原発汚染水の海洋放出 

福島原発汚染水の海洋放出

トリチウム水
本当に 安全なのですか
 


報道 / 2018201920202021/12021/22021/32021/42021/5・・・
4/74/84/94/104/114/13 (海洋放出決定)4/144/154/164/174/194/204/214/224/234/254/264/274/284/294/305/15/25/35/45/55/65/85/105/115/135/165/185/195/205/26-6/1-7/1-・・・

トリチウム・・・トリチウム除去機器・・・KURION近畿大学イメージワン・・・ 
 
 2018

 

●事故以来、海に流れ出ている放射能、毎日20億ベクレル 2018/5 
2018年5月10日の東京電力の定例会見で、福島第一原子力発電所からセシウム137が毎日20億ベクレル海に流出している問題について今後の方針を問われた東電は「現状のやり方で放置する」と回答した。
2011年3月の事故をきっかけに太平洋への大量放射能流出が始まり、2018年5月現在、毎日推定300トンの汚染水が太平洋に流出し続けている。放射能の量は推定セシウム137のみで「毎日20億ベクレル」という。
2014年時点で80億ベクレル、という記録があるが、これには「毎日、ストロンチウム90が50億ベクレル、セシウム137が20億ベクレル、トリチウムが10億ベクレル」(当時の東電定例会見ビデオを参照)とあるから、今も出て行くセシウム137の量は全く減っていないということになる。ようやく昨年から大枚の資産をかけた凍土壁ができてだいぶ流出量を抑えたというが、完全を期したわけではない装置はやはり気休めに近いまま、海洋への汚染水の流出はとどまるところを知らないということができる。
セシウム137は放射性崩壊に時間がかかり、半減期は30年(30年をかけて放射性が半分になる)とされる。10分の1になるには41年かかる。2011年に放出したセシウム137はまだまだその時期ではない。その後の太平洋汚染はどのようにモニタリングされているのだろうか、気になるところである。
他の放射性同位体の半減期を引用しておこう。半減期は半分の効力を失うというだけで消滅はしない。
•トリチウム 12.3年
•ストロンチウム90 29年
•プルトニウム240 6561年
•ウラン235 7億年
•ウラン238 45億年 

 

●「トリチウム水」 汚染水対策の最新状況と今後の課題  2018/6
福島第一原子力発電所では、放射性物質を含む汚染水を浄化設備で処理し、処理後の水をタンクに貯蔵しています。汚染水に関するニュースでは、「凍土壁」「サブドレン」「トリチウム」など、あまり聞き慣れない用語が出てくることが多く、わかりにくい面があるかもしれません。「福島第一原子力発電所の汚染水問題とは?」「『トリチウム水』とは?その性質や現状は?」を中心に、汚染水をめぐる状況を解説します。
1.福島第一原子力発電所の汚染水問題とは?
1 なぜ汚染水が発生するのか?
原子力発電所では通常、運転に伴い発生した放射性物質のほとんどが原子炉圧力容器内の燃料棒の中に閉じ込められています。しかし、福島第一原子力発電所では事故により燃料棒が溶融し、原子炉圧力容器およびその外側にある原子炉格納容器内で発生した「燃料デブリ」(※1)に含まれる放射性物質(セシウム、ストロンチウム、トリチウムなど)が燃料デブリの冷却水と触れ、「汚染水」となりました。さらに、その汚染水が原子炉格納容器の中だけでなく原子炉建屋内やタービン建屋内などにも広がりました。現在もなお、原子炉建屋内には地下水が日々流れ込んでおり、汚染水は流入した地下水の量だけ新たに発生しています。
   図1 福島第一原子力発電所における原子炉建屋内の汚染水の状況
2 汚染水への対策状況は?
汚染水対策は、「汚染源に水を近づけない」「汚染源を取り除く」「汚染水を漏らさない」の三つの基本方針に沿って行われています。
一つ目の「汚染源に水を近づけない」とは、新たな汚染水の発生を抑制するため、原子炉建屋内へ流入する地下水量を減らす対策です。いわゆる「凍土壁(凍土方式による陸側遮水壁)」とは、この「汚染源に水を近づけない」ための対策の一つです。土壌を凍結させた氷の壁を設置することにより、原子炉建屋に流入する地下水を減らすことを目的としています。あわせて、地下水の上流側に井戸(サブドレン)を設置し、原子炉建屋内に流入する前の地下水をくみ上げることで、原子炉建屋内に流入する地下水を減らす対策もとられています。凍土壁の設置や地下水のくみ上げなどの対策を行ったことで、それ以前は1日あたり490t発生していた汚染水が、現在は110tまで低減されました(※3)。
二つ目の「汚染源を取り除く」とは、汚染水を浄化設備で処理することで、汚染源である放射性物質を除去する対策です。汚染水からセシウム、ストロンチウムを重点的に除去した後、多核種除去設備(ALPS(アルプス))を用いて大半の放射性物質を除去しています。ALPSで浄化処理を行った水(以下、「処理水」)は、タンクに入れて福島第一原子力発電所の敷地内に貯蔵されています。なお、この処理水にはALPSでも取り除くことができない放射性物質の「トリチウム」が含まれていることから、タンクに貯蔵された処理水は「トリチウム水」とニュースなどで呼ばれることがあります。
最後の「汚染水を漏らさない」とは、汚染水や処理水の漏えいによる周辺環境への影響を防止する対策です。その一つとして、福島第一原子力発電所の1〜4号機の海側に「海側遮水壁」と呼ばれる鋼鉄製の杭の壁を設置することにより、1〜4号機の敷地から放射性物質を含む地下水が海に流出するのをせき止める対策がとられています。また、処理水がタンクから漏えいするのを防ぐため、漏えいのリスクが低い型のタンクを使用しています。
   図2 三つの基本方針に基づく汚染水対策イメージ
2.「トリチウム水」とは?その性質や現状は?
1 「トリチウム」とはどんな物質なのか?
汚染水対策の三つの方針で、二つ目の「汚染源を取り除く」でも触れましたが、ALPSでも除去できない放射性物質が「トリチウム」です。トリチウムという名前を聞いても、あまりなじみがなくどんな物質か見当がつかないと感じる方も多いかもしれません。
トリチウムは、日本語で「三重水素」と呼ばれる水素の仲間(同位体)です。水素と聞くと、原子核の陽子一つの周りを電子が回っている「軽水素」を想像される方が多いでしょう。水素の仲間には、原子核が陽子一つと中性子一つで構成される「重水素」、そして原子核が陽子一つと中性子二つで構成される「三重水素」の「トリチウム」があります。
トリチウムは、原子力発電所を運転することで発生しますが、自然界でも大気中の窒素や酸素と宇宙線が反応することで生成されています。水分子を構成する水素として存在するものが多いことから、トリチウムは大気中の水蒸気、雨水、海水だけでなく、水道水にも含まれています。
軽水素や重水素は安定な同位体で放射線は出しませんが、トリチウムは12.33年の半減期(元の原子核の数が半分になる時間)でβ線を出してヘリウム-3に変わる放射性同位体です(β線については後述)。
   図3 水素の仲間(同位体)
2 なぜトリチウムの除去は難しいのか?
トリチウムは、処理水中で水分子の一部となって存在しています。このため、水の中にイオンの形で溶けているセシウムやストロンチウムといった他の放射性物質とは異なり、トリチウムが含まれる水分子のみを化学的な方法により分離し、除去することは容易ではありません。
福島第一原子力発電所で発生した処理水に含まれるトリチウムを含む水分子(下図のHTOやT2O)の濃度は最大でも1Lあたり数百万Bq(※4)です。これは1Lの処理水に含まれるトリチウムがわずか100ng(n(ナノ)は10-9)(重量の割合にして100万分の一よりはるかに少ない)程度であることを示しています。トリチウムを含む水分子だけを処理水から分離して取り出す方法も開発されていますが、このようなわずかな量のトリチウムを大量の処理水から取り出すには、膨大なエネルギーとコストが必要になり、現実的に利用可能な効率的な分離を行うには、さらなる技術開発が必要となります。
   図4 トリチウムを含む水分子の構造
3 トリチウムの、人体や環境への影響は?
トリチウムは放射線の一種であるβ線を出しますが、このβ線はとてもエネルギーの低い電子であるため紙一枚で遮ることができるほど弱く、外部から被ばくしても人体への影響はほとんどありません。また、水として飲んだ場合でも、特定の臓器に蓄積することはなく、他の放射性物質と比べて速やかに体外に排出されます。そのため、内部からの被ばくの影響も、取り込んだ放射能あたりで見れば他の放射性物質よりも小さくなっています。これまでも水道水などを通じてトリチウムは日常的に私たちの体内に取り込まれていますが、通常の生活を送ることで取り込んだトリチウムによる健康影響は確認されていません。
原子力発電所など国内外の原子力関連施設において発生したトリチウムは、近海に排出されています。日本でもこれまで40年以上にわたってトリチウムが排出されていますが、排出にあたっては濃度上限が定められており、原子力関連施設の近海におけるトリチウム濃度のモニタリングも継続して行われています。近海のトリチウム濃度は、WHO(世界保健機関)が定める飲料水のトリチウム濃度(10,000Bq/L)を下回っていることが確認されています。
4 「トリチウム水」の処理・処分の取組状況は?
2018年4月時点で、処理水(※5)は、容量が約1,000tのタンクに換算すると1,065基ほどの量(※6)となっています。処理水を貯蔵するタンクの数や敷地は膨大になる一方です。タンクが増え続けるのに伴い、廃炉を進めるための設備増設などが必要となっても、その用地が確保できず作業が遅延するなどの影響が生じる可能性もあります。また、貯蔵し続けることで管理コストがかかり、処理水漏えいのリスクを常に抱えることにもなります。このように、処理水をタンクに貯蔵し続けることにはデメリットがあり、根本的な解決にはならないことから、処理水の処分方法を検討、決定する必要があります。
処理水の処分方法については、「地層注入」「海洋放出」「水蒸気放出」「水素放出」「地下埋設」といった選択肢が検討されています。処分方法の決定にあたっては、技術的な観点(技術的成立性、規制成立性、期間、コスト、作業員の被ばくなど)に加えて社会的な観点(風評被害の発生など)も必要であることから、経済産業省が委員会(※7)を設置し、専門家を交えた総合的な検討が行われているところです。
   図5 タンクの大きさ(※8)のイメージ図(身長170cmの人との比較)
   図6 福島第一原子力発電所敷地内の様子
3.「トリチウム水」の処理・処分を巡る今後の課題は?
トリチウムが出す放射線が非常に弱く、人体や環境への影響が小さいとはいえ、トリチウムを含む処理水を海洋や大気に放出することを不安に感じる方も多いでしょう。福島県産の農林水産物への影響や風評被害発生の懸念も指摘されています。
トリチウムは、あまりなじみがない物質であり、よくわからないため不安に思われている面があると考えられます。処分方法の説明はもちろんですが、まずはトリチウムそのものや影響についての丁寧な説明が不可欠といえるでしょう。
加えて、処分方法の決定にあたっては、決定後にのみ処分方法を周知するのではなく、決定前においても処分方法の検討・選定の観点、各選択肢のメリット・デメリットを丁寧に周知させるなど、決定プロセスの透明性を高めることも重要です。
処理水が処分されれば、福島第一原子力発電所の廃炉作業が一歩前進することになります。国内外から「再汚染」「負の影響の発生」などと捉えられることのないよう、処分方法の決定プロセスおよびその結論に対し、国民の理解・納得が得られるよう最善を尽くすことが望まれます。  
 2019

 

●東電が汚染水を海に流してはいけない4つの理由 2019/7
東京電力福島第一原発の敷地内には、放射能で汚染された水(汚染水)がたまり続けています。多核種除去設備(ALPS)で処理した水など合計で100万トンを超えています。ALPSでは、トリチウムは取り除けませんが、62もの放射性核種を基準値以下にすることになっていました。しかし、2018年9月、東電は、ALPSで処理した水のうち、84%が基準を満たしていなことを明らかにしました。処理水を今後どうするかについては、海への放出も選択肢となっています。海洋放出は、海洋環境を汚染し、漁業者にも大きな打撃を与えます。すでに事故により甚大な被害を被っている被災者の方々に、汚染水の海洋放出によって追い打ちをかけるようなことがあってはなりません。
汚染水はなぜできる?
そもそも、なぜ、汚染水ができてしまうのでしょうか?東電は溶けた核燃料を冷やすために、毎日数百トンの水を原子炉に入れています。また、山側から海側に流れている地下水が原子炉建屋に流れ込んでいます。これらの水は高濃度の放射能汚染水になっています。地下水が原子炉建屋に流れ込んでしまうのは原子炉建屋の位置が低いため。建設段階で、海水の汲み上げコスト削減のために原子炉建屋の位置を海面近くまで掘り下げました。そのために今、地下水が原子炉建屋に流れ込み、汚染水を増やしています。
汚染水の処理
東電はこの汚染水のリスクを下げるため処理をしています。まず、セシウムとストロンチウムを分離、その後、他核種除去設備(ALPS)で、トリチウム以外の62種類の放射能を分離することになっています。今、100万トンを超える処理水が、福島第一原発の敷地内のタンク約1000基に保管されています。
汚染水を海に流してはいけない4つの理由
国は、海洋への放出を有力な選択肢として検討していますが、それは許されません。
理由1 取り除くはずのものが取り除けていない
2018年8月、「トリチウム水をどうするか」の公聴会の直前、トリチウム水に基準を超えるストロンチウム90、ヨウ素129などの放射性核種が含まれていることが発覚しました。フリーランスライターの木野龍逸氏は、データを精査し、ヨウ素129(I-129)、ルテニウム106(Ru-106)、テクネチウム99(Tc-99)なども基準値を超えていたと報道しています。公聴会では、海洋放出に対して反対意見がほとんどを占めました。東電は、トリチウム水89万トンのうち8割強である約75万トンについて、基準値を超えていたことを明らかにしています。東電は放出するときには基準値以内にしてからと言っていますが、取り除くはずのものが取り除けていません。流すときには薄めればよいという問題ではありません。
理由2 トリチウムにはとくに内部被ばくのリスクがある
トリチウムの半減期は12.3年です。リスクが相当低くなるまでに100年以上かかります。体内に取り込まれたトリチウムが半分になるまでには10日程度かかります。放つエネルギーは非常に低いものの、体内に存在する間に遺伝子を傷つけ続ける恐れがあります。また、体内で有機結合型トリチウムに変化すると体内にとどまる期間が長くなります。
理由3  国際法は「最善の手段を」と言っている
日本も批准している「国連海洋法条約」では「いずれの国も、海洋環境を保護し及び保全する義務を有する」としています(第192条)。そして、第194条には「いずれの国も、あらゆる発生源からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、利用することができる実行可能な最善の手段を用い、かつ、自国の能力に応じ、単独で又は適当なときは共同して、この条約に適合するすべての必要な措置をとるもの」とあります。陸上でタンクで保管するという「実行可能な最善の手段」があるにも関わらず、海洋放出することは海洋環境保護の観点から認められません。グリーンピースは、国連の国際海事機関の会合で汚染水について問題提起をしています。
理由4 トリチウム分離技術は存在する
国の委員会の報告書では「トリチウム分離技術の検証試験の結果を踏まえ、直ちに実用化できる段階にある技術が確認されなかったことから、分離に要する期間、コストには言及していない」として、分離については選択肢となっていません。しかし、実際にトリチウム分離はアメリカなどでおこなわれています。より時間をかけて、検討すべきです。
汚染水は、長期保管し、その間にトリチウム分離技術の開発を
汚染水をどうするかーーそれを決定する際に、もっとも考慮すべきは太平洋の沿岸に住む人々の暮らしと健康、そして広い海全体の環境への影響です。現在、国は汚染水をどうするかについて、従来の、海洋放出や水蒸気の形での大気放出などの選択肢に加え、陸上保管も選択肢に加えると報道されていますが、予断を許しません。現段階で最善といえるのは、陸上で長期保管し、並行してトリチウムを含む放射性核種の分離・回収技術を開発・適用することです。

 

●福島原発の汚染水は「海に放出するしかない」 原田環境相 2019/9
日本の原田義昭環境相兼原子力防災担当相は10日、東京電力福島第一原発から出た汚染水を、海に放流する必要があるかもしれないと述べた。汚染水のタンクが2022年に一杯になることを理由に挙げた。現在、炉心溶融(メルトダウン)した原子炉の冷却に使われた水100万トン以上が、巨大なタンクに貯められている。
「他に選択肢ない」
日本のメディアによると、原田氏はこの日の記者会見で、「思い切って放出して、希釈する他に選択肢はない」、「安全性、科学性からすれば、どうも大丈夫」などと述べた。原田氏の意見に対しては、漁業団体が強く反対を表明している。
一方、多くの科学者は、汚染性の放流が環境に及ぼす危険性は小さいとみている。政府は今後、最終的な決定をするとしている。
連日200トンの汚染水が発生
福島第一原発の原子炉は、2011年に発生した東日本大震災の地震が引き起こした水素爆発によって損壊。3機の原子炉がメルトダウンした。政府は原発周辺地域の除染を決定。完了まで何十年もかかる大規模事業を進めている。
過去8年間、損壊した原子炉の建屋からは毎日、約200トンの放射性物質に汚染された水をポンプでくみ出している。汚染水に含まれるほとんどの放射性同位体は、複雑な浄水システムで除去されている。しかし、放射性同位体の1つであるトリチウムは除去が不可能のため、汚染水は巨大タンクに貯水されている。
今後どうする?
汚染水を太平洋に放流する案は以前から出ていた。原田氏の発言は、これを支持するものだ。多くの科学者は、汚染水は太平洋の大海原で素早く希釈されると考えている。また、トリチウムが人間や海洋生物に及ぼす危険性も小さいとみている。だからといって、賛否の分かれるこの方法がすぐ実行されるわけではないと、BBCのルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ東京特派員は伝えている。漁業団体が強く反対しているのに加え、韓国政府もこの案について、もし実行されれば日韓関係はさらに悪化するだろうと言明している。国際原子力機関(IAEA)は日本に対し、早急に汚染水対策を決定するよう求めている。 
 2020

 

●トリチウムとは 眼前に「処理水」...77万ベクレル 2020/2
東京電力福島第1原発事故から10年目が迫るのに、福島を巡る言われなき風評が依然、復興にブレーキをかけている。これほどまでに根強いのはなぜか、その深層に横たわる要因を解き明かしたい。折しも放射性物質トリチウムを含む処理水の処分について政府の小委員会が海洋放出を強調した提言をまとめ、新たな風評必至という見方が広がった。風評を止めるすべはないのか。連載第1部は、トリチウムの実態を追う。
弱い放射線、振れない針
「この中にトリチウムが含まれているのか」。東京電力福島第1原発にある化学分析棟に入り、放射性物質トリチウムを含む「処理水(トリチウム水)」と初めて対面した。処分方法を巡り、国内外で議論の的となっている処理水。見た目は無色透明、ただの水のようだ。
第1原発で発生する汚染水は多核種除去設備(ALPS)で浄化され、処理水としてタンクで保管される。原発事故から丸9年を迎える中、貯蔵量は25メートルプールで2000杯分以上にもなる。しかし、取り扱い方法は決まっていない。立ち並ぶタンク群の映像が「福島の今の姿」として発信され、おどろおどろしいイメージを増幅させてきた。
そもそもトリチウムとは、どんな物質なのか。
「これが処理水です」。理科室のような分析棟で、担当者として取材に同行した資源エネルギー庁の木野正登廃炉・汚染水対策官が、約1リットルの処理水の入った容器を指さした。トリチウム濃度は1リットル当たり約77万ベクレル。第1原発で保管されている処理水の平均濃度と同程度だ。
担当者が容器からビーカーに流し入れた。記者は、東電所有の検出器を借りて水面に近づけ、処理水から放出される放射線量を測った。検出器の針はほとんど振れない。分析棟内の空間線量とほぼ同じ毎時0.04マイクロシーベルトだ。
次は綿手袋の上にゴム手袋をした両手で、ビーカーに触れた。マスクをして顔を水面から十数センチまで近づけた。臭いはない。「こんなに近づいても大丈夫なんだ」。処理水を見つめる記者に、担当者は「トリチウムが出す放射線のエネルギーは弱く、紙1枚でも防げる。まして水中では、ほとんど進むことができない」と説明した。
トリチウム水は普通の水と化学的な性質がほぼ一緒だ。そのため、水に含まれていると除去するのが難しい。科学者からは「砂山から違う砂を一粒ずつ見つけて取るようなものだ」という指摘もある。
トリチウムは放射性物質を扱う原発の通常運転でも発生する。日本や韓国、フランスなどでも基準を守った上で放出されている。しかし、あまり知られていないのが現状だ。
トリチウムが出す放射線の弱さについては、東電や国も説明を続けてきた。だが、説明が現場実態に合っていると感じられたのは、こうして目の前で見たからだ。第1原発で処理水を見ることができるのは分析棟だけで、今回は特別な許可を受けた取材だ。「第1原発の視察者にもっと見てもらうべきではないか」。分析棟の帰り際、担当者に問うと、こう答えた。「処理水を入れた容器を第1原発に置き、視察者に線量を測って見てもらうようなことができないか、東電と話している。放射線量を測ることで、その弱さを分かってもらえるはず」。処理水やトリチウムについてもっと知ってもらう機会が必要だ。
説明不足招いた『不信感』
東京電力福島第1原発の汚染水を浄化する多核種除去設備(ALPS)は、トリチウム以外の62種類の放射性物質の濃度を下げられる。だが、現状での処理水にはトリチウム以外の放射性物質も除去されずに残り、大半は放出の法令基準値を上回る。海洋放出など処分策の問題点として指摘され、「風評を呼ぶ」と批判を招いている。
「(空間線量は)毎時30マイクロシーベルト」。取材に同行した資源エネルギー庁の担当者、木野正登廃炉・汚染水対策官と、化学工場のようなALPS内を歩いた。設備の稼働音が大きい。複数の大型タンク、筒状や箱形の設備などが並び、防護服にヘルメット、全面マスク姿の作業員が数人ほど作業に当たっている。
汚染水は原発事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)を水で冷やしたり、地下水が原子炉建屋に入ってデブリに触れたりして発生する。ALPSでは汚染水の放射性物質を沈殿させたり、吸着剤に通したりする。
この吸着剤の交換頻度を上げて汚染水の処理量を減らせば、トリチウム以外の62種類の放射性物質を環境中に放出する基準値未満まで浄化できる。しかし、国や東電は、吸着剤の交換頻度を下げ、処理量を増やす運用を優先した。タンクに高濃度汚染水があり、まずは廃炉作業を進める上で作業員の被ばく量を減らす必要があったからだ。「放出の基準値未満ではなく、原発敷地境界の空間線量が年間1ミリシーベルト未満となるのを優先した」と担当者。トリチウム以外の放射性物質が基準を超えるのは、処理水の貯蔵量のうち約7割に及ぶ。
処分前の処理水再浄化「前提」
国や東電は、この事実を公表はしていた。しかし、県民や国民に詳しく伝わっていなかった。このため2018年8月に県内外で開かれた処理水に関する公聴会で批判が噴出。「説明不足だ」「トリチウムだけという議論の前提が崩れた」。県民らの不信感、不安感が募る形となり、情報公開の在り方が問われた。
現在は吸着剤の交換頻度を上げて運用されている。東電は今後、処分方法が決まった場合、処分前に基準値未満までALPSで再浄化する方針を示している。
1月31日の政府小委員会。大筋で了承された提言案にも「十分な処理がなされているとは言えず、浄化処理を終えたALPS処理水とは言えない」と明記された。その上で、委員はくぎを刺した。「2次処理(再浄化)が完璧であることが前提。風評被害の基になる実害を絶対に起こさないようにしてほしい」 

 

●ロンドン条約・議定書および国連海洋法条約に違反 汚染水・海洋放出 2020/5
東京電力と政府・経済産業省は、高濃度トリチウム汚染水119万m(3 2020年3月12日時点)、860兆Bq(ベクレル)を海水で約500倍に薄めて海洋放出しようとしています。これが強行されれば、5.8億m3の希釈された汚染水が30年以上にわたって、毎日5万m3、1,000m3タンク50基分相当の海洋放出が毎日続くのです。このような暴挙は断じて許せません。私たちは、次の5つの観点からトリチウム汚染水の海洋放出に断固反対し、福島の運動と連帯してきました。
(1)これ以上の被ばく強要は許されない
(2)トリチウム汚染水の海洋放出は法令(告示)違反
(3)32万m3を固化埋設し、残りはタンク保管を
(4)東電と政府は事故責任と対策破綻の責任をとれ
(5)ロンドン条約と国連海洋法条約を厳守せよ
の5つです。
以下では、これらを概括しますので、福島から提起された「トリチウム汚染水の海洋放出反対」署名の拡大にご活用ください。また、経産省等は、2018年8月説明・公聴会で出された意見への2020年4月3日回答、脱原発福島県民会議やヒバク反対キャンペーンなど8団体からの質問への2020年5月13日回答、福島県いわき市議会からの再質問への2020年5月18日回答を出しており、これらに対する反論も付け加えています。その中でも、特に、ロンドン条約や国連海洋法条約に違反するとの私たちの指摘への回答の内容そのものが、条約の無理解と曲解による国際法違反であることを示したいと思います。
(1)これ以上の被ばく強要は許されない
福島県民は、福島第一原発事故で原子力災害に見舞われた原子力被災者であり、事故直後には約8万人が強制的に避難させられ、約400万人が放射線管理区域(外部放射線量が1.3mSv/3 ヶ月(0.6μSv/h)超または表面密度でα核種4kBq/m2超、その他40kBq/m2超)に相当する汚染地での生活を余儀なくされ、「一般公衆の被ばく線量限度1mSv/年」を超えて被ばくさせられました。その影響はまだ続いています。被災前の自然放射線量率0.04μSv/hを基準として、これを超える追加被ばく線量が1mSv/年(空間線量率0.19μSv/h相当)を超えないように、徹底した対策を講じることこそが、東京電力と政府の第一の義務であるはずです。「緊急時被ばく状況」(参考レベルとして20 〜100mSv/年を強要)や「現存被ばく状況」(1 〜 20mSv/年の下方部分を参考レベルとし、長期的に1mSv/年を目指す)など現行法令にないものを根拠にして、「一般公衆の被ばく線量限度1mSv/年」を超える被ばくを強要することは許されません。
地下水バイパスやサブドレン・地下水ドレンの排水濃度の運用基準を準用してトリチウム汚染水の海洋放出を強行するのは、「希釈を行わない」との運用基準に違反し、「ALPS処理水は海洋放出しない」との約束に違反します。さらに、被災前の自然放射線量率0.04μSv/hを基準として追加される被ばく線量を規制し「一般公衆の被ばく線量限度1mSv/年」を担保する法令(告示)の趣旨にも違反します。
(2)トリチウム汚染水の海洋放出は法令(告示)違反
トリチウム汚染水には、トリチウム以外の核種が告示濃度限度の2万倍もの高濃度で含まれたままですが、いわき市議会からの再質問への5月18日回答で、経産省は「まずは2,000m3程度の処理を行い、二次処理の性能を確認するが、さらなる二次処理は空きタンクの確保等の検討を行う必要があるため、現時点で回答困難です。」とごまかし、「希釈前の段階で二次処理を行ない、放出する際の基準を満たす方針です。」としています。しかし、「基準」が告示濃度限度と同じである可能性が高く、形だけの二次処理でお茶を濁し、告示濃度限度まで海水で希釈して放出する可能性も否定できません。現に、更田原子力規制委員長は、二次処理は「告示濃度制限が守られる限り、絶対に必要なものという認識はない。」「科学的には、再浄化と(より多くの水と混ぜることで)希釈率を上げるのに大きな違いはない。」(10.5記者会見、福島民友新聞2018.10.6)と発言しています。告示濃度限度の2万倍でも2万倍に薄めればよいというのは暴論であり、法令(告示)違反です。
告示では、福島第一原発の敷地境界から外部へ放出される放射線、液体、気体のすべてによる被ばく線量が「一般公衆の被ばく線量限度1mSv/年」を超えないことが条件として定められています。福島第一原発では、敷地外部への放射線が0.7mSv/年程度になるため、地下水バイパス・サブドレンの運用基準を決める際、0.22mSv/年を超えないこととされていて、これを超えると告示違反になるのです。
その判断基準として、液体や気体に含まれる放射性核種のそれぞれについて「告示濃度限度」が定められています。たとえば、「水中における告示濃度限度」は、「放出口における当該濃度の水を生まれてから70歳になるまで毎日約2L(成人では約2.6L)飲み続けた場合に、70年間の累計で70mSv、年平均で1mSv/年に達する濃度」として定められています。複数の核種が含まれる場合には、核種ごとに含有濃度を告示濃度限度で割った比(毎日約2L飲み続けた場合の年平均被ばく線量に相当)を求め、この「告示濃度比」の総和が0.22未満であれば「0.22mSv/年」未満の条件を満たすと判断するのです。
しかも、この告示は「一般公衆の年被ばく線量が1mSvを超えない」ことを担保するための法令であり、この趣旨からすれば、敷地外への過去の放射能放出の影響が残っていれば、その分を差し引く必要があります。福島第一原発の敷地境界では、事故時に放出されたセシウムの影響で、今でも1mSv/年を超える線量がモニタリングされていますので、トリチウム汚染水の海洋放出の余地など全くないはずです。
(3)32万m3を固化埋設し、残りはタンク保管を
トリチウム汚染水は、タンク貯蔵と米サバンナリバーで実績のあるグラウト固化埋設の併用等で陸上保管すべきです。トリチウムの告示濃度比が20倍(120万Bq/L)以上のタンク貯留水は約32万m3で、そこに約520兆Bqが含まれますので、トリチウム以外の核種濃度を極限にまで減らした上で、これを敷地北側の土捨場を利用して固化埋設すれば、数百年後にはほぼ無害になります。32万m3分の空きタンクも利用可能になります。残りのタンク水86万トンに含まれるトリチウムは340兆Bq、平均40万Bq/Lであり、100年経てば、1.2兆Bqに下がり、その濃度も地下水バイパス運用目標の1,500Bq/L未満へ低下します。その頃には、セシウムによる汚染も今より1桁程度低くなり、廃炉・汚染水対策も大きく変わっているでしょうから、その時点で残された汚染水をどうするかを決めても遅くはありません。ところが、いわき市議会から米サバンナリバーの実例について検討したのかとの再質問に、経産省は5月18日、「個別の事例を挙げた検討は行っていません」と回答し、「今後検討する」姿勢すら見せず、不真面目です。
東電は、福島第一原発敷地を町境で分割し、北(双葉町)側を「廃棄物処理・保管エリア」、南(大熊町)側を「汚染水タンク・使用済燃料・燃料デブリ保管エリア」と人為的に分け、南側は満杯だとし、北側の土捨場等の空地はタンク増設や固化埋設には使わないと恣意的に設定しています。「土捨場の汚染土は敷地外へ持ち出せない」とか「空地には他の用途が計画されている」とかは「できない理由」を無理に挙げたにすぎません。この前提を取り去れば、「2022年6月の恣意的な期限」もなくなるのです。その意味では、タンク増設の余地はあり、真剣に考慮していないだけだと言えます。
2019年12月23日の東電シミュレーションでは、海洋放出しなければ2035年には183万m3に達し、トリチウム汚染水が発生しなくなる2048年頃まで100m3/日の割合で増え続けると試算しています。事故発生から10年以上経てば、溶融燃料の発熱量は2kW/tHMへ下がり、炉内構造物やコンクリートと混合した燃料デブリでは1kW/t程度と推定され、冷却水注入方式から自然空冷方式への移行を検討し、燃料デブリと接触して生じる汚染水や地下水の建屋流入量の抜本的抑制を図るべきです。東電シミュレーションはこれを全く考慮していません。「不都合な想定」はモデル化せず、海洋放出ありきで問答無用の傲慢な態度なのです。
(4)東電と政府は事故責任と対策破綻の責任をとれ
東京電力と政府は、福島第一原発で炉心溶融事故を招いた責任をとらず、成否不明の凍土遮水壁を中心とする汚染水対策が破綻した責任をとらず、汚染水対策として福島県民に苦渋の決断を強いた地下水バイパスやサブドレン等で「希釈は行わない」とする運用基準を踏みにじり、「トリチウム汚染水(ALPS処理水)は海洋放出しない」との約束さえ反故にするものであり、絶対に許せません。
そもそも、今日の危機を招いたのは東電と政府です。福島第一原発1 〜 3号炉心溶融事故を引き起こした責任は東電と政府にあり、廃炉・汚染水対策の責任も東電と政府にあります。事故直後の汚染水対策として、「地下水の流れを抜本的に変える大規模な土木工事の場合は東電救済になるから資金援助できないが、成功するかどうかわからない凍土遮水壁工事なら研究開発予算を出せる」として、役に立たない凍土壁を作って汚染水を累々と貯め続けてきたのは東電と政府です。汚染水貯蔵タンクの容量は当初の80万m3(2013.5)から90万m3(2014.7)、120 万m3(2016.8)、135 万m3(2016.9)、136.5 万m3(2019.2)となし崩し的に増やされてきました。「それが満杯になるから海洋放出以外にない」というのは自らの失策と無能を棚上げにして居直り、福島県民に一層の犠牲を強いて逃げるものです。
まずは、福島事故を招いた責任を認め、汚染水対策破綻の責任を認め、放射能放出で福島県民にこれ以上犠牲を転嫁しないため、海洋放出回避策に全力で真剣に取り組むのが政府の最低限の責任です。原子力損害賠償紛争解決センターの和解案を拒否し、事故処理能力もなく、申し訳ないという反省のかけらもない東電には退場してもらう以外にありません。
(5)ロンドン条約と国連海洋法条約を厳守せよ
低レベル放射性廃棄物を、陸上保管可能な代替案があるにもかかわらず、意図的に海洋放出して海を汚染するのはロンドン条約とその議定書に違反し、国連海洋法条約にも違反します。1993年3月30日に閣議決定した平成5年度原子力開発利用基本計画の「低レベル放射性廃棄物の海洋投棄については、関係国の懸念を無視して行わない」との方針に違反し、1993年11月2日の原子力委員会決定にある「低レベル放射性廃棄物の海洋投棄は、国際原子力機関の基準等に則って行えば、公衆の健康に特段の影響を与えるものではないと考える。しかし、・・・我が国としては、今後、低レベル放射性廃棄物の処分の方針として、海洋投棄を選択肢にしない」との方針にも違反します。
ところが、原子力委員会は5月13日の回答で、この低レベル放射性廃棄物は「固体廃棄物や固化した廃棄物を海洋に投棄して処分することを指すことから、福島第一原発トリチウム汚染水の海洋放出は、『海洋投棄』に該当しない。」としていますが、ロンドン条約は第三条4項で、海洋投棄が禁止される「『廃棄物その他の物』とは、あらゆる種類、形状又は性状の物質をいう。」と定義し、第四条第1項で「廃棄物その他の物の投棄(その形態及び状態のいかんを問わない。)を禁止する。」と明記しています。固体以外の液体なら除外されるという理解そのものがロンドン条約違反なのです。
1993年原子力委員会決定の10日後、同年11月12日の第16回ロンドン条約締約国協議会議では、「放射性廃棄物およびその他の放射性物質」の海洋投棄の原則禁止等が採択され、1996年11月にロンドン条約の議定書が採択されました。その附属書一(投棄を検討することができる廃棄物その他の物)では、「国際原子力機関によって定義され、かつ、締約国によって採択される僅少レベル(すなわち、免除されるレベル)の濃度以上の放射能を有する」しゅんせつ物・下水汚泥・魚類残さ又は魚類の工業的加工作業から生ずる物質等8種類の物質は「投棄の対象として検討してはならない」とされていますが、そもそもトリチウム汚染水などの放射能汚染水は「投棄を検討することができる対象」ではなく、「高度濃度放射性廃液を免除レベル未満へ海水で希釈すれば海洋投棄してもよい」という規定もないのです。
船等で投棄禁止されたものを海洋放出できるのか
トリチウム汚染水の海洋放出法には、(a)タンクからパイプラインで大型タンカーなどの船に積み替えて沖合で放出、(b)パイプラインを伸ばして沖の海上または海底で放出、(c)パイプラインの排出口を沿岸部に設置して放出の3つが考えられます。このうち、(a)は明らかに海洋投棄で、ロンドン条約に違反しますが、(b)と(c)はロンドン条約・議定書による規制対象とは言え、現時点では必ずしも明確に禁止されているわけではありません。「パイプライン」がロンドン条約第三条第1項の「船舶、航空機又はプラットフォームその他の人工海洋構築物」に該当するかどうかは国際海事機関IMOでも議論が続いており、今後、一層の規制強化が図られ、議論次第で投棄の定義に繰り入れられて禁止される可能性もあります。ただし、ロンドン条約前文で「海洋汚染が投棄並びに大気、河川、河口、排水口及びパイプラインを通ずる排出等の多くの原因から生ずる」として、パイプライン排出と投棄が区別されていること、国際海事機関IMO報告で「パイプラインによる鉱滓の海または河川への放出は投棄とは考えられていないが、ロンドン条約・議定書の総合的な目的は、すべての汚染発生源から海洋環境を保護し保全することである。」(IMO Report, International Assessment of Marine and Riverine Disposal of Mine Tailings, p.17, May 2013)と記され、ノルウェー、チリ、仏、英、ギリシア、トルコ、インドネシア、パプアニューギニアでの沿岸近くの金・銅・鉄等の鉱山14 ヶ所でのパイプラインによる30 〜 4,000m海底への鉱滓放出例が海洋汚染の危惧と共に示されていることを考慮すれば、現時点では、(b)と(c)は海洋投棄として禁止されていないと言えます。とはいえ、(a)で禁止されるトリチウム汚染水の海洋放出が、排出方法を(b)や(c)に変えただけで禁止されないというのも理が通りません。海洋汚染防止の総合的な目的から言っても、結果が同じであれば、方法が違っても禁止すべきです。世界に先行して日本で禁止することはロンドン条約の趣旨でもあります。
ところが、経産省は2018年説明・公聴会で「タンカー船や配管を引くことによる沖合での海水希釈・海洋放出」の可能性を問われ、「海上からの放射性廃棄物の海洋投棄は、ロンドン条約及び原子炉等規制法により禁止されている。」と回答しただけで、ロンドン条約等で海洋投棄が禁止されている放射能汚染水を、なぜ、(c)の方法でなら海洋放出しても良いのか、説明していません。別の意見に対しては「(ロンドン条約は)陸上からの排出を禁止していないと解される」とも回答していますが、国連海洋法条約では(b)も(c)も海洋放出の規制対象になっています。
陸にある発生源からの海洋汚染も規制すべき
1982年の国連海洋法条約では、1972年ロンドン条約の「投棄」の定義をそのまま条文化し、第210条で「投棄による海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため法令を制定」し「必要な他の措置をとる。」と定めると同時に、第207条で「陸にある発生源(河川、三角江、パイプライン及び排水口を含む。)からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するための法令を制定」し「必要な他の措置をとる。」と、「投棄」と同じ表現で定め、さらに、第213条で「第207条の規定に従って制定する自国の法令を執行するものと」すると、法令の執行まで強く求めています。ロンドン条約と国連海洋法条約の間に壁はないというのが国際的な常識なのです。
ロンドン条約・議定書と国連海洋法条約の海洋汚染防止の趣旨を踏まえるなら、海洋投棄が禁止されているものを、放出手段を変えて「投棄」するのは、国際的な信義にもとる違反行為だと言えるのです。
新型コロナ感染防止のための緊急事態宣言の下でも経産省は御意見を聞く会を強硬開催するなど、今夏のトリチウム汚染水海洋放出決定に向けて動いています。福島から提起された反対署名を広げ、署名の大衆的な力で海洋放出を阻止しましょう。  

 

●海洋放出の是非を考えるのに欠かせない「トリチウム水」への理解 2020/7
1.汚染水とトリチウム水
原子力災害から福島の復興において、最大の難関は、福島第一原子力発電所の廃炉にある。
2017年7月には、3号機の格納容器内部の映像が公開され、燃料デブリ(溶融核燃料)の一部とみられる塊が確認された。廃炉の最終工程が燃料取り出しだとすると、直近の課題は増え続ける「汚染水」をどのように処理するかという問題である。
一般に「汚染水」と呼ばれているものは、性質の異なる2種類の水を指す。
一つは原子炉に流入する前に井戸(サブドレン)でくみ上げられた地下水である。これは放射性物質に触れる前の水であり、検査により基準値以下であれば現在でも海洋放出されている。
もう一つは原子炉の冷却に使われた後の水であり、これは汚染物質に直接触れるため高濃度に汚染されてしまう。
この冷却で汚染された水は、ALPSという装置でセシウムやストロンチウムなどの核種を除去する処理をしたうえでタンクに貯蔵されている。しかし、この処理の過程では、水と構造が似ているトリチウムという核種は除去できない。
原発建屋に入る前にくみ上げられた地下水も、原子炉冷却で核物質に触れ汚染された後に除去処理された水も、一般に「汚染水」として認識されることがあるが、注意が必要である。処理された水もトリチウムが残存する以上は「汚染水」と呼ぶべきだという主張もあるが、筆者が委員として参加した経産省資源エネルギー庁の「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」では、処理前のものを「汚染水」、処理後のものを「ALPS処理水」または「トリチウム水」と定義している。
2.ALPS処理水の処分問題
現在、東京電力福島第一原発の廃炉過程において、この処理水を貯めるタンクが増え続けている。
このような状況に対し、「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」は最終報告書を公表した(2020年2月10日)。これによると、処理水の量は、2019年10月31日時点で合計約117万m3となっており、トリチウムの量、濃度はそれぞれ、約856兆ベクレル(Bq)、平均約73万Bq/Lとなっている。
ALPS処理水等を保管するタンクは、2020年末までに約137万m3までの増設を行う計画であるが、東京電力の説明では2022年夏頃にはタンクが満杯になる見通しであり、現行計画以上のタンク増設の余地は限定的であるとされている。
小委員会に先立って処分方法を検討した経産省の作業部会「トリチウム水タスクフォース」(2013年12月-2016年6月)では、地層注入、水素放出、地下埋設、水蒸気放出、海洋放出の5つの処分方法が検討され、その後に設置された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(2016年11月-2020年2月)において、それぞれの方法について処分を行った場合の社会的影響(風評被害や経済的損失など)を検討してきた。
小委員会の結論は「地層注入、水素放出、地下埋設については、規制的、技術的、時間的な観点から現実的な選択肢としては課題が多く、技術的には、実績のある水蒸気放出及び海洋放出が現実的な選択肢である」というものである。
ただし、次のような留意点を指摘している。
「 社会的な影響は心理的な消費行動等によるところが大きいことから、社会的な影響の観点で処分方法の優劣を比較することは難しいと考えられる。しかしながら、特段の対策を行わない場合には、これまでの説明・公聴会や海外の反応をみれば、海洋放出について、社会的影響は特に大きくなると考えられ、また、同じく環境に放出する水蒸気放出を選択した場合にも相応の懸念が生じると予測されるため、社会的影響は生じると考えられる。」
つまり、海洋放出と水蒸気放出は、社会的影響は大きいものの、現実的な対応として「5つの処分方法」の中から選択肢を選ぶとしたら、日本国内やスリーマイルで過去実績のある2つの処分方法を選択せざるを得ない、という結論であったと私は考えている。
トリチウム水タスクフォースが処分方法を検討した2013年当時、増加する汚染水と貯蔵するタンクの増設が追い付かず、緊急を要していた。米国で実績のあるモルタル固化を含む陸上保管には事故後除染された敷地が少ないという問題があり、タンクの大型化は当時完成したタンクを船で搬入し設置する方法をとっていたため、検討できない状況であったと考えられる。そのため処分方法にはこれらが含まれず、タスクフォースは地層注入、水素放出、地下埋設、水蒸気放出、海洋放出という5つの方法に評価対象を絞った。
その後、凍土壁、遮水壁やくみ上げ井戸による原子炉内への地下水の流入が抑えられたため、当初の緊急性は薄れていった。2016年から始まった小委員会内では、陸上保管の継続と敷地の確保(拡張)、タンクの増設、タンクの大型化、トリチウム分離技術の検討なども行われることとなったが、先ほどの用語を繰り返すと、「規制的、技術的、時間的な観点から現実的な選択肢としては課題が多」いという説明であった。
また、そもそも小委員会の目的がトリチウム水タスクフォースで定めた5つの処分方法がなされた場合の社会的影響を比較分析することであり、タスクフォースの結論を超えて新たな方法を探ることではないということであった。
限定された5つの処分方法から現実的な解を決めるとすれば、日本国内で過去実績がある海洋放出が最も技術的なリスクも少なく費用的にも最小になるという結論は、委員会の初回から想定できた。
海洋に放出するとなれば、海は世界と繋がっており、諸外国の反応や漁業、観光など様々な産業への影響も考えると社会的な影響は最も大きい。委員会の主目的とは異なるものの、陸上保管も含む他の方法も検討対象としたことは、委員長や事務局の誠意だったと思う。しかし結論は、トリチウム水タスクフォースの定めた5つの処分方法から2つを選ぶということになったのである。
3.ふたつの処分方法
水蒸気放出は、アメリカのスリーマイル島原発事故(1979年)の廃炉の際に、処分量は異なるが、事故炉で放射性物質を含む水蒸気の放出が行われた前例があることや、通常炉でも、放出管理の基準値の設定はないものの、換気を行う際に管理された形で、放射性物質を含んだ水蒸気の放出を行っていることを挙げている。
注意点としては、1液体放射性廃棄物の処分を目的とし、液体の状態から気体の状態に蒸発させ、水蒸気放出を行った例は国内にはないこと、2水蒸気放出では、ALPS処理水に含まれるいくつかの核種は放出されず乾固して残ることが予想され、環境に放出する核種を減らせるが、残渣(ざんさ)が放射性廃棄物となり残ること、を指摘している。
一方、海洋放出は、「通常運転中」の国内外の原子力施設において、トリチウムを含む液体放射性廃棄物が冷却用の海水等により希釈され、海洋等へ放出されており、これまでの通常炉で行われてきているという実績や放出設備の取扱いの容易さ、モニタリングのあり方も含めて、水蒸気放出に比べると、確実に実施できると報告書には記載されている。
注意点としては、排水量とトリチウム放出量の量的な関係は、福島第一原発の事故前と同等にはならないと指摘している。つまり、今回の放出量は、前述した現在貯蔵されているタンク内のトリチウムの量、約856兆ベクレル(Bq)から考えると事故前よりも相当大きくなる。事故前の福島第一原発のトリチウムの排出量は年間2.2兆ベクレルであったことから、856兆ベクレルという総量を処分するには同じ総量だと389年かかることになってしまうのである。
これら2つの処分方法をとった場合の、風評被害対策の方向性について、報告書では、「水蒸気放出及び海洋放出のいずれも基準を満たした形で安全に実施可能であるが、ALPS処理水を処分した場合に全ての人々の不安が払しょくされていない状況下では、ALPS処理水の処分により、現在も続いている既存の風評への影響が上乗せされると考えられる。このため、処分を行う際には、福島県及び近隣県の産業が、安心して事業を継続することができるよう、風評被害を生じさせないという決意の下に、徹底的に風評被害への対策を講じるべきである」としている。
具体的な対策については、処分方法、処分時期、処分期間が定まった後、予算等と相談の上で政府が責任を持って決定するというものであるため、現段階で「新たな」対策を提示することはしていない。
現行の風評対策の延長や追加的措置は想定できるが、実際に処分された場合、その前の国民的議論の広がりや方向性、諸外国の反応によっては、対策の内容は大きく変わる可能性もある。この点も現地の関係者や自治体の大きな不安点となっているのではないかと思われる。
4.コロナ禍での説明会の困難性
2020年2月の報告を受け、現在、経済産業省による「多核種除去設備等処理水の取扱いに係る関係者の御意見を伺う場」が開催されている。2020年4月6日に第1回、4月13日に第2回、5月11日に第3回、6月30日に第4回と現在4回開催され、農林水産業、自治体、商工観光、食品流通の代表者から、事前に説明を行ったうえで意見を聞いている状況である。
また、この間、6月29日時点で福島県内59市町村議会のうち19市町村議会が3月、6月の定例会で処分方針に関する意見書や決議を可決するなど、地元の動きも盛んになってきている。賛成や明確な意思表示がないものもあるが、多くは反対や懸念、更なる対策の検討などを付言するものである。
内容は大きく4点を含んでいる。1水蒸気・海洋放出への反対意見、22つの処分方法の見直し、3処分した際の政府の対策への懸念と風評対策の実効性への不安、4処分時期・方法を決定する過程における合意形成のあり方に関するものである。
12は、今回の報告書にある海洋放出、水蒸気放出という処分方法そのものへの反対意見の表明である。現行行われているタンクによる処理水の保管に関して、敷地を増設、あるいは新たに確保して継続すべきというものである。
3は処分した際の具体的な補償や風評対策の内容が示されていないこと、その規模や実効性が担保されていないと感じていることの表れだと思われる。現状の風評対策でも、一部の農産物では、いまだに価格が戻っていない。また、風評被害を超えて市場評価自体が低下し、業務用途への転換や取引順位の低下、ブランド価値の低下が固定化しているものもある。消費者庁の風評調査結果をみても、減少しつつあるものの福島への忌避感を示す人が一定程度存在し続けている中で、更なる負荷に対処することは避けたいと考えるのは当然である。
4は意見を聞く場の開催が、コロナ禍で実施されていることに起因する。トリチウム水の処理に関する情報や処分方法に対する賛否が分かれている理由、それぞれの置かれた立場など、国民的議論に繋がりづらい状況にあることから、処分を決定する国・東電と現地・関係者・国民の間で合意が形成されたと感じることが難しいのではという意見である。
実施主体としては新型コロナウイルスの広がりを想定していなかったため、苦労されている状況であるとは思うが、4、5月に行われた意見聴取に関して、現にメディア等での扱いも小さく、トリチウム水に関する、あるいは処分方法に関する基本的な理解すら進んでいないのではないか。
国民にトリチウム水処理に関する情報が共有されていない中で、あたかもタイムリミット(小委員会の報告では期限を定めていない)が来たかのように処分方法や時期が決定されてしまうのではないかという不安があるのではないか。
一部で議論を尽くしたとしても、何らかの決定がなされた際に「知らない間に勝手に決まってしまった」「私はこんなこと聞いていない」、あるいは決定後に「私は反対だった(賛成だった)」と感じる人々が大勢出てきてしまうことは、合意形成とは程遠い状況になってしまう。
もう一つは、意見を聞く場はあくまで組織代表者の意見が中心であり、次世代の子ども達や若い世代、後継世代の意見などが、現状ではなかなか反映されにくい状況にある。2020年7月15日までパブリックコメントを募集しているが、その前提となる今回の小委員会の報告内容自体を国民にわかりやすく説明することが困難な状況にある。
5.トリチウム水の処理をどう考えるか
第1は、今回処分を検討されているものが、通常炉と異なり事故炉から排出された汚染水を処理したトリチウム水であるという問題である。
2019年11月17日、衆議院議員の細野豪志氏が『福島原発処理水の海洋放出を決断する時だ−福島に寄り添い、差別とは断固として戦う−』と題する論考を論座にて公開し話題となった。トリチウムの科学的な性質、WHOの定める安全基準、通常炉である原子力発電所からはトリチウムが常時排出されていることを示し、海洋放出という処分方法は理にかなっているというものである。
たしかに、通常運転をしている原子炉からトリチウム水は排出されており、世界を見ると日本と比べ膨大な排出量の国も存在する。それ自体を問題視する意見もあるが、これまでも排出していたのだから、今回も同じことをするだけという考え方はあり得るだろう。
ただし、今回の処分の問題は、世界中で注目された福島第一原発の廃炉の過程で排出された汚染水をALPSで処理し、トリチウム以外の核種を取り除いたうえで放出するという2重3重に説明を要する「水」である。そのため、核燃料に触れた汚染水自体を放出するのではないか、ALPS処理で本当に他の核種を取り除けているのか、発表されたデータ自体に誤りがあるではないか等、様々な疑念が生じやすい「水」なのである。
トリチウム自体の科学的性質や国際基準の説明、処理方法自体の解説を丁寧に行い、国民的な理解が醸成されることが処分方法(あるいは貯蔵)を考える上での前提となるといえる。だが、これが出来ていないのである。
第2は、これに関連して現在タンクに溜まっているALPS処理水の2次処理の問題である。実は、現在のタンクにはALPS処理後であるが、トリチウム以外の核種が取り除けていない状態の「処理水」が保管されている。小委員会報告書には下記の注が付されている。
「 ALPSはトリチウム以外の62種類の放射性物質を告示濃度未満まで浄化する能力を有しているが、処理を開始した当初は、敷地境界における追加の被ばく線量を下げることを重視したことなどにより、タンクに保管されているALPS処理水*の約7割には、トリチウム以外の放射性物質が環境中へ放出する際の基準(告示濃度限度比総和1未満)を超えて含まれている。ALPS小委員会では、こうした十分に処理されていない水について、環境中に放出される場合には、希釈を行う前にトリチウム以外の放射性物質が告示濃度比総和1未満になるまで確実に浄化処理(2次処理)を行うことを前提に、ALPS処理水の取扱いについて検討を行った。したがって、本報告書の中のALPS処理水の表記については、特段の断りがない場合には、トリチウムを除き告示濃度比総和1未満のALPS処理水を「ALPS処理水」とし、十分処理されていない処理途中のALPS処理水を「ALPS処理水(告示比総和1以上)」とし、この二つ(ALPS処理水とALPS処理水(告示比総和1以上))を併せて指す場合は「ALPS処理水*」とすることとする。」
報告書の当初案では、この「十分処理されていない処理途中のALPS処理水」を「ALPS処理水(告示比総和1以上)」ではなく「中途ALPS処理水」と表記していた。当然、処分の際には2次処理(再度十分な性能を有する状況のALPSを通す)を行い、トリチウム以外の核種は告示濃度比総和1 未満まで取り除くことになるわけだが、この過程を説明し、この処理を担当する東京電力の実効性の担保を多くの国民に「理解」して貰うことは、単純な話ではない。相当に「丁寧」な説明が必要になると思われる。
第3は、トリチウム総量約856兆ベクレル(Bq)を放出するとなると、希釈して濃度を基準値以下に下げたとして、事故前の排出量以上の量を毎年放出し続けなければならない点である。
東京電力の試算によると、2025年に放出を開始した場合、年間22兆ベクレルずつだと2053年まで処分期間を要する。同様に、50兆ベクレルは2041年、100兆ベクレルだと2033年となる。廃炉までのロードマップが30-40年を想定しており、廃炉と共に放出を完了する場合でも、年間22兆ベクレルのトリチウムを毎年放出しなければならない(事故前の福島第一原発の年間放出量は2.2兆ベクレル)。事故前の10倍の量を30〜40年流すということである。
つまり、例えば海洋放出をする場合、トリチウム水の処分は数十年に渡り継続するため、漁業者は1、2年の我慢では済まず、長期間にわたりこの問題に向き合わなければならない。風評問題を含む様々な課題に対処しなければならなくなるのである。
6.なぜいまなのか? 廃炉と復興の矛盾
2020年2月25日のコモンカスベの出荷制限指示解除により、福島県海域における水産物の出荷制限指示は全て解除された。福島県漁業は本格操業に向けて動き出している最中であり、なぜいまなのかという声があがっている。
なかには、事故直後に出荷制限が続いていた間に処分をしてしまっていた方が、影響が小さかったのではないかという意見もある。そのくらい今回の処分に関するタイミングは現地を困惑させている。
その背景には過去の苦い思いがある。2017年7月に、東京電力の当時の新会長から、トリチウムが残存した処理水の海洋放出を決めたかのような発言があり、その後、謝罪・撤回をし、話題となった。
この時点で既に放出されていた井戸(サブドレン)の水は、くみ上げた地下水であり、放射性物質に触れる前の水である。当時発言のあったトリチウム水は、現在議論されている原子炉内部の冷却に使用されたいわゆる汚染水を処理したものであり、これまで海洋放出してきた地下水とは大きく異なる。
福島県漁連は、東京電力福島第一原発の汚染水低減策として、建屋周辺の井戸(サブドレン)などからくみ上げた地下水を浄化した上で海に放出する計画に関して、2015年度から容認してきた経緯がある。しかし、これは安定的に廃炉作業進めるためにやむなく県漁連が了承したものであったが、当時の海洋放出に関する報道に際して、福島県の漁業者の方に批判が殺到したという事実があった。
それは、海には境がなく、かつ公共のものであり、なぜ福島県の漁業者が勝手に承認をするのか、何の権限があるのかという海洋放出反対の方々の声であった。無作為であったにせよ、事故当事者の東電や政策決定者の国ではなく、被害地域である福島県の漁業者に海洋放出の責任が転嫁され、地元は翻弄されたのであった。
震災から9年が経過した福島県漁業は、本格操業に向けて努力している段階であり、「トリチウム水」の海洋放出には反対の意向を伝えている。現在議論されている海洋放出には国内外からの風評も含めた批判が予想される。
漁業者に海洋放出を容認するように説得する戦略では、漁業者が受け入れたから海洋放出したかのような印象操作がなされ、批判の矛先が地元に向かうことになる。地域の漁業者や、漁業関係者にとってもこの点は慎重にならざるを得ない。責任の主体は国と東電であることを改めて明確にしておく必要がある。
廃炉を進めることと復興を妨げることが同時に行われてはならない。被害地の人々に震災・原発事故から10年経過した以降も苦痛と忍耐を与え続けることを前提とした政策になってはいけない。
これを避けるためには全国民、近隣諸国も含め、多数が納得して処分方法を受け入れることが出来るか、その合意形成の準備がなされているかが重要となる。この点を見極めなければならない。それが成立しないとしたら、また多くの人々が困難を抱えて取り残されてしまう。
経済産業省のHPには、現状で公開しうる限りの情報が掲載されており、小委員会の議論も包み隠さず公開している。2018年の公聴会においても厳しい意見も含め受け止めていたと私は思う。
小委員会の報告書は制約のある中で、問題点も留意点も提示した。賛成・反対関係なく、多くの方々にトリチウム処理の現状ついて、まずは知っていただきたいと考えている。政府は7月15日まで一般から意見を募集している。 

 

●福島第一原発の処理水、海洋放出へ 政府が最終調整 2020/10
東京電力福島第一原発の敷地内にたまる処理済み汚染水の処分方法について、政府が海に放出する方向で最終調整していることがわかった。早ければ月内にも関係閣僚会議を開き、正式に決める方針だ。タンクの水を二次処理して海水で薄め、放射性物質の濃度を法令の放出基準より十分低くしてから流す。準備に2年程度かかる。風評被害が懸念されており、対策を福島県などと協議していく。
福島第一原発では、溶け落ちた核燃料を冷やした水に原子炉建屋に流入した地下水などが混ざり、汚染水が発生。いまも1日に約140トン増えている。東電はこれを多核種除去設備(ALPS)などで処理してタンクに保管しており、すでに約120万トンたまっている。東電は、現在のタンク増設計画では2022年夏ごろに満杯になるとしている。処分に必要な設備の工事や原子力規制委員会の審査に2年程度かかるとされ、今夏ごろが判断の期限とみられていた。
処分方法をめぐっては、専門家でつくる経済産業省の小委員会が今年2月、海か大気中への放出を「現実的な選択肢」とした上で、海洋放出を「確実に実施できる」と有力視する提言をまとめている。政府は4月以降、地元自治体や農林水産業者、経済団体など関係者から7回にわたり意見を聴取。「政府が責任をもって早期に結論を出す」と繰り返していた。
一方、風評被害を懸念する漁業者らは海洋放出に強く反発している。全国漁業協同組合連合会(全漁連)は6月に「国民の理解を得られない放出には絶対反対」と決議しており、今月15日には岸宏会長が梶山弘志経済産業相らに直接反対を伝えた。
海に放出する場合、タンクにたまる処理済み汚染水をもう一度ALPSで処理し、トリチウム以外の放射性物質の濃度を環境中に放出してもよいとされる法令の基準値(告示濃度)を下回るまで下げる。その上でトリチウムも告示濃度よりも十分低くなるように海水で薄める。放出後も、モニタリング調査で海への影響を監視、情報を公開する。
関係者からの意見聴取では、風評被害への賠償方針が不十分で、国内外の理解を得るための正確な情報発信も不足しているとの指摘が相次いだ。政府は、福島県や地元漁業者らと協議体を作るなどし、対策の議論を続ける方向で検討している。 

 

●海洋投棄 汚染処理水 放射性物質 東京電力 2020/10
東京電力は汚染処理水の海洋投棄に向けた再浄化の試験中です。再浄化によって、基準値を下回る効果が確認されたと発表しています。
・全漁連が海洋放出「絶対反対」と声を上げる中、いよいよ政府が処分方針決定へと動きます。
・保管する処理水の約7割は浄化が不十分で、トリチウム以外の放射性物質も国の排出基準を超えて残る。
放射性物質を含む福島第1原子力発電所から排出される汚染処理水が基準値を超えている理由は、処理施設ALPSの不具合で高濃度の汚染水の混入や、劣化したフィルターを交換しなかったために引き起こされています。こうした過去の経緯から、東京電力には、放射性物質に汚染された汚染水を基準値以下に安全に処理できるとする技術的信頼が企業として皆無となっています。東京電力の技術的信頼性の低さから、いったん汚染処理水の放射性物質が基準値を下回ったとしても、長期にわたれば、再び放射性物質が基準値を超えてしまう可能性があります。基準値を大幅に超えた汚染処理水が海洋投棄される可能性は否定できません。
・これまで東電は、多核種除去設備(ALPS)で汚染水を処理すれば、化学的には水素と同じトリチウム(三重水素)以外の放射性物質を除去できると説明。しかし、ALPSの不具合で高濃度の汚染水が混入したり、劣化したフィルターの交換を後回しにしたため、基準値を上回る放射性物質が残ってしまったという。
汚染処理水海洋時によって、風評被害が発生するとして、全国漁業協同組合連合会が反対しています。今回の汚染処理水海洋投棄計画発表の主眼は、菅義偉首相及び、自民党菅政権が、風評被害対策と称し、それによって電通などの広告代理店に利益供与することであると推察されます。
・海洋放出を巡っては、全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長が同日、経済産業省と環境省で両省大臣と面談。「漁業者の総意として絶対反対」とする要請書を手渡し、「海洋放出となれば、風評被害は必至。漁業の将来展望を壊しかねない。慎重に判断してほしい」と求めた。
そもそも福島第1原子力発電所の事故発生は、それ以前に原子力発電所における外部電源の危険が指摘されていながら、安倍晋三首相及び、自民党安倍政権、東京電力が安全対策を怠ったために引き起こされています。2006年には、吉井英勝議員が『巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書』を提出しています。これに対し、安倍晋三首相及び、自民党安倍政権は、『外部電源から電力の供給を受けられなくなった場合でも、非常用所内電源からの電力により、停止した原子炉の冷却が可能である』と答弁し安全対策を否定しています。この結果、2011年には、福島第1原子力発電所は事故を起こし、放射性物質を排出し続けています。
・巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書
「 平成十八年十二月十三日提出 質問第二五六号 提出者 吉井英勝
巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書
政府は、巨大地震に伴って発生する津波被害の中で、引き波による海水水位の低下で原子炉の冷却水も、停止時の核燃料棒の崩壊熱を除去する機器冷却系も取水できなくなる原発が存在することを認めた。
巨大な地震の発生によって、原発の機器を作動させる電源が喪失する場合の問題も大きい。さらに新規の原発で始められようとしている核燃料棒が短時間なら膜沸騰に包まれて冷却が不十分な状態が生じる原発でも設置許可しようとする動きが見られる。また安全基準を満たしているかどうかの判断に関わる測定データの相次ぐ偽造や虚偽報告に日本の原発の信頼性が損なわれている。原発が本来的にもっている危険から住民の安全を守るためには、こうしたことの解明が必要である。
よって、次のとおり質問する。
一 大規模地震時の原発のバックアップ電源について
1 原発からの高圧送電鉄塔が倒壊すると、原発の負荷電力ゼロになって原子炉停止(スクラムがかかる)だけでなく、停止した原発の機器冷却系を作動させるための外部電源が得られなくなるのではないか。そういう場合でも、外部電源が得られるようにする複数のルートが用意されている原発はあるのか。あれば実例を示されたい。また、実際に日本で、高圧送電鉄塔が倒壊した事故が原発で発生した例があると思うが、その実例と原因を明らかにされたい。
2 落雷によっても高圧送電線事故はよく起こっていると思われるが、その結果、原子炉緊急停止になった実例を示されたい。
3 外部電源が取れなくても、内部電源、即ち自家発電機であるディーゼル発電機と無停電電源であるバッテリー(蓄電器)が働けば、機器冷却系の作動は可能になると考えられる。逆に考えると、大規模地震でスクラムがかかった原子炉の核燃料棒の崩壊熱を除去するためには、機器冷却系電源を確保できることが、原発にとって絶対に必要である。しかし、現実には、自家発電機(ディーゼル発電機)の事故で原子炉が停止するなど、バックアップ機能が働かない原発事故があったのではないか。過去においてどのような事例があるか示されたい。
4 スウェーデンのフォルクスマルク原発1号(沸騰水型原発BWRで出力一〇〇・八万kw、運転開始一九八一年七月七日)の事故例を見ると、バックアップ電源が四系列あるなかで二系列で事故があったのではないか。しかも、このバックアップ電源は一系列にディーゼル発電機とバッテリーが一組にして設けられているが、事故のあった二系列では、ディーゼル発電機とバッテリーの両方とも機能しなくなったのではないか。
5 日本の原発の約六割はバックアップ電源が二系列ではないのか。仮に、フォルクスマルク原発1号事故と同じように、二系列で事故が発生すると、機器冷却系の電源が全く取れなくなるのではないか。
6 大規模地震によって原発が停止した場合、崩壊熱除去のために機器冷却系が働かなくてはならない。津波の引き波で水位が下がるけれども一応冷却水が得られる水位は確保できたとしても、地震で送電鉄塔の倒壊や折損事故で外部電源が得られない状態が生まれ、内部電源もフォルクスマルク原発のようにディーゼル発電機もバッテリーも働かなくなった時、機器冷却系は働かないことになる。この場合、原子炉はどういうことになっていくか。原子力安全委員会では、こうした場合の安全性について、日本の総ての原発一つ一つについて検討を行ってきているか。また原子力・安全保安院では、こうした問題について、一つ一つの原発についてどういう調査を行ってきているか。調査内容を示されたい。
7 停止した後の原発では崩壊熱を除去出来なかったら、核燃料棒は焼損(バーン・アウト)するのではないのか。その場合の原発事故がどのような規模の事故になるのかについて、どういう評価を行っているか。
8 原発事故時の緊急連絡網の故障という単純事故さえ二年間放置されていたというのが実情である。ディーゼル発電機の冷却水配管の減肉・破損が発生して発電機が焼きつく事故なども発生した例が幾つも報告されている。一つ一つは単純な事故や点検不十分などのミスであったとしても、原発の安全が保障されないという現実が存在しているのではないか。
二 沸騰遷移と核燃料棒の安全性について
1 原発運転中に、膜沸騰状態に覆われて高温下での冷却不十分となると、核燃料棒の焼損(バーン・アウト)が起こる。焼損が発生した場合に、放射能汚染の規模がどのようなものになるのかをどう評価しているか。原子炉内に閉じ込めることができた場合、大気中に放出された場合、さらに原子炉破壊に至る規模の事故になった場合まで、それぞれの事故の規模ごとに、放射能汚染の規模や内容がどうなるかを示されたい。
2 経済産業省と原発メーカは、コストダウンの発想で、原発の中での沸騰遷移(Post Boiling Traditional)を認めても「核燃料は壊れないだろう」としているが、この場合の安全性の証明は実験によって確認されているのか。事業者が沸騰遷移を許容する設置許可申請を提出した場合には、これまで国は、閉じ込め機能が満足されなければならないとして、沸騰遷移が生じない原子炉であることを条件にしてきたが、新しい原発の建設に当たっては沸騰遷移を認めるという立場を取るのか。
3 アメリカのNRC(原子力規制委員会)では、TRACコードでキチンと評価して沸騰遷移(PBT)は認めていないとされているが、実際のアメリカの扱いはどういう状況か、またアメリカで認められているのか、それとも認められないのか。またヨーロッパなど各国は、どのように扱っているか。
4 東通原発1、2号機(着工準備中、改良型沸騰水型軽水炉ABWR、電気出力一三八・五万kw)については、「重要電源開発地点の指定に関する規程」(二〇〇五年二月一八日、経産省告示第三一号)に基づいて、〇六年九月一三日に経済産業大臣から指定され、九月二九日に原子炉規制法第二三条に基づいて東通原発1号機の原子炉設置許可申請が国に出された。この中では、沸騰遷移が想定されているのではないのか。
5 ABWRでは、浜岡5号機や志賀2号機などタービン翼の破損事故が頻発している。ABWRの東通原発が、沸騰遷移を認めて作られた場合に、核燃料が壊れて放射性物質が放出される事態になる可能性は全くないと実証されたのか。安全性を証明した実証実験があればその実例も併せて示されたい。また、どんな懸念される問題もないというのが政府の見解か。
三 データ偽造、虚偽報告の続出について
1 水力発電設備のダム測定値や、火力・原発の発電設備における冷却用海水の温度測定値に関して測定データの偽造と虚偽報告が電力各社で起こっていたことが明らかになった。総ての発電設備について、データ偽造が何時から何時までの期間、どういう経過で行われたのか明らかにされたい。
2 こうしたデータ偽造と虚偽報告は、繰り返し行われてきた。使用済核燃料の輸送キャスクの放射線遮蔽データ偽造、原発の溶接データ偽造、原子炉隔壁の損傷データ偽造とデータ隠し、配管減肉データ偽造、放射線量データ偽造など数多く発生してきた。日本の原子力発電が始まって以来の、こうした原発関連機器の測定データや漏洩放射線量のデータについての偽造や虚偽報告について年次的に明らかにされたい。
3 原発の危険から住民の安全を守るうえで、国の安全基準や技術基準に適合しているのかを判断する基礎的なデータが偽造されていたことは重大である。そこで国としては、データ偽造が発覚した時点で、データが正確なものか偽造されたものかを見極める為に、国が独自に幾つかのデータを直接測定するなど検査・監視体制を強化することや、データ測定に立ち会って測定が適正かどうかのチェックをすることが必要である。国は、検査・監視体制を強化したのか、またデータ測定を行う時に立ち会ったのか。
 これだけデータ偽造が繰り返されているのに、何故、国はそうしたことを長期にわたって見逃してきたのか。
右質問する。」
「 平成十八年十二月二十二日受領 答弁第二五六号 内閣衆質一六五第二五六号 平成十八年十二月二十二日 内閣総理大臣 安倍晋三 衆議院議長 河野洋平 殿
衆議院議員吉井英勝君提出巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問に対する答弁書
一の1について
我が国の実用発電用原子炉に係る原子炉施設(以下「原子炉施設」という。)の外部電源系は、二回線以上の送電線により電力系統に接続された設計となっている。また、重要度の特に高い安全機能を有する構築物、系統及び機器がその機能を達成するために電源を必要とする場合においては、外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受けられる設計となっているため、外部電源から電力の供給を受けられなくなった場合でも、非常用所内電源からの電力により、停止した原子炉の冷却が可能である。また、送電鉄塔が一基倒壊した場合においても外部電源から電力の供給を受けられる原子炉施設の例としては、北海道電力株式会社泊発電所一号炉等が挙げられる。お尋ねの「高圧送電鉄塔が倒壊した事故が原発で発生した例」の意味するところが必ずしも明らかではないが、原子炉施設に接続している送電鉄塔が倒壊した事故としては、平成十七年四月一日に石川県羽咋市において、北陸電力株式会社志賀原子力発電所等に接続している能登幹線の送電鉄塔の一基が、地滑りにより倒壊した例がある。
一の2について
落雷による送電線の事故により原子炉が緊急停止した実例のうち最近のものを挙げれば、平成十五年十二月十九日に、日本原子力発電株式会社敦賀発電所一号炉の原子炉が自動停止した事例がある。
一の3について
我が国において、非常用ディーゼル発電機のトラブルにより原子炉が停止した事例はなく、また、必要な電源が確保できずに冷却機能が失われた事例はない。
一の4について
スウェーデンのフォルスマルク発電所一号炉においては、平成十八年七月二十五日十三時十九分(現地時間)ころに、保守作業中の誤操作により発電機が送電線から切り離され、電力を供給できなくなった後、他の外部電源に切り替えられなかった上、バッテリーの保護装置が誤設定により作動したことから、当該保護装置に接続する四台の非常用ディーゼル発電機のうち二台が自動起動しなかったものと承知している。
一の5について
我が国において運転中の五十五の原子炉施設のうち、非常用ディーゼル発電機を二台有するものは三十三であるが、我が国の原子炉施設においては、外部電源に接続される回線、非常用ディーゼル発電機及び蓄電池がそれぞれ複数設けられている。また、我が国の原子炉施設は、フォルスマルク発電所一号炉とは異なる設計となっていることなどから、同発電所一号炉の事案と同様の事態が発生するとは考えられない。
一の6について
地震、津波等の自然災害への対策を含めた原子炉の安全性については、原子炉の設置又は変更の許可の申請ごとに、「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(平成二年八月三十日原子力安全委員会決定)等に基づき経済産業省が審査し、その審査の妥当性について原子力安全委員会が確認しているものであり、御指摘のような事態が生じないように安全の確保に万全を期しているところである。
一の7について
経済産業省としては、お尋ねの評価は行っておらず、原子炉の冷却ができない事態が生じないように安全の確保に万全を期しているところである。
一の8について
原子炉施設の安全を図る上で重要な設備については、法令に基づく審査、検査等を厳正に行っているところであり、こうした取組を通じ、今後とも原子力の安全確保に万全を期してまいりたい。
二の1について
経済産業省としては、お尋ねの評価は行っておらず、原子炉の冷却ができない事態が生じないように安全の確保に万全を期しているところである。
二の2について
原子炉内の燃料の沸騰遷移の安全性に係る評価については、平成十八年五月十九日に原子力安全委員会原子力安全基準・指針専門部会が、各種の実験結果等を踏まえ、「沸騰遷移後燃料健全性評価分科会報告書」(以下「報告書」という。)を取りまとめ、原子力安全委員会が同年六月二十九日にこれを了承している。また、一時的な沸騰遷移の発生を許容する原子炉の設置許可の申請については、報告書を含む原子力安全委員会の各種指針類等に基づき審査し、安全性を確認することとしている。
二の3について
政府として、諸外国における原子炉内の燃料の沸騰遷移に係る取扱いについて必ずしも詳細には把握していないが、報告書においては、米国原子力規制委員会(NRC)による改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の安全評価書の中で一定の条件下の沸騰遷移においては燃料棒の健全性が保たれるとされている旨が記載されており、また、ドイツでは電力会社等により沸騰遷移を許容するための判断基準についての技術提案が行われている旨が記載されている。
二の4について
東京電力株式会社東通原子力発電所に係る原子炉の設置許可の申請書においては、報告書に記載された沸騰遷移後の燃料健全性の判断基準に照らし、一時的な沸騰遷移の発生を許容する設計となっていると承知している。
二の5について
東京電力株式会社東通原子力発電所に係る原子炉施設の安全性については、報告書を含む各種指針類等に基づき審査しているところである。
三の1及び2について
お尋ねについては、調査、整理等の作業が膨大なものになることから、お答えすることは困難である。なお、経済産業省においては、現在、一般電気事業者、日本原子力発電株式会社及び電源開発株式会社に対し、水力発電設備、火力発電設備及び原子力発電設備についてデータ改ざん、必要な手続の不備等がないかどうかについて点検を行うことを求めている。
三の3について
事業者は、保安規定の遵守状況について国が定期に行う検査を受けなければならないとされているところ、平成十五年に、事業者が保安規定において定めるべき事項として、品質保証を法令上明確に位置付けたところである。御指摘の「データ測定」の内容は様々なものがあり、一概にお答えすることは困難であるが、例えば、電気事業法(昭和三十九年法律第百七十号)第五十四条に基づく定期検査にあっては、定期検査を受ける者が行う定期事業者検査に電気工作物検査官が立ち会い、又はその定期事業者検査の記録を確認することとされている。御指摘の「長期にわたって見逃してきた」の意味するところが必ずしも明らかではないことから、お答えすることは困難であるが、原子炉施設の安全を図る上で重要な設備については、法令に基づく審査、検査等を厳正に行っているところであり、こうした取組を通じ、今後とも原子力の安全確保に万全を期してまいりたい。」 

