代わりに河野さん(太郎・行革担当相)が出てくることになってしまいました。しかも菅さんも河野さんを応援すると見られています」
河野氏は麻生派所属。盟友の安倍氏と足並みをそろえるのが当然の麻生氏としては出馬を翻意させたかったのだが、説得工作は不調に終わったようだ。麻生氏は岸田氏を支持すると見られ、派閥のボスが自派閥候補を応援しないというのはあまり聞いたことがない。異常事態だ。
「河野さんも出ると言ったら退かないタイプですからね。国民に人気があるとされ、実際そのような調査結果が出ていますが、それがいつまで持つかわからない、わからないのなら人気があるうちに勝負したいという考えのようです」
一方で、永田町や霞が関界隈で河野氏を評価する声はほとんど聞こえてこないという。
「とりあえず追い風で楽な選挙しか経験していない当選3回以下の衆院議員にとっては、人気のある河野さんを顔にして選挙に臨むのがベターなんでしょう。ただ正直、なんで人気があるのかわからないんですよね(笑)。瞬間湯沸かし器というか、頭に血がのぼりやすいと言いますし。一方で岸田さんのことを悪く言う人は皆無。“とにかく良い人”というような評価です」
総裁選の趨勢は? 
「河野さんとしては、国会議員票はあまり見込めないという想定のもと、メディアなどを通じて国民に直接訴えかける方法で党員のハートをぐっと掴み、決選投票に持ち込まずに1回目で勝負を決められるかがポイントでしょう」
安倍氏が仕掛けたと言うといささか語弊があるが、「二階斬り」や安倍氏の懐刀による岸田陣営への関与などから今回の政局は動き出した。菅氏はそれに一旦は敗れたかに見えたが、やられっぱなしになるかはまだわからない。最終的にその勝敗は総裁選でつくということになるのだろう。

●岸田氏・高市氏・河野氏の経済政策は三者三様…「アベノミクス」温度差 9/12
自民党総裁選(17日告示、29日投開票)に出馬表明した岸田文雄・前政調会長、高市早苗・前総務相、河野太郎行政・規制改革相の3氏は、経済政策について三者三様の主張を展開している。安倍前首相が掲げ、菅首相が継承した「アベノミクス」からの距離感や分配の考え方が焦点となる。
岸田氏は11日のテレビ西日本の番組で、「経済成長と合わせて社会の格差が開いてしまった。成長と分配の両方が必要だ」と強調した。アベノミクスの成果を評価し、維持しつつも、一部企業に利益が集中して格差は拡大したという問題意識だ。新自由主義的な政策を転換し、分配を重視する「新しい日本型資本主義」を掲げる。中間層への分配強化のため、子育て世帯への住居・教育費支援を進める。新型コロナウイルス対策では数十兆円規模の財政出動を打ち出したが、「財政再建の旗は降ろさない」と財政規律も重視する。
河野氏もアベノミクス路線の修正を図る。10日の出馬記者会見では「企業部門は非常に利益を上げることができたが、賃金まで波及しなかった」と指摘した。「個人を重視する経済を考えていきたい」と述べ、労働分配率を高めた企業への法人税優遇を提唱する。
菅首相が進めた「デジタル」「脱炭素」を引き続き経済政策の中心に据え、テレワークを容易にする5Gネットワークや、脱炭素社会で必須となる蓄電池、太陽光発電技術などへの投資拡大で経済成長を目指す。
一方、高市氏は「サナエノミクス」と銘打ち、アベノミクスの継承を訴える。物価上昇率2%を達成するまで、財政再建の指標である基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標を凍結し、大規模な金融緩和と財政出動を実施すると主張。大規模災害に備えた「危機管理投資」と、ロボットや半導体技術などへの「成長投資」で機動的な財政出動を図る。11日の読売テレビの番組では「(思い切った財政出動は)雇用を生み、所得も増え、必ず税収として戻る」と力説した。

●総裁選で自民重鎮の動向焦点…岸田氏・高市氏が接近、河野氏は距離  9/12
自民党総裁選で、森喜朗・元首相(84)や青木幹雄・元参院議員会長(87)ら政界引退後も影響力を保つ重鎮の動向に注目が集まっている。重鎮から出馬のお墨付きを得られれば支持拡大が期待できるが、ブレーキをかけられる場合もある。接近するか、距離を取るか、候補者の対応は様々だ。
高市早苗・前総務相は8月上旬、東京都内で森氏と会い、出馬への協力を求めた。森氏は最大派閥の細田派(旧・森派、96人)に今も大きな影響力を持つ。
森氏は「安倍前首相の路線」継承を訴える高市氏に理解を示し、安倍氏が高市氏を支持する流れにつながった。高市氏は出馬表明した8日も電話で森氏から激励された。いち早く出馬表明した岸田文雄・前政調会長も8月中下旬、細田派の支持取り付けを目指して森氏との面会を重ねた。
かつて「参院のドン」と呼ばれ、参院竹下派に影響力を残す青木氏の都内の事務所にも、総裁選関連の訪問者が絶えない。出馬に意欲を示す野田聖子幹事長代行や、不出馬を検討する石破茂・元幹事長らが訪問したほか、岸田氏もあいさつに訪れたとみられる。
こうした動きと一線を画すのが、河野太郎行政・規制改革相だ。
「もう森先生は勇退されている。特にお目にかかる予定はない」
河野氏は11日、都内で記者団に、森氏と面会する意向はないと明言した。河野氏は2009年総裁選に出馬した際、派閥や長老支配を批判した経緯があり、森氏ら多くの重鎮と折り合いが悪い。河野氏は麻生派(53人)に属するが、「派閥の意向で1票入れないといけない、という選挙ではない」とも述べた。ただ、河野氏は、青木氏と頻繁に接触する竹下派幹部には助言を求めている。
もちろん、重鎮の意向が通らないこともある。岸田氏に宏池会(岸田派)を引き継いだ古賀誠・元幹事長(81)は菅首相の無投票再選を望み、岸田氏の出馬には否定的だった。古賀氏は岸田氏に出馬見送りを求めたが、岸田氏は出馬に踏み切った。

●自民党総裁選「三候補」誰になっても、あまり変わらないワケ  9/13
「過大評価」河野氏、「過小評価」高市氏
先週、河野太郎氏が自民党総裁選(19日告示、29日投開票)に出馬を表明し、岸田文雄氏、高市早苗氏と候補者が3名出そろった。19日の告示まで時間があるが、この3名が主軸になるだろう。
いうまでもなく、自民党総裁選での有権者は自民党員だ。筆者は自民党員でもないので、総裁を選ぶ資格もないので、まったく部外者であり、テキトーな評論家と変わりない。
とはいえ、「まずどうなるか」は誰でも興味があろう。新聞でも世論調査を行っている。
例えば、9月11日の日経新聞である。この調査は、「日経リサーチが全国の18歳以上の男女に携帯電話も含めて乱数番号(RDD)方式による電話で実施し984件の回答を得た。回答率は43.3%だった」と書かれており、その方法では、先週本コラムで指摘した記事の調査よりは多少信頼できる。
もっとも、自民党総裁選の有権者は自民党員であるので、自民支持層を調査しても正確なランダムサンプリングになっていない。自民党員名簿でもない限り、まともな調査は出来ないだろう。
しばしば言われることに、自民党員は保守系のコアな支持層が自民支持層より多いということだ。ということは、河野氏の31%は多少過大評価、高市氏の12%は多少過小評価の可能性がある。
いずれにしても大胆にこの数字を元に考えてみよう。現時点で石破茂氏の出馬の可能性は少なく、もし出馬しないと河野氏に回る可能性があるとしても、河野、石破氏の自民支持層の44%は自民党党員ベースで過大評価になる。
一方、岸田氏と高市氏の自民党支持層の30%は自民党員ベースで過小評価になる。となると、岸田氏と高市氏の自民党員ベースで過半数を超える可能性もあるので、今の時点で、河野氏が優位とはいえない。つまるところ、結果を予想できないという凡庸な中間結論になる。
世論調査はあてにならない
自民支持層に限った世論調査としても、実際に投票するのは自民党員であるので、両者の差は必ず認識していないとマズい。まして、一般人に対する世論調査から、自民党総裁選を予測するのは無理だろう。
ここで述べていることは、自民党員(含む国会議員)による総裁選では、一般人に対する世論調査は当てにならないという指摘だけだ。そうしたマスコミ調査で、河野氏が優勢といっても、それはどうかなと指摘しただけだ。
しかし、そうした指摘をすると、河野推しではなく、他候補推しといわれる可能性もあったので、先週の本コラムでは、週刊誌の河野氏パワハラ報道も批判した。元国家公務員からみて、人事権をもたない他省庁大臣はパワハラ対象でもないし、公務員のルールとしては他省庁大臣と意見が違えば、自省の大臣に報告するだけで、週刊誌にリークするのはおかしいと書いただけだ。
これに対して、筆者は「河野推しなのか」とも、週刊誌関係者から言われた。話のロジックから言っても、河野推しとは無関係で、公務員の在り方から問題といっただけだ。
筆者は、もともと他人の批判をすることは少ない。もともと、価値観も基づいた発言はしないのをモットーとしているので、他人と事実認識で違いがあればいうが、価値観の違いで議論することはまずない。
しかし、幸いなことに、今回の自民党総裁選では、靖国参拝も争点になっており、見応えのあるやりとりも少なくなく、これらを紹介することはできる。
9月12日フジテレビ「日曜報道」において、高市早苗氏が出演し、靖国参拝について堂々と持論を述べていた。橋下徹氏が、「中国に進出している日系企業は不利益を被っても、靖国に行くか」と言われても、「そうですね」と応じた。
同時に、中国からの日系企業の回帰策や同盟国の理解を得るための努力という靖国参拝のための環境整備も主張していた。この点については、橋下氏のいう環境整備を否定しており、両者の政治スタンスの差が良く出ていた。
評価が分かれる三者の政策
高市氏は、靖国参拝を外交問題にしないといっていたが、それは多くの人が賛成だろう。ただし、1972年の日中共同声明以来の長い外交経緯もあるので、高市氏にはそうした過去もクリアするほどの期待もしたい。
筆者の個人的な経験でも、靖国参拝について内政干渉するなと中国にいうと、日本政府が中国政府へ持っている対外債権(円借款)の棒引きを要求されると噂されていた。そんなものを高市氏にぶっ飛ばしてもらいたいくらいだ。
最後に、総裁選の3候補者の政策比較をしてみよう。いちおう出そろったが、やや不完全ながら、次表のとおりだ。
3人を評して、岸田氏は「標準人」、高市氏は日本版「鉄の女」、河野氏は「奇変人」と、ある番組で筆者は言った。
そして、自民党内での政治スタンスについては、岸田氏は「中庸」、高市氏は「やや右より」、河野氏は「やや左より」だ。もっとも、自民党内なので、広い意味での「保守」ではある。
自民党内のスタンスは幅広いが、やや右寄りが多いので、高市氏は右よりに見えるだろう。いみじくも、「鉄の女」のとおりブレずに自民党内のコアな保守に人気がある。そうしたコアの保守からみれば、河野氏は「保守」ではないとなるが、一方、柔軟に持論を軌道修正し、広いボリュームゾーンに手を伸ばしている。
こうした「ブレないこと」と「柔軟な軌道修正」が今後の総裁選でどのような効果になるのか、気になるポイントだ。
3候補の政策をみても、特に酷いというものはあまり見当たらず、価値観によって評価のわかれるものばかりだ。
「三候補」誰でもいい?
経済政策は比較的価値観の差異が少ないが、それでも岸田氏の分配重視は価値観の違いがでてくるところだ。高市氏の投資・成長戦略も、官が中心のようであるので、ここも価値観が分かれる。
今の経済情勢では、岸田氏や高市氏は相当規模の経済対策をしそうであるので、大きな差はない。一方、河野氏は、出馬声明が遅れたからなのか、マクロ経済政策への言及があまり明確になっていないが、民間経済中心の改革指向であるのは、岸田、高市の両氏とは異なっている。
アベノミクスは、もともと(1)マクロの金融政策、(2)マクロの財政政策、(3)ミクロの成長戦略から成り立っている。この三つの組み合わせは世界標準なので、誰も否定していないが、三者で力点の置き場所は少し違っている。
総裁選はまだ始まっていないが、これから各種マスコミにでて、いろいろと揉まれるはずだ。過去の総裁選では、思わぬ失言が命取りになったこともある。良くも悪くも、自民党総裁選だ。
この自民党総裁選にやきもきしているのは野党だろう。総裁選が盛り上がるほど、自民党の支持率は落ちない。しかも、新型コロナの新規感染者数はさがるので、総裁選にも各候補は専念できる。
そして、総裁選後に、衆院解散が見えている。そうなると、野党の出番がなくなる。菅首相退陣で新候補者による総裁選のストーリーを考えた知恵者が自民党にいたわけだ。その知恵者にとっては、三候補の誰でもいいのだろう。
 

 

●河野太郎 行政改革相
●河野行革相、自民総裁選に出馬を表明 アベノミクスに距離 9/10
河野太郎行政改革・規制改革担当相は10日午後、記者会見を行い、自民党総裁選に出馬すると正式表明した。経済政策では、物価目標を掲げて大規模な金融・財政政策を展開したアベノミクスと距離を置いた。
9月10日、河野太郎行政改革・規制改革担当相は午後、記者会見を行い、自民党総裁選に出馬すると正式表明した。記者会見場で撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)
また、河野氏は原発推進が主流の自民党で珍しい脱原発の論客として長く知られて来たが、原発については「いずれはなくなる」としつつ、2050年の温暖化ガス実質ゼロ達成のためには再稼働が現実的と明言し、産業界への配慮をにじませた。
<2%目標の達成難しい、経済対策規模「もう少し研究」>
金融政策では、先に出馬表明している岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相は共に安倍晋三政権が掲げた2%の物価目標堅持を掲げている。これに対して河野氏は「物価上昇は経済成長の結果」とのオーソドックスなマクロ経済観を披露し、コロナ禍で経済が低迷する足元の状況では「2%の物価上昇率は達成が難しい」と指摘。物価目標達成を錦の御旗に大規模な財政・金融政策を続けるリフレ政策、アベノミクスと一線を画した。
財政出動についても「有事の財政(支出)は避けられない」としつつ、「規模も大事だが、未来を見据えどこに出すべきか議論が必要」と指摘。経済対策の規模についての質問には「もう少し研究させて欲しい」と答えた。
河野氏は安倍政権下で日銀に対して大規模金融緩和からの出口戦略を提言した経緯があるが、会見では「金融政策は日銀に任せる」と述べた上で、マーケットとの対話を求めた。
消費税については「これまでの引き上げを支持してきた」としつつ、今後のさらなる引き上げは「今のところ考えていない」という。
また、アベノミクスは「賃金まで波及しなかった面がある」と指摘し、企業の賃上げを促進する姿勢を示した。
<自民党の歴史観を継承、森友問題は再調査せず>
対中外交方針では「一方的な現状変更の試みに対抗できる枠組みづくり・抑止力の強化を行う」として、領土拡張的な傾向をけん制した。
また「従軍慰安婦」という表現を明記した河野談話についての考え方を問われ、「自民党が継承した歴史観を受け継ぐ」と答えた。
一方、森友学園を巡る財務省の決裁文書改ざん問題の再調査については「検察その他が動いており、必要ない」と明言した。
会見場で配付された政策パンフレットには、新型コロナ対策では「ワクチン接種を迅速に進め、必要な3回目接種の準備を行う」と盛り込んだ。
河野氏は会見の冒頭で、コロナ禍を念頭に「この危機を乗り越えていかなければならない。人が人に寄り添う、ぬくもりのある社会をつくっていきたい」とも語った。
●原発「当面は再稼働。それが現実的」「日本の礎は、皇室と日本語」 9/10
河野太郎行政改革担当相(58)は10日、国会内で記者会見し、自民党総裁選への立候補を正式表明した。「平等な機会が提供され、努力した者、汗をかいた人が報われる。そして誰ひとり取り残さない。みんなをしっかりと支えていく。そういう国家を作っていきたい」と国家像を示した。
河野氏は、2011年3月11日の東京電力福島第一原発事故後、超党派で「原発ゼロの会」を設立。それ以前からも、放射性廃棄物の問題を指摘し、脱原発を唱えてきた。8日に「安全が確認された原発を再稼働していくのはある程度必要だ」との発言をしたことから、記者から「これまでの考えを変えたのか」と問われた。
河野氏は「いずれ原子力はゼロになるんだろうと思う」とした上で、「2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)を実現するには石炭、石油から止めていかないといけない。きちんと省エネをする。再生可能エネルギーを最大限、最優先で導入していく。それでも足らないところは、安全が確認されてた原発を当面は再稼働していく。それが現実的なんだろうと思っています」と述べた。
総裁選に向け、河野氏が発表した「5つの主張と政策」では脱原発には言及せず「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策をすすめます」と掲げた。原発の新増設については「現時点で現実的ではない」とした。
河野氏は会見場で配布した政策パンフレットに「自民党を変え、政治を変える」と記した。記者から「自民党の何が問題でどう変えたいのか」と問われると「自民党はいろんなことを活発に議論をし、まとまる時はしっかりまとまる。そういう自民党に支えてもらいたい」と語った。
政策には「立党の精神に立ち、新しい時代にふさわしい憲法改正を進める」と明記。具体的な内容や改憲議論の進め方については「憲法改正は非常に大きな問題。どのタイミングでというのはさまざまな政治日程、その時の重要課題というのを考え合わせながらやっていかねばならない。自民党、国会の中の議論を見極め、重要課題と合わせて対応したい」と述べた。
また河野氏は「保守主義とは度量の広い、中庸なあたたかいものだと思っている。この日本の一番の礎になっているのは、長い伝統と歴史と文化に裏付けられた皇室と日本語」と述べた。
●河野太郎氏が政策パンフ 外交など柱、脱原発には直接触れず 9/10
自民党総裁選(17日告示、29日投開票)に立候補する意向の河野太郎行政改革担当相(58)=麻生派=が10日、政策パンフレットを公表した。同日夕の記者会見で出馬を正式表明し、政策についても説明する。
パンフレットでは「命と暮らしを守る政治」「国を守り、世界をリードする外交・安全保障」など五つの柱を掲げ、新型コロナウイルス対策について「ワクチン接種を迅速に進め、必要な3回目接種の準備をする」などと主張。「必要な時には思い切った人流抑制で感染拡大を抑える」との文言も盛り込んだ。
憲法改正に関しては「立党の精神に立ち、新しい時代にふさわしい憲法改正を進める」と明記した。安定的な皇位継承については「政府の有識者会議の議論を尊重する」とした。
河野氏は「脱原発」が持論だが、パンフレットでは原発政策には直接触れずに「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策を進める」と記載した。 
 

 

●岸田文雄 前政調会長
●森友問題「再調査考えぬ」 軌道修正、安倍氏に配慮か―自民・岸田氏 9/7
自民党総裁選に出馬する岸田文雄前政調会長は7日、安倍晋三前首相が在任中に追及を受けた森友学園問題について「再調査等は考えていない」と明言した。東京都内で記者団に語った。2日のテレビ番組で再調査に前向きと受け取れる発言をしていたが、軌道修正した形だ。
関係者によると、2日の発言に安倍氏が強く反発し、総裁選で高市早苗前総務相支援に傾くきっかけになったとされる。発言修正には安倍氏の支持を引き戻したいとの思惑があるとみられる。
岸田氏は2日に「調査が十分かどうかは国民側が判断する話。国民は足りないと言っている」と指摘。「さらなる説明をしなければいけない。国民が納得するまで説明を続ける」と強調した。
これが7日には「既に行政において調査が行われ、報告書も出されている。司法において今、裁判が行われている。そうしたことを踏まえ、必要であれば説明を行う」とトーンダウンした。

●「小泉改革以降の新自由主義政策を転換する」 総裁選へ経済対策  9/8
自民党の岸田文雄前政調会長は8日の記者会見で、総裁選で訴える経済政策を発表し、「小泉改革以降の新自由主義的な政策を転換する」と述べた。
岸田氏は「小泉改革以降の規制緩和、構造改革の新自由主義的政策はわが国経済の体質強化、成長をもたらした。他方で富める者と富まざる者の格差と分断を生んできた。コロナ禍で国民の格差がさらに広がった」と強調。「今までと同じことをやっていたら格差はますます広がる。成長を適切に分配しないと格差の拡大は抑えることができない」として、新たな日本型の資本主義の構築すると訴えた。
岸田氏は「新しい日本型資本主義構想会議」を設置し、ポストコロナ時代のビジョンを作成すると説明。日本経済再起動のための成長戦略の4本柱の1本目に、「日本の科学技術の力は陰りを見せ、新型コロナのワクチンも日本独自の開発ができていない」として、「科学技術立国」を掲げた。
「科学技術とイノベーションへの投資を抜本的に拡大する。世界トップクラスの研究大学建設のため10兆円規模の大学ファンドを年度内に設置する」とし、民間企業が行う研究開発への税制支援などを行うとした。
このほか、技術流出の防止に向けた国家戦略を策定し「経済安全保障推進法」を制定するほか、デジタル分野のインフラ整備を進めて都市部と地方の距離を縮め、東京一極集中を是正するとした。また人生100年時代の不安解消のため、働く人すべてに社会保険を適用していくとした。
また「令和版所得倍増のための分配政策」の4本柱として▽下請けいじめゼロ▽子育て世代の住居費、教育費の支援▽医療、介護、保育などの現場で働く人の所得を増やすための「公定価格」の抜本的見直し▽財政単年度主義の弊害是正ーを掲げた。
岸田氏は「目指す社会はあらゆる人たちの所得を引き上げることによって一体感を取り戻し、国の一体感、社会の安定を目指していく。アメリカですら社会が分断されると民主主義の総本山である議会に暴徒が乱入して破壊行為が行われる。民主主義を守るために格差の問題にしっかりと目を向けなければならない」と主張した。
●「所得倍増」へ分配強化 自民・岸田氏が経済政策―総裁選 9/8
自民党総裁選(17日告示、29日投開票)に立候補表明した岸田文雄前政調会長は8日、公約となる経済政策を発表した。賃上げ支援や「下請けいじめゼロ」などを通じ、再分配を強化すると表明。「令和版所得倍増」を目指すと強調した。
岸田氏は記者会見で「小泉内閣以降の新自由主義的政策は、わが国経済に成長をもたらす一方で、持てる者と持たざる者の格差が広がった」と指摘。成長と分配の好循環が必要だとし、「私は新しい日本型資本主義の構築に向けて先頭に立つ」と訴えた。
具体的には、賃上げを行う企業への税制支援や下請け取引の適正化により「適切な分配競争」を図ると説明。医療・介護など公的分野で働く人の所得を増やし、子育て世代の教育費・住宅費も支援するとした。
科学技術立国を目指し、10兆円の科学技術イノベーション基金の年度内設立などを提案。「デジタル田園都市国家構想」による地方の復活も掲げ、東京一極集中を是正し、「すべての人がデジタル化の利益を享受できるようにする」と述べた。
台頭する中国を念頭に、戦略技術の特定や技術流出の防止に向けた「経済安全保障国家戦略」を策定し、担当閣僚を置く方針を示した。
●岸田氏が経済政策案「令和版所得倍増」を発表 「新自由主義、転換」 9/8
自民党総裁選(17日告示、29日投開票)に立候補を表明している岸田文雄前政調会長は8日の記者会見で、格差是正に向けた分配機能の強化を柱とする経済政策案を発表した。安倍政権下で始まった大規模な金融緩和と巨額の財政支出、成長戦略の3本柱を維持しつつ、「小泉改革以降の新自由主義的政策を転換する」と訴えた。
政策案の「令和版所得倍増」は、格差是正に向けて、従業員の賃上げに取り組む企業への税制支援や金融所得課税の見直し、教育費・住居費の支援などを盛り込んだ。
成長と分配を両立するために、首相直属の「『新しい日本型資本主義』構想会議(仮称)」を設置。これまでの経済政策や社会保障改革などを総括し、「ポストコロナ時代の経済社会ビジョン」を策定するとした。経済安全保障を強化するための「経済安全保障推進法(仮称)」も策定し、経済安保担当相を設けるという。
また、将来の財政状況に一定の配慮を示しつつも、新型コロナウイルスの感染抑止に向けた巨額の財政支出を優先する考えを改めて強調した。
さらに成長戦略として、10兆円ファンドの年度内設置による研究支援、産業再編、地方のデジタル関連インフラの整備を進めることなどを示した。政策に科学技術の視点を反映するため首相直属の首席科学技術顧問、各省に科学技術顧問を置く。岸田氏は会見で「新しい日本型資本主義の構築に向けて先頭に立つ」と力を込めた。(神沢和敬、笹井継夫)  
 

 

●高市早苗 前総務相
●出馬表明 経済政策「サナエノミクス」掲げる 自民党総裁選  9/8
自民党の高市早苗前総務相(60)は8日、国会内で記者会見し、党総裁選(17日告示、29日投開票)に出馬する意向を正式に表明した。新たな経済政策として「サナエノミクス」を掲げ、「雇用と所得の拡大に繋がる大胆な危機管理投資、成長投資、そして分厚い中間層を再構築する取り組み、人材力の強化に取り組む」と語った。
「サナエノミクス」については▽金融緩和▽緊急時の機動的な財政出動▽大胆な危機管理投資・成長投資―を「3本の矢」として取り組むと説明し、引き続き物価上昇目標2%の達成を目指すとした。当面、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標は凍結し「戦略的な財政出動を優先する」と述べた。高市氏は「国の究極の使命は国民の生命と財産を守り抜くこと。領土、領海、領空、資源を守り抜くこと。そして国家の主権と名誉を守り抜くことだ」と指摘した上で「日本を守るために、自然災害、感染症や難病、サイバー攻撃、食料安全保障、経済安全保障や国防にかかる脅威など、様々なリスクの最小化に向けた対策強化に最優先で取り組む」と訴えた。
さらに感染症対策として、高市氏は「憲法が絡む問題なので難しいかもしれないが、与野党でよく議論をして、場合によっては海外で行われているロックダウンを可能にする法整備の検討を早急に始めなければならない」と述べた。NHKについては「家計の負担が重くなっているNHK受信料を引き下げるために営業経費の削減、放送波削減、子会社改革、特に随意契約の比率が非常に高い。NHK改革を加速したい」と語った。
安全保障を巡っては、無人機や極超音速兵器の登場に危機感を示し、「迅速に敵基地を無力化するということを早くできた国が、自分の国を守れると思う。安倍内閣では敵基地先制攻撃と呼ばれていたが、私は迅速な敵基地の無力化と呼ぶ。これをするためにも法整備が必要だ」と、敵基地攻撃を可能とする法改正に取り組む考えを明らかにした。また、日本に対するサイバー攻撃が昨年、1日あたり13億6600万回に上ったと指摘。「迅速な攻撃者の特定と、場合によっては金融制裁などの政治的な反撃、サイバー空間上での反撃も必要になるかもしれない。既に国民の生命や財産を守り抜けない状況が迫っている」とし、新たな法整備も含めた対策の強化を訴えた。さらに「今を生きる日本人と、次世代への責任を果たす意味で、技術革新、安全保障環境、社会生活の変化など、今の時代の要請に応えられる日本人の手による新しい日本国憲法の制定に力を尽くす」と語った。
総裁選への出馬を正式に表明したのは岸田文雄前政調会長(64)に続き2人目。このほか、河野太郎行政改革担当相(58)、石破茂元幹事長(64)、野田聖子幹事長代行(61)らの動向も注目されている。
●総裁選立候補を正式表明 「ニュー・アベノミクス」訴え 9/8
自民党の高市早苗前総務相は8日午後、国会内で記者会見を開き、菅義偉首相(党総裁)の後任を選ぶ自民党総裁選への立候補を正式に表明した。安倍晋三前首相の支援を受け、立候補に必要な推薦人20人の確保にめどがついたという。
高市氏が立候補すれば、同党総裁選に女性が出るのは、2008年9月の総裁選での小池百合子氏(現・東京都知事)以来となる。
高市氏は会見の冒頭、「日本を守る責任と未来を開く覚悟を持って立候補を表明する」と発言。「国の究極の使命は生命と財産を守り抜くこと。領土、領海、領空、資源を守り抜くこと。国家の主権と名誉を守り抜くことと考える。その使命を果たすために全てを懸けて働く」と語った。
高市氏は、安倍政権の一連の経済政策の継承・発展を唱えている。この日の会見では「経済を立て直し、成長軌道に乗せていく」と主張。金融緩和、緊急時の機動的な財政出動、大胆な危機管理投資・成長投資を「3本の矢」とする考えを示し、「日本経済強靱化計画、いわゆる『サナエノミクス』」と名付けた。
また、インフレ率が2%に届くまでは、プライマリーバランス(国と地方の基礎的財政収支)の黒字化目標を「凍結」し、財政出動を優先すべきだと主張。コロナなどの危機を最小化するための研究や製品サービスの開発への「危機管理投資」を通じ、成長を後押しすることなどを目指す。
高市氏は、衆院奈良2区選出の当選8回。2006年の第1次安倍内閣で沖縄・北方相として初入閣。12年の第2次安倍内閣以降、総務相や自民党政調会長などを歴任した。党内の派閥には属しておらず、安倍氏ら保守系議員を中心に支持拡大を目指す。高市氏は、総務相在任中を含めて節目での靖国神社(東京・九段北)へ参拝を続けており、首相に就任後も参拝する意向を示している。
総裁選は17日告示、29日投開票で、岸田文雄前政調会長がすでに立候補を表明し、河野太郎行政改革相が立候補の意向を固めている。野田聖子幹事長代行が菅首相や二階俊博幹事長に立候補の意向を伝えているほか、石破茂元幹事長も立候補を模索している。
●保守票照準、「安倍後継」アピール 高市氏、支援期待も細田派不満 9/8
自民党総裁選への出馬を表明した高市早苗前総務相(60)は、安倍政権の継承と保守色の強い政策を前面に打ち出した。支援を受ける安倍晋三前首相の影響力を背景に、保守層の支持獲得を狙う。ただ、党内最大で安倍氏の出身派閥・細田派には高市氏支援に不満が出ており、どこまで議員票を固められるか見通せない。
「日本人の手による新しい憲法を制定するために力を尽くす」。高市氏は8日の記者会見で、約50分に及んだ冒頭発言の最後にこう強調。皇位継承に関しては「男系男子は一つの血統を引き継ぎ、長年守り抜かれた。万世一系の皇統が天皇陛下の権威、正統性の源だ」と訴えた。
自身の経済政策については、安倍氏が提唱した「アベノミクス」にちなみ「サナエノミクス」と命名した。
高市氏は安倍氏と政治信条が重なり、側近の1人として知られる。沖縄・北方担当相や党政調会長、2度の総務相などに重用されてきた。7日には、安倍氏の私邸を訪れ、会見の内容を事前に有力議員へ説明しておくようアドバイスを受けた。
安倍氏が高市氏支援に回るのは、退陣する菅義偉首相が憲法改正などに強い関心を示さず、保守層の離反を懸念しているためとみられる。安倍政権が厳しく批判された森友学園問題をめぐり、岸田文雄前政調会長(64)が説明の重要性を主張したこともあり、高市氏の当選に「本気」(周辺)で肩入れしようとしているという。
ただ、細田派内には、前身の旧町村派を退会した高市氏に対し「閥務を敬遠した」として厳しい見方が多い。7日に行われた参院細田派(36人)の意見交換で、支持を明言したのは保守系議員2人だけだった。
同派関係者は、「安倍氏への忖度(そんたく)」から高市氏支持を言い出した議員がいると明らかにする一方で、参院細田派の一人は党を取り巻く危機的な状況を踏まえ、「高市氏には任せられない。安倍氏の意向にみんなしらけている」と漏らす。
高市氏は知名度が高いとは言えず、現時点では他派閥への支持も広がっていない。細田派中堅は「惨敗したら安倍氏に傷が付く」と指摘。安倍氏周辺は、支援は推薦人確保にと どめることを念頭に、「安倍氏が恥をかかないように着地させるしかない」と語った。
●高市前総務相が立候補表明 サナエノミクスで経済を 9/8
菅総理大臣の後継を選ぶ自民党総裁選挙をめぐり、高市前総務大臣は記者会見し「『日本経済強じん化計画』で経済を立て直し、成長軌道に乗せていく」と述べ、立候補を正式に表明しました。
自民党の高市前総務大臣は、8日午後4時から国会内で記者会見し「日本を守る責任と未来を開く覚悟を持って、自民党総裁選挙への立候補を表明する。国の究極の使命は、国民の生命と財産を守り抜くこと、領土・領海・領空、資源を守り抜くこと、そして、国家の主権と名誉を守り抜くことだ。私のすべてをかけて働くことを誓う」と述べました。
そして具体的な政策として、経済政策を最初にあげ「『日本経済強じん化計画』、いわゆる『サナエノミクス』で経済を立て直し、成長軌道に乗せていく」と述べ、金融緩和、緊急時の機動的な財政出動、大胆な危機管理投資・成長投資の三本の矢の取り組みを総動員し、物価安定目標2%の達成を目指すと表明しました。
そのうえで、目標の達成に向け、基礎的財政収支の改善よりも戦略的な財政出動を優先させる考えを示しました。
また、新型コロナウイルス対策として、海外で行われている『ロックダウン』を可能にする法整備の検討を急ぐほか、ワクチン接種の優先順位の見直しや、治療薬の国内生産体制の構築などに取り組む考えを強調しました。
さらに高市氏は「時代の要請にこたえられる新しい日本国憲法の制定に力を尽くす」と述べたほか、「令和の省庁再編にチャレンジしたい」と述べ、環境政策とエネルギー問題を扱う「環境エネルギー省」や、各省庁にまたがる情報通信分野を集約した「情報通信省」や「サイバーセキュリティー庁」を新設すると訴えました。
一方、高市氏は終戦の日などに合わせて行っている靖国神社への参拝について「1人の日本人として信教の自由にもとづいて参拝を続けている。批判されているという現状があるならば残念だ」と述べました。
また高市氏は、安定的な皇位継承の在り方に関して「皇統は、男系男子で大切に長年にわたって守り抜かれてきたものだ。私たちの世代でぶち壊していいのかという気持ちは非常に強く持っており、私は旧皇族の皇籍復帰を可能にする案を支持している」と述べました。
このほか、記者団から「森友学園」をめぐる財務省の決裁文書の改ざん問題について再調査を行うかどうか問われたのに対し、高市氏は「裁判中の案件に関する答えは控えるが、再発防止にはしっかり取り組む」と述べるにとどまりました。
高市氏は、衆議院奈良2区選出の当選8回で60歳。総務大臣や党の政務調査会長などを歴任しました。安倍前総理大臣と保守的な政治信条が近いことで知られています。今回の総裁選挙への立候補表明は岸田前政務調査会長に続いて2人目です。 

●“射程圏外”の高市早苗氏を「ガチ支援」するアベ断末魔… 9/9
「美しく強く成長する国を作る」
高市早苗前総務相は8日、自民党総裁選(17日告示、29日投開票)への立候補を正式表明。キングメーカー気取りの安倍前首相の後ろ盾を得て、岸田文雄前政調会長に続いて名乗りを上げた。高市氏が打ち出した政策のメインは経済対策だ。日本経済をズタボロにし、格差を拡大させたアベノミクスの焼き直し版「サナエノミクス」を提言。金融緩和、緊急時の機動的財政出動、危機管理投資・成長投資を「ニュー3本の矢」とし、インフレ率2%達成までプライマリーバランスの黒字化目標の「停止」を主張した。8年経っても実現しないターゲット堅持は放漫財政と表裏一体だ。
一方、ネトウヨ層へも熱烈アピール。憲法改正や対中強硬を織り込んだ法整備を訴え、植民地支配を認めて謝罪した村山談話については「安倍内閣の(戦後)70年談話で整理された」と継承を否定。靖国参拝についても「信教の自由」を理由に続ける考えを示し、皇位継承は「男系男子」にこだわった。その筋の人たちには完璧といえる内容だ。町村派(現細田派)を飛び出して以降、無派閥の高市氏が推薦人20人を確保し、出馬表明にこぎつけたのは安倍前首相の支持があってこそ。第1次安倍政権で沖縄・北方相として初入閣。第2次安倍政権以降は総務相や政調会長を歴任し、党内グループ「保守団結の会」では揃って顧問を務めるなど安倍前首相ベッタリだ。
もっとも、高市氏は全国的な知名度が低く、本命にはほど遠い。にもかかわらず、安倍前首相が岸田氏を再び見限り、高市氏に乗り換えて「本気で支援」する理由は、ズバリ保身だ。森友疑惑の再調査をにおわせた岸田氏を牽制すると同時に、キングメーカーとしての地歩を固める狙いがあるという。
「菅首相は改憲に関心が薄いことから、この1年で保守層の自民党離れが加速してしまった。このままでは衆院議員の半数を占める当選3回以下の安倍チルドレンは総選挙で総崩れしかねず、安倍前総理にとっても死活問題です。衆院選後に細田派に戻り、会長に就任する意向の安倍前総理は細田派のチルドレンを1人も落選させたくない。思想信条が近いタカ派の高市氏を総裁選に立たせれば、保守層を引き戻せるとの計算があるようです」(自民党関係者)
安倍前首相は河野太郎政権が誕生したら「国がメチャクチャになる」とケチをつけていたという。立憲主義も民主主義もぶっ壊した張本人がよく言えたもの。自民党は完全に終わっている。 

●女性閣僚の比率問われ「立派な政策構築の女性議員と仕事を」 9/11
自民党総裁選立候補を表明している高市早苗前総務相(60)が11日、読売テレビ・日本テレビ系「ウェークアップ」にリモート出演。高市新政権が誕生した場合の女性閣僚の人数や比率を問われ、比率は考えていないとしたが「立派な政策を構築しておられる女性議員たくさんいらっしゃいますので、そういった方々と一緒に仕事をしたい」などと語った。
女性初の総理大臣というのを意識するかと聞かれた高市氏は「憲法43条に基づきまして、国会議員は全国民の代表でございますので、年齢ですとか性別ですとか関係なく、全国民の皆さまの代表のために働きたいと思います」と、にこやかに回答。「ただ、小学生の女の子が『将来は総理大臣になりたいなー』なんて言って下さると、すごくうれしいなーと思います」と付け加えた。
高市新政権ができた場合に目指す女性の閣僚の人数や比率には「閣僚の比率というのは考えておりません」と即答したが「これは適材適所ですが、ただ自民党の中で全く対外的には目立たなくても、ものすごくコツコツと専門性を磨いて立派な政策を構築しておられる女性議員たくさんいらっしゃいますので、そういった方々と一緒に仕事をしたいなーと思っております」と、優秀な女性議員を引き入れたい考えを示した。

●強烈批判してきた中国メディアに「ありがとうございます」不敵笑みで応戦 9/12
自民党総裁選への立候補を表明している高市早苗前総務相(60)が12日、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」に出演した。
番組では、高市氏の提唱する政策を中国が警戒しているとして、中国共産党系メディアは「日本新首相“本命”のひとり 高市早苗 靖国神社『参拝』継続を示唆」と報じていると紹介。「読むのもはばかられるような言葉」も使って、厳しい論調であることを伝えた。
高市氏は、「私はこれを外交問題でなくすための活動を続けたいですね」と述べた。
記事に対して「まだ私は総裁選の1候補。中国の新聞には『本命』と。日本のマスコミでは泡沫扱いかもしれませんが、中国では本命と書いていただいて」と不敵な笑みをうかべ、「ありがとうございました、中国の新聞社の方」と語った。
靖国参拝を巡る議論について「これを外交問題にしている、しかも日本の国の中から、経済界の中から、一部マスコミの中から、これをことさらに外交問題にしようという声が上がっていることのほうが問題」と指摘した。
「私もどこの国に行っても、まずその国で国のために命を捧げられた兵士の墓におまいりしてます。アーリントン墓地も行ってます。お互いの国のために命を捧げた方に敬意を表し合うことを当たり前にしたい」と語った。
 
 
 

 

●雑話 9/15〜
●所得の再分配に財政出動 自民党総裁選、3氏が訴える経済政策 9/15
自民党総裁選は14日、岸田文雄前政調会長と高市早苗前総務相、河野太郎行政改革相が争う構図がほぼ固まった。安倍・菅政権が進めた大規模な金融緩和と財政出動、成長戦略の「3本の矢」からなるアベノミクス路線に、それぞれの視点から修正を加えるなどし、コロナ禍で落ち込んだ経済の立て直しを訴えている。
岸田氏は、自らの経済政策の柱に「令和版所得倍増」を掲げ、政治による再分配で中間層に手厚い支援をすることで、格差の是正を図ると強調する。アベノミクスには、恩恵が高所得者に偏っているという批判があるからだ。そこで、子育て世帯の教育費や住居費への支援を強めることなどを打ち出す。
足元のコロナ対策でも、非正規社員などへの給付金や中小企業向けの持続化給付金の再支給などを盛り込む数十兆円規模の対策を行うと主張。14日の報道各社のインタビューでは「まずはコロナとの戦いに打ち勝ち、平時の社会経済活動を取り戻す」などとして、当面は財政出動を優先する考えを示した。政策集では「経済の正常化を目指しつつ財政健全化の旗は堅持」として、中長期的には財政への配慮もみせる。
成長戦略としては、科学技術振興のための10兆円規模の大学ファンドの立ち上げや脱炭素化のための戦略づくり、情報技術を通じて地方の活性化を図る「デジタル田園都市国家構想」などを掲げている。
同じく再分配のあり方に言及するのは河野氏だ。アベノミクスは「賃金まで波及してこなかった部分がある」とし、労働分配率を一定水準以上にした企業には、法人税の負担を軽くする特例措置を設ける案を披露。再分配の重心を企業から個人に移すと訴える。
コロナ対策をめぐっては、日本経済の「需給ギャップ」が約22兆円ある点を指摘。経済対策の規模は明言していないものの「有事には財政出動せざるを得ない」との立場だ。ただ、10日のテレビ東京の番組で「(規模感の)数字が先に踊ることがよくあるが、何に使うのが大事だ」と述べ、規模ありきの対策とは一線を画す姿勢をみせた。
成長戦略では、菅政権も掲げたデジタル、グリーンを「イノベーションの核」とし、高速通信の「5G」網の整備や太陽光などの再生可能エネルギー産業への支援を打ち出す。
これに対し、高市氏は「サナエノミクス」と銘打ち、アベノミクス以上の財政出動に踏み切る姿勢だ。2%の物価上昇という目標の達成までは、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するという政府の財政再建目標を凍結する考えを打ち出した。
その資金を使い、サイバー攻撃やコロナ禍を踏まえた「危機管理投資」を進めることを成長戦略の柱に掲げる。生活や医療、産業に必要なものを国産化してリスクを最小化し、同様の課題を抱える国への輸出もめざす。災害対策や国土強靱(きょうじん)化には10年間で約100兆円規模の投資を掲げ、公共投資の役割に重きを置く。
13日に出演したBS11の番組では、就任100日間で取り組むことを問われ、生活困窮者への定額給付金を含むコロナ対策の補正予算づくりなどを挙げた。
コロナ禍が長引くなか、市場への影響が大きい金融緩和の修正には3氏とも踏み込んでいない。ただ、河野氏は自民党の行政改革推進本部長を務めていた2017年に、大規模な金融緩和に伴うリスクについて日銀や政府に説明を求める提言をまとめた経緯がある。10日の立候補会見では「日銀にある程度お任せしなければいけない」としつつも、2%の物価目標については「かなり厳しいものがあるのではないか」と語った。緩和策の「出口」を議論することの容認に含みを持たせたとの見方をする金融関係者もいる。  

●岸田、高市、河野氏の政策はアベノミクスとどう違う 9/15
9月29日投開票の自民党総裁選(告示は17日)には、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、河野太郎規制改革相の3氏が正式に出馬表明した。アベノミクスの継承を掲げた菅義偉政権の後継はどのような経済政策を目指しているのか。その中身と課題について、政府の経済財政諮問会議委員、規制改革推進会議委員などを歴任した八代尚宏昭和女子大学副学長・現代ビジネス研究所長が解説する。
日本の事実上の新しい総理大臣を選出する、自由民主党の総裁選挙が9月29日に行われる。3人の候補者の著書やホームページで公表された政策ビジョンのうち、経済政策に関わる部分についての主要な論点について展望する。なお、筆者のアベノミクス自体の評価も岸田氏の部分に含まれている (拙著『日本的雇用・セーフティーネットの規制改革』で詳述している)。
岸田ビジョンの副題は「新自由主義からの転換」だが
最初に立候補を表明した岸田文雄氏は「新しい日本型資本主義」を掲げる。岸田ビジョンでは、アベノミクスの成果を踏まえて「三本の矢」の継承とともに、経済の正常化を目指しつつ財政健全化の旗も堅持する。また、新自由主義からの転換と、成長と分配の好循環を目指すとしている。この「日本型資本主義論」では、アベノミクスの何を継承して、何を変えるのかが、大きな論点となる。
アベノミクスの三本の矢では、金融緩和や財政の拡大政策は十二分に実現され、円安を通じて株価や地価等の大幅な回復に貢献した。しかし、肝心の日本経済の成長力を押し上げ、生産性を向上させるための成長戦略はほとんど実現されず、その結果、資産所得と雇用者所得との差は拡大した。
このため、景気回復にもかかわらず、実質GDP成長率は、バブル崩壊後の1991年から民主党政権末期までの21年間平均の0.95%と比べて、安倍政権時の2013年から20年まででは0.3%(コロナ不況の20年を除けば1.1%)と、大差ない水準にとどまった。この間、生産年齢人口の減少もあり、失業率は2%台に低下したが、実質賃金はほとんど上がらなかった。これと同じ政策を今後も継承するのだろうか。
岸田ビジョンでは、アベノミクスは高所得層から低所得層への「トリクルダウン」に失敗したという認識がある。株高等で資産家や大企業の利益は増えたが、中小企業や非正規社員にはほとんど効果はなく、都市と地方との格差が拡大したことを問題視する。このため「令和版所得倍増」で、子育て世代や医療、介護、保育の現場で働く人の所得引き上げのために、公的価格評価検討委員会を設置するなど、中間層への所得配分を重視するが、その財源には触れていない。
岸田ビジョンの副題には、「新自由主義からの転換」とあるが、これは同じ批判を繰り返す立憲民主党などと同じなのだろうか。本来、新自由主義とは、政府の市場への介入を最小限度にとどめるという考え方だ。安倍政権での財界への賃金引き上げ要請、残業時間の上限設定、所得にかかわらず国民全員への一律給付金、企業が負担する休業手当の大部分を政府が補填する雇用調整助成金の拡大等は、むしろ旧民主党政権と大差ない「大きな政府」路線ではなかったか。
他方、持続的な賃金引き上げをもたらす、生産性向上のための政策は、掛け声だけでほとんど実現していない。労働界の抵抗が大きい雇用の流動化や、年功賃金是正のための同一労働同一賃金政策は腰砕けとなり、誰も反対しないマクロ政策の拡大だけの片翼飛行となった。少なくとも第2次安倍政権の政策を、新自由主義と呼ぶことには無理があろう。
「新しい日本型資本主義」で、成長と分配の好循環の実現を目指すが、そのためには持続的な経済成長の実現が大きな前提となる。財政支出の拡大で成長が可能なのは労働力が過剰な経済であり、今後の日本の少子高齢化社会では、供給面の改革が先決だ。「デジタル臨時行政調査会」を設置する提案があるが、これは規制改革推進会議を中心とした、中曽根内閣時代の「第2次臨調」のような組織のイメージなら評価できる。
「財政健全化の旗を堅持」の中身は不明である。何よりも現在の「借金に全面的に依存した社会保障」のままでは、肝心の「成長と分配の好循環」は実現しない。とくに、社会保障の具体的な改革がカギとなるが、それには国民の理解が避けられない。仮に「増税なき財政再建」を目指すなら、徹底したスクラップ&ビルドの原則も必要だ。
中間層の所得の底上げは望ましいが、その財源確保のためには社会的入院等、既存の医療費のムダの解消が不可欠だ。国民の安全のための防災対策にも多くの財源が必要だが、それには赤字新幹線等の公共事業の見直しが必要となる。財政健全化の旗を掲げながら、その中身に全く言及しないビジョンの実現性が問われている。
「現代貨幣理論(MMT)」に全面依存の高市氏
高市早苗氏の「日本経済強靭化計画」は、ニューアベノミクス、つまり三本の矢の改良版である。違いは財政政策について、財務当局が「基礎的財政収支の黒字化目標」にこだわった緊縮財政の結果、物価安定目標の達成を困難にしたという認識がある。このため「緊急時に限定した機動的な財政出動」にとどめ、インフレ率2%目標を達成するまでは「財政規律目標」を凍結するという。
国民の嫌う増税についても触れている。金融所得課税や炭素税、所得税課税最低限の引き下げとセットで所得税率を一律10%程度にして、所得税収総額は減らさずに、各人が努力しただけ報われる税制とするという。ただ、それだけで現行の膨大な財政赤字を抑制できるのだろうか。
アベノミクスとの大きな違いは、第3の矢の中身について「大胆な危機管理・成長投資」と明示したことである。これは頻発する自然災害やサイバー攻撃、感染症等への対応である。こうした財政支出は日本経済にとっての必要な投資であるが、それが経済成長を促進し、将来の税収を拡大する主因には必ずしもならない。このため政策が軌道に乗るまでは、「追加的な国債発行」は避けられないとする。
ここで注目すべき点は、いくら政府支出を増やし「政府の借金」が膨らんでも、日本銀行が際限なく国債を購入し、通貨に交換すれば「国民の資産」が増えるだけで問題はないという「現代貨幣理論(MMT)」に全面的に依存していることだ。仮に、貨幣の供給増でインフレが止まらなくなれば、その時点で政府の投資額を調整すれば良いという。
しかし、人々の政府への信頼性がなければ、通貨は資産にはなり得ない。それが失われれば経済は大混乱になるため、通貨価値の安定が日本銀行の至上命令となっている。先進国のうち、政府の債務が債務を生むというリスクに直面している日本の現状で、さらなる財政に依存した経済成長論には大きなリスクを伴うことへの認識が必要ではないか。
河野氏も財政再建の手段として消費税増税には触れず
「日本を前に進める」という河野太郎氏のビジョンでは、菅内閣での規制改革担当大臣として、経済の供給面の改革を打ち出している。バブル崩壊後の日本は、諸外国と比べてGDPの規模がほとんど拡大していない半面、急速な高齢化が進行している。著書によれば、この現状を踏まえた抜本的な改革として、菅内閣が重視した行政のデジタル化をはじめとした政策を継続し、教育・医療のオンライン化の大幅な拡大を説いている。
また、政治家が避けたがる社会保障改革の具体的な内容にも踏み込んでいる。医療費の合理化のための総合診療医の活用や、税と社会保険料の役割分担の明確化は重要である。現行の医療や介護等の社会保険料は給付の対価としては少なすぎるが、これを税で補填していることで利用者のコスト意識を損なわせている。むしろ税の使途を、保険料を負担できない低所得層に集中することで所得再分配機能に徹することが必要と説いている。この役割分担が不明確なことが、日本の社会保障制度の持続性を妨げる大きな要因という。
河野ビジョンでは、財政再建の手段としての消費税増税には触れていない。しかし、少なくとも東日本大震災時の復興特別税のような時限的なコロナ増税は「小さな政府」と矛盾せず、速やかに検討すべきではないだろうか。
岸田・高市氏は、いずれも財政・金融政策を主体とした需要重視のアベノミクスを評価し、その継承を前提とした、実質的に「大きな政府」を目指している。これに対して、河野氏は保守本流の「小さな政府」の下での機会の平等を重視していることが大きな違いといえる。
コロナ危機克服のために、英国のジョンソン首相は大幅な増税を国民に訴えた。これがはるかに財政状況が深刻な日本で、保守政党の党首選の論点にもなっていない。高齢化で深刻化する社会保障改革に触れたのも河野氏だけというのは、きわめて残念だ。

●自民党総裁選 4候補の政策・情勢 「次の首相」めぐり渦巻く思惑 9/17
自民党総裁選が9月17日に告示され、河野太郎・行政改革担当相(58)、岸田文雄・前政調会長(64)、高市早苗・前総務相(60)、野田聖子・幹事長代行(61)の4人が立候補。9月29日の投開票日に向けて選挙戦が始まった。女性の立候補は2008年の小池百合子氏以来。4人のうち女性候補は2人で過去最多だ。現時点で公式サイトや会見などで明らかになっている各候補の政策、各候補をめぐる情勢を以下にまとめた。
岸田文雄氏(64歳)
自民党の名門派閥「宏池会」(岸田派)の会長。これまでに外相や党政調会長などを歴任した。昨年の総裁選では安倍前首相からの禅譲を期待しながらも、菅義偉首相の出馬でその目算が外れた。今回は他に先駆けて、立候補を表明した。
スローガンは「声をかたちに。信頼ある政治」。
政策で一番に掲げるのは「コロナ対策」だ。「医療難民ゼロ」「ステイホーム可能な経済対策」「電子的ワクチン接種証明の 活用と検査の無料化・拡充」「感染症有事対応の抜本的強化」を4本柱に掲げる。
省庁再編も目指し、感染症対応を一元的に担う「健康危機管理庁」の創設も公約に入れた。
経済政策では「『成長と分配の好循環』による新たな日本型資本主義」で新自由主義」からの脱却を掲げる。数十兆円規模の経済対策も図るという。
また「成長」一辺倒ではないとアピールも。「令和版 所得倍増計画」と銘打ち、格差の是正を掲げ、安倍・菅路線とは一線を画すことを意識している。
ちなみに「所得倍増計画」は、岸田氏の出身派閥「宏池会」の創設者で池田勇人首相(任1960〜64)が打ち出した経済政策で、戦後の高度経済成長に影響を与えたもの。岸田氏は偉大なる先達に自らを重ね、演出しているようだ。
特徴的なのは、党役員任期を「1期1年・連続3期」までとし「権力の集中と惰性を防ぐ」と明言したことだ。
安倍・菅政権下で党幹事長として過去最長の任期となった二階俊博幹事長を中心とした執行部の刷新を狙う意図を匂わせた。
これは本気で総裁を狙うという党内向けの「攻め」のメッセージだ。
選択的夫婦別姓をめぐっては党内の推進議連に参加しているが、出馬会見ではBusiness Insiderの質問に対し「引き続き議論を」と答え、慎重な立場を崩さなかった。
これは最大派閥の細田派に影響力を持つとされる安倍前首相らを意識した発言と見られた。
ところが、告示日が近づいてきた15日にはBS-TBSの番組で、導入を議論すべきと軌道修正した。これは若手議員や、選択的夫婦別姓に肯定的な河野氏の出馬を意識したものと見られる。
自身の公式サイトにも政策集を掲載し、「岸田BOX」と名付けた一般からのアンケートを募集。YouTubeで自身の言葉でアンケート回答するなど「国民の声を聞く政治家」という姿勢を打ち出している。
17日の所見表明後の記者会見では改憲について言及。自民党が掲げる憲法改正4項目について、任期中に実現を目指す姿勢を見せた。
皇位継承については「女系天皇には反対」との立場を示した。
2019年の参院選では岸田氏の地元組織、自民党広島県連が推薦した現職候補が、党中央の肝いり候補との「同士討ち」で落選した。
この肝いり候補こそ、のちに公職選挙法違反で起訴される河井案里氏だった。
高市早苗氏(60歳)
もとは自民党の最大派閥「清和政策研究会」(現在の細田派、当時は町村派)に属していたが、現在は無派閥。これまでに総務相や党政調会長などを歴任した。実は生粋の自民党員ではなく、過去には自由党、新進党などに所属していた。自民党入りしてからは清和政策研究会へ。以降、党内保守派として活動している。今回の総裁選では随一の保守派。細田派に影響力を持つとされる安倍前首相に国家観や思想が近いことから、安倍氏やその周辺から支持を受けている。政策的にも、安倍前首相のカラーを引き継ぐ姿勢が色濃く見える。立候補表明会見で最初に掲げたのは経済政策。「アベノミクス」を引き継ぎ、発展させるという「サナエノミクス」だ。
内容はアベノミクスと同様「3本の矢」を掲げ、金融緩和、機動的な積極出動、危機管理投資・成長投資による積極財政を主張。
安倍政権が掲げた「物価上昇率2%」に届くまでは、プライマリーバランス(国と地方の基礎的財政収支)の黒字化目標を「凍結」すると訴えた。
省庁再編にも言及し、「環境エネルギー省」や「サイバーセキュリティ庁」の創設を目指すという。
また、コロナ対策にとどまらず将来的な感染症への対応のため「ロックダウン」(都市封鎖)を可能にする法整備も主張する。
防衛政策も重視。「敵基地攻撃」の能力保有について「敵基地を無力化することを早くできた国が自分の国を守れる」と述べ、積極的な法整備を主張。電磁波による敵基地無力化や小型の核融合炉の建設なども訴えている。
これまで続けてきた靖国神社への参拝も継続する姿勢。皇位継承については「男系男子」を堅持する考え。
選択的夫婦別姓は「通称」の使用を広げることが大事だとして否定的。同性婚制度についてもこれまで慎重な立場。いずれでも慎重派の急先鋒として知られる。
Twitterの投稿は2019年1月10日が最後になっていたが、総裁選に立候補表明後に更新を再開した。
2011年にナチス・ドイツのシンボルに似た旗などを掲げ、「祖国民族を守護」「血の純血を保持」などを唱える団体の男性代表と一緒に写真を撮影していたことが2014年に報じられた。
また、1994年に出版された書籍『ヒトラー選挙戦略』に推薦文を寄せていたことも同年に報じられ、批判を受けた。
河野太郎氏(58歳)
現役閣僚で唯一の立候補者が河野氏。2009年以来、2回目のチャレンジだ。安倍政権では外相、菅政権では行政改革担当相。行政手続きにおける「はんこ」の必要性に疑問を呈すなどで注目された。コロナ禍にあって、ワクチン担当相も担っている。
総裁選でのスローガンは「日本を前に進める。自民党を変え、政治を変える」。
政策集の先頭に「命と暮らしを守る政治」を掲げ、科学的知見に基づく感染対策やワクチンの3回目(ブースター)接種実施などを掲げた。
経済政策には「地域経済と社会を支える中小企業や個人事業主」を支えると明記。エネルギー政策も重視。
菅政権が掲げた「2050年までの温室効果ガス排出量“実質ゼロ”」目標を引き継ぐ考えを示す。
また、社会保障改革に向けて厚生労働省の所管業務を「年金」と「医療」で分担すべきと主張。岸田氏、高市氏と同様に省庁再編も視野に入れているようだ。
河野氏の持ち味といえば、党の方針や有力者も批判してきた、歯に衣着せぬ「異端児」の姿勢だ。
過去には「脱原発」や、母方が天皇の血統を引く「女系天皇」の検討を主張するなど、自民党内では異色の「与党内野党」として存在感があった。
ところが今回の総裁選出馬をめぐり、これまでの持論はトーンダウンさせている。
「脱原発」については「いずれ原子力はゼロになるだろう」と述べるにとどめ「再生可能エネルギーを最優先で導入していく」「足りないところは安全が確認された原発を当面は再稼働していくのが現実的」と語っている。
皇位継承について。「女系天皇」や父方が天皇の血統を引く「女性天皇」については、あくまで「政府の有識者会議での議論を尊重する」という姿勢を見せた。
これらは党内の保守派への気配りと見える。
河野氏の所属派閥は「志公会」(麻生派)だが、今回は派閥としての全面バックアップは得られなかった。
一方、派閥の色が薄いこと、党内の実力者の中では比較的若いことから、当選3回以下の若手議員からは古い自民党のイメージを刷新できると信望は厚い。
無派閥で安倍氏とは距離を置いてきた小泉進次郎氏、過去の総裁選で安倍氏や菅氏と争った石破茂氏などが支持を表明している。
報道各社による「次の首相」を問う世論調査でも軒並みトップに名を連ねていることから「選挙の顔」として期待する向きがある。
選択的夫婦別姓と同性婚制度については、9月16日のグループインタビューで「賛成」を明言した。
一方で「国会で議論を」と、導入に前のめりな姿勢は打ち出していない。
「発信力」に定評があるとされ、Twitterのフォロワー数は242万1500超。安倍前首相(227.8万)や菅首相(47.6万)をおさえ、国会議員では最多だ。
だが、閣僚であり公的な情報を発信するアカウントでありながらフォロワーを相次いでブロックする姿勢には批判の声もある。今回の総裁選では専用のTwitterアカウントを用意した。
外相時代の2018年、記者会見で北方領土問題をめぐる質問を受けた際に再三「次の質問をどうぞ」と述べ質問に答えず、批判された。
8月24日に開かれたオンライン会議の場で、資源エネルギー庁の幹部職員にパワハラを行った疑いがあると、9月1日に「週刊文春」が報じた。
河野氏は「言葉遣い、気を付けなくちゃいかんところはある。そこは反省しなくてはいけない」と釈明している。
野田聖子氏(61歳)
二階幹事長を「幹事長代行」として支えてきた野田氏は、告示日前日の9月16日に立候補を表明した。野田氏は過去3回の総裁選でも立候補を模索してきたが、党国会議員20人からの推薦の壁に阻まれ、出馬を断念してきた経緯がある。今回は切り崩しを警戒しつつ、推薦人の獲得に奔走。ギリギリで初の立候補表明にこぎつけた。告示直前になったため、具体的な公約・政策については選挙戦を通して訴えていくとしている。野田氏は1993年に初当選。98年に当時の小渕恵三内閣で郵政相に抜擢。当時37歳での閣僚就任は史上最年少だった。その後も総務相、党総務会長などを歴任した。
立候補表明のぶらさがり会見では、「他の候補者の政策からは小さき者、弱き者を奮い立たせる政策を見つけ出せなかった」「これまで主役になれなかった女性、子ども、高齢者、障害者が生きる価値があると思える保守の政治をつくりあげたい」と訴えた。
立候補表明は4人の中で最も遅かったが、告示日が近づくにつれてTwitterで「だれもが『わかる政治』を」と題して政策について連日表明。「コロナ禍で女性たちが抱える孤独感や困難に寄り添うことから始めたい」と日々、方針をつづった。
加えて、菅政権が発案した「こども庁」の実現、こどもの誕生・成長、虐待や貧困に対応する「こどもまんなか社会」事業などにも意欲を見せる。
野田氏自身も、人工呼吸器や胃ろうなどが必要な「医療的ケア児」の息子がいる母でもある。
立候補を表明に先立つ9月16日朝には、「個性・多様性の源泉である女性、高齢者、障害者、LGBTQなど、全ての国民が力を発揮できる『フェア』な制度に向け、改革を推進します」と表明した。
さらに16日にはTwitterで「選択的夫婦別姓の実現を目指します」とも明記した。野田氏は若手議員の頃から選択的夫婦別姓に「賛成」の立場だ。
2002年には、家庭裁判所の裁定を通じて例外的に夫婦別姓を実現できる法案提出を目指したが党内保守派の高い壁を超えられず、断念している。
所見発表では日本初の女性総理になったら「閣僚の半分は女性を目指す」と表明。
また、森友問題の再調査にも4候補で唯一言及。財務省での決済文書の改ざんを批判した上で「総裁になったら党に解明チームをつくり、必要に応じて調査する」と述べた。
加えて、皇位継承問題については「総裁選で皇位の議論をすべきではない」とした上で、「女系天皇」も「選択肢の一つ」との見解を示した。
週刊文春は9月8日、野田氏の夫が警察庁のデータベース上で「過去に暴力団に所属していたと記録されていることがわかった」と報じた。過去にも週刊文春は野田氏の夫が暴力団員だったと報じてきたが、野田氏側は否定し名誉毀損だとして訴え、訴訟になった。東京地裁は2021年3月に、大筋で名誉毀損を認めつつも「夫は元暴力団員」とした部分については「真実と信じる相当な理由があった」との判決を下したが、野田氏側・週刊文春側ともに控訴している。
自民党総裁選、過半数なければ「決選投票」 党内に渦巻く思惑
今回の総裁選は、全国の自民党員・党友も投票に参加する「フルスペック」の選挙となる。
党所属の国会議員ごとに1票で「383票」、党員・党友票「383票」の計766票で争う。投票総数の半分を占める党員・党友票は、選挙人は110万人超からの投票に応じて各候補にドント方式で配分する。
4人のうち過半数(384票)を獲得した候補が新総裁となる。
そのため、各都道府県連に3票ずつしか割り振らなかった前回の総裁選とは異なり、一般党員が参加する地方組織の比重が増している。
コロナ禍の中で各候補とも全国遊説や街頭演説が大々的にできないため、積極的にメディアに出演したり、インターネットの配信や動画への出演、SNSなどでアピールしている。
だが、候補者が乱立模様のため過半数の獲得が困難な可能性もある。
初回投票で誰も過半数を獲得できなかった場合は上位2名による決選投票が実施される。
ただ、決戦投票では国会議員票は1回目同様「383票」に対し、党員・党友は投票できず、各都道府県連に与えられる47票のみ。
つまり、決選投票では国会議員票の重みが格段に増す。
各派閥は「勝ち馬」を見極めている
特に今回の総裁選は、現職の総理総裁が出馬せず、直後に衆院総選挙を控えるという特殊な状況だ。
前回の総裁選とは異なり、自民党の各派閥が雪崩を打って同一候補に「乗る」という構図は今回のところはまだ見えない。
各派閥が勝ち馬に乗り、内閣や党内の需要ポストを狙う従来の総裁選とは異なり、一般の有権者からの人気も考慮した「選挙の顔」を選ぶという面も色濃いからだ。
特に河野陣営は党員・党友票でアドバンテージを稼ぐことで、1回目の投票での過半数獲得を狙う。
ただ、一般党員から人気だからといって総裁になれるとも言えない。前々回の総裁選では党員・党友票で安倍氏を上回った石破氏が決選投票で敗れている。
繰り返しになるが、決選投票は国会議員票がカギになる。1回目の2位以下の候補者や支持者が、ここで手を組むことも容易に想定される。
そのため結束力の高い岸田派以外の各派閥では、投票を拘束しない「自由投票」や「特定の候補2名のうちどちらか」など、支持にグラデーションも生じている。
安倍前首相の動き、若手の警戒…まるで「空中戦」?
安倍首相は自身の出身派閥である細田派の議員に高市氏支援を呼びかけるなど、「院政」「闇将軍」のように影響力を行使しようと狙う動きも透けてみえる。
ただ、総選挙での落選を警戒する当選3回以下の若手による派閥を横断したグループ「党風一新の会」が結成されるなど、首相経験者、長老、派閥領袖が影響力を持つ状況に懐疑的な議員も出始めている。
「党風一新の会」のまとめ役は福田達夫氏。福田康夫首相の実子で所属は細田派だ。
党内の「権力闘争」であるため、総裁選では自らがやりたい政策、国民に問いたい政策が表立っては出にくい側面もある。
すでに決選投票を睨んでか、従来の持論を封じたり、立候補表明後に意見を軌道修正したりなどする候補者もいる。
また、候補者は閣僚や党役員として、安倍・菅政権を支えてきた人ばかり。これまで自らの政策を積極的に唱えてこなかった理由や訴える政策の実現可能性も問われるだろう。安倍・菅政権下での対コロナ政策の検証も当然問われる。
「総理総裁」という言葉の通り、自民党総裁選の勝者は日本の首相になることが事実上決まる。
野党が求めている臨時国会は一向に開かれていないが、総裁選後には首班指名(内閣総理大臣の指名)のため臨時国会は必ず開かれる。
新総裁・新首相は党利党略や「空中戦」に陥るのではなく、11月にも開かれるであろう国政選挙も想定した上で、国会での野党との論戦にも期待したい。

●小泉進次郎氏が高市早苗氏にエネルギー政策で反発  9/17
自民党総裁選が告示された。河野太郎氏を支持する小泉進次郎環境相は17日の閣議後会見で、「いまのエネルギー基本計画では日本の産業は成り立たない」と主張する候補者の高市早苗氏に「ひっくり返すのであれば全力で戦う」と反発した。
「ひっくり返すのであれば全力で戦う」
高市氏は13日のBSの番組で、エネルギー基本計画の改定案(※)を「あれでは日本の産業が成り立たない」と主張し、自分が首相になったときには修正する意向を示した。
これに対して記者から聞かれた小泉氏は、「再生可能エネルギー最優先の原則をひっくり返すのであれば、間違いなく全力で戦っていかなければならない」と反発した。
「電源構成か再エネ最優先の原則が入ったことが問題なのか。化石燃料依存型ではこれからの産業はもたない。その国際的な潮流を考えたら、どんな政権が生まれてもこの方向性を否定できるはずはない。改正温対法では、カーボンニュートラル=2050年までの脱炭素社会の実現を明記した。これをまた改正するというなら話は分かるが、これは与野党全会一致したものだ」
(※)2030年度の発電量のうち再エネの目標をこれまでの22〜26%から36〜38%に引き上げた
「原発か再エネか、この対立構図だと思う」
そして高市氏と真っ向からぶつかることについて、小泉氏はこう続けた。
「原発を最大限増やして脱炭素を達成したいと思うのか、再エネを最優先・最大限に導入して達成したいと思うのか。この対立構図だと思う。私は再エネを最優先・最大限で達成することが日本の将来だと。まさに国を愛する者として歴史的な命題であるエネルギーの安全保障を確立したい。再エネの豊富な潜在力を最大限に活かすため、あらゆる規制を取っ払っていくことだと思っています」
これまで小泉氏は「エネルギー政策をひっくり返すのは既得権益だ」と発言してきた。これについて父である小泉純一郎元総理を意識しているかと記者から聞かれるとこう答えた。
「改革というのは既得権益との戦いなので、私は当たり前のことを言っている。すべてに政治のリソースを割くことは出来ないので、父にとっては郵政民営化だったのかもしれない。当時は自民党すら反対していて野党も反対していた。エネルギー政策はまた趣が変わっていて、とくに自民党内の反対が強く、そしてその裏側にいる産業界、そして変えたくない霞が関の一部だ」
「どならないほうがいい」と伝えておきます
記者から一部週刊誌が取り上げた河野氏のパワハラ発言について聞かれると、小泉氏はこう憤った。
「ああいったエネルギー計画の真剣な議論をしている中で、なぜ内部の発言が録音されて外に漏れるのか。こういうことはおかしい。公務員としてやっているならおかしい。そういったことも含めてさまざまな暗闘がある、中でも外でも闘いが。河野さんが相当我慢しているのは、私は見ていて分かる」
そして「河野さんには『どならないほうがいい』と伝えておきます」と付け加えた。
そしてあらためてなぜ河野氏を支持するのか、その想いを語った。
「改革に対する揺るぎない意思と既得権益に対する闘いをなぜやるのか、いまのままだったら次の世代に向けて雇用や産業の基盤が開けない。その目詰まりを起こしている。大切なものは守りながらも次の時代の産業や雇用を創るためには、ときにはぶつかり合いながらも変えていかなければいけない。その突破力を持っているのは・・環境大臣会見なのでこのへんで」
派閥の力学で成り立つ政権を求めない
小泉氏は総裁選について、派閥による動きをけん制した。
「私が何よりも求めているのは派閥の力学によって成り立つ政権ではなく、国民の声がしっかり反映される政権だ。国民の支持によって決まり、対話し理解と共感を得ながら課題について前に進めていく」
そして総裁選で国民に向けて何を訴えるか問われるとこう答えた。
「最も国民が求めていることは、これから冬に向けて第6波という懸念もある中での、難しいコロナ対策。誰が国民の命と暮らしを守ってくれるか。私は最大のポイントはそこだと思っている。そういったことについての具体的な政策論争が繰り広げられるような総裁選になって欲しい」
いよいよ熱い論戦がスタートする。国民はしっかり議論に耳を傾けるときだ。

●高市氏だけ右翼の強硬派と悪目立ち 海外メディアは新首相候補に期待ゼロ 9/18
17日告示を迎えた自民党総裁選を巡り、海外メディアからは日本の次期首相候補への“期待感”がまるで伝わってこない。盛り上がりに欠けるどころか、むしろ“警戒感”さえ漂う。
総裁選には河野ワクチン担当相、岸田前政調会長、高市前総務相、野田幹事長代行の4人が立候補。本格論戦が始まったばかりとはいえ、海外メディアの報道は、「誰がリーダーになろうと変わらない」といった反応が目立つ。
米ブルームバーグは「エコノミストを対象とする調査で36人中27人が河野勝利を予想」としつつ、「誰が総裁選に勝利しようと金融政策に直ちに影響しない」と主張。英ガーディアンは「菅首相を代えても日本の政治危機はほとんど解決しない」との見出しで日本経済の落ち込みや貧困、女性の少ない政治体制など諸問題を指摘。「誰が総裁選を制し、首相になったとしても、これらの難題に取り組むようには見えない」と自民党政治を厳しく批判した。
こうして総裁選をしっかり論評するのはレアケースで、大半のメディアは“黙殺”。取り上げたとしても注目を集めるのは高市氏の極右ぶりだ。
英タイムズが高市氏を特集した記事のタイトルは「右翼の強硬派が日本初の女性首相になりたがっている」。「かつてヘビメタバンドのドラマーだった」と経歴を詳しく紹介し、高市氏がヒトラーの選挙戦略に賛意を示したり、ナチズムを信奉する極右団体の男性と写真を撮ったりした過去を書き連ねている。欧州ではナチズムに賛同するなど、もってのほか。「とんだヤバイやつが首相候補になった」と思われているフシがある。
3日の菅首相の退陣表明からきのうまで、米ニューヨーク・タイムズや米ウォールストリート・ジャーナルの総裁選に関する記事は候補者の人物紹介にとどまる。英BBCに至っては総裁選の動きすら報じておらず、決して関心が高いとは言えない。
世界の主要メディアが抱く日本の新首相への期待感はしょせん、その程度。たいしたメンツではない、と見抜いているようだ。

●細田派自主投票で「混乱の極み」 高市は総裁選を最後まで乗り切れる? 9/19
「混乱の極み。もはや自分が何をやっているのかも把握できていない状態です」
こうため息をこぼすのは、自民党総裁選(9月17日告示、29日投開票)でいち早く出馬を表明した高市早苗前総務相の陣営スタッフの一人だ。
当初は泡沫候補扱いだったものの、安倍晋三前首相が支持を表明したことから評価が一転。「キングメーカー」として存在感を示す安倍氏の威光をバックに一時は総裁選の「台風の目」に躍り出た高市氏だったが、日に日に存在感が埋没し、迷走中だ。
「そもそも高市さんが出馬に色気を見せ始めたのは、産経新聞社系のニュースサイト『ZAKZAK』が8月に行った次期自民党総裁についての世論調査がきっかけでした」と振り返るのは前出のスタッフだ。
「ZAKZAKは、保守色の強い産経系のメディアの中でも特に先鋭的な論調を展開する夕刊フジのポータルサイトとして知られています。執筆陣には、有本香氏やケント・ギルバート氏ら保守系論客が名前を連ね、中国や韓国に批判的で極度の親米保守路線を志向する層が主な購買層。安倍氏の寵愛を受けるタカ派の高市氏は、世論調査では他を大きく引き離す81%という高支持率を叩き出しました」(同前)
この数字に敏感に反応したのが、高市氏の周辺だった。高市氏と付き合いの深い経済人らが「その気」になり、高市氏の前夫である山本拓衆院議員が担ぎ出しに動いたことで機運は一気に高まったという。
「出馬会見では、大胆な財政出動などを柱とする安倍氏の経済政策『アベノミクス』を踏襲した『サナエノミクス』をぶち上げた。その後に出演したテレビ番組でも『靖国参拝』を掲げるなど、党内の保守派にアピールする公約を次々と打ち出し、安倍政権の“正統後継者”であることを猛アピールしました」(政治部記者)
その後も、弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する「敵基地攻撃能力」の保有を巡り、「敵基地を一刻も早く無力化した方が勝ちだ。使えるツールは電磁波や衛星ということになる」と述べるなど保守層に響く主張を繰り返し、野田聖子幹事長代行が告示日直前に出馬を決めるまでは、「紅一点」というアピールポイントも存分に活用した。
ところが、潮目が変わったのは、河野太郎行革担当相が出馬を正式表明してからだ。
「当初は、安倍氏が号令を掛けて細田派の多くが高市氏の支持に回るとみられたのですが、衆院選で生き残りがかかる若手議員が反旗を翻した。派閥横断の若手グループがそれぞれの派閥内での『自主投票』を主張。党内でもこの動きに同調する者が多くなり、15日までに党内7派閥のうち6派閥で自主投票になることが決まった」(同前)
若手グループは、福田康夫元首相の長男で衆院議員の福田達夫氏が代表世話人を務める「党風一新の会」で、福田氏自身が安倍氏のお膝元である「細田派」の所属だ。派閥の規律が事実上瓦解したことで頼りの「安倍氏の威光」も減退。
さらに、事務所内のゴタゴタも陣営の混乱に拍車を掛けている。
前出のスタッフとは別の選対関係者がこう声を潜める。
「選挙戦が本格化してくるに従って問題が次々と出てきました。そもそも選対チーム自体が急造で、人手が圧倒的に足りなかった。指揮系統も統一されていないために大量の文書処理もままならず、マスコミ対応も満足にできない状況に陥っているのです。17日の告示直前には、高市氏本人が新型コロナウイルス対策のために接種したモデルナワクチンの副反応に見舞われる“事件”もありました。その後の日程にかなりの影響が出て、秘書が振り回される事態に陥りました」
選挙戦は、29日の投開票まで続くが、陣営内には「果たして投開票日までこの体制で乗り切れるのか」という不安も広がっているという。全国民が注視する次期宰相を決める熾烈な権力レース。高市氏は無事に“ゴール”できるか。

●舛添要一氏「岸田文雄総裁なら“疑似政権交代”のような雰囲気出せる」 9/19
9月17日に告示され、29日に投開票を迎える自民党総裁選。現職の国会議員、まして権力にしがみつく自民党議員には、選挙という目先の利益しか見えていない。そこで選ばれる総理・総裁は、果たしてその任を全うできる人材なのか。それを見抜けるのは、歴史を知る元自民党のベテラン議員OBしかいない。
本誌・週刊ポストは、歴代の総理・総裁の成功と失敗を見てきた自民党OBの長老政治家17人に、歴史の証言者の視点から、有力とされる岸田文雄・前政調会長、河野太郎・規制改革相、高市早苗・前総務相の総裁候補3人の中で誰が最も総理・総裁にふさわしいかを誌上で“期日前投票”してもらい、その理由を聞いた。
1位となったのは河野氏で、17人中6人が支持した。続く2位は岸田氏で、票を投じたのは5人。その理由に「誠実さ」を挙げるのは深谷隆司・元通産相だ。
「混乱期には経験を積み、人格が落ち着いた人、誠実な人が総理・総裁にふさわしい。岸田さんが外務大臣時代に私の事務所を訪問していただく約束があった。しかしその日、米国大統領選でトランプ氏の当選が確定。“日程はキャンセルだろうな”と思っていたら、岸田さんは約束の時間に来てくれた。この誠実さは評価すべきです」
舛添要一・前東京都知事(元厚労相)は、「消去法で岸田を選ぶ」と言う。
「これまでの安倍−菅政権はコロナ対策にうまく対処できなかった。デフレ克服もアベノミクスには限界が見えている。だからこそ、今回の総裁選では別のアプローチを取る政権への交代が必要だが、河野太郎は尖りすぎ、高市早苗は外交、安保、天皇制など右に振れすぎている。政策的には石破茂が一番だと思うが、党内の調和が保てるのか不安がある。だから岸田。『新自由主義からの転換』を掲げる岸田が総理・総裁になれば自民党内で“疑似政権交代”のような雰囲気を出せる」
小泉内閣の郵政民営化に反対して自民党を離党した自見庄三郎・元郵政相も同意見だ。
「岸田氏は公約で『小泉政権以来の新自由主義的な政策を転換する』と言った。それを評価する。岸田氏本人の総裁としての資質はたいしたことはないと思うが、その政策はぜひ進めてほしい」
 
 
 

 

●河野太郎 再エネ100%も絵空事ではない 自民総裁選演説会 9/17
保守とは度量の広い中庸な、そして温かいもの
河野太郎でございます。わが党の立党宣言にあるように「政治は国民のもの」、国民と共に笑い、国民と共に泣き、国民の思いや不安を受け止め、国民に共感していただける、そういう政治を通して人と人が寄り添う、ぬくもりのある社会をつくりたい。それが私のゴールであります。
本来、保守とは度量の広い中庸な、そして温かいものであります。日本各地のそれぞれの地域で、先祖から受け渡されてきたさまざまな歴史、伝統、文化。例えば方言であったり、地域に残っている地名であったり、みんなで支えてきたお祭りであったり、そうしたものを次の世代にしっかりと受け渡していきながら、常にそこに新しいものを加えていく、それが保守主義者であります。
今、コロナ禍で不安の中で暮らしている方々がいらっしゃいます。菅内閣が発足したときに規制改革の要望を受け付ける「縦割り110番」というものを立ち上げました。わずか数時間のうちに4000通を超えるメールが寄せられました。1つ1つそれに目を通しましたけども、規制改革の要望よりも今、自分が抱えている悩み、自分が直面している問題、あるいは不安。それを切々と書かれたメールがたくさんありました。そして、メールの最後は決まって、読んでくれてありがとう。自分の悩みを聞いてくれてありがとう。何をしてほしいというわけではない。しかし自分の抱えている悩みや不安を聞いてくれて本当にありがとう。そういって締めくくられたメールがたくさん、たくさんありました。
それを読んで、私は政治の至らなさ、深く反省をいたしました。今、日本の社会に分断が起きている。あのメールはその証しではなかったかと思います。今、われわれはこの分断を乗り越え、分断を補修し、もう一度、人と人が寄り添うぬくもりのある社会をつくっていかなければなりません。
今年、初当選から25年目になりました。この25年間、私は世の中を便利にしたり、新しい価値を生み出すことを邪魔している、そんな仕組みやシステムと徹底的に戦ってきた、そう言っていいんだろうと思います。
自治体の創意工夫や関係者の努力を邪魔する仕組み変えただけ
例えばワクチン。1741の市区町村と47の都道府県。そして大勢の医療関係の皆さまの創意工夫と努力の結果、1日に100万回どころか、最速の日は164万回の接種が行われました。7月末の高齢者2回接種もほとんどの自治体で完了することができました。私がやったのはそういう自治体の創意工夫や関係者の皆さんの努力を邪魔している仕組みを変えただけであります。
先週の金曜日、私の下の規制改革推進会議でコロナの抗原検査キット、簡易キットを一般の薬局で一般に販売する、そういう議論をしておりました。本来、コロナに感染しているかどうかを本当に短時間で検査することができるキットを安い価格で大量に社会に供給することができれば、今見えている世界が変わるはずです。いろんなイベントや、あるいは学校で、そういう検査キットを使っていけば、いろんな可能性が広がっているはずです。コロナが日本に来てから、もうこんなに時間がたつのに、まだそんな議論をしなければいけない、非常に残念に思います。
昨晩、私はパルスオキシメーター、酸素の飽和度を測るパルスオキシメーターを腕時計のように、腕に装着をして、そしてそこから酸素飽和度や脈拍や体温を1秒ごとに病院に送ってもらう、そして、ホテルや自宅で療養している方々の健康に何か問題が起きたときに、いち早く警告が出て駆け付けることができる、そういうシステムを視察してまいりました。
日本のコロナ対応を任せていただきたい
今、多くの方が自宅で療養したり、あるいはホテルで療養されたりしています。自分の健康が大丈夫なんだろうか、何か起きたときに救いの手は来るのだろうか、多くの方が不安に思っている中で、もうそういう技術があります。まだまだ通信のコストが高い、通信部分のコストが高い。しかしそういう芽が出始めているならば、そこに政府が出ていって、もっともっと開発をする、それを推し進めていく。あるいは簡易検査キットを政府が製造設備のコストを払ってでも安く大量に提供できるようにしていくのが政府の役割ではないかと思います。
あるいは第5波。飲食店の皆さんにはたびたびご迷惑を掛けています。本来ならば飲食店の店舗のデータベースに売り上げや人件費、家賃、固定費、規模、そんなものをきちんと入れたものがあって、次の緊急事態宣言が始まったときに協力してください。分かりました、協力します。そしたらボタン1つをぽちっと押せば協力金、給付金が支給される、そんなデジタルのシステムがあっていい。なければおかしい。いまだに支給されるのに何カ月も掛からなければいけないというのは、これは一刻も早く直さなければいけないことだと思っています。ぜひ、この日本の国のコロナの対応を河野太郎に任せていただきたい。河野太郎の実行力に任せていただきたいと思っております。
今、22兆円のGDPギャップがあります。これをなんとか埋めていかなければなりません。しかし、最初に金額ありきではない。コロナの前に戻るのではなくて、新しい未来につながる、そういう投資をしなければなりません。
まずやるべきは、子供たち、子育て、子育てをしている世帯、そこに対してしっかりと支えるよ、しっかりと仕組みをつくるよ、そういうメッセージを送っていかなければなりません。子供の貧困に対して、当面、どう対応するのか、あるいは子育てをしっかりと社会で支えていくために、子育ては楽しい、子育てができて幸せだ、一緒に見ている社会も幸せなんだ、そう言えるような子育ての支援にまずお金を使わなければなりません。
そしてこのコロナ禍、テレワークが実際にできるようになりました。1980年代、日本で最初のサテライトオフィスの実験の、私、現場責任者をやりました。消費者問題担当大臣のときには消費者庁を徳島に移そうといって旗を振りました。しかし、今起きていることは、どこででも働ける、もうすでに幾つもの民間企業がテレワークできるじゃないか、本社の規模をもっともっと小さくすることもできるよね、実際にそういう動きが出ています。
デジタル遷都の議論ができる時代
それならばこのテレワークを使って今までの東京一極集中を逆回転させる、地域にどんどん人口を出ていってもらう、東京の賃金体系を地域でも働けるようにする、そういう雇用を生み出していく、それを全力を挙げてやってまいりたいと思います。
民間企業でできるんだったら霞が関はもっと本気で取り組まなければなりません。霞が関がみんなテレワークができる。前回のようにどこかへどこかの省を移すのではなく、霞が関がみんな好きなところで仕事ができる。実家へ戻る人もいれば両親の介護をやりながら仕事をする、あるいは私はこういうのが趣味だからここで働きたい、そういうことが実現できるようになる。霞が関がそうやってテレワークができるようになれば、万が一、東京に大地震が来ても、この霞が関の機能はデジタルの世界できちんと維持されます。
もう遷都の議論ではない、デジタル遷都の議論ができる、そういう時代になりました。全国津々浦々に5Gのネットワークを広げていく、そういう投資をしっかりとやらなければいけない。あるいは東京から社員が地方へ移った企業には法人税を減税します、そういうことをやってもいいのかもしれません。
気候変動、いや、もはや気候危機といわれる時代になりました。再生可能エネルギーを最優先に、最大限に入れていかなければなりません。そのための必要な投資を政府が率先して行っていきたいと思っています。蓄電池であったり、送電網の整備、連系線の整備であったり、あるいは洋上風力を実行するために必要な港の整備であったり船舶の建設。あるいは今、ガラスで太陽光発電ができるようになっている、あるいは道路に敷いたもので太陽光発電ができる、そんな技術ができています。私の地元では波の力で発電をする企業が立ち上がりました。
守るべきは年金制度ではなく将来の年金生活
再生可能エネルギーのさまざまな技術の種が出ています。それを全面的にバックアップして、気候変動にも取り組むし、日本の経済、日本の産業の新しい芽になって育っていってくれる。そしていつの日か再生可能エネルギー100%でこの国のエネルギーを回していくことだって私は絵空事ではないと思っています。
今、多くの農家は米価や人口の減少に不安を抱いていらっしゃいます。しかし日本の高い品質、この高い品質は農作物にも当てはまる。品質の高い付加価値のある、そんな農林水産業の伸び代は、私は非常に大きいんだと思います。それを現実にするためのさまざまな技術を農業や林業や水産業に取り入れていく、その後押しをしっかりとやっていきたい。
アベノミクスで経済、大きく動きました。しかし、残念なのは企業の利益は大きくなったけども、それが賃金に波及しませんでした。これからは企業の利益から個人の所得に視点を移す、そういう時期に来ていると私は思っています。企業が社員の賃金を上げる、労働分配率を上げていったら、法人税を減税する。そういうインセンティブを付けて、賃金をしっかりと上げていく。その努力をしていきたいと思っております。
そして何よりも私がやらなければいけないと思っているのが社会保障の改革、特に年金の改革です。以前の年金改革によって年金制度は将来にわたって維持されるんだ、そういわれています。しかし、今の制度でマクロ経済スライドを発動していったら、将来のもらえる年金の金額はいったい幾らになってしまうんでしょうか。私たちが守らなければいけないのは年金制度ではありません。今の若い世代が、あるいはその次の世代が年金をもらうときに、彼らがしっかりと生活できるのか。守るべきは年金制度ではない。守るべきは将来の年金生活なんです。
制度が維持されるからそれでいいということにはなりません。今こそ国民の皆さんを議論の輪に入っていただいて、これはもう全ての国民の皆さまに関わることですから、分かりやすい説明をすることで何が問題なのか、どういう選択肢があるのか、それをきっちりとお示しをして、年金生活を守るための年金、これをつくる。これが私は一番、今やらなければいけないことだと思っております。
東アジアの不都合な現実に直面
安倍政権で外務大臣を2年、防衛大臣を1年やらせていただきました。東アジアの不都合な現実というものと常に直面をしてまいりました。このコロナ禍で国際秩序が分断されようとしています。片方には自由主義、民主主義、法の支配、あるいは基本的人権といった共通の価値観を大切にしていこうという国々があります。反対側には、独裁、監視社会を進めていこうというグループがあります。今、国際秩序が分断されようとしている中で、私たちは志を同じくする、価値観を共有する、そういう国々としっかりと連携をして、私たちが大切に思っている価値観をしっかりと守っていく、そういうことをやらなければいけない。それが日本外交の1つの柱だと思っています。
そして、もう1つ、日本はG7の中で、唯一キリスト教文明を背景にした民主主義ではありません。ほかの欧米の国々とはそこのところの立ち位置が違っています。私は外務大臣時代、G7でも、いろんな会議でも、日本だけでなく、アジア、中近東やアフリカの声をなるべく代弁できるような努力をしてきたつもりであります。いろんな国が民主主義を目指している。自由がいいと思っている。しかし、全ての国が同じペースで歩んでいくことはできません。よちよち歩きの国もいます。どちらかといえば、欧米は早く歩け、走れ、そう言いがちですけども、国によって歩みはさまざまです。
日本はよちよち歩きでも同じ方向を向いて歩みを進めようという国にしっかりと寄り添って、一緒に歩いていくよ、それができるのが日本だと思います。それが日本外交のもう1つの柱なんだと思っています。
今、日本は立ちすくんでいる
私がこの国のリーダーとしてやりたいこと。本当にやりたいことがある。これができたらいいな、こんなことができたら幸せだな、でもなんとなく、そうはいかないよね。そう思っている人が多いのではないかと思っています。なんとなく今、日本は立ちすくんでいる。ほかの国が日本をどんどん追い越そうとしている。だけど、本当は手を伸ばしたらそれつかめるんだよ。それを国のリーダーとしてやってみたい。
例えば、行政の文書から認め印をなくす、あるいはワクチンを1日100万回打ってみる。いやいや、それは言うのは簡単だけど、そんな簡単なものじゃないよね、そうはいかないよね、そう言われました。だけど、やってみたら、はんこを99%なくなりました。ワクチン、100万回、今でもコンスタントに打っています。やればできる。欲しいものがあったら、これができたらいいよねというものがあったら、手を伸ばしてそれをつかんでみる。案外つかめるものなんだ。みんなにそう思っていただいて、すくまないで手を伸ばしてみよう。
国は、もし河野太郎がリーダーになれたら積極的に手を伸ばしていきます。積極的にこうあったらいいなというものをつかんでいきます。それを見て、自治体も、うちもやってみよう、あるいはいろんな企業が、うちの会社も手を伸ばしてみようよ、そして国民1人1人の皆さんが、じゃあ自分もできるかもしれない。そう思ってみんなが少しずつ手を伸ばしたら、いろんなものをつかめる。1つつかんだら、その次のものにも手を伸ばすことができるかもしれない。いつかは星に手が届くかもしれない。みんながそう思ってくれる日本の国をつくりたい。私は真剣にそう考えています。ありがとうございました。 
 
 雑話

 

●ポスト菅の「期待度1位」河野太郎氏 麻生氏に出馬を止められた? 8/28
コロナ無策で感染爆発を止められない菅義偉・首相は、お膝元の横浜市長選で有権者から「NO」を突きつけられた。自民党では「もうこの政権は持たない」と見限った政治家が次々に総裁選出馬に名乗りを上げているが、そのなかにあって、世論調査でポスト菅の「期待度1位」のあの人物が沈黙を守っている。なぜなのか──。
「菅首相のままでは確実に総選挙に負ける」(自民党3回生議員)
横浜市長選大敗の衝撃に自民党内はいよいよ浮き足立ち、これから始まる9月の総裁選は首相の“首取り合戦”の様相だ。すでに出馬意欲を表明した高市早苗・前総務相、下村博文・政調会長に続いて、岸田文雄・前政調会長も横浜市長選敗北を見て出馬に動き出した。総選挙前に「新しい看板」に掛け替えようという動きだ。
だが、いまのところ出馬に意欲を見せているのは“小物”ばかり。
「次の総理・総裁は現在の感染爆発を食い止め、コロナ禍からの出口を国民に示す強いリーダーシップと発信力が求められる。優柔不断で知られる岸田にそれが期待できるのか。高市、下村では自前の勢力を持っていないから自力で出馬に必要な推薦人20人を集めることが難しい。いずれも自民党の救世主になれる器ではない」(自民党ベテラン議員)
そんな人材不足の自民党で、若手議員から「選挙の顔」になれると期待されているのがワクチン担当の河野太郎・規制改革相だ。ツイッターのフォロワー数は国会議員最多の230万人を超え、新聞・テレビの世論調査でも「次の首相にふさわしい人」の1位につけている。ワクチン接種の混乱で批判を浴びたが、少なくとも、記者会見で毎回官僚の作文を棒読みするだけの菅首相より国民への発信力があることは間違いない。
「今回の総裁選は党員投票が実施される。派閥の数合わせだけでは決まらないから、河野が出馬すれば党員の支持を集めて台風の目になる可能性はある」(同前)
河野氏自身も総裁選出馬を視野に入れている。自民党では総理・総裁を目指す政治家は、総裁選出馬にあたって政策ビジョンを出版し、事実上の「政権公約」として世に問う伝統がある。河野氏は安全保障からエネルギー政策、社会保障まで自分が目指す政策をまとめた著書『日本を前に進める』(PHP新書)を8月27日に出版予定だ。総裁選を目前にした出版のタイミングは、出馬をにらんで準備を進めてきたことを物語る。
ところが、河野氏は政権公約本の出版直前になって出馬をためらいだした。
「まず私のいまの仕事をしっかりやりたい」「総裁選うんぬんより、まずワクチン接種と規制改革を進める」
8月20日の会見で総裁選出馬について質問されると、そう慎重な言い方をしたのだ。何があったのか。実は、会見の2日前、河野氏が派閥の親分である麻生太郎・副総理と極秘会談したという情報が流れている。官邸関係者が語る。
「会談は8月18日の日中に行なわれたようだ。河野さんは麻生さんに著書の出版について報告をしたが、麻生さんが何を語ったのかはまだ把握できていない」
麻生事務所は「公表している以外のスケジュールについてはお答えしていません」と回答したが、河野事務所にぶつけると、「(会談は)事務所では把握していません。日程表の予定にもないし、大臣室の日程担当も『知らない』と言っています」と否定的な回答だった。
それでも自民党内で会談説が注目されているのは、ちょうど1年前に似た状況があったからだ。河野氏は昨年8月、安倍晋三・前首相の突然の退陣表明を受けた総裁選への出馬に動いていた。そのとき、麻生氏との会談(昨年8月31日)が持たれてこう説得されたとされる。
「おまえの父親は首相になれなかった総裁だ。オレも首相は1年で終わった。焦らないほうがいい。必ず良い機会は来る」
結局、河野氏は出馬を断念し、菅支持に回って入閣した。派閥会長を続けたいという麻生氏は、今回も河野氏の出馬に反対とされる。党内では河野氏が会見で慎重な言い方をしたのは、「麻生氏に出馬を止められたのではないか」との見方が消えない。 

●「河野太郎首相だけは絶対に避けたい」党内で"菅おろし"が盛り上がらない 8/31
自民党総裁選の日程が固まった。菅義偉首相(総裁)の支持率は低迷しているが、現状では再選が有力視されている。ジャーナリストの鮫島浩さんは「不人気であっても“菅おろし”が盛り上がらないのは、議席減よりも世代交代を阻止したいという長老政治家たちの交錯した思惑に原因がある」という――。
安倍、麻生、二階の3人は菅首相の再選を支持
新型コロナウイルスの感染爆発と医療崩壊が続くさなかに、自民党は9月17日告示——29日投開票の日程で総裁選を行うことを決めた。
菅義偉首相(自民党総裁)は、無為無策のコロナ対策に批判が殺到して内閣支持率が続落し、衆参補選や複数の知事選に続いて地元・横浜市長選で惨敗してもなお、総裁選で再選を果たして政権を続行する意欲満々だ。
10月21日に衆議議員の任期満了が迫り、総裁選直後には衆院選挙が待っている。自民党議員には「菅首相では選挙に負ける」との危機感が広がり、首相交代を求める声が広がる。自民党が実施した情勢調査でも、このまま衆院選挙に突入すれば自民党は40議席以上を減らして単独過半数を割る恐れがあるとの結果が出た。
ところが、マスコミ各社は菅首相が総裁選に勝利する可能性が高いと報じている。自民党は衆院選挙で大幅に議席を減らすことを承知の上で菅首相を再選しようとしているのだ。これはいったいなぜなのか。
こたえは簡単である。自民党の牛耳る3人の長老――安倍晋三前首相、麻生太郎副総理、二階俊博幹事長――が菅首相の再選を支持しているからだ。
「世代交代を阻む」という一点で手を握り合っている
安倍氏66歳、麻生氏80歳、二階氏82歳、菅氏72歳。2012年末から7年8カ月に及ぶ日本史上最長となった安倍政権と昨年秋にそれを受け継いだ菅政権では、長老3人と菅首相が国家権力を完全支配し、時に「内輪もめ」しながらも「世代交代を阻む」という一点で手を握り合い、あらゆる利権を独占してきたのだった。
今の自民党議員の大半は、この4人のうちの誰かの庇護の下にあり、彼らが密室の談合で決めたことに黙って従う体質が身に染み付いてしまった。
落選の危機に直面した今でさえ、菅首相再選で歩調をあわせる長老たちに逆らい新しいリーダーを担ぐエネルギーが生まれてこない――これが長期政権のぬるま湯に浸かってきた自民党議員たちの実像である。非力な野党を相手に過去6回の国政選挙で楽勝を重ねた結果、危機に立ち向かうエネルギーを失ってしまったのだ。
次世代の不甲斐なさをいいことに、長老たちは国家権力をほしいままにしている。彼らは自民党が大幅に議席を減らすことより世代交代が進んで自らの地位が脅かされる方が嫌なのだ。だからこそ現状維持を望んで菅首相再選を支持する。
菅首相以外に出馬を表明したのは岸田文雄前政調会長(64)、下村博文政調会長(67)、高市早苗前総務相(60)。岸田氏は安倍氏と麻生氏の支持獲得に必死であり、下村氏と高市氏は安倍氏に近い政治家だ(下村氏は出馬を断念)。
いずれも長老たちが「内輪もめ」を優位に進めるための道具にすぎない。全員が60歳以上であることが、世代交代が止まって久しい自民党の閉塞感を映し出す。
自民党を牛耳る長老たちは何を考えているのか。まずは安倍前首相から考察してみよう。
安倍氏…最悪の事態は「過去の人」になること
安倍氏は最大派閥・細田派(96人)を事実上率いる自民党最大のキングメーカーだ。首相を二度も務め、在任期間は日本史上最長なのに、三度目の首相返り咲きを狙っている。
病気を理由に首相を辞めた昨年秋、アベノマスクなどコロナ対策の失態で内閣支持率は低迷していた。政府主催「桜を見る会」に地元支援者らを招く「権力の私物化」が激しく批判され、後援会主催の前夜祭の費用の一部を負担した公職選挙法違反の疑いまで浮上し、政権運営は行き詰まりをみせていた。
いったん身を引いて疑惑追及が収まるのを待ち、自らに従順な岸田氏に禅譲して三度目の首相登板の機会をうかがおう――安倍氏はそう考えた。最も避けたかったのは、国民的人気が高い石破茂元幹事長(64)の首相就任だ。石破氏は安倍氏の疑惑追及に前向きだった。「石破政権阻止」が安倍氏の至上命題であった。
そこを二階幹事長につけ込まれた。二階氏は安倍氏に従順な岸田氏の首相就任は避けたかった。そこで石破氏を担ぐそぶりをみせたのだ。安倍氏は慌てた。岸田氏じゃなくていいから、石破氏だけはやめてほしい——安倍氏と二階氏の「内輪もめ」と「妥協」の結果誕生したのが菅政権である。
二階氏は功労者として幹事長に留任し、人事をはじめ党運営を掌握した。内閣支持率も当初は高く、安倍氏の存在感はめっきり薄れた。安倍氏にとって面白くない政権ができたのだ。
菅首相がコロナ対策で失態を重ね、内閣支持率が下落したのは幸運だった。だが菅首相が政権を投げ出すことは避けたかった。そうなれば衆院選挙が近づくなか、国民的人気の高い石破氏か河野太郎ワクチン担当相(58)の首相登板を求める声が高まるだろう。
石破氏に対抗するには河野氏を担ぐしかない。だが河野政権で衆院選挙に圧勝したら自分は「過去の人」になってしまう——首相返り咲きを狙う安倍氏にとって「新しいスターの誕生」は最悪の事態なのだ。
菅首相は「桜を見る会」捜査が終結するまでの“中継ぎ”
菅首相再選を支持する代わりに二階幹事長の交代を迫る——安倍氏の基本戦略は決まった。安倍氏は「ポスト菅」を問う世論調査で、石破氏、河野氏、小泉進次郎氏に続いている。岸田氏や立憲民主党の枝野幸男代表より上だ。不人気の菅政権がダラダラ続く方が安倍政権復活の芽は残る。
最大の障壁は「桜を見る会」疑惑だ。東京地検特捜部は不起訴としたが、検察審査会が7月30日に「不起訴不当」の判断を示し、特捜部は再捜査して起訴するかどうかを改めて判断することになった。
安倍氏の幸運は「不起訴不当」にとどまったことだ。「起訴相当」なら特捜部が再び不起訴にしても検察審査会の再審査で「起訴相当」になれば強制起訴される。「不起訴不当」の場合は特捜部が次に不起訴と判断すれば捜査は終結する。特捜部は年内にも判断を下すとみられ、そこで不起訴となれば、安倍氏は晴れて「潔白」を宣言し、堂々と首相返り咲きに向けて動き出すことができるのだ。
年内は不人気の菅首相に「中継ぎ」させればいい。秋の衆院選挙で自民党が議席を減らしても自公で過半数を割り野党に転落するほど負けはしないだろう。議席減の責任を二階氏に押し付けて幹事長を交代させることができれば最高だ——安倍氏の当面の基本戦略は「菅支持+二階外し」である。
麻生氏…河野氏に出馬の口実を与えたくない
次に安倍氏の盟友である麻生氏の本音を探ってみよう。
麻生氏は、安倍氏が率いる最大派閥(96人)と自ら率いる第2派閥・麻生派(53人)が首相を交互に輩出し、安倍氏と麻生氏がキングメーカーとして君臨する将来像を描いてきた。そのために第5派閥の岸田派(46人)を麻生派に吸収し、「安倍派」と「麻生派」が数の上で並び立つことを目指す考えを周辺に示してきた。
目障りなのが、麻生派に所属する河野氏だ。河野氏が国民的人気を背景に首相になれば派閥内の世代交代が一挙に進み、自らはキングメーカーどころか「過去の人」になる。麻生氏が昨年秋の総裁選でも河野氏の出馬に反対し、今回も反対の姿勢を崩していないといわれるゆえんだ。
河野氏は菅内閣の閣僚である。菅首相が出馬する以上、閣僚として支えてきた河野氏の出馬は難しい。衆院選挙さえ終われば「選挙の顔」としての河野氏待望論も収まるだろう。それまでは菅首相に続投してもらうしかない。
麻生氏も本音では岸田氏が首相になるのがいちばん都合がよい。独自行動が目立つ河野氏と対照的に、岸田氏は従順で操りやすい。首相になっても安倍氏や麻生氏に依存するのは間違いない。だが、岸田氏が勝勢になって菅首相が不出馬に追い込まれ、河野氏に出馬の口実を与えることは絶対に避けたいのだ。
二階氏…石破氏を「ポスト菅」のカードとして握る
二階幹事長は党運営を掌握できる菅政権に大満足だった。唯一警戒してきたのは、菅首相が総裁選で安倍氏の支持を得る見返りに二階氏を幹事長から外す人事を断行することだった。
老獪な二階氏はこれに備えて菅氏に代わるカードを複数枚用意してきた、ひとりは小池百合子東京都知事。総裁選に先立って衆院選挙が実施されれば、小池氏に都知事を辞めて自民党から出馬させ、その後の総裁選に担ぎ出す。この構想は総裁選が総選挙に先行実施される方向となり困難になった。ふたりめは野田聖子幹事長代行。小池氏同様「初の女性首相」として担ぐことを想定し幹事長代行に起用したのだが、野田氏への期待感は党内で高まらなかった。
最後に残るカードが石破氏だった。安倍氏が石破氏を徹底的に干しあげるなか、二階氏は石破氏と接触を重ねてきた。石破派は総裁選出馬に必要な推薦人20人を割り込み自力で出馬するのは難しい。それでも国民的人気を保つ石破氏を「ポスト菅」のカードとして握り続け、安倍氏の「二階外し」を牽制してきた。だが、その石破氏も自民党内で待望論が高まるには至っていない。
菅首相は8月30日、総裁選に勝利した後の党役員人事で幹事長を交代させる意向を二階氏に伝えた。安倍氏の要求を受け入れ、「菅おろし」に対抗するためだ。二階氏はこの人事を容認した。有効な「ポスト菅」カードがない以上、幹事長ポストを差し出すことで菅首相再選に貢献し、自らの影響力を残す道を選択したとみられる。
菅氏…とにかく政権を一日でも長く続けたい
さいごに菅首相を分析してみよう。
当初は東京五輪で支持率を回復させ、9月5日のパラリンピック閉会後ただちに衆院解散・総選挙を断行して安定多数を得て、総裁選を無投票で乗り切る戦略を描いていた。
ところが、感染爆発と医療崩壊で緊急事態宣言を9月12日まで延長することになり、9月の衆院解散は事実上困難に。総裁選の先行実施に追い込まれ、自民党内で「菅おろし」の声が広がることになった。
それでも菅首相が総裁選勝利に自信を抱いているのは、安倍氏、麻生氏、二階氏の支持を得ているからだ。選挙に弱い若手議員がいくら反発しても長老3人の支持さえ固めれば再選は揺るがないと確信している。二階幹事長の交代を決断したのも、安倍氏と麻生氏の支持をつなぎとめるには二階氏に「譲歩」してもらうしかなかったからだ。
自民党総裁選さえ乗り切れば、10月か11月の衆院選挙で野党に負けなければよい。議席を多少減らしても自公で過半数を割る可能性は低く、万が一そうなっても維新の会を引き込めば政権を維持できる――菅首相が目指すのは、自らの政権が一日でも長く続くこと。そのためには安倍氏、麻生氏、二階氏の「内輪もめ」を何とか話し合いで修復し、「長老3人+菅首相」による支配体制を継続するのがいちばんいい。
私は菅首相を当選2回の「若手」だった2003年当時から取材してきたが、苦境に立つほど強気一辺倒で押してくるタイプの政治家である。若手議員が「菅おろし」をやめないのなら、総裁選前に衆院解散を断行すると脅せばいい。選挙に弱い若手は震え上がって大人しくなるだろう——菅首相はそう腹をくくっているとみていた。
菅首相は二階幹事長に交代を告げた8月30日、総裁選前の臨時国会召集を見送る意向を党幹部に示し、衆院解散・総選挙を総裁選後に先送りする姿勢を鮮明にした。安倍氏が求める「二階外し」を実行することで「菅おろし」は抑えられる。もはや衆院解散で若手を脅す必要もなかろう——そんな手応えを感じているに違いない。
不人気の菅首相を延命させる長老たちの権力欲
不人気の菅首相の再選がなぜ有力視されるのか、安倍氏、麻生氏、二階氏の長老3人が支配する自民党内の事情を読み解いた。コロナ危機に直面する私たちの社会を導いているのは、内向きの権力維持にたけた長老たちである。
総裁選不出馬を示唆してきた石破氏は、菅首相の支持率続落と、岸田氏ら対抗馬への期待感が高まらない現状をみて、出馬の可能性を探り始めた。だが、頼みの二階氏が石破氏支持に転じる気配は今のところなく、出馬に踏み切れるかは不透明だ。石破氏と並んで国民的人気の高い河野氏は、菅首相が不出馬に追い込まれない限り、菅内閣を支えるワクチン担当相としての役割を投げ出して出馬するのは困難とみられている。このままでは「長老3人+菅首相」の支配体制は継続されそうな雲行きだ。
自民党が自浄作用を発揮して新陳代謝を進める機会が総裁選である。投票に参加できるのは自民党の国会議員と党員だけ。彼らが長老支配に甘んじるのか、世代交代を進めて生まれ変わるのか。私たち有権者は総裁選の行方をよく見定めて今秋の衆院選挙で投票先を決める材料としたい。

●河野太郎氏の発言要旨 9/3
菅義偉首相を支える閣僚の1人として力不足だった。じくじたる思いがある。新型コロナウイルス対策はワクチンだけではない。必要な改革を思い切ってやりながら対策をしていく必要がある。私自身どうするか、先輩や仲間の議員とじっくり相談し、関係の皆さんといろいろ相談しながら決めていきたい。外相として衆院選を経験している。総裁選はしっかりと閣僚としての仕事をやりながら問題なくできると思う。(3日に首相と会談した際に)「本当にお疲れさまでした。この1年間、しっかり評価されるようにきちんとまとめてどこかで出していかなければいけない」という話をした。

●暴走する河野太郎氏のパワハラより重大な問題 9/3
河野太郎行革担当相が炎上している。文春オンラインで資源エネルギー庁の幹部を罵倒する音声データが公開され、話題を呼んでいるのだ。
これはエネルギー基本計画(エネ基)の素案についてのオンライン会議の録音で、河野氏が「日本語わかる奴、出せよ」などと語気を荒げて、エネ基の修正を迫っている。彼は霞が関では「パワハラ大臣」として知られているので、これ自体は驚くことではないが、その音声データがこの時期に出たことには政治的な意味がある。
問題はパワハラではない
この会議は8月24日に開かれたもので、出席者は内閣府から河野氏を含めて2人、エネ庁から2人の合計4人。河野氏の発言は、文春によるとこんな調子だ。
河野「おめぇ、北朝鮮がミサイルを撃ってきたらどうすんだい。テロリストの攻撃受けたらどうすんだい、今の原発。(再エネだけについて)そんな恣意的な記載を認めるわけねえだろうが!  いい加減にしろよ」
エネ基で焦点になった「2030年に再エネ36〜38%程度」という記述については
河野「日本語では、36〜38以上と言うのが日本語だろ」
エネ庁「いや、積み上げて36〜38程度……」
河野「積み上げて36〜38になるんだったら、以上は36〜38を含むじゃないか!  日本語わかる奴出せよ、じゃあ!」
霞が関では、こういうパワハラは珍しくない。つるし上げは「野党合同ヒアリング」でおなじみだ。それが役所に過剰な国会対応を求め、現場の官僚の負担になって、霞が関が「ブラック職場」になっている。それを批判して働き方改革を推進していた河野氏が、パワハラを日常的にやっているわけだが、本質的な問題はそこではない。
「閣議決定で拒否権を行使する」という脅し
エネ基は9月末に閣議決定される予定だが、経産省の所管なので、内閣府の規制改革担当大臣である河野氏には何の権限もない。この会議に出席したエネ庁の山下隆一次長は河野氏の部下ではないので、これは「上司が部下を恫喝する」という意味のパワハラではない。
ビジネスでいうと、社長が隣の会社の役員を呼びつけてどなり上げたようなものだから、聞き流せばいいのだが、エネ庁が河野氏に逆らえない理由は、彼の冒頭の発言に示されている。
河野「これ、エネ基って閣議決定だろ?」
エネ庁「はい、最終的には閣議決定でございます」
河野「そうだよな。経産省単独じゃ決められねぇんだろ?」
つまり河野氏は、エネ庁が修正要求に応じない場合は閣議決定に署名しないと示唆しているのだ。そんなことが起こった場合は閣内不一致なので、閣議決定を撤回するか、河野氏を罷免するしかない。それは前例がないわけではないが、深刻な問題になる。官僚としては、絶対に避けなければならない。
これは単なる脅しともいえない。毎日新聞によれば、小泉進次郎環境相は、6月に閣議決定された「骨太の方針」と成長戦略について「再エネ最優先」という文言を入れ、「原子力を最大限活用する」という文言を削除しないと署名しないと主張したという。
これも河野氏と連携した行動だろう。今回は河野氏が、本丸のエネ基について拒否権を行使すると脅したわけだ。
エネ庁では、この対策をめぐって協議が行われただろう。河野氏は「容量市場(大停電に備えるバッファの市場)を凍結しろ」とか、「原子力の活用という文言を削除しろ」といった要求を出しているが、エネ庁としては飲むわけには行かない。その結果、苦肉の策として出てきたのが、音声データのリークだったのではないか。
もちろんこれはエネ庁の公式決定ではなく、次長がやれと言ったわけでもないだろう。内部調査は一応やるだろうが、誰が文春に流したかはわからないので、「音声データがどこかに偶然、残っていた」ということになるのではないか。
内閣府にも環境省にもエネ基の文言を修正する権限はないが、閣僚には閣議決定の拒否権がある。それは抜けない「伝家の宝刀」だが、役所の脅しには使える。この巧妙なシナリオを書いたのは誰だろうか。
エネ基のちゃぶ台返しをねらう黒子
問題のオンライン会議には、内閣府の山田正人参事官が同席している。彼は経産省から出向した異色の官僚で、筋金入りの反原発派として知られる。核燃料サイクルに反対する「19兆円の請求書」という怪文書をマスコミにばらまいたといわれ、その後は閑職に追いやられていた。
河野氏は2020年に規制改革相に就任したとき山田氏を補佐に抜擢し、内閣府に「再生可能エネルギータスクフォース」(再エネTF)を結成した。彼が再エネの規制を撤廃するために、河野氏の虎の威を借りてエネ庁を脅しているのだろう。その本丸がエネ基である。
再エネTFが経産省の有識者会議に出した提言は「再エネ最優先」の原則を打ち出し、「再エネ36〜38%以上」にしろとか「住宅用太陽光発電を義務づけろ」などと提言して、他の委員を驚かせた。
日本の総発電量に占める再エネ比率は2019年現在で19.2%だが、そのうち7.7%は水力で、ほとんど増やす余地がない。2030年までに増設できるのは太陽光と風力だが、合計8.4%。再エネを38%以上にするには、これを8年で30%と3倍以上にしなければならない。
しかしもう適地がほとんどない。日本の平地面積あたり再エネ発電量はすでに世界一で、メガソーラー(大型の太陽光発電所)には、各地で土砂崩れなどを心配する反対運動が起こっている。
そこで再エネTFは、環境影響評価などの規制をなくして再エネ開発を推進しようとしているのだが、いくらがんばっても8年で3倍にはならない。このままでは再エネも原発も増えないで石炭火力が減り、その穴をLNG(液化天然ガス)で埋めるだけだろう。
2030年までにCO2を46%削減するという国際公約は達成できず、残る分は海外から排出枠を買ってくるしかない。結果的には数兆円の国民負担が増え、電気代は上がり、不安定な再エネが増えると大停電が起こるだろう。
河野氏は、次の内閣改造で「重要ポスト」で処遇されるという。内閣支持率が3割を切り、与党の過半数割れの危機も懸念される菅首相としては、国民的人気のある河野氏と小泉進次郎氏を2枚看板にして選挙を乗り切りたいところだろう。
その取引材料として、エネ基が使われるおそれも強い。河野氏はそういう状況を踏まえた上でエネ庁を恫喝し、エネ庁は最後の抵抗手段として文春を使ったわけだ。こんな民主主義とは無縁な駆け引きでエネルギー政策が決まるのは情けないが、それが日本の政治の水準である。

●田中真紀子に似ている? 次期首相候補「河野太郎」の自民党内の評判 9/8
菅義偉総理(72)の退陣表明を受け、総裁選の情勢は分刻みで変化し続けている。そんな中、世論からの高い支持を背景に優位が伝えられるのが河野太郎ワクチン担当相(58)だ。しかし、同僚議員や官僚からの人望はなく、“変人”ぶりに危機感を覚える向きも――。
ツイッターのフォロワー数が238万人を超え、強い発信力を持つ河野氏。一方で、自民党幹部は彼の周辺からの“不人気”についてこう語る。「彼は田中真紀子氏と似ている。遠くからは勇ましい改革派に見えるが、近くで見ると全く印象が違う。周囲の声に耳を貸さないので同僚議員や官僚からの人望もなく、思想信条はとても保守とは呼びがたい」
実際、河野氏が所属する麻生派も足並みが揃わない。政治部デスクが明かす。「菅総理の退陣表明後、河野さんは総裁選に出馬する意向を伝えるため麻生さんを訪ねています。ただ、麻生さんは“派閥の対応についてすぐに結論は出せねぇよ。そもそも、一緒に動いてくれる人間がどれくらいいるんだ?”と。つまり、河野さんは派閥から推薦人を出すことさえ確約してもらえなかった。加えて、河野さんは“菅総理に言われて出馬を決意しました”と伝えている。麻生さんが面白いはずもなく“河野は自分の置かれた立場を分かってない”と漏らす始末です」
閣僚経験が豊富な河野氏だが、官僚から怨嗟の声が絶えないのも事実。「外務大臣時代の河野氏は、元号が平成から令和に代わる直前、省内で作成する文書の表記を西暦に統一する“元号廃止”を言い出した。新元号が決まって日本中が沸き立った、そのタイミングで水を差した格好です。これには昵懇(じっこん)の仲の菅氏も激怒して、河野氏は火消しに躍起でした」(同)
元号廃止以外のほか、「脱原発」「女系天皇容認論」にも言及する河野氏だが、専門家からは疑問視する声も少なくない。抜群の人気と発信力を誇りつつ、こうした批判も集める河野氏。

●河野太郎大臣パワハラ“音声公開” 官僚に怒鳴り声で 9/10
9月29日に投開票される自民党総裁選に、河野太郎ワクチン担当相兼規制改革担当相(58)が出馬することを表明しました。次期総理大臣の有力候補となった河野氏はどのような人物なのか。小誌が9月1日に報じた資源エネルギー庁の幹部職員に対する“パワハラ疑惑”を巡り、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)のコメンテーター玉川徹氏が「こんなのパワハラって言わなくて」とコメントするなど、論議を呼んでいます。そこで、ひろく皆様の判断を仰ぐ材料として、やり取りの音声を公開します。

9月29日に自民党総裁選が迫る中、世論調査で「次期首相1位」に挙げられる河野太郎ワクチン担当相兼規制改革担当相(58)。8月24日に行われたオンライン会議の場で、資源エネルギー庁の幹部職員にパワハラを行った疑いがあることが「週刊文春」の取材でわかった。
会議には河野氏のほか、内閣府の山田正人参事官と、エネ庁の山下隆一次長、小澤典明統括調整官の3名が参加した。「週刊文春」はこの会議の様子を録音した約28分間の音声を入手。河野氏が山下氏と小澤氏を大声で怒鳴りつける様子が収録されていた。
議題となったのは、3年に一度見直しが行われる「エネルギー基本計画」だ。10月の閣議決定を目指す中、エネ庁は8月4日に素案を発表していた。
経産省関係者が語る。「エネ庁の素案では、2030年に総発電量のうち、再生可能エネルギーの比率を『36〜38%程度』にすると記されています。これは2019年度の実績(約18%)の2倍に相当する、極めて高い目標値です。ただ、規制改革相として再エネ推進に取り組む河野大臣は『36〜38%』が『上限』ではないという意味で、『36〜38%以上』と明記するよう求めてきました」
会議の場で行われたのは、「程度」と「以上」という文言を巡る攻防だ。
河野「日本語では、36〜38以上と言うのが日本語だろ」
小澤「え、え、えっと。えっとですね、政策的な裏付けを積み上げてですね……」
必死で「程度」という文言について説明しようとする小澤氏に対して、河野氏はあくまで同じ言葉を繰り返す。
河野「だから36〜38以上だろ!」
小澤「いや、積み上げて36〜38程度……」
河野氏はなおも説明しようとする小澤氏の発言を遮り、ドスの利いた声でこう怒鳴った。
河野「積み上げて36〜38になるんだったら、以上は36〜38を含むじゃないか! 日本語わかる奴出せよ、じゃあ!」
前出の経産省関係者が嘆息する。「『36〜38%』という数字が『上限』でないことは素案に明記してありますし、『以上』という文言を入れれば、産業界に『最低でも38%は達成するだろう』と誤ったメッセージを与え、企業の設備投資などにも大きな影響を及ぼしてしまいます」
そして、官僚に対する激しい言葉はこの後も続き、怒鳴る場面もあった。官僚の言葉を遮るように、「はい、次」「はい、ダメ」と連発される“ダメ出し”は計13回にも及んだ。
パワハラ問題に詳しい佐々木亮弁護士が語る。「『日本語わかる奴、出せよ』などの発言はパワハラに当たる恐れがあります。厚労省が作成したパワハラの指針では、『精神的な攻撃』という欄で、『人格を否定するような言動を行うこと』と明記されていますが、これに該当するでしょう。こうした高圧的な振る舞いが常態化した場合、官僚からパワハラで訴えられる可能性も出てきます」
経産省に書面で尋ねると、こう回答した。「各省協議を行っている最中であり、どの省庁とどのような協議を行っているかなど、各省協議についてコメントすることは控えさせていただきます」
河野氏にも書面で事実関係を尋ねたが、期日までに回答はなかった。

●“河野談話”を踏襲した河野太郎は、「日本を前に進める。」ことができるのか 9/11
かつての雄姿はいまいずこ?
「私利私欲のために、自分の既得権を温存しようというために、動いている人間が党内にいるというのは、はなはだ遺憾であります」
「私はこれまでの自由民主党の何かを少しでも変えようという気はありません。全く新しい政党を一から作り直す、そのために総裁をやらしていただきたいと思っております」
2009年9月28日の自民党総裁選の立合演説会で、立候補した46歳の河野太郎氏はこう述べた。その前月に行われた衆議院選挙で、自民党は議席数を300から119に激減させ、308議席を獲得した民主党に政権を譲ったばかり。当時の自民党はまさに死屍累々だったのだ。
河野氏が最初に出馬しようとしたのは2006年の総裁選だった。だが20人の推薦人を確保できずに断念している。そもそもが自民党では異質な存在だった。仲間と群れず、自民党が否定してきた「核密約」の解明にも積極的に取り組んだ。民主党に先駆けて不要な行政の事業仕分けを始めたのも河野氏だった。河野氏は行政刷新会議を創設して行政に大きくメスを入れようとした民主党政権を「正直うらましい」と述べたこともある。
原発問題について河野氏は、2011年に発生した福島原発事故の後に「フェードアウトさせるべき」と発言した。タレント業から市民活動に軸を移しつつあった山本太郎氏と対談し、「脱原発 河野太郎」としたためた色紙を持って一緒に写真に納まってもいた。
そのような「自民党らしくないところ」が河野氏の“人気の源泉”のはずだったが、政権の一員となり権力に近づくにつれ、その姿は変化する。
独断の暴走
外相時代の2018年12月、ロシアのラブロフ外相による平和条約締結交渉の前提として北方領土をロシア領と認めるべきとの主張について尋ねた記者に対して、河野氏は一切答えず「次の質問をどうぞ」と無視した。他の記者からも「なぜ答えないのか」などと質問が相次いだが、これにも答えることはなかった。
後に河野氏は「日ロ交渉への影響を考えた」とブログで言い訳したが、「知らしむべからず」との態度は国民主権に反するものではないか。また防衛相時代の2020年6月15日には、陸上配備型迎撃ミサイル「イージスアショア」の配備計画停止を突然発表した。同計画にはミサイル発射の際に切り離されるブースターの落下問題などが存在し、その是正には2000億円超ものコストと10年以上の期間がかかることが発覚したためだった。
だが2017年12月19日にまがりなりにも閣議決定を経た同計画の変更は、日米安保に影響を与え、日本の安全保障の根幹をも揺るがしかねないとして、自民党内で激しい批判が噴出した。そもそもこうした高度で重要な問題が、12日に河野氏が安倍普三首相(当時)に直談判してわずか3日後に密室で覆されるなど、民主主義に照らしても疑問が残る。こうして河野氏の「孤高」のイメージは、徐々に崩れていくことになる。
「脱原発」「女系天皇」を封印?
そして9月10日の総裁選での出馬会見でも、このような矛盾は散見された。河野氏がかつて主張した「脱原発」の文字はこの日に発表された「『河野太郎』 5つの主張と政策」にはなく、記者からの質問に対して「安全が確認された原発を再稼働させる可能性」について述べられた。限定的ではあるが、原発再稼働について肯定したことになる。また皇位継承問題についても、これまで「男系を維持していくにはかなりのリスクがある」「女系天皇も含めて国民が議論すべき」立場から「政府の有識者会議の議論を尊重」とスタンスを変えた。
これらは男系男子を安倍前首相におもねた結果と批判されている。実際に河野氏は9月8日に安倍前首相と面会した後、「男系で続いてきているというのが、日本の天皇のひとつのあり方なんだと思う」と述べている。
もっともこれらが河野氏が総裁選のキャッチコピーとする「日本を前に進める。」ために必要だとしたら、“変節”もやむをえないかもしれない。だが慰安婦問題についてはどうか。
“河野談話”については、事実上答えず
9月10日の記者会見で、筆者は1993年の河野談話について質問した。河野談話は当時の官房長官だった河野洋平氏によって発表された私的談話で、閣議決定を経たものではない。
しかもこの談話を作るにあたり、日本政府はかなり詳しく調査を行ったが、慰安婦と称する女性たちの証言の他に日本政府が関与したとする客観的な証拠をどうしても発見できなかった。加えて金泳三大統領(当時)から、「日本が認めれば、金銭補償は求めない」と伝えられた。筆者は当時の政府関係者から、「『日本が慰安婦問題を認めれば、韓国は二度と問題を蒸し返さない』と言ってきた。それなら……ということになった」と聞いている。
しかし談話は出されたが、問題は終わっていない。日本はさらに妥協して韓国政府と2015年12月に最終解決を目指す「慰安婦合意」に至り、すでに10億円を支払ったが、それも文在寅政権によって反故にされている。
にもかかわらず日本政府及び自民党は、この問題の根源であり、日本と日本人の足かせとなっている河野談話を否定していない。河野氏の外相就任会見で筆者と産経新聞がこの問題について質問したが、河野氏は「安倍内閣での70年談話、日韓合意に尽きる」とのみ回答。そして今回の会見での筆者の質問についても、河野氏は「自民党が継承してきた歴史認識を受け継いでいきたい」とだけ述べている。
総裁選での河野氏のサブキャッチコピーは「自民党を変え、政治を変える。」であり、「日本の危機に全力で。」と勇ましい。しかし自民党の何を変え、政治をどう変えるのか。変え方次第で日本が更なる危機に陥らないとも限らない。自民党総裁選は救世主を誕生させるのか、それとも亡国の徒を生み出すのか。

●河野太郎に好意的な中国――なぜなら「河野談話」否定せず 9/12
河野太郎氏は女系天皇や原発で「豹変」したと日本では報道されているが、中国では「河野談話」を否定しなかったことに注目し、非常に好意的だ。その実態と、日本に及ぼす影響に関して考察する。
日本の報道:脱原発と女系天皇容認を封印
自民党の河野太郎氏(行政・規制改革大臣)が9月10日、自民党総裁選への立候補を正式に表明した。
9年前から自身のブログで訴えてきた「脱原発」エネルギー政策については、持論を封印して、原発再稼働を当面容認する考えを示し、「安全が確認された原発を当面は再稼働していくことが現実的だ」と述べた。
また河野氏はこれまで、母方で天皇家と血のつながる「女系天皇」を容認する考えを示してきたが、これも「「(政府の)有識者会議の結果を尊重していくということに私として全く異論はございません」と述べて、世間を驚かせた。
いずれも総裁の玉座を手にするためには、政権与党内の空気や安倍前首相の顔色を窺い、政治信念まで曲げるのかと、日本のメディアの批判と国民の声は厳しい。
たとえば9月10日の毎日新聞<皇位継承、原発で河野氏「持論封印」 保守系への配慮、もろ刃の剣か>や9月11日の時事通信社<河野氏、懸念払拭へ持論封印 脱原発、女系天皇 支持拡大狙い、ジレンマも>およびそのコメント、あるいは激しいところでは、同じく9月11日の日刊ゲンダイ<河野太郎氏「総裁選」出馬会見で手柄自慢も発言ブレブレ…ゴマカしとスリ寄りで評判散々>など枚挙にいとまがない。中には河野氏のパワハラ怒声録音を暴露した文春オンライン報道などもあるが、全般的に見て、日本の報道として特徴的なのは、「脱原発」と「女系天皇」問題に焦点が当たっている。
中国の報道:「親中派」と「河野談話」に焦点
ところが中国の報道は、河野氏がこれまで「親中派」であっただけでなく(参照:9月9日のコラム<日本の自民党次期総裁候補を中国はどう見ているか?>)、今般の出馬表明で河野氏が「河野談話」を否定しなかったことに焦点を当てている。
同じ人物に関して、日本と中国では、「見えている景色」が全く違うのだ。
たとえば9月11日の中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」電子版「環球網は<河野太郎氏が自民党総裁選への出馬を表明、日本のメディアは4ヶ月連続で世論をリードしていると報道>という見出しで、河野氏を絶賛している。
そもそも河野氏を紹介する見出しに「4ヶ月連続で世論をリードしている」という言葉を使うことからして、「応援ムード」にスイッチが入っていることをうかがわせる。
なぜなのかは、その記事が何に焦点を当てているかを見れば一目瞭然だ。そこには以下のようなことが書いてある。
――注目すべきは、河野太郎氏の父親である河野洋平氏(元内閣官房長官)は、有名な「河野談話」の中で、第二次世界大戦中に日本軍が慰安所を設置し、他国の女性を「慰安婦」として強制的に働かせていたことに日本軍が直接関与していたことを認めていることだ。 河野太郎氏は10日(の記者会見で)、「河野談話」に代わる新たな「談話」を作るつもりがあるか否かという質問に対して、「自民党政権から引き継がれてきた歴史認識を引き継ぐ」と答えた。 (引用ここまで)
つまり、河野氏は「自民党政権から引き継がれてきた歴史認識を引き継ぐ」と言っただけで、「いえ、河野談話は引き継ぎません」とは言わなかったことに中国は注目しているのである。
何と言っても河野洋平氏は6月27日のコラム<河野太郎の父・河野洋平等が建党百年に祝電――中国共産党万歳!>に書いたように、中国共産党建党百周年記念に向けて祝電を送ったことで有名だ。中国はこのことを非常に喜んでいる。
だからこそ、環球網は河野太郎の現状を知らせるに当たり、「日本の産経新聞社と日本のフジテレビ・ニュース社が共同で実施した世論調査では、河野太郎氏が4ヶ月連続で次期首相候補のトップになっている。読売新聞が6日に発表した世論調査によると、太郎氏は18歳から29歳の間で32%の支持を得て、他の候補者よりも圧倒的に優位に立っています」と応援歌丸出しなのである。
環球網は9月10日の19:13時点での速報でも<河野太郎が日本の自民党総裁選へ立候補を表明  日本のメディアの世論調査で最有力候補>と、わざわざ「世論調査でトップ」ということを見出しで強調している。
中国の他の報道も「慰安婦問題」に注目
9月10日の「北京日報」は<日本の「ワクチン大臣」河野太郎が首相選に参戦、父親は慰安婦問題を承認>というタイトルで河野氏の総裁選立候補表明を報道している。
タイトルそのものに「慰安婦問題」とあるので、当然のことながら、「河野談話」が強調されていることがわかる。そこには以下のように書かれている。
――記者から河野太郎の歴史問題に対する立場を聞かれ、彼は「自民党の一貫した立場に従う」と答えた。 河野太郎の父である河野洋平が内閣官房長官だった1993年に発表した「河野談話」は、「慰安婦問題」に関する調査結果に関して発表した談話で、朝鮮半島や中国などに「慰安所」を設置し、現地の女性を集めて強制的に「慰安婦」として充当したことに日本軍が直接関与したことを認め、そのことに対して謝罪と深い反省を示したものだ。「河野談話」は、「慰安婦問題」に関する日本政府の公式見解となった。(引用ここまで)
「河野談話」に関しては、事前に韓国とすり合わせていたといった情報があり、少なからぬ異論が出たものの、情けないことに歴代内閣は(渋々ながらも)「河野談話」を継承するとの立場を示してきている。
実は慰安婦問題に関しては『父の謝罪碑を撤去します 慰安婦問題の原点「吉田清治」長男の独白』(産経新聞出版)などにあるように、証言者の信憑性そのものが崩れているが、アメリカ政府からの圧力があり、日本の歴代内閣も「河野談話」を継承せざるを得ないところに追い込まれてという現状ある。アメリカ政府に力を及ぼしたのは在米コーリアンたちだ。しかし日本はアメリカに言われると弱い。安倍政権でさえ、結局のところ屈した。
したがって河野太郎氏が「自民党政権から引き継がれてきた歴史認識を引き継ぐ」と言ったということは「河野談話」を継承すると言ったのに等しいことになってしまう。日本でも政治ジャーナリストの安積明子氏が9月11日<“河野談話”を踏襲した河野太郎は、「日本を前に進める」ことができるのか>と疑念を発した情報も中には見られる。しかし日本は得てして、この問題にあまり注目はしていない。
ところで北京日報の報道は、もともと新華社報道に基づいたものだったが、新華社報道の見出しには「慰安婦問題」という言葉がなく、おとなしいものだった。しかし北京日報が見出しに「慰安婦問題」と付け加えたものだから、中国での他のメディアも一斉に「慰安婦問題」を見出しに入れて転載を始めた。
したがって中国では「河野太郎出馬」=「河野談話継承」=「慰安婦問題承認」のようになっており、河野太郎なら中国に有利だろうというムードが醸し出されている。
日本にとっての影響
いま行われようとしているのは、あくまでも「自民党総裁選」であって、投票行動に国民の意思が反映されるものではないが、しかし立候補者は「国民の人気度」を気にしており、それが総裁選後の衆院選に影響していくのはまちがいないだろう。
中国が河野氏へのエールを送っているということは即ち、河野氏は中国にとって「都合がいい」ことになり、それは有形無形の影響を日本に及ぼす。
たとえば天安門事件後の対中封鎖に関しても、中国政府はすぐさま日本政府要人と経済界の要人にコンタクトを持ち、強烈な接近を図ってきた。
中国のシャープパワーには、益々磨きがかかっており、日本の大手メディアさえ、その範疇にある。
日本の政財界への水面下における働きかけは、われわれ国民には止めようがないが、しかし政府要人は投票行動のために「国民の声」を気にしている。
中国は盛んに、河野太郎は若者の間で絶大な人気を博しており、SNSのフォロワー数において群を抜いていると高く評価している。若者は「河野談話」の何たるかを知らない人が多いかもしれない。
中国に気に入られているということは、中国の思うままに動かせるということだ。中国が言論弾圧をする一党独裁の国であることを忘れてはならない。この事実が若者に届くよう、読者の方々のお力添えを願うばかりだ。

●河野太郎陣営から聞こえた“意外な悲鳴”…「こんなに不人気だとは」 9/16
自民党総裁選で長らく悩んだ石破茂元幹事長が、ついに出馬断念を発表した。石破氏は9月15日に会見を開き、「自民党を変えてほしい、政治を変えてほしい、この多くの国民の皆様のお声に応えるためには、改革を志す勢力が二分することなく一致すべきである、そのような思いに基づきこの決断に至ったものであります」と述べ、「改革の志」が一致し、政治理念や国家に対する危機感、国家国民に対する使命感を共有するとして、河野太郎ワクチン担当大臣を支援することを表明した。
これで河野陣営には、9月14日に河野支持を表明した小泉進次郎環境大臣に続き、世論調査で人気が高い3人が揃うことになる。
実際に日本テレビが9月11日と12日に自らを自民党員・党友と答えた1019人に対して行った世論調査では、「次期自民党総裁選に出馬を表明あるいは検討している人」のうち河野氏が25%で1位を占め、2位が21%の石破氏となっている。ならばこの2人が手を組めば計46%で最強となるはずだが、世の中はそんなに単純にいくものなのか。
「こんなに河野さんが不人気だと思わなかった」
早々と河野氏を支持する議員から悲鳴が上がっている。自民党を改革するには河野氏が総裁になるしかないと思って応援を決意し、それが国民に浸透していると信じていた。そもそも総裁選の要となるのは職域団体票だが、その職域団体に河野氏は良く思われていないようだ。
「長らく権益を守ってきた職域団体は、その既得権益を守ってもらうべく自民党との関係を重視してきた。だがその既得権益を否定してきたのが河野太郎。河野氏には自民党の秩序を破壊する“壊し屋”のイメージが定着しているようだ」(同上議員)
とりわけ反発を喰らっているのは「脱原発」の封印で、経済界の反発は相当なもの。ある経済関係者は怒りを込めてこう言った。
「2050年までにカーボンニュートラルを実現するとなると、原発の利用を認めなくては必要なエネルギーが追いつかない。『自然と原発はなくなっていく』などという甘い考えで解決できるものではない。日本経済に『死ね』と言っているに等しい」
河野氏の「上から目線ぶり」も総裁選運動の足かせになっているようだ。たとえば出馬会見で河野氏が「手柄話」として得意げに語ったワクチン供給だが、そのワクチンを接種すべき“かかりつけ医”の間では評判が芳しくない。
9月7日の会見で河野氏は、予約されていないワクチンがかなり残っており、かかりつけ患者のみならず接種を希望する一般人に広く接種すべきと主張した。しかし自治体から医療機関に供給されて冷蔵庫に保管されているワクチンの使用期限は1か月で、医療機関は計画をたてて発注しているため、通常は残ることはありえないというのが接種を担当する現場の医師側の主張だ。
こうしたことが災いし、現場の医師たちの反発が河野陣営に跳ね返る。
「そもそも医師側も一生懸命にやっているので、もう少し“お願い調”ならともかく、ああいう風に言われると、カチンとくるらしい」
誤解を生じやすい性格というべきか、それとも「人徳のなさ」というべきか。いずれにしても党員票を逃がしているが、石破氏を抱えることでさらに議員票を失うことになりかねない。
一方で8月26日にいち早く出馬会見した岸田氏は、すでに党員票の多くを取り込んでいるようだ。昨年9月の総裁選に出馬した岸田氏は、この時に党員リストを入手しており、早くから政策パンフレットなどを作成して全国の党員に発送した。
同時に電話での働きかけなども進んでおり、「連絡をとってみたら、もう岸田側から連絡が入っていた。出馬表明が遅かった我が陣営は太刀打ちできない」と河野陣営は悲鳴を上げる。
岸田陣営ばかりではない。高市早苗前総務大臣もネットで支持を伸ばすなど、着々と一般党員への働きかけを進めている。そのひとつの戦術が「手書きの手紙」だ。筆まめの高市氏はメールでのやりとりが一般的になった現在でも、直筆の手紙で支持者とのコミュニケ―ションを欠かさない。受け取った人は感動し、好感を抱かないはずがない。
しかも9月14日夕方に議員会館で開かれた「選対立ち上げ会」には、秘書の代理出席を含めて計約70名が参加した。高市陣営は「当初はせいぜい20名程度しか集まらないだろうと言われていたが、予想外に多かった」と胸をなでおろしたが、そこには高市氏が頼りとする安倍晋三前首相の姿はなかった。
安倍前首相が大きな影響力を持つと言われる細田派は党内最多の96名で、前回の総会で「高市・岸田」に投票することを決定した。実はその数はすでに振り分けられていて、高市氏に対する票数より岸田氏に対する票数の方がかなり多いという。
にもかかわらず、細田派から代理出席も含めて多数の議員の参加があったのは、おそらくは安倍前首相から猛烈な働きかけがあったからと思われる。というのも、安倍前首相は今年7月、衆議院長崎県1区の公認候補として自身の政策秘書の初村滝一郎氏を押し込んだという“前科”があるからだ。
初村氏のルーツは2区にあるが、2区には細田派の現職・加藤寛治衆議院議員の長男で、安倍事務所で2年間秘書として勤務した竜祥氏が出馬する予定だった(9月12日に長崎県連が擁立を決定)。そこで石原派の冨岡勉氏の1区を狙ったわけだが、初村氏の公認を得るために安倍前首相は多数の長崎県連関係者に直接電話をかけ、頼み込んだと言われている。
加えて高市氏の立ち上げ会には、他派閥からも参加者もかなりいて、今回の総裁選の見通しが簡単ではないことをうかがわせる。
そうした状況をチャンスとし、出馬の意欲を見せているのが野田聖子幹事長代行だ。野田氏はこれまで何度も総裁選にチャレンジしようとしたが、その都度「20人の推薦人の壁」に阻まれてきた。しかし岸田派を除く派閥が縛りを緩めた今こそ、最大で最後のチャンスに違いない。
もっとも今年4月に夫の文信氏が週刊誌との裁判で「反社会的勢力」に属していたことが認定されたことは、野田氏の大きな足かせとなっており、出馬しても当選の可能性は皆無だ。実際に野田氏に近いとされるある議員に「20人の推薦人確保の見通しはついてるのか」と聞くと、以下のような返答が返ってきた。「野田さんは(推薦人)20人は集まるかもしれないが、(議員票)20票が入るとは限らない」
ただし野田氏の参戦によって総裁選が1度で決まらず、決選投票になる可能性は高くなる。2012年9月の総裁選でも、第1回目の投票で2位だった安倍前首相が決選投票で勝利し、まさかの復活を果たしている。今回の総裁選はさらに高度な方程式になるだろうから、より慎重に解いていきたい。

●河野太郎氏「堂々とブロックします」 ネット番組で宣言 9/18
私は堂々とブロックします――。自民党総裁選に立候補した河野太郎行革担当相は18日夜、インターネットの動画中継サイト「ニコニコ生放送」に出演し、こう宣言した。その理由として、「誹謗(ひぼう)中傷や罵詈(ばり)雑言をおっしゃるのは勝手ですけれども、それを人に見せるのを強制するのは、相手が芸能人であれ、政治家であれ、誰であれ、できないんだろうと思います」と説明した。
河野氏が言及した「ブロック」とは、ツイッターで特定の人からのアクセスを制限する機能。河野氏は240万を超すツイッターのフォロワー数を誇るが、この機能を多用することから、ネット上で「ブロック太郎」とも呼ばれている。
河野氏は「私がブロックしないと、私のフォロワーが誹謗中傷のリプ(リプライ)を読まなければいけない。みんなが楽しくやろうと思っている時に、そんなものを私のフォロワーに読ませる必要はない」と強調。「政治家も必要なら批判や違った意見を自分で読みに行く」とも述べた。
総裁選の4候補が出演した同番組で、ネット上での誹謗中傷への対応を問われ、答えた。
野田聖子幹事長代行は「私個人はずっと誹謗中傷されているので。公人なので『私を攻撃することで気分が晴れるならどうぞ』という寛容な気持ちでいる」と語った。ただ、「私が出産した折、(障害のある)息子に『化け物』と投稿され、一生分ぐらい泣いた。泣き終わったら、『化け物』と言われた息子を『人』にしようと思って今日がある」と自らの体験を明かした。
岸田文雄前政調会長は「政治家の場合、さまざまな批判・批評も受け、さまざまな意見をできるだけ謙虚に受け止めなければならない立場にあると思う」と指摘。高市早苗前総務相は「名を名乗れ、と私は言いたいぐらいひどい書き込みもある。これが人の命を奪うようなことがあってはならない」と語った。

●河野太郎氏の年金改革案、他候補は「無理」「不可能」 応酬激しく 9/18
自民党総裁選の討論会(日本記者クラブ主催)は、年金制度や原発のあり方など、国民の負担を伴う議論に河野太郎行政改革相が踏み込んだ。ほかの候補がこれに異論を突きつける形で、社会の将来像について論戦が交わされた。一方、安倍・菅両政権で相次いだ不祥事など過去の総括には、総じて及び腰の姿勢が目立った。
討論会で最も白熱したのが、河野氏が主張する年金改革案をめぐる応酬だった。
「財源についてはどう考えているのか」
口火を切ったのは高市早苗前総務相だ。河野氏の改革案は、消費税を財源に最低限の年金額を保障するというもの。いまの基礎年金は保険料と税金で賄っており、払った保険料に応じて年金額が決まる。このため、最低額を保障するには、新たな財源が必要になるという点を突いた形だ。河野氏は「収入が一定以上ある人には(最低保障分は)出さないことで金額は制限できる」などと反論したが、高市氏は「制度的に無理がある」と指摘した。
さらに、岸田文雄前政調会長も参戦し、財源確保のための消費増税の水準を問い詰めた。過去に月7万円の最低保障年金案を掲げた旧民主党政権の例を引き合いに、「確か消費税を8%上げなきゃいけない。実際は不可能だと言ってきた。何%上がるのか」とたたみかけた。
一方で、現行制度には無年金や支給額が少なすぎて生活保護に頼らざるを得ない人を防げないという課題がある。河野氏は逆に、両氏にこうした問題への対応を問いかけ、「年金制度の改革をいまやらなければ若い人たちの将来の年金生活が維持できない」と訴えた。

●河野太郎ワクチン相 “ファミリー企業”から6700万円の献金を受けていた 9/21
自民党総裁選に立候補した河野太郎ワクチン担当相(58)。河野氏の政治団体が、父・河野洋平元自民党総裁が大株主で、弟・河野二郎氏が社長を務める企業など“ファミリー企業”から、少なくとも6700万円の献金を受け取っていることが、「週刊文春」の取材でわかった。
当該の企業は、河野氏の選挙区・神奈川県平塚市に本社を置く「日本端子」。祖父・河野一郎氏が創業し、主に車載用端子などの設計・製造を手掛けている。2020年度の売上高は約170億円で、中国に傘下の子会社を持つ。
「河野氏も富士ゼロックス退社後の1993年から約9年間、同社の取締役を務めていました。現在は洋平氏が約30%の株を保有する大株主で、河野氏と二郎氏もそれぞれ2%の株を保有している。いわば、河野家の“ファミリー企業”です」(事務所関係者)
河野氏が代表を務める「自民党神奈川県第15選挙区支部」の政治資金収支報告書によれば、日本端子は2012年12月4日付で、100万円を献金。この日は、自民党が政権復帰を果たした衆院選の公示日だった。同社は2014年にも計250万円、他の年にも数百万円の単位で献金している。
「また、日本端子は、河野氏の資金管理団体だった「新政フォーラム」にも毎年のように、100万円を超える献金を重ねてきた。」
河野氏が初当選した1996年以降、日本端子から河野氏の政治団体への献金を合わせると、約3000万円に及ぶ。
さらに、日本端子のほか、河野家の資産管理会社「恵比寿興業」など、他の“ファミリー企業”からの献金を加えると、少なくとも6700万円に上る。
河野氏に、親族や関係企業から多額の献金を受けていることへの見解などを尋ねたが、期日までに回答はなかった。
これまで、河野氏は<政治に「河野家」を利用しようとはまったく考えていません>(「諸君!」2001年5月号)と語るなど、世襲政治家であることを否定し続けてきた。それだけに、自身の政治活動が“ファミリー企業”からの献金によって支えられている実態について、首相を目指す河野氏がどのように説明するのか、注目される。

●河野太郎氏「小石河連合」結集で党内勢力図に大異変… 9/21
次の首相は誰か。9月17日に告示された自民党総裁選が混迷を深めている。安倍晋三前首相ら“キングメーカー”の動向に注目が集まるなか、河野太郎行政改革相は長老たちに“ケンカ”をふっかけた。はたして、激戦の行方は──。
安倍政権を厳しく批判し、それゆえに党内で冷遇されてきた政治家が“戦場”に戻って来た。
石破茂元幹事長は16日、自民党総裁選(29日投開票)に出馬した河野太郎行政改革相を支持する派閥横断のグループ「必勝を期す会」の設立総会に出席。すでに河野氏支持を表明している小泉進次郎環境相らと一緒に壇上にあがり、こう呼びかけた。
「古い自民党、派閥が横行する自民党を変えよう」
この日、出席した国会議員は代理も含め57人。河野氏本人は公務のため欠席したが、ビデオメッセージでこう訴えた。
「石破さんや小泉さん、みなさんと一緒に、次の時代の自由民主党に改革し、前へ進む日本の国を作っていきたい」
「小石河連合」とも呼ばれる小泉氏、石破氏、河野氏の連携。狙いは党の運営に不満を持つ若手・中堅議員の支持の獲得だ。
今回の総裁選では、党内7派閥のうち6派閥が候補者を一本化できず、自主投票となる見込み。これも、河野氏を支持する中堅・若手議員が中心となって派閥の会合などで長老議員の密室談議で総裁選が決まることを批判した結果、引き寄せた流れだ。自民党の中堅議員は言う。
「安倍政権になってからは官邸の意向で政策が決まり、党はただの追認機関になってしまった。党で政策をまとめても『官邸の方向性に合うようにしてくれ』と言われたこともある。そういった“党風”を変えるのが、今回の総裁選だ」
自民党関係者は言う。「河野さんや石破さんらが言う党改革とは、つまるところ『安倍支配からの脱却』。総理を辞めた後も党内で強い影響力を持つ安倍さんの存在そのものが、今回の総裁選の最大の争点です」
派閥の縛りが弱まった異例の総裁選。その思わぬ結果として、自民党内の勢力図の再編成が起きている。
14日、永田町に衝撃が走った。この日、今回の総裁選で安倍氏が支持を表明している高市早苗前総務相が、選対本部の発足式を開いた。驚くべきは会に駆け付けた人の数で、国会議員は代理も含め71人にのぼった。
総裁選では、陣営関係者が開催する会に議員や代理人が参加することは、支持の表明と受け取られる。総裁選で投票権を持つ党所属の国会議員は382人。高市氏は、告示前の段階で党内議員の約2割の票をまとめたことになる。
当初は“泡沫候補”と見る向きもあったが、今ではそう考える人はいない。他候補の選対関係者は「高市票はまったく読めない。投票日までに議員票だけで100票に届くかも」と警戒する。
高市氏の選対本部長には、安倍氏に近い古屋圭司元国家公安委員長が就任。発足式終了後に出回った参加議員の名簿を見ても、安倍氏の政治信条に近い党内タカ派議員の名が目立つ。永田町では「事実上の安倍派の立ち上げだ」との声も漏れる。
一方、最も早く立候補を表明した岸田文雄前政調会長は、党内の穏健保守派を中心にベテラン議員の票を固めている。告示前日の16日には野田聖子幹事長代行が“すべり込み”で出馬を表明。野田氏は二階派や竹下派からも支援を受けており、情勢はさらに混沌としてきた。
総裁選は、1回目の投票で1位が有効票の過半数に届かなければ、上位2人による決選投票になる。1回目の投票では議員票と党員・党友票は同じ382票だが、決選投票では、議員票382票と各都道府県連が各1票の計429票で決まる。国会議員の意向がより強く反映される仕組みだ。
4氏が立候補を表明したことで、決選投票に進む確率が高くなった。すでにその時の投票を見据えた動きも始まっている。
政治ジャーナリストの野上忠興氏は言う。「安倍氏は、決選投票に高市氏が残れなくても、岸田氏を支援することで河野氏に勝てると考えているはずです。今後は、各陣営が河野氏になびいている中堅・若手に、選挙の公認権や人事などをちらつかせるなど、多数派工作が熾烈化していくことになるでしょう」
現状では、相手が岸田氏にせよ高市氏にせよ、決選投票になれば河野氏が不利になるとの見方が強い。それでも、河野陣営関係者は党員票に望みをかけている。
「1回目の党員票で圧倒したのに、国会議員票でその結果をひっくり返したとなると、自民党は大きな批判にさらされる。それは危険なことだ。まずはそこに訴えて、党員票で圧倒的な差をつける」
党員の間で人気が高い小泉氏と石破氏の相乗効果で、1回目の投票でどれだけ票をとれるかが焦点になりそうだ。一方、河野氏を支援する国会議員は「安倍さんと麻生(太郎・財務相)さんに敵対してきた石破さんに協力要請したのは大きなバクチだった」と話す。
麻生氏は、総裁選で自主投票が広がっている現状を、こう警告した。「負けたら冷や飯を食う。覚悟を決めた上でやってもらうことを期待する」
仁義なき“総裁選アウトレイジ”の結末は、まだ見えていない。

●党員票圧倒の河野陣営に募る焦り 議員浸透に苦戦 9/23
29日の投開票まで1週間と迫った自民党総裁選を巡り、河野太郎行政改革担当相の陣営が焦りの色を濃くしている。世論調査で他候補を引き離すものの、国会議員への浸透に苦戦しているからだ。党内きっての知名度を誇る石破茂元幹事長、小泉進次郎環境相との「小石河連合」も党内に遠心力を生んでいる。上位2人による決選投票になれば、議員票を着々と固める岸田文雄前政調会長や、2人を猛追する高市早苗前総務相に逆転を許す展開も想定される。
共同通信社が17、18両日に行った全国の党員・党友支持動向調査では、「ポスト菅」にふさわしいと回答したのは河野氏が最多で48・6%を占め、2位の岸田氏(18・5%)らを圧倒した。それでも河野陣営幹部は「まだ五分五分。勝敗は見えない」と余裕はない。
選挙コンサルタント会社「ジャッグジャパン」によると総裁選への態度を表明した国会議員は22日午後9時現在258人で、内訳は岸田氏が91人、河野氏80人、高市氏66人、野田聖子幹事長代行21人の順だった。
党員票に比べて河野氏の国会議員支持が拡大しない理由は、「脱原発」や「女系天皇容認」など保守派の反発を買ってきたこれまでの主張に加え、石破、小泉両氏の反作用があるからだ。石破氏は安倍晋三前首相を公然と批判してきた経緯があり、麻生太郎副総理兼財務相とも不仲で知られる。麻生派の河野氏が石破氏と組んだことで、「同じ派閥の議員が何人か離れた」と麻生派中堅は言う。
小泉氏も、最大派閥の細田派が岸田、高市両氏の支持を決めたことに「河野氏は絶対に駄目ということ。その一点で誰が新しいタイプのリーダーか分かる」と敵意をむき出しにする。これに対し、安倍氏は周囲に「党を分断するようなことを言うのはどうかと思う」と不快感を示したという。
菅義偉首相も河野氏を支持するが新型コロナ対応での批判は根強く、首相個人でどこまで河野票を広げられるかは不透明だ。
投票1回目で勝負を決めるには国会議員票と党員・党友票の合計764票の過半数が必要だが、河野陣営は「そう簡単ではない」と決選投票を早々に視野に入れる。ただ決選投票では、河野氏が強みとする党員票が合計で47票に減るだけに危機感を隠さない。河野氏を支援する石破派議員は「民意を反映できない総裁選になれば衆院選で手痛い目に遭う。中堅、若手にはそれを訴えるしかない」と語った。

●河野氏「メディアは反省して」 「政治家としてどうか」と野田氏 9/23
「無責任な質問は良くない。メディアにも反省していただきたい」。自民党総裁選の4候補が出演した22日夜のTBS番組で、飲食店での酒提供が可能になる時期を3択で問われた河野太郎規制改革担当相が質問者にかみつく場面があった。
3択は「11月ごろ」「年末年始」「来年春」。河野氏は「前提となる科学的なデータもなく『こうしたいです』と答えるのは、責任ある政治とは思えない」と指摘。「こういう報道はおかしい」と回答を拒否した。
一方、野田聖子幹事長代行は「『メディアが悪い』と言うのは政治家としてどうか」とたしなめた。

●河野太郎氏が総裁選“急ブレーキ”の墓穴と誤算… 9/24
連日、メディアジャックしている自民党の総裁選。世論調査では、依然、河野行革担当相がトップだが、ここにきて勢いがしぼみつつある。人気者を味方につけ「楽勝」と思いきや、陣営は焦りを募らせている。
河野陣営の焦りの原因は、議員票の伸び悩みだ。選挙コンサルタント会社「ジャッグジャパン」の調査(22日時点)によると、自民党議員全382人のうち、投票先が判明しているのは258人。岸田前政調会長が91人、河野氏80人、高市前総務相66人、野田幹事長代行21人だった。当初、泡沫だとみられていた高市氏に詰め寄られている。
頼みの綱である党員票も微妙だ。読売新聞が18〜19日、党員・党友に投票先を聞いた電話調査では、河野氏が41%、岸田氏22%、高市氏20%、野田氏6%という結果だった。河野陣営が最低目標にしていた50%にも届いていない。国民から人気がある石破元幹事長と小泉進次郎環境相がバックについたのに思ったほど伸びていない状況だ。
河野氏は1回目の投票で過半数を獲得。決選投票に持ち込ませず、一発で勝負を決める腹だったが、このままでは決選投票が濃厚だ。
「1回目の投票では、河野氏が1位で、2位と3位に岸田氏、高市氏の両氏がつけるとみられています。ただ、決選投票では『2位―3位』連合で、河野氏は逆転される可能性が高い。『2位―3位』連合を阻止するためには、河野氏は1回目の投票で党員票で他候補を圧倒するしかない。もし、6割程度獲得できれば『2位―3位』連合で逆転しようとしても『党員の民意を軽視するのか』と批判が巻き起こるはずです。逆に、5割を下回ると『2位―3位』連合に対して異論は出づらい。党員票で55%を奪えるかどうかが分水嶺になるでしょう」(自民党関係者)
さらに、ネットでの河野氏への「バッシング」も激化している。4年前のASEAN+3外相会議で、中国の王毅外相と河野氏が並んで毛沢東バッジをつけている画像がSNSで拡散。さらに、河野氏が過去、駐日米大使との会合の場で、尖閣諸島について「あんな石ころのような尖閣諸島で日中関係にひびが入るくらいならくれてやればいい」と発言したとの情報もSNSで流れた。
いずれも事実無根のようだが、「高市さんの支援者か、“原子力ムラ”の関係者が意図的に流したのでは」(永田町関係者)と囁かれている。河野氏は「ガセネタだ」「フェイクニュースだ」と大慌てで火消しに走るドタバタぶりである。
討論会では候補者3人から「集中砲火」を浴びている。打ち出している年金制度改革や原発政策について、「無理」「不可能」と攻撃されている。このままでは、さらに勢いがしぼんでいくのは必至だ。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。
「原発と年金を巡る河野氏の発言は、歯切れが悪い印象です。『核燃料サイクル』の否定は、事実上『脱原発』を標榜しているに等しい。ですが、一般の人には理解しづらい内容です。以前はハッキリと脱原発を打ち出していたのに、トーンダウンしているように聞こえます。年金制度改革についても、基礎年金の財源は“全額税負担”としていますが、消費税率をアップさせるのか、アップさせるなら何%なのか具体的な説明がない。『再分配』を強く打ち出す岸田氏のビジョンの方が分かりやすいでしょう。出馬表明当初の河野氏の支持は高かったですが、訴えが中途半端では失速するのも仕方ない。今後も支持が離れていく可能性があるでしょう」
たとえ中身を詰めていなくても、耳当たりのよい政策をブチ上げれば、支持は広がると計算していたのだろうが、中身を詰めていなかったツケが回ってきた形だ。今頃「こんなはずじゃなかった」と思っているに違いない。 

●河野太郎を取り巻く「3つの問題」…「最有力候補」から一転、逆風が吹く 9/24
ここにきて、逆風に見舞われた河野氏
自民党総裁選で最有力候補とされる河野太郎行政改革担当相の足元が、にわかに揺らいでいる。河野氏が同族企業から受け取った献金や、中国とのコネクションが問題視されているのだ。年金改革の主張もいまひとつ、説得力が乏しい。河野氏に何が起きているのか。
最初に炸裂したのは「文春砲」だった。
文春オンラインは9月21日、河野氏の政治団体が、父親の河野洋平元自民党総裁が大株主で、弟の河野二郎氏が社長を務める「日本端子」(神奈川県平塚市)や、他のファミリー企業から「少なくとも6700万円」の献金を受け取っていた、と報じた。
それによれば、河野氏は1993年から約9年間、同社の取締役を務めており、現在も二郎氏と同じく2%の同社株式を、洋平氏は約30%をそれぞれ保有している、という。これが事実なら、同社は典型的な河野氏の同族企業である。
日本端子は1960年に設立され、自動車や太陽光発電などに使う端子やコネクターを製造、販売している。夕刊フジは22日、この親族企業が中国の北京市や崑山市などに複数の関連会社を所有している問題を報じた。
昨年の米大統領選で当選したジョー・バイデン大統領の次男、ハンター・バイデン氏が「中国ビジネスに深く関わっている」と追及されたが、同じような問題を河野氏も抱えているのではないか、と問題視したのだ。ネットでは、数日前から話題になっていた。
同紙は21日の記者会見で、河野氏に「(これで)中国に毅然と対応できるのか」と質問した。河野氏は「何か中国側から嫌がらせを受けたり、というのは、企業側がどうカントリーリスクを判断するか、に尽きる」、保有する4000株についても「資産報告を毎回、しっかりやっており、問題はない」と答えている。このやりとりは、産経新聞でも報じられた。
ネット上で取り沙汰される「疑念」
月刊誌「正論」のYouTubeチャンネル「チャンネル正論」は、これらの報道を受けて、22、23日の両日にわたって番組を配信し、さらに問題を掘り下げた。それによれば、問題の日本端子は、中国に3つの会社を設立している。うち1社が「北京日端電子有限公司」という合弁会社であり、そこに出資した中国側の企業は、業界では知られた「北京京東方科技集団股分有限公司(BOE)」だった。
BOEは、北京に本社を置く電子製品製造メーカーであり、2020年度の売上高は1355.5億元(2兆3000億円)に上る大企業だ。その筆頭株主は、と言えば、中国国有企業の株式管理、再編を担当する「北京国有資本経営管理中心」であり「11.7%を保有している」という。
番組によれば、その合弁会社は「中国で太陽光ビジネスを展開している」という。それが事実だとすると、重大な疑念が生じる。
というのも、再生エネルギーの拡充を主張している河野氏は、政策を通じて、自分の親族企業に利益誘導してしまう可能性がある。それだけでなく、合弁企業は中国側からも、再生エネ政策を通じて、事実上の支援を受けてしまいかねない。
BOEのような中国政府に近い大企業が、日本端子のような非上場企業の関連会社に出資した背景に「河野家の同族企業」という事情がなかったか。そうであれば、河野氏の説明とは裏腹に、中国側には「河野氏への影響力維持」という思惑もあったのではないか。そういう見方があっても仕方がない。
ちなみに、北京国有資本経営管理中心をネットで検索すると、大和証券が6月に中国に設立した「大和証券中国」の合弁相手になっている。同社は、中国の外資系証券が新規設立の形で経営権を握った初のケースという。これを見ても、日本端子の合弁相手が「ただ者ではない」と感じさせる。
この問題は、いまのところ文春と産経系メディアが報じただけで、他のメディアは沈黙している。だが、いつまで無視していられるかどうか。ネットでは、かなり拡散している。
河野氏が自民党総裁、内閣総理大臣の有力候補とあれば、そんな中国との関係が問題視されるのは当然だろう。
河野氏には、もう1つ、別の疑問もある。これも産経が報じた。
中国政府の人権侵害を非難する国会決議について、日本ウイグル協会などで構成する「インド太平洋人権問題連絡協議会」がアンケートを実施したところ、岸田文雄前政調会長と高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行は、いずれも「採択すべきだ」と答えた。だが、河野氏からは「回答がなかった」という。
これは、どういうことなのか。単なる無視か、それとも、非難決議自体に反対なのか。後者だとしたら、河野氏のスタンスを如実に物語っている。中国の人権弾圧に甘いスタンスだとすれば、河野氏の対中認識自体に疑問を抱かざるを得ない。
「モラルハザード」を起こしかねない年金改革
河野氏が唱える年金改革についても、書いておこう。
河野氏は年金問題について、テレビの候補者討論やインタビューで繰り返し、基礎年金財源を税金で負担する考えを明らかにしている。
たとえば、20日付の読売新聞では「最低保障はやはり必要だ。保険料を払わないとその分は年金を削減するという今の基礎年金は、本当に最低保障になっているのか。最低保障部分は保険料ではなく、税でやるしかない。(財源は)消費税がいいと思っている」と語っている。
主張の前半には、同感する部分もある。いまの基礎年金の給付額は、満額でも月額6万5000円だ。これでは、いくら政府に「100年安心」と言われても、安心できない。
河野氏が言うように、高齢化が進んで、支えなければならない世代が増える一方、支える側の世代が少なくなれば、給付額は減らざるを得ず、最低保障というには、いかにも不十分だろう。2058年度には、給付額が月額5万1000円程度に減るという試算もある。
だが、給付額の少なさが問題なのだとしても、なぜ、そこから一足飛びに「税負担で」という話になるのか。もしも税金で全部を賄うとしたら、生活保護とどこが違うのか、という話になりかねない。まずは「保険料の引き上げ」が、議論の順番ではないか。
年金が保険であるのは「個人が保険料を払って、後で保険金を受け取る」からだ。個人でみると、記録が残っているので、負担と給付の関係が一目瞭然になる。だが、税金で賄ってしまったら、自分がいくら払って、いくらもらうのか、直ちには分からなくなる。
一方で、英語で保険料を「ペンションタックス」というように、保険料も税金同様、納付義務があるので、個人で見れば、税金も保険料もほとんど同じだ。つまり、最大の違いは「すぐ分かる記録が残っているかどうか」である。
私は「自分が払わなくても、だれかが税金で払ってくれる」という「暗黙のモラルハザード」を防ぐためにも「年金は個人が保険料で賄う」という原則を維持すべきだ、と思う。「保険料を納めなければ、もらえない」という原理をはっきりさせておくのだ。
いま、基礎年金の財源は半分が消費税で賄われている。残り半分が保険料だ。これを「全額、消費税で」というのが河野氏の主張だが、消費税には、よく知られているように「低所得者も高所得者と同じ負担をする」という逆進性の問題がある。
百歩譲って、一部を税で負担するとしても「個人の老後人生を保障する」という年金の趣旨から考えれば、私は所得税で賄うべきだ、と思う。所得税であれば、もともと高所得者に重い負担を求める仕組み(累進課税)になっているので、逆進性問題が生じにくい。
いずれにせよ、年金改革は大問題だ。1つの政権で達成できるかどうかさえ、あやしい。そんな大問題を提起した挑戦者の気概は評価したいが、どうも危うさがつきまとっている。29日の投開票日までの論戦で、河野氏はそんな懸念を払拭できるかどうか、注目したい。
 

 

●岸田文雄 新自由主義的政策を転換 自民総裁選演説会 9/17
強い確信を持ってここに立たせていただいている
このたび、総裁選挙に立候補いたしました、岸田文雄です。浅学非才ではありますが、全身全霊を傾けて頑張ります。どうぞよろしくお願いを申し上げます。まず1年間、コロナとの戦いの先頭に立って奮闘されてこられました菅総理に、心より敬意を表し申し上げます。ワクチン接種の加速、2050年カーボンニュートラル、デジタル庁の創設、多くの実績を残されました。誠にありがとうございました。そして、私は昨年の総裁選挙に敗れました。力不足でした。そして何よりも、総理総裁に対する確信というものが足りなかったと思っています。
しかし、今回は違います。今の時代、求められているリーダーは私であると、強い確信を持って、ここに立たせていただいております。総裁選に敗れ、多くの人たちが離れていくような気がしました。岸田の話はつまらない、岸田はもう終わりだ、こういった声もいただいてきました。夜、家に帰って、そういった厳しい声を振り返り、自分の政治家としての役割、終わってしまったのか、自問する日々でありました。
国民の声に寄り添い、多様な声を真摯に受け止める
原点に戻るということから、1年間、多くの皆さんの声を聞いてまいりました。あるとき、地元広島の商店街で年配の女性に声を掛けられました。お話を伺わせていただきました。春風香る穏やかな日でありました。お話を伺って、話を切り上げようといたしましたら、こう言われました。政治家の先生にこんなゆっくり話を聞いてもらったんは初めてじゃけん。みんな、自分のことは言うけれども、話は聞いてくれんけえ、やっぱり岸田さんだわ。こういう言葉をいただきました。この言葉を聞いたとき、はっといたしました。厳しい批判にさらされている私でも、人の声をしっかり聞ける。聞く力を持っている。こうした特徴があるんだと、気が付かせていただきました。
思い返してみますと私はご意見、多くの皆さんのご意見を承り、そしてここにある、この小さなノートに書き続けてまいりました。そしてこれを読み返し、私自身、何ができるのか、これを考え続けてまいりました。私にとってこのノートは大切な宝物です。そして1年間、国民の皆さんからの声を振り返りますと、生活の苦しさを訴える切実な声と、そして政治に対する厳しい指摘、これらでありました。
国民政党であったはずの自民党に声が届かないと国民が感じている。信なくば立たず、政治の根幹である国民の信頼が大きく崩れ、わが国の民主主義が危機に陥っているのではないか、強い危機感を持つに至りました。今こそ、国民政党として国民の声を聞き、そして丁寧で謙虚な政治、多様な意見に寛容な政治が求められているのではないでしょうか。
新型コロナとの戦いが始まって、もうすぐ2年。国民の皆さんが大きなストレスを感じ、疲れを感じている今、求められる政治は、自分のやりたいことを、俺に付いてこいと押し付ける政治ではありません。ましてや、俺が正しいんだと国民をねじ伏せる政治でもありません。1人1人の声に、国民の声に寄り添い、その多様な声を真摯に受け止める、そうした寛容の政治が求められています。
そしてわれわれ保守政治の根本は寛容の精神にあります。私自身も含めて、われわれは欠点の多い、不完全な人間ばかりであります。しかし、そうした不完全な人間のありようを受け入れ、先人たちが築いてこられた地域の伝統、慣習、秩序を尊重しながら、さまざまな意見に耳を傾けつつ、一歩一歩、より良い社会をつくっていく、これこそが保守の精神です。
総裁を除く党役員の任期を1期1年、連続3期までに
今、コロナで疲れ、ばらばらになりかけているこの国を、もう一度、ワンチームにまとめ、みんなでこの国難を乗り越えていく、保守政治の原点に立ち返り、今こそ丁寧で寛容な政治を進めようではありませんか。
もちろん、私1人では実現できません。しかし私には素晴らしい仲間がいます。今この瞬間も、不肖岸田のために汗をかいてくれる全国の党員の皆さんがおられます。自由民主党は人材の宝庫です。目立たずとも着実に仕事を重ね、成果を上げる同僚議員が、あちらにもこちらにもおられます。こうした皆さまに光を当て、全員野球でチーム力を発揮することが大きな力となる。全員で力を合わせて、正々堂々とした政治を取り戻してまいります。
そのためには、まず隗より始めよ。4つの視点から自民党改革を進めてまいります。1つ目は新陳代謝です。党役員に中堅、若手を大胆に登用し、自民党を若返らせます。比例73歳定年制を堅持いたします。そして、青年局、女性局の代表を党本部、都道府県連、さらには選対本部の役員に加えます。
2つ目は、権力の集中と惰性の防止です。党役員の任期を明確化し、総裁を除く党役員の任期を、1期1年、連続3期までといたします。
3つ目は地方との連携強化です。全国幹事長会議、政調会長会議、これを月一度、オンラインで実施し、地方の意見を党運営に反映いたします。また、自民党イントラネットを構築し、政策や活動をリアルタイムで全国の組織、議員と共有してまいります。そして党員募集、そして党費納入、こうした党員との接点のデジタル化を進め、次期総裁選挙はオンライン党員投票を実現することを目指してまいります。
現場に足を運び、国民の声を聞き、政策に反映
4つ目は政策力の強化です。毎年の骨太や予算編成を目指した1年ごとの政策立案サイクルに加えて、中長期的な国家戦略を立案するための仕組み、これを構築します。また、EBPMの強化、取り組んでまいります。小選挙区制の導入により、党の役割が格段強まったにもかかわらず、党運営、マネジメントの改善は手付かずでありました。今申し上げた点を含め、党の運営を近代化するために、党に自民党版ガバナンスコード検討委員会を設け、外部の意見も聞きながら自民党改革、徹底的に進めてまいります。こうした具体策を提示している私にしか改革は実現できません。
総裁選挙に当たりまして3つの約束、3つの政策についてお話をさせていただきます。私は民主主義を守り抜くために、国民の皆さんに3つの約束をいたします。第1に、国民の声を丁寧に伺います。私自身が現場に足を運び、国民の皆さまの声を聞き、政策に反映してまいります。
第2に、個性と多様性を尊重する社会を目指します。若者も高齢者も障害のある方も、そして女性活躍を進め、性別にかかわらず全ての人が居場所を見つけ、生きがいを感じられる社会を目指します。
第3に、みんなで助け合う社会を目指します。コロナ禍を通じて、われわれはあらためて家族、仲間の絆の大切さに気付かされました。もちろん自助の精神は大切です。しかし人は1人では生きていけません。デジタル化が進む現代だからこそ、もう一度、人の温かさ、つながりが感じられる社会を目指します。
政策面でも、国民の生活を守り、国民の所得を増やす3つの政策をお約束いたします。第1にコロナ対策です。コロナとの戦いには国民の皆さんの協力が不可欠です。そのためには政府方針に対する納得感が不可欠です。私は方針の内容、必要性、決定に至るまでのプロセス、これらを自ら丁寧に説明いたします。また、危機管理の要諦は最悪の事態を想定するということです。たぶん良くなるだろうではコロナに打ち勝つことはできません。常に最悪の事態に備えながら対策を講じてまいります。
そして当面の目標はウィズコロナを前提に、季節性インフルエンザと同様、従来の医療提供体制の中で対応可能なものとし、通常に近い経済社会活動を1日も早く取り戻すということです。病床、医療人材の確保、徹底した人流抑制と、そのための数十兆円規模の経済対策、ワクチン接種促進、治療薬の開発・普及などの対策を、全体像を示しながら実行してまいります。
健康危機管理庁の設置に取り組む
特に経済対策については非正規、女性、子育て世代、学生など、コロナでお困りの方々、自粛に協力いただいている事業者の方々、米価の下落に大変苦しんでおられる農家の方々、こうした方々にきめ細やかな対応をしてまいります。その上で、感染症時代を迎えた今、将来の感染症危機発生にも備えた法改正、そして司令塔機能を持つ健康危機管理庁の設置、取り組んでまいります。
第2に、新しい資本主義の構築です。新自由主義的政策を転換いたします。市場や民間に任せればいいという時代は終わりました。国と民間が協働し、産業を興し、守り、そして国民生活を豊かにする、そうした経済が求められています。新自由主義政策は成長をもたらしました。しかし一方で、富める者と富まざる者の分断が生じています。また、コロナによって格差が拡大をいたしました。今から、今こそ、成長と分断の好循環による新しい日本型の資本主義を構築し、全国津々浦々、全ての皆さんに成長の果実、実感していただくときです。
まず成長については頑張る民間企業の挑戦、投資、大胆に支援いたします。産学官連携による科学技術とイノベーションを政策の中心に据えます。そして科学技術が生み出したシーズが海外でなくわが国、国内で産業化できるよう、スタートアップの徹底支援などを通じて新たなビジネス、産業創出に努めてまいります。
分配については、まず民間における分配、強化いたします。最近の日本企業を見ていると、利益が出ても賃上げは十分に行わず、配当を増やすなど短期的な利益を追求しています。企業が長期的な視点に立ち、株主のみならず多くの関係者を大事にする三方良しの経営を行うことができるよう、四半期開示の見直しなど基本的なルールの見直し、検討をしてまいります。
「令和版所得倍増」を目指す
こうした民間における取り組みを補完するのが公的な分配です。中間層の拡大に向け、分配機能を強化し、所得を引き上げる「令和版所得倍増」を目指してまいります。例えば子育て世代にとって大きな負担になっている住居費、教育費への支援、強化してまいります。民間に賃上げを求める以上、国自身も努力しなければなりません。賃金が公的に決まる看護師、保育士、介護士、こうした方々については公定価格を見直し、収入を思い切って引き上げます。
さらに成長の果実を地方に大胆に分配してまいります。新しい資本主義の象徴は地方です。5Gをはじめとするデジタルインフラの整備を進め、都市と地方の物理的距離を乗り越える、デジタル田園都市国家構想を実現してまいります。また、田園都市国家を支え、国際競争力を維持する交通、物流などのインフラを整備するとともに、災害に強い地域づくり、そして東日本大震災からの復興を進めてまいります。そして地域に寄り添い、現場を重視した多様な豊かさを持つ農業、農村を実現してまいります。多面的機能の維持や食料安全保障の観点から中小・家族農業や中山間地農業の支援を強化するとともに、米をはじめ、国産農畜産物の需給、価格の安定など農業者の所得向上に向けて政策を総動員してまいります。
そして第3に国民を守り抜く外交・安全保障です。世界の平和とわが国の安全を断固守り抜いていく。そのために3つの覚悟を持って臨みます。
まず、自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的な価値を守り抜く覚悟です。権威主義的な体制が勢いを増す中、台湾海峡などの課題に米国、欧州、インド、豪州、あるいは台湾。基本的価値を共有する国、地域と共に毅然と対応してまいります。
わが国の領土・領海・領空を断固守り抜く覚悟
次にわが国の領土・領海・領空を断固として守り抜く覚悟です。海上保安庁の能力強化、自衛隊との連携強化、ミサイル防衛力の強化、国家安全保障戦略の改定、インテリジェンス機能の充実などに全力で取り組んでまいります。また、地球規模課題において、世界を主導し、人類に貢献する覚悟です。温暖化問題、核廃絶、宇宙・海洋の開発利用、防災などの課題で、リーダーシップを発揮してまいります。
以上、私はこの3つの政策を通じ、すなわちコロナ対策においては国民の皆さんに協力をお願いし、そして新しい日本型の資本主義においては格差にしっかりと向き合い、多くの皆さんの所得を引き上げ、そして外交・安全保障政策においては国民の皆さんの命や暮らしをしっかり守っていく、こういった政策を通じて、国民が一体感を実感できる国をつくってまいりたいと思っております。
この総裁選挙の先には衆議院選挙、そして来年夏には参議院選挙があり、安定した政治、寛容で丁寧な政治を実現することで、この2つの選挙に勝利し、国民の負託に応えていこうではありませんか。以上を申し上げて出馬表明とさせていただきます。ありがとうございました。
  
 雑話

 

●「選択肢示す」岸田氏、首相との違い強調 8/26
自民党総裁選は再選を目指す菅義偉首相と岸田文雄前政調会長による「因縁の対決」が中心となる。閣僚として安倍晋三前首相を支えた両氏だが、かねて不仲がささやかれ、首相が昨秋の総裁選を勝利すると岸田氏は政権中枢から遠ざけられた。それから約1年。首相の新型コロナウイルス対応に批判が集まる中、新たなリーダーを求める党内の声が岸田氏の背中を押した。
「『コロナ禍で生活が苦しい』『家族に会えなくて寂しい』。私はそうした声をこの小さなノートに書き続けてきた」
岸田氏は26日の記者会見で1冊のノートを取り出し、こう語った。平成21年の自民の野党転落から約10年間続けてきた習慣を紹介し「私にはやるべきことがあると信じている」と訴えた。発信力に乏しく、安倍氏らから「情念が足りない」と指摘された姿は一変した。
初挑戦だった昨年9月の前回総裁選は、主要派閥の支援を受けた首相に大敗した。記者会見で「『岸田は終わった』との評価を受けた」と認めたように、その後は要職に就くこともなく不遇の日々を重ねてきた。
その要因となったのが首相との関係性だ。地方出身のたたき上げを売りにする首相と、父、祖父も国会議員を務め、「政治家家系のサラブレッド」として育った岸田氏には埋めがたい距離がある。安倍政権時には岸田氏の念願だった幹事長就任が、官房長官だった首相の反対で実現しなかったとされる。
とはいえ、首相に挑むハードルは高く、岸田派(宏池会)内からも「羽交い締めをしてでも止める」(幹部)との声が上がった。昨年まで派の名誉会長を務め、首相と親しい古賀誠元幹事長が岸田派議員を造反させる懸念もあったが、「選択肢を国民に示さなければならない」との岸田氏の決意は揺らがなかった。
「自助の精神は大切だが、人間は1人では生きていけない。デジタル化が進む現代だからこそ、人の温かさが感じられる社会を目指していく」
岸田氏は会見でこう述べ、「自助」「デジタル化」を重視する首相との違いをアピールした。会見は約2時間に及んだ。これもコロナ対応などで「説明不足」が指摘される首相を意識していたことは明らかだった。安倍氏や麻生太郎副総理兼財務相は今回も首相支持の構えだが、感情がこもった訴えで勝機を見いだせるのか。岸田氏は正念場を迎えている。 

●岸田氏地元「新しい顔を」 「『政治とカネ』ただして」 8/26
「党内の数々の不祥事の説明責任がうやむやだ」 総裁選への立候補を表明した自民党の岸田文雄前政調会長の地元・広島。同党広島県連の中本隆志会長代理は26日、記者団に菅政権批判を展開した。
念頭にあるのは、河井克行元法相夫妻による選挙買収事件など「政治とカネ」をめぐる問題だ。党本部が河井氏側に渡した1億5千万円が買収の原資になったのではないかとの疑念も晴れていない。「全ての自民議員の襟をただすべく進む。我々も岸田氏も同じ思いだ」
支持者の「自民離れ」に対する県連の危機感は強い。買収事件に端を発した4月の参院再選挙は、政治不信がうねりとなって惨敗した。中本氏はコロナ対策や横浜市長選の敗北も挙げ、「菅総裁が無投票で続けられると、党にとってはかなりの痛手だ」と踏み込んだ。
ある県連幹部は「いま不満を抱える党員は多い。新しい顔で自民党を変えていくことが大事だ」と語り、菅政権に不満を持つ全国の「党員票」の積み増しに勝機を見いだしたいとする。
ただ、広島は27日から緊急事態宣言期間に入る。地元議員や支持者らが支持拡大のために県外に出向く場合は、2回のワクチン接種、PCR検査の受検など感染症対策を徹底した上で「最少人数でお願いに行く」(中本氏)方向で準備を進めているという。

