日米首脳会談 

日米首脳会談

中国
台湾
各国の思惑

相変わらずの 日本メディア
表面 目にしたことを報道 お終い
米国のねらい 影響 リスク 畏れ多いか触れません
 


日米首脳共同声明・・・
報道 / 4/174/184/194/204/214/224/234/244/254/264/274/284/294/30・・・
中国台湾・・・
 
 
 

 

●日米首脳 共同声明 4/17 
日米首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」 4/16
ジョセフ・バイデン大統領は、同大統領の政権下で初めて米国を訪問する外国首脳となる菅義偉総理大臣を歓迎でき、光栄に思う。
今日、日本と米国は、インド太平洋地域、そして世界全体の平和と安全の礎となった日米同盟を新たにする。
海が日米両国を隔てているが、自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序を含む普遍的価値及び共通の原則に対するコミットメントが両国を結び付けている。
我々は共に、自由民主主義国家が協働すれば、自由で開かれたルールに基づく国際秩序への挑戦に対抗しつつ、新型コロナウイルス感染症及び気候変動によるグローバルな脅威に対処できることを証明することを誓う。
この日米両国の友情の新たな時代を通じて、両国の民主主義はそれぞれより強く成長するだろう。
日米両国の歴史的なパートナーシップは、両国の国民の安全と繁栄にとって不可欠である。
争いの後に結ばれた日米同盟は、日米両国にとっての基盤となった。
世界は幾度も変化したが、我々の絆はより固く結ばれた。
日米両国の民主主義は花開き、経済は繁栄し、そして両国はイノベーションを先導するようになった。
日米両国の文化的あるいは人的つながりはかつてなく深まり、多国間機関において、あるいは、グローバルな通商及び投資の拡大において、さらにはインド太平洋地域の平和、安全及び繁栄の推進において、両国は共に先頭に立ってきた。
日米両国の長年にわたる緊密な絆を祝福し、菅総理とバイデン大統領は、消え去ることのない日米同盟、普遍的価値及び共通の原則に基づく地域及びグローバルな秩序に対するルールに基づくアプローチ、さらには、これらの目標を共有する全ての人々との協力に改めてコミットする。
日米両国は、新たな時代のためのこれらのコミットメントを誓う。
自由で開かれたインド太平洋を形作る日米同盟
日米同盟は揺るぎないものであり、日米両国は、地域の課題に対処する備えがかつてなくできている。
日米同盟は、普遍的価値及び共通の原則に対するコミットメントに基づく自由で開かれたインド太平洋、そして包摂的な経済的繁栄の推進という共通のビジョンを推進する。
日米両国は、主権及び領土一体性を尊重するとともに、平和的な紛争解決及び威圧への反対にコミットしている。
日米両国は、国連海洋法条約に記されている航行及び上空飛行の自由を含む、海洋における共通の規範を推進する。
菅総理とバイデン大統領は、このビジョンを更に発展させるために日米同盟を一層強化することにコミットするとともに、2021年3月の日米安全保障協議委員会の共同発表を全面的に支持した。
日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した。
米国は、核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する揺るぎない支持を改めて表明した。
米国はまた、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認した。
日米両国は共に、尖閣諸島に対する日本の施政を損おうとするいかなる一方的な行動にも反対する。
日米両国は、困難を増す安全保障環境に即して、抑止力及び対処力を強化すること、サイバー及び宇宙を含む全ての領域を横断する防衛協力を深化させること、そして、拡大抑止を強化することにコミットした。
日米両国はまた、より緊密な防衛協力の基礎的な要素である、両国間のサイバーセキュリティ及び情報保全強化並びに両国の技術的優位を守ることの重要性を強調した。
日米両国は、普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策である、辺野古における普天間飛行場代替施設の建設、馬毛島における空母艦載機着陸訓練施設、米海兵隊部隊の沖縄からグアムへの移転を含む、在日米軍再編に関する現行の取決めを実施することに引き続きコミットしている。
日米両国は、在日米軍の安定的及び持続可能な駐留を確保するため、時宜を得た形で、在日米軍駐留経費負担に関する有意義な多年度の合意を妥結することを決意した。
菅総理とバイデン大統領は、インド太平洋地域及び世界の平和と繁栄に対する中国の行動の影響について意見交換するとともに、経済的なもの及び他の方法による威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有した。
日米両国は、普遍的価値及び共通の原則に基づき、引き続き連携していく。
日米両国はまた、地域の平和及び安定を維持するための抑止の重要性も認識する。
日米両国は、東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対する。
日米両国は、南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対を改めて表明するとともに、国際法により律せられ、国連海洋法条約に合致した形で航行及び上空飛行の自由が保証される、自由で開かれた南シナ海における強固な共通の利益を再確認した。
日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。
日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する。
日米両国は、中国との率直な対話の重要性を認識するとともに、直接懸念を伝達していく意図を改めて表明し、共通の利益を有する分野に関し、中国と協働する必要性を認識した。
日米両国は、北朝鮮に対し、国連安保理決議の下での義務に従うことを求めつつ、北朝鮮の完全な非核化へのコミットメントを再確認するとともに、国際社会による同決議の完全な履行を求めた。
日米両国は、地域の平和と安定を維持するために抑止を強化する意図を有し、拡散のリスクを含め、北朝鮮の核及びミサイル計画に関連する危険に対処するため、互いに、そして、他のパートナーとも協働する。
バイデン大統領は、拉致問題の即時解決への米国のコミットメントを再確認した。
日米両国は、皆が希求する、自由で、開かれ、アクセス可能で、多様で、繁栄するインド太平洋を構築するため、かつてなく強固な日米豪印(クアッド)を通じた豪州及びインドを含め、同盟国やパートナーと引き続き協働していく。
日米両国はインド太平洋におけるASEANの一体性及び中心性並びに「インド太平洋に関するASEANアウトルック」を支持する。
日米両国はまた、韓国との三か国協力が我々共通の安全及び繁栄にとり不可欠であることにつき一致した。
日米両国は、ミャンマー国軍及び警察による市民への暴力を断固として非難し、暴力の即時停止、被拘束者の解放及び民主主義への早期回復を強く求めるための行動を継続することにコミットする。
新たな時代における同盟
日米両国が共有する安全及び繁栄のためには21世紀に相応しい新たな形の協力が必要であることを認識し、菅総理とバイデン大統領は「日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ」を立ち上げた。
日米両国のパートナーシップは、持続可能な、包摂的で、健康で、グリーンな世界経済の復興を日米両国が主導していくことを確実にする。
それはまた、開かれた民主的な原則にのっとり、透明な貿易ルール及び規則並びに高い労働・環境基準によって支えられ、低炭素の未来と整合的な経済成長を生み出すだろう。
これらの目標を達成するため、このパートナーシップは、1競争力及びイノベーション、2新型コロナウイルス感染症対策、国際保健、健康安全保障(ヘルス・セキュリティ)、3気候変動、クリーンエネルギー、グリーン成長・復興に焦点を当てる。
日米両国は、デジタル経済及び新興技術が社会を変革し、とてつもない経済的機会をもたらす可能性を有していることを認識する。
日米両国は、生命科学及びバイオテクノロジー、人工知能(AI)、量子科学、民生宇宙分野の研究及び技術開発における協力を深化することによって、両国が個別に、あるいは共同で競争力を強化するため連携する。
菅総理とバイデン大統領は、第5世代無線ネットワーク(5G)の安全性及び開放性へのコミットメントを確認し、信頼に足る事業者に依拠することの重要性につき一致した。
日米両国は、活発なデジタル経済を促進するために、投資を促進し、訓練及び能力構築を行うため、両国の強化されたグローバル・デジタル連結性パートナーシップを通じて、他のパートナーとも連携する。
日米両国はまた、両国の安全及び繁栄に不可欠な重要技術を育成・保護しつつ、半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携する。
日米両国は、デジタル貿易協力、気候変動に関する目標に資する通商政策の策定、世界貿易機関(WTO)改革、インド太平洋における包摂的な成長の促進を含む、共通の利益を推進し、両国の強固な二国間通商関係を維持し、更に強化することにコミットしている。
日米両国は、二国間、あるいはG7やWTOにおいて、知的財産権の侵害、強制技術移転、過剰生産能力問題、貿易歪曲的な産業補助金の利用を含む、非市場的及びその他の不公正な貿易慣行に対処するため引き続き協力していく。
日米両国は志を同じくするパートナーと連携しつつ、インド太平洋地域における繁栄を達成し、経済秩序を維持することに対するコミットメントを再確認する。
気候危機は、世界にとって生存に関わる脅威であることを認識し、日米両国は、この危機と闘うための世界の取組を主導していく上で、両国が極めて重要な役割を果たさなければならないことを認識する。
日米両国は、双方が世界の気温上昇を摂氏1.5度までに制限する努力及び2050年温室効果ガス排出実質ゼロ目標と整合的な形で、2030年までに確固たる気候行動を取ることにコミットした。
この責任を認識し、菅総理とバイデン大統領は、「日米気候パートナーシップ」を立ち上げた。
このパートナーシップは、1パリ協定の実施と2030年目標/国が決定する貢献(NDC)の達成、2クリーンエネルギー技術の開発、普及及びイノベーション、3各国、特にインド太平洋におけるその他の国における脱炭素化を支援する取組、の三本柱からなる。
新型コロナウイルス感染症は、日米両国及び世界に対して、我々が生物学的な大惨事への備えができていないことを示した。
この目的のため、日米両国はまた、健康安全保障(ヘルスセキュリティ)の推進、将来の公衆衛生危機への対応及びグローバルヘルスの構築のための協力を強化する。
2021年3月12日の史上初の日米豪印(クアッド)首脳会議において、日米両国は、多国間の取組を補完するため、インド太平洋地域への安全で有効な新型コロナウイルス・ワクチンの製造、調達及び配送を拡大することを目的とした、日米豪印(クアッド)ワクチン専門家作業部会を立ち上げた。
新型コロナウイルス感染症に対処する中で、日米両国は、次のパンデミックに備え、グローバルな健康安全保障(ヘルスセキュリティ)やグローバルヘルスに関する二国間の官民協力も強化しなければならない。
日米両国は、潜在的な衛生上の緊急事態の早期かつ効果的な予防、探知及び対処を通じてパンデミックを防ぐ能力を強化するとともに、透明性を高め、不当な影響を受けないことを確保することによって世界保健機関(WHO)を改革するために協働する。
日米両国はまた、新型コロナウイルスの起源、あるいは将来の起源不明の感染症の検証に関する、干渉や不当な影響を受けない、透明で独立した評価及び分析を支持する。
日米両国は、インド太平洋がより良い地域的なパンデミックへの備えを構築することを支援するために決定的な行動を取ることを決意するとともに、世界健康安全保障アジェンダといった既存のイニシアティブを通じたものや健康安全保障のためのファイナンシングのメカニズム、地域的なサージ・キャパシティ及び迅速な対応のためのトリガーについて連携する新たなパートナーシップを通じたものを含め、感染症の発生を予防・探知・対処するための全ての国の能力を構築するために両国及び多国間で協働する。
さらに、より健康でより強靱な未来を見据え、日米両国はCOVAXへの支援を強化する。
日米両国はまた、パンデミックを終わらせるため、グローバルな新型コロナウイルス・ワクチンの供給及び製造のニーズに関して協力する。
これらの新たなパートナーシップは、驚くべき地政学的変化の時代において、科学、イノベーション、技術及び保健に関する日米両国のリーダーシップを活用する。
これらのパートナーシップにより、インド太平洋地域をより強靱で活気に満ちた未来に導くべく、この地域のより良い回復が可能となるだろう。
今後に向けて
今日、日米両国が担う責任は重大なものだが、両国は決意と結束をもってそれらに向き合う。
日米両国は、両国が有する地域のビジョンに対する挑戦にもかかわらず、両国の安全保障関係が確固たるものであること、世界的な悲しみと困難の1年を経て、両国のパートナーシップが持続可能なグローバル経済の回復を支えるものであること、そして、ルールに基づく国際秩序の自由及び開放性に対する挑戦にもかかわらず、そのような国際秩序を主導するため、日米両国が世界中の志を同じくするパートナーと協力することを確実にする。
人的つながりが日米両国の友情の基盤となっており、マンスフィールド研修計画といったイニシアティブを通じ、日米両国は、将来にわたって日米同盟を支える二つの社会の間の架け橋を築き続ける。
バイデン大統領は、今夏、安全・安心なオリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅総理の努力を支持する。
両首脳は、東京大会に向けて練習に励み、オリンピック精神を最も良く受け継ぐ形で競技に参加する日米両国の選手達を誇りに思う旨表明した。
日米両政府は、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた我々の政策を調整・実施するためのものを含め、あらゆるレベルで意思疎通することを継続する。
何よりも、日米両国は、両国のパートナーシップが今後何十年にもわたり、両国の国民の安全と繁栄を可能にすることを認識し、確固たる同盟という考え方そのものへの投資を新たにする。 
●日米首脳会談 外務省 4/16 
現地時間16日午後13時40分(日本時間午前2時40分)から、ワシントンDC訪問中の菅義偉内閣総理大臣は、ジョセフ・バイデン米国大統領(The Honorable Joseph R. Biden, Jr. President of the United States of America)と日米首脳会談を行ったところ、概要以下のとおりです(計150分間(テタテ(1対1)会合を約20分間、少人数会合を約55分間、拡大会合を65分間)実施。)。また、両首脳は共同声明を発出しました。
1 冒頭、バイデン大統領から、バイデン政権発足後初めて訪米する外国首脳として菅総理を心から歓迎する旨述べました。これに対して、菅総理から、バイデン大統領の友情とおもてなしに対する深い謝意を述べました。
2 両首脳は、自由、民主主義、人権、法の支配等の普遍的価値を共有し、インド太平洋地域の平和と繁栄の礎である日米同盟をより一層強化していくことで一致しました。また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、日米両国が、豪州やインド、ASEANといった同志国等と連携しつつ、結束を固め、協力を強化していくことを確認しました。
3 また、両首脳は、中国、北朝鮮、韓国、ミャンマー等の地域情勢について意見交換を行いました。
(1)両首脳は、インド太平洋地域と世界全体の平和と繁栄に対して中国が及ぼす影響について意見交換を行いました。東シナ海や南シナ海における一方的な現状変更の試みや、威圧に反対することで一致しました。その上で、こうした問題に対処する観点から、中国との率直な対話の必要性が指摘されるとともに、普遍的価値を擁護しつつ、国際関係における安定を追求していくことで一致しました。
(2)北朝鮮については、両首脳は、北朝鮮の完全な非核化へのコミットメントを再確認し、北朝鮮に対して国連安保理決議の下での義務に従うことを求めることで一致しました。また、菅総理から、拉致問題の即時の解決に向けて引き続きの理解と協力を求め、バイデン大統領から、拉致問題の即時解決を求める米国のコミットメントが改めて示されました。さらに、両首脳は、日米韓の三か国協力が安全保障と繁栄に不可欠であるとの認識で一致しました。
(3)ミャンマーについては、ミャンマー国軍・警察の実力行使により多数の民間人が死傷している状況を強く非難し、民間人に対する暴力の即時停止、被拘束者の解放、民主的な政治体制の早期回復をミャンマー国軍に対し日米で連携しながら強く求めていく方針を改めて確認しました。
4 こうした一層深刻化する地域の安全保障環境を踏まえ、両首脳は、日米同盟の抑止力・対処力を強化していくことで一致しました。両首脳は、同盟強化の具体的方途につき、検討を加速することで一致しました。菅総理から、日本の防衛力強化への決意を述べ、バイデン大統領からは、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用を含む、米国による日本の防衛へのコミットメントが確認されました。同時に、両首脳は、沖縄を始めとする地元の負担軽減を図る観点から、普天間飛行場の固定化を避けるための唯一の解決策である辺野古への移設を含め、在日米軍再編を着実に推進することで一致しました。
5 両首脳は、日米間の緊密な経済関係を更に発展させていくことで一致するとともに,インド太平洋地域やグローバルな経済における日米協力の重要性を確認しました。
6 両首脳は、こうした議論を踏まえて、日米首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」を発出することで一致しました。この声明は、今後の日米同盟の「羅針盤」となるものです。
7 また、両首脳は、両国が世界の「より良い回復」をリードしていく観点から、「日米コア(CoRe)・パートナーシップ」に合意し、日米共通の優先分野であるデジタルや科学技術の分野における競争力とイノベーションの推進、コロナ対策、グリーン成長・気候変動などの分野での協力を推進していくことでも一致しました。
8 気候変動については、米国主催の気候サミットを始め、COP26及びその先に向け、日米で世界の脱炭素化をリードしていくことを確認しました。また、パリ協定の実施、クリーンエネルギー技術、途上国の脱炭素移行の各分野での協力を一層強化していくために、「野心、脱炭素化及びクリーンエネルギーに関する日米気候パートナーシップ」を立ち上げることで一致しました。
9 また、菅総理から、本年夏、世界の団結の象徴として、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を実現する決意を述べたのに対して、バイデン大統領から改めて支持が表明されました。菅総理から、東日本大震災後にとられた福島県産のコメを含む日本産食品の米国の輸入停止措置について、撤廃を要請しました。
10 両首脳は、初の対面での会談を通じて日米同盟の結束を再確認し、菅総理から、バイデン大統領の早期訪日を招請しました。両首脳は、引き続き、新型コロナ感染症の状況を見極めつつ、ハイレベルでの要人往来を通じ、二国間関係を強化していくことで一致しました。 
●バイデンの対中国戦略と日米首脳会談 4/10 
テーマは、「バイデンの対中国戦略と日米首脳会談」です。4月16日に首都ワシントンでジョー・バイデン大統領と菅義偉総理による日米首脳会談が対面形式で開催されます。言うまでもなく、首脳会談は対中競争をかなり意識した会談になることは明らかです。バイデン大統領はこの会談で菅総理に一体何を確認して求めてくるのでしょうか。今後、日米関係に溝が生じるとすれば、何が主たる要因になるのでしょうか。本稿ではバイデン氏の思考様式及び信念に基づいて、首脳会談と日米関係の行方を考察します。
北京五輪とジョージア州「投票抑制法」の関係
米国務省のネッド・プライス報道官は4月6日、ある担当記者からの北京冬季五輪参加に関する質問に対して、「米国と同盟国・友好国との間で協議が進行中である」と回答しました。北京冬季五輪の共同ボイコットについて示唆したのです。
ところが、他の記者が「共同ボイコットを考えているのか、それとも計画しているのか」と問いただすと、プライス報道官は「同盟国・パートナーと対応を議論する分野である」と述べ、前の発言の軌道修正を行いました。バイデン政権は、北京冬季五輪を中国に対する「交渉カード」としてみていることは確かです。
では、バイデン大統領は北京冬季五輪に関してどのようなアプローチをとるのでしょうか。そのバロメーターになるのが、3月25日に成立した南部ジョージア州のいわゆる「投票抑制法」に対する同大統領の発言です。
この法案には、投函するためにコミュニティに設置する郵便投票回収箱(ドロップボックス)の削減や、身元確認の厳格化などが含まれており、ジョージア州の民主党支持者、中でも黒人を標的にしたものであると指摘されています。
民主党支持者は投票日当日、投票所に出向くよりも郵便投票を利用する傾向があるからです。黒人居住区のドロップボックスを削減すれば、民主党支持票を減らすことができます。運転免許証を保持していない黒人がいるので、共和党は投票の際の身元確認を厳しくして、投票率を下げる戦略に出ました。
さらにジョージア州での選挙法改正では、投票をするために列に並んでいる有権者に対する飲食物の提供を禁止しました。ある共和党議員は米メディアからその理由について質問を受けると、「飲食物を配布して票を買収する可能性があるからだ」と回答しました。しかし、こちらも都市部で投票のために長時間並んでいる黒人を標的にして、民主党支持票を減らすという同党の意図が透けて見えます。
それではなぜジョージア州の上下両院で多数派を占める共和党は、このような強硬策に打って出たのでしょうか。20年米大統領選挙でバイデン氏は同州において、ドナルド・トランプ前大統領にわずか0.23ポイント差で勝利を収めました。しかも、今年1月5日に行われた同州における連邦上院選の決戦投票では、民主党が2議席を獲得したからです。
前シカゴ市長でオバマ元政権の大統領首席補佐官を務めたラーム・エマニュエル氏は、「ジョージア州でトランプが勝っていたら、選挙法の改正はなかったはずだ。バイデンが勝利をしたので共和党は改正を行った」と主張しました。同州にけるバイデン氏の勝利が動機づけになり、共和党がバイデン氏を支持する黒人を狙い撃ちにして対策を講じたという認識を示しました。
米大リーグ機構(MLB)とバイデン発言
ジョージア州でビジネスを展開するデルタ航空、コカ・コーラ、ホーム・デポなど約200社が「投票抑制法」を、「非民主主義でアメリカらしくない」として批判しました。これらの大企業は、消費者から人種差別や人権侵害を支持している企業としてレッテルを張られたくないことは確かです。利益、株価及び採用にマイナスの影響を受けるからです。そこで、人権の土台の上に企業活動があるという人権尊重の経営姿勢を示した訳です。
加えて、米大リーグ機構は7月にジョージア州アトランタで開催予定であったオールスターゲームをコロラド州デンバーに移動すると発表しました。その理由として、「投票への公平なアクセスの必要性」を挙げました。同機構は人権の上にスポーツ活動が存在するというメッセージを発信して、運動競技と人権尊重を結びつけました。
米大リーグ機構が発表する前に、バイデン大統領はスポーツ専門チャネルESPNとのインタビューの中で、ジョージア州でのオールスターゲームボイコットを支持しました。その上で、同州と他の40州の法案を「人種差別的な法案」と呼んで激しく非難しました。オールスターゲームが同州にもたらす1億ドル(約110億円)の経済効果よりも人権を重視したのです。
また、バイデン氏は「投票所が午後5時に閉まってしまえば、労働者が投票できない」とも指摘しました。もちろん労働者は同氏の支持基盤です。
バイデン大統領はジョージア州の選挙法改正は、黒人の投票権を弱めるものとみており、スポーツと人種差別及び人権問題をリンクさせて考えています。「スポーツと政治」あるいはトランプ氏のように「スポーツとビジネス」というものの見方ではなく、「スポーツと人権」というレンズを通じて捉えています。バイデン氏は「人権があってこそ運動競技が成立する」という信念に基づいて発言しているフシがあります。
ということは、新疆ウイルグ自治区のイスラム教徒の少数派に対して、民族浄化を狙って意図的に危害を加える行為「ジェノサイド」及び、香港での民主主義抑圧が露骨に行われている中国での五輪開催に、バイデン氏が全面的に賛同しているとは到底思えません。
ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は4月7日記者団に対して、北京冬季五輪共同ボイコットに関して同盟国・友好国と議論していないと語りました。今月16日の日米首脳会談で、バイデン氏は米国が北京冬季五輪をボイコットした場合、日本も同じ行動をとるのか、菅総理に確認する可能性は否定できません。
クアッドとワクチン生産拠点
日米豪印の国際連携の枠組みであるクアッドは、非公式なものであり軍事同盟ではありません。アントニー・ブリンケン米国務長官は4月5日、世界における新型コロナ感染を収束させるために、米国がリーダーシップをとると宣言しました。その背景には米国におけるワクチン接種のめどが立ったこと、中国のワクチン外交に対する焦りがあること及び、巻き返しを図ることがあります。
さらにブリンケン氏は演説の中で、クアッドを利用してインドでワクチンの生産量を高めると強調しました。ただし、中国に対抗してインド・太平洋地域にワクチンを分配するには、生産拠点がインド1国のみでは不十分でしょう。もう1つの生産拠点として韓国をクアッドに巻き込み、同国でワクチンの増産をしたいというのが米国の本音です。
ただ、中国との経済関係を重視している韓国は、クアッドに参加して、自国が中国製ワクチンに対抗するための生産拠点になることに対して消極的です。そこで、米国は韓国以外にもインド・太平洋地域でワクチンを製造できる拠点を探すでしょう。バイデン氏は日米首脳会談で、韓国や他国でワクチン増産を行うために、工場の設備などで日本に融資を求めてくる公算が高いです。
バイデンは独裁主義をどうみているのか?
バイデン大統領は3月31日東部ペンシルべニア州ピッツバーグで、「民主主義においてコンセンサスを得るのは困難だが、独裁主義では意見の一致を見ることができるので、(独裁主義が)民主主義に勝てるとみている独裁者が世界には多くいる」と述べました。
バイデン氏は独裁主義から民主主義と人権を守り抜くという強い信念を持って中国と対峙しています。一方日本の政治指導者は、海洋進出は米国、経済は中国に依存して「バランス外」ないし「二股外交」を展開してます。そして、バイデン政権が最も重視している人権問題では中国を刺激しないように制裁を課さずに、「強い懸念」という表現を用いて米国と足並みを揃えています。
率直に言ってしまえば、人権問題に関して中国に「配慮」して、米国に「追従」する必要はありません。言葉ではなく、日本には「能動的な行動」が求められています。人権は普遍的価値であり、人権侵害をしている国に対して阻止する義務と責任があるからです。
仮に他国が日本の民主主義を抑圧し、人権侵害をした場合、どの国が本気で手を差し伸べてくれるのでしょうか。バイデン政権の発足をきっかけに、日本は人権尊重の外交と企業経営に本格的に取り組む時期に直面しているといえます。
次の日米首脳会談で、菅総理は人権侵害に対する制裁と、人権尊重の企業経営について語れば、バイデン氏から共感を得ることは間違いありません。仮にそれができないと、人権問題が主因となって、日米の溝はバイデン政権の下で今後広がっていくことになるでしょう。 
 
 

 

●日米首脳会談 菅首相「日米同盟の強固な絆 改めて確認したい」 4/17
菅総理大臣とアメリカのバイデン大統領による初めての日米首脳会談が行われ、菅総理大臣は「日米同盟の強固な絆を改めて確認したい」と述べた上で、自由で開かれたインド太平洋の実現に加え、新型コロナウイルス対策や気候変動などの国際社会共通の課題について連携を強化したいという意向を伝えました。
アメリカの首都ワシントンを訪れている菅総理大臣は、日本時間のきょう未明、ホワイトハウスで、アメリカのバイデン大統領との初めてとなる日米首脳会談を行いました。
会談は、日本時間の午前2時半すぎから最初におよそ20分間、通訳を同席させて2人だけで行ったあと、出席者の人数を絞った会合が1時間近く、そして拡大会合が1時間あまりと全体でおよそ2時間半行われました。
会談で、バイデン大統領は「アメリカと日本の前には大きな課題が待ち受けている。われわれは太平洋地域の2つの重要な民主主義国だ」と述べました。
これに対し、菅総理大臣は、「自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値で結ばれた日米同盟は、インド太平洋および世界の平和、安定と繁栄の礎だ。その重要性はかつてないほど高まっている。今回の会談を通じて日米同盟の強固な絆を改めて確認したい」と述べました。
そのうえで「『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けた日米の協力や、地域におけるさまざまな課題、新型コロナ、気候変動などの国際社会共通の課題に対応すべく、じっくり議論を行い、日米の連携を改めて確認したい」と述べました。
会談で、両首脳は、台頭する中国への対応をめぐり、東シナ海・南シナ海への海洋進出や、新疆ウイグル自治区などの人権問題で深刻な懸念を共有し、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた連携を確認したものとみられます。
また、台湾周辺で、中国が軍の活動を活発化させていることにアメリカが強い警戒感を示す中、台湾について会談でどのように言及されたかが焦点の1つです。
さらに、重要課題と位置づける気候変動問題については、両国の協力を強化するなどとした「日米気候パートナーシップ」を立ち上げることで合意し、両首脳は来週、オンラインで予定されている気候変動問題サミットまでに、2030年までの温室効果ガスの削減目標に関するコミットメントを表明することなどを確認したものとみられます。
このあと菅総理大臣とバイデン大統領はそろって記者会見を行い、成果を盛り込んだ共同声明を発表することにしています。
冒頭発言 菅首相 「日米同盟の重要性は高まっている」
菅総理大臣は、バイデン大統領との日米首脳会談の拡大会合で、アメリカ中西部インディアナ州の物流会社の施設で、男が銃を乱射して8人が死亡した事件について「犠牲になられた方々にご冥福とご家族の方々にお見舞いを申し上げる。市民に対するいかなる形の暴力も許されない」と述べました。
また、「初めての外国首脳による訪米として、私を受け入れてくれたことを心から感謝申し上げる」と述べました。
そして、「自由、民主主義、人権、法の支配という普遍的価値で結ばれた日米同盟は、インド太平洋および世界の平和、安定と繁栄の礎だ。その重要性はかつてないほど高まっている。今回、バイデン大統領との会談を通じて日米同盟の強固な絆を改めて確認したい。『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けた日米の協力や、地域におけるさまざまな課題、新型コロナ、気候変動などの国際社会共通の課題に対応すべく、じっくり議論を行い、日米の連携を改めて確認したい」と述べました。
冒頭発言 バイデン大統領 「日米の前には大きな課題」
バイデン大統領は16日、ホワイトハウスで菅総理大臣と会談し、この中で「菅総理大臣を迎えることができて光栄だ。ヨシと私はプライベートな時間をともにし一緒に昼食をとった」と述べました。
その上で「私が大統領に就任して初めての外国首脳による訪問だ。緊密な同盟国であるよいパートナーを迎えられてとてもうれしい。アメリカと日本の前には大きな課題が待ち受けている。われわれはインド太平洋地域の2つの重要な民主主義国家だ」と述べました。
さらに「両国が直面している課題に向き合い、地域の未来を、自由で開かれ、繁栄したものにし続けるために 2国間の協力は極めて重要だ」と述べ、地域の安定のために日本とアメリカが協力していくことが重要だと指摘しました。
総理大臣官邸 ツイッターで会談の動画を投稿
政府は、総理大臣官邸のツイッターなどに、菅総理大臣とアメリカのバイデン大統領による初めての日米首脳会談の動画を投稿しました。
動画では、菅総理大臣がバイデン大統領に歩み寄ったあと、両首脳がお互いにこぶしを胸のあたりに掲げ、バイデン大統領が「私が迎える最初の外国首脳だ」と述べています。
そして、日米両国の国旗とともに「ホワイトハウスにてバイデン大統領と初対面しました。日米首脳会談に臨みます」というコメントが記載されています。 

 

●日米首脳会談共同会見 菅首相発言 4/17
菅総理大臣は、バイデン大統領との日米首脳会談のあと、そろって記者会見しました。
「アメリカは日本の最良の友人であり、日米は、自由、民主主義、人権などの普遍的価値を共有する同盟国だ。日米同盟はインド太平洋地域、そして世界の平和、安定と繁栄の礎としてその役割を果たしてきたが、今日の地域情勢や厳しい安全保障環境を背景に、同盟の重要性はかつてなく高まっている」
「きょうの首脳会談では、お互いの政治信条、それぞれが国内で抱える課題、そして日米が共有するビジョンなどについて、幅広く、率直な意見交換を行うことができた」
「バイデン大統領とは、先月の日米2プラス2で一致した認識を改めて確認し、その上に立って、さらに地域のために取り組むことで一致した。自由で開かれたインド太平洋についても話し合いをした。この地域の平和と繁栄を確保していくために、日米がこのビジョンの具体化を主導し、ASEAN、豪州、インドをはじめとするほかの国々・地域とも、協力を進めていくことで一致した」
「インド太平洋地域と世界全体の平和と繁栄に対して中国が及ぼす影響について真剣に議論を行った。東シナ海や南シナ海における力による現状変更の試みと、地域の他者に対する威圧に、反対することでも一致した。そのうえで、それぞれが中国と率直な対話を行う必要があること、そして、その際には、普遍的な価値を擁護しつつ、国際関係における安定を追求すべきだということでも一致した」
「北朝鮮については、すべての大量破壊兵器、およびあらゆる射程の弾道ミサイルのCVID=完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄へのコミットメント、そして、国連安保理決議のもとでの義務に従うことを強く求めることで一致した。拉致問題については、重大な人権問題であり、日米が連携して、北朝鮮に対し、即時解決を求めていくことを再確認した」
「コロナ対策については、短期的対応から、将来の同様の事態に備える長期的な取り組みに至る、重層的な協力の推進に取り組んでいく。ワクチン供給全体や国際保健分野における日米間の官民協力の強化についても、両政府間で、引き続き協力していくことを確認した。特に途上国を含めた、ワクチンの公平なアクセスの観点から、多国間や地域の協力を推進していく」
「北朝鮮への対応や、インド太平洋地域の平和と繁栄にとって、日米韓の3か国の協力が、かつてなく重要になっているという認識で一致し、協力を推進していくことを確認した」「厳しさを増す地域の安全保障環境を踏まえ、日米同盟の抑止力、対処力を強化していく必要がある。私から、日本の防衛力強化への決意を述べ、バイデン大統領からは、日米安全保障条約第5条の尖閣諸島への適用を含む、アメリカによる日本の防衛へのコミットメントを改めて示していただいた」
「私から、ことしの夏、世界の団結の象徴として、東京オリンピック・パラリンピックの開催を実現する決意であることを伝えた。バイデン大統領からは、この決意に対する支持を改めて表明していただいた。わが国としては、WHO=世界保健機関や、専門家の意見を取り入れ、感染対策を万全にし、科学的、客観的な観点から、安全、安心な大会を実現すべく、しっかりと準備を進めていく」
「国際社会が直面する、新型コロナウイルス、気候変動といった過去に例のない危機に対処していく上でも、日米両国は、互いに欠かすことができないパートナーだ。バイデン大統領とは、両国が、これらの課題の解決に向けた多国間の取り組みを主導していく大きな責任を持っていることを確認した」「多国間主義と法の支配に基づく国際秩序を尊重しつつ、国際社会のよりよい回復に向けて共同のリーダーシップを発揮することで一致した。これらの会談結果を踏まえ、本日、日米首脳共同声明、『新たな時代における日米グローバルパートナーシップ』に一致した」
「気候変動については、来週予定されているアメリカ主催のサミットをはじめ、COP26およびその先に向けて、日米で世界の脱炭素をリードしていくことを確認した。また、パリ協定の実施、クリーンエネルギー技術、途上国の脱炭素移行の各分野での協力を一層強化していくために、バイデン大統領と、脱炭素化やクリーンエネルギーに関する『日米気候パートナーシップ』を立ち上げることでも一致した。これらのイニシアチブのもとに具体的で包括的な日米協力に弾みをつけていきたい」
「地域情勢について意見交換する中で、台湾や新疆ウイグル自治区をめぐる状況について議論した。詳細は、外交上のやり取りのため差し控えるが、台湾海峡の平和と安定の重要性については、日米間で一致しており、今回改めて、このことを確認した。また、新疆ウイグル自治区の状況についても、わが国の立場や取り組みについて、バイデン大統領に説明し、理解を得られたと考えている」
「バイデン大統領とは、全米各地で、アジア系住民に対する差別や、暴力事件が増加していることについても議論し、人種などによって差別を行うことは、いかなる社会にも許容されないということでも一致した。バイデン大統領の、『差別や暴力を許容せず、断固として反対する』との発言を大変心強く感じ、アメリカの民主主義への信頼を新たにした」
「共同声明は、日米同盟の羅針盤となるもので、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた、日米両国の結束を力強く示すものだ」「バイデン大統領とは、両国が世界のよりよい回復をリードしていく観点から『日米コアパートナーシップ』に合意し、日米共通の優先分野でもある、デジタルや科学技術分野における競争力、イノベーションの推進などの分野の協力を推進することでも一致した」「競争力とイノベーションについては、特にデジタル経済や新しい技術が社会の変革と大きな経済機会をもたらすという認識のもとで、デジタル分野をはじめ、さまざまな分野の研究開発の推進に日米が協力して取り組むことで一致した」
「沖縄をはじめ、地元の負担軽減を進める観点から、普天間飛行場の固定化を避けるための唯一の解決策である、名護市辺野古への移設を含め、在日アメリカ軍の再編を着実に推進することで一致した」 