 

●2022年夏に“期限“「先送りできない」福島第一原発「処理水」問題 2020/10 
東京電力福島第一原発にたまる、放射性物質トリチウムを含んだ「処理水」の処分問題。政府は処理水を薄めた上で海洋放出する案を検討しているが、地元漁業者らは「風評被害をもたらす」として反発を強める。一方、現在のペースで処理水が増え続ければ、原発敷地内の貯蔵タンク置き場は2022年に「満床」となる見通しで、廃炉作業最大の課題である原発建屋内の燃料デブリ取り出しを前進させるためにはタンクは増やしたくないのが国や東電の本音だ。地元の反発覚悟で海洋放出するしか選択肢はないのか。トリチウムが除去できる最新技術を取材し、“第3の道”の可能性を探る。
政府検討 海洋放出の問題は
「ALPS(アルプス)処理水の取り扱いについて、いつまでも方針を決めないで先送りすることはできないと思っています。今後できるだけ早く政府として責任を持って、処分方針を決めたいと考えています。」(菅首相)
菅義偉首相は10月21日、訪問先のインドネシア・ジャカルタで行われた会見で処理水問題に言及。決断の時期が迫っていることをにじませた。
汚染水・処理水が増え続けるワケ
私たちは2月、福島第一原発を取材していた。事故を起こした4つの原子炉建屋では廃炉に向けた作業が進められているが、そのうち3基の地下には溶け落ちた核燃料、燃料デブリがそのまま残されている状態だ。強い放射線を放つ燃料デブリを抑え込むためには、大量の水によって冷却し続ける必要がある。冷却のために使った水は放射性物質に触れることで「汚染」される。さらに原発の地下を流れる大量の地下水も同様に燃料デブリに触れることで「汚染水」となってしまう。冷却のために使った水は、放射能に「汚染」される。さらに原発の地下を流れる大量の地下水も燃料デブリに触れることで「汚染水」となってしまう。
大量に生み出される「汚染水」は原発の敷地内にある多核種除去装置:ALPS(アルプス)へ運ばれ、62種類の放射性物質を取り除かれる。
こうした処理によって、セシウムやストロンチウムなど、ほとんどの放射性物質は取り除くことができる。こうした作業の後に残るのが「処理水」だ。
無色透明で普通の水と変わらないように見える処理水。しかし中にはトリチウムという放射性物質が残っている。ALPSを通してもそれだけは取り除くことが出来ない。
なぜトリチウムだけが分離できないのか
トリチウムを巡る問題を理解するために、少し科学の話にお付き合い頂きたい。まずは「水素(H)」を詳しく見てみると…通常の水素原子は陽子1つ、電子1つで構成されいる。しかしこれには例外がある。中性子が1つ加わることがあり、これが重水素(2H)。さらに中性子が2つ加わったものが三重水素(3H)であり、中性子の一つがβ崩壊し、微量の放射線(β線)を出す。
水素原子2つが酸素原子と結合したものが化学式 H2Oでおなじみの「水」だ。しかし、この水素原子は極めてよく似た性質を持つトリチウム(T)が結合する場合もある。こうしてできる水がトリチウム水(HTO)となる。宇宙線などの影響によりトリチウムは自然環境でも生成され、通常水1リットルあたり1ベクレル程度が存在している。体重60キロの人の場合、50ベクレル程度のトリチウムを体内に保有している。
福島第一原発にある施設内でトリチウム水を前に、経済産業省資源エネルギー庁の廃炉・汚染水対策官・木野正登氏が線量計をかざす。「この場所の空間線量が0.06マイクロシーベルト。線量計を処理水に近づけると0.06マイクロシーベルトのままです。処理水からは人体に影響する放射線が出ていないことがわかります。」
処理水を貯蔵するタンク1本の容量は約1350トン。巨大なタンクも1週間で満杯になってしまう。福島第一原発の敷地に増え続けたタンクは9月17日時点で1044基。増設するスペースがないため、処理水の貯蔵は2022年夏頃には限界を迎える。そこで政府が検討している処分法が処理水をあらかじめ薄めてから海に流す「海洋放出」だ。
2011年の原発事故以来、風評被害に悩まされてきた地元漁業関係者からの反発は強い。
「“汚染水”を海に放出するとなれば、国民は(福島県の魚を)食べますか。はっきり言って、福島県の水産関連の第一次産業なんてなくなってしまいますよ。今後、新しい後継者は出てこないですよ、イメージが悪くて。」(いわき市漁協 江川章組合長)
現在、福島県産の魚は出荷前に放射能検査が行われている。震災前の国の基準は1キロあたり500ベクレル。震災翌年からは100ベクレルと厳しくなった。福島漁連ではさらに厳しい50ベクレルという基準を設定しているが検査結果はほぼ「不検出」となっているのが現状だ。福島の漁業にとって大きな課題となっているトリチウム水。処理水からの分離は本当に不可能なのだろうか?
大規模除去プラントも可能?トリチウム除去の新技術
トリチウムの分離は技術的にはできます」と語るのは、近畿大学原子力研究所の山西弘城所長だ。確かに、「電気分解」や「蒸留」など従来の技術でもトリチウム水の分離は可能だ。しかし100万トン単位の水を一気に処理することは難しいという。そこで近畿大学原子力研究所はトリチウム水と普通の水の“脱離エネルギーの違い”に注目。その「差」を利用することで分離することが可能だという。実験は、トリチウム水が混ざった水(を模したもの)をたくさんの穴が開いた(多孔質の)吸着材に吹き付けることによって行われる。
これを温度60度という環境で行うと…。普通の水はくっつきにくいが、トリチウム水は多孔質の物体にくっついたまま残るのだ。この特性を利用すれば、トリチウム水を大量に分離する技術も開発できるという。
この技術によって福島第一原発の処理水からトリチウムを分離することができるのか?山西所長に聞くと…。
「実験室レベルでは量が少ないのでゆっくりやればいいのですが、実用化しようとすると100トンくらいの水を1日で処理することが必要。3、4基作るとなると数億円の規模でお金が必要ではないかと見積もっています。実用化はできるとは思うのですがそこにかかるコストや手間を考えていく必要がある」
そもそも「安全」と考えられているトリチウム水にこれだけのコストをかけることが難しい現実があるという。しかし、風評被害の払しょくに数億円の負担は決して安くはないはずだ。
漁業関係者は“絶対反対” 政府の対応は?
10月15日、全国漁業協同連合組合「全漁連」の代表と福島の「県漁連」の代表らは小泉進次郎環境相のもとを訪れ、処理水の“海洋放出”絶対反対の立場を伝える要望書を提出した。「反対」という要望に対しての小泉大臣の返答は曖昧なものとなった。
「ALPS処理水の取り扱いは国家的にも非常に大きな課題で避けることができないという課題の中で、いかなる決定があったとしても、皆さんの思いをしっかり受け止めた上での決定をしなくてはならない。」(小泉環境相)
梶山弘志経済産業相は10月23日、自治体、漁業団体からの意見をまとめる会合後の会見で、従来通りの発言を繰り返し、10月中とみられていた政府決定を先送りする考えを示した。
「丁寧にやっているということで理解していただきたいと思います」(梶山経産相)
本格的な漁業ができない9年半の月日は、黒潮と親潮がぶつかる福島の海に、豊富な海産物をもたらしたという。震災前のように、たくさんの漁船が大漁を目指して海に出る…そんな当たり前の光景を取り戻せる日はいつになるのだろうか。 

 

●トリチウム汚染水の海洋放出で住民を見捨てる菅政権  2020/11 
「海洋放出をしたら福島の水産物の命運が尽きることになると思います。地元の漁師は『今でもさっぱり魚が売れないのに、トリチウム汚染水なんか流したらもっと売れなくなる。福島の漁業は終わりだ』とハッキリ言っています」
こう怒りを露わにするのは、福島県相馬市で水産加工品も扱うスーパー「中島商店」代表の中島孝氏。「福島原発事故生業訴訟」の原告団長で、仙台高裁勝訴判決を勝ち取った。しかし原発推進の安倍政治継承を訴えた菅政権はこの判決を受け止めずに上告、福島第一原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む汚染水の海洋放出もゴリ押ししようとしている。
中島氏はこう続けた。「政府は、相馬双葉地域から五輪の聖火ランナーがスタートすることで『原発事故は終わったのだ』と復興を印象づけようとしていますが、原発事故から9年経ってもいまだに風評被害が続いています。こうした現実を隠蔽して被害を切り捨てたうえで、海洋放出を福島県民に迫っているのです」。
タダ同然で取引される福島県産野菜
海洋放出に反対する漁業関係者ら福島県民と強行突破のタイミングを見計らう菅政権とのにらみ合いが続くなか、立憲民主党の枝野幸男代表は11月15日に「相馬双葉漁協」(相馬市)を訪れ、汚染水の海洋放出問題について幹部らと意見交換をした。
当然、相馬双葉漁協も「海洋放出は国内漁業の将来に壊滅的な影響を与えかねない」として反対の立場。そのため立谷寛治組合長は会合の冒頭で、政府に慎重な判断を働き掛けるよう求める要請書を枝野氏に手渡した。そして意見交換では、漁協幹部からは「国からまったく説明がない」「風評被害が検証されておらず、対策も示されていない」といった批判的な発言が相次いだ。こうした訴えに耳を傾けていた枝野氏は、「何度でも漁業者と話し合わなければならない。風評被害の検証も必要」と強調、十分な説明なき海洋放出を進めようとする政府に方針変更を求める考えを明らかにした。
「(漁業)関係者にさえ、きちんとした説明がなされていない状況では海洋放出を決定することはできない」「説明なき唐突な進め方ということを当事者の言葉で聞かせていただいて、こういう進め方は許すわけにはいかないことで意を強くした。風評についての心配への対応や説明がなされていないことが、政府の進め方として大変問題だ」(枝野代表/会合後の囲み取材で)
枝野氏に続いて立石氏も囲み取材に応じ、「海洋放出以外の代替案の検討が不十分、他の道があり得るという考えか」と聞くと、立石氏はこう答えた。
「これまで大震災から9年8カ月、風評被害の検証をしないで、海洋放出ありきでやってきた。風評被害対策について明確な説明をしてもらわないと、ただ『風評対策をやります』だけでは納得できない」
きちんとした説明抜きで汚染水の海洋放出を強行しようとする菅政権に対して、はっきり「反対」と言わないことを批判されているのが内堀雅雄・福島県知事だ。先の中島氏はこう話す。
「築地の仲買人から福島産の水産物について、『スーパーは福島県産の表示をしないといけないので取り扱わない。築地でも隅に置かれているだけで、県産表示をしなくていい飲食店がただ同然で買っていく』と聞きました。福島原発事故から9年以上経っても、実際は何も終わっていない。風評被害は続き、県民は被害を受け続けている。こうした実態を内堀知事はわかっているはずだ。こんな状況のなかで、さらなる被害を招く汚染水海洋放出を国が決めたのならば、県民の生活を守るために内堀知事ははっきりと海洋放出反対を言わないといけない。態度を鮮明にしないというのは本当に信じられない。〈正気の沙汰か!〉ということを内堀知事にぶつけたい」
官僚出身知事にありがちな弱腰の内堀知事に乗じて菅政権は、汚染水海洋放出のタイミングを見計らっているように見える。政府は、10月23日の「廃炉・汚染水対策チーム会合」で議論は終結したと判断。「10月27日にも海洋放出の方針決定」との報道が流れるなか、梶山弘志・経済産業大臣は「さらに検討を深める考えを示した。しかし海洋放出自体を見直す兆しはまったくなく、単に先送りをしただけにすぎない。
「二酸化炭素排出ゼロ」にかこつけた原発推進政策
「(福島原発事故の)被災者の心に寄り添いながら復興に取り組む」と口先では語るものの、海洋放出強行の構えを崩さない菅政権(首相)に対して、合流新党発足後に初めて福島訪問をした枝野氏は対決姿勢を強めている。先の囲み取材で「菅政権と対決するという意味で、菅政権のエネルギー政策、所信表明演説では原発推進にも触れる姿勢についてはどう考えているのか」と聞くと、こんな答えが返ってきた。
「『2050年に二酸化炭素実質排出ゼロを目指す』という方向が示されたときには若干の期待感をもちましたが、むしろ、これにかこつけて原発政策を悪い方向に転換しようとしている姿勢が明確になったと思う。脱炭素のために(原発の)新増設も否定しない。(原発の)新型小型炉の開発を進めるということで、処理水の話もこのドサクサに紛れてやろうという意向ではないか。福島原発事故についての原因を含めた検証も十分ではない状況のなかで、決して許されるものではない」
原発推進で海洋放出強行の菅政権と、脱原発で海洋放出反対の多くの福島県民と野党連合という対決の構図が鮮明になる。 
 2021/1

 

 
 2021/2

 

●原発事故10年 「トリチウム水」「処理水」どう処分する 2021/2 
東京電力福島第一原子力発電所の構内に立ち並ぶ巨大なタンク群。中に入っているのは、汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含んだ水、「トリチウム水」や「処理水」と呼ばれているものです。いま、この「処理水」をどのように処分するかが、福島第一原発の廃炉を進める上で大きな課題となっています。
タンク満杯近づく?
福島第一原発では、事故で溶け落ちた核燃料の冷却などによって1日140トンのペースで汚染水が発生しています。
この汚染水は敷地内の専用の浄化設備に送られ複数の吸着剤を使って多くの放射性物質が取り除かれますが、「トリチウム」という放射性物質は取り除くことが難しく処理された水の中に残ってしまいます。この水が大型のタンクにためられているのです。
福島第一原発の構内に設置されたタンクの数はおよそ1000基。容量はあわせて137万トンにのぼりますが、すでに9割にこの水がためられていて、さらに日々増え続けています。
福島第一原発の敷地内には空きスペースもありますが、国や東京電力はタンクを増やし続けることはできないとしています。
今後、▽溶け落ちた核燃料いわゆる「燃料デブリ」の一時保管施設や▽解体作業などで出る廃棄物を保管する施設などを建設する必要があるためです。
東京電力は、タンクが満杯になる時期について当初、2022年夏ごろとしていましたが、2020年1年間に発生した汚染水の量が目標より少なく抑えられたことから先に延びる見通しを示しました。
それでも、政府は、敷地がひっ迫するなか、いつまでも方針を決めずに先送りすることはできないとしていて、対応が注目されているのです。
6年以上かけて検討
こうした課題は今になって初めて明らかになったわけではありません。国は、この水をどのように処分するかについて有識者による委員会などを設け、2013年から6年あまりの時間をかけて検討を行ってきました。
まず、専門家チームによる処分方法の技術的な検討がおよそ2年半にわたって行われ、報告書では、次の5案が示されました。
〇基準以下に薄めて海に放出する案
〇加熱して蒸発させ大気中に放出する案
〇電気分解で水素にし大気中に放出する案
〇地中深くの地層に注入する案
〇セメントなどにまぜて板状にし地中に埋める案
このとき、トリチウムを分離して取り除く技術についても検討されましたが、すぐに実用化できる段階の技術ではないとの結論になりその後の検討には加えられていません。
そして、2016年からは社会学者や風評の専門家などを交えた国の小委員会が総合的な検討を3年あまりかけて行い、5案のほかにタンクなどでの保管継続を加えたおおむね6つの方法について議論を交わしました。
そして、小委員会は2020年2月、基準以下に薄めるなどして 〇海に放出する方法と 〇蒸発させて大気中に放出する方法が前例もあって現実的だとした上で、海の方が確実に実施できるとする報告書をまとめました。
トリチウムとは
では、そもそもこの「処理水」に含まれているトリチウムとはどういったものなのでしょうか。トリチウムは、日本語では「三重水素」(さんじゅうすいそ)と呼ばれる放射性物質で、水素の仲間です。
宇宙から飛んでくる宇宙線などによって自然界でも生成されるため、大気中の水蒸気や雨水、海水、それに水道水にも含まれ、私たちの体内にも微量のトリチウムが存在しています。
水素の仲間で、水の一部として存在するため、水から分離して取り除くのが難しいのが特徴です。
そして、トリチウムは、通常の原子力施設の運転に伴っても発生し、各国の基準に基づいて薄めて海や大気などに放出されています。
国内の原発では、1リットルあたり6万ベクレルという基準以下であることを確認した上で海に放出されていて、福島第一原発では事故の前の2010年に2兆ベクレルあまり放出されていました。
人体への影響は
では、人体への影響はどのように考えればいいのでしょうか。
トリチウムが出す放射線はエネルギーが弱く、空気中ではおよそ5ミリしか進みません。
このため人体への影響は外部からの影響に比べて、体内に取り込んだ時のリスクを考慮すべきとされています。
トリチウムが体内に入った場合、体内の物質と結合して濃縮するのではないかといった指摘もありますが、こうした指摘に対して国の小委員会は、「体はDNAを修復する機能を備えている」とした上で、「これまでの動物実験や疫学研究からはトリチウムが他の放射性物質に比べて健康影響が大きいという事実は認められず、マウスの発がん実験でも自然界の発生頻度と同程度だった」としています。
放射性物質の性質に詳しく国の小委員会の委員をつとめた茨城大学の田内広教授は、「トリチウムが体内に取り込まれてDNAを傷つけるというメカニズムは確かにあるが、DNAには修復する機能があり、紫外線やストレスなどでも壊れては修復しているのが日常。実験で、細胞への影響を見ているが基準以下の低濃度では細胞への影響はこれまで確認されていない」と話していて、低い濃度を適切に管理できていればリスクは低いとしています。
地元は風評被害を懸念
国の小委員会が3年あまりの議論を経て現実的な選択肢だとした「海」か「大気」への放出。小委員会はいずれでもの方法でも「風評被害は起こる」とし、海洋放出の場合、社会的影響は特に大きくなると結論づけました。
これに対し、地元、福島県の漁業者は大きな懸念を抱いています。
福島県では、原発事故のあと、漁の回数や日数を大幅に抑える試験的な漁が続けられてきました。
水揚げのたびに放射性物質の検査を行い安全性を確認した上で出荷しているほか、首都圏のスーパーに福島県産の魚の常設コーナーを設けてもらうなど風評の払拭に向けた取り組みを重ねてきました。
その結果、少しずつ信頼を回復し、福島県の沿岸漁業の2020年の水揚げ量は震災前のおよそ17.5%と過去最高に。
現在は、「本格操業」の再開を目指し、水揚げを2021年4月から段階的に増やす議論が進められています。
もし福島県内でトリチウムを含む水が海に放出されれば、再び風評被害が起き、積み重ねてきた努力が台無しになってしまうのではないか。地元にはそうした懸念があります。
相馬双葉漁協の立谷寛治組合長は「福島県の魚も大丈夫、おいしく食べていますと言われるようになった今になって、海洋放出ということになれば福島の漁業はどうなるのか。これまでやってきたことがすべて崩れてしまう。国の施策と言われても絶対容認はできない」と話します。
一方、福島第一原発が立地する大熊町や双葉町からは異なる声が上がっています。
タンクでトリチウムを含む水を保管し続けることが復興の妨げになっているとして、政府に対し、対応策を早急に決定するよう要望を出したのです。双葉町の伊澤史朗町長は、「みずからの自治体に処理水が置かれ続けたら同じように受け入れられるか考えて欲しい。陸上保管は問題の解決につながらない。国としてどう解決するか判断の時期に来ていると思う」と話しています。
地元の福島県内でも意見が分かれ、この問題の難しさがあらわれています。
対話なき決着か
福島第一原発の廃炉と地域の復興の両立が求められるなか、政府はこの難しい問題にどう道筋をつけるのか。政府が方針の決定に向けて2020年4月から7回にわたって開いてきた関係者から意見を聞く会には、地元自治体や農林水産業者のほか流通や消費者の全国団体など29団体43人が参加しました。
ここでは、風評被害を懸念して海への放出に反対や慎重な意見が出されたほか、具体的な風評被害対策を示すよう求める声や国民の理解が進んでいないといった指摘が出されました。このほか、書面での意見募集も行われましたが、寄せられた意見に対し、政府としての見解は明らかにしていません。
NHKは2021年2月、福島県に住む20歳以上の男女1200人を対象にインターネットでアンケートを行い、トリチウムなどの放射性物質を含む水をめぐる議論についても聞きました。
この中で、「地元住民への説明や対話は十分だ」と思うか尋ねたところ、「そう思う」、「どちらかと言えばそう思う」は合わせて14.2%だった一方、「そう思わない」、「どちらかと言えばそう思わない」はあわせて65.6%で、説明や対話の不足を感じている人が多数を占めました。
また、「政府が責任を持って早期に決断すべき」かどうかについては、「そう思う」、「どちらかと言えばそう思う」は合わせて61.2%、「そう思わない」「どちらかと言えばそう思わない」は合わせて24.8%という結果で、政府が責任を持つことには賛同する人が多い結果となりました。
その一方で、トリチウムなどを含む水の扱いについて、「誰の意見をもとにして決めるべきだと思うか」複数回答で尋ねたところ、政府(政治家)は27.4%、関係省庁は30.2%と少なかった一方、福島県が59.5%、地元住民が53.8%、周辺市町村が51.2%と地元の意見を意思決定に生かすべきとの答えが多くなりました。
これについて、アンケートを監修し、国の小委員会の委員も務めた東京大学の関谷直也准教授は「国が責任を持って対処すべきというところには違和感がないが、方向性としては地元の意見を踏まえて決めていくべきだと思っていて、だからこそ、県や周辺市町村への期待や地元住民のことを聞いて欲しいという思いが出ているのだと思う。そこが十分に納得できていない状況で決めることに対する不満が調査結果から出ていると思う」と話しています。
地元を含めたより多くの関係者の納得が得られる形で処分方針を決定することができるのか。今後の政府の対応が問われています。 

 

●原発事故10年 福島第一原発 各号機の現状は 2021/2
東京電力福島第一原子力発電所事故から10年。世界最悪レベルの事故を起こした原発はいま、どうなっているのでしょうか。号機ごとに見ていきます。
1号機
最初に核燃料がメルトダウンし水素爆発に至った1号機は、廃炉作業においても厳しい状況が続いています。
水素爆発で天井や壁が吹き飛び、がれきが散乱した原子炉建屋の最上階は、今も覆うものはなく、むき出しの状態となっています。
遠隔操作によるがれきの撤去は進みましたが、使用済み燃料プールには392体の核燃料が残されたままです。
1号機の燃料プールは、取り出しに向けて乗り越えなければならないハードルが今も残され、取り出しの開始は、当初の計画より10年ほど遅れ2027年度か28年度と予定されています。
大きな課題になっているのは、プールの上部に、重さが161トンあるクレーンが折れ曲がったまま残っていることです。
プールから核燃料を取り出すためには撤去する必要がありますが、撤去作業の際などにプールに落下することも懸念され、去年11月までに、クレーンの下に支えを入れるなどの安全対策を行いました。
今後、1号機では、建物全体を覆うカバーを設置した上で、クレーンなど残されたがれきの撤去を行い、燃料の取り出しに向けた環境を整えていく計画です。
一方、1号機では、溶け落ちた核燃料が周囲にある金属などと混じった、いわゆる燃料デブリの取り出しに向けた工程も順調には進んでいません。
1号機では、事故から6年後の2017年3月の調査で事故の前にはなかった砂のような堆積物が見つかりましたが、デブリそのものは確認できておらず、格納容器内部を詳しく調べる必要があります。
そのため、新たに開発したロボットを投入して、2019年度前半から格納容器内部の調査を半年ほどかけて行う予定でした。
しかし、ロボットを入れるための穴を開ける作業中に格納容器の内側にたまっていた放射性物質が舞い上があるなどトラブルが相次ぎ、調査の開始はたびたび延期され、いまもめどが立っていません。
1号機では、デブリの取り出しに向けて、まずは格納容器の内部の状況を詳しく把握することが求められています。
2号機
水素爆発を免れた2号機。1号機と同様に使用済み燃料プールにはまだ615体の核燃料が残されたままです。
水素爆発はしなかったため、1号機や3号機のようにがれきの撤去作業は必要ありませんが、燃料プールがある最上階は人が立ち入れないほど放射線量が高いため、遠隔で除染するなどして放射線量を下げる必要があります。
今後は、建屋の最上階の壁に開口部を作り、そこからクレーンなどを入れ、プールから核燃料を取り出していく考えで、2024年度から2026年度の間に開始する計画です。
デブリの調査は2号機がもっとも進んでいます。
格納容器の底でデブリとみられる堆積物を確認し、おととし2月には、遠隔操作のロボットで小石状の堆積物をつかんだり、動かしたりすることに成功しました。
このため、国と東京電力はことし(2021年)、まず2号機で、デブリの取り出しを始める計画を示し、イギリスでロボットアームの開発を進めてきました。
しかし、去年12月、新型コロナウイルスの感染拡大でイギリスでの試験が行えないなど開発が遅れているなどとして、国と東京電力は、少なくとも1年程度、取り出しの開始を遅らせる見通しを明らかにしました。
国と東京電力は遅れを最小限にとどめたいとしていますが、いつデブリの取り出しを始められるかは、見通しが立たない状況です。
3号機
3号機では、使用済み燃料プールからの核燃料の取り出しが、当初の計画から4年余り遅れて2019年4月に始まりました。
メルトダウンと水素爆発が起きた原子炉建屋の燃料プールからの核燃料の取り出しは3号機が最初でした。
放射線量が高いため、ほぼすべての作業が遠隔操作で行われてきました。
機器のトラブルが相次ぎ、取り出し作業はたびたび中断を余儀なくされましたが、566体の核燃料は少しずつ別の建物のプールに移され、残りは2021年2月25日の時点で6体で、あとわずかとなっています。
中でも3号機のプールには、水素爆発の際にプールに落下したがれきで燃料上部にある取っ手の部分が大きく変形した燃料が4体あり、こうした燃料の取り出しはこれまで実績がないことから、無事に取り出せるのか懸念されていましたが、2021年2月、開発した特殊な装置で4体の取り出しに成功しています。
3号機では、デブリの調査については、2017年7月にデブリとみられる堆積物を確認しました。
ただし、1号機と2号機に比べて格納容器の内部にたまっている水の水位が高く、燃料デブリの取り出しに向けて水位を下げる必要があります。その方法が現在、検討されています。
国と東京電力は、燃料デブリの取り出しを、2号機に続いて、3号機で行いたい考えです。
4号機
4号機は、もっとも早く使用済み燃料を運び出すことができた号機です。事故当時、定期検査中だった4号機は、原子炉に核燃料はなかったものの使用済み燃料プールには1535体もの大量の核燃料が入っていました。
また3号機から流れ込んだ水素で4号機も水素爆発をして、原子炉建屋は大きなダメージを受けていました。
プールの水が無くなると、中の核燃料は溶けて、大量の放射性物質が外部に放出されるリスクを抱えていました。
このため事故の2年後の2013年11月に先行して核燃料の取り出しを開始、翌2014年12月にはすべて別の建物に運び終えました。
5号機・6号機
少し高台にある5号機と6号機にも巨大津波は到達しましたが、2基とも定期検査中で、メルトダウンや水素爆発は起こさず、1号機から3号機に比べると被害は限られました。
いまもそれぞれ使用済み燃料プールに核燃料が保管されています。
来年、6号機のプールから核燃料を取り出し、その後、5号機の燃料も取り出していく計画です。 

 

●東電福島第一原発 <事故の概要>  2021/2
東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年。3つの原子炉が同時にメルトダウンを起こす世界最悪レベルの事故となりました。改めてどんな事故だったのか、事故の概要を振り返ります。
1971年に運転開始 事故当時は40年目
福島県大熊町と双葉町にまたがる福島第一原発には、1号機から6号機まであわせて6つの原子炉がありました。
もっとも古い1号機は、東京電力にとっての初めての原発で、1971年3月に運転を開始、事故当時40年目となる、国内でも古い原発の1つでした。
2011年3月11日
あの日、稼働していたのは1号機から3号機。
4号機から6号機は定期検査中でしたが、5号機と6号機の原子炉には核燃料が入っていました。
1号機から3号機は津波などによる影響で冷却装置が停止。
核燃料が溶け落ちる「メルトダウン」が起きました。
さらに、発生した水素が建物の上部にたまり、1号機と3号機、それに水素が3号機から流れ込んだ4号機で水素爆発が起きました。
最初に状況が悪化した「1号機」
最初に状況が悪化したのは1号機でした。
地震の揺れを感知し、核分裂反応を止める制御棒が自動的に挿入され、原子炉は緊急停止しました。
さらに、地震の影響で外から電気を受けるために必要な開閉所と呼ばれる施設も損傷し、外部から電気をもらうことはできなくなりました。
外部からの電源が失われる事態に備えて用意されている非常用のディーゼル発電機は自動的に立ち上がり、電気を供給し始めます。
しかし、午後3時半すぎ、津波の第二波が福島第一原発に押し寄せます。
津波は原子炉建屋など主要な施設のある高さ10メートルの敷地まで遡上しました。
この津波が海側にあるタービン建屋、さらにその奥側の原子炉建屋にまで入り込みます。
海に一番近いタービン建屋の1階や地下1階には非常用発電機や電気の配電盤などが設置されていたため、これらが海水につかって使用不能となり、直流を含めてすべての電源が失われました。
「SBO」「ステーション・ブラック・アウト」外部からの電源のほか非常用の発電機も含めて、使える電源がすべて失われるという世界でも初めて起きる事態でした。
1号機と2号機、共通の中央制御室は真っ暗となり、原子炉の状態を確認するために必要な計器類の表示も見られなくなりました。
原子炉の状態を確認するために必要な水位や温度、それに圧力がわからなくなったのです。
1号機では、地震発生後、非常用復水器、通称、イソコンと呼ばれる電気がなくても機能する冷却装置が自動起動し、原子炉の冷却が順調に進んでいましたが、このイソコンの動作状況もわからなくなります。
事故後の政府の事故調査・検証委員会の調査によれば、実際には、このときすでに冷却装置はほぼ機能を失っていた可能性が高いとみられていますが、そのことに対策本部がある免震重要棟で事故対応を指揮していた吉田所長をはじめほとんどの人が気づかず、1号機の状態を正確に把握できないまま、事故への対応を進めていきました。
中央制御室では、イソコンが作動していないのではないかという懸念があり、動作状況の確認を行うなどしていましたが、そのことは吉田所長に伝わっていませんでした。
このため、1号機は、注水がほぼゼロという状況が続き、核燃料は高温となり、原子炉の中の水位はどんどん下がって、3月11日の夜には燃料はむき出しの状態となり、深夜には大きな炉心損傷を起こしていた可能性が高いとみられています。
電源が失われてからわずか数時間のうちにメルトダウンが始まっていたのです。
しかし、1号機の異変に事故対応を指揮していた吉田所長らが気付くのは、12日に日付が変わろうとするころでした。
11日午後11時50分ごろ。
小型の発電機を中央制御室に持ち込み、圧力を測定したところ、原子炉を収めている格納容器の圧力が異常に高くなっていることが明らかになったのです。
このため、格納容器の破損を防ぐため中の空気を抜く、ベントの実施を試みることになりますが、電源が失われ、原子炉建屋の中の放射線量が極めて高くなっているなかでの作業は困難を極めました。
ベントは、翌日12日の午後2時ごろ、ようやく成功したとみられています。
しかし、そのおよそ1時間後の午後3時36分、予期しなかった事態に直面します。
溶けた核燃料のカバーなどから発生した大量の水素が建物の上部にたまり、水素爆発が起きたのです。
原子炉建屋の最上階が骨組みだけ残して吹き飛びました。
1号機の爆発は、夜を徹して懸命に続けられていた電源の復旧作業を頓挫させてしまいました。
実は、原子炉を冷やすためにもっとも重要な電源を復旧させる工事があと一歩のところまで来ていたのです。
1号機の爆発で電源ケーブルなどが損傷し、電源復旧が遠のいたことがさらなる事故の悪化を招いていきます。
次に事態が悪化した「3号機」
1号機に続いて、事態が悪化したのは3号機です。
3号機では1号機、2号機とは異なり、バッテリーが「中地下階」にあったため、水没を免れました。
そのため、原子炉の圧力などの計器を監視し、RCICやHPCIと呼ばれる冷却装置を動かすことができていました。
しかし、事故発生の翌日、RCICが自動停止。
RCICは、交流電源が失われた際、4時間以上動くことが設計条件でこのときは、それを上回って動き続けていましたが、動き始めて20時間近くたったころ、異常を知らせる電気信号を受け、自動的に停止した可能性が高いとみられています。
中央制御室では再起動を試みましたが動きませんでした。
RCICが停止し、原子炉水位が低下していくと異常を検知した別の冷却装置であるHPCIが自動起動しました。
この注水により冷却が進み、原子炉の圧力は低下していきます。
ただ、このHPCIも止まります。
本来、HPCIは原子炉が高圧状態にある場合に、原子炉からの蒸気でポンプが動き短時間で大量に注水するためのもので、水位が急上昇すれば停止してしまう仕組みです。
また、通常、再起動には多くの電気が必要でバッテリーを消耗するため、この時は通常とは異なる方法で注水量を調整しながら作動させていました。
HPCIによる注水で原子炉の圧力は低下していきましたが、通常とは異なる運転のなかで徐々に機能が失われていきます。
HPCIの故障などを懸念した運転員は13日午前2時42分に手動で停止させる判断をします。
HPCIを停止させた上で、原子炉の圧力を抜くための弁を開けて原子炉の圧力を下げ、水を送りだす圧力の低い別の装置で注水をしようと考えていたのです。
しかし、バッテリーの容量が低下していたため、弁を開くことができませんでした。
原子炉の圧力は上昇、低圧の注水装置では注水ができなくなります。
RCICやHPCIの再起動もできず、低圧での注水もできないまま、結果的におよそ7時間にわたって注水が途絶えることになりました。
13日早朝、午前9時ごろには3号機の原子炉の圧力が一気に急降下しました。
このことについて、政府事故調は、3号機の原子炉圧力容器が大きく損傷した結果だと分析していますが、東京電力は、のちの解析から、このとき弁が開いた可能性があるとしています。
いずれにしても高圧となっていた原子炉から圧力が抜け、その分、その外側の格納容器の圧力が上昇し、3号機でもベントが実施されました。
その後、消防車による注水が続けられましたが、翌14日午前11時1分、1号機に続いて3号機も水素爆発を起こしました。
このとき建屋の周囲では電源の復旧に向け、電気を供給するケーブルの設置などのため多くの人が外で作業を行っていました。
3号機の爆発は1号機よりも大きく、大きながれきが降り注ぎ、多数のけが人が出ることになりました。
最大の危機を招いた「2号機」
2号機では、3号機よりも長く冷却装置のRCICが事故発生から3日後の3月14日まで動いていました。
しかし、この2号機が吉田所長をして死を覚悟させた最大の危機を招くことになります。
RCICは起動時には電源が必要なものの、動き始めれば電源の必要のない冷却装置です。
ただ、通常であれば、調整をしながら使用するもので、電源がまったくない状態でいつまで動くかはわかっていませんでした。
そのRCICがついに、事故の発生から3日後の14日午後1時ごろに停止。
冷却手段を失った2号機は、原子炉圧力容器とその外側の格納容器の圧力が上昇し、翌15日未明に危機的な事態を迎えました。
2号機では、原子炉圧力容器の圧力を下げるのに手間取り、消防車からの注水ができず、格納容器の圧力を抜くためのベントもうまくいかなかったため、格納容器の圧力が上昇。
その後、原子炉の圧力を下げることはできましたが、ベントはできず、放射性物質を閉じ込める最後の砦と言われる格納容器が爆発的な損傷を起こしかねない値まで圧力が高まっていたのです。
こうした危機的な状況が続くなか15日午前6時10分に大きな衝撃音が聞こえたという情報が入ります。
これを受けて放射線量が急上昇する最悪の事態も想定した吉田所長は、必要最小限の人員を残して、およそ650人を福島第二原子力発電所に退避させました。
しかし、結果的に、2号機のものではなく格納容器が爆発する事態には至りませんでした。
ただ、2号機の格納容器圧力は、15日午前11時25分には、大気圧に近い値まで急落していることから、大きな損傷が生じた可能性が高く、2号機の格納容器からは大量の放射性物質が外部に放出されたと考えられています。
衝撃音を発したのは「4号機」
では、15日午前6時10分の衝撃音は何だったのか。
これは、地震計のデータから4号機の水素爆発によるものだったことが後にわかりました。
4号機は、当時、定期検査のため、すべての核燃料が原子炉から取り出され、水を張った燃料プールに移されていました。
このため1号機から3号機のような原子炉でのメルトダウンは免れました。
しかし、3号機から配管を通じて水素が流れ込み、原子炉建屋で水素爆発が発生していたのです。
さらに4号機では、燃料プールの水が抜けたり、蒸発したりして、水が無くなると、多量の燃料が溶けて、高濃度の放射性物質が外に放出される懸念が広がりました。
このため、自衛隊や消防などによるプールへの放水が試みられました。
実際にはプールの水が無くなることはなく、核燃料はとけませんでしたが、最悪の場合、首都圏の住民の避難が必要になることなども政府内で一時、検討されました。
4号機は3月22日からプールの近くまでアームを伸ばすことのできるポンプ車を使ってプールに水を入れる態勢がとられ、核燃料が溶け出す危機は回避されました。
そして、メルトダウンを起こした1号機から3号機は原子炉に水を入れる取り組みが効果を見せ、徐々に温度は低下、政府はその年の12月、「原子炉が冷温停止状態に達し、安定状態に至った」と発表しました。冷却は今も続いています。
甚大な被害をもたらした原発事故はこうして少しずつ、収束に向かっていくことになりました。 
 2021/3

 

●原発処理水の海洋放出について  3/2
この3月11日に、東日本大震災から10年を経過します。
今もなおその影響が残り、産業も、仕事もそして生活も元には戻っていないという地域があります。今日は東京電力福島第一原子力発電所の放射能汚染水の処理に関して取り上げます。
新聞の情報によりますと、2011年の大地震による原発の爆発事故の後、原子炉を冷却する目的の処理水を貯めに貯めこんだ結果、水は120万トンを超えて用意したタンクの約1000基の9割が埋まっているとのことです。いまのペースで1日140トンの汚染水を排出し続けると、保管用のタンクは2022年夏から秋頃には満杯になる見込みです。海洋放出には原子力規制委員会の審査や物理的な準備が相当期間かかるとされるので、政府は処分方針の決定を急ぐ必要があるようです。最終的な汚染水の処理方法が定まらない状態が続いていると理解しますが、大丈夫なのでしょうか?今やコロナの収束という課題も抱えて、政府としてはてんてこ舞いなのでしょうが、国の安全という観点からは原発処理水問題もコロナの収束と同じくらい大事なテーマだと思われます。
経済産業省は、科学的には安全だとの見解で早期の福島県沖へ汚染水を放出する意図を表明しています。政府と東電の海洋放出する方針の裏付けは、タンクの水をALPS(Advanced Liquid Processing System=多核種除去設備)により海水で二次処理して薄め、放射性物資の濃度を法令の放出基準より低くした処理水にするので、国際放射線防護委員会(ICRP)の安全基準にクリアしていて放出には問題ないと考えているからです。
海洋法の一つに、“廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(通称:ロンドン条約)”があります。本条約は、ことさら船舶からの廃棄物等の海洋投棄を原則として禁止している条約であり、陸上の施設からの海上投棄について規定する条約ではないので、福島原子力発電所からの汚染水放出はこのロンドン条約に基づく規制を受けることはないというのが、国の考え方です。
一方、漁業関係者は、全国漁連と福島漁連を中心に、「我が国漁業者の総意として福島沖への汚染水の放出について絶対反対」とする立場を貫いています。海洋放出されれば「風評被害の発生は必至」だと強調しています。現に、海洋放出をしていない現在でも、福島県以外の水産物を含めて輸入停止を続けている国もあり、海洋放出が実施されると、事態が深刻になる可能性は否定できません。
ちょっと、不思議に感じることがあります。仮に船舶に汚染水を積載して、太平洋の真ん中で放水すると、ロンドン条約が適用され廃棄物等の海洋投棄として罰せられるとのことです。しかし、同じものを福島沖で陸上施設から放出することは、国の説明だと安全な汚染水ということで、許されるとのことのようです。私は、そう理解しました。どうも、しっくりときません。船舶から捨てると違反の恐れがある汚染物を、陸上から垂れ流すことは法規制がないから、やってしまうという理屈のようです。本当に問題がなければ、太平洋の真ん中で廃棄すればいいような気がします。沿岸漁業で生計を立てている方々からすれば、風評被害にあわなくて済むはずです。私が思いついた具体的な方法は、大型タンカーに積み込み、地元沿岸ではなく太平洋のど真ん中まで持って行き放出するというものです。このような考え方は破天荒でしょうか?日本沿岸での汚染水放出がOKだとすれば、理屈上は太平洋の真ん中での放出でもOKなような気がします。まだ、納得できていないので、頭の整理をしたいと思います。思いつきの補足をさせていただくと、120万トンの汚染水は、40万トンタンカーで3隻分ですので、そのための船舶の用意は可能かもしれません。
ただ頭に浮かんだことを書いただけで、今のところ何の主張もありません。その点をご容赦ください。ただ、国が進めようとしている福島沖に汚染水を放出するという方針には、承服し難いです。 

 

●原発事故10年 「トリチウム水」「処理水」どう処分する 2021/3 
東京電力福島第一原子力発電所の構内に立ち並ぶ巨大なタンク群。中に入っているのは、汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含んだ水、「トリチウム水」や「処理水」と呼ばれているものです。いま、この「処理水」をどのように処分するかが、福島第一原発の廃炉を進める上で大きな課題となっています。
タンク満杯近づく?
福島第一原発では、事故で溶け落ちた核燃料の冷却などによって1日140トンのペースで汚染水が発生しています。
この汚染水は敷地内の専用の浄化設備に送られ複数の吸着剤を使って多くの放射性物質が取り除かれますが、「トリチウム」という放射性物質は取り除くことが難しく処理された水の中に残ってしまいます。この水が大型のタンクにためられているのです。
福島第一原発の構内に設置されたタンクの数はおよそ1000基。容量はあわせて137万トンにのぼりますが、すでに9割にこの水がためられていて、さらに日々増え続けています。
福島第一原発の敷地内には空きスペースもありますが、国や東京電力はタンクを増やし続けることはできないとしています。
今後、▽溶け落ちた核燃料いわゆる「燃料デブリ」の一時保管施設や▽解体作業などで出る廃棄物を保管する施設などを建設する必要があるためです。
東京電力は、タンクが満杯になる時期について当初、2022年夏ごろとしていましたが、2020年1年間に発生した汚染水の量が目標より少なく抑えられたことから先に延びる見通しを示しました。
それでも、政府は、敷地がひっ迫するなか、いつまでも方針を決めずに先送りすることはできないとしていて、対応が注目されているのです。
6年以上かけて検討
こうした課題は今になって初めて明らかになったわけではありません。国は、この水をどのように処分するかについて有識者による委員会などを設け、2013年から6年あまりの時間をかけて検討を行ってきました。
まず、専門家チームによる処分方法の技術的な検討がおよそ2年半にわたって行われ、報告書では、次の5案が示されました。
   ▽基準以下に薄めて海に放出する案
   ▽加熱して蒸発させ大気中に放出する案
   ▽電気分解で水素にし大気中に放出する案
   ▽地中深くの地層に注入する案
   ▽セメントなどにまぜて板状にし地中に埋める案
このとき、トリチウムを分離して取り除く技術についても検討されましたが、すぐに実用化できる段階の技術ではないとの結論になりその後の検討には加えられていません。
そして、2016年からは社会学者や風評の専門家などを交えた国の小委員会が総合的な検討を3年あまりかけて行い、5案のほかにタンクなどでの保管継続を加えたおおむね6つの方法について議論を交わしました。
そして、小委員会は2020年2月、基準以下に薄めるなどして、海に放出する方法と、蒸発させて大気中に放出する方法が前例もあって現実的だとした上で、海の方が確実に実施できるとする報告書をまとめました。
トリチウムとは
では、そもそもこの「処理水」に含まれているトリチウムとはどういったものなのでしょうか。トリチウムは、日本語では「三重水素」(さんじゅうすいそ)と呼ばれる放射性物質で、水素の仲間です。
宇宙から飛んでくる宇宙線などによって自然界でも生成されるため、大気中の水蒸気や雨水、海水、それに水道水にも含まれ、私たちの体内にも微量のトリチウムが存在しています。
水素の仲間で、水の一部として存在するため、水から分離して取り除くのが難しいのが特徴です。
そして、トリチウムは、通常の原子力施設の運転に伴っても発生し、各国の基準に基づいて薄めて海や大気などに放出されています。
国内の原発では、1リットルあたり6万ベクレルという基準以下であることを確認した上で海に放出されていて、福島第一原発では事故の前の2010年に2兆ベクレルあまり放出されていました。
人体への影響は
では、人体への影響はどのように考えればいいのでしょうか。
トリチウムが出す放射線はエネルギーが弱く、空気中ではおよそ5ミリしか進みません。
このため人体への影響は外部からの影響に比べて、体内に取り込んだ時のリスクを考慮すべきとされています。
トリチウムが体内に入った場合、体内の物質と結合して濃縮するのではないかといった指摘もありますが、こうした指摘に対して国の小委員会は、「体はDNAを修復する機能を備えている」とした上で、「これまでの動物実験や疫学研究からはトリチウムが他の放射性物質に比べて健康影響が大きいという事実は認められず、マウスの発がん実験でも自然界の発生頻度と同程度だった」としています。
放射性物質の性質に詳しく国の小委員会の委員をつとめた茨城大学の田内広教授は、「トリチウムが体内に取り込まれてDNAを傷つけるというメカニズムは確かにあるが、DNAには修復する機能があり、紫外線やストレスなどでも壊れては修復しているのが日常。実験で、細胞への影響を見ているが基準以下の低濃度では細胞への影響はこれまで確認されていない」と話していて、低い濃度を適切に管理できていればリスクは低いとしています。
地元は風評被害を懸念
国の小委員会が3年あまりの議論を経て現実的な選択肢だとした「海」か「大気」への放出。小委員会はいずれでもの方法でも「風評被害は起こる」とし、海洋放出の場合、社会的影響は特に大きくなると結論づけました。
これに対し、地元、福島県の漁業者は大きな懸念を抱いています。
福島県では、原発事故のあと、漁の回数や日数を大幅に抑える試験的な漁が続けられてきました。
水揚げのたびに放射性物質の検査を行い安全性を確認した上で出荷しているほか、首都圏のスーパーに福島県産の魚の常設コーナーを設けてもらうなど風評の払拭に向けた取り組みを重ねてきました。
その結果、少しずつ信頼を回復し、福島県の沿岸漁業の2020年の水揚げ量は震災前のおよそ17.5%と過去最高に。
現在は、「本格操業」の再開を目指し、水揚げを2021年4月から段階的に増やす議論が進められています。
もし福島県内でトリチウムを含む水が海に放出されれば、再び風評被害が起き、積み重ねてきた努力が台無しになってしまうのではないか。地元にはそうした懸念があります。
相馬双葉漁協の立谷寛治組合長は「福島県の魚も大丈夫、おいしく食べていますと言われるようになった今になって、海洋放出ということになれば福島の漁業はどうなるのか。これまでやってきたことがすべて崩れてしまう。国の施策と言われても絶対容認はできない」と話します。
一方、福島第一原発が立地する大熊町や双葉町からは異なる声が上がっています。
タンクでトリチウムを含む水を保管し続けることが復興の妨げになっているとして、政府に対し、対応策を早急に決定するよう要望を出したのです。双葉町の伊澤史朗町長は、「みずからの自治体に処理水が置かれ続けたら同じように受け入れられるか考えて欲しい。陸上保管は問題の解決につながらない。国としてどう解決するか判断の時期に来ていると思う」と話しています。
地元の福島県内でも意見が分かれ、この問題の難しさがあらわれています。
対話なき決着か
福島第一原発の廃炉と地域の復興の両立が求められるなか、政府はこの難しい問題にどう道筋をつけるのか。政府が方針の決定に向けて2020年4月から7回にわたって開いてきた関係者から意見を聞く会には、地元自治体や農林水産業者のほか流通や消費者の全国団体など29団体43人が参加しました。
ここでは、風評被害を懸念して海への放出に反対や慎重な意見が出されたほか、具体的な風評被害対策を示すよう求める声や、国民の理解が進んでいないといった指摘が出されました。このほか、書面での意見募集も行われましたが、寄せられた意見に対し、政府としての見解は明らかにしていません。
NHKは2021年2月、福島県に住む20歳以上の男女1200人を対象にインターネットでアンケートを行い、トリチウムなどの放射性物質を含む水をめぐる議論についても聞きました。
この中で、「地元住民への説明や対話は十分だ」と思うか尋ねたところ、「そう思う」、「どちらかと言えばそう思う」は合わせて14.2%だった一方、「そう思わない」、「どちらかと言えばそう思わない」はあわせて65.6%で、説明や対話の不足を感じている人が多数を占めました。
また、「政府が責任を持って早期に決断すべき」かどうかについては、「そう思う」、「どちらかと言えばそう思う」は合わせて61.2%、「そう思わない」「どちらかと言えばそう思わない」は合わせて24.8%という結果で、政府が責任を持つことには賛同する人が多い結果となりました。
その一方で、トリチウムなどを含む水の扱いについて、「誰の意見をもとにして決めるべきだと思うか」複数回答で尋ねたところ、政府(政治家)は27.4%、関係省庁は30.2%と少なかった一方、福島県が59.5%、地元住民が53.8%、周辺市町村が51.2%と地元の意見を意思決定に生かすべきとの答えが多くなりました。
これについて、アンケートを監修し、国の小委員会の委員も務めた東京大学の関谷直也准教授は「国が責任を持って対処すべきというところには違和感がないが、方向性としては地元の意見を踏まえて決めていくべきだと思っていて、だからこそ、県や周辺市町村への期待や地元住民のことを聞いて欲しいという思いが出ているのだと思う。そこが十分に納得できていない状況で決めることに対する不満が調査結果から出ていると思う」と話しています。
地元を含めたより多くの関係者の納得が得られる形で処分方針を決定することができるのか。今後の政府の対応が問われています。 
 4/1-10

 

 

●福島原発汚染水の処理、「近日中に判断」と菅首相 4/7
菅義偉首相は7日、東京電力福島第1原子力発電所にたまるトリチウムなどの放射性物質を含む水の処分方法について「近日中に決定したい」と述べた。全国漁業協同組合連合会の岸宏会長との会談後、記者団の取材に応じた。
汚染水の海洋放出は昨秋にも調整が進められたが、全漁連などから理解を得られず決定を先送りしていた。この日も全漁連側からは反対姿勢が改めて示された。ただ、政府が方針を決める場合には、漁業者・国民への責任ある説明、風評被害への対応、処理水の安全性の厳格な担保を求める発言もあったという。
菅首相は記者団に対し、「汚染水の処理は避けて通れない課題」とした上で、「風評被害は最小限にする努力が必要」と強調した。
会談に同席した梶山弘志経済産業相は、今回の会談で前進はあったかと記者団から問われ、「その言葉はまだ使えない」と慎重な姿勢を示した。ただ、処理水をためているタンクの容量に限界が近付いていることなどから「方針決定に残された時間は、そうない」と語った。 

 

●福島第一原発 処理水 来週にも海への放出決定で調整 政府  4/8
東京電力福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウムなどの放射性物質を含む水の処分方法について、政府は来週にも海への放出を決定する方向で調整しており、風評被害対策に万全を期すほか安全性などの情報発信を強化する方針です。
トリチウムなどを含む水の処分方法をめぐっては去年2月、国の小委員会が基準以下の濃度に薄めて海か大気中に放出する方法が現実的だとする報告書をまとめ政府が処分方法を検討してきましたが、地元などからは懸念の声が出ています。
菅総理大臣は7日、全国漁業協同組合連合会の岸会長と会談し専門家の報告書を踏まえて政府の方針を決定する考えを伝え理解を求めました。
会談のあと岸会長は海への放出に反対する考えに変わりはないとしたうえで「国として最終的に方針を決定した場合には、責任を持って漁業者や国民への説明や風評被害対策などをしてもらいたい」と述べました。
政府は来週にも、報告書でより確実に実施できるとしている海への放出を決定する方向で調整しており、地元や周辺国の懸念を払しょくするためにも風評被害対策に万全を期すほか安全性などの情報発信を強化する方針です。
東京電力福島第一原子力発電所の放射性物質を含む水の処分をめぐり、政府が海への放出を決定する方向で調整していることについて、立憲民主党の泉政務調査会長は、ほかの手段も検討し、放出は慎重に判断すべきだという認識を示しました。東京電力福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウムなどの放射性物質を含む水の処分方法をめぐって、政府は、来週にも、海への放出を決定する方向で調整しています。これについて、立憲民主党の泉政務調査会長は、記者会見で「現時点では、汚染水をためるスペースに若干の余裕があり、隣接の自治体も含め、用地を確保することなども可能だと考えている」と述べました。そのうえで「まずは、私たちが指摘したことに優先して取り組むべきではないか」と述べ、ほかの手段も検討し、放出は慎重に判断すべきだという認識を示しました。
共産党の志位委員長は、記者会見で「東北の沿岸漁業は、今も残る東日本大震災による痛手に大不漁と新型コロナが加わり、3重苦の状況にある。そうした中で海洋放出を行うのは言語道断というのが現場の声だ。私たちも、絶対に反対の立場で、放出を強行するなと政府に強く求めたい」と述べました。 
●「政府は押し切るのか」原発汚染処理水の海洋放出に漁業関係者が憤慨  4/8 
東京電力福島第一原発で保管が続く汚染水を浄化処理した後の処理水を巡り、菅義偉首相は7日夜、近く処分方法の方針を決めると明言した。政府が念頭に置く海洋放出処分となれば、漁業関係者への打撃は必至で、福島県や隣接する茨城県からは強い反対の声が上がった。
福島県北部の新地町の漁師小野春雄さん(69)は「全国漁業協同組合連合会(全漁連)も福島県漁連も絶対反対という中、政府は押し切るのか。原発事故の被害を受けた地元や漁業者への説明も足りない。十分に声も聞かず、話し合いもせず決めるのか」と憤慨した。
2011年3月の原発事故後、福島の漁業は窮地に陥った。漁獲量を制限した試験操業は8年9カ月続き、今年3月に終了。4月からは本格操業に向けて、水揚げ量を増やすことになったばかり。小野さんは「我慢を重ねようやくだとほっとしたのに、風評被害の具体策も示されていない。われわれには死活問題。今このタイミングで流せば、後継者のなり手もいなくなり福島の漁業は衰退する」。
相馬原釜魚市場買受人協同組合長の佐藤喜成さん(68)は「今でも福島県の魚は価格が低い。10年たっても年収は半分にも満たない。風評被害は絶対に起きる。補償するなら漁業者だけでなく、仲買人や小売業者の補償もすべきだ」と訴えた。「流せば生きている間、そして息子の代もずっと影響を受ける。これだけ反対の声が上がっているのに、国は一方的に強引に流すというのか」
市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」の三春町の大河原さきさん(69)は、福島の多くの市町村が海洋放出に反対か慎重な判断を求めていることに言及。「県民の意見を聞く場を求めたが、ほとんど開かれなかった。影響は福島だけではなく、全国的な議論をすべきだ。民意を無視して、強行して決めるのは許されない」とくぎを刺した。
福島県境に近い大津漁協(茨城県北茨城市)の60代漁師は、菅首相が全漁連の岸宏会長との面会で海洋放出への理解をあらためて求めたことについて「絶対に困る」と語気を強めた。
「震災から10年たった今でも、大津の魚は(県内でも南に位置する)大洗や久慈より安い」と嘆き、海洋放出が決まった場合の補償に対する不安も訴えた。
別の50代漁師も「死ぬまで漁師をするつもりだった。せっかく魚が売れるようになったのに、また10年前のように騒ぎになってしまう」と風評被害の再燃を懸念した。 
●「顔」も主体性も見えぬまま 原発処理水の海洋放出方針決定へ  4/8 
世界最悪レベルの事故から10年、東京電力福島第一原発のタンクで保管が続く処理水の海洋放出処分に向け、政府が最終調整に入った。菅義偉首相は7日、放出に反対する漁業団体の代表者らを官邸に呼び、自らは出向かなかった。一方、東電の小早川智明社長は柏崎刈羽原発(新潟県)の不祥事で謝罪の日々。当事者不在のまま、処分方針が決まろうとしている。
菅首相と全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長らの面会は午後4時前に首相官邸で始まり、わずか20分で終わった。
「(海洋放出に)反対という考えは変わらない」
記者団の取材に応じた岸会長は「反対」という言葉を10回使って、不快感をあらわにした。「東電の近々の不祥事は、安全性が担保されるかを考えると、極めて強い疑念を抱かざるを得ない」とも強調した。
漁業者から不信を抱かれている小早川社長は、この面会の1時間半前、新潟市で記者会見。柏崎刈羽原発でのテロ対策不備を巡り謝罪するなどおわび行脚のまっただ中にいる。
首相と全漁連会長の面会について、小早川社長は「コメントは差し控える」。処理水処分を巡り、原子力規制委員会の更田豊志委員長は「トップの顔が見えない」と東電を批判しているが、最終局面でも当事者としての「顔」を隠した。
福島第一原発で発生する汚染水を浄化処理した後の水を保管するタンクは、限界が近い。4月1日時点の貯蔵量は約125万トンで、確保済み容量の9割を超えた。東電の推定では、来年秋ごろに満水になる。
放出設備の準備には2年ほどかかる見通しで、準備が終わる半年ほど前に容量が足りなくなる公算が大きい。だが、東電は計画分の137万トンに達した昨年12月以降、新たなタンクを建設せず、増設できるかの見通しも示さない。「政府の方針が決まってから検討する」と、ここでも主体的な動きを見せない。
東電は、汚染水対策で場当たり的な対応を続けてきた。象徴がタンクだ。事故当初、汚染水問題は短期間で解決できると見込み、鋼板をボルトでつなぎ合わせた急造のタンクを建設。ところが水漏れが相次ぎ、耐久性の高い溶接型タンクに置き換えることになった。後手後手の対応が、問題を深刻化させてきた。
処理水の処分を巡り、地元の理解をどう得るのかについても政府判断を待つ姿勢に終始している。
福島第一では、原子炉建屋周辺の井戸からくみ上げた地下水を浄化処理してから海へ流している。東電はこの放出を巡り、汚染水を浄化処理した後の水については、2015年に福島県漁連に対して社長名の文書で「関係者へ丁寧に説明し、理解なしにはいかなる処分(海洋放出)もしない」と約束した。
しかし、福島第一の廃炉責任者である東電の小野明氏はこれまでの記者会見で、「政府の方針が出た後に理解が得られるよう取り組む」と繰り返すばかりだ。
政府も、漁業者が懸念する風評被害対策を明確に打ち出していない。福島では原発事故後、水揚げ量を制限した試験操業が3月に終わり、本格操業への移行を始めたばかり。全漁連の岸会長は面会後、憤った。
「(首相から)風評被害対策は聞いていない」 

 