●岸田氏が総裁選出馬、異例2時間超え質疑応答もまるでなぞなぞ回答 8/26
岸田文雄前政調会長(64)は26日、次期総裁選への出馬を表明する会見を開いた。コロナ禍で会見場に来られない記者にはインターネットから質問を受け付けるなど異例の約2時間超の質疑応答を行った。
出馬理由について「国民の声が政治に届いていない」とキッパリ。政権交代で野党に転落してから国民と会話した内容を手帳に記して読み返し、これまでに手帳30冊が手元に残った。「この手帳が私の財産。その声にこたえなければいけない」と語気を強めた。
掲げる政策としてはコロナ対策が中心で、菅政権に失点があるのではなく「何を足したらいいのか」と提唱しながらも具体案に切り込むことはなかった。「ロックダウンの合わない日本流の人流抑制の方法論を考える」と話し、菅政権との違いでは「国民の納得感を得るため先手先手で対応していく」というなぞなぞのような回答に終始した。

●岸田氏が次期総裁選への出馬表明「わが国の民主主義を守るために」 8/26
岸田文雄前政調会長(64)は26日、東京・永田町で菅義偉首相(72)の自民党総裁任期満了に伴う次期総裁選への出馬を表明した。
出馬の理由について「国民の間には、政治には自分たちの声が届いていないとされる。政治に自分たちの悩み苦しみが届いていない。政治に期待しても国民政党の自民党に国民の声が届いていない」と強調。その上で「自民党が国民の声を聴き、そして自民党が幅広い選択肢を示すことができる政党であることを示し、わが国の民主主義を守るために自民党総裁選に出馬することを決意しました」などと語った。
総裁選の日程は9月17日告示、29日投開票で決定した。現職の菅首相は続投の意向を示している。
総裁選には下村博文政調会長と高市早苗前総務相も意欲を示している。石破茂元幹事長は出馬見送りを示唆している。

●自民総裁選に出馬の岸田文雄氏、選択的夫婦別姓は「引き続き議論を」 8/26
自民党の岸田文雄・前政調会長は8月26日に国会内で記者会見し、9月末の任期満了に伴う自民党総裁選(9月17日告示、29日に投開票)に出馬すると表明した。岸田氏の総裁選出馬は2020年9月に続き2回目。
岸田氏は、「国民政党であったはずの自民党に、声が届いていないと国民が感じている」「国民の信頼が崩れている。我が国の民主主義が危機に瀕している」「自民党が国民の声を聞き、幅広い選択肢を示すことができることを示し、我が国の民主主義を守るために立候補する」と決意を述べた。
選択的夫婦別姓「引き続き議論を」
岸田氏は自民党内の「選択的夫婦別姓(別氏)制度の早期実現を目指す議連」に参加している。ただ岸田氏は、Business Insider Japanの「選択的夫婦別姓について賛成か、反対か。見解を」というオンラインでの質問に対し「引き続き議論をしなければならない」と述べるにとどめた。質問への回答は以下の通り。

選択的夫婦別姓については、これは引き続き議論をしなければいけない課題であると思っています。選択的夫婦別姓は「3つの約束」で申し上げたように、多様性、個性を大事にする社会を目指したいと申し上げました。こうした個性や多様性を大事にするという考え方と約束の3つ目が。人の温かみ、絆を大事にする社会を目指すと申し上げました。「家族の絆」を大事にしていく、この二つの問題のバランスかと思います。ともに大事なことかと思います。私自身は多様性、そしてそれぞれの生き方を大事にするという観点からしっかり議論するべきだと思いますが、現状は夫婦の間はともかくとして、たとえば子どもたちが数人いた場合、子どもたちの姓はみんな一緒なのか、バラバラなのか、誰が選ぶのか、いつ選ぶのか。この辺りは、より現実的に考えていかないとならないのではないか。その点、私はちょっとまだ整理ができていない。国民のみなさんも、夫婦別姓そのものについては色々な議論があるが、子どもの姓についてどう考えるかについて、十分議論が進んでいるんだろうか、この点はもう少ししっかり国民の中で議論する必要があるのではないか。こんな思いを持っています。
(注)「3つの約束」 / 岸田氏が記者会見で述べた言葉。「民主主義を守り抜くために国民の声を丁寧に聞く」「個性と多様性を尊重する社会を目指す」「みんなで助け合う社会」の3つを約束するとした。
「賛成・反対、政治家が一人よがりに決められるものではない」
別の記者からは「選択的夫婦別姓に若干後ろ向きになったのか。議論に関わっている立場と変化があったのか。前向きな意味で議論すべきと受け取って良いのか」と、岸田氏の姿勢を改めて確認する質問もあった。これに対し、岸田氏は「この問題は社会全体で受け入れなければいけない課題ですから、これは賛成だ反対だと、政治家が一人よがりに決められるものではない」と述べた。このときの岸田氏の回答は以下のとおり。

この問題は多くの方々が困っておられ、なんとかしてもらいたいという声がある。政治の立場として、そういった方々の声はしっかり受け止めなければいけない。議論はしなければいけない。こういったことは強く思っています。ただ、実際、社会に導入する場合も、さきほど言いました子どもの例をあげましたが、まだその辺の問題意識、国民の中で十分共有されていない部分があるのではないか。この辺はもう少し丁寧に説明する、国民の中で問題意識を共有する、こういったことをしていかないと。この問題は社会全体で受け入れなければいけない課題ですから、これは賛成だ反対だと、政治家が一人よがりに決められるものではない。そういった意味から、議論については丁寧に説明していかないと、実現することは難しいのではないか。こういったことを思っていると説明させていただきました。いずれにせよ議論をして、少なくとも多くのみなさんが納得する形でないと、こういったみんなが受け入れなければいけないこうした制度というのは、実現するのは難しいのではないか。こういったことを思いながら議論を考えていきたい。これが私のスタンスです。これは最初から同じで、議連に入った時と今と、変わっているということではありません。こういった思いで議論をしていかなければならないと思っています。
選択的夫婦別姓、7割が賛成 早稲田大など調査
早稲田大学の棚村政行教授と「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」の調査によると、「選択的夫婦別姓」について「自分は同姓がよい。他の夫婦はどちらでも構わない」「自分は別姓を選べるとよい」と答えた賛成の割合が7割を超えた。
岸田氏は衆院・広島1区選出。当選9回。これまでに外相、党政調会長などを歴任。2020年9月の総裁選では89票を獲得したが、菅義偉首相に敗れた。

●「やれるもんならやってみろ」…二階氏狙い?岸田氏もろ刃の党改革案 8/29
自民党総裁選への立候補を表明した岸田文雄前政調会長の発言が波紋を広げている。「総裁を除く党役員は1期1年、連続3期までとすることで権力の集中を防ぎたい」と党改革案を打ち上げた。党執行部の運営に不満を持つ中堅・若手へのアピール材料としたい考えだが、世代交代を警戒する党幹部からは冷ややかな反応が広がっている。
27日夜、BSフジの番組で、岸田氏の党改革案について問われた佐藤勉総務会長は、「ケース・バイ・ケースだ。(最初から)決めてやっていくというのはいかがなものか」と疑問を呈した。同時に「何かあれば辞める覚悟を持って務めている。個人の判断(の余地)は持たせて良いのではないか」と指摘した。
岸田氏の念頭には、在職5年を超え、史上最長記録を更新中の二階俊博幹事長の存在がある。党のカネや人事、選挙の公認権などを掌握する幹事長の権限は絶大で、その力を源泉に二階氏率いる二階派は野党議員を引き入れるなど拡張を続けてきた。
その結果、選挙区調整などで他派閥と公認争いの火種をつくり、党内には二階氏交代を期待する声もある。岸田氏自身、2019年の参院選広島選挙区で岸田派現職の議席を、後に二階派に入る新人に奪われるなど、しこりが残っている。
派内の若手の意見を取り入れ、党改革案を練ったという岸田氏は周囲に、複雑な心境を漏らしている。「最初はもっと過激だった。あれでも抑えたぐらいだ」。二階氏の強硬路線に不満を持つ中堅・若手議員の切り崩しを狙っている。
だが、岸田氏の「党刷新構想」は、もろ刃の剣でもある。岸田氏が支援を期待する主要派閥の領袖(りょうしゅう)クラスには、早急な世代交代を望まない重鎮らも少なくなく、改革案がかえって「岸田離れ」につながりかねない。ある党幹部は「やれるもんならやってみろ」と露骨に不快感を示した。

●いつもは煮え切らない男・岸田文雄が総裁選に出馬表明した“ある事情” 8/31
明かりはハッキリと見え始めている。25日の会見での菅首相の言葉です。自分の任期(自民党総裁)がもう少しで終わることを言ってる自虐ネタかと思いきや、そうではなかった。『首相「明かりはハッキリ見え始めた」…ワクチンはデルタ株にも有効と強調』という意味でした。一方で読売新聞にはこんな記事も。『高齢者感染 再び増加 デルタ株影響か ワクチン接種8割でも』明かりが見えるどころか予断を許さない状況であることがわかる。ハッキリと見えてきたのは自民党総裁選の日程です。9月29日に決まった。コロナ禍で権力闘争? とも思うが、自公政権が続く場合「次のコロナ対応をする人を決める選挙」なら注目せざるを得なくなる。
総裁選は「おいしい興行」
常々思うのですが、総裁選は自民党のPRイベントと考えたほうがいい。あの「興行」をやることでメディアは時間をさいてくれ、候補者たちは各テレビ局をまわる。これ以上ない宣伝機会となる。
総裁選がいかにおいしい興行かと言えば、小泉純一郎が「自民党をぶっ壊す」と叫んで喝さいを浴びた当時を思い出してほしい。あのあと自民党はぶっ壊れるどころか安泰となった。自民党の興行にまんまと夢中にさせられたことを熱狂のあとに少なくない人々が気づいた。議論が盛り上がり、対決ムードとなったことでガス抜きができたのだ。やってる感を出せた。
しかし近年はそんなおいしい興行を自民党が使いこなしていないのが気になる。
今回は3年ぶりにフルスペック(党員・党友投票も含める)で実施するというが、では3年前の総裁選はどうだったか。当時の記事を振り返ろう(2018年8月22日)。
『論戦したい石破氏 敬遠したい首相側』(朝日新聞)
『石破氏 焦がれる直接討論』(読売新聞)
『首相、短期戦で石破氏封じ』(毎日新聞)
同じ日に3紙が同じ論点で記事を書いていた。それほど当時の安倍晋三総裁は対立候補の石破茂にモリカケ問題をツッコまれるのが嫌だったのだ。議論を避けた。
石破氏が「正直で公正、謙虚で丁寧な政治をつくる」と主張したことに対し党内からは個人攻撃はするなという「苦言」も飛んだ。以前のような狡猾さが自民党にあったら石破茂をとことん利用しただろう。安倍と並ばせて批判をさせただろう。国民の不満を緩和させる手に出たはず。しかし封じた。その結果モリカケはくすぶり続け「桜」まで出た。
安倍前首相が「岸田さんはどうするの?」
その教訓でいうと今回は菅氏のコロナ対応をどれだけ身内がツッコむことができるか。それが見どころでもある。議論を避けるようなら国民の不満はそのまま蓄積される。菅氏は総裁選を勝ったあと間を置かずに衆議院選挙をするという戦略があるらしいですが、それは危険な大ボケの匂いしかしない。総裁選のあとに一億総ツッコミの予感。
さて総裁選に出馬表明している中で注目されているのは現時点では岸田文雄氏です。岸田氏と言えばフニャフニャ感が売り(失礼)。2018年総裁選でポスト安倍を狙った岸田氏のエピソードが泣けてくる。安倍・岸田の会食の様子を読売が書いていた。
《これまで遠回しに腹を探ってきた安倍だったが、この日は単刀直入に切り出した。「岸田さんはどうするの?」。岸田は「どうしましょうか」といつものように煮え切らず、安倍支持を明言しなかった。》
いつものように煮え切らず……。結局出馬はしなかった。昨年コロナ対応が始まってからの岸田文雄は誰もつけなくなったアベノマスクを最後までいじらしく着けていた。ポスト安倍の禅譲をおとなしく期待していたのだ。
そんなユルい相手ならいけると思ったのか、安倍が辞意表明すると菅・二階のたたき上げ連盟がすぐさま手を挙げた。少し言動を追っていれば菅の野心なんて素人にも丸見えだったのに岸田派(宏池会)内では「菅氏の動きは意外だった」との声が漏れたという(毎日新聞2020年8月31日)。宏池会ごとのんきだった。
さすがに今までのやり方だと無理だと思ったか、今回の岸田は仕掛けている。
『二階幹事長の再任否定』(日本経済新聞8月27日)
『コロナ対応 首相と一線』(東京新聞8月27日)
出馬会見では、たぶん良くなるだろうではコロナに打ち勝つことはできないと語った。
《暗に首相を批判した。念頭にあるのが、感染状況を巡って楽観的な発言を連発する首相の姿勢なのは間違いない。》(東京新聞・同)
岸田文雄が早々に出馬表明した理由
『岸田ビジョン』(講談社)を読むと、昨夏の時点で「『聞く力』を持つリーダー」とか「分断から協調へ」と書いているので菅だけでなく安倍も批判的にみていたことがわかる。アベノミクスに懐疑的な記述もある。ところが現実の岸田はというと……。
『自民・岸田政調会長、皇統と憲法で安倍保守路線継承へ 派閥の理解得られるか』(産経ニュース8月25日)
安倍頼みなのである。フニャフニャの真骨頂。『岸田氏、安倍・麻生両氏に秋波』(日経新聞8月27日)とも。これでは万一首相になれても「第三次安倍政権」と言われるだけではないでしょうか。予想しておきます。
ただ、フニャフニャしていた岸田氏が今回は早々に手を挙げた点は気になる。それはなぜか? こんな事情もあるようだ。
《岸田派座長で参院議員だった林芳正・元文部科学相が、将来の総裁選出馬を視野に、次期衆院選に山口3区からくら替え出馬することも、岸田氏の判断に影響したようだ。》(読売新聞8月26日)
ここらで勝負しないと派閥の後輩に総裁候補として逆転されてしまうという危機感。
安倍晋三、ハヤシライスは食べない説
調べてみると林芳正は今後の自民党のキーマンでもあるようだ。くら替えする山口3区は二階派の河村建夫が現職。なので二階のトシちゃんは「売られたケンカは買う」と激おこ。さらに山口では「林家」と「安倍家」は中選挙区時代から長年のライバル関係にある。
《安倍陣営ではかねて「カレーライスは食べてもハヤシライスは食べるな」「ゴルフで森に打ち込むのはいいが、林には絶対打ち込むな」と対抗意識をむき出しにしてきた。》(信濃毎日新聞7月11日)
すばらしすぎる格言。安倍晋三、ハヤシライスは食べない説。
現在の小選挙区では安倍家とは一応すみわけができるが《総理総裁を目指す林氏と首相退陣後もキングメーカーとしての野望をぎらつかせる安倍氏。両家の対立が再燃するかもしれない》とも(信濃毎日新聞・同)。
安倍と二階を敵に回しても野心を隠さない林芳正。フニャフニャ岸田さん、このままだと食われちゃいそう。その前に国民の注目を集めるコロナ対策を打ち出せるか、地方と若手の票を自分が食えるか。しばらく注目です。

●「次期自民党総裁は岸田文雄氏」と言い切れる理由、宮崎謙介元議員が解説 9/1
岸田前政調会長が 打ち出した「二階外し」
衆議院の任期満了が迫ってきています。
菅義偉首相(自民党総裁)は9月中に自民党役員人事を行い、二階俊博幹事長らを交代させる方針と報じられるなど、政界の動きが活発化しています。
いずれにせよ、遅かれ早かれあと2〜3カ月以内には衆議院の解散・総選挙が行われるわけです。選挙を目前に自民党内では総裁選が行われようとしていますが、久しぶりに面白い展開になってきています。
最初に、「今の時点」での私の予想を明確にしておきます。これにはいくつか条件がありますが、あることを除いて高い確率でこのような結果になるでしょう。次の自民党総裁および、内閣総理大臣は自民党前政調会長の「岸田文雄」氏でほぼ決まりです。
前回の総裁選挙では菅義偉氏に圧倒的な差をつけられて敗北した岸田氏。その時の反省点は、頼りなく映る、政策がパッとしない、など散々言われたものです。
しかし、今回の岸田氏は違いました。堂々として見えたし、自信があるようにも見え、出馬意向のタイミングも内容も実に練られている印象を受けました。あの出馬会見を見て私と同じように感じた永田町関係者は意外と多く、これはもしかしたら…と思っている人がじわじわと増えています。
なんといっても今回の岸田戦略の中で、最もうまい戦略だったのが「二階幹事長外し」です。総裁選の実施が決定したその日に出馬表明、そしてインパクトがあり核心を突く発言をしたのです。
絶対的権力を持っている永田町の超大物である二階氏には強烈なシンパもいる一方で、強烈に敵視している政治家も多いのです。これ以上、二階幹事長に好き勝手なことはさせてたまるか、という勢力を取り込むことで、限りなく直接的に近い間接的な表現で「菅降ろし」を打ち出したのです。
菅・二階連合は確固たるものであり、前回の菅首相誕生には二階氏が真っ先に菅氏の支持を表明する先制パンチが大きく効いて、そこから雪崩を打つように他派閥も乗っかることで勝敗が決まりました。
菅氏にとっては切っても切り離せない存在です。岸田氏は総裁を除く党役員の任期を「1期1年で連続3期まで」に限定する方針を打ち出すことで、その二階氏を切るということを明言したことになります。岸田氏がここまでの宣戦布告をするとは!と永田町が沸いたのです。穏やかに、紳士的に、でもなかなかにエグイことをさらっと言ってのけたのですから。
二階派議員でも 反旗を翻す動き
そして、選挙が直後に控えている総裁選ということも大きいのです。
自民党は郡部の選挙区において、支持が高い傾向があります。しかし、都市部では必ずしもそうではありません。先の横浜市長選挙の惨敗が象徴したように現時点での都市部の現政権の評判はすこぶる悪いのです。
そうなってくると、都市部で若手の議員たちは菅氏の顔で選挙をするのをなんとしても避けたいと願うものです。「菅首相のままで戦うと、政権交代も本気でありえる。それは絶対に回避しなければならない!」と言う議員までいました。それが、じわじわと広がりつつあり、これまで自民党をコントロールし、統制してきた派閥の力学を崩し始めています。
鉄の結束を誇っていた二階派も同様です。報道されている通り、菅支持を表明した二階幹事長に反旗を翻す議員が続々と出てきたのです。
かくいう私も二階派に所属していました。だからこそわかるのですが、二階派は徹底的に上意下達の組織で、二階氏の命令は絶対でした。それに従わないと表明するということは当時の私には考えられませんでした。
しかし、今回も「菅首相の再選支持」という先制パンチをかました二階派でさえ、菅支持に回れない可能性があるのです。
都市部の若手議員たちは派閥の陰に隠れて、反菅勢力はゲリラ戦を展開し、選挙に勝てる新しい顔を立てるために奔走することでしょう。
石破茂元幹事長や 高市早苗前総務相の可能性
ここで注目したいのは他の候補です。
まずは石破氏ですが、今回も難しいのではないかと私は考えます。依然として国民からの人気は高いものの、議員票で大きく差をつけられた石破氏でしたが、あれから党内での仲間が増え支持が広がっているとは思えません。
だから、早々に不出馬をにおわせていたのですが、今回不出馬を決めると、それこそ総理総裁への道は断たれてしまうので、討ち死に覚悟で出馬する可能性もあるとは思います。少なくとも石破派の皆さんは出るように言うでしょう。
そして下村博文氏です。安倍派(厳密には細田派)に所属する下村氏ですが、安倍晋三氏は菅支援をせざるを得ません。いくら自分の派閥のかわいい後輩が立候補をしたいから応援してほしいといったところで、菅氏への恩義があるためにそれを裏切ることはできません。「菅氏が出る」以上、下村氏は他の派閥が応援してくれない限り勝機は薄いでしょう。
保守で文教のスペシャリストである下村氏ですが、チャンスは次回にというところでしょうか。
実際に菅氏からのプレッシャーもあって、立候補を断念してしまいました。
同時に、高市早苗氏(無派閥)が表明しています。女性初の首相候補をという期待もありますが、安倍氏からの推薦が頼みの綱です。ですが、下村氏と同様に「菅氏が出る」以上、応援はできないということになります。
ここで触れておきたいのは安倍氏と岸田氏の関係性です。実はこの二人は旧知の仲で、党青年局長時代に全国行脚をした際、お酒を飲むよう地域支部の方々から強く勧められて困っている安倍氏のお酒を、酒豪の岸田氏が身代わりになって飲みまくったそうです。
そんな古い友人関係もあって、安倍氏が元気な間、「僕の次は岸田さんだから」とよく周囲に話されていたとか。だから、安倍氏の心中を察するに「菅氏を推さなければ仁義に反する、男が廃る。けど、岸田さんには頑張ってもらいたいんだよなぁ」ということなのでしょう。派を挙げて菅氏を応援するぞという空気感にはならないと思われます。とにかく、安倍氏はキーパーソンになることには変わりないでしょう。
同様に麻生派も大きな存在です。私としては先に挙げた反二階勢力の本丸だと捉えています。報道によると前回の岸田氏は麻生氏への対応を失敗したことで応援を取り付けられなかったということですが、今回はこのメッセージも受けて、麻生氏には深く刺さったことでしょう。
とはいえ、同じ閣内にいる麻生氏が菅氏に反旗を翻すこともまた仁義に反するわけです。従って、結果として安倍派と同じように、緩やかに菅支援に回るという「表面上の菅支援に回る」結果になるのではないでしょうか。
岸田首相誕生が 難しくなる条件
私はこのような構図になっていき、反菅・反二階の構造がじわじわ広がっていき、消去法で岸田氏に決まる流れになりつつあると感じています。
ただ、です。先ほどから述べているように「菅氏が出る」ことが前提です。もしも、菅氏が一転「次の世代にバトンを渡そうと思う」となった時点で、この政局はガラッと変わります。国民的にも人気のある河野太郎氏や小泉進次郎氏を後継指名して退陣となると、岸田新総裁の誕生の雲行きも怪しくなります。
また派閥横断で若手議員が集まって自分たちの横のつながりの中で若い候補を立てようという動きも出ています。これまでの派閥の縦の拘束力から解放されて横が結束するという歴史的な流れができれば、国民の期待もまた高まることでしょう。その覚悟も試されている時期かもしれません。
そうした機運はどこまで高まっていくのだろうかと思いつつ見守っていますが、福田康夫元首相のご子息の福田達夫氏、今の青年局長で初の女性局長である牧島かれん氏など、名前が挙がっています。どちらも将来有望の二人なので、ここでリスクを冒して名乗りを上げるのか、難しいところです。
コロナ禍で日本が、世界が暗くなっているこの時期に日本のリーダーがこの現状を打破できるか、そのための大事な総裁選挙になります。注視していきたいですね。

●岸田氏、コロナ政策 「健康危機管理庁の設置」「数十兆円規模の経済対策」 9/2
自民党の総裁選(9月17日告示、29日投開票)への立候補を表明している自民党の岸田文雄・前政務調査会長が9月2日、衆議院会館で記者会見を開き、自身の政策における新型コロナ対策の具体案を示した。
岸田氏は「いま国民のみなさんのなかにはコロナ対策の説明が十分ではないのではないか、コロナ対策の現状認識が楽観的すぎないか、こういった声が多数ある」とし、自身が総裁となった際は「国民への納得感ある説明」「有事対応として最悪を想定した危機管理」という2つの原則をベースに対応していく考えを示した。
岸田氏はコロナ対策の目標として、通常に近い社会経済活動を取り戻すことを掲げる。そのために、具体案として5つの取り組みを挙げた。
•ワクチン接種の加速……11月中の希望者全員への接種完了
•年内のコロナ経口薬普及のための支援
•徹底した人流抑制
•病床・医療人材の確保
•経済対策……数十兆円規模、持続化給付金などの再配布、非正規雇用や子育て世代、学生への給付金など
人流抑制の協力を得るには経済対策が欠かせない。その上では財源が課題だが、増税でカバーすることについては「少し違和感がある」と発言。直近の対策として国債などに財源を求めつつ、その先の結論は「税制を考える前に経済をどう成長軌道に持っていけるか、そこからまず考えなければならない」と慎重な姿勢だ。
コロナ対策においては、感染対策の医療と通常医療をどういうバランスで考えるのかも重要だ。Business Insider Japanの質問に対し、岸田氏は、「(コロナ対策の観点で)ご協力いただいて活用できる医療資源は、人材においてもまだある。これは多くの方々が指摘している。その部分をどう使うか。コロナのほうにしっかり振り向けるよう、みんなで努力することが大事」だとし、医療従事者全般に、改めて協力を求めていく姿勢について含みを持たせた。
今後、ワクチン接種などが進み、通常の医療提供体制でコロナ対応が可能となった後の対応にも言及。
政府の公衆衛生分野における危機管理能力の強化のための法改正、国・地方・省庁を横断した司令塔機能を持つ組織として「健康危機管理庁」の設置なども訴えていく考えだ。

●岸田の攻撃に菅がキレた!「総裁選断固中止、総理の座は渡さない」 9/2
「こんな岸田は見たことない」総裁選出馬を早々宣言した岸田の猛攻。岸田文雄という政治家は「行儀の良いおとなしい子」「スマートな政治家」と、どこか物足りなさを感じさせていた。ところが、26日の総裁選正式立候補表明以来、まるで別人のようなキレと迫力を見せていた。
怖くて誰も手出しができなかった二階俊博幹事長をばっさり切り捨て、これに圧倒された菅義偉首相を党役員人事へと追い立てた。岸田のロケットスタートに、菅はかなり動揺したのだ。
出馬表明の後、安倍晋三前首相の議員会館事務所に挨拶に行った岸田を、安倍は「よい会見だった」と評価した。菅、二階にとっては、安倍の裏切りとも取れる発言だ。
「二階おろし」成功で得をしたのは
「オレから首相に、幹事長を辞めるといった覚えはないよ」飼い犬に手を噛まれた二階は悔しそうにこう漏らした。一方、「二階おろし」の人事をせざるえなかった菅は、二階派が岸田支持に回る可能性に恐怖している。官邸で記者団に囲まれた二階は悔し紛れに本音をぶちまけてしまった。「自民党は、発言は自由だ」と前置きして、こう続けた。「岸田が言ったから(幹事長交代を)どうしなきゃいかんって、そういうことではないのじゃないか」公の場で、二階が「岸田」と呼び捨てたのは初めてだ。憎悪が隠せなくなった瞬間だった。
菅首相の「自信の源」は、まさかの…
8月最後の日曜日、菅首相は、小泉進次郎を赤坂議員宿舎に呼び軽い昼食を共にしたという。現状から逃げだしたい気分だった菅に、進次郎がエールを送ったのだ。「『降ろすなら降ろせ!』と戦う姿勢をもって挑んでもらいたい。首相自身の言葉で戦いきってもらいたい」進次郎らしい、エモーショナルなエールだった。首相周辺にいた若手議員たち「ガネーシャの会」、「韋駄天の会」、「令和の会」などは、活動停止状態だ。菅の周辺は閑散としている。進次郎の言葉は、菅をおおいに励ました。ここから、菅は持ち前の気力で反転攻勢に出たのだ。30日から、二階切りの決断、総選挙閣議決定案リーク、内閣改造と、岸田への攻勢が次々と繰り出されている。31日夜には、ささやかれていた「9.14解散」の情報を流すに至る。危機意識からなりふり構わぬ攻勢に「振り切った」菅。高揚するあまり、ここのところ一睡もできない日が続いているという。自民党幹部議員が言う。「小泉政権で安倍幹事長という抜擢人事があったように、菅政権のサプライズは小泉進次郎です。しかし、進次郎をどのポストで起用するのか難しい。内閣支持率の低下に窮して、禁じ手の人寄せパンダを使ったと揶揄されるのは明らかですから」そういえば閣僚だったっけ?と、忘れられかけた進次郎が、菅政権の切り札となるのかは疑問だ。
なりふり構わない菅に岸田の目が泳いだ
31日夜、テレビのインタビューに答えた岸田は、菅の「解散ブラフ」に当てられたのか、出馬当初のキレ、冴えはなかった。「菅政権のコロナ対策は、そう大きく間違っていない。疫病は政府の責任ではないですから。この1年は、誰がやってもたいへんな時期だったんです。その国難を前にさっさと放り出して逃げた前首相の責任こそ問われるべきでは」(自民党関係者)疑惑の解明から逃げた前首相と、盟友・元首相は「高みの見物」を決め込んでいるが、党の危機に内心穏やかではないだろう。今、国民が求めているのは有効なコロナ対策と日常の回復だ。真のリーダーは、どこにいるのだろうか。

●「東大に3回落ちた。私は線の細いエリートではない」・岸田文雄 「自分の弱点」 9/3
「菅は裏で岸田を『発信力がないので選挙で勝てない』『何がやりたいのか全くわからない』とこき下ろしてきた」
官房長官時代の菅義偉による、岸田文雄の人物評だ。「当たらない」を繰り返して説明責任を果たさず、安倍一強の権勢を笠に着るうちに指導者になれると勘違いして総理大臣になってしまった菅が、よく人のことを言ったものである。
そんな岸田であるが、前回(昨年9月)に続いて、今月に予定される自民党総裁選への出馬を表明。するとどういうわけか、党役員の任期制を打ち出し、それが「二階おろし」につながっていくなど、これまでのボンクラなイメージとは様相を異にしている。
はたして岸田文雄とは、どんな人となりの政治家なのか。
岸田は広島市を選挙区にする、祖父の代からの世襲議員である。1993年の総選挙で初当選、同期には安倍晋三、野田聖子、先日横浜市長選に落選した小此木八郎らがいる。そのよしみもあってか、安倍は首相時代、「後継の本命は岸田さん」としていると言われ続けていた。
たとえば2019年、同期当選の集まりで、安倍が「次の総裁選には出ない。次は岸田さんも候補だね」と話を差し向けた。しかし岸田は無言のままでいて、代わりに野田聖子が「私もいる」と口を挟んだという(文藝春秋2019年4月号の赤坂太郎コラム)。
遠慮がちでいること、これが岸田の永田町での処世術だったのだろう。岸田は「加藤の乱」(2000年)の敗軍の兵であった。
不人気を極めた森内閣当時、派閥「宏池会」の会長・加藤紘一はネット世論に踊らされるうちに、野党と共闘して内閣不信任案の可決を目指す動きを見せるが、自民党主流派の切り崩しにあい、無残な結果に終わる。加藤はじっと順番待ちしていればいずれ総理になったであろうが、自ら仕掛けた政局で政治生命を失った。
だから、目立てば嫉妬を買い、派手に動けば潰される、この永田町の摂理を岸田は骨身にしみるように知っている。
そういえば森喜朗は、岸田について「ハッキリ言えば、恥ずかしがり屋のところがある。なかなか自分を出そうとしない」と評している。口下手な政治家(菅)もどうかと思うが、恥ずかしがり屋も政治家としてどうなのだろうか。
それはそれとして森は、岸田本人や岸田が率いる派閥(宏池会)についてこう続ける。「この人には立派になってもらいたい、育ててあげたいという気持ちがあるんです」「宏池会には優秀な人材が多い。その皆さんを表舞台に立てるようにしてあげることが、私の政治信条なんだ」(文藝春秋2020年3月号)。森の世話焼きによる人の支配の政治、つまり東京オリンピックが象徴するこの20年が凝縮したような言葉である。
院政を敷こうとする者(安倍)や長老としての力を保とうとする者(森)にとって、闘争によって権力を得ようとはせずに、口を開けてエサを待つ鯉(広島だけに)は手なずけやすいのだろう。
前回の総裁選では、岸田は石破茂つぶしに利用された。得票数の発表時、菅陣営から「施し票」で得票が石破を上回り2位になると、岸田は「よしっ!」とつぶやいたという。そんな半端者だった岸田が今回は「二階おろし」のきっかけをつくるなど、発信力の発揮どころか、政局的な動きまで見せるようになっている。
いったい岸田に何があったのか。その予兆は、昨年の総裁選に見て取れる。
前回の総裁選前に文藝春秋に掲載されたインタビュー記事は「リーダーには『聞く力』が必要だ」と題され、自ら発信しない様への言い訳のようなタイトルであった。またアベノマスクについて「私もこの布マスクを普段から着用していますが、市販の不織布マスクと比べても機能的に劣っているとは思いません」と断言し、安倍にへつらう素振りを見せていた。
それが総裁選の最中に発売された同誌のインタビューでは「私の弱点が『発信力』にあることも自覚しています」(文藝春秋2020年10月号)と自ら述べ、また「アベノミクスの格差を正す」と題して、安倍政権の成長戦略は不十分であり、中間層への手当を行うなど格差解消の必要を説いている。
さらに候補者討論会のなかで岸田は、「総裁選に挑戦する中で、個人として自由に発言できることに気づいた」「これからは立場ではなく、政治家として、自分自身としてどう発信するかをしっかり考えていきたい」と述べるにいたる。
もっと早く気づけばいいのにと思うところだが、岸田にとっての前回の総裁選は、“自分探し”あるいは“自己啓発“の機会であったかのようだ。
発信に目覚めた岸田は何を語ったのか。前掲10月号のインタビューでは、上記のように安倍政治の罪の部分を論じると同時に、誰しもが思う岸田の弱点を自ら潰していく。たとえば「権謀術数が渦巻く中」も歩み、「加藤の乱」も経験して権力闘争とは無縁でないと、20年前の話でもって永田町的なマッチョぶりをアピールしている。
また東京生まれの世襲議員であることから、ひ弱なボンボンと思われていることを意識してのことだろう、岸田は苦労や挫折の経験として、大学受験の失敗を語る。
「私は決して線の細いエリートではありません。母校の開成高校は東大に進む生徒が多い中、私は東大受験に三回失敗するなど悔しい思いもしました。結局、早稲田と慶應の両方に受かりましたが」と言い、早大に進んで、バンカラな気風の中で自分を見つめ直すことができたと続けている。
はたして、ここに共感性はあるだろうか。「保育園落ちた日本死ね」ならぬ、「東大落ちた?だから何」である。
たとえば同じく「加藤の乱」の敗軍の兵である谷垣禎一も政治家の家に生まれた。こちらは麻布高校から東大法学部に入るのだが、山登りに熱中したため卒業に8年かかり、その後司法試験浪人を重ねて、社会人になるのは37歳のときであった。そんな浪人時代を振り返り、谷垣はこう語る。「午前中はずっと寝てて、正午過ぎに『俺は一体何してんだろう』と思いながら布団から出て、人生考え込んじゃった時があったよ」。
弱さも人の魅力になる。それを体現したのが谷垣であった。対して岸田は弱さを打ち消そうとする自分語りによって、かえって弱くてつまらない自画像を浮かび上がらせているように感じられる。
また岸田は昨秋、書籍2冊を刊行している。『 岸田ビジョン 』は安倍首相の任期が切れる2021年に向けての自己発信のための書物であったろう。ところが発売直前に安倍が辞意を表明し、総裁選の最中の出版となってしまう。おまけに「岸田ビジョン」を謳いながらも、言うほどビジョンは示されていない。
もう1冊は『 核兵器のない世界へ 』である。これは原爆投下から75年目にあたる2020年に刊行したいとの思いで著したもの。ここで岸田は「核軍縮」「平和国家」を論じる。こうした平和や理想を説く者を「お花畑」と揶揄し「サヨク」扱いする、すなわち国際政治の複雑さを前に理想を空疎なものとして冷笑するのが当世だ。しかし岸田はそうした理想を「現実政治」の中で取り組む姿勢を見せる。
これは広島をルーツとする家系に生まれ、外務大臣として戦後初となる米国大統領の広島訪問を実現させ、また「吉田ドクトリン」の吉田茂の系譜に連なる派閥に属してきた岸田の、そうした自らの背景に深く根ざした政治キャリアの到達点であるように読める。
しかし、だ。
今年8月の原爆記念日に行われた広島での平和記念式典で、菅は「原稿がノリでくっついた」という理由で、あいさつの一部を読み飛ばした。それは「核兵器のない世界の実現」「核兵器の非人道性」について語る箇所であった。
期せずしてそれは、岸田が自著に思いを込めて綴る、「『核なき世界』ではなく、『核兵器のない世界』という言葉に拘っている大きな理由は核兵器が持つ『非人道性』を確実に世界に対して訴えたいからなのです」と重なる部分でもあった。
だからといって岸田は、菅が読み飛ばしたことについて物申すことはなかった。これでは記者に自分で書いた本の主張(「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然」等)を読み上げられ、「これを本に記していた政治家は誰かわかるか」と聞かれて、「知らない」と平然と答えた菅と同類ではないか。
出馬表明後の岸田は、憲法改正への意欲を示し、夫婦別姓についても慎重な姿勢を見せるなど、自民党のツボを押さえるための発信に抜かりはない。
ところが岸田は今年3月に発足した夫婦別姓を推進するための議員連盟の呼びかけ人でもあった。
このように国民に向けた理念・主張をあっさりと引っ込めてしまうあたり、岸田は菅を永田町の優等生キャラにしただけなのかもしれない。

●岸田氏、財政出動「国債財源」 消費税率「当面さわらず」 9/4
自民党の岸田文雄前政調会長は4日の読売テレビ番組で、自身が総裁選で掲げる数十兆円規模の経済対策の財源に言及した。「国債を財源に今必要とされるものには思い切って財政出動をしなければいけない」と述べた。事業者向けの持続化給付金や家賃支援給付金の再支給を掲げる。
岸田氏は消費税率について「当面、消費税にさわることは考えていない」と言明した。財源確保のための増税や、新型コロナウイルス対策のための減税は想定していない立場を示した。
「財政は国の信用において大変重要だ。財政安定に向けての方向性はしっかり示さないといけない」とも語った。
岸田氏は17日告示―29日投開票の総裁選に出馬を表明している。経済対策の実施で、政府が要請する営業時間短縮やテレワークの推進などに国民の協力の実効性を上げることを目指す。

●岸田氏 安倍政治の7年8カ月「評価すべきことは、たくさんあったけど…」 9/8
自民党の岸田文雄前政調会長は8日の記者会見で、7年8カ月に及んだ安倍政治の路線を継承するのかを尋ねられ、「安倍時代の政治に評価すべきところはたくさんあった」とした上で、コロナ禍で国民の間の格差が広がっているとして「成長は大事だが、分配も考えないと日本の国がおかしくなる。新たな視点が必要だ」との考えを示した。
会見で、記者は「安倍政治はアベノミクスとか、法人税率の引き下げ、憲法改正を視野に入れた制度面、予算面での安全保障の強化、官邸主導のトップダウンの政治、政治と金の問題の制度面の取り組みを含め、安倍政権の路線を継承するのか」と尋ねた。
岸田氏は「いろいろな例を上げていただいた。一口で言うのは継承するかしないか答えるのに難しい質問になった」とした上で、「安倍時代の政治に私も外務大臣、政調会長として参画したが、評価すべきことはたくさんあった。日米同盟の強化をはじめとする外交政策は大きな方向性として間違ってなかった。それ以外の政策でも評価するところはあった」と述べた。
一方で「経済を考えた時に間違いなくアベノミクスは成長において大きな成果があった。しかし分配においては、いつかトリクルダウンが起こると言われてきたが、結果まだ起きていない。コロナ影響が追い打ちをかけた」と指摘。
「成長は大事だが、分配も考えないと日本の国がおかしくなる。ぜひ新たな視点が必要と申し上げている。加えないといけない部分は間違いなくある。引き継ぐかどうかは一言では申し上げられないが、評価すべきところ、新たな転換をしていかなければならないところ、1つ1つ丁寧に進めていかねばならない。そのことによって、国民の共感の得られる政治を進めていかなければならない」と語った。
また別の質問でも、アベノミクスについて「成長の果実を、しっかり分配しないと社会の格差が広がってしまう」と指摘。「自民党が成長と分配と言うことに説得力がある。成長の果実がなくて分配、分配と言っても説得力がない。成長に努力してきた自民党が社会の状況を見て分配ということも言う。ここに皆さんに納得してもらう一つの考え方がある」と述べた。
一方、岸田氏は森友学園問題を巡る財務省の決裁文書改ざんに関し、7日に「再調査は考えていない」と表明した。森友問題で批判を浴びた安倍晋三前首相や麻生太郎副総理兼財務相への配慮ではないかとの質問が出ているが、この点について8日の会見では質問は出なかった。

●岸田氏、森友問題への態度一変「再調査考えてない」 安倍前首相に忖度… 9/8
自民党総裁選(17日告示、29日投開票)への立候補を正式表明している岸田文雄前政調会長(64)は7日、森友学園問題を巡る財務省の決裁文書改ざんについて「再調査は考えていない」と発言した。2日には同問題について「さらなる説明を」と述べていただけに、安倍晋三前首相(66)に配慮した変節とも取られかねない軌道修正となった。
いち早く総裁選出馬を明言し、党役員任期制限などの改革を打ち出すなど「男を上げた」との声が聞かれていた岸田氏が、森友発言を軌道修正した。
菅首相が電撃退陣を表明する前日の2日夜、岸田氏は森友学園問題を巡る財務省の決裁文書改ざんに関し、「調査が十分かどうかは国民が判断する話だ。国民は足りないと言っているわけだから、さらなる説明をしないといけない。国民が納得するまで努力することが大事だ」と述べ、十分な説明責任を果たせていないとの認識を示していた。
ところが、7日の記者団への説明では「既に行政において調査が行われ、報告書も出されている」と指摘。「再調査は考えていない」と必要性を否定した。その上で「裁判が行われており、さまざまな証拠が提出された上で判決が出される。それを踏まえて必要であれば国民に説明すると申し上げている。従来のスタンスと全く変わっていない」とした。
軌道修正の背景には、5日前からは一変した戦況がある。菅氏の不出馬を受けて出馬を模索する動きが相次ぐ中、安倍氏は高市早苗前総務相(60)を支援する意向を示した。昨年の総裁選でも、岸田氏は安倍氏の後継一番手に名前が挙がっていたが、前首相が菅氏の支援に回ったことで敗北。党内からは「安倍氏が総裁選で高市氏の支援に回ったのは、岸田氏の発言に怒ったからだ」(幹部)との声があがっている。
岸田氏は6日夜のインターネット番組でも森友問題について「再調査をするとか、そういうことを申し上げているものではない」とし、2日の発言を事実上修正。この日の発言の真意を問われ「(安倍氏への配慮は)全くない」と否定したが、永田町では議員票獲得をにらみ、森友問題で批判を浴びた安倍氏や麻生太郎副総理兼財務相への配慮ではないか、との見方が有力だ。
党役員任期制限の見直しなど執行部に対しても忖度(そんたく)なしの姿勢を見せ、若手や中堅から支持を広げていただけに、今回の軌道修正が求心力の低下につながるとの懸念も出ている。

●「怒鳴ってばかり」皮肉 岸田氏、聞く力「誰より自信」 9/11
自民党総裁選への河野太郎行政改革担当相の立候補表明を受け、先に名乗りを上げていた岸田文雄前政調会長(広島1区)は10日、自らの長所を「聞く力とチーム力だ」とし、「怒鳴ってばかりではチーム力を発揮できない」と述べた。週刊文春に「パワハラ常習」の見出しで官僚とのやりとりを報じられた河野氏を皮肉ったとみられる。
河野氏の記者会見後に国会内で報道陣の取材に応じ、高市早苗前総務相を含む3候補の中での自らの特長について語った。聞く力は「聞くことは信頼の原点。誰より優れていると自負している」と強調した。
主立った候補が出そろった感があり、陣営も士気が高まった。岸田派の寺田稔氏(広島5区)は「中間層の拡大を唱えた経済政策などで、他候補との違いを打ち出せている」と指摘。竹下派所属ながら、昨秋の総裁選に続いて岸田氏支持を決めた平口洋氏(広島2区)は「多様な意見に耳を傾ける政治信条は幅広く浸透するはずだ」と話した。
一方、当選3回以下の衆院議員90人がこの日、派閥横断グループ「党風一新の会」を結成し、中国地方選出では岸田派議員をはじめ石破派の山下貴司氏(岡山2区)たちも名を連ねた。総裁選の候補者や党幹部に「党改革を通じた政治改革」を求める緊急提言をまとめた。

●「それはね、民主党がパクったんです」 岸田氏 「新自由主義からの転換」 9/11
自民党総裁選(2021年9月17日告示、29日投開票)で最初に出馬会見を開いた岸田文雄衆院議員がJ-CASTニュースの取材に応じ、「力不足」で惨敗した20年の総裁選からの再チャレンジに向けた意気込みを語った。
岸田氏は、菅内閣が失速した背景を(1)納得感のある説明の欠如(2)危機管理に関する楽観的な見通し、の2つにあると分析。この2つをカバーする幅広い政策メニューを準備した。
1人10万円の特別定額給付金が再給付される可能性については、「現金はしっかり配りたいと思います」。給付の対象については今後詰める。すでに正式に立候補を表明している3人の中では、唯一「新自由主義からの転換」を掲げ、「令和版所得倍増」の一環として「中間層復活」もうたう。
かつての民主党は「分厚い中間層」を主張していたが、岸田氏によると、このフレーズは「民主党がパクッたんです」。自らが率いる宏池会(岸田派)が昭和30〜40年代に「一生懸命訴えていたワード」で、旧民主党のアピールを「我々宏池会としては複雑な思いで見ていた」と明かした。

―― 内閣支持率が最低を更新し続け、菅義偉首相は総裁選出馬断念に追い込まれました。その理由をどう分析していますか。菅政権は、どんな問題を抱えていたと考えますか。
岸田: まず、菅総理は、1年間本当に日夜頑張ってこられました。ワクチンの接種の加速などは菅総理のご功績だと思いますが、それでも支持率が下がっていました。理由として2つあると思います。1つは「納得感のある説明」。そして2つ目が、「危機管理に関する楽観的な見通し」です。前者について言えば、色々とひとつひとつの取り組みについて説明してこられましたが、やはり協力を国民の皆さんにいただくためにも「納得感ある説明」が必要です。「納得感ある説明」は、結果だけではなく、その必要性や決定に至るまでのプロセスを丁寧に説明することです。この背景をしっかり説明しないと、国民から見て「どうしてかな」と思ってしまいます。「納得感のある説明」は、課題としてあったと思います。後者について言えば、菅内閣の取り組みでは、努力はされましたが、やはり危機管理の要諦は、最悪の事態を想定することだと思います。相手はコロナなので、どんどん変異して、変わっていきます。「多分いけるかな」と思ってやってみた、というのでは、向こうが変異したら慌ててそれに取り掛かる、どうしても国民からすると後手後手に回っている...ということになってしまいます。やはり最悪の事態を想定して事に臨んで、相手が変わったとしてもある程度対応できるということにしなければなりません。ちょっと楽観的な見通し、「これでいけるだろう」というような見通し、これはちょっと課題としてあったのではないでしょうか。
―― 9月2日の記者会見で発表されたコロナ対策の政策では、「国民の協力を得る納得感ある説明」「『多分よくなるだろう』ではなく、『有事対応』として 常に最悪を想定した危機管理」の2つの原則を掲げています。
岸田: やはり直近の支持率の低下(の原因)はコロナが大きい。コロナにおいては2つ課題があったので、これはしっかり対応していかなければいけないと思っています。
―― 前回の総裁選は何が敗因だったとお考えですか。どこが「力不足」だったのでしょうか。8月26日の出馬会見では、国民の声を記したノートを示すなどしていました。どのような形で政策なりをバージョンアップしたのでしょうか。
岸田: 前回出たときは、安倍総理の急な退陣ということで、急遽選挙になりました。私が出馬表明してから投票日まで2週間ちょっとしかありませんでした。昨年を振り返ると、コロナ対策であったり、自民党改革であったり、具体的な政策もちろん打ち出しましたが、もっと心に響くような具体的な政策を打ち出す時間的な余裕もありませんでした。これは大変大きな違いだと思います。さらに去年の反省としては、やはりもっと強く「総理は自分しかない」という強い思いをしっかりと出していくことは大事だったと思っています。その点、今回は出馬表明から5週間あります。ご案内の通り出馬会見の後、まずコロナ対策、経済対策、来週は外交安全保障について(記者会見を)開くと思いますが、政策をしっかりと国民に向けて訴えることを大事にしていきます。さらに「総理は自分しかない」という思いも、1年間いろいろな方の声を聞いていて、多くの国民の皆さんが、このコロナとの戦いで気持ちや心が疲れていると感じています。こういったときには、どういうリーダーが求められるのか。疲れている国民に「頑張れ頑張れ、俺について来い」というようなリーダーがふさわしいのか。それとも、疲れている心に寄り添う、そして対話の中から協力を引き出していく、国民とともに努力する姿を見せる、こういったリーダーが求められるのか。やはり私は後者を目指すわけですが、「こういった時代はそういうリーダーが求められるんだ。だから自分の出番なんだ」、そういう思いを強く持っています。この2つについて、今回はしっかりと反省して具体的に取り組んでいるところです。
―― 今回の総裁選では大きく「コロナ対策」「経済政策」「外交・安全保障」の3つを政策の柱として打ち出しています。そのうちコロナ対策では、(1)医療難民ゼロ(2)ステイホーム可能な経済対策(3)電子的ワクチン接種証明の活用と検査の無料化・拡充(4)感染症有事対応の抜本的強化の4つを打ち出しています。特に重要だと思うのが、(2)に「人流抑制などの政府方針に納得感を持ってご協力いただくため」と打ち出していることです。新型コロナ対策では経済活動とのバランスが必要な一方で、今は人流抑制の側面が強く押し出されている、という指摘もあります。西村康稔経済再生担当相、政府分科会の尾身茂会長による体制をどうすべきだと思いますか。新内閣でも、お二人に引き続いて頑張っていただきたい、といったところですか。
岸田: お二人に...というか、私が総理になったとき誰が大臣をやっているか分かりません。政治と専門家の連携は大事です。
―― 総理になってみないと何とも...、といったところでしょうか。
岸田: 当然ですね。人事というのは戦いの中の大変重要な部位ですから、最初からそれを晒すような愚かなことはしません。
―― 経済対策についてうかがいます。9月6日の週刊ダイヤモンドのインタビューでは、30兆円超の補正予算を編成して新型コロナの経済対策にあてることを明らかにしています。関心事は、その用途だと思います。9月8日の記者会見でも若干話題になりましたが、1人10万円の特別定額給付金が再給付される可能性についてはいかがですか。
岸田: 一律に配ることは否定はしません。しかし、今、史上最高益の利益を上げている人と、ほとんど収益のない人と、みんな10万円配るということについて理解をいただけるかも含めて検討しています。ただ、現金はしっかり配りたいと思います。
―― 1回目の給付の時には、配る対象について一悶着ありました。
岸田: 当時は全国に緊急事態(宣言)が発令されました。コロナの影響がまだどうなるかわからない、という状況でもありました。今はあれから1年半経って、大IT企業や、巣ごもり需要で儲かってる人たちは史上最高益を上げている一方で、まだ観光や外食、宿泊は惨憺たる状況です。これだけの状況の中でどうやって配りますか、みんな一緒に配りますか、どうしますか?という話ですね。バリエーションはいろいろあると思います。困っている人にはしっかり現金を配らなければならないと思っています。今の政府は、そこにまで踏み込んでいません。
―― 9月8日の経済政策の会見で驚いたのが、「新自由主義からの転換」を掲げていたことです。「新自由主義」という言葉は、野党が政府の政策を批判する文脈で使われることが多いからです。例えば、立憲民主党の枝野幸男代表の著書「枝野ビジョン」(文春新書)には、Kindleで検索すると29回も「新自由主義」が登場します。記者会見では「令和時代の中間層復活」をうたっていますが、かつての民主党は「分厚い中間層」という表現を使っていました。
岸田: それはね、民主党がパクったんです。我々、宏池会が昭和30〜40年代、それを一生懸命言っていました。最近、民主党からそういう声が出てくるから、我々宏池会としては複雑な思いで見ておりました。ぜひ、歴史を見てください。昭和30〜40年代に、分厚い中間層、まさに池田内閣の所得倍増論...。我々宏池会が一生懸命訴えていたワードであります。
―― ある意味、オリジナルに回帰するということなのでしょうか。
岸田: ぜひ、歴史を振り返っていただきたいと思っております。
―― 記者会見でアベノミクスについて「評価する点はたくさんあった」とする一方で、「新自由主義からの転換」を掲げることは、これまでの自民党の政策を否定するともとれます。あえて踏み込んで打ち出した理由を教えてください。
岸田: よく見ていただきたいのは、成長と分配の両方が必要だと言っている点です。アベノミクスは成長の上で大きな意義がありました。しかし、その新自由主義のもとで何が起こったか。例えば子どもの貧困。この日本ですら7人のうち1人の子供が貧困で、子ども食堂というものが全国に展開していく、こういった状況になっています。そしてコロナが追い打ちをかけて、先ほど話した「史上最高益」と「どん底」は、ますます格差が広がってきました。それ(コロナ禍)が終わった後、また経済のエンジンを回す。従来と同じことをもう1回やったら、その格差をさらに広げてしまいます。国が分断すると、どういうことになるか。米国ですら分断されると、民主主義の象徴である議会に押しかけて破壊してしまう...、こんな状況になってしまいます。このまま分断をし続けたならば、我が国の一体感は維持できません。やはり格差が開いた後、経済を回すときは、アベノミクスの基本的な考え方を大事にしながら成長させ、それを分配する。分配するとはどういうことかと言うと、みんなの給料を上げることです。
―― では、今の新自由主義では何が起こっているのでしょうか。
岸田: 市場原理、その競争効率や利益重視の新自由主義の経済では、「株主資本主義」と言っていますが、結局経営者と株主が全部独占してしまいます。例えば米国のアメリカン航空は07年に破綻の危機に陥りましたが、従業員の給料を340億円カットしました。これで会社は立ち直り、経営陣は200億円を超えるボーナスを受け取りました。これが新自由主義です。こんなことをやっていたのでは、ますます利益は一部に集中してしまいます。やはり分配というのは、一部の人間の給料だけ上げるのではなく、みんなの給料をそれぞれ上げる。今はこういった新しい資本主義を考えないと...。アベノミクスでドンと成長させる。これは大事ですが、成長の果実を分配する仕組みも考えてあげないと、みんなの給料は上がりません。みんなの給料が上がるとどうなるか。昭和30年代後半、まさに我々宏池会が池田内閣の所得倍増論を唱えていた頃です。まだみんな貧しかったですが、格差はありませんでした。みんなの給与をできるだけ幅広く上げて何が起こったかと言えば、テレビをはじめ、三種の神器、電化製品、新三種の神器...、これがバンバン売れて、そして経済が回りだしたわけです。今回の令和時代においても、みんなの給料を幅広く上げるという経済政策で経済を回していかないと、格差がどんどん広がって、政治も不安定になります。経済の好循環もできません、ということになりかねません。成長の部分はもちろん大事ですが、成長だけでは駄目です。これが新自由主義からの転換という大きな意味だと思っています。
―― 新自由主義を批判する文脈では、企業の「内部留保」を取り崩すとか法人税を高くする、といった話が出てくることが多いです。今回のプランでも、そのようなことを念頭に置いていますか。
岸田: 株主が全部独占するんじゃなくて従業員にもそれを振り分けてくれ、ということです。それが企業における分配ですし、それから大企業と中小企業の関係も重要です。大企業が全部利益を独占してしまうのではなく、下請けいじめを防ぐいろいろな法律があります。その法律のもとに、大企業と中小企業がしっかり利益を分配して、給料を上げてもらうとか、いろいろな仕組みを通して新しい時代の経済を考えていかなければならないと思っています。
―― 安倍政権では、経済界に対して賃上げを働きかけたりもしていました。こういった取り組みは、引き続き重要だと思いますか。
岸田: そうですね。ただ、「頑張れ頑張れ」だけでは仕方がないので、「そうしないと経済が回りませんよ。そうしたら大企業も困るでしょう。だから経済回すために協力してもらえば、経済が回ってあなたたちも儲かります」、そういう説明をしないといけないでしょうね。
―― 外交について短くうかがいます。自衛隊のアフガニスタンでのオペレーションについて、どう評価しますか。自衛隊機で退避できたのは日本人1人にとどまり、今後の退避は民間機などの活用を模索する段階に入っています。
岸田: これは終わったわけではありませんから、何とかして守らなきゃいけない、救出しなきゃいけない。やはりタリバンの協力を得なければならないでしょうが、何らかの手段を考えなければならない、粘り強く交渉しなければならない、こういった課題です。
―― タリバンとの向き合い方は難しいところです。中国とタリバンは良好な関係をアピールしていますが、日本としては国家承認についてどう考えますか。
岸田: これは命がかかっていますから、承認する云々の話の前に何とか話をつけて、(アフガン国外に)出してもらわなければなりません。国家承認するかどうかは他の国との関係もありますから慎重に考えるにしても、まずは命を守るために話をしなければならないと思います。
―― まずは何らの対話のルートを作らないといけない、ということですね。
岸田: そうですね、やはりそうしないと...。見殺しにするわけにはいかないと思います。
―― 今回の総裁選は「フルスペック」なので、一般の党員にもアピールしていく必要があります。SNSを含め、広くアピールするために、どのように工夫をしていますか。去年の総裁選では、自宅で妻の裕子さんによる手料理を食べている写真がツイッターで「炎上」しました。何か気をつけていることはありますか。
岸田: 今回は政策を発信する時間的な余裕がありますから、政策中心に発信をしています。まずこれが基本、王道だと思いますので、ぜひそこは力を入れていきたいと思います。プライベートの話は、これも関心がある方もおられますので、少しずつ発信しますが、何と言っても政策だと思っています。
―― 最後に、9月8日に高市早苗衆院議員が開いた出馬会見に関連して、2つほどお願いします。1つが、森友学園の再調査問題です。先ほど(9月9日午後)の「バイキングMORE」(フジテレビ)でも指摘されていたように、なかなか国民の皆さんには理解を得られていない印象です。「すでに行われた調査の結果の中で説明するのは大事だが、再調査はしない」という理解をすればいいですか。
岸田: 調査は十分行われ、報告書が出されていると思います。あと裁判をしていますから、裁判の行方も見守らなければならない(編注:自殺した財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さんの妻・雅子さんは、真相解明のために国などを相手取って損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こしている)。それでこれから判決が出る、その上で国民の皆さんから納得したかどうかという、いろんな意見が出てくる、必要であれば充分説明させていただく...、これはずっと言ってるわけです。私は調査の話ではなくて、「説明します」ということを申し上げているので、最初から私は「説明します」以外のことは言っておりません。だから、勝手にいろいろな臆測をしたのかもしれませんが、私の言葉を点検していただければ、「説明します。国民の皆さんが納得されることは大事ですね。丁寧な説明を続けます」。それをずっと言い続けていると私は思っていますので、周りの反応は、どうも理解できません。
―― 発言が意図しない形で受け止められている、ということでしょうか。
岸田: よく分かりません。どういうことか分かりません。「説明します」ということを、ずっと言い続けています。
―― 裁判の話が出ました。判決が確定したら...。
岸田: それもやっぱり大事ですよね。日本の国で、強制捜査権を持ってるのは司法だけですから、それを(もとにした)しっかりとした判断が下される、それは大事なポイントになると思います。
―― 判決が確定しても(原告から)納得しないという声があった場合、再調査の可能性はありますか。
岸田: 「説明をします」と言っています。それだけです。
―― 高市氏の記者会見では、東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出についても話題になりました。高市氏は「さらに日本全体に風評被害を広げてしまう、その可能性があるので、そのリスクがある限り私であれば放出の決断を致しません」と話しました。政府は2023年春に海洋放出を計画していますが、どのように対応しますか。
岸田: 放出しないで済むなら、それもあるのかもしれませんが、今はもう(貯水タンクは)いっぱいいっぱいです。放出しなかったらどうするのか。私はちょっとそれは理解できないので...。これは放出することによって風評被害が出ることが問題になるわけですから。科学的には、普通の原発と比べても、そういった濃度は高くない。それはしっかり説明し、なおかつ風評被害が出てくる可能性があれば、やはり国として国際社会や、あるいは地元に対して説明を繰り返すと同時に風評被害が起こらないような様々な手続きをしていかなければならない。私はそういうことであると思っています。

●岸田文雄・前政調会長「森友問題、必要であれば国民に説明する」 9/15
総裁選にまっ先に手を挙げた岸田文雄前政調会長が、本誌の直撃取材に激白。目指す国家像とは。安倍・菅政権の“負の遺産”をどう清算するのか。

──菅首相が総裁選不出馬を表明する前から立候補を表明していましたが、「菅政権ではダメだ」と考えていたのですか。
新型コロナウイルス対策という難しい問題に、菅首相は1年間頑張ってこられました。ワクチン接種もその一つです。ただ、課題が二つありました。一つは、コロナ対策では、なんとしても国民の協力を得なければならない。そのために、ていねいな説明による国民の「納得感」が必須です。「政府で検討した結果、こうします」ではなく、決定に至るプロセスも説明する。国民に寄り添う姿勢が必要でした。もう一つは、「たぶん、これでいけるだろう」という見込みで危機管理をしていたことは、いかがなものだったかなと。危機管理の要諦(ようてい)は、最悪の事態を想定すること。国民から「後手後手に回っている」という印象を持たれないよう、最悪の事態を想定して物事を進めていく。そして信頼感を得られるように努力することが大切だと思います。
──菅首相は、それができなかったと。
出馬表明の時も、私は国民の声をしっかり聞くことを申し上げました。そこは、私の思いを見てもらって、「みんなで考えましょう」ということです。
──経済政策で「新自由主義的政策からの転換」を公約に掲げています。
これまでの新自由主義的な政策、あるいは効率・利益優先の市場原理による経済によって、日本では格差が拡大しました。そこにコロナが追い打ちをかけた。感染症対策の医療態勢は脆弱(ぜいじゃく)で、非正規雇用の方が仕事を失った。規制改革・構造改革だけでは人は幸せになれないことが、あらためてわかりました。経済成長は大事ですが、その果実が広く国民に分配されなければ格差は広がるばかりです。富裕層が豊かになれば、やがて貧しい人にも富がこぼれ落ちるという「トリクルダウン」は、この20年間で起きませんでした。
──菅首相が掲げていた「自助・共助・公助、そして絆」のスローガンから転換すると。
自助は大切ですが、コロナ禍では多くの人が仲間や家族、地域の絆の大切さを感じたと思います。人間のつながりを大切にし、多様性を尊重し、温かみを感じられる社会を目指したい。また、富の分配によって国民の一体感を取り戻し、社会や政治の安定をもたらすこともできます。
──今、日本にはどんな政策が必要ですか。
まずはコロナで打撃を受けた方々への経済的な支援です。数十兆円規模の予算を組んで、コロナで被害を受けた業界、あるいは非正規雇用で失業した方などへの経済支援が中心となります。
──財政出動の規模は?
現在、日本の需給ギャップ(日本経済の潜在的な供給力と需要の差)は20兆〜30兆円程度だと言われています。まずは、そのあたりの金額で財政出動をするイメージですね。
──政府は、2025年度に国と地方のプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化する目標を掲げています。
財政は国の信用の礎ですから、「財政再建」の旗は降ろしません。しかし、原則は「経済あっての財政」です。まずは経済再生、そのうえで財政を考える。これが順番です。その過程で、25年度の財政はどういう状況になるのか。これは、経済再生をスタートしながら考えるべき課題です。
──国際政治で影響力を高めている中国とどのような外交をしますか。
今、国際政治では中国をはじめとする権威主義的勢力の動きが活発になっています。中国と日本は隣国ですので対話は続けますが、基本的人権、民主主義、法の支配といった価値については、言うべきことはしっかりと言わなければなりません。特に、東シナ海や南シナ海における中国の力による現状変更が続いています。それを防ぐために米国、欧州、インドやオーストラリアといった国々と連携しながら中国に対応していく必要があります。
──安倍・菅政権では情報公開に後ろ向きだったことが問題になりました。森友問題の再調査はしますか?
森友問題については、財務省に対して行政の中で調査が行われ、報告書が作られました。司法においては強制捜査権を持つ組織が捜査し、現在も裁判で審理が続いています。そのうえで、必要であれば政治家が国民にていねいな説明をすることが大事だと思います。
──19年参院選広島選挙区での選挙買収事件では、自民党から1億5千万円が支出されています。
党から支出した現金が選挙買収に使われていたのなら、自民党として大変な問題です。党には政党助成金という公金が入っているわけですから。「党のお金は選挙買収に使われていない」ということを明らかにしなければなりません。ただ、党の資料は検察に没収されていて、最近になってようやく戻って来ました。これをしっかりと弁護士や公認会計士にチェックしてもらって、最終的には総務省に選挙資金の収支報告書として提出しなければなりません。それは国民のみなさんにも公開されるので、急いで実施しなければなりません。
──再調査をするということですか。
再調査というよりも、先に選挙の収支報告をしなければいけないので、その報告書を出すということです。その時点で、報告書が公開されることになりますから。
──総裁選がまもなく本格化します。現在の手応えは?
相手もまだ決まっていませんから(笑)。ただ出馬表明してから約2週間が経って、菅首相が不出馬を表明するなど大きな変化がありました。緊張感をもってしっかりと対応していきたいです。

●岸田文雄氏、目指すは「脱つまらない男」ネクタイは赤から鮮やか青に… 9/18
菅義偉首相の後継を決める自民党総裁選に立候補した河野太郎行政改革担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行の4氏は17日、党本部で所見発表演説会に臨み、共同記者会見も行った。経済政策や党改革などを焦点に論戦が本格化。新たなかじ取り役は誰に託されるのか―。(坂口 愛澄、瀬戸 花音)
前回の総裁選挑戦では、勝ち抜く確信を持てずにいたという岸田氏だが、今回は自信がみなぎっていた。麻生派の甘利明税調会長ら議員約60人が見守る中、議員会館内で出陣式を行い「強い確信を持って、ここに立っています。求められるリーダーに私はなれると思って総裁選に立候補しました」と決意表明した。昨年は、ファンであるカープカラーの赤のネクタイを締めていたが、今年は鮮やかな青のネクタイに一新した。
演説会では、党改革として、中堅や若手を積極的に登用していくことや、総裁を除いた党役員の任期を1期1年、連続3期までにすると約束。昨年の総裁選に敗れ「岸田の話はつまらない、もう終わりだ」という声があったと明かし、地元・広島などを中心に人々の声をメモしてきた手帳を手に「原点に戻り、多くの声を聞いてきた」と振り返った。
党に新しい風を吹かせるべく「自民党に声が届かないと国民が感じている。謙虚な政治、寛容な政治が求められている」と強調したキッシー。真面目すぎるイメージから脱却を図り、リベンジを狙う。

●「つまらない男」でもリーダーに 岸田文雄前政調会長 自民党総裁選 9/20
「岸田の話はつまらない」。昨年の自民党総裁選で敗北を喫した後、こんな声が投げ掛けられたという。「しかし、私の特長は聞く力。今の時代に求められているリーダーは私だ」。岸田文雄前政調会長は総裁選が告示された17日、衆院議員会館で開いた選対本部の出陣式でこう訴えた。
安倍晋三前首相の下で、外相や政調会長といった要職を担い、「ポスト安倍」の最右翼とみられていた。ただ、安倍氏からの後継指名は得られず、党内7派閥のうち五つが支援に回った菅義偉首相に大差で敗れた。
今回の総裁選では、新型コロナウイルスの感染収束が見通せない中とあって、岸田派名誉会長を務めた古賀誠元幹事長を含め、岸田氏の出馬には難色を示す向きもあった。しかし、「今回こそ首相になる」との決意を胸に出馬に踏み切った。
真っ先に打ち出した「自民党の信頼回復」の目玉は、党役員の1期1年連続3期までの任期制限。在任期間が長期にわたる二階俊博幹事長を念頭に「権力の集中と惰性を防ぐ」と力強く宣言。これが、菅首相の退陣に至る一連の政局につながった。
温和な人柄のイメージが強い岸田氏だが、周辺からは「目の色が変わった」「戦う姿勢が前面に出るようになった」との声が漏れる。
出馬表明以来、新型コロナ対策、経済政策、外交・安全保障とテーマごとに記者会見に臨んでいる。「小出し」との批判もあるが、今後も地道に政策を訴え続ける考えだ。
今やトレードマークとなった「岸田ノート」には、全国各地で直接聞いた有権者の声が書きためてあるという。17日の演説会では広島弁も交えて自らの「聞く力」をアピール。「丁寧で寛容な政治」を体現するリーダーを目指す。 

●「原点を突き詰める1年だった」 岸田文雄氏支える家族の思い 9/20
自民党総裁選は、候補者4人が激しい論戦を交わす中、投開票日まで10日を切りました。去年の総裁選敗北から1年。岸田文雄前政調会長の家族もまた、特別な思いで、総裁選に臨んでいます。
金田記者「東京・赤坂の衆議院議員宿舎です。妻裕子さんから見た岸田前政調会長に迫ります」
総裁選告示日の翌日の先週土曜日。岸田さんの妻、裕子さんに話を聞きました。そこには厳しい総裁選を戦う上での内助の功がありました。
妻・岸田裕子さん「夜も帰ってくるのが遅いので、(食事も)次の日にもたれないようなそういうところを考えて作ったり。ゆっくり次の日に向けてやっぱり活力を養えるようにと思ってそういう過ごしやすい時間を作ってあげてられたらいいなと思ってますし、あとは党員のみなさんにお願いのお電話をしたりですとか、そういうことをしてます」「もしもし。私衆議院の岸田文雄の家内でございます」
妻の裕子さん自ら1日に30件ほど党員へ支援の電話をかけ、夫の選挙戦をサポートしています。特に告示後の序盤が勝負だといいます。
妻・岸田裕子さん「今ちょうど、投票用紙が送られて、この2、3日がすごく大事ということで、主人の人間性だとか信頼できるところ誠実なところだとかは、だんだんみなさまに伝わってきているんじゃないかと思ってますけれど。そういうところをしっかりみなさんにお願いしたいと思います」
去年9月の総裁選で敗れてから1年。夫の変化を裕子さんは感じ取っていました。
妻・岸田裕子さん「やはりこの1年間いろいろあって、主人も心の中でいろいろ考えたりすることもあったんだと思います。あまり何か家でも言葉数が少なかったかなと、今振り返ってみると思うんですけど、やっぱりそれだけいろいろ深いところで考えることがあったんだろうと思います。本当にこれまでの25年以上歩んできた政治の道の集大成のようなものだと思いますし、このまま強い気持ちを持って最後までがんばって欲しいと思って、私も一生懸命応援したいと思う」
岸田文雄前政調会長「強い確信を持ってこの場に立たせていただいています。いまの時代が求めているリーダーは私だという強い確信です」
先週金曜日、東京で開かれた岸田陣営の出陣式をオンラインでつなぎ、広島でも応援の会が開かれました。会には、岸田氏の長男で秘書の翔太郎氏も参加し、支援を呼びかけました。
長男・岸田翔太郎さん「私はこの1年間、父のかばん持ちとしていろんな所に行き、多くの声を聞いてきました。そうした声を父はひとつひとつあの岸田ノートにしたためてきました。ぜひみなさまの厚いご支援をいただければと思います。ぜひよろしくお願いいたします。ありがとうございました」
秘書として岸田氏とともに各地を1年間に渡り視察する中で、父親の変化を感じたといいます。
長男・岸田翔太郎さん「今まで大変重要な役に父が付いていて、去年の総裁選を機にですね、役が解かれて、政治家の原点に帰ってより多くの声を聞くんだというところで、私も一緒にかばん持ちとして同行させてもらいながら、本当にその政治家としての原点を突き詰めてきた1年間だったなというところが大きな変化だったのかなと思います。去年負けた分しっかり今年は、勝ちきるんだという思いが非常に本人自身も強いんじゃないかなと思ってますんで、その思いに私自身も応えられるよう精一杯頑張りたいなと思っています」
広島から戦後3人目の自民党総裁誕生なるか。自民党総裁選の投開票は今月29日です。

●自民党総裁選 岸田文雄氏「私が勝たねば日本はどこに行くか」  9/22
自民党総裁選(29日投開票)に立候補した岸田文雄前政調会長は22日、自身が率いる岸田派(宏池会)会合で「エネルギーや年金、外交・安全保障の論争を通じ、改めて私が勝たなければ党や日本がどちらに行ってしまうのか強い危機感を感じている」と述べた。温厚な人柄で知られるが、闘志をむき出しにした形だ。
総裁選で年金改革や核燃料サイクルの見直しを打ち出した河野太郎ワクチン担当相が念頭にあるとみられる。岸田氏は「総裁選は混とんとしている。最後の最後まで勝敗が見えない苦しい選挙だが、何としても勝たなければならない」と強調。出席した岸田派議員からは「そうだ」というかけ声や拍手が上がった。

●「戦う政治家」に豹変した岸田文雄、妻が語る夫の覚悟 家族で“焼肉集会” 9/22
総裁候補の一人である岸田文雄・前政調会長(64)。 目下、岸田派の領袖を務め、安倍、麻生両氏との関係も良好。議員票を手堅く集めそうで、党員票でリードとされる河野大臣への“対抗”と見られている。
祖父、父も代議士を務めた3代目。“育ち”は良い。
「決して人の悪口は言わない。市議会議員に対しても、“先生”付けで呼ぶなど、人柄は抜群」(地元関係者)との指摘がある一方で、逆に「戦わない男」「つまらない男」と揶揄され続けてきたのも事実だ。
「安倍前総理からの“禅譲”を狙い、安倍政権下では総裁選出馬を避けてきた。完全オフレコの懇談でも“ノーコメント”を連発するので、面白みがない。このまま“良い人”で終わるのでは、と見られていたこともあった」(政治部記者)
ところが、だ。
昨年、安倍氏の辞任に伴う総裁選に初出馬。敗れはしたものの、1年後の今総裁選にもいち早く出馬を表明し、党内でタブーとされていた「二階幹事長交代」にも言及。「戦う政治家」への脱皮を見せたのである。
何があったのか。「私の目から見ると、特に変わったところはないように見えます。ただ、主人の中では“絶対に勝たなくてはいけない”と強い覚悟があるような気がしますね」と述べるのは、岸田氏の妻・裕子さん(57)である。
「昨年の総裁選は、立候補の時点で、支援するのは岸田派だけという戦いでしたが、今回は最後までどうなるかわからない。そんな中ですから、毎日緊張感を持って過ごしていますね」
本人というより、周囲の状況がそうさせた、ということか。
普段の岸田家は、夫と長男、次男が東京の議員宿舎住まい。夫人は地元・広島にいることが多いという。しかし、夫人は9月に入ってしばらくは東京に滞在していた。
「普段、身の回りのことは男三人でやっていますが、総裁選があるので、大変だろうと。私も上京して掃除、洗濯、食事の用意をサポートしていました」
夫人が広島に帰る前日、10日の夜は、一家で焼肉を囲んだそうだ。
「主人は一切れが割と大きめのお肉を5切れほど食べていましたね。普段はあまり食べないんですが、軽く白ご飯も。よく飲むお酒も、総裁選を控えているので、体調を整える意味でビール1杯くらいに減らしていますね」
この日は、ライバル・河野大臣が出馬会見を開いた日。岸田家にとっては、ささやかな決起集会となったということだろうか。
「岸田さんは政策を続けざまに発表する一方で、インスタグラムでのライブも展開。親しみやすさをアピールしようとしています」とは、前出・政治部記者。
「ただ、視聴者からプライベートなことも含めて質問が来るのですが、その答えは素っ気ない。この点では“改革”はまだまだですね」
もっとも、そうした真面目さ、実直さをアピールした方が、河野大臣との差異を打ち出せる、との声も。

●地方幹事長16人が岸田氏支持 総裁選、追う河野、高市氏 9/23
共同通信社は23日、自民党総裁選の支持動向を党都道府県連の幹事長47人に尋ねたアンケートをまとめた。16人が岸田文雄前政調会長を支持すると回答。5人が河野太郎行政改革担当相、3人が高市早苗前総務相を支持した。野田聖子幹事長代行を推した人はおらず、未定または無回答だったのが23人となった。
総裁選は国会議員票382と同数の地方票も大きな影響力を持つ。県連幹事長の回答は個人的見解のため、地方票の結果に直結するわけではないが、地方組織で支持候補が割れる状況がうかがえた。
岸田氏支持は地元広島のほか埼玉、香川、福岡など。河野氏支持は地元神奈川や鳥取など。

●岸田氏「news23」で白熱議論「国民の皆さんにどう説明するかということ」 9/23
自民党の総裁選に立候補した河野太郎氏、岸田文雄氏、高市早苗氏、野田聖子氏が22日、TBS系「news23」(月〜木曜・午後11時、金曜・午後11時半)に出演した。
その中で新型コロナウイルスの行動制限緩和の時期に関して4人に質問をした。質問の前に小川彩佳キャスターから「もちろん、今後の感染状況次第という面があるのだとは思いますが、一方で目標があれば頑張れるという側面もあるのだと思います。こうしたことを示していくのもリーダーシップだと思いますのでぜひここはお答えいただきたく思います」とした上で「飲食店でのお酒の提供の解禁など制限の緩和はいつごろを目指しますか」と質問した。答えは三択でAが「11月ごろ」。Bが「年末年始」。Cが「来年春の卒業式・入学式ごろ」で、それぞれAからCの札を上げて回答することを求めた。
これに4人の中で唯一、河野氏は札をあげず「私はこういう無責任な質問はよくないと思います。特にメディアが」と指摘した。
その理由を「前提も分からない中で何がいつごろできるんですか?ということを申し上げるのは何か淡い期待のようなもの。で、それができなかったらどうする。どういう状況になるのかも分からない。変異がどういうふうになるか分からない中で、やっぱり科学的なデータをきちんと集めて、お示しをして、それを政府としてどう解釈するのか。だから、こういう政策に協力をして欲しいと申し上げるのが筋だと思うんです」と述べた。
続けて「そういう前提のデータも何もなくて、じゃあどうしますか?というのは…。それは簡単ですよね、こうしたいです、ああしたいです、と。それが責任のある政治だとは私にはとても思いませんし、責任のあるメディアがこういう報道の仕方をするのは、私は少しおかしいのではないか?やっぱり、みんなで科学的データをきちんとそろえてそれをどういうふうに解釈するのかというところが議論するのだったらそれを議論すればいい。その上でじゃあ今、こういうことをやるべきかどうかを議論するんだったら、それを議論して、こういう政策をやろう、それにぜひ協力をしてくださいと申し上げるのが筋だと思いますが、そういう科学的な根拠となるデータもなしに、さぁどうしますか?というようなことを日本のマスメディアがまだ、このコロナ禍でやっているのは私はちょっとメディアにも反省していただけなければいかんと思います」と繰り返し指摘していた。
この発言に野田氏は「ただ目標を作んないといけないんじゃないですか?行動制限。自分はここで行動制限を緩めていく。だから、こういうことをしていく。科学的知見を積み重ねていくことを言わなければいけないんじゃないですか?」と疑問を投げかけた。
これに河野氏は「こういう状況になったら、こういうことができるよね、という議論はできると思う」と述べると、野田氏は「ある程度のメド、なるべく早く、特に若い人たち、子どもたちには行動制限はとてつもなく精神的に厳しいものがあるんですよ。また。アーティスト、イベントもできない。そういうことをもう少し人ごとのように言うんではなくて、そのなりわいのことを考えながら、もう少し積極的に。メディアが悪いとかいうことは私は、政治家としてどうかと思う」と指摘していた。
この議論に「C」を上げた岸田氏は「さっきの議論については、要は見通しを持ちたいという国民のみなさんに対してどう説明するかということなんだと思います。具体的にどういう努力をして目標を作っていくのか。それとも目標を掲げてそのために何をしなければいけないか、その説明の手法だと思います。どっちがいいかは国民のみなさんが判断されるんだと思います」と述べた。

●安倍元総理の“本命”は岸田文雄氏? 参謀に元安倍側近の今井尚哉氏か 9/24
話題先行で足並みの揃わない河野太郎氏、保守票に留まらず世論の支持を集める高市早苗氏。各陣営の情勢が明らかになるにつれ、漁夫の利ながら、総裁の椅子に近づいているのが岸田文雄氏である。
そんな岸田氏を陰で支えているとされるのが、
「第2次安倍政権で政務担当秘書官を務めた、今井尚哉内閣官房参与です。経産省出身の今井氏は、安倍前総理の最側近として数多くの政策を主導してきました。しかし、菅総理は官房長官時代から、自分を通さず頭越しで話を進める今井氏を快く思っていなかった。そのため、菅氏の総理就任からまもなく、今井氏をはじめとする経産省出身の官邸官僚は政権中枢から放逐されたのです」(政治部記者)
その後、コロナ対策の失敗などに批判が集まり、世論が“反菅”に傾くなか、「菅総理は、今井氏が岸田陣営に出入りしているとの情報を知った。そして、表向きは“菅さんを支える”と言い続ける安倍氏が、自分を見切って岸田支持に動いたのではないかと疑念を募らせていきました」
結局、菅総理は安倍氏への不信感を払拭できないまま、退陣へと追い込まれる。
他方、今井氏が岸田陣営に深く喰い込んでいると語るのは、先のデスクである。「というのも、岸田氏の選挙戦術が、安倍氏の総理時代と似通っているからです。たとえば、岸田氏は出馬表明会見で自民党が下野して以来、書き留め続けてきたという“岸田ノート”を披露しました。安倍氏も、持病の悪化によって第1次政権を中途で投げ出してからの雌伏の5年間、反省点や次なる戦略について“安倍ノート”に綴っていた。常に政権構想を練り続けていたことをノートに象徴させる“演出”は、いかにも策士の今井氏らしい」
他にも、今井氏の影響は見受けられ、「岸田さんは8月26日にノートを掲げて出馬表明演説に臨みました。その後、9月2日にコロナ対策をテーマに会見を開き、医療難民ゼロを目指す方針や、数十兆円規模の経済対策をアピール。続けて8日に経済政策として“令和版所得倍増計画”を提唱し、13日には外交・安保について持論を展開した。耳目を引く政策を断続的に打ち出す手法は、安倍政権の“一億総活躍社会”や“アベノミクス三本の矢”などを彷彿させます」(同)
自らの参謀を当選請負人として差し向けたのなら、やはり安倍氏の“本命”は岸田氏ということになろう。
岸田氏本人はいまも安倍氏に秋波を送り続け、周辺には「(モリカケ問題を)“再調査されたら困るから頑張ってね”と言ってほしいよ」と本音をこぼしている。
勝利へのカギは水面下で安倍・岸田両氏をつなぐ“軍師”の存在にあった。

●「片や酒が強く、片や飲めない」茂木外相が岸田氏、河野氏の一面を披露 9/24
ロシアのラブロフ外相は23日の茂木敏充外相との会談で、自民党総裁選で争う岸田文雄前政調会長と河野太郎行政改革担当相の2人にエールを送った。共に外相経験者で、2004年から外相に在任するラブロフ氏とは旧知の間柄だ。
ラブロフ氏は会談冒頭のあいさつで「日本では自民党の新しい代表が選ばれると承知している」と言及。岸田、河野両氏は「私の昔の同僚」だとして「ぜひ私からよろしくお伝えください」と茂木氏に依頼した。
茂木氏は、ラブロフ氏が酒豪として知られることから「片や(岸田氏は)酒が非常に強くて、片や(河野氏は)全く飲めない」と対照的な一面に触れ、笑いを誘った。

●岸田氏、新自由主義転換路線を強調「規制改革を現場目線で検証」 9/24
自民党総裁選(29日投開票)に出馬している岸田文雄前政調会長は24日、福島県内のJA関係者と国会内で会談し、「(農家の)現場のためにならないことが真の改革といえるのかと問題意識を持ってきた。規制改革を現場目線で検証する」と述べ、政府の規制改革会議の改組などに意欲を示した。総裁選で掲げる「新自由主義」からの転換路線を印象付ける狙いだ。
また、米国が東京電力福島第1原子力発電所事故後に導入した日本産食品の輸入規制を撤廃したことをめぐり、「歓迎すべきだが、まだまだ科学的見地に基づかないさまざまな規制をしている国がある」と述べ、今後も風評被害対策はゆるめない考えを強調した。
新型コロナウイルス禍による外食需要の減少で米価の下落が懸念されていることを踏まえ、「販売環境の改善に向けあらゆる手立てを講じる」とも語った。
 

 

●高市早苗 日本経済強靭化計画で経済建て直す 自民総裁選演説会 9/17
菅義偉総裁に敬意を表し、感謝申し上げる
皆さまこんにちは。高市早苗でございます。冒頭に、感染症や重病、また相次ぐ災害、事故や事件によって大切なご家族を亡くされた皆さまの深いお悲しみに思いを致し、心よりお悔やみ申し上げます。コロナ禍にあって、医療提供や、この社会経済活動の維持のために日々懸命に働き続けてくださっている多くの皆さま方のご貢献に対して、深く感謝を申し上げます。現在、闘病中の皆さまの1日も早いご回復をお祈り申し上げます。また、本日は台風14号の接近により、非常に危険な状態が予想される地域がございます。どうか備えと注意を十分にしていただけますようにお願いを申し上げます。
これまで菅義偉総裁が命と暮らしを守り抜くという強い決意を持って、私たちの先頭に立って懸命に働き続けてこられた日々を思い、あらためて敬意を表し、感謝を申し上げます。
今年の衆議院選挙に勝利することによって、自由民主党総裁は日本の国家経営を担うことになります。このような重要なステージに私を立たせてくださいました同僚議員の皆さま、誠にありがとうございます。そして、平素より自民党の政策構築をはじめとする諸活動に大変なご指導を賜っております全国の党員・党友の皆さま、そして国民の皆さまに心より感謝を申し上げます。
危機管理投資と法制度整備に最重点で取り組む
私は日本を守る責任と未来を開く覚悟を胸に、この自民党総裁選挙への立候補を決意いたしました。私は国の究極の使命は、国民の皆さまの生命と財産を守り抜くこと。領土・領海・領空、資源を守り抜くこと。そして、国家の主権と名誉を守り抜くことだと考えております。この使命を果たすために私の全てを懸けて働くことをお誓い申し上げます。
ちょうど本日9月17日は、19年前に日朝首脳会談が行われ、初めて北朝鮮が日本人の拉致を認めた日でもあります。大切な日本国民を取り戻すために、これからも自由民主党一体となって力を合わせて懸命に取り組んでまいりましょう。
まずは現下の困難を乗り切らなくてはなりません。新型コロナウイルス感染症につきましては、特に治療薬の早期投与による重症者と死亡者の数の極小化、そして、自宅療養されている方の数を減らしていくこと。可能な限り減らしていくこと。そして、国産ワクチン、国産治療薬の早期開発と生産設備への投資。また、飲食・観光関連のみならず、サプライチェーン全体に及ぶ、多くの事業者の皆さまの経営基盤を維持して、雇用を守るための大胆な財政支援、これらの取り組みを重点的に行ってまいります。
アメリカの会計年度というのは、ちょうど昨年の10月から今年の9月までという年度でございますが、アメリカでは2021年度において、コロナ危機対策として、約693兆円もの巨額の財政出動を行っています。それでも政府の税収は約395兆円増大をしています。私はコロナの終息後も見据えた日本経済の建て直しに向けて、急いで対策を講じます。経済対策につきましては後ほどまたご説明を申し上げます。
私は日本を守るために、自然災害、感染症や重病、また食料安全保障、テロや凶悪犯罪、サイバー攻撃、また、経済安全保障や国防に係る脅威など、さまざまなリスクの最小化に向けた危機管理投資と法制度整備に最重点で取り組んでまいります。経済安全保障と国防力の強化についても申し上げます。機微技術、先端技術、そして重要物資、また、個人情報の流出を防ぐために、経済安全保障包括法を制定し、秘密特許や、また一定の外国人研究者のスクリーニングを可能とする法整備を行うことを検討いたします。
中国海警法に対応できるよう、海上保安庁法改正に取り組む
今年2月に施行された中国海警法に対応できるように、海上保安庁法の改正に取り組みます。また、新たな戦争の形に対応できる国防体制を構築いたします。このゲームチェンジャーは衛星、サイバー、電磁波、無人機、極超音速兵器だと考えております。敵基地の無力化、なかなか困難な取り組みではありますが、これを可能とするための法制度整備。また、訓練と装備の充実、また、防衛関連予算の増額を行ってまいります。また、海底ケーブル、衛星の防御、しっかりと行ってまいります。
私は未来を開くために、雇用と所得の増大につながる大胆な成長投資、また分厚い中間層の再構築に資する税制、人材力の強化、全世代の安心感創出に資する諸政策を力強く実行してまいります。特に、税制では、育児や介護をしながら働いておられる方、非常に多うございます。ベビーシッターや家政士の国家資格化、これを前提にして、税額控除を行える仕組みを構築したいと存じます。また、麻生内閣で検討されていた、給付付き税額控除、また、災害損失控除、こういったものの導入を目指しております。
コロナ禍にあって、昨年中には就業者の約3分の1がテレワークを経験し、また、東京23区内では20代の若い方々の約35%が地方移住への関心を高められました。本社の地方移転を検討しておられる企業も増えてまいりました。また、地方にキャンパスを探しておられる大学もあります。地方としては、この移転を希望してくださる人材や大学や企業を受け入れる環境をしっかりと整えていかなければなりません。
物価安定目標2%の達成目指す
日本全国どこに住んでいても安全に生活することができ、必要な福祉や医療を受けることができ、質の高い教育を受けることができ、そして働く場所がある。こんな地方を増やしていくことによって緊急時のリスク分散にもなりますし、何よりも豊かな地方経済への道を開いていきたいと考えております。
私は有事の経済政策として「日本経済強靭化計画」を掲げ経済を建て直します。第1に金融緩和でございます。第2に緊急時の機動的な財政出動。第3に大胆な危機管理投資および成長投資でございます。この3つの政策を総動員して、まずは物価安定目標2%の達成を目指します。
日本経済が軌道に乗るまでには、時限的にいわゆるプライマリーバランスを凍結させていただき、戦略的な財政出動を優先いたします。プライマリーバランスが赤字であっても、名目金利を上回る名目成長率を達成したら財政は改善します。超低金利の今がまさに大胆な取り組みを行うチャンスのときでもございます。
危機管理投資、そして成長投資の恩恵というのは、将来の納税者にも及ぶものでございます。そして強い経済というのは、全世代型の社会保障をしっかりと維持すること。また科学技術力や外交力の強化、さらには豊かな教育の実現にも資するものでございます。
私の政策の中で特に大きな財政出動を伴う政策というのが、3番目の大胆な危機管理投資、成長投資でございます。産学官の力を結集して、急いで着手するべき危機管理投資の例を幾つか挙げさせてください。
自然災害が激甚化しています。水害、土砂災害、そして耐震化対策の促進。また送電網、通信網の強靭化。それからこれからどんどん厳しくなっていくであろう気候に耐えうる新たな土木・建築技術の開発、これを急いでまいります。また、気候変動の中、農業の環境も変わってまいります。この新たな環境にしっかりと耐えうる食料安全保障体制の構築。そしてまた新技術を大いに活用した農林水産業の展開も急いでまいります。
今、海外の送信元から日本に向けたサイバー攻撃の数でございますけれども、私たちの4年前の衆議院選挙のころにはだいたい1日当たり平均して3億9000万回でございました。ところが昨年の1月1日から12月31日までのパケット数を365で割ってみますと、直近の数字ではなんと1日約13億6600万回、これが海外から日本への攻撃です。私は国民の皆さまの大切な命や財産を守るために、特に医療、航空、鉄道、また電力、ガス、水道、また金融、クレジット、こういったさまざまな分野についてサイバー防御体制の樹立を急いでまいります。
量子暗号通信技術の研究開発と社会実装も急ぐ
また、情報を安全にやりとりする量子暗号通信技術の研究開発と社会実装も急ぎます。そして高度セキュリティー人材、何よりも必要でございます。この人材育成についても懸命に取り組んでまいります。また、デジタル化の進展によりまして、消費電力が増えていく。特に2030年に約30倍になる可能性があるという予測が出されております。こうなりますと省電力化研究の促進と、それから電力の安定供給体制の確立というものが非常に重要です。早急に着手をしてまいります。
約10年後から大量廃棄が発生する初期型太陽光パネル。この処分。これを考えますと、セレンや鉛による土壌汚染ですとか、表向きに置きますと、そのまま取り外しても発電は続けてしまいますので、感電の危険性というものがございます。安全な処分ルールの策定とか、アルミの部分はリサイクルできるんですが、非常にリサイクルが難しい部分もございますので、このリサイクル技術の開発も必要でございます。
まださまざまございますが、これらのリスクの最小化、これに資する危機管理投資っていうのは、もちろん国内でも雇用を生み出します。富を生み出します。しかしながら同じ課題に悩む諸外国への製品、サービスの展開によって、これはまた成長投資にもなってまいります。
このほか、成長投資といたしましては日本に強みがあるロボット、マテリアル、また電子顕微鏡、量子基盤技術、電磁波、アニメ、ゲームなど、さまざまな分野がございますけれども、やはりこの技術成果の有効活用、また人材育成、そして国際競争力の強化。こういったことに向けた戦略的な支援を行ってまいりたいと存じます。
国産量子コンピューターの開発を提案したい
産学官におけるAIの活用による生産性の向上、また、高付加価値な財、サービスの創出。それから中小企業のデジタル化やロボットの導入への支援の強化、これをしっかりと行います。スーパーコンピューター富岳の開発が終わりました。次期の大型2大国家プロジェクトとして私が提案したいことがございます。
第1に国産の量子コンピューターの開発でございます。2年ぐらい前には量子コンピューターできるのにあと10年ぐらい掛かりますよと、専門家の方から伺っていたんですが、もうIBMの実機が入ってきてしまっておりますが、やはり経済安全保障上、国産の量子コンピューター、または日本のニーズに合った量子コンピューター、開発したいと思います。
もう1点です。安定的な電力供給体制の構築ということを申し上げましたけれども、ウランとプルトニウムが不要で、高レベルの放射性廃棄物が出ない、高効率の発電設備である小型核融合炉の開発を急いでまいります。実現までにはまだ課題がございますので、これはやはり国で大型の支援をしなければ早期の実現は難しいと思いますが、2030年代に向けて、今取り組むべき課題だと私は考えております。
私は長年、国会議員は主権者の代表だという、その矜持を胸に、私自身も家族の看病や介護に大変苦悩した生活者の1人として、また各地でお出会いした方々から伺った切実なお声をしっかりと胸に、多くの法律案や政府の施策を自ら発案し、また実現をしてまいりました。
この自民党の強みというのは、第1に若手からシニアまで幅広い年齢層の議員がしっかりと存在していて、年代ごとに直面する多様な課題を皆さまが経験もし、また同世代の方々からのお声も集めて、しっかりと把握しているという、この幅広い年代層の存在でございます。
第2に、やはり自民党は専門人材の宝庫だとつくづく思います。もうどの分野にあっても豊かな専門知識を有する国会議員が多く、地方議員もそうです。さまざまな政策構築ができます。党所属議員が全国各地でお出会いした幅広い年代層、またさまざまな境遇の方、そして非常に多様な業種の方々から伺った多くのお声を生かして、全世代の安心感創出にしっかりと資する政策を構築し、また力強く実行することができます。
令和の省庁再編にも挑戦
私たち自民党は国民政党です。この国民政党の底力をしっかりと結集して、国民の皆さまの大切な命と安心・安全をお守り申し上げます。私は今を生きる日本人と次世代への責任を果たすために、技術革新や安全保障環境、また社会生活の変化など、時代の要請に応えうる新しい日本国憲法の制定について、力を尽くしてまいります。
そして令和の省庁再編にも挑戦をいたします。すでに他の候補者の皆さまからもアイデアが出ておりますけれども、私は例えば環境エネルギー省の創設、これは再編になりますけれども、環境とエネルギーは非常に関係が深い、大事なテーマだと思っております。また、外局にサイバーセキュリティ庁を有する情報通信省の創設。また、経済安全保障という観点から申し上げますと、対日外国投資委員会の創設。さらには通商代表部などについて、今、検討を続けているところでございます。
日本の国は今を生きている私たちだけのものではございません。長い歴史の中で田畑を耕し、産業を興し、地域社会を守り、伝統文化を育み、時には尊い命を懸けて美しい国土と家族を守ってくださった祖先たちの国でもございます。そして、これから生まれてくる子供たちのための国でもございます。一時代をお預かりしている私たちには祖先から受け継いだ精神文化と優れた価値を守りつつ、新たな挑戦を続け、美しく強く成長する国、日本をつくり、次世代に確かな未来を送る責任があります。私たちなら必ず成し遂げることができます。私は日本と日本人の力を信じております。共に頑張ってまいりましょう。ありがとうございました。 
 
  雑話

 

●かつてリベラルだった高市早苗大臣が靖国固執に走ったワケ 2014/10
「毎年、春も夏も秋も、英霊に感謝と尊崇の念を捧げてきた」――。また女性閣僚の発言が波紋を広げている。高市早苗総務相が14日、17日からの靖国神社の秋季例大祭に合わせ参拝する意向を表明した。
日中関係の改善に向け、安倍首相周辺は11月に北京で開催されるAPECでの日中首脳会談を模索中だ。その折も折、閣僚のひとりが靖国参拝を強行すれば日中間に余計な波風が立つ。
中国共産党の機関紙「人民日報」のオンライン版も速報し、公明党の山口代表も15日、参拝回避を求めた。
自分の思想・信条を引っ込めて、「政府の方針に従う」と国会で“宣言”した高市大臣の参拝表明には「首相周辺が彼女を使って靖国参拝断念を首脳会談の条件とする中国側の出方を探っているのではないか」(政府関係者)という見方もある。
とはいえ、高市氏といえば「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」のメンバーで、いまやタカ派の急先鋒のように振る舞っているが、こんな指摘がある。
大橋巨泉氏が週刊現代のコラム(2013年6月1日号)で、村山談話に異を唱える高市氏への違和感をこう書いていた。
<二十数年前、リベラルで可愛かった早苗ちゃん、あの司会のおじさんを覚えているよね! 君は間違っているんだよ>
国会議員バッジを着ける以前の高市氏を知る関係者もこう言う。
「20代半ばに米国に渡った彼女は、民主党の女性下院議員の事務所入り。左派リベラルでフェミニズム運動の先頭に立っていた改革派議員の元に2年近くいたのです」
そんな高市氏がタカ派色を強めていったのは小泉政権の頃。02年に「小泉総理の靖国神社参拝を実現させる超党派国会議員有志の会」の会長に就任すると、続く安倍政権で沖縄・北方相に就任。07年の終戦記念日には現職閣僚としてただひとり、靖国を参拝した。
「これといった実績に乏しい彼女ですが、時の権力との距離感は抜群です。政調会長時代は官邸の意向を党内で揉まずに平然と丸のみしていましたし、靖国参拝も権力にすり寄るための方便だと冷めた目で見る向きは少なくありません」(永田町関係者)
一議員の功名心が外交を危うくしていたら、もう終わりだ。

●「飲みィのやりィの…」離婚の高市大臣“肉食自伝”の衝撃 2017/7
〈たくさん恋をした。人生の節目節目に男性と出会い、悲しい別れもあった〉――今から25年前、高市早苗総務相(56)が31歳の頃の告白だ。
19日に14年連れ添った山本拓衆院議員(65)との離婚を発表。結婚当初から「政界きっての“肉食女子”とみられていた彼女が10歳上の冴えない山本さんを選ぶとは」と政界関係者の間ではささやかれてきたが、高市大臣の“肉食伝説”がうかがえる「幻の本」がある。
1992年の参院選に初出馬(落選)する1カ月前に刊行した自伝的エッセー、「30歳のバースディ その朝、おんなの何かが変わる」(大和出版)だ。
プロローグで〈恋の話をいっぱい書くことにした〉〈「頭の中は恋のことでいっぱい」のプライベートライフには呆れられてしまうかも〉と宣言した通り、男性遍歴を赤裸々に記している。驚くのは〈お酒の思い出といえば、地中海で、海の見えるホテルの部屋で、飲みィのやりィのやりまくりだったときですね〉と、カンヌでの情事まで洗いざらいブチまけていること。
〈それでウフフフフ……。朝、寝起きに熱いシャワーを浴びながら、彼が選んでくれた極上の赤ワインをいきなり飲み始める。バスローブのまま〉〈ルームサービスを食べるときも当然、ベッドで裸の上にブランケットを巻いたまま〉〈彼がすばらしいテクニックを持っていることは言うまでもない。トコトン、快楽の境地におぼれられる相手じゃないと話にならないわけ>――やれやれ。
全編これ、バブル臭が漂うが、気になるのは、高市大臣が恋に落ちる男性の特徴だ。本編には7人の交際男性が出てくるが、年上と分かるのは1人きり。執筆当時も年下男性と付き合っていたようで、〈三〇歳を過ぎて二五歳の若いピチピチした男の子をたぶらかすなんて、犯罪じゃないかという気がしていた〉〈でも、私は二〇代のときよりもいまのほうがいいカラダをしているかなって思う〉と打ち明けている。
やはり10歳上の山本氏には荷が重すぎたか……。あとがきを〈頑張っている同性の皆さん、一度っきりの人生だもの、自分に気持ちいいように生きようネ!〉と締めた高市大臣。今度はぜひ年下のテクニシャンを見つけてください!

●なぜこのタイミングで 高市総務相の離婚に飛び交う憶測 2017/7
高市早苗総務相(56)が19日、夫の山本拓衆議員(65)との協議離婚が成立したと明らかにした。もともと政界では「仮面夫婦」とみられていたが、14年も夫婦を続けながら、なぜこのタイミングで離婚したのか、臆測が飛んでいる。
2人が結婚したのは、高市氏が落選中だった2004年。高市氏の過去のブログによると、交際期間はほぼなし。山本氏からアプローチされた後、1週間で結婚を決めている。落選して落ち込んでいた高市氏を山本氏が励まし、それまで高市氏の秘書を務めていた実弟を雇ったことがきっかけだった。
東京や大阪で盛大な披露宴を開き、小泉首相や森元首相らが列席している。
「周囲は結婚当初から、あの2人は長く続かないだろうとみていました。2人が同僚として最初に出会ったのは94年ですが、10年間ほとんど口を利いたことがなかったはずです。特に政界きっての“肉食女子”とみられていた高市さんが、まさか10歳上のバツイチ、冴えない山本さんを選ぶとは思いもしませんでした」(政界関係者)
結婚後、家事が苦手な高市氏は、夫に作らせた料理を食べ、「だって結婚の時の契約だもん」と悪びれずに語っていた。
今回、2人が離婚の理由としているのは、政治的スタンスの違いだ。2人の連名で「互いの政治的スタンスの違いが大きく、それぞれに信念を貫いて政策活動に没頭したいという結論に至りました」とのコメントを発表している。
確かに、高市氏は極右、山本氏は親中国のリベラルと政治信条は全く違う。しかし、互いの違いは最初から分かっていたこと。この時期に離婚したことで意外な解説が流れている。
「どうやら高市さんは、周囲から『女房のあなたが入閣しているから夫が大臣になれない』『女房は一歩下がるべきだ』などと言われることに嫌気が差していたようです。本人は、8月3日の内閣改造でも留任を望んでいる。実際、適当な女性がいないので閣内に残る可能性が高い。本人は改造の前にケリをつけるつもりだったのではないか」(自民党関係者)
当選7回の山本氏は、滞貨一掃の入閣候補だ。ひょっとして離婚したことで大臣になる可能性が高まるかもしれない。

●高市早苗氏が美魔女に変身? SNSで飛び交う「お肌ツヤツヤ」 9/17
お肌はツヤツヤ、目元はパッチリーー。自民党総裁選に向けて、女に磨きをかけているのが、高市早苗前総務相(60)だ。連日、テレビに引っ張りだこで、ここぞとばかり、総裁選に向けての政策アピールと同時に、女性らしさのアピールにも力を入れているようだ。
「テレビをつけて驚きましたね。あれ? 高市さん、きれいになっていないって? 大臣のときもテレビで頻繁に見かけましたが、失礼ですが、女性らしさを感じることはありませんでした。しかし今回、総裁選に向けて高市さんを連日見かけるようになって、色気がぐんとアップしたように感じます。特に肌にツヤが出て、目元もはっきりして印象が変わりました」(美容に詳しいライターの松庭直氏)
SNS上では、<目元が変わって二重になったように見える><高市早苗って整形した?! かなり顔が変わった印象がするんだけど><政治家の野暮ったさがなくなりましたね>と、やはり、高市氏の美魔女力に驚きを隠せない国民が多くいるようだ。
「でもよく見るとやっぱり高市さんなんですよ。高市さんの独特の話し方も相まって、段々、デヴィ夫人に見えてきましたね」(松庭直氏)
これについて、<ボトックスの影響? 顔がひきつってるようにも見える><静止画だときれいに見えるんだけど、やはり動画は厳しいかな><顔が怖い>と辛辣な意見もSNS上では見受けられる。
ネット上に飛び交う憶測について高市早苗事務所に聞いてみた。
「整形もウィッグもしていません。身近に見ていて特段変わった気はしませんが、髪の毛は切ったので、その影響でしょうか。周囲からも生き生きしているという声は、確かに聞きますね。きれいになったという声を聞いて、本人は喜ぶと思います」
女性初の総理大臣に向けて、女心の準備は万端なようだ。

●高市早苗に「プリテンダー」の声 女性の悔しさ知るはずなのに 9/22
高市早苗前総務相が自民党総裁選への立候補を正式に表明した9月8日夜、テレビ各局の報道番組をはしごした。
「日本経済強靱化計画、いわゆるサナエノミクスの3本の矢は」
そう力強く語る高市さんの声を、何度も聞いた。「金融緩和、緊急時の機動的な財政出動、大胆な危機管理投資、成長投資」と続くのだが、それよりも気にかかったことが二つあった。
その1 自分で名付けておいて、「いわゆる」って言う?
その2 「アベノミクス」の継承・発展なら「タカイチノミクス」じゃない?
1からは権力者特有の図々しさを、2からはそのくせ「女子アピール」をする残念さを感じた。そしてこう思う。あーあ、結局、高市さんかー。
高市さんは2006年、第1次安倍内閣で内閣府特命担当大臣として初入閣した。以来、彼女の言動はずっと安倍さんへの「ですよねー」だったと思う。選択的夫婦別姓→反対、皇統→男系男子、靖国神社→参拝。「信念だ」と言うだろうが、指さし確認で従っている感じ。で、その甲斐あっての立候補。菅首相が引っ込んだ途端、彼女への支持を表明する安倍さんに、どんよりする。
シスターフッドの人
高市さんは1961年3月生まれで、私は1月生まれだ。同学年だけに自分の会社員人生が重なる。わきまえることが大切と教えてくれたのは森喜朗元首相だった。はい、よくわかりました。それが高市さん。
自分の話をもう少し続けると、30歳で結婚した。「そのうち別姓が選べるさ」と軽い気持ちで婚姻届を出さずにいたら、還暦を迎えてしまった。もし高市総裁なら、事実婚のまま古希か。もっと深刻なのは、日本中の若い女性が「わきまえないとダメだ」と思うことだ。いかーん。
そんなある日、作家で経営者の北原みのりさんと元衆院議員でジャーナリストの井戸まさえさんがクラブハウスで高市さんについて語り合っているのを発見、即、聞いてみた。高市批判が飛び交うことを期待したのだが、違った。2人は、彼女がまだ政治評論家だった92年に出した『30歳のバースディ』という本の話で盛り上がっていた。
厳しい母から逃れたくて早稲田にも慶応にも受かったのに、弟が私立中学に受かったからと断念させられ、奈良から神戸大学に往復6時間かけて通学した。ロックバンドでドラムを叩き、オートバイを操った。松下政経塾から突如、米国大統領選初の女性候補と目された民主党のパトリシア・シュローダー下院議員のインターンになった。合間合間に必ず挟まる、赤裸々な恋愛話……。そんな内容を語る調子に、彼女への共感がにじむ。2人が何度も引用していたのが、最後の一節だった。
「頑張っている同性の皆さん、一度っきりの人生だもの、自分に気持ちいいように生きようネ! GOOD LUCK、GIRL FRIENDS!」。高市さんはシスターフッドの人で、今の彼女はプリテンダーではないか。2人の一致した意見だった。
女性は「お察しします」
なるほどプリテンド(装う)か。シスターフッドは隠し、「安倍好み」のふりをし、総裁選へ。作戦としてはわかる。が、それでいいのかと割り切れない。2人に話を聞くことにした。
北原さんは高市さんを悪く語る人(とりわけリベラル系の男性)に、「女性嫌悪」を感じたという。極端な右寄りで問題ありの人だが、それにしてもひどい、と。そこで本を読み、原点を知り、驚いたという。
「安倍さんにすり寄って、実力以上に評価されている人というイメージだけど、これだけ2世、3世の多い政治の世界で、サラリーマン家庭出身の女性があそこまでの地位をつかんだ。そのためには野田聖子さんや小渕優子さんがしなくてもいいことを、たくさんしたと思う」
確かに、今回の総裁選へ立候補を表明している岸田文雄さんも河野太郎さんも、立候補を断念した石破茂さんも、みんな政治家の家に生まれている。
「高市さんは税金や軍事など、女が苦手とされるところに政治家としての自我を求めた。女だからと舐められないための戦略でもあり、舐められないために『女の味方ではない』と肩ひじを張った。それで保守の王道を歩みたいという思いはわかるけど、それにしてもあっちに寄りすぎちゃったよね、と思う」。そう言って、こう続けた。
「でも、そうなったのには訳がある。お察しします、と思います。女性だったらみんな、お察ししますなんじゃないかな」
井戸さんは元衆院議員。次期衆院選に立憲民主党から立候補する。政策は相容れないが、「高市さんは人として、信用できる」と言う。井戸さんは松下政経塾出身で、高市さんの後輩。卒塾式での体験があるからだ。
彼女だから候補に
研修担当者が塾生の思い出を語るのだが、そこで井戸さんはいきなり「香水がきつかった」と言われた。激しく傷つき何も言えずにいたら、「そんなこと、ここで言うことじゃない」と抗議してくれたのが高市さんだった。
それから10年以上経ち、井戸さんは自分の経験から「民法772条による無戸籍児家族の会」代表として活動していた。06年、高市さんが入閣、少子化担当でもあったので、民法改正を訴える手紙を送った。他にも法務相、総務相(菅義偉さんだった)らにも送ったが、返事があったのは高市さんだけだった。雛型にあてはめたものでなく、きちんと内容に則していて、手書きの署名が添えられていた。誠実に働き、きちんと事務所を運営している政治家だと思った。
「彼女を今の高市早苗にしたのは有権者であり自民党。彼女はそのルールブックに則ってきただけとも言えます。『女性の総理大臣候補が高市早苗なの?』っていろいろな人が言うけれど、彼女だから候補になれたというのが現実なんですよね」
その現実をはっきり見せられるのがつらい。そう井戸さんに言うと、こう返ってきた。
「多くの女性が結局、上に行くには彼女の道しかないことに気づいている。それで責任を感じるとまでは言わないけれど、自民党を、この社会を変えられなかったことがどこかやましく、だからつらいんじゃないでしょうか」
『30歳のバースディ』を読んだ。そこにいる高市さんは、自分に正直でまっすぐな人だった。その印象は、衆院選に初当選した2年後に出した『高市早苗のぶっとび永田町日記』でも変わらず、2章が抜群に面白かった。
悔しさ知っているのに
92年、地元奈良県から参院選に無所属で立候補、落選した顛末(てんまつ)が書かれている。当初、自民党公認で出るはずが、党県連会長に阻まれる。その経緯を一言でまとめるなら、「会議の場で言われたことを額面通りに受け取ったが、実は裏で違うことが進んでいた」というもの。怒り、悔しがる高市さん。だが、その翌年衆院選に無所属で立候補、トップ当選する。たくましい。
この時、高市さんが落ちたのは、「ボーイズクラブ」の陥穽(かんせい)だった。女性は立ち入り禁止の所で物事が決まり、今もあちこちで女性を待ち受けている。その悔しさを知っているのに、何で? と、思った端から思う。だからなのか、高市さん。
総裁選は、どうなるだろう。

●しつこい!高市早苗氏だらけの“あおり”ネット広告に批判噴出… 9/22
〈高市早苗の広告、なんでどこにでも現れるの?〉――。自民党総裁選(29日投開票)に立候補している高市前総務相を巡り、ネット上は騒然だ。
問題となっているのが、「高市早苗を阻止したい7人の反日」と題されたバナー広告。ネットサーフィンをしていると、ウェブサイト上の「広告枠」に出てくるアレだ。目にした人たちからは「鬱陶しい」「しつこい」と批判が噴出しているうえに、自民党の党則違反の疑いがある。
「総裁公選実施細則」は、総裁選を巡る〈各種報道機関の記事掲載、企画への出演等の取り扱い〉について、〈党員間の感情的対立をあおることのないよう、十分な配慮をしなければならない〉と明記している。問題のバナー広告はいかにも対立をあおるタイトルだが、大丈夫なのか。党本部に聞いた。
「『広告を見た』という情報提供はいただいていますが、現時点で『対立をあおるもの』だとは認識していません。高市氏のバナー広告を気にする方もいらっしゃるとは思うが、一企業が出しているものなので対処するのは難しい」(選挙管理担当事務局)
ユーチューブ動画の視聴開始時や途中で流れる広告動画にも、高市氏が出てくると話題だ。
広告動画は次期首相が100代目に当たることを意識し、高市氏のバストアップのシルエットを背景に「Q:第100代日本の首相は誰でしょう?」と問いかける。その後、ニコニコ顔の高市氏が登場し、「美しく、強く、成長する国、ニッポンをつくってまいりましょう」と強調。動画終盤には〈世界が注目! 第100代 初の女性首相へ〉とのメッセージが、赤文字でデカデカと出てくる。広告主は高市事務所公認の「私設後援会」だ。
ちなみに、高市氏支持の安倍前首相も「100代目で女性首相が誕生すれば世界が注目する」と、まったく同じ宣伝文句を使っている。
高市氏の支持者は河野ワクチン担当相を、弟が社長を務める会社が中国に複数の関連企業を保有していることから「反日」認定してもいる。党本部は「一企業が出しているもの」と言ったが、“高市応援団”によって〈感情的対立〉の溝は深まるばかりだ。

●「高市早苗」が隠したい過去の“下ネタ対談” 9/22
9月8日に総裁選への出馬を表明し、ネットを中心に支持を拡大する高市早苗・前総務大臣(60)。彼女が9月8日、訴えた政策は、「敵基地の迅速な無力化」「男系による皇位継承」「日本人による新しい憲法制定」 なるほど政策はガチガチの保守。その立ち居振る舞いも相まってサッチャー元イギリス首相になぞらえ、「鉄の女」と呼ばれる所以である。
既に8月、月刊誌で出馬宣言をしていた高市氏。推薦人の確保が可能かどうかは未知数だったが、安倍前総理が支援を表明。女性として、小池百合子都知事以来、2人目の立候補者となる見通しだ。
「非常に真面目な人ですよ」と述べるのは、自民党のさる代議士である。「隙間時間を見つけてずっと原稿を書いているような人。それにまめでね。手紙をよく書く。直筆で『sana』と署名を入れたりするから、相手の心に響くんだよね」 なるほど確かに「鉄の女」でも、四角四面の堅物というわけではなさそうである。
「選挙中に“いい男”を掴んだのよ」例えば、だ。
〈私ね、転んでもタダじゃ起きない。落選したけど、実は選挙中に“いい男”を掴んだのよ〉
高市氏は奈良県出身。神戸大を卒業後、松下政経塾等を経てキャスターとして活動した。1992年の参院選に初出馬したものの、落選。翌年の衆院選で初当選を果たしたが、先の赤裸々な発言は、その31歳での落選直後、「週刊現代」誌上で、山城新伍と行った対談の一節である。大要を引くと、〈選挙中から目ェつけてた人がいたの。だけど、ずっとガマンしてたの。そのカレが私のことを「とんでもねェ気の強い女だ」と言ってるというんで、「これはダメかなあ」と半分あきらめかけていたわけ。開票日。敗北宣言の原稿を書こうと思ったときに、「待てよ。今晩、私は世界一悲しい女になれる日なんだわ」ということに気がついたの〉〈その場から、「たぶん私、今日負けると思う。一緒にいてくれると嬉しいな」って、電話したんですよ〉〈で、支持者が選挙事務所に詰めかけて、私のことを探していたときに、私はある場所に行ってて、いなかったというわけ(苦笑)。というわけで、まあ、いま私はすごく幸せというわけです〉と、落選が決まった日にそれを利用して男性とデキてしまったと告白しているわけだ。話半分に聞いたとしてもなかなかの「肉食系」である。
こうした発言は他にもあって、その前年、〈私なんか短期決戦型よ。ムダ足ふまないっていうか、とりあえず自分からデートにこぎ着ける。直接電話して、会うセッティングして、ズバリ聞く。ステキな関係にしたいと思うんだけど、あなたの条件はいかがかしらみたいな(笑)〉と女性誌「コスモポリタン」で、堂々、「自分の性に正直に生きるにはどうしたらいいのか」をテーマに対談をしている。しかもお相手は、当時は社会派弁護士として名を馳せていた、社民党党首の福島瑞穂氏。“右”からの支持が熱い高市氏にとって、消したい過去ではなかろうか。
〈福島 私は結婚前に共同生活を送ることには大賛成なのね。高市 複数と寝るのはいいけど、あくまで好きだから寝る、のノリであってほしい〉〈福島 一般論として言うと、複数の男と寝ないとよくわからないこともあるんじゃないかとも思うのね。高市 男の子をたくさん知るのはいいことだよね。結婚まで絶対数こなすのはべつに悪くないと思うけど〉〈福島 大人のつき合いがほかにもあるという関係は、あってもいいかなあと思うけれど。高市 一人とつき合っていてもほかにおいしそうな男がいたらつまみ食いしてみたいとかね〉と下ネタで妙に意気投合した様子なのだ。
「こうした発言などもあり、これまで高市さんは、森総理と愛人関係にあるという怪文書を撒かれるなど、苦労が多かった」(前出・代議士)
当の高市事務所に過去の発言について聞くと、「議員になる前で、時代もあっての発言でしょうから」と笑う。
彼女と初当選同期だった、米田建三・元代議士は言う。「華やかな存在で、かっこよかったですよ。昔から信念がしっかりしていて、自分の意見を堂々と伝えられる人でした。票にならないといわれる外交や安全保障についての考えも持っていた。その辺りは今も変わっていませんね。今後、支持は伸びてくるのでは」

●「株式市場は高市さん大歓迎ですが諸刃の剣」総裁選4候補者の経済政策 9/23
自民党総裁選もいよいよ終盤に入る。河野太郎(58)、岸田文雄(64)、高市早苗(60)、野田聖子(61)=届け出順=の4人の候補が連日メディアなど様々な場で政策議論を行っている。4人の候補の経済政策と成長戦略をマネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆さんに聞いた。
――まず年金改革の議論が降ってわいたように始まりました。火付け役は河野さんで、「年金の最低保障」をぶち上げましたが、他の3人は「消費税引き上げどうする」「年金不安を煽る」と真っ向から反対しています。
広木氏: 河野さんはこれまでの世論調査で1番人気だったのですが、年金改革についてはちょっと失点だったんじゃないかなと思います。岸田さんが切り返していましたが、“年金を税財源で”というのはそもそも民主党が言い始めたことですよね。しかも民主党は政権を取ったものの実現できず、自民党は反対していた。なぜこのタイミングで河野さんが言い始めたのかわかりませんが、消費税を財源にするならやはり具体的な数字をセットにして議論しないといけません。
――高市さんは「まともに消費税でやろうと思ったら12.3兆円になる」と主張していますが、河野さんは具体的に消費税を何%引き上げが必要なのか明確にしていませんね。
広木氏: 確か民主党の時は、7〜8%引き上げないと難しいという話だったと思います。やはり具体的な数字を示さずに「年金が危ない」と言っても、誰も議論についてこられないですね。また河野さんは年金改革の根拠を低所得者、低年金者のためと語っています。しかし社会全体で見るとこの層は比率が非常に低く2019年度で62万人と言われていて、人口の0.5%です。政策の優先順位から言えば、例えば子どもの貧困は7人に1人ですね。
――年金改革の議論は総裁選という短期決戦でやるのは厳しいですね。そもそもわかりづらいし、国会を開いてもう一度議論すればいいと思います。
広木氏: 年金を税財源でやるとなったら、必ず消費税引き上げの議論となります。今回河野さんは富裕層には基礎年金を支払わないともおっしゃっていますが、それはほんのわずかな話です。もう少し詰めてからするべき話だったかなと思いますね。
――次は経済政策の話ですが、まず岸田さんは所得倍増計画と新自由主義の否定ですね。
広木氏: 新自由主義の否定は世界の潮流です。例えばアメリカは、民主党がトリプルブルーで政権を取りバイデン大統領は格差是正を掲げています。あの中国でさえ国内の格差を是正するため、企業活動への規制や不動産の締め付けを行っています。菅政権は当初自助を強く打ち出したのですが、結局コロナで公助を求められる状況になりました。岸田さんの所得倍増計画は新自由主義の否定とセットになっていますが、新自由主義の前提は自由競争と規制改革です。規制を改革しなければ経済は活性化しないので、新自由主義の否定みたいなことは言わないほうがいいと思うのですが。
――河野さんは労働分配率を高めた企業の法人税を減税する政策を掲げていますが、この部分は岸田さんと似ていますね。
広木氏:ただ岸田さんは所得再分配を富める者から貧しい者へと個人間で行うと言っているのに対して、河野さんは企業から個人に分配しろと言っています。安倍政権では賃上げに積極的に介入しましたが、結局すぐ萎んでしまいました。河野さんは労働分配率を引き上げた企業には減税すると言っていますが、いま企業は内部留保が豊富にあるので、法人税が減税されても労働分配率を高めるインセンティブがどこまで働くか疑問ですね。
――一方で高市さんは“サナエノミクス”を掲げて、アベノミクスの継承を前面に出しています。
広木氏: 岸田さんも河野さんも財政出動と言っても財政再建が少し頭の中にありますが、高市さんの場合は考え方がMMT(※)に近いですね。物価上昇率が2%に達しないまではプライマリーバランスを凍結と言っていますが、2%に到達するなんて今後20年かかっても無理ですから、財政再建を放棄するようなものです。積極財政という意味ではアベノミクス以上かもしれません。
(※)財政赤字でも国はインフレが起きない範囲で支出を行うべきという理論
――その意味では株式市場は高市さんが“買い”ですかね。
広木氏: 株式市場的にはあれだけ積極的な財政政策がもし実現すれば、高市さん大歓迎です。ただ諸刃の剣でもあって、外交・軍事面で強硬路線になると中国など地政学的なリスクが増える。株式市場では安倍前首相が靖国神社に参拝した際、動揺して株が売られた場面がありました。
――野田さんはグリーンリカバリーや“こどもまんなか”を政策に掲げていますね。グリーンリカバリーはポストコロナを見据えて欧米ではすでに始まっていますが。
広木氏: 子どもの問題を何とかしないといけないというのはその通りですね。ただそれが成長戦略なのかというと、ちょっと違う感じがします。グリーンリカバリーは、実は菅政権が掲げたカーボンニュートラルと同じですね。これはいま世界的な潮流になっているので、この政策にいくのは当然だと思います。野田さんは地熱発電についても言っていますね。
――広木さん的に何か注目の経済政策はありますか。
広木氏:コロナの中で日本は世界から周回遅れのところがたくさん明らかになりました。特に遅れているのはジェンダー格差です。女性の地位について日本は先進国の中でも最低ではないでしょうか。ですからアメリカでさえまだ女性大統領が生まれていない中、女性の首相が誕生したとなれば、改革が進んだ、または改革を進めるというメッセージを世界に送ることができると思うんです。世界の日本を見る目が変わると思いますね。
――確かに世界へ日本が変わったとのアピールになりますね。ありがとうございました。

●「アベノフォン」で高市早苗氏が2位に浮上、安倍院政も  9/24
「2番手に入れそうなので、高市さんをよろしく、とすごい勢いでした」
こう話すのは、自民党の無派閥の国会議員だ。見せてくれたスマートフォンの着信履歴のディスプレイには「安倍総理」と表示がある。
自民党総裁選で高市早苗前総務相の支援を表明している安倍晋三前総理。連日のように、携帯電話を片手に自民党の若手議員や地方の自民党支部関係者に高市氏に「一票を」と自ら呼びかけているという。
「安倍氏とは随分前に携帯電話で話したことがありました。その時に番号を登録したのだと思います。安倍氏から着信があった時、ミスタッチの間違い電話かと思いましたよ。それが高市氏の支援をと言われて、びっくりでした。他の若手議員に聞くと、何人か安倍氏から直接、電話があったそうです。アベノミスクの次は、アベノフォンかと評判です」(前出の国会議員)
安倍氏の高市氏推しに拍車がかかってきたのは、世論調査の数字やSNSなどの情報で高市氏の支持が急上昇してからだという。自民党総裁選は党員票では、河野太郎ワクチン担当相がリード、岸田文雄元政調会長が追いかけ、高市氏は3番手だという予想が大半だった。
しかし、安全保障政策では敵基地攻撃にまで踏み込む発言をし、選択的夫婦別姓は反対、と他の3人の候補と違いを鮮明にした高市氏の存在感が増している。自民党で20年以上、政務調査会の調査役を務めた政治評論家の田村重信氏が党内情勢をこう分析する。
高市氏と河野氏の決選投票も?
「高市氏と他の3人との違いは、歯切れの良さと安倍氏のバックだね。高市氏は安倍氏の支援がなければ総裁選出馬も難しかった。高市氏は安倍政治の継承を打ち出し、安倍氏もそれに応え、後ろ盾になって、ますます勢いづいている。4人の候補で一番、運動量が多いのが高市氏ですよ。それが党員、議員にも響いている。安倍氏の電話攻勢の効果も高市氏が党員票を伸ばしている要因だ。党内でも『岸田氏はやばい、高市氏が2位になるんじゃないか』『河野氏と高市氏の決戦投票になったら、どうしよう』などという議員の声も聞こえてきます」
確かに、高市氏の話は歯切れがいい。9月20日の自民党青年局・女性局主催の公開討論会でも冒頭の決意表明では、「海外からサイバー攻撃が1日に13億6600万回にまで達しております。皆様の命や財産守り抜く」と力強く訴えた。
そして高市氏のセールスポイントともいえる、憲法改正では他の3人の候補が「国民投票」にポイントを置く中で、「今の憲法では、技術革新、安全保障環境など社会の変化に追いついていない。時代にあった憲法にしていく」と改憲が前提ともとれる持論を展開した。高市氏の急上昇に本命視される河野氏、岸田氏の両陣営も警戒感を滲ませる。
効果がイマイチだった小石河連合
河野氏は人気の高い小泉進次郎環境相、石破茂元幹事長を応援団にして「小石河連合」を結成。党員票で大差をつけて、議員票でも岸田氏と互角に戦い、勝利するという戦略だった。
「小石河連合の効果がイマイチだ。安倍高市連合の進撃で党員票をかなり取られている」
こう語る河野氏陣営の国会議員は、渋い表情だった。また、国会議員票でリードしていると報じられた岸田陣営は、河野氏と決選投票で一騎打ちを想定していたが、高市氏の猛追という想定外の事態に慌てた様子だ。岸田派の国会議員はこう話す。
「うちの課題は党員票だ。アベノフォンで高市氏が党員票をかなり獲得しているのは間違いない。現在、岸田氏が2番手という甘い考えではダメだ。ツイッターでも、『高市2位』というフレーズがトレンドになっている。今日も支援している議員が党員票を固めるため、電話作戦をしている」
総裁選で4人の候補が並ぶと、必ずと言っていいほど出る質問の一つが安倍前総理の負の遺産である、森友学園への国有地払下げ事件と「桜を見る会」前夜祭の疑惑への対応だ。
9月18日に行われた日本記者クラブ主催の討論会で高市氏は、「あれだけ長く国会審議で説明されている。本人は虚偽と思って答弁されたのではございません」と再調査を否定していた。
「安倍氏のアキレス腱は、森友学園の事件と、今も検察が再捜査している桜を見る会前夜祭の疑惑だ。安倍氏が高市氏をしゃかりきに応援しているのは、2つの疑惑を追及しないと半ば、明言しているからでしょう。河野氏や岸田氏も再調査には消極的だが、安倍氏は信用していない様子。安倍氏が率いる清和会に次いで、有力派閥の麻生派、二階派が今回は自主投票です。高市氏が勝てば、安倍院政になる可能性もあり、余計に力が入っていると思う」(前出の田村氏)
官邸の主が交代する総裁選の行方は、霞ヶ関も固唾を飲んで見守っている。
霞が関が最も嫌がる総理総裁は?
「各候補の政治姿勢や政策についての分析がなされています。最も官僚から嫌がられているのは、河野さんですね。世論調査と違って評価は低いです。思い込みが激しく、役人の進言に耳を貸さず、耳の痛い説明をすると声を荒げることもよくあります。人事権を示唆して威圧するなど、悪い意味での”菅総理後継者”という見方が強いです」(内閣府関係者)
一方、高市氏、岸田氏、野田氏の評価はどうか?
「高市さんは総務大臣時代のNHKの接待問題で世論からの非難を浴びた際、メディアからの追及に対し、『NHKの監督は所管局長が決裁権を持っていて、自分は利害関係がない』旨の発言をしたことで、霞ヶ関内ではリーダーの資質としてありえないという考えが強いです。疑惑を全て他人のせいにした安倍総理の”劣化版”という見方がある一方で、熱狂的な高市推しの役人も一部にいます。姉御肌の野田さんは役人のウケはいいですが、夫の疑惑などが気にかかりますね。岸田さんは可もなく不可もなくです。総裁選用の政策集を読む限りは、特に今回は相当に政策が練り上げられています」(官邸関係者)
党員票の郵送締め切りは9月28日。すでに多くの党員は態度を決めている模様で、議員票が勝負の分かれ目となりそうだ。

●高市早苗、後見の黒幕は「森喜朗元総理」 9/24
「総裁選は本来、自民党のキングを決める選挙です。しかし、今回は“キングメーカー”の座を争う選挙になってしまっている。要するに、これまでの権力構図を維持したい勢力と、それを刷新させたい勢力との対決ということです」
政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏はそう評する。
たしかに、派閥の足し算では勝利が見通せない選挙と言われながらも、菅総理が河野太郎氏をバックアップし、安倍前総理は高市早苗氏を擁立しつつ、決選投票では岸田文雄氏支援に回ると囁かれるなど、候補者の背後には常に“大物”の存在がある。
自民党担当記者によれば、「安倍前総理は本腰を入れて電話作戦に取り掛かっています。出身派閥である細田派の議員に告示前から“高市に協力してやってほしい”と迫り、安倍政権下の役職経験者を中心に他派閥の議員にも連絡している。その結果、安倍チルドレンだけでなく、細田派幹部の間にも困惑が広まってしまった。安倍さんのあまりの入れ込みぶりに、側近の萩生田光一文科相や世耕弘成参院幹事長までもが“派閥内の反発を考えるとそこまでやらない方がいい”などと進言するほどでした」
「安倍さんというより、森さんが推しているから」
安倍前総理の熱のこもった高市支援は、もはや誰もが知るところとなった。だが、その裏には別の“黒幕”の影が見え隠れしている。
「それは森喜朗元総理です。実は、清和会を退会した際に故・町村信孝氏を激怒させてしまった高市氏に対し、派閥のベテラン議員には根強い嫌悪感があった。安倍さんもそれを理解していて、“細田派の中堅・幹部クラスからはとにかく評判が悪い。その点は高市にも伝えている”と漏らしています。それでも、派閥内で高市支持が広まった理由として耳にするのが“安倍さんというより、森さんが推しているから”という声です。実際、安倍さんも周囲に“私の言葉は森さんの言葉だと思って聞いてほしい”と話しています。安倍さんがいち早く高市支援に乗り出したのも、森さんの意向があったからではないかと囁かれているのです」(先の政治部デスク)
かつて森元総理との愛人関係を仄(ほの)めかす真偽不明の怪文書が飛び交ったこともある高市氏。神の国発言などで世論の不興を買った総理時代の森氏を“勝手補佐官”と名乗って擁護するなど、彼女がおぼえのめでたい存在だったことは間違いない。
「森さんの威光があったからこそ、高市さんは早々に出馬を表明し、ここまで支持を広げられた。とはいえ、細田派の若手からは“最大派閥が勝ち目の薄い無派閥候補を推していいのか”“長老政治が透けて見えては総選挙にも影を落としかねない”との反発もある」(同)

●高市早苗氏の“憧れの人”、サッチャーが蔑まれながら成し遂げた改革 9/24
日本初の女性首相を目指し、自民党総裁選に出馬した高市早苗・前総務大臣(60歳)。同氏の公式ウェブサイトにアクセスすると、まず「憧れの人はサッチャー英元首相」という言葉が目に飛び込む。
マーガレット・サッチャーは、1975年に英国保守党初の女性党首、79年に53歳で同国史上初の女性首相となり、11年間の長期政権を率いた政治家だ。内政では「サッチャリズム」と呼ばれる新自由主義的な改革で英国経済を再生し、外政では、ソ連との冷戦に勝利し「鉄の女」の異名をとった。
一方で、その強硬な政治姿勢から敵も多く、左派からは「富裕層を優遇し、格差社会を招いた張本人」など辛辣な批判も浴びてきた。資本主義の行き詰まりをめぐるこうした議論の出発点に、常にサッチャリズムは参照される。サッチャーは、決して「過去の政治家」にならないのだ。
サッチャーは自らを「確信の政治家(conviction politician)」と評していた。指導者として明確な信念を持つのは当然のようだが、当時の保守党では国事の運営に熟達することが政治家の本分であり、思想信条への固執はむしろ蔑まれるべきことだったという。
外交官として国内外多くの政治家と交流してきた冨田浩司駐米大使は、山本七平賞を受賞した著書『マーガレット・サッチャー:政治を変えた「鉄の女」』の中で、「サッチャーが自らの信念を施策の隅々まで貫徹させる意志と行動力を備えていたことで、その結果生まれた一貫性は彼女が示す政治選択を極めて明確なものとした」と記している。まさに「鉄」たる所以である。
現時点で、政策の面から高市氏とサッチャーを二重写しにするのはまだ早い。ただし、政治、経済あらゆる面で閉塞状況にあった1970年代後半の英国で、改革者であろうとするリーダーに求められた意志と資質は、おそらく現代の日本にも共通する。
以下、『マーガレット・サッチャー:政治を変えた「鉄の女」』より、一部を抜粋・再編集してお届けする。

近代以降のイギリスの歴史を振り返る際、筆者から見て真に偉大な政治指導者として指を屈するのは、グラッドストン、チャーチル、サッチャーの3人である。しかも1982年、筆者が外交官として最初に赴任したのはイギリスで、4年間の在勤期間を通じてサッチャー政権はまさに隆盛の最中にあった。フォークランド戦争、炭鉱ストライキ、ブライトンでの爆弾テロ、シティにおける「ビックバン」改革など、当時の出来事を思い出すたびに感じることは、それらの記憶の一つ一つがサッチャーという政治家の圧倒的な存在感に彩られていることである。当時の政治において彼女が発するエネルギーはそれほど強烈であった。
にもかかわらず、サッチャーについて書くことには大きな抵抗があった。その理由は単純で、彼女の政治家としての業績は認めざるを得ないとしても、人間的にはどうしても好きになれなかったためである。前著(『危機の指導者 チャーチル』)で取り上げたチャーチルについては、読者に紹介したい事柄が無尽蔵にあり、また、そうした事柄を書くことに大きな喜びを感じていた。チャーチルに対するような人間的共感を持てないサッチャーについて書くことは、大変な難行のように思えたのだ。
筆者がこうした抵抗感を克服し、サッチャーについて書いてみようと思うに至ったのは、ある本の一節を目にしたためである。
「良しにつけ、悪しきにつけ、21世紀のイギリスは彼女の記念碑である。」
イギリスの政治評論家デヴィッド・マルカンドは第一次大戦後の英国政治を分析した著作の中でこう指摘した。
マルカンドは労働党と社会民主党での活動歴を有し、政治的立ち位置は中道左派に属する。したがって、サッチャーの業績に対する彼の評価は基本的には辛口であり、この点は引用における「良しにつけ、悪しきにつけ」という物言いに見えている。実際のところ、英国人にとってサッチャーは中立的な態度で臨むことが難しい政治家である。しかし、彼女がイギリスの政治社会にもたらした変革を考えると、彼女ほど語られるべき指導者はいないのも事実なのだ。
マルカンドの言葉が示唆するのは、サッチャー前とサッチャー後のイギリス社会の変化の大きさである。それでは、サッチャーをそうした変革へと駆り立てた、当時のイギリスが直面していた課題とはどのようなものであったのだろうか。
1979年にサッチャーが政権に就いた時、イギリスは政治、経済、社会のあらゆる側面で行き詰まりを示していた。
国際的に見ると、当時は「ブレトンウッズ体制」と呼ばれた戦後の経済システムの一大転換期で、先進経済は軒並みインフレーションと失業が同時に昂進するスタグフレーションに悩まされていた。イギリスもその例外ではなく、政府は日々深刻化する経済情勢への対応に追われていたが、同時に英国経済には積年の構造的課題がのしかかっていた。
第二次大戦後、イギリスは国民健康保険制度(NHS)を柱とする福祉国家の建設に取り組むとともに、完全雇用を目的とするケインズ主義的な財政・経済政策を推進する。こうした政策を支えたのは、国民福祉の増進のため国家による介入を積極的に支持する政治的なコンセンサスであり、保守、労働の二大政党が政権交代を繰り返す中でもこのコンセンサスの核心的部分は堅持されていた。
しかしながら、サッチャー政権が発足するまでに、こうしたケインズ主義的な経済モデルの有効性には強い疑問が投げかけられるようになる。その理由の一つは、イギリス経済の長期的な低落で、1950年にはイギリスを100とした場合の独(西独)、仏の1人当たり実質GDPはそれぞれ61.7、74.7だったのに対し、1979年には115.9、111.2と、立場が完全に逆転するに至っていた。
国家による国民経済への介入の主要な手段の一つは、労働党政権の下で積極的に推進された国有化政策であった。この政策の下で電気、ガス、水道、通信、鉄道といった公共サービスはもとより、鉄鋼、造船、自動車、航空機、エネルギーといった主要産業、果ては旅行代理店(トマス・クック)までが国営企業のリストに加えられる。こうした政策は戦後の一時期、物資が欠乏しがちな時期には資源の効率的な活用を可能とする一定の合理性を持っていたが、イギリス経済が復興を遂げた後は国家による企業経営の非効率性が意識されるようになっていた。
特に、高級車で有名なロールス・ロイス社のケースのように、政府が雇用重視の観点から経営不振に陥った企業を救済する慣行が横行するようになると、産業構造の調整は停滞し、成長を加速するための努力にも水を差す結果となった。さらに、金融、電気通信と言った分野で急速な技術革新が予感される中で、国家が市場の力を借りずに必要な投資を行っていくことには大きな困難が伴った。
また、ケインズ主義的な戦後コンセンサスの一つの前提条件は円満な労使関係にあったが、1970年代に経済環境が悪化する中で、労働組合の活動は過激化し、社会の安定そのものを脅かすような状況が生まれる。
今日、日本においては労働争議による労働日数の損失は年間1万5000日前後であり、イギリスでも現在では17万日程度に留まる(2015年)。しかしながら、炭鉱ストによってヒース政権が週3日の操業短縮に追い込まれた1972年には、労働損失日数は2400万日にという途方もない数字を記録し、労働争議の嵐が吹き荒れた1979年には3000万日の大台目前まで達していた。
実際、1979年の初頭は「不満の冬(Winter of Discontent)」として記憶され、サッチャー政権発足の大きな要因となったことから、政治的にも重要な節目となっている。この時期、多くの労働組合がゼネストに近い形で連携した結果、イギリス社会は大きな混乱に陥る。運輸労組による戦闘的なピケ活動で陸上輸送が全国的に寸断され、イングランド東部の港町ハルなどは第二次世界大戦の籠城戦の舞台になぞらえて「スターリングラード」と呼ばれる惨状に直面した。また、ロンドン中心部の広場は未回収のごみで埋め尽くされ、リバプールでは公務員ストライキのために死者の埋葬も出来なくなる。
こうした状況を前に、サッチャーが示した処方箋は一般に「サプライ・サイド」の経済対策として理解されているが、こうした解釈は彼女の試みたことのほんの一部しか捉えていない。
端的に言えば、サッチャーが目指したことは、戦後コンセンサスの下で形成された国家と個人の間の境界線を引き直し、個人の自由を再び国民の営みの中核に据え直すことであった。彼女はそのことを、かつて聖地エルサレムを奪還するため十字軍が示したのと同様の宗教的確信をもって追求し続けた。そして、個人の自由へのコミットメントは、彼女を冷戦の勝利に向けた闘いにも駆り立て、戦後外交史に大きな足跡を残すことを可能とした。
政治指導者としてのサッチャーの凄さは、個人の自由を追求するイデオローグとしての側面と、卓越した行政手腕を持つ実務家としての側面を兼ね備えていたことであり、後者の能力はフォーランド戦争の指導や数々の外交交渉において遺憾なく発揮された。しかしながら、彼女が歴史に名を刻むのは、疑いなく政治の変革者としてである。
政治は通常の場合、資源配分の技術である。しかし、時として政治は単なる技術に留まらず、資源配分のあり方そのものを変える必要性に直面する。その時、指導者は国家と個人の関係という核心的な問題に正面から立ち向かわなければならない。
サッチャーは、自らを「確信の政治家(conviction politician)」と評して憚らなかったが、イギリスの政治においてこのレッテルは常に肯定的な評価を意味するものとは限らない。特に、当時の保守党では、いわゆる「ステートクラフト(statecraft)」、すなわち国事の運営に熟達することこそが政治の本質であり、特定の政治信条に固執することを蔑む傾向があった。政治の目的は自明であり、方法論こそが大事だという考え方である。
サッチャーが権力の階段を昇り詰める過程で、時の政治指導層から強い違和感をもって迎えられた理由は、単に彼女が女性だったからではなく、政治の目的そのものを問い直す姿勢が未熟であるばかりか、既存の政治秩序を破壊する危険性をはらむものとして映ったからである。
しかし前述のとおり、サッチャーが政権を獲得した時、イギリスは政治、社会、経済のあらゆる側面で閉塞状況に直面していた。そうした中で、彼女が政治の目的を問い直したことは自然の流れであったと言える。重要なことは、サッチャーが自らの信念を施策の隅々まで貫徹させる意志と行動力を備えていたことで、その結果生まれた一貫性は彼女が示す政治選択を極めて明確なものとした。
サッチャー以降、政治において信念を語ることはタブーではなくなり、むしろ一つのファッションとしてイギリス以外の民主国家にも伝搬して行った。しかし、政治信念をクレディブルな政治選択に昇華させる能力において、彼女を凌駕する政治指導者を筆者は知らない。
 

 

●野田聖子 人口減少は国家の危機 自民総裁選演説会 9/17
自民党の多様性を示さなくてはいけない
私、野田聖子は自民党総裁選に立候補いたしました。そこでまずはこの場をお借りして、私を支えてくれた仲間たち、そして志を同じくする人々や政策に賛同してくださった方たちに感謝を申し上げたいと思います。かねてから総裁選に挑戦したいということを公言してきましたが、これまでなかなか出馬することができませんでした。しかし、四度目の今回は皆さんのおかげでスタートラインに立つことができました。本当にありがとうございます。
まず、私が今回どうしても出馬をしようと考えた、ある大きな理由があります。それは自民党の多様性を示さなくてはいけないということです。残念ながら、これまでの候補者の方たちの政策を見ていると、やや足りていないなと感じている視点があります。例えば人口減少、のちにご説明いたしますけれども、これは日本の経済だけではなく、安全保障にも関わる極めて重大なテーマです。そして日本の未来を担う子供、女性、さらには高齢者や障害者という社会的弱者、介護政策や貧困の格差などが挙げられます。つまり小さき者や弱き者をはじめ、人の暮らしが見えません。主役にならない人々へ向けた政策が十分ではないといってもいいでしょう。
反省と検証が必要ではないか
ならば、自民党としては誰かがこれをやらなくてはなりません。自民党の強さとは多様性だからです。自民党がこれまで多くの国民に支持されてきたのは、さまざまな政治信条、さまざまな政策を持つ多様な人材が、正面から意見をぶつけ合わせ、時には激しく対立するほど真剣に論争してきたからです。異なる価値観を受け入れるという日本の伝統的な寛容さ、多様性を体現する保守政党、それが自民党です。
そこで早速、自民党の多様性を示すような問題提起をさせていただきます。これまでの候補者の方たちの主張の中で出ていない、わが身を振り返るということをぜひ議員、党員の皆さんに投げ掛けたいと思います。つまり、反省と検証が必要ではないかということです。
今回、自民党を改革するということが大きく叫ばれています。もちろん、何か問題があるのならば、そこを変えていかなければいけないのは当然ですが、国民からは党内で、国民の支持がないのはあいつのせいだと誰かに責任を押し付け合っているようにも見えます。
また、選挙の顔を選ぶ権力闘争という厳しい評価も聞こえてきています。党改革を叫ぶ前に、自民党の力でもっと世の中を良くしてほしいと願う国民感覚とずれが生じているのです。だからこそ私は、まずは反省と検証が必要だと思います。誰かのせいにするのではなく、まずは自分たちが至らない点があるのではないかと検証する。与党としてしっかりと国民の期待に応えていたのか、そして今、信頼が低下してしまっているのはなぜなのかということを議員1人1人がしっかりと向き合う、それをやってから初めて新しいことに手を付ける。改革に着手する意味があるのではないでしょうか。
では、具体的にどうやってわが身を振り返るのかというと、例えば国民に約束をしておいて実現できていない政策をしっかりと洗い出し、なぜできていないかを考えます。例えば議員定数の大幅削減です。これは実現できていません。私はより国民のほうを向いた政治にしていくためにぜひともこれを進めるべきだと考えています。
人口減少によって国民も減っている中で議員の数も調整していくのは、当然といえば当然のことです。しかし、今日に至るまで議員定数削減は実現できていません。なぜなのか、どこに問題があるのかということも候補者の皆さんと一緒にしっかり考えて、党員の皆さん、ひいては国民の皆さんに分かりやすく、誰にも理解できるような言葉で説明していかなくてはいけないのではありませんか。
誰もが分かる政治というものを示したい
そんな、誰もが分かる政治というものを私はこの総裁選を通じて示していきたい。先ほど申し上げた女性、子供、高齢者、障害者など、弱い立場の人の視点も含めなくてはいけないというのも、この誰もが分かる政治が目指しているからです。
今、候補者の方たちが訴えている政策を見ると、党改革、安全保障、緊急事態条項など幅広いテーマが出てきています。もちろん全て非常に重要な視点ではありますが、一方、国民の生活、暮らし、そして命や健康に直結するテーマがちょっと少ないのではないかと心配をしているのです。ですから私は誰もが分かる政治ということを意識して、政策論争に多様性を持たせたいと、そしてそれが自民党をさらに強くすることなんだと信じています。さて、このような理由から私も出馬させていただきました。
次に、私が総裁になったらどのような政策に力を入れるのかということを説明していきましょう。まず最優先すべきはコロナ対策であることは言うまでもありません。今後のコロナ対策は以下の3点に集中投資をしていきます。1つ目、スピード重視。早期発見・早期治療の徹底。2つ目、フェアな支援。働く人は一律給付。現実的公平な経済支援。3つ目、見える化。安心・安全の前の、不安を国民から取り除く。
コロナを普通のインフルエンザのように
まず、早期発見・早期治療は、これからのコロナ対策で最も重要なところになってきています。コロナは早期に発見し、早期に適切な治療ができれば重症化を防げることが分かっています。新規感染者数を抑えることも重要ですが、経済活動をしっかり進めていくには、コロナをゼロにするのではなく、コロナを普通のインフルエンザのようにしていかなくてはなりません。そのためには早期発見・早期治療の徹底が必要なのです。具体的な方法としては、危機の間、臨時・暫定の病床・病院、私はサブホスピタルと呼んでいますが、サブホスピタルをつくります。自宅療養では早期発見・早期治療はできません。ので、ここで軽症患者をスピーディーに診察して重症化を防ぎます。人員は地域医療にしっかりと協力してもらうことを考えています。
もちろん建設して体制をつくるまである程度時間が掛かってしまうので、それまではやはり医療体制を守るため、ある程度の自粛も必要になります。そこで働く人への一律給付。現実的公平な経済支援です。サブホスピタルの体制ができるまでの間、経済活動を控えていただくことがあったら、会社員はもちろん、パート、アルバイトなど、全て働く人に現金の一律給付を行います。一方で飲食店などの協力金はこれまでのような一律から、納税や店舗の規模等を考慮した現実的公平なものに変えていきます。個人には格差なく広く、そして事業者の方には経営規模に見合ったものというフェアな経済支援を実現いたします。
このような感染防止への協力を国民の皆さんにお願いする上でも大切になってくるのが見える化です。政府が進めているコロナ対策はもちろん、地域の病床の状況、ワクチン接種の状況、治療薬の開発状況など、これまで以上に国民に分かりやすく、丁寧に情報を伝えていくような発信をしていきます。国民の皆さんに感染防止に協力していただくには、安心・安全ということが欠かせませんが、その安心・安全のためにまずは国民の不安を取り除かなければなりません。そのためにはしっかりと正確な情報をお届けする見える化が一番であります。
ワクチン接種が進んだ世界の国々でも感染爆発が起きているように、世界でもまだ暗中模索、試行錯誤が続けられています。このような先行き不透明な状態がしばらく続く中で、政府が国民の不安を解消していくことが何よりも大切なことであるのです。
コロナ問題以上に重要なのが人口減少
このようなコロナ対策を進めることは経済対策でもあります。世界では長引くコロナ禍によって貯蓄が異常に増えていくという強制預金という現象が起きています。アメリカなどはコロナ後の経済再開のブースターの役割を果たしています。これは日本にも当てはまることであります。このような出口戦略をしっかりと見据えたコロナ対策を、強いリーダーシップを持って進めていきたいと思っています。
コロナ対策を進めていくと同時に、ある意味でコロナ問題以上に重要な問題に対しても政府を挙げて取り組んでいきます。それは人口減少です。私が総裁になったら、まずは人口減少というものを経済問題、安全保障の問題として扱い、国民にもそのような理解を強く持っていただくような啓発を進め、人口減少を止めます。これまで人口減少、つまり少子化対策というものは、女性の出産、子育て支援や男性の育児参加など、厚生労働行政が担ってまいりました。しかし、その認識を改めて、これが国家の危機だという位置付けを明確にいたします。それが決して大げさなことではないということは、データを見れば一目瞭然です。例えば来年の出生数は約70万人になるということがいわれているところです。戦後、あの厳しい、焼け野原になった戦後の次の年の出生数は270万人でございました。つまり、そこから、これから生まれる子供は4分の1になってしまっているわけであります。このことを実際、寿命などでお亡くなりになる方たちと差し引きますと、毎年、鳥取県と同じ人口が日本から消えていっていることになります。
子供への投資を積極的に行う
国家というものを構成する3要素は、領土、国民、主権であります。領土と主権が侵害される危機に関しては、これまで自民党は非常に積極的に取り組んできたと思っています。私が総裁になっても、防災、減災、国土強靱化、しっかり加速させていきます。日本の主権を脅かすようなものには毅然とした態度で立ち向かってまいります。しかし3要素の1つである国民はどうでしょうか。侵害をされているどころか一気に底抜けをしてしまうほど急速に減少が進んでいます。これを国家の危機と呼ばずして皆さんはどうお考えになっておられるのでしょうか。この危機に対して深刻になるのではなく、ぜひ真剣に取り組んでまいりたいと思います。
まず消費者と労働者が減少いたしますので、経済には大打撃です。生産年齢人口は2050年には5000万人を割り込むといわれています。当然GDPにも財政にも大きなリスクです。また、それだけ現役世代が減るわけですから、自衛隊や海上保安庁、さらには警察、消防などの安全保障や治安に関わる組織でも人手不足が問題になっていくでしょう。安全保障や防災という点でも大変なリスクが高まります。
このような国家の危機に対応していくためにどうするのかというと「こどもまんなか」を成長戦略に位置付けて推進をしてまいります。子供の幸福度が高い、貧困度が低い国は出生率が改善しているというデータがあります。実は子供というのは国の持続性を担保する要素です。そこで子供の支援の司令塔として、こども庁を設立し、教育、保育、さらには貧困問題の解消など、子供への投資を積極的に行ってまいります。
このような形で人口減少問題への積極的な取り組みや子供支援などをするということは、日本の持続可能性を世界に示すということなので、日本への投資意欲も高まってくるはずです。今の日本は海外から世界一少子化、高齢化が進行した国というイメージが強い。それを人口減少問題を子供への大胆な投資で乗り越えた国という将来性のある国へ変えていくんです。そして子供支援とともに進めていくのは、多様性の象徴である私たち女性の社会進出です。人口減少問題のみならず、これからの日本の成長の鍵は、これまで政策の主役になることが少なかった子供や女性の中にあるのです。さまざまな分野で女性の社会進出は進んできていますが、国際社会に比べては、まだまだといえます。
ベースロード電源として原子力発電の重要性は高い
そこで私は日本初の女性の総理大臣になったら、この社会のパラダイムシフトを一気に加速させていきます。まず政治から変えていくということで、野田内閣の女性閣僚は全体の半分になるように目指していきます。実はもうすでに意中の人たちのリストは私の心の中にあります。片思いでありますが。
障害者、高齢者、介護、貧困などにもしっかりと目を向けたプッシュ型の対策を進めていきます。持続可能な社会を目指すため欠かせない小さき者、弱き者を含めた全ての人が生きやすい社会、生きやすい日本をつくっていこうじゃありませんか。また、地方創生の柱は全国に張り巡らされた郵便局、そしてJAのネットワークをフル活用いたします。これらの機能強化を目指していくとともに、国土強靱化をさらに加速させて自然災害にも強く、しなやかな日本を皆さんとつくってまいります。
エネルギー政策は2030年の原子力の構成比、20から22%という目標を支持していきます。今の日本の現状を見ますと、ベースロード電源としての原子力発電の重要性は高く、やはり急にはゼロにするということは現実的ではありません。私の息子はこの10年、365日、人工呼吸器と酸素の機械で生かされています。息子のように医療機器が生命線となっている障害者、高齢者はたくさんいます。電力の安定供給ができないとなると私たちはその人たちを守ることができないのです。
行政に対する信頼回復を進める
そこに加えて行政に対する信頼回復を進めます。近年、公文書の廃棄、隠蔽、さらには改竄という問題が相次いで起こっております。公文書というのは民主主義の根幹であります。その国に政治や行政の健全性を示すものであります。これが勝手に廃棄されたり、どこかへ消えてしまうというのは、民主主義にとって、日本にとって非常にゆゆしき問題であると考えています。そこで私は総裁になったら、自民党に公文書の取り扱いに関する不透明さを解明するチームをつくります。そして二度とこのような問題が起こらないような、さらにそして必要に応じて必要な調査をし、しっかりとした制度を皆さんとつくることをお約束します。
一方、外交・安全保障分野に関しては、ICT技術の活用、外交力の強化によってサイバーテロなど国際社会の危機に対応していきます。アジア諸国などの対話を重視してきた日本の安全保障は優れた外交だと考えております。日本は自らの力だけで進んでいるわけではなく、アメリカをはじめ、さまざまな国とつながっています。これらのパートナーシップをさらに引き締めてまいりたい。
世界に目を向けると、タリバンに制圧されたアフガニスタンの混乱からも、軍事力では決して平和をもたらすことができないという現実が浮かび上がっています。かつて世界の警察といわれたアメリカもその軍事的影響力を人道的な配慮などから減じていっています。このような新しい国際秩序に長く非戦・平和主義を掲げている日本の発展モデルで世界に大いに貢献できるよう積極的に取り組んでいきたいと思います。
以上、私が自民党総裁選に臨むに当たって力を入れたい政策の一部を発表させていただきました。私の候補者としての強み、差別化。おそらく他の候補者の皆さんと比べて地方議会で働きました。そして母親でもあります。障害を持つ家族がいて、さらに立法府の人間としてここにいる仲間たちと発達障害者支援法や政治分野における男女共同参画法など、多様な取り組みを進めてきたところです。そんな多様性という視点を武器に、これからの総裁選をしっかりと戦い抜いていきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。 
 
 
 

 

●自民党総裁選、岸田氏が勝利 「次の首相」に。訴えた政策は? 9/29
自民党総裁選は9月29日に投開票が実施され、岸田文雄氏(64)が新たに第27代総裁に選ばれた。岸田氏は10月4日召集の臨時国会で首班指名(内閣総理大臣指名選挙)を経て、第100代首相として新内閣を発足させる見通しだ。岸田氏は1957年生まれの64歳。衆院広島1区選出で当選9回。これまでに外相、防衛相、党政調会長などを歴任した。安倍晋三氏や菅義偉首相、民主党政権の鳩山由紀夫氏、菅直人氏、野田佳彦氏に続き、戦後生まれでは6人目の首相となる。岸田氏は2度目の総裁選で「総理総裁」の座を射止めたが、10月21日には衆院の任期満了を控える。「任期満了」を待つか「解散」に打って出るのか。いずれにしろ、自民党・岸田新政権は、発足間もない時期に国民から審判を受ける。総選挙ではどんな公約を掲げるのか。目下のコロナ禍への対応はもちろん、安倍・菅政権での政策をどう検証・総括するのか。自らが総裁選で訴えた政策の実現可能性も有権者から問われることになる。
4人が争った自民党総裁選、開票結果は?
今回の総裁選には岸田氏のほか河野太郎・行政改革担当相(58)高市早苗・前総務相(60)、野田聖子・幹事長代行(61)の4人が立候補。全国110万人超の自民党員・党友も投票に参加した「フルスペック」の選挙となった。1回目の投票では、党所属の国会議員に1票ずつ与えられた「382票」と党員・党友票の「382票」の計764票を争った。議員票で優勢だった岸田氏が1位、党員票でトップだった河野氏は1票差で2位、高市氏が3位、野田氏が4位だった。ただ。4人の候補者いずれも過半数を獲得できなかった。そのため上位2名による決選投票が実施された。
   候補者名 / 国会議員票 / 党員・党友票 / 合計
   河野太郎氏 86 169 255
   岸田文雄氏 146 110 256
   高市早苗氏 114 74 188
   野田聖子氏 34 29 63
決選投票は国会議員票382票と各都道府県連の47票で争われ、1回目の投票で1位だった岸田氏が勝利。新総裁に選ばれた。
   候補者名 / 国会議員票 / 党員・党友票 / 合計
   河野太郎氏 131 39 170
   岸田文雄氏 249 8 257
岸田氏は新総裁選出後の両院議員総会で挨拶した。岸田氏は「我が国は民主主義の危機にある。こうした強い危機感を感じ、我が身を省みず誰よりも早く立候補を表明した」「私たちは生まれ変わった自民党をしっかりと国民に示し、支持を訴えていかなければならない」と訴えた。「総裁選挙は終わりました。ノーサイドです。全員野球、一丸となって衆院選、(来年の)参院選に望んでいこうではありませんか」と党内の結束を呼びかけた。また、「足下においては、引き続き我が国の国難が続く」とし「コロナ対策を必死の覚悟で努力を続けていかなくてはならない。数十兆円規模の経済対策を年末までに作り上げなければならない」と意欲を示した。
「声をかたちに。信頼ある政治」——岸田氏が訴えた政策は?
自民党の名門派閥「宏池会」(岸田派)の会長。祖父、父も衆院議員の政治家一家に生まれた。外相としての連続在任期間は戦後最長。昨年の総裁選では安倍前首相からの禅譲を期待しながらも、菅義偉首相の出馬でその目算が外れた。2回目の挑戦となった今回は、他に先駆けて立候補を表明した。スローガンは「声をかたちに。信頼ある政治」。政策で一番に掲げるのは「コロナ対策」だ。岸田氏はコロナ対策の目標として、通常に近い社会経済活動を取り戻すことを掲げ、4本柱として以下の項目を訴えた。
• ワクチン接種の加速 11月中の希望者全員への接種完了
• 年内のコロナ経口薬普及のための支援
• 徹底した人流抑制
• 病床・医療人材の確保
省庁再編も目指し、感染症対応を一元的に担う「健康危機管理庁」の創設も公約に入れた。経済政策では「『成長と分配の好循環』による新たな日本型資本主義」で新自由主義からの脱却を掲げる。数十兆円規模の経済対策、持続化給付金などの再配布、非正規雇用や子育て世代、学生への給付金なども目指すという。また「成長」一辺倒ではないとアピールも。「令和版 所得倍増計画」と銘打ち、格差の是正を掲げ、安倍・菅路線とは一線を画すことを意識している。ちなみに「所得倍増計画」は、岸田氏の出身派閥「宏池会」の創設者で池田勇人首相(任1960〜64)が打ち出した経済政策で、戦後の高度経済成長に影響を与えたもの。岸田氏は偉大なる先達に自らを重ね、演出しているようだ。安倍・菅政権下で党幹事長として過去最長の任期となった二階俊博幹事長を中心とした執行部の刷新も目指す。党役員任期を「1期1年・連続3期」までとし「権力の集中と惰性を防ぐ」ことも明言した。選択的夫婦別姓をめぐっては党内の推進議連に参加しているが、出馬会見ではBusiness Insider Japanの質問に対し「引き続き議論を」と答え、慎重な立場を崩さなかった。これは最大派閥の細田派に影響力を持つとされる安倍前首相らを意識した発言と見られた。ところが、告示日が近づいてきた9月15日にはBS-TBSの番組で、導入を議論すべきと軌道修正した。これは若手議員や、選択的夫婦別姓に肯定的な河野氏の出馬を意識したものと見られる。同性婚についても「多様性を認めるということで、議論があってもいいと思うが、まだ認めるところまで私は至っていない」と述べ、否定的な姿勢だ。自身の公式サイトにも政策集を掲載し、「岸田BOX」と名付けた一般からのアンケートを募集。YouTubeで自身の言葉でアンケート回答するなど「国民の声を聞く政治家」という姿勢をアピールした。Twitterでも政策をPRしたり、岸田BOXや自身への質問にも回答。告示時点で約5.1万ほどだったフォロワーは約6.3万まで増えた。9月17日の所見表明後の記者会見では改憲について言及。自民党が掲げる憲法改正4項目について、任期中に実現を目指す姿勢を見せた。皇位継承については「女系天皇には反対」との立場を示した。2019年の参院選では岸田氏の地元組織、自民党広島県連が推薦した現職候補が、党中央の肝いり候補との「同士討ち」で落選した。この肝いり候補こそ、のちに公職選挙法違反で起訴される河井案里氏だった。
岸田新政権、発足間もなく総選挙。「任期満了」か「解散」か
10月4日召集の臨時国会を経て、岸田政権が発足する見通しだ。総裁選を争った河野氏、高市氏、野田氏らをどう処遇するのか。また、党役員任期を「1期1年・連続3期」までとし「権力の集中と惰性を防ぐ」と明言したことから、閣僚人事や党役員などの人事に注目が集まる。一方で衆院は10月21日に任期満了を迎える。注目されるのは、次期衆院選のタイミングだ。これまでに岸田氏は所信表明演説と各党の代表質問に臨む姿勢を示している。これに対し、野党側は予算委員会の開会も求めており、与野党で国会日程をめぐり対立が予想される。野党側は憲法に基づき臨時国会の開会を再三にわたって求めていたが、与党側が拒否していた。大前提として、10月4日の首班指名・組閣の直後の「解散」は現実的な日程ではないため、衆院選は10月21日の任期満了日以降に実施されることが確実と見られている。加藤勝信官房長官も、9月16日の記者会見で「(10月21日の)任期満了日前の総選挙は事実上なくなった」と表明。任期満了日を越えての総選挙は、日本国憲法下で初となる。その上で、選挙への選択肢は「任期満了」か「解散」かの2つになる。
「任期満了」の場合→投開票は「11月7日」or「11月14日」か
公職選挙法では、衆院の任期満了選挙について、以下のように定めている。
第31条―1 衆議院議員の任期満了に因る総選挙は、議員の任期が終る日の前30日以内に行う。
第31条―2 前項の規定により総選挙を行うべき期間が国会開会中又は国会閉会の日から23日以内にかかる場合においては、その総選挙は国会閉会の日から24日以後30日以内に行う。
この規定に基づき、かつ慣例に従い投開票日を「日曜日」とするならば「10月26日公示・11月7日投開票」か「11月2日公示・11月14日投開票」が想定される。任期満了選挙となれば、日本国憲法下では1976年12月の三木内閣での総選挙以来2度目となる。この時は、自民党が結党以来初めて過半数を割り込む惨敗を喫した。
「解散」の場合→最も遅い投開票は「11月28日」
一方で公職選挙法では、衆院の解散総選挙について、以下のように定めている。
第31条―3 衆議院の解散に因る衆議院議員の総選挙は、解散の日から40日以内に行う。
10月中旬に想定される代表質問後の「解散」となれば、任期満了の場合の「10月26日公示・11月7日投開票」「11月2日公示・11月14日投開票」に加えて「11月9日公示・21日投開票日」なども想定される。仮に任期満了日の10月21日に「解散」した場合は、最も遅い日程で「11月16日公示・11月28日投開票日」となる。憲法54条では、衆院総選挙から30日以内に特別国会を召集することが定められている。特別国会の召集とともに内閣は総辞職するため、日程や選挙結果次第では史上最短の内閣となる可能性もある。これまでに最も短かった内閣は、戦後直後の東久邇宮内閣で在職54日間だった。  

●自民党新総裁・岸田文雄氏を待ち受ける安倍政治からの決別という難題 9/29
自民党は危機の時代のリーダーに岸田文雄氏(64)を選んだ。臨時国会での首相指名を経て、岸田政権が発足する。新型コロナウイルス対策をはじめ、経済の再生、米中対立のもとでの外交・安全保障など数々の難題が待ち受けるなかでスタートする岸田政権だが、なんといっても最大の課題は、菅義偉首相の退陣表明以降の政局で見えてきた安倍晋三前首相の影響力をどう抑え込むか。つまり、「安倍政治」と決別できるかである。安倍政治は、これを継承した菅政権とともに、アベノミクスを展開する一方で、国会での説明責任を果たさず、多くの不祥事も生み、コロナ対策で行き詰った。目前に迫る衆院の解散・総選挙でも、安倍政治とどう向き合うのかが大きな争点になるのは必至だ。そこでつまずけば、岸田政権は短命に終わるだろう。
28年ぶりの宏池会の領袖による政権だが……
岸田氏は、9月29日に行われた総裁選の第1回投票で国会議員票は146票。河野太郎規制改革担当相(86票)、高市早苗前総務相(114票)、野田聖子幹事長代行(34票)を引き離した。党員投票では、岸田氏は110票で、河野氏(169票)には及ばなかったが、高市氏(74票)、野田氏(29票)を上回った。決選投票では、岸田氏が257票を獲得し、170票の河野氏を抑えた。岸田氏が率いる宏池会の出身者が政権を担うのは、宮澤喜一政権(1991〜93年)以来、28年ぶりである。「首相に最も近い」と言われた加藤紘一氏は、森喜朗政権に対抗した「加藤の乱」で挫折。河野洋平、谷垣禎一両氏は自民党総裁には就いたが、首相には届かなかった。池田勇人元首相が1957年に創設した宏池会は「軽武装、経済重視」を掲げ、自民党内のハト派・リベラル派を結集してきた。ただ、「軽武装」は日本が東西冷戦の時代に米国の庇護下にあったために維持できた政策だ。冷戦が幕を閉じ、米国が世界の警察官役を担えなくなった今、果たして「軽武装」を貫けるのか。米軍の展開を補うための防衛協力をどこまで拡大するのか。冷戦後の30年余、問われ続けてきたこの課題に宏池会も、自民党も明確な答えを見出せていない。政治、財界、官僚が三位一体となって進めてきた「経済重視」路線も変質した。グローバル化が進み、日本企業は海外に進出、外国企業が日本市場に参入してきた。通商産業省(現経済産業省)が企業を指導し、大蔵省(現財務省)が社会保障や公共事業の予算編成を取り仕切る時代は終わった。そんななか、宏池会の領袖、池田氏や大平正芳元首相、宮沢氏らが打ち出してきた理念・政策にとって代わる新しい体系づくり、いわば「宏池会2.0」が求められている。だが、岸田政権を取り巻く現実は厳しく、理念・政策の見直しの時間をかける余裕はない。
岸田政権誕生の立役者は安倍・麻生勢力
今回の総裁選で、岸田氏は党員票では河野氏に差をつけられたが、国会議員票を多く集めた。決選投票では、最初の投票で高市氏を推していた安倍氏が岸田氏支持に回ったことで、岸田氏が圧勝。総裁の座をつかんだ。麻生太郎副総理・財務相も、麻生派の河野氏が立候補しながら麻生派全体で河野氏を全面支援する態勢は取らず、麻生氏自身は岸田氏を支持している。安倍・麻生勢力が岸田政権誕生の立役者であることは間違いない。安倍氏にしてみれば、総裁選に河野氏が勝利して、自民党が「反安倍路線」を進むことは避けたいというのが本音だ。河野氏の陣営には石破茂元幹事長も加わっている。石破氏は、森友問題の再調査などを公言しており、安倍氏にとっては「不倶戴天の敵」だ。河野・石破政権を阻むために、まず高市氏を支援して党内保守勢力を固める。決選投票で岸田氏を支援して恩を売る。そうした安倍氏の戦略が短期的には成功したように見える。
「安倍支配」が総選挙の争点に
しかし、安倍氏の思惑通りにコトが進むとは限らない。11月に予定される総選挙では、野党側が岸田自民党に対して、「安倍支配」という観点から批判を強めるのは確実だからだ。攻めどころは主に三つある。第一に、安倍政権下で展開され、菅政権も引き継いだ経済政策「アベノミクス」批判である。先日、立憲民主党はアベノミクスの「検証結果」を発表。大規模な金融緩和によって富裕層はさらに豊かになり、低所得者の収入は伸び悩んで格差を拡大させたと結論付けた。コロナの感染拡大を通じ、安倍政権下ではデジタル化が進まず、医療体制も整備されていなかったことも露呈した。第二に、安倍政治が抱える強権体質である。日本学術会議の会員6人の任命拒否は、安倍政権下で検討され、菅政権で強行された。安倍政権では検察庁の力をそぐため、検察官の定年延長も強行されかけたが、世論の反対にあって断念せざるを得なくなった。第三に、歴代最長になった長期政権が生んだ多くの腐敗だ。森友学園問題では、安倍官邸に対する官僚たちの忖度(そんたく)体質が明らかになり、公文書改ざんを求められた近畿財務局職員の自殺という悲劇を生んだ。「桜を見る会」をめぐっては、安倍氏の公私混同と政治資金の不明朗な処理が発覚。安倍氏の秘書が政治資金規正法違反で立件され、安倍氏自身も検察審査会の判断を受けて、検察の再捜査が進められている。河井克行・案里夫妻の選挙買収事件では、自民党の選挙資金の恣意的な配分が判明している。安倍、菅両氏は、これらについて国会で十分な説明をせず、それどころか、安倍氏が追及する野党側にヤジを飛ばす場面さえあった。岸田氏がこうした体質を引き継ぐのかどうか。野党側の追及はやまないだろう。岸田氏は、1小泉純一郎政権以来の新自由主義的政策からの脱却を掲げ、アベノミクスについても「修正」を打ち出す、2強権体質を改め、池田勇人元首相が唱えた「寛容と忍耐」を踏襲する、3公私混同を排し、政治資金の透明化を進める――などと反論するだろうが、世論が納得するとは限らない。
「安倍院政」になるのか
さて、総裁選を経て政権への影響力を高めている安倍氏だが、今後、「安倍院政」は敷かれるのだろうか。首相を退陣した後も、自民党内で影響力を誇ったケースは過去にもある。代表的なのが田中角栄元首相である。金脈批判を受けて1974年に退陣した後も10年余、「闇将軍」として隠然たる力を保った。100人を超える田中派、豊富な資金力という「数とカネ」が、「田中支配」の力の源泉だった。実際、1982年に発足した中曽根康弘政権は田中支配を強く受けていたことから「田中曽根政権」と呼ばれた。田中氏の意向に反した首相が、数の力で引きずりおろされたこともあった。安倍氏にはそこまでの影響力はない。出身の細田派(細田博之会長)は100人に迫る党内第一派閥だが、安倍氏が会長の座に就くまでには時間がかかりそうだし、その場合、派閥を離脱する議員も出てくるだろう。政治資金の配分という点でも、「田中支配」の時代に比べて派閥の比重は大きく低下。そもそも、党執行部が資金を差配するようになってきたため、安倍氏が派閥を率いるようになったとしても、派閥領袖の影響力は限定的だ。「安倍院政」の足元は脆弱である。
最初の試金石は自民党役員・閣僚人事
今後の焦点は、岸田氏が首相の持つ人事権や予算編成権を使って、安倍氏の影響力を徐々に弱めていけるかどうかだ。ちなみに、宏池会で岸田氏の先輩となる宮沢氏は、政治的にそりの合わない竹下派の金丸信、小沢一郎両氏の支援を受けて総裁・首相に就いたが、政権発足後は、金丸、小沢両氏との距離を徐々に広げていった。政権発足から1年後には、金丸、小沢両氏を批判してきた河野洋平氏を官房長官に起用。竹下派内で小沢氏と対立していた梶山静六氏を幹事長に抜擢(ばってき)するなど、金丸、小沢両氏との距離を広げていった。岸田氏が安倍政治との決別に踏み出すのかどうか、その最初の試金石となるのが、自民党役員と閣僚人事だ。幹事長や官房長官などの要職に、安倍氏の意向に沿うような人を起用すれば、「安倍支配」との批判が噴き出すだろう。また、安倍政権下で金融緩和を進めてきた日銀の黒田東彦総裁の後任人事についても、アベノミクスの継続か修正かといった観点から論評されるだろう。
深まる安倍、菅両氏の対立
今回の総裁選では、菅義偉首相が河野氏支持を鮮明にし、小泉進次郎環境相ら菅氏に近い中堅・若手も河野氏を推した。安倍政治批判の急先鋒である石破茂元幹事長も河野氏を支援した。菅氏は安倍政権を官房長官として支え、後継首相に選出されると安倍政治の継承を掲げたのだが、二階俊博幹事長の処遇などをめぐって安倍、菅両氏の対立が深まった。菅氏が強引に解散・総選挙に踏み切ろうとした場面では安倍氏が阻止に動き、両氏の対立は決定的になった。両氏の対立構図は、今後の党役員・閣僚人事や総選挙での公認・重点候補の支援などに影を落とすだろう。岸田氏が安倍政治とどう決別するは、自民党内の問題にとどまらず、総選挙での大きな論点となる。立憲民主党などの野党は、格差拡大や様々なスキャンダルを指摘して安倍支配との決別を叫ぶ。最終的に安倍政治と決別するかどうかを決めるのは、総選挙での民意に他ならない。

●安倍晋三前首相は「組閣のことで頭がいっぱい」 高市早苗氏をねぎらい挨拶 9/29
安倍晋三前首相(67)が29日、自民党総裁選で涙を飲んだ高市早苗前総務相(60)の結果報告会に出席して、あいさつを行った。
安倍氏は高市氏支援のため、自民党議員に自ら電話するほどの熱心さをみせていた。高市氏の躍進はこのアベノフォン≠フおかげともささやかれている。
安倍氏は「私たちは高市さんを通じて『自民党はどうあるべきか』を訴えることができたのではないでしょうか。確固たる国家観を示し、私たちグループの主張はほかの候補にも影響を与えることができたのではないでしょうか」と胸を張った。さらに「論戦によって離れかかっていた自民党支持者が戻って来たんじゃないか。今度は岸田新総裁のもとで次の選挙を勝ち抜いて行こう」と気勢を上げた。
永田町関係者は「安倍氏の頭はすでに組閣のことでいっぱいですよ」と指摘。アベノフォン≠ヘもうしばらく続きそうだ。

●「安倍氏のかいらい政権」 野党、岸田新総裁を一斉批判 9/29
自民党新総裁に岸田文雄前政調会長が決まったことを受け、野党は29日、「自民党は変われないことを示した」(立憲民主党の枝野幸男代表)などと一斉に批判した。河野太郎規制改革担当相がトップの党員投票結果と異なり、国会議員投票は安倍晋三前首相ら「反河野」の影がちらつく結果とみて、衆院選を前に岸田氏への対決姿勢を強める方針だ。
枝野氏は記者団に「安倍・菅政権の何を否定するのか、明確に示していただくことが必要だ」と強調。特に、安倍氏の経済政策「アベノミクス」への是非を明確にするよう求めた。立民幹部は「岸田氏は安倍氏のかいらいだ。背後霊が見えるので対立軸をつくりやすい」と分析した。
共産党の志位和夫委員長も記者会見で「『安倍・菅直系政治』を選んだ。党の表紙だけ変えても、中身は変わらない」と酷評。「行き詰まった自公政治を終わらせる、政権交代こそ求められている」と訴えた。
国民民主党の玉木雄一郎代表は記者団に「岸田氏が掲げた政治の信頼回復が、安倍氏の影響下でどれだけ実現できるのか厳しく見定めたい」と語った。
安倍・菅政権に「是々非々」路線で対応してきた、日本維新の会の松井一郎代表も大阪市内で記者団に「永田町の常識は世間の非常識。党内の権力争いの中、旧態依然とした体質をさらけ出したのではないか」と距離を置いた。