 

●バイデン氏「日米協力は重要」、首相「強固な絆を確認」 4/17
訪米中の菅義偉首相は16日午後(日本時間17日未明)、ホワイトハウスでバイデン米大統領と初めて会談した。バイデン氏は「私たちはインド太平洋地域で重要な2つの民主主義国家で、日米協力は重要だ」と語った。首相は「会談を通じて日米の強固な絆を確認したい」と呼びかけた。
バイデン氏が就任後に対面式で外国首脳と会うのは首相が初めて。首相は会談で「初の外国首脳の訪問として受け入れてくれて心から感謝したい」と伝えた。「同盟の重要性はかつてなく高まっている」としたうえで「自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた協力、地域の様々な課題、新型コロナウイルス、気候変動など国際社会に共通する課題に対応するため、じっくり議論したい」と語った。
首相は中西部インディアナ州で15日におきた銃乱射事件の死者に哀悼の意を伝えた。
会談はまず通訳だけを交えて約20分話し合い、少人数会合、拡大会合に移った。拡大会合にはそれぞれ7人ずつが出席した。米国からブリンケン国務長官、オースティン国防長官、イエレン財務長官ら、日本側は坂井学官房副長官、阿達雅志首相補佐官、北村滋国家安全保障局長らが同席している。
日米首脳会談に先立ち、菅首相はハリス副大統領と会談した。
「台湾の安定重視」共同声明に明記へ 日米首脳会談
菅義偉首相は16日午後(日本時間17日未明)、ホワイトハウスでバイデン米大統領との初の首脳会談に臨む。中国の覇権主義的な動きに対抗し、「台湾海峡」の安定を重視する方針を共同声明に記す。気候変動を巡り2030年の温暖化ガス削減目標を協議する。
「台湾海峡」を日米首脳会談の文書で明示するのは1972年の日中国交正常化以降、初めてになる。外務省によると戦後は69年に佐藤栄作首相とニクソン大統領が共同声明で指摘した1回のみ。台湾地域の平和と安全の維持が日本の安全に重要だと言及した。
今回の首脳会談は複数の両政府高官を含む拡大会合に加え、通訳のみを入れた1対1の形式も想定する。初の対面会談で両首脳の信頼関係の構築をめざす。会談後に共同記者会見を開き、声明を公表する。
16日判明した共同声明案は「新たな時代のための同盟」と題した。最大のテーマが中国への対処になる。中国は台湾周辺の海域で軍事的な圧力を強めており、緊張が高まる。台湾への認識を首脳間で擦り合わせ有事の懸念に備える。
米政府高官は15日、共同声明で台湾海峡に言及すると明かした。「台湾海峡の平和と安定や現状維持に関し、公式な文書や協議で目にすることになる」と語った。
中国が海警局を準軍事組織に位置づけ、外国船舶に武器使用を認める「海警法」に深刻な懸念を表明する。沖縄県尖閣諸島への日米安全保障条約5条の適用も声明に明記する。
尖閣の接続水域に中国海警局の船が航行し、領海への侵入を繰り返す。自由で開かれたインド太平洋地域の協力を確認し、対中抑止力を高める。
米が問題視する中国の新疆ウイグル自治区の人権状況を巡り両首脳は懸念を共有する見通しだ。
共同声明と別に経済や気候変動に関する文書もまとめる。中国を念頭に特定国にサプライチェーン(供給網)を依存しないよう分散を進める。インド太平洋地域のインフラ投資や新型コロナウイルスでも協力する。
バイデン氏が重要政策に掲げる気候変動でパートナーシップを結ぶ。日米は既に 50年に温暖化ガスを実質排出ゼロにする目標を掲げる。
首相は30年の削減割合について22日に米が主催する「気候変動サミット」までに新目標を公表する方向で検討する。
水素の活用や二酸化炭素(CO2)を回収して地中に埋めたり再利用したりする技術(CCUS)で協力する。途上国支援に共同で取り組む。 

 

●日米首脳会談、共同記者会見の要旨 4/17
菅義偉首相とバイデン米大統領の会談と共同記者会見要旨は次の通り。
【日米同盟】
首相 日米同盟の強固な絆を改めて確認したい。共同声明は今後の日米同盟の羅針盤となり、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた日米両国の結束を力強く示すものだ。
【中国・台湾】
首相 東シナ海や南シナ海における力による現状変更の試み、他者に対する威圧に反対することで一致した。台湾海峡の平和と安定の重要性について確認した。米国による防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条を沖縄県・尖閣諸島に適用することを示していただいた。(台湾や尖閣は)厳しい状況が続いているのは事実だ。平和裏に解決することを最優先にすると合意した。
大統領 両国は重要な民主主義国だ。日米同盟は揺るぎない。中国がもたらす課題に連携して取り組む。
【北朝鮮】
首相 日本、米国、韓国の協力がかつてなく重要だ。日本人拉致問題は重大な人権問題であり、日米が連携して北朝鮮に対して即時解決を求めていくことを再確認した。
【インド太平洋】
首相 地域の平和と繁栄を確保していくため、東南アジア諸国連合(ASEAN)、オーストラリア、インドをはじめとする国や地域と協力を進めることで一致した。
大統領 両国はインド太平洋地域の強力な民主主義国家だ。人権や法の支配を含む共有の価値を守り抜く。両国の協力が不可欠だ。
【気候変動問題】
両首脳 脱炭素化とクリーンエネルギーに関する日米気候パートナーシップの立ち上げで合意した。
【新型コロナウイルス】
首相 ワクチンの公平なアクセスの観点から多国間や地域の協力を推進する。
大統領 新型コロナに加え「次の感染症」も視野に日米で連携して備えを進める。
【東京五輪・パラリンピック】
首相 世界の団結の象徴として、東京オリンピック・パラリンピックを実現する決意を伝えた。大統領から、この決意に対する支持を表明していただいた。
【サプライチェーン】
大統領 安全な第5世代(5G)移動通信システムの普及や、半導体を含む機微なサプライチェーン(部品の調達・供給網)構築でも連携する。
【沖縄米軍基地】
首相 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設に関し、沖縄をはじめ、地元の負担軽減を進める観点から、米軍再編の着実な推進で一致した。
【人種差別】
両首脳 全米各地で増加するアジア系住民への差別や暴力事件を踏まえ、人種による差別はいかなる社会でも許容されないとの認識を共有した。 

 

●日米共同声明に台湾、香港、ウイグルを明記 4/17
菅義偉首相が16日午後(日本時間17日午前)、米ワシントンでバイデン大統領との首脳会談に臨みました。外国首脳として初めてとなるバイデン氏との対面での会談は、広く国内外の注目を集めています。
菅首相「ウイグル問題、理解得られた」
菅義偉首相は共同記者会見の冒頭発言後、日米の記者からの質問に答えた。日本メディアが対中政策について「会談で台湾にどう言及したのか。台湾有事の場合、日本ができることについて総理からどういう説明をしたのか」と質問。さらに新疆ウイグル自治区をめぐる人権問題で、日本が対中制裁に加わっていないことに理解を得られたかどうかも尋ねた。菅首相は「地域情勢につて意見…
菅首相が五輪の質問をスルー、「コロナに打ち勝った証し」使わず
共同記者会見では、米メディアが菅義偉首相に東京五輪開催について、新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいないことを念頭に「公衆衛生の観点から日本は五輪の準備ができていない段階で進めるのは無責任ではないか」と質問した。だが、菅首相はこれには直接は答えず、日本メディアに次の質問を促した。首相から指名された日本メディアは、東京五輪・パラリンピックをめぐる具体的なやりとりのほか、新型コロナのワクチンや2030年の温室効果ガスの削減目標についての具体的なやりとりを尋ねた。首相は「(会談では)私から今年の夏、世界の団結の象徴として東京五輪・パラリンピック大会開催を実現する決意を述べ、バイデン氏からは改めてご支持をいただいた」と強調。そのうえで「東京大会を実現すべくしっかり準備を進めていく」と改めて述べた。首相はこれまで、五輪開催を「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」と繰り返してきたが、今回の共同会見ではこの表現は使わなかった。
気候変動分野、日米で連携強化
菅義偉首相は共同記者会見で、気候変動問題について「私とバイデン大統領との両方が重視する課題だ」とし、今回の首脳会談で「日米で気候変動分野の協力・連携を強化していくことを確認し、日米気候パートナーシップを立ち上げることで一致できたことは、きわめて有意義なことであると考えている」と述べた。この後、バイデン氏があいさつし、首相はバイデン氏とそろって会見場を後にした。
共同会見が終了
菅首相とバイデン大統領の共同会見は、16日午後5時半(日本時間17日午前6時半)ごろに終了した。質疑応答の時間も設けられ、日米の記者がそれぞれ2問ずつ質問。米国では銃撃事件が相次いでおり、米国の報道陣から出た最初の質問は銃規制の強化についてだった。米記者からの2問目は、イランが濃縮度60%のウランを製造すると表明したことへの見解を問うもの。質問したロイター通信の記者は、菅氏に対し、公衆衛生の専門家が警鐘を鳴らす中で東京五輪を開催することの是非も尋ねた。だが、菅氏はこの記者の質問には直接答えず、日本の記者に質問を振った。
菅首相がオンライン講演会で演説
菅義偉首相は16日午後(日本時間17日午前)、米戦略国際問題研究所(CSIS)主催のオンライン講演会で演説した。この日の日米首脳会談で最大の焦点だった中国について「東シナ海、南シナ海などで一方的な現状変更の試みを継続している」と指摘。その上で「主権に関する事項、民主主義、法の支配などの普遍的価値について、譲歩する考えはない」と強調した。北朝鮮問題では「日米、日米韓の3カ国で緊密に連携し、安保理決議の完全な履行を求め、北朝鮮の非核化を目指す」と述べた。一方、人権問題では歯切れが悪かった。講演の最終盤で取り上げ、「ミャンマー、新疆ウイグル自治区、香港などの人権状況についても、日本はしっかりと声を上げつつ、国際社会と連携して具体的な行動を求めていく」と述べるにとどめた。
菅首相「信頼関係、かなり構築できた」
菅義偉首相は16日午後(日本時間17日午前)、バイデン米大統領との共同記者会見後に記者団のぶら下がり取材に応じ、「(大統領と)信頼関係はかなり構築することができたのではないか」と述べた。会談では食事が出されたというが、「まったく手をつけないで終わってしまったというぐらい熱中した」と振り返った。中国が軍事的活動を活発化させる台湾海峡情勢については「台湾海峡、また尖閣周辺でも厳しい状況が続いていることは事実だ」と指摘。「中国に対して必要なこと、言うべきことははっきり言っていく中で、この地域の安定、平和に寄与していきたい」と語った。
拉致被害者家族「言葉だけでは納得できない」
北朝鮮による拉致被害者の家族が17日、日米首脳が拉致問題の即時解決を求めると再確認したことを受けて、代表取材に応じた。田口八重子さんの兄で家族会代表の飯塚繁雄さん(82)は「即時解決を求めることを再確認したというが、具体的なことははっきりしていない。日本が何をやるのか。そしてアメリカがどういう支援や協力をしてくれるのかが見えない」と話した。「われわれ被害者家族は長い間待っている。言葉だけでは納得できない。いつまでに何をやるのか決めてもらいたい」と、行き詰まる拉致問題の進展をあらためて求めた。横田めぐみさんの母、早紀江さん(85)は「日米がちゃんと話し合って、きちっと決めてくれてよかった」。その上で、「とにかく子どもたちが日本の土を踏んでくれたら良いと思っている。それだけなんです」と訴えた。
菅首相、衆院解散は「コロナ対策が大前提」
訪米中の菅義偉首相は16日夜(日本時間17日午前)、同行記者団に対し、10月に議員任期を迎える衆院の解散・総選挙について「コロナ対策をしっかりやることが大前提だ」と述べた。新型コロナウイルスの変異株への感染が全国的に広がるなか、その対応を最優先する考えを改めて示した。首相は、記者団から解散時期について問われ、「国民の今一番の関心はコロナだ。早くかつてのような安心できる生活を取り戻すことを優先に考え、私自身は活動している」と強調。そのうえで「任期は10月と決まっている。時期を考えながら、という形になってくるだろう」と語った。また、首相は緊急事態宣言に準ずる「まん延防止等重点措置」を適用した大阪府で、新型コロナの感染拡大が続いていることにも言及。緊急事態宣言などさらなる対策についての考えを聞かれ、「傾向を見るのに2週間ほどかかる」と述べた。適用から2週間となる19日以降の感染状況をみて判断する考えを示した。2030年の温室効果ガスの新たな削減目標については、「(温室効果ガス排出「実質ゼロ」をうたった)2050年宣言をしている私には責任がある」として、米主催で22日から行われる気候変動サミットまでに明らかにする方針も表明した。
台湾海峡、ウイグルが共同声明に
首脳会談後に日米共同声明が発表され、台湾海峡について「日米両国は、台湾海峡の平和と安全の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と記した。共同声明ではほかに、日米両国は「香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する」とし、北朝鮮については「核及びミサイル計画に関連する危険に対処するため、互いに、そして他のパートナーとも協働する」とした。また、今夏に予定する東京オリンピック・パラリンピックについて、声明で「バイデン大統領は、安全・安心なオリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅総理の努力を支持する」と盛りこんだ。
二階氏「非常に大きな成果」
自民党の二階俊博幹事長は、日米首脳会談を受け、「多岐にわたるテーマにおいて、その課題とビジョンを共有出来た事は『日米同盟の深化』という観点で非常に大きな成果であったと評価いたします」とコメントを発表した。二階氏は「現下の国際情勢は様々な課題が顕在化している」としたうえで、「共通の価値観を有する両国首脳が直接対話によって、個人的信頼関係を深め、率直な意見交換を行うことはまさに国益に資する」などとつづった。
経済同友会代表幹事「多国間協力主導の姿勢、意義深い」
経済同友会の桜田謙悟代表幹事は、日米首脳会談で、経済分野を含む両国の関係強化が確認されたことを歓迎した。桜田氏は談話で、新型コロナウイルス対策や気候変動問題などの課題の解決に向けて、「両国が連携し、多国間協力を主導する姿勢を明確に示されたことは大変に意義深い」とした。また、既存の国際秩序に対する中国の挑戦や地域情勢について両首脳が議論した上で、自由と民主主義、人権、法の支配といった共通の普遍的価値の擁護に強くコミットメントしていく姿勢を示したことを評価した。気候変動や、5G、半導体、AIなどの重要技術についての供給網(サプライチェーン)の強化などでは、企業が大きな役割を担うとして、「経営者としても率先して参画していきたい」と述べた。
中国大使館「米日の発言、太平洋の平和を損なう」
日米首脳会談を受けて在米中国大使館の報道官は17日午後2時(現地時間午前1時)、記者の質問に答える形式で談話を発表した。内容は以下の通り。「台湾、香港、新疆ウイグル自治区の問題は中国内政であり、東シナ海と南シナ海は中国の領土主権と海洋権益に関連している。これらの問題は中国の根本利益にかかわっており、干渉することは許されない。われわれは米日首脳共同声明に関連する言及に強い不満と断固反対を表明する。中国側は国家主権と安全、発展の利益を断固として守る。米日の発言はすでに二国間関係の正常な発展という範囲を完全に超えており、第三者の利益を損ない、地域国の相互理解と信頼を損ない、アジア太平洋の平和と安定を損なっている。アジア太平洋地域を分裂させ、他国を狙う『小グループ』をつくろうとしているのに、『自由で開かれた』と冠するのはこの上ない皮肉である。このように時代に逆行し、地域国家の心の通い合いを退けようとする米日の企ては、他人を傷つける目的であっても、必ずや自らを傷つける結果に終わるであろう」
台湾総統府の報道官「日米との関係さらに深める」
台湾総統府の張惇涵報道官は午後2時(現地時間13時)ごろ、フェイスブックで、日米首脳会談の共同声明が台湾海峡の平和と安定に言及したことについて、感謝するコメントを発表した。張氏は「台湾海峡の平和と安定はすでに台中関係の範囲を超え、インド太平洋地域、さらには全世界の問題になっている」と指摘。「北京当局が台湾海峡や地域の安全のために、前向きな貢献をすることを望む」とした。張氏はまた、「蔡英文(ツァイインウェン)総統が何度も強調してきたように、台湾は圧力には屈しないが、無謀な行動はしない」と説明。「日米など民主主義や人権の理念を共有する国々との関係をさらに深め、地域の安定と発展に協力していく」とした。
経団連会長、首脳会談は「大きな成果」
経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は、日米首脳会談を受け、「揺るぎない日米同盟関係を象徴し、その意味は大きい。首脳間の個人的な信頼関係が構築されたことも大きな成果だ」との談話を出した。特に、先端技術の研究開発や供給網(サプライチェーン)の強化などを掲げた「日米競争力・強靱(きょうじん)性(コア)パートナーシップ」を発表したことを歓迎。気候変動問題で、脱炭素化に向けた国際社会の取り組みを主導する方針を示したことも「高く評価する」とした。経団連も「ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の再構築に精力的に取り組んでいく」という。
防衛力強化「慎重さが求められる」 立憲・泉政調会長
日米首脳会談を受け、立憲民主党の泉健太政調会長は「我が国の外交、経済、安全保障政策にも大きな影響を及ぼす中国、北朝鮮への対応についても協議できたことは重要」などとする談話を発表した。談話では、中国が軍事的活動を活発化させる台湾海峡情勢で「平和と安定の重要性について認識を共有するとともに、力による現状変更に毅然(きぜん)と対処し、日本の領土、領海、領空を守ることについて改めて合意したことは評価します」とした。一方、日米共同声明に盛り込まれた日本の防衛力強化について、「事実上の解釈改憲で集団的自衛権の行使が容認されている現状を前提とした防衛力の向上が、抑止力を高める以上に、周辺国の急速な軍事力拡大に口実を与える危険も伴うため、慎重さが求められます」と指摘。東京五輪・パラリンピックについては「米国の理解以上に、日本国内での感染対策とワクチン接種の実施こそが重要」とし、日本政府に今後も説明を求めていく考えを記した。
公明・山口代表「平和で安定した環境は必要」
公明党の山口那津男代表は、熊本市内で記者団に、日米共同声明に「台湾」が半世紀ぶりに明記されたことについて問われ、「この地域の平和で安定した環境は、この地域の国々それぞれが期待していることで、必要なことだと思う」と評価した。また、山口氏は「対話によって、この地域の課題を解決していくという外交姿勢も合わせて確認したことは大事だったと思っている」と強調した。日米両首脳は、日米気候パートナーシップを立ち上げることでも一致したことから、山口氏は「日米が気候変動を国際社会の中でリードしていくという誓いであり、これからの気候変動対策の進展に、大いに推進力になることを期待したい」と述べた。
志位氏「軍事同盟強化に断固として反対」
共産党の志位和夫委員長は、日米首脳会談の共同声明の合意内容について、「地球的規模での日米の軍事的共同を全面的に推進し、核兵器禁止条約など平和を求める世界の流れに逆行するとともに、日本国民に耐えがたい犠牲と負担をもたらす、危険きわまりないもの。こうした軍事同盟強化の道に断固として反対を貫く」とする談話を発表した。志位氏は、共同声明について「中国海警法に対して国際法違反との批判が欠落している。中国が行っている重大な人権侵害に対しても、『深刻な懸念』をのべるだけで、国際問題であるという批判が欠落している。これでは中国の覇権主義、人権侵害に対する本質的批判にならない」と指摘。また、台湾海峡への言及でも「日米同盟強化の文脈に位置づけている」と問題視し、「日米両国が、台湾問題に軍事的に関与する方向に進むことにも断固として反対する」とした。
岸防衛相「台湾は大切な友人」
日米首脳会談の共同声明で「台湾」を明記したことをめぐり、岸信夫防衛相は17日、視察先の沖縄県・与那国島で「台湾の平和と安定は台湾のみならず、地域、そして国際社会の平和と繁栄にも結びつく。当事者間の平和的な解決を促すようにこれからも努めていきたい」と記者団に語った。与那国島は日本最西端の島で、台湾から約110キロ。岸氏はこの日、沿岸監視隊のいる陸上自衛隊与那国駐屯地や、日本最西端の地を視察した。視察後の記者会見で「台湾は基本的価値を共有する大切な友人で、我が国との長い交流の歴史もある。この与那国に来ると、台湾はすぐ対岸に位置して、非常に近い地理的な関係にもある」とも述べ、平和的な解決の必要性を繰り返し述べた。
山尾志桜里氏「対中制裁法の制定急務」
国民民主党の山尾志桜里衆院議員は、東京都内で朝日新聞の取材に応じ、日米首脳の共同声明に「台湾」が明記されたことについて、「それ自体は評価するが、表現ぶりは日本政府の従来の見解と同じ。もう少し中国の挑発的な行動を制止するように、というメッセージが盛り込めなかったのか」と指摘した。また、菅義偉首相が「中国に具体的な行動を求める」としていることに、「いま行動を求められているのは日本だ」と批判。香港や新疆ウイグル自治区での人権問題を念頭に「政府が対中制裁に及び腰なのであれば、議員立法で中国の人権侵害に対する制裁法の策定が急務だ」と語った。 

 

●日米首脳ハンバーガー会談舞台裏…台湾明記で対中戦略は?  4/17
日米首脳は、ホワイトハウスの一室で、ハンバーガーを前に、マスクを着用したまま見つめ合っていた。
バイデン大統領が、初めての対面形式の会談相手として、菅首相を招いて行った日米首脳会談。共同声明では約半世紀ぶりに「台湾」を明記し、中国を強くけん制した。
「雰囲気はすごく良かった」と出席者が口を揃え、首相自身も「私と似ている」と“ベテラン政治家”同士の相性に手応えを語る一方、ある政府関係者からは「米中の事実上の軍拡競争に日本は巻き込まれている」との声も上がる。
いったい何が起きているのか。舞台裏を探った。
食べない“ハンバーガー会談”
「いろいろ人生経験とかの話をして、ハンバーグ(注:ハンバーガー)も全く手をつけないで終わってしまった。それくらい熱中した」
会談終了後、菅首相は少し頬を緩めながら、バイデン大統領との「テタテ」と呼ばれる1対1の会談を振り返った。時間にしてわずか20分間。「たたき上げの政治家という共通点がある」と親近感を寄せるバイデン大統領とは、部屋に飾られた家族の写真を見ながら、孫などの話題で打ち解けたという。
「私と似ているような感じを受けたが、本人もそう思っているようで…」
とバイデン氏との信頼関係の構築に手応えを語った。しかし、この「食事に手をつけないランチ会」に至るまでには、紆余曲折があった。
ホワイトハウス「幻の夕食会」
「こんなにバタバタの首脳会談は初めてだ」
首相の訪米を翌々日に控えて、ある日本政府関係者はうめいた。ホワイトハウス側との調整が滞り、スケジュールは直前まで定まらなかった。今回、日本政府がこだわったのが、バイデン大統領、ハリス副大統領との食事会。特にバイデン大統領との「夕食会」開催に向けては最後まで粘り強く交渉を続けたというが、結局実現することはなかった。
バイデン大統領自身、コロナ禍での対面の会談にはかなり慎重だとされる。会談中は「常時マスク着用」、しかも高性能のN95マスクの着用が義務づけられた。
この徹底ぶりはハンバーガーを前にしてなお、マスクを外さない一枚の写真によく表れている。
台湾明記も…バイデン政権内に「落胆」
首脳会談は、1対1のテタテ、少人数会合、拡大会合と3段階で計2時間半に及んだ。
今回の会談の最大の焦点は、共同声明に「台湾」の問題を明記するかどうかだった。そもそも日米首脳の共同文書に「台湾」が明記されれば、1969年の佐藤栄作首相とニクソン大統領以来、半世紀ぶりとなる。「台湾」の文言を盛り込みたいアメリカ側と、慎重な日本側との間で、事前調整はかなり難航したという。この対立構図を英紙フィナンシャル・タイムズが報じ、日本側が米側のリークを疑う場面もあった。
結局、共同声明には「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記された。日本政府の要請で後半に加えられたという「両岸問題の平和的解決を促す」という文言は、台湾問題に触れる場合の日本政府の定型見解で、外務省幹部は「この表現を後ろに付けることで、これまでの日本政府の姿勢と変わっていないというメッセージになる」と解説した。
一方で、あるアメリカ政府関係者は、「日本には共同声明でもっと強い表現に賛同して欲しかった」「落胆している」と不満を口にしている。
日本「台湾明記」もなお米政府内に不満
「台湾の明記」を「内政干渉だ」とする中国は、共同声明に対し「強烈な不満と断固反対を表明する」と猛反発した。一方、アメリカ政府内には「台湾」を明記してなお、日本への不満が燻る。「日本は台湾有事への危機感が低い」との見方や、別のアメリカ政府関係者からは「日本は経済分野で中国と良い関係を保っていて、少しずるい」との声まで聞かれる。
アメリカが中国と貿易戦争をやって、経済面でも身を切る覚悟で向き合う中で、日本が尖閣など安全保障面で守ってもらおうというのは「不平等」との不満もあるようだ。
菅首相「一番乗り」のワケ
今回の菅首相の「一番乗り」は、日本重視と言えるのだろうか。ある日米外交筋はこう話す。
「バイデン大統領が菅首相を最初の会談相手に選んだのは、『日本』だからではない。対中国の最大の同盟国だからだ」
菅首相の訪米は、あくまでアメリカの対中国戦略の一環、一つのパーツとの位置づけだ。現にバイデン大統領は、同じタイミングで気候変動問題担当のケリー特使を中国に、台湾にも非公式の代表団を派遣して、台湾トップ蔡英文総統と会談させた。日米首脳会談に同席したブリンケン国務長官とオースティン国防長官は直前まで、欧州を歴訪していた。
バイデン政権は「同盟」を重視しながら、複合的かつ戦略的な外交を展開している。その中の一番重要なパーツとして、日本のトップを米国に招き、首脳会談を通じて「強固な同盟」、台湾などをめぐる厳しい姿勢を中国に見せつけた。
ある日本政府関係者は「ホワイトハウスは今回、バイデン大統領と菅首相が2人で並んでの会見にこだわった。発信したかったのだろう」と打ち明ける。
日米今後は?「総論はいいが、各論に入ると…」
ある日本政府関係者は「日米は総論はいいが、各論に入ると立場の違いが露呈してくる」と交渉の難しさを語っている。今回の台湾をめぐる文言の調整は「各論の立場の違い」の一つのケースになった。
別の日本政府関係者は「日本はすでに米中の事実上の軍拡競争に巻き込まれている」と語った。今後も中国をめぐる情勢が厳しさを増す中で、アメリカに立場の違いでどう理解を得ていくのか。日本外交の力が試される。 

 

●日米首脳会談 日本の政界の反応は 4/17
アメリカの首都ワシントンを訪れている菅総理大臣は、日本時間の17日未明、ホワイトハウスでアメリカのバイデン大統領と初めてとなる日米首脳会談を行い、共同声明を発表しました。日本の政界の反応です。
岸防衛相「台湾情勢 国際社会安定にとっても重要」
岸防衛大臣は視察先の沖縄県の与那国島で記者団に対し、首脳会談の共同声明で、およそ半世紀ぶりに台湾に言及したことについて「ここ与那国島は台湾から100キロ余りで、わが国で最も台湾に近い島だ。台湾をめぐる情勢は、南西地域を含む、わが国の安全保障はもとより、国際社会の安定にとっても重要だ。防衛省としても、引き続き動向を注視していきたい」と述べました。
自民 二階幹事長「『日米同盟の深化』で非常に大きな成果」
自民党の二階幹事長は「多岐にわたるテーマで課題とビジョンを共有できたことは『日米同盟の深化』という観点で非常に大きな成果であったと評価する。両国首脳が直接対話によって、個人的信頼関係を深め、率直な意見交換を行うことは国益に資するものであり、菅総理大臣の外交姿勢を全面的に支持する」とするコメントを発表しました。
公明 山口代表「両首脳のよい出発点に」
公明党の山口代表は熊本市で記者団に対し「バイデン大統領の就任後、初の対面での首脳会談となり、両首脳のよい出発点になった。日米同盟を強化する方向性も明確になったほか、『日米気候パートナーシップ』の合意は、日米両国が気候変動で国際社会をリードする推進力になり、大きな意義がある」と述べました。また、首脳会談で台湾海峡の平和と安定の重要性を確認したことについては「中国の近年の軍事的な行動を踏まえ、先の『日米2プラス2』の内容を改めて確認したものだ。地域の平和と安定した環境の実現に向け、日米両国を中心とする取り組みや対話で課題を解決する外交姿勢を確認したことは大事だ」と指摘しました。
立民 枝野代表「成果も 首相行くまでの必要あったか」
立憲民主党の枝野代表は、訪問先の福岡県春日市で記者会見し「台湾海峡について日米両国で認識が一致したことは大きな成果だ。ただ、国内で感染症がこれだけのまん延状況にある中、すでに『日米2プラス2』でも話していることを、わざわざアメリカまで総理大臣が行くまでの必要があったのかと受け止めている」と述べました。
沖縄 玉城知事「県との対話 引き続き求める」
沖縄県の玉城知事は、コメントを発表し「辺野古新基地建設は、普天間基地の一日も早い危険性の除去にはつながらないと考えている。辺野古が唯一の解決策との固定観念にとらわれることなく普天間基地の速やかな運用停止を含む一日も早い危険性の除去と早期閉鎖、返還を実現するため県との真摯(しんし)な対話に応じていただくよう、引き続き日米両政府に粘り強く求めていく」としています。 

 

●立憲民主党 日米首脳会談について 4/17 
本日(アメリカ東部現地時間16日)、日米首脳会談が行われました。
コロナ禍によって世界情勢が激変する中、日米両国首脳が直接会談を行う意義は大きく、特に我が国の外交、経済、安全保障政策にも大きな影響を及ぼす中国、北朝鮮への対応についても協議できたことは重要です。
今回の首脳会談では、インド太平洋地域の平和と繁栄に向け、経済、気候変動をはじめ、中国の力による現状変更や新疆ウイグル問題への対応、尖閣諸島への日米安保条約第5条の適用、台湾海峡の平和と安定の重要性、北朝鮮の拉致、ミサイル問題、日米韓の連携についても共通の認識を得ました。
特に、インド太平洋地域、とりわけ台湾海峡の平和と安定の重要性について認識を共有するとともに、力による現状変更に毅然と対処し、日本の領土、領海、領空を守ることについて改めて合意したことは評価します。
一方で、平和と安定は防衛力のみによって達成されるものではなく、日米両国によるサプライチェーンの確保や、それに向けた技術開発力の強化などが重要です。今回の首脳会談を受けて、半導体や製造機械など我が国が強みを持つ分野を中心に、実効性のある共同開発・研究や経済連携を進めていく必要があります。
また日本が防衛力強化の決意を表明した部分については、事実上の解釈改憲で集団的自衛権の行使が容認されている現状を前提とした防衛力の向上が、抑止力を高める以上に、周辺国の急速な軍事力拡大に口実を与える危険も伴うため、慎重さが求められます。政府には、専守防衛を逸脱することなく、周辺国との緊張緩和にも注力することを求めます。
アジア系住民に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)を許さない姿勢など、日米両国が、自由、民主主義、人権、法の支配という普遍的価値を共有したことは高く評価します。また東京五輪の開催については、米国の理解以上に、日本国内での感染対策とワクチン接種の実施こそが重要であり、日本政府には、引き続き、この点についての現実的で具体的な説明を求めていきます。
立憲民主党は、日米同盟を外交関係の基軸に、これを深化させつつ、日本が環境やSDGs、感染症対策、核軍縮など国際的な重要課題において今後も主導的役割を果たせるよう、引き続き取り組んでまいります。 
 
 

 