●政府 福島第一原発のトリチウムなど含む水 海洋放出方針固める  4/9
東京電力福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウムなど放射性物質を含む水の処分方法について、政府は来週13日にも関係閣僚会議を開き、海への放出を決定する方針を固めたことがわかりました。放出前後のトリチウムの濃度を調べるモニタリングの強化や風評被害の対策を徹底し、それでも生じる被害には丁寧な賠償を実施するとしています。
トリチウムなどを含む水をめぐっては、国の小委員会が基準以下の濃度に薄めて海か大気中に放出する方法が現実的で海のほうがより確実に実施可能だとする報告書をまとめ、菅総理大臣が7日、全国漁業協同組合連合会の岸会長と会談するなどして最終的な調整を進めてきました。
その結果、政府は来週13日にも関係閣僚会議を開き、海への放出を決定する方針を固めたことがわかりました。
具体的には2年後をめどに福島第一原発の敷地から放出する準備を進め、放出にあたってはトリチウムの濃度を国の基準の40分の1まで薄めるとしています。
これはWHO=世界保健機関が示す飲料水の基準のおよそ7分の1にあたり、地元の自治体や水産業者なども加わって放出前後のトリチウムの濃度などを監視するモニタリングを強化するとしています。
また、IAEA=国際原子力機関の協力も得て、国内外に透明性の高い客観的な情報を発信し風評を抑えるとしています。
さらに漁業関係者への支援や地元産品の販売促進、観光客の誘致などを後押しし、それでも生じる風評被害には東京電力が丁寧な賠償を実施するとしています。
このほか、関係閣僚による新たな会議を設けてこうした実施状況を監視し、必要に応じて追加の対策を機動的に実施するとしていますが地元の懸念は根強いだけに政府は、安全性を確保し風評を抑える対策の徹底が問われることになります。
福島第一原発にたまり続けるトリチウムなどを含む水は海に放出する方針が決まってもすぐに放出することはできません。現在、敷地内のタンクにためられている水に含まれるトリチウムの濃度は環境中に放出する際の国の基準を超えているため、このままでは放出できず海水で薄めなければなりません。そのため、海水を取り込むポンプや配管など新たな設備をつくる必要があります。また、トリチウム以外の放射性物質の濃度も基準を超えているものがあるため、放出に向けてはトリチウム以外の放射性物質の濃度が基準以下になるまで改めて処理設備にかけて濃度を下げる必要があります。トリチウムの濃度を薄めるために新たに必要になる設備の建設や運用には、原子力規制委員会の審査を受ける必要もあります。東京電力は、こうしたことに2年程度の期間がかかるとの見通しを示しています。
放射性物質を環境中に放出する際の国の基準は、トリチウムについては1リットル当たり6万ベクレル以下と定められています。海洋放出の実施が決定した場合、国は、放出の際は基準の40分の1の1リットル当たり1500ベクレルまで薄めるとしています。福島第一原発では汚染水の発生量を抑制するため建屋周辺で地下水をくみ上げ海に放出していますが、この水の中にもトリチウムは含まれていて、海に放出する際の東京電力の自主的な基準が1リットル当たり1500ベクレル未満です。
梶山経済産業大臣は9日の閣議のあとの記者会見で、トリチウムなどの放射性物質を含む水の処分にあたって懸念される風評被害への対策について「科学的な根拠に基づく丁寧な説明や客観性と透明性の高い情報発信が重要だ」と述べました。そのうえで、梶山大臣は「処理水を処分する場合にはIAEA=国際原子力機関がその安全性を客観的に確認し、国内外に透明性高く発信することになっている。こうした対応を取ることが風評を抑制することにもつながり、私が先頭に立つ覚悟で責任を持って対策に取り組みたい」と述べました。
野上農林水産大臣は9日の閣議の後の記者会見で「原発事故以来、復興に向けて懸命に取り組まれている漁業者の方々には労苦と心配をおかけしているところで、処理水が放出された場合の影響を懸念される気持ちは当然のことだ」と述べました。そのうえで、「どのような処分方法であっても風評被害の発生が懸念される。漁業者から求められた点も十分配慮しつつ生産・流通・消費のそれぞれの段階で支援策を講じていくことが重要だ」と述べました。また、輸出への影響について野上大臣は「科学的な根拠に基づかない規制によって影響が出ることがないよう引き続き、関係省庁と連携して輸出先の国に対して丁寧に説明を行っていきたい」と述べました。
東京電力福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウムなどの放射性物質を含む水の処分方法をめぐり小泉環境大臣は9日午前、閣議のあとの会見で「まだ正式に決定した段階にはないが決定を先送りし続けることが復興の足かせとなってはいけない。どのような放出方法を決定したとしても風評という課題は出ると思う。環境大臣はモニタリング調整会議の議長を務めているので風評という課題に対してできることを全力でやる」と述べ、正式に決定されれば放射性物質のモニタリングや国内外への情報の発信などに取り組んでいく考えを示しました。
福島第一原発にたまるトリチウムなどの放射性物質を含む水について、政府が海への放出を決定する方針を固めたことについて、福島県の住民からは、地元が納得していない中で決定することに不満の声が上がっています。相馬市の70代の男性は「海洋放出されれば風評被害が再燃する可能性が高いにもかかわらず、方針だけ決めて対策も示さない政治家には何をやっているんだと聞きたい。これまでの10年間、風評被害にずっと苦しめられてきた地元に寄り添ってほしいです」と話していました。相馬市の80代の男性は「政府はこれまで形式ばった説明会ばかりを繰り返していて海洋放出ありきの議論が進められてきたように感じる。政治家には地元に繰り返し足を運んで住民の本音をしっかり聞いたうえで決断をしてほしいです。東電と一緒に責任を持って廃炉の進捗(しんちょく)もきめ細かく確実にやってほしいです」と話していました。父親と祖父が相馬で漁業を営む18歳の短期大学生の女性は「復興が進んできて風評被害も少なくなっている中でトリチウムなど放射性物質を含む水が海に流されると、父親たちがまた、魚を取れなくなってしまうのではないかという不安があります。自分の学費を払ってもらえるのかという不安もありますし、海に流すこと以外の方法でちゃんとした処理をしてほしいです」と話していました。
中国外務省の趙立堅報道官は9日の記者会見で「日本政府は自国民や周辺国それに国際社会に対し責任ある態度をとるべきだ」と述べました。そのうえで「処分方法がもたらすおそれがある影響について厳格かつ正確で透明性のある方法で情報を開示し、周辺国と十分に協議して慎重に決定すべきだ」と述べました。
韓国政府は海への放出の影響を懸念してきました。韓国外務省のチェ・ヨンサム(崔泳杉)報道官は8日の定例会見で「これまで日本政府に対し情報公開と国際社会が受け入れられる環境基準の順守、そして客観的で透明性のある検証が必要だと重ねて強調してきた」と述べました。そのうえで「IAEAなど国際機関と日本政府を含むすべての利害当事国と緊密な議論を続けていく」と述べました。韓国政府は原発事故を受けて現在も福島など8つの県の水産物の輸入を禁止しているほか、トリチウムなど放射性物質を含む水の処分方法をめぐっても自治体や市民団体などが海への放出に反対しています。
台湾の呉※ショウ燮外交部長は、菅総理大臣が全国漁業協同組合連合会の岸会長と会談した7日、外国メディアとの会見の場でトリチウムなどを含む水の処分方法について「日本には台湾と意思疎通を続けてもらいたい」としたうえで「どんな方法で処分しても多かれ少なかれ台湾への影響はありうるので、われわれは引き続き注視していく」と述べました。※ショウは「かねへん」に「りっとう」
このタイミングで国が海への処分方針を固めたことについて、国の小委員会の委員を務めた水産研究・教育機構水産資源研究所放射能調査グループの森田貴己 主幹研究員は「福島県の漁業は本格操業への移行期間にようやく入ったところだ。漁業者は今も風評被害が続いているからこそ反対しているわけで、復興を進めてからでないとこの決断は受け入れられないだろう。敷地の拡張をしてもいいからタンクを置くスペースを作って処理水の保管を続け、風評被害の払拭や復興を進めていくべきで、その後に処分という順番でもいいのではないか」と話しています。 
●福島第一原発の処理水、海洋放出の基本方針決定へ 4/9 
東京電力福島第一原発にたまる処理済み汚染水の処分方針について、政府は13日にも関係閣僚らによる会議を開く見通しになった。放射性物質の濃度を、法令の基準より十分低くした処理水にしたうえで、海洋放出する基本方針を決定する見込みだ。
処理済み汚染水の処分方針が決まれば、初めてとなる。海洋放出には、漁業者らの反発が根強く残っている。菅義偉首相は7日に首相官邸で全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長と面会。理解を求めた後で、方針について「近日中に判断したい」などと述べていた。
処理済み汚染水は1千基以上のタンクに約125万トンが保管されている。2022年秋以降には確保したタンクが満杯になる見込みで、政府は処分方針の決定を「いつまでも先送りはできない」などと説明。昨年10月に関係省庁による会合を開き、処分に伴う風評被害対策の検討を一層深めることなどを確認していた。 
●1日170トン増える「原発汚染水」は海に流すしかないのか 2019/9 
2022年夏がリミット
福島・双葉郡にある福島第一原発の敷地の南側には、かつて「野鳥の森」と呼ばれた森林があった。今は切り拓かれたその広大な土地には、異様な光景が広がっている。
青色や灰色の巨大な円筒型のタンクがズラリと並ぶ。ちょうど4号機の西側だ。高さは10m以上、容量は1基1000〜1200トン。その数は実に977基、合計115万トンに届こうとしている。
「私は昨年10月に環境相に就任し、最初の頃に福島第一原発を視察に行きました。そこで、広大な敷地に、処理水を貯めるための大量のタンクが並んでいる光景を見たのです。しかし、今後どうするかはまったく決まっていない。『処理水は本当にこのままでいいのか』と感じたのです」
本誌記者にそう話すのは、原田義昭・前環境相だ。
今でも1日約170トンのペースで増える汚染水は、わずか1週間から10日でタンク1基を埋めていき、果てなき増殖を続けている。
大震災から8年半が過ぎた今、このタンクに眠る「原発汚染水」の処理がにわかにクローズアップされている。これまで皆が見て見ぬふりをしてきたパンドラの箱を開けたのが、この原田氏だ。
9月10日、環境相の退任会見で福島第一原発の処理水を「海洋放出するしかない」と、突然発言したのである。
これに対し、慌てたのが小泉進次郎・新環境相だ。12日に福島県知事や県漁連を訪問し、「(原田)前大臣の発言は国の方針ではない」「傷ついた県民に大変申し訳ない」などと火消しに終始した。つまり、これまで通りの結論先送りである。
すると、今度は大阪の松井一郎市長が首を突っ込んだ。「海洋放出する決断をすべきだ」「(処理水を大阪湾に)持ってきて流すなら、(協力の余地は)ある」と過激な「海洋放出論」を展開したのだ。
そもそも処理水とは何か。福島第一原発では原子炉内部にある燃料デブリ(溶けて固まってしまった燃料)を冷却するための水や、原発建屋に流れ込む雨水、地下水は、いずれも放射性物質によって汚染されてしまっている。
こうした水から特殊な装置を使って放射性物質を除去した水こそが「処理水」だ。しかし、この処理水には、現在の技術では取り除くのが困難な「トリチウム」という物質が残存してしまう。
そのため、この処理水は外に流すことなく、原発敷地内にあるタンクに貯め続けているのである。
しかし、冒頭のタンクは、このままでは2022年夏には満杯になってしまう。なぜ、「原発汚染水」問題が放置されてきたのか。一番の理由が風評被害による、漁業への影響である。
「福島県の漁獲量は、いまだに震災前の2割以下にとどまっています。韓国などの5ヵ国では、今も福島県産水産物の禁輸が続いているのです。それでも、今年5月にはフィリピンが福島県産水産物の禁輸解除を決定するなど、徐々に規制は緩くなっている。
しかし、処理水を海に流すと、また風評被害が広がる。禁輸国が再び拡大すれば、立ち直り始めた福島の漁業が壊滅する可能性があるのです」(農水省担当記者)
安全性を巡る対立
もうひとつの理由が、トリチウムの安全性に対する懸念だ。ジャーナリストの田原総一朗氏は、「汚染水に含まれるトリチウムを有害だと主張する人たちがいる」と話す。
「放射線治療の第一人者である北海道がんセンター名誉院長の西尾正道医師が、トリチウムを大量に放出しているカナダのピッカリング原発周辺で、子どもたちを中心に小児白血病などの健康被害が報告されていると主張しています。また、'03年には、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんがトリチウムを燃料とする核融合炉は安全性と環境汚染の観点から極めて危険だという嘆願書を当時の小泉純一郎総理に提出しています。今回問題提起をした原田前環境相は、この二人の主張を踏まえたうえで発言しているわけではないでしょう」
安全性に疑問を呈する声があり、なおかつ風評被害が懸念される。答えが出ないまま、処理水の問題は放置されてきた。
しかし、貯蔵量が限界を迎えるタイムリミットは刻々と迫っているのも事実。現実的に考えれば、処理水の処分については、松井市長のように「海洋放出賛成派」が多数派だ。嘉悦大学教授の高橋洋一氏はこう語る。
「トリチウムの海洋放出は世界中で行われているんです。トリチウムが放出するβ線のエネルギーは小さく、被曝のリスクも極めて小さい。トリチウムの人体への影響は、他の放射性物質に比べて非常に小さいため、国際的に、海洋放出しても問題ないとされています」
元経産官僚で、『日本中枢の狂謀』などの著書がある古賀茂明氏は東電の発表内容を慎重に受け止めるべきだと言う。
「処理水は海洋放出すればよいという計画は'11年の震災直後からありました。トリチウム自体を問題視する専門家は少ないでしょう。しかし、実は処理水にはトリチウム以外の放射性物質も含まれています。東電はその放射性物質は『検出限界以下』と言うが、本当なのか。その濃度や総量の第三者による再検証が必要です。東電や政府はウソを重ねてきましたから」
今すぐでなくても、タンクの数を増やし、一定期間が経過した後に海洋放出するという選択肢もある。NPO法人原子力資料情報室・事務局長の松久保肇氏が語る。
「トリチウムは約12年で半減期を迎えます。例えば120年間処理水を貯めておくと、その中のトリチウムは1000分の1程度にまで減少する。そこまで長期間ではなくても、ある程度保管すれば、だいぶ減るのです。タンクの数を増やすことも可能でしょう。福島第一原発の周囲にある中間貯蔵施設用地や、サイトの中の土捨場などは、やり方によっては処理水の保管場所として使用することができる可能性があります」
地元・福島の思い
「海洋放出賛成派」の意見がこれまであまり表に出てこなかったのは、なにより福島の漁業関係者への配慮のためだ。
その重要さを、元東芝の原子力事業部の技術者であり、元衆院議員で『汚染水との闘い―福島第一原発・危機の深層』の著者・空本誠喜氏が話す。
「私はロンドン条約などの国際基準(トリチウムの濃度が1ℓに6万ベクレル以下であれば海洋放出が認められる)に合致したやり方で、相当希釈して海洋放出するというのが最善の方法だと考えています。しかし、同時にステークホルダーである福島の漁業関係者の方々への説明、同意は絶対に得なくてはいけません。このプロセスを経ずに、簡単に政治決断でやってしまうのは問題だと思います。国際社会への丁寧な説明も不可欠だと思います」
9月16日、IAEA(国際原子力機関)の総会で、韓国の科学技術情報通信省の文美玉第一次官は「海に放出されれば、日本の国内問題ではなく、世界の海洋の環境に影響を及ぼす深刻な国際問題になる」と警告した。国際社会への対応も急務になっている。
処理水の貯蔵が限界を迎えるまで、3年も残されていない。これは、決断を先送りするばかりの進次郎氏に任せず、子や孫の代がツケを払わずに済むように、日本人誰もが考えるべき問題だ。
「松井市長の『大阪湾に放出する』という発言は、確かに荒唐無稽だと思います。現在、115万トンある処理水を、大阪までどう運搬するというのか。しかし、この『福島にだけ犠牲を押し付けない』という観点は非常に大切なことだと思います」(前出・松久保氏)
決断までに残された時間はそう多くない。こうしている今も、行き場所の決まらない処理水は溜まり続けている。 

 

●原発処理水の海洋放出 将来に禍根残す決定だ 4/10 
東京電力福島第1原発の敷地内にたまり続けている放射性物質のトリチウムを含む水の処分問題で、政府は海へ放出する方針を固めた。13日にも関係閣僚会議を開き正式決定する。
技術的検討は十分だったか、東電は十分な責任を果たしたか、なぜ今の決定なのか、影響を被る人々への対応は十分だったか。多くの疑問に政府や東電が真摯(しんし)に答えたとは言えず、放出の決定は受け入れがたい。
第1原発では、溶け落ちた核燃料を冷やすために注いでいる水、建屋に流れ込む雨水や地下水が放射性物質を含む汚染水となっている。放射性物質を除去する装置で処理しても、除去できないトリチウムが残る。
外部被ばくの心配はなく、低濃度なら体内にたまらずに排出されるので、薄めて海に放出するのが合理的だというのが政府の主張だ。濃度を国の基準値以下にして海に放出することは国内外の原発で行われていることも根拠の一つとされた。
海洋放出には漁業者らの反対が根強く、昨年中にも予定されていた放出決定は梶山弘志経済産業相の「丁寧に事を運びたい」との意向を受けて先送りされた。
だがこれまでに、技術的な検討や関係者に理解を得る努力が進んだとは言いがたい。時間稼ぎとも言える期間の後、菅義偉首相と全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長とのトップ会談という儀式的とも言っていいプロセスを経て放出の方針を固めた。これで事故の影響からの脱却に苦闘を続ける福島県の漁業者や周辺住民などの理解を得られるとは思えない。
そしてこの間に露見したのは、福島原発の地震計や新潟県の柏崎刈羽原発の核テロ対策機器の故障を長期間放置するという東電の無責任体質と、それを見逃してきた原子力規制委員会のずさんな対応だった。これでなぜ今、放出決定の機が熟したと言えるのだろう。
専門家の中には、陸上での固化処分や、丈夫な大型タンクでの長期保管などの手法を検討するべきだとの意見があるが、これらの選択肢が真剣に検討されたとは言い難い。ロシアが保有するトリチウム除去技術の可能性も、さしたる議論もないまま放棄された。
タンク容量が2022年秋以降に満杯になるという東電の試算の根拠も不明確だ。そもそも可能な限り保管のための土地の調達を行うのが原因企業としての責任である。
「海洋放出が風評被害を引き起こす」と言うと消費者の非合理的、感情的な忌避感のように聞こえる。しかし、それは原発事故によって実際に引き起こされた深刻な被害と、拡大した不信感を反映している。事故後の対応において東電はもちろん、政府や規制委、専門家と呼ばれる人々は信頼を得ておらず、消費者が懸念を抱くのは当然だ。
政府は被害者や市民に向き合う姿勢を根本的に変え、被害の補償の在り方や事故処理を巡る科学的討議の手法、さらには原子力依存を続けているエネルギー政策を見直すべきだ。その上で処理水問題を、信頼を勝ち得る契機とするべきだったのだが、放出の決定によってその機会は失われる。
不透明で独善的とも言える今回のやり方は、施設周辺住民だけでなく、東電や原発再稼働を進めたいと考える人々にとっても、将来に大きな禍根を残すものとなるだろう。 
 4/11-15

 

 

●原発処理水、海洋放出へ ごり押しは許されない 4/11 
結局は地元にツケを押し付けるのか。東京電力福島第1原発の汚染水を浄化した処理水を海洋放出する方針を政府が固めた。13日にも関係閣僚会議を開いて正式決定するという。
海洋放出については、地元はもちろん、全国漁業協同組合連合会(全漁連)も「絶対反対」を掲げている。菅義偉首相は先日、全漁連の岸宏会長と面会して理解を求めた。トップ会談で手続きを済ませたつもりだとしたら、お粗末すぎよう。
岸会長の返事は「反対の立場は、いささかも変わらない」だった。説得はおろか、十分な議論もないまま、ごり押しは許されない。あまりにも無責任だ。
国内の原子力災害では史上最悪となった事故から10年、福島では漁業復興への努力が続いている。対象魚種や海域を限定した「試験操業」を今年3月に終え、本格操業に向けた取り組みを始めたところだった。それなのに、処理水を海洋放出するのでは今までの苦労が水の泡になりかねない。「再び風評被害にさらされる」と地元の漁業者らが反発するのも当然だろう。
福島第1原発では、事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やすための水や、原子炉建屋に流れ込む地下水などの汚染水が毎日100トン以上生じている。それを多核種除去設備「ALPS(アルプス)」などで浄化した処理水は、今までに125万トンたまっているという。
処理水には、アルプスでも取り除けない放射性物質のトリチウムが含まれている。それでも、薄めて海に流せば、科学的には安全だと政府は主張する。国内外の原発でもトリチウム水を海に放出しており、国際的にも認められている―というわけだ。
ただ、地元の理解が得られないのに決定を急ぐ背景には、処理水を入れるタンクが来年秋に満杯になるという東電の事情があるようだ。しかし敷地内でタンク置き場を広げたり近隣の土地を借りたりもできたはずだ。東電は汗をかこうとしないだけではなく、ずさんなテロ対策や地震計の故障放置など失態は最近も後を絶たない。政府は東電に甘すぎるのではないか。
汚染水からトリチウム水を分離する方法を開発したと近畿大が発表したのは3年前だ。それらを含め、政府が全ての手だてを真剣に検討した形跡は見られない。にもかかわらず海洋に放出するというのは「日程ありき」のごり押しでしかなかろう。福島の人たちをさらに犠牲にするのは到底容認できない。
福島で事故が起き、安全神話を広めてきた原子力関係者らの「うそ」が露呈した。それが骨身に染みた人には、「薄めれば科学的には安全」と専門家に強調されても疑念は消えまい。
そもそも、トリチウム以外の放射性物質もアルプスで完全に除去されるわけではない。どんな放射性物質がどのくらい残るのか。人体への影響はどのぐらいか。きちんとデータを出して説明することが先だろう。
事故10年の節目に、国連の人権専門家が「汚染水は環境と人権に重大なリスクをもたらす」との声明を発表した。太平洋への放出は容認できる解決策にはなり得ないとも指摘している。
政府は、海洋放出の方針は直ちに撤回し、地元はもちろん、環境にも負担を押し付けない方法を検討すべきである。 

 

●福島第一原発の処理水、海洋放出を政府が決定 4/13
日本政府は13日、東日本大震災で破壊された東京電力福島第一原子力発電所から排出されている放射性物質を含む100万トン以上の処理済みの汚染水を、福島県沖の太平洋に放出する計画を承認した。
この水は、同原発の核燃料を冷却するために使用されているもの。飲料水と同じ放射能レベルまで希釈してから放出する予定。放出は2年後に始まるという。
数年にわたる議論の末に最終決定が下された。放出計画は完了までに数十年がかかるとみられている。
しかし地元の漁業団体に加え、中国や韓国などがこの計画に反対している。 
●トリチウムなど含む処理水 薄めて海洋放出の方針決定 政府  4/13
東京電力福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウムなど放射性物質を含む処理水の処分方法について、政府は、国の基準を下回る濃度に薄めたうえで海へ放出する方針を決めました。東京電力に対し、2年後をめどに海への放出を開始できるよう準備を進めることや賠償も含め風評被害への対策を徹底するよう求めています。
政府は13日午前8時前から総理大臣官邸で関係閣僚会議を開き、東電・福島第一原発で増え続けるトリチウムなど放射性物質を含む処理水の処分方法について議論しました。
会議では、国の小委員会がまとめた基準以下の濃度に薄めて海か大気中に放出する方法が現実的で、海の方がより確実に実施可能とする報告書などを踏まえて、海へ放出する方針を決めました。
具体的には、東京電力に対し、2年後をめどに海への放出を開始できるよう設備の設置などの具体的な準備を進めることを求めています。
放出にあたっては、トリチウムの濃度を国の基準の40分の1、WHO=世界保健機関が示す飲料水の基準で、7分の1程度に薄めるとしています。
また、農林水産業者や地元の自治体の関係者なども加わって放出前後の濃度などを監視するモニタリングを強化するとしていて、IAEA=国際原子力機関の協力も得て国内外に透明性の高い、客観的な情報を発信し風評を抑えることにしています。
さらに、漁業関係者への支援や観光客の誘致、地元産品の販売促進などの対策も講じるとしています。
それでも生じる風評被害には東京電力が賠償を行うよう求めています。
このほか、関係閣僚による新たな会議を設けて必要に応じて追加の対策を機動的に実施します。
しかし、海への放出には、漁業関係者が反対するなど地元などの懸念は根強いことから、政府や東電は、安全性を確保し風評を抑える対策の徹底が問われることになります。
首相「風評対策徹底を前提に海洋放出が現実的と判断」
菅総理大臣は会議の中で「アルプス処理水の処分は福島第一原発を廃炉するにあたって避けては通れない課題だ。このため本日、基準をはるかに上回る安全性を確保し、政府を挙げて風評対策を徹底することを前提に、海洋放出が現実的と判断し、基本方針を取りまとめた。これまで有識者に6年以上にわたり検討いただき、昨年2月に海洋放出がより現実的との報告がなされた。IAEAからの科学的根拠に基づくもの、こうした評価がなされている。また、海洋放出は、設備工事や規制への対応を行い、2年程度のちに開始をする。トリチウムの濃度を国内の規制基準の40分の1、WHOの定める飲料水の基準の7分の1まで低下させる。さらに、IAEAなど第三者の目もいれて高い透明性で監視をする。さらに福島をはじめ被災地の皆様や漁業者の方々が風評被害の懸念をもたれていることを真摯(しんし)に受け止め、政府全体が一丸となって、懸念を払拭(ふっしょく)し、説明を尽くす。そのために徹底した情報発信を行い、広報活動を丁寧に行う。早速週内にも本日決定した基本方針を確実に実行するための新たな閣僚会議を設置する。政府が前面にたって処理水の安全性を確実に確保するとともに、風評払拭に向けてあらゆる対策を行っていく。国民の皆さんには心からのご理解をお願い申し上げる」と述べました。
梶山経済産業相「極めて重い責任 時期は適切」
梶山経済産業大臣は、13日の閣議の後の記者会見で、「福島をはじめ被災地の皆様が風評への懸念を持たれている中での今回の決定は、政府として極めて重い責任を伴う決断だ。これまで懸命に復興に取り組まれてきた皆様の努力をむだにせずに、復興の歩みをさらに前に進めるという強い決意をもって、私自身が先頭に立つ覚悟で対応したい」と述べました。
また、判断に至った経緯について、梶山大臣は、「安全性の確実な担保と万全のモニタリング体制の整備、漁業者などの懸念の把握と徹底した風評対策を確保できていると判断し、最終的な決定に至った。決定のタイミングは適切だった」と述べました。
一方、漁業者などから反対の声が根強いことについて、梶山大臣は、「実際の放出が始まるまでには設備の工事や規制の対応に2年程度の時間が必要になることから、放出までの時間を最大限活用して、懸念を払拭し、理解を深めていただけるよう努力していく」と述べ、風評を抑えるための対策に全力を挙げる考えを示しました。
東京電力 小早川社長「最大限風評を抑制」
東京電力の小早川智明社長は会議のあと、記者団に対し「大変重く受け止めている。政府の方針に従って適切に取り組んでいくとともに最大限、風評を抑制するべく我々の立場でできることはやっていく。長きにわたる廃炉の中で今回の件を含めて復興と廃炉の両立にしっかりと取り組んでいく」と述べました。
また、風評への対応については「まずは風評の影響を発生させないように最大限努力することはもちろんだが、それでもなお損害が発生するようであれば、適切に賠償したい」と述べました。
一方、海洋放出に反対する声も根強くあることについて、小早川社長は「しっかりと丁寧な説明を尽くすとともに、風評対策にしっかり取り組み、取り組みを通じて理解が得られるように、最大限努力したい」と述べました。
全漁連 岸会長「強く抗議 反対の立場変わらず」
全漁連=全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は抗議の声明を発表しました。
この中で、岸会長は先週、菅総理と会談したことに触れ「海洋放出には、断固反対であることを改めて申し入れ慎重な判断を強く求めたところだ。それにもかかわらず、本方針が決定されたことは極めて遺憾であり、到底容認できるものではない。強く抗議する」としたうえで、「今後とも、海洋放出反対の立場はいささかも変わるものではない」としています。
そして、なぜ海洋放出の方針を決めたのかを漁業者や国民に責任を持って説明すること、また風評被害にどう対処するのか、安全性をどう国内外に説明し担保するのか、さらに福島県をはじめ全国の漁業者が安心して漁業が継続できるための方策を明確に示すことなどを改めて求めています。
福島県の漁業者からは怒りの声
漁業者が反対の姿勢を示し続けたにもかかわらず、政府がトリチウムなどの放射性物質を含む処理水の海への放出を決定する方針を決めたことについて、福島県の漁業者からは怒りの声が上がっています。
このうち、新地町の漁業者の小野春雄さんは(69)「漁業者が反対を表明していた海への放出の方針を議論もろくにせずに決定するなんて、私たちに寄り添おうという気持ちがないのかと怒りがおさまらない。自分は津波で亡くなった漁師の弟のためにも、そして息子たちのためにも一生懸命漁業に取り組んでいる。周りのみんなも復興に向けて頑張っている。その姿を政治家たちは見にも来ないで方針を語ることにも腹が立っている」と話していました。
そのうえで「政府は風評対策をしますと口では言っているが、現状、具体的なものも示されず、東電の信用度も落ちている中、全く信頼できない。自分たちが願っているのは、普通に毎日好きなときに漁をして生活すること。そのためには本当に福島の漁業に影響が出ないという保障が得られるまでは今後も反対の姿勢を続けていくしかないのではないかと思う」と話していました。
「海洋放出決定」に至るまでの経緯は
福島第一原発の原子炉建屋では1号機から3号機の溶け落ちた核燃料を冷やすための注水が続いていることに加え、建屋への雨水や地下水の流入が続き、1日140トンのペースで放射性物質を含む汚染水が発生しています。
この汚染水は専用の浄化設備に送られ吸着剤で大半の放射性物質が取り除かれますが、「トリチウム」(三重水素)という放射性物質は性質上取り除くことが難しく、処理しても水の中に残ってしまいます。
福島第一原発の構内には、この処理したあとの水をためる大型のタンクが1000基余り設置されていて、およそ137万トンの容量のうちすでに9割に水が入っています。
敷地内には空きスペースもありますが、国や東京電力は今後溶け落ちた核燃料や使用済み燃料の一時保管施設などを建設する必要があるためタンクを増やし続けることはできないとしています。
今の計画では来年秋以降にはタンクが満杯になる見通しを東京電力は示しています。
国はこのトリチウムなどを含む処理水をどのように処分するかについて有識者による委員会などを設け2013年から6年余りの時間をかけて検討を行ってきました。
まず、専門家チームによる処分方法の技術的な検討がおよそ2年半にわたって行われ、報告書では次の5案が示されました。
・基準以下に薄めて海に放出する案、
・加熱して蒸発させ大気中に放出する案、
・電気分解で水素にし大気中に放出する案、
・地中深くの地層に注入する案、
・そしてセメントなどにまぜて板状にし地中に埋める案です。
このとき、トリチウムを分離して取り除く技術についても検討されましたが、すぐに実用化できる段階の技術ではないとの結論になりその後の検討には加えられていません。
これに続いて、社会学者や風評の専門家などを交えた経済産業省の小委員会が総合的な検討を3年余りかけて行いました。
5案のほかにもタンクなどでの保管継続を加えたおおむね6つの方法について議論を交わしました。
そして、小委員会は去年2月、基準以下に薄めるなどして海に放出する方法と蒸発させて大気中に放出する方法が前例もあって現実的だとしたうえで、海のほうが確実に実施できるとする報告書をまとめました。
この報告書を受けて、政府は、去年4月から7回にわたって地元自治体や農林水産業者、それに全国の関係団体などから意見を聞く会を開くとともに、書面による意見募集を4か月にわたって実施しました。
このなかでは、漁業関係者や地元住民などから風評被害を懸念して海への放出に反対や慎重な意見が出されたほか、具体的な風評被害対策を示すよう求める声や国民の理解が進んでいないなどの指摘が出されました。
また、選択肢については、海外で実績があるモルタルなどで固める案や船で離島などに移送する案、原発の敷地外に運んで保管や処分をする案などについて、検討を求める意見も出されていました。
一方で、福島第一原発が立地する大熊町や双葉町からはタンクでトリチウムなどを含む処理水を保管し続けることが復興の妨げになっているとして政府に対し、対応策を早急に決定するよう要望が出されていました。
経済産業省は去年秋、福島県の自治体に対して海洋への放出を前提とした風評被害対策などを示しましたが、全国漁業協同組合連合会などの強い反発もあり、その後も検討が続けられていました。
政府は、こうした関係者の意見を踏まえて風評対策や丁寧な情報発信などについて検討を進めたうえで、適切なタイミングで処分の方針を決める考えを示していました。
トリチウムとは
トリチウムは、日本語では「三重水素」と呼ばれる放射性物質で水素の仲間です。
宇宙から飛んでくる宇宙線などによって自然界でも生成されるため、大気中の水蒸気や雨水、海水、それに水道水にも含まれ、私たちの体内にも微量のトリチウムが存在しています。
トリチウムは、通常の原子力施設でも発生し、各国の基準に基づいて、薄めて海や大気などに放出されています。
水素の仲間で、水の一部として存在するため、水から分離して取り除くのが難しいのが特徴で、福島第一原発の汚染水から多くの放射性物質を除去する装置を使っても取り除くことができません。
国内の原発では、1リットル当たり6万ベクレルという基準以下であることを確認したうえで海に放出していて、海外でも各国で基準を定めて放出しています。
トリチウムが出す放射線はエネルギーが弱く、空気中ではおよそ5ミリしか進みません。
このため、人体への影響は外部からのものよりも、体内に取り込んだときのリスクを考慮すべきとされています。
国の小委員会は、体内で一部のトリチウムがタンパク質などの有機物と結合し、濃縮するのではないかといった指摘があることについては、体はDNAを修復する機能を備えていて、動物実験や疫学研究からはトリチウムが他の放射性物質に比べて健康影響が大きいという事実は認められなかったと結論づけています。
また、マウスの発がん実験でも自然界の発生頻度と同程度で、原子力発電所周辺でもトリチウムが原因と見られる影響の例は見つかっていないとしています。
放射性物質の性質に詳しく国の小委員会の委員をつとめた茨城大学の田内広教授は人体への影響を考える際、濃度の大小がポイントだと指摘します。
そのうえで田内教授は、「トリチウムが体内に取り込まれてDNAを傷つけるというメカニズムは確かにあるが、DNAには修復する機能があり、紫外線やストレスなどでも壊れては修復しているのが日常。実験で、細胞への影響を見ているが、基準以下の低濃度では細胞への影響はこれまで確認されていない」と話していて、低い濃度を適切に管理できていればリスクは低いとしています。
政府の決定について専門家は…
福島第一原発の汚染水を処理したあとの水の処分めぐって、技術的な検討を行ったトリチウム水タスクフォースと風評影響なども含めて総合的な検討を行った国の小委員会、いずれの会合でも委員長を務めた名古屋学芸大学の山本一良副学長は、今回の政府の決定について、「トリチウムは大量にあれば体への影響もあるが、非常に薄ければ影響がないことは生物学的にもいろいろなところでわかっていて、われわれの議論で海洋放出がいちばん確実と申し上げているので、方針決定の参考にしていただいたと考えている。大変難しい問題だが処理水の扱いは、福島の復興にとって先送りできない問題なので、この決定によって廃炉の進展がますます加速されることになればいいと思う」と述べました。
そのうえで、実際の放出にあたっては、「非常に薄くすることで、安全を担保するので、まずはタンクごとの濃度や、希釈後の濃度のチェックなど技術と科学で保障できる精いっぱいの所までやり、加えて、地元や国際機関の助けを借りてチェックしてもらうことで、実施本体の信頼の低下を補っていくようなシステムを作らないと行けないと思う」と述べ、東京電力の信頼回復の努力に加えて二重三重の仕組みが必要だと指摘しました。
また、今後の課題については、「国の小委員会では、福島や東京で公聴会も開き、いろんな方の本音を伺って誠実に答えてきたつもりだが、はっきりと意見を言う方以外にも静かに意見を持っている方がいて、そうした方となかなか話し合いができなかったことは今後の課題。専門家としてもできるかぎり疑問に答えていく必要があるし、いろんな立場の人間が協力して風評の根源になる誤解を解く努力を積み重ねていく必要があると思う」と述べました。
規制委初代委員長 田中俊一氏「廃炉に必要な処分方法」
東京電力福島第一原発の事故の翌年に発足した原子力規制委員会で初代委員長を務めた田中俊一さんは13日の政府の決定について、まず「なぜこんなむだな時間を5年も6年も使ったのか。丁寧な議論をしているように見えるが、結論が見えているものを早く決めないから時間ばかりむだにかかった」と方針決定に至るまでの対応を厳しく批判しました。
そのうえで、処理水の海への放出については「廃炉というのは放射能を水で洗い流しながら進めていくものだ。水を処理して排出濃度基準になったらその水を捨てるというプロセス抜きに廃炉は進まず、水をためておけばいいという考えは、『廃炉をやめます』というもので、廃炉作業全体として物事を考える必要がある」と話し、廃炉作業を進めるうえで必要な処分方法だという考えを述べました。
一方で、処分を実施する東京電力については「決して褒められる会社ではないが、『信頼できないからほかでやる』ということもできない。国が厳しく監視することで国民の不安解消に努めるべきだ」と述べました。  
●原発処理水の海洋放出決定 2年後めど、100倍以上に希釈 4/13
政府は13日、東京電力福島第1原子力発電所の敷地内にたまる処理水を海洋放出の形で処分すると決めた。2年後をめどに実施する。大量のタンクが廃炉作業の妨げになりかねない状況だった。海水のモニタリングや農水産業の風評被害対策を強化する。
同日朝に首相官邸で開いた廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚会議で決めた。菅義偉首相は「廃炉を進めるにあたり避けては通れない課題だ。処理水の安全性を確実に確保するとともに、風評払拭に向けてあらゆる対策を行う」と述べた。
東京電力ホールディングスが原子力規制委員会に計画や放出設備の認可を得たうえで処理水を放出する。閣僚会議で決めた基本方針に「東電には2年程度後の開始を目途に準備を進めることを求める」と記した。
出席した東電の小早川智明社長は終了後、海洋放出に向けた対応方針を速やかにつくる考えを示し、「しっかりと理解いただける方針を作成したい」と話した。
福島第1原発は2011年3月の東日本大震災の津波で炉心溶融事故を起こし、高濃度の放射性物質に汚染された水が発生している。東電が専用装置で主な放射性物質を取り除いてタンクにためる。処理水は装置で除去できない放射性物質のトリチウム(三重水素)を含む。
トリチウムを含む水の海洋放出は国内外の原発でも実施している。基本方針によると、放出前に処理水を海水で100倍以上に希釈し、国の基準値の40分の1程度、世界保健機関(WHO)の飲料水水質ガイドラインの7分の1程度にトリチウムの濃度を薄める。1年間に放出するトリチウムの量が事故前の福島第1原発で設定していた目安を下回るようにする。
政府と東電は漁場や海水浴場などでトリチウムのモニタリングを強化する。海水サンプルの採取や検査に農林水産業者や地元自治体の関係者が加わる。海洋環境の専門家らでつくる会議も立ち上げ、モニタリングの確認や助言をしてもらう。
国際原子力機関(IAEA)は海洋放出について「科学的に妥当で環境影響はない」との見解を示している。ただ、消費者が放出を受けて周辺の農林水産物を避けるといった風評被害が生じる可能性もある。政府と東電は、福島県と近隣県の水産業などが国内外の主要消費地で販路を広げられるように支援する。
風評被害が起きた場合は、東電が被害の実態に見合った賠償を迅速かつ適切に実施することも基本方針に盛った。政府は風評被害対策などのための関係閣僚会議を新たに設け、週内にも初会合を開く。海洋放出後の水産業などの影響を確認し、必要な対策を検討する。放出に反発する中国や韓国に理解を求める取り組みも必要になる。
福島第1原発の敷地内のタンクは1000基を超え、廃炉作業に支障を来す懸念があった。事故から10年以上たって海洋放出が決まり、廃炉の本格化に向けた一歩となる。
全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は13日、「決定は極めて遺憾で到底容認できるものではない。全国の漁業者の思いを踏みにじる行為だ」との声明を出した。不安払拭のため、漁業者らへの説明や風評被害対策の明確化、安全性の担保などを求めた。 
●「漁業者の声に耳を」海洋放出、福島で反対の声 4/13
政府は13日、東京電力福島第一原発の処理水について、海洋放出することを正式に決めました。実際に放出が始まるのは約2年後です。
日本政府が福島第一原発の処理水を海洋放出する方針を正式に決めたことを受け、韓国の丁世均(チョンセギュン)首相は13日午後、自身のSNSでコメントを発表し、「全世界の海を汚染する惨事につながる。日本はもう一つ歴史の過ちを犯した」と強く日本政府を非難した。丁氏は、今回の決定が周辺国の理解を伴わない一方的なもので韓国政府は断固反対すると主張。「周辺国の国民の権利を侵害する無責任な決定だ」と批判した。そのうえで「韓国国民の安全のためには一歩もひかない。国際社会と協調して日本の決定を阻止するよう努力していく。韓国国民の健康と海の安全を必ず守り抜く」と訴えた。
政府が東京電力福島第一原発の処理水を海洋放出する方針を明らかにしたことについて、宮城県の村井嘉浩知事は13日夕、報道陣の取材に「風評被害が起きないよう、政府は万全の対策を取ってほしい」と強調した。村井知事はこの日、県庁を訪れた経済産業省の審議官に対し、菅義偉首相宛ての緊急要望書を渡したと明らかにした。要望書では「今回の決定は、国民の理解が得られている状況にあるとは受け止められない」と指摘。「海洋放出が実施されれば、震災から立ち直りつつある宮城県の水産業に深刻な影響が発生することが危惧される」とした。その上で、「海洋放出以外の処分方法も引き続き検討」することを要望。安全性に対する理解の醸成や厳格なモニタリング体制を政府に求めた。また東京電力の小早川智明社長からも電話があり、村井知事は「東電の賠償の対応に非常に不信感を持っている人がたくさんいる。しっかり我々の意見を聞きながら協議してほしい」と伝えたという。
梶山弘志経済産業相は、東京電力福島第一原発が立地する福島県大熊町の吉田淳町長と役場で会談した。吉田町長は海洋放出が廃炉工程の中で避けては通れない作業のひとつだとの認識を示したうえで、「処分によって生じるあらゆる影響に対し、国が全責任をもって対応していただきたい」と述べた。面会終了後、梶山経産相は記者団に、漁業者から反対意見を伝えられたことについて、「誠心誠意、説明していくことに尽きる」と話した。
福島県を訪れた梶山弘志経済産業相は、自治体や漁業関係者らとの会談終了後に、改めて懸念を伝えられるなど厳しい言葉もあったと認めた。「決定に当たって説明が不足しているという声もあることは重く受け止めていかなければならない」と述べた。政府の基本方針には「廃炉工程の中で避けては通れない作業のひとつ」(吉田淳・大熊町長)といった一定の理解を示す声もあった。一方で、漁業関係者の反対は根強く、風評被害への不安も残る。梶山氏は「誠心誠意、説明していくことに尽きる」とした。 
●処理水の安全・安心な処分〜ALPS処理水の海洋放出と風評影響への対応 4/13 
2021年3月は、東日本大震災が起こってから10年の節目。大震災にともなって発生した、東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故からも10年ということになります。原発事故による災害からの復興をとげるためには、廃炉を着実に進めること、また周辺環境への放射線リスクを低減することが必要になります。政府は、「復興と廃炉の両立」を方針として、さまざまな取り組みを進めてきました。そこで課題のひとつとなってきたのが、「ALPS処理水」の処分方法です。今回は、さまざまな議論を経て決定された、ALPS処理水の処分方法についてご紹介します。
「ALPS処理水」って何?あらためて整理しよう
福島第一原発の原子炉内には、原発事故により溶けて固まった燃料である「燃料デブリ」が残っており、冷却するために水がかけられています。この時、燃料デブリに触れた水は、高い濃度の放射性物質を含んだ「汚染水」になります。これらの汚染水には、多核種除去設備「ALPS(アルプス)」と呼ばれる除去設備など、いくつかの設備を使用した浄化処理がおこなわれています。
こうした浄化処理を経て、放射性物質の大部分を除去した水が「ALPS処理水」です。しかし、ALPSをもってしても、「トリチウム」という放射性物質は取り除くことはできません。
トリチウムとは “水素”のなかまで、川や海など自然界にも存在している物質です。また、国内外にある原子力施設でもトリチウムが生成されており、各国がそれぞれの国の規制に基づいて管理されたかたちで、海洋や大気などに排出されています。
ALPS処理水をどう処分するか、重ねられた議論
ALPSなどによって浄化処理された水は、技術的には規制基準を満たした上で、かつ安全に処分をすることが可能です。しかし、処分をおこなうことによって、環境や人体に影響をおよぼすのではないか、という懸念を持つ人がいることも事実です。そのため、取り扱いに関する検討を、風評影響など社会的な観点も含めて重ねている間、福島第一原発の敷地内で保管が続けられてきました。しかし、貯蔵タンクはすでに1000基を超えており、福島第一原発の中でもかなり広い敷地を占有する状態となってきました。今後廃炉を進めていくにあたっては、燃料デブリの取り出しや廃棄物の一時保管などの作業が発生し、そのための敷地が必要となることから、このままタンクを増やし続けることはできません。また、廃炉が終了する時には、これらのタンクも無くなっていなくてはなりません。
さらに、大量のタンクがおかれているという事実そのものが、風評やリスクの要因となるおそれもあります。こうしたことから、処分方法にかかわる政府方針を早期に決定する必要がありました。
ALPS処理水を今後どうするべきかについて検討が始められたのは、2013年のこと。以降6年以上にわたって、専門家や有識者が、技術的観点と社会的観点から議論を重ねてきました。議論は2020年2月に「報告書」のかたちで取りまとめられました。この報告書については、国際原子力機関(IAEA)から、「科学的な根拠に基づくものである」という評価を受けています。
この報告書をベースにして、地元自治体、農林水産業者などを対象に、数百回におよぶ意見交換をおこないました。経済産業省、復興庁、環境省の副大臣が出席し、地元自治体から流通・小売りまで幅広い関係者から意見を聞く場も7回実施。計29団体43名からヒアリングをおこないました。後者についてはライブ配信され、YouTubeで録画を見ることもできます。
また、2020年4月6日からは、「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する書面での意見募集」と題した書面意見の募集がおこなわれました。できるだけ丁寧に意見を集めるため、2度期間を延長し、計117日間にわたって募集したところ、多くの意見が寄せられました
こうしたさまざまな手段で集められた意見や専門家の報告書を検討した上で、政府は、処分方法に関する決定をおこないました。
国内外で実施されている、「海洋放出」とは?
専門家や有識者の会議では、前例や実績があることをふまえると、「海洋放出」と「水蒸気放出」の2つの方法が現実的だとされました。さらに、海洋放出には、放出設備の取り扱いやモニタリングが水蒸気放出よりも容易だという利点もありました。
このような海洋放出の特徴は、おおよそ次のようにまとめられます。
世界中の数多くの原子力施設でも、規制基準を満たすよう希釈した上で、トリチウムの海洋放出が実施されている
海流の変動は気候の変動と比較して少なく、トリチウムの広がり方を予測しやすいため、モニタリングが比較的容易
国際原子力機関(IAEA)が、海洋放出は技術的に実現可能であり、国際慣行にも沿っていると評価している
もちろん、海洋へ放出する際には、世界共通の安全性に関する考え方に基づいて実行します。
たとえばALPS処理水にふくまれているトリチウムについては、濃度が規制基準でさだめられた数値を大幅に下回るようじゅうぶんに薄めた(希釈した)上で、処理水の放出を実施することとなっています。また、放出後の海洋のモニタリングについては、国際機関などの協力も求め、強化や拡充をはかることとなっています。
これらの取り組みについては、今後もスペシャルコンテンツでわかりやすくご紹介していきます。
福島の復興をかならず成し遂げる、そのための大きな一歩
福島第一原発の廃炉は、福島の復興に不可欠なことです。ALPS処理水の処分方法の決定は、その「廃炉」と福島の「復興」に向けた、大きな一歩となります。しかし、ALPS処理水の処分に向けては、全力で取り組むべき課題があります。それは、風評影響への対応です。
実際に、「関係者の御意見を伺う場」や書面意見などを通してさまざまな方の声を集める中で、風評影響への懸念や、その対応を求めるご意見が多くの方から出ました。
こうしたご意見をふまえ、風評影響の発生を防ぐため、下記のような取り組みが今後おこなわれることとなっています。
風評影響への対応に向けた今後の取り組み
1 科学的な根拠に基づくわかりやすい情報発信をおこないます
2 国際機関と協力し、モニタリングを拡充・強化します
3 水産業をはじめ、風評影響を受け得る産業の販路拡大・開拓支援をおこないます
4 風評被害が発生した場合には、セーフティネットとしての賠償により対応します
さらに、現時点では想定し得ない風評影響が生じた場合に備え、官民が参加する会議において継続的に追加対策の必要性を検討し、実施されることとなっています。
福島の復興に向けて、これから重要になること
福島第一原発の廃炉、そして福島の復興に向けては、政府が今後も前面に立って全力を尽くしていく必要があります。一方で、この目標は、政府だけで成し遂げることができるものではないことは、みなさんもお分かりになるかと思います。
福島の復興には、福島や福島第一原発の“いま”について、より多くの人に、科学的な根拠に基づいた情報を正しく知ってもらうことが何よりも重要になります。
ALPS処理水については、多くのメディアやSNSなどで、さまざまな情報が行き交っています。その中には、残念ながら、科学的根拠に基づかない内容が含まれていることもあります。国民1人1人が、情報を慎重に見きわめ、福島や福島第一原発の“いま”について正しく知って、身近な人にも正しい情報を広めていくことは、それだけで「復興」の何よりのサポートになります。
われわれ経済産業省と資源エネルギー庁も、正しい情報をわかりやすくみなさんにお伝えできるよう、最大限努力を重ねていきます。 
●汚染水問題の現状と行方 4/13 
── 福島第一原子力発電所の汚染水漏れ問題がなかなか収束しません。まず、汚染水とはどんなものか教えて下さい。
汚染水にも何種類かあります。3.11の事故で炉心にあった燃料が溶け落ち、圧力容器の外に出てしまいました。その燃料と冷却水が混ざり、さらに津波で建物の中に入り込んだ海水が混ざった水が大量に建物の底に溜まっています。これが一つ目の汚染水です。そして、その汚染水を処理しているものの、まだ放射性物質を除去しきれていないものも、汚染水です。  つまり、建物の中にまだ残っている水と、その水を処理してセシウム等が若干減った水、また「ALPS(アルプス:多核種除去設備)」という装置を使ってさらにほとんどの放射性物質を取り除いた水、これらが全て「汚染水」と呼ばれます。
── 問題になっているタンクから漏れている汚染水はどのようなものなのでしょうか。
当初は最も放射能濃度が高い汚染水をキュリオン社やアレバ社など外国がつくった除染装置を使って処理していましたが、その後、「サリー」という東芝の装置でセシウムを主に除去するようになりました。また、海水が混ざっているため、「逆浸透膜」という設備を通して海水を淡水に変えています。淡水にした水は冷却のために、再度原子炉に注入しています。処理後に残った、セシウム以外の放射性物質を含んだ、少し濃くなった塩水がタンクに貯蔵されます。漏洩を起こしたタンクからは、ある程度放射性物質が含まれているものが漏れてしまいました。タンクには、淡水になったものなど、汚染の度合いが様々な汚染水が貯蔵されています。どのような汚染水が漏れたかは、どのタンクから漏れたかによって変わってきます。
── タンクからの汚染水漏れの原因は何なのでしょうか。
日々、汚染水が大量に発生しています。それに合わせてタンクを大変なスピードでつくってきていますので、その中で品質管理の問題があったと思います。タンクのパッキンが劣化して、そこから漏れが生じたため、今は溶接型のタンクをできるだけ増やそうとしています。
── 「ALPS(アルプス:多核種除去設備)」が稼働し始めましたが、効果はどれぐらい見込めるのでしょうか。
今まで放射性物質を除去するために稼働していた「サリー」は、主にセシウムを除くためのもので、セシウム以外の放射性物質はそれほど取り除くことができませんでした。「ALPS(アルプス)」は、トリチウム以外の放射性物質62核種を安全な基準レベルまで取り除くことができる装置です。少しトラブルがあり、まだ本格稼働までは至っていませんが(10月16日現在)本格稼働した場合には、処理後に残るのはトリチウムだけになります。
── トリチウムとはどんなものでしょうか。
トリチウム(三重水素)は、水素の仲間で、普通の水素の原子は陽子と電子1個ずつで成っていますが、トリチウムはそれに中性子が2個くっついて、少し重くなっている水素です。化学的な性質は水素と同じで、トリチウムと言われているものは、全てトリチウム水という水の形になっています。化学的な性質などは普通の水と同じです。トリチウムは自然界にも存在しますが、福島第一の汚染水に含まれるものは、原子炉の中で生じたトリチウムです。水素に中性子が一つ加わった重水素という元素が冷却水にわずかに含まれていますが、その重水素が中性子を吸収し、トリチウムになったのです。トリチウムは放射性で、非常に弱いエネルギーのベータ線を出し、半減期が12年ほどです。セシウムなどに比べると、同じベクレル数でも危険性は1000分の1以下です。トリチウムはヒトの細胞膜を透過できないくらい弱いベータ線しか出さないので、基本的に外部被ばくによる影響はないと考えてよいでしょう。体の中に入った場合の内部被ばくも、ベータ線のエネルギーは非常に弱いので、直接細胞を破壊する力はあまりありません。また、新陳代謝で普通の水と同じように排出され、体内に溜まっていくことはありません。ただ、水素体の構成元素と同じなので、体の中に入って、例えばDNA中の水素と置き換わって放射性壊変でヘリウムに変わったときにDNAを壊してしまうということが心配されます。しかし、非常に大量のトリチウムを取り込まなければ、人体に影響を及ぼすような状況は起こらないと考えられています。
── トリチウムは全国の原子力発電所から海に排出されていますが、どのように規制されているのでしょうか。
トリチウムは毒性が低いことと、水と同じ性質で閉じ込めておくのが難しいため、ある濃度以下であれば、発電所から廃棄してよいことになっています。その排出基準ですが、法律上の濃度上限は1リットル当たり6万ベクレルになっています。この算出根拠は、ヒトは1年間に1トンくらい水を体に摂取しますが、その水が全てその濃度であったとしても内部被ばく量として1ミリシーベルト以下になる濃度とされています。仮に1リットル6万ベクレルのトリチウムが含まれる水を飲み続けたとしても影響が出ないとされる濃度です。その濃度とは別に、原子力発電所は、それぞれの発電所で放射性物質をどれだけ出していいという総量規制があり、年間で10〜100兆ベクレルまで放出することが許されています。トリチウムは水と同じ性質なので、セシウムなどと違って生物濃縮を考えなくてよいのです。また、世界全体で1京ベクレル(1兆の1万倍)以上のトリチウムが毎年自然界で生成されています。そのうちの1割以下くらいを発電所等から放出しています。このように、自然界の濃度をほとんど変えないレベルで発電所からの放出の総量の規制がされているのです。
── トリチウムの処理は今後どうするか考えられているのでしょうか。
トリチウムを水素から分離できないかという技術的な調査も行われていますが、水から水を分けるような話で、同位体分離になりますので、多大なエネルギーを使います。仮に取り出すことができたとして、濃くしたものはどうするか。それもまた難しい問題で、あるものを100分の1にすると、濃度が元より100倍になっているものができてしまうのです。そうすると、今度濃度が100倍濃くなったものをどうするのかが難しくなってきます。ですから、総量規制をしつつ濃度を基準値以下に薄めて「害を十分低く抑えた」レベルにして放出したほうが安全ではないかと思います。
── 蒸発させるのはどうなのですか。
同じことなのですが、要は水で薄めて捨てるか、空気中に薄めて捨てるかの違いですね。空気中に出すときの規制濃度も決まっていて、より厳しくなります。蒸発させるときにもエネルギーが必要なため、やはり水と混ぜて希釈して放出する方が良いと思います。しかし、現在、福島第一原子力発電所の現場に溜まっている量は、元々の福島第一発電所の放出規制総量の10倍以上あるので、一度に1年で出してしまうわけにはいきません。10年程度かけ少しずつ薄めて出していくなどの対応が必要になってきます。雨が降っても地下水が流れ込んでも溜まる一方なので、それを10年も20年も溜め込んだままでおくことは物理的に不可能です。どこかの段階で基準値以下の安全なレベルの汚染水は放出しなければ、事態は改善されません。
── 汚染水漏れの話に戻りますが、貯蔵タンクの施工をもう少し何とかできればと思います。
普通の状態で竣工できればいいのですが、タンクの増設も次から次へと追われての作業ですから難しいですね。一体1000トンのタンクですが、地下水の流入で、汚染水が毎日400トン増えていくので、2日に1個ずつタンクを作らなければ間に合いません。あれだけ大きなタンクを2日に1個ずつつくっていくというのは非常に大変です。なおかつ普通の条件ではなくて、みんな防護服を着て、通常の作業とはまた違う注意をしながらの作業です。ミスを出してはいけないのですが、完全を求めるのはなかなか難しいところもあると思います。
── 良い解決策はないのでしょうか。
打ち出の小槌的な魔法のような対策はすぐには出てこないのですが、幾つかの対策を積み重ねて少しでも汚染水を減らしていくしか今は方法がありません。地下水バイパスや幾つか水を減らす対策が検討されています。山側の凍土壁と海側で止めるもの、それから汚染している部分に水が入らないようにサブドレインというところから水を抜いて、建物に水が入らないようにするなどさまざまな対策は考えられています。ただ、工事が必要なものはどうしても時間がかかるので、なかなかすぐにはいきません。地下水バイパスは、原子炉に流れ込む前に地下水を手前で抜いて捨てるのですが、「放射能がなくても、捨ててはいけない」と言われるとどうしようもない。抜く量は流れ込むより多いのです。それを「捨ててはいけない」と言われたとたんに、今度は何もしないより汚染水が増えていってしまう問題があります。「あるレベル以下で安全なものは捨ててよい」という確約がとれないと水を抜くこともできません。規制値以下の濃度が薄いものを捨てること自体は法律違反でも何でもないのですが、風評被害を怖れた反対などもありますので、東京電力がいくら説明してもなかなか理解を得られないところは、国がしっかりと安全性の説明をする必要があると思います。問題は、風評被害です。汚染されていようがいまいが、とにかく発電所の敷地から何かが海に放出された、そういう報道があるだけで影響を受けるというおそれがあります。ですから、風評被害を起こさないように何とか手立てをしなければなりません。
── 地下水が1日400トン流れ込んでいることには驚きました。
福島第一の土地は、海沿いから高低差があるのですね。高いところは30〜40メートルありますし、海沿いは津波がきたところは10メートルくらいの高さがあり、海に向かって地下水が流れていたのです。建物も大きいですから、津波で壊れて配管などに穴が開くと、そこからどんどん入ってきてしまうのです。すぐそのような箇所を埋められればいいのですが、地中で壊れていたり、線量が高くて近づけないようなところの配管が壊れているとなかなか修理に行けません。ですから、できるだけ流れ込まないようにその周囲の地下水を減らすしか今のところ方法はないでしょう。地下水バイパスは事前に地下水を抜いて、建物全体の水位を下げようという方式です。もともと原子炉の周りにサブドレインという水を抜く穴があって、原子炉に水が流れ込むのを防ぐこともあるのですが、浮力で建物全体が浮き上がろうとする力を減らす役目もあったのです。しかし、水素爆発で瓦礫などが飛んできて、うまく動かなくなり、水位が上がってしまった状態なので、サブドレインを復活させて、そこの水を抜いて、濃い汚染水がどんどんできないようにすることも考えられています。今は、ただ汚染水を処理するだけが目的ではなくて、廃炉作業に入るために、建物をドライにして、除染をし、アクセスできるようにしなければいけないのです。そのためには、まず地下水、タービン建屋の下や炉の建屋の下にある水を1回全部抜いてしまう、という操作が必要です。そして、水が流れ込んでいる部分を完全に保修して、水が出入りしないものを造り上げ、また水を張って解体工事をやっていくことになります。
── 最初のステップのところがなかなかうまくいかなくて、苦労しているという感じですね。
そうですね。地下水の流入を防ぐための山側だけの凍土壁だけでもだめなのです。全体を取り囲むところまでやらないと、効果は出てきませんし、原子炉建屋の下から入ってきている水は止められません。下からはそれほどたくさんはこないのですが、それでもゼロではないので、凍土壁が万能だというわけではありません。つくる順番も難しくて、例えば、海側を先にやると、今まで出ていった水が出ていかなくなるので、地下水位が上がって、今よりも地下水が流れ込むかもしれないこともあるので、つくる順番なども考えなければならないのです。また、一度に全て水の流れを止めてしまうということもできません。中に汚染している水がまだ入っており、周りの地下水が下がってしまうと、逆に中の汚れた水が外に出てくるかもしれないので、地下水位は常に中の水位よりも高めにしておいて、全体を少しずつ下げていくようなコントロールが必要です。
── その他、今後の見通しや課題はいかがでしょうか。
汚染水はまだ増えていくことを考えると、やはりタンクの増強は必要だと思います。もう少し本格的に溜めておけるようなもの、あるいはタンカーのようなものを持ってきて、そこに一次貯蔵するという話もあります。とにかくどこかに一度貯蔵して、きちんとしたタンクをつくり直すことも必要かもしれませんね。そのためには、タンクの容量を空けなければならないので、汚染水を何とかして減らし、少し時間稼ぎをしながらきちんとしたものをつくっていくことが重要かと思います。少なくともトリチウムはすぐに全ての量を放出する事は無理ですから、その分を溜められるだけの漏れのないものを準備しなければなりません。1000トン規模のタンクが何百基とあるため、メンテナンスも非常に大変です。一日も早い汚染水処理のためにも、しっかりとした貯蔵タンクを作るということが何より重要です。  

 

●東電と政府が答えるべき3つの疑問 福島第一原発の汚染水問題 4/14
東京電力福島第一原発の事故収束作業の大部分を占めてきた汚染水問題は、13日の政府方針決定で浄化処理した水の海洋放出へ踏み切ることになった。東電や政府は「廃炉を進めるため」に放出処分とタンク解体による敷地確保の必要性を強調するが、根拠を見ていくと矛盾が浮かぶ。(小野沢健太)
タンク増設の敷地は足りない?
福島第一には処理水をためるタンクが約1000基あり、137万トン分の容量がある。現時点の貯蔵量は9割を超える約125万トンで、2022年秋ごろに満水となる見通し。東電や政府はタンクの増設余地は「限定的」とするが、本当に余地がないかはあいまいだ。
タンクエリアは旧式のボルト締め型タンクを解体した跡地が一部残る。北側に広がる廃棄物置き場の敷地も活用できるはずだが、斜面が多く地盤も弱いとして消極的だ。
敷地外での保管は、原発に隣接する中間貯蔵施設や、およそ8キロ離れた東電が保有する福島第二原発などが検討された。
除染で出た汚染土を保管する中間貯蔵施設について、政府は当初の目的にないタンク建設となると、地権者の同意が必要で難しいと突っぱねた。福島第一以外は「移送ルートの自治体の理解が必要。急いでいるからできない」という。
タンク解体と廃炉作業の見通しは?
東電と政府は処理水を処分すれば、タンクを解体して空きスペースがつくれると主張してきた。東電は敷地を確保して、原子炉内に溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しに向けた模擬実験施設や訓練施設、それ以降に取り出したデブリや使用済み核燃料の保管施設などを設ける計画という。
しかし、空きスペースを確保できるのか。処理水の放出は、東電の計画で30年程度かかる。処理水に含まれる放射性物質トリチウムの総量は約860兆ベクレルで、年間の放出水準である22兆ベクレル以下にすると、単純計算で39年。約1000基のタンクは年間30基程度が空になるが、解体の見通しは示されていない。そもそも、汚染水の発生がゼロにならない限り、タンクは必要であり続ける。
また、肝心の原子炉内のデブリは、人が近づけないレベルの放射線量が壁となり、取り出せるかも見通せない。12日の衆院決算行政監視委で、デブリ取り出しを問われた東電の文挟ふばさみ誠一副社長は「具体的な検討はこれから進める」。デブリの保管場所が必要になる工程までたどり着けるのかも不確かだ。
地元の理解が得られない場合は?
政府や東電は15年、福島県漁連に「関係者の理解なしに海洋放出などの処分はしない」と約束した。梶山弘志経済産業相は方針決定後の会見で、理解が得られない場合は放出しないのかを問われ、「理解をいただく努力をする。それに尽きる」と言及を避けた。
約束がある以上、実際には放出に踏み切れない可能性が残る。その場合は処理水がたまり続けることになるが、保管の継続は「困難」と切り捨てるだけで、代替案を用意していない。
汚染水問題では、急造のボルト締め型タンクからの水漏れ事故など、東電の甘い見通しによって事態を深刻化させてきた。都合の悪いことを考えようとしない姿勢は今も変わらず、処理水の行き場がない危機的状況に陥る恐れがある。
●「安全性の説明尽くせ」 処理水放出、漁業者から憤りの声 4/14
政府が東京電力福島第1原発の処理水について海洋放出方針を決めた13日、福島県内にとどまらず岩手、宮城両県の漁業関係者からも激しい憤りの声が上がった。「反対姿勢は変わらない」「風評の怖さを理解していない」。福島県内では農業、観光、経済などの関係者に不満と懸念が渦巻いた。
宮城県漁協(石巻市)の平塚正信専務理事は「議論に漁業者の意見は全く反映されなかった。東日本大震災後の水産関係者の努力で今の宮城の漁業がある。その思いに向き合う姿勢が感じられない」と政府への不信感をあらわにした。
県漁協は昨年6月、県と県議会に海洋放出阻止を国に働き掛けるよう要望し、放出に異議を唱え続けてきた。平塚専務理事は「反対の姿勢は今も変わらない。漁業者の意見を基に対応を決める」と述べた。
「また風評に苦しめられるのか」。宮城県南三陸町のギンザケ養殖漁師佐藤正浩さん(53)は政府決定の報を聞き、ため息をつく。
津波で志津川湾の養殖施設が流失。2011年11月に再開したが、1キロ500円以上だった単価が翌年の水揚げで史上最低水準の200円台に落ち込んだ。「検査で放射性物質は一切検出されず、完全に風評被害だった」と振り返る佐藤さん。「国は科学的な安全性の説明を尽くし、影響を最小限にとどめてほしい」と注文を付けた。
「どこまで反対しても政府決定を覆すのは難しい」と嘆くのは、福島県境に近い宮城県山元町の漁師猪又賢さん(67)。「海はつながっているので風評被害は必ず起きる。放出する前に補償の枠組みを作るべきだ」と訴えた。
岩手、宮城、福島3県などで水揚げ・加工された水産物について韓国が輸入禁止措置を続けるなど、食の安全への国際的な関心も高い。
岩手県山田町でカキ養殖などを営む佐々木友彦さん(46)は「輸出再開はさらに難しくなるだろう。海産物がだぶつき、(国内で)値が下がる可能性がある」と懸念。「原子力は人間の手に負えないということが原発事故ではっきりした。原発は最終的になくしてほしい」と願った。 
●日本の記者「中国の原発も汚染水放出」に外交部がコメント  4/14
日本政府は13日、福島原発事故の汚染処理水の海洋放出を正式に決定した。外交部(外務省)の趙立堅報道官が同日の記者会見で、これに関する質問に答えた。
【日本の記者】原子力施設では正常な稼働時にも通常はトリチウムが発生しており、各国の基準に基づき希釈した後に海洋や大気中に放出している。報道によると、韓国や欧米など世界各地の原子力施設でもトリチウムを放出しており、中国の大亜湾原発も2002年に42兆ベクレムのトリチウムを放出している。日本政府の計画は汚染水を世界保健機関(WHO)の水質基準の7分の1にまで希釈してから放出するというというものだ。これについて中国側としてコメントは。
【趙報道官】福島第1原発では最高レベルの原発事故が発生した。そこから生じた汚染水は正常な稼働時の原発の汚染水とは全く別物だ。そうでなければ、日本もこれまで汚染水をタンクに厳密に密封しておく必要はなかった。両者を一緒くたにして論じることはできない。
以前、国際原子力機関(IAEA)専門家チームの評価報告書で、福島原発のトリチウムを含む汚染水を海洋に放出した場合、周辺諸国の海洋環境と公衆の健康に影響を与えることと、現有の汚染処理水にも依然他の放射性核種が含まれており、さらなる浄化処理が必要であることが指摘された。原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書でも、福島原発事故の汚染水の海洋生態環境への影響を持続的に追跡・観察する必要があるとの考えが示されている。またIAEAのグロッシー事務局長は12日、IAEAとして公正で客観的かつ科学的な方法で評価・監督作業を積極的に進め、各利害関係者と意思疎通を強化し、海洋環境や食品の安全性、人類の健康へのさらなる危害を回避すべく努力することを表明した。
こうした権威ある機関や専門家の意見に対して、日本は誠実な対応をするべきだ。他者の意見に耳を貸さないようではいけないし、ましてや国際的な公共の利益を顧みずに、単に福島の原発汚染水を海中に流して終わりにしてはならない。 
●福島第一原発の処理水処分方法に深刻な憂慮表明、外交部が論評 4/14
韓国外交部は4月12日、福島第一原発のALPS処理水の処分方法に関し、同部ウェブサイトで論評を掲載した。内容は下記のとおり。
1.4月13日に日本政府が福島原発汚染水関連の関係省庁会議で汚染水の海洋放出の方針が決定されるとの情報に関し、韓国政府は当該決定が今後の韓国国民の安全と周辺環境に直接・間接的な影響を及ぼす可能性があるという点で深刻な憂慮を表明する。
2.韓国政府はこれまで日本側に対し、透明性のある情報公開と周辺国との協議を通じて決定されるべきと強調してきた。日本側が十分な協議なくして福島原発汚染水の海洋放出を決定するのであれば、これは受け入れ難い。
3.韓国政府は、韓国国民の健康と周辺環境の保護を最優先するとの原則に従い、放射線測定を大幅に拡充し、モニタリングを強化していく予定であり、日本側の放出決定と関連手続きの進行を継続的に注視し、国際原子力機関(IAEA)など国際社会と協力を強化していく予定だ。
●日本政府、福島原発汚染水の海洋放出を決定 韓国「容認できない」 4/14
日本政府が13日、東京電力福島第一原発の敷地内のタンクに貯蔵されている汚染水を海洋放出することを決めた。これに対し、韓国、中国など隣国だけでなく、日本国内でも懸念の声が出ている。
日本政府は同日、関係閣僚会議を開き、汚染水を再処理した後、海水で希釈し、放射性物質の濃度を法令の基準より低くして海に放出するという内容の「処理水の処分に関する基本方針」を決定した。2011年3月11日の東日本大地震の後に発生した汚染水の処分方針を決めたのは初めて。東京電力が海洋放出の具体的な計画と施設を整備し、2年後をめどに実施する計画だ。
菅義偉首相は閣議で、「処理水の処分は、福島第一原発の廃炉を進めるにあたって、避けては通れない課題だ」とし、「政府をあげて風評対策の徹底をすることを前提に、海洋放出が現実的と判断した」と述べた。日本政府は一度浄化したという意味で汚染水を「処理水」と表現している。
汚染水を多核種除去設備(ALPS)で処理しても、トリチウムという放射性物質は取り除けない。日本政府は、汚染水を海水で希釈し、トリチウムの濃度を日本の規制基準の40分の1、世界保健機関(WHO)が定めた飲み水の基準の7分の1まで低くして放出するという計画だ。しかし、日本の漁業者や市民団体は強く反発している。全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は同日、「極めて遺憾であり、到底容認できるものではない。福島県のみならず全国の漁業者の思いを踏みにじる行為だ」と抗議する声明を出した。
国務調整室の具潤哲(ク・ユンチョル)室長は13日、緊急関係省庁次官会議の直後、「日本政府の汚染水海洋放出の決定に強い遺憾の意を表する」とし、「韓国国民の安全を最優先にするという原則のもと必要なすべての措置をとっていく」と明らかにした。外交部の崔鍾文(チェ・ジョンムン)第2次官は同日、日本の相星孝一駐韓大使を呼び、日本政府の決定に抗議した。 

 

