分断から結束へ

分断

団結

ジョー・バイデン第46代大統領 
国民の結束に全霊を ・・・
 


バイデン米大統領就任演説・・・
就任演説 / 報道評価評価1評価2評価3・・・
ドナルド・トランプ大統領 / 退任演説報道・・・
ジョー・バイデン / 経歴人物​・日本との関係​・家族と出自​・政策と活動​・疑惑​・・・
大統領就任演説 / ワシントン[1]ジェファソン[3]ケネディ[35]クリントン[42]ブッシュ[43]オバマ[44]トランプ[45]・・・歴史に残る米大統領・・・
 
 
 
 
 

 

●ジョー・バイデン米大統領の就任演説 「民主主義の大義を祝う」 
 
 
 
 
米首都ワシントンで20日、大統領就任式が行われ、民主党のジョー・バイデン氏が第46代大統領に就任した。バイデン氏は就任演説で、アメリカが民主主義の危機に直面したことに危機感を示し、白人至上主義や国内テロを打倒すると述べた。その上で、アメリカ国民が連帯して「アメリカという物語」のために立ち上がり、新型コロナウイルスのパンデミックや気候変動など、厳しい時代の課題に応えようと呼びかけた。
 

 

   ●民主主義の大義の勝利
ロバーツ最高裁長官、ハリス副大統領、ペロシ下院議長、シューマー院内総務、マコネル院内総務、ペンス副大統領、ゲストの皆さん、そして米国民の皆さん。今日は米国の日だ。民主主義、再生と決意の歴史および希望の日だ。長い試練を通じて、米国は繰り返し試練を経て、困難から立ち上がってきた。
我々は今日、一候補者の勝利ではなく、民主主義の大義の勝利を祝っている。人々の意思が響きわたり、人々の意思が聞き入れられた。我々は改めて、民主主義の貴重さを学んだ。民主主義はもろいものだ。しかし今この瞬間、それは勝利を収めた。
数日前に暴力が議事堂の土台を揺るがそうとしたこの神聖な場所で、我々は、神の下、分かたれることのない一つの国家として結集し、200年以上そうしてきたように平和的権力の移行を行っている。我々は、たゆまず、大胆で、楽観的という米国独自のやり方で未来に目を向け、実現可能かつ実現しなければならない国家を目標に掲げる。
出席くださった民主党、共和党両党の前任者の方々に心から感謝する。皆さんは米国憲法の復元力、国家の強さをご存じだ。カーター大統領もそれをよく知っている。カーター大統領は本日出席できなかったが、昨夜、話をした。大統領の生涯にわたる国家への奉仕に敬意を表したい。
これらの愛国者一人一人と同じように、私は今、神聖なる宣誓をした。ジョージ・ワシントン大統領が最初に行った宣誓だ。しかし米国の物語は、我々ではなく、より完全な結合を求める国民全体にかかっている。米国は素晴らしい国であり、我々は素晴らしい国民だ。何百年にもわたり、嵐と対立、平和と戦争を経て、ここまでやってきたが、まだ道のりは続いている。
   ●白人至上主義、国内テロ打ち破る
我々はスピードと緊急性を持って前進する。なぜなら、危険と可能性に満ちたこの冬、やらなければならないことがたくさんあるからだ。修復し、復元し、傷をいやし、構築し、獲得しなければならないことがたくさんある。米国史の中で、これほど困難で試練に直面しているときはまれだ。
100年に1度のウイルスが、国家を静かに闊歩(かっぽ)している。この一年で、第2次世界大戦で亡くなった米国人と同じ数の多くの命を奪った。数百万の職が失われ、無数のビジネスが閉鎖された。約400年におよぶ人種間の平等を求める声が我々を動かしている。すべての人への正義の夢は、もはや先延ばしされることはない。
地球そのものからも生存を求める声が上がっている。その声は、かつてないほど切実で明白だ。政治的過激主義、白人至上主義、国内テロリズムが勃興しており、我々は立ち向かわなければならず、必ず打ち破る。
これらの試練を乗り越え、我々の魂を取り戻し、未来を確保するには、単なる言葉以上のもの、民主主義においてもっともつかみどころのない「Unity(結束)」が必要だ。結束。結束。1863年の新年に、アブラハム・リンカーン大統領は奴隷解放宣言に署名した。紙にペンを入れるとき、大統領はこう言った。「歴史に名を残すことがあるとすれば、この行為であり、ここに私の魂すべてが入っている」
私の魂すべてが入っている。大統領に就任した今日、私の魂すべては、米国を一つにすること、国民を結束させ、国を結束させること、このことに向けられている。そして、国民の皆さんに、この大義に加わってくれるようお願いする。怒り、恨み、憎しみ、過激主義、無法、暴力、病、職と希望の喪失という共通の敵と戦うために結束すること。結束することで、素晴らしいこと、大切なことを成し遂げることができる。
   ●中間層を立て直し、皆にヘルスケアを
誤りを正すことができる。よい仕事をもたらすことができる。安全な学校で子供たちを教育できる。死をもたらすウイルスを克服できる。労働に報い、中間層を立て直し、皆がヘルスケアを得られるようにできる。人種間の平等を実現し、米国を再び、世界に善をもたらすリーダーにできる。
融和の話をするのは愚かな幻のように聞こえるのは分かっている。だが、我々を分断する勢力は奥深く実在するものだ。また、新しくもない。 我々の歴史では全ての人が平等だとする米国の理想と人種差別の醜い現実との闘争が繰り広げられてきた。その対立は永遠に続き、勝利も確実ではない。
南北戦争、世界大恐慌、第2次世界大戦や2001年9月11日に起きた米同時テロなどの争いで、苦闘、犠牲や後退を経験しつつも、必ず私たちの天使が勝利した。十分に人が団結し、みんなが前進できるようにした。それは今、私たちにもできることだ。 歴史、信仰、そして理性が導かせてくれる。敵としてではなく、お互いを隣人として敬意を持って接することができる。我々は団結できる。怒鳴り合うのをやめ、緊張感の温度を下げよう。
融和がなければ平和はない。憎しみと怒りだけで、進歩できない。激しい怒りは単に疲れるだけだ。国家はなく、カオスの状況が続くだけ。私たちは歴史的な危機と試練に直面している、この先の道は融和だ。米国として、この瞬間に立ち向かわなければいけない。そうしたら失敗しないと保証する。みんなが行動できたときに米国が失敗したことはない。
今日、この場所で、新たなスタートを切ろう。みんなで。お互いの話を聞き、お互いに敬意を見せ合おう。政治は通り道にあるもの全てを破壊するような燃える炎である必要はない。意見の相違が無制限の戦争につながる必要はない。また、事実を操作したり、製造したりする文化を拒否しなければならない。
米国は改善しなければいけない。米国は今の状況よりも良いところだと信じている。周りを見てみよ。連邦そのものが危うい状況だった南北戦争中に建設が完了した連邦議会議事堂のドームの影に私たちは立っている。我々は努力し、勝ち残った経験がある。
我々はここに立ち、キング牧師が夢について語ったナショナル・モールを眺め、108年前の就任式で、女性の投票権獲得のために抗議する勇敢な女性達を止めようと数千人規模の抗議デモが起こった場にも立っている。そして今日、米国の歴史上、初めて女性としてカマラ・ハリス氏が副大統領に就任する。何も変わらないとは言えないだろう。
   ●真実を守り、虚構に打ち勝つ
我々を米国人として定義づける、米国人としての私たちが愛する共通の目標とはなにか。私たちは分かっていると思う。機会、安全、自由、品格、尊敬、敬意、そしてその通り、真実だ。ここ数週間、数カ月の出来事は我々に痛みを伴う教訓をくれた。真実があり、うそもある。権力と便益のためにつかれたうそだ。
そして我々各人が、国民として、米国人として、特に我々の合衆国憲法を尊重すると誓い、我々の国を守る指導者として、真実を守り、虚構に打ち勝つ義務と責任を負っている。私は多くの米国人が未来にいくぶんの恐れを抱いていることを分かっている。仕事のこと、家族を養うことを心配し、次に起こることに気をもんでいることを知っている。私は理解している。
だがその答えは内向きになることではない。派閥同士の競い合いになり下がってはならない。自分と行動が違う人、崇拝するものが異なる人、あなたと同じ情報源から情報を得ない人を不審に思うことではない。我々はこの不作法な、赤と青を対比し、地方と都市を隔て、保守とリベラルを分ける戦いを終わらせなくてはいけない。私たちが心を固く閉ざすことなく、開かれた精神を持てば、可能なはずだ。
我々がわずかな我慢と謙虚さをみせれば。すこしの間だけ、相手の立場に立って考えることをいとわなければ。なぜならそれが人生だからだ。あなたがどういう運命にさらされるかは分からない。
   ●新型コロナウイルス対策で結束を
いつかあなたが助けを必要とするときもあれば、我々が手を貸してほしいと呼ばれるときもある。それがお互いにあるべき姿だ。我々がこうした振る舞いをできるようになれば、我々の国はより強くなる。より繁栄し、より未来志向になる。
私の仲間、米国人たちよ。我々の今後の仕事では、互いを必要としあうだろう。我々はこの暗い冬を耐え抜くために我々のすべての力を必要としている。我々は新型コロナウイルスとの戦いにおいて、最も厳しく命懸けとなり得る時期に突入している。
我々は政治的な動きをやめ、このパンデミックに対して1つの国として向き合わなければいけない。私は約束する。聖書に書いてあるように、夜はよもすがら泣きかなしんでも、朝とともに喜びがくるのだ。我々は一緒にやり遂げるのだ。
   ●同盟関係を修復
世界は今日、見ている。そしてこれが、国境を越えて世界に伝わる私の言葉だ。米国は試練にさらされてきたが、その分強くなってきた。我々は同盟関係を修復し、もう一度世界に関わっていくだろう。昨日の課題に応えるのではなく、今日の、あすの課題に向き合っていこう。そして私たちは単に力を持っていることを示して(世界を)導くのではなく、我々の事例そのものが力となるように導いていくのだ。我々は平和、発展、そして安全のために、強く信頼されたパートナーとなるだろう。
この国で我々は多くのつらい経験をしてきた。私の大統領としての最初の行動として、この1年間に(新型コロナウイルスの)世界的大流行で我々が失ったすべての人々、40万人の同胞の米国民ー母親、父親、夫、妻、息子、娘、友人、隣人、同僚たちーをしのび、私と共に黙とうをささげていただきたい。我々は、我々がなることができる、そしてなるべきと知っている国民と国家を実現することで、彼らを記念する。命を失った人々、残された人々、そして我が国のために黙とうをささげよう。
   ●試練の時
アーメン。今は試練の時だ。我々は民主主義と真実への攻撃に直面している。猛威を振るうウイルス、広がる不平等、制度的人種差別の痛み、気候変動の危機。世界における米国の役割。これらのどの1つでも、我々に重大な挑戦をもたらすに十分だ。しかし事実は、我々はそれらすべてに同時に直面し、この国に最も重大な責任をつきつけている。
いま我々は取り組みを強化しなくてはならない。我々全員がだ。大胆さが求められる時だ。なすべきことが多くあるからだ。そしてこれは確実だ。我々、あなたと私は、この時代の連鎖的な危機をいかに解決するかによって判断されることになる。我々は難局で力を発揮するか?我々はこのまれな、困難な時期に打ち勝つだろうか?
我々は義務を果たし、子どもたちに新しい、よりよい世界を引き継ぐだろうか?そうしなければならないと信じている。そうすると信じている。そしてそのとき、米国の物語に次の1章を記すことになる。それは私にとってとても重要なある歌のような物語だ。「アメリカン・アンセム」という歌で、私にとって際立つ一節がある。
「何世紀にもわたる努力と祈りにより、今日の私たちがある。私たちのレガシーは何だろう?私たちの子供らはなんと言うだろう?私の時代が終わるとき、心の中で知る。アメリカ、アメリカ。私はあなたのために最善を尽くした」
これから語られる我が国の物語に、我々自身の努力と祈りを加えよう。そうすれば、我々の時代が終わったとき、我々の子どもたちと、その子どもたちは、私たちが最善を尽くしたと言うだろう。義務を果たしたと。壊れた国を癒やしたと。
我が同胞の米国民よ、私は今日、始めた所、神聖なる宣誓で締めくくる。神とすべての皆さんの前に約束する。常に皆さんに本当のことを話す。憲法を守る。民主主義を守る。米国を守る。権力ではなく可能性を、個人的利益ではなく公共の利益を考えて皆さんのために尽くす。そして共に、私たちは恐れではなく希望、分断ではなく団結、闇ではなく光の米国の物語を書き記す。礼節と尊厳、愛と癒やし、偉大さと寛容の米国の物語を。
これが私たちを導く物語とならんことを。我々を鼓舞する物語、今後長年にわたって我々が歴史の呼び声に応え、対処したと伝える物語を。民主主義と希望、真実と正義は我々のもとで死なず、栄えたと。米国は国内で自由を確保し、再び世界を照らす灯台となったと。それこそが、我々の先祖に、我々互いに、そして来る世代に負う責務だ。目的と決意を持って、確信によって粘り強く、信念に駆り立てられ、お互いと心から愛するこの国に献身し、我々はこの時代の務めに取り組む。
米国に神のご加護を。米兵たちに神のご加護を。アメリカよ、ありがとう。 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 

 

●報道
●WHO脱退取り下げ マスク着用義務化 米大統領 1/21 
バイデン米大統領は20日、トランプ前政権が決定した世界保健機関(WHO)脱退の手続きを取り下げるよう命じる大統領令を出した。また、新型コロナウイルス感染防止策として、連邦職員や連邦施設来訪者にマスク着用を義務付ける文書に署名した。
記者会見したサキ大統領報道官によると、バイデン氏は20日、大統領令など15の文書に署名。新型コロナや地球温暖化対策、移民政策など幅広い分野にわたり、トランプ前政権の方針から脱却する姿勢を就任初日から打ち出した。
トランプ前大統領は昨年5月、新型コロナをめぐるWHOの対応を「中国寄り」と批判して脱退を表明し、同7月に正式に通知していた。サキ氏は、大統領の首席医療顧問を務めるファウチ国立アレルギー感染症研究所長が「21日にリモート開催されるWHO会合に参加する」と説明した。
バイデン氏はまた、子供時代に親などに連れられて不法入国した移民の救済措置について、国土安全保障省に強化を指示した。トランプ前政権は同措置の廃止を掲げていた。
さらに、不法移民防止策として前政権がメキシコ国境で進めていた壁の建設に関し、国家非常事態宣言を根拠とした予算転用を停止。建設を事実上、ストップさせる狙いだ。前政権の排外姿勢の象徴と見なされた一部のイスラム圏諸国などからの入国規制も、「憎悪と外国嫌いに基づく政策だ」(サキ氏)として中止する。  
●退任トランプ氏、バイデン新大統領に手紙残す 執務室に 1/21 
トランプ米大統領は20日午前8時15分(日本時間午後10時15分)ごろ、ホワイトハウスを大統領専用ヘリコプターで出発した。バイデン氏の就任式には出席せず、メリーランド州のアンドルーズ空軍基地で大統領専用機に乗り換え、フロリダ州の邸宅に到着した。空軍基地で行われた退任式では「素晴らしい4年間だった。我々は共に多くのことを成し遂げた」と成果を強調した。
トランプ氏は家族や支持者らの前で約10分演説し、「米軍を再建し、宇宙軍を創設した」「米国史上、最大の減税を行った」「新型コロナウイルスのワクチンを9カ月で開発した。今後、数カ月で良い数字を見ることになるだろう。(感染者数などは)急速に減るだろう」などと自らの実績を自賛。そのうえで「新政権の素晴らしい幸運と成功を祈る。目覚ましいことをできる基盤ができている」と語ったが、バイデン氏の名前には言及しなかった。
トランプ氏は「私はあなたたちのために闘い続ける。我々は何らかの形で戻ってくる。またすぐに会いましょう」と演説を締めくくり、政治活動を続けることに意欲を示した。
現職大統領が後任の就任式を欠席するのは、南北戦争後の1869年のジョンソン大統領以来、152年ぶり。一方、トランプ氏はホワイトハウスの執務室にバイデン氏にあてた手紙を残していた。バイデン氏が記者団に明らかにした。近年、退任する大統領が手紙を残すのは恒例になっているが、トランプ氏の手紙の内容は「私的なこと」として説明しなかった。 
●政府、バイデン大統領の同盟国重視・国際協調を歓迎 1/21 
日本政府は、米国のバイデン大統領が就任演説で同盟国重視や国際協調を訴えたことを歓迎している。日米同盟の一層の強化を確認するため、菅首相は近くバイデン氏と電話会談する方向で調整している。
首相は21日、首相官邸で記者団に対し「新大統領と国際的な課題について、緊密に連携しながら取り組んでいきたい」と述べ、新型コロナウイルス対策や気候変動問題などでもバイデン氏と協力していくことに意欲を示した。就任演説については「国民に結束を訴えた大変力強い演説だった」と感想を語った。
日本政府は、予測が困難な言動が目立ったトランプ前大統領に比べ、「バイデン氏は国務省や国防総省などの意見を重視するオーソドックスな外交・安全保障政策に回帰する」(外務省幹部)とみている。
バイデン氏は当面、新型コロナ対策など内政を優先するとみられ、首相の訪米は難しい見通しだ。日本としては、まずは首脳電話会談で、同盟強化や日米共通の構想になっている「自由で開かれたインド太平洋」を引き続き推進することを確認したい考えだ。
首脳の信頼関係を構築するのにあわせ、茂木外相が首相に先立って訪米し、国務長官候補のアントニー・ブリンケン氏と会談することも検討している。 
●「米国を修復する」 バイデン新大統領が就任演説 1/21 
バイデン米大統領は20日の就任演説で「きょうは米国の民主主義にとって歴史的な日だ。民主主義が勝った」と宣言した。演説のなかで「すべての米国人のための大統領になる」と強調。6日の米連邦議会議事堂の占拠事件など深刻さを増す国民間の分断に「終止符を打たなければならない」と述べ、爪痕の修復に臨む意向を示した。
「内戦に終止符を」団結呼びかけ
46代目の大統領として宣誓した後、新型コロナウイルスの感染防止策として人数を限定した式典参加者に向け約20分演説した。「(米国には)根深い分断の力が働いている。米国の歴史は理想を追い求める闘争の繰り返しで、恐怖の悪魔は長年わたしたちを引き裂いてきた」と米国社会の断絶に言及。「敵としてではなく隣人として、尊厳と敬意を持ってお互いを扱うべきだ。赤(共和党)対青(民主党)、農村対都市、あるいは保守対リベラルの間で繰り広げられる内戦に終止符を打たなければならない」と表明した。
バイデン氏は「すべての米国人のための大統領になる。私を支持しなかった人々のために懸命に戦うことを約束する」としたうえで、「意見の相違が戦争を引き起こす必要はない」と抗議デモの暴徒化などに苦言を呈した。「事実が操作されたり創作されたりする文化を拒否しなければならない」と述べ、選挙不正をめぐる主張や陰謀論などの広がりに懸念を示した。
「ウイルスを克服」コロナ収束を約束
6日の米連邦議会議事堂の占拠事件については「この神聖な地で数日前、暴力がわれわれの基盤を揺さぶろうとした」と語り「平和的な権力の移譲を実現するために1つの国家として団結した。我々は前を向いている」と融和を呼びかけた。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響について「1世紀に1度のウイルス。第2次世界大戦と同じくらい多くの命が失われ、何千ものビジネスが閉鎖された」と述べた。米国の死者が40万人を超えるなかで「米国の歴史のなかで、これほど困難な時期を経験した人はほとんどいない。恐ろしいウイルスだが克服できる」と、収束にむけて取り組むことを誓った。
「同盟関係を再構築」国際協調に転換
トランプ政権下で諸外国との関係が揺れ動いた。バイデン氏は「世界が米国に注目している。同盟関係を再構築し、再び世界に関わりを持っていく」と強調。「米国第一主義」から国際協調路線に回帰する方針を鮮明にした。「米国は試練にさらされている。安全保障における平和を進展させるため、強力で信頼できるパートナーとなる」と語り、同盟国との連携や国際的枠組みへの参加に取り組む考えを示した。
一方、米国で広がった「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」運動などを念頭に「人種的正義を求める叫びがある。 400年以上の歴史が私たちを突き動かしている。全ての人のための正義を今こそ実現すべきだ」と語り、構造的な人種差別の是正に取り組む決意を改めて示した。 
●バイデン氏、第46代米大統領に就任−演説で「結束」呼び掛け 1/21 
米国の第46代大統領にジョセフ・ロビネット・バイデン・ジュニア氏が20日、就任した。多数の死者を出している新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)や長引く失業、急速に高まりつつある社会不安といった困難に見舞われる中、近年の米国史で最も険悪となった政権移行を乗り越えて国家を主導することになる。
バイデン氏は同日正午(日本時間21日午前2時)少し前、連邦議会議事堂前でロバーツ連邦最高裁長官を前に大統領の就任宣誓を行った。ちょうど2週間前、大勢のトランプ前大統領支持者がバイデン氏の大統領認定を阻止しようと集まった場所だ。  
78歳のバイデン氏は歴代大統領で最高齢での就任となった。 
バイデン大統領は就任演説の冒頭で「きょうは米国の日であり、民主主義の日だ」と発言。さらに「歴史と希望、再生と決意の日だ。米国は新たに試され、困難に立ち向かっている」と明言した。
バイデン氏の大統領就任は、有権者が前任者と正反対といえる人物に国政を託したことを意味する。一度も公職に就いたことのなかったトランプ氏による混乱の4年間を経て、今度はデラウェア州選出の上院議員として36年間、オバマ元大統領政権での副大統領として8年間と計40年余りワシントンでの経験を持つ人物が選ばれた。
演説でバイデン大統領は、選挙結果を覆そうとしたトランプ氏の動きに言及し、「民主主義は貴重であり、もろいということを、われわれはあらためて学んだ」と指摘。「きょうこの日、民主主義が勝利した」と言明した。
バイデン氏は女性が参政権を求め、そうした運動がこの日カマラ・ハリス氏の米国初の女性副大統領就任に至った経緯にも触れ、「物事は変えられないという話は私には通用しない」と述べた。ハリス氏は黒人として、またインド系米国人としても米国初の副大統領。
さらに、「赤(共和党)と青(民主党)、地方と都市、保守とリベラルの間で繰り広げられる無意味な争いを終わらせなければならない」と語るなど、約20分の演説は大統領選での訴えと同様に国民の結束を強く呼び掛ける内容となった。
バイデン氏の演説はミット・ロムニー上院議員ら一部の共和党議員からも称賛された。トランプ氏を批判してきた同議員は、与野党50議席ずつで勢力が拮抗(きっこう)する上院でキャスチングボートを握る存在になるとみられる。
民主党のクロブシャー上院議員と共に大統領就任式を取り仕切った共和党のブラント上院議員は「われわれがここで何をするか、世界中の人々が見ており、見ることになる。今は分断ではなく、結束の時だ」と語った。
バイデン氏の結束の呼び掛けは、閣僚候補の指名承認や新型コロナ禍に対応する追加経済対策案を巡る交渉など一連の試練に早速直面することになる。
新型コロナ感染症(COVID19)による米国の死者は40万人を超えており、多くの地域では感染率が上昇している。バイデン氏は演説中、「大統領としての最初の行動」として新型コロナ犠牲者に黙とうをささげた。
バイデン氏はまた、就任後直ちにトランプ前政権下での移民や気候問題などに関する政策の巻き戻しに着手する。演説では「危険と大きなチャンスに満ちたこの冬、われわれにはやるべきことが多くある。スピードと緊急性をもって前に進む」と述べた。
しかし、バイデン氏は共和党との溝を埋めるだけでなく、同氏の中道的傾向で構造改革の機会が失われると懸念する民主党内の進歩派にも配慮した政権運営が求められることになる。 
●米 バイデン氏が新大統領に就任「国民の結束に全霊を」 1/21 
アメリカの第46代大統領に民主党のジョー・バイデン氏が就任しました。バイデン新大統領は就任演説で「民主主義が勝利した。分断は深く現実のものだが、国民の結束に全霊をささげる」と訴えました。大統領就任式は日本時間の21日未明、首都ワシントンの連邦議会議事堂の前で行われました。就任式は新旧大統領が顔をそろえるのが恒例ですが、トランプ前大統領は欠席し、ペンス前副大統領や歴代の大統領夫妻が参列するなか、民主党のジョー・バイデン氏が宣誓して第46代大統領に就任しました。バイデン新大統領は78歳、歴代大統領では最高齢となります。
バイデン新大統領は就任演説でまず「きょうはアメリカの日であり、民主主義の日だ。民主主義が勝利を収めた」と述べました。その上で「分断は深く現実のものだ。私は国民と国家の結束に全霊をささげる。すべての国民に加わってほしい」と訴えました。さらに「共和と民主、地方と都市、保守とリベラルという無意味な争いをやめなければならない。相手に心を開けばできるはずだ」として「私はすべての国民の大統領になると誓う。私を支持してくれた人だけでなく、支持しなかった人のためにも同じように懸命に闘う」と強調しました。またバイデン新大統領は「同盟を修復し、再び世界に関与する」と述べ、国際協調を重視する姿勢を示しました。演説では終盤、新型コロナウイルスの犠牲者に黙とうをささげたあと、「今は試練の時にある。民主主義と真実への攻撃、猛威をふるうウイルス、格差の拡大、人種差別、気候変動に直面している。すべてに同時に向き合い、かつてないほど大きな責任を果たさなければならない」と指摘した上で「恐怖ではなく希望、分断ではなく結束、暗闇ではなく光の物語をともに紡ごう」と呼びかけました。
厳戒態勢の中の就任式
就任式は、今月6日、トランプ氏の支持者らが首都ワシントンの連邦議会議事堂を一時占拠する事態が起きたことを受けて、首都ワシントンをはじめ、全米各州の議事堂などでも厳重な警備態勢がとられる中で行われました。これまでのところ、ワシントンをはじめ全米各地でも、過激な抗議行動といった大きな混乱は伝えられていません。バイデン新大統領はこのあと新型ウイルス対策や気候変動、移民政策などを巡る文書に署名し、トランプ前政権からの転換を打ち出す見通しですが、トランプ前大統領の支持者らの反発は強く、多くの難題にどう向き合うか、早くもその手腕が問われることになります。
ネット上で「バーチャル・パレード」
今回の就任式では新型コロナウイルスの感染対策のため連邦議会からホワイトハウスまでの間で行われてきた恒例のパレードは実施されず、代わりにインターネット上で「バーチャル・パレード」と題した催しが行われました。「バーチャル・パレード」では全米各州で撮影された映像が流され、市民らはマーチングバンドやダンスで新しい大統領の就任を祝いました。また、新型コロナウイルスに立ち向かう医師や軍の兵士らをたたえる動画も放送されました。さらに、先住民やラテン系アメリカ人、中国系アメリカ人がそれぞれの民族に伝わる楽器や踊りで新政権の発足を祝うなど、「バーチャル・パレード」はアメリカの多様性を強調した内容となりました。
菅首相 ツイッターで祝意を投稿
アメリカのバイデン新大統領の就任を受けて、菅総理大臣は、21日午前2時すぎ、みずからのツイッターに、お祝いのメッセージを投稿しました。メッセージは「バイデン大統領、ハリス副大統領、ご就任おめでとうございます。 日米は普遍的価値を共有する、強い絆で結ばれた同盟国です。日米同盟の強化や『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向け、今後バイデン大統領と協力していけることを楽しみにしています」と、日本語と英語でつづっています。
台湾の大使にあたる代表が就任式に招待される
台湾の蔡英文総統は(さい・えいぶん)バイデン新大統領の就任式をうけて、祝福のメッセージをツイッターに投稿しました。この中で蔡総統は「あなたの政権がすべてにおいて成功を収めることを願っています。台湾は一緒に働く準備ができています」と述べました。台湾当局の代表機関「駐米台北経済文化代表処」は、蕭美琴代表が(しょう・びきん)バイデン新大統領就任式の実行委員会から招待を受けたと発表しました。台湾の与党・民進党によりますと、台湾の大使にあたる代表が正式な招待を受けて就任式に出席するのは1979年にアメリカと外交関係がなくなってから初めてだということです。蕭代表は就任式が始まる前、会場の連邦議会議事堂を背にして「民主主義は私たちの共通の言語であり、自由は私たちの共通の目標だ。次の政権と協力して互いの価値と利益を高めていくことを楽しみにしている」と話す動画をツイッターに投稿しました。
ロシア 核軍縮条約「新START」条約の延長呼びかける
バイデン新大統領の就任に関連してロシア大統領府のペスコフ報道官は「ロシアはこれまで通りアメリカとの良好な関係を求め続ける。それに対応する政治的な意志があるかどうかはバイデン氏と彼のチームにかかっている」と述べ、トランプ前政権との間で悪化した関係を改善させられるかどうかはアメリカの出方次第だと強調しました。また、ロシア外務省はコメントを発表し、来月に失効が迫るアメリカとロシアの核軍縮条約「新START」をめぐって「前提条件なしに延長することは可能で、最長5年の延長が望ましい」として、条約の延長を呼びかけました。プーチン政権としては、「新START」をめぐる交渉をきっかけにバイデン新政権との対話を進める機運を高めたい考えとみられます。ただ、バイデン氏はこれまでプーチン大統領を「独裁者」などと呼んで繰り返し批判していて、ロシアではバイデン新政権がヨーロッパとの結束を取り戻しロシアに対していっそう強硬な政策をとるのではないかと警戒する見方が出ています。
英 ジョンソン首相 「ともに取り組む共通の課題」
イギリスのジョンソン首相は20日、地元メディアとのインタビューでバイデン新大統領とハリス新副大統領に祝意を示した上で、「われわれはともに取り組んでいく共通の課題がある。新型コロナウイルスで受けた影響からの回復に向けて、国際社会がまとまっていく必要がある。気候変動への取り組みも重要だ」と述べました。またジョンソン首相は、バイデン新大統領がヨーロッパとの関係を重視しているという認識を示した上で、アメリカとの緊密な関係を築くことはイギリスの首相にとって重要な職務だと強調しました。一方、ジョンソン首相はツイッターにも「気候変動や新型コロナウイルス対策など私たちに関わる重要な課題についてアメリカのリーダーシップは不可欠だ。バイデン新大統領とともに仕事ができることを楽しみにしている」と投稿しました。
仏 マクロン大統領「パリ協定への復帰を歓迎 お帰りなさい」
フランスのマクロン大統領はみずからのツイッターで「アメリカのパリ協定への復帰を歓迎する。お帰りなさい」と投稿し、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」に復帰する方針を示すバイデン新大統領が就任したことを歓迎しました。その上で「現代の課題はともに取り組むことで解決できる。ともに地球のために行動をとることが気候変動の結果を変えることができる」と述べてアメリカと連携を深めることに期待を示しました。
イタリア コンテ首相「共通の国際的な課題に取り組む」
ことしのG20サミット=主要20か国の首脳会議で議長国を務めるイタリアのコンテ首相はみずからのツイッターで「きょうはアメリカ国内にとどまらず民主主義にとって偉大な日だ。イタリアはアメリカとともに共通の国際的な課題に取り組む準備はできている」と投稿してバイデン新大統領とハリス新副大統領の就任を祝福しました。
インド モディ首相「両国の戦略的パートナーシップを」
インドのモディ首相はバイデン新大統領の就任についてツイッターで祝意を示し、「両国の戦略的パートナーシップを高めるためにともに働くことを楽しみにしています」と述べました。また、母親がインド出身でインドにゆかりのあるハリス新副大統領についても「ハリス氏の副大統領就任おめでとうございます。歴史的な出来事です。両国の関係をより強固なものにするために交流することを楽しみにしています」と祝福しました。
茂木外相 「日米同盟をさらに強化」
茂木外務大臣は、21日午前7時ごろ、みずからのツイッターに日本語と英語でお祝いのメッセージを投稿しました。このなかでは「アメリカの大統領、副大統領に就任された ジョー・バイデン氏とカマラ・ハリス氏に心からお祝い申し上げます。バイデン新政権との間で日米同盟をさらに強化するとともに、『自由で開かれたインド太平洋』の実現や新型コロナ、気候変動などへの対応に関し、協力を深めていくことを楽しみにしています」としています。 
●バイデン新大統領 “パリ協定復帰” 署名 政策転換をアピール  1/21 
アメリカの第46代大統領に民主党のジョー・バイデン氏が就任しました。バイデン新大統領はさっそく、トランプ政権下で離脱した地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」に復帰するための文書などに署名し前政権からの政策の転換をアピールしました。今後10日間でまずは新型コロナウイルス対策や経済、人種問題など喫緊の課題での具体策を示し、対応を急ぐ方針です。アメリカの大統領就任式は、連邦議会の乱入事件などを受けて、厳戒態勢がとられる中、首都ワシントンで20日行われ、ジョー・バイデン氏が宣誓を行い第46代大統領に就任しました。就任演説でバイデン新大統領は、大統領選挙後の混乱などを念頭に「民主主義が勝利を収めた」と述べた上で、「国民と国家の結束に全霊をささげる」と訴え、分断が進むアメリカ社会の融和を呼びかけました。
初日は大統領令など15の文書に署名
その後、大統領として初めてホワイトハウスに入ったバイデン新大統領は、さっそく執務を開始し、大統領令など15の文書に署名しました。この中にはトランプ政権下で離脱した地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」に復帰するための文書やWHO=世界保健機関からの脱退の撤回を命じる大統領令、新型コロナウイルス対策として連邦政府の施設でマスクの着用を義務づけるよう命じる大統領令などが含まれています。このうち、「パリ協定」への復帰について、ホワイトハウスのサキ報道官は初めての記者会見で「アメリカが世界で指導的役割を果たそうとするものだ」と述べその狙いを説明しました。トランプ政権はアメリカ第一主義を掲げ、環境対策よりも経済を重視する姿勢を示したほか、新型コロナウイルスをめぐっては脅威を軽視したとも批判されましたが、バイデン新大統領は政権発足初日から政策の転換をアピールすることでトランプ前大統領との立場の違いを鮮明にした形です。ただ、こうした政策をめぐっては前大統領の支持者らからの反発が強く、融和と結束を訴えるバイデン新大統領としては難しいかじ取りを迫られることになりそうです。
就任2日目には新型コロナ対応策を示す予定
ホワイトハウスによりますとバイデン新大統領は就任2日目の21日には喫緊の最重要課題、新型コロナウイルスの感染拡大への対応策を示すということです。バイデン新大統領は新型コロナウイルス、経済危機、気候変動、人種問題をアメリカが直面する「4つの危機」だとしていて、今後10日間でまずはこれらの問題に対する具体策を示し、対応を急ぐ方針です。また外交では21日にはWHOからの脱退の撤回を受けて、新型ウイルスの対策を担うファウチ博士がWHOのオンライン会合に参加するほか、22日にはカナダのトルドー首相と新大統領就任後初めての首脳会談が行われる予定です。バイデン新大統領は就任演説で国際協調を重視する姿勢を示していて、外交面でもトランプ前大統領のアメリカ第一主義からの転換をはかる方針です。
パリ協定 来月19日に復帰へ
バイデン新大統領は気候変動を安全保障上の脅威とみなし、その対応を新政権の最優先課題の1つに位置づけて取り組みを強化する方針を示しています。その上で再生可能エネルギーへの投資を拡大するとともに100日以内に国際会議を開き、各国への働きかけを強める考えを明らかにしていて、今回の署名により国内外に新政権の姿勢を示すとともにトランプ前政権からの転換を印象づける狙いもあるとみられます。新政権はアメリカ政府としての復帰のための文書を20日付けで国連に提出し、国連は同じ日にグテーレス事務総長が文書を受理したことから、協定の規定に基づいて30日後の来月19日に、復帰することになり、今後、国際社会で再び指導力を示すことができるかが問われることになります。
連邦政府の建物内 マスク着用を義務化
バイデン新大統領は新型コロナウイルスの感染対策として連邦政府の建物のなかで、大統領の権限でマスクの着用を義務づけることを命じる文書に署名しました。バイデン新大統領は、政権発足から100日間に新型コロナウイルスへの対策に集中して取り組む考えを示していて、アメリカ国内でワクチンの1億回分の接種を目指す方針を掲げると共に、日本円で200兆円規模の追加の経済対策の実現に取り組むとしています。
トランプ前政権の入国制限措置を撤回
アメリカのバイデン新大統領は、トランプ前政権がテロ対策などを理由にイスラム教徒が多い国からの入国を制限していた措置について、大統領の権限で撤回を命じる文書に署名しました。バイデン新大統領はトランプ前大統領が不法移民対策として取り組んだメキシコとの国境沿いの壁の建設を中止することや、子どもの頃に親に連れられ入国し、アメリカで育った「ドリーマー」と呼ばれる移民に市民権を与えることを公約に掲げていて、トランプ前政権の強硬な移民政策から転換をはかる方針です。
サキ報道官が初めて会見「透明性を取り戻そう」
バイデン新政権の発足とともに就任したホワイトハウスのサキ報道官は初めての会見を開き、「大統領とは真実と透明性を記者会見室に取り戻そうという話をした。みなさんとは意見がぶつかることがあるかもしれないが、それも民主主義の一環だ」と述べました。その上で「アメリカ国民との信頼を築き直すのがわれわれがもっとも大切にしていくことだ」と述べ多くの主要メディアと対立してきたトランプ政権とは異なるアプローチをとる考えを強調しました。バイデン新大統領が就任初日に、トランプ政権下で離脱した地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」に復帰するための文書に署名したことについては、「野心的な合意目標を前に進めるために、アメリカが世界で指導的役割を果たそうとするものだ」と述べその狙いを説明しました。また、WHO=世界保健機関からの脱退の撤回を命じる大統領令に署名したことに関連して、新型コロナウイルス対策の大統領首席医療顧問のファウチ博士が21日にWHOとのオンライン会合に参加すると明らかにし、新政権としてウイルス対策で国際機関と協調していく考えを示しました。そして今月22日にバイデン新大統領がカナダのトルドー首相と外国の首脳とは初めてとなる電話会談を行うと明らかにしました。
新ファースト・レディー ジル夫人がメッセージ
バイデン氏が新大統領に就任し、ファースト・レディーとなったジル夫人は、国民に向けたビデオメッセージをツイッターに投稿しました。この中でジル夫人は「アメリカにとって輝く新たな1章の始まりで、わたしたち全員が1つの政府のもと、1つのアメリカとして団結する時です。そして私たちは、就任式のなかで、希望を目の当たりにしました。この特別に困難な年に、何千人もが協力して素晴らしいものを作り上げたのです。私たちの就任式を国の誇りと約束を反映したものにしてくれた人たちに感謝します。そして、彼らを支援してくれた家族や、この都市で歓迎してくれた皆さんに感謝します。就任式をジョーと私にとって、そして何よりもアメリカの人たちにとって特別なものにしてくれてありがとう」と話しています。
就任演説 「バイデン氏らしい」 専門家
バイデン陣営で東アジア政策のアドバイザーを務め、バイデン新大統領が上院議員時代にスタッフを務めたフランク・ジャヌージ氏はNHKのインタビューに対し、「就任演説の内容は、共和党との協力を常に試みてきたバイデン氏の政治人生そのもので、結束と癒やしを訴えたことは、時宜にかなっているだけでなくとてもバイデン氏らしい」と述べました。そして、「最優先課題は新型コロナウイルスへの対応や経済再生だが、同盟関係を修復することも就任当初から取り組んでいくという決意も感じられた」と話していました。そして、同盟国などとの外交関係についてジャヌージ氏は、「バイデン大統領の中国に対する姿勢は当初から国際規範を守らせる一方で、国際社会の一員として迎え入れるというもので、そのバランスがアジア太平洋地域の外交政策の中心になるだろう。日本だけでなく、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、タイ、フィリピンといった国と協力して、中国が参加できる規範作りを行っていくことになる」と述べ、バイデン政権が日本などの同盟国と協調して中国に対応していくという見方を示しました。
バイデン政権の閣僚人事 初めて承認
アメリカ議会上院は20日、本会議を開き、バイデン新大統領が新政権の国家情報長官に指名していたアブリル・ヘインズ氏を賛成多数で承認しました。バイデン大統領が指名した閣僚人事が承認されたのはこれが初めてです。国家情報長官はCIA=中央情報局やNSA=国家安全保障局などアメリカの情報機関を統括する閣僚級のポストで、女性が就任するのは初めてです。ヘインズ氏は51歳。ニューヨーク市の高校を卒業したあと、日本に1年間滞在して柔道を学んだことでも知られています。その後、NSC=国家安全保障会議の法律顧問などを経て、オバマ政権時代の2013年から2年間、CIAの副長官を務めていました。ホワイトハウスのサキ報道官は20日の記者会見で、速やかに国家安全保障の態勢を築く必要があるとして、議会に対し、外交・安全保障を担う閣僚の早期の承認を呼びかけました。
就任に合わせ特別番組放送
アメリカでは、就任式の日の夜、舞踏会が催されるのが恒例となっていますが、今回は新型コロナウイルスの感染が拡大しているため、代わりにバイデン新大統領や人気歌手らが出演する特別番組が主要テレビ局で放送されたほか、インターネットでも配信されました。番組の司会は俳優のトム・ハンクスさんが務め、歌手のジョン・ボン・ジョヴィさんやケイティ・ペリーさんらが歌を披露しました。また、最前線で新型コロナウイルスの患者の治療にあたる医療従事者らの姿なども紹介されました。番組の中でバイデン新大統領は「今は新型コロナウイルスの感染拡大や経済や気候の危機、民主主義への脅威といった課題があるが、私たちが力を合わせれば解決できないことはない」と述べました。そして、番組の最後には、バイデン大統領とジル夫人がホワイトハウスのバルコニーから見守る中、首都ワシントンの夜空に花火が打ち上げられました。 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 