●日本「厚遇」の裏で軍事リスク共有? 対中強硬一致で高まる緊張  4/18
日米首脳会談の共同声明に台湾問題への対応が明記された。菅義偉首相はバイデン大統領と初めて対面で会談した首脳として強固な同盟関係を誇示したが、中国が軍事統一も否定しない台湾周辺では情勢が急速に悪化しており、「厚遇」の裏で米中衝突に日本が巻き込まれるリスクが高まっている。
中国の台湾侵攻「6年以内の恐れ」
「国際秩序に合致しない中国の行動に懸念」「中国の不法な海洋権益に関する主張と行動に反対」―。共同声明には中国を名指しで非難する厳しい言葉が並んだ。さらに中国が絶対に譲れない「核心的利益」として統一を目指す台湾について「両岸(中台)問題の平和的解決を促す」と安全保障に踏み込んだ。
中国による台湾への威圧は今年に入って激しさを増す。今月12日には台湾の防空識別圏に過去最多の戦闘機や爆撃機など中国軍機25機が侵入。海上では空母「遼寧」などが演習を繰り返し、米海軍の空母打撃群との緊張も続く。
軍事力増強に自信を深める中国の習近平国家主席は2019年1月、台湾に関し「武力行使を放棄しない」と断言。バイデン政権発足直後の今年1月、中国の国防省報道官が「台湾独立は戦争を意味する」と述べると、「戦争」の発言に米政権内に衝撃が広がった。
複数の米軍司令官は3月の議会公聴会で、中国の台湾侵攻について「6年以内の恐れ」などと証言。マクマスター元大統領補佐官は同月、ロシアが14年2月のソチ五輪直後にクリミア半島に侵攻したことを念頭に、来年2月の北京冬季五輪以降は「台湾に危機が迫る」と警告した。
軍事衝突で日本も標的か
日本政府は、バイデン氏が初の首脳会談の相手に菅首相を招いたことを「日米同盟の強固さを発信する大きなメッセージだ」(政府高官)と歓迎する。中国軍が不透明な軍拡を続け、沖縄県・尖閣諸島周辺への圧力を強めているためだ。
「(中国の)チャレンジは既に始まっている」。台湾有事を含め、外務省幹部は危機感を募らせる。その一方、防衛省幹部は「より積極的な役割を果たす必要がある」と指摘し、防衛費や在日米軍への思いやり予算の増額も示唆する。
だが、対中けん制を目的とする安全保障面での「日米蜜月」は危うさをはらむ。台湾有事に米軍が介入すれば、15年に成立した安全保障関連法の一つ「重要影響事態法」適用が現実味を帯びる。燃料や弾薬など軍事支援を行う自衛隊が攻撃対象になるだけでなく、在日米軍の発進拠点である沖縄の基地が狙われ、日本有事につながりかねない。
「米軍は行動すると確信」
台湾が攻撃された場合、米軍は動くのか。米ランド研究所のジェフリー・ホーナン研究員は「米国は民主主義の台湾に40年以上防衛支援を約束してきた。動かなければ他の同盟国の信頼を失う。行動すると確信している」と語る。
米軍は3月、沖縄からフィリピンを結ぶ「第一列島線」に、射程500キロ以上の対中地上ミサイル網を早期に構築する必要があるとの報告書を議会に提出。沖縄に配備されれば、日本領域から直接中国を攻撃できることになるが、中国からの攻撃対象にもなり得る。
米中間の緊張が増すほど米国の日本への期待は高まる。今回の首脳会談は、東アジア情勢を一変させる火種になりかねない。  

 

●[日米首脳会談と中国] 緊張緩和へ外交努力を 4/18
菅義偉首相とバイデン米大統領が、対面では初めてとなる首脳会談を米ワシントンで行った。
軍事的にも経済的にも影響力を強める中国にどう向き合うかが最大の課題であった。
注目すべきは共同声明に、中国の軍事的な挑発で緊張が続く台湾問題が盛り込まれたことだ。「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」と明記された。
日米首脳の共同文書で台湾に言及するのは52年ぶり。1972年の日中国交正常化以降は初めてとなる。
前回言及したのは、沖縄返還に合意した69年の佐藤栄作首相とニクソン大統領の会談時の共同声明だった。「台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとって極めて重要な要素」とする、いわゆる「台湾条項」と呼ばれる文言だ。
台湾海峡では昨年の夏以降、中国軍戦闘機が中間線を越えて台湾側に侵入するなど軍事的な挑発を強めている。米軍幹部は中国が「6年以内」に台湾に軍事侵攻する可能性があると危機感をあらわにする。
台湾を巡って緊張が高まれば、地理的に距離が近く、米軍基地のある沖縄がもろに影響を受ける。衝突は何としても回避しなければならない。
共同声明には、中台の「両岸問題の平和的解決を促す」と記されている。中国は「強烈な不満」と激しく反発しており、日中関係が冷え込むことが予想される。日本は中国と率直な対話を重ね、緊張緩和を働き掛けてもらいたい。戦略的な外交が求められる。

尖閣諸島周辺でも中国は活動を活発化させている。海警法によって中国海警局が武器使用を認められるようになり一触即発の懸念が高まる。
中国の力による現状変更は許されない。強く自制を求めたい。
バイデン政権は米中の対立を「民主主義と専制主義の闘い」と位置付け、「クアッド」と呼ばれる日米豪印4カ国の枠組みなどを活用して中国に揺さぶりをかける。
米中関係は「新冷戦」と呼ばれるまでに悪化した。日本はその最前線に立たされることになるが、安易に軍事的な役割を担うのは危険だ。
会談では、名護市辺野古の新基地建設が「普天間飛行場の継続使用を回避するための唯一の解決策」として推進することが改めて確認された。
新基地建設には米政府の調査機関からも実現を困難視する報告が相次いでいる。同盟強化の名の下に思考停止に陥っているとしか思えない。

共同声明は、新型コロナウイルス対策や気候変動問題などの課題で協力することを確認した。
こうした地球規模の課題は、中国を含む国際社会が団結して取り組まなければならない。バイデン政権も、気候変動問題を担当する大統領特使を中国に派遣するなど連携を試みている。
特に日本は中国と経済的な関係が深く、互いに五輪を控えているという共通点がある。相互協力が可能な分野を増やし日米中3カ国の信頼醸成を図っていくべきである。 

 

●日米首脳会談 緊張解く対中戦略描け 4/18
菅義偉首相とバイデン米大統領はお互いの就任後初めて、対面で会談を行った。共同声明には台湾情勢を明記し、「平和と安定の重要性」を強調した。
日米の首脳が共同文書で台湾に言及したのは、冷戦期の1969年、当時の佐藤栄作首相とニクソン大統領の会談以来で52年ぶりのことだ。日中国交正常化以降では初めてであり、中国へのけん制が鮮明となった会談といえよう。
台湾海峡では、中国が防空識別圏に繰り返し軍用機を進入させるなど覇権的な動きを強め、緊張が高まっている。譲歩できぬ「核心的利益」と台湾を位置付けているからである。今回の共同声明にも早速、「強烈な不満と断固とした反対を表明する」との談話を発表した。
バイデン大統領が対面会談する最初の外国首脳に菅首相を選んだのは、対中政策で日本の重みが増した証しだろう。
菅首相も得たりとばかり、「日米同盟の強固な絆を確認したい」と日本の防衛力強化への決意を示した。沖縄県の尖閣諸島周辺で中国の威圧的な振る舞いが繰り返される中、日米の「強固な絆」が支えになるという考えかもしれない。
しかし有事の際には、沖縄をはじめとする日本列島が米国の軍事拠点となることを忘れてはなるまい。安全保障関連法に基づき、日本の平和と安全が脅かされる「重要影響事態」、さらに危機の度合いが高まる「存立危機事態」と認定すれば、集団的自衛権を行使するシナリオさえ現実味を帯びる。
事態のエスカレートを前提とする備えだけでは危うい。緊張を解く仕組みの構築こそ、急ぐべきではないか。
バイデン氏は中国を「唯一の競争相手」と呼び、米中対立を「21世紀の民主主義と専制主義の闘い」と位置付けている。共同声明では「核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた(略)日本の防衛に対する揺るぎない支持」まで表明した。
防衛装備品の購入を求めてきたトランプ前大統領の経済偏重とは異なる。「買い物」以外の応分の負担を日本側に求める圧力でも今回、あったのだろうか。菅首相は日本の防衛力強化や米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設推進を約束してみせた。
ここは、立ち止まって考えるべきだろう。同盟関係の重視とは何も、対米追随するということではあるまい。むしろ被爆国として、核抑止や武力によらない戦略を描き、米国に働き掛けていく必要がある。
緊張緩和には、力ずくではない外交が欠かせない。中国とは地理的に近く、対中貿易など経済関係を重視する日本側の対応が問われる。日中で基調としてきた「戦略的互恵関係」も忘れてはなるまい。
今求められているのは「人間の安全保障」ではないか。経済分野で、サプライチェーン(部品の調達・供給網)の再構築に向け、日米が協力するのもその一環だろう。
感染症や気候変動、人権問題など会談で話し合われた課題にはどれも、国境を超えた対話と協力が求められる。
「強固な絆」が望まれるのは日米間に限らない。緊張緩和に向け、日本独自の外交戦略に知恵を絞らねばならない。 

 

●日米首脳会談 戦略的外交が必要だ 4/18
菅義偉首相はバイデン米大統領と、両氏の就任後初めてとなる対面による首脳会談を米ワシントンで行った。両国が直面する現下の最大の課題は大国化を進める中国への対処だ。首脳会談では対中国を念頭に日米同盟の一層の強化を確認。会談後に発表した共同声明には台湾情勢を明記し、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調した。
日米首脳の共同文書で台湾に言及するのは、日中国交正常化前の1969年の佐藤栄作首相とニクソン大統領の会談以来であり、中国けん制が鮮明な会談となった。
ただ、共同声明は同時に、中台の「両岸問題の平和的解決を促す」とも言及した。台湾有事が起きれば、沖縄は言うまでもなく本土までが戦闘に巻き込まれ、日本にとって極めて深刻な事態に陥る。偶発的な衝突も避けるため、中国とともに米国にも自制を働き掛け、緊張緩和を促していく戦略的外交が求められる。
バイデン氏は中国を「唯一の競争相手」と呼び、米中の対立を「21世紀の民主主義と専制主義の闘い」と位置付ける。人権や法の支配などの基本的価値を対立軸に据えるだけに、経済偏重だったトランプ前政権よりも対立は深刻化しかねない。
一方、中国は経済成長を続けており、米国を抜いて世界一の経済大国になるだろう。軍事的にも海洋進出を活発化している。米中関係は歴史的な転換点にある。
その最前線に置かれるのが日本だ。米国とは安全保障条約を結ぶ同盟関係にあり、一方、地理的に近い中国は最大の貿易相手国だ。日本に必要なのは、衝突を回避し、地域の安定を維持する独自の外交戦略だろう。だが菅政権からは一貫した対中戦略が見えてこない。米国の抑止力を生かしつつ、日中対話を進めていく知恵を絞るべきだ。
両首脳は会談で、「自由で開かれたインド太平洋」の実現への連携を確認し、中国の香港や新疆ウイグル自治区での人権状況に「深刻な懸念」を表明した。菅首相は共同記者会見で、中国の「東・南シナ海での力による現状変更の試みに反対する」と述べた。日本を「インド太平洋地域の強力な民主主義国家」と強調したバイデン氏と足並みをそろえた形だ。
経済分野で、半導体のサプライチェーン(部品の調達・供給網)構築での協力を確認したのも脱中国依存を進めるものだ。
バイデン氏は米国の防衛義務を定めた日米安保条約第5条の沖縄・尖閣諸島への適用や、北朝鮮による日本人拉致問題の即時解決に言及。これに対して、菅首相は日米同盟強化のための日本の防衛力強化や、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設の推進を約束した。
日本への配慮を示すバイデン氏はその一方で、応分の「負担」を求めていると言える。要求に従うだけでいいのか。日本側の対応が問われよう。
バイデン政権も対中強硬一辺倒ではない。日米首脳会談に合わせて気候変動問題を担当するケリー大統領特使を中国に派遣した。新型コロナウイルスや気候変動など国境を越えて協力しなければ対処できない課題も多い。共同声明は中国との対話の重要性も指摘、「共通の利益を有する分野で中国と協働する必要性」に言及した。対話の積み重ねが緊張緩和につながることを再確認したい。 

 

●鳩山由紀夫氏 日米首脳会談を酷評も自身の発言が”ブーメラン”に 4/18 
元首相の鳩山由紀夫氏(74)が18日にツイッターを更新。日米首脳会談をぶった切った。
「初対面なのに『ジョー』『ヨシ』と親しげに呼び合う演出は外務省の浅知恵でしょうが、不慣れなオロオロ感と気恥ずかしさがモロでした」と嘲笑。共同記者会見で菅義偉首相とバイデン大統領はファーストネームで呼び合っていた。
さらに、「外務省の自尊心の欠如も相当だが、夕食会を断られハンバーガー付きの20分の首脳会談は哀れでした。それでもバイデンの最初の首脳会談は日本と自慢するのかな」と手厳しい。
鳩山氏は連続してツイートを投下。「菅首相としては、東京五輪の開催を支持してもらいたかったでしょうが、バイデン氏は『安全・安心な開催への首相の努力を支持する』と述べただけで、開催の支援はありませんでした。それどころか、記者から『開催は無責任では』と質問され、答えられなかったそうですね。それが世界の声ですよ、菅首相」と言いたい放題だ。
もっとも日米関係では鳩山氏も人のことは言えない。首相時代に普天間飛行場移設問題で「最低でも県外」とブチ上げたはいいが、日米関係の悪化を招き、実現できなかった。海外メディアで「ルーピー(間抜け)」と批判されたこともあった。
それだけに一連のツイートには「トラストミーよりは、随分とよかったと思います」「ツッコミ待ちですか?」などのコメントが寄せられており、ブーメラン≠ニなってしまったようだ。 
 
 

 

●日米首脳会談で菅首相が踏んだ踏み絵の意味 4/19
米議会は超党派で「戦略競争法案」提出、後戻りできない日本
出されたのはハンバーグ・ランチのみ
菅義偉総理大臣とジョー・バイデン米大統領による初めての日米首脳会談が行われた。異例だらけの日米首脳会談で両首脳は何を話し、どんな約束をしたのか。菅氏は記者会見では「やり取りの詳細については外交上、明かさない」と突っぱねた。表に出ては国民向けにも中国向けにも支障が出るような発言や密約があるのだろうか。機密文書は30年経たねば解禁されない。ということは30年間国民は知らされないことになる。新型コロナウイルス感染症のパンデミックス禍で公式の昼食会も晩餐会もなし。ジル・バイデン夫人も顔を見せなかった。
両首脳は2人だけでハンバーグ・ランチを食べた。異例と言えば、菅氏は大統領に会う前にカマラ・ハリス副大統領をホワイトハウスに隣接するアイゼンハワー行政府ビルの副大統領室に表敬訪問したことだ。何やら外国訪問など外交面でのハリス氏の今後の積極的な活動を暗示している。首脳だけのテタテ(1対1)会談、外務閣僚らを入れた少人数会議、拡大会合を合わせると2時間50分。会談後に発表された共同声明(U.S-Japan Joint Leaders' Statement:"U.S.-Japan Global Partnership for a New Era")は英文で2500字の長文。実務事項びっしりの外交文書だ。共同声明は共同宣言に次ぐ国家間の最重要文書だ。これだけ詳細な実務事項を盛り込むには、事前に閣僚、事務レベルでの綿密なすり合わせがあったといっていい。
内容は台湾海峡に始まり新疆ウイグル自治区、香港、尖閣諸島、半導体サプライチェーン、気候変動、東京五輪、普天間米空軍基地の辺野古移転まで、今後5年、10年の日米間の約束事を網羅している。首脳会談直前まで日本メディアの外交通と称する連中はこう見ていた。「ウイグルや台湾、ミャンマーといった厄介な問題に深入りするのを避けて、半導体サプライチェーンや気候変動問題などで日米同盟が強固なことを世界(中国)にアピールすることでお茶を濁せるだろう」ところがどっこい。舞台裏では、米側は日本側に「中国の脅威」に対する危機感を大いに煽った。危機感は生半可なものではなかった。
中国の脅威、特に台湾海峡周辺で中国が繰り広げている軍事威嚇行動に米国は神経をとがらせてきた。一触即発の危険性すらあるとみている。今回の共同声明では「台湾」は対中戦略の主軸となる最重要なパーツ(部品)だった。バイデン政権の外交当局者とは密接な関係にある主要シンクタンクの研究員、T氏は筆者にこう指摘している。「バイデン氏が『台湾明記』に自信を深めたのは3月中旬だった。対中スタンスでは慎重な日本も乗って来ると確信したのは、3月16日の2プラス2(日米安全保障協議委員会)での日本の外務・防衛閣僚の対応だった」「『台湾海峡の平和と安定の重要性についての認識を共有する』ことに合意したからだ。閣僚レベルでの合意事項が首脳同士で覆されることはあるまい、というわけだ」「共同声明に『(台湾海峡)両岸問題の平和的解決を促す』という文言を入れるよう要求したのは日本側だが、これに米国が異議を申し立てる正当な理由はなかった」「挑発しているのは中国なのだから、中国が矛を収めればこれに越したことはない」
人権、対中制裁は煙幕
もう一つは、菅氏を迎え入れたバイデン氏のきめ細かい受け入れ態勢だった。バイデン政権の最優先議題になっている人権問題をめぐっては米メディアは菅政権の対応に厳しい目を向けてきた。バイデン政権は、新疆ウイグル自治区での中国のウイグル族抑圧を「ジェノサイド」だとまで言い切り、制裁措置に踏み切っていた。欧州共同体(EU)はじめG7加盟国は日本以外全員が制裁に同調した。こうした中で、バイデン政権は政府高官による記者向けの事前説明などで日本には対中経済依存度などデリケートな理由があることを指摘するなど異例の根回し工作までしていた。
首脳会談後の記者会見も極端に記者の人数を制限するなど、通常の米国式記者会見とは趣を異にしていた。米記者団からは人権に対する質問は一切なかった。なぜ、そこまでバイデン氏は気を使ったのか。それよりも何よりもバイデン氏が菅氏をホワイトハウスに招き入れる最初の外国首脳に選んだ理由は何だったのか。ブルッキングス研究所東アジア政策研究センター所長のミレヤ・ソリス博士はこう指摘している。「バイデン政権としては、日本が地域的、世界的なチャレンジに立ち向かう不可欠な同盟国としての地位を確固たるものにし、インド太平洋戦略が日本にとって最優先議題であることを再確認させようとした」「日米は同盟関係を深化させており、責任分担する準備も整ってきた。中国のチャレンジを戦略的に抑え込むことでも両国は収斂している」先の2プラス2で日本が中国の独断的行動が国際秩序を不安定化させているという米国に同調、特に台湾海峡の安定の重要性を強調したことは多くの人々を驚かした」
外交専門家の間には、これまで国際政治を動かしてきた米国と中国を指す「G2」(Group of Two)という表現はいよいよ米国と日本に当てはまると主張する者も現れている。佐藤(栄作)・(リチャード・)ニクソン時代から日米首脳外交をフォローしてきた在米日系ジャーナリストG氏はこう見ている。「日本人が日本重視を買いかぶりと失笑するかどうか。かつて日本は自分のことをを米国の『サイレント・パートナー』(日本語英語で何も言わずに黙ってついていくパートナーという意味)などと自虐的に言っていた時期がある」
「だが今や日本は米国の『ポジティブ・パートナー』(積極的に参画するパートナー)になった。今回の首脳会談はそれを再確認するターニング・ポイントになった」「『台湾明記』はただ中国を激怒させただけでなく、米国、そして世界に日本の存在の大きさを見せつけたと言っていいかもしれない」バイデン政権が欲しかったのは、新疆ウイグル自治区でのウイグル族や香港の人権問題でも、そのための対中制裁措置でもなかった。どうしても日本に台湾問題について米国の危機感を共有してもらいたかったのだ。その「証文」が欲しかった。日本はその「証文」に判を押した。
香港は台湾併合シナリオのタイムライン
米国がいかに台湾海峡情勢に危機感を抱いているか。その好例が米議会の超党派の対中スタンスだ。上院外交委員会は中国に対応するための包括法案を4月24日に採択し、直ちに本会議に上程、可決・成立させる。「米議会の認識」(Sense of Congress)を示すという位置づけで、法的拘束力はないが、バイデン政権の対中政策に少なからぬ影響を及ぼすことは間違いない。法案名は「2021年戦略的競争法案」(Strategic Competetion Act of 2021)。
ボブ・メネンデス外交委員長(民主、ニュージャージー州選出)とジェームズ・リッシュ筆頭委員(共和、アイダホ州選出)が共同提案した民主、共和両党が超党派で提出する初の本格的な対中政策法案だ。同法案は台湾については、こう指摘している。「中国の香港での人権弾圧は、台湾併合に向けたシナリオのタイムラインを実践している。台湾防衛は今やより緊急を有する優先事項だ」「台湾防衛は、1台湾の人々を守り2中国軍を対米防衛線である第1列島線内に抑止し3日本の領土保全を防衛4中国軍の広範囲にわたる軍事的野望を阻止し5台湾の自由市場体制と民主的価値観を守る擁護者としての米国に対するクレディビリティ(信頼性)を堅持する――といった目的にとって死活的に重要である」本法案には何と「台湾」が47回も出てくる。
民間の軍事技術開発を促進、日米基金構想
2プラス2を受けて首脳会談で合意した「台湾海峡の平和と安定の重要性」について認識を共有したバイデン大統領と菅首相。台湾情勢が緊迫し、在日米軍が出動すれば、日本は何をするのか。日本も安全保障関連法に基づき、米軍の後方支援を行うことになる。日本が米軍に補給できる「重要影響事態」の要件は、日本の平和と安全に重要な影響を及ぼす状況だ。前述の「2021年戦略的競争法案」には、日本に何を期待するかについての記述がある。バイデン政権が今後、具体的にどのような対日要求をしてくるか、を示唆している。
一、インド太平洋戦略での米国のパートナーシップを強化するステップとして、日本が以下の分野での自主開発を促進させることをサポートする。
   1 長距離精密火力(LRPF)
   2 弾薬
   3 対空、対ミサイル防衛能力
   4 全領域での米軍とのインターオペラビリティ
   5 インテリジェンス・偵察・索敵能力
二、日米安全保障目的のために資する民間セクターによる新技術開発を促進させる「日米技術刷新基金」の創設。
菅バイデン首脳会談で署名された共同声明の文言の行間には、「40年来の米国の曖昧な対中戦略に終止符を打ち、中国に力で対抗すべきだ」(リチャード・ハース外交問題評議会会長)とする米国の意気込みがにじみ出ているとみるべきだろう。

 

●日米首脳会談、中国からの挑戦に協力して取り組むことを約束 4/19
ジョー・バイデン米国大統領は4月16日(米国時間)、ワシントンのホワイトハウスで菅義偉首相と2国間の首脳会談を行った。バイデン大統領にとって、菅首相が直接会って会談を行った最初の外国首脳となった。
首脳会談後の共同記者会見で、バイデン大統領は、両者の間で「日米同盟と共有する安全保障に対する確固たる支持を確認」するとともに、「自由で開かれたインド太平洋の未来を確かなものにするために、中国からの挑戦や東シナ海、南シナ海、北朝鮮などの問題に対して、協力して取り組むことを約束した」と述べた。菅首相は、日米両国が東シナ海や南シナ海での中国の力による現状変更の試みや、地域の他者に対する威圧に反対することで一致したとともに、「(日米)それぞれが中国と率直な対話を行う必要もある」ことや、その際には「普遍的価値を擁護しつつ、国際関係における安定を追求すべき」との考えでも一致したと発言した。また、菅首相は質疑応答で「台湾海峡の平和と安定の重要性については日米間で一致しており、今回あらためてこのことを確認した。また、新疆ウイグル地区の状況についても、わが国の立場や取り組みについてバイデン大統領に説明し、理解を得られたと、このように考えている」と答えた。
バイデン大統領は、日米両国が共有する安全と繁栄のためには21世紀にふさわしい新たなかたちの協力が必要だとして、「日米競争力・強靭(きょうじん)性(CoRe)パートナーシップ」を立ち上げたことを明らかにした。このパートナーシップは、(1)競争力およびイノベーション、(2)新型コロナウイルス対策、(3)気候変動やクリーンエネルギーなどに焦点を当てるとしており、競争力を維持・強化する技術への投資や保護を確実に行うために、安全で信頼性の高い第5世代移動通信システム(5G)の推進から、半導体のような重要な産業分野のサプライチェーンに関する協力の拡大や、人工知能(AI)、ゲノム解析、量子コンピューティングなどの分野での共同研究の推進まで、さまざまな分野で協力していくとしている。
菅首相は気候変動について、4月22〜23日に米国が主催する気候サミットをはじめ、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)や、その先に向けて「日米で世界の脱炭素をリードしていくことを確認した」と述べた。また、パリ協定の実施やクリーンエネルギー技術、途上国における脱炭素化促進などでの協力を一層強化していくために、「野心、脱炭素化およびクリーンエネルギーに関する日米気候パートナーシップ」を立ち上げたことを明らかにした。
日米首脳会談の結果を受けて、両国は同日、首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」を発表した。菅首相は共同記者会見の中でこの声明について、「今後の日米同盟の羅針盤となるものであり、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた日米両国の結束を力強く示すものである」とその意義を強調した。

 

●日米首脳共同声明で「台湾海峡の平和と安定」を明記 4/19
ジョー・バイデン米国大統領と菅義偉首相との4月16日の日米首脳会談の結果を受けて、両国は同日、首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」を発表した。菅首相は共同記者会見でこの声明について、「今後の日米同盟の羅針盤となるものであり、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた日米両国の結束を力強く示すものである」とその意義を強調している。
共同声明の中で、両首脳は「消え去ることのない日米同盟、普遍的価値および共通の原則に基づく地域およびグローバルな秩序に対するルールに基づくアプローチ、さらには、これらの目標を共有する全ての人々との協力に改めてコミットする」とし、日米同盟の一層の強化や、中国からの挑戦への連携、日米競争力・強靭(きょうじん)性(コア)パートナーシップの立ち上げなどで合意している。
日米同盟の強化策として、日本は自らの防衛力を強化し、米国は日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認している。また、両国は「尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対」とし、抑止力や対処力の強化、サイバーや宇宙を含む全ての領域を横断する防衛協力の深化、さらに、拡大抑止の強化にコミットするとしている。
中国に関して、両首脳は「ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有」した上で、両国は「東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対」し、「南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張および活動への反対」をあらためて表明した。また、台湾海峡に関し「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」との一文を明記した。日米首脳声明で台湾海峡が明記されるのは1972年の日中国交正常化前の1969年11月の共同声明以来となる。さらに、香港や新疆ウイグル自治区における人権状況について「深刻な懸念を共有する」としながらも、両国は「中国との率直な対話の重要性を認識」するとともに、直接懸念を伝達していく意図をあらためて表明している。
両首脳は、両国が共有する安全と繁栄のためには21世紀にふさわしい新たなかたちの協力が必要として、「日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ」を立ち上げた。このパートナーシップは、(1)競争力およびイノベーション、(2)新型コロナウイルス感染症対策、国際保健、健康安全保障、(3)気候変動、クリーンエネルギー、グリーン成長・復興に焦点を当てている。
競争力およびイノベーションでは、安全で信頼性の高い第5世代移動通信システム(5G)の安全性や開放性へのコミットメントから、半導体を含む機微なサプライチェーンについての連携や、生命科学、人工知能(AI)、量子科学、民生宇宙分野での研究および技術開発における協力など、さまざまな分野で協力していくとしている。
気候変動については、両国は、世界の気温上昇を摂氏1.5度までに制限する努力や2030年までに確固たる気候行動を取ることにコミットしている。さらに、両首脳は「日米気候パートナーシップ」を立ち上げ、(1)パリ協定の実施と2030年目標/国が決定する貢献(NDC)の達成、(2)クリーンエネルギー技術の開発、普及およびイノベーション、(3)各国、特にインド太平洋におけるその他の国における脱炭素化を支援する取り組みを行っていくとしている。
新型コロナウイルス対策として、両国は、グローバルな新型コロナウイルスワクチンの供給および製造のニーズに関して協力するとともに、次のパンデミックに備え、感染症の発生を予防・探知・対処するための全ての国の能力を構築するために両国および多国間で協働するとしている。

 

●日米首脳会談 結束誇示も開けぬ展望 4/19
菅義偉首相が、バイデン米大統領と初めて対面で会談した。
中国が軍事圧力を強める台湾情勢を巡り、共同声明に「平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記した。
台湾に言及したのは1969年の佐藤栄作・ニクソン会談以来という。中国は「強烈な不満と断固とした反対」を表明している。
中国は南シナ海で一方的に領有権を主張する。東シナ海では沖縄県尖閣諸島を自国領とし、日本領海への侵入を続けている。
台湾の防空識別圏には軍機を繰り返し進入させている。台湾海峡を米中の軍艦が航行し、衝突の懸念が高まっている。
その中国を「唯一の競争相手」とする米国は、台湾との距離を縮める。日本にとって中国は最大の貿易相手だ。温度差もある日米が対中けん制でどこまで歩調を合わせるかが、会談の焦点だった。
両首脳は、日米安全保障条約に基づく米国による防衛義務を、尖閣諸島に適用すると改めて確認した。大統領は「日本の安全を鉄壁で守る」とも明言した。
バイデン氏が迎える初めての外国首脳となり、強固な結束を示すと意気込んでいた菅首相には「成果」だったろう。
中国との溝は深まる。日米は、半導体やレアアース(希土類)の供給網構築に向けた連携、通信や人工知能といった先端技術の共同研究でも合意した。米側には、こうした分野でも台頭する中国を締め出す狙いがある。
コロナ禍にあって日本の対中貿易の比重は増し、疲弊する産業を支えている。対日姿勢を硬化させつつある中国が、経済制裁に動かないとも限らない。
首相は会談で「日本の防衛力強化への決意」を示している。台湾有事を念頭に置く米国には、防衛費倍増や中距離ミサイル配備を日本に求める声がある。
いまでさえ政府は、議論もないまま南西諸島の軍備拡充を強行している。首相の「決意」は何を意図するのか。中国に軍事力で対抗すれば、危機の最前線にさらされるのは南西諸島の人々だ。
香港や新疆ウイグル自治区への人権弾圧や海洋進出に抗議し、中国に国際社会から孤立する無益を説くのは重要だ。それも、外交によらなくてはならない。
共同声明を首相は、日米関係の「羅針盤となる」と誇った。対立激化を避けるよう米国に意見できないのなら、両大国に揺さぶられる現状は打開できない。 

 

●心ここにあらず? 菅首相「不在」の日米首脳会談 4/19
バイデン米大統領が迎えた初の外国首脳というキャッチフレーズで、日米首脳会談が16日、ワシントンで行われた。菅義偉首相とバイデン氏は強固な日米同盟をうたいあげた。
ただ、発表された日米首脳共同声明と、ちょうど1カ月前の3月16日に発表された日米の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)共同声明とを比べ、日米双方の関係者の証言をたどると、台湾問題と人権問題を巡る日本側のまずい対応が浮かび上がった。本当に菅首相はワシントンを訪れたのだろうか、と言いたくなるほどだ。
まず、台湾問題。2プラス2共同声明は「(日米の)閣僚は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した」とし、首脳共同声明は「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とした。
このうち、2プラス2の声明だが、4月5日付のコラム〈「台湾有事」で不戦の誓いが吹っ飛ぶ? 運命の決断、誰が決めたのか〉で伝えたとおり、日米ともに全く争うこともなく、すんなり記載が決まった。菅首相ら首相官邸も、この表現に異議を唱えなかった。
ところが、中国が猛烈に反発した。王毅外相は5日の日中外相電話会談で、米国を念頭に「一部の偏見を持った国にあおられないよう望む」と主張。12日には、中国軍戦闘機などのべ25機が台湾の防空識別圏に進入した。
これに対し、日本政府内では、2プラス2声明について、「日本が台湾有事に介入する意思を示したという意味ではない」(政府関係者の1人)として、当惑する雰囲気が広がった。そこで、首脳共同声明には、過去に何度も日本政府が使ってきた「両岸問題の平和的解決を促す」という言葉を追加したという。
次に、人権問題。2プラス2共同声明は「(日米の)閣僚は、香港及び新疆ウイグル自治区の人権状況について深刻な懸念を共有した」とした。首脳共同声明も「日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する」とした。全くといって良い同じ表現なので、一見何も問題がないように見えるが、実はそうでもない。
日米の複数の関係筋によれば、2プラス2共同声明でこの文言を入れるように迫ったのは、米国ではなく、日本だったという。米国側はむしろ、「安全保障文書なのだから、人権に関する記述は要らないのではないか」と指摘したが、日本は強硬に譲らず、そのまま盛り込まれたという。
これについては、背景に自民党外交部会への配慮があったようだ。自民党外交部会は2月に人権外交プロジェクトチーム(PT)を立ち上げ、中国やミャンマーの人権問題などで、日本政府のより強硬な対応を求めている。2プラス2共同声明に人権を巡る記述を盛り込むことについて、首相官邸はやはり異論を唱えなかったという。首脳共同声明も、2プラス2共同声明の表現をそのまま使った。
台湾問題も人権問題も、日本が無視して良い問題ではない。ただ、政治の強いリーダーシップなしに、生半可な覚悟で突っ込めば、大やけどをする非常に難しい問題でもある。
日米は今年中に、もう一度2プラス2を開くことで合意している。そこでは、具体的な成果を出さなければならない。菅首相は日米首脳共同声明で「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」と約束してしまった。
でも、実態は何も進んでいない。安倍晋三首相(当時)は昨年9月、「ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針」を年内に定めるよう求める談話を発表したが、方針は決まっていない。
複数の政府関係者は「本来は、2013年の国家安全保障戦略を改定し、日米防衛協力の指針(ガイドライン)も改定し、防衛計画の大綱をも改定しなければいけない。何も動いていないのに、2プラス2で打撃力や抑止力の強化をうたって良いものだろうか」と語る。
人権問題もしかり。例えば、日本は北朝鮮による日本人拉致問題について欧米社会に「深刻な人権問題だ」と訴えてきたが、北朝鮮に住む人々の人権問題を取り上げたことはほとんどない。日本には、欧米のように、人権を理由にした制裁を実施する根拠法もない。
中国やミャンマーの問題を機会に、人権問題への関心が高まるのは大いに結構だが、人権外交は「善か悪かという議論になりやすい。外交的な妥協が難しく、対立を逆に深める危険性も帯びている」(政府関係者の1人)。人権問題への信念もなく、やみくもに「中国憎し」や「愛国者としてのアピール」のための材料探しで人権問題を扱うと、中途半端な結果を招くことになりかねない。
むしろ、米国は「全体主義の中国対民主主義の米国」という構図をつくるため、人権問題をアピールしたい。日本が人権問題にのめり込めば、米国は次は人権に基づく制裁措置などを求めてくるかもしれない。今の首相官邸に、中国による経済的なハラスメントに耐えて、人権問題をやり抜く覚悟ができているようには見えない。
菅首相は帰国後、すぐに国会で日米首脳会談の成果を報告する。
日米関係筋によれば、首相は今回の訪米日程の間、政治家としての人生や日本経済などを語るときは雄弁だったが、外交案件になると、トーキングポイント(応答要領)から目を離すことがなかったという。菅首相は、自分がいかに重大な話し合いをしてきたのか、本当に理解できているのだろうか。
帰国した瞬間、菅首相の頭のなかは、新型コロナウイルス対策や東京夏季五輪の開催問題、4月末の補欠選挙、衆院解散などの問題で一杯になるはずだ。
政府関係者の1人は「菅政権のポートフォリオに、果たして外交が入っていると言えるだろうか」と心配そうに話した。 

 