●菅内閣の“功罪” 9/29
自民党総裁選挙での新総裁選出に伴って、菅総理大臣は退任する。去年9月、国民の高い期待を背負って発足したものの、最後は混乱の中で突然の退陣となった菅内閣は、この1年余りで何を残したのか。日本政治を見つめてきた2人の政治学者が足跡を振り返り、その「功」と「罪」を語る。
2020年9月 菅内閣発足
去年9月、総理大臣を辞任した安倍晋三の後継を争う自民党総裁選挙で圧勝し、第99代の総理大臣に選出された菅義偉。「国民のために働く内閣」を掲げ、内閣発足直後のNHKの世論調査では、支持率62%という高い水準でスタートを切った。そして、10月の所信表明演説。「2050年カーボンニュートラル」「携帯電話料金の値下げ」「デジタル庁の設立」「不妊治療の保険適用」菅は内閣の目玉政策を次々と打ちだした。
「脱炭素」は菅のリーダーシップ
自民党などの政党史を研究してきた一橋大学大学院教授の中北浩爾は、これらの政策には政治家としての菅の基本姿勢が投影されていると指摘する。「時代の流れで必須のことは先駆けてやっていこうということと、国民が今、本当に困っていることで、省庁間の縦割りや官僚の抵抗などで動かないことを、とにかく動かしていこうという、この2つが菅総理の基本的な政策的な考え方なのだと思う」「不妊治療の問題や子どもの問題は手を付けていかないと日本が先細っていくんじゃないかと分かっていながら、なかなかできない部分があった。そこを官僚を使って、グーッと前に進めていく突破力は菅総理らしいところなのではないか」こうした政策の中でも「2050年カーボンニュートラル」は高く評価しているという。「最初に国会での演説から出てきたが、当然、政府全体の方針ということになってくるわけで、菅総理のリーダーシップがあったとしか考えられない。菅総理の独自色が出た部分なのではないか」
「行政官的総理」の真骨頂
「オーラル・ヒストリー」を通じて、菅を含む多くの政治家に向き合ってきた東京大学名誉教授の御厨貴は、菅を「行政官的総理」と位置づけ、個別具体的な政策を進める能力にたけていたと指摘する。「僕が感じたのは、この人は、分かりやすいところにポイントを当てるんだなということ。携帯電話の料金を下げることが総理が言うべき政策かどうかを議論するといろいろあるが、それでも、とにかく、そういうものを取り上げて、あまり大きいことじゃなくて、個別の具体的なものをつかんでいく人だなと思った」「政治というよりは、むしろ行政官の一番上にいる、つまり『行政官的な総理』として、全部仕切ったという印象が強い。安倍さんのもとでも、官房長官として、そういうことをやってきたが、総理になっても、官房長官的な役割で行政官として上から何かを命じてやっていくということは、うまくそれなりに回したのだと思う」御厨は、特にデジタル庁の創設が、総務大臣も経験して、官僚組織を知り尽くした菅の真骨頂だったと評価している。「いろいろ問題はあるが、コロナの中でデジタル庁を作るというところまで持って行ったのは、すばらしいことだったと思う。なんといっても、あれだけの短い期間で作ってしまったというのは、『行政官的総理』の一番いいところだったのかもしれない」
2020年12月 Go Toトラベル停止
順調な滑り出しに見えた菅内閣だったが、徐々に新型コロナの感染拡大の影が忍び寄る。2020年11月以降、第3波が襲い、12月には、菅が、観光業支援の決め手として推し進めてきた「Go Toトラベル」が全国一斉停止に追い込まれた。
コロナを甘く見ていた
中北は菅が経済対策に軸足を置きすぎてコロナを甘く見ていたのではないかと指摘する。「Go Toや観光は、菅総理が官房長官時代から力を入れていた政策だったので『やはり、これは続けたい』『事業者が苦しんでることを座視できない』という思いがあったと思う」「経済対策に軸足を置こうとしたのが菅政権だったが、感染拡大が常に起きて、その結果、後手後手になるということが繰り返された。コロナを甘く見たというか、感染拡大がさほど進まないんじゃないかという希望的観測みたいなものが、知らず知らずのうちにあったのかもしれない」
2021年1月 緊急事態宣言再発出
その後も感染拡大は収まらず、大みそかには、東京で、新規感染者数が初めて1000人を超え、ついに1月8日、東京など首都圏の1都3県に再び緊急事態宣言が出される。感染はさらに拡大し、緊急事態宣言は、その後も、延長や再発出が繰り返され、「自粛疲れ」や「宣言慣れ」も指摘される状況となっていく。
「いつまでやるつもりだ」
御厨は、宣言の延長や再発出に国民が不満を募らせていったと考えている。「『緊急事態宣言は、もう1回しかやりませんよ』と言うんだったら、それでやめて、全然別の手を打つようにしないとダメで、2回目、3回目の延長なんてやっていたら、国民の方も『いつまでやるつもりだ』となる。国民の側の『コロナをなんとかしてほしい』という気持ちにぴったり合った政策として出していなかった」
2021年4月 バイデン大統領と初会談
こうした中、菅は、アメリカを訪問し、バイデン大統領が対面で会う初めての外国首脳として日米首脳会談に臨んだ。中国を念頭に置いた「自由で開かれたインド太平洋」の実現など、安倍の外交路線を踏襲した。
外交はマイナスもプラスもなし
中北は、対中国でのアメリカなどとの協力関係の構築に一定の評価をする一方、外交面での目立った進展はなかったと指摘する。「コロナがあったから、外国に行ったのはアメリカ、イギリス、東南アジアの3回だけで、ほとんど外交をやる機会がなかった。成果は対中国で協力関係をきちんと確認するということはあったと思うが、菅総理らしい政策として出てきたわけでは必ずしもない。韓国の問題も、安倍政権末期のところで引っかかってしまい、ロシアも同じくで、なかなか難しかったわけだが、マイナスもなければプラスもなかったというところではないか」
2021年6月 ワクチン接種100万回達成
新型コロナ対策が後手に回っているという批判も浴びた中で、菅が対策の切り札として期待をかけていたのがワクチン接種の加速化だ。1日100万回の接種を掲げ、6月24日、政府は、その目標を達成したと発表した。
総理が旗を振った成果
中北は、当初示していた供給量の見通しなどについては検証が必要としつつも、政治主導で接種を進めたことは高く評価できるとした。「当初、『1日100万回なんて、できるわけがない』と、みんな思っていた中で、それを超えて実現してきたことは、菅総理が相当なリスクを負って旗を振った成果だというのは間違いないのではないか。批判もあるかもしれないが、『功』の部分として率直に認めるべきで、それがなければ、たぶん、今、デルタ株の感染が広がっている中でもっと悲惨な状況になっていたと思う」
2021年7月 東京五輪の無観客開催を決定
感染が拡大する中での東京オリンピック・パラリンピックの開催には、国内でも賛否が分かれる状況となっていた。東京に4回目の緊急事態宣言の発出を決めた7月8日、IOCや東京都、政府などの5者は、東京オリンピックは、ほとんどの会場で観客を入れずに開催することを決めた。
評価は難しい…
御厨は、無観客での開催について、今は評価を下すのが難しいと話す。「無観客でも何でもやり通すことができたこと自体は1つの功績かもしれないし、オリンピックを開いたことによって爆発的にコロナがとんでもない状況になったわけではないので評価は少し難しい。特にパラリンピックは観客がその場で見て、ある種の感動をするものだ。そういうことを含めて評価というのは、もう少し後にならないとできないかもしれない」
2021年8月 横浜市長選挙で敗北
菅内閣は任期中、選挙では苦戦を強いられた。ことし4月、政権にとって最初の国政選挙となった、衆参あわせて3つの補欠選挙と再選挙では、候補者擁立を見送ったものを含めて全敗。7月の東京都議会議員選挙では、4年ぶりに第1党となったものの、過去2番目に少ない議席にとどまった。そして8月、菅のお膝元で行われた横浜市長選挙では、菅が支援した元国家公安委員長の小此木八郎が大差で敗れた。これが政権の致命傷になったとの指摘も出ている。
コロナで負け続けた
御厨は、敗北の原因として、政権のコロナ対応への国民の不満が通底していたと指摘する。「4月からの選挙で、とにかく全部負けてしまったが、コロナがうまくいかないという中で選挙があると、与党に物を申そうという人は与党に投票しない。これまで自民党支持であっても今回は嫌だという人が増える。要するに、最後の横浜市長選もそうだけれど、全部コロナの対応がうまくないから負けている」
2021年9月 人事と解散で退陣へ
そして、9月にかけて、菅内閣への遠心力が強まっていった。自民党総裁選挙への立候補を表明した岸田文雄が党役員の任期の制限を打ち出し、党内の一部には、在任期間が長期化している幹事長の二階俊博を念頭に「二階外し」と受け止められ、評価する声もあった。これに反応するかのように、菅は二階の交代を含む党役員人事を行う意向を固めるが、これを境に政権の命運は暗転していく。「菅では衆議院選挙は戦えない」という声も出る中、菅が人事を行ったあと、衆議院を解散し、総裁選挙を先送りするのではないかという見方が一気に広がったことで、みずから「解散できる状況ではない」と火消しに追われる事態となり、事実上、総理大臣の伝家の宝刀である「解散権」を封じられた形となった。そして、2日後、菅は総裁選挙への立候補断念を表明する。
得意な人事で道を誤った
最後の混乱を2人はどう見たのか。御厨は得意だったはずの人事が命取りになったと分析する。「解散する前に人事一新なんてあり得ない。総裁に再選されるのも、衆議院の総選挙で勝つのも、どっちも『これまでの業績をみんなが判断してください』ということなのに、『新しい顔にしましたから、これで私を』というのは…。どう間違えても、あそこで解散をするというのはあり得ない。ずっと持ち続けていた札を最後に全部一挙に手放して、もう解散権もない、人事権もない、何にもできないっていう総理大臣になってしまった」「あれだけ人事権とか、そういう権限にこだわり、人をコントロールしてきた人が最後に大失敗した。人間は得意な分野で道を誤るというけれど、そうだったんだと思う」
「チーム安倍」との比較
中北は、「チーム安倍」と呼ばれた部下を率いて政策を進めた安倍と、チームをうまく作れなかった菅という対比の観点から分析する。「菅総理からすると、自分は精いっぱいやっているという思いがあったのかもしれないけれども、客観的には、もう身を引いた方がいいというような状況だった。周りから十分な情報が入らず、希望的観測に流れていたのではないか」「政策も大切だけれど、それを推進するための力をどうやって持てるか。菅総理自身は、人事を使って官僚を動かすところはうまかったが、そこで止まってしまった。チーム力と国民への訴えかけが弱く、その点をコロナで一番問われてしまった」
派閥経験と自分の言葉という教訓
最後に、菅内閣が果たした役割や残したものは何だったのか、2人に語ってもらった。御厨は、「派閥とどう向き合うか」、そして「語ることの大切さ」という2つの教訓を残したと指摘する。「安倍内閣から禅譲され、しかも、派閥がみんな一挙に乗っかって、総裁選挙も簡易な形でやったために本格総裁にならなかった。『本格総裁でなくて禅譲でやっていくという政権っていうのは相当危ない』ということをこれから後の人はたぶん思うだろう。しかも、無派閥でいることがこんなに危ないことはない。一挙に来るけど、最後の所で一挙にみんな逃げたわけだから。派閥政治に戻すのがいいことではないが、ある程度、派閥を経営している、経験しているような能力がないと出来ないというのが菅内閣が残した教訓の1つだと思う」「同時に、これからの総理大臣は、これだけ情報過多の時代だから、みずからの言葉できちんと国民に訴えなきゃいけない。自分の言葉でしゃべって、自分の言葉で納得してもらうことが、国民との距離を縮めていくことになる。言い方は悪いけれども、菅内閣が反面教師になって、そういう総理大臣の資質みたいなことが出てきている」
安倍・菅政権の功罪直視を
中北も、菅内閣は「党内基盤を持つことの重要性」を教訓として残したと指摘した上で、今後は安倍政権と菅政権の功罪を直視する党内議論が必要だと指摘する。「政権運営上はチーム力が不足していたという問題を直視しないといけないと思う。党内基盤が固い政治家を総理に押し上げるシステムをどうやって自民党が作れるか、そのために1つは今回のようにうんと激しい総裁選挙をやらないといけなかった。激しい総裁選挙の中でチームも出来てくる」「菅総理がああいう形で辞めた結果、総裁選挙で候補者がたくさん出てきて、言いたいことが言える状態になっている。自民党にとっては望ましい状況が出来た中で、どれだけ安倍政権と菅政権の功罪を直視し、消化できるのかという議論はあってしかるべきではないか」
“功罪”を教訓として生かせるか
両氏のインタビューを進めると、いくつかの指摘が重なっていることに気付いた。説明や発信のしかたで国民との距離を生んでしまったこと、党内にしっかりした支持基盤があることが政権運営には決定的に重要だという教訓を残したことなどだ。「コロナ対策は誰がやっても上手くいかない」そんな声が政府与党からよく聞かれたが、次の内閣も、当然、新型コロナ対策に向き合うことになる。菅内閣の“功罪”を教訓として生かすことができるのかも、新しい総理大臣に問われていると言えそうだ。
 

 

●「高市さんを幹事長に推せ!」 派閥幹部が頭を痛める安倍前首相電話 9/30
「総裁選は終わった。ノーサイドだ」自民党の岸田文雄新総裁(64)は総裁選の投開票が終わった後、こうあいさつしていたが、実際は違うらしい。幹部ポストをめぐって水面下で激しい綱引きが行われているというのだ。党最大派閥「細田派」の所属議員がこう明かす。
「総裁選直後から、安倍さんが幹部にしつこく電話をかけてくるのです。『高市さんを幹事長に推せ』と」
安倍氏は、自分が号令をかけて高市早苗前総務相(60)を押し上げ、それが決戦投票につながり、岸田氏が勝ったのだからポストを与えろ――と言いたいらしいが、理由はそれだけじゃないという。
「安倍さんは菅政権で自分を応援していた右派系支持者が離れたと思っていて、それが不満だったようです。だから、高市さんを幹事長に就けて彼らの支持を取り戻したい。総裁選後、『(これで)多くの自民党支持者が戻った』と話していたのは、その表れです。でも、こう言っては何ですが、安倍さんはもう、うちの派閥を離れているのです。しつこく電話してくるのはたまりませんよ」(前出の細田派議員)
「ノーサイド」どころか、これからが本当の「キックオフ」らしい。

●岸田新総裁しょせんは「安倍・麻生傀儡政権」 9/30
「1期1年、連続3期まで」という党役員任期の改革案を打ち出し、「二階幹事長外し」で自民党内のド肝を抜いた岸田新総裁だが、威勢がよかったのは投票まで。就任直後の記者会見では、早速、派閥長老への“忖度”意識が露見した。
「中堅・若手を登用する」とはしながらも、「老壮青のバランスが大事だ」「党の実力者の方々も素晴らしい能力をお持ちだ」と付け加えるのを忘れなかった。「早急に人事の『たたき台』をつくる」と言ったが、「たたき台」を持って安倍前首相や麻生財務相にお伺いを立てるのか。「岸田氏の勝利に貢献した細田派(つまり安倍氏)、麻生派、竹下派の3派閥は、当然、それなりの処遇を求めてくるでしょう。どこまで岸田政権としての独自色を出せるかですが、結局、ボス連中に気を使った、派閥均衡の守りの人事にならざるを得ないのではないか」(政治評論家・野上忠興氏)
要職には3派閥から起用か
しょせんは、安倍・麻生傀儡政権なのだから、自分の人事などできるわけがない。早くも、要職には3派閥からの起用案が取り沙汰されている。総裁選期間中から幹事長に有力と噂されていたのが、麻生派の甘利明税制調査会長だ。安倍・麻生と合わせて「3A」という呼び名もある。大臣室で現金50万円を受け取った口利き疑惑の説明がいまだ済まされていないのに、幹事長就任で“みそぎ”の魂胆だ。幹事長や官房長官には細田派の萩生田光一文科相も浮上。「最大の功労者は、やっぱり安倍さん。まずは細田派でしょう」(細田派関係者)ということらしいが、萩生田氏は加計学園疑惑で名前の挙がった「スネ傷」持ちである。
「ドリル優子」の汚名返上狙い
竹下派からは小渕優子元経産相の要職起用も囁かれる。小渕氏は、派閥の方針が定まらない中、告示翌日には岸田氏支持を表明していた。「政治とカネ」で長らく蟄居してきたが、甘利氏同様、「ドリル優子」の汚名返上狙いだ。竹下派では、茂木外相の留任や幹事長、官房長官への横滑りも浮上している。「悩ましいのが麻生氏の処遇。本人が財務相留任を望んでいるという話もある。10月13日には在任期間が歴代2位の高橋是清を抜くことになっています」(永田町関係者) 官房長官の資質について岸田新総裁は「総理との相性」と言っていたから、本来は自分の派閥から出したいのだろう。「ただ、小野寺五典元防衛相や根本匠元厚労相ではパッとしない。そこで、女性官房長官として、上川陽子法相が挙がっている」(自民党関係者) 岸田新総裁は総裁選期間中、「女性閣僚を5人入れたい」と口にしていた。「1位3位連合」で決選投票を制した高市前総務相の要職起用は堅い。野田幹事長代行と河野ワクチン担当相は、さてどうなるか。いずれにしても、安倍氏の支配が色濃い人事になることは確実だ。

●岸田新総裁が麻生氏と会談…幹事長に甘利明氏起用へ 9/30
就任から一夜明けた、自民党の岸田文雄新総裁(64)。30日朝、秘書で長男の翔太郎氏とともに、自民党本部に姿を見せると記者団の取材に応じた。
岸田文雄新総裁「就任して実際活動を始めますと、やることはいっぱいあるなと。日程もかなり窮屈な状況ですので、大変、目まぐるしく今、活動を始めております」
次の首相を決める総裁選で勝利し、念願だった総裁の座を射止めた岸田氏。
岸田文雄新総裁「責任の重さみたいなものは感じます」
岸田氏が最初に取り組んでいるのが、党の役員と内閣の人事。人事について29日、「簡単ではない。1日かかるのではないか」と話していた岸田氏。30日、あらためて聞かれると...。岸田文雄新総裁「いろいろ検討いたします」、「(人事の構想は固まりましたか?)今、よく考えております」
このあと、自民党本部の総裁室で、側近議員と会談した岸田氏。人事で、“独自カラー”は出せるのか。
麻生副総理「いい方が選ばれたのではないか」
安倍前首相「次の衆議院選挙、今度は岸田新総裁のもとに、ともに勝ち抜いていこうではありませんか」
こうした中、党運営のかなめとなる幹事長に、安倍前首相の盟友で、麻生派の甘利明氏の起用が固まった。30日昼、自身の派閥の総会に出席し、拍手で迎えられた岸田新総裁。
岸田文雄新総裁「宏池会、30年ぶりの総裁派閥として、日本の国難を乗り越えるべく、力を合わせて努力をしていきたいと思います」
岸田氏は、この1時間ほど前、東京都内のホテルを訪れていた。会談の相手は、同じホテルから出てきた、ハットをかぶった麻生副総理。2人は会談で、人事について意見交換したとみられる。焦点となる人事で、名前が浮上していたのが、派閥の会合に出席する際、「幹事長」と声をかけられ、笑みを浮かべた麻生派の甘利明税調会長(72)。そして30日、幹事長への起用が固まったことがわかった。
岸田氏と近い関係にある甘利氏。総裁選では、陣営の先頭に立ち、岸田氏を支えた。
甘利税調会長「党改革のファーストペンギンは岸田文雄さん。紛れもなく、岸田文雄さんにほかならないわけであります」
安倍内閣で閣僚を務めるなどした、麻生派の甘利氏。また、閣内か党の要職に、安倍前首相の側近、萩生田文科相を起用する案が検討されている。さらに、総裁選を戦った高市氏を重要閣僚で、河野氏と野田氏を重要ポストで処遇する案が浮上。そして、首相の女房役となる官房長官には、自身の派閥から、上川法相や小野寺元防衛相の名前が取りざたされている。
一方、立憲民主党の枝野代表は30日、次の衆議院選挙に向けて、野党各党の党首と相次いで会談。連携を強化していくことを確認した。
立憲民主党・枝野代表「次の総選挙において、自公政権を倒し、新しい政治を実現するということで確認した。残念ながら、自民党は変わらない、変われないと受け止めている」

●高市氏を政調会長に起用へ 安倍氏の支援受けて決選投票で岸田氏と連携  9/30
自民党役員人事で、高市早苗前総務相の政調会長への起用が固まった。岸田新総裁は、高市氏を党四役の政調会長に起用する意向を固めた。無派閥の高市氏は、今回の総裁選挙で、安倍前首相の全面支援を受け、1回目の投開票で3位だった。また、高木毅衆院議員の国会対策委員長の起用も固めた。

●安倍前首相 影響力を誇示 菅首相は党内求心力のさらなる低下  9/30
安倍晋三前首相は高市陣営の報告会に姿を見せ、論戦を通じて保守派の支持を固め直すことができたとの認識を示し「多くの支持者が自民党の元に戻ってきてくれたのではないか」と意気揚々に話して会場を沸かせた。国会議員や地方有力議員への猛烈な電話攻勢で支持を要請。90票台後半とみられていた議員票は20票ほど上乗せされ、その影響力を党内外に示した形だ。
一方、菅義偉首相は「政策を議論し、磨き上げるという自民党の底力を国民に示した」と指摘。支持した河野氏が岸田氏に完敗したことで、党内求心力のさらなる低下は避けられない。2人の首相経験者で明暗が分かれた格好となった。

●「すべては安部氏のシナリオだった」…菅氏は最後まで「マイナスの手」 9/30
「これで決まった!」29日に行われた日本の自民党総裁選挙を2日後に控えた27日午後、東京・衆議院会館の安倍晋三前首相の事務所に甘利明自民党税制調査会長が訪ねてきた。安部氏は自身の保守路線を受け継いだ高市早苗前総務相を、甘利氏は岸田文雄候補を支持している状況だった。2人はこの席で、総裁選が決選投票となった場合、岸田氏に票を集める案に合意したという。日本経済新聞は30日、この日の2人の会合現場を描写しつつ、「総裁選の結果は事実上、この日決まった」と報じた。
今回の選挙で岸田氏が世論の高い支持を受けた河野太郎行政改革担当相を抑えて次期首相になったのは、「安倍氏のシナリオ通り」だったと日本メディアが報じた。安部氏は今回の選挙で自身の宿敵である石破茂元幹事長と手を握った河野担当相を落とすために、内心では岸田氏を支持しつつも、高市氏を積極的に推したという。
党員に人気の高い河野氏が1次投票で過半数を確保するのを防ぐために高市氏を最大限に勢い付け、票を分散させた後、国会議員票の割合がはるかに大きい決選投票で勝負に出る戦略だったということだ。
安部氏は、選挙直前まで自身が属する派閥の「細田派」の議員に一人ずつ電話をかけて支持を訴え、これが結果に表れた。序盤には、出馬のために国会議員20人の署名を受けることさえ容易ではないと予測されていた高市氏は、1次投票で有効票の24.7%に当たる188票を得た。3位となり決選進出には失敗したが、国会議員票では114票を確保し、2位の河野氏(86票)を上回る「異変」を起こした。
「安倍氏の天下」は続く
今回の選挙で安倍氏の政治的底力が改めて確認され、「安倍氏の天下」は今後も続くものと見られる。30日、読売・毎日新聞などによると岸田氏は自民党の新幹事長に自身の当選を積極的に支援した甘利明税制調査会長を、内閣官房長官には萩生田光一文部科学相を登用するものとみられる。
甘利氏は安倍前首相、麻生太カ副首相兼財務相と共に「3A」と呼ばれ、第2次安倍内閣を牛耳った人物だ。萩生田文部科学相も「細田派」所属で、やはり安倍の最側近だ。安倍氏の「手足の役割」を果たしてきた2人が岸田政権の中核を占める格好だ。
麻生副首相も新内閣で副総理を続投するとみられるとテレビ朝日が報じた。安倍前首相本人も来年、細田派の首長として復帰を狙っている。自民党内最大派閥の首長に戻り、本格的に政治活動を再開すると、「第3次安倍内閣」も可能性という話まで出ている。
菅首相が支持した候補者は、今回も…
一方、今回の選挙の「Xマン」は菅義偉首相だったという見方も出ている。選挙序盤に「改革」を掲げた河野氏を支持していた国会議員が大挙して岸田氏支持に転じたのは、菅首相が辞任の意思を表明するなり自民党の支持率が急上昇したためだという。菅氏を「顔」として掲げては衆議院選挙は厳しいと判断した国会議員が党の支持率が上がり始めたことを受け、「菅氏でさえなければ、河野氏でも岸田氏でも大丈夫だろう」と判断したものとみられる。
4月の補選・再選挙、7月の東京都議選、8月の横浜市長選と在任中に行われた3回の選挙で、菅首相が支持した候補者が相次いで敗れた。特に横浜市長選には、自身の盟友を出馬させて応援したが、結果は良くなかった。今回も、自身が支持した河野担当相が落選し、「マイナスの手」であることを証明した格好になった。
河野陣営でも菅首相の支持を喜ばない雰囲気だったという。河野氏に票を入れたある議員は、神奈川新聞とのインタビューで「『横浜市長選の二の舞になる』との他陣営からの前評判ややゆを跳ね返すことができなかった」と悔やんだ。

●人事、政策、衆院選…岸田氏の“試金石” 9/30
自民党の新総裁になった岸田文雄氏は、安倍政権や菅政権との違いをどう打ち出していくのか―。その試金石となるのが、派閥にとらわれない「人事」、所得倍増計画などの「政策」、自らが顔となる「衆院選」です。国民に届く政治を実行できるか、注目されます。
人事で「支持だだ下がり」懸念ナゼ
有働由美子キャスター「自民党の新総裁に選ばれた岸田氏は29日、自身の特技として『人の話をよく聞く』と語りました。安倍前首相や菅首相の時とは違う、という意思表示だと思いましたが、どう変わっていくのでしょうか」
小栗泉・日本テレビ解説委員「それを測る、3つの試金石があると思います。まずは、派閥にとらわれない思い切った人事ができるかです」「例えば麻生副総理の処遇について、ある自民党の中堅議員は『岸田さんが麻生さんらを起用したら、支持率だだ下がりだと思う。党役員の任期制限を打ち出したのに、ずっと閣内にとどまっている麻生さんを切らないのは、筋が通らない』と話していました」
安倍氏「意向」と河野氏の役職は?
小栗委員「総裁選を共に戦った3人には、どんなポジションを提示するのでしょうか。決選投票で岸田氏は、安倍前首相が支援した高市早苗前総務相の陣営と連合を組んだだけに、安倍氏の意向を無視できないとの見方もあります」「また、河野太郎ワクチン担当相について、ある自民党関係者は『安倍さんとそりが合わない河野さんをどういう役職に就けるか難しい』と話します」「しがらみの中で、岸田カラーを出していけるのでしょうか。岸田氏が『(30日の)1日かかるのではないか』と話した党役員人事と来週の組閣は、併せて注目です」
有働「『生まれ変わった自民党を見せる』と岸田氏は発言していたので、どういう顔ぶれにするのか注目ですね」
大規模経済政策…「財源」どこに?
小栗「2つ目の試金石は政策です。岸田氏は選挙戦を通じ、『令和版所得倍増計画』として、例えば新型コロナウイルスの中で苦労している看護師、介護士、保育士らの賃金アップや、子育て世帯の負担となっている住宅費や教育費の支援をしていくとうたっていました」「さらに29日の会見では、年内に数十兆円規模の経済対策を講じるとしました」
有働「財源はどこからなのか、気になります」
小栗「消費税については、前回『news zero』に出演した際にも『当面引き上げない』と言っていましたので、国債の発行、つまり借金を増やして対応することになります。ただ元々、岸田氏は財政再建を重視するスタンスです」
有働「そのあたり、国民が納得するようにどう説明するかが問われますね」
衆院選の勝敗ライン「与党過半数」
小栗「3つ目の試金石は、これから岸田氏が『自民党の顔』として戦う衆院選です」
有働「いつでしょうか?」
小栗「気になりますが、岸田氏は衆議院の解散について『しかるべき時期を判断していきたい』と話していました。現状のスケジュールを確認しましょう」「臨時国会は10月4日に召集され、岸田氏が第100代の首相に選ばれる見通しですが、今、自民党の中では、『新首相が13日か14日に衆議院を解散するのでは』との見方があります。その場合、26日に公示、11月7日に投開票という衆院選の日程がささやかれています」「衆議院の与党の議席数は現在、自民党275、公明党が29の合計304。過半数は233です。岸田氏は29日、『勝敗ラインは与党で過半数』と言いました。」
有働「ずいぶん無難なラインですね」
小栗「与党の自公で70議席減らしても大丈夫というレベルなので、堅実なラインですね。衆院選は岸田氏にとって、その後の求心力を高められるかどうかの大きな試金石となります」
辻さん「リーダーの意志明確に」
有働「事実上の次の首相となる岸田氏に求めることは何ですか?」
辻愛沙子・クリエイティブディレクター「岸田氏は選挙中、候補者4人の中でも特に、本人の意思がどこにあるのかが見えない印象でした。例えば選択的夫婦別姓と同性婚について、留保のスタンスでしたが『議論が必要』と言ったり、ジェンダーギャップの課題でもクオーター制に関して『反対』と言いつつ『努力は必要』としていて、結局どっちなんだろうと思うものが多かったです」「議論も努力ももちろん必要だとは思いますが、リーダーの意志としては、具体的にどこを向いてどんなアクションをしてくれるのか、明確にしていただけたらと思います」
有働「岸田氏が何度も強調したのが、『国民の声をしっかり聞き、国民に届く政治の説明をする』でした。それを実行する力を、しっかり見ていこうと思います」

●岸田新総裁は安倍・菅直系 何から何まで路線継承 9/30
29日に、河野太郎規制改革担当相、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行を破り、自民党新総裁に選出された岸田文雄前政調会長。岸田氏のコロナ対応や外交、改憲への姿勢などは「安倍・菅政治直系」ぶりが鮮明です。
外交 / 安保法・同盟強化を担う
岸田氏は、第2次安倍政権発足から17年8月まで、戦後最長の約4年8カ月にわたり外相を務めました。稲田朋美氏の辞任に伴って、17年7〜8月は防衛相も兼任。安倍氏との「蜜月」ぶりを示しました。
安倍氏は当初、米中双方から「超タカ派」とみられており、「ハト派」のイメージがある宏池会会長・岸田氏の起用は、そうした印象を和らげるためとの見方もありました。しかし、実際は、安保法制や辺野古新基地建設の強行など、安倍氏と一体になって日米同盟強化を推進しました。
24日のオンライン公開討論会では、外相時代の実績として15年6〜9月の「安保法制国会」で「216時間答弁に立った」ことを誇示。これに先立つ同年4月、安倍氏が米議会で安保法制の成立を米側に誓約し、日米同盟を「希望の同盟」だと言い放った屈辱的な演説について、岸田氏は著書『核兵器のない世界へ』の中で「歴史的な演説」だと絶賛しています。
さらに13日の会見で、安倍氏が推進してきた「自由で開かれたインド太平洋構想」の継承を宣言。憲法違反の敵基地攻撃能力の保有についても「有力な選択肢」と表明しました。5年間の軍備増強計画である「中期防衛力整備計画」(19〜23年度)については前倒し改定も視野に入れ、軍事費は「結果的に増額になる」と述べ、軍拡路線を推進する考えも示しています。
岸田氏は、被爆地・広島県の選出であるにもかかわらず核兵器禁止条約を一貫して否定し、被爆者の願いを踏みにじってきました。
国連の核兵器禁止条約交渉会議(17年3月)では、米国の圧力を受けて日本は決議に反対。岸田氏は会見で「核兵器国と非核兵器国の対立を一層深め、逆効果になりかねない」と表明し、これが同条約に対する政府の基本見解になっています。
日米実務者が抑止力について協議する「日米拡大抑止協議」は当初、非公表でしたが、岸田氏の外相時代から実施を公表。著書で岸田氏は、同協議の「政治レベルへの格上げ」を提唱しており、米国の「核抑止」強化の姿勢を示しています。
疑惑と強権政治 / 真相解明に背 手法継承
安倍政権下で相次いだ政治の私物化、「政治とカネ」の問題など、疑惑の真相解明にも背を向けています。
森友学園問題をめぐり、岸田氏は当初、「調査が十分かどうかは国民側が判断する話。国民は足りないと言っている」(2日、TBSのBS番組)と発言していました。しかし、この発言に対する安倍氏の「不快感」が伝えられると、「再調査等は考えていない」「すでに行政において調査が行われ、報告書も出されている。司法において今、裁判が行われている。そうしたことを踏まえ、必要であれば説明を行う」(7日、記者団から問われ)と発言を後退。わずか5日で自身の発言を覆し、安倍氏への忖度(そんたく)ぶりが鮮明です。
岸田氏は、菅首相による強権政治も継承。憲法が保障する「学問の自由」を踏みにじった日本学術会議への人事介入・任命拒否について「人事の理由説明は難しい」などと述べ、撤回を否定しています。
安倍政権下で政府や党の要職を務めてきた自身の共同責任についても無反省。広がった国民の政治不信に向き合うこともなく、疑惑にふたをし、政治の私物化・強権政治を引き継ぐのが岸田氏です。
憲法破壊 / 改憲明言 歴史観も共有
岸田氏は、安倍・菅政権が進めてきた憲法蹂躙(じゅうりん)・立憲主義破壊を反省することなく、憲法9条への自衛隊明記を含む「自民党改憲4項目」の実現に取り組む立場を示しています。総裁選の公開討論会では、「自衛隊の(9条への)明記は違憲論争に終止符を打つために重要だ」などと安倍氏の持論をそのまま代弁。自身の総裁任期中に改憲実現を目指すとまで明言し、憲法破壊に拍車をかける危険な姿勢を打ち出しています。
岸田氏は著書の中で、安倍氏の掲げた改憲案は「『自衛隊の存在を明記すること』に重点が置かれており、同時に『平和主義』の放棄を一切、考えているわけではない」として、「現実的なものだ」と評価しています。その上で安倍氏を「現実主義に則(のっと)った政治のリーダー」「極めて実直な『リアリスト』」などと礼賛。安倍氏の憲法破壊に共鳴し、同じ道を歩もうとしています。
岸田氏と安倍氏は当選同期(1993年)。ともに自民党の「歴史・検討委員会」に所属し、日本の侵略戦争を美化する歴史わい曲の「英才教育」を受けてきました。その後、安倍氏が事務局長を務めた「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(後に「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」となる)や、改憲推進の「日本会議国会議員懇談会」にも所属。歴史教科書への介入、日本軍「慰安婦」問題への旧日本軍の関与を認め、謝罪した「河野談話」への攻撃などを行ってきた“靖国派”の一員です。
岸田氏は、首相就任後の靖国神社参拝について「時期、状況を考えた上で、参拝を考えたい」とも述べています。日本の過去の植民地支配と侵略戦争を正当化する歴史観を踏襲しています。
コロナ対策 / 無策・逆行に反省なし
岸田氏は新型コロナウイルス対応について、「危機管理の要諦(ようてい)は、最悪の事態の想定だ。『多分よくなるだろう』では、コロナに打ち勝つことはできない」などと述べていましたが、新総裁決定の当日まで自ら共同責任者である安倍・菅政治の逆行と無策について具体的な反省を一切語りませんでした。
所見表明では菅首相について「身を粉にして奮闘された」と称賛。安倍晋三前首相の退陣表明時と同様のメッセージを送り続けています。
岸田氏が新たに打ち出したコロナ対策は、「11月中の希望者全員のワクチン接種完了」「年内の経口薬普及」と菅路線の継承と言えるものばかりです。臨時医療施設の開設や国公立病院のコロナ重点病院化によって、病床・医療人材の確保を徹底すると主張しますが、具体的な規模・期限は明確に言及していません。
コロナ病床の確保では「公衆衛生上の問題が経済・外交問題にも発展する『有事』になり得る」として、「緊急時は半強制的に協力してもらう。応じなければ罰則も考える」と述べるなど、安倍・菅政治の強権発動も引き継ぐ考えを見せました。
昨年、党コロナ対策の責任者として安倍前首相とともに一定基準を満たす世帯へ30万円給付を行う緊急経済対策を進めていましたが、反対する多くの国民の声に押されて一律10万円給付に変わる迷走を生み出しました。
経済・気候危機 / 「アベノミクス」を礼賛
岸田氏は「新自由主義からの転換」などと述べながら、金融緩和、財政出動、成長戦略を三つの柱とする大企業優遇のアベノミクスについて「間違いなく大きな成果があった」と評価し、これを継承する姿勢を示しています。
安倍政権は消費税率を2度にわたり引き上げ、コロナ危機とダブルパンチで国民生活に打撃を与えました。世界では61カ国で消費税減税が実施されていますが、岸田氏は「当面、消費税にさわらない」と減税を否定。一方で、企業への“税制支援”などを主張しています。
気候危機にも後ろ向きです。国連の「気候変動に関する政府間パネル」が人間の活動が地球温暖化に与える影響について「疑う余地がない」と断定していることに対し、岸田氏は「科学的検証が前提」と懐疑的な姿勢をとり、菅政権が策定した「エネルギー基本計画」の2030年の再エネ比率36〜38%目標について「十分」との認識を示しています。多くの環境団体・シンクタンクが掲げる再エネ40〜50%と比べてあまりに低い数値目標です。「温暖化対策」を口実に、原発再稼働、核融合炉の研究開発まで狙っています。
自民党タウンミーティングで高校生からの「気候変動は待ってくれない。積極的に行動してほしい」との呼びかけに対して、岸田氏は「国民運動として努力する雰囲気をつくることが大事」と述べるだけで、政府や大企業の責任を棚上げしました。
ジェンダー問題 / 選択的夫婦別姓先送り
「『家族の絆』との整理がついていない。引き続き議論を」。岸田氏は、総裁選への立候補表明の記者会見(8月26日)でこう述べ、選択的夫婦別姓の実現を先送りしてきた安倍・菅政治を引き継ぐ姿勢を示しました。
1996年に法制審議会(法相の諮問機関)が同制度導入を答申しましたが、「家族の絆が壊れる」として日本会議国会議員懇談会(日本会議議連)メンバーが強硬に反対し、いまだに実現の見通しは立っていません。岸田氏も同議連のメンバーで、歴史観とともにジェンダー平等でも特異な認識を背景にしています。
また岸田氏は、総裁選立候補者によるテレビ番組の討論(9月17日)で「同性婚を認めるとは言ってない」と述べ、「LGBT(性的少数者)理解増進法」にも「留保」(「毎日」アンケート)の態度です。自民党で8%(8月時点)となっている次期総選挙候補者の女性比率の改善にも「努力の必要」を述べるにとどまっています。
コロナ危機によって、男女間の賃金格差による女性の困窮という構造的な女性差別が浮き彫りとなり、ドメスティックバイオレンス(DV)や自殺者の増加への対策は急務となっています。しかし岸田氏の「政策集」には、女性の困窮に関する言及はありません。 

●日本の次期首相に「慰安婦合意」の岸田氏当選…韓日関係の冷え込み続く 9/30
事実上日本の第100代首相を選ぶ自民党総裁選で、岸田文雄前政調会長(64)が勝利した。
自民党の野田毅選挙管理委員長は、29日午後に行われた総裁選の決選投票の結果、岸田前政調会長が全体428票のうち過半数を超える257票を得て当選したと発表した。河野太郎行政改革担当相は170票にとどまり、苦杯を喫した。
これに先立って行われた1回目の投票では、岸田氏が256票、河野氏が255票、高市早苗元総務相が188票、野田聖子党幹事長代行が34票を得た。過半数(382票)を超える候補者がいなかったため、1・2位の岸田氏と河野氏による決選投票となり、岸田氏が勝利した。
決選投票では予想通り国会議員票が勝敗を分けた。1回目の投票で高市氏を支持した細田派など自民党の保守主流議員らの票が岸田氏の方に集中し、勝負が分かれた。一般世論よりも党内派閥間の力学関係と安倍前首相の力が強く作用したわけだ。河野氏は、各種世論調査では40〜50%の支持を得るなど1位をキープしていた。しかし、国会議員らの「党の票」が選んだのは「改革」を掲げた河野氏ではなく、「安倍路線」を事実上継承するという考えを明らかにしてきた岸田氏だった。
それによって、壁に突き当たっている韓日関係は当分は回復のきっかけをつかむのが容易ではなさそうだ。岸田新総裁は第2次安倍政権時代の2012年12月から2017年8月まで、約4年7カ月のあいだ外務大臣を務め、2015年12月28日には「韓日『慰安婦』合意」を発表した。岸田新総裁は選挙期間中、韓日関係改善のためには韓国が日本の納得できる解決策を提示しなければならないとし、「ボールは韓国側にある」と述べ続けてきた。
岸田新総裁は今後「安倍路線」を大きな枠組で継承し、部分的に変化を試みるものと予想される。例えば、安倍前首相が積極的に推進した憲法改正について、岸田新総裁は「任期中に目標は立てたい」としつつも、「国会で議論がほとんど行われていない」と述べた。時期尚早と考えているという意味に読み取れる。経済政策であるアベノミクスについても「分配も考えなければならない。新しい観点が必要だ」と強調した。
岸田新総裁は内閣を構成した直後に衆議院選挙の責任を負わなければならない。衆議院は来月21日任期が満了し、11月中に選挙が行われる。この選挙でどれだけ議席を守ることができるかがカギとなる見通しだ。衆議院465議席のうち、自民党が現在275議席(59%)を占めている。このうち半分近くになる126人(46%)が3回目当選以下だ。若手議員は地域の支持基盤が弱く、「選挙の顔」となる党総裁への依存度が高くならざるを得ない。世論の圧倒的な支持を受けた河野氏ではなく岸田氏の当選が、自民党議席数にどのような影響を及ぼすかに関心が集まっている。
岸田新総裁は、来月4日の臨時国会で菅義偉首相の後を継いで第100代首相に選出される。11月の衆議院選挙でも自民党が過半数を維持するのは確実で、大きな政治的激変が起こらない限り、自民党総裁の任期が終わる2024年9月まで首相を担うことになる。
 
 
 

 

●岸田内閣・党幹事長に安倍前首相の側近たちが起用される見通し 10/1
日本の次期首相に選出される見通しの岸田文雄自民党総裁を支える党と内閣の要職に、安倍晋三前首相の側近が起用される見通しだ。
読売新聞は30日付で、自民党幹事長に「甘利明税制調査会長を起用する方向で最終調整に入った」と報じた。安倍前首相と修正主義的歴史認識を共有する萩生田光一文部科学相は、内閣のナンバー2である官房長官への起用が取りざたされている。議院内閣制を採択している日本では、党と内閣の協力が非常に重要だが、安倍前首相の側近がいずれも重要ポストを務める可能性が高くなったわけだ。この2人は、2019年に韓日関係を荒波に陥れた輸出規制の強化など、韓国に対する報復措置に力を入れた人物とされている。
甘利税制調査会長は、麻生太郎副首相兼財務相率いる麻生派所属であり、安倍前首相とも親交を深めてきた。第2次安倍政権の時にはこれら3人の頭文字を取って「3A」と称されたこともあった。今回の自民党総裁選では、岸田陣営の選挙対策顧問を務め、勝利に貢献した。決選投票で河野太郎行政改革相を下すために「岸田-高市」連合の実現に向け水面下で動いたとも言われている。党幹事長は総裁を補佐し、資金管理や公認権などに莫大な影響力を行使することができる。
内閣のナンバー2であり、政府の報道官の役割を果たす官房長官への起用が取りざたされている萩生田文部科学相は、党最大派閥の細田派所属で、現職閣僚として昨年と今年、2年連続でA級戦犯が合祀された靖国神社に参拝した。
朝日新聞の報道によると、これから発足する岸田政権で「安倍・麻生」の影響力が大きくなっていることについて、党内の一部から懸念の声があがっているという。こうした人事が現実化する場合、岸田政権は安倍前首相の「操り人形政権」という野党の攻勢に悩まされかねない。同紙は「岸田総裁は『政治に国民の声が届かない』、『民主主義が危機にある』などと強調してきた」とし、「衆議院選挙を控えて行われる内閣人事が(岸田総裁を評価する)まずは試金石となる」と指摘した。

●安倍前首相「自民党はどうあるべきか、しっかりと訴えることができた」 9/29
岸田新総裁誕生をうけ、高市氏を支持した安倍前総理が高市陣営であいさつをしました。
安倍晋三氏あいさつ
皆さん、本当にお疲れさまでした。決戦が終わったあとのこの会合にこれだけたくさんの皆さんに集まっていただいている。まさに古屋選対本部長が言っていたように、志を同じくする、勝負を度外視して誰を推し立てるべきか。その1点で集まったグループだからこそだろうと思います。私たちは高市さんを通じて、本来自民党はどうあるべきか、しっかりと訴えることができたと思います。自民党が何を目指すべきか訴えたのではないでしょうか。そして確固たる国家観を示した。そして高市さん、私たちグループの主張は他の候補にも影響を与えることができたのだろうと思います。そして、私たちの論戦によって離れかかっていた多くの自民党支持者たちがまた自民党のもとに戻ってきてくれたんじゃないか。今また一体となって、次の衆議院選挙、今度は岸田新総裁のもとに、ともに勝ち抜いていこうではありませんか。そしてこの「選対」には、高市さんを筆頭に、古屋さん、木原さん、そして皆さん、優秀な人材があまたいることも示すことができたと思います。本当に皆さんよく頑張っていただきました。ありがとうございました。

●岸田政権が対中外交で抱える「潜在的な弱点」… 10/1
「ちょうど中間」ゆえに勝利した岸田氏
自民党の新総裁が岸田文雄前政調会長に決まった。10月4日から開かれる臨時国会で、新しい内閣総理大臣に選ばれる見通しだ。岸田政権は、どんな日本の舵取りをするのか。最大の問題は「中国の脅威にどう向き合うのか」である。
9月29日に開かれた総裁選は、1回目の投票で最有力候補とみられた河野太郎行政改革担当相が、岸田氏の後塵を排して、2番手になる番狂わせになった。議員票では、高市早苗前総務相にも大きく引き離された。完全な敗北である。
河野氏が負けたのは、自民党員の多くが、その主張に「危うさ」を感じたからだろう。脱原発や女性宮家創設の議論は封印したが、消費税を財源にした最低保障年金の創設を打ち出した。これが大増税を予感させ、とくに議員票の河野離れを招いた、とみていい。
河野氏に比べれば、岸田氏の主張は傑出した部分もない代わりに穏便で、安心感を与えた。左の河野氏、右の高市早苗前総務相に挟まれて「ちょうど中間」というスタンスが、岸田氏に幸いした形だ。
「自我を消した姿」こそ真骨頂
そんなスタンスが岸田氏の強みであり、かつ弱みでもある。
自ら記者会見で「他人の意見をよく聞くのが得意」と語ったように、絶対に譲らない自分の主張がないぶん、他人から反発も受けにくい。逆に言えば、他から大きな反発を呼びそうな意見は、最初から遠ざけているのだ。
岸田氏は、経済政策について「新しい日本型資本主義」とか「新自由主義からの転換」を掲げた。だが、以上のような岸田氏のスタンスや、決選投票で「高市氏の支持=すなわち安倍晋三前首相の支持」を受けた点を考えれば、岸田氏が本気で政策転換を図るとは考えにくい。
安倍氏が推進したアベノミクスは、規制改革を大きな柱に据えたように、世界標準の経済政策であり、市場を重視した「新自由主義」的政策と言ってもいいからだ。岸田氏が安倍氏の反発を承知で、大胆な転換を図るわけがない。
もっとも、岸田氏は「成長と分配の好循環」とも言っており、成長軽視というわけでもなさそうだ。「新しい日本型資本主義」は、いまのところ、キャッチフレーズにすぎない。実際の政策に落とし込まれる段階で、本当の姿が見えてくるだろう。
敵を作らず「他人の意見をよく聞く」岸田氏のスタイルは、安定政権になる可能性もある。党の有力者や霞が関、さらには経済界の意見にも耳を傾ける結果、みんなが「しばらくは岸田政権でいい」と考えるかもしれないからだ。
岸田氏は会見で「みんなで頑張ろうという心を取り戻し、ワンチームで国難に取り組む」と訴えたが、まさに、この「自我を消した姿」こそが、彼の真骨頂なのだ。
「新たな文化大革命」を進める習近平
それは「平時なら、政権維持にプラス」かもしれないが、有事となったら、どうか。
私は「みんなの意見を聞いているうち、あっという間に危機が進行して、取り返しのつかない事態になる」点を心配する。とりわけ「中国の脅威にどう対抗するか」が、最大の懸念材料である。
世界情勢はこの夏、大きく動いた。米国のアフガニスタン撤退と中国共産党の習近平総書記による「新たな文化大革命」の勃発だ。米国の威信が大きく傷ついた一方、習氏の独裁体制は強化され、中国は国外でも暴発する可能性が高まっている。
米国のアフガニスタン戦争は、2001年米同時多発テロの首謀者、オサマ・ビン・ラディンの殺害(2011年)まではともかく、それ以降はテロ勢力の撲滅に加えて「自由と民主主義による新たな国造り」を掲げて、失敗を重ねた。
その経過は、米国のアフガニスタン復興特別監察官室(SIGAR)の報告に詳しい。首都カブールが陥落した翌日の8月16日に発表された報告は、多様な部族や軍閥が割拠する国に、西洋流の価値観を強制しようとした試みが、いかに無謀だったか、を批判的に検証している。
その挙げ句、ジョー・バイデン政権が実施したカブールからの撤退作戦は大失敗に終わった。200人近くの米国人や数万人のアフガン人協力者が取り残されただけでなく、13人の米兵が死亡するイスラム国分派による自爆テロまで許してしまった。
米国は明らかに傷つき、自信を失っている。当分は「他国への武力介入に及び腰になる」とみていい。中国が台湾に武力侵攻したとき「米国は当然、軍事介入する」とみるのは、危険だ。私は、武器弾薬の支援はしても「米海兵隊が銃を手にして戦う」とは思わない。
多くの日本の識者は「台湾とアフガニスタンでは、米国にとって戦略的な重みが違う」とか「台湾を守らなかったら、米国は信用を失う」などと主張している。だが、彼らは肝心なところで、勘違いしているのではないか。
もはや米国に余裕はない…
それは「米国はなぜ、アフガンで戦ったのか」という問題である。答えは、非常にシンプルだ。
2001年9月11日にニューヨークで、首都ワシントンで、そしてペンシルバニア州の上空で起きた同時多発テロによって、3000人近い人々の命が失われたからだ。バラク・オバマ元大統領が「正義が下されなければならない」と語ったように、米国は「報復と正義のために戦った」のである。
翻って台湾問題で、米国人の命が1人でも奪われたか。奪われてはいない。「戦略的な重要性」とか「米国の信用うんぬん」を語る論者は、米国は「報復と正義のために命を賭けたのだ」という問題の出発点と切実さを忘れている。一言で言えば、彼らは「頭でっかち」なのだ。それは戦後、日本人自身が命を賭けて戦った経験がないからでもある。
理屈や理念のために戦うほど、いま米国に余裕はない。米国には、そもそも台湾を守る同盟上の義務もない。
私はこの夏、CNNやナショナル・グラフィック、ヒストリー・チャンネルが放映した9.11関連の20周年特別番組をすべて見た。初めて日本で放映されたドキュメント映像でも、当時の米国人が抱いた恐怖と悲しみ、憤怒の思いがひしひしと伝わってきた。これが、すべての原点である。
そうだとすれば、台湾を守るのは、米国ではない。まず、なによりも日本でなければならない。台湾が死活的に重要なのは、米国よりも日本であるからだ。そもそも、米国はハワイ、グアムまで撤退すれば、国の安全は確保できる。だが、日本はそうはいかない。
一方、中国の新たな革命は、まさに「第2の文化大革命」と呼ぶにふさわしい様相を呈している。習氏は国内で強権を奮っているが、不動産大手、恒大の経営危機が象徴するように、経済の先行きが怪しくなる中、国外でも冒険的行動に出る恐れが強まっている。
まさに、米国の自信喪失と中国の強権化が、台湾と尖閣諸島の危機に直結しかねないのだ。夏以来の情勢はかつてなく、日本に厳しい選択と決断を迫っている。岸田政権は台湾と尖閣を守りきれるだろうか。

●幹事長に「3A」甘利氏…党役員の顔ぶれは 10/1
自民党の岸田文雄総裁が、党役員人事を内定させました。安倍前首相に近い議員や安倍政権を支えた重鎮を党要職に充て、官房長官は安倍氏と同じ派閥から起用。年齢バランスに配慮しながらも、党内からは「安倍氏の支配から逃れられない」との声も聞かれます。
閣僚9年の麻生氏は「副総裁」に
自民党の岸田文雄総裁は30日、記者からの「党役員人事や官房長官人事は決められたのでしょうか」という問いかけに「今作業を行っています。とりあえず明日(10月1日)は党の方の呼び込みをします。お願いします」と答えました。新総裁の誕生から丸1日たちました。議員会館の売店で売られる、「党の顔」をあしらった菓子も入れ替わりました。30日夜、副総理兼財務相の麻生太郎氏が9年近く務めた閣僚から外れ、党副総裁のポストで起用されることが分かりました。
「ナンバー2」は“3A”甘利氏
党ナンバー2の幹事長には、党税調会長の甘利明氏が内定しました。甘利氏は、麻生氏らと共に安倍政権を支え、3人の頭文字を取って「3A」と呼ばれる重鎮の1人です。総裁選では、河野太郎ワクチン担当相と同じ麻生派に所属しながら、岸田氏の選対顧問を務めました。9月29日にあった岸田氏の報告会では、甘利氏は「10月4日には総理大臣ですよ」と持ち上げ、グータッチで勝利を祝福しました。
安倍氏支援の高市氏、政調会長に
安倍前首相の支援を受けて総裁選を戦った高市前総務相も報告会に駆けつけ、「岸田新総裁、ご就任おめでとうございます」と挨拶しました。党3役である政調会長に起用されることになりました。一方の河野氏は、党の広報本部長での起用にとどまりました。党3役の総務会長には、安倍氏の出身である細田派に所属する当選3回の福田達夫氏を抜てきし、官房長官には同じく細田派の元文科相・松野博一氏が内定しました。岸田氏は29日の会見で「やはり老(年)・壮(年)・青(年)のバランス。これが大事だということで、現状を考えると、より中堅若手への思い切った登用が必要である」と語っていました。その宣言通り、年齢のバランスに配慮した布陣を組みました。しかし、自民党議員からは「結局、安倍さんの支配から逃れられない自民党になっちゃった感じだね」という声も漏れました。
野党「協力」も…足並みそろわず
野党も衆院選に向けて動きを加速させています。立憲民主党の枝野代表は30日、野党の党首と相次いで会談しました。
枝野代表「立憲民主党と日本共産党は、新政権において市民連合と合意した政策を着実に推進するために協力する」
日本共産党・志位委員長「新政権において、両党が協力していくことが合意されたことは、極めて重要な前進」
ただ、10月4日の首相指名選挙をめぐっては、社民党・共産党・れいわ新選組は枝野氏に投票するものの、国民民主党はそれを拒否。足並みはそろいませんでした。

●幹事長に内定の甘利明氏 「政治とカネ疑惑」から5年… 10/1
総裁選決選投票の翌日である9月30日、新総裁となった岸田文雄氏は、10月4日に発足させる新内閣を含めた人事の調整に入った。二階俊博幹事長の後任には、甘利明税制調査会長を起用する方向で最終調整しているという。
甘利氏は、総裁選でいち早く岸田氏支持を表明し、岸田選対の顧問を務めた。まさに、岸田氏にとって“功労者”と言える存在だ。
しかし、この人事発表に噛みついたのは立憲民主党の蓮舫代表代行。発表後に自身のTwitterを更新し、《「生まれ変わった自民党」「国民に丁寧に説明する」と、穏健な政治を主張された岸田自民党総裁。幹事長に甘利さん、ですか。》 と疑問を呈した。
「蓮舫氏は同ツイートで、甘利氏をめぐる“政治とカネ問題”の説明責任が果たされていない旨に触れた、毎日新聞の記事を引用しています。同問題は2016年1月、『週刊文春』の報道で明らかになりました。同報道よると、千葉県の建設会社が2013年5月、都市再生機構(UR)との補償交渉を有利に導くよう甘利氏側に口利きを依頼し、甘利氏や地元の公設秘書、政策秘書を接待。過去3年にわたって、甘利氏本人や秘書に総額1200万円を現金や接待で提供したと、建設会社に所属する人物の証言をもとに報じられました。
直後に会見を開いた甘利氏は、大臣室での50万円を含む計100万円の現金受領と、秘書が500万円を受領したことを認めたうえで大臣を辞任しましたが、刑事告発を受けた東京地検特捜部は、甘利氏と元秘書2人を不起訴処分に。しかし、国民や野党議員は、その疑惑を忘れていないのです」(政治部記者)
そこで注目されるのが、甘利氏の幹事長就任会見だ。
「過去の“政治とカネ問題”について、記者たちがそのことを質問できるかどうか、というところに注目が集まると思います。幹事長といえば、党運営の“心臓部分”。当然、国民が納めた“血税”とも向き合うことになる。その疑惑について、今一度マスコミにとっては問いただす姿勢、そして甘利氏にとっては説明する姿勢が、国民から求められているのではないでしょうか」(前出・政治部記者)
「国民の皆さんに政治の説明責任を果たしていくことは、しっかり取り組んでいきたいと思います」と、岸田新総裁は就任会見で語った。記者たちに過去の疑惑について問われたとき、その“右腕”となる甘利氏は、その言葉にならうことができるのだろうか……。 

●戦後最長の麻生財務相が退任へ、国際舞台で存在感も財政再建進まず 10/1
戦後最長の約9年にわたり財務相を務めてきた麻生太郎氏(81)が、自民党の岸田文雄総裁による新内閣発足を機に退任する見通しとなった。首相経験者の麻生氏は国際舞台でも存在感を発揮してきたが、懸案の財政再建はコロナ禍などの影響で進まず、後任に託された。
新内閣の財務相に鈴木俊一元五輪相(68)を起用する方向で調整に入ったとFNNが伝えた。麻生氏は党副総裁に起用されるという。
麻生氏は2012年12月、安倍晋三政権の副総理兼財務相に就任した。18年2月には、財務相としての在任期間が宮沢喜一元首相を抜いて戦後最長となった。
安倍前首相の右腕として、大胆な金融政策と機動的な財政政策、成長戦略を3本柱とするアベノミクスを推進し、20年9月発足の菅義偉政権でも留任した。日本銀行と13年1月に2%の物価安定目標の早期実現に向けた共同声明、20年5月には新型コロナウイルス感染症への対応で共同談話を公表し、黒田東彦総裁と連携してきた。
日銀の異次元緩和は政府の利払いコストと大規模な財政出動のハードルを引き下げた面もあるが、麻生氏は経済再生と財政健全化の両立を常に主張してきた。自国通貨建て国債はデフォルト(債務不履行)しないとする現代貨幣理論(MMT)については、「日本をMMTの実験場にするつもりはない」と放漫財政を戒めた。
少子高齢化で増え続ける社会保障費を賄うため、在任中に消費税率を5%から10%へ2度引き上げ、年20兆円を超える最大の税収項目に育てた。それでも度重なる自然災害や消費増税、新型コロナへの対策に伴う財政出動の結果、債務残高が国内総生産(GDP)の2倍を超えるなど、財政は悪化の一途をたどった。
08年9月のリーマンショック対策として、麻生政権が支給した定額給付金は3割しか消費に回らず批判を浴びた。その教訓を踏まえ、コロナ対策では一律給付に反対したが、与党の公明党の強い要請もあり、安倍前首相は一律10万円給付に踏み切った。13兆円近い資金が投入され、貯蓄率上昇と財政悪化に拍車をかけた。
一方、麻生氏は国際金融分野で確かな足跡を残してきた。首相在任中の09年2月、国際通貨基金(IMF)への1000億ドル(約11兆円)規模の資金拠出を決定。経済のデジタル化に伴う国際課税ルールの見直しは、1世紀前に確立した原則を塗り替えるもので、13年5月の麻生氏の提案が契機となった。10月に20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開かれ、最終合意を目指している。
首相や外相なども歴任し、豊富な経験や人脈を国際舞台でも生かしてきた麻生氏。退任すれば、国際社会における日本の存在感に影響が生じるととともに、各国をまとめる重要なリーダーを失うことになると懸念する声が財務省内から出ている。

●「前首相にさえ頭が上がらない政治家がまとな外交できます?」 10/1
芥川賞作家の平野啓一郎氏が1日、ツイッターを新規投稿。党四役や閣僚人事で安倍晋三前首相への忖度(そんたく)がうかがえる岸田文雄自民党新総裁について皮肉をつづった。
「前首相にさえ、これだけ頭が上がらない政治家が首相になって、まともな外交なんか出来ますかね? アメリカ、ロシア、中国、EU、北朝鮮、……彼がタフな交渉で成果を引き出したりするところ、1ミリでも想像出来ますか?」
平野氏は、安倍氏と親しい甘利明氏(麻生派)を幹事長に起用することを報じる記事を引用し「情けねえ〜」とも。「大体、今更、傀儡作ってまでしゃしゃり出てくる前首相って何なのか?」と強い言葉で疑問を投げかけた。

●れいわ山本太郎代表 衆院選で萩生田文科大臣の地盤に殴り込み 10/1
「東京を含んで考えている。ブロックとしては2つ」「静岡を起点にして右に1つ、左に1つという状況になってきた」
「秋篠宮さまは小室圭さんと会わない」バイキング出演者の発言は推測と事実を混同(成城大学教授・森暢平)
30日の臨時会見で次期衆院選に向け、出馬を検討中の選挙区を独特の表現で答えたのは、れいわ新選組の山本太郎代表だ。
以前は「現職総理を引きずり降ろせるなら夢がある」と、菅首相の選挙区「神奈川2区」からの出馬を本気で考えたようだが、事実上の退陣表明により方針転換。先月8日の野党4党の共通政策合意後には「弱りかけの動物を虐待するような話になりませんか」と語っていた。
「野党統一候補として自分が誰とマッチメークすれば選挙を盛り上げられるか。そこを山本代表は最重視する。野党間で調整しながら対戦相手を品定めする中、『都内ならココ』と取りざたされているのは『東京24区』です」(野党関係者)
岸田新政権の官房長官に充てる案が一時浮上した細田派の萩生田光一文科相の地盤だ。山本代表も先月15日配信のネット番組で司会者から東京24区はどうかと聞かれると否定しなかった。
萩生田氏は安倍前首相の最側近。自身のブログに安倍と“腹心の友”の加計孝太郎氏と3人仲良く、河口湖畔にある安倍の別荘でバーベキューを楽しむ写真を掲載したことでも知られる。
「目指すポストを聞かれれば『いつかは幹事長』と公言。その意を汲んだ安倍さんが岸田さんに推したのか、今回の党役員人事では幹事長候補にもなった。組閣でも安倍さんが実効支配する細田派への論功人事として、重要閣僚に起用されそうです」(自民党関係者)
4年前の衆院選で仮に野党が候補を一本化すれば自公候補を逆転していた64選挙区には、東京24区も含まれる。現在、立憲民主の候補は不在で共産、国民民主、社民がそれぞれ新人を擁立。山本代表の出馬を前提に調整を進めれば国民民主はともかく、共社とも候補を降ろす公算は大きい。
山本代表にすれば相手にとって不足なし。もし最側近に勝てば安倍支配に風穴があく。選挙区の表明時期は、れいわが近々都内で開催する「パーティーっぽいこと」(山本代表)の直前。はたして2年前の参院選で起こした「旋風」を再現できるのか。

●“政治とカネ”疑惑に…甘利氏「私は寝耳に水」 10/1
岸田新総裁は1日、自民党の役員人事を決定しました。幹事長には甘利明氏、総務会長には福田達夫氏、政調会長には高市早苗氏、選対委員長には遠藤利明氏が就任します。また、副総裁には、麻生太郎財務大臣が起用されます。
「中堅・若手の登用が必要だ」としていた岸田総裁。その“岸田カラー”が発揮されたのが、当選3回で、大臣や副大臣の経験もない福田氏の抜てきです。福田総務会長:「この役割を頂いた時にも、非常に身の引き締まる思いでございましたが、上司たる幹事長からのセリフに、本当に身が小さくなる思いでございます。国民に分かりやすい政治をやっていく自民党を目指していく。これが総務会長としての私の仕事かと思っております」
これまでに分かってきた人事から見えてくるのは“3A”とも称される、安倍前総理大臣、麻生氏、甘利氏の影響力です。
政調会長に就任した高市氏は、総裁選で安倍氏の全面支援を受けていました。官房長官への起用が固まった松野博一元文部科学大臣は、安倍氏が強い影響力を持つ最大派閥の細田派で、事務総長を務めています。麻生氏の後任の財務大臣には、麻生派から鈴木俊一元オリンピック・パラリンピック担当大臣を起用する方針です。鈴木氏は麻生氏の義理の弟で、極めて近い関係です。
岸田総裁「(Q.甘利氏を起用したことを含めて、安倍氏や麻生氏に対して配慮したのではないかという指摘もある)私はあくまでも、適材適所という観点に基づいて人を選ばせて頂いた。今後の人事においても、適材適所であることについて、より説得力のある説明を行っていきたいと思っています」
甘利氏は、経済再生担当大臣だった2016年、現金授受疑惑が浮上し、大臣辞任に追い込まれました。不起訴処分となりましたが「説明責任を果たしていない」との指摘があります。
甘利幹事長「当時、お騒がせ致しましたことを、おわびを申し上げます。私がお話をしたことで共有をされてない一番の問題は、私はこの事件に関して、事情を全く知らされていないということ。秘書がUR(都市再生機構)と接触していたこと自体を知らされていない。だから、私は寝耳に水」
甘利氏は、当時の会見で十分な説明をしたとし「捜査機関による結論以上のものは出せない」と述べました。野党側は、来週、調査チームを立ち上げ、甘利氏に国会での説明を求めるとしています。
立憲民主党・安住国対委員長「いずれ国会で説明すると話したまま、一切説明しないで今日に至っている。きちっと国会での説明責任を求めたい」
4日に召集される臨時国会については、1日に与野党の国対委員長が会談。会期は今月14日までとし、4日に総理大臣指名選挙、8日に新しい総理大臣による所信表明演説を行うことで合意しました。ただ、野党側は引き続き、予算委員会を開いて、実質的な審議を行うよう求めています。
立憲民主党は、衆議院選挙に向けて、脱原発など「自然エネルギー立国の実現」を目指す政策を発表しました。原発の新規増設は認めないほか、2050年には電力の100パーセントを自然エネルギーによる発電でまかなう目標を掲げています。立憲民主党の枝野代表は、自民党の人事について、こう述べました。
立憲民主党・枝野代表「自民党は変わらない、変われないことを改めて示した総裁選だったが、そのことがさらに明確になったプロセスを今歩んでいる」

●岸田総裁“安倍氏 麻生氏配慮”を否定 人事で「適材適所」を強調 10/1
安倍前首相や麻生副総理への配慮を否定。
自民党・岸田総裁「わたしは、あくまでも適材適所という観点に基づいて、人を選ばせていただいた」
自民党の岸田氏は、記者団の取材に応じ、役員人事をめぐり、安倍氏と近く麻生派所属の甘利氏を幹事長に起用したことなどについて、「適材適所の観点で選んだ」と述べ、安倍氏や麻生氏への配慮を否定した。また岸田氏は、役員人事の狙いについて説明する中で、総裁選でライバルとして戦った河野規制改革担当相を広報本部長に起用した理由について、「発信力というわたしの弱点を補ってもらうため」と説明した。 

●岸田新総裁 就任前後の発言に変化 10/1
自民党の岸田文雄新総裁が会見などで強調した言葉が、就任前と就任後でどのように変化したかを「ワードクラウド」と呼ばれる手法で比較しました。就任後の会見では「分配」という言葉を使い、「国民」に「寄り添う」姿勢を強調していました。
新総裁就任会見 岸田氏が繰り返した「分配」
岸田文雄氏が総裁選告示日の演説(9月17日)と総裁就任後の会見(9月29日)で、どのような言葉をどれだけの頻度で話したかを、文字の大きさなどで表現する「ワードクラウド」で分析しました。
総裁就任前「守り抜く」→就任後「分配」
ワードクラウドで最も大きくなった言葉を比較すると、総裁選公示日は「守り抜く」で、総裁選就任直後は「分配」でした。岸田氏は「国民の生活を守る」「民主主義を守り抜く」「我が国の安全を断固守り抜く」という言葉で強いリーダーシップをアピールして総裁選をスタート。勝利後は「分配なくして次の成長はない」「今こそ成長と分配の好循環を実現する」と示した上で、「できるだけ幅広い国民のみなさんの所得、給与を引き上げる」と述べ、ワードクラウドでも大きく示された「国民」に「寄り添う」姿勢を強調しました。
新自由主義から日本型「資本主義」へ転換 「民主主義」に対する危機感も
告示日の演説で、成長をもたらす一方で分断を生じさせているとして、新自由主義から日本型の「資本主義」への転換を宣言した岸田氏。就任後の会見では「年内に数十兆円規模の経済対策を策定する」と、具体的な金額を提示したうえで、多くの「国民」に協力してもらえる雰囲気を作っていきたいと述べました。また、「民主主義」の重要さを説き、「我が国」の「民主主義」に強い危機感を持っていたことを明かしたうえで、我が身を「顧みず」真っ先に総裁選挙に手を挙げたと語りました。
幅広い分野での「安全保障」を訴え
告示日の演説では「安全保障」の観点から、国民の暮らしや生活、領空領海領土、農業を「守り抜く」覚悟を表明した岸田氏。就任後は、外交の「安全保障」政策に焦点を当て、「自由で開かれたインド太平洋を構築していきたい」と、2016年に安倍晋三前首相が提唱した、インド太平洋を介し、アジアアフリカ地域の安定と繁栄を目指す構想に言及しました。総裁選で影響力を示した安倍前首相への配慮もうかがえます。
 

 

●岸田新総裁人事 「改革」は名ばかりか 10/2
「改革」は名ばかりか。岸田文雄自民党新総裁による党・内閣の布陣は、後退とすら言える内容に終始している。
枢要ポストを安倍晋三前首相、麻生太郎副総理兼財務相、甘利明税制調査会長の「3A」に配慮した形で配分した。国民の声に応えられる陣容とは言えず、逆に3Aの「傀儡(かいらい)」とも言われかねない。
このまま首相指名、組閣に進むのか。政治とカネをはじめとする自民党の問題に岸田氏が正面から向き合えるか、リーダーシップを発揮できるか、国民が注視していることを肝に銘じてもらいたい。
新幹事長の甘利氏には、早くも野党から国会招致や調査チーム設置の声が上がる。
原因は2016年に発覚した、都市再生機構と建設会社の補償交渉に絡み、甘利氏と秘書に少なくとも現金1400万円が渡った問題だ。
甘利氏自身が現金を受け取ったと認めたが、「議員権限に基づく影響力の行使」という構成要件を満たさず、あっせん利得処罰法の適用は見送られた。受け取った現金は寄付として処理したという。
抜け穴の多い「ザル法」に守られた形だ。甘利氏は経済再生担当相を辞任したものの、直後に体調不良を理由に国会を休んだ。会見も開かず何ら説明責任を果たしていない。
このような人物を巨額の政党交付金、つまり税金を原資とする金を差配する役職に就ける自民党の見識を疑う。
政調会長に就く高市早苗氏は、そもそも政策責任者としてふさわしいのか。自民党総裁選の論戦で、高市氏の主張のうち見過ごせないものがある。敵基地攻撃能力の保有だ。
強力な電磁波を敵国の高高度上空で発生させ、基地機能を喪失させるというものだ。電磁波を発生させるのに必要なのは核爆弾である。高市氏の主張は日本の核保有と先制攻撃を意味している。
オバマ氏が、米大統領として初めて広島を訪問した際は広島選出の岸田氏が大きな役割を果たしたとされる。高市氏の人事は岸田氏の従来の姿勢と相反するものだ。
政権の要となる官房長官は加計学園問題で文科省のずさんな調査を追認し、再調査に追い込まれた松野博一元文科相だ。松野氏は安倍前首相が会長を務める保守系超党派議連「創生日本」のメンバーだ。改憲を主張する安倍氏に思想的に近く、ここでも安倍氏への配慮が見え隠れする。
しかも森友・加計問題は国民がいまだに安倍前首相の説明に納得していない。その当事者たる松野氏を政権の看板にすることは、森友・加計はこれ以上説明を要しないという政権の意思表示なのか。
岸田氏は新総裁選出直後の記者会見で「(党改革への)思いは1ミリたりとも後退してない」と述べた。その言葉が本当であるなら、まずは甘利氏、安倍氏に説明責任を果たすよう求めるべきだ。一国を預かるリーダーとして最低限の仕事だ。

●自民 人事も安倍直系 10/2
自民党は1日、党本部で臨時総務会を開き、党4役などの新役員人事を決定しました。人事でも安倍晋三前首相「直系」を露骨に示す体制です。
幹事長には、安倍政権時代に金銭疑惑で閣僚辞任に追い込まれ、説明責任を果たさないままの甘利明党税調会長が就任。政調会長には同じく安倍氏側近で改憲タカ派の高市早苗前総務相を据えました。総務会長に細田派の福田達夫国対副委員長、選対委員長に無派閥の遠藤利明元五輪担当相がそれぞれ就任しました。副総裁に麻生太郎副総理兼財務相が就任しました。
麻生氏を含め、安倍前首相に近い「日本会議国会議員懇談会」の中心メンバーで要職を固める「安倍政治継承」と改憲シフトが強くにじみます。
疑惑にまみれたままの甘利氏を幹事長に据えたことは、安倍・菅政権における政治腐敗への無反省を示すものです。甘利氏は就任会見で、「私はこの事件に関して事情を全く知らされていなかった。寝耳に水(だった)」などと強弁。自身の説明責任については「辞任会見で質問が出尽くすまで答えた」と開き直りました。
新役員の記者会見で高市政調会長は、記者から憲法改正を「次期衆院選の公約に掲げるか」と問われ、「自民党として積み上げてきた『改憲4項目』がある」「憲法改正の実現に向けた項目を柱としてしっかりと立てる」と改憲推進の姿勢を鮮明にしました。

●総裁選、最大の勝者は「安倍・麻生コンビ」 10/2
9月29日に行われた自民党総裁選で、河野太郎、高市早苗、野田聖子を抑えて、岸田文雄が当選した。だが俯瞰して言えば、最大の勝者は安倍晋三前首相と麻生太郎副総理であり、逆に本命視されながら敗れた河野太郎と同等のダメージを受けたのが、石破茂元幹事長と小泉進次郎環境相、そして二階俊博幹事長と言えるだろう。
議員票の少なさに見る河野太郎の人気のなさ
第一回投票(国会議員票・党員票)では、岸田256(146・110)票、河野255(86・169)票、高市188(114・74)票、野田63(34・29)票であった。事前の予想に反して、1票差とはいえ、岸田が1位になった。決選投票では、岸田が257(249・8)票、河野が170(131・39)票で、「岸田文雄総裁」が誕生した。次期首相である。河野は伸び悩んだが、その理由は、選挙期間中の発言にぶれがあったことや、反原発の姿勢や年金制度改革提案などが保守層の反発を買ったと思われる。小泉や石破が支援することが、安倍晋三、麻生太郎など長老の反発を買ったのである。「小石河連合」というのはむしろ逆効果であり、小泉や石破は疫病神であった。支持率低下で退陣する菅義偉首相が支援したこともマイナスであった。とくに、決選投票では派閥の意向が強く働くので、これは決選投票シフトとしては最悪であった。河野は、党員票でも44%しか獲得できなかった。当初は6割という数字が予想されたことを考えると、選挙期間中に失速してしまったと言える。別の言い方をすれば、党員票で6割以上を獲得できなければ、決選投票で敗れることは予測されていたのである。しかも、国会議員票では、高市の後塵を拝する結果となってしまった。石破や小泉の影響だけでなく、いかに河野本人が議員に人気が無いのかがよく分かる。議員票で2位に躍り出た高市は、予想以上の得票をした。当初は、保守岩盤支持層向けのアピールとして安倍が担ぎ出した感じであったが、選挙戦中に右寄り路線を堅持し、それがネトウヨなどの評価を高めることになった。評価が低下した河野と逆のパターンである。一時は岸田を抜いて、2位に躍り出て河野との決選投票に臨むのではないかという観測すら出たくらいである。安倍は、決選投票では高市票を岸田に回すよう根回しをしており、実際にそのようになって岸田が勝ったのである。キングメーカーとして、これからも安倍は党内で影響力を行使するであろう。
沈む石破・進次郎・二階
石破は、私が閣僚(厚労大臣)を務めた麻生内閣で、農水大臣だった。石破は閣僚の立場でありながら総選挙前に麻生に退陣を求めていた。そのため麻生は石破を許さないのである。その石破の支援を受ける河野を麻生が支援するはずはない。河野が麻生派に所属していても、である。小泉進次郎のカリスマ性も地に墜ちてしまった。環境大臣としての業績は見るべくもなく、世間受けする「人寄せパンダ」の役割を果たせても、メッキが剥がれた以上、今後の活躍はあまり期待できない。そもそも、細田派は岸田か高市を支持するという方針だったのであるが、それに反して河野の旗振り役になってしまったことに所属メンバーの多くが不快感を抱いた。小泉純一郎首相を輩出した派閥としては、どの派閥にも属していないとはいえ息子の“反乱”は許せないのである。岸田の人事では、河野太郎は広報本部長に任命されたが、これは安倍・菅政権での重要閣僚というポストからは明らかに降格である。党税調会長で麻生派の甘利明も、総裁選では岸田を支援した。甘利は、河野、菅、小泉と同じく神奈川県が選挙区である。元経産大臣としては、原発反対派の河野は承認しがたいし、小泉や菅に対しても不快の念を隠さない。そこで、反河野で麻生派の票を岸田へと引き剥がしたのである。その功績で、甘利は幹事長という党の要職に遇されることになった。自民党神奈川県連は、菅の号令の下、横浜市長選で小此木八郎を支援したが敗北した。今後は神奈川県連における甘利の影響力が強まりそうである。野田については、候補者が3人よりも4人のほうが決選投票になる可能性が高まるとして、引っ張り出された感じである。1回目の投票で、河野に決まるのは何としても避けたいという長老たちの思惑が働いたようである。とくに、総裁選が始まる前には、各種世論調査で河野の人気がダントツであり、その可能性も排除できなかったからである。そこで、票を割るために、第4の候補が不可欠だったのである。しかし、にわか作りであったために、政策的には生煮えの感じであり、女性、子供、障害者といった自らの個人生活に直結する問題以外では、たとえばTPPへの中国加盟問題など、的外れな回答が多かったようである。とはいえ、二階幹事長などの指示で、野田は予想以上の議員票を集めることができており、総裁選立候補が念願であった野田としては、予想以上の成果であったと言えよう。決選投票では、長老たち、そして派閥の締め付けが効いた。竹下派は、決選投票では岸田を支持することを前日には決めている。二階派も、岸田以外の3候補に推薦を出し自主投票としていたのだが、表だっては言わないが、直前になり河野には票を入れない方針を固めたようである。皆、「勝ち馬に乗る」戦略にしたのである。
「右寄り」高市と「左寄り」河野を避けた票が「中道」の岸田へ
新総裁となった岸田は人事に取りかかったが、党4役については、「甘利幹事長」の他は、高市政調会長、福田達夫総務会長、遠藤利明選対委員長となった。また、副総裁が麻生太郎である。さらに小渕優子が組織運動本部長、高木毅が国対委員長、梶山弘志が幹事長代行である。明白な論功行賞人事である。注目すべきは二階派が党4役から外されたことである。役員任期の短縮を宣言した岸田と対立した二階派も、前述のように結局は「勝ち馬に乗る」戦略で、最後は岸田側についた。しかし、「時すでに遅し」だった。その時点で「岸田勝利」の流れは出来上がっており、二階派による支持は「岸田勝利」に大きく貢献することはなかった。こうした経緯もあり、岸田は二階の影響力を殺ぐ人事を行い、逆に、まだ政治歴も浅い細田派の福田達夫という若手の抜擢で応じたのである。閣僚人事については、麻生の後任の財務大臣に麻生派の鈴木俊一前総務会長を据え、官房長官には細田派の事務総長である松野博一元文科大臣を当てる。安倍・菅政権下で進んだ「政高党低」路線を是正し、党の意向も十分に尊重できる体制を構築できるかどうか、新官房長官の手腕にもかかっている。改めて総裁選を振り返ってみれば、岸田の勝利は、いわば「消去法的勝利」と言える。靖国参拝、選択的夫婦別姓反対など、右に触れすぎた高市、そして原発反対、年金制度改革提案など野党や左翼とあまり変わらない政策を打ち出した河野という左右両極端に対して、中道的な立ち位置が安心感を与えたのである。しかし言い方を変えれば、それは無味乾燥で、特色もなく、パンチ力を欠いた政策提言ということでもある。ただし岸田文雄新総裁は、野党にとっては最も戦いにくい相手だ。右路線の高市、異端児の河野、政策が熟していない野田が相手なら突っ込みどころが満載だが、中道、穏健、しかもアベノミクス批判ときているので、野党は攻撃しにくい。こうして、菅内閣は去るが、自民党の支持率は回復し、総選挙は安泰なような雰囲気になっている。政権と国民の間で対話が不足していることに対して、岸田は「わが国民主主義の危機」と何度も繰り返したが、安倍・菅政権下での「忖度政治」、「一強政治」を終わらせることができるのか。岸田当選の背後には安倍の影響力があり、この点では野党の攻勢は続くであろう。
総裁選の結果にもその後の人事にも、安倍と麻生は大満足
その点でも、今回の総裁選で繰り広げられた長老たちを中心とする権力闘争は興味深い。終始主導権を握ったのは、安倍晋三、麻生太郎、甘利明の三人で、いわゆる「3A」である。3Aが二階や菅に勝ったのである。安倍が推す高市には政調会長のポストが与えられ、官房長官には細田派の松野が就いた。安倍は大満足だ。福田も細田派である。安倍の高笑いが聞こえる。麻生も、盟友の甘利を幹事長に据え、義理の弟である鈴木を後任の財務大臣に就任させた。論功行賞に「我が世の春」を満喫している。しかし、この状況は、もともと目立たず、河野のような国民的人気もない岸田が首相としてイメージアップを図るのには必ずしも好ましい環境とは言えまい。決選投票で安倍の支援を受けた以上、森友・加計、「桜を見る会」の調査には消極的にならざるをえない。また、アベノミクスを見直し、新自由主義と訣別すると言うが、具体的にどのような政策を打ち出すのか。いつまでもデフレが終わらず、給料が上がらない状態に、多くの国民は閉口している。この状況を一刻も早く改善しなければならない。
コロナ対策で測られる岸田政権の実行力
そして、岸田にとって何よりも大事なのは新型コロナウイルス対策である。9月末日を以て緊急事態宣言は解除された。年初から9カ月間にわたって各種の規制が続いてきたが、その間、飲食・観光業界を始め、苦境に立たされた人々は多い。経済を再始動し、国民の生活を守るための具体的政策が必要である。年末には感染の第6波が到来することが確実視されている。ワクチン接種は国民の半数以上が完了しているが、デルタ株やミュー株など、次々と強力な変異株が生まれており、油断大敵である。病床の逼迫がまた起これば、第6波は第5波よりも深刻になるかもしれない。過去1年半の日本のコロナ対策の失敗は、単に安倍・菅政権の責任にとどまらず、尾身茂会長を頂点とする政府御用達の感染症専門家たちの責任でもある。岸田は、尾身会長の更迭など専門家の会議の抜本的な改組をしなければ、コロナ対策でまた失敗し、自身の内閣支持率の低下を招くであろう。専門家会議の改組は、サボタージュする厚労省官僚機構への挑戦でもある。それくらいのことをしないと、霞が関は変わらない。外務大臣時代に外務省内に波風を立てず、役人受けの良い岸田だからこそ、荒療治は効果がある。私は、この点を注意して見ている。

●「安倍支配」岸田新総裁の党役員人事にドン引き 「衆院選苦戦」と心配の声 10/2
自民党の岸田文雄新総裁(64)が党役員人事を決めた。甘利明幹事長(72)、福田達夫総務会長(54)、高市早苗政調会長(60)、遠藤利明選対委員長(71)の「4役」がそろって会見したが、4人の平均年齢は64.25歳。さらに内閣の要、官房長官には、松野博一元文科相(59)が内定した。自民党の閣僚経験者がこう指摘する。
「安倍さんのひとり勝ちでしょう。幹事長の甘利さんは盟友だし、総務会長の福田氏も同じ派閥(清和会)の後輩だし、政調会長も自分が推した高市さん。当初、官房長官は腹心の萩生田文科相を押し込むとみられていたが、土壇場で松野氏に替えられたようだ。松野さんも清和会です」
安倍晋三元総理が支援した、高市氏は当初の予想を覆し、一回目の議員票では、河野氏を上回る2位になった。決選投票では、高市氏の票を岸田氏に集めて、岸田氏を総理総裁に導いた。
昨年9月、菅義偉総理が勝った総裁選では、二階俊博前幹事長、麻生太郎氏、安倍氏と3人のキングメーカーがいた。
二階氏は幹事長を退任し、麻生太郎氏も財務相兼副総理から自民党副総裁となる予定だ。財務相の後任には、麻生氏の義弟、鈴木俊一元環境相が有力視され、中枢からは一歩、引いたような印象だ。菅氏も推していた河野太郎氏が敗れたので、政権に影響力を残すのは厳しいようだ。
そんな中、岸田総裁は安倍氏、麻生氏とともに「3A」と称される甘利氏を幹事長に抜てき。安倍氏が推した高市氏、松野氏も引き立てた。安倍氏は総裁選の終了後、高市陣営の会合で「高市さんを通じて自民党がどうあるべきかをしっかりと訴えた。一体となって岸田新総裁の下、衆議院選挙を勝ち抜こう」と上機嫌で語った。
「岸田政権も安倍政治の継承のようで、組閣にも安倍氏の側近が起用されるでしょう。岸田次期総理の上に、最高顧問として安倍氏がいるような党の幹部人事だね。党内はドン引き状態です」(前出・自民党の閣僚経験者)
一方、決選投票で敗れた河野氏は内閣から去り、自民党広報本部長に「左遷」という感が否めない。小泉進次郎環境相も閣外に出るという。
自民党で20年以上、政務調査会の調査役を務めた政治評論家の田村重信さんはこう語る。
「河野氏は外相、防衛相にワクチン担当相と長く閣内の要職にいた。広報本部長は明らかに格下ですよね。小泉氏も閣僚から外れるなら、岸田政権では河野陣営にいた議員には冷や飯を食わせると見られても仕方ないですね。岸田総裁も安倍氏の顔色をうかがい、遠慮があるのかな…」
また、官邸関係者の一人もこう落胆した。「岸田総裁は、外相を4年務め官僚との関係も良好。それこそ特技の”人の話をよく聞く”タイプです。ただ、麻生氏が副総裁として党に戻る上、幹事長の甘利氏も麻生派で、安倍氏とも近い。総裁選では官邸が党よりも強い発言権、決定権を有する『政高党低』が正しいかという論議もあった。岸田総裁は「政高党高」を目指すと語っていたが、人事を見ると、党主導になりかねず、やりにくいです」
岸田新総裁は都内の名門、開成高校OBで、同窓会が今回の総裁選でも支援。開成出身の元官僚が相次いで官邸入りするという。 
「安倍政権の懐刀で『官邸のアイヒマン』と呼ばれた警察庁OBの北村滋さんが岸田官邸でも副長官として戻ってきます。岸田総裁と同じ開成OBなので想定されていたこととはいえ、反対論もあるようです。総理秘書官として官邸に入る嶋田隆元経済産業省次官も開成OBで安倍氏と近い。今後は開成人脈が目立つようになる」(政府関係者)
11月7日投開票とみられる衆院選挙を本命視された人気の高い河野氏ではなく、岸田総裁で戦う自民党。前回の2017年では圧勝だった自民党だが、今回の衆院選は「苦戦する」という声も党内でも少なくない。立憲民主党の幹部がこう語る。「知名度が高い河野氏が勝てば衆院選は厳しいと思っていた。岸田氏は自民党の議員に人気があっても選挙という点では河野氏に軍配が上がる。岸田氏の党の役員人事は安倍氏のコピーですよ。野党の批判のターゲットになりやすく、勝算も見えてきた」
「安倍支配」の批判が強まる中、岸田総裁はどのように総選挙を戦うのだろうか。

●傀儡政権じゃなかったの? 安倍前首相が「岸田新体制」にブンむくれ 10/2
安倍前首相がまたカリカリしているという。自民党総裁選は思惑通りの展開で、岸田新総裁が誕生。新体制は岸田氏の独自色が見えず、「安倍傀儡政権」と揶揄されるほどなのに、一体何が気に食わないのか。
党の新執行部が1日、発足した。新たな党四役は、甘利明幹事長(麻生派)、福田達夫総務会長(細田派)、安倍前首相がモーレツに肩入れする高市早苗政調会長(無派閥)、遠藤利明選対委員長(谷垣グループ)。首相の女房役となる官房長官には松野博一元文科相(細田派)が就くことも決まっている。
安倍氏が実質支配する細田派が党と政権の要を掌握。ついでに言えば、安倍氏が忌み嫌う河野太郎ワクチン担当相(麻生派)は広報本部長となり、事実上の降格だ。
「安倍前総理が押し込もうとしていたのは、『高市幹事長』『萩生田官房長官』です。高市陣営を全面支援したことで、憲法改正などに消極的な菅政権下で離れた保守層の引き戻しに成功。だから、衆院選に向けた『党の顔』は高市氏がふさわしいとの理由です。岸田新総裁が選出された直後から細田派幹部に“アベフォン”をかけまくり、高市氏を幹事長に推薦するよう求めたそうですが、高市氏は町村派(現細田派)を飛び出した人。幹部は〈なんで、高市氏をやらなきゃならんのだ〉〈安倍前総理は派閥を離れた立場なのに〉と不満タラタラだった」(自民党関係者)
結局、高市氏は選挙公約をまとめる政調会長に就任。第2次安倍政権以来2回目で、いわゆる安倍応援団の間からは「格下げだ」「体のいい封じ込めだ」と見当違いの批判が上がっている。
一方、安倍氏最側近の萩生田の官房長官就任は「新聞辞令」。「既成事実化を狙った安倍前総理サイドが積極リークしていた」(キー局記者)という。起用が決まった松野氏は、政調会長時代の岸田氏に会長代理として仕えた仲だ。
「さすがの岸田総裁も安倍前総理の要望丸のみは拒んだようです。落としどころが甘利幹事長で、麻生新副総裁の手前、安倍前総理も不満をのみ込むしかない」(前出の自民党関係者)
岸田新総裁の“抵抗力”はいかほどのものか。4日に発表される閣僚人事は見ものだ。

●尹美香議員、岸田新総裁に「日韓関係で過去史問題の解決を」… 10/2
無所属のユン・ミヒャン(尹美香)議員は29日、自身のSNSを通じ、日韓関係を巡る過去史問題に関連して、日本に対して問題解決のために真剣に向き合うよう言及した。日本の新首相になる自民党の岸田文雄新総裁に向けたメッセージだ。イーデイリーなど、複数の韓国メディアが報じた。
メッセージでは福島原発の処理水放出問題にも触れた。放流方針を撤回し、問題解決のために、日韓関係を越えアジアの平和を作る道に手をつないでほしいと求めた。
また、竹島(独島)問題については、朝鮮半島の平和政策の障害になるのではないかと懸念し、日本の歴史的責任について批判した。
岸田新総裁は2015年に安倍内閣の外相として、韓国のユン·ビョンセ(尹炳世)外相(当時)とともに、日韓慰安婦合意文をまとめた人物。日韓慰安婦合意についても、「韓国側が約束を守るべき」との立場を固守している。
岸田氏は竹島問題などに対しても「韓国側に責任がある」と強調している。そして、「国際司法裁判所(ICJ)に提訴する必要性がある」と言及してるため、今後も両国間での外交戦が予想されている。
このため、日韓関係が劇的に改善することは難しいという分析が相次いでいるが、一部では両国の発展に期待をかける声も出ている。
通信社のニューシースは29日、歴史問題に絡んで突破口を見出せずにいる日韓関係は、冷却期を続ける見通しだと報じた。
韓国のハンシン大学日本学科のハ・ジョンムン教授は「(この選挙で)安倍前首相の影響力が強いということが証明されたので、(日韓関係も)これまでの立場を堅持するしかない」と話した。
岸田氏は、文政権が事実上破棄した2015年の日韓慰安婦合意の締結当時、外相を務めていた。安倍首相が慰安婦合意文の「日本政府は責任を痛感する」という表現を見てためらうと、岸田氏は外相として安倍首相を説得したという日本メディアの報道があった。
岸田氏は18日の公開討論会で、「慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を明示した慰安婦合意を覆したのは韓国だ」と強調した。
一方、1日、国民日報によると、韓国のキム・ブギョム(金富謙)首相は1日、日本の首相に就任する予定の岸田文雄自民党総裁に対し、「日韓両国関係の発展に大きな役割を果たしてほしい」と明らかにした。
金首相は岸田総裁について、「2015年の日韓慰安婦合意の際、外相として関与した」とし、「問題の本質をよく知っている政治家」と評価した。
 

 

●岸田氏、14日解散の意向 金子氏初入閣で調整 10/3
自民党の岸田文雄総裁は4日召集の臨時国会で首相に就任後、会期末の14日に衆院を解散する意向を固めた。関係者が2日、明らかにした。閣僚人事では金子恭之元国土交通副大臣(60)を初入閣させる方向で調整に入った。岸田氏は4日、皇居での首相任命式と閣僚認証式を経て、新内閣を発足させる。岸田氏が掲げる「老壮青」のバランスの取れた陣容になるか注目される。
自民、立憲民主両党の国対委員長は1日、臨時国会の会期を14日までとする日程で合意している。政府与党は8日に新首相の所信表明演説を行い、11〜13日に衆参両院での各党代表質問を実施する考えだ。14日に解散した場合、衆院選は「10月26日公示−11月7日投開票」が有力となる。「11月2日公示−14日投開票」とする案もある。
公明党の山口那津男代表は10月2日、北海道岩見沢市で記者団に、14日の臨時国会会期末に衆院を解散すべきだとの認識を示した。新型コロナウイルス経済対策の早期実施を訴え「所信表明と代表質問で各党の主張が出そろう。それを有権者が見比べ、政権を選択する。解散すべきだ」と述べた。
岸田氏は2日、官房長官に内定している松野博一元文部科学相(59)、官房副長官に起用する予定の木原誠二衆院議員、磯崎仁彦参院議員らと党本部で閣僚人事や国会対応について協議。記者団に対し、人事について「引き続き作業を進めている。明日中には実質、決めたい」と述べた。
金子氏は衆院熊本4区選出で当選7回。岸田氏が率いる岸田派(宏池会)に所属し、岸田氏の政調会長時代には政調会長代理として支えた。
旧竹下派(平成研究会)の西銘恒三郎元経済産業副大臣(67)や細田派(清和政策研究会)の末松信介参院国対委員長(65)、二階派(志帥会)の小林鷹之衆院議員(46)の初入閣も取り沙汰されている。
また、岸田氏は政権発足時に起用する首相秘書官8人を内定した。筆頭格を嶋田隆・元経産事務次官が務めるほか、財務省の宇波弘貴主計局次長、経産省の荒井勝喜商務情報政策局長、外務省出身の中込正志国家安全保障局担当内閣審議官、岸田事務所の山本高義政策秘書らを起用する。

●自公政権「継続を望む」64%、無党派層は55%…読売世論調査 10/3
読売新聞社は8〜9月に全国世論調査(郵送方式)を実施し、次の衆院選の結果として望ましい議席数について聞くと、「現在の与党が野党を少し上回る」50%と「現在の与党が野党を大きく上回る」14%を合わせ、自公政権の継続を望む人は64%に上った。政権交代を望む人は、「現在の与党が野党を少し下回る」21%と「現在の与党が野党を大きく下回る」9%の計30%にとどまった。
調査は、新型コロナウイルスの感染が急拡大した「第5波」と重なる8月17日〜9月22日、全国3000人の有権者を対象に実施し、2140人(71%)が回答した。
政権交代を望む回答は、野党支持層で61%と半数を超えたが、選挙の勝敗のカギを握る無党派層(全体の51%)では、自公政権の継続が55%で、政権交代の37%を上回った。一方、政府の新型コロナ対応は「評価しない」が全体の73%を占め、無党派層に限ると84%に達した。政府の新型コロナ対応に強い不満を感じながらも、野党には政権を任せられないという構図だ。
衆院選での野党の選挙協力については、「政策に多少の違いがあっても、多くの野党が連携する方がよい」48%と「政策が一致している政党だけで連携する方がよい」48%が並んだ。選挙協力を進めている立憲民主、共産両党の各支持層では政策の一致より連携を優先する回答が7割を超えたが、維新支持層では政策の一致を優先する回答が約6割となり、違いがみられた。
衆院選の争点で重視するものを22項目の中から五つまで選んでもらうと、「新型コロナウイルスなど感染症対策」69%、「医療や年金、介護など社会保障」68%、「景気や雇用」60%がトップ3となり、続く「消費税など税制改革」29%、「少子化対策や子育て支援」27%などを引き離した。
衆院選の争点で重視するもの(五つまで選択)は、次の通り。
〈1〉新型コロナウイルスなど感染症対策 69%
〈2〉医療や年金、介護など社会保障 68%
〈3〉景気や雇用 60%
〈4〉消費税など税制改革 29%
〈5〉少子化対策や子育て支援 27%
〈6〉政治とカネの問題 25% / 〈7〉外交・安全保障 20% / 〈7〉財政再建 20% / 〈7〉防災対策 20% / 〈10〉環境問題 19% / 〈10〉貧困や格差の問題 19% / 〈12〉教育 16% / 〈13〉働き方改革 14% / 〈14〉地方の活性化 13% / 〈15〉原子力発電や太陽光発電などエネルギー政策 12% / 〈15〉行政改革・規制改革12% / 〈17〉憲法改正 9% / 〈17〉震災からの復興 9% 〈19〉デジタル化の推進 8% / 〈20〉農業問題 7% / 〈21〉女性の社会進出 5% / 〈22〉性的少数者(LGBT)の権利 2%

●岸田体制に潜む「安倍排除」の萌芽 本当に「安倍の傀儡」なのか? 10/3
岸田総裁誕生
河野太郎氏、岸田文雄氏、高市早苗氏、野田聖子氏の4名が熱戦を繰り広げた自民党総裁選は、9月29日の党大会で岸田氏が選出された。岸田氏は1回目の投票で議員票146票、党員換算票11票の計256票を獲得し、議員票が86票と伸び悩んだ河野氏の255票を抑えて1位となった。そして上位2名による決戦投票では、河野氏が都道府県票を170票獲得したものの、議員票が131票と伸び悩み、議員票249票と都道府県票8票を獲得した岸田氏が勝利した。総裁選は9月17日に告示されたが、実際の戦いは選挙日程が公表された8月26日に始まった。この日の午後に岸田氏が出馬表明し、「党役員の任期は1期1年3期まで」としたため、二階俊博前幹事長が激怒。支持率低下の不利な状況を衆議院解散で一変しようとした菅義偉首相が解散権を封じられるなど、永田町は一気に「自民党政局」に染められた。
安倍氏の暗躍
中でも注目されたのが、安倍晋三前首相の動きだ。昨年8月に首相を辞任した時は、官房長官だった菅氏と二階氏に先んじられ、後継指名を封じられた。かねてから安倍氏の“本命”は岸田氏と言われていたが、その応援もままならなかった。だが今回は違う。そもそも安倍氏の本命は思想の面で一致する高市氏だった。高市氏は8月に文藝春秋に「政権構想」を発表。「美しく、強く、成長する国へ。」を9月初旬に出版した。いずれも春頃から準備しなくては実現が難しいものだ。そして高市氏の総裁選出馬を最初に報じたのが、安倍氏に近いとされる元TBS記者の山口敬之氏。総裁選に高市氏が名乗り上げるまでのストーリーが綺麗に作られている。総裁選に入ると、票の引き剥がしが凄まじいものだった。主なターゲットになったのが、安倍氏にとって古巣になる細田派だ。首相在任中は派閥を離れていた安倍氏だが、いずれは細田派に戻って会長に就任することになっている。実は今年1月にも復帰するはずだったが、日大事件などでとん挫したと言われた。だが細田派内では、町村派時代に派閥を離脱した高市氏への投票を拒む者も少なくなく、表向きは自由投票とされていたが、当初の割り振りは岸田票が多かった。たとえば参議院では、35人中の30人が岸田で5人が高市と決められたという。しかし結果は大きく浸食された。高市陣営のある議員は「参議院では26名を引きはがした」と胸を張ったが、これには安倍氏と自民党参議院幹事長を務める世耕弘成氏の激しい攻防戦が存在した。抵抗する世耕氏に、安倍氏は世耕氏が切望する衆議院和歌山3区への転出を阻むことまで持ち出したという噂まで流れたのだ。
「撃ち方止め」の現実は?
そして27日頃には動きが止まる。その理由として 日刊ゲンダイは9月28日号で「高市肩入れ一転 停戦指令」と報じた。高市氏支持が広がり過ぎて、岸田氏が3位になれば、決選投票は河野対高市となり、河野勝利になる可能性が出てきたことを理由にしている。一方で26日のフジテレビの番組では、解説者が「河野陣営が票の一部を高市氏にまわして、高市氏を2位にする動きがある」と紹介。これに河野氏が「フェイクニュースだ」と激怒した。現実には個人票はともかく組織票の掘り起こしに苦慮する河野氏側から高市氏側に票を回すのはありえず、またそれまでなりふりかまわず票を剥がしてきた安倍氏がいきなり「撃ち方止め」も説得力はない。むしろここで総裁選の混乱ぶりを収めるべく、“長老”が出てきたことに注目すべきだろう。たとえば9月27日には伊吹文明氏の仲介によって二階氏と岸田氏が面会しており、関係が修復された。そして世耕氏が安倍氏に迫られた件は、清和研の長老である森喜朗氏に届いているはずだ。だからこそ、3回生の福田達夫氏の総務会長抜擢が実現したのだろう。
清和研の本流は福田家
細田派である清和政策研究会は岸派の十日会をその前身とするゆえに、安倍氏の祖父である故・岸信介元首相を始祖と解する向きもある。しかし戦後から赤坂で料亭「佳境亭」を経営し、田中角栄や三木武夫といったそうそうたる大物政治家を顧客とした故・山上磨智子さんは、筆者にこう教えてくれたことがある。「現在の派閥の基礎を作ったのは佐藤栄作さん。佐藤さんは次の時代も考えて、田中(角栄)さんには竹下(登)さん、福田(赳夫)さんには安倍(晋太郎)さん、三木(武夫)さんには河本(敏夫)さんを付けました。これが派閥の始まりです」要するに清和研のオーナーは福田家であり、その“嫡男”は福田氏ということだ。2012年に初当選の福田氏は現在54歳。これまでのポストは2017年8月に防衛大臣政務官兼内閣府大臣政務官くらいで、御曹司にすれば目立たなかったが、今回の総裁選では同期の武部新氏らと「党風一新の会」を立ち上げ、代表世話人に就任した。同会のメンバーは90人ほどと言われているが、ある自民党関係者は「実際にはもっと多い。あえて匿名希望の会員を入れると、140名ほどにのぼる」と述べる。もしそうなら、最大派閥の細田派よりも多くなり、党内最大の勢力となる。その福田氏は総裁選後のぶら下がりで「1回目も2回目も、投票したのは岸田さん」と述べた。よって福田氏の総務会長抜擢は、党も派閥も支配しようとする安倍氏に対する強烈なパンチであると筆者は見ている。
幹事長ポスト、官房長官ポストを取り逃がす
また党の要となる幹事長や官邸のまとめ役の官房長官のポストについても、安倍氏を封じ込めようとする岸田氏の意思が伺える。幹事長には総裁選でいち早く岸田氏支持を打ち出した甘利氏が就任したが、安倍氏は高市氏を押し込もうとしていたという。幹事長は300億円とも言われる党の資金を動かし、公認権などを掌握する。その権限をあますことなく行使したのが故・田中角栄元首相と二階氏で、その暗躍振りは周知の事実。ましてや11月に行われると見込まれる衆議院選や来年の参議院選を控え、公認権は絶大な威力を発揮する。キングメーカーとして君臨するには、欠かせない権限だ。官房長官についても、総裁選で高市氏に投じた萩生田光一氏の就任が一部で報じられたが、松野博一氏に決着した。このように明確な“安倍離れ”ではないが、岸田氏は微妙な点で安倍氏と距離をとっているといえる。しかも右腕とする総理の政務秘書官に就任するのは、岸田氏の開成高校の後輩で経済産業省事務次官だった嶋田隆氏。その評価は安倍政権で政務秘書官を務めた今井尚哉氏を上回る。岸田政権は10月4日に発足するが、初めから高支持率は期待できないにしても、堅実に政治を進めていくのではないか。総裁選では「いろいろな人の声を聞く」と何度も述べた岸田首相には、是非その声を生かした政治の実現を期待したい。

●野田氏の入閣内定、岸防衛相を再任…「経済安保相」を新設へ  10/3
自民党の岸田文雄総裁(64)は4日発足の岸田内閣で、衆院当選3回の小林鷹之・元防衛政務官(46)と無派閥の後藤茂之政調会長代理(65)を初入閣させる意向を固めた。
総裁選を戦った野田聖子・元総務相(61)の入閣も内定した。総裁選で掲げた経済安全保障推進法の制定に向け、担当閣僚を置く方針だ。
岸田氏は4日召集の臨時国会で第100代首相に指名された後、直ちに組閣に着手し、岸田内閣を発足させる。2日は自民党本部で、官房長官に内定している松野博一・元文部科学相(59)らと人事や8日の所信表明演説について協議した。岸田氏は「しっかり人事を固めたい」と記者団に語った。
初入閣が固まった小林氏は財務省出身で、二階派に所属。岸田氏が政調会長時代に設置した経済安保をテーマとする新国際秩序創造戦略本部で、座長の甘利幹事長の下で事務局長を務めた。後藤氏は衆院当選6回。政調会長代理として、新型コロナウイルス対策に関する政府・与野党連絡協議会で野党との交渉にあたり、新型インフルエンザ対策特別措置法の改正案をまとめた。厚生労働相での起用案がある。
閣僚人事では、岸信夫防衛相(62)の再任が内定した。岸氏は安倍前首相の実弟。安全保障環境が厳しさを増す中、安保政策の継続性が必要と判断したとみられる。竹下派の西銘恒三郎・元経済産業副大臣(67)、二之湯智参院政審会長(77)の初入閣も固まった。麻生派の山際大志郎・元経産副大臣(53)は入閣させる方向で調整している。
このほか、財務相に鈴木俊一・元総務会長(68)を充て、茂木敏充外相(65)は再任する。細田派の萩生田光一文部科学相(58)の閣僚起用と岸田派の金子恭之・元国土交通副大臣(60)の初入閣も内定している。
一方、歴代最長の約9年にわたって事務の官房副長官を務めた杉田和博氏の後任には、栗生俊一・元警察庁長官(62)が内定した。栗生氏は警察庁官房長なども歴任し、他省庁との人脈も深い。
政務の首相秘書官には、内定している嶋田隆・元経産次官(61)に加え、岸田氏の事務所で秘書を務める山本高義氏(49)も起用することを決めた。

●二階派が衆院選で壊滅危機! 候補競合の6選挙区「公認争い」に全敗か 10/3
自民党内で二階前幹事長が力を失ったことで、衆院選に向けた公認争いは仕切り直しだ。露骨な二階派優遇で候補者が競合したままの選挙区は6つ〈表〉。そのうち、山口3区で動きがあった。
県連が1日、くら替え出馬を表明している林芳正元文科相(60=岸田派)を公認候補として党本部に申請すると決定。一方、同区支部長で現職の河村建夫元官房長官(78=二階派)は「小選挙区で勝ち続けている候補者の選挙は現職優先」と主張し、かつてないほど地元で活動している。林氏も河村氏も所属派閥のナンバー2。互いに一歩も譲れない。
「『現職優先』の原則に従えば林さんに公認を出しづらいが、林さんは総裁派閥の重鎮で、将来の総理候補。河村さんよりひと回り以上も年下で、伸びしろもある。林さんが河村さんにダブルスコアで勝っているとの情勢調査もあり、地元のホンネは『河村さんは身を引くべき』です」(自民党関係者)
遠藤選対委員長はきのう、選挙区調整について「当事者の意見を聞きながら進める」と言っていたが、衆院選の公示まで残り1カ月。公認争いは激化の一途だ。二階派は群馬1区と新潟2区で、安倍前首相が実質支配する細田派の現職とバトル。栃木2区では西川公也元農相の長男と茂木外相の元秘書の新人同士が争い、高知2区では前知事の新人と山本有二元農相が火花を散らしている。
「静岡5区では現職の吉川赳議員と、民主党政権の環境相だった二階派特別会員の細野豪志議員がバチバチ。岸田派の吉川さんが公認争いは有利なはずですが、細野さんは選挙区で6連勝している。とはいえ、甘利幹事長は疎んでいた二階さんの影響力の『徹底排除』も辞さないでしょう。競合する二階派の候補に公認を与えず、派閥ごと干すんじゃないか」(前出の自民党関係者)
二階外しをブチ上げて浮上した岸田総裁のお手並み拝見だ。

●文在寅が、異例の“いきなり無視”…韓国政府と韓国メディア 10/3
韓国の主要紙は、岸田自民党新総裁の選出を大きく報じている。
各紙の論調を見ると、ソウル新聞、韓国日報、東亜日報など、総じて「岸田次期首相は新しい解決策」を見出しにして、日韓関係の改善に取り組むべきとの論調を張っている。反面、現実の問題として、中央日報、朝鮮日報、ハンギョレ新聞などの有力紙は、韓国の専門家の見解を踏まえ、当面日韓関係は変わらないであろうと予想している。
本来宏池会は自民党の中ではハト派であり岸田政権誕生で日韓関係改善の機運が盛り上がってもいいが、現実と理想の乖離は大きく、韓国でも過剰な期待は抱いていない。
ただ、一部には来年7月の参議院選挙後に新たな岸田路線が姿を現すかもしれないと見ており、韓国の新政権誕生と合わせ日韓関係に変化が生まれる可能性にも着目している。
岸田次期首相は、安倍政権の外相として日韓慰安婦合意の実現に尽力したが、文在寅政権が合意を事実上破棄し、梯子を外されたことがある。
韓国では次期与党候補の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事が過激な反日発言を繰り返しており、同氏が大統領に当選すれば、再び梯子を外される恐れがある。したがって、次期大統領に誰が当選するか見極めるまでは軽々には動けないだろう。
ちなみに、9月30日午前の時点で韓国政府のコメントは報じられていない。
まだ正式には首相に選出されてはおらず、韓国政府は首相就任後に祝賀の電報を送るか電話するといっているようであるが、本来友好国であるべき隣国の次期首相が事実上決定したところで、歓迎し共に日韓関係の発展に努力したいとのメッセージがあってもおかしくない。現時点での沈黙は異様である。それだけ岸田次期政権の対韓政策に韓国も自信が持てないということであろう。
革新系で文在寅政権に近いハンギョレ新聞は、今次選挙は安倍路線を「引き継ぐか断つか」の選択だったとの見方を紹介し、日韓関係についてもこの視点から展望を語っている。
同紙は、岸田氏は安倍政権で4年半も外相として安倍路線を支えてきた。今年6月に党内「新しい資本主義を創る議員連盟」を結成し、安倍前首相と麻生財政相を最高顧問に迎えたとしており、「岸田氏は大きな枠組みでは安倍路線を継承する中で、部分的な変化を追求するものと見られている」と報じているのだ。
文在寅を無視し続けた菅政権と“一緒”
革新系で文在寅政権に近いハンギョレ新聞は、日韓関係に対する立場については、記者クラブ討論会での発言を引用し、岸田氏は2015年の日韓慰安婦合意の日本側当事者であり、「(慰安婦など)国際的合意、条約、ひいては国際法など、韓国がこうしたことを守るのか疑問視されている」としている。そのうえで、「これさえも守らないならば何を約束しても未来は開かれない」「対話は必要だがボールは韓国にあると思う」との現在の日本政府の強硬な姿勢と変わらない発言を行ったと紹介している。岸田氏の発言では、文在寅氏を無視しづけてきた菅政権同様、首脳会談の糸口は見出し難く、首脳会談なくして日韓関係の改善には悲観的にならざるを得ないだろうというわけだ。
韓国は「河野太郎」のほうがよかった…?
「ただ、首相として十分な時間が与えられれば、自民党内の穏健派を代表する岸田派の伝統に合わせた合理的な対外政策に旋回する可能性もある」と一縷の政策転換の期待も滲ませている。対する河野太郎氏については、「規制をなくし、中央政府の権限を減らして地方や民間にできることは果敢に任せなければならない」と改革姿勢を持っていることを紹介。また、同氏の別の記事はアベノミクスについても「企業の利益は非常に拡大したが、個人の所得にはつながらなかった」と批判したことを伝えている。日韓関係については「日韓が徴用工問題で対立した2018年から19年にかけて外相を務めていたことから政権を握ったとしても突然の政策転換は容易でないと見られる」と慎重な見方を示しており、記者クラブでの討論会では「(日韓)基本条約に反するものであり、韓国国内で解決しなければならない」と指摘したと伝えている。ただ、その討論会で歴史問題と対韓国輸出規制を分離する意志をほのめかしたと紹介しており、そこに日韓関係転換の可能性を見ていたのかもしれない。ハンギョレ新聞は、こうした岸田、河野両氏の考えを紹介の上、「韓日関係の対応、河野氏はあいまいで岸田氏は不安」(タイトル)だと報じている。韓国のメディアとしては安倍路線を継承する岸田氏ではなく、河野氏をひそかに期待していたのかもしれない。
岸田は「慰安婦合意」を行った人であると紹介
中央日報は、総裁選挙は予想より簡単に岸田氏の勝利に終わったと報じ、岸田氏の人物像を紹介している。岸田次期首相は、「外相や自民党政調会長などの要職を歴任したが目立った動きを見せず河野氏らスタータイプの政治家に比べると大衆的な認知度は高くない」「伝統的に周辺国との友好関係を強調してきた派閥の宏池会のトップであり、政治性向は党内でリベラル、穏健保守派の政治家に分類される。しかし、思想的に異なる安倍前首相とも対立せず従順的な立場を取ってきた」と紹介している。今回の総裁選挙の結果、安倍前首相が日本政治の水面下の実力者として残ることになったとの警戒感を示している。同紙はまた、岸田氏は「自分の政治哲学を明確に表さない」と述べた。岸田氏が作っていく日本がどのような姿になるのか描き出すのは容易ではないだろう。自ら出版した『岸田ビジョン』という著書では重要と考える価値として「信頼」と「協力」を掲げ、「リーダーは人を輝かせるためにある」と主張したことを紹介した。
「来年7月に本性を現す」と…
岸田文雄次期首相は「傷もないが、魅力もない無難な政治家だ。政策的にも性分的にも安定的だ」と紹介している。韓国の大統領は個性が強く、自我を押し通す傾向にあり、「無難」で「安定的」では韓国大統領にはなれないだろう。韓国にはないタイプの政治家であり、岸田氏が日本をどの方向に導いていくのか、見通しが立たないということであろう。そのため、岸田次期政権をいっそう安倍政権の継承と見る傾向があるのかも知れない。いずれにせよ韓国の政治家にしろ、メディアにしろ日本に関する知識は豊富である。しかし、日本人の本心を理解することには不得手である。岸田政権を理解することは至難の業であるかもしれない。「慰安婦合意を覆した韓国にしこり『岸田氏、来年7月に本性をあらわす』」これは中央日報の記事のタイトルである。この記事では、韓国の最大の関心事は日韓関係だとして、岸田氏と単独面談を行ったある要人の発言を紹介している。
はしごを外された
これによれば、日韓関係は、1 来年7月の参議院選挙までの「安全運転」の第1段階。2 それ以降の「岸田が本性を表す」第2段階に分けて進められる、と予想している。
長期政権になるかどうかが決まる来年7月の参議院選挙まではAA(安倍ー麻生)の意向を尊重してコロナ克服を最優先する慎重な政権運用をせざるを得ない、というのである。日韓関係の改善が見込まれない背景として韓国の対日関係の権威は「自民党だけでなく日本国民も韓日関係を早期に改善する必要性を感じていない」「『管理』はするものの『外交リスク』になるようなものを岸田が率先して冒険することはない」と予想している。その一方で、「参議院選挙でも勝利してAAからの影響を脱し、韓国に新政権が誕生すれば、本来のDNAである『ハト外交』に転じる可能性もないことはない」との見通しも伝えている。岸田氏は2015年の慰安婦合意の際、安倍総理(当時)が「日本政府の責任を痛感」という表現を入れることに反対したのを説得して合意にこぎつけたという。ただ、この合意が事実上破棄されたことで日本の国内世論の集中砲火を浴び、「梯子を外された」と心にしこりが残っている。慰安婦合意については、文在寅氏も政権末期に至り、「合意は有効」という立場に回帰した。来年発足する韓国の新政権が歴史問題についていかなる態度を示すかで、岸田氏が本来の宏池会の立場に回帰するかどうかが決まってこよう。韓国の日韓関係専門家は「岸田氏は安倍氏や菅氏より、韓国との関係改善のため誠意あるアプローチをする可能性があるが、懸案については容易ではないだろう」との現実的な見方を語っている。
徴用工問題はどうなるか
大田地方裁判所は最近、三菱重工業の商標権と特許権の売却を命令した。今回出された初の売却命令に対しても三菱が「即時抗告する」との立場を明らかにし、再抗告まで提起される可能性があることを考えると、実際の現金化にはまだかなりの時間がかかると予想される。ただ、原告側の代理人の弁護士は「被告企業が抗告、再抗告しても、売却は手続きに従って引き続き進める」と明らかにしているので、韓国政府の立場は一層困難なものになっている。文在寅政権も今年になって「現金化は望ましくない」との明確に反対の意思を示しており外交努力を続けているというが、今問題を韓国側独自で解決する考えは示していない。日本企業の資産の現金化が現実の問題となり、日韓関係改善のための時間的猶予はほとんどない。岸田政権として韓国への対応について決断を迫られる時が近づいている。
日韓関係の改善は「次期政権」がキーになる
日韓関係の改善には、会談で両国首脳が明確な意思表示をすることが避けられないところまで拗れている。加えて徴用工問題は一層深みにはまりつつある。こうした状況では岸田氏が総理になっても韓国側で歴史問題を真摯に決着させる意思表示をしない限り関係改善は困難であろう。岸田次期首相は韓国側の取り組み如何では日韓関係改善の意志はあろう。ただ、それは文在寅氏が歴史問題で大幅に譲歩しても、共に民主党の李在明候補は「親日勢力が米占領軍と合作してできた」のが大韓民国であり、日本の極右勢力は「軍事大国化した場合最初の攻撃対象は朝鮮半島」という人である。京畿道知事として親日派清算プロジェクトを展開した。岸田氏は、安倍総理を説得して韓国側と合意した慰安婦問題で梯子を外された経緯に鑑み、次期大統領に誰がなるか見極めるまでは動かないであろう。日韓関係の改善は次期韓国の大統領が決まり、韓国側から挨拶の電話会談が申し入れられて時に初めて動き出すであろう。 

●防衛相に岸氏再任へ 安倍前首相の実弟 10/3
自民党の岸田文雄総裁は3日、岸信夫防衛相(62)を再任する方針を固めた。岸氏は細田派(清和政策研究会)に所属し、安倍晋三前首相の実弟。

●岸田新総裁誕生の総裁選を総括 「一番おいしい思いをしたのは高市さん」 10/3
「ダウンタウン」の松本人志(58)が3日放送のフジテレビ「ワイドナショー」(日曜前10・00)に出演。岸田文雄新総裁(64)が誕生した自民党総裁選について「近い将来的なことでいうと、一番おいしい思いをしたのは高市さん」と見解を示した。
番組では、29日に投開票が行われた自民党総裁選について特集。岸田氏、河野太郎行政改革担当相(58)、高市早苗前総務相(60)、野田聖子幹事長代行(61)で争われ、岸田氏が1回目の投票で1位だったものの、過半数には達せず、2位の河野氏との決選投票を実施。岸田氏が合計257票、河野氏が合計170票で岸田氏が勝利した。
総裁選について意見を求めらたタレントのモト冬樹(70)は「体制が変わるには早かったんだろうなと、ちょっと河野さんがちょっと変えてくれるかなと思ったけど、最初は強炭酸だったけど、だんだん気が抜けて言った感じだった」とチクリ。松本もうなづき、「麻生さんにポン!ってやられた」と乗っかると、モトは「結局、無難なところにいった。こんなに派閥スゴイなっていうのを思い知らされた感じ」と指摘した。
松本は「近い将来的なことでいうと、一番おいしい思いをしたのは高市さんかな」とコメントした。

●株式市場は岸田文雄総裁の金融所得課税強化に戦々恐々 10/3
国民的人気のあった河野太郎氏が敗れ、岸田文雄氏が自民党総裁選挙に勝利した。河野太郎優勢との見方や、ネットでの人気がある高市早苗氏が注目される中で、ある意味では地味な候補であった岸田文雄氏が、堂々の圧倒的な票数で総裁となった。
岸田氏は、安倍前首相や約9年に渡り財務相を務める麻生太郎氏などの自民党の重鎮たちの覚えが良く、良くも悪くも、自身のやりたい政策がはっきりしていない。反原発で再生可能エネルギー推進を謳っていた河野太郎氏の場合、河野銘柄は明らかだったが、その点では、明確な岸田銘柄というのはあまりない。一方で、岸田氏は、マクロ経済政策では公益資本主義を打ち出しており、そのひとつが金融所得課税の強化である。こちらは、大きなインパクトを株式市場全体に与えうる。河野氏の偏ったエネルギー政策も深刻であったが、こちらも影響は大きい。
現在、日本では株式売却益や配当など株主に課される税金は、他の所得とは分離され一律20%となっている。富裕層の多くが、累進課税で最大55%ともなる給与所得ではなく、こうしたエクイティから所得を得ているため、所得が1億円を超えると、かえって税負担率が下がっていく、という傾向が見られる。このことが格差を拡大させている、として批判されている。
なお、筆者は、これはよくある誤解で、富裕層は会社経営者が多いのだから、会社経営者は自分の会社の利益に対して法人税を払っていて、そこを見れば、それほど税負担率が低い、ということもないと考えているが、世間はそうは見ないであろう。実際に、働いていない富裕な投資家なら、あまり税金を払っていないことは事実であり、ここを狙って課税していくというのは、大衆の感情を考えれば、やむを得ない。
米国でも、バイデン政権は、株式売却益・配当へ課税強化により所得の再分配に動いている。米国で課税強化となれば、岸田内閣も増税に動くことになる。株式市場は戦々恐々としている。
 

 

●岸田氏「全員野球内閣」/起用が固まった岸田新内閣の閣僚一覧 10/4
自民党の岸田文雄総裁は3日、人事の調整を進め、4日に発足させる新内閣の陣容を固めた。子ども政策を統括する「こども庁」創設に向け、総裁選で争った野田聖子元総務相(61)を担当相に起用する。新設する経済安全保障担当相に小林鷹之元防衛政務官(46)を抜てき。岸田氏は4日召集の臨時国会で第100代首相に指名され、同日中に組閣する。
初入閣は13人で、2019年の第4次安倍再改造内閣と並ぶ多さとなった。中堅、若手議員を積極登用し、ワクチン担当相を任せる堀内詔子氏、経済安全保障担当相の小林氏、デジタル相に内定した牧島かれん氏はいずれも衆院当選3回。小林、牧島両氏は40代だ。女性は菅内閣より1増の3人となる。
小林氏は経済安保戦略を策定した党の新国際秩序創造戦略本部で、甘利明座長を事務局長としてサポート。牧島氏は党デジタル社会推進本部でデジタル庁設置へ提言をまとめた。こうした経歴を買われたようだ。
小林氏は総裁選で、環境相に決まった山口壮氏とともに二階派から早々に高市早苗氏の陣営に入り、熱心に動いた。牧島氏は河野太郎氏の出馬に奔走。総裁選で争った野田聖子氏の入閣と合わせ、岸田氏が掲げる「全員野球」の意図がにじむ。
新型コロナウイルス対策を担う厚生労働相は後藤茂之氏。党厚労部会長や衆院厚労委員長を経験し、社会保障政策に通じる。ワクチン担当の堀内氏は岸田氏に近い。
派閥別に見ると、細田派と旧竹下派が4人、岸田派と麻生派は3人、二階派2人とバランスに腐心した格好。無派閥から3人が入り、石破派、石原派はゼロだった。
主要閣僚は総裁選で岸田氏当選に貢献した麻生、旧竹下、細田各派からの起用が目立つ。麻生太郎財務相の後任となる鈴木俊一氏は麻生派。外相は旧竹下派会長代行の茂木敏充氏を再任し、経済産業相は安倍晋三元首相側近の萩生田光一氏(細田派)に任せる。

●岸田内閣閣僚20人内定 「小石川連合」形なし冷や飯人事 10/4
自民党の岸田文雄総裁は3日、4日に発足させる新内閣で入閣させる全20人の顔触れを固めた。総裁選で河野太郎氏を全面支援した無派閥の小泉進次郎環境相は閣僚ポストを得られず、はじき飛ばされた。党役員ポストもなく、冷や飯を食わされた格好だ。
党内政局を間近で見てきた自民党関係者は小泉氏の処遇について「人気もあり総選挙での利用価値が少しはあると思っていたが…あれだけやれば、当然でしょうね」と話した。
“あれだけ”というのは総裁選における派閥攻撃。中でも安倍政治に対する批判だ。
安倍晋三前首相と敵対関係にある石破茂元幹事長らとともに、派閥横断的に河野氏を応援する「必勝を期す会」を立ち上げた小泉氏。その頭文字から「小石河連合」と称された。
石破氏が「古い自民党と国民の戦い」と言えば、「派閥の力学ではなく、国民の理解を得る政権」と声高に訴えた小泉氏。長期政権を築き、退陣後も大きな影響力を誇示し続ける安倍氏を意識したものだった。
政府関係者は「安倍さんは石破さんだけではなく、小泉さんに対しても快く思っていなかった」とし、安倍氏の影響力が強く残った岸田政権での“小泉氏冷や飯人事”は当然の帰結だと強調した。
総裁選を争った高市早苗氏は政調会長に就任。野田聖子氏は地方創生担当相として入閣。河野氏は外相、防衛相経験者としては降格に値する党の広報本部長。高市、野田両氏と比べれば、格下人事の印象は否めない。
党関係者は石破氏について「干されるのは自明の理」と指摘。激しくやり合った権力闘争で敗れ散った「小石河連合」。今後もその力はそぎ落とされていきそうだ。
《初入閣13人 派閥はバランス重視》新内閣の閣僚に内定した20人の顔触れを見ると、初入閣は13人で、2019年の第4次安倍再改造内閣と並ぶ多さとなった。中堅、若手議員を積極登用し、ワクチン担当相を任せる堀内詔子氏(岸田派)、経済安全保障担当相の小林鷹之氏(二階派)、デジタル相に内定した牧島かれん氏(麻生派)はいずれも衆院当選3回。小林、牧島両氏は40代だ。女性は菅内閣より1増の3人となる。派閥別に見ると、細田派と旧竹下派が4人、岸田派と麻生派は3人、二階派2人とバランスに腐心した格好。無派閥から3人が入り、石破派、石原派はゼロだった。官房長官に内定した松野博一元文部科学相が拉致問題担当相も兼務する。

●岸田内閣が発足へ、新設の経済安保担当相に小林鷹之氏と報道 10/4
自民党の岸田文雄総裁は4日午後、衆参両院の本会議で第100代首相に指名された後、組閣に着手する。皇居での任命式を経て、首相として初めての記者会見を行う予定。 
NHKによると、新設の経済安全保障担当相に当選3回の小林鷹之衆院議員、財務相に鈴木俊一元総務会長、官房長官に松野博一元文部科学相を起用する。女性は少子化担当相として野田聖子元総務相ら3人が入閣し、菅義偉内閣より1人増にとどまった。 
岸田氏は年内に数十兆円規模の経済対策を策定し、新型コロナウイルスへの対応に国民の協力を得る考えだ。さらに総裁選で掲げた「成長と分配の好循環」の実現を目指し、国民の所得・給与を引き上げる経済政策を進める。
岸田内閣の顔触れ
▽総務 金子恭之▽法務 古川禎久▽外務 茂木敏充(再任)▽財務 鈴木俊一▽文部科学 末松信介▽厚生労働 後藤茂之▽農林水産 金子原二郎▽経済産業 萩生田光一▽国土交通 斉藤鉄夫▽環境 山口壮▽防衛 岸信夫(再任)▽官房長官 松野博一▽復興 西銘恒三郎▽国家公安 二之湯智▽少子化 野田聖子▽経済再生 山際大志郎▽デジタル 牧島かれん▽ワクチン 堀内詔子▽万博 若宮健嗣▽経済安全保障

●岸田内閣、今夜発足 「新しい資本主義」構築目指す 10/4
自民党の岸田文雄総裁は4日午後、衆参両院本会議の首相指名選挙で第100代、64人目の首相に選出される。辞任した菅義偉(すが・よしひで)首相の後任となる。岸田氏は首相に選出された後、直ちに組閣に着手する。皇居での首相親任式と閣僚認証式を経て、4日夜に公明党との連立による岸田内閣が発足する。新内閣では成長戦略とともに富の再分配を重視する「新しい資本主義」の構築を目指す。岸田氏は4日午前、党本部で記者団に「これからが本当の意味でのスタート。強い思いで、強い覚悟を持って臨みたい」と述べた。
閣僚人事で再任は茂木敏充外相と岸信夫防衛相のみで陣容を大幅に一新する。初入閣は新設の経済安全保障担当相に抜擢(ばってき)する小林鷹之衆院議員ら13人で、女性閣僚は少子化担当相に充てる野田聖子元総務相ら3人となる。このほか、松野氏に拉致問題担当相を兼務させ、財務相に鈴木俊一元五輪相、経済産業相に萩生田光一文部科学相、国土交通相には公明党の斉藤鉄夫副代表を充てる。また、経済再生担当相には山際大志郎元経産副大臣が就き、新型コロナウイルス対策も担当。厚生労働相に後藤茂之政調会長代理を起用する。
岸田氏は自民党総裁選で「令和版所得倍増」を掲げ、子育て世代への住居・教育費支援や、看護師、介護士などの収入増を図ると主張。コロナ対策では数十兆円規模の経済対策を年内にまとめ、対策の司令塔機能を持つ「健康危機管理庁」の設置を目指す。外交では安倍晋三、菅義偉両内閣の路線を踏襲し、「自由で開かれたインド太平洋」の構築を目指す。総裁選では防衛政策について「敵基地攻撃能力も含めて、抑止力として用意をしておくことも考えられる」と述べていた。

●岸田内閣 13人の初入閣&派閥バランスも意識 4日発足 10/4
自民党の岸田文雄総裁は4日に発足させる新内閣の陣容を固めた。
経済安全保障担当相を新設し、46歳の小林鷹之元防衛政務官を抜てき。デジタル相兼規制改革・行政改革担当相にも44歳の牧島かれん元内閣府政務官をあてるほか、法相の古川禎久元財務副大臣など、初入閣が13人とフレッシュさをアピールした。また子ども政策を統括する「こども庁」創設に向け、総裁選で争った野田聖子元総務相(61)を担当相に起用する。
その一方で、安倍晋三前首相が所属する最大派閥・細田派から4人、旧竹下派から4人、麻生派から3人と総裁選で協力を得た派閥から満遍なく登用するなど、バランス型の内閣を構成する。近く行われる衆議院議員総選挙までは自らのカラーを抑え、選挙勝利という信任を得てから“岸田色”を濃く出していく方針と見られる。
岸田氏は4日召集の臨時国会での首相指名後、直ちに組閣に着手。皇居での首相任命式と閣僚認証式を経て新内閣を発足させる。
また、政府は、組閣当日の首相官邸での新閣僚による就任記者会見の開催を見送り、各省庁での会見だけにする方針を決めた。会見終了が深夜から未明に及ぶとの批判があり、昨年9月の菅内閣発足時、河野太郎行政改革担当相は官邸での就任会見で「大臣が各省でやればすぐに終わる。前例主義の最たるものだ」と会見の見直しを訴えていた。

●第100代首相に岸田文雄氏 午後の衆院本会議で選出、新内閣今夜発足 10/4
自民党の岸田文雄総裁(64)は4日午後、衆院本会議の首相指名選挙で第100代首相に選出される。1年余りで退陣となった菅義偉首相(72)から政権を引き継ぐ。岸田氏は直ちに組閣に着手し、皇居での首相任命式と閣僚認証式を経て、4日夜に内閣を発足させる。新型コロナウイルス対策と経済再生が新政権の重点課題となる。
自民党派閥の宏池会(岸田派)所属議員の首相就任は、1991年の宮沢喜一元首相就任以来、30年ぶりとなる。
岸田氏は4日午前、首相指名を前に自民党本部入り。記者団の取材に「首相指名を受けて、これからが本当の意味でのスタートだ。強い思い、強い覚悟で臨みたい」と決意を示した。
岸田氏は総裁選を制した9月29日、コロナ対策に最優先で取り組み、数十兆円規模の経済対策を策定する方針を表明。「新しい資本主義」の構築を掲げ、成長と分配の好循環で格差を解消する考えも打ち出している。
岸田氏は第2次安倍政権以降、外相、党政調会長を歴任。新内閣では野田聖子元総務相(61)を「こども庁」創設に向けた担当相に充てるほか、13人を初入閣させる。経済安全保障担当相となる小林鷹之元防衛政務官(46)ら、衆院当選3回の若手も抜てきする。
衆院議員の任期は今月21日まで。臨時国会では8日に所信表明演説を実施し、11〜13日の予定で各党代表質問に臨む。岸田氏は会期末の14日に衆院を解散する方針だ。
菅内閣は4日午前の臨時閣議で総辞職する。菅首相の在職日数は384日で、戦後の34人中、12番目に短い。(共同)

●河野太郎は「小石」に躓き、「中庸」岸田が新総理へ… 10/4
拒絶された「小石河連合」
9月29日、自民党新総裁として岸田文雄氏が選出された。岸田氏の他に、河野氏、高市氏、野田氏が争った自民党総裁選は、1回目投票で、岸田氏は国会議員票146、党員党友票110の計256、河野氏はそれぞれ86、169の計255、高市氏はそれぞれ114、74の計188、野田氏はそれぞれ34、29の計63。決選投票は、岸田氏はそれぞれ249、8の計257、河野氏はそれぞれ131、39の計170だった。事実上3候補の三つ巴戦だったが、政治的な立ち位置は、岸田氏が中庸、河野氏はやや左、高市氏はやや右だ。党員党友の票数が物語るように、河野氏の人気が高かった。一方、国会議員票では、岸田氏が優勢だった。菅首相が総裁選に出馬しないことがわかると、岸田氏と河野氏が出馬に意欲を出した。この二人の戦いになれば、河野氏の優位は否めない。そこに、高市が安倍氏の働きかけで出馬した。安倍氏の応援の威力はすさまじく、保守系を中心として高市氏は支持を集めていった。1回目の国会議員票を事前の予想と比較してみると、岸田氏は5票程度多く、河野氏は35票程度少なく、高市氏は15票程度多く、野田氏は15票程度多い。それは河野氏の戦略ミスが大きいのだろう。一つは、政策で消費税による最低年金構想を話したことだ。これは民主党が主張したが実現できなかったものと類似していた。まもなく事実上の撤回に追い込まれた。もう一つは、政局がらみだ。「小石河」連合と言われ、国民的な人気のある小泉進次郎氏と石破茂氏が河野陣営に入った。これに、多くの保守系関係者は拒絶反応を示した。筆者流に言えば、河野氏は「小石」につまずいた。こうして、中庸の岸田氏が自民党総裁になった。
細田派・麻生派への配慮が濃厚
岸田政権は、自民党内派閥では1991-93年の宮澤政権以来の宏池会の政権誕生だ。宏池会は、池田勇人元首相が作った派閥で官僚出身者が多い名門派閥だ。歴代会長から、池田勇人、大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一、そして今回の岸田文雄各氏が首相になった。このうち池田、大平、宮澤氏は財務(大蔵)官僚出身だ。宏池会は、官僚出身が多く政策には強いが政局に弱いので公家集団とも言われてきた。伝統的に対米協調でハト派的だ。対中姿勢は、経済重視であるので、これまで摩擦は少なかった。岸田文雄氏は、華麗なる「政治家・官僚家系」だ。父の岸田文武氏は、通産官僚出身の元衆議院議員。長女、次女の夫は元財務官僚。叔父の岸田俊輔氏は、大蔵官僚出身で元広島銀行頭取だ。元首相の宮澤喜一氏を叔父とする宮澤洋一氏は、大蔵官僚出身で参議院議員で、岸田文雄氏の従兄弟である。今回の自民党総裁選でも、岸田氏の回りには、ブレーンとして宏池会の山本幸三、木原誠二、村井英樹氏らがいたが、彼らはいずれも大蔵(財務)官僚出身の政治家だ。筆者にはなじみの人ばかりがいる。岸田自民党総裁は、本日10月4日に召集された国会で首班指名され、同日中に組閣する予定だ。本稿を書いているときには、NHKのニュース速報で新内閣の陣容はでている。それに基づけば、岸田新内閣は、目玉やサプライズの乏しい「暫定内閣」のようだ。新内閣で首相を除く閣僚20名を出身派閥で分けると、岸田3、細田4、麻生3、竹下4、二階2、無所属3、公明1。正直言って聞き慣れない名前が多いと思っていたら、初入閣者は13名。出身派閥でみると、細田派と麻生派への配慮は否めない。
まるで左派政党のスローガン
今国会では、所信表明と代表質問だけを行い、その後に解散するというと見込まれている。その意味で、初入閣でも国会答弁をすることもないので、党主導で衆院選を戦うだけの「暫定政権」ともいえる。組閣で、安倍晋三、麻生太郎氏に配慮し、党幹事長に甘利明氏がいるので、この3A(安倍、麻生、甘利各市)が岸田政権へ大きな影響力を持っているといえる。そうした意味では、内政も外政も、安倍政権とそれほど大きな変更はないだろう。まさに、「安定」の岸田政権の真骨頂だ。それは、初入閣以外の大臣とその出身派閥をみるとわかる。財務大臣は鈴木俊一(麻生)、外務大臣は留任の茂木敏充(竹下)、経産大臣は横滑りの萩生田光一(細田)、国交大臣は斉藤鉄夫(公明)、防衛大臣は岸信夫(細田)、官房長官は松野博一(細田)、少子化担当大臣は野田聖子(無)。政治的な任用である国交大臣と少子化担当大臣を除くと、財務、外務、経産、防衛、官房長官という重要ポストに経験者をあて、そのほかは初入閣なのだ。これの組閣人事の意味するところは、11月にも予定されている衆院選に自民党として全力で対応するが、新内閣での仕事は最低限にとどめ、選挙結果では再び組閣する構えなのだろう。おそらく、先ほどの自民党総裁選で、議論を戦わせた高市氏らが各地の選挙戦に応援演説でかり出されるのだろう。岸田氏は、小泉改革以降の新自由主義政策を転換するとし、分配を重視すると自民党総裁選で主張した。ここだけ聞いていると、まるで左派政党のスローガンのようだ。実際には、自民党なので、現状からの差異は必ずしも大きくない。当面の経済政策を考えると、菅政権の下で来年度概算要求は作られ、既に予算編成作業が行われている。
もっとリアルな議論を
甘利幹事長は、総選挙後に補正予算を出すと明言している。岸田氏は筆者との対談においても数十兆円規模の大型景気対策が必要との見解を述べていた。こうした中では、ブレーンとして財務省関係者が多くても、経済政策の幅は限られる。もっとも、岸田氏は、「補正予算」とは言わずに「経済対策」と表現していた。元財務官僚からみれば、既存の予算の未消化分なのを活用し、いわゆる「真水」を少なくして、小さな「補正予算」で数十兆円の「経済対策」を作るのは比較的容易だ。しかし、当面大規模な増税はやりにくいだろう。まして、11月にも総選挙を控えているという事情もあり、岸田氏も消費増税を当面考えないとしている。あるとすれば、例年行われる税制改正大綱の中での、金融所得課での増税策だろう。実際に市場は既に警戒している。野党としてどう対処するのか。リベラル色としては似通ってくるのでやりにくいだろう。立憲民主党は、さらにリベラル色を強めるために、所得1000万円以上無税、5%への消費減税を言い出した。その財源として金持ち所得税増税、大企業法人税増税だ。これは30兆円近い大増税になるので、とても経済がもたないだろう。まるで、政権を取る気がない共産主義スローガンのようだ。安全保障では憲法9条さえ言えば日本が守れるという「お花畑論」だったが、経済政策まで、金持ち大企業への大増税という、現実無視の「夢物語」になってしまった。野党に求められるのは、安全保障も経済ももっとリアルな議論である。リアルな議論にならないと、政権交代なんて誰も思わないし、何しろ政策議論に国民がそっぽを向いてしまい、国民への選択肢にならない。

●岸田新首相が提唱する「令和版所得倍増計画」の落とし穴 10/4
岸田文雄前政調会長が今日(10月4日)、招集された臨時国会で首相に指名される。岸田氏は「新自由主義の見直し」と「令和版所得倍増計画」を打ち出しているが、この計画には大きな落とし穴が待ち構えている可能性が高い。池田勇人元首相が提唱した所得倍増計画には、一般的に理解されている内容と現実には大きな乖離が存在しているからだ。
分配が先か成長が先か
岸田氏は総裁選を通じて「小泉内閣以降の新自由主義的政策が、持てる者と持たざる者の格差と分断を生んだ」と主張。「令和版所得倍増計画」による格差是正と中間層の復活を訴えてきた。
日本において格差が拡大しており、抜き差しならない状況になっているのは紛れもない事実である。特に日本の場合、超富裕層がさらに資産を拡大させるという米国で見られるような上方向の格差ではなく、低所得層の貧困化が一方的に激しくなるという下方向の格差であり、その是正は容易ではない。
上方向の格差の場合、豊かになりすぎた超富裕層への課税を強化すれば簡単に再分配の原資を捻出できる。ところが下方向に格差が拡大している日本の場合、超富裕層はごくわずかしか存在せず、ここに課税しても得られる税収はたかが知れている。再分配の原資を中間層に求めるしか方法がなく、実施すれば中間層からの猛反発が予想される。日本において格差是正が叫ばれながら、一向に実施されなかったのはこれが理由である。
岸田氏は「分配なくして次の成長はない」と主張しており、教育費や住居費の支援、(介護士や看護師など公的な業務を想定しているとみられる)賃上げなどを通じて国民の所得を増やし、これを消費拡大の原動力にすると説明している。しかしながら、一連の支援を実施するためには原資が必要となる。総裁選当日に行われた記者会見で、「分配が成長につながるメカニズムとその原資」について質問された岸田氏は、「成長の果実が一部の人にとどまっている」「格差を是正することで消費を拡大できる」と述べ、少々矛盾した回答を行っていた。
「成長の果実が一部の人にとどまっている」ということはすでに成長を実現しており、その富を一部の国民が独占していることが問題ということになる。これは米国で見られる上方向の格差なので、富が集中しているところに課税すれば原資は容易に捻出できる。
だが今の日本はそうではなく、成長そのものが実現できておらず、経済の貧困化によって格差が拡大している。介護士や看護師など公的職業の年収を大幅にアップさせたり、教育支援や住居支援を手厚くすることで消費を喚起したいのであれば、当然、財源が必要となる。岸田氏もこのことはよく分かっているはずであり、今の状況で増税を言い出すことはできないため、成長に期待するというロジックにならざるを得ないのだろう。
池田勇人は完璧な政治家だった
岸田氏としては、成長するための仕組みが「令和版所得倍増計画」ということになるのだが、このキーワードはあまり意味をなさない可能性が高い。その理由は、池田氏がかつて提唱した所得倍増計画の中には、所得を倍増させる具体的な施策は存在していなかったからである。つまり岸田氏にとって、参考にする施策がないというのが現実なのである。
所得倍増計画によって日本の高成長が実現したというストーリーは、戦後の日本人にとって絶対的な常識となっている。だが現実の歴史は、私たちが抱くイメージとは大きく異なっている。
説明するまでもなく、所得倍増計画というのは1960年に池田内閣が策定した長期経済計画であり、同計画では1961年からの10年間で日本の実質GDP(国内総生産)を2倍にする(当時はGDPではなくGNP)という目標が掲げられた。この目標はわずか7年で達成しており、多くの国民が豊かさを実感した(GDPが2倍になれば単純計算で年収も2倍になる)。
では、池田内閣は具体的にどのような施策でこの成長を実現したのかというと、その問いに対する明確な答えは存在していない。所得倍増計画というのは実は後付けの政策であり、日本経済は自律的な高成長が続いていたことから、10年間で所得が2倍になることは、計画策定時点においてほぼ確実という情勢だった(つまり日本経済は勝手に成長していたに過ぎない)。
10年間でGDPを2倍にするためには7%程度の成長が必要だが、1959年の実質成長率は11.2%、60年は12.0%であり、7%という水準はとうに超えている。放っておけば近い将来、所得が2倍になることは専門家の目には明らかだった。池田氏は大蔵官僚出身で経済に精通しており、所得倍増については当然のことながら自身でも確信を持っていたはずだ。池田氏は経済的・客観的な事実を、絶妙なキャッチフレーズに転換し、自身の政権基盤を確立した。この点において池田氏はまさに吉田茂元首相の後継者であり、天才的な政治家と言って良いだろう。
所得倍増計画のウラに隠された本当の目的とは
池田氏の凄みはそれだけではない。策定された所得倍増計画を読むと、政府の過度な介入を避け、民間の自発的な経済活動を促進させるといった常識的な内容が列挙されているだけであり、際だった施策が記されているわけではない。実は閣議決定された所得倍増計画には、「所得倍増計画の構想」という別紙があり、実はこの別紙が非常に重要な意味を持っている。
別紙には、所得倍増計画とは別に農業近代化、中小企業近代化、後進地域の開発促進、公共事業の地域別分配の再検討といった項目が並んでいる。勘の良い読者の方であれば、これが何を意味しているのかピンと来たのではないだろうか。ここで示された各項目は、予算の重点配分リストであり、高度成長によって生まれた豊富な財源を、多くの利害関係者にバラ撒くことで、自民党の政権基盤を強化するという目的があった。
つまり所得倍増計画というのは、日本経済が自律的に高成長を実現し、十分な財源を確保できる見通しが立ったことから、その果実を政権の基盤強化に大胆に利用するという政治的かつ野心的な取り組みということになる。
池田氏は岸田氏が率いる派閥(宏池会)の創設者だが、池田氏によるこの大胆な戦略によって現在の宏池会の基盤が作られた。こうした歴史を考えると、岸田氏(あるいは宏池会のメンバー)が池田氏に対して強い思い入れを持つのはよく理解できるものの、当時と今とでは決定的に状況が違う。
当時は日本経済がいわば勝手に成長してくれたので、税収は面白いように増えた。政権としては、その豊富な財源を政治的に利用すればよく、国民もこうした再配分を大いに喜んだ。
ところが今の時代は、肝心の成長が実現できておらず、お金をバラ撒くための原資がない。これまで説明してきたように、所得倍増計画というのは経済成長ありきのプランなので、それ自体で経済を成長させることは不可能である。岸田氏のプランを実現するには、大規模な国債増発や増税が必須であり、実現のハードルは高い。
派閥相乗りという事情から選択肢は限られる
近年、従来にはなかった新しいテクノロジーが急激に進歩しており、これからの時代における成長エンジンとなるのは、脱炭素やAI(人工知能)といった新しい技術であることはほぼ間違いない。経済を成長させ、分配の原資を確保するためには、まずはこうした新分野への先行投資が必須となるが、残念なことに岸田氏はこうした新産業への転換にはあまり積極的とは言えない。
岸田氏は派閥相乗りで首相になったという事情があり、多くの利害関係者の要求を受け入れる必要がある。利害関係者の中には、産業面でのドラスティックな改革を望まない人も多く、総裁選で敗北した河野氏のように、お構いなしで改革を遂行するというスタンスは取れないだろう。
そうなってくると、再分配を実施したくても原資がなく、かといって増税は選択できず、当面は国債増発でしのぐしか選択肢がなくなってくる。国債増発は恒久的な財源にはなり得ないので、継続した賃上げを実現するのは難しい。結果として岸田氏が提唱する所得再分配策は、小規模な形に落ち着かざるを得ないのではないだろうか。

●安倍氏のレガシーがのしかかる、一党独裁国家に近い日本 10/4
岸田文雄氏が新首相に就任するが、今や、日本の“影の首相”は安倍晋三氏なのかもしれない。米紙ワシントン・ポストが「安倍氏のレガシーが日本の次期首相岸田氏にのしかかっている」というタイトルの分析記事を掲載している。
安倍氏のレガシーで前に進めない
同紙は安倍氏の長かった在任期間が日本に残した影響力について、「安倍氏は、第二次大戦後の他のリーダーたちより長い9年間日本のリーダーを務め、メルケル氏ほど長くはないものの、去り行く同氏のように国と国際関係に大きなレガシーを遺した。今、少なくとも日本は、前に進むのに難航している」と安倍氏の遺したレガシーゆえに日本が前進できなくなっているとし、首相に就任する岸田氏について「安倍氏による暗黙の支援で総裁を勝ち取ったかに見える岸田氏は、主流派による選択だと考えられている」と同氏勝利の背後にも安倍氏のレガシーがあったと指摘している。また、岸田氏を選択したことは機会の喪失である可能性があると示唆。「日本がコロナウイルスからの経済回復という新たな問題や高齢化のような昔からある問題に直面している時、岸田氏を選択したことは別の進路を決める機会を逃したことであると、すぐに見なされるようになるかもしれない」
ビジョンがないから選ばれ、期待もされていない
岸田氏に現状を打破する力があるかについても「岸田氏のバックグラウンドは、同氏が現状を打破することをほとんど示していない」と疑問も投げかけ、“岸田氏は明確なビジョンを持っていないために総裁に選ばれたのだ”と皮肉っている英エコノミスト誌の見方も以下のように紹介している。「岸田氏は自民党の再生を約束したが、これが何を意味するのかは不明瞭だ。エコノミスト誌は、”同氏には強いビジョンが欠如していることが選ばれた理由にはある”とし、“同氏のライバルたちと違って同氏ははるかに脅威が少なく、また順応性に富んでいると考えられているが、あまり期待はされていない”と付け加えている」ちなみに、ビジョンについては、菅氏も欠如していると昨年の就任当時、米紙ニューヨーク・タイムズに批判されていた。今回、同紙は、「新しい日本型資本主義」や企業利益の分配という岸田氏が掲げている政策について、野党の二番煎じのような政策を採用するのは自民党が得意としてきたところだと以下のように揶揄している。「選挙運動中、“新しい日本型資本主義”を導入し、利益をより多く中間層の労働者に分配するよう企業にすすめた岸田氏は、いくらかは国民の不満を認識しているかに見えた。そうすることによって、同氏は、有権者の不満を鎮めるために、野党によって最初に導入された政策を採用するのを得意としてきた自民党のお馴染みの雛形に従っているのだ」
一党独裁国家に危険なほど近い
ワシントン・ポストは、野党の弱さや選挙制度の問題のため、日本が一党独裁国家に近い状況にも言及。責任は、2009年に圧勝しても分裂と無活動のためにすぐに崩壊した民主党を含む野党や自民党にアドバンテージを与え、競争なしの民主主義を生み出している日本の選挙制度(比例代表制と小選挙区制)にもあるとし、「その結果、日本は一党独裁国家に危険なほど近づいており、自民党の総裁選の投票は民主的価値がわずかしかないのに、全国的な影響力を持っている。そのため、岸田氏のような比較的リベラルな自民党の議員は党内で力がある派閥にアピールするために、結局、タカ派よりに方針を変え、河野のような人気のある候補者が失速したのだ」と分析している。また「安倍氏による長期支配は日本の政治的機能不全を覆い隠してきたが、潰瘍性大腸炎による同氏の予期せぬ辞任以来、その徴候は明らかに見える」と今も安倍氏の支配が続いていることに触れ、「メルケル氏は(安倍氏の)倍の長きにわたりドイツの指導者を務めたが、日本は、それよりはるかに長い間、安倍氏の名残りを振り払うのに苦闘するかもしれない」と今後も安倍氏の支配が長きにわたって続くと予測している。岸田新内閣が発足するが、安倍氏による影の支配が続く限り、日本を待ち受けているのは前に進めない「変わらない日本」なのかもしれない。それでも、岸田氏がどこまでその影と闘うことができるか、ささやかな期待を持ちつつ注目したい。 
 

 

●岸田内閣
●首相 岸田文雄(64) 自民|岸田派 S32/7/29
  衆・広島1区(当選9回)
岸田氏は、同じ広島が地元の池田勇人元総理大臣によって創設されて以来、大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一と、4人の総理大臣を輩出した派閥、「宏池会」を率いています。祖父と父も衆議院議員の政治家一家に育ち、大学卒業後は、旧長銀=日本長期信用銀行に入りました。その後、父親の秘書を経て、平成5年の衆議院選挙で初当選しました。平成19年には、第1次安倍改造内閣で沖縄・北方担当大臣として初入閣しました。自民党が野党転落後には党の国会対策委員長を務めました。第2次安倍政権発足後は、4年半余りにわたって外務大臣を務めました。連続の在任期間では戦後最長で、この間、当時のアメリカのオバマ大統領の被爆地・広島への訪問実現や、慰安婦問題をめぐる日韓合意などに尽力しました。平成29年には、党の政務調査会長に就任。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、事業者の賃料負担を軽減する新たな給付金の創設などに取り組みました。かねてから総理大臣を目指し、良好な関係を保ってきた安倍前総理大臣からの後継指名に活路を見いだす戦略をとってきましたが、安倍氏辞任に伴う去年の総裁選挙では菅総理大臣に敗れ、要職から外れました。8月下旬に立候補を表明した際には、心に残った国民の声を書き留めてきたというノートを紹介し、みずからの「聞く力」をアピールしました。座右の銘は「春風接人」(しゅんぷうせつじん)。「春風のような優しさで人と接する」という意味の通り柔らかい語り口や誠実な人柄は誰もが認める一方、「真面目すぎる」との声も聞かれます。一方で、政界随一の酒豪としても知られています。外務大臣時代にはロシアのラブロフ外相とウォッカを酌み交わし、互角に渡り合ったというエピソードもあります。プロ野球は、地元広島カープのファンで好きな食べ物はお好み焼きだということです。
・東京都・渋谷区生まれ、64歳。衆院広島1区。1993年に初当選で当選9回。
・私立高校の雄「開成高校」の出身。開成出身者では初の首相。3度の東大受験に失敗し、早稲田大へ進学。卒業後は旧長銀(日本長期信用銀行)に入行。父の秘書を経て、衆院議員に。
・自民党の名門派閥「宏池会」(岸田派)の会長。宏池会は高度経済成長期の「所得倍増計画」で知られる池田勇人が創設。自民党内でも比較的リベラルな派閥で「ハト派」と呼ばれる。宏池会出身では大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一に続く4人目の首相。
(※安倍元首相の出身派閥「清和政策研究会」(細田派)など、保守色が強い派閥は「タカ派」と呼ばれる)
・2012年12月の第2次安倍内閣発足以降、外相や防衛相として安倍政権を支えた。単独の外相在任連続日数は歴代最長。
・2017年8月〜2020年9月には自民党の党三役の一つ「政調会長」に。安倍晋三首相の辞任に伴う2020年の自民党総裁選では「ポスト安倍」の最有力と目され「禅譲」(権力の移譲)を期待していたが、安倍政権で官房長官だった菅義偉氏に敗北。
・2度目の挑戦となった9月の総裁選で河野太郎氏、高市早苗氏、野田聖子氏を破って自民党総裁に選出。総裁選では「日本は民主主義の危機にある」「分断から協調へ」「チームを重視」「説明が大切」など、安倍・菅カラーとは一線を画するアピールした。
・党役員人事では要の幹事長には安倍氏、麻生氏ととも「3A」と呼ばれる甘利明氏を登用。甘利氏は総裁選でいち早く岸田氏を支援したが、URへの口利き疑惑、現金授受をめぐり閣僚を辞任した経験がある。
・岸田氏はブログで「適材適所」と、甘利氏を含む役員の登用理由を説明したが、こうした甘利氏をめぐる疑惑への説明は一切なかった。
・公式サイトでは「世界で唯一の戦争被爆国である日本はこれまでもこれからも平和国家として歩みます。私はその歴史を受け継ぎ、希望ある未来を目指し国民が何を望むのか現実を見据え勇気をもって決断する政治を実現していきます」と決意をつづっている。
・2017年、ノーベル平和賞授賞式で被爆者として初めて演説したサーロー節子さんは縁戚にあたる。
・選択的夫婦別姓について、総裁選の出馬会見でBusiness Insider Japanの質問に対し「引き続き議論を」と答え、法制化には消極的だった。選択的夫婦別姓・全国陳情アクションのアンケートには「政治家としては賛成」としながらも、衆院選の公約にはしないと答えた。
・自民党内の反対で通常国会で提出が見送られたLGBT法案への賛否について、毎日新聞のアンケートに「家族の在り方の根幹に関わる問題」「国民の間で丁寧に議論すべき」と賛否を明らかにしなかった。

●総務相 金子恭之(60) 初入閣自民|岸田派 S36/2/27
  衆・熊本4区(当選7回)
金子氏は、衆議院議員の秘書などを経て、平成12年の衆議院選挙に無所属で立候補して初当選し、その後自民党に入党しました。これまでに農林水産政務官や国土交通副大臣、自民党の政務調査会長代理などを歴任し、現在は、衆議院の災害対策特別委員長を務めています。岸田氏としては、金子氏が、農林水産行政や国土交通行政など幅広い政策に明るいことに加え、みずからの派閥から初めての入閣をさせることで、求心力を高めたいという狙いもあるものとみられます。金子氏は初めての入閣です。
・衆院熊本4区、当選7回、岸田派
・2000年、39歳のとき無所属で初当選
・早稲田大商学部出身。園田博之氏らの秘書を務めた
・これまでに国土交通副大臣、農水政務官などを歴任
・党政調副会長だった2017年衆院選では政権公約の作成に参画
・水俣病問題に取り組み、党の水俣病に関する小委員会の委員長を務めた
・2000年に熊本県の川辺川ダム周辺の建設業者から、自民党の山崎拓幹事長(当時)の選挙区支部への献金とほぼ同額が山崎氏の資金管理を通じて金子氏に寄付されていた。当時、金子氏は無所属で「迂回献金」疑惑として指摘された。

●法相 古川禎久(56) 初入閣自民|無派閥 S40/8/3
  衆・宮崎3区(当選6回)
古川氏は、自民党石破派に所属していましたが、先月末(まつ)に退会し、現在は、無派閥です。旧建設省の職員を経て、平成15年の衆議院選挙で初当選し、これまでに、法務政務官や財務副大臣、衆議院の財務金融委員長などを歴任しました。今回の総裁選挙では、河野氏の推薦人となっていました。岸田氏としては、古川氏が、財政や司法など幅広い政策に精通していることに加え、総裁選挙で河野氏を支援した古川氏を入閣させることで、挙党態勢をアピールするねらいがあるとみられます。古川氏は初めての入閣です。
・衆院宮崎3区、当選6回、無派閥
・東大法学部を卒業後、建設省(現:国交省)に入省
・衆院議員秘書などを経て1996年に初めて立候補も落選。2003年に初当選
・これまでに財務副大臣、法務政務官、党青年局長、党副幹事長などを歴任

●外相 茂木敏充(65) 再任自民|竹下派 S30/10/7
  衆・栃木5区(当選9回)
茂木氏は、自民党竹下派の会長代行を務めています。平成5年の衆議院選挙で当時の日本新党から初当選し、その後、自民党に移り、これまでに、経済産業大臣や金融担当大臣などの閣僚や党の政務調査会長や選挙対策委員長などを務めました。第3次安倍第3次改造内閣では、経済再生担当大臣として、TPP=環太平洋パートナーシップ協定や日米貿易協定の交渉などでも中心的な役割を担いました。おととしからは外務大臣を務め、日本が推進する自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて各国外相らとの会談を精力的にこなしたほか、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う水際対策などの対応にもあたっています。茂木氏は、今回の総裁選挙では岸田氏を支持しました。岸田氏としては、外交の継続性を重視するとともに、要職を歴任し、竹下派の幹部も務めている茂木氏を引き続き閣僚に起用することで、政権基盤を安定させるねらいがあるものとみられます。
・衆院栃木5区、当選9回、竹下派
・東大経済学部を卒業後、丸紅、読売新聞政治部、マッキンゼー、経済評論家などを経て日本新党から政界入り。その後に自民党へ。
・党政調会長、経済再生相などを歴任。党の重鎮だった野中広務元幹事長、「参院のドン」と言われた青木幹雄元参院会長らから信頼された。
・党内では経済、外交政策通として知られる
・2020年9月4日の記者会見で、日本語で質問した外国人記者に英語で聞き直した上で「日本語分かっていただけましたか」などと発言。「差別的」と批判された。

●財務相 鈴木俊一(68) 再入閣自民|麻生派 S28/4/13
  衆・岩手2区(当選9回)
鈴木氏は、鈴木善幸・元総理大臣の長男で、麻生副総理兼財務大臣の義理の弟です。平成2年の衆議院選挙で初当選し、これまでに環境大臣やオリンピック・パラリンピック担当大臣、それに党の総務会長などを歴任しました。今回の総裁選挙では、岸田氏の推薦人代表を務めました。岸田氏としては、党三役や閣僚を歴任してきたベテランで、麻生氏にも近い鈴木氏を財務大臣に起用することで、政権基盤を安定させるとともに、今後、編成することになる新型コロナウイルスの支援策などを盛り込んだ補正予算案などの国会審議を円滑に進めたい狙いがあるものとみられます
・衆院岩手2区、当選9回、麻生派
・父は鈴木善幸元首相、妻は宮沢喜一元首相のいとこ。姉は麻生太郎元首相の妻で、麻生氏は義理の兄
・小泉内閣で環境相として初入閣。五輪相などを歴任
・環境、厚生分野などの社会保障、漁業政策に詳しい
・受動喫煙防止のための「健康増進法改正」に反対し、厚労省と対立した

●文部科学相 末松信介(65) 初入閣自民|細田派 S30/12/17
  参・兵庫選挙区(当選3回)
末松氏は、兵庫県議会議員などを経て、平成16年の参議院選挙で初当選しました。これまでに国土交通副大臣や参議院の議院運営委員長などを歴任し、安倍政権のもとで、おととしからは、党の参議院国会対策委員長として国会運営にあたってきました。岸田氏としては、党内最大派閥の細田派に所属し、参議院側の幹部も務めてきた末松氏を起用することで、政権基盤を固めるねらいがあるものとみられます。末松氏は初めての入閣です。
・参院兵庫、当選3回、細田派
・関西学院大法学部を卒業後、全日空に入社
・兵庫県議を20年務める。これまでに参院国対委員長、国交副大臣、参院議運委員長などを歴任
・瀬戸内海の水質悪化、栄養塩類の減少による漁獲量の落ち込みの改善を目指し、「瀬戸内海環境保全特別措置法」の改正に尽力
・政治理念の一つに「日本の歴史観・国家観を大切にし『世界の中の日本』のあるべき姿を明確にする政治」を掲げる

●厚生労働相 後藤茂之(65) 初入閣自民|無派閥 S30/12/9
  衆・長野4区(当選6回)
後藤氏は、旧大蔵省の職員を経て、平成12年の衆議院選挙で初当選し、これまでに国土交通政務官や法務副大臣、衆議院厚生労働委員長などを歴任し、菅政権では、党の政務調査会長代理を務めてきました。岸田氏としては、後藤氏が税制や経済政策、社会保障など、幅広い分野の政策に精通し、党の側で、新型コロナウイルス対策のとりまとめにあたってきたことなどを評価したものとみられます。後藤氏は初めての入閣です。
・衆院長野4区、当選6回、無派閥
・東大法学部卒業後、大蔵省(現:財務省)入省。企画調整室長などを担当
・2000年衆院選では民主党公認で初当選するも任期途中で離脱。無所属を経て自民党へ
・これまでに党政調副会長などを歴任。党内の政策通の一人
・2009年の衆院選で選挙運動員が公選法違反の疑いで逮捕、送検された。2014年の衆院選の期間中には、投票所の投票管理者の男性(後藤氏の後援会所属)が後藤氏の選挙運動をしたとして公選法違反容疑で送検された。

●農相 金子原二郎(77) 初入閣自民|岸田派 S19/5/8
  参・長崎選挙区(当選2回)
金子氏は、長崎県議会議員を経て、衆議院議員を5期、長崎県知事を3期務めたあと、平成22年から参議院議員を務めています。これまでに、参議院の決算委員長や予算委員長のほか、党の総務会長代理などを歴任してきました。岸田氏としては、金子氏の豊富な政治経験を評価したものとみられます。金子氏は、初めての入閣です。
・参院長崎、当選2回(衆院当選5回)、岸田派
・慶應義塾大文学部を卒業後、家業の水産会社「日本水産」に入社。船でアフリカやインドネシアなども訪れたという
・1975年に30歳で長崎県議に初当選。1983年〜98年まで父の岩三氏の跡を継いで衆院議員
・1998年〜2010年まで長崎県知事。その後に参院議員
・政治家生活は45年を超え、地方行政のベテランとして知られる

●経済産業相 萩生田光一(58) ポスト変更自民|細田派 S38/8/31
  衆・東京24区(当選5回)
萩生田氏は、東京・八王子市の市議会議員や東京都議会議員などを経て、平成15年の衆議院選挙で初当選しました。安倍政権で、官房副長官や党の幹事長代行として政権運営を支え、おととし9月に文部科学大臣として初入閣し、菅内閣でも再任されました。そして、公立小学校の1クラスあたりの定員を35人以下に引き下げ、すべての学年でいわゆる「35人学級化」を実現するための法改正などに取り組みました。岸田氏としては、党内最大派閥の細田派に所属し、安倍前総理大臣に近い萩生田氏を起用することで、政権基盤を安定させる狙いがあるものとみられます。
・衆院東京24区、当選5回、細田派
・都議から国会議員へ。実家は会社員の家庭という「たたき上げ」の政治家。内閣官房副長官、党幹事長代行などを歴任。
・安倍元首相の側近の一人だった。安倍政権時代には消費増税や解散時期、人事などで持論を展開。物議を醸した。
・党幹事長代行時代に「0〜3歳の赤ちゃんは、どう考えたってママがいいに決まっている」などと発言し批判を受けた。

●国土交通相 斉藤鉄夫(69) 再入閣公明 S27/2/5
  衆・比例中国(当選9回)
斉藤氏は、公明党の副代表を務めています。建設会社勤務を経て、平成5年の衆議院選挙で初当選し、これまでに、環境大臣や党の幹事長、政務調査会長などを歴任しました。幹事長を務めていた去年、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、すべての国民に10万円を一律給付する政策の実現などに尽力しました。岸田氏としては、公明党で要職を歴任している斉藤氏の豊富な政治経験を評価するとともに、衆議院選挙を前に、公明党との連立政権の結束をさらに強めたい狙いがあるものとみられます。
・衆院比例中国ブロック、当選9回、公明党副代表。昨年まで幹事長。10万円給付に尽力
・これまでに環境相などを歴任。在任中は公用車をハイブリッド車にするよう訴えた
・科学技術政策のエキスパートで、教育基本法改正などにも関わった
・東工大大学院出身で応用物理学を専攻(工学博士)。その後、清水建設に入社。宇宙開発などにも関わる
・米プリンストン大で客員研究員の経験あり

●環境相 山口壯(67) 初入閣自民|二階派 S29/10/3
  衆・兵庫12区(当選6回)
山口氏は、外務省での勤務などを経て、平成12年の衆議院選挙に、無所属で立候補して初当選したあと、当時の民主党を経て、平成27年に自民党に入党しました。これまでに民主党政権で、内閣府副大臣や外務副大臣などを歴任し、菅政権では、自民党の筆頭副幹事長を務めてきました。今回の総裁選挙では、高市政務調査会長の推薦人となっていました。岸田氏としては、総裁選挙で高市氏を支援するとともに、二階派の事務総長も務める山口氏を入閣させることで、挙党態勢をアピールするねらいもあるとみられます。山口氏は初めての入閣です。
・衆院兵庫12区、当選6回、二階派
・東大法学部卒業後、外務省に入省。アメリカ、中国、パキスタン、イギリスで大使館勤務
・元は旧民主党の国会議員。民主党政権では内閣府副大臣、外務副大臣などを歴任
・2013年、民主党に離党届を提出。翌年除籍。その後、自民党に入党

●防衛相 岸信夫(62) 再任自民|細田派 S34/4/1
  衆・山口2区(当選3回)
岸氏は、安倍前総理大臣の実の弟で、祖父は岸信介・元総理大臣です。商社勤務を経て、平成16年の参議院選挙で初当選し、2期目の途中の平成24年、衆議院選挙に立候補して当選しました。外務副大臣などを務めたあと、去年9月に、菅内閣で防衛大臣として初入閣しました。そして、敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」の開発などを盛り込んだ、ミサイル阻止に関する新たな方針の策定や、自衛隊が運営する新型コロナウイルスワクチンの大規模接種センターの運用などにあたってきました。岸田氏としては、安全保障政策の継続性を重視したものとみられます。
・衆院山口2区、当選3回(参院当選2回)、細田派
・安倍前首相の実弟。生後まもなく母の実家である岸家に養子入りした。
・高校3年まで安倍前首相と実の兄弟だったとは知らなかった。大学進学に際して戸籍謄本を取得した際に知ったという。岸氏は「私からすると高校生になっても、仲の良い親戚のお兄さんでした。それが急に兄弟だと分かって、混乱はありましたよ。だって、叔母さんがじつはお母さんで、お父さんが伯父さんだったわけですしね。自分の中で気持ちの整理が付くまでしばらくかかりました」(エンタメNEXT・2020年3月15日)と複雑な心境を吐露している。
・防衛副大臣、外務副大臣などを歴任。

●官房長官 松野博一(59) 再入閣自民|細田派 S37/9/13
  衆・千葉3区(当選7回)
松野氏は、会社員や松下政経塾を経て、平成12年の衆議院選挙で初当選し、厚生労働政務官や文部科学副大臣などを歴任しました。平成28年の第3次安倍第2次改造内閣で文部科学大臣として初入閣し、現在は党の総務会長代行を務めています。松野氏は、教育や雇用問題など幅広い政策分野に通じていることで知られています。岸田氏としては、所属する細田派で事務総長を務め、派内や他の派閥との調整にあたってきた松野氏を、官房長官に起用することにより、政権基盤を安定させる狙いがあるものとみられます。
・衆院千葉3区、当選7回、細田派
・党内最大派閥「細田派」の事務総長。派閥間の調整能力に長けていた
・早稲田大出身。大学卒業後に「ライオン」入社
・政治家を目指して松下政経塾へ。平成12年に初当選
・教育、労働分野では党内きっての政策通。派手なパフォーマンスはせず実務派として評価が高い。
・これまでに文科相、厚労政務官などを歴任。党役員では総務会長代行、党国対筆頭副委員長などを経験
・自民党内の「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」の会長
・官房長官起用が報じられると、これまでに書いたエッセイが一部ネット上で話題に。エッセイのタイトルは「政治家はどこで酒飲を飲むのか(房総人)」など。

●デジタル相 牧島かれん(44) 初入閣自民|麻生派 S51/11/1
  衆・神奈川17区(当選3回)
牧島氏は、平成24年の衆議院選挙で初当選し、これまでに内閣府の政務官を務めたほか、菅政権では、若手議員の登竜門とも言われる自民党の青年局長に女性として初めて就任しました。また、デジタル庁の創設に向け、自民党の推進本部で、座長を務めた甘利幹事長のもと、組織や役割についての提言のとりまとめにあたりました。岸田氏としては、牧島氏がデジタル政策に精通していることに加え、若手や女性の登用をアピールする狙いがあるものとみられます。牧島氏は初めての入閣です。
・衆院神奈川17区、当選3回、麻生派
・国際基督教大卒業後、アメリカのジョージワシントン大に留学
・2009年の衆院選では、神奈川17区で14期32年務めた河野洋平氏から後継指名を受けたが落選。2012年の衆院選で初当選
・これまでに内閣府政務官などを歴任。2016年の熊本地震では、政府現地対策本部長として現場の対応にあたった
・菅政権下では、若手議員の登竜門である党青年局長に初めて女性として就任
・デジタル政策に精通。自民党のデジタル社会推進本部では、デジタル庁創設のために尽力した
・わなの狩猟免許を保持し、狩猟が趣味。キャッチコピーは「イノシシから宇宙まで」

●復興相 西銘恒三郎(67) 初入閣自民|竹下派 S29/8/7
  衆・沖縄4区(当選5回)
西銘氏は、沖縄県議会議員を経て、平成15年の衆議院選挙で初当選し、総務副大臣や経済産業副大臣などを務めてきました。今回の総裁選挙では、岸田氏の推薦人となりました。岸田氏としては、沖縄政策などに明るいことに加え、竹下派に所属する西銘氏を起用することで、政権基盤を固める狙いもあるものとみられます。西銘氏は初めての入閣です。
・衆院沖縄4区、当選5回、竹下派
・上智大経済学部卒業、1979年に沖縄開発金融公庫に入社
・沖縄県知事だった父の秘書や県議会議員を経て2003年の総選挙で衆院議員に初当選
・これまでに国交政務官、総務副大臣、経産副大臣、党副幹事長などを歴任

●国家公安委員長 二之湯智(77) 初入閣自民|竹下派 S19/9/13
  参・京都選挙区(当選3回)
二之湯氏は、京都市議会議員などを経て、平成16年の参議院選挙で初当選しました。これまでに総務副大臣や参議院決算委員長などを歴任し、現在は、党の参議院政策審議会長を務めています。今回の総裁選挙では、岸田氏の推薦人となりました。岸田氏としては、二之湯氏が地方行政などの政策に明るいことに加え、参議院側の意向も踏まえて起用したものとみられます。二之湯氏は初めての入閣です。
・参院京都、当選3回、竹下派
・京都市議を5期17年務めた地方自治のベテラン。全国市議会議長会の会長も経験した。
・これまでに総務政務官、総務副大臣などを歴任
・2014年3月の参議院本会議で代表質問に立ったが、原稿内容の一部を公明党から修正するよう事前に求められた。産経新聞によると、当初は「子供を産み、立派に育てることが国家に対する最大の貢献」「結婚しているのに子供を持つことが社会人としての義務だと考えない人たちが増えている」といった文案があった。実際の代表質問では「国家に対する貢献」の部分を削除。「子供を持つことが社会人としての義務」の部分は「子供を持つことを望まない人たちが増えている」と修正した。
・2021年の参院選で改選を迎えるが、立候補せず引退する意向を示している

●少子化相 野田聖子(61) 再入閣自民|無派閥 S35/9/3
  衆・岐阜1区(当選9回)
野田氏は、岐阜県議会議員などを経て、平成5年の衆議院選挙で初当選し、小渕内閣では、当選2回で郵政大臣に抜擢されました。その後、平成17年に郵政民営化関連法案に反対して自民党を離党しましたが、翌年に復党し、消費者行政担当大臣や総務大臣、自民党総務会長などを歴任し、菅政権では、幹事長代行を務めました。今回の総裁選挙で、野田氏は、子どもへの投資が成長戦略になると強調し、少子化対策や子どもの貧困を一元的に対応するため、「こども庁」の創設を訴えました。岸田氏としては、女性政策や生殖補助医療の法整備などにも取り組んできた野田氏の起用で、女性活躍や子育て支援の姿勢をアピールするとともに、挙党態勢の構築を図る狙いがあるものとみられます。
・衆院岐阜1区、当選9回、無派閥
・自民党総裁選に出馬するも4位だった
・1993年に初当選。98年に当時の小渕恵三内閣で郵政相に抜擢。当時37歳での閣僚就任は史上最年少。その後も総務相、党総務会長などを歴任した。
・菅政権が発案した「こども庁」の実現に意欲。自身も人工呼吸器や胃ろうなどが必要な「医療的ケア児」の息子がいる母でもある。
・自民党総裁選挙では選択的夫婦別姓、LGBT理解増進法案ともに賛成を表明。森友問題の再調査にも4候補で唯一言及し、必要に応じて再調査も認めると述べた。
・週刊文春は9月8日、野田氏の夫が警察庁のデータベース上で「過去に暴力団に所属していたと記録されていることがわかった」と報じた。過去にも週刊文春は野田氏の夫が暴力団員だったと報じてきたが、野田氏側は否定し名誉毀損だとして訴えた。東京地裁は2021年3月に、大筋で名誉毀損を認めつつも「夫は元暴力団員」とした部分については「真実と信じる相当な理由があった」との判決を下したが、野田氏側・週刊文春側ともに控訴している。

●経済再生相 山際大志郎(53) 初入閣自民|麻生派 S43/9/12
  衆・神奈川18区(当選5回)
山際氏は、獣医師として動物病院での勤務を経て、平成15年の衆議院選挙で初当選し、これまでに内閣府政務官や経済産業副大臣を歴任し、菅政権では、党の政務調査会長代理を務めてきました。今回の総裁選挙では、岸田氏の推薦人となっていました。岸田氏としては、経済やエネルギー政策に明るい山際氏を起用することで、総裁選挙の際に掲げた新しい資本主義の具体化を図るとともに、山際氏が甘利幹事長にも近いことから、政権基盤を固めるねらいもあるものとみられます。山際氏は初めての入閣です。
・衆院神奈川18区、当選5回、麻生派
・山口大の獣医学科を卒業後、東大大学院農学生命科学研究科博士課程へ。クジラについて研究。獣医学を学び、1999年に獣医師免許を取得
・『闘え!くじら人―捕鯨問題でわかる国際社会』など捕鯨問題についての著書がある
・これまでに経産副大臣、党副幹事長、党政調会長代理などを歴任

●経済安保相 小林鷹之(46) 初入閣自民|二階派 S49/11/29
  衆・千葉2区(当選3回)
小林氏は、岸田氏と同じ開成高校の出身で、財務省の職員を経て、平成24年の衆議院選挙で初当選し、これまでに防衛政務官などを務めています。小林氏は、自民党の戦略本部で、座長を務めた甘利幹事長のもと、経済安全保障に関する法整備の必要性を盛り込んだ提言のとりまとめにあたりました。岸田氏としては、小林氏の高い実務能力を評価して、意欲を示す経済安全保障に関する法整備にあたらせるとともに、当選3回の小林氏を抜擢して、若手議員登用の象徴としたい狙いもあるとみられます。小林氏は初めての入閣です。
・衆院千葉2区、当選3回、二階派
・岸田氏の母校、開成高校の出身。東大法学部卒業後、大蔵省(現:財務省)に入省
・2012年衆院選で初当選。これまでに防衛政務官などを歴任
・党の新国際秩序創造戦略本部では、経済安全保障の提言の取りまとめに参画した
・宇宙空間で取得した資源に所有権を認める「宇宙資源法」を大野敬太郎衆院議員とともに議員立法で立案、成立させた

●ワクチン相 堀内詔子(55) 初入閣自民|岸田派 S40/10/28
  衆・山梨2区(当選3回)
堀内氏は、岸田派の前身の派閥で会長を務めた堀内光雄・元総務会長の義理の娘で、夫は、岸田氏が旧長銀=日本長期信用銀行に勤務していた当時の1年後輩で、現在は富士急行の社長を務める堀内光一郎氏です。平成24年の衆議院選挙で初当選し、厚生労働政務官を務めた後、菅内閣では、環境副大臣を務めてきました。岸田氏としては、当選3回の堀内氏を起用することで、自らの人事の方針としていた中堅・若手の登用を実現するとともに、女性活躍を推進する姿勢を示す狙いがあるものとみられます。堀内氏は初めての入閣です。
・衆院山梨2区、当選3回、岸田派
・2012年に比例区で初当選。これまでに厚労政務官、環境副大臣などを歴任。働き方改革などに尽力
・義理の父は自民党の堀内光雄総務会長、夫は富士急行の社長・光一郎氏。光一郎氏は岸田首相の旧長銀時代の後輩
・女性が働きやすい社会、子どもを産み、育てやすい環境の整備を訴えてきた。読売新聞(2014年12月5日朝刊)によると、2014年の総選挙では「永田町は男性社会。女性議員の数を増やさないと何を女性が望んでいるかを届けられない」「人口減や少子化への解決策を打ち出すためには、女性の目線が必要」と訴えた。

●万博相 若宮健嗣(60) 初入閣自民|竹下派 S36/9/2
  衆・東京5区(当選4回)
若宮氏は、民間企業に勤めたあと、平成17年の衆議院選挙で初当選し、これまでに防衛副大臣や外務副大臣などを歴任し、現在は、衆議院の安全保障委員長を務めています。岸田氏としては、外交・安全保障政策をはじめ、幅広い政策に明るいことなどを評価したとみられます。若宮氏は初めての入閣です。 
・衆院東京5区、当選4回、竹下派
・慶應義塾大卒業後、セゾングループに入社。創業者の堤清二代表の秘書を務めた
・2005年、小泉政権での「郵政選挙」で単独比例ながら当選
・これまでに防衛副大臣、外務副大臣などを歴任。沖縄県の米軍北部訓練場の一部返還などを進めた
 

 