●汚染水の海洋放出 「科学的に問題ない」=韓国政府報告書 4/15
東京電力福島第1原発の処理済み汚染水の海洋放出について、韓国政府が昨年、「科学的に問題ない」との結論を出していたことが15日、分かった。
最大野党「国民の力」の安炳吉(アン・ビョンギル)国会議員によると、海洋水産部や原子力安全委員会などでつくる政府の合同タスクフォース(TF)は昨年10月、福島原発の汚染水に関する報告書を作成した。
報告書は汚染水が韓国の海域に与える影響について、「海洋放出から数年後、国内の海域に到達しても海流によって移動しながら拡散・希釈され、有意味な影響はない」とした。
原子力安全委員会が7回にわたって行った専門家懇談会の内容を引用したもので、「汚染水を浄化する日本の多核種除去設備(ALPS)の性能に問題はない」とも結論付けた。
また、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の方法で日本の海岸地域付近への放射線の影響を調べたところ、妥当な数値だったとも記した。
汚染水に含まれる放射性物質のトリチウム(三重水素)に関しては、「生体に濃縮・蓄積されにくく、水産物摂取などによる有意味な被ばくの可能性は極めて低い」と判断した。
●文大統領が「汚染水放出」提訴…法律的には可能だが勝訴は難しく 4/15
日本の福島原発汚染水海洋放出決定に関連し、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が14日、自ら国際海洋法裁判所に対する暫定措置要請や提訴などを指示した。日本が放出を公式決定した以上、追加的な外交協議は省いて、最後の手段である法廷に直行するという意味にも解釈できる指示だ。法的手続き上は可能な選択肢だが、被害の立証責任は韓国にあり、結果を楽観するのは難しいという指摘だ。
(1)被害立証責任は韓国に
専門家によると、韓国政府が取ることができる具体的な措置は「国連海洋法条約附属書7の仲裁裁判所に対する提訴」と「国際海洋法裁判所への暫定措置要請」に要約される。青瓦台(チョンワデ、大統領府)の核心関係者は同日、記者団と会い「暫定措置は一種の仮処分申請だと考えればよい」とし「海洋法に関する国連条約などによると、国際海洋法裁判所は暫定措置要請がある場合、各紛争当事者の利益を保存するために、または海洋環境への重大な害を防止するために暫定措置を命じることができる」と説明した。
韓国と日本はともに海洋法条約当事国だ。日本の同意がなくても韓国政府の意志だけで法的手続きの開始が可能だ。
青瓦台が説明した暫定措置に関連し、具体的に日本が放出決定を実際執行に移すことができないように決定の効力を中止するよう求める趣旨になる可能性がある。通常、本案訴訟も並行して進めるが、核心の争点はやはり放出汚染水が海洋環境に影響を与える可能性だ。
問題は、暫定措置であろうと本案訴訟であろうと、そのような可能性を立証する責任は問題を提起した韓国にあるという点だ。「一方的な決定」「十分な協議がなかった」という主張さえも、資料で立証してこそはじめて法廷で認めてもらえる。日本が具体的に海洋法条約のどの規定に反したのか、裁判所を説得する科学的根拠が必要だということだ。
延世(ヨンセ)大学法学専門大学院のイ・ギボム教授は「私たちは日本が間違っていると当たり前のように考えるが、これを国際海洋法裁判所が納得できる言語に構築し直すことがカギ」としながら「日本の協力義務や事前通報義務など手続き的な義務違反はそれなりに簡単に証明することはできるが、放出を防ぐための実体的な根拠を提示するためには多くの時間と努力が要求される」と説明した。
だが、韓国政府が危険性を立証するにはデータが必要だが、汚染水に関連した主な資料のほとんどを日本が持っている。外交部によると、日本側は具体的な処分方式や総量など、核心情報に対する回答すらまだ提供していない。結局、「日本政府の今回の決定は周辺国家の安全と海洋環境に危険を招く」(13日の政府コメント)という主張を立証するには、資料に関連して日本の協力を求めるか別の法的手続きを進めなければならないということだ。
申ガク秀(外交シン・ガクス)元駐日大使は「本案訴訟での勝算は、結局汚染水放出の被害に対する因果関係の立証にかかっている。だが、資料は日本がすべて持っているうえ、韓国政府が資料を確保しても具体的に韓国の海域に及ぼす影響を正確に問うには、海流調査やモデリングなど精巧な科学的立証作業が必要だ」と話した。また「日本はすでに国際原子力機関(IAEA)と米国の支持を得ており、日本駐在外交団を対象とした100回以上の説明などを通して、透明性と共感を確保したと主張している以上、この論理を突き崩すことは容易ではない戦いになるだろう。だが訴訟は、日本の協力を圧迫する手段にはなりえる」と指摘した。
実際に被害が発生したと主張するのは汚染水の放出が始まった後でこそ可能だというのも問題だ。外交部当局者も前日、国際司法システムを利用して日本の責任を問う方案に対して「汚染水を海洋に放出したときに問題があるということを立証するためのデータを集めた後でこそ可能なのではないかと思う」と話した。これに対し、一部では裁判所の決定で汚染水放出の中止を勝ち取るのは現実的に容易ではなく、日本の透明な情報共有と今後の協力を保障するラインで終えることができても善戦だという分析もある。
(2)準備に1〜2年…韓日関係の犠牲は不可避
「訴訟以外の利益」を狙う価値はあるという指摘も出ている。日本に対する交渉力を高めるために利用するという手だ。日本も汚染水問題が国際社会で取り上げられることは望んでいないので、別途の協議や交渉を通じて「事後、国際原子力機関(IAEA)検証団に韓国を必須的に参加させる」という確約を取り付ける対価として訴訟を提起しないか、中間で取り下げる選択肢も可能だということだ。
結局、このように法廷で持ち込んでも、外交的協議も併行しなければならないという声が出てくる背景には、国際司法システムの特性も作用している。専門家は「国際裁判所に事案を持ち込むのは単純な国内裁判所の手続きとは違う」とし「国際裁判は事前準備にすべてがかかっている」と口をそろえる。相当な期間が必要とされるということだ。青瓦台が検討する暫定措置だけをみても、要請のための準備だけに1年ほどは見込んでおかなければならないというのが一般的な見解だ。
また、韓日が法廷戦いだけに埋没すれば、外交的解決法を模索する余地は小さくなり、韓日関係において犠牲を甘受せざるをえなくなる点も懸念される。任期が1年しか残っていない文在寅(ムン・ジェイン)政府が、一歩間違えれば韓日関係を抜け出せない沼の底に突き落とした状態のまま、次期政府にバトンを渡す局面を迎えることになりかねないからだ。世宗(セジョン)研究所の陳昌洙(チン・チャンス)首席研究委員は「汚染水問題の国際海洋法裁判所提訴を契機に、慰安婦・強制徴用・独島(トクド、日本名・竹島)など他の問題にまで火の粉が飛ぶことになれば、韓日間の外交が失踪する恐れがある」と指摘した。
(3)専門家「日本と対立するよりも国際社会との連携を通じて解決を」
専門家は汚染水問題を韓日の二国間だけの問題に狭めて無条件で「法に従おう」とアプローチするよりは、関連国と共同で対応したり日本と現実的な協力方案を模索したりするべきだと助言する。
ソウル大学国際大学院の朴チョル熙(パク・チョルヒ)教授は「汚染水問題は国際公共財に影響を与える問題なので、他の国と共同で対応するほうが実効性が高い」とし「感情的な対応ではなく、もう少し冷静に広い見識を持ってアプローチするべき」と話した。
聖公会(ソンゴンフェ)大学日本学科の梁起豪(ヤン・ギホ)教授は「文在寅政府が韓日関係改善に方向を定めたのに、再び対立点を置くには負担が大きく、混乱だけを招くことになる」としながら「日本と汚染水処理技術の共同開発など、現実的かつ科学的な方案を講じなければならない」と助言した。
●日本の原発汚染水海洋放出に安全性検証が必要 4/15
日本政府はこのほど、閣議で福島第一原発の汚染水を処理した後、海へ放出することを決定しました。専門家は、「放射性物質を含む汚染水が希釈された後、日本が約束したとおりの人体に被害を与えない安全基準に達するかどうかはさらに科学的な検証が必要だ」としています。
福島第一原発の核廃水にはセシウム、ストロンチウム、トリチウムなど多くの放射性物質が含まれています。日本政府と東京電力はろ過設備を使用することでトリチウム以外の62種類の放射性物質を除去することができるとしています。中国海洋大学国際問題および公共管理学部の金永明教授は、「排出する汚染水が排出基準を満たすことができるというのは日本が一方的に考えているだけで、国際社会の同意を得ているわけではない。日本側の主張をうのみにすることはできない。国際原子力機関(IAEA)など関連する国際組織の主導で専門家グループを派遣し、汚染水のサンプル採取、検査、評価を行う必要がある」と述べました。
ドイツの海洋科学研究機関のコンピューターシミュレーションでは、日本の福島沿岸は世界で最も強い海流が流れており、放射性物質は放出後57日で太平洋の大半の区域に及ぶことになり、3年後には米国とカナダが核汚染の影響を受け、10年後には世界の海域までに影響が拡大するということです。
金教授は、「日本政府による原発汚染水の海洋への放出は、関係国と協議した上で決めるべき問題だ」と示しました。 
●福島第一原発の汚染水、海洋放出が最善策なのか 4/15
「最もお金のかからない方法が最善策になるわけではない」
日本政府が福島第一原発の放射能汚染水を海に放出することを決めたことを受け、海洋放出が最善の選択ではないという声があがっている。汚染水の処理問題は、専門家らも明確な代案を示せない難題だ。かといって他の選択肢が存在しないわけではない。放射性物質の放射線量が十分に減るまで汚染水を長期保管する方法や、汚染水を固体化して保管する方法などが代案に挙げられる。
日本政府は13日、福島第一原発の貯留水タンクに保管されている汚染水約125万トンを30年間にわたり海に放流することを決めた。排出前の放射性物質は多核種除去設備(ALPS)で除去し、トリチウム(三重水素)は水で希釈して法定基準値以下に濃度を下げる計画だと明らかにした。
環境団体と専門家らは「汚染水の長期保管」を最善の選択肢として提示する。トリチウムのようにALPSでは濾過できない放射性物質があるため、放射線量が半分に減る半減期を数回経て、毒性が最小化するまで待つべきだと指摘する。
「原子力安全と未来」のイ・ジョンユン代表は「汚染水を希釈するのは放射性物質の濃度を下げることであって、放射能の強度を下げるわけではない。トリチウムの半減期は12年だが、この半減期を数回経て、強度を下げなければならない。50〜120年ほど長期間タンクに保管してから海に流す必要がある」と述べた。原子力安全研究所のハン・ビョンソプ所長は「100年程度経てば十分放射線量が減ったと言えるが、それが難しければ、少なくとも30年間は保管してから排出するのが合理的な代案」だと指摘した。
ドイツのグリーンピース事務所は昨年10月に発表した報告書「東電福島第一原発汚染水の危機2020」で、「根本的にはいかなる代案も非常に不足しているのは事実だ。しかし、長期貯蔵によりトリチウムを含む一部放射性物質の放射能の危険性を減らすことができる」と述べた。ただし、日本政府の立場では、貯留タンクの追加設置による長期貯蔵が費用問題だけでなく、福島地域を放棄するという認識を国内外に与える恐れもある。
もう一つの選択肢は「汚染水の固体化」だ。ALPSによって放射性物質が一部浄化された低レベルの汚染水をセメントや砂と一緒に固体化し、コンクリートタンクの中に流し込む方法だ。この方法は放射性物質の海洋放出を遮断できるが、固体化の過程で体積が大きくなるため、さらなる敷地の確保が必要だ。ハン・ビョンソプ所長は「海洋放出や液体状態で長期貯蔵する方式に比べ、体積が増え、莫大な費用も掛かるため、日本が選択するのは難しいだろう」と述べた。
汚染水の海洋放流決定の見直しができなければ、それに伴う危険性を正確に把握できるよう、透明な情報開示を求めるのが重要だ。東国大学原子力システム工学科のパク・ジョンウン教授は、「過度に不安を煽るのではなく、韓国政府と原子力安全委員会が乗り出して国民を安心させる必要がある。福島原発汚染水の海洋放出による危険性がどの程度なのか、定量化した数値を透明に公開するのが合理的な対処」だと指摘した。14日、原子力安全委員会は日本の原子力規制委員会に福島原発汚染水の処分履行過程をモニタリングし、その結果を迅速かつ透明に共有することを求める書簡を発送した。
●韓国政府資料に“福島原発汚染水の影響ない”? 4/15
福島第一原発事故で発生した放射能汚染水の海洋放出決定の6カ月前の昨年10月に、韓国政府が汚染水の放出について国内外の動向と対応計画をまとめた報告資料が公開された。
国会農林畜産食品海洋水産委員会のアン・ビョンギル議員(国民の力)は14日、福島原発汚染水関連関係省庁合同タスクフォース(TF)の現状報告資料を入手し、公開した。「対外注意」と書かれた8ページ(表紙・目次を除く)の報告資料には、「三重水素(トリチウム)などが排出濃度基準超過」など保管中の汚染水の現状や、「国際原子力機関(IAEA)は日本側の処分案を妥当だとみている」など国際社会の動向とともに、韓国国内の動向(国会や環境団体、専門家)、対応の経過、今後の計画が書かれている。
特に、国内動向のうち、専門家の部分に「トリチウムは海洋放出から数年後に国内海域に到達しても、海流によって移動しながら拡散し、希釈され、有意義な影響はないと予想される」、「トリチウムは極めて弱いベータ線を放出し、内部被ばくのみ可能であるため、生体に濃縮・蓄積されにくく、水産物の摂取などによる有意義な被ばくの可能性は極めて低い」と書かれている。報告資料には、このような意見が原子力安全委員会の進めた7回にわたる専門家懇談会などで収集されたものと示されている。
報告資料は日本の放出計画に対する今後の計画として、国際法的権利に基づき、日本側に透明な情報公開を要求▽きめ細かい放射能安全管理体系の構築▽IAEAとの国際協力の継続などを提示した。
同資料は海洋水産部が作成し、関係省庁TFで報告された。当時TFに参加した海洋水産部の関係者は、専門家の意見として提示された部分について「それを政府TFの結論と見ることはできない」と述べた。原安委の関係者も「主要懸案が発生すれば、関連専門家らの意見を聞くが、それが直ちに政府の立場になるわけではない」と語った。
国務調整室は、報告資料を引用して「政府が昨年『福島原発汚染水、問題ない』と結論付けた」と報じた「ソウル経済」について、「深刻な遺憾を表明する。一部の専門家の意見が政府の立場になるわけではない」という立場を示した。国務調整室は「韓国政府は日本の汚染水の海洋放出決定に断固反対している。国民の安全に危害を及ぼすいかなる措置も受け入れられない」と述べた。
●「海洋法裁判所への提訴」の警告、日本は重く受け止めよ 4/15
日本政府が福島原発の放射能汚染水の海洋放出を決めたことに対し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は14日、国際海洋法裁判所に暫定措置とあわせて提訴する案を積極的に検討するよう指示した。文大統領はこの日、信任状の捧呈にきた相星孝一駐韓日本大使にも「これだけはお伝えせざるをえない。最も近く海を共有する韓国の懸念はきわめて大きい」と伝えた。韓日関係の難しさにも関わらず、国民の健康と環境に深刻な影響を及ぼす問題には断固として対応するという意志を明確に示したのだ。
文大統領が言及した「暫定措置」は、国際海洋法裁判所が最終判断を下すまで日本が放流できないようにする一種の「仮処分申立て」を意味すると大統領府高官は述べた。日本が多核種除去設備(ALPS)で処理した汚染水が、実際に環境と人体に安全なのかを科学的に検証し、被害当事国である韓国に透明に公開して協議しなければ、韓国は国際海洋法裁判所に日本が放流を始められないよう「暫定措置」を要求できると、国際通商専門家であるソン・ギホ弁護士は説明した。
日本政府が、汚染水約125万トンの放射性物質の濃度を「基準値以下」に下げた後、30年かけて海に放流することを13日に決めたのは、韓国や中国などの周辺国の懸念を無視した措置であるのみならず、漁業関係者を始めとする自国の国民の心配や批判を無視したものだ。放流決定の直後から日本の政府機関はキャラクターまで作り、放射性物質であるトリチウム(三重水素)の安全性を広報し、麻生太郎副総理が「飲んでも何てことはない」と強弁するのは、無責任な態度だ。
国際原子力機関(IAEA)と米国が日本政府の放流決定を支持したことも残念だ。IAEAは原発の安全性擁護の先頭に立って、米国と日本の分担金に依存しており、汚染水放出の安全性の問題を客観的に検証するかどうかに対する疑問が大きくなっている。
日本は、最も大きな被害が予想される近隣の住民だけでなく隣国の意見を無視し、一方的に放流を強行してはならない。ALPSで処理した汚染水の安全性を科学的に評価する過程への韓国の参加を保証し、十分な情報を把握し協議できるようにしなければならない。韓国政府は、国連海洋法条約の加盟国として科学的な検証と協議を要求し、正当な要求が受け入れられなければ国際海洋法裁判所に提訴できるよう、十分に準備してほしい。
●福島第一原発汚染水の海洋放出 閣議決定受けNCCが抗議 4/15
日本キリスト教協議会(NCC)は4月15日、金性済総幹事、内藤新吾平和・核問題委員会委員長の連名で東京電力福島第一原発トリチウム汚染水海洋放出についての政府閣議決定に抗議する声明を発表した。
声明は昨年10月に批准された核兵器禁止条約に、「アメリカの核の傘の下での安全保障」という理由で「日本が世界唯一の被爆国としての主体性をもって加盟する責任を放棄した」ことを非難した上で、今回の閣議決定について「堅固な大型タンクによる地上での保管や、モルタル固化処分についての可能性……について検討しようとしていない」「地元の漁業に携わる人々に対して、あまりにも説明を怠った専断的な決定であり、このことはいたずらに風評被害を助長するほかない」などの理由から反対する意思を表明。
「破滅的破壊行為に晒されて汚染されてしまったこの地球上のいのちと自然生態系に対して、わたしたちは、今一度、いのちと自然に対する畏敬と慈しみのこころを取り戻し、清らかな川のように流れさせながら、このいのちと地球環境に対する破滅的破壊行為を続ける貪欲文明の隷属から解放される道を、勇気と英知をもって決断しなければなりません」と主張し、決定の撤回を強く要請している。全文は以下の通り。

福島第一原発トリチウム汚染水海洋放出についての政府閣議決定に抗議します
内閣総理大臣 菅義偉 様 / 経済産業大臣 梶山弘志 様
「神のかたちに似せてつくられた人間」(創世記1章26−27節)はこの地上のすべてのいのちを「治める」(創世記1章」28節)ことが人間の貪欲のためにいのちと自然を支配するのではなく、人間を含めたすべての被造物が互いに生かし合い、調和するために「耕し(アーバド=仕える)、守る」(創世記2章15節)使命を帯びていると、わたしたちキリスト者は、聖書から教えられます。
この教えに対する人類の最大の反逆のひとつが、核兵器の発明と使用であると言えます。日本は、1945年8月に人類の暴虐としての原爆の投下を受ける悲劇を経験しました。その破滅的な苦難の歴史の中から、核兵器に反対する平和の灯火が日本からともされていくことになりました。
しかしそれにもかかわらず、日本はその後、人間はどのような科学技術をもってしてもその有害性と危険を支配しきれない原子力を、「平和利用」という美名をもって原子力行政を推進し、大地震を起こしうる活断層が多く、津波の被害を受けやすい国土に原子力発電所を広げ、遂には2011年3月に東京電力福島第一原発において最悪の事態を迎え、「安全」神話が崩壊することになったのです。日本からはるか遠く離れた国がこの福島での原発事故から、原子力「平和利用」の虚構に気づき、大胆な政策転換を図り、脱原発の道を選択していきました。
このような歴史から教訓を学ぶことなく、今もなお原子力行政を続ける日本は、その政治において「無責任の体系」を露呈させています。まず指摘されるべきは、昨年10月に批准され、本年1月に発効した核兵器禁止条約に、「アメリカの核の傘の下での安全保障」という理由によって日本が世界唯一の被爆国としての主体性をもって加盟する責任を放棄したことです。いまひとつは、去る3月18日以来の報道によって、日本に暮らすわたしたちを震撼させ、世界を驚かせる東京電力柏崎刈羽原発における、耳を疑う杜撰な管理の実態が暴露されたことであります。人類の英知を結集しても完全に管理統制のできない核・原子力に対して、日本の原子力行政は、いかに深い無責任の闇を抱えているかを思わずにおれません。
去る4月13日、菅政権は、2011年以来、破壊され、以来誰も近づけない東京電力福島第一原発(1号機から3号機)の溶解した核燃料デブリから止むことなく増え続け蓄積された、125万トン以上の放射能汚染水を、海洋放出することを閣議決定しました。すでに敷地内に設置された1,061基のタンクがあと二年後には満杯になることが理由とされますが、その決定が2023年から実行されれば、それは、「多核種除去設備(ALPS)」をもってしても取り除くことのできない、現在まででも総量856兆ベクレルの放射能を持つ200トンにも及ぶ放射性物質トリチウム(β線)が今後30年から40年にわたり、太平洋に放出されることを意味します。
わたしたちは、次の諸点について、政府の説明に深い疑義を抱き、抗議します:
1.1リットル当たりのトリチウム排出基準とされる6万ベクレル/Lに対して、海水で薄めることにより、トリチウム濃度を1/40である1,500ベクレル/Lにまで抑えると、政府は説明するが、1,500ベクレル/Lの正確な意味とは、実際には排水中に含まれるストロンチウム90などその他の放射性物質を考慮した上での、トリチウムに割り当てられた基準値である。政府はそのことを正確に伝えておらず、ただ人々の不安を解消させることがもくろまれ、結果的に誤解を与えることになる;
2.現実的には、現在のタンク貯蔵が二年後に満杯になることから、汚染水の海洋放出という方途を選択するのにもかかわらず、放出されるトリチウムの排出量と基準値の議論をすることは、いかにも後付的な詭弁を免れない。むしろ福島第一原発のトリチウム汚染水の海洋放出を断念することは、福島以上にはるかに大量のトリチウム汚染水の海洋放出が必要となる六ケ所村核燃料サイクル処理工場による海洋放出に影響をきたすことを、政府は懸念しているのではないかと疑念を抱かざるを得ない;
3.政府は、トリチウム汚染水の海洋放出以外に道はないと主張するが、専門家の指摘によると、堅固な大型タンクによる地上での保管や、モルタル固化処分についての可能性を示している。しかし、政府のこの度の閣議決定はそのような可能性について検討しようとしていない;
4.政府によるこの度の汚染水海洋放出の閣議決定は、地元の漁業に携わる人々に対して、あまりにも説明を怠った専断的な決定であり、このことはいたずらに風評被害を助長するほかない;
5.政府は、トリチウム汚染の基準値ばかりでなく、トリチウムの人体や環境への影響についてそのエネルギーは弱く、トリチウムが人の体内に長く蓄積されることなく、排出される、と説明している。しかしながら、放射性物質の体内被曝について詳しく研究する北海道がんセンターの西尾正道名誉院長によると、トリチウムの危険性についてまだ十分に解明されておらず、トリチウムが人の体の中で、「有機結合型トリチウム」に変化することにより、人体にきわめて深刻な内部被曝をもたらすことを警告している
日本政府が言い訳的に引き合いに出すように、すでにこれまでの日本の原発、そして世界の原発は、測り知れなくトリチウム汚染水の海洋放出をしてきました。政府が、自らの汚染水海洋放出を正当化するためにそのような引用をすることは、いのちと地球の放射能汚染危機による破壊を止めるために、何の正当な意味があるでしょうか。
去る4月8日に行われた「宗教者核燃料サイクル事業の廃止を求める裁判」第二回公判で提出された準備書面で、「隣人の家を欲してはならない。隣人の妻、男女の奴隷、牛、ろばなど隣人のものを一切欲してはならない。」(出エジプト記20章17節)の聖書の言葉が引用されながら、原発と核燃料サイクル事業の害悪は、人間のむさぼりの罪である、と朗読がなされました(原告・片岡輝美)。まさに、これまでの原子力事業とは、尊いいのちと美しい自然環境の生態系に対する、その破滅的破壊を顧みない人間のむさぼりの罪というほかありません。
「川が流れて行く所ではどこでも、群がるすべての生き物は生き返り、魚も非常に多くなる。この水が流れる所では、水がきれいになるからである。この川が流れる所では、すべてのものが生き返る。」(エゼキエル書47章9節)
このように破滅的破壊行為に晒されて汚染されてしまったこの地球上のいのちと自然生態系に対して、わたしたちは、今一度、いのちと自然に対する畏敬と慈しみのこころを取り戻し、清らかな川のように流れさせながら、このいのちと地球環境に対する破滅的破壊行為を続ける貪欲文明の隷属から解放される道を、勇気と英知をもって決断しなければなりません。
以上の理由から、わたしたちは、日本政府がトリチウム汚染水海洋放出についての先の閣議決定に対して、抗議すると共にその撤回を強く要請するものであります。 2021年4月15日 / 日本キリスト教協議会 総幹事 金性済 / 平和・核問題委員会委員長 内藤新吾  
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●原発処理水の海洋放出「トリチウム水だから安全」の二重の欺瞞 4/16
「希釈すれば平気」とか「海外でもやっている」という嘘もさることながら、既成事実をつくって反対や疑念の声を押しつぶすやり口をはこれ以上許してはならない。
4月13日、日本政府は、福島第一原発の冷却に使われていたトリチウムなどが含まれる汚染水を、貯蔵タンクの容量が限界に達しつつあるとして、再処理したうえで海洋放出することを決定した。しかしこの決定は国内外に波紋を広げている。
「トリチウム水」だから問題ない?
政府によれば、海洋放出される処理水にはトリチウム以外の放射性核種はほとんど含まれていないという。トリチウムは水から分離することが技術的に難しく、また体内に取り込んでも出ていきやすいので、大きな健康被害は起こりにくいとされている。そのため、海外での原子力発電所でも「トリチウム水」の放出は行われている。だから問題ないのだ、と日本政府は主張している。
しかし問題となっている汚染水は、2018年、他核種処理設備ALPSでの処理を経ているにもかかわらず、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素131などトリチウム以外の放射性核種が検出限界値を超えて発見されたという経緯をもつ。それまで東電は処理水内のトリチウム以外の核種は検出できないほど微量であると主張しており、データが存在していたにもかかわらず、それを説明しなかった。これによって政府・東電の信頼性は大きく損なわれ、海洋放出の決定は先延ばしになっていた。
福島原発事故を経て、大量の核種が紛れ込んだ福島第一原発の汚染水は、他国で通常運転している原子力発電所から排出される処理水とはまったく性質が異なるものだ。東電は2020年末に試験的な二次処理を行い、トリチウム以外は基準値を下回ることに成功したと発表した。しかし、海洋放出を予定している2年後までに、再処理がトラブルなく間に合うのかはまったく不透明だ。
汚染水の海洋放出が決定された同日、経済産業省はALPS処理水の定義を変更し、「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」のみを「ALPS処理水」と呼称することを発表した。ということは現在、基準値を超える核種が検出されている汚染水は「ALPS処理水」ではない。また、「規制基準」をクリアする方法を、「2次処理や希釈」と表現しており、二次処理を経ずとも希釈により基準値を下回ればそれでOKとしているとも解釈できる。少なくともこうした先行き不透明な状況で、「海洋放出されるのはどこの国も流しているトリチウム水だから問題ない」と説明するのは不正確だし、「捕らぬ狸の皮算用」でしかないだろう。
信頼できない東電・日本政府
この海洋放出の決定に、もっとも激しく抗議しているのが、福島県の漁業関係者だ。国は魚介類に対する「風評被害」が出た場合は補償するとしているが、基準も曖昧で信用できない。そもそも2015年、東電は漁業関係者の理解なしに処理水は海洋放出しないという約束をしていたという。そうであるならば、今回の決定は、その約束を反故にしたかたちとなる。
日本政府や東電は、処理水の安全性について「丁寧に説明」すると繰り返し述べている。しかし、政府も東電も、事の本質を見誤っている。福島原発事故から10年、日本政府・東電は、事故の処理について、幾度も無責任な約束をしては、隠蔽・ごまかし・裏切りを重ねてきた。原子炉への地下水の流入は「凍土壁」で完全にシャットアウトできるという説明も、結果として嘘だった。問題になっているのは、「処理水」の科学的安全性ではなく、信頼できない政府・東電の体質なのだ。
そもそも、再処理や海洋放出に関する具体的な計画を東電はまだ作成していない。安全な処理水を排水可能な見通しが全くたっていない状況下で、海洋放出を行うことだけが正式決定されたのだ。
既成事実をつくり、反対や疑念の声を権力的に押しつぶすやり口は、安倍政権時代から続く自民党政治の常套手段だった。安保法制にせよ共謀罪にせよ、強権的な手段で批判の多い物事を決定してから、事後的に「丁寧な説明」をすると述べる。しかしその「丁寧な説明」は行われることはなく、やがて市民は忘れてしまう(そもそも、すぐ忘れてしまう市民にも問題があるともいえるが)。海洋放出の問題で真っ先に問われるべきは、政府・東電の不誠実性なのだ。
「科学」の政治利用
こうした局面で「科学」は、政治的なものを誤魔化すために積極的に用いられる。いくら国や東電が漁協との約束を無視したり、住民の頭越しに放出を決定したりしても、科学的に安全なのだから別にいいじゃないか、そんなことを気にするなんてお前は「放射脳」か?というわけだ。
しかし、水俣病など過去の公害事件の例をみても、公害の責任を取るべき政府・企業とその被害者としての地域住民の間には厳然たる力の非対称性、つまり権力勾配がある。科学技術やデータを独占している国・企業に対して、地域住民が、公害の被害を立証するなど「科学的」に対峙することは極めて難しい。したがって、国や企業が住民に対して公正な手続きや情報公開、限りなく誠実な対応をとることによってはじめて、対等な交渉は成り立つ。
この原則に照らすと、地元合意を海洋放出の条件に加える約束をしてきた以上、合意抜きの海洋放出は永遠にありえない。仮に福島原発の「トリチウム水」の安全性が実証されていようと(実際はまだ二次処理が行われていないので、安全だとはいえないのだが)東電・政府はそれを用いて、約束に基づき、まず地元の漁業関係者を説得しなければいけない。それが、権力勾配がある二者関係での、公正な民主的手続きなのだ。
原発政策の破綻を認め、政治的無責任体制の転換を
4月14日、原子力規制委員会は、柏崎刈羽原発に対し、事実上の再稼働禁止処分を下した。中央制御室への不正侵入や、テロ対策設備の故障を1年近く放置していたことが問題視されたかたちだ。日本の原発政策は破綻している。そもそも、核のごみの処分を将来の技術革新に丸投げする「トイレなきマンション」として運用を進め、その唯一の希望だった「もんじゅ」が大失敗しても誰も責任を取らないという時点で、原発政策のモラルは崩壊しているのだ。
原子力発電事業は断念しなければならない。原発事故の深刻さを少しでも誤魔化して原発事業の延命を図ろうとしているから、前首相がアンダーコントロールという嘘をつき、「トリチウム水」と称する汚染水を海に流そうとする。
原発に限らず、コロナでも、汚職事件でも、かかる政治的無責任体質は継続している。マスコミは忖度して政治的責任を追求せず、政治の不正に甘く、何か政治に怒ることがあってもすぐ忘却してしまう日本社会も共犯者かもしれない。いずれにせよこの政治的無責任体制を終わらせなければ、日本の政治はいつまでたっても良くなるまい。
●原発処理水の海洋放出「人権にリスク」 国連特別報告者 4/16
日本政府が東京電力福島第一原発の処理水を海洋放出する方針を決めたことについて、国連人権理事会の特別報告者は15日、深い遺憾の意を表明した。「放出は太平洋地域の何百万もの命や暮らしに影響を与えかねない」と批判している。
特別報告者の発表によると、「汚染水の放出は日本の国境の内外で、関係する人たちが人権を完全に享受することに相当のリスクを及ぼす」と批判。漁業関係者や環境NGO、近隣国などの何年にも及ぶ議論や心配にもかかわらず政府が決定したことを、「とても懸念している」とした。
また、汚染水処理技術の多核種除去設備ALPS(アルプス)は、福島第一原発のタンクに保管されている汚染水から放射性物質を完全に除去できていないとした上で、放出の前に再度処理しても「成功する保証はない」とした。
日本政府に対しては、危険物質にさらされることを防ぎ、放出が及ぼしうるリスクの環境影響評価を行い、国境を越えた環境被害を防いで海洋環境を保護することなどを求めた。
国連などによると、特別報告者は人権理事会の特別手続きを基に選ばれる独立した人権の専門家で、テーマ別もしくは国別に人権に関する報告を作成し、助言を与える。今回の意見は3人の専門家がまとめた。
●再浄化後、第三者が測定 処理水の放出計画―東電 4/16
東京電力福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含んだ処理水の海洋放出で、東京電力は16日、処分計画の概要を公表した。基準値を上回る放射性物質が含まれる水は二次処理(再浄化)を実施。トリチウム以外の放射性物質を除去し、第三者による測定で安全性を担保するという。
東電が海洋放出に向けて敷地内のタンクで保管している水には、一部で基準値を超える放射性物質が残っている。このため、改めて浄化装置「ALPS」(アルプス)を用い、基準値を下回るまで浄化。セシウム137など62種類の放射性物質などについて、東電と第三者機関が濃度を測定する。
その後、ポンプでくみ上げた海水と混ぜ、トリチウム濃度が水1リットル当たり1500ベクレル未満になるまで希釈した後、海洋に放出する。配管などの新設には原子力規制委員会の認可が必要で、放出まで2年程度かかるとみられる。
また、放出を開始する1年前から海域のモニタリングを強化するほか、処理水を水槽などにためて魚を飼育し、影響がないかどうかを確認。処理水を保管するタンクの増設も検討するという。
●東電社長「万全の体制で対応」 原発処理水放出で、福島知事と会談 4/16
東京電力ホールディングスの小早川智明社長は16日、福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出決定を受け、福島県庁を訪れ、内堀雅雄知事と会談した。小早川社長は「万全の管理体制を構築し、責任と自覚を持って処理水の対応に取り組む」と述べた。
内堀知事は「これまで風評対策などで主体性を十分に感じられなかった。(海洋放出の)実施主体は東電自身だ」と指摘。賠償に際しては「被害者の負担にならないよう、簡便かつ柔軟な方法で迅速に対応してほしい」と要請した。
●風評対策、年内に具体化 閣僚会議が初会合―原発処理水の海洋放出 4/16
政府は16日、東京電力福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出について、風評被害対策や東京電力による賠償方針などを話し合う閣僚会議の初会合を開いた。夏をめどに主な課題を整理した中間報告を取りまとめ、年内に具体策を盛り込んだ実行計画を策定する見通しだ。
加藤勝信官房長官が議長、梶山弘志経済産業相が副議長を務める。福島県の内堀雅雄知事、東京電力ホールディングスの小早川智明社長も出席した。
内堀氏は、政府に対し風評被害対策や農林水産業など県内事業者への支援を求め、東電には廃炉や処理水対策に「覚悟を持ち取り組んでほしい」と要請した。加藤氏は「スピード感のある対策を講じ、必要な予算はちゅうちょなく確保する」と述べた。
●「原発処理水の海洋放出」に反発する野党は、中国や韓国よりレベルが低い 4/16
トリチウムは世界各国でも海洋放出で処理している
東京電力福島第1原子力発電所の敷地内に溜まる「処理水」が海洋に放出されることが4月13日、正式に決まった。
処理水は吸着剤によってトリチウム以外の大半の放射性物質は除去されている。さらに海水で薄め、飲んでも無害とみなされる国際基準よりもさらに引き下げる。東電は2年後の2023年を目途に放出を開始し、放出の期間は30年以上となる。
トリチウムは原発の通常の運転でも発生し、取り除くのが難しいため、世界各国の原子力施設は海洋放出によって処理している。人体や魚介類などに与える影響は極めて少ないとみられている。それにもかかわらず、日本の海洋放出のニュースが伝わると、中国と韓国はすぐに強く反発した。
海洋放出をあえて問題視する中国と韓国
中国外務省の趙立堅(ジャオ・リージエン)副報道局長は13日、記者会見で「無責任なやり方だ。日本の国内問題にとどまらない。周辺の国々の利益を大きく損なう」と述べ、対抗措置を取ることを示唆した。
韓国も具潤哲(ク・ユンチョル)国務調整室長が13日の記者会見で「絶対に容認できない。最も近い国であるわれわれ韓国との協議と了解がない。一方的な決定である」と語った。しかも韓国外交省はこの日、相星孝一・駐韓大使を呼びつけて憂慮の意まで伝えている。
しかも中韓は、事故直後から日本の農水産物の輸入を厳しく規制している。
一党独裁国家の中国は、習近平(シー・チンピン)政権が沖縄県尖閣諸島の領有権を巡って一方的に日本を非難し、領海への不法侵入を何度も続けている。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は徴用工や慰安婦の問題で日本との関係を悪化させたにもかかわらず、折り合いをつけようとはしない。沙鴎一歩は、こうした中韓の非常識な言動について何度も指摘してきた。
中国も韓国も、国際社会の中で自国の主張や立場を有利に展開しようと、日本の処理水の海洋放出をあえて問題視している。それはIAEA(国際原子力機関)やアメリカが日本の海洋放出を支持していることからも明らかだ。
野党政治家の無責任な反発には驚かされるばかり
中国と韓国の反発は想定内ではある。外交では自国の利益を主張するのが当然だからだ。一方で、驚かされるのが、日本の野党政治家の反発だ。
海洋放出が決まった13日、立憲民主党の福山幹事長は記者団に「国民に十分な説明がなされていない。『海洋放出ありき』で進んだとしか言いようがない。環境への影響や風評被害対策が何も示されない状況での決定は遺憾だ」と政府を批判した。
しかし、10年前の福島第1原子力発電所の事故は、旧民主党の菅直人政権のときに発生した。菅政権は現在の立憲民主党の幹部らによって構成されていた。処理水をめぐる問題も旧民主党政権時から続いている。立憲民主党はこうした事実をどう考えているのか。本来ならば、海洋放出の政府決定を支持して原発事故の後処理に協力すべきではないか。
「反発」は消費者の誤解を招き、風評被害を助長する
一方、与党である公明党の山口那津男代表は13日、「当時政権を担っていた方々には、もう少し事実の経過に対して責任を持って発言してもらいたい」と苦言を呈したが、まったくその通りだと思う。
山口氏は「海洋放出はやむを得ない対応だ。国民全体に理解が進むよう、政府に努力してもらいたい。国際社会に対しても科学的な根拠に基づいた発信に努めていくべきだ」とも述べている。
自民党も二階俊博幹事長が13日の記者会見で、「海洋放出は国際的にも広く認められたやり方だ。自民党としても支持したい。政府は地元の不安解消と風評被害の回避に万全を期してほしい」と語っている。
風評被害をできる限り食い止め、福島県産などの農水産物とその加工食品を保護することが政府と政権与党の大きな役目である。
福島県の漁業関係者が海洋放出を問題視するのは、消費者が放射性物質の存在を気にして購買を止めることにある。前述したようにトリチウムの出す放射線はかなり弱く、紙1枚で遮ることができる。地球上のどこにでも存在し、放射線が半分になる半減期は約12年と短い。しかも海洋放出では海水で薄められる。むやみに恐れる必要はないのである。こうした事実を政府は懇切丁寧に説明し、国民の理解を得る必要がある。
野党が中国や韓国と一緒になって反発するのも問題である。消費者が誤解をするからだ。
「ようやく事態打開の可能性が見えてきた」と産経社説
これまで長い間、原発を前向きに扱ってきた産経新聞の社説(主張)は「処理水の海洋放出 『風評』に負けてはならぬ」との見出しを掲げ、「ようやく事態打開の可能性が見えてきた」と書き出す。
掲載日も他紙よりも早く、政府が海洋開発を決める2日前の4月11日付である。
産経社説は指摘する。
「7日の菅義偉首相と全国漁業協同組合連合会の岸宏会長との会談を受けて政府は13日にも関係閣僚会議を開き、トリチウム(三重水素)を含む処理水の海への放出を決断する見通しだ」
この産経社説の見通しは的中した。産経社説はさらに指摘する。
「だが、第1原発の場合は事故に伴う放射能汚染水を浄化処理したトリチウム水なので、危険性はなくても風評被害を招くとして漁業者の間に反対の声が強い」
「そのため、東電は第1原発の敷地内に千基を超えるタンクを建造してトリチウムを含む処理水をためてきたが、来年秋には限界に達する見通しだ。それに加えて廃炉作業の前進には専用地を確保しなければならず、そのためにはタンクの撤去が必要だ」
政府や東電の側に立つわけではないが、海洋放出は避けられないのである。
産経社説は「風評被害は漁業者と政府の共通の敵である」とも指摘し、「根拠のない噂に負けてはならない」と訴える。確かにデマが風評被害を生む。放射性物質に対する正しい知識がいかに重要であるかがよく分かる。
「懸念を抱く国民は多く、納得と信頼欠けたままだ」と朝日社説
朝日新聞の社説(4月14日付)は「処理水の放出 納得と信頼欠けたまま」(見出し)と手厳しく、冒頭部分からこう主張する。
「懸念を抱く国民は多く、強い反対があるなかでの決定だ。政府や東電は社会の理解を得ぬまま放出することなく、対話を尽くす責務がある」
しかし、本当に懸念する国民は多いのか。前述してきたように反発の声はあるが、地元福島の一部の関係者を除けば、表立っているのは中国と韓国、それに野党ぐらいではないのか。
なぜ海洋放出までに10年という長い時間がかかったのか
テレビの夜のニュース番組でコメンテーターが「政府は見切り発車した」と酷評していたが、今回の海洋放出という決断までに政府は10年という長い時間を掛けている。視聴者の多い番組では、事実関係をしっかりと把握したうえで責任ある発言を行ってもらいたい。
後半で朝日社説はこう書く。
「政府や東電は、納得が得られるまで対話を尽くすとともに、放出する場合は客観的で信頼できる放射性物質のモニタリング体制を整えるべきだ。何よりも、不都合なことが起きた時、制度上は公表が義務となっていなくても、積極的に情報公開する必要がある。怠れば不信が深まり、風評被害も拡大する」
もちろん、モニタリングは欠かせないし、情報公開という透明性の確保も必須である。ただ、この10年間、対話を通じて地元の大半は海洋放出の安全性には理解を示しているはずだ。彼らが心配するのは、消費者の理解不足から生まれる風評被害なのである。
●処理水を海洋放出しても…タンク解体できるか見通せず 東電福島第一原発 4/16
政府と東電は、福島第一原発で保管する処理水を放出してタンクを解体することで「新たに必要となる施設の敷地確保につながる」と主張する。だが実際には汚染水の発生をゼロに近づけない限り、タンクを解体していくのは難しい。
現在、構内にはタンクが約1000基あり、約125万トンの処理水が保管されている。現状のタンク整備計画では容量の余力は約12万トンしかない。処理水の放出が最も早い想定の23年から始まったとしても、その前に満杯になる見通しで、解体どころか増設が必要になる。
政府の基本方針では、処理水は30年程度かけて放出する。単純計算で年間の放出量は4万6000トン程度となる。
一方、福島第一では今も1日約140トンの汚染水が発生。これが浄化処理されるので、年間で約5万1000トンの処理水が発生し、想定される放出量を上回る。台風や集中豪雨があれば汚染水はさらに増えるため、処理水の保管に余裕を持たせる必要も出てくる。
東電は4年後の25年中に、汚染水の発生を1日約100トンに抑える目標を掲げる。達成できれば、年間の処理水は約3万6500トンと放出量を下回り、タンクの容量も年間9500トンの空きができる。タンクの多くは1基の容量が約1000〜1300トンで、年間で最大9基を解体できる計算だ。
●海洋放出する「処理水」で魚の飼育も 東電が福島第一原発での方針表明 4/16
東京電力は16日、福島第一原発(福島県大熊町、双葉町)で発生する汚染水を浄化処理した後の水の海洋放出処分を政府が決めたことを受け、今後、風評被害が出た場合は「期間や地域、業種を限定せずに賠償に応じる」などの対応方針を発表した。(小川慎一、小野沢健太)
小早川智明社長は福島県内で記者会見し、「事故当事者としての覚悟と責任を持ち、私が先頭に立って主体性を持って取り組んでいく」と述べた。
風評被害の賠償 期間、地域、業種を問わず
東電によると、放出前には、処理水に含まれるトリチウム以外の放射性物質の濃度が排出基準を下回るまで浄化処理を繰り返し、海水で薄めた処理水で魚類などを飼育して安全性を確認する。放出の1年前から、海水や魚類などに含まれるトリチウムの量も調べる。
処理水を保管するタンクは2022年秋ごろに満杯になる見通し。放出開始は設備の整備や審査で早くても23年になるため、タンクが足りなくなる可能性が高い。福島第一の廃炉責任者の小野明氏は会見で「しっかり検討する」と増設には触れなかった。
福島県漁連との約束 東電社長「反故にしない」
処理水の処分を巡って、東電は15年に当時の社長名の文書で「関係者の理解なしでは海洋放出などの処分はしない」と福島県漁連に約束した。小早川氏は会見で「約束を反故にすることはない」と明言したものの、理解を得られない場合は放出しないのかとの質問には、「理解を得たい」と述べるにとどめた。
小早川氏は会見前、県庁で内堀雅雄知事と面会し、方針を説明した。
知事は面会後の報道陣の取材で、柏崎刈羽原発(新潟県)のテロ対策不備など東電の不祥事が続いていることに「県民に大きな不安や憤りがあるのが現実」と指摘。ただ「処理水の処分は必ずやりとげなければならない重要課題。2年後に向けて、できると立証してもらうことが何よりも重要」と、放出自体は容認する姿勢を示した。 
●平沢復興相、「ゆるキャラ」批判で釈明 トリチウムの説明資料 4/16
平沢勝栄復興相は16日の閣議後記者会見で、東京電力福島第1原発から出る処理水の安全性を説明する復興庁のチラシと動画で、放射性物質トリチウムを「ゆるキャラ化」した表現があるとの批判が出ていることについて「不安、懸念を持たれる方がおられるようであれば、それは私たちの本意ではない」と釈明した。
復興庁はホームページでチラシと動画の公開を一時休止しており、批判を受けた部分を修正する。平沢氏は会見で「『非常に分かりやすくて良い』という人もいた」と述べた。  

 

●原発処理水の海洋放出 4/17
東日本大震災により東京電力福島第1原発で増え続けている放射性物質に汚染された水の処分に関し、政府が海洋放出の方針を決めた。漁業者などから強い反対が起こり、中国や韓国など周辺国からの反発も出るなど影響は大きい。決定に至る過程は透明性が低い上、技術的な議論も不十分で、市民の理解を得たというにはほど遠い。見直しを含めた議論を続けるべきだ。
第1原発では、溶融核燃料(デブリ)を冷やすための注水や流入する地下水などに起因する汚染水が増え続けている。多核種除去設備(ALPS)で放射性物質を除去した後でタンクに保管しているが、除去ができないトリチウムと一部の物質が残っている。
保管中の処理水は3月時点で約125万トンに上り、タンクの容量が来年秋以降に満杯になると見込まれることから海洋放出を決めた。2年後を目途に第1原発敷地内から放出に着手。トリチウムは濃度を国の基準の40分の1未満まで薄めるという。
この方針は政府のトリチウム水タスクフォースでの技術的検討を基に、政府の小委員会が、国内外で実績がある海洋放出と大気放出が現実的とした上で、海洋放出の方が「確実」と結論づけたことが根拠だ。
だが、政府が指名した一部の委員による議論だけで、技術的にも社会的にも広い議論を尽くした上での結論ではない。公聴会などで示された多数の反対意見も完全に無視された。
放出の影響は漁業だけでなく観光業にも及ぶだろう。決定は、事故から10年間、漁業などの再生を目指してきた関係者の努力を無にするものとなりかねない重大なものだ。東京電力に、汚染水問題の正面に立って信頼を得ようとの努力が欠けていたことも大きな問題だ。
政府の決定は、東電に「風評影響の発生を最大限回避する責任が生じる」とし、生じた被害は、東電が賠償するとした。
だが被災者は、事故の賠償を求めた裁判外紛争解決手続き(ADR)で、東電が和解案の拒否を重ね、手続きの打ち切りが続いていることを知っている。これで誰がこの政府の主張を信じるだろうか。
地上での長期保管や根本的な汚染水対策、汚染水からのトリチウムの除去など、十分に検討されてこなかった選択肢を含めて「海洋放出ありき」の議論をやり直し、放出が国内外にもたらすさまざまな悪影響をなくす道を探るべきだ。
東電はもちろん、「原発依存の低減」を言いつつ原発を推進する経済産業省、原子力安全当局などが、市民からの信頼回復に全力を尽くす努力が不可欠であることも忘れてはならない。  
●汚染水を海に捨ててはならないこれだけの理由 大島堅一 4/17  
三重水素とも呼ばれるトリチウム水の分子構造は水とほとんど変わらないため、人体にそれほど重大な影響は及ぼさないと政府はいう。しかし、分子生物学者はむしろそれは逆だという。ほとんど水と変わらないがゆえに、人体はトリチウムを水と区別できず容易にこれを体内の組織に取り込んでしまう。そのためトリチウムは微量でも体内に長期間とどまり、その間人体を内部被ばくにさらし続ける危険性があるのだという。
福島第一原子力発電所に放射性物質を含む汚染水が蓄積され続けている問題で、菅政権は4月13日、東京電力がこれを福島県沖の太平洋に放出する計画を承認した。
この水は破壊された原発の核燃料を冷却するために使用されているもので、冷却の過程で地下水などが流れ込むために1日あたり140トンの放射性物質を含む汚染水が発生し、原子力発電所の敷地内に次々と設置されたタンクに日々蓄積されている。 福島第一原発では破壊された原子炉内の核燃料デブリを冷却するために海水が使われているが、冷却の過程で発生する汚染水からほとんどの放射性物質はALPS(Advanced Liquid Processing System=多核種除去設備)と呼ばれる装置などによって取り除かれている。しかし、水素の同位体で陽子1つに中性子2つを加えただけの、きわめて水素と分子構造が似ているトリチウム水はALPSを持ってしても水と分離することが難しいのだという。
政府が承認した計画では、この汚染水の放射能レベルを飲料水と同じ水準まで希釈してから海に放出する予定で、2年後から放出を開始し、その後数十年かけてすべての汚染水を海に投棄するというもの。
しかし地元の漁協や住民が一貫して海洋放出に反対の意を明らかにしているほか、近隣の中国や韓国などもこの計画を批判している。むしろ、日本人のわれわれがこれに強く反対しないのが不思議だ。
菅政権は汚染水の海洋放出が引き起こす「風評被害」に対しては全力で対策を行うとしているが、この決定はそれ以前のところで大きな問題がある。汚染水を海洋投棄することの問題点は単なる風評被害にとどまるものではない。
そもそもここにきて汚染水問題が表面化した理由は、日々蓄積され続ける汚染水を保管するためのタンクで原発の敷地が埋まってしまい、現在のやり方を続ければ来年の秋にもスペースが足りなくなるという問題に直面したためだった。政府は有識者会議で海洋放出のほか地層注入、水蒸気放出、水素放出、地下埋設の合わせて5つの案を検討した結果、海洋放出が一番コストが安くしかも時間的にも早いと判断されたために海洋投棄を決めたとしている。しかし有識者会議が検討した案は、海洋放出以外は土地の確保や技術開発などの点でいずれも現実性に乏しいもので、有識者会議の検討プロセス自体が始めに海洋投棄の結論ありきのアリバイ作りだった感が否めない。その一方で、政府はNGOの専門家らが現実的な代替案として提唱している大型タンクの設置やモルタル固化処理などの案を検討すらしてない。
また、政府が風評被害を問題にしているところも問題だ。有識者会議はトリチウムの生体への影響としてマウスやラットで発がん性や催奇形性が確認されたデータの存在を認めながら、ヒトに対する疫学的データが存在しないことを理由に、トリチウムが人体に影響を及ぼすことを裏付けるエビデンスはないとの立場をとり、海洋投棄を正当化している。しかし実際には故ロザリー・バーテル博士などによってトリチウムの人体への影響はこれまでも繰り返し指摘されてきた。
日本の放射性物質の海洋放出の基準は1リットルあたり6万ベクレルで、これはICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に則ったものだ。しかし、分子生物学者の河田正東氏はICRP勧告はトリチウムのOBT(Organically Bound Tritium=有機結合トリチウム)としての作用を明らかに過小評価していると指摘する。トリチウムは水とほとんど変わらない分子構造をしているため、体内の組織に取り込まれやすい。体内に取り込まれたトリチウムは取り込まれた組織の新陳代謝のスピードによって体内にとどまる時間は異なるが、長いものでは15年間も体内にとどまり、その間、人体を内部被ばくにさらし続ける場合がある。トリチウムの人体への影響はセシウムのように単に体内に存在している間だけ放射線を出す放射性物質のそれとは区別される必要があると河田氏は言う。
原子力市民委員会の代表として原発問題に取り組んできた経済学者の大島堅一龍谷大学教授は、放射性物質を環境へ放出すること自体も問題だが、そもそも今回の決定には社会的な合意形成のための手続きが踏まれていない点を問題視する。また、実際に海洋放出を行う東京電力や政府に対する不信感が払しょくされないなかで、日本国民のみならず国際的に大きな影響を与える可能性のある決定を強行することにも大きな問題があると指摘する。
そもそも汚染水問題とは何なのか。本当に他の選択肢も十分に検討されたうえで、海洋放出が決定されているのか。実際に海洋放出が行われれたとき、そのような問題が起こり得るのか、なぜ政府は社会的な合意形成を図ることができないのかなどについて、大島氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。  
●日本は原発汚染水の海洋放出を無断で始めるべきではない=外交部 4/17
日本政府が東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を決めたことについて、外交部の趙立堅報道官は16日の定例記者会見で、日本に対して、「自身の責任を認識し、科学的な姿勢を持って、国際的義務を履行すべきだ」と示しました。その上で、「利益関係国や国際機関と協議して意見が一致する前に無断で海洋排出を始めてはならない」と改めて強調しました。
趙報道官は、また、「日本が安全措置を尽くさないまま、世界の海洋環境を破壊するこのような危険な処理方法を頑なに選んだのはなぜなのだろうか。日本が原発処理水を『浄化処理された水』と強調しながら、それをわざわざタンクに入れて密閉保存するのはなぜなのか。日本が海洋放出は国際慣例と国際基準に基づくものとしているが、世界では原発事故の汚染水を海に放出する先例もないのに、『国際慣例』はどこにあるのだろうか。日本側が一方的に出した『基準』というものは、第三者機関による客観的な検証や承認を得ているのだろうか。日本は外部の懸念を重視する姿勢を見せているが、周辺国や国際的な環境保護組織と十分な協議をしているのだろうか。日本はなぜ、国際機関の枠内で中国の専門家を含む合同技術グループを立ち上げ、国際的な検査や監督を受けることを拒んでいるのだろうか。ロイター通信の報道によると、日本政府のある高官が12日、海外メディア宛てのメールで、原発処理水について『汚染された』という言葉を使わないよう求めた。日本側が恐れているのはなぜなのだろうか。これらのことについて、世界各国は理解に苦しんでいる」と述べました。
●原発処理水問題で懸念伝達 韓国外相、ケリー米特使に 4/17 
韓国の鄭義溶外相は17日夜、同日訪韓した気候変動問題を担当するケリー米大統領特使と会談し、日本政府が東京電力福島第1原発の処理水を海洋放出する方針を決めたことへの「深刻な懸念」を伝えた。韓国外務省が発表した。
鄭氏はケリー氏に「今後、日本が国際社会により透明、迅速に情報を提供するよう米国が関心を持ち協力してほしい」と求めた。ケリー氏の発言は明らかになっていない。  

 

●東電から「処理水」海洋放出の手順聴取 原子力規制委 4/19
東京電力福島第一原発の「処理水」の海洋放出について、原子力規制委員会が放出の手順などについて、東京電力から聴取を行いました。
福島第一原発で増え続ける放射性物質の「トリチウム」を含んだ「処理水」について、政府は濃度を薄めたうえで2年後をめどに海洋放出することを決めています。東電は放出の前に必要な設備の設計や手順などをまとめた「実施計画」を原子力規制委員会に申請し、認可を受ける必要があります。  19日の会議では、規制委員会から東電に対し、処理水を薄める方法や含まれる放射性物質の測定方法などが審査対象となることが示されました。東電からは、放出の方法について処理水を政府方針で示された基準を下回るまで再処理することや、環境モニタリングの強化などが説明されました。実施計画の提出スケジュールについては、来月の会議で提示したいと述べるにとどまりました。
●漁業者理解、重い課題 東電社長、約束順守明言―原発処理水 4/19
東京電力福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水をめぐり、東京電力ホールディングスの小早川智明社長は18日、2015年に福島県漁業協同組合連合会と交わした「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」との約束を順守すると表明した。政府は2年後をめどに処理水を海洋放出する方針を決定しており、漁業者らの理解を得ることが重い課題となる。
政府が18日開いた地元説明会で、一貫して海洋放出に反対する県漁連の野崎哲会長は、「(約束について)ご説明いただけなければ、(政府の)基本方針の信頼性は担保されない」と批判した。これに対し、小早川社長は「しっかりと順守してまいりたい」と発言。「風評対策などの懸念について、汗をかいて努力し、一人でも多くの関係者から信頼を得られるようにする」と語った。
一方、政府の担当者は「順守」という言葉は使わず、「より理解を深めるために、さまざまな形で説明したい」と述べるにとどめた。江島潔経済産業副大臣は説明会後、「約束を果たしていきたいという思いに全く変わりはない」と強調した。
約束は、東電が同原発の汚染水発生を抑制するため、敷地内の地下水を浄化して放出することを県漁連に容認させたことをきっかけに、15年に県漁連と国、東電それぞれの間で結ばれた。
●地元漁業者「反対」 東電社長、約束「順守」 ― 処理水放出 4/19
東京電力福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水を海洋放出する方針について、政府は18日、福島県いわき市で、同県内の農林水産・観光業の団体や沿岸部の自治体向けに説明会を開いた。方針の決定後、政府が地元説明会を開催したのは初めて。同県漁業協同組合連合会の野崎哲会長が反対を表明したほか、風評被害への対策や賠償などに懸念の声が相次いだ。
県漁連の野崎会長は「土着して漁業をする立場として反対だ」と述べ、関係者の理解が得られていないと主張した。東京電力ホールディングス(HD)の小早川智明社長は、県漁連と政府、東電が2015年に交わした「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」との約束について、「しっかりと順守してまいりたい」と明言した。
福島県水産市場連合会の幹部は「原発事故による風評被害が残る中、(処理水放出で)追い打ちを掛けられる」と不安視。万全の風評対策を取るよう求めた。
福島県農業協同組合中央会の菅野孝志会長は、周辺諸国で同県産農産物の輸入規制がいまだに解除されていないことに触れ、「安全性について他の国に説明できないことが、国民にできるのか」と政府の情報発信力を疑問視。旅館・ホテル団体の代表は「海洋放出による損害は、風評ではなく実害だ」と強調し、事業者に負担のかからない迅速な賠償体制を整えるよう要請した。
地元自治体からは、安全対策で不祥事が続く東電の信頼性を疑う意見のほか、「国民の理解が進まなければ、漁業者が風評被害の犠牲になるのは明らかだ」(清水敏男いわき市長)と政府が説明に全力を挙げるよう求める声が上がった。
江島潔経済産業副大臣は終了後、記者会見し、漁業者らの理解が得られていないことについて、「最善の努力を続け、説明を尽くしていく」と述べ、業界ごとに意見交換会を開く方針を示した。
政府は13日、処理水を海洋放出する方針を決定した。2年後をめどにトリチウムの濃度を国の基準の40分の1程度に希釈して放出。風評被害が生じた場合は、政府が東電HDに期間や地域、業種を限定することなく賠償するよう指導する。
●東電社長、福島・大熊町長と会談 処理水放出を説明 4/19
東京電力ホールディングス(HD)の小早川智明社長は19日、福島県大熊町の役場を訪れ、吉田淳町長と会談した。東電福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出について説明。東電は放出の実施や海域のモニタリング、風評被害が生じた場合の賠償などを担う。
小早川社長は会談で「福島の復興と(原発の)廃炉を完遂する覚悟で、私が先頭に立って進める」と述べた。会談後、記者団の取材に応じた吉田町長は「積極的に海に流すべきだと思ってはいないが、(処理水を保管する)タンクの敷地が無限ではない中での決定だ」と理解を示し、処理水の安全性について、分かりやすく透明性のある情報発信を東電に求めた。
●ソウル大名誉教授、福島原発汚染水「日本がビールにして飲めば解決」 4/19
韓国・ソウル大学の教授が東京電力福島第1原発処理水の海洋放出決定に関連し、安全を主張する日本に「そんなに安全だと言うのなら、汚染水でビールを作って飲めばいい」と述べた。
ソ・ギュンリョルソウル大・原子核工学科の名誉教授は去る15日、CBSラジオ「キム・ヒョンジョンのニュースショー」とのインタビューで、麻生太郎財務相(80)が「(汚染水を)飲んでも何ということはない」と述べたことについて、このような意見を伝えた。
彼は「そんなに安全なら“召し上がれ”と言えばいい。そんなにキレイだと言うのなら、もったいないから飲料水として使用しろ。日本は水不足の国家だから、(汚染水で)人工湖を作れ。キレイならば(汚染水で)親環境の人口湖を作って、国際社会に及ぼした悪影響への名誉を回復し、国際社会に道義的に返せばいい」と述べた。
それでもまだ、怒りが収まらないソ教授は「工業用水として使い、農業用水として使い、さらには、札幌のように福島特産のビールを作ればいいのではないか?発想の転換をするべきだと思う。安全なら受け入れるべきだ」と続けた。
ソ教授はまた、汚染水を「核燃料が溶け込んだ完全に壊れた水」と表現し、福島汚染水には基本的に200種を超える放射性物質が含まれていると指摘した。
●“日本の原発汚染水放流”、韓国が米の役割を「希望」…米は「介入不適切」 4/19
日韓関係がこれまでの歴史問題に加えて、日本による一方的な福島原子力発電所汚染水放流決定まで発生したことで 更に厳しさを増す中、米国には「仲裁の意志がない」ことが再確認された。
訪韓中のジョン・ケリー米国気候問題担当大統領特使はきのう(18日)、ソウル市内での記者会見で、福島原発汚染水放出問題解決のための米国の役割に関する質問に「核心は、(放出手続きを)きちんと履行することにある」とし「米国は、日本政府が国際原子力機関(IAEA)と十分に協議し、IAEAが非常に厳格な手続きを立てていると確信している」と語った。
また“日本が韓国に十分な情報を提供するよう、米国がその役割を担うのか”という質問にケリー特使は「我々は これがどのように進められるのか、日本とIAEAがどのようにするのかを見守らなければならないが、今は計画していない」とし「すでに進行中であり、非常に明確な規定と期待値のある手続きに、米国が介入するのは適切ではないと考える」と答えた。
ケリー特使のこのような発言は、米国は放流決定自体に「反対せず」、IAEAの検証過程で問題がなければ「介入する意志もない」という意味だと解釈される。
先日 チョン・ウィヨン(鄭義溶)韓国外相はケリー特使との晩餐で、日本政府による汚染水放流決定について、韓国政府と国民の深刻な憂慮を米国側に伝えた。加えて 日本が国際社会に対して透明で迅速な情報を提供できるよう、米国側が関心を持って協力してくれることを求めた。 
●IAEA基準適合なら「反対しない」 原発処理水放出で韓国外相 4/19
韓国の鄭義溶外相は19日、日本政府が東京電力福島第1原発の処理水を海洋放出する方針を決めたことと関連し、国際原子力機関(IAEA)による調査に韓国専門家も参加できるよう日本側に要求する考えを示し、「IAEAの基準に適合した手順に従っていると判断されるならば、あえて反対しない」と語った。 

 

●韓中ロ台は福島第一原発「汚染水」…日米、IAEAは「処理水」 4/20 
福島第一原発事故で生じた放射性物質を含む汚染水を希釈して海に放出するという日本政府の決定に、隣国である韓国、中国、ロシアをはじめ、台湾、太平洋の16の島しょ国、国連の専門家らの懸念の表明が相次いでいる。一方、この問題に決定的な影響を及ぼしうる国際原子力機関(IAEA)と米国は事実上、日本の決定を支持する立場を明らかにしているほか、多くの国は傍観している。
韓国政府は、日本が汚染水の放出を決定した当日の13日、真っ先に強い反対の立場を明らかにした。韓国政府の立場は、19日の国会の対政府質問でのチョン・ウィヨン外交部長官の発言から再確認できる。チョン長官は汚染水の放出に関して、日本政府に対し、十分な科学的根拠の提示▽韓国政府との事前の十分な協議▽IAEAによる検証過程への韓国の専門家の参加の保障の3つを要求していると明かした。この3つの条件が整えられ、汚染水の放出がIAEAの定めた国際基準に適合するなら「あえて反対することではないと思う」と付け加えた。現在のところは提供された情報が不十分で、汚染水の安全性を判断する根拠がないため反対しているということだ。
韓国とともに日本の汚染水放出決定に強く反発しているのは中国だ。中国外交部は、日本が汚染水の放出決定を発表した13日に「談話文」を発表し、「(日本は)一方的に汚染水処理を決定した」とし、「極めて無責任で、国際健康安全と周辺国の国民の利益に深刻な損害を与える」と批判した。外交部の趙立堅報道官は、日本による汚染水放出決定について「国際安全基準に則ったもの」との立場を示した米国も批判した。
ロシア外務省も13日(現地時間)、マリア・ザハロワ報道官名義の論評で「日本が提供した公式情報は不十分だ」とし「深刻な憂慮」を表明した。
台湾政府は、より具体的な対応方針を明らかにした。15日の「自由時報」などによると、行政院農業委員会の陳吉仲主任(長官)は「日本の放出した『核廃水』の影響を実際に台湾の漁業が受けたら、日本政府を相手取って求償権を行使する」と述べた。陳主任は、汚染水が放出されれば、損害額は影響圏にある25の魚種で年間140億台湾ドル(約5500億ウォン、約533億円)に達すると説明した。
太平洋諸島フォーラム(PIF)の16カ国の加盟国も日本の汚染水放出発表の直後、「深い懸念」を表明する声明を発表した。メグ・テイラー事務局長は「日本政府が太平洋諸島フォーラムの加盟国と追加協議を行い、加盟国すべてが満足できる独立の専門家による検討が行われるまで、多核種除去設備(ALPS)の処理水の排出行為を保留することを緊急に求める」と述べた。日本の周辺国を中心として憂慮が示されてはいるものの、まだ個々の国または地域レベルの動きにとどまる。このほか、国連人権理事会(UNHRC)に所属する3人の特別報告者も、15日(現地時間)に「多くの人の命と環境全般に及ぼす影響についての警告を考慮すると、日本政府の決定は非常に憂慮される」との声明を発表している。
一方、日本による汚染水の放出過程を検証することになるIAEAは「日本の発表を歓迎」した。IAEAのラファエル・グロッシー事務局長は13日(現地時間)の声明で「IAEAはこの計画の安全かつ透明な履行を追跡観察し、確認する技術的支援を提供する準備ができている」、「日本が選択した水の処理方法は技術的にも実現可能で、国際的慣行に則ったものでもある」と述べている。この声明では、放射性物質に汚染された水ではなく「処理水(treated water)」、「制御された水(controlled water)」、「水(water)」という用語が使われている。
米国のジョー・バイデン政権も、「処理水」という表現を使いつつ、日本政府がIAEAと緊密に協議することを「確信」している。韓国政府の協力要請に対しては、介入する意思はないということも米国は明確にしている。「処理水」とは、「汚染水」をALPSで浄化すれば、トリチウム(三重水素)などを除く放射性物質は除去されるという理由で日本政府が使用している用語だ。米国の立場について、チョン長官はこの日、「日本政府による原発汚染水の放出問題はIAEAの適合性判定を受けなければならないという基本原則は、米国政府も韓国と同じだ」としつつも、「(日本の)放出決定後の米国の発表内容は政府と異なる部分が多いため、政府も様々なルートを通じて米国側に韓国の立場を確実に説明」していると述べた。
ドイツ政府は、汚染水の放出についての政府の立場をただす13日(現地時間)の質問に対し、17日に書面で回答し、「日本はドイツ環境省に対し、これについての説明のための対話を提案」してきたとし、「この機会を利用して、今後の進め方とありうる影響についてただす計画」と明かした。 
●宮城知事「安全と安心は別もの」 東電社長に要請書―原発処理水放出 4/20
宮城県の村井嘉浩知事は20日午後、同県庁で東京電力ホールディングスの小早川智明社長と面会し、東電福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出について説明を受けた。村井氏は「安全であることと安心であることは別ものだ」と述べ、周辺自治体でも懸念される風評被害への対策などを求め、要請書を手渡した。
村井氏は面会後の取材に「福島ファーストにならないでもらいたい。特に宮城県は、水産業が本格操業していて被害が大きくなる」と風評への懸念を強調した。小早川氏は「風評の影響は地域、業種、期間を問わず意見を伺い、まずは風評が起こらないような対応を図ることが重要だ」と話した。
●大井川茨城知事「漁業者納得せず」 東電社長に対策要請  4/20
東京電力ホールディングスの小早川智明社長は20日午前、茨城県庁で大井川和彦知事と面会し、東電福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出に関する対応を伝えた。大井川知事は「県内の漁業者が納得している状況ではない」と述べ、関係者への説明や風評被害対策を徹底するよう求めた。小早川社長は「重く受け止める」と応じた。
●処理水大阪湾放出に「覚悟」 吉村知事、検討重ねて表明 4/20
大阪府の吉村洋文知事は20日までに、東京電力福島第1原発から出る処理水の大阪湾への放出について、政府からの要請を前提に検討する考えに変わりがないことを強調した。府庁で記者団に「覚悟がなければこの場で発信しない。腹をくくったから言うということだ」と語った。
放射性物質トリチウムを含んだ処理水について、吉村氏はかねて、科学的根拠に基づいて環境基準を満たすのであれば海洋放出を容認すべきだと主張し、大阪湾での受け入れも検討する意向を表明。政府が海洋放出する方針を決めた13日にも「政府から正式に要請があれば真摯に検討する」と明言していた。  
 4/21-25

 

 