 

●大統領就任演説の評価 

 

●バイデン就任演説から見えた5大注目ポイント 1/21
( 厳重な警戒体制の中、バイデン大統領の就任式が1月20日に終了しました。筆者は、1月15日付の記事『バイデン1/20就任演説で外せない7大ポイント 危機的なアメリカをどう一致団結させるのか』において、1演説の対象(国内)、2演説の対象(国外)、3対立構造、4ビジョン、5世界観、6価値観、7セルフブランディング(ポジショニング)という7つのポイントにおいて、トランプ前大統領の4年前の就任演説分析とバイデン新大統領の就任演説予測を行いました。バイデン大統領の就任演説は、上記で示した7大ポイントについて、ほぼ予測どおりの内容となりました。もっとも、ここで重要なのは、就任演説予測がほぼ予測どおりだったということではなく、バイデン大統領やその就任演説の予測可能性が高かったということなのです。そして、この点が、これから詳細を見ていくように、バイデン政権の今後を占ううえでも最重要ポイントの1つになると考えられます。また1月15日付の記事において、筆者は、米議会3誌の1つであるThe Hillの記事の中から、「バイデンの就任演説は、リンカーンの高潔な理想主義とルーズベルトの明確な実利主義を組み合わせる必要がある」という指摘を紹介し、バイデン大統領が就任演説で提示していくべき内容についても考察しました。今回の記事では、以上の内容を踏まえて、前回記事で示した7大ポイントの実際を分析していくのとともに、実際の就任演説結果からバイデン政権の今後を占っていきたいと思います。)
『バイデン就任演説の7大ポイント』はどうなったか?
「今日は民主主義の日だ」。バイデン大統領の就任演説の冒頭部分での最重要メッセージです。
これは、4年前のトランプ大統領の就任演説では、「民主主義」という言葉が一度も使われなかったのとは対照的でした。バイデン大統領は「一大統領候補の勝利ではなく、民主主義の勝利」とも述べていますが、演説全体を通して、「民主主義」がこれまでアメリカが直面した脅威に何度も勝ってきたこと、そしてこれからもアメリカは「民主主義」のもとに結束すべきであることを強調しています。
それでは、冒頭でも述べた7つのポイント――1演説の対象(国内)、2演説の対象(国外)、3対立構造、4ビジョン、5世界観、6価値観、7セルフブランディング(ポジショニング)――に従って、バイデン大統領の実際の就任演説を分析していきます。
1 演説の対象(国内)
筆者は、前回の記事で、バイデン大統領就任演説は国民全員に向けられたものになると予測しました。バイデン大統領は、勝利演説で「私は分断ではなく統合を目指す大統領になることを約束する」と宣言していましたが、実際の就任演説でも「すべてのアメリカ国民の大統領になる」「私を支持しない国民のためにも、私を支持する国民のためにと同様に、懸命に闘っていく」と述べています。また、演説の中で団結や結束を意味する「Unity」という単語が多く使われ、分断の様相が依然際立つ状況下で、「分断から団結へ」が強く訴えかけられました。
2 演説の対象(国外)
筆者は、バイデン新大統領就任演説の対象は、トランプ大統領就任演説はもとより、従来の大統領就任演説にも増して、他国やその市民も意識されたものになると予測しました。実際の就任演説でも、「世界が私たちを注視している」「国境を超えた国外の人々への私のメッセージ」と述べたあと、「私たちは同盟関係を修復し、もう一度世界と一緒に関与をしていく。過去の挑戦ではなく、現在、そして未来の挑戦へ向き合っていく」と明快に世界へとメッセージを発しました。
そして実際にも、大統領就任当日において、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰やWHO脱退の撤回等、世界との協調を裏付けるような大統領令に署名したとされています。
バイデンが示した「敵」は?
3 対立構造
演説の対象や聴衆を巻き込んだり味方に引き入れたりする最もシンプルなコミュニケーション手法は、対立構造を創り出すことです。
トランプ大統領は、選挙戦中「親トランプvs.反トランプ」「“赤い州”vs.“青い州”」といった扇動的な対立構造を創り、就任演説では対立軸の相手を「エスタブリッシュメント」「ワシントン」と表現しました。一方で筆者は、バイデン大統領は、分断から統合への機運を高めていくためにも、党派や階層、利益集団といった人で対立構造を創り出すことを回避し、新型コロナウイルスや人種差別といった概念やモノが対立軸の相手として明示されると予測しました。
実際の演説でも、バイデン大統領は、明確に「敵」という表現を使った部分において、その「敵」としては、怒り、恨み、憎しみ、過激主義、無法、暴力、病気、失業、絶望を挙げ、それらに全国民が結束して戦っていくという構図を示しました。
4 ビジョン
トランプ大統領就任演説で掲げられたのは、明快な「アメリカ・ファースト」というビジョンです。トランプ政権下では、このビジョンにそってアメリカの国益が最優先される政策が展開されました。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」や環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱したこともこのビジョンに沿ったものでした。
それに対して、筆者は、バイデン新大統領就任演説では、やはり国際協調や統合、「分断から団結へ」が政権運営におけるビジョンとして打ち出されると予測しました。そして実際にも、これまで述べてきたように「全国民を一致団結させる」というビジョンを示したことに加え、アメリカ外に対して、国際協調してさまざまな課題に対処していくことを示したのです。
必ずできるという可能性のある世界
5 世界観
トランプ前大統領は、就任演説で「母親と子どもたちは貧困にあえぎ、国中に、さびついた工場が墓石のように散らばっている。教育は金がかかり、若く輝かしい生徒たちは知識を得られていない。そして犯罪やギャング、薬物があまりに多くの命を奪い、可能性を奪っている。このアメリカの殺戮は、今、ここで、終わります」と述べました。「アメリカの殺戮」という過激な表現を使い、超絶暗い過去から明るい未来へという世界観を提示したわけです。
一方で、バイデン新大統領就任演説で示されると筆者が予測した世界観は、必ずできるという可能性のある世界です。バイデン次期大統領は、大統領選挙勝利演説で「私は、アメリカは一語で定義することができる、と常に信じている。それは“可能性”である。アメリカでは、誰もが、自分の夢と神から与えられた能力がある限り、行き着けるところまで行く機会が与えられなければならない」と述べています。
そして、実際の就任演説でも、全国民の一致団結という大きな目標に対して、「必ずできるという可能性ある世界観」を提示するのに相当の時間を投資しました。「状況が変わる」「状況は変えられる」ということを示していくのに、キング牧師が夢を語ったのと同じ場所に女性初の副大統領となったカマラ・ハリス氏が立っていることをその成功例として紹介したのです。
6 価値観
多様性が重視されるアメリカでは、これまで同国がどのような価値観を大切にしてきたのか、これから新政権はどのような価値観を大切にしていくのかといったことを国内外に示すことが非常に重要です。
トランプ大統領就任演説では、本音、正直、変化という価値観が提示されました。それに対して、筆者は、バイデン新大統領就任演説では、正義、礼節、公平という価値観が打ち出されると予測しました。これらは明らかにトランプ大統領が欠いていたものです。実際の就任演説においても、これらの価値観に加えて、歴史、信仰、理性が同時に提示されるとともに、寛容さ、謙虚さ、愛などが強調されたことが、新たな政権誕生を大きく印象付けたと思います。
7 セルフブランディング(ポジショニング)
トランプ大統領は、大統領就任演説で自らを「強くて×本音」の大統領というセルフブランディングにポジショニングしました。ヒラリー・クリントン大統領候補との選挙戦に挑むに際し「強さ」が求められ、オバマ政権下の「ポリティカル・コレクトネス」で白人中間層が過ごしにくい社会となった中では「本音で生きられること」が支持者からは求められました。
それに対して、筆者は、バイデン新大統領が就任演説で自らを「正義をもって×よりよい復興を実現(Build Back Better)」にポジショニングすることを予測しました。「正義(Justice)」は、パンデミック(新型コロナウイルス)、経済危機、人種差別、気候変動という「4つの歴史的危機」およびそれらを解決していくための政策を語る際にもバイデン大統領がこれまで多用してきた言葉でした。
そして、「よりよい復興を実現」は、選挙戦中は「トランプ大統領を信任しない」「不信任である」という想いが込められていましたが、就任演説では先に挙げた「4つの歴史的危機」に対する重点政策においてよりよい復興を実行していくという強い決意を示してくるのではないかと予測しました。
実際の就任演説においては、正義は、「すべての人のための正義という夢は、もう先送りすることはできません」等の重要な箇所で使われました。「正義という夢」と表現したことについて、私は本音と正義という誰もが双方をもっている価値観がそれぞれの人の中で戦っていることを感じました。「よりよい復興を実現」については、よりよくなるという表現がいろいろと使われていた一方、演説の最後において、「これからのアメリカの物語」について、「恐怖ではなく希望の物語」「分断ではなく約束(の物語)」「暗闇ではなく光明(の物語)」 にしていくという部分に「よりよい復興を実現」していく強い決意を表明しました。
今後を占う就任演説からの注目5大ポイント
それでは次に、前回記事で示した7大ポイントの実際の分析を踏まえて、実際の就任演説結果からバイデン政権の今後を占っていきたいと思います。
1 「結束×必ずできるという可能性ある世界観」が最大ポイント
前回記事のサブタイトルが「危機的なアメリカをどう一致団結させるのか」であったように、そして、「必ずできるという可能性ある世界観」を提示するのが中核になると予測したように、「結束×必ずできるという可能性ある世界観」がバイデン大統領の就任演説での最大ポイントであったと分析されます。あとで述べるように「リンカーンの理想主義」側に傾斜した就任演説のストーリー展開の一方、「結束×必ずできるという可能性ある世界観」をいかに早期に少しずつでもいいので具体的な成果をもって示していけるかがバイデン大統領には問われていると思います。
2 予測可能性が高いことが長所・短所
冒頭で述べたとおり、バイデン大統領の就任演説は、前回記事で示した7大ポイントについて、ほぼ予測どおりの内容となりました。もっとも、ここで重要なのは、就任演説予測がほぼ予測どおりだったということではなく、バイデン大統領やその就任演説の予測可能性が高かったということなのです。そして、この点がバイデン政権の今後を占う上でも最重要ポイントの1つになると考えられます。
実際に、バイデン政権が予測可能性の高い運営になっていくことは、同政権の特徴であり、また長所にも短所にもなり得るものだと思います。
長所としては、コロナ禍、デジタル化の進展、脱炭素社会など、環境が激変している中で、政権運営の予測可能性が高いことは、政策を確実に実行していくうえではプラスに働くことが期待されます。それは、予測可能性が高いことは制度やシステムの円滑な運用において重要であるからです。
一方で、予測可能性が高いことは、交渉戦略上は大きな短所として作用します。親トランプの過激派筋やテロ組織等には攻撃の材料を提供しやすいことを意味するのです。もっとも、オーソドックスで正義をもって事に当たろうとしているバイデン大統領は、後者のデメリットを熟知しながらも、自らの価値観とともに正々堂々として言動を続けてくるのではないかと考えられます。
分断の危機に対する団結を優先して訴えた
3 「リンカーンの理想主義とルーズベルトの実利主義」の後者が示せなかったこと
前回の記事において、筆者は、米議会3誌の1つであるThe Hillの記事の中から、「バイデンの就任演説は、リンカーンの高潔な理想主義とルーズベルトの明確な実利主義を組み合わせる必要がある」という指摘を紹介し、バイデン大統領が就任演説で提示していくべき内容についても考察しました。
南北戦争の最中においてアメリカが最大の分断の危機を迎えていたのに対して団結を訴え実行していったリンカーン大統領。バイデン大統領の就任演説は前者の部分に大きなウエイトを割き、全国民の一致団結を訴えたわけです。
その一方で、ルーズベルト大統領の就任演説については、大恐慌の最中にアメリカが置かれた状況をありのままに評価し、問題解決への政策を指し示すことで国民が持っていた恐怖を和らげたと評価されてきましたが、その「ルーズベルトの実利主義」部分について、バイデン大統領は自らの演説では期待されていたことを実行できずに終わったというのが率直なところではないかと思います。
これは、やはりアメリカが南北戦争以来とも言える危機的な分断の状況にあるなかで、結束を訴えるための「リンカーンの理想主義」部分を優先せざるを得なかったからではないかと考えられます。もっとも、ここは、バイデン大統領自身が、「必ずできるという可能性ある世界観」の提示を就任演説の大きなテーマに選んだなかで、実利主義的部分を示すことで同世界観が映えることになったのではないかと思っています。
4 「意見の相違は必ずある」としつつも、反対側意見に耳を傾ける姿勢は示さなかった
分断が存在していること自体はこれまでもあったことという言葉とともに、「意見の相違は必ずある」「意見が違うのが民主主義」であると述べたこともトランプ前大統領とは対照的であったと思います。もっとも、より重要なことは、「意見が違う場合にどのように対処するのか」であり、「違う意見にも耳を傾け、話し合っていく」ことなのではないかと考えらえます。
したがって、バイデン大統領は、「意見が違うのが民主主義」と述べるだけではなく、実際に親トランプ派の主張の中で少なくとも自分自身も共感できる部分には共感を示し、その主張に対してどのように対応していくのかを述べることが重要だったのではないかと思います。
大統領選挙戦中も、トランプ支持層とバイデン支持層では、主要論点が大きく異なることはたびたび指摘されてきたことです。安全保障などトランプ支持層の最大関心事項には触れず、自らが掲げてきた4大危機・4大政策だけを述べたのは、演説の最大目標だった一致団結という点からも最も不十分なところであったのではないかと思います。
「結束×必ずできるという可能性ある世界観」
5 「結束×必ずできるという可能性ある世界観」を早期に実行していくことが重要
5つの最初のポイントとして述べたとおり、「結束×必ずできるという可能性ある世界観」が演説の中核であった中で、バイデン政権にはそれを早期に実現することが求められていると思います。
アメリカが南北戦争以来の分断の危機を迎え、トランプ前大統領は退任演説で「何らかの形で必ず帰ってくる」と述べました。つまりはこれからの4年間でもアメリカに大きな影響力を行使し続け、4年後の大統領選挙にも出馬してくる可能性が高い中で、実行の遅れは、分断をさらに拡大させることに直結するのではないかと考えらえます。
今回の就任演説が、わかりやすくシンプルで明快な言葉で展開されたことは、確実にトランプ支持層を意識してのものであったと思います。もっとも、上記で述べたとおり、トランプ支持層に踏み込んで共感を示したり、その主要論点に触れたりすることもなかったなかで、結束を実際にはどのように早期に実現していけるのかの具体策には乏しい就任演説だったのではないかと思います。
このように、「結束×必ずできるという可能性ある世界観」を最大テーマとして、「リンカーンの理想主義」的ストーリー展開となったバイデン大統領の就任演説ですが、バイデン政権がこれからすぐに対峙していかなければならない「現実の世界」には、本当に大きな課題が山積みになっています。
1月6日の連邦議会議事堂への乱入事件を受けてトランプ前大統領への弾劾の動きが民主党内で加速した中で、バイデン大統領が弾劾自体に静観してきたのは、就任演説で全国民に結束を訴え、それを実行することが求められていることを誰よりも理解していたからに他なりません。
民主党側では、トランプ前大統領を二度の弾劾に追い込むことは、その政治生命を絶ち、4年後の大統領就任可能性を排除しておきたいという思惑が大きいものと指摘されています。もっとも、新政権誕生後の重要なタイミングで弾劾の手続きを進めていくことは、すでにある巨大な分断をさらに拡大させ、新政権の重要施策実行を遅らせる可能性もある諸刃の剣ではないでしょうか。
南部7州がアメリカ合衆国を脱退したことで始まった南北戦争ですが、トランプ大統領がバイデン大統領就任式の当日に同式には参加せずフロリダに移り、支持者から熱烈な歓迎を受けたことは、当然にトランプ大統領の戦略の一環だったのではないかと分析されます。
トランプファミリーが次期リーダー候補となるかも
トランプ前大統領自身が仮に法的な要因等で次の大統領選挙に出馬しなかったとしても、トランプ支持層はトランプファミリーの中から自らの次期リーダーを担ぎ出す可能性も高いのではないかと思います。
実際に、議会3誌の1つであるPOLITICOにおいては、1月15日付の「イヴァンカの政治的将来が大きな焦点になっている(Ivanka’s political future comes into sharper focus)」という記事において、トランプ前大統領の資金的な支援者たちが同氏の長女であるイヴァンカ・トランプ氏に政界入りを強く望んでいること、さらにはトランプ前大統領のシニアアドバイザーだったジェイソン・ミラー氏が「イヴァンカは政治的に強力な存在である」(Ivanka is a political powerhouse)と述べたことなどが紹介されています。
バイデン大統領が就任演説で述べたとおり、「意見の相違は必ずある」「意見が違うのが民主主義」だと思います。だからこそ、バイデン大統領には、相手側の意見にも耳を傾け、実直に対話を続けていくことこそが求められているのではないかと思います。そこまで踏み込んでやっていくことで、バイデン大統領が就任演説の冒頭で述べた「今日は民主主義の日」が真に到来するのではないかと期待しているのです。 