●ブーラ・ファイザー社CEOとの電話会談等についての会見 4/19
(ブーラ・ファイザー社CEOとの電話会談について)
米国にて、ファイザーのCEOと電話会談を行いました。そして、9月までに我が国の対象者に対して確実にワクチンを供給できるよう、追加供給を要請しました。CEOからは、協議を迅速に進めたい、そういう話がありました。9月までに供給される、そうしたことにめどが立ったと、このように考えています。
(日米首脳会談の成果について)
成果は日米の共同声明で出した内容であります。そして、私自身、バイデン大統領と個人的な信頼関係を構築することができたと思っています。そして、米国そのものがインド太平洋にコミットする、そうしたことも成果だったと思います。
(ミャンマーにおいて邦人ジャーナリストが拘束されたとの報道があることについて)
現地大使館で全力で事実関係を確認中であります。邦人保護には万全を尽くします。
(新型コロナウイルスの感染状況及び感染対策について)
大阪については極めて危機感を持って対応しております。国と大阪府で病床確保に全力で取り組んでいるところであります。いずれにしろ、今、まん延防止等重点措置中でありますので、そうした状況を見ながら大阪府とも相談して、対応していきたいと思います。 

 

 

●菅首相「9月までに供給」 ファイザーワクチン全員分 4/19
菅義偉首相は19日、米製薬大手ファイザー社首脳との電話会談で新型コロナウイルスワクチンの追加供給に実質合意したことを巡り、16歳以上の国民全員分に関し「9月までに供給されるめどが立った」と表明した。官邸で記者団の質問に答えた。ワクチン接種への取り組み強化をアピールした形だ。具体的な数量や契約内容には触れなかった。
米ワシントンでの日米首脳会談の成果については「バイデン大統領と個人的な信頼関係を構築することができた」と強調した。 

 

●周到準備の日米首脳会談で菅政権が背負う「重い宿題」 4/19 
菅義偉首相とバイデン米大統領による初の対面での日米首脳会談は“成功”で終わった。両首脳ともに外交当局同士による事前のよく練られたシナリオ通りに、地味ながら堅実に対応したようだ。まさに「周到準備の首脳会談」だった。予測可能性のないトランプ前大統領の際の「出たとこ勝負の首脳会談」とは予想通り様変わりだ。
日米ともに「トップダウン」から「ボトムアップ」に変わった。事前に見通した前稿「日米首脳会談へ、『人権』対『グリーン』の駆け引き」で首脳会談の全体像を指摘したが、大方は予想通りの展開だった。
ポイントはこうだ。
(1)米国は対中国で日本に腰を入れた対応を求めて、日米首脳会談を対中戦略の重要な場と位置付けている。
(2)3月の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)はその前哨戦だった。
(3)「台湾」と「人権」が菅政権の対中姿勢を問う“踏み絵”としてメインテーマとなる。
そしてさらに付け加えたのが、「米国から難題が投げかけられたとき、日本は様々な分野で日米の協力案件を用意して、そこだけに焦点が当たるのを避けてきた。それがこれまでの対米外交の常とう手段だ」ということだ。
今回の場合、日本が二の足を踏む「台湾」と「人権」にばかり焦点が当たるのを避けて、日本側で周到に用意されたのが、「気候パートナーシップ」と「競争力・強靭(きょうじん)性パートナーシップ」だ。米国側も受け入れそうなものを仕立てたものだ。その詳細は省くが、この書きぶりを見ると、その原案、たたき台は日本側が詳細に書き込んで用意したことが私の経験から一見して分かる。
日本のメディアの事前報道でも、これらが報じられていたが、必ずしも米国の関心のプライオリティと合致しているわけではない。日本では、バイデン政権が気候変動問題を重視していることから、あたかもこれが日米のメインテーマの一つであるかのように報道されるが、そうではない。米国の報道を見ても米国の世論の関心は気候変動には向けられていないことがわかる。
本丸は「台湾」と「人権」
あくまでも今のバイデン政権にとっての「本丸」は台湾と人権であった。米国にとって今回の首脳会談は「中国対抗のための首脳会談」だ。その対中政策の中核であるにもかかわらず、日本側の腰が引けているからこそ、よく言えば「すり合わせする」、悪く言えば「追い込む」。そこに今回の首脳会談の目的があった。
3月の2プラス2から周到に仕掛けていくシナリオは、さすがに実務重視のバイデン政権の真骨頂だ。米国家安全保障会議(NSC)でインド太平洋調整官に任命されたカート・キャンベル氏が仕切ったようだ。
仕上がった共同声明だけを表面的に読んでも、そうした本質は見えてこない。当然のことながら、事前準備で最後まで共同声明の文言づくりで難航したのが、この2つの本丸案件だった。
台湾問題では、米国は2プラス2の共同文書で日本に飲ませた「台湾海峡の平和と安定の重要性」という文言をさらに一歩踏み込んで強めようとした。他方、日本は中国の反発を恐れて2プラス2どまりの表現で踏みとどまろうとした。そうした綱引きの妥協の産物が最終の文言になった。
人権もそうだ。2プラス2の共同文書の「深刻な懸念の共有」の文言もさらに踏み込むことを米国は要求したが、日本は抵抗し切ったようだ。欧米諸国が制裁に踏み出しているのとは一線を画して、伝統的な“対話路線”にこだわった。
今回の共同声明の文言では米国は妥協したが、これで終わりではない。忘れてはならないのが人権重視の欧州の存在だ。6月の英国での主要7カ国首脳会議(G7サミット)において日本は孤立しかねない。
重い宿題にどう対応するか
とりあえず共同声明の文言は合意したが、問題はこれからだ。ある意味、首脳会談はキックオフだ。菅首相はこの2つの問題で大きな宿題を背負って日本に帰国した。
台湾問題では日本が日米での抑止力強化のために主体的に何ができるかが問われる。具体論として、中距離ミサイルの配備問題を巡る議論は避けて通れないだろう。さらにもっと大事なのは、台湾有事において後方支援だけにとどまらず、限定的な集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に当たるのかどうかといった議論も不可避の重いテーマだ。
人権では共同声明は「深刻な懸念」で済ませても、何らかの“行動”あるいは“行動の用意”も必要になってこよう。国内では親中派の反対で国会決議もできない状況だ。国会決議は日米首脳会談で米国に押し込まれてから行う予定のようだ。
制裁の根拠となる法律がないことを理由にしているが、欧米からは言い逃れにすぎないと見られている。発動するかどうかは別にして、せめて“行動の用意”ぐらいはあるべきではないか。「人権侵害制裁法」の制定を目指した超党派の議員連盟も本気度が問われる。
日本企業も他人事では済まされない
さらにもう一つの深刻な問題は企業の行動も問われようとしていることだ。米国は強制労働で作られた製品の排除を目指した通商政策を考えている。欧州も企業に人権問題を厳しくチェックすることを義務付けようとしている。
米欧が共鳴する中で、日本企業も他人事では済まされない。他方でこうした動きに危機感を抱いた中国は反発して、企業に対して不買運動などでけん制している。日本企業にとってまさに「前門の虎、後門の狼(おおかみ)」の状況だ。
中国は早速、「強烈な不満と断固反対を表明する」との談話を出して反発した。台湾問題も香港・新疆ウイグル自治区の人権問題も中国にとって核心的利益としているので、ある意味当然だろう。しかし中国の反発は織り込み済みだ。3月の2プラス2の共同文書に盛り込んだ段階で、中国の反発の瀬踏みはされている。むしろ、今の中国に対しては反発がないような共同声明では意味がない。
今後、中国は日本に対して、硬軟織り交ぜて揺さぶりをかけてくるだろう。中国からは日本は揺さぶりやすい相手と見られていても仕方がない。中国ビジネスを人質にとられた産業界や親中派の政治家への働きかけも強まろう。逆にいくつか見せしめ的にターゲットとされる企業が出てくる可能性さえある。
そうした揺さぶりに腰が定まった対応ができるかどうかだ。ここまで対中姿勢を鮮明にさせられたことがなかっただけに、これから菅政権は正念場を迎えことになる。

追記:前稿の追記でこう指摘した
「日米首脳会談が直前になって1週間延期という異例の事態となった。表向きは「コロナ対応など準備に万全を期するため」と日本政府は説明するが、額面通りに受け取る者はいない。(中略)ワシントンの事情通の間では、ケリー米大統領特使(気候変動問題担当)の外遊日程との関係がささやかれている。米国主催の気候変動問題サミットの根回しに奔走しているケリー特使の訪中説も浮上している」
これも推測通りだった。恐らく共同声明に対する中国の反発が当然予想されるので、ケリー特使の訪中前に共同声明が出ることを避けるように米側でスケジュール調整された結果だろう。 
 
 

 

●菅首相の日米首脳会談「大成功」とはほど遠い理由  4/20 
本当に「大成功」だったのか
菅義偉首相が4月15日から18日まで訪米の途につき、16日にジョー・バイデン米大統領と日米首脳会談を行った。その模様が先週末から日本で大々的に報じられ、訪米が大成功したかのような雰囲気に包まれている。
果たして、本当にそうだろうか? 首脳会談後に発表された「日米首脳共同声明」をベースにして、今回の日米首脳会談を振り返ってみたい。以下、〈〉内は、共同声明の抜粋である。
〈 ジョセフ・バイデン大統領は、同大統領の政権下で初めて米国を訪問する外国首脳となる菅義偉総理大臣を歓迎でき、光栄に思う 〉
「バイデン大統領が就任して初めての対面での首脳会談」という形容句は、菅首相がたびたび誇っていたし、日本のメディアも繰り返し報じていた。
実際、「初めての対面での首脳会談」とは、いかほどのものなのだろうか? 日本が「初めて」という「名」にこだわったために、アメリカ側に「実」を取られたということはないのか? そもそも、なぜ日本が「1番目」だったかと言うことを考えてみれば、それはバイデン大統領が、日本や菅首相のことが好きだからではないく、主に二つの事由によるものと推察される。すなわち第一に、中国の脅威が待ったなしとなっているアメリカは、日本を中国の脅威に対抗する橋頭保にしたいからである。
第二は、「1番目」を必死に争うライバルが、日本の他にいなかったからである。正直言って「1番目」にこだわるのは日本だけで、他の国々は「何番目か」よりも、「どんな内容の会談を行うか」に重点を置く。当たり前のことだ。
ところが、日本だけは昔から、アメリカで新たな大統領が就任するたびに、「1番目に首脳会談を行うこと」にしゃかりきになる。ある元駐米日本大使は、私にこう嘆息していた。
「自分の駐米大使としての最大のミッションが、就任した大統領を一番目に日本の首相に会わせることだった。大統領選の最中から、このミッションにほぼかかりきりとなった。ワシントンの日本大使館は、このミッションのためにあると言っても過言ではなかった。
これは、ワシントンの外交官社会から見たら、かなり異常なことだった。だが、東京の首相官邸がそのことに政権の命運を懸けているので、致し方のないことだった」
ミサイル配備先の「第1候補」に
過去に一度、日本がこの「1番競争」に敗れたことがあった。
2001年1月に、ジョージ・W・ブッシュJr.大統領が誕生した時、突如として韓国がこの「1番競争」に参戦。金大中大統領が、森喜朗首相よりも11日だけ先に、ブッシュ新大統領と首脳会談を行ってしまったのだ(金大統領が3月8日で森首相が3月19日)。失意の森首相は、訪米から1ヵ月後に辞任してしまった。
そのため、2009年1月に、バラク・オバマ大統領が就任した時は、当時の麻生太郎首相は「1番競争」に必死になった。その結果、同年2月24日に晴れて「1番」をゲットしたのだった。麻生首相は有頂天だったが、その半年後には、総選挙で歴史的大敗を喫し、自らの政権が吹っ飛んだどころか、自民党も下野してしまった。
2017年1月に、ドナルド・トランプ大統領が就任した時には、何と安倍晋三首相は、就任まで待ちきれず、2016年11月の大統領選からわずか9日後の11月17日に、トランプ「大統領当選者」の元に馳せ参じてしまった。前代未聞の「フライイング1番」である。その後、トランプ大統領が就任して20日後の2月10日にも、改めて日米首脳会談を開いている。
そして、今回の菅首相だ。再度問うが、「初めての首脳会談」に、いかほどの意味があるのか? もしそれほど重要な意味があるのだったら、ヨーロッパを始め、世界中の同盟国が「1番競争」に参戦するはずではないか。
それよりも、日本が「初めて」という「名」にこだわったため、アメリカ側に「実」を取られたのではないか? 例えば、共同声明の以下のくだりである。
〈 2021年3月の日米安全保障協議委員会の共同発表を全面的に支持した。日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した。米国は、核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する揺るぎない支持を改めて表明した 〉
アメリカ軍は今年3月1日、台頭する中国人民解放軍に対抗するため、「PDI」(太平洋抑止構想)の方針を打ち出し、今後6年間で270億ドルもの予算を議会に要求した。このPDIの「目玉」は、日本、台湾、フィリピン、大スンダ列島と続く「第1列島線」に沿って、中国を射程に収める中距離弾道ミサイルを配備することである。そして配備先の「第1候補」に挙がっているのが、日本なのだ。
3月16日、アントニー・ブリンケン米国務長官と、ロイド・オースティン国防長官が来日し、日米「2+2」(安全保障協議委員会)が東京で開かれた。この時も菅政権は、「新国務長官と新国防長官が、初めての外遊先に日本を選んでくれた」と強調し、日本のマスコミも、日本がアメリカにとって特別な存在であるかのように報じた。
だが、中国の脅威を前に、「日本へのミサイル配備」という大事なミッションを担っていたからこそ、両長官も来日したのだ。防衛関係者が語る。
「先月の『2+2』では、当然ながらPDIについての議論を行った。日本側は拒否するのでなく、『今秋までに平和の祭典(オリンピック・パラリンピック)と総選挙を控えており、ミサイル話は総選挙後にしてほしい』と願い出た。それで、総選挙後の年末までにもう一度、日米で『2+2』を開くことになった」
このように、日本にミサイル配備するというアメリカからのプレッシャーは強まってきており、そんな中での先週のホワイトハウスでの「1番目の会談」だったのである。そして共同声明にあるように、「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」。
アメリカは「尖閣」を守らない
さらに、共同声明はこう続く。
〈 米国はまた、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認した。日米両国は共に、尖閣諸島に対する日本の施政を損おうとするいかなる一方的な行動にも反対する 〉
これは、いわゆる「尖閣条項」と言われるものだが、2014年4月にオバマ大統領が来日した際、共同記者会見で述べた発言がベースとなっている。一見すると、近未来に中国人民解放軍が尖閣奪取の暴挙に出た際、世界最強の頼もしいアメリカ軍が防衛してくれそうに思える。
だが、アメリカ側の解釈では、必ずしもそうではない。なぜなら、アメリカ政府は尖閣諸島の主権が日本にあることを認めていないからだ。
日米安保第5条の該当箇所の条文は、以下の通りだ。
〈 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する 〉
すなわち、尖閣諸島の主権が日本にあるとアメリカが認めていないため、尖閣諸島が中国側に奪われて「日本国の施政の下」になくなれば、アメリカ側は武力行使に出る義務がないのである。私には、「無人島(尖閣諸島)くらい自衛隊の力で守れ」と、アメリカが日本を突き放しているように思える。
実際、今年2月に、バイデン政権の態度を象徴するような出来事が起こっている。2月23日、米国防総省のジョン・カービー報道官が会見で、「尖閣の主権について、われわれは日本を明確に支持する」と、踏み込んだ発言を行った。この発言に、日本政府は色めき立った。
だが、それからわずか3日後の2月26日、カービー報道官は一転して、悲しい発表を行ったのだ。
「私のミスで、混乱を引き起こしてしまった。そのことをお詫びしたい。尖閣に関して、アメリカ政府の従来の政策に変更はない」
何のことはない。中国政府のアメリカ側への猛抗議によって、日本は「3日天下」に終わったのである。
「台湾」ではなくて「台湾海峡」
共同声明では、尖閣諸島の先にある台湾についても言及している。
これもまた、菅政権の巧みな「誘導」によって、日本メディアは「52年ぶりに日米共同声明で台湾を明記」と、大仰に報じた。日米共同声明に台湾が明記されたのは、1969年に佐藤栄作首相とリチャード・ニクソン大統領の日米首脳会談後に出された共同声明以来なのだという。
該当する箇所の記述は、以下の通りである。
〈 日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す 〉
このように、言及しているのは「台湾」ではなくて「台湾海峡」である。しかも、アメリカ軍も自衛隊も、「台湾を防衛する」とは宣言していない。あくまでも「海峡の平和と安定を強調」しているだけであり、「両岸関係の平和的解決を促す」と言っているだけなのである。
あまり同業の批判はしたくないが、日本の大手メディアの報道は最近、日本政府に誘導されすぎである。民主国家における報道とは本来、自主独立、「十人(十社)十色」であって然るべきなのに、日本の大手メディアの報道たるや、まるで金太郎飴のように「政府の意向」を垂れ流すのだ。
ちなみに、NHK他が報じた「1969年の日米共同声明」だが、その2年後、ニクソン大統領は「盟友」のはずの佐藤首相を裏切って、日米と国交のなかった中国と手を組んでしまった。日本政府にとって青天の霹靂だった「ニクソン・ショック」である。
今回もバイデン大統領は、ジョン・ケリー特使を、日米首脳会談に合わせて上海に派遣している。4月13日には、李克強首相がアメリカの主要企業のCEOたちと、オンライン会議を行っている。バイデン政権の対中政策は、「競争、対決、協調」の3本柱であることを忘れてはならない。
「人権」で中国をつつきたくない
次へ進もう。この台湾海峡の記述に続いて、こう記されている。
〈 日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する 〉
この一文に関して、日本の首相官邸関係者に確認すると、こう答えた。
「できれば日本側としては、香港と新疆ウイグル自治区の人権問題について、共同宣言で明記したくなかった。なぜなら、これらは日本が中国に直接言えばいいことだし、香港と新疆ウイグル自治区で活動する日系企業は数多くあり、彼らが悪影響を受けるリスクがあるからだ。
中国という国は、アメリカと第三国が揃って中国に損害を与えた場合、アメリカではなく第三国の方を見せしめに叩く特徴がある。2016年にTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を配備した韓国、2018年の年末にファーウェイの副会長(孟晩舟CFO)を逮捕したカナダ、昨年に中国のコロナ隠蔽を批判したオーストラリアなど、いくつもの『前例』がある。
そのため、『人権』で中国をつつきたくなかった。だが、バイデン政権側はこう主張した。
『日本が最優先課題とする北朝鮮の拉致問題は、人権問題ではないか。日本は拉致問題に関してだけ、拳を振り上げ、かつアメリカにも賛同を求めておいて、中国の人権問題に対しては目をつむるつもりなのか』
そう言われると、日本としても、香港と新疆ウイグル自治区の人権問題に言及せざるを得なかった。総選挙を目前に控えて、拉致問題を明記しないことによる日本国内の世論の反発の方が恐いからだ。
ただ、その後に中国をフォローする一文を挿入してもらった。
『日米両国は、中国との率直な対話の重要性を認識するとともに、直接懸念を伝達していく意図を改めて表明し、共通の利益を有する分野に関し、中国と協働する必要性を認識した』」
ミャンマー問題にも力を入れず
続いて、韓国に対する扱いに続いて、共同声明にこんな一文が入っている。
〈 日米両国はまた、韓国との三か国協力が我々共通の安全及び繁栄にとり不可欠であることにつき一致した 〉
これについても、前出の首相官邸関係者に聞いた。
「バイデン大統領及びその側近たちは、口を酸っぱくしてわれわれに言ってくる。『いまの文在寅政権に問題が多いことは認めるが、われわれの敵は韓国ではなく、中国なんだ。頼むから韓国とうまくやってくれ』と。そのことを示すために、アメリカ側の要望で、この一文が入った」
韓国に続き、2月1日に軍事クーデターが起こり、大混乱に陥っているミャンマーについても共同声明で言及した。
〈 日米両国は、ミャンマー国軍及び警察による市民への暴力を断固として非難し、暴力の即時停止、被拘束者の解放及び民主主義への早期回復を強く求めるための行動を継続することにコミットする 〉
一応、「断固として非難し」とは述べているが、ミャンマーの国軍に響く文章とは思えない。
日本はこれまで長く、「NLD(アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる国民民主連盟)にも国軍にも、世界のどの国より太いパイプがある」と誇ってきた。だが2月1日以降、無為無策が続いているのは周知の通りだ。私は先々週、このコラムで1万字にも及ぶ日本政府批判を書いた。
「2大民主国家」を自任する日米の共同声明が、ミャンマーに響かないのは寂しい限りである。日米の支援に期待していた5700万ミャンマー人は、「日米はもう頼りにならない」とショックを受けたのではないだろうか。
「バイデン政権側は、スー・チー政権が2017年以降、ロヒンギャ難民を迫害していたことを重く受けとめていて、『NLDも国軍も、どっちもどっちでしょう』という認識なのだ。そのため、国軍に経済制裁をかけたものの、いま一つミャンマー問題に力が入らない。その結果、このような表現に落ち着いた」(同前)
東京オリンピック参加は確約せず
最後は、東京オリンピック・パラリンピックの開催問題である。そのことは、共同声明のおしまいに、付け足しのようにこう記されていた。
〈 バイデン大統領は、今夏、安全・安心なオリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅総理の努力を支持する。両首脳は、東京大会に向けて練習に励み、オリンピック精神を最も良く受け継ぐ形で競技に参加する日米両国の選手達を誇りに思う旨表明した 〉
加藤勝信官房長官が、「菅総理大臣が来月前半にも訪米し、 アメリカのバイデン大統領と対面での首脳会談を行う予定」と発表したのは、3月12日のことだった。その会見を受けて、首相官邸関係者に聞くと、こう述べていた。
「菅総理訪米の最大の目標が、アメリカの東京オリンピック・パラリンピック参加を取りつけることだ。中国の参加はすでに取りつけており、これでアメリカさえ参加を表明してくれれば、7月の開催は決まったも同然だ」
ところが共同声明では、バイデン大統領が支持したのは、「アメリカの参加」ではなく「菅総理の努力」だった。そして取ってつけたように、「日米両国の選手達を誇りに思う」などと記している。
アメリカがオリンピックに参加するには、まず各種目のアメリカ代表選考会が開かれなければならない。2016年8月5日に開幕したリオデジャネイロ五輪の時には、全米水泳選手権が同年6月26日から、全米陸上選手権が同年7月3日から開かれ、それぞれ代表選手を決めている。
今年の東京オリンピックの開会式は7月23日に行うとしているので、6月にはアメリカの代表選考会を開かねばならない。全米陸上選手権は、昨年中止になった時点で、今年6月18日に開催すると発表している。だが実際に開かれるかどうかは、コロナウイルスの状況次第だろう。
菅首相は、日米首脳会談後の共同記者会見で、共同通信記者から「東京開催へ向けてアメリカの参加は取りつけたのか?」と聞かれて、こう答えている。
「私から、今年の夏、世界の団結の象徴として、東京オリンピック・パラリンピック大会開催を実現する決意を述べて、バイデン大統領からは、改めてご支持をいただきました。わが国としては、引き続き、今年の夏の東京大会を実現すべく、しっかり準備を進めていきます」
このように、「自分が開催の決意を述べて、それに対して支持をもらった」という曖昧な表現に終始したのだった。日本の関係者から漏れ伝わってくるのは、次のような話だ。
「バイデン大統領は、アメリカとしての参加を確約しなかった。『最終的には個々の選手が判断すべきことで、強制はできない』ということだった。
バイデン大統領が確約したのは、『自分は開会式には出席しない』ということだ。そこで日本側は、ハリス副大統領に開会式出席を要請した。ハリス副大統領も確約はせず、『その時の状況を見て判断したい』ということだった」
外国人記者たちからは相手にされず
おしまいに、日米首脳会談後の共同記者会見について述べておきたい。菅首相とバイデン大統領の会見は、アメリカ東部時間の4月16日午後5時5分から33分まで、28分間にわたって行われた。その内訳を示すと、以下の通りだ。
1) バイデン大統領の冒頭発言(7分40秒)
2) 菅首相の冒頭発言(11分20秒)
3) AP通信記者のアメリカの銃規制についての質問→バイデン大統領回答(3分)
4) 産経新聞記者の対中政策についての質問→菅首相回答(2分5秒)
5) ロイター通信記者のイランについての質問→バイデン大統領回答(1分40秒)
6) 共同通信記者の東京オリンピック・パラリンピックについての質問→菅首相回答(2分)
3)と5)に注目してほしいが、AP記者もロイター記者も、日米共同記者会見の場を借りて、アメリカ国内の銃規制問題や、イラン核交渉の問題を、バイデン大統領に質問しているのである。その間、菅首相はポカンとした表情で突っ立っていた。
ちなみに、米ホワイトハウスのホームページ上には、それらすべてのやりとりが英訳されて公開されている。
ところが、日本の首相官邸のホームページで確認すると、2)の冒頭の菅首相の会見しか文字起こしされていないのだ。
これは穿った見方をすれば、外国人記者たちから相手にされなかった事実を隠すためとも受け取れる。
実際、日米首脳会談直後の米CNNテレビを見ていても、メインニュースでは、バイデン大統領が銃規制について答えるシーンだけが放映されていた。おしまいに短く首脳会談を報じたが、「バイデン大統領は日本の首相との会談を利用して、中国にフォーカスしていくことを強調した」と伝えていた。
会談の直前のCNNは、ジョージ・フロイド裁判(昨年5月にミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイド氏が警官に殺された事件の裁判)一色になっていて、「菅首相訪米」のニュースはなかった。
結論として、日本が政府を挙げて必死になった「1番乗りの会談」だったが、残念ながら当のアメリカにとっては、それほど重要な会談ではなかったようである。加えて、日米関係は、アメリカにとってすでに米中関係の一部に組み込まれつつあることを再認識した。  

 

●「中国が全て」だった日米首脳会談、裏で共産党が演じた米国へ歩み寄り 4/20 
4月16日、ジョー・バイデン米大統領が、今年1月に政権発足後初めての外国首脳として日本の菅義偉首相をホワイトハウスに招き入れ、対面形式による日米首脳会談が開催された。日米同盟がこれまでとは異なる次元で重要な公共財になっていかなければならないという意思の表れである。
日米同盟を日本外交の礎に据える日本にとって、今回の菅・バイデン会談の真の外交的価値はどこにあるのか、長期的なインプリケーションの検証と総括を含め、官民の垣根を越えて取り組んでいく必要があるであろう。
今回の会談を「日本外交の勝利」と認識、宣伝する動きもあるようであるが、そう喜んでばかりもいられない。筆者は3月、米ワシントンD.C.に2週間ほど滞在し、バイデン政権、日米中関係などについて取材を試みた。今回菅首相が宿泊した、ホワイトハウスの斜め向かいに位置する迎賓館を含め、周辺には厳戒な警備が敷かれ、近づけなかった。政権移行期に顕在化した、一部有権者が暴動を起こす首都混乱リスクに備えたものだといえる。
政府関係者への取材や知識人との議論を通じて切に感じたのが、バイデン政権として、日米同盟を「対中外交の戦略的一部」だと強く捉えている現状である。バイデン大統領や、ジェイク・サリバン国家安全保障補佐官など政権中枢を担う幹部を含め、米国は台頭する中国を、米国の国家としての、建国以来の利益、安全、理念などを脅かす戦略的競争相手だと捉えており、政府、議会、シンクタンクを含め、その認識に異議を唱える勢力や声は皆無に近い。 ・・・  

 

●菅・バイデン共同会見、3つの疑問点 4/20
テーマは、「菅・バイデン共同会見、3つの疑問点」です。菅義偉首相は4月16日、ジョー・バイデン米大統領とホワイトハウスでの会談を終了した後、共同会見に臨みました。そこで、菅首相は中国、台湾、イノベーション、コロナ対策、気候変動並びにアジア系住民への差別問題などで「一致した」と繰り返しました。合計11回も「一致した」と強調したのです。一方、バイデン氏は共同会見で中国の挑戦に対して日米が連携して対抗する重要性について言及しましたが、今夏の東京オリンピック・パラリンピック競技大会及び、日本の中国に対する人権侵害制裁の立場に関して明言を避けています。そこで本稿では、共同会見での菅・バイデン両氏のパフォーマンスと内容に関する3つの疑問点を挙げます。
疑問点その1
なぜバイデン大統領は共同会見でこの夏の東京オリンピック・パラリンピック競技大会の支持を表明しなかったのか?
共同会見で菅首相は、「今年の夏、世界の団結の象徴として東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を実現する決意であることをお伝えしました」と語り、「バイデン大統領からこの決意に対する支持を改めて頂きました」と述べました。共同声明には確かに「バイデン大統領はこの夏の安全・安心な東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅首相の努力を支持する」と明記されました。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、今回の訪米で菅首相が重視していた議題のひとつであったことは間違いありません。というのは、帰国後菅氏はバイデン大統領から再度支持を得たと主張できるからです。バイデン氏は菅氏に「お土産」を持たせたと解釈できます。
ただし、バイデン大統領は共同会見で東京オリンピック・パラリンピック競技大会への強い支持を表明しませんでした。
共同会見の前日15日に行われた政府高官とメディアとの電話会議で、同高官はバイデン大統領が東京オリンピック・パラリンピック競技大会を巡る菅首相の置かれた政治状況に対して非常に神経質になっていることを明かしました。その上で、「大会開催まで数カ月あるので状況を見守ろう」と述べました。バイデン氏は東京オリンピック・パラリンピック競技大会に関する自身の発言が、菅政権の存続に影響を及ぼす可能性があると捉えており、軽々な発言をしないように控えているのです。
20年米大統領選挙を振り返ってみると、バイデン大統領はドナルド・トランプ前大統領とは異なり、支持者の参加人数を制限した小規模集会を開いて、マスク着用及びソーシャルディスタンスを義務づけていました。さらに新型コロナウイルス感染が拡大すると、ドライブイン形式の集会を開催し、参加者は拍手喝さいの代わりに、車内からクラクションを鳴らして支持表明をしました。選挙期間中、バイデン氏は「コロナ対応型選挙」に徹し、それが有権者から支持を受けました。
となると、菅氏との会談でバイデン大統領は東京オリンピック・パラリンピック競技大会に関して、かなり高いレベルの安全性の確保ができているのかを確認したとみて間違いありません。共同会見で支持を明言しなかった理由は、バイデン氏は100%確信をもっていないからです。
疑問点その2
バイデン大統領は菅首相の招待を受け入れたのか?
菅首相は3月26日の参議院予算委員会で、バイデン大統領を東京オリンピック・パラリンピック競技大会に招待する考えを示しました。この件に関しても、バイデン氏は共同会見で態度を明らかにしませんでした。
外国人記者が共同会見で菅首相に対して、「公衆衛生の専門家が日本は準備ができていないと指摘しているのに、オリンピックを進めるのは無責任ではありませんか」という厳しい質問をしました。それに対して菅氏は回答をしなかったのです。ホワイトハウスでの共同会見に不慣れな菅氏は、外国人記者はバイデン氏のみに質問をぶつけてくると思い込んでいたフシがあります。
この場面は今回の共同会見のポイントです。菅首相は明らかに東京オリンピック・パラリンピック競技大会に対する疑問を払拭する機会を逃しました。
実は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会に関する質問はホワイトハウスでの定例記者会見でも出ています。ある担当記者がジェン・サキ報道官にコロナ禍での東京オリンピック・パラリンピック競技大会へのバイデン氏招待について、「菅首相は大胆な発言(a big statement)をしたと思いませんか」と質問をしました。
この「大胆な発言」には、「よくもそのような発言をしたものだ」という否定的な意味が含まれています。つまり、コロナ禍でのバイデン招待は、「困難」ないし「失礼」と言いたのです。
バイデン氏の率直にもの言うパーソナリティを考えると、本当に東京オリンピック・パラリンピック競技大会を支持しているならば、共同会見で「強く支持する」「ヨシからの招待を受ける」と断言したはずです。共同声明の東京オリンピック・パラリンピック競技大会支持は、バイデン政権の対中国戦略においてこれから矢面に立つ菅首相に対する特別な配慮としか思えません。
疑問点その3
バイデン大統領は日本の中国に対する人権侵害制裁の立場を今後も理解するのか?
政府高官はメディアとの電話会談で、中国に対して人権侵害制裁を課さない日本に一定の理解を示しました。その理由として日中両国の経済関係の緊密さを挙げました。中国に対する人権侵害制裁に関して、日本に欧米と一緒に制裁を課すように無理に押し付けないというシグナルを発信したのです。
帝国データバンクによると、中国進出日系企業数は1万3646社(2020年1月時点)です。業種別では、製造業が5559社で全体の約4割を占めています。
仮に日本が人権制裁法の法整備を行い、欧米と共に中国に制裁を課した場合、同国は報復措置に出る公算が高いことは言うまでもありません。具体的には日本製品の不買運動、日系企業を標的にした法人税増税、入管手続や日本からの輸入品の手続における嫌がらせなど、多岐にわたる報復措置が可能です。
中国との経済関係を重視している日本は、人権問題で同国を刺激しないように注意を払っています。ただ、同盟国・友好国が束になって、中国に対して人権侵害の制裁を課してもらいたいというのが、バイデン大統領の本音です。人権はバイデン政権において内政と外交の双方の中核に位置づけられているからです。
今後、人権を最優先しないグローバル企業は消費者及び投資家から見捨てられる可能性があることを、日本企業は理解しなければなりません。世界的に人権重視の風潮が高まる中で、「人権尊重の経営」が日本企業の存続に直結するときが間近まで来ているといっても過言ではないからです。
米中の対立が先鋭化したとき、果たしてバイデン政権が日本の人権侵害制裁に対する消極的な立場に理解を示すかは予断を許しません。

 