●汚染水の海洋放出 安全性と風評被害に懸念 4/21 
「本当に安全というならまず東京の海に流しては」。東京電力福島第1原発のトリチウムなど放射性物質を含んだ汚染水を海洋に放出するという政府の決定にこんな批判発言が地元で出た。漁師である檀家の心配の声を以前から聞いていた福島県の住職は「その気持ちも分かる」と話す。
発言はもちろん皮肉ではあるが、背景に深い憤りがある。原発事故で故郷を追われ、ようやく帰還して風評に怯えながら試験操業を長年続けた漁民が、やっと漁業を再開しようという矢先の決定。福島県や全国の漁連会長は国が「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」とした立場を覆したとして「漁業者の思いを踏みにじる行為」と抗議した。批判は全国の市民や近隣諸国からも相次ぐ。
政府は、放出は他国の原発でも実施しているし、世界的基準よりもずっと希釈すると説明する。だが「よそでやっているから」が安全証明にならないのは自明だし、もともと太平洋に流せば薄められるのが当然で、問題は濃度ではなく元の汚染物質の総量であることは誰でも分かる。
他国原発で「ほとんど問題のない量」と関係者自らがPRしてきたはずの通常運転での放射性物質の量と、3機もがメルトダウンし溶け出した膨大な核燃料が地下水と接触し続けている恐れが指摘される第1原発とを同列に語ることが正しいのか。「トリチウムは自然界にも存在する」との言に至っては、50年も前に「南米では自然放射能が高い所もある」と原発推進の“安全神話”で繰り返された牧歌的売り文句を彷彿させる。
なぜこの時期にコロナ禍大騒ぎの陰で決定を、との疑問には、8年前に「事故はアンダーコントロール」と弁明して誘致した東京五輪が間近に迫り、その後の対応進展が国際的に注目されるからとの見方もある。仮に放出水が本当に安全として風評だけが問題なら、冒頭の発言は暴論でもない。例えば大阪府知事は政府発表を受け、大阪湾での放出について「正式要請があれば真摯に検討していきたい」と表明した。「風評被害を抑えることが重要。福島だけに押し付けるのはあってはならない。日本全国で考えるべき問題だ」と。
風評被害への賠償を義務付けられた東電は、事故後の対応の実態を見てもその能力と姿勢に大きな疑問符が付く。安全を前提に、福島産の魚を政府や東電関係者が積極的に食するのは空想的だろうか。多くの国民にも、そして宗教界にもすることがあるだろう。それが真に「原発事故に苦しむ福島県民に寄り添う」ということだ。 
●日本政府の汚染水の海洋放出決定後、日本の世論「仕方ない」へと変化 4/21
日本政府が今月13日に福島第一原発の汚染水の海洋放出方針を発表したことを受け、放出に反対する人が減り、「仕方ない」として政府の決定を受け入れる世論が高まっていることが分かった。
毎日新聞と日本社会調査研究センターは18日、世論調査(回答者1085人)を実施した結果、日本政府が福島第一原発の汚染水を海に放出する方針を決めたことについてどう考えるかという質問に対し、54%が「仕方ない」と答えた。「他の方法を考えるべき」は36%にとどまった。政府の決定が出る前の昨年11月、同じ調査では「仕方ない」が47%だったが、今回は7%上昇した。一方、性別による意見の相違も明確に表れた。男性は「仕方ない」という意見が61%を占めていたが、女性の場合は41%で、「他の方法を考えるべき」(44%)を下回った。
産経新聞とFNNが17〜18日に実施した世論調査(回答者1180人)でも、「福島第一原発処理水(汚染水)について、放射性物質トリチウムを基準値以下に希釈して海洋放出する政府の判断」に対する質問に対し、「評価する」が46.7%で、「評価しない」(反対)45.3%より少し(1.4ポイント)高かった。同調査でも支持政党と性別による違いがはっきりしていた。自民党支持者は62.2%が賛成している一方、立憲民主党(65.4%)と共産党(73.7%)支持者では反対意見が圧倒的に多かった。男性は56%が賛成の立場を示したのに対し、女性の場合は37.9%にとどまった。
世論調査機関ごとに数値の差はあるものの、政府方針が決まってから反対意見が減っている。昨年11〜12月の朝日新聞の世論調査では、福島第一原発汚染水の海洋放出に対し、回答者の55%が反対し、賛成は32%にとどまった。
ただし、福島県などの漁業関係者たちは強く反対している。東京電力は今月18日、福島で汚染水の海洋放出決定について、地元の意見を聴取する場を設けたが、漁業関係者らによる批判が相次いだと読売新聞が報じた。同紙の報道によると、福島県漁連の野崎哲会長は「地域住民や漁業者の合意を得なければ放出決定をしない」との約束が守れなかったことに対し明確な回答がないとして、「どうして約束が破られたのか公式な説明が必要だ」と国側の対応を批判した。福島県水産加工業連合会の小野利仁代表も「東電はもとより、国に対しても信頼関係が崩れた」と反発した。 
●福島第1原発の処理水処分、輸入水産物の監視体制の強化を発表 4/21 
韓国の海洋水産部は4月13日、「福島原発汚染水(注1)の海洋放出に関する海洋水産対策−海洋水産部、汚染水流入監視および水産物安全管理を重点的に推進−」を発表した。対策の概要は以下のとおり。
(1)全国の沿岸海域に対する放射性物質の監視網を細分化し、トリチウム、セシウムなど放射性物質の国内海域への流入状況の監視を強化する。
(2)福島原発汚染水の海洋放出による水産物安全の懸念を最小限に抑制するため、食品医薬品安全処、海洋警察庁、自治体などの関係機関との協力をさらに強化し、以下のとおり水産物の安全を確保する。
1. 国内水産物の場合、サンマ、ワカメなど40種類余りを対象とした放射能検査(注2)を食品医薬品安全処の強化された検査方法(注3)に従って綿密に行い、国内水産物の安全性を担保する。
2. 海洋への放出が実施された際は、上記1.の汚染水が流入する海域で生産される水産物と遠洋水産物に対する放射能検査を拡大する案を関係省庁と協議を予定。
3. 輸入水産物に関する安全管理を強化する。現在、輸入水産物放射能検査を通じて、安全性が確認された水産物のみが輸入されているが、海洋水産部は韓国国民の健康が危害にさらされないよう、日本産などの輸入水産物に対する流通履歴の管理(注4)と原産地の取り締まりなどを強化、食の安全を一層確保する。
(注1)原文をそのまま引用、以下同じ。
(注2)2020年は2,699件の検査を実施し、全て基準値以内。
(注3)放射能検査にかかる分析時間を従来の1,800秒から1万秒に延長。
(注4)輸入水産物を国内で取引する場合、流通段階別取引明細の申告を義務化。現在17品目が告示され、このうち8品目(ホタテガイ、ホヤ、マダイ、ブリ、スケソウダラ、タチウオ、ガンギエイ、ヌタウナギ)は日本からの輸入実績がある。 
●福島原発事故、アルプス処理水を海洋放出して良いのか 4/21 
はじめに
ほかの「報道で語られない切り口」で問題提起を行いたい。
政府は4月13日、東京電⼒福島第1原発(福島県⼤熊町、双葉町)で溜まり続けている「処理水」を、福島沖の太平洋へ放出処分すると発表した。原発事故の生々しい現実は、東京新聞記者片山夏子氏の著書『ふくしま原発作業員日誌』に詳しく描かれている。一読をお勧めする。
復興庁のトリチウム動画問題
4月13日に公表され、同14日に削除された復興庁のトリチウム動画(YouTube)を参照してほしい。
全体的に、都合の良いことばかり話されており、不都合なことはまったく話されていない。「ゆるキャラ」を使い、真実を隠そうとしたのだろうか。
動画の冒頭で「ALPS処理水について知ってほしい3つのこと」と表示される。次に出てくるのは、「誤った情報に惑わされないために」「誤った情報を広めて苦しむ人を出さないために」だ。政府にとって都合の良い情報だけを発信しているのに、この表示はどういう意味をもつのだろうか。「誤った情報に惑わされないために」「誤った情報を広めて苦しむ人を出さないために」ならば、トリチウムに関する正確な情報を出すべきだ。政府にとって不都合な事実も出さなければ、「誤った情報に惑わされないために」という言葉に見合った動画にはならない。むしろ、惑わせているのは、「政府・東電・復興庁」だ。
次に、「3つのこと」が順に登場する。
1つ目は、「トリチウムは身の回りにたくさんあります」。トリチウムは地球環境中にたしかにある。以前は、宇宙からやってくる宇宙放射線により、大半が大気上層部でつくられていた。ところが、第2次世界大戦以降、とくに1950年代の米国とソ連の軍備拡張競争による核実験や原子力発電所の増設で、大気中のトリチウムの濃度が急上昇した。加えて、大気や海洋では他の放射性物質も急激に増加した。この内容は、後述する「トリチウム」「放射性炭素14Cの生体内での挙動」の項目を参照してほしい。
2つ目は、「トリチウムの健康への影響は心配ありません」。「トリチウムが出すベータ線は弱い」「トリチウムは体内に蓄積されない」「ベータ線でDNAが傷ついても修復され問題ない」という話だ。これについて筆者は、後述する「トリチウム水の生体内の挙動」の項目で詳しく述べる。復興庁の動画で話されているように、単純な「トリチウム水」は体内から容易に出ていくことは確かだ。しかし、「有機結合型トリチウム」は体内の構成物質に取り込まれ、そのトリチウムにより「内部被曝」が起きるため、単純な問題ではない。詳しくは、後述する「トリチウム水の生体内の挙動」の項目を参照してほしい。
3つ目は、「取り除けるものは徹底的に取り除き、大幅に薄めてから海に流します」。これについても、後述する「『処理水』とは何か。ALPS(多核種除去設備)の問題〜本当に処理されているのか」「放射性炭素14C問題」の項目などで詳しく述べるが、「ALPSでは放射性物質を完全には取り除けない」ということだ。東電も認めているにもかかわらず、動画では「取り除けるものは徹底的に取り除き」と話しているが、うがった見方をすれば、「取り除けないものは、そのままにして海洋放出します」という意味とも読み取れる。
余談
50〜60年代に、核実験において「極めて高い放射線を出す微粒子」が降り注いでいた事実を知っているだろうか。筆者も、福島原発事故で放射線の専門書を読んで初めて知ったことであるが、大気中の核実験、とくに日本より西に位置する「ソ連」や「中国」の大気中核実験により、これらの放射性物質が偏西風に乗って日本に飛来した。
新潟大学の小山誠太郎氏(著書:『環境と放射能 汚染の実態と問題点』)が調査しており、「ホット・パーティクル」や「ジャイアント・パーティクル」と呼ばれていた。当時、筆者はまだ子どもだったが、頭部の円形脱毛症が流行し「風土病」と言われていた(筆者は岩手県と福島県で確認した)。筆者は、この事実を知ってから「ホット・パーティクル」と円形脱毛症の関連性を疑い、医師に相談した。当医師は、興味を示したが、高齢のため、調査をしないまま3年前に亡くなった。
「ホット・パーティクル」の事実は、ヨーロッパでは問題視されたが、日本では報道されなかったと記憶している。小山氏のこの論文自体が忘れ去られており、1970年代および新潟県と広島県の論文に見かけるだけである。
福島県知事 内堀雅雄氏の発言問題
福島県知事の内堀雅雄氏は4月15日、ALPS(アルプス)処理水の海洋放出に関する記者の質問に対し「福島県自身が『容認する』『容認しない』という立場にあるとは考えていません」と発言した。内堀氏は、福島県民の代表者であるにもかかわらず、福島県民の立場ではなく、政府・東電の立場に立って発言したとしか思えない。筆者は、内堀氏が「福島県民はこう考えているから、政府・東電はこうしてほしい」と発言すべきであり、立ち位置を誤っていると考えている。
「処理水」とは何か。ALPS(多核種除去設備)の問題〜本当に処理されているのか
ALPS処理水という言葉は字面から見ると、「適正に処理されたきれいな水」と思われるが、はたしてそうだろうか。
福島第1原発事故では、総電源喪失により原子炉圧力容器内を水で冷却できなくなり、内部の核燃料が自ら発する熱で溶け出し(メルトダウン)、周辺の金属と交じり合って合金(核燃料デブリ)をつくった。この核燃料は、原子炉格納容器にまで溶け出し(メルトスルー)、その後、冷却機能が回復して「冷温停止状態」となった。
この「冷温停止状態」とは、政府が苦し紛れにつくった「造語」だ。「冷温停止」という言葉があるが、これは原子炉がコントロール下にある状態を指す。一方、今は核燃料デブリに大量の水をかけて、何とか冷やしており、原子炉がコントロール下にある「冷温停止」とは到底いえない状態だ。「状態」という語句をくっつけて誤魔化(ごまか)しているのだ。
1時間あたり3〜4トンの核燃料デブリにかけている冷却水(2021年現在)、さらに原子炉格納容器の割れ目から大量の流れ込んでいる地下水が混じり、「汚染水」となっている。
原子力資料情報室によれば、汚染⽔の処理では、放射性物質62種類を対象としているという。前処理として、セシウムとストロンチウムを除去装置「サリー」および「キュリオン」で分離した後、淡⽔化装置で塩分を分離した処理水を多核種除去設備ALPS(アルプス)で処理している(詳細はこちら)。
ALPSは放射性物質を多種多様のフィルターを使って取り除く装置(詳細はこちら)であるが、フィルターに放射性物質が吸着するため、フィルター自体を20日程度で交換しなくてはならない。また、放射能汚染の法的な限度は1Lあたり約6万ベクレルである一方、処理した水には、トリチウムが1Lあたり約160万ベクレル(※1)と極めて高い値で残存し、ストロンチウム90、ヨウ素129などの他の放射性物質も法的な限度の濃度を超えているものがある。
上記の法的な限度とは「特定原子力施設への指定に際し東京電力(株)福島第一原子力発電所に対して求める措置を講ずべき事項」(平成24年原子力規制委員会決定)によるものだ。汚染水の濃度限度(最高値)とは、「放射性物質1種類が入った水を、ある人が0〜70歳まで毎日飲み続けたときの年平均値(放射線の総量を70歳で割った量)が1ミリシーベルト(※2、1年間の実効線量限度、被爆限度量)になる汚染水の濃度」を言う。つまり、この汚染水を毎日(1.40〜2.65L、年齢により飲む量が異なる)飲んで、毎年1ミリシーベルトの被曝になる汚染水の濃度を「汚染水濃度の法的限度」と言う。
※1:ベクレルとは、物質が放射線を出す能力およびその量。一般に「放射能」といわれる。放射能は、能力のため、物体のように移動はせず、たとえば「放射能が空から降ってきた」という表現は明らかな間違いだ。
※2:シーベルトとは、放射線が人体に与えるダメージの量。
トリチウム
水は「水素原子2個と酸素原子1個が結合した分子」であり、そのうちの水素原子は「原子核に陽子が1個あり、その周りを電子1個が回っている」ことは、よく知られていることだろう。
通常の水素原子は「原子核に陽子が1個だけ」であるが、この原子核に中性子が1個加わると「重水素、デューテリウム」になり、中性子が2個加わると「三重水素、トリチウム」になる。
トリチウムは放射性物質で、半減期(その半数が分解するのに要する時間)は12.32年で、ベータ線(電子、放射線の一種)を出しながらヘリウムへと変化する(ベータ崩壊)。このときに出るベータ線が、人体などに悪影響を与える。
トリチウムは、大気上層中で宇宙線中の中性子と窒素原子核との衝突でできるものであるが、第2次世界大戦以降、大気中の核実験によりトリチウムの量が急増し、従来の約200倍に達した。また、トリチウムは、通常の水と一緒に「トリチウム水」として人体に取り込まれるため、体重60 kgの人では体内に50ベクレル(放射能)程度のトリチウムがある。
トリチウム「水」
このトリチウムが、水分子H2Oの「通常の水素原子H」と置き換わったものが「トリチウム水」だ。性質は、通常の水と変わらないが、中性子2個分重いことと、ベータ線を出す点は通常の水と異なる。そのため、通常の水とトリチウム水は同じような性質で、加えて交じり合っているため、汚染水からトリチウム水だけを取り除くのは難しい。
「2015年、キュリオン社がトリチウムの分離技術を開発した」との記事について、グリーンピースの『東電福島第一原発 汚染水の危機2020』では、政府および東電は「コストがかかることからキュリオン社のトリチウム分離技術を採用しなかった」と指摘されている。
トリチウム水の生体内の挙動
トリチウム水は、生物の体内に入ると、通常の水のように動く。これについては、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構による説明を、以下にまとめる。
飲料水や食物から摂取されたトリチウム水は、消化管からほぼ完全に吸収され、呼吸によって肺に取り込まれる。体内に取り込まれたトリチウムは、24時間以内に体液中にほぼ均等に分布する。問題は、「有機結合型のトリチウム」だ。
生物体は、骨以外はタンパク質・糖・脂肪など(有機化合物、簡単にいうと炭素・水素・窒素などの化合物)からできていて、これら有機化合物にトリチウムが入り込んだ物質を「有機結合型トリチウム」という。これは有機化合物のため、水のようには排泄されず、体内に長くとどまる傾向がある。
生物学的半減期(摂取量の半分が生体内から排出されるのにかかる日数)は、経口摂取した「トリチウム水」の場合が約10日であるのに対し、有機結合型トリチウムの場合が約30日〜45日とされる。この間、トリチウムから出る放射線のβ(ベータ)線によって「内部被曝」する。さらに、長期間にわたって低濃度のトリチウムを取り続けた場合、長期間、内部被曝する。
あくまで極端な例ではあるが、トリチウム夜光塗料を仕事で使っていた1960年代のヨーロッパの職人の例を挙げる。この職人は、トリチウム入りの塗料を筆につけ、筆先を舐めて時計の文字盤に塗っていたが、この舐める行為により、トリチウムを体内に取り込み続けた。尿中のトリチウム量から被曝線量は3〜6シーベルトと推定される。症状としては、全身倦怠、悪心、その後の白血球減少、血小板減少が起こり、汎血球減少症が原因で死亡した。
放射性炭素14C問題
グリーンピース「東電福島第一原発 汚染水の危機2020」の14ページでは、汚染水に含まれる放射性炭素14Cの問題を取り上げています。この件は、次の項目「放射性炭素14Cの生体内での挙動」で述べる。また、同15ページの「東京電力は、2020年8月27日になって、ALPSで放射性炭素14Cが取り除かれていないことを認めた」ということは、東電のHPの3ページにも記載されている。この事実は、海洋放出されようとしているALPS処理水に「放射性炭素14Cが残存する」ことを意味しており、極めて重要なことだ。
放射性炭素14Cの生体内での挙動(内部被曝)
放射性炭素14Cの挙動は深刻だ。人間の体は、骨以外は有機化合物(炭素Cを骨格とする化合物)からできている。炭素には結合する腕が4本あり、腕が立体的に伸びているが、この4本の腕に、腕が1本の水素や2本の酸素、3本の窒素がくっついている。この有機化合物の骨格にある炭素が放射性炭素14Cに置き換わった場合、生体に組み込まれているため、体外への排出が困難となり、内部被曝が長く続く。放射性炭素14Cの生物学的半減期(体内に取り込んだ量の半分が排出される日数)は約40日と言われているが、有機化合物に入り込んだ放射性炭素14Cが、尿から排出されてなくなるまで約400日かかる。
さらに問題なのは、人間が食物連鎖の頂点(最終段階)にいることだ。生物体を構成する物質は、骨を除くと、有機化合物(炭素の化合物、炭水化物・タンパク質・脂質など)だ。放射性炭素14Cは、微生物・植物から小動物・小魚、そして大型動物・大型魚と濃縮されながら、最終的にヒトの体内に入り、その間、どんどん高濃度になる。これは放射性炭素14Cだけの問題ではなく、農薬などでも同じことであり、海洋放出では、この点も問題となる。
放射性炭素14Cは、半減期(個数が半数になる時間)が5730年のため、放射性炭素14Cが人の体内に入るとベータ線を出しながら窒素に代わる。このとき、体内では「内部被曝」が起きる。また、この時、放出されるベータ線のエネルギーはトリチウムより大きいため、体へのダメージが大きい。
また、人体の設計図DNA(遺伝子)にもタンパク質(ヒストン)が存在し、このタンパク質の構成炭素が放射性炭素14Cに置き換わった場合、DNA(遺伝子)がベータ線で傷つく。傷ついたDNAが修復できなくなると、アポトーシス(細胞自死)が起きる。
たとえば、体内でDNAのコピーミス(体の中では、いつでも細胞が入れ替わっている)で異常細胞が生じると、通常はアポトーシス(自死するプログラムが発動)が起きて異常細胞は死に、ガン化を防ぐ。しかし、被曝などでアポトーシスが大量に起きて細胞死が全身におよぶと、ヒト自体が死亡する。「トリチウム水の生体内の挙動」という項目で書いたヨーロッパの職人の死は、体のいたるところで起きたアポトーシスによるものだ。
放射性炭素14Cは自然界にも存在し、体の中にも微量であるが存在する。また、大気中の放射性炭素14Cは、米ソ中などの大気中核実験により、1965年頃にはそれ以前の約1000倍に増加した。
ALPS処理水の海洋放出〜海はゴミ捨て場か
世界の原発から毎日、処理水が海洋および大気に放出されています。トリチウムの海洋放出の量は、例を挙げると、韓国・月城原発約136兆ベクレル(2016年)、フランス・ラ・アーグ再処理施設約1京3,778兆ベクレル(15年)、イギリス・セラフィールド再処理施設、約1,624兆ベクレル(15年)、カバダ・ダーリントン原発、約495兆ベクレル(15年)だ(詳細はこちら)。福島第1原発事故で大気中に放出された放射性物質の量は、原子力安全委員会(11年8月22日発表)によれば57京ベクレルだ。
このように世界の原発からは、原発事故でもないのに、大量の原発のゴミが垂れ流されている。大気や海は、広大に見えるが、核のゴミを世界各国で少しでも放出すると塵も積もれば山になる。その証拠に、1945年以降、地球環境では、放射性炭素14Cやトリチウムの濃度が高くなっている。このような、将来にツケを残す方法で良いのだろうか。
私の提案
筆者は、ALPS(アルプス)処理水の海洋への投棄は「反対」だ。自然環境中に人工物を廃棄すべきではない。しかし、政府・東電が「取り返しのつかない馬鹿な事」をしてしまった以上、汚染水は溜まり続けてどうしようもない状態になっており、「ただ反対」では済まされない。
筆者は妥協案として、まず、現在の放射性物質除去技術の粋を集めて「汚染水の徹底的な浄化」をすべきと考えている。たとえば、トリチウムは、キュリオン社やヴェオリア社の「モジュール式トリチウム除去システム」を導入して可能な限り除去する方法だ。発想を転換すると、「微生物」「植物」による除去も有効と考えているが、ALPSだけに頼って、汚染水を10年も溜めてしまったため、おそらくこれでも間に合わないだろう。
次に、放射性物質を可能な限り除去した水を海洋に投棄する。これもロンドン条約の縛りがあり、公海には流せないため、たとえば、深海調査船「しんかい6500」などの技術で、陸上から太いパイプを可能な限り、深海まで伸ばして投棄する。海面から「表水層」「躍層」「深水層」となるため、「躍層(深度約500m以下)」より下に投棄する。各層間には境界面があり、混じりにくくなっており、トリチウムの半減期が12.32年のため、85年で残存するトリチウムは1%程度になる。このように封じ込めれば良い。
次に、漁民への対応だ。現在、「風評で魚が売れなくなる」と問題になっているが、水俣病(メチル水銀汚染)問題では、原因企業の「チッソ(株)」が水俣湾で漁民が獲った魚を全量買い上げたように、原因企業の「東京電力」が漁民の獲った魚を全量買い上げれば良い。
東電は、戦前には満州国にあった資産の大半を敗戦ですべて失ったチッソより、はるかに大企業だ。さらに、たとえば4月13日、麻生財務相は「(浄化水)を飲んでも何でもない」と発言したように、政府・東電が「魚は安全」と主張するなら、政府・東電関係者で率先して消費すれば良い。ちなみに、水俣病問題では、チッソに買い上げられた魚は全量処分された。 

 

●原発処理水、菅首相「できること全部やる」 内堀福島知事、風評対策要請 4/22
菅義偉首相は22日、東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含む処理水を海洋放出する政府方針について、福島県の内堀雅雄知事と首相官邸で会談した。内堀氏は万全な風評対策や事業者支援を要請。首相は「できることは全部やる」と応じた。
内堀氏は、関係者への丁寧な説明や、国内外に対する正確な情報発信なども求めた。首相は「県民、特に漁業者の皆さんの思いを真摯(しんし)に受け止める」と強調した。
会談後、内堀氏は記者団に「今回の処理水の問題は、福島県だけでなく、日本全体の問題だ」と指摘。その上で「首相自身が前面に立ってしっかりと責任を果たしてもらうことが重要だ」と注文を付けた。
●王毅外交部長、「日本は福島原発汚染水の問題を慎重に扱うべき」 4/22
王毅国務委員兼外交部長(外相)は21日、ドイツのマース外相とテレビ会談した際、日本の福島原発汚染水の問題に言及した。
王部長は、「日本政府は安全な処分方法を研究し尽くすことなく、全面的な情報公開をせず、周辺諸国や国際社会との協議もせぬまま、福島原発の原発汚染水の海洋放出によって処理することを軽率に決定した。これは中国をはじめとする周辺諸国の人々の切実な利益を直接危険にさらし、世界の海洋環境及び世界健康安全保障も脅かすものであり、最終的に日本を含む国際社会の共通利益を損なう。日本は国際社会、周辺諸国、及び自国民の重大な懸念に真剣に応え、国際的な公共の利益に対してきちんと責任を負う姿勢で、しかるべき国際的義務をしっかりと履行し、現在の計画を考え直し、各利害関係者及び国際原子力機関(IAEA)と十分に協議し、かつ一致にいたった上で慎重に対処すべきだ」とした。
●海洋放出に福島県民の怒りの声「6年前の約束ほごにされ…」 4/22
菅首相は4月13日、福島第一原発で増え続ける“処理水”を海に流して捨てることについて、閣議決定。環境や人体への影響を懸念する地元住民や専門家からは、反対の声が上がっているーー。
福島第一原発では、現在も溶け落ちた核燃料を冷やすため、炉内に水を注ぎ続けている。それにより生じた汚染水をALPSという放射能除去装置で処理しているが残留も多く、汚染水に含まれる放射性物質「トリチウム」は、ALPSで除去できない。そのため、トリチウムを含んだ水を“処理水”として、タンクで保管してきた。
現在、処理水が入ったタンクは、福島第一原発構内に、約1,000基(約125万トンを保管)あり、東電は「’22年秋ごろにはタンクが満水になる」として、処分を急いでいた。しかし、原子力市民委員会の座長で、龍谷大学教授の大島堅一さんは、政治の決定をこう断じる。
「菅首相は、海に流す処理水の濃度について《国内のトリチウム排出基準の40分の1に、WHOが定める飲料水基準の7分の1に薄めて排出する》ため、環境や健康への影響はないと言っています。しかし、この説明は誤り。将来の世代へのリスクを考えていない、軽率な判断です」
そこで、大島さんや原子力市民委員会の座長代理で国際環境NGO・FoEジャパンの満田かんなさんに、処理水の海洋放出が抱える問題を解説してもらった。
問題1 “長期保管プラン”がじゅうぶん検討されていない
経産省は’13年から委員会を設置し、汚染水の処分方法などを議論してきたが、「はじめから“海洋放出ありき”で議論が進んでいた」と大島さんは指摘する。
「私たち原子力市民委員会は、海外で導入実績もあり、コストも比較的安価な大型タンクで長期保管する案などを提案したのですが、東電は〈雨水が入る〉〈漏えいリスクがある〉などという理由で検討しようともしませんでした。管轄の経産省も、東電の意見をそのまま受け入れ議論すらしない。トリチウムの半減期(放射性物質のエネルギーが半分になるまでの時間)は12〜13年。100年かけて保管すれば安全に処理できるようになるにもかかわらず、です」
100年という期間は長すぎるようにも思えるが、チェルノブイリ原発事故の廃炉作業は、事故から35年たった現在も続いている。
「東電は、30年で廃炉作業を終了するというロードマップに合わせて汚染水タンクを撤去しなくてはならないと焦っています。しかし、東電の試算では処理水を流しきるだけでも30年かかる。無謀な廃炉工程は、作業員に無用な被ばくを強いるだけなのです」
問題2 地元住民への“約束”が守られていない
大島さん、満田さんがもっとも懸念するのは、「国民の声が政策に反映されないこと」だと語る。
「福島県漁連は’15年に、〈関係者の理解を得られるまで海洋放出しない〉という約束を東電と結んでいたのに、政府はそれをほごにしたんです」(満田さん)
こうした状況に対し、福島県民からは憤りの声も聞こえてくる。いわき市の主婦、千葉由美さん(51)は、こう怒りをあらわにする。
「“風評”じゃなく“実害”です。’18年に試験操業中のヒラメから基準値超えの放射性セシウム137が検出されたことが判明し、出荷がストップしたこともありましたから。いわきでは、市場で売れない魚が学校給食に使われ子どもたちが食べています。健康影響がわからないからこそ、できるかぎり安全な環境を守ることが大人の責任ではないですか」
政府はなぜ、地元住民との約束を無視してまで、海洋放出という決断を強行したのか。大島さんは、国民の命を“軽視”しているともいえるその思惑について見解を述べる。
「タンクが満水になる、という問題はあくまで建て前のように感じてしまいます。いまこの判断を下したのは、秋の衆院選とぶつからないためでしょう。選挙ぎりぎりになってこの決定が公表されれば、支持が得られなくなるのは、間違いありませんから」
今回本誌は、「長期保管プランはなぜじゅうぶんに検討されなかったか」という質問状を東電と経産省に送った。
東電からは《地層注入、海洋放出、水蒸気放出、水素放出、地下埋設の5つの処分方法について評価され、水蒸気放出および海洋放出が現実的な選択肢とされたものと認識しております》《今秋、政府より、福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針が示されたことにつきまして、当社として、たいへん重く受けとめております》と回答が返ってきた。(回答より一部抜粋、経産省からは期日までに回答得られず)
決断に踏み切った菅首相に、市民の声に耳を傾ける姿勢はないのだろうかーー。 

 

●福島第一原発の処理水海洋放出に抗議文提出 生活クラブ連合会 4/23
生活クラブ事業連合生活協同組合連合会は、4月21日、東京電力福島第一原発の処理水海洋放出に対して抗議文を提出した。
菅内閣は、東京電力福島第一原発で生じている放射能処理水の処分をめぐり、「海洋放出」を4月13日に閣議決定。同連合会は、これに反対する意見として、内閣総理大臣と経済産業大臣宛に抗議文を送った。
抗議文では、絶対反対の立場を明らかにしている全国漁業協同組合連合会の岸宏会長をはじめ福島県議会や市町村会議など海洋放出に反対する側との民主的な合意形成が行われていないことや、トリチウム以外の放射性物質の残留量や総量が明らかになっていないこと、処理水の海洋放出による漁業と子供たちの将来への悪影響について言及している。
抗議文の内容は以下の通り。
1.民主的な合意形成が行われていません
報道によれば、4月7日に菅首相と会談した全国漁業協同組合連合会の岸会長は「『絶対反対』との考えはいささかも変わらない」との立場を明らかにしています。また、福島県内でも県議会をはじめ県内市町村の約7割の市町村議会が、海洋放出に反対または慎重な対応を求める決議や国への意見書を採択しています。2020年2月に政府の小委員会が公表した報告書には、「現地や関係業界と丁寧に議論をして、国民的な合意ができたら政府が決定する」としていました。「御意見を伺う場」を福島や東京で計7回開催していますが、現地や関係業界との丁寧な議論を尽くしたとは言えず、公聴会を開き国民的な合意を図るべきです。多くの問題を抱えたまま、関係閣僚会議で政府の方針を決定した上で対話を求めることは、政府の考えを押し付けるだけのもので、対話でも民主的なプロセスでもありません。
2.トリチウム以外の放射性物質の残留量や総量が明らかになっていません
放射能処理水には、トリチウム以外にもさまざまな放射性物質が含まれています。現在、東京電力はトリチウム以外の放射性物質について「二次処理して基準以下にする」としていますが、どのような放射性物質がどの程度残留するか総量は示されていません。これらの放射性物質の環境蓄積、生体濃縮などが起こりえるため、これらの取り込みによる人々の内部被ばくも懸念され、安易に海洋放出する案は到底受け入れることができません。東京電力に任せるのではなく、政府として処理水に含まれる放射性物質の状況把握し公開することを求めます。
3.処理水の海洋放出による漁業と子供たちの将来への悪影響が懸念されます
放射能処理水の海洋放出による風評被害が出れば、漁業に壊滅的な打撃を与えることは必至です。これまで復興に努力してきた漁業関係者に大きな失望と与え、再び漁民の生活や希望を奪い去ることになります。また、有害物質に対する人権に関する特別報告者、身体的および精神的健康に対する権利に関する特別報告者など、国連の専門家ら5人が2021年3月11日に「汚染水を太平洋に放出することは、子どもたちの将来的な健康リスクを高める」など、人権侵害にあたるとの声明を発表しました。
地元の漁業者や市民との合意形成を行わずに、海外の国からも批判があるなか「海洋放出」を閣議決定したことは、「海洋放出ありき」で進められてきたものであり妥当性に欠けるものです。放射能処理水に含まれる放射性物質の全容把握を優先させ、保管するタンクの新たな敷地の確保や他の代替案の再検討を強く求めます。
●福島原発汚染水の海洋放出、科学という名の横暴 4/23
日本政府が13日、福島第一原発の敷地に保管している汚染水を海に放出することを決めた。2年後から始めて約30年間にわたり海洋放出を続けるという。福島第一原発の汚染水は現在125万トンに達しており、今後も増え続ける予定であるため、海に流れる量は計り知れない。「人の命と環境全般に脅威になり得る」という警告にもかかわらず、日本は「国際基準に合致する」として周辺国の懸念を感情的対応と見なしており、特に韓国の反発は「反日感情」だと見ている。
福島第一原発は2011年の東日本大震災の際、爆発事故で稼動が中止され、現在廃炉作業が進められている。事故で溶けだした核燃料の冷却水に雨水と地下水が染み込み、今も汚染水が増え続けている。日本政府はかなりの期間にわたり「多核種除去設備(ALPS)で1次浄化を行った結果、トリチウムを除いた放射性物質が基準値以下に減った」と広報してきた。
政府の発表に対する信頼が崩れたのは2018年。日本のメディアの報道により、汚染水の約70%にセシウムやストロンチウム、ヨウ素など人体に致命的な放射性物質が基準値以上残っていることが明らかになったのだ。汚染水の状態は今も変わっていない。「トリチウム水」から「ALPS処理水」へと、呼び名が変わっただけだ。日本政府は現在、放射性物質があることは事実だが、2次浄化を行えば基準値以下に下げることができると主張している。東京電力は汚染水全体の0.16%である2千トン程度を2次浄化したところ、(放射能物質が)基準値以下に下がったとし「科学的に問題がない」と明らかにした。
「心配いらない」と主張しているのは日本政府と東京電力だけではない。韓国の著名な原子力教授らからもその主張に賛同している。東京電力が作ったグラフを見せながら「大げさに騒ぎ立てる必要はない」と言う。漁業関係者や水産業に被害を与えかねないという理由からだ。
「加湿器殺菌剤」の有毒物質によって今も苦しんでいる被害者たちや、チリ一つなく清潔に管理されていた半導体工場で白血病を発症し死亡した労働者たち、そして粒子状物質(PM2.5など)で子どもたちが思う存分外で遊べない社会、気候変動がもたらした時々刻々と変化する環境を目撃しながら生きている平凡な人たちは、環境問題に敏感にならざるを得ない。それに、放射性物質が基準値以下なら、本当にそれでいいのだろうか。セシウムやストロンチウム、ヨウ素などの猛毒性物質は、普通の原発では海に流してはならないものだ。自然や食べ物、レントゲンなどによって、私たちは今もやむを得ず放射線にさらされている。さらなる危険を厳しく管理するのは常識だ。
チョン・ウィヨン外交部長官は19日、国会で汚染水について、「国際原子力機関(IAEA)の基準に合致する適切な手続きに従うのであれば、あえて反対することはない」と述べた。それを聞いて少なからず当惑した。文在寅(ムン・ジェイン)政権時代の2019年世界貿易機関(WTO)紛争で苦労して勝ち取った成果を忘れたのだろうか。
韓国の福島産水産物の輸入禁止措置について、日本が提訴した事件で、韓国は一審敗訴の判定を覆し、上訴機構(最終審)で勝訴した。日本側は、福島産の水産物をサンプル調査した結果、セシウムなどが基準値を下回っており、他国の水産物と変わらないのに、輸入が禁止されるのは不当だと主張した。これに対し韓国側は原発事故後、放射性物質が流出するなど日本の特別な環境を他国とは異なる「潜在的危険」と捉え、「政府は国民の生命と健康のために危険要素を最大限下げる義務がある」という論理でWTOを説得し、貴重な勝利を手にした。環境と健康より貿易関係を重要視していたWTOでさえも、時代の変化を反映し始めたのだ。
日本政府は海洋放出ではなく、より安全な方法を模索しなければならず、隣国である韓国はより厳しく(安全性を)要求しなければならない。危険に怯えることなく健康に暮らしたいのは、人間の基本的な権利であるからだ。
●韓国、学生は原発処理水放出に断髪で抗議  4/23
<福島第一原発の処理水を海洋放出するという日本政府の方針に対し、韓国は強く反発している。韓国内の情勢を整理する...... >
福島第一原発の処理水の海洋放出に反対している韓国で、4月20日、国会外交統一委員会が開催され、鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官を叱責する声が相次いだ。鄭長官は19日、国際原子力機関(IAEA)の基準に適合する手続きに従うなら反対しないと、条件付きで放出を認める発言をしたためだ。委員会で与党議員が鄭長官を批判すると、長官は断固として反対していると釈明した。
韓国政府は、国際社会を巻き込んで反対したい考え
2021年4月13日、日本政府が福島第一原発の処理水を海洋放出する方針を決め、韓国、中国、北朝鮮が反発、台湾やロシアなどが懸念を表明している。
東京電力が福島第一原発の建物に流入した雨水と地下水に含まれる放射能物質を多核種除去設備(ALPS)で取り除いて貯蔵してきたが、2022年10月頃に満杯になるとみられており、規制基準値を下回る処理水を海洋に放出すると発表した。
韓国政府は処理水の海洋放出に強く反発している。青瓦台(大統領府)や海洋水産部などがあらゆる措置を取ると発表。文在寅大統領は14日、青瓦台で相星孝一駐韓日本大使から信任状を受け取った際、韓国政府と国民の憂慮を本国に伝えるよう要請した。
済州道のウォン・ヒリョン知事は、在済州日本総領事館の井関至康総領事に遺憾の意を伝え、日韓両国の裁判所と国際裁判所にも提訴する方針を明らかにし、忠清南道のヤン・スンジョ知事は韓国の自治体が共同で対応する案を提示した。
韓国の31の市民団体で構成する「脱核市民行動」は、日本政府の決定は「核テロ」だとしてあらゆる手段を講じるという声明を出している。
西海岸の忠清圏水産協同組合協議会、全羅道の麗水や海南の水産業従事者、日本海沿岸最大の浦項市竹島魚市場など、官民あげて処理水の海洋放出に反対している。また、大学生34人が、団体で断髪をすることで、海洋放出に抗議した。
最大野党「国民の力」は、国会で新型コロナウイルスのワクチン供給状況が後進国レベルだとして、積極的なワクチン外交を要求していたが、政府、与党と一部の野党が処理水に集中、ワクチン確保の議論が棚上げになりかねない状況になっている。
韓国政府は、国際社会を巻き込みたい考えで、中国外務省とテレビ会議を行なって両国が協力して反対する立場を確認した。一方、韓国から反対への協力要請を受けた米国は訪韓したジョン・ケリー大統領特使が、日本とIAEAを信頼していると述べ、介入しない考えを示した。
韓国の専門機関は問題ないという立場
韓国政府や自治体、市民団体などが、処理水を汚染水と呼んで放出に反対する一方、韓国の専門機関は科学的に問題ないという立場だ。
韓国科学技術院のチョン・ヨンフン教授はメディアの取材に対し、日本政府が公表した放出地点の処理水のトリチウム濃度は基準値より低く、一般人の年間被ばく線量基準値である1ミリシーベルトを下回るとし、危険性を強調するのではなく、日本が公開した情報が事実と符合するかどうか確認すればよいと主張した。
韓国の原子力安全委員会も昨年10月、汚染水を浄化する日本の多核種除去設備(ALPS)の性能に問題はなく、韓国の海域に到達しても拡散・希釈されるので影響はないという報告書を作成していた。同委員会は、国際原子力機関(IAEA)の調査や検証への参加を図る方針だ。
外交部は文大統領の指示を受けて、国際海洋法裁判所への提訴を検討するが、これまでにも同裁判所への提訴を検討したことがあり、効果は乏しいという判断を下している。
韓国内の原発で問題を抱える
福島原発に過剰な反応を見せてきた韓国だが、自国内でも問題を抱えている。韓国水力原子力(韓水原)が2016〜19年に行なった調査で、10基の原発から777か所の鉄板腐食が発見され、8基の原発から295か所の隙間が発見された。
20年10月には韓国監査院が月城原子力発電所1号機の早期閉鎖に関する監査を実施した際、産業通商資源部の職員が証拠を隠滅していたことが明らかになっている。
月城原発1号機は、1982年に稼働を開始した韓国2番目の原子力発電所で、原子力安全委員会が産業通商資源部の提出資料を基に早期閉鎖を決定したが、同部が脱原発を宣言した文在寅大統領の意向に沿った評価を行っていた可能性が浮上した。
韓国監査院が監査を実施した前日夜、同部の職員が444件のコンピューターファイル名を変更、削除するなど「証拠隠滅」を図っていたことが判明した。
地下水の汚染も深刻だ。19年10月、飲料用地下水76か所から基準値を超えるウランが検出され、最大で基準値の157倍に達していた。07年にも世界保健機構(WHO)勧告値の109倍のウランが検出されて環境部が、地下水の飲料を禁止したが、汚染の可能性の浮上したのは03年で、4年間も放置されていたのだ。
処理水の海洋放出は、100%安全とは言い切れないが、避けることができない有効な手段だろう。IAEAは一連の作業をモニタリングする国際調査団に韓国の専門家の参加を望む考えを示している。反対のための反対ではなく、前向きな姿勢でIAEAに参加できれば、自国の安全策を講じる上でもプラスに作用するかもしれない。  
●アルプス処理水を海洋放出して良いのか 4/23
原発事故当時(2011年)、筆者は福島市渡利字岩崎町に居住していた。放射性物質汚染のあまりの酷さに驚嘆し、11年6月10日過ぎに放射線測定器を何とか購入し、調査を始めた。
同年6月下旬、原子力災害現地対策本部長・田嶋要氏とその秘書から、電話とメールで「調査データの提供」の要請があった。田嶋氏らの手元には「原発事故の放射性物質の汚染状況の資料がまったくない」ようで、困り果てた様子だった。そこで、筆者は調査のデータを随時提供したが、微妙な問題であるため、「調査者の名前は出さないこと」との条件付きだった。その後、原子力災害現地対策本部では、筆者の調査データを基に除染が手探りで行われた。
当時の秘書からメールには「千葉さんのような詳細なデータがもっと欲しい。そして、そのデータは政府として公表すべきと考えています。ただし、残念ながら千葉さんのデータ以外にはありません」との内容が書かれていた。
同年7月25日、筆者は福島県庁内にあった「原子力災害現地対策本部」に出向き、田嶋氏と会談し、「第1案:渡利の住民の即時避難。第2案:渡利の住民の一時退避、その間の自衛隊投入による厳重な除染」を提案した(この提案は、田嶋氏の8月中旬の退任で実現しなかった)。筆者は田嶋氏から「突然、担当大臣にされて、何が何だかわからない。誰か対応を教えてほしい」という印象を受けた。
会談が終了して本部長室から退出し、原子力災害現地対策本部に戻ると、職員(官僚または県職員)数名が「こんなデータをもって来やがって、俺らの仕事が増えるだけだ。余計なことをしやがって」と話していた。
担当大臣として急遽、福島県に派遣された田嶋氏の秘書と部下の職員には軋轢があり、田嶋氏に汚染状況のデータがまったく来ていないことがよくわかった。それで困り果てた田嶋氏が、藁にもすがる思いで筆者に頼ってきたわけだ。状況から見ても、当時の放射線の専門家は、田嶋氏に情報提供をしていなかったようだ。
筆者は、上記の実態を知って「今は、いがみ合っている状態ではない。大局的にどう対処すべきかを考えるべきである」と落胆し、原発事故という未曽有の大問題であるにもかかわらず、職員のあの対応はいかがなものかとも感じた。政府・東電・関係機関の対応を見ていると、統一した歩みとは到底思えない。
最後に、田嶋氏と秘書の行動や対応は、現在の政府・東電の体質より良かったと感じる。政権運営に不慣れで(民主党政権)、能力的な問題はあったかもしれないが、少なくとも彼らは「正直」であった。わからないことを「わからない」と言い、できないことを「できない」という正直さこそ大切だ。
正直であれば、いろいろな人々が知恵を出しあって助けてくれるはずだ。「不都合なことを隠したり『誰かのせい』にしたり、出来るはずもないことを『さも出来るように言う』現在の政府や東電」よりは、よっぽど良かったと筆者は感じる。 

 

●原子力市民委員会座長に聞く「汚染水海洋放出」の危険度 4/25 
廃炉作業が進む東京電力福島第1原発。日本政府は先日の関係閣僚会議で、敷地にあるタンクで保管しているALPS(多核種除去設備)処理汚染水について、2年後をめどに海洋放出処分を決定した。
政府方針によると、処理汚染水に含まれる放射性物質のトリチウムを国の放出基準40分の1(1リットル当たり1500ベクレル)を下回るよう薄めてから放出。保管される処理汚染水を含めて処分には今後30〜40年かかる見通しという。
だが、この政府方針対し、地元福島の漁業関係者だけでなく、国内外の専門家から反対の声が上がる。政府方針の何が問題なのか。原子力市民委員会座長を務める大島堅一・龍谷大政策学部教授に聞いた。
――まず、今回の政府方針についてどう思いますか。
処理汚染水の海洋放出について、政府は当初、昨年10月に決める予定でしたが、地元漁業関係者らの強い反発でいったんは断念せざるを得なくなりました。あれから数カ月しか経っておらず、状況も変わっていないのに海洋放出を決めたわけで、非常に拙速だと思います。
――政府や東電は、処理汚染水は国の基準以下に薄めるので放出しても問題ない、と主張しています。
処理汚染水にはトリチウムだけでなく、セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129など他の放射性物質が残留しており、その約7割が(環境放出が可能な基準値未満となる)告示濃度比総和を上回っています。つまり、このままでは流すことはできません。東電は処理汚染水を再びALPSで処理する、などと説明していますが、どうなるかはまだ分かりません。
――東電はALPSが稼働した際、トリチウムは取り除けないものの、他の放射性核種は基準以下にすると説明していました。しかし、2018年8〜9月に処理汚染水に基準を超えるストロンチウム90などが見つかりましたね。
「問題ない」「できます」と言っているのは東電や政府だけで、信用できる状況にはありません。そもそも、ALPSにしても、本来は本格運転前に原子力規制委員会の検査をパスする必要があるのに、2013年に稼働してから今に至るまで使用前検査が「未了」なのだから呆れます。海洋放出できる、できない、という理屈論の前に、議論の前提が成り立っていないのです。
――大手メディアなどでは、他国の原子力発電所でもトリチウムを含んだ処理水を海洋放出しているので問題ない、との論調が見受けられます。
福島第1原発からの処理汚染水は、原子力規制委員会でも「かけ流し」と言われているように、水が燃料デブリなどに直接触れるなどして、いろいろな放射性物質が混ざったものです。この水は、他の原発から排出されている(冷却などに使った)処理水とは全く異なります。このことは原子力規制委員会委員長も述べています。それに「薄める」というが、濃度を実際に測りながら流すのではではなく、「これくらいの濃度の処理汚染水があるから、この位の水と混ぜればよい」というもののようです。また、どこから、どのように海洋放出するのかさえも決まっていません。2年後をめどと言うが、工期も何も決まっていないし、分からないのです。
――原子力市民委員会などは処理汚染水を海洋放出するのではなく、モルタル固化処分や石油備蓄タンクのような大型タンクによる貯蔵方法を提案しています。
放射性廃棄物の問題というのは長期間にわたります。だからこそ、どういう処分方法がいいのかということは、幅広い議論をし、より選択の幅を広げておくことが不可欠だと考えています。海洋放出のように、いったん始めたら元に戻れない、戻せないよう方法は避けるべきなのです。例えば、モルタル固化処分すれば、トリチウムの量は120年で1000分の1ぐらいに減ります。将来、土地の利用も可能になるかもしれません。しかし、政府や東電はまともに検討すらしません。
――このまま海洋放出の方向で進むとどうなると思いますか。
政府、東電はとにかく結論ありきです。2018年の公聴会では、ほとんどが反対意見であったためか、それ以降、開かなくなり、国民に、都合のいい説明ばかりしています。海洋放出にしても、東電は福島の地元漁業関係者らと「同意がない場合はやらない」と書面で約束していたにもかかわらず、それを反故にして「放出すると決めたのでご理解ください」と。とても民主的な意思決定とは思えません。こういう見切り発車的な強引なやり方では国民の理解は到底得られません。放射性廃棄物処分の歴史を見ても必ず失敗すると思います。 
●処理水の海洋放出“風評被害対策”どうする 4/25
東京電力・福島第一原発で今も増え続ける「処理水」。政府は13日、海洋放出する方針を決定した。放射性物質トリチウムの濃度を、基準値を下回るよう、海水で薄めた上で海に流して処分する。
処理水の安全性について、政府関係者は「ちゃんと説明すれば風評被害がおこるはずもない」と話す。しかし風評被害は、「心の問題だからこそ難しさを感じている」ともいう。放出が2年程度あとに迫る中、どのように風評被害に対応していくべきなのか。
風評被害に苦しむ福島
処理水放出の決定後、地元からは反発の声があがった。福島県では原発事故のあとに、安全性が科学的に確認された後も、農産物や水産物が買ってもらえない状況が続いた。
今でこそ、農産物の流通は回復しているが水産物はいまだに影響が残る。出荷しても安い値段で取引されないか調べるためにいままで福島県では漁の回数などを制限しており、昨年の水揚げ量も事故前と比べて17%にまで減らしていた。ようやく4月から10年ぶりに事故前の水準に戻す、本格的な操業に移行し始めた矢先の決定だった。
福島での説明会で、地元の漁業者から政府に対して「自分たちが安全性を理解していても、世間で分かってもらえなければ結局買ってもらえない」「それでは生きていけないじゃないか」との声もあがった。
「決して生じさせない強い決意」
こうした状況を受け、政府は風評対策を強化している。まずは安全性の実証だ。政府は風評の影響を抑えるため放射性物質トリチウムを、国が定める濃度限度の40分の1、WHO(=世界保健機関)の飲料水のガイドラインの7分の1程度にまで薄めてから放出する。その上で、放出前後の海に含まれるトリチウムの量を調べる。IAEA(=国際原子力機関)などの国際機関と協力し、国際的な基準と照らし合わせて問題がないかを確認する方針だ。
また、水揚げ量を増やすために漁業関係者が必要とする経費の支援を続けた上で、販売先の開拓なども支援する。このような対策をした上で、それでも出てしまった風評被害に対しては、原発をもつ東京電力が賠償を行うことを求めると明記した。
さらに、風評被害の対策のため関係閣僚による会議を新たに設置した。政府は放出の基本方針の中でも「決して風評影響を生じさせないという強い決意」のもと取り組むとしている。しかし、風評被害の対策にこれだけでは不十分だとの声もある。
いま行うべき3つの対策
「これまでも政府はあらゆる対策をしてきたが、それはパンフレットの配布や販売促進イベントなどの“形式的”なものになっていた」
国の小委員会にも参加した、社会学者の東京大学・開沼博准教授はこのように指摘する。そして政府が“形式的”な対策を乗り越えるため、強化するべき3点をあげた。1つめは、どこから風評が出たか分析し、風評“加害”を明確にすることだ。
誰がどのような発言をすればどの程度SNS上でデマが広がるかなど、分析が今まで不十分だったという。2つめは政治家が全面にたって正しい情報を発信することだ。
例えば、米国ではコロナウイルスのワクチンを普及させるためにまず政治家が接種する姿を積極的に見せているという。一方で、風評被害をめぐって日本の政治家は全面にたって自分の言葉で話す姿勢が「圧倒的に足りていない」と指摘する。
3つめは、発信された内容がどの程度広まっているか“理解度”を調べることだ。パンフレットを配布して一方的に伝えるだけでは、正しく広まっているか分からない。汚染水と処理水の違い、トリチウムの性質などの事実がどの程度知られているか、世論調査の形式などで調べていく。理解度の数値目標を定めて、“達していなければ放出も難しい”とする覚悟が必要だという。
菅首相「できることは全部やる」
22日、菅首相を訪れた福島県の内堀知事がまず伝えたのは、10年間、風評問題を払拭するため取り組んできた努力が、放出により水泡に帰してしまうのではないかという県民の思いだ。これに対して、菅首相は「風評対策についてできることは全部やる」としている。
処理水が放出されるまで、あと2年ほど。短い期間の中で風評被害を抑えて、地元の理解を得ることはできるのか。政府には“できること全て”を行う覚悟が問われている。
●福島原発の処理水放出に噛みついた中国・韓国の無知 4/25
これほどまでに「イチャモン」という言葉が似合う出来事はあまりない。日本政府が発表した福島第一原発で保管しているトリチウムを含む処理水を希釈して海洋放出する計画について、中国と韓国は同盟でも組んだように「極めて無責任」「断固反対」「国際海洋法裁判所に提訴する」などと騒いでいる。非科学的で恥ずかしいだけではなく、そもそも自分たちも平気で同じものを海や大気中に捨ててきたのだから、よくもここまで堂々と天ツバの主張ができたものだと感心してしまう。
『週刊ポスト』(4月26日発売号)では、このうち一番、声高に日本を非難している韓国の問題を特集している。簡単に言えば、韓国の月城原発では例えば2016年に日本海に17兆ベクレルのトリチウムを含む処理水を放出し、ほかに大気中には119兆ベクレルも放出していた。福島第一に保管されているトリチウムの総量は860兆ベクレルだからこれより多いが、日本政府の計画は、これを1500ベクレル/リットルまで薄めたうえで、年間22兆ベクレル以下の量で少しずつ放出するというものだ。年間放出量は韓国の月城原発が2016年に放出した6分の1以下であり、濃度についてはWHO(世界保健機関)が定める飲料水に関するトリチウムの安全基準である10000ベクレル/リットルの6分の1以下だ。
そもそも、トリチウムは自然界にもいたるところに存在する放射性物質であり、もともと海水にも含まれる。もちろん濃度は低く、日本で過去に行われた調査では数ベクレル〜10数ベクレル/リットル程度とされているから、放出される処理水の数百分の1程度だ。そう聞くとやはり放出水は危険なように感じるかもしれないが、WHOが飲料水の安全基準をさらに高く設定していることには科学的な根拠がある。
放射線が人体に与える影響はSv(シーベルト)という単位で表される。WHO基準である10000ベクレル/リットルのトリチウムを含む水を1リットル飲んだ場合の影響は0.00018mSv(ミリシーベルト)にすぎない。これを毎日飲み続けたとしても年間で0.0657mSvで、これは自然界から誰もが受ける被ばく量からすれば無視できる程度である。自然放射線による影響は、世界平均で年間2.4mSv、日本の平均はそれより低く2.1mSvだから、0.0657mSvは日本人が年間に被ばくする放射線量の32分の1である。あり得ない想定だが、それよりさらに影響の小さい福島の放出水を仮に毎日30リットル飲み続けたとしても、日本人の被ばく量は世界の自然放射線被ばくの平均にも達しない。
放出水を飲用にすることなどあり得ないが、あえてWHOの飲料水基準と比較してみたのは、もうひとつのイチャモン国家である中国の間違いを明らかにするためだ。海洋放出の方針を決めた後、麻生太郎・副総理は記者会見(4月13日)でWHO基準を引き合いに出して、「飲んでも何ということはないそうだ」と安全性を説明した。それに対して中国外務省の趙立堅・副報道局長が翌日の記者会見で、「飲めるというなら飲んでみてほしい」と噛みついた。放っておいてもいいのだが、そこは何でも言いすぎる癖がある麻生氏だけに、今度は16日の記者会見で、再び「飲めるんじゃないですか」と言い返した。
麻生氏が何か言うと日本人としてはヒヤヒヤしてしまうが、今回に限っては同氏が正しいことは説明した通りだ。正確には趙氏は、トリチウムの濃度そのものに疑問を呈したわけではなく、福島の汚染水は原発事故によって生じたものだから通常の廃水とは別物であり、だから日本政府はこれまで貯蔵タンクに密封していたのだ、という想定で非難していた。要するに「日本はトリチウム以外にまずいものを隠していて、それごと海洋放出するつもりだろう」というイチャモンだが、そこに関しては日本政府は放出水の組成などについて国際社会に情報公開することにしており、IAEA(国際原子力機関)やアメリカなどは、それならば問題ないという立場である。欧米各国も、これまで原発で生じたトリチウムは希釈して海洋や大気中に放出してきたのだから当然だ。
「何か隠しているのではないか」というのは、それこそ天ツバ発言であり、原発で生じた廃水について常に隠しているのは中国のほうなのだ。中国の原発でも、韓国同様にトリチウムを含む処理水は海洋や大気中に放出されているはずだが、ほとんど公表されていない。わずかな例としては、2002年に広東省・深センの大亜湾原発で42兆ベクレル放出した記録がある。これも単年としては日本の計画の倍近い放出量である。だから「事故で生じた水は別物」という苦しい論理を持ち出すしかなかったのだろうが、そこは日本が国際社会にきちんとチェックしてもらえばいいだけの話だ。
中国や韓国がイチャモンをつければつけるほど、国際社会には両国の非論理的、非科学的な姿が印象づけられ、むしろ日本の計画が理に適ったものであることが宣伝されるかもしれない。ならば日本は正しい発信を続けながら、イチャモンは言わせておけばいいだけだ。 
 4/26-30

 

 

●福島第1の汚染水、海洋放出へ−問題点は 4/26 
政府は今月13日、東京電力福島第1原発で増え続ける放射性物質を含んだ処理水を海洋に放出する方針を決め、18日にいわき市で「廃炉・汚染水・処理水対策福島協議会」を開き、地元市町村長、漁連、農協など関係者にその方針を伝えた。県内の首長や団体代表から意見を直接聞いたのは初めて。
それに対して、「放出には反対。政府の方針は関係者の理解を得ておらず、国、東電への信頼性に疑問がある」(野崎哲県漁連会長)という声をはじめ、「方針を決めた後で説明するということは、結論ありきではないか。海洋放出は、漁民だけでなく県民全体にも影響を及ぼす。正確な、透明性のある情報を出してほしい。海洋放出による損害は、風評ではなく実害だ」など、政府の方針に批判的な意見が多く出された。
しかし、政府や東電の答弁は「今回の意見は今後の検討に反映させたい」などというもので、具体策には触れなかった。今回の経過を取材したが、そのなかで私にはいくつか疑問が湧いた。
東電は2015年に県漁連に「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と文書で約束している。今回の政府の決定では、このことには触れていない。地元との約束を守らず、「丁寧な説明をする」と言われても、誰が信用するのだろうか。「国が決めたのだからそれに従って放出する」と、東電は主役のはずなのに脇役に回って、他人事のようだ。
第一番に、被害を受ける漁業関係者らが反対しても、国と東電はそれを無視して海洋放出する。沖縄・辺野古への新基地建設と同じ構図ではないか。
もう一つは、風評被害(実害)に対する賠償問題だ。東電は16日に公表した賠償方針で「期間や地域、業種を限定せずに賠償する」と明記した。商品やサービスの取引量の減少、価格の下落などに基づき、損害額を算定する。しかし、その基準はまだ決まっていない。風評と損害の因果関係を厳しく審査され、被害があっても救済されないこともあり得る。
事故賠償と同じことの繰り返し?
東京電力福島第1原発の事故に伴う賠償を求める方法は、東電への直接請求と、国の原子力賠償紛争解決センター(ADR)への提訴、訴訟の3つがある。
このうちADRへの申立件数は、2020年末現在で約2万2000件。このうち約6000件は和解に至っていない。私と交流のある飯舘村の菅野哲さんらは、ADRが示した和解案を東電が拒否したため、訴訟に持ち込んだ。この10年の経過を見ていると、賠償するかどうか、またその金額は、東電が決めること、としか思えない。
今度の汚染処理水の海洋放出がなされれば、原発本体の事故の際の賠償と同じことが繰り返されるのではないか。
朝日新聞は19日の紙面で「処理水を放出しても、雨や地下水の流入で増える汚染水が処分量を上回るので、(処理水をためる)タンクの増設は避けられない」と報じている。そうだとすれば、「廃炉作業のスペースを確保するために処理水を放出する」という政府の方針とは食い違うことになる。国、東電はどうするのだろうか。(元瓜連町長)  
●中米地域8カ国との対話協議を開催、福島第1原発処理水への懸念を表明  4/26
韓国の外交部は4月23日、チェ・ジョンゴン第1次官がコスタリカを訪問し、「第13回韓国・中米統合機構(SICA)対話協議体会議」を6年ぶりに開催、共同声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出したと発表した。
会議では、韓国と中米諸国との交流活性化の基盤構築のため、韓国版ニューディール政策とSICA加盟国のグリーンおよびデジタル関連政策の連携強化を通じた持続可能な発展を図り、経済の回復のために連携していくことで合意した。
パナマの協定批准を受けて2021年3月1日に全体が発効した韓国・中米自由貿易協定(FTA)に関連し、同FTAに未参加のグアテマラの参加意思表明を歓迎した。
福島第1原発処理水の処分に関しては、チェ第1次官が会議の冒頭、「福島の放射能汚染水の海洋放流が近隣国だけではなく、世界の海洋生態系に取り返しのつかない被害をもたらす行為」と発言し、「汚染水の排出に対する安全性が徹底的に検証されなければならない」と強調した。共同声明では、「人体および海洋生態系に悪影響を及ぼす大量汚染物質の海洋放出が招く深刻な状況に対する深い憂慮を表明する」と表記した。
朝鮮半島情勢について、SICA加盟国は朝鮮半島の完全な非核化と恒久的平和体制の達成のための韓国政府の努力と成果を評価し、今後も平和プロセスの具体的な進展に向けた韓国政府の継続的な努力を支持するとした。
さらに、日程・場所を調整した上で、第14回韓国・SICA対話協議体会議を開催することで合意した。
●「地球で最も大きな井戸を汚染させる」 海洋放出 韓−中南米が世論戦 4/26
韓国外交部が福島汚染水海洋放出に対抗して太平洋沿岸の中南米国家との共同対応を急いでいる。崔鍾建(チェ・ジョンゴン)外交部第1次官は今月18日からコロンビア・コスタリカ・メキシコなど中南米3国を歴訪して汚染水放出に関連した懸念を共有した。汚染水放出は地球で最も大きな井戸である太平洋を汚染させる行為という「井戸汚染論」を繰り広げるための外交戦に出たといえる。
崔次官の中南米3国歴訪は当初新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)関連の協力および外交多角化次元で計画されていた。だが、歴訪開始を控えた13日、日本政府が汚染水放出を決めたことから自然に歴訪過程の核心議題に浮上した。崔次官は各国カウンターパートとの会談で汚染水放出に対する懸念を共有する一方、国際社会次元の共同対応の必要性を強調した。
中南米3国も韓国政府の立場に共感を表して連帯を約束した。メキシコのカルメン・モレノ・トスカーノ外交次官は「海洋汚染によって影響を受ける領域内のすべての国家の声に耳を傾けることが重要だ。この問題を鋭意注視し、必要な措置を検討していく」という立場を明らかにした。
韓−中南米「汚染水放出懸念」で共感
崔次官は22日、コスタリカで開催された中米統合機構(SICA)加盟8カ国との外交次官会議でも、汚染水放出に対するリスクを再確認する共同声明採択を主導した。汚染水放出は隣接国だけではなく、全世界の海洋エコシステムに対する被害を誘発する可能性があるとし、未来世代に対する責任を放棄する決定だというのが趣旨だ。これに関連し、外交部は「周辺国家との協議のない一方的な海洋汚染行為に対し、太平洋という共同の海を共有する非アジア圏国家が即座に同じ声を出したという意味がある」と評価した。
韓国政府が汚染水放出に対して中南米国家を含めた国際社会共助に注力するのは、現在としては法や手続き的な側面から日本側の責任を問うことは難しいという点を勘案した措置だ。日本は汚染水を放出する多核種除去設備(ALPS)を通じて飲料水水準まで浄化する立場であることに加え、このような過程を検証する権限も韓国をはじめとする周辺国ではなく国際原子力機関(IAEA)が持っている。
米国なしでは国際世論に限界
ただし、国際的世論を形成するのに先立ち、汚染水放出に対処するために原則を用意し、国内世論を整えることが優先だという指摘も出ている。鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官が19日、国会の対政府質問で「日本がIAEAの基準に合う手続きに従うなら、あえて反対するべきことはない」という立場を明らかにするなど、汚染水放出に対処する原則と基準で統一が図られていない様子を垣間見せた。
鄭長官は翌日、「日本が行動したら何が何でも反対するのではないかという指摘があったので『そうではない』という趣旨で話したこと」と説明した。ただし、2023年に日本が放出予定の汚染水の有害性を評価するにあたり、政府が「国民不安」という抽象的な基準以外にどのような方針を持っているのかについて疑問の声が上がっている。汚染水放出に関連し、米国が日本と密着している局面も韓国政府が解決しなければならない課題だ。米国の後ろ盾なくして汚染水放出と関連した国際社会世論を形成することには限界がある。これに先立って、米国のジョン・ケリー大統領特使(気候変動問題担当)は18日の記者懇談会で、汚染水放出に対する韓国側の懸念に関連し、「日本がIAEAとしっかり協力していくものと信じている」という立場を明らかにした。
外交消息筋は「日本がIAEAの基準を厳格に守って汚染水を放出すると強調している状況で、韓国政府が何の原則や基準もなく『絶対不可』の立場だけを繰り返すのは、一歩間違えれば国際社会に『ごり押し』と認識される恐れがある」とし「政府が強調する『国民不安』を解消するために、汚染水がどんな浄化基準をクリアしているべきなのか等に対する深度のある悩みが必要だ」と話した。  

 