●記者会見
●岸田内閣総理大臣記者会見 令和3年10月4日
岸田総理冒頭発言
第100代内閣総理大臣に指名されました岸田文雄です。
自由民主党と公明党の連立による新たな内閣が発足いたしました。職責を果たせるよう全身全霊で取り組んでまいります。
まず、新型コロナウイルスにより亡くなられた方と御家族の皆様に心からお悔やみを申し上げますとともに、厳しい闘病生活を送っておられる多くの方々にお見舞いを申し上げさせていただきたいと思います。
また、医療、保健あるいは介護、こういった現場の最前線で奮闘されている方々や、感染対策に協力してくださっている事業者の方々、そして国民の皆様方に深く感謝を申し上げさせていただきます。
新型コロナとの闘いは続いています。私の内閣では、まず喫緊かつ最優先の課題であります新型コロナ対策、万全を期してまいります。国民に納得感を持ってもらえる丁寧な説明を行うこと、そして常に最悪の事態を想定して対応することを基本としてまいります。また、新型コロナによって大きな影響を受けておられる方々を支援するために、速やかに経済対策を策定してまいります。
その上で私が目指すのは、新しい資本主義の実現です。我が国の未来を切り開くための新しい経済社会のビジョンを示していきたいと思います。また、若者も、また高齢者も、障害のある方も、また女性も、全ての人が生きがいを感じられる、多様性が尊重される、こうした社会を目指してまいります。これらを実現するためには、一人一人の国民の皆さんの声に寄り添い、そして多様な声を真摯に受け止め、形にする、こうした信頼と共感が得られる政治が必要であります。そのため、国民の皆さんとの丁寧な対話を大切にしてまいります。
まず、新型コロナ対応です。足元においては感染者の数は落ち着きを見せ、緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置は全て解除されました。しかしながら、今落ち着いていても、また感染が増えていくのではないか。また感染が大きく増えた場合、しっかり医療を受けることができるのか、こういった不安を抱えた方が大勢いらっしゃいます。
こうした国民の皆さんの不安に応えるために、ワクチン接種、医療体制の確保、検査の拡充、こうした取組の強化について、様々な事態を想定した対応策の全体像を早急に国民の皆さんにお示しすることができるよう、本日、山際大臣、そして後藤大臣、そして堀内大臣、この3大臣に指示を出しました。
併せて、国民の協力を得られるよう経済支援をしっかりと行い、通常に近い経済社会活動を一日も早く取り戻すことを目指してまいります。また、これまでの対応を徹底的に分析し、何が危機対応のボトルネックになっていたのかを検証してまいります。その内容を踏まえ、緊急時における人流抑制や病床確保のための法整備、また危機管理の司令塔機能の強化など、危機対応を抜本的に強化してまいります。
次に、私の経済政策について申し上げてさせていただきます。
私が目指すのは、新しい資本主義の実現です。成長と分配の好循環と、コロナ後の新しい社会の開拓、これがコンセプトです。
成長は引き続き極めて重要な政策テーマです。しかし、成長だけでその果実がしっかりと分配されなければ、消費や需要は盛り上がらず、次の成長も望めません。分配なくして次の成長はなしです。私は、成長と分配の好循環を実現し、国民が豊かに生活できる経済を作り上げていきます。また、新型コロナというピンチをチャンスに変え、希望のある未来を切り開いていくことが重要です。なかなか進まなかったデジタル化の加速など、新型コロナは社会変革の芽ももたらしました。この芽を大きく育て、コロナ後の新しい社会の開拓を実現していきます。そのために、新しい資本主義実現会議を立ち上げ、ポストコロナ時代の経済社会ビジョンを策定し、具体的な政策を作り上げていきます。
新しい資本主義を実現していく車の両輪は、成長戦略と分配戦略です。成長戦略の第1は、科学技術立国の実現です。科学技術とイノベーションを政策の中心に据え、グリーン、人工知能、量子、バイオなど先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行います。
第2に、デジタル田園都市国家構想です。地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めます。
第3は、経済安全保障です。新たに設けた担当大臣の下、戦略技術や物資の確保、技術流出の防止に向けた取組を進め、自立的な経済構造を実現していきます。
第4は、人生100年時代の不安解消です。働き方に中立的な社会保障や税制を整備し、勤労者皆保険の実現に向けて取り組んでまいります。
次に、分配戦略です。分配戦略の第1は、働く人への分配機能の強化です。企業で働く人や下請企業に対して成長の果実、しっかり分配されるよう、環境の整備を進めてまいります。
第2に、中間層の拡大、そして少子化政策です。中間層の所得拡大に向け、国による分配機能を強化いたします。
第3に、公的価格の在り方の抜本的な見直しです。医師、看護師、介護士、さらには幼稚園教諭、保育士、こうした方々など社会の基盤を支える現場で働く方々の所得向上に向け、公的価格の在り方の抜本的見直しを行います。
第4の柱は、財政の単年度主義の弊害是正です。科学技術の振興、経済安全保障、重要インフラの整備などの国家的な課題に計画的に取り組んでまいります。
外交・安全保障は第3の重点政策です。日米同盟を基軸にし、世界の我が国への信頼の下、3つの覚悟を持って、毅然(きぜん)とした外交・安全保障を展開してまいります。
第1に、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値を守り抜く覚悟です。同盟国、同志国と連携し、自由で開かれたインド太平洋を強力に推進してまいります。
第2に、我が国の平和と安定を守り抜く覚悟です。我が国の領土、領海、領空、そして国民の生命と財産を断固として守るために、ミサイル防衛能力を含む、防衛力や海上保安能力の強化に取り組んでまいります。
拉致問題は最重要課題です。全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、総力を挙げて取り組みます。私自身、条件を付けずに、金正恩(キムジョンウン)委員長と直接向き合う覚悟です。
第3に、地球規模の課題に向き合い、人類に貢献し、国際社会を主導する覚悟です。被爆地広島出身の総理大臣として、核兵器のない世界に向けて全力を尽くしてまいります。また、地球温暖化対策の推進や、信頼性ある自由なデータ流通、DFFTなど、新たなルールづくりに向けて世界をリードしていきます。
今、申し上げた以外にも、我が国においてはデジタル技術を活用した個別教育の推進、農林水産業の成長産業化、地域に寄り添った多様で豊かな農林水産業の構築、災害に強い地域づくり、観光立国の実現など課題が山積をしています。また、東北の復興なくして、日本の再生はありません。この強い思いの下で、東日本大震災の被災地、中でも福島の復興再生に全力を注いでまいります。
私の内閣は新時代を共に創(つく)る、「新時代共創内閣」です。新しい時代を皆さんと共に創ってまいります。
そして最後に、衆議院議員任期と今後の選挙日程について申し上げます。
10月21日に衆議院議員の任期は満了いたします。可及的速やかに総選挙を行い、国民から最新の御信任をいただいて国政を担っていく必要があります。また、コロナ感染の状況は現在落ち着きを見せているとはいえ、先行きについては不透明です。多くの国民の皆様がいまだ大きな不安をお持ちです。一刻も早く大型で思い切ったコロナ対策、そして経済対策を実現してまいりたいと思います。そのためにはイの一番に国民の皆様に、この岸田にお任せいただけるのかどうか、この御判断を頂き、可能であるならば国民の信任を背景に信頼と共感の政治を全面的に動かしていきたいと考えます。
以上のように考え、私は可能な限り早い時期に総選挙を行うことを決意いたしました。所信表明、代表質問を行った後、今国会の会期末、10月14日に衆議院を解散し、10月19日公示、10月31日に総選挙を行うことといたします。選挙事務の準備期間が非常に短いため、コロナワクチンの接種に御尽力いただいている自治体の皆様には御負担をお掛けいたしますが、何とぞよろしくお願いをしたいと思います。
いまだコロナ禍による国難、続いています。総選挙期間中も政府としてはコロナと経済、両面への対応、しっかり万全を期すことをお誓いして、冒頭発言とさせていただきます。
質疑応答
(内閣広報官) それでは、これから皆様より御質問をいただきます。指名を受けられました方はお近くのスタンドマイクにお進みいただきまして、社名とお名前を明らかにしていただいた上で、1人1問御質問お願いします。この後の日程がございますので、進行に当たりましては御協力をよろしくお願いいたします。まず、幹事社から御質問を頂きます。読売新聞、黒見さん。
(記者) 読売新聞の黒見です。よろしくお願いします。先ほど総理から選挙日程の御説明があったのですが、説明された選挙日程に近接しておりますイタリアで開かれるG20首脳会議、それと英国で開かれるCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)、この国際会議への対応はどのように考えられておられますでしょうか。それと、先ほど経済対策の策定にも言及がありましたけれども、個人向けの現金給付、これを生活支援として行うお考えはありますでしょうか。支給額や対象についても基本的なお考えをお聞かせください。
(岸田総理) まず1問目の質問、G20あるいはCOP26への対応でありますが、こうした会議、当然のことながらこれは国際社会において大変重要な会議であると認識しています。ただ、この現状において、これはリモート等の技術によって発言をする、参加することも可能であると認識をしておりますので、できるだけそうした技術を使うことによって、日本の発言、存在力、しっかり示していきたいと考えています。2問目の質問、個人的な現金給付、行うかということについては、私は今コロナ禍において大変苦しんでおられる弱い立場の方々、女性や非正規あるいは学生の皆さんといった、こういった弱い立場の方々に個別に現金給付を行うこと、これは考えていきたいと思います。金額等につきましては、今後、与党でも具体的な案をしっかりと検討した上で確定していきたいと考えています。
(内閣広報官) 続きまして、日本テレビ、山ア(やまざき)さん。
(記者) 日本テレビ、山ア(やまざき)です。よろしくお願いします。コロナ対策についてお伺いします。今回、コロナ対策の関係閣僚を全員交代させましたが、その狙いをお聞かせください。また、今後、関係閣僚の役割分担や意思決定の仕組み、専門家会議の在り方などを見直していく考えはあるのか、それもお聞かせください。もう一点で、先ほどこれまでの対策を分析して、人流抑制などの法改正や危機管理の司令塔の強化などを考えるとおっしゃっていましたが、この辺のスピード感、スケジュール感を教えてください。
(岸田総理) まず、コロナ関係閣僚を替えたことの狙いという御質問がありました。自民党の中にはそれぞれ専門分野を持ち、有能な議員、たくさんいます。今回も山際大臣、後藤大臣あるいは堀内大臣、それぞれの分野で活躍してきた有能な人材であると認識しています。是非こうした新しく就任した大臣においてもしっかりその職責を果たしていただきたいと思っています。そして、それぞれの分担については、御案内のとおり山際大臣、経済財政を中心に、コロナ対策を考えていく。後藤大臣は厚生労働大臣です。そして堀内大臣、ワクチン担当大臣ということですが、これらの担当の大臣がいかにうまく連携していくのか、協力し合うことができるか、これが大変重要なポイントであると思います。ですから今日も私はこの3大臣に対して、是非全体像をしっかり国民の皆さんに示しながら、それぞれの役割分担をしっかり果たしてもらいたい、この連携の重要性をしっかり強調した、こういったことであります。そして、司令塔機能を始めとする今後の取組のスケジュール感、スピード感という御質問がありました。これは今回のコロナとの闘いの中で、私自身はコロナとの闘いの司令塔機能が重要だということを申し上げてきました。こうした体制をしっかり作っていくことは、これから将来に向けても、危機管理という面で大変重要であると認識しています。このスケジュール感ということについては、こうした大きな方向性を示しながら、具体的にスケジュール感を作っていきたいと思っています。できるだけ早急にということは間違いないわけでありますが、そういった方向性と、そしてスピード感をもって努力をし、未来に向けて司令塔機能をしっかりと作っていく取組を進めていきたいと思っています。
(内閣広報官) ここからは幹事社以外の方から御質問をお受けします。御質問を希望される方は挙手をお願いいたします。こちらで指名いたしますので、マイクにお進みください。それでは、どうぞ。
(記者) 毎日新聞の小山です。よろしくお願いします。先ほど総理は新しい資本主義の実現会議を作るとおっしゃいましたけれども、この実現会議のイメージについて伺いたいと思います。どこか有限に期間があって、そこで最終報告を出して終わりなのか、それとも岸田内閣が続く限りずっと常設としてあるようなイメージなのか、どういう提言を出されることを想定しているのでしょうか。新しい資本主義についてもう一問なのですけれども、総選挙に勝った場合、年末の予算や税制がありますけれども、年末の予算や税制改正では、どのようなことをこの新しい資本主義を実現するために盛り込もうと考えていらっしゃるでしょうか。お願いします。
(岸田総理)ありがとうございます。まず、新しい資本主義実現会議ということですが、まず、今はコロナとの闘いの真っただ中にあると思います。そして、国民の皆様の協力を得るために、しっかりとした経済対策を求められると思います。そして、その先にコロナとの共存、できるだけ通常に近い社会経済生活を取り戻すことができた上で、その先に経済の再生を考えなければいけない、そこで新しい資本主義をしっかり回していくという順番であると認識しています。そして、新しい資本主義の実現会議ですが、先ほど申し上げたように、成長と分配の好循環を作っていく、成長が重要であるということ、これはもちろん言うまでもないわけですが、その成長の果実をどう分配していくのか、こういった点について、民間においてもそれぞれの民間企業であったりサプライチェーンにおいても様々な努力が求められる、そして、それを補うために公的な政策ですとか、それから、先ほど申し上げました公的価格の見直しですとか、こういった取組を進めていかなければいけません。こうした具体的な課題について、是非関係者、有識者にもしっかりと意見を聞かせていただき、国民の皆様の様々な知恵を頂きながら、この成長と分配を実現していく、こういった取組をリードしていただく会議を設けさせていただければと思っているところです。そして、2問目が、実現会議。2問目、ちょっともう一回お願いします。
(記者)常設な部会としてずっとあるものか。
(岸田総理) ごめんなさい。ですから、これは資本主義、新しい資本主義を実現する、これは一朝一夕に実現できるものではありません。是非こうした成長と分配の好循環を続けていくためにも、こういった様々な努力は続けていかなければなりませんので、これは短期間で終わるものではないと思います。これは内閣を挙げて取り組まなければいけない課題ですので、中長期的にこうした会議を活用していくことを考えていきたいと、私は思っています。
(内閣広報官) それでは、次、では、秋山さん。
(記者) 日本経済新聞社の秋山です。新しい資本主義の関係なのですけれども、総裁選を通じても、金融所得課税の見直しというのは一つ訴えられていたかと思うのですけれども、1億円の壁という話もありますが、この辺の政策についてはどのようにお考えでしょうか。
(岸田総理) 新しい資本主義を議論する際に、こうした成長と分配の好循環を実現する、分配を具体的に行う際には、様々な政策が求められます。その一つとして、いわゆる1億円の壁ということを念頭に金融所得課税についても考えてみる必要があるのではないか。様々な選択肢の一つとして挙げさせていただきました。当然、それだけではなくして、例えば民間企業において株主配当だけではなくして、従業員に対する給与を引き上げた場合に優遇税制を行うとか様々な政策、更には、サプライチェーンにおける大企業と中小企業の成長の果実の分配、適切に行われているのか、下請いじめというような状況があってはならない、こういったことについてもしっかり目を光らせていくなど、様々な政策が求められると考えています。御指摘の点もその一つの政策であると思っています。
(内閣広報官) では、2列目の端の方、どうぞ。
(記者) 中国新聞の下久保です。よろしくお願いします。総理は、自民党の総裁選期間中に聞く声を訴えられ、また、国民の声を記してきたというノートを掲げられました。そこにはもちろん地元、被爆地の広島の方々の声もあるのだと思います。被爆者の方々は、核兵器禁止条約の署名・批准、また、条約締約国のオブザーバー参加を求められています。折しも、アメリカのバイデン大統領も核なき世界について理解を示しておられます。総理は、日米首脳会談など、機会があればこれについて協力を求める考えがありますか。核廃絶に向けた決意と覚悟を改めて聞かせてください。
(岸田総理) まず、先ほども冒頭発言で申し上げたように、被爆地広島出身の総理大臣として、核兵器のない世界に向けて全力を尽くしていきたいと思っています。私も外務大臣時代から、核兵器のない世界を目指す、これはライフワークとして取り組んできました。しかし、その中で厳しい現実にも直面しました。やはり核兵器をなくすという大きな目的に向けて努力する際に、現実に核兵器を持っているのは核兵器国ですから、核兵器国を動かしてこそ現実は変わるのだと、こういう厳しい現実に何回もぶち当たって残念な思いをした、こういったことが度々ありました。核兵器のない世界に向けて核兵器禁止条約、これは大変重要な条約だと思います。核兵器のない世界を目指す際の出口に当たる大変重要な条約だと思いますが、ただ、残念ながら核兵器国は一国たりともこの核禁条約、これには参加していない状況です。是非、唯一の戦争被爆国として、核兵器国、アメリカを始めとする核兵器国を、この核兵器のない世界の出口に向けて引っ張っていく、こういった役割を我が国はしっかり果たさなければいけない、こういったことを強く思っています。そして、日米首脳会談でこれを取り上げるかということですが、具体的な会議の内容について今ここで予断を与えることは適切ではないと思いますが、バイデンアメリカ大統領も既に昨年の自らの大統領選挙の最中に、核兵器のない世界を目指すということを世界に向けて発信されています。是非、このバイデンアメリカ大統領ともしっかり意思疎通を図る中で、大きな目標に向けて何ができるのかしっかり考えていきたいと思っています。以上です。
(内閣広報官) 次、七尾さん。
(記者) ドワンゴ、ニコニコの七尾です。就任おめでとうございます。よろしくお願いします。
(岸田総理) よろしくお願いします。ありがとうございます。
(記者) 国民への説明が必要だと言われております。その中身についてお聞きします。これまで過去のSNS等を見ますと、国民が強く求める政策、例えば国民への一律再給付、五輪中止などがありました。これが、これについてなぜ政府は実施しないのか、その理由が分からないので結果的に政権不信につながっていったといった側面は確かにあると思います。すなわち、多くの国民が望む政策を政府が選択しない場合、その理由についても説明してほしいといった声なのですが、これについてお考えをお聞きします。
(岸田総理) おっしゃるように、政治の立場、政府の立場から説明する際に、結果のみならず、その必要性ですとか、それから結論に至る様々なプロセス、こうしたものをしっかり説明する、こうした結論に対して背景と言えるような要素についてもしっかり説明するということは大変重要な姿勢であると認識いたします。これまでも政府において様々な説明の努力は行われてきたと存じますが、是非今後も、今言った観点からより丁寧な説明を行うべく、政府においても不断の努力を続けていかなければならない、こういったことだと思います。私も、新しい内閣においても、是非今言った姿勢でしっかり説明すると同時に、絶えず説明の内容、あるいは姿勢についても改善するべく努力をしていきたいと考えます。
(内閣広報官) では、杉本さん。
(記者) 産経新聞の杉本と申します。よろしくお願いいたします。北朝鮮による拉致問題についてお伺いいたします。先ほど総理は、北朝鮮の金正恩総書記と直接向き合う覚悟があるというふうにおっしゃいました。安倍総理以来、金正恩と直接会談するという意向を表明しておりますけれども、いまだに実現しておりません。この会談のためにどのような手段というか、どのように道筋を付けたいと考えているかをお聞かせいただきたいのと、拉致被害者が最後に帰国してから20年近くたっております。その間、一人たりとも帰国していない状況です。この理由について総理はどのようにお考えになるのか。その問題を克服するために、岸田内閣であるからこそできることをお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。
(岸田総理) まず、私が先ほど金正恩委員長と直接向き合う必要があるということを申し上げたのは、やはり北朝鮮の政治体制を考えますと、やはりトップの会談、これが何よりも重要であるという観点から、直接向き合う覚悟であるということを申し上げさせていただきました。そして、今日までなかなかこの拉致問題について結果が出てこない、今後の道筋についてどう考えるかということでありますが、私も、北朝鮮との関係においては、外務大臣時代、ストックホルム合意を始め様々な取組を試みました。その結果、具体的な成果がなかなか上がらなかったということについては、しっかりと反省をしながら、この拉致問題についてもしっかりと考えていかなければならないと思いますし、何よりもアメリカにおいても新政権が誕生しました。この新政権の北朝鮮政策、この在りようについてもしっかりと把握をしながら、そして、その中で日本としてどんな役割を果たせるのか、こういったことも考えながら、具体的な取組を進めていくべきであると思っています。道筋、それからどうやって結果を出すのかという御質問ですが、今この時点で具体的な道筋を申し上げることはできませんが、是非こうした関係国との連携の中で日本が果たす役割をしっかりと確認し、そして、責任を果たしていきたいと思います。いずれにせよ、拉致被害者の御家族の高齢化が進んでいます。これは一刻の猶予もない課題であると思います。強い思いを持って、覚悟を持って取組を続けていきたいと考えています。以上です。
(内閣広報官) 次に、吉浦さん。
(記者) 共同通信の吉浦と申します。よろしくお願いいたします。衆院選の日程のことで確認させていただきます。今回、衆院選の日程を今月19日公示、31日投開票と、10月中に収まる形で考えられました。これは新型コロナウイルスの感染状況が今、落ち着いているという、この時期に実施したいというお考えもあったのでしょうか。また、秋篠宮(あきしのみや)様の長女、眞子様が御結婚される26日に公示日などが重ならないようにというような配慮もあったのかどうかも併せてお聞かせください。
(岸田総理) まず、今回、先ほど表明させていただきました選挙日程を決定させていただきましたのは、何よりも衆議院の任期は10月21日です。ですので、衆議院議員の空白、これをできるだけ短くしなければいけない。これは当然のことだと思います。そして、先ほど申し上げたように、これから本格的にコロナ対策、あるいは経済対策を進めていかなければいけない。その際に、まずは国民の皆さんに、岸田に任せていいのかどうか、これをしっかりと御確認いただき、そうした国民の皆さんの意思、思いをしっかり背景に、思い切ってこうしたコロナ対策、そして経済対策を行うことができないか。そういった思いから日程を決めさせていただいた、こういったことであります。コロナが広がっていないうちに選挙をやることを考えたかどうかという質問でありますが、国民の皆さんに貴重な御判断をいただくわけですから、コロナの状況も当然念頭に置いて、より国民の皆さんに選挙に向けてしっかりとした思いを表明していただける、こういった環境は大事であると思います。ただ、先ほど申し上げましたことが最大の目的であるということは申し上げさせていただきたいと思っております。
(内閣広報官) 篠原(しのはら)さん。
(記者) テレビ東京の篠原です。よろしくお願いします。岸田総理の政策、大変多方面にバランスのとれた政策であるという評価の一方で、総花的ではないかという指摘もあるわけです。岸田総理として、最も重要視する政策、これは必ずやるぞという政策は何なのかということを教えていただきたいのと、また、直近の菅政権や安倍政権とこの岸田政権はここは違うんだというところについて、お考えをお聞かせください。
(岸田総理) まず、これは再三申し上げているのですが、私として重要視する政策、3つあります。1つ目は、言うまでもなく、新型コロナ対策であります。2つ目は、先ほども紹介させていただきました、新しい資本主義。これからの日本のこの経済、成長と循環の好循環を作ることによって、経済の持続可能性、しっかり追求していきたい。こういったことであります。そして、3つ目が、これも冒頭申し上げましたが、3つの覚悟に基づく外交安全保障政策。この3点が重要な課題であると思っています。新しい資本主義については、先ほども申し上げさせていただきましたが、例えばコロナ対策ということを考えましても、是非国民の皆さんに対する納得感ある説明、これをしっかりと行っていく。そして、様々な対策を考える際に、絶えず最悪の事態を想定する。これが危機管理の要諦であると思いますので、そういった発想でしっかり対策を行っていきたいと思っています。そして、コロナ対策においては、何よりも国民の皆さんの協力なくして結果を出すことはできません。よって、国民の皆さんに協力していただくために、まず納得感をしっかりと感じていただかなければいけない。そのためにも、丁寧な対話が重要であると考えています。是非多様な国民の皆さんの声をしっかりと伺いながら、それを形にする、政策に反映していく。こうした信頼と共感の得られる政治を実行していきたいと思います。この違いということですが、私自身は今申し上げたしっかりとした政治を進めることによって、私の特色を出していきたいと思っています。
(内閣広報官) それでは、桑田さん。
(記者) 福島県の福島民友新聞の桑田と申します。よろしくお願いいたします。東日本大震災からの復興についてお聞きいたします。総理は組閣に当たり、復興大臣と沖縄北方担当大臣を兼務させました。これまで復興大臣は、復興関連の国務以外は兼務しておらず、福島県を始めとする被災地からは、震災から10年が経過し、復興が軽んじられているのではないかという懸念の声が早くも出ております。今回の人事の狙いと、東京電力福島第一原発で発生しているALPS(多核種除去設備)処理水や福島の帰還困難区域の再生といった残された課題にどのように取り組まれるか、御決意を聞かせてください。
(岸田総理) まず、復興を軽んじているのではないか、こういった御指摘を頂きました。それは全く当たらないと私は思っています。この新内閣における基本方針においても確認をしていますし、再三この新内閣における様々な取組の文書において強調させていただいておりますが、東北の復興なくして日本の再生なし、この原点は再三強調しておりますし、これからも変わらないと確信をしております。そして、兼務をさせているではないか、こういった御指摘がありました。たしかに西銘(にしめ)大臣、この沖縄の出身ということで兼務をしていただきましたが、西銘大臣はこれまでも国土交通委員長、あるいは国土交通大臣政務官、この復興に関わる政策課題において、豊富な経験あるいは実績を積んでこられた人物です。間違いなく復興においてもその手腕をしっかり発揮してくれると確信をしておりますし、そして、御指摘のような、この地元の皆さんの不安や指摘については、西銘大臣自身が自らの活動においてそういったことは当たらないということをしっかり証明してくれる、こういった人物であると確信して、任命させていただきました。是非この復興、東北の復興なくして日本の再生なし、政府にとって、今の内閣においても重要な課題をしっかり掲げながら、西銘大臣にもしっかりと成果を上げてもらいたいと思っています。以上です。
(内閣広報官) では、前列の大塚さん。
(記者) 時事通信の大塚です。3つの覚悟の外交に関して伺います。総理は、中国に対してはどのような外交で臨みますでしょうか。特にTPP(環太平洋パートナーシップ)参加問題、これはどう対応されますか。
(岸田総理) まず、中国については、我が国の隣国であり、最大の貿易相手国であり、様々な民間の交流等を考えますときに、日本にとって重要な国であり、対話は続けていかなければならないと思います。しかしながら、一方で、東シナ海を始め、南シナ海、様々な地域で力による現状変更と言えるような動きがある。また、私たちが大切にしている自由や民主主義、法の支配、人権、こういった価値観に対して、いかがかと思うような対応も感じる次第です。こういったことについては、言うべきことはしっかり言っていかなければならない。そして、我が国のみならず、こうした普遍的な価値を共有する同盟国や同志国とも連携しながら、中国に対してしっかり言うべきことは言っていく。これが重要なスタンスであると思っています。また、TPPの参加について御質問を頂きました。これについては、中国がTPPが求める高い水準をしっかり満たすことができるかどうか、これを見ていかなければなりません。国有地、国有企業の在り方ですとか、知的財産権に対する対応ですとか、こういったことを考えますときに、このTPPの高いレベルを中国がクリアできるかどうか、これは、私は、どうであろうか、なかなか不透明ではないか、このようには感じています。
(内閣広報官) 次の方、瀬戸さん。
(記者) 報知新聞社の瀬戸です。新型コロナ感染症対策分科会についてお伺いします。首相は総裁選挙期間中から、医療の専門家中心ではなく、観光や教育など各分野の専門家が議論する有識者会議について言及されてきております。そこで、現在の新型コロナ対策分科会を解散し、ポストコロナに向け、一から別のメンバーで作り直す可能性があるのかどうかお聞かせください。また、新たに参加を要望する分野についても、お考えがあるようでしたらお聞かせください。お願いします。
(岸田総理) まず、結論から言いますと、今の分科会を解散して新たな分科会を作るというようなことは全く、私は総裁選挙の最中から申し上げておりません。今の分科会の皆様方、医療中心に様々な専門的な見地から御意見を頂いている。この政府に対して様々な貢献を頂いていると認識しています。私が申し上げている、観光ほか、他の分野の専門家の会議も必要だというのは、今、この新型コロナとの闘いを進め、そして、ウィズコロナ、コロナとの共存状態と、できるだけ通常に近い社会経済活動を実現するという段階まで行った際に、今度は、この社会経済活動をコロナとの共存の中で動かしていかなければいけないわけですから、例えば、旅行についてもどんな注意が必要なのか。物流ということを考えても、我々はコロナと共存する際にどんな観点に注意しなければいけないのか。人流、外食、様々なこの分野において、新しい日常を考える際に、専門家の皆さんの知識を頂く。こういった有識者会議を別途作っていく必要があるのではないか。こういったことを総裁選挙の最中から申し上げたわけであります。ですから、今の分科会を改組するとか、閉鎖するとか、そういったことは一度も申し上げたことはありません。あくまでも別途、そうした新しい日常、コロナとの共存を考える際に、私たちの生活、社会経済活動を回す際に必要ないろいろなこのアイデア、ヒントを頂くための会議を別途作り上げよう、作るべきだ、こういったことを申し上げてきた次第です。
(内閣広報官) それでは、大変恐縮でございますが、次の日程との関係で、あと2問とさせていただきます。では、前列の一番端の古川さんですか。
(記者) 西日本新聞の古川と申します。よろしくお願いいたします。先ほど総理は、新時代を共に創る、共創内閣を掲げられましたけれども、これは非常に抽象的で、国民に伝わりにくいのではないかなと思うのですけれども、国民が納得する形で、具体的にはどのようなことに取り組む内閣だということでしょうか。教えてください。
(岸田総理) 新しい時代を国民の皆さんと共に創る、この新しい時代というのは、まずコロナとの闘い、これをしっかりと闘い抜いて、先ほど申し上げました、できるだけ通常に近い社会経済活動を取り戻す、こうした闘いを進めていき、そして、その先に新しい経済を始め、新しい日常、新しい時代、これを創っていかなければならない。その新しい時代に向けて、共に努力をしていきましょう。こういった思いをこの新時代共創内閣に込めたということであります。ですから、今、コロナとの闘いにおいて、国民の皆さんの協力なくしてこの闘いを乗り越えることはできません。ワクチン接種、あるいは治療薬の開発等を進めながらも、まだ期間が掛かるわけですから、その間、協力を頂くために、経済政策、しっかり用意しなければいけない、こういったことを申し上げていますし、そして新しい日常、コロナとの共存、実現する際にも、先ほど申し上げましたどのような注意をしながら私たちは社会経済活動を進めていくのか、こういったことについても国民の皆さんの協力を頂かなければなりません。そして、新しい経済によって、私たちは格差というものにしっかり目を向けて、より一体感を感じられる、こうした経済を創っていかなければなりません。このように、今、コロナ禍においてばらばらになりかけているこの国民の心をしっかりと一つにして、そして今言った様々な課題を乗り越えていく、そういった思いを新時代共創内閣、共に創る、こういった言葉に込めさせていただいたといった次第です。分かりにくいという御指摘については、是非これからもしっかりと説明を加えながら、御理解いただけるよう、努力していきたいと思っています。
(内閣広報官) 最後に畠中(はたなか)さん。
(記者) ニッポン放送の畠中(はたなか)と申します。よろしくお願いいたします。今回の内閣は、老壮青、そのバランスというのを掲げていらっしゃるかと思いますが、その中には、当選3回生で初入閣の方が3人いらっしゃいます。若手の化学変化が期待される一方で、このお三方は自民党の野党時代を経験されていない方々です。そういう視点で見ると不安がないのかというのを知りたいところです。そして、そのお三方の接点の一つというのがデジタルだと思いますが、先ほどからおっしゃられてはいるのですが、発足したばかりのデジタル庁を今後どう育てていくのか。総裁選ではデジタル臨時行政調査会の設置も掲げていらっしゃいましたけれども、その設置の時期も知りたいところです。これらを合わせてお聞かせいただければと思います。
(岸田総理) まず、若手の皆さんに活躍していただく。今回、内閣の人事を考える際に、老壮青のバランス、これが大事だということを申し上げました。従来のバランスを考えると、より中堅、若手の皆さんに多く参加していただかなければバランスが取れないと思いまして、より多くの中堅、若手の皆さんに参加していただいた、こういったことです。そして、加えて、それぞれの個性や能力はもちろん大事ですが、内閣全体、チームとしてしっかりと機能していく、連携していく、こういった点で、しっかりと協力してもらえる人材を選んだと思っています。そして、若い方々、おっしゃるように野党時代を知らないということはそのとおりかもしれませんが、しかし、時代はどんどん変化しています。この新しい時代の中で、その感覚をしっかりと身に着けた若い人たちには、臆することなく未来に向けて努力していただきたいと、心から願っています。そして、ようやく発足したデジタル庁、是非、これをしっかりとこれから大きく花開かせていかなければならないと思います。そして、デジタル庁の課題、様々な課題がありますが、これはこの日本全体をこれから大きく変化させる大きな芽を持っていると思っています。私が総裁選挙中も訴えさせていただきましたデジタル田園都市国家構想、これは正にデジタルの力を持って、長年なかなか進まなかった地方創生、これをしっかりと進めていく、こういった発想に立っています。こう考えますと、デジタル庁あるいはデジタルをめぐる課題は、いつまでどうこうというのではなくして、これ、未来に向けてしっかりと継続して努力をしていかなければいけない課題であると認識しています。以上です。
(内閣広報官) それでは、以上をもちまして、本日の。
(記者) すみません。コロナとデジタルのことで伺いたいのですけれども。
(内閣広報官) では、最後の質問で、よろしくお願いいたします。
(記者) ありがとうございます。フリーランスライターの畠山理仁(みちよし)と申します。新型コロナウイルス感染症が存在する中でも、有権者が安心して投票できる権利について伺えればと思います。選挙は民主主義の根幹ということで、不要不急の外出には当たらないと。コロナ禍においても、選挙は通常どおりに行われています。一方で、投票率が低下傾向にあって、前回の衆議院議員選挙では53.6パーセント、2019年の参議院議員選挙では48.8パーセントということで、約半数の方が投票に行かれていません。まずはこの投票率が、低投票率がどこに原因があるとお考えか。それは政治不信に原因はないとお考えかということが一つと、今年の6月から新型コロナウイルス感染症の陽性者には郵便投票等の特例が認められるようになりました。ただ、不特定多数が出入りする投票所へ行くことを敬遠される方、それから、DV(ドメスティック・バイオレンス)の被害者など住民票のある自治体に近寄れずに、投票を諦めてしまうという方もいらっしゃいます。もちろん投票所ではアルコール消毒とか、それから体温を測ったり、ビニールシートを張ったり、それから距離を確保したりと、感染症の対策は取られていますけれども、そろそろ全ての方が安心して投票できる制度、投票率を上げるための制度、それからデジタルを活用して公正な選挙が行われるようにする制度、例えばポスター掲示板のデジタルサイネージ化、それからインターネット投票、それから投票ポイント制度とか、政治の側が整備すべき制度があるのではないかと思うのですが、岸田さんのお考えをお聞かせください。ありがとうございます。
(岸田総理) ありがとうございました。まず、低投票率についての要因ということですが、政治不信もあるのではないか、こういった御指摘ですが、私はそういった政治不信もあると思っています。多くの方々がコロナ禍で苦しんでおられる。私も今回の総裁選挙に至るまでの1年間、多くの国民の皆さんの切実な声を小さなノートに書きとどめながら、いろいろ話を聞いてきました。その中で、自分たちの声が政治に届かないとか、政治の説明が国民に響かないとか、こういった声もたくさんあったと振り返っています。こういった状況に対して、やはり民主主義の根幹であります国民の信頼、しっかり取り戻していかなければいけない、こういった危機感を私も持ち、今回の総裁選挙にも挑戦した、こういったことであります。是非、納得感のある説明、あるいは対話、そして丁寧で寛容な政治、こういったことを進めることによって、国民の信頼感をしっかり取り戻し、そしておっしゃるように選挙の投票率にも影響してくる、こうした流れを作っていきたいと思っています。そして、コロナ禍の中で選挙の投票がなかなか難しい等、御指摘がありました。それに向けて様々な提案も今、いただきました。これ、すぐにできること、できないこと、これは様々だと思いますが、絶えず最新の技術もしっかりと念頭に置きながら、何ができるのか、これを不断に考えていく、こういった姿勢は大事なのではないかと思います。正に国民の皆さんの声も聞きながら、現実、この選挙、より多くの皆さんに投票に行ってもらえるような姿勢を、体制をしっかり作っていきたい、そういった大きな方向性は大事にしていきたいと思っています。以上です。
(内閣広報官) それでは、以上をもちまして、本日の記者会見を終了させていただきます。御協力ありがとうございました。 

●岸田首相の記者会見 10/4
拉致問題「強い思いと覚悟持って取り組み続ける」
北朝鮮による拉致問題への対応について「アメリカの新政権の北朝鮮政策のありようについてもしっかりと把握しながら、日本としてどんな役割を果たせるのか考え具体的な取り組みを進めていくべきだ。拉致被害者のご家族の高齢化が進み、一刻の猶予もない課題であり、強い思いと覚悟を持って取り組みを続けていきたい」と述べました。
政府分科会『改組』や『閉鎖』 一度も申し上げたことない
新型コロナウイルス対策の分科会について「今の分科会には、医療を中心に、さまざまな専門的な見地からご意見をいただき、政府にさまざまな貢献をしていただいていると認識している。『改組する』とか『閉鎖する』といったことは、一度も申し上げたことはない。あくまでも『新しい日常』やコロナとの共存を考え、私たちの生活、社会経済活動を回す際に、必要ないろいろなアイデアやヒントをいただくための会議を、別途作るべきだと申し上げてきた」と述べました。
中国への対応「言うべきことは言っていく」
中国への対応について「隣国で最大の貿易相手国であり、対話は続けていかなければならない。一方で、東シナ海をはじめ、さまざまな地域で、力による現状変更と言えるような動きや、自由や法の支配といった価値観に対して、いかがかと思うような対応も感じる。普遍的な価値を共有する同盟国や同志国とも連携しながら、言うべきことは言っていくのが重要なスタンスだ」と述べました。また中国がTPP=環太平洋パートナーシップ協定への加入を申請したことについて「国有企業のあり方や知的財産権に対する対応といった事を考えると、TPPの高いレベルを中国がクリアできるかはなかなか不透明ではないか」と述べました。
衆議院選挙の日程の理由「空白をできるだけ短く」
衆議院選挙を今月31日投開票の日程とする方針を決めた理由について「国民に貴重な判断をいただくわけで、新型コロナの状況も当然、念頭に置いている。ただ、衆議院議員の任期は10月21日までで、空白をできるだけ短くしなければいけないし、まずは国民に岸田に任せていいのかをしっかり確認してもらい、国民の意思・思いを背景に、思い切ってコロナ対策、経済対策を行うことができないかという思いから日程を決めた。ここが最大の目的だ」と述べました。
“唯一の戦争被爆国として核兵器のない世界の出口へ引っ張る”
核兵器禁止条約の批准に向けて、アメリカのバイデン大統領に協力を求めていく考えがあるか問われたのに対し「唯一の戦争被爆国として、アメリカをはじめとする核兵器国を、核兵器のない世界の出口に向けて引っ張っていく役割を果たさなければいけない。バイデン大統領も、去年の大統領選挙の最中に『核兵器のない世界を目指す』と発信している。バイデン大統領とも意思疎通を図る中で、大きな目標に向けて、何ができるのかしっかり考えていきたい」と述べました。
“新型コロナとの闘いの司令塔機能の体制をしっかりつくる”
新型コロナウイルス対策を担当する大臣をすべて交代させたねらいを問われたのに対し「新しく就任した3人の大臣は、それぞれの分野で活躍してきた有能な人材であり、しっかり職責を果たしていただきたい。担当大臣らが、いかにうまく連携していけるかが大変重要なポイントだ」と述べました。
そのうえで「新型コロナとの闘いの司令塔機能の体制をしっかりつくっていくことが、将来に向けても、危機管理という面で大変重要だ。スピード感を持って、司令塔機能をしっかり作っていく取り組みを進めていきたい」と述べました。
来月の気候変動対策の国際会議「発言や存在感しっかり示す」
今月30日からイタリアのローマで開催されるG20サミット=主要20か国の首脳会議や、来月1日と2日に、イギリスで行われる予定の気候変動対策の国際会議、COP26の首脳会合への対応について「国際社会において、大変、重要な会議だと認識している。ただ現状において、リモートなどの技術によって発言や参加することも可能だと認識しているので、できるだけそうした技術を使うことで、日本の発言や存在感をしっかり示していきたい」と述べました。
“弱い立場の方々に現金給付行うこと考えていきたい”
岸田総理大臣は、経済対策について「今、コロナ禍で、大変苦しんでおられる女性や非正規、学生の皆さんといった弱い立場の方々に、個別に現金給付を行うことは考えていきたい。金額などについては、今後、与党とも具体的な案をしっかりと検討したうえで確定していきたい」と述べました。
岸田首相 衆院解散14日 衆院選公示19日 投票31日 表明
岸田総理大臣は、記者会見で国会会期末の今月14日に衆議院を解散し、衆議院選挙を19日公示、31日投開票の日程で行う方針を表明しました。 
 

 

●内閣噂話
●岸田文雄
霞が関官僚
官僚いわく「岸田さんはレクの時、眠そうにしてるんだよね。ちゃんと聞いているのか不安になる。そのくせ突如、『その答弁じゃ、国会乗り切れないだろ』とか言う。激怒はしないけど静かにキレてる感じがする。本当に怖い親分って、こんな感じなのかね」穏やかさを売りにしているように見えるが、実は強面の一面もあるようだ。岸田の選挙区は広島。映画「仁義なき戦い」を思い起こす。
自民党有力代議士
「岸田は、外相時代に安倍本人から政権禅譲というニンジンをぶら下げられ、総理の椅子を強く意識するようになった。そのとき、岸田派の名誉会長として隠然たる力を持っていた古賀誠元幹事長が目障りだった麻生が、『古賀切り』を条件に禅譲をちらつかせた。昨年暮れ、岸田はついに古賀を放逐して、今回の総裁選を迎えたんです」どっぷり保守の安倍と麻生は、古賀にコントロールされている岸田派が安倍らに敵対する勢力になることを警戒した。そのため、根こそぎ排除したのだ。伝統の派閥「宏池会」の長老政治家を裏切り追いやった岸田には、総理の座が転がり込んでくるはずだったが…。モリカケ、桜、河井夫婦への政治資金など解明されないまま放置されている安倍前政権の疑惑の数々。なかでもモリカケ問題について岸田は、BS番組で「さらなる説明をしないといけない」と発言。これが安倍の逆鱗に触れ、安倍と細田派は高市全面支持へと舵を切ることになったのである。「岸田が安倍に謝った」(関係者)直後に流れた怪情報とともに、岸田は「再調査は考えていない」と発言を一変させ、今度は「安倍の靴を舐めた」と世論からバッシングを受ける。波紋は拡大するばかりだ。
池上彰氏から見た岸田政調会長
自民党の秋の総裁選挙で、安倍晋三首相を支持する派閥が多く、総裁三選が有力と報道されています。決定的となったのが、岸田派の岸田文雄政調会長が出馬を見送ったこと。岸田派の中には、「たとえ今回の総裁選で勝てなくても、戦う姿勢を示せば派の結束は強まるし、ポスト安倍に名乗りを上げられる」と出馬を期待していた若手国会議員もいただけに、“優柔不断な殿”への不満が出ています。こういうとき、インテリは弱いなあと思ってしまいますね。岸田氏は、祖父も父も自民党の衆議院議員。広島が選挙区になっているとはいえ、幼少期はニューヨークに住み、その後は東京の永田町小学校に麹町中学校、開成高校という典型的なエリートコース。エリートはほかにもいますが、自民党の有力議員の中ではとても常識人なのです。でも、良き常識人では権力闘争に勝てないのです。
永田町に衝撃を与えた岸田文雄新総裁の主要人事… 10/2
岸田文雄前自民党政調会長は10月4日、衆院本会議の首班指名選挙で第100代内閣総理大臣に就任する。
これまでに明らかになった自民党役員と岸田内閣の主要閣僚人事を検証する。正直に言って、筆者が全く予想していなかった意外人事が幾つかあった。
最たるものは首相のサポート役である内閣官房長官である。筆者は9月29日の自民党総裁選2日前、同人事は萩生田光一文部科学相(58歳、衆院当選5回・細田派)と決め打ちで書いている。事実上、最大派閥・細田派(清話会)を率いる安倍晋三前首相の“秘蔵っ子”であるだけでなく、文教政策を始め主要政策に通じ、胆力に物を言わせた裏面での交渉力にも定評がある。
ものの見事に予想は外れた。細田派内には5回生の萩生田氏よりシニア(6〜8回生)の面々が多く、特に同じ文教族で且つ同じ東京選出の下村博文前政調会長(67、8回)と今なお同派のオーナーである森喜朗元首相が強く反対したというのである。さすがの安倍氏も派内融和を優先して松野博一元文科相(59、7回)に差し替えたのだ。人事の遅れで岸田派内の不協和音説が流れたのは官房長官人事が理由だった。
もう一つ外したのが、麻生太郎副総理・財務相の自民党副総裁就任である。8年9カ月も財務相を続ける麻生氏への批判が少なくなかったが、麻生氏と茂木敏充外相は続投すると読んでいた。麻生氏の義弟である鈴木俊一財務相(68、9回・麻生派)の議員キャリアをチェックしても、同氏は自民党財務委員長、水産部会長、社会保障制度調査会長を歴任しているが、財政・金融政策に関わった経験は見当たらない。果たして適材適所の閣僚人事なのか、という疑問がある。
ところで、福田達夫総務会長(54、3回・細田派)は永田町に大きな衝撃を与えた。54歳とはいえ当選3回は自民党のシニオリティ・システム(当選回数至上主義)からすると、「若手議員」扱いであり、その意味で異例の大抜擢である。同氏が一躍クローズアップされたのは総裁選公示1週間前の9月10日だった。同氏を代表世話人とする派閥横断型の若手議員連盟「党風一新の会」が発足した。同会は総裁候補4人との意見交換会を主催する中で、党改革を前面に押し立てたことで好感を持たれた。
だが、その内実はどうだったのか。岸田総裁は最側近の木原誠二官房副長官(51、4回・旧大蔵省出身)以下、3回生5人の「岸田軍団」と呼ばれる優れた人材を擁している。古賀篤(49、旧大蔵省出身)、小林史明(38、元NTTドコモ)、岩田和親(48、元佐賀県議)、辻清人(42、元リクルート・米CSIS)、村井英樹(41、旧大蔵省出身)の各氏だ。
そして岸田氏は私立名門の開成高校OBであり、同校卒業生初の首相である。首相政務秘書官に就任した嶋田隆・元経済産業事務次官も同校卒業生である。次官経験者の首相秘書官(政務)は前例がない。
現在、自民党国会議員で同校卒業生は岸田氏を入れて9人いる。先述の「党風一新の会」メンバー70人の中には「岸田軍団」5人が、そして同校卒業生中の「若手議員」3人がそれぞれ名を連ねているのだ。
福田氏は、総裁選で河野太郎規制改革相(現党広報本部長)を担いだ小泉進次郎前環境相とかつて政治行動を共にして「同志」とされた。故にこの若手議員連盟は総裁選で「河野別動隊」になるのではないかと囁かれていた。だが、両氏の緊密な関係は終わっている。
その実態は明らかに違う。福田氏はほぼ間違いなく端から岸田氏支持であったと、筆者は判断している。「岸田軍団」全員がメンバーであり、3回生以下の開成高校卒業生も参加していた。福田氏は、父・福田康夫元首相と安倍氏の関係が微妙なことから、清和会の事実上のボスである安倍氏とは距離があるとされる。筆者は決して「謀略史観論者」ではないが、内実は“隠れ岸田支持”グループであったのではないか。
岸田氏は人の意見をよく聞くが判断が遅い、非自分ファースト故にオーラが無いが、良い人であるのは確かだ。個人的な体験からもそれは言える。
ただ、岸田氏が頭脳集団を側近グループにしていることは特筆に値する。学歴偏重ではないが、木原氏を含む6人の「チーム岸田」は3人が東京大学出身、残りの3人は京大経済部出身、九大法学部、上智大理工学部出身である。付言すれば、番頭格の根本匠、小野寺五典、山本幸三の3氏もまた東大OBである。皮肉なことに岸田氏は3回、東大に挑んだが全て失敗している。

●金子恭之
政治献金​
全国たばこ販売政治連盟や全国たばこ耕作者政治連盟といったたばこ関連団体から、2010年から2015年の間に122万円の政治献金を受けている。
不祥事 / 迂回献金問題​
熊本県の川辺川ダム周辺の建設業者から山崎拓自民党幹事長の選挙区支部に入った政治献金が、同氏の資金管理団体を経由して金子に寄付されていた。金子は当時無所属であり、政治資金規正法により企業献金を受け取れない状態であったため、山崎を経由したと見られている。金額は2000年に1000万円、2001年に1100万円に上ったと指摘された。

●古川禎久
「小石河連合」不発で苦境の石破氏、退会者相次ぐ 10/4
自民党の石破茂・元幹事長が苦境に陥っている。総裁選では出馬を断念し、河野行政・規制改革相の支援に回ったが、敗北を喫した。石破派からは退会者も相次ぎ、再浮上に向けた展望は開けていない。
「党員票で過半数を大きく上回る支持をいただき、議員票に反映させる計画は十分な効果を上げなかった。残念な思いだ」
石破氏は1日、地元・鳥取市で記者会見に臨み、総裁選を総括した。
河野陣営は、河野氏と石破氏に、小泉環境相を加えた「小石河連合」を前面に出し、党員票で圧倒する戦略を描いた。だが、1回目の党員票(382票)のうち、河野氏の得票は約44%の169票で、最低目標とした5割に届かなかった。
1回目の国会議員票は86票で3位。安倍前首相ら多くの重鎮と折り合いが悪い石破氏の合流によって「議員票離れが加速した」との見方が広がった。
石破派では、総裁選の前後に山本有二・元農相や、事務総長経験者の古川禎久衆院議員が退会届を提出。所属議員は15人に減った。
石破氏は1日の記者会見で派閥の解散や他派閥への合流を否定。今後、総裁選に挑む可能性について「未来 永劫えいごう やりません、と言うほど無責任ではない」と述べ、排除しなかった。ただ、石破氏は過去4回挑み、いずれも敗れただけに、派内では「石破氏を首相にするという石破派の役割は終わった」との声さえ出ている。
2009年6月16日、自民党代議士会で、「自民党はこの際、大政奉還を決断して、国民の懐深く帰るべきだ。国民の痛みと哀しみを我がものとして、もう一度、保守政党としての原点に戻るべきであります。」「それこそが本当の意味で、党が再生し復興するための道筋であると信じます。」と発言した。
2011年9月14日の国会で、東日本大震災の際に、200億円の寄付をした台湾への政府としての感謝を促して、野田佳彦総理大臣(当時)に対し、「東日本大震災に対して台湾から寄せられた真心あふれる破格のご支援に対して、日本国として礼を尽くし、心からなる謝意を伝えるべきではないか。外交案件としてでなく、人としての道を申し上げている。台湾とは国交がないが、日本人が苦しみ嘆き悲しんでいる時に、最も親身になってくれた友人だ。それなのに政府は卑屈にも第3者の顔色をうかがうことに汲々とし、友人の真心に気付かないふりをしているのではないか」と発言した。この発言は、2015年3月12日、台湾の大手新聞社自由時報で、東日本大震災から4年が経過したことに合わせて報じられた。
政界で不遇かこつ「古古コンビ」 2021/2
菅内閣の支持率が急落している。NHKの世論調査では9月の発足時に62%あった支持率が12月には42%に落ちた。しかし野党への期待が高まっているかと言えば、最大野党、立憲民主党の支持率も上がらない。国難とも言えるコロナ禍の中、政治学者の片山杜秀は「この国の形(日本の統治機構)それ自体が崩壊する過程ではないか」と危惧する。政治のメインストリームが機能不全に陥る中、あえて希望を見出すとすれば、それは辺境にあるのかもしれない。政界で不遇をかこつ二人の政治家に注目してみた。
昨年10月26日に臨時国会が開幕。菅義偉首相は衆参本会議で初の所信表明演説に臨み、温暖化ガスの排出量について「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」とぶち上げた。カーボンニュートラルは欧州各国などが掲げているが、自動車を基幹産業とする日本では安倍政権の時代から思い切った政策が打ち出せないままだった。
コロナ対策が後手に回り、これといった看板政策を掲げられない菅政権が歴史に残る政策転換を打ち出したかに見えるが、首相自身の信念によるものではなさそうだ。唐突感のある菅政権の「脱炭素」には、実は伏線がある。衆議院は11月19日、参議院は翌20日に「気候非常事態宣言」決議をそれぞれ本会議で採択した。これこそ歴史的な国会決議と言える。決議文をまとめたのは「超党派『気候非常事態宣言』決議実現をめざす会」。共同代表幹事は自民党の鴨下一郎元環境相ら大物が顔を並べた。この決議を先取りする形でぶち上げたのが、菅首相の「脱炭素宣言」だったのだ。
名前が一字違いの同級生
そもそも超党派の宣言を仕掛けたのは、政界の辺境にいる二人の議員だ。一人は、19日の衆院本会議で決議の趣旨説明をした国民民主党国会対策委員長の古川元久(もとひさ)。もう一人は超党派議連の事務局長に就任した自民党の古川禎久(よしひさ)議員である。
古川元久と古川禎久。名前が一字違いの両議員は不思議な縁で結ばれている。二人とも生まれは1965年。元久は名古屋市の名門、旭丘高校、禎久は鹿児島市のラ・サール高校から共に東大法学部に進んだ。東大の入試は五十音順で席が決まるため、二人はこの時、初めて顔を合わせる。その年の受験生にはもう一人「古川」がいたが、この3人とも合格している。
在学中に20歳で司法試験に合格した元久は88年、大蔵省(現財務省)へ、禎久は建設省(現国土交通省)に入省する。しかし二人とも官僚の仕事が肌に合わなかったらしく、禎久は92年に建設省を退官。元久も94年に退官する。
96年の総選挙で旧民主党から立候補した元久は比例東海ブロックで初当選(現在は愛知2区・通算8回当選)。禎久は2度の落選を経て03年に宮崎3区から無所属で初当選(通算6回当選)、追加公認で自民党に入った。
名前も経歴も紛らわしい二人を世の人々はしばしば混同する。主に迷惑を被ったのは禎久の方だ。元久が東大在学中に司法試験に合格してニュースになると、禎久のところに「おめでとう!」と電話が殺到し、元久が96年に初当選した時も、2011年に野田政権で国家戦略担当大臣として初入閣した時も、禎久のところに祝電や花束が届いた。その度に禎久は「自分ではありません!」と「屈辱的」な訂正を余儀なくされた。
辺境にめげず動き回る
民主党政権が倒れた後、元久は民主党候補として2度の選挙に勝つが、17年には希望の党公認で当選し、党幹事長に就任。その後、旧民進党との合流に伴い国民民主党の幹事長に横滑りした。そして昨年9月、立憲民主党と国民民主党が合流するが、元久は国民民主党代表の玉木雄一郎と行動を共にし、多くの仲間が去った国民民主党に残留した。政党再編のたびに、元久のいる場所は日当たりが悪くなっていった。
一方、禎久も03年に初当選して橋本派に入ったが、05年には衆院本会議で郵政民営化法案に反対票を投じて離党。復党後は「山崎派」「議員グループのぞみ」「石破派」と傍流を渡り歩き、18年の自民党総裁選では石破派の事務総長として一敗地に塗れた。傍流を歩き続けたため当選6期生でも、未だ閣僚経験がない。
だが、冒頭の片山の言葉を借りれば、今はまさに日本の統治機構それ自体が崩壊の過程にある。崩壊は官邸という政界の中心から始まっている。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け首都圏の1都3県に緊急事態宣言を発令した1月8日、菅首相は記者会見で「大変な危機感を持っている。もう一度制約のある生活をお願いせざるを得ない」と語った。
だが、ドコモ・インサイトマーケティングの携帯位置情報データによると、8日午前8時台の東京・銀座の人出は、政府が初めて緊急事態宣言を発令した昨年5月の約3倍、渋谷は約2倍だった。官僚ペーパーをボソボソと読み、時々、虚ろな目をカメラに向ける首相の言葉が、国民に届いていないのは明らかだ。
今さら首相の「口下手」「棒読み」を腐すつもりはない。むしろ、そこに菅氏の政治スタイルが滲み出ているから問題なのだ。どう言えば揚げ足を取られずに済むか。後で責任を問われないようにするため、何を言ってはいけないか。首相の頭は、そんな「遊泳術」で一杯なのではないだろうか。軽々しく「国民の生命と財産を守る」と言うが、国家リーダーとしての気概は微塵も伝わってこない。首相を守る立場の官房長官なら駆け引きや手練手管もありだろうが、一国のトップになった人がそれだけでは、やはり統治機構は崩壊してしまうのだ。
だからこそ辺境に追いやられ、しがらみなく自由に考え、動くことができる「古古コンビ」のポジションは悪くない。異例とも言える超党派「気候非常事態宣言」でタッグを組めたのも、二人が「日当たりの悪い場所」にいたからだ。
元久は言う。「風を読まず、言いたいことを言う『古古コンビ』は、これからものたうちまわることでしょう。しかし将来の環境破壊や財政破綻で、息子世代に『お父さんたちは30年間、何をやっていたの』と言われるような生き方だけはしたくない」
禎久は言う。「文明そのものが変わろうとしている時、従来の延長線上に未来はない。不遇になることを承知で通すべき筋を通していく。そういう人間がいなくなった時が危うい」
のたうちまわる「古古コンビ」に注目してみたい。

●茂木敏充
政治資金問題​
2004年7月から2006年2月まで、後援会費としてライブドア元社長の堀江貴文から合計20万円の寄付を受けていた。茂木の事務所は「堀江被告が立件され、全額返還した」としている。
2003年と2005年の選挙運動費用収支報告書を、約3700万円減額する訂正をしている。茂木事務所は「選挙運動費用として予算化したが実際には使用せず、寄付もなかったため」と説明した。
2010年2月16日、前年の2009年に公開した資産補充報告書について、「なし」としていた株券を「2銘柄250株」と訂正し衆院事務局に届け出ている。
年金未納問題​
2004年第2次小泉内閣の特命担当大臣及びIT担当大臣在任中に年金の未納が発覚している。
セクハラ疑惑​
主要16社の番記者のうち7名が女性であり、他と比べて非常に女性比率が高いことや女性に下ネタを言わせようとする、マジックついでに手を握る等といった女性番記者等に対するセクハラともとられかねない言動・行動が週刊新潮2016年9月29日号に掲載された。
公職選挙法違反問題​
地元の後援会幹部に財産上の価値を持つ有価物である衆議院手帖を無償配布したことが、公職選挙法が禁じる寄付行為に該当する可能性が高い旨の報道がされた。なお、衆議院手帖は憲法や国会法等が掲載された手帖で衆議院議員の持つ手帖と同一の仕様となっているもので、600円で市販されているものであり、松島みどりのうちわ配布問題を受けて、茂木の事務所がカレンダー配布をやめたのちも、配布が継続されていたとされる。
選挙区内の有権者に線香などを配布したとして、公職選挙法違反疑惑がかかり、2018年2月1日、秘書が少なくとも3年間配布した事実を認めたが、違法はないと主張した。
自民党きってのパワハラキング、茂木敏充氏 2021/9
自民党きってのパワハラキングと目されるのが、外務大臣としてアフガニスタン撤収の責任者でもある茂木敏充大先生です。週刊文春では、かつて、よりによってこの茂木敏充さんが「人づくり革命担当大臣」とかいうこれはいったい何のギャグなのかという人事を評する素敵な記事を提供して、永田町や霞が関に素敵な笑いを届けてくださいました。私の身近な事例で申しますと、茂木敏充さんから「この案件で報告しろ」と指示を受けた官僚が徹夜して翌朝まで仕上げた書類を大臣室にもっていくと、「そんな報告しろと言ってない。二度と大臣室に来るな」と叱責され、廊下で真っ白になっている姿が発見されて、気の毒すぎて誰も声を掛けられなかったという事案がございます。
また、茂木敏充さんは、外部事業者に情報収集を怒鳴りつけて依頼し、頻繁に朝の会議で呼び出しておきながら、いますぐ信頼できるデータを持ってこいと強弁するなど、カジュアルにパワハラをやってのけるナチュラルボーン威圧者としての風格を備えておいでです。
今期で当選9回、本来なら文字通り総理候補として目され、重要閣僚の責務もしっかりこなす有能さの裏返しとして、その足元にはパワハラ被害者の皆さんが転がっていると思うと胸に迫るものがあります。本来ならば、今回の総裁選でも押しも押されもせぬ有力候補としてポスト菅最右翼であるべきところが、あまりの人望のなさから待望論がさっぱり立たないのもまた、パワハラのなせる業なのでありましょうか。

●鈴木俊一
「麻生カラーは違いすぎる」「地味で堅実」な鈴木流運営 10/5
鈴木俊一財務相は5日午後、就任後初めての記者会見で、10月中の最終合意を目指す国際課税ルールについて、麻生太郎前財務相が「大変期待していることを知っている」と述べ、実現に向けた詰めの交渉を引き継いで担う意欲を示した。鈴木氏は麻生氏の義弟に当たるが、在任期間が戦後最長の8年9カ月にわたった麻生氏と比べ「麻生カラーと鈴木カラーは違いすぎる」と笑み交じりに指摘。「地味でも堅実に仕事をする、職責をこなすことが私の流儀」だとして、仕事を通じて独自色≠出したい考えを示した。
政治資金​
2000年の第42回衆議院議員総選挙直前に公共事業受注企業から690万円の献金を受けていた。
毎年3000万円を超す事務所費を計上していたが、2007年になって突如それぞれの年の事務所費を750万円前後に訂正し、理由については「担当者(会計責任者)がかわったので、わからない」と説明した。
日本禁煙学会の調査によると、全国たばこ販売政治連盟・全国たばこ耕作者政治連盟のいずれかから2011年から2015年まで6年間で125万の資金提供を受け、自民党たばこ特別委員会の委員長を務めている。
鈴木が代表である資金管理団体「清鈴会」の政治資金収支報告書には、2013年から2015年のガソリン代が合計1412万円、2015年1月には1回分が174万円と記載されていたと時事通信は報じている。鈴木の事務所は、7台が1日250〜300キロを走っていると説明している事と、高額過ぎるという見方も出ている事を時事通信は報じている。
過去の発言
20/3/24 「消費税減税は慎重であるべきだ」
「消費減税で地方に回るカネが減額されれば影響が大きい。消費税を財源に幼児教育の無償化なども始まっており、私は慎重であるべきだと思う」(総務会長時の記者会見)
17年衆院選:アベノミクスを「評価する」
消費増税の先送りは「どちらかと言えば評価する」 / 長期的に消費税率を10%超にすることの賛否は「どちらとも言えない」 / 当面は財政再建のために歳出を抑えるのではなく、景気対策のために財政を出動することに「どちらかと言えば賛成」 / 所得や資産の多い人に課税を強化することに「どちらかと言えば賛成」 / 憲法改正に「賛成」
16/6/22 「何よりも政治の安定が不可欠」
第24回参院選の岩手選挙区で、「私は総括責任者、選挙対策本部長としてアベノミクスの継続による経済成長の確立、復興完遂と本格化する地方創生の推進には何よりも政治の安定が不可欠であり、政治は国民のものという立党の理念の下、自民党は国民とともに歩み、日本が世界に誇る伝統を継承し、次世代へ平和で豊かな日本を引き継いで行くことを強く訴えました」(自身のHP)
13/3/25 「日米同盟の強化が不可欠」
「地域の厳しい安全保障環境や世界中のさまざまな脅威に対処するためには、日本の外交・安全保障の基軸である日米同盟の強化が不可欠です。日本はこれからも米国と幅広い分野での協力を進め、共に地域における役割と責任を果たしていきます」(外務副大臣時、日本・シンガポール・シンポジウムで基調講演)
13/3/13 「日本経済再生に資する経済外交を強化」
「世界経済のグローバル化が加速する中、わが国の経済の再生に取り組むことは、わが国の国力を強化し、世界のさらなる発展に貢献する道でもあります。そのため、日本経済再生に資する経済外交を強化する所存です」(外務副大臣時、外務委員会での答弁)
12年衆院選:日本のTPP参加に「反対」

●末松信介
学生への現金給付に「対処」 10/5
末松信介文部科学相は5日、就任後初の記者会見で、岸田文雄首相が表明した新型コロナウイルス対策の現金給付に学生も対象として挙がったことについて「関係省庁と連携して対処したい」と述べた。
岸田首相は4日の記者会見で、学生や女性、非正規労働者といった弱い立場の人に対して個別に現金給付を行う考えを示した。
末松文科相は、感染が再拡大した場合も地域一斉の休校には慎重な判断が必要だとし、「学校は学習機会だけではなく人格的な成長を保障する役割もある。できるだけ対面授業を展開していくことを心掛けるべきだ」と強調した。
自民・末松参院国対委員長、副大臣の相次ぐ国会遅刻に「たるんでいる」 2021/5
自民党の末松信介参院国対委員長は20日、国会内で記者団に対し、中山泰秀防衛副大臣が同日の参院外交防衛委員会に2分遅れで到着するなど政府側の遅刻が相次いでいることについて「緊張感が欠けており、真剣味が足らず、たるんでいる。それ以上のことはいいようがない」と述べた。
中山氏の遅刻の影響で、同日の同委は取りやめとなった。13日には三原じゅん子厚生労働副大臣が参院厚労委を約30分間遅刻。野党が反発し、同日に予定されていた医療法改正案の採決は見送られた。

●後藤茂之
不祥事
2009年の衆議院選挙において、後藤の運動員が公職選挙法違反(現金買収の約束、未成年者使用)の疑いで逮捕、送検された。
2014年12月の衆議院選挙の期間中、岡谷市の投票所で投票管理者を務めていながら後藤の選挙運動をしたとして、後藤の後援会に属する男を公職選挙法違反(選挙事務関係者の選挙運動の禁止)容疑で長野地検に同日書類送検した。
政治資金
2012年3月13日、AIJ投資顧問の事実上の子会社であるアイティーエム証券が後藤の政治資金パーティーの券を2度にわたって計80万円分購入していたこと、また後藤が同証券の代表取締役個人から50万円の寄付を受け取っていたこと、さらに同証券の株式200株(額面で計1千万円)を所有していたことが大分合同新聞に報じられた。共同通信の取材に対し、後藤本人からの回答はなく、事務所は「事実のようだが、額や日時など詳細は分からない」としている。

●金子原二郎
「親子2代で、感無量」 岸田新内閣 農相就任の金子氏が抱負 10/5
4日発足した岸田文雄内閣で農相として初入閣した長崎県選出の自民党参院議員、金子原二郎氏(77)は「非常に重責で、親子2代での農相就任は感無量。これからの日本の農林水産業の在り方をしっかり考え、生産者や消費者への対応に誠心誠意尽力したい」と抱負を語った。
金子氏はこの日午後3時45分ごろ、待機していた議員会館内の事務所で官邸へ呼び込みの電話連絡を受けた。紺のスーツにストライプのネクタイ姿の金子氏は「これからお世話になります」と落ち着いた口調で受け答えし、官邸に向かった。皇居での認証式など慌ただしい一日を過ごした。
事務所は県内首長や支援者などからコチョウランや電報が次々に届き、お祝いの電話がひっきりなしに鳴った。金子氏は父・岩三氏(故人)と同じ農相に就任したことを「予期しておらず、まさかとの思い。父も同じぐらいの年齢で農相を務めた。総理に感謝している」と話した。
中村法道知事は県庁で記者団に「農林水産業は(金子氏の)専門分野なので、力強いリーダーシップを発揮してほしい」と期待を述べた。自民党県連の山本啓介幹事長は「物事を丁寧に進めていく政治家。まとめる力に期待したい」。朝長則男佐世保市長は「スマート農業などの取り組みに一層の拍車がかかる。大変心強い」とのコメントを出した。
金子原二郎・前長崎知事〜豊富な政治資金への疑問 2012/3
水産県・長崎の支配者は、中村法道長崎県知事の後ろ盾でもある金子原二郎・前長崎県知事(現・参議院議員)だと言われてきた。原二郎氏の背景にあるのが、金子一族が経営してきた金子漁業グループの力だったことは紛れもない事実なのだが、同グループは放漫経営が祟ったのか、2008年に「産業活力再生特別措置法」(産活法)の適用を申請し、国の支援を仰いで再建を目指さざるを得ない状況となっていた。実は、その同グループの東京支店に、金子議員が地盤とともに亡父から受け継いだ政治団体が入居していることが判明。その実態を取材した。08年8月、水産庁は長崎県の「東洋漁業(株)」「兼井物産(株)」「金子産業(株)」の3社について、「産業活力再生特別措置法(産活法)」に基づいて事業再構築計画の認定を行なったことを発表した。産活法は、生産性向上を目指す事業者が事業計画を立て、農林水産大臣が認定したものに対し、会社法や税制などの特例措置により政策的支援を行なう法律だ。認定を申し出る企業によって事情はさまざまだが、1999年に制定された同法は公的資金を使って企業を支援する仕組みを定めたもので、リーマン・ショック後の09年に改正され、現在に至っている。東洋漁業など3社が産活法の適用を申請したのは、グループ全体の経営が悪化したことが最大の要因だ。そしてこの3社は、長崎県の水産界に君臨してきた金子漁業グループの中核企業だった。

●萩生田光一
訂正-現時点で原発の新増設・リプレースは想定していない 10/5
萩生田光一経済産業相は5日、現時点で原子力発電所の新増設・リプレース(建て替え)は想定していないとし、政府方針を踏襲する考えを示した。また、カーボンニュートラル達成に向けては、安全確保を大前提に、原子力を活用することは欠かすことができないと述べた。ロイターなど報道各社のインタビューで語った。
萩生田経産相は「現時点で原発の新増設・リプレースは想定していない、という政府の今までの方針を踏襲していきたい」と述べた。
改定作業を進めているエネルギー基本計画では、新増設やリプレースには触れていない。10月末の閣議決定に向けてパブリックコメントの整理に入るが「政府の大きな方針はすでに決定している。パブリックコメントで基本計画が変わることはない」とした。
日本は、2050年のカーボンニュートラルや30年の温室効果ガス排出を13年比46%削減する方針を掲げている。カーボンニュートラルのために原発を利用して良いとの考えかと問われ「あらゆる選択肢を追求していくことが必要。安定かつ安価な電力供給や気候変動問題への対応を考えれば、安全確保を大前提としたうえで原子力を利用していくことは欠かすことができない」と指摘した。
半導体製造基盤の強化について、萩生田経産相は「経済安全保障の観点を踏まえ、サプライチェーンを強靭(きょうじん)化するとともに、我が国の産業競争力を強化するには、欧米など他国に匹敵する規模で強化することが必要」と述べた。
先端半導体の生産拠点の日本への立地を推進するために「必要な予算はしっかりと要求していきたい」としたものの「他国の予算規模と一律に比較して数兆円なくてはならない、という話ではない」(訂正)とも述べ、どこにどのような形で作ることが良いかを精査したうえで、必要な予算は措置していきたいと語った。
不祥事
第45回総選挙落選後の2010年4月に千葉科学大学の客員教授に就任し、2012年の第46回総選挙で当選後に同名誉客員教授となり、公式サイトでは公表していた。2017年6月に名誉客員教授の兼職届を提出し、官房副長官就任時に届け出をしなかったことについては、内閣総務官室へ照会した結果、届け出不要と判断したと説明した。
加計学園問題では文書の内容を否定している。
桜を見る会を巡り当初は「推薦枠はない」と発言していたが中止が決まると2日後には認めた。
政治資金
2016年に公開された2015年分の資産等補充報告書に借入金2千万円を記載しておらず、2017年に訂正した。
萩生田の資金管理団体が、団体の有志が主催するバス旅行の事業収支を政治資金収支報告書に記載していなかったことが明らかになり、政治資金規正法は全ての政治団体に収入の記載を義務づけており、毎日新聞の指摘に対し、萩生田の事務所は不記載を認め、次年度から事業収入に記載する意向を示した。
2020年1月31日の予算委員会で米カジノ大手のアドバイザーを務める日本企業が自身の政治資金パーティー券を過去に買っていたと明らかにした。

●斉藤鉄夫
主張
国会議員になる以前は、清水建設で放射線の遮蔽設計に携わっていた。初めての仕事は、1974年に放射線漏れをおこした原子力船むつの改修設計であった。清水建設在職中は宇宙開発室にも所属しており宇宙構造物の研究にも携わっていた。そのため、国会議員の中でも有数の宇宙開発の専門家である。
日本国憲法については加憲の立場である。2002年の衆議院憲法調査会では「人類の知への貢献ということも憲法の中に入れるべきなのではないか」と述べた。2016年3月29日、運動団体「日本会議」が主導し、その関連団体である「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が主催する憲法改正派の集会に参加し、憲法改正について「1回目の国民投票は必ず実現させる」などと述べた。
1999年、東海村JCO臨界事故直後、科学技術総括政務次官に指名された斉藤は政府現地対策本部長を務めている。事故後「原子力災害対策特別措置法」の制定や「原子炉等規正法」に「安全確保改善提案制度(内部告発制度)」を加える改正作業にも従事している。
2003年、消費者金融業界の政治団体「全国貸金業政治連盟」(全政連)からパーティー券購入により4万円の資金提供を受けた。
原子力発電については、2009年時点では推進派であった。
2009年には 地球温暖化問題について、環境相時代には温室ガス25%削減に言及、「いまの世代が努力を怠れば、子や孫にツケを回すことになる」と高い目標を選ぶことに理解を求めた。ただ、国内削減分だけで25%以上減らすのは「非現実的だと言われる、正直それを認めざるを得ない」とし、政府の世論調査で「7%減」の回答が多かったことにも配慮を示した。その上で「15%減」達成に必要な太陽光発電やエコカーの導入量が、政府の経済対策で示された導入量とほぼ一致するとして、「実行可能」と述べた。また、日本版「グリーン・ニューディール」の策定(2009年)では家電エコポイント・省エネ住宅・次世代自動車の普及を促進。G8後の記者会見では、将来的な風力・小水力などの自然エネルギーの買取制度についても言及(2009年4月)している。
核燃料サイクルは見直し、「もんじゅ」は廃止すると明言した。

●山口壯
政策・主張
2006/10/13 の衆議院本会議において、安倍晋三首相(当時)が掲げたキャッチフレーズ「美しい国」について、「うつくしいくに、逆から読むと、にくいしくつう(美しい国は憎いし苦痛)」であり、「一見立派な政策構想が現実には格差を広げ、国民の負担は増える一方」と批判した。しかし、後に皮肉にも同じ安倍晋三が総裁となった自由民主党に入党することになる。
2009/9/11、民主党の次の内閣防衛副大臣の立場で、自民党政権が進めてきたミサイル防衛について「役に立たない、撃ち落せる確率は100分の1か2ぐらいだ」「爆撃機を対空防衛で落とせる確率は20〜30%と言われている」など、現在の軍備に疑問を呈した。
北朝鮮の外交姿勢については「拉致問題で完全に北朝鮮が認めれば日本の援助が始まり、北朝鮮の民主的な傾向が強くなる。時間はかかるがそれしかない」との考えを示した。2009/5/25、北朝鮮によるミサイル発射実験が行われると、「6者協議が機能していない。完全に麻生外交は破綻している」と麻生内閣を非難した。
「私は仕事の打率で9割バッター」山口大臣が自信
初入閣となった山口壮環境大臣が、就任の記者会見で「私は仕事の打率で9割バッター」と自信を見せました。
環境大臣・山口壮氏:「私も野球で言ったら打率ってのは3割以上、皆、強打者になるでしょ。私の仕事の打率ってのは大体9割くらいなんですよ。強打者に入るんだと思います。環境省のスタッフの人としっかり力を合わせて」初入閣の山口環境大臣は、このように意欲を語りました。
また、菅政権や小泉前環境大臣の示した「再生可能エネルギー最優先」や「2050年カーボンニュートラル」などの政策についても、路線を踏襲すると明言しました。

●岸信夫
「岸信夫防衛相」に中国が慌てふためく理由 2020/9/17
中国最大の国際紙『環球時報』(9月17日付)は、岸防衛大臣に関する長文の記事を発表した。そこでは、生まれて間もなく岸家に養子に出された岸信夫氏の数奇な半生を詳述した上で、次のように記している。<岸信夫は、二つの点において注目に値する。第一に、岸信夫は日本の政界において著名な「親台派」である。現在まで、岸信夫は日本の国会議員の親台団体である「日華議員懇談会」の幹事長を務めている。第二に、岸信夫は何度も靖国神社を参拝している。2013年10月19日、岸信夫は靖国神社を参拝したが、これは兄(安倍首相)の代理で参拝したと見られている。安倍晋三本人も、2013年12月26日に参拝している>
当の岸防衛大臣は、16日の就任会見で、官僚が用意したペーパーを読み上げて、こう述べた。「今月11日に発表された(安倍)総理大臣の談話や菅総理大臣の指示を踏まえ、憲法の範囲内で国際法を順守し、専守防衛の考えのもとで厳しい判然保障環境において、平和と安全を守り抜く方策を検討していきたいと思います」
「11日の総理談話」とは、次のようなものだ。<迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか。そういった問題意識の下、抑止力を強化するため、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を検討してまいりました。今年末までに、あるべき方策を示し、わが国を取り巻く厳しい安全保障環境に対応していくことといたします>
いわば安倍前首相の「遺訓」とも言うべき「敵基地攻撃能力の保有」である。「敵」とは表向きは北朝鮮だが、実際には中国だろう。「米台vs中国」――岸防衛大臣の就任で、この米中新冷戦の「断面」に、日本も組み込まれつつある。「まずはコロナウイルスの防止に全力を尽くす」と述べた菅新首相だが、その先には、大きな地政学的リスクが横たわっている。
岸防衛相が公務復帰し陳謝 10/1
尿路感染症のため療養していた岸信夫防衛相が1日、公務に復帰した。閣議後の記者会見で「私自身の健康管理の不手際から公務を欠席し、会見をドタキャンすることになった。ご迷惑をお掛けした」と陳謝。「残された期間、しっかり役目を務めていきたい」とも述べた。

●松野博一
岸田内閣を支える松野博一官房長官は、国民的な知名度は高くないが、安倍晋三元首相の出身派閥の細田派で事務総長を務め、安倍氏から派内で将来を担う人材と期待されたこともある。文部科学相だった2017年に加計学園問題で「総理の意向」と記された文書への対応や、省内の組織的天下りあっせん問題で批判され、その後の内閣改造で交代していた。松野氏は00年衆院選で初当選し、当選7回。教育問題がライフワークで、第2次安倍政権の16年8月〜17年8月に文科相を務めた。岸田文雄首相が党政調会長時に会長代理として支え、信頼を得た。国会対策の経験が長く、党内では調整力や事務処理能力が評価されている。安倍氏が17年に細田派で「『四天王』を作りたい」と述べた際、その1人として松野氏の名前が挙がり、注目された。一方で、複数の閣僚や党役員を経て官房長官に就任した加藤勝信氏や、史上最長の7年8カ月を務めた菅義偉前首相など、過去の長官経験者に比べ、存在感は薄い。野党からは「首相より地味だから登用された」(立憲民主党幹部)との声も上がっている。

●牧島かれん
牧島かれん大臣就任 「デジタル庁らしく、仕事しやすいスタイルで」 10/5
牧島かれんデジタル担当相は、デジタル庁の会見で、意気込みを語った。
牧島デジタル相「毎日の生活が便利になるということと、災害が起きたときなどの緊急事態のときに安心できる体制を整える。それが国民の皆さまに、わたしたちがお示しをしなければならない、デジタル改革」
また牧島大臣は、スーツやジャケット姿で就任式に臨んだ職員らに、「あすからは今まで通りに、デジタル庁らしく、仕事しやすいスタイルで頑張っていきましょう」と呼びかけた。
デジタル庁で新旧大臣が挨拶 平井前大臣「最初の“デジ女”作ろうと」 10/5
平井卓也 前デジタル相「自民党の中で最初のデジ女を作ろうと、我々がやっぱりデジ女を作りたいということで、もう牧島さんにずっと最初から頑張ってもらいました」
牧島かれん 新デジタル相 「デジタル庁の生みの親が、牧島かれんの育ての親でもあった。デジ道入門をさせてもらった1人として、この道を究めることができるよう、平井大臣の大きな背中をこれからも見つめながら、皆様と一緒に力を合わせてまいります」
新たにデジタル大臣に就任した牧島かれん氏は記者会見で、今後の仕事について自身が免許をもつ「わな猟」にたとえて意気込みを語りました。
牧島かれん 新デジタル相「わなを設置するときには、鳥獣がかかるのを待つという忍耐が求められる場面がありますが、デジタル庁担当する大臣としては、わなを設置して待つのではなくて、自ら山の中、海の中、里の中入っていくという気概を持って進んでまいりたいと思います」

●西銘恒三郎
2017年の衆院選期間中、沖縄県の選挙区から出馬した自民党の3議員(西銘、国場幸之助、宮崎政久)が代表を務める政党支部が、15年に米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設の関連工事を受注した業者から献金を受けていたことを報じられ、西銘と国場の事務所は取材に「誤解を与えないよう返金した」とコメントした。一方、宮崎の事務所は「担当者が不在で対応できない」とし、各支部の政治資金収支報告書によると、献金をしたのは沖縄県浦添市の建設業者。各支部にそれぞれ20万円ずつ寄付していた。

●二之湯智
「思い出作り入閣」の声も… 10/5
来夏の参院選への不出馬と引退を表明している二之湯智国家公安委員長(77)は5日、就任会見を行い「私の担当は国家公安委員会及び防災、国土強靱化、国家公務員制度、海洋政策、領土問題を拝命致しました。非常に多岐にわたります。最大限の取り組みを進めてまいりたい」と抱負を述べ、高齢者の運転事故が多発していることに関し「警察庁の報告を受けた上で、適切に対処していく」と語った。
来夏の引退を表明しながらの入閣に、一部では「思い出作り入閣」との声も上がっている。二之湯氏は「一部で大臣職を与えていいのかという論調もありますが、私の持っている知見を一生懸命発揮して、1年間で一定の成果を発揮したい」と意気込んだ。大臣は民間人でも就任できるが、二之湯氏の参院議員としての任期は22年7月25日までで1年もない。
政治資金
二之湯が代表を務める2つの政治団体ならびに資金管理団体において、2010年、2012年、2014年に計1070万円が政治資金収支報告書に虚偽・不記載されているとの告発があった。
騒動​
代表質問内容の修正 / 2014年3月12日の参議院本会議でおこなった代表質問の内容を公明党の要求に応じて事前に修正した。当日の代表質問では「子供を産み、立派に育てることが国家に対する最大の貢献」から「国家に対する貢献」の部分を削除し、「子供を持つことが社会人としての義務」との表現は「子供を持つことを望まない人たちが増えている」と修正した原稿を読み上げた。
参議院本会議採決における「投票間違い」 / 2013年12月6日、特定秘密保護法の参議院本会議採決で反対票を投じたが、これについて、「議場が混乱していて、賛成票を投じたつもりが慌てて間違った」と述べた。
元秘書が強盗致傷容疑で逮捕 / 二之湯の公設秘書を勤めていた男性が、秘書だった時期の2010年9月に京都市内の不動産会社社長宅で発生した強盗致傷事件に関わっていたとして、2018年11月8日に同容疑で京都府警察に逮捕された。

●野田聖子
経歴
昭和35年9月3日生まれ。帝国ホテル勤務後、昭和62年岐阜県会議員。平成5年衆議院議員に初当選(当選8回、自民党)。郵政政務次官をへて、平成10年小渕内閣の郵政相として初入閣。17年郵政民営化関連法案に反対して自民党公認を外れ無所属で当選し、同年離党。翌年復党する。20年福田康夫改造内閣で内閣府特命担当相(消費者・食品安全担当)、消費者行政推進担当相、宇宙開発担当相。同年麻生内閣で再任され、内閣府特命担当相(科学技術政策・食品安全・消費者担当)、消費者行政推進担当相、宇宙開発担当相。不妊治療体験者で少子化問題、夫婦別姓問題でも積極的に発言。22年第三者提供卵子・体外受精により妊娠、23年男児を出産した。24年安倍自民党総裁のもとで総務会長に就任。福岡県出身。上智大卒。
系譜​
祖父は国会議員を務めた野田卯一、曾祖父は「北浜の怪傑」と呼ばれた伝説の相場師である島徳蔵。徳蔵の弟で日本板硝子社長や貴族院議員を務めた島定治郎、子爵で軍医中将で貴族院議員も務めた実吉安純、日揮の創業者である実吉雅郎とは親戚にあたる。野田聖子の実父である島稔は野田卯一の長男として生まれたが、卯一の岳父である島家に後継ぎがいないという事情から幼少期に徳蔵の養子となった。稔は東大卒業後、八幡製鐵(後に新日本製鐵)に勤めていた。卯一の子は稔一人だけだったため、今度は娘の聖子が祖父の野田姓を継ぐこととなり、卯一の養女となった。明治維新後に兵部大輔、近代兵制を確立、靖国神社の前身の東京招魂社建立に当たった大村益次郎は遠い縁戚になるという。野田聖子は安倍晋三との対談の中で「実は大村益次郎さんは私の遠い縁戚なんです。昔、祖父に「これは君の遠い縁戚だから」と言われたのを覚えています」と述べている。
野田聖子氏 遠のく女性初首相 地元混乱、盟友去り 7/8
女性初の首相を目指す自民党の野田聖子幹事長代行=衆院岐阜1区=が難局に直面している。指導力不足との指摘に加え、数少ない盟友の小此木八郎前国家公安委員長は国政を離れる決断を下した。菅義偉首相の党総裁任期は9月末に満了を迎えるが、次期総裁選出馬への環境は整っていない。
「党内でもう少し好かれなければいけない」
野田氏は7日、福岡市内で行った講演でこう述べ、総裁選出馬に必要な推薦人20人の確保に努める考えを示した。ただ、一国のリーダーを目指すには指導力を欠いているとの声が上がる。その象徴が党岐阜県連会長として臨んだ今年1月の県知事選だった。
野田氏は保守分裂となった知事選で混乱を招いた責任を共有しようと自身を含む執行部全員の辞任を提案したが、県議らが反発。3日の県連大会で執行部続投が決まった。党重鎮は「地元の内紛をまとめられず評価を落としている。相手を正面から本気で説得する気概を欠く」と手厳しい。
総裁選に挑む上で長年の課題である推薦人確保のめども立っていない。
平成27年は当時の安倍晋三首相サイドの切り崩しで出馬を断念。30年は自身が絡む情報公開請求の漏洩(ろうえい)問題も影響し、出馬回避を余儀なくされた。
かつて後押しを受けた野中広務元官房長官は30年に死去し、親密だった古賀誠元幹事長も表舞台を去った。加えて陰に陽に野田氏を支えてきた初当選同期の小此木氏は8月の横浜市長選出馬を表明。幹事長代行として仕える二階俊博幹事長も首相の再選支持を明らかにしており、二階氏周辺は「二階氏が野田氏を推すことはない」と断言する。
女性の衆院議員で最多の当選9回を誇る野田氏には「知名度が高い」「姉御肌で頼れる」との評価もある。一方、無派閥ゆえの基盤の弱さは変わっておらず、党ベテランは「政治は権力闘争だ。推薦人は見返りを求めている。ただ、『選挙に出ます』と言っているだけで、ついてきてくれるわけがない」と苦言を呈する。
野田聖子の夫は「元暴力団員」と裁判所が認定
今年4月21日、東京地裁で、野田聖子元総務相(60)の夫・文信氏(54)が本誌(「週刊新潮」)を訴えた裁判の判決が言い渡された。結果は文信氏側の請求棄却。さらに文信氏が「反社会的勢力」に属していたことを裁判所が認めるという、異例の認定が下されたのだ。(以下は5月12日配信当時のもの)
新聞・テレビが報じない話を記事にする。それこそが週刊誌の真骨頂であるが、痛いところを書かれた相手によっては、法廷で“潔白”を訴える。その過程では驚くべき事実が飛び出ることもしばしばである。本誌が被告となった裁判の全容を、ここに報告する。
「私が総裁選で推薦人を20人集めて、全力で演説すれば、最短で今年の可能性はある」
と、「日本初の女性総理」への意気込みを語ったのは、自民党幹事長代行を務める野田聖子元総務相(60)である。TBSのCS番組で、今年秋までに行われる予定の自民党総裁選への出馬を問われた際の発言だが、この約1カ月後に裁判所が下した判決を、いったい彼女はどう聞いたのだろう。
4月21日、野田氏の夫・文信氏(54)が、本誌の特集記事(2018年8月2日号「『女性総理』の夢を壊した『野田聖子』総務相の『元反社夫』」)で名誉を毀損されたとして、小社に対し1100万円の損害賠償を求め東京地裁に訴えた裁判の判決が下った。
結果は原告の請求棄却。本誌記事で彼の名誉は毀損されていないとした上で、判決文では文信氏の経歴についてこう書いている。
〈原告が指定暴力団・会津小鉄会の昌山(まさやま)組に所属していた元暴力団員であるとの事実の重要な部分は、真実であると認められる〉
つまりは「女性総理」候補の筆頭として名前が挙がる政治家の夫が、かつて「反社会的勢力」に属していた。そう裁判所が異例の事実認定をしたのである。ここに2年半に及んだ第一審は決着がついたが、いかにしてこのような結論が導き出されるに至ったのか。
ことの発端は、18年7月にまで遡る。当時の安倍政権で総務大臣を務めていた野田氏の秘書が、文信氏と懇意にしていた仮想通貨事業者を同席させ、金融庁の担当者を事務所に呼びつけ“圧力”をかけたのではないかとの疑惑を朝日新聞(7月19日付)が報じたのだ。
釈明に追われた野田氏は、“金融庁に一般的な説明をしてもらっただけ”“圧力ではない”と弁明。この出来事を、本誌は前述の特集記事として報じた。“金融庁への圧力”の背景には文信氏の存在があると指摘し、暴力団に所属する構成員であったという経歴を明かした。この記事が“事実無根”だとして文信氏は提訴に踏み切ったのである。
付言すれば、本誌と同じタイミングで文信氏が「反社」であった旨を報じた「週刊文春」も訴えられたが、こちらは名誉毀損が認められ、原告への110万円の支払いが命じられた。
裁判所は、同誌記事で文信氏が暴力団員だったと書かれた点について「真実と信じる相当な理由がある」と事実関係を否定していないが、本誌記事のように「真実であると認められる」と踏み込んだ判決にはならなかった。
果たして明暗を分けたものは何だったのか。実は本誌の裁判では、文信氏の過去を知る「重要な証人」が出廷していたのだ。
本誌は野田氏周辺を取材する過程で、かつて京都市にあった暴力団「昌山組」の元組長(74)への接触に成功。説得により、裁判所に提出する陳述書の作成と、証人として法廷に立つことに同意を得たのである。
元組長によれば、「昌山組」は1999年に元組幹部の刺殺事件が起き、組長自らが逮捕され懲役7年の実刑判決を受けたのを機に解散。組が雲散霧消したため、都合10年ほど組員として在籍していた文信氏も、堅気(かたぎ)の世界に戻っていったという。
いわば盃を交わした“親子”が再会を果たしたのは、今年2月のこと。東京地裁803号法廷で行われた証人尋問で、元組長と文信氏は顔を合わせたのだ。
まず法廷では裁判長の前で証人らが横一線に立ち、“良心に従って真実を述べる”旨を宣誓する。その際、文信氏は、証人として呼ばれた本誌記者を挟み、元組長と並んだ。すかさず元組長は文信氏を睨みつけると、
「おう、久しぶりやな。懐かしいのぉ」
「お前、よう来れたな」
などと声をかけた。ところが、文信氏は元組長に目もくれず無言を貫いた。そんな彼は、尋問で暴力団組員であったかを問われても、「(元組長には)会ったことはありません」と答え、自らの過去には一切口を噤(つぐ)んだのだ。
だが、これに続いて証言台に立った元組長は、京都にあった家で文信氏と盃を交わすまでのいきさつから、組のベンツを運転させていたことや、「事始め」と称する新年会で毎回顔を合わせていたことなど、現役当時の具体的なエピソードを交えて証言したのである。
民事裁判でも、証人が法廷での宣誓を破って偽りを述べれば「偽証罪」に問われる。そのリスクを承知の上で法廷に立った元組長の発言を重視した裁判所は、文信氏の隠された経歴を認めるに至ったわけだ。
ちなみに、本誌と「週刊文春」が共に文信氏から訴えられた際に、大手新聞社が〈野田総務相の夫が文春と新潮提訴〉と報じたが、それから2年経って本誌が事実上の“勝訴”となったことを報じた社は皆無……。
一方で、文信氏が求めた損害賠償が認められ、実質的に“敗訴”した「文春判決」のことは、〈野田氏夫への名誉毀損認定 文藝春秋に賠償命令〉などと報じているのだ。
「週刊誌が取材先から訴えられ、敗訴した時はニュース価値を認めて報じるのに、勝訴した時は報じない。こうしたダブルスタンダードは見直されるべきです」と苦言を呈するのは、メディア論が専門で元上智大学教授の田島泰彦氏だ。
「どのような結果であれ、大手メディアは司法の判断をきちんと報じるべきなのに、週刊誌が敗訴したら問題だと言わんばかりに書く。政治家にまつわる問題は、本来なら大手メディアも扱うべき話題です。それを週刊誌だけが報じていることを恥じるべきだと思います。“政治家の夫が元暴力団員だった”という話は有権者にとっても重要な公益情報であり、大手メディアであれ週刊誌であれ、勝ち取った情報はお互い役割を補完しながら世間に発信すべきではないでしょうか」
本誌が訴えられた当該記事を取材した当時、野田氏は文信氏の過去について〈事実ではございません〉と明確に否定している。
今回改めて、判決についての見解を問うたところ、「裁判中につき回答は控えます」(野田聖子事務所)と言うのみだった。
宰相を目指す政治家ならば、まずは世間に対して明確な説明が求められるのは言うまでもない。
野田聖子氏、週刊誌の「夫は元暴力団員」報道に「信じている」「歯を食いしばって頑張りたい」 9/21
自民党総裁選に出馬した野田聖子幹事長代行は20日、地方議員とのオンライン会議で、自らの夫が「元暴力団員」などと週刊誌に報じられたことについて「夫を信じている。歯を食いしばって頑張りたい」と述べ、事実無根だと訴えた。
野田氏の夫「元暴力団疑惑」はなぜ生まれた? 騒動の経緯を振り返る 9/29
自民党総裁選に女性首相候補として、2人の女性議員が名乗りを上げている。高市早苗氏と野田聖子氏の2人だ。
そんな女性候補の一人、野田聖子氏に「夫が元暴力団員」というスキャンダルが起きている。野田氏はその疑惑を真っ向から否定し、Twitterやブログでは「事実無根」として係争中であるとしている。事情に詳しい関係者にこの疑惑の発端から一連の流れ話を聞いた。
「事の発端は2018年、通称ガクトコインと呼ばれるスピンドルを巡る一件が事の発端です。スピンドルを扱う仮想通貨業者は金融庁の許可を得ておらず、日本国内で仮想通貨の売買ができなかったんです。
そこでGACKT氏と親密な夫の文信氏が妻である野田聖子を頼り、金融庁に対して圧力をかけたとされる疑惑が浮上。週刊文春(以下、文春)、週刊新潮(以下、新潮)が文信氏の黒い経歴と共に疑惑を報じたのです。そして、この一件で野田氏の夫、文信氏が文春、新潮の2誌を事実無根、名誉毀損として訴えることになったんです」
文春を訴えた判決が今年3月24日に出たのだが、その内容はある意味、センセーショナルなものであった。
「文春の判決では金融庁に圧力を掛けたことについては『真実性が認められない』とした一方、『夫は元暴力団員』とした部分は『行い得る裏付け取材をしており、真実と信じる相当な理由がある』として名誉毀損に当たらないとしたのです」
なんと、裁判で訴えたもの圧力疑惑はなしとされたが、逆に裁判所から「元ヤクザ」と認定されてしまったのである。文春でこうした判決が出たわけなので、新潮は勝ち試合を眺めるだけの状態だったのだが、さらに予想を上回る判決が飛び出したのだ。
「新潮の裁判では『原告が指定暴力団・会津小鉄会の昌山組に所属していた元暴力団員であるとの事実の重要な部分は、真実であると認められる』と具体的な組の名前を挙げて、文信氏が組員だったことを認定したのです」
この裁判では文春と新潮それぞれが、文信氏が元暴力団員であったことを裏付ける核心に迫った証拠を出したという。
「文春が出したのは警察庁の『暴力団個人ファイル』と呼ばれる、暴力団へ所属の有無が確認できるデータファイルの写し。新潮は文信氏が所属していたとされる会津小鉄会の昌山組元組長、昌山実氏を証人として出廷させたのです」
全国紙政治部記者にも話を聞いた。「文信氏は圧力を掛けたか否かのみを争点に裁判をやっていれば、勝って丸く収まっていたのではないかとさえ言われています。しかし、元暴力団員であったことを名誉毀損として裁判に訴えてしまったので、文春、新潮は共に証拠を出した。文春は警察庁の資料、新潮に至っては盃を交わしたとされる元組長を証人として出廷させて証言までさせています」
記者も裁判資料を入手して読んだのだが、昌山組元組長の証言はかなり細かい描写も見られ、真実相当性は高いのでは……と感じた。
また、前述の全国紙政治部記者は事の発端となったガクトコインこと、スピンドルを巡る疑惑についても、苦笑交じりに「あくまでも噂」と前置きして、こんな話をしてくれた。「そもそも金融庁に圧力をかけたという疑惑を最初に取り上げ、追及の急先鋒になったのは朝日新聞(以下、朝日)なんです。朝日は野田聖子に対しては好意的なんですよ。彼女の主張は、自民党の中でいちばん左翼的ですし。この疑惑が持ち上がったのは2018年の7月だったんですが、9月に行われた自民党総裁選では、朝日は石破茂に反安倍票を結集させて、倒閣に持ち込みたいという思惑があったと。出馬して負けるのが目に見えている野田に党内で潰されたくないため、出馬を断念させたいという“壮大な朝日の思惑”があったと当時は噂が出たこともあります。まぁ、陰謀論の類ですけどね(苦笑)」
だが、こうした判決が出たにもかかわらず野田氏は「暴力団個人ファイルは怪文書」「昌山実氏は虚偽の証言をしたとして偽証罪で刑事告発されている」として、夫・文信氏の潔白を訴えている。裁判の行方を見守りたい。

●山際大志郎
日本の政治家、獣医師。自由民主党所属の衆議院議員(5期)、経済再生担当大臣、全世代型社会保障改革担当大臣、新しい資本主義担当大臣、新型コロナ対策・健康危機管理担当大臣、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)。内閣府大臣政務官(第2次安倍内閣)、経済産業副大臣(第2次安倍改造内閣・第3次安倍内閣)、衆議院内閣委員長を歴任。
首相の「所得倍増」、萩生田経産相「令和には非現実的な部分も…」 10/5
岸田文雄首相が自民党総裁選で掲げた「令和版所得倍増計画」について、5日に就任会見に臨んだ経済閣僚から発言が相次いだ。文字どおりの所得倍増は難しいためか、首相自身は就任会見で言及しなかったが、会見で真意を問われた関係閣僚は、それぞれの表現で所得の引き上げに取り組む姿勢を強調した。
所得倍増計画は、首相の出身派閥、宏池会(岸田派)の創設者で元首相の池田勇人氏が1960年代に掲げたもの。高度経済成長の波に乗り、幅広い層で所得が増えた当時になぞらえ、岸田氏も自らの経済政策のスローガンに掲げた。
萩生田光一経済産業相は5日の会見で、「指示された中に所得倍増計画というワードはなかった」と明らかにした上で、「なかなか令和の時代に所得を倍増するのは非現実的な部分もあると思う」と指摘。「(宏池会が)戦後復興を成し遂げた大きな象徴として、ある意味キャッチフレーズとして使ったんだと思う」と、首相の真意を解説しつつ、「皆さんの所得、企業の利益、分配を増やしていくことに腐心していく」と語った。
所得倍増と並び、首相が掲げた分配重視の「新しい資本主義」を担当する山際大志郎経済再生相は「『令和版所得倍増計画』は、『新しい資本主義』と密接不可分なものだ。いかに格差を埋めて、中間層の所得を拡大していくのかを広範に検討しなくてはいけない」と語った。
新しい資本主義は、中間層への分配を手厚くして消費を盛り上げ、次の成長につなげる好循環をめざすものとされる。具体策を検討する「新しい資本主義実現会議」について、山際氏は「可及的速やかに立ち上げに動く」としたが、設置時期や議題などは「総理と詰めたい」と述べるにとどめた。

●小林鷹之
日本の政治家、大蔵・財務官僚。自由民主党所属の衆議院議員(3期)、内閣府特命担当大臣 (科学技術政策、宇宙政策)、経済安全保障担当大臣。第3次安倍第2次改造内閣で防衛大臣政務官を務めた。
新設の経済安全保障担当相に就任した衆院千葉2区(千葉市花見川区、八千代市、習志野市)選出の小林鷹之氏(46)は、オレンジ色のネクタイを締め、緊張の面持ちで官邸入り。「非常に身の引き締まる思い。経済安全保障の内外の情勢は非常に流動的で日本は厳しい状況に置かれており、経済面から国益を確保していく」と強調した。千葉県八千代市の事務所には、午前8時ごろから電話が鳴りやまず、約100件を超える祝福の声が寄せられ、スタッフ総出で対応した。電報が約40通、胡蝶蘭などの鉢植えも20鉢以上届けられた。小林氏は、岸田首相と同じ開成高校卒。東大法学部に進学し、卒業後は、大蔵省(現・財務省)に入省、退職後の平成24年の衆院選で初当選し3期目。これまで防衛政務官や自民党では経済安保戦略を策定した党の新国際秩序創造戦略本部で甘利明座長をサポートする事務局長を務めた。小林氏の八千代市後援会長を務める綱島照雄さん(68)は「議員になる前から知っているが、その頃から本当にまじめで誠意のある人だ」とし、「財務省出身で、防衛政務官を務めた経験もあるので、(経済安保は)得意な分野だと思う。能力を発揮してこれからの活躍の第一歩にしてほしい。今日は本当にうれしい一日」と喜びを語った。地元事務所によると、小林氏はこれまで国会へ電車通勤だった。4日朝も八千代緑が丘駅前で活動後、電車で永田町に。事務所近くで青果店を営む畑中収治さん(71)は「腰が低くて気さくな人。ゆくゆくは首相になってほしい」と期待を込めた。
経済安保担当相とは 10/5
岸田総理が新政権で力を入れるのが「経済安全保障」。担当大臣を新設し、当選3回で元財務官僚の小林鷹之氏を抜擢しました。
小林鷹之経済安保相「経済と安全保障がまさに融合していく世の中になっています。安全保障は安全保障、経済は経済、こういう風に割り切れる時代は終わりつつある」「『経済』と『安全保障』を一体としてとらえていく」と話す小林大臣。この異なる2つの概念の結びつきが注目されたのが、中国の通信機器大手ファーウェイや動画投稿アプリTikTokなどをめぐる米中対立です。
トランプ大統領(当時)去年7月「TikTokは禁止するかもしれない。他のことも検討している」
中国による「情報」や「技術」の流出を懸念したアメリカ。日本政府も技術やデータの流出は企業の優位性や国の安全保障に与える影響が大きいとして、去年、NSS=国家安全保障局に「経済班」を設置しました。
小林大臣とともに経済安全保障の議論をリードしてきた自民党の甘利幹事長は、日本が持つ技術を活かし守ることが重要だと訴えます。
自民党 甘利明幹事長「技術で勝ってビジネスで負けるのは日本のお家芸、これからの国家の存続をかけた部分を経済安全保障で担っていく」
経済安全保障が世界的に重要視される中、岸田総理も担当大臣を新設し、技術の流出防止などを目的とした経済安全保障推進法案の策定を目指す考えです。

●堀内詔子
日本の政治家。自由民主党所属の衆議院議員(3期)、東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣、ワクチン接種推進担当大臣。環境副大臣兼内閣府副大臣(菅義偉内閣)、厚生労働大臣政務官(第3次安倍第2次改造内閣)を歴任。旧姓・小林。
騒動​
2018年1月28日の衆議院予算委員会において、与えられた質問時間を1分ほど残したまま質問を切り上げようとした。野党から野次が飛んだため、慌てて「まだまだ質問はあるが逆に時間を超えてしまうという思いから削除していた。女性活躍元年と称される時代も来ると大きな期待を抱きながら、これからも仕事をさせていただきます。お時間がきたようです」と述べて時間を使い切った。質問直後、野党からは批判の声が相次ぎ、立憲民主党の辻元清美は「どんなすごい質問が出るかと期待していたががっかりした。台本がある学芸会のようだった。予算委は『これから頑張ります』とかの決意表明や自己アピールの場ではない」、日本共産党の小池晃も「国会の最大の任務は行政監視だ。与党の時間を増やすのは意味がないとはっきりした。余らせるぐらいなら野党の時間を増やしてほしい。(時間を)残して、しかられるなんて、子供じゃあるまいし、みっともない」と批判した。一方、自民党の金田勝年は「持ち時間の中で要領よくやる。ちょうどうまい時間で終わったという状況だったと思う」と擁護している。
エピソード​
政治家となった経緯は、義父である堀内光雄(元通産大臣)の落選・引退後、後継者がなかなか決まらず、業を煮やした女性幹部らが「もう男なんかに任せてはおけない」と、郵政選挙で獅子奮迅の活躍をした堀内詔子を口説いたことから始まった。その後、地元・山梨県を駆け回って「のりこ会」という女性後援会を作った行動力が、地元民を瞠目させて白羽の矢がたった。
2018年自由民主党総裁選挙の際は、安倍晋三候補の推薦人並びに届出人(甘利明と共同)を務め、、2020年の総裁選時は岸田文雄候補の推薦人、2021年には岸田文雄候補の推薦人並びに届出人(鈴木俊一と共同)を務めた。2021年総裁選で岸田文雄が新総裁に選ばれた際には、加藤鮎子(加藤紘一 元・宏池会会長の娘)と共に岸田の両隣りに座り、旧宏池会の領袖二人の後継者が岸田を囲む形となった。
父の小林喬が上皇明仁と、自身が秋篠宮文仁親王と学習院で同窓であったことなどを背景に、かつて徳仁天皇のお妃候補として名前が挙がることがあった。また、長男も眞子内親王と同窓であり、三世代にわたり同級生となっている。
自民党が2017年分から発表している党員獲得数ランキングでは、2017年の獲得数が2位、2018年、2019年は2年連続で1位、2020年は2位となっており、4年連続で上位者となっている。
初当選から衆議院厚生労働委員会に所属し、厚生労働大臣政務官となったが、義父である堀内光雄が初めて大臣職に就いたのが労働大臣であり、公共職業安定所の通称を「ハローワーク」に決めたという縁がある。

●若宮健嗣
日本の政治家。自由民主党所属の衆議院議員(4期)、衆議院安全保障委員長。外務副大臣(第4次安倍第2次改造内閣)、防衛副大臣兼内閣府副大臣(第3次安倍第1次改造内閣・第3次安倍第2次改造内閣)、防衛大臣政務官(第2次安倍内閣)、衆議院外務委員長等を歴任。
自民党の岸田総裁は、4日に発足させる新内閣の万博担当大臣に、竹下派の若宮健嗣氏を起用する意向を固めました。若宮氏は初めての入閣です。若宮氏は、衆議院東京5区選出の当選4回で、60歳。自民党竹下派に所属しています。民間企業に勤めたあと、平成17年の衆議院選挙で初当選し、これまでに防衛副大臣や外務副大臣などを歴任し、現在は、衆議院の安全保障委員長を務めています。岸田総裁としては、外交・安全保障政策をはじめ、幅広い政策に明るいことなどを評価したとみられます。若宮氏は初めての入閣です。 
 

 

●自民党役員
●自民党役員・執行部 10/6
総裁 / 岸田文雄
幹事長 / 甘利明
総務会長 / 福田達夫
政務調査会長 / 高市早苗
選挙対策委員長 / 遠藤利明
組織運動本部長 / 小渕優子
広報本部長 / 河野太郎
国会対策委員長 / 森山裕
幹事長代行 / 梶山弘志
参議院議員会長 / 関口昌一
参議院幹事長 / 世耕弘成

●議院運営委員会
日本の国会法に規定された常任委員会のひとつであり、衆議院、参議院それぞれに設置される。略称は議運(ぎうん)。国会における枢要な委員会であり、法案の審議を各委員会に振り分けるいわば国会のコントロールルームの役割を果たしている。その重要性に鑑み、議院運営委員長は概ね閣僚クラスの人材を充てる慣行になっている。委員は、各会派の所属議員数の比率により、選任される。委員会理事や委員には各党の国会対策委員会の幹部(副委員長・委員)が多く含まれる(ただし参議院では10人未満の院内会派には割振りがされない)。

●国会対策委員会
日本の政党(国会に議席を有するものに限る)に置かれる機関(組織)の一つ。法令上の規定は無いため、各会派の私的な機関。永田町では、国対と略される。
各党の国対(委員長、委員長代理、副委員長、委員など)は、相互に密接に連絡を取り合い、本会議や重要法案を抱える常任委員会、特別委員会の日程を、俗に「国対委員長会談」と呼ぶ非公開の場で協議する。その成案は、衆参両議院の常任委員会の一つである議院運営委員会(議運)で協議される。議運の理事は各党の国対幹部を兼任している。長年に渡り国対を務め他党とのパイプを作り上げた議員は、特に自民党において国対族と呼ばれ、国会運営に際して重宝されていた。
先進国の多くは議長などが中心となり議院を運営するのに対し、日本では行政府が立法府に対して法案の審議を求める法的根拠が存在しないため、法的には非公式機関である政党の国対関係者が水面下で運営に関わるいわゆる「国対政治」が発達した。
1980年の社公合意以降、日本共産党は会談から排除されてきたが、1990年代後半からの政界の枠組みの変化により、自公連立政権時代では民主党、社民党、国民新党と共に、野党国会対策委員長会談を開くなど、排除が解消され始めている。 

●岸田内閣 副大臣26人と政務官28人 10/6
岸田内閣の発足に伴って、政府は6日の臨時閣議で、副大臣と政務官の人事を決定しました。
副大臣
副大臣に決まったのは、自民党から23人、公明党から3人の、合わせて26人です。このうち女性は1人です。
デジタル副大臣に、小林史明氏。小林氏は内閣府副大臣を兼務します。
復興副大臣に、冨樫博之氏、公明党の参議院議員の横山信一氏。
内閣府副大臣に、大野敬太郎氏、黄川田仁志氏、参議院議員の赤池誠章氏。
総務副大臣に、田畑裕明氏、参議院議員の中西祐介氏。
法務副大臣に、津島淳氏。
外務副大臣に、小田原潔氏、鈴木貴子氏。
財務副大臣に、公明党の伊藤渉氏、参議院議員の大家敏志氏。
文部科学副大臣に、田中英之氏、池田佳隆氏。池田氏は内閣府副大臣を兼務します。
厚生労働副大臣に、古賀篤氏、公明党の参議院議員の山本博司氏。山本氏は内閣府副大臣を兼務します。
農林水産副大臣に、武部新氏、中村裕之氏。
経済産業副大臣に、細田健一氏、参議院議員の石井正弘氏。細田氏と石井氏は内閣府副大臣を兼務します。
国土交通副大臣に、中山展宏氏、参議院議員の渡辺猛之氏。渡辺氏は内閣府副大臣と復興副大臣を兼務します。
環境副大臣に、大岡敏孝氏、務台俊介氏。務台氏は内閣府副大臣を兼務します。
防衛副大臣に、鬼木誠氏。鬼木氏は内閣府副大臣を兼務します。
副大臣に決まったのは、以上の26人です。
政務官
政務官に決まったのは、自民党から25人、公明党から3人の合わせて28人です。このうち女性は4人です。
デジタル政務官に、参議院議員の山田太郎氏。山田氏は内閣府政務官を兼務します。
内閣府政務官に、木村哲也氏、小寺裕雄氏、宗清皇一氏。宗清氏は復興政務官を兼務します。
総務政務官に、鳩山二郎氏、渡辺孝一氏、参議院議員の三浦靖氏。
法務政務官に、参議院議員の加田裕之氏。
外務政務官に、上杉謙太郎氏、本田太郎氏、参議院議員の三宅伸吾氏。
財務政務官に、高村正大氏、繁本護氏。
文部科学政務官に、公明党の鰐淵洋子氏、参議院議員の高橋はるみ氏。高橋氏は内閣府政務官と復興政務官を兼務します。
厚生労働政務官に、大隈和英氏、参議院議員の島村大氏。島村氏は内閣府政務官を兼務します。
農林水産政務官に、公明党の参議院議員の熊野正士氏、参議院議員の宮崎雅夫氏。
経済産業政務官に、参議院議員の吉川有美氏、岩田和親氏。吉川氏は内閣府政務官を、岩田氏は内閣府政務官と復興政務官を兼務します。
国土交通政務官に、加藤鮎子氏、木村次郎氏、泉田裕彦氏。泉田氏は内閣府政務官と復興政務官を兼務します。
環境政務官に、公明党の参議院議員の宮崎勝氏、穂坂泰氏。穂坂氏は内閣府政務官を兼務します。
防衛政務官に、参議院議員の岩本剛人氏、大西宏幸氏。大西氏は内閣府政務官を兼務します。
政務官に決まったのは、以上の28人です。
岸田首相「新時代共創内閣」の一員として全力を
岸田総理大臣は6日夜、最初の副大臣会議で、新型コロナウイルスとの闘いが続く中、信頼と共感を得られる政治が必要だとして「新時代共創内閣」の一員として、政策の実現にまい進し、全力を尽くすよう指示しました。この中で岸田総理大臣は「わが国は今、新型コロナウイルスとの闘いが続き、国難と言われる厳しい状況の中にある。今こそ、一人一人の国民の声に寄り添い、多様な声を真摯(しんし)に受け止め、形にし、信頼と共感を得られる政治が必要だ」と述べました。そのうえで「『新時代共創内閣』の一員として、岸田内閣の基本方針を肝に銘じ、政策の実現にまい進していただきたい。新しい時代を国民とともにつくっていくため、それぞれの分野で持てる力を存分に発揮し、全力を尽くしてほしい」と指示しました。
松野官房長官「各分野の適材適所で人選」
松野官房長官は臨時閣議のあとの記者会見で「それぞれの分野に対する適材適所ということで人選が行われた。大臣を中心として、副大臣、政務官、役所のスタッフを含め、チームが一丸となって課題に取り組んでいける人を選んだ」と述べました。そのうえで、若手を登用したねらいについて「岸田総理大臣は、人事に関し、老、壮、青のバランスなどを十分に検討して人事を行うと述べている。当選回数が、まだ1期や2期、3期の議員も、それぞれの分野ではスペシャリストとして活躍しており、その特性に応じて人事が行われている」と述べました。 
 

 

●悪い噂
●高木毅
日本の政治家、実業家。自由民主党所属の衆議院議員(7期)、衆議院議院運営委員会・委員長(第82代)。
高木商事株式会社代表取締役、社団法人日本青年会議所北陸信越地区協議会会長、防衛庁長官政務官、衆議院議院運営委員長(第75代)、国土交通副大臣、復興大臣(第5代)原子力問題調査特別委員長などを歴任した。
政治資金​
日本共産党の機関紙であるしんぶん赤旗の報道によれば、高速増殖炉「もんじゅ」を運営している独立行政法人「日本原子力研究開発機構」の関連企業「高速炉技術サービス」が、高木が代表を務める自由民主党福井県第3選挙区支部及び高木の資金管理団体「21世紀政策研究会」のパーティー券を購入し、高木側に対し計354万円の献金を行っていた。
不祥事
下着窃盗で現行犯逮捕​
30代の頃の高木は下着泥棒の常習犯であり、福井県警に現行犯逮捕されたこともあったと、2015年10月15日発売の『週刊新潮』と『週刊文春』の両誌において報じられた。被害者の妹の説明によれば、当時の高木は福井銀行敦賀支店の窓口担当の女性に一方的に好意を抱いており、この女性の自宅の合鍵を勝手に作成して侵入し、下着を持ち出していた。また、侵入するところを目撃していた近所の住民の説明によれば、高木は女性宅侵入前に手袋を着用し侵入後に手袋を脱いだことから、不審に思い車のナンバーをメモしていたという。この目撃者から話を聞いた被害者の妹が警察に通報し、ナンバーのメモなどから足がつくことになった。ただ、騒ぎ立てると勤務先にも迷惑がかかるのではと被害者本人が懸念しており、敦賀市長であった高木の父も謝罪したことから、本件は示談となり、立件されることなく捜査は終結した。また、青山学院大学在学当時にも、高木が帰省に際してかつて交際していた女性の下着をとったと指摘されている。敦賀市長であった高木の父は、本件を記事にしないよう地元マスコミに要請した。しかし、1996年の時点で既に『財界北陸』が記事化しており、問題視した「良識ある政治家を育てる会」が高木を糾弾する文書を配布するなど、地元においては広く人口に膾炙している。2015年10月に第3次安倍改造内閣で入閣を果たしたことで、本件が全国的に大きく報道された。なお、高木の地元の福井県では『週刊新潮』の発売日が一日遅れとなるため、本件を報じた号は2015年10月16日に書店で販売された。しかし、開店と同時に店頭の『週刊新潮』を全て買い占める者が各地に出現したため完売が続出し、福井県民が『週刊新潮』を読みたくても購入できない異例の事態が発生した。一部の書店では一人一冊までとする購入制限をかけたが、買い占めようとした者が抗議、敦賀市内では警察官が出動するほどの騒ぎとなった。また、書店に対して『週刊新潮』の追加発注をするなと要求する電話がかかってきたり、既に発注済みなら全て買い取りたいと要請する電話もかかってきた。その結果、高木の地元選挙区では『週刊新潮』が店頭から消え、地元の有権者がこの記事を目にすることは困難な状況となった。この状況について「高木大臣の後援会が、敦賀市内の書店で週刊誌を買い占めて『口封じ』に走っている」「後援会の要請を受け、地元企業や公的機関の関係者も“動員”された」などと報じられた。折しも内閣官房長官の菅義偉が臨時会召集の見送りを示唆したことから、本件が国会の召集日程にも影響していると報じられるなど、政界にも大きな影響を及ぼした。同年10月16日には、部下である復興副大臣の若松謙維が「大臣自身が、政治家として、しっかり説明するのではないか」と指摘するなど、閣内からも説明責任を果たすよう求める声が挙がった。一方、同日、高木は総理大臣官邸にて本件について質問されると「今日はそういった場所ではございませんので、お答えを控えさせていただく」と回答するなど、否定も肯定もしないという立場を貫いた。2015年10月20日、高木は記者会見を開き、『週刊新潮』などの女性下着窃盗に関する関する報道について言及し「そういった事実はございません」と明確に否定した。なお、『週刊文春』からの取材に対し、高木の事務所は当初「そんなこと初めて聞きました」と回答しており、本件についての噂が広まっていること自体知らなかったと主張していた。しかし、10月21日の記者会見にて、記者から「地元では有名な話と伺っているが」と質問されると、高木は「選挙のたびに、正直いろいろとそういった話が出ているのは承知もしている」と回答、また警察の取り調べを受けたとする報道については「ありません」と明確に否定している。2016年1月13日付『日刊県民福井』によれば、当時の福井県警察の捜査関係者が「窃盗は事実」と証言している。2016年8月22日、自民党福井県連会長の衆院議員山本拓は、この疑惑について「党本部経由で、県連として正式な調査をかけた」「示談を済ませても逮捕事実は残っている」として、次の衆院選での公認に難色を示した。高木の事務所はこの発言を受け「よくわからない」とコメントした。山本は、『日刊県民福井』報道のちょうど1年後の2017年1月13日、県連の調査の結果現行犯逮捕は事実である旨を福井県庁での記者会見にて再度発言している。山本の県庁での発言を受けて行われた取材においても、高木は重ねて事実関係を否定した。県連の独自調査後、民進党から衆議院議院運営委員会理事会の場において調査の有無など事実関係を確認し自民党としての統一見解を出すよう求められたことに対し、1月18日佐藤勉議院運営委員長は「一切事実無根だと判断している」と強調し、党としては県連による調査は行われていないと認識していると説明した。1月23日、自民党は衆議院議院運営委員会理事会で「党幹事長室が党福井県連に事実関係を確認したところ、県連として(この件を)調査した事実はないとの回答があった」「党としては閣僚時代の答弁を含め、本人の発言がすべてだ」との統一見解を示した。同年8月31日には自由民主党福井県支部連合会の封を使い自民議員に向けて、文章が送付された。内容は参院選で行われた合区を解消させるため、憲法改正を行うという試案と高木議員の下着泥棒に関する調査報告と、その前後に報道された地元紙などの記事であったと新潮にて報道された。なお、新潮が山本にコンタクトを取った所、「確かに県連の会長である私の責任において、郵送された封書で間違いありません。出発点としては、福井県が合区の対象になるのは大問題だから、それに反対する文書をお送りすることになりました。更に、このタイミングで郵送するのだから、県連の調査に関して間違った報道が行われたことも知ってもらい、是正したいと考えたのです」と述べており、送付したことを認めた。そして、下着泥棒報道に関しては高木に「事実ではないなら訴訟を起こしたほうがいい」とアドバイスを行ったと説明している。ちなみに高木は下着泥棒報道に関してはまったくのアクションを起こしていない。
香典と称して有権者に対して法的問題のある寄附​
高木が代表を務める政党支部が、香典との名目で、選挙区内の有権者に対して法的に問題のある寄附を行っていたことが明らかになっている。 公職選挙法では、政治家や政党支部および資金管理団体が、選挙区内で香典や供花などを出すことを禁止している。しかし、高木が代表を務める政党支部は、2011年から2013年にかけて選挙区内で行われた葬儀に対して香典や枕花を支出したと政治資金収支報告書に記載していた。 なお、有権者に対する香典に関しては、政治家本人が葬儀に出席しポケットマネーで支払った場合に限り、公職選挙法で例外的に認められている。そのため、高木の事務所は、香典について「本人が私費で香典を出したが、誤って政党支部の支出として記載した」と説明しており、高木のポケットマネーであるにもかかわらず政党支部の支出として記載していただけだと説明していた。高木本人も国会で「私が葬儀の日までに弔問に行き、私費で出した」と答弁するなど、香典はポケットマネーであり自ら手渡したと説明してきた。しかし、遺族らが「通夜か葬儀の時に高木氏の息子が持ってきた」などと証言したため、高木の主張は否定された。
枕花と称して有権者に法的問題のある寄附​
高木が代表を務める「自民党福井2区支部」と資金管理団体が、選挙区内の有権者に対して法的に問題のある寄附を行っていたことが明らかになっている。 公職選挙法では、政治家や政党支部および資金管理団体が、選挙区内で香典や供花などを出すことを禁止している。しかし、高木が代表を務める「自民党福井2区支部」は、2011年から2013年にかけて選挙区内で行われた葬儀に対して香典や枕花を支出したと政治資金収支報告書に記載していた。さらに、高木が代表を務める資金管理団体も、2011年から2012年にかけて選挙区内で行われた葬儀に対して枕花を支出したと政治資金収支報告書に記載していた。 なお、香典については公職選挙法に例外規定が存在するが、枕花については公職選挙法に一切の例外規定はなく、全面的に禁止されている。そのため、高木の事務所は、枕花について「後援会として会の最高幹部らに出したが、法律上問題があり、二度と起こらないよう関係者に注意した」と説明し、法律上問題のある寄附であったことを認めている。ただし、閣僚辞任や議員辞職などについては、特に表明しなかった。
政党助成金未返還​
支給された政党助成金は余った場合、国庫へ返還するよう政党助成法により定められているが、2013年、高木は計1119万円を「基金」の名目で保管し、うち224万5千円を車の購入代金に充てていた。
国対委員長に起用見通しの高木毅氏 過去に香典問題 9/30
自民党の国対委員長に起用される見通しの高木毅氏(65)は、2015年10月発足の第3次安倍改造内閣で復興相に就任直後、週刊誌で「約30年前に地元福井県内の女性宅から下着を盗んだ」とする疑惑を報じられた。さらに、選挙区内で行われた葬儀に香典などを複数回支出していたことも判明。公職選挙法(寄付の禁止)に抵触する疑いもあるとして国会で追及された。
高木氏は衆参の予算委員会などで、下着を盗んだ疑惑を「記憶にない。事実無根だ」と全面否定。香典の支出については、政治家本人が葬儀などで私費で手渡す場合は公選法で禁じられておらず、「私が自費で葬儀前までに持って行った」と釈明した。高木氏は16年8月の内閣改造で閣僚から外れた。
政府は17年2月、窃盗疑惑を巡る民進党(当時)の大西健介衆院議員の質問主意書に対し、政治家個人として明確に否定しており、政府として警察の記録を調査する必要はないとの答弁書を閣議決定している。
高木新国対委員長に「女性下着ドロボー」の過去 10/4
姉の部屋で箪笥の中とかを物色し
新総裁に選ばれた岸田文雄氏(64)は党役員や閣僚人事を進めており、野党との国会折衝の要・国会対策委員長に高木毅元復興相が就任した。高木氏には過去、女性宅に侵入し、女性モノの下着を盗んだ過去がある。地元・福井で知らない人はいないというその実態について振り返っておこう。第3次安倍改造内閣で復興・原発事故再生総括担当大臣に就任した高木毅衆院議員が以前、下着泥棒に入った一軒家は、福井県敦賀市内の住宅街の一画にある。その家を訪ねると、高齢の女性が出てきて、「何も知りません」そう繰り返すばかりだったが、近所に住む彼女の娘さんは、こちらが拍子抜けするほどあっさり事実関係を認めたのである。――昔、あなたのお宅に下着泥棒が入ったという話を調べているのですが、その時の犯人は、高木氏ということで間違いない?「はい。被害者は私の姉です。近所のおばさんが、家の斜め前に車を停めて中に入っていく人を見たけど、知り合いか?≠チて。通報したのは私だったかな。警察の人が来て、指紋とか取って。でも、教えてくれた近所のおばさんが車のナンバーを控えとってくれたんで、すぐにやったのは高木さんやと分かった。家に上がり込み、姉の部屋で箪笥の中とかを物色し、帰って行ったようです」
合鍵を勝手に作って侵入
今から30年ほど前に起こった出来事だ。当時、下着を盗まれた女性は20代、高木氏は30歳前後だった。氏は20代半ばまでに高校の同級生と結婚している。つまり、彼が事件を起こしたのは結婚後ということになる。ちなみに高木氏の父親、故高木孝一氏は敦賀市議を2期、福井県議を4期務め、福井県議会議長を経て、1979年から95年まで敦賀市長を4期16年務めた、地元政界のドン≠セった。事件があったのは、敦賀市長を務めていた時期だ。息子の毅氏は地元の敦賀高校を卒業した後、東京の青山学院大に進学。卒業後は敦賀に戻り、父親が設立した会社「高木商事」で働いていた。晴れて国会議員になるのは、事件を起こした十数年後のことである。被害者の妹が話を続ける。「当時、姉は(金融関係の)窓口業務をしとった。そこに高木さんは客として来て、姉は一方的に気に入られとった。だから、やったのが高木さんと分かると、姉はいややわー。家まで来とったんやー≠ニ言っていました」さらに、高木氏の、家への侵入方法が実に悪質で、「合鍵を勝手に作っとったんです。田舎やから、無防備に小屋にカギ置いといたりするでしょ。それをいつの間にか持っていって、自分のカギを作っとったみたい。それにしても、どうして勝手に家に上がり込んだりするのか。急に家の人が帰ってきたら、とか思わんかったんかな……」(同)
父親の市長が頭を下げてきた…
無論、高木氏の行為が犯罪であることは言うまでもないが、少なくともこの件は「立件」されていない。「姉が騒がんといてくれ。勤め先にも迷惑かけたくない≠チて。父は(高木氏の父親の)市長も頭下げてきた∞敦賀でお世話になっとるし≠ニ言ってて、それで、示談っていうか……。それにしてもあんな人が大臣にまでなって、不思議やなーと思います」(同) これら一連の経緯について高木氏に取材を申し込んだが、締め切りまでに回答は寄せられなかった――。「高木さんについては、政治家になって以来、ずっとある噂≠ェ囁かれ続けてきた。それは、高木さんは過去に女性の下着を盗んだことがある≠ニいう噂で、彼の地元・敦賀や彼の周辺では知らぬ者がいないほど有名な話だったのです」と、永田町関係者。「その高木さんが大臣になったものだから、まず、噂を知っている関係者が騒ぎ出した。高木といえばパンツだぞ。大丈夫か?≠ニか、下着ドロボーを大臣にするとは、官邸の身体検査はどうなっているんだ≠ニ。で、内閣改造後、噂は爆発的に永田町じゅうに広まり、高木=パンツ≠ニいう奇妙な図式が定着してしまったのです」もっとも、永田町じゅうで囁き声が聞かれたその時点では真偽不明の噂話に過ぎず、過去、誰もその噂話のウラ取り≠きっちり行った者はいない。あるいは、真偽を確かめようとして失敗してきた。そこで以下、噂話の出所を探り、真偽を突き止めるまでの経緯に沿って、「下着ドロボー情報」の詳細をご紹介していきたい。
地元ですっかり定着した噂
〈「下着泥棒」常習犯の『高木毅』を福井県第三区の公認候補者に!!〉そんな大きな文字が横書きされた怪文書が手元にある。〈発行元〉は、〈良識ある政治家を育てる会〉となっている。「高木さんは選挙のたびに下着泥棒について触れた怪文書を撒かれている」と、先の永田町関係者が耳打ちするので地元・敦賀で探してみたところ、さほどの苦労もなく入手できた怪文書は、1996年の衆院選の際に撒かれたもので、次のような記述が並ぶ。〈女性下着泥棒常習犯=w高木毅』がなぜ自民党公認候補者になれたか?〉〈敦賀市長の息子が女性下着泥棒の現行犯≠して、敦賀警察署へ連行され、事情聴取されたとの事実は、忽ち敦賀市民全体へ拡がってしまい、この度立候補した際にも、その事実が一部の敦賀市民の間で再び囁かれています〉96年の選挙ではこの怪文書の影響もあってか、あえなく落選。しかし、高木氏は2000年の選挙でめでたく初当選し、以来、2017年の選挙まで7回連続当選を果たしている。〈敦賀の恥さらし〉2012年にはそんなタイトルが付いた怪文書が出回ったが、そこにもやはり次のような記述がある。〈高木氏はかつて勉強が苦手で逃避しパンツ窃盗歴があり、(中略)話題に事欠かないことは皆様よくご存じのことと思います〉初めて選挙に挑んだ96年からこの時点ですでに16年が経過。高木氏の〈パンツ窃盗歴〉が、皆様よくご存じのこととして処理されているのは、地元でその噂がすっかり定着した証左なのかもしれない。
父親の銅像の頭に…
「2000年の選挙の時、私はヘンなものを見てしまったんです。敦賀気比高校の前に高木の父親、高木孝一の銅像があるのですが、選挙期間中のある日、警察から高木孝一さんの銅像の頭に女性もののパンツが被せられている。見に来てもらえないか≠ニいう連絡があったのです。私は当時、あのあたりの防犯責任者をやっていたものですから」 そう振り返るのは、さる敦賀市政関係者である。「行ってみると、確かに女性もののパンツが……。銅像の顔のメガネの部分を覆うように被せられていたはず。銅像は台座を含めるとかなりの高さで、頭にパンツを被せるには脚立かハシゴが必要。昼間は周辺に生徒がいますから、おそらく夜間の犯行ですわ。警察の人は苦笑いしながら頭からパンツを外していました」何ともタチの悪い悪戯という他ないが、一体、いつからこんなバカげた事態が続いているのか。「確か、初めて怪文書が出たのは高木さんの父親、孝一さんの95年の市長選の時だったと思います高木市長の息子はパンツ泥棒だ≠ニいう内容でしたね」と、地元政界関係者。「結局、この選挙で孝一さんは落選し、その後、地元では息子の毅さんを国会議員にしようという動きがスタートした。そして、彼の選挙があるたびにパンツ泥棒の噂が語られてきたというわけなのです」
先生の対抗勢力か何かがデマを
おかげで、今や地元では、「高木がパンツ泥棒だという話は、敦賀市民ならほとんどの人が知っています」(敦賀市議) とまで言われるようになったのだが、それについて高木氏の事務所の関係者は、「パンツ泥棒? 高木先生がそんなことをするわけないでしょう。それが本当なら大臣になんてなれないし、当選だって難しいですよ」と、一笑に付すのだ。「高木先生は、あの民主党への政権交代時の選挙でもしっかり選挙区で議席を取ってきたんです。まともな人はこんな噂を本気にはしていません。先生も奥さんも、怪文書が回ってもまたかー≠ニ笑って相手にしていない。先生の対抗勢力か何かがデマを流し続けているだけなのです」当然、高木氏に近ければ近いほど噂を否定する声は大きくなり、遠いほど噂を肯定する声が大きくなる。そんな状況下で過去、噂の真偽に肉薄する記事を掲載した雑誌がある。地元で発行されている『財界北陸』だ。「高木のパンツ泥棒疑惑≠ノついて記事にしたのは、確か、96年の選挙の時だった。その頃すでに高木にはパンツ泥棒という噂がつきまとっていて、私の耳にも入ってきた。そこで、私は元々知り合いだった福井県警の警部補に、その噂が事実なのかどうか確認してみたんです」そう述懐するのは、件の記事を担当した『財界北陸』の記者である。
侵入する前に白い手袋まで
「すると、警部補は敦賀署が高木毅を、下着の窃盗と住居侵入の疑いで取り調べたのは事実。犯行現場は敦賀市内。その後、事情は分からないが検挙には至らなかった、とほとんどの事実関係を認めた。当時、事件の詳しい内容や被害者については聞かなかった。記事を載せた後も高木サイドからは抗議がなかったので、事実関係を半ば認めたもの、と理解しました」(前出・『財界北陸』の記者) 取り調べの事実を明かしたその警部補はすでに他界しているという。となれば、被害者に辿りつく術は噂の出所を丹念に追うしかないのだが、その作業の末、行き着いたのが事件の目撃者だ。その目撃者こそ、冒頭で触れた被害者家族に高木氏の車のナンバーを伝えた。近所のおばさん、である。「自宅の2階で洋裁しとったら、近くに車が停まったんや。で、1階におりてきて車のナンバー見て、また2階に戻ってアイロン台に鉛筆でそのナンバーを書き留めておいたんや。なんでそんなことしたかというと、車から降りた人がご近所の家に入っていったからやけど、車降りる前、その人、白い手袋出したんや、車の中で。ほんで、白い手袋してから出た」侵入する前に手袋までするとは何とも用意周到で、初めての犯行とはとても思えないが、実際、被害者の妹(前出)はこう明かす。「ウチだけじゃなく他のとこでもやっとったって聞きました。もちろん警察も知ってて、またかって……」
“息子のことを悪く書かないでくれ”
最後に、一体なぜ、下着泥棒の前歴がある高木氏が過去7回も当選を重ね、大臣にまで上り詰めることができたのかについて触れておこう。それは先に触れた高木氏の父、高木孝一氏の存在が大きい。そもそも高木氏が下着泥棒を働くも事件化を免れたのは、敦賀市長で地元政界の“ドン”だった父・孝一氏が被害者家族に頭を下げて謝罪したからだが、「高木氏が国会議員になれたのも、もちろん父親のおかげです。嶺南地区と呼ばれる高木氏の地元は原発と建設会社の街で、その両方を押さえれば選挙では安泰。孝一氏はこの地区の選挙で勝つ術を知り尽くした男でした」と、先の地元政界関係者は語る。「高木氏は大学卒業後、孝一氏が設立した『高木商事』の社長をやっていた、ただのドラ息子で、地方議員を経験することもなく、1996年、いきなり国政選挙に挑戦した。この選挙では善戦の末落選しましたが、4年後の選挙で見事に当選を果たしたのです」96年と2000年、いずれの選挙でも「下着泥棒」について触れた怪文書がばら撒かれたが、その裏で孝一氏は“火消し”のため、涙ぐましい努力をしていた。「福井県では、小さなミニコミ新聞や雑誌が何十種類も発行されている。孝一氏はそういうところを回り、“息子のことを悪く書かないでくれ”と頼んでいた。お金も相当使ったのではないでしょうか」(同) ある地元雑誌の発行人もこう話す。「08年の選挙の前、孝一さんが私を訪ねてきた。で、“息子がパンツ泥棒をやったという噂を流しているヤツがいるが、そういう噂が記事にならないように頼むよ”と言われました」来る総選挙は11月7日の投開票が予定される。国対委員長となった高木氏のパンツ泥棒の過去が蒸し返されるのだろうか。 
 
 
 

 

●成長と分配をどう実現 岸田内閣発足、経済立て直しの課題は 10/5
4日発足した岸田内閣は、コロナで落ち込んだ日本経済の立て直しが課題となる。最大の柱である「成長と分配の好循環」の実現に向け、どのような分配政策や成長戦略を進めていくつもりなのか。
「分配なくして、次の成長はない」。岸田文雄首相は4日夜の会見でこう話し、経済成長だけではなくその分配に力点を置く姿勢を鮮明にした。安倍・菅政権下の「アベノミクス」が格差を広げたとの批判を踏まえ、「格差是正」を独自のカラーとして打ち出したい考えだ。子育て世帯の支援や看護師らの賃金底上げなどを掲げるが、分配の「元手」となる財源を確保できるかは見通せない。
首相がこだわっている支援策について、社会保障政策を担う厚生労働省内では「バラマキが目立つ政策をどう形にしていくのか、具体性がまだ見えない」(幹部)との声も上がる。
柱の一つが、子育て世帯への住居費や教育費の支援だ。だが同じ幹部は「前例がない」として、制度設計が課題になるとみる。
医療や介護、保育で働く人たちの賃金アップも掲げる。こうした病院や特別養護老人ホーム、保育所といった分野のサービスは基本的に国が決める「公定価格」。4日の会見は「公的価格のあり方の抜本的見直しを行う」と断言。新たに検討委員会を設ける方針だ。ただ、公定価格を引き上げても、働き手の賃金上昇にそのまま反映されるかは分からない。利用者側の負担増につながらないか、といった懸念もある。
会見ではこのほか、コロナ禍で生活が苦しい「弱い立場の方々に個別に現金給付を行うこと」も検討するとした。フリーランスなども含め働く人すべてに社会保険を適用して、セーフティーネットを広げることも持論だ。
高齢化に伴い、社会保障費は年々膨れあがる。首相が政策を実現するために必要な財源は巨額だ。どう確保するかについて、首相は自民党総裁選中も、しばらくは国債でまかなう方針を示すにとどまっている。
増税についても「考えない」と発言してきた首相だが、格差の是正につながるとする「金融所得課税」の強化には意気込みを示す。
所得税の負担率は、給与所得では所得が増えるほど税率が上がる累進制で最大45%だが、株の売却益や配当にかかる金融所得税は一律20%。富裕層は金融所得が多いため、所得が1億円の人を境に所得税の負担率が下がっている。
首相は4日、「『1億円の壁』ということを念頭に金融所得課税について考えてみる必要がある」と言及した。来年度の税制改正に向けて議題となる可能性がある。だが、一律に税率を引き上げた場合、低所得者も増税となり、効果を疑問視する見方があるほか、株式投資の魅力が下がることで株価の下押し圧力となることも懸念される。また、消費増税などに比べると、金融所得課税の強化で得られる財源は大きくない。
支援の拡充と財源の確保を両立させるという難題を担うキーパーソンの一人が、旧大蔵省(現財務省)出身の後藤茂之厚労相になるとみられる。後期高齢者に2割負担を導入した「全世代型社会保障」や新型コロナウイルス対策では、自民党から政府への提言を取りまとめており、調整役としての手腕が問われる。政府の「財布のひも」を握る鈴木俊一財務相との折衝が注目を集めそうだ。
コロナ禍で落ち込んだ経済を、今後どう底上げしていくか。岸田首相は9月の自民党総裁選中の経済界などとの意見交換で、昨年12月末に中断した観光振興策「Go To トラベル」の再開に言及した。
再開にあたっては、ワクチンの接種証明などを活用した「Go To2・0」を提唱。旅行代金の割引や買い物券などでの還元率に差をつけ、ワクチン接種を2度終えた人や新型コロナの陰性証明を提示した人には多く還元する方針だ。
国土交通相に就いた斉藤鉄夫氏も4日夕、官邸で報道陣に「観光・交通関係の方がコロナで大変苦しんでいる。やらなければならないことがある」と意気込みを語った。ただ、昨年は人流の抑制が求められるなかで「(感染の)ブレーキとアクセルを両方踏んでいる」との批判があっただけに、こうした工夫で違いが出せるかが課題だ。
また、岸田氏は将来をにらんだ成長戦略として「科学技術立国」、「経済安全保障」などとともに「デジタル田園都市国家構想」を掲げる。
高速通信規格「5G」などデジタルのインフラを早期に整え、テレワークを増やしたり、遠隔で医療や教育を受けられるようにしたりして東京一極集中を是正するという構想。都市と地方を行き来する「二地域生活」も広げるという。
自民党内で、これとほぼ同じ提言を中心になってまとめたのが、デジタル相に就任した牧島かれん氏だ。
社会のデジタル化を進めれば進めるほど、お年寄りなどには「自分がついていけるのか」という不安がつきまとう。こうした不安を解消するために「デジタル推進委員」を全国に配置するというが、その詳細はまだ不明だ。本当に「デジタル弱者」を取り残さないで進められるか、手腕が問われる。(高木真也、平井恵美)
新内閣の目玉として新設した経済安全保障相には小林鷹之・元防衛政務官が就いた。小林氏は4日、首相官邸で記者団に「経済面から国益を確保していく。極めていま、重要な局面にあると思う」と意気込みを語った。先端技術をめぐる米国と中国との覇権争いが激しさを増すなか、その鍵を握る半導体などの重要物資の供給網の確保や、武器などに転用できる技術の流出防止を急ぐ考えだ。
具体的には、岸田首相が掲げる「経済安全保障推進法(仮称)」をつくり、巨額の支援策で関連産業の育成や誘致などを進める。まずは半導体製造の世界大手「台湾積体電路製造(TSMC)」の工場誘致を狙う。ただ、各国の先端技術をめぐる工場や人材の獲得競争は激化している。日本にとって最大の貿易相手国である中国に依存せざるを得ない資源や部品も多く、安定供給の体制づくりには時間がかかりそうだ。
技術流出を防ぐため、外国為替及び外国貿易法の運用を見直し、日本国内での外国人らへの技術提供の管理も厳しくする。ただ、東芝の株主総会への国の介入が問題になるなど、市場や民間の経済活動への国の関与が行き過ぎれば、海外からの投資や人材が離れていくというジレンマもあり、バランスも問われそうだ。

ピクテ投信投資顧問の市川真一「岸田首相は新自由主義からの転換と所得の再分配を訴えているが、具体的な道筋はまだ見えない。日本の生産性はこの30年低下傾向にあり、人口も減少していく縮小均衡の状況だ。そのなかで分配を強化しても、貧しさを分け合うことになる。何で成長し、どう生産性を上げていくかを考えないと、中間層への分厚い分配はできない。安倍政権で未達成に終わった成長戦略を具体的に示してほしい。賃上げは、単に国が分配を増やせと企業に言ってもできない。生活を保障するセーフティーネットを整備しつつ、雇用の流動化を促して成長産業に人が流れ、そこで賃上げが実現するような循環をつくらなければならない。新型コロナで経済や社会のあり方が変わり、先取りして産業を新陳代謝させられない国は取り残される可能性がある。そのための改革を岸田政権には望みたい。岸田首相が掲げるように、基礎研究のための大学への支援もより積極的にするべきだ。」

●岸田内閣発足 新閣僚は決まったが… 10/5
自民党の岸田文雄総裁が第百代首相に選ばれ、新内閣が発足した。通常なら首相や閣僚の考え、発言に注目が集まるところだが、岸田首相は十四日に衆院を解散し、十九日公示、三十一日投開票で衆院選を行うと表明した。岸田内閣の存続は選挙結果次第となり、新閣僚の在任期間も不透明では、期待も注文もあったものではない。
小選挙区制は政権交代可能な選挙制度として衆院選に導入された。政権選択選挙といわれるゆえんだ。本来なら解散前の政権の仕事ぶりが有権者の最大の判断材料になるはずだ。今回の場合、仕事ぶりを評価されるべき政権は既に退陣し、新内閣にはまだ何の実績もない。政権選択選挙としては極めて異例な展開といえるだろう。
新型コロナウイルス対策などで支持率が低迷した前政権を退け、政権維持を目指す自民党のしたたかさの表れと見る向きもある。であるならば、なおのこと、岸田首相は衆院選に向け、前政権の仕事ぶりに代わるだけの判断材料を有権者に示す必要がある。求められるのは自民党としての選挙公約だ。
総裁選で首相本人の政治姿勢や主要課題に対する考え方は一定程度明らかになった。ただ、議論は総論中心で各論や実現までの道筋となると心もとない印象を受けた。何より総裁選での候補者としての主張がそのまま党の公約になるとは限らない。野党側は「表紙が代わっても中身は変わらない」と新政権を批判し、党役員の人選も支援派閥の意向を踏まえた論功行賞人事とやゆされている。
衆院選までわずかな時間しかない。岸田首相は政権としての公約を早急にまとめ、速やかに国民に示すべきだ。まずは八日に行われる所信表明演説で政見と公約をできるだけ明らかにしてほしい。また、引き続き行われる各党代表質問にも真摯に対応し、政権としての主要課題への対応や今後の取り組みが国民、有権者に分かるようにする必要があるだろう。
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からの復興を成し遂げるために関係閣僚の果たすべき役割は極めて重要だ。新内閣では復興相が沖縄北方担当相と兼務となり、廃炉や産業再生を担当する経済産業相、除染と環境再生を担う環境相も交代した。果たしてこれまで積み上げてきた復興への取り組みが衆院選後も継続されるのか。被災地のそうした不安や懸念を払拭するためにも公約には「福島の復興」を明確に盛り込まねばなるまい。 

●電光石火の“小池知事潰し” 衆院選前倒しで「ファーストの会」騒動1日で終焉 10/5
早くも分厚いカベだ。小池都知事が特別顧問を務める都民ファーストの会(都ファ)が立ち上げた国政新党「ファーストの会」。3日、結党会見を開いたばかりなのに、岸田新首相の“奇策”によって前途多難のスタートを強いられている。
次期衆院選は既定路線の「10月26日公示、11月7日投開票」を念頭に、誰もが準備を進めていた。しかし、岸田首相はいきなり選挙日程を丸1週間前倒し。その割を食ったのは、小池知事の顔がチラつくファーストの会だ。
結党と同時に都ファ公式サイトで始めた候補者公募の締め切りを今月17日に設定したが、たった2日後に衆院選が公示され、選挙戦に突入するハメになるのだ。
「ただでさえ、準備不足の上、この選挙日程は絶望的です。公募で新人候補を選んでも、ポスターの印刷さえ間に合わない。とても“台風の目”にはなり得ません」(政界関係者)
結党会見で代表の荒木千陽都議は「東京の25選挙区はすべて(候補を)立てたい」と豪語。その願望をかなえるには荒木都議以下、都ファ都議の大半を擁立するしかないだろう。そんなことをすれば党内でも「執行部は節操がない」と国政進出に疑問の声が上がる中、都政は大混乱。小池知事の政治生命すら危うくなる。
どうやら小池知事の出る幕なし。新党騒動はほぼ1日で終焉しそうな勢いだ。荒木都議は「選挙目当てに『左旋回』を強めていく野党に強い危機感を持って立ち上がった」と語っていた。岸田首相は“小池新党潰し”で自民から離れそうな保守票を奪われずに済む、と踏んだのかもしれない。
「とはいえ、今夏の都議選で都ファが善戦したのは『自民も野党も嫌だから』との消極的支持があったからこそ。衆院選で反自民票の受け皿が減れば、その分、共闘野党と与党の一騎打ちの構図が強調されます。少なくともファーストの会失速で、自民の票が増えることはありません」(ジャーナリスト・横田一氏)
岸田首相の電光石火の小池知事潰しは、自民にもアダとなりかねない。

●岸田内閣の裏テーマは原発推進 “甘利人脈”が要職独占で一気加速 10/5
すっかり病気は完治したようだ。大臣室で現ナマをポッケに入れた件を認めて2016年に閣僚を辞任。「いずれ国会で説明する」と言ったきり、睡眠障害を理由に国会を長期欠席して説明責任はウヤムヤなまま。ぬけぬけと表舞台に戻ってきた自民党の甘利幹事長が新政権で早くも権勢を振るい、「我が世の春」を謳歌している。
自民党内には“甘利派”が存在
4日、発足した岸田新政権は組閣、党役員人事で安倍元首相の意向が強く反映されているとの指摘があるが、よくよく見て欲しい。要職を占めているのは“甘利人脈”だらけだ。
「新政権の人事は甘利氏が主導したとみられています。党役員人事の内定も、甘利幹事長から電話を受けた議員は多い。越権行為と言われても仕方ない振る舞いですよ。安倍元総理が強く推した萩生田光一氏が官房長官に内定しかかっていた人事を覆したのも甘利氏だと言われています」(自民党閣僚経験者)
自民党内には、あまり知られていないが“甘利派”が存在する。旧山崎派の会長代行を務めていた甘利幹事長が2011年に立ち上げた派閥横断型のグループ「さいこう日本」がそれだ。萩生田氏の代わりに細田派の推薦で官房長官に就任した松野博一氏も「さいこう」メンバーである。
他にも、梶山弘志幹事長代行(無派閥)、田中和徳幹事長代理(麻生派)、高木毅国対委員長(細田派)、山際大志郎経済再生相(麻生派)、岸田派から入閣した金子恭之総務相、金子原二郎農相の“ダブル金子”もメンバーだ。
経産省、原子力ムラが巻き返す
また、当選3回で閣僚に抜擢された若手の牧島かれんデジタル相(麻生派)は甘利幹事長と同じ神奈川県つながり、小林鷹之経済安保相(二階派)は、甘利幹事長が座長の経済安保に関する会議で事務局長を務めていた縁がある。あまりにも甘利幹事長に近い人選ばかりだ。
「甘利さんは当初、一番弟子の山際さんを経産相に押し込もうとしていた。第1次安倍政権で経産相を務めた甘利さんは経産族で、原発推進派の“電力界のドン”でもある。山際さんも原発推進の急先鋒です。官邸人事でも元経産次官で東電取締役も務めた嶋田隆氏が筆頭秘書官に就き、経産省、原発推進の色合いが濃い布陣となりました」(官邸関係者)
甘利幹事長は4月に結成された原発の新増設や建て替え(リプレース)を推進する議連でも最高顧問に就いている。原子力ムラの巻き返しで、菅政権が進めた「脱炭素」の再生可能エネルギー重視が見直されるのは必至だ。
「菅内閣で再生エネ重視を主導したのが河野前規制改革担当相や小泉前環境相でした。そのことが、総裁選で甘利さんが“河野潰し”に動いた理由のひとつでしょう。岸田内閣の裏テーマは原発推進です。菅政権で策定した次期エネルギー基本計画の素案は見直され、甘利幹事長のあまりにも強すぎるリーダーシップで原発リプレースも一気に進む可能性があります」(高千穂大教授の五野井郁夫氏=国際政治学)
総裁選で岸田首相は「政府と党は車の両輪。『政高党高』があるべき姿」と言っていた。
事実上の“甘利原発推進内閣”に完全屈服では、政府と党の両輪で原発推進が力強く進められるに違いない。“あんまり”じゃないか!
 

 

●「思い出づくり入閣」岸田内閣 「2人の77歳新大臣」が入った事情 10/6
自民党総裁選に勝利した岸田文雄氏が10月4日、国会で第100代首相に指名され、岸田内閣が発足した。ところが、「若返り」「世代交代」を図ったはずの閣僚人事は、フタを開けてみれば平均年齢は61.81歳と、菅内閣発足時の60.38歳を上回る結果になってしまった。初入閣が13人もいるはずなのに、いったいなぜなのか。
平均年齢を引き上げたのが、ともに御年77歳という2人の新大臣である。全国紙政治部記者が語る。
「農林水産大臣の金子原二郎・参院議員と、国家公安委員長の二之湯智・参院議員です。2人とも安倍・菅政権の8年間でずっと入閣待機組となっていて、今回ようやく念願が叶いました。
金子氏は長崎県知事や参議院予算委員長、二之湯氏も総務副大臣、党参議院政審会長などを歴任していますが、ともに党内では目立った存在とはいえません。もっとも、今回のポストはそれほどプレッシャーのかかるものではないでしょう。
農水大臣はTPPに伴う農家への補償問題が一段落ついた今、あまり大きな喫緊の課題は見当たりません。国家公安委員長についても、警察のお目付役と言いながら実務はあまりない。ともにいまや名誉ポスト的な意味合いが強いのではないでしょうか」
2人が起用された背景には、派閥の影響力が見て取れると、ベテラン政治ジャーナリストは言う。
「金子氏は岸田派のベテランです。派内には今回の人事をめぐって、『ようやく総理が出たのに、主要閣僚をほとんど他派に取られた』と不満の声が上がっていたため、滑り込むことになったのでしょう。父親で同派の重鎮だった金子岩三氏も農水大臣を務めており、本人は会見で『親子二代で感無量』と喜んでいました。二之湯氏は岸田氏の勝利に貢献した竹下派に属しており、参議院竹下派は結束が強いことで知られる。かつて“参議院のドン”と呼ばれ、現在も竹下派の事実上のオーナーである青木幹雄氏の影響も窺えます。ただし、二之湯氏は『残された人生をエンジョイしたい』と言って来年7月の参院選には立候補しない意思を表明しており、ネット上では『思い出づくり入閣』と揶揄する声も上がっています。2人の入閣によって閣僚の平均年齢を引き上げたことは、世代交代を訴えていた岸田氏にとっても本意ではないはず。派閥の力学を受け入れざるを得なかったのでしょう」
内閣そのものが「思い出づくり」に終わってしまっては困る。

●岸田内閣には「政治とカネ」疑惑大臣が9人も! 今後も不祥事続出の予感 10/6
自民党の役員人事では、「政治とカネ」の問題で閣僚を辞任した過去がある甘利明幹事長と小渕優子組織運動本部長が幹部に起用された。内閣に目を向けると、地味で目立たない大臣が少なくないが、カネをめぐる疑惑には事欠かない。表沙汰になっているだけでも、実に半数近くの閣僚が、過去に名前を報じられている(別表)。
鈴木財務相は2013〜15年の3年間で計1412万円ものガソリン代を政治資金から支出して問題視された。距離にしてナント地球33周分を超える。15年には1回で174万円支払っている。
熊本の川辺川ダムがある選挙区の金子恭之総務相は、2000年にダム事業の関連業者から1000万円の迂回献金を受けた疑惑が浮上。当時、無所属で企業献金を受け取れないため、所属していた派閥の会長を窓口に献金を経由した疑いが持たれた。
加計学園の獣医学部新設をめぐって、「萩生田副長官ご発言概要」なる文書が見つかり、文科省へ圧力をかけた疑いがある萩生田経産相。09年の衆院選で落選し浪人中だった際、加計学園が経営する千葉科学大で客員教授を務めた。自身のブログには安倍元首相、加計理事長とバーベキューに興じる写真を掲載していた。
9人の中でも特に問題だと思われるのは、西銘復興・沖縄北方相と後藤厚労相だ。
西銘氏は、沖縄の米軍基地の辺野古移設問題が争点だった14年と17年の衆院選の公示前後、基地建設の関連工事の受注業者から献金を受けていた。国と契約を結んでいる業者の国政選挙に関する献金を禁じた公選法に違反する恐れがある。西銘氏は献金を返金したが、それで済む話ではないし、その人物が沖縄担当相なのだから、愕然とする。
後藤氏は、巨額年金消失事件を起こしたAIJ投資顧問の系列会社ITM証券にパーティー券を購入してもらい、代表取締役から寄付を受けていた。さらに同社の株も保有していたことを2012年に報じられた。年金を扱う省のトップにふさわしいのか。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。
「甘利氏や小渕氏を幹部に就けた党人事と同じく、岸田首相は『政治とカネ』の問題を軽く考えているのでしょう。かつての自民党は閣僚についてはそれなりに厳しい“身体検査”をしていましたが、緩くなっている印象です。この先、まだまだ閣僚の不祥事が表面化することもあり得ます。特に西銘、後藤両大臣の任命は理解に苦しみます。岸田首相は任命理由、両大臣は事案について説明責任があります」
火種は尽きない。

●岸田内閣 経済政策の注目点“1億円の壁” 10/6
そもそも“1億円の壁”って?
総所得1億円を境に所得税の負担率が下がる現状のことです。所得税は、所得が増えるほど税率が上がり、これを「累進制」と言います。税率が上がるわけなので、理屈の上では、所得が増えるにつれて負担率も上がるはずですよね。ただ、実態は違うんです。財務省の調べによりますと、▽年間の総所得が250万円までの人は所得税の負担率が2.6%、▽500万円までの人は4.6%、▽1000万円までの人は10.6%と、どんどん上がっていきます。そして、▽年間の総所得が1億円までの人では27.9%に達しますが、ここがピークなんです。
その先は所得が増えても負担率が下がるから“1億円の壁”というわけですね。
そうなんです。所得税の負担率はだんだん下がっていって、50億円を超える人だと16%台。岸田総理大臣は、自民党総裁選挙にあたっての「政策集」で、この“1億円の壁”の打破を打ち出しました。背景には、富の分配のしかたを見直すことで、分厚い中間層をつくり、格差の解消につなげようという狙いがあります。
どうやって「打破」するんですか?
焦点になるのが「金融所得課税」です。“1億円の壁”がなぜできるかというと、いわゆる富裕層は、株式を譲り受けたり、取り引きしたりすることによる所得が多いことが背景にあるとされています。こちらにかかるのが「金融所得課税」で、儲けが大きければ税率が高くなる累進制ではなく、税率は住民税も含めて一律20%に定められています。このため、“金持ち優遇”の制度になっているという批判が根強いんです。
そうすると税率は上がるんですか?
その点はまだ分かりません。一方で、金融所得課税の見直しにはハードルもあるんです。その1つが、東京株式市場に悪影響が出ることへの懸念です。税率が引き上げられれば、株式を売却する動きが広がったり、株式に投資するお金が減ったりして、株価の下落につながるのではないかと市場関係者は警戒しています。また、政府が掲げる「国際金融都市の確立」や「貯蓄から投資へ」という目標に対してもマイナスになるという声も聞かれます。ただ、各国の中央銀行による大規模な金融緩和を背景とした株価の上昇が、コロナ禍の中で格差を広げたという指摘があるのも事実です。岸田内閣のもとで、今後“1億円の壁”を巡る議論がどう進むのか。税の公平性を確保し、多くの人が納得する結論を得られるかにも注目していきたいと思います。

●岸田首相「33万円腕時計」は高いのか安いのか…SNSで論争勃発 10/6
10月4日、岸田文雄氏が衆参両院本会議で第100代の内閣総理大臣に指名された。同日に組閣された岸田内閣は「全員野球」をキーワードに、コロナ対策や格差是正に取り組んでいく。
そんな岸田首相について、いま政策と同様に注目を集めているのが腕時計だ。ツイッターで《セイコー アストロン 価格:約33万円》とつぶやかれたことで、この金額が高いのか安いのか論争が起きているのだ。
《この時計代だけで、特別定額給付金3人分を超える》《33万円て一国の首相が着けるには安いくらいじゃないの!?》《逆に言うと岸田総理には腕時計の値段以外、罵る点がなかったとも言えるよね》などと、さまざまな意見が飛び交っている。
そもそも時計は本当にアストロンなのか。本誌がセイコーに確認したところ、「ネットで話題になっていることは把握しておりますが、個人情報なのでアストロンかどうかはお答えできません」とのこと。
そこで、本誌が腕時計の写真を確認すると、おそらく世界限定7000本のアストロンSBXB001だと推測できた。2014年に発売され、本体価格は30万円。当時の消費税8%を加算すると33万円弱となる。
岸田首相の腕時計について、政治ジャーナリストがこう語る。「初代が1969年に発売されたセイコーの『アストロン』シリーズは、2012年にGPS搭載モデルが登場しました。一般的な電波時計と異なり、電波が届かない場所でも、GPS情報から自動的に現在地の時刻に修正されるそうです。岸田さんは、2012年12月、外務大臣になったとき、このモデルを購入しています。そして、2014年11月、初の中国訪問を前にいまのモデルに買い替えました。これまでも安倍元首相が3500円のカツカレーを食べただの、菅前首相が3000円のパンケーキを食べただの、有権者は政治家の庶民感覚に敏感です。岸田さんの時計が高いは安いかはなんとも言えませんが、海外の高級時計ではなく、『国産品を訴えたい』という思いが強いのでしょう」
本誌は広島県にある岸田事務所に話を聞いた。担当者によると、岸田首相は外務大臣を務めた2012年ごろから腕時計にこだわりを持ち始めたという。「外務大臣に就任してから、腕時計を新調したという話は聞きました。アストロンかどうかはわかりませんが、(アストロンなら)外務大臣として世界のどこの国に行っても、日本との時差が常に正確にわかるじゃないですか。特に高級志向があるわけではなく、時間に正確を期すということだと思います」
はたして、33万円の腕時計は庶民的なのか。手腕の前に、腕時計が話題になった岸田首相だった。

●拉致家族、岸田政権に不安感 松野氏と「面識ない」 10/6
岸田文雄内閣が発足直後から北朝鮮による拉致問題の解決に向けた意欲を強調している。首相は就任した4日の記者会見で、拉致問題を「最重要課題」と位置づけ、翌日には被害者家族に電話で決意を伝えた。だが、若手議員のころから拉致問題に取り組んだ安倍晋三元首相や菅義偉(すが・よしひで)前首相と比べると接点は少なく、拉致被害者の家族らは不安を漏らしている。具体的な成果を出すためいかなる道筋を描くのかが試される。
「新内閣においても拉致問題は最重要課題の一つであることをしっかり申し上げた」。6日朝、首相は前日に横田めぐみさん(57)=拉致当時(13)=の母、早紀江さん(85)ら家族に電話で決意を伝えたことを明らかにした。バイデン米大統領との電話会談で拉致問題解決へ向けた日米連携を確認したことも報告したという。
ただ、岸田政権の姿勢には家族や支援者から不安が漏れている。最大の懸念は接点の少なさだ。拉致問題担当相を兼務する松野博一官房長官について「面識がない」との声が上がる。今回、首相と松野氏が政権発足直後に家族に連絡したのも、こうした懸念の払拭を狙ったとみられる。
首相は安倍、菅両氏が描いた戦略を踏襲する。北朝鮮には、核・ミサイル開発に対する制裁を維持する一方、国交正常化に伴う経済支援を誘い水に金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記と無条件で会談する意向を示している。
ただ、岸田政権が安倍政権と同様に柔軟な対応をとれるとはかぎらない。
安倍政権では平成26年、すべての拉致被害者の再調査の見返りに制裁を緩和するストックホルム合意を北朝鮮と取り交わした。当初から北朝鮮が合意を履行するか疑問視する声があり、実際に北朝鮮は一方的に合意破棄を宣言したが、家族会は安倍氏への信頼から経過を見守った。
岸田政権で同様の対応をした場合、家族会や世論がどう反応をするかは未知数だ。党ベテランは「日朝会談が実現して『重大局面』を迎えたとき岸田首相が決断できるか。厳しい状況にさらされる可能性もある」と指摘する。
一方、首相はバイデン米政権が対北朝鮮政策を見直したことを受け、日本側の対応を検討すると説明している。しかし、米側の政策見直しが終わったのは今年4月で、既に5カ月以上が経過している。日朝関係も停滞しているだけに、岸田政権は具体策を迅速に策定することが求められる。

●海外メディアの“岸田評”「前任者と変わらない」とパッとせず… 10/6
就任から一夜明けた5日、岸田首相はアメリカのバイデン大統領やオーストラリアのモリソン首相と電話会談。晴れて首相として“外交デビュー”を果たした。
4日の首相会見で「(国際会議の場で)日本の発言、存在力、しっかり示していきたいと考えています」と意気込んでいた岸田首相。外交力を発揮したいようだが、海外メディアの「岸田評」はパッとしない。
米ウォールストリート・ジャーナル(4日付)は、安倍元首相や菅前首相を念頭に〈岸田氏は前任者の政策から大きくそれていないものの、よりリベラルな経済政策を打ち出した〉と指摘。岸田首相がアベ・スガ政治を継承しているとの評価については、英ガーディアン(4日付)も同じで、次のように分析している。 〈総裁選の決選投票で安倍氏が思いのままに票を回せることから、岸田氏は総裁選期間中に右に旋回し、経済や外交政策でほぼ変化がないことを示した〉
海外の「岸田評」に一貫しているのは独自性のなさ。2012年12月から17年8月まで長きにわたって安倍政権下で外相を務めていたにもかかわらず、目立った評価はない。外相としての“実績”といえば、2016年のオバマ米大統領(当時)の広島訪問の際、現地の説明役を買って出たことぐらいじゃないか。
「5年近く外務大臣を務めたのに、これといった業績は見当たりません。北方領土問題では安倍元首相の影に隠れ、ライフワークであるはずの核兵器廃絶を巡っては、肝心の日本が核兵器禁止条約に不参加です。実績がないのは、官僚が敷いたレールの上を走ることしかできないからでしょう」(国際ジャーナリスト・春名幹男氏)
岸田首相の政治姿勢についても、海外メディアはビミョーなまなざしを向けている。「岸田はリベラル」との見方に対し、英BBC放送(4日付)は〈岸田氏は党内のベテラン議員からの支持を維持するために、党改革と同時に、保守派にも迎合しなければならないかもしれない〉と強調。「聞く力」を掲げる岸田首相には、何とも皮肉である。
「『耳を傾ける』といえば聞こえは良いが、結局は『右顧左眄』に過ぎません。総裁選で敵基地攻撃能力について『有力な選択肢』と言ったのも、保守層への配慮ではないか」(春名幹男氏)
さすがアベ・スガを踏襲しているだけある。岸田外交にも期待はできない。

●派閥バランスに配慮 副大臣・政務官を決定 新政権 10/6
政府は6日の臨時閣議で、副大臣26人・政務官28人の人事を決定した。起用は自民党の派閥勢力をほぼ反映し、各派のバランスに配慮した。
副大臣を自民党の派閥別で見ると、安倍晋三元首相の出身派閥で最大の細田派が6人。麻生派は5人、旧竹下派は3人、二階派と岸田派は各2人だった。閣僚起用がなかった石破派と石原派からは、冨樫博之復興副大臣、鬼木誠防衛副大臣がそれぞれ入った。無派閥は、菅義偉前首相を支持するグループに所属する黄川田仁志内閣府副大臣ら3人。公明党も横山信一復興副大臣ら3人だった。女性は鈴木貴子外務副大臣1人だった。
政務官で女性は公明党の鰐淵洋子文部科学政務官ら4人が登用された。派閥別では無派閥が7人で最も多く、細田派と二階派各6人、岸田派3人、麻生派2人、旧竹下派1人で、石破派と石原派はゼロだった。公明党は3人。
岸田文雄首相は首相官邸で開いた副大臣会議で、「官僚との適切な信頼関係の下、各省の力が十分発揮できる環境づくりに取り組んでほしい。全力を尽くしていただきたい」と語った。 

●赤木さん妻、岸田首相に森友再調査を要望「私の話を聞いてください」 10/6
学校法人「森友学園」への国有地売却を巡り、財務省の決裁文書改ざんを苦に自殺した近畿財務局職員、赤木俊夫さん(当時54歳)の妻雅子さん(50)が6日、岸田文雄新首相に直筆の手紙を送り、改ざん問題の再調査を求めた。代理人弁護士が内容とともに公表した。
手紙は計2枚で、「私の話を聞いてください」との文言で始まる。6月に開示された「赤木ファイル」で、赤木さんが改ざんに抵抗する内容のメールを残していたことに触れ「夫は改ざんをやるべきではないと本省に訴えている」と説明。しかし、メールへの返信内容が明らかになっていないとして、「夫が正しいことをしたことに対し、財務省がどのような対応をしたのか調査してほしい」と要望した。
雅子さんは「正しいことが正しいと言えない社会はおかしいと思います。岸田総理大臣ならわかってくださると思います」と記述。「第三者による再調査で真相をあきらかにしてください」と締めくくっている。
改ざん問題の再調査を巡っては、自民党総裁選でも立候補者たちから発言が相次いだ。岸田首相は「国民が納得するまで説明を続ける」と述べたが、再調査には否定的な姿勢を示している。
雅子さんは総裁選の投開票前に毎日新聞のインタビュー取材に応じ、「新政権は『安倍・菅政治』の負の部分を清算すべきだと思う。誰が総理・総裁になっても再調査を実施してほしい」と語っていた。
岸田首相に送った手紙の主な内容
赤木雅子さんが岸田文雄首相に送った手紙の主な内容は次の通り。(内容は原文通りですが、表記の一部を読みやすいように修正した箇所があります)

内閣総理大臣 岸田文雄様   
私の話を聞いてください。私の夫は3年半前に自宅で亡くなりました。亡くなる1年前、公文書の改ざんをした時から体調を崩し体も心も壊れ最後は自ら命を絶ってしまいました。夫の死は公務災害が認められたので、職場に原因があることに間違いありません。財務省の調査は行われましたが、夫が改ざんを苦に亡くなったことは書かれていません。なぜ書いてないのですか? 赤木ファイルの中で夫は改ざんや書き換えをやるべきではないと本省に訴えています。それにどのように返事があったのかまだわかっていません。夫が正しいことをしたこと、それに対して財務省がどのような対応をしたのか調査してください。そして新たな調査報告書には夫が亡くなったいきさつをきちんと書いてください。正しいことが正しいと言えない社会はおかしいと思います。岸田総理大臣ならわかってくださると思います。第三者による再調査で真相をあきらかにしてください。   赤木雅子
 

 

●岸田新内閣で初入閣の「若手3議員」、同期から見た人物像とは 10/7
初入閣が13人 若手抜てきの人事
岸田内閣が発足しました。菅前首相が不出馬表明をしてから約1カ月間、この日が来ることをひそかに心の中で楽しみにしていた私ですが、今回の岸田文雄氏はこれまでとは少し違うと思います。「優柔不断で決められない男」とやゆされていた岸田氏ですが、解散時期を自らの意思で当初目されていた11月7日投開票の日程を10月31日に早める決断をしました。
これには当然、いろいろな方々からの提案もあったのだろうと思いますが、最終的に決断を下すのは首相です。1週間ズレるだけで、各立候補者の陣営はてんやわんやとなります。
ある事務所の秘書は「1週間早まったからもう目玉がゆでたまごになりますよ」と表現していました。あまりの忙しさに目玉が加熱されて固まってしまうという意味なのでしょう。混乱具合がとてもよく伝わってきます。
いずれにせよ、野党陣営にも混乱を与えることになり、宰相としての手腕を発揮していると評することができるでしょう。決断できる男、リーダーとして十分な働きをしているのではないでしょうか。
そしてなんといっても組閣です。マスコミ評を見ると、「地味だ」「知らない人ばかりだ」などと酷評も目にしますが、それはそうでしょう。初入閣が13人もおり、しかもその中には衆院当選3回の若手議員が3人もいるのです。
牧島かれん党青年局長はデジタル相、堀内詔子環境副大臣はワクチン担当相、小林鷹之元防衛政務官は新設する経済安全保障担当相となりました。
これには私の目玉がゆでたまごになりました。先日の記事で、牧島かれん氏が入閣することを予想していましたが、半ば願望も含まれていたため、筆者にとってもサプライズ人事になりました。この組閣についてひもといていきましょう。
組閣において 二階派にも配慮
先日の記事では組閣における注目ポイントとして、(1)論功行賞、(2)挙党一致体制、(3)選挙対策の3つを挙げました。
今回の人事を見ると、この3つがきれいに当てはめられていました。自民党総裁選で協力してくれた派閥への恩返しをしっかりとやってのけています。
特に参議院議員へ感謝をしていることがよく表れています。先の総裁選では、河野氏を支持した参議院議員は一桁程度とも言われており、多くの参議院議員が岸田氏を支持していたとのことで、その恩義を感じているのです。通常の内閣人事では参議院議員の大臣は1〜2人のところ、今回は3人も入っています。岸田式の「配慮」がここにも表れています。
また、岸田氏は新総裁に選ばれた後に「ここからはノーサイド。全員野球で戦っていこう」という旨のコメントをしましたが、スポーツの垣根を超えるくらいの包容力を見せたのが、二階派への心配りです。
若手の小林鷹之氏の登用は目玉中の目玉人事ですが、山口壮(環境相)氏の登用は二階派(特に二階氏)からするとしびれるポイントでしょう。元々、民主党にいた山口氏は二階氏のパワーによって自民党に引っ張られ、地元の自民党兵庫県連では認められなかったので、二階氏のお膝元の自民党和歌山県連に所属をするという変化球を使ってまで二階氏に守られていた方です。その山口氏を環境相として受け入れるのですから、岸田氏からすれば、正しく「敵に塩を送る」人事といえるでしょう。
いずれにせよ、今回の一番の目玉人事は、先述の若手3回生議員の大臣への登用です。
通常では副大臣を経験してから大臣を経験するということが通例です。しかし、牧島氏、小林氏は副大臣を経験していません。
余談ですが、当選同期というのは年齢を超えて皆、基本的に仲が良いものです。牧島かれん氏は「かれんちゃん」、小林鷹之氏は「たかちゃん」、堀内詔子氏は「のりちゃん」と互いに呼び合っています。ちなみに、3人と同期の私は「けんちゃん」です。
この若手3人はどういう人物なのか、筆者の目から見た人物評をお伝えしたいと思います。
初入閣となる 若手3人の人物像
牧島かれん氏
自民党には数多くの勉強会が存在します。経済、金融、農業、医療などの分野から、日米、日中、日韓などの外交関係など、実に幅広いのです。それぞれの勉強会には会長がいるのですが、実際に管理運営しているのは「事務局長」です。そして、牧島氏は党内で最も多くの事務局長を引き受けているといっても過言ではないほどの、ザ・事務局長なのです。
これはただの人気者では務めることはできず、政策的な能力、役所との交渉や調整、そしてなんといっても我の強い議員たちの意見を集約しまとめていく力が求められます。
つまり政治家としての能力が凝縮して求められるこのポジションを牧島氏がやってきているということは、すなわち大臣としても即戦力であると判断されたのでしょう。事実、彼女をよく知る人たちの間でも、今回の抜てきについて文句は出ていません。
デジタル分野については平井卓也前担当大臣の右腕として10年近く務めているので、今回担務のデジタル分野についても十分に能力を発揮することでしょう。
小林鷹之氏
開成高校(バスケ部キャプテン)から東大法学部(ボート部主将)を経て財務省に入省。ハーバード大学大学院に留学もしているスーパーエリート。さらに身長186センチの爽やかイケメンです。
ここまでくると読者の皆様は「きっとひん曲がった性格なんだろうよ」と思い、華やかな経歴の裏に潜む彼のドロドロしたものを期待すると思うのですが、それさえも大きく裏切る性格の良さが彼には備わっています。
人の悪口を決して言わないし、いつも笑顔で、さらには子煩悩で、娘の話をよくする良き父でもあるのです。おまけに選挙も強くて、カラオケもうまい。
欠点を強いて言うなら、ほんの少しだけ内股ということぐらいでしょうか。とはいえ、内股なのはバスケット時代のシュートの癖だというから欠点ともいえなさそうですが…。
仕事についての評価は言わずもがななので、小林氏についてのコメントはこれくらいにしておきます。
堀内詔子氏
報道でご存じの方も多いかと思いますのが、まさに華麗なる一族の生まれで、少し会話をするだけで育ちの良さが伝わってくる人物です。幼稚園から大学まで学習院という「お嬢様育ち」で、まさに歩く気品だと誰もが感じることでしょう。ご主人はあの富士急行の社長です。
筆者が堀内氏と初めて会ったのは自民党のネット番組でした。筆者が司会をしたときにゲストで来てくれました。当時はお互い新人議員でしたので、前職について聞いたところ、「フジヤマミュージアム」の館長をしていたとのことでした。そして、富士山について熱弁されていた姿を見てその誠実さがひしひしと伝わってきました。
堀内氏のリーダーシップは調和を重んじた発揮の仕方なのだと思います。そして、周囲の人たちが「助けてあげよう、力になってあげよう」という気持ちになってしまう人物です。国会議員に当選後は厚生労働委員会へ熱心に出席していたことも印象的です。
河野太郎氏がワクチン担当相としてコロナワクチン接種の道筋をつけましたが、堀内氏は後任として、多くの方の力を最大限に引き出して安定的に政策を前に進めていくことでしょう。
今回抜てきされた若手3人に共通していることは「敵がいない」ことです。人格的にも穏やかで、人当たりが良くて、とても感じが良いのです。所管する部門で部下の方々とうまく調和を図っていけそうな人たちばかりです。そしてここぞ、というときには念入りに調整をした上でしっかりとした決断をすることができる人材です。
さらに党本部で総務会長に抜てきされた福田達夫氏も当選3回の期待の若手で、その手腕をどのように発揮するのかも楽しみなところです。
いずれにせよ、まずは総選挙です。これを勝ち抜いた後に、若手議員たちの本当の戦いが始まります。年明けの通常国会が楽しみです。

●岸田内閣の懸念材料は国債の増発にあり 10/7
5日に実施された10年国債の入札の結果は、無難との予想が覆され、低調なものとなった。最低落札価格が予想を下回ったこともあるが、応札倍率が2.45倍と2015年5月の2.24倍以来の低さとなった。これを受けて5日の債券先物は下げに転じ、10銭安の151円50銭で引けていた。
今回の10年国債入札が低調な結果となったのは岸田内閣が発足し、大型の補正予算が編成されると大量の国債増発が実施され、しかもバッファーとなっていた前倒し発行分も少なくなり、その多くを市中消化で補わなくてはならなくなるからとの見方があった。
たしかに岸田氏は自民党総裁選で数十兆円の大規模な経済対策の必要性を訴えていた。もともと財政規律派とされていたが、いったんその旗を降ろした格好なのかはわからない。しかしもし20兆円、30兆円の経済対策でその金額が真水であるとすれば、その分は国債増発で補わざるを得ない。
まだ経済対策の規模や真水部分の大きさがはっきりしているわけではない。このため、さすがに先を読む市場ではあっても、その懸念で投資家が引いてしまい、業者が入札の札を入れるのを躊躇したとは考えづらい。
今回の10年国債入札が低調となっていたのは、前の週に10年債利回りが一時0.070%まで上昇しており、そこからやや利回りが低下し、10年債利回りが0.050%近辺となっていたことで、利回りに対しやや物足りなさを感じた面があろう。
さらに世界的なエネルギー価格の上昇を背景に欧米の長期金利が上昇しつつあることで、日本の長期金利にも上昇圧力が掛かることも予想され、今回はいったん様子をみた投資家も多かったためではないかと思われる。
それでも岸田内閣が船出して、債券市場関係者が最も気にしているのは今後の国債増発の行方であることは確かではある。

●岸田内閣は「『四人羽織内閣』と国民の目に映っている」 10/7
日本維新の会の馬場伸幸幹事長は6日の記者会見で、共同通信など報道各社の世論調査で岸田文雄内閣の支持率が40〜50%台だったとした上で「ご祝儀相場とまではいっていない。岸田内閣は二人羽織ではなく『四人羽織内閣』なのではないかと国民の目に映っている」と述べた。
4人は、首相本人と、岸田政権誕生のキングメーカーとされる自民党の安倍晋三元首相、副総裁に就く麻生太郎前副総理兼財務相、甘利明幹事長だとの認識を示した。

●岸田政権、安倍元首相が推した高市カラー抑制か 10/7
岸田文雄首相の誕生に影響力があったとされる安倍晋三元首相の意向が、新政権の人事に必ずしも反映されなかったと永田町で話題になっている。長期政権を築いた安倍氏の求心力に陰りが見えるとの声が聞かれ、同氏が自民党総裁選で支援し、積極的な財政出動や安全保障政策を訴える高市早苗政調会長のカラーも抑制気味になりそうだとの指摘がある。
事情を知る複数の関係者によると、安倍元首相は自民党幹事長に高市氏を、官房長官に萩生田光一前文科相を希望していた。衆院選を目前に控えて保守層のつなぎ止めが重要と判断し、自身の政治信条に近い高市、萩生田両氏を党と内閣の要にそれぞれ据えようとしたという。
しかし、ふたを開けてみたら幹事長には甘利明税調会長、官房長官には松野博一元文科相が就任した。安倍氏の出身派閥である細田派の重鎮、森喜朗元首相が反対し、安倍氏の案は撤回されたという。保守色の濃い人選は「党内の大勢の意見とは異なった」と、政府関係者は指摘する。
安倍政権時代の安保・外交方針を高く評価してきた経済官庁幹部は、「今回の人事を見て安倍氏が派閥内を掌握できていないことが分かった」と話す。
それでも高市氏は、党四役のひとつで、政策を取りまとめる政調会長に就任した。しかし、政府・与党関係者によると、少なくとも現在策定中の衆院選公約や経済対策の外交・安保の分野では、あまり高市氏が関わらない形で作業が進んでいるという。
高市氏は総裁選の決戦投票で岸田氏と協力を模索し合ったが、軽武装・経済重視の宏池会代表である岸田氏が、保守色の強い「高市氏の政策とどこに共通点があるのか疑問が大きい」(駒沢大学の山崎望教授)との声がもともと出ていた。
岸田氏も、総裁選では中国を念頭に中期防衛力整備計画の改定前倒しや敵基地攻撃能力の保有に前向きな姿勢を見せていた。しかし、4日の首相就任会見では、「(中国は)日本にとって重要な国であり、対話は続けていかなければならない」など穏健な発言にとどめた。
「政策は岸田カラーが強くなる」と、前出の政府・与党同関係者は言う。
ある経済官庁幹部は、安倍氏に近い高市氏が閣外の政調会長に就任したことで、財政規律を重視する岸田氏の政策運営が大きく妨げられることはないのではないかと期待する。高市氏は総裁選期間中、自国通貨建て国債を日銀買い入れや国内消化できている日本で財政破綻は起こらないと明言し、2パーセントの物価目標が達成できるまで、財政規律目標の達成を凍結する方針を示していた。
共同通信が4─5日に実施した世論調査では、岸田首相が安倍元首相、菅義偉前首相の政権の路線を「転換するべきだ」との回答は69・7%にのぼった。

 