 

●バイデン大統領は本当にアメリカを統一できるのか 1/22
政治家にとって言葉は極めて重要
政治家にとって“言葉”は大切である。ある意味で、言葉は政治家の“生命”である。特にアメリカでは、それが際立っている。アメリカの学校では、「デベート(討論)」と「スピーチ(演説)」を教えるのが普通である。言葉で議論し、言葉で相手を説得するというのが、民主主義の原則である。「沈黙は金でる」とか、「言わなくてもわかるはずだ」という日本的な常識は通用しない。日本では、周囲の人が気配りし、言葉を使わなくても対応してくれる。だがアメリカでは明確に自分の主張をしない限り、相手にしてもらえない。雄弁であることは、政治家の重要な資質である。これに対して日本では「語らない」、「語れない」という政治家があまりにも多すぎる。。
1月20日、バイデン大統領の就任式が行われた。議事堂の前にあるモールと呼ばれる広場は、通常、人で埋め尽くされる。新大統領の就任演説の言葉に反応し、喝采する。その度に演説が途切れる。今回のバイデン大統領の就任式は、広場は観衆の代わりに国旗で埋め尽くされた。そのためバイデン大統領の就任演説も盛り上がりに欠けた。大統領就任演説は、国民に対する重要なメッセージであり、大統領の理念や思想を語り掛ける場所でもある。では今回の大統領就任演説でバイデン大統領は国民に何を語り掛けたのだろうか。
“政治的対立”の和解を求めたジェファーソン大統領
バイデン大統領の就任演説を評価する前に、歴史に残る大統領の就任演説を見てみよう。アメリカ政治は党派対立の歴史でもある。最初の政党は「フェデラリスト党」で、強力な政府を作り、産業を振興することでアメリカを豊かにし、欧州列強の干渉を排除しようとした。同党の指導者は初代財務長官のアレキサンダー・ハミルトンであった。これに対して強力な中央政府は個人の政治的自由を奪うとして、州をベースとする政治体制(共和制)の確立を主張する「民主共和党」が結成された。その指導者は初代国務長官のトーマス・ジェファーソンである。1800年の大統領選挙はフェデラリスト党が推すジョン・アダムス大統領と民主共和党の推すジェファーソンの闘いとなった。壮絶な選挙を経てジェファーソンが勝利する。1801年にジェファーソンは大統領に就任するが、その時の演説の最も有名な言葉は「私たちは皆、共和党員であり、皆民主党員である(We are all Republican, we are all Federalist)」であるというものだ。その発言の趣旨は、党派的対立を止め、平和的に政権移譲をすることを呼びかけたものである。
ジェファーソン大統領の言葉は、2020年の大統領投票が終わった11月8日にバイデン候補が語った「私は分断を求めてるのではなく、統一を求める大統領になることを誓う。赤い州と青い州を区別するのではなく、合衆国だけを見る大統領になることを誓う」という発言と呼応する。「赤い州」とは共和党を支持する州であり、「青い州」は民主党を支持する州である。バイデン大統領は大統領就任演説の中で、「私は皆さんに誓う。私はすべてのアメリカ人の大統領だ」と、同じ趣旨の発言をしている。
ちなみにフェデラリスト党の地盤は東部、共和党の地盤は南部であった。アメリカの党派や地域の分断は建国当初から存在していた。現在も、その対立構造に基本的な変化はない。
南部の連邦離脱を恐れたリンカーン大統領
フェデラリスト党はやがて共和党へと変わって行き、民主共和党は民主党へと変わって行く。共和党は東部を地盤とし、奴隷制度に反対した。他方、民主党は南部を地盤とし、奴隷制度の維持を主張した。1861年に大統領に就任したのがリンカーンである。当時、南北対立が先鋭化し、戦争が勃発する懸念があった。南部の離脱を食い止めるのがリンカーン大統領の大きな課題であった。就任演説でリンカーン大統領は「奴隷州の奴隷制度に干渉しない」「我々は敵ではない。友人である。敵になってはならない」と、連合から離脱の動きを示していた南部諸州に自重を呼び掛けた。日本ではリンカーン大統領は奴隷制度を廃止した大統領と教えられているが、この時点では奴隷制度は州政府の権限であり、連邦政府は干渉しないというのがリンカーン大統領の立場であった。だがリンカーン大統領の呼びかけに南部諸州は応えず、南北戦争が始まった。ここでも地域対立と党派対立が政治の焦点であった。
アメリカ社会を根底から変えたルーズベルト大統領の言葉
少し時代を飛んで、1933年に大統領に就任したフランクリン・ルーズベルトの就任演説を見てみよう。大恐慌のさなかに誕生した新政権である。ルーズベルト大統領は、将来に悲観する国民に向かって「最初に皆さんに私の確固たる信念をお伝えする。私たちが唯一恐れなければならないのは恐れそのものである。恐れとは、後退を前進に変えるために必要な努力を麻痺させてしまう名状しがたく、不合理で、根拠のない恐怖である」と訴えた。ルーズベルト大統領は大恐慌から脱するために大規模な政府支出を伴う「ニューディール政策」を実施に移した。筆者が好きな就任演説の言葉は「愚かな楽観主義者だけが現在の暗い現実を否定することができる(Only a foolish optimist can deny the dark realities of the moment)」というものである。バイデン大統領は選挙運動の中で、新型コロナウイルスによる経済の低迷から脱するために「ニューディール政策」に匹敵する大規模な経済政策を発動すると語っていた。
新自由主義への道を開いたレーガン大統領の言葉
ニューディール政策はアメリカ社会を根底から変えた。レッセフェール(自由放任)の世界から、政府が大きな役割を果たす福祉国家へと変わっていった。この流れを断ち切ったのが、戦後最悪の不景気の中で1981年に大統領に就任したロナルド・レーガンである。彼は就任演説で「現在の危機のもとでは政府は私たちの問題の解決策にはならない。政府が問題だからだ」と、ニューディール政策以降続いていた「大きな政府」からの脱却を主張した。レーガン大統領は「新自由主義政策」を始める。その具体的な政策には、「小さな政府」、「市場での自由競争促進」、「規制緩和」、「減税」などである。新自由主義は世界を席巻していく。民主党も、その波に巻き込まれる。民主党のクリントン大統領は1996年の「一般教書演説」の中で「大きな政府の時代は終わった」と語っている。
国民の「統一」を訴えたオバマ大統領
リーマン・ショック後の大不況の最中の2009年に誕生したオバマ大統領は就任演説で「今日、私たちがここに集っているのは、私たちが恐怖よりも希望を、対立よりも統一を選んだからだ」と国民に訴えた。「統一(unity)」は、バイデン大統領が就任演説で繰り返し使った言葉である。さらに続けて「我が国経済は非常に弱っている。それは一部の人々の貪欲さと無責任の結果である。・・・・今、私たちに必要なのは、新しい責任の時代(a new era of responsibility)である」と訴えた。大統領就任演説ではないが、オバマ大統領は「人種的和解」を訴えた。だが、世の中はオバマ大統領の願いとは逆の方向に動き、白人至上主義が頭をもたげ、人種対立はより激しくなった。
“忘れられた人々”に向かって訴えたトランプ大統領
トランプ大統領の就任演説は15分と極めて短いものであった。その中でトランプ大統領は「母親と子供は貧困に囚われている。錆に覆われた工場は全国至るところで墓石のように放置されている。犯罪やギャング、ドラッグが多くの人の命を奪い、アメリカの可能性を奪っている。こうした大虐殺はまさにここで止めよう(The American carnage stops right here)」と訴えた。共和党大統領に共通にみられる「法と秩序」の主張である。
トランプ大統領を当選に導いたのは白人労働者であった。彼らはワシントンの政界を牛耳るエリートから「忘れられた人々」であった。トランプ大統領は、そうした人々に向かって、「あなたたちは再び無視されることはない」と呼び掛けた。ポピュリズムの原点である。さらに「一緒にアメリカを再び強い国にしよう。再び豊かな国にしよう。再び誇り高い国にしよう。再び安全な国にしよう。一緒にアメリカを再び偉大な国にしよう」と訴えた。そしてトランプ大統領を支持する人々が「Make America Great Again(MAGA)」という組織を作り、積極的な活動を展開した。
バイデン大統領の就任演説は国民に何を訴えたのか
今まで大統領の就任演説を紹介した。それぞれ歴史に残る発言をしている。では、バイデン大統領の就任演説は国民に何を訴えたのか。どんな言葉が歴史に残るのだろうか。就任演説で語られている内容は「統一(unity)」、「民主主義」、「アメリカン・ストーリー」、「トランプ批判」、「課題」に要約できる。アメリカのメディアで最も議論されているのは、バイデン大統領が主張する「統一」の必要性である。トランプ政権のもとでアメリカ社会が分断され、様々な局面で対立が深まった。そうした事実を踏まえれば、バイデン大統領が繰り返し「統一」を訴えるのは当然かもしれない。
では「統一」に関して、バイデン大統領はどのような発言をしているのか。最初の部分で「私たちは平和的な政権移行を実行するために、神のもとで、分裂することのない国家として、一つにならなければならない」と訴えている。そして「私のすべての思いは、アメリカを統一し、人々を統一し、我が国を統一することだ」と語る。「統一について語ることは、一部の人にとって馬鹿げたファンタジーのように聞こえるかもしれない」としながらも、「私たちを分断した力は深く、その力が現実のものであることを知っているからだ」と、「統一」の必要性を説く。現在のアメリカには「国家は存在せず、ただ消耗するような怒りがあるだけだ。国家は存在せず、混迷した状況があるだけだ。危機と挑戦の歴史的な機会である。統一が先に進む道である」と、「統一」の必要性を訴える。
そして「赤対青、田舎対都市、保守対リベラルを対立させる野蛮な戦争(uncivil war)を終わらせるべきである」と主張する。ここで、なぜ「uncivil war」という言葉を使ったのか分からない。「civil war」は「内戦」を意味する。したがって、極めて強い意味の「civil war」を使うのを避け、不毛な戦争という意味合いで「uncivil war(野蛮な戦争)」という言葉を使ったのではないかと思う。
次のバイデン大統領の言葉は、アメリカ人にとって厳しい指摘かもしれない。「アメリカの歴史には、私たちが平等に作られているというアメリカン・ドリームと、私たちを長い間分裂させてきた人種差別、排外主義、恐れ、極悪非道な行動である残酷で醜い現実の間で常に戦いが行われてきた」。トランプ大統領を支持した人々は、まさに人種差別主義者であり、排外主義者であり、人々に対して忌まわしい行為をしてきた人々であった。
「私は民主主義を守る」
バイデン大統領の就任演説では「民主主義」も重要な言葉になっている。演説の最初の部分で、「私たちは再び、民主主義が貴重であることを学んだ。民主主義は脆弱である。だが民主主義は打ち勝った」と、大統領選挙でのトランプ陣営との戦いを想起させるように語っている。そして「私たちは民主主義と真実に対する攻撃に直面した」として、攻撃の内容を列挙する。すなわち「猛威を振るう新型ビールス」「不平等の拡大」「組織的な人種差別の棘」「危機に瀕する気候」「世界でのアメリカの役割」である。そしてバイデン大統領は、こうした問題に対処して、「私は民主主義を守る」と決意を語る。
激しいトランプ批判の言葉
演説の中で際立っているのが、トランプ大統領批判である。ただトランプ大統領について一度も直接名前に言及してはいない。「私たちは政治的過激主義の台頭、白人至上主義、民主主義に対するテロ行為に立ち向かい、打ち破らなければならない」と極めて強い口調で、トランプ陣営を批判している。「私たちは事実を操作し、事実を勝手に作り出すような文化は拒否しなければならない」と、平気で嘘をつき、嘘を広げるトランプ大統領や陰謀論者を糾弾する。さらに「人々に沈黙を強い、民主主義の機能を止めるために、この神聖な場所から私たちを追い出すために暴力を使うことができると考える暴徒たちに立ち向かわなければならない」と、厳しい口調で2週間前に起こったトランプ支持派の暴徒の議事堂乱入事件を批判する。その批判はそこで留まらず、「権力と利益を得るために嘘がつかれた」「真実を守り、嘘を打ち破らなければならない」と続く。
外交に関する発言が一か所ある。「私たちは、もう一度、アメリカを永遠に世界の指導者にすることができる」と語っている場所である。ただ具体的な政策は語られていない。
新しい「アメリカン・ストーリー」を語る
バイデン大統領は、演説の中で「アメリカン・ストーリー」を語っている。「私たちは恐怖ではなく、希望に満ちたアメリカン・ストーリーを書かなければならない。分裂ではなく、統一の、暗黒ではなく、光の満ちたアメリカン・ストーリー。品位と威厳をもったアメリカン・ストーリー、愛と癒しのアメリカン・ストーリー、偉大さと善性に溢れたアメリカン・ストーリー。これは私たちを導いてくれる物語である」と訴えている。「アメリカン・ドリームは失われた」と語られ始めて、随分、時間が経つ。アメリカを導いてきたのは、将来に対する希望の物語であった。バイデン大統領は、アメリカン・ドリームの復活を願っているのだろう。貧富の格差が限界を超える水準まで拡大し、大学を卒業しても、生涯、学生ローンの返済に追われ、十分な医療保険がないために、多くの人が新型コロナウイルスで死んで行く現実の中で、どのような希望に溢れる夢を作り上げることができるのだろうか。
バイデン大統領の就任演説は歴史にのこるだろうか
上で歴史に残る就任演説を紹介した。バイデン大統領の演説は、人々の心に残るだろうか。観衆のいない場所での演説は、多くの美しい言葉が散りばめられているにもかかわらず、感動的とは言えなかった。改めて文章で読んでみると、余りにも繰り返しが多いというのが最初の印象であった。分裂したアメリカ社会を統一したいという思いは痛いほど感じられた。だが記憶に残っている印象的な言葉やフレーズはない。思いつく言葉は「統一」である。だが、これは歴代大統領が直接的、間接的に常に使ってきた言葉である。内容が抽象的なのは仕方がない。具体的な政策に言及する「一般教書演説」とは違う。5つ星で評価すれば、3つ星といったところか。
共和党議員はどう反応したか:一部の議員から祝福のメッセージが届く
トランプ大統領に最も忠実だったが、土壇場で反旗を翻したミッチ・マコーネル上院共和党院内総務は「協力できるあらゆる問題で一緒に働けるのを期待している」とツイッターで祝福のメッセージを送っている。最初のトランプ大統領の弾劾裁判で共和党議員としてただ一人、弾劾賛成の票を投じたミット・ロムニー上院議員も「バイデンの演説は非常に力強く、必要とされたいたものだ。事実が語られ、アメリカの原則を守るために戦うことができる指導者なら、私たちは国家として協力できる」と語っている。
共和党のスーザン・コリンズ上院議員も「バイデン大統領が統一を呼びかけたのは正鵠を射ている。私たちに自分たちがアメリカ人であることを思い出させた。私たちは協力できる。そうすれば我が国が直面する問題を解決できる」と語っている。
17人の共和党議員が連名でバイデン大統領に祝福の書簡を送っている。その中には1月6日の大統領選挙の議会の両院合同会議での認証の際、異議を申し立てたトランプ派の共和党議員も含まれている。書簡の中には次のような文章が含まれてい。「新政権、新大統領、おめでとうございます。私たちは、これからの4年間に、新政権と第117議会は多くの挑戦と成功をもたらすものだと信じています。また私たちはイデオロギーの違いがあるものの、私たちが奉仕するアメリカ国民のために協力できることを願っています」「アメリカ人は党派対立によって行き詰まっており、通路の両側にいる指導者がアメリカの家族、労働者、企業家にとって重要な課題で協力する姿を見たいと願っています」と、バイデン大統領に極めて融和的なメッセージを送っている。
そして「私たちは私たちをアメリカ人として結びつけるものは、私たちを分断させた事柄よりもはるかに重要だと堅く信じています。私たちはすべてのアメリカ人にとって意味のある変化をもたらす事柄について交渉し、世界で最高の国として合衆国を維持することを願っています」と書かれている。80年代以降、続いた党派対立が夢のような希望を持てる書簡が、共和党議員からバイデン大統領のもとに届いたのである。
バイデン政権のもとで“超党派の協力”は可能となるのだろうか
バイデン大統領の「統一」の訴えは国民の心に響き、受け入れられたことは間違いない。だが政権が変わったからと言って、世界が急に変わるわけではない。トランプ支持派の共和党議員が突然態度を変えると考えるのは楽観的すぎる。まだ多くの共和党議員はトランプ前大統領の影響下にある。直接名指しはしなかったものの、トランプ前大統領に対する厳しい批判にトランプ支持派の人々は間違いなく反発するだろう。リベラル派と保守派の間には妥協しがたい世界観の違いが存在している。それは容易に妥協できる問題ではない。ある共和党支持者は「共和党は保守主義が主張する問題に対して闘い続ける」と語っている。中絶問題や宗教的自由の問題、政府の役割に関する問題など、アメリカを分断してきた倫理的、社会的問題を克服して国民を統一することは至難の業である。さらに人種問題、移民問題も簡単に和解の成立する問題ではない。
バイデン大統領が分裂したアメリカを“統一”するにしても、それには時間を要るだろう。その前提条件は、新型コロナウイルスの感染を完全に抑え込むことだ。その見通しもまだ立っていない。
バイデン大統領は執務を始めた最初の日に17に及ぶ大統領令を出して、トランプ政権時代の政策を一気に転換した。だが、それはあくまでトランプ時代の否定であって、バイデン時代の幕開けを示すものではない。 

 

●大統領就任演説にちりばめられた美辞麗句の空しさ 1/22
民主党のジョー・バイデン新大統領が1月20日の就任式で、「団結」や「結束」などインクルーシブな美辞麗句で飾られた演説を行い、「私に投票しなかった人たちも含めた、すべての米国民の大統領になる」「国民の結束に全身全霊を注ぐ」と宣言した。
だが、演説の内容はバイデン氏が当選した2020年11月から繰り返されてきた「民主党も共和党もない」という抽象的な団結や包摂というメッセージの豪華版に過ぎず、7400万の「私を支持しなかった有権者たち」の心に響くことも届くこともない。事実、バイデン氏が公明正大に当選した事実に納得しない勢力の一部は1月6日、今回の大統領就任式が挙行された米連邦議事堂に乱入する事件まで起こしている。
なぜバイデン新大統領の包摂の呼びかけは、人口のおよそ半数の米国人に受け入れられないのだろうか。彼らが真の大統領と仰ぐドナルド・トランプ前大統領自身が敗北を認めないこと、リベラルと保守の人々が互いに心を開いて話さないところまで分断がすでに進んでいること、彼らが信じる情報の多くが「フェイクニュース」とリベラル派にレッテルを貼られる陰謀論であり、その世界観や人間観からして民主党の包摂言説を信じられないこと、などが識者によって指摘されている。
しかし、より重要な理由として挙げられるのが、団結や包摂という言葉の美しさと、バイデン新大統領と民主党が推進する実際の分断的な政策の間に存在するギャップである。この記事では、就任演説に頻出したキーワードの分析を通して、バイデン新大統領が「本当に伝えたかったこと」を読み解く。
トランプ党を倒すのが「結束」「団結」
たとえば、バイデン新大統領は就任演説で、「私は、結束について話すことが、最近ではばかげた空想のように聞こえることを知っている。私は、私たちを分断する力が深く、現実のものであることを知っている」と認めた上で、「修復し、回復し、癒やし、構築し、獲得する」ことを任期中の課題として挙げた。さらに、「今、私たちは結束することができる」とも述べた。
では、具体的にはどうすれば、その結束や団結が達成されるのだろうか。バイデン新大統領は演説で、「対峙しなければならず、打ち負かすべき政治的過激主義の台頭や白人至上主義、国内テロがある」と明確にし、「私たちが直面する敵、怒り、恨みと憎しみ、過激主義、無法、暴力」という言葉を用いながら、「事実そのものが操作されたり、捏造されたりする文化を拒否しなければいけない」と言明した。
民主党、共和党、トランプ党、中道派、左派、極右などすべての聴衆にとり、バイデン氏の「打ち負かすべき敵」が誰を指していたのかは明々白々であった。それは、非リベラルであり、トランプ党であり、陰謀論者であり、ツイッターやフェイスブックにアカウント停止されるような人々である。つまり、民主党やリベラルエリートの政敵だ。
バイデン氏のメッセージに「結束」「団結」と、「打ち負かすべき敵との対峙」が矛盾する形で混在した理由は、自らの政敵であるトランプ党に対する戦いに国民を「参戦」させ、同じ敵を叩くことにより、彼が意図する「結束」と「団結」がもたらされることを説きたかったからである。
事実、バイデン新大統領は、「私の魂のすべては、米国をまとめること、国民を一つにまとめること、この国を結束させることにある。すべての国民に、この大義に参加してもらいたい」と志願を訴え、同時に、非リベラルやトランプ党を意味する「打ち負かすべき政治的過激主義の台頭や白人至上主義、国内テロ」「敵、怒り、恨みと憎しみ、過激主義、無法、暴力」の打倒を誓っている。
バイデン大統領の吹いた「犬笛」
バイデン新大統領は、「私たちを支援しなかったすべての人たちよ、言わせてほしい。もしなおも反対するのであれば、そのままでいい。それが民主主義だ。それが米国だ。私たちの共和国の枠の中で平和的に異論を唱える権利。それがおそらくこの国の最も偉大な強さだ」と民主主義に対する一応のリップサービスはした。
しかし、非民主的なテック大手のプラットフォームによりそれらの人々の異論が、暴力的でないものも含めて予防的・拡大解釈的に排除されていることは、非難しなかった。法的には問題ないものの、救済措置や有効な代替もなく、プラットフォームによって言論の場や政治活動の機会を実質上奪われるという、反民主主義的な裏口手法を民主党やリベラルエリートは心の底から欲し、支持している。
バイデン演説においてそのような現実に対する非難が見られなかったのは、法律の力が及ばない民間企業が、非民主的な手法で政敵弾圧をしてくれることを、新大統領が歓迎しているからであろう。自ら手を下さずに政敵をつぶし、黙らせたいからだ。
実際にバイデン氏は就任演説で、「真実を守り、嘘を打ち倒す義務と責任」について言及している。民主党の熱烈な支持者にはわかる「犬笛」であり、テック大手のプラットフォームやニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNなどのメディアは、非リベラルやトランプ党をつぶし、黙らせることにますます邁進するであろう。それが、リベラルの考える「民主主義」「言論と表現の自由」なのである。
こうしたことから、バイデン氏の演説内容である「私に投票しなかった人たちも含めた、すべての米国民の大統領になる」「お互いの声を聞こう。お互いを見よう。お互いに敬意を示そう」は美しい嘘だとわかるのだ。
バイデン新大統領は、就任当日にトランプ前大統領に対する意趣返しの大統領令を発出し、オバマ路線への復帰を印象付けた。これからの「最初の100日間」で明らかになるのは、民主党首長が中心となって推進した効果の薄いロックダウンで傷つき、疲弊し、困窮した庶民の救済が後回しにされ、政敵であるトランプ前大統領とその「残党」の弾劾や訴追に血道をあげる民主党政権と議会民主党の姿である。
民主党エリートの「ロックダウンをすれば、より効果的に新型コロナウイルスの感染が押さえられ、より早く経済が回復する」との約束は「動くゴールポスト」と化し、どれだけロックダウンをかけても感染者数や死者数は増加するばかりである。そうした中、2000万人以上の米国人が失業し、さらに多くの人々が収入減に見舞われた。毎日の食事にさえ困る人が多い。
調査企業の米ムーディーズ・アナリティックスの推計によれば、家賃を支払えなくなった1280万人が、12月31日時点で総額700億ドル(約7兆2570億円)の未払い家賃の負債を抱えている。コロナ第3波が襲来して感染者や死者が急増する中、立ち退きによるさらなる感染拡大から人々を守るため、米疾病予防管理センター(CDC)が2020年9月に発出した住まいからの強制退去の猶予・禁止特例措置が1月31日で失効する。
バイデン新大統領は演説で、「人々はベッドに寝ながら、医療保険は維持できるだろうか、住宅ローンは支払えるだろうかと不安になっている。家族のことや将来のこともだ」と理解を示し、「あなたがたに確言しよう、私はわかっている」と語りかけた。
新政権は実際に発足当日、立ち退き猶予・禁止特例措置を大統領令で3月末まで延長した。また、1兆9000億ドル(約200兆円)規模の追加景気刺激策を打ち出し、国民1人あたり1400ドル(約14万5000円)の直接給付を含む1兆ドル(約104兆円)の家計支援のほか、4150億ドル(約43兆円)の新型ウイルス対策支援や4400億ドル(約46兆円)の中小企業支援を盛り込んだ。米議会の承認待ちである。
だが、民主党ロックダウン政治のサバイバーたちにとり、これらの対策は一時的な救済や問題の先送りでしかない。連邦最低賃金を、新政権の提案通り15ドルに引き上げても、生活は改善しない。数カ月間の政権移行準備期間があったのに、何をしていたのだろうか。
トランプ党台頭の根源はさらに悪化
庶民の生活安定化の抜本的対策となる雇用の質の向上のためには、新自由主義や自由貿易を否定し、脱グローバル化をしなければならない。さもなくば、米労働者たちは無防備なまま、海外の低賃金労働者との競争にさらされ続ける。彼らの雇用主は労働条件を悪化させ、いつでもクビにでき、給与も抑え続けられるからだ。
そもそも4年前のトランプ政権誕生の大きな要因となったのは、そもそも4年前のトランプ政権誕生の大きな要因となったのは、バイデン大統領が上院議員や副大統領として先頭に立って推し進めたボーダーレス化による雇用の流出や仕事の質の劣化による、国内情勢の不安定化だ。米議会への乱入事件も、大元をたどればグローバル化による白人中間層の没落が大きな役割を果たしている。
だが、資本家の党である民主党にとり、新自由主義や自由貿易、グローバル化は党是であり、政策の根幹であるため、引っ込められない。だから、バイデン政権は一時しのぎの政策の繰り返しに終始し、中間層はさらに没落し、内政の不安定化に拍車をかけることになるだろう。バイデン新大統領が就任演説で言及した「未開で野蛮な内戦(uncivil war)の終結」の呼びかけは、空虚なものでしかない。
バイデン大統領の、「恐怖ではなく希望の、分断ではなく結束の、闇ではなく光の米国の物語を書いていこう」との語りかけは、分断に対する抜本的な解決である中間層の再興はもたらさず、「未開で野蛮な内戦」は悪化するに違いない。 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 