●福島に猛クレームの中韓の原発 ケタ違いのトリチウムを垂れ流していた 4/27
またしても中国と韓国が噛みついてきた。福島第一原発の「トリチウムを含む処理水」の海洋放出に、中国外務省は「極めて無責任」、韓国政府は「断固反対する」などと非難する。こうした批判について、「非常に悪質なもの」とするのは、原子炉工学が専門の奈良林直・東京工業大学特任教授だ。
「トリチウムは自然界に膨大な量、存在する放射性物質です。今回の海洋放出にあたって、処理水はWHOが定める飲料水基準の7分の1(1リットルあたり1500ベクレル未満)まで希釈され、IAEAの目も入れて監視すると決まっています。中韓の批判は、日本を貶める政治的な意図を持った圧力としか考えられません」
なにしろ、中国や韓国が稼働させる原発も、トリチウム水を排出しているのだ。
「日本の原発が軽水炉であるのに対し、韓国の一部の原発はトリチウムの排出が多い重水炉です。日本海に面する韓国の月城原発は4基の重水炉を稼働させ、福島第一原発に貯留される量の何倍ものトリチウムを海に流してきました」(同前)
在韓日本大使館は、韓国の原発が2018年、海水や大気に年間約360兆ベクレルのトリチウムを排出したと説明する。福島第一原発に貯蓄されるトリチウムは約860兆ベクレル。それを年間22兆ベクレル以下の量で放出していく計画だから、“韓国からの排出のほうがケタ違いに多い”のである。また、経産省のまとめた資料によれば、中国の大亜湾原発は、2002年に約42兆ベクレルを排出した。
「韓国政府の設置した専門家を交えた部会の報告書でも、海洋放出による影響はないとしているのに、文在寅大統領は不安を煽ろうとしている。月城原発では誤って放射性物質が漏れた問題も報じられた。文政権は福島原発の放出を国際海洋法裁判所に提訴すると言っていますが、提訴したら逆に“あなたの国はちゃんとやっていますか?”と言われて恥をかくだけでしょう」(同前)
いつになったらフェアな議論ができるのか。
●中国と韓国は「処理水海洋放出反対」で日本を包囲する 4/27
4月17日の日米首脳会談が「中国包囲」同盟強化を打ち出したのに対し、中国は韓国と共闘して反撃に転じている。
東京電力福島第一原子力発電所の処理水(汚染水)の海洋放出に対し、国際的に反対の声が高まっていることに着目した中国と韓国は、放出を非難・反対する国際世論づくりに力を入れている。
中国は、アメリカの中距離ミサイルのアジア配備など他の問題についても韓国と足並みを揃え、日米韓の三国連携にクサビを打つ考えだ。
処理水の海洋放出には「厳しい対応」
日米首脳会談は、終了後の共同声明に日中国交正常化(1972年)以降初めて、台湾問題を盛り込み、日米同盟を中国抑止の「対中同盟」へと変質させた。
中国外務省と中国メディアは首脳会談を「アジア太平洋の平和を脅かす」と批判しているが、外務省声明は出さず日本の駐中国大使に抗議しないなど、激しい対日批判キャンペーンは抑制している。
その理由は前回記事を参照いただきたいが、そうした抑制的なスタンスと対照的なのが、海洋放出への厳しい対応だ。
中国外務省の呉江浩・外務次官補は4月15日、垂秀夫・駐中国大使を呼んで抗議したほか、21日には王毅外相がドイツのマース外相とのオンライン会談で「処理方法を再検討すべき」と言及し、日本に方針撤回を求める強い姿勢で臨んでいる。
海洋放出問題については、韓国との共闘が特に注目される。
中国の国営新華社通信によると、中韓両国は日本の海洋放出決定の翌14日、局長級の「第1回海洋実務協議」を開き、海洋放出反対が両国の一致した立場であることを確認。さらに中国外務省は15日、両国が参加して汚染水を調査する国際チームの設置を呼びかけた。
韓国側の情報によると、局長級の海洋実務協議の開催については、1年以上前の中韓外相会談(2019年12月)で合意済みだった。中韓両国が日本政府の海洋放出決定を察知し、第1回協議を緊急開催したとみられる。今回の日米首脳会談をにらんで、中韓が協力態勢づくりを急いだ可能性もある。
孤立しているのは日本とアメリカ
海洋放出問題への中韓両国の対応をさらに詳しくふり返っておこう。
中国外務省の趙立堅・副報道局長は4月14日、「海洋は日本のごみ箱ではなく、太平洋も日本の下水道ではない」と強い言葉で批判。麻生太郎財務相の「飲んでも何てことないそうだ」との発言には、翌15日に「飲めるというなら飲んでみてほしい」と皮肉った。
韓国の文在寅大統領も14日、海洋放出を差し止めるため、国際海洋法裁判所への提訴を検討するよう指示。韓国外務省は「放出反対の立場を中国側と確認した」と発表した。
中韓両国が海洋放出に反対するのは、海洋環境や公衆の健康への影響を無視できないとか、隣国の反対を顧みず一方的に決定したことへの反発、といった表向きの理由だけではない。
福島県の漁業者はもちろん海洋放出に反対で、全国漁業協同組合連合会(全漁連)も菅義偉首相にあらかじめ絶対反対を伝えている。日本の市民・環境団体も揃って反対を表明するなど、日本では反対論が勝る。
国際的には、同盟国のアメリカおよび国際原子力機関(IAEA)は「透明性のある決定」と日本支持を表明したものの、親日のはずの台湾が「海洋環境や国民の健康にかかわる問題」として懸念を表明したほか、北朝鮮の朝鮮中央通信(4月15日)は「日本の破廉恥さを示し、人類の健康と安全、生態環境を重大に脅かす許しがたい犯罪」と撤回を求めた。
国連のボイド特別報告者(人権・環境担当)も、処理水に含まれる放射性物質トリチウムについて「今後100年以上にわたり、人間や環境を危険にさらす可能性がある」として、日本政府に「海洋環境を保護する国際的な義務の順守」を要求した。
さらに太平洋の島嶼(しょ)国に、オーストラリアやニュージーランドを加えた14カ国・地域で構成する「太平洋諸島フォーラム(PIF)」も、独立した専門家が再検討するまで「放出延期」を求める声明を発表した。
全体を見てわかるのは、アメリカとIAEAを除いた多くの国・地域が懸念を表明している現状だ。中国の海洋進出問題、あるいは香港・台湾問題について多くの国が中国を批判・警戒しているのとは真逆の構図だ。いま孤立しているのは間違いなく日米で、中国と韓国という新たなタッグによる反撃が功を奏した形になっている。
中国と韓国が共闘する経緯
中国が韓国と共闘する視線の先には、アメリカのミサイル網配備計画がある。
バイデン政権は、台湾有事を想定して沖縄の米軍基地などにミサイル網を構築するため、2022会計年度(21年10月〜22年9月)から6年間で合計273億ドル(約2兆9000億円)の予算を投じる要望書を連邦議会に提出した。
一方、韓国の文在寅政権は2017年、中国との約3カ月におよぶ交渉を経て、安全保障に関し、
1.地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)を追加配備しない
2.アメリカのミサイル防衛(MD)システムに参加しない、
3.日米韓安保協力は軍事同盟に発展しない
という「三不政策」を発表している。
中国はこの交渉に先立ち、アメリカが韓国に配備したミサイル迎撃システムの「標的は中国」と強く反発し、用地を提供した韓国ロッテグループが中国で展開するスーパーの9割を営業停止させるなど、経済圧力を強めていた。
こうした経緯もあって、アメリカと軍事同盟を結ぶ韓国は、有事には米軍指揮下に入るものの、「自由で開かれたインド太平洋」構想や、日米豪印の4カ国戦略対話「クアッド(Quad)」には参加していない。
中国は、韓国の「三不政策」を、アメリカが渇望するミサイル配備と米日韓安保協力に「風穴」を開けるキーと見ているわけだ。
中韓は日本を追い詰め、包囲する
文大統領のブレーン、文正仁・世宗研究所理事長は朝日新聞(4月11日)のインタビューで、米中対立が激化するなか、韓国の役割として「対立緩和のための超越外交」を提唱した。
日本については「日本のアメリカへの過度な肩入れは、米中新冷戦の固定化を促す」と批判し、(米中対立下では)日韓両国の安全保障面での負担が増え、経済的にも損害が大きいとして、「すべての国々と良好な関係をつくるのが、韓国が生きる道」と説いた。
不動産価格の高騰などで支持率が急落する文政権は、ソウル・プサン両市長選挙で保守派に敗退し、来年の大統領選でも与党苦戦が予想される。
ただ、米中という大国の狭間に生存空間を求める韓国の地政学上のポジションからすると、保守派が政権を取り戻したとしても「三不政策」がある限り、対中姿勢は大きく変わらないだろう。
文大統領は5月訪米に向けた調整に入り、中国は習近平国家主席の年内訪韓を目指す。両国とも、処理水の海洋放出が始まる2年後を見据えながら、国際的に批判を浴びる日本を追い詰め、包囲するためのさまざまなカードを切ってくるはずだ。
●IAEAの福島作業グループに中国が参加へ 4/27
外交部(外務省)の汪文斌報道官は26日の定例記者会見で、日本の福島原発汚染水の海洋放出問題について質問に答えた。
【記者】国際原子力機関(IAEA)は現在、日本が計画する福島原発事故による汚染水の海洋放出について技術作業グループの立ち上げを進めており、国際社会はその進展を注視している。報道によると、韓国はすでにIAEAによって作業グループへの参加を確認されたとしている。中国側は作業グループへの参加を求めるか。すでにIAEAと協議したか。
【汪報道官】日本の福島原発事故は世界で起きた最も深刻な原発事故の1つだ。日本政府は国内外の問題視と反対の声を顧みず、安全な処理方法を研究し尽くすことなく、全面的な情報公開をせず、周辺諸国及び国際社会と十分な協議をせぬまま、福島原発事故の汚染水を海洋放出という方法で処理することを一方的に決定した。これは極めて無責任な行動であり、日本周辺諸国の人々の切実な利益に直接危害を加えるだけでなく、世界の海洋環境と国際的な健康安全保障も脅かすものだ。重要な利害関係国である中国が日本側の無責任なやり方に重大な懸念を抱くのは当然だ。
中国側はIAEAが中国など利害関係国を含む技術作業グループを早急に立ち上げ、日本の原発汚染水の処分計画、続く実行、国際的なアセスメントと監督などについて作業を行うことを主張する。中国はこれについてIAEAと緊密な意思疎通と調整を続けている。IAEAは現在技術作業グループの立ち上げに積極的に取り組んでおり、すでに中国の専門家を作業グループに招くことを確認している。中国は今後の作業を全力で支持する。日本は原発汚染水の海洋放出を始める前に、中国など利害関係国及び国際社会の懸念にしっかりと応えるべきだ。
●東電が福島第一原発の「処理水」定義見直し 政府の海洋放出方針決定で 4/27
東京電力は27日、福島第一原発で発生が続く汚染水を浄化処理した後の水について、定義を見直したと発表した。政府による処理水の海洋放出処分の方針決定を受けた対応。セシウムなど62種類の放射性物質を取り除ける多核種除去設備(ALPS)で浄化処理してから排出基準を下回っている水を「ALPS処理水」とし、排出基準を上回っている水を「処理途上水」と定めた。
東電によると、2020年末時点でALPS処理水は32万3900トン、処理途上水は82万2900トン。保管中の7割は、十分に浄化処理できていない。このため海洋放出する際には、サンプルタンク内で放射性物質の濃度を調べ、排出基準を上回っていた場合は再びALPSで再浄化するという。
政府や東電の方針によると、放出前のALPS処理水についてはALPSで除去できないトリチウムの他、炭素14を含む63種類の放射性物質の濃度を調べ、結果を公開。第三者による測定結果も公開する。
またトリチウムの総量について、タンク1047基に保管する水125万トンに約780兆ベクレルが含まれていると発表。1リットル当たり約62万ベクレル含まれてるという。
政府方針によると、ALPS処理水に含まれるトリチウムは1リットル当たり1500ベクレル以下にまで薄めてから海洋放出する。
●汚染水流すな 国と東電に福島県農民連 被害の賠償継続要求 4/27
福島県農民連は26日、東京電力福島第1原発事故による汚染水の海洋放出方針の撤回、事故被害の賠償継続を政府と東京電力に求める行動を行いました。
参加者は早朝出発し、バスなどで東京に駆けつけました。本多芳司副会長は、菅義偉政権の海洋放出方針決定に対し、「県民の圧倒的多数が反対するなかでの決定であり、絶対に許せない」と強調。方針の撤回と陸上保管など英知を結集した検討を求めました。
国や東電は、30〜40年後の廃炉に向けた作業で「施設用地が必要だ」と主張。経産省担当者は「もう決まったことだ」と言い放ちました。佐々木健洋事務局長らは、「廃炉」の具体的構想も敷地計画も未定で「海洋放出だけが進むのはおかしい」と指摘しました。
日本共産党の馬場績浪江町議は同町議会が昨年3月に反対決議を可決するなど「反対が県民の声だ」と述べ、タンクの大型化などあらゆる知恵を尽くし、海洋放出をしないよう迫りました。荒れ果てた自宅や牛舎、田畑の写真を示し「これが原発事故の被害だ」と告発。心身の不調で亡くなる人が後を絶たず、困窮する町民が急増しているとして「憲法で保障された人間らしく暮らす権利を保障して」と訴えました。
交渉には、日本共産党の岩渕友、紙智子の両参院議員、立憲民主党の金子恵美衆院議員が同席しました。
参加者は、交渉に先立ち官邸前で「汚染水海洋放出は撤回を」の横断幕を掲げてアピールしました。  
●処理水の影響「無視できる水準」韓国原子力学会 政府に自制求める 4/27 
韓国の原子力学会は福島第一原発の処理水を海洋放出することの影響について「無視できる水準だ」としたうえで、韓国政府に「政治的・感情的な対応を自制するよう求める」とする見解を発表しました。
韓国原子力学会は、福島第一原発の処理水について、仮に、現在貯蔵しているすべての量を1年間で放出したとしても韓国国民への影響は「無視できる水準だ」との分析を明らかにしました。
また、海洋放出の決定について「韓国の大半のメディアは放射能の恐怖をあおる報道をしている」と指摘。韓国政府に対し「政治的、感情的な対応を自制して、科学的な事実に基づき実利的に問題を解決するよう求める」としています。
一方、日本政府には「十分な情報と説明を提供しないまま海洋放出を一方的に決定した」として、「遺憾」の意を表明しました。 
●「処理水」めぐる攻防 4/27
東京電力福島第1原発の処理水を日本政府が海洋放出する方針を決定したことは、台湾にも大きな波紋を広げている。
野党、中国国民党と一部の環境保護団体が猛反発する中、台湾の駐日大使に当たる台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表が、自らのフェイスブックで「台湾の原発も放射性廃水を排出している」などと書き込んだことが国民党関係者の逆鱗(げきりん)に触れたようだ。立法院(国会に相当)での謝氏の証人喚問を求めるとともに「偽情報」を流したとして謝氏を刑事告発した。
台湾の原発を管理する台湾電力は3カ月ごとに「放射性物質排出報告書」を発表しており、その中に「放射性廃水の排出」についての詳細記録がある。それを読むと、謝氏が言っていたことは事実そのものだが、国民党関係者は「台湾が排出しているのは正常の廃水で、事故による汚染水を処理した水とは性質が違う」などと主張し、謝氏を「媚日派」と批判している。中国に近いとされる国民党は、日本の問題になると、中国と同様、すぐ感情的になってしまう傾向がある。
一方で、地理的に日本に近い台湾では、処理水の海洋放出に関し、大きな不安を覚える人が多くいることも事実だ。謝氏のような知日派を困らせないためにも、日本政府は台湾に対して、処理水の安全性をもっと丁寧に説明すべきだ。 

 

●「福島原発汚染処理水の海洋放出」に韓国国民の関心は意外にも低い! 4/28
日本の福島原発汚染処理水の海洋放出決定に隣国の韓国が反発しているのは言うまでもない。
文在寅大統領自らが「国際海洋裁判所への提訴を検討せよ」と発言し、政治的に対峙している与党「共に民主党」と野党「国民の力」が珍しく共闘し、対日糾弾決議案を共同で提出する動きに出ており、また、日本と海峡を挟んでいる全羅南・北道、慶尚南・北道、済州道などの自治体では共同で対処をすることを確認し合い、「日本福島原発汚染水放流強力糾弾」決議案を全会一致で採択した済州道の元喜龍知事は相星孝一・駐韓大使との直面会を要請している。
また、110人いる市議会議員のうち100人が市庁前で決議大会を開いた首都ソウルでは学生らが日本大使前で抗議の意思表示としての断髪するなど派手なパフォーマンスも演じるなどその様子は日本にも伝えられ、韓国では上から下まで大騒ぎになっていると誰もが受け止めていることであろう。
しかし、大騒ぎしている割には一般国民の関心はそれほど高くないようにみえる。そのことは青瓦台(大統領府)への国民請願が予想外に少ないことからも見て取れる。
大統領府が国民からの請願を受け付ける青瓦台のホームページの国民請願掲示板には政治から外交、国防、文化、芸術、スポーツにいたるまで様々な分野での請願が許されているが、「安全・環境」の分野には日本の原発処理水放水に関して5〜6本もの請願が出されているが、いずれも同調者、賛同者が少ない。
例えば、4月12日から始まった「日本の福島原発水海洋放流を防いでもらいたい」の請願賛同者は28日午後1時現在、7,601人、4月14日からの「日本福島原発汚染水海洋放流は即時撤回すべきである」の請願は1,553人、19日からの「日本の福島原発汚染水海洋放流を防いでください」の請願は474人、一昨日(26日)から始まった「日本政府の福島放射能汚染水海洋放流を防ぎ、脱原発政策を実行してもらいたい」の請願はもっと少なく250人、そして昨日(27日)始まった「福島放射能汚染水放流決定撤回のための東京五輪ボイコット請願」も1日経っても僅か307人だ。
最も多いのが外交・統一分野に4月19日に投稿された「韓国政府は日本福島原発放射能汚染水放流決定を強く糾弾し、放流を阻止してもらいたい」の請願で28日午後1時現在、10,278人である。それでも1日平均1、027人である。
これに対して3年前に平昌五輪を開催した江原道が道内にチャイナ―タウンの建設を計画していることについての反対請願(「江原道チャイナタウン建設を撤回させてください」は今日で締め切りとなるが、1か月間の賛同者は28日午後1時現在、670,033人に達している。一日平均22,334人で、日本の原発処理水放流反対賛同者よりも断然多い。
請願開始から1か月(30日)の間に20万人以上の嘆願が集まった場合、政府及び青瓦台責任者(各部署及び機関の長もしくは大統領首席秘書官等)が対応することになっているが、江原道の場合、政府が建設の是非に回答する前に知事は昨日、建設を取り止めることを表明していた。
現状のままでは「処理水放出問題」での請願はどれもこれも20万人には達しないであろう。  

 

●釜山の高校生が集会「福島原発の汚染水、日本人が飲め」 4/29 
釜山(プサン)の高校生が日本政府の福島原発汚染水海洋放出撤回を促す集会を開いた。
28日午後2時、「釜山青少年キョレハナ」と「細菌実験室追い出す青少年会」所属の高校生10人ほどが釜山の日本領事館前で記者会見を行い、「日本はいま汚染水を放出しても飲むのには問題ないという暴言を連日吐き出している。汚染水はお前ら(日本人)が飲め」と話した。
韓国の通信社ニュース1によると、生徒らは日本人と米国人に汚染水を飲ませるパフォーマンスをしながら手にしていたプラカードを丸めて投げつけた。この過程で韓国警察が女子生徒を制止し、生徒が反発する状況も起きたという。
生徒らは22日から汚染水放出決定に反対する青少年宣言を組織した。釜山地域の各学校で337人の中高生らが宣言に参加した。また「福島原発汚染水放出決定撤回! 釜山青少年宣言」リンクを作り福島原発汚染水放出決定に対する生徒らの考えを受け決定撤回同意を受けている。  

 

●「復興阻害ないと確信できるまで反対」 福島の22団体が共同声明  4/30 
東京電力福島第一原発で出た汚染水を処理した水の海洋放出を巡り、福島県の農林水産業者や消費者らの22団体でつくる「地産地消運動促進ふくしま協同組合協議会」は30日、「不安や風評被害で県内の全産業の復興が阻害されず、着実に進展できると確信できるまで海洋放出に反対する」との共同声明を発表した。
協議会を代表し、県漁業協同組合連合会や県生活協同組合連合会などのトップが同日、福島県いわき市で会見した。
声明では、政府の海洋放出の方針決定は、国民や県民の懸念や反対に十分な説明がなく、「関係者の理解なしには処分しない」という漁業者との約束に反し、「極めて不誠実だ」と批判。風評対策についても、具体性がなく、国民や国際社会の理解を得ることは期待できないとした。
会見で県漁連の野崎哲会長は、約束違反について「国は漁協への(非公式の)説明会で謝罪したが、われわれの団体以外にも説明する義務がある。謝罪や説明は早急に、公式にしてほしい」と訴えた。
県農業協同組合中央会の菅野孝志会長は「この10年の生産者や消費者の努力を水泡に帰す懸念がある。消費者に福島産が安全だと納得されない限り、(処理水の)地上保管を求めるしかない」と指摘。その上で、政府が処理水放出を第三者機関で監視するとしたことに、「その機関にわれわれが意見できるようしてほしい」と求めた。 
●中国 「日本は原発汚染水の海洋放出前に全面的な情報公開を」 4/30
中国生態環境部の劉友賓(リウ・ヨウビン)報道官は28日の定例記者会見で、日本福島原発の汚染水の海洋放出問題について質問に答えた。
劉報道官は、「日本の原発汚染水の処分は自国の環境の安全に関わるのみならず、地域と世界全体の環境の安全にも関わるものであり、慎重に慎重を重ねなければならない。日本政府は国民や国際社会の強い反対や問題視の声を顧みず、安全な処理方法を研究し尽くすことなく、また周辺の利害関係国や国際社会と十分な協議や意思疎通を行わぬまま、汚染水の海洋放出という決定を一方的にした。利害関係国であり、日本の近隣である中国が重大な懸念を表明するのは当然だ。日本側は原発汚染水の海洋放出を始める前に、関係する情報を速やかに、かつ全面的に公開し、利害関係国及び国際社会の懸念にしっかりと応えるべきだ」と表明した。
中国外交部報道官は26日、国際原子力機関(IAEA)が現在積極的に設置を進めている技術作業グループに、中国の専門家を招待することを確認したと表明した。これについて劉報道官は、「生態環境部は外交部やIAEAと緊密な連絡を保ち、関係する取り組みを仕上げるべく協力していく」とした。
●中国はなぜ原発処理水の海洋放出に反対するのか 4/30
中国の専門家らも批判する5つの根拠
福島第一原発におけるデブリの冷却などで発生した放射性物質を含む汚染水を処理し、2年後をめどに海洋放出するという決定を日本政府が発表した。これに、中国の一般市民から強い反対の声が上がった。
中国の原発も環境中にトリチウムを放出している。にもかかわらず、日本政府の決定には、中国の政策提言にも関わる専門家や技術者も声を上げた。その主な理由として、下記の要因を挙げている。
(1) 10年前(2011年3月)の福島第一原発事故が、チェルノブイリ原発事故(1986年4月)に相当する「レベル7」の事故であること
(2) 排出される処理水が、通常の稼働下で排出される冷却水とは質が異なること
(3) 事故の翌年(2012年)に導入した多核種除去設備(ALPS)が万全ではなかったこと
(4) 日本政府と東京電力が情報やデータの公開が不十分であること
(5) 国内外の反対にもかかわらず、近隣諸国や国際社会と十分な協議もなく一方的に処分を決定したこと
さらに、復旦大学の国際政治学者である沈逸教授はネット配信番組で、国際原子力機関(IAEA)が公表した2020年4月の報告書を取り上げた。
報告書によると、IAEAの評価チームは「『多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(ALPS小委員会)』の報告は、十分に包括的な分析と科学的および技術的根拠に基づいていると考えている」としている。しかし、同教授は「それだけで、IAEAが処理水の海洋放出に対して“通行証”を与えたわけではない」とし、この報告書に記載されている次の点について注目した。
「IAEAの評価チームは、ALPS処理水の処分の実施は、数十年にわたる独特で複雑な事例であり、継続的な注意と安全性に対する再評価、規制監督、強力なコミュニケーションによって支持され、またすべての利害関係者との適切な関与が必要であると考えている」(同レポート6ページ)
つまりIAEAは、ALPS技術が理論上は基準をクリアしていたとしても、実践となれば「独特で複雑な事例」なので、しっかりとこれを監督し、“すべての利害関係者”との調整が必要だとしている。IAEAは原子力技術の平和的利用の促進を目的とする機関であり、「原発推進の立場で、日本とも仲がいい」(環境問題に詳しい専門家)という側面を持つものの、今回の海洋放出を「複雑なケース」として捉えているのだ。
同教授は「果たして日本は、中国を含む周辺国と強力なコミュニケーションができるのだろうか」と不安を抱く。
他方、日本の政府関係者は取材に対し、「あくまで個人的な考え」としながら、「中国のネット世論は以前から過激な部分もあるが、処理水の海洋放出について疑義が持たれるのは自然なこと」と一定の理解を示した。
放射性物質の総量は依然不明のまま
今回の処理水放出の発表をめぐっては、日本政府の説明もメディアの報道も、トリチウムの安全性に焦点を当てたものが多かった。東京電力はトリチウムについて「主に水として存在し、自然界や水道水のほか、私たちの体内にも存在する」という説明を行っている。
原子力問題に取り組む認定NPO・原子力資料情報室の共同代表の伴英幸氏は、取材に対し「トリチウムの健康への影響がないとも、海洋放出が安全ともいえない」とコメントしている。その理由として、海洋放出した場合に環境中で生物体の中でトリチウムの蓄積が起き、さらに食物連鎖によって濃縮が起きる可能性があること、仮にトリチウムがDNAに取り込まれ、DNAが損傷した場合、将来的にがん細胞に進展する恐れがあること、潮の流れが複雑なため放出しても均一に拡散するとは限らないこと、などを挙げている。
ちなみに中国でも「人体に取り込まれたトリチウムがDNAを断裂させ、遺伝子変異を引き起こす」(国家衛生健康委員会が主管する専門媒体「中国放射能衛生」の掲載論文)ため、環境放射能モニタリングの重要な対象となっている。
国際的な環境NGOのFoE Japanで事務局長を務める満田夏花さんは「トリチウムは規制の対象となる放射性物質であるにもかかわらず、日本政府は『ゆるキャラ』まで登場させ、処理水に対する議論を単純化させてしまいました」と語る。同時に、「私たちが最も気にするべきは『処理水には何がどれだけ含まれているか』であり、この部分の議論をもっと発展させるべき」だと指摘する。
「ALPS処理水には、除去しきれないまま残留している長寿命の放射性物質がある」とスクープしたのは共同通信社(2018年8月19日)だった。これは、東京電力が従来説明してきた「トリチウム以外の放射性物質は除去し、基準を下回る」との説明を覆すものとなった。
このスクープを受けて東京電力は「セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129などの放射性物質が残留し、タンク貯留水の約7割で告示濃度比総和1を上回っている」と修正し、「二次処理して、基準以下にする」という計画を打ち出した。
現在、東京電力のホームページには、トリチウム以外の放射性物質が示されているものの、公開データはタンクごとに測定した濃度(中には1万9909倍の濃度を示すタンクもある)にとどまり、いったいどれだけの量があるのかについては不明、わかっているのは「トリチウムが860兆ベクレルある」ということだけだ。
海洋放出以外の代替案が選ばれなかった理由
一方、海洋放出以外の代替案には、(1)地層注入、(2)海洋放出、(3)水蒸気放出、(4)水素放出、(5)地下埋設、の5案が検討されていた。ALPS小委員会の報告書(2020年2月10日)は、それぞれが必要とする期間とコストを次のように説明している。
(1)地層注入
期間:104+20nカ月(n=実際の注入期間)+912カ月(減衰するまでの監視期間) / コスト:180億円+6.5n億円(n=実際の注入期間)
(2)海洋放出 
期間:91カ月 / コスト:34億円
(3)水蒸気放出 
期間:120カ月 / コスト:349億円
(4)水素放出 
期間:106カ月 / コスト:1000億円
(5)地下埋設
期間:98カ月+912カ月(減衰するまでの監視期間) / コスト:2431億円
上記からは、(2)の「海洋放出」が最も短時間かつ低コストであることが見て取れる。これ以外にも、原子力市民委員会やFoE Japanが、原則として環境中に放出しないというスタンスで、「大型タンク貯留案」や「モルタル固化処分案」の代替案を提案していた。
これについてALPS小委員会に直接尋ねると「タンクが大容量になっても、容量効率は大差がない」との立場を示し、原子力市民委員会やFoE Japanの「タンクが大型化すれば、単位面積当たりの貯蔵量は上がるはず」とする主張と食い違いを見せた。この2つの代替案は事実上ALPS小委員会の検討対象から除外され、(2)の「海洋放出」の一択に絞られた。
日中の国民の利害は共通 / 環境問題と中国問題は切り離して
対立する米中が気候変動でも協力姿勢を見せたこともあるのか、今回の取材では「中国に脅威を感じているが、海洋放出をめぐっては日本の国民と中国の国民は利害が共通する」という日本の市民の声も聞かれた。
実は中国側も同じ意識を持っている。海洋放出について、中国の国家核安全局の責任者は「日本政府は自国民や国際社会に対して責任ある態度で調査と実証を行うべき」とメディアにコメントしていることから、中国側が“日本の国民と国際社会は利害が共通するステークホルダー”とみなしていることがうかがえる。
原子力市民委員会の座長代理も務める満田氏は、「海洋放出についての中韓の反応に注意が向き、論点がナショナリスティックかつイデオロギー的なものに傾斜していますが、もっと冷静な議論が必要です」と呼びかけている。
そのためには、国民と国際社会が共有できる自由で開かれた議論の場が必要だ。日本政府と東京電力にはよりいっそう丁寧な対応が求められている。 

 

●福島原発処理水の海洋放出を考える 5/1 
既に報道されている通り、政府は東京電力・福島第一原子力発電所で増え続ける放射性物質を含む処理水について、海洋放出による処分を行うとする方針を4月13日に決定した。約2年後をめどに放出を始められるよう、政府は東電に設備の設置などを求めていくという。
この決定に対し、漁業関係者や福島のサーフィン関係者からは反対意見も出ているが、日本の海岸環境の保護を目的としているサーフライダーファウンデーションジャパンは、「原発処理水の海洋放出に対して反対声明を出しません」との立場を表明している。
経済産業省・資源エネルギー庁は4月16日にメディア説明会を開催し、その実施概要や経緯、安全性などについて説明。THE SURF NEWSからの質問に対し、「福島第一原発の南北1.5kmを超えれば海水浴はマリンスポーツは問題なく行える」とも回答した。
満杯間近の貯蔵タンクと廃炉への取り組み
現在、福島第一原発の原子炉では溶け落ちた核燃料の冷却水が発生し続けていることと、雨水や地下水などが建屋内の放射性物質に触れることで、1日140トンのペースで放射性物質を含む汚染水が発生している。
この汚染水を浄化処理したものを、福島第一原発敷地内のタンクに貯蔵しているが、既にタンクは1000基以上設置されていて、約137万トンの容量のうちすでに9割に水が入っている。来年秋以降にはタンクが満杯になる見通しだが、今後の廃炉作業を進めるために様々な施設の建設スペースが必要なことから、これ以上タンクを増設する余地は少ないとの見解を、国や東電は示している。
ALPS小委員会では5つの方法を検討し、前例や実績から「海洋放出」と「水蒸気放出」の2案が現実的と判断し、なかでも設備の取り扱いやモニタリングが容易な「海洋放出」がより確実な方法であるとして採用。この検討結果について、国際原子力機関(IAEA)は「科学的な分析に基づくもの」と評価しているという。
海洋放出されるのはどんな水か
今回海洋放出されるのは、汚染水を多核種除去設備(ALPS)等で処理した「ALPS処理水」と呼ばれるもの。セシウム134/ストロンチウム90/コバルト60/ヨウ素/炭素14等など大半の放射性物質は、規制基準値以下まで浄化できるものの、「トリチウム(三重水素)」は取り除くことが難しく、ALPS処理水の中に残ってしまう。
放射性物質を多く含む「汚染水」を浄化処理したものが「ALPS処理水」となる 出典:資源エネルギー庁(4月16日メディア説明会配布資料)
トリチウムの規制基準値は6万Bq(ベクレル)/L。福島第一原発の汚染水には平均約73万Bq/L含まれており、全体で約860兆Bqのトリチウム量が溜まっているとされる。
今回の放出に当たっては、これを基準値の1/40以下かつ、WHOの飲料水基準の1/7となる1500Bq/Lまで薄めて、毎年22兆Bqずつ、一定の年数(単純計算で40年前後)をかけて放出処分をする。東京電力は、福島第一原発の南北1.5qを超えると通常の海水と同程度のトリチウム濃度になるとシミュレーションしている。
なお、各国が定めるトリチウム濃度は大きく「飲料水」向けの基準と、直ちに飲用するわけではない「排水」向けの基準があり、国によりその基準値も大きく異なる。今回排出される1500Bq/Lは、オーストラリアやWHOの飲料水基準と、アメリカやEUの飲料水基準値の中間にあたるようだ。
各国のトリチウム濃度の規制基準値 
        飲料水基準     排水基準
EU         100Bq/L            ―
アメリカ      740Bq/L     37,000Bq/L
WHO       10,000Bq/L      ―
オーストラリア 76,103Bq/L      ―
日本        規制値なし    60,000Bq/L
福島第一原発        海洋放出 1500Bq/L
除去できないトリチウムとは?
トリチウムは、日本語では「三重水素」と呼ばれる放射性物質で重たい水素の一種。単体で存在するのではなく、「トリチウム水」として水の一部として存在するため、水から分離して取り除くのが難しいのが特徴だ。
トリチウムは、宇宙から地球へ降りそそいでいる「宇宙線」と呼ばれる放射線などによって、自然界でも常に発生している。そのため、川や海、雨水や水道水、大気中の水蒸気にも含まれており、人体内にも数10ベクレルほどの微量のトリチウムが存在している。
そのため、政府は以下の理由などから安全性には問題ないとの見解を示している。
トリチウムは生物濃縮はされない
「マウスが約1.4億ベクレル/Lの濃度のトリチウム水を飲み続けてもがん発症率は自然発症率範囲内」という実験結果を提示。過去には「近隣の原子力施設の排水が原因で、二枚貝やヒラメの体内では海水に比べて数千倍のトリチウム濃縮が確認された」との海外研究結果もあるものの、同じ研究者が再度分析し、原因は別の化学工場から排出された高濃度トリチウムが原因だったと指摘している。
世界各国の原子力施設でもトリチウム原因の環境影響は確認されていない
世界中の原子力施設においてもトリチウムは発生。トリチウム以外の放射性物質について可能な限り浄化した上で、各国の規制基準に沿って放出しているが、トリチウムが原因の周辺環境への影響は確認されていない。
                            トリチウム放出量
日本・福島第一原発(2010年)     約3.7兆Bq/年
日本・福島第一原発(今回の海洋放出)  約22兆Bq/年
韓国・月上原発(2016年)       約143兆Bq/年
フランス・ラ・アーグ再処理施設   約1.1京Bq/年
〈参考〉日本に降る雨(年間)     約220兆Bq/年
「福島第一原発の南北1.5kmを超えれば海水浴は問題なく行える」
資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室長は、4月16日のメディア説明会で、THE SURF NEWSからの質問に対し以下のように回答した。
資源エネルギー庁 原子力発電所事故収束対応室 奥田室長(4月16日メディア説明会の様子)
Q. 処理水が放出されたあと、トリチウムは最終的にどうなるのか?沈殿したり、海流に乗り広まる可能性はあるのか?
A. トリチウムは海水中に放出されたあとは、拡散して、今海水中にあるトリチウムと混ざり合うことで、今ある海水中のトリチウム濃度と殆ど変わらなくなる。これまでもそのような内容をシミュレーションで検証してきた。
海水中に含まれているのは0.5〜1ベクレル。南北1.5kmベクレルの範囲となるため、その先は拡散をしていき、通常の海水と変わらない状態になる。海水に入っているトリチウムについては蒸発し、雨となって降ってくる。自然界に存在する水に溶け込んでいくと考えている。
Q. 福島〜茨城近辺の海岸で、マリンスポーツや海水浴は問題なく行えるのか?
A. 先の理由から、福島第一原子力発電所の南北1〜1.5kmを超えると、普通の海と変わらない状況になる。そのため、海水浴のエリア、サーフィンのエリアでは、問題なくこれまで通り活動できると考えている。
Q. 海外にはトリチウム分離施設が存在し、日本でもこれらの技術を開発すべきとの主張もあるが導入検討はしたのか?
A. カナダ型・重水炉で分離技術が使われている例はあるが、それはトリチウムの発生量が(日本より)かなり多い。分離対象が4000億〜1兆3000億ベクレルとかなり濃度が高い場合にはその技術は有効だが、現在の日本のように濃度が低く大量にある状態の場合は既存技術の適用は難しい。新たな技術動向を注視し、今後実用化可能な技術があれば積極的に取り入れていく。  
●自民党議員も原発汚染水の海洋放出に反対「タンクに保管すべき」 5/1
日本政府が、福島第一原発の敷地に保存されている汚染水の海洋放出を決めたことに対し、与党の自民党内でも懸念の声があがっている。衆議院で8期を務める山本拓自民党議員は、自身のホームページを通じて、福島原発汚染水の海洋放出に関する問題を提起している。
30日、山本議員のホームページによると、山本議員は「福島原発汚染水」という項目を設け、昨年9月から書き込みを続けている。山本議員は「福島汚染水にはさまざまな種類の放射性物質がある」とし、「海洋放出された際、環境にいかなる影響を及ぼすか、きちんと把握されておらず、危険だ」と主張した。放射性物質の規制基準も人体に与える影響に基づいたもので、環境や海の生態系にどのような悪影響があるか確かでないと強調した。
山本議員は、汚染水の放射性物質を基準値以下に下げてから海洋放出するという東電の発表について、安心できないとし、総量について考えるべきだと指摘した。また放射性物質を取り除く多核種除去設備(ALPS)の性能についても検証が必要だと主張した。「東京電力は汚染水の二次処理後には放射性物質の濃度が基準値以下に下がったと発表したが、まだ少量の水でテストしたレベル」だとし、「長期間維持できるかについて、検証が必要」と述べた。
山本議員は、汚染水を海に放出しないのが最も良い方法だと強調した。2年の時間があるだけに、新たな汚染水の発生を防ぎ、現在のようにタンクに保管する方法で進めるべきだという考えだ。今でも、事故で溶けだした核燃料の冷却水に雨水と地下水が染み込み、汚染水が発生し続けている。事故直後、1日に約470トン発生していた汚染水は地下水の流入を減らしたことで140トンにまで下がった。山本議員は「地下水などが原発建屋内に入らないよう、止水工事を前倒しして実施すべき」だとし「専門家も同様の指摘をしている。(止水工事を実施すれば)さらにタンクを増やす必要もなく、2年後に海洋放出をする理由もなくなる」と強調した。
山本議員は、来月13日に国会で、経済産業省や東京電力の担当者、専門家などを招き、福島原発汚染水に関する会合を開く予定だ。山本議員は最近「日刊ゲンダイ」のインタビューで「自分は原発推進派だ。菅義偉首相も支持している」としたうえで、「ただし、原発処理水に関する報道は、事実と異なることが多い。ALPS処理水と、通常の原発排水は、まったく違うものだ。処理水に含まれるのは“事故由来の核種”」だとし、汚染水の海洋放出に懸念を示した。
●韓国漁民同時多発“海上デモ”…「日本の汚染水が水産業の存立を脅かす」 5/1
釜山、木浦(モッポ)、束草(ソクチョ)などの漁業者が海に船を出し、日本政府による福島原発汚染水海洋放出決定を批判するデモを行った。彼らは、原発汚染水の放出が「韓国の水産業の存立を脅かすだろう」と糾弾した。
30日、韓国水産産業総連合会、韓国水産業経営者中央連合会、韓国女性漁業者連合会などの水産団体は、釜山、束草、馬山、木浦など全国9カ所で「水産産業人全国同時福島原発汚染水海洋放出糾弾大会」を開いたと明らかにした。釜山の多大浦(タデポ)と木浦北港、華城宮坪(クンピョン)港など7カ所では漁船の海上デモも行われた。
これらの団体は、日本の原発汚染水海洋放出決定に対して「水産産業人は水産業の存立を脅かす重大な侵害と認識している」と明らかにした。特に「影響がないという専門家たちの公言にもかかわらず、国民は原発汚染水の国内流入を憂慮して」おり、「日本の海洋放出決定があっただけでも既に水産物の消費が萎縮している」ということだ。彼らは「日本原発汚染水の国内流入の有無と関係なく、水産物消費の急減、漁村観光の忌避などで水産業界の被害が今後20〜30年間雪だるまのように増えるだろう」と明らかにした。
さらに「三重水素は人体に影響が殆どない比較的危険の少ない放射性物質であり、5年以上の長期にわたり海水で薄められ、韓国に流入する可能性はないと国際研究機関と専門家がいくら公言しても、誰が信じられようか」として、日本政府には、一方的海洋放出決定の即時撤回▽透明な情報公開と科学的検証の受け入れを要求し、韓国政府には、水産物安全管理方案の用意▽水産業保護対策の準備を要求した。 

 

●デブリとの「闘い」 最初の2号機取り出し段階へ 5/2
東京電力福島第1原発2号機の原子炉格納容器の中を、遠隔操作の機器が静かに進む。先端は2本の指状になっており、開閉によって物をつかむことができる。原子炉格納容器の底部に到達した機器は小石のような物体をつまみ、持ち上げることに成功した。2019年2月13日、原発事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)に初めて接触した瞬間だった。
第1原発1〜3号機の原子炉格納容器内は高線量で、人が入ることなど到底できない。原発事故で溶け落ちたとされるデブリはどうなっているのか―。東電などは、さまざまな条件を設定して、どのように燃料が溶けるかのシミュレーションを通じてデブリの場所を推測する作業を始めた。
その後、地球に降り注ぐ宇宙線が大気と反応して生じる素粒子「ミュー粒子」を使い、レントゲンのように溶け落ちた燃料の位置を把握する研究も進んだ。その結果、1号機と3号機は燃料の多くが格納容器の底まで溶け落ちており、2号機は原子炉圧力容器の中に一定量がとどまっていることなどが分かってきた。
政府の廃炉に向けた工程表「中長期ロードマップ」では、1〜3号機のうち最初の号機からのデブリ取り出しを21年内に行うことを目指してきた。ロボットで初めて原子炉格納容器内の状況を確認できたのは、15年4月の1号機での調査で、原発事故から4年が経過していた。その後、さまざまなロボットなどを投入、19年にデブリの接触に成功するまでに至った。
政府は工程表を順次改定し、デブリを最初に取り出すのは2号機と決めた。原子炉格納容器の側面にある貫通部からロボットアームを入れ、底にあるデブリを試験的に少量採取する方法を採用。第1原発の廃炉に必要な機器などを研究する国際廃炉研究開発機構(IRID)などは、英国で取り出しに使うアームの開発を進めた。
しかし、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が影を落とした。英国で思うように作動試験が進まなかったことを受け、東電は20年12月24日、目標としていた21年内のデブリ取り出し延期を発表した。
原発事故直後から第1原発廃炉に関わってきた原子力損害賠償・廃炉等支援機構理事長の山名元(はじむ)(67)は「10年かけて原子炉格納容器の中に本格的な取り出し機器を入れる段階まで来ることができた。(廃炉に向け)大きな谷を越えたと考えている」と指摘する。
ただ、推定されるデブリの総量は880トン。原発事故から30〜40年とされる廃炉は実現できるのか。山名は「闘いはこれから。最短で最も安全な取り出し工法を選択し、目標達成に全力を尽くしていく」と語った。(敬称略)
「廃炉の最難関」着手は22年以降
「廃炉の最難関」とされる、溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しに向けた準備が進む。最初に取り出されるのは2号機からで、来年以降に試験的にわずかな量から始める見通しだ。廃炉の枠組みを定めた政府の廃炉工程表「中長期ロードマップ」は、最初の号機からのデブリ取り出しが、廃炉のステージを廃炉完了に向けた最終段階に引き上げる節目になると位置付けている。デブリ取り出しに向けた課題を探る。
分厚い鋼鉄などで造られた原子炉格納容器には、さまざまな作業で使う貫通部が設けられていた。2号機では、このうち格納容器の側面にある「X―6ペネ」と呼ばれる貫通部からロボットアームを入れ、底にあるデブリを採取する。試験的な採取の後には、徐々に取り出しを拡大していくことを目指している。
3号機は1、2号機と比べると格納容器内の水位が高い状況にある。仮に2号機と同様に側面からのデブリ取り出しを選択する場合には、格納容器内の水位調整を施さなければならないという課題がある。1号機の場合は、炉内の状況についてまだ分からない部分が多く、さらなる調査が必要な段階にある。
デブリの取り出しについては、金属やコンクリートとの混ざり具合で性質も異なるとみられるデブリの状態などが明らかになるに従い、最も効率的で安全な手法を採用することになっている。現在考えられている主な工法は【図2】の通りになっている。
原子炉の運転では、核燃料からの強い放射線を遮るため水が使われる。デブリからも強い放射線が出ているため、これを遮るには格納容器内を水で満たす「冠水工法」が優れているとされる。しかし、格納容器には、震災や原発事故で多くの損傷があることが見込まれ、全てを修復して実行に移すのは難しいとされる。
このため、現段階では、放射性物質が飛び散らないような対策を施しながら、水を満たさない状況で慎重に取り出す「気中工法」が有力とされている。2号機のような取り出しは「気中―横アクセス」と呼ばれ、格納容器の上からデブリを取り出す方法は「気中―上アクセス」と呼ばれる。
ただ、着実な取り出しに向けては、さらなる格納容器内調査やデブリを切り出す機器の開発などが求められる。廃炉の目標期間は原発事故から30〜40年となっている。技術開発の遅れによってデブリの取り出しが滞ることがないよう、東京電力だけではなく、政府や原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)などが一体となって工程を管理していくことが欠かせない。
保管施設の議論これから
取り出したデブリはどのように保管するのか。
東京電力によると、2号機での最初の試験的取り出しでは、デブリの大きさは最大数グラム程度となる見通しだ。そのため、既存の建屋内に樹脂製の容器(グローブボックス)を設置し、重量などを計測した後に、茨城県にある既存の分析施設に運び込むことになっている。
しかし、2019年2月の2号機での調査では、機器でつかむことができた小石状の形のほかに、粘土状に固まったデブリなども確認されている。段階的に取り出し規模を拡大するにつれ、ある程度の大きさのデブリを保管するための施設が必要になってくる。
まずは既存の建屋内に「一時保管設備」を設ける。デブリを入れる保管容器は、使用済み核燃料を保管する技術を応用して開発する見通しになっている。設備には、金属やコンクリートにより十分な遮蔽(しゃへい)効果を持たせることが求められる。
また、東電は、さらにデブリ取り出しが進むことを想定し、新たに保管施設を建設する考えだ。場所は、原発敷地内の原子炉建屋南側を想定する。しかし、そこには現在、処理水などを貯蔵している地上タンクが林立している状況だ。
推計では、1〜3号機にあるデブリは計880トンに上るとされている。それら全てを安全に保管するために十分な敷地を確保できるかどうかなどは、まだ議論されていない。

 

●汚染水対策、道半ば 実態伴わぬ「コントロール」 5/3
「状況はコントロールされている。私たちは決して東京にダメージを与えない」。2013(平成25)年9月7日、ブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の総会。2020年夏季五輪招致を巡る最終プレゼンテーションで、首相だった安倍晋三は、東京電力福島第1原発の汚染水への対応についてこう発言した。
11年3月の原発事故後、喫緊の課題は溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷却することだった。海水も含め大量の水が原子炉内に注入された。このほか、地下水や雨水が建屋内に流れ込み、デブリなどの放射性物質に触れ汚染水になっていた。政府は12月に原子炉の「冷温停止状態」を宣言し、最悪の時期を脱したかのように見えた。
ただ、日々増える汚染水への対応は進まなかった。建屋からくみ出し、地下貯水槽や地上タンクに貯蔵することになったが、13年にトラブルが頻発する。4月に地下貯水槽からの漏えいが発覚。7月には東電が建屋から海洋に汚染水が漏れ出していることを認めた。さらに8月には、タンクから高濃度の汚染水300トンが流出する事故が起きた。
タンクは急場しのぎで造った、鋼板をボルトで締める形式だった。東電の管理体制のずさんさも明らかとなり、汚染水問題は内外の関心事となった。折しも五輪招致はヤマ場を迎え、汚染水問題はマイナス要因に他ならなかった。政府は9月3日、原子力災害対策本部会議を開き、汚染水に対する基本方針を策定する。
安倍がIOC総会で発言したのは、このわずか4日後。効果があったのか、東京での五輪開催が決定した。ただ、現実には汚染水問題は解決されておらず、本県を中心に疑問の声が上がった。安倍の発言は「国際的な公約」のような玉虫色の政治的発言と解釈された。
その後、汚染水は多核種除去設備(ALPS)で浄化された「処理水」としてタンクに貯蔵され続けることになった。処分の必要性が議論されたが、確実に起こる風評影響を懸念し動きは鈍かった。今年4月になり、首相の菅義偉が突如、海洋放出を決断する。全国漁業協同組合連合会(全漁連)などの関係者は納得しておらず、タンク貯蔵容量の切迫に追い込まれた「合意なき政治決断」といえる。
水問題の一定の出口戦略は見えたが、雨などで汚染水は今も発生している。ALPSで浄化を続ける限り、放射性物質を含んだ汚泥(スラリー)などの「水処理2次廃棄物」が増え続ける。これらの廃棄物の処分方法は決まっていない。抜本的な解決策と考えられる「汚染水を発生させない」という言葉は、政治の表舞台に現れない。
自然相手、対策に時間と労力
東京電力福島第1原発では2011(平成23)年3月の事故後から、複合的な汚染水対策が行われている。なぜ第1原発の廃炉作業では汚染水問題を切り離すことができないのか。10年間の歩みを振り返り検証する。
原発は、原子炉建屋の耐震性を確保するため、岩盤に設置するような形で建設される。その結果、建屋は地下水の流れの中にあるような状態になる。そのため、原発事故前から建屋近くに井戸を掘り、地下水をくみ出して影響がないような対策を施していた。原発と水は不可分の関係にあった。
原発事故後、水素爆発などで生じた破損部分から地下水や雨水が入り込み、溶け落ちた核燃料(デブリ)などの放射性物質に触れて汚染水が発生するようになった。大きく汚染源を「取り除く」、汚染源に水を「近づけない」、汚染水を「漏らさない」の三つの種類に分けられている。それぞれの対策が稼働、完了した時期を太字で記した。おおむね政府が基本方針を決めた13年以降だ。自然を相手に相当の時間と労力をかけ、汚染水対策が整えられてきた。
現段階で海洋放出されているのは「地下水バイパス」などでくみ上げた水で、厳格な基準を守って行われている。新たに放出方針を決定したのは、これまでタンクにため続けていた水で、総量は125万トンに及ぶ。
発生する汚染水、2020年は1日平均140トンまで減少
2014年度は平均で1日約470トン発生していたが、陸側遮水壁やサブドレン(井戸)を組み合わせた対策を施したことで、20年の平均は1日約140トンまで減少している。
政府の廃炉に向けた工程表「中長期ロードマップ」では、汚染水の発生量を25年内に1日当たり100トン以下にすることを目標にしている。
東京電力によると、今後考えられる対策として、原発事故で破損した建屋の屋根などを補修して雨水の流入を防ぐことを検討しているという。
一方、汚染水を多核種除去設備(ALPS)などを使って浄化すると、その過程で放射性物質を含んだ汚泥(スラリー)や吸着塔などの「水処理2次廃棄物」が増え続ける。東電の試算によれば、10年後には吸着塔換算で約6200基分となる見通しだ。
また、現在タンクに保管している水を海洋放出するだけでも相当の時間がかかる。放出に区切りを付け、廃棄物の発生を減らすためにも、廃炉全体のリスクとバランスを取りながら、建屋と地下水・雨水を切り離す抜本的な対策を取ることが求められる。

福島第1原発の汚染水 雨水や地下水が原子炉建屋内に流れ込み、放射性物質と混ざり合った水。現在は多核種除去設備(ALPS)を通してトリチウム以外の放射性物質を除去し、「処理水」としてタンクに保管している。2020(令和2)年に発生した汚染水は、1日当たり平均約140トン。東電によると、タンクを置くことができる敷地には限りがあるとされ、22年秋ごろには容量が限界に達するという。

 

●NDF・山名元理事長に聞く 廃炉・工程表の改定は進化、進歩 5/4
東京電力福島第1原発事故から10年が経過した。廃炉の状況について原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の山名元理事長に聞いた。
第1原発を浜通りにとってリスクのない状態にする
―廃炉の達成状況をどのように評価するか。
「遠くの方に見えている山の頂上に向かって、道なき道を暗中模索してきたようなものだ。原発事故直後は原子炉の様子など何も分からなかった。10年かけてリスクの高いところが分かり、工学的な対策を講じてコントロールできる状態まできた。遅いと思うかもしれないが、大きな進歩と考えている」
―政府は福島第1原発の廃炉に向けた工程表「中長期ロードマップ」を作り、廃炉の枠組みを決めてきた。どのような意味合いがあるか。
「原発事故は国難で、混沌(こんとん)とした状況にあった。政府が2011(平成23)年冬に作った工程表は、廃炉の方向性、そして東電という責任主体に廃炉を国策としてやらせるんだという考えを示した。重要な意味があったと思う。このイニシアチブ(主導権)がないと、廃炉の闘いは成立しない」
―最初の工程表の作成には関わったのか。
「直接は関与していないが、(当時の)原子力委員会の中長期措置検討専門部会長として工程表の基となる考えをまとめた。専門部会では(廃炉に)30年以上かかるという答申を出した。政府はこの考え方を取り込み、40年で廃炉を終わらせるという目標を東電に突き付けた。今でも良い目標設定だったと思う」
―その後、工程表は状況の変化に応じ内容を改定してきたが、どのように見ているか。
「この論点で大事になるのは、11年に何を考えたかということだ。情報がない中で、まずは米スリーマイルアイランドの原発事故を非常に強い参考にした」「原子炉の形などは違うが、スリーマイル事故で行われた、水を満たして中の(溶融核燃料〈デブリ〉などの)ものを取り出す『冠水工法』が最良だという判断で技術開発を進めた。しかし、2、3年やったころに、やはり水を(第1原発の原子炉)格納容器に満たすことは難しいという判断にたった」「14年8月にNDFの廃炉支援部門が発足した(山名氏は当時副理事長)。私たちは、政府方針に技術的な根拠を持たせるような提案が必要と考え、『技術戦略プラン』を15年から毎年公表することにした。戦略プランは政府にも尊重してもらい、徐々に工程表の改定につながっていった」「デブリの取り出しについては、17年の戦略プランで水を使わず気中で取り出す手法をまずやり、内部の状況を確認しながら柔軟にアプローチしようという考えを提案した。19年には2号機を最初とするよう提案した。工程表の改定は言うなれば、廃炉という国策がリアリティー(現実性)を増していく進歩、進化のようなものだと考えている」
―工程表ではデブリ取り出し開始(22年の予定)で第2期が終了し、最終段階の第3期に入ることになる。第2期の目標は、デブリ取り出しに向けた技術開発や内部調査を本格化することだった。現状をどのように見ているか。
「もっと(原子炉の内部が)分かるところまでいきたかったと正直に思っている。しかし、10年をかけてデブリ取り出しの扉を開けるところまでたどり着いた。これができるとできないとでは大きな差がある。これからはデブリの取り出し方法を選び、固めていく本格的な工学的な闘いに入る」「デブリの性質を把握しながら、現場の安全と住民に迷惑を掛けないということを最優先に、最短で最も安全で、40年という廃炉の当初の目標を満たせるような工法を選ぶ」
―取り出したデブリの扱いなどは詳細に決まっていない。
「(デブリを)今の悲惨な状況から回収し、第1原発内に収納施設を造り、確実に安全性を満たした状況で管理するというのが基本戦略だ。ここまでははっきりしている。具体的な収納の在り方については、設計開発を進めている」
―デブリの取り出しや保管の方針は、福島第1原発の廃炉の最終形をどうするかという問題に関わる。工程表では第3期の期間中に、東電がその在り方を示すことになっている。現在の議論の状況は。
「デブリの状況などがはっきり分かっていない段階だ。仮定すればゼロから100まで何とでも言える。(最終形の議論をするのは)まだ時期尚早と考える」「ただ、明らかに言えることは二つある。一つは、私たちは、廃炉を被災した地元が確実に復興してほしいと思ってやっている。復興の足かせにならないように第1原発を将来の浜通りにとってリスクのない状態にすることが目標だ。それは間違いなく達成する」「もう一つは、あのサイト(場所)を浜通りにとってプラスになるものに持っていきたい。ネクストユースと呼んでいるが、第3期中に確実なデブリ取り出しの工法などを固め『こういう状態に持ち込みます』と提示した上で、地元の皆さんが希望する形を実現したい。それが私たちのイメージだ」
―16年のNDFの戦略プランで、チェルノブイリ原発事故で採用されたデブリを取り出さずに封じ込める「石棺」を思わせる記述があり問題となった。どういうことだったのか。
「(プランを書いた)私の国語力のなさが原因。私は、石棺は絶対にしてはいけないと考えてきた人間だ。あの時は、石棺でもいいのではないかという人が出始めた時期だった。石棺にしてはいけないと明言したが、工学的な判断は柔軟に取る必要があると付記したら、誤解を招いてしまった」「石棺にしてはいけない理由は簡単だ。石棺は、臭い物にふたをして当面抑えておこうという考え方。短期の安心は得られるが100年、200年という間には必ず劣化する。目指しているのは長期的にリスクのない状態に持ち込むこと。だから石棺というのはあり得ない」
東電を監督、改革を求めることが私たちの責任
―震災から10年を振り返ると汚染水対策に割いた労力が大きいと感じる。福島第1原発事故に特有のものか。
「あれだけの量になるとは全く思っていなかった。コンクリートにはひびがあり(原子炉建屋から汚染水が)外に漏れ出す可能性があった。そのため(圧力差で漏出を防ぐため周囲の)地下水位を高く維持する必要があり、これが大きなハンディキャップとなった。その結果、外の地下水は水位差によりたくさん中に入ってくることになった」「もう一つは、破損した屋根から雨水が入ってきた。その結果、1日の流入量が平均で300トンとか400トンとかになった。この全体像が分かってきたのが12〜13年のころだ。それで慌てて凍土壁(陸側遮水壁)を造ったり、水位差コントロールを精緻にやるとかして、1日100トンぐらいまで下がってきたというのがこの10年の歩みだ」
―政府が、汚染水からトリチウム以外の放射性物質を取り除いた処理水について、海洋放出する方針を決めた。根本的な問題として汚染水の発生を抑える必要があるのではないか。
「おっしゃる通り。凍土遮水壁とサブドレン(井戸)で(発生量を)調整する手法が基本だが、それを長期的にどうするかというのは大きなテーマだ。簡単に答えは出ず、息の長い話になると思う。ただ、長期的には汚染水が発生しない状態を目指したいというのは、明らかに頭の中にある」
―汚染水に関連して言えば、多核種除去設備(ALPS)などで浄化を続ける限り、放射性物質を含む水処理廃棄物が発生する。この問題についてはどう考えるか。
「水処理廃棄物は多様なものがあり、処理を続ける限り出続ける。今取っているアプローチは、まず発生量を抑えていくこと。以前よりも吸着材の性能が良くなり、発生量は減っている。後は、廃棄物の水分を抜き、固化することで体積を減らす。これは現在、研究開発を進めている」
―福島第1原発事故が発生した時、原子力の専門家としてどう思ったか。
「原発に関連する発電事業者の運営や技術の成熟、政府の安全規制などはきちんとされているはずだと、恥ずかしながら思い込んでいた。原子力に関わる技術者として反省し、後悔し、無念さにうちひしがれた。その反省に立ち、第1原発に一定の答えを出すのが自分の責任と思い、今ここ(NDF)にいる」
―その立場から見て、現在の東電の安全に対する姿勢をどのように思うか。
「原発事故で東電も安全に対して組織的な弱さがあると反省したはずだ。だが10年たった今、(原子力規制委員会から柏崎刈羽原発を実質上の運転禁止とする)行政命令が出たことを見れば、まだまだ未熟なところがあるという印象。安全最優先であることを指導してきた私自身、痛恨の極みだ」「『組織の文化を変えるのは時間がかかる』というような悠長なことは言ってられない。今まで以上に東電の経営を監督し、組織改革を求めていくことになる。それが私たちの責任と思っている」
●定義、あいまいなまま 宙に浮く「最終形」議論 5/4
「30年先、40年先のことでも、今からちゃんと計画しておかないとできない。それを放っておくのは、政治的な問題以外の何ものでもない」。日本原子力学会で福島第1原発廃炉検討委員長を務める宮野広(73)=流体振動、システム安全が専門=は、廃炉の最終形について議論が進まない現状に苦言を呈す。
日本原子力学会は昨年7月、東京電力福島第1原発の廃炉が完了し、敷地を再利用できるようになるには最短でも100年以上かかるとする報告書を公表した。政府の「中長期ロードマップ(工程表)」は、廃炉を30〜40年後に終了するとしていたため、100年という試算は驚きを持って受け止められた。
報告は、放射性物質で汚染された廃棄物をどのように取り扱うか―という視点からまとめられた。通常の廃炉の場合、処分が必要な放射性廃棄物は解体物全体の数%とされる。しかし、事故を起こした福島第1原発は、汚染が広範囲に及んでおり、大量の放射性廃棄物が発生するとみられる。
学会は「原発の敷地を再利用できること」を廃炉の最終形に設定した。最短のシナリオは、溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出し完了直後から作業に着手し、原子炉周辺の機器や建屋、土壌などの全ての放射性廃棄物を敷地外に運び出すというものだ。
このほかにも、廃炉作業によって生じる廃棄物の総量や搬出量を抑えるため、建屋の地下部分などを残す場合も想定した。高い放射線量が減衰することを待つ「安全貯蔵」の期間を設けてから解体するパターンも考えた。それらは敷地の再利用までに百数十年から数百年かかる試算となった。
それでは中長期工程表で廃炉の最終形の定義はどうなっているのか。宮野は「廃炉をどこまでやるのかという定義は、あいまいなままだ」と指摘する。2019年に改定された中長期工程表の最新版を確認すると、廃炉の最終形を示していると読めるのは以下のような部分だ。
「廃止措置に関する事項は、30〜40年後の廃止措置終了を目標に、燃料デブリ取り出し等の廃炉作業や研究開発等の進捗(しんちょく)状況を踏まえ、東京電力が第3期に定める」。第3期とは、デブリの取り出し開始から廃炉終了までの期間を指す。つまり、事故の当事者の東電がこれから決める―ということだけが書かれている。
宮野は「事故から10年。最終形の議論を始めることで廃炉の方向性が見え、今のステップ(段階)を決めることができる」と、改めて議論の必要性を主張した。
宮野は、最終形の決定が東電任せになりかねない現状にも疑問を投げ掛ける。「完了後の敷地を何に使うのか、地元の人たちにもさまざまな思いがある。地元の人を入れて議論していかないと、最終形は見えてこない」
●韓国消費者91%「日本汚染水の放出決定で水産物の消費量を減らす」 5/4
最近、日本政府の福島原発汚染水の海洋放出決定以降、韓国消費者が水産物の消費を減らしたことが分かった。
4日、韓国消費者団体である消費者市民会が先月22〜23日、ソウルと京畿道(キョンギド)に居住する20〜50代男女消費者500人を対象にアンケート調査を実施した結果、63.2%がこのように水産物消費を減らしたと答えた。
36.2%は消費に変化がなかった。
日本の原発汚染水の海洋放出決定が今後自身の水産物消費に及ぼす影響に対して91.2%が「消費量を減らす」と答え、水産物消費がさらに萎縮するものと予想される。また、日本産水産物の安全管理に対しては69.6%が信頼していないと評価した。
水産物安全のために必要な政策では54.4%が「全体日本産水産物の国内流入禁止」を挙げ、「日本産水産物の安全性および放射能に対する安全管理の強化」(27.8%)、「水産物の原産地表示および取締り強化」(6.4%)などが後に続いた。  

 

●処理水の海洋放出 「課題は風評克服」と産読  朝毎「政府・東電に不信」 5/5
政府は、東京電力福島第1原発の放射能汚染水を浄化した処理水の海への放出を決めた。2年後をめどに開始する。産経や読売は、環境への悪影響はないと説き、風評被害の防止を課題に挙げたのに対し、朝日や毎日は、地元漁業者らが反対し、国民の懸念が根強いことを強調して、政府の決定を批判した。
事故が起きて10年になる。処理水は増え続け、第1原発敷地内のタンクに貯蔵されてきたが、来年秋には限界に達する見通しだ。放射性物質の大部分を除去した後、処理水に残るトリチウムは自然界にも存在する。原発の通常運転でも発生し、国内外の原発から海などに放出されている。
産経は、海洋放出は「不可避」とし、「水素原子の一種であるトリチウムは放射性の元素だが、発する放射線が生物に与える影響は無視されるほど小さい」と説明した。読売は「国際原子力機関(IAEA)も支持している手法だ。欧州はじめ各国でも実際に行われている。他に選択肢はなかっただろう」と今回の決定を支持した。
だが、地震と原発事故で大きな被害を受けた地元の漁業者らに、新たな風評被害への懸念は強い。中国や韓国は食品の輸入規制を続けている。
産経は「風評被害は漁業者と政府の共通の敵である。根拠のない噂に負けてはならない」と呼びかけ、「トリチウムを海水で薄める希釈設備などの諸準備に1年以上は要するだろう。その間を利用して政府と漁業関係者の間で風評被害防止の綿密な対策を練ってもらいたい」と注文を付けた。読売は「政府はトリチウムの性質や放出手順を丁寧に説明し、消費者の不安を取り除くことが重要だ。海産物の販売促進や販路拡大などの支援策も検討すべきだろう」と論じた。
日経は今回の決定について、「内容は妥当でも、地元との対話は不十分だったのではないか」と評した。その上で、「反対意見は根強い。いかに人々の理解を得ながら実行に移すか、ここからが正念場だ」との見方を示した。
朝日は「住民や消費者が不安を抱くのは当然のことだ。事故を起こした原発からの、溶け落ちた炉心の冷却に使った水の放出であり、いつまで続くかもわからない」と指摘した。毎日も「漁業関係者ら地元の反対を押し切った形だ」とし、「福島の人々は不信感を募らせている。にもかかわらず『保管場所がなくなる』との理屈で一方的に押し通そうとする手法には、誠実さがうかがえない」と断じた。
両紙は批判の矛先を東電にも向けた。過去に処理水中の放射性物質の残留について説明不足があったこと、地震計を壊れたまま放置していたこと、柏崎刈羽原発でテロ対策の不備が発覚したことなどを挙げ、「東電への不信も根深い」(朝日)、「事業者としての能力が疑われている」(毎日)と指弾した。
毎日は「中国や韓国など近隣諸国の懸念を拭うのは容易ではない」とみていたが、両国は早速、「絶対に容認できない」(韓国政府)、「極めて無責任なやり方」(中国外務省)と激しく反発した。
これに対し産経は、トリチウムの放射線の微弱さや、流されるのが太平洋側であること、中韓両国の原発からも放出されていることなどを挙げ、「両国の批判は全くもって的外れだ」と反論した。その上で、「国内での風評認定も度を越すと韓国や中国の論難と一線を画しがたくなる。良識として、そのことを忘れないでもらいたい」とクギを刺した。読売は、中韓の反発に「いたずらに敵対的な感情をあおる言動には、日本政府は毅然(きぜん)と対応してほしい」と訴えた。
処理水は今後30年かけて徐々に放出される予定だ。政府・東電は安全性の確保を確認し、関係者の理解を得ながら、廃炉に向け、着実に作業を進めていくことが求められる。  

 

●福島の核汚染水問題 日本は国際社会と解決方法を模索せよ 5/6
日本政府は4月中旬、福島原発事故による約130万トンの核汚染水の海洋放出を正式に決定した。早ければ2022年に始まる。本件は国際社会から広く注目され、各国政府及び国民が反対した。世界の300以上の環境保護団体が公然と抗議し、日本国内の多くの民間団体と識者も本決定に強く反対した。実際に福島原発を運営する東京電力は数年前、数百トンの核汚染水がタンクから溢れ出し海洋に流入したことを認めた。今回は安全な処理手段を使い果たす前に、日本は国内外の疑問と反対を顧みず、一方的に海洋放出を決定した。これは周辺諸国の利益を直接損ね、生態環境の重大なリスクを生み、かつ自国の利益とイメージを損ねた。(文=盧昊 中国社会科学院日本研究所総合戦略研究室副主任、副研究員)
福島の核汚染水は、2011年の東日本大震災による福島原発事故の残された問題だ。福島原発事故は現在、世界で最も深刻な原発事故の一つとされているが、これは「天災」であり、それ以上に「人災」である。菅政権も前政権からこの「負の資産」を引き継ぐと、同問題の処理の問題に困惑させられた。感染対策に取り組まず、政治とカネのスキャンダルに巻き込まれた影響により、菅政権の高かった支持率の低下が止まらず、政権運営の基盤が揺らいでいる。政権の基盤を安定させ、今秋の衆院選で勝利を収めるため、菅政権は原子力・電力財閥及びその他の関連利益勢力に譲歩し、核汚染水問題を早期解消する傾向を強めている。今年3月上旬の東日本大震災10周年に際し、菅氏は福島を視察した際に「核汚染水問題を早急に解消する」と表明した。日本側にとって、核汚染水のいわゆる「処理」後の海洋放出は、最も手っ取り早く最もローコストな解決策だ。
日本政府がこの時期に海洋放出を発表したのは、国内の政治の圧力に対応するほか、米国と合意を形成していたためでもある。バイデン政権発足後、日本はトランプ時代の米日関係の非常に不安定な状態を変え、日米ハイレベルの相互信頼を早急に再構築し、米国側から戦略的な支持を得ようとし、対米外交に積極的な姿勢を示した。米国側はアジア太平洋戦略を強化し、中国をけん制する面で日本の力を必要としている。そのため核汚染水問題で日本側に「青信号」を出し、その代わりとしてより緊密で堅固な同盟関係を手にしようとした。他にも米日両国の原子力産業は長期的かつ深い利益のつながりを持つ。日本側の核汚染水の「問題早期解決」は米国側の利益に合致し、米日の核汚染水問題の一致した歩調は双方の政治的取引の結果だ。米国側の放任と支持は、日本側の決定の自信を支えた。
福島の核汚染水は原発事故の産物であり、正常に稼働する原発が排出する一般的な廃水とは異なる。国際原子力機関(IAEA)の専門家チームは以前の評価の中で、福島原発のトリチウムを含む汚染水の海洋放出は周辺諸国の海洋環境に影響を及ぼし、かつ「処理済み」の廃水であってもその他の放射性物質が含まれるため、さらなる浄化が必要であると指摘した。東電が原発事故の処理で隠蔽と虚偽報告を繰り返していた前科があり、信用が不足していることから、日本政府はいっそう監督とチェックの責任を果たし、オープンで透明な核汚染水の処理プロセスを積極的に保証し、周辺諸国及び利害関係者と十分に協議するべきだ。現在の処理方法がこの基本原則に背くことは間違いない。中韓などの隣国はすでに、日本側の海洋放出の軽率な決定は「周辺諸国の確かな利益への侵害」であり、極めて無責任な行為であると明確に指摘している。
核汚染水の処理は重大な件で、広く影響を及ぼす。日本側は誠実に各方面からの疑問と向き合い、間違った決定を撤回し、国際社会と協議し解決方法を探り、透明でオープンな手段で核汚染水を適切に処理するべきだ。
●韓国・京畿道知事「海洋放出決定の撤回を」 日本政府に抗議書簡 5/6
韓国次期大統領選レースで与党支持率トップの李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事は6日、日本政府が東京電力福島第1原発の処理済み汚染水の海洋放出を決定したことに対し、日本政府と福島県知事に抗議の書簡を送った。汚染水の放出は「悲劇を招く一方的な決定」であり、「自国民だけでなく韓国をはじめ周辺国の国民の生命と安全を無視したもの」だと批判した上で、「福島汚染水の海洋放出決定を直ちに撤回することを強く要求する」と表明した。
また「国際社会の懸念と怒りにもかかわらず、福島汚染水の放出計画を最後まで貫けば、自然と人類は取り返しのつかない被害を受けることになる」とし、「その責任は全面的に日本が負うべきだ」と指摘した。
李氏は米国のハワイ州やカリフォルニア州など太平洋沿岸12カ国の25の地方政府にも書簡を送り、日本の海洋放出決定への共同対応を提案した。
●韓日、20分間の外相会談で慰安婦問題や原発汚染水めぐり“平行線”辿る 5/6
チョン・ウィヨン外交部長官と日本の茂木敏充外相が5日(現地時間)、英国のロンドンで初めて向かい合った。1月の日本軍「慰安婦」被害者賠償判決後、さらに悪化した両国関係がなかなか接点を見いだせないなか実現した高官会談であるだけに注目を集めた。
韓日外相会談は、同日午前、ロンドン市内のグロブナーホテルで、韓米日外交長官会談を終えた後に開かれた。韓日両国政府の説明によると、3カ国会談は50分ほど行われ、その後席を移して2国間会談が20分間にわたり続いたという。今年2月初めに就任したチョン長官は、韓日関係の悪化で茂木外相と3カ月間電話会談すらできていない状態だった。両国の外相が集まるのは、昨年2月15日のミュンヘン安全保障会議への出席を機に会って以来、1年3カ月ぶり。
会談直後、外交部は報道資料を発表し、「北東アジアおよび世界の平和と繁栄のため緊密に協力する必要性に共感」し、「韓日関係を未来志向的に発展させていくことに同意した」と明らかにした。主な懸案である北朝鮮・北朝鮮核問題に関しては「韓日両国及び韓米日3カ国が緊密にコミュニケーションを取ってきた点を評価」し、「朝鮮半島の完全な非核化と恒久的平和定着に実質的進展をもたらすために引き続き協力していくことにした」と述べた。
しかし、両国の足を引っ張っている強制動員被害者に対する賠償問題や日本軍「慰安婦」判決、福島原発汚染水など、主要懸案については隔たりを埋めることができなかった。チョン長官は同日「(福島原発汚染水の海洋放出が)周辺国と十分な事前協議なしに行われたことに対して深い憂慮とともに反対の立場を明確に伝えており」、日本は自国の立場を説明した。一方、茂木外相は、慰安婦賠償判決と最高裁(大法院)の強制動員労働者に対する賠償判決の問題に対する日本側の基本的立場を繰り返した。日本政府は二つの問題が1965年の韓日請求権協定と2015年の韓日政府間合意で解決済みであり、二つの判決は「国際法違反」だとして、韓国政府に「具体的解決策の提示」を求める立場を貫いている。
外交部は、チョン長官がこれに対し「日本側の正しい歴史認識がなければ、過去の歴史問題は解決できないと強調し、慰安婦や強制動員被害者関連の韓国の立場を説明した」と伝えた。会談の時間が短く、議論を深めることができなかったものとみられるが、両国共に基本的な立場を繰り返したわけだ。
この日の両外相の会談が今後の韓日関係にどのような影響を与えるかはまだ未知数だ。主要懸案をめぐる両国の立場の違いを狭めるのは難しく、日本国内の政治状況を口実に、最後まで会談ができるかどうかをめぐって日本政府が綱引きした状況をみると、韓日関係が画期的に進展する可能性は高くなさそうだ。対中国・対北朝鮮政策の推進のために韓米日の緊密な協力を重視する米政府の要請に応えるかたちで、韓日が向かい合ったにすぎないという評価も出ている。
ただ、両外相が共にコミュニケーションの必要性を強調したのは、硬直した両国関係に肯定的な要因と言える。外交部の当局者はこの日の会談が「良い雰囲気で対話が進み、両国間の意思疎通を本格的にはじめるきっかけとなった」と説明したのが注目される。日本政府はこれまで「韓国が先に関係改善のきっかけを作らなければならない」とし、高官級対話を拒否するなど硬直した市政を崩さなかった。これにより、1月から赴任したカン・チャンイル駐日韓国大使は菅義偉首相だけでなく茂木外相ともこれまで会うこともできず、天皇に信任状の呈上もできていない状態だ。今回の会談を皮切りに両国の高官級対話が再会するかが今後の韓日関係の方向性を見極める上で重要な観戦ポイントになる見通しだ。
これに先立ち、米国側の主導で実現した韓米日外相会談では「朝鮮半島の完全な非核化と恒久的平和定着の実質的進展のため協力を強化していくことにした」と外交部は伝えた。アントニー・ブリンケン米国務長官は3日(現地時間)に続き、韓日外相に米国の北朝鮮政策の見直し結果を説明しており、韓米日外相は北朝鮮政策を進めるうえで、今後も3カ国が緊密にコミュニケーションを取り、協力していくことにした。外交部はこの場で3カ国外相たちが韓日米の協力の重要性を再確認したと明らかにした。
しかし、日本のメディアが伝える日本の反応は依然として冷ややかだ。朝日新聞は茂木長官が慰安婦判決について韓国政府の適切な処置を要求し、強制動員被害者の判決と関連しては現金化は「絶対避けなければならない」と指摘するとともに、「日本が受け入れ可能な解決策を早期に示すべき」という日本の基本立場を繰り返したと報じた。日本政府関係者も今回会談が実現したのは米国の意向によるものとし、「茂木氏が米国の顔を立てた」という反応を示した。
●「汚染水、まずあなたが飲んでみて」 韓国人教授が麻生副総理に抗議 5/6
韓国の広報活動などに取り組む誠信女子大の徐ギョン徳(ソ・ギョンドク)教授は6日、東京電力福島第一原発の処理済み汚染水の海洋放出を巡り「(汚染水は)飲めるんじゃないですか」と発言した日本の麻生太郎副総理・財務相に抗議するポスターを作製し、交流サイト(SNS)で配布すると明らかにした。
ポスターには、水の入ったグラスを手にして正面を見据える麻生氏の写真のそばに「YOU DRINK FIRST(まずあなたが飲んでみて)」との文言を入れた。英語と韓国語、スペイン語、中国語、日本語の5言語で作製するという。
徐氏は「(麻生氏は)汚染水を飲んでも問題ないと言ったが、それならまず手本を見せてほしい。その勇気がないのにそんな妄言を口にするのは失礼だ」と指摘。その上で「日本政府は一日も早く汚染水の放出決定を撤回し、地球の環境保護に助力してほしい」と促した。
徐氏は福島第一原発の汚染水の問題点を伝える英語の映像も制作し、配布する予定だ。  