●岸田首相の所信表明演説 10/8
(1)はじめに
第205回国会の開会にあたり、新型コロナウイルスにより亡くなられた方々、そして、ご家族の皆様方に心よりお悔やみを申し上げるとともに、厳しい闘病生活を送っておられる方々に心よりお見舞いを申し上げます。また、我が国の医療、保健、介護の現場を支えて下さっている多くの方々、感染対策に協力して下さっている事業者の方々、そして、国民の皆さんに、深く感謝申し上げます。新型コロナとの闘いは続いています。こうした中、このたび、私は、第100代内閣総理大臣を拝命いたしました。私は、この国難を、国民の皆さんと共に乗り越え、新しい時代を切り拓(ひら)き、心豊かな日本を次の世代に引き継ぐために、全身全霊を捧(ささ)げる覚悟です。私が、書きためてきたノートには、国民の切実な声があふれています。一人暮らしで、もしコロナになったらと思うと不安で仕方ない。テレワークでお客が激減し、経営するクリーニング屋の事業継続が厳しい。里帰りができず、一人で出産。誰とも会うことが出来ず、孤独で、不安。今、求められているのは、こうした切実な声を踏まえて、政策を断行していくことです。まず、喫緊かつ最優先の課題である新型コロナ対応に万全を期します。国民に納得感を持ってもらえる丁寧な説明を行うこと、常に最悪の事態を想定して対応することを基本とします。また、新型コロナで大きな影響を受ける方々を支援するため、速やかに経済対策を策定します。その上で、私が目指すのは、新しい資本主義の実現です。我が国の未来を切り拓くための新しい経済社会のビジョンを示していきます。国民の皆さんと共に、これらの難しい課題に挑戦していくためには、国民の声を真摯(しんし)に受け止め、かたちにする、信頼と共感を得られる政治が必要です。そのために、国民の皆さんとの丁寧な対話を大切にしていきます。私をはじめ、全閣僚が、様々な方と車座対話を積み重ね、その上で、国民のニーズに合った行政を進めているか、徹底的に点検するよう指示していきます。そうして得た信頼と共感の上に、私は、多様性が尊重される社会を目指します。若者も、高齢者も、障害のある方も、ない方も、男性も、女性も、全ての人が生きがいを感じられる社会です。経済的環境や世代、生まれた環境によって生じる格差やそれがもたらす分断。これが危機によって大きくなっているとの指摘があります。同時に、我々は、家族や仲間との絆の大切さに改めて気付きました。東日本大震災の時に発揮された日本社会の絆の強さ。世界から賞賛されました。危機に直面した今こそ、この絆の力を発揮するときです。全ての人が生きがいを感じられる、新しい社会を創っていこうではありませんか。日本の絆の力を呼び起こす。それが私の使命です。
(2)第1の政策 新型コロナ対応
まず、新型コロナ対応です。足下では、感染者数は落ち着きを見せ、緊急事態宣言は全面的に解除されました。菅前総理の大号令の下、他国に類を見ない速度でワクチン接種が進み、この闘いに勝つための大きな一歩を踏み出せました。前総理のご尽力に、心より敬意を表します。しかし、楽観視はできません。危機対応の要諦は、常に最悪の事態を想定することです。感染が落ち着いている今こそ、様々な事態を想定し、徹底的に安心確保に取り組みます。与えられた権限を最大限活用し、病床と医療人材の確保、在宅療養者に対する対策を徹底します。希望する全ての方への2回のワクチン接種を進め、さらに、3回目のワクチン接種も行えるよう、しっかりと準備をしていきます。経口治療薬の、年内実用化を目指します。あわせて、電子的なワクチン接種証明の積極的活用、予約不要の無料検査の拡大に取り組みます。これらの安心確保の取り組みの全体像を、早急に国民にお示しするよう関係大臣に指示しました。国民の皆さんが先を見通せるよう、丁寧に説明してまいります。同時に、これまでの対応を徹底的に分析し、何が危機管理のボトルネックだったのかを検証します。そして、司令塔機能の強化や人流抑制、医療資源確保のための法改正、国産ワクチンや治療薬の開発など、危機管理を抜本的に強化します。国民の協力を得られるよう経済支援を行うことも大切です。大きな影響を受ける事業者に対し、地域、業種を限定しない形で、事業規模に応じた給付金を支給します。新型コロナの影響により苦しんでおられる、非正規、子育て世帯などお困りの方々を守るための給付金などの支援も実行していきます。
(3)第2の政策 新しい資本主義の実現
次に、私の経済政策について申し上げます。マクロ経済運営については、最大の目標であるデフレからの脱却を成し遂げます。そして、大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の推進に努めます。危機に対する必要な財政支出は躊躇(ちゅうちょ)なく行い、万全を期します。経済あっての財政であり、順番を間違えてはなりません。経済をしっかり立て直します。そして、財政健全化に向けて取り組みます。その上で、私が目指すのは、新しい資本主義の実現です。新自由主義的な政策については、富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生んだ、といった弊害が指摘されています。世界では、健全な民主主義の中核である中間層を守り、気候変動などの地球規模の危機に備え、企業と政府が大胆な投資をしていく。そうした、新しい時代の資本主義経済を模索する動きが始まっています。今こそ、我が国も、新しい資本主義を起動し、実現していこうではありませんか。「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」。これがコンセプトです。成長を目指すことは、極めて重要であり、その実現に向けて全力で取り組みます。しかし、「分配なくして次の成長なし」。このことも、私は、強く訴えます。成長の果実を、しっかりと分配することで、初めて、次の成長が実現します。大切なのは、「成長と分配の好循環」です。「成長か、分配か」という、不毛な議論から脱却し、「成長も、分配も」実現するために、あらゆる政策を総動員します。新型コロナで、我が国の経済社会は、大きく傷つきました。一方で、これまで進んで来なかったデジタル化が急速に進むなど、社会が変わっていく確かな予感が生まれています。今こそ、科学技術の恩恵を取り込み、コロナとの共生を前提とした、新しい社会を創り上げていくときです。この変革は、地方から起こります。地方は、高齢化や過疎化などの社会課題に直面し、新たな技術を活用するニーズがあります。例えば、自動走行による介護先への送迎サービスや、配達の自動化、リモート技術を活用した働き方、農業や観光産業でのデジタル技術の活用です。ピンチをチャンスに変え、我々が子供の頃夢見た、わくわくする未来社会を創ろうではありませんか。そのために、「新しい資本主義実現会議」を創設し、ビジョンの具体化を進めます。新しい資本主義を実現していく車の両輪は、成長戦略と分配戦略です。
まず、成長戦略の第1の柱は、科学技術立国の実現です。学部や修士・博士課程の再編、拡充など科学技術分野の人材育成を促進します。世界最高水準の研究大学を形成するため、10兆円規模の大学ファンドを年度内に設置します。デジタル、グリーン、人工知能、量子、バイオ、宇宙など先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行います。民間企業が行う未来への投資を全力で応援する税制を実現していきます。また、イノベーションの担い手であるスタートアップの徹底支援を通じて、新たなビジネス、産業の創出を進めます。そして、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、温暖化対策を成長につなげる、クリーンエネルギー戦略を策定し、強力に推進いたします。第2の柱は、地方を活性化し、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」です。地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていきます。そのために、5Gや半導体、データセンターなど、デジタルインフラの整備を進めます。誰一人取り残さず、全ての方がデジタル化のメリットを享受できるように取り組みます。第3の柱は、経済安全保障です。新たに設けた担当大臣の下、戦略物資の確保や技術流出の防止に向けた取り組みを進め、自律的な経済構造を実現します。強靱(きょうじん)なサプライチェーンを構築し、我が国の経済安全保障を推進するための法案を策定します。第4の柱は、人生100年時代の不安解消です。将来への不安が、消費の抑制を生み、経済成長の阻害要因となっています。兼業、副業、あるいは、学びなおし、フリーランスといった多様で柔軟な働き方が拡大しています。大切なのは、どんな働き方をしても、セーフティーネットが確保されることです。働き方に中立的な社会保障や税制を整備し、「勤労者皆保険」の実現に向けて取り組みます。人生100年時代を見据えて、子供から子育て世代、お年寄りまで、全ての方が安心できる、全世代型社会保障の構築を進めます。
次に、分配戦略です。第1の柱は、働く人への分配機能の強化です。企業が、長期的な視点に立って、株主だけではなく、従業員も、取引先も恩恵を受けられる「三方良し」の経営を行うことが重要です。非財務情報開示の充実、四半期開示の見直しなど、そのための環境整備を進めます。政府として、下請け取引に対する監督体制を強化し、大企業と中小企業の共存共栄を目指します。また、労働分配率向上に向けて賃上げを行う企業への税制支援を抜本強化します。第2の柱は、中間層の拡大、そして少子化対策です。中間層の拡大に向け、成長の恩恵を受けられていない方々に対して、国による分配機能を強化します。大学卒業後の所得に応じて「出世払い」を行う仕組みを含め、教育費や住居費への支援を強化し、子育て世代を支えていきます。保育の受け皿整備、幼保小連携の強化、学童保育制度の拡充や利用環境の整備など、子育て支援を促進します。こども目線での行政の在り方を検討し、実現していきます。第3の柱は、看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入を増やしていくことです。新型コロナ、そして、少子高齢化への対応の最前線にいる皆さんの収入を増やしていきます。そのために、公的価格評価検討委員会を設置し、公的価格の在り方を抜本的に見直します。第4の柱は、公的分配を担う、財政の単年度主義の弊害是正です。科学技術の振興、経済安全保障、重要インフラの整備などの国家課題に計画的に取り組みます。
これらに加え、地方活性化に向けた基盤づくりにも積極的に投資します。東日本大震災からの復興なくして日本の再生なし。この強い思いの下で、被災者支援、産業・生業(なりわい)の再建、福島の復興・再生に全力で取り組みます。農林水産業の高付加価値化と輸出力強化を進めるとともに、家族農業や中山間地農業の持つ多面的な機能を維持していきます。新型コロナによる米価の大幅な下落は、深刻な課題です。当面の需給の安定に向けた支援など、十分な対策を行います。老朽化対策を含め、防災・減災、国土強靱化の強化とともに、高速道路、新幹線など、交通、物流インフラの整備を推進します。いのち輝く未来社会のデザイン。これが、2025年大阪・関西万博のテーマです。地域から、IoTや人工知能などのデジタル技術を活用した未来の日本の姿を示します。観光立国復活に向けた観光業支援、文化立国に向けた地域の文化、芸術への支援強化にも取り組みます。
(4)第3の政策 国民を守り抜く、外交・安全保障
私の内閣の三つ目の重点政策は、「国民を守り抜く、外交、安全保障」です。私は、外交、安全保障の要諦は、「信頼」だと確信しています。先人たちの努力により、世界から得た「信頼」を基礎に、三つの強い「覚悟」をもって毅然(きぜん)とした外交を進めます。第1に、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を守り抜く覚悟です。米国をはじめ、豪州、インド、ASEAN(東南アジア諸国連合)、欧州などの同盟国・同志国と連携し、日米豪印も活用しながら、「自由で開かれたインド太平洋」を力強く推進します。深刻化する国際社会の人権問題にも、省庁横断的に取り組みます。第2に、我が国の平和と安定を守り抜く覚悟です。我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、我が国の領土、領海、領空、そして、国民の生命と財産を断固として守り抜きます。そのために、国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の改定に取り組みます。この中で、海上保安能力や更なる効果的措置を含むミサイル防衛能力など防衛力の強化、経済安全保障など新しい時代の課題に、果敢に取り組んでいきます。こうした我が国の外交・安全保障政策の基軸は、日米同盟です。私が先頭に立って、インド太平洋地域、そして、世界の平和と繁栄の礎である日米同盟を更なる高みへと引き上げていきます。日米同盟の抑止力を維持しつつ、丁寧な説明、対話による信頼を地元の皆さんと築きながら、沖縄の基地負担の軽減に取り組みます。普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古沖への移設工事を進めます。北朝鮮による核、ミサイル開発は断じて容認できません。日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指します。拉致問題は最重要課題です。全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、全力で取り組みます。私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意です。第3に、地球規模の課題に向き合い、人類に貢献し、国際社会を主導する覚悟です。核軍縮・不拡散、気候変動などの課題解決に向け、我が国の存在感を高めていきます。被爆地広島出身の総理大臣として、私が目指すのは、「核兵器のない世界」です。私が立ち上げた賢人会議も活用し、核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、唯一の戦争被爆国としての責務を果たします。これまで世界の偉大なリーダーたちが幾度となく挑戦してきた核廃絶という名の松明(たいまつ)を、私も、この手にしっかりと引き継ぎ、「核兵器のない世界」に向け、全力を尽くします。世界で保護主義が強まる中、我が国は自由貿易の旗手を務めます。デジタル時代の信頼性ある自由なデータ流通、「DFFT」を実現するため、国際的なルールづくりに積極的な役割を果たしていきます。中国とは、安定的な関係を築いていくことが、両国、そして、地域及び国際社会のために重要です。普遍的価値を共有する国々とも連携しながら、中国に対して主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めると同時に、対話を続け、共通の諸課題について協力していきます。ロシアとは、領土問題の解決なくして、平和条約の締結はありません。首脳間の信頼関係を構築しながら、平和条約締結を含む日露関係全体の発展を目指します。韓国は重要な隣国です。健全な関係に戻すためにも、我が国の一貫した立場に基づき、韓国側に適切な対応を強く求めていきます。
(5)新しい経済対策
「新型コロナ対応」、「新しい資本主義」、「外交・安全保障」。これら三つの政策を着実に実行することで、国民の皆さんと共に、新しい時代を切り拓いていきます。本日朝の閣議で、新型コロナ対応に万全を期すとともに、新しい資本主義を起動させるため、新たな経済対策を策定するよう指示しました。総合的かつ大胆な経済対策を速やかにとりまとめます。
(6)おわりに
憲法改正についてです。憲法改正の手続きを定めた国民投票法が改正されました。今後、憲法審査会において、各政党が考え方を示した上で、与野党の枠を超え、建設的な議論を行い、国民的な議論を積極的に深めていただくことを期待します。最後になりますが、このようなことわざがあります。「早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め」新型コロナという目に見えない敵に対し、我々は、国民全員の団結力によって一歩一歩前進してきました。改めて、この日本という国が、先祖代々、営々と受け継いできた、人と人のつながりが生み出す、やさしさ、ぬくもりがもたらす社会の底力を強く感じます。正に、「この国のかたち」の原点です。この「国のかたち」を次の世代に引き継いでいくためにも、私たちは、経済的格差、地域的格差などがもたらす分断を乗り越え、コロナとの闘いの先に、新しい時代を切り拓いていかなければなりません。そのために、みんなで前に進んでいくためのワンチームを創りあげます。「早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め」一人であれば、目的地に早く着くことができるかもしれません。しかし、仲間とならもっと遠く、はるか遠くまで行くことができます。私は、日本人の底力を信じています。新型コロナの中にあってもなお、デジタル、グリーン、人工知能、量子、バイオ、宇宙、新しい時代の種が芽吹き始めています。この萌芽(ほうが)を大きな木に育て、経済を成長させ、その果実を国民全員で享受していく、明るい未来を築こうではありませんか。明けない夜はありません。国民の皆さんと共に手を取り合い、明日への一歩を踏み出します。同僚議員各位、そして、何よりも国民の皆さんのご協力を心からお願い申し上げ、所信表明とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。  
 

 

●「中身すかすか」「三番煎じ」 野党、所信演説を一斉批判 10/8
野党は8日、岸田文雄首相の所信表明演説について「本当に中身はすかすかだ」(立憲民主党の枝野幸男代表)などと一斉に批判した。
野党は月末に迫る衆院選に向け対決姿勢を強めており、週明けの各党代表質問で首相を厳しくただす方針だ。
枝野氏は国会内で記者団に対し、「岸田氏は首相になるために準備してきた方だと思っていたので、甚だ残念だ」と挑発。衆院選について「抽象論で中身を伴わない与党に対し、しっかりと具体策を示しながら戦う立民という構図になる」と強調した。
共産党の志位和夫委員長も「新しい資本主義も中身はアベノミクスの『三番煎じ』だ」と酷評。被爆地の広島出身を強調する首相が、核兵器禁止条約の是非に触れなかったことについても「結局、核抑止だ。広島出身と言うのであれば、そういう政治でいいのか」とこき下ろした。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、首相の目玉経済政策「令和版所得倍増」が演説から消えたことを疑問視。「アベノミクスと結局何も変わらない」と断じた。
安倍、菅両政権とは「是々非々」で対応してきた日本維新の会の馬場伸幸幹事長も「『改革』という言葉が全く出てこない。基本の部分がどうも私たちとずれている」と突き放した。

●岸田首相所信演説 与党称賛、野党は一斉批判 10/8
岸田文雄首相が8日に行った初の所信表明演説に対し、与党からは新型コロナウイルス対応や経済対策の推進に全力を尽くす意向を強調したことを高く評価する声が相次いだ。一方、野党は一斉に批判し、間近に迫る衆院選を前に対決姿勢を強めた。
「首相の思いが込められた演説だ。今の時代が求めている課題について手順を含めて説明された」
自民党の甘利明幹事長は演説をこう称賛した。公明党の山口那津男代表も「力強く、気迫を込めた立派な演説だった」と歓迎。首相が「早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め」とのアフリカのことわざを引用したことについて「これが岸田政権の姿勢だと象徴的に示した」と述べた。
ただ、演説には首相が訴える「令和版所得倍増計画」などへの言及はなく、「いろいろなところに気を使って角も芯も取れてしまった印象だ。自分の内閣なのだから、もっと言いたいことを言ってもいい」(ベテラン)との声もあった。
立憲民主党の枝野幸男代表は「美辞麗句を並べるだけで、具体的にどうするかの中身がなかった」と批判した。岸田内閣の支持率は野党が危惧したほど伸びていないが、野党の支持率も相変わらず低迷。枝野氏は11日の代表質問で具体的な政策を示し、首相との違いをアピールする構えだ。
共産党の志位和夫委員長は「新しい資本主義というキーワードが出てきたが、中身はアベノミクスの3番煎じだ」と語り、国民民主党の玉木雄一郎代表は「中身が薄く、鶏肉の入っていない親子丼という感じだ」と酷評。日本維新の会の馬場伸幸幹事長も「改革という言葉がまったく出てこない」と訴えた。

●岸田首相の政権運営は“番頭役”で帰趨決まる 「岸田カラー」打ち出せるか 10/8
自民党総裁選で新総裁に選出された岸田文雄氏が4日、第100代首相に就任した。岸田政権のスタートだ。自民党役員と閣僚の人事には、安倍晋三元首相に配慮した姿がうかがえる。左派メディアの「安倍カラー」人事という批判は当たっている。岸田政権は「安倍政治」を基本的に継承したうえで、独自の「岸田カラー」を打ち出すことになる。
どんな組織もそうだが、リーダーだけでは組織を運営できない。親身になって支え、ときに汚れ役や諫言をしてくれる番頭や側近が必要だ。
菅義偉前首相の政権運営がうまくいかなかった理由に、「番頭や側近を欠いた」ことがある。朝日新聞が珍しく鋭い分析をしていた。
「誰よりも働くから、部下としては重宝される。だから政権2番手の官房長官としては本領を発揮した。(中略)しかし、同じことを自分が頂上に立った時にできたのか。政治家が頂点に登り詰め、地位を保てるかは番頭や側近に左右される。(中略)菅氏にはそういう存在がいなかった。1人だった」(9月28日付)−。
安倍氏は、菅政権発足直後に「菅首相には菅官房長官がいないという話もある」と冗談めかして語っていた。結局、それが菅氏を苦しめ、最後は党の役員人事や衆院解散のタイミングを間違え、求心力を失った。総裁選でも河野太郎氏を支持し、政局勘を鈍らせた。
岸田首相の場合はどうか。党の要の幹事長に、甘利明氏を起用した。安倍氏や党副総裁となった麻生太郎氏と気脈が通じる「3A」の一人だ。総裁選でも岸田氏を支持した。二階俊博前幹事長の後任でもあり、大物の起用が必要だった。党内統治は万全だ。甘利幹事長が、岸田首相をどう支えていくかで政権運営の帰趨(きすう)が決まると言ってよい。
内閣の要の官房長官には、細田派の松野博一氏を起用した。自派の岸田派からの起用でも良かったが、あえて細田派からの起用だ。「安倍氏は別の人物を推した」との話もあるが、悪い人事ではない。地味だが、調整能力もある。自分を主張するタイプではなく、口も堅い。裏の仕事や汚れ役もできる。安倍政権での菅官房長官と重なる。
政務の官房副長官は、岸田派の木原誠二氏と磯崎仁彦氏で固めた。事務の副長官には、栗生(くりゅう)俊一元警察庁長官を起用した。前任の杉田和博氏と同じ警察出身で官僚へにらみを利かせる。筆頭格の首相秘書官には、嶋田隆元経産事務次官が就いた。次官経験者の起用は異例。官僚をコントロールするためだ。
総じてよく考えられた人事であり、安定した政権運営を期待したい。

●岸田内閣が発足 大臣は適材適所ってホント? 必要な資質を考えよう 10/8
日々のニュースの中に「学び」のきっかけがあります。新聞を読みながら、テレビを見ながら、食卓やリビングでどう話しかけたら、わが子の知的好奇心にスイッチが入るでしょうか。ジャーナリストの一色清さんが毎週、保護者にヒントを教えます。
大臣を「相」と書くのはなぜ?
岸田文雄氏が第100代内閣総理大臣に選ばれ、岸田内閣が発足しました。岸田総理大臣のほかに20人の大臣がメンバーです。「大臣ってどんな人が選ばれて、どんな仕事をするのだろう」。そんな疑問を持つ子どもは多いと思います。今回は、大臣について考えてみましょう。
まず、大臣という言葉ですが、これは古代律令制の日本にすでにあった言葉です。左大臣、右大臣はひな人形の壇上に並んでいるので、昔からあった言葉だとわかります。大臣は法律に書かれている正式名称ですが、新聞では大臣という言葉をあまり使わず「相」という字を使います。財務大臣は財務相、経済産業大臣は経済産業相あるいは経産相という表記になります。総理大臣の場合は首相という言葉をよく使います。「相」というのは、古代中国で君主を支える大臣のことなので、大臣と同じ意味です。私見ですが、新聞で「相」を使う理由は、大臣より1文字短くなるからだと思います。特に総理大臣を首相とすると2文字短くなります。新聞のスペースは限られていますから、2文字や1文字でも短くなることは大事です。積み重なると、より多くの情報を盛り込むこともできるようになります。
ただ、テレビでは「相」をあまり使わず、おもに「大臣」を使います。それは「財務相」も「財務省」も耳で聞くと同じですので、聞き間違いが起こるためです。メディアの都合により、「相」と「大臣」を使い分けているようです。
大臣の数は内閣法で決まっています。総理大臣を除いて本来は14人までです。しかし、特別な必要があれば17人まで増やせることになっています。大臣は多いほうが与党議員に喜ばれるので17人がふつうになっています。これに加えて、今は内閣法の付則などで復興相、五輪相、万博相の3大臣を置くことができるようになっています。このため、17+3の合計20人となっています。大臣といえば、省庁のトップというイメージですが、省庁(内閣府含む)の数は14なので、残りは少子化担当など特定の使命を持った大臣ということになります。
大臣は国会議員でなければならないというわけではありません。憲法では「過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない」とあります。規定上は今なら9人まで民間人を起用することができることになります。今回の内閣に民間人は1人もいませんが、過去には民間から大臣に起用された人が24人います。最近では2012年に民主党政権下で防衛大臣に就いた森本敏氏は大学教授からの起用でした。ほかにも元官僚、経済評論家、経営者、日銀総裁などが起用されています。
専門家より大所高所からの見識?
大臣は小学校の学級でいえば、係のようなものかもしれません。首相に当たる学級委員長はクラスの選挙で選ばれますが、係は委員長が指名する場合もあるのではないでしょうか。風紀係、給食係、生き物係、図書係、保健係、黒板係などが大臣に当たります。学級なら校則をよく守る人が風紀係になったり、動植物が好きな人が生き物係になったり、本の好きな人が図書係になったりしますが、大臣は得意不得意に関係なく指名されることがあります。
最近では、2018年にサイバーセキュリティー(ネット上の安全)担当の大臣になった桜田義孝氏は「自分でパソコンを打つことはない」と国会で答弁しました。USBメモリーという言葉も知らない様子でした。こうした場違いな大臣が生まれるのは、当選を重ねたベテラン議員に花を持たせようとして大臣に指名するためです。
今回誕生した大臣も得意分野を担当する人ばかりではありません。例えば、萩生田光一氏は文部科学大臣から経済産業大臣に横滑りしました。萩生田氏は文部行政には精通しているといわれていますが、経済産業政策についての専門家だとは聞きません。ほかにも以前に環境大臣をしていた人が国土交通大臣になったり、五輪担当大臣や環境大臣をしていた人が財務大臣になったりしています。つまり大臣はその分野にそんなに深い知識や見識を持っている必要はないということのようです。
専門分野でなくても大臣が務まるのは、専門家である官僚が支えるためです。1980年に久保田円次・防衛庁(現防衛省)長官が国会で「重大な問題でございまするので、防衛局長(官僚)から答弁をさせます」と発言して問題になりました。重大な問題だから部下に答えさせるというのは倒錯していて、歴史に残る珍答弁だと思いますが、専門家でない大臣と官僚との関係をよく表している答弁でもあります。今はこれほど露骨な官僚依存答弁をする大臣はいませんが、質問者が「大臣、答えてください」と言ってもかたくなに官僚に答弁させる大臣はよくみかけます。
大臣が専門家でない弊害は、官僚の働き方にも影響しています。国会開会中は翌日の国会でされる質問を質問者からもらい、夜中、あるいは明け方までかけて答弁のペーパーを作るのが官僚の仕事になります。こうした仕事のやり方に気力、体力の限界を感じてやめる官僚が増えているそうです。その分野に精通した大臣が起用されていれば、そこまでする必要はないはずです。
もちろん政治家は大所高所からの見識を持っているのが大事で、細かいところに精通している必要はないという意見もあり、もっともだと思います。ただ、大所高所からの見識も専門知識もともにない大臣がいると、困ります。岸田内閣の閣僚の中にそんな人はいないか、ニュースや国会をよく見て、チェックしたいと思います。

●財務事務次官「バラマキ合戦のような政策論」と月刊誌で批判  10/8
財務省の矢野康治事務次官は、8日発売の月刊誌に寄稿した記事で、新型コロナウイルスの経済対策にまつわる政策論争を「バラマキ合戦」と批判し、このままでは国家財政が破綻する可能性があると訴えました。現職の事務次官による意見表明は異例で、今後、議論を呼びそうです。
財務省の矢野事務次官が記事を投稿したのは、8日発売の月刊誌「文藝春秋」です。
この中で、矢野次官は新型コロナウイルスの経済対策にまつわる政策論争を「バラマキ合戦のような政策論」と例えたうえで「10万円の定額給付金のような形でお金をばらまいても、日本経済全体としては死蔵されるだけだ」などと批判しています。また、先進国では経済対策として次の一手を打つ際には、財源をめぐる議論が必ず行われているとしたうえで「この期に及んで『バラマキ合戦』が展開されているのは、欧米の常識からすると周回遅れどころでなく、二周回遅れ」と批判し、このままでは国家財政が破綻するか、国民に大きな負担がのしかかると訴えています。そして、経済対策については「本当に巨額の経済対策が必要なのか。そのコストや弊害も含めて、よく吟味する必要がある」としています。
鈴木財務大臣は、8日の閣議のあとの記者会見で、寄稿については麻生前財務大臣の了解を得ていることを明らかにし、手続き上は問題がないという認識を示しました。現職の事務次官による意見表明は異例で、今後、議論を呼びそうです。
財務省の矢野事務次官は、昭和60年、当時の大蔵省に入り、菅前総理大臣が官房長官だった当時の秘書官を務めたほか、税制改正を取りまとめる主税局長などを歴任しました。また、大臣官房長を務めていた際は、財務省の決裁文書の改ざん問題を受けた調査報告書の取りまとめにも携わりました。去年7月以降は、予算編成を担当する主計局長として、新型コロナウイルス対策を盛り込んだ昨年度の第3次補正予算や、今年度予算の編成などにあたり、ことし7月に事務次官に就任しました。矢野氏は、財務省内でも財政の健全化を強く訴える立場として知られてきました。
岸田総理大臣は8日夜、総理大臣官邸で記者団に対し「そういった記事が出たということは承知している。ただ、中身をまだ、じっくり読んでいないので、しっかり読んで考えたいと思っている」と述べました。

●株価急落「岸田ショック」との声も 新内閣1週間、ご祝儀相場なく 10/8
岸田内閣発足後の1週間で、日経平均株価が700円超下落した。中国経済の先行き不安など海外要因も大きいが、株式市場では改革に対する期待がしぼみ、急落を「岸田ショック」と評する海外メディアも。どんな経済政策や成長戦略が今後具体化されていくのか、投資家も注目している。
株価はこの1カ月間乱高下が続く。8月末に2万8千円台だった日経平均は9月に3万円を突破。しかし、自民党総裁選で岸田氏が新トップに選ばれた29日に600円超下げ、10月4日の新内閣発足からの3日間で計1200円超下落。その後の買い戻しで8日の終値は前日比370円73銭高い2万8048円94銭と、8月末の水準に戻った。
新内閣発足の「ご祝儀相場」とは無縁の急落を、英紙フィナンシャル・タイムズなどは「岸田ショック」と報じた。こうした見方の背景には東証1部の売買額の約7割を占める海外投資家の動きが関わっている。
東証の集計によると、菅義偉前首相が総裁選に立候補しないと表明した9月1週目、海外投資家は3636億円買い越した。ただ、3週目から再び売りが先行し、総裁選のあった29日を含む5週目は4724億円の売り越し。昨年9月以来の大幅な売り姿勢だった。
この時期は中国恒大集団の経営不安や米連邦政府の債務問題もくすぶっていた。「『岸田ショック』は気の毒」との声も市場関係者にあるが、岸田政権の発足が一因との見方は多い。
楽天証券の窪田真之氏によると、海外投資家は構造改革を好む。2000年以降では小泉純一郎元首相が「郵政解散」に踏み切った05年、民主党政権から第2次安倍政権に交代した直後の13年に株価は急上昇。いずれも衆院選で自民党が大勝し、首相の改革志向と強いリーダーシップが好意的にとらえられたという。
一方、短命政権が続いた06〜12年は株価が伸び悩んだ。政治的な不安定さに加え、分配重視の政策で構造改革が進まなくなる懸念も高まり、売られたという。
長所を「聞く力」とする岸田文雄首相は調整型の印象が強い。政策は「格差是正」を打ち出して金融所得課税強化に意欲的など、「市場にフレンドリーではなく、海外投資家が評価していた小泉、安倍政権の新自由主義的な政策を見直す姿勢がネガティブな第一印象を与えた」と指摘する。
総裁選前の9月の急騰は政治的要因だけでなく、新型コロナの感染者減少も影響していたとみられる。SMBC日興証券の丸山義正氏は「感染者が落ち着き、景気が戻れば下がり続けることはない。菅政権から政策が変わるのか、経済成長につなげられるのか」と経済政策の行方に注目する。
岸田首相は14日にも解散するとみられる。大手証券によると、過去の解散から総選挙までの値動きをみると株価は上昇傾向。今回もそうなるのか、政策の具体策と岸田氏の発信するメッセージに、市場関係者の関心が高まっている。
岡三証券グローバル・リサーチ・センターの高田創理事長は「分配は必要な政策だが、成長なくして分配はない。衆院選に続き来年には参院選もあり、それに向けてどのような改革メニューを示せるかが問われる」と話す。
 

 

●早く行きたければ、ひとりで行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け。
●解説 1
「If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together. 」
アフリカのことわざです。この言葉は、仕事やプロジェクトをやっていく上で大きな示唆を与えてくれます。仕事やプロジェクトというものには直面しているフェーズ(段階)というものがあり、それによってやるべきことが変わるわけですが、それについて端的に指摘してくれているからです。
例えば…
例えば、ベンチャー企業は成長の過程で壁にぶつかります。少数精鋭で一気に突っ走ってきたけれど、人数が増えるにつれ社内のコミュニケーションで新たな問題が発生するようになった……。これは組織として新たなフェーズに入り、これまでのやり方ではうまくいかなくなったということ。
また、災害が起きた時にまず必要とされるのは、人命救助のスペシャリストなど少数精鋭のチームです。仮にここに素人や無駄な人員が参加していたら救助が遅れてしまいます。そして、救助活動がひと段落したら、そのあとは復興に向け数多くの一般ボランティアの力が必要なフェーズに移ります。
社内の組織改革にのぞむ時も、まずは問題意識を共有する少人数で構成されたプロジェクトチームで始動し、その後どんどん人を巻き込んでいくフェーズに移っていくのが成功するパターンです。
異なるフェーズ
たいていのプロジェクトは、目の前の問題解決や決断など「早く行くこと」 を優先するフェーズから始まります。
ここではたいてい即断即決で意思決定して、ものごとを一気に推し進めて行くことが求められます。したがって、一人もしくは少数精鋭でやったほうが有利です。
しかし、プロジェクトが進むと、より大きな目標を実現するため「遠くまで行くこと」を重視するフェーズに移行するタイミングがあります。ここでは、多くの人を巻き込んで行くことが求められるようになります。そうしなければ大きな目標には到達できないからです。大きな成功をおさめたプロジェクトは、大概このフェーズの移行に成功しているはずです。
そこでフェーズの移行に失敗した企業やプロジェクトは、そこで姿を消していくということになるわけです…。
自分のプロジェクトはどんなフェーズにあるか?
今あなたが関わっている仕事やプロジェクトは、どんなフェーズにあるでしょうか?
「早く行く」ことを優先するフェーズでしょうか?それとも「遠くへ行く」ことを重視するフェーズでしょうか?
それによっては、自分でやったほうが早くても、あえて仕事を任せたり、権限を委譲したり、意見を求めたり… ということが必要かもしれません。
時代の流れとしても、インターネットやSNSなどの普及などによって、オープンで参加型のプロジェクトが増えてきました。人々の共感を呼び、誰もがそれに参加できるようなプロジェクトは、時に大きなうねりを呼び、一大ムーブメントを引き起こします。
自分が関わるプロジェクトが、今どんなフェーズにいるのかによって取るべき行動は変わってきます。それを戦略的にやることがプロジェクト成功への近道ということです。
何か仕事やプロジェクトに関わる時は、思い出してみましょう。きっと役に立つはずです。

●解説 2
アフリカのことわざに次にようなものがあります。
「早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め。」
一人だと目的地に早く着くことができる。しかし、仲間とならもっと遠くまで行くことができる。一人だと行動は早くできますが、自分が行ける距離の限界がある。仲間と行くと、みんなのペースに合わせなければならないため、スピード感はない。しかし、個人の限界を乗り越え、まだ見ぬ場所まで行くことができる。そのような、個人の限界を突破する仲間の存在の大切さを説いた言葉です。

●解説 3
岸田首相 「みんなで進め」
早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め――。岸田文雄首相は8日、就任後初めての所信表明演説で、ある「ことわざ」を引用した。国民に団結を呼びかける意図があるとみられるが、日本ではあまり聞き慣れないものだ。アフリカのことわざという説もあるが……。
所信表明演説の終盤、首相は「最後になりますが、このようなことわざがあります」と述べたうえで、一段と声を張り上げて、冒頭のことわざをなぞった。
そして、新型コロナウイルスという国難に対し、「国民全員の団結力によって一歩一歩前進してきました」と呼びかけた。
さらに首相は、コロナとの闘いの先を見据えて、「みんなで前に進んでいくためのワンチームを創りあげる」と語った後に、もう一度、先のことわざを繰り返した。そして、「仲間とならばもっと遠く、はるかに遠くまで行くことができる。日本人の底力を信じている」と結んだ。
首相が行う「所信表明演説」では、おもに内閣の基本姿勢が示される。首相がこのことわざを引用した理由は、「みんなで」の姿勢を強調した政権運営をアピールしたかったとみられる。
首相は、自民党総裁の就任会見でも「みんなで頑張ろうとの心を取り戻し、『ワンチーム』で国難に取り組む」と語っていた。
ただ、なぜ、このことわざが引用されたのか。
首相側近の木原誠二官房副長官は、記者団から出典や由来を問われると「アフリカのことわざということに尽きる」と述べるにとどめた。
ある政府関係者によると、数日前に演説の内容を議論している際、木原氏が提案したという。いろんな案が出て、原稿は数回変わったが、このことわざに落ち着いたという。この関係者は「米国でも知られている言葉だ。首相の考えに近い」と語る。
たしかにこの言葉は、アフリカのことわざとして広く引用されてきた。だが、正確な起源や根拠は明らかではない。
お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣さんも昨年、自身の絵本「えんとつ町のプペル」が映画化された際の舞台あいさつで、アフリカのことわざで、好きな言葉として挙げている。
世界に広く知れわたるきっかけとなったのは、気候変動問題への取り組みなどを評価されて2007年にノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア元米副大統領の受賞時のスピーチとみられる。ゴア氏は「アフリカのことわざ」として引用しているが、起源は示さなかった。
米公共ラジオ(NPR)のウェブ記事によると、16年の米民主党全国大会でも、アフリカ系のコリー・ブッカー上院議員も、この言葉を引用した。ツイッター上で多くリツイートされたが、ブッカー氏が「アフリカの格言では」というあいまいな言い方をしたことから、「アフリカ大陸全体へ誤って結びつける神話的な引用だ」などとする批判的な意見も上がったという。
このことわざの発祥については、アフリカを起源と考える研究者がいたものの、具体的な地域や民族を特定できる人はいなかったという。

●解説 4
アフリカのことわざ
社会派ブロガーのちきりん氏とプロゲーマーの梅原大吾氏の対談本である 悩みどころと逃げどころ で、アフリカのことわざが紹介されています。
アフリカのことわざは、「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければ、みんなで進め」 です (If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.) 。
以下は、本書からの該当箇所の引用です。
ウメハラ: 知り合いから聞いたんですが、アフリカのことわざに 「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければ、みんなで進め」 って言葉があるんだそうです。まさにそうだと思いますね。
ちきりん: それ、よくわかります、日本企業ってね、日本人男性だけで意思決定をしたがるんです。女も外国人も入れたくない。日本人男性に関しても、仕事第一じゃない奴はダメ。価値観の違う奴は仲間に入れたくない。
理由は、そのほうが 「早く行けるから」 です。同じような価値観の人だけで意思決定すると、摩擦も少なく効率的にさっさと進める。
でも、インド人やら中国人やらシリア人やらが入り始めたら、「早く」 は進めない。いちいちめんどくさい。でも、「遠くに行く」 には、明らかにそっちのほうがいい。
多様性を欠く組織では刺激が少なくて発想が拡がらないし、クローズドな環境って人間関係が固定するので、遠慮や上下関係が生じる。
だから 「遠くに行く」 ためには、オープンで多様性に富んだ組織になることが必須なんです。でもその転換がなかなかできない。
ウメハラ: 早く進むために最適化された組織は、遠くまで進むというレースでは力が発揮できないってことなんですね。
アフリカのことわざからの示唆
アフリカのことわざで思ったのは2つです。
アフリカのことわざからの示唆
•組織の多様性について、組織形態とどこを目指しているかで多様性の是非が分かれる
•仕事でのプロジェクトの進め方
以下、それぞれについてご説明します。
[示唆 1] 組織の多様性
以前、ベンチャー企業で働く知り合いとランチをしていた時のことです。知人と私では、多様性の考え方に違いがありました。
   多様性の見解の違い
知り合いは多様性について次のように述べていました。
•少なくとも自分のいるベンチャー企業や自分のチームには、多様性はなくてよい
•チームには日本人以外のメンバーがいて、コミュニケーションや意思決定プロセスに時間がかかりすぎる
•自分のリソースを割かなければならず、本来自分がやりたいことに時間を使えない
一方の私は、多様性については逆に考えていました。具体的には次のような考え方です。
•組織に多様性やオープンであることは、デメリットよりもメリットのほうが大きい
•自分とは異なるキャリアや専門知識を持っている人がいれば、自分では気づかなかった視点や方法が得られる。異なるアイデアが組み合わさり、よりよい解決策が見い出せる
   見解が違った背景
多様性で意見が異なった理由は、ベンチャー企業とそうではない状況の違いでしょう。
一般的にベンチャーは早く進みたいと思っている組織です。アフリカのことわざにおける 「早く行きたければ一人で進め」 に該当します。全くの一人ではありませんが、一人のような状況、つまり多様性よりも同じような人たちで意思決定を早くし、前に進むことを優先します。
一方、アフリカのことわざの後半の 「遠くまで行きたければみんなで進め」 は、目的地が遠い場合は、所属メンバーの多様性が望ましいと理解できます。
   フェーズによって多様性の価値が変わる
もちろん、「ベンチャー企業 = 多様性はないほうがよい」 という単純なものではありません。組織における多様性に、唯一の正解はないでしょう。
よく言われるのは、組織には多様性があるべきということですが、一概に多様性があればよいわけでも、その逆でもないのです。
アフリカのことわざ 「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければ皆で進め」 には、小規模のチームや組織にとって示唆があります。
人数の少ない組織は成長し、やがては大きな組織になります。その過程において多様性の是非を検討したほうがよいという示唆です。
目の前の問題解決に邁進する 「早く進むこと」 を優先するフェーズから、企業理念や構想するビジネスを実現するなどの 「より遠くまで行くこと」 への比重が高くなるフェーズに移りつつあるタイミングです。
[示唆 2] プロジェクトと多様性
アフリカのことわざについて思ったことの2つ目は、プロジェクトと多様性についてです。
プロジェクトを早く成果を出すものと、時間かけて大きな成果を出すものに分けると、次のように当てはめることができます。
•早く成果を出す:早く行きたければ一人で進め
•時間をかけて成果を出す:遠くまで行きたければみんなで進め
アフリカのことわざからの示唆は、早く成果を出したい場合は、自分でできることはやってしまい、一人で、もしくは少人数で進めるほうが効率的であることです。
一方、大きなプロジェクトでは、多様な人々が集まり、それぞれの経験やスキルを活かしながら進めるほうがよい、ということです。
大きなプロジェクトでも、全体では 「みんなで進め」 で、マイルストーンやタスクを細かくしたそれぞれでは 「早く行きたければ一人で進め」 を実践してもよいでしょう。
最後に
今回は、組織の多様性について考えました。多様性で重要だと思うのは、性別や人種の違いという観点以上に、様々な考え方、経験や知見、専門とする得意分野で、多様性があることです。つまり、外見的な多様性よりも、中身の多様性です。

●解説 5
〜共に育ち、共に活き、共に発展の実践〜
経営理念は「共に育つ」
わが社は、一九六四年に私の父が創業しました。私は二代目で、一〇年前に継ぎました。業種は、土木建設業ですが、弊社では事業定義を「労働力創出業」として、上下水道、土木、公園管理、警備、教習業務等を行っており、社員は七七名(内パート二〇名)です。二四時間・三六五日緊急対応でき、生活に必要な公共インフラの維持管理が得意な会社です。
経営理念は、「『共に育ち、共に活き、共に発展』安全を会社の安心に広げ、未来を創造してゆく木村工業」です。奇しくも分科会のテーマであるアフリカのことわざと同じ意味があります。
事業ライフサイクルでいうと、1導入期、2成長期、3成熟期、そして現在、4衰退期を迎えており、次の段階に上がろうと取り組んでいるところです。
父が経営理念の導入期
導入期は、父の時代です。創業の頃でひたすら売上を伸ばすことを考えた時期でした。
父は、一九六〇年に数人の仲間と共に青森から上京し、ガス工事の仕事を始めました。時代は高度成長期で東京オリンピックも間近の頃。売上はどんどん伸びていきました。
その頃は経営理念などなく、父の存在が経営理念でした。当時、私は高校生でしたが、そんな父に反発して家を出ました。
一九八八年、二五歳になった私は、妻との結婚を目前にして家に戻りました。わが社の様子は、救急車やパトカーが来たり、管材料がなくなったり、公私混同は当たり前の状態でした。仕事は実績があったのでいくらでもありました。資金は銀行がどんどん貸してくれました。
しかし、バブルが崩壊。仕事量はあるものの、落札金額が下がり利益は激減しました。借入金を返すために公共工事を受注し前払金で返済するという自転車操業に陥りました。債務超過ではないものの、債務が膨れ上がっていました。
私はというと、二〇年間、現場仕事を続けました。親子の関係に依存して経営に近づきませんでした。現場では、キャリア二〇年の社長の息子に誰も何も言えなくなっていました。社員を見下し、怒鳴って、聞く耳を持ちませんでした。
自立へ向かう成長期
二〇〇七年、「お父さんでは融資は考えられない」と言われ社長交代しました。
社員に会社の状況を伝えたくても術がありません。分からないなりに計算すると毎年の返済額は一億一千万円になることが分かりました。夜も眠れなくなりました。仕事があって黒字でも、資金がなければ会社は成り立たないことを学びました。その年は本社ビルを売却し、分散していた社屋を一箇所に集めることでしのぎました。苦手なことから逃げていた私は、借金を返すために、手当りしだいに勉強するしかありませんでした。
最初にしたことは、利益率の低い大規模工事をやめ、利益率の高い小規模工事への転換でした。試行錯誤する私に対する社員の反応は「若社長になったら本社は売るし、仕事は小さくなるし、俺たち苦しくなっている」でした。このころ同友会に出会い、面談や、社内会議も始めましたが、何一つ上手くいきませんでした。私だけ損している気持ちでした。そんなときに同友会の先輩に、「行き当たりばったりじゃだめだ」と言われて、経営指針成文化セミナーを受けることになりました。
経営指針作成の手引きの経営理念の項目に、「何のために経営をしているのか」について書く欄があります。私が最初に書いた文章は「人間としての幸福を知らしめ広げる」でした。強制的な雰囲気がありました(笑)。現在は「社員と夢を共有し、幸福な人生を共に歩む為」になりました。当時、強制的な言葉は他にも使っていましたが、上手くいかないのは、父のせい、社員のせいだと思っていた現れでした。そのことを指摘されたことを憶えています。
理念・方針・計画ができ、社員に現状を説明しました。まず、これまでの姿勢を謝り、全員で目標を達成して利益を分かち合うことを約束しました。
順調に思えた矢先、「みんなでやっていく」という経営理念に反発する社員が現れました。売上の二五%を支える社員でしたが、経営理念が考え方に合わなかったようです。チームをつくり「一緒にやろう」と一年間言い続けました。議論は平行線のまま、最後は、残った社員たちが「あとは俺たちがやります」と伝え、彼は退社しました。
二〇〇八年、全社をあげて減った売上の半分を確保し、減収増益で決算できました。初めてV(決算)賞与を出すことができました。わが社も社員をパートナーとする経営に移行できると思えた瞬間でした。
苦しい事業承継でしたが、父の経営から自立できました。「共に育つ」環境を社内に育てていくことこそ、存続し続ける会社になるため一歩だと思いました。
人を育てることを始めた成熟期
二〇一〇年、次の事業承継を苦しいものにしないために、私と社員、共に自立への取り組みが始まりました。
年二回の決起大会(経営指針発表会)では、わが社が大事にしている理念教育と、技能教育について確かめます。
理念教育ですが、わが社は年四回行う個人面談の中で「チャレンジシート」というものを使い、1経営理念から部門スローガン。2部門スローガンから個人スローガン。3個人スローガンから目標。4目標から日々の行動。5日々の行動が経営理念の共有になる、ということを考えてもらいます。経営理念の実践=評価になる仕組みです。目標設定に迷わないように、階層ごとに習得すべき具体的な内容を示した「やりがいある育成プログラム」というものを作っています。
何もできていなかったわが社が、毎朝の朝礼、定例の会議、朝の地域清掃ができるようになりました。理念教育こそ自立への一歩だと思っています。
技能教育は、わが社の経営理念が「共に育つ」ですから、人を育てることのできる人を育てよう、ということで取り組んでいます。
採用活動は、七年前から新卒採用を始めました。
インターンシップには、毎年一〇名〜二〇名の高校生や大学生が来てくれます。昨年からは障害者の方の受け入れも始めました。
入社後、年四八日間。計二八八時間の新人技能研修を実施しています。効果は新人の定着や、講師を務めるエース級の社員が抜けても現場が回ることです。
最初のころは、社員から「教えて仕事ができるようになるのか。それより辞めない人を連れてきて」と言われていました。その度に「辞めない人を育てよう」と技能研修を続けています。今では好評です。技能研修は新人に、先輩が持つマニュアルにない暗黙知を伝える機会です。それが評価になることが定着してきています。
経験だけで教えるわけではなく、東京都の「職業訓練指導員」の資格を得て技能研修に取り組んでいます。二〇一三年に取得しましたが、五年の実績を経て職業訓練校の認定が受けられるので、めざしているところです。
衰退期。未来創造主義へ!
二〇一五年、全てが上手くっているわけではありませんでした。忍びよる衰退を、第二成長期に変えようと取り組みを始めました。社員数の推移を見て、二〇一二〜二〇一三年に入社三年目の社員が相次いで退職していることに気がついたからです。
該当年度の社員にグループ面談と個人面談で「わが社に足りないこと」を聞くと、先輩との関係、休日、時間外労働など「働き方の問題」が出てきました。
解決に向け、一泊合宿を行いました。すると三年目以上の社員から「将来が描けない」「幹部になりたくない」と言われました。
この意見を受け、決起大会で「未来予測面談」と「ビジョンを持って労働環境を改善する」ことを約束しました。
労働環境の改善はチームをつくり取り組んでいます。ゴールを設定し、期日を決めて一つ一つクリアしています。時間はかかりますが、私は背中を押すだけで口出しせず、社員が考えながら進めることを大事にしています。最終的には完全週休二日の確立をめざしています。
わが社の「共に育つ」はまだまだ続きます。まずは、私が良い経営者になります。同友会の三つの目的は経営者の限りない挑戦だと思っています。

●解説 6
「早くいきたいならひとりで行け、遠くへ行きたいならみんなで行け」
アフリカのことわざだそうです。数年前に知りました。
これまでにいくつかの事業を創ってきましたが、このことわざはその時々の意思決定の助けとなってきました。
堀切めだかの事業を始めた時にもこの言葉を踏まえて戦略的に事業創造を進めてきました。最初の1年ではこの事業を早く形にする必要がありました。だから「一人で行く」方法を選びました。メダカ事業は社員、株主、金融機関などの当社の利害関係者であるほとんどの人にとってその可能性がピンとこない事業です。なのでスピード重視で一人で(他の社員を担当に着けず、また新たに人を採用せず)店舗運営と養魚場運営の形を作りました。
ここから先はいかに遠くへ行けるか、というステージに移行していきます。そのためには「みんなで」にシフトチェンジしなければいけません。その一つが先日ジョインしたアルバイトの採用です。そして次のアクションが3号店の開店です。現在一つの候補案件を仕込んでいます。並行して当社の社員を担当に着けネット販売の準備も始めました。
本当はもう56歳だし今の規模で一人(+家族)でやっていた方がラクだしなぁ、と思うことがあります。でもやっぱりみんなで行くのは楽しいですから、結局その路線を走ってしまうのだと思います。 
 

 

●震災への言及、わずか60文字 岸田首相が所信表明演説 10/9
岸田文雄首相が就任後初めて臨んだ8日の所信表明演説は、東日本大震災への言及が60文字程度と菅義偉前首相の3分の1以下にとどまり、中身に乏しかった。岸田内閣を巡っては復興相の兼務問題が波紋を広げており、東北の与野党議員からは岸田氏の復興に向き合う姿勢を疑問視する声が上がった。
岸田氏は「東日本大震災からの復興なくして日本の再生なし。この強い思いの下で被災者支援、産業なりわいの再建、福島の復興再生に全力で取り組む」と述べた。東京電力福島第1原発事故を取り巻く課題には触れなかった。
演説は新型コロナウイルスや外交・安全保障など全6部で構成され、震災復興は第3部の「新しい資本主義の実現」の中に組み込まれた。昨年の菅氏は「震災復興と災害対策」を演説の柱の一つに据えていた。
立憲民主党の玄葉光一郎元外相(衆院福島3区)は「一言しか触れなかった事実が復興に対する姿勢を表している。首相は東北の土地勘がなく、関心を持てないのでは」といぶかった。
立民の安住淳国対委員長(衆院宮城5区)は「東北は忘れられた。復興相も片手間で仕事をするようだ。一日も早く政権を倒す必要がある」と力を込めた。
自民党の吉野正芳元復興相(衆院福島5区)は「復興にはしっかり取り組むと思う」と語った上で、兼務問題については「地元の人間は『復興がおろそかになる』と懸念している」と強調。松野博一官房長官に7日、次の内閣では復興相を専任とするよう抗議したことを明らかにした。

●低支持率発進、岸田内閣に国民が期待しないワケ 10/9
10月4日、岸田文雄内閣が発足した。10月4、5日に新聞社や通信社が世論調査を実施したが、発足直後の内閣としては内閣支持率は低い。「ご祝儀相場」などとは無縁である。支持率が低かった調査結果から順に見てみよう。
甘利氏の幹事長起用、「評価しない」が過半数
朝日新聞では、内閣支持率は45%である。1年前の菅内閣発足時には65%であったから、比べると低さがよく分かる。現在の方法で調査を始めた2001年の小泉内閣以降で、麻生内閣の48%を下回り、最低である。自民党支持層では、内閣支持率は72%であるが、無党派層では28%しかなく不支持率は22%である。
不支持率は20%で、これは高いとは言えないが、35%が支持も不支持も表明していないというのが特徴で、岸田首相が捉えどころがなく、曖昧模糊としたイメージであることを示している。
また、安倍政権や菅政権の路線を「引き継ぐ方がよい」が23%なのに対し、「引き継がない方がよい」が55%である。さらに、「生まれ変わった自民党を国民に示さなければならない」と述べた岸田首相が、「生まれ変わった自民党」を実現できると思う人は24%で、実現できないという人は54%である。
政党支持率では、自民党が37%、立憲民主党が5%、公明党が3%、共産党が3%、日本維新の会が2%などとなっており、こちらは以前とあまり変わらない。衆院選比例区での投票先は、自民党が41%、立憲民主党が13%、公明党が5%、共産党が4%、日本維新の会が6%、国民民主党が2%などであり、自民党政権は安泰のように見える。
次に低いのが毎日新聞の調査で、内閣支持率は49%、不支持率は40%である。閣僚の顔ぶれに期待が「持てる」が21%、「持てない」が51%、甘利明の幹事長起用を「評価する」が22%、「評価しない」が54%である。安倍・麻生の影響力が強まったことは、「マイナスになる」が59%、「プラスになる」は23%である。やはり厳しい評価である。
「選挙の顔」を求めていた自民党議員の脳裏をかすめる不安
3番目は共同通信の調査だ。岸田内閣支持率は55.7%、不支持率は23.7%である。党役員や閣僚の人事については、「適材適所で決めた」が18.8%、「派閥に配慮して決めた」が74.4%である。安倍・菅政権の路線については、「継承するべき」が24.1%、「転換するべき」が69.7%である。
4番目は、読売新聞で、内閣支持率は56%、不支持率は27%である。組閣で「老壮青」のバランスをとったことを、「評価する」が64%、「評価しない」が24%、甘利の幹事長起用を「評価する」が30%、「評価しない」が48%である。党改革について、「期待できる」が48%、「期待できない」が42%である。政党支持率については、野党は、立憲民主党の7%などと前回と変わらないが、自民党は43%と前回の36%よりも7%増えている。
5番目は、日経新聞で、内閣支持率は59%、不支持率は25%である。この調査では支持率は最も高く出ているが、それでも、発足時の数字としては、2008年の麻生53%、2007年の福田59%に次いで3番目に低い(福田内閣とは小数点以下の差で岸田内閣が上回った)。やはり低調である。政党支持率は、自民党が前回より4%増えて51%で、立憲民主党は横ばいの8%である。この数字を見ると、衆院選では自民党の敗北はないように見えるが、内閣支持率が60%に達していないことは、無党派層を引きつける意味では不安材料である。
以上のような数字は、総選挙を目前に控えた自民党の衆院議員を不安にさせるのに十分な水準だ。いったい低支持率の原因はどこにあるのだろうか。
世間に違和感抱かせる甘利氏の幹事長起用
第一はなんといっても人事である。岸田政権の背後に、安倍晋三、麻生太郎、甘利明という、いわゆる「3A」の存在が見えすぎて、「傀儡政権」だと酷評すらされている。党内第4派閥であれば、細田派や麻生派の支援は欠かせなかったが、総裁選の過程で、長老たちの思惑がテレビのワイドショーで詳細に報道され、それでなくても地味な岸田の存在が希薄になってしまった。
とくに大きいのが甘利を幹事長に起用したことだ。これが野党や一部のマスコミによる「政治とカネ」の問題の蒸し返しを招くことになり、先の世論調査でも、厳しい評価が下されたのだ。
また新人を13人も起用し、老壮青のバランスをとったことは評価されているのだが、肝心のコロナ対策を担当する閣僚は総入れ替えで、しかもすべて新人が担うことになった。今は、コロナと戦争状態にある。戦時であるならば総力戦体制で臨むべきである。しかし、後藤茂之厚労相、山際大志郎新型コロナ対策担当相、堀内詔子ワクチン担当相はいずれも経験がない。
しかもコロナとの戦争では、権限の分散ではなく、厚労大臣への権限の集中が必要なのであるが、これも改善されていない。これでは厚労官僚をコントロールすることもできないであろうし、安倍・菅政権の失敗を繰り返すことになってしまう。戦時なのに、いわば陸海空軍がバラバラに戦略を立てるような大日本帝国の再現をしてどうするのか。
さらに言えば、尾身茂を会長とする専門家によるアドバイザー集団の改組も不可欠である。これまでの日本政府のコロナ対策の失敗は、安倍、菅両首相のリーダーシップの欠如によるところが大きいが、尾身チームの間違った提言の責任も忘れてはならない。感染症対策の大原則である「検査と隔離」を無視して、最初からPCR検査を抑制するなど、ミスを積み重ねてきた。
岸田首相は、新たに感染症対策の司令塔となる新組織、「健康危機管理庁(仮称)」の創設を提唱しているが、この構想にも疑問符をつけざるを得ない。そんな新組織をつくる前に、安倍・菅政権のコロナ対策の失敗を総括し、問題点を摘出し、改善する必要がある。
具体策なき「所得倍増論」
第二は政策である。岸田内閣の感染症対策も目玉は、前述の「健康危機管理庁」のみで、当面の課題への対応はほとんどない。3回目のワクチン接種の実施など、喫緊の対応策を示すべきである。
また岸田内閣が打ち出している政策には、小泉純一郎内閣が郵政民営化を唱えたり、安倍第二次内閣が金融政策を中心に据えたアベノミクスを提唱したりしたようなインパクトやパンチ力がない。アベノミクスを転換すると言い、新自由主義からの転換や「新しい資本主義」をうたっても具体性に欠ける。格差を是正するために、池田勇人なみの所得倍増論を唱えても、実現の可能性が少ない。
池田は、前任の岸内閣のときに安保騒動で社会が混乱したことを受けて、国民の関心を政治から経済へと転換させようとした。それが所得倍増論であり、その効果は大きく、自民党政権の継続に寄与したのである。
今は、政治や外交ではなく、コロナや経済格差が問題なのであり、分配を重視すると言っても、池田の所得倍増論のような具体的な目標も手段も明示できていない。これでは国民に訴える力は殺がれてしまう。
経済安全保障を強調し、若手の小林鷹之議員を担当大臣に抜擢したが、これも対中包囲網の一環にすぎないのか、全体像が明確ではない。
岸田首相は、自らの内閣を「新時代共創内閣」と称し、分配を重視するために「新しい資本主義会議」を設置するという。しかし、これも、国民を鼓舞激励するような政策やスローガンではない。
同じ閣内でともに大臣経験したが存在感希薄だった岸田
第3は、政治家としてのカリスマ性、インパクトである。総裁選に立候補した4人の政治家の中では、河野太郎→高市早苗→野田聖子→岸田文雄の順でインパクトがある。つまり、岸田の場合、よく言えばバランスのとれた安定感であるが、悪く言えば大衆受けしない地味さである。存在感の無さが特色である。
第一次安倍改造内閣、及び福田康夫内閣で、私は厚労大臣、岸田は沖縄及び北方対策などを担当する内閣府特命担当大臣だったが、閣議や予算委員会での岸田の思い出はほとんどない。職務内容にもよるが、それだけ静かな存在だったのである。
選挙のときには、首相のカリスマ性がものを言う。小泉首相や安倍首相が総選挙で勝ったのは、リーダーとして大衆受けするカリスマ性があったからである。
カリスマ性を欠く岸田首相で、来たる衆院選で、自民党は安泰なのだろうか。
第4は自民党の構造疲労である。岸田首相は自民党改革を訴えているが、それは単に役員任期を制限することではない。「政高党低」と言われるように、政府に比べて、党の政策立案能力や存在感が減退している。人材も払拭し、世襲政治家が目立つようになってきた。これは、社会の流動性という観点からも由々しい事態である。分裂して非力な野党が相手では、切磋琢磨する必要もなく、自民党は堕落してしまっている。優秀な人材を集めることができるのか、そして霞が関官僚と競争できる政策を打ち出せるのか、この点でも岸田首相のリーダーシップが問われている。

●岸田内閣に「期待」39% 衆院選の争点 コロナ対策75% 10/9
4日に発足した岸田文雄内閣について、山陽新聞社が通信アプリのLINE(ライン)を使って期待度を尋ねたところ、「期待できる」とした回答者は39・4%だった。一方で、「期待できない」は51・0%と過半数を占めた。内閣のイメージを表現した名前を付けてもらうと、「コロナ禍克服内閣」(岡山市、60代男性会社員)など新型コロナウイルス対策を重視した名が多く寄せられた。
アンケート取材は、LINEに開設しているアカウント「記者が行く」の登録者を対象に5、6日に行い、県内を中心に10代〜70代以上の計332人から回答を得た。
期待度は5段階で質問。岸田内閣に「期待できる」とした回答者の割合は、全体の約3割を占める自民党支持層では67・6%に達し、「期待できない」の27・5%を大きく上回った。4割余りを占める無党派層では「期待できない」が63・2%となり、「期待できる」(23・6%)を逆転した。
岸田首相は自らの内閣を「新時代共創内閣」と名付けている。内閣に命名してもらうと、長引くコロナ禍を反映し、「コロナからのV字回復内閣」(赤磐市、60代男性)や「コロナ撲滅内閣」(倉敷市、30代主婦)といった感染収束に向けた取り組みへの期待を込めた名前が目立った。
首相就任からわずか10日後に衆院解散に踏み切り、本格的な政策遂行の前に選挙戦に突入することから「とりあえず内閣」、キングメーカーとされる安倍晋三元首相、自民党の麻生太郎副総裁、甘利明幹事長の影響力が強いのではないかとして、3氏の頭文字から「AAA内閣」「3A内閣」という名前もそれぞれ複数の回答者からあった。
次期衆院選への関心度も5段階で聞いた。「関心がある」との回答は「大いに/ある程度」を合わせて70・8%に上り、「あまり/全く関心がない」は27・4%だった。
衆院選の争点として注目したい政策を10の選択肢から選んでもらう質問(複数選択)では、「コロナ対策」が75・6%でトップ。2位は73・2%で「景気・雇用対策」が入った。以下、「年金・医療・介護問題」(61・4%)、「子育て・少子化対策」(42・2%)、「外交・安全保障問題」(41・0%)―の順で続いた。

●甘利を狙え…! 岸田「経済安保」内閣に 「中国が仕掛ける工作」の中身 10/9
岸田「経済安保内閣」の衝撃…!
10月4日に発足した岸田文雄内閣は、「経済安全保障政権」だ。一般にはあまりなじみのないこの言葉、どういうことかご存知だろうか。「経済安保」とは日本の生存基盤、独立、繁栄を経済面から確保することである。元来、日本は、国の生存基盤であるエネルギーや食料を海外に依存してきた。しかし、エネルギーや食料だけに限らず、経済のグローバル化や著しい技術革新の進展などにより、意識しないまま国の生存基盤を他国に依存しているものがある。身近な例を挙げてみよう。新型コロナの蔓延では「マスク不足問題」が生じた。日本はその生産の多くを中国に依存していた。マスクに限らずガウンなどの医療器具も中国に頼っていた。こうした物資が世界で奪い合いになり、日本に輸入されなくなると、国民生活に多大なる影響が生じた。このため、内閣国家安全保障局内に2020年4月に新設された経済班は、マスク調達が最初の大きな仕事になったと言われている。また、いまや生活必需品となったスマートフォンはどうだろう。
ミサイルよりも「効果的な攻撃」
コミュニケーションの手段としてだけではなく、決済機能としても欠かせなくなっている。国内で人気の高いiPhoneは、米国のアップルが企画開発し、台湾の鴻海精密工業などが製造しているが、もし、これが国内に入らなくなったら生活に支障をきたすことにもなるだろう。デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中で国家の生存基盤は、サイバー空間にまで広がっているのだ。「半導体不足」もそうだ。日本の基幹産業である自動車の国内生産で減産が続くのは、台湾など海外に依存してきた半導体の供給が滞っていることが大きな理由だ。コロナ問題が収束した後も、もし日本への供給が意図的に止められたら、日本の自動車メーカーは国内で生産を続けられなくなり、国内では雇用問題が確実に起こる。こう考えてみれば、もし他国が日本の国民に心理的な打撃を与えようと考えれば、日本の領土をミサイルや航空機で爆撃するよりも、多岐の分野にわたる生存基盤をターゲットに攻撃する方が、効果は高いことが分かるだろう。たとえば、金融機関や電力会社にサイバー攻撃を仕掛けて決済機能や電力供給を麻痺させれば、経済活動は停止し、国民生活に大混乱を招くのは必定だ。すでに伝統的な陸海空の軍事力だけでは、国家の生存基盤は防衛できなくなった時代に来ていると言えるのだ。
経済安保内閣のキーパーソン
加えて、経済力をつけた中国の台頭により、世界のパワーバランスは崩れようとしている点を考えておく必要がある。特にインドアジア太平洋における中国のプレゼンスの高まりが、米中間の緊張関係を加速させており、たとえば、豪州が米英の協力を得て原子力潜水艦を保有する戦略に急遽変わったのは、明らかに中国対応だ。豪州は今のモリソン政権が誕生する以前は、「紅く染まったオーストラリア」と呼ばれ、南太平洋に面した戦略的要衝のダーウィン港が、中国人民解放軍出身者が社長を務める嵐橋集団によって99年間の租借権が設定されるなど、領土の一部が中国に侵食されてしまった。新型コロナの喧騒に隠れる形で、新たな世界秩序が構築される動きに、敏感なのが第百代首相に就いた岸田文雄氏だ。外相や防衛相も経験しており、外交や安全保障面の知識も深い。岸田氏が政調会長の任にあった2020年6月、ポストコロナ後の日本の強みと弱みを洗い出すために新国際秩序創造戦略本部が創設された。岸田氏はその取りまとめ役の座長に、信頼関係が厚い当時自民党税制調査会長の甘利明氏を指名した。その甘利氏は、岸田氏から打診を受けた際にこう答えた。「コロナ禍が収束すれば、DXが一層進み、人々の価値観や企業動向は世界的に大きく変化する。国際政治の場では新たな覇権を構築しようとする国が出てきて、民主主義を基盤とする国々vs.権威主義の国々の対立構図は深まり、世界の秩序は変わるかもしれない。こうしたビッグピクチャーの上で政策を作るのであれば引き受ける」
インフルエンス・オペレーションの恐怖
甘利氏が座長となって、同本部幹事長には山際大志郎氏(麻生派)、同本部事務局長には小林鷹之氏(二階派)が就任。このメンバーに加えて、17年4月から経済安保政策を練ってきたルール形成戦略議員連盟事務局長である中山展宏氏(麻生派)の4人が「チーム甘利」として自民党内の経済安保政策づくりをリードした。20年12月に同本部からサプライチェーンの多元化・強靭化、国際機関を通じたルール形成への関与、経済インテリジェンス能力の強化など重点的に取り組むべき課題と対策を提言。各省庁が所管する業法の見直しを含め、22年の通常国会で経済安全保障推進法(仮称)を制定することも求めた。これらが自民党初の正式な経済安保政策である。このほど、「チーム甘利」の小林氏が経済安保担当相、山際氏も経済財政担当相として入閣した。これが、岸田内閣が「経済安保政権」と呼ばれるゆえんである。その経済安保政策の根幹には、日本がいかにして中国に毅然と向かい合い、渡り合うのかという問題意識がある。このため、政策立案に当たっては、日本の各産業の強みと弱みを洗い出して現実を正しく直視たうえで対策を練る戦略的自律性と、国際社会にとって日本が必要不可欠な存在であることを強めていく戦略的不可欠性を重視した。
中国が「甘利を狙う」
菅義偉政権では、親中派の代表格、二階俊博氏が幹事長として党内を牛耳り、それに配慮していたが、甘利氏を幹事長に沿えた岸田政権では対中関係で変化が生じるに違いない。岸田派の源流である宏池会は、安全保障的にハト派のイメージが強いが、岸田政権は経済安全保障政策を強く推進し、中国にとっては意外と手ごわい存在となるだろう。一方で中国の立場に立てば、経済安保政策のブレーンである甘利氏が最も厄介な存在となる。自民党ナンバー3の座から甘利氏を追い落とす工作を仕掛けてくる可能性があると筆者は見ている。中国共産党が最も得意とする手法の一つが「インフルエンス・オペレーション(情報操作)」と呼ばれる工作活動だ。前述した豪州が「紅く染まった」大きな理由は、中国マネーの力によって、まずは在豪州の華僑ネットワークが「親北京化」され、そのネットワークを使って、豪州のメディアや政治家を篭絡していったからだ。
メディア操作
たとえば、元外相のボブ・カー氏を、中国マネーで設立したシンクタンクの所長に就けるなどして共産党擁護の論陣を張らせ、ラジオ局などメディアも実質、中国マネーの支配下に置いた。中国は軍事的な活動よりも、こうして社会に影響力のある政治家やメディアを味方に付ける工作活動を重視している。その工作活動によって、豪州を親中国に染め上げて、準備淡々とダーウィン港の租借権を勝ち取った。「戦わずして勝つ」孫子の兵法が今でも引き継がれているのだ。逆に、中国に批判的な与党政治家の批判を煽るために、野党政治家や政権批判系のメディアなどに対して中国側が「インフルエンス・オペレーション」を仕掛けてくることもある。こうした海外による工作活動は、日本も他人事ではないと考えておくべきだ。仮に筆者も中国などの依頼を受けて工作活動に関わるジャーナリストであれば、岸田政権の要の一人である甘利氏を徹底攻撃するだろう。甘利氏は16年1月、金銭授受の問題を受けて内閣府特命担当大臣(経済財政担当)を辞任しているが、いわゆる「政治とカネ」の問題を鉾にすれば世論を誘導することは比較的容易だ。
「政治とカネ」と「経済安保」
甘利氏の金銭授受の問題を改めて取材すると、受け取った金銭100万円は政治資金として適正に処理されている。問題視されているのは、甘利氏が知らないところで秘書が別の金を受け取って一部を個人で使ったり、過剰接待を受けていたりしたことだ。この問題について、検察は刑事告発を受けて捜査したが、甘利氏を不起訴にした。検察審査会でも甘利氏は不起訴とされ、秘書は不起訴不当となった。その結果、秘書のみが再捜査されたが、そこでも不起訴となった。甘利氏が経済財政担当相を辞任したのは、自身の金銭授受によってではなく、秘書の問題で世間を騒がせたとして使用者責任を取ったのである。その後、甘利氏は選挙での禊も受けた。「政治とカネ」の問題については、「経済安保」の世界の趨勢があることも考慮に入れる必要があるだろう。全般的に日本のメディアは経営体力が劣化している。そうしたメディアに中国マネーが渡り、中国にとって不都合な日本の政治家を報道によって社会的に抹殺してしまう動きを仕掛けることは十分にあり得る話だ。
外国に「情報操作」されていないか…?
メディアに限らず、野党政治家に中国マネーが流れる可能性もあり、その金を受け取った政治家が国会で追及するかもしれないし、経済安保政策は「愚策だ」と国民にアピールするかもしれない。「インフルエンス・オペレーション」は決して絵空事ではないのだ。野党は、与党を追い詰める本格的なネタがないからと言って、検察が不起訴処分にして司法的にはケリがついた過去の問題をほじくり返していると、国民からは国益を損なっていると見られかねなくなっている。世界が新しい秩序構築に向けて綱引きをしている中で流れる政治関連のニュースを見る時には、外国に情報操作されていないかといった視点も必要になっていることを頭の片隅に入れておいた方がいい。

●岸田政権の基本路線はバラマキ型の財政拡大なのか 10/9
岸田内閣が発足した。コロナ対策をはじめ課題は多いが、果たして岸田政権の経済政策のスタンスはどうなのであろうか。
岸田首相は「成長と分配の好循環」をめざし、所得を引き上げる経済政策を進めるとしている。このため年内に数十兆円規模の経済対策をまとめる考えを示している。
元々は財政健全派とされていた岸田氏であったが、数十兆円規模の経済対策とか所得倍増を打ち出してきたことで、財政健全派の旗をいったん降ろしたのではないかともみられていた。
コロナ禍にあって財政政策は当然ながら必要である。さらに自民党総裁選に向けての戦略としては、財政健全派は旗をいったん降ろしたほうが得策と考えたのかもしれない。それが自民党総裁選の決選投票時の高市氏との連携であったようにも思われる。
さらに自民党総裁選後には衆院選も控えている。こちらは前倒し政策をとるようで、10月14日に衆議院を解散し19日公示、31日投開票の日程で選挙を行うと表明している。
衆院選を戦う上でも、ある程度の財政拡大路線を示す必要もあったのかもしれない。しかし、本当に岸田氏は財政健全派から転じてきたのであろうか。
選挙に向けて緊縮色を出すことは好まれないことも確かである。しかし、さすがにまで巨額の政府債務に対して不安を持つ国民も少なくはない。このあたりのバランスをどう取るのかが問われよう。
そのバランスという意味では財務相人事がそれを示していた。8日付日経新聞に鈴木俊一財務相のコメントが掲載されていたが、ここでプライマリーバランスの政府目標について「しっかりと取り組みを強めたい」と語っていた。
プライマリーバランスの目標など達成は困難で、あってないようなもの、なくても良いとの意見もあるようだが、こちらも旗は掲げておく必要がある。それは国債の信認を維持するのに必要なためである。
そして、数十兆円規模の経済対策について、実際の財源はどの程度必要になるのか、いわゆる真水部分も今後は注目せざるを得ない。
新型コロナウイルスの感染拡大に対し、政府は過去にない規模の経済対策を行った。その結果、国債も大量に増発された。入札などで発行される市中発行額も増加はしたが、いわゆる前倒し発行分を使って極力、増発額が抑えられた。
それはつまり、現在は前倒し発行によるバッファー分がかなり減少していることを示す。実際の長期金利が予算編成時の長期金利の予想を下回っている限り、このバッファー分は増加してくることは確かではあるが、これまで貯めていた分はない。今後、数十兆円の国債を仮に発行するとなれば、その多くは市中発行で行われる可能性が高い。
すでに欧米では経済活動の再開やそれに伴うエネルギー価格の上昇もあり、金融政策の正常化を急ぐ可能性も出てきた。エネルギー価格の上昇は物価押し上げ要因となり、それは長期金利の押し上げ要因ともなる。
海外の長期金利の上昇、さらにはタイムラグはあるが、原油や天然ガスなどの価格上昇による国内物価への影響もいずれ出てくる。そうなると日本の長期金利も動意を示すことも予想される。そういったさなかに大量の国債増発となれば、長期金利上昇を加速させかねない。
それに対し日銀が長期金利コントロールだとして無理に抑え込むとなれば、ファンダメンタルズとさらに乖離した長期金利が形成されかねない。また、財政ファイナンスと認識されかねない事態にもなりうる。そういったリスクも意識する必要があるのではなかろうか。

●拉致家族、岸田政権に不安感 拉致問題担当の松野官房長官と「面識ない」 10/9
岸田文雄内閣が発足直後から北朝鮮による拉致問題の解決に向けた意欲を強調している。首相は就任した4日の記者会見で、拉致問題を「最重要課題」と位置づけ、翌日には被害者家族に電話で決意を伝えた。だが、若手議員のころから拉致問題に取り組んだ安倍晋三元首相や菅義偉(すが・よしひで)前首相と比べると接点は少なく、拉致被害者の家族らは不安を漏らしている。具体的な成果を出すためいかなる道筋を描くのかが試される。
「新内閣においても拉致問題は最重要課題の一つであることをしっかり申し上げた」。6日朝、首相は前日に横田めぐみさん(57)=拉致当時(13)=の母、早紀江さん(85)ら家族に電話で決意を伝えたことを明らかにした。バイデン米大統領との電話会談で拉致問題解決へ向けた日米連携を確認したことも報告したという。
ただ、岸田政権の姿勢には家族や支援者から不安が漏れている。最大の懸念は接点の少なさだ。拉致問題担当相を兼務する松野博一官房長官について「面識がない」との声が上がる。今回、首相と松野氏が政権発足直後に家族に連絡したのも、こうした懸念の払拭を狙ったとみられる。
首相は安倍、菅両氏が描いた戦略を踏襲する。北朝鮮には、核・ミサイル開発に対する制裁を維持する一方、国交正常化に伴う経済支援を誘い水に金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記と無条件で会談する意向を示している。
ただ、岸田政権が安倍政権と同様に柔軟な対応をとれるとはかぎらない。
安倍政権では平成26年、すべての拉致被害者の再調査の見返りに制裁を緩和するストックホルム合意を北朝鮮と取り交わした。当初から北朝鮮が合意を履行するか疑問視する声があり、実際に北朝鮮は一方的に合意破棄を宣言したが、家族会は安倍氏への信頼から経過を見守った。
岸田政権で同様の対応をした場合、家族会や世論がどう反応をするかは未知数だ。党ベテランは「日朝会談が実現して『重大局面』を迎えたとき岸田首相が決断できるか。厳しい状況にさらされる可能性もある」と指摘する。
一方、首相はバイデン米政権が対北朝鮮政策を見直したことを受け、日本側の対応を検討すると説明している。しかし、米側の政策見直しが終わったのは今年4月で、既に5カ月以上が経過している。日朝関係も停滞しているだけに、岸田政権は具体策を迅速に策定することが求められる。

●「派閥の力に屈したように見せかけて…」岸田内閣は実力重視の“策士内閣”? 10/9
新聞社などが「岸田内閣の支持率は歴代内閣の発足時より低調だ」と世論調査の結果を報道したことについて6日、岸田総理がコメントした。
記者から世論調査の受け止めを聞かれた岸田総理は「各社によってだいぶ幅があるとも受け止めている。それぞれ質問のあり方等も違うのかなと想像する」と回答。その上で「いずれにせよ、この低い数字も含めしっかり受け止め、自分自身をしっかり振り返りながら、これから選挙に向けてしっかり取り組んでいきたいと考えている」と述べた。
今回の岸田内閣で全20閣僚のうち初入閣は13人。平均年齢61.8歳、女性の入閣は3人だった。デジタル大臣のポストには、当選3回で40代の牧島かれん議員を起用。デジタル副大臣には小林史明議員、デジタル大臣政務官には山田太郎議員を起用した。
公共政策に詳しい東京工業大学准教授の社会学者・西田亮介氏は、今回の岸田内閣の党役員人事について「真の仕事師内閣、策士内閣だと面白い」と語る。
「特に印象に残ったのは、デジタル関係の人事だ。これまでは『本当にデジタル推進したいのか?』『むしろデジタル利権に敏いのでは?』という印象があった。しかし今回のデジタル大臣、副大臣、政務官の人事を見ると、本当にデジタルに強く、実績がある詳しい人たちが担当している。デジタル大臣に任命された牧島議員は、修士と博士の学位をお持ちで、自民党のデジタル政策を取り仕切ってきた実績もある。副大臣の小林議員は通信社出身で、自他共に認めるデジタル分野に詳しい方。山田議員も2010年代前半からインターネットを使った選挙運動に取り組んでいて、強力な支持基盤がない中、しっかり当選してきた。本当の意味で仕事をしてくれる人事ではないか」
また、今回岸田内閣では総務会長のポストに福田達夫議員を起用。福田議員について、西田氏は「小泉進次郎前環境大臣の“懐刀”と言われてきた。福田議員の方が年齢は上で、『小泉進次郎と福田達夫』(田崎史郎、文春新書)という2人の対談で作られた本もある」とコメント。
「また、商社に務めた経験もあり、外国語も堪能。実力派だ。総務会長は、ベテランが担うことが多い難しい役割だが、小泉前環境大臣が自民党の農政改革をやっていたときに、裏方を取り仕切っていたのが福田議員だと言われている。農水行政は複雑なパワーバランスで成り立っているといわれが、そこに切り込んでいった。なかなかの“策士”であり、派閥の微妙なバランス、政策の調整などの場面で手腕を発揮することが期待されているのではないか。『党風一新の会』(当選3回以下の“若手”衆議院議員約90人で作られた派閥にとらわれない衆院議員有志)をまとめてきた仕掛け人の一人で、まさに抜擢人事といえる」
さらに、西田氏は幹事長に起用された甘利明氏に言及。甘利氏は2016年、金銭授受問題の疑惑で閣僚を辞任。記者会見では「秘書には政治資金収支報告書に記載するよう指示したが正しく記載されなかった」と述べ、捜査の結果、検察庁は甘利氏を不起訴とした。
「岸田総理はあえて甘利氏を幹事長に起用したのなら面白い。派閥の力に屈したかのように見せかけて、政府ではなく党で周囲の目につきやすい幹事長のポストにあえて甘利氏を起用したのかもしれない。実際に甘利氏は週刊誌などから直撃取材も受けている。世間に照らして、派閥の論理だけではもたないことを知らしめ、岸田色と求心力を強めていきたいと思っていたとすればなかなかの策士だ」

●“金持ち優遇”から脱却 岸田内閣の秘策は 10/9
岸田首相は8日、国会での所信表明演説で、「新しい資本主義の実現を目指す」と話した。新自由主義で広がった格差を埋めるというが、どう実現するのか?つぶさに見ていくとそこには大きな課題も見えてきた。
新たな経済政策は「分配なくして成長なし」
「分配なくして次の成長なし。大切なのは、成長と分配の好循環です」こう話した岸田首相が掲げるのは、「新自由主義からの転換」。小泉改革以来自民党がとってきた、市場重視・規制緩和・民営化などの方向とは一線を画す姿勢を示している。自民党の新自由主義のもとでの政策では、「トリクルダウン」理論つまり、大企業や富裕層が豊かになれば、その富のしずくが中低所得者層にも行きわたるとの考えがとられていた。しかし、実際には「しずくのしたたり」は限られ、格差が広がった。特に日本では賃金全体が上がらず、購買力を踏まえて各国と比べた日本の平均賃金は、30年前は世界のトップクラスだったのに、今やアメリカの6割程度で先進国の平均にも届かない。(OECD調査)都市部でもワンコイン500円で満足なランチが食べられることに、主要国からの訪問者は驚く。今のままでは、株や投資などで利益を得る富裕層と、中間層貧困層との間で格差は広がり続けるのではないか。富が自動的には分配されないことがわかり、主要国は政策を切り替えてきたが、日本は「アベノミクス」を続けた結果、出遅れた。その反省から、岸田首相がねらうのが「新資本主義」「令和版所得倍増計画」だ。
格差是正とは言うものの…
岸田首相は「介護や保育士などの報酬引き上げ」で、社会的に重要な分野の人手不足解消をねらう。「困っている人」への支援も格差是正に必要な政策だ。ただ、こうした分配には多くの財源が必要だ。そもそも日本では「困っている人」のあぶりだしが正確にできない。マイナンバーの活用などが立ち遅れ、データの把握ができないため、過剰なばらまきの温床となりうる。
コロナ対策の分配は公正か?
岸田首相はコロナ対策として医療機関への支援を強化するという。コロナ対策で医療機関への支援は必要な政策だが、それぞれの医療機関の正確な財政状況のデータが足りないために、一部は、コロナ患者の診察にかかわらない医療機関への過剰な支援につながったという指摘がある。また、肝いり政策だったGoToトラベルは、ひとり一泊4万円、つまり2人部屋で一泊8万円の宿泊を補助の上限にしたため、手軽なホテルより高級旅館などに泊まるインセンティブが働いた。「一泊8万の旅館」に連日泊まる層が国から最大の支援を得られたとして、批判がある。岸田首相は「ワクチンの2回接種」などを踏まえて支援に差をつける「GoTo2・0」として再開を検討しているが、支援の額や上限も再検討する必要がある。コロナの影響を大きく受けた旅行や飲食業界のあり方も課題だ。支援はもちろん必要だが、専門家からは、これらの業種はもともとコロナ以前から生産性が低いという指摘がでている。支援にあたっては、コロナ以前に戻すのではなく、しっかり生産性を上げる方策と同時でないと、非効率な部分をそのまま温存してしまう。
「1億円の壁」の打破
こうした「支援、分配政策」には、財源が必要だ。格差をおさえ財源を得るために岸田首相が総裁選の過程で口にしたのが、「1億円の壁」の解消だ。日本は給与所得に対する所得税率が累進で最大45%である一方、金融資産の運用や配当からの「金融所得課税」は国と自治体合わせて定率の20%だ。所得総額が1億円を超える層は、金融所得が多いので、1億円を超えるあたりから、実質的な所得税の負担率が下がり、「所得が多いほど税率が高く」はなっていない。大富豪の税率が高くないという現実を変えるには、金融所得課税の税率を引き上げることが考えられる。「市場重視」だった安倍・菅政権は税率を上げると株価が下がるとして税率見直しをしなかったが、高所得者に応能の負担を求める税制改正は、岸田政権が有言実行内閣かを見るひとつの焦点になる。
待っているだけでは何も手に入らない
成長のための「デジタル化や人材育成」は、これまで非効率だった、主に分配を受ける側の変化が鍵を握る。大企業や富裕層からの「しずく」を待つのでなく、中間層も成長が望まれる。岸田政権は、「人材育成への投資に対する減税」を打ち出しているが、成長や適切な人材移動につながるリカレント教育やデジタル化は、中小企業を軸に強く推し進める必要がある。中間層に分配する国の出費の増大を、富裕層だけが背負うのは難しい。分配の公平性とともに、分配を受ける側も同時に成長することが重要なのだ。
コロナでとんでもなく膨らんだ借金は
国が成長しないうちに分配を優先すると「貧しさをわけあう国」になるが、岸田政権もまずは借金をしてのコロナ対応になるとみられる。コロナ対策で財政が膨らんだのは各国同じだが、ほとんどの主要国は「空いた穴」をどう埋めるのか具体的な議論を始めている。10月4日、イギリスの保守党大会でスナク財務相はこう演説した。「将来世代へのつけ回しを積み重ねることは、経済的に無責任であるだけでなく、道徳に反する」コロナで膨らんだ支出を埋めるために、「この70年間で最高の租税負担率」になるほどの、法人税や一部所得税の増税を決めた。これをイギリス国民は「責任ある財政運営」と受けとめて保守党の支持率は上昇し、スナク氏は次の首相の呼び声も高いという。
少子化を加速させたコロナ
コロナ禍で、日本は少子化が急激に進んだ。コロナで一番傷んだのは、生まれてくる数までおさえられた「次の世代」とも言える。人数が少ない次世代にどこまで巨大な借金を押しつけるのか。困っている人への分配も成長へのインセンティブも、その財源を明確にしながら、的をしぼったメリハリある支出、真の「ワイズスペンディング=賢い支出」が求められている。

●岸田首相が任命した「脱原発閣僚」のサプライズ発言 10/9
岸田内閣が発足し、原発をめぐるエネルギー政策の行方が注目されている。前任の菅内閣では河野太郎行政改革担当相と小泉進次郎環境相のコンビが脱原発と再生可能エネルギーを推進した。両氏が去った今、岸田内閣は原発推進にかじを切るのだろうか。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】
新内閣発足から一夜明けた10月5日、新閣僚の閣議後会見が初めて開かれた。とりわけエネルギー政策を担当する萩生田光一経済産業相と山口壮環境相の発言が注目された。そこで、ちょっとしたサプライズがあった。
新たに大臣が就任すると、霞が関の中央官庁は新任の大臣に一夜漬けともいえる短期集中のレクチャーを行う。大臣就任の記者会見に臨むためだ。
官僚たちは、その官庁が抱える懸案の政策について大臣に説明。記者会見で大臣が質問されるであろう想定問答を周到に用意し、大臣に「こう聞かれたら、こう答弁してください」と伝授する。
ただし、政策に詳しい政治家が大臣になると、必ずしも官僚の振り付け通りに発言するとは限らない。政治家としての信念で自らのカラーを打ち出す場合もある。初入閣でブルブル震えながら会見に臨む大臣もいれば、堂々と自説を解く大臣もいる。
「核燃料サイクルは進める」と萩生田経産相
そんな観点で萩生田、山口両氏の会見を見ると、これまでエネルギー政策に携わった経験が少ない萩生田経産相の発言は、経産省のレクチャー通りという印象だった。萩生田氏は安倍晋三元首相の側近だ。これまで文部科学相を務めるなど文教族と目され、エネルギー政策には必ずしも明るくない。
萩生田氏は「安全最優先で原発再稼働を進めていきたい。使用済み核燃料を再処理し、回収したプルトニウムなどを有効利用する核燃料サイクルは政府の基本方針で、しっかりと進めていきたい」と語った。
先の自民党総裁選では河野氏が「使用済み核燃料を再処理してもプルトニウムの使い道がない」などとして、核燃料サイクルを見直すべきだとの持論を展開した。
この点について質問された萩生田氏は「利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則で、電気事業連合会がさらなるプルサーマルの推進を目指す方針を明らかにしている。プルトニウムの利用拡大が進むものと考えている」と答えた。原発を推進する経産省の大臣としては模範解答のような発言で、サプライズはなかった。
「原子力はできるだけ低減」と山口環境相
これに対して、山口環境相の記者会見は少し事情が異なった。
大臣就任の会見で、山口氏は「我が国は2050年にカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の目標を作った。再生可能エネルギーを最大限導入していくところが一番のポイントだと思う」と発言した。ここまでは想定通りだった。
続いて記者から「前任の小泉環境相は原発に慎重な立場だった。山口環境相はどのような考えか」と質問が出た。
山口氏は「原子力については党、政府できちんとした議論がなされていると思うので、そういう意味で、できるだけ低減していく。一番のゴールはそこだと思う。小泉さんがやってこられたことは原則引き継がせていただきたいと思う」と答えた。
さらに山口氏は原発について「産業界には産業界の意見があるだろうし、明日すぐになくせるわけではない。廃炉にしても何十年もかかるわけで、それに向けた体制もちゃんと持っていないといけない」と述べた。
自民党総裁選では、岸田文雄氏と高市早苗氏が小型モジュール炉(SMR)と呼ばれる小型原発の建設や核融合炉の研究開発を主張した。
この点を踏まえ、山口氏は「新しい原子力の形も出てきているようなので、小型のいろんなものも含め、科学的に安全性が確保されているか考えないといけない。けれども原子力は長期的にできるだけ低減させていく。再エネの最大限導入を踏まえながらやっていく」とも述べ、原発低減にこだわりを見せた。
恐らくこの発言は、環境省のレクチャーではなく、山口氏の政治家としての信念に基づく発言だろう。初入閣の山口氏は外交官出身で、旧民主党政権で副内閣相や副外相を務め、野党転落後に自民党入りした。二階派で衆院当選6回の政治家だ。
ホームページで「脱原発」を公表
山口氏は自身のホームページで「原発を永久に保有しようという意見の人はいないのではないか。私も、今すぐ原発をなくすのは難しいが、いずれはなくさねばならない、できるだけ自然エネルギーの実用化を早め、脱原発を実現しようとの考えだ」と、自らの政治スタンスを明らかにしている。小泉純一郎元首相や河野氏と同様の主張だ。
自民党の内情に詳しい関係者によると、「将来の脱原発を支持する自民党国会議員は若手を中心に数十人ほどに増えている」という。閣僚経験者でも河野氏らがいる。
岸田内閣の閣僚で明確に脱原発を表明しているのは、今のところ山口氏だけとみられる。もちろん岸田首相はそれを承知で任命しているはずで、今後、閣僚として山口氏がどんな発言をするのか注目される。

●所信表明は1点? ジャーナリストが「カチンときた」セリフとことわざ 10/9
岸田文雄首相は8日、衆参両院の本会議で、初めての所信表明演説を行った。演説時間は約25分。岸田政権がどこを目指し、何を実現していくのかを国民に示したわけだが、新政権に期待できるのか。所信表明演説について、ジャーナリストの青木理氏は「1点か5点でもいいか」と語る。その理由とは…。
「早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め」
演説も終わりに近づいたころ、岸田氏は「ことわざがあります」と、2度繰り返した。 岸田氏はその意味を「一人であれば、目的地に早く着くことができるかもしれません。しかし、仲間とならもっと遠く、はるか遠くまで行くことができます。私は、日本人の底力を信じています」と語った。
このことわざは国民にはいまいちピンとこないが、青木氏も「こんなことわざ、僕も初めて聞きました。しかし、なぜわざわざ海外のことわざを引っ張ってくるんですかね。意味がわからない」と厳しい意見。さらに、皮肉を込めて次のように解釈した。
「一人ではなく仲間と進めとは、麻生太郎副総裁、安倍晋三元首相、甘利明幹事長の3Aの協力がなければ前に進めないという意味、そして”はるか遠くまで"というのは、われわれが望むのとはまったく別の方向の”はるか遠く”を意味するのではないか(苦笑)。政権の実態をみると、そう感じてしまいます」
さて、所信表明の肝心の内容だが、「経済」という言葉が20回、「成長」が15回、「分配」が12回、「新しい資本主義」が7回繰り返された。これらが岸田政権のこれからを読み解くキーワードのようだ。
「気になる言葉といえば、たしかに『新しい資本主義』とか、『分配』ですよね。その言葉だけ聞けば、安倍・菅政権とは少し違う、いわゆる宏池会的な路線が滲んでいるようにも感じられます。つまりは経済重視、再分配による格差や富の偏在の是正、一方で安全保障は軽武装路線のハト派といった『宏池会の価値観』を前面に出そうとしているという印象は受けます」
岸田首相の言う「新しい資本主義」とは何か。
「世界中で剥き出しの新自由主義と強欲資本主義が猛威をふるい、それによって中間層が破壊され、貧富の格差がかつてなく拡大した。そうした不満が政治を不安定化させ、欧州では極右やポピュリズム勢力を、アメリカではトランプ氏の出現などにもつながった。だから富の再分配と格差の是正が世界的課題なのは事実でしょう。しかし、岸田政権を眺めると、それを実現するための基盤となる足下の閣僚や与党執行部の顔ぶれはどうか。新自由主義路線を推し進めてきた安倍元首相や麻生元首相といった政治勢力に依存し、頼らなければ何もできない状況では、言葉が浮遊するだけの結果になるのは明らかでしょう」
掲げた目標や計画はいいが、実効性には大いに疑問符がつき、看板倒れになってしまう可能性が高いというわけだ。党役員人事に早くもその兆しが見えているという。
「たとえば、党執行部の人事はひどいものです。肝心の経済政策をはじめとする政策全般を取り仕切る高市早苗・政調会長はバリバリの新自由主義者。かつて『弱者のフリをして少しでも得をしようと、そんな国民ばかりでは日本が滅びる』などと言い放ったこともあります。また、財務相をはじめとする閣僚にも新自由主義者がズラリと顔を揃え、甘利明・幹事長なども同様でしょう。しかも甘利氏は、口利きの対価として大臣室で現金を受領した問題をいまだにきちんと説明していない。こんな人物を幹事長に据えた時点で終わってます」
岸田首相が、所信表明で「被爆地広島出身の総理大臣として、私が目指すのは『核兵器のない世界』です」と語った時にはハッとした人も多いかもしれない。
「この部分に目と耳を引かれた人はいるでしょうが、被爆地・広島はそもそも宏池会の牙城です。岸田氏は宏池会の池田勇人元首相、宮澤喜一元首相が築いた伝統を背負っていますし、自身も広島選出の国会議員ですから、この程度のことは言うでしょう。しかし、肝心なのは具体的な核廃絶への道筋をどう描くのか、という点です。たとえば核兵器禁止条約に参加するのかどうか。そうした点については具体的な道筋はまったく見えず、従来の曖昧な態度に終始するだけでした。
その岸田首相は「外交・安全保障政策の機軸は日米同盟です」と語り、「ミサイル防衛能力など防衛力の強化」を掲げた。
「経済政策では宏池会的な印象を一応打ち出す一方、安全保障面ではタカ派路線を露骨に滲ませましたね。もともと安倍元首相らへの配慮から、岸田氏は総裁選でも敵基地攻撃能力の保有などに前向きな発言もしています。結局、広島にバックボーンを置く政治家としてきれいごとは言うけれども、具体性はほとんどなく、むしろ安倍元首相らに引きずられていくんじゃないですか」
綺麗なことを並べ立てているが、政権の実態は乖離しているということもありそうだ。 その一方で岸田氏は「いい人」「紳士的な人」という人柄に対するいい評価がある。その人柄で党をまとめ上げて、実行していくのは難しいのだろうか。
「難しいというより、無理でしょう。これで自民党が変わるかもしれない、などと期待する人がいるなら、それは甘すぎます。忘れてはならないのは、いったいなぜ岸田氏が新首相になったのか。要は菅首相では選挙で大負けするから、表紙を変えておきたいという自民党の都合にすぎません。また、久しぶりに宏池会政権になったといっても、派閥の力が強かったかつての自民党と現在はまったく違います。はっきりいって岸田政権は安倍、麻生元首相らの傀儡ですから、お手並み拝見という以前に、何かが変わると期待するのはナンセンス。本当に政治を変えたいなら、自民党を牽制する野党勢力の力を強めるしかありません」
岸田氏はさらに「明けない夜はありません」と呼びかけて演説を結んだ。国会の与党の議員のからは拍手が巻き起こり、感動的に受けとめた雰囲気もあった。 シェイクスピアの戯曲「マクベス」にも出てくるセリフだ。
「逆に僕はカチンときましたけどね」
それは次のような理由によるからだ。
「未曾有の危機というべき新型コロナ対策で、安倍・菅政権が万全の対策を尽くしたと考えている人はほとんどいないでしょう。必死にやっての失敗ならともかく、やることなすこと後手後手でピント外れな対策ばかり。いつまで経っても検査すら増えず、少し感染者が増えると医療崩壊の危機が叫ばれることの繰り返し。岸田新首相も、その政権で要職を歴任してきたわけです。そうした劣悪な政治によって痛めつけられた人びとが『明けない夜はない』と願い、嘆くならともかく、ひどい政治を強いてきた側が上から目線で『明けない夜はない』とはいったい何事ですか」
同じ言葉でも発する人の立場やタイミングによって、聞いた人の受け止め方は変わってくる。つまり、言葉選びのセンスがないということのようだ。総裁選では、岸田首相は「トーク力が上がった」と評判だったが、所信表明演説はどうだったか。
「まあ、前任の菅義偉前首相のトーク力がひどすぎましたからね。官僚がつくった文章をひたすら読み上げるだけだった前首相に比べれば、ずいぶんましになったなと思う人もいるでしょうけれど、総裁選を通じた会見などにしても、今回の所信表明演説にしても、人びとの感情を深く揺さぶるようなメッセージはない。知人の政治記者が岸田氏を評して『あたりさわりのないことを喋らせたら永田町でナンバーワン』と皮肉ってましたが、言い得て妙だと思います」
岸田氏は文章を読むためにほとんど下を向き、時々、顔を上げるというスタイルだった。
「現在のコロナ禍は、言うまでもなく人類史的な危機です。ならばせめてその危機に立ち向かう為政者として必死の覚悟を示すとか、人びとに真摯な協力を求めるとか、あらかじめ作った文章を読み上げるにしても、もう少し響く一文があってもいい気がしたのですが、世襲のボンボン議員にそんなことを求めるのは所詮、ないものねだりということでしょう」
岸田首相は4日の記者会見で、衆議院を14日に解散し、19日に公示、31日投開票の考えを表明した。
「表紙を変えたにすぎないとはいえ、首相が変わったご祝儀相場があるうちに、一刻も早く解散して総選挙になだれ込みたいということなのでしょう。菅政権の末期はヘタすると大幅な議席減とまで予想されていたものが、少しでもそれを抑えられれば、岸田政権も何とかもつという見方もあるようです。ただ、本当に負け幅を減らせるかどうか、もし衆院選を乗り切れたとしても、来年夏には参院選挙が待っている。安倍元首相らに牛耳られ、政治とカネの問題にまみれた甘利幹事長、小渕優子氏らを登用する“自己都合的再チャレンジ内閣”がそれほど長く続くとは到底思えません」
これらの話を総合し、岸田首相のはじめての所信表明演説を採点するとしたら、100点満点中、何点になるだろうか?
「0点でしょう。演説にかんしては前任者がひどすぎたから1点ぐらいあげてもいいけれど、実態としてはまぁ0点ですね」

●岸田文雄首相所信表明 具体策、痛みをなぜ語らぬ 10/9
岸田文雄首相は初の所信表明演説で「成長と分配の好循環」を柱とする「新しい資本主義の実現」を強く訴えたものの、新型コロナウイルス対策も含め具体的な中身は乏しく、それゆえ実現へのスケジュールも示さない曖昧な内容に終始したと言わざるを得ない。
わずかながら具体策と言えるのが看護や保育に携わる人たちの収入を増やすとしたことだ。ただ、これも公的価格の検討委員会を設置し「抜本的に見直す」としただけ。原案にあった分配のための「所得税や相続税の累進構造を高める」とした税制改正の項目が直前で抜け落ちたという。
岸田内閣の直近の支持率は共同通信社の調査で55・7%。他の報道機関で45〜59%となっている。昨秋の菅義偉内閣発足時が共同通信社66・4%、他で65〜74%だったのに比べれば10ポイント以上低い数字だ。「ご祝儀相場」が働かない中、19日公示の衆院選を控え「痛み」を伴う政策を回避したとも受け取られかねない。
そうした負の側面を語らないまま、聞き心地のいい言葉だけ羅列しても、国民の信頼を得ることはできないだろう。信頼の土台になるのは、目指す将来像を具体的に示した上で、国民が納得できる明確な道筋を語る以外にない。信頼を損なう一因ともなった一連の不祥事や公文書改ざん問題に触れなかったのも残念だ。
コロナ対策では司令塔機能の強化や人出抑制、医療資源確保のための法改正などで危機管理を抜本的に見直す方針を表明した。専門家からは冬の「第6波」を警戒する声が上がっているのに、年明けの通常国会まで何ら対策が取られないのでは再び感染爆発を招きかねない。菅前政権との違いを意識したであろう「常に最悪の事態を想定して対応する」も掛け声倒れになってしまわないか。
来年から団塊世代が75歳以上になり、持続可能性が危ぶまれる社会保障制度についても「安心できる全世代型社会保障の構築を進める」と言及しただけ。「財政健全化に取り組む」としたが、2025年度の黒字化目標には触れなかった。財源を含め将来像を示さなければ不安の解消にはつながらない。痛みを伴う全体像を急ぎ示すべきだ。
「被爆地広島出身の総理大臣として、私が目指すのは『核兵器のない世界』」と大上段に振りかぶりながら「核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努める」では安倍、菅政権と何ら変わらない。地元からは核禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加を求める声が上がっているのに、どうこたえるのか。外交・安全保障でも路線継承にとどまらず、緊迫化する台湾情勢を含め総合的な外交戦略を早急に示す必要があるだろう。

●岸田首相の演説、有権者に響いたか コロナ対策や経済で様々な注文 10/9
地方からの変革、科学技術立国の実現、働く人への分配強化――。岸田文雄首相が8日、所信表明演説で新政権の指針を示した。有権者は首相の言葉をどう受け止め、間近に迫る衆院選ではどのような点を重視するのか。茨城県内の各地で聞いた。
「言葉に力がこもっていて、国のトップに立つ人らしさがある」。つくば市の大学3年生相沢慧(けい)さん(20)は、岸田首相の言葉が明瞭に伝わるという。首相の交代で、自民党へのイメージが良くなったと感じる。
筑波大で工学を学ぶ相沢さんにとって、特に胸に響いているのは「デジタル田園都市国家構想」。高速通信規格「5G」などデジタルインフラの整備を地方から進め、都市との格差を縮めるという考え方だ。「理系の学生なので、選挙では、科学技術産業を手厚く支援してくれるかを重視します」
首相は演説で「書きためてきたノートには、国民の切実な声があふれている」と語りかけた。この日の取材でも、生活への不安を語る人たちがいた。
多くの人でにぎわう夕方のJR水戸駅。帰宅途中のトラック運転手井川純さん(47)は「市民すべてに、一律の現金給付をしてほしい」と訴えた。
非正規社員の井川さんは新型コロナウイルスの影響で収入が激減した。緊急小口資金の貸し付けなどを利用し、借りたお金の総額は100万円に上る。経済的に困窮している人への対策に注目しているが、首相が強調する「分配」政策も、野党が訴える経済政策も抽象的に思える。
通院のため、JR日立駅にいた北茨城市の菊池彰子さん(55)は、がんや腎臓病を患っており、老後の生活が不安だ。衆院選では、高齢者の生活資金のほか、具体性のあるコロナ対策に注目するつもりだ。
岸田氏が自民党総裁選で「日本型のロックダウン(都市封鎖)」の必要性に言及したことについて、「ロックダウンした後の支援があるのかが気がかり。飲食店だけでなく、その他の人への支援もしっかりとしてほしい」と話した。
どの党に投票するかは、まだ決めていない。「政策の中身を聞いてみないとわからないけど、高齢者を大事にしてくれそうな人に一票を投じたい」と話した。

●日経平均株価の急落は岸田首相のせいなのか? 10/9
日経平均株価が8営業日連続で下げた。10月7日になってようやく止まったが、8日続落は2009年以来のことである。TOPIX(東証株価指数)に至っては9日連続で下げて、日経平均からさらに1日遅れて8日に反転した。
外国人投資家は岸田新内閣に「最低評価」
日本株がかくも弱いのは、中国の不動産大手、恒大集団の経営悪化、アメリカの債務上限問題、そして原油価格の上昇など、海外の悪材料をいくつも指摘することができる。
とはいうものの、外国株と比べると日経平均の約6%下落は突出している。岸田文雄氏が自由民主党総裁に選ばれた9月29日から、実に2000円も下げているのである。
9月3日の菅義偉前首相の不出馬発言から、一時は年初来高値をつけた日経平均は同月末から反落し、文字どおり「行ってこい」になってしまった。すでにマーケットでは、「岸田ショック」などという言葉も飛び交い始めている。
特に外国人投資家の間では、自民党総裁選挙の結果への失望が強い。彼らの間では、「高市総裁なら女性初の首相誕生となり、それは日本の変革を意味するから買い。河野総裁誕生でも、今後の変化が期待できそうだから買い」という期待があった。しかるに結果は、いかにも現状維持といった感じの岸田氏の勝利であった。
総裁選当日のThe New York Times紙の報道も、こんな風に突き放したトーンであった (The choice for Japan’s prime minister is a party stalwart who lagged in opinion polls.)。
エリートのパワーブローカー(有力者を陰で操る実力者)が世論をねじ伏せ、日本の与党はこの水曜日、岸田文雄元外相を次期首相に選出した。党内穏健派の岸田氏を自民党の総裁に選出することで、党の幹部たちは世論の選択を無視し、去り行く不人気な菅義偉首相(当時)と差別化できないような候補者を選択した。
アメリカのような直接民主主義の国の感覚では、党員票で1位だった河野太郎氏が勝つべきであって、議員票でそれと違う結果が出るのはケシカラン、となるらしい。
とはいえ、日本は間接民主主義であり、自民党総裁選は元来が議員票の戦いであった。1972年の「三角大福決戦」であまりに現金が乱れ飛んだので、あとから党員票という制度を付け加えたという経緯がある。今回の結果は、「岸田氏の圧勝」とみるのが国内的には順当であろう。
ちなみにNY Times紙は「岸田氏は菅氏と大差がない」と言っているが、これは事実誤認と言えよう。真っ先に総裁選に名乗りを上げて、菅首相に勝負を挑んだのが岸田氏であった。出馬宣言自体は確かに高市氏も早かったけれども、恐縮ながらその時点で周囲の見方はまだ懐疑的だった。
逆に菅氏は、河野候補を支援して何とかして勝たせようとしていた。一部には、「河野政権誕生なら、小泉進次郎官房長官、菅義偉官房副長官」などという読み筋もあったとか。何もそこまでワーカホリックにならなくても……、と言いたくなるところだが、真面目な話、前首相の肩入れはむしろ河野氏にとって逆効果となっていたのではないか。
金融所得課税の本当の影響はどれだけ?
ともあれ、岸田政権発足に対する海外の見方は散々なようである。というより、「わかってないなあ」と言いたくなるところだ。国内的にはどうかと言うと、10月4日の新内閣発足を受けて行われた世論調査の結果は、以下のように幅が広いものとなった。
   日経新聞 支持59%、不支持25%
   読売新聞 支持56%、不支持27%
   共同通信 支持55.7%、不支持23.7%
   毎日新聞 支持49%、不支持40%
   朝日新聞 支持45%、不支持20%
各社によって尋ね方が違うので、日経と読売が高めに出て、朝日と毎日が低めに出るのは毎度のことだ。事前の想定よりもやや低め、という感もあるが、不支持率が低いこと、この間に自民党支持が上昇している(日経51%、共同50.8%、読売43%、朝日37%、毎日34%)ことを考えれば、今月31日に控える総選挙を戦うにはまずまずの状況といえるだろう。
マーケットが岸田政権を嫌気する理由として、「金融所得課税強化を狙っている」ことが挙げられる。合計所得1億円以上の人は所得税負担率が低くなる、という「1億円の壁」なるものも注目され始めた。これまで、自民党で税調会長を務めていた甘利明氏が幹事長に転じたので、後任は岸田氏のいとこである宮沢洋一参議院議員になる、と言われている。今年度の税制改正では、金融所得課税が検討課題となる公算が大であろう。
とはいえ、「大金持ち」がそんなに多くはないわが国においては、年収1億円を超えるのは2万人強に過ぎない。しかもこの人たちは、すでに所得税の最高税率45%に住民税や社会保険料などを払っている。仮に現行税率の20%を30%に引き上げたところで、そんなに大きな財源とはなりそうにない。「貯蓄から投資へ」という流れにも逆行するので、金融所得課税の強化が「好手」であるとは考えにくい。
その一方で、株式譲渡益や配当への課税は、国際的に強化される流れにある。また、非居住者である外国人投資家から見れば、本件は文字どおり「どうでもいい話」であろう。確かに「マーケット・フレンドリー」ではないけれども、この問題が「日本株売りの主犯格」と見るのは考えすぎであろう。
宏池会の会長である岸田氏は、自民党においては「20年ぶりのセンターレフト派閥出身の総裁」となる。海外においても、アメリカでは昨年、共和党のドナルド・トランプ大統領を破って民主党のジョー・バイデン政権が誕生した。先月行われたドイツの総選挙では、長らく政権を担ってきたCDUの得票をSPDが上回った。世界的に貧富の格差が拡大し、なおかつコロナが追い打ちをかけている状況にあって、左派政権が増えているのは自然な流れと言えよう。
岸田総裁はファーストペンギン!?
そこで世界各国で、「中間層の復活」や「社会的包摂」(Social Inclusion)といったかけ声が上がるわけだが、これまでのところ何か格差是正の「妙手」が見つかったわけではない。岸田内閣もまた、「新しい日本型資本主義」や「成長と分配の好循環」というテーマを掲げている。とはいえ、具体策はなかなか見えてこないのが実情だ。
この問題について、10月1日に行われた木原誠二官房副長官の勉強会で、甘利明幹事長が「岸田総裁はファーストペンギンだ」と語ったそうである。氷の上で群れているペンギンのうち、最初の1頭が海に飛び込む。海の中にエサとなる魚がいるかどうかは、もちろん氷の上からはわからない。それでも最初の1頭が飛び込むと、あとに続くペンギンが現れる。最初から「できっこない」などと言ってないで、とにかくやってみろ、というわけだ。
10月8日の所信表明演説において、岸田首相は「分配戦略」と銘打って、企業の四半期開示の見直し、下請け取引に対する監督体制の強化、賃上げを行う企業への税制支援、子育て支援、看護・介護・保育などで働く人々の収入を増やす、あるいは財政単年度主義の弊害是正などを訴えた。が、いかんせん新味を感じさせるものではなかったようだ。
とはいえ、岸田内閣が景気を回復させ、株価を再び上昇に向かわせることは十分に可能なのではないか、と筆者は考えている。
自民党は大きくは負けず、第2次岸田内閣発足へ
まず、10月31日の総選挙では自民党は大きく負けないだろう。となれば、10日後くらいに特別国会が召集され、そこで第2次岸田内閣が発足する。真っ先に取りかかるのは補正予算である。出馬宣言の直後から、岸田氏は「数十兆円規模」という大胆な言い方をしてきた。これは事前に財務省と何らかの「調整」があったからだろう。だったら話は早い。
バイデン政権の「インフラ投資」予算は、議会の与野党対立の中でほとんど五里霧中であるが、議会制民主主義の日本では予算はちゃんと12月までに成立する。中小事業者や生活困窮者への給付金などが盛り込まれる見込みだ。
そして以前にも当欄で寄稿したように、日本経済には巨額の強制貯蓄がある (日本経済には36兆円もの埋蔵金が眠っている)。2020年度分で計算してみたところ、コロナ下で生じた「意図せざる貯蓄」は実に38.2兆円にもなった。このうち半分でも消費に回ってくれれば、それだけでブームを起こせるはずである。
もちろん年内にもコロナの第6波が到来するかもしれないし、中国経済の減速や資源価格の高止まりなど海外経済の影響を受けるおそれもある。ただし現下のマーケットの反応は、やや慎重になりすぎているのではないかと感じているところである。
 

 

●岸田首相 富裕層の金融所得課税 当面見直さない認識重ねて示す  10/10
岸田総理大臣は、先の自民党総裁選挙で言及した、富裕層の金融所得への課税の在り方について、民間企業の従業員の賃金引き上げなどに優先して取り組む必要があるとして、当面、見直しは考えていないという認識を重ねて示しました。
岸田総理大臣は、自民党本部で記者団に対し、先の自民党総裁選挙で言及した、富裕層の金融所得への課税の在り方について「もともと、分配政策はさまざまな政策が必要だと申し上げてきた。その順番を考えた場合に、まずは賃上げ税制、さらには下請け対策、そして看護・介護・保育といった公的価格の見直しから始めるべきだと考えている」と説明しました。
そのうえで「それぞれ大変重い課題であり、しっかり進めていくことを優先させたい。もともとあったさまざまなメニューの中で、優先順位について申し上げた」と述べ、富裕層の金融所得への課税の在り方について、当面、見直しは考えていないという認識を重ねて示しました。

●岸田首相評価「菅内閣をすごく分析している」「イメージとしては力強い総理」 10/10
作家の乙武洋匡氏(45)が10日放送のフジテレビ「ワイドナショー」(日曜前10・00)に出演。第100代総理に就任した岸田文雄内閣総理大臣(64)についてコメントした。
番組では、岸田首相が8日の衆院本会議で行った就任後初めての所信表明演説を紹介。野党からは内容が「スカスカ」などの批判が出ていることなどを取り上げた。
岸田首相について意見を求められた乙武氏は「まずはなぜ菅政権があそこまで低支持率に終わってしまったのかとすごく分析しているなと思った。菅政権は自体はこの1年間を振り返ると、実はこんなこともやっていたんだって、後から評価されている部分もあった。なのに、なぜ評価されていなかったか、おしゃべりがあまり上手じゃなかったというか、目も右往左往してしまったりとか、問いに対してきちっとした答えたできていなかったりとか、岸田さんはそのあたりをすごく意識されているのか、もともとここまで力強いお話をする方ではなかったんですけど、総裁選に臨むにあたって、かなり改善されてきている」と指摘。「なので、なぜ菅さんがダメだったのか、じゃあ、俺はこうしなきゃっていうのをすごく意識されて臨んでいるのかなというのは伝わってきましたね」と評価した。
この言葉に、番組MCの東野幸治(54)も「イメージとしては力強い総理という感じですよね」と見解。乙武氏も「そうですね、割としっかりおしゃべりになっているなという印象受けましたね」とした。
発足したばかりの岸田内閣についても「当選3回の若手議員が3人も閣僚の中に入っている。これは画期的なこと。これすごくいいメッセージになると思う」と私見。「これまでは6回、7回も当選を重ねないと大臣にはなれなかった。大臣になるまで、20年、30年かかるんですよ。優秀な人がよし、やりたいことがある、でも、下積み20年、30年やらないといけないってなったら、『よし、政治家目指そう!』とかならない。当選3回だとだいたい10年。10年下積みを頑張れば大臣になれるかもしれないとなると、若い時から政治家目指して、新しいことを始めるって余白が生まれてくるので」と期待感を口にした。

●菅首相にみる「仕事師」の“けじめ” 10/10
メディアジャックが際立った自民党総裁選を横目に、菅義偉首相が退任際まで存在をアピールし続けたことが波紋を広げた。
「辞めていく首相は、『立つ鳥跡を濁さず』の格言通り、淡々と残務処理に徹する」のがこれまでの永田町の“おきて”。しかし、菅首相は退任直前に訪米して日米首脳会談や日米豪印4カ国首脳会談をこなした上、9月28日には新型コロナウイルス対策の核心となる緊急事態宣言などの全面解除を決めた。「次の内閣に負担をかけない」との理由だが、「退任後の影響力保持が狙い」(周辺)との見方も多く、政界だけでなく国民の間でも「仕事師」としての“けじめ”のつけ方に賛否が交錯している。
1年前、「国民のために働く内閣」を掲げて歴代3位とされる高支持率でスタートした菅政権。携帯電話料金値下げなど身近な改革から、未来を見据えた「2050年カーボンニュートラル」宣言、さらには反対論を押し切っての東京五輪・パラリンピック開催まで、「1年間で成し遂げた仕事は歴代政権以上」(官邸筋)なのは間違いない。にもかかわらず、コロナ禍への拙劣な対応で国民の不信を買い、迫りくる衆院選を前に「菅さんでは選挙に負ける」との自民党内の“ダメ出し”で、「無念の退陣表明に追い込まれた」(自民長老)のが実態だ。
それなのに菅首相は、総裁選が終盤戦を迎えた9月23日から26日まで訪米し、4カ国首脳会談など極めて重要な外交行事をこなし、初対面から馬が合っていたとされるバイデン米大統領とは「政権が変わっても日米関係は揺るぎない」ことを世界にアピールしてみせた。政界やメディアからは「卒業旅行」などとやゆする声が噴き出す一方、「最後まで仕事一筋は立派」(自民幹部)との評価も。しかも、菅首相は後継者が決定する前日の28日に、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の全面解除を決め、「お別れ会見」で自らの指導力を誇示した。
「河野氏支持」で総裁選に積極関与
そもそも、最近の政権移行では、現職首相(総裁)が退陣表明した場合は、総裁選を経て3週間前後で後継者が新政権を発足させてきた。しかし、今回は9月3日の退陣表明から10月4日の新政権発足まで1カ月余の移行期間があり、仕事師を身上とする菅首相は「やるべきことをやるのは当然」(側近)と判断したとみられる。こうした「菅流の身の処し方」の中で、永田町で賛否が渦巻いたのが「菅後継」を目指して総裁選に挑んだ河野太郎氏への支持表明だった。総裁選が告示された9月17日、菅首相は総裁選と並行してワクチン担当をこなす河野氏について「国難の中で大きな成果を挙げてくれた。コロナ対策は継続が極めて大事だ」とあえて河野氏支持を明言し、個別議員にも働き掛けたとされる。
過去に長期政権を築いた中曽根康弘、小泉純一郎両元首相や安倍晋三前首相は、党内への強い影響力を背景に「後継指名」を実践した。しかし、菅首相のように自らの力不足でわずか1年で退陣表明に追い込まれたのに、総裁選で特定の候補を支持するのは「宰相道に反する行為」(首相経験者)との批判も根強い。このため党内では「手勢を率いて二階派を継承する」「河野政権での院政狙い」などのうがった見方も飛び交った。菅首相自身は最終会見などで次期政権での入閣や菅グループの派閥化を否定した上で、「(退任後も)掲げた政策の実現に取り組んでいきたい」と政治活動への強い意欲を示した。このため、11月衆院選後や来夏の参院選に向けた政局混乱も想定される中、菅首相の退任後の動きが、自民党内の権力闘争とも絡んで、永田町の注目の的となりそうだ。 

●当選3回で総務会長、自民「若手の顔」福田氏が見せたしたたかさ 10/10
自民党改革のシンボルとして、衆院当選3回ながら党三役の一角である総務会長に起用された福田達夫氏(54)。総裁選で河野太郎広報本部長を支持した結果、「無役」となった小泉進次郎前環境相に代わる新たな「若手の顔」としての期待が高まる一方、党の最高意思決定機関で並み居る重鎮たちの手綱を握ることができるのか。その手腕は未知数だ。
祖父は福田赳夫、父は康夫の両元首相。商社勤務を経て、2012年の衆院選で初当選し、早くから所属する細田派の「プリンス」と目されてきた。
岸田文雄首相誕生の流れを作った陰の立役者でもある。党改革を求めて衆院当選3回以下の議員と「党風一新の会」を結成し、代表世話人に。「派閥の力学によらない開かれた総裁選を」との主張はうねりとなり、内閣支持率が危険水域に達していた菅義偉前首相の退陣という「最大の目的」(同会若手)を果たした。
総裁選では、当初は「河野氏支持でまとまる若手の中心になる」と見られた福田氏だが、2回とも岸田氏に票を投じたと記者団に明かした。党関係者によると、投開票日直前に同会若手らに岸田氏支持を伝えたことで、河野氏支持に傾いていた若手議員票が岸田氏に雪崩を打ったという。異例の大抜てきは必然だった。
プリンスらしからぬしたたかさ―。盟友であり、中堅・若手の代表格だった小泉氏の陰に隠れていた福田氏が、将来の首相候補として一歩抜け出したとみる向きもある。
とはいえ、今回の登用は細田派にとって寝耳に水。派内にはそれぞれ安倍晋三元首相と、福田系の流れをくむ議員がおり、党関係者は「安倍さんは面白く思っていないはず」。
一方、福田氏も抜け目のない配慮を見せる。新執行部が発足した今月1日、真っ先に安倍氏の事務所を訪問。同じく当選3回で幹事長の重責を担った安倍氏から指導を仰いでみせた。
ただし、党の案件を最終決定する総務会には当選を重ねたうるさ型が集まるため、意見集約は荷が重いとの指摘もある。05年には郵政民営化法案に関する議論が紛糾。全会一致が原則だが多数決で突き進み、最終的に衆院解散・総選挙で民営化反対派と雌雄を決する展開となった。細田派中堅議員は「『何で若造の言うことを聞かないといけないのか』と思う重鎮をなだめる胆力が問われる」。
福田氏は8日の総務会後の記者会見で職責の重さを問われ、淡々と述べた。「やることを果たすだけで特に気負いもない。それだけです」

●「新しい資本主義」掲げる岸田首相、日本株市場の一部は増税警戒 10/10
岸田文雄・第100代首相は8日、前任者に比べると熱のこもった所信表明演説を行った。しかし、所得再分配などの話は株式相場に悪いニュースとの投資家懸念を和らげるにはほとんど至らなかった。
演説の大部分を「新しい資本主義」についての話題が占め、自民党総裁選の時から唱えていた富の再分配と格差の解消という目標を首相は繰り返した。岸田氏が目指す政策は日本の一部投資家に警戒感を抱かせ始め、日経平均は6日まで8営業日続落、2009年以降で最長の下げ局面となった。
岸田首相、デフレからの脱却を「成し遂げる」−所信表明演説
さらに、日本経済新聞は7日、株式譲渡益や配当金など金融所得への課税引き上げを含む見直しが年末の2022年度税制改正で議論される方針だと報じた。
岸田首相:金融所得課税、当面は触ることは考えていない
いわゆる「岸田ショック」は日経平均の下げもあって、先週はテレビ番組でも話題になった。首相は新自由主義的な政策が社会を分断し貧富の格差を拡大させたとみて、これを否定。国民の9割以上が自身を中間層と見なしていた時代にも言及する。
8日の所信表明演説では、「早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め」とのアフリカのことわざを引用した。
セゾン投信運用部の瀬下哲雄運用部長は「株式市場にとってあまりいいことは言っていない」とコメント。「古い日本に戻るような話を結構していますし。税金を上げようみたいな話もしている」と指摘した。
金融所得課税、20%から25%へ増税でも市場害さず−岸田派・山本氏
ただ、株式相場に悪い話ばかりでもない。31日投開票の衆院選が株価回復の起爆剤になり得ると予想する向きは多い。日本のワクチン接種完了率は高まり、新型コロナウイルスの新規感染者は急減している。
JPモルガン・アセット・マネジメントの前川将吾グローバル・マーケット・ストラテジストは、「すごく日本株がどんどん下げ続けるかというと、そんなこともないのかなという印象」だと話す。「年末にかけては、もう一回ちょっと上昇の可能性があるのかなという風に思っている」と述べた。

●首相、財務次官にくぎ刺す 高市氏は不快感 10/10
岸田文雄首相は10日のフジテレビ番組で、財務省の矢野康治事務次官が月刊誌「文芸春秋」で、衆院選などに絡む政策論争を「ばらまき合戦のようだ」と批判したことにくぎを刺した。「いろんな議論はあっていいが、いったん方向が決まったら関係者はしっかりと協力してもらわなければならない」と述べた。
自民党の高市早苗政調会長は10日のNHK番組で「大変失礼な言い方だ。困っている方や子どもたちに投資しないことほど、ばかげた話はない」と不快感を示した。
国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2025年度までに黒字化する目標に関しては「長期的に取り組む課題があり、実質上、一時的に凍結に近い状況になる」と説明した。

●財務次官に政府・与党が不快感 岸田首相「協力してもらわないと」 10/10
財務省の矢野康治事務次官が月刊誌「文芸春秋」11月号に寄稿した論文で、与野党の分配要求を「バラマキ合戦」などと批判したことについて、政府・与党幹部が10日、不快感を示した。
岸田文雄首相はフジテレビ番組で「議論した上で意思疎通を図り、政府・与党一体となって政策を実行していく。いったん方向が決まったら協力してもらわなければならない」とくぎを刺した。
自民党の高市早苗政調会長はNHK番組で「大変失礼な言い方だ。基礎的な財政収支にこだわって、困っている人を助けないのはばかげた話だ」と語った。
公明党の山口那津男代表は党本部で記者団に「政治は国民の生活や仕事の実情、要望、声を受け止めて合意をつくり出す立場にある。役割は極めて重要だ」と指摘。財源の制約などを「考慮しながらわれわれも行っている」と反論した。 

●JNN世論調査、岸田内閣支持率58.6% 麻生内閣以来“低水準” 10/10
先週発足した岸田内閣の支持率は58.6%と、内閣発足時の支持率としては麻生内閣以来の低水準となったことが最新のJNNの世論調査でわかりました。
岸田内閣を支持できるという人は、先月の調査結果より17.8ポイント上昇し、58.6%でした。一方、支持できないという人は21.5ポイント減って、34.7%でした。調査方法が違うので単純に比較はできませんが、政権発足時の支持率としては2008年の麻生内閣以来の低い水準です。
岸田総理の人事について聞きました。内閣や自民党執行部の顔ぶれについて「評価する」と答えた人は32%、「評価しない」は45%でした。幹事長に甘利明氏を任命したことについては「評価する」が21%にとどまり、「評価しない」が58%に達しています。
岸田総理が打ち出した自民党改革に「期待する」人は49%、「期待しない」人は42%でした。一方、岸田総理が看護士や介護士など、国で給与を決められる職種を中心に所得を引き上げるとしていることについては、「期待する」が73%にのぼっています。
新型コロナウイルスをめぐっていくつか聞きました。政府のこれまでの対応については「評価する」が51%と、「評価しない」を上回りました。緊急事態宣言などの全面解除を受け、酒類を提供する店への時短要請などをいつ解除すべきか尋ねたところ、「できるだけ早く」と「年内」があわせて64%に達しました。一方で、全体の86%が感染が再び拡大することへの不安を感じているとしています。
衆議院の総選挙の際の比例代表の投票先について尋ねたところ、自民党が38.3%でトップとなり、以下、立憲民主党、公明党、共産党の順となっています。

●菅前首相の支持、裏目に出た河野太郎氏の落とし穴 10/10
自民党総裁選が終わった。党員の人気が高かった河野太郎氏が失速し、岸田文雄氏が新総裁に選出され、10月4日召集の臨時国会で、第100代の首相に選出された。菅義偉前首相の迷走に始まった今回の政局。河野氏の敗因と岸田内閣の今後を考えてみたい。
「七・三の構え」
河野氏は今回、所属する麻生派の麻生太郎会長(現副総裁)らの慎重論を振り切って、出馬に踏み切った。麻生氏は「今はまだ出馬の時期ではない」と諭したが、河野氏は「いや今です」と振り切った。
河野氏の心象風景を考えると、自分の国民的人気が高い今こそ、河野一族の悲願である首相の座を勝ち取る時期だと判断したのだろう。祖父一郎氏は農相、建設相、副総理格国務相、父洋平氏は副総理・外相、自民党総裁と首相まであと一歩のところで、挫折した。太郎氏には「今回を逃せば、チャンスは巡ってこない」という焦りが色濃くあったと思われる。
河野氏をコロナ対策でのワクチン担当相に任命した菅前首相の期待感もあり、若手の代表格、小泉進次郎前環境相、国民的人気のある石破茂元幹事長の支持も取り付け、自信満々だったのではないか。
しかし災いの種は、太郎氏自身の中にあった。「独りよがりで、自意識過剰」「すぐに官僚をどなりつけるパワハラ体質」との批判は、霞が関や経済界で根強くあった。こうした指摘は、祖父の一郎氏の人物評と酷似している。
太郎氏が模範とすべきだったのは、河野一族でただ一人、目的を成就した太郎氏の大叔父である河野謙三元参院議長の姿勢ではなかったか。謙三氏は一郎氏の弟。1971(昭和46)年、佐藤栄作長期政権を支えた重宗雄三参院議長による「参院の重宗王国」を倒して、参院議長に上り詰めた。
河野謙三氏は議長として与野党間の対話を重視し、野党に配慮しながら議事運営をするような人だった。野党7、与党3の比重で行けば、参院での強行採決はなくなり、ひいては参院改革につながるとの考えを持っていた。これを「七・三の構え」と呼んだ。
今回は総裁選であり、与野党間の折衝とは違う。しかし、考えの違う相手の立場をおもんばかる姿勢は、成熟した政治家の資質とみなされるだろう。少し気に食わないと切れたり、しかりとばすようでは、政権運営も国会対策もおぼつかない。
これに対し、岸田氏は「自分の特技は人の話をよく聞くことだ」とアピール。コロナ禍ですさんだ世相も踏まえ、他人とぎすぎすしやすい河野氏との違いを見せつけた。
退陣する首相の「後継指名」
また、総裁選後半の河野氏不振の最大の理由は、9月17日の菅首相(当時)の河野氏への支持表明だったと言えるだろう。菅氏の退陣は、4月の衆参補選での与党連敗、菅氏のお膝元、横浜市長選(8月22日)の惨敗などによって菅氏への反発が強まったからだ。
自らの失政で辞めていく首相が首相官邸での記者団ぶら下がりで、事実上の後継指名をしたのは、愚の骨頂だったというほかない。今の時代、辞めていく首相が後継指名することは無理がある。
菅氏とよく似たたたき上げの首相だった田中角栄氏は74(昭和49)年自らの金脈スキャンダルで退陣したが、後年の闇将軍的な姿は見せず、後継については一切言及しなかった。当時の椎名悦三郎自民党副総裁が田中氏の政敵である三木武夫氏を総裁(首相)に指名しても、沈黙を守った。
菅氏は総裁選の先送り、内閣改造・党役員人事、9月中の衆院解散を策したが、不発に終わり、退陣するのだから、ぐっと耐え忍ぶべきではなかったか。
菅氏の支持表明、さらには国民的な人気は高くても党内に敵の多い石破氏の河野氏支持は、河野支持の数を急速に減らしたとみて間違いない。麻生氏が河野氏に言ったとされる「政治の世界は足し算が引き算になる」という言葉を地で行ったものと言えるだろう。
岸田氏の人事とは
総裁となった岸田氏は早速、党役員・閣僚人事に着手し、党の要の幹事長に甘利明党税制調査会長(麻生派)を起用、約9年間、副総理兼財務相の地位にあった麻生氏を党副総裁に充てた。政調会長は総裁選で争いながらも、決選投票では連合を組んだ高市早苗氏を起用、総務会長には衆院当選3回の福田達夫氏を大抜てきした。河野氏は党広報本部長に甘んじた。
閣僚人事では財務相に麻生氏の義弟、鈴木俊一元環境相(麻生派)、外相は茂木敏充氏(竹下派)、防衛相は岸信夫氏(細田派)の再任、経済産業相は萩生田光一文部科学相(細田派)が横滑り、内閣の要となる官房長官には松野博一氏(細田派)が起用された。
早速、「安倍・麻生内閣」だという批判が出ているが、現実の総裁選で安倍晋三元首相と麻生氏の影響力が強かったのは事実であり、岸田氏はそれを受け入れたと言える。
82年11月、当時の自民党田中派の声援で首相に上り詰めた中曽根康弘氏は「田中曽根内閣」と呼ばれるほどの田中派偏重内閣を作り上げた。
党幹事長は田中派会長の二階堂進氏、官房長官は田中角栄氏の懐刀だった後藤田正晴氏、蔵相(現財務相)には同派のニューリーダーと呼ばれた竹下登氏らを起用、田中氏が刑事訴追されたロッキード事件対策として、無派閥ながら田中氏と極めて親しかった秦野章氏を法相とした。
実際、組閣の過程で田中派の二階堂氏らが中曽根氏に「いくらなんでもやり過ぎだ。考え直した方がいい」と再考を促したが、中曽根氏は「いや変えません。このまま行きます」と、断固押し切ったという。
そのうちに中曽根氏は次第に田中氏と距離を置くようになり、田中派内で台頭してきた竹下氏と、竹下氏と親戚関係にあった金丸信氏を重用、田中氏が85年2月に病気で倒れると、最高権力者然として振る舞うようになる。
岸田氏の場合、総裁選の論功行賞色を強めつつ、老壮青バランスを取り入れる人事をやってのけた。しかもなかなか芸の細かな人事もある。例えば、デジタル・規制改革・行政改革担当相には河野氏の父洋平氏の選挙地盤を引き継いだ牧島かれん氏(衆院当選3回)を充て、河野太郎氏が菅政権で担当していた規制改革、行政改革を引き継がせた。
こうした岸田内閣の人事が国民に受け入れられるかどうかは、岸田新首相が就任早々直面する衆院選の結果でわかるだろう。
岸田首相は国会での代表質問の後、衆院を解散、衆院選を10月19日公示、31日投開票の日程で行う方針だ。ゆえに第100代首相(第1次岸田内閣)は必然的に短命である。衆院選で与党(自公)が勝利すれば、改めて特別国会が召集され、岸田氏が再び首相に指名され、第101代首相(第2次岸田内閣)が誕生することになる。
総裁選、その直後の内閣改造(組閣)から衆院解散までの日数が1カ月以内という事例は佐藤栄作内閣の黒い霧解散の時だ。佐藤首相は66(昭和41)年12月1日の総裁選で再選され、同月2〜3日に党役員人事・内閣改造、同月27日に衆院解散、翌67年1月29日衆院選(自民党は277議席)、2月17日閣僚全員再任で第2次佐藤内閣発足というスケジュールとなった。ちなみに佐藤首相は66年12月の内閣改造・党役員人事で、選挙直前にもかかわらず、幹事長を田中角栄氏から福田赳夫氏に交代させ、内閣の要の官房長官は他派閥(宏池会)の福永健司氏を起用している。岸田首相の場合とよく似ている。

●“日本人拉致問題はすでに解決した問題”…北朝鮮の論理に憤る日本 10/10
岸田文雄首相が発足するやいなや不安材料が発生した。20年ぶりに最下位水準の支持率でスタートした内閣である一方、国民に国家観を伝える初の所信演説では毎日新聞や朝日新聞など地元メディアに落第点をつけられた。
「日本人拉致問題の解決が最優先課題」と野心的に叫んだが、当の北朝鮮は「すでに終わったことをなぜ何度も持ち出してくるのか」とし、北朝鮮外務省は「第一ボタンをちゃんと閉めろ」と叫んでいる。
「すでに解決した問題」…どこかでよく耳にした論理
北朝鮮の立場はこうだ。2002年、当時の小泉純一郎首相の訪朝時に拉致問題について認めて謝罪もして、拉致被害者を日本へ帰国させたりもしたのに、一体何が問題なのかというのだ。北朝鮮は当時、日本人13人が拉致され、8人が死亡したと明らかにした。残りの5人は小泉首相とともに日本に帰国した。ただ、日本では拉致被害者が北朝鮮の説明より多い17人という立場だ。”すでに解決した問題”とは、どこかでよく耳にした論理だ。慰安婦問題の解決において日本は「2015年の日韓慰安婦合意で最終的かつ不可逆的に解決された」という立場を変えていない。韓国では当事者がいなかった合意だと批判したが、日本は「国家間合意であるため、これ以上問題にするな」とむしろ韓国が国際法に違反すると主張している。日本が慰安婦問題が起こる度に固執していた論理を北朝鮮から聞く形になった。実際、日本人拉致問題に対する北朝鮮の立場は変わっていない。2019年、北朝鮮の立場を公式的に代弁する機関紙である労働新聞は「拉致問題で言えば、むしろ私たち(北朝鮮)が日本を大きく責めなければならない事案だ」と指摘した。日本の植民地時代の徴用工および慰安婦問題などに言及して「日本の国家拉致テロ犯罪の最大の被害者が我が民族」と主張したからだ。北朝鮮は歴史問題の解決なくして日本との対話もないと強硬な態度を維持している。
一時は良かった日朝関係、北朝鮮が日本に背を向けた理由は
北朝鮮と日本の関係が良好な時もあった。19年前の2002年9月には小泉首相が平壌(ピョンヤン)で金正日(キム・ジョンイル)総書記と史上初めての日朝首脳会談に出席した。以前は拉致の事実そのものがないと主張していた北朝鮮は、首脳会談で拉致を認めて謝罪した。経済協力が切実だった北朝鮮が決断を下せば、日本の世論も北朝鮮に友好的に変わるというキム総書記の判断による決定だという。しかし、拉致事実の認定は右翼の餌食になった。日本は「戦犯加害国」から「拉致被害国」へと自らを新たにポジショニングし、北朝鮮との国交正常化前に拉致問題から解決すべきだという右翼の主張が力を得た。日本内の韓国人いじめもひどくなった。この時、反北世論に便乗して反射利益を得た人物が安倍晋三元首相だ。日本で日本人拉致問題が大々的に浮上したのは安倍元首相の功が大きかった。1988年、自民党幹事長の安倍晋太郎議員の息子で秘書だった安倍元首相が「北朝鮮に拉致された娘を助けてほしい」と訪ねてきたある両親に会ったのがきっかけだった。日本人拉致問題に対する安倍元首相の関心は1993年の国会議員当選後も続いた。東京大学、慶應義塾大学、早稲田大学の出身者が大部分の日本政治家の間で成蹊大を出た安倍元首相をめぐって、同僚の政治家が「勉強できない安倍元首相が経済や社会を後回しにして正体不明の拉致問題を扱う」と嘲弄したが、意に介さなかった。北朝鮮が日本人拉致問題を公式に認めると、安倍首相は機会を逃さなかった。北朝鮮の人権侵害を強調し、右翼中心に「国交正常化以前に日本人拉致問題から解決すべきだ」という主張が力を得ていることを受けて、これを自らの政治的影響力拡大に積極的に利用したのだ。「拉致問題は安倍元首相が最もよく知っている」という世論のおかげで安倍元首相は小泉元首相の後に続いて2006年に首相になった。
反北世論を追い風に首相になった安倍元首相、岸田首相が継承
北朝鮮という外部の敵を攻撃したことで安倍元首相はリスクが大きな選択をしたが、事の収集が問題だった。北朝鮮に拉致された日本人を帰国させると主張して首相になったため、約束を守らなければならなかった。しかし、背を向けた北朝鮮は冷静だった。2019年に安倍首相は2002年の「日朝平壌宣言」の署名者である小泉元首相と故金総書記の名前の代わりに「新時代にふさわしい署名者」へと変えようと提案した。北朝鮮の反応は“だんまり”だった。そして、これまでの日本に対する北朝鮮のわだかまりは深い。金正恩(キム・ジョンウン)総書記は韓国や米国、中国など朝鮮半島関連国国家とは首脳会談を行った。韓国は特殊な関係であり、米国は対面しなければならないほどの敵対関係で、中国は同盟というそれぞれの理由からだ。しかし、第1次と第2次政権期を合わせると8年半という“最長寿首相”の記録をうち立てた安倍元首相とは一度も会っていない。また、日本とは現在も国交が正常化していない。岸田内閣が発足するやいなや、北朝鮮が刃を向けた理由もこれと関連がある。安保観においては安倍元首相との相違点が見い出せない人物が岸田首相である。内閣の顔ぶれだけを見てもそうだ。徴用工や慰安婦問題、竹島問題など、日韓関係の懸案を担う主務大臣の大半が極右傾向の人物で埋め尽くされているからだ。安倍元首相から菅元首相、岸田首相まで「キム・ジョンウン総書記と条件なしに対話する」という立場を固守しているが、北朝鮮の考えは違う。「日朝間の懸案の基本は、過去に日本が朝鮮人を対象に敢行した慰安婦生活の強要、強制拉致連行、大虐殺といった特大型の反人倫的犯罪をはじめ、わが民族に及ぼした計り知れない人的・物的・精神的被害に対して徹底的に謝罪と賠償をすることにある」という北朝鮮外務省の立場に照らして、北朝鮮は条件ある対話を望んでいる。
 
 
 

 

●岸田新内閣に「不気味なほど特徴がない」その根本背景 10/11
10月4日にお披露目となった岸田内閣が、さっそく一年前の菅政権と同じフレーズで揶揄されている。
「安倍のいない安倍内閣」
岸田派は46名で、自民党内にある7つの派閥の中で、5番目の勢力だ。中小派閥のトップである岸田氏が総裁選で大勝できたのは、最大派閥の細田派の実質的なリーダーの安倍晋三元総理と、第二派閥の麻生派の麻生太郎副総裁や甘利明幹事長の協力があったからこそだ。
そのため、人事でも細田、麻生、竹下と主要3派閥を優遇した布陣にならざるをえず、結果、新味はゼロに等しくなった。
ただ、総裁選で掲げた「若手の登用」は実行した。
デジタル相に衆院当選3回の牧島かれん氏(44)、経済安全保障相に小林鷹之氏(46)、経済再生・コロナ対策相に山際大志郎氏(53)を抜擢するなど、40代・50代の大臣が6名となった。これは大きな変化だ。
「山際氏は麻生派で甘利氏の右腕的存在。小林氏も二階派ながら、甘利氏の議連の常連です。金融政策は甘利氏の人脈で、彼らを中心に金融課税を実施しそうなことが見えてくると、内閣が発足した2日後の10月5日の日経平均は622円も下げ2万7822円になってしまった」(政治部記者)
自民党役員人事でも若返りが進んだ。衆院当選3回の福田達夫氏(54)を総務会長に抜擢。福田氏は当選3回以下の議員90名が名を連ねる「党風一新の会」の代表世話人だ。同会には河野氏支持者が多く、総裁選では河野陣営と連携して動くかに見えた。
「福田氏がぶら下がりで河野支持を明言し、河野候補もそれに応じる流れができていましたが、総裁選終盤、河野陣営の議員がいくら電話を鳴らしても福田氏は電話に出なくなってしまい、結局支持はうやむやになってしまったようです」(同記者)
福田氏は総裁選後、二度とも岸田氏へ投票したことを明かした。総務会長はその行動への論功行賞といえよう。しかし、当初の人事では政策に明るい福田氏を政調会長にするプランだったが、安倍氏が難色を示したという。細田派の参議院議員が解説する。
「達夫さんは安倍さんと距離のある福田康夫元首相の長男で、父を尊敬している。さらに安倍さんと距離のある林芳正元文科相も尊敬する政治家として挙げており、安倍さんからすると肌感覚が合わない。
政調会長は政策・法案を打ち出す要職なので、抜擢されれば、党内外での見せ場がある。目立つ存在になるのは確実です。
その点、総務会長は党の意思決定を行うのが役割で、当選3回では結局追認するだけとなり、見せ場が作れない。なった瞬間が注目のピークともいえる役職だ。安倍さんは達夫さんを見せ場の多い政調会長にはしたくなかったのでしょう」
今回の閣僚人事で再任されたのは、防衛相の岸信夫氏と外務相の茂木敏充氏の2人のみ。言い添えるまでもないが、岸氏は安倍氏の実弟だ。もう一人の茂木氏には、留任に際してのこんな噂がある。
総裁選の最中の9月17日、竹下派の竹下亘会長が食道がんで亡くなった。岸田氏が候補者の中で誰よりも先に弔問に駆けつけたことで、「竹下派は岸田」とまとまった…と言われている。
「弔問に駆けつけるには身内からの連絡がなければ知りえない。その後、茂木さんが、『まっさきに会長に手を合わせたのは誰だ』と岸田支持の雰囲気を作った。そのことがあってかどうか、結果的に茂木さんは留任した」(竹下派記者)
完全に意向を無視されたのが、二階俊博前幹事長が率いる二階派だ。人事案発覚後、二階派からは「岸田だけは許さない」との言葉が飛び交った。彼らにも一応、「最終的には総裁選で岸田支持に方針を変えたのに」という言い分がある。
「二階派の重鎮の伊吹文明さんが、二階会長に対して、『アンタ、何やってるんだ。河野じゃないだろ。岸田をやるんだ』と進言し、土壇場で二階派による岸田大勝の流れをつくるように変わった。『決選投票は岸田で』と言われ、理由を尋ねたら『岸田に流れができた。流れを決めたのは二階派だ、と思わせ、影響力を保つためだ』との説明でした」(二階派衆議院議員)
見え見えの戦略がかえって岸田氏を刺激してしまったのだろうか。結果的に小林氏の他は山口壮氏が環境相で入閣しただけで、二階派によいポジションは回ってこなかったのだ。
12日間の総裁選の最中、水面下では権謀術数が巡らされていたことが、これらの話からも伺えよう。分断から協調へ――そう掲げた岸田新総理。国民がどう受け取ったかはともかく、自民党の中に「なにが協調だ」と漏らしている人々がいることは間違いなさそうだ。

●岸田首相、韓国飛ばして各国首脳と電話会談 10/11
岸田文雄首相が4日に就任してから1週間が経ったにもかかわらず、韓日首脳の初の電話会談が実現していない。米国やオーストラリア、インドなど「基本的価値」を共有する友好国を始め、中国やロシアなど緊張の中で関係を管理していかなければならない主要国を優先し、韓国は後回しにした格好だ。
10日、首相官邸の日程資料によると、岸田首相は就任翌日の5日、米国のジョー・バイデン大統領やオーストラリアのスコット・モリソン首相と電話会談した。最初の会談相手は米日同盟を外交・安保の基軸とする日本の立場からして、最も重要な国である米国のバイデン大統領だった。続いて「中国の浮上」をけん制するため、最近重要性が増しているクアッド加盟国のオーストラリアが2番目の会談相手となった。 クアッドのもう一つの加盟国であるインドのナレンドラ・モディ首相とは就任から4日後の8日、電話会談が行われた。
前任の菅義偉首相も昨年9月に就任した後、当時のドナルド・トランプ米大統領やモリソン首相、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、トーマス・バッハ国際オリンピック委員会(IOC)委員長らとまず電話会談を行った。文在寅(ムン・ジェイン)大統領との初の電話会談は8番目だった。
それでも当時は、中国やロシアより先に「基本的価値」を共有する友好国である韓国と電話会談を行ったが、今回は順番が変わった。7日にロシアのウラジーミル・プーチン大統領、8日に中国の習近平国家主席と先に電話会談し、韓国を後回しにしたのだ。東京五輪の開会式への出席を機に関係改善を図ろうとした韓国の要求に冷ややかな反応を示した菅政権よりも、さらに冷淡に接していることが分かる。一方、文在寅大統領は4日、岸田首相に就任祝賀書簡を送り、韓日が「民主主義と市場経済という基本価値を共有し、地理的・文化的に近い国として、隣国らしい協力のお手本を示せるようコミュニケーションを取り、協力していくことを期待している」という立場を明らかにした。
日本の冷ややかな態度は8日、岸田首相の初の所信表明演説でも確認できる。岸田首相は外交・安全保障について「自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を守り抜く」とし、「米国をはじめ、豪州、インド、ASEAN、欧州などの同盟国・同志国と連携していく」と強調した。
韓国関連の言及は同盟国や同志国、さらに中国とロシアを列挙した後、短く登場した。韓国について「重要な隣国」としたうえで、「健全な関係に戻すためにも、我が国の一貫した立場に基づき、韓国側に適切な対応を強く求めていく」と明らかにした。岸田首相の言及した「一貫した立場」とは、日本軍「慰安婦」被害者と強制動員被害者に対する賠償・補償問題などで韓国側が先に日本が納得できる解決策を用意しなければならないということを意味する。
注目すべきは、今年1月に行われた菅前首相の施政方針演説には「現在、両国関係は非常に厳しい状況にある」という文言があったが、今回の演説では抜けている点だ。日本が現在のような冷え切った関係を韓日関係の「ニューノーマル(新しい均衡)」とみなしているのではないかと推定できる部分だ。

●岸田内閣「デジタル田園都市国家」へ 秋田・八峰町で“複業”の試み 10/11
岸田文雄内閣の目玉政策「デジタル田園都市国家構想」を地で行く試みが、秋田の小さな町で始まっている。世界自然遺産、白神山地のふもと、八峰(はっぽう)町でテレワークと農作業の「複業」を体験する秋田県の新事業。新型コロナウイルス感染症のため都市部よりも「低密度」な農村への関心が高まる中、自分の仕事を農村へ持ち込みながら、農業でも副収入を得られる仕組みだ。11日からは対象を全国に広げて参加者を募っている。
2030年の理想像
「地方を活性化し、世界とつながるデジタル田園都市国家構想に取り組む」 岸田首相は8日の所信表明演説で、成長戦略の柱の一つとしてこう強調した。同構想は自民党が2020年まとめた政策提言「デジタル・ニッポン2020」で打ち出されたものだ。提言は、「2030年の理想像」をこう描く。《DX(デジタルトランスフォーメーション)の浸透でリアルな現場は効率化され、デジタルな仕事はリモートワークになっている。都市部の企業では社員の多くが地方に住み、都市部並みの収入で働いている……》提言を事務局長としてまとめた牧島かれん現デジタル相は《コロナ禍によって、私たちはテレワークやオンライン授業を通し、場所に縛られない体験を得た。……東京一極集中型はむしろリスク要因にも》なると指摘。《2030年はどのような日本になっているだろうか》と問いかけた。
田園への社会実験
「今回の体験事業は、リモートワークの場所を田園に移せるかどうかの社会実験です」 秋田県農山村振興課の浅野旬一副主幹(45)はこう力を込める。体験事業は、交通費5万円までと、農家民宿での2〜3週間の素泊まりの宿泊費を県が負担。民宿でテレワークをしながら、町の観光協会が紹介する1次産業の仕事に従事する。当面は地元の特産、ネギの出荷作業やネギ畑の草取り(いずれも時給850円)で、冬場はハタハタの水揚げ後の作業もあるという。先月から対象を県内に絞って募集したところ、秋田市内のIT企業の青年が応募。11月やってくるという。浅野さんは「起業家やフリーランスだけでなく、リモートワークできる企業の事務・技術系の社員に来てもらいたい」と語る。
都市住民がお手伝い
DXの進展によってオフィスワーカーがどこでもテレワークできるようになり、都市部の人々が代わる代わる全国の農山漁村へ出掛けて、自分たちの「食」を支える場の手伝いをするようになれば、人口減少で深刻化する農山漁村の人手不足も無理なく解消できるとの期待が広がる。デジタル田園都市国家構想について、デジタル庁の広報担当は「デジタルの実装を進めることで変革を起こし、地方と都市の差を縮めていく幅広い施策の集合」と説明。秋田県の試みは「政府の構想と方向性を一にする形で自治体での取り組みが行われるのはよいこと」と歓迎する。体験募集の人数は計5人。募集要件は(1)自分の仕事をテレワークで持ち込める(2)農林漁業に興味がある(3)体験をSNSで情報発信できる――を全て満たす人。詳細は、八峰町観光協会Webサイト。8年余り後の2030年、提言が描く田園でのテレワークが当たり前の社会となっているか。秋田の町の行方とともに、デジタル庁の手腕が注目される。
 

 

●岸田内閣は事実上の「第3次安倍内閣」 自民党に危機感なし 10/12
岸田文雄新内閣が10月4日に発足し、14日に衆院解散、19日に公示、31日に投開票と決まった。政権発足直後に支持率が上がる「ご祝儀相場」を狙った戦略だ。ジャーナリスト・池上彰氏と政治学者・山口二郎氏のオンライン対談で、自民党や新首相に対する評価を語り合った。
──新内閣を岸田首相は「新時代共創内閣」と命名しました。13人が初入閣で、若手の登用も目立ちます。
池上:自民党総裁選に当選後初のあいさつで、岸田さんはご自身の特技を「人の話をしっかり聞くこと」と語りました。問題は誰の話を聞くかということです。党役員人事を見ると、(元首相の)安倍晋三さんや麻生太郎さん、(幹事長の)甘利明さんという、いわゆるトリプルAに気を使いながらやっていることがわかる。あ、これは事実上の「第3次安倍内閣」になるのではないか、と。
山口:国民に不人気の菅義偉さんを首相から降ろして、自民党はある種のイメージチェンジを図ろうとした。安倍・菅という一つの長期政権のあとにどういう転換が起きるかが焦点です。1960年安保闘争のとき、安倍さんの祖父である岸信介内閣から(岸田首相が現会長の)宏池会の池田勇人内閣への転換がありました。「忍耐と寛容」という岸政治に対するアンチテーゼを出し、経済成長路線で国民を統合していった。これは中身のある転換で、後の自民党のパラダイムにもなりました。
池上:総裁選のさなかに、岸田さんが「令和版所得倍増」という言い方をしましたよね。ああ、池田さんを本当に意識しているんだな、と思ったんです。
──岸田首相は総裁選に当選した直後のスピーチで、「民主主義の危機」を訴えました。
山口:大変勇気ある言葉だったと思います。でも、日本の政治が直面する危機が一体何なのか、なぜ危機が起きたのかを掘り下げてはいません。あまりにも不人気な菅さんが辞めたことで、自民党のみなさんの危機感がなくなってしまった。
池上:なるほど。
山口:もっと危機感があれば、国民的人気の高い河野太郎さん、初の女性宰相として高市早苗さんや野田聖子さんを選んだかもしれない。でも、岸田さんが選ばれた。このままでいいという自民党国会議員の意思表示だと思います。
池上:ものすごい皮肉ですね。民主主義の危機だと言っている岸田さんを危機感のない自民党議員たちが押し上げたなんて。
山口:閣僚や党役員の人選を見ていると、派閥バランスや衆院選の選挙区で勝てるようにという政治的な思惑が先に出ている感じも否めません。
池上:国土交通相に公明党で広島3区の斉藤鉄夫さんを起用しました。実は(党広島県連会長の)岸田さんは広島3区に斉藤さんが来ることを非常に嫌がって反発していたといいます。公明党との関係が悪くなってはいけないという、選挙対策の起用でしょう。びっくりしました。

●あっという間に公約を撤回…岸田新政権の「新しい日本型資本主義」 10/12
岸田文雄首相は、10月10日、総裁選で公約に掲げた「金融所得課税の見直し」を当面の間、撤回する意向を示した。ジャーナリストの鮫島浩さんは「岸田首相は『小泉政権以降の新自由主義からの転換』を訴えているが、アベノミクスは否定していない。公約を撤回したように、所得の再分配に後ろ向きになれば、結局はアベノミクスと変わらない」という――。
ぼやける衆院選の争点
岸田文雄首相が「新しい日本型の資本主義」を掲げている。20年前に誕生した小泉純一郎政権以降、安倍晋三政権や菅義偉政権へと受け継がれてきた規制緩和や構造改革などの新自由主義的な政策は、日本経済を成長させる一方、「富める者と富まざる者、持てる者と持たざる者の分断」を生んだと総括。「新自由主義からの転換」を進め、「成長と分配の好循環」をめざすという主張だ。岸田首相が「分配」政策の目玉として自民党総裁選の公約に掲げたのが「金融所得課税の見直し」だった。
岸田首相は10月8日に衆参本会議で行った就任後初の所信表明演説でも、富の分配によって中間層を拡大させる「新しい資本主義の実現」を表明。新自由主義的な政策が「深刻な分断を生んだ」と主張し、「成長と分配の好循環」というキーワードを掲げて「分配なくして次の成長なし」と訴えた。
このような主張は、安倍政権が進めた経済政策「アベノミクス」が貧富の格差を拡大させたと批判し、所得の再分配を唱える野党・立憲民主党の衆院選公約と重なる。マスコミ各社は岸田政権が「成長」より「分配」を重視していると報道しており、与野党の対立軸はぼやけつつあった。
分配の目玉政策は早々に先送り
ところが、岸田首相は10日のテレビ番組で、目玉公約の金融所得課税の見直しについて「当面は触ることは考えていない。まずやるべきことをやってからでないとおかしなことになってしまう」と述べ、早くも撤回したのだ。
「さまざまな課題のひとつとして金融所得課税の問題を挙げたが、それを考える前にやることはいっぱいあるということも併せて申し上げている」「そこばかり注目されて誤解が広がっている。しっかり解消しないと関係者に余計な不安を与えてしまう」という弁明の数々は、岸田首相の実行力への疑念を膨らませるばかりだ。
岸田首相はキングメーカーである安倍氏と麻生太郎副総裁の強力な支援を受けて自民党総裁選に勝利したため、「安倍氏と麻生氏に完全支配された傀儡政権」と指摘されている。安倍・麻生両氏と親密な甘利明氏を政権の要である自民党幹事長に起用。内閣・自民党の主要ポストは「安倍、麻生、甘利の3A」に近い人物で固められた。金融所得課税見直しの撤回は、3Aが推進してきたアベノミクスを否定することは絶対に許されない岸田首相の限界を早々に露呈することになったのである。
岸田新政権の狡猾な戦術
閣僚20人のうち初入閣が13人。「フレッシュ」というよりも「軽量級」という印象が強い。岸田首相が陣取る首相官邸よりも麻生副総裁と甘利幹事長が仕切る自民党が政策決定を主導する「党高官低」型の政権になるのは間違いない。
岸田首相が所信表明演説で強調した「成長と分配の好循環」は、安倍氏が首相時代に繰り返したフレーズである。「岸田首相は安倍氏に刃向かえず、アベノミクスを否定できない。『新自由主義からの転換』は衆院選の争点をぼかすためのキャッチコピーにすぎず、衆院選後の『分配』は中途半端に終わり、『成長』重視のアベノミクスを継承していくだろう」と財務省OB。岸田首相の「新自由主義からの転換」は看板倒れに終わり、アベノミクスの微調整にとどまるという見方だ。
岸田首相と総裁選を争った河野太郎氏や高市早苗氏は大胆な規制緩和や投資など新自由主義的な政策を掲げた。河野政権や高市政権が誕生していれば与野党の対立軸は鮮明だった。岸田政権にはオモテとウラがあり、内実を見極めにくい。「安倍支配」を覆い隠して衆院選の争点をぼかす狡猾な戦術といえるだろう。
“首相交代”でも変わらない選挙の争点
10月19日公示-31日投開票の衆院選は岸田新政権の是非を問うばかりでなく、この4年間の自公政権(安倍政権と菅政権)の実績を問う場でもある。その前提として、岸田首相はアベノミクスを継承するのか、否定するのかをはっきり認定する必要がある。岸田首相は本気で「新自由主義的な政策」を転換させるつもりなのかを見極めなければ投票先を決められない。
まずは2012年末以降のアベノミクスで日本社会はどう変わったのか、安倍政権前後を比較した東京新聞の特集記事(20年8月31日)のデータをもとに分析してみよう。
アベノミクスは1大胆な金融緩和2機動的な財政出動3規制緩和による成長戦略ーーの三本の矢を柱とする第二次安倍政権(12年12月発足)の経済政策である。なかでも3本の矢の1つ目である「大胆な金融緩和」は、円安誘導やゼロ金利・マイナス金利政策を大胆に進める「異次元緩和」と呼ばれ、海外輸出で稼ぐ大企業に巨額の利益をもたらし、株価を大幅に上昇させた。
第二次安倍政権発足直前の12年12月25日の日経平均株価は1万80円だったが、安倍首相が退陣する直前の20年8月28日には倍以上の2万2882円になった(今年9月14日にはバブル崩壊後以降、31年ぶりの高値水準である3万795円に達した)。株式を大量保有する大企業や富裕層は労せずして巨額の利益を手にする一方、株式を持たない貧困層はほとんど恩恵を受けることがなく、「持てる者と持たざる者の格差」は急速に拡大したのである。
この4年間で“豊か”になったのは誰か
大企業の「儲けぶり」を映し出すデータが、売上高から人件費や原材料費などの費用を差し引き法人税や配当を支払った後に残る利益を積み上げた「内部留保」である。12年7〜9月期は273兆円1556億円だったが、20年1〜3月期は470兆8442億円に膨れあがった。日本企業はアベノミクスによる円安株高の恩恵を受けて大いに潤ったのである。
大企業が大儲けすること自体は必ずしも悪いことではない。その利益が労働者に広く「分配」されるのなら歓迎されるべきことであろう。ところが、アベノミクスのもとで労働者の賃金はほとんど変わらなかった。いや、円安(日本円の価値の下落)が進んだことで、労働者の「実質賃金」は下がったのである。
平均月給は12年11月(26万1547円)と20年6月(26万1554円)でほとんど変化はない。実質賃金はどうか。15年を100とした実質賃金指数は12年(年平均)の104.5に対し、20年(1〜6月)は93.4。安倍政権の円安誘導によって、実質賃金はぐんぐんと下がったのである。企業の懐はみるみる膨らんだのに、労働者の財布はどんどん痩せ細ったのだ。アベノミクスがもたらした企業の巨額の利益は労働者に還元されなかったのである。大企業や富裕層がアベノミクスの果実を独占したといっていい。
恩恵を受けたのは「勝ち組」だけ
注目すべきは給与所得者の年収の格差だ。年収200万円以下は12年には1090万人だったが、18年には1098万人へ微増した。一方、年収1000万円超は12年は172万人だったが、18年は249万人へ大幅に増えた。労働者の大部分の賃金が上がらないなかで一部の「勝ち組」の年収は大幅アップしたのである。
雇用環境も格差が広がった。12年に35.2%だった非正規労働者比率は20年(1〜6月)には37.2%へ上昇。企業経営者は円安株高で巨額の利益をあげながら労働者の非正規化を推進して人件費を削減したのである。安倍政権は完全失業率が4.1%(12年11月)から2.8%(20年6月)へ、有効求人倍率が0.82倍(同)から1.11倍(同)へ改善したことをアピールしたが、実態は「正規社員の非正規化」が進んで家計を支える働き手の賃金が低下した結果、高齢者や専業主婦らが低賃金で働かざるを得なくなったという指摘もある。
円安で企業の利益は増えているのに労働者の賃金は横ばいが続く。労働者は「賃金が上がらない」と不満を募らせているが、実際にはもっと深刻な事態が進行している。日本円の価値が下落しているのに賃金が据え置かれているということは、気づかないうちに「実質賃金」は下がっているのだ。
実質賃金が下がるとどうなるか。わかりやすい例は、海外旅行や輸入品購入を極めて割高に感じることだ。日本円の実力を測る「実質実効為替レート指数」は、小泉政権発足前の90年代中ごろと比べると半分以下になった。70年代の水準に下落したのである。大企業や富裕層が円安株高で潤う一方、現代の日本人の多くはいつの間にか半世紀前と同じくらいの購買力しか持たなくなってしまったのだ。
アベノミクスを否定できない岸田政権の曖昧さ
立憲民主党はアベノミクスを「お金持ちを大金持ちに、強い者をさらに強くしただけに終わった」と総括。枝野幸男代表は「間違いなく失敗だった」と強調し「適正な分配と安心を高める経済政策」への転換を衆院選の最大の争点に掲げている。
具体的には1消費税を時限的に5%へ引き下げる2年収1000万円以下の個人を対象に所得税を1年免除する3所得税の最高税率引き上げや法人税への累進税率導入、金融所得課税の強化を通じて大企業・富裕層への課税を強化する――という大胆な政策メニューを衆院選公約で打ち出した。
これに対し、自民党の経済政策の具体像ははっきりしない。岸田首相は立憲民主党の格差是正策に対抗して「成長と分配の好循環」による「新しい日本型の資本主義」を掲げたものの、肝心の「分配」政策の目玉である金融所得課税の見直しを早々に撤回する羽目になったことは、自民党が円安株高を期待する大企業や富裕層の意向に反して「分配」政策を選挙公約に掲げることの困難さを浮き彫りにした。岸田政権はアベノミクスを否定できないのだ。
今後の衆院選の与野党論戦を通じて、与野党の格差是正策の落差はより鮮明になることが予想される。私たち有権者は立憲民主党の大胆な公約に対しては財源確保の視点で実現性を吟味し、自民党の曖昧な公約に対しては格差是正が進むのかという実効性の観点から厳しく追及する必要がある。
岸田首相「新自由主義からの転換」の狙い
最後に岸田首相が「新自由主義からの転換」に込めた狙いを再考したい。私は単なる「立憲民主党との争点ぼかし」とはみていない。岸田首相の真意を読み解くポイントは、小泉政権以降の「新自由主義」と安倍政権が進めた「アベノミクス」を峻別し、「新自由主義」だけを否定していることである。
岸田首相が言う「小泉政権以降の新自由主義」を主導した中心人物は、小泉政権下で経済政策の司令塔を担う経済財政担当相に民間から抜擢された大学教授の竹中平蔵氏である。
労働市場をはじめとする規制緩和や郵政などの民営化を大胆に推進した小泉政権の経済政策は「小泉・竹中構造改革」と呼ばれ、市場重視の競争原理を前面に打ち出し「富める者をますます富ませる」新自由主義の典型とされた。
竹中氏は小泉政権の5年半で金融相や総務相も歴任し、霞ヶ関の官僚機構に幅広い人脈を築いた。小泉政権後も民間の有識者として規制緩和政策を中心に大きな影響力をふるってきた。
菅義偉前首相は小泉政権下で竹中総務相の下の総務副大臣に起用された。そのあと総務族議員として実力を蓄え、総務省は菅氏の政治基盤を支える重要な根拠地となる。菅氏は首相就任後も竹中氏と面会を重ね、経済政策のブレーンとした。竹中氏に近い元財務官僚の高橋洋一氏を内閣官房参与に起用。高橋氏が新型コロナウイルスの感染拡大をめぐる言動で辞任した後は、かつて竹中氏の大臣秘書官を務めた元経産官僚の岸博幸氏を後任に起用し、「竹中人脈」を公然と重用した。
菅氏は首相退陣を表明した後、総裁選に出馬表明した河野太郎氏を支援すると表明。竹中氏も河野氏支持に回ったとの見方が政界に広まった。河野氏はそもそも規制改革の推進論者で、総裁選でも規制改革の推進を主張した。
岸田首相が総裁選で「小泉政権以降の新自由主義からの転換」を打ち出したのは河野氏への対抗策であったのは間違いない。さらにいえば、河野氏を後押しする菅氏や竹中氏の影響力を政権から一掃するという宣言であったと私はみている。
結局、アベノミクスの主導権争い……
岸田氏を全力で支援した麻生氏は、小泉政権下で政調会長を務め、竹中氏と経済政策の主導権を激しく争った犬猿の仲だ。安倍政権時代は副総理兼財務相として官房長官だった菅氏と激しく「政権ナンバー2」の座を競い合った。岸田政権がこれから進める「竹中氏や菅氏の影響力排除」は麻生氏の意向を強く反映したものだろう。
岸田政権の「新自由主義からの転換」は、安倍政権が進めたアベノミクスを「竹中氏や菅氏を排除して麻生氏や甘利氏が主導するかたち」で進めるという、極めて政局的意味合いが強いメッセージである。岸田政権が衆院選を乗り切り、竹中氏や菅氏の影響力を一掃した後は「新自由主義からの転換」という看板はその役割を終えて次第に色あせ、「分配」重視の経済政策はなりをひそめていくのではないか。
金融所得課税見直しの撤回は、岸田政権の「新自由主義からの転換」が看板倒れに終わる未来を早くも予感させたのだった。 

●岸田“口だけ”首相の正体見たり! 政権発足1週間で目玉政策が後退 10/12
岸田政権が発足して1週間。所信表明と代表質問を通じて、早くも「口だけ首相」の化けの皮がはがれてきた。岸田首相が自民党総裁選で訴えていた目玉政策が次々と後退している。
岸田首相は総裁選で「新自由主義からの転換」や「成長と分配」を前面に打ち出し、格差是正政策として“金融所得課税”の強化を訴えていた。金融所得課税は、金持ち優遇との批判が強いからだ。
ところが、11日の代表質問に対する答弁では「分配政策として、まずやるべきことがたくさんある」と語り、金融所得課税の強化を引っ込めてしまった。首相就任後、株価が低迷し、市場のプレッシャーにあっさり屈服した格好だ。
新型コロナウイルス対策もシレッと修正している。岸田首相は総裁選で〈予約不要の無料PCR検査所の拡大〉を公約に明記していた。しかし、8日の所信表明では「予約不要の無料検査の拡大に取り組みます」とPCRの文字が消えた。11日は「予約不要の無料検査の拡大などPCR検査を含め、さらに検査体制を強化していく」と、PCR検査を“含め”と曖昧なことを口にしている。PCR検査の拡充を渋る厚労省の壁を打破できなかったのは明らかだ。
一時、前向きだった「森友調査」も安倍元首相におもねって引っ込め、河井事件の1億5000万円問題も、かつて二階幹事長に「説明責任」を直談判していたのに、首相就任後は「必要なら説明する」に後退している。総裁選で掲げていた公約は何だったのか。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。
「総裁に立候補する時は、他候補との違いをアピールするため、耳当たりのいい政策を掲げたが、いざ、実行する段になると関係者の抵抗が強くて難しくなり、トーンダウンせざるを得なかったのでしょう。障害を乗り越え、何としても実行するという気概もまったくみられません。実行力もやる気もないということです。総裁に選ばれて2週間足らず、総理に就いてまだ1週間なのに、就任早々、こんなに軌道修正する首相は珍しい。短期間の国会ですが、国民の不信感は増大するのではないでしょうか」
岸田首相の言うことはすべて疑った方がいい。総選挙で審判を下すしかない。  
 

 

●岸田内閣 大半が「靖国」派 10/13
4日発足した岸田新内閣のうち、岸田文雄首相ら自民党籍の閣僚計20人中17人が「靖国」派改憲・右翼団体と一体の二つの議員連盟のうちのいずれかに加盟してきたことが、本紙調査で明らかになりました。岸田内閣は、歴史修正主義にもとづく改憲・右翼政治推進の役割でも、「安倍・菅直系」です。
閣僚らが加盟する「日本会議国会議員懇談会」と「神道政治連盟(神政連)国会議員懇談会」は、それぞれ改憲右翼団体の「日本会議」、「神道政治連盟」と一体の議連。両団体とも、日本の過去の侵略戦争を「自存自衛」「アジア解放」の“正義の戦争”として肯定・美化してきた靖国神社と同じ立場から、「憲法改正」や、天皇・首相の靖国公式参拝を求めるなど、戦前への回帰を志向。ジェンダー平等や選択的夫婦別姓制度の導入には断固反対の立場です。
岸田首相も両議連に加盟し、同党総裁選でも同党の改憲4項目を実現すると表明。日本外国特派員協会での記者会見(9月13日)では、靖国神社参拝について、「国のため尊い命をささげた方々に尊崇の念を示すことが政治家にとって大切な姿勢だ」と発言。同24日の討論会でも「時期、状況を考えた上で、参拝を考えたい」と表明しています。
主要閣僚では、萩生田光一経済産業相が日本会議国会議員懇談会の政策審議副会長を、岸田氏は副幹事長を務めています。また、初入閣の末松信介文科相と古川禎久法相は、副幹事長と幹事をそれぞれ務めています。

●岸田新総理「開成内閣」のウラで、仲間外れにされた前大臣の嘆き 10/13
「開成初の総理は(卒業生)皆の夢です。そう語り合いながらやってきたので、岸田さんの就任は嬉しいです。私も微力ながら支えていきたい」
こう語るのは、井上信治前内閣府特命担当大臣だ。井上氏は、新総理の岸田文雄氏と同じ、名門開成高校の出身。毎年、最多の東大合格者数を誇り、各界に無数の有力OBを送り出してきた同校だが、出身者に総理大臣はいなかった。
「そのため、'17年に開成出身者による永田町・霞が関の同窓会組織『永霞会』が結成され、『卒業生から総理大臣を』と、盛り上げてきました。その会長が岸田氏であり、井上氏は事務局長だった。4年越しに、ついにその悲願が成就したのです」(全国紙政治部記者)
欣喜雀躍しているところ……と思いきや、井上氏は、そうではない。
実は井上氏、自民党総裁選では、永霞会で応援してきた岸田氏ではなく、「敵」である河野太郎陣営のブレーンとして参戦してしまったのである。
「岸田内閣では、開成OBでハーバード大大学院修了の小林鷹之氏が46歳で経済安保相に大抜擢されました。元経産省事務次官で、首相秘書官に就任して霞が関に睨みを利かす嶋田隆氏も卒業生です。
厚遇されるOBが続出する中、肝心な場面で『反岸田』に回った井上氏は、好待遇どころか『仲間外れ』は確実で、今後は左遷の憂き目に遭うかもしれない」(別の全国紙記者)
井上氏が憂鬱な雰囲気になるのは無理もない。それでも、井上氏は「後悔していない」と語る。
「河野さんとは初当選以来、同じ派閥で兄弟分として過ごしてきた。卒業校つながりではなく、政治の同志として、河野さんを総裁にしたいと思って10年近く動いてきました。今は与えられた役職に全力で取り組みます。岸田さんを裏切ったという話ではないのです」
一寸先は闇、が政界の常識だが、逆に光が差すこともある。開成パワーで危機に打ち克てるか。

●岸田首相が恐れる「敗北のジンクス」…補選で負けた政権の「悲惨な末路」 10/13
スタート直後から低支持率
自民党は10月11日、次期衆議院選に出馬する295名の公認候補を決定した。小選挙区出馬が271名で、比例単独は24名。同時に友党である公明党が選挙区に送り出す公認候補9名も推薦したが、調整が難航している北海道7区、群馬1区、東京15区、山口3区、福岡5区、長崎4区の6つの選挙区では公認を先送りした。
また緊急事態宣言中に夜の銀座で会食した松本純氏の神奈川1区、大塚高司氏の大阪8区と田野瀬太道氏の奈良3区については、彼らの復党を認めない一方で、候補者を立てないことを決定(注:大塚氏は10月12日、不出馬を決意したと報道されている)。このように、新内閣発足のわずか10日後に解散というあわただしさが見てとれる。
その岸田内閣だが、発足時の内閣支持率は決して高くはない。JNNが10月9日と10日に行った世論調査では内閣支持率は58.6%で、調査方法は異なるものの、発足時としては麻生政権の51.1%に次ぐ低さを記録した。
産経新聞とFNNの合同調査でも、内閣支持率は63.2%と(更問いをするために)他の調査より高めに出たが、その理由を見ると「他に良い人がいないから」というのが最多の35.2%で、国民から積極的な支持があるとは言い難い。
そして10月11日夜に公表されたNHKの調査では岸田内閣の支持率は49%で、菅内閣の発足時より13ポイントも低く、しかも支持理由の最多も「他の内閣より良さそう」という消極的なものだった。
さらに自民党にとって衝撃なのは、衆議院選での与野党の議席について「与党の議席が増えた方が良い」が25%に対して「野党の議席が増えた方が良い」が28%と高い他、「安倍・菅内閣を引き継ぐべきか」については「引き継ぐ方が良い」は8%に過ぎないが、「引き継がない方が良い」は25%も占めたことだ。
国民は9年間続いた安倍・菅路線に疲弊しており、新しい政治を求めていることを示している。ただそれが「新しい時代を皆さんと ともに。」を衆議院選のキャッチコピーに選んだ岸田政権であるかどうかは微妙だろう。
静岡の補選で勝てるのか?
果たして岸田政権は国民の支持を得ることができるのか。その試金石となるのが10月7日告示・24日投開票の山口県と静岡県の参議院補選だろう。
もっとも次期衆議院選に山口3区から出馬するために林芳正氏が辞職した参議院山口県選挙区では、自民党は比例区から北村経夫参議院議員が鞍替えし、日本共産党の河合喜代氏や「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」のへずまりゅう氏と闘っているが、その力の差は歴然。自民党は4つの衆議院の選挙区全てを占め、他党の復活当選すら許していない。
参議院は2004年以来、自民党が議席を独占している。全国でも屈指の自民党王国である山口を、岸田首相は心配する必要はない。
それに対して静岡県では、自民党は2017年の衆議院選で5区と6区を落とし(いずれも比例復活)、1区と7区、8区では立憲民主党に比例復活を許している。そもそも東海地方は旧民主党の勢力が強い上、今年6月20日に行われた静岡県知事選で非自民の川勝平太氏が4度目の当選を果たしている。
しかしこの度の補選で自民党は若林洋平前御殿場市長を擁立し、立憲民主党と国民民主党が推薦する山崎真之輔元県議や日本共産党の鈴木千佳氏を大きくリードしていた。ところが自民党が告示後の10月9日と10日に実施した世論調査では、若林氏の41.2ポイントに対して山崎氏が38.8ポイントと僅差で迫っていることが判明したのだ。
「それは川勝知事の力が大きいのではないか。川勝氏は7日の告示日にも山崎真之輔候補の応援演説に立ち、自分を“県民党党首”、山崎候補を“幹事長”と位置付けて県民に訴えた」
このように語るのは国民民主党の玉木雄一郎代表だ。玉木氏は7日午前に静岡駅北口で行われた山崎氏の出陣式に出席していたが、そこに川勝知事が「出勤途中だけど」と飛び入り参加。知事選で政策担当としてサポートしてくれた山崎氏の応援演説をかってでて、大いに盛り上げたという。
一方で岸田首相も同日正午に静岡入りし、静岡駅南口で1500人もの観衆を前に「選挙を通じて皆さんに岸田に任せるかどうかを判断いただきたい」と訴えた。その後、岸田首相は宏池会事務総長として支えてくれた故・望月義夫元環境大臣の菩提寺を訪れ、首相就任を報告するとともに「新時代を切り開く」と墓前に誓っている。
そもそも参議院静岡県選挙区補選は、今年6月の知事選のために辞職した自民党の岩井茂樹氏の後継を争うものだから、岸田首相としては絶対に落とすことができない議席だ。
「補選で負けた政権」のジンクス
しかも「補選で負けると政権が続かない」という前例がある。例えば福田(康夫)政権だ。
2008年4月27日の衆議院山口2区補選では、自民党の山本繁太郎元国交省住宅局長が民主党の平岡秀夫元法務大臣に敗退。これに後期高齢者医療制度や揮発油税の暫定税率問題なども相まって、当時の福田内閣は5月に21%という低支持率(NHK調査による)を記録した。
もっとも7月の洞爺湖サミットの成功でやや持ち直したように見えたが、翌年の都議選を懸念した公明党や一部の自民党から壮絶な「福田降ろし」が巻き起こり、9月1日に福田康夫首相(当時)は退陣表明している。
また野田政権時の2012年10月28日に投開票された衆議院鹿児島3区補選は、松下忠洋金融担当大臣(当時)の弔い合戦だった。その秘書だった野間健氏(国民新党)が民主党の推薦を得て立候補したが、自民党の宮路和明元衆議院議員に敗退。野田佳彦首相(当時)は11月16日に解散し、翌月の衆議院選で民主党は敗退して下野した。それにしてもこの時の衆議院選で野間氏が同選挙区で当選を果たしたのは、なんとも皮肉な事実といえる。
何より重要なことは、こうしたジンクスが補選の1週間後に行われる衆議院選に影響しかねないことだ。自民党の政党支持率が大きく変わらない以上、内閣支持率が低くなれば、無党派層からの票の流入は見込めない。低空でも安定飛行なのか、それとも徐々に下降していくのか―。早くも岸田政権はその岐路にいる。

●岸田内閣で初のNSC閣僚会合 安全保障政策の方向性など議論  10/13
政府は13日、岸田内閣の発足後初めてNSC=国家安全保障会議の閣僚会合を開き、安全保障政策の中長期的な方向性などについて議論が行われました。
外交・安全保障政策の司令塔となるNSC=国家安全保障会議の閣僚会合は、13日午後、総理大臣官邸で岸田内閣の発足後初めて開かれ、岸田総理大臣や茂木外務大臣のほか、鈴木財務大臣や小林経済安全保障担当大臣らが出席しました。
会合では安全保障政策の中長期的な方向性などについて議論が行われ、政府は今後も必要に応じて閣僚会合を開き、外交・安全保障の重要課題を議論することにしています。

●「岸田内閣が安倍さんの傀儡かというと必ずしもそうではない」  10/13
4日の首班指名選挙で、第100代総理大臣に選出された自民党の岸田文雄氏。自民党には現在7つの派閥があるが、岸田氏が会長を務める「宏池会」からの総理輩出は、1991年の宮澤喜一氏以来30年ぶりとなる。
岸田派は所属議員46人の第5派閥。しかし、今後トップに踊り出るかもしれない「大宏池会構想」なるものが浮上しているという。テレビ朝日・政治部の今野忍記者が解説する。
宏池会は、1957年に池田勇人氏が初代会長を務めてから現在まで続く、自民党で最も歴史のある派閥。1998年、宮沢氏の跡目を継ぐ「KK戦争」の末、加藤紘一氏が第6代会長に就任。この時に宏池会を脱退した河野洋平氏と麻生太郎氏が1999年に大勇会を結成すると、麻生氏は2006年に会長に就任し、現在は麻生派(志公会)を率いる。2012年、自民党総裁選をめぐる対立で、派閥を離れた谷垣禎一氏が谷垣グループ(有隣会)を結成。同年、宏池会の第9代会長に岸田氏が就任した。
この岸田派と、宏池会を源流とする麻生派、さらには谷垣グループが合流するのではないかというのが大宏池会構想だ。麻生派は所属議員53人の第2派閥で、岸田派と合流すれば所属議員は99人となり、安倍晋三元総理の出身派閥である「清和会」を抜いて第1派閥に浮上する。
この構想は麻生氏が実現を訴えていることだそうで、今野記者は「自民党の中には今2つの大きな流れがある。自由民主党は自由党と日本民主党が1955年にくっついてできたもので、自由党は宏池会、日本民主党は細田派の源流となっている。麻生さんが言っていることは簡単で、自民党の中の自由党と民主党で“疑似政権交代”をしていけばいいんじゃないか、というのが大宏池会構想だ」と説明する。
岸田内閣は、安倍氏や麻生氏の息がかかった“傀儡政権”とも指摘されるが、今野記者によると必ずしもそうではないという。「以前、岸田さんと電話をした際に、麻生さんを副総裁にしたのは大宏池会構想のためではないかと聞いたら、『そこまで考えてない』と。ただ、麻生さんを副総裁にしたのはけっこうすごいことで、あと数日で財務大臣の在任期間で歴代2位になるところだったが、あっさり降りた。今回、麻生さんを党に戻して、麻生派の甘利さんを幹事長にした。その2人と安倍さんで“3A”と言われているが、今回の人事を(安倍さんが)若干面白く思っていないと言っている人もいる。官房長官や総務会長などで細田派を重用したが、なった人が必ずしも安倍さんに近い細田派の人ではない。岸田さんが安倍さんや麻生さんの傀儡だとメディアは書いたりするが、そこは温度差があるんじゃないかと言われている」。
では、大宏池会構想が実現する可能性はあるのか。「安倍さん、麻生さん、岸田さんがどう動いていくかが注目されるし、これからが鍵になってくると思う。ただ、少なくとも一時期、麻生さんがそういう方向にしたかったことはたしかだし、岸田さんもそれに応えようと動いたこともある。岸田さんが嫌がったのは麻生さんに乗っ取られてしまうこと。しかし岸田さんは、総理になったら派閥を抜けるという自民党の掟に従って、正式に休会届を出したかはわからないが、会合には行かなくなっている。最大の懸案がなくなって、総裁に岸田さん、副総裁というわりと自由に動けるところに麻生さんがいる状態で、水面下で話が進んでいる可能性があるのではないかと言われている」とした。

●甘利幹事長は“口利きワイロ疑惑”調査報告書をなぜ出せない?  10/13
「私自身は見ていない」――。岸田首相も甘利幹事長の任命にあたり、疑惑の調査報告書を確認しなかったことを国会で認めた。11日の衆院本会議の代表質問で、立憲民主党の辻元清美副代表の質問に答えたもの。
辻元氏は「報告書の公表」や「政治倫理審査会での説明」の指導を求めたが、岸田首相は「説明責任の在り方は政治家自ら判断すべき」「政倫審も国会で決めること」と他人事を決め込んだ。
問題の報告書とは、URを巡る「口利きワイロ疑惑」について、甘利氏が独自に作成したと言い張っているものだ。甘利氏は2013〜14年に千葉の建設業者から大臣室などで計2回、計100万円の現金を上着の内ポケットにしまったほか、地元事務所も現金500万円を受領していた。
16年1月の大臣辞任会見で甘利氏は「東京地検特捜部の元検事の経歴を持つ弁護士に調査を依頼した」「引き続き調査を進め、しかるべきタイミングでご報告をさせていただく」と言ったきり、今に至るまで、調査報告書を公表していない。
立憲、共産、国民の野党3党は「甘利幹事長あっせん利得疑惑追及チーム」を発足させ、調査を担当した弁護士の氏名と報告書を明らかにするよう公開質問状を甘利事務所に送付。その回答は「私自身が事実関係を把握するために元検事の弁護士に第三者的立場から客観な調査を行わせたもので、公表を前提にしていない」とし、公表を拒否した。
本人も忘れたかもしれないが、実は5年8カ月余り前の辞任会見で甘利氏はこう語っていた。
「その東京地検の人にですね。これ私、誰だか知らないんです。接触できませんから。知りませんから。特捜の経験者に全部調べてもらっています」
特捜OBはどこの誰なのか。甘利本人でさえ「誰だか知らない」とは、その存在すら怪しくなってくる。こちらは本物の元特捜検事である郷原信郎弁護士が言う。
「自民党幹事長として、原資は血税の政党助成金を配分する絶大な権限を握りながら、政治とカネの疑惑がくすぶり続ける。説明を尽くさなければ、国民は安心できません。甘利氏が盾に用いる『不起訴処分』も、あくまで検察が独占する公訴権を行使しなかったに過ぎず、その理由も不明のまま。事件の当事者である甘利氏の説明だけで納得しろというのはあまりにも乱暴です。これ以上、追及されたくなければ、特捜OBに依頼したとする調査報告書を公表すればいい。できないのなら、公表に堪えうる調査をしていないか、そもそも報告書自体が存在しないかのどちらかです」
甘利氏は11日に自身のツイッターを約2週間ぶりに更新。〈自民党幹事長としての私の断固たる決意です〉として約2分の動画で自身が計画を主導した研究基盤を構築するための10兆円規模の「大学ファンド」を自賛し、こう訴えた。
「日本から世界を変える。技術やソフトやシステムやみんな日本から湧き出てくる。そういう国にしたい」「日本はこんなもんじゃないぞ!」
甘利氏の口から聞きたいのは「日本スゴイ論」じゃない。説明責任を果たさない限り、岸田政権の支持率に響く無間地獄。どんな顔で衆院選を仕切るのか。
 

 

●“出がらし内閣”との声も…岸田内閣「コロナ有事に不安」 10/14
「今回の新内閣を幕の内弁当にたとえると、岸田首相が掲げた『老壮青』のバランスを取って、うまく盛り付けたように見えます。ところが、肝心の中身と味はどうかというと、そのおかずは何? というものがたくさんあって、しかも薄味(笑)。そんなイメージです」
こう語るのは、政治情勢に詳しい共同通信の編集委員兼論説委員の久江雅彦さん。
岸田内閣では、初入閣が20人中13人と、6割超を占めた。最年長は77歳、最年少が44歳。女性は3人だけだが、中堅、若手議員を多く登用したことで、見た目だけはたしかに「老壮青」のバランスが取れているようにも思える。
だが、安倍元首相の実弟・岸信夫防衛相が留任したほか、麻生太郎副総裁の義弟・鈴木俊一財務・金融相が、義兄と入れ代わりで就任するなど、相変わらず世襲議員が内閣のほぼ半数を占めている。
さらに、“顔と名前が一致しない小粒が多すぎる”といった声も少なくない。
「組閣では、各派閥から順送りの名簿が作られて、基本的にそこから閣僚を選んでいきます。つまり、すべての閣僚を適材適所で選んでいるわけではありません。今回はとくに目玉もいなかったことから、“こんな人いたんだ”と、口にする与野党関係者が何人もいました。なかには、“出がらし内閣”“あなた誰?内閣”と言っている人も(笑)」(政治部記者)
この閣僚の人事の裏では、3Aと呼ばれる安倍晋三元首相、麻生太郎副総裁、甘利明幹事長の意向が大きく働いているとされる。
内閣発足直後、報道各社が行った世論調査では、岸田内閣の支持率はいずれも50%前後。歴代内閣と比べると、発足時としては低水準のスタートとなった。
「その理由は、岸田内閣は安倍氏、麻生氏の操り人形という印象が強いこと。さらに、政治とカネの問題を引きずっている甘利氏が、党の幹事長に就いたことが支持率に大きく影響したのだと思います。岸田首相は、“生まれ変わった自民党をしっかり国民に示す”と力強く言いましたが、国民の目には、“何も変わってない”と、映ったのでしょう」(自民党関係者)
さらに前出・久江さんは、新しく任命された閣僚にも問題があると指摘する。
「たとえば、ワクチン担当大臣になった堀内詔子氏。彼女は任命直後のインタビューで、“浅学非才の身ですので大変驚いた”と言ったんです。国民はこの発言にドン引きしたのではないでしょうか。ワクチン担当大臣は、今のコロナ有事の中で重要な一角を担うポストです。これから勉強します的な人物が、そのトップに立つわけですから、国民は安心できる内閣とは、とても思えないでしょう」
ワクチン未接種者の存在、ブースター接種の実施、そして第6波の感染拡大が懸念されているなか、新内閣はコロナ関連の3つのポスト(厚生労働、経済再生、ワクチン)のトップを総入れ替えした。
本来であれば、どういう理由でトップを代えるのか。岸田首相が国民にしっかり説明しなければいけないはずだが……。
「今はコロナ有事です。各派閥のバランスにこだわって、人事を決めている場合ではなかったはず。もっと国民に対して安心、納得できる人物を閣僚に選ぶべきだった、そう思います」(久江さん)
そんな国民の不安をよそに、3Aの1人、安倍元首相は今回の閣僚・党役員人事には、不満を漏らしていると言われている。
「安倍氏は党内への影響力維持を狙う目的で、内閣の要である官房長官に萩生田光一氏、党の幹事長には高市早苗氏を置きたかった。ところが、岸田首相はそうしなかった。あまりにも安倍カラーが強いと、森友、加計学園の問題や、『桜を見る会』をめぐる疑惑が、今後の政権運営に支障をきたす可能性が出てくる。だからできるだけ安倍カラーを排除したかったのでしょう」(政治部デスク)
しかし、そのもくろみむなしく支持率は低調なスタートになった。岸田“出がらし”内閣の船出は前途多難?