 

●ドナルド・トランプ
●トランプ大統領退任演説 1/20 
親愛なるアメリカ国民諸君
「われわれの国家を再建し、その魂を甦えらせ、そして国民への奉仕の心を、政府に取り戻させる」われらすべての国民が、この壮大な事業を開始したのは、4年前のことになる。すなわち我々は、すべてのアメリカ国民にとり、アメリカを再び偉大にする、その任務に着手したのである。
第45代アメリカ大統領としての任期を終える今、私は諸君の前にいて、我々がともに成し遂げたことを、実に誇りに思っている。我々はここに来たときやるべきだった仕事、そしてそれ以上の成果をあげた。
今週、わが国には新しい政権が発足する。アメリカを安全で繁栄する国にするため、新政府の成功を祈る。国民諸君には幸福を。そして新政権が、重要な言葉だが、幸運に恵まれることを、心から願う。
まずはじめに、我々に道を開いてくれた幾人かの方々に感謝したい。まず、われらがファーストレディ、メラニアの愛情と支援に対し、多大な感謝の気持ちを表したい。また、娘のイヴァンカ、義理の息子ジャレド、そしてバロン、ドン、エリック、ティファニー、ララに、心から感謝したい。君たちがいてくれてこそ、私にとってこの世界は、明るく楽しいものになった。
またマイク・ペンス副大統領とカレン夫人、そしてご一家の全員に感謝したい。さらにマーク・メドウズ首席補佐官にも感謝を述べる。献身してくれたホワイトハウスのスタッフ、そして閣僚諸君に。そして国家のため、全身全霊をもって頑張ってきた、政府のすべての人々に。
また、シークレットサービスの諸君にも一言感謝を述べたいと思う。彼らは実に卓抜した集団であり、私と家族はこれからも長く、諸君への感謝を忘れることはないであろう。
ホワイトハウス警護室のすべての諸君、マリーン・ワンとエアフォースワンの運営チーム、アメリカ全軍の将兵、そして全国の、州や地域の法執行機関の諸君にも、心から感謝する。
そして何よりも、アメリカ国民である諸君に感謝したいと思う。諸君の大統領であったことは、言葉で語れない名誉であった。この格別な栄誉に対し、心からお礼を言いたい。これこそ真に、偉大な名誉という言葉そのものだろう。
我々は、忘れてはならぬ。国民のあいだには見解の相違があったとしても、アメリカとは寛大で善良、平和を愛する国民たちの国である。そして国民は、わが国が豊かで繁栄し、大きな成功をおさめてゆく、よりよい国であることを望んでいる。この国は実に、すばらしい国なのだ。
議事堂での狼藉には、全国民が恐れを感じた。政治的暴力は、われら国民が尊重するすべてに対する攻撃であり、決して許されることではない。いま我々は、共有する価値観を一つにし、党派的対立を乗り越え、共同の運命を紡いでゆく必要がある。
4年前、私は大統領選挙に勝った者の中では唯一、本当のアウトサイダーとして、ここワシントンにやってきた。私は1人の政治家として過ごしたのではない。開かれた地平線を見、そこに無限の可能性を構想する、1人の建設者として過ごしてきたのである。
私が大統領に立候補したのは、そこに新たな高みが、アメリカのため開けているを知っていたからである。アメリカを最優先に考えていれば、わが国の可能性は、無限なのである。そのことが、私にはわかっていた。だからこそ私はそれまでの生活を後にし、つらい戦いの場に足を踏み入れた。そこは過酷ではあっても、正しくことを行えば、あらゆる可能性に満ちた場所だったのである。アメリカは私に多くのものを与えてくれた。だから私は何ごとかを、アメリカに報いたかったのである。
懸命に働く、わが国を愛する何百万人もの諸君とともに、われらは史上最大の政治運動を開始した。そして、世界史上最高の好景気を作り出した。これはアメリカ第一主義に関連する。われわれ皆が「アメリカを再び偉大に」を望んでいたからこそである。
「国民に奉仕するために国家は存在する」我々は、この大原則を甦らせた。我々の目的は、右派でも左派でもなく、また共和党でも民主党でもなかった。国に良かれということであり、それは国家全体を意味するものである。
アメリカ国民の祈念と支援があって、我々は誰もできないと思っていた以上のことを成しとげた。我々には手が届かないと、誰もが思っていたことを。
我々は、アメリカ史上最大規模の、一連の減税と改革法案を通過させた。我々は、これまでどの政権よりも多く、雇用を損なう規制を大幅に緩和した。我々は欠陥のある貿易協定を修正し、お粗末な環太平洋パートナーシップ協定、達成不可能なパリ気候協定から撤退し、一方的な韓国との協定を再交渉した。またNAFTAを画期的なUSMCA協定、つまり対メキシコ・カナダ協定に更新した。これは非常に円滑に機能している。
また、これは重大な件だが、わが国は中国に対し、歴史的に記念すべき関税措置を課した。中国とは、新たな貿易協定を結んだ。しかし署名のインクも乾かぬうち、中華ウイルスがわが国と全世界を襲った。数十億ドルが流入していたわが国の貿易関係は急変し、わが国はウイルスのため、方向転換することになった。
全世界が被害を受けたが、アメリカ経済のパフォーマンスは他国を上回り続けた。わが国の築きあげた、絶好調の景気のためである。基礎と基盤なしに、このようには行かなかっただろう。わが国の経済指標のあるものは、過去最高を記録していた。また、エネルギー資源採掘禁止を解除し、石油、天然ガスでは世界一の生産国となった。
これらの政策の力により、我々は世界史上最大の好景気を創出した。また我々は、アメリカの雇用を回復させた。アフリカ系、ヒスパニック系、アジア系市民、女性、あらゆる人々の失業率が記録的に低下した。収入は増大し、賃金が急上昇し、アメリカンドリームが戻ってきた。数年のうち、何百万人もが貧困から抜けだすことができたが、これは奇跡的なことである。株式市場は次々と記録を破り、短期間に148回の新高値を記録し、全国の勤勉な国民の退職金と年金を膨らませた。401k年金は、かつてない水準にある。我々は、今までなかったほどの数値を目にすることができた。コロナ禍の以前にも、以後にもである。
我々はアメリカの生産拠点を復活させ、何千もの新工場を稼働させ、「メイドイン・USA」という言葉を取り戻した。
勤労家庭の生活向上に、我々は児童扶養控除を2倍にし、育児と発育のため、史上最大規模に拡大させた予算に署名した。我々は民間と協力し、1600万人以上のアメリカ労働者を、次世代の職業のために訓練する取組みを確実なものとした。
わが国がコロナ禍に陥ったとき、我々は最速で1種のみならず、2種のワクチンを開発し、さらに後からも出てくるだろう。わが国は不可能といわれたことを為しとげた。それが出来れば医学上の奇跡だろうと言われたが、今まさにそれは、医学上の奇跡と呼ばれているのである。別の政権ならワクチンの開発に3年、4年、5年、ことによると最大10年かかったかもしれないが、我々は9ヶ月でやりとげた。わが国は、すべての犠牲者を追悼する。そして、この忌まわしいコロナ禍を一掃することを、彼らの面影に誓う。
ウイルスが世界経済に大きな爪痕をもたらしたとき、我々はわが国が目にした中で最速の景気回復に取りかかった。我々は4兆ドル近くの経済対策案を通過させ、5,000万人以上の雇用を救済し、支援し、失業率を半分にまで減らすことができた。これらはわが国が、かつて眼にしたことがない数値である。
我々は医療保険制度の選択肢と価格透明性をもたらし、多くの点で大手製薬企業とは対決することになった。特筆すべきは、世界で最も安い価格で処方薬を提供する、優先国条項を加える試みである。また退役軍人医療選択法、退役軍人処遇責任法、新治療選択権を成立させ、画期的な刑事司法改革案を通過させた。我々は、3名の最高裁判事を新任した。我々は憲法を字義どおり解釈する、300名近くの連邦判事を任命した。
国民は何年も、国境の安全性を確固たるものにするようにワシントンに要請してきた。我々はその願いにこたえ、史上最も安全な国境を完成させことを喜ばしく思う。我々は国境警備隊と移民関税執行局の勇敢なる諸君に、さらに任務を遂行し、法律を施行し、国の安全を保つために必要な手段を提供した。
我々は、かつて実施された中で、もっとも堅牢で強力な国境警備措置を次の政権に引き継ぐことを誇りに思う。これは450マイルを超す、新しく堅固な国境壁をはじめ、メキシコ、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルとの歴史的合意が含まれる。
我々は、国内ではアメリカのパワーを、海外ではアメリカのリーダーシップを取り戻した。世界は再び、わが国に敬意を払うようになった。その敬意が失われないよう望む。
我々は、国連において、アメリカのために立ち上がり、国益に資することのなかった、一方的な協定から脱退し、わが国の主権を回復した。またNATO諸国は現在、私のやってくるわずか数年前に比べ、数千億ドル多くを負担している。我々は全世界の費用を負担していたのであって、はなはだ不公平であった。現在では、世界が我々を支援している。
またおそらく最重要な点は、3兆ドル近くをもって我々は、アメリカ軍の完全な再整備を行った。それらはすべて、国産装備による。我々は75年ぶりの米軍の新部門である宇宙軍を創設した。そして去年の春、私はフロリダのケネディ宇宙センターに立ち、アメリカの宇宙飛行士がじつに久ぶりに、ア​​メリカのロケットで再び宇宙に向かうのを目におさめた。
我々は同盟関係をふたたび活性化し、世界の国々を結集して、中国にこれまでになく対抗するようになった。我々はイスラム国を殲滅し、創設者で指導者であるアル・バグダディをあの世に送った。我々はイランの抑圧的な政権と対決し、世界一の大物テロリストであるイランのカセム・ソレイマニに引導を渡した。
我々はエルサレムをイスラエルの首都と認定し、ゴラン高原に対するイスラエルの主権を承認した。
我々の大胆な外交政策、原則を守った現実主義の結果、中東では一連の歴史的な平和条約が成立した。これは、誰も可能と信じていなかったことである。アブラハム合意は、暴力と流血ではない、平和と協調の未来に扉を開いた。それは新しい中東の夜明けであり、いまわが国の兵士たちは、家に戻りつつある。特に私は、新たな戦争を開始しなかった、何十年ぶりかの大統領となったことを誇らしく思っている。
なによりわが国は、アメリカでは政府が人々に責任を負う、聖なる思想を再確認した。われらを導く光、われらの北極星、われらの揺るぎなき信念とは、我々がここにいるのは日々、尊厳あるアメリカ国民に奉仕するためだということである。我々の忠誠は、特定の利権、企業、もしくは世界団体に対するものであってはならない。それは我々の子供たち、わが国民、そしてわが国、それ自体でなくてはならない。
大統領として、私が最優先とし、常に考慮していることは、アメリカの労働者とアメリカの家庭の最善の利益であった。私は最も安直な道を探すことはなかった。実際のところ、それははるかに困難な道だった。私は最も批判を招かない方法を求めることはしなかった。私は辛い戦い、最も困難な闘争、最も難しい選択をした。私は、そのためにこそ諸君に選ばれたからである。諸君の求めることこそ、私の最初で最後の、ゆるぎない目的であった。
以下が我々の残す、最大の財産になることを願う。我々はともに、国民を再び、わが国の担い手に戻した。我々は、みずからの政府を取りもどした。我々は、アメリカでは誰も忘れ去られてはならぬ、なぜならそれはすべての者に価値があり、すべての者が声をあげることができるからだという思想を復活させた。われらはは皆、神によって平等に創られていて、すべての国民は等しい尊厳、等しい待遇、平等な権利を与えられているという原則のために、我々は戦ってきた。すべての者は、敬意を持って扱われ、話を聞いてもらい、政府に耳を傾けてもらう権利がある。諸君は自身の国に忠実であり、私の政権は常に、諸君に忠実であった。
我々は、すべての国民がよい仕事につくことができ、家族を支えてゆける国を作るために働いた。我々は、すべての国民が安全に暮らせ、すべての子供が学べる学校のために奮闘した。我々は、法律が守られ、偉人は尊敬され、歴史が保存され、法を重んじる国民が決して軽視されない風潮を推進した。国民は、われらがともに達成したすべてのことに、大きな満足を持ってしかるべきである。それは実に、驚くべきことなのだった。
今、ホワイトハウスを去るにあたり、私は我々全員の共有する、貴重な資産を脅かす危険について考える。世界最強国として、アメリカは他国からの絶え間ない脅威と挑戦に直面している。しかし、我々が直面する最大の危険は、我々自身の自信喪失、偉大なるわが国のへの信頼の喪失である。国家は、その精神と同等の力のみを持つ。わが国のダイナミズムは、わが国のプライドと等しい。わが国は、国民の心にある信念と、同じだけの活力を持つのである。自らの国の価値観、歴史、偉人たちへの信頼を失う国は、長く繁栄することはない。これらは、わが国の団結と活力の根源なのである。
アメリカが過去の大きな困難にうち勝ち、勝利を可能にしてきたのは常に、わが国の高潔さ、歴史における独自の役割に対する、揺るぎない、隠すところなき信念であった。我々はこの信念を、決して失ってはならない。我々はアメリカへの信念を決して放棄してはならないのだ。
国家の偉大さの要所は、わが国が共有する国家的アイデンティティを維持し、深めてゆくことにある。それは、我々が共有しているもの、つまり我々全員が共有する、過去からの資産に焦点を当てることを意味する。
この資産の中心には、表現の自由、言論の自由、そして開かれた討論に対する確固たる信念が、また存在するのである。アメリカで政治的検閲とブラックリスト作成が認められる時は、我々が何者であるか、そしてどのように今があるかを忘れた場合だけだ。それは、考えられないことである。自由で開かれた議論の停止は、わが国の核心的価値観、もっとも長い伝統に反する。
アメリカでは、絶対の同質性が主張されたり、厳格な正統性や懲罰的な言論規制が強制されたりはしない。わが国は、そういうことをしないのである。アメリカは、意見をともにしない者たちから精神を飼い馴らされなくてはならぬ、柔弱な国家ではありえない。それではわが国が、わが国であるとはいえない。わが国がそうなることは、決してないであろう。
250年近くものあいだ、アメリカ国民はあらゆる困難に直面しながら、常に我々の並びない勇気、信念、そして強固な独立心を発揮してきた。これはかつて何百万もの普通の人々を導き、大陸の荒野を越えさせ、大西部で新生活を切り開かせた、不可思議な特徴である。それは、わが国の兵士たちを戦闘に、宇宙飛行士を宇宙に向かわせたのと同質の、神の与えた深遠なる、自由を愛する心であった。
過ぎた4年間を振り返れば、他の何よりもある一つのイメージが心に浮かぶ。私がどこかに出かけるとき、常に沿道には、何千もの人々がいた。彼らは我々が通るときにその場にいられるよう、家族と一緒にやってきて、われらの偉大なる星条旗を誇らしげに振っていた。私がそれで感銘しなかったことは、ただの一度もなかった。私にはわかっていたが、彼らは私への支持を表明するために出てきたばかりではない。彼らは、国家への支持と国家への愛を表明するため、そこにいたのである。
この地は、アメリカこそ史上最も偉大な国家であるという、共通の信念によって結束した、誇りある人民の共和国である。わが国は、希望、光明、そして世界に輝く栄光の地であったし、常にそうであろう。これは、我々がいかなる時も守ってゆかねばならぬ、貴重な財産である。
この4年間、私はまさにこれを実践すべく働いてきた。リヤドのイスラム指導層の大会堂から、ポーランドのワルシャワの広場まで。韓国議会の議場から、国連総会の演壇まで。そして北京の紫禁城から、ラシュモア山の引く影の中まで、私は諸君のため、諸君の家族のため、われらの国のために戦ってきた。何よりも私は、安全、強さ、誇り、そして自由という、アメリカのよって立つ、すべてのもののために戦ってきた。
いま私は、水曜日の正午、新政府に政権を委譲する準備をしているが、我々の始めたムーブメントは、まだ始まったばかりであることを知っていてほしい。こういうものは、かつてなかった。国家は国民に奉仕すべしという信念は衰えることはなく、日々に強まってゆくばかりである。
アメリカ国民がその心に、国への愛を持っている限り、この国が成し遂げられないことは何もないだろう。わが国の各地域は繁栄し、わが国民も繁栄するだろう。我々の伝統は重んじられる。我々の信念は強固になってゆく。そしてわが国の未来は、これまで以上に明るくなる。
私は心には忠誠と明るさ、精神には楽観性、そしてわが国と子孫にとって最高の時代は、まだこの先にあるという、揺るぎなき自信を持って、この壮麗な建物から出てゆくことにする。
諸君には感謝を、そしてお別れを言おう。諸君に神の祝福を。そしてこのアメリカ合衆国にも、神の祝福を。 

 

●トランプ氏、大統領退任演説の動画公開「成功を祈る」 1/20 
トランプ米大統領は19日午後、約20分間にわたる退任演説の動画を公開した。新政権発足に際し「成功を祈る」と述べたが、バイデン次期大統領の名前には言及せず、大統領選での自身の敗北にも触れなかった。
トランプ氏は演説で、米国の利益を最優先する「米国第一」によって「世界史上最も偉大な経済を確立した」などと主張。「我々はだれもが想像していた以上のことを成し遂げた」と自画自賛を続けた。一方、米国史上初となる2回目の弾劾訴追を受ける原因となった、トランプ支持者による連邦議会議事堂襲撃事件については「(政治的な暴力は)決して容認されない」としたが、自身の責任については語らなかった。
トランプ氏は演説の最後に「私は水曜日(20日)正午、新政権に権力を移譲する準備をしているが、我々の始めた運動は始まったばかりだ」と述べ、次の大統領選出馬も含めた自身の政治運動を今後も継続していくことを示唆した。
現職大統領は平和的な政権移行をアピールするため、次期大統領の就任式に出席するのが慣例だが、トランプ氏は欠席する。20日午前、ホワイトハウスを出て、メリーランド州のアンドルーズ空軍基地で大統領専用機に搭乗前、退任式を行う予定。その後、邸宅のあるフロリダ州に向かう。
現職大統領の就任式欠席は、南北戦争後の1869年のアンドリュー・ジョンソン大統領以来。一方、米メディアによると、ペンス副大統領はトランプ氏の退任式には出席せず、バイデン氏の就任式に参加するという。 
●トランプ氏、支持者前に「また会おう」 就任式は欠席へ 1/20
トランプ米大統領は20日午前8時15分(日本時間同午後10時15分)ごろ、ヘリでホワイトハウスから出発した。メリーランド州のアンドルーズ空軍基地で大統領専用機に搭乗前、退任式を行い、邸宅のあるフロリダ州へ向かった。現職大統領が後任の就任式を欠席するのは、南北戦争後の1869年のアンドリュー・ジョンソン氏以来となる。
トランプ氏は退任式で、支持者らを前に約10分間演説した。「米国は世界で最高の経済」などと実績を自賛し、「あなた方の大統領でいられて最高の名誉だった。何らかの形で戻ってくる。また会いましょう」と締めくくった。
トランプ氏は、支持者が連邦議会議事堂を襲撃した事件を扇動したとして、13日に下院から弾劾(だんがい)訴追されており、上院での弾劾裁判が今後行われる。19日に公開した退任の演説動画では「(政治的な暴力は)決して容認されない」と語ったが、自身の責任については触れなかった。共和党上院トップのマコネル院内総務は19日、「(暴徒たちは)トランプ氏に挑発された」と述べた。
ホワイトハウスは20日、トランプ氏がスティーブン・バノン元大統領首席戦略官=詐欺罪で起訴=ら73人に恩赦を与え、70人の刑を減刑したと発表した。トランプ氏は自身や家族らの恩赦も検討したとされるが、対象には含まれなかった。
極右ニュースサイト「ブライトバート」の会長だったバノン元戦略官は、2016年の大統領選でトランプ陣営の最高責任者を務め、政権発足時に大統領首席戦略官に就任した。政権内の確執から17年8月に解任された後も、メディアを通じてトランプ氏を積極的に擁護していた。20年8月、メキシコとの国境の壁建設を訴える政治運動の資金集めで、多額の金をだまし取ったとして詐欺などの罪で起訴された。 
●トランプ氏 退任演説 「戻ってくる」 1/20
アメリカでは日本時間21日未明に大統領就任式が始まり、バイデン新大統領が誕生します。就任式には出席しないトランプ大統領はすでにホワイトハウスを後にしています。最後に何を語ったのでしょうか。
152年ぶりに就任式を欠席するトランプ大統領はワシントン近郊を出発し、およそ1時間半後にフロリダに到着する予定です。そして、退任後は向こうに見える別荘で生活する見通しです。トランプ氏は日本時間の午後10時半すぎから退任の式典に出席しています。
「新政権の幸運と成功を祈ります。私たちは何らかの形で戻ってきます」(トランプ大統領)
演説は9分間と短く、いつものような攻撃的な内容はありませんでしたが、何らかの形で戻ってくる、と最後までトランプ流を貫きました。
Q.トランプ大統領、退任後はどうするんでしょうか?政治的影響力は残るのでしょうか?
政界への復帰を視野にいれていることは間違いなさそうです。具体的には、2024年の大統領選挙への再出馬や「愛国者党」という名前の新しい政党の立ち上げを検討していると伝えられています。ただ、民主主義の象徴である連邦議会議事堂での暴動を扇動したとして、2度目の弾劾訴追を受け、歴史に汚点を残したトランプ氏に対しては、身内の共和党上院トップからも批判の声が挙がっていまして、有権者の支持や政治的な影響力が維持できるかは不透明です。国内では分断と対立を深め、国際社会からの信用も失墜させた4年間のトランプ劇場は大きな負の遺産を残したまま、まもなく幕を閉じることになります。
こちらバイデン氏の大統領就任式が行われるワシントンの連邦議会議事堂前では厳戒態勢が続いています。本来であれば党派を超えて新しい政権の誕生をお祝いする日のはずなんですが、むしろ街は閑散としていましてお祝いムードはまったく感じられません。
バイデン氏は、けさ、宿泊していた迎賓館のブレアハウスを出発し、教会へ向かいました。これまでは、新旧大統領が引き継ぎを兼ねて懇談し、そろって就任式に出席して、権力が平和的に委譲されたことを内外に示すのが慣例でしたが、バイデン氏はトランプ氏と一切接触しないまま、新たな政権をスタートさせます。
就任の宣誓に続く演説では国民の団結を訴える見通しです。バイデン氏が4年の任期を通じて、あきらめずに理想を掲げ続け、ワシントンに落ち着きを取り戻せるのか、問われることになります。 
●トランプ氏が退任演説 「想像以上のことを成し遂げた」 1/20
アメリカのドナルド・トランプ大統領は退任前日の19日、お別れのビデオメッセージを公開し、「我々は想像されていた以上のことを成し遂げた」と述べた。
ユーチューブに投稿された動画の中で、トランプ氏は自分は「厳しい闘い、最も困難な闘い」に挑んだ、「そうするよう、あなた方が私を選んだからだ」と述べた。
トランプ氏は昨年11月の大統領選で民主党のジョー・バイデン氏に破れたが、この結果をいまだ完全に受け入れてはいない。
大統領選の結果をめぐっては6日、結果認定が進められていた連邦議会議事堂に、選挙結果を受け入れないトランプ氏支持者らが乱入し、死者が出る事態となった。トランプ氏退任までの2週間は、襲撃に関与した人物が逮捕されるなど、この事件の余波が広がった。
トランプ氏は「政治的暴力は、我々がアメリカ人として大切にしている全てのものへの攻撃だ。決して許されるものではない」と述べた。動画の中でバイデン次期大統領の名前には触れなかった。バイデン氏は20日に新大統領に就任する。
米下院は13日、議事堂襲撃事件で「反乱を扇動」したとして、トランプ氏を弾劾訴追する決議案を可決。トランプ氏は退任後に上院で弾劾裁判を受けることとなる。有罪評決が出れば、同氏は再び大統領職に就くことが禁止される可能性がある。
トランプ氏は任期中に2度の弾劾訴追を受けた、米史上初の大統領となった。同氏は2019年に下院で弾劾訴追が決議されたが、上院で無罪となった。
政治的動機による暴力行為は、新型コロナウイルスのパンデミックで死者数が増加するアメリカに影を落としている。同国ではこれまでに40万人以上が新型ウイルスによって死亡し、2400万人以上が感染している(米ジョンズ・ホプキンス大学の集計、日本時間20日午前)。
動画の中でトランプ氏は、自身の政権が「世界史上最高の経済」を構築したと述べた。
米株式市場は新型ウイルスのパンデミックの影響から回復し、ハイテク銘柄が多いナスダック総合株価指数は昨年に42%上昇、S&P総合500種も15%上昇した。
しかし、そのほかの面ではさらなる苦戦を強いられている。昨年12月には雇用が削減され、一連の雇用増加に終止符を打った。失業者が増加する中、小売売上高はここ数カ月間減少している。
「我々のアジェンダ(政策目標)は右か左かではなく、共和党か民主党かということでもない。これは国のため、つまり国全体のためのものだった」とトランプ氏は述べた。
トランプ氏の現在の支持率は34%と、退任間際の大統領としては過去最低となっている。 
●トランプ氏が退任演説「何らかの形で戻ってくる」 1/21 
米国のトランプ前大統領は20日、4年間の在任期間を終えてホワイトハウスを後にした。バイデン大統領の就任式を欠席し、ワシントン郊外で独自の退任式典を開いたが、トランプ氏を支えた主要閣僚らは姿を見せず、さみしい幕引きとなった。
20日、アンドルーズ空軍基地に到着したトランプ氏(左)とメラニア夫人(AP)20日、アンドルーズ空軍基地に到着したトランプ氏(左)とメラニア夫人(AP)
トランプ氏は20日朝、メラニア夫人とともにホワイトハウスから大統領専用ヘリコプターに乗り込む際、記者団に「私は別れを告げるが、長きにわたる別れにならないよう期待している。また会おう」と語った。
アンドルーズ空軍基地に場を移して行われた退任式の演説では、経済分野での実績を並べ立てたほか、「大統領選では、現職大統領として史上最多の得票を獲得した」と誇示した。娘婿で大統領上級顧問を務めたクシュナー氏らトランプファミリーや支持者らが最後の舞台を見守った一方、ペンス前副大統領ら政権メンバーのほとんどは参加しなかった。
演説の途中、珍しく言葉に詰まり、支持者から励まされる場面もあった。トランプ氏は、「何らかの形で戻ってくる」と宣言し、大統領専用機に乗り込んだ。
約2時間後には約900マイル(約1440キロ)離れたフロリダ州パームビーチに到着した。空港からトランプ氏の別荘「マール・ア・ラーゴ」に向かう沿道には数百人以上の熱心な支持者が駆けつけ、「サンキュー、トランプ」などと連呼した。トランプ氏が車内から手を振ると、何度も歓声が上がった。 
●トランプ大統領“勝手に退任式” 礼砲21発、軍楽隊も登場 1/21 
4年の任期を終えたトランプ米大統領は20日午前(日本時間同夜)、ワシントン郊外の空軍基地で“勝手に退任式”を開いた。終了後には、空軍基地から大統領専用機エアフォースワンで別荘のあるフロリダ州へ。新旧大統領が同席することが慣例の新大統領就任式を、事前に表明していた通り欠席。現職の欠席はアンドリュー・ジョンソン以来、152年ぶりの珍事で、最後までトランプ節を貫き首都・ワシントンを去っていった。
式典は21発の礼砲も発射され、軍楽隊が登場するド派手なセレモニーとなった。家族や集まった支持者を前にした演説で、トランプ氏は「この4年間で成し遂げた仕事は素晴らしいものだった」と述べ、経済再建や新型コロナウイルスのワクチン開発など実績を自画自賛。最後には「この国の未来はより良い未来になる。新政権の成功を祈っている」とバイデン新大統領にエールを送ったものの「素晴らしい土台を引き継ぐことになるのだから」と皮肉を込めた。続けて「何らかの形で必ず戻ってくる。すぐに再会しよう」と締めくくり、4年後の大統領復帰の可能性を示唆。メラニア夫人と手をつなぎ専用機に乗り込んだ。
17年の劇的な就任劇以降「米国を再び偉大に」のスローガンを掲げて政策を推し進めてきたトランプ氏。退任前日の19日に発表したお別れのビデオ声明では自身の実績をひたすら列挙。自身の支持者らによる連邦議会襲撃事件により首都ワシントン中心部には多数の州兵や装甲車が展開したが「党派間の憎しみを超えなくてはならない」と訴えた。襲撃事件については「我々が米国人として大切にするもの全てへの攻撃で決して許されない」と人ごとのように語った。
任期満了ギリギリのタイミングで最側近だったバノン元首席戦略官ら73人に恩赦を与え、70人を減刑したと発表。保守層に支持されるバノン氏の恩赦により右派を取り込み、4年後の大統領選へ向け、影響力維持に動いたとの見方が流れた。 
 