●喜べない日米首脳会談〜不安を呼ぶバイデン大統領の「非礼」 4/20
先日行われた日米首脳会談とそれに伴う共同声明については、諸報道含め概ね高い評価が一般的であるようだ。確かに台湾・ウイグル・香港問題の明記や日本の防衛力強化など「踏み込んだ」と思われる諸点もかなりある。しかし筆者が気になるのは、菅総理訪問時にバイデン大統領(とその陣営)が見せた非礼である。果たしてその裏にはどのような思惑があるのか―
バイデン大統領の非礼
日米首脳会談について、台湾のことについて半世紀ぶりに共同声明に書き込まれたことなどを捉えて、画期的だという評価が広がっている。だが私は、今回の首脳会談をそれほど高く評価する気にはなれない。
真っ先に指摘しておかなければならないのは、バイデン政権による菅総理への数々の非礼である。
安倍総理がホワイトハウスを訪問した際には、トランプ大統領が玄関の外で出迎えていた。これは決して安倍総理が特別だったわけではなく、外交儀礼上当然のことだろう。ところが今回はバイデン大統領どころか、アメリカ政府の高官の誰も菅総理を玄関口で出迎えなかったのである。玄関に立っていたのは儀仗兵のみであった。
非礼はさらに続く。ホワイトハウスの中に入って出迎えたのは、バイデン大統領ではなく、ハリス副大統領であった。どんな事情があるにせよ、ホストが出迎えないということが許されるのだろうか。さらにハリス副大統領が菅総理の出迎えにあたって冒頭に述べたのは、菅総理に対する歓迎とねぎらいではなく、前日の夜にインディアナポリスで起こった銃乱射事件についてであった。この事件に関するメッセージをバイデン政権として出したいということがあるとしても、TPOから見てあまりに不自然だろう。この場で話すとしても、少なくとも菅総理に対する歓迎とねぎらいの言葉を掛けた後で話すべきことではないのか。
さらに、ハリス副大統領が話し始めて3分少々過ぎたところで、ジェット機の轟音が響き渡った。ホワイトハウスの室内の会話が聞こえなくなるほどの轟音が響くというのは、異常である。相当な低空飛行をし、さらに窓などを全開にしていたのではないかと思われるほど、不自然なものであった。はっきり言えば、この時間を狙ってわざわざ飛ばしたとしか思えない。仮に事前にどうしても外せない飛行計画があったとしても、あるいは緊急にどうしても飛ばさざるをえない事態が発生したとしても、少なくとも出迎える時間には飛ばさないとか、飛ぶ経路を1キロずらすくらいは普通にできたことだろう。
日本側が強く求めたとされる菅総理とバイデン大統領の夕食会は開かれず、ランチもハンバーガー1個だけというものであった。しかもランチの間もマスクの着用、しかもN95マスクの着用まで求められた。息の苦しいN95マスクは、高齢の両首脳にはとりわけ負担の大きなものだったと思う。あれで本当に親密な会話ができたとは、正直言って信じがたい。
そもそも菅総理は日本出国前にもアメリカ到着直後にもPCR検査の陰性が確認されている。さらに菅総理もバイデン大統領もどちらもファイザー製のワクチンの2回接種を完了している。本来バイデン政権としてはマスクを外して、ファイザー製のワクチンの有効性を強くアピールする方が自然なのに、そうはしなかった。「感染予防」を建前にして、夕食会を開かないことの方が優先されたと考えざるをえない。
さらに菅総理の訪米2日目に、バイデン大統領は地元のデラウェア州のウィルミントンに戻ってゴルフに出かけた。3ヶ月ぶりで大統領就任後初めてだという。だが、ゴルフが趣味である菅総理がその場には招かれていない。日本の総理が来ている中で、日本の総理を無視するかのように遊びに出かけたわけだ。トランプ・安倍時代とは明らかに違う、日本に対する冷遇ぶりを示したと言えるだろう。
菅総理はファイザー製薬のブーラCEOとワシントンでの対面会談を模索し、ガッチリ握手をしてワクチンの追加供給の確約を得たという絵を写真に収めたいと考えていたようだ。だが、これについてもアメリカ政府は日本政府に対してできる限り協力的な姿勢を見せたとは、とてもではないが言えないだろう。対面会談は実現せず、電話会談のみになってしまったのは報道されているとおりだ。9月までの追加供給の確約が取れたというのは、菅総理の話を聞いている限りでは確証が持てないものであった。ブーラCEOは「協議を迅速に進めたい」としか述べていないからである。
米国・対中政策の三重構造
こうした一連の菅総理に対する非礼からすると、アメリカが対中国政策で日本との連携を強力に推し進めようという意図のもとで今回の首脳会談を開いているとは、私にはとても考えられない。
日米共同声明はA4で6ページにもなる異例の長い文書となり、中国の膨張を抑止するために日米の同盟関係の強化が謳われている。文面上とあまりに不釣り合いな菅総理の冷遇はどのように考えればいいのだろう。
私はアメリカの対中国政策は三重構造で理解すべきだと考えている。まず第一に理解すべきは、バイデン政権と中国との深い関係である。バイデン大統領と習近平は10年近くになる個人的な関係があり、この間に様々なことで持ちつ持たれつの関係を築いてきた。また弟のジェームズ・バイデン、息子のハンター・バイデンをフロントにした中国ビジネスにも関わってきた。
副大統領のカマラ・ハリスの夫のダグ・エムホフが長年働いてきた法律事務所のDLAパイパーは、中国進出企業のアドバイザー業務を通じて、中国政府と深い関係を持っていることで知られる。さらに言えば、DLAパイパーは中国政府を顧客として抱える企業でもあるのだ。2月のことだが、バイデン大統領は、習近平が進める香港やウイグルなどでの人権蹂躙行為について問題視しない姿勢を示したこともある。
ここでは詳細には述べないが、バイデン政権内部には、中国との間でこうした深い関係を持っている人間は多い。ウォール街をはじめとして対中ビジネスで中国との関係悪化を望まない財界人も多く、彼らも中国に対して強硬姿勢を貫くトランプの追い落としに動き、バイデン政権成立に尽力してきた。そうした財界の考えもバイデン政権に強く反映している。バイデン政権に中国に対する宥和的な姿勢が垣間見えるのは、こうした中国との深い経済的な関係があることによることを見落とさないほうがいいだろう。
第二は、政権内部はどうあれ、世論に押されて中国に対して強硬姿勢を示さないわけにはいかない国内事情がある。香港やウイグルでの人権状況の酷さが知れわたる中で、国民は中国に対して許せないとの思いを強めており、この国民世論が米議会にも大きな影響を及ぼしている。バイデン政権は議会に代表される国内世論に十分に配慮して、対中国では強気のメッセージを出さないわけにはいかなくなっているのである。
「中国の軍門に下る」はあり得ない
この二重構造をベースにすると、今回の日米首脳会談についてもかなり理解しやすくなるはずである。建前としての日米共同声明は、対中国で随分と強硬姿勢を見せているような文書ではあるが、中国を本気で追い詰めるような内容は実は含まれていない。本気で中国を追い詰めることは中国に対する「裏切り」になってしまう。建前としては厳しい姿勢を持ちつつ、中国を配慮しているというメッセージも送る必要があるはずだ。それがバイデン政権が行った菅総理に対する冷遇だと考えれば、辻褄が随分と合ってくることが理解できるだろう。
ただ、ここでもう一つ別の側面を見ておくべきではないかと、私は考えている。それは中国とズブズブの関係にある政府高官にしても、あるいは中国との経済的関係の強い財界の首脳にしても、自分たちが本当に中国の軍門に下ることになるとすれば、それはさすがに問題だと考えている人が多いだろうということだ。したがって、中国に対して言い訳が成り立つのであれば、単なる建前にとどまらないで実質的な意味合いにおいても、対中強硬姿勢が歓迎される素地があるのである。こうした3つの立場が同時にある中で、現実のアメリカの対中外交のあり方が出来上がっていると見るべきではないだろうか。
この見地からすれば、菅総理が最初に行われたとされるハリス副大統領との会談の場で、ホワイトハウスに到着した段階での冷遇について、「このような事態は外交上あるまじき非礼ではないのか。わが日本国を尊重する意思が米国にないのであれば、これ以降の会談は無駄であるから、遠慮させてもらう」といった強いメッセージを仮に発していたとしたら、以後のアメリカの対応は随分と変わったのではないだろうか。
日本政府が対米政策を考えるにあたっては、上記に挙げた第三の立場がアメリカにあることに信頼を寄せ、ここに働きかけていくことを重視すべきではないか。菅総理の今回の訪米ではこの点には踏み込めなかったようだが、今後も様々なチャンスが待っているはずだ。このような屈辱外交を繰り返さないためにも、また中国を念頭に置いた日米連携を本気で強化する観点からも、菅政権には対米外交姿勢を大きく見直すことを望みたい。 

 

●日米共同声明で台湾言及の「内政干渉」に中国はどう報復するか 4/20 
ワシントンで4月17日(日本時間)に開かれた日米首脳会談は、その後の共同声明に日中国交正常化(1972年)以来初めて台湾問題を盛り込んだ。今回の共同声明はまた、第三国に向けたものではない「地域安定の基礎」という性格だった日米同盟を、中国抑止の「対中同盟」に変質させた。声明発表後、中国の外務省とメディアは首脳会談を「アジア太平洋の平和を脅かすもの」と強く批判した。しかし筆者には、中国は日本との全面対決を避けようとしているように見える。
日米同盟を戦前の「日独伊三国同盟」になぞらえて
中国共産党機関紙「人民日報」系の「環球時報」は日米首脳会談終了の直後、「日米同盟はアジア太平洋の平和を脅かす軸になろうとしている」と題した社説を発表し、「日本はアメリカの邪悪な共犯者」「中国の発展に嫉妬し『二流国家』に貶められることに耐えられない」などと厳しく批判した。
同社説は日米関係について、第二次世界大戦の戦勝国と敗戦国であるとして「外交では強い主従関係にある」と指摘。
対中封じ込めを狙うアメリカの政策に日本が従う理由として、(1)日本外交は「半主権」レベルにしかなく、アメリカに抵抗できない(2)日本は中国の発展を羨望・嫉妬・憎悪しており、アジアの国々のなかで最も中国を封じ込めたいと考えている、という2点をあげた。
さらに、日米同盟を戦前の「日独伊三国同盟」になぞらえながら、アジア太平洋地域の「平和に致命的な破壊をもたらす軸になろうとしている」と位置づけた。
また、日中関係については「過去数年間、日本は中日関係を徐々に回復させる正しい軌道に乗せた」と安倍政権時代の外交政策を評価する一方、「いまや突然進路を変え、日中関係改善の勢いを台なしにし、中国封じ込めのアメリカ戦略に加わった」と批判。
最後には「日本にひと言忠告したい。台湾問題から少し距離をとってほしい。他の問題については外交の手練手管を使ってもいいが、台湾問題に巻き込まれると身を滅ぼすことになる」と警告した。
中国外務省も同日、首脳会談に関する談話を発表して、日米共同声明を「地域の平和と安定を危険にさらす『日米同盟』の性質と陰謀を認識させた」と批判。台湾や香港、新疆ウイグル自治区問題への言及を「内政干渉」として強く反発し、中国は「必要なすべての措置を講じる」と対抗策に出ることをほのめかした。
対抗措置に注目する日本経済界
日米両国は首脳会談に先立つ3月16日、東京で外務・防衛閣僚による日米安全保障協議(いわゆる「2プラス2」)を開催。
政治、経済、軍事、IT技術をめぐる対立のみならず、尖閣諸島、南シナ海、台湾、香港、新疆ウイグル自治区の人権問題に至るまで、米中対立のすべてのテーマを網羅し、中国の姿勢について「批判」「反対」し、「懸念」を表明する共同文書を発表している。
このとき、中国外務省の趙立堅・副報道局長は、日本を「アメリカの戦略的属国となり、中日関係を破壊しようとしている」などと徹底的に批判した。
今回の日米共同声明は「2プラス2」の延長線上にあり、それゆえ日本としては、中国側の批判は織り込み済み。残る問題は、中国外務省が予告した「必要なすべての措置」がどのようなものになるかだ。
例えば、香港などの人権問題について厳しい対中姿勢をもって臨むオーストラリアに対し、中国は鉄鉱石や食品の輸入規制をはじめとする経済制裁で対抗している。
中国が核心的利益のひとつにあげる台湾という「内政」への干渉に対しては、どんな報復を考えているのか。
日米共同声明は日本側の要請を受けて、台湾問題の「平和的解決」というひと言を追加したが、中国からすれば平和的であろうがなかろうが「内政干渉」に変わりはない。
それだけに、日本の経済界は中国側がくり出してくる対抗措置の内容に注目している。中国が想定以上に厳しい経済制裁を課してくれば、(それによって不利益をこうむる)経済界の不満は菅内閣にも向かうだろう。
「主要矛盾」と「副次的矛盾」という伝統的思考法
中国の政治・外交政策には、伝統的な思考法がある。それは初代指導者である毛沢東の主要著作『矛盾論』に書かれてある。同書は、対立勢力を「主要矛盾」と「副次的矛盾」に分け、「主要矛盾」と戦う上で「副次的矛盾」とは手を組むと説く。
具体例をあげれば、日本帝国主義という「主要矛盾」の侵略と戦うため、蒋介石率いる国民党という「副次的矛盾」と協力した「抗日民族統一戦線」の政策がそれにあたる。
最近の例では、中国は米中対立が本格化した2018年以降、当時の安倍政権への激しい批判を封印してきた。盧溝橋事件のような日本の侵略関連の歴史行事も、外交問題に発展しないよう抑制し続けてきた。アメリカとの衝突を有利に展開するため、日本や韓国、インドといった近隣国との友好関係を重視したからだ。これも上の「矛盾」の考え方で理解できる。
そうした思考法を踏まえた上で、前述の趙立堅・副報道局長の発言と「環球時報」の社説が、いずれも「日本はアメリカに引きずられている」という認識に立っていることに注目したい。
そこから読みとれるのは、中国は日本との「矛盾」を「副次的」で、「主要」な対立とは考えていないということだ。したがって、中国メディアや識者が今後対日批判を強めるのは間違いないものの、日本を利用して日米の離間を図ろうとする大きな政策方針に変化はないと考えられる。
厳しい批判を浴びせつつも決定的な対立は回避する、いわば「寸止め」が中国の狙いだ。
ただし、米中対立という「主要矛盾」がもしなかったら、台湾問題に「内政干渉」した日本との全面対決も厭(いと)わなかっただろう。
中国がいま軍事力に訴える理由は何もない
とはいえ、今回の日米共同声明によって、日米同盟が中国抑止の「対中同盟」に変わってしまったことは間違いない。菅政権は今後、対中関係の維持に向けてしっかりと「手当て」をすべきだ。
中国の王毅外相は4月5日、茂木外相との電話会談で「日米は同盟関係を持つが、日中は平和友好条約を締結しており、日本にも条約履行義務がある」と注文をつけた。同条約の第1条には「すべての紛争を平和的手段により解決し、武力または武力による威嚇(いかく)に訴えないことを確認する」と明記されている。
平和友好条約は当然、日中対立の最大のトゲである尖閣問題にも適用される。
メディアは中国が「尖閣を力づくで奪おうとしている」と危機感をあおるが、それは現実とは異なる。
中国の最高指導者だったケ小平は(1)主権は中国にある(2)争いは棚上げ(3)共同開発を進める、の3点を基本方針とし、江沢民・胡錦濤時代をはさんで、習近平・現国家主席も2013年にこの方針を再確認している。紛争の棚上げと共同開発が基本であることには変わりなく、中国には尖閣諸島を「軍事力で奪う」意図も環境もないと筆者は考えている。
菅首相は5月に「対中けん制」のため、フィリピンとインドを歴訪する予定で、対中関係維持のための外交など眼中にないように見える。
しかし、中国の脅威をあおり、抑止を強調するだけでは、いたずらに軍拡競争を招く「安保のジレンマ」に陥ってしまう。
安全保障は、たゆまぬ外交努力により地域の「安定」を確立するのが基本であるということを忘れてはならない。 
 
 

 

●日米首脳会談で菅首相が「屈辱的冷遇」を受けた理由 4/21 
菅総理に対する「冷遇」の意味
日米首脳会談が終わった。世間では、アメリカの厳しい対中姿勢がより明確になる中で、日本がまだこの立場についてこれていないことを指摘しながらも、首脳会談自体については高い評価を与える論評が保守論壇では一般的である。だが、私の評価はそれほど高いものではない。
確かに、南シナ海での不法な海洋権益の主張について中国を名指しし、香港やウイグルの人権問題への深刻な懸念を共有し、台湾・尖閣の防衛についても具体的に述べたのは、中国の「核心的利益」を全否定したものだと見ることもできる。
中国が既存の国際秩序を成り立たせているルールを無視した行動を取ることへの懸念を名指しで指摘し、不法なやり口を含め、日米からの技術流出を止めることの重要性を謳っていることにも意味はある。
自由で開かれたインド太平洋のために、日米豪印のクアッドやASEANとの連携を重視する姿勢を見せただけでなく、日本の防衛に関してアメリカが核兵器を含めることに言及したのも意義はある。また、5G・6G開発で協力体制を打ち出すなど、日米でICTのパートナーシップを結び、中国による危険を除外したクリーンネットワークの構築を打ち出したことにも意義はある。
だったら素直に評価すればいいではないかとの声もあるだろうが、それほど単純に考えるわけにはいかない。対中国で日米が強く連携しなければならないという意識がバイデン政権に明確にあるのなら、それは菅総理への遇し方にも強く表れるはずだ。だが、菅総理に対するバイデン政権の処遇は、極めてひどいものであった。
安倍総理がホワイトハウスを訪問した際には、ホストであるトランプ大統領が玄関の外で出迎えていた。これは決して安倍総理が特別だったわけではなく、外交儀礼上当然のことである。ところが今回はバイデン大統領どころか、アメリカ政府の高官の誰も菅総理を玄関口で出迎えなかったのだ。そこに立っていたのは儀仗兵のみであった。
菅総理がホワイトハウスの中に入っても、ホストであるバイデン大統領の姿はなかった。体調が悪かったという話もあるが、仮にそうであったとしても出迎えの挨拶だけでも顔を出すのがホストの務めであろう。出迎えたのはハリス副大統領であった。
さらにハリス副大統領が菅総理の出迎えにあたって冒頭に述べたのは、菅総理に対する歓迎とねぎらいではなかった。彼女が真っ先に口にしたのは、前日の夜にインディアナポリスで起こった銃乱射事件についてであった。TPOから見て話す必要がある内容だったとはとても思えない。この場で話すとしても、少なくとも菅総理に対する歓迎とねぎらいの言葉を掛けた後で追加的に話すべき内容ではないか。
そのうえハリス副大統領が話し始めて3分少々が過ぎたところで、ホワイトハウスの室内の会話が聞こえなくなるほどの轟音が響きわたった。ジェット機が頭上を低空飛行したのだ。ホワイトハウス側はなぜか窓を全開にしており、敢えてこの出迎えにミソをつけようとしていたのではないかと思われるほどであった。
緊急にどうしても飛行機を飛ばさざるをえない事態が発生したとしても、少なくとも菅総理を出迎える時間には飛ばさないとか、航路を1キロずらすくらいの配慮はできただろう。このジェット機の飛行が意図的になされたと見られても仕方ない。
日本側が強く求めた夕食会は結局開かれず、菅総理とバイデン大統領が同席したランチもハンバーガー1個だけという簡素なものであった。しかもランチの間もN95マスクの着用を求められた。息苦しいN95マスクは、高齢の両首脳にとって負担の大きなものであり、あれで本当に胸襟を開いた親密な会話ができたとは、正直言って信じがたい。
そもそも菅総理は日本出国前にもアメリカ到着直後にもPCR検査の陰性が確認されている。さらに菅総理もバイデン大統領もファイザー製ワクチンの2回接種を完了している。本来なら、バイデン政権としてはマスクを外して、ファイザー製ワクチンの有効性を強くアピールする方が自然ではなかったか。日米の結束を表現するのにも、その方が遥かに有効だったはずだ。だが、そうはしなかった。「感染予防」を建前にして、夕食会を開かないことの方が優先されたと考えざるをえない。
さらに菅総理の訪米2日目に、バイデン大統領は地元のデラウェア州のウィルミントンに戻ってゴルフに出かけた。大統領がゴルフに興じるのは3ヵ月ぶりで、大統領就任後初めてだという。
だが、ゴルフが趣味である菅総理が、その場には招かれていないのである。ゴルフ好きの日本の総理が来ている中で、その日本の総理を無視して自分の仲間とゴルフに出かけたわけだ。トランプ・安倍時代とは明らかに違う、日本に対する「冷遇」を示した出来事と言えるだろう。
日本側は、菅総理とファイザー社のブーラCEOとのワシントンでの対面会談を模索していたようだ。ガッチリ握手をしてワクチンの追加供給の確約を得たという絵を写真に収められれば、菅総理にとって大きな得点になる。だが、これについてもアメリカ政府は日本政府に対してできる限りの協力的姿勢を見せたとは、とてもではないが言えない。
結局、対面での会談は実現せず、電話会談のみになってしまったのはすでに報道されているとおりだ。電話会談でブーラCEOは「協議を迅速に進めたい」としか述べておらず、菅総理の言葉とは裏腹に、9月までの必要量の追加供給の確約が取れたとは思えないものだった。
このようにアメリカは、共同声明では日本との連携強化を強く打ち出しながら、菅総理の遇し方では真逆と思える態度を取った。はっきり言えば、日本は屈辱的な外交を強いられた。それはいったいどういうことなのだろうか。この点を理解するには、バイデン政権の対中政策についての三重的な性格を捉えるべきではないかというのが私の見解である。
米中関係の「二重構造」とは
第一に理解すべきは、バイデン政権と中国との深い関係である。
「バイデンと習近平の深い関係!「万向グループ」も関与!」や「ジョー・バイデンはハンターの仕事に関与している! SNSも腐っている!」に記したように、バイデン大統領と習近平は10年近くになる個人的な関係があり、この間に様々なことで持ちつ持たれつの関係を築いてきた。
弟のジム・バイデン、息子のハンター・バイデンをフロントにした中国ビジネスにも関わってきた。「バイデンだけでなくハリスも問題! 民主党正副大統領候補と中国との関係!」に記したように、副大統領のカマラ・ハリスの夫のダグ・エムホフが長年働いてきたDLAパイパーという法律事務所は、中国進出企業のアドバイザー業務を通じて、中国政府と深い関係を持っていることで知られる。
DLAパイパーは中国政府を顧客として抱える企業でもある。「バイデン政権 対中強硬発言の真意」にも書いたが、バイデン政権内部には、ケリー気候変動担当特使、ブリンケン国務長官など、中国との間でこうした深い関係を持っている人間は多い。過去に築いたズブズブの関係の中で、いろいろと表にされると困る弱みを中国側に握られている人も多いだろう。
また、ウォール街をはじめとして対中ビジネスで中国との関係悪化を望まない財界人も当然多い。彼らも中国の意を汲んで、中国に対して強硬姿勢を貫くトランプの追い落としに動き、バイデン政権成立に尽力してきたことは、大原浩氏が「中国の学者が大暴露「米国は中国に支配されつつある」って本当?」の中でも書いている。そうした財界の考えもバイデン政権に強く反映している。彼らの中にも中国側に表沙汰にされたくない弱みを握られている人もいろいろいるだろう。
「香港もウイグルも問題視しない! バイデン大統領が明言!」でも書いたが、2月にバイデン大統領は、習近平が進める香港やウイグルなどでの人権蹂躙行為について理解を示していた。バイデン政権に中国に対する宥和的な姿勢が垣間見えるのは、こうした中国との深い関係があることによることを見落とさないほうがいい。
第二に理解すべきは、世論に押されて中国に対して強硬姿勢を示さないわけにはいかないアメリカの国内事情である。
香港やウイグルでの人権状況の酷さが知れわたる中で、国民は中国に対して「許せない」との思いを強めており、この国民世論が米議会にも大きな影響を及ぼしている。バイデン政権は議会に代表される国内世論に十分に配慮して、対中国では強気のメッセージを出さないわけにはいかなくなっているのである。
この二重構造をベースに考えると、今回の日米首脳会談についてもかなり理解しやすくなるはずである。
対中国で随分と強硬姿勢を見せている日米共同声明は、国内世論に配慮した文書であり、一見では厳しい内容にならざるをえない。ここで中国に甘い姿勢を見せることは許されないのだ。そうしておきなら、もう一方で、中国に配慮しているというメッセージも送る必要がある。それがバイデン政権が見せた菅総理に対する「冷遇」だと考えれば、辻褄が合ってくるのではないか。
日米共同声明では厳しい姿勢を見せるが、それはポーズにすぎない、日米がガッチリ連携することはないから安心してね、というメッセージである。
この二重構造はいろいろなところに表れている。
例えば、ブリンケン国務長官は新型コロナウイルスが世界的に拡散したことに対して中国の責任を問題視する姿勢は見せているが、「未来志向」を理由として中国に対して懲罰処置を求めることには消極的な態度を取った。また、ウイグルの状況をジェノサイドだと強く非難しながらも、制裁を課したのは地元の公安当局に属する2人だけであり、中国政府としてはほとんど痛みを感じないレベルに抑えられている。
バイデン政権は表面的には中国を強く非難する姿勢を見せながら、本当に中国が困るようなところまでは足を踏み出さない。このように見ていくと、アメリカの対中政策はかなり見通しがよくなるはずだ。
西側が連携して強硬策に出るとき
ただ、ここでもう一つ別の側面を見ておくべきではないかと、私は考えている。
それは、中国とズブズブの関係にある政府高官にしても、中国と太い経済的関係がある財界の首脳にしても、自分たちが本当に中国の軍門に下ることになるとすれば、それはさすがに問題だと考えている人がほとんどだろうということだ。
したがって、中国に対して「そうせざるをえなかったのだ」という言い訳が成り立つ状況であれば、実質的に中国を苦しめるような政策を推し進める意思が、アメリカにはあると見るべきである。
3月に行われた「日米防衛・外交2プラス2」で厳しい対中姿勢が打ち出されたのは、日本側がリードしたものだと伝えられた。中国に対しては日本のリードに抵抗することは国内世論が許さないという言い訳が成立する。その上で現実に中国の利益を大きく失わせられる行動が取れるのであれば、アメリカは本音ではウェルカムだと見るべきである。
香港やウイグルで中国側が西側世論を納得させるような行動に出る可能性は考えられない。こうした問題を巡っての西側と中国との対立はどんどん大きくなっていかざるをえない必然性がある。習近平が戦狼外交をやめることは考えられず、本来は全く不要な軋轢が高まっていくことも避けがたい。
顕在化したチャイナリスクのもとでは、サプライチェーンの組み換えの動きは自然と強まることになり、それはますます中国との経済的な関係が薄れていくことにつながる。この中では第一に挙げた中国との経済的な関係は徐々に重要度が下がっていくことになるだろう。
西側が連携して強硬策に出るとすれば、中国はこれに対して強く出ることは難しくなる。中国経済は西側企業の投資への依存度が強く、ここが決定的なアキレス腱にもなっているからだ。
菅政権が西側との連携を強め、共同対処することで財界などの心配を小さくすることができるなら、対中国政策にも大きな可能性が開けてくることになる。アメリカには第三の側面があり、日本が意識を固めれば、アメリカを対中政策でより強硬に動かすことすら可能となるはずだ。
菅総理には屈辱外交からの脱却し、戦略を組み替えることで、むしろアメリカを操るくらいの老獪な策を考えてもらいたいものである。 

 

●日米首脳会談で起きた3つのサプライズ 4/21 
<今回の会談はアメリカ国内ではまったく話題になっていないが、外交イベントとしてはめずらしく成果があったとも言える>
菅義偉首相とジョー・バイデン大統領による第1回の日米首脳会談は、アメリカでは全く話題になっていません。元々が内向きであったアメリカは、コロナ禍のもと今世紀で最も内向きになっており、世論には日米関係に関心を払うような姿勢はないからです。
会談後の共同記者会見でも、アメリカ側の記者からの質問は、銃規制問題と対イラン外交についてという、いつものこととは言え、菅首相のことは全く無視した失礼千万なものでした。ですから、この会談は、日本側が首相の支持率安定を狙うために政治的に要望した結果だと考えるのが良さそうです。
そうではあるのですが、この種の会談にはめずらしく、サプライズとも言える成果があったように思います。3点指摘しておきたいと思います。
まず、1点目は「台湾海峡」という文言が共同声明に入ったことです。ただ、表現は極めて現状維持的で、特に「台湾海峡の両岸に問題がある」ことを認める表現で、「一つの中国」を前提としているようにも読める巧妙な表現になっています。
「We underscore the importance of peace and stability across the Taiwan Strait and encourage the peaceful resolution of cross-Strait issues.(原文)」
「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。(外務省公表の仮訳)」
これに対して、現時点における中国のリアクションは、「怒っているが激怒はしていない」というものであり、相互に一種の「腹芸」が機能していると考えられます。つまり米中はどこかで真剣に意見交換をして懸案事項の解決を試みる、その可能性を残した格好になっています。これは日米中というより、米中外交の一コマと考えるのが適切ですが、いずれにしても意味のあることと思います。
2点目は、アメリカで深刻化しているアジア系を狙ったヘイトクライムの問題が取り上げられたことです。共同宣言には入りませんでしたが、共同会見の冒頭ステートメントの中で菅首相は、両首脳がこの問題を話し合ったことを明かしています。
私はこのコラム欄で、ヘイトクライムの問題を取り上げた際に、首脳会談で菅首相に問題を提起するよう要望していました。その時は、実現はかなり難しいと思っていましたが、アメリカに明らかな非のある、この種の問題を日本の首相がしっかり問題提起をして、アメリカの大統領がそれを受け止めたというのは意義深いことです。
私たち在米邦人にとっては心強いことですし、両首脳がアメリカに非のある問題を直視したということは、例えば中国に対しても、良いメッセージを送ることになったと思います。外交とは勝ち負けでなく、共通の理念を確認する場だということです。
3点目は、ワクチンの供給です。4月10日過ぎの時点で、アメリカでは成人全員に対する接種のメドが立ちつつあり、もしかしたら首脳会談で日本への供給が確認できるかもしれないと思っていました。ですが、会談の直前に、ジョンソン&ジョンソン(J&J)製のワクチンの接種が中断される事態になりました。
ですから、日本へのワクチン供給の確約は難しいと思っていたのですが、結果的にファイザー製ワクチンの大量確保にメドが立ったようです。これも良い意味でのサプライズでした。ですが、J&Jワクチンの問題が解決していない中で、確保にメドが立ったというのは、手放しでは喜べない事情を感じます。
アメリカでは、毎日300〜400万件という猛烈なスピードで接種を進めており、高齢者にはほぼ行き渡って、現在は16歳以上の全成人に対象を拡大しつつあります。そんな中で、ここへ来て接種率の拡大が鈍っているのです。その理由として、ワクチンへの忌避や無関心が広がっているという報道が出始めています。
アメリカでのワクチン接種作戦の動向は、日本の世論も注視していると思います。そのアメリカで十分な接種率が確保できず、従って集団免疫の効果も十分に出ないような事態となれば、日本での接種も進まなくなる恐れがあります。ですから、今回の「ワクチン余剰」には手放しで喜べない事情もあるのですが、それはそれとして、日本におけるワクチン確保が前進したというのは、それ自体は朗報だと思います。  
 
 

 

●日米首脳会談、バイデン氏の世界観から対中国外交を占う 4/22
菅義偉首相とバイデン大統領が4月16日、日米首脳会談を行った。首脳会談の成果は何か。共同声明のどこに注目し、どう読み解くべきか。人権と台湾問題が注目されるが、ポイントはこれらにとどまらない。米中関係を専門とする気鋭の研究者、佐橋亮・東京大学准教授は「日米が大きな世界観を共有したことを示し、人権、台湾、環境、経済安全保障といった各論における協力策を並べた今回の共同声明は画期的」と評価する。同准教授に聞いた。(聞き手 森永輔)
―菅義偉首相が訪米し、4月16日、ジョー・バイデン大統領が初めて対面で会う外国首脳として会談しました。佐橋さんはこの会談のどこに注目し、どう評価しましたか。
佐橋亮・東京大学准教授(以下、佐橋):まず前提として、今回の日米首脳会談はバイデン政権にとって、アジア外交第1ラウンドの総決算であると理解しています。就任後の約100日を振り返ると、バイデン政権の外交はすべて中国を念頭に組み立てられてきました。
―3月12日には日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国(QUAD)首脳によるテレビ会議を初めて開催。3月16日には日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)、3月18日には米韓2プラス2、と2国間協議を相次いで実施。さらに、米アラスカ州アンカレジで米中外相会談を行いました。
佐橋:こうした一連のアジア外交の総決算として日米首脳会談がありました。米国にとって日本は、対中政策を進める上でその最前線に位置する同盟国です。よって、日本に対する米国の期待値は非常に高かった。そこで注目したのが、バイデン政権がどのような世界観を持っているのか、そして日本はそれに応えられるのか、でした。日本には日本の国益があります。すべて応えられるわけではありません。そこをいかにすり合わせるか。結果として、日本は米国の期待に対して最大限の打ち返しをしたと評価します。日本の利益にもかなっています。共同声明にあえて点数をつければ80点台。もちろん、日本側にも具体策において課題は残っていますが。
―バイデン大統領が持つ世界観はどのようなものですか。
佐橋:大きく2つのことが明らかになりました。1つは「自由」「民主主義」と権威主義が対立する構図を描いていることです。いまの国際社会を、「自由」と「民主主義」を奉じる国が、政府が自由で公正な選挙で選ばれていない権威主義の国による国際秩序への挑戦に対抗するものと捉えている。米国とともにこの対抗を支えるパートナーとして日本に期待し、「消え去ることのない」かつ「揺るぎない」日米同盟を重視する姿勢を示しました。もう1つは「気候危機」です。バイデン政権はこの問題を「気候変動」ではなく、われわれの生存を脅かす「気候危機(climate crisis)」とみなしています。会談後に出された共同声明を読むと、バイデン政権がこうした世界観を示し、日本がそれに応える、ともに歩んでいく意向であることが示されています。この世界観に基づいて、人権、台湾、経済安全保障といった各論があります。人権について日米両国は、香港と新疆だけでなく、ミャンマーにも触れ、これを重視する姿勢を共有しました。
   ●日米共同声明(抜粋)
日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する。
日米両国は、ミャンマー国軍及び警察による市民への暴力を断固として非難し、暴力の即時停止、被拘束者の解放及び民主主義への早期回復を強く求めるための行動を継続することにコミットする。
   ●
新疆ウイグル自治区での人権侵害をめぐって、欧米諸国はマグニツキー法に基づいて関係する人物などに制裁を科しています。しかし、日本は同様の法がないため、制裁を科していません。この点について「日本は手ぬるい」との見方があります。しかし、日本には日本のアプローチ手法があります。この点について、米国の一定の理解を得たとも言われます。ただし、日本にとって課題は残っています。例えば新疆ウイグル自治区での人権侵害について、強制労働との関係が疑われる綿花など農産物や工場生産品はサプライチェーンからはずしていくよう民間企業に依頼していくことも一案でしょう。日本版マグニツキー法案への議論も進んでほしいと思いますが、この法律だけにこだわるのではなく、国際圧力のかけ方について多様な手法を検討すべきではないでしょうか。
台湾をめぐる「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」との言及は画期的と評価します。今日の台湾海峡を取り巻く状況は今世紀で最悪の水準です。中国人民解放軍が非常に活発に動いている。これに対応するため、台湾と米国も動きを強めています。偶発的な衝突が起きてもおかしくありません。
―中国海軍は4月6日、台湾周辺の海域に空母「遼寧」を派遣して軍事訓練を実施しました。4月12日には、過去最多となる25機の中国軍戦闘機などが台湾の防衛識別圏に侵入しています。
佐橋:そうですね。このような状況を鑑みて、日米首脳は台湾をめぐる抑止を高める意志を明確に示したわけです。現在の中国の行動をみていると、その将来が危ぶまれます。抑止が破綻する懸念さえある。「そうはさせない」という意志を日米がともに示した。中国に「米軍が来援するまでに台湾の武力統一をなし遂げることができる」「台湾有事になっても、日本は米軍との作戦に協力しない」という誤った判断をさせてはなりません。「1969年の日米首脳会談以来およそ50年ぶりに台湾に言及した」ことを重視する意見がみられます。私は今回の言及について、こうした歴史的な意義は重視していません。当時の言及は、当時の特殊な状況を反映したものだったからです。1969年は沖縄返還問題が日米間の重要な議題になっていました。よって「台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとってきわめて重要な要素である」との文言は「台湾有事の際には沖縄の米軍基地を引き続き使用してよいですよ」という日本の意志を示すために盛り込まれたものなのです。2005年に実施された日米2プラス2の共同発表にも「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」との言及があります。こちらも同様に、当時のブッシュ米政権と陳水扁・台湾政権との関係が悪化していたという事情が背景にありました。中国に対してだけでなく、独立を志向する陳政権に対する米国メッセージという意味もある言及だったのです。日米共同声明において、台湾に関する記述は「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と続きます。この部分は日本側が要望して盛り込んだとされています。台湾に肩入れするのではなく「中立」であることを中国に示すため、とみられている。 ・・・  