●大久保利通の子孫に、元民主党の期待の若手…岸田新内閣の素顔 10/14
岸田新内閣では、初入閣が20人中13人と、6割超を占めた。最年長は77歳、最年少が44歳。女性は3人だけだが、中堅、若手議員を多く登用したことで、見た目だけは「老壮青」のバランスが取れているようにも思える。だが、安倍元首相の実弟・岸信夫防衛相が留任したほか、麻生太郎副総裁の義弟・鈴木俊一財務・金融相が、義兄と入れ代わりで就任するなど、相変わらず世襲議員が内閣のほぼ半数を占めている。さらに、“顔と名前が一致しない小粒が多すぎる”といった声も少なくない。そこで、本誌は取材をもとに、岸田首相を含む新閣僚21人のプロフィールを紹介。
【総理】岸田文雄(64)/衆院広島1区、当選9回 / あだ名は“キッシー”。人柄は温厚でマジメで、政界きっての酒豪として有名だが、発信力不足との指摘も。外相を4年半務めた。
【総務】金子恭之(60)※初/衆院熊本4区、当選7回 / 無所属を経て自民党入り、当選7回で初入閣の苦労人。水俣病やハンセン病などの問題に取り組んできた。趣味はウオーキング。
【財務・金融】鈴木俊一(68)/衆院岩手2区、当選9回 / 父は鈴木善幸元首相、義兄は麻生前財務相という政界のサラブレッド。温和な人柄で趣味は料理。エプロン姿を披露したことも。
【外務】茂木敏充(66)/衆院栃木5区、当選9回 / 英語が堪能。趣味は海外ドラマの観賞で、ワインに詳しい。“タフネゴシエーター”として、安倍政権で経産相などを歴任。
【法務】古川禎久(56)※初/衆院宮崎3区、当選6回 / 東大法学部卒。代議士になる前、焼き鳥店を営んでいた。郵政民営化に反対し、自民党を一時離党。総裁選では河野候補を応援。
【文部科学】末松信介(65)※初/参院兵庫、当選3回 / 座右の銘は「あるがまま」。兵庫県議を20年務め、国政に進出。参議院のバリアフリー化を議員運営委員長として推進した。
【厚生労働】後藤茂之(65)※初/衆院長野4区、当選6回 / 大蔵省出身。ニューヨークに留学中、メトロポリタンオペラに80回近く通ったという。民主党から初当選するも離党し、自民党に。
【農林水産】金子原二郎(77)※初/参院長崎、当選2回(衆院当選5回) / 長崎県議→衆院議員→長崎県知事→参院議員と、46年の長いキャリアを持つ。好きな女優は栗原小巻。父の岩三氏も元農水相。
【経済産業】萩生田光一(58)/衆院東京24区、当選5回 / 八王子市議、東京都議を経て衆院議員となった「たたきあげ」。安倍元首相の側近で、加計学園の問題では “キーマン”といわれる。
【国土交通】斉藤鉄夫(69)/衆院比例中国ブロック、当選9回 / 名前のごとく、自他ともに認める大の鉄道マニア。愛読書は時刻表。自民党と連立を組む公明党からの入閣で、元環境相。
【環境】山口 壯(67)※初/衆院兵庫12区、当選6回 / 元外交官。民主党の期待の若手だった。野田政権では外務副大臣などを務めたが、野党転落後に離党。自民党に。二階氏の側近。
【防衛】岸 信夫(62)/衆院山口2区、当選3回(参院当選2回) / 安倍元首相の実弟。実父は安倍晋太郎元外相、祖父は岸信介元首相、大叔父は佐藤栄作元首相。母方の伯父に養子入りし岸姓に。
【官房・拉致問題】松野博一(59)/衆院千葉3区、当選7回 / 松下政経塾出身。酒豪で交友関係が広く、永田町では“いちばん人柄のいい政治家”という評判も。これまでに文科相などを歴任。
【復興・沖縄・北方】西銘恒三郎(67)※初/衆院沖縄4区、当選5回 / 父親は元沖縄県知事。県議を経て’03年に初当選。初入閣を果たしたが、“ガールズスナック”への政治活動費の支出が報じられた。
【国家公安】二之湯智(77)※初/参院京都、当選3回 / 京都市議を17年務め、全国市議会議長会の会長も経験。’04年に参院議員に。来年に“引退”予定で、“思い出作り入閣”と指摘も。
【少子化・地方創生】野田聖子(61)/衆院岐阜1区、当選9回 / 今回の総裁選では岸田首相と戦う。森友問題の再調査にも言及し、3Aとの距離も見せた。「夫は元暴力団員」との報道が出た。
【経済再生】山際大志郎(53)※初/衆院神奈川18区、当選5回 / 獣医師。東大大学院時代にクジラを研究。捕鯨問題についての著書も。自民党神奈川県連の公募を経て政界入り。甘利氏に近い。
【デジタル・行政改革】牧島かれん(44)※初/衆院神奈川17区、当選3回 / わな猟の狩猟免許を持つ。河野洋平元衆院議長の選挙区を引き継ぎ、’12年に初当選。NTTから豪華接待を受けていたことが発覚。
【経済安全保障】小林鷹之(46)※初/衆院千葉2区、当選3回 / 身長186センチ。岸田首相の母校・開成高校を卒業し、東大を経て、大蔵省に。甘利氏の右腕といわれる。趣味はマラソン。
【ワクチン・五輪】堀内詔子(55)※初/衆院山梨2区、当選3回 / 夫は富士急行社長、義父は堀内光雄元通産相。親類に大久保利通や吉田茂などがおり、天皇陛下の“お妃候補”と報じられたことも。
【万博・消費者】若宮健嗣(60)※初/衆院東京5区、当選4回 / セゾングループの代表だった堤清二氏の秘書を6年務め、その後政界入り。外交、安全保障の分野に精通。趣味は森林浴。
「組閣では、各派閥から順送りの名簿が作られて、基本的にそこから閣僚を選んでいきます。つまり、すべての閣僚を適材適所で選んでいるわけではありません。今回はとくに目玉もいなかったことから、“こんな人いたんだ”と、口にする与野党関係者が何人もいました。なかには、“出がらし内閣”“あなた誰?内閣”と言っている人も(笑)」(政治部記者)

●岸田首相、衆院解散を前に「厳粛な気持ち」 10/14
岸田文雄首相は14日午前、同日午後に予定している衆院解散について「これから国民の判断をいただかなければならない。大変厳粛な気持ちできょうを迎えている」と述べた。官邸で記者団の質問に答えた。
首相はまた、「就任してから11日間、新しい内閣が何をするのかを説明をしてきた」と強調。その上で「選挙を通じてしっかりとわれわれが何をしようとしているのか、何を目指しているのかを訴えていきたい」と語った。首相は14日夜に記者会見に臨み、選挙戦で訴える公約などを説明する。
岸田内閣が4日に発足してから異例の短期間での衆院解散となるが、首相はこれまでの11日間を振り返り「大変濃密なスケジュールだった。しかし、不思議と疲れも感じていないし、気持ちも充実している」と述べた。

●岸田政権を短命化させる「三つの鬼門」  10/14
総選挙1週間前倒しという奇襲で先手を打った岸田文雄新政権に、早くも暗雲が漂う。財務省は政権に反旗を翻し、冷や飯組は反転攻勢を狙う。さらに国政選挙が訪れる。三つの「鬼門」を突破できなければ、岸田内閣は短命に終わる。
岸田文雄新首相の“初陣”は、上々のようだ。
岸田政権初の国政選挙となる参院静岡・山口両選挙区の補欠選挙(10月24日投開票)が7日に告示された。衆院選(19日公示、31日投開票)の前哨戦という位置づけで、与野党ともに初日から大物政治家が応援に駆け付けた。岸田氏も静岡入りし、首相就任後初の街頭演説でこう訴えた。
「この選挙で岸田に任せるかどうかをご判断いただかなければなりません!」
朝日新聞の世論調査では、岸田内閣の支持率は45%。1年前の菅義偉内閣発足時の65%に比べると低調なスタートだが、菅首相の退陣表明前の28%からは大きく回復した。党内では楽観的な見方が広がる。岸田氏周辺は言う。
「参院補選静岡選挙区の情勢調査は、野党候補の分裂もあって自民候補が野党候補に20ポイント近くの差をつけて圧勝の勢い。自民王国の山口も勝てるだろう。参院補選で2勝できそうなのは大きい」
選挙に勝てば政権の求心力は高まる。だが、順調な船出の裏で、岸田政権を短命化させる“鬼門”も見え始めている。
党総裁選では、岸田氏は数十兆円規模の財政出動を公約に掲げた。補正予算の審議が始まるのは衆院選後だが、「20兆〜30兆円あたりのイメージ」(岸田派幹部)だという。
これに政府内で公然とかみついた人物がいる。財務省の矢野康治事務次官だ。
矢野氏は月刊誌「文藝春秋」11月号に寄稿した論文で、党総裁選などで繰り広げられた経済政策を念頭に「バラマキ合戦のよう」と批判。財政再建をしなければ「将来必ず、財政が破綻(はたん)するか、大きな負担が国民にのしかかってきます」と警告した。
現役の事務次官が、政権の政策に異論を唱える論文を公表するのは異例だ。だが、矢野氏の寄稿について、鈴木俊一財務相は8日の閣議後の記者会見で「問題だという思いは持っていない」と述べるにとどめた。財務省からの“クーデター”に、お墨付きを与えた形だ。
矢野氏は、18年に森友学園問題に関連して財務省の公文書改ざんが発覚した時の官房長だった。論文でも当時について「あの恥辱を忘れたことはありません」と回想。その上で「(政権には)『勇気をもって意見具申』せねばならない」と書いている。
アベノミクスの「生みの親」の一人で、安倍政権で内閣官房参与を務めた本田悦朗・前駐スイス大使は、矢野氏が主張する財政再建論は「政策を誤った方向に誘導する危険性がある」と指摘する。
「新型コロナウイルスの影響で、2020年の日本の国内総生産(GDP)は4.8%減という異常な状態です。たしかに、アベノミクスで長期金利をゼロ近くに固定したことで金融政策の効果は弱くなっているが、財政出動の効果は高まっている」
財務省が狙うコロナ禍の緊縮財政に、本田氏はこう警告する。
「コロナの終わりが見え始めて消費が回復しようとしている時に、緊縮財政でブレーキを踏むことはしてはならない。今こそ、財政と金融を一体的に活用して経済の苦境を乗り切り、デフレを脱却し、持続的な成長につなげるべきです。経済成長なくして財政健全化は不可能。矢野氏の論文は基本的な誤りが多く、国民に誤解を与えるものです」
「最強」官庁からの宣戦布告に、岸田氏はどう対決するのか。政権の命運を占う戦いが、衆院選後に始まる。
総裁選では「冷や飯」という言葉が流行語になった。敗れた者は人事で痛い目にあう。それが永田町のルールだ。
決選投票で敗れた河野太郎氏が、党広報本部長という「格下げ人事」を食らったのが象徴的な例だが、なかには冷や飯すら与えられなかった人もいる。
菅政権では、閣僚と民間人の有識者が参加する「成長戦略会議」が経済政策の決定に強い影響力を持っていた。その中心となっていたのが、民間人有識者に名を連ねていたパソナグループの竹中平蔵会長や小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン社長らだ。
だが、岸田氏は同会議を廃止。竹中氏に近い慶応大の岸博幸教授も、内閣官房参与を退任した。国土交通省関係者は言う。
「竹中氏は関西空港などの運営を手がけるオリックス社の社外取締役を務めていますが、同会議では、羽田・成田の両空港を統合し、所有権は国などに残したうえで長期間の運営権を民間に売却する『コンセッション方式』の導入を主張していました。その計画も、岸田政権の誕生で消える可能性が出てきました」
利害関係者である竹中氏が同会議で空港政策について発言していることに、批判も出ていた。政府関係者は言う。
「羽田と成田の運営権を民間企業が受託すれば、巨額の利益が出ます。同会議では、空港という社会インフラをどう運営するかというのではなく、ビジネスとしていかに空港運営がもうかるかという議論が多かった。確実に利益の出る空港のコンセッションだけが狙われていました」
与党内では、竹中氏が政権の中枢から去ったことを歓迎する声も多い。ある自民党中堅議員は「選挙を経た国会議員でもない民間人が、政策決定に持つ影響力が大きすぎた」と話す。
ただ、このままで終わるとは限らない。
「規制改革は巨大なカネが動くビッグビジネスの側面もある。規制改革を求めて政治家に巨額の寄付をしている民間人もたくさんいる。今回、政権の中枢から外された規制改革推進派は、いずれ巻き返しを狙うだろう」(前出の政府関係者)
こういった抵抗をはね返すには、政権の求心力を保つことが重要だ。それにはまずは選挙で勝つことが重要となる。政治ジャーナリストの田中良紹氏は言う。
「菅内閣が退陣したことで有権者の受け止め方が変わり、次の衆院選で与党が過半数割れする可能性はかなり低くなった。ただ、来年7月には参院選がある。それが本当の意味での決戦です」
仮に参院選で立憲民主党などの野党が大きく勝利し、与野党の議席数が逆転すれば「ねじれ国会」になる。岸田政権は国会運営の主導権を失い、レームダックに陥る。そうなれば短命政権で終わる。自民関係者も「来年の参院選が岸田政権にとって『鬼門』になる」と見る。派手な立ち振る舞いを好まない岸田氏にとって、選挙こそが最大のリスクだ。
とはいっても、現時点では野党が政権短命化を招くほどの脅威にはなっていないのも事実だ。
次期衆院選の公示日は19日だが、立憲と共産党はまだ70程度の小選挙区で競合している。さらに、立憲の枝野幸男代表の不人気ぶりも顕著になっている。
埼玉大の松本正生名誉教授(政治意識論)が、東京都議選があった7月に実施した調査によると、立憲支持者の約61%は60歳以上だという。これは、自民の38%に比べてはるかに高い数字だ。前出の田中氏は言う。
「今の若い世代は、政治に関心が出始めた年頃に民主党政権の失敗を経験しています。にもかかわらず、枝野氏をはじめ、野党幹部は民主党政権の中枢にいた人たちばかり。それが続く限り、若い人たちは野党に投票する気にはならないのではないか」
岸田政権を短命に導くリスクの中で、実は、野党の存在こそが岸田氏の最大の味方なのかもしれない。選挙に奔走する自民党議員の秘書は、こんな本音を漏らした。
「枝野さんが『野党の顔』で居続けてくれることはありがたいよ」

●岸田内閣 「不支持」に回らなかった30%が選挙で「どちらかに」動く 10/14
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月14日放送)にジャーナリストの鈴木哲夫が出演。報道各社の世論調査による内閣支持率について解説した。10月4日に岸田内閣が発足した。これを受け、報道各社が内閣への世論調査を行っている。内閣への支持率については、日経新聞の調査が最も高く59%、共同通信が55.7%、読売新聞が56%、毎日新聞が49%、朝日新聞が45%と、各社差がついている。
飯田)産経・FNN合同で9〜10日に行った調査では、支持率63.2%という結果も出ています。だいぶばらつきがある。
鈴木)日本の世論調査の第一人者と言ってもいいのだけれど、長く世論調査を研究している、明治大学政治経済学部の井田正道さんという教授がいます。取材して「なるほど」と思ったので、いろいろなところで機会があれば話しているのだけれども、この支持率をどう見るかということです。各社のマスコミの論調によれば、「そこそこのスタートだ」というところです。菅さんのときは最後の方が酷かったから、それをうまく挽回していると。しかし、過去の政権発足時に比べると低い。
飯田)物足りないような。
鈴木)そこそこにいいのだけれど、「まだ1つ足りない」という、そんな評価ですよね。井田先生が言うには、この数字を見るときのポイントは2つあると。1つは、「コロナについて皆さん考えていますか?」と言うわけです。
飯田)コロナを。
鈴木)コロナ感染がある程度落ち着いて来ていますよね。コロナが落ち着いているということは、政権批判も薄らいで来るのです。彼が言うには、定点で見ていると、菅政権でもコロナが落ち着いたときには、支持率が戻って来ていた。この支持のなかには、「コロナが落ち着いたから政権批判が弱まった」という要素もプラス分に含まれているのだということです。つまり、ご祝儀相場としての期待値がこのなかに入っているかと言うと、そうでもないという見方もできる。
飯田)ご祝儀相場での期待値はそれほど入っていない。
鈴木)もう1つは、不支持の方です。支持率はおおよそ50%を超えているし、産経・FNNの調査でも63%でしょう。ところが、不支持率はだいたい20%くらいなのです。普通、支持率が50%を超えたら、不支持率はだいたい30〜40%くらいではないですか。でも、不支持率が低いのです。その分の数字がどこに行っているかというと、「わからない」に行っているのです。
飯田)まだわからないと。
鈴木)国民はまだ岸田政権がどういうものか見極められていない。つまり短期決戦だけれど、今度の選挙で何かを見極めたら、3割程の「わからない」という層は一気に動く可能性がある。そういう意味では、まだ定まらない内閣であり、それに対する国民世論なのだということです。何か1つあれば「ガッ」と動く可能性がある。そのようにこの数字を見るべきだと言うのです。自民党も岸田さんも「この勢いを」ということでやっているけれども、まだ国民と感覚の差がある。そういう状況なのだということです。「なるほどな」と思いました。
飯田)確かに、この支持率はある意味、前政権の終わりからするとジャンプアップしているし、総裁選で相当メディアからも注目された。若干の高揚感のようなものが自民党や議員のなかにもありますが、そんなに甘くないということですね。
鈴木)コミュニケーション戦略的に言うと、発信の場をつくればつくるほど、中身が「あれ? 前言を翻しているな」とか、「中身が薄いな」となればマイナスに動くし、逆に「岸田さんはよく発信しているね」となればプラスにもなる。表裏一体なのです。そういうことも今後の支持率、選挙に直結するという状況です。まだ、そういう不安定飛行の状況が続いている。
飯田)組閣はしたものの、仕事をしたという状況ではないわけですよね。
鈴木)いろいろな政策についても「検証する」とか、「これからしっかり考えて行く」とか、「議論して行く」とか「検討して行く」とか。そういう話をいくら発信していても、繰り返していたら「具体性がない」ということになってしまいます。岸田さんが具体的なものを1つ打ち出せるかどうかにかかっていると思います。
飯田)その辺りを聞きたいということもあり、野党からは予算委員会を立てて、丁々発止で質疑をやるべきだという話がありましたが、結局それはなかったわけです。
鈴木)政権は常にそうですよ。別に岸田さんだけではなく、国会がまずくなるときにはあまり開きたくないわけです。選挙を早めたのもそうでしょうし。

●岸田内閣のモーニング姿にドン小西「自分の裾も改革できない」 10/14
自民党の岸田文雄総裁(前列真ん中)は首相に指名され、新内閣が発足。10月4日、これまで通り夜には、首相官邸の赤い大階段で閣僚たちがそろって記念撮影におさまった。ドレスコードは、男性閣僚が「モーニングコート」、女性閣僚が「ロングドレス」とされている。ファッションデザイナーのドン小西さんがファッションチェックした。
「この先生たちのズボンの裾、ダラダラ長くてカッコ悪いよなあ。そもそも新内閣の記念撮影で、男性閣僚が着るこのモーニング。19世紀の欧州ではカッコいい人の象徴みたいな服で、ズボンもサスペンダーで吊ってシュッとはくものなのにさ。誰ひとりそんな由来も考えずに、決まりだからと着ているだけ。日本ではその後、お祝い事に着る礼服になったけど、ここで着るのもヘンな話だよね。この先生たちが大臣になっても、国民には祝い事でも何でもないっつうの。で、その最前列を張ってる長が、まじめで温和というだけで、キャラが立ってない岸田総理だよ。せめてビジュアルだけでも、この人はやってくれるかもと国民をときめかせてほしかったよね。ま、自分の裾も改革できない先生たちが、時代をリードしてくれる気がしないが、コロナで価値観やらすべてが変化してるだろ。いっそ、モーニング撤廃くらいの意気込みがあればよかったですけどね。」
「“お祝い事”のようなので、おまけ」

●「未来選択選挙」 お茶の間が気にしたのは、背広の肩の白いフケ!? 10/14
岸田文雄首相が14日に記者会見を行い、衆院選(19日公示、31日投開票)を「未来選択選挙」と名付けた。勝敗ラインは「与党で過半数」とした。
岸田氏は「国民一人一人が豊かで生き生きと生活できる社会を作り上げることができるのは誰なのか。国民の皆さんに選んでいただきたい」と意気込んだ。
たくさんの政策を説明した岸田氏だったが、ネットでは別のことが話題になっていた。岸田氏の肩にたくさんの白いゴミのようなものが乗っかっていたのだ。
ツイッターでは「背広の肩、フケだらけ。汚いね」「お夕飯時にはちょっとキツい」「気がつく側近がいないのやばない? すでに不安」「フケだらけで話が入ってこない」「フケ取れないほど忙しいんだな」などとフケ≠指摘する声がいっぱい。大事な会見だったはずだが、ネットではフケなのか否かで盛り上がってしまった。

●岸田首相が衆院を解散、31日に投開票 10/14
岸田文雄首相は14日、衆院を解散した。月内に行われる総選挙で、新たに立ち上げた政権への支持を呼び起こしたい考えだ。
衆院選の投票日は今月31日に決まった。与党・自民党の総裁選を先月29日に制し、今月4日に第100代の首相に任命された岸田氏にとっては、同選挙が最初の重要な試練となる。
地元メディアの報道によると、自民党は新型コロナウイルスの感染件数が減少傾向にある国内の現状を活用し、支持を押し上げたい考え。
「新しい資本主義」を標榜する岸田氏は、中間層の賃金を引き上げ、少なくとも2900億ドル規模の景気刺激パッケージを実行すると約束。世界3位の経済大国の復活を目指すとしている。ロイター通信が報じた。
岸田氏はまた政府の新型コロナ対策を強化するとし、12日には無料でのワクチンの追加接種を早ければ12月にも提供すると述べた。
外交面では、緊迫する対中、対北朝鮮関係を背景に「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて取り組むと約束している。

●「今回の選挙は未来選択選挙」 岸田首相会見要旨 10/14
衆院が14日解散され、19日公示、31日投開票へ向けて事実上の選挙戦が始まった。岸田文雄首相の14日の記者会見要旨は次の通り。

新型コロナウイルス対応の全体像と骨格をあす発表する。夏の2倍程度の感染力にも対応可能な医療体制をつくる。3回目のワクチン接種を12月に開始し、経口治療薬について年内実用化を目指す。
雇用調整助成金の特例を来年3月まで延長する。政府備蓄米を子ども食堂に無償提供する。GoToトラベルなどの消費喚起策はワクチン接種証明と陰性証明を活用して、より安全安心を確保した制度に見直した上で再開に向けた準備を整える。
岸田政権は、成長も分配も実現を目指す。野党の言うように、分配を言うだけでは成長ができなくなり、分配するパイもなくなってしまう。
新しい資本主義実現会議を創設する。私が議長となり、各界から第一人者に参画いただき、新しい資本主義のグランドデザインを描いていただく。明日、具体的なメンバー、検討体制、検討項目を決定する。
デジタル改革、規制改革、行政改革を一体的に進めていくことが重要で、デジタル臨時行政調査会を立ち上げる。
給与を引き上げた企業を税制で支援し、控除額の上限についても大胆に引き上げる。産業界には私が先頭に立って給与の引き上げをお願いする。
看護介護保育などの現場で働いている方の収入を引き上げていく。私が議論をリードし、年末までに具体的な結論を出す。
この総選挙で国民の皆さんの信任をいただければ、数十兆円規模の総合的かつ大胆な経済対策を最優先でお届けする。今回の選挙は未来選択選挙だ。(衆院選の勝敗ラインは)与党で過半数を確保することだ。

●岸田首相「コロナ後の“未来選択選挙”」衆院選へ支持呼びかけ  10/14
衆議院の解散を受けて、岸田総理大臣は14日夜、記者会見し、今回の衆議院選挙は「未来選択選挙」だとして、「コロナ後の新しい未来を切りひらいていけるのは誰なのか選択いただきたい」と支持を呼びかけました。
新型コロナ対策の全体像の骨格 あす示す
冒頭、岸田総理大臣は「衆議院の解散・総選挙を経て、一刻も早く、衆議院の構成を確定し、主要政策の具体化に向けた作業を加速するとともに、新型コロナ対策や経済対策を講じていかなければならない」と述べました。そして、新型コロナ対策の全体像の骨格をあす示すと明らかにしたうえで、ことし夏の2倍程度の感染力にも対応可能な医療体制の整備に向け、公的病院の専用病床化を進めるとともに、感染拡大時の病床稼働率について8割を超える水準まで引き上げる考えを示しました。
衆院選後 速やかに総合的かつ大胆な経済対策を
さらに3回目のワクチン接種を12月に開始し、治験が行われている軽症者向けの飲み薬の年内の実用化を目指す考えを強調しました。そして衆議院選挙のあと、速やかに総合的かつ大胆な経済対策を取りまとめるとして、非正規労働者や子育て世帯などにいわゆるプッシュ型の給付を行い、感染拡大の影響を受けた事業者に対しては、地域や業種を問わず、去年の持続化給付金並みの給付を事業規模に応じて行うほか、雇用調整助成金の特例措置を来年3月まで延長する方針を示しました。
「Go Toトラベル」見直し 再開へ準備整える
さらに「Go Toトラベル」などの消費喚起策については、ワクチン接種証明と検査の陰性証明を活用し、より安全・安心を確保した制度に見直したうえで再開に向けた準備を整える考えを示しました。そして岸田総理大臣は「衆議院選挙で国民の皆さんの信任をいただければ数十兆円規模の総合的かつ大胆な経済対策を最優先でお届けする」と強調しました。また今回の選挙を「未来選択選挙」と位置づけ「新型コロナ対策と経済対策に万全を期したうえで、コロナ後の新しい経済社会を創りあげなければならない。コロナ後の新しい未来を切りひらいていけるのは誰なのか国民に選択いただきたい」と述べ、今月31日に投開票が行われる衆議院選挙に向け、支持を呼びかけました。
行革推進へ「デジタル臨時行政調査会」発足の考え
さらに岸田総理大臣は「『成長も分配も』実現を目指す。野党の言うように分配だけでは成長できなくなる」と指摘し、みずからが議長となる「新しい資本主義実現会議」を創設するとともに、デジタル改革や規制改革、それに行政改革を一体的に進めるための「デジタル臨時行政調査会」を立ち上げる考えを示しました。
台湾 TSMCへの支援を経済対策に盛り込む考え
さらに、半導体の受託生産で世界最大手の台湾のTSMCが日本に半導体の新しい工場を建設する方針を明らかにしたことに関連し「日本の半導体産業の不可欠性と自律性が向上し、経済安全保障に大きく寄与することが期待される」と述べ、TSMCへの支援を経済対策に盛り込む考えを示しました。
賃上げ促進税制の強化 政府・与党に指示
分配政策について、岸田総理大臣は「分配を、市場にすべて任せるのではなく、国が丸抱えするのでもなく、民と官が、それぞれの役割を果たすことで国民を豊かにしていく。雇用を増やすことに加え、一人ひとりの給与を増やしていく」と述べ、賃上げ促進税制の強化を政府・与党に指示したことを明らかにしました。そのうえで「従業員一人ひとりの給与を引き上げた企業を税制で支援し、控除額の上限についても大胆に引き上げる」と述べ、産業界に対しては、みずからが先頭に立って、給与の引き上げを求めていく考えを示しました。また、看護や介護、保育などの現場で働く人の収入を引き上げるための議論を進め、年末までに具体的な結論を出す考えを示しました。
国家安全保障戦略・防衛大綱・中期防衛力整備計画の改定を指示
一方、外交・安全保障に関連して、厳しい安全保障環境に対応するため、国家安全保障戦略や防衛大綱、中期防衛力整備計画の改定を指示し、関係閣僚間で議論を始めたことを明らかにしたうえで「基本的な憲法観、日米安保や自衛隊の役割といった、基本的な安全保障観でさえ、方向性が一致していない野党各党に、この国を委ねることはできない」と述べました。そして、岸田総理大臣は「私の想い、私が提示してきた政策に1点のブレも後退もない。大切なことは優先順位をしっかりつけ、一つ一つ着実に実施していくことだ」と強調しました。
衆議院選挙の勝敗ライン「与党で過半数を確保」
一方、岸田総理大臣は、衆議院選挙では、自民・公明両党で過半数の獲得が勝敗ラインになるという認識を重ねて示しました。さらに、記者団から「憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を与党で確保することを目指さないのか」と問われたのに対し「憲法改正もしっかり訴えたいがそれだけを争点に選挙をやるわけではない。選挙プラスその後の議論の中でより多くの方々に理解を得て、結果として3分の2を得て発議し、国民の2分の1の賛成を得て、改正につなげていく」と述べました。
温室効果ガスの削減目標「しっかりと堅持」
気候変動問題をめぐり、菅政権が掲げた温室効果ガスの削減目標を堅持するのか質問されたのに対し「2030年に向けた温室効果ガスの削減目標を2013年度に比べてマイナス46%とし、さらには2050年のカーボンニュートラルを実現する目標はしっかりと堅持する。目標を堅持したうえで、さまざまな環境対策やエネルギー問題にしっかり取り組み、それを基本にしながら現実的な対応を考える」と述べました。
経済政策「分配のみは行き詰まる」
経済政策をめぐり「『成長と分配の好循環』と申し上げているが『分配』が野党と一緒ではないかといった指摘がある。しかし、分配のみを言って成長を考えなければ、分配する成長の果実がなく行き詰まってしまう」と指摘しました。そのうえで「成長について努力をして、力を入れてきた自民党が『しっかり分配をする』と言う意味は、国民にしっかりご理解いただきたい。官と民が協働する形で結果を出そうというのが、従来の経済対策とは違うと説明させていただきものごとを動かしていく」と述べました。
衆院解散の時期「議員任期の空白はできるだけ小さく」
記者団が「野党側が求めた予算委員会を開催せず解散に踏み切ったが有権者は十分な判断材料を得られたのか」と質問したのに対し「衆議院議員の任期は10月21日までで、空白はできるだけ小さくしなければいけない。現実的な要請とできるだけ国民に丁寧に説明することとのバランスの中で考え、所信表明演説と代表質問を通じて、できるだけ考え方や内閣の方針について説明したうえで、選挙をお願いさせていただいた」と述べました。
衆院選「コロナ対策が大きな争点に」
衆議院選挙の争点について「国民の最も大きな関心事はコロナ対策だ。現状にどう対応するのかや、コロナとのたたかいや危機的な状況を乗り越えた先にどんな社会を見ていくのかが、まず大きな争点になる。また、国際社会がいま大きく激動しており、国際社会の中でどう日本が生きていくのか、そして国際社会における日本を誰に委ねるのかも大きな争点になるのではないか」と述べました。
子どもをめぐる問題「寄り添える相談体制を作る」
自殺や不登校、児童虐待など子どもをめぐる問題について「何と言っても人と人とのつながりや絆の部分に大きく影響される課題ではないか。当事者が自分で抱え込んでしまう状況に対してしっかり政治として何か用意しなければいけない。いちばんストレートなのは相談体制で、困った時に自分で抱え込むことなく、寄り添うことができる体制を作っていく」と述べました。
成長の果実「軽々しく『何年後』と言うことは無責任」
「成長の果実が国民に行き渡るのは、いつなのか」と問われたのに対し「今、コロナとの闘いの渦中にある。できるだけ早く、この闘いに勝利し、平時に近い生活を取り戻し、その後、経済を回し始めることを考えていかなければならない。コロナの経済に対する影響によって、立ち直りも変わってくるわけで『何年後に結果が出るという答えがほしい』という思いはわかるが、軽々しく『何年後』と言うことは、かえって無責任になりかねない」と述べました。
エネルギー政策「原子力も1つ選択肢として用意しておくべき」
エネルギー政策について「再生可能エネルギー1本足打法では、電力の安定供給や価格の問題に十分対応できない。水素などさまざまなエネルギー源の中に原子力も1つ選択肢として用意しておくべきだ」と述べました。また、テロ対策上の重大な不備が相次いだ東京電力柏崎刈羽原子力発電所について「まず東京電力が再発防止策を徹底的に遂行し、地元の皆さんに十分理解されるものかどうかしっかり問われなければならない。エネルギー政策の中で、1つひとつの原発の在り方について、丁寧に対応していく努力が大事だ」と述べました。
東日本大震災の被災地 今週末に視察へ
東日本大震災の被災地の復興状況を視察するため、今週末に、就任後初めて、岩手、宮城、福島の3県を訪れ、関係者と意見交換することを明らかにしました。
改憲問題「選挙後の議論も大事 道筋を確保したい」
記者団から「憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を与党で確保することを目指さないのか」と問われたのに対し「憲法改正もしっかり訴えたいが、それだけを争点に選挙をやるわけではないので、選挙だけで3分の2の議席を確保するという考え方には無理があるのではないか。選挙プラスその後の議論の中でより多くの方々に理解を得て、結果として3分の2を得て発議し、国民の2分の1の賛成を得て、改正につなげていく。選挙後の議論も大事にして道筋をしっかり確保していきたい」と述べました。

●岸田首相の“目玉政策”はどこへ…  10/14
衆議院は10月14日午後に解散し、その後の臨時閣議で総選挙の日程が正式に「10月19日公示・31日投開票」と決まる。野党が憲法の規定に基づき開会を求め続けていた臨時国会は、新首相の選出のためようやく開かれたが11日間で終わり、選挙戦に突入する。解散から投開票まではわずか17日間で戦後最短。憲政史上でも異例の短期決戦となる。
野党側はこの臨時国会での論戦のため、予算委員会の開催を求めたが、岸田文雄首相はこれに応じなかった。岸田氏は新内閣発足の勢いと、新型コロナ感染者数の減少のタイミングで、解散総選挙に打ってでる決断を下した。
「国民の信任を背景に、信頼と共感の政治を全面的に動かしていきたい──」
首相就任後の初会見で、自らが目指す政治と選挙への決意を語った岸田氏。
だが、「宰相の椅子」を掴むに至った自民党総裁選で掲げていた政策のうち、首相就任後の初会見、国会での所信表明……と、時が経るにつれて言及しなくなった政策が出てきた。また、自民党の高市早苗・党政調会長が10月12日に発表した衆院選公約の政策パンフレットにも記入されなかった政策が複数あった。
消えた「令和版所得倍増」
まず、経済政策として掲げた「令和版所得倍増」だ。
岸田氏は総裁選での政策集のうち、経済項目「新しい日本型資本主義 新自由主義からの転換」の中でこの言葉を記した。
今こそ、成長と分配の好循環による新たな日本型資本主義の構築が必要です。そのため、「新しい日本型資本主義」構想会議(仮称)を設置し、ポストコロナ時代の経済社会ビジョンを策定し、「国民を幸福にする成長戦略」と「令和版所得倍増のための分配施策」を進めます。
(岸田文雄政策集)
そもそも「所得倍増」とは、岸田氏の出身派閥「宏池会」の創設者で池田勇人首相(任1960〜1964)が打ち出した経済政策で、戦後の高度経済成長に影響を与えた政策だ。
岸田氏はこれを「令和版」として再び掲げ、先人と自らを重ね合わせるかのようにアピール。これまでの安倍・菅政権とは一線を画し、「成長」一辺倒ではない政策で中間層の拡大を目指すものだと受け止められた。
岸田氏自身も総裁選立候補後の政策説明会でもこの言葉を使った。告示後の所見表明の中でも、こう述べていた。
中間層の拡大に向け、分配機能を強化し、所得を引き上げる「令和版所得倍増」を目指してまいります。
ところが、首相就任後の記者会見冒頭発言や国会での所信表明演説の中に、この「令和版所得倍増」の言葉はなかった。
自民党の衆院選公約の政策パンフレットの中にも、この言葉は記されていなかった。
抜け落ちた「住居費・教育費への支援」
岸田氏は、総裁選の所見表明の中で「令和版所得倍増」をどうやって目指すかについて語っていた。それが以下の言葉だ。
例えば子育て世代にとって大きな負担になっている住居費、教育費への支援、強化してまいります。民間に賃上げを求める以上、国自身も努力しなければなりません。賃金が公的に決まる看護師、保育士、介護士、こうした方々については公定価格を見直し、収入を思い切って引き上げます。
(岸田氏、自民党総裁選での所見表明)
この「住居費・教育費の支援」は、総裁選で掲げた経済政策のうち「分配施策 岸田4本柱」の2つ目に記されたものだ。
子育て世帯の住居費・教育費を支援
・中間層の拡大に向け、分配機能を強化し、所得を引き上げる、「令和版所得倍増」を目指す。
・特に、子育て世帯にとって大きな負担となっている住居費・教育費について、支援を強化。
(岸田文雄政策集)
だがこの住居費・教育費支援策も、首相就任後の記者会見冒頭発言や国会での所信表明演説の中にはなく、党の公約にも盛り込まれなかった。
国会で教育費支援に問われた岸田首相は「高等教育の無償化の中間層への拡充については、実施状況の検証を行い、中間所得層の進学状況等を見極めつつ機会均等の在り方について検討してまいります」(10月12日、参院本会議で公明党・山口代表への答弁)と述べるに留めた。
「1億円の壁の打破」も……
他にも消えた言葉がある。
金融所得課税(株式の配当や株式の売買時に課される税金)の見直しなど「1億円の壁の打破」だ。
岸田氏は「4本柱」にはなかったが、総裁選を通じて「成長と分配の好循環」を目指す方法の一つとして政策集に記していた。
しかし、これも首相就任後の記者会見冒頭発言にはなかった。このときは、報道陣からは質疑応答で「1億円の壁」打破に関する考えを問われて、以下のように応じた。
新しい資本主義を議論する際に、成長と分配の好循環を実現する、分配を具体的に行う際には様々な政策が求められます。
その1つとして、いわゆる「1億円の壁」ということを念頭に、金融所得課税も考えてみる必要があるのではないか。様々な選択肢の1つとしてあげさせていただきました。
当然それだけではなくして、例えば民間企業において、株主配当だけではなくして、従業員に対する給与を引き上げた場合に優遇税制を行うとか、様々な政策、さらにはサプライチェーンにおける大企業と中小企業の成長の果実の分配が適切に行われているのか。
下請けいじめという状況があってはならない。こういったことについても目を光らせていくなど、様々な政策が求められると考えています。
ご指摘の点も、そのひとつの政策であると思っています。
(岸田首相、10月4日記者会見)
だが、その後の所信表明演説では言及されず、10日に出演したフジテレビ「日曜報道 ザ・プライム」では「当面は触ることは考えていない」と語り、軌道修正を図った。12日に発表された党の公約にも記されなかった。
「所得倍増、なぜ所信表明に入れなかった?」
自民党総裁選からわずか2週間あまり。こうした岸田氏の“変遷”を野党は厳しく批判した。
10月12日、衆院本会議での代表質問。国民民主党の玉木雄一郎代表は以下のように質した。
岸田総理は自民党総裁選で「令和版所得倍増」を公約として掲げ、ニュースなどでも大きく取り上げられました。総裁選パンフレットの表紙にも掲げられた、文字通り「看板政策」でしたが、先週の所信表明演説には「所得倍増」の言葉がどこにもありませんでした。
なぜ所信には入れなかったのですか。誰かの反対で入れられなかったのでしょうか。
そもそも総裁選で主張されていた「令和版所得倍増」とは、いくらの所得を、いつまでに倍増させる計画でしょうか。その具体的な方策も含めてお聞かせください。
(国民民主党・玉木代表、10月12日衆院本会議での代表質問)
これに対し、岸田首相は「私の経済政策の基本的な方向性を申し上げたもの」であり「旗は一切おろしておりません」としながらも、所信表明では言及しなかった理由は答えなかった。
「令和版所得倍増」についてお尋ねがありました。総裁選挙で掲げた「令和版所得倍増」は、一部ではなく、広く、多くの皆さんの所得を全体として引き上げるという私の経済政策の基本的な方向性を申し上げたものです。
こうした政権の旗は一切おろしておりません。岸田政権では広く国民の所得を減らすべく成長と分解の好循環による新しい主義の実現を目指します。
このため所信表明演説でも述べた通り、働く人への分配機能の強化、看護・介護・保育などの現場で働いてる人々の収入の増加などに取り組んで参ります。
成長の果実はをしっかり分配し、はじめて次の成長が実現します。成長と分配の好循環を実現し、国民が豊かに生活できる経済を作り上げてまいります。
(岸田首相、10月12日衆院本会議での代表質問への答弁)
問われる「選択的夫婦別姓」への姿勢、公明・山口代表も「実現を」
加えて、総裁選の政策パンフレットには記されていなかったものの、「選択的夫婦別姓制度」について岸田氏の姿勢が代表質問で問われた。
岸田氏は自民党総裁選への立候補表明時、Business Insiderの質問に対し「引き続き議論を」と答え、慎重な立場を崩さなかった。
これは総裁選の当初、自民党最大派閥に所属する安倍元首相など、保守派の支持を意識しての発言と思われた。
ただ、岸田氏自身は党内でもリベラルな派閥「宏池会」の会長だ。3月に発足した自民党内の「選択的夫婦別姓制度を早期に実現する議員連盟」にも、呼びかけ人の一人として、野田聖子少子化相らと共に名を連ねている。
総裁選でも軌道修正を図った場面があった。毎日新聞は、岸田氏が9月15日に出演したBS-TBS番組で「導入を目指して議論をすべきだ」と述べ、導入に意欲を示したと伝えている。
ところが、それも首相就任後に“先祖返り”している。
共同通信によると、自民党の衆院選公約の政策集の原案には「夫婦の氏に関する具体的な制度のあり方についてさらなる検討を進める」との一文が記されていたが、これが削除された。
高市早苗政調会長は記者会見で「公約が後退したわけでは決してない」と強調。旧姓を通称として使用拡大する考えを重ねて示した上で「国民の間にさまざまな議論がある。納得感を得られるよう丁寧に議論したい」と語った。
(共同通信・10月12日)
日本共産党の小池晃書記局長は、13日の参院本会議での代表質問で、岸田首相に選択的夫婦別姓制度への姿勢を質した。
半年前に早期実現を呼びかけながら、手の平を返した対応はあまりに無責任ではありませんか。
いまやどの世論調査でも、選択的夫婦別姓の導入への賛成意見が多数です。幅広い国民の理解にもかかわらず導入を阻んでいるのが自民党内の強硬な反対派です。
総理の聞く耳というのは、国民の声ではなく党内反対派に対するものなのでしょうか。
(日本共産党・小池書記局長、10月13日参院本会議での代表質問)
これに対し、岸田氏は「私は政治家として、選択的夫婦別氏制度の制度に賛成の方の声にも、反対の方の声にもしっかりと耳を傾けてきたつもりであり、それらの声を踏まえた上で本件は引き続きしっかりと議論すべき問題であると考えている」と述べるに留めた。
連立与党を組む公明党の山口那津男代表も、小池氏同様に参院の代表質問で選択的夫婦別姓の法制化を求めた。また、通常国会で自民党の反対で法案提出が断念された超党派による法案「LGBT理解増進法案」にも言及。「早急な成立が求められる」と述べた。
本年3月、各国における男女平等を数値化したジェンダーギャップ指数が発表され、日本は156カ国120位という結果となりました。
一つの要因として、近年国民の関心が高まっている選択的夫婦別姓制度の有無が指摘されており、法務省によれば夫婦別姓が選べない国は日本だけです。
結婚により改正するのは96%が女性であり、女性の活躍促進の観点から、婚姻後の仕事のキャリア維持など、さまざまな理由で希望する夫婦が、姓を変えることなく結婚できるよう制度導入を実現すべきと考えます
(公明党・山口代表、10月13日参院本会議での代表質問)
しかし岸田首相は、選択的夫婦別姓制度について「私が目指すのは多様性の尊重される社会。全ての人が生きがいを感じられる社会」としつつ、「さらなる検討を進める」と述べるにとどまり、具体的な法制化について言及しなかった。
「LGBT理解増進法案」についても「性的指向、性自認を理由とする不当な差別や偏見はあってはならない」としつつ、「多様性が尊重され、すべての人々がお互いの人権や尊厳を大切にし、いきいきとした人生を享受できる共生社会の実現に向け、引き続き多様な国民の声を受け止めしっかりと取り組んで参ります」と答弁。こちらも法制化を目指すかどうか、明言しなかった。
持論の後退は、総裁選の「呪縛」か
上で挙げたもの以外にも、公約集の政策パンフレットには科学技術顧問の設置、党改革の象徴として掲げた役員の任期制限(1期1年・3期まで)などが見あたらなかった。「健康危機管理庁の設置」は「健康危機管理の強化」となり、省庁新設案は消えた。
一方で、岸田氏の総裁選政策集にはなかった「核融合開発の推進」や「相手領域内での弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」を含めた抑止力向上が政策パンフレット記されるなど、党公約には保守派の声が反映された形だ。
党の政権公約の取りまとめ役である政調会長は高市早苗氏。安倍元首相らの支援を受けて、岸田氏と総裁の椅子を争った随一の保守派だ。選挙の公約策定の要である政務調査会には会長代行は総裁選で高市陣営の選対本部長だった古屋圭司氏などが名を連ねる。
結局、岸田首相が本当にやりたい政策は何なのか。総裁選に勝利しても、党内5位の派閥「宏池会」の領袖では党内派閥の論理や有力者の意向に右往左往せざるをえないのか。
総裁選の決選投票で高市氏を支持した保守派の支持を受けたことも、岸田首相が持論を封印する「呪縛」となっているという見方もある。安倍・菅政権下では「政高党低」と呼ばれる官邸主導の政治が進んだが、岸田政権となって一転「党高政低」になったかのようだ。
自民党が政権を維持すれば、岸田首相は自らが総裁選で掲げた政策を本当に実行できるのだろうか。
4年ぶりの政権選択選挙。旧民主党から政権交代し、9年近くにおよぶ自民党政権への評価にもなる。すでに各党が公約を発表しつつある。小選挙区の各候補者の政策、発言にも耳を傾けて一票を投じたい。

●岸田首相、経済対策「野党案だと分配するパイなくなる」とけん制  10/14
衆院解散を受けて岸田文雄首相は14日、官邸で記者会見を開き、「今回の選挙は未来選択選挙だ」と掲げ、「国民1人ひとりが豊かで生き生きと生活できる社会を作り上げることができるのは誰なのか、どの政権か。国民の皆さんに選んで頂きたい」と述べた。
経済対策は「成長も分配も実現を目指す」と強調。「野党の言うように分配を行うだけでは、成長ができなくなり、分配するパイもなくなってしまう」とけん制した。
ワクチン接種証明などを使い、「GoToトラベル」の再開に向けて準備する考えを示した。
新型コロナウイルス対応の全体像の骨格を15日に発表すると明らかにした。病床確保のため、新型コロナ病床として申告されていたにもかかわらず、実際には患者の受け入れに使用されなかった病床を「いわゆる幽霊病床」と指摘し、「見える化し、感染拡大時の病床稼働率を8割超まで引き上げる」と語った。

●岸田政権不人気!自民が頭を抱える“甘利ファクター”の破壊力 10/14
岸田首相が14日午後、衆院を解散し与野党激突の選挙戦が事実上スタートした。19日公示・31日投開票の超短期決戦は戦後最短の日程で、早い方が勝てるという岸田自民の思惑が強く反映されている。だが、岸田政権が想定以上に不人気で、よもやの単独過半数割れも囁かれ始めた。
永田町では、自民党が先週末の9、10日に行った全選挙区の情勢調査が出回っている。自民党は現有276議席から21減らし、さらに当落線上の接戦区が20あるとの結果だったという。
「野党候補が一本化されれば、さらに40から50選挙区が激戦区になるとみられています。岸田首相は、超短期決戦なら野党共闘の効果も間に合わないと考えたのでしょうが、この戦術は諸刃の剣になりかねない。岸田内閣の支持率は“ご祝儀相場”もなく、おおむね50%台と発足直後にしては低調ですが、それより特徴的なのは、支持するかどうか『答えられない』『わからない』の回答が多いことです。まだ何も仕事をしておらず、評価が定まっていないからで、そういうときは失言などのミスひとつが致命傷になり、流れが一気に変わる可能性があります。そして、それを挽回する時間もないのが超短期決戦の怖さなのです」(政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏)
野党共闘は13日、共産党が22選挙区、立憲民主党が3選挙区で候補者を取り下げることを決め、急ピッチで候補者調整が進んでいる。289選挙区のうち、230近い選挙区で野党候補の一本化が実現することになり、今後さらなる上積みもあり得る。
もし50議席減らして単独過半数(233議席)を割り込めば、岸田首相の進退問題に発展しかねない。そこに大きな影を落とすのが、甘利幹事長の存在だ。
選挙を仕切る幹事長は“党の顔”。公明党との関係が良好だった二階前幹事長、菅前首相に代わってカウンターパートになった甘利幹事長が「政治とカネ」の疑惑を抱えていることもあって、公明との選挙協力がうまくいっていないというのだ。
「選挙の実動部隊になる学会女性部は政治家のカネや女の問題を極端に嫌います。しかも、甘利さんはもともと公明党との関係が良くない。安倍政権で選対委員長を務めていた時、『なぜ公明党に名簿を渡さなきゃいけないんだ』『公明に査定されて候補者が言いなりになる』などと反発を深め、公明党が自民党支持層を奪っていると警戒感をあらわにしていました。2019年参院選の前には、選挙協力の合意文書にわざわざ『与党内部での集票活動の競合につながるような行為は互いに慎む』の一文を入れさせたほどで、学会で選挙責任者だった佐藤副会長とは犬猿の仲でした」(自民党関係者)
佐藤氏は退任し、当時のような実権は握っていないが、学会側の“選挙のプロ”として影響力を行使しているという。
野党の候補者一本化で与野党接戦区が増えるほど、自公選挙協力の重要性は増し、学会の動きが雌雄を決する可能性も高まるのだが、甘利幹事長のせいで激戦区を落としかねない状況だ。自民の過半数割れも十分、考えられる。
岸田首相は今ごろ、公明党の“甘利嫌い”の大きさに頭を抱えているかもしれない。

●「Dappi」運営法人?自民党との関わり、国会で問われた岸田首相は… 10/14
Twitter上で野党批判を繰り返し、不正確な情報や誹謗中傷などが発信されていたアカウント「Dappi」の運営に法人が関与しているとみられる問題。この問題が10月13日の参議院本会議での代表質問で取り上げられ、岸田文雄首相が直接、答弁した。また、自民党議員らの団体などのほか、党東京都連もこの法人と取引があったことが分かった。
「Dappi」は、フォロワーは16万人以上と、拡散力の大きいアカウントだ。プロフィールには「日本が大好きです。偏向報道をするマスコミは嫌いです。国会中継を見てます」とある。2015年からツイートを始め、一度の凍結を経ている。
主に野党やマスコミ批判の文脈から、国会答弁の動画や、DHCテレビ「虎ノ門ニュース」の動画、インフォグラフなどを公開。その発信内容には不正確な点もあり、問題視されていた。
このアカウントに関わっている可能性があるのは、東京都内に本社を置くWEB制作会社。法人登記によると、同社はサイトの制作やコンサルティング業務、インターネット広告の運営管理業務などを担っている。
民間の信用調査機関によると社員は15名。得意先には「自由民主党」の名があがっており、取引先銀行には大手銀行の衆議院支店の名前もあった。
実際、同社は小渕優子・元経産相(衆院群馬5区、党組織運動本部長)の資金管理団体や、同党東京都参議院比例区第18支部(すでに解散)とホームページ制作などの取引をしていたことも、BuzzFeed Newsの取材に明らかになっている。
さらに、自民党東京都支部連合会との関わりも判明。同社の過去の実績(2007年〜)には小渕議員らのサイトのほか、「TOKYO自民党」のサイトが掲げられていた。ただし、これらの実績は2010年までに削除されている。
また、東京都連の政治資金収支報告書の少なくとも直近3年分(平成29年〜令和元年分)にも、サーバー代や資料作成費として計146万7752円の支払いが記載されていた。
   ・2019年:サーバー代 10万8864円
   ・2018年:サーバー代10万8864円、テープおこし代 41万5692円
   ・2017年:サーバー代11万5344円、資料作成83万8536円、塾生証制作16万6795円
BuzzFeed Newsは同社のほか、自民党都連、自民党本部、小渕議員の事務所に取材を申し込んでいる。
10月13日の参議院本会議では、立憲民主党の森ゆうこ副代表がこの問題について岸田首相に質問を投げかけた。
森氏はまず、河井克行・元法相が雇った業者が妻・杏里氏の選挙の際、相手候補のイメージ悪化を狙った投稿をネット上で繰り返していた問題に「これは民主主義の危機ではないですか」と言及。
「自民党本部から河井陣営に渡った政党交付金を原資とする1億5000万円がネット工作による世論操作に使われていたとすれば、選挙という民主主義の根幹を税金を使って言われたことになります。総理、1億5000万円がネット工作に使われていなかったと断言してください」
そのうえで「Dappi」の問題について、立憲民主党の小西洋之・杉尾秀哉の両参議院議員が発信者情報開示請求をしたことで法人が発覚したと説明。BuzzFeed Newsの報道に触れながら、こう質問した。
「国会質疑の動画を編集して、本来の意図とは全く違う内容のフェイクニュースを作り上げ、拡散し、野党攻撃してきたTwitterアカウントの運営者が法人であることがわかりました。自民党の議員や支部との自民党の支部との取引があることもわかりました」
「まもなく解散総選挙が行われます。総理、今回の選挙ではお金を使ってネット工作を行い、選挙の結果を不当に歪めるような卑劣な行為を自民党の議員には行わせないとこの場でお約束いただけませんか」
岸田首相はこの質問について、以下のように答弁をした。一般論として答え、個々の問題への回答は避けた格好だ。
「選挙運動や政治活動については、公職選挙法などに定めがあります。我が党の議員に限らず、それぞれの議員や候補者が、それらのルールに従って発信をし、選挙運動を行い、政治活動を行うべきであるということ、これは当然のことであると考えます」

●補正予算「勇気づけられる」 岸田首相は経済回復を IMF幹部 10/14
国際通貨基金(IMF)のブルックス副調査局長は、岸田文雄首相が衆院選に勝利し、続投が決まれば補正予算を編成する方針であることについて、「非常に勇気づけられる」と述べた。
新型コロナウイルスの変異株「デルタ株」による感染拡大で打撃を受けた日本経済の回復に向けた取り組みに期待を示した形だ。14日までの時事通信のインタビューで語った。
この中でブルックス氏は「年末までの新たな景気刺激策を含め、コロナ感染拡大と経済的打撃への対処を優先するのは適切だ」と指摘。景気回復が確固としたものになるまで「財政出動と金融緩和は必要となる」と明言した。ただし、経済が正常に戻れば、景気下支え策を縮小し、その段階で「財政計画の見直しを検討することが重要になる」とも強調した。
 

 

●岸田内閣総理大臣記者会見 10/14
岸田総理冒頭発言
本日、衆議院を解散いたしました。今後、19日に公示、31日に総選挙を行う予定です。選挙期間中も新型コロナ対応には遺漏がないよう、万全を期してまいります。
総理に就任した直後から、主要政策の具体化に向けて、政府を挙げて全速力で取り組んでまいりました。衆議院議員の任期は10月21日までです。解散総選挙を経て、一刻も早く衆議院の構成を確定し、主要政策の具体化に向けた作業を加速するとともに、新型コロナ対策、経済対策を講じていかなければなりません。そのために、国民一人一人が豊かで生き生きと生活できる社会を作り上げることができるのは誰なのか、どの政権なのか、国民の皆さんに選んでいただきたいと思います。
新型コロナへの対応、スピード感を持った取組をしています。今、感染状況は落ち着いています。ワクチン、検査、治療薬、これらの普及により、国民の皆さんが望む予防、発見から早期治療までの一連の流れを作ることができました。感染状況が落ち着いている今こそ、こうした流れを更に進めるとともに、最悪の事態を想定して、強力な新型コロナ対策を準備することが必要です。皆さんに安心していただけるよう、新型コロナ対応の全体像を発表する準備を国、都道府県を挙げて行っています。明日、その全体像に必ず盛り込み、そして実行する骨格を発表いたします。
まず、この夏の2倍程度の感染力にも対応可能な医療体制を作ってまいります。万が一それ以上感染が拡大することがあっても、国の責任において緊急的な病床を確保するなど、万全の備えをしてまいります。そのために、公的病院の新型コロナ専用病床化を進めます。また、新型コロナ病床として申告されていたにもかかわらず、実際には患者の受入れに使用されなかった、いわゆる幽霊病床について見える化し、感染拡大時の病床稼働率を8割超まで引き上げます。自宅、宿泊療養者の方々への即応体制も強化してまいります。3回目のワクチン接種を12月に開始するとともに、経口治療薬について年内実用化を目指します。日常生活の回復に向け、無料検査を拡大いたします。さらに、ワクチンと治療薬の安定供給を確保するため、国内での開発、生産への支援を経済対策に盛り込みます。
新型コロナとの闘いが2年に及ぼうとする中で、事業者の活動、国民の生活は傷んでいます。選挙後には速やかに総合的かつ大胆な経済対策を取りまとめる決意です。この中には、新型コロナにより様々な困難に直面した方々への支援を盛り込みます。非正規、子育て世帯などお困りの方々に面倒な申請を行わずとも給付を受けることができる、いわゆるプッシュ型の給付を行ってまいります。
新型コロナの影響を受けた事業者の方々には、地域、業種を問わず、3月までの事業継続の見通しが立つよう、昨年の持続化給付金並みの給付を事業規模に応じて行ってまいります。併せて、非正規の方々などの雇用を守るため、助成率を引き上げている雇用調整助成金の特例について、来年3月まで延長いたします。
新型コロナの影響により、米の価格が値崩れしています。15万トンの特別枠を設け、民間流通在庫の保管及び売買への支援を行うことで、当面、需給を安定化させます。
新型コロナの影響により、子供の貧困、孤独・孤立、シングルマザーの問題も深刻化しています。一昨日、大田区の子供食堂を訪問して、車座でお話をし、現場の実態をお伺いしました。困難を抱えている方々に向き合い、支えているNPO(特定非営利活動法人)への財政支援を拡充してまいります。政府備蓄米を子供食堂に無償提供いたします。併せて、コロナ後の経済社会活動を起動させる準備もしてまいります。
今後、消費を活性化させるため、経済対策において、その受け皿となる企業の事業再構築に対して徹底的に支援を行います。また、GoToトラベルなどの消費喚起策については、ワクチン接種証明と陰性証明を活用して、より安全安心を確保した制度に見直した上で、再開に向けた準備を整えてまいります。
新型コロナ対策と経済対策に万全を期した上で、コロナ後の新しい経済社会を作り上げていかなければなりません。コロナ後の新しい未来を切り開いていけるのは誰なのか。国民の皆さんに御選択いただきたいと存じます。
岸田政権は、成長も分配も実現を目指してまいります。野党の言うように、分配を言うだけでは成長ができなくなり、分配するパイもなくなってしまいます。この誤りを二度と繰り返してはなりません。私は、民間の活力を最大限引き出し、国際競争に打ち勝つ産業や企業を生み出すことで、力強い成長を実現してまいります。
その際、単に市場や競争に任せるだけでは成長の果実は一部の国民にしか届きません。民と官がともに役割を果たすことで温かい改革を進め、成長の果実が国民お一人お一人に幅広く行き渡る、成長と分配の好循環を実現してまいります。そのために、新しい資本主義実現会議を創設いたします。私が議長、山際大臣が副議長となり、各界から第一人者に参画いただき、新しい資本主義のグランドデザインを描いていただきます。明日、具体的なメンバー、検討体制、検討項目を決定し、その内容をお知らせいたします。
また、新しい時代を開拓するためには、デジタル改革、規制改革、行政改革を一体的に進めていくことが重要であり、デジタル臨時行政調査会を立ち上げます。これら2つの会議では、従来の発想の枠を超えた、思い切った具体策を提案し、実現してまいります。科学技術の分野では、日本の抱える閉塞感を打破するため、経済対策に10兆円の大学ファンドの具体化を盛り込みます。大学側には、研究と経営の役割分担を求め、優れた若い研究者が研究に専念できる環境を作ってまいります。
最先端半導体の製造をほぼ独占する台湾企業の日本進出が本日発表されました。これにより、我が国の半導体産業の不可欠性と自立性が向上し、経済安全保障に大きく寄与することが期待されます。TSMC(台湾積体電路製造)の総額1兆円規模の大型民間投資などへの支援についても経済対策に盛り込んでまいります。
そして、何よりも大切なのは地方です。新しい資本主義は、地方からスタートいたします。過疎化や高齢化といった地方の課題にデジタルを実装することで解決するデジタル田園都市国家構想を進めてまいります。そのために5G、データセンターなどのデジタルインフラを整備するとともに、自動配送や農業の自動化など、産業のスマート化を支援してまいります。また、地方を支える農林水産業、中小企業を徹底的に支援するとともに、地方の交通インフラを整備してまいります。
分配戦略についても、国民の皆さんに御選択いただきたいと思います。岸田政権は分配を市場に全て任せるのではなく、また、国が丸抱えするのでもなく、民と官がそれぞれの役割を果たすことで国民を豊かにしてまいります。
これからは、雇用を増やすことに加え、お一人お一人の給与を増やしてまいります。このため、賃上げ促進税制を強化するよう、政府与党に指示いたしました。従業員お一人お一人の給与を引き上げた企業を税制で支援してまいります。その際、控除額の上限についても大胆に引き上げます。こうした支援策を講じつつ、産業界には私が先頭に立って、給与の引上げをお願いしてまいります。
民間に賃上げをお願いする以上、政府もやることをやらなければなりません。先日訪れた都立病院で、看護師の方から現場の切実な声を伺いました。感染への不安と使命感のはざまで揺れ動きながら、それでも毎日しっかりと責任を果たしておられる姿に胸を打たれました。こうした方々が少しでも前向きに働けるよう、看護、介護、保育などの現場で働いている方の収入を引き上げてまいります。そのために、私が議論をリードし、年末までに具体的な結論を出してまいります。非正規やフリーランスなども含め、働き方に中立的な勤労者皆保険の実現を始め、全ての方々が支え合う持続可能な全世代型社会保障の構築を進めてまいります。
これらのほか、激甚化する災害に対する備えについても、経済対策に盛り込んでまいります。5か年加速化対策に基づき、防災・減災やインフラ整備、国土強靱(きょうじん)化の強化・加速化に機動的に取り組んでまいります。
最後に、外交・安全保障について申し上げます。我が国をめぐる国際情勢は厳しさを増しています。まず、誰がこの厳しい国際情勢の中で、日本国、そして、国民の平和と安全を守ることができるのか、誰にこの国の外交・安全保障を委ねるのか、御選択いただきたいと思います。基本的な憲法観、日米安保や自衛隊の役割といった基本的な安全保障観でさえ方向性が一致していない野党各党に、この国を委ねることはできません。何よりも重要なのは首脳間の率直な信頼関係であります。私は、総理に就任した直後から、米国のバイデン大統領を皮切りに、豪州のモリソン首相、インドのモディ首相というクアッドのパートナーと、さらには英国のジョンソン首相とも電話会談を行い、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、緊密に協力していくことを確認いたしました。さらには、中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領とも電話会談を行い、尖閣(せんかく)諸島をめぐる情勢あるいは平和条約締結問題などについて、主張すべきは主張し、こうした諸懸案に取り組んでいくための第一歩を踏み出しました。また、厳しい安全保障環境に対応するため、国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の改定を指示し、関係閣僚間での議論を開始させました。
我が国を取り巻く安全保障環境は大きく変化しています。こうした中で、安全・安心な国民生活を守り抜くためには、外交を担うリーダーの経験と胆力が重要であると考えます。外務大臣を戦後最長4年8か月務め、世界中の首脳とファーストネームで会話できる深い信頼関係を築いてきた、私、岸田文雄にお任せいただきたいと思っております。私の持てる経験と力を総動員して、この国の平和と安全を守り抜いていく覚悟です。
新型コロナ対策、経済政策を思い切って実行するため、この総選挙で国民の皆さんの信任をいただければ、数十兆円規模の総合的かつ大胆な経済対策を最優先でお届けいたします。8月26日、私は総理としてこの国のかじ取りを担うための戦いに打って出ました。新型コロナ対応を行う、新型コロナで傷ついた国民・事業者の皆さんへ経済対策を届ける、全ての国民が等しく成長の果実を享受できる新しい資本主義を作る、日本の平和と安全を守り抜く、世界に貢献する外交・安全保障を進める、私の思いは、そして、私が提示してきた政策に、一点のぶれも、そして、後退もありません。大切なことは、優先順位をしっかり付けて一つ一つ着実に実施していくことです。
今回の選挙は未来選択選挙です。国民の皆さんの御判断をお願いいたします。今、時代は分岐点にあります。どのように動くかが日本の未来を決めることになります。次代を担う若い世代の皆さんを始め、全ての国民が自由な発想で様々なことにチャレンジでき、新しい技術やイノベーションが社会実装される、わくわくするような未来、そして、その成長の成果がきちんと還元される、安心できる日本を、皆さんとともに築き、開いていきたいと考えます。新しい時代を皆さんとともに。
以上、発言とさせていただきます。ありがとうございました。

質疑応答
(内閣広報官)  それでは、これから皆様より御質問を頂きます。指名を受けられました方は、お近くのスタンドマイクにお進みいただきまして、社名とお名前を明らかにしていただいた上で、1人1問御質問をお願いいたします。まず、幹事社、2社から御質問を頂きます。読売新聞、黒見さん、どうぞ。
(記者)  読売新聞の黒見です。総理、よろしくお願いいたします。衆院選について、3点お伺いいたします。衆議院解散については、時の総理が、アベノミクス解散、国難突破会解散などと名づけるケースがあるのですが、今回、総理は解散について何解散と位置づけられますでしょうか。内政外交で課題は山積しているのですけれども、最大の争点は何だとお考えでしょうか。これは改めてになるのですが、勝敗ラインについてはどのようにお考えでしょうか。以上、よろしくお願いします。
(岸田総理)  ありがとうございます。まず、1点、今回の解散についてのネーミングですが、先ほど申し上げたように、国民の皆さんにこれからの日本、未来を選択していただかなければならない選挙だということを申し上げさせていただきました。そして、既に未来選択選挙というネーミングについても先ほど申し上げさせていただきました。今回の選挙は、私たちの、この日本の国の、そして、今の世界の未来を選択する選挙であると考えています。最大の争点は何かということですが、やはり、今、国民の皆さんの最も大きな関心事はコロナ対策だと思います。このコロナ対策、現状に対してどう対応するのか、そして、このコロナとの闘い、危機的な状況を乗り越えた先にどんな社会を見ていくのか、これがまず大きな争点になるのだと思います。そして、日本の未来を見据えると同時に、この国際社会は大きく今激動しています。国際社会の中でどう日本が生きていくのか、こうした観点も大変重要な争点になるのではないか、この国際社会における日本を誰に委ねるのか、これも選挙において大きな争点になるのではないか、このように思っています。そして、勝敗ラインについて御質問がありましたが、これは従来から申し上げてきたと思いますが、与党で過半数を確保する、これが勝敗ラインであると考えています。以上、3点です。
(内閣広報官)  続きまして、日本テレビ、山ア(やまざき)さん。
(記者)  日本テレビ、山アです。よろしくお願いします。2点、お伺いします。総理は、選挙日程と重なったということで、G20(金融世界経済に関する首脳会合)とCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)については出席せずにリモートでの参加を検討すると考えを示していましたが、このCOPについては、首脳が欠席すると日本が気候変動問題を軽視していると誤ったメッセージとなるという指摘もあります。選挙直後にCOP26に出席するお考えはありますでしょうか。また、今後、日米首脳会談など、選挙後の外交スケジュールをどう組み立てるのか、併せてお考えをお聞かせください。もう一点、お伺いします。総理は先ほど未来選択選挙で国民に判断いただきたいとおっしゃいましたけれども、野党側が求めた予算委員会を開催せずに、今回、解散に踏み切りました。この3日間の代表質問だけで有権者が十分な判断材料を得られたとお考えでしょうか。以上、2点、お伺いします。
(岸田総理)  2点というか、3点かもしれない。まず、COP26につきましては、おっしゃるように、今の国際社会における気候変動問題の議論において大変重要な会議であるということを認識しています。そして、この会議にどう対応するかについては、オンラインでの参加という選択肢も含めて、今、引き続き検討しているということであります。どう貢献するか、どう参加するか、こういったことについて、いましばらくしっかり検討した上で判断したいと思っています。それから、選挙後の外交についての御質問がありました。選挙後の外交、選挙後、引き続き、内閣を委ねていただけるとしたならば、やはり外交を本格化させていきたいと思っています。そして、先ほど申し上げたように、電話会談等は精力的に行っていますが、やはり外交の基本は対面、人と人との信頼だと思いますので、対面外交を思い切って進めていきたいなと思っています。やはり第1に挙がるのはアメリカとの関係ということですので、アメリカ、バイデン大統領を中心に外交を積極的に展開していきたいと思っています。3点目、要は、国会を開き、そして、これから選挙をお願いするわけですが、その国会において所信表明と代表質問だけで十分かという御指摘がありました。国民の皆さんに選挙をお願いする以上、これはしっかりと丁寧に説明するということは大変重要なことだと思います。ただ、一方で、今の衆議院議員の任期は10月21日までということであります。ですから、21日以降、この衆議院議員の空白、これはできるだけ小さくしていかなければいけない。こうした現実的な要請もあるのだと思います。こうしたこととできるだけ国民の皆さんに丁寧に説明することとのバランスの中で考えた場合、私は、今回所信表明演説と衆参合わせて3日間にわたる代表質問、こういったものを通じて、できるだけ私の考え方、また私の内閣の方針について説明させていただいた。こうしたことで選挙をお願いさせていただいた、こういった次第であります。以上です。
(内閣広報官)  ここからは幹事社以外の方から御質問をお受けいたします。御質問を希望される方は挙手をお願いいたします。こちらで指名いたしますので、マイクにお進みください。では、長内(おさない)さん。
(記者)  NHKの長内と申します。よろしくお願いいたします。総理は先ほど、自ら先頭に立って賃上げをお願いしていくとおっしゃいました。今後、国民が具体的にイメージしやすいように、いつまでにどの程度の賃上げを目指すのか、こういったことを示していくお考えはありますでしょうか。
(岸田総理)  これから様々な取組を具体化する中でスケジュール感をしっかり示していくことが大事だと思います。ただ、まず出だしにおいて、私が進めている経済対策が野党、あるいは今までの経済対策とどこが違うのか、この基本的な理念をしっかり説明していくことが大事だと考えています。成長と分配の好循環ということを申し上げているわけですが、この分配、これは野党と一緒ではないか、こういった指摘があります。しかし、分配のみを言って成長を考えなければ、これは分配する成長の果実がないわけですから、これは行き詰まってしまう。こういったことです。成長について努力をしてきた、力を入れてきた自民党がしっかり分配をするということを言う、このことの意味は国民の皆さんにしっかり御理解いただきたいと思います。さらには、成長と分配、これは従来の政権も言ってきたのではないか、成長と分配の好循環を言ってきたのではないか、こういった指摘もありますが、従来の成長と分配は、例えば成長も市場原理ですとか、競争ですとか、優勝劣敗、こういったものを中心に成長を考えてきた、こういったところがあります。しかし、世界の趨勢(すうせい)を見た場合、単に市場や競争に任せるだけではなくして、政府、政治が役割分担をしっかり担って、官と民が協力して成長を考えていく、これが時代の趨勢だと思います。また、分配ということについても、自然に任せる、要はトリクルダウンが起こるのだということを言ってきたわけですけれども、しかし、なかなか結果にたどり着かなかったことを考えると、分配も官と民が協働してしっかり結果を出していくことが大事なのではないか。分配においても、民間において賃金を上げてもらうための優遇税制を考えるとか、こういった仕掛けの中で民間にも努力をしてもらう。大事なことですが、併せて政府においても自らが主導して決める様々な賃金、看護ですとか、介護ですとか、保育ですとか、こういった公的価格と言われている部分については率先して引き上げる、こういった努力もしていかなければならないなど、官と民が協働する形で結果を出そうというのが従来の経済対策とは違うのだということ、まずこれをしっかり説明させていただいた上で、多くの皆さんにこういった思いを共有してもらって、そして協力してもらって、そして物事を動かしていく。これが大事だと思います。そして、皆さんと思いを共有して物事が動き出したならば、具体的なスケジュール感もより丁寧に説明させていただく。こういったことに努めていきたいと思っています。
(内閣広報官)  それでは、次に、外国メディアの方、ランダースさん。
(記者)  The Wall Street Journalのランダースと申します。4月に当時の菅(すが)総理が、温室効果ガスの削減目標については、2030年までに2013年度に比べて46パーセント削減する目標を発表したと思います。ただ、この前の所信表明演説では、岸田総理はこの2030年の目標については言及しなかったのです。この菅前総理が掲げた目標を堅持するおつもりでしょうか。それとも取り下げるつもりですか。お願いします。
(岸田総理)  今の御質問に対しては、御指摘の2030年マイナス46パーセント、さらには2050年カーボンニュートラル、この目標はしっかりと堅持いたします。この目標を堅持した上で、様々な環境対策、あるいはエネルギー問題、しっかり取り組んでいきたいと思っています。それを基本にしながらしっかりと現実的な対応を考えます。
(内閣広報官)  では、次の方、秋山さん。
(記者)  日本経済新聞社の秋山です。よろしくお願いします。経済、成長戦略についてお伺いします。総理は成長と分配の好循環を訴えられて、成長も分配もとおっしゃられて、分配については、まず賃金を上げるというところから始めるということをこの間、説明されたと思いますが、成長戦略については、科学技術立国とかデジタル田園都市、それぞれお考えを示されていますが、まず、具体的に成長戦略についてもどこから手をつけるのか。予算編成とか、税制改正とか、選挙が終わったら控えていると思うのですけれども、このスケジュールも併せて説明をお願いいたします。
(岸田総理)  成長戦略については、私は3つ柱があると思っています。1つは科学技術・イノベーション、この部分ですが、10兆円の大学ファンドを始め、しっかりとこれを支えていく。2つ目は地方における介護ですとか、あるいは農業ですとか、こうした課題をデジタルという手法によって解決して、地方から成長をしっかりと膨らませていく、こういった取組。そして3点目は、やはり経済安全保障だと思っています。半導体、あるいはレアアースを始めとする我が国にとって重要な戦略物資を中心に、日本の国内で必要とされる生産やサプライチェーンをしっかり確保していく、こうした日本の国の自立性を高めていく。さらに言うと、経済安全保障ですと、日本ならではの技術、要するに日本の技術でなければならないのだという不可欠性、世界の経済の中で日本のこの技術がなければ動かないというぐらいの不可欠性、これを示すことによって成長を考えていく。このように、科学技術・イノベーションと、そして地方のデジタル化と、そして経済安全保障、この3本をしっかり柱として経済を成長させていきたいと思っています。そして、大事なポイントは、先ほど言ったように、官と民との協働。これは成長についても、国が全部丸抱えをしようなどということになると、時代のものすごいスピードに追いついていけない、こういったことがあります。といって、民間、競争に任せるということであったならば、なかなか世界の競争に太刀打ちすることができない。ですから、官の環境整備、これは大事だということで、今言った3点をしっかり用意し、そして、その環境の中で民間のスタートアップを始めとする新しい企業が生き生きと活躍してくれる、こういった経済、社会を作っていく、これが大事だと思います。要するに、官と民との協働、これがこれからの経済、新しい資本主義を考えた場合に重要であると思っています。今言った3点を中心に、国が、官がしっかり環境整備すると同時に、民間の皆さんがその中で生き生きと活躍してくれる、こういった経済を作って日本の新しい時代の経済成長をリードしていく、こういった社会を作っていきたいものだなと私は思っています。
(内閣広報官)  それでは、次に、安積(あづみ)さん。
(記者)  フリーランスの安積と申します。よろしくお願いします。私は、次の選挙で投票権がまだない子供の問題についてお伺いいたします。文部科学省の問題行動・不登校調査で、2020年度の不登校児童生徒の数が19万6,127で、昨年よりも8.2パーセントも多く、過去最高になっています。自殺者の数が415人と最多でして、これは11年前と比べて2.7倍も多くなっています。また、児童虐待の数も多くなっていまして、警察が児童相談所に通告したのが2020年で10万6,991人、これは前年度から8,769人増で、検挙数も2,133、これも最多です。先ほど、総理は次の選挙を未来選択選挙と位置づけられました。子供の問題というのは、優先順位は決して低いものではないと思いますが、コロナで社会が変えられてしまって、この変えられた社会の中のひずみの中に子供が落ち込んでいるような状況について、総理はどのようにお考えになっているでしょうか。
(岸田総理)  おっしゃるように、子供の問題、課題、これは政治にとって未来を語る上で大変重要な課題であると認識をします。子供の問題、今御指摘あった様々な課題、状況を考えますときに、本当に胸ふさがれる思いがいたしますし、何としても子供の未来を切り開いていかなければいけない。強く感じるところです。そして、自殺者、児童虐待、不登校、こうした状況に対してどう対応するのか。これは様々なことを考えていかなければなりません。私は就任したときに国民の皆さんとの約束ということで、対話、説明を大事にするということと、多様性を大事にすることと、心温まる社会を作っていきたい、この3点をお約束させていただきました。この子供の問題は、やはり地域やあるいは家族、仲間、この人間関係ということが大きく影響している問題ではないかと思います。もちろんそれに対して経済的な支援とかいろいろな環境整備、もちろん大事ですけれども、やはり何といってもこうした人と人とのつながり、絆(きずな)、この部分に大きく影響される課題ではないかと思っています。そして、この不登校や自殺あるいは児童虐待、こうした状況を見るときに、この絆が大事だという観点から見た場合に、やはり相談できる体制、当事者の方が自分で抱え込んでしまう状況に対して、しっかり政治として何か用意するものを用意しなければいけない。一番ストレートなのは相談体制、困ったときにいかに自分で抱え込むことなく相談し、そして寄り添うことができる、こうした体制を作っていくことではないかと思います。簡単なことではありませんが、今言ったような考え方を基本にしながら、こうしたいろいろな苦しい思いをされている方々、お子さんも含めて、そういった方々にどれだけ寄り添うことができるか、これが政治に課せられた大変重要な課題ではないかと認識をします。是非そういった考えに基づいて少しでもこの政治として結果を出せるように努力していきたいと思っています。以上です。
(内閣広報官)  それでは、次、横山さん。
(記者)  新潟日報の横山と申します。原発についてお伺いします。総理は先日の代表質問への回答で、基準に適合する原発は地元の理解を得ながら再稼働を進めていくとおっしゃいました。一方で東京電力の柏崎刈羽(かしわざきかりわ)原発では、テロ対策の不備など失態が相次いで発覚し地元の不信感が高まっています。また、原発の、そもそも福島第一原発事故という重大事故を起こしておきながら、今なお不祥事を繰り返す東京電力に原発を再稼働する資格があるとお考えでしょうか。また、カーボンニュートラルの実現に原発の再稼働が必要だとおっしゃるのであれば、地元の理解を得ることは不可欠だと考えます。先ほど総理は対話を重視しておられるとおっしゃいました。地元の理解を得るために原発の立地地域とどのように向き合っていくのか、そのお考えもお聞かせください。
(岸田総理)  まず、私自身のこのエネルギー政策については、従来から何度も申し上げているところです。先ほどお答えさせていただいた2050年カーボンニュートラル、2030年マイナス46パーセント、こうした目標は堅持をし、エネルギーを考えていかなければいけない。その際に再生可能エネルギーをしっかり進めていく、割合を増やしていく、これは大変重要なことではありますが、先ほどから再三出ているように、我が国もこれから思い切ったデジタル化を行わなければいけない。電力使用量ももう画期的に増えてしまう、こういった現実を前にしますと、再生可能エネルギー一本足打法ではこの安定供給や価格の問題に十分対応できないということもありますので、いろんな選択肢を用意しなくてはならないということで、水素や様々なエネルギー源の中に原子力ということも一つ選択肢として用意しておくべきであるというのが私の考え方です。その全体像の中で、この原子力を考えた場合に、おっしゃるように現実は大変厳しいものがあります。この現実にしっかり向き合っていかなければならない。まずは御指摘の柏崎刈羽原発については、これは核セキュリティの事案として大きな問題が起こっています。そして、結果として再稼働の見通しが立っていないということでありますので、これについてはまずは東京電力が再発防止策を徹底的に遂行し、それが地元の皆さんにとって十分理解されるものかどうか、しっかり問われなければならないと思いますし、そして科学的な見地からも原子力規制委員会の検査をしっかりとクリアできるかどうかをしっかり見ていく、それを地元の皆さんにもしっかり説明をして御理解いただく、こういったことが大事なのではないかと思います。御指摘の柏崎刈羽原発については、こうした東京電力の取組をしっかり見ていかなければなりませんし、その取組を国民の皆さんにしっかり理解してもらう、こういった努力が重要であると思っています。このように大きなエネルギー政策の中で、一つ一つの原発のありようについて丁寧に対応していく、こうした努力が大事であると私は考えます。
(内閣広報官)  次に鹿嶋(かしま)さん。
(記者)  フジテレビの鹿嶋です。よろしくお願いします。先ほど総理が触れられました新しい資本主義実現会議ですか、これは具体的な内容を明日発表されるということなのですけれども、これは明日正式に設置されるということでよろしいのでしょうか。併せて、この会議を設置する目的、何のためにこれを設置されるのかということをお聞かせてください。それから、未来選択選挙とおっしゃいましたが、野党側は、岸田内閣のこの経済政策も含めて、実質的に安倍政権、菅政権と本質的に変わらないんじゃないかという形で批判をしています。選挙戦を通じてこういったところをどういうふうに、批判、指摘を払拭していくお考えなのかをお聞かせください。
(岸田総理)  まず、会議については明日設置をするということになります。設置をし、メンバーを発表し、できるだけ早い時期にこの会議を実際に開きたいと思っています。それから、その設置する理由ですが、これは正に先ほどの質問の中にもありましたように、新しい経済政策、新しい資本主義、私は、この新しい経済政策を進めないと、日本のこの経済の好循環、これはしっかりと回復することができないと信じています。そのためには先ほど言いました多くの関係者、官民の協力が必要になります。できるだけ多くの皆さんにこの理念を共有してもらって、ともに協力してもらわなければいけない。その際にできるだけ幅広い分野の有識者の方々にも議論に参加していただいて、国民の皆さんにどう説明するのか、そもそも、その理念をよりブラッシュアップして、分かりやすい説得力のある、こういったものにしていかなければなりませんし、その上で多くの皆さんに理解してもらう、こうした社会の雰囲気を作るためにも、こうした会議を作ることが大事であると思っています。そして、違いということですが、これは先ほども申し上げたように、分配、分配というだけの野党の政策とは間違いなく違うと思っていますし、成長と分配ということについても、市場任せではない、トリクルダウン任せではない、やはり能動的に成長と分配を考えていく、これこそ、今この世界的な経済政策の潮流であると信じています。こうした世界の潮流にもしっかり乗り遅れないように日本がしっかりとした経済政策を進めていくのだと、こうした大きな方向性についてしっかり説明していく。これは選挙戦を通じて大変重要なことなのではないかと思います。何か三番煎じだとか全く違いが分からないとかおっしゃっている方もおられるようですが、今申し上げたように、間違いなく世界の潮流はこっちだと思いますし、日本もこうした考え方に基づいてしっかりと新しい経済を進めていかなければならない、そして、結果として所得を引き上げるということ、一部の人の所得を引き上げるのではなくして、幅広い方々の所得を引き上げることによって、消費、経済の循環にとって大切な消費を喚起する。消費を喚起すれば、今度は供給側も投資や開発、研究開発、こういったものに思い切ってお金を使う、こういったことで経済の好循環がようやく完成するのだと思います。是非所得を引き上げ、消費を喚起して、経済の好循環を完成するところまで持っていったならば、日本の新しい時代の経済も持続可能性をしっかり取り戻すことができるのではないか、こんなこともしっかりと皆さんに説明していくことは大事であると、私はその先頭に立って、この新しい時代の経済について訴えていきたいと思っています。
(内閣広報官)  それでは、古川さん。
(記者)  西日本新聞の古川と申します。よろしくお願いいたします。総理、先ほどからスケジュールについてなかなかかみ合っていないようなお答えが多かったと思うのですけれども、総理にこの未来を、日本の未来を委ねた場合は、例えば3年後なのか5年後なのか10年後なのか、成長の果実が国民に行き渡るのはいつの話をされているのでしょうか。お聞かせください。
(岸田総理)  今、私たちは、コロナとの闘いの渦中にあります。是非、できるだけ早く、この闘いに勝利をして、そしてできるだけ平時に近い生活を取り戻して、そして、その後、経済を回し始める、こうしたことを考えていかなければならないと思います。ですから、経済の方向性は今申し上げたとおりですが、コロナ、自然との闘いに打ち勝って、そしてコロナとの共存を今度は果たしながら、なおかつこのリスクをできるだけ低減して経済を回していく、こういったことを考えていかなければならないわけですから、今から何年先に結果が出るか、これはコロナの経済に対する影響によって、その経済からの立ち直りも変わってくるわけですから、今3年後、結果を出せるのか、4年後結果を出せるのか、これを言うのはかえって誤解を招くことになってしまうのではないか。やはりこれは、今コロナ禍の中で最前線線で多くの皆さんが頑張っておられる、是非みんなでこの闘いに勝ち抜いて、新しい時代を切り開いていく、ともに協力する、共有できる思い、これをまずしっかりと確認することが先であって、それをやらずして、3年後に皆さんの給料が上がりますよということを軽々しく言うというのは誤解を招いてしまうのではないか。是非方向性はこっちだという思いを共有するところから、私は始めたいということを申し上げています。何年後に結果が出るのだという答えが欲しい、その思いは分かりますが、今の状況を考えると、今、言ったこの方向性をまず示すことが大事であり、軽々しく何年後ということはかえって無責任になりかねないのではないか、こんなことも考えながら、まずは思いを共有する努力をしていきたいと思っています。
(内閣広報官)  では、次に延広(のぶひろ)さん。
(記者)  Bloombergの延広と申します。脱炭素に関して、産業界の懸念への対応について特にお伺いしたいのですが、例えばトヨタ自動車は、雇用の面からもEV(電気自動車)一辺倒の政府の方針に対して異論を唱えているわけなのですが、総理としては、産業界とどう足並みをそろえて脱炭素社会の実現というものを目指していかれるおつもりでしょうか。
(岸田総理)  2050年カーボンニュートラルを始めとする大きな目標を堅持した上で、先ほど言ったエネルギー政策をしっかり進めていく、そして、二酸化炭素、地球温暖化ガス抑制に努めていく、こういったことでありますが、このこと自体、現実を考えた場合、大変な努力が必要とされますし、簡単なことではない、多くの関係者の皆さんに協力してもらわなければいけない、こういった課題であると認識しています。そして、自動車産業ということを考えても、全国で雇用550万人と言われる大変巨大な産業です。この産業がどうなっていくのか、これは、多くの国民の皆さんにとって切実な問題であると思っています。おっしゃるように、電気自動車から一遍に進んで物事が変わる、それで良かったというような単純な話ではない。今、生活している多くの方々、雇用されている方々がどう生きていくか、これを考えていかなければならない、こういったことだと思います。そしてその際に、これは大きな流れとして電気自動車を始め、様々な新しい技術が導入されていくと思うのですが、新しい技術の導入、要は温暖化対策というのは、決して経済の抑制要因ではなくして、経済を成長させるエンジンになるのだという発想で、新しい技術を使って経済を発展させ、雇用を吸収していく、こうした発想を持っていくことが大事だと思っています。是非この温暖化対策を進めることによって、優れた技術を活用して、それによって国際競争力をつけ、そして、それによって働いている方々の不安にも応えていく、こうした前向きな発想、要は温暖化対策をやると、自分たちの働く場がなくなってしまうのではないかという発想ではなくして、こうした新しい技術をもって、経済を、国際競争力を大きくしていく、そのことによって雇用をしっかり吸収していく、こうした前向きな発想で様々な努力を続けていくことは大事なのではないかと思います。自動車産業、この間も車座対話の中で自動車産業ということですと、自動車整備業の皆さんもガソリン車がなくなったらどうなるのだというようなことも言っておられました。こうした現実にどう向き合って、前向きな答えを出せるのか、政治としてもしっかり責任を果たしていきたいと思っています。
(内閣広報官)  それでは、大変恐縮ですが、あと2問とさせていただきます。では、杉本さん。
(記者)  産経新聞の杉本と申します。よろしくお願いします。憲法と今回の選挙についてお伺いしたいと思います。総理は、先ほど勝敗ラインを聞かれて、自公で過半数の確保を目指すということをおっしゃられたかと思います。他方で、総理は自民党の総裁選挙で勝利したならば、3年間の任期で憲法改正を実現するということをおっしゃったと思います。憲法改正には、憲法改正の発議、国会発議には3分の2の議席が必要となりますけれども、総理は、今回の選挙で、与党で3分の2を目指さないのでしょうか。あるいは、改憲勢力で3分の2を目指すというお考えであるとすれば、その改憲勢力の中に、どのような政党が総理の頭の中にあるのか、お聞かせいただいてもよろしいでしょうか。
(岸田総理)  憲法改正を考える場合に、おっしゃるように、国会の発議には、全体の3分の2が必要になります。ですから、選挙において、その3分の2を与党として目指す必要があるのではないか、さらには改憲勢力で3分の2を目指すべきではないか、そのような御質問であったわけですが、私は、最終的に国会において3分の2によって発議をするわけですから、選挙において憲法改正に理解のある方々にたくさん当選していただく、これはもちろん大事ですけれども、その後の議論の中で、結果として3分の2を確保する、ですから、選挙プラス国会などの議論、丁寧な議論を行うことによって、結果として国会の3分の2を確保する、これがあるべき考え方ではないかと思っています。選挙で一遍にこの3分の2を確保するということ、これは選挙においては、いろんな論点が争点として挙がってくるわけですから、1つ憲法改正だけで選挙をやっているわけではありませんので、選挙だけで3分の2を確保するという考え方には無理があるのではないか。選挙プラスその後の議論の中で、より多くの方々に理解を得ることによって、結果として3分の2を得て、そして発議をし、そして国民の皆さんの2分の1の賛成を得て改正につなげていく、こういったことではないかと思っていますので、選挙において憲法もしっかり訴えたいと思いますが、選挙後の議論も大事にして、今、言った道筋をしっかり確保していきたいと思っています。
(内閣広報官)  それでは、最後の質問、桐生(きりう)さん。
(記者)  河北新報社の桐生と申します。よろしくお願いします。復興大臣の沖縄北方担当相との兼務問題についてお聞きします。組閣から10日あまりが経過しましたが、東日本大震災の被災地からは、総理の被災地の声を聞く力を問う声が出ています。西銘大臣は、就任後、被災地から北海道、沖縄と次々と現地入りを求められており、距離を考えると非常に非効率で公務に割ける時間も少なくなります。また、総理の所信表明演説では、震災、また、東京電力第一原発事故への言及が、安倍内閣、菅内閣と比べて具体性がありませんでした。内閣の復興に対する姿勢を疑問視する声が被災地で大きくなっている事態をどう受けとめますか。また、自民党の復興大臣経験者から兼務を解くようにという声も上がっております。次の組閣では兼務を解いて、復興相を専任とするお考えはあるか、お聞かせください。
(岸田総理)  まず、復興を軽視しているという指摘は、全く当たらないと、私は思っています。私の内閣においても東北の復興なくして日本の再生はない、これは再三繰り返しているところでありますし、是非被災者の方々に寄り添って被災地の復興に向けて全力を尽くしていきたいと思います。そして、今週末も福島、宮城、岩手、私は入らせていただきまして、視察をし、そして関係者の皆さんと意見交換、対話もさせていただきたいと思っています。そして、その際には、復興大臣も同行するということになっています。この復興大臣、西銘大臣は、就任のときの記者会見でも申し上げたと思いますが、これまで国土交通委員長ですとか、国土交通大臣政務官ですとか、復興に必要な様々な経験あるいは見識、これをしっかり持った人間であると思ったからこそ、復興大臣に指名をさせていただきました。これから、自らの活躍の中で、この西銘大臣が復興大臣として、しっかり役割を果たしてくれる、そういったことを皆さんの前に示してくれると、私は確信をしています。いずれにせよ、そうした国民の皆さんの声があるとしたならば、なおさら、西銘大臣には強い覚悟を持って復興大臣としての成果を上げてもらいたいと期待をしています。以上です。
(内閣広報官)  大変恐縮ですが、ただいま挙手を頂いている方につきましては、後ほど一問、担当宛てにメールでお送りください。後日、書面にて回答させていただきます。以上をもちまして、本日の記者会見を終了させていただきます。御協力ありがとうございました。 
 

 

●「復興軽視の指摘は当たらない」 岸田首相、今週末に被災3県視察 10/15
西銘恒三郎復興相の沖縄北方担当相との兼務が東日本大震災の被災地で波紋を広げていることに関し、岸田文雄首相は14日の記者会見で「復興軽視との指摘は当たらず、西銘氏には強い覚悟を持って成果を上げてもらう」と述べた。
岸田氏は「私の内閣でも『東北の再生なくして日本の再生はない』と再三繰り返している。被災地に寄り添い復興に向けて全力を尽くす」と説明。今週末に福島、宮城、岩手各県を視察することも明らかにした。
西銘氏を復興相に任命した理由を「国土交通政務官を務めるなど復興に必要な経験と見識を持っている。役割を果たしてくれると確信している」と強調。次の内閣で復興相を専任に戻すかどうかは答えなかった。
河北新報社の質問に応じた。首相官邸は新型コロナウイルスが流行した2020年4月以降、記者席数や会見時間に制限を設けており、質疑で同社が指名されたのは初めてだった。

●生活支援「現金支給は重要」 岸田首相 10/15
岸田文雄首相は14日のTBS番組で、新型コロナウイルスの影響を受けた生活困窮者への対策に関し、「現金を直接支給する支援が重要だ。しっかりと考えていきたい」と語った。番組は事前収録された。
また、経済対策に必要な財源については、「経済の状況を考えると、しばらく低金利状況が続く。国債を財源としながら対応していかなければいけない」と述べた。

●国民から期待されない岸田内閣、参院静岡補選で「黄信号」 10/15
岸田首相の不人気ぶりは、衆院選より一足早く選挙戦に突入している参院の補欠選挙(24日投開票)でも顕著だ。
参院補選は山口県と静岡県で行われていて、いずれも衆院選や知事選転出による自民党議員の辞職にともなうもの。山口は安倍元首相ら大物ズラリで自民党の金城湯池、静岡は野党側が候補者一本化できずの三つ巴となっている。自民党は楽に2勝できると考え、岸田首相も7日の告示日に静岡入りして候補者とともに街頭に立ったのに、雲行きが怪しくなってきたのだ。
「野党は、立憲民主党と国民民主党が推薦する無所属候補と共産党公認候補が競合しているうえ、無所属候補は国民民主系のため、立憲の党本部は腰が引けている。告示日に国民の玉木代表は応援に入ったのに、立憲の枝野代表は姿を見せずで、野党が自滅するパターンになっていました。ところが、自民党が先週末に実施したとされる情勢調査で、立憲・国民推薦の候補に3ポイント差にまで迫られていたというのです。岸田内閣の支持率の低さがここにも影響しているのか。予想外の展開に、自民党は慌てています」(永田町関係者)
野党系候補の追い上げには「川勝知事効果」があるとみられる。これまで国政選挙に距離を置いてきた静岡県の川勝平太知事が、6月の知事選で戦った自民への対決姿勢を鮮明にして、今回は野党系候補を全面支援。告示日の出陣式に飛び入り参加しただけでなく、週末も応援演説に立つ力の入りようだ。加えて衆院選との相乗効果も。
「立憲の本部は冷めていても、自分の選挙を目前にした衆院選候補者たちは、参院補選を自分の選挙活動と連動させている。そのため、衆院選で健闘しそうな人たちの選挙区は補選も上り調子です」(地元関係者)
初陣として現地入りまでした静岡補選で、まさかの敗北となれば、岸田政権へのダメージは大きい。当然、その1週間後に投開票となる衆院選にも影を落とすことになる。

●岸田首相では「政治倫理の腐敗」は止められない? 10/15
ここ数年、目を覆うばかりの政治倫理の腐敗を私たちは目にしてきた。
つい最近も不適切な接待を受けたとしてデジタル庁幹部が処分される一方で、同席した平井卓也前デジタル担当相は処分なしで給与1ヵ月分の自主返納のみという信じられないシーンを目撃したばかりだ。
不処分の理由が振るっている。接待に同席したことで行政がゆがめられた証拠はない。そのため、大臣規範にも触れるわけでもなく、ましてや検察に起訴されたわけでもない。だから、処分の対象にならないという。
第2次安倍政権で発覚した安倍晋三元首相の「森友・加計・桜」疑惑、甘利明氏のUR口利き疑惑、小渕優子氏の「観劇会」不正支出疑惑なども、部下だけが処分されたり、刑事訴追される一方で、前述のような理屈で本人は事件化を免れてきた。そこに共通するのは法律に触れるという明らかな証拠がなく、検察や警察に捕まらなければ問題なしとする政治倫理の腐敗だ。
近年は、それがさらに深まったような印象さえある。「安倍官邸の門番」と呼ばれた黒川弘務元東京高検検事長の定年延長の騒動や、安倍元首相の友人であるジャーナリストの準強姦罪疑惑で、彼への逮捕状執行を止めた中村 格氏を警察庁長官に昇進させるなど、政治家やそのお友達を立件しない検察官、逮捕しない警察官が政権内で重用されてきた。政界の倫理が「捕まらなければよい」から「捕まえさせなければよい」へと、さらに劣化したわけだ。まさに「地に堕ちた政治倫理」である。
本来なら、政治家には「李下(りか)に冠を正さず」という高い倫理性が求められる。人の道に反する行為をしているのではないかと有権者に疑われるだけで責任を問われる立場にあるのだ。
しかし、今の日本の政治は明らかにその倫理が劣化し、さらなる堕落が進む状況にある。
看過できないのは岸田文雄首相が率いる新政権でもその流れが続きそうなことである。その象徴が甘利氏の党幹事長起用だ。経済再生相当時、大臣室などで口利きの見返りとして計100万円を直接受け取ったという証言が報じられたにもかかわらず、甘利氏はなんの説明もしていない。本来なら、議員辞職モノだ。
その甘利氏を岸田首相は自民ナンバー2の幹事長に起用した。甘利氏の登用には安倍、麻生両元首相の意向があったとされる。ふたりのキングメーカーへの忖度(そんたく)は明らかだろう。事実、森友問題の再調査はしないと、岸田首相は明言している。新政権でも政治倫理の腐敗は継続すると考えるべきだろう。
だからこそ、野党に望みたいことがある。秋の臨時国会で国政調査権に基づく強力な権限を持つ森友問題調査委員会の創設を岸田政権に提案してほしい。また、岸田首相は自らの「聞く力」をアピールしている。ならば、首相に公文書改竄(かいざん)を苦に自殺した赤城俊夫さんのご遺族・雅子さんと面会し、その話をじっくり聞くべきという要求もしてほしい。
その声に岸田政権がわずかでも応じる気配を見せれば、これ以上の政治倫理の腐敗に歯止めがかかる希望が生まれる。応じなければ、野党は岸田首相の政治倫理の劣化を指摘し、国会論戦で攻勢に出ればよい。
民主主義を守るために、政治倫理を正すことが喫緊の課題だ。

●「国産に納得」「庶民には高い」 岸田首相の腕時計 10/15
岸田文雄氏は総理大臣になり、一躍「時の人」になりました。時の人になると全てが関心の的になります。ネットではさっそく、岸田氏が身につけている腕時計が話題になり、「国産に納得」「センスがいい」「安すぎないか」「好き」「庶民から見ると高い」「外交交渉の場でふさわしい時計なのか」といった声がありました。いったいこれをどう考えたらいいのでしょうか。リスクマネジメントと広報コミュニケーションの観点からアプローチします。
広報戦略からすると身につけているものは全てメッセージになってしまうので、その点を考えて選択する必要があります。参考として、面白い非言語コミュニケーションの研究を紹介します。「ネクタイをした調査員にはネクタイをしている人が応諾する確率が高く、ネクタイをしていない調査員には、ネクタイをしていない人からの応諾が多かった。人は自分に似た服装レベルをした人に好感を持ち、協力する(グリーンとギレス)」。「快といった心地よい感情を持つと相手のことが好きだと認知し、好きになると一緒にいたいといった行動になる(奥田秀宇)」。
これらの研究からいえることは、相手の服装レベルに合わせた身なりをする方が、好かれて協力を得られやすい、ということ。したがって、外交交渉の場で相手が高級腕時計だったらそこにこだわりがあるとみてそれなりの戦略を立てる必要があります。同じ高級腕時計もありですが、アラブの富豪であればそうそう同じ金額の腕時計はそもそも無理。そこで視点を変え、国のアピールのために国産品の腕時計をすれば、相手にわかりやすいメッセージになりそうです。どうにも迷ってしまう、特にメッセージを発信したくない、中身に集中したい、と思った時には「時計はしない」選択もあります。
いずれにせよ、相手はこちらが何を身につけているか、でそれをメッセ―ジとして受け止めてしまうので、相手へのマナーや配慮の視点を忘れないようにすることが外見面でのリスクマネジメントになります。したがって、謝罪の場では、腕時計に限らず、一目で高級ブランドとわかる服や腕時計やキラキラと光るアクセサリーを避ける配慮が必要になります。また、腕時計をしていると時間が気になりますので、頻繁に見てしまう可能性があり、その動きが落ち着かない印象を与えるリスクがあります。
スタイリングの観点からはどうみたらよいでしょうか。関根勤さんの専属スタイリストでビジネススーツに詳しい高野いせこさんはトータルコーディネイトの重要性を指摘しています。
「国産はいいと思いますが、品格を重視するなら、ステンレス製ではなく、革ベルトをお薦めします。その方が落ち着いて品がよくなります。メタルやステンレスにすると目立ってしまい、何かそこにこだわりがあるように見えてしまいます。そして人は気になるのでいろいろ言いたくなってしまいます。それを避けるには一目でブランド品とわからないものを身につけるのも選択肢としてあります。私はしなくてもいいと思っています。スタイリングの観点からすると、腕時計が大きいと袖口に引っかかってしまい、袖回りのシャツがきれいに出ません。そうなると、オーダースーツの際にも腕時計の大きさを配慮した作り方が必要になります。私が撮影に立ち会う際には、腕時計を外していただいています。スーツの袖回りのシルエットがきれいに出ないからです。」
そうはいっても、どうしても腕時計をしたい男性もいるでしょう。革ベルトの腕時計を選ぶ際に色や素材がいろいろあり、迷いそうですが、選び方のコツはあるのでしょうか。
「靴やベルトに合わせると全体のバランスがうまくまとまります。黒の靴なら黒のベルト、腕時計の革も黒。茶色なら茶色でまとめます。さらに革の質感もあわせるとより一層バランスのよい雰囲気でまとまります。また、腕時計をステンレス製のシルバーにする場合には、ベルトのバックルもシルバーにすると統一感が出ます。バックルがシルバーで時計がゴールドではアンバランスです。バックルもブランドロゴを避けた方が品よくまとまります。ブランド名に頼るのではなく、トータルバランスで品格と信頼を演出することが大人のおしゃれだと私は思っています。」
確かに色と質感を統一すると高級感漂う雰囲気になることが十分イメージできます。時計だけではなく、服装とのトータルバランスで選ぶこと、相手へのメッセージになることを配慮することがポイントになります。また、自分のしぐさとのコンビネーションからも時計をする、しないを決めてもよいでしょう。最近もある重要な記者会見で頻繁に時計を見ていた説明者がいました。決してよい印象ではありません。ここは、コミュニケーションとのトータルバランスで腕時計の着脱を決める視点も提案して締めくくります。

●「"所得倍増"は所得2倍という意味ではない」 次々と公約を引っ込める 10/15
今回の選挙を「未来選択選挙」と位置づけているが…
10月14日、衆議院が解散した。衆院選の日程は「19日公示、31日投開票」となる。与野党は新型コロナ対策や経済政策などを争点に事実上の選挙戦に入った。与党の自民、公明両党は新政権発足への国民の期待感をバネに衆院での勢力を伸ばしたい考えだ。岸田文雄首相は14日夜、今回の選挙を「未来選択選挙」と位置づけ、「コロナ後の新しい未来を切りひらいていけるのはだれなのか選択してもらいたい」と訴えた。新政権の岸田内閣に国民はどれだけ期待しているのか。報道各社の世論調査を見ると、60%を超えるものはなかった。これは内閣発足時の数字としてはかなり低い。たとえばNHKの世論調査では、内閣支持率は49%にとどまっている。一方、菅義偉内閣の発足時は62%だった。内閣支持率は最初は高く、後は下がる傾向がある。岸田内閣は厳しい船出となっている。
格差是正の目玉公約「課税強化」はいとも簡単に取り下げ
振り返ると、岸田首相は8月26日の総裁選出馬時にこう語っていた。「国民の声に耳を澄まし、政治生命をかけ、新しい政治の選択を示していく」「自民党の役員に若手を大胆に登用し、自民党を若返らせる」独断専行に走る菅政権と古い体質から抜け出そうとしない自民党幹部への挑戦状だった。党内の改革を求める若手・中堅の議員の声に押され、自民党内で干されることも覚悟して立ち上がったようにみえた。しかし、いまの岸田首相にあのときの熱さは感じられない。10月1日の党の役員人事では、政権運営の要となる幹事長に党税制調査会長を務めていた甘利明氏を起用した。甘利氏は元首相の安倍晋三氏や前財務相の麻生太郎氏に近い。安倍、麻生、甘利各氏の頭文字を取った「3A」は、自民党の旧態依然とした体質の象徴だ。これだけでも党の改革をやるつもりがないことがわかる。しかも甘利氏には現金授受の疑惑があり、その説明責任も十分果たしていない。10月11日の国会の代表質問では、岸田首相は、自民党総裁選で掲げた「株式配当などの金融所得への課税強化」を先送りする発言を繰り返した。格差是正の目玉公約だったはずだが、いとも簡単に取り下げてしまったのだ。
「令和版所得倍増」は所得が2倍になるという意味ではない
もうひとつ、総裁選での経済政策の目玉だった「令和版所得倍増」も取り下げてしまったようだ。この言葉は、国会での所信表明演説では触れられず、自民党の衆院選公約の政策パンフレットにも出てこない。一体どこに消えてしまったのか。この件について、14日、山際大志郎・経済再生担当相は報道各社のインタビューで、「文字通りの『所得倍増』を指し示しているものではなく、多くの方が所得を上げられるような環境を作って、そういう社会にしていきたいということを示す言葉」と述べ、「令和版所得倍増」は所得が2倍になるという意味ではないとの認識を示している。「令和版所得倍増」の詳細は、近く設置される「新しい資本主義実現会議」で議論するそうだが、そういう説明を受けて有権者はどう思うだろうか。バカにされていると思うのは、沙鴎一歩だけだろうか。
野党は200以上の選挙区で候補者を一本化した
衆院選は政権選択の選挙である。野党各党は政権交代を強く訴える。第1党の立憲民主党の枝野幸男代表は街頭演説などで「安倍・菅政権は国民の声を聞かず、不誠実な政治を一貫して進めてきた。10年近く続いてきた傍若無人な政治を終わらせる」と訴える。立民は共産、国民民主、れいわ新選組、社民の4党と選挙協力の野党連合を推し進め、すでに小選挙区289のうち、200以上の選挙区で候補者を一本化した。衆院の定数は465議席(小選挙区289、比例選176)である。自民、公明両党の解散時の勢力は305議席(自民党276、公明党29)で、立民の解散時の勢力は110議席だった。岸田首相は衆院選の勝敗ラインを「与党で過半数確保」とする。つまり自民党と公明党の獲得議席が合わせて「233議席」を取れないと負けになる。岸田政権の不人気に対し、野党は勢いがある。自民党内からは楽勝ムードが消え、過半数割れを心配する声も出ている。ところで内閣発足から10日後の衆院解散は戦後最も短い。解散から投開票までは戦後最短の初の17日間となる。異例の短期決戦だ。衆院選挙は安倍政権での2017年10月以来、4年ぶりだ。衆院議員の任期満了日(10月21日)以降に実施される衆院選は、現行の憲法下で初めて。今回の衆院選は異例ずくめなのである。
「時の権力者に近い者が特別扱いされる」という疑念
10月15日の朝日新聞の社説は「4年ぶり衆院選へ 民意に託された政治の再生」との見出しを掲げ、冒頭でこう主張する。「日本の民主主義を深く傷つけた安倍・菅両政権の総括のうえに、政治への信頼をどう取り戻すか。少子高齢化など直面する課題への処方箋や、『コロナ後』も見据えた将来のビジョンをどう描くか。与野党は明確な選択肢を示して、有権者の審判を仰がねばならない」「民主主義を深く傷つけた」はずいぶんな酷評だが、政権選択の選挙において「政治への信頼」は重要なテーマである。国民の信頼を失った政治家が、勝ち続けることは難しい。朝日社説は「その後の党や内閣の人事、臨時国会での所信表明演説と各党の代表質問に対する答弁をみる限り、(これまでの路線の)転換よりも『継承』に近いと言うほかない。『安倍1強』体制が長く続き、党内から多様性が失われた自民党の限界が示されたといえる」と岸田首相を批判し、「首相には、森友・加計・桜を見る会といった、安倍政権下の疑惑を清算しようという意思はみられない。時の権力者に近い者が特別扱いされたのではないかという一連の問題は、政治や行政の公平・公正に対する疑念を招き、統治機構に対する信頼を著しく損なうものだった。これこそ、首相がいう『民主主義の危機』ではなかったのか」と皮肉る。岸田首相には総裁選に出馬表明したときの気持ちを取り戻し、党改革を進めてほしい。そうすれば、朝日社説の指摘する「時の権力者に近い者が特別扱いされる」という疑念も払拭(ふっしょく)されるはずだ。
「楽観姿勢」を捨て去り、「科学的知見」を重視するべき
10月15日付の毎日新聞の社説は「日本の選択 新型コロナ対策 危機に強い社会へ論戦を」との見出しを付け、「衆院が解散され、事実上の選挙戦が始まった。政府の新型コロナウイルス感染症対策への初の審判となる」と書き出している。この1本社説は、内容がすべて衆院選で議論すべき「新型コロナ対策」となっている。今後、連載の形で各テーマごとに分けて衆院選を社説で扱っていくのだろう。毎日社説は主張する。「岸田文雄首相は『危機対応の要諦は、常に〈最悪の事態〉を想定することだ』と繰り返している。かけ声倒れになってはならない。どのような『最悪』を想定し、どう備えるのか明らかにすべきだ」いまの岸田首相を見ていると、どうしてもかけ声倒れになってしまうのではないかと不安になる。毎日社説は「安倍晋三政権と、後を継いだ菅義偉政権に共通したのは、根拠なき楽観姿勢と、科学的知見の軽視である」と指摘するが、岸田首相はこの「楽観姿勢」を捨て去り、「科学的知見」を重視してもらいたい。毎日社説は最後にこう訴える。「新型コロナの危機が過ぎても、いずれ新たな病原体によるパンデミック(世界的大流行)が起きる。衆院選の論戦を、感染症対策の長期戦略構築への一歩としなければならない」未知の感染症によるパンデミックは必ず再び起きる。新型インフルエンザウイルスによるスペイン風邪(1918年)やブタ由来のインフルエンザウイルスの大流行(2009年)を考えれば、よく分かるはずだ。感染症対策には長期戦略が欠かせない。
「すべての国民が成長の果実を享受できる新しい資本主義」
読売新聞の社説(10月15日付)は書き出しで「発足間もない岸田政権に信任を与えるか、共闘を強める野党に政権を担わせるか。重要な選択の機会である」と分かりやすく解説する。見出しも「政権の安定選ぶか転換図るか」である。「安定」か「転換」か。岸田政権は発足まもないのにその勢いが弱い。野党は連合しつつあるとは言え、それぞれの政治思想は異なる。福島の原発事故の対応など旧民主党政権の体たらくを思うと、政権能力を疑ってしまう。今回の衆院選は有権者にとって難しい選択である。読売社説は「岸田首相は記者会見で『すべての国民が成長の果実を享受できる新しい資本主義をつくる』と語った。与党で衆院過半数の233議席獲得を勝敗ラインに挙げた」と書き、こう指摘する。「自民党は、安倍元首相の下で国政選挙に6連勝し、長期政権を築いた。だが、後継の菅前首相は1年あまりで退陣した。岸田首相が国民の審判を経て、安定政権を構築できるかどうかが問われる」すべては選挙期間中の岸田首相の言動にかかっている。有権者は演説の言葉だけではなく、一挙一動すべてを観察している。国民のことを真に思う信念があれば、それは熱意として必ず有権者に伝わる。岸田首相は総裁選の出馬表明のときの気持ちに戻るべきである。そうすれば、衆院選勝利の兆しが見えてくる。
投開票日まで態度を決めない有権者も多くなりそう
保守を代表する読売社説だけに野党批判を忘れない。「野党第1党の立民が共産党と選挙協力することで、支持が広がるかどうかも注目される」「立民は日米同盟基軸を掲げるが、日米安保条約廃棄を主張する共産党との協力に矛盾はないか。丁寧な説明が不可欠となろう」立憲民主党と共産党は根底の政治思想が異なる。共産党は立民が政権を取った場合、閣外協力を目指すというが、どう内閣の外から協力していくのか。そこがよく見えてこない。10月15日付の産経新聞の社説(主張)は「今回の衆院選の最大の特徴は、日本が文字通り危機にある中での国政選挙という点だ」と指摘し、「危機を乗り越えるために、選挙後の政権には具体的政策を断行してもらう必要がある。衆院選が政権選択選挙であるという性格が今ほど痛感されるときはない」と訴える。それゆえ、有権者にとって難しい選挙なのである。投開票日まで態度を決めない有権者も多いだろう。最後まで目を離せない選挙戦となりそうだ。
産経社説「野党第一党が共産党と政権奪取を目指す初の選挙」
産経社説は安全保障の重要性に触れ、「中国軍機が最近、わずか5日間で延べ150機も台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入した。北朝鮮は新型ミサイルを相次いで発射した。地域の平和と安定を乱すものだ」と指摘したうえでこう訴える。「外交努力は当然だが、『力(軍事力)の信奉者』である中国、北朝鮮を抑止するには、防衛努力も欠かせない。そのための具体的な方策を論じないようでは国民の命と財産を託せない」与党も野党も産経社説が主張するこの「防衛努力」を具体的に語ってもらいたい。最後に産経社説は「共産は、天皇や自衛隊、日米安保体制の最終的な解消を目指している。野党第一党が、共産主義を奉ずる党が関わる政権を目指す衆院選は、日本史上初めてだ。政権の性格も、有権者の判断材料になるのではないか」と野党連合に釘を刺す。「新聞社説の最右翼」と言われる産経社説らしい指摘だ。だが、野党の批判があってこそ与党が襟を正し、真っ当な政治から外れないという側面があることも産経社説には考えてほしい。

●岸田首相「新内閣の目玉だ」 新しい資本主義実現会議立ち上げ 10/15
政府は、岸田総理が掲げる成長と分配の好循環を具体化する「新しい資本主義実現会議」を立ち上げました。有識者メンバーのうち半数近くが女性です。「新しい資本主義」は、岸田総理が掲げている看板政策のひとつで、政府はきょう、それを実現するための会議と本部を立ち上げました。
岸田首相「新しい資本主義実現、新内閣にとりまして目玉となる取り組みであると思っています。いよいよこれから始まるなと」
会議の議長は総理で、今月内にも初会合を行い、所得引き上げなどの分配戦略と成長戦略の両立をはかるための具体策を議論していくことにしています。有識者としては連合で初の女性会長となった芳野氏や経団連の十倉会長、Zホールディングスの川邊社長らが参加します。有識者のうち半数近くが女性で、岸田総理が目指す「多様性が尊重される社会」をアピールする狙いがあると見られます。

●「新しい資本主義会議」政府が設置 若手起用、財界重鎮も顔そろえ 10/15
政府は15日、岸田文雄首相が掲げる「成長と分配の好循環」の具体策を話し合う「新しい資本主義実現会議」(議長・岸田首相)を設置した。民間の有識者として若手のベンチャー企業家らを起用。15人のうち7人を女性とするなど目新しさを打ち出した。ただ、財界の重鎮らが顔をそろえるなど、従来の政府の会議を衣替えした感も否めない。
会議は、政府が同日付で設置した「新しい資本主義実現本部」(本部長・岸田首相)の下に置かれる。山際大志郎経済再生担当相と松野博一官房長官が副議長を務める。
今月中にも初会合を開き、年内に中間報告をまとめ、経済対策や2022年度税制改正などに反映させる。来春までに最終的な取りまとめを行い、経済財政運営の指針「骨太の方針」に盛り込む方針。
岸田首相は同日、実現本部事務局の看板掛けを行い「新内閣の目玉となる取り組みだ。目に見える形を作るべく、山際大臣を中心に頑張ってもらいたい」と話した。
会議の民間有識者には、「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一の子孫の渋沢健氏のほか、クラウドファンディングサービスを提供する「READYFOR」の米良はるか氏ら若手の女性企業家も選ばれた。また、十倉雅和経団連会長ら経済3団体のトップと連合の芳野友子会長も選ばれた。
政府は「老壮青からなる多様なバックグラウンドを持つ方々」(山際氏)と胸を張る。だが、「『新しい資本主義』の定義も中身もよく分からない中、外からの見え方を意識してバランスを取って選んだのでは」(みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介主任エコノミスト)との指摘も出ている。
新しい資本主義実現会議の設置に伴い、これまでの「成長戦略会議」は同日付で廃止された。成長戦略会議は20年10月に菅義偉前首相が政権発足直後に設置したが、そもそも安倍晋三政権が16年に設置した「未来投資会議」を衣替えしたものだ。今度の新たな会議も成長戦略会議の役割を引き継ぐといい、看板の掛け替えと言えなくもない。
年内に取りまとめる経済対策に間に合わせるには時間が限られており、「事務方の官僚主導で議論が進む可能性もある」(野村総合研究所の井上哲也シニア研究員)との見方も出ている。

●甘利明・自民党幹事長 3Aトリオの末席から「影の総理」に駆け上がる 10/15
岸田新内閣が発足したものの、閣僚人事の人選などから「3Aの傀儡政権だ」「安倍のいない安倍内閣」などと揶揄されている。そんななか、岸田内閣の「影の総理」と呼ばれ始めたのが甘利明・自民党幹事長だ。これまでキングメーカーの安倍晋三・元首相と麻生太郎・副総裁に忠実に付き従う「3Aトリオの末席」と見られていたが、総裁選と新政権の人事で一気に権力の中枢に駆け上がった。
「幸せを実感できるような挑戦をすれば豊かになれるという設計図を示していく」
新内閣発足前日、NHKの『日曜討論』で甘利氏が語った言葉はまるで首相の抱負のようだった。
その権力掌握の手法は、政敵を容赦なく追い落としていくやり方だ。まず標的にしたのが麻生派の後継者の座を争うライバルの河野太郎氏。総裁選では菅義偉・前首相の不出馬表明で河野氏が出馬に動くや、甘利氏は「菅総理がダメだと叩かれた一番の原因がワクチンの迷走と言われているのに、ワクチン担当大臣の評価が上がるとはよく分からない」と批判して岸田選対の最高幹部に収まると、河野票を切り崩して岸田勝利の立役者となった。
そして論功行賞で幹事長に就任すると、敗れた河野氏を大臣から党広報本部長へと“降格”させる報復人事を行ない、同じ神奈川県勢の菅―河野―小泉進次郎連合を政権中枢から完全に追い払った。
だが、党内を驚かせたのはその先の人事だ。政敵を追い払った甘利氏は、次に、“もう用済み”とばかりに自分の後ろ盾だった麻生氏と安倍氏の影響力排除に動いたからだ。細田派の閣僚経験者が語る。
「甘利氏は岸田総理に、失言が多い麻生さんを閣内に置いておけば政権の足を引っ張られると忠告して実権のない副総裁に棚上げさせた。さらに細田派に手を突っ込んで安倍さんに批判的な若手リーダーの福田達夫氏を総務会長に大抜擢。官房長官人事でも安倍さんが強く起用を求めた萩生田光一氏ではなく、細田派ながら安倍さんとは距離がある松野博一氏を起用して狡猾に安倍さんと麻生さんの力を削いだ」
甘利氏は所属する麻生派とは別に派閥横断的な政策集団「さいこう日本」(19人)を主宰し、甘利グループとして活動している。
岸田政権の大臣の顔触れを見ると、甘利グループから松野官房長官(細田派)をはじめ、山際大志郎・経済再生相(麻生派)、金子恭之・総務相(岸田派)、金子原二郎・農水相(岸田派)の4人が入閣し、党役員には「閣僚級ポスト」とされる幹事長代行の梶山弘志氏(無派閥)、幹事長代理の田中和徳氏(麻生派)、国対委員長の高木毅氏(細田派)という中枢ポストを同グループが占めている。
「甘利氏は幹事長として党の金庫を握っただけでなく、側近の松野官房長官を通じて官邸の金庫(官房機密費)と官僚の人事権まで手中に収めた。まるで“幹事長兼影の総理”で、本人は2Aから政府と党の実権を奪ったつもりだろう」(同前)
“裏切られた”側の安倍氏は、この人事に「正直、不愉快だ」と漏らし、棚上げされた麻生氏も面白いはずがない。

●「『所得倍増』は2倍になる意味ではない」批判殺到の山際大臣発言 10/15
10月14日、山際大志郎経済再生担当大臣は、岸田総理大臣が総裁選で掲げた「令和版所得倍増」について、「所得が2倍になるという意味ではない」との認識を示したという。この発言はテレビ朝日によって報じられ、大きな反響を呼んでいる。
「『所得倍増計画』とは、日本が高度経済成長期の1960年、当時の池田勇人内閣がぶち上げたもの。岸田首相は、それにならって、総裁選立候補時に『令和版所得倍増計画』を掲げたのだと思われます。岸田氏は、『新しい日本型資本主義の構築に向けて先頭に立つ』と訴えた。具体的には、賃上げをおこなう企業への税制支援や下請け取引の適正化により分配を適正化する経済政策のようです。しかし、野党や国民から、『それで本当に所得が倍増するのか?』という疑問があがっていたのです」(政治部記者)
山際大臣の発言は、そのような声が上がっていることを踏まえたものだと思われる。テレビ朝日のインタビューに対し、「文字どおりの『所得倍増』というものを指し示しているものではなくて、多くの方が所得を上げられるような環境を作って、そういう社会にしていきたいということを示す言葉だと総理はおっしゃっているじゃないですか」と発言。「倍増」を掲げているにもかかわらず、「2倍になるものではない」という発言に、ネット上では批判が集まった。
《所得を倍増する気がないのなら嘘をついたってことですか?》《最近行った総裁選挙の公約を衆議院選挙で撤回するような首相を信頼できるはずがない》《本当に政治家は言葉遊びが好きだな》
「“珍発言” として思い出されるのは、2020年1月28日の、安倍晋三首相(当時)の答弁でしょう。当時、安倍氏は『桜を見る会』問題を追及されていましたが、地元事務所の名で同会を含む観光ツアーへの参加を募る文書が地元有権者に送られていたことについて、共産党の宮本徹議員は文書を示しながら『この文書は見たことがなくても、募集していることはいつから知っていたのか』と発言。すると、安倍氏は『私は、幅広く募っているという認識だった。募集しているという認識ではなかった』と述べたのです。これには、《意味不明》《日本語をバカにしているとしか思えない妄言》と批判が殺到しました。今回の山際大臣の発言は、安倍氏の “苦しすぎる” 答弁を彷彿とさせるという意見もあったようです」(前出・政治部記者)
早くも信頼を失ってしまいつつある岸田内閣。衆院選にも影響が出そうだ。

●岸田政権に正面からケンカを売った財務次官の悲惨な末路 10/15
新内閣発足のお祝いムードに包まれていた岸田文雄首相が、いきなり「身内」から冷や水を浴びせられた。噛みついたのは、優秀な官僚が集まる財務省の頂点に立つ矢野康治・事務次官である。
なぜ「最強官庁」のトップは政権批判と受け取れる異例の行動に出たのか。その背景をいぶかる与党内からは更迭論も浮上している。
「10万円の定額給付金のような形でお金をばらまいても、日本経済全体としては死蔵されるだけ」
「本当に巨額の経済対策が必要なのか。そのコストや弊害も含めて、よく吟味する必要がある」
「この期に及んで『バラマキ合戦』が展開されているのは、欧米の常識からすると周回遅れどころでなく、二周回遅れ」
財務省の事務方トップが月刊誌「文藝春秋」11月号(2021年10月8日発売)に寄稿した論文の中身は、岸田政権の財政政策を辛辣に批判するものだった。
9月末の自民党総裁選で「数十兆円規模の経済対策」を公約した岸田首相や、「基礎的財政収支の黒字化目標を時限的に凍結する」と掲げた高市早苗政調会長の主張が念頭にあるのは言うまでもない。10月末の衆院選を控えて、消費税率の引き下げなどを公約する野党への怒りもあったはずだ。
「健全財政」を目指す財務省のトップが彼ら政治家の主張に怒りを抱くのはわからなくもないが、、与野党が口にそろえるのは「今、なぜ?」ということである。同誌の発売日から逆算で考えれば、総裁選の真っ只中に原稿が校了されたのは間違いない。
矢野氏は一体、何者なのか。
財務省担当の全国紙記者は「矢野氏は財務省の歴史でも指折りの財政再建論者」と評する。昭和60年、旧大蔵省に入った矢野氏は、東大卒が主流の同省で戦後初めて一橋大出身者の事務次官となった。ただ、入省時から「次官コース」だったかといえば違う。同期には、若い頃から「大佐」の異名を持った藤井健志官房副長官補(元国税庁長官)や岡村健司元財務官ら秀才が揃っていたからだ。
矢野氏を知る全国紙経済部記者がそのキャラクターを語る。
「仕事熱心で、ストイックが服を着たような人。財政再建に関しては『原理主義者』のようなところがある」
だが、同じ記者でも政治部は違った一面を見てきた。
「菅義偉前首相と出逢って、攻撃的なキャラクターに変わったんですよ」
一体どういうことか。
2012年からの3年間、矢野氏は安倍晋三政権で菅官房長官を秘書官として支えた。長期政権の道を歩む中で権勢をふるった菅氏に気に入られ、その言動は「有力議員レベル以上」(財務省中堅)といわれたほどだった。野党や政策が合わない与党議員を内々に批判することが多くなったのも、この時期からという。
秘書官の役目を終え、財務省に戻った後は官房長、主税局長、主計局長と出世を果たし、今年7月、ついに事務方トップの座に座った。財務省OBの1人は「矢野が次官にまでなることができたのは菅前首相の力があったからだ」と漏らす。
そうした関係にあるためか、今回の矢野氏の寄稿を巡るドタバタは「岸田首相の政敵に回った菅前首相が絵を描いたものではないか」とも噂されるほどである。
「議論した上で意思疎通を図り、政府・与党一体となって政策を実行していく。いったん方向が決まったら協力してもらわなければならない」
岸田首相は10月10日、自身に向けられた牙に不快感をにじませた。財務省内では「財政健全化に向けた一般的な政策論として個人の意見を述べたもの」(鈴木俊一財務相)といった擁護論があるが、「財政論議」は票に直結するきわめてセンシティブなテーマ。10月末に総選挙を控えて神経をとがらせている与党の怒りは簡単に収まりそうにはない。「大変失礼な言い方だ。基礎的な財政収支にこだわって、困っている人を助けないのは馬鹿げた話」(高市政調会長)などと反発の声があがるのは当然だった。
「矢野次官としては総選挙前の段階でなければ、与野党のバラマキにクギを刺すことはできないと思ったのではないか。しかし、与党からすれば『選挙前にこんなものを出されると、政権内のガバナンスがきいていないと思われる』となる。頭にきている人は少なくない」(自民党関係者)
歯に衣着せぬ言動が持ち味の「原理主義者」が投じた一石に、ある閣僚経験者は理解を示しつつも、総選挙後は更迭論が強まるとの見方を示す。総選挙前に矢野氏を厳しく追及しないのは「意に添わぬことをいえばすぐにトバされる恐怖政治」との逆風を恐れるからだが、自民党内には「選挙後はもう財務省との戦争だ」と息巻く声があがっているという。
ちなみに矢野氏の同期入省組にはもう1人、「次官候補」といわれた人物が存在する。7月に国税庁長官を退任した可部哲生氏だ。
筑波大附属駒場高校、東大法学部から旧大蔵省に入省。主計官、主計局総務課長、主計局次長と「王道の主計畑」を順調に歩んだエリート中のエリートだ。可部氏の妻は、岸田首相の妹である。
宮沢喜一元首相や宮沢洋一衆院議員といった旧大蔵省出身者の政治家も親戚にもつ岸田氏は、かつてネット上で「財務省の犬」などと酷評されたことがある。その点を総裁選で実施した自身のライブ配信で問われた際、首相は「正直言ってなんでだろうかなと。自分自身は首を傾げている」と答えている。
安倍政権時代に指摘された官僚の「忖度」が見えなくなった今、岸田首相は「最強官庁」トップを説き伏せて大規模な経済対策を実現できるのか。それとも、「犬」の汚名を着せられて屈服してしまうのか。政権の命運を左右しかねない勝負どころが早くも訪れている。 

●アベノミクス見直し62% 自民支持層でも継続論3割以下 時事世論調査 10/15
時事通信の10月の世論調査で、安倍晋三元首相が掲げ、菅義偉前首相が継承した経済政策「アベノミクス」を岸田政権でも続ける方がいいかどうか尋ねたところ、「続ける方がよい」と答えたのは14.7%にとどまり、「見直す方がよい」が62.5%に上った。
「どちらとも言えない・分からない」が22.8%だった。
支持政党別では、自民党支持層でも見直し論(55.7%)が継続論(27.1%)の2倍以上となった。立憲民主党支持層は93.9%が「見直す方がよい」と答え、継続論はゼロ。残り6.1%は「どちらとも言えない・分からない」だった。
新型コロナウイルスワクチンの接種証明などを条件に行動制限を緩和することの是非については、「賛成」(61.5%)が「反対」(20.6%)を大幅に上回った。
調査は8〜11日、全国の18歳以上の男女2000人を対象に個別面接方式で実施。有効回収率は64.0%。 
 

 

●「敵基地攻撃能力」の保有、首相が明記意欲… 10/16
岸田首相(自民党総裁)は15日、読売新聞のインタビューに応じ、敵のミサイル発射基地などを自衛目的で破壊する「敵基地攻撃能力」の保有について、改定する国家安全保障戦略への明記に意欲を示した。米国のバイデン大統領との首脳会談に向け、年内の訪米を模索する考えも表明した。
首相は敵基地攻撃能力の保有を安保戦略に盛り込むことについて、「一つの選択肢だ」と述べた。その上で、北朝鮮が開発を進める極超音速滑空兵器や変則的な軌道で飛ぶ弾道ミサイルなどの脅威に言及し、「ミサイルの能力は日々高度化している。国民の命と暮らしを守るため、現実的なあらゆる選択肢を検討する姿勢は大事だ」と強調した。
国家安保戦略の改定時期は「できるだけ急ぎたい」と述べるにとどめた。
敵基地攻撃能力は、北朝鮮などで迎撃困難な新型ミサイルの開発が進んでいることを踏まえ、2020年に当時の安倍首相が検討を表明した。ミサイル発射基地に対する攻撃能力を備えることで、発射を思いとどまらせる抑止力を強化する狙いがある。だが、同年9月就任の菅前首相は議論を棚上げしていた。
日米首脳会談については、「私が米国を訪問することを含め、バイデン氏とはできるだけ早く会いたい。早ければ年内を目指したい」と語った。
衆院選公約で掲げた「経済安全保障推進法(仮称)」の制定に向けては、「法案は来年の通常国会への提出を目指す」と明言。法案には、半導体などのサプライチェーン(供給網)強化に向け、関連企業の国内誘致を補助金などで後押しする仕組みを盛り込む方針を示した。首相は「サプライチェーンを国内で完結するようにする取り組みが大変重要だ」と指摘した。
また、新型コロナウイルス対策で非正規労働者らに行う家計支援について、「困っている人にできるだけ迅速に現金を支給する。額ももちろん大事だが、去年の反省に基づいてスピード感が大事だ」と述べた。昨年行われた1人10万円の特別定額給付金では、申請時に混乱が生じたことを踏まえ、手続きを簡素化する考えを示したものだ。

●民主党政権はそこまでひどかったのか? 安倍政権と比べてみると… 10/16
「悪夢の民主党政権」は本当か
珍しいことに、今度の総選挙は、総理大臣が何の実績もない状態での選挙となる。
岸田総理は、国会で所信表明演説をしただけで、ひとつの法律も提案すらしていない。「こういうことをやりたい」と言っているだけで、何もしていない。
現内閣が実績ゼロでの総選挙だ。
「総理としての実績が何もない」ことでは、野党第一党の立憲民主党の枝野幸男代表と同じだ。
いや、枝野代表には何の実績もないが、岸田総理には外務大臣などの要職の経験があるから、政治家としては実績がある――という反論があるかもしれない。しかし枝野代表も、かつての民主党政権では官房長官や経産大臣を歴任している。
岸田総理と枝野代表は、「総理としての実績はないが、政権のひとりだった経験はある」点で同じだ。
いやいや、岸田総理はまだ何もしていないかもしれないが、自民党はずっと政権を担い、うまくやってきたが、枝野代表が前にいた民主党政権はひどかったじゃないか、とても任せられない――そう思っている人も多いだろう。
しかし、本当に民主党政権はひどかったのだろうか。
民主党への批判と言えば、安倍晋三元首相が好む「悪夢の民主党政権」がある。
「何がどう悪夢だったんですか」と質問したら、安倍元首相は「すべてが悪夢だった」とでも答えるだろう。
この民主党への「悪夢」呼ばわりほど、中身のない批判はないが、それゆえにか拡散している。
安倍元首相の、イメージ戦略はなかなかのものだ。
しかし、たしかに安倍元首相にとっては民主党政権時代は悪夢だったろうが、国民のすべてが悪夢だと思っていたわけではない。
そこで、民主党政権を政策の実現という観点から見直した本が、『民主党政権 未完の日本改革』である。
著者は民主党政権三人の首相のなかのひとり、菅直人である。
どうせ自己弁護か自慢だらけの本だろうと思うだろう。たしかに、読む人の立場、読み方によってはそうなる。
だが、「解釈」はさまざまだが、民主党政権3年3ヵ月間で、何をやったという「事実」は事実として記されていると思う。実は私はこの本の編集に関わっているので、第三者ではない。関係者による紹介記事となるが、だからこそ、事実のみを記したいと思う。
マニフェストの意外な達成率
民主党政権といえば、「マニフェスト」を思い出す人も多いだろう。
忘れている人も多いが、子ども手当、高校無償化、高速道路無料化などを約束した。
さらに、マニフェストには記載されていなかったが、鳩山代表が沖縄の米軍普天間基地を「最低でも県外」に移転させると約束した。最も期待はずれに終わったのが、この普天間基地の移設問題だ。
あるいは、マニフェストにはなかったのに、消費税の増税を決めたことも批判された。
民主党のマニフェストは抽象的な選挙公約ではなく、具体的な数値も列記し、達成されたかどうかが検証可能なものとして作られた。
次の総選挙のときには、どれくらい達成されたかを検証し、それでさらに政権を続けさせてほしいと、有権者に問うはずだった。
実際、民主党は2012年の総選挙の直前に、マニフェストを検証し発表しているのだが、それはほとんど話題にならなかった。
私のように民主党を支持していた人間でも、2012年の総選挙のときは、「あのマニフェストは、どれくらい達成されたのだろう」と調べることもしなかった。
なんとなく、マニフェストはほとんど実現できなかったと思ってしまった。
だが、75%は達成されていたのだ。
民主党政権の失敗
ネット上に、そのマニフェストの検証がまだ残っているので、参照されたい。
見ていただければ、民主党のマニフェストはかなり細かかったことが分かる。そして、達成率も、意外と高い。
政策項目は全部で164あり、それを、「実現」「一部実施」「着手」「未着手」の4段階に評価している。その結果を分野ごとに示すと、となる。「外交」については相手があるし、長期的な課題が多いので、達成の評価からは除外されている。
残り147のうち「実現」は50なので、34%だが、「一部実現」の60も加えれば110で、74.8%となる。全体の4分の3は何らかの形で実現したのだ。
民主党政権は3年3ヵ月だった。マニフェストは「4年間で実現する」と約束したものなので、あと9ヵ月続けば、もっと、高くなったはずだ。
民主党政権のマニフェストは、もともと「暮し」に関するものが多く、子育て、教育、医療、年金の分野は項目数も多く達成率も高い。
子ども手当で生まれたときから中学卒業まで、高校無償化でさらに3年間をカバーし、社会全体で子育てと教育の経費を出そうという社会を目指した。
実現しなかったなかには、原発を推進するというようなものもあり、これは東電の原発事故を受けて政策転換したから、あえて、着手しなかった。
民主党政権の失敗は、「マニフェストを75%しか達成できなかった」ことではなく、「75%も達成したのに、それをPRできなかった」ことにある。
何につまずいたのか
実現できなかったもの、規模を縮小したものもあるが、なぜそうなったか。
民主党がマニフェストで挙げた政策の多くは、実現するためには、新しい法律の制定や、既存の法律の改正が必要だ。予算も確保しなければならなかった。政策とは、そういうものなのだ。演説すればいいというものではない。
そして法律の制定・改正には、国会の両院での議決を必要とする。
しかし民主党は、2009年8月の衆議院の総選挙では圧勝したものの、参議院では過半数を取っていなかった。そのため社民党と国民新党との連立政権として、かろうじて過半数となっていた。だが、普天間基地の移転問題で社民党は連立から離脱した。
そして2010年夏の参議院選挙で、民主党は議席を減らしてしまい、「ねじれ国会」となった。法案を通すためには野党である自民党・公明党との妥協を強いられた。自民党・公明党が反対して廃案になったものもある。
参議院で過半数を取れなかったのは民主党に責任があるので自業自得だが、野党・自民党・公明党が「反対ばかりしていた」ので、法律が作れず実現しなかった政策も多いのだ。
『民主党政権 未完の日本改革』では、マニフェストの全項目ではないが、かなりの項目を紹介してある。また、達成できなかった項目についても、普天間基地、八ッ場ダム、ガソリンの暫定税率廃止、高速道路無料化などについて、その理由について述べてある。
大臣がその気になればできること
新しい法律が必要なく、予算も必要のない改革が、情報公開だ。
大臣がその気になれば、その省の官僚が隠していることも公開させられる。
民主党政権では岡田克也外務大臣が、沖縄返還の時に日米間の「密約」があったことを認めた。その経緯も、この本には載っている。
あまり知られていなことでは、太平洋戦争中の激戦地である硫黄島に残っている、日本兵の遺骨の埋められている場所を、アメリカへ調査チームを派遣して突き止め、掘り起こしたことも載っている。
3.11とコロナ禍
民主党政権時代の最大の出来事は、東日本大震災と東電福島第一原発の事故だ。
この震災・原発事故という危機対応についても批判された。安倍元首相の言う「悪夢」のひとつだろう。
だが、その後、昨年からのコロナ禍での安倍政権・菅(すが)政権の対応を見て、「さすが、民主党とは違う。危機管理に長けている自民党政権ならではだ」と思った人はどれくらいいるのだろう。
『民主党政権 未完の日本改革』でも、この震災・原発事故対応について、当事者である菅直人元首相の視点での、検証というか、総括がなされている。
原発事故では、当時の菅直人首相は早い段階で「最悪の事態」を想定し、そうならないためには何をしたらいいかを考えて、実行していった過程が書かれている。
民主党政権が対応した危機では、大震災・原発事故のほか、尖閣諸島中国漁船衝突事件、日航経営破綻についても詳述されている。
「そんなの自分の都合のいいように解釈しているのに決まっている、自己弁護か言い訳、あるいは自画自賛だろう」と思う人もいるだろう。
そんなところに、今月、『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(尾中香尚里著、集英社新書)という本が出た。
著者の尾中氏は元毎日新聞の記者である。
この本では、コロナ禍に安倍政権がどのように対応していったかを、時系列にしたがって、当時の政府の記者会見などを採録しながら検証していく。
それと並行して、同じように未曾有の国難だった、東日本大震災・東電原発事故での菅直人内閣の対応も、当時の記録や関連資料をもとに描き、対比させ、その違いを浮き立たせている。
偶然だが、コロナ禍と大震災・原発事故とは季節がほぼ同じだ。
大震災・原発事故は3月11日で、菅直人総理が辞任したのは9月2日だ。
コロナ禍が全国的な大問題となるのは、2020年2月下旬にイベント自粛や学校の休校を政府が要請してからで、安倍総理が辞任したのは同年8月28日である。
2つの国難が春の初めから夏までだったという、この「発見」がこの本のベースにある。
3月から8月までの約半年という同じ時間が流れたなか、安倍晋三、菅直人の二人の総理が未曾有の危機に、それぞれどう対応していたかが描かれている。
これを読むと、安倍政権と菅(かん)政権との最大の違いが、危機の早い段階でトップである首相が「最悪の事態」を想定したかどうかだったことがよく分かる。
その危機感が、菅直人総理をして、大震災・原発事故発生の翌日早朝の現地視察へつながる。この視察もかなり批判されたが、その意図と影響について、事実に基づいて検証されている。
さらに、コロナ禍と原発事故とでの両政権の「危機の認識力」「国民への言葉」「権力の使い方」「補償」など個々の対応を徹底比較している。
その検証の材料は、いずれも記者会見や公開された文書をもとにしており、客観的な事実に基づいている。その結果、安倍政権に厳しく、菅直人政権を評価している。
積み上げた事実を素直に解釈すれば、どうしても安倍政権には批判的になってしまうのだろう。
あの大震災・原発事故のときの官房長官が、枝野代表だ。当然、『安倍晋三と菅直人』には、枝野官房長官の活躍ぶりも描かれている。
民主党のど真ん中にいた菅直人元総理による『民主党政権 未完の日本改革』と、ジャーナリストによる『安倍晋三と菅直人』の二冊は、いつまた大災害が起きるかわからないなか、危機に対応できるのは、自民党政権と立憲民主党を中心とした政権のどちらかなのかの判断材料のひとつになる。

●やっぱり河野太郎が人気?ポスターでわかる岸田政権「危うい実情」 10/16
もはや「過去のできごと」のように扱われている「自民総裁選」。連日の報道、あの狂騒はなんだったのか…そんな声すら聞かれる。誰の目にもトップ通過間違いなしと見られていた河野太郎が「まさかの」敗北。完膚なきまでに潰された。いまや「冷や飯食いポスト」自民党広報委員長への降格人事に甘んじている。
しかし、その河野太郎、さぞしょげかえっているかと思いきや党内若手議員事務所から選挙応援依頼の問い合わせが殺到し、大人気なのだという。
もともと「総選挙の顔」として党内から期待されていた河野なので、当然といえば当然の成り行きだが、それならはじめから河野総裁を選んでおけば…。自民党の人事と理屈は、一般人には理解し難い。
河野太郎の街頭演説がすごかった
全国区の人気者といえば、かつては小泉進次郎前環境相だったが、いまや河野太郎広報委員長が、とにかく全国各地から引っ張りだこなのである。
10月9日、河野太郎は兵庫県西宮駅前にいた。到着するや、用意された選挙カーの上に駆け上がり、マイクを握って大絶叫した。
「野党が主張する『ゼロコロナ』はできません。コロナの次の日本を前に進ませる舵取りは、どうか自公両党にお任せいただきたいっ!」
あの、ちょっと鼻にかかったような甘えたような声で開口一番こう訴え、大きな拍手を浴びた。
兵庫7区、自民現職の応援に入った河野太郎広報委員長の演説に、500人以上の聴衆が足を止めて聞き入った。演説のボルテージが上がるにつれ、取り巻く観衆が増えていく。
これほどの求心力があってなぜ、総裁選に勝てなかったのか…それほど凄まじい高揚感が、この日の駅前に充満していた。
二連ポスターで不人気の現首相
14日の衆院解散を待たずに、各選挙区はとっくに選挙モードの様相を呈している。選挙ポスターは超特急で菅前首相から岸田首相に差し替わっているが、二連ポスターの「相方」は、河野太郎、小泉進次郎が圧倒的に人気という。岸田首相との「二連ポスター」は今ひとつ人気がないようなのだ。
「岸田政権へ看板の掛け替えをした自民党だが、有権者の自民党離れは、なお歯止めがかかっていない。小選挙区で20〜30議席減は覚悟しなければならない」
最新調査数字を見ながら自民党選対関係者はそう漏らしている。小選挙区の議席減はそのまま比例票に影響することから、自民党全体では40〜50議席減となる可能性があるという、極めて厳しい分析なのだ。自民重鎮議員はこういう。
「岸田首相は今、国会議論を最小限とし、批判、指摘には表情を変えず、一定のテンションで応じている。つまり、個性を極限まで押し殺した無味無臭作戦ともいうべき戦略で臨んでいる。これなら、政権の瑕疵もなければ齟齬も生じないんだ」
よくも悪くも、そもそも評価のしようがないから、発足直後の政権支持率は菅政権発足時より大幅に低かった。結果、終わったかと思われた「個性派」河野太郎人気が再浮上するという皮肉な現状になっているのだろう。
ボロを出さぬよう、息もつかせぬタイトな政治スケジュールで走り出した岸田政権。はたして思惑通りに事は運ぶのだろうか。10月31日投開票日に国民の審判が下る。

●岸田総裁「埼玉を制する者がこの国を制する」 埼玉県 10/16
自民党県連が16日、衆議院選挙に向けた決起大会を開きました。決起大会には岸田自民党総裁がオンラインで出席し、「埼玉を制する者がこの国を制する」と立候補予定者たちを激励しました。
岸田総裁「埼玉を制する者がこの国を制する。私たちは決して負けるわけにはいかない」「県内の候補者全員が勝ち抜いていくという強い覚悟で選挙戦に臨もう」
自民党は4年前の衆院選で、県内15の小選挙区のうち、追加公認を含めて13選挙区で勝利しました。
今回も新人2人を含め、すべての小選挙区に候補者を擁立します。岸田総裁は「安倍政権、菅政権、そして岸田政権と、県選出の議員が政権のど真ん中で活躍し、この国を支えた」と述べました。
その上で、「埼玉を勝ち抜くことこそ、私たちの未来を切り開いていくこととなると私は信じている」と立候補予定者たちを激励しました。 
 

 

●「この国の民主主義、おかしいんじゃないでしょうか」“スガ前総理“が斬る 10/17
(ザ・ニュースペーパー 山本天心さん)
スガ前総理! 岸田文雄政権の船出をどうご覧になっているでしょうか。
「岸田政権は支持率4割台と低いところから始まりましたね。私の時は、7割もあったんですよ。それがどうですか。日本学術会議問題、長男の接待問題と次々とたたかれて、あっという間に下がりました。誰も私には忖度(そんたく)しないんですね。その点、岸田さんは安心です。所信表明演説に夢がありましたね。私、岸田さんの演説の全文を読み終えるまで50分かかったんですよ。途中3回くらいうとうとして、舟をこぎながら夢を見ることができました。内容も素晴らしかった。私が言ってきたこととほとんど同じでしたから」
「私は記者会見で原稿を棒読みしていると批判されましたが、岸田さんは違いますよ。先日、関東で大きな地震があった時、急きょ開いたぶら下がり会見でも岸田さんは原稿を持っていなかった。私への当てつけかと思いました。総理を辞めて時間もあるし、政権からも冷遇されていますから、今のうちに話し方教室にでも通おうと思っています」
「世間では、岸田政権は安倍晋三元首相、麻生太郎自民党副総裁、甘利明幹事長の『3A』の傀儡(かいらい)なんて言われているそうですね。全く違いますよ。3Aは3人の頭文字なんかじゃありません。『危なげない』『安定した』『操り人形』の略です。とにかく、岸田さんに任せていたら間違いない。多分、もって1年。私はこう思います」
「これだけは言っておきますけど、一番安倍さんに近いのは私ですよ。公文書の改ざん、破棄、隠蔽(いんぺい)…。森友学園や加計(かけ)学園、桜を見る会では、官房長官としていろいろ支えました。安倍さんが最初に政権を投げ出した時だって、真っ先に手を差し伸べたのは私だった。それがどうですか。党総裁選を前に私が窮地に立たされた時、振り返ったら小泉進次郎君しかいなかった。安倍さんはどうしちゃったんでしょうか」
「大体、あの総裁選はおかしかった。候補者が主張をぶつけ合って政策を磨いていくより、議員の好き嫌いでリーダーが決まってしまった。私が応援した河野太郎さんを、世論の多くは支持していたんですよ。国民の声が議員につぶされていいんですか。総理を辞めたから言えますけどね、この国の民主主義、おかしいんじゃないでしょうか。もう誰にも気を使わなくていいし、モリカケ、サクラ、全部ばらしちゃおうかな。これからの民主主義のためにも」
7年8カ月続いた安倍晋三政権とその継承を掲げた菅義偉政権を、コントで風刺してきた。岸田文雄新政権をどう見ているか。
「岸田さんはハト派でリベラルな人が多い宏池会の出身です。それなのに、周りを安倍さんに近い人など保守派で固めてしまった。新自由主義からの転換など改革を唱えていますが、そんな状況で本当に実行できるでしょうか。人の話を聞くことを特技に掲げる岸田さんが、保守派の言うことをどこまでのむか。そこが一番の笑いどころになるとみています。所信表明演説を見ても、順調にトーンダウンしていると感じます」
安倍・菅政権では、森友学園問題や日本学術会議問題など説明しない政治が続いた。衆院選ではその是非も問われることになる。
「政治に関心が薄い人は、安倍・菅政権のやらかしてきたことはあまり重視しないと思います。公文書の改ざんや破棄などが厳しく追及されている時でも、安倍さんは選挙に勝ってきたからです。間違ったことをしているのに、それを許してきた国民にも相当責任がある。一方で、安倍政権があれだけ続いたのは、旧民主党政権の『素人政治』への反動という面もあります。その後も野党はだらしなく見える。多くの国民にとっては民主主義の危機より、今日の生活、明日の給料が大事。コロナ禍で生活を安定させてくれるのはどの党かを見定める選挙になるのではないでしょうか」
菅前首相は、何が問題だったと感じるか。
「やっぱり、伝える力が欠如していました。緊急事態宣言下で東京五輪を開催する理由なんて『安全安心な大会を実現する』と繰り返すだけで、一つも質問に答えていなかった。小学生でもおかしいと分かります。菅さんは黙々と仕事をし背中で語る昭和のおじさんタイプ。国民との対話が求められるコロナ禍では、良さが生きなかった。インターネット番組で『ガースーです』と言って批判されましたが、ああいう冗談をもっと磨いた方が国民との距離は縮まったと思います」
岸田政権で自民党は変わることができるか。
「岸田首相誕生の最大の功労者は菅さんです。菅さんが自民党総裁選への不出馬を決めたことで、自民党の支持率だけでなく株価まで上がった。あれだけ不人気だった菅さんがいたからこそ、地味だった岸田さんが良く見えたんです。岸田政権はこれから真価を問われることになりますが、自民党が大きく変わらないことは歴史が証明しています。偽装、隠蔽(いんぺい)、改ざん、賄賂、不倫…。これらは自民党のお家芸で、しっかり継承されて何十年も続いてきました。岸田政権は短命に終わるかもしれません。だからと言って、国民がもう一度野党に政権を任す覚悟があるか。野党も責任を果たせるだけの覚悟や力があるか。そこが問われていると思います」

●日本維新の会は“ゆ党”を卒業?「岸田政権猛批判」で描く選挙戦略 1017
「そら、“復古自民党”とは付き合えんわな」――。大阪を拠点にする「日本維新の会」関係者は、岸田政権をこう突き放した。
維新といえば、安倍・菅政権ベッタリで、与党でも野党でもない“ゆ党”と揶揄されてきたが、岸田政権には手厳しい。馬場伸幸幹事長は12日の衆院代表質問で「自公政権は、昭和の時代につくられた古い制度のほころびにばんそうこうを貼って糊塗し続けてきた」と猛批判。「アベスガ」という後ろ盾を失った維新は、今回選挙で岸田自民と対決姿勢を取るつもりだ。
「結党から9年経っても『地域政党』から脱皮できない維新は、必死になって党勢拡大を図っています。衆院の解散時勢力は10議席。今回選挙の『最低目標』は法案提出できる21議席で、『最大目標』は公明党が持っていた29議席を抜く30議席超です。そのためには、“牙城”の大阪で、擁立した15候補の全員当選が大前提。他の都道府県でも上積みを狙わないといけませんから、自民党とはガチンコで戦う必要があるのです」(永田町関係者)
今回、自民の「顔」が岸田首相になったのは、維新にとって好都合だったようだ。
「総裁選で河野さんが勝っとったらマズかった。自分らと『改革』のイメージかぶってまうからな。その点、岸田さんは戦いやすい。『成長と分配』と言うとるけど、ハッキリ言って中身がない。結局、税金をバラまくことになるんとちゃうか。そら、『改革』を掲げる我々とは合わんやろ。ひとまず、選挙中は『岸田首相は掲げた政策を本当に実現できるのか』と追及していくつもりですわ」(前出の維新関係者)
「立憲は日本に必要ない」(馬場)とまで言っていた維新は随分と野党らしくなったものだが、まさか今回で“ゆ党”を卒業するつもりなのか。「そんなことはないでしょう」と言うのは、ある政界関係者だ。
「選挙が終われば、結局、岸田政権に近づいていくのではないか。実際、ある党幹部は『今回の選挙で一定の議席を取れば、岸田さんも我々を無視できない。安倍・菅政権時のような距離感をつくれるのではないか』と漏らしていました。党内では閣僚ポストを求める声すら上がっているようです」
情けない話だが、さらに目も当てられないのが、小池都知事が特別顧問を務める「都民ファーストの会(都ファ)」が、国政進出に向けて立ち上げた新党「ファーストの会」だ。衆院選で候補擁立を狙うも、15日、断念を発表した。
「前埼玉県知事の上田清司参院議員らが結党を目指した新党との連携を模索したが、先に上田氏らが新党そのものの立ち上げを中止。玉木代表の国民民主党との交渉も進まなかった。最大の原因は、岸田首相が事前予想を覆し、衆院選の日程を1週間前倒ししたこと。準備期間が足りず、形にできなかった」(都政関係者)
ある都ファ関係者は「来夏の参院選で仕切り直すしかないか……」と肩を落とす。
選挙で保守票を食うファーストの会の頓挫は岸田自民にプラスに働きそうだ。中途半端な“ゆ党”でしかない維新の存在も、ほとんど勝ち目のない大阪以外では、野党票分断で自民を利するだけになりかねない。

●岸田政権に忍び寄る“下野の悪夢”… 小沢一郎全国行脚と年金不祥事 10/17
発足間もない岸田政権に早くも暗雲が立ち込め始めた。10月31日投開票の総選挙では「下野」も視野に入る赤信号が点滅しつつある。背景を政治アナリストが解説する。
「岸田政権は新内閣発足のご祝儀支持率と野党の準備不足につけ込み、電撃解散、総選挙を仕掛けたが、次々と起こる思わぬ読み違えに頭を抱えている。その1つが株安だ。日経平均株価は菅義偉首相の退陣報道をきっかけに急上昇した。9月14日に3万670円とバブル以来、実に31年ぶりの高値を記録。理由はコロナ対策が迷走を続け、外食、旅行関連を中心に経済がガタガタになった反発でしょう」
元凶と見られた菅首相が自民党総裁選への立候補断念で次の新内閣への期待が市場で高まったわけだ。ところが、その期待を背負って誕生した岸田政権下で株価は下落し続け、下げ幅は2600円を超えた。
「株価下落が続き金融界では『岸田ショック』の言葉が飛び交っているほど。下落の主要因は、岸田文雄首相が掲げた『金融所得課税』の見直し。これは株式譲渡益や配当金など金融所得に増税し、金持ちからより税金を取り、中間層や低所得者に再配分する案です。金融所得の増税化は投資意欲を削ぐので海外投資家が逃げ出した。要は岸田政権の経済政策に投資家がノーを突き付けた格好」(ベテラン証券マン)
米国政府の借金凍結問題でのデフォルト危機も勃発、また中国では不動産大手の恒大グループが約33兆円の債務を抱え破綻危機…。こうした世界経済の影響も重なり、下落となったのだ。
さまざまな疑惑を抱えた“灰色大臣”たち…
「岸田政権には、他にも読み違いがある。1つは組閣で若手を大胆に抜擢したものの、党のナンバー2である幹事長に甘利明氏を起用した。甘利幹事長の金銭疑惑は、まだ払拭されていない」(政治アナリスト)
2016年、都市再生機構(UR)と補償交渉をしていた建設業者から甘利氏や元秘書らが現金や接待で計1200万円を受け取ったとされる疑惑だ。東京地検は嫌疑不十分で不起訴処分とした。甘利幹事長も会見で「説明責任は果たした」と述べているが、野党などは説明不十分として、追及の手を緩めていない。
また、西銘恒三郎・復興相兼沖縄北方担当相は過去、辺野古移設関連工事の受注業者から献金を受け取っていたことが発覚している。さらに、東京・新橋の「ガールズスナック」に計11万円余を政治活動費として支出していたこともバレた。
他にも、牧島かれんデジタル担当相はNTTから1人5万円のコース料理で接待を受けていたことを『週刊文春』に報じられた。
「朝日新聞世論調査で岸田内閣の支持率は45%だった。発足直後では小泉純一郎政権以降、最低の数字です。あまり≠フ低さは、甘利幹事長を筆頭にさまざまな疑惑を抱えた灰色大臣が多い上、46歳の小林鷹之・経済安全保障担当相、牧島デジタル担当相は甘利人脈で、甘利内閣≠フ臭いがプンプンする。それを国民に見透かされ、低支持率につながったとの分析もある」(同)
さらに、岸田内閣を不安のドン底に突き落としているのが、6日に発覚した年金不祥事だ。年金受給者に送られた『年金振込通知書』に、本人とは別の人の振込額や年金番号が誤って記載されていた。その数は約97万件にも及ぶのだ。
もし下野なら“超短命”断トツナンバーワン
「相変わらずの年金関連のズサンぶりに野党は『消えた年金≠彷彿とさせる大問題』として、国会で徹底追及する構え。これが有権者に岸田政権不信を引き起こしつつある」(同)
『消えた年金』とは、安倍第一次政権時の07年に約5000万件という膨大な年金保険料の納付記録漏れが発覚した問題だ。
「消えた年金問題で当時の安倍政権は参院選に敗北、後に民主党政権誕生の引き金となった。年金問題を軽く見ると大ケガしますよ」(社会保険労務士)
かくして発足間もない岸田内閣は不安の船出となった。与野党にとって天下分け目と位置付けられる総選挙に影響はないのか。
「立憲民主党の小沢一郎代議士は、今年6月から北は北海道から南は沖縄まで全国行脚の真っ最中です。狙いは新人候補予定者にドブ板選挙を指南し、党の足腰を鍛えること。特に、若手らの事務所を回り『毎日街頭に立つ。知名度を上げろ』とハッパをかけています。立民の枝野幸男代表は小沢氏を煙たがっているが、平野博文・選対委員長は小沢ベッタリで『政権交代には小沢氏の力が必要だ』と頭を下げ、指導を仰いでいる。小沢氏も『政権をもう1回取るまで議員をやる』と並々ならぬ意欲を見せています」(政治担当記者)
岸田首相は14日、衆院を解散。「19日公示、31日投開票」の総選挙日程が正式に決定した。もしも下野≠フ結果が突き付けられた場合は、在任期間超短命≠フ断トツナンバーワンとなるが、果たして…。
 

 

●「数え切れないほど首相代わったが…」拉致被害者家族、岸田氏と面会 10/18
岸田文雄首相は18日、首相官邸で、北朝鮮による拉致被害者家族らと首相就任後に初めて面会した。「私の内閣でも拉致問題は最重要課題。私自身が先頭に立って取り組んでいかなければならない」と語った。
家族会の飯塚繁雄代表(83)が「数え切れないほど首相が代わったが、まったく動きがみられなかった。家族会は年を取り、横田滋さんのように亡くなった方もいる。いつまでに何をするのか、わかるようにしてほしい」と求めた。
横田めぐみさんの母早紀江さん(85)は「岸田首相と金正恩氏で一対一の人間と人間の対話をして、思うことや日本の強い姿勢を伝えてほしい」と述べ、日朝首脳会談の実現を求めた。首相は「条件をつけず金正恩委員長と直接向き合い、拉致被害者の帰国を実現しなくてはならない」と語った。

●岸田首相「心からおわび」 横田さん早期解決求める 10/18
岸田総理は、就任後初めて北朝鮮による拉致被害者家族と面会しました。
岸田文雄 首相「多くの拉致被害者の方々が北朝鮮に取り残されたままであるということにつきまして、改めて心からおわびを申し上げなければならない」
横田早紀江さん「本当にこれでもう私たちも、どこまでいけるか分からないという状態ですので、元気なあいだに皆さんに喜びを与えていただければ嬉しく思います」
拉致問題は内閣の最重要課題であることに変わりはないとして、被害者の帰国のため金正恩(キム・ジョンウン)総書記と条件を付けず直接向き合う決意を示す岸田総理に対し、横田さんらは問題解決に向け速やかな対応を求めました。

●拉致被害者御家族との面会 10/18
令和3年10月18日、岸田総理は、総理大臣官邸で拉致被害者御家族と面会しました。総理は、挨拶で次のように述べました。
「本日は大変御多忙の中、こうしてわざわざ官邸に足をお運びいただきましたこと、心から感謝申し上げます。私が以前、外務大臣を務めていた時代にお会いした、横田滋さん、そして、有本嘉代子(かよこ)さんが、お嬢様のめぐみさん、そして恵子さんとの再会を果たすことなく、昨年お亡くなりになられました。その無念の思いを思い出すときに、本当に胸の詰まる思いがいたしますし、言葉がありません。心から御冥福をお祈り申し上げたいと思います。そして、今なお多くの拉致被害者の方々が、北朝鮮に取り残されたままであるということにつきまして、改めて、心からお詫(わ)びを申し上げなければならないと思っています。
私の内閣におきましても、間違いなく、変わりなく拉致問題は、最重要課題です。私も総理大臣に就任した翌日に米国バイデン大統領と電話会談を行い、その際に、拉致問題について改めて、理解と協力を、しっかりと求めさせていただき、そして、バイデン大統領の方からも、力強い支持の言葉をもらいました。そしてその後も、中国、ロシア、こういった国々のトップとも直接電話会談を行いまして、その際に、必ず拉致問題をしっかりと先方に伝え、そして、引き続きましての理解、そして協力を求めた次第であります。
被害者の御帰国を、待ち望んでおられる御家族の皆様の思いを、これからもしっかりと胸に刻み、私自身先頭に立って取り組んでいかなければならないと強い覚悟を持って、思いを胸に刻んでおります。全ての拉致被害者の方々の、一日も早い帰国実現に向けて、私自身も、条件を付けずに、金正恩(キムジョンウン)委員長と、直接向き合う決意でありますし、そして、何よりも、国際情勢は刻々と変化しています。関係国との連携の中で、あらゆるチャンスをものにしなければいけない。チャンスをしっかり掴(つか)んで、直接向き合うことを実現し、そして、拉致被害者の方々の帰国を実現しなければならないと強く思うところでございます。
今日は、本当にお忙しい中、わざわざ足をお運びいただきましたが、こうした思いを、改めて申し上げさせていただくとともに、皆様方が長年思っておられること、積年心に感じておられることを、改めてお聞かせいただき、これからの取組にしっかりと、大きな追い風として感じ、努力をさせていただく、そうした機会にさせていただければと思っております。御協力いただきますことを改めて、心からお願い申し上げ、御挨拶とさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。」

●「結局、真剣でないんだね…」福島から聞かれる岸田内閣への嘆き 10/18
1日も早い東日本大震災からの復興を成し遂げるための事業を担う復興庁。10人目の復興相は初めて、沖縄・北方担当相との兼任となった。岸田文雄首相は「東北の復興なくして日本の再生はない」と強調し、衆院選公示の19日も福島県内で第一声を上げる予定だ。しかし、復興相が基地問題を抱える沖縄や北方領土など重要課題との兼務になったことに、被災地軽視になるのではないかと被災者から懸念の声も上がる。(片山夏子)
首相「指摘は全く当たらない」
岸田首相は10月4日の組閣時、復興相と沖縄・北方担当相との兼務について「復興を軽んじているという指摘は全く当たらない。東北の復興なくして日本の再生なしという原点は変わらない」と述べ、基本方針に震災復興も盛り込んだ。これを受け、福島県の内堀雅雄知事は会見で「事故から10年たつが、福島県の抱える問題は一段と複雑化し、より重くなっている。兼務である復興相がどう福島に向き合い、結果を出していくのかが問われると思う」とくぎを刺した。肝心の西銘恒三郎復興相は6日に福島県を訪問。記者団に「総理には冒頭に全閣僚が復興大臣だと言われた。沖縄は今までの活動で見てきているため、優先的に被災地に足を運べるのではないかと考えている。福島県民の皆さんの不安が少しでも消えるように行動で示すしかない」と強調した。
「変わらない」「本気度疑う」
自民党福島県連の深谷哲郎事務局長は「兼務かどうかにかかわらず、現場に来てもらい、復興再生を進めてもらうやり方は変わらない」。復興相だけではなく、経産、環境と関係する大臣らが着任後すぐに、福島を訪れたことを評価する。一方で「福島の復興への本気度を疑う」と話すのは立憲民主党県連の亀岡義尚幹事長。復興相が10年で10人交代したことにも触れ「原発の処理水の海洋放出など課題は山積み。復興はまだまだ道半ば。廃炉も含め先が見えない。沖縄、北方領土、原発事故を含む東日本大震災の復興…。3つの兼務は国全体の課題としてやるポストとして特別重い。やっかいな課題を集めたようにしか見えない。(兼任も次々復興相が変わるのも)福島の軽視だ」と断じた。
「本気で被災者の声を」
「結局、真剣でないんだよね」。工務店を営んでいた福島県富岡町から郡山市に避難している杉義己さん(73)は深いため息をつく。自宅がある富岡町の避難指示は解除されたが、放射線量が高く、今も避難生活を続けている。「原発事故の原因解明もされず、国や東電も責任も認めないまま。賠償も終わっていない。被災地の声を聞かないで、海洋放出とか帰還困難区域の解除も決められた。富岡だって浪江だってほとんど住民が帰ってない。沖縄も多くの問題がある。それぞれの問題の深さを考えれば、兼務なんてできないはずだ。本気で向き合い、被災者の声を聞いてほしい」と訴えた。福島第一原発が立地する双葉町で自動車整備工場を経営していた新野亥一さん(74)は、郡山市に住む。来年6月には双葉町の自宅のある区域の避難指示が解除される見込みだ。「兼務になって福島に足を運ぶったって」と口ごもる。「福島選出の前の復興相(吉野正芳氏)だって最初はいろいろ言っていたが、最後は尻切れとんぼで福島のことを言わなくなった。復興相はみんな短命。政府もいろいろなメッセージを発するけど言葉遊びでしかなく、本気で取り組む姿勢がみられない。10年たっても帰れず、先が見えないまま。兼務の大臣に何ができるのか」と声を落とした。

●岸田内閣は顔なし!? 女性の認知度50%超えは3人だけ  10/18
“選挙の顔になり得ない”と辞職に追い込まれた菅義偉前総理に代わり、捲土重来で新総理の座についた岸田文雄氏。所信表明演説での力強い話ぶりは、今月行われる衆議院選挙の自民党勝利をいくらか手繰り寄せたようにも感じられた。
しかし、自民党の中では国民的知名度の高い河野太郎氏、小泉進次郎氏、石破茂氏といった面々のいない新閣僚の顔ぶれは、あまりに心許ない。
今回本誌では、女性読者に対して岸田内閣の大臣に関するアンケートを実施。(10月8日〜10月11日)。その知名度と期待する政策について聞いてみた。
【岸田内閣の大臣の名前を見て、顔が思い浮かぶ議員はだれ?】という質問で、総理以上に票を集めたのが、内閣府特命担当大臣(地方創生 少子化対策 男女共同参画)の野田聖子氏。実に74%もの読者が「顔が浮かぶ」と答えた。続いては岸田文雄内閣総理大臣。総理としては残念な第2位という成績で、67%の読者が顔と名前が一致すると答えた。
第3位は意外にも萩生田光一経済産業大臣。岸田総理と大差のない59%となった。その後は、岸信夫防衛大臣(39%)、茂木敏充外務大臣(33%)、牧島かれんデジタル大臣(31%)と続く。しかし内閣が発足したばかりとは言え、認知度50%を超える大臣が3人しかいないというのは、寂しすぎる結果ではないだろうか。
岸田内閣に政策で期待することとしては、「消費税減税」「コロナ対策の現金給付」「申し込んだ人だけが恩恵を受けられるような対策ではなく、国民全員平等に受けられる対策を打ち出してほしい」といった、新型コロナで打撃を受けた人たちからの給付に関するコメントが多く寄せられた。
“選挙の顔”を立てるために行われたはずだった自民党総裁選だが、結果誕生した岸田内閣は、安倍内閣、菅内閣と比べてもまるで“顔なし”。有権者にとっては、ますます誰を選べばいいのかわからなくなった!?