 

●福島原発汚染水の海洋放出に 「日本はダチョウの真似をするな」 5/8
外交部(外務省)の汪文斌報道官は7日の定例記者会見で、日本の福島原発汚染水の海洋放出について記者からの質問に答えた。
【記者】最近、韓国の政府要人、日韓両国の農業団体と漁業団体及び農業・漁業従事者が、福島の原発汚染水の海洋放出に反対の立場を表明し続けていることに注目している。ベトナム外務省も(日本は)責任ある態度で原発事故に対応するべきだと主張している。中国側のコメントは。
【汪報道官】日本の福島原発汚染水は世界の海洋生態環境の安全に関わることであり、各国国民の生命や健康に関わることであり、国際社会は常に日本側のこうした動きがもたらすであろう影響に対して強い懸念を表明してきた。また、日本国内でも広く反対の声があがっている。しかし今日に至るまで、日本政府は国際的な責任、義務、道義を顧みることなく、国際社会の関心に正面から向き合うことを拒絶している。
私たちは日本にダチョウの真似をしないよう忠告する。ダチョウのように砂の中に頭を突っ込んでしまえば、万事うまくいっているなどと思ってはならない。また私たちは日本政府が国際社会の重大な関心を直視し、世界の海洋環境と世界の公共安全と健康に危害を与える誤った政策、誤ったやり方を停止し、原発汚染水の処理問題で国際社会による、とりわけ利害関係国による実質的な関与、調査、監督を自覚的に受け入れるよう懇切に促す。 

 

●中国報道官が北斎作品のパロディで原発処理水の海洋放出を批判 5/10
東京電力福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出する日本政府の決定をめぐり、中国外務省の趙立堅報道官は4月26日に葛飾北斎の代表作を模倣したイラストをTwitterに掲載し、大きな反発を招いている。
中国人イラストレーターが中国のSNS・Weiboで初めて投稿したこのイラストは、北斎の《富嶽三十六景 神奈川沖浪裏》をもとにしたもので、波が変形した赤ちゃんや人間の指になっており、富士山の位置に原発が、鮮魚を運ぶ押送船の代わりに防護服を着た人物が船から核廃棄物を海に流す様子が描かれている。
趙報道官はこの模倣画を北斎の原作と並べて投稿し、「中国 のイラストレーターが有名な日本画『神奈川 沖浪裏』を再現。原作者の葛飾北斎が今日も生きているとしたら、彼もとても心配しているでしょう。JapanNuclearWater」と書き込んだ。
この投稿に対して茂木敏充外相は、27日に外交ルートを通じて中国政府に抗議し、投稿の削除を求めたが、中国側は応じていないという。また、平沢勝栄復興相は30日の記者会見で、この投稿について「(処理水が海を)汚染させる感じに事実を歪曲し、名画を冒涜するかたちで報道したのは極めて遺憾だ」と批判した。
加藤勝信官房長官は5月10日の記者会見で、模倣画は「科学的な根拠に基づかず、一方的かつ感情的に煽っているものだ」としつつ、「(中国政府に)削除を求めていますが、現時点においては削除がされていないという極めて遺憾な状況だ」と述べた。
また、処理水放出方針について加藤官房長官は、「中国を含む国際社会に対し、高い透明性を持って積極的に情報提供を行っている。また、処理水の処分にあたっては、国際法や国内外の規制ルールに確実に遵守し、安全性を確保する」と強調した。
日本政府は4月中旬、東京電力福島第一原子力発電所から排出されている放射性物質を含む100万トン以上の処理済みの汚染水を太平洋に放出する計画を発表し、中国や韓国から強く批判を受けた。いっぽうで、アメリカや国際原子力機関(IAEA)は日本政府の決定を支持する姿勢を見せている。
●原発処理水放出を「核テロ」と訴える韓国団体も 米国は反対要請を拒絶 5/10
極めて異例な発言
5月5日、英国ロンドンで開催された主要7カ国(G7)外相会合で、茂木敏充外相と韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官が初めて顔を合わせ、茂木外相が、福島第1原発の処理水放出に対する韓国政府の対応に懸念を表明した。韓国側はメディアも含め「海洋放出は隣国だけでなく、全地球を汚染させる行為だ」などと批判を続けている。
これまでの経緯をざっと振り返っておくと、日本政府が福島第1原発の処理水を海洋放出する方針を決めたのは4月13日。間髪を入れず、韓国の政府やメディアはこれに強く反発した。
翌14日午前には、新たに韓国に駐在することになった日本などの各国大使から文在寅大統領が信任状を受け取る捧呈式が行われたが、その際に大統領は式に出席した相星孝一駐韓日本大使に遺憾の意を述べ、韓国政府と国民の憂慮を本国に伝えてほしいと要請した。
儀式の場にふさわしくない極めて異例な発言だったと言えるだろう。
大統領は同日、国際海洋法裁判所への提訴を積極的に検討するよう指示も出している。
国際海洋法裁判所は1996年に発足した国際機関で、海洋法条約の解釈や適用から生じる紛争を管轄している。
韓国外交部は、以前にも同裁判所への提訴を検討したことがあるが、「効果は乏しい」という判断を下していたのが実情だ。
そもそも提訴にあたっては海洋放出による被害を立証しなければならない。しかし海洋放出は2年後から始まる予定で、韓国近海に到達するまでさらに4年以上かかると予想されている。
また、仮に何らかの被害が確認されても処理水との因果関係を証明することは無理だろう。自国の汚染水である可能性も十分あるのだ。
米国は「介入しない」と表明
外交部による過去の判断を無視するかのように、韓国政府は諸外国と協調して日本政府の決定に反対するとも強調している。韓国と中国、北朝鮮が反対を表明し、台湾とロシアが懸念を示した。
特に中国外務省とはテレビ会議を行って、“汚染水”の海洋放出方針に反対する立場を確認した。
日本側の出方によって、さまざまな対応策を検討することを決めたものの、国際海洋法裁判所への提訴など具体的な議論には発展しなかったという。
韓国政府は米国にも反対への協力を要請している。しかし、韓国を訪問していたジョン・ケリー米大統領特使は、日本とIAEA(国際原子力機関)を信頼していると述べ、介入しない考えを表明したのだった。
処理水の海洋放出に反対しているのは政府やメディアに限らない。
済州特別自治道の元喜龍(ウォン・ヒリョン)知事は、海洋放出が実施されたら日本政府を相手取った訴訟を日韓両国に提訴すると明らかにし、日韓双方から沿岸住民を代表する原告団を募集する方針を打ち出した。
これには前段があって、元済州知事は昨年10月20日、「済州の海を守ることは、海につながる全ての国の国民の生命と安全、生態系を守ること」で、「済州道は汚染水が届く全ての当事者と連帯してあらゆる手段を動員し、対応する」と述べていた。
その他、韓国の市民団体「脱核市民行動」は日本政府の決定を「核テロ」とみなすと表明。西海岸の忠清圏水産協同組合協議会、南岸の全羅道の麗水や海南の水産業者、日本海沿岸の竹島魚市場なども処理水の海洋放出に反対している。
また、韓国水協中央会、韓国水産産業総連合会など25の水産関係団体は、日本政府に処理水海洋放出の撤回を要求し、韓国政府に対しても日本の水産物の輸入禁止を要求した。
商魂たくましい「日本食品もどき」
もっとも、昨年10月に韓国原子力安全委員会が「処理水の海洋放出は問題ない」という主旨の報告書を作成していたことも明らかとなっている。
同委員会は「汚染水を浄化する日本の多核種除去設備(ALPS)の性能に問題がない」ことを確認したうえで、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の定める手法で日本列島周辺海域の放射線影響を分析した結果、放射線数値は「妥当だ」と評価。
さらに、「海洋放出から数年後に韓国の海域に到達しても、海流によって移動しながら拡散・希釈され、水産物摂取などによる被ばくの可能性は極めて低い」と結論付けていたのだ。
ご存知の通り、世界各国の原発は同様の処理水を海洋放出しているし、韓国も例外ではない。日本にのみ特別な基準を押し付けることは、原子力安全委員会の担当者も科学者としての良心がとがめたのかもしれない。
ただ、今回の処理水放出決定とは関係なく、そもそも韓国政府は2011年5月以降、日本産食品を輸入する際、日本政府が発行する放射能関連証明書の提出を義務付けており、さらに、通関前にも放射能検査を実施するという二重の検査体制を敷いてきた。
したがって、スーパーやデパートで人気のある日本産食品を輸入して並べるのにハードルは依然として高いままなのだ。
もっとも、そのハードルを逆手にとって「日本食品もどき」を韓国で開発・製造する商魂たくましい韓国企業も現れている。韓国内での流通なら厳しい検査は不要というわけだ。
新世界・イーマートグループはその1つで、ドラマ「深夜食堂」をモチーフにした東洋食品の「深夜食堂」シリーズやCJ食品の「カツオうどん」をいち早く店頭に並べ、消費者の評判も高いという。
普通に日本の食材や商品を流通させたほうが、韓国の消費者にとっても喜ばしいことなのでは、と思うのだが、振り上げた拳の下ろしどころが見つかっていないというのが現状のようだ。
●処理水放出、沖合1キロ地点を検討 直近への排水案も 2案が有力 5/10
東京電力福島第1原発の汚染水を浄化した処理水の海洋放出をめぐり、東電が海底に配管を通した上で沖合約1キロの海中に排水する計画を検討していることが10日、関係者への取材で分かった。今後、漁業関係者らに説明した上で海底のボーリング調査を実施する予定。並行して原発東側の直近の海中に排水する案も検討しており、2つの案が有力な状況となっている。放出方法の具体案が明らかになったのは初めて。
処理水の放出は、汚染水の浄化施設で取り除けない放射性物質であるトリチウムの濃度を国が定める基準値の40分の1程度にまで希釈した上で実施される。
関係者によると、海底に配管を通して沖合に排水する案では、海底の状況を把握するためにボーリング調査が必要となる。ただ、処理水の処分方法に関する政府の方針決定が遅れたことを受け、調査予定時期がずれ込んでいるという。それに伴い、必要な作業船の確保にも支障をきたしており、敷地に接する沿岸海域への排水案を並行して検討することになった。
処理水の希釈に使う海水をくみ上げる設備の取水口は、敷地北側にある5、6号機前の海域に設置する計画という。
放出にあたり、東電は必要な設備の設計や手順などをまとめた実施計画を原子力規制委員会に申請し、認可を受ける必要がある。審査や工事など準備期間は通常で2年程度を要するとされる。
敷地内に設置された処理水の貯蔵タンクは来年秋以降に満杯となる見込み。東電は処理水のもとになる汚染水の発生量を抑制して満杯になる時期を遅らせたり、放出までの準備期間を短縮したりできるよう努めるほか、それでも間に合わない場合、タンクの増設も視野に作業を進める。
●原発処理水「丁寧な説明を」「福島だけの放出は認められない」 5/10
<福島テレビと福島民報社が5月8日に共同で行った福島県民世論調査>
《海洋放出の方針決定について》「国民に丁寧に説明し理解を深めたうえで決定すべき」と答えた人が32.1%で最多に、次いで「福島のみの放出は認められない」が25.2%という結果に。この数字から福島県民の多くが海洋放出に慎重な姿勢を示していることが伺える。
その理由にも繋がる「懸念」について、約4割の方が「新たな風評被害の発生」と答えていて、健康被害よりも偏見や差別を懸念する人が多いことが分かる。
2年後を目途に始まるとされる処理水の海洋放出を前に、何が求められているのか?
菅首相:「政府を挙げて風評対策を徹底することを前提に、海洋放出が現実的と判断し、基本方針を取りまとめました」
政府が、福島第一原発に溜まり続ける処理水の処分方針を決めてから約1カ月。
トリチウム濃度を国の基準の40分の1、WHOが定める飲料水基準の7分の1に薄めた上で放出するなど「安全性の確保」と「風評対策の徹底」を前提にこれまで福島県や自治体、漁業関係者などへの説明を行ってきたが…
郡山市30代女性:「(情報発信の)回数も、もちょっと増やしても良いと思いますし、何も分からない人でも分かるような詳しい説明もあってもいいのかなと」
三春町30代男性:「色々情報が錯綜して分かってない所もあるんですけど」
福島県民から聞かれたのは、処理水についての説明不足。
世論調査では、処理水に関して国民の理解は深まったか聞いたところ「さほど深まっていない」「まったく深まっていない」と答えた人が、全体の7割を占めた。
福島県・内堀雅雄知事:「なぜこういった政府としての判断を下さざるを得なかったのか。また、伝えるだけではなく伝わる情報発信をしていただくことが何よりも重要だと考えています」
内堀知事は安全性や処分方法も含め「処理水の問題は日本全国の問題」との考えを示し、政府に改めて正確な情報発信を求めた。 

 

●福島第一原発汚染水、南北が共同で対処すべき 5/11
日本政府は先月13日、福島第一原発の敷地内のタンクに保管中の放射性物質に汚染された水を海に放出することを決めたと発表した。日本国内はもちろん、周辺国を含む国際社会の大きな憂慮と反対世論にもかかわらず、汚染水の海洋放出を公式化したのだ。
明らかに誤った政策であり、直ちに撤回されなければならない決定だ。特に、原爆投下と被爆のおぞましい結果を直に経験している日本が、誰よりも核と放射能に対する警戒心を持たねばならないにもかかわらず、このような決断を下したということには慨嘆に堪えない。韓国政府がこの問題に対して生ぬるい態度を見せる中、市民団体や学生、そして水産業の従事者が大規模な集会を開き、日本政府の汚染水放出決定を糾弾しているのは、せめてもの幸いだ。
放出前に複数回の浄化過程を経たとしても、汚染水の安全性に疑問が呈されている中で、国境のない海に汚染水を放出すれば、海洋生態系の破壊と環境汚染という結果をもたらすということは火を見るよりも明らかだ。原子力を用いた核発電が世界の電力の15%を占める中、核原子炉にかかわる放射能流出事故はいつ、どこででも起こりうる。日本の汚染水放出が認められれば、これに類似する事案の悪い先例を国際社会に残すことになるだろう。
米国と国際原子力機関(IAEA)が福島第一原発の汚染水の海洋放出決定を公に支持したことで、露骨に日本の決定を肯定する形勢が展開されている。米国も、偽善の極致を示す態度は非難されて当然だ。米国食品医薬品局(FDA)は、放射性物質による汚染を理由として、2011年3月から現在まで、福島とその近隣で生産される水産物の輸入を禁止している。
特に、就任初日のパリ条約への再加入表明や先月の世界気候サミットの主導など、環境問題に取り組む政策基調を示していたバイデン政権は、放射性物質が世界の海に拡散する汚染水の放出に賛成し、支持するというダブルスタンダードを示したことで、日本と共犯になるという事態を自ら招いている。
中国をけん制・封鎖するうえで日本の協力がいつにも増して重要になっているため日本を支持しているように見えるが、人類の普遍的価値である環境保護を政治の道具として用いているという非難は避けられないだろう。米国のグローバル・リーダーシップの回復を強調したバイデン政権のこのようなダブルスタンダードは、国際社会における米国のリーダーシップと道徳性に大きな傷を残すことになるだろう。
日本の福島第一原発の汚染水放出決定に対応して韓国政府は、南北協力を通じてこの問題を国際社会に問題提起すべきだ。最近、南北間での対話や協力がほとんどないのは事実だが、今回の事案が南北対話の再開と協力の機会となることを望む。ちょうど北朝鮮も労働新聞を通じて「日本の原発汚染水放出計画は反人倫的妄動」として撤回を求めているため、南北協力が難しくはなさそうだ。韓国と北朝鮮が海洋汚染について共同研究を行うとともに、南北の政府が協力して日本の行動を糾弾し、放出決定が撤回されるよう南北共同の勧告または決議を作成して、声を一つにして国際社会に訴える。そのような外交的努力が必要だ。 

 

●韓国漁業関係者が、原発処理水海洋放出で日本を提訴 5/13
日本政府が東京電力福島第1原発の処理済み汚染水の海洋放出を決定したことを巡り、韓国南部にある済州島の漁業関係者らが13日、日本政府と東京電力を相手取って決定中止を求める訴訟を起こしました。
韓国のヨンハプ通信によりますと、済州の翰林水産業協同組合と翰林漁船主協会はこの日午後、済州地裁に訴状を提出し、「日本に膨大な量の放射能汚染水の海洋放出行為とこれに関するあらゆる準備行為の中止を要求し、実際に放出が行われた場合、漁師が被る損害を賠償するよう求める」と表明しました。
賠償額は海洋放出時に組合側の委託販売手数料が50%減少すると仮定し、1日当たり約1000万ウォン(約97万円)と算定しました。
ただ訴訟を巡っては、国家は他国の裁判権に服さないとする国際法上の「主権免除」の原則が適用され訴えが却下される可能性もあります。
原告側は、主権的行為であっても犯罪など重大な不法行為には主権免除が適用されないという論理で、韓国に裁判権があると主張する予定だということです。
関係者は「放射能汚染水の海洋放出は人類に対する大きな犯罪だ」としながら、「他に安全な処理方法があるにもかかわらず海洋放出にこだわるのは、日本はもちろん周辺国の漁業関係者や国民に対しても不法行為を犯すことだ」と主張しました。
また、「この問題の最大の利害関係者は海で生計を立てる漁師たちだ」とし、周辺国の漁業関係者に対して汚染水の海洋放出阻止に協力するよう訴えました。 

 

●TBS「サンデーモーニング」原発処理水の報道で批判殺到 5/16
非科学的な報道
4月13日、東京電力福島第一原発で増え続ける処理水に関し、政府は海洋放出の方針を正式決定した。この処理水放出を巡る「サンデーモーニング」(TBS系列・日・8:00)の報道が物議を醸している。
「サンデーモーニング」が問題視されているのは、処理水の海洋放出を巡り、ことさらに不安をあおるなどしたからだ。その報道姿勢を検証するためには、そもそも処理水とは何なのか、確認しておく必要があるだろう。
朝日新聞は原発に批判的な報道が少なくないが、4月14日の朝刊に「(いちからわかる!)トリチウムって、海に流して大丈夫?」を掲載した。漢字に読み仮名が振られるなど、小学生でも理解できるよう、配慮した解説記事だということが分かる。
福島第一原発では、溶け落ちた核燃料の冷却水に、雨水や地下水などが混ざるなどした「汚染水」の発生が続いた。含まれる放射性物質の大半は濾過装置で取り除かれ、「処理水」として敷地内のタンクに保存されている。このタンク保存も限界に近づいているため、政府は海洋放出を決めた。
一部に処理水の海洋放出を不安視する声があるのは、トリチウムの除去が極めて難しいからだ。しかし結論から言えば、朝日新聞はトリチウムを含む処理水を海に流したとしても、健康被害が発生するようなことはないとしている。
《トリチウムから出る放射線は弱く、紙一枚で遮(さえぎ)れると言われている。自然界でも宇宙からの放射線で日々トリチウムが作られていて、12・3年で放射能は半分に減る。実際、運転中の原発や使用済み核(かく)燃料の再処理工場からも、濃度(のうど)や量を管理して流している》
コメンテーターの発言
更に原発からトリチウムを含む処理水が海に流されているのは、海外でも日常的に行われているというのだ。
《日本に限らず、海外でも原発1施設あたり、年間数兆〜数十兆ベクレルを排水している。タンクの水に含まれるトリチウムの総量は約900兆ベクレルで、海水で薄(うす)めて何十年もかけて流すことになりそうだ》
記事では「危なくない?」という質問に、次のように回答した。
《国の放出基準は1リットルあたり6万ベクレル。この水を70歳(さい)になるまで毎日約2リットル飲み続けても、被曝(ひばく)は国際的に許容されているレベルにおさまるという。福島第一では、基準の40分の1まで薄めるそうだ》
以上の科学的事実を踏まえながら、「サンデーモーニング」の報道内容を検証していこう。実のところ、問題視されたのはコメンテーターの発言だ。具体的には、4月18日の中央大学総合政策学部教授・目加田説子氏と、5月2日のジャーナリスト・青木理氏の指摘が「非科学的」、「風評被害を誘発する」と批判された。
目加田教授の“恐怖”
まず目加田教授の発言から紹介しよう。ちなみに目加田教授は国際政治が専門で、地雷の廃絶運動で知られている。そして原子力の専門家ではない。青木氏も同様なのは言うまでもない。
《健康には大きな被害はないんだということが言われてますけど、分からないこともたくさんあるんですよね。実際にそうではないと、いうことを指摘する研究者たち、医学者もたくさんいるわけですね》
《30年40年、ずっと放出し続けるわけじゃないですか。と、それがどういう影響を、環境だけではなくて人体に及ぼしていくのかということも分からないわけですよね》
《海洋放出以外にオプションはなかったのかな、と。どんなことを検討して、それぞれにどれだけのコストがかかるのか、と。で、最終的に海洋放出に至ったというところの経緯の説明もほとんどないんですよね》
《海洋放出を今回スルーしてしまえば、本当に膨大な放射性廃棄物の処理も今後、まあいいんじゃないか、捨てちゃえとか、っていう話になりかねないですよね。そこも怖いです》
「汚染水」と「処理水」
朝日新聞の記事はしっかりと科学的なデータを示していた。これに対し、目加田教授のコメントは、データを「本当のところは分からない」と明確な根拠を示さずに否定し、「とにかく不安だ」と個人的な感想を言ったに過ぎないことが分かる。
では、青木氏の発言はどのようなものだったのか、こちらも一部をご紹介しよう。
《人類史でも最大級の原発事故をこの国は起こしてね、福島、僕も取材で通ってますけれども、皆さんご存知の通り、10年経っても今度は汚染水を放出するなんて話をしている》
青木氏の発言で問題なのは、「汚染水」と「処理水」を一緒くたにしているところだ。ただし、先に紹介した朝日新聞の解説記事でも、「汚染水」の単語しか使っていないのは事実だ。
福島県在住のフリーランスライター・林智裕氏は2019年10月、現代ビジネスに「原発『処理水』を、なぜマスコミは『汚染水』と呼び続けたのか」を寄稿した。
文中では、朝日新聞の記事などに「汚染水」と「処理水」の混同が認められると指摘。《誤解や風評、的外れな批判も広まっている》一因になっているとした。
“風評イジメ”
実際、青木氏の発言には、お笑い芸人のほんこんがTwitterで批判を行ったことで、注目を集めた。
東スポWebは5月2日、「ほんこんが“サンモニ”青木理氏の汚染水発言を批判『このような発言が風評被害、風評イジメになる』」との記事を配信した。該当のツイートを引用させていただく。
《汚染水を放出と 青木氏がテレビで発言 処理水です この様な発言が 風評被害、風評イジメになるんですよ これ発言は問題になりませんかね》(註:改行などを省略した、以下同)
自民党衆議院議員の細野豪志氏も青木氏と目加田教授の発言の両方を問題視し、反論するツイートを投稿して話題になった。
そもそも細野議員は民主党政権だった2011年、原子力損害賠償支援機構担当の特命相を皮切りに、環境相、原子力行政担当相、原子力防災相を歴任した。
原子力行政に携わった経験があり、特に汚染水と処理水の問題は発生当初から対応してきた。元担当大臣という、この問題の“専門家”であるのは言うまでもない。
細野議員の批判
ツイートの反響は大きく、メディアも報じた。その中から2紙の見出しをご紹介しよう。
細野豪志氏「サンモニ」に「ひどい」原発処理水海洋放出めぐり反論
細野豪志議員が“サンモニ”青木理氏の汚染水発言を「風評加害」と批判
更に細野議員のツイートもご紹介しておこう。
《サンデーモーニングの処理水についての目加田説子氏のコメントがひどい。「海洋放出以外の方法やコストを検討していない」→ALPS小委で散々やった 「処理水の放出を認めたら燃料デブリもしそう」→同列に扱うわけがない 全く前提知識のない人を知識人として地上波でコメントさせる弊害》
《青木理氏の「原発事故をこの国は起こし、10年たっても皆さんご存じの通り、汚染水を放出するという話をしている」という発言は#風評加害。事故の有無に関係なく、国内外の原子力施設は処理水を海洋放出している。処理水について論じる際、マスコミは安全性について報じるべきだ》
背負った“原罪”
細野議員に取材を依頼し、ツイートを投稿した経緯や、考える問題点などを訊いた。議員によると4月18日の放送を視聴したのは偶然だったという。
「日曜でも会合の予定などが入っていますから、朝から多忙なんです。あの日は、たまたま『サンデーモーニング』を見ていました。ここで指摘しておきたいのは、番組が行った『処理水』の説明自体は何も問題なかったということです。その後に放送された目加田教授の発言があまりにもひどく、テレビを見ながら、思わず『これはおかしいだろ!』と叫んだのを覚えています」
ちなみに5月2日の放送は見逃していたが、Twitterに問題視する投稿が行われたことで把握。番組の内容を確認し、改めてツイートで指摘したという。
話を“原点”に戻せば、大臣経験者として、目加田教授の発言に問題があることはすぐに分かった。だが、実際にツイートを投稿するには熟慮を重ねたという。
「10年前、私は民主党政権の一員として原発事故に対応しました。事故は民主党政権で発生しましたから、『我々政府にも責任がある』と、いわば原罪というか、十字架を背負うような気持ちがあったのは事実です」
「風評加害」
自分たちを正当化するような発言は慎まなければならないと考えてきた。だが、あれから10年が経った。福島第一原発の問題も、むしろ風化が心配されるようになってきた。
3月に細野議員は社会学者の開沼博氏と共著で『東電福島原発事故 自己調査報告』(徳間書店)を上梓した。国際政治学者の三浦瑠麗氏が4月、日経ビジネスに「読むべき1冊『東電福島原発事故 自己調査報告』〜原発事故からの10年」を寄稿するなど話題になっている。
「10年が経ち、自分の姿勢を見直してもいいのではないかと思うようになりました。『風評被害』があるならば、『風評加害』があります。あまりに科学的データや事実と異なる発言に対しては、訂正を求め、正しい事実を多くの方々に知ってもらうべきではないかと考えたのです」
躊躇がなかったわけではない。現職の政治家として、報道を萎縮させることへの懸念もあった。
「番組スタッフの皆さんはプロとしての矜持をお持ちでしょう。門外漢にあれこれ言われるのは、やはり気分のいいものではないはずです。更にマスコミを批判するのも勇気がいります。私が世論の反発を買い、返り血を浴びてしまうかもしれない。とはいえ、汚染水の処理現場で、関係者の皆さんがどれだけ苦労してきたかを思い出せば、看過することはできませんでした」
専門家の出演
汚染水を処理し、タンクに貯めると書けば簡単だが、現場では技術的な課題を1つ1つクリアしていく必要があった。処理技術も当初と今では性能が著しく向上しているが、これは技術者たちなどの尽力の結果だ。おまけに現場では作業員数人が労災事故で亡くなっている。人命が失われたことを想えば、間違った報道を是正しないわけにはいかなかった。
細野議員は「原発の問題は専門的な知識が不可欠であり、番組にレギュラー出演しているコメンテーターにだけ見解を求めるのは問題がある」と指摘する。
目加田教授が国際政治に、青木氏が公安警察についてコメントする場合は、専門家と言っていい。
内閣の支持率や、殺人事件の社会に対する影響、はたまた芸能ニュースやスポーツについてコメントしても、問題となることは少ない。むしろ視聴者の共感を得られる場合もあるだろう。
「しかし原子力政策の場合は、知識のない人がコメントするのは、世論に与える悪影響が大きすぎます。『サンデーモーニング』に限らず、番組で取り上げ、コメントを視聴者に紹介する必要がある時は、原発の専門家にも出演を依頼すべきでしょう」
中韓への対処法
細野議員は「何が何でも海洋放出に賛成しろ」と主張しているわけではない。地元の漁協が反対を訴えることについては「当然です」と理解を示す。
あくまでも科学的に間違った見解が独り歩きすることを懸念し、ツイートを投稿した。その結果、世論の冷静さも実感することができたという。
「私のツイートも、ネット上では冷静に受け止めてもらったと思います。そもそも世論調査を見ると、多くの人が海洋放出に理解を示しています。反対を表明する場合でも、風評被害を懸念している方が少なくありません。何が何でも反対という人はごく少数だと思います」
自分たちの原発が同じように処理水を海洋に放出していることもあり、欧米の論調も冷静だ。その一方で、中国と韓国が政府レベルで放出反対の論陣を張ったことは記憶に新しい。日本政府の対応を求める声もあるが、細野議員は「冷静になることが重要」と指摘する。
苦境をチャンスに
「韓国は処理水を海洋に放出しています。しかも日本よりトリチウムの濃度は高いのです。中国も核保有国ですから、専門的な知見は充分に持っています。その上で、両国とも意図的なキャンペーンを行っているわけです。この場合、日本は無駄なことは言わず、淡々と海洋放出を行うべきです。放出した処理水のデータを公表するなど、しっかりとしたエビデンスを示すことが何よりも国際世論には効果的でしょう。下手に中韓と協議を行ったりすると、向こうのペースに巻き込まれてしまいます。毅然とした態度が求められているのではないでしょうか」
福島第一原発の廃炉にしても、細野議員は「決して悲観視はしていない」と言う。汚染水の処理現場を筆頭に、この10年でどれだけ技術が進歩したか、目の当たりにしてきたからだ。
「重要なのは苦境をチャンスとして捉える意思だと思います。福島第一原発の廃炉に向けた道のりが大変な状況なのは言うまでもありません。とはいえ、第一原発を新技術の実験場として捉え直すと、違った光景も見えてきます。高濃度に放射能汚染された場所で、無人で複雑な作業ができる技術が生まれれば、様々な分野にも転用が可能です」 

 

●中国外交部 汚染水問題「日本は国際社会の懸念に向き合っていない」 5/18
中国外交部の趙立堅(ジャオ・リージエン)報道官は17日の定例記者会見で、日本の原発汚染水の海洋放出問題について質問に答えた。
【記者】韓国の海洋水産相は先日、国際海事機関(IMO)事務局長への書簡で、「日本は韓国と協議をしないまま福島原発汚染水の海洋放出を一方的に決定した。これは近隣国の安全と海洋に多大な危害を及ぼす恐れがある」として、日本の原発汚染水を国際社会の受け入れ可能な方法で処理するために国際原子力機関(IAEA)との協力を検討するようIMOに呼びかけた。これについて中国側としてコメントは。
【趙報道官】われわれは報道に留意しており、韓国側の行動に理解と支持を表明する。日本の間違った決定は一方的な発表からすでに1カ月余りが過ぎ、中韓など周辺諸国を含む国際社会及び日本国内の強い懸念と一致した反対に遭っている。遺憾なことに日本政府は各国政府、国際組織、環境保護団体、各国民衆の抗議に知らぬふり、聞こえぬふりをし、現在に至るまで国際社会の重大な懸念に正面から応じていない。
日本の決定は透明性を欠く無責任なものだ。日本側が得たのは自国の利益のみであり、国際社会と子々孫々に終わりのない後患を残すことになる。日本政府は自らの責任を直視すべきであり、利害関係者及び国際機関との間で協議による合意に至るまで、勝手に原発汚染水を海洋に放出するべきではない。
●済州島の漁業関係者ら /日本、東京電力を提訴 5/18
聯合ニュースなどによれば、日本政府が福島第一原発の処理水の海洋放出方針を決定したことをめぐり、済州島の漁業関係者らが13日、日本政府と東京電力を相手取って決定中止を求める訴訟を起こした。
済州の翰林水産業協同組合と翰林漁船主協会は同日午後、済州地裁に訴状を提出し、「日本に膨大な量の汚染水の海洋放出行為とこれに関するあらゆる準備行為の中止を要求し、実際に放出が行われた場合、漁師が被る損害を賠償するよう求める」と表明した。 

 

●釜山「韓米首脳会談で日本の放射能汚染水放出撤回を要求すべき」 5/19
釜山(プサン)の市民団体が、21日に開かれる韓米首脳会談において日本の放射能汚染水海洋放出の撤回を強く求めるべきだと韓国政府に要求した。
18日、釜山参与連帯などの130あまりの団体が加入する日本の放射能汚染水糾弾釜山市民行動と6・15共同宣言実践南側委員会釜山本部は、釜山市釜山鎮区(プサンジング)の米国領事館前で記者会見を開き、「文在寅(ムン・ジェイン)政権は韓米首脳会談において日本の汚染水放出を支持した米国に強く抗議すべき」と主張した。
両団体は「周辺国の激しい反対にもかかわらず、日本政府は放射能汚染水の放出を強行しようとしている。韓米首脳会談において、米国の後ろ盾を信じて傍若無人に振る舞う日本政府を強く糾弾されなければならない。放出計画を撤回するよう首脳会談で米国に圧力をかけるべきだ」と注文した。
両団体はまた「韓日の両国間協議体の設置は結局のところ、日本の放射能汚染水海洋放出を認めるものではないかと懸念される。韓国が前面に立って放射能汚染水の安全性を代わりに宣伝する格好にもなり得るからだ。日本と協議するという方向性そのものが問題だ」と主張した。
両団体は「韓米首脳会談では対北朝鮮政策も同時に論議されるとみられるが、北朝鮮敵対政策の放棄を決断しなければならない。外国勢力ではなく民族の団結した力を信じて平和と統一問題を解決していくという意思を米国政府に明確に示さなければならない。不当な扱いに強く反対する姿勢を見せてほしい」とも述べた。
民主労総釜山本部のチョ・ソクチェ首席副本部長は「放射能汚染水の海洋放出は国民の命と安全を脅かす。日本政府が決定を撤回するよう、文在寅大統領は首脳会談で国民の声を堂々と伝えてほしい」と訴えた。
日本政府は先月、福島第一原発の貯水タンクに保管している放射性物質汚染水約125万トンを海に放出することを決めた。放射性物質の濃度を法定基準値以下に下げた後、30年かけて海に放出する計画だ。
●韓国・蔚山市の漁業関係者が海上デモ 「海洋放出はテロ」 5/19
韓国南東部・蔚山市の漁業関係者が19日、日本政府が東京電力福島第1原発の処理済み汚染水の海洋放出を決めたことに抗議する海上デモを行った。
デモは同地域の漁業関係者による連合会が主催し、蔚山水産協同組合が後援。約120隻の船が参加した。
船には「汚染水の海洋放出は人類に対するテロ」、「日本産水産物の輸入絶対反対」などと書かれた旗や横断幕が掲げられた。
主催者側は記者会見で、「日本政府の福島原発放射能汚染水海洋放出の決定を糾弾する」として、「全世界の人が反対する汚染水放出を撤回しろ」と要求した。
また「汚染水が海洋放出されれば、生態系が破壊されるのは基本的な常識」とし、「汚染水はがんや白血病、DNA損傷などを起こし、世界の生命にとって脅威となる」と強調。「政府は国民の生命を守るため日本産水産物の輸入を禁止するなど、できるすべての措置を講じなければならない」とし、「国民は日本産水産物の不買運動を通じてわれわれの怒りを見せなければならない」と主張した。
●福島原発タンクの汚染水漏れに外交部「日本側の対処不足が再び露呈」 5/19
外交部(外務省)の趙立堅報道官は18日の定例記者会見で、福島原発の保管タンクから水漏れが相次いで起きたことについて質問に答えた。
【記者】共同通信の16日付報道によると、日本の福島第1原発の旧式保管タンクから水漏れが相次いで起きた。漏れたのはメルトダウン(炉心溶融)の起きていない5、6号機の建屋にたまった地下水を処理した後の汚染水で、貯留水からはセシウム137及びベータ線を出す放射性物質が検出されている。これについて中国側としてコメントは。
【趙報道官】今回メディアが明らかにした福島原発汚染水保管タンク漏水事故によって、福島原発汚染水の日本側による事前段階の処置が不十分であることが再び露呈した。福島原発事故に責任を負う日本の東京電力がデータ改ざんや隠蔽を繰り返してきたことを考えると、我々は原発汚染水の海洋放出という日本側決定の合理性と科学性、決定に用いたデータの信頼性のいずれに対しても、改めて大きな疑問符をつけざるを得ない。
中国側は改めて日本に対して、国際社会、周辺諸国及び自国民の重大な懸念に真剣に応え、国際的な公共の利益に対してきちんと責任を担う姿勢に基づき、公開性と透明性ある方法で、福島原発汚染水の問題を慎重に処理するよう強く促す。各利害関係者及び国際原子力機関(IAEA)などと十分に協議して合意に至るまでは、原発汚染水の海洋放出を勝手に始めるべきではない。 

 

●「眼鏡が曇りマスク外す」 福島第1で被ばくの社員 5/20
東京電力福島第1原発の高濃度汚染水をためている建屋内の調査をしていた50代男性社員が3月、顔などを被ばくした問題で、原子力規制委員会は19日、保安検査の結果として軽微な実施計画違反(監視)と認定した。男性は調査中に汗で眼鏡が曇って前が見えなくなり、帰り道が分からなくなったために全面マスクを外したという。
規制委によると、東電は高線量の場所での作業は2人以上で行うと実施計画で決めていたが、調査については明確な定めがなかった。問題の調査は当初2人で行う予定だったが、人繰りの都合でチームリーダーが単独での調査を容認した。
男性は暗い建屋内で約2時間の調査を単独で終えたが、途中で視界が曇って出口の方向を見失った。全面マスクを外した際に汚染された手袋で顔を触って被ばく。個人線量計の警報が鳴り、連絡を受けた社員2人に救助された。
被ばくの程度は、放射性物質の影響が体内で50年間続いたとして0.34ミリシーベルトと軽度だった。福島第1原子力規制事務所の小林隆輔所長は「結果の重要度から保安検査は『軽微』と判断した。管理上の問題は改善が期待できる」と話した。 
●福島原発汚染水の海洋放出、日本政府への7つの問い 5/20 
福島原発事故はこれまでに世界で起きた最も深刻な原発事故の1つであり、大量の放射性物質が漏出する事態となった。原発汚染水の処分方法について、日本は以前「水素放出」、「地層注入」、「地下埋設」、「水蒸気放出」、「海洋放出」の5つの選択肢を示した。日本は安全な処分手段を尽くさぬまま、一方的に自らの経済的代償が最小となる海洋放出を選択して、世界の環境と健康への安全リスクを最大化し、本来自らが担うべき責任を全人類に転嫁しようとしている。「小利を貪り大義を失う」このような行為は、国際責任を顧みない極めて利己的なものだ。
1950年代、日本では工業廃水の海洋排出による食物汚染が原因で、世界を驚愕させた「水俣病」の惨劇が起き、1万人以上の人々が病に伏し、生涯苦しめられることとなった。そして今、日本は福島原発事故の放射能汚染水の海洋放出を一方的に決定した。恐らく歴史の悲劇が繰り返されるだろう。日本が世界の海洋生態環境及び各国の人々の健康の安全を意に介さず、故意に放射能汚染を引き起こすことは、国際核テロと何が違うというのか?
原発汚染水を「無毒・無害」とする日本側の主張は、事実の前ではことのほか白々しく聞こえる。すでに複数の科学研究結果が、日本の採用する多核種除去設備(ALPS)による処理後の原発汚染水が排出基準を満たすか否かは、なお検証を要することを示している。また、福島原発事故の直接の責任者である東京電力は原発の安全な運用の面で、これまで隠蔽、虚偽報告、情報改ざんといった悪しき前科を重ねてきた。報道によると、東京電力は2007年、福島第1原発、第2原発などでの1977年以降の199回の定例検査で、検査データの改ざんや原子炉の故障の隠蔽を行ってきたことを認めた。福島原発事故後の処置過程においても、東京電力は様々な理由で対応が遅れた。こうした様々な悪行を前にすると、国際機関など第三者による具体的な関与、評価、監督を欠く中で日本側の公表したデータの真実性には大きな疑問符が付く。
日本の政府とメディアは、福島原発事故の汚染水は各国原発の通常稼働時の排水と変わらないというでたらめな理屈を撒き散らしている。実際には、この二つは全くの別物であり、発生源、放射性核種の種類、処理の難度において本質的な違いがある。福島原発事故の汚染水は事故後溶融(メルトダウン)・損傷した炉心に注入された冷却水及び原子炉に滲入した地下水や雨水からなるもので、メルトダウンによる様々な放射性核種を含み、処理の難度が高い。一方、原発の通常稼働時に生じる廃水は主に生産工程排水、地上排水によるものであり、少量の核分裂性核種が含まれている。これは、国際的に通用する基準を厳格に遵守し、最良で実行可能な技術を採用して処理し、厳格なモニタリングを経て基準に達した後に計画的に放出するもので、放出量は規制値を遥かに下回る。世論を惑わす、その場しのぎの愚かな企ては通用しない。
日本の原発汚染水処分問題はアジア太平洋地域及び全世界の生態環境の安全に関わり、各国の人々の命と健康に関わる。各利害関係国、特に周辺諸国に意見を求め、かつ十分な協議を経るべきであり、国連、世界保健機関(WHO)、国際原子力機関(IAEA)などの枠組で評価と議論を行うべきでもある。日本は自らが担うべき国際責任に背き、環境と健康の安全リスクを世界中に拡散しようとしている。このような行為は透明性を欠き、非科学的で非合法かつ無責任であり、不道徳でもある。
日本は「国連海洋法条約」の締約国だ。条約により、各国は自国の管轄または管理の下における事件または活動により生じる汚染が、自国が主権的権利を行使する区域外に拡大しないことを確保するために、全ての必要な措置をとらなければならない。また「国連海洋法条約」、「原子力事故早期通報条約」、「原子力安全条約」によっても、日本は通報及び十分な協議、環境のアセスメントとモニタリング、リスクの最小化を確保する予防措置、情報の透明性の保障といった国際的義務を負わなければならない。日本が原発汚染水の海洋放出を一方的に決定し、たとえ米国から「許可」を得られたとしても、これは国際社会から認可されたことにはならないし、ましてや国際責任を逃れてもよいことにはならない。
福島原発事故の汚染水の処分問題は全世界の生態環境の安全及び各国の人々の命と健康に関わるものであり、日本の「私事」ではなく、重大な環境被害をもたらしうる事態だ。日本側が一方的に決定すべきではない。公開性と透明性の原則を堅持し、周辺諸国を始めとする国際社会の広範かつ十分な関与を確保し、関係する国際組織の枠組で科学的評価を行うべきだ。現在、IAEAが中韓など利害関係国を含む技術作業グループの立ち上げを進めている。日本は自ら進んで国際社会の具体的な関与、査察、監督を受け入れて、原発汚染水の処分問題が完全に公開された形で進むようにするべきだ。 
 

 


●韓日 汚染水の海洋放出巡り舌戦 5/26
韓国と日本が25日午前(欧州時間)、テレビ会議形式で開かれた世界保健機関(WHO)の年次総会で、日本政府が東京電力福島第1原子力発電所の処理済み汚染水の海洋放出を決めたことを巡って舌戦を繰り広げた。
韓国の権徳チョル(クォン・ドクチョル)保健福祉部長官は総会で26人目にビデオ演説し、「日本政府の透明な情報公開を求め、前例のない事案であることを考慮し、利害当事国との十分な事前協議なく汚染水の海洋放出が行われてはならないことを強調したい」と述べた。
70人目に演説した日本の田村憲久厚生労働相は新型コロナウイルス対応やWHOへの支援計画などについて言及した。事前に録画された映像を送ったもののため、韓国側の発言に対応できなかったとみられる。
ただ同日午後に発言権を得た在ジュネーブ日本代表部の斉田幸雄公使は、福島第1原発の状態と「ALPS(多核種除去設備)で処理された水」について科学的な根拠に基づき、国際社会に透明に説明してきたと反論。さらにIAEAも海洋放出が国際慣例に沿うものだと認めていると主張するとともに、国際社会の基準と慣行に基づいた措置を取り、環境や人の健康と安全に対する影響を十分に考慮するとの方針を示した。
これに対し、在ジュネーブ韓国代表部のイム・ソンボム次席大使は透明な情報公開と客観的な検証を再度要求。「韓国の国民の健康に影響を与え得る問題」だとし、「国際社会が参加し、客観的かつ十分な検証が行われることを望む」と述べた。

●韓国保健福祉相「福島第一原発汚染水検証」WHO総会で演説 5/26
保健福祉部のクォン・ドクチョル長官が国際社会に対して、新型コロナウイルスの克服に向けたワクチン生産の拡大と、日本による福島第一原発の汚染水の海洋放出決定に関する情報の検証を求める。
クォン長官は25日夜にオンラインで開かれる「第74回世界保健総会(WHA)」の基調演説で、まず世界保健機関(WHO)に対する韓国の積極的な支援を約束し、パンデミック克服方策を提示する予定だ。クォン長官は、臨床試験の簡素化などを通じたワクチンと治療薬の開発の迅速化、生産基地の発掘と技術移転を通じたワクチン生産の拡大への集中を提案する予定だ。
クォン長官はまた、日本政府による福島第一原発の汚染水排出決定について、国際社会の関心を求める計画だ。汚染水排出問題に関する日本側の透明な情報公開を要請する一方、利害当事国との十分な事前協議なしに汚染水を放出してはならないとの立場を明らかにする予定だ。
クォン長官は、事前に配布した基調演説の原稿の中で「将来のパンデミックの予防のために、国際的な保健危機対応システムを整備しなければならない。特に韓国は、公共の保健を脅かす要素に対する国家間の迅速な通報と情報共有の重要性を強調したい」とし、「各国が医療システムを強化し、保健危機を迅速に感知および通報することは、将来の疾病X(Disease X)がパンデミックへとつながることを予防する重要な要素」だと述べた。クォン長官は続けて「同じ原則が、4月に日本政府が発表した福島第一原発の汚染水の海洋放出問題にも適用されなければならない」とし「日本政府の透明な情報公開を望みつつ、前例のない事案であることを考慮し、利害当事国との十分な事前協議なしに原発汚染水の海洋放出が行われてはならないということを強調したい。世界保健機関、国際原子力機関(IAEA)をはじめとする国際社会の客観的かつ十分な検証を求める」と述べた。
世界保健総会は世界保健機関(WTO)の定期総会で、毎年5月に開かれる。24日に開幕した今年の総会は来月1日まで行われ、新型コロナの影響により昨年に続いてオンラインで進められる。

●外交部「福島原発事故から10年、教訓を学ばぬ日本」 5/26
外交部(外務省)の趙立堅報道官は25日、「福島原発事故からすでに10年になるが、日本から伝わってきたのは原発汚染水による周辺の生態環境への危害を防ぐ有効な措置ではなく、原発汚染水の海洋放出による処分と言う間違った決定だった。我々が目にしてきたのは福島原発事故に責任を負う東京電力が災禍から教訓を汲み取る姿ではなく、メディアが暴き続ける原発の管理における東京電力のいい加減さと混乱、情報の隠蔽と虚偽報告、改ざんという悪行の数々だった」と指摘。
「日本は福島原発事故への処置を行う度に自国民と国際社会の信頼を失っており、その主張する『安全な処分方法』の合理性と科学性、提供した情報とデータの真実性と信頼性に、我々は大きな疑問符をつけざるを得ない。日本は福島原発汚染水の問題において果たすべき責任と義務を明確に認識し、利害関係者及び関係する国際機関と協議を行うという正しい道に戻るべきであり、勝手に海洋放出を始めるべきではない」とした。

●1日最大500トン放出 東電方針、第1原発処理水満杯23年春に 5/28
東京電力は27日、福島第1原発で発生する放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出について、放出開始後の1日当たりの放出量を最大500トン(稀釈前)とする方針を示した。処理水を保管するタンクが満杯になる時期については、従来の「2022年秋以降」から「23年春ごろ」まで先延ばしできる見通しも示した。
東電が処理水の処分量について具体的な数値を明らかにしたのは初めて。現在、第1原発敷地内で汚染水が1日当たり約150トン発生しているとし、発生量を上回る放出が必要と判断。多核種除去設備(ALPS)の処理能力から1日当たり最大500トンと算出した。
海洋放出に当たっては、原発敷地内のタンク約137万トン分のうち、ALPS付近にある3基を放出準備用のタンクに転用する。その上で、転用分を補うタンクを新設、保管できる水量を3万トン増の約140万トンとする方針。新設タンクと放出準備用タンクを稼働させることで、23年春まで処理水の保管が継続できるとしている。
23年春は、方針決定から2年後に当たり、満杯となる時期に合わせての海洋放出を想定している。
一方、東電はトリチウムの分離技術の調査検討にも着手。27日、第三者機関を交えた調査や提案受け付けを開始した。現実的に実用可能な技術があれば、具体的設計の検討や実証試験を経て技術の確立を目指すとしている。

●福島第一原発の処理水 東電 海洋放出へ具体的準備を初めて説明  5/28
福島第一原子力発電所で保管されているトリチウムなどの放射性物質を含む処理水について、基準を下回る濃度に薄めたうえで海に放出する方針が先月決まりましたが、東京電力は、保管用のタンクの一部を放出前に濃度を確認するタンクに転用すると発表しました。海洋放出に向けた具体的な準備が説明されるのは初めてです。
福島第一原発にたまり続けるトリチウムなどを含む処理水について、政府は先月、基準を下回る濃度に薄めたうえで、2年後をめどに海に放出する方針を決めました。
これについて、東京電力は1000基余りある処理水の保管用タンクのうちおよそ30基、3万トン分のタンクを、トリチウムやそれ以外の放射性物質の濃度を放出前に確認する準備用のタンクに転用すると発表しました。
測定結果を待つ間など、一時的に水がためられ、水をかくはんするポンプの設置などを行う予定です。
一方、転用した3万トン分を補うため、保管用のタンクを新たに20基余り増設するとしています。
また、今月実施したカメラによる2号機の原子炉建屋の上部の調査について、シールドプラグと呼ばれる巨大なコンクリートのふたや格納容器の上の部分の写真が公表されました。
東京電力は調査で改めて汚染が確認されたとする一方、大きな損傷は認められなかったとしています。

●韓国外務次官 IAEA事務局長と会談=福島汚染水問題を協議 5/30
韓国外交部によると、崔鍾文(チェ・ジョンムン)同部第2次官は28日(現地時間)、オーストリアで国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長と会談し、日本政府が東京電力福島第1原子力発電所の処理済み汚染水の海洋放出を決めたことへの懸念を表明するとともに、IAEAが同問題で役割を果たすよう求めた。
また、双方は核不拡散問題や原子力技術の応用など、さまざまな分野で協力策を話し合い、緊密な連携を続けることで一致した。
日本政府は4月に東京電力福島第1原発の処理済み汚染水を海洋放出する方針を決めた。

●福島原発処理水放出 風評被害に不安 関係閣僚会議WG 5/31
政府が4月に決めた東京電力福島第1原子力発電所の汚染水を浄化した処理水の海洋放出に関連し、風評被害への追加対策などを議論する第1回関係閣僚等会議ワーキンググループ(WG)が31日、福島市内で開かれた。政府からは江島潔経済産業副大臣らが出席。地元からは福島県や農水業の関係者が参加した。海洋放出には当初から漁業関係者らが反対しており、国が前面に立って風評被害への対策を進めることなどを求める声が相次いだ。
会合では地元の農水業関係者らから、「事故後、多額の資金を投入し、対策をしてもらったが、(海洋放出で)新たな風評への懸念がある。対応のあり方を根本的に見直さなければ農水業の着実な復興にはつながらない」といた声が寄せられた。鈴木正晃副知事は「(事故後の)10年間に積み上げてきた努力が水泡に帰すとの懸念もある。国が前面に立ち、万全の対応をしてほしい」と要望した。
第1原発ではこれまで、燃料デブリを冷やすための注水などで汚染水、処理水が増え続けている。東電によると、処理水の保管タンクは令和5年春に満杯になる見通し。残留する放射性物質トリチウムを十分に希釈したうえでの海洋放出は現実的な選択肢だった。
しかし原発事故以降、地元の関係者が築いてきた農水産物の安全性への信頼が海洋放出を機に再び損なわれる事態は何としても避けなければならない。
今回のWGでは風評が起きることを防ぐ手段のほか、実際に風評被害が発生した際の適正な賠償の方法や責任の所在などを明確にすることなども持ち上がった。また、必ず風評被害が起きる前提で対応組織を作るべきといった意見や、消費者心理への働きかけ、国による一定価格での買い取りなどを求める声も続出した。
東電による海洋放出開始までは、設備工事や原子力規制委員会の審査などのために2年程度を要する。政府は今後もWGで要望を聞き取るなどして、今夏をめどに風評対策を中心とした中間的な取り組み策をまとめたい考えだ。

●福島で原発処理水会合 地元関係者、海洋放出の反対訴え 5/31
東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出に向けたワーキンググループ初会合が31日、福島県内2カ所で開かれた。国や自治体、業界団体関係者らが出席。地元関係者は、改めて海洋放出への反対や風評被害対策を訴えた。今後は宮城、茨城両県も対象にした会合を開き、夏ごろまでに課題をまとめる。
会合で、福島県商工会議所連合会の渡辺博美会長は「水産物を国が買い取るなど、収入を保証する支援を検討してほしい」と訴えた。同県漁連の野崎哲会長は「透明性のある情報提供を」と求めた。
これに対して、横山信一副復興相は「県民に寄り添い、政府一丸となり取り組みたい」と述べた。東電福島第1廃炉推進カンパニーの小野明最高責任者は「信頼という点で厳しい目が向けられている。信頼回復に努める」と述べた。
会合後、野崎会長は「海洋放出前提のテーブルには着かない」と強調。江島潔副経済産業相は「(放出までの)2年間で最大限努力したい」と述べた。

●韓国外交次官、IAEA事務局長と会談…日本汚染水問題で役割を呼びかけ 5/31
崔鍾文(チェ・ジョンムン)外交部第2次官は28日(現地時間)、オーストリアで国際原子力機構(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長と会談し、日本政府の福島原発汚染水の海洋放流決定に対する懸念を伝え、この懸案に対するIAEAの役割を呼びかけたと外交部が29日、伝えた。
両側は国際非拡散問題、原子力技術の応用など様々な分野で協力増進策について意見を交換し、緊密な疎通を持続することにした。
日本政府は4月13日、福島第1原発のタンクに保管されている汚染水を海洋に放出するという計画が盛り込まれた「処理水処分に関する基本方針」を関係閣僚会議で決めたことがある。

●「原発」が嘘を告白し懺悔するノンフィクション小説をなぜ書いたのか  5/31
世界最悪レベルの福島第1原発事故から10年。世界が脱原発に向かう中、日本は「脱炭素社会の実現」を奇貨として原発推進に突っ走ろうとしている。なぜ、世論はブレーキをかけないのか――。原発を主人公に描いたノンフィクション小説「ごめんなさい、ずっと嘘をついてきました。福島第一原発 ほか原発一同」で知られざる真実を暴いた著者に聞いた。
――著書を読むと、政府があの手この手で原発関連の情報を長年コントロールしてきているのがよく分かります。
僕は鉄腕アトム世代です。超小型原子炉で100万馬力、などと原子力は素晴らしいと刷り込まれた国民でした。福島原発事故が発生し、調べ始めたら、今まで信じていたことが全部嘘だということが分かった。この嘘っぱちをきちんと伝えないといけないと思いました。
――安倍首相(当時)は東京五輪を招致した2013年のIOC(国際オリンピック委員会)総会の演説で、福島第1原発について、日本語では「港湾内の0.3平方キロの範囲内で完全にブロック」と表現する一方、英語では「アンダーコントロール」と使い分けました。
「お笑い芸人vs原発事故」という番組を制作している時、演説の英語版を使おうとしたら、英語版はオンエアできないようになっていた。見比べてみたら、驚くことに肝心な部分がごっそり変えられていた。英語版では安倍首相は「私は完全に保証します。状況はアンダーコントロールです。これまでも、これからも(放射能は)どんなダメージも東京に与えません」とスピーチしているのです。
――コロナ禍で東京五輪開催が流動的になっています。政府は復興五輪と銘打って招致しました。
五輪までに復興を成し遂げたことにするため、復興を否定するものは平気で隠してきました。例えば、放射線量を測定するモニタリングポストです。福島県内に設置されている約3000台のうち、8割を五輪前に撤去しようとしたのです。復興したはずの福島にそんなものがたくさんあってはマズいからです。
――撤去したのですか。
地元のお母さんたちが猛抗議して、撤回させました。廃炉作業は続いている。何か起きた時、モニタリングポストがなければ、速やかに察知できませんから。お母さんたちはよく勉強している。原発関連の番組は、まずお母さんたちに分かってもらい、それを子どもたちに伝えてもらおうという意識で作っていました。
――菅首相は今年4月、「もうこれ以上は避けて通れない」として、放射性物質トリチウムを含んだ「汚染水」の海洋放出を決定。2023年にも開始されるとみられています。
安易な決定です。トリチウムを取り除く技術があるのかないのかが吟味されていない。例えば、近畿大学で低コストで除去する技術を開発しています。また、120年経つと、トリチウムの濃度は1000分の1になるのですが、石油の備蓄タンクが12個あれば保管できる量です。原発施設の外側の地下にダムを造って、地下水を出さない方式もある。コストはそれほどかからない。海洋放出を回避する方法はいくらでもあるのです。
――海洋放出を巡る報道をどう見ていますか。日刊ゲンダイで「処理水」ではなく「汚染水」と記したところ、記事配信されたヤフーニュースのコメント欄に「悪意がある記事だ」という書き込みが少なくありませんでした。
それが政府の狙いですよ。原子力規制委員会の更田豊志委員長は報道各社に「汚染水」ではなく「処理水」を使うように申し入れた。記者クラブ加盟社が規制委トップに逆らえば、1社だけ情報を流してもらえなかったりする。それで新聞社もテレビもトリチウムが残る「処理水」という言い方に統一してしまったのです。ニュースを見た読者や視聴者は「処理水、安全ね」と刷り込まれるわけです。しかし、ALPS(多核種除去設備)ではトリチウムは除去できない。処理できないのだから処理水のはずがない。100%汚染水ですよ。
――菅首相は30年度の温室効果ガス削減目標を13年度比で46%削減する方針を表明しました。
菅政権は原発再稼働を推し進めるというたくらみを持っていますから、「ああ、きたな」という感じです。脱炭素社会実現をうたい、原発の新増設や建て替えを進める自民党の議員連盟の顧問に安倍前首相が就任しました。安倍氏肝いりの原発輸出は全敗しても、このざまです。「原発ゾンビ」と書きましたが、ほんとにしぶとい方々です。
――世界はどうですか。
福島事故を受けて、ドイツは脱原発に舵を切りました。原発大国の米国やフランスも、シェールガスや再生可能エネルギーが原発のコストより安くなる現実を目のあたりにして、風向きが変わりつつあります。途上国もコストとの見合いで判断していくでしょう。海外のシンクタンクは「原発に勝ち目ナシ」「35年には駆逐される」と発信しています。脱炭素に乗っかって、原発推進を加速しようとしているのは日本くらいです。
――原発問題は命、健康マター。国民の関心が高いはず。福島事故も体験したのに、また元通りですか。
原発事故発生からしばらくは、世論もビビッとするのですが、8年、10年と経つと、エネルギー資源に乏しい日本にとっては非常に重要な救世主だと刷り込まれているので、やっぱり元に戻ってしまうんですね。
――原発報道の影響が大きい。
震災直後は割と自由に事実を報道できていましたが、だんだんと時間が経ち、できなくなっていった。
――それはなぜですか。
福島事故直後の東電は、破産状態のようなもので、広告出稿をやめました。その間、メディアは自由に動けた。ところが、東電が少しずつ広告を出すようになると、顔色をうかがう報道姿勢になっていく。東電以外の電力会社についても地方メディアの大スポンサーなのでどこも同じことが起こる。例えば、極細半島に建てられた愛媛の伊方原発は原発より半島の先に住んでいる約5000人の住民が避難できないという致命的な欠陥がある。しかし、地元放送局ではそうした問題を取り上げる番組は作れない。代わりに東京の私が作りました。
――メディアが電力会社を批判できないから、原発政策が推し進められるのですね。
政権とメディアの関係も同じ構図です。総務省が東北新社に勤める菅首相の長男と会食を繰り返していた問題がありました。あってはならない接待ですが、安倍政権時代にすごくはやったのが、テレビ各局の社長や報道局長と首相との会食です。総務省の接待問題と何ら構図は変わりない。メディアは本来、権力を監視しなければいけない立場なのに、社長と報道局長が首相とニコニコ食事をして仲良くなる。ひと昔前だったら、首相から会食の誘いを受けても、「お気持ちだけいただきます」と丁重に断るのが報道機関だった。それがなんとなくグジュグジュになってしまった。それではメディアはかみつけませんよね。隠蔽、改ざん、言い換え、ごまかしなど、情報を都合よくコントロールする政権が続き、政府にも電力会社にも斬り込めないメディアという環境ですから、国民は何も知らされないまま、原発推進が再び加速していくのです。根はとても深い。 
 

 


●「汚染水放出はテロだ」安山市長らが船舶30隻動員し海上デモ… 6/1
韓国のユン・ファンソプキョンギ(京畿)アンサン(安山)市長(65)が5月31日、テブド(大阜島)タンド港近郊の海上でデモをおこない、日本政府における原発処理水の海洋放出決定を糾弾した。
安山大阜島漁村協議会、大阜島船主協議会と共に主催したこの日のデモには、大阜島の住民を中心に漁船、ヨット・ボートなどの船舶30隻が動員された。水産業に従事していない団体や船舶所有者らも才能寄付・後援活動をおこなった。
ユン市長ら参加者は福島第一原発処理水の海洋放出に関して、日本政府を批判しそれらの撤回を要求した。
漁業関係者やヨット協会会員らは「日本の汚染水放出は人類に対するテロだ」、「海洋放流決定を撤回しろ」などと書かれた横断幕を掲げた。
ユン市長は「われわれの海をみんなで守るためデモに参加してくれた方々に感謝する」とし、「世界の生命を危険にさらしかねない日本政府の決定は、ただちに撤回すべきである」と述べた。

●韓国各地で福島第一原発の処理水海洋放出に抗議する集会 6/2
福島第一原発の処理水の海洋放出の決定に抗議する集会が韓国の各地で開かれました。
「日本大使館の前では100人以上の警察官が警戒に当たる中で抗議集会が開かれています」(記者)
2日、韓国・ソウルの日本大使館前に市民団体のメンバーらが集まり、日本政府に対し抗議の声をあげました。
「日本政府は放射能汚染水の放流計画を撤回しろ!」
参加者は「汚染水が広い太平洋に及ぼす影響を憂慮する。この地域の多くの国家が海洋資源に依存している」などと訴え、放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出を撤回するよう訴えました。
この日はソウルや地方都市の大邱(テグ)など韓国各地の6か所で抗議行動が行われたほか、フィリピンやスリランカにある日本大使館にも抗議の手紙を送ったということです。 

●「トリチウム水」って何? 6/2
福島第一原子力発電所では、放射性物質を含む汚染水を浄化設備で処理し、処理後の水をタンクに貯蔵しています。汚染水に関するニュースでは、「凍土壁」「サブドレン」「トリチウム」など、あまり聞き慣れない用語が出てくることが多く、わかりにくい面があるかもしれません。「福島第一原子力発電所の汚染水問題とは?」「『トリチウム水』とは?その性質や現状は?」を中心に、汚染水をめぐる状況を解説します。
1.福島第一原子力発電所の汚染水問題とは?
1なぜ汚染水が発生するのか?
原子力発電所では通常、運転に伴い発生した放射性物質のほとんどが原子炉圧力容器内の燃料棒の中に閉じ込められています。しかし、福島第一原子力発電所では事故により燃料棒が溶融し、原子炉圧力容器およびその外側にある原子炉格納容器内で発生した「燃料デブリ」(※1)に含まれる放射性物質(セシウム、ストロンチウム、トリチウムなど)が燃料デブリの冷却水と触れ、「汚染水」となりました。さらに、その汚染水が原子炉格納容器の中だけでなく原子炉建屋内やタービン建屋内などにも広がりました。現在もなお、原子炉建屋内には地下水が日々流れ込んでおり、汚染水は流入した地下水の量だけ新たに発生しています。
   図1 福島第一原子力発電所における原子炉建屋内の汚染水の状況
2汚染水への対策状況は?
汚染水対策は、「汚染源に水を近づけない」「汚染源を取り除く」「汚染水を漏らさない」の三つの基本方針に沿って行われています。
一つ目の「汚染源に水を近づけない」とは、新たな汚染水の発生を抑制するため、原子炉建屋内へ流入する地下水量を減らす対策です。
いわゆる「凍土壁(凍土方式による陸側遮水壁)」とは、この「汚染源に水を近づけない」ための対策の一つです。土壌を凍結させた氷の壁を設置することにより、原子炉建屋に流入する地下水を減らすことを目的としています。あわせて、地下水の上流側に井戸(サブドレン)を設置し、原子炉建屋内に流入する前の地下水をくみ上げることで、原子炉建屋内に流入する地下水を減らす対策もとられています。凍土壁の設置や地下水のくみ上げなどの対策を行ったことで、それ以前は1日あたり490t発生していた汚染水が、現在は110tまで低減されました(※3)。
二つ目の「汚染源を取り除く」とは、汚染水を浄化設備で処理することで、汚染源である放射性物質を除去する対策です。
汚染水からセシウム、ストロンチウムを重点的に除去した後、多核種除去設備(ALPS(アルプス))を用いて大半の放射性物質を除去しています。ALPSで浄化処理を行った水(以下、「処理水」)は、タンクに入れて福島第一原子力発電所の敷地内に貯蔵されています。なお、この処理水にはALPSでも取り除くことができない放射性物質の「トリチウム」が含まれていることから、タンクに貯蔵された処理水は「トリチウム水」とニュースなどで呼ばれることがあります。
最後の「汚染水を漏らさない」とは、汚染水や処理水の漏えいによる周辺環境への影響を防止する対策です。
その一つとして、福島第一原子力発電所の1〜4号機の海側に「海側遮水壁」と呼ばれる鋼鉄製の杭の壁を設置することにより、1〜4号機の敷地から放射性物質を含む地下水が海に流出するのをせき止める対策がとられています。
また、処理水がタンクから漏えいするのを防ぐため、漏えいのリスクが低い型のタンクを使用しています。
   図2 三つの基本方針に基づく汚染水対策イメージ
2.「トリチウム水」とは?その性質や現状は?
1「トリチウム」とはどんな物質なのか?
汚染水対策の三つの方針で、二つ目の「汚染源を取り除く」でも触れましたが、ALPSでも除去できない放射性物質が「トリチウム」です。トリチウムという名前を聞いても、あまりなじみがなくどんな物質か見当がつかないと感じる方も多いかもしれません。
トリチウムは、日本語で「三重水素」と呼ばれる水素の仲間(同位体)です。水素と聞くと、原子核の陽子一つの周りを電子が回っている「軽水素」を想像される方が多いでしょう。水素の仲間には、原子核が陽子一つと中性子一つで構成される「重水素」、そして原子核が陽子一つと中性子二つで構成される「三重水素」の「トリチウム」があります。
トリチウムは、原子力発電所を運転することで発生しますが、自然界でも大気中の窒素や酸素と宇宙線が反応することで生成されています。水分子を構成する水素として存在するものが多いことから、トリチウムは大気中の水蒸気、雨水、海水だけでなく、水道水にも含まれています。
軽水素や重水素は安定な同位体で放射線は出しませんが、トリチウムは12.33年の半減期(元の原子核の数が半分になる時間)でβ線を出してヘリウム-3に変わる放射性同位体です(β線については後述)。
   図3 水素の仲間(同位体)
2なぜトリチウムの除去は難しいのか?
トリチウムは、処理水中で水分子の一部となって存在しています。このため、水の中にイオンの形で溶けているセシウムやストロンチウムといった他の放射性物質とは異なり、トリチウムが含まれる水分子のみを化学的な方法により分離し、除去することは容易ではありません。
福島第一原子力発電所で発生した処理水に含まれるトリチウムを含む水分子(下図のHTOやT2O)の濃度は最大でも1Lあたり数百万Bq(※4)です。これは1Lの処理水に含まれるトリチウムがわずか100ng(n(ナノ)は10-9)(重量の割合にして100万分の一よりはるかに少ない)程度であることを示しています。トリチウムを含む水分子だけを処理水から分離して取り出す方法も開発されていますが、このようなわずかな量のトリチウムを大量の処理水から取り出すには、膨大なエネルギーとコストが必要になり、現実的に利用可能な効率的な分離を行うには、さらなる技術開発が必要となります。
   図4 トリチウムを含む水分子の構造
3トリチウムの、人体や環境への影響は?
トリチウムは放射線の一種であるβ線を出しますが、このβ線はとてもエネルギーの低い電子であるため紙一枚で遮ることができるほど弱く、外部から被ばくしても人体への影響はほとんどありません。また、水として飲んだ場合でも、特定の臓器に蓄積することはなく、他の放射性物質と比べて速やかに体外に排出されます。そのため、内部からの被ばくの影響も、取り込んだ放射能あたりで見れば他の放射性物質よりも小さくなっています。これまでも水道水などを通じてトリチウムは日常的に私たちの体内に取り込まれていますが、通常の生活を送ることで取り込んだトリチウムによる健康影響は確認されていません。
原子力発電所など国内外の原子力関連施設において発生したトリチウムは、近海に排出されています。日本でもこれまで40年以上にわたってトリチウムが排出されていますが、排出にあたっては濃度上限が定められており、原子力関連施設の近海におけるトリチウム濃度のモニタリングも継続して行われています。近海のトリチウム濃度は、WHO(世界保健機関)が定める飲料水のトリチウム濃度(10,000Bq/L)を下回っていることが確認されています。
4「トリチウム水」の処理・処分の取組状況は?
2018年4月時点で、処理水(※5)は、容量が約1,000tのタンクに換算すると1,065基ほどの量(※6)となっています。処理水を貯蔵するタンクの数や敷地は膨大になる一方です。タンクが増え続けるのに伴い、廃炉を進めるための設備増設などが必要となっても、その用地が確保できず作業が遅延するなどの影響が生じる可能性もあります。また、貯蔵し続けることで管理コストがかかり、処理水漏えいのリスクを常に抱えることにもなります。このように、処理水をタンクに貯蔵し続けることにはデメリットがあり、根本的な解決にはならないことから、処理水の処分方法を検討、決定する必要があります。
処理水の処分方法については、「地層注入」「海洋放出」「水蒸気放出」「水素放出」「地下埋設」といった選択肢が検討されています。処分方法の決定にあたっては、技術的な観点(技術的成立性、規制成立性、期間、コスト、作業員の被ばくなど)に加えて社会的な観点(風評被害の発生など)も必要であることから、経済産業省が委員会(※7)を設置し、専門家を交えた総合的な検討が行われているところです。
   図5 タンクの大きさ(※8)のイメージ図(身長170cmの人との比較)
   図6 福島第一原子力発電所敷地内の様子
3.「トリチウム水」の処理・処分を巡る今後の課題は?
トリチウムが出す放射線が非常に弱く、人体や環境への影響が小さいとはいえ、トリチウムを含む処理水を海洋や大気に放出することを不安に感じる方も多いでしょう。福島県産の農林水産物への影響や風評被害発生の懸念も指摘されています。
トリチウムは、あまりなじみがない物質であり、よくわからないため不安に思われている面があると考えられます。処分方法の説明はもちろんですが、まずはトリチウムそのものや影響についての丁寧な説明が不可欠といえるでしょう。
加えて、処分方法の決定にあたっては、決定後にのみ処分方法を周知するのではなく、決定前においても処分方法の検討・選定の観点、各選択肢のメリット・デメリットを丁寧に周知させるなど、決定プロセスの透明性を高めることも重要です。
処理水が処分されれば、福島第一原子力発電所の廃炉作業が一歩前進することになります。国内外から「再汚染」「負の影響の発生」などと捉えられることのないよう、処分方法の決定プロセスおよびその結論に対し、国民の理解・納得が得られるよう最善を尽くすことが望まれます。