 

●「中国激怒」の日米共同声明、それでも台湾を守る理由とは 4/22 
アメリカのメディアでは注目されなかった首脳会談
日本ではかなり注目されてメディアでも大きく日米首脳会談だが、アメリカでの報道は驚くほど少なかった。それはこの会談がアメリカの内政に与える影響がほとんどなかったからだ。
実際、主要テーマである「自由で開かれたインド太平洋」における日米連携はすでに進んでいる。ほかの課題についても、新型コロナウイルス対策、気候変動対策、サプライチェーンにおける脱中国連携などもすでに進行中であり、ミャンマー制裁についても確認程度で、いずれの課題もすでに合意ができているか方向性が決まっているものばかりである。
また、尖閣諸島に安保条約第5条を適用することもオバマ政権から繰り返し確認されてきた。さらに、「バイデン大統領が東京オリンピックを支持」という報道がされたが、「実現を支持」ではなく、「努力を支持」という文言にとどまっている。日本側はアメリカからはほとんど果実を引き出せなかったというべきだろう。
ただし、バイデン大統領が菅首相に最初に会ったことは、大きな意義がある。製造業の中国シフトで、アメリカはすでに一国では中国に対抗できない状態にあり、日本との連携は前提条件に近く、決定的に重要である。
今回の首脳会談を切実に求めていたのはアメリカ側であり、その意図は日本を米中貿易戦争においてアメリカ側に引き入れることにあった。ただし、そのことをおくびにも出さずに、日本側に妥協しない点がアメリカ外交のしたたかさである。
日米首脳の共同声明に台湾が盛り込まれた意義
一連の課題の中で、意外な結果だったことが一つだけある。それは、半導体製造や次世代通信技術(6G)開発において日米共同を確かめる流れで、52年ぶりに「台湾」の項目が作られたことだ。
これは、アメリカ側が日本に求めたものと考えるが、日本は「アメリカか中国か」の選択ですでに立場を明確にすべき時期にさしかかっている。だが、日本国内はまだまだ親中派の力が強く、「台湾」を明記して立場を明確にしたのは、「外圧を利用した政策決定」だと言っていいだろう。
アメリカやオーストラリアなどが対中強硬姿勢を続ける中、日本はアメリカに寄り添いながらも中国とも明確に対抗しないというスタンスを取り続けてきており、それは中国などが「右翼的」と見ていた安倍政権でも根本的には変わっていなかった。実現こそしなかったものの、安倍政権は習近平主席を国賓で迎えるつもりであったわけであるし、本気で対抗する気がなかったのは明らかだろう。
「アメリカか中国か」の選択肢は、最終的に台湾を中国の一部だと認めるかどうかにかかっており、「台湾の独立を守る」と明言すれば、それは中国に政治的に対抗すると宣言することと同意である。
ただし、日本側は台湾問題を「両岸問題」と表現しており、中国側の主張する「1つの中国」に対して最低限の配慮は示している。それでも、共同声明に台湾海峡について言及したことは、日本外交の転換点だと見るべきだろう。
日本とアメリカの対中姿勢の違い
アメリカの対中強硬姿勢は、2016年に蔡英文氏が台湾総統選に圧勝したとき、トランプ大統領が蔡氏を「台湾のプレジデント(大統領)」と表現して祝辞を送り、電話会談まで実施したことから始まっている。トランプ政権は「一つの中国」をあからさまに否定していないものの、それを無視するような行動を繰り返してきた。言い換えると、トランプ政権はオバマ政権のスタンスを変更して、中国に対抗する姿勢を明確に見せたと言っていいだろう。
だが、台湾は中国にあまりに近く、経済力・軍事力で圧倒的に劣勢に立たされている。また、経済において中国と密接に関係しているだけでなく、台湾内での親中派の力はかなり強い。中国の強い軍事的圧力を受けながらも、あからさまに中国と敵対できない立場にある。
トランプ大統領はこうした台湾の立場を尊重しながらも、2018年に事実上の領事館である米国在台協会の新庁舎を完成、同年にアメリカ政治当局の台湾での会談を可能にする台湾旅行法が成立する一方で、地対空ミサイルなど先端兵器の売却を決めるなど、米台関係を着実に強めてきた。バイデン政権の外交の要であるブリンケン国務長官もその点は評価しており、東アジアにおいてはトランプ外交を継承している。
それに対して、前述したように、日本は安倍政権になっても台湾へのスタンスは根本的には変わらなかった。それは政権中枢に親中派の二階俊博幹事長が、大きな影響力を持ち続けていることからも明らかだ。日本企業も中国経済に大きく依存していることから、中国との太いパイプがある二階氏が必要とされており、いきおい二階氏をはじめとする親中派の影響力は大きかったのである。
日本はアメリカの意向を酌みながらも、台湾同様、中国とまともに敵対はできない立場にあった。その難しい状況を安倍晋三首相は対中包囲網であるTPPやインド太平洋構想を実現させる一方で、あからさまに中国とは敵対しないで巧妙に乗り切った。
菅首相は「安倍政権の継承」をうたっていたものの、中国に対してどういう方針で臨むつもりなのかは明確ではなかった。二階氏は引き続き中枢に残っていることから、従来と同じようなベクトルで臨むというのが、最も考えられるシナリオだった。
菅首相の決断により対中姿勢は次の段階に
ところが、今回の日米首脳による共同声明に台湾問題が明記されたことで、中国に対抗することが明確になった。これまで中国の立場を守ってきた二階氏も、今回は了承せざるを得なかったということになる。
その予兆はあった。二階氏は4月15日に収録されたCS番組内で、東京五輪について「これ以上とても無理だということだったらこれはもうスパッとやめなきゃいけない」と述べて、「オリンピックでたくさんまん延させたということになったら、何のためのオリンピックかわからない」と新型コロナウイルス感染拡大による五輪中止の可能性に言及したのである。
これは大きなニュースとなり、海外メディアの一部も「日本の有力政治家が五輪中止の可能性を示唆」と大きく扱っている。
それもそのはず、二階氏はこれまで一貫して五輪の実行を明言してきた政権の姿勢に異を唱えて、わざわざ「政府・与党間の不一致」を演出したわけである。
これは菅政権内で、親中派の二階幹事長が「気にくわないこと」が行われたことの表れではないだろうか。あくまで筆者の考えにすぎないが、今回の共同声明に先立ち、台湾問題の明記を認めざるを得なかったことへの「腹いせ」のように思われる。実際、二階氏は過去においても不満があると表に出すことが多かったからである。
あるいは、東京五輪をいったん否定することは、中国に太いパイプがあることを自負する二階氏にとって、中国への何らかのサインを送ることになるのかもしれない。
ただし、二階氏も「何が何でも開催するのかと問われれば、それは違うという意味で申し上げた。安全・安心な大会の開催に向け、しっかり支えていくことに変わりはありません」と文書で述べて、CS番組内の発言は本意ではなかったと釈明している。
だが、この発言の余波は小さくはなかった。これまで五輪開催への機運を作ろうと連立与党で一致団結してきたのに、水を差す形になったからである。当然、政権内でも反発があるはずで、二階氏の影響力低下に拍車がかかる可能性もある。
そのような不協和音はありながらも、菅首相がアメリカと連携して台湾を守る姿勢を見せたことで、これまで曖昧だった日本の対中姿勢を一段階進めることとなった。
中国にとって台湾が決定的に重要な理由
中国における台湾は、地政学的な要地、あるいは「一つの中国」という象徴をはるかに超える重要な存在になりつつある。それは、米中貿易戦争は、煎じ詰めると半導体の争いに行きつくからである。
半導体ファウンドリ(受託生産)として世界的企業である台湾のTSMCは、韓国のサムスンやアメリカのインテルと技術力で大きく水をあけており、世界の半導体生産受注の分野ではすでに圧倒的な存在となっている。
中国は一連のトランプ制裁で先端半導体を入手しづらくなっており、南京にTSMCの工場は有するものの、TSMCの大型工場のある台湾は、文字どおり喉から手が出るほど欲しいはずだ。台湾有事の可能性がこれまでとは比較にならないほど高まっているのは、まさに台湾が半導体生産の中心になってしまったからにほかならない。
私たちは台湾有事の可能性を、「近未来」から「いつでもありうること」に変更して、その時に備える必要がある。日本は今回の日米首脳会談で中国政策を大きく転換して、これからは尖閣のみならず、台湾防衛についてもコミットしなければならなくなったと考えるべきだろう。
ただし、この問題は言うほど簡単ではない。というのは、台湾自体も日本依存から徐々に中国シフトを始めており、また、台湾政府は尖閣の領有権を主張していることから、日米側に簡単に荷担できる立場ではないからだ。
そもそもTSMCをこのまま日米側にとどめておけるかどうかも決定しているわけではないだろう。
確かにトランプ政権ではアメリカに大型投資をして、大幅にアメリカシフトを見せたが、そもそもアメリカという国は、工場投資に向いているとはいえないのである。台湾や中国と比べると人件費は圧倒的に高い割に生産性が高いわけでもない。投資効率の悪さを知った上での投資であり、TSMCにとっては妥協にすぎない。
また、TSMCとしても、経済成長を続ける中国市場を簡単に捨てられるはずもない。TSMCがアメリカを切って中国側に行くことはないにしても、なんとか両てんびんにかけられないかと考えるのは当然である。
それでもTSMCが完全に中国を切ってアメリカを取れば、半導体技術が欲しい中国による台湾併合のモチベーションは決定的に高まっていくだろう。アメリカが貿易戦争に勝つためには、TSMCをアメリカ側にとどめると同時に、台湾を中国に併合されないことが必須になってしまったわけである。
日米首脳会談のアメリカ側の目的は、台湾防衛に日本を巻き込むことであったと考えるべきだろう。もちろん、日本としても、対中姿勢に覚悟を決めるべき時期にきており、その点でも共同声明に「台湾」という項目を入れて、スタンスを明確にした意義は大きい。それは、日本に経済面だけでなく、安全保障面でも強い覚悟が求められていることを意味している。 
 
 

 

●日米首脳会談、中国に言い過ぎたことなど1つもない 4/23
菅義偉首相とバイデン大統領が4月16日に行った日米首脳会談の検証を続ける。日米は中国を名指して批判するとともに、中国が譲れない台湾問題にまで言及した。対中関係の悪化を懸念する声もあるが、佐橋亮・東京大学准教授は「日米やQUADが共同してメッセージを送ることが、日中関係をより良くすることにつながる」とみる。果たしてそれはどういうことか。(聞き手 森永輔)
―日米首脳会談に対する中国の反応についてうかがいます。
中国政府は非常に強い反発を示しました。
駐日中国大使館報道官、日米首脳会談および共同声明における中国関連の内容について記者の質問に答える
・中国に対し、言われ無き指摘をし、中国の内政に乱暴に干渉し、中国の領土主権を侵犯したことに対し、中国側は強い不満と断固たる反対を表します。
・日米同盟は特殊な二国間枠組みとして、第三国を標的にすべきでなく、ましては(※原文のまま)第三国の利益を損害してはなりません。日米は冷戦思考にしがみつき、排他的な小さいサークルを作り上げ、政治的対立を煽り立てることは完全に時代の流れに逆走する動きで、地域国家が平和を求め、発展を図り、協力を推し進める期待に背いてしまい、その企みは必ず成り立ちません。
・中国は関連国家が陳腐で、時代遅れのゼロサムゲーム思考を放棄し、中国への言われ無き指摘、そして中国への内政干渉を中止し、実際の行動で二国関係および地域の平和と安定の大局を維持することを求めます。(駐日中国大使館)
日米首脳会談で中国を名指して批判するとともに、中国が核心的利益とする台湾問題にまで言及したことについて、日本の専門家の間で意見が分かれています。第1は「言い過ぎ」というもの。QUAD(日本、米国、オーストラリア、インド)の首脳会議も米韓外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)も、中国を名指しで批判することはありませんでした。それに比べて日米の合意は突出しているという見方です。
第2は、中国に対して日本の理念を主張すべき、ただし、実際に行動に移す際には慎重を期すべきだというもの。例えば新疆ウイグル自治区の人権侵害について、これを批判する必要はあるが、欧米と同水準の制裁を科すのは適当でない、という見方です。
そして第3は、中国に対してはっきり主張すべきだというものです。中国を抑えるためには抵抗する意志をはっきり示すことが必要と考える。
佐橋さんの考えは、以上のいずれに近いですか。
佐橋亮・東京大学准教授(以下、佐橋):私の立場は第2と第3の間です。中国は言われないと分からない国です。言われる機会が多ければ、気づく機会が増えます。国際ルールに基づいて「おかしいことはおかしい」と明確なシグナルを送るべきです。今回は日米が共同でシグナルを送りましたが、日本単独でもそうすべきだと考えます。第1や第2の意見の人は、日中関係が険悪になるのを懸念しているのだと思います。しかし、日米やQUADが共同してメッセージを送ることが、日中関係をより良くすることにつながると思います。日中だけで同様の議論を続ければ、中国の意見に次第に引っ張られ、そのゴールは低いものになりかねません。世界観や理念を同じくする国と協力してメッセージを送ることで、ゴールを高い位置に維持することができるのです。日米首脳会談を踏まえて言うならば、ワシントンを使って北京をけん制する。ほころびることなく継続する日米の絆を前提に中国に相対し、明確なメッセージを伝えることで高い目標が実現できる。「言い過ぎ」た点など1つもありません。
―おかしなことはおかしいと言う。その関連で、人権だけは特別という見方があります。日本が中国をはじめとするアジア諸国に対して人権を説けば、慰安婦問題など戦争期の日本の行いをとがめる反発が予想されるからです。この点はいかがですか。
佐橋:確かに、戦争期の行いについて日本は正面から向き合い、反省すべきところは反省すべきです。しかし、だからといって発言する資格がないとは考えません。反省はする。そして、現在進行形の人権侵害についても正しいと信じることを発信すべきです。日本は欧米諸国と異なり、これまで人権を外交上の“錦の御旗”として掲げてはきませんでした。人間の安全保障を重視し、貧困の撲滅、教育や医療の整備、インフラ構築などに取り組むことで、いわば社会全体の底上げを図ることを重視してきました。しかし、これからは人権外交にも挑んでいくべきです。もちろん、これに取り組めばビジネス活動に支障を来すケースも出てくると思います。この影響を無視することはできません。しかし、ビジネスの世界でもESG(環境・社会・企業統治)を重視する傾向が強まってきました。この傾向は今後さらに強くなっていくと考えます。それを踏まえて、人権外交も展開する必要があります。
―強く反発する中国が今後、日本への報復に動く可能性をどうみますか。
佐橋:先ほど挙げていただいた中国の反応は、予想の範囲ではありますが比較的強かったですね。ただし、中国は日中関係を壊してもよい環境にはありません。その経済活動は日本と深く結びついており、日本を代替できる国はありません。典型例は半導体ビジネス。中国の半導体産業は日本製の半導体製造装置に依存しています。もちろん、オーストラリアに対してワインなどの関税を引き上げたように、日本に対して経済的な強制措置(economic coercion)を取る可能性は否定できません。中国は2010年、尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件をめぐってレアアースの対日輸出を事実上規制しました。しかし、その規模や範囲はおのずと限定されます。日本との協力関係に根本的なひびを入れることは考えづらいところです。それでも日本は、この4年間のように米国とも中国ともうまくやっていくことはもうできないでしょう。日本は日米中3カ国の中で最も好ましい位置にありました。安倍晋三首相(当時)はドナルド・トランプ大統領(同)と蜜月関係を築くことに成功。2017年2月の首脳会談後の共同声明では、尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用対象であると明記しました。日中関係も、2017年5月に自民党の二階俊博幹事長が訪中したのを機に関係を改善。2018年10月には安倍首相が訪中し、習近平(シー・ジンピン)国家主席や李克強(リー・クォーチャン)首相と会談しています。しかし、米国がバイデン政権に代わり方針が変わりました。同大統領が掲げる「同盟重視」とはすなわち、対中関係において日本に期待するということです。同盟国の役割を果たすよう日本に求める。冒頭でお話ししたとおりです(関連記事「検証・日米首脳会談、バイデン氏の世界観から対中国外交を占う」)。日本は日米関係と同じように日中関係を良好のまま維持することは許されません。そこで、菅政権は腹をくくり、まず日米関係を固めるべく今回の首脳会談を進めたとみられます。そして、日米の固い絆を礎に日中関係に臨む。中国は驚いていることでしょう。中国の視点に立ってみれば、日本は菅政権に代わって中国に対し突然手のひらを返したような態度に出てきたとみえるからです。これまでは、「日本は東アジア情勢の現実を理解しており、日米関係と日中関係のどちらも同じように重視している」とみていました。中国が「日米を離間することができる」との幻想を抱いていた可能性もあります。2017年ごろには、「トランプ大統領が率いる米国は不確定さがつきまとう。中国と日本は接近せざるを得ない」と発信していました。それが裏切られたゆえに、中国が今回厳しい反応を示している面もあると考えます。
―中国が日中関係を破綻させるまでの意図はなくても、経済的な強制措置を部分的に発動する可能性は消えないということですね。その「部分的」の範囲が気になるところです。安全保障に直結する技術や製品は、米国が今後も対中規制の対象にするでしょう。そうなれば、中国も報復する。一方、“安全地帯”はどこなのか。 ・・・ 

 

●日米首脳会談で台湾が焦点に 「ふたつの中国」の歴史 4/23 
共同声明に「台湾」を明記した理由
菅義偉首相と米国のバイデン大統領が4月16日、ワシントンで会談しました。会談の内容を伝える朝日新聞の大見出しは「日米、声明に台湾明記」でした。共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性」が明記されたことが、会談の最大のニュースだったということです。
これがどうしてそんなに大きなニュースなのでしょうか。それは、米国と日本が中国に対して、「台湾を支配しようとして軍事侵攻することは認めない」というメッセージを発したからです。このメッセージを一歩進めると、「軍事侵攻すれば、われわれも黙っていないよ」と読むことができます。つまり、台湾を支配しようという野心がみえる中国への危機感を共有し、中国を強く牽制(けんせい)したのです。台湾のことが日米首脳会談の共同声明でふれられたのは52年ぶりのことでした。
このニュースをもう少し深く理解するには、どうして中国は台湾を支配下におきたいと思っているのか、を知る必要があります。それには中国の近現代史の知識が必要です。
「中国4000年の歴史」といいますが、中国の歴史は王朝の歴史でした。最後の王朝が清です。しかし、清は衰え、革命によって中華民国が樹立され、1912年に滅びました。その後、中国には国民党と共産党が生まれ、中国をどちらが支配するかで争います。37年、日本が中国に攻め込みました。日中戦争です。戦争がはじまると、日本という共通の敵に対して国民党と共産党が手を組んで戦いました。
日中戦争はその後はじまった太平洋戦争とともに45年に終わりました。日本が敗戦国になり、中国は戦争に勝った形になりました。しかし、国民党と共産党との内戦が再燃しました。ソ連(今のロシアなど)に後押しされ、人数でも勝る共産党が優勢となり、国民党の人たちの多くは台湾に逃げました。台湾は戦前、日本の植民地でしたが、戦争が終わったことにより国民党政府に明け渡されていたので、逃げ込むのに都合がよかったのです。共産党は49年に北京を首都とする中華人民共和国を建国しました。台湾に逃げ込んだ人たちは台北を首都とする中華民国を名乗りました。こうして「ふたつの中国」が生まれたのです。
台湾併合の「野望」とどう向き合うか
世界は、米国を中心とする自由主義陣営と、ソ連を中心とする社会主義陣営が対立する東西冷戦時代に入っていました。日本を含む自由主義陣営の多くの国は中華民国を正統な中国とし、中華人民共和国とは正式な国交を持ちませんでした。国際連合も中華民国を中国と認めていました。しかし、中華人民共和国のほうが領土は圧倒的に広く、人口もはるかに多いため、中華人民共和国を中国と認める国が徐々に増えました。71年に中華人民共和国が国連に加盟し、中華民国は脱退しました。翌72年には米国のニクソン大統領が中華人民共和国を訪れ、米国も中華人民共和国を中国と認める方向に動き始めました。日本も同年に田中角栄首相が中華人民共和国を訪れ、国交を正常化し、中華民国とは断交しました。以後、国際社会では中華民国という国はなくなり、台湾はひとつの地域として扱われるようになったのです。
ただ、台湾は自由で民主的な政治体制で運営されていて、米国や日本からすると一党独裁の中国よりも親近感を持てるところでした。そのため、政治的には「ひとつの中国」という建前を守りながらも、民間レベルでは台湾とも自由に往来し、ビジネスのつながりも太くなっていきました。つまり、今も実質的には「ふたつの中国」が存在しているということです。
中国は世界2位の経済大国となり、遠くない将来に米国を抜いて世界トップの経済大国になろうとしています。習近平(シーチンピン)国家主席は「中華民族の偉大なる復興が中国の夢だ」と言っています。その夢の中に台湾を併合することが入っていることは確実です。「ふたつの中国」が実質的に存在していることは、「中華民族の偉大なる復興」と矛盾するからです。「一国二制度」をとってきた香港への最近の締め付けをみても、「次は台湾」と多くの人が感じるわけです。米軍の司令官は3月、議会の公聴会で「中国は6年以内に台湾侵攻の可能性がある」と証言しました。
米国は強大になりつつある中国を警戒しています。もし中国が軍事力を使って台湾を併合するようなことがあり、米国がそれを見過ごせば、米国と中国の力関係が大きく変わることになります。だから米国は黙っていないという意思表示をしているわけで、米中が戦争状態になる可能性はゼロではありません。同盟国である日本もその場合は、米国を支援せざるを得なくなります。戦争状態になると、日本も人的にも経済的にも大変な被害を受ける可能性があります。万が一にもそういうことにならないように、中国も米国も国際社会も台湾海峡の緊張をゆるめる努力が必要になっています。 

 

●日米首脳会談、台湾有事に「見て見ぬふり」は正しいか 4/23 
日米首脳会談において菅首相とバイデン大統領は「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」ことで一致した。台湾有事の可能性はどれほどか。起こるとすれば、どのような条件が満たされたときか。そのとき、日本はどのように行動すべきか。佐橋亮・東京大学准教授は「自衛隊と米軍がしっかりした行動計画を立案する」ことが必要という。そのためには「日本国民が台湾の重要性を理解」することが重要と説く。(聞き手 森永輔)
―これまで、日米首脳会談および共同声明に強く反発する中国の今後の動きについて伺ってきました。最後のテーマとして、台湾有事について伺います。その可能性を佐橋さんはどうみますか。米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官が「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と発言したことが注目されました。
佐橋亮・東京大学准教授(以下、佐橋):私は当面はないとみています。日米が今回、共同してシグナルを送ったことも抑止の向上に寄与したと評価します。しかし、中国は今後も台湾に圧力を加え続けるでしょう。台湾が中国から離れる方向に動いているからです。習近平(シー・ジンピン)政権は台湾統一を促進すべくさまざまな対策を講じてきましたが、蔡英文(ツァイ・インウェン)政権は容易にはなびきません。それどころか、香港での民主派弾圧がたたって、台湾で台湾アイデンティティーが高まっています。その一方で、米国が台湾との交流をかつてないレベルに深めている。米国の「1つの中国」政策は建前として残っているものの、実質的に骨抜きになりました。よって、習近平政権が武力による統一を目指す可能性は中長期的には高まってくると言えます。今後の展開を考えるときに注目すべき1つは、中国人民解放軍の能力向上です。同軍が力をさらに高め、「米軍が来援するまでに片を付けることができる」との自信を持つに至ったら、実際に行動を起こす懸念が高まります。政治日程の面では、以下に挙げるいくつかのポイントがあります。その第1は2024年。この年は、次の台湾総統選が予定されています。選挙戦において台湾アイデンティティー、さらには独立志向のナショナリズムが高まることがあれば、中国を大いに刺激するでしょう。総統候補たちの両岸政策へのスタンス、例えば1992年コンセンサスへの立場も中国が懸念するところになります。
―1992年コンセンサスは、「自らが中国の正統政権」と主張して争っていた中国と台湾が「1つの中国」の原則について確認したものとされています。中国側は、中台両者がこの原則を確認したと主張。他方、台湾の国民党は「1つの中国を堅持するが、その内容についてはそれぞれがそれぞれの主張をする」としています。
佐橋:第2は2027〜28年頃でしょうか。習近平国家主席は2023年から第3期に入ることが見込まれます。それを可能にすべく2018年3月の全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)で「2期まで」と定められていた任期を撤廃しました。習近平国家主席としては、憲法を変えてまで務める3期目にそれなりのレガシーを残したいと考えるでしょう。第3は台湾の防衛費の動向です。台湾の防衛費はGDP(国内総生産)比2%強。中国との緊張の最前線に位置することを踏まえると、決して十分とは言えません。米政権は常々これを不満に思ってきました。よって、台湾の防衛費の動向が、米国の姿勢に影響を与える要素になります。
―台湾に対するバイデン政権の姿勢は、トランプ前政権と比べて積極的なのでしょうか、それとも消極的なのでしょうか。事実上の駐米台湾大使である蕭美琴氏をバイデン大統領の就任式に招いたことが注目されました。1979年の米台断交から初めてのことです。
佐橋:米国が台湾を重視する姿勢はオバマ政権の2期目の末期、2015年頃から強まっていました。そして現在は、かつてないほど強固な関係にあります。この変化は、中国の台頭と並行して台湾の重要性が米国にとって高まっていることに由来するもの。政権ごとの対台湾観に左右されるものではありません。台湾は日本と並んで、中国と対峙する最前線に位置する民主主義国家です。加えて、第1列島線上に位置し、東シナ海と南シナ海を同時ににらむ軍事的な要衝に位置します。中国がこの地を確保すれば、中国海軍は北にも南にも容易に出動することが可能になります。台湾に対する姿勢が、日本など他の同盟国の米国への信頼感にも直結すると米国は考えています。さらに最近は、台湾積体電路製造(TSMC)の存在が象徴するように、半導体サプライチェーンにおいてなくてはならない存在になりました。
―台湾有事が日本にとってどのような意味を持つかについて伺います。中国が台湾を武力統一しようとすれば、在日米軍が出動することになります。米軍基地がある日本はこれに巻き込まれる可能性があります。また台湾に近い沖縄県の先島諸島(与那国島、宮古島、石垣島など)にも影響が及びます。台湾有事は日本の安全に深刻に影響します。
佐橋:中国が台湾本島を攻撃することになれば、南西諸島全体が戦場となる可能性が高くなります。それは、集団的自衛権で対処する事態だけではなく、「武力攻撃事態」と認定し個別的自衛権を発動して対処するものに容易に発展します。加えて、台湾は日本にとって、ともに民主主義を奉じる重要なパートナーです。さらに、第1列島線という中国を抑える蓋の要である台湾が中国の勢力下に入れば、日本は安全保障上の脅威に恒常的にさらされることになります。つまり、台湾の安全と日本の安全は直結している。よって、われわれ日本人は、台湾をめぐる本格的な有事の可能性をリアルに考える必要があります。判断が難しいのは、台湾本島ではない場所への攻撃です。対象として、東沙諸島がよく言及されます。
―大平島もターゲットの1つですね。
佐橋:ええ、ただし私はこうした限定攻撃の可能性はそれほど高くないとみています。中国にとって得るものが少ないからです。中国が限定的な攻撃に出ると、台湾、米国、そして日本を強固に団結させることになります。それでは、東沙諸島を獲得しても失うものの方が大きい。米国の軍人や有識者も、公聴会など公の場での発言をみる限り、台湾島への作戦を念頭に置いている。先ほどのデービッドソン司令官の発言しかりです。
―台湾有事をリアルに考えるために日本にできること、もしくは、すべきことは何ですか。
佐橋:自衛隊と米軍がしっかりした行動計画を立案することです。年内にもう1度開かれる予定の日米2プラス2が重要になります。ここで重要なのは、日本国民が台湾の重要性とその意味を理解しないと政府は動きづらいことです。われわれは台湾有事が日本の安全に直結すること、台湾が民主主義を奉じる親日的なパートナーであることをしっかり認識すべきだと考えます。
―東日本大震災のときに多額の義援金を送ってくれたことが思い出されます。
佐橋:その台湾が危機に陥ったときに、日本は見て見ぬふりをするのか。それは正しいことなのか。われわれは真剣に考える時期に直面しています。 
 
 

 

●歴史的な日米首脳会談、安保を再確認した大きな意義 4/24
新型コロナウイルスが一向に収まらぬ中で行われた今回の日米首脳会談は、菅総理がバイデン大統領の就任後初めて3次元の世界で面談した外国首脳だったことに加え、日米安保条約の精神に立ち返って同盟を立て直し、強靱化していく道筋を示した意味において多くの新鮮な内容を含む会談になった。
発表された日米首脳会談共同声明は、前文とあとがきを除けば、外交と防衛に関する方針を示した「自由で開かれたインド太平洋を形作る日米同盟」と経済、環境、衛生政策のビジョンを示した「新たな時代における同盟」の2つのパートからできている。英語版の声明では前者は単語数で全体の約37%、後者は約39%とほぼ同じ分量で語られている。
不測の事態が起きることを覚悟すべき
「自由で開かれたインド太平洋を形作る日米同盟」のパートは、首脳会談に先立って3月16日に行われた日米安全保障協議委員会(2+2)の共同発表の内容を確認し裏書きした部分である。2つの文書に齟齬はなく、共同声明は分量が多い分だけより具体的に記述している。日米同盟が普遍的価値及び共通原則(universal values and common principles)に対するコミットメントに基づく自由で開かれたインド太平洋のための共有されたビジョンを推進する上で、中国と北朝鮮への懸念が国名を挙げて具体的に言及されている点も同じである。
ただし、中国、北朝鮮ともに個別の行動が地域の課題と認識され、「民主主義対権威主義」といった政治体制の全面的な対立枠組みを日米首脳は退けている。言い換えれば、是々非々で厳しい非難もするが選択的な協力もするということであり、我が国政府にとっても好ましい枠組みであろう。
まず、中国に対しては、ルールに基づく国際秩序に合致しない行動、東シナ海における一方的な現状変更、南シナ海における不法な海洋権益に関する主張及び活動、航行の自由と上空飛行の自由を求めている。
ニクソン・佐藤会談(1969年)の共同声明で(注1)、大統領が「米国の中華民国(台湾)に対する条約上の義務」に言及し、首相が「台湾地域における平和と安全の維持」が日本の安全に極めて重要であると答えてから52年ぶりに言及された台湾についても、「台湾海峡の平和と安定のために両岸関係の平和的解決を促す」とされ、また香港及び新疆ウイグル自治区の人権状況への深刻な懸念が表明されてはいるが、決して中国との対立を煽っているわけではない。北朝鮮に非核化や拉致問題の解決を促す記述も同じスタンスである。
米国が台湾を防衛する意思を明確に示すことについて、米国戦略コミュニティーには賛否両論があり、戦略的明確性が抑止力を高めるという意見がある一方で、曖昧さが数十年にわたって台湾海峡の安定を維持してきたという意見もある(注2)。他方で、我が国政府は、緊密な経済関係と人的交流がありながら公式の外交関係を持たない台湾には繊細なバランス感覚をもって接してきたことから、いかなる形にせよ台湾の固有名詞を二度にわたって公式文書のなかに登場させたことは誠に大きな決断だったに違いない。
一方、中国政府にとって台湾と新疆ウイグルは核心的な利益である。今回の共同声明に対して、中国外務省の汪文斌副報道局長が4月19日の定例記者会見で「台湾は中国の不可分の領土だ。米日は直ちに内政干渉をやめよ」と、台湾海峡の平和と安定の重要性に言及した共同声明を激しく批判し(注3)、また、習近平主席は「博鰲(ボアオ)アジアフォーラム」年次総会のビデオ演説で、対中強硬姿勢を鮮明にする米国を念頭に「あらゆる形態の『新冷戦』とイデオロギーの対立に反対する」と訴えたが(注4)、駐中国日本大使の呼び出しや抗議は行われていない。習近平主席が4月22〜23日に米国主催の気候変動サミットに出席するために、米国との表だった対立を避けているとの見方もある(注5)。しかし、今までに中国は核心的利益ばかりでなく中国政府や中国企業が関連する様々な事件に対して、中国政府公船の尖閣諸島の領海への侵入など直接行動のほか、希少金属の輸出制限、税関手続きの不当な厳格化など、手段を変えたハラスメントを繰り返し行ってきた歴史があることを考えれば、今後も中国政府が何ら対抗策を講じないとするのは早計であろう。我が国は不測の事態が生起することを覚悟すべきであるし、サプライチェーンの多角化や製造基盤の国内回帰など、有事における中国経済とのデカップリングを視野に入れた経済対策も加速化すべきであろう。
歴史に残る今回の日米首脳会談
共同声明本文の第2のパートである「新たな時代における同盟」は、中長期的に日米同盟が目指す経済成長とCOVID-19や気候変動などグローバル・イシューに共同して戦うためのビジョンと言える。
具体的には開かれた民主的な原則(open and democratic principles)に導かれ、透明性のある貿易規則と規制、高い労働基準と環境基準に支えられ、低炭素の未来に沿った経済成長を生み出すために、(1)競争力とイノベーション、(2)COVID-19の対応、世界的な健康と健康安全保障、 (3)気候変動、クリーンエネルギー、グリーン成長と回復に焦点を当てるとしている。
競争力とイノベーションについて、情報通信技術、サイバーセキュリティ、バイオテクノロジーなど例示されている項目は、中国政府が主導し急速に日米との差を詰めてきている分野であり、経済安全保障という経済の戦いに敗れれば中国が総取りする可能性を否定できない。また、かかる技術は全てが軍民両用(dual-use)の技術であって、最新技術を軍事部門に採用する民軍融合活動(civil-military fusion effort)を積極的に進めている中国に比べ、日米両国の防衛計画立案者と政治家は迅速性と想像力を欠いている分野でもある(注6)。日米首脳が合意した「日米競争力・強靱性パートナーシップ」は、日米の協力したイノベーションを促し、日米両国ばかりでなくインド太平洋地域にも大きな成果をもたらすことが期待できる。
戦勝国である米国と、敗戦国である日本が戦後の「占領期」を経て締結した日米安全保障条約は、その後の冷戦期、ポスト冷戦期を通じ、左右両派からの多くの批判にさらされながらも、「我が国家国民が二度と戦禍に巻き込まれない」という究極の目的を全うしてきた。条約の前文で日米両国が希望し、考慮し、確認した項目は、両国の平和と友好の関係の強化、民主主義の諸原則、基本的人権、法の支配、緊密な経済的協力、福祉など幅広い分野に及び、そのために条約を締結することを決意すると述べている。
第5条は、米国の対日防衛義務を定める安保条約の中核的な規定であり、会談では尖閣諸島がその対象であることが改めて確認された。
第6条は、侵略に対する抑止力としての日米安保条約の機能が有効に保持されていくためには、我が国が平素より米軍の駐留を認め、米軍が使用する施設・区域を必要に応じて提供できる体制を確保しておく必要があることを規定したものであり、北朝鮮や台湾海峡の課題に対応するであろう。
また、第2条では安保条約を締結するに当たり、両国が当然のことながら相互信頼関係の基礎の上に立ち、政治、経済、社会の各分野において同じ自由主義の立場から緊密に連絡していくことを確認している。すなわち、今回の首脳会談で合意した事項は、外交、防衛、経済、厚生、環境など、日米安全保障条約全体を再確認し、新たな戦略環境に適応させていくための方針とビジョンである。
自らの防衛力の強化や防衛協力など具体的な方針が示されている事項は、目に見える成果を上げることが必要となろう。また、気候変動への対処など、示されたビジョンから青写真を作り、中長期的なプログラムへと具現化の作業が必要な事項については、枠組みの検討から始める必要もあろう。
習近平が極度に警戒する「新冷戦」という用語がポスト冷戦期に続く現在の国際環境を正しく表現しているとは思わないが、こうした新たな戦略環境に対応していくために、日米両国が「日米安全保障条約全体のアプローチ」で臨んでいく必要があることを明らかにした点において、今回の日米首脳会談は歴史に残るかも知れない。 