 
 
 
 
 
 

 



2021/1
 
 
 

 

●ジョー・バイデン
ジョセフ・ロビネット・バイデン・ジュニア(Joseph Robinette Biden, Jr. / 1942/11/20 - ) アメリカ合衆国の政治家、弁護士。同国第46代大統領(在任: 2021/1/20 - )。短縮形名は、ジョー・バイデン(Joe Biden)。民主党に所属し、デラウェア州選出の上院議員、第47代副大統領を歴任。2020年11月3日の大統領選挙に民主党の大統領候補として出馬して当選を果たし、2021年1月20日に大統領に就任した。ジョン・F・ケネディ以来二人目のカトリックの大統領である。また就任時の年齢は78歳で、アメリカ合衆国史上最高齢の大統領である。
1942年11月20日にペンシルベニア州スクラントンに生まれ、デラウェア州ニューキャッスル郡で育った。アイルランド系カトリックの中産階級の家庭の生まれである。子供の頃は吃音に悩み、鏡の前でアイルランドの詩を朗読するという独自の発声練習で克服したという。高校や大学ではアメフトに夢中になった。
デラウェア大学で学んだ後、シラキューズ大学で法務博士号を取得。ロースクールを経て1969年に弁護士となり、1970年にデラウェア州のニューキャッスル郡議会議員に選出された。1972年1月に29歳でデラウェア州の上院議員に当選し、アメリカ史上5番目に若い上院議員となった。同年12月にクリスマスの買い物に出かけた妻と娘を交通事故で失った。1977年に現在の妻ジルと再婚している。
連続6期上院議員を務め、外交・刑事司法・薬物問題などに取り組み、上院司法委員会の委員長や上院外交委員会の委員長などを歴任した。政策実現を重んじる調整型の政治家として党派を超えた信頼を確立した。
上院議員として1991年の湾岸戦争に反対し、東ヨーロッパへのNATOの拡大と1990年代のユーゴスラビア紛争への介入を支持した。2002年のイラク戦争承認決議を支持したが、2007年のアメリカ軍増派には反対した。また、1987年から1995年まで上院司法委員会の委員長を務め、麻薬政策・犯罪防止・市民の自由に関連する問題を扱っていた。バイデンは暴力犯罪取締法と女性に対する暴力法の成立に向けた取り組みを主導し、ロバート・ボークとクラレンス・トーマスの最高裁判所長官への指名を監督した。
2008年アメリカ合衆国大統領選挙でバラク・オバマと並んで副大統領に当選した後に上院議員を辞任した。4番目に在職期間の長い上院議員だった。オバマとバイデンは2012年アメリカ合衆国大統領選挙においても再選され、2期8年に渡って務めた。副大統領としてバイデンはリーマンショックの不況に対抗するために2009年にインフラ支出を監督した。彼の議会の共和党との交渉は、オバマ政権が税制の行き詰まりを解決した2010年税制救済法、債務上限危機を解決した2011年予算管理法、差し迫った財政の崖に対処した2012年アメリカ納税者救済法などの法案を通過させるのを助けた。外交政策ではアメリカ合衆国及びロシア連邦との間で新START条約の成立に向けた取り組みを主導し、リビアへの軍事介入を支持し、2011年のアメリカ軍の撤兵までイラクに対するアメリカの政策を所管した。サンディフック小学校銃乱射事件の後、バイデンはアメリカにおける銃暴力の原因に対処するために設立された「銃暴力タスクフォース」を率いた。
2015年に長男のボー・バイデンを脳腫瘍で亡くし、失意から2016年アメリカ合衆国大統領選挙を見送った。2017年1月にオバマ大統領はバイデンに大統領自由勲章を授与した。
2019年4月25日に2020年アメリカ合衆国大統領選挙への立候補を発表した。2020年2月から各州で始まった予備選挙・党員集会で急進左派候補バーニー・サンダースらを破って勝利し、6月には党の指名を確保するために必要な1991人の代議員数の閾(しきい)値を満たした。2020年8月11日にバイデンは2020年アメリカ合衆国大統領選挙の副大統領候補としてカマラ・ハリス上院議員を発表した。
11月3日に大統領選挙が実施され、11月7日にABC、AP通信、CNN、FOXニュース、NBC、ニューヨーク・タイムズ、ロイターなどの主要メディアは現職のドナルド・トランプを破って勝利を確実にしたことを報じている。11月23日に一般調達局より政権移行手続きが承認され、現在手続きを進めている。12月14日に各州で選挙人による投票が実施されたが、誓約違反投票は発生せず、過半数の306人の選挙人を獲得しての当選を確実にし、2021年1月6日から1月7日の連邦議会の上下両院合同会議において、その投票結果が承認された。1月20日正午の就任式を経て第46代大統領に就任した。ジョン・F・ケネディ以来のカトリックの大統領、また就任時に歴代最高齢となる78歳の大統領である。

 

●経歴
少年・学生時代
1942年11月20日にペンシルベニア州スクラントンで、父のジョセフ・バイデン・シニアと母のキャスリーンの間に4人兄弟の長男として誕生した。父親のジョセフ・バイデン・シニアは、20代の頃はヨット、狩猟、自動車などの趣味に熱中するなど、非常に裕福な生活を送っていた。しかし長男であるジョーが生まれた頃には、彼は数件の事業に失敗し、その為にジョーの母方の祖父母にあたるフィネガン夫妻と数年にわたって同居しなければならなくなるなど、バイデン一家は苦しい生活を送っていた。
その後1950年代の経済低迷の中で、父のジョセフ・シニアも生計を立てていくだけの十分な仕事が得られなくなってしまったことから、10歳の頃にデラウェア州クレイモントに引っ越し、その後さらに父親が勤めていた冷暖房用ボイラー清掃会社のあるデラウェア州ニューキャッスル郡のウィルミントンへ引っ越し、以後高校卒業までこの地で過ごす。ウィルミントンは、後にバイデンが弁護士として初めて開業した地であり、現在に至るまで自宅を構えている地でもある。ちなみにこの前後、フルートを愛好していたことから、「fleet flutin joe」というあだ名が付いていたという。その後ジョセフ・シニアは中古車のセールスマンの職を得て、バイデン一家は中産階級家庭として安定した生活を送ることになる。
バイデンはクレイモントにあるカトリック系の私立学校、アーキメア・アカデミーへ入学し、1961年の卒業までこの学校で過ごした。在学中はフットボールと野球に熱中し、特にフットボールにおいては、高校のフットボールチームに所属し、ハーフバック(ランニングバックの一種。)やワイドレシーバーのポジションで活躍、長年にわたって敗北続きだったチームを最終学年時にはシーズン無敗を達成するまでの強豪チームに成長させた一翼を担った。また、政治活動についても、ウィルミントンの劇場で行われた人種差別に反対する座り込み活動に参加するなど、積極的に取り組んだ。学業に関しては平凡で目立たない生徒であったものの、バイデンはリーダーシップを発揮する生徒であったという。
1961年にアーキメア・アカデミーを卒業した後、ニューアークにあるデラウェア大学に進学し、歴史学と政治学を専攻した。当初はアーキメア・アカデミー時代と同様にフットボールに熱中、デラウェア大のチームであるデラウェア・ファイティンブルー・ヘンズに所属し、最初は新入生チームにおいてハーフバックとしてプレーしていた。しかし大学3年の時に、デラウェア州外に住む恋人と過ごす時間を確保するために、大学代表チームでディフェンシブバックとしてプレーする計画を諦めざるを得なくなった。このように、スポーツや友人・恋人との交際に熱中していたためか、学業の成績はあまり優れず、専攻していた歴史学と政治学において学士号を取得し、1965年に卒業したものの、688人中506番目というあまり良くない成績で卒業することになった。しかし友人たちは、むしろバイデンの詰め込み勉強の才能に驚かされたという。
その後シラキューズ大学のロースクールに進学。在学中の1年目(1965年)に法律評論誌の記事(全15ページ)から5ページにわたって論文を盗用したことが1965年に発覚し、同校から盗用事件としてその科目「法律的手法(legal method)」の単位を取り消されたものの、退学処分には科されず、バイデンは翌年の1966年にその単位を取得した 。この事件についてバイデンは、「引用についての正確なルールを知らなかったことによる不注意で起こしてしまったものだ」として、悪意があったことを否定している。1968年に法務博士号を取得、修了後の翌1969年にはデラウェア州弁護士会へ加入し、ウィルミントンで弁護士として開業した。
ロースクール在学中の1966年に彼は最初の妻であるネイリア・ハンターと出会い、結婚する。ネイリアとの間には2男1女(ジョセフ・ロビネット・バイデン3世(愛称:ボー)、ロバート・ハンター・バイデン、ナオミ・バイデン)をもうけた。
ベトナム戦争の最中、バイデンは大学在学中の1963年からロースクール在学中の1968年までの間、少年時代の喘息の病歴を理由に5回の徴兵猶予を受けていた。このためベトナム戦争には従軍していなかった。
幼少期から吃音症に苦しみ、その克服に20代前半まで要した。鏡の前で詩の朗読を続けていた。また近親者がアルコール中毒で苦しんでいたことから禁酒家となった。
上院議員当選、前妻・娘を失う事故​
弁護士活動開始後間も無い、1970年にバイデンはニューキャッスル郡郡議会選挙の第4区に民主党候補として出馬し、当選を果たした。
その後1972年の上院議員選挙に民主党から出馬する。この時現職だった共和党のJ.キャレブ・ボッグス議員は、著名な議員の1人であったが、ボッグス議員は政界引退を考えていた。しかしながら、共和党内でボッグスの後継をめぐって、デラウェア州選出の下院議員だったピエール・S・デュポン4世(のちデラウェア州知事)と、ウィルミントン市長であったハリー・G・ハスケル・ジュニアが対立し、共和党陣営内での分裂が生じた。この打開策として、リチャード・ニクソン大統領は、ボッグスにもう1期出馬するよう要請し、共和党が全面的に支援することを約束したため、ボッグスもこれを受諾した。しかしながら、最終的にはバイデンがボッグスを破って勝利を収めた。連邦上院議員では建国以来5番目の若さでの当選となった。
しかし上院議員に当選直後、1972年12月18日に妻のネイリアはクリスマスの買い物をするために、3人の子供たちを連れてデラウェア州ホケッシンに車で出かけていたのだが、ネイリアの運転するステーションワゴンが、交差点でトレーラーに追突され、ネイリアとまだ幼かったナオミが死亡、ボーとロバートは生き残ったものの、瀕死の重傷を負う。当時の警察の記録はもう残っていないが、当時の新聞の報道はトレーラーの運転手に過失はないことを明らかにしている。
若手上院議員からベテラン上院議員へ​
バイデンは、一度は息子たちの看病・世話を理由に議員職を辞退しようとしたが、当時民主党の上院院内総務であったマイケル・マンスフィールドから辞退を思い留まるよう説得を受け、議員に就任することを決意し、1973年1月5日には息子の病室から上院議員としての宣誓を行った。1973年1月から他の議員と同様に通常どおり登院し、議員活動を開始した。この時バイデンは30歳で、30歳での上院議員はアメリカ史上5番目の若さだった。通常は議員になるとワシントンD.C.に居住する議員が多い中で、彼は息子たちの為に、毎日片道1時間半かけてウィルミントン郊外の自宅とワシントンD.C.を電車通勤した。
1974年にバイデンはタイム誌の「200 Faces for the Future」の1人に選ばれるなど、議会の内外で活躍の場を広げ、知名度を高めていった。また私生活においても、1977年に2人目の妻ジル・トレイシー・ジェイコブスと結婚し、1女(アシュリー)をもうけた。1978年の選挙では、ジェームズ・H・バクスター・ジュニアを破り再選を、1984年の選挙ではジョン・M・バリスを破り3選を果たすなど、ベテラン議員への仲間入りを果たしていく。
1974年のインタビューでは自らの政治的立場について公民権、自由、高齢者の問題や医療についてはリベラルだが、中絶や軍の徴兵制については保守だと説明した。
1970年代半ば、デラウェア州白人有権者に反対者が多かった「差別撤廃に向けたバス通学」に反対した。民主党上院議員の中の主要な反対者の一人となった。南部州のような法律上の人種隔離を是正するためにバスを利用することには賛成したが、デラウェア州のような近隣居住の人種パターンから生じる事実上の分離を是正するためのバスの使用には反対という立場だった。この件について2019年に民主党候補指名争いの討論会でカマラ・ハリスから追及された。
上院議員になって最初の10年は軍備管理に関わることが多かった。1979年に民主党大統領ジミー・カーターとソ連首相レオニード・ブレジネフの間で締結されたSALTIIがアメリカ議会の批准を得られなかった後、バイデンはソ連外相アンドレイ・グロムイコと会談し、アメリカの懸念と上院外交委員会の異議に対応する修正を行うよう求めた。
共和党大統領ロナルド・レーガンが戦略防衛構想のためSALTIを大雑把に解釈したいと主張した時、バイデンは条約を厳格に遵守することを求めた 。またアパルトヘイトを進める南アフリカをレーガン政権が支援したことについて、上院の公聴会で国務長官ジョージ・シュルツを非難して注目を集めた。
1981年には上院司法委員会の少数党筆頭委員に就任。1984年の包括的防犯法の可決に民主党側の議場指導者として協力。後にこの法律は厳しくなっていったため、2019年にバイデンはこれを可決させたことは大きな誤りだったと自省している。彼の支持者は彼がこの法律の最も最悪な部分を複数修正したことを賞賛しており、それが彼の立法上の最大の功績としている。この法律には連邦アサルトウェポン禁止法や、彼が自分が携わった立法の中でも最も重要なものとする女性に対する暴力法が含まれる。
1987年には上院司法委員長として初めて常任委員会の委員長に就任。
1988年大統領選挙予備選挙と脳の手術​
1987年6月9日に翌年の大統領選挙民主党予備選挙への出馬を表明した.。彼の人柄やロバート・ボーク最高裁判所裁判官任命をめぐる上院司法委員長としての知名度、ベビーブーマーへのアピールなどにより有力候補と見なされていた。もし大統領に当選していればジョン・F・ケネディに次ぐ二番目に若い大統領になっていた。
1987年の第1四半期まで最有力候補だったが、9月には英労働党党首ニール・キノックの演説内容を盗用した疑いが持ち上がり、さらに学生時代の論文盗用の疑惑も持ち上がり、公式に盗用を認めてシラキュース大学法科大学院に謝罪し、大統領候補指名予備選挙が始まる前に立候補を取りやめた。
1988年2月に45歳の時、バイデンは首の痛みに悩まされ、救急車でウォルター・リード陸軍病院に搬送された。脳動脈瘤が破裂したのが原因であり、脳の手術を受けた。回復中、肺塞栓症を患い、重篤な合併症に苦しんだ。同年5月には2度目の脳動脈瘤の手術を受け、入院から7ヶ月で上院に復帰した。
上院外交委員会委員長として​
病気から復帰後、バイデンは再び上院議員として活躍した。1991年の湾岸戦争に反対票を投じた。民主党上院議員55人のうち45人と同じ立場に立ち、湾岸戦争連合軍における負担をほとんどすべてアメリカが負わされているとして反対した。
1991年にはクロアチア紛争におけるセルビア人の残虐行為を聞き、ユーゴスラビア紛争に関心を持った。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が勃発すると、武器禁輸を解除してボスニアのイスラム教徒に武器を提供して訓練するとともに、NATOによる空爆で彼らを支援し、戦争犯罪を調査するという「リフト・アンド・ストライク」政策を最初に主張したのがバイデンだった。しかしジョージ・H・W・ブッシュ政権もビル・クリントン政権もバルカン半島がもつれることを恐れ、この政策の実施には消極的だった。1993年4月にバイデンはセルビア共和国大統領スロボダン・ミロシェヴィッチと緊迫した3時間の会談を行い、ミロシェヴィッチに対して「私は貴方は戦争犯罪人だと思う。裁判にかけられるべきだ」と伝えている。1992年にはブッシュ政権に対してボスニア人への武器提供を迫る修正案を書き、1994年にはクリントン政権が好んだやや柔らかい表現に変更されるも、1年後にはボブ・ドールやジョー・リーバーマンが後援するより強力な案に署名した。バイデンは、1990年代半ばにバルカン半島への政策に影響を与えたことについて「公的人生のうち最も誇り高い瞬間だった」と述べている。
1997年には上院外交委員会の少数党筆頭委員に就任し、民主党が上院の多数派を占めた2001年から2003年と2007年から2009年の間には同委員会委員長となった。外交に関する彼のスタンスはリベラル国際主義を基調とした。彼は共和党とも太いパイプがあり、時には民主党の方針にも反対した。
1999年、コソボ戦争中ユーゴスラビア連邦共和国に対するNATOの空爆を支持した。バイデンは共和党のジョン・マケインと連携し、クリントン大統領に対して地上部隊を含むすべての必要な戦力を使い、コソボのアルバニア人に対するユーゴスラビアの政策を阻止してミロシェヴィッチと対決することを求めた。
同時多発テロ後の2001年のアフガン作戦を支持した。2002年にバイデンは上院外交委員長として「サダム・フセインは国家安全保障に対する最大の脅威であり、その脅威を排除する以外に選択肢はない」と述べ、同年10月16日のイラクに対する軍事力行使承認決議案に賛成した。この直後の2002年11月の中間選挙で民主党が少数党に転落したため、新しい連邦議会が招集された2003年1月3日付で外交委員長職を離れ、少数党筆頭委員に戻った。また、2004年の大統領選挙への出馬にも意欲を見せたが、最終的に断念した。
その後、2006年11月の中間選挙で民主党が多数党に返り咲いてからは、2007年1月4日より2度目の外交委員長職を務めている。また同時に、司法委員会に連なる犯罪および麻薬に関する小委員会の委員長を務めている。特に外交委員会では、同委員会のリーダーとして、また外交通として、積極的な発言を行った。また、上院本会議においても、行き詰まりを見せていたイラク政策に関連して、2007年9月26日に共和党のサム・ブラウンバック上院議員と共に、法的拘束力のない「イラク分割決議」を75対23で成立させた。
2008年時点では6回連続当選・在職36年目を誇る、押しも押されもせぬ上院民主党の重鎮となっている。ちなみに彼は、故郷デラウェア州の歴史上、最も長く在職した上院議員となっている。しかし、これほど多くの連続当選と長い在職期間を誇りながら、彼がデラウェア州の先任上院議員(アメリカでは Senior Senator と呼ばれている。各州2名の上院議員のうち、それまで連続して当選しており、より任期の長い議員が先任上院議員となる。)となったのは2000年のことであり、かなり遅いと言える。これは、バイデンの2年先輩にあたる共和党のウィリアム・ヴィクター・ロス・ジュニア上院議員(William Victor Roth Jr.)が、1971年の初登院以来、2000年の選挙で民主党のトーマス・リチャード・カーパー州知事(Thomas Richard Carper)に敗れて引退するまで、約30年にわたって議席を維持した為である。
2度目の大統領選挙挑戦・副大統領へ​
2008年には自身2度目の大統領選挙となる2008年アメリカ合衆国大統領選挙に挑戦するが、バラク・オバマ候補とヒラリー・クリントン候補の2強が他を突き放す形勢となり、1月3日に撤退した。しかし8月23日に大統領候補の指名を確実にしたオバマから副大統領候補指名の意向が発表され、これを受諾してその後8月27日にコロラド州デンバーで開催された民主党全国大会で、オバマと共に民主党の正副大統領候補に正式指名された。
オバマの副大統領候補としてメディアから有力視されていたのは、オバマの最大の対抗馬であったヒラリー・クリントンであった。激しい予備選の過程でオバマとクリントンの支持者同士の感情が険悪化しており、党内融和のためにもオバマ-クリントンの「ドリームチケット」が期待されていた。そのためバイデンが選ばれた事に関しては少なからず驚きの声があった。この選択理由としては次のような点が評価されたためと言われている。
〇 オバマが弱いとされている有権者層である白人(特に白人労働者)・カトリックに強いこと。
〇 民主党中道派の重鎮であり、政治的・思想的に偏りが少ないという点。当時クリントンはオバマ同様に民主党でもリベラル寄りと見なされており、リベラル同士のチケットでは本選挙の鍵を握る中道層の取り溢しが懸念された。
〇 オバマに関して指摘されていた経験で特に外交経験の不足を補う上で、上院外交委員長として外交経験豊富であり、国民にも“外交通”として認知されているバイデンは、オバマの弱点をうまく補完できるという点。
〇 議会対策の上でも、上院民主党の重鎮であったバイデンの影響力が期待できること。
〇 アイルランド系カトリックとして労働組合にも太いパイプがあること
〇 中産階級層の出身という経歴であること。
しかし、共和党のジョン・マケイン候補がサラ・ペイリンを副大統領候補に抜擢したことと比較され、地味な選択とみられた。また、バイデンは予備選でオバマ候補の経験不足を指摘していたため、指名受諾後にはその点を共和党側より批判された。
本選挙の選挙戦では、オバマが攻撃的な発言を抑制するかたわらバイデンはマケインへの激しい批判を展開した。ペイリンとの副大統領候補討論会後の世論調査では「討論はバイデンの勝利」と答えた者が多数を占めたものの、好感度の面ではペイリンに軍配を上げる者が多かった。
2008年11月4日(現地時間)に行われた大統領選挙の投開票において、民主党のバラク・オバマが第44代アメリカ合衆国大統領に当選したことに伴い、自身も第47代アメリカ合衆国副大統領に当選が確定した。
ちなみにバイデンは大統領選挙での敗北も想定した上で、大統領選挙と同日投票となった上院議員選挙にも出馬していた。この選挙では選挙区全体の65パーセントの票(25万7484票)を獲得し、対立候補であった共和党のクリスティーン・オドネルに大差を付ける形で、自身7回目となる上院議員当選を果たした。その上で2009年1月3日に開会した第111期連邦議会では、1月15日まで上院議員職に留まり、同日辞職した。なお自身が務めていた上院外交委員長職については、新しい議会の招集を契機に1月3日付で辞職した。外交委員長としての最後の仕事となったのは、1月の第2週目に行ったイラク・アフガニスタン・パキスタンの3カ国歴訪・首脳会談であった。バイデンの議席は、長年にわたって彼のアドバイザーを務めていたテッド・カウフマンに、外交委員長のポストは2004年アメリカ合衆国大統領選挙において民主党の大統領候補だったジョン・フォーブズ・ケリー上院議員に引き継がれた。
副大統領​
2009年1月20日にバラク・オバマの第44代アメリカ合衆国大統領就任に伴い、自身も第47代アメリカ合衆国副大統領に正式に就任した。連邦議会議事堂(キャピトル・ヒル)で開催されたオバマの就任式には、セカンドレディとなった妻のジルと共に出席し、オバマに先立って、ジョン・ポール・スティーブンス連邦最高裁判所判事の立ち会いの下で就任宣誓を行った。最初のデラウェア州出身の副大統領、また最初のローマ・カトリックの副大統領となった。
また、自身のスタッフ選任も進め、首席補佐官には民主党のベテラン弁護士であるロン・クラインを、広報部長にはタイムのワシントンD.C.支局長であるジェイ・カーニーを任命した。
バイデンは、前任者であるディック・チェイニーが従来の副大統領とは異なり、政策決定や実務などジョージ・W・ブッシュ大統領の政権運営において、かなり深い部分まで関わっていたのに対して、「自らは(チェイニー前副大統領のように)大統領の政策決定などに深く関わることはしない」という旨を言及している。その一方で、「オバマ大統領が重大な決断を下す際には、その全てにおいてアドバイスや助言を行う」と述べた。
オバマ政権にメンバーによればバイデン副大統領の政権内での役割はあえて反対意見を述べることで、他の人に自分の立場を守らせようとすることにあったと証言する。ホワイトハウス首席補佐官ジェイ・カーニーはバイデンが集団思考に陥るのを防いだと評価している。バイデンの広報部長も「バイデンはシチュエーションルームの悪役を演じた」と表現している。オバマ大統領も「ジョーの一番いいところは、みんなが集まった時、みんなに考えること、自分の立場を守ること、あらゆる角度から物事を見ることを強要することにある。それは私にとって非常に大事だ」と述べている
2010年8月までにイラクにおけるアメリカ軍の役割を終わらせると宣言したオバマ大統領は、2008年6月にバイデンをイラクに関する責任者に任じ、以降バイデンは2カ月に一度はイラクを訪問するようになり、イラク政府にアメリカ政府のメッセージを伝える政府要人になった。2012年までバイデンは8回イラクを訪問したが、2011年にアメリカ軍がイラクから撤退するとバイデンのイラクへの関与も減った。
2010年6月11日には2010 FIFAワールドカップ南アフリカ大会のイングランド対アメリカの試合を観戦し、その後エジプトやケニアも訪問した。
2010年11月の中間選挙に民主党が敗北すると長い議会生活で共和党議員ともコネクションがあるバイデンの役割がより重要になった。 新戦略兵器削減条約の上院通過を主導したのはバイデンだった。12月にもブッシュ減税の延長を含む共和党との妥協案をまとめた。
2011年のNATOのリビア軍事介入を支持した。ロシアとより緊密な経済関係を持つことに賛成し、ロシアのWTO加盟を支持した。いくつかの報告書によればバイデンは2011年5月2日に実行されたビン・ラディン殺害作戦に反対していたという。
オバマ政権の支持率低下傾向から、2012年11月の大統領選挙では副大統領候補をバイデンではなくヒラリー・クリントンに置き換えるべきだという声も上がっていたが、オバマは引き続きバイデンを副大統領候補にし再選された。
2012年12月のサンディフック小学校銃乱射事件を受けて設立した銃規制の強化を検討するための特別チームのトップになった。31日には共和党のミッチ・マコーネル上院院内総務との間で「財政の崖」を回避する合意を成立させた。
2014年にロシアがクリミア併合を強行するとオバマ政権はウクライナ政府を支持し、ウクライナ支援とロシア経済制裁を行った。バイデンも2015年12月にウクライナ議会でウクライナを支持する演説を行った。バイデンは南米の指導者にも顔が利き、副大統領在職中に16回も南米を訪問している。
2016年8月にはセルビアへ訪問し、アレクサンダル・ヴチッチ大統領と会見し、コソボ戦争中の爆撃による民間犠牲者に哀悼の意を表した。コソボではコソボの裁判官や検察官の育成に貢献した亡き息子ボー・バイデンの功績が称えられて、ボーの名に因む高速道路が作られ、父であるジョー・バイデンが式典に出席した。
2016年アメリカ合衆国大統領選挙にはオバマは任期制限により出馬できないためにバイデンの出馬が取沙汰され、勝手連(Draft)のPACも結成された。2015年9月11日の時点では出馬するか否かを決めていないと述べたが、同年10月21日に不出馬を表明。民主党予備選挙ではオバマ大統領ともども当初いずれの候補への支持も表明せず、ヒラリー・クリントンが指名を確実とした後の2016年6月9日に同候補への支持を表明した。
2017年1月12日、副大統領としての功労を讃えられ、大統領自由勲章をオバマ大統領より受章した。受賞を事前に知らされていなかったバイデンは涙し、即興のスピーチを20分間行った。
バイデンは上院の議長決裁をしなかった副大統領であり、その期間が最長の副大統領である。
3度目の大統領選挙挑戦で当選​
出馬の経緯​
2017年6月1日に政治活動委員会(PAC)「米国の可能性(American Possibilities)」の設立を発表した。2020年大統領選挙への出馬を検討している可能性があると報じられた。
2019年4月25日、2020年大統領選挙へ出馬することを正式に公表した。
動画での声明では出馬の理由について、2017年にヴァージニア州シャーロッツビルで起きた極右集団とその反対派の衝突で女性が死亡した事件についてトランプが「どちらの側にも素晴らしい人々がいた」と述べて極右を非難しなかったことに言及したうえで「アメリカの大統領はこの言葉によって、憎悪を撒き散らす人々と、それに立ち向かう勇気ある人々を倫理的に同等に扱った」「この国の核となる価値や(中略)私たちの民主主義、アメリカをアメリカたらしめる全てが危険にさらされている」「歴史がこの4年を振り返ったとき、そこには異常さしか残っていないと思う。しかしトランプ氏が8年間ホワイトハウスに居座れば、トランプ氏はアメリカの本質や私たちの性質を永久に、根本的に変えてしまう。それを黙って眺めていることはできない」と述べた。
党大統領候補指名争い​
2019年6月27日に行われた民主党候補者らによる討論会のバイデンのパフォーマンスは酷評されたが、8月にCNNが民主党および民主党寄りの登録有権者に対して行った候補者に対する調査では、29パーセントの支持を集めて首位に立った。しかし予備選挙・党員集会直前の2020年1月22日のCNNの世論調査では左派の候補バーニー・サンダースに支持率で抜かれた。
2月3日、民主党指名候補選びの初戦であるアイオワ州党員集会が開催。翌日の暫定結果の発表では、中道派のピート・ブティジェッジが首位となり、バイデンは4位に沈んだ。続く2月11日のニューハンプシャー州の予備選挙もサンダースが首位となり、バイデンは5位だった。3戦目の2月22日のネバダ州の党員集会もサンダースが勝利し、バイデンは2位ながら大差を付けられた。勝利できなければ敗退濃厚とみられていた同月29日のサウスカロライナ州の予備選挙で4戦目にして初勝利を得た。
スーパーチューズデーの直前の3月1日にブティジェッジ、翌2日にはエイミー・クロブシャーがそれぞれ予備選挙戦から撤退することを表明し、いずれもバイデン支持を表明した。これにより民主党中道派はバイデンのもと結束して左派サンダースと対決する構図となった。そして3月3日に14州で行われた予備選挙・党員集会(スーパーチューズデー)において10州でサンダースに勝利、これにより獲得代議員数で首位に立つ候補となった。スーパーチューズデーの勝利で支持率も上昇し、サンダースを抜いて再び支持率首位に立った。3月4日にマイケル・ブルームバーグも撤退してバイデン支持を表明、3月5日にエリザベス・ウォーレンも撤退したが、彼女は誰を支持するか明言しなかった。
3月10日にミシガン州など6州の予備選挙・党員集会があり、4州で勝利したことでさらに優勢となった。3月17日のフロリダ州など3州の予備選挙でもバイデンが大勝、サンダースを更に引き離して指名獲得が濃厚となった。サンダースの岩盤層であったはずのリベラル層がサンダースから離れてバイデンに投票している傾向が確認できる。
3月19日に撤退表明したトゥルシー・ギャバードもバイデン支持を表明。最後まで残った対立候補のサンダースも4月8日に撤退を表明し、4月13日にバイデン支持を表明した。これによりバイデンが指名を確実にした。候補が決まったことを受けて、4月14日に前大統領バラク・オバマがバイデン支持を表明し、4月15日には態度を明らかにしてなかったウォーレンからも支持表明を受け、4月18日には前回候補ヒラリー・クリントンからも支持表明を受けて挙党体制を整えた。
5月25日にペンシルベニア州で黒人男性ジョージ・フロイドが白人警察官によって暴行死させられた事件をきっかけに始まった人種差別抗議運動のブラック・ライヴズ・マター(BLM)に連帯を表明。「暴動や略奪、放火は抗議ではない。違法行為だ」としてデモに乗じての暴力行為は支持しないことを明言しつつ、人種や党派分断をあおる発言を繰り返し、各地の抗議活動に対抗する武装した自身の支持者を糾弾しないトランプの姿勢が、衝突に拍車をかけていると批判した。
8月11日、黒人とインド系のハーフである非白人女性カマラ・ハリスを副大統領候補に選んだことを発表した。BLM運動の高まりに配慮した人選と考えられている。
8月18日に民主党全国大会で正式に党大統領候補に指名され、20日に指名受諾演説を行い「名誉ある米大統領候補指名を謹んで受諾する」「団結すれば我々は米国の暗黒の季節を克服できる。克服しよう」と述べ、科学を重視し、国民の命と生活を守り、同盟国と協調し、独裁者と親密になったりせず、あらゆる人の尊厳と融和を重視すると強調した。また、トランプについて「この大統領は一切の責任をとらず、先頭に立とうとせず、何事も他人のせいにし、独裁者と仲良くして、憎悪と分断の炎をあおり続ける」と批判した。
大統領選挙本選​
大統領選挙戦中、バイデンはトランプ政権の新型コロナウイルスの感染対策遅れについて「ドナルド・トランプが米国を守ることに失敗し、米国を恐怖に陥れているというのが事実だ」と批判し、トランプ政権側の「コロナの最悪期はすぎた」という主張も否定した。そのためトランプ陣営が大規模集会を行い、参加者がほとんどマスクをしなかったのに対し、バイデン陣営は車を乗り入れるドライブイン形式で集会を行い、参加者にはマスク着用を要請するという対象的なコロナ対応が見られた。
公約として連邦最低賃金時給15ドル、グリーン・エネルギーへ2兆ドル投資、アメリカ製品購入促進に連邦予算4000億ドル拠出、オバマケア拡大、人種差別を是正する刑事司法改革(ただし警察予算削減には反対)、トランプ政権による富裕層や企業への減税措置の廃止、トランプ政権による移民規制策の廃止、トランプ政権が離脱したパリ協定への復帰、トランプ外交の単独主義を廃して北大西洋条約機構(NATO)など同盟国との関係を強化し中国に対抗していく外交、学生ローンの返済免除や大学無償化、小学校以前の学習機会を全国民に提供などを上げた。前回選挙での民主党の敗因として当時の候補ヒラリー・クリントンが左派を軽視しすぎたせいで左派の票が十分に得られなかったという分析があったため、公約をかなり左派に寄せたものになった。しかしそのために大統領選挙ではトランプから「バイデンは極左に乗っ取られた操り人形」、「社会主義者の『トロイの木馬』」と執拗に攻撃される材料となった。
9月29日の最初の大統領選挙討論会ではトランプがたびたびバイデンの持ち時間の最中に割り込んだため、次回からは候補者の1人が発言する際に相手側のマイクを一定時間切る措置が取られることになった。
10月22日にテネシー州ナッシュヴィルで開かれた二度目の大統領選挙討論会では前回と打って変わって不規則発言はなくなり、新型コロナウイルス対策や北朝鮮問題、人種差別や気候変動対策など、様々な政策課題についてお互いが主張を展開し、批判し合った。人種差別問題ではトランプが「リンカーン元大統領を除けば私ほど黒人のために貢献した人物はいない」「私はこの部屋にいる人のなかで、最も非差別的な人間だ」と述べたのに対し、バイデンは「現代の歴史で最も人種差別主義者の大統領の一人がここにいる」と批判した。
11月3日に大統領選挙本選が実施され、11月7日午前に主要メディアは、バイデンが接戦州のラストベルト三州(ペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州)で勝利するのが確実の情勢になり、獲得が確実になった選挙人数が過半数に達したため当選確実になったと報道した。これを受けてバイデンは同日夜に勝利宣言を行い「私は分断するのではなく団結させる大統領になると誓います。赤と青に分かれた州ではなく、団結した州(合衆国)を見る大統領に、国民全員の信頼を勝ち取るために全身全霊で努力する大統領に」と決意を述べた。11月13日には全50州の勝者が判明し、バイデンはラストベルト三州のほか、共和党の地盤だったアリゾナ州とジョージア州でも勝利して306人の選挙人(トランプは232人)を獲得する見通しであると複数のメディアにより報じられた。
現職大統領トランプは敗北を認めておらず、政権移行に協力しないよう各省庁に指示していたため、政権移行手続きが滞っていたが、手続きの遅れは国家安全保障に悪影響を与えるとの懸念が与野党に広がったため、11月23日に一般調達局が政権移行手続きを承認。バイデンは政権移行の準備のための政府資金の提供や機密情報アクセスなどを受けられるようになった。
2020年12月14日に全米50州とコロンビア特別区で選挙人による投票が実施された。誓約違反投票をした選挙人は出ず、過半数の306人の選挙人を確保しての次期大統領当選が確定した。
この結果を受けてバイデンは改めて演説を行い、トランプの選挙結果を覆そうという様々な試みにもかかわらず、民主制度は持ちこたえたとの認識を表明し「民主主義の炎はこの国ではるか昔に灯された。パンデミックや権力乱用もこの炎を消すことはできないことが分かった」「米国の魂のための闘いで民主主義が勝利した」と語った。そして「(トランプの時代から)ページをめくり、結束し癒やしを得る時が来た」「今回の選挙キャンペーンを通じて、私は全ての米国民の大統領になると述べた。私に投票した人々のためと全く同じように私に投票しなかった人々のためにも懸命に働く」と述べた。
2021年1月6日から上下両院の合同会議が行われ、先の選挙人の投票結果が正式に確定される予定だったが、議会の開始直後、選挙結果を認めないトランプ支持者が暴徒と化して連邦議会に乱入、議会を占拠する事件が発生した。この暴動に対してバイデンは「われわれの民主主義がかつてない攻撃にさらされている」「連邦議会議事堂に突入し、窓ガラスを割り、オフィスと米上院の議場を占拠し、適法に選出された議員の安全を脅かす? これは抗議デモではない、反乱だ」と述べて強い憤りを示した。
この騒ぎで議会が一時中断されたが、州兵が動員されて乱入したトランプ支持者たちが排除された後、6日夜に再開され、7日未明に選挙人投票の結果が承認されて正式にバイデンの当選が決定した。
バイデン新政権への準備​
大統領選挙の当確報道が出た後からバイデン新政権の閣僚指名が順次行われている。国務長官にはオバマ政権下で国務副長官を務めたアントニー・ブリンケン、国防長官には黒人の元陸軍大将ロイド・オースティン、財務長官には連邦準備制度理事会(FRB)前議長ジャネット・イエレン、内務長官には先住民のニューメキシコ州下院議員デブ・ハーランド、司法長官にはかつてオバマ政権が上院共和党の反対で最高裁判事にするのに失敗したリベラル派の連邦高裁判事メリック・ガーランド、労働長官にはボストン市長マーティ・ウォルシュ、運輸長官には同性愛者を公言する前サウスベンド市長で予備選挙を争った若手のピート・ブティジェッジ、国土安全保障長官にはヒスパニック系の元同省次官アレハンドロ・マヨルカス、保健福祉長官にはヒスパニック系のカリフォルニア州司法長官ハビエル・ベセラ、農務長官にはオバマ政権でも農務長官を務めたトマス・ジェイムズ・ヴィルサック、国家情報長官には元CIA副長官アヴリル・ヘインズ、通商代表には台湾系で下院歳入委員会法律顧問のキャサリン・タイが内定した。ただしこれらの閣僚ポストへの人事は上院の同意が必要である。
大統領首席補佐官には副大統領時代のバイデンの主席補佐官だったロン・クレイン、外交・安保の総合調整を担う国家安全保障担当大統領補佐官には、副大統領時代のバイデンの国家安全保障担当補佐官だったジェイク・サリバンが指名された。オバマ政権の国務長官だったジョン・フォーブズ・ケリーは気候変動問題担当大統領特使に指名された。またオバマ政権時代に国家安全保障担当大統領補佐官・国連大使を務めた黒人女性スーザン・ライスは国内政策チームのトップとなる。これらの人事には上院の承認は不要である。
バイデンは「(新政権は)米国を象徴するようなものにしたい」と発言しており、性別や人種など多様性の確保に配慮した人事と考えられている。上記人事が上院の承認を得られれば、ハーランドは先住民として初めての閣僚、ブティジェッジは同性愛者を公表している人物として初めての閣僚となる。
また当確直後の2020年11月9日に新政権で新型コロナウイルス対策を率いる新型コロナウイルス諮問委員会を創設したことを発表した。疫学者や免疫学者、生物兵器防衛専門家ら13人の専門家から成る。
2021年1月5日のジョージア州の上院議員選挙決選投票(2議席)は、上下両院で民主党が過半数を押さえて主導権を握れるか、あるいは「ねじれ議会」になるのか、1月20日から発足するバイデン新政権の今後を占う選挙として注目されている。次期大統領バイデンも現職大統領トランプもジョージア入りし、自党候補の応援演説を行った。バイデンは前日の4日にアトランタで演説し、トランプ政権の新型コロナウイルスワクチン配布が遅いとして「(新年は)ひどいスタートを切った」「大統領は問題に対処するより、泣き言や不満を言うことに多くの時間を割いている」と批判し、民主党候補なら国民向けの2000ドル現金給付が実現するよう取り組むと述べ「明日はアトランタ、ジョージア州、そして米国にとって新しい日となり得る」と訴えた。開票後の1月6日に2議席とも民主党候補(ラファエル・ワーノックとジョン・オソフ)に当確報道が出された。カマラ・ハリス次期副大統領の議長決裁を含めて民主党が上院の多数派を得た。民主党がホワイトハウスと上下両院をすべて掌握したのは2009年以来のことである。
1月8日、大統領就任式への欠席を表明したトランプ大統領について「彼は国家の恥だ。来ないのは良いことだ」と述べて欠席を歓迎した。一方、マイク・ペンス副大統領については「(出席してもらえれば)名誉だ」と述べた。前大統領が新大統領の就任式に出席しないのは1869年以来152年ぶりのこととなる。連邦議会襲撃事件をめぐって反乱を扇動したとしてトランプの弾劾条項を含む訴追決議案が議会で進んでいることについては、「弾劾は議会が決めることだ」としつつ、「トランプ大統領は以前からこの職務にふさわしくなかった」と述べた。
大統領就任前日の1月19日に地元デラウェア州ニューキャッスルにある亡き長男ボーの名に因んだ州兵本部で演説し「ボーがこの場にいないことだけが残念だ。大統領として息子を紹介できたのだが」と述べて涙を拭った。
大統領として​
2021年1月20日にワシントンの連邦議会前でカマラ・ハリスとともに大統領・副大統領就任式に臨み、第46代大統領に就任した。宣誓の後「アメリカをまたひとつにまとめて、立て直すため、全身全霊をかける」「私たちはまたしても、民主主義が貴重だと学ぶことになった。民主主義は壊れやすい。そして皆さん、今この時には、民主主義が打ち勝った」「恐怖ではなく希望の、分断ではなく団結の、暗闇ではなく光の、アメリカの物語を一緒に書いていきましょう」と演説した。
同日中に15の大統領令に署名。パリ協定への復帰、カナダから米中西部まで原油を運ぶ「キーストーンXLパイプライン」の建設認可取り消し、アラスカ州北東部の北極野生生物国家保護区での石油・ガス開発に向けたリース活動の停止措置、自動車の燃費基準やメタン排出規制の見直し検討の指示など、環境重視の政策への転換を示した。しかしアメリカ石油協会やアラスカ州知事マイク・ダンリービーからは批判の声が起きている。またWHOからの脱退の取り消し、連邦庁舎内でのマスク着用や社会的距離の確保の義務化、メキシコとの国境の壁建設に連邦資金を振り向ける根拠になっていた非常事態宣言の解除の命令も含まれる。