●岸田首相は自民党を変えられない 「われわれは戦いやすくなった」 10/18
立憲民主党の蓮舫代表代行(53)は18日、埼玉県のJR戸田公園駅西口で、衆院選候補者の応援を行った。
蓮舫氏は、岸田文雄首相(64)が2019年の参院選で自民党本部から河井克行元法相夫妻側に渡った1億5000万円について「買収事件の原資にならなかった」とした党の見解に関し「総裁として了としている」と再調査に否定的な考えを示し、ガッカリしたという。
「岸田さんはまじめな人です。自民党を変えられたら(選挙で)負けちゃう。ところが自民党は、上の人(安倍晋三元首相)の話を聞けば聞くほど、総理が言ったことを上書きしていく。岸田さんじゃ、自民党を変えられない。われわれは戦いやすくなった」
安倍内閣、菅内閣の新型コロナウイルス感染拡大阻止をめぐる対策については「やっちゃいけないことは、やっちゃいけなかった」と話しこう厳しく批判した。
「さいたるものがアベノマスク≠ナす。安倍さんは私に予算委で『蓮舫さん、布マスクだから洗ってまた使えますよ』と答弁しました。誰も使っていなかった。これに400億円をかけるんだったら、(コロナ禍で)学校に行けなくなった子供の面倒を見て、会社を休めず、不安定雇用となった人たちのための休業補償に税金を使う方が、よっぽど意味がある分配です」
立民は公示に直前に行われた世論調査で、支持率でまだまだ政府・自民党に大きな差がつけられている。選挙戦で巻き返せるか。

●今の段階で消費税触るべきでない=党首討論会で岸田首相 10/18
衆院選公示を19日に控えて日本記者クラブ主催の党首討論会が18日開催され、与野党の党首が激論を交わした。消費減税の有無を共産党の志位和夫委員長から質問された岸田文雄首相は、「今の段階で消費税を触るべきでない」と述べ、否定的な見解を示した。
消費税は、「社会保障を支える大変重要な財源であるという思いは変わらない」とした上で、消費税を引き下げに伴う買い控えや、将来、税率を元に戻す場合の消費減退などの副作用が大きいと指摘。「経済対策については、こうした恒久財源を使うのではなく、機動的な財源を考えていかなければならない」との見解を述べた。
国債発行についてれいわ新選組の山本太郎代表から問われ、首相は、人の命や暮らしがかかる非常時における政策の財源は「国債を思い切って使うべきだ」と発言。将来にむけて財政の信頼をしっかりと維持することは政治にとって大きな役割りだともした。
また岸田首相は、分配政策を進める上での法人税引き上げについて言及し、経済・企業への影響を考えると「慎重に考えなければいけない課題」だとした。 法人税や金融所得課税は、「経済全体の活力、あるいは循環といった点もしっかり考え合わせた上で、具体的なありようを考えていくというのが道筋だ」と述べた。
首相は夫婦別姓について立憲民主党の枝野幸男代表から質問され、「多様性を重視する立場から議論が必要」としつつ、意見交換する中で母親などからも子供がどの姓を選ぶべきかなどについて疑問の声が出ていると指摘した。
公明党の山口那津男代表は立憲民主党の枝野代表に、共産党が閣外協力する形での政権の姿について質問。枝野氏は政権はあくまで立憲民主党中心で、天皇制や外交・安保は協力内容に含まれないと明言した。
国民民主党の玉木雄一郎代表から対象を限定した現金給付の支給方法について質問され、岸田首相は子ども手当などの仕組みを利用し、迅速に実施したいと強調した。
「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」の立花孝志党首が岸田首相に閣外協力の可能性を質問し、首相は「選挙の結果は予断することができないが、政治情勢の中で政策中心に是々非々で対応するのが基本」とし、「考えてみることはあり得る」と回答した。
討論会にはこのほか、社民党の福島瑞穂党首や日本維新の会の松井一郎代表が出席した。

●「パンツ泥棒」高木毅、「賄賂1200万円」甘利明を起用…新首相は“天然”  10/18
岸田首相が順調にブレ始めています。自民党の政権公約が発表されると岸田さんの言っていたことが薄くなり『高市氏政策 色濃く反映』(読売新聞10月13日)となった。つまり安倍さんカラー。ワクチンの効果を加速させるための3度目をブースター接種と言いますが、この流れは安倍政権の3度目接種みたいです。「安倍ブースター政権」かもしれない。そんななか、あらためて岸田氏がおこなった人事を振り返ってみると奇妙な共通点が多いことがわかる。まず高木毅氏だ。国会対策委員長に起用された。この名前を見て思い出すものがある。「パンツ」「下着」である。
「下着ドロボー」の過去がある
今から6年前、高木氏が安倍内閣で復興相となったとき、「週刊新潮」に、『「安倍内閣」が踏んだ大型地雷! 「下着ドロボー」が「大臣閣下」にご出世で「高木毅」復興相の資質』と記事が出た(2015年10月22日号)。大臣に「下着ドロボー」の過去があるという。被害者の妹が語る。《「合鍵を勝手に作っとったんです。田舎やから、無防備に小屋にカギ置いといたりするでしょ。それをいつの間にか持っていって、自分のカギを作っとったみたい」》(同上)この過去が大臣になったことで問われていたのだ。週刊新潮は「パンツ大臣」とふつうに書いていた。ちなみに高木氏の父は敦賀市議を2期、福井県議を4期、敦賀市長を4期16年務めた「地元政界のドン」だった。週刊誌報道を高木氏は否定したが、このあと決定的な記事が出た。地元の「日刊県民福井」が1面で『高木氏週刊誌報道 窃盗疑惑は「事実」』と書いたのである(2016年1月13日)。衝撃だった。これは逃げられないかと思いきや、意外な「助っ人」があらわれた。この記事が出た2016年1月13日はSMAP解散報道と重なったのである。なんというタイミング。なので全国的にはあまり話題にならなかった。しかもその翌週、今度は「週刊文春」が『政界激震スクープ TPP立役者に重大疑惑 「甘利明大臣事務所に 賄賂1200万円を渡した」』 (2016年1月28日号)を報じた。これで世間の目は甘利氏に集中することになった。高木氏、かなりラッキーな展開であった。
岸田人事を読み解くキーワード
だが運命は皮肉だ。あれから6年、岸田首相は「甘利」「高木」を同時に復活させたのである。よりによって過去の説明があやふやな2人を。こんなのまた炎上するに決まってる。岸田首相は天然なのか? それとも幹事長の甘利氏に人事を相談したらこんな形になったのか? 実は岸田人事を読み解く一つのキーワードがある。毎日新聞のこの記事だ。『岸田政権、原発回帰色濃く』(10月6日)電力業界が最も歓迎するのは甘利明幹事長の誕生だという。《甘利氏はエネルギー業界に幅広い人脈を持ち、「原子力ムラのドン」の一人として有名だ。実際、原発の建て替えや新増設を訴える自民党の議員連盟でも最高顧問に就いている。》さらに「甘利氏の一番弟子」と言われる山際大志郎氏が経済再生担当相で入閣。原発推進の急先鋒で知られる。そして読みどころはここ。《政策立案に直接関わるポストではないが、高木毅国対委員長も原発推進派だ。》ここで高木毅という名前が出てきた。続けて読んでみよう。《原発が立地する衆院福井2区の選出で、原発推進の立場を取る党の電力安定供給推進議連の事務局長を務めてきた。甘利氏らと新増設を訴えたほか、最長60年までとする稼働期間の見直しや原子力規制委の審査によって停止している期間を稼働期間に数えないようにする原発推進策を訴えてきた。》こんな繋がりがあったのだ。
総裁選の「裏テーマ」
岸田首相はエネルギー政策にこだわりがない分、甘利氏らキーマンの助言によって政策が進んでいく可能性があるという。そういえば菅前首相もこれに似た状況だった。「そもそも首相も原発には固執していない節がある」(毎日新聞WEB8月19日)から、河野太郎・小泉進次郎両氏に再生可能エネルギー優先を任せていたという。こうしてみると総裁選の裏テーマには「エネルギー政策をめぐる暗闘」も大きな影響があったのではと思えてくる。いずれにしても甘利氏を筆頭に高木氏も復活した。再チャレンジは結構だが、両氏とも過去の説明をうやむやにしたままでの再チャレンジは虫が良すぎる。私は今の自民党で本当に再チャレンジを訴えることができる人は他にいると思っている。野田聖子氏だ。総裁選に出馬した際、野田氏の夫問題があらためて注目された。『野田聖子氏、週刊誌の「夫は元暴力団員」報道に「信じている」「歯を食いしばって頑張りたい」』(読売新聞オンライン9月21日)野田氏の夫は「元暴力団員」とこれまで週刊誌が書いてきた。これについては裁判になっている。《今年3月、東京地裁は、元暴力団員だった点について、真実相当性があるとする判決を下している。》(文春オンライン9月8日)裁判所は元暴力団員だった点について「真実相当性がある」としたのだ。※野田氏はそのあとブログで反論。私はこの問題、別の角度で興味を持っていたのです。野田氏の夫がもしそういう過去を持ちつつ、現在はキッパリと「この世界」で頑張っていこうとしたら?それでも過去について一生後ろ指をさされるのは仕方ないのか? 自問自答した。たしかに「総理の夫」の経歴としてはギョッとするが、一生言われ続けなければいけないのだろうか。
過去を説明して「再チャレンジ」を
というのは今年公開された映画『すばらしき世界』(西川美和監督)と『ヤクザと家族 The Family』(藤井道人監督)を思い出したからです。どちらも元暴力団員が刑務所から出所して「この世界」で生きていこうとすることに比重を置いていた。しかし当人たちの決意とは別に「この世界」は冷たい。反社会的勢力と決別してやり直そうとしても再チャレンジはダメなのか……? これを自分の問題として訴えることができた政治家は野田聖子氏だったと思う。現在の夫は間違いないと受け入れているのだったら、過去を説明しつつ、そうした訴えをしてもよかったのではないか。かなりハレーションは大きいと思いますが、それで報われる人もいたはずです。少なくとも甘利氏や高木氏がしれっと説明しないまま再チャレンジするより世の中に問題提起できたと思うのです。

●暴言・杉田水脈氏を「比例上位に」岸信夫氏が出した「要望文書」の中身 10/18
衆議院議員総選挙(10月31日投開票)に向けた候補者選びを巡って、公示直前(10月16日)に自民党山口県連が作成した「異例の文書」を入手した。文書は安倍晋三・前首相の弟であり、防衛大臣を務める岸信夫・山口県連会長名義で、党本部の遠藤利明・選挙対策委員長に宛てたもの。自民党の比例中国ブロックの公認決定を巡り、党本部の決定に抗議し、さらには過激な発言で物議を醸してきた杉田水脈氏の掲載順位の優遇を求める内容となっている。
安倍政権下で起きた森友学園問題を厳しく追及してきたジャーナリスト・相澤冬樹氏はこの文書から、「安倍前首相が比例名簿の順位決定に今でも強い影響力を持っていることが窺える」と指摘する。公示直前に異例のドタバタ劇となった自民党の比例名簿発表の裏側で何が起きていたか、相澤氏がレポートする。

今回、入手した文書を読み解くうえで、まず「山口3区」での自民党公認候補を巡る“騒動”について知っておく必要がある。参議院議員だった林芳正・元文部科学大臣が将来の総理総裁をにらんで鞍替え出馬を表明。現職は二階派の重鎮で31年間議員を務めた河村建夫・元官房長官だったが、岸田政権が誕生し、二階俊博氏が幹事長を退いたことで情勢が一変。岸田派である林氏の立場が強まり、河村氏は引退を勧告され、「長男の河村建一氏の比例単独擁立」を見返りにそれを呑んだのだ。
筆者が入手した〈第49回衆議院議員総選挙に係る比例代表第二次公認候補者について〉と題された文書はそれに絡む内容だ。日付は自民党が二次公認を発表した翌日にあたる10月16日で、差出人は自民党山口県連会長の岸信夫氏と同幹事長の友田有氏の連名。宛先は党選対委員長の遠藤利明氏となっている。
河村氏の引退に伴って比例代表の中国ブロックで建一氏が追加公認されたことについて、〈ご本人(注・建一氏)から、山口県連に対しては、何らの要請も申請手続きも出されておらず、当県連から党本部に対して公認決定を願い出た候補でもありません〉としたうえで、〈比例代表中国ブロックの第二次公認候補として河村建一氏が決定されたことに強く抗議を申し上げる〉〈この方は、山口県連とは何ら関わりのない候補であることを確認させていただきます〉と強い調子で抗議している。土壇場で特定の公認候補を批判することも異例だが、それよりも自民党関係者の間で物議を醸したのが最後の3行だ。
〈当県連といたしましては、比例代表中国ブロックでは、既に、現職の杉田水脈氏を第一次公認候補としてご決定いただいており、本候補の名簿上位掲載にご配慮をいただきますよう、強くお願い申し上げます〉
衆議院の比例代表は全国のブロックごとに名簿掲載の順位が当落を左右する。名簿の順位は党本部が決めるから、各都道府県連にとって地元の候補が上位に掲載されるかどうかは最大の関心事だ。とはいえ、特定の候補の公認決定に〈強く抗議〉し、別の候補の〈上位掲載〉を〈強くお願い〉するというのは異例のことだ。文書を出した責任者の岸氏は安倍晋三元首相の弟である。兄の安倍氏に近い杉田氏の上位掲載を、弟の岸氏が取り計らうという構図が透けて見える。
ここで〈上位掲載〉を〈強くお願い〉されている杉田水脈氏は、数々の差別発言で騒動を巻き起こしてきた。特に2018年に雑誌『新潮45』(新潮社)に掲載された寄稿の内容が問題視された。
「LGBTのカップルは子供を作らない、つまり『生産性』がない」
子供を産まないと生産性がないという。では子供がほしくても叶わない人はどうなるのか? 人の価値を生産性に置き換えるのは命の選別につながり、決して許されないというのが世界的な常識だ。この言葉に国内外から抗議が殺到し、自民党本部前では抗議のデモが行われた。『新潮45』は反論を特集したが、それがまた批判を呼んで遂に休刊に追い込まれた。
そんな杉田氏は兵庫県の出身で西宮市役所などに勤めた後、2012年に日本維新の会から立候補し比例代表近畿ブロックで初当選。次の選挙(2014年)で落選した後は慰安婦問題などで保守的な言論活動を展開。これが安倍晋三首相(当時)の目に留まり、自民党からの立候補につながったとされる。なぜ、出身地の兵庫ではなく縁もゆかりもない山口の県連に所属し、比例中国ブロックから立候補したのか。山口県内の政界関係者は語る。
「安倍さんが自ら“引き取って”山口県連に所属させた。当時の県連幹部は頭を抱えていましたよ。『総理の頼みだからなあ。断れんよ』と。ただ杉田さんはそれから熱心に県連幹部のところを回ったので、県連内ではウケがよくなった」
一連の騒動もあり、当然ながら自民党内には杉田氏に批判的な声が多い。それでもこの4年間、杉田氏が国会議員でいられたのは安倍前首相の後ろ盾があったからだ。前述の「生産性」問題の際も、現職総理だった安倍氏は「まだ若いから、注意をしながら、仕事をしてもらいたい」と擁護するようなコメントを出していた。
杉田氏は前回の選挙では中国ブロックで比例名簿「17位」。それより上位の16人は全員小選挙区との重複立候補である。中国地方は“保守王国”でほとんどの小選挙区で自民党候補が当選。比例復活は1人だけで、杉田氏はその次の順位で当選しており、比例単独では事実上の「トップ掲載」だった。
今回の選挙でも冒頭の文書にある通り、自民党山口県連は杉田氏をただ1人、比例単独候補として擁立した。ただし、今回はほかの県の選挙区事情もあって、中国ブロックの比例単独トップ掲載が保障される状況ではなかった。10月18日夜に筆者が入手した発表用の名簿を見ても、杉田氏の掲載順位は比例単独候補として3番目となっている。
前回よりも下になったとはいえ、中国ブロックの比例で自民党が5議席を獲得した2017年の総選挙と同水準の結果となれば当選圏内となる位置には残った。その一方で驚かされたのは、河村建一氏の処遇である。10月15日の時点では「比例中国ブロック」での公認と発表されていたのが、急転直下で「比例北関東ブロック」の比例単独候補として2番目の位置に入ることになったのだ。安倍元首相の意向もあって、山口県連が急きょ、建一氏の比例公認に抗議し、杉田氏の名簿上位掲載を強くお願いした結果、建一氏が北関東ブロックへの押し出されることになったのではないか。
自民党山口県連は文書について「党本部の選対のほうに提出していたのは事実です」(事務局長)とだけ回答した。有権者に信を問う小選挙区での出馬とは異なり、比例単独は党の論理で当選させることができる。社会の多様性に対して問題発言を繰り返してきた杉田氏を強く推すという山口県連の要望を、有権者はどう見るだろうか。

●安倍元首相は「闇将軍」になれるか 10/18
衆院が解散され、この秋は政治の季節となった。政界で「闇将軍」といえば、ロッキード事件発覚後も絶大な政治力を行使した田中角栄元首相だ。岸田文雄政権が誕生したが、安倍晋三元首相、麻生太郎自民党副総裁、甘利明党幹事長の「3A」の影響が強い内閣と世間に受け止められている。「安倍かいらい」ともやゆされるが、内実はどうか。2度目の内閣退陣後、再び活動を活発化させる安倍元首相は、キングメーカーとして「令和の闇将軍」となれるのか。
「宏池会(岸田派)は死滅したも同然ですよ」。そう嘆くのは、元参院議員の平野貞夫さん(85)である。1957年、池田勇人元首相が創設し、自民党の派閥で最も長い歴史を持つ宏池会。平野さんは国会議員の前は、59年から衆院事務局職員として33年間勤務し、その間には池田氏と共に宏池会を作った前尾繁三郎元衆院議長の秘書を務めたこともある。「私のように池田さんや前尾さんに接したことのある人間はもうほとんど生きていないと思いますが、宏池会を作った政治的な意味は、岸信介元首相の影響を受けた政権を作らせないこと。つまり、憲法改正をさせないことです」
安倍元首相は言わずと知れた岸元首相の孫。2017年5月3日には、憲法9条に自衛隊の存在を書き加える改正案を打ち出すなど、祖父と同じく改憲論者だ。「岸田さんは自民党総裁選で憲法改正を主張しました。あれは安倍さんに気を使ったもので、はっきり言ってはいませんが9条改正のことでしょう。それではもう宏池会とは言えません」と平野さん。岸田政権誕生を後押しした安倍元首相におもねる現宰相を批判するのだ。
岸田内閣では、安倍元首相の出身派閥である細田派から、竹下派と並び最多の4人が入閣。党役員人事でも高市早苗氏が政調会長に就任するなど、「安倍人事」とも呼ばれ、キングメーカーとして存在感を存分に発揮したようにも見える。だが一方で、安倍元首相は人事に不満を漏らしているとの声も聞こえてくるが、真相はどうなのか。・・・

●各党の支持率と岸田内閣支持率  10/18
NHKは今月15日から3日間、全国の18歳以上を対象にコンピューターで無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかける「RDD」という方法で世論調査を行いました。調査の対象となったのは、5430人で、54.2%にあたる2943人から回答を得ました。
「自民党」が38.8%、「立憲民主党」が6.6%、「公明党」が3.9%、「共産党」が2.8%、「日本維新の会」が2.3%、「国民民主党」が1.0%、「れいわ新選組」が0.6%、「社民党」が0.6%、「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」が0.1%、「特に支持している政党はない」が36.2%でした。
岸田内閣を「支持する」と答えた人は46%で、先週の調査と比べて3ポイント低くなり、「支持しない」と答えた人は28%で、先週より4ポイント高くなりました。

●総選挙予測 岸田首相の地盤・広島、河井事件の批判根強く苦戦必至 10/18
4年ぶりの衆院選挙が行われる(10月31日投開票)。この間、政治家の不祥事や失言が相次ぎ、消費税が増税され、コロナ失政で国民は苦しめられた。そうした政治に有権者の審判が下される。『週刊ポスト』は、選挙情勢分析に定評がある政治ジャーナリスト・野上忠興氏の協力を得て、解散直前の10月12日時点の野上氏の情勢分析から、各小選挙区と比例代表を合わせた全465議席の当落、各党獲得議席をシミュレーションした。では、国民を怒らせたあの不祥事議員、失言議員たちはどんな選挙戦を強いられているのか。西日本を中心に注目選挙区の動向を見ていこう。
北陸・信越ブロック
新潟1区はスキャンダル議員対決。自民党は秘書への暴行問題で離党した石崎徹氏に代えて、麻生太郎・副総裁の元秘書で「忖度発言」(※注)を批判されて前回参院選で落選した塚田一郎・元国交副大臣を擁立。
【※注/国土交通副大臣だった2019年4月に福岡県知事選の応援演説で、道路事業計画を巡って安倍晋三・前首相らに「忖度した」と発言】
スキャンダル議員の後任にスキャンダル元議員をあてるという無反省なやり方だが、その石崎氏が維新公認で出馬の姿勢を見せているからモラルなき戦いの様相。
東海ブロック
静岡5区は自民党入りを希望する“元・野党のホープ”細野豪志氏(二階派加入)が岸田首相直系の自民現職・吉川赳氏と対決。選挙戦は細野氏が優勢だが、後ろ盾の二階氏が事実上失脚し、当選しても自民入党を認められるかは微妙とみられている。
近畿ブロック
大阪3区では自公協力で公明党現職の佐藤茂樹氏が当選を重ねてきたが、そこに自民党の元大阪市議・柳本顕氏が無所属で出馬を表明。最終的に柳本氏は比例に回る調整が進むが、両党は大阪都構想の住民投票でも対応が割れており、しこりは大きい。大阪では維新が躍進、自公両党とも議席を減らしそうだ。緊急事態宣言下の“銀座通い3人衆”の残り2人、大塚高司氏(大阪8区)は出馬断念に追い込まれたが、奈良3区の田野瀬太道氏は当選ラインと、同じ不祥事を起こしても明暗が分かれている。
中国ブロック
最大の注目は広島3区と山口3区。大型選挙買収事件で議員辞職した河井克行・元法相の広島3区には斉藤鉄夫・元公明党幹事長が出馬。広島が地盤の岸田首相は斉藤氏を国土交通大臣に起用し、万全の応援態勢を敷いた。しかし、広島では河井夫妻事件の批判が依然強く、斉藤氏は立憲新人と大接戦、現職閣僚の落選となれば政権に大ダメージとなる。山口3区は二階派の河村建夫・元官房長官と岸田派の林芳正・元農相という自民党大物議員同士が激突。形勢は地元議員の多くの支持を得ている林氏が大きくリード。
九州ブロック
自民党の地盤が強い九州は、保守分裂による混乱が目立つ。福岡5区では麻生派の長老、原田義昭・元環境相に対抗して自民党の元県議が公認を申請し、無所属でも出馬すると表明。自民党の地元議員の多くは新人側を支持して分裂状態に陥っている。宮崎1区でも、公設秘書が車検切れの車で当て逃げ事故(本人も同乗)を起こすなど不祥事続きの“魔の3回生”武井俊輔・元外務政務官への地元県連から批判が強く、自民党県議の脇谷のりこ氏が無所属で出馬を表明している。さらに長崎1区には安倍元首相が秘書を出馬させるが、国民民主の現職が優勢。鹿児島2区も、三反園訓・前鹿児島県知事の出馬で情勢は混沌としてきた。
自民党の地方組織からも、不行跡な“魔の3回生”への不満、あるいは選挙区を長年仕切ってきた長老議員に世代交代を求める声が高まり、自民党の地殻変動を促していることがわかる。
「今回の総選挙は、有権者の一票で自民党長期政権の慢心を諫め、権力の歪みを解消できるかが問われている」 野上氏はそう指摘する。
 

 

●岸田文雄首相「成長の果実を分配する」 福島で第一声 10/19
衆院選が19日に公示され、自民党の岸田文雄首相は福島市で第一声を上げた。主な発言は以下の通り。
この選挙、皆さん一人一人が未来を選ぶ重要な選挙だ。コロナで国は大きな転換を迫られている。東日本の復興なくして日本の再生なし。この言葉を心に刻み頑張る。選挙で復興と併せて日本の未来を考えなければならない。
まずはコロナ対応。初期の段階で利用できる治療薬の開発を年内に進め、普及させる。暮らしを支える経済対策を用意しなければならない。困っている方への給付も用意し、協力してもらうための経済対策を用意していく。これが私の内閣で取り組む方針だ。
平時に近い社会経済を取り戻したら、仕事、経済を動かさないといけない。成長はもちろん大事なことだが、それと併せ成長の果実を分配する。皆さんの給料、所得を引き上げる経済対策をしっかり進めていきたい。

●安倍晋三元首相 12年ぶりに地元・下関で第一声 過去の実績強調 10/19
山口4区の安倍晋三元首相(67)は、山口県下関市の海峡ゆめ広場で第一声を上げた。7年8カ月の首相在任中、安倍氏が公示日に地元に戻ることはなく、地元での第一声は麻生太郎首相時代の2009年8月の衆院選以来、12年ぶりとなる。
安倍氏は支持者を前に社会保障制度の拡充や雇用の増加など、これまでの実績を強調したうえで「ただちに取り組むのは、コロナ禍からの脱却と克服。ワクチンの国産開発を急ピッチで進めていく」と述べ「政治の役割は雇用を守り、創ることだ。経済のV字回復に向けて思い切った政策を進めていく」と続けた。「桜を見る会」前夜祭の費用補塡(ほてん)や学校法人「森友学園」への国有地売却などについては触れなかった。
山口4区は自民前職の安倍氏に、れいわ新選組の竹村克司氏(49)と無所属の大野頼子氏(47)の2新人が挑む。

●岸田首相、衆院選遊説取りやめ 北朝鮮ミサイル「遺憾」 10/19
岸田文雄首相は19日、北朝鮮からミサイルが発射されたことを受け、同日公示の衆院選遊説を途中で切り上げて対応に当たる。昼の仙台市での演説を終え、東京都内に戻り首相官邸入りする。秋田県内の日程は取りやめる。
首相は福島市で記者団の取材に応じ、「先月来、連続してミサイルを発射していることを遺憾に思う」と述べ、北朝鮮を非難した。政府は北朝鮮に対し、厳重に抗議した。
首相は「引き続き、事態の把握、情報収集にしっかり努めていかなければならない」と強調。衆院選公示日に発射されたことに関しては「北朝鮮の意図について、予断するのは控えたい」と述べるにとどめた。
首相は国民への迅速・的確な情報提供や航空機、船舶の安全確認の徹底、不測の事態に備えて万全の態勢を取ることを指示した。

●岸田首相、北ミサイル受け遊説切り上げ帰京 抗議へ 10/19
磯崎仁彦官房副長官は19日午前の記者会見で、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したことを受け、岸田文雄首相が同日に公示された衆院選(31日投開票)の応援演説のため東北で予定していた日程を途中で切り上げ、東京に戻る方向で調整していると説明した。北京の外交ルートを通じて北朝鮮に抗議したことも明らかにした。
磯崎氏によると、北朝鮮がミサイル2発を発射したのは19日午前10時15分と16分。東方向に発射し、朝鮮半島東沖の日本海上に落下したとみられる。日本の排他的経済水域(EEZ)への落下に関しては「現在分析中だ」と述べた。
発射を受け、政府は首相官邸危機管理センターの官邸対策室に緊急参集チームを招集。関係省庁間で情報を集約し、対応を協議した。磯崎氏は記者会見で「わが国の平和と安全を脅かすものであり、度重なる発射も含めわが国を含む国際社会全体にとっての深刻な課題だ。極めて遺憾だ。強く非難する」と述べた。
発射当時、首相は福島市内に滞在中だったが、磯崎氏は「ただちに報告し、指示を受けており、対応に遺漏はない」と説明。松野博一官房長官も自身が立候補した衆院千葉3区内にいたが、磯崎氏は「首相にも官房長官にもいかなる時にも連絡を取れる態勢を構築している」と述べた。

●「ブレる、パクる首相」の印象定着恐れる自民、岸田語録“すべて借りパク” 10/19
岸田カラーが見えない衆院選 総裁選で掲げた「目玉政策」は封印
岸田文雄首相が衆議院を解散し、選挙戦に突入した。解散から投開票まで17日間と、戦後最短、現行憲法下で初の任期満了を超えた総選挙になるなど、今回は異例づくしだ。
就任11日目でのスピード解散に踏み切った岸田首相は「未来選択選挙」と位置付けるが、つい最近の自民党総裁選で掲げた自身の主張は党の政権公約に盛り込まず、その「ブレ」を不安視する声も党内から上がる。
「国民一人一人が豊かで生き生きと生活できる社会をつくりあげることができるのは誰なのか。どの政権なのか。国民の皆さんに選んでいただきたい」
岸田首相は10月14日、総選挙への意気込みをこう語った。衆院の解散権は首相の専権事項であり、解散日の首相会見は「最大の見せ場」といえる。だが、本格的な国会論戦が行われず、衆院選で掲げる政権公約でも「岸田カラー」が見えない中、何をどのように評価すればいいのかと悩む有権者は少なくないだろう。
「令和版所得倍増計画」「金融所得課税の強化」「健康危機管理庁」…。岸田氏が9月の党総裁選で掲げた「目玉」は、ことごとく封印されている。
政権公約で鮮明なのは 甘利幹事長と高市政調会長のカラー
総裁選での「論功行賞人事」と批判された党役員や閣僚の人選に、「3A」と称される安倍晋三元首相や麻生太郎副総裁、甘利明幹事長の影響力が働いたのは、今や国民の多くが知るところだ。その力関係は人事面だけではなく、政策面でも顕著に表れている。
ある閣僚経験者は「政権公約は、総裁選で岸田支持を固めた甘利幹事長と、安倍氏の全面支援を受けた高市早苗政調会長のカラーが鮮明。よくいえば岸田首相が得意の『聞く力』で受け入れたといえるが、総裁選で争った人の主張をここまで盛り込むと誰がトップなのか分かりにくい」と指摘する。
無色透明、変幻自在という評もつきまとう岸田氏。その傾向は首相就任後初めての所信表明演説でも見えた。
「全閣僚がさまざまな方と車座対話を積み重ね、国民のニーズに合った行政を進めているか徹底的に点検するよう指示していく」
多様な価値観が尊重される時代、コロナ禍に苦しむ国民の声を吸い上げようとの意欲そのものに反対の人は少ないだろう。懸念されているのは首相が用いる言葉にある。
岸田首相の言葉は借り物ばかり 谷垣元総裁、石破元幹事長、安倍元首相…
所信表明演説でアピールした「車座対話」は、野党時代の谷垣禎一総裁(当時)が実施していたものだ。2009年からの約3年間、党幹部が全国各地を回り、有権者との意見交換を通じて政策に磨きをかけた。
もちろん、政策や政治姿勢に「著作権」は存在しない。首相就任後初めての週末に早速、医師や看護師らとの対話に臨んだことも岸田首相の行動力を示すものだ。ただ、「他の人のまね事ばかりが目立ち、岸田首相自身の独自色がない」(財務省幹部)ことが不安視されているのである。
岸田首相が掲げる「信頼と共感」は、昨年の党総裁選で争った石破茂元幹事長が掲げていた「納得と共感」と酷似する。所信表明演説で2度も言及した「早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め」ということわざも、ノーベル平和賞を受賞した米国のアル・ゴア元副大統領が受賞時に引用したことで知られる。
岸田首相は演説で「デジタルインフラの整備を進める」と強調した上で、デジタル時代の信頼性ある自由なデータ流通、「DFFT(Data Free Flow with Trust)」を実現するため国際的なルールづくりに積極的な役割を果たしていく考えも表明した。
ただ、これも19年6月28日にG20大阪サミットのデジタル経済に関する首脳イベントで、当時の安倍首相がスピーチしたものと変わらない。安倍氏は「DFFT、すなわち信頼たるルールの下でデータの自由な流通を促進しなければならない」として、世界貿易機関(WTO)での電子商取引に関する交渉を進めていく必要があると強調していた。
パクる、ブレる首相のイメージがつけば 選挙戦にマイナスの影響との悲鳴
繰り返すが、政策や主張に「著作権」はない。良い部分は採り入れ、成長や発展につなげてきたのも憲政の歴史である。ただ、予想以上に野党で候補者の一本化調整が進み、厳しい戦いを強いられる自民党中堅議員の一人は、総選挙を前にした首相の姿勢に懐疑的だ。
その理由には、学校法人「森友学園」への国有地売却を巡る公文書改ざん問題に対する首相の説明が揺れたことや、総裁選で掲げていた「金融所得課税の強化」は首相就任後になって当面見直さない考えを示すなどの「ブレ」がある。「パクる、ブレるというイメージが首相についてしまうと選挙戦にもマイナスの影響が出る」との悲鳴も自民党内から聞こえる。
「新しい時代を皆さんとともに。」を自民党の新しいキャッチフレーズにした岸田首相。新時代のビジョンも、得意の「聞く力」で国民から吸い上げていくようである。

●党首討論会 岸田首相、改憲に「不退転の決意」 10/19
与野党9党首は18日、衆院選(19日公示、31日投開票)を前に、日本記者クラブ主催の討論会に臨み、憲法改正や新型コロナウイルス対策、安全保障政策などについて論戦を繰り広げた。
憲法改正
憲法改正をめぐっては岸田文雄首相(自民党総裁)が不退転の決意を示し、日本維新の会の松井一郎代表も前向きな意向を示した。首相は「不退転の決意があるのか」と問われ、「もちろん」と明言。「自民党の改憲4項目を含めて憲法改正が身近で現代的な問題であるということをしっかり訴えていく」と述べた。また、「緊急事態条項の新設など4項目は現実的で大変重要な取り組みだと認識している。憲法改正を実現していくべく努力をしていきたい」と語る場面もあった。一方、松井氏は「(自民が野党に)配慮しすぎて改憲原案を作れなかったのが非常に残念だ。各党の改正案を審議し、国民投票を実施していただきたい」と述べた。ただ、維新を除く野党は前向きとはいえず、立憲民主党は政権公約に憲法改正を盛り込んでいない。
コロナ対策
新型コロナウイルス対策に関し、病床確保や司令塔機能など具体論を述べたのは首相と立民の枝野幸男代表にとどまり、議論は深まらなかった。首相は「病床確保とあわせて大型の経済対策を用意する」と強調した。党総裁選で掲げた司令塔機能を担う「健康危機管理庁」創設に関しては「取り下げていない。危機管理の在り方を総点検する上で議論を進める。人流抑制や病床確保などについて法改正なども念頭に置く」と語った。枝野氏は国による病床確保に加えPCR検査体制の拡充、すべての入国者に対する10日間の国費での事実上の隔離といった水際対策強化を主張。司令塔機能については「首相、官房長官のもとに各大臣という機能を明確にする」と述べた。共産党の志位和夫委員長は「コロナ失政で多くの犠牲を出した」と政権を批判した。
安全保障
首相は敵基地攻撃能力の保有について「選択肢の一つとして考える価値はある」との認識を重ねて示した。「極超音速ミサイルなど新しい技術が出てきている中で、従来のミサイル防衛態勢で十分かは絶えず見直さなければならない課題だ」と強調した。対国内総生産(GDP)の1%以内におおむね抑えられてきた防衛費について自民党が「GDP比2%以上も念頭に増額を目指す」と公約で掲げたことに、公明党は「国民の理解を得られない」(山口那津男代表)との慎重姿勢を示す。首相は「2%を否定しないが、数字ありきではない」と説明。ミサイル防衛や経済安全保障、宇宙・サイバーなど新たな課題に対応するための予算を徹底的に議論する考えを示した。首相は、立民が自衛隊に否定的な共産党と閣外協力することについて「有事が生じた場合にうまく調整が進むのか」と疑問を投げかけた。立民の枝野氏は「共産党などと事前に協議をしなければ物事を進められない(政権)運営をするつもりはない」と応じた。

●「悪さ加減が少ない方を」 衆院選、どうやって票を投じるべきか 10/19
4年ぶりに実施される今回の衆院選をどう見たらいいのか、有権者はどんな基準で候補者を選べばいいのか。日本政治に詳しい識者2人に聞いた。
「岸田氏の個性が見えにくいのかも」 大嶽秀夫・京大名誉教授
――今回の総選挙の争点や特徴をどう見るか?
新型コロナウイルスの感染者が減っているなか、コロナ後を見据え、財政出動が大きな争点だ。国民はコロナで悲鳴を上げている。政府に何とかしてくれという気持ちが強い。
――解散から投開票日まで17日間と戦後最短だ。
野党に統一候補を立てる余裕を与えず、先手を打つ戦略だろう。自民党は生き延びる力のある政党。野党には厳しい日程だ。
――4日に誕生した岸田文雄内閣は、野党の選挙戦にどう影響すると見る?
失点がはっきりあるわけではなく、野党は戦いにくいのではないか。岸田首相の言う「新しい資本主義」などは言葉が先行し、実態が分からない。利益誘導で大幅な財政出動をする従来パターンを踏襲し、国民に明るい期待を持たせたい姿勢が見える。国民側もコロナ疲れで、それへの期待がある。ただ、発足直後の支持率は岸田内閣は高くない。岸田氏の個性が見えにくいのかも知れない。
――野党側は対自民での存在感を示せているか?
第2次安倍晋三政権以降は「安倍1強」が続いた。野党はスタンスを明確化できず、「迷走する野党」だった。戦後の枠組みで言えば、自民党と旧社会党の対立があり、冷戦終結後は新しい対立軸ができないままでいる。さらに、小泉純一郎内閣が進めた改革路線と、守旧路線との対立の中で、自民党内部の自己革新の力が大きかったため、かえって野党側が守旧路線とみなされた。野党はいまだに新しい改革の旗印を持てないでいる。
――有権者は何を判断材料にすべきか?
野党の動きをよく見極めてほしい。与党が何をやるかは分かりやすい。野党がどう再編されるかは、将来にわたり非常に重要なので注目すべきだ。特に立憲民主党と国民民主党がどう手をつなげるかがポイントだ。共産党がどう出るのか、日本維新の会がどういう動きをするのかなどをきめ細かく見るべきだ。
――岸田氏が新総裁に選ばれた自民党総裁選をどう見たか?
穏当な結果と思う。実質は河野太郎氏と岸田氏の2人の戦い。強力な派閥のバックがあったわけではなく、パーソナリティー(個性)で勝負した格好だ。自民党は後継者を育てない政党になった印象がある。安倍元首相も菅義偉前首相も、後継者育成への意識は薄かったと感じる。一方で首相の権力は強くなった。かつては派閥体質の中で政策が決まっていたのに、首相官邸が決めるようになった。安倍氏や菅氏に対抗する人がほとんどいなくなり、次の政権を目指して運動する後継者はいなかった。かつては、派閥の対立の中で政治家が鍛えられ、首相候補者は常に数人いた。だが、選挙制度改革で1996年の衆院選に小選挙区制を導入して以降、派閥が徐々に解体され、後継者を育てる機能を失った。
――伊吹文明氏ら、ベテラン議員の引退表明が与野党で相次いだ。
世代交代の時期で、岸田氏ら新しい世代のリーダーに代わる過渡期。政治家は激務なので、長くやるのは大変だ。
「攻め込まれる前に選挙ということだろう」 吉田徹・同志社大教授
――解散から投開票日まで17日間。戦後最短だ。
選挙期間が短いほど与党に有利。攻め込まれる前に選挙ということだろう。野党が争点化するには時間がかかる。期間が短いと、与党が投げた争点に、野党側が対応しないといけなくなる。十分な情報をもとに吟味できないと、有権者は理性的な選択ができにくい。
――岸田文雄政権をどう見る?
総選挙で善戦すれば安倍晋三氏らから「親離れ」して好きなことができ、岸田カラーが前面に出る可能性がある。思ったほど勝てなければ、2A(安倍氏と麻生太郎氏)の影響力が残る。過去の自民党の首相は派閥の支援か選挙での勝利がないと脆弱(ぜいじゃく)だった。
――野党にとって岸田政権は戦う相手としてどうなのだろうか?
一長一短だ。岸田氏は菅義偉政権で閣内におらず、無傷。また「再分配」「新自由主義からの脱却」などの主張は、野党の政策がかぶる部分があり、戦いにくい。ただし、安倍氏と麻生氏の影響力が強いのだとすれば、「何も変わっていない」「安倍・菅直系内閣」と攻めやすい面もある。
――野党の現状をどう見る?
勢いに陰りがある。日本の野党は、旧社会党などの中道左派の社会民主主義路線と、(競争や効率を重視する)新自由主義路線の潮流がある。両集団が一緒にならないと大きな勢力にならず、政権交代にたどりつけない。今は社会民主主義路線を民主系ががっちり押さえているが、その分、中道に広がりを欠く。無党派層に浸透できるかが鍵だ。
――野党4党(立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組)は共通政策に合意した。
固定支持層の「岩盤リベラル」に向けたアピールで、一般有権者には訴求力を欠く。国民民主は、立憲民主ではないという点が存在理由になっており、一緒に行動すれば自分の影が薄くなるので、乗れなかった。日本維新の会は政治的指向性が違う。
――京都では野党共闘が進みにくい現状だ。
過去の選挙を見ると、京都1、5区は野党が一本化できれば議席を取れる状況だった。ただ、有権者にとって心理的な忌避感が高い政党は共産と公明と言われている。例えば、共産が強い選挙区で共産候補を野党統一候補にした場合、民主系支持者は票を入れにくい。投票しないか、自民などに入れる可能性がある。逆に、民主系が強い選挙区で民主系を統一候補者にした場合、共産支持者は律義にその候補に票を入れるだろう。行動が不均等になる。
――どうすれば野党共闘が進む?
共闘するなら、共産が関与するのはどの部分で、党の政策のどの部分を実現するのかを、野党側が有権者にきっちり示すべきだ。野党各党の代表がまず政策論争し、党員らが参加できる公開予備選をやったうえで政策集を作り、政権構成を含めた形で有権者に提示するのも今後の選択肢のひとつだろう。
――有権者は何を基準に投票すればいいのか?
自身にとってベターな選択肢を考え、そこに投票する政治的リアリズムを持つべきだ。政治学者の丸山真男は、福沢諭吉の言葉を紹介し、「政治的な選択とは〈中略〉悪さ加減の選択」と言う。「悪さ加減」がより少ない方を選ぶ。政治ではベストな選択は難しい。
――学生には投票についてどう話しているか?
投票率が低いのはあなたたちの責任ではないと言っている。投票率が高ければ、その国の民主主義が良いという相関関係もない。政党や政治側が魅力ある政治を作れず、参加したいと思わせる舞台を作れていないためだ。ただ、投票権があるのだから、なぜ自分は投票に行くのか、行かないのかを突き詰めて考えなさいとも言っている。

●ハト派の顔はどこへ…?「安倍・高市カラー」が色濃い岸田自民党 10/19
安倍・高市カラーが濃い安全保障政策
敵基地攻撃能力の保有、防衛費を倍増させるGDP比目標2%――。
岸田文雄首相と自民党が衆院選挙を前に打ち出した安全保障政策だ。そこにはハト派を自認した党内穏健派の顔はない。「安倍カラー」や「高市カラー」が色濃くにじみ、タカ派政権を思わせる。
岸田首相は所信表明演説の外交・安全保障に触れた部分の冒頭で、「自由で開かれたインド太平洋」の推進に言及した。日米豪印4カ国の「クアッド」による中国包囲網の構築を意味する。安倍晋三元首相が提唱し、菅義偉前首相が継承した。安倍路線を反映する岸田政権が「乗っかった」という印象を与えるだけで新味はない。
新しいのは「国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の改定に取り組む」と述べたところだ。国家安全保障戦略は「国防の基本方針」に代わって安倍政権下の2013年に初めて制定され、昨年6月、見直しが浮上した。
この時期は、当時の河野太郎防衛相がイージス・アショアの配備停止を言い出し、政府として正式に配備を断念した時期にあたる。その代替措置として安倍氏と自民党国防族が主張した「敵基地攻撃能力の保有」を盛り込み、国家安全保障戦略を改定することが検討された。
しかし、昨年9月、安倍氏が体調不良を理由に首相職を降り、沙汰止みとなった。
所信表明演説のこの項目は「更なる効果的措置を含むミサイル防衛能力など防衛力の強化に果敢に取り組んでいきます」と結んでいる。
「更なる効果的措置」ではあいまい過ぎてわかりにくいが、これまでの経緯から敵基地攻撃能力の保有と推測できる。自民党が19日公示、31日投票の衆院選挙に向けて作成した公約集「自民党政策BANK」には、弾頭ミサイル対処能力を向上させるため「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」とあり、やはり「更なる効果的措置」が敵基地攻撃能力の保有を指すのは間違いない。
所信表明演説は、各省庁が担当分野を書き分けることから当たり障りの少ない官僚的作文となるのに対し、自民党公約集は党政調会が中心となってまとめるため自民党の考えがはっきり打ち出されるという違いがある。党政調会のトップ、つまり高市早苗党政調会長らしい「高市カラー」が反映されているのが特徴だ。
所信表明演説と自民党公約集を並べてみると、岸田政権が目指す安全保障政策が明確になる。以下、同じ項目について語っている所信表明演説と自民党公約集を比較し、分析してみたい。
「もっとも警戒すべき相手」が変わった
「所信表明:我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、我が国の領土、領海、領空、そして、国民の生命と財産を断固として守り抜きます。
自民党公約:中国の急激な軍拡や、尖閣諸島・台湾周辺等における軍事活動の急速な活発化・力を背景とした一方的な現状変更の試み、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展、最先端技術を駆使した“戦い方”の変化など、安全保障環境が激変しており、その対応を抜本的に見直します。」
所信表明が概略「日本の領域と国民を守る」と抽象的な言い回しに終止しているのに対し、自民党公約は「中国」「北朝鮮」の順で国名を名指しして警戒感をあらわにしている。
前回、2017年10月にあった衆院選挙の自民党公約は「北朝鮮」「中国」の順番で表記され、北朝鮮だけ項目を立てて「北朝鮮の核開発・ミサイル発射の阻止」を打ち出した。この4年間のうちにもっとも警戒すべき相手が北朝鮮から中国に移ったことがわかる。
そして自民党公約は安全保障環境の変化に対し、「その対応を抜本的に見直します」とあり、菅政権では「引き続き検討を行う」(2020年12月18日閣議決定)として、留保していた敵基地攻撃能力の保有検討へと踏み込む姿勢を強調している。
コロコロ変わる防衛大綱
「所信表明:国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の改定に取り組みます。この中で、海上保安能力や更なる効果的措置を含むミサイル防衛能力など防衛力の強化、経済安全保障など新しい時代の課題に、果敢に取り組んでいきます。
自民党公約:自らの防衛力を大幅に強化すべく、安全保障や防衛のあるべき姿を取りまとめ、新たな国家安全保障戦略・防衛計画の大綱・中期防衛力整備等を速やかに策定します。NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、防衛関係費の増額を目指します。
周辺国の軍事力の高度化に対応し、重大かつ差し迫った脅威や不測の事態を抑止・対処するため、わが国の弾頭ミサイル等への対処能力を進化させるとともに、相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取り組みを進めます。」
2013年に策定された国家安全保障戦略に合わせて、大綱、中期防が改定されており、今回の3点セットでの改定に不自然さはない。だが、大綱、中期防は2018年に改定されたばかり。年度内の改定であればわずか3年で、来年度改定なら4年で変わることになる。
概ね10年間の日本の安全保障政策を規定するとされる大綱がコロコロ変わるのは、日本の安全保障政策が激変しているからにほかならない。
2013年に改定された前々大綱は、安倍政権が制定した安全保障関連法を受けて、5年で改定された。岸田政権でも改定されれば、大綱は10年のうちに3回も改定されることになる。
1976年に初めて策定された防衛計画の大綱が最初に改定されたのは1995年で、冷戦終結を受けた。次の改定は2004年で大量破壊兵器の拡散や米同時多発テロなど国際テロリズムの激化を反映した。つまり「安全保障環境の変化」による改定である。
しかし、2009年の改定は民主党政権の誕生、2013年改定は自民党政権への復帰といった「政権の都合」で行われている。
2018年の改定と、岸田政権で行うであろう次の改定も安全保障関連法の施行や敵基地攻撃能力の保有といった「政権の都合」によるところが大きい。しかも憲法改正を抜きにして、専守防衛を踏み越えかねないというクセ球中のクセ球である。
敵基地攻撃は1956年、当時の鳩山一郎内閣が国会で「ほかに適当な手段がないと認められる場合に限り」「自衛権の範囲に含まれる」として憲法上、許されると答弁した。その一方で、政府は自衛権の行使として敵基地攻撃を行うことは想定していないと説明し、憲法問題に発展することを慎重に避けてきた。
岸田氏は池田勇人、大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一ら歴代首相を輩出した名門、宏池会に所属。党内ハト派の派閥とされ、岸田氏自身、政調会長だった2017年のテレビ番組で、当時の安倍首相と比較して「政治家としての哲学、信念は簡単に言えば、首相が保守。あえて言えばタカ派なんでしょう。私はリベラル、ハト派」と述べている。
しかし、今年3月には自身のツイッターで「敵のミサイル発射能力そのものを直接打撃し、減衰させることができる能力を保有することが必要」と投稿し、敵基地攻撃能力の整備を訴えた。
自民党総裁選でも「有力な選択肢だ」と述べ続けたのは、自身のハト派色を抑えて党内保守勢力の取り込みを図ったためとみられる。
それが一時の方便ではなく、岸田政権の目標となったのは明らかだ。今回の衆院選挙で政権続投となれば、国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画に明記され、日本の国柄が大きく変わることになる。
日本が「軍事大国」になる可能性
自民党公約に登場する防衛費の対GDP比目標(2%以上)は、高市氏が自民党総裁選で掲げた政策をそのまま踏襲した。対GDP2%は米国がNATOに求めた国防費増の目標でもある。
来年度防衛費の概算要求額は、今年度当初予算比2.6%増の5兆4797億円。防衛費は8年連続して過去最大となるのは確実だ。これをGDP費2%に置き換えれば、2倍の10兆8800億円になる。
ストックホルム国際平和研究所によると、日本の防衛費は世界第8位だが、10兆円を超えれば、米国、中国に次いで第3位に上昇し、「軍事大国」の一角を占めることになる。
防衛省の島田和久事務次官らは自民党に対し、防衛費の増額を求めてロビー活動を続け、その成果が現れた形。実は防衛省は火の車なのだ。
首相当時の安倍氏による米国製兵器の「爆買い」など過去の契約分、つまりツケ払いを意味する歳出化経費は来年度2兆2517億円と前年比10.5%も増える。さらにイージス・アショア代替策として2隻で5000億円を超えるイージス・システム搭載艦を建造することから今後、出費が増え続けるのは確実だ。
10兆円以上もの防衛費を確保するには、社会保障費を削る、赤字国債を増やすなど国民に負担を求めることが想定されるが、自民党公約は財源を示していない。
「核のない世界」は訪れるのか
「所信表明・被爆地広島出身の総理大臣として、私が目指すのは、「核兵器のない世界」です。私が立ち上げた賢人会議も活用し、核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、唯一の戦争被爆国としての責務を果たします。
自民党公約・なし」
岸田氏は広島選出の首相として「核兵器のない世界」を訴えている。3日間の代表質問で与野党に核廃絶に向けた覚悟を問われ、今年1月に発効した核兵器禁止条約について触れ、「(核廃絶の)出口ともいえる重要な条約だ」と述べた。
第1回の締約国会議は来年3月に開かれる。オブザーバー参加を求めた野党側に対し、岸田氏は「ご指摘のような対応よりも、核兵器国を関与させるよう努力せねばならない」と受け入れなかった。核廃絶は「気持ちだけ」なのだろうか。
自民党公約集に核廃絶への言及はなかった。
所信表明演説や代表質問への答弁をみると、自民党総裁選を通じて岸田氏が訴えた「令和版所得倍増」のための分配施策、金融所得課税の見直し、健康危機管理庁の創設、子ども庁の検討などはいずれもゼロ回答。「岸田カラー」は限りなく薄まった。
その代わり、岸田氏は「憲法改正は考えない。これが私たちの立場ではないか」(2015年10月5日岸田派研修会)との持論を封印し、総裁選では「自民党改憲4項目の総裁任期中の改正実現を目指す」と主張。安倍元首相の持論に限りなく寄せている。
他人の政策を実現するための自民党総裁、首相とは何なのか。頂点を極めること自体が目標だったのだろうか。

●アベノミクスで広がった格差 大企業の内部留保増え、下請けに恩恵及ばず 10/19
大小さまざまな工場が立ち並ぶ京都府久御山町野村地区。電子部品の検査や組み立てを手掛けるコニシセイコーは、パートや派遣従業員を含む約100人でスマートフォンなどの製造工程の一翼を担う。仕事の大半は、大手メーカーからの下請け業務だ。人材育成や自社製品の開発など努力はしているが、小西由佳子取締役(44)は「経営状況は決して良くなっていない」とつぶやく。業績は横ばいだが、最低賃金の引き上げで人件費は膨らむ。近年は人手不足も深刻化している。「賃金を上げなければ人材は逃げるとわかっているが、半年先の経営状況も読めず、判断が難しい」と明かす。
株価上昇も、好循環生まれず
衆院選直前に退陣した菅義偉前首相は、在任期間が歴代最長となった安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」を継承した。「第1の矢」の金融緩和は、日銀との共同歩調で為替の円安を招き、株価を一気に押し上げた。日銀が大量に国債や上場投資信託(ETF)を買い入れることで、第2次安倍政権が発足した2012年末に1万円余りだった日経平均株価は2万円台を回復し、菅政権下の今年2月には一時3万円を突破した。それでも多くの企業は身構えたままだった。金融緩和で市場にあふれたマネーが設備投資や人件費に回る好循環は生まれなかった。このため、日銀の思惑通りに物価は上がらず、日本経済が完全にデフレから脱却するには至らなかった。
富裕層ばかり潤い、低下し続ける実質賃金
一方、12年度に304兆円だった企業の内部留保(利益剰余金)は20年度に484兆円まで膨らんだ。京都でも任天堂(京都市南区)が連結で1兆4140億円から1兆9933億円に、村田製作所(長岡京市)が同じく7644億円から1兆7866億円にそれぞれ積み増している。大企業が巨額の利益を計上し、富裕層が株高で潤っても、下請け企業や低所得者層には恩恵がほとんど及ばなかった。物価の影響を加味した実質賃金は低下を続ける。安倍元首相が掲げた「トリクルダウン」(富があふれ落ちること)の成長は幻に終わった。企業規模でも格差がみられる。12年度と20年度の経常利益を比較すると、資本金10億円以上の企業が43%伸びたのに対し、同1億円未満の企業は4%増にとどまった。金融緩和には「副作用」も指摘される。長引く低金利政策で金融機関の収益は悪化し、日銀が国債の5割近くを保有する状況も「市場の価格形成をゆがめている」と批判を集める。今後の焦点は緩和縮小など「出口戦略」だが、皮肉にも金融緩和による歴史的な低金利下でなかなか伸びなかった企業の資金需要が、新型コロナウイルス禍で急増した。京滋の金融機関関係者は「金融市場が正常化し、金利が上がればわれわれの利ざやは拡大するが、取引先の負担も増す」と複雑な心境を明かす。
財政悪化、先送りで払拭できない不安
コロナ禍で財政も悪化の一途をたどる。政府は財政健全化の指標となる基礎的財政収支(プライマリーバランス)を25年度に国と地方の合計で黒字化する目標を掲げてきたが、コロナ禍対応の給付金や補助金が膨れ上がった。予算全体のうち借金で賄う額の割合を示す公債依存度は、19年度の36・1%から20年度は64・1%に跳ね上がった。だが、衆院選を前に与野党とも「分配」や現金給付などの財政出動策を競う。一時的な借金はやむを得ないとしても、長期的に財源や収支均衡をどうするのか。国債を発行し続ければ、市場の信用や物価を揺るがし、経済成長の足かせになる。何より今は意見を言えない次世代へ、負担を先送りすることになる。経済界からも懸念が上がる。京都経営者協会の小畑英明会長は、コロナ対応の重要性に理解を示しつつ「これからは財政規律もきちんと考える時期だ。将来不安が払拭(ふっしょく)されない限り、企業や家計の防衛意識は高いままで、消費に結びつく循環は生まれない」と指摘する。 
 
 選挙公示

 

●党首は何を訴えた? 衆院選公示 選挙戦スタート 10/19
第49回衆議院選挙が公示され、12日間の選挙戦に入りました。今回の選挙は与党が過半数の議席を確保して連立政権を継続するのか、野党が勢力を伸ばして政権交代を実現するのかが最大の焦点です。各党の党首は支持を訴えました。
自民 岸田首相「成長と分配の好循環で未来切り開く」
岸田総理大臣は福島市で「皆さん一人一人が皆さんの未来を、そして日本のあすを選び取る大変重要な選挙だ。まずはコロナ対応で予防と検査、そして治療の一貫の流れが出来上がることは、私たちの生活にできるだけ平時に近い社会経済活動を取り戻すうえで大変大きいことだ。ぜひ、日本の経済をしっかりとまず大きくし、成長の果実を皆さん一人一人の所得や給与という形で分配をしていく。そして皆さんに思い切ってお金を使ってもらうということになると次の成長につながっていく。こうした成長と分配の好循環を日本において実現することによって、私たちは新しい日本の未来を切り開いていくことができるのではないか」と訴えました。
立民 枝野代表「まっとうな政治を取り戻そう」
立憲民主党の枝野代表は松江市で「選挙の争点の1つは新型コロナ対策だ。この2年近くいたんできた経済。店を再開できると言っても仕入れのための金もない。こうした皆さんにしっかりと補償することが今こそ重要だ。また、アベノミクスと称する経済政策で一部の大きな企業などは大きく潤ったが、日本の経済は成長していない。所得を再分配して『一億総中流社会』を取り戻し、老後や子育て、それに教育や雇用の不安を小さくしていくことこそが何よりもの経済対策だ。まっとうな政治を取り戻そう」と訴えました。
公明 山口代表「日本再生へ新たな挑戦を掲げ戦っていく」
公明党の山口代表は川崎市で「日本再生へ新たな挑戦を掲げて戦っていく。日本の将来を担う子どもたち、若い皆さんを応援するために公明党は『未来応援給付』を提案している。0歳から18歳、高校3年生の年代まで1人一律10万円相当の給付を行う。国会議員と地方議員がネットワークを結んで皆さんと対話をして、きめ細かに政策に練り上げて実行していく。連立政権に公明党がいることが大切だ」と述べました。
共産 志位委員長「国民の声が生きる新しい政権をつくろう」
共産党の志位委員長は東京 新宿で「格差と貧困をひどくし『国政私物化疑惑』にまみれ『コロナ失政』で多くの犠牲を出した『安倍・菅政権』を引き継ぐ岸田政権に、この国の政治を任せるわけにはいかない。今こそみんなで力を合わせて政権交代を実現し、国民の声が生きる新しい政権をつくろう」と訴えました。
維新 松井代表「納得できない税金の使い方を見直す」
日本維新の会の松井代表は大阪市で「分配しようと思えば、まず一番最初に改革をやる。分配するための原資、お金をどうするか。まず、今までの税金の使い方でおかしいむだなところにぐっとメスを入れていく。納税者からみて全く納得できない税金の使い方を見直して、そこで財源を確保する。これしか分配をするための手段はありません」と訴えました。
国民 玉木代表「大切なものを取り戻す選挙だ」
国民民主党の玉木代表は長崎市内で「この間、傷ついた2つの大切なものを取り戻す選挙だ。1つはコロナで傷ついた経済や暮らし、社会を立て直すこと。2つ目にわれわれが回復しなければならないのは政治に対する信頼だ。うそや偽りのない正直な政治を取り戻そうではないか」と訴えました。
れ新 山本代表「積極的財政を推し進めたい 消費税は廃止だ」
れいわ新選組の山本代表は東京 新宿で「コロナが来る前から、この国はすでに地盤沈下した経済の中、多くの人々が苦しんでいる。積極的財政を推し進めたいと考えており、その中の1つとして消費税は廃止だ」と訴えました。
社民 福島党首「生存のための政権交代を訴えていく」
社民党の福島党首は広島市内で「自民党のコロナ対策はあまりに後手後手、あまりにケチケチ、あまりにとんちんかんではないでしょうか。社民党は生存のための政権交代を訴えていく」と述べました。
N党 立花党首「スクランブル放送 実現を」
「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」の立花党首は東京 渋谷で「NHK受信料は税金ではなく公共料金で、制度をもっと公平にするにはスクランブル放送を実現するしかない。変えるには政治の力が必要だ」と訴えました。

●対コロナ・経済で競う 衆院選公示、1040人超が立候補 10/19
第49回衆院選が19日に公示され、31日投開票に向けて12日間の選挙戦に入った。新型コロナウイルス下で初めての衆院選は感染症や経済への対策が主な争点になる。4日に発足したばかりの岸田文雄政権の信任を問う。立候補者は午後1時20分時点で1046人となっている。
衆院選は2017年10月以来4年ぶり。前衆院議員の任期は10月21日まで。任期満了日以降に投開票日を迎えるのは現行憲法下で初めてとなる。14日の衆院解散から投開票日まで17日と戦後最短となる。小選挙区289、比例代表176の総定数465の議席を争う。
立候補届の受け付けは19日午前8時半から、小選挙区は各都道府県の選挙管理委員会で、比例代表は総務省でそれぞれ始まった。午後5時に締め切られる。午後1時20分時点の立候補者数は1046人で、内訳は小選挙区が852人、比例代表は重複立候補を含めて817人。
前回衆院選の立候補者数は計1180人だった。現在の小選挙区比例代表並立制になった1996年以降、最少だったのは2005年の1131人で今回はそれを下回る可能性がある。
首相は勝敗ラインを与党で過半数にあたる233議席と定めた。「未来選択選挙」と位置づけて発足したばかりの政権への信任を得る考えだ。公明党の山口那津男代表は小選挙区9議席、比例800万票を目標に据え、自民党と合わせて過半数をめざす。
立憲民主党の枝野幸男代表は政権交代を訴える。立民と共産党、国民民主党、れいわ新選組、社民党の野党5党は小選挙区の7割を超す210程度で候補者を一本化した。
松井一郎大阪市長が率いる日本維新の会は地盤とする関西圏を中心に議席の上積みを狙う。立民、共産などの野党共闘と一線を画す。
新型コロナ対策は各党ともにワクチン接種や検査の拡充を公約の柱とした。感染防止策に伴う経済的な影響がなお大きいとして与野党から現金給付などの支援策が相次いだ。
自民党は非正規雇用者や女性、子育て世帯ら困窮している人が対象だと言明した。公明党は高校3年生までの全ての子どもに1人あたり一律10万円相当の支援を約束した。立民は低所得者に年12万円を現金給付すると説明している。
経済政策では分配論が目立つ。コロナ後を見据え、経済成長に向けた議論を選挙戦を通じて深める必要がある。
自民党は成長と分配の好循環を生み出す「新しい資本主義」によって分厚い中間層を再構築すると主張する。賃上げ企業の税優遇や中小企業の下請け対策を盛り込んだ。
公明党はマイナンバーカードの普及のために一律3万円相当のポイントを付与する施策を訴える。
立民は「一億総中流社会の復活」をスローガンに年収1000万円程度までを対象に所得税の実質免除などを打ち出した。共産党は最低賃金を時給1500円に引き上げると唱える。 
 

 

●ミサイル発射時不在「岸田内閣、危機管理よりも選挙重視」 10/20
危機管理に関して言えば、少なくとも首相、官房長官のうち1人は緊急参集できる東京23区内にいるべきだ。阿蘇山の噴火の際は、官房長官が東京都内にいたということで最低限の対応はできたと思う。
他方で(19日の)北朝鮮のミサイル発射に関しては、2人とも東京を離れていた。緊急事態への対応、危機管理としては、極めて問題があると言わざるを得ない。危機管理よりも選挙を重視しているのではないのか。
特に岸田(文雄)首相は(ミサイル発射の)第一報を受けた後、さらにもう1カ所、仙台に演説会に行っている。これはちょっと信じられない対応だ。すぐ電車に飛び乗れば、あと2時間早く東京に帰ることができたはずだ。岸田内閣の危機管理の認識は非常に甘いと言わざるを得ない。

●「二之湯大臣は天災や防災をやったことがない」 10/20
立憲民主党の蓮舫代表代行(53)は20日、都内で開いた衆院選の街頭演説会で、この日の阿蘇山の噴火について言及した。
気象庁によると、阿蘇山の噴火は噴火警戒レベルを入山規制を示す「3」に引き上げられた。入山届を出していた12人の安全は確認が取れている。
蓮舫氏は聴衆の前で「昨今、担当大臣の役割が問われているのは、防災担当大臣です。岸田内閣の誰か、みなさんご存知か。77歳の二之湯智さんです」と話し始め、二之湯氏を大臣に任命した岸田文雄首相(64)に怒りの矛先を向けた。
「この人(二之湯氏)は総務関係の仕事をしてきて、天災や防災の仕事をやったことがない。そしてこの人は参院議員で、来年の夏に引退を表明した。その直後、(岸田首相は)大臣にした。国会を開いて『この担当大臣でほんとうにふさわしいかどうか』と、野党と議論もせず、ボロが出る前に解散した。総理として理想の姿じゃなく、私は非常に残業に思う」
蓮舫氏は衆院選で有権者に対し、岸田・自民党の問題点を鋭くえぐり出し、「今後の政権も自公政権で任せていいのか」と訴えている。

●国民 玉木代表 “岸田内閣の危機管理は極めてぜい弱”と批判  10/20
北朝鮮が19日、弾道ミサイルを発射した際、岸田総理大臣と松野官房長官が東京を離れていたことについて、国民民主党の玉木代表は、岸田内閣の危機管理は極めてぜい弱だと批判しました。
北朝鮮が19日に弾道ミサイルを発射した際、岸田総理大臣と松野官房長官は衆議院選挙への対応などのため、いずれも東京を離れていました。
これについて国民民主党の玉木代表は20日、岐阜県大垣市で記者団に対し「危機管理上、大変問題だ。さらに岸田総理大臣は発射が分かったあと、遊説のために福島から仙台に向かい国家の判断が求められる中で選挙を優先した。はなはだ残念で国益に反する」と述べました。
そのうえで、与党側が発射当時には磯崎官房副長官などが待機していて、政府の対応に問題はなかったとしていることについて「国家の危機管理を官房副長官で対応できるという判断自体が間違いだ。岸田内閣の危機管理は極めてぜい弱だ」と批判しました。

●“持ってない”男?岸田首相 北ミサイル発射に続き…この日は阿蘇山噴火 10/20
岸田文雄首相(64)が20日、神戸市内で衆院選(31日投開票)兵庫1区に立候補した盛山正仁氏(67)と、同日投開票の神戸市長選に立候補した久元喜造氏(67)の応援演説を行った。
岸田首相は「盛山さんは『議員立法の盛山』と呼ばれるくらい多くの法案をつくられている」と絶賛。岸田内閣でコロナ対策、経済対策、地方の活性化などを進めていくことを訴え、「今回の選挙は『未来選択選挙』と言わせていただいた。皆さんの声をしっかり聞きながら、新しい明るい日本の明日をしっかり切り開きたい。そのために、盛山さんに日本の明日を担わせていただきたい」と盛山氏への支持を呼びかけた。
この日は午前中から兵庫各地を遊説していたが、午前11時43分、阿蘇山が噴火した。
岸田首相は松野博一官房長官に人命第一に対応するよう指示。自身のツイッターで「周辺地域の皆さん、最新情報に注意し、警戒をお願いします」と呼びかけ、「官邸に『情報連絡室』を設置し、情報収集をしています。状況に変化があれば随時報告が入る体制を取っています」などと投稿した。
危機管理をめぐっては、19日に北朝鮮が弾道ミサイル2発を発射した際、首相と官房長官が官邸にいなかったことで物議を醸したばかり。これを意識したのか応援演説では、「昨日、北朝鮮が弾道ミサイル2発を発射するとんでもないことを行った。私たちは強く抗議した。遺憾に思う。こういった安全保障の分野においてもしっかり対応する。国民の命を守っていく」と強調した。最後は盛山氏、久元氏とともに「頑張ろう」三唱。聴衆とグータッチを交わすと、次なる遊説地の地元・広島に向かった。

●阿蘇噴火も首相は選挙応援継続 「不在」批判に官邸ピリピリ 10/20
熊本県の阿蘇山が噴火した20日、岸田文雄首相(自民党総裁)は予定通りに兵庫、広島両県内で衆院選の演説を行い、首相官邸では松野博一官房長官が対応した。19日の北朝鮮のミサイル発射時は、首相、松野氏の「不在」を野党が批判したこともあり、危機管理に神経をとがらせている。松野氏は今後、衆院選の応援に入る際は首都圏を中心にする方針だ。
首相はこの日の予定を変更せず、松野氏が官邸で噴火について、記者団の取材に応じた。首相が予定を変更しない理由を、松野氏は噴火警戒レベルが3(入山規制)であるとし、「レベル3の段階は、私で対応することで問題ない」と説明。松野氏は噴火当時は官邸を離れていたが、官邸近くの衆院第一議員会館で「事務をしていた」と明かした。
官邸の危機管理ではこれまで、首相か官房長官のどちらかが在京していることが慣例となっていたが、第2次安倍政権でこの慣例が崩れた。19日のミサイル発射では、首相と松野氏ともに衆院選の演説で官邸を離れ、野党が「危機意識の欠如」などと批判していた。

●政府、阿蘇山噴火の情報収集急ぐ 岸田首相の遊説日程は変更せず  10/20
磯崎仁彦官房副長官は20日の記者会見で、阿蘇山の噴火に関し「情報収集を進めている。対応はこれから鋭意検討する。危機管理には万全を期している」と述べた。政府関係者は、岸田文雄首相の兵庫、広島両県での衆院選遊説日程を変更する予定はないと明らかにした。
政府は20日午前、噴火を受け、首相官邸に情報連絡室を設置した。首相は、自身のツイッターで「周辺地域の皆さん、最新情報に注意し、警戒をお願いします」と呼び掛けた。
松野博一官房長官は「人的被害は今のところない」と官邸で記者団に語った。首相から人命最優先で対応するよう指示があったとも明らかにした。登山者が数人いるとの情報があるとして、確認を急いでいる。

●維新人気強い兵庫で応援演説 「新しい時代を切り開こうじゃありませんか」 10/20
岸田文雄首相(64)が20日、兵庫・伊丹市の阪急伊丹駅前で、兵庫6区から立候補した自民党・大串正樹候補(55)の応援演説。首相として街頭での本格的な演説は初めてとなった。
鮮やかなパープルのネクタイを締め、スーツ姿で予定より10分遅れて登場した岸田首相。1000人(陣営発表)の聴衆の拍手の中選挙カーの上に上がり「コロナ対応、経済対策、外交、安保を任せてください」と訴えた。最後は長年書き留めてきた“岸田ノート”を持参して掲げ「このノートとともに、皆さんと新しい時代を切り開こうじゃありませんか」と締めくくった。
応援演説後は、集まった聴衆の中に入り、ハイタッチして回るサプライズも。伊丹市の60代女性はハイタッチした後、「優しそうな方でした。頑張ってほしい」と目を細めた。
4期目を目指す大串氏は、立憲民主党の前職・桜井周氏(51)、日本維新の会の元職・市村浩一郎氏(57)と三つ巴のし烈な戦い。維新は7月の県知事選で、自民と相乗りで推薦した齋藤元彦氏(45)が当選。大阪と同様、兵庫県内での“維新人気”の追い風に乗っている。
公示前の16日に菅義偉前首相、小泉進次郎前環境相が応援に駆けつけたばかり。岸田首相は地元・広島に戻る前にわざわざ途中下車して参戦したように、今回の総選挙での重要地区と考えている。大串氏の選対担当者も「大阪に近く、維新の人気はすごい。厳しい選挙になります。それで2日目から岸田首相に来ていただいた。心強いです」と語った。

●岸田首相と吉村大阪府知事、兵庫県で遊説 早くも攻防ヒートアップ 10/20
衆院選公示から一夜明けた20日、自民党総裁の岸田文雄首相と、日本維新の会副代表の吉村洋文大阪府知事がそれぞれ兵庫県に入り、遊説した。短期決戦に踏み切った岸田氏が自民前職の議席確保と自公政権の継続を訴える一方、吉村氏は大阪に次ぐ維新の牙城として、兵庫の勢力を伸ばす姿勢を鮮明に。早くも攻防はヒートアップした。
岸田氏は、兵庫8区の尼崎市、6区の伊丹市、2区の神戸市北区、1区の同市東灘区の4カ所で演説。いずれも自民前職の苦戦が予想される選挙区か、選挙協力をする公明前職の選挙区が選ばれた。
中でも1区は5人が立候補し、岸田派の一員でもある前職が保守分裂の選挙で逆風にさらされる。岸田氏は演説の冒頭で「選挙の幕が開け、2日目。今日はなんとしてもこの兵庫1区」と危機感を示した。
演説場所は、神戸・三宮や元町ではなく、JR摂津本山駅の北側付近。今月に自民総裁、首相に就いたばかりだが、前回2017年の衆院選で当時の安倍晋三首相が訪れ、活況を呈した場所を踏襲した。
岸田氏は新型コロナウイルスワクチン接種の推進など、自公政権の実績を挙げ「引き続き日本、神戸の明日を担わせていただきたい」と声を張り上げた。予定の10分を7分超えて話し続け、歩道を埋めた人たちとのグータッチにも応じた。
また尼崎市と神戸市北区では、それぞれ公明前職と街頭に立ち、前回に続く自民、公明での小選挙区議席の独占を支援者に訴えた。

「自民は業界団体の支援を受けている。改革できるのは維新だけ」。維新の吉村氏は20日午後、兵庫県太子町のホームセンター駐車場で熱弁を振るった。
横に並ぶのは、10月6日に公認したばかりの12区の新人。大阪や阪神間では強みを見せる維新だが、西播磨では地方議員も少なく地盤が弱い。比例票の掘り起こしも狙い、「党の顔」である吉村氏をまず投入した。
告知を見て集まった女性らの人垣を前に、吉村氏は「解散しても国会議員には冬のボーナスが支給される。民間ではありえない」「岸田首相は分配というが、増税か借金をするのか」などと自民への対抗意識をむき出しにした。
前回の衆院選で、維新は12区に候補を立てなかった。今回は擁立を予定した新人が8月に選挙区を移って空席となり、無所属で準備を進めていた現候補を、公示2週間前に急きょ公認した。知事選で初めて推薦候補が当選した勢いにも乗り、保守票の獲得を狙う。
吉村氏は太子町の後、兵庫11区の姫路駅前で演説。10区の加古川市、5区の三田市でも公認候補への支持を訴えた。

●岸田首相「河井事件」おわび 初の広島入り、党改革訴え 10/20
岸田文雄首相は20日、広島市で行った衆院選の街頭演説で「この選挙区(広島3区)では自民党の国会議員が『政治とカネ』で大変な事件を起こし、辞職した。心から皆さんにおわび申し上げなければならない」と表明した。同選挙区は2019年参院選の大型買収事件で公選法違反罪に問われた元衆院議員の河井克行被告が地盤としていた。
首相は「自民党が変わらなければいけない」と述べ、党改革に取り組む姿勢を強調。この選挙区で立候補した公明党の現職閣僚への支援を呼び掛けた。
首相が地元・広島入りするのは就任後初めて。到着後、後援会幹部から花束を受け取った。演説では「首相になることも大変重要なことだが、もっと重要なことは首相になって何をするかだ」と訴えた。

●岸田派勢力維持に苦心 接戦予想、首相自らてこ入れ 10/20
岸田文雄首相(自民党総裁)が、自身が会長を務める岸田派(宏池会)の勢力維持に苦心している。衆院選(31日投開票)前の党内勢力は第5派閥にすぎず、所属メンバーの当落は首相の政権運営に直結するからだ。だが、日本維新の会と争う大阪と兵庫や、知名度の高い旧民主党の閣僚経験者と対峙(たいじ)する静岡5区をはじめ激戦や苦戦が予想される選挙区が少なくなく、首相は自らてこ入れに乗り出している。
「長年、同じ政策集団で汗をかいてきた同志だ。大切な人だ。(総裁選でも)力添えをいただいた。心から感謝し、今日はマイクを持たせていただいた」
20日午後、首相は兵庫1区に含まれる神戸市東灘区で声を張り上げた。兵庫1区からは岸田派の自民前職が出馬し、首相の来訪は派閥メンバーを援護射撃≠キる狙いがある。ただ、維新の本拠地の大阪と隣接する兵庫は近年、維新の伸長がめざましく、兵庫1区にも新人を擁立。ほかにも立憲民主党元職や無所属新人の2人も立候補しており、激しい戦いが予想される。
大阪1、2区でも岸田派前職が維新の前職や新人とそれぞれ対峙しているほか、静岡5区では岸田派前職の吉川赳氏が、旧民主党出身で無所属ながら二階派(志帥会)特別会員の前職、細野豪志元環境相と対決する。立民新人の小野範和氏と諸派新人の千田光氏も初当選を目指している。
自民は吉川氏を公認したものの、甘利明幹事長は「細野氏が勝ち上がった場合、どういう道があるのかは本人が地元県連と相談し、考える余地がある」などと述べ、追加公認に含みを持たせている。過去の衆院選で3連勝を許した細野氏らを相手に吉川氏は苦戦を余儀なくされそうだ。
ただでさえ、岸田派はベテランの竹本直一元科学技術担当相や宮腰光寛元沖縄北方担当相、三ツ矢憲生元外務副大臣が引退し、選挙前の46人から勢力を後退させている。首相も周囲に「相当気を引き締めないといけない」と危機感をあらわにしている。政権を安定軌道に乗せたい首相が足元の基盤をしっかり固められるかも衆院選の焦点となっている。

●野田元首相 岸田首相を厳しく批判「政治改革は後退し腐ったにおいがする」 10/20
立憲民主党の野田佳彦元首相(64)が20日、大阪・堺市内で衆院選(31日投開票)大阪16区に立候補した森山浩行氏(50)の応援に駆け付けた。
同区は長年、公明党と立民が議席を争ってきた激戦区。立民の枝野幸男代表が来阪し、森山氏と一緒に街頭演説をしたかと思えば、公明党副代表の北側一雄氏(68)のパーティーに、自民党の安倍晋三元首相が激励に訪れるなど公示前から火花を散らしている。
岸田文雄首相(64)とは同じ年で同期当選の野田氏は「政治改革は後退し、腐ったにおいがする。安倍内閣の農水相は大臣室で鶏卵業者から500万円受け取った。江戸時代じゃありませんよ。『卵屋、お主も悪よのぉ』『いえいえ、農水大臣ほどでは』。そんなやりとりを変えるのが岸田さんだったのではないか。幹事長は甘利さんで変えられるのか。大臣の時に建設業者からお金を受け取った人だ」と政治とカネの問題をバッサリ。「政権交代によって、よどんだ空気を変えたい。たまったウミを出してドブさらいをしなければいけない」と政権交代の必要性を訴えた。
野田氏はさらに、北朝鮮が前日、弾道ミサイル2発を発射した際に、首相と松野博一官房長官が官邸にいなかったことについて「総理大臣は福島。官房長官は千葉県にいて、『東アジアの安保情勢は厳しくなっている。緊張が必要だ』と言っていた。緊張が必要なのはあなたたちだ。危機管理の『き』の字もできていない」と非難。「責任感のない政治に決別するため、森山さんを支援いただきたい」と呼びかけた。
同区では森山氏、北側氏のほかに、「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」(NHK党)の西脇京子氏(49)が立候補している。 
 
 
 

 

●次の首相候補も東奔西走、岸田氏は公務優先 10/21
衆院選の各候補は街頭演説を盛り上げようと知名度の高い応援弁士を呼ぶ。自民党では9月の総裁選に出馬した河野太郎広報本部長、高市早苗政調会長らが公示前から東奔西走の日々を送っている。
河野氏は福岡、岡山、高市氏は長崎、新潟、埼玉各県などを遊説した。公示日は自らの選挙区に入った野田聖子こども政策担当相も、今後は全国を訪れる予定。
岸田文雄首相(自民党総裁)も各地で演説しているが、公務が優先だ。北朝鮮が新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射した19日には東北地方での遊説日程を一部取りやめ、東京にとんぼ返りした。
立憲民主党の枝野幸男代表や蓮舫代表代行らのほか、ベテランの野田佳彦元首相、岡田克也元副総理も応援弁士として各地で街頭に立っている。

●脱・環境後進国?COP26で問われる岸田首相の力量 10/21
新型コロナウイルス感染症のために1年延期されていた気候変動に関する国連会議COP26が、10月31日から11月12日まで2週間にわたり、イギリス・グラスゴーで開催される。地球温暖化対策の国際協定である「パリ協定」はすでに2020年から実施段階に入っており、COP26では脱炭素社会に向けて世界の取り組みを加速させるための具体策が話し合われる予定だ。
COP26で最も注目されているのは、2030年をターゲットとした世界各国の温室効果ガス削減目標(Nationally Determined Contribution:自国決定貢献、以下、NDC)をどれだけ引き上げられるかである。
というのもパリ協定の長期目標は「地球の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度以内、可能であれば1.5度に抑えること」だが、これまでにパリ協定を所管する国連気候変動枠組条約事務局に提出された各国の削減目標を積み上げても、1.5度はおろか、2度未満に抑えることすらかなわないからだ。そのため、グテーレス国連事務総長やCOP26ホスト国イギリスなどは、各国に削減目標の引き上げを強く促していた。
削減目標の引き上げが最大の焦点
その声に応えて日本は今年4月、「2030年度に26%削減」(2013年度比)という非常に低かった従来の目標を見直し、一気に46%削減へと引き上げるとともに、さらに50%の高みを目指すという方針を打ち出した。
これまで二酸化炭素(CO2)を大量に排出する「石炭火力発電に固執する環境後進国」と見られがちだった日本だが、これで一気に名誉挽回となるだろうか。結論を先に述べると、少なくともパリ協定へ至る国連交渉の中で長らく後ろ向きと評価されてきた立場を離れ、COP26では環境リーダー国側に並ぶことになるだろう。
早々と55%削減(1990年比)を打ち出したヨーロッパ連合(EU)や、バイデン政権の誕生によりパリ協定に復帰して50〜52%削減(2005年比)を約束したアメリカ、そしてCOP26ホスト国として2030年に68%削減(1990年比)、2035年に78%削減(同)という野心的な目標を打ち出しているイギリスなどと並んで、いまだに2030年目標を十分には引き上げていない中国などの新興工業国に削減を迫る正当性を得ることになる。
しかし懸念もある。条約事務局へ提出する国別削減目標NDCは、削減数値だけが問われるのではなく、いかに削減するかが記された具体的な政策・施策を提出することが義務付けられているためだ。その点では日本の政策には危うさがつきまとう。
日本では、温室効果ガス排出量の8割以上が石炭や石油といったエネルギー起源のCO2で占められている。つまり日本にとっては、温暖化対策とはイコール、エネルギー分野での削減策だ。
46%削減を実現するには、エネルギー分野における排出削減の実現可能性がカギとなるが、日本の2030年度に向けて策定された新たなエネルギー基本計画(第6次エネルギー基本計画)では疑問符がつく内容が散見される。
その筆頭が、最もCO2排出量の多い石炭火力発電の扱いだ。2030年度時点でも石炭火力発電は発電電力量のうち19%を占める。また、燃焼時にCO2を排出しないアンモニア燃料などを石炭と混ぜて燃焼させることにより、2050年にかけて石炭火力を使い続ける意思が示されている。しかも、福島原発事故を機に落ち込んだ原発については、現在のわずか6%程度から2030年度に20〜22%まで復元することを想定している。
このために必要になる原発の稼働基数は30基程度ともなる。現在の安全審査や再稼働に向けての状況からみても、その実現はほぼ不可能だろう。結果的に再び火力発電頼みになることも容易に想像できる。
石炭火力発電への風当たりは強い
欧米各国が見直しを進める中でも、日本は国内のみならず発展途上国でも石炭火力発電所の建設を進めてきた。グテーレス国連事務総長は名指しこそしなかったものの、「石炭中毒の国」という言葉で日本の姿勢を強く批判してきた。今年になって日本はようやく石炭火力発電設備の新規輸出を停止することを決めたため、この面では日本は批判を免れられるだろう。その一方で、国内の石炭火力発電を継続する方針に変わりはない。そのため、国際社会の非難の矛先が再び日本に向かうことも予想される。
COP26ホスト国イギリスのジョンソン首相は、COP26に先立って、各国に4つの具体策として(1)石炭火力発電の廃止、(2)ガソリン車の禁止、(3)発展途上国への資金約束を果たすこと、そして(4)植林の推進を呼びかけた。中でも石炭火力発電について、「先進国は2030年まで、途上国は2040年までに廃止すること」を迫っている。この呼びかけは特に日本に向けられていると言っても過言ではない。
国連会議では通常、各国の国内政策については内政干渉となるため触れることはない。しかし、パリ協定のNDCは削減の具体策を提出することが求められるために、ジョンソン首相はあえて踏み込んだとみられる。かくも石炭火力発電に国際社会の批判が向けられていることを肝に銘じて、日本はCOP26に臨まなくてはならない。
COP26を前に各国のNDCの提出状況を取りまとめた国連の報告書によると、7月30日までに削減目標を引き上げたり、新たに提出した国は113カ国。これらの国々は世界の温室効果ガス排出総量の約50%を占めており、2030年までに2010年比で12%の削減が公約されている。これは排出削減に向けての貴重な第一歩ではあるが、実は削減目標を引き上げていない国々も多い。それらの国を含めたすべての国のNDCを合算すると、2030年までに排出量が16%も増えてしまうという。
「1.5度目標」の達成には、2030年までに2010年比で45%程度の削減が必要であることから、現在のままでは目標から遠く離れている。このままでは2050年には平均気温が産業革命以前と比べて2.7度も上昇してしまうと、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は指摘している。
なぜ削減目標を足し合わせても、パリ協定が目指す姿とはかけ離れているのか。
もともと途上国のNDCは、開発が進んで大きく排出が増えるところを、努力してなるべく排出増を小さくする“排出低増加目標”の形が多い。しかもこれらは、先進国からの「資金と技術支援」を条件にしているところが多い。すなわちパリ協定で定められている資金援助と技術支援の実効性を伴うことが、排出量削減の成否を左右する。
しかし、これまでに2020年には途上国支援に関して先進国が年間1000億ドルの資金を振り向けることが決まっているにもかかわらず、OECD(経済協力開発機構)の報告では直近時点で796億ドルにとどまっている。
さらに2025年まで、先進国が年間1000億ドルの資金を振り向けることも取り決められているため、先進国がきちんと約束を果たすこともCOP26に課せられたアジェンダである。日本には資金面でも大きな貢献が求められている。
残された課題「パリ協定6条」問題
これまでの会合で積み残されてきた課題の解決も迫られている。パリ協定にもとづくルールの詳細はそのほとんどが決定しているが、「市場メカニズム」(協定第6条)や、削減を実施する期間の長さ、温室効果ガス排出量を算定・報告・検証するための詳細なルール作りなど、いくつかの課題が残されている。中でも重要なのが、過去の数次にわたる会合で決着できないままになっているパリ協定第6条に関するルールの取り決めだ。
パリ協定第6条とは、CO2の排出枠を「クレジット」として市場で取引する仕組みが主で、2国間で取引するもの(6条2項)と、国連主導型で取引するもの(6条4項)の2つがある。日本が途上国との間で進めている2国間クレジット制度(日本と対象国の2国間で削減プロジェクトを実施し、CO2削減量を2国間で分け合う制度)もこの中に含まれることになるため、日本としてもぜひ合意にこぎ着けたいところである。
しかし課題は多い。日本国内では、排出量を全国規模で取引する制度が存在しない。そのため、「炭素の価格」(炭素排出に伴うコストの相場)がいまだに存在しない。
パリ協定のルールがすべて定められたあかつきには、国際的にも共通の排出枠の取引市場が整うことになる。その際、日本国内に排出枠を取引できる仕組みがなければ、新たに生まれる世界的な排出枠取引において後れを取ることは必定だ。
菅義偉前首相は、2050年のカーボンニュートラル(脱炭素化)、そして2030年の温室効果ガス46%削減、さらに50%の高みを目指すというこれまでになく踏み込んだ目標を打ち出し、環境後進国のレッテルを貼られた日本を排出削減競争のスタートラインに立たせた。一方でどのように削減目標を達成するかについては、今ひとつ踏み込めないままであった。
岸田新政権には、日本が真に2050年に脱炭素化、その途上として2030年に少なくとも46%削減を確実にする具体的な国内政策の実施を期待したい。まずはCOP26に首相が参加して、世界のリーダーたちの脱炭素化へ向ける熱意を肌身で感じてもらい、産業界の国際競争力の源泉となる国内の温暖化対策の実施に向けて尽力してほしい。
脱炭素化へ向けて実効性のあるエネルギー計画、そして長年の懸案である排出量取引制度や炭素税などカーボンプライシング導入・強化をはかることが急務だ。そのことこそ、パリ協定が実行に移される時代において、日本の産業界が世界の投資家から評価を受けることにつながり、日本企業の成長の後押しになる。日本の新首相のリーダーシップが問われている。

●岸田首相、枝野代表から完全論破。党首討論で露呈した「読む力」不足 10/21
先日の「早くも失望。岸田首相、話は『聞く』が行動の伴う『効く』には至らぬ限界」等の記事でも指摘されている通り、就任から1ヶ月も経たずして疑問符が投げかけられている、岸田文雄氏の首相としての能力。先日行われた党首討論でもその限界が露呈してしまったようです。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、討論の席上で受けた質問に対し、曖昧な抽象論を答えるばかりの首相が批判的に語られたラジオ番組の内容を紹介。さらに立憲民主党の枝野代表に対して首相が行った「事実誤認に基づく質問」を取り上げ、「聞く力」を売りにする岸田氏の「読む力」に疑いを向けています。
10月19日の衆院選公示日の前日18日、日本記者クラブ主催の「党首討論会」が行なわれ、与野党9党の党首が舌戦を繰り広げました。テレビ局各社がYouTubeなどで無料のライブ配信をしてくれたので、自宅にテレビがないあたしもリアルタイムで見ることができました。感想としては「めっちゃ面白かった!」の一言です。何がそんなに面白かったのかと言うと、自民党の岸田文雄総裁のポンコツぶりがハンパなかった点です。あたしは何度も噴き出しながら見ていたのですが、翌朝のTBSラジオ『スタンバイ!』でも、森本毅郎さんと火曜レギュラーの経済記者、酒井綱一郎さんが、さっそくツッコミを炸裂させていました。
森本さん 「(昨日の党首討論は)各党がそれぞれ自分の党の特色を出そうとしてましたが、何か岸田さんが一番曖昧になっちゃったかな?」
酒井さん 「そうですね。岸田さんは曖昧な部分とはっきりしている部分が出ましたね。まず分配について、皆さん具体的に話しているのに、岸田さんだけは具体的に言ってないんですよ。財源についても野党ははっきり言いましたね。たとえば立憲民主は『大企業の法人税の強化』を財源にする。資本金100億円超の大企業の法人税の負担が、資本金1,000万円以下の中小企業よりも軽いのは不公平だと。これが立憲の主張なのですが、岸田さんは法人税の加税については具体的な話をしなかったんですよ」
森本さん 「そうですか」
酒井さん 「岸田さんが何と言ったかというと『経済全体の活力もしっかり考え合わせた上で具体的な有様を考えて行く』という表現をされたのですが、いろんなところでこの表現が出て来るんですよね。岸田さんは『考えて行く』とか『しっかり考る』とかばかりなんですよ。いやいや、今日から選挙ですから!って言いたかったです(笑)」
森本さん 「考えてる場合じゃないんですよね。ちゃんと具体的な政策を出してくださいよ!って感じですよね」
酒井さん 「消費税についても野党ははっきり言いました。立憲、共産、維新、れいわ、社民は、それぞれ具体的に財源を示した上で減税を主張しました。しかし岸田さんは『消費税を触ることは考えるべきではない』という主張のみで終わってしまいました」
森本さん 「まあ、そういう歯切れの悪い岸田さんですが、憲法改正だけは元気良かったですね!(笑)」
酒井さん 「そうなんですよ、憲法改正だけは。改憲を国民投票にかける覚悟を問われると、急に歯切れが良くなって『もちろんです!』とすぐに答えてました。国会では、どなたかが『安倍総理が乗り移ったんですか?』と聞いていましたが、ここでもそんな雰囲気を漂わせていました(笑)」
森本さん 「選択的夫婦別姓を導入する法案、これについては?」
酒井さん 「この時はですね、LGBTの理解増進法案も含めて会場から聞かれ、賛成は挙手だったのですが、8党の党首が手を挙げたのに、岸田さんは挙げなかった。つまり、賛成しなかったということなります」
森本さん 「そういうことですね」
酒井さん 「それで岸田さんが何と言ったのかというと…」
森本さん 「ここでも『しっかり考えて行く』ですか?」
酒井さん 「もう、先に言わないでくださいよ!(笑)」
森本さん 「あははははは!」
酒井さん 「僕が言うんだから…」
森本さん 「そっか、あははははは!」
酒井さん 「『多くの国民がどこまで意識が進んでいるのか、しっかり考えて行くことが重要なポイントだ』って、森本さん、先に言っちゃだめだよ」
森本さん 「(岸田さんの言うことは)だいたい分かっちゃうから、あははははは!それにしても、この岸田さんの文言はどうなんですかね?いっつも曖昧な抽象論にしてしまって…」
…そんなわけで、党首討論は、各党党首が誰か1人を指名して質問し、その回答を受けて短くコメントするという一往復半のやり取りを1人2回、いつもの方式で進められました。今回は9党なので、計18のやり取りが行なわれたのですが、当然のことながら、自民党以外の党首からの質問、計16問のうち、12問が岸田総裁に集中しました。しかし、岸田総裁は、その大半の質問にきちんと具体的に答えることができず、森本毅郎さんの言う「曖昧な抽象論」で逃げ回っていました。たとえば、野党各党が財源を示した上で金額や時期などを具体的に述べている国民への一時給付金について、自民党の岸田総裁だけが具体性ゼロのぼんやりしたことしか言っていないのです。討論では国民民主党の玉木雄一郎代表が具体的な給付時期などを質問したのですが、岸田総裁は全く答えられませんでした。社民党の福島瑞穂党首は、岸田総裁に4つの質問をしたのですが、その2つめが「自民党総裁選では金融資産加税を行なうと言っていたのに、総裁になったとたんに言わなくなったのは何故か」という痛いところを突く質問でした。すると、岸田総裁は、1つめと3つめと4つめの質問に曖昧に答えただけで、2つめの質問をスルーしたのです。見ているこちらが赤面してしまうほどの恥ずかしい場面でした。
しかし、何よりも恥ずかしかったのは、岸田総裁から野党への質問でした。岸田総裁は立憲民主党の枝野幸男代表に対して、消費税について質問したのですが、一字一句そのまま書き起こしましたので、ぜひお読みください。
自民党・岸田文雄総裁 「先ほど共産党の志位さんの方から消費税の質問が出ましたが、これ確か、立憲民主党は1年限り消費税5%に引き下げるということを言っておられたと思います。そうしますと、1年後には消費税を増税することになります。これだけ短いスパンで減税増税を繰り返すということになりますと、先ほども少し申し上げました、買い控え、あるいは消費減退、こうした副作用がますます大きくなってしまうのではないか、こういった点についてどうお考えなのか」
立憲民主党・枝野幸男代表 「公表されて、正式に発表していますので、お間違いいただかない方がいいと思うのですが、われわれが『1年間の時限』と言っているのは、所得税についての減税です。消費税については、当たり前の日常が取り戻されて、飲食とか観光とか文化イベントなどに、通常に近い一定の消費ができる可能性が出て来た状況、その状況をある程度は継続させなければならないので、おそらく2年間傷んでいると、現状から回復できるとしても、少なくとも3年から5年程度、そうしたところへ対する消費を誘導しなければならない。そのための家計を支えるということなので、1年では全くありません」
皆さん、これどう思います?岸田総裁は、すでに正式に発表されている立憲民主党の公約を全く読んでおらず、「党首討論会」の前に公約を確認することもせず、自分の「うろ覚え」の記憶だけでトンチンカンな質問をしたのです。未だかつて、こんなポンコツは見たことがありません。つーか、この人って「聞く力」はあっても「読む力」はないのでしょうか?
第二次世界大戦での日本の降伏について、ポツダム宣言も読まずに時系列を無視したトンチンカンな自論を展開した安倍晋三元総裁にも呆れましたが、立憲民主党の公約も読まずに立憲民主党の政策を批判する岸田総裁にも開いた口がふさがりません。そして、そんな岸田総裁は、バカのひとつ覚えのように「成長と分配の好循環を実現する」と繰り返していますが、どのような政策をどのような財源で行ない、いつまでに実現するのかを全く述べません。アベスガ政権が10年かけても実現できなかった目標を掲げたのですから、具体性ゼロでは話になりません。どうして自民党って、こんなポンコツばかりなのでしょうか?

●岸田首相 地元遊説のウラでNHK党候補の“凸撃計画”あった! 10/21
衆院選(31日投開票)2日目となった20日、自民党の岸田文雄首相(64)は就任後初めて地元・広島入りし、応援行脚した。前日の公示直後、北朝鮮がミサイル発射すれば、この日は熊本・阿蘇山が噴火。外圧と自然災害に見舞われ、野党からは危機管理対応を批判され、踏んだり蹴ったりの中、地元凱旋でも野党候補から突撃未遂≠ウれる騒動があった――。
岸田首相はこの日、午前中から兵庫県内を遊説したが、阪急伊丹駅前で街頭演説していた午前11時43分に阿蘇山が噴火。直後に松野博一官房長官に、人命第一に対応するよう指示した。さらに自身のツイッターで「周辺地域の皆さん、最新情報に注意し、警戒をお願いします」と呼びかけ、「官邸に『情報連絡室』を設置し、情報収集をしています。状況に変化があれば随時報告が入る体制を取っています」などと投稿した。
危機管理をめぐっては、前日の公示直後に北朝鮮が弾道ミサイル2発を発射。岸田首相は東北遊説中で、松野官房長官も官邸に不在で、野党から「危機管理対応がなっていない」と批判を浴びたばかりだ。
噴火は不可抗力とはいえ、この日も立民の枝野幸男代表や蓮舫代表代行には、政府対応が後手に回っていることや防災相の人事にかみつかれた。
前日は東北遊説を取りやめて帰京した岸田首相だが、この日はそのまま予定続行で、広島に入った。首相就任してから初となる帰郷だけでなく、大型買収で公選法違反罪に問われた元法相の河井克行被告の事件で、改めておわびする必要があったからだ。
広島入りして最初の演説地となったJR横川駅前で待ち受けていたのは、広島3区からNHK党公認で立候補したビジュアル系バンド「ジャックケイパー」のYG(やじ)こと矢島秀平氏(29)だ。同じくバンドメンバーの李九(りく)こと井田恵介氏(30)とともに岸田首相にある凸計画≠練っていた。
自民党で相次ぐ政治とカネの問題に対して声を上げていた2人だけに、怒りの抗議文になるかと思いきや、首相が菅義偉氏から岸田氏に代わったことで、変化があったという。
矢島氏は「自民党は好きじゃないが、岸田首相には期待している。手紙を渡そうと思って、NHK党が中国比例ブロックでの得票率が2%超えたあかつきには、ぜひNHKのスクランブル化を検討してもらいたい旨を書いた。また、もし自分が当選したならば、首相指名では岸田さんに入れるとも書いた。まあ、自分自身の決意表明と岸田さんへの愛の告白文みたいなものです」と話す。
ただ矢島氏は前頭部から頭頂部をそりあげた落ち武者ヘアで、鼻や口にはピアス姿。この日は「NHKをぶっ壊す」がプリントされたTシャツを着用し、SPからは警戒された。直談判しようものなら揉める恐れもあったが、意外にも岸田首相の方が聴衆の方へ駆け寄り、グータッチで触れ合い始めた。
これはチャンスとばかりに矢島氏は群衆をかき分け、岸田首相の前に立ったが「岸田さんがグーできたので、思わずグーで返した。ちょっと興奮しちゃいましたね」(矢島氏)。そのせいで手紙は渡しそびれてしまったという。
続くJR緑井駅での街頭演説会も矢島氏は押しかけたが警備が厳しく、近寄ることができず。結局、時の首相に直談判する千載一遇のチャンスをふいにした。
井田氏は「グータッチしている場合じゃない。YGは肝心なところが抜けていて…」と肩を落としたが、矢島氏は「岸田さんはみんなの意見に耳を傾けるというので、手紙はぜひ事務所の方に届けたい。岸田さんへ約束を実行するためにも選挙では自分たちの政策を訴えたい」と誓った。

●岸田政権が長期政権になる為に必要なこと 10/21
10月31日に投開票される衆議院選挙が、19日に公示された。各種世論調査によれば、早期解散を決めた岸田文雄新首相の支持率はほどほどの高さとなっており、連立与党が大きく議席を失うリスクは限定的だろう。岸田首相率いる与党は安倍・菅政権が残したレガシーを活かせる立場にある。菅政権が進めたワクチン接種政策の恩恵もあり、10月に入って新型コロナ患者数が劇的に減っていることが大きな追い風になるとみられる。
一方、共産党との共闘体勢を強めてきた野党第一党である立憲民主党への国民の支持率はほとんど高まっていない。立憲民主党を支持してきた主要労働組合の一部が、同党への支持姿勢を弱める動きもみられている。更に、共産党と距離がある維新の党と国民民主党が一定の存在感を保っており、自民・公明の連立与党を覆す大きな風が野党に吹く可能性は低いだろう。
日経平均株価は8営業日連続で下落した
岸田政権がどの程度議席を積み上げることができて、党内基盤が強まり、長期政権に繋げられるかどうかの最初の試金石になる、というのが今回の総選挙の主たる位置付けになりそうである。
自民党が総選挙で大きく勝利すれば、日本株市場の追い風になるとの見方もある。2005年小泉政権時のいわゆる郵政解散、2012年末の第2次安倍政権への政権交代時には、総選挙をきっかけに日本株市場が大きく上昇した。一方、2009年の総選挙では、自民党政権に逆風が吹いたことで民主党が大勝して政権交代が起きたが、民主党政権は経済政策運営に失敗して、日本経済はデフレに苦しみ日本株は2009年半ばから約3年に渡り停滞した。言うまでもないが、総選挙がきっかけで株高が起きるかどうかは、時の政権がどのような経済政策を行うかどうか次第とみている。
「分配なくして次の成長なし」と明言して、「新自由主義的な政策」に批判的な姿勢をみせる岸田氏が首相となった日を挟んで、日経平均株価は8営業日連続で下落した。この時期の株安の半分以上は米国株の下落で説明できるだろうが、株式投資家の多くは、岸田政権に対して期待よりも、やや警戒感の方が強いとみられる。
日米相対株価(TOPIX/S&P500)を見ると、同指数は、菅前首相の事実上の辞任表明直前の8月末から大きく上昇した後、岸田首相誕生によって上昇した分の約半分が失われた。ただ、8月末対比では日米相対株価は上昇したままなので、今後の岸田政権の政策運営や政治情勢に対する期待が崩れているわけではない。
金融市場の関係者は所信表明演説に批判的だった
株式市場などから評判が悪い、金融所得課税強化について岸田首相は「当面は触らない」と述べた。これについて、岸田首相が軌道修正したとの向きもあるが、元々、増税については長期的かつ柔軟に考える方針だったのが実情だと筆者は考えている。また、自民党の総選挙の公約などを踏まえれば、連立与党が政権維持した場合の新政権は、コロナ克服と経済正常化を最優先にする菅政権とほぼ変わらない政策を当面続けるだろう。日本経済の先行きは、コロナ抑制が続き経済再開が続くかどうか次第である。
また、8日に行われた岸田首相の所信表明演説に対して、金融市場の関係者などから批判的に評価されているが、演説における経済政策の言及で筆者は安心感を覚えた。なぜなら、経済政策の部分については、まず金融財政政策について言及しており、安倍・菅政権同様の政策を踏襲する姿勢が確認されたからである。
自民党議員の中でも意見が分かれている財政政策については、経済をしっかり立て直しそして財政健全化に取り組むという、政策の優先順位は明確になっている。既に自民党総裁選の時にも、岸田氏は、消費増税を10年程度考えないと述べており、かつては財政健全化を重視していた同氏の考えは柔軟になっているとみられる。つまり、現行の方針通りの経済政策(事実上のアベノミクス)を今後徹底すれば、岸田政権は安倍政権同様の成果を果たし来年以降も日本の政治情勢は安定化する、これが筆者が想定している第1のシナリオである。
一方、岸田首相は「人の言う事を聞く」姿勢をアピールしているが、これは金融所得課税などの増税を考える条件や時期について、ご自身には確固たる考えがないとも言えるので、無視できない懸念要因である。この判断の際に、安倍政権以前までに、経済政策を事実上運営してきた経済官僚の考えを採用する展開となれば、経済政策について当事者能力を失っていたかにみえた民主党政権同様に、早期の増税や緊縮財政政策への転換が始まる。そして、経済政策運営の失敗によって岸田政権が短期政権に終わる、これが第2のシナリオである。
つまり、岸田政権にとって重要なのは、2012年末に安倍政権が始めた経済政策運営の徹底できれば進化させられるかどうかである。岸田首相は所得格差の是正を問題にしているが、所得格差を示す相対貧困率やジニ係数は第2次安倍政権下において低下している。経済政策の失敗が招いたデフレと経済停滞によって、雇用環境が不安定な低所得家計が苦境に陥ったことが、日本の所得格差をもたらした大きな要因だったのである。このため、2%インフレ安定を伴う経済正常化を実現する過程で、日本の所得格差が更に縮小する余地があることを岸田首相がしっかり理解するのであれば、第1のシナリオが実現する可能性が高まるだろう。
官邸ブレーンの経済政策に対する姿勢は悪くない
今後、2022年になってからの個々の政策運営によって、上記のシナリオのどちらが実現するかを、徐々に判断できるようになるだろうが、上記の2つのシナリオの生起確率はほぼ5分5分と筆者は現時点で想定している。自民党総裁選挙の時点では、第2のシナリオの可能性がやや高いと筆者は見ていたが、岸田氏の所信表明演説を踏まえると、官邸ブレーンの経済政策に対する姿勢は予想外に悪くない。
更に、拡張的な財政政策を主張する高市早苗氏が政調会長となり、そして従来から経済・安全保障政策に力を入れていた甘利明氏と懇意な自民党政治家が内閣において経済・安全保障を担当する体制になっている。こうした、自民党の情勢をみると、経済成長を重視するマクロ安定化政策を修正する政治的な動きは大きくはならないとみられる。
今月末の総選挙で連立与党が安定多数の議席を保ち、自民党の権力構造が大きく変わらないという前提に立つと 2022年半ばまでは、第1、第2のシナリオのどちらが実現するについて、金融市場の期待は揺れ動くと予想される。こうした状況では、日本株市場のパフォーマンスは、米国株とほぼ同様のリターンしか期待できないだろう。

●韓国に二度煮え湯を飲まされた岸田首相が韓国に対してすべきこと 10/21
2015年の慰安婦合意と「明治日本の産業革命遺産」のユネスコ世界遺産登録に外相として対処した岸田首相。だが、慰安婦合意は破棄され、ユネスコ世界遺産登録でも、朝鮮人の徵用を表す「forced to work」という言葉が公式文書に残されるとともに、朝鮮人の徵用を知らせるインフォメーションセンター設置を推進することを強いられた。首相になった岸田氏は韓国とどう向き合えばいいのか──。韓国における保守派論客として知られるファンドビルダー氏(コラムニスト)の論考。
明治時代の産業遺産と朝鮮人の徴用は時期的に無関係 
岸田文雄首相は、「明治日本の産業革命遺産」のユネスコ世界遺産登録と日韓慰安婦問題合意の二度、韓国と直面した。いずれも2015年で、当時外相だった岸田文雄総理が交渉を推進した。
「明治日本の産業革命遺産」は、幕末期から明治時代の重工業の発展を導いた造船所や炭鉱など23資産がユネスコ世界遺産に登録されている。
2013年9月17日、日本政府が「ユネスコ世界遺産登録」を推進する方針を公式発表すると、韓国は反対運動を本格的に展開し始めた。韓国メディアは「朝鮮人を強制徵用した炭鉱が世界文化遺産」「厚かましい日本、韓国人徵用の現場を世界遺産に推進」「日帝強制徵用の象徵『地獄島』、ユネスコ登録推進」などのタイトルで報道し、反日感情を煽った。
韓国政府は日本政府に対して登録推進の撤回を公式要求した。韓国の反日団体は「日本の登録を防ぐため、国際的活動を大体的に広げる」と述べた。ニューヨークの韓国人PTA団体も、「日本の登録に反対する書簡をユネスコに伝える活動を展開する」と主張している。
明治時代は1868年から1912年で、朝鮮人の徵用はずっと後の1944年9月から1945年8月までの1年間だ。韓国側は1年に過ぎない朝鮮人の徵用がまるで1868年から1912年まで長期にわたって実施されたかのように主張したが、妥当性はない。明治産業革命と朝鮮人の徵用は時期的に見ても、因果関係はまったくない。
論理的な大義名分がないにもかかわらず、韓国はひたすら「朝鮮人強制徴用の『恨』がある場所」という自己中心的な感情を出した。地球上のあらゆる国が行ってきた合法的な徴用を日本だけが法を犯したかのように言い続け、「強制徴用」「強制動員」という表現にこだわった。ユネスコの登録が間近に迫ると「強制労働」という表現を新たに持ち出し、国際社会に向けた反日プロパガンダ活動に拍車をかけた。
問題終結のための「河野談話」が拡大再生産の根拠になった皮肉
当時の尹炳世韓国外交部長官は、ユネスコ世界遺産の議長国だったドイツと委員国の一つだったクロアチアを訪問し、日本のユネスコ世界遺産登録に反対するよう公式に要請した。韓国の全方位的反日攻勢に歩調を合わせ、反日運動家の代表とも言えるマイク・ホンダ氏など米国の下院議員数人も、世界遺産の登録に反対する書簡をユネスコ本部に発送した。
そして、明治産業革命遺産のユネスコ世界遺産登録が確実視されるようになると、韓国は戦略を変えた。登録するなら、朝鮮人に対する強制徵用をユネスコの公式記録に残して広く知らせるべきだと言い出したのだ。
韓国が主張した強制徵用を表現する文書化案を日本は拒絶した。両国が対立する中、ユネスコ世界遺産議長国のドイツは日韓両国に妥協するよう申し入れた。
両国の対立の余波で、2015年7月4日に予定されていた明治産業革命遺産に関するユネスコ世界遺産登録の審査は保留となり、世界遺産委員21か国の票決で登録可否を決める状況になった。票決は3分の2以上の賛成で登録が許諾される。
この時、票決を負担に感じた日本は韓国と妥協した。明治産業革命遺産に関するユネスコの公式文書に朝鮮人の徵用を表す「forced to work」が含まれたのだ。併せて、朝鮮人の徵用を知らせるインフォメーションセンター設置を推進することも決定した。
この結果を受けて、韓国メディアは「日本、世界遺産における強制徴用の反映に事実上合意」「韓国政府の持続的圧迫外交に日本、登録霧散の危機を反映して妥協」など、日本との対決に勝利したことを意味する報道を行った。
明治産業革命遺産の世界遺産登録を巡る日韓の妥協は、既視感が強い。1993年の日韓慰安婦問題の妥協と似ている。1993年の妥協の産物は「河野談話」だ。
談話の中に「強制連行」という表現はないが、強制連行があったかのような誤解を十分に生み出す内容となっている。ユネスコ世界遺産登録の産物である「forced to work」も同じだ。「強制労働」を意味する「forced work(forced labor)」とは異なるが、強制労働があったかのような誤解を招く状況を強く漂わせている。
慰安婦問題の解決を期待して誕生した「河野談話」は、問題を終結させるどころか、慰安婦問題を拡大・再生産する根拠として悪用された。「ユネスコ妥協」も同様に終結ではなく、問題を拡大・再生産する根拠として悪用された。
反日プロパガンダの根拠となりかねないユネスコ決議文
2021年7月12日、韓国言論は一斉に「日本、五輪を控えて公開亡身」「ユネスコ、軍艦島歪曲に警告」などのタイトルで、ユネスコが日本政府に対して強い遺憾を盛り込んだ決議文を出したと報道した。ユネスコの日本に対する決議文の主な内容は次の資料の通りである。
このようなユネスコ決議文が出されたのは、韓国政府と韓国人がユネスコに対して、「登録取消の可能性を包含し、日本が約束を履行する措置を取ってほしい」と執拗な抗議を提起し続けたからだ。
韓国のユネスコに対する攻勢は、日本が決議を履行するまで続くだろう。日本は朝鮮人徴用と時期的にも何の因果関係もない明治産業革命遺産が、まるで朝鮮人強制労働の温床でもあるかのように広報すべきだと圧迫を受けることになったのだ。
「河野談話」という妥協が慰安婦問題を終結させるどころか、新たな悪循環の出発点となった前轍を踏む形となった。
世界を席巻した韓国の反日プロパガンダ
韓国人らは世界に向けた「河野談話」を根拠とする反日プロパガンダに本格的に邁進した。米裁判所で損害賠償を要求し、国連で反日活動を展開し、日本を糾弾するクマラスワミ報告書の発刊を導いた。
米国の連邦議会や州議会にも影響力を行使して、日本糾弾決議案が洪水のように溢れ出た。また韓国人らは2011年、韓国憲法裁判所から「韓国政府が日本に向かって慰安婦関連措置を要求しないことは違憲」という判決を引き出した。
李明博大統領と朴槿恵大統領は韓国憲法裁判所の判決に従って、日本に「謝罪と補償」を求める強い攻勢を行った。朴槿恵大統領は世界主要国を巡訪した際、日本を非難するいわゆる告げ口外交に熱を上げ、国連などの国際機関は、韓国人による反日プロパガンダの舞台として愛用された。
フランスの国際漫画祭のような純粋な芸術行事も、韓国人による反日プロパガンダの場として汚染された。併せて慰安婦像という「日本に恥をかかせる銅像」が世界の主要国に登場し始めた。  
 

 

●麻生太郎氏 立民・菅直人氏の選挙区に殴り込み 10/22
自民党の麻生太郎副総裁(81)は衆院選(31日投開票)で22日、東京・府中駅フォーリス前で、東京18区(府中市、小金井市、武蔵野市)から立候補した長島昭久元防衛副大臣(59)を応援した。
同選挙区は長島氏と14回目の当選を目指す立憲民主党・菅直人元首相(75)による事実上の一騎打ち。この日、菅氏はJR武蔵小金井駅前の街頭演説会で元文部科学省事務次官の前川喜平氏(66)から熱い応援を受けている。
自民党は同選挙区を衆院選の重点選挙区と位置づけ「絶対に落とせない」と強気の姿勢で挑み、長島氏の応援に菅義偉前首相(72)に続いて、麻生氏を投入した。
麻生氏は時折激しい雨が降りしきる中、聴衆の前で、立民が選挙前、共産党と「限定的な閣外からの協力」に合意したニュースに触れ、こう批判した。
「いま立憲は立憲共産党=Aそういうイメージになっちゃっている。いや、これは事実でしょうね。我々は立憲と戦っている。衆院選は政権選択の選挙です。みなさんこれを頭に入れておいてくださいね」
自民党は菅氏のおひざ元の選挙区で必勝をきたすため今後、小泉進次郎氏(40)、安倍晋三元首相(67)、選挙戦中終盤に岸田文雄首相(64)の投入を予定している。

●岸田首相、泊まり遊説取りやめ=政府の危機管理、自民不満 10/22
岸田文雄首相は24、25両日に予定する衆院選の遊説について、一泊二日の日程を日帰りに変更した。
政府による最近の危機管理に、自民党内から「全然駄目だ」などと不満が出ていることに配慮したとみられる。複数の関係者が22日、明らかにした。
首相は24日に大阪入り。公明党候補の支持拡大に向け、同党の山口那津男代表とそろい踏みで街頭演説する。翌25日も関西地方で遊説するため、当初は現地泊を予定していた。
これをキャンセルし、24日夜にいったん帰京、25日朝に再び大阪へ向かう。自民党関係者は「危機管理重視」と理由を説明するが、直前の日程変更は右往左往する印象を与えかねない。
20日の熊本県・阿蘇山の噴火でも、政府の対応は一貫性を欠いた。首相が第一報を受けた時間について、磯崎仁彦官房副長官は21日の記者会見で回答を拒否したが、翌22日の会見では一転して「午前11時58分」と発表。「国民にしっかりと説明するため、時間を明らかにすべきだと考えた」と釈明した。
政府の危機管理をめぐっては、衆院選公示日の19日、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した際、首相と松野博一官房長官がいずれも東京都を離れていたため、野党の批判を浴びた。
発射時、福島市で遊説中だった首相は、そのまま新幹線で北上して仙台市を訪問。そこで選挙日程を打ち切ったが、自民党内から「なぜ福島だけですぐ戻らなかったのか」(関係者)と判断を疑問視する声が上がっていた。

●枝野代表を徹底マーク 安倍元首相が枝野氏地元埼玉5区で応援 10/22
自民党の安倍晋三元首相が21日、立憲民主党の枝野幸男代表の地盤埼玉5区に出馬している自民党の牧原秀樹氏の応援演説を行った。JR大宮駅近くで演説した安倍氏は、安倍政権で経産副大臣も務めた牧原氏について「(05年当時)経済産業省で弁護士として、国際的な交渉を担当していた」と説明し、「政治の場で国益を守って日本を豊かにしたいと、一番難しい選挙区に勇気を持って手を挙げてくれた」と持ち上げた。
牧原氏は05年から枝野氏に5連敗中で比例当選が続いており、選挙区での勝利が悲願。安倍氏は「私たちは立憲民主党と共産党に負けるわけにはいかないんです。この組み合わせに負けたら、日本はあの悪夢のような時代に逆戻りしてしまいます」と支持を訴えた。
安倍氏と共に応援に立った西村康稔前経済再生担当相は、牧原氏を「私の弟分のような存在」と紹介。枝野氏ら野党共闘の政策について「耳触りのいいことばかり言います。皆さん惑わされないでください」と訴えた。自民党は22日は菅義偉前首相、24日は小泉進次郎前環境相、29日は河野太郎前行革相が応援に入る予定で、枝野氏を徹底マークする。
一方の枝野氏は、自身の選挙区に入れる日はほとんどない。23日に大宮で開く「#立憲大作戦」と称した埼玉県の立民候補者合同の演説会に参加するだけで「自分の選挙のために選挙区入りする予定はない」(関係者)といい、本人不在の穴は県議、市議らが地元を回ってしのぐ。包囲された枝野氏だが、289小選挙区の約半数で事実上の与野党一騎打ちを実現した野党共闘で1つでも多くの議席を獲得すべく、全国の野党統一候補の応援を続ける。

●岸田首相の経済政策が、「どんどんうやむや」になっていく事情とは? 10/22
首相就任から約1週間で主張を変更 岸田首相の経済政策が「うやむや」になっている?
10月4日の夜、岸田文雄首相が就任初の会見で強調したのは、「分配なくして成長なし」でした。直後に「分配」がトレンドワードとなったはずなのですが、それがその後、どうもうやむやになっていきます。
まず新聞が世論調査をしたところ、国民の多くは分配よりも成長を重視していることが判明しました。日本経済が成長していないのにバラマキではたまらないなどという声も聞かれました。すると、初会見の2日後である10月6日には松野博一官房長官が、成長と分配は車の両輪であると説明しました。それ以降、政策のキャッチフレーズも当初とは順序が逆の「成長と分配」で固定されるようになります。
総裁選の頃、岸田氏は「成長は大事だが分配も考えないと日本はおかしくなってしまう」と持論を展開して、具体策として富裕層優遇につながっている金融所得への税率20%の引き上げを示唆してきました。岸田首相は、金融増税を決断して中間層復活への分配財源にする気だと、国民は受け取ったはずです。
ところが、岸田氏は首相就任からわずか1週間ほどの10月10日には、金融所得増税については一転して、「当面は触るということは考えていない」と主張を変更しました。
総選挙が始まる中、このような変更で岸田新首相の経済政策は何が核なのかが、よく見えなくなってきています。いったいなぜ、そんなことが起きているのでしょうか? 岸田首相の主張をめぐる謎を解明してみたいと思います。
選挙の争点は「消費税」と「コロナ給付金」 与党は具体策にブレーキか
今回の総選挙は、直前の菅前政権が支持率を大きく下げてきた経緯から、自民党が大きく議席数を減らすのは確実だとみられています。メディアが報じる勝ち負けのラインとして、現有議席284と総議席の6割強を占めてきた自民党が、今回の選挙で232議席以下、つまり単独過半数を割れば与党の敗北。逆に233議席以上で踏みとどまれば野党の敗北だと言われています。
選挙の争点として国民が注視しているのがこの「分配」に関係する各党の政策で、具体的には2年前の19年10月に10%に増税されて以来、庶民の負担となっている消費税と、コロナで苦しくなった懐に対する給付金の二つの政策が注目されています。
共闘する野党の公約は、消費税については各党でばらつきはあるものの、おおむね「5%に戻す」が基本線で、下げないといっている党はありません。一方でこれは与党なので仕方ないとは思いますが、岸田首相の主張は「消費税率は変えない」です。
給付金については、野党は「低所得者に10万〜20万円」ないしは「一律10万円以上」という主張が目立ちます。これに対し与党の公明党は、年齢で区切って、「高校生以下の若い世代に一律10万円」と主張しています。そして岸田政権は「現金給付の方向で検討する」というだけで、具体的な金額や分配ルールについては一切述べていません。もっとも公明党の案に対して「反対しない」と述べていらっしゃるので、政府としては公明党案に収束していくのかもしれません。
つまり、興味深いことに野党の方が弱者に対する分配を重視している一方で、岸田首相は分配と成長につながる具体的な政策についてはおおむねブレーキを踏んでいるわけです。
蛇足ながら解説すれば、5%の消費減税は実質的に物価が5%下がることになるため、経済成長につながります。そしてコロナ禍で所得が減少した層に対しては、消費減税分が分配に相当します。たとえば年収200万円程度で生活している人が、10%の消費税を年間約20万円払っている場合、消費税が半分の5%に減れば、手元に10万円残ります。これは、10万円が現金で国から分配されるのと一緒だからです。
そこに、野党案ならさらに10万円の給付金が加算されます。一方で与党案だと、たとえコロナ禍で収入が減った人でも、20代で独身ならば基本的に手が差し伸べられないわけです。
岸田首相の主張が 「どんどん抽象化」している事情
そもそも今回は政権交代は難しいと想定される中なので、実現可能性を突き詰めなくてもいいという意味で、野党案の方が魅力的に映るのは仕方ないかもしれませんが、むしろ注目すべきは“岸田首相の主張がどんどん抽象化していく”という現象です。
現在の選挙戦で岸田氏は「新しい資本主義」を掲げ、前政権との違いについては「聞く力」を全面に押し出してアピールしている様子です。しかし、何をするのか具体案を示す場になると口をつぐむかトーンダウンしてしまう。ここが秘密解明のポイントで、要するに岸田政権は具体案を口にできないというメカニズムが見え隠れしています。
岸田首相は、自民党の名門派閥である宏池会のトップでもあります。この宏池会が名門と呼ばれるゆえんは、歴代トップが政策通だとされてきたことです。ところが宏池会に対しては悪口もあって、要するに公家集団であって政争には弱いというわけです。
自民党の本質は数と腕力です。実力者と言われる有力政治家は、腕力で党内の声を抑え込むことができる。一方で、弱い立場の与党政治家たちはお互いに結束することで数を確保することで対抗してきました。今回誕生した岸田政権は後者の出自です。
そして数を頼りに総裁選を勝ち上がるプロセスでは、当然のことながら貸し借りで党員の支持を借りまくる必要が出てきます。だから政権を握った段階で、返さなければならない借りが山のように存在する。これは、日本に限らず西側諸国の政治家のリアルです。
自民党の派閥内で見え隠れする 貸し借りの力学とは?
今回自民党の各派閥が、貸しをつくりながら岸田支持に回った最大の利害が、「世代交代を阻むこと」でした。河野太郎、高市早苗、野田聖子各氏のいずれの候補が総裁になっても、政治家の世代交代が進んでしまう。貸し借りが効く岸田総裁誕生なら党幹部の若返りを阻止できる。だから岸田総裁が選ばれ、麻生太郎副総裁、甘利明幹事長が誕生したというのが、岸田政権誕生時の重要な力学でした。
ですから、これから先も岸田首相が返さなければならない借りは、守旧派の利害の維持です。実際、総裁選中の岸田候補(当時)が自民党の機関紙を通じて建設票と農業票を意識した政策を主張していると報道されました。こういったものが総裁候補としての岸田文雄氏が党に対して公約した「分配」の約束だったわけです。
“首相の椅子に座るための借りでがんじがらめになったがゆえに、自派閥から官房長官を起用することさえできなかった”と、岸田首相は政権誕生時にささやかれました。そして旧世代の政治家たちの借りに応えるためには、基本線としてはこれまで決まってきたことを変えないことが重要です。
「聞く力」でいろいろな人の話を聞きながら、自分の持論はひっこめる。これまでの政策を踏襲しながら、ラベルだけ「新しい資本主義」と貼ってみる。そのような政策をとっているようにどうしても見えてしまう裏には、大人の事情がどうやら存在しそうだということなのでしょう。

●「開成OBをすぐ調べろ」岸田首相の強すぎる母校愛に震える霞が関の狼狽 10/22
岸田文雄首相が超名門・開成高校の出身であり、母校愛が強いことは「留意すべき点」として霞が関の省庁で受け止められている。省庁内で開成OBを探し、開成閥による岸田首相とのパイプづくりに奔走する霞が関の狼狽ぶりを詳報する。
「開成出身をすぐに調べろ」 霞が関で密かに進む岸田首相の同窓探し
「あなたはどこを出たの?」
政治家やキャリア官僚、記者にまで学歴を問うことで知られた宮澤喜一元首相。武蔵高(旧制武蔵高等学校)、東京大学法学部を卒業し、「東大法にあらずんば大学にあらず」とばかりの学歴偏重主義に周囲が困惑したのは約30年前のことだ。
こうした不毛な議論が今、権力中枢で再び起きようとしている。背景にあるのは、岸田文雄首相のあまりに強すぎる母校愛だ。
「誰か開成出身はいないのか。すぐに調べろ」。成績優秀者たちがそろう霞が関で9月末、経済官庁の中堅職員は上司にこう命じられた。
自民党総裁選で勝利した岸田首相の母校は名門私立・開成高校。東大合格者数で40年連続の全国1位という超エリート校は、意外にも首相の輩出が初めてとなった。東大出身者が多い霞が関官僚の中で、その「同窓」探しはひそかに進められた。
岸田氏は、小渕恵三内閣の建設政務次官時代に旧建設省内の「開成会」を立ち上げるなど母校愛が強い。2017年9月には政官界の開成OBで「永霞会」を発足させ、自ら初代会長に就いた。
母校を愛する気持ちは多かれ少なかれ人々が抱くものであり、もちろん自由だ。橋本龍太郎元首相が卒業した私立・麻布高校の「麻布閥」は有名である。
岸田首相とのパイプづくりに 霞が関が躍起になる本当の理由
今回、キャリア官僚たちが気にするのは、宮澤元首相以来30年ぶりに自民党の保守本流をうたう派閥「宏池会」(現・岸田派)から宰相が誕生したことに起因する。
無派閥の菅義偉前首相や少数派閥だった麻生太郎元首相がトップに立つことはあったが、宮澤氏以降の首相(自民党総裁)は現在の細田派か旧竹下派から輩出されている。それだけに岸田派とのつながりが弱まっていたことは否定できない。政界との「パイプ」を重視する官僚たちからすれば、最も有効な一手として見るのは、やはり「開成閥」のつながりということなのだろう。
環境省幹部が霞が関の実情を解説する。「宮澤氏は周りを東大法卒で固め、時にそれ以外の人を見下すようなことがあった。岸田首相はそんなことをしないと思うが、『開成愛』が強いことは留意すべき点として省庁で受け止められている。環境省は中井徳太郎事務次官をはじめ幹部に開成OBがいるからいいが、OBが主要幹部にいない省庁は『開成シフト』を急いでいるようだ」
岸田首相が首相秘書官(筆頭)に起用した元経済産業事務次官の嶋田隆氏は開成高の後輩で、新設の経済安全保障担当相に抜擢した小林鷹之氏も開成OBだ。そこで、岸田氏が10月4日の首相就任後、衆院選告示日前日(18日)までの動静を調べた。実態はどうなのか。
首相動静から見えてきた 岸田首相と開成OBの強い関係
官僚の中で最も多く首相と面会していたのは、藤井健志官房副長官補と沖田芳樹内閣危機管理監の4回だ。ともに東大法卒の逸材である。
沖田氏との面会は、首相就任直後にある危機管理上のブリーフィングが主だった目的であると予想される。それを除けば、藤井氏の面会回数は突出している。そう、藤井氏は開成OBなのである。
藤井氏は、1985(昭和60)年の旧大蔵省入省時から「将来の次官候補」といわれた人物。月刊誌「文藝春秋」21年11月号に与野党の財政政策を「バラマキ」だと批判する論文を寄稿した、財務省の矢野康治事務次官とは入省同期の関係にある。
現役の財務省中堅官僚が語る。「藤井氏は東大卒で将来を嘱望されながら旧大蔵省の『ナンバー2』ポストといわれる国税庁長官を最後に辞職した。一方の矢野氏は戦後初めて一橋大学出身の事務次官となった。財務省で『本流』の東大卒がナンバー2で終わり、『傍流』の一橋大卒がトップに就任――。しかし、岸田政権の誕生でパワーバランスがまたひっくり返る。同期とはいえ、『本流はこっちだ』との複雑な思いがあるのではないか」
ちなみに、岸田首相と矢野財務次官の面会は首相就任翌日の10月5日にあった1回のみである。
霞が関にはびこる「学歴偏重主義」 歴代首相をバカにすることも
財務省(旧大蔵省)では、武藤敏郎元事務次官や丹呉泰健元事務次官などが開成OBとして知られる。ただ、地方の名門進学校出身者も多い省内では「高校よりも大学の名前の方がはるかに重要」(主計局長経験者)だという。
最近の首相は岸田氏が早稲田大学、菅義偉前首相が法政大学の卒業。その前の安倍晋三元首相は成蹊大学出身で、財務省OBの一人は「東大出身者が多い省庁では、首相官邸で案件が突き返されると『○○大卒だから理解できないんだ』と首相をバカにすることもあった。(バラマキ批判論文を寄稿した)矢野氏だけ騒いでいるわけではないんだよ」と笑みを浮かべる。
開成高から都内の有名私立大に進学した全国紙記者は、こう心境を語る。「今までは開成を卒業していながら東大に進めなかったことが恥ずかしくて、出身高校を開成と言いにくかった。でも、開成から東大受験で失敗し、2浪して早大にいった岸田氏が首相になったので、これからは胸を張って『開成OB』と言いたい」
高校と大学のどちらを重視するのか、そもそも学歴偏重主義そのものが令和時代には合わないのか。
首相や日本銀行総裁も務めた、開成の初代校長である高橋是清氏は、生徒や教師にこう諭したという。「ひたすら前例にのっとることに努め、その結果がどうであるかは本人が関知しないなどというのは、つまり、記憶力と同時に思考力を育成しなかったことの結果というべきです」
「新しい資本主義」を目指し、総選挙後に数十兆円規模の経済対策を狙う岸田首相。「本当に巨額の経済対策が必要なのか」と寄稿した矢野財務次官。どちらに当てはまるメッセージなのかは定かではない。

●次々と覆る安倍人事 それでも、首相は安倍氏にしっかり配慮 10/22
「昨夜、安倍晋三事務所に安倍政権時の官邸官僚チームが勢ぞろいした。今井尚哉氏(政務の首相秘書官)、長谷川栄一氏(内閣広報官)、北村滋氏(国家安全保障局長)、佐伯耕三氏(今井氏と同じ経産省出身の事務の首相秘書官)の4人」
こんな情報を耳にしたのは自民党総裁選後の10月1日のこと。「昨夜」とは9月30日で、自民党総裁選に勝利した岸田文雄首相が、党役員や閣僚人事に着手し、様々な名前が飛び交っていた頃だ。
その中に、「事務の官房副長官に北村滋氏」という観測もあった。事務の官房副長官は霞が関の全官僚の最高位。つまり、安倍官邸チーム「復権」の象徴のような人事であり、4人が安倍事務所に集合したのは、岸田官邸を事実上の安倍官邸に塗り替える「作戦会議」なのかと思われた。
しかし岸田氏は最終的に、同じ警察官僚出身者でも、北村氏ではなく栗生俊一・元警察庁長官を官房副長官に選んだ。
安倍氏の懐刀とも言える今井氏は、総裁選で岸田陣営に選挙参謀のひとりとして加わっていた。演説原稿だけでなく、話題になった「岸田ノート」を使ったアピールも、今井氏のアドバイスだとされる。
元経産官僚らしい、広告代理店のプレゼンテーションのような演出は、安倍氏の秘書官時代からお手のもの。だが、今井氏の仕事はそれだけではなかったようだ。
ある霞が関関係者がこう話す。「実態は不明ですが、今井氏は自身がフィクサーのように動き回っていることを匂わせていました。『河野太郎総裁なら石破茂幹事長、小泉進次郎官房長官』という怪文書が出回りましたが、今井氏周辺が関係していると噂されていた。野田聖子氏が告示ギリギリに出馬にこぎ着けられたのは、二階派から8人もが推薦人になったことが大きかったが、方向性が出せないでいた二階派に、今井氏は密かに揺さぶりをかけ、『思い描いたシナリオ通りになった』とほくそ笑んでいたといいます」
安倍氏が総裁選で高市早苗氏を猛烈に支援した理由のひとつは、安倍政権のコピーのような高市政権ならば、菅政権で自民党から離れてしまったいわゆる「保守系の岩盤支持層」を呼び戻せると考えたから。
その点で、安倍政権を継承したかに思われていた菅政権に対し、安倍氏は少なからぬ不満を抱いていたわけだ。安倍氏が昨年、自身の首相退任時に置き土産とした「敵基地攻撃能力保有の議論」を菅氏は一切、進めなかった。
同様に、今井氏も菅政権で「内閣官房参与」の肩書こそ残ったが、参与は月額わずかの報酬しかなく、安倍政権時代から新型コロナウイルス対策など様々な政策を巡って「今井秘書官VS菅官房長官」の対立構図が長らく続いていたから当然とはいえ、今井氏は現実には、菅政権にほとんど関与していなかった。
その意味では、菅政権から岸田政権への移行は、「チーム安倍」にとって完全復権の号砲となるはずだったのだろうが、「安倍−今井ライン」で進めていた北村官房副長官案が消え、安倍氏が望んでいた「高市幹事長−萩生田光一官房長官」のプランも実現ならず、”新聞辞令”はことごとく覆った。
もっとも、こうした事実をもってして、岸田首相が安倍氏に屈服しなかった、と見るのは早計だ。
幹事長は高市氏にはならなかったものの、安倍氏の盟友であり麻生派大幹部の甘利明氏が就いた。高市氏は党三役に入り、政調会長として自民党の政策をまとめる。
総裁選期間中の主張を思い返せば、例えば経済政策では、岸田氏は「所得倍増」「新自由主義からの脱却」などと中間層への再分配を重視し、アベノミクスからの修正を打ち出していたが、高市氏は「アベノミクスの強化」で岸田氏の政策とは明らかに異なる。それなのに、なぜ政調会長なのか。
萩生田氏にしても、官房長官とはならなかったものの、経済産業大臣として閣内に残った。北村氏は官房副長官になれなかったが、筆頭格の首相秘書官には元経産省事務次官の嶋田隆氏が起用された。嶋田氏は今井氏と経産省の同期で、エネルギー政策などこれまでもタッグを組んできた。
岸田首相は結局、「安倍−今井ライン」にしっかり配慮しているのである。
もうひとつ。安倍政権時の過去最多に並ぶ13人の初入閣の大臣らについては、相変わらずの派閥推薦を受け入れた。特に麻生派の山際大志郎経済再生担当相と牧島かれんデジタル相は2人とも神奈川県選出議員で、同じく神奈川県選出の甘利幹事長主導の人事なのが見え隠れする。
これまで神奈川県では、菅氏の下、河野氏、小泉氏が権勢を振るってきたが、今回、甘利氏がそれを奪いに出た、という地元事情だ。適材適所からは程遠い。
自らが目指す政策の実現のために人事ほど大事なものはないが、それを手放した首相に、一体、どんな国づくりを期待することができるのだろうか。

●「悪をかばう候補者は政治家の資格なし」市民グループが“自公落選運動” 10/22
世直し運動の輪を全国に――。31日に投開票される衆院選で、東京都内の市民グループが自民、公明両党の候補者に対する「落選運動」を展開している。
運動を呼び掛けているのは、「司法三権を監視する国民の会」の役員を務める秋山信孝氏らのグループ。同会は今年3月、安倍晋三元首相の「桜を見る会」前夜祭をめぐる政治資金規正法違反疑惑などについて、安倍元首相が国会答弁で118回もの虚偽答弁をしていた事実を問題視。与野党の衆参すべての国会議員に対して安倍元首相の辞職を求める公開質問状を送り、結果を公表するなどの活動を続けてきた。
10月には自民党の新たな総裁に就いた岸田文雄首相に対し、<安倍晋三氏は国会議員として不適格である><自民党公認とすることは党総裁の責任において稀代の大嘘つきを容認し、党ぐるみでこれをかばうもの>と批判する声明を送付。さらに、衆院選東京選挙区の立候補予定者約80人にも、<安倍晋三元首相の責任は極めて重大であり、国会議員の資格はない>とした趣旨の賛否を問う質問状を送り、「賛同」しなかった候補者を「悪をかばう候補者は政治家の資格なし」として、「落選運動対象」とすることにしたという。
その結果、同選挙区では、現時点で立憲民主党や共産党などの野党候補19人から、趣旨に賛同するとした回答があったものの、自民、公明両党の候補者からは回答を得られていないという。
秋山氏は「『数の暴力』で(疑惑を)封印する自民党、公明党の候補者は東京全選挙区において落選運動対象者に指名し、『国会議員にするな』という運動を展開したい」と説明。今後はSNSなどを通じて都内だけでなく、全国の選挙区に同様の落選活動を広げたい、としている。

●「二階前幹事長」が干されて恨み節「安倍は何の挨拶もない」 10/22
菅義偉氏の退陣から岸田文雄首相誕生という政局の中で最も割りを食ったのが、二階俊博前幹事長率いる二階派だというのは衆目の一致するところだろう。閣僚や党役員人事で干され続けた二階氏は、安倍晋三元首相への恨み節をこぼしているという。
「田中角栄を超え歴代最長の5年超にわたって幹事長の職にある中で、独断専行がすぎるという批判は強まっていました」と、政治部デスク。独断専行の最たる例が自派閥拡大のための選挙区での優遇作戦だ。
「いくつかの選挙区で自民党系の候補がかち合うケースがありますが、そのほとんどに二階派所属の議員が絡んでいました。自派閥の現職議員に他派閥が割って入ろうとした際には現職優先と言ってみたり、その逆だと勝った方に推薦を出すと言ってみたり、ルールが変幻自在な点に不満のマグマがたまっていましたね」
二階氏を幹事長に任命したのは首相時代の安倍氏なのだが、「何度か二階さんを切って岸田さんにスイッチしようとしたんですが、老練な二階さんは匕首(あいくち)を突きつけるような形で安倍さんにプレッシャーをかけ、安倍さんはなかなか切れなかった」
安倍氏の電撃退陣の後、どの派閥ボスよりも早く「菅支持」を訴え、その後の人事でも旨味を吸う権利を勝ち取った。
「無派閥で政権基盤の脆弱な菅さんにとって二階さんの支援は渡りに船。菅政権の生みの親からいつしか菅政権の屋台骨となっていきました。それは裏返すと菅政権と運命共同体だということになるわけで、じり下がりする内閣支持率の戦犯として二階さんが槍玉にあげられることにつながりました」(先のデスク)
二階氏にとって党内のやっかみ以上に厄介だったのは、「1億5000万円の支出問題」だ。2019年7月の参院選広島選挙区に出馬した河井案里陣営に、党本部から1億5000万円が流れていたことが明らかになったのだ。
「選挙時に党から支給される額としては『一桁違う』という指摘がありましたが、その通りでしょう。その後、河井氏や夫で選挙を取り仕切った克行法相が公選法違反容疑で逮捕・起訴され、その公判で二階さんの名前が飛び出したのです」(同)
2020年10月、案里被告の公判で検察側の証人として出廷した自民党の広島県議が案里被告からカネを受け取る際に、「当選おめでとうございます。二階幹事長から預かってきた」と話したと証言したのだ。これについて、「案里被告はよくブラックジョークを言うので、ジョークだと思った」と付言したが、「1億5000万円の支出=二階氏」という構図が流布していく。
2021年5月、案里被告が有罪判決を受けた後、資金の提供について問われた二階幹事長は「関与していない」と語っている。会見に同席した林幹雄幹事長代理がこれを引き取って、「実質的には当時の(甘利明)選対委員長が広島を担当していたので、よく分からないということだ」と補足したのだった。
「選挙の責任者でカネの支出にハンコをおした人物の発言とは思われないと、猛反発をくらいました。それで二階さんは、“党全般の責任は私にあることは当然のことでありますが、収入支出の最終判断をしているわけであって個別の選挙区の選挙戦略や支援方針については、それぞれ担当において行っている”と当初の発言の修正を余儀なくされます。他方、甘利さんは“1ミリも、1ミクロンも関わっていない。選対委員長は公認の調整だけだ”と説明。極めて迷惑そうでしたね」(先のデスク)
このように党内で二階氏への不満が募っていく状況下、「ポスト菅」として岸田氏が手を上げる際に、「党役員の任期制限」を訴えたのはご存知の通りだろう。
「二階さんへの宣戦布告でしたが、党内で二階派以外はほぼ反対する勢力は見当たらず、万事休すとなってしまいましたね」と、別のデスク。
「二階さんは岸田さんが自分で考えて行動できたとは思っておらず、知恵をつけた人物がいる、それは安倍さんだと見ているようです。“あれだけの長期政権をやれたのは誰のおかげだと思っているんだ。それなのに安倍は何の挨拶もない。というかこれまで1度も感謝を申し述べたことがないんだ”とこぼしていました」
件(くだん)の1億5000万円についてこのデスクによれば、「二階さんは、“会社で考えてもらえれば分かりますよね。社長に言われて初めて経理なり総務なりが動くわけでしょ。独断で総務部長がどうのこうのっていうのはあり得ませんよ”と言っていたようですね。暗に安倍さんの指示をほのめかしたということでしょう」
結局、自民党はこの1億5000万円は買収の原資に使われていないとすることで幕引きを図っている。
さて、閣僚や役員人事で冷飯を食うことになった二階派は、今回の総選挙でも苦境に立たされている。
「その代表が山口3区。参院から鞍替えを図った林芳正元文科相(岸田派)と公認を争った河村建夫元官房長官(二階派)への扱いでしょう。甘利幹事長が双方と面談して河村さんに不出馬を飲ませました。もともと林さんの父親の地盤で、今回の情勢調査でも林さんが河村さんを圧倒していましたから想定内の展開ではありますが、二階さんが幹事長ならこうはなっていなかったかもしれません」(同)
その他、番頭格の林幹雄氏も苦戦を強いられ、選挙区に張り付かざるを得ない状況だという。
「二階さんも可能なら今回の選挙の前に引退を表明していたのですが、後継に決まっている3男への引き継ぎがうまくいかず、もう1期やることになりました。選挙が終われば武田良太前総務相の派閥へ徐々にシフトしていくものと思われます」
盛者必衰を地で行く流れである。

●阿蘇山噴火 岸田首相への詳細な報告時間を発表 10/22
磯崎仁彦官房副長官は22日の記者会見で、熊本県の阿蘇山が21日に噴火した際に岸田文雄首相が報告を受けた時間について、午前11時58分だったと明らかにした。21日の記者会見では「事柄の性格上、詳細な時間まで申し上げることは差し控えさせていただきたい」としていた。
首相は当時、衆院選の応援演説のため兵庫県伊丹市におり、官邸を離れていた。磯崎氏は詳細な報告時間を明らかにした理由について「国民の皆さまにしっかり説明するために、時間を明らかにすべきだと判断した」と説明した。
 

 

●「安倍さんの顔に泥を塗ったらどんな目に遭うか…」  10/23
22日夕、長崎市の繁華街。元首相安倍晋三が車の上でマイクを握った。自身の秘書を17年間務めた自民党新人、初村滝一郎の応援に駆け付けたのだ。
「誰よりも生まれ故郷、長崎を愛する男。私の右腕です」。初村をたたえ、千人以上の聴衆に支持を呼び掛ける。その後、初村と力強くグータッチ。2人並んで3度拳を突き上げた。
父は中選挙区時代の長崎1区の衆院議員、祖父は元労相の政治家一家で育った初村。だが、出身は選挙区外の長崎県諫早市だ。出馬が決まった背景には、安倍の働き掛けが影響した。
前回衆院選で比例復活した前職が6月、不出馬を突然表明し、党県連は候補を公募。当初は女性県議が有力視されたが、初村が応募を決意すると、安倍は県連関係者に直接電話を入れた。「しっかりと公正に選んでください」−。「(安倍の顔をつぶすと)先々やっかいだ」(県連幹部)。そんな空気が急速に広がり、選考はスピード決着した。
初村がアピールするのは安倍の秘書時代に培った官邸や省庁とのパイプだ。「永田町、霞が関、官邸。政治のど真ん中で経験を育めた」。この日の演説では国政中枢との近さを強調。今後の選挙戦でも、前首相の菅義偉や経済産業相の萩生田光一が来援する。官邸主導の「1強政権」を7年8か月も維持した安倍の下で、手足となって働いた初村。「官邸や霞が関を知り尽くし、どんな事業をするにも国の支援が欠かせない長崎にとってこれ以上の人材はいない」。県連関係者は期待を寄せる。
ただ、安倍を巡っては「森友、加計(かけ)学園」や「桜を見る会」などの問題が今もくすぶり、「安倍との近さ」を打ち出し過ぎれば「反安倍」の有権者の票が逃げる危険をはらむ。長崎1区がある被爆地・長崎市はリベラルな考えを持つ有権者が少なくなく、憲法改正の主張など保守色の強い安倍をどう受け止めるかも不透明だ。
仮に初村が敗れれば、永田町での安倍の求心力が低下する可能性もある。「落選して安倍さんの顔に泥を塗ったら、長崎がどんな目に遭うか…」。県連関係者は緊張感もにじませた。

22日昼。安倍と同じ場所で、国民民主党代表の玉木雄一郎も街頭に立った。安倍政権から続く「1強」が森友学園の問題を巡る公文書改ざんや、国会軽視の姿勢をもたらしたと指摘。「安倍、菅、岸田政権」とひとくくりし「都合の悪いことは説明しない。そんな政治は即刻やめてもらいましょう」と声を張った。
前回、希望から出馬して初当選した九州唯一の国民前職、西岡秀子の応援に玉木が入るのは、10月に入り3度目だ。党の支持率は低迷し、西岡は比例復活は厳しい。元参院議長の父から継いだ地盤は「西岡党」と呼ばれ保守層にも浸透するが、自民を挙げた支援を受ける初村の戦いぶりは大きな脅威だ。
そこで陣営は「政治の信頼」の争点化を狙う。「安倍政権以降に政治への信頼が失われた」と捉え、玉木は初村を「安倍政権の象徴」と断言。陣営関係者は「初村さんは安倍氏の『負のイメージ』も引きずっている」と話す。
共産新人の安江綾子も、街頭などで政権交代の必要性を訴えている。
 

 

●「勤労者皆保険」実現に意欲 岸田首相 10/24
岸田文雄首相は24日のNHK番組で、社会保障制度をめぐり「兼業、副業、フリーランスなど国民の働き方が多様化している。多様な働き方に中立的な社会保障も考えていかなければならない」と指摘した。
その上で「『勤労者皆(社会)保険制度』みたいなものを、厚生年金を拡大する形で実現できないか」と語った。
首相は「日本の社会保障制度は従来は年齢で区切っていたが、これからの時代は能力に応じ、支え手に回ってもらう。全世代で社会保障を支える基本的な考え方を進めていかなければならない」と訴えた。
首相は自民党政調会長だった2019年5月に社会保障改革提言を取りまとめ、この中で雇用形態にかかわらず加入できる「勤労者皆社会保険」導入を打ち出していた。

●河井陣営へ提供の1億5000万円問題、首相「十分説明」 10/24
2019年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、自民党本部が河井案里元参院議員(有罪確定、当選無効)の陣営に提供した1億5千万円について、党総裁の岸田文雄首相は「買収原資として使われなかったことは、十分説明された」との認識を示した。31日投開票の衆院選で、中国新聞社が広島県内7小選挙区の候補者を対象に実施したアンケートで答えた。
党本部が案里氏と夫の克行元法相(実刑確定)側に1億5千万円を提供した問題で、党本部の説明は十分だと思うかという問いに、岸田氏は3択から「十分だ」を選択。記述部分で「党本部の資金が買収原資として使われなかったことは、河井夫妻側が作成し、第三者の確認を経て総務省に届け出がなされ、公表もされている資料で十分説明された」と回答した。
岸田氏は11日の衆院代表質問で、党総裁就任前の9月に当時の党執行部が1億5千万円を「買収資金になっていない」とした説明を「了とした」と表明。15日にも、報道各社の取材で同様の見解を述べていた。
岸田氏は衆院選広島1区に党前職として立候補している。ほかに立候補している諸派の上出圭一氏、共産党の大西理氏、社民党の有田優子氏の新人3人は、いずれも自民党本部の説明について「不十分だ」を選択している。

●「男系男子」にこだわる安倍晋三氏ら守旧派の無理難題 10/24
先の自民党総裁選で高市早苗候補(現・政調会長)が皇室継承問題について、「男系男子の維持」とともに「旧宮家の復活」を掲げたことで、「旧宮家って何?」となっている。
旧宮家というと、平安朝のようにみやびな宮廷の中で天皇のそばで仕える人たちを連想するが、江戸時代、天皇も宮家もそれほど優雅ではなかった。当時、天皇家は「禁裏十万石」といわれたが、実際は3万石ぐらいだったから、地方にある小大名ぐらいの収入だったはずである。
天皇は日常の食事も節約しなければならないほどつつましやかで、即位しても即位礼ができなかったこともあったという。
天皇の周りには親王家といわれる宮家が4家あったが、彼らも経済状況は天皇家と同じで苦しかったようだ。例えばそのひとつに伏見宮家がある。
600年ほど前の室町時代に天皇家から分かれた宮家で、戦後、皇籍離脱した11宮家は、血のつながりでいえば、すべてこの伏見宮の子孫である。
それはさておき、貧乏人の子だくさんではないが、江戸時代は宮家といえども子供がたくさん生まれると経済的に困窮した。天皇家も宮家も、子供が増えると姓を与えて降下させたり、得度させて、寺院の門主にさせることが多かった。
要するに、養いきれないので子供を坊主にしたのである。寺院にすれば、天皇の血を継ぐ皇胤がいることで名誉になるし、宮家にすればお寺から経済的なサポートが受けられるというわけだ。
幕末の伏見宮家もそうだった。当主に30人以上の子供がいたから大変だっただろう。この子供たちを京の寺院の門主にしたのだが、明治維新が成って皇室の天下になると、オレたちの天下だといわんばかりに、出家先から還俗して次々と新たに宮家を立てたのである。つまり、坊主から親王になったというわけだ。
明治政府も親王家4家だけでは心細いから「1代だけならいいよ」と認めたのだが、尊王の明治政府が安定してくると「ずっと宮家でもいいよ」となった。こうして伏見宮の系統だけが残ったというわけだ(小田部雄次著の「皇族」参照)。つまり、旧宮家というのは、そういうものなのだが、安倍前首相や高市政調会長ら守旧派勢力はなぜか、この旧宮家の復活にこだわり、女性宮家創設や女系天皇制には強く反対している。
「男系男子」にこだわる安倍元首相は「私たちの先祖が紡いできた歴史が、1つの壮大なタペストリーのような織物だとすれば、中心となる縦糸こそが、まさに皇室だろう」(「文藝春秋」2012年2月号)と述べている。要は、「過去に女系天皇は一人も存在しなかった」から、伝統を変えるなというわけである。最近では「男性にしかない性染色体のYを、千数百年にわたって引き継いでいるのは日本以外にない」というように遺伝子継承を主張する意見もある。
前者は、「男系男子」は世界でもまれな制度だから守れといってるように聞こえる。しかし「男系男子」を守れというのは歌舞伎の伝統を守れとは違う。一夫一妻制の少子化の現代にあって、天皇家だけにそれを強要するのは酷だし無理というものだろう。後者のY染色体を守れなんて、まるで天皇には特殊なDNAが流れているかのように聞こえる。天皇家も初代はその他大勢のひとつであったはずで、歴史的な流れの中で現在の天皇になっていったのだ。特別なY染色体があったからではない。
「縦糸」とか「千数百年の伝統」を唱える守旧派の考え方は、現実離れしているというしかない。
まさか彼らは「神武天皇のY染色体を継承できるのは男系男子だけ」なんて、本気でそう思っているのだろうか。

●安倍・菅政権の「負の遺産」清算、自民は末尾に数行のみ...  10/24
衆院選では、9年近く続いた安倍・菅政権下で政治不信を増大させた「政治とカネ」や森友・加計学園問題などの「負の遺産」を、どう清算するかが争点になっている。多くの党が政治の信頼回復を公約に掲げ、具体策を示したのに対し、自民党は政策集の末尾に数行記載するのみ。温度差が鮮明になっている。
安倍氏と菅氏 「負の遺産」に触れず野党批判
「この選挙区では自民党国会議員が『政治とカネ』で大変な事件を起こして辞職した。心からおわびしなければならない」
20日に広島入りした岸田文雄首相(自民党総裁)は、衆院広島3区の公明党前職の応援演説でこう陳謝した。
広島3区は2019年参院選の広島選挙区を巡る大型買収事件で逮捕され、実刑判決が下った河井克行元法相の地元。河井元法相は有罪判決を受けた妻の案里元参院議員とともに議員辞職し、自民党が選挙区を公明党に譲った経緯がある。
演説で、首相は党政策集にも盛り込んだ、当選無効になった議員の歳費を返納させる法改正に意欲を示した。だが、事件に関し、なぜ党が1億5000万円もの巨額資金を河井夫妻側に提供したのか、買収に使われたのではないかなど、残る疑念には言及しなかった。
安倍晋三元首相は21日に、菅義偉前首相は22日に首都圏で街頭演説したが、いずれも野党批判などに時間を割き、森友・加計問題を含め政治の信頼回復には触れなかった。
野党4党 真相究明や清算掲げる
一方、立憲民主党は政権交代した場合、首相直轄のチームをつくり、森友・加計問題や「桜を見る会」の行政私物化疑惑の真相を究明し、情報を全て開示すると公約。枝野幸男代表はCMで「まっとうな政治を取り戻そう」と訴える。
共産党は公約に「負の遺産の清算」を掲げる。菅氏が詳しい理由を説明しないまま任命拒否した日本学術会議の新会員候補を任命するとも明記した。
れいわ新選組は森友・加計問題などを挙げて「一部の利害関係者のための政治を打破する」と強調。社民党は「説明する政治—モリ・カケ・桜・河井問題の解明」との公約を掲げた。
日本維新の会と国民民主党は、公文書管理の強化など政治の信頼回復を手厚く扱ったが、森友など個別の問題は取り上げていない。公明党は「『政治とカネ』の問題にケジメを」と公約したが、他の「負の遺産」には触れていない。
 

 

●岸田首相、安倍元首相が京都府内で応援演説 10/25
自民党総裁の岸田文雄首相は25日、京都市内で街頭演説を行った。この日は安倍晋三元首相も同市内へ自民候補の応援演説に駆け付けるなど、各党がしのぎを削っている古都でテコ入れを図った。
雨が降りしきる中、岸田首相は同市中京区の京都市役所前で演説した。コロナ対策について、年内に飲むタイプの治療薬の開発を目指すと宣言。「ワクチン接種で予防し、検査をしっかり行い、薬で治療する。この3つが、元の社会や経済を取り戻す大きな一歩になる」と述べ、治療薬の完成までは一人一人の所得を引き上げる大型経済対策で暮らしや仕事を支えると訴えた。
さらに「京都には、すばらしい食の文化がある。飲食店もワクチン接種証明などを活用し、安全に営業してもらいたい」とアピール。「(立憲民主党、共産党、日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組の各候補者らが熾烈(しれつ)な争いをしている)京都は全区が大激戦だ」と支援を呼びかけた。
安倍元首相は同市左京区の百万遍交差点で演説。ワクチンの国産化などに全力を傾ける必要性を訴え、「深刻なダメージを受けた京都の観光が回復しない限り、日本の観光は回復しない」と述べた。

●岸田首相に「ご祝儀」なし 参院補選痛い1敗 危機管理体制にほろこび… 10/25
前回のコラムで書いた参院静岡、山口の2つの補欠選挙が24日、投開票された。新しい首相の就任後、初の補欠選挙はその後の政権運営の勢いを占うという指摘をしたが、岸田文雄首相率いる自民党は「当然2勝」(党関係者)といわれたものの、全勝を取り逃した。政権発足後、初の国政選挙で、10月31日に投開票を迎える衆院選の前哨戦。安倍晋三元首相の地元で保守地盤の山口では勝利したが、野党側が小選挙区でも議席を持つ静岡では、立憲民主党、国民民主党などが推薦した候補に敗れた。
補欠選挙に関する情勢調査では、山口では自民党の優勢が伝えられていたが、静岡では苦戦を指摘するデータも多かった。24日は深夜まで結果が判明しない接戦ではあったが、選挙は結果がすべて。結果的に、自民党は当選した野党候補に5万票近い差をつけられた。自民党が元々議席を持っていた選挙区だけに、票差以上に敗北感は大きい。
自民党内には、1勝1敗イコール五分ということで、今回の敗北の衆院選への影響は最小限にとどまるという声もあるようだ。ただ、衆院選の前哨戦と位置づけられ、「リアル直近の民意」が示された戦いで、首相が選挙期間中を含めて2度、応援に入っての負けだけに、そう穏やかでもなさそうだ。
岸田政権発足から3週間がたったが、いわゆる「ご祝儀ムード」はほとんどない。各社世論調査でも、発足時の支持率が6割を超えた前任者、菅義偉政権より2割ほど低い40%台の調査もあった。第2次安倍政権とは比べようもない。政権発足後の株価上昇という「ご祝儀相場」もなく、株価は下落し3万円台を割り込んだ状態が続き、「岸田売り」という言葉も飛び交った。
首相は衆院選公示後、全国を遊説に飛び回っている。この選挙の結果が、自身の政権運営を左右するため必死な側面もあるだろうが、19日の公示日に北朝鮮が弾道ミサイルを発射した際、国際社会に緊張感が広がる中も、選挙遊説をすぐにはやめなかった。2カ所目を終えて打ち切って東京にとんぼ返りしたが、対応を批判した野党だけでなく自民党内にも首相の判断を疑問視する向きがあったと聞く。この際は、首相だけでなく松野博一官房長官も選挙活動で地元にいて、官邸では官房副長官が対応する事態に。ミサイル発射がなければ問題視される行動ではなかったかもしれないが、常に「有事」を念頭に行動しなければならない官邸ツートップの危機管理意識の現実を露呈する結果になった。
翌20日、熊本・阿蘇山が噴火した際は、首相は前日の反省からか、自身のツイッターで「官邸に『情報連絡室』を設置し、情報収集をしています。状況に変化があれば随時報告が入る体制を取っています」などと投稿しながら、選挙遊説を続けた。幸い噴火に伴う人的被害などはなかったが、SNSで発信するだけでよかったのだろうか。
衆院選公示後の2日間のできごとは、首相にとって「有事」の際の国のリーダーのあり方を、いきなり試されたケースだった。ただ、政界関係者に話を聞くと「首相にどこか危機感が感じられないのが、不思議だ」という声も聞いた。そんな中、結果がその後の政権運営を左右した「ジンクス」もある、補欠選挙での自民敗北。首相もさすがに、穏やかではないのではないだろうか。
首相に対する期待が高まれば「ご祝儀」ムードも高まるはずだが、醸成する環境はまだ整っていないように感じる。衆院選は、いよいよ後半戦だ。野党の党首以上に、首相の一挙手一投足を国民は見ている。

●岸田政権、総選挙後は維新の協力不可欠 菅前首相に頭を下げる展開も 10/25
超短期決戦を選んだ岸田文雄・首相だが、総選挙情勢は「大敗ライン」の自民党単独過半数(233議席)を割り込むか、なんとか単独過半数を維持できるかの瀬戸際に立たされている。選挙期間中に内閣支持率が急落しているからだ。
NHK調査では岸田政権発足当初の支持率49.1%(10月8〜10日調査)から、わずか1週間後には46%(同15〜17日調査)と3ポイントダウン。逆に不支持率は4ポイント(24.3%→28%)増えた。
支持率が高かった読売新聞の調査でも発足当初の56%(10月4〜5日調査)から52%(同14〜15日調査)へと10日間で4ポイントも下がっている(不支持率は3ポイント上昇)。総選挙の議席に直結する自民党の政党支持率はNHK、読売ともに約3ポイントダウンだ。
最大の理由は岸田首相が総裁選で「富の再分配」を掲げて「金融所得課税の強化」や「令和版所得倍増」を公約しながら、総選挙の公約には盛り込まずにいつの間にか“撤回”した朝令暮改だろう。国民の期待がしぼむのは当然だった。
選挙戦は野党が多くの選挙区で候補者1本化を進めたことから、自民党は“魔の3回生”などの若手ばかりか、閣僚経験者など大物議員も苦戦や接戦に追い込まれ、50前後の選挙区で当落線上にある。
この支持率低下が投票日まで続けば、超短期決戦でも逃げ切れずに「自民党大敗」の流れに向かう。そうなれば、岸田首相は選挙後に窮地に陥る。政治ジャーナリスト・野上忠興氏が指摘する。
「自民党が単独過半数を失えば、岸田首相は連立相手の公明党に生殺与奪の権を握られると言っていい。キングメーカーの安倍晋三・元首相や麻生太郎・副総裁に政策を指示されても、公明がウンと言わなければ法案1つ通せないわけです。
それを防いで政権の独立と首相の座を守るためには、同じ保守政党で議席増が見込まれる日本維新の会と政策的に手を組んで公明を牽制し、たとえ公明が反対しても、いざとなれば自民と維新で法案を通せる関係をつくることが不可欠になる」
だが、その頼みの維新は菅政権とは蜜月関係だったが、岸田政権とははっきり距離を置いた。
同党副代表の吉村洋文・大阪府知事が「岸田さんのやり方で日本が成長するとは思わない。世界との競争の中では内向きの思想では衰退する」と政策面を批判すれば、馬場伸幸・幹事長は岸田首相が3A(安倍氏、麻生氏、甘利明・幹事長)に操られていることを「四人羽織内閣なのではないかと国民の目に映っている」と批判し、首相としての実力を「8番セカンド」と喝破して「エースで4番の強いリーダーシップを持った方に日本を引っ張っていただきたい」と言ってのけた。
岸田首相は相手にされていないのである。政治アナリスト・伊藤惇夫氏が語る。
「自民党で維新のカウンターパートを務めてきたのは菅義偉・前首相です。菅さんと維新の松井一郎・代表は盟友で兄弟のような関係。維新が大阪万博を招致できたのも、カジノ誘致計画にも菅さんの強いバックアップがあった。だから維新はその菅さんを切り捨てた岸田自民への敵対姿勢を鮮明にしている」
岸田首相が維新をつなぎ止めるためには、政敵である菅氏がキーマンとなる。
「自民党が大敗し、維新との連立や閣外協力などを申し込んでも、維新は菅さんの復権がないと自民とは組めないという態度を取るでしょう。岸田首相は菅さんに頭を下げない限り、維新とは話もできない」(同前)

●「経済」と「新型コロナ」で問われるかじ取り:岸田新政権がスタート 10/25
9月の自民党総裁選で勝利した岸田文雄元外相が、10月4日に第100代となる内閣総理大臣に就任した。菅義偉内閣はこの日総辞職し、在任期間1年の短命に終わった。長期政権となった小泉純一郎政権(2001−06年)の後、日本では12年12月まで6年以上にわたって短命政権が続いた。その大きな理由は、この多くの期間で与党勢力が参議院で過半数を割り、首相の政権運営が難しかったためである。現在、参議院では自民党と公明党が過半数を確保しており、「ねじれ」という構造的要因はない。菅政権が短命となったのは、首相の政権運営方法に問題があったためである。新型コロナ危機への対応で世論の動向に寄り添わない政策を続け、国民の支持が離れて失速した。岸田首相が長期に政権を維持したければ、今回の衆院選で自公の過半数を確保した上で、22年夏の参院選に勝利しなければならない。そのことを念頭に置きながら、本稿では岸田内閣が発足した経緯やその特徴についてまず議論し、手掛けようとしている主要な政策を紹介したい。
菅首相の急失速
菅内閣が退陣を余儀なくされた直接的な契機は、内閣支持率が低迷し、9月に自民党総裁選が予定される中、首相の地元の横浜市で8月22日に行われた市長選で小此木八郎前国家公安委員長が落選したことである。小此木氏は菅首相の側近で、菅首相は、側近の小此木氏を全面的に支援した。このため、今秋には必ず行われる衆院選で首相が自民党の顔となって勝利に導くことができるのか、党内に不安が広がった。そうした中、岸田文雄元外相が執行部への任期制限導入を柱とする党改革を訴えて総裁選に出馬する意向を正式に表明する。菅首相は早期解散を検討する一方、二階俊博幹事長の交代を柱とする執行部人事の刷新を図るが、いずれも実現できずに求心力を失い、9月3日に総裁選に出馬しないことを明らかにし、実質的に退陣を表明した。
世論と真逆で進んだコロナ対策
菅内閣は2020年9月の発足時、朝日新聞の世論調査で65%という高い支持率を誇った(※1)。新しい政策も次々と打ち出し、デジタル庁創設に向けた取り組みを開始したり、10月の所信表明演説では2050年までに温暖化ガスの排出量をゼロにすることを表明したりした。共同通信の10月の世論調査によれば、58.2%の回答者がデジタル庁新設に「期待する」と回答し、読売新聞の11月の調査によれば温暖化ガスをゼロとする方針を76%の人が「評価する」と答えた(※2)。しかし、その後、新型コロナウイルスの感染症が拡大する中で、首相は世論が期待する政策を実施せず、国民からの支持を失っていく。ここでは3つの事例を挙げたい。最初の事例は「Go To トラベル」事業である。これはもともと、感染が終息した後の経済回復を後押しするため、旅行代金や宿泊代金を国の負担で割引するものであった。コロナ危機は完全に終息したわけではなかったが、安倍晋三内閣は第一波が収まった7月に東京都を除く地域でこの政策を開始した。菅内閣は、10月1日に東京都を対象地域に加えた。10月上旬から第3波の感染拡大が到来したのに伴い、世論はこの政策に疑問を示すようになる。例えば11月14日、15日に実施した朝日新聞の世論調査では51%が反対と、37%の賛成を上回った(※3)。しかし、首相は一部都市を対象地域から除外したものの事業全体の継続にこだわり、ようやく12月14日に28日からの政策の全面的停止を決定する。感染の拡大と事業の継続が影響し、12月21日に朝日新聞が発表した世論調査で内閣支持率は前月の56%から39%に急落した(※4)。2番目の例は第3波における緊急事態宣言の発令である。12月28日に読売新聞が発表した世論調査では、66%が宣言発出を求めていた(※5)。しかし、首相は当初消極的で、年明けに東京都と神奈川、埼玉、千葉三県の知事のアピールを受け、ようやく1月7日に宣言を発出した。3番目の例は東京五輪・パラリンピックの開催である。感染拡大の第3波は3月上旬に収まったが、同月中旬には第4波となる拡大が再び始まる。第4波の期間中、多くの世論調査で、過半数の回答者が開催に反対していた。共同通信の5月の調査によれば開催に59.7%の回答者が反対、無観客あるいは観客数を制限した開催支持の37.8%を上回った。朝日新聞の調査では、中止あるいは延期を求める回答者が83%に上った(※6)。同じ朝日の調査で、内閣支持率は33%に低下している。しかし、菅首相は五輪開催の方針を維持した。首相は五輪を開催すれば支持率が上向くと考えていたのかもしれない。だが、結果は期待に沿うものではなかった。五輪閉会翌日の8月9日に報じられた世論調査で、内閣支持率は28%にまで落ち込んだ(※7)。
岸田氏が勝利した党総裁選
総裁選には岸田氏のほか、河野太郎ワクチン担当相、高市早苗元総務相、野田聖子元総務相が出馬した。岸田氏は第一回投票で議員票146, 党員票110を獲得し、1位となる。世論や一般党員の間で人気があった河野氏は、党員票では4割以上の169票を獲得したものの、議員票は86票にとどまり、1票差で2位となった。高市氏は議員票114、党員票74、合わせて188票。野田氏議員票34、党員票29の計63票だった。決選投票では岸田氏が257票を獲得し、170票の河野氏を制した。岸田氏が勝利を収めた主な理由は12020年9月の前回総裁選以降も準備を進めてきたために、まとまった政策を示すことができたこと、2政権を担った場合に岸田氏を支える一定の議員が確実におり、22年の参議院議員選挙まで安定的に政権運営を期待できると多くの自民党議員が考えたこと、3現在の自民党の中で力を持つ麻生太郎財務相や甘利明元経済財政担当相が岸田氏を支持し、高市氏を支援した安倍元首相も最終的には岸田政権誕生を望んでいた―ことが挙げられる。
「新しい資本主義」実現掲げる
それでは岸田首相はどのような政策を手がけるのか。総裁選で発表した内容や10月8日の所信信表明演説、首相の記者会見での発言などを参考にしながら、考察する。首相はまず、コロナ危機で影響を受けた人々を支援するために経済対策を策定することを再三表明している。また、3つの重要な政策課題として、新型コロナ感染症対策、経済政策、外交・安全保障に取り組むことを強調している。新型コロナ対応では「最悪の事態を想定した危機管理」を原則とし、3回目のワクチン接種を年内に開始し、電子的なワクチンパスポートや無料PCR検査の拡大を進めると説明してきた。また、人流の抑制や医療資源確保に向けて国や地方の権限を強化し、危機対応の司令塔機能を強化するための法律改正を行う方針を示している。経済政策の分野では、首相は「新しい資本主義の実現」を目指すことを繰り返し表明してきた。成長の成果を適切に分配し、次の成長につなげる「成長と分配の好循環」を作り出すことも強調している。首相は成長を促すための政策として、1科学技術立国、2経済安全保障、3デジタル田園都市構想などを掲げてきた。分配政策の柱として1企業に従業員や取引先に配慮する経営を一層促すこと、2中間層拡大のため、子育て世代の住居費・教育費の支援を拡充すること、3公定価格の引き上げにより、看護や介護、保育分野で働く人の収入を向上させることなどを打ち出してきた。岸田内閣は10月15日に「新しい資本主義実現本部」と「新しい資本主義実現会議」を設置することを閣議決定した。本部長や議長は岸田首相が務める。実現会議には川邊健太郎Zホールディングズ社長や柳川範之東京大学教授などがメンバーとして参加する。
経済安全保障を重要視
外交・安全保障の分野では、基本的に安倍・菅両政権の政策を継続する方針だ。民主主義や人権、法の支配などの普遍的価値を守るため、米国やオーストラリア、インドなどと連携し、「自由で開かれたインド太平洋」の推進を続ける。安全保障環境の変化に対応して国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備を改定する方針を明らかにし、海上保安能力やミサイル防衛能力の強化を図っていく意向も示している。ワクチン接種の広がりもあって、新型コロナウイルス感染症の状況は改善に転じている。このため、現在、経済政策の内容に関心が高まっている。主に注目される政策課題は次の二つである。一つは経済安全保障である。これまでの首相の発言から、岸田政権が次の二つを重視していることは明らかである。戦略物資・技術について国内生産拠点の整備を含め、日本の産業の維持・発展に支障の内容の形で強固なサプライチェーンを構築すること。もう一つは輸出管理を含め、重要な技術・物資の対外流出管理を強化することである。岸田首相は今回、小林鷹史氏を経済安保担当相に、山際大志郎氏を経済財政担当相にそれぞれ任命した。岸田氏が政調会長だった2020年6月に立ち上げた自民党の「新国際秩序創造戦略本部」で、座長を務めたのが甘利幹事長、小林氏と山際氏が事務局長と幹事長として議論を支えた。甘利明幹事長は経済安全保障の問題に早くから関心を持ち、党内議論をこれまで進めてきた。総裁選では、今回政調会長に就任した高市氏も経済安全保障包括法の制定を訴えた。岸田政権では小林、山際両大臣、自民党内では甘利幹事長、高市政調会長が経済安全保障の議論をリードすると予想できる。
「改革」を志向するのか
もう一つ注目されるのは、岸田首相が規制緩和をはじめとして、どれだけ日本経済のあり方の改革を手掛けようとしているのかという点だ。首相は総裁選以来「新自由主義からの転換」を掲げてきた。9月の総裁選に際しては、自らの経済政策を説明する記者会見で「一言で言うならば小泉改革以降の新自由主義的政策、これを転換する」と言い切り、新自由主義的政策は「富める者と富まざるもの、持てるものと持たざる者の格差分断を生んできました」と評価している。一方、所信表明演説では「改革」という言葉に首相は言及しなかった。このため、改革姿勢を明確にしないことに、一部で批判も出ている(※8)。こうした評価を意識したのか、10月14日に首相はデジタル臨時行政調査会を発足させることを改めて表明し、デジタル改革、規制改革、行政改革を進めると明言した。読売新聞が新内閣発足直後10月4日、5日に実施した世論調査で、回答者が内閣に最も期待する項目として挙げたのが「景気と雇用」「新型コロナウイルス対策」だった。(※9) 岸田新政権の行方は、この二つの課題に取り組む際、国民からの支持を維持できるかどうかにかかっている。
(※1) 『朝日新聞』2020年9月18日 / (※2) 『共同通信』2020年10月18日、『読売新聞』2020年11月10日 / (※3) 『朝日新聞』2020年11月17日 / (※4) 『朝日新聞』2020年12月21日 / (※5) 『読売新聞』2020年12月28日 / (※6) 『共同通信』2021年5月16日、『朝日新聞』2021年5月17日 / (※7) 『朝日新聞』2021年8月9日 / (※8) 『日本経済新聞』2021年10月9日 / (※9) 『読売新聞』2021年10月6日

●「まさかの落選危機も…」官邸と与党が心配する岸田内閣の現職3閣僚  10/25
自民党は衆院選に向けて、第2次公認を発表した。二階派と清和政策研究会(細田派)、麻生派などで保守分裂か、と注目されていた群馬1区や福岡5区などの小選挙区の候補者が決定している。
党内で公認争いが激化していた小選挙区の調整は、甘利明幹事長と遠藤利明選対本部長が中心になっていた。だが、公認直前には麻生太郎副総裁も加わった。
「15日に官邸で麻生氏、甘利氏、遠藤氏が岸田首相と断続的に会談して、候補者を調整していました。岸田首相はずっと険しい表情でしたね」(自民党幹部)
岸田内閣が発足し、わずか10日で解散となり、選挙に突入するという異例の短期決戦。組閣から間がないので、現職閣僚が苦戦している小選挙区がいくつもある。
特に自民党、官邸が「負けたら大変なことになる」と力を入れるのが、初入閣した大臣たちの選挙区だ。
西銘恒三郎・復興相(竹下派)の沖縄4区、山際大志郎・経済再生担当相(麻生派)の神奈川18区だという。
西銘氏は当選5回で父親の順治氏は沖縄県知事、衆院議員を務めた政治一家だ。しかし、地元の自民党県議は険しい表情だ。
「西銘氏が復興相になったのは追い風だ。これで挽回したい」
自民党が10月に実施した世論調査では西銘氏と立憲民主党の新人、金城徹氏は差がわずかで、大接戦となっている。立憲の世論調査の数字では、金城氏が西銘氏に対し、わずかに優勢という数字だった。西銘氏は過去5回の当選の中で、4回は小選挙区で当選、1回は比例復活している。
西銘復興相と「オール沖縄」立憲新人が接戦の沖縄4区
2009年に旧民主党政権が誕生した選挙では、比例復活もできなかった。相手の金城氏は元那覇市議で議長も務めた。元沖縄県知事の翁長雄志氏(故人)と近く、市議時代は自民党から出馬したこともあった。保守と革新が呉越同舟の「オール沖縄」からの支援も受けている。
「もともとは西銘氏の強固な地盤でしたが、沖縄で強い革新票は確実に金城氏がとるでしょう。金城氏は自民党にいたこともあり、西銘氏支援の保守層にも食い込んでいる。それが接戦になっている要因の一つです」(立憲幹部)
17年の衆院選で自公政権が圧勝した中でも、沖縄は小選挙区4つのうち1つしかとれなかった。それを死守したのが、西銘氏だった。今回もデッドヒートを勝ち抜くことができるのか?
一方、経済再生担当相の山際氏の地盤、神奈川18区は、立憲元職の三村和也氏と日本維新の会の新人、横田光弘氏の3人が争う構図だ。
山際経済再生担当相と立憲元職が激戦
山際氏は当選5回。自民党の世論調査では山際氏が立憲の三村氏や維新の横田氏より優勢となっている。しかし、山際氏と三村氏には、わずかな差しかないという。また立憲の世論調査では、山際氏と三村氏は接戦となっている。17年の衆院選では、山際氏が希望の党から出馬した三村氏に5万票ほどの差をつけて圧勝した。
「前回のように、圧勝してほしいですが、現状では1票差でもいいので小選挙区当選が目標です」(山際陣営の地方議員)
立憲の三村氏はかつて菅義偉前首相の神奈川2区が地盤だった。09年に民主党と政権交代を果たした選挙では、菅氏を約500票差まで追い込み、比例復活当選を果たし、バッジをつけた。
その後、選挙区を何度か変更し、今回は前回(希望の党)と同じ神奈川18区から出馬となった。
「これまで選挙区が定まらなかったが、神奈川18区で連続しての出馬となり、三村氏の名前が浸透してきた。また野党共闘で共産党候補がいない。世論調査でも立憲や共産党の支持者から確実に数字がとれている。神奈川18区の政党支持率も自民と立憲の差はわずかで、いい勝負をしている。山際氏という現職閣僚に勝てる小選挙区として重点を置いている」(立憲の幹部)
神奈川18区は川崎市高津区など北部に位置するが、8月の横浜市長選が微妙に影響している。菅氏が必勝を期して送り込んだ、小此木八郎氏が落選し、立憲が推した山中竹春氏が勝利した。
「川崎市は横浜市に隣接する都市部。まだ8月の横浜ショックが尾を引いて自民党と訴えても反応が鈍い。山際氏は経済再生担当相とコロナも担当する。多忙でしょうが、頻繁に地元に帰ってもらわないと厳しい」(山際陣営の地方議員)
そして現職閣僚でもう一人、苦しい選挙戦となっているのが、連立与党・公明党の斉藤鉄夫国交相だ。これまで斉藤氏は比例中国ブロック選出だった。
だが、19年の参院選で自民党の河井克行、案里夫妻が広島県選挙区の地方議員や有権者に計2900万円をばらまいた公職選挙法違反事件が起こった。法相まで務めた克行被告は、1審の有罪判決で議員辞職。そこに名乗りを上げたのが斉藤氏だった。広島3区で当選してきた克行被告は、約8万5千票を獲得していた。
議員辞職した河井元法相の広島3区 自民動かず、焦る公明
17年の衆院選で公明党が広島3区の比例代表でとったのは、約2万5500票。広島市議選などの結果からも公明党の基礎票は2万5千票とみられる。そこに6万票の上積みが必要で自民党の協力なくして、当選はない。
また、公明党の小選挙区立候補は原則、比例代表との重複立候補はしないので、斉藤氏は勝ち抜くしかないのだ。
最新の自民党の世論調査を見ると、斉藤氏が立憲の新人、ライアン真由美氏に大きな差をつけている。だが、今夏の世論調査ではライアン氏が僅差だが斉藤氏を上回っていた。
立憲の世論調査では、斉藤氏とライアン氏はまったくの横並びだった。公明党幹部は浮かない顔でこう話す。
「斉藤氏が勝つには自民党さんに頑張ってもらうしかない。だが、河井夫妻の事件があって正直、動きは鈍い」
自民党広島県連から河井夫妻の事件に関与した県議や市議らに対し、「一切、衆院選には関わるな」とお達しが出ているという。
「岸田首相も以前、河井夫妻の事件に関係した地方議員は処分という趣旨の話をしている。公明党が何を言っても動きようがありません。岸田首相が手のひら返しで斉藤氏を応援しろと言っても、やる気はしませんね。有権者の目線も冷たいです」(自民党の広島県議)
だが、斉藤氏も黙っていることもできず、河井夫妻の事件に関与した地方議員にも声をかけて応援を要請するという歪な展開になっている。
立憲幹部は自信ありげに言う。
「自民党は動いていない。それで公明党は必死になっており、政権与党の足並みが乱れている。ライアン氏は広島3区で長く活動しており、国交相を新人が破るという大番狂わせも十分、可能性がある」
広島3区からは他にも日本維新の会が新人の瀬木寛親氏、「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」の矢島秀平氏、無所属の大山宏氏と玉田憲勲氏も立候補を表明している。広島3区は中選挙区時代、岸田首相の地元でもあった。
そこで指導力を発揮できなければ、「自公政権に亀裂が入りかねない」(自民党幹部)という声もでている。

●自民党苦戦は何が原因なのか、岸田首相に考えてほしい。 10/25
岸田内閣は、支持率は高くないが、不支持率は低いという政権である。世論調査を見ても岸田首相を枝野首相に変えたいという回答の比率は低い。にもかかわらず、各種の世論調査では自民党は大幅に議席を減らすことが予想されているし、静岡での参議院議員補欠選挙でも負けてしまった。
これはどうしてなのかだが、ひとつのキーワードは、安倍元首相が敵が多かったにもかかわらず、選挙には強かったこととの対比だろう。
もちろん、自民党の議席減は誰が首相でも仕方ない面もある。それは、前回の総選挙で、希望の党が失速して立憲民主党の評判がよかったものの、候補者が質量ともに足らなかったので、支持率にふさわしい議席をとれなかったことがある。今回は前回、希望の党から出ていたベテランが立憲民主党から出て前回よりはベターだ。
また、維新も勢いがなかったのが、今回は吉村大阪府知事という顔を得て大阪でも好調だし、比例区では全国で少しずつ議席を取れそうだ。
さらに、野党が統一候補を立てたことは、長期的には毒饅頭かもしれないが、今回に限れば議席増要因だ。
この三つの要素だけを考えても、自民党が30議席程度は減ることは自然なことで、これを基準に20議席減なら大勝利だということでないか。
そして、菅首相の電撃辞任、4人もの候補が出て電波ジャックとすらいわれた総裁選、新型コロナはほとんど収まっているなどを考えれば、この20議席減ほどで収めるのは十分に視野に入っていたのだが、いま、それが危ない。
どうしてかということだが、ひとつは、党と内閣の人事の稚拙さだ。もちろん、適材適所は十二分に考えられており、なかなか見事な人事なのだ。ただ、選挙向きではない。
もし、選挙に勝ちたいだけなら、かつて安倍晋三が総裁に復帰したときのように、ライバルだった河野太郎を幹事長にし、今回の総裁選挙で人気が急上昇した高市早苗を官房長官にでもすれば、少なくともさしあたっての総選挙では大勝利間違いなかった。
あるいは、高市が幹事長で、河野を政調会長にでもしても良かった。ところが、あまりにも地味で、安倍・麻生・甘利の3Aの意向を汲み、党幹部にはすねに傷を持つ古い政治家が並んだ。そこで、私は別のところで、「岸田政権:選挙大勝利や大改革より着実な前進」と書いた。
たしかに、甘利氏が練達の政治家で見識があるのに何の異議もない。候補者調整の見事さなどはその力が遺憾なく発揮されている。しかし、各党幹事長の政策論争でも、自身のスキャンダルの弁解でも、支持者を増やしたいなら、工夫がなさ過ぎで、どうして高市が河野にしておかなかったのかと普通は思う。来年の参議院選挙までは、それでよかったのである。
安倍首相は攻撃的だったから選挙に強かった
もうひとつ迫力が出ていないのは、あまりにも防御的な姿勢である。ようやく、選挙戦が始まってから、共産党との選挙協力を攻撃しているが、遅い。安倍首相の「悪夢のような民主党政権」といった決めつけは、絶対にやめてはならないのだ。それをしっかりいわないから、彼らが「我が党は生まれ変わった」といって反撃するならわかるが、枝野代表に、「我が党は大臣経験者も多い」などと言わせている。
共産党にしても、なにしろ、G7の参加国で共産党が健在なのは、日本だけである。アメリカ、イギリス、カナダでは議席をもっていないし、ドイツではナチスとともに違憲とされたのち、東ドイツの政権党の残党が社民党の左派離党組とともに過去を反省した上で「左派党」を結成しているが、極右政党である「ドイツの選択」とともに、与党には入れるべきでないというのが、コンセンサスだ。
イタリアでは、いったん党名を変えて出直そうとしたが、結局、解党して、かつてのライバルだったキリスト教民主党の残党と一緒に、民主党という中道左派政党になることで政権参加している。
フランスでは、かつては20%もの支持率を持っていたが、いまは、社会党左派離党組と連合を組んで、ようやく生き延びている。
私は共産党の歴史的役割を否定ばかりするつもりはないし、むしろ、静かに消えるより、このへんで生まれ変わってポジティブな遺産を再生して欲しいと思うのである。
そんな世界のなかで、昔のままの共産党と選挙協力し、その支持を当てにして政権を目指そうというのは、相当に大胆なことで、「悪夢のような民主党政権」どころでないのだが、岸田自民党の攻撃は維新や公明党に比べてもおとなしい。
中国や韓国についても、安倍内閣のころよりさらに日本人の対中、対韓感情は悪化しているのに、これを攻撃しない。中国とは選挙のとき、批判したからその後の展開が難しくなるような性質のものでないのに不思議だ。
それに限らず、外交や防衛を重点的に取り上げないから、野党と自民党の対立がみえず、それこそ、モリカケ桜や河井夫妻の事件への対処が相違点のようになってしまっている。
経済政策についても、バラマキ合戦に加わってしまって、何が争点なのか分からなくなってしまった。そもそも、MMT理論とかを容認してしまうと、これまで革新政党のバラマキ要求を良識をもって否定してきたのが政権与党だったのは何だったのかすら問われる。自民党は、「連立相手の公明党もいろいろ提案されているので、協議して採り入れるべき所は採り入れたい」とでも言っておけばいいのであって、あまり安直な約束を確約することは避けてほしいものだ。
岸田首相は、所信表明演説で、「みんなで行けば遠くまで行ける」といったが、そのためには、新保守主義のように、「自分で遠くに行く気がある人だけ遠くに行けばいい」のでなく、「嫌な人も叱咤激励して、あるいは、強制に近いことしてでも一緒に遠くへ行こう」というのが、本来のリベラルな新資本主義のはずである。
宏池会出身の大平正芳首相が、一般消費税やグリーンカードの導入を嫌われること覚悟で訴えたのこそ、見習うべきだ。
たとえば、マイナンバーカードの取得と利用でもワクチン接種でも、世界のリベラル政権は、強制に近いことしているのである。逆にだからこそ、平等主義による経済不合理性をかなり克服できるのだ。
私は、そこをはっきりさせないから、唱えている方向性は正しいが、具体性に乏しくなることを危惧している。
第一党だったら過半数割れでも交替する必要ない?
それから、選挙の勝敗だが、選挙の敗北とは、野党が過半数を獲得することである。まず、議席を減らすかどうかは関係ない。自民党で過半数とれなくとも連立与党の公明党とあわせて過半数なら完璧な勝利だ。
さらに、連立与党で過半数を取れなかったら野党に政権を渡すのか?普通は、第一党の代表が連立交渉に臨むのであろう。それが議院内閣制における憲政の常道だ。あまり、安直に、負けてもいないのに政権を投げ出すようなことを言うべきでない。
また、与野党拮抗が望ましいという人が世論調査で多いが、これもおかしな話だ。国民は改革やダイナミックでスピード感ある仕事を望んでないのだろうか。たとえば、ワクチン接種だって、野党が予防接種法の改正などで、足を引っ張らなかったら何ヶ月か前倒しできたはずだ。そういうことをもっというべきだろう。
だいたい、世界の常識として、大統領や首相は最低、4〜5年、並みより上なら8〜10年以上が常識だ。安倍首相の7年半だって短すぎたのである。
日本人はまた、自民党政権には変わって欲しくないが、自民党内で指導者交代を頻繁にやれとか、野党が首相が思いきったことできないように邪魔して欲しいとかいうが、これも異常だ。 
与党内の派閥争いで大統領や首相がかわるなんていうことは珍しいことなのだ。政権交代は、野党によって倒されることで実現するのが、普通だ。あとは、さすがに長すぎるとか、健康を害したとか、このままでは、次の総選挙で負けそうと云うときだけ与党内で指導者交代だ。
アメリカ大統領選挙だって、現職大統領に党内で本気で挑戦しようという人は少ないし、大統領のほうが再選を辞退するというのもかなり珍しいだろう。
日本の野党は、本気で政権交代を目指すのでなく、3分の1を確保して、憲法改正を阻止するとか、政府の政策のスピードを遅らせるとか生半可なものにすることに存在価値を見いだすことが主眼になってしまっている。
今回の総選挙で躍進したとしても、そのことが、さらにその次の選挙で政権を取るとか、何かの拍子に政権が転がり込んだら、あの「悪夢の民主党政権(私は自民党が使うような意味でなく、政権をとった当時の民主党の政治家にとってそうだったという意味で使いたい)」のようなことでなく、少なくともその次の総選挙でも勝てるような政策と人を育てて欲しいと思う。
ここまで書いたことでも分かるように、私は自民党の永久政権は好ましくないと考えているし、二大政党ないし二大勢力が交替で政権をとるのが民主主義の王道だと考えるからこそ与党にも野党にも苦言したいのだ。

●参院補選 岸田首相「山口 信任頂き感謝 静岡 厳粛に受け止め」  10/25
24日投票が行われた参議院の2つの補欠選挙の結果について岸田総理大臣は「山口県では県民の信任を頂き心から感謝を申し上げたい。一方、静岡県については残念な結果で県民の判断を厳粛に受け止めたい」と述べました。
岸田内閣発足後、最初の国政選挙となった参議院の2つの補欠選挙は、山口選挙区で自民党の前の参議院議員が圧勝して議席を維持した一方、静岡選挙区では立憲民主党と国民民主党が推薦した無所属の元県議会議員が当選し、自民党は議席を失いました。
これについて岸田総理大臣は、25日朝、東京都内の議員宿舎で記者団に対し「山口県では、県民の信任を頂き心から感謝を申し上げたい。一方、静岡県については残念な結果だった。県民の皆さんのご判断を厳粛に受け止めたい」と述べました。
そのうえで、記者団が静岡選挙区の敗因について質問したのに対し「さまざまな要因の積み重ねによってこうした結果になったと受け止めている。しっかり分析したい」と述べました。そして、6日後に投開票が迫った衆議院選挙について「政権選択選挙でもある。気持ちを引き締めて臨んでいきたい」と述べました。
 

 

●自民党・岸田文雄首相ツイート「衆院選は大変厳しい情勢です」 10/26
自民党の岸田文雄首相は選挙戦中盤を過ぎた25日午後11時過ぎ、ツイッターに「#衆院選は大変厳しい情勢です」とつづった。24日投開票された参院山口選挙区と静岡選挙区の2補選は、自民党議員の辞職に伴う補選だったが、静岡選挙区で敗退。衆院選への影響が懸念される中でのツイート。岸田氏は続けて「しかしこの国難の中にあって政策を実行していくために、絶対に負けられない選挙です。残り5日間、日本各地での街頭演説や#車座対話を通して、お一人おひとりの声を#岸田ノートに受け止めてまいります。どうかこの岸田に、自民党に、お力を与えてください!」などと呼びかけた。
これに先立ち、自民党本部では選対本部会合が行われており、情勢が検討されていた。選挙戦終盤へ向けた巻き返しの呼びかけとみられる。

●内閣支持率トップは広島県、直近の首相おひざ元が続く 10/26
内閣支持率は首相の「地元」で高め――。朝日新聞社が23、24日に実施した世論調査(電話)で都道府県別の支持率を分析すると、こんな傾向が浮かんだ。
調査は衆院選の情勢調査と同時に実施した。岸田内閣の支持率は全国で42%、不支持率は31%。これを都道県別にみると、ダントツは岸田文雄首相のおひざ元、広島の64%。2位は秋田の53%、3位は山口52%だった。秋田は菅義偉前首相の出身地、山口は安倍晋三元首相の地盤だ。政権交代後の3代の首相の「地元」がトップ3を占めた。
一方、最も低かったのは鳥取の31%。保守地盤は厚いが、内閣支持は全国平均を大きく下回り、不支持34%の方が多かった。鳥取は石破茂・自民党元幹事長の地盤だ。2番目に低いのは兵庫37%、次が栃木・埼玉の38%だった。