 

●日米首脳会談の光と影 4/24 
・日米共同声明で菅首相は「自らの防衛力の強化」を宣言。
・戦後日本は軍事を忌避。菅政権でも軍事力増強の兆しは見られない。
・防衛力強化の約束が非現実的と判明したときの災禍が心配される。
・日本は最重要パートナーだが、同盟の対等な役割果たしていないとの指摘。
・日本が憲法を理由にするなら、米は尖閣を防衛すべきでないとの声も。
・菅首相の言明が空約束で終わる事態招きかねない日米同盟悪化を懸念。
「言葉は事実を伝えるためにのみ存在するわけではない」――
今回の日米首脳会談の結果をまとめた共同声明を読んでいて、ついこんな表現を思い出した。30数年も前、当時の西ドイツの国防総省軍政局長の将軍から聞いた言葉だった。
当時、アメリカがソ連の中距離核ミサイルに対抗して欧州に配備しようとしたミサイルを「モスクワを直撃する首狩り兵器だ」と断じたソ連の主張は事実ではないという説明の際に、その将軍がさりげなく述べた表現だった。
菅義偉首相には失礼な連想だろう。遠路ワシントンまで出かけて、ジョセフ・バイデン大統領との会談で日米関係の強化という基本目標は果たしたのだから、酷に過ぎる反応かもしれない。
だが日米両国の安全保障関係を長年、追い、日本側の現在の防衛政策にも注意を払う考察者としては、この日米共同声明の吟味からはどうしても「言葉」と「事実」の相関関係を考えさせられてしまうのだ。正確には「言葉」と「事実」のギャップと呼ぶべきだろう。
その理由を説明しよう。今回の日米首脳会談の共同声明全体のなかで最も頻繁に、しかも最も強い力点をおいて強調されたのは「日米同盟の強化」だった。その日米同盟強化の別な表現として「日米共同防衛の拡大」とか「抑止の増強」「日米安全保障の強化」という語句が繰り返し繰り返し明記されていた。
もちろん日本とアメリカの両首脳、そして両国政府がともにこの同盟強化の大目標に合意した、という意味である。その強化策をすでに取っているという意味と、これからその強化策を取るという意味とが入り混じっていた。
とくに注視すべき点として以下の語句があった。
「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」
日本の自主的な防衛能力の強化の誓いである。しかも日本の領土や日米同盟自体の防衛だけでなく、日本周辺の地域の安全保障のための防衛力強化だというのだ。この言葉は今回の首脳会談での菅首相自身の決意と解釈されても自然だろう。
だが私がここで言葉と事実の断層を感じさせられるのは、いまの日本側、まして菅政権下では、ここで誓ったような防衛力や抑止力の本格的な増強の兆しはツユほどもうかがわれないからである。そんな「決意」が日本のどこに存在するのだろうか。
日本だけでなく東アジア地域の安全保障のための日本独自の防衛力を強化することの「決意」が日本側でいつ、どのようになされたのか、あるいはなされる計画がどこにあるのか。知っている人がいたらぜひ、教えてほしい。
防衛や抑止とは一般の国家では、みな軍事とみなされる活動である。そもそも国家対国家の同盟とは本質は軍事での相互支援の誓いなのだ。
だが戦後の日本では軍事という言葉や概念が忌避されてきた。「日米同盟は軍事同盟ではない」と失言した失脚した総理大臣もいたほどである。
その日本の軍事忌避の特殊性が新しい時代の日米同盟の軍事能力強化の要請と整合するのか。なにしろ日米両国のいまの懸念の対象は対外的な膨張や威迫に軍事力を平然と最大手段にする中国や北朝鮮なのである。軍事を究極かつ最大の実効手段として迫ってくる相手に軍事という概念がこの世界に存在しないかのようにふるまうことの危険は恐ろしいほどといえる。
バイデン政権にしても日本に対して防衛や抑止や安全保障の能力の強化を求めることは当然、日本の軍事能力の強化への期待である。ただし長年の日本の特殊事情を知るから、軍事という言葉は日本に対して公式には使わないことになる。
この軍事をめぐる日米両国間のギャップも長年、アメリカ側では意識され、提起されてきた。だが日米同盟をとにかく現状のまま堅持するという必要性のために、表明に出ることは少なかった。ドナルド・トランプ前大統領が「日米同盟の不公正さ」をわかりやすい言葉で批判したのは例外とはいえ、アメリカ側の不満の真実がつい露出したのだといえる。
だがアメリカ側でのこの面での日本への不満はますます広がってきた。だからこそ今回の首脳会談についても、菅首相が米側の期待に押されるままに、防衛力強化の実行を簡単に約束し、それが現実にはできないと判明したときの災禍が心配されるのである。
菅首相にはもちろんの日本の防衛や抑止を現実の軍事課題とみて、正面から取り組むという気配もない。
日本の防衛に関するこうした点へのアメリカ側の関係者や識者の本音に近い見解をごく一部とはいえ紹介しておこう。
日米防衛協力に長年、第一線で関与してきたアメリカ海兵隊元大佐のグラント・ニューシャム氏は日本側の英文メディア「JAPAN Forward」への首脳会談についての寄稿論文で皮肉っぽく述べていた。そのうえでの日本側への警告を発していた。
「日本は恋に夢中な少女が相手の青年に会うたびに『私を愛しているか』と問うようにアメリカに対して何度も何度も『尖閣を守ってくれるか』と迫るが、自国の尖閣防衛強化がみられない」
「中国人民解放軍の戦力は最近、格段と強化され、尖閣への攻撃もアメリカの防衛誓約の言葉だけでは抑止の効果が薄れてきた。とくに日本側が独自の防衛の能力や意欲を示さないと、せっかくの米側の尖閣への日米安保条約第5条適用の実効も消えかねない」
「日本がいま防衛に関してアメリカ側に最も痛切に求めるのは尖閣防衛のための米軍の攻撃能力の増強だろう。だが日本側は日本自身が軍事能力を向上させることがその米軍のそのための戦力を高めるのだということを理解していないようだ」
ワシントンの主要研究機関、ハドソン研究所前所長のケン・ワインスタイン氏は今回の日米首脳会談について「日本はいまやアメリカの最重要の同盟国となる」を同研究所サイトなどに発表した。同論文はこのバイデン・菅会談が「日本をアメリカの完全で対等なパートナーへと変容させる加速の機会だ」とする期待を表明していた。
ただしワインスタイン氏は日本は現段階では同盟の対等な役割を果たしていないとして以下の点を強調していた。
「日米共通の脅威である中国との戦略的競合の前線国たる日本はまず自国領土への中国の侵略を抑止する能力を高めねばならない」
「日本は自国の防衛を少しずつ強化はしているが、アメリカとの効果的な共同防衛にはなお不十分で、いまの防衛態勢を実効ある抑止態勢へと変える必要がある」
「この不十分な現状は日本の憲法にも原因がある。アメリカは戦後、日本の戦力を奪い、国際紛争の解決でも軍事力の行使を禁止する特殊な憲法を押しつけた。このことがいま効果的な日米共同作戦や日本自身の予防攻撃能力への障害となっている」
ワインスタイン氏は安倍政権時代にできた平和安保法での日本の集団的自衛権の限定行使ではまだまだ不十分だと主張するのだった。日本の憲法については当時はアメリカ占領軍による押しつけだったにせよ、その後、日本自身で変えることができたははずだ、というわけである。
日本の軍事忌避によるアメリカとの同盟強化の遅れが日本の憲法のせいだとする指摘はなにもワインスタイン氏だけではない。ちなみに同氏は保守系の学者である。
だがバイデン政権にもきわめて近い民主党のリベラル派のベテラン下院議員も同じ趣旨の意見を議会で表明してきた。
下院外交委員会の有力メンバーのブラッド・シャーマン議員だった。カリフォルニア州選出、当選11回という古参議員である。シャーマン議員は下院外交委員会の東アジア安全保障などに関する公聴会で少なくとも2回、日本とトランプ政権の政策の両方を批判した。いずれもトランプ政権時代だった。
シャーマン議員の指摘は同じように日本の憲法を批判の対象としていたが、表現はもっとずっと過激だった。
「日本は長年、アメリカの同盟国として米軍に防衛されてきたのに、9・11の同時多発テロのようにアメリカが攻撃されても、欧州の同盟諸国とは異なり、アメリカを助ける戦いには参加しなかった」
「アメリカ側がその点を批判すると、日本はいつも憲法の制約を理由に出してくる。だが日本側で『日本を長年、助けてきたアメリカがいま苦しんでいるのだから、憲法を一部、変えてでもアメリカを助けよう』と発言した日本の政治家は一人もいない」
こう述べたシャーマン議員は「日本が憲法を理由に有事にアメリカを助けないという現状ではアメリカは日本のために尖閣諸島を防衛すべきではない」として、トランプ政権の尖閣防衛策に反対したのだった。私は同議員のこの発言を2回とも公聴会の場の至近で聞いた。
今回の日米首脳会談の背後には実はこうした複雑多岐で歴史の長い大きな影も広がっているのである。そしてなによりもこの会談での菅首相の言明が空約束だけで終わるという事態が招きかねない日米同盟の悪化を懸念するのだ。 

 

●台湾海峡有事の法運用を本格検討 政府、対中配慮で慎重判断 4/24 
政府は、台湾海峡有事が発生した際の自衛隊活動に関わる法運用の本格的な検討に入った。菅義偉首相とバイデン米大統領による首脳会談で台湾情勢が主要議題となった。安全保障関連法に基づく「重要影響事態」や「存立危機事態」、日本が直接攻撃される「武力攻撃事態」に該当するそれぞれの状況や、自衛隊の役割を整理。必要な防衛力の強化を図る。実際の適用は中国に配慮し、慎重に判断する方針。複数の政府関係者が24日、明らかにした。
台湾有事の自衛隊活動に関しては、米軍などへの後方支援を行う重要影響事態か、集団的自衛権の行使を認める存立危機事態に該当するかどうかの判断が焦点となる。 
 
 

 

●最前線は日本に 日米首脳会談の歴史的重要性が意味すること 4/25 
バイデン米大統領が初の対面の首脳会談に、日本の菅義偉首相を迎えたことは、やや大げさに聞こえるかもしれないが、国際関係の歴史的な転換点を示したものといえるだろう。
それは、第2次世界大戦、米ソ冷戦、冷戦終結後の超大国・米国の一人勝ち、そしてアフガニスタンとイラクでの「長い戦争」の後に来る「米中のグローバルな競争時代」を反映した会談だったからだ。
戦略的関心が変化
日米首脳会談と同時進行で、バイデン政権はアフガニスタン駐留米軍の撤退を進めているが、これは米国の戦略的関心が、米国をターゲットにした国際テロの脅威の策源地である中東・アフガニスタンから、中国に対抗するためのインド・太平洋地域に変化したことを意味している。
米ソ冷戦時の最前線はドイツであり、最も期待する同盟国は英国と北大西洋条約機構(NATO)諸国だった。当時の日本は、ソ連の潜水艦作戦に対抗する自衛隊の活動などが評価され、それにより日本への信頼は高まった。
ただ、少なくとも国際舞台では、日本はあくまでも欧州戦線の側面支援としての存在であり、1972年のニクソン米大統領(当時)の訪中以降、中国は米国の協力国だった。
しかし、バイデン政権がトランプ前政権から対中対抗の姿勢を引き継ぎ、長期的な米中対立の構図が明確となってきた。
日本は、かつての冷戦期の西ドイツのような最前線に位置する国家となり、かつての英独仏のような同盟国としての役割が期待されている。
米ソ冷戦との大きな違い
しかも、米中対抗関係は、米国が中国に対して、封じ込め策を取らない(取れない)ことが、米ソ冷戦とは大きく異なる。それは、中国経済との関係が深い日本に、複雑な戦略を要求するものだ。
米国が中国を封じ込めることができない理由は、米国を含む世界が中国と経済的に強く結びついているからで、無理にデカップリング(切り離し)を図ることは、米国や同盟国にとって、経済的にも政治的にもダメージが大きく、効果的ではないからだ。
だからといって米国は、競争相手の中国が、米国を凌駕(りょうが)しかねない最新の通信・軍事技術や経済の優位性を手に入れることを、放置することはできない。
日本にとっても、尖閣諸島沖の中国の行動が示すように、既存のルールを守らずに強権的に動く中国は脅威となる。ましてや、わが国が防衛を依存している同盟国の米国と中国の軍事バランスが、中国の優位に傾くことは、日本の生存や自立に危機をもたらすことになる。
一方、今後、経済成長のピークを迎える中国を、対外的・内部的にソフトランディングさせるため、また日本の経済力を維持するためにも、中国との経済関係を完全に切り離すことは非現実で戦略的ではない。
だとすれば、日本は米国や「クアッド」(日米豪印4カ国)のパートナーとともに、安全保障と経済の適正なバランスを取るため政策協議を行うしかない。
日本政府はこれまで、こうした問題について後手に回ってきた。今回の日米首脳会談は待ったなしのウェイクアップコール(警鐘)となったのである。 

 

●気候危機対応、世界再始動 「先進国対途上国」構図も―サミット閉幕 4/25 
バイデン米大統領が主催した気候変動サミット(首脳会議)が23日閉幕した。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に復帰した米国が主導し、日本を含む先進国が温室効果ガスの新たな削減目標を相次いで表明。気候危機に立ち向かう国際協調の再始動に道筋を付けた。一方、人権や安全保障をめぐり米中の対立が深まる中、先進国と途上国の温度差も鮮明になった。
「気候の危機は一国では解決できない」。バイデン氏は参加国・地域の首脳40人に結束を呼び掛け、主催国として2030年までに温室ガス排出量を05年比で半減させる新目標を示した。日本の菅義偉首相は「13年度比46%減」、カナダのトルドー首相も「05年比40〜45%減」へ引き上げ。欧州連合(EU)と英国を含め、先進7カ国(G7)の目標がほぼ出そろった。
G7以外のほとんどの国は排出削減目標を変えなかったが、積極的な発信も目立った。最大排出国である中国は国内の石炭消費量削減、インドは再生可能エネルギー拡大策、韓国は海外の石炭火力発電への支援廃止に言及した。バイデン政権がサミット前から強化策を促してきたこともあり、「一定の成果」(バイデン氏)を出した形だ。
ただ、気候変動をめぐる外交の勢力図が一変し、「先進国対途上国」の構図が再燃する気配だ。中国の習近平国家主席は協力姿勢を示しつつ、「先進国はより大きな志と行動を示すべきだ」とけん制。自国の緩やかな排出削減目標を堅持した。ブラジルのボルソナロ大統領は「発展の権利」を主張し、米国からの厳しい要求に警戒感をあらわにした。
今後は11月に英国で開かれる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に向け、実効性の確保が課題になる。石炭の一大生産地であるオーストラリアのモリソン首相は「重要なのはどのように(達成)するかだ」と語り、利害調整の難しさをにじませた。政権交代のたびに環境政策が二転三転してきた米国が信頼を回復できるかも、これからが正念場だ。  
 
 

 

●日米首脳会談を機に日本が強いられる「米中両にらみ」の綱渡り外交 4/26 
首脳会談から垣間見える日米の対中政策への温度差
バイデン米大統領と菅首相は4月16日に首脳会談に臨み、その後、共同声明が発表された。バイデン政権は中国への対抗を強く意識して、安全保障、経済、地球温暖化対策、人権問題など幅広い分野で同盟国が一枚岩となって結束し、中国包囲網を形成することを目指している。
これに対して日本政府は、尖閣諸島問題を中心に安全保障面での日米の強い結束を望む一方、日中間での経済関係の悪化を避けたいと考え、そのために人権問題などで中国を過度に刺激したくない、というのが本音である。
日米首脳会談と共同声明は、表面的には両国の強い協力関係を確認するものとなったが、このように日米の思惑の差も見え隠れしている。これは、民主主義、人権など普遍の価値を同盟国が共有するという「理念」を重視する米国と、自国の安全など「実利」を重視する日本との間での温度差、とも言えるだろう。
首脳会談の直前ににわかに注目を集めたのは、「台湾海峡問題で中国をけん制する文言を共同声明に盛り込むことを米国側が望んでいる」との報道だった。これが日中関係の悪化を助長し、両国の経済関係に悪影響が及ぶとの懸念から、金融市場では円高・ドル安が進んでいた。
台湾・人権問題では「2+2」よりもやや踏み込んだ表現に
3月16日に東京で開かれた日米安全保障協議委員会(2+2)の共同声明には、「閣僚は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した」との文言が盛り込まれていた。
一方、今回の日米首脳会談の共同声明では、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」としている。台湾に関する記述は、米国側からの要請で盛り込まれたとされる。他方、後半の「平和的解決を促す」との文言は、中国側を過度に刺激しないために、日本側からの要請で加えられた、と報じられている。
過去に日米首脳会談の共同声明に台湾情勢が盛り込まれたのは、1969年の佐藤栄作首相とニクソン大統領のみである。これは、台湾をめぐる米中の対立が、米中国交正常化以来最も厳しい状況にあることを示唆していよう。
また、中国の人権問題については、「香港および新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有。中国との率直な対話の重要性を認識するとともに直接懸念を伝達していく意図を改めて表明」とされた。日米安全保障協議委員会(2+2)の共同声明の「香港及び新疆ウイグル自治区の人権状況について深刻な懸念を共有した」と比べて、一歩踏み込んだ表現となっている。
中国側の日本への反発は避けられない
注目されるのは、日米首脳会談の共同声明を受けた中国側の対応である。日米安全保障協議委員会(2+2)の共同声明では、中国を名指して強くけん制した。これに対して中国は、米国の「戦略的従属国」と異例な形で日本を強く批判していた。先日の汚染水の海洋放出に対する中国側の強い批判を見ても、日中関係が急速に冷え込んできていることは明らかだ。
今回の日米首脳会談の共同声明に対しても、中国は敏感に反応している。在米国中国大使館の報道官は17日に、日米の共同声明に対して「強く不満を表明し、断固として反対する」とのコメントを発表し、中国外務省の報道官は台湾問題を明記したこの日米共同声明について、日米に「内政干渉の即時停止」を求めるとともに、対抗措置を講じる考えを示唆したのである。
日中経済関係悪化が日本経済、金融市場のリスクに
経済及び金融市場の観点からは、こうした中国の反発が、日中間の経済関係に悪影響を与えるかどうかが、大いに注目されるところだ。
関係が悪化した豪州に対して、中国は昨年11月に、石炭、大麦、銅、砂糖、木材、ワイン、ロブスター、石炭、木材など幅広い品目で、輸入の差し止めを実施している。日本に対しても、同様に輸入規制を講じる可能性はあるだろう。
また中国は昨年12月に、ハイテク関連製品の輸出規制法を施行した。これは、米国が中国企業に対して打ち出した禁輸措置に対抗したものだが、それを対日輸出製品に適用する可能性もあるのではないか。それは、中国で生産し日本に逆輸入する日本企業にとっても脅威だ。世界的に供給不足が深刻な半導体メーカーは、そうしたリスクをすでに警戒している。
日本に対して再びレアアースの輸出規制も?
さらに日本は、電気自動車や家電などの生産に欠かせない希少な資源、レアアースのおよそ6割を中国からの輸入に依存している。これが中国の輸出規制の対象となれば、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)の生産に大きな打撃となる。
EV(電気自動車)など向けの永久磁石モーター、リチウムイオン電池、LEDやレーザーなどの発光材料、水素吸蔵合金、研磨剤、MRI造影剤、医薬品やゴムの合成触媒など、ハイテク製品の製造にはレアアースが欠かせない。その調達に支障が生じれば、自動車、ハイテク分野を中心に、日本企業の生産活動にも悪影響は避けられない。2010年に、中国は日本に対してレアアースの輸出規制の措置をとったことがある。
今回の日米首脳会談とその後の共同声明を受けて、中国がすぐさま日本に対する貿易制裁措置を講じることはないとみられるが、両国関係がこの先さらに悪化する場合には、そのリスクは考えておくべきだ。そうした措置が、日本の輸出を減少させ、またサプライチェーンに混乱をもたらす場合、日本経済のコロナショックからの回復に水を差す可能性もあるだろう。
また、日中経済関係の悪化を懸念して、日本市場では円高がもう一段進む可能性がある。さらに、対中ビジネスの比率が高い企業の株価を中心に、株式市場にも悪影響が及ぶだろう。
地球温暖化対策で日本により求められる積極対応
首脳会談では、地球温暖化対策でも両国の協調が確認された。ただしバイデン政権は、中国により積極的な対応を促す観点からも、欧米に比べて遅れているこの分野での日本の対応をより積極化することを、強く要請した可能性がある。
日本政府は、中国の海洋進出など安全保障面においては、バイデン政権が同盟国と連携して中国に対し強い姿勢で臨むことは大いに歓迎する一方、人権問題などその他の分野では、日中の経済関係に配慮して、中国を過度には刺激したくないとの考えがある。日米共同声明では、両国が表面的には足並みを揃えているが、実際には政策の優先順位には温度差があるのだ。
しかし、日本政府のこうした姿勢は、バイデン政権には「いいとこどり」と映る。そのため、中国に対して安全保障の分野のみならず、人権問題や経済分野でも強硬姿勢をとるよう、バイデン政権から日本に対する要求は今後も執拗に続くことだろう。
日本は、米国との良好な関係を維持しつつも、中国との経済関係の悪化を最小限に食い止めるよう、両睨みで綱渡りのような対応を余儀なくされることになるはずだ。  
 
 

 

●バイデン政権が対面での最初の首脳会談に菅首相を選んだ理由 4/27
バイデン大統領就任後、初の対面による首脳会談には、日本の菅首相が選ばれた。4月16日の日米首脳会談後の共同声明において、「経済的なもの及び他の方法による威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有し」、東シナ海(尖閣諸島が位置する)での一方的な現状変更の試みに反対し、南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動に反対した。さらに「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と表明した。
中国への対抗を明確に表明した日米首脳の文言は、後で歴史を振り返れば、国際関係の大きな節目であったというような意義を持つことになるかもしれない。中国をめぐり日米が戦った第二次世界大戦、米ソ冷戦の二極体制、冷戦後の米国単独の一極体制、9.11テロに端を発した米国のアフガニスタン・イラクでの「長い戦争」の後、これから始まる米中対抗時代の幕開けとして、記憶されるかもしれないからだ。
バイデン政権は日米首脳会談と同時進行で、アフガニスタンからの米軍の撤退スケジュールを確定させた。日米首脳会談の二日前の4月14日、バイデン大統領は、5月1日に撤退を開始し、米同時多発テロから20年を迎える9月11日までにアフガニスタンに残る駐留米軍2500人を完全撤退させると正式に表明した。
バイデン政権は、今後の米中の長期的な対抗関係に勝利するために、アフタニスタンや中東での負担を削減する一方で、そのパートナーとして日本が最重要の存在と認識しているようだ。客観的に日本の地理的位置を見れば、中国と陸続きではなく、東シナ海を挟み一定の距離を保ちながらも、中国の太平洋への進出をブロックする第一列島線上に位置し、中国大陸に対して太平洋側から睨みを利かせる位置にある。バイデン政権のジェイク・サリバン国家安全保障担当補佐官は、政権入りする前、フォーリンポリシー誌に、ハル・ブランズ、ジョンズホプキンズ大学SAIS(高等国際問題関係大学院)教授との共同論文「中国が世界を支配するために二つの道筋」を寄稿して、中国の世界覇権への二つのアプローチを検討し、それを阻止したい米国の強みとして、同盟国のネットワーク、特に中国に近接する日本という緊密な同盟国の存在を指摘している。
サリバンらは、中国が世界における優位性(あるいは覇権と言い換えてもいいだろう)を獲得するための今後の道筋について、自国アメリカが現在の優位性を獲得した歴史を振り返り中国と比較している。詳細は省くが、米国の優位性獲得の歴史と比べて、中国が現在置かれている環境が違うのは、日本のような存在だと指摘する。以下がその部分だ。
「米国は自身の半球(筆者注・南北アメリカ大陸のある西半球)に日本―かなり大きな地域大国で、より大きな国家と同盟を結んでいる−のような存在と対峙する必要がなかった。そして、中国が第一列島線を超えるためには、日本を越えていかなくてはならない。しかも米国には、西半球に、インド、ベトナム、インドネシアなどの国境や海洋を接して対峙する多くのライバル国家も存在しなかった。」
この議論に付け加えるならば、日本は70年以上の長きに渡り、米軍の日本駐留を積極的に支援してきた。その背景には第二次世界大戦における対米敗戦がある。日本は中国への侵略戦争が長期化して収拾がつかなくなる中で、中国を支援する米国と開戦して戦線を拡大するという大失策を犯した。この敗戦に懲りた日本は、戦後は抑制的な再軍備を行い、米軍の核の傘に依存することで核開発を封印し、必要最低限の防衛力を維持してきた。これにより防衛支出を抑え、経済成長に大きな資源を投入するという大戦略は「吉田ドクトリン」と呼ばれ、現在までの日本の経済的な繁栄をもたらしたこともあり、日米同盟への国民の強い支持の基盤となっている。今回の日米首脳共同声明でも「争いの後に結ばれた日米同盟は、日米両国の基礎になった」と過去の経験が率直に示されている。
日本の必要最小限の軍備だが、それでもGDP規模、世界第三位の経済力に支えられ、米国のウェブサイト「グローバルファイアーパワー」の2021年のランキングでは、米国、ロシア、中国、インドに次ぐ世界第5位に位置している。しかも、日本の自衛隊と米軍との相互運用性は高く、日米同盟の地域での軍事力には相乗効果がある。
これに加え、日本は、米国にとって重要な価値を共有していることでも重要だ。今回の日米首脳会談の共同声明でも、自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序という普遍的価値の共有が列挙されており、これは日本の安定した民主政治と経済成長の基盤そのものである。その意味で、長年にわたる同盟国の日本が、対中対抗時代の最前線国家として、米国に期待されていることは間違いない。

 

●日米共同宣言が示す今後の課題は対中経済安全保障政策 4/27
ただし、日本は必ずしも、単なる米国の従順なジュニアパートナーではないし、米国側もそうは認識していない。今後のカギとなるのは、経済安全保障政策あるいはエコノミクステートクラフト(外交・安保政策の目標を経済手段で達成すること)における対中戦略についての日米および他の同盟国・パートナー国の間での調整ということになる。
今回の日米首脳共同宣言では、「日米競争力・強靭性(CoRe: Competitiveness and Resilience)パートナーシップ」を立ち上げ、両国が共同して経済競争力を高めることに合意した。例えば、第5世代無線ネットワーク(5G)の安全性及び開放性のコミットメントを確認し、半導体を含む機微なサプライチェーンについて連携することにも合意している。日米連携が、軍事分野にも密接に影響する中国の経済の競争力や地域への影響力への対抗の側面もあることは明らかだ。
実際に貿易量だけをとれば、日本の中国との貿易量は、2007年に中国との輸出入の総額がそれまで第一位だった米国と逆転して以来、現在まで日本の最大の貿易パートナーである。2019年の中国の貿易総額は、33兆1357億円で、二位の米国との総額、23兆8947億円を上回っている。
今回の日米首脳会談についての米国メディアの反応をみても、中国が米国の最大の戦略的ライバルと認識されている中で、日本との関係の重要性を再確認するという点では一致して報じている。一方で、日本の中国との経済関係の深さにより、日本側に逡巡があるのではないかということも、様々な記事が指摘している。
例えば、日米首脳会談前のウォールストリートジャーナルの4月15日付のランダース東京支局長による観測記事では、日本側では、経済界の中国経済への利益と、その影響を代表する日本の政治家の意向で、中国への厳しいレトリックをソフトにしようとしていると報じている。記事の中で、前駐日大使のビル・ハガティー上院議員が、半導体製造機械の対中輸出などの先端技術の対中輸出コントロールにおいて、日本が十分な協力をしないのではないかという懸念も紹介されている。
また、首脳会談後のニューヨークタイムズの記事、「Biden and Suga Agree U.S. and Japan Will Work Together on 5G」(バイデンと菅は日米が5Gで協働することを合意)では、日本は、台湾、南シナ海および西側の開放的なネット世界と中国がコントロールする閉鎖的なネット世界をめぐる米中の対立に巻き込まれないように、日本政府は注意深いダンスをしている、と表現している。
これらの指摘は間違ってはいないが、だからといって、日本が米国の対中対抗策から距離を置く理由とはならない。そもそも、日本人の中国に対する安全保障上の懸念は大きいし、日米同盟への支持も強固だからだ。
実際には、中国との経済利益のために、安全保障上の米中対抗関係に参加することに抵抗があるのは、日本よりも、韓国、インド、オーストラリアのほうが大きく、アメリカ自身も、単純に中国経済を完全に切り離すデカップリング策は現実的ではない、という認識は共有されている。
そうなると今後の日米の課題は、自国の経済だけでなく、インド太平洋での他の同盟国・パートナー国が、あまり大きな経済的な犠牲を払わずに参加できるような、戦略的な技術や品目にターゲットを絞った「選択的デカップリング策」を志向すべきということになるだろう。今回の日米首脳会談の合意は、これらのプロセスの開始の号令と考えるべきだ。

 