 

●人物​
身長は1メートル82センチである。
宗教はローマ・カトリック。家族も全員ローマ・カトリックの信者である。また、現在でもデラウェア州グレンヴィルのブランディワイン地区にある聖ジョセフ教会のミサに定期的に出席している。2021年現在、カトリックの信者でアメリカ合衆国の大統領になった人物は、1961年就任のジョン・F・ケネディとバイデンの2人しかいない。
酒は全く飲まないと公言している。これは、彼の近親者にアルコール依存症が広まっているからであるという。ちなみに、大統領選を戦ったドナルド・トランプも同じ理由により酒を全く飲まないことで知られる。
その反面、甘い物が大好きで、特にアイスクリームには目がない。ちなみに彼が最も好きなアイスの種類はチョコレートチップ入りのアイスであるという。
子供の頃には吃音症で悩み、意味不明な言葉ばかり言うことを指すスラング「ダッシュ」をあだ名にされて、いじめられたという。妹によれば、バイデンは吃音症を治すために、毎日鏡に向かって詩を朗読し、懸命に発音を矯正していたという。アトランティックとのインタビューで、大人になった今も吃音症の症状がまだあることを認めている。
毎年12月18日には、前述の自動車事故で他界した最初の妻ネイリアと長女ナオミを偲ぶため、一切の仕事をしない。
前述のような波瀾万丈の経歴から、「サバイバー」と呼ばれることもある。
副大統領に就任するにあたって、シークレットサービスからコード名(警護官等が警護任務中の無線通信の際に用いる通称)を割り当てられており、そのコード名は「セルティック」である。これは、「ケルト系の」という意味を持つ言葉であり、バイデンのアイルランド系移民の子孫、という出自に基づいたものである。
フィラデルフィア・フィリーズのファンであり、民主党党員集会ではジミー・ロリンズから特製ユニフォームを手渡された。
2010年3月23日、国民皆保険制度への道を開く医療保険改革法にオバマ大統領が署名した際、オバマと抱き合い、嬉しさのあまり「This is a big fucking deal!」(これは大したものだ!)と思わず発言した。「Fuck」は英語圏内では極めて下品な言葉であり、関係者は火消しに追われた。
2匹のジャーマンシェパード(チャンプ、メイジャー)を飼っている。チャンプは2008年の大統領選挙が終わった後、妻のジルとの犬を選ぼうという約束で飼うことになった。メイジャーは2018年にデラウェア州の動物保護団体を通して、バイデン家に引き取られた。この2匹の犬もホワイトハウスへ連れていく予定である。トランプ大統領は100年ぶりのペットを飼ってない大統領だったので「ファーストペット」の伝統が復活する形となる。猫を飼うことを検討しているとの報道もある。2020年11月28日にメイジャーと遊んでいたときに転んで右足首をねんざし、コンピュータ断層撮影装置(CT)による検査で足の骨に小さなひびが見つかったため、数週間は足を保護するブーツを履いて暮らすこととなった。
上院議員時代、副大統領時代からアムトラックを愛用しており、これで約8000回地元とワシントンを行き来したという。そのため「アムトラック・ジョー」の異名をとった。2021年1月に予定される大統領就任式にも地元デラウェア州ウィルミントンから首都ワシントンにアムトラックを使って移動する計画が検討されているという。

 

●日本との関係​
2011年8月に副大統領として来日し、東日本大震災の被災地宮城県を訪問している。当時「トモダチ作戦」で米軍部隊が復旧に携わった仙台空港でバイデンを出迎えた知事村井嘉浩は、2020年にバイデンが大統領選挙に当選した後「宮城と非常につながりのある方だ」「被災地に心を寄せていただいた。大統領になることは大変うれしい」というコメントを出した。
2013年12月上旬にも副大統領として来日し、内閣総理大臣安倍晋三と会見した。この際にこれまで米政府が控えめに警告してきた靖国参拝への懸念がバイデンから安倍に伝えられ、米政府は日本側に正しく伝わったと思っていたところ、それから間もない12月26日に安倍の靖国参拝が行われたため、これが米国政府が異例の「心から失望」声明を出すことにつながったと見られている。
2016年8月15日、ペンシルベニア州での演説で当時日本などの核保有容認論を展開していた共和党大統領候補ドナルド・トランプへの批判のために「(日本が)核保有国になり得ないとする日本国憲法を、私たちが書いたことを彼(トランプ氏)は知らないのか」と発言。アメリカ政府の要人によって、アメリカによる日本国憲法の起草が強調されることは異例である。
2020年の大統領選挙戦中、バイデン陣営が任天堂のゲーム機「ニンテンドースイッチ」向けのゲーム「あつまれ どうぶつの森」の中に「選挙本部」を設置した。
バイデンの大統領選挙当選後、熊本県山都町の町長梅田穣が音読みすると「バイデン・ジョウ」と読めることから「日本のジョー・バイデン」と呼ばれて話題になった。また山口県宇部市のバス停「上梅田」と福島県須賀川市のバス停「上梅田」も音読みで「ジョウバイデン」と読めることから話題になった。

 

●家族・出自​
ジョー・バイデンの父方のバイデン家は高祖父ウィリアム・バイデンの代の1822年にイギリス・イングランド・サセックスからアメリカ・メリーランド州に移民した家である。
ジョー・バイデンの母方の曾祖父にはペンシルベニア州議会上院の議員エドワード・フランシス・ブリューイットがある。彼の父エドワード・ブリューイット(Edward Blewitt)は、1851年に当時イギリス統治下にあったアイルランド・メイヨー県・バリナからアイルランド大飢饉と貧困から逃れるためにアメリカ・ニューヨークに移住したアイルランド系移民だった。系図学者メーガン・スモレニャクによれば、バイデンは「アイルランド人の血を8分の5程度」引き継いでいるという。
そのためバイデンが大統領選挙に当選した後アイルランドは大いに沸いた。アイルランド首相ミホル・マーティンは、バイデン当確が報じられた後、敗北を認めないトランプを無視して真っ先にバイデンに祝辞を送った首脳の一人である。マーティン首相によれば「ジョン・F・ケネディ以来のアイルランド系のアメリカ大統領」であるという。バイデン自身は副大統領時代の2016年にアイルランド・バリナを初めて訪問しており、同地に残る親族と交流を深めた。父親がバイデンの「みいとこ」にあたるアイルランド人ジョー・ブリューイットの一家もホワイトハウスに招待されるなどバイデンと親戚付き合いをしている。彼によればバイデンは再びアイルランドの故郷を訪問することを約束しているという。
前述のように4人兄弟の長男として生まれ、弟が2人と妹が1人がいる。また、最初の妻ネイリアとの間に2男1女、2番目の妻ジルとの間に1女をもうけている。彼の主な家族・祖先は以下の通り。
エドワード・フランシス・ブリューイット(1859年 - 1926年):曾祖父。民主党所属のペンシルベニア州議会上院議員を務めていた。
ジョセフ・ロビネット・バイデン・シニア:父(1915年 - 2002年)。
キャスリーン・ユージニア “ジーン” フィネガン:母(1918年 - 2010年)。
ジェームズ・ブライアン・バイデン:弟。
フランシス・W・バイデン:弟。
ヴァレリー・バイデン・オーウェンズ:妹。
ネイリア・ハンター:最初の妻。1972年に交通事故で死別。
ジョセフ・ロビネット “ボー” バイデン3世:長男(1969年 - 2015年)。デラウェア州の司法長官を務めた。脳腫瘍で死去。民主党員。
ロバート・ハンター・バイデン:次男(1970年 - )。ロビイングを手がける事務所オルデイカー・バイデン&ブレアLLPの共同設立者ならびにアムトラックの経営委員会の副議長を務める。
ナオミ・クリスティーナ・バイデン:長女(1971年 - 1972年)。前述のように、ネイリアと共に交通事故で死別。
ジル・トレイシー・ジェイコブス・バイデン:2番目の妻。セカンドレディ(2009年-2017年)
アシュリー・ブレイザー・バイデン:次女(1981年 - )。現在はソーシャルワーカーとして勤務。

 