●「新しい資本主義」めざし、11月上旬にも提言案 初会合で首相指示 10/26
岸田文雄首相が目指す「成長と分配の好循環」をどう実現させるのか議論する「新しい資本主義実現会議」(議長=岸田首相)の初会合が26日、首相官邸で開かれた。首相は、人への投資の強化など岸田内閣が最優先で取り組むべき課題について、11月上旬にも緊急提言案として取りまとめるよう指示した。
同会議は全閣僚と、「日本資本主義の父」とされる渋沢栄一の玄孫でコンサル会社代表の渋沢健氏ら15人の有識者でつくる。首相は会合で「成長と分配の好循環が重要との認識、そうした目標の実現に向けて官と民がともに役割を果たし、あらゆる政策を総動員していく必要があることが共有できた」と話した。
同会議の立ち上げの背景には、安倍政権から9年近く続いた経済政策「アベノミクス」のもとで企業の内部留保が増える一方、働き手の実質賃金が十分に上がらなかったことへの反省がある。議論を通じて、「分配」における政府や企業などの役割分担を明確にしたい考えだ。企業が得た利益などの「果実」が働き手に行き渡る方策などを考え、「分厚い中間層」の再構築をめざす。岸田内閣の経済政策の土台となるビジョンも策定する方針だ。
首相はまた、「デジタル田園都市国家構想実現会議」やデジタル臨調、「新たな全世代型社会保障構築会議」、公的価格のあり方を検討する「公的価格評価検討委員会」をつくり、実現会議と連携して議論を進める考えも明らかにした。

●岸田首相 公明党との協力体制のために菅・二階氏に頼るしかない構図 10/26
超短期決戦を選んだ岸田文雄・首相だが、総選挙情勢は「大敗ライン」の自民党単独過半数(233議席)を割り込むか、なんとか単独過半数を維持できるかの瀬戸際に立たされている。
そして、総選挙後の政権運営にも不安は残る、これまで連立相手の公明党と太いパイプを持ち、連立を維持してきたのは菅義偉・前首相と二階俊博・前幹事長だ。
「二階さんは公明党との交渉窓口、菅さんは創価学会中枢と強く結んで重要政策の根回しから選挙協力まで話し合ってきた。岸田首相に公明や学会中枢とのパイプは全くないし、甘利明・幹事長はじめ現在の党執行部にもそれができる人はいない」(自民党3役経験者)
今回の選挙戦でもそれが問題になった。公明党が選挙協力をする自民党候補に推薦を出すにあたって、“言うことを聞かなければ推薦しない”とよりによって選挙の指揮をとる甘利明・幹事長を第1次と第2次推薦者リストから外して揺さぶりをかけたのだ。
自民党側が折れて比例名簿順位で公明党の希望する自民の候補を上位に置いたことで甘利氏も公示ギリギリで公明推薦をもらうことができたが、自民党幹事長を推薦しないなど菅・二階時代には考えられない事態だった。
「これまでは自民党の言うことをおとなしく聞いていた公明党が、菅さんと二階さんが失脚した途端に牙を剥いてきた」(同前)
菅・二階連合とパイプが太い公明党が岸田政権の力を削ぐ方向に動き出した。岸田首相が自公連立を円滑に維持していくには、ここでは菅・二階氏に頼らざるを得なくなる構図だ。

●岸田文雄首相COP26出席へ 就任後初の外国訪問「議論に貢献したい」 10/26
岸田文雄首相は26日、英国で開催される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に関し「私も出席し、議論に貢献していきたい」と明言した。官邸で気候変動対策有識者会議の報告書を伊藤元重座長から受け取った際に述べた。COP26は31日に開幕。11月1〜2日には首脳級会合が予定されており、英国を訪れて会合に参加すれば首相就任以来、初の外国訪問となる。
首相は気候変動問題について「待ったなしの重大な課題だ。岸田内閣としてもしっかりと対策に取り組みたい」と強調。2050年に温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする「カーボンニュートラル」を挙げ「地球温暖化対策を経済の発展や豊かな暮らしにつなげていく」とも指摘した。
これに関連し、松野博一官房長官は記者会見で、COP26について「気候変動対策の機運を高める重要な機会だ。脱炭素社会の実現に向けて、わが国が国際社会を主導していきたい」と語った。

●自民敗退の静岡補選 甘利幹事長と今井絵理子氏の応援入りに不満の声 10/26
岸田文雄・新首相のもとで初の国政選挙となった参院静岡、山口両選挙区補選が10月24日に行なわれ、自民党は山口を死守したものの、静岡では立憲民主党と国民民主党が推薦した新人の無所属候補相手に議席を失い、党内に動揺が広がっている。「選挙を仕切った甘利明・幹事長の責任は重い」と自民党関係者は語る。
「岸田首相が2回も応援に入ったのに負けたとなれば、衆院選に向けて首相の顔に傷がつき、あまりにもイメージが悪い。情勢の悪化が伝えられた時点で、人気の高い河野太郎氏や高市早苗氏を投入すべきでした。甘利幹事長が2人の応援入りを避けたのは、衆院選で応援入りの要請が相次いでいるという事情があるにせよ、幹事長自身が毛嫌いしたのでしょう。国政選挙の初陣から岸田氏と総裁選で争った2人に頼っては格好が付かないと思ったのかもしれませんが、負けてしまっては元も子もありません」
甘利氏が2人の代わりに“切り札”として投入したのが、今井絵理子・参院議員と甘利氏自身だった。
「甘利氏と同じ麻生派で岸田氏が総裁選に出た際の推薦人に名を連ねた今井氏は、『女性で若くて知名度も高い』と、いまや甘利氏のお気に入り。静岡の補選だけでなく衆院選でも甘利氏が接戦と見ている重点選挙区に投入していますが、かつての不倫報道でイメージを落としており、選挙区からはあまり歓迎されていません。
それ以上に選挙区から“ありがた迷惑”と思われているのが、甘利氏自身の応援です。今回の補選敗北にも、自民党内からは『甘利さんが応援に入ったのがマイナスに働いたのではないか』と囁かれているほどです」(同前)
党内からこうした声があるにもかかわらず、甘利氏が気にするそぶりはない。自らは全国の選挙区を飛び回り、寵愛する今井氏は、NHKの自民党政見放送にまで登場。今井氏が「自民党女性局長代理の今井絵理子です。本日は岸田総理と自民党の政策をご紹介します」と挨拶すると、岸田首相は「沖縄出身の今井さんはSPEEDのボーカルとして、芸能界で活躍されました」と持ち上げる展開に。これには自民党ベテラン秘書も首を傾げる。
「岸田首相は甘利さんに乗せられて今井さんの抜擢を了承したのでしょうが、これではあまりに政見放送が軽く見えてしまう。今井さんを重用することが逆効果になっているのではないかとの声は党内からも上がっています」
運命の投票日は10月31日だ。

●「所得の単なる倍増は企図せず」 首相発言で政府答弁書 10/26
政府は26日の閣議で、岸田文雄首相が9月の自民党総裁選で言及した「令和版所得倍増」に関する答弁書を決定した。「平均所得や所得総額の単なる倍増を企図したものではない」と説明した。
10月12日の参院本会議での答弁を引用して「一部ではなく、広く多くの皆さんの所得を全体として引き上げるという経済政策の基本的な方向性として示されたものだ」と明記した。
具体的な数値目標を盛った経済計画の策定は「現時点で考えていない」と記した。立憲民主党の小西洋之参院議員の質問主意書に答えた。

●岸田首相、麻生氏発言を陳謝 道産米めぐり、立民道連は抗議 10/26
岸田文雄首相は26日のBSフジの番組で、自民党の麻生太郎副総裁が地球温暖化により北海道産米が「うまくなった」と発言したことに関し、「発言は適切ではなかった。申し訳ないと思う」と陳謝した。
岸田氏は「お米は、関係者の皆さんが絶えず品種改良など大変な努力をされ、その積み重ねでおいしくなっていると認識している」と指摘。気候変動についても「災害や農産物にも影響を及ぼす地球規模の大変重要な課題だ」と語った。
麻生氏は25日、札幌市などでの街頭演説で道産米について「昔は『厄介道米(やっかいどうまい)』と言っていた。温暖化したおかげでうまくなった」などと発言。これに対し、立憲民主党北海道連は26日、文書で「農業関係者の長年にわたる努力を侮辱したもので、温暖化と結びつけるのは見当違いだ」と抗議した。

●首相「人事、基本的にかえず」 与党勝利で第2次内閣なら 10/26
岸田文雄首相は26日夜のBSフジ番組で、31日投開票の衆院選後の人事に言及した。与党が過半数を確保して第2次岸田内閣が誕生する場合に現在の陣容を継続するかを問われ「基本的にかえることは考えていない」と述べた。
岸田内閣は4日に発足した。首相は「内閣を立ち上げたばかりで、働いてもらわなければいけない」と説明した。「『子ども庁』をはじめさまざまな課題の議論や『新しい資本主義』など約束したことをどんどんと動かしたい」と語った。
「かなり日程は窮屈だ」と指摘した。閣僚を原則、再任し衆院選で掲げた政策などの実行を目指す。首相は年内に、衆院選後にまとめる経済対策を裏付ける2021年度補正予算案を成立させ、22年度予算案も編成する考えを強調した。

●「感染力2倍は科学的でない」 岸田内閣のコロナ対策に専門家が異論 10/26
岸田内閣が打ち出した新しい新型コロナウイルス対策に「今夏の2倍程度の感染力を想定」して医療提供体制を強化すると表現したことについて、新型コロナ対策を厚生労働省に助言する26日の専門家組織で異論が相次いだ。「感染力が2倍」という表現は科学的ではない、といった指摘だ。
新しい対策は15日の新型コロナウイルス感染症対策本部で決めた。「感染力が2倍」になっても対応できるよう、入院患者の受け入れを2割増やすことを柱としている。
これに対して専門家からは「『感染力が2倍、3倍』ということは、科学的にそういったものが次に現れることは考えにくい」といった意見や「感染者数が2倍、3倍になるといった表現の方が適切ではないか」「趣旨が伝わりにくいから補足しないといけない」などの発言が出たという。

●岸田首相 こども庁法案「来年通常国会での提出目指す」 10/26
岸田文雄首相は26日夜のBSフジの報道番組で、子ども関連の政策を一元的に担う「こども庁」の創設に向け、来年の通常国会で関連法案の提出を目指す考えを表明した。「こども庁は年内にも与党でしっかり結論を出し、来年の通常国会に法律を出すことができれば」と述べた。
こども庁創設は菅義偉前首相が在任当時に縦割り行政解消へ向けて打ち出し、岸田内閣では野田聖子こども政策担当相が所管。ただ、文部科学省や厚生労働省を含む調整は難航も予想される。
 

 

●岸田首相「共産含む政権、どんな外交になるか」 応援演説で立民批判 10/27
岸田文雄首相は27日午前、東京都北区のJR赤羽駅前で衆院選候補者の応援演説を行い、「共産党を含む政権ができたならば、どんな外交安全保障になってしまうのか」と述べ、共産党と連携する立憲民主党を暗に批判した。首相はこれまで選挙期間中に各地で行った応援演説で、両党の連携を前提とした批判はしていなかった。
この日の演説で首相は、北朝鮮の弾道ミサイル発射や中露艦艇による日本周辺海域での動きについて触れ、「こういったときこそ、しっかりとした外交安全保障を進めなければならないと強く感じている」と強調した。

●岸田首相「日本が脱炭素を主導」 ASEAN首脳会議 10/27
岸田文雄首相は27日、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会議にテレビ会議方式で出席し、「日本はカーボンニュートラルの実現に向け、国際社会を主導する」と述べた。その上で「(同日発表する)『日ASEAN気候変動アクションアジェンダ2・0』に基づくアジア各国との協力を推進する」と強調した。
首相は外相を務めた平成24年から29年までの間にASEAN全加盟国を延べ19回訪問し、各国首脳らと会談した実績に言及。「引き続きASEANとの関係を重視している。自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた取り組みを力強く推進していく」と語った。
日ASEAN友好協力50周年を迎える令和5年にはASEAN首脳らを日本に迎えるとして「日ASEAN関係を新たなステージに引き上げたい」と述べた。

●岸田首相、外交の隙間に遊説 都内の接戦区奔走 10/27
岸田文雄首相は27日、オンライン形式の国際会議をこなしつつ、その合間を縫って衆院選(31日投開票)の遊説に奔走した。首相官邸と東京都内6カ所の演説会場を頻繁に行き来し、接戦区を中心に与党候補のてこ入れを図った。
首相は日本・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議など三つの国際会議に官邸から参加。その前後に演説日程を詰め込んだ。JR赤羽駅前では「日本の平和、生活を守るためにしっかりとした外交・安全保障を進めなければならない」と訴えた。

●首相「分配」政策示せるかがカギ 原点は渋沢栄一 10/27
岸田文雄首相が「新しい資本主義実現会議」で掲げる成長と分配の好循環は、9月の自民党総裁選に向けて練り上げたテーマで、衆院選でも目玉政策として打ち出している。ただ、首相が重視してきた分配政策は中長期的な課題だけに、所得増などすぐに実感できる施策に結びつけることは難しい。今後、具体策を示せるかどうかが政権運営の浮沈を握る。
首相が掲げる経済政策「新しい資本主義」の原点は「日本資本主義の父」といわれる渋沢栄一が提唱した「道徳と経済の合一説」だ。
渋沢栄一の玄孫で資産運用コンサルティング会社代表の渋沢健氏が平成29年6月の岸田派(宏池会)の勉強会で、「経営者1人がいかに大富豪になっても、そのために社会の多数が貧困に陥るようなことでは、その幸福は継続されない」という栄一が著書で示した理念を説いた。
首相は翌月に開いた同派のシンポジウムで、「格差という負の側面に対応することが重要だ。適切な所得の配分を考えていくべきだ」と語り、分配を重視する姿勢を示した。渋沢氏は今回の実現会議のメンバーにも名を連ねている。
首相は8日の所信表明演説で「成長を目指すことは極めて重要」としつつも「分配なくして次の成長なし」と訴えた。成長を重視した安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」との差別化を図る一方、分配を重視する立憲民主党など主要野党の政策を埋没させる狙いもあった。
ただ、短期間で分配の原資を明示するのは難しい。分配政策として総裁選で公約に掲げた金融所得課税の見直しは、自民の衆院選公約に盛り込まれなかった。
所信表明では同じ割合だった「分配」と「成長」への言及にも変化がみられた。公示後の街頭演説では「分配」の表現が減り、26日に東京都西東京市で行った街頭演説では、「成長」の表現を7回使ったが「分配」は口にしなかった。「分配ばかり重視しているのか」といった懸念に配慮したとみられる。
「分配は俺の持論だ」首相は以前、周囲にこう強調していた。成長を軽視するのではなく、果実を一部の企業だけが独占せず、個人所得の引き上げなどへ還元するよう求めるのが本意で、これを「好循環」という言葉に込めている。持論の実現に向け、早期の具体策明示が求められている。

●福田康夫氏「岸田首相、大きな問題に対峙を」 東京都内で講演 10/27
福田康夫元首相は27日、東京都内で講演し、新政権を発足させた岸田文雄首相について「岸田政権は続くだろう。政権の強弱を測れる結果が今週末(の衆院選で)出てくるのでどう申し上げても仕方ないが、がんばってほしい」とエールを送った。
福田氏は、衆院選で各党が訴える内容について「10万円出すとか3万円出すとかいう話が多い。それは大事な問題だが目先の話だ」と指摘。気候変動問題や米中、日中関係などに言及したうえで、岸田氏に対し「大きな問題に正面から対峙(たいじ)する姿勢を示すことが日本としても大事だ。大きなリーダーシップがあれば他の国もついてくる。(選挙に勝って)そういうことを世界で示してほしい」と期待を寄せた。

●「偉大な総理大臣・池田勇人」 ノンキャリア官僚 “ドサ回りの日々” 10/27
10月31日に投開票が予定されている衆議院選挙。就任直後、岸田文雄首相は「令和版所得倍増計画」を目玉のひとつに掲げていた。この政策、どこか既視感がある。そう、1960年に発足した池田勇人内閣で策定された同名の経済政策から拝借しているのだ。実は、岸田氏は、池田勇人と同じ広島県出身で、岸田派のはじまりは池田が創立した「宏池会」だ。今、日本がギリギリ踏みとどまっていられるのは「『池田勇人』のおかげ」と述べるのは憲政史家の倉山満氏。“戦後最も偉大な総理大臣”と呼ばれる池田勇人とはどんな人物か。その実像に迫った話題の新刊『嘘だらけの池田勇人』(倉山満)より、苦境の大蔵省時代の池田氏を紹介する章を紹介する。
大蔵省入省した池田勇人の同期
池田勇人の同期入省者には山際正道(東京帝大経済学部卒、のちに大蔵次官・日銀総裁)、田村敏雄(東京帝大文学部卒、のちの宏池会事務局長)、植木庚子郎(東京帝大法学部卒、のちの主計局長)がいます。一期下には、終戦時に鈴木貫太郎内閣で書記官長(官房長官)として終戦工作を取り仕切った迫水久常や、後の総理大臣の福田赳夫がいます。ちなみに植木は池田内閣や佐藤内閣で法務大臣を務め、田中角栄内閣では大蔵大臣となります。角栄と福田が総理大臣のイスを争った角福戦争のとき、田中派の選挙参謀に据えられます。他の角栄側近たちが忙しく動き回っているときに、一人だけ事務所でプロレス中継を見ていたというエピソードが残っているような無能な人です。大臣になってからも、周囲から煙たがられています。角栄のでたらめな方針を忠実に実行し、狂乱物価を引き起こしました。田中角栄は自分の権力を誇示するために無能な人をあえて要職につけるという悪いクセがありましたが、その嚆矢(こうし)が植木蔵相です。
函館、宇都宮でドサ回りの日々
同期の山際や後輩の迫水・福田が欧米に派遣される中、池田はといえば昭和二(一九二七)年に函館税務署長、昭和四(一九二九)年に宇都宮税務署長と地方回りをしています。はっきり言いますが、「ドサ回り」です。当時は、外国留学が大変なステータスでした。東大教授になると一〜二年、望みの国に派遣される時代です。今では国家公務員志望者が激減していますが、それでも目指す志望動機を聞いてみると、「タダで留学させてもらえるから」という若者が少なからずいます。税金で修士号をとらせてもらえることが、官僚になるメリットというわけです。今でさえそうなのですから当時の外国留学経験は、ほとんど貴族への昇格のような意味あいがありました。
東大卒ではない大蔵官僚はアイドルだと…
大蔵省では当時、大学の成績をもとにまず四、五人の採用を決めていたようです。そのうちの一番、二番くらいを財務書記官として海外に派遣し、これに選ばれるかどうかが、その後の出世に大きく影響しました。池田も努力して大蔵省入りしたわけですが、東大法学部卒でなかったために、「大蔵貴族」の仲間には入れてもらえません。言うなれば、アパルトヘイト下の南アフリカにおけるプアホワイトか名誉白人のような位置づけです。白人ではあっても、その最下層にいる人々です。「黒人よりはマシ」という立場です。もっとわかりやすく言うと、このときの池田の状況はモーニング娘。の保田圭(やすだけい)の立ち位置です。売れっ子の安倍なつみ(なっち)や飯田圭織、ずっと後から入った後藤真希などが海外ロケで写真集を作ってもらえるのに、『保田圭写真集』の撮影場所は事務所から歩いて三分の麻布十番です。
人生4度目の挫折と結婚
それでも保田は卒業ライブの観客動員数では歴代メンバー中の一位で、なっちの一万七千人に対し、二万八千人でした。芸能界は人気がすべて、モー娘。保田は実力で見返すことができましたが、大蔵省に入った池田にそんなチャンスは見えてきません。池田は、函館税務署長を皮切りに約二十年間ドサ回りです。敗北を取り返すどころか、出世競争から脱落してしまいました。人生四度目の挫折です。とはいうものの、世間的には天下の大蔵官僚、伯爵令嬢の広沢直子との縁談が決まり、昭和二(一九二七)年、井上準之助(当時は元蔵相)の媒酌で結婚します。
現場で仕事を覚えた池田勇人
当時の大蔵省では、二十七〜八歳で地方の税務署長を務めました。署長の仕事といえば、ひたすら接待づけになること、「若殿様」でいることです。地元の名士が、東京からやってきた役人を接待し、中央政府に目をつけられないようにする。中央省庁から派遣されてきた若署長は盲判を押すだけ。こうした官官および官民接待により、地元財界との癒着が成り立つという構図です。それにしても、通常の場合は、一度だけ地方の税務署長を二年ほど務めた後に中央に戻してもらえるのですが、二回連続。さらに地方をぐるぐる回されるという時点で出世の芽はありません。ただ、ここで池田が偉かったのは、現場で仕事を覚えたことです。明治の官僚も令和の今もあんまり変わらないので、官僚の実態を説明します。官僚には大きく二種類います。一握りのキャリアと、圧倒的多数のノンキャリアです。
キャリアとノンキャリアの違い
キャリアとノンキャリアの違いは、最もわかりやすい警察で説明します。警察の仕事は、捜査と逮捕です。事件を捜査して、犯人と疑わしい人物を逮捕する。実際の警察の仕事をするのは、ノンキャリアです。ドラマ『相棒』で言えば、主役の水谷豊演じる杉下右京はキャリアですが、歴代相棒のうち初代の亀山薫(演・寺脇康文)、二代目神戸尊(演・及川光博)、三代目甲斐亨(演・成宮寛貴)はノンキャリアです。現在の四代目、冠城亘(演・反町隆史)は法務省キャリア出身という手の込んだ設定です。法務省は司法試験に受かっていないとノンキャリア扱いされますが、あそこの役所はわかりにくいので、詳しく知りたい方は『検証 検察庁の近現代史』(光文社新書、二〇一八年)をどうぞ。著者名は忘れましたが、あれは名著です。
経済のことがわからない大蔵省官僚?
普通、キャリアは現場で捜査なんかしないのですが、杉下は左遷されたので、現場でノンキャリと一緒に捜査しているという設定です。ほとんどすべてのキャリア官僚の仕事は、「省内の調整」「他省庁との調整」「政治家との調整」「業界団体との調整」「法案の作成」です。現場の仕事なんか、キャリアはやりません。警察だと、キャリア官僚で殺人事件の捜査や逮捕ができる人なんか、いません。大蔵省(財務省)でも状況は同じで、東京のエリート官僚は予算や税金や金融やマクロ経済のことなんかわかっていません。現日本銀行総裁の黒田東彦さんは「あの人は財務省出身なのに珍しくまっとうな経済学を修めている」と言われていたものですが、ということは他の人は推して知るべしでしょう。もっとも大蔵官僚(財務官僚)の偉いところは、わかってもいない予算や税金や金融やマクロ経済のことを、立て板に水の如く滔々と解説できるので、さもわかっているかの如き幻想を振りまく才能にだけは溢れているところですが。
地方でのドサ回りで実力をつけていく
池田は左遷され出世が絶望的な状況で、現場のノンキャリアの中に入って、仕事を覚えました。池田が何をしたか? 地方の税務署員と一緒に飯を食い、酒を飲み、仕事を教えてもらいました。単に書類の字ヅラと数字だけではない、生きた知識です。言葉や数字は眺めているだけでは意味が解りません。役所の文書には必ず行間に意味があります。凄腕刑事が何十年もその道一筋で覚える技術と知識があるように、税務署の職員にも同じように技術と知識があります。それを池田は、実地に覚えていったのです。アパルトヘイト下の名誉白人が黒人と肩を組んで仕事をするかの如き光景です。他の「白人」は自宅に「黒人」を招いて食事をするなんてありませんが、「名誉白人」の池田は拘りませんでした。いつしか池田は「税のプロ」となっていきます。「大蔵省の杉下右京」と言えば、急にかっこよく思えてきました。
当時の不治の病にかかって休職することに
そんな昭和五(一九三〇)年九月、池田は落葉状天疱瘡という難病にかかります。体中から膿が出てかゆくて、かけばかくほど余計に苦しむという地獄の苦しみの病気です。当時は治療法がなく不治の病でした。ただでさえ出世が遅れているのに、休職せざるを得なくなります。しかも、昭和七(一九三二)年三月、妻直子が看病疲れで死んでしまいます。まもなく、池田は大蔵省を退職し、広島の実家で療養生活を送ります。時は昭和初期、日本も世界も危機的な時代を迎えています。昭和四(一九二九)年、浜口雄幸内閣の井上準之助蔵相が金解禁(金本位制への復帰)を断行し、世界恐慌が押し寄せています。昭和五年にはロンドン海軍軍縮会議で統帥権干犯問題が起こり日本の右傾化が危惧される中、昭和六年に満洲事変の勃発、昭和七年に五・一五事件によって憲政の常道が終焉。さらに翌八年には国際連盟を脱退しようという時期です。
激動の時代に地方で実力をつけていく
激動の歴史のただ中にありながら、日本や世界の運命とはまったく関わりを持てなかったのが、当時の池田勇人です。もっとも、悪いことばかりではありませんでした。ちょうど五・一五事件で政党内閣が終焉を迎えた頃、遠縁の大貫満枝が看病に来てくれました。後に池田が再婚する女性との出会いです。満枝の献身的な介護の甲斐があってか、病状が回復に向かいます。母うめは「勇人の病気が治ったら必ずお礼詣りに参上します」と願をかけていたので、回復の兆しが見えた勇人を連れて伊予大島の島四国(四国八十八ヶ所巡りの小型版)巡礼の旅に出ます(『人間 池田勇人』五八頁)。その後も病状は徐々によくなり、ついには全快します。病気から立ち直った池田は、昭和九(一九三四)年の春に日立製作所への就職が内定します。このときも大蔵省入省にあたって推薦してくれた望月圭介を頼っています。
日立製作所内定を蹴って大蔵省に復帰
ただ、池田はあきらめきれなかったようで、大蔵省に電話をかけました。この電話を機に秘書課長の谷口恒二の肝いりで池田は大蔵省に戻ることになります。なお谷口恒二は一九一二〜一六年に主計局長、一九一六〜一九年に大蔵次官という経歴で、超重要人物のはずなのですが、残念ながら情報がほとんどありません。大蔵省史では単に「池田勇人を呼び戻した課長」とだけ記されています。本来ならば二年の休暇期限が切れた池田は役所に復帰できないのですが、谷口がどうにかしたとのことです。
 

 

●自民党の岸田文雄総裁(内閣総理大臣)が新潟駅南口広場で街頭演説 10/28
自民党の岸田文雄総裁(内閣総理大臣)が28日、衆院選(新潟市が含まれる新潟1区から4区と比例)の応援演説のため新潟市を訪れ、新潟駅南口広場(新潟市中央区)で街頭演説を行なった。
岸田総裁は、新潟1区から4区までの候補と比例北陸信越ブロックから立候補している鷲尾英一郎氏を紹介しつつ、「(新潟1区から立候補している)塚田さんを含めた5人の候補と日本の未来を切り拓いていきたい」と語った。
また新型コロナウイルス感染症対策について言及。「新潟県でも百数十人の感染者が確認される大変な時期もあったが、皆さんの協力によって、足元では感染者数が低く抑えられている」と述べる一方で、「私の内閣においては油断しない。ワクチン接種(予防)、検査体制の充実、医療体制(治療)の確立をしっかりと進めていく」と語っていた。具体的にはワクチン接種で3回目接種の開始、検査体制で無料検査枠の拡充、医療体制では口から飲める治療薬の実用化などに取り組んでいくと語った。
経済政策では、「新潟の経済を大きくしていくことは大事なこと。しかし、競争に任せると成長の果実を一部の人間が独占することになりかねない。一人一人に成長の果実が届かない。経済を大きくした後、政府と民間が協力して成長の果実を給与引き上げという形で実感できる経済を作っていかなければならない。などと語っていた。また、デジタル田園構想構想、農業(米価下落、農産品輸出など)、燃料費の高騰への支援などについても述べていた。
このほか、外交安全保障(北朝鮮のミサイル発射、中露の艦隊の合同艦隊訓練)などについても語っていた。

●岸田首相、東京・大井町駅で最後の訴え 定番の秋葉原は使わず 10/28
岸田文雄首相が衆院選遊説を締めくくる30日の「最後の訴え」を東京都品川区のJR大井町駅前で行う方向で調整していることが分かった。関係者が27日、明らかにした。
安倍晋三元首相は国政選挙などの「最後の訴え」を東京・秋葉原で行うのが定番で、2017年前回衆院選も秋葉原を選んだ。岸田首相として「独自色」を出す狙いもあるとみられる。
首相は28日に東北や四国など、29日は九州や千葉県などの激戦区を回る予定で、日程がタイトなため民間チャーター機を活用する。30日は神奈川、埼玉両県にも足を運び、支持拡大を呼び掛ける。

●岸田首相を待ち受ける“財務省の守護神”麻生太郎氏の「松濤の乱」 10/28
「総選挙で信任をいただければ、数十兆円規模の総合的かつ大胆な経済対策を最優先でお届けする」──そう公約した岸田文雄・首相は、公明党が掲げた18歳以下の子供への一律10万円給付案に「現金給付は実現したい」とすり寄り、菅前政権が推進したGo Toキャンペーンについても、「平日も利用できる方には利用してもらう」と再開する姿勢を見せている。
だが、そんな首相の前に立ちはだかるのが、月刊誌(『文藝春秋』11月号)で与野党の選挙公約を「バラマキ合戦」「このままでは国家財政は破綻する」と批判した矢野康治・財務事務次官が率いる財務省だ。
岸田首相と矢野氏とは“因縁”がある。首相の義弟(妹婿)である可部哲生・国税庁長官は有力な次官候補だったが、矢野氏との出世競争に敗れ、昨年7月の同省人事で国税庁長官に回った。省内には「岸田首相誕生が1年ちょっと早ければ可部次官だった」との見方もある。いわば首相にとって“義弟の仇”だ。
一方、財務省きっての財政再建派として知られる矢野次官にすれば、それまで財政再建論者だった岸田氏が総理になるためにバラマキ論に転じたことが“変節”に映る。官邸人事でも財務省は岸田首相に失望している。
「菅内閣では官邸を仕切る総理首席秘書官は財務官僚だったが、岸田首相は元経産次官の嶋田隆氏を起用し、官邸の主導権をライバルの経産省に奪われた」(同省OB)
そこで財務省は総選挙後の補正予算編成で「財源なきバラマキは認めない」と大型景気対策に徹底抗戦する構えだ。
矢野氏ら財務官僚のバックにいるのが副総理兼財務大臣を8年9か月務めた「財務省の守護神」麻生太郎氏だ。麻生氏は大臣在任中に矢野氏の月刊誌への「バラマキ批判」寄稿を承認し、岸田内閣の組閣で退任が決まると後任の財務大臣に義弟(妻の弟)である鈴木俊一氏を据えて省内に院政を敷いた。
財務官僚は麻生氏のことを自宅の所在地をとって「松濤」と隠語で呼び、同省幹部たちは現在も重要事項は松濤の意向を伺うと言われる。麻生側近が語る。
「麻生さんは自分を体よく副総裁に棚上げし、財政再建派から変節してバラマキに走る岸田総理のやり方に怒って揺さぶりに出た。財務官僚たちも、たとえ総理の指示であろうと、実力者の麻生さんの後押しがあれば数十兆円規模の財政出動を金がない≠ニ突っぱねることができると意を強くしている」
そうなれば、岸田首相は公明党が望む現金給付も二階派懐柔のGo To再開もできずに政権運営に行き詰まることになる。
総選挙の後には「松濤の乱」が首相を待ち受けているのだ。

●「負の遺産」に首相沈黙=モリカケ、野党は追及 10/28
岸田文雄首相(自民党総裁)が衆院選で、安倍、菅両政権の「負の遺産」に沈黙している。
先の党総裁選では説明重視の姿勢を示したが、影響力を保つ安倍晋三元首相に配慮しているようだ。一方、野党は盛んに取り上げ追及している。
「国民の悩み、苦しみを書きつづってきた。皆さんの声を聞いて新しい時代を切り開く」。首相は28日、青森市の演説で、懐から「岸田ノート」を取り出してこう強調。今回の衆院選で演説を締めくくる際の定番だが、森友・加計学園問題や「桜を見る会」、河井克行元法相夫妻の選挙買収事件などには一切触れなかった。
総裁選で首相は当初、森友問題などについて「国民が納得するまで説明」すると強調したが、安倍氏の反発が伝わるとトーンダウン。18日に開かれた衆院選の党首討論会でも「必要なら説明を行う」と述べるにとどめた。
衆院選の公示後は、元法相の地盤だった広島3区で「大変な事件を起こした。心からおわびしなければならない」と謝罪した程度。これ以外のほぼ全ての演説で、不祥事に言及していない。
こうした姿勢は当事者も同様だ。安倍氏は28日、カジノ汚職で実刑判決を受けた前職が出馬を辞退した東京15区で遊説。閣僚時代に現金を受け取った甘利明幹事長は地元の神奈川13区で街頭に立ったが、いずれも一連の問題については語らなかった。
これに対し、野党側は「隠す、ごまかす、改ざんする政治を変えなければならない」(立憲民主党の枝野幸男代表)などと攻勢を強める。同党の岡田克也元外相は28日、JR浦和駅前で「タイは頭から腐る。トップに責任が相当ある」とこき下ろした。
共産党の志位和夫委員長も高知市で「『モリ・カケ・サクラ』。国政私物化疑惑が次々起こったのに何一つ究明していない」と指弾。その上で「こういう政治を首相は引き継ぐ姿勢だ。もう自民、公明の政治を終わりにしよう」と訴えた。
野党は衆院選で、政府の新型コロナウイルス対応に照準を合わせていたが、新規感染者数の急減で攻めあぐねている。経済政策をめぐっても、与野党双方が「分配」を競い合い、差別化に苦慮。「負の遺産」への姿勢を、数少ない対立軸と見定めているとみられる。

●岸田首相、地方の活性化目指す 枝野代表、格差是正へ所得分配を 10/28
衆院選終盤の28日、与野党党首は接戦区で経済政策や新型コロナウイルス対策を巡って応酬を繰り広げた。岸田文雄首相(自民党総裁)は野党候補と競る選挙区を中心に応援に入り、地方の活性化を図って経済成長を目指すと主張した。立憲民主党の枝野幸男代表は格差是正に向けて所得の再分配が重要だと訴えた。
首相は新潟市で、高齢化が進む地方でリモートやデジタル技術を活用することによって「介護や農業などの課題を乗り越える。地方にこそ成長の果実はたくさんある」と訴えた。
枝野氏は、さいたま市で「政治が機能していれば救えた命もあった」と自公政権のコロナ対応を非難した。

●岸田内閣「経済対策の原案」を入手、“経済安全保障”の具体的中身 10/28
岸田文雄首相が総選挙後に策定する経済対策の原案を独自に入手した。その中身を全5回にわたって詳報する。第1弾では「新しい資本主義」、第2弾では「デジタル田園都市国家構想」の原案を紹介した。第3弾で紹介するのは、岸田首相の目玉政策の一つとなる「経済安全保障」の原案だ。
独自入手した岸田内閣の経済対策原案で 「経済安全保障」の詳細が判明
岸田文雄首相は、9月の自民党総裁選で「令和版所得倍増計画」や「金融所得課税の見直し」などを公約にしながら、首相就任後に方針を一転させてきた。岸田首相は「自分では決められないけど、下(官僚)には強い」(岸田派議員)、「就任時に気分が『ハイ』になって、実現できないことを口に出してしまった」(財務省官僚)など、その手腕を不安視する声がある。そんな岸田首相が一貫して掲げているのが「新しい資本主義」だ。筆者が独自に入手した、岸田首相が総選挙後に策定する経済対策の原案を基に、ベールに包まれてきた中身をいよいよ明らかにする。今回詳報するのは、「新しい資本主義」の中でも目玉政策の一つとなる「経済安全保障」の原案だ。
岸田首相の肝いり政策 「経済安全保障」の中身とは?
経済安全保障とは、国の基幹産業や重要インフラを支える技術や人材などを脅威から守るという概念だ。「バラマキ批判」が伴う上、具体的な政策として成果を出しづらい「分配」政策と比べ、自民党内をまとめやすい分野といえる。安倍晋三政権時代に自民党政調会長を務めていた岸田氏が政調会に「新国際秩序創造戦略本部」(後に「経済安全保障対策本部」に名称変更)を創設し、一気に認知度が高まった。経済安保分野に精通する甘利明・党幹事長を座長に、2020年12月に「提言」、今年5月には「中間とりまとめ」を公表。その中で経済安保を「我が国の独立と生存及び繁栄を経済面から確保すること」と定義している。中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)などを巡る米中の技術覇権争いや国際経済構造の急激な変化をにらみ、国益が損なわれるとの危機感を募らせてきたのだ。岸田首相は先の総裁選で、戦略技術・物資の特定と技術流出の防止に向けた「経済安全保障推進法」(仮称)の策定や、「DFFT(自由で信頼あるデータ流通)」の推進などを公約。新内閣発足で経済安保を担当する閣僚ポストを新設した。10月8日の所信表明演説では、「新たに設けた担当大臣の下、戦略物資の確保や技術流出の防止に向けた取り組みを進め、自律的な経済構造を実現します。強靱なサプライチェーンを構築し、わが国の経済安全保障を推進するための法案を策定します」と表明。自民党の衆議院選挙の公約にも推進法の策定を盛り込んでいる。筆者が独自に入手した経済対策の原案には、首相が掲げる「新しい資本主義」の柱として、「経済安全保障の抜本的強化」を明記。自律的な経済構造の実現に向けて必要な基盤整備を行うとし、先端半導体や医薬品、蓄電池の国内生産拠点の整備を支援し、サプライチェーンの国内回帰を促進するという。量子技術や人工知能(AI)といった先端技術や戦略物資、人材の海外流出防止に加え、有事における必要な物資の国内調達もポイントだ。また、レアアース(希土類)を含む重要鉱物の分析を進め、サプライチェーンを強靭化。先端分野における重要技術の実用化を加速する。具体的には、国際競争に打ち勝つための国家戦略として、研究開発から実証・実用化までを迅速・機動的に推進する「経済安全保障重要技術育成プログラム」を立ち上げ、自国での技術構築や社会発展につなげる。また、官民で連携してサイバー空間における脅威への対処能力の向上も目指し、サイバーセキュリティ演習環境も拡充。新型コロナウイルスの感染拡大時に不足した医薬品の安定供給を支援する事業も強化する。財政の単年度主義の弊害是正を図るため、新たに基金を創設し、こうした国家的課題を計画的に取り組む方針だ。
経済安保政策の中には 「国民の安全・安心」も盛り込む
わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、経済対策の原案には「国の安全保障の確保を含む国民の安全・安心」というテーマも盛り込まれた。海洋進出を進める中国や、核や弾道ミサイルの開発を重ねる北朝鮮をにらみ、「我が国の領土・領海・領空、そして、国民の生命と財産を断固として守り抜く」と明記。自衛隊の安定的な運用態勢の確保や戦略的な海上保安体制構築の推進、危機管理強化のための情報収集衛星の開発に努めるとしている。また、アフガニスタンからの在外邦人らの国外退避で多くの課題が浮き彫りになったことを踏まえ、制度や運用の見直しを含めて在外邦人の保護体制を強化。「世界一安全な国、日本」をつくるため、テロなどの組織犯罪対策も進める。外相や防衛相などを経験し、外交・安保政策に自信をのぞかせる岸田首相。最近では、敵基地攻撃能力の保有についても積極的に検討する考えを示し、国の安保政策の指針となる「国家安全保障戦略」の改定も指示している。ただ、連立政権を組む公明党には慎重論も根強く、その先行きは不透明だ。外務省幹部からは「防衛計画大綱や中期防衛力整備計画を年末に改定するとなれば、超スピードでの大きな変化になる。果たして、そこまで実現することができるのだろうか」といぶかる声も漏れている。なお、ダイヤモンド・オンラインでは、独自に入手した岸田首相が総選挙後に策定する経済対策の原案を基に、『岸田内閣「経済対策の原案」を入手、謎に包まれた“新しい資本主義”の中身』と『岸田内閣「経済対策の原案」を入手、“デジタル田園都市構想”の具体的中身』の2記事を配信している。併せてご覧いただきたい。

●抜群の安定感はあるのに岸田内閣の今後がどうにも不安な理由 10/28
岸田内閣発足から間もなくひと月を迎えようとしています。投開票を明後日に控える衆議院議員選挙の帰趨は未知数ですが、どんなに負けても与党で過半数割れを起こすことはないかと思います。選挙という不安定要因はありますが、すべり出しを見る限り、岸田内閣には安定感を感じます。
安定感を醸し出している大きな要因は、安倍内閣もそうでしたが、政府の司令塔となる官邸に優秀な人材が集まっていることでしょう。逆に言えば、各省庁がいい人材を送り込んでいます。
首相秘書官に経産、財務両省から2人ずつという異例の起用法
首相秘書官の陣容が発表され、まず驚いたのは総勢8人という人数です。過去最大級です。普通は外務省、防衛省、警察庁、経産省、財務省あたりから1人ずつ、さらに政務秘書官として首相の事務所から1名起用されたりして、合計6〜7人程度になることが一般的です。もちろん過去に8人という例もあったと思いますが、内閣発足と同時に8人体制を整えるのは稀ではないでしょうか。岸田首相が官邸に万全の体制を求めた成果だと思います。
異例なのは、首相秘書官の人数だけではありません。その顔ぶれもすごいのです。通常の主要官庁から1人ずつという起用の仕方ではなく、経産省と財務省からそれぞれ2人ずつ、後は、防衛省、外務省、警察庁、そして岸田事務所からとなっています。経産省と財務省だけで4人の秘書官を起用しているのです。
財務省からは前主計局次長の宇波弘貴さんと前内閣審議官の中山光輝さんの2人です。私はおふたりを直接は知りませんが、いずれも能力、人物ともに定評のある方です。
そして私の古巣でもある経産省からは、元事務次官の嶋田隆さんが筆頭格の首相秘書官になっています。嶋田さんは東大工学部出身ですが、おそらく経産省では通産省時代も含め理系出身の事務次官は初めてではないでしょうか。のちに民主党政権入りすることになる経産大臣を務めた故与謝野馨さんに大臣秘書官時代からずっと重用されたため、自民党政権から嫌われたとも言われていましたが、優秀さは折り紙付きだったからでしょう。見事に最終的には事務次官に起用され、その責務を果たしました。
経産省からはもうひとり、前商務情報政策局長の荒井勝喜さんが首相秘書官に起用されました。経産省は東大卒のキャリア官僚がひしめいているのですが、そんな中、早稲田大学出身の荒井さんは早くからその能力が認められ、91年入省組のエースのおひとりとされてきた人材です。
最近、台湾の半導体大手のTSMCが熊本に工場を作ることが大きなニュースになりました。「産業のコメ」と呼ばれる半導体の供給不足が世界的に叫ばれる中で、TSMCを引っ張ってくるというのは日本としてはかなりの“金星”です。このTSMCの工場建設には政府が多額の補助金を負担することが報じられていることからも分かるように、この誘致には日本政府が強く関わっています。推測ですが、商務情報政策局長としての荒井さんが陣頭指揮を執ったものではないかと睨んでいます。
ちなみに安倍内閣や菅内閣で首相秘書官や内閣参与として政権の屋台骨を支えてきた今井尚哉さんも経産省出身で、今回の総裁選に際し岸田陣営の政策作りにコミットしたと言われています。岸田内閣発足後は内閣官房参与の留任が決まりました。今井さんは経産省で嶋田さんの同期で、ふたりの間にはホットラインがあり懇意にしていると言われています。
もうひとつ加えれば、岸田さんの父・文武氏は、衆議院議員になる前は通産官僚で、中小企業庁長官まで務めた方です。そうした流れもあり、経産省としては岸田首相を積極的にバックアップしようという機運があるようです。
いずれにしても、このように政権の司令塔である官邸の中で、岸田さんの脇を固めるスタッフがかなり充実しているのです。
充実のスタッフによりそつのない政権運営
さらに岸田さんを支える人材のネットワークに「開成高校ネットワーク」があります。日本一の進学校と言っても差支えない開成高校ですが、意外にも卒業生で総理大臣になったのは岸田さんが初ということになります。しかし毎年東大合格者数No1になっている高校ですから、霞が関や永田町、経済界にもそのネットワークはびっしり張り巡らされています。
なにより首相補佐官となる嶋田隆さんは岸田首相から見て開成高校の後輩になります。実は岸田内閣の首相秘書官が発表されるほんの数日前、たまたま私は嶋田さんと会っていました。嶋田さんは、私が経産省に入省する際の採用担当の責任者だったのです。そうした縁もあり、意見交換をさせていただきました。
嶋田さんと会った時に、「岸田さんは開成卒業生として初の首相ですよね」といった話をしたところ、言外に開成人脈でサポートしていることをにおわせていました。おそらく開成高校OBはそれぞれ、岸田首相を盛り立てたいという強い気持ちを持っているのではないでしょうか。
もちろん政治家にもOBは多くいます。経済安全保障担当大臣として初入閣を果たした小林鷹之さんも開成の出身です。私とは、留学先のハーバード・ケネディスクール(行政大学院)の同窓で2年間ボストンで苦楽を共にしました。二階派所属で、総裁選では高市早苗さんを支援していましたが大抜擢されました。甘利人事とも言われるこの起用は、岸田さん側から見れば、高校後輩の小林さんを引き立てたという側面もあった可能性があります。いずれにしても、政財官界の開成人脈もまた岸田さんの脇固めの一翼を担っていると見てよいでしょう。
こうした支える人材の厚みが岸田内閣に安定感を与えているわけです。お陰で、発足から現在まで目立った失点はないと言ってよいかと思います。
というのも、大きな要因としては周囲の有能なスタッフが機能しているからでしょう。首相就任前は「決断力に欠ける」などと陰口を叩かれたりしていた岸田さんが、首相に就任するやいなや、11月7日が有力視されていた総選挙の日程を一週間前倒しするという決断を下してみせました。周囲とも相談の上で、コロナ新規感染者の減少傾向が続いているうちに、あるいは支持率がまだ高いうちに解散・総選挙をやってしまおうという判断があったと思われます。
また10月は内閣のそつのなさを見せつける事態が連続しました。例えば10月7日夜に千葉県北西部を震源地と知る最大震度5の大きな地震が起きましたが、岸田首相はすぐに官邸に入りコメントを出し無難に危機管理能力を示しました。その2日前には米プリンストン大学上級研究員の眞鍋淑郎さんのノーベル物理学賞受賞が発表されていますが、この時にも岸田さんは、時を移さず祝福のコメントを出しています。何か事が起こった時に、首相が適切なタイミングでコメントを発表することは非常に大切なことです。それが岸田内閣ではスムーズにできていると見てよいでしょう。
また岸田内閣で懸念されていた経済面でも安定感が発揮されています。というのも、岸田さんは総裁選の時から経済政策では「分配」を強調しており、その原資に関して金融所得課税に言及するなどしていました。そのためマーケットが警戒し、岸田政権発足以降、株価が下がり続けるという事態になっていました。これを見た岸田さんは、直ぐに軌道修正しました。「当面、金融所得課税をするつもりはない」とマーケットの懸念を打ち消してみせたのです。こういう面でも手堅い印象を与えてくれています。
そう見てみると、岸田内閣は堅実で安定的な政権運営をしてくれそうな雰囲気もあるのですが、一方で不安要素も実は結構目につきます。
失点がないのに支持率が上がらない理由
一つは支持率の問題です。政権発足直後、大手メディアが行った世論調査では押しなべて低めの数字が発表されました。一番高かったのは日経新聞とテレビ東京による調査ですが、それでも内閣支持率は59%でした。これは菅政権と比べて格段に低く、政権発足時の支持率としては麻生内閣(53%)、福田内閣(59%)に続き、過去3番目に低い数字でした。
なぜ支持率が低いのかと言えば、それは岸田首相の“色”が見えない点にあるのだと思います。脇を固める人材は豊富で多彩ですが、中心に座る首相本人の個性、色がないので、不支持率も現状では高くない代わりに、同時に支持率も上がりません。
さきほど賞賛した例を引いて批判するのは恐縮ですが、例えば10月7日の地震の時の対応もそうでした。すぐ官邸に入り、官邸対策室を立ち上げ、総理指示として4つの指示を出したことを公表しました。「実態の把握」「自治体と協力しながら政府一体となって被災者の救援・救助に努める」「国民に的確に情報提供をしていく」「被害の拡大防止に努める」です。
この4点の指示は「模範解答」ではありますが、正直に言えば、あの時の国民の気持ち・ニーズとは微妙な差異があったと思います。地震は確かに強い揺れを伴ったものでしたが、とはいえ建物が倒壊してたくさん人が亡くなった、というわけではなかった。あの時に人々が一番困っていたのは多くの帰宅困難者が出たということだったと思います。であれば、首相の指示もそういう部分に寄り添ったものが欲しかったと思います。そうした配慮が国民とのコミュニケーションでは大事になってきます。
眞鍋さんのノーベル賞受賞に対しても「人類に大きな貢献をされ、日本人として大変誇らしい」とのコメントを素早く発表されました。そのスピード感は良いのですが、やはり内容面で適切だったかどうか疑問です。当時の報道ぶりや国民の関心の矛先は、「眞鍋さんの研究の成果は素晴らしいけれど、真鍋さんは国籍をアメリカに移している。なぜ日本は捨てられたのか」といった点にあったと思います。眞鍋さんは日本で研究を進めたときに縦割り行政の弊害にぶちあたったことや、周囲との調和を重視する日本人の感性が自分とは合わなかったことなどから、国籍も研究拠点もアメリカに移す決断をした人です。そうした人の受賞に「日本人として誇りに思う」とコメントを添えるのは国家の指導者としてどうなのでしょうか。せめて「日本で初等、中等教育を受けて東大に入学し大学院まで進まれた。日本で研究の基礎を固められ、それを土台にしてノーベル賞を受賞されたことはわれわれにとっても喜ばしい」というコメントだったら、一般の国民にとっても納得感のあるものになったと思います。
菅義偉前首相が、政権後半で支持率が低下したのは、この国民とのコミュニケーションに問題があったということは、私も指摘したことがありますが、多くの識者が語っていることです。それを踏まえるならば岸田さんもここは丁寧に進めてほしいところです。
「分配重視」ながらアベノミクスとの違い打ち出せず
もう一つの不安要素は、「官邸主導」の裏返しでもありますが、20人いる閣僚のうち13人が初入閣組という点です。「フレッシュな顔ぶれ」と呼べなくもないですが、岸田さんが「老壮青」と称するほど若い顔ぶれかと言えば特にそんなこともありません。初入閣でありながら結構なベテラン組もいます。同時に「選挙に弱い」とされる方も大臣や副大臣、政務官に起用されています。
政権発足後すぐの総選挙に備え、選挙に弱い人材を閣僚等に抜擢してあげれば、一つの選挙対策にならなくもありません。しかし逆にそれで落選すれば、野党を勢いづかせることになります。官邸のスタッフが充実しているだけに、内閣の顔ぶれが少々「軽量」の印象があるのは心配の種です。
不安要素の三番目は経済政策です。この点では岸田さんに少々同情する面もあるのですが、総裁選の際に、「アベノミクスの継承者」を強くアピールしたのは高市早苗さんでした。安倍晋三元首相のアベノミクスや高市さんのサナエノミクスというものは、ざっくり言えば、「まずは経済を成長させ、その成長でもたらされた利益を国民への分配に回す」という考え方の経済政策です。さらに安倍政権の後半は、一億総活躍やら教育の無償化やら、実は分配を結構やっていたと見ることもできます。
しかし総裁選に名乗りを上げた岸田さんは「安倍政権との違い」を明確にしようとして、記者から「アベノミクスとの違いは何か」と問われ「もっと分配すること」というトーンでアピールをしていきました。頭の中には、コロナ下で傷んだ産業界や家計を、さらなる財政支出によって癒してあげようという発想があったのだと思います。
当てにしていた財源も当てに出来ず
その発想は国民の心情に寄り添ったものかも知れませんが、「分配の原資」については十分な腹案を持っていたとは言えませんでした。アベノミクスで成長に転じようとしていた経済がコロナ下で潰されてしまいましたから利益を生み出す分野はありません。だから持てる人から取るということで「じゃあ金融所得課税だ」というスタンスをとったのでしょうが、これがマーケットから警戒されて株価を下げる要因になってしまいました。
その上、現職の財務次官が『文藝春秋』でバラマキ政策批判の記事を発表し、財政支出だけを増やそうという岸田首相をはじめ野党党首らの唱える経済政策に激しく警鐘を鳴らしました。生真面目で、人の話をよく聞くことが身上の岸田さんは、その意見を完全に無視することは出来ないでしょう。
では財務次官が主張するように財政規律を重視しながら、同時に「分配」することは可能なのでしょうか。できるとすれば、それは経済成長を促すことで獲得した利潤を原資にするしかないでしょう。しかしそれは結局、アベノミクスと本質は同じです。そのスタンスをとるのならば、アベノミクスとの違いを強調しすぎてしまった岸田さんは方針転換をせざるを得ません。このように経済政策は難しい局面が出てきそうなのです。
私はこれからの日本に不可欠な経済政策は、以前にJBpressでも書いたように「メガベンチャーの育成」ではないかと思っています。アベノミクスでは日本発のメガベンチャーを十分には生み出せませんでした。成功すれば日本のこれからの食い扶持を作る大きな原動力になるはずですが、岸田政権にはその発想は今のところ見られません。鳴り物入りで設置された新しい資本主義実現会議の今後などに期待したいと思います。
なぜ役所が旗振っても日本に「メガベンチャー」は生まれないのか不安要素の最後の一つは、外交です。岸田さんは外務大臣を長く経験されているので、本来は外交が得意なはずです。しかし現時点で上手く外交をこなし、国内外に存在感をアピールできているかと言えば否です。
「地味で堅実」は悪いことではないけれど
いま日本は対外関係でふたつの波乱要素があります。ひとつは天然ガスや石油価格が急激な上昇です。エネルギーが世界的な動乱要因になっている。日本は内政でかき消されてあまり注目されていませんが、これから冬に向けて電力需給に懸念が出る恐れもある大問題です。
もうひとつは、中国とアメリカが直接交渉を始めているという点です。10月6日には、チューリッヒで中国の楊潔篪国務委員と、米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が会談しています。さらにそれを受けて、中国の劉鶴副首相と米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表がオンラインで米中の通商関係について意見交換をしたりし始めています。つまり米国はトランプ政権時の対中強硬姿勢から一変し、バイデン政権では中国と歩調を合わせられるところは合わせていこうという方針にシフトチェンジしつつあります。
そうした動きに岸田さんはキャッチアップできているようには見えません。というのも、この30日からはローマでG20が始まりますが、総選挙を前倒ししたことで、参加を見送ることが決定しています。また31日からは英グラスゴーでCOP26が開催されますが、こちらもオンラインでの参加を検討していましたが、英国側の受け入れ態勢が十分でないらしく、またバイデン大統領ほか約120カ国の首脳が集まるということで、直前になって参加が決まりました。しかし、いずれにしても各国の首脳と直接会えるチャンスを犠牲にし、国内を優先しようとしているようにも見える動きです。そこに日本が置かれた国際環境の現実をしっかり把握できているのか、という不安を感じざるを得ないのです。岸田さんに本当に決断力があるのだったら、「総選挙の前倒し」という意見が官邸や国対の中から上がってきたとしても、外交を犠牲にしてまでする必要はない、とその時点で決断すべきたったかも知れません。
地味だけれど手堅く安定感があるというは政権のアピールポイントとして悪いことではありません。そして官邸に有能なスタッフを集めれば、彼らはその部分はしっかりやってくれます。しかし国民とのコミュニケーションや大局を見据えた決断というのは、首相本人のキャラクターや能力が大きく反映される部分です。官邸のスタッフを当てにすることが出来ない部分です。岸田さん自身がそこの取り組みを強化していかないと、支持率もなかなか浮上のきっかけをつかめないかも知れません。
 

 

●「それができなければ短命で終わる」、岸田内閣がすべきこと 10/29
総裁選を制し、10月4日に第100代の総理大臣に就任した岸田文雄首相。そのわずか10日後の14日に衆議院を解散し、一気に衆院選へと突入した。果たしてその思惑は? そして衆院選はどうなるか? ジャーナリスト・田原総一朗氏に見解を聞いた。
解散から投開票までわずか17日 戦後最短の衆院選
――岸田文雄首相は10月14日に衆議院を解散、衆議院選挙を19日に公示し、各地で選挙戦が繰り広げられています。いよいよ31日に投開票です。
今回の衆院選は、解散から投開票までわずか17日。1983年の中曽根(康弘)内閣の時に20日間ということがあったが、この記録を3日も破り、戦後最短の衆院選となる。これには3つの理由が考えられる。1つは、新型コロナウイルス問題。多くの専門家は「11月下旬頃から第6波が来るだろう」と予測している。感染者数が増加すると、政府に対する世論の風当たりは強くなる。そのため、「感染者数が激減している今のうちに」と思うのは当然だろう。2つめは、野党共闘の足並みがそろうことを防ぐため。立憲民主党と共産党による選挙協力の調整が進む前に、実施しておきたかった。
――公示日が早まったことで、ファーストの会も候補者擁立を断念しました。
3つめは、野党の追及の回避だ。新型コロナ対策や新政権における政策など、野党は追及するネタを多く持っている。野党の追及が長引けば、就任したばかりの新閣僚では答えにつまずくことがあるかもしれない。そのため、できる限り国会を短くしたかったのではないか。
――岸田首相は自らの内閣を「新時代共創内閣」と名付け、新政権で初入閣は13人となりました。閣僚の6割が初入閣となり、牧島かれんデジタル相、堀内詔子ワクチン相、小林鷹之経済安全保障相と、衆院当選3回の若手議員3人を抜てき。堀内詔子ワクチン相のほか、後藤茂之厚労相、山際大志郎経済再生相と、新型コロナウイルス対策の要となる3大臣も総入れ替えしています。これについて田原さんはどのような印象をお持ちでしょうか?
執行部の力はいまだ強大 自民党の議員は勝ち馬に乗った
菅政権の支持率が30%を切ったことで、自民党の議員たちが「このままでは自分たちは衆院選で落選するのではないか」と強い危機感を持って派閥の領袖に訴えたことで、菅さん(菅義偉前首相)が退任を表明し、自民党総裁選挙が行われた。総裁選の前の世論調査では、河野さん(河野太郎前ワクチン相)の支持率がずば抜けて高かった。しかし総裁選では伸び悩み、1回めの投票でも議員票86票、党員票169票の計255票と、岸田さんに1票差で破れて2位。議員票だけでみると、岸田さんが146票、高市さん(高市早苗元総務相)が114票と、高市さんにも破れてしまった。総裁選が近づくにつれ、決選投票となることや、その場合に岸田さんが有利であることが見え始め、自民党の議員が勝ち馬に乗ったということもいわれている。今回の総裁選であらためて、小選挙区制では自民党執行部の力が強大であることがわかった。河野さんが弱かったのではなく、安倍さんの影響力が強すぎた。小選挙区制では、選挙に当選するためには自民党執行部の公認が必要だ。だから自民党の国会議員の多くは執行部の有力者のイエスマンばかりになってしまった。現在の有力者は安倍さん(安倍晋三元首相)と麻生さん(麻生太郎自民党副総裁)。安倍さんが辞任するとき、「次は菅氏でいく」と決めたから、各派閥の領袖がそれに従い、菅政権は実質的に安倍政権の延長のような政権となった。今回の岸田政権でも、岸田さんが安倍さんに「幹事長は誰が適任か?」を問うと、「甘利(明)氏がいいだろう」と言ったので、2016年に金銭授受疑惑で閣僚を辞任したにもかかわらず、甘利さんを幹事長に任命した。そして安倍さんが総裁選で支援をした高市さん(高市早苗氏)を政務調査会長に、安倍さんの側近であった萩生田さん(萩生田光一氏)を経済産業相に起用。彼らは安倍路線を延長した原発再稼働の推進派だ。財務相には麻生派の鈴木さん(鈴木俊一氏)を起用している。党運営の中心である「党四役」の顔ぶれをみると、甘利明幹事長(麻生派)、福田達夫総務会長(細田派)、高市早苗政調会長(無派閥)、遠藤利明選挙対策委員長(谷垣派)と、岸田派がいない。官房長官の松野さん(松野博一氏)も細田派、いってみれば安倍派だ。ここまで派閥の領袖に気を使った組閣は非常に珍しく、マスコミは「安倍・麻生内閣だ」といっている。
――閣僚がガラリと変わり、岸田カラーを打ち出したようにみえても、「3A」と呼ばれる安倍晋三、麻生太郎、甘利明の3氏にとことん配慮した組閣となりました。
それが国民にも伝わり、岸田政権の支持率の低さの要因の1つになっているのではないか。
――岸田首相にお会いしたことはありますか?
それが、なかった。自民党の幹部で会ったことがないのは彼だけではなかったか。僕は何より一次情報を大切にする。だから直接、人に会う。自民党の宏池会も、大平正芳氏や宮澤喜一氏、加藤紘一氏など数多くの人に会ってきた。これをやろう、あれをやろうと発言の強い人には、詳しく聞くために会ってきたが、岸田さんはそのような発言はなく、幹部の中でもややおとなしい印象だ。これまで会って話す機会がなかったが、近々、会うことになっている。
次期参院選までに 岸田内閣がすべきこと
――衆院選はどうなると思いますか?
今回、自民党は30議席前後、減らすのではないだろうか。ただ、菅政権のままであれば、70議席以上減るだろうという予想もあったから、それよりは傷は浅い。野党は議席を増やすことになるが、政権交代をしてどのような政治を行いたいのか、野党の構想がいまだに見えない。そのため国民は、自民党への不満は抱えつつも、今回の衆院選の時点では、野党に政権を委ねようという意思はほとんどないのかもしれない。重要なのは、来年に予定している参議院選挙だ。このままでは自民党はだいぶ負けることになる。安倍内閣の時はいろいろと問題はあったが、衆院選3回、参院選3回と、国政選挙で6連勝している。6勝0敗だ。なぜここまで強かったかというと、安倍さんは選挙のたびに「目標」をつくる能力が長けていた。そのため次回の参院選では、世論が注目するような目標を岸田さんが打ち出すことができるか、これが大きなポイントになると思う。それができなければ参院選で自民党が敗れ、岸田内閣は短命で終わるだろう。

●総選挙で窮地?の岸田首相を固める開成高校OBと財務省の狙い 10/29
総選挙で自民党が劣勢との予測が報じられる岸田文雄首相。周囲を固めるのが、自身の出身校である屈指の名門・開成高校だ。同校OB初の首相となった岸田氏に対し、復権を狙う財務省は着々と布石を打つが、ここでも決め手となるのが開成OBだった。
東大合格者数首位・開成出身者初の首相 株価は下落、総選挙は厳しい予測が…
9月末日、自民党総裁選の投開票が行われ、岸田文雄衆議院議員が第100代内閣首総理大臣に就任した。自民党最古参の名門派閥である「宏池会」出身の首相は、宮澤喜一氏(武蔵高校卒、旧大蔵省出身)以来30年ぶりである。
岸田首相の経歴もまた華麗だ。自身は3世議員であり、妹は国税庁長官の可部哲生氏(筑波大附属駒場、旧大蔵)に嫁ぎ、いとこには宮澤喜一氏を伯父に持つ洋一氏(筑波大附属、旧大蔵)がいるなど、家系図は縦にも横にも広がっていく。
だが首相本人は、菅義偉前首相に続く地味なイメージを拭えない。株式市場も「ご祝儀相場」はなく「岸田ショック」に見舞われ、就任後すぐさま、10月31日投開票の解散・総選挙に突入するも、「選挙の顔」としての華やかさは全く感じられない。むしろ、自民単独の過半数は難しいどころか、自民党と公明党を合わせても過半数割れとの予測や、宏池会メンバーの半数は落選の可能性などという、暗いニュースばかりが流されている。
実際、25日投開票の静岡県と山口県の参議院補欠選挙は、保守の地盤が強い山口県でこそ圧勝したものの、静岡県では岸田首相が2度も地元入りしたにもかかわらず敗北を喫した。自民党内の危機感は強まる一方だ。
それでも喜びに沸く開成OB 政・官を同窓会でつないだのは岸田氏
それでも唯一沸いているのが、開成高校出身者たちと、岸田首相と縁の深い財務省である。
岸田政権に「開成高」人脈(日本経済新聞電子版10月2日付)
開成高校OB初の首相へ悲願達成!男子御三家のラスト(日刊スポーツウェブサイト9月29日)
他に話題はないのかと思うほど、各紙が新首相と開成高校を結びつけた記事を出している。本サイトでも、『「開成OBをすぐ調べろ」岸田首相の強すぎる母校愛に震える霞が関の狼狽』という記事が22日に掲載されている。
開成OB――特に霞が関官僚の喜びはひとしおだった。かつて、名門男子校の御三家といえば、開成、麻布、武蔵が挙げられた。首相や各界有名人を輩出してきた麻布と武蔵が凋落していく中で、開成は40年もの長きにわたり、東京大学進学合格者数でトップを維持。
灘や筑波大附属、駒場東邦、ラ・サールなどが快進撃を続ける一方、トップの座を守りながら、各界に著名人を輩出し続けてきた。その一群に、政権を支える霞が関官僚も入る。
開成高校OBの結束力の強さは知る人ぞ知るところだが、実は開成同様に仲間意識が強いのがラ・サールなのだ。東京の下町にある開成と、鹿児島市で寮生活必須のラ・サール。絆が強まる理由がわかる気もする。両校とも、省庁ごとに名簿が作成されており、2000年代後半以降は年に1度の割合で「省庁OBも含めた霞が関官僚」の会合が開催されていた。
また両校には、政界転身組が多いことも共通しており、同窓会の主賓ゲストの常連組でもある。それでも首相の座を射止めた政治家はこれまでおらず、いわば、彼らにとって首相を輩出するのは宿願だった。
そのような意識をうまくつなげ、2017年に「永霞会(永田町・霞が関開成会)」という組織にしたのは、実は、当時自民党政調会長だった岸田首相なのである。
同会の事務局長には、旧自治省出身の井上信治前衆議院議員(当時・麻生派)が務めていた。井上氏も岸田首相同様、華麗なる一族だ。大病院の家庭に生まれ、縁戚に政治家もいる。親兄弟の中でただ一人、東大法学部を選んだ。理由は、「政治家になりたかったから」。総裁選では河野太郎陣営に付いたが、岸田首相が勝利すると早速「開成初の首相は(卒業生)皆の夢です」と、祝辞を述べている。
最側近の旧大蔵省OB議員は武蔵出身 乗っかる財務省は超エース級を官邸へ
米国では共和党系、民主党系の民間の政策シンクタンクが多額の寄付金で運営されている。一方、寄付文化のない日本では霞が関が唯一のシンクタンクと言っていい。政治家にとって、霞が関官僚とのパイプは強ければ強いほどいい。
それは、官僚にとっての政治家とのパイプも同じこと。首相秘書官や官房副長官補などのポストで権勢を振るう「官邸官僚」という言葉が生まれ、彼らの力が増幅するのを見てきた官僚たちにとって、自分と縁のある政治家の出世は、自らの出世に直結する。
また、岸田政権のふたを開けてみると、開成に加え、武蔵出身者が中心になって支えるという不思議な構図になっている。そして、開成と武蔵OBが手を携える構図に全力で乗っかり、官邸での主導権を強めようとしているのが財務省だ。
岸田首相の最側近で、総裁選の際は陣営の選対事務局長として現場を支えた木原誠二前衆議院議員(武蔵、旧大蔵)は、官房副長官に就任。経済安全保障担当大臣には、当選3回の小林鷹之前衆議院議員(開成、旧大蔵)がそれぞれ抜擢されている。
この動きに乗っかれとばかりに、財務省は、最強の布陣をひいている。財務省内で最大派閥と呼ばれる「財務省厚労族」(厚生労働省を担当する主計官ら)は官邸に、エースの宇波弘貴前主計局次長を送り込んだ。宇波局次長と、本省官房長の新川浩嗣元首相秘書官とのコンビは絶妙とされている。2人とも開成や武蔵出身ではないが、超エース級を投入して旧大蔵省出身の首相側近とのパイプ作りに勤しんでいる。
なお「バラマキ批判」を展開して、高市早苗自民党政調会長の怒りを買った事務次官の矢野康治氏だが、メディアからの論評は好意的なものが目立つ。岸田首相と同じ広島出身であるだけでなく、同じように一族に被爆者がいることも大きく作用するかもしれない。
矢野事務次官はまた、省内の開成OBを配置して、「財政健全化」を旗印に、現場に至るまで絶妙な人事を行っている。
財務省の開成OBは財務省内で要職に 経産省へのリベンジは果たせるか?
例えば、開成時代から秀才の誉れ高い一松旬氏は、厚労省担当の主計官を続投。入省後も10年に一人の逸材と呼ばれ、コロナ禍で膨張した医療予算に歯止めをかけることを狙う。
菅政権で首相秘書官を務めた大沢元一主計局調査課長も、開成時代からの一松氏のライバルであり同志。ちなみに大沢課長の妻は、財務省の後輩で東大医学部出身という超才媛。ちなみに一松主計官の兄も医師だ。
そして、そもそも開成高校の初代校長は、元首相大臣で大蔵大臣も務めた高橋是清である。
来る31日、自公の過半数割れが現実のものとなれば、政局は一気に流動化する。その時、日本維新の会と共にキャスチングボードを握るとみられている国民民主党は、代表の玉木雄一郎、岸本周平、古川元久各前衆議院議員ら旧大蔵省出身者がそろう。
財務省にしてみれば、安倍晋三政権の間、経済産業省に殴られ続け、足蹴にされ続けた怨念を振り払い、官邸を掌握する最高の機会となる。
もちろん選挙結果次第では、新政権が民意を得るために、バラマキ政策に走る事態も危惧される。安倍政権時代、我が世の春を享受した経産省もまた、元事務次官の嶋田隆氏(開成)を政務秘書官にねじ込んだが、嶋田氏は沈黙を続ける。
総選挙後を見据えて、財務vs経産の水面下での攻防は続く。霞が関の“政権交代”は起きるのか。

●岸田内閣「経済対策の原案」を入手、“コロナ対策”の具体的中身 10/29
独自入手した岸田内閣の経済対策原案で「コロナ対策」の詳細が判明
岸田文雄首相が総選挙後に策定する経済対策の原案を独自に入手した。菅義偉前首相の経済対策を「細切れ・小出し」と批判した岸田氏は、9月の自民党総裁選で数十兆円規模の経済対策を公約。新型コロナウイルス対策については「健康危機管理庁の創設」「医療難民ゼロ」などを掲げ、前首相との違いを打ち出した。岸田内閣の「経済対策の原案」に関する詳報第4弾で紹介するのは、その「新型コロナウイルス対策」の原案だ。海外と比較すれば評価が高かった菅政権のコロナ対策を批判し続けた岸田氏は、どんな対策を打つつもりなのか。果たして、国民の「納得感」は得られるのか。
コロナ感染状況に対する岸田政権の「現状認識」とは?
「(菅前首相は)国民には説明が十分ではないのではないか、楽観的すぎるのではないかという声が多数ある」自民党総裁選への立候補を表明していた岸田氏は、9月2日の記者会見で菅前首相のコロナ対策をそう批判。そして、自らは「どれだけ我慢すれば目標に達するのか丁寧に説明する」と自信をのぞかせた。岸田氏が総裁選で掲げたのは「二つの原則」だ。原則とは、国民の協力を得る納得感ある説明、常に最悪を想定した危機管理の二つを意味する。「医療難民ゼロ」「ステイホーム可能な経済対策」「電子的ワクチン接種証明の活用と検査の無料化・拡充」「感染症有事対応の抜本的強化」の4本柱で、ゴールを明確にした対応に取り組むと公約した。筆者が入手した経済対策の原案は、第1章で「現状認識と本経済対策の考え方」と題し、コロナ対策を掲載。現状認識としては、全国の緊急事態宣言が解除されたものの、「感染の動向については依然として不確実性が高く、新たな変異株への対応を含め、今後の感染再拡大のリスクに対する備えは不可欠」とした。
2021年度補正予算案は「総合的かつ大胆なものにする」
経済は持ち直しの動きがあるものの、いまだ尾を引く新型コロナウイルスの影響でそのテンポは弱い。そのため同原案には、コロナ感染再拡大の場合に経済の底割れを起こさないよう「臨機応変なマクロ経済運営」が求められていると明記。コロナ禍で傷んだ経済を立て直し、成長軌道に乗せるため、経済対策の裏打ちとなる2021年度補正予算案は「総合的かつ大胆なものにする」としている。コロナ対策は、ワクチン接種の推進や検査拡大、治療薬などの普及により、感染予防から感染者の発見、早期治療につなげる流れを強化。「ウィズコロナ」下での社会経済活動の再開と危機管理の徹底、事業者の事業再編・再構築への支援などを柱に据える。取り組む施策としては、今夏に襲ってきたコロナ感染「第5波」のピーク時に比べて2倍程度の感染力にも対応可能な医療提供体制を構築。「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」を増額し、都道府県が地域の実情に応じて病床や宿泊療養施設を確保できるよう連携を強化する。自治体に即応病床と申告しながら、実際には使用されなかった「幽霊病床」については、「見える化」することで病床使用率を8割以上に高める体制づくりに取り組む。自宅や宿泊施設での療養者については、地域の医療機関を活用し、健康観察・診療・薬剤の配送を実施。症状悪化に対応できる即応体制を強化し、オンライン診療・往診も活用するとしている。
コロナワクチンは12月から3回目の接種開始を目指す
ワクチン接種の推進については、12月から3回目の接種開始を目指す。予約不要の無料PCR検査の拡充や、薬局販売が特例で可能になった抗原検査キットの普及など検査機会を拡大。中和抗体薬をはじめとする治療薬の確保に万全を期すとともに、経口薬の年内実用化を目指す。感染防止策については「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」を拡充し、地方公共団体が実情に応じて必要な対策を実施できるようサポート。国家試験や大学入試共通テストなどは徹底した感染防止対策を講じた上で試験が実施できるよう必要な措置を講じるとしている。
家計向けの支援策として「給付金・特例措置」を継続
家計向けの支援については、コロナの影響で苦しむ非正規・子育て世帯を対象に「給付金」を支給。生活困窮世帯には、緊急小口資金や総合支援資金の特例措置を来年3月末まで申請期限を延長する。また、住居確保給付金は再支給の申請期間を来年12月末までとする。コロナ感染再拡大時に小学校などが臨時休業となる場合に備え、仕事を休まざるを得ない保護者を支援する助成金・支援金も継続する。
事業者向けの支援策では事業規模に応じた「給付金」を支給
コロナの影響により厳しい状況にある事業者向けの支援としては、地域や業種を限定しない形で、来年3月までの事業継続の見通しを立てられるよう事業規模に応じた「給付金」を支給する。企業が雇用を維持した場合に助成する雇用調整助成金の特例措置は来年3月末まで延長し、離職者のトライアル雇用(試行的・短期間の雇用)への助成も推進。雇用調整助成金の支給が膨らみ、積立金残高が大幅に減少する雇用保険の財政安定化も盛り込んだ。政府系金融機関による実質無利子・無担保融資は来年3月まで継続する。コロナ禍で発生した事業者の債務に対しては、返済猶予を含む既往債務の条件変更、借り換え、資本性劣後ローンへの転換など、事業者の業況・ニーズに応じたきめ細かな支援の徹底を官民金融機関に要請。資金繰り支援に万全を期す。事業再構築補助金や官民連携のファンドを通じた債権買い取り、出資による経営改善支援を行う中小企業向け事業再編・再生支援事業なども活用し、事業再構築や事業再編を促進する。コロナ禍による過剰債務化に備え、経営者が住宅を手放すことなく生活や事業の再建が可能な債務整理を行うことや、中小企業の実態を踏まえた事業再生のための私的整理などのガイドラインを21年度内に策定。来年度から運用を開始し、経営改善計画の策定・実行を支援する。
説明力不足で退陣した菅前首相 「聞く力」をアピールする岸田首相
説明力不足で内閣支持率の急落を招き、退陣に追い込まれた菅前首相。一方で、10年以上も人々の声を書きためたというノートを披露し、自らの「聞く力」をアピールする岸田首相。コロナ禍が長期化する中で打ち出す対策は国民の好感を得るのか、失望を招くのか。政権の命運を左右する対策の全貌は11月上旬に公表される。

●特別国会、来月10日召集を検討 岸田首相、1日に記者会見 10/29
政府・与党は、衆院選で過半数を維持して岸田文雄首相が続投する場合、特別国会を11月10日に召集する方向で検討に入った。
同日中に首相指名選挙を行い、第2次岸田内閣を発足させる日程を想定している。首相はこれに先立ち、同1日に自民党総裁として記者会見し、政権運営の基本方針を明らかにする考えだ。
関係者が29日、明らかにした。特別国会の会期は3日程度にとどめ、2021年度補正予算案を処理するための臨時国会を、数週間後に改めて召集する案が有力。ただ、特別国会を12月半ばまで開く案もあり、衆院選後に最終判断する。
首相は衆院選で勝利すれば、11月1日に公明党の山口那津男代表と会談し、連立政権の継続を確認。その後の記者会見で、補正予算案や22年度予算案の編成などについて説明する。 

●岸田首相夫人・裕子さん「聞く力」で大車輪サポート 10/29
岸田文雄首相(自民党総裁)の妻裕子さん(57)は、全国を飛び回る夫に代わって広島1区を駆け回っている。28日も後援会へのあいさつ回りや演説会で選挙区を駆け回った。
地元に掛かり切りとはいかぬ首相に代わり、秘書で長男翔太郎氏と共に広島1区の選挙活動で重要な役割を担っている。地元事務所によると、時には選挙カーに乗ってマイクも握る。公示日19日に行われた出陣式では「今回の選挙、主人は恐らく1度も帰ってこられませんが、みなさまの助けを頂き頑張っていきます」と支援を訴えた。
活動は地元にとどまらず、各地の自民党候補の応援にも向かう。公示翌日の20日は、那覇市の沖縄県庁前広場で応援演説を行った。立ち寄った沖縄の名所の名前を思い出せずに「どうしよう…ド忘れしちゃった…」と苦笑いする場面もあったが、ふと見せた正直な素の人柄に、聴衆は「頑張って」と思わず応援の声を上げた。
柔和な雰囲気の美人。大勢の人前で話して場を華やがせる一方で、人知れず地元の声を聞いて回るなど地道な仕事もいとわない。演説に先だち、那覇市の中心部に広がる商店街「まちぐわぁー」を“お忍び視察”した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、観光客もまばらなアーケード街。事前の告知がほとんどなかったため、裕子さんに気づく人はほとんどいなかった。
訪問を受けた食堂のスタッフは「来られるとは知らず驚いた。以前の商店街をご存じで、コロナ禍にあえぐ現状を聞いて心を痛めておられた。とても気さくで話しやすい方だった」と話した。夫の武器である「聞く力」は裕子さんの武器でもある。広島県内の名家に生まれ、東京女子大卒のお嬢さまだが、飾らぬ雰囲気ですんなり相手の懐に入り込む。
宏池会(岸田派)の議員夫人が集う「四季の会」では会長を務める。根本匠元厚労相の妻で、裕子さんと長く交流がある芳子さんは「いつも自然体で話しやすいが芯は強い方。元々は控えめな方でしょうが、政治家の妻になると強くなってしまうのかも」と話した。会では講師を招いて勉強会を開くが「仕切りはバッチリ」だそうで「裕子さんがいるから、岸田さんも安心して全国を回れる」とサポートを強調した。
 

 

●岸田首相が真っ青当落リスト入手 ラスト演説が東京3区になったワケ 10/30
岸田文雄首相(64)も青ざめた自民党のマル秘資料を入手した。首相は衆院選(31日投開票)のラストを飾る30日の最終演説を東京・品川区のJR大井町駅前で行う予定。ここを選んだのは、過去の国政選挙の最終演説を秋葉原で行ってきた安倍晋三元首相(67)との違いを出すためとされるが、それだけではない。自民が独自に実施した情勢調査で石原ファミリーの苦戦を突きつけられ、焦ったからだという。
自民は衆院選中盤の22〜24日の3日間、全国289選挙区を対象に5回目の情勢調査を実施。調査では、自民候補者と他党候補者の支持率を推計した。当選の可能性が高い順にA、A−(マイナス)、B+(プラス)、…D+、Dと10段階でランク付け。ざっくりいうとA、Bは当選、C、Dは落選だ。それを54ページにまとめた。
自民関係者の間で緊張が走ったのは東京3区だった。自民前職で石原ファミリー三男の石原宏高氏(57)、立憲民主党前職の松原仁氏(65)が火花を散らす激戦区。両氏を共産党新人の香西克介氏(45)が追う。
石原氏と松原氏は2003年衆院選から6回連続で争っており、直近では石原氏が3連勝中だが、7回目の今回は各報道機関の世論調査で石原氏の苦戦が伝えられる。
自民の情勢調査ではそれが鮮明に表れた。石原氏は支持率29・3%、松原氏は34・8%で5・5ポイント差をつけられてしまった。
しかも、公示日前の前回調査(15〜17日)から今回、石原氏は0・9ポイントダウン、松原氏は0・1ポイントアップした。石原氏のランクは前回調査で上から6番目のC+だったが、今回、1つ落ちて上から7番目のCになってしまった。
「つまり、石原氏は公示後、選挙戦に突入して支持を減らし、当選が遠のいたと示されたわけです。首相も焦りがあるようで、マスコミも集まる最終演説で(東京3区の)大井町駅前を選び、石原氏の支持を訴えようと考えたと思われます」(永田町関係者)
自民は単独過半数(233議席以上)の確保は微妙で首相もピリピリしたまま、運命の10・31決戦を迎える。

●岸田首相の最終演説がカオスに 無所属候補乱入≠ノ怒号飛び交う 10/30
衆院選(31日投開票)最終日となった30日、東京3区に自民党から立候補している石原宏高氏(57)の街頭演説会がカオスに陥った。岸田文雄首相(64)が応援に駆け付けた中、無所属候補の行動に聴衆から怒号やヤジが飛び交う事態となったのだ。
大井町駅阪急大井町ガーデン前は500人を超える立錐の余地がない聴衆で埋め尽くされた中、「うるさい!」「聞こえない!」「邪魔だ!」と怒りの声が一斉に上がった。自民党の選挙カーの前で、スピーカーとのぼりを手に「無所属候補を差別するな! 私も300万円の供託金を払っているのになぜ政見放送がないのか!!」と訴えたのは、隣の東京7区から無所属で立候補している込山洋氏(47)だ。
込山氏によれば、自民党の街頭演説会が始まる前から場所取りしており、自身の街頭演説を予定していた。公職選挙法では立候補した選挙区外での活動は認められており、自民党側もしぶしぶ了承したという。
その後、岸田首相が演説するとあって、会場は見る見ると聴衆で膨れ上がり、込山氏の周りも人だらけになってしまった。それでも込山氏はひるむことなく、街頭演説を開始。
岸田首相が演説を始めた際には音楽を流しながら「岸田首相!! 選挙が近くなれば適当な公約を掲げ、どれだけの人の命が失われたのか。現場にいる都議会議員は恥を知れ!」と込山氏は叫び、ヒートアップ。岸田首相の政見が全く聞こえなくなり、聴衆の怒りはマックスに達したが、込山氏はお構いなしで演説を続行した。
演説会終了後、込山氏は「妨害するつもりはありませんでした。(聴衆から)2回蹴飛ばされましたよ。『帰れ、くたばれ』と暴言を浴びたが、私も候補者で、どんな圧力にも屈しない。最後はスマイルですよ」と話した。
込山氏はスマイル党党首のマック赤坂・港区議(73)の私設秘書で、スマイルの伝道師≠自認している。マック氏は安倍晋三元首相や小池百合子都知事の街頭演説会に乗り込み、選挙制度や大手メディアが泡沫候補を扱わない不公平さを訴え続けた過去がある。
弟子に当たる込山氏も血は争えないとあって、岸田首相への直接のアタックとなったが、現場は大混乱に陥る事態となった。

●岸田首相、パーティ収入は1億4800万円… 堂々全国1位 10/30
「ランキングから、政治家の影響力が見えてきますね」 政治資金に詳しい神戸学院大学の上脇博之(かみわきひろし)教授は、こう語る。このランキングは本誌が政治資金収支報告書を調査した結果、判明したものだ。
10月31日に投票がおこなわれる第49回衆議院議員総選挙。本誌はその小選挙区の候補者のうち、2020年に「国会議員」として政治資金収支報告書が公表されている計386人について、関係政治団体の収支をまとめて調査。各候補が複数の団体を設立している場合、政治資金規正法で規定されている「国会議員関係政治団体」のみを対象にした。
「総収入」は、政治団体の収支報告書に記載されている〈本年の収入額〉を政治家ごとに合計したもの。
「パーティ収入」は、収支報告書の収入内訳で〈機関紙誌の発行その他の事業による収入〉項目に記載された収入の合計額で、政治家が開く政治資金パーティの収入額はこの項目に記載される。冒頭で上脇氏が言及するのは、これを今回、上位からランキング集計したものだ。
これを見れば、政治家としての “稼ぐ力” がわかるというわけだ。なんと全国1位になったのは、就任したばかりの岸田文雄首相(64)だった。1億4800万円と圧倒的だ。
「都市部なら2万〜3万円、地方で1万〜1万5000円の相場でパーティ券は売られていますが、一般の人には馴染みがないでしょう。買うのはおもに政治家に頼み事がある企業などです。企業は実力のない議員のパーティ券を買っても仕方がありません。
パーティ券を売りさばける議員は党内でどんどん影響力を増し、さらに重要なポストに就く結果、企業は自らの要望を実現してもらいやすくなる。そんな相互関係ができていると思います」(上脇教授)
岸田首相の場合、「新政治経済研究会」の1団体だけを見ても、2018年12月〜2019年12月に9回のパーティを開催している。2019年12月12日に東京都港区のホテルで開催したパーティでは、3317万9340円の収入に対して、支出は255万7857円。差額の3062万1483円が、そのまま政治資金となった。
9月の総裁選に出馬したほかの候補を同様のランキングで見ると、野田聖子氏(61)は14位だが、河野太郎氏(58)が64位、高市早苗氏(60)が75位と、国民の想像以上に岸田首相とほかの3名では、党内の影響力に差があったようだ。
上脇教授が指摘した相互関係のとおり、与野党間でも資金力の差が見えてくる。
自民党以外で上位30人に入っているのは、無所属の下地幹郎(みきお)氏(60)が11位、立憲民主党の岡田克也氏(68)が15位、国民民主党の古川元久氏(55)が16位で、この3人のみ(22位の田野瀬太道氏は2021年2月に離党するまで自民党)だ。
ちなみに、立憲民主党の枝野幸男代表(57)は257位だった。
政党別に「パーティ収入」の平均額を算出すると、自民党が約2877万円、野党第一党の立憲民主党が約657万円と、大きな開きがある。
「企業による政治家への寄付は、年間5万円を超えると、収支報告書に支出者が記載がされます。しかし、パーティ券の場合は一度の開催で購入額が合計20万円を超えない限り、年間に何度購入しても収支報告書に支出者が記載されません。つまり、癒着を生みやすい “おいしい寄付” になっていて、政治資金パーティは与党にお金が集まるシステムなんです」(上脇教授)
このランキングで占うと、 “次期首相” は2位につけた西村康稔氏(59、1億2700万円)。新型コロナ禍で約2年、政治資金パーティも自粛中。2019年に稼いだ「資金」は今後の出世の武器になるかも。

●岸田首相COPへ 新たな技術で存在感示せ 10/30
岸田文雄首相が英国のグラスゴーで31日から開かれる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)への出席を決めた。首相就任後、初の外国訪問となる今COPの位置付けは重い。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)に向けた「30年目標」の強化が焦点となっている。国連機関は、さらなる温暖化予測を打ち出しており、会議では日本に対しても排出量削減の積み増し要請があり得る状況だ。
今COPでは冒頭に首脳会談が置かれている。岸田氏はその最終日の11月2日に到着予定だが、英国はグレタ・トゥンベリさんを招くなど削減への「高い野心」を促す準備を整えて待っている。日本が国連に提出している30年度目標は46%減(13年度比)である。小泉進次郎前環境相の建言で決まったこの数値は日本の実情に照らすと高すぎる目標なのだ。これ以上の上積みは日本の産業や日常生活の崩壊につながる。岸田氏は、この点を重々承知して出席してもらいたい。
わが国は世界に先駆けて省エネを進めてきたため、削減余地が乏しいことなどを参加する約120カ国・地域の首脳に、しっかり説明すべきである。世界全体の30%に迫る二酸化炭素を排出している中国に対し、日本の排出量はその10分の1にすぎないのだ。日本の先駆的努力と現状を明確に語り、新首相の確たる存在感を世界に示す好機である。議長国の英国は石炭火力発電の全廃を強く求めている。先進国は30年までに、途上国は40年までに、との年限だ。先週決まった日本の新エネルギー基本計画では30年度の電源構成で石炭火力が19%を占めている。
この件でジョンソン首相から苦言が呈された場合でも、日本は英国とエネルギー環境が異なることを膝詰めで理解させる気概を、岸田氏には持ってもらいたい。50年のカーボンニュートラルの実現に向けて、日本が最適の技術を保有していることを岸田氏はCOP26の国際舞台で披露すべきである。抜群の安全性を誇る「高温ガス炉」の活用だ。
発電と同時に水素の製造も可能で、熱源としても用途が広い。そして小型モジュール炉でもある。米英両国ともこの次世代原発に強い関心を寄せている。

●首相「経済のデジタル化を主導」 G20で提起 10/30
岸田文雄首相は30日、ローマでの20カ国・地域首脳会議(G20サミット)にオンラインで参加した。経済のデジタル化を踏まえ、国際的なルール作りを主導すると提起した。世界経済の回復に向けて質の高いインフラ投資の重要性に言及した。自身が掲げる「新しい資本主義」実現にも触れた。
日本は31日が衆院選の投開票日のため、首相はオンラインで一部の討議に加わった。
会議の主要テーマは新型コロナウイルス禍からの世界経済の回復・成長だ。
首相は多国籍企業の利益の一部に課す「デジタル課税」の導入を歓迎した。「歴史的成果の着実な実施に向けて迅速に取り組んでいく」と述べた。日本が2019年の「G20大阪サミット」で提唱した「DFFT(信頼ある自由なデータ流通)」を説明した。
「デジタル田園都市国家構想」を進め、地方と都市部とのデジタル格差を是正していくと言明した。
首相は世界経済の立て直しに向けて、自由な経済圏の拡大を訴えた。貿易や競争条件を公正に保つ必要性を強調した。
中国の広域経済圏構想「一帯一路」を念頭に「質の高いインフラ投資が必要だ」と指摘した。「開発金融の公正性や透明性、債務処理の迅速化なども重要だ」と語った。中国が返済に窮した国の重要インフラの権利を握る「債務のワナ」が問題になっている。
ワクチンの公平な供給が重要だとの考えを示した。「来年半ばまでに世界人口の7割に新型コロナのワクチンを接種するという目標を支持する」と明言した。
自身が掲げる「新しい資本主義」については「成長と分配の好循環」を基本理念とすると改めて語った。「所得を増やして誰もが経済成長の恩恵を実感できるようにする」と話した。
先進国の集まりである主要7カ国首脳会議(G7サミット)に比べ、中国や新興国を含むG20は利害の対立が起こりやすい。首相は合意形成を目指し、日本の立場を明確にした。
11月以降も外交日程が続く。1〜2日には英国で第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の首脳級会合がある。首相は出席する方向で調整している。衆院選の選挙結果を見て訪英の可否を決める。
11月前半にオンラインのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、同月後半にはカンボジアでのアジア欧州会議(ASEM)がそれぞれ控える。首相の参加は国会日程なども考慮して判断する。

●岸田首相、中国念頭に開発の透明性強調 G20サミット 10/30
岸田文雄首相は30日夜、20カ国・地域首脳会議(G20サミット)にオンライン形式で参加し、「途上国の債務が増大する中、開発金融の公正性、透明性、債務処理の迅速化も重要となっている」と述べた。中国が途上国を借金漬けにする「債務のわな」を念頭に置いたもので、「質の高いインフラ投資」の必要性も強調した。
また、巨大IT企業などの税逃れを防ぐ「デジタル課税」などの国際的合意に歓迎の意を表明。「歴史的成果の着実な実施に向け迅速に取り組む」と述べた。
新型コロナウイルスのワクチンに関しては、来年半ばまでに世界人口の7割に接種する目標を支持する意向を表明し、国際保健機関(WHO)改革を含む国際保健の枠組みを強化すべきとの考えを示した。
岸田内閣としては「成長と分配の好循環」を基本理念とし、「人々の所得を増やし、誰もが経済成長の恩恵を実感できる『新しい資本主義』の実現を目指していく」と説明した。
データ流通をめぐる国際ルールづくりを主導する方針を強調した一方、日本国内では「デジタル田園都市国家構想」を掲げ、地方と都市部のデジタル格差を是正していく考えを示した。

●中国と野党共闘に岸田首相、ついに“同時反撃” 10/30
岸田文雄首相(自民党総裁)が、ついに中国と左派野党に“同時反撃”に出た。東京・JR赤羽駅前での応援演説や、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合で、軍事的覇権拡大を進め、ウイグルなどでの人権弾圧が指摘される中国などに対峙(たいじ)する姿勢を明確にした。加えて、「共産党を含む政権ができたならば、どんな外交・安全保障になってしまうのか」と応援演説で語り、共産党との「限定的な閣外からの協力」で合意した枝野幸男代表率いる立憲民主党を批判した。
北朝鮮は衆院選公示日(19日)、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を発射した。中国とロシアの海軍艦艇10隻は17〜23日、日本列島をほぼ一周する軍事的威圧をしてきた。
岸田首相は27日午前、赤羽駅前での演説で、中露朝の動きを「不透明な状況」と指摘したうえで、「皆さんの命、日本の平和や生活を守るため、しっかりとした外交・安全保障を進めなければならない」と語った。
さらに、これまで立憲民主党と共産党の連携を露骨に批判してこなかったが、党綱領に「日米安保廃棄」「自衛隊解消」を掲げる共産党を含む「政権」に触れたうえで、「どの政党がどの候補者がしっかりとした外交・安全保障を進めることができるのか、しっかり見ていただかないといけない」と訴えた。会場では歓声と拍手が起こった。
選挙中だが、「岸田外交」も本格化させた。
岸田首相は同日、東アジアサミット(EAS)などASEAN関連会合にテレビ会議方式で出席した。
ASEAN各国首脳との会議では、東・南シナ海での中国の強引な行動を念頭に、「法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序への挑戦に強く反対する」「ASEANと連携し、『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けた取り組みを力強く推進する」と述べた。
ASEANと日中韓3カ国の会議では、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮をめぐり、国連安全保障理事会の制裁決議の完全履行が不可欠と主張。日本人拉致問題の解決への理解と協力を求めた。
岸田首相の反転攻勢をどうみるか。
評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「コロナ対策や経済政策では各党公約が類似するため、対立軸は『外交・安全保障』しかないことに、やっと気付いた。対立軸を示さなければ自民党の自損行為になる。発言は評価できるが、今後は台湾訪問や中国による人権弾圧の追及など具体的な行動に移せるかを注視すべきだ」と語った。

●「岸田文雄はアベノミクスの最良の部分を維持すべきだ」 10/30
10月31日の衆院選を前に、英紙「フィナンシャル・タイムズ」は岸田政権が本当に賃金を上げたいのであれば、アベノミクスの枠組みを維持しつつ、政治的に難しい政策を推し進める必要があるとの社説を掲載した。
岸田文雄は「新自由主義」を排する日本の新しい首相である。約束として掲げるのは、安倍晋三元首相のもとで実施された、いわゆるアベノミクスの路線に修正を加えることだ。新しい資本主義を作り、経済成長の恩恵を幅広く中流階級に行き渡らせ、すべての人の賃金を上げるという。
耳に心地よく響くのは間違いない。だが、アベノミクスが一貫性のある論理的な政策であり、8年続く安定政権の基盤となったのに対し、キシダノミクスは、少なくともいまのところ、こうだったらいいのになという目標を幾つか束ねたものでしかない。目標達成のための計画を伴っていないのだ。
岸田首相は先日、フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューに応じ、アベノミクスによってGDPも企業の業績も雇用も上向いたが、一般の労働者の収入を押し上げられなかったと言い、こう語った。
「私は経済の好循環を生み出し、一部の人だけではなく、幅広い層の人の所得を上げて消費を刺激していきたい。それがこれまでとは異なる新しい資本主義の鍵となっていくと考えている」
アベノミクスは新自由主義だったか?
ここでまず指摘すべき重要なことがある。それは「新自由主義」という言葉がいろいろな意味を持つ、きわめて変幻自在な言葉であることを踏まえても、アベノミクスが新自由主義だったとは、とても言えないことである。アベノミクスでは当初、財政出動で景気を刺激した。これは新自由主義とは言えない。
また、幼児教育・保育の無償化も、高校の授業料無償化も、新自由主義ではなかった。なるほど安倍が交渉を手がけた見事な貿易協定には喝采を送る新自由主義者もいるかもしれない。だが、民間企業に対して賃金を引き上げるように強い圧力をかけたことは新自由主義者にとってはもってのほかだっただろう。
岸田首相が拒絶するタイプの新自由主義は、日本の政治においてはもう少し前の時代、つまり小泉純一郎首相が郵政事業を民営化し、派遣労働の規制を緩和した頃のものなのだ。
アベノミクスがなぜうまくいったかといえば、それは何といっても、日本経済の高齢化が進むなか、需要を維持していくのが簡単ではないことを理解していたからだ。その対策としての超低金利政策と財政出動による景気刺激策によって、アベノミクスは成長と雇用の両面で成功できたのである。岸田首相はひとまず、これらの政策を継続すると示唆している。
だが、首相が本当に賃金を上げたいのであれば、日本銀行がインフレ目標を継続して達成できるようになるまで安倍元首相が設定したマクロ経済の枠組みを維持すべきだ。どんな会社も、自社製品への需要が高まると信じられなければ賃金を上げることはない。そこはどんなに賃上げを奨励しても、税制面でのインセンティブを用意しても関係がない。
公平な所得の分配を成し遂げるために
そこでもう一つ疑問が出てくる。はたして公平公正な所得の分配を掲げる岸田首相は、その目標を達成するために何か新しいことができるのだろうか。
この問いに対する答えは「イエス」である。だが、その目標を達成するための政策は、岸田首相にとっても、自民党のほかの政治家にとっても、政治的に受け入れがたいものである可能性がある。
分配が大事なら、言うまでもなくやるべきは再分配である。安倍元首相が着手した子育て支援や教育への支援をさらに拡充し、地球最速で高齢化が進む国の子育てコストを下げるという主張には説得力がある。だが、日本は人口の高齢化のせいで、医療や年金を賄うための増税を求められており、国民の間に、それ以外のことへの公共支出を求める意欲は薄い。
岸田首相は、所得の分配に関連する別の分野に目を向けることもできるだろう。たとえば競争政策だ。あるいは、現行の教育制度では、親が子供に多額の投資をしなければ、いい学校やいい大学に行けないという不平等の問題に取り組むこともできる。
だが、いまのところ岸田首相はその種のことに手をつける素振りを見せていない。ビジョンを語るだけで今回の総選挙は勝てるのであれば、「新しい資本主義」が実際には何を意味するのか、具体的に説明するまでの時間を稼げるだろう。
だが、日本は経済面で大きな課題に直面している国だ。岸田首相は早晩、気づくだろう。明るい前向きなレトリックを使うのは簡単だが、それがそのまま具体的な政策の中身になるわけではないのである。
 

 

●自民党・岸田文雄総裁 安倍元首相恒例の「アキバ締め」やめた 10/31
第49回衆院選は31日に投開票される。選挙戦最終日となった30日は各候補者が最後のお願いに声をからし、各党党首は激戦区を中心に応援に駆けつけた。自民党総裁の岸田文雄首相(64)は、最後の応援演説の場所にJR大井町駅前を選択。安倍晋三元首相が“必勝の地”としていた秋葉原から場所を替え、勝利を誓った。
首相就任から1か月足らずで迎える衆院選。岸田氏が「最後の戦場」に選んだのは、JR大井町駅前だった。
苦戦が予想されている東京3区・石原宏高氏(57)の隣に立つと「大接戦です。でも、自信を持って石原さんを送り出したい。なくてはならない存在なんです」とエール。さらに「今回の選挙は未来選択選挙。コロナ対策を進めていく、持続可能な経済対策も進める。明日、皆さんの決意とご判断をお願い申し上げます」と頭を下げ、12日間の選挙戦を終えた。
近年、国政選挙で自民党が選挙運動を締めくくるのはJR秋葉原駅前が定番だった。2012年の衆院選で安倍晋三元首相がマイクを握ったのが同所。その選挙で自民は政権を奪還したことから、安倍氏は自らが総裁として臨んだ19年の参院選までの計6回の国政選挙全てで、最後の街頭演説を秋葉原で行った。
今回、岸田氏が場所を変更した理由には、石原氏が厳しい戦いを繰り広げているのはもちろんだが、他にも「脱安倍」をアピールしたかったとの狙いも考えられる。岸田氏の背後には安倍氏、麻生太郎副総裁の影響があると言われる中、新たなカラーを打ち出したかったとの思いはありそうだ。また、早い時期から「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」の立花孝志党首(54)が最終日に秋葉原で街頭演説を実施することを表明していたことから、混乱を避ける意味もあったとみられる。
岸田氏は総裁選直後から、衆院選の勝敗ラインを「与党で過半数(233議席)」としてきた。ただ、改選前の与党の議席数は305。連立を組む公明が改選前の議席を維持すると仮定した場合、72議席減でもクリアできる。現実的には、全ての常任委員会で委員長を独占し、かつ委員の過半数を確保できる絶対安定多数(261議席)を維持できる44議席減以下で踏みとどまるかが、勝敗の判断材料となりそうだ。
野党が候補を一本化したことで前回よりも激戦区が急増した中、岸田氏は公示日の福島県を手始めに、全国を駆け回ってきた。28、29日の両日には“裏ワザ”ともいえるチャーター便を利用。28日は青森、秋田、新潟、石川、香川の5県を1日で回るという離れ業をやってのけた。その成果が実るのか。審判はきょう下される。

●与党過半数「信任をいただいた」と岸田首相 10/31
岸田文雄首相(自民党総裁)は31日夜の民放テレビ番組で、自民、公明両党の与党で過半数を確実にしたことについて「政権選択選挙において、大変貴重な信任をいただいたということになると思う」と述べた。

●当選の花付ける際も表情崩さぬ首相 高まった不満抑えることはできず 10/31
31日午後9時半過ぎ、東京・永田町の自民党本部の開票センター。会場に姿を現した岸田文雄首相に笑顔は見られなかった。「当選確実」となった候補者名に花の飾りを付けていったが、厳しい表情のまま。民放のインタビューで、自民が議席を減らすとの見通しに触れ、「この結果をしっかりと受け止めて今後の党のあり方、党改革を含めて様々な取り組みを考えていかなければならない」と述べた。
岸田氏はその後もテレビやラジオ番組に出演。党所属議員で相次いだ政治とカネの問題について問われると、「自民党の信頼ということに対して、国民が大きな関心を示している。党の説明責任についても、引き続き丁寧に対応を考えていかなければならない」と強調した。
支持率が低迷した菅義偉前首相から、岸田首相に「選挙の顔」を替えて臨んだ選挙。新政権発足のわずか2週間後に公示を迎えた中、岸田首相は「未来選択選挙」と位置づけ、勝敗ラインは「与党で過半数」と説明してきた。
支持を訴える中で力を注いだのが「コロナ対策」だ。岸田首相は、選挙戦最終日の街頭演説でも「まだまだ油断することはできない。最悪の事態を想定してしっかりと病床を用意した上でワクチン接種の3回目をスタートさせる」と強調。検査体制の充実や口から飲める治療薬の実用化など、矢継ぎ早に今後の対策を口にした。
持論の「成長と分配の好循環」についても声をからしながら語り、「経済を成長させた成果、みなさんの所得、給料を引き上げることで成長を実感してもらう」と集まった聴衆に党への支持を呼びかけた。
だが、衆院選の「前哨戦」と位置づけた24日の参院補選では静岡選挙区で野党系の候補に敗北。首相は「気持ちを引き締めて臨んでいきたい」と強調したが、コロナ禍で高まった政権与党への不満を抑えることはできなかった。

●岸田文雄首相、盤石の10選 衆院選広島1区 10/31
第49回衆院選は31日投票された。広島1区は自民党前職の岸田文雄さん(64)が、共産党の大西理さん(55)、社民党の有田優子さん(51)、諸派の上出圭一さん(65)の新人3人を引き離して10選を確実とし、首相の貫禄を見せつけた。
選挙期間中、岸田さんは総裁として党候補の応援で全国を駆け巡り、初めて自分の選挙区で選挙活動をしなかった。本人不在の中、妻の裕子さん(57)や長男で秘書の翔太郎さん(30)が企業、団体、地域を回った。終盤には岸田さんの弟の武雄さん(61)、妹2人も企業回りなどに加わった。
党県議たちが乗る陣営の選挙カーに笑顔で手を振る人の姿が目立つなど、首相就任を追い風に陣営は盤石の戦いを進めた。

●岸田文雄首相に聞く どこより早い生中継 10/31
10月31日の『Live選挙サンデー』には、自民・岸田文雄総裁が生出演。自民による単独過半数の議席獲得が微妙となったことをどう受け止めているのか。出演陣と意見を交わした。
宮根誠司キャスター「今回の衆院選、まだ全てが開票になったわけじゃないですが、どういうふうに受け止めていらっしゃいますか」
岸田総裁「各予想を見ましても、自公で過半数は確実などではないかという予想が出ています。もしその通りであるとしたならば、これは政権選択選挙において大変貴重な信任をいただいたということになると思います。いずれにせよまだ引き続き、開票結果、緊張感を持って見つめていきたいと思っています」
宮根キャスター「自民だけで見ると40議席以上減らした。これはどう見ますか」
岸田総裁「衆議院選挙は政権選択選挙である。与党で過半数である。これはもうずっと絶えず変わらないと思っていますし、今回も同じであると思っています。自民党の議席が減ったということについては、これはしっかりと内容を分析した上でしっかり受け止め、今後の取り組みにおいていろいろと参考にしなければいけないと思っています」
加藤綾子キャスター「公明党との向き合いという意味で給付金についてお伺いしたいんですけれども、自民党は非正規雇用者、学生などを対象に給付金を公約に掲げていますけれども、公明党の公約では、一律10万円相当を支援する『未来応援給付』と、より幅を広げた給付金となっていますが、これはどのように進めていかれますか」
岸田総裁「自民党と公明党の主張、重なる部分もあれば重ならない部分もある。ですのでその点、ちょっとしっかりと調整をしていきたいと思います。ただ、現金を給付するという点については一致しておりますので、あとは今言った点、この範囲の部分についてしっかり与党で詰めてできるだけ早期に給付を実現したいと思っています」
橋本徹氏「岸田さんが言われる通り、自公で過半数を取っているわけですから僕は勝利だと思います。いろんなこれからメディアで自民党負けたと言われるんでしょうけれども、自公で過半数を取っているので勝利だと思うのですが、ただ、減らしたことを元にですね、岸田さんがこれまで言われていた『新しい資本主義』とか例えば、安倍さんの「桜を見る会」をはじめ、いろいろな問題になっていること、『広島県での買収問題』だったり、『甘利さんの政治とカネの問題』だったり。この辺りを岸田さんはもう説明は終わりだということで全部切っていたんですけれども、この辺の対応を変えられるのか。新しい資本主義の考え方も若干修正するのか、今までのこの説明責任のところの対応も変えるのか。このあたりいかがなんですか。勝利したからもう一切今まで通りでいくっていうのか、変えるのか。そのあたりいかがなんでしょう」
岸田総裁「基本的に今、橋下さんがご指摘になられた様々な課題。従来から私の考え方は申し上げてきました。その考え方は変わらないと思っています。そうした様々な取り組みをしっかり進めることが、国民の皆さんのより幅広い理解や支持にもつながると思いますし、それが国会の情勢にも影響してくると信じて、しっかり約束したこと、言ってきたことを具体的に結果につなげていく努力を続けていきたいと思っています」
橋本氏「そうすると、今まで言ってきたことを変えないということなんですか。選挙結果を受けて言っていること、考え方とか対応を変えるということなのか今まで通りなのか。そこはどうなんですか」
岸田総裁「ですから今まで通り、政策の中身、それから基本的な考え方。これは従来通り、やはりこれから変えるということは今は考えておりません」
フジテレビ・反町理解説委員長「参議院の幹部とか中堅の議員なんかの話を聞いていると、来年7月の参議院選挙を考えると幹事長をちょっと変えてもらいたいという話ははっきり出ています。その人事に手をつけるかどうか。そこはどういうふうにお感じになってますか」
岸田総裁「基本的には今の体制、閣僚も党の役員もスタートしたばかりですので、基本的には触ることは考えてはおりません。具体的な人事についていろいろな意見があるのは承知をしています。これは基本的に変えることは考えませんが、個別の人事については丁寧に本人とも話し合いながら考えていくというのがスタンスです」
反町解説委員長「先ほど甘利さんが中継で『進退に関しては総理にお預けする』というようなお話もありました。この言葉は非常に僕は重要だと思っています。ご自身の当落や自民党がどれくらいへこむかはまだ確定していませんけれども、その件についてはどのように受け止めますか」
岸田総裁「おっしゃるように、ご自身の選挙の結果、まだ出ていないわけですから。結果が出る前にどうこう言うのは、私の立場からは控えなければならないと思っています。結果が出た上でその結果も見て、そして本人とも話し合ってということを考えるのかなとは思います」
古市憲寿氏「岸田さんは総裁選の時に金融所得課税であるとか、『岸田カラー』をだいぶ出されてました。でもそれは選挙では引っ込めましたよね。同じように今回の選挙公約も、また引っ込めるんじゃないのかってちょっと疑問に思っちゃったんですが」
岸田総裁「『引っ込めましたよね』とおっしゃいましたが、私は従来から言っていることを引っ込めたということはなかったと思っています。順番のことであったり、それから公約の中にワード・言葉がなかったというようなことでいろいろと指摘をいただいていますが、基本的な考え方はこれからも変わらないと思っています」
 
 
 
 選挙評価

 

●池上彰氏 岸田文雄首相にツッコみ入れるも… 10/31
ジャーナリストの池上彰氏(71)が司会を務める選挙特番「池上彰の総選挙ライブ 家族で楽しむ選挙特番!」(テレビ東京系)が自民党・岸田文雄首相(64)に忖度なしの真っ向勝負を挑んだ。
まず、池上氏は「今回、自民党が議席を減らしそうだということに、どのように受け止めてますか?」と問う。岸田首相は「衆議院選挙というのは、政権選択選挙ですので、与党で過半数が目標であると。過半数が確実ではないかと予想が出ていますので、1つの信任をしていただいたと重く受け止めたいと思っています」と勝利≠ナあるとした。
また、池上氏は岸田首相が野党批判をしない理由についても「野党の融和を意識している?」と聞いた。岸田首相は融和は否定し、野党との違いをはっきりさせるスタンスであることを示す。
池上氏は岸田首相が「所得倍増」「金融課税」の主張を弱めた点についても追及。「安倍さんや麻生さんに遠慮した?」との問いに、岸田首相は「それはまったくあたっていないと思います。手順について丁寧に説明しているということです」と答えた。
岸田首相の街頭演説を取材していた池上氏は「ワンパターン」「岸田ノートをお見せになったらどう?」とも切り込んだり「安倍さん、麻生さん、甘利さんの3A≠ヨの忖度がどうしても見える」と踏み込んだ。
岸田首相も笑顔で返していたが、池上氏は「優等生のお答えでしたね」と皮肉った。

●衆院選、自公が過半数を確保 岸田文雄首相は信任を受けた形に  10/31
第49回衆院選は31日、投開票が行われ、自民、公明両党で過半数の233議席を確保する見通しだ。岸田文雄首相(自民党総裁)は信任を受けた形となり、政府・与党が11月10日の開催で調整する特別国会で第101代首相に指名され、第2次岸田内閣が発足する。ただ、自民は公示前勢力の276議席から減らす公算が大きい。来夏に参院選を控え、議席の減少幅次第では政権運営に影響を及ぼす。立憲民主党と共産党など野党勢力の伸長が焦点となっている。
衆院定数465議席(選挙区289、比例代表176)に1051人(選挙区857人、比例単独194人)が立候補した。現行制度下で最少の平成17年衆院選を下回った。投票は一部地域を除き午前7時から午後8時まで実施された。
与野党双方が新型コロナウイルス対策の強化を掲げて選挙戦を展開した一方、首相は成長と分配の好循環を目指す「新しい資本主義」を訴え、分配を重視する野党との差別化を図った。立民と共産など安全保障政策が一致しない野党による選挙協力も批判した。
立民、共産、国民民主党、社民党、れいわ新撰組の野党5党は選挙区の約7割の213選挙区で候補者を一本化し、135選挙区で事実上の与野党一騎打ちに持ち込んだ。安倍晋三、菅義偉(すが・よしひで)両内閣を総括する選挙戦と位置づけたが、過半数には届かなかった。自らを改革勢力と位置づけ、地盤の関西以外でも支持を訴えた日本維新の会は、議席増が見込まれている。
首相は与党で過半数確保を勝敗ラインとしていたが、自公の公示前勢力は305議席。憲法改正の国会発議に必要な3分の2に当たる310議席の確保は自公だけでは難しい情勢で、改憲に前向きな維新や無所属議員などとの協力が必要になる。
前衆院議員の任期満了日(10月21日)以降に投開票日を迎えたのは現行憲法下で初めて。岸田内閣発足から衆院解散まで10日間、解散から投開票まで17日間で、いずれも戦後最短となった。

●首相応援、勝率は5割超 11/1
岸田文雄首相(自民党総裁)が衆院選公示日から選挙戦最終日までに応援に入った68小選挙区の勝敗を見ると、36人が競り勝ち、勝率は5割を超えた。立憲民主党の枝野幸男代表の場合は、51選挙区で勝ったのは15人にとどまり、勝率は3割を下回る厳しい結果となった。
両党首が応援に入ったのは26選挙区。選挙区で勝ったのは自民候補者15人に対し、立民は9人で、首相に軍配が上がった。残りの2選挙区は日本維新の会の候補が制した。26選挙区で比例復活したのは自民9人、立民8人で、いずれも接戦だったことを物語った。

●自民堅調、安堵の声 甘利氏辞意、岸田首相は立て直し急ぐ 11/1
自民党は衆院選で議席減の見通しとなったが、事実上の「勝敗ライン」と目された単独過半数233を確保し、党内に安堵(あんど)の声が漏れた。ただ、岸田文雄首相(党総裁)は小選挙区で敗れた甘利明幹事長から辞意を伝えられ、態勢の立て直しを迫られる。
「国民に認められた。しっかり政権運営、国会運営をしていく」。首相は1日未明、自民党本部で記者団にこう強調した。
党内では、9月末の総裁交代を受けて逆風は和らいだとの見方が大勢を占めると同時に、野党の候補一本化を踏まえて公示前勢力(276)から一定の議席減は織り込んでいた。
首相周辺は「大崩れせず、よく持ちこたえた」と指摘。党関係者は「単独過半数はびっくりだ。これが実力ということになる」と手放しで喜んだ。
議席減に対しては、安倍政権時代に起きた森友・加計学園問題など長期政権の弊害と言える不祥事を理由に挙げる向きが党内に多い。菅政権でも新型コロナウイルス対応に関する説明不足が批判された。
総裁選後の人事も要因とみられている。刷新感を出すよりも、安倍晋三元首相や麻生太郎副総裁への配慮を優先。人気者の河野太郎前規制改革担当相ら「小石河連合」の要職起用を見送った。党中堅は「首相は安倍・菅政権を継承したと受け止められた」と指摘した。
甘利氏は現金授受問題を引きずり幹事長に就任。自身の苦戦情報を受け、終盤は地元に張り付いた。党関係者は「こんな幹事長は見たことがない」とあきれ顔で、岸田派議員は「失敗人事だった」と語った。
首相に対しては、就任から間もないこともあり、現段階で責任論は強くない。ただ、来年夏に参院選を控え、党の「顔」として疑問視する見方は残っており、参院側から「何をやりたいのか分からず、有権者に支持されていない」(若手)との危機感が漏れた。
 

 

●街宣車に乗ると夫より人気…英語が流ちょうな岸田首相夫人 11/1
31日に行われた衆議院選挙で岸田文雄首相の妻、裕子氏(57)が積極的に選挙運動をし、注目を浴びた。裕子氏は夫の選挙区の広島で夫に代わって演説する一方、宮崎など他の地域の自民党候補を支持するために応援遊説をした。
「今後、岸田文雄の舵取りに大きな力になっていただきたいと思っております」。23日、広島三次市で自民党の街宣車に裕子氏が乗ると、市民が大きな関心を見せて集まったと、現地メディアは伝えた。裕子氏は今回の選挙で「自民党の顔」として全国を回る夫の代わりに、夫の選挙区の広島で実質的に候補の役割を果たした。
29日には宮崎県で出馬した武井俊輔候補を支援するため、夫の同行なく演説現場を訪れた。後ろから静かに内助しながら大衆の前にはあまり姿を見せなかった菅義偉前首相の妻・理子氏とは対照的だ。
裕子氏は広島出身で地域の名門・広島女学院を卒業した。父も地元企業の社長で、時事通信は「広島には裕子夫人のファンが多い」と伝えた。1993年に広島で衆議院議員に当選して東京で主に活動した岸田首相に代わって、これまでも選挙区の行事に参加するなど積極的なサポートをしてきた。
特に裕子氏は英語を流ちょうに話す国際派としても知られている。岸田首相が外相だった2016年4月に広島で開催された主要7カ国(G7)首脳会談で各国外相夫人を英語で案内するなど外交力を発揮した。岸田文雄後援会の関係者は読売新聞に裕子氏について「ファーストレディとして国際外交舞台にデビューする準備を終えた」と話した。

●首相、経済界に所得増で協力要請へ 追加対策に向け 11/1
岸田文雄首相は31日のテレビ番組で、自身が衆院選で主張した「成長と分配の好循環」をめぐり、経済界に給与引き上げなどの協力を求める考えを示した。「民間企業にもしっかりと所得引き上げの協力をしてもらわなければならない。政府も所得引き上げに向けた政策をしっかりと用意していきたい」と述べた。
今後、連立を組む公明党にも配慮して追加経済対策を取りまとめる。
自民、公明両党で隔たりがあったのが分配政策だ。自民が非正規労働者や女性など新型コロナウイルス禍で困窮した個人に絞った支援を掲げる一方、公明は困窮者に加え0歳から高校3年生までの全ての子供を対象に一律10万円相当の給付を行うとしていた。マイナンバーカード普及に向けた1人一律3万円相当のポイント付与など公明の目玉政策も盛り込まれる可能性が高い。
科学技術分野への集中投資など自公両党で足並みがそろう政策は順当に採用されそうだ。脱炭素化やデジタル化の推進など菅義偉前政権下で重視されていた政策についてもほぼ継承し、一部を追加経済対策に盛り込む。ただ、来年の参院選を見据え選挙の顔≠ニしての首相の求心力が弱まれば、格差是正を重視した「新しい資本主義」に基づく政権の独自政策は実現が難しくなる恐れがある。
追加経済対策は、首相が議長を務める「新しい資本主義実現会議」が11月上旬にまとめる緊急提言案を踏まえ、与党との調整を経て同月中旬にも閣議決定する。コロナ対応で迅速な支援も盛り込むため、財源となる令和3年度第1次補正予算案は11月下旬〜12月初めの閣議決定を目指す。その後、1次補正を速やかに国会に提出。年内に成立させ、早期の執行を図る。

●岸田首相「勝利宣言」も表情硬く 甘利氏辞意、重い空気―自民 11/1
「与党で過半数確保」を維持しつつも、議席減の見通しとなった自民党。岸田文雄首相は東京・永田町の党本部で、「政権選択選挙において大変貴重な信任をいただいた」と述べたが、表情は硬かった。甘利明幹事長も小選挙区で敗北確実となり、党本部は重苦しい空気に包まれた。
テレビ各社のインタビューに応じた甘利幹事長は、多くの選挙区で苦戦したことに「コロナ禍で国民に鬱積(うっせき)していた不安や不満を、政府与党が受け止め切れていなかったのではないか」と神妙な面持ち。自身も小選挙区で苦戦し、「非常に厳しく受け止めている」と述べたが、その後敗北が報じられると、岸田首相に辞意を伝達した。
岸田首相は当選確実となった候補者氏名の横に赤いバラを付けて回ったが、カメラを向けられても笑顔は少なめ。石原伸晃元幹事長や平井卓也前デジタル相らの小選挙区での敗北が次々と伝えられる中、インタビューで議席減について問われると、「しっかりと受け止め、今後の参考にしなければならない」と淡々と答えた。

●聞くことは語らぬことではない 首相の地元、記者が出会った「戒め」 11/1
永田町から広島に転勤して約半年。買収事件の余波が続く政治の現場を取材する中で、心に刺さるたくさんの「戒め」に出会った。
《なあなあにしてきたことで「何でも許される」との風潮につながった》
《国民が政治に何を望んでいるかを分かっておきながら、説明責任から逃げまくっている》
《傲慢(ごうまん)さに全く気付かなかった。安倍政権の末期であり、菅政権のすべてだ》
いずれも言葉の主は、自民党広島県連ナンバー2の中本隆志県議会議長だ。野党から「立派だ」との皮肉が飛び出すほどのストレートな物言いは、菅政権下の自民党執行部に向けられた県民感情を的確に言い表した。
自民党本部が元法相夫妻側に提供した1億5千万円をめぐる県民の疑念は深い。しかし、説明責任を負う側に回った岸田文雄首相の衆院選中の言葉はさえなかった。
就任後初めて地元入りした際の公明候補の応援演説では、買収事件について「党として心からおわびを申し上げなくてはならない」とは語ったが、1億5千万円には言及しなかった。自民候補の応援演説では「政治とカネ」に全く触れていない。
演説を聞いていた人からは「がっかりした」との声が上がり、ある県議はこう危惧した。「説明への期待が失望に変わった時のダメージは大きい」
自民党が歴史的な敗北を喫した4月の参院広島再選挙から一転。30年ぶりの首相誕生が追い風となった広島での衆院選の「6勝1敗」は、これからへの期待であることを忘れてはならない。
首相が党総裁選でアピールしたのは「人の話を聞くこと」だった。ただ、聞くことは語らぬことではない。だからこそ、衆院選の幕が閉じたいま、私は気になって仕方がない。あの「岸田ノート」に、重鎮の戒めは記されているのだろうか。
《広島県民、国民は納得していませんよ》

●米紙、岸田首相が「基盤固め」 「大物」敗北も関心  11/1
米紙ウォールストリート・ジャーナルは10月31日、衆院選での自民党の単独過半数確保について「岸田文雄首相の基盤を固めた」と報じた。一方、自民党の甘利明幹事長ら「大物」の小選挙区敗北への関心も高く、ワシントン・ポスト紙は「党長老に対する有権者の不満の表れ」と分析した。
ワシントン・ポストは、政権発足後に支持率が下落していた岸田氏にとっては「うれしい勝利」と指摘。ブルームバーグ通信は、岸田氏は来年の参院選を前に「支持率改善の圧力にさらされる」との見方を示した。

●岸田総理は持っている??〜 望外の勝利をおさめた自民党と惨敗を喫した党 11/1
31日に行われた第49回衆院選で自民党は実質的大勝利をおさめた。
単独過半数を取れるかどうかという厳しい情勢が伝えられる中での戦いを強いられた今回の総選挙だったが、蓋を開けて見れば過半数どころか単独安定多数確保した。議員数こそ公示前の276から261へと15議席減らしたが、実質大勝利。
自民党と共に大勝利をおさめたのが岸田総理である。逆風の中で単独絶対安定多数を確保し党内基盤を固めると同時に、甘利幹事長に引導を渡すことでAAAの一画を葬ることにも成功。
自民党大勝利の陰で大敗を喫したのは立憲民主党。自民党に逆風が吹きつける中、野党共闘で候補者一本化に成功したものの結果は議席110から96に減らす惨敗。共闘相手の共産党も議席数を12から10に減らし、立憲民主党と共産党の共闘に対して国民の反発が強かったことが浮き彫りになった。
自民党で閣僚経験者を始め何人かの長老が議席を失い多少なりとも若返りが進み顔触れが変わったことを考えると、立憲民主党や共産党などがこの先もこれまでと同じ顔ぶれで戦うのはほぼ不可能だといえる。問題は新たな看板になるような人材がいるかどうか。
10日に臨時国会が召集され第101代岸田内閣総理大臣が誕生する見通し。それによって第100代岸田総理の在職期間は38日間で終わることになる。同時にそれは戦後直後の東久邇宮内閣の在職日数54日間という最短内閣の記録を大きく更新し歴代最短内閣という歴史を塗り替えるということでもある。総理就任から解散まで最短、解散から東京開票迄最短という最短記録のうえに作られたこの記録は、現在の内閣制度が続く限りこの記録は塗り替えられる可能性の低い不倒の記録。岸田総理はまたしても記録を作ることになった。岸田総理は見た目とは違って持っている人なのかもしれない。
第101代岸田総理の注目点は、岸田総理の本質がこれまでの「真面目そうで面白みのない政治家」という印象が変わらないのか、それともゴルバチョフ書記長のように権力を握るまでの「仮面」を被った策士で党内基盤を強化できた今後は豹変するかという点。後者の確率は10%程度かもしれないが、個人的には後者であって欲しいと願っている。果たして結果は…。
 

 

●首相が初外遊、異例の「0泊」 バイデン大統領とは緊密な連携確認 11/2
岸田文雄首相は2日、就任後初めての外国訪問として、英国を訪れた。国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)へ出席し、英国のジョンソン首相と会談。米国のバイデン大統領とも懇談した。衆院選で一定の勢力を維持した首相は「首脳外交を積極的に展開する」と表明しており、米中の覇権争いが本格化するなか、外交にも本腰を入れる構えだ。
投開票日直後だったが、英国の要請もあり、異例の「0泊」に踏み切った。茂木敏充外相は2日の会見で「強行軍で駆けつけ、日本のコミットメントなどを発信することは極めて意義がある」と述べた。
ジョンソン首相とは外相時代に4回会談しているが、対面の首脳会談は初めて。EU離脱後、空母派遣などインド太平洋重視の姿勢を見せる英国について、日本は「グローバルな戦略的パートナー」と重視しており、防衛、経済などの分野で関係強化を確認した。
このほか、豪州のモリソン首相やベトナムのチン首相とも会談した。ベトナムも中国の海洋進出の影響を受けており、東シナ海、南シナ海における「一方的な現状変更の試み」に対抗するため、連携強化を打ち出す見通しだ。
米国のバイデン大統領との懇談は短時間。外務省の発表によると、両氏は日米同盟のさらなる強化や「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、引き続き緊密に連携していくことを確認した。首相は早期に訪米し、本格的な会談を行いたい考え。外務省幹部は「日米関係を基軸に中国をいかに抑止していくか、今後いっそう問われる」と話しており、岸田外交の基盤を固めたい狙いがある。
米政権は、首相が衆院選を乗り切ったことに胸をなで下ろす。対中戦略上、日本に強力な安定政権が存在することが重要だと考えているため。岸田政権に望むのは「菅政権からの継続性」(米シンクタンク・ランド研究所のスコット・ハロルド上級研究員)だ。緊迫化する台湾情勢のもと、米政権は台湾支援の姿勢を強めており、4月の共同声明に明記された「台湾海峡の平和と安定」の具体化に強い興味を示す。ハロルド氏は「仮に台湾が中国に攻撃されれば、日本はどのような貢献ができるのか問われている」と指摘している。

●岸田首相「中旬に経済対策」 新型コロナ自宅療養に即応 11/2
岸田文雄首相は1日の記者会見で、新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた経済立て直しに向け、生活困窮者や事業者向けの給付金を盛り込んだ大型経済対策を今月中旬に取りまとめる方針を明らかにした。感染再拡大に備え、陽性が判明した自宅療養者に必要なケアを速やかに施すことが可能な即応体制を整備する意向も示した。
首相は大型経済対策を盛り込んだ2021年度補正予算案を編成し、年内に成立させる方針を重ねて表明。「今月前半までに新型コロナ対策の全体像を示す」と語った。
経済対策の焦点となる給付金については、「非正規、子育て世代などで生活にお困りの方へのプッシュ型給付金を盛り込む」と説明。早期実施に向け、18歳以下への一律10万円給付を衆院選で公約した公明党と調整を急ぐ考えを示した。「クリーンエネルギー投資も柱の一つに盛り込む」とし、人の移動を促すことで感染拡大が懸念されたGoToトラベルについて「安全安心な形に見直し、再開を検討する」と述べた。
今年に入り、新型コロナの感染状況が急速に悪化した際、患者が適切な対応を受けられないまま自宅で死亡する事例が各地で問題化した。首相は「全ての自宅・宿泊療養者に陽性判明当日か、その翌日には専門家が連絡を取る即応体制を構築する」と強調。年内実用化が期待される経口治療薬について「必要量を確保する」と語った。
看護などの現場での賃上げにも言及し、「収入を増やすため来週にも公的価格評価検討委員会を設置し、抜本的に見直す」と明言。税制改正などを通じて企業の賃上げを促進する方針を明らかにし、「私自ら労使の代表と向き合い、議論を主導する」と決意を示した。
中国の軍事力増強や北朝鮮ミサイルの脅威を念頭に置いた国家安全保障戦略の改定にも触れ、「ミサイル防衛力、人工知能(AI)など先端技術、宇宙、サイバーなどの新たな課題にスピード感を持って対応する」と語った。
 

 

●給付金、与党と調整急ぐ 丁寧に国会論戦―岸田首相 11/3
岸田文雄首相は2日午後(日本時間3日未明)、新たな経済対策を今月中旬に取りまとめる方針を重ねて示した上で、新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた生活困窮者らへの給付金支給について「帰国後、早急に与党と調整を行いたい」と述べ、金額や対象者など具体化を急ぐ考えを表明した。訪問先の英グラスゴーで記者団の質問に答えた。
首相は今後の国会論戦に臨む姿勢として「(衆院)選挙中も訴えていたコロナ対策、経済政策、外交・安全保障などについて野党と議論していく」と説明。「私の政策について野党、国民に理解いただけるようしっかり説明し、丁寧な議論を行っていきたい」と強調した。

●賃上げ税制、検討本格化へ 岸田首相意欲、実効性課題 11/3
政府・与党は2022年度税制改正に向け、賃上げを行った企業を対象とする税制優遇の強化に向けて検討を本格化させる。岸田文雄首相は10月の就任前から繰り返し意欲を示してきたが、経済界は「経済成長がなければ賃上げは厳しい」と訴える。既存の優遇税制では賃上げ効果が限定的だった面もあり、どのように実効性を高められるかが課題だ。政府は自民・公明両党と調整を進め、年末に税制改正大綱をまとめる。
「成長を実現し、その果実を国民一人ひとりに給与の引き上げという形で実感してもらう」。首相は1日の記者会見で、企業に賃上げを促す税制を抜本的に強化する考えを改めて強調した。
賃上げ税制は第2次安倍政権下の13年度に導入され、拡充や見直しが繰り返されてきた。現行で大企業は新規雇用者の給与を前年度より2%以上引き上げると、支給額の15%を税額から差し引くことができる。中小は従業員の給与を1.5%以上増やすと、支給増加分の15%を同様に控除できる。
今回の税制改正では、賃上げ企業に対する優遇の拡充が軸となる見通しだ。一方、財務省からは「『一人ひとり』の給与が上がったのをどう確認するのか」との懸念が聞かれる。また、税制優遇の恩恵を受けるのは引き続き黒字企業のみとなる。大企業は7割が黒字だが、中小は4割未満にとどまり、税制でてこ入れできる範囲は限られそうだ。
国内の平均賃上げ率(連合調べ)は、15年に2.2%に到達した後は鈍化傾向だ。今年は新型コロナウイルス禍の影響で製造業や交通、サービス業などが悪化し、1.78%と0.12ポイント下落。財界関係者は「上げられそうなら上げるし、無理なら無理。結局は業績次第だ」と語った。

●岸田首相の最側近、林元文科相が外相に起用されれば韓日関係は? 11/3
自民党幹事長に起用される茂木敏充外相の後任として、林芳正元文部科学相(60)が有力視されている。岸田文雄首相率いる穏健派の派閥「宏池会」のナンバー2とされる人物だ。
日本経済新聞など日本のメディアは2日、新しい外相に林氏が起用される案が浮上していると報じた。参議院で当選5回の林氏は、先月31日に行われた衆議院選挙で山口3区で当選した。
文部科学相と防衛相を歴任した林氏は、韓国や中国など周辺国との関係を重要とする「宏池会」の伝統を忠実に受け継いでいる人物とされる。彼は月刊誌「文藝春秋」11月号のインタビューで、日本が米国と手を携えて中国に対抗しなければならないという人が増えているという指摘に対し、「(中国に対して)単純な強硬姿勢だけでは巧くいかないだろう」とし、「日本と中国の経済は切っても切れないほど絡み合っている。一般的な貿易と経済安保の線引きが重要になってくる」と強調した。林氏は日中友好議員連盟の会長を務めている
こうした脈絡から、林氏が外相に起用されれば、行き詰まっている韓日関係を変えるきっかけになるという期待の声が上がっている。日本軍「慰安婦」、強制動員被害者問題など歴史問題の早期解決は難しいかもしれないが、駐日韓国大使との面会など対話の糸口を見つける可能性もあるとみられている。林氏はキム・ブギョム首相やウォン・ヒリョン前済州知事など、韓国の政治家たちとも長い間交流してきたという。これに先立ち岸田首相は、衆院選小選挙区で落選し辞意を表明した甘利明幹事長の後任に茂木現外相を任命することにした。

●岸田首相、アジアでの火発役割強調「新技術で排出減」COP26演説 11/3
岸田文雄首相は2日、英グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の首脳級会合で演説した。首相は「アジア全体のゼロエミッション(温室効果ガス排出ゼロ)化を力強く推進する」と述べ、アジアなどの気候変動対策支援に今後5年間で最大100億ドル(約1兆1000億円)を追加拠出すると表明した。欧州などが全廃を求める石炭などの火力発電のアジアでの重要性を挙げ、新技術の積極活用で排出を抑える方針を示したが、欧州との溝は広がったままで、環境団体などからも批判を浴びた。
首相は演説冒頭で「気候変動という人類共通の課題に日本は総力を挙げて取り組む」と表明。2030年度までに温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減する政府目標を説明し、アジアを中心とした世界の脱炭素化に貢献する意欲を伝えた。
さらに「先進国全体で、年間1000億ドルの資金目標の不足分を率先して補う」と宣言。アジア開発銀行などと連携して今後5年で最大100億ドルを追加拠出する「用意がある」と語った。日本は6月、今後5年間で官民合わせて約600億ドルの支援を表明している。今回の表明で支援総額は700億ドル規模となった。
首相は一方で、アジアの電力事情を説明した。
アジアで主体となる再生可能エネルギーは太陽光発電だとし、周波数の安定管理のため火力発電が重要な役割を担っていると強調。石炭とアンモニアを一緒に燃やして二酸化炭素(CO2)排出量を抑えるなど、日本の新技術をアジア各国に積極供与する1億ドル規模の事業を通じ、火力発電の「ゼロエミッション化」を進める意向を示した。
日本はパリ協定に基づく長期戦略で、50年実質ゼロに向けては実用段階にある技術に限らず、水素・アンモニア発電やCO2貯蔵・再利用を前提とした火力発電などイノベーション(技術革新)を必要とする選択肢も追求すると明記している。
COP26議長国・英国が石炭火力を先進国は30年、途上国は40年までに全廃するよう迫るなど、欧州を中心に脱化石燃料の動きが進んでいる。首相は演説でアジアの火力発電への技術供与を柱とする積極支援で、気候変動対策への「貢献」をアピールし、欧州などからの批判をやわらげる狙いがあったとみられる。
首相は演説で、海水面上昇など地球温暖化の影響に適応するための支援を148億ドルに倍増し、世界の森林保全のため約2・4億ドルの支援も行うとも強調した。
首相は演説後、同行記者団に「50年カーボンニュートラルへの日本の強い決意、アジア、世界の脱炭素化に向けた我が国の新たなイニシアチブを世界に発信した。各国から高い評価をいただき、日本の存在感をしっかり示すことができた」と述べた。

●バイデン大統領と単独で会った岸田首相…文大統領とは「遭遇」もなかった 11/3
文在寅(ムン・ジェイン)大統領と日本の岸田文雄首相との初の対面会談は実現しなかった。
英グラスゴーで開かれた第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)に参加した文大統領が2日に米国が主導する国際メタン誓約協約式で岸田首相と遭遇するとの観測もあったが、岸田首相は会議場に姿を見せなかった。
岸田首相は会議出席の代わりにバイデン米大統領と単独で会い、並んで歩きながら対話した。日本メディアはこれを「短時間会談」と表現した。
青瓦台(チョンワデ、大統領府)は岸田首相との会合が実現しなかったことと関連して特に立場を出していない。
青瓦台は主要20カ国(G20)首脳会議とCOP26と続いた今回の多国間外交の舞台でバイデン大統領をはじめ岸田首相との首脳会談を推進した。
しかしバイデン大統領とは2〜3分間の短いあいさつを交わすのにとどまり、岸田首相とは遭遇することもできなかった。
青瓦台は冷え込んだ韓日関係を復元するために韓日首脳間の対話を持続的に推進してきた。
文大統領は6月に英国で開かれた先進7カ国(G7)首脳会議の際に前任の菅義偉前首相と略式会談を推進したが菅前首相が拒否した。結局文大統領は菅前首相と1分間のあいさつだけ交わして別れた後、「会談につなげられなかったことを残念に思う」と明らかにした。
文大統領は先月4日に岸田首相が就任すると、同月15日に初の電話会談で「直接会い両国関係の発展方向に対し虚心坦壊に意見を交換できることを期待する」と話した。
岸田首相も疎通の重要性には共感したが、会談に対しては特に言及しなかった。
この日の岸田首相との対面会談が実現しなかったのは岸田首相の短い歴訪スケジュールも一部影響を及ぼしたとみられる。
岸田首相は先月31日の衆議院選挙で自民党が単独過半数の議席を確保した直後に英国行きを決めた。0泊2日の日程で、この日英国に到着した岸田首相が英国に滞在した時間は半日にすぎなかった。
それでも外交界では文大統領と岸田首相の会談が実現しなかった根本原因は日本が韓日関係の優先順位を低く見ているためだとの見方が優勢だ。
岸田首相は衆院選挙後に「米国をはじめ同盟国や同志国には可能な限り早期に直接訪問し、これらの首脳を日本に迎えたい」と明らかにした。積極的首脳外交を明らかにしたが、韓国に対する言及はなかった。
朝日新聞は1日、岸田首相が2015年に慰安婦合意を外相として仕切ったとし、「安易な妥協はしないだろう」という外務省幹部の話を伝えながら、韓国との対話は来年春の韓国大統領選挙後になるだろうと予想した。
実際に文大統領は先月の岸田首相との電話会談で、徴用工と慰安婦問題の解決に向けた早急な対話の必要性を何回も強調したが、岸田首相は「徴用工と慰安婦問題は最終的に解決されており、韓国が解決策を提示すべき」という日本政府の従来の立場を繰り返した。
文大統領はこの日COP26出席を終え今回の歴訪の最後の訪問国であるハンガリーに向かった。

●「新しい資本主義」を標榜する岸田首相への苦言 11/3
「新しい資本主義」を標榜する岸田文雄首相。その「新しい資本主義」とはいったいどんなもので、どれほどまでの実現性があるのだろうか。経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。

岸田文雄首相は、自民党総裁選挙で新自由主義的な政策を転換して規制緩和・構造改革路線から脱却し、中間層への再分配を強化して格差を是正する「令和版所得倍増」を掲げた。また所信表明演説では「成長と分配の好循環」によって「新しい資本主義」を実現する、と強調した。
しかし、これまで指摘したように、日本は規制撤廃と構造改革を断行し、個人も企業も自由に動けるようにすること以外に、経済が前進する力は生まれてこない。新自由主義的な政策を転換したら所得倍増は不可能であり、中間層への再分配を強化する財源も確保できない。
そもそも「新しい資本主義」が具体的にどのようなものを意味しているのか全くわからない。もし、それを岸田首相が考え出して実現することができたら、ノーベル経済学賞ものだろう。また、「成長と分配」という言葉についても具体性がない。この二つを経済の両輪とするのは当たり前の話であり、成長しないと分配を増やすことはできない。したがって、成長が止まってしまっている日本をどうやって再び成長させるのか、あるいは、従来から高度福祉社会的な分配をしてきた日本がこれから何を原資としてどのように分配していくのか、といったことを説明しなければ意味がない。
さらに、岸田首相は総裁選で公約に掲げた「金融所得課税の見直し」を当面の間、撤回する意向を示した。就任後の株式市場の下落や経済界からの反発に配慮したそうだが、それは言い換えれば、もともと自分の固い信念に基づいていたわけではなかったということではないか。「令和版所得倍増」についても、国民に耳あたりのよいキーワードを並べて“言葉遊び”をしているだけのように思える。
一方、経済格差の是正は世界的に取り組むべき喫緊の問題だ。このため136か国・地域は、GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)をはじめとする多国籍企業の課税逃れを防ごうと、法人税の最低税率を世界共通で15%にするとともに、ボーダレスにビジネスを展開する巨大IT企業などを対象にした「デジタル課税」も導入し、現地に業務拠点がなくてもインターネットサービスなどで一定以上の利益を上げている企業に課税できるようにする国際課税の新ルールを導入することになった。
中国でも経済格差の拡大が深刻化しているため、習近平国家主席は格差是正を目指す「共同富裕」政策を発表し、所得と税制による一般的な再分配に加えて、巨大企業による「寄付」を「第三の分配方式」にした。これを受けて、IT大手のテンセントは「1000億元(約1兆8000億円)を投じる」と宣言し、中国EC最大手のアリババグループもギグワーカーや中小企業の支援などのために5年間で計1000億元を投資すると報じられている。
ことほどさように、富の偏在と経済格差の是正は、世界的な潮流となっているが、日本はいささか事情が違う。GAFAMやアリババ、テンセントのような巨大企業は見当たらず、ベンチャー企業も育っていない。世界的な成長から取り残されているのが今の日本だ。
アマゾンは9月、アメリカの倉庫や物流部門で働く従業員の最低時給を平均18ドル(約2000円)超に引き上げ、新たに約12万5000人を雇用する計画を発表した。一部地域では雇用時に最大3000ドル(約34万円)の一時金を支給するという大盤振る舞いだ。
さらにすごいのは、約75万人の従業員に対して、学士号や高校卒業証書などの取得費用を負担する制度の創設だ。来年1月からスタートし、英語を母語としない従業員の英語資格などの関連費用も対象だという(入社90日目以降)。
もちろんアマゾンはロボットもフル活用しているが、そこまで待遇改善に大きな投資をして従業員を確保しなければならないほどアメリカの物流業界は人手不足なのであり、企業が必要に迫られれば賃上げや分配は進むのだ。
日本でも、そのヒントはある。いま私が注目しているビジネスは「ライブコマース」だ。企業や個人がウェブサイトやSNSなどでライブ配信を行ない、視聴者とダイレクトにコミュニケーションを取りながら商品をPR・販売するのである。すでに中国では1人のインフルエンサーが年間40億円以上を売り上げたりしているが、日本でもバニッシュ・スタンダードなどのスタートアップが登場し、店員が自発的に顧客に呼びかける仕組みを提供している。それらの企業では、月給16万円ほどだったアパレル店員が、その4〜5倍の給料を稼いでいる。
このような新しいビジネスは、決して政府が上から指図して生まれたり、成長したりするものではない。そうした経済の実態を岸田首相は理解しているのだろうか? 理解していたら、政府主導の「所得倍増」や「成長と分配」といった発想は出てこないと思う。
岸田首相は、まず実体経済と最新ビジネス事情を、しっかり勉強すべきだろう。

●COP26で「化石賞」を日本が受賞 岸田首相の演説で「存在感示せた」 11/3
英国の都市・グラスゴーで開かれている第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で、環境NGOでつくる「気候行動ネットワーク」(CAN)は日本時間の11月2日、岸田文雄首相の演説に対し、日本に「化石賞」を贈ると発表した。化石賞は温暖化など気候変動対策に後ろ向きと認められた国が選ばれる不名誉な賞で、日本は2020年のCOP25に続き、2年連続の受賞となった。
CANの発表によると、受賞理由は「岸田文雄首相の演説で、日本だけでなくアジア全体で、化石燃料と同様に水素とアンモニアを燃料としてゼロ・エミッション化を推し進める」と表明したことと説明した。
2日に発表された化石賞の1位はノルウェー、3位はオーストラリアだった。
岸田首相は演説で、「気候変動という人類共通の課題に我が国として総力を挙げて取り組んでいく」と述べ、アジアなどの脱炭素化支援のため、今後5年間で最大100億ドルの途上国への追加支援などを表明した。
しかし、岸田首相が意味する「支援」は、日本が石炭火力を使い続ける理由にもなると報じられている。
毎日新聞によると、岸田首相はCOP26の出席を含めた一連の外交について「各国から高い評価をいただき、日本の存在感をしっかり示すことができた」と主張したという。
2019年のCOP25に続き、またも化石賞を受賞した日本。前回は自民党の小泉進次郎氏(当時・環境担当大臣)が会議に出席して演説したが、「国際社会が求める脱石炭や温室効果ガス排出削減目標の引き上げ意思を示さなかった」として、同じ会期中に2回も不名誉な受賞となっていた。

●日本に「化石賞」国際的な環境NGO “温暖化対策に消極的”  11/3
イギリスで開かれている気候変動対策の国連の会議「COP26」に合わせて、国際的な環境NGOは、温暖化対策に消極的だと判断した国を選ぶ「化石賞」に日本を選んだと発表しました。
「化石賞」は、国際的な環境NGOのグループ「気候行動ネットワーク」が、温暖化対策に消極的だと判断した国をCOPの会期中に毎日選んでいて、2日の「化石賞」に日本とノルウェー、それにオーストラリアを選んだと発表しました。
日本を選んだ理由についてはCOPの首脳会合での岸田総理大臣の演説にふれ「火力発電所の推進について述べた」などとしています。
そして「脱炭素の発電としてアンモニアや水素を使うという夢を信じ込んでいる」としたうえで、「未熟でコストのかかるそうした技術が、化石燃料の採掘と関連していることを理解しなければならない」などと批判しました。
演説の中で岸田総理大臣は、2030年度の温室効果ガスの排出量を2013年度から46%削減する目標を説明するとともに、アジアを中心に途上国の脱炭素化を進めるため、石炭などの化石燃料による発電から再生可能エネルギーへの転換を推進するとして、1億ドル規模の事業を展開する考えを示しました。

●「外交デビュー」で手応え 4日で政権1カ月―給付金・賃上げ、実績づくり全力 11/3
岸田文雄首相は3日、就任後初の外遊を終えた。気候変動問題で新たな途上国支援を打ち出したほか、バイデン米大統領ら各国首脳との会談では「自由で開かれたインド太平洋」の推進で連携を確認するなど、「外交デビュー」では一定の成果を挙げたと言える。英国から帰国した首相は4日に政権発足1カ月を迎え、当面は大型経済対策を盛り込んだ2021年度補正予算案の編成などに取り組む方針だ。
「アジア、さらには世界に脱炭素化に向けたわが国のイニシアチブを発信した」。国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の首脳級会合など一連の外交日程を終え、首相は3日未明、手応えを同行記者団に強調した。
首相は長く外相を務めるなど外交を「得意分野」と自負している。会合では、アジア各国の脱炭素化支援で今後5年間で最大100億ドル(約1兆1300億円)の追加支援を表明。米、英に加えてオーストラリア、ベトナムとも首脳会談を行い、中国の動きを念頭に「自由で開かれたインド太平洋構想」の推進で連携を確認した。
バイデン氏とは短時間ながらも対面での初の首脳会談に臨んだ。日米同盟のさらなる強化を確認したほか、早期訪米の約束も取り付けた。年内訪米も視野に調整に入る方針だ。
一方、国際的な環境NGO「CAN」は地球温暖化対策に後ろ向きな国に贈る「化石賞」に日本を選ぶなど厳しい評価もあった。首相が石炭火力廃止に踏み込まなかったことが原因とみられる。
国内に目を転じると、10日に第2次岸田政権を発足させる。新たに自民党幹事長に起用する茂木敏充外相の後任人事を急ぐ。
新たな経済対策では、新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた生活困窮者らへの給付金支給が大きなテーマだ。連立を組む公明党と金額や対象者の調整に入るが、難航も予想される。
さらに介護や保育の現場での賃上げに向け、公的価格評価検討委員会を来週にも立ち上げる。衆院選で訴えた「成長と分配」を実行に移せるかが問われる。自民党幹部は「原油価格高騰や円安の影響で物価が上がっていく。賃上げはやらなければいけない」と早急な対応を求める。
衆院選を乗り切った首相にとって、次の大きな関門は来夏の参院選。党総裁選や衆院選で訴えた公約の実現に全力を挙げる考えだ。
 

 

●岸田首相「スピード感を政策の実行に向けていきたい」 内閣発足から1カ月 11/4
岸田文雄首相は4日、岸田内閣発足から1カ月を迎えたことについて「総選挙を通じて国民の信託をいただいた。スピード感を政策の実行に向けていきたい」と官邸で記者団に述べた。
新型コロナウイルス対策、経済対策、外交・安全保障を巡り「重要課題が山積している。丁寧に取り組みを進めたい」と語った。
公明党の山口那津男代表は党会合で、18歳以下の子どもに一律10万円を給付するなどとした衆院選公約に触れ「与党協議を通じ、スピーディーに実行に移せるように取り組む」と強調した。
来年夏の参院選に関しては「政策実現と実績が戦いの追い風になるという心構えでしっかり臨んでいきたい」と指摘した。

●岸田首相「賃上げ税制強化で所得増」を目指すも 虚しい現実 11/4
第49回衆議院選挙は、自民党が国会を安定的に運営できる「絶対安定多数」を上回りました。今後は、岸田首相が就任当時から口にしている「所得」をどのように増やしていくかが焦点になってきますが、「日本人の給与は増えない」など、すでにネガティブな意見が目立ちます。なぜなのか、考えていきましょう。
この30年で「日本人の基本給」はどうなった?
衆議院選挙で自民党が安定多数の議席を確保し、いよいよ岸田文雄首相が就任当初からいっていた「所得倍増」(「平均所得や所得総額の単なる倍増を企図したものではない」と、報道が先行している感は否めませんが……)に向けて動き出しました。年末の令和4年度税制改正協議は「所得拡大促進税制」、通称「賃上げ税制」が焦点になるといわれています。
賃上げ税制、その名の通り、企業が支払う賃金に対して優遇処置を行うというもの。自民・公明両党は、衆議院選の公約で推進を掲げていました。現行制度では、中小企業が支払う給与総額が前年比1.5%以上増えた場合、その増加分の15%を法人税から差し引くとしています。その減税率を引上げて、企業に一層の賃上げを促していこうというのです。
ただ専門家のなかには懐疑的な意見も多いようです。というのも、この賃上げ税制、導入は平成25年(2013年)と、いまから8年も前の話。「日本の平均賃金は30年近く横ばいで、目立った効果は出ていないではないか!」というのです。たしかに、企業側からすれば、一度基本給を上げてしまえば下げることはしにくく、一時的な税制優遇策ではなかなか賃上げに踏み切るのは難しいでしょう。
厚生労働省『賃金構造基本統計調査』で基本給(所定内給与)の推移を見ていくと、1990年の基本給の平均は25万4,700円。バブル崩壊、不良債権問題と、日本経済は苦境に立たされる中でも、基本給はわずかながらも前年比プラスを記録していきますが、2002年に前年比1.0%減とマイナスを記録。その後リーマンショックもあり、2000年代はほぼ「基本給減の時代」だったといえます(関連記事: 『【図表でみる】30年(1990年〜2019年)日本人の基本給の推移』 )。
再び基本給が前年を上回るようになったのは、2014年。アベノミクス効果で、日本経済が上向きになりかけていたころからは、決して高くはありませんが、前年比プラスが続いています。
賃上げ税制が創設された2013年と2019年で比べてみると、基本給は4.06%増。また30年前と比較すると120%増。前出の通り、横ばいとまではいいませんが、たとえばアメリカのここ30年のインフレ率は2〜3%台で推移していることを鑑みると、「日本人の給与はあがっていない」ばかりか「日本人の給与は減り続けている」といわれても仕方のない水準だといえそうです。
基本給は増えても「手取り額」が増えないと意味がない
有効性に懐疑的な意見も目立つ「賃上げ税制」ですが、それでも給与が上がらない状況からすると、期待せずにはいられないでしょう。
ただ「基本給があがっても、それだけでは意味がない」という意見も多く聞かれます。「手取りが増えないと仕方がないだろ!」というのです。
たしかに、給与額に微笑んでいたけど、実際に振り込まれた金額に愕然としたことは、会社員であればあるでしょう。
給与から天引きされるのは、まず所得税や住民税といった税金。さらに「健康保険料」「厚生年金保険料」「雇用保険料」、さらに40歳以上であれば「介護保険料」といった社会保険料。
額面30万円であれば、なんだかんだいって、独身であれば手取りは23万円ほど。結婚して配偶者を扶養していれば23.4万円、さらに子どもが1人いれば23.8万円、子どもが2人なら24.2万円ほどになります。
さらに総務省『家計調査』で勤労世帯の実収入と非消費支出(所得税や住民税などの直絶税や公的年金保険料や健康保険料、介護保険料などの社会保険料)の割合の変化を見ていくと、2000年は15.70%だったのが、2020年は18.19%と、この20年ほどで約2.5%も負担が増えています(関連記事: 『年々負担が重くなる…家計における「税金+社会保険料」率の推移』 )。
非消費支出の増加の要因は、社会保険料の増加によるところが大きいと考えられ、高齢化に伴い社会保険料の負担は年々増えています。全国健康保険協会『保険料率の変遷』によると、2000年代に「健康保険料」は8.20%から10.00%に増加。さらに2000年からは介護保険料も加わり、会社員が給与から天引きされる金額は年々増加しているのが実情です。
高齢化を止めることは難しく、負担増は仕方がないかもしれません。給与増を目指す政策だけでは、私たちの暮らしは楽にならない……。そんな事実に、めまいを感じてしまう、それが日本の実情です。

●韓国 「岸田首相は日本で支持される首相…我々の前に座ることを望む」 11/4
韓国の崔鍾建(チェ・ジョンゴン)外交部第1次官が、日本国内の政治が安定しただけに岸田文雄首相が韓国との対話に前向きに出てくるよう促した。
崔次官は3日、KBS(韓国放送公社)のラジオ番組「チュ・ジンウ・ライブ」に出演し、「日本の政局が安定し、日本国内で支持を受ける首相が我々の前に座ることを望む」とし「岸田首相はそうだと我々は信じる」と述べた。
続いて「内部的に不安定な首相は国内政治に悪用しようと我々に接近する可能性がある」とし、したがって日本で固い支持を受ける首相が現れることを期待すると付け加えた。
旧日本軍慰安婦問題については「我々の本質的な問題であるため必ず守りながらも外交的解決方法を探す考え」と話した。

●岸田首相、月内にも訪米 同盟深化確認へ 11/4
岸田文雄首相はバイデン米大統領と会談するため、11月中にも米国を訪問する方向で調整に入った。政府関係者が4日、明らかにした。首相の所信表明演説や2021年度補正予算案の審議が予定される臨時国会は早ければ11月下旬召集と見込まれ、年内は日程が立て込むことから、召集前のタイミングが望ましいと判断した。
首相は先の訪英中にバイデン大統領と短時間会談した際、年内にも訪米して正式な首脳会談を行うことで一致した。この会談では中国の動きを念頭に置いた「自由で開かれたインド太平洋」実現に向けて緊密に連携していくことも申し合わせており、訪米の際も日米同盟の深化を再確認したい考えだ。

●竹田恒泰氏が岸田首相“化石賞”の環境団体を批判 11/4
明治天皇の玄孫で政治評論家の竹田恒泰氏(46)が4日、ツイッターを更新。環境団体が岸田文雄首相の演説に反発し「化石賞」という不名誉な賞に選んだことを批判した。
岸田首相は国連気候変動枠組み条約第26回締約会議(COP26)首脳級会合で「対策に全力に取り組み、人類の未来に貢献する」と宣言した。
しかし、環境NGOが参加する「気候行動ネットワーク(CAN)」は日本が既存の火力発電を活用す続ける方針を表明したことを非難し、気候変動対策に後ろ向きな国に贈る「本日の化石賞」に日本を選んだという。
こうした環境団体の言動に竹田氏は「日本は、世界最高性能の高効率火力発電プラントを開発し世界中に輸出してきた」と反論。
「化石燃料の効率的な利用に世界で最も貢献してきたその日本に『化石賞』とは無礼千万」と環境団体の一方的な見解を批判した。

●岸田政権“対中強硬”決断せよ 北朝鮮・中国・ロシア、安全保障の危機 11/4
日本人の危機感の表れなのか−。第49回衆院選は10月31日に投票、即日開票された。岸田文雄首相(総裁)率いる自民党は小選挙区で苦戦して公示前議席を減らしたものの、常任委員会のすべてで委員長を出して、過半数の委員を確保できる「絶対安定多数」(261議席)に達した。枝野幸男代表の立憲民主党は共産党などと野党共闘したが、外交・安全保障政策への不安からか、公示前議席には届かず失敗した。松井一郎代表の日本維新の会は41議席を獲得して衆院第3党に躍進した。与野党とも、大物議員の落選や小選挙区敗北が目立ち、「世代交代」を印象付けた。中国の軍事的覇権拡大が進むなど、日本を取り巻く安保環境が厳しくなるなか、岸田政権の「決断」と「覚悟」が注目される。
「政権選択選挙において、大変貴重な信任をいただいたということになると思う」
岸田首相は10月31日夜、自公与党で過半数(233議席)を確保したことについて、テレビ番組でこう語ったが、決して余裕のある戦いではなかった。報道各社は同日午後、出口調査などをもとに、「自民党の210議席台もあり得る」と厳しい分析もしていた。まさに薄氷の勝利といえる。
今回の衆院選は、新型コロナウイルス対策や経済政策、外交・安保政策などが焦点とされた。「コロナ禍で(有権者に)不安や不満がたまっていた」(自民党の甘利明幹事長)が、新規感染者数が激減して実体経済が動き出し、菅義偉政権末期のような「激しい怒り」は収まりつつあった。
ただ、日本の安全保障の危機は、衆院選の最中に明確になった。
北朝鮮は公示日(10月19日)、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を発射した。中国とロシアの海軍艦艇10隻は同月17〜23日、日本海から津軽海峡を抜け、日本列島に沿うように太平洋を南下し、鹿児島県の大隅海峡を通過した。日本列島をほぼ一周する軍事的威圧を加えてきた。
岸田首相は同月27日、東京・JR赤羽駅前での演説で、中露艦隊などの動きを「不透明な状況」と指摘し、「皆さんの命、日本の平和や生活を守るため、しっかりとした外交・安全保障を進めなければならない」と語ったが、メディアではあまり報じられなかった。
自民党が当初苦戦した背景について、夕刊フジで「ニュースの核心」(金曜)を連載するジャーナリストの長谷川幸洋氏は「岸田政権はメッセージの発信力が乏しい。中露の艦隊の日本列島一周は、昔なら、戦争一歩手前だ。ところが、岸田首相から強い発信は伝わってこなかった。自民党の岩盤支持層は『安全保障政策』を注視しており、『岸田首相は有事に大丈夫か?』と不安視した可能性がある」と語る。
衆院選終盤の同月28日、米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は、元米国防次官補代理の「台湾有事は目前、米はアジアに集中を」という寄稿文を掲載し「中国が差し迫った軍事的脅威であり、有事は近いかもしれない」「衝突および敗北する可能性を避けるには、米国は中国抑止に向け直ちに行動を起こさなければならない」と提言していた。
「台湾有事」は「沖縄有事」「日本有事」に直結する。
岸田首相は、2012年から約5年間、外相を務めて最長記録を誇っていた。短期間だが防衛相も兼務し、自民党総裁選でも「外交・安全保障の岸田」を売りにしていた。
軍事ジャーナリストの井上和彦氏は「総裁選では、候補者4人が『敵基地能力の保有』などについて真剣な議論を交わしていた。ところが、衆院選の公示後、岸田自民党はほとんどアピールしなくなった」といい、続けた。
「そうした、岸田自民党への不満・不安はあったとしても、日本の厳しい安全保障環境を見ると、有権者としては『現実的には、自民党にしか託せない』と考え、 自民党が盛り返したと考えるのが自然だろう。党綱領に『日米安保廃棄』『自衛隊解消』を掲げる共産党と連携する立憲民主党などに入れる選択肢は少なくなった。自民党の選挙公約の、防衛関係費をめぐり『GDP(国内総生産)比2%以上』を目指すという姿勢も理解されたのではないか。岸田首相はもっと強いメッセージを出すべきだ」
 

 

●給付金が最初の関門 因縁の政策、調整難航も 岸田首相就任1カ月 11/5
岸田文雄首相は4日、就任から1カ月を迎えた。
戦後最短となる就任10日で衆院解散に踏み切ったため、本格的な政権運営はこれからだ。新型コロナウイルス対策をはじめ内政・外交の課題が山積する中、衆院選で公約した国民への給付金支給の具体化が政権の行方を占う最初の関門になりそうだ。
首相は4日、首相官邸で記者団に、過去1カ月あまりを「自民党総裁選、組閣、解散・総選挙をスピード感を持って進めてきた」と振り返った。その上で、「国民の信託を頂いた今、そのスピード感を政策実行に向けていきたい」と語った。
最初の関門になるのが11月中旬にまとめる大型経済対策の柱である給付金の扱いだ。連立を組む公明党と意見が対立する可能性があるからだ。
自民党内では財政規律派を中心に「ばらまき」に否定的な声が根強い。衆院選公約を「非正規雇用者、女性、子育て世帯、学生などへの経済的支援」と抑制的にとどめたのもこのためだ。これに対し、公明党は0〜18歳に一律10万円相当の「未来応援給付」を約束。1人一律3万円相当のマイナンバーポイント付与もぶち上げた。
給付金は首相にとって因縁の政策課題だ。政府は昨年4月、減収世帯への30万円給付をいったん閣議決定。政調会長だった首相は自身の成果と誇ったが、公明党から再考を迫られた安倍晋三首相(当時)が国民1人10万円の給付に突如切り替え、首相は顔に泥を塗られた経緯がある。
給付金を衆院選の看板公約と位置付けた公明党は「今回も譲れない」(関係者)と息巻く。竹内譲政調会長はツイッターに「未来応援給付は現金給付で実施する。100%実現する」と記し、一歩も引かない構えだ。
首相を待ち構えるのは経済対策だけではない。コロナ対応の全体像の提示は今月前半が期限。首相は「確実に入院できる体制」を月末までに整えることを明言している。3回目のワクチン接種は12月に開始する方針で、これまで公言してきた「経口治療薬の年内実用化」にも決着をつける必要がある。
得意と自負する外交分野でも、敵基地攻撃能力の扱いが焦点となる国家安全保障戦略改定など、調整が難しい課題が控える。首相は来夏の参院選に向け、半年あまりで実績をできる限り積み上げたい考えだが、政権運営の手腕に疑問符が付けば、参院選で厳しい評価を受ける可能性もある。

●岸田首相、意識するのは「スピード感」と「丁寧さ」 11/5
岸田首相が4日、就任から1か月を迎えた。積極的な情報発信や国民との「車座対話」を通じ、菅内閣との違いを打ちだそうと腐心している。今後は、新型コロナウイルス対策や経済政策の取りまとめにも全力を挙げる考えだ。
「自民党総裁選、組閣、(衆院)解散・総選挙と、スピード感を持って進めてきた。これからは政策の実行だ」
首相は4日、首相官邸で記者団に今後の意気込みを語った。
衆院選の結果を踏まえ、「国民の信託をいただいた今、そのスピード感を政策の実行に向けていきたい」と強調した。新型コロナ対策や経済政策、外交・安全保障などの課題を挙げ、「丁寧に取り組みを進めたい」とも付け加えた。
「スピード感」とともに首相が意識しているのが「丁寧さ」だ。安倍元首相や菅前首相は、官邸主導で政策を推進したが、説明不足との批判もつきまとった。
就任後の首相は、記者団の質問に答える「ぶら下がり取材」にも積極的に応じてきた。安倍・菅内閣では、記者側からの要請で行うことが通例だった。しかし、首相は、首都圏で震度5強を観測した地震や、外国首脳との電話会談の後など、首相側からの提案で取材機会を設けた。
所信表明演説で全閣僚に開催を指示した「車座対話」は、衆院選中を含めて自らも計10回開いた。看板政策である「新しい資本主義」の実現に向けて、有識者による「実現会議」と並行して車座で関係者から意見を聞く機会を設ける方針だ。
危機管理対応では、就任3日後の深夜に発生した地震に加え、衆院選中には、北朝鮮によるミサイル発射や阿蘇山の噴火に見舞われた。首相は地震やミサイル発射では官邸に駆けつけたが、ミサイル発射時に首相も松野官房長官も東京を離れていたことは批判を招いた。
緊急時の対応を誤れば政権の命取りになりかねず、首相周辺は「今後も細心の注意を払う」としている。

●中国・王毅外相が岸田首相に「一線を越えるな」と警告の真意 11/5
中国の王毅外相が台湾問題で「一線を越えるな」と、日本の岸田新政権に注文をつけた。
岸田首相は中国と良好な関係にある自民党派閥「宏池会」出身のため、中国では関係改善に期待する声がある一方、台湾を重視する岸田首相の「友台」路線への警戒感も根強い。
スタートしたばかりの岸田政権に対し、王毅外相がくぎを刺した真意はどこにあるのか。
「一つの中国」政策の順守を
冒頭の発言が飛び出したのは、衆議院選挙が終盤を迎えた10月25日、日中両国の識者が議論する「東京─北京フォーラム」へのビデオメッセージだった。
台湾問題について「両国の政治的基盤にかかわる」と指摘した上で、「一線を越えたりルールを破ったりしてはならない」と警告。
さらに、「台湾は中国の不可分の領土」とする中国の主張を日本が理解し尊重すると表明した日中共同声明(1972年)をあげ、「いかなる状況でも厳守すべき」と強調した。
王毅外相の言う「一線」が、「一つの中国」政策の順守を指していることは明らかだ。
米中対立の最重要争点となっている台湾問題は、日米関係にとっても重要なテーマと言える。
菅前政権は日米首脳会談(2021年4月)後の共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性」の文言を約半世紀ぶりに明記し、日米安全保障条約の性格を「地域安定」装置から「反中同盟」へと変質させた。
その直前の3月には、東京で外務・防衛閣僚による日米安全保障協議(いわゆる「2プラス2」)を開催。このとき岸信夫防衛相はオースティン米国防長官に「台湾有事では緊密に連携する方針」を確認。台湾支援に向かう米軍に自衛隊がどのように協力できるか検討すると約束している。
台湾問題を「内政問題」とする中国からみれば、台湾をめぐって日米が軍事協力を強化する展開は容認できない。
岸田首相は年内に訪米して日米首脳会談を実現し、ワシントンで2プラス2を再度開く予定。そこでは、台湾有事における米軍の後方支援に向け、集団的自衛権行使を容認する安保法制の法的枠組みを盛り込みたい考えだ。
一方、中国側は日米2プラス2について、(1)米軍の中距離ミサイルの日本配備問題(2)「航行の自由作戦」への自衛隊参加(3)南シナ海などでの民間船の安全確保、などの論点に関心を抱いているとみられる。
また、中国と台湾が9月半ばに相次いで加盟申請した環太平洋連携協定(TPP)を、議長国の日本がどう処理するかにも、中国側は強い関心を寄せている。
もし日本が台湾の加盟手続きを先行させれば、中国は「一線を越える」として激しく反発するだろう。
岸田首相の「対中国」「対台湾」観
それにしても、岸田首相はどのような対中国・台湾観を持っているのだろうか。
10月8日の所信表明演説で、岸田首相は「自由で開かれたインド太平洋」を推進していくことを強調した上で、国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画(中期防)の改定をあげた。いずれも対中防衛力の強化を意図したものと考えられる。
岸田首相は日中関係について、日米同盟、日朝関係改善のあとに取り上げており、優先順位は相対的に低い。
また同演説では、「普遍的価値を共有する国々と連携」して「(中国に)主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求める」と述べており、関係改善へのポジティブな姿勢は読み取れない。
では、そうした姿勢は近年の対中政策と比較してどう位置づけられるか。
安倍元首相は施政方針演説(2020年1月)で「首脳間の往来に加え、あらゆる分野での交流を深め広げることで、新時代の成熟した日中関係を構築する」と、関係改善への積極姿勢を見せた。
当時は習近平国家主席の訪日が目前に迫っていることもあったと思われる。なお、3月には新型コロナ感染拡大を理由に訪日が延期されている。
続く菅前首相は施政方針演説(2021年1月)で、「両国にはさまざまな懸案が存在するが、ハイレベルの機会も活用しつつ、主張すべきは主張し具体的な行動を強く求めていく」と述べた。
「ハイレベルの機会」とは、首脳往来への言及とも受けとれるが、岸田首相の所信表明演説ではそれすら消えてしまった。
こうしてみると、岸田首相の対中姿勢はきわめて冷淡と言っていい。
台湾政策はそれと対照的だ。
衆議院代表質問(2021年10月)で台湾について聞かれた岸田首相は、台湾を「わが国にとって基本的な価値観を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人」「非政府間の実務関係として維持していく日本政府の立場を踏まえ、日台間の協力と交流のさらなる深化を図っていく」と答えている。
この表現は2016年1月、蔡英文氏が台湾総統に当選した際、岸田氏が日本外相として初めて祝賀談話を発表したメッセージとまったく同じものであり、日本政府の「主体的な」台湾関与政策の基調をなす認識と言える。
親台姿勢の安倍首相から指示があったとみられるものの、第二次・第三次安倍政権の4年7カ月にわたる岸田外相時代に、日台の公的関係が前進したことは間違いない。
安倍元首相が主導する「台湾との対話」
日本と台湾は2013年4月、尖閣諸島(台湾名・釣魚台)南方の東シナ海の日本の排他的経済水域(EEZ)で、台湾の漁業者による操業を認める暫定海域を定めた「日台漁業取り決め(協定)」に調印している。
当時の安倍首相が、尖閣問題で共通の姿勢をとる(中台)両岸の関係に「クサビを打つ」狙いは明らかだった。
また、2017年1月には台湾との民間交流機関「交流協会」の名称を「日本台湾交流協会」に変更。同年3月には赤間総務副大臣(当時)が台湾に出張。日台断交後、副大臣が公務で台湾を訪問するのは初めてで、交流レベルの格上げと言える。
安倍政権下で進んだ「反中」の裏返しとしての「友台」は、続く菅政権でも進んだ。
台湾への新型コロナワクチンの供与は10月末までに計6回約420万回分に達した。安倍氏が水面下でアメリカと台湾に働きかけ、その連携下で実現したものとされる。
安倍氏は7月末、アメリカの上下両院議員、台湾の立法委員(国会議員)と初の戦略対話をオンラインで開き、台湾への圧力を強める中国の軍事拡大に強い懸念を表明している。この戦略対話は今後も定期的に開くという。
「親米・反中・友台路線は日本の最大公約数であり、岸田でも変わらない」
台湾大手紙の聯合報は、自民党総裁選で岸田氏が当選した日にそう書いている。
同紙が指摘するように、日米安保を対中同盟に変質させても野党から反対の声はあがらず、敵基地先制攻撃やGDP2%超の防衛費も選挙の争点にはならなかった。
中国社会科学院の呉懐中・日本研究所副所長は「嫌中」「反中」「抗中」が日本国内で政治的正義になっており、支配的価値観の変化を意味する「パラダイムシフト」が起きていると分析している。
対中・台湾政策について、岸田首相はキングメーカーたる安倍元首相の強い磁場からは自由になれないだろう。
王毅外相「警告」の真意
冒頭で紹介した王毅外相の「一線を越えるな」との警告には、自民党右派が国会上程を計画している「日本版台湾関係法」も含まれるはずだ。
米国家安全保障会議(NSC)のカート・キャンベル・インド太平洋調整官は、日米首脳会談直前の4月初頭に極秘来日した際、北川国家安全保障局長ら政府当局者に対し、米台湾関係法にならって日本も台湾に兵器・兵器技術供与を可能にする枠組み(日本版台湾関係法)を導入するよう要求したといわれる。
また、安倍元首相は7月末に産経新聞のインタビューに応じ、台湾訪問の希望を表明。これを受け、台湾の民間シンクタンクは同元首相の訪台時に立法院での演説を設定する準備に入ったという。
中国はバイデン米政権が「一つの中国」政策の空洞化を狙っていると警戒する。そして王毅外相の警告も、日本版台湾関係法や安倍元首相訪台による「一つの中国」空洞化に向けられたものと理解すべきだろう。

●「原発」のフランス、「石炭」の日本がCOP26第1週に受賞した賞の名は? 11/5
国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で、英国、日本、ノルウェー、米国、フランス、オーストラリアなどの、世界の気候変動対策論議の中心にある先進国が、その「努力」に見合った賞を国際市民団体から授与された。賞の名前は「本日の化石賞(Fossil of the Day)」。実際には気候危機対応の流れに逆行している国々に与えられる、感謝ではなく嘲笑の意味が込められている賞だ。
130カ国以上の国の1500以上の気候・環境団体からなるCAN(Climate Action Network-International)は、2009年11月からCOPなどの主要な気候行事が開かれるたびに、気候変動への対応に後ろ向きな国などに「本日の化石賞」という汚名を着せている。気候変動分野で「最悪になるために最善を尽くす国に恥をかかせよう」との趣旨からだ。化石燃料の退出に消極的だったり、温室効果ガスの削減目標を示さなかったりする国などが選ばれる。
COP26開幕から4日目の3日(現地時間)までに、早くも6つの国と1つの機関が受賞者に選ばれた。1日に最初の受賞国となったのは英国だ。COP26の議長国として、宿泊難を招いたり、参加者たちを長蛇の列に待機させたりするなど、アクセスの悪い気候会議を作ったという理由からだ。同日、2番目の栄光は「気候悪党」の1つに数えられるオーストラリアのものとなった。温室効果ガス排出量を減らすための努力を多方面で行っていないとの理由からだ。CANは「新たな2030年目標も、温室効果ガス排出量を減らしたり化石燃料を段階的になくしたりするための新たな政策も打ち出さず、国際的なメタン削減のための枠組みからも抜けた」とオーストラリアを批判した。
2日目の最初の受賞者はノルウェーだ。未来の技術が温室効果ガス排出量を削減するという過度な信頼と、石油輸出問題によって化石賞に選ばれた。CANは「ノルウェーは『気候チャンピオン』の役割をすることを好むが、炭素捕集・貯蔵(CCS)を化石燃料生産の解決策だと宣言し、石油とガスのさらなる開発を要求した」と指摘した。この日の2番目の化石賞は日本に贈られた。2050年まで石炭発電を維持するとともに、アンモニアと水素を新たなエネルギー源として使おうとしているとの理由からだ。CANは岸田文雄首相に向けて「こうした初歩的で高価な技術が(気温上昇幅の制限値である)1.5度目標を達成する可能性はほとんどないということを理解する必要がある」と述べた。オーストラリアは気候変動対策の一環として、検証されていない技術に資金を投入しているとして、前日に続いてまたも受賞した。
国際社会の気候変動に関する議論を主導する米国も、化石賞の受賞を避けることはできなかった。米国は3日目の最初の受賞者に選ばれた。ジョー・バイデン政権が発表した農業分野の気候変動対策である「AIM4C」が農家を仕事から排除するとの理由からだ。近ごろ原発の重要性をとみに強調しているフランスも同日の受賞者となった。CANはフランスに対し「欧州連合(EU)のタクソノミー(緑の分類体系)を組むにあたって化石ガスと原子力の統合を推進している」とし「持続可能な投資のための分類体系であるタクソノミーを破壊している」と述べた。
この他にも国際排出量取引協会(IETA)が、実質的な削減努力は行わず、炭素市場を通じた安易な炭素排出量の相殺を助長しているという評価とともに化石賞を受賞した。COP26の残りの期間の最重要課題として、国家間の炭素排出量取引を前提とした炭素排出履行規則を論議する加盟国に、前もって警告を発したかたちだ。  

 

●地球温暖化を食い止める切り札?COP26で岸田首相も言及した”アンモニア”
世界が注視しているアンモニア
イギリス・グラスゴーで開催中のCOP26。岸田首相は火力発電のゼロエミッション化に向け、1億ドル規模の事業の展開を表明したが、その際、水素と共に名前が挙がったのがアンモニアだ。
実はいま、国内の大手商社も海外からのアンモニアの輸入を発表するなど、アンモニアを巡って世界に動きが出ている。
あの鼻に“ツンとくる臭い”のイメージが強いアンモニアが、なぜいま注目されているのか。
東北大学流体科学研究所でアンモニア燃焼の研究をしている小林秀昭教授にお話をうかがった。
人間の生活に欠かせないアンモニア
安宅:アンモニアというと、理科の実験で「手で仰いで嗅ぎましょう」という記憶しかないのですが、普段どういうところで使われている物質なのでしょうか?
小林秀昭教授:アンモニアは、20世紀初頭の人口爆発に伴う食料不足の懸念から、肥料およびその原料として大規模製造技術が開発されました。その後、繊維等の原料として利用されるようになった他、いまでは洗剤や毛染め、医薬品などさまざまな化学原料として使われていて、我々の生活にとって必須の物質と言えます。
安宅:そんな化学原料のアンモニアが、なぜいま次世代エネルギーとして期待されているのでしょうか?
小林秀昭教授:実はアンモニアは、1940年代にバスの燃料の一部に使われていたり、60年代にはガスタービン開発が行われロケットエンジンの燃料にも使われた歴史はあります。しかし石油の時代になり、あえてアンモニアを燃料として使うという流れは断ち切れてしまいました。そんな中、1997年に京都で開催された第3回気候変動枠組条約締約国会議(=COP3)以降、気候変動問題に対する意識が世界的に高まり、CO2を排出しない“水素”を燃料として使う議論が活発化し、その水素を貯蔵・輸送するための手段(=水素エネルギーキャリア)としてアンモニアが候補にあがりました。その後研究が進む中で、アンモニアはエネルギー密度にメリットもあり“水素を運ぶ手段だけではなく、直接燃やす燃料として使うことを再度考えよう”となり、いまの注目に至っています。
「CO2フリー」という最大のメリット
安宅:アンモニアを燃料として使うと、どんなメリットがあるのでしょうか?
小林秀昭教授:一つ目のメリットは「CO2フリー」であること。燃料として使う場合には、石炭などにアンモニアを混ぜて燃焼する“混焼”と、アンモニアのみを燃焼させる“専焼”があります。もちろんアンモニア製造時に生成されるCO2を回収するブルーアンモニアや、再生可能エネルギーを用いて製造するグリーンアンモニアが前提ですが、いずれの方法でも炭素を含まないアンモニア燃焼による発熱分はCO2を排出しません。つまり、地球温暖化を抑えることができます。もう一つの大きなメリットは、アンモニアは既に世界中で広く使われているため「輸送や貯蔵の方法が確立」していること。島国の日本はパイプラインで海外から輸送することは不可能で、海上輸送に頼らざるを得ません。水素は−253℃まで冷却しなければ液化しないのに対し、アンモニアは−33℃、あるいは約10気圧で液化し、これは現在広く使われているLPガスとほぼ同じで、LPG輸送タンカーと同等のタンカーさえあれば容易に輸送が可能です。このように既に輸送・貯蔵技術が確立していることは、コストの面でもとても有利なのです。
不可能を可能にするRich-Lean2段燃焼
安宅:アンモニアを燃料として利用する場合の課題と、研究開発の現状はいかがですか?
小林秀昭教授:一番の課題は、酸性雨などの原因となる「窒素酸化物(=NOx)排出」をどう抑えられるか。2014年からSIPエネルギーキャリアプロジェクトで燃料アンモニアの研究を始めた時も「アンモニアを燃やしたらNOxが出るだけじゃないか」との指摘を受けることもありました。しかし我々が開発した“Rich-Lean2段燃焼”という手法を用いることで、燃焼器から排出されるNOxを大幅に低減し,さらに最小限の脱硝装置を用いることで環境基準を十分に満たすレベルにまでNOxの排出を抑えられることが分かりました。燃料としてのアンモニアの利用は、アイデアレベルではなくすでに現実的な段階まで来ています。
2030年には今後の道筋が見えてくる
安宅:カーボンニュートラルを達成した2050年の日本国内でアンモニアはどのような役割を担っているのでしょうか?
小林秀昭教授:太陽光や風力といった再生可能エネルギーの変動を調整するために、有効かつCO2を排出しない脱炭素火力発電の役割が非常に大きいと思います。政府の新しいエネルギー基本計画では、総発電量のうち2030年に水素・アンモニア発電が1%と初めて明記されました。2050年には10%に達するという指摘もあり,もっとアンモニアの貢献が大きくなることも想定されます。そのためには、必要な量のブルーアンモニアまたはグリーンアンモニアを供給できるサプライチェーンが欠かせません。政府は2030年に年間300万トン、2050年に年間3000万トンのアンモニアの輸入を目指すとしていますが、日本でのアンモニアの年間消費量は約108万トン(2019年)しかなく、燃料アンモニアの製造と利用の更なる技術開発と並行して、コストに直結するサプライチェーン構築が急務と言えます。2050年に向けて今後どのくらい技術開発がなされ、燃料アンモニアのコスト削減が出来るかなど、2030年、ひょっとするともう少し早い段階である程度の見通しがついてくるかも知れません。そのくらいのスピード感で進めてほしいと考えています。
日本の将来を左右する研究開発、企業努力だけに委ねてはならない
安宅:アンモニア発電の将来が明るく感じてきましたが、研究開発に対する国の支援はいかがですか?
小林秀昭教授:2014年から内閣府主導のSIPエネルギーキャリアプロジェクトにより、小型ガスタービン発電ではアンモニアと灯油の混焼、次に天然ガスの主成分であるメタンとの混焼、そしてアンモニア100%での専焼など次々に成果を出すことが出来ました。さらに微粉炭とアンモニアとの混焼成功も大きな成果でした。しかし、実用化に向けた研究開発には膨大な費用がかかる。現在、JERAの碧南火力発電所で開始された試験も多額の費用がかかると聞いており、日本のCO2排出の40%を占める発電を脱炭素化していくためには、再生可能エネルギーの大規模導入費用を含め、これらの負担を全て企業努力に委ねるのは現実的ではありません。今後10年間でグリーンイノベーション基金が2兆円計上されることになったので、燃料アンモニアに関しても国の継続的支援を望みます。アンモニア発電のポテンシャルと、その技術開発がここまで進んでいることを知らなかった私にとって、小林教授のお話は驚きの連続だった。いまだ課題が多いとはいえ、国土が狭く資源の乏しい日本にとっては、一筋の希望の光と言えるのではないだろうか。今後の更なる研究開発に向けた国の支援と、アンモニア発電が実用化されるまでの我々一人一人の省エネ行動も欠かせないと痛感した。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 



2021/8-