●「福島原発」の処理水放出 中韓の政治利用を防げ  6/3
政府は四月、東京電力福島第一原子力発電所に貯蔵されている処理水を海洋放出する方針を決めた。処理水は汚染水を浄化処理した後の水で、処理後も微量の放射性物質トリチウムを含むが、国の基準を下回る濃度に薄めて放出され、国際原子力機関(IAEA)も「技術的に実行可能で、国際慣行に沿う」と評価している。
処理水は2011年の原発事故発生直後から敷地内のタンクに貯蔵され、今年四月中旬時点で125万トンに上る。22年秋にも約137万トンのタンクの容量が満杯となる見通し。水蒸気放出や地下埋設処分なども検討されたようだが、多くの国が実施している海洋放出が最も現実的と判断された。案案の定 と言うべきか、専門家と称する学者や野党から批判が出ている。反対するのであれば代替案を示すのが筋である。そうでなければ「反対のための反対」に終わる。 
同時に政府はもっと早く決断すべきであった。立憲民主党の前身である旧民主党の菅直人、野田佳彦両政権、その後の自民党・安倍晋三政権も決断を見送ってきた。事故発生から十年はあまりに長く、そのツケは大きい。立ち直りの兆しを見せてきた地元漁業は新たな風評被害を避けられない。
周辺国にも格好の日本攻撃の材料を提供することになった。韓国では、官民挙げた日本批判が噴出。文在寅大統領は「憂慮は極めて大きい」と語り、放出差し止めに向けた暫定措置も含め国際海洋法裁判所(ドイツ・ハンブルク)への提訴を検討するよう関係部署に指示した。トリチウムを含んだ処理水の海洋放出は韓国の原子力発電所でも行われおり、韓国原子力学会が「韓国国民の被ばく線量は影響を無視できる水準だ」との見解を発表、過度な報道や政治的、感情的な対応の自制を求める事態となっている。
原子力発電所からトリチウムが環境中に放出されている中国も外交部(外務省)が「深刻な懸念」を表明。海洋環境や周辺国の国民の健康に影響をもたらす、などとして、放出決定の撤回を要求している。関連して中国外交部(外務省)の趙立堅副報道局長は江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の代表作「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の富士山を原発と見られる建物に置き換え、防御服を着た人物がバケツで液体を流す様子を描いたパロディー画をツイッターに投稿した。あまりに品位を欠く行動である。
文政権は4月の首都ソウルと第2の都市・釜山の市長選で与党候補が大敗、残り任期が一年を切る中、レームダック化しつつある。中国も新疆ウイグル自治区でのジェノサイト疑惑や香港の人権問題などで国際社会の激しい批判にさらされている。ともに日本の弱点である福島第一原子力発電所事故を最大限に活用する政治的意図が透けて見える。
ただし、気になるのは両国とも「十分な説明と情報提供がないまま決定された」と日本政府を非難している点だ。日本批判は両国の常套手段であり、事前に当然、予測できた。批判を防ぐため十分な手を打っていたのか。「科学的に見て問題ない」、「どの国もやっている」といった判断で、対応が手薄だったとすれば問題だ。あらゆる可能性に備えるのが外交の鉄則である。オーストラリア、ニュージーランドを含めた十六ヶ国二地域が加盟する太平洋諸島フォーラム(PIF)や友好国台湾からも深い懸念が表明されている。こうした点を合わせると、政府の事前対策が十分だったとはとても思えない。 
政府や東電に対する不信感は国内でも強い。IAEAは多くの国の専門家を加えた国際的調査団の派遣を検討するとしている。第三者の客観的評価が得られれば、国際的な信用醸成と風評被害の払拭にも役立つ。中国、韓国の専門家も含め、幅広い参加を歓迎するぐらいの度量を示す時である。

●中国外相が東京電力福島第1原発の処理水放出を牽制 BRICS外相会議で  6/3
中国外務省は2日、王毅(おう・き)国務委員兼外相が1日に新興5カ国(BRICS)外相のオンライン会議に出席したと発表した。王氏は、日本政府が決定した東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出について、「利害関係国や国際機関との協議がまとまる前に、核汚染水を勝手に放出してはならない」と牽制した。
王氏は処理水の海洋放出を、イスラエルとパレスチナによる衝突や、イラン核合意などの国際問題と同列に論じ、「政治解決」を図るべきだと主張した。日本が米国などとともに対中批判を強める中、海洋放出を国際問題化し対日圧力の材料にする思惑が指摘される。
王氏は「全世界の海洋生態環境の安全や、各国人民の命や健康に関わることだ」との考えを示した。
一方、バイデン米大統領が米情報機関に新型コロナウイルスの起源に関する調査の徹底を命じたことを念頭に、「西側諸国の一部勢力が政治的な利益のため、再び政治問題化しようとたくらんでいる」と反発。その上で「感染対策の国際協力を破壊する」と強調し、BRICS各国が連携し「共同で阻止」するよう訴えた。

●福島第1の処理水放出、規制委で議論開始 東電が濃度測定の手順提示 6/8
東京電力福島第1原発の汚染水を浄化した処理水の海洋放出について、原子力規制委員会の廃炉に関する検討会合が7日開かれ、東電から、専用タンクで放出前の処理水に含まれる放射性物質の濃度を測定する案が示された。放出に必要な設備の設計や手順をまとめる東電の実施計画は規制委の認可を受けなければならず、政府が放出開始の目標とした2年後に向けて具体的な議論がスタートした。
検討会合で東電は、検討を進めている実施計画をめぐり、(1)希釈前の処理水の放射性物質濃度測定(2)希釈設備の設計(3)希釈後の濃度測定(4)トラブル発生時の対応(5)取水と放水の方法(6)自然災害などへの備え−の6つの論点を提示。その上で(1)について、浄化設備で除去できない放射性物質のトリチウム濃度などを測定する手順を説明した。
東電によると、処理水は放出前に放射性物質の濃度が基準を下回っているかを測定する。測定には約2カ月かかるため、既存の貯水タンクのうち計約3万トン分を改造し、専用タンクとして転用する。そこで濃度を確認した後、くみ上げた海水で希釈して海に出す。
希釈後の処理水は、希釈前の濃度とくみ上げた海水量から濃度を割り出し、安全性を確認する。設備の故障などが生じた場合、放水を緊急停止する遮断弁を設置する方針も示された。
処理水放出をめぐっては、東電が海底に配管を設けて沖合約1キロに出す案と、直近の沿岸に出す案を検討していることが判明している。しかし、この日の検討会合では、放出後に海域で処理水の拡散が促進される方法などを検討する考えを示すにとどまった。
出席者から放水に向けた全体的な工程について問われる場面もあったが、東電は検討を進めているとしながらも、「スケジュールありきで考えていない」として明言を避けた。

●日本の汚染水海洋放出方針の背後にある驚くべき真相とは? 6/30
2021年上半期、日本は、東京電力福島第一原子力発電所で発生した汚染水を太平洋へ放出するという、聞く人が思わず耳を疑うような決定を発表した。この方針に対する国際社会の反発は、広島や長崎に原子爆弾が投下された時に匹敵するほどの大きさになっている。中国新聞網が伝えた。
しかし、その方針の背後にある真相はより赤裸々で残酷だ。
汚染水が海水に混ざった将来のことに思いを馳せれば、日本のいわゆる「環境にやさしく無害」や「技術的に難しい」、「巨額のコスト」などは、単なるごまかしの言い訳の言葉に過ぎないことがすぐに分かる。「実際には、これは一国家のモラルに関わり、国際社会における公共のモラルという面で、日本の信用は地に落ちた」という声もある。
10年にわたり汚染水を貯めてきたのに、なぜ、汚染水の貯蔵タンクを引き続き増設しないのか?
英国の原子力専門家・バーニー氏は、「日本は、汚染水を原子力発電所や周辺のスペースに溜め続けることができることは明らかだ。なぜなら、国際環境NGOグリーンピースの調査によると、日本は2020年に、原子力発電所の周辺に、汚染水を引き続き溜める十分のスペースがあることを認めたからだ」と指摘する。
実際には、もっと優れた汚染水の処理方法があり、日本に別の選択肢がなくなった訳では決してない。日本政府は以前、「基準以下に薄めて海に放出する」、「加熱して蒸発させ、大気中に放出する」、「電気分解して水素にして大気中に放出する」、「地下深くの地層に注入する」、「セメントなどに混ぜて板状にし、地下に埋める」の5つの案を示した。
うち「セメントなどに混ぜて板状にし、地下に埋める」というのがより優れた選択だ。ただ、そのコストは、「基準以下に薄めて海に放出する」の数十倍、ひいては100倍以上になる。つまり、「金」の問題なのだ。
その他の手段がないのではなく、他の手段を考えたくないのだ。最終的に、日本は最も簡単で、最もコストが安く、放射能汚染の被害を全世界に転嫁する案を選んだ。
技術水準が低く、ぬけぬけとでたらめ
日本の汚染水処理技術には疑問が残る点も人々を懸念させている。
東京電力のデータによると、福島の汚染水には、放射性物質63種類が含まれている。東京電力は、処理すれば、完全に取り除けない「リチウム」以外に、その他のほとんどの放射性物質は取り除くことができるとしている。
しかし、2020年8月の時点で、多核種除去設備(ALPS)で処理された汚染水の73%に、基準値を超えた放射性物質が残っていた。
その疑惑を受け、東京電力は今年5月末、ALPSで 浄化処理した水からトリチウムを分離する技術を公募した。つまり、汚染水を海に放出するという方針を発表してから2ヶ月近くが経った時点でも、トリチウムを完全に取り除くという予定は全くなかったということで、これは皮肉と言わざるを得ない。
また、東京電力は、汚染水排出前に、放射性物質の濃度を測定する計画はなく、計算だけで、基準を満たしているかを判断する計画だ。「測定には半日から1日かかるため、基準を超えていることが分かった時には既に海に排出されている」というのが東京電力の説明だ。
事故を起こした東京電力はここ10年、反省したり、より良い対応をするよう努力するどころか、隠蔽したり、責任逃れをしたりするばかりで、事態が明るみになってから、仕方なくそれを認めるということを繰り返している。
今年、東京電力は、高濃度の放射性物質が付着したゲル状の塊に関する情報を4月まで公表せず、5月になってようやく、廃棄した吸着材などを保管していた金属製コンテナが腐食し、漏れ出た廃棄物が固まって生じたとする調査結果を発表した。汚染水を排出してはいないものの、塊が雨を受け、放射性物質を含んだ水が排水路に流れ込んだとみられるという。
もし、本当に汚染水が「無害」であるなら、日本はそれを国内で利用することができるはずで、なぜ海に放出しなければならないのだろうか?
人の噂も七十五日 2年後の計画発表は時間稼ぎ
日本が発表している排出の計画にも、何か含みがあると感じさせられる。今年4月に計画を発表し、2年かけて準備したうえで、2023年から排出を始めるというのだ。
外交学院国際関係研究所の周永生教授は、取材に対して、「いわゆる『準備』というのは、実際には、時間稼ぎ。その間に、国際社会の日本に対する批判も収まり、日本の決定を黙認することになるだろうと考えている」と、的を射た指摘をしている。
日本は、何度も巧みな言葉を使って世界を騙そうと試みることもしてきた。例えば、海に排出する汚染水を、「ALPS処理水」とし、この処理方法は国際慣例に合致していると主張した。世界各国で、「原子力発電所の放射性廃棄物を海に排出することは普通のこと」というのがその理由だ。
それに対し、専門家は、「福島の汚染水は、溶融した核燃料に触れており、多くの種類の放射性物質を含んでいる。その成分は極めて複雑で、事故が発生したわけではなく、正常に稼働している原子力発電所で発生した冷却水とは性質が全く異なる」と指摘する。
それに対する日本国内外からの批判の声は高まるばかりだ。福島県の農林水産団体や生活協同組合など4団体は4月末、政府と東京電力の処理水の海洋放出方針に反対する共同声明を発表し、反対を表明してきた漁業者に十分な説明がないままの決定だとして、「極めて不誠実だ」と訴えた。
韓国ソウルのスーパーは魚介類売り場に、「日本産水産物は売らない」というスローガンを貼り出した。また、韓国の漁民はここ2ヶ月の間に、漁船数百隻を集結させて、日本政府に対して汚染水排出方針を撤回するよう抗議した。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領も、日本が汚染水を海に排出することを決めたことについて、各当局に対し、国際海洋法裁判所への提訴を積極的に検討するよう指示した。
6月23日、「海洋法に関する国際連合条約」第31回締約国会議で、日本の代表は、「処理済みの汚染水を排出しても無害で、日本はオープン、透明に情報を提供している」との立場を崩さず、「関連の処理方法は国際原子力機関(IAEA)も認めている」とした。
しかし、IAEAは現時点で、日本の処理方法を容認する立場は示していないどころか、技術作業グループを立ち上げる準備を進め、中国と韓国の専門家に参加を要請していることが分かっている。
日本が汚染水を海に排出するためには、情報の透明度を高める必要がある。IAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は、「当機関は、モニタリングなどを通して、リアルタイムで干渉する計画」としている。
中国外交部(外務省)の汪文斌報道官が指摘している通り、ダチョウのように砂の中に頭を突っ込んでしまえば、万事うまくいくと思ってはならない。
 

 


●福島第一原発 処理水海洋放出の危険性 7/8
漁業団体との約束を反故にする「海洋放出」強行
菅義偉内閣は福島第一原発で貯蔵されている処理水(以下、汚染水)を海洋放出する方針を4月13日に閣議決定した。
漁業者団体側は海洋放出に反対の姿勢を変えなかった。閣議決定は、合意なき放出はしないと、東京電力社長および経済産業大臣が過去に福島県内漁業団体と交わした文書約束を反古にするものだ。全国の漁業者団体のみならず、福島県漁連、JA福島中央会、県森連、県生協連が反対の共同声明を5月に発表しており、反対の声はいっそう高まっている。
この状況に対応して、政府は理解醸成活動を本格化し、海外向けの情報発信を強め、復興庁のホームページに「ALPS処理水について知ってほしい3つのこと」と題するリーフレットを公開した。
1トリチウムは身の回りにたくさんある。
2トリチウムの健康への影響は心配ない。体内に入っても蓄積されず、水と一緒に排出される。放射線は細胞を傷つけるが、細胞には修復機能がある。
3大幅に薄めてから海に流す。
こうした「科学的」で「正確な情報」を丁寧に発信すれば合意が得られ、風評被害がなくなると考えているようだ。
しかし、この3つは本当に「科学的」で「正確な情報」だろうか。
汚染水にはトリチウム以外にもセシウムやストロンチウムなど様々な放射性物質が混じっているが、ここでは処理しても取り除けないトリチウムに焦点を当てたい。
トリチウムは本当に安全なのか
トリチウムは放射性の水素で、弱いベータ線を放出してヘリウムに壊変する。半減期は12・3年。大気中では酸素や窒素と宇宙線との反応で生成される。また、過去に繰り返し実施された大気圏内核実験で大量に生成され、現在も残っている。
だからと言って、福島第一原発に貯蔵されている汚染水を海へ捨てることは、それらとは意味合いが異なる。現在貯蔵されている汚染水は、排出基準すら守れなくて貯蔵をせざるを得なかったものである。
トリチウムは生物の体内に入ると一部が有機結合型トリチウム(OBT: Organically Bound Tritium)になり、体の組織に取り込まれて長く留まることが知られている。生物学的半減期は550日程度にも及ぶとの評価がある⑴。
いっそう深刻と考えられるのは、OBTがDNAに取り込まれた場合である。DNAを構成するアデニンとチミジン、グアニンとシトシンはそれぞれ水素結合でつながっている。ヘリウムに壊変した時点でその結合は断ち切られてしまう。さらに壊変時に放出するベータ線のエネルギーによって別の部分が切断される恐れもある。弱い放出エネルギーでも化学結合を切断するには十分である。細胞には確かに修復機能があるが、100%修復することは考えにくい。特にDNAの2箇所が同時に切断された場合(2本鎖切断)は誤った修復になる恐れもある。
OBTの影響がトリチウム水(HTO)より厳しいことは、経済産業省が設置したALPS小委(多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会)の資料にも記載されている⑵。
OBTとなると体内に長く留まるということは、トリチウム水の存在する環境中では、OBTの蓄積が生じ、濃縮する可能性を示す。これを伝える海外の論文や政府報告などがある。
福島第一原発でタンクに貯蔵されている汚染水には微生物の存在も報告されている。地下水が原子炉建屋に侵入しているのだから、微生物が入り込んでいても不思議ではない。そうなると、汚染水の中の一部はOBTとして海洋放出される恐れがでてくる。このような恐れを政府は全く考慮していない。
海外でも報告される健康への影響
ドイツ政府は原子力発電所の周辺地域で子どもたちの白血病が有意に増加しているという疫学調査結果を公表した(2007年)。これに関して、イアン・フェアリー⑶(放射線生物学者)が、定期検査で原子炉の上蓋を開けた時に一気に放出されるトリチウムによる被ばくが原因ではないかという仮説を展開している。年間平均では少ない被ばくだが、その瞬間は大きな被ばく線量となる。
放出量の多いカナダ型原発の場合には、下流域で出産異常や子どもたちにダウン症候群の増加、新生児の心臓疾患の増加などが報告されている⑷。トリチウムの健康影響を無視してよいとの考えは「科学的」でも「正確」でもない。東電は20年1月時点でトリチウム総量を2069兆ベクレルと評価している。タンク貯蔵量は860兆ベクレルだが、事故当時のまま手付かずに高濃度の汚染水が溜まっている建屋もあるからだ。
また、海に放出された汚染水は広範囲に均一に薄まることが想定されている。しかし、この想定は現実を反映しているとは考えにくい。潮の流れは複雑で、3層流も知られている。表層、中層、深層の流れの向きがそれぞれ異なるのである。地形によっては渦を巻く。濃度の高い場所ができても不思議ではない。
放出されたトリチウムが海洋生物に取り込まれ、これを食料とする人間に戻ってくるのである。そのような負の連鎖を避けるためには、当面の貯蔵を継続し、放出しなくてよいようにセメントと固めるなどの措置を行い、地表で管理・保管する方法に切り替えるべきだ。固化対象のトリチウムを減らすために、その分離技術の進展にも期待したい。

●東電福島第一原子力発電所ALPS処理水の取扱い 7/9
令和3年7月8日
7月8日、日本政府は国際原子力機関(IAEA)との間で、東電福島第一原子力発電所ALPS処理水の取扱いに係るIAEAとの協力の枠組みに関する付託事項(TOR)に署名しました。我が国は、ALPS処理水の取扱に関する信頼性や透明性を確保する観点から、原子力分野の専門機関であるIAEAとの協力を重視しています。
1.今後IAEAは、本TORに基づいて協力事業を計画・実施していくこととなります。具体的には、ALPS処理水処分の安全性や規制面でのレビュー、海洋モニタリング・レビューの実施等についての協力が行われる予定です。協力の内容や結果は、事後、対外公表されます。
2.この枠組みの下でのIAEAによる支援は、IAEA事務局内に設置されるタスクフォースを通じて実施されます。このタスクフォースには、IAEAが加盟国から選定する国際的に認知された専門家のグループも含まれます。
3.我が国は、今後とも、東電福島第一原子力発電所の状況やALPS処理水の処分の検討状況について、国際社会に対し、科学的根拠に基づき透明性をもって丁寧に説明していきます。

●福島第一原子力発電所事故に伴うアルプス処理水海洋放出について 7/14
政府は2021年4月13日、東京電力福島第一原発の処理水を2年後を目処に海洋放出する処分方針を決定しました。コープデリグループとしては、この件に対し、現時点で以下のように考えます。
1.アルプス処理水海洋放出について、関係者の理解なしにはいかなる処分も行わないという東京電力と地元漁業者の約束を反故にしての今回の政府の決定は、きわめて遺憾です。
2.国と東京電力は、どのような処理方法であっても、その処理方法の安全性確保や、処理による風評被害対策などを、国民並びに海外の関係者に対し丁寧にコミュニケーションし、理解を広げる努力を最大限行うべきだと考えます。
3.今回のような重要な判断は地元や関係者との合意が第一に考えられるべきです。地元・関係者の理解を得るよう最大限努めるとともに、理解が得られない状況で処理を強行すべきではありません。
以上
なお、この件に関し、みやぎ生協・コープふくしまは「アルプス処理水海洋放出に反対する署名」運動を展開されています。

●ALPS 処理水(トリチウム汚染水)海洋放出の問題点に関する政府交渉 7/21
本年4月13日、政府は「廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」において、「ALPS 処理水の処分に関する基本方針」を決定し、「2年程度後に ALPS 処理水の海洋放出を開始することを目途に、具体的な放出等の準備を進める」ことを東京電力に求めました。私たちは、ALPS 処理水(トリチウム汚染水)の海洋放出の問題点について、昨年7月3日、10月5日、12月11日の3回にわたり、関係省庁に質問書を送り、海洋放出の決定をしないように求めて交渉を行なってきましたが、政府からは納得できるご回答のないまま、このような方針決定がなさたことを非常に残念に思います。また、方針決定の当日になって、4000件を超えるパブコメに対する「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する書面での意見募集結果について」が公表されましたが、この報告の「御意見に対する考え方」においても、国民の理解の得られる政府の回答は示されていません。
今回、改めて、ALPS 処理水(トリチウム汚染水)の海洋放出の問題点に関する質問書(7月13日付)を、「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する書面での意見募集結果について」を作成された「廃炉・汚染水・処理水対策チーム」及び、その上位にある「原子力災害対策本部」に対して提出しました。7月26日に下記の通り、政府交渉をおこないます。
   日 時: 7月26日(月)13時30分〜15時30分
   会 場: 参議院議員会館 B109会議室
 

 

 
 
 
 
 
 

 

 

●トリチウム・三重水素 
(tritium、元素記号: T) 質量数が3である水素の同位体、すなわち陽子1つと中性子2つから構成される核種であり、半減期12.32年で3Heへとβ崩壊する放射性同位体である。重水素(2H)と三重水素(3H)とを併せて重水素(heavy hydrogen)と呼ばれることがある。三重水素核は三重陽子 (英: triton) とも呼ばれる。三重水素は、その質量が軽水素の約3倍、二重水素の約1.5倍と差が大きいことから、物理的性質も大きく異なる。一方、化学的性質は最外殻電子の数(水素の場合は1)によって決まる要素が大きいため、三重水素の化学的性質は軽水素や重水素とほぼ同じであることが多い。
自然界に最も多く存在する「普通」の水素は、原子核が単独の陽子から成る軽水素(1H)であり、原子核が陽子1つと中性子1つから成る重水素(2H)も安定核のため豊富に存在する (自然界の水素同位体の0.0115%) のに対し、三重水素は不安定なため天然には微量しか存在しない。とはいえ、半減期12.32年は軽い元素の放射性同位体としては比較的長いもので、天然においても一定量が常に存在している。たとえば体重60 kg程度の人の場合、50ベクレル程度のトリチウムを体内に保有している。水素には質量数が4から7の同位体もあるが、いずれも半減期が10-22秒以下と極めて不安定で実験室外には存在しないため、多くの場合には三重水素が事実上唯一の水素の放射性同位体として扱われている。
三重水素は、地球環境においては、酸素と結びついたトリチウム水(HTO)として水に混在しており、水圏中に気相、液相、固相の形態で広く拡散分布している。大気中においては、トリチウム水蒸気(HTO)、トリチウム水素(HT)および炭化トリチウム(CH3T)の3つの化学形で、それぞれ水蒸気、水素、炭化水素と混在している。なお、海水中の三重水素濃度は通常、数 Bq/Lより少ない。
三重水素は宇宙線と大気との反応により地球全体で年間約72 PBq(7.2京ベクレル)ほど天然に生成される。加えて、過去の核実験により環境中に大量に放出され未だに残っている三重水素(フォールアウト・トリチウム)、原子力発電所または核燃料再処理施設などの原子炉関連施設から大気圏や海洋へ計画放出された三重水素(施設起源トリチウム)が地球上で観測される三重水素の主たる起源である。
高純度の液体トリチウムは、核融合反応のD-T反応を起こす上で必須の燃料であり、水素爆弾の原料の一つとしても利用される。
体内では均等分布で、生物的半減期が短く、エネルギーも低い。こうしたことから三重水素は最も毒性の少ない放射性核種の1つと考えられ、生物影響の面からは従来比較的軽視されてきた。しかし一方で、三重水素を大量に取扱う製造の技術者が、内部被曝による致死例が2例報告されている。三重水素の生物圏に与える影響については、環境放射能安全研究年次計画において研究課題として取り上げられたことなどもあり、長期の研究実績に基づいた報告書が公表されている。
名称​
三重水素は歴史的経緯から固有の名称が与えられている。三重水素にはトリチウム(英: tritium、元素記号: T)という別名がつけられており、独自の元素記号も設定されている。これはギリシャ語で「三番目」を意味するτρίτος(trítosトリトス)に由来する。T という元素記号は三重水素という水素の同位体に対して特別に割り当てられた元素記号である。このようにある元素の同位体に対して特別な元素記号が与えられているものとしては、他には二重水素に対する D やトロン(ラドン220)に対する Tn などがある。
通常の元素の同位体の記号と同様に、元素記号の左肩に質量数を付与し、元素名の後に質量数を付与して水素3(すいそ-、英: hydrogen-3、記号: 3H)とすることもあるが、この名称及び表記はあまり使われない。
歴史​
1929年、星のエネルギーが、核融合で供給されることが分かる。
1933年、レオ・シラードが原子爆弾(原爆)の理論的な可能性を提起。
1934年、マーク・オリファントら、重水素核同士を衝突させ質量3のトリチウムを合成。
1934年、電気分解で得た重水中に天然由来のトリチウムを見出す。
1935年1月、電解水素メーカーのNorsk hydro Enters社が重水の商業生産を開始。
1942年、アメリカのエドワード・テラーが水素爆弾(水爆)の理論的可能性を提起。
1945年7月16日、アメリカのニューメキシコ州で初の原爆実験(トリニティ実験)。以後、原爆実験で5.55×1016 Bqのトリチウムが放出される。
1945年、カナダで減速材中にトリチウムが生成されるCANDU炉の開発始まる。
1949年、ドイツのV. Faltingsら、液体空気製造工場のヘリウム含有廃ガス中に環境トリチウムを発見。
1950年1月31日、アメリカのトルーマン大統領が水爆の開発計画を表明。
1950年代、アメリカ・オークリッジでPUREX法(ピューレックス)による再処理技術が開発される。
1952年11月1日、アメリカがエニウェトク環礁で液体トリチウムを原料とした初の水爆実験(アイビー作戦)。以後、水爆実験で2.4×1020Bqのトリチウムが放出される。
1953年1月4日、ソ連のマヤーク核技術施設でトリチウム事故、2名が死亡。
1953年8月12日、ソ連がブースト型核分裂兵器の実験を行う。
1954年3月1日、アメリカがビキニ環礁でトリチウムを原料としないテラー・ウラム型水爆実験(キャッスル作戦)を実施。日本の漁船「第五福竜丸」等が被曝。
1961年、スイスでトリチウム事故。3名が被曝し、うち1名が死亡。
1963年8月5日、部分的核実験禁止条約が調印され、大気圏内原水爆の実験が禁止される。
1964年、西ドイツでトリチウム事故。44名が被曝し、うち1名が死亡。
1970年、重水を減速材として使用する「ふげん」(福井県敦賀市)が着工。
1977年、イギリスでトリチウム事故。2名が被曝。
1978年、フランスにある世界最大のラ・アーグ再処理工場が運転開始。同工場は1×1016 Bq/年のトリチウムを海洋放出。
1981年1月、動力炉・核燃料開発事業団東海事業所の再処理施設(茨城県東海村)が本格運転を開始。発生するトリチウムは希釈廃棄処分。
1993年、六ヶ所再処理工場(青森県六ヶ所村)の建設始まる。同工場は大気中および海中を合わせ、約2×1016 Bq/年のトリチウムを希釈廃棄処分する予定。
2011年3月11日、福島第一原子力発電所事故が発生、トリチウムも太平洋に漏出。
2016年2月、アメリカ合衆国ニューヨーク市から40 kmに位置するインディアンポイント原子力発電所(en:Indian Point Energy Center)で、トリチウムの漏出が見つかる。
2017年1月19日、インディアンポイント原子力発電所の閉鎖決定。
物理的特徴​
三重水素は弱いβ線 (18.6 keV以下) を放射しながらβ崩壊を起こし、ヘリウム3 (3He) へと変わるベータ放射体 (beta-emitter) で、半減期は12.32年である。
電子は、5.7 keV の平均運動エネルギーを持ち、残りのエネルギーは反電子ニュートリノによって奪われる。三重水素から発する低いエネルギーのβ線は人間の皮膚を貫通できず、外部被曝の危険性がほとんどないため、その酸化物であるトリチウム水 (HTO) は放射性夜光塗料の材料などに用いられている。また、この低いエネルギーであるがゆえに、三重水素の標識化合物は、液体シンチレーション計測法でないと検知することができない。
熱核反応(核融合反応)の燃料として​
二重水素 (D) と三重水素 (T) の核融合反応である熱核反応(D-T反応)は、二重水素同士の熱核反応(D-D反応)に比べて反応に必要な温度・圧力条件が低い。
そのため、1952年の核実験にてエニウェトク環礁の一つの小島を消滅させた水爆の原理の中では、D-D反応を起こすための中間の起爆反応として用いられた。現在では、三重水素は、ITERをはじめとする核融合実験炉においては核燃料として研究されている。
トリチウムの生成​
三重水素(トリチウム)は原子炉においては、炉内の重水 (HDO) の二重水素 (D) が中性子捕獲することでトリチウム水 (HTO) の形で生成される。
ほかには、ウラン235 (235U) 或いはプルトニウム239 (239Pu) が中性子と反応した時に起こる三体核分裂によっても生じる。また、制御棒に使用されるホウ素同位体 10B が、高速中性子を捕獲することでも生じる。
生成量は原子炉ごとに異なるとされるが、一年間の運転で加圧水型軽水炉内には約200兆ベクレル (2 × 1014 Bq)、沸騰水型軽水炉では約20兆ベクレル (2 × 1013 Bq) が蓄積する。しかしながら、トリチウム水(HTO)は、化学的性質が水(H2O, HHO)とほぼ同一であるため、化学的には水とトリチウム水を分離することはできない。ただし物理的な同位体効果を利用した分離技術は確立されており、トリチウム含有水の蒸留や電気分解、同位体交換法など、いくつか分離方法が存在する。しかしそれでも大量かつ極めて低濃度の水からトリチウム水だけ、分離してまとまった量を回収することはコスト的に非常に困難である。
トリチウム水からトリチウムを単離するのは上述のとおり極めて難しいため、高い純度のトリチウムを得るにあたっては回収しやすい形で人工的に生成する必要がある。比較的良く知られたトリチウムの生成方法としては、原子炉内でリチウム Li に中性子を当て(中性子捕獲させ)、トリチウムとヘリウム4(4He)に分裂させた上で得るという方法がある。しかし、リチウムはイオン化傾向が高く、少量の水と接触するだけで激しく反応するなどの性質があり危険であるため、反応性はなくすがリチウムのトリチウムにはなる性質は残す合金を作るといった研究が行われている。東京工業大学でリチウムと鉛の合金が適しているといった研究結果が出されている。また、この合金だと鉛に当たった中性子は2倍に増えるため、通常より多くのトリチウムが生産されることも期待されている。
ただし、この方法の場合、十分な量のトリチウムを生成するためには中性子がその分相当量必要となり、やはりトリチウムの価格がデューテリウム(二重水素)に比べて高くなる。
自然界での生成​
宇宙線の中性子または陽子が大気中の窒素または酸素と核反応し、地表面積あたり毎秒0.2 個/cm2⋅sec 程度の割合で三重水素が生成している。地球の表面積を 5.1×1014 m2とすると、トリチウムの年間生成量は約72 PBq (P=1015)となる。放射性崩壊と天然生成量が平衡にある時、その同位対比は地表に存在する水素原子の 10−18 に相当し、これを1 TU (Tritium Unit) と定めている。
製造​
1996年のエネルギー・環境研究所(Institute for Energy and Environmental Research)によるアメリカ合衆国エネルギー省に関する報告書によると米国の核兵器用トリチウムはサバンナ・リバー・サイトで製造され、1955年の操業開始から1988年の施設閉鎖までに225 kgが生産され、1996年時点で約75 kgが残った。 商用のトリチウムはカナダのCANDU型原子炉の重水素減速材中で生成するトリチウムを使用している。カナダ・オンタリオ州にある重水からトリチウムを除去する施設では年間2500トンまで重水を処理でき、約2.5 kgのトリチウムを分離してこれを販売している。
用途​
トリチウムは1グラムあたり300万円(2004年)と高価なため、これに見合う用途に限られる。
原子爆弾の出力増強剤(ブースト型核分裂兵器)
原子爆弾のエネルギ―を重水素-トリチウム水素の混合ガスに照射してD-T反応を起こし、それで生じた中性子で核分裂反応を促進し核爆弾の威力を増強したもの。爆弾1個当たり2 g程度のトリチウムを使用し、壊変で消滅して失われる分を補給するため8年に1回トリチウムガスを交換する。また、アイビー作戦マイク実験においては、核融合装置(水素爆弾)内の液体重水素を核融合反応させるために、テラー・ウラム型デザインの一環として、セカンダリーにトリチウムとプルトニウム製のスパーク・プラグが用いられた。
中性子爆弾原料
ブースト型と同様にD-T反応を利用した爆弾で、爆発の威力を増強せず、中性子の放出を増加させることを目指している。中性子は質量がほぼ等しい水素との相互作用が大きい。この性質を利用し水素原子を多く含む生体を殺傷し、建物などを破壊しない兵器として開発された。
核融合炉燃料
核融合炉の一種で実用化に最も近い重水素とトリチウム核が融合するD-T反応で生じるエネルギーを利用するトカマク型炉で使われる。本炉では点火時に約3 kg程度のトリチウムの使用が予定され、これはCANDU炉から供給することを予定している。同様にレーザー核融合用燃料ペレットに核燃料として重水素と共に封入されている事が多く、実用発電炉では重水素と三重水素混合超低温固体燃料を使う事も構想されている。
生体試験用トレーサー/オートラジオグラフィー用試薬
生体分子の元素の一部を検出感度の高い放射性物質に置き換えた化合物で生体中のその分子の移動を求めるのがトレーサー法で分子の2次元画像で集積位置を求めるのがオートラジオグラフィー法である。対象が有機物質の場合、放射性物質として14Cを使う方法とトリチウムを使う方法があるが比放射能高いトリチウムが多く用いられる。またトリチウムが放出するβ線の飛程が短い事から分解能の高い画像が得られる。用途にチミジンがDNA合成量、ウリジルがRNA合成量の定量に使用される。またチミジンが細胞のDNA合成期である細胞周期のS期に取り込まれることを利用した研究が行われている。
トリチウムライト
トリチウムが放出するβ線を蛍光物質にあてて発光させるライトで腕時計の文字盤や銃器の暗視スコープなどに使用されている。また小銃などに用いられるドットサイトの光源として使われる例もある。
電池
トリチウムライトの光を太陽電池素子に照射することで電気を作る原子力電池の一種。
年代測定
雨水中のトリチウムの初期濃度Coと地下水の採取位置での濃度Ctならびにトリチウムの半減期に 年数=半減期・log[Co/Ct]/log(2) という関係がある、これより地下水の年代が求められる。富士山の湧き水の年代などが測定されている。
放出と環境汚染​
原子力施設から出るトリチウムの自然環境中への放出は日本の国内外で広く行われており、イギリスでは1998年から2002年の期間、毎年3ペタベクレル程度のトリチウムが放出されている他、カナダ、アルゼンチン、フランス、スペイン、アメリカ、ドイツ、日本でも放出されていた。この期間、トリチウム以外の放射性物質の放出ベクレル数はトリチウムの1 %にも満たない水準である。これらは国際放射線防護委員会がトリチウムの線量係数が極めて低く、人体に対する影響も極めて少ないと判断しているためであり、各国は線量係数をもとに放出できる量を法律で定め、各原子力施設はこれに従って放出計画を立てている。大気圏内核実験が頻繁に行われていた時期には降水にも多量のトリチウムが含まれていたが、1963年3月の1680 TU をピークに減少し、2003年にはほとんど自然環境レベルの5 TU程度に戻っている。
トリチウムは、米国内の65の原子炉のうち48か所から漏れたことがある。1つのケースでは、リーク水は、リットル当たり7.5マイクロキュリー(280 kBq)のトリチウムを含み、飲料水の米国環境保護庁基準の375倍であった。
米国核規制委員会は、2003年の通常運転では、56基の加圧水型原子炉が40,600キュリー(1.50 PBq)のトリチウム(最大2,080 Ci、最小0.1 Ci、平均725 Ci)を放出し、24の沸騰水型原子炉が665キュリー(24.6 TBq)(最大:174 Ci;最小:0 Ci;平均:27.7 Ci)である。
米環境保護庁によれば、都市の埋立地に不適切に配置された自照式出口標識が、最近、水路を汚染することも判明している。
規制上の基準​
トリチウムの水質基準は国・機関によって異なる。
〇 国機関ごとのトリチウム水質基準
  国・機関   飲料水基準(Bq/l) 排水基準(Bq/l)
オーストラリア    76103
日本                  60000
フィンランド     30000
WHO          10000
スイス        10000
ロシア         7700
オンタリオ州(カナダ)  7000
米国          740       37000
EU           100
フランス                40000

米国の基準は、年間4.0ミリレム(またはSI単位で40マイクロシーベルト)の線量が得られるように計算されている。これは自然の背景放射線(約3,000 µSv)の約1.3 %である。
規制基準と分離・回収技術​
日本においては、発電用原子力施設で発生する液体状の放射性廃棄物については、時間経過による放射能の減衰、大量の水による希釈といった方法で、排水中の放射性物質の濃度を規制基準を超えないように低減させた上で排出することとなっている。トリチウム水については、周辺監視区域外の水中の濃度が60 Bq/cm3( = 6×104 Bq/L)を超えてはならないと定められている。高度情報科学技術研究機構(もと原子力データセンター)によると、トリチウムには海産生物による濃縮効果がないと考えられている。そのため、他の核種の100倍を越える量が海洋に放出されている。
2001年には、英国ブリストル海峡での二枚貝やカレイの体内に、高濃度のトリチウムがあるとの論文が発表されている 。原発より放出されるトリチウム水以外の放射化学プラント から廃棄されるトリチウムで標識された有機化合物等の濾過が不十分であるため、トリチウムが加算され、生物濃縮が不当に評価されうること等、トリチウムおよび濃縮率の測定問題等が指摘されている。英国食品基準庁の指針に従い、1997年より10年間、毎年調査をし続けた結果では海水が5〜50 Bq/Lであったのに対し、ヒラメは4,000〜50,000 Bq/kg、二枚貝イガイは2,000〜40,000 Bq/kgの濃縮が認められ、濃縮率の平均値はそれぞれ3,000倍と2,300倍であった。一方で、トリチウム水で育てた海藻を二枚貝イガイへ与えた実験では、投与量に比例してトリチウムが蓄積し続けることが確認されている。
液体状の低レベル放射性廃棄物の海洋放出の安全性については、主に再処理施設に関してだが、次の答申
・ 動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設からの低レベル廃液の海への放出に係る詳細な審査について(答申)
・ 再処理施設等から生ずる放射性廃液の海域放出に係る障害防止に関する考え方について(答申)
がある。
一般的な原子力発電所では年間約1.0〜2.0×1012 Bq(1〜2兆ベクレル)ほどトリチウム水を海洋に放出している(表参照)。
〇 実用発電用原子炉施設からの年度別トリチウム水放出量(単位:Bq)
   施設名           2007年    2008年    2009年    2010年
福島第一原子力発電所    1.4×10-12  1.6×10-12  2.0×10-12    -
福島第二原子力発電所    7.3×10-11  5.0×10-11  9.8×10-11  1.6×10-12
しかし2011年3月11日の福島第一原発事故後に福島県浜通り地方を中心に周辺地域の水産業が深刻な風評被害を受け続けていた為、地下水などに混入した各種の放射性核種を処理したトリチウム水の太平洋への海洋放出などによる削減は、世論の批判・反対が強いため行われておらず、原発敷地内に保管している。
これに関連し、汚染水からトリチウム水を分離する技術を研究されている。近畿大学工学部(広島県東広島市)は、水を微細な穴を持つアルミニウム製フィルターに通すことでトリチウム水を分離する装置を東洋アルミニウムなどと共同開発したと2018年6月に発表した。  

 

●KURION モジュール式トリチウム除去システム(MDS™) 2014/9
コスト経済性があり、スケールアップが容易な、特許出願中のモジュール式システムが、軽水から、トリチウムを除去します。
モジュール式とリチウム除去システム(MDSTM)は、純水の環境への放出、あるいは、原子炉冷却水の再利用を可能にする経済的なトリチウム除去技術です。本技術は、世界で主流の型である軽水型原子炉に利用可能です。
水からトリチウムを除去する工業プロセスについては、これまで長く、高度に汚染された「重水」からトリチウムを除去し、水を原子炉に戻して再利用することに主眼が置かれてきました。しかし、従来の技術には、軽水炉に用いられるものとしてはコストが非現実的に高いという問題がありました。Kurionのモジュール式トリチウム除去システム(MDSTM)は、従来までに実績を積んで参りましたある重水用のトリチウム除去技術を基盤として、改良のうえに得られた技術で、軽水におけるトリチウムの除去について処理量及び処理効率を飛躍的に向上させたことに特色があります。Kurionは、これまでの技術では、コスト面で不可能でありました、加圧式軽水炉における原子炉冷却水の再利用・浄化後の放出を、世界で初めて、実現する経済性のある技術です。
KurionのMDSはまず、トリチウム水(HTO)を、水素(H2)、酸素(O2)及びHTに分解し、さらに、これからトリチウム(T)を分離します。これにより、廃棄物を安定化し、H2とO2を排出することが可能になります。既存のトリチウム除去手法の多くは、処理する汚染水のトリチウムの濃度が低い場合、十分なDF(除染係数)を達成することができません。Kurionは「リサイクルプロセス」と呼ばれるプロセスを用いており、一定の物理量に係るパラメータ、および、サイクル数を調整することで、対象となるシステムの目標を「重度に汚染された少量の水を処理すること」から「低濃度の汚染水を大量に処理すること」に変更し、また、必要な除染係数を達成することが可能です。
モジュール式トリチウム除去システム(MDSTM)は、重水の処理において実績を積み上げて参りましたCECE(Combined Electrolysis and Catalytic Exchange)を改良した独自のシステムです。MDSTMでは、電解槽でトリチウム水が酸素(O2)と水素(H2及びHTを含む)の二つの流れに分解されます。これら二つの流れからは、酸素、水素、トリチウム(HT)以外の物質は、除去されております。トリチウム(HT)気流はその後、触媒が詰まった特殊カラムに通されます。カラム内を上昇するトリチウムガスは、同じカラム内で触媒を上から下へと流れる水と出会い、HTとH2Oの間で交換が行われ、濃縮トリチウム水(HTO)が生成されます。Kurion独自の技術で、カラム中を移動する気体と液体の流れをコントロールし、また、特殊な方法でカラムを設計することにより、カラムの上から落とされる水の量と比較して、格段に多い量のHTガスが、カラムを上昇・通過しつつも、出口水のトリチウム濃度が10Bq/l以下に保たれるような担保がなされております。プロセスから生ずる綺麗な酸素及び水素については、環境への排出・将来の使用のための保管・原料としての再利用・再結合して純水を生成する、といった使用方法が考えられます。
トリチウム除去特有の難しさ
従来、トリチウム(T)の除去は、極めて困難でありました。トリチウムは、水素の同位体で、従来の技術では処理が不可能でありましたトリチウム水(H2Oではなく、HTO)を形成します。トリチウム水においては、汚染物質(トリチウム)が、水に懸濁するのでもなく、溶解するのでもなく、水分子自体を修正してしまいます。このため、トリチウム水は非常に処理が難しく、また、環境に放出された場合、素早く拡散してしまうという性質があります。
すべての廃棄物が処理された段階をみてみると、除去されたトリチウムは、MDSTMのシステム内に全て捕獲され、そのトリチウム濃度は、案件により、当初の1000倍から2万倍程度にまで濃縮されます。このように濃縮されたトリチウムは、アメリカでは、適切な企業に輸送され、再利用又は廃棄されるのが通常です。
本トリチウム除去プロセスで、汚染水の量を、1000分の1から2万分の1にまで減少させることが可能で、これにより、廃棄のコストが大幅に削減されると考えられます。
仕様及び特徴
優れた性能、コンパクトな設置面積
・モジュールあたりの入口水処理量:1日当たり7230 リットル
・トリチウム濃度7.4×108 Bq/lまで処理可能
・排出するのは10 Bq/l以下(水に換算した場合)の水素と酸素のみ
・必要エネルギー:従来システムの50%-75%
・消耗物:電力・浄水・排出ガスのみ
・設置面積:従来システムの50-75%
・革新的なモジュールシステムにより、1日の処理量を容易に何百立米にも拡大可能
実績ある独自の技術
・米国テキサス州ヒューストンに、工業スケールで稼働しているワンストップ型のKurion MDSTMが存在し、1×105 − 4×107 Bq/lレベルの軽水を処理
・面積あたり、およびエネルギーあたりの処理量(Bq/day/m3およびm3/Watt)を最大化するための特殊な電解槽・カラムの設計
・除去済のトリチウムの放出はない。-トリチウムを非常に少量にまで濃縮し安定化(例:コンクリート)して低レベル放射能廃棄物として保管又は廃棄する、あるいは純粋なトリチウムとして燃料とすることが可能
●KURION モジュール型トリチウム分離システム 2015-
トリチウムは放射性の水素です。トリチウムを含んだ水は通常の水と物理的化学的性質がほとんど同じであるため、水中からトリチウムを費用対効果よく除去することは不可能と考えられていました。
トリチウムは定められた基準内で商業用原子力発電所から、環境に放出されています。低濃度トリチウム含有水を経済的に除去する技術は、これまで存在しませんでした。弊社は、革新技術と経済性を融合し、トリチウムを分離する技術を確立しました。
クリーンな技術
トリチウムを除去するの従来の方法は、トリチウムが大量に含まれている「重水」中のトリチウムを分離する方法でした。トリチウム濃度が低い場合、この技術は非常に高価となってしまいます。
モジュール型トリチウム分離システム(MDS®):トリチウムの高度分離技術
弊社のモジュール型トリチウム分離システムは、30年以上にわたって商業利用されてきた技術に基づいています。実績ある方法と新しい手法との組み合わせにより、原子力事業者に対する公共の信頼を高めるとともに、エネルギー生産を改善する経済的な方法を提供しています。
MDS®は、多様な濃度で存在する大量のトリチウム含有水を管理するツールと言えます。この技術は、電解と触媒による同位体交換(CECE)を組み合わせた技術です。システムからは、クリーンな酸素と水素だけが放出されます。トリチウムの安価な技術による低減は、事業者に対する公共の信頼を高めることに貢献するものと確信します。
このシステムは、トリチウム水の量を減らすように設計されています。このシステムにより、トリチウムを含む水は、系内でリサイクルしトリチウムが濃縮されます。
〇経済的でスケールアップが可能な設計
〇トリチウム含有水量を10万分の1に削減
〇濃縮トリチウムは、水素ガスの形態とし、金属に吸蔵。この水素化金属は、最高600℃まで安定です。
〇処理後、残留水は存在しません。
MDS®は、9か月間で1,000時間以上の稼働実績があります。設備は、米国ワシントン州リッチランドにあり、実証試験と研究の支援を行ってきました  

 

●汚染水からトリチウム水を取り除く技術を開発  2018/6
近畿大学工学部(広島県東広島市)教授 井原辰彦、近畿大学原子力研究所、東洋アルミニウム株式会社(大阪府大阪市)および近大発のベンチャー企業である株式会社ア・アトムテクノル近大らの研究チームは、放射性物質を含んだ汚染水から放射性物質の一つであるトリチウムを含む水「トリチウム水」を分離・回収する方法及び装置を開発しました。
本件のポイント
汚染水からトリチウム水を高効率に低コストで分離・回収することに成功
装置は再生利用可能で、継続的な除染処理が可能
東日本大震災の復興支援を行う「''オール近大''川俣町復興支援プロジェクト」の一環
研究の概要
トリチウム水は、水と化学的性質がよく似ていることから、従来の除染技術では、汚染水から水とトリチウム水を分離することは困難とされていました。井原ら研究チームは、炭やスポンジのように多量の小さな穴を持つ構造「多孔質体」と、ストローのような細い管を液体につけた際に、液体が管の中を上がっていく現象「毛管凝縮」に着目し、この現象を除染技術に応用するため研究を進めてきました。
完成した多孔質体は、直径5nm(ナノメートル)以下の大きさの微細な穴「細孔」を有し、毛管凝縮によって細孔内に水とトリチウム水を取り込んだ後、トリチウム水を細孔内に保持したまま、水だけを放出する機能があります。この多孔質体を格納した装置(フィルター)によって、汚染水からトリチウム水を高効率に分離することができます。
また、多孔質体を加熱することで、細孔内に残ったトリチウム水を放出し回収することができます。装置は繰り返し利用できるため、低コストでのトリチウム除染が可能です。
本研究成果により、汚染水の容量を削減することが可能になり、汚染水の保管場所問題の改善が期待されます。
なお、本研究成果は特許協力条約に基づく国際出願を行っています。
研究の詳細
ベーマイト処理※1済みのアルミニウム粉末焼結多孔質フィルターを格納した本発明装置を用いて、実証実験を行いました。40℃の温度下、0.2MBq/L濃度の擬似汚染水を毎時3.5g供給し、1時間毎にトリチウム含有水溶液を測定しながら、連続して10時間実験を行った場合の回収積算量(g)と除染率(%)の関係を調べました。グラフは、ベーマイト処理時間を0分、10分、300分とした3種類のアルミニウム粉末焼結多孔質フィルターを比較した結果です。いずれも処理量が増加するにつれて除染率は低下していますが、ベーマイト処理を行ったフィルターでは初期段階で、ほぼ100%除染されていることを確認しました。
※1:ベーマイト処理 アルミニウムに熱水処理を施すことで、アルミニウム系酸化皮膜(AlOOH、Al2O3・H2O)を形成する。
本件の背景
東京電力福島第1原子力発電所で発生している汚染水に含まれるトリチウムの放射能の量は3400兆ベクレルと報道されています。これは5.7×10-9%程度の極めて低い濃度であることから、従来の蒸留法や電解法の装置では効率的に除去することはできません。そのため、トリチウム水を含んだ汚染水貯蔵タンクの増設は避けられず、広大な保管場所を確保する必要があります。
今回開発した技術によれば、東京電力福島第1原子力発電所 事故現場でのトリチウム汚染水対策として、また、原子力発電所内で発生するトリチウム汚染水対策として期待されます。今回の研究は、近畿大学が東日本大震災の復興支援として取り組んでいる「''オール近大''川俣町復興支援プロジェクト」の一環として行われました。
●トリチウム水の分離可能に。近大などが装置を開発 2018/7
近畿大学工学部(広島県東広島市)の井原辰彦教授、東洋アルミニウム、近畿大発ベンチャー企業のア・アトムテクノル近大らの研究チームは27日、放射性物質を含んだ汚染水からトリチウム(三重水素)を含む水(トリチウム水)を分離・回収する方法と装置を開発したと発表した。炭やスポンジのように多量の小さな穴を持つ構造「多孔質体」を格納したフィルターを使い、汚染水からトリチウム水を効率よく分離する。今回の成果により、汚染水の容量削減などが期待できるという。
井原教授らは、多孔質体と細い管を液体につけた際に液体が管の中を上がる現象の「毛管凝縮」に着目し、除染技術への応用研究を進めてきた。
井原教授らが完成さた多孔質体は、直径5ナノメートル以下の「細孔」を有し、毛管凝縮によって細孔内に水とトリチウム水を取り込んだ後、トリチウム水を細孔内に保持したまま水だけを放出する機能を持つ。この多孔質体を格納したフィルターによって、汚染水からトリチウム水を高効率で分離する。
多孔質体を加熱することで、細孔内に残ったトリチウム水を放出し回収することができる上、装置の再利用も可能。低コストでのトリチウム除染が実現できるため、東京電力福島第一原子力発電所におけるトリチウム汚染水について、容量削減および、汚染水の保管場所の問題の改善が期待できるとしている。
アルミニウム粉末焼結多孔質フィルターを格納した実装置による実験を行ったところ、アルミニウムに熱水処理を施す「ベーマイト処理」を行ったフィルターでは、初期段階でほぼ100%除染されることを確認した。
今回の研究は、福島県川俣町へ東日本大震災復興支援を行う「“オール近大”川俣町復興支援プロジェクト」の一環として実施された。
●福島原発の汚染水の、トリチウムの、除去に成功した企業があります。 2020/10
デイリースポーツの電子版記事。タイトル名、鳩山元首相、汚染処理水放出の、政府を批判、「トリチウム分離成功の、企業の声を、聞くべき」。
鳩山由紀夫元首相が、10月18日までに、ツイッターに新規投稿。東京電力福島第1原発のタンクの、汚染処理水について、政府が放射性物質の濃度を下げた後に、海に流して処分する、方針を固めたという報道を受け、「なぜトリチウムを、分離してから、流さないのか」と指摘し、「分離に成功している、中小企業の声を聞くべき」と、提言した。 鳩山氏は投稿で、「漁業者の強い反対が、あるにも拘らず、政府は福島第1原発敷地内の、多量の汚染水を、海洋に放出する事を、決めると言う」、と切り出し、「なぜトリチウムを分離してから、流さないのか。難しい技術だが、実験段階で、トリチウムの、分離に成功している、中小企業はある」と、指摘した。鳩山氏は、「漁業者に、金で解決など考えず、その企業の声を、聞くべきである」と、呼びかけた。
電気新聞の電子版記事 (2018/6/28)。
タイトル名、トリチウム水の、分離可能に。近大などが、装置を開発。東電電力、福島第一原子力発電所の、汚染水量削減に、期待。
近畿大学工学部 / 広島県東広島市の、井原辰彦教授、東洋アルミニウム、近畿大発ベンチャー企業の、「ア・アトムテクノル近大らの、研究チーム」は、6月27日、放射性物質を含んだ汚染水から、トリチウム(三重水素)を含む水、トリチウム水を、分離回収する方法と、装置を開発したと、発表した。炭やスポンジの様に、多量の小さな穴を持つ構造、「多孔質体」を格納した、フィルターを使い、「汚染水から、トリチウム水を、効率よく分離する」。今回の成果により、汚染水の容量削減などが、期待できるという。井原教授が完成さた、多孔質体は、直径5ナノメートル以下の、「細孔」を有し、「毛管凝縮によって、細孔内に水とトリチウム水を取り込んだ後、トリチウム水を、細孔内に保持したまま、水だけを放出する機能を持つ」。アルミニウム粉末焼結多孔質フィルターを格納した、実装置による、実験を行ったところ、アルミニウムに、熱水処理を施す、「ベーマイト処理」を行った、フィルターでは、初期段階で、ほぼ100%除染される事を、確認した。 

 

●トリチウム分離・濃縮実証実験結果に関する記者会見案内 4/13
株式会社イメージワンが創イノベーション株式会社と取組んでいる共同実証試験「ALPS処理水に含まれるトリチウムの分離」の2次試験結果について、 2021年2月4日公表の1次試験に続き、濃度が福島第一原発ALPS処理水相当である46万Bq/Lの模擬トリチウム水に対して処理試験を3回行い、いずれも海洋放出の運用基準である1,500 Bq/L以下となる結果を得ました。
   各位   2021年4月13日 株式会社イメージワン
当社は、福島第一原発ALPS処理水の減容化及び清浄化等に関する有望技術を擁する創イノベーションと共同して、ガスハイドレート法によるトリチウム分離技術の検証のための実証データを得ることを目的とした共同実証試験に取り組んで参りました。
この度、分離側濃度確認実験(1次試験)、蓄積側濃度確認実験(2次試験)が終了し、分離側、蓄積側の両方の濃度確認により繰返し処理数に相当する濃縮・減容化が可能であることが確認出来ました。
下記の通り、共同実証試験内容、試験データ数値、福島第一原発ALPS処理水の減容化及び清浄化等の詳細を記者会見で発表いたします。
   記
日時:2021年4月23日(金)13時00分〜14時00分 場所:福島県政記者クラブ
創イノベーションとのALPS処理水除去技術の共同実証試験について 2/4
当社は、2020年8月25日付で公表しました「創イノベーション株式会社とのALPS処理水除去技術の共同実証試験に関するお知らせ」の通り、創イノベーション株式会社(本社:東京都千代田区代表取締役:神保安広)と取組んでいる「ALPS処理水に含まれるトリチウムの分離技術」の共同実証試験(1次試験及び2次試験)について、1次試験が完了したため、試験結果をお知らせいたします。1.実証試験の主旨当社は、ALPS処理水の減容化及び清浄化等に関する有望技術を擁する創イノベーションと共同して、ガスハイドレート法によるトリチウム分離技術の検証のための実証データを得ることを目的とした共同実証試験(1次試験及び2次試験)に取り組んでおります。2.1次試験の概要及び1次試験の結果について1次試験の概要については、ガスハイドレート法の処理効率向上・コスト低減型コンセプトを実装した評価試験機にて、福島第一原発ALPS処理水相当の濃度(1リットル当り約50万ベクレル(約50万Bq/L))に調製した模擬トリチウム水からトリチウムを分離して、海洋放出の運用基準(1,500Bq/L)以下に低減できることを実証する試験です。上記記載の1次試験結果については、トリチウム濃度47.6万Bq/Lの模擬トリチウム水を処理した結果、3回の試験のうち、いずれも海洋放出の運用基準である1,500Bq/Lを下回る数値が確認することが出来ました。3.今後の共同実証試験予定について今後の共同実証試験(2次試験)についてですが、濃縮側の濃度測定、減容化性能の評価を行うことにより、福島第一原発で現在約1,000基のタンクで保管されている汚染水を10基タンク数量での少量保管が想定できる大幅な減容化が可能であることを実証する試験です。2021年3月末を目途に、2次試験の完了に向けて取り組んで参ります。4.今後の見通し本実証試験による2021年9月期の当社業績への影響につきましては軽微であります。なお、開示すべき事項が生じた場合は速やかにお知らせいたします。  
共同実証試験、2次試験の結果 4/13
イメージワンは9日、2020年8月に公表した、創イノベーションとの「ALPS処理水に含まれるトリチウムの分離技術」の共同実証試験(1次試験及び2次試験)について、1次試験の完了(2021年2月公表)に続き、今回2次試験の結果を発表した。
同社は、ALPS処理水の減容化及び清浄化等に関する有望技術を擁する創イノベーションと共同して、ガスハイドレート法によるトリチウム分離技術の検証のための実証データを得ることを目的とした共同実証試験(1 次試験及び2次試験)に取り組んでいる。
2次試験として、トリチウム濃度46万Bq/Lの模擬トリチウム水を用い、3回の分離及び蓄積の繰返し処理を実施した結果、分離側の濃度は全て1,500 Bq/L 前後の数値が得られた。一方、蓄積側は3回の処理後のトリチウムガスハイドレートの濃度分析から、相応のトリチウムの蓄積を確認することが出来た。分離側、蓄積側の両方の濃度確認により繰返し処理数に相当する濃縮・減容化が可能であることが確認出来たこととなる。
今後の共同実証試験については2次試験の継続実施に加えて実機設計のためのデータ収集を進め、2021年6月末を目途に、一連の実証試験報告書作成完了に向けて取り組んでいく。また、今回の試験結果を踏まえて、国内では福島第一原発ALPS処理水対策事業への採用、海外では米国、ヨーロッパ諸国等の原子力発電所保有国への技術紹介、採用等の事業展開をしていくとしている。 
●トリチウム分離・濃縮実証試験結果に関する共同記者発表 4/23 
当社は、創イノベーション株式会社 ( 本社 : 東京都千代田区 代表取締役 : 神保安広、以下、「創イノベーション」) と取組んでいる「ALPS 処理水に含まれるトリチウムの分離技術」の共同実証試験 (1次試験及び 2次試験 ) について、1次試験の完了(2021年2月4日付公表)に続き、今般、2次試験の結果が得られたのでお知らせいたします。
1. 実証試験の主旨
当社は、ALPS処理水の減容化及び清浄化等に関する有望技術を擁する創イノベーションと共同して、ガスハイドレート法によるトリチウム分離技術の検証のための実証データを得ることを目的とした共同 実証試験(1次試験及び2次試験)に取り組んでおります。
2. 実証試験の概要及び 1次試験結果の再掲
ガスハイドレート法の処理効率向上・コスト低減型コンセプトを実装した評価試験機にて、福島第一原発 ALPS 処理水相当の濃度(約50万Bq/L)に調製した模擬トリチウム水からトリチウムを分離して、海洋放出の運用基準(1,500 Bq/L)以下に低減できること、分離したトリチウムは濃縮液の状態で処理前の 1/100 以下に減容可能であることを実証する試験です。
トリチウム水のガスハイドレート化によって模擬トリチウム水からトリチウムを分離する 1 次試験では、トリチウム濃度47.6万Bq/Lの模擬トリチウム水を処理した3回の試験結果で、いずれも海洋放出の運用基準である1,500Bq/Lを下回る数値が得られました(2021年2月4日付公表)。2次試験は生成したトリチウムガスハイドレートを維持したまま、新たな模擬トリチウム水を接触させトリチウムガスハイドレートを積層させるようにして分離及び蓄積を繰り返す試験になります。
   ●1次試験の結果
トリチウム濃度を海洋放出の運用基準 1,500Bq/L以下とするデータが得られた。
処理前:477,000Bq/L → 処理後:1,400Bq/L (分離係数 341)
   ●課題(評価委員会による)
・濃縮減容化の原理実証が不足
・プロセスの安定化の検討が必要
・コスト等の見積精度(過小評価である)の向上
・パロットスケールでの試験が必要
・ゲストガスの管理、処理の検討が必要
3. 2 次試験の試験機について
上記記載の 2 次試験として、評価委員による課題を解決すべくブラッシュアップした技術を実装した「準連続式の原理実証用評価試験機」を製作しました。本装置では、最初に作成した重水のハイドレートに、所定のトリチウム濃度の模擬水を接触させ、模擬水中のトリチウム水をハイドレート化させて分離し、分離処理水として反応槽から排出させます。分離したトリチウム水は重水ハイドレート上のハイドレート結晶として反応槽内に蓄積させます。この操作を繰り返し実施し、最後に反応槽内のトリチウム水が蓄積したガスハイドレートを取り出して減容・濃縮水とします。
   準連続式の原理実証用評価試験機
1 汚染水を注入
2 重水ハイドレートに接触させながら循環してトリチウム水ハイドレートを生成・蓄積
3 所定時間後に液相はトリチウム分離処理水として排出
4 反応槽内にはハイドレート化したトリチウム水が溜まり濃縮化される
4. 2次試験の結果について
トリチウム水の原液はアイソトープ協会から購入し、濃度を約50万Bq/Lに調製して ALPS処理水の疑似水としました。
実験1では温度約 9℃、圧力約 5気圧で 3回の分離処理をしたもので、処理時間は順に 1 時間、2 時間、1 時間としました。いずれも1500Bq/Lを下回る結果が得られました。分離処理 1時間のふたつのデータから再現性は良好な結果が、分離処理2時間のデータから処理時間の増加により分離性能が向上できることが示せたと考えています。
実験2では温度約 9℃、圧力約5気圧で1時間の分離処理を3回続けて実施し、各回の分離側の濃度、最後の処理後に回収したガスハイドレートの濃度を測定したものです。分離側のデータでは1500Bq/L前後の数値が得られ、実験1と同様に高い分離性能が得られました。濃縮側では86.6万Bq/Lが得られ、トリチウム水がガスハイドレートとして蓄積できることが示されました。
なお、入れた量と出た量の収支の関係ですが、物質収支は約98%と良好な数値が得られたのに対して、トリチウム収支は約50%となっています。これは回収する際にトリチウム濃度の高いガスハイドレートの表面が少し溶けてしまい、試験機の死容積の狭くて回収できない部分に流れトリチウム収支のロスになったものと推察しています。
以上より、ガスハイドレート法による分離・濃縮技術により1500Bq/L以下にできること、濃縮側は繰返し回数分に対応した濃縮・減容化ができることを実証したデータが得られました。
   準連続処理法の実証試験データ 1
試料  条件     トリチウム濃度  分離係数(処理前濃度/処理後濃度)
1  処理前     476,000Bq/Lit.  ー
2  分離処理1時間 1,020Bq/Lit.   467
3  分離処理2時間 695Bq/Lit.    685
4  分離処理1時間 1,110Bq/Lit.   429
   準連続処理法の実証試験データ 2
重水 120ml            重水ハイドレート生成  重水 58ml
トリチウム水 70ml(460,000Bq/L) 分離処理1回目   トリチウム水 70ml(1,360Bq/L)
トリチウム水 70ml(460,000Bq/L) 分離処理2回目   トリチウム水 70ml(1,770Bq/L)
トリチウム水 70ml(460,000Bq/L) 分離処理3回目   トリチウム水 68ml(1,530Bq/L)
                トリチウム水 57ml(866,000Bq/L) 物質収支 97.7%
                                     トリチウム収支 51.4%
   2次試験の結果
・本技術によりトリチウム水を希釈することなく1,500Bq/L以下に処理する事が可能
・1,000基の貯蔵タンクを10基以下に減容する事が可能
5. 今後について
本技術では温度は9℃、圧力は5〜20気圧でハイドレートを安定して生成する事ができていますので、プラント設備、運転コストともに経済的、物理的に実現可能な技術である事が証明されました。
今後は本試験機で実際のALPS処理水での試験を実施したいと考えています。
ALPS処理水での試験が成功すれば、次は1/100スケールのパイロットプラントでの試験を経て、実稼働プラントの建設と試験に取り組んでゆきたいと考えています。
これらを実現するには関係各所のご協力が不可欠ですので、国内関係者の総力を結集して、この国難に対処してゆきたいと思います。
皆様のご協力をよろしくお願いいたします。
   ●ALPS 処理水の現状
福島原発内の汚染水タンク:約 1,000基
現在の貯蔵量:約 100万㎥
日々の汚染水発生量 :約 140㎥ /日(今後 30年間発生)
   ●処理プラントの概要
1 日あたりの処理量 :約 400 ㎥ /日
処理費用の目標:約 2 万円/㎥
   ●処理年月
1 日あたりの汚染水の増減:140㎥(発生量)-400㎥(処理量)=-260㎥/日
タンク処理年数:100万㎥ ÷ 260㎥/日=3,846日=10.5年 
        ※10.5年以降は 140 ㎥/日を処理してゆく
   ●処理費用
1タンク貯蔵分:100万㎥x2万円=200億円
2今後発生分:140㎥x30年間=153万㎥x2万円=306億円
1+2 :506億円
プラント建設費用 :350億円
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 

 



2021/4-6