●政策スタンス・主な活動​
基本的な立場
民主党内では中道派に位置付けられ、上院議員時代は民主党所属者の51パーセントよりもリベラルな立場をとっていた。リベラル支持団体のAmericans for Democratic Action(アメリカンズ・フォー・デモクラシック・アクション)からは80パーセントのリベラルスコアを授与された一方、保守主義団体 American Conservative Union からは13パーセントの保守スコアを授与された。
外交​
自身が最も得意とする外交分野においては様々な発言や政策提言を行っている他、各国を訪問するなど行動派の一面も見せている。
基本スタンス​
彼は国際自由主義(リベラル・インターナショナリズム)の信奉者であり、彼の外交政策スタンスにも反映されている。上院においては、同じくリベラル・インターナショナリズムを掲げる共和党の重鎮であるリチャード・ルーガー・ジェシー・ヘルムズ両上院議員(ヘルムズは故人)と投票行動を共にすることが多く、その為彼の出身政党である民主党の方針に反することもしばしばあった。
大統領選挙当選後の2020年11月24日には「米国は戻ってきた」「力によってだけでなく、模範となり世界を主導する」「世界に背を向けるのではなく導く。敵対国に対抗し、同盟国を遠ざけない。われわれの価値観のために立ち上がる」と述べ、トランプの米国第一主義とは決別して国際社会の主導役に戻り、法の支配や民主主義、人権といった価値観外交を行い、同盟国を重視する方針を示した。
最初の大舞台​
バイデンを一躍有名にしたのは1979年に第二次戦略兵器制限交渉(SALT II)をめぐる一連の活動である。SALT IIは1979年にオーストリアのウィーンにおいて、アメリカのジミー・カーター大統領とソ連のレオニード・ブレジネフ書記長の間で調印され、後は連邦議会の承認・批准を待つのみとなっていた。しかし原案では批准に必要な議員数の3分の2以上の賛成を得ることは厳しい情勢であり、上院執行部は対応に苦慮し、修正案を加えることで賛成を得られる見込みがたったものの、修正案追加には相手国であるソ連の承認が必要であった。そこで執行部は当時2期目の若手上院議員の1人であり、ちょうど所用でモスクワに向かうことになっていたバイデンに、当時のソ連のアンドレイ・グロムイコ外相と交渉し、修正案追加の承諾を得てくるという重大な任務を託したのである。この当時グロムイコはその強硬な交渉姿勢から「ミスター・ニエット」(“ニエット”はロシア語で“NO”を意味する)の異名を取るなど百戦錬磨の外交官として恐れられており、若手議員のバイデンにとってこの任務は大変な重責であった。しかし最終的に、彼は“ミスター・ニエット”のグロムイコに修正案追加を認めさせることに成功したのである。結局SALT IIは同年末から開始されたソ連のアフガニスタン侵攻が原因で連邦議会の批准拒否を受け、1985年に期限切れを迎えてしまったものの、アフガニスタン侵攻が無ければ、最大の難関であった上院外交委員会での承認は確実だった。言い換えればそれほどの“大金星”だったのである。この成功はその後交渉術などさまざまな分野の書籍でも取り上げられている。
コソヴォ問題​
バイデンはバルカン半島で特にコソヴォにおける紛争問題にも積極的に取り組み、1990年代に同紛争が国際的な注目を集め、ビル・クリントン大統領の政策にも影響を与えるよう尽力したことで知られている。彼は紛争地域を繰り返し訪問する一方で、コソヴォ紛争当時のユーゴスラビア大統領であり、セルビア人勢力の代表でもあったスロボダン・ミロシェヴィッチと深夜に極秘会談を行い事態打開を図ろうとするなど、同紛争解決に向けて奔走した。
コソヴォ紛争におけるNATO軍の直接介入の決定には、過去のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争での経験が関わっている。コソヴォ紛争のおよそ5年前に発生したボスニア・ヘルツェゴビナ紛争のさなかにあった1993年頃、交渉による事態打開が難しい情勢になると、ムスリム人主導のボスニア・ヘルツェゴビナ政府への武器禁輸解除や戦争犯罪の調査、NATO軍による空爆の実施などを主とする積極的な介入を政府に訴えるようになる。この時の提言は、クリントン大統領が1999年のコソヴォ危機に際してに実行されたアライド・フォース作戦など、主にセルビア人勢力によるアルバニア系住民への組織的人権侵害に対する武力制裁・介入を容認する上で、重要なきっかけとなった。また、コソヴォ危機時には、セルビアに対するアメリカの直接攻撃を擁護する姿勢を表明し、これに賛同する共和党議員と協力して、セルビアに対して「必要なあらゆる武力」を行使する権限をクリントン大統領に与えるとする、「マケイン=バイデン・コソヴォ決議」を成立させた。バイデン自身は大統領選挙運動用に刊行された自伝の中において、この時の活動を「海外政策において最も誇りに思う実績」だと書いている。
対中東政策​
バイデンとイラクとの関わりは、1991年に湾岸戦争における対イラク武力行使に反対したことが最初である。
2003年から始まったイラク戦争においては、ジョージ・W・ブッシュ政権が武力行使を表明した際には、これを容認する姿勢を示し、前述の「イラクに対する武力行使容認決議」にも賛成票を投じている。しかしながらブッシュ政権が目指したサッダーム・フセイン独裁体制の排除には反対を表明していた。また、ブッシュ政権の一国主義的な行動や、「自衛のための先制攻撃」を許容するブッシュ・ドクトリンについても批判している。このように、ブッシュ政権を批判しつつも、当初はイラク戦争開戦に肯定的だったバイデンだが、その後イラク国内の情勢が泥沼化の様相を呈してくると、一転して反対に転じ、2007年初めに政府が提案したイラクへのアメリカ軍増派法案についても反対した。
バイデンがイラク戦争とそれに伴う混乱・内戦を収拾する手段としてかねてより提唱しているのが、いわゆる「イラク3分割案」である。この案は、イラクをそれぞれシーア派・スンニ派・クルド人の区域に分割し、これら3つの区域から成る連邦国家にするという物である。この案を上記のアメリカ軍増派法案への対案として正式に提案した物が、前述の「イラク分割決議案」である。この決議の提案にあたっては、バイデンと同じイラク分割論者である共和党のサム・ブラウンバック上院議員も賛成を表明し、共同提案者として名を連ねた。なおこの決議案は2007年9月26日に上院において75対23の賛成多数で成立した。
イラクからの撤兵を目指すオバマ政権の誕生後、オバマ大統領から「ジョー、あなたがイラクをやるんだ(Joe, you do Iraq)」と言われて副大統領のバイデンがイラク問題を所管することになった。以降2012年までにバイデンは8回イラクを訪問し、2011年にアメリカ軍がイラクから撤兵するまでイラク問題に携わった。
2020年1月14日の大統領候補指名争いの討論会で左派候補バーニー・サンダースが「バイデンは2002年のイラク戦争承認決議に賛成した」と批判した。これに対してバイデンは「彼ら(当時のブッシュ共和党政権)が戦争に突入しないと言ったのを信用したことは誤りだった」「彼らはただ査察官を派遣すると語っていた。実際に世界は査察官の派遣を決めており、それでもやはり戦争に突入した」と釈明したうえで自身はオバマ大統領の副大統領として軍の帰還に取り組んだと説明し、その後の自身の行動については壇上の他の候補者と比較する準備ができていると語った。
元国防長官ロバート・ゲーツは、バイデンについて「過去40年、ほぼ全ての主要な外交、国家安全保障問題で間違っていた」と回顧録の中で批判している。国連決議に基づく湾岸戦争に反対したこと、イラク戦争の対応、2011年のイラク撤退でテロを激化させたこと、アフガニスタン増派に反対したことなどをバイデンの「誤り」として指摘している。
米企業公共政策研究所の外交政策専門家コリ・シェイクは、バイデン外交についてトランプ外交よりはいいとしながらも「軍事力をいつどのように使うかという一貫した哲学に欠けている」「バイデンが混乱し、誤った外交政策を唱え続けていることは見落とされるべきではない」と警告している。
2020年11月の大統領選挙当確後、イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフと電話会談し、「イスラエルの安全保障やユダヤ人による民主国家としての将来をしっかりと支える」と約束したが、バイデンはトランプ政権のイスラエル肩入れ外交の見直しや、イスラエルが反対しているイラン核合意への復帰に意欲を示しているため、今後の米イスラエル関係について不透明感が漂っている。
対ヨーロッパ政策​
バイデンは大統領選挙で当確が出た後の11月10日に欧州各国の首脳と相次いで電話会談し、その内容について記者団に「米国が戻ってきたと知らせた。(外交の)ゲームに復帰する」と述べた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相には「北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)を通じた米欧関係の強化に努める」と約束し、フランスのエマニュエル・マクロン大統領とは、アフリカの開発、シリア情勢、イラン核問題などをめぐる協力に関し協議したとしている。
トランプ政権は「米国第一主義」を掲げて同盟国を軽視する立場を取ったが、その被害を特に被ったのがヨーロッパ諸国だった。欧州各国に国防費の増額を要求したり、2019年には欧州各国に通知なくシリア北東部から独断で撤退したり、2020年にはドイツ駐留米軍の削減を決定するなどしたため、欧州諸国は米国への反発を強めていた。米欧関係はトランプ政権下で悪化の一途をたどり、北大西洋条約機構(NATO)は「脳死状態」(フランスのマクロン大統領)と評されるまでの不一致状態に陥り、このままではロシアや中国に付け入る隙を与えるとの安全保障上の危機感が広がっていた。
それだけに2020年大統領選挙で同盟重視を掲げて勝利したバイデンへの欧州諸国の期待値は高い。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長はバイデンを「同盟の力強い支持者だと私は知っている」と持ち上げた。
また多国間体制を重んじるヨーロッパではトランプが離脱したパリ協定やイラン核合意、世界保健機関(WHO)などへの米国復帰を望む声も強い。ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長は「欧米はルールに基づく自由主義の国際秩序を支えてきた」と強調し、コロナや環境問題など様々な政策課題でのバイデン政権との連携に意欲を示している。貿易分野でもトランプ政権下で激化した米欧間の摩擦解消が期待されているが、バイデンが国内経済回復を優先して保護主義色を強めると警戒する見方も存在する。
バイデンは英国のボリス・ジョンソン首相に対しては電話会談で、EU離脱を巡ってアイルランドと北アイルランドの間に国境警備を復活させることに反対を表明した。北アイルランド和平合意を尊重して南北アイルランド間の国境を閉ざさず、開けたままにするべきであると主張した。もし国境警備復活を強行した場合には米国との通商協定は実現しないと警告も発した。和平合意は当時のビル・クリントン大統領をはじめとするアメリカの政治家たちの仲介もあって実現したものであることから、バイデンは大統領当選前からこの問題に言及しており、2020年9月のツイッターでは「北アイルランドに和平をもたらしたグッドフライデー合意を英EU離脱の犠牲にするわけにはいかない」と論じている。
NATOの加盟国ではあるがトルコに対してはバイデンは厳しい立場で臨む可能性が高い。トルコ大統領レジェップ・タイイップ・エルドアンはEUとの関係がよくなく、トランプと比較的親密な関係にあったとされているためである。2019年12月にバイデンはエルドアンを「独裁者」と呼んで名指しで批判している。
対ロシア政策​
1970年代から外交を専門とする上院議員としてアメリカ外交に影響力を及ぼしてきたバイデンは、ロシアにとってソ連時代からの手ごわい敵だった。副大統領になった後もロシアのクリミア併合に反対するウクライナのペトロ・ポロシェンコ政権を支えてきた中心人物として、ロシアとの因縁は非常に深い。2020年の大統領選挙戦中にもバイデンはロシアについて「プーチン大統領のロシアは、NATOやEUの加盟国間の関係を悪化させ、西洋諸国の民主主義の基礎を破壊している」「アメリカの選挙に不正に干渉している」として「アメリカ最大の脅威」と断言し、反ロシアの立場を隠すことはなかった。プーチンのことも「専制君主」と呼んで公然と批判した。
そのためロシアではバイデン政権になれば米露関係はより悪化していくだろうという見解が広がっている。ロシア上院国際問題委員長コンスタンチン・コサチョフ(ロシア語版)はフェイスブックで「(米国による)政治的な動機に基づく制裁がさらに増えるだろう」「米国最優先を掲げたトランプ政権よりもバイデン政権は世界の問題への関与を強め、世界各地でのロシアとの勢力争いが激化する」との見通しを示した。ロシアの外交評論家フュードル・ルキヤノフ(ロシア語版)もイタル・タス通信において「バイデン政権は旧ソ連圏で(ロシアに)より圧力的な政策に回帰する可能性がある。これにロシアはいらだつだろう」「バイデン氏周辺には16年の大統領選介入で民主党の勝利がロシアに奪われたとの怒りを持つ人が多い」と分析している。
ロシア大統領ウラジーミル・プーチンはバイデンが当選確実になった直後に祝辞を出していなかった。米露間で唯一残る核軍縮の枠組みである新戦略兵器削減条約(新START)が2021年2月に期限切れを迎え、バイデンは延長する意向を示しているが、ロシア政府がバイデン勝利を認めない状態だと交渉にも悪影響が出るのではと懸念されていた。11月22日の国営放送においてプーチンは祝辞を送ってないことについて「好き嫌いは関係ない。米国内の対立が終わるのを待っているのだ」「われわれはトランプ氏もバイデン氏も敬意を持って接している」「誰であれ、米国民が信任する人物と働く用意がある」と釈明したが、BBCのモスクワ特派員スティーヴ・ローゼンバーグは「ロシア側が今回の大統領選で、トランプ氏の再選を願っていたことは明らかだ」「トランプ政権だとロシア批判が少なく、西側諸国の同盟関係が弱体化することなどが理由だ」と解説している。
結局プーチンは、2020年12月14日の選挙人投票でバイデンが過半数の選挙人を獲得したのを確認してから、12月15日になってバイデンに祝電を送った。そこには「両国は相違点はあるものの、世界の安全と安定のために特別な責任を負っており、世界が直面する多くの問題の解決に貢献できると信じている」「協力と接触の用意はできている」と記されていた。
対中国政策​
もともとバイデンは1970年代以降のアメリカの対中関与政策を支持してきた人物で、オバマ政権の副大統領だった頃に習近平とは当時国家副主席兼政治局常務委員で胡錦濤国家主席兼総書記の後継者と目されていた時代から個人的な交流を重ねていた。2019年に民主党候補の指名を争っていた際も「中国は米国の競争相手にならない」と発言して共和党やトランプ大統領から中国の脅威を過小評価していると非難された。また、トランプ大統領はハンター・バイデンと中国企業の取引を批判し、中国政府に対してバイデン親子を調査するよう呼びかけていた。しかし、大統領選挙運動中にバイデンもトランプに対して中国に税金を払って中国で秘密の銀行口座を保有して事業を行っていたと攻撃し、中国政府による香港の抗議運動の弾圧やウイグル族の強制収容などを批判して習近平国家主席兼総書記を「悪党」と呼ぶなど中国への態度を急速に硬化させている。背景に2010年代を通して共和党・民主党の党派を超えてアメリカ政界全体に中国は米主導の世界秩序の脅威であるという共通認識が定着してきていることがある。
外交官ジェームズ・グリーンは「新政権は中国に甘いという批判から脇を守る必要がある」「2010年代半ばの米中関係への回帰は望めない」と分析する。
大統領選挙当選後の演説の中でバイデンは「中国に対する最良の戦略は、すべての同盟国などと足並みをそろえることで、就任当初の数週間は、これが最優先事項になる」と述べており、中国に対しては日本を含む多国間の枠組みで対応するべきだという考えを示している。トランプ政権が伝統的な同盟国である日本や韓国、欧州などを「安保のただ乗りをしている」「貿易で不正を働いている」と非難してきたのに対し、バイデンはこうしたことをせず同盟国との連携を深めることで中国に協調行動を取らせることを約束している。またバイデンはオバマ政権時代から米国の軍事的優先事項を中東からアジアに移す推進役になってきたので、今後も中国の南シナ海侵出への牽制などインド太平洋地域重視戦略を維持するだろうとする分析がある。
米陸軍大学校戦略研究所研究教授ジョン・デニは、トランプ政権は中国に厳しい制裁関税などを課す一方でインド太平洋の同盟国と団結して中国に対抗しようとせず、同盟国にも同じ経済関税を課したり、韓国に駐留経費5倍を要求して払わねば在韓米軍を撤収すると脅迫したり、中国を標的とするTPPからも離脱するという「ちぐはぐな外交」だったとし、それに対してバイデン政権は多国間アプローチからそうした「ちぐはぐ」を解消し、その中で同盟国間の貿易摩擦も早期解決が志向され、それに続いて同盟国間の既存の貿易・投資協定を拡大していこうという流れになるのではないかと分析する。自由貿易に前向きな共和党が上院の多数を占める見通しであることから、TPPにアメリカが再加入する可能性もあると指摘している。
一方バイデンは大統領選挙戦中にはトランプ政権が関税の上げ下げによって中国に圧力をかけていることについて「懲罰的な手法はとらない」と発言して否定的な見解を示していた。しかし、当選が確実になった後にはトランプ政権下の米中貿易戦争で実現した米中経済貿易協定や対中関税について「すぐに動かすつもりはない」と述べて当面維持する考えを示している。また「知的財産権の侵害や違法な産業補助金などを是正するための貿易政策を進める」と述べて中国に厳しく改革を求めていく姿勢も示した。
2020年11月7日にバイデンに当確の報道が出ると各国首脳は続々とバイデンに祝辞を贈ったが、中国の習近平はしばらく祝辞を出さず、11月25日になってようやく出している(ただし政府報道官がそれに先立つ11月13日に祝辞を表明している)。文面は「双方が衝突せず、対抗せず、相互に尊重し、協力とウィンウィンの精神」を堅持し「互いの不一致を管理する」ことを求めるという2016年にトランプに贈った祝辞をほぼ踏襲したものだったが、米中関係の悪化を反映して文字数が減っている。
12月28日のデラウェア州の演説で中国を競争相手としたうえで人権侵害や貿易問題で中国に強い立場で臨むとの考えを示した。中国の不公正な貿易慣行や人権侵害などを批判し「中国政府に責任を負わせる」を演説した。「中国と競う上で、志を同じくする同盟国やパートナー国と連合することによって我が国の立場は一層強くなる」「我が国だけなら世界経済に占める割合は約25%にすぎないが、民主的なパートナー国と連合すれば、経済的な影響力は2倍以上になる」と述べ、同盟国と連携して中国に対抗する必要性を改めて強調し、トランプの単独行動主義を否定した。
対日政策​
大統領選挙戦でバイデンは「東アジアの平和を守るため同盟を強化する。部隊を撤収すると脅したりはしない」と述べてトランプの同盟国軽視を批判した。上院議員や副大統領として訪日歴もあり、バイデン政権では対日政策は比較的穏当な路線に戻り、トランプ政権に揺さぶられた日米関係が落ち着きを取り戻すとの見方が強い。
ただし日米外交筋によれば「バイデン政権の閣僚候補の中に『日本は同盟国として大局的な役割を果たしていない』と不満を持つ人がいる」といい、バイデン政権が対中強硬策を講じた場合、日本に具体的協力が求められる可能性があり、逆に対話路線に転じる場合、日米で意思疎通を欠けば混乱する恐れがあると報じられている。また北朝鮮問題をめぐっても内閣総理大臣菅義偉は国会の所信表明演説においてトランプ政権下の米朝対話の流れを念頭に北朝鮮の金正恩との「前提条件なしの対話」に意欲を示したが、バイデンは金正恩との直接対話に否定的な立場を示しているため、オバマ政権時代の「戦略的放置」に戻る可能性もあり、その場合日本の「前提条件なしの対話」路線も練り直しが必要になる可能性がある。日本政府内でもバイデン政権はトランプ政権との差異を示すために北朝鮮に強硬路線を取る可能性が高く、北朝鮮問題の優先順位も含めて不透明であるとの見方が広がっているという。
2021年から5年間の在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)を巡る交渉が本格化する。日本側に4倍の負担増を求めたというトランプ政権の路線が修正されるのか、日本側は当面1年間現行の負担額を継続する「暫定合意」も視野に入れているが、それが認められるのか、外務省幹部は「どうなるか読めない」と語っていると報じられている。
沖縄基地問題への影響について、沖縄国際大学教授の佐藤学は、アメリカは沖縄を中国の軍事的進出に対抗する最前線と位置づけており、その前提となる対中強硬姿勢はバイデン政権になっても続く可能性が高いため、沖縄を取り巻く状況に変化はないだろうと分析している。
自由貿易協定(FTA)を巡っては、トランプ政権と安倍晋三政権が進めた物品貿易協定交渉は自動車などが積み残しになっているため、依然として米国による追加関税の懸念はくすぶっている。またバイデンは新たな通商協定に消極的で、トランプ政権が取り組んできた対日貿易協議もしばらく様子見になるのではとの観測もある。中国に対抗して日米主導でルールづくりを進めるはずだった環太平洋経済連携協定(TPP)について、バイデンはオバマ政権時代に推進した立場であり、2020年大統領選挙中も「TPPは現協定では再加入できないが、再交渉の余地がある」と述べており、前向きな態度を持っているものの、民主党内では復帰反対論が根強いため、不透明と報じられている。
対朝鮮半島政策​
トランプ政権は韓国に駐留経費を5倍に増額しなければ在韓米軍を撤収させるという脅迫を行い、さらに在韓米軍で働く韓国人労働者のうち約半数の4000人以上が駐留経費交渉難航を理由に2020年4月以降から無給休職を強いられた。6月以降は交渉がまとまるまで韓国政府が彼らの給料を支払うことを米政府と合意したが、交渉妥結の目途は立たない状態だった。
これについてバイデンは大統領選挙の直前の2020年10月30日に韓国の『聨合ニュース』に寄稿して、米韓同盟について朝鮮戦争をともに戦った「血で結ばれた同盟」であることを強調し、「在韓米軍を縮小するという向こう見ずな脅しによって韓国を強要するのではなく、私は米大統領として、韓国を支持し、東アジアや他地域の平和を守るために、同盟を強化する」「理にかなった外交を目指し、北朝鮮の非核化と朝鮮半島の統一に向けた取り組みを続ける」と約束した。
そのため韓国内ではバイデンの当選にひとまず安堵の声が広がっている。全国在韓米軍韓国人労働組合の事務局長孫址吾はバイデンの当選について「心からお祝いする。バイデン氏にはお互いの信頼を取り戻し、合理的な水準で駐留経費負担の交渉を早期に妥結させるよう望む」と述べるとともに無給休職問題の改善に取り組むことを求めた。
米民主党政権は伝統的に日米韓の安全保障協力を重視するので、バイデンが日韓関係の修復のため両国間の歴史問題に介入するのではとの懸念が韓国内で広がっている。韓国メディアは、2015年12月に妥結された慰安婦問題の日韓合意はオバマ政権が水面下で両国に迫ったものであるとしたうえでバイデン政権も徴用工問題などで同様の仲裁に乗り出す可能性があるとの見方を伝えている。
北朝鮮に対してはバイデン政権はトランプ政権より厳しい態度で臨むと見られており、また北朝鮮問題自体の優先順位も低いと見られることから、南北融和政策を進めてきた韓国の文在寅政権はトランプ政権で生まれた対話の流れをつなぎ留めようとほとんどコネクションがないバイデン陣営に接触を図っていると報道されている。
大統領選挙のテレビ討論会ではトランプが北朝鮮の朝鮮労働党委員長金正恩と良好な関係を築いて戦争を回避したことを実績として誇ったのに対してバイデンは「悪党を仲間だと言っている」と批判して金正恩を「悪党」と定義するとともに、ナチス・ドイツへの宥和政策を引き合いに出して「我々はヒトラーが欧州を侵略するまで友好関係にあった」と述べ、対話重視の北朝鮮政策を批判した。そして自分は金正恩と個人的交友関係を作るつもりはないことを明言した。
北朝鮮をめぐるトランプとバイデンの対立は、2019年5月の北朝鮮のミサイル発射の時にもあった。このとき北朝鮮に厳しい処置を取るよう求めたジョン・ボルトン大統領補佐官からの進言を退けてトランプ大統領は北朝鮮を批判しなかったが、バイデンは北朝鮮に批判的な立場を取ったため、北朝鮮の朝鮮中央通信はバイデンについて「最高指導者を中傷した」「権力欲に取りつかれて見境と分別がなくなっている」「彼の発言は政治家としてはもちろん、人間としての最低限の資質さえ失った愚か者の詭弁にすぎない」として「知能指数が低い」「低能なばか」と罵倒した。それについてトランプが「私は金委員長に同意する」と記者会見で発言してトランプの金正恩への同調ぶりが問題になった。バイデン陣営の選対本部長は「大統領の発言は大統領職の品位にふさわしくない。戦没者追悼記念日に外国にいて、血なまぐさい独裁者に繰り返し同調して同じアメリカ人の前副大統領を攻撃するなど言語道断だ。大統領は一環してこの国の根幹をないがしろにし、独裁者を温かく歓迎してきた」と批判した。
朝鮮中央通信は2019年11月にもバイデンのことを「大胆にも最高指導者の尊厳を冒とくした」「認知症の末期症状」「バイデンのような狂犬を自由にさせておけば多くの人々に危害が及ぶ」「始末する必要のある狂犬病にかかった犬」と罵倒し、これに対してバイデン陣営の報道官は「不快な独裁者やその称賛者がバイデン氏を脅威と感じている様子が顕著になっている」「バイデン氏が安全や国益、価値感を米国の外交政策の柱とし、世界における米国の統率力を取り戻すことが可能だからだ」と応じた。
バイデン当確が出た後には北朝鮮は一切口をつぐんでいる。北朝鮮の公式メディアはバイデン当選を未だに報じていない。過去の米国大統領選挙は10日以内には伝えていたのでこれだけ長期間沈黙が続くのは異例である。韓国の国家情報院によれば金正恩はバイデンを刺激するなという異例のかん口令を敷いているという。バイデンに当選の祝辞を送っていない指導者は金正恩のみとなっている。
司法​
バイデンは外交通としてのイメージが強いが、司法政策にも精通していることで知られている。特に上院司法委員会での活動は、1977年に初めて委員に就任してから現在に至るまで約30年にも及んでいる。その為同委員会での役職経験も豊富であり、前述のように、1987年から1995年までの8年間にわたって委員長を務めたほか、1981年から1987年と1995年から1997年の2度にわたって、委員会における少数党代表者(ranking minority member)を務めた。(「委員会における少数党代表者」は、各委員会における少数党出身委員の代表者であり、委員会においては副委員長と同格の扱いを受ける(実際に副委員長に就任している委員会もある)要職である。多くの委員会において、同職は委員長と共に、各委員会の下に連なる全ての小委員会のメンバーとなる。また、議会において与野党が逆転した際は、多くの場合、少数党代表者が次の委員長に就任する。)
また司法委員会に連なる5つの小委員会にも在籍しており、前述のように犯罪及び麻薬に関する小委員会では委員長を務めている。5つの小委員会は下記の通りである。
○ 犯罪及び麻薬に関する小委員会
○ 反トラスト競争政策および消費者権利に関する小委員会
○ 人権及び法に関する小委員会
○ 入国管理・国境警備ならびに難民に関する小委員会
○ テロ・技術ならびに国土安全保障に関する小委員会
また上記の委員会活動と並行して、麻薬政策に関して連邦政府への監視・諮問を行う上院国際麻薬取締委員会(The United States Senate Caucus on International Narcotics Control)の議長を務める他、上院のNATOオブザーバーグループの共同議長も務めている。
主な政策​
バイデンは司法委員として様々な問題に取り組んでいるが、その中でも麻薬政策に熱心に取り組んでいる。また、麻薬政策のみならず、犯罪防止政策や人権政策などにも積極的に取り組んでいる。
連邦最高裁判事の承認問題
上院司法委員会の重要な任務の1つに、アメリカ連邦最高裁判所判事の承認がある。司法委員会は上院本会議での投票に先立ち公聴会を開催し、大統領が指名した判事候補者に対して質疑応答・投票による審査を行うが、バイデンは委員長として、大きな議論を呼んだ2度の公聴会を主催している。
○ ロバート・ボーク候補への公聴会(1987年) バイデンが初めて主催した判事候補者に対する公聴会は、保守派の大物であったロバート・ボーク候補に対するものであった。ボークはロナルド・レーガン大統領によって判事候補者に指名されたのだが、バイデンは指名直後から反対を明言した。しかし、彼は前年にボークの指名が確実視されていた際に受けたインタビューで賛成する意向を表明していたため、この早々の反対表明は「公正な公聴会運営ができない」として保守派の怒りを買った。しかし彼は、この公聴会の期間中に彼の大統領選挙キャンペーンが挫折・撤退を余儀なくされたにも関わらず、公平に、かつ素晴らしいユーモアと度胸を持って公聴会を仕切ったことで、最終的に高く評価されることになったのである。そもそもボーク指名に対する反対は根強く、共和党内でも、穏健派で上院司法委員会のメンバーでもあるアーレン・スペクター議員が反対を表明するような状況であった。公聴会ではスペクターやエドワード・ケネディらが激しい質問をボークに浴びせた。バイデンは自らの質問の中で、アメリカ合衆国憲法で規定されている自由とプライバシーの権利は、憲法上で明文化されている以上に拡大されており、この点とボークが主張する強力な始原主義はイデオロギー的に両立しないのではないかという論点を中心に質疑を行った。最終的に、ボークの承認案は上院司法委員会・上院本会議の双方で否決されることとなった。ちなみに司法委員会においては賛成5票・反対9票で、上院本会議においては賛成42票・反対58票という投票結果であった。ちなみにバイデン自身も先立っての反対表明通り、反対票を投じた。
○ クラレンス・トーマス候補への公聴会(1991年) バイデンが2度目に主催した判事候補者に対する公聴会は、ボークと同じく保守派のクラレンス・トーマス候補に対するものであった。トーマスは、黒人初の連邦最高裁判事として知られたサーグッド・マーシャルの後任として、ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ大統領によって判事候補者に指名され、公聴会が行われた。バイデンは、トーマスに対する公聴会において財産権に関する憲法上の問題に関して質問したのだが、この質問はしばしば長く複雑なものとなり、答える側のトーマスが、質問を忘れてしまうほどであった。トーマスは後に、この時のことを「バイデン氏の質問は危険球のようなものであった。」と述べている。しかし、公聴会が終盤に差し掛かった時期に大きな問題が明らかになる。かつてトーマスが雇用機会均等委員会委員長を務めていた時の部下であったアニタ・ヒル(現ブランダイス大学教授)が、「トーマス氏からセクハラを受けていた」と告発したことを記載した司法委員会とFBIの報告書が、ナショナル・パブリック・ラジオの最高裁担当記者であったニーナ・トーテンバーグの元にリークされ、これを契機にトーマスのセクハラ問題が連日メディアで取り上げられ、急浮上することになったのである。この時の公聴会は全米にテレビ中継され、アメリカ国民の大きな関心を呼んだ。この時バイデンは、1987年の大統領選挙における自身の苦い経験(後述)もあって個人的な問題に踏み込むことを躊躇しており、ヒル本人が宣誓証言する意思のないことを理由に、告発の事実を委員会内で公表するに留め、完全に公にはしていなかった。さらに、一転してヒルが公聴会で証言した後は、同様の告発を行っていたアンジェラ・ライトやハラスメント問題の専門家など、彼女を支持する他の証人による更なる証言を一切認めなかった。これについてバイデンは、「トーマス氏のプライバシーの権利と、委員会の品位を守るために取った措置である」と発言している。結局トーマスの承認案は、アーレン・スペクター上院議員がヒルの証言に信憑性がないこととして、攻撃的な質問を行うなど激論が交わされた後、上院本会議にて賛成52票・反対48票の僅差で可決された。バイデンはこの時も反対票を投じたが、その後彼はリベラル派の弁護士グループや女性団体などから「(委員長でありながら、)証人であるヒルを十分にサポートせず、公聴会の進行を誤った」と強い批判を浴びることになった。この後彼は司法委員会で働く女性を捜し、「女性に関する問題は委員会における立法議題の1つである」と強調するなど、弁明を行った。
犯罪関連法案の制定​
バイデンはこれまで数々の犯罪に関連する連邦法制定に関与してきている。1984年に民主党の議事進行係議員を務めていた際に携わった犯罪管理法(Comprehensive Crime Control Act)の制定では、いくつかの条項に対して修正を加えたが、その修正が同法の通過・成立に大きな影響を与えたとして、市民的自由至上主義者(シヴィル・リバタリアン)から高評価を受けた。
また1994年に携わった「暴力犯罪防止・法執行法」(Violent Crime Control and Law Enforcement Act (VCCLEA))においては、同法とそれに連なる法律の起草作業の先頭に立ち、成立に尽力した。この法律は一般に“バイデン犯罪法”として知られており、彼の最大の業績として広く認識されている。 この法律によって定められた主な点は以下の通りである。
○ 「女性に対する暴力法」(Violence Against Women Act (VAWA) )の制定 VCCLEAの第4章という形で、「女性に対する暴力法」(VAWA)が定められた。VAWAは、ドメスティック・バイオレンスを犯罪と規定し、加害者責任を追及することに言及している点で当時としては画期的であり、VCCLEA(暴力犯罪防止・法執行法)に関する一連の法案の中でも特に高い評価を得ている。さらに同法では、女性に対する暴力の捜査・訴追の強化に16億ドルの連邦予算が投じること、被告人の審理前拘留を拡大すること、有罪となった場合に強制的かつ自動的に賠償義務を課すことと、不起訴となった場合でも民事による救済を認めることなどが規定された。VAWA(女性に対する暴力法)は5年間の時限立法であり、延長するためには議会の再承認が必要である。VAWA(女性に対する暴力法)は2000年と2005年の2回にわたって再承認されている。しかし、2000年に連邦最高裁が、民事による救済に関する条項に関して「連邦主義の観点から見て、違憲である」という判断を下した為、この条項に則って進められていた事業は事実上ストップしている。バイデンはVAWA(女性に対する暴力法)について、「VAWAこそが35年間に渡る上院議員生活で関わった立法の中でも、唯一最も重要な法案だと考えている」と発言している。これに関連して、2004年3月にはテキサス州オースティンに本拠を置く関連団体「ナショナル・ドメスティックバイオレンス・ホットライン」が問題を抱えた際には、大手技術系企業の協力を得て問題の調査を行い、設備の寄付などを行った。
○ 受刑者に対する教育の廃止 VCCLEA(暴力犯罪防止・法執行法)の中では、受刑者に対する教育に関して重要な条項が定められた。1965年に定められた高等教育法に対する修正条項である。高等教育法では、受刑者が出所後に高等教育を受けることができるように、収監中でもペル奨学金(Pell Grant,教育省が資金を提供している奨学金制度で、前述の高等教育法に基づいて設立された。ペルという名前は、関連条項の制定に尽力したクレイボーン・ペル上院議員の名前にちなんだものである。)を受けることを許容していたのだが、この修正条項ではその方針が180度転換され、「連邦ないしは州の刑務所に収監中のいかなる人物に対しても、基礎奨学金を与えてはならない」と定められた。この修正条項は、低収入の受刑者が刑期中に大学教育を受ける機会を事実上奪うものであり、刑期中の受刑者の教育レベルが改善されないままになってしまうことから、議論を呼んでいる。
○ 連邦死刑法の制定 この法律の第6章という形で連邦死刑法が定められた。元来アメリカ合衆国は死刑存置国であるが、この法律においてはテロ行為や薬物の違法取引・走行中の車からの銃撃による殺人など、60の犯罪が新たに死刑適用対象として定められた。この法律については、現在も大きな変更が加えられることなく運用されている。ちなみに、この法律が施行された数ヵ月後にオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件が発生した。同事件の主犯であったティモシー・マクベイは、この法律によって死刑を執行された。
○ 対人殺傷用武器と見なされた半自動式火器の規制 この法律の第11章によって、対人殺傷用武器と見なされた半自動(セミオートマチック)式火器19種類に対して規制が加えられた。着脱可能な弾倉を有するアサルトライフルが規制された他、以下の6種類の器具のうち2種類以上を装備した銃が規制対象となった。
はめ込み式の銃床 / 折り畳み式の銃床 / ピストルグリップ / フラッシュハイダー / グレネードランチャー / 銃剣固定用ラグ
2004年に同法が無効になり、半自動火器の売上が増えたことにバイデンは「半自動火器は扱いが難しい。護身には散弾銃を使うべきだ」とコメントした。しかし、全米ライフル協会や銃所持賛成派からは「散弾銃は反動が重く、特に女性の護身には適さない」などと批判を受けた。
○ 警察・刑務システムの強化 この法律によって警察・刑務システムの強化が図られた。警察組織の強化策として10万人を超える警察官を雇用することが決定された。また刑務・更生システムの強化策として、非行少年に対する矯正ブートキャンプが開始された他、刑務所の建設に十分な額の予算を割り当てることが定められた。この条項の施行によって、アメリカの犯罪率は1世代で最低水準まで下がったと評価されている。
○ 新たな連邦犯罪の指定 この法律において、新たに50の犯罪が連邦犯罪(連邦捜査局が捜査権限を持つ犯罪)に指定された。特に有名なのはギャングに加入することを罪としている条項であり、この点については一部では権利章典で保障されている結社の自由を侵害しているのでは無いかという議論がある。
クリントン大統領のスキャンダル問題に対して​
1990年代にビル・クリントン大統領の任期中には、ホワイトウォーター疑惑(クリントンがアーカンソー州知事時代、知人と共同経営していた不動産開発会社「ホワイトウォーター」に関連して、不正な土地取引や融資を行っていたのではないかという疑惑。)やモニカ・ルインスキーとの不倫疑惑、さらには当時大統領次席法律顧問を務めていたヴィンセント・フォスターが不可解な自殺を遂げるなど、同大統領に関する数々のスキャンダルが浮上し、ジョージ・H・W・ブッシュ政権で訴務長官を務めたケネス・スターが独立検察官に任命され、厳しい捜査・追及が行われた。 バイデンは特にホワイトウォーター疑惑とルインスキー疑惑の2件に関するスターの捜査活動に批判的であり、クリントン大統領に対する弾劾法案にも反対票を投じた。
麻薬政策​
バイデンは前述のように上院議員有志で作る「上院国際麻薬取締会議」の議長を務めており、麻薬取締政策に熱心に取り組んでいる。同会議の議長としてバイデンは、連邦政府の麻薬取締政策を統括する「麻薬問題担当長官」(Drug Czar)を創設する法案を起草した。2002年にはレイヴ法(RAVE Act)を議会に提案した。同法は薬物を故意に保持するなど、薬物を使用可能な状態に置く行為から、製造・販売などで利益を得る行為、実際に使用する行為に至るまで、個人の規制薬物に関連するあらゆる行為を禁止するものである。この法案は第107回連邦議会の会期中に提案・審議されていたものの、審議中に議会が閉会したことから、2003年1月3日に開会した第108回連邦議会の冒頭に再び提案された(正式な提案日は2003年1月7日)。再提案時には、トム・ダシュル上院議員(当時)が主提案者となり、バイデンは10人の賛同者のうちの1人として名を連ねた。しかしこの時は、2人の議員が賛同を取り下げたことで可決に失敗してしまった。この可決失敗の後、レイヴ法自体は再提案されることはなかった。しかし、ほぼ同じ内容を持つ「不法薬物反拡散法」(Illicit Drug Anti-Proliferation Act)が2003年4月30日に成立したことで、レイヴ法の目的は達成されたと言える。多くのスポーツ選手や一般人が使用していることで社会問題となった、アンドロステンジオン(アンドロ)に代表されるステロイドを非合法化する法律を2004年に成立させた。この時期には議会で『薬を使って強くなるのは反則だ。アメリカ的ではない。』とのスピーチを行うも、クリス・ベルはこれに対して『いやそれは逆で、ものすごくアメリカ的なことだと思いますよ。』と反論している。彼が現在取り組んでいる麻薬関連の政策は、デートレイプ・ドラッグと呼ばれる種類の薬物と、エクスタシー(MDMA)・ケタミンの2種類の薬物の規制である。このうち前者は、フルニトラゼパムに代表される薬物で、健忘などの症状を引き起こす事からデートレイプにしばしば悪用される。また後者は、主に若者の間で急速に広まっている薬物であり、深刻な社会問題となっている。
その他の業績​
バイデンの司法関連の業績の中で、あまり知られていないのが教育関連の立法である。彼は、“キッズ2000”(Kids 2000)法の成立に関わっている。この法案では、以下のような項目について支援が決定された。
○ 高等教育に対する家庭支出の支援・促進 高等教育に対する家庭の支出を支援・促進する目的で、所得税の控除を行う制度である。高等教育を受ける家族に学資援助を行ったり、あるいは学資ローンを利用している家庭は、1年間に家庭が支払う所得税について、年間1万ドルを上限に控除が受けられるようになっている。
○ デジタル・ディバイドの是正支援 若者に対してデジタル教育を施すことを目的とした、公的機関と民間のパートナーシップを設立することを目指したものである。このパートナーシップは、若者にコンピュータセンターや専門の教師、インターネットアクセスやその他の専門的な訓練を提供することで、コンピュータ教育やインターネット教育のレベルを向上させ、デジタル・ディバイドを是正することが目標であり、家庭の収入が低く、非行に走る可能性のある少年を主要なターゲットに据えている。