●「いつまで中国への配慮を続ける」 アメリカの圧力から日本は逃げられない 4/27
米中対立が激化する中で、日本はどんな立場を取ればいいのか。国際政治学者の六辻彰二さんは「海外の報道をみると、『日本は米中両国に配慮する曲芸で乗り切った』と言える。だが、今後、日米の温度差が表れるほど米国は対日圧力を一層強めていくことになる」という——。
中国との緊張がエスカレートするのを慎重に避けた
4月16日に行われた日米首脳会談について、日本メディアには菅首相がバイデン大統領にとって最初に迎える外国要人であること、両首脳が「ヨシ」「ジョー」とファーストネームで呼び合ったこと、全米オープンゴルフで優勝した松山英樹選手が首脳間の話題にのぼったこと、さらに東京五輪やコロナ対策での協力など、日米の緊密さにフォーカスする論調が目立った。
これを反映してか、今回の首脳会談に関しては、主に保守派の間で評価が高いようだ。共同声明で尖閣諸島が日米安全保障条約の適用範囲であることが改めて確認されただけでなく、52年ぶりに台湾についての言及があり、さらに香港や新疆ウイグル自治区での人権問題への懸念が盛り込まれたことなどが、その理由だろう。
さらに、中国企業が大きな存在感をもつ情報通信分野に関して、日米が5Gの共同開発を推し進めることに合意したことも、技術的優位を確保して中国ぬきのサプライチェーンを目指すデカップリング戦略の布石と評価される。
しかし、共同声明を細かくみていくと、こうした評価が日米首脳会談の一面にすぎないことがわかる。つまり、日本政府がこれまで以上に米国の中国政策に協力的な態度をみせたことは間違いないが、それと同時に中国との緊張がこれ以上エスカレートするのを慎重に避けたことも確かだからだ。
言い換えると、米中に両足をかける従来の方針は大きく変わっていないものの、米中の距離がこれまで以上に離れるなか、日本政府はその足をいっぱいに広げた曲芸に近い外交を演じたのであり、この温度差がある以上、米国は今後ますます日本に立場を鮮明にするよう求めてくるとみてよい。
米国メディアの報じ方は分裂しているが…
これに関してまず、米国で日米首脳会談がどのように報じられたのかをみていこう。
米国にも「緊密さ」を強調する報道はある。例えば、米国を代表するメディアの一つワシントン・ポストは17日、「米国の同盟関係のショーケースである日本は中国への対応を決定」という見出しで、「菅首相はこれまでの日本の首相と異なり、中国に対してハッキリとコメントした」「両首脳は中国への対応で固い決意を共有した」と報じた。
保守的メディアの代表格で、かつてトランプ政権支持が鮮明だったフォックス・ニュースも17日、「日米首脳は中国や北朝鮮の挑戦を一致して退けると述べた」と強調している。
これに対して、もっと冷めた見方もある。その代表はニューヨーク・タイムズだ。同紙は16日、「5G分野で日米が協力して技術的優位を保つこと」の合意にフォーカスした記事を掲載したが、そのなかでは「日本が米中対立に巻き込まれるのを避けるため共同宣言での表現を和らげることを試みた」とも指摘している。
これに近いのが政治専門サイト、ディプロマットで、19日の論評でやはり両首脳の温度差に触れたうえで、「コロナ対策と景気対策が順調といえないなか、菅首相は米国からのワクチン供給と好調の米国市場をあてにしたい一方で、今年10月の衆議院の任期満了まで外交に入れこむことのリスクを考えている」と評した。
米国にも、中国にも配慮せざるを得ない日本の苦悩
このように米国の主要メディアでも見方が分かれるのは、いわば当然ともいえる。日本政府が米中それぞれの許容範囲いっぱいにまで足を広げたことで、見方によっては米国にこれまで以上に協力的に映るし、角度を変えれば中国との関係を悪化させないようにしたこともうかがえるからだ。
このうち以下ではまず米国との関係についてみていこう。今回の首脳会談で最大の焦点の一つになったのは、そもそも共同声明を出せるかだった。
とりわけ、これまで日本政府が慎重に避けてきた台湾問題に触れるかは政権内部で意見が割れたため、外務省も事前に共同声明を出すかは未定と述べていた。英ロイター通信は16日、米政府高官の「日本が全面的に支持しないどんな声明も出すつもりはなかった」という談話を紹介したうえで、共同声明を出せたこと自体に意味があったと示唆した。
従来の日本政府の態度は、米国政府も承知のうえだ。だからこそ、欧米を中心とする中国包囲網の形成を目指すバイデン政権にとって、「日本もこれに参加した」というメッセージを発すること自体が当面の最重要課題になったとみてよい。だとすると、中国の最も触れられたくない台湾だけでなく、香港やウイグル自治区にまで言及する共同声明を出せたことそのもので、米国は一応満足せざるを得なかったといえる。
共同声明の曖昧さ
その一方で、ニューヨーク・タイムズなどが指摘するように、日本政府の希望に沿って共同声明の文言がよりマイルドになった痕跡は隠しようもなく、この点にバイデン政権が不満を抱いても不思議ではない。
例えば、最大の焦点となった台湾について共同声明には「日米両国は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とある。一見、台湾問題に深く立ち入った文言であるようにみえるかもしれないが、内容としてはこれまでの確認事項にすぎない。「台湾問題の平和的解決」は1979年の米中国交正常化の際に合意された項目の一つで、中国側も公式には受け入れていることだ。
日米首脳会談の2日前、4月14日にバイデン政権が高官3人を非公式に台湾へ派遣し、台湾海峡での有事に備えて支持を鮮明にしたことからすると、共同声明の文言が抑制されたトーンだったことは確かだ。
また、香港や新疆ウイグル自治区などに関して「人権状況への深刻な懸念を共有する」と記されているが、「懸念」とは「心配して注意深く見守る」ことであって、そこに明確な非難や批判の意味はない。米国政府がウイグル問題を「大量虐殺」と呼んだことに比べれば、温度差は大きい。ちなみに、「懸念」は日本政府が中国に対してすでに直接伝えていることでもあり、これまでより踏み込んだ表現ではない。
さらに、共同声明では5Gの日米共同開発について確認された一方、米国が進める中国通信企業の締め出しについては盛り込まれなかった。中国企業の参入を妨げない限り、日米が技術協力すること自体は世界貿易機関(WTO)のルール上、中国が公式に文句をいえる筋合いではない。
以上を要するに、共同声明からは、バイデン政権が加速させる中国包囲網の形成にこれまでより歩調を合わせながらも、尖閣諸島の領有など譲れない部分を除き、中国との対立激化を避けようとする日本政府の姿勢がうかがえるのだ。
ブッシュ政権の下で国家安全保障会議(NSC)メンバーであった米国屈指の知日派、ジョージタウン大学のマイケル・グリーン教授は16日、フランス24のインタビューに対して、「バイデン政権は中国に奪われたアジアの失地回復に躍起だが、日本には進もうとする道があるようだ」とコメントしている。
中国メディアの反応…批判の矛先は米国に集中
こうした日米の温度差は、中国も理解しているようだ。
日米首脳会談を受け、中国政府は17日、「台湾、香港、ウイグルは中国の国内問題」であり、「中国の核心的利益に属する問題に、いかなる干渉も許されない」という談話を発表した。この強い反応は、日米両政府にとって想定内のものであったろう。
むしろここで注目すべきは、日米首脳会談の共同声明を受け、中国メディアから日本批判の大合唱が発生していないことだ。中国メディアの老舗、新華社通信は17日、「日米首脳が共同声明を発表した」と淡々と事実のみを伝えただけで、これといったコメントを加えなかった。中国中央電視台(CCTV)に至っては、Facebookのページに両首脳の写真と簡単な説明を掲載しただけで済ませている。
例外的に詳細な論評を掲載したのは、中国の英字紙グローバル・タイムズだった。「曲げられた菅の中国政策」と題した18日の社説では、「バイデン政権に丸め込まれて米国の尻馬に乗った」と日本を批判したうえで、「中国の発展は止まらない」「注意しなければ20〜30年後に日本はその結果を見ることになる」と警告している。
つまり、この論評では「日本は主体的に中国包囲網に加わろうとしているわけではない」といったニュアンスで捉え、日本の「不注意」をけん制しながらも、むしろ批判の矛先は米国に集中しているのだ。
グローバル・タイムズは同じ18日にもう1本の「中国は競争相手でも、ましてや敵でもない」と題する社説を掲載しているが、このなかで米国に対して「相手を一方的に貶めて低く扱うのではなく対等に扱うべきだ」と強調する一方、日本に関しては「日本にとってあまり関係のない問題を含む、多岐にわたるテーマを含んだ共同声明に、菅首相が距離を置きたがっていたことが目についた」と評するにとどめている。
日本は米中の間で立場の選択を迫られる
グローバル・タイムズの論評は、いわば「中国政府の第二の声明」とも呼べるものだ。そのため、内容に政治的目的があるのはいつものことで、この場合は日本にブレーキをかけさせる意図があっても不思議ではない。つまり、中国包囲網がきつくならないようにしたいという目的だ。
しかし、そうだったとしても、多少のニュアンスの差はあれ、「日本政府が米国だけでなく中国との関係にも配慮した」という論評の趣旨そのものはニューヨーク・タイムズなどと大きな差はない。だとすると、少なくともこの件に関して、中国メディアから「釘をさす」以上の日本批判が出てこないこともまた当然といえる。
日米の温度差が鮮明になるほど、「中国包囲網は形だけ」という印象を与えるだけに、米国にとっては都合が悪い。そのため、今後さらに日本を本格的に中国包囲網に組み込もうとしてくるとみてよい。
菅首相は今回の日米首脳会談で従来の方針を大きく変更せずに乗り切ったともいえるが、米中の間で立場の選択を迫られるのは、これからが本番といえるだろう。  
 
 

 

●日米首脳会談のハンバーガーに思う この待遇でよかったのか 4/28
菅義偉首相とバイデン米大統領との首脳会談が終わった。本コラムでしばしば登場している対中強硬派の米海軍・海兵隊関係者たちは、今回の日米首脳の"対面"会談には、さほど期待は寄せていなかった。これまでの日米首脳会談どおりに、日本の為政者がワシントンDCを詣でて、日米同盟の「強固さ」を確認して胸をなで下ろす、というパターンが繰り返されるに違いない、と考えていたからだ。
結局、残念ながら予想どおり、日米首脳会談はこれまでどおりの「Do you love me?」を再び確認する作業に終わってしまった、と対中強硬派の米軍人たちはうんざりしている。
ただし、それよりもさらに大きな問題があったという。今回の首脳会談でバイデン政権が、「失態をさらした」と激怒している、というのだ。
バイデン政権は、NATOの同盟諸国や日本をはじめとするアジアの同盟・友好諸国を結集して対中包囲網を構築する姿勢を示している。しかしながら、バイデン大統領が初めて自ら対面で迎えることになった今回の日本の首相に対する接遇姿勢には、大統領が外国元首をホワイトハウスに招待する際のプロトコル(外交儀礼)に精通している人々から、同盟国に対する公式外交においては失態といわざるを得ない場面が少なくなかった、との指摘があがっている。米軍関係者も、この点を問題視している。
第一に、菅首相がホワイトハウスに到着した際、公式の歓迎手順が省略されてしまった。これに対して、米軍関係者からは、「本来であれば、同盟国の首脳が訪問した際にはホワイトハウスの玄関先にレッドカーペットを敷いて大統領自身が出迎えあいさつをかわすべきではないか。これが中国包囲網の鍵となる同盟国に対する姿勢なのか?と疑問符をつけざるを得ない」との声があがっている。
また、菅首相がハリス副大統領と会談した際の共同スピーチで、ハリス副大統領が真っ先にインディアナ州の銃乱射事件について話したことに対しても、同盟国に対して失礼な態度であるとの批判が出ている。なぜならば、外国からの来客それも同盟国の首相を横にして、相手国と無関係の国内問題を論ずるのはおきて破りであり、相手国を軽んじているとみなされるからである。
そして、菅首相とバイデン大統領の二人だけの貴重な対面会談に際して、アメリカ側がハンバーガーでもてなしたことは、外交専門家だけでなく軍関係者からも驚きを持って受け止められている。菅首相は会談後、記者団に対して、「(食事に)まったく手をつけないで終わってしまったというぐらい熱中した」と振り返り、バイデン大統領と信頼関係を構築できたと強調した。だが、「公式の首脳会談に手づかみでかぶりついて食するハンバーガーとは、日本を馬鹿にしているとしか思えない」というのが、外交に携わった経験も豊富な軍関係者の率直な感想である。
それほどまでにアメリカが同盟国に対してぞんざいな「もてなし」をしたことで、バイデン政権は日本や同盟諸国に対して不安の種を植え付けてしまった、と軍関係者は受け止めている。
中国が南シナ海や東シナ海に対して覇権主義的な進出行動をますます強める中、今回の日米首脳会談では、日米同盟を強化する方策に関して、「どのような分野において」、「どのようにして」、「いつまでに」といった具体的な内容を共同声明などでどこまで盛り込むことができるかが、米軍関係者の間では関心の的となっていた。しかし、こうした点において、両国にとって意味のある内容が共同声明に付加されることはなかった。
対中強硬派の米軍関係者の間では、アメリカは今後、本気で尖閣問題で日本側の主張を支持する気があるのならば、従来のような日本による施政権だけではなく、日本による領有権の主張を支持する、といった積極的な立場を示す必要がある、との考えが出ている。いくら第三国間の領有権紛争には介入しないということがアメリカの伝統的な外交方針だとはいっても、バイデン政権自身が、中国による既存の国際海洋法秩序への挑戦に反対し、同盟国との関係を重視すると公言している以上、これまでのアメリカの外交姿勢に修正を加えなければならない事態に直面しているからだ。
一方、日本側も、真に日米同盟を強化する気があるのならば、アメリカに頼るだけではなく、自らの防衛能力を強化する具体的方針を明示すべきだ、との声が米軍関係者の中にはある。すなわち、日本を取り巻く軍事環境から判断するならば、国際的に見ても極端に低く抑え込まれている国防費を、少なくとも国際社会の平均レベルであるGDP2%まで増額する方針を表明する必要があるという。
以上のような具体的な日米同盟の強化策がとられない限り、外交的には百戦錬磨の中国共産党政府と渡り合うことは今後ますます難しくなるのではないだろうか。 

 

●菅義偉首相が外務官僚に怒号…?ワクチン外交「失敗」の裏側 4/29 
4月17日、日米首脳会談のために訪米した菅義偉首相が声を荒げたのは、ワシントン時間で午前6時を少し回った早朝だった。
「なにっ!CEOに会えない?」
「なんでだ!」
安倍政権の敏腕官房長官だった当時を彷彿とさせる、すさまじい怒声だった、と居合わせた外務省キャリアが証言する。
先の訪米を「片思い外交」と揶揄された菅首相だが、本当の「意中の人」は、バイデン大統領ではなく、ファイザー社の最高経営責任者アルバート・ブーラ氏だったのだ。
「日米首脳会談以外に、訪米時のサプライズを目論(もくろ)んでいたのです。今、ワクチンの入手は世界各国のリーダーにとって最重要課題。そこで、訪米時にファイザー社のCEOと2ショットを演出して『やってる感』を見せたかったんです。菅首相は総理になって短気を封印していました。が、2ショットの目論見が外れ、ワシントンでついに大爆発してしまったのです」
「仕事をする政権」を前面に押し立てた菅首相にとって、計画通りに仕事が進まないことは許されないことなのである。
ことの詳細を、外務省キャリアが明かした。
「菅首相は、アルバート·ブーラ氏と会い、握手を交わし、会談に臨み、商談成立という一連のシーンを、日本の同行取材団と各国メディアに見せ、世界に発信させようというシナリオを描いていたのです。これが実現すれば、小泉元首相、安倍前首相を超える一大政治ショーになるはずだったのですが…」
外務省はその実現に尽力したが、
「各国へのワクチン供給計画に不公平があると疑念をもたれてはならない、という理由で対面での会談は頓挫してしまいました」
それで、冒頭の「早朝の激怒」となったのだ。
現在、日本の新型コロナワクチン契約状況は、以下の通り。
ファイザー社(米)1億4400万回(7200万人)分
モデルナ社(米)5000万回(2500万人)分
アストラゼネカ社(英)1億2000万回(6000万人)分(日本生産含む)
合計すると日本の人口を上回る人数分のワクチンが「とりあえず」確保されている。とはいえ、現在国内で承認されているのはファイザー社製ワクチンしかない。しかも、契約したものの現物は届いていないのだ。
ワクチン確保の致命的な遅れにより、優先接種としていた「医療従事者480万人」の「1回接種率」は36%台、「2回接種」が完了しているのは、わずか18%台にとどまっている。
4月12日から始まった「高齢者3600万人」に対する接種はたったの0.2%、約7万5千人。2回接種は0%なのだ(4月27日現在)。これでは高齢者の命は守れないし、64歳以下の一般人は、いつになっても順番が回ってこない。
ワクチン確保だけではない。その接種計画も「ぐだぐだ」だ。そんななか、接種を担う医療従事者を、オリンピックに駆り出すという計画まである。
ゴールデンウイーク中の接種は完全休止という自治体がある一方で、いきなり「ワクチン接種の24時間態勢」を唱えるなど場当たり的な対応も目立つ。
「菅政権の支持率は、新型コロナ感染状況とシンクロしている。菅さんはコロナ対応に注力していることをアピールしなければならないと考えたんだな。そのために、ファイザー社CEOと『トップセールス』アピールを外交日程に組み込みたかった。むしろそっちを優先したかった」(自民党重鎮)
訪米の忙しい日程のなか、ワシントンで「電話会談」をする菅首相の姿を見た国民は、何をしているのか?と思ったに違いない。現地で叱責を浴びた官僚たちも同じ思いだったはずだ。
EUは、ワクチンの供給が遅れたアストラゼネカ社を「契約不履行」として提訴した。アメリカは自国で使用許可を出していないアストラ社のワクチンを「他国に提供する」と発表した。日本のワクチン確保、対応は世界基準からあきらかに「周回遅れ」だ。
一刻も早くワクチンを接種して家族との日常を取り戻したいと願っている「国民」に目を向けてほしい。 

 

●来月初め日米間外交長官会談説…3国首脳会談「計画中」? 4/30
ジョン・ウィヨン外交部長官が来週G7(主要7カ国)外交・開発長官会議に出席する中、日米韓3カ国の外交長が別途会談を開くかどうかに関心が集まっている。特にこれを日韓葛藤を修復する契機として、日米韓首脳会談につながる推進力となるかを巡ってだ。
ジョン長官は来月4日から5日まで、イギリスのロンドンで開催されるG7外交・開発大臣会合に出席する。韓国外交部長官がG7外相が集まる会議に出席するのは今回が初めてだ。
ジョン長官は今回の会議を通じて、米国と英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、日本などG7加盟国の外相に会う。また、今年のG7議長国である英国の招待で、オーストラリア、インド、南アフリカ、G7開発協力パートナーであるアセアン議長国ブルネイ外相にも会う予定だ。
今回の会議の主な議題は、コロナへの対応など、保健、気候変動、開発分野での協力強化策などである。
また、今回の会議をきっかけにジョン長官が参加国長官と二国間又は多国間の個別会談を開催するかどうかにも関心が集まっている。
その中でも、現在の外交界で最も注目されているのは、日米韓3カ国の外相会談、または米韓、日韓間の会談が開かれる可能性である。
ただし外交筋によると、日本側は日韓両国間の進展がない状況での会談には大きな意味を感じていないと伝えられた。
しかし、日米韓外相会談は異なる。米国のバイデン政府が今年1月に発足して以来、日米韓の3国協力を強調し続けているからだ。また、日本も日韓間の歴史問題と、米国が望む日米韓の協力は別に扱っているとみられる。
実際、今月16日、日米首脳会談の結果である共同声明には、「私たちは共同の安全保障と繁栄のためには、韓国との3カ国の協力(日米韓の協力)が不可欠であるという意見で一致した」という内容が盛り込まれた。
現在、日韓の対立は、過去の問題をはじめ、最近、日本政府の福島原子力汚染水の海洋放出の一方的な決定などで溝がさらに深くなった状況である。日本は今年の外交青書に「竹島は日本の領土」という無理な主張を入れ、日韓葛藤の出口は見えないと言われている。
このような状況下で、今回のG7会議を契機に日米韓3カ国の外相会談が開催されれば、日韓関係回復のきっかけを設けることができるものと思われる。また、6月には英国で開かれるG7首脳会議を控えているため、日米韓3カ国首脳会談の話も出るだろうと外交界は見ている。
特に米国の「息」がかかった場合、日本が対応する可能性が高いという分析が出ている。日本の読売新聞も29日、日米韓3カ国がG7外相会談に合わせて3カ国会議を調整中だと報道した。
ただし、韓国政府側では今までに積極的な発言はみられていない。チェ・ヨンサム外交部報道官は29日の定例記者会見で、「現在の別途の面会計画を進めている」としながらも、「ただし詳細について現段階では具体的に公開するのは難しい」と述べた。
パク・ウォンゴン梨花女子大北朝鮮学科教授は「(日米韓外相会談)可能性がある」とし「バイデン政権が日米韓3カ国の協力を推進し、3者協議を頻繁に行うことで協力を強固にしようとするアプローチがみられる」と述べた。
パク教授はまた「バイデン政権の立場では、日韓の問題が解決されるまでただ待つことはできない状況」とし「インド・太平洋地域では、クワッド(QUAD・米国、日本、インド、オーストラリアの参加協力)と共に日米韓協力を一つの協議体として導いていこうとするだろう」と話した。
●日中に改めて求められる「政経分離」 4/30
日米安全保障協議委員会(2プラス2)や日米首脳会談の共同声明で、中国を強く牽制する表現が盛り込まれたことを受けて、日系企業の間には日中関係の悪化を懸念する声が出始めている。一部で2012年の尖閣問題のような深刻な状態に陥るとの観測もあるが、米国との対立を抱える中国の状況は今と昔では異なる。そもそも政治と経済は切り離して考えるべきものであり、したたかな米国企業の対応に学ぶべき点も多い。
日米政府は3月16日、外務・防衛担当閣僚による2プラス2を都内で開き、共同文書において中国を名指しで言及。中国の海警局の武器使用権限を明確化した海警法の施行に深刻な懸念を示した。また日本時間4月17日に開かれた日米首脳会談では半世紀ぶりに「台湾」の文字が明記されたことで、一部の日本メディアは中国が強く反発していると報じている。
しかし中国は本当に反発しているだろうか。在中の日本政府関係者など両国に詳しい人の間では「想定内」「許容範囲」との見方が強い。実際、「台湾海峡の平和と安定」という言葉は中国政府自身が使ってきた言葉であり、この表現自体、いかようにも解釈できる。新華社通信など現地メディアは今回の件にほとんど触れていない。足元で過敏に報道しているのは、むしろ原発処理水の方だ。
人権や安全保障など幅広い分野で米国との対立を深めている中国にとって、日本との関係を悪化させたくないというのが本音だろう。今年は共産党結成100周年。来年、日中国交正常化50周年を控えるなか、両国政府とも波風を立てるのは得策でないはず。先の気候変動サミットへの習近平国家主席の参加には、米国との関係改善の糸口を探りたいとの思惑がにじむ。
政治において各国が譲れぬ一線を引き、日米が台湾に言及すれば、中国がそれに対して反応するのは過去からの流れだ。こうした政治的立ち位置と経済は切り離して考えるべきものである。当の米国にしても、例えば上海市で毎秋開催されている国際輸入博では、参加国で一二を争う規模の出展面積を確保している。エクソンモービルが広東省で数十億ドルとされる大型石化コンプレックスを計画し、デュポンは張家港市(江蘇省)で新たな接着剤工場を新設することを決めるなど、いち早く経済回復を遂げた中国市場に鼻息を荒くしているのだ。
尖閣問題以降、冷え込んだ両国関係をつなぎ、草の根の交流を続けてきたのは日中の経済界だった。日本企業は一時の雰囲気に流されず、大局的見地から中国ビジネスに臨むべきだ。 
 
 
 
 
 
 

 

●中国
●中国、日米首脳会談巡り「重大な懸念」−趙外務省報道官 4/16
中国外務省の趙立堅報道官は16日、同日予定されている日米首脳会談について、日米が中国に対して結託する「マイナス思考の動き」に中国は「重大な懸念」を抱いていると述べた。
趙報道官は北京で開いた定例記者会見で、中国と米国、日本の関係は「重大な局面」にあると指摘。中国は日米の一般的な2国間関係に反対しないが、第三者の利益を標的にしたり損害を与えたりしてはならないと語った。
また、台湾と香港、南シナ海、尖閣諸島(中国名・釣魚島)に関する中国政府の立場は一貫しており明確だと主張。日米両国は中国の懸念や要求を真剣に受け止め、内政に干渉せず、対中国で徒党を組むことは控えるべきだと話した。
趙報道官によると、中国は状況の展開を踏まえ必要な対応を行う。

 

●中国、日米共同声明に「断固反対」 対日圧力強化へ 4/17
中国の在米大使館報道官は17日、「台湾」に言及した日米首脳共同声明に関する談話を発表し、「強烈な不満と断固とした反対」を表明した。共同声明が、香港や新疆ウイグル自治区の人権状況に「深刻な懸念」を示したことにも反発。習近平指導部は今後、菅義偉政権に対する圧力を強めそうだ。
談話は「台湾、香港、新疆ウイグル自治区に関する問題は中国の内政であり、東・南シナ海は中国の領土主権・海洋権益に関わり、干渉は受け入れられない」と強調。沖縄県・尖閣諸島周辺や南シナ海への強引な海洋進出を含め、中国が関係する問題を幅広く取り上げた共同声明を「2国間関係の範囲を逸脱し、第三国の利益を害する」と非難した。
共産党政権は台湾などを「核心的利益」と位置付けてきた。中国の日本専門家は「台湾海峡の緊張は避けられない。対米、対日関係は後退する」と予想する。報道官談話は「中国は国家主権、安全、発展の利益を確実に守る」と強調しており、台湾や尖閣、南シナ海をめぐる緊張が高まりそうだ。
●中国側、日米首脳会談に猛反発 台湾は感謝 4/17
日米首脳会談を受けて、中国側は早速、猛反発しています。
アメリカにある中国大使館の報道官は17日、日米首脳会談を受けてコメントを発表しました。
この中では、台湾や香港、東シナ海などの問題について、中国の主権や海洋権益に関わるもので干渉は許さない、と述べています。その上で、日米両首脳が発表した共同声明について「強烈な不満と断固反対を表明する」としています。
中国側が今後さらに日本への圧力を強める可能性もあります。
一方、台湾外交部は「日米両政府が台湾海峡の平和と安定を重視することを改めて表明したもので、心から歓迎と感謝の意を表します」とのコメントを発表しました。その上で、「台湾と日米両国は自由、民主、人権、及び法の支配などの基本的価値を共有する重要なパートナーだ」としています。
●中国、日米共同声明に反発 「干渉許さない」と不満を表明 4/17
在米中国大使館は17日、日米首脳会談の共同声明が台湾や香港、東シナ海などの問題に懸念を示したとして「中国の根本利益に関わる問題で、干渉することは許されない」と反発する報道官の談話を発表した。
日米に「強烈な不満と断固とした反対」を表明しており、これまで改善基調にあると強調してきた対日関係について、習近平指導部が圧力を増していく可能性がある。
「二国間関係の正常な発展という範囲から、完全にはみ出している」
在米中国大使館の談話は、日米を強いトーンで批判した。台湾、香港、新疆(しんきょう)ウイグル自治区の問題について「中国の内政だ」と主張。東シナ海と南シナ海の領土主権や海洋権益の問題も含め、「中国は国家の主権や安全、発展の利益を固く守り抜く」と強調した。
共同声明は、「台湾」について1972年の日中国交正常化以降、初めて盛り込んだ。台湾は、習指導部が「核心的利益」の中でも特に重視している部分であり、中国外務省は日米首脳会談の結果を見て「必要な反応をとる」と対抗措置を示唆している。
共同声明は、尖閣諸島(沖縄県石垣市)についても「両国は共に、尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」と明記した。対日防衛義務を規定した日米安全保障条約第5条の適用は、尖閣が日本の施政権下にある必要があるが、米政府として関与姿勢を改めて見せた形だ。
日本の対抗措置は限定的との読みから尖閣への圧力を強めている中国に対してどこまで抑止力となるか、注目される。
習指導部は、日本が米国と3月16日に開いた外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)で、中国を名指しして批判したことを機に、対日姿勢を硬化させるようになっている。
ただ、これまでは「米国の同盟国だからといって中国を攻撃しないことを望む」(中国外務省報道官)と、日本が米側の対中強硬姿勢に巻き込まれているという論調が中心だった。日米首脳会談を受け、直接的な対日圧力が増す恐れもある。
既に対日批判の矛先は、日本政府が方針を正式決定した東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出に向かっている。在米中国大使館の談話も、「極めて無責任なやり方で、地域の国や国民の直接的な利益を損なう」と批判。米政府が海洋放出に理解を示していることに対しても、「米国と日本は『核廃棄物で汚染されたインド太平洋地域』を作り出したいというのか?」と非難している。  

 

●「内政干渉やめよ」 日米に重ねて反発―中国外務省 4/18
中国外務省は17日深夜、台湾海峡の安定や南シナ海問題などに言及した日米首脳共同声明に関して、「(日米が)中国の懸念に厳粛に対応し、直ちに中国内政への干渉をやめるよう求める」とする報道官談話を発表した。中国政府は同様の談話を、米国や日本にある中国大使館を通じて発表しており、重ねて日米に対する不満を強調した。
談話は、日米首脳が香港や新疆ウイグル自治区の人権問題を提起したことや、沖縄県・尖閣諸島を日米安全保障条約第5条の適用対象であることを確認したことにも反発し、「強烈な不満と断固とした反対」を表明した。さらに「あらゆる必要な措置を取り、国家主権、安全、発展の利益を断固として守る」と主張。談話によると、中国は外交ルートを通じて日米両国に抗議した。
●中国、日米共同声明は内政干渉と反発−「強い不満と断固反対」表明 4/18
中国外務省は17日、ワシントンで16日行われた日米首脳会談の共同声明について、内政干渉だとして中国の政策への懸念を退けた。
日米首脳の共同声明には「ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有した」との文言が明記された。中国外務省はウェブサイトで、日米が示した立場は「国際関係に関する基本準則に深刻に違反している」と主張。「中国は強い不満と断固反対」を表明するとし、日米両国が「徒党を組んで集団対立をあおっている」と反発した。
菅義偉首相はバイデン大統領との会談後の共同記者会見で、「台湾海峡の平和と安定の重要性については日米間で一致しており、今回改めてこのことを確認した」と表明。
一方、バイデン大統領は「中国からの挑戦や、東シナ海や南シナ海などの問題、北朝鮮の問題に対処し、自由で開かれたインド太平洋の将来を確実にすることに自分と菅首相はコミットしている」と指摘した。
在ワシントンの中国大使館は中国外務省より先に、日米の共同声明に関して「断固反対」を表明。「二国間関係の通常の発展の範囲をはるかに超える」内容であり、アジア太平洋の平和と安定を損ねると批判していた。 
●中国が“台湾海峡”明記に反発「内政に乱暴に干渉」 4/18
日米首脳会談の共同声明で「台湾海峡」の文言が明記されたことなどを受けて中国政府は「断固反対する」とし、日米両国に厳正な立場を表明したと反発しました。  中国外務省は報道官の談話を発表し、「日米共同声明は中国の内政に乱暴に干渉し国際関係の基本ルールに重大に違反している」と批判しました。
さらに、「日米両国に厳正な立場を表明した」と明らかにしたうえで「あらゆる措置を取り国家の主権や安全を断固として守る」として、何らかの対抗措置を取る可能性も示唆しています。  また、駐日中国大使館も報道官コメントを発表し、日本に対して「大国間の対立の渦に巻き込まれないよう忠告する」などとしています。 

 

●日米は「国際社会代表せず」 共同声明を批判―中国外務省 4/19
中国外務省の汪文斌副報道局長は19日の記者会見で、日米首脳共同声明について、世界には国連中心の国際システムだけしかないと述べた上で、「米日は国際社会を代表できず、国際秩序を定義する資格はなく、自分の基準を人に押し付ける資格もない」と批判した。共同声明発表後、中国外務省報道官の会見は初めて。
16日(日本時間17日)に発表された共同声明は「自由で開かれたルールに基づく国際秩序への挑戦に対抗」「ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有」と明記しており、汪氏は真っ先にこれらに反論。「自由で開かれたインド太平洋」構想について、「米日は『自由で開かれた』と言っているが、実際は『小さなサークル』をつくり集団対立を扇動するもので、地域の平和と安定への真の脅威、国際規則・秩序の勝手な破壊だ」と非難した。
汪氏は「人権問題において日米両国は中国や世界の人民に借りがある」と主張。日米は「自らの侵略行為や他国への人権侵害を反省すべきだ」と述べ、日本の原発処理水海洋放出の決定についても改めて撤回を要求した。  

 

 
 
 

 

 
 
 
 

 

●台湾
●台湾の蔡総統、米国との関係は深まり続けている−米代表団と面会 4/15
台湾の蔡英文総統は15日、米国からバイデン大統領就任後初の代表団を迎えたことについて、台湾と米国の関係が深まり続けていることを示していると述べた。蔡総統はこの日、台湾を訪れた元国務副長官のリチャード・アーミテージ、ジェームズ・スタインバーグ両氏と元上院議員のクリストファー・ドッド氏と面会した。
蔡総統は台北での記者会見で、代表団派遣は台湾に対する米国の超党派の支持を示すものだと指摘。新型コロナウイルスを封じ込める台湾の取り組みが、台湾経済の活気を保ち、台湾が米国にとって信頼できる経済・貿易パートナーであり続けることを可能にしていると語った。
ドッド氏は米台のパートナーシップはかつてなく強力だと指摘し、双方は深い経済的結び付きや民主主義的価値観への相互コミットメント、極めて重要な安全保障上のパートナーシップを共有していると述べた。
蔡総統は台湾と米国との「貿易および投資枠組み協定(TIFA)」の交渉再開と双方の貿易・経済関係の深化を楽しみにしているとも表明。台湾周辺での中国人民解放軍の行動にも触れ、こうした行動はインド太平洋地域の現状を変えようとするもので地域の平和と安定を脅かすと非難した。台湾は米国を含め志を同じくする各国と協力し、インド太平洋の平和と安定を守り、危険な行動と挑発を阻止する用意があると語った。
ドッド氏は「私の長年の友人であるバイデン大統領の要請により、このパートナーシップと、共有する数多くの利益について協力を深めることに対し、米国のコミットメントを再確認するため、超党派の代表団としてここにいる」と説明。台湾が国際社会で存在感を高めるのをバイデン政権は支援し、台湾の投資と自衛もサポートすると確信していると話した。

 

●台湾、「心から歓迎、感謝」 日米首脳会談の共同声明に 4/17
台湾の外交部(外務省)は17日、日米首脳会談の共同声明に台湾海峡の安定が重要だとの認識が示されたことについて「日米両国が(台湾)周辺の安全保障に関心を寄せていることを喜ばしく思う。心から歓迎し、感謝する」との声明を発表した。日米首脳会談の共同声明で台湾に関する記述が明記されたのは、1969年以来となる。
外交部は、中国から強まる圧力を念頭に「日米、その他の理念を共有する国々と緊密に協力して今後、インド太平洋の平和、安定、繁栄を目指す」とも述べた。
特に最近は、10〜20機前後による大量の中国軍機が、台湾の防空識別圏に頻繁に侵入を繰り返すことが増えた。中国軍による台湾周辺での軍事演習も多く、台湾では警戒感が強まっている。
こうした状況も踏まえ、今回の日米共同声明では「台湾海峡の平和と安定の重要性」が強調され、「両岸問題の平和的解決を促す」と記された。
前回、台湾問題について触れられた69年は、ワシントンで佐藤栄作首相とニクソン大統領が会談した。当時、佐藤首相は「台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとって極めて重要な要素である」と述べた。
その後、日米ともに中国と国交を結んだのを機に台湾と断交した。日本は72年、米国は79年にそれぞれ台湾と断交し、現在でも正式な外交関係がない。 
 
 

 

 
 

 

 
 

 

 
 

 

 
 

 

 
 
 
 

 

 
 
 

 



2021/4