 

●疑惑​
ウクライナへの圧力をめぐる疑惑​
2016年にアメリカ合衆国副大統領としてウクライナを訪問した際に、同国の検事総長の罷免を要求したという疑いをかけられている。検事総長は、ジョー・バイデンの次男ハンター・バイデンが役員を務めていた同国ガス会社の捜査を統括する立場にあり、辞任後に捜査は打ち切られたため、この疑惑がかかっている。ドナルド・トランプ大統領はこの疑惑を大統領選挙の直前に野党・民主党の有力大統領候補ジョー・バイデンを追い落とす材料にしようとした為か、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領にこの疑惑の天然ガス会社を捜査するようトランプ政権の外交チームで圧力をかけたり自ら直接電話交渉をしたりしていたが、逆に外交安全保障を私的な駆け引きのために悪用し、憲法違反、大統領宣誓違反によって国民を裏切ったとして米情報機関からは内部告発され、下院から「権力の乱用」などの罪で弾劾訴追されてしまうという展開となった。
セクハラ・性的暴行疑惑
バイデンにはこれまでに女性に行った複数のセクシャルハラスメント疑惑がかけられてきた。
2019年3月に女性の民主党員で元ネヴァダ州議会議員のルーシー・フローレス(英語: Lucy Flores)は、2014年の選挙活動中にバイデンが背後から近づき、髪の香りをかいで、ゆっくりと後頭部にキスされたとし、「これほど露骨に不適切な真似を経験したことがない」と告発した。
2019年3月、民主党内部の2人の女性から複数のセクハラ行為を受けたと告発された。4月3日、ツイッターに投稿した動画で自身のセクハラ問題について釈明した。その後も告発者が続き、2019年4月5日現在、7名の女性が名乗り出ている。オバマ政権時の副大統領時代から彼の過剰な女性(未成年者・児童を含む)への接触は一部メディア・インターネットで話題になっていた。同年4月、ジム・ハインズ下院議員(民主党)の側近エイミー・ラッポスは、2009年にバイデンが台所でラッポスの顔を両手で包み、鼻をこすり合わせるなど不適切に触られたと告発した。ラッポスは「不適切に触ったり、セクハラをしてレイプ文化を増長させるような男性は、権力の場にいてはいけない」「こうした振る舞いを『単なる好意』『おじいちゃんみたい』『フレンドリー』と言ってしまうこと自体、この問題を非常に軽視していることの表れで、問題の一部だ」と批判した。
批判が高まった背景として、民主党が2018年にブレット・カバノー最高裁判所判事の過去の性的暴行疑惑を徹底的に追及したのに対し、バイデンのセクハラ疑惑は「問題ない」と片付けようとしているとして、左派勢力および保守勢力の双方から「二重基準」「偽善的な対応」と批判されたこと、またバイデン自身はかつて他人の疑惑をめぐり「名乗り出た女性を信じるべきだ」と女性側の主張を聞き入れるよう批判したこと、ほか、支持母体の民主党も大統領選挙の政敵であるトランプ大統領の性的暴行疑惑を盛んに非難してきた経緯があった。
バイデンは2019年4月に大統領選挙出馬を表明した際の動画の中で女性4人が不適切な接触行為を受けたと主張している件を巡って謝罪し、社会規範が変わりつつあるとしたうえで今後は「人々のパーソナルスペース(個人的空間)により配慮し、尊重する」と語る動画をツイッターに投稿した。
2020年3月26日にはバイデンが1993年に雇っていた当時20代の女性事務職員タラ・リード(Tara Reade)がバイデンから性的暴行を受けたと主張した。リードによると、バイデンが壁に押しつけたあとにキスをし、スカートの中に手を入れ性器に指を挿入し、「どこか別の場所へ行かないか」と囁いたという。リードは、民主党は「すべての女性が安全に発言できる国を作りたいという立場を取っているが、私はその機会に恵まれなかった」とバイデン陣営を批判し、さらにバイデン氏支持者から証拠がないままロシアのスパイだと非難され、殺害予告を受け取ったり、SNSアカウントをハッキングされて、個人情報が抜かれたと述べた。5月1日にバイデンはリードの主張について真実ではないとして全面的に否定した。  
 
 
 
 
 
 

 


 
 
 

 

●ワシントン大統領 1789/4/30-1797/3/4
 
 
●第1代 ジョージ・ワシントン大統領就任演説 1789年 
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1789年4月30日は、歴史上忘れてはならない日です。米国初代大統領、ジョージ.ワシントンは、1789年のこの日、ニューヨーク市のウォール街にあるアメリカ合衆国フェデラル.ホール〔議会での旧議事堂〕で、歴史上最初の大統領就任演説を行いました。1789年と言えば、フランス革命や人権宣言の採択など、世界史の中でも重要な年です。日本史では50年在位した第十一代将軍、徳川家斉の時代で、年号が天明から寛政に変わった年です。
さて、ワシントンの演説で、国民の安全、英国との外交関係、独立戦争後の不安定な経済状況、新天地のインディアンとの友好関係に深い憂いを抱いていたワシントンは、英国が1689年に制定したThe Bill of Rights 〔権利章典〕と共にアメリカ合衆国の憲法改正を議会に要求しました。米国憲法改正第一条から第十条を総じて権利章典と呼んでいることはご承知のとおりです。中でも、言論、報道、集会、宗教の自由を謳った憲法改正第一条は、米国精髄の法であると言えましょう。米国の重大な礎を築く発端となったこの就任演説から223年目を迎えた今日、米国権利章典の精神は失われたと悲観する声もあるようです。
ジョージ.ワシントンは、独立戦争を率いた優秀な軍人でしたが、自分は庶民的な農民だと信じていたようです。しかし、論理的で組織的な農業と肥料方法に関しては、米国の先駆者であり、除々に土地所有拡大に成功しています。今日のバージニア州、マウント.バーノンの邸宅には、約3,200ヘクタールの壮大な土地と荘園が広がり、更に雄大なポトマック川を見渡す風景は絶妙そのものです。また、さほど、読書人でもなかったワシントンの、「書物から得た知識は、更に知識を積み重ねるための土台である」と述べた言葉は有名です。1799年12月14日に死去したワシントンの人生は、「最初に戦争にあり、最初に平和にあり、そして最初に、彼の国民の心の中にあり、彼に勝る者はいなかった」と、当時の側近のワシントンに対する評価が残されています。悲しいかな、「国民の心の中にあり」と言えるような指導者は、現在はほぼ存在しません。
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1789年、最初のアメリカ合衆国大統領選挙で初代大統領に選出された。以後、2期8年を務める事になる。この際、選挙人団(特定の候補に投票する事を約束した集団)による投票でワシントンは支持率100%という驚異的支持を得ており、これは歴代大統領で唯一ワシントンのみが達成した偉業である。ただ、本人は大統領就任にそこまで積極的ではなく、就任演説でも「自分は大統領の器ではない」などと言う程であった。ワシントン政権は副大統領にジョン・アダムズ、国務長官にトーマス・ジェファーソンなど後に大統領など要職を務める大物が多数在籍していた。また、今のアメリカとは違って政党所属者が1人もいない政権だった。これは、ワシントンが政党政治を「対立の原因になる」として嫌い、「同じ共和主義を信奉する者同士なのだから政党を作るまでもない」として政党を作らなかったからである。政権の具体的な政策としては、ウイスキーへの税導入とジェイ条約締結がある。まずウイスキー税だが、これは独立戦争時の借金返済や社会規律の維持などを目的にウイスキーへ税金を課す政策である。しかし、これにより一部の州でウイスキー反乱と呼ばれる暴動が起きる事態となり、ワシントンは自ら国軍や州兵を率いて暴動の鎮静を行った。結果、暴動は鎮圧されたがウイスキー税への理解は深まる事は無く、1809年に同税が廃止されるまで殆どの州で守られる事はなかったという。次にジェイ条約だが、これは独立戦争以来冷えきっていたイギリスとの関係改善を目指した条約で、『イギリスへのミシシッピ川の開放』『イギリスの敵国(主にフランス)私掠船(敵対国の船に対する略奪を許可された船)に対する補給の禁止』『独立戦争以前のアメリカからイギリスに対する借金の返済』の3項目を基軸とするものだった。これにより、イギリスとの関係は飛躍的に改善したが、独立戦争時より友好関係にあったフランスへの裏切りと受け取れる条約であったため、国内では賛否両論だった。これら諸政策を実行した後の1797年、ワシントンは3期目の大統領選出馬を辞退し政界も引退した。引退の際、ワシントンは国民に向け『政党政治の否定』『外国への不干渉』などを求める挨拶文を残している。この大統領3期目の拒否や挨拶文の内容の一部は、後にアメリカの政治制度や外交姿勢を形作る上での手本となっている。  
 
 

 

●第1代 ジョージ・ワシントン大統領第二期就任演説 1793年 
同胞諸君よ。
私は国民の声によって、大統領職の遂行を再び求められた。適切な時期が訪れれば、この大いなる栄誉の、そして米国民が私に寄せてきた信頼の高い意義を示すよう努める所存である。
憲法は大統領に対し、如何なる公務よりも先に就任宣誓を行うよう求めている。私が今まさに諸君の眼前で行わんとしている宣誓。任期中、その命令を積極的に、または故意に破った事例が見付かったならば、私は(憲法上の処罰を受けるのみならず)この厳粛な式典を只今見ている諸君全員の批判を受けるであろう。
初代大統領のジョージ・ワシントンの就任式は1789年4月30日に当時、ニューヨークにあった連邦公会堂のバルコニーで行われました。その4年後、1793年の2回目の大統領就任演説は、その短さが伝説となっているんです。何と、わずか135語。アメリカ史上、最も短い就任演説と言われています。文字の量を見る限り、1分ほどの短いスピーチだったのかもしれません。 
 
 
 
 

 

 
 
 

 

●ジェファソン大統領 1801/3/4-1809/3/4 
 
 
●第3代 ジェファソン大統領就任演説 1801年 
友人諸君、そして市民同胞の皆さん
この度、わが国の最高行政職の重責を担うよう命じられましたが、私はここにお集まりの市民同胞のみなさんの前で、進んで私に期待を寄せて下さった方々に対する感謝の念を表します。同時に私は、この職務は私の才能に余るものであることを自覚しており、責任の重さと私の無力さが当然喚起する、ひどく不安な胸騒ぎを感じながら、職務に就かんとしていることを、告白したいと思います。この国は、広大で肥沃な土地の上に広がり、産業による豊かな生産物を携えてあらゆる海を渡り、力を意識して正義を忘れた国々との通商に従事し、人間の目が見通すことのできない運命に向かって足早に進んでいる、台頭する国家です。これらの卓越した特長について熟考し、今日の問題に真剣に取り組んでいるこの最愛の国の名誉、幸福、そして希望を目にするとき、私は職務の大きさの前で、自分の卑小さを感じます。確かに、私が絶望していたら、わが国憲法が定めたもう1つの権威の中には、困難に直面した時に頼りにすべき知恵と、徳と、熱意の源泉があることを、ここにいらっしゃる大勢の方々が私に思い出させてくれなかったでしょう。私は心強さを感じつつ、立法府としての機能を果たす責任を課せられた議員の皆さん、議会関係者の皆さんに、ご指導とご支援を賜りたいと思います。そうすれば、波乱の世界の荒波のただ中に私たち全員が乗り込んだ船を、安全に航海させることができるでありましょう。
我々がくぐり抜けてきた論争の際には、自由に物事を考えたり、思っていることを口にしたり書いたりすることに慣れていない人を、時に戸惑わせるような活発な議論や活動がありました。しかし、国民の声によってこれに決着がつき、憲法の規則に従って発表された今、当然ながら全員が法律の意図の下で、公共の利益のために一丸となって共通の努力をするでしょう。また、どんな場合も多数派の意思が優先されるが、その意思が正当なものであるためには、理に適ったものでなければならないこと、そして少数派も同等の権利を持っており、公平な法律によってそれは守られなければならず、その侵害は弾圧であるという神聖な原則を、全員が心にとどめておくべきです。ですから、市民同胞の皆さん、心と精神を1つにして団結しましょう。調和と愛情がなければ、自由や人生そのものさえもわびしいものとなってしまいます。さあ、この2つを取り戻し、社会的な交わりを高めましょう。そして私たちは、人類がかくも長い間悲しみ、苦しんできた宗教的不寛容を、この国土から追放しましたが、独裁的で邪悪で、ひどい流血の迫害をもたらしかねない政治的不寛容を黙認するなら、我々はまだ何も得ていないのだ、ということを想起しましょう。かつての世界の苦闘と動乱の最中に、そして怒りに駆られた人間が流血と殺戮によって、長い間失われた自由を求めた苦痛の時代には、その騒がしい大波が、この遠く離れた平和な岸にまで達することも、社会不安に対する危機感が人によって違うことも、そしてそれに対する安全策に関する意見が分かれることも、驚くべきことではありませんでした。しかし、あらゆる意見の相違は、そのまま原則の相違ということにはなりません。我々は同じ原則の仲間を、違う名前で呼んできただけなのです。我々はみな共和主義者であり、みな連邦主義者です。もし我々の間に、この連邦を解体したい、あるいは共和政体を変更したいと思っている人がいたとしても、彼らを邪魔しないでおきましょう。それは、理性が間違った意見と自由に戦える場所では、そうした意見を大目に見ても安全であることの証になります。確かに一部の正直な人々が、共和制政府は強くなれないのではないか、この政府は十分に強くないのではないか、と心配していることを、私は知っています。しかし成功した実験の大波に包まれている正直な愛国者が、世界の希望の星であるこの政府には、ひょっとしたら生き残るための活力が欠けているのではないかという、理論的、机上の空論的恐怖に駆られて、これまで我々の自由と自立を守ってきた政府を見捨てたりするでしょうか。私は、そんなことはないと思います。それどころか、私は、これが地球上で最強の政府であると信じています。これは、すべての人間が、法の求めに応じ、法の旗の下に馳せ参じ、公の秩序の侵害に対して、自らの問題として立ち向かう、唯一のものであると信じています。人間には自分自身の統治を任せることはできない、と言われることがあります。では、他者の統治を任せることはできるのでしょうか。それとも我々は、人間を統治する、国王の形をした天使を見つけたのでしょうか。この質問は歴史に答えさせましょう。
さあ、勇気と確信を持って、我々自身の連邦主義的、共和主義的な原則を追求し、この連邦と代議制政府に対する愛着を持ち続けましょう。我々は、幸いにも自然と大洋によって、地球の一角の壊滅的な混乱から隔てられています。余りにも志が高いゆえに、他人の堕落に耐えることができません。何十世代にもわたって我々の子孫を受け入れる余裕を持つ、選ばれた国土を所有しています。出自ではなく行動と行動意識の産物として、我々自身の能力を生かし、勤勉さを身につけ、市民同胞名誉と信頼を得る権利を誰もが平等に持っていることを認識しています。さまざまな形で信奉され、まさに実践されながらも、そのすべてが正直さと真実と中庸と感謝と、そして人間愛を含んでいる慈悲深い宗教によって啓発されています。そして、今ここにいる人間の幸福とその今後の一層の幸福を喜びとしていることを、あらゆる恩恵によって示している圧倒的な摂理を認識し、崇めています。これほど多くの祝福を受けている我々が、幸せな繁栄する国民となるためにこれ以上何か必要でしょうか。いや、もう1つ足りません。市民同胞の皆さん、それは賢明で質素な政府です。それは人々が互いに傷つけあわないように抑制し、それ以外では人々が自ら律して勤勉さと改善を追求する自由を認め、労働者の口から稼いだパンを取り上げたりはしない政府です。これが要するに、優れた政府です。そして、我々の至福の環を完結させるためには、それが必要なのです。
市民同胞の皆さん、皆さんにとって大切で貴重なものすべてを包含した職務の遂行に入ろうとしている今、我々の政府にとって必須の原則と私が考えているものについて、そしてひいては、その運営を形作るべきものについて、皆さんに理解していただく方がよいでしょう。私はそれを適用される最も狭い範囲に絞り、一般的な原則を申し上げますが、その限界についての詳細は差し控えます。宗教的、政治的な地位や信条に関わらず、すべての人々に平等かつ厳密な正義をもたらすこと。どの国との同盟にも巻き込まれることなく、すべての国との平和、通商、誠実な友好関係をもたらすこと。国内問題に関する最も有能な統治組織として、そして反共和主義的な傾向に対する最も確実な防波堤として、州政府のあらゆる権利を支援すること。我々の国内の平和と海外での安全の最後の拠り所として、全体政府による憲法上のあらゆる活動を維持すること。国民の選挙権を注意深く保護すること。これは、平和的な救済手段が提供されない場合には、革命という剣によって切り落とされる権力の乱用を、穏健かつ安全に正す手段です。多数派の決定に絶対に黙従すること。これは共和政体に不可欠な原則です。多数派の決定を覆すのは武力だけです。が、それは独裁の基本原則であり、独裁の生みの親であります。平時において、そして戦争の初期段階において、正規軍が救援に来るまでの最も頼りになる存在である、訓練の行き届いた民兵を持つこと。軍人に対する文官の優越性。公費を節約し、国民の負担を軽減すること。債務を誠実に返済し、神聖な国民の信頼を維持すること。農業と、それを充足する通商を奨励すること。情報を普及させ、あらゆる権力の乱用を公的理性の法廷で糾弾すること。宗教の自由、出版の自由、人身保護令状によって守られる個人の自由、そして公平に選ばれた陪審員による裁判・・・。これらの諸原則は、我々の前を進み、革命と再編の時代を通じて我々の足元を照らしてくれた明るい星座を作り上げています。これらの原則を達成するために、我々賢人たちの知恵と英雄たちの血が捧げられてきました。これを我々の政治的誠意の信条とし、市民教育の教科書とし、われわれが信頼する人々の服務ぶりに対する試金石とすべきです。そして、過ちや動揺によって、この原則から外れた場合には、我々の足跡を引き返し、平和、自由、安全に通じる唯一の道を取り戻そうではありませんか。
それでは、市民同胞の皆さん、皆さんが私に課した職務に今から赴くことにします。私は下級の職にあったとき、この最も重大な仕事の困難さを十分に見てきました。不完全な人間が、この仕事に就かせた評価と支持を保ったまま引退するような幸運は、めったに期待できないことを学びました。我々の最初の偉大な革命家は、その卓越した奉仕によって当然ながら国民の愛情を一身に集め、忠実な歴史書の最も美しいページに記述されています。そのような高い信頼を得ているという自負もない私としましては、皆さんの問題を処理する司法機関の堅実さと能力に寄せる程度の信頼をお願いしたいと思います。判断の誤りから、私はしばしば間違いを犯すでしょう。私が正しいときでも、全体を見渡せる立場にない人たちからは、しばしば間違っていると見られるでしょう。私の間違いを大目に見るようお願いします。それは決して、意図的ではないのです。そして、あらゆる部分を見れば非難はしないはずのことを非難する人々の間違いを支持しないでください。皆さんが投票によって暗に私を承認してくださったことは、私の過去に関する慰めになっています。そして、これから私が心がけることは、事前に聞かせていただいた良い意見を尊重し、他の意見についてはできる限り善処して両立を図り、全員の幸福と自由の役に立つことであります。
それでは、皆さんの善意による支援を頼りに、私は謹んで仕事に向かいます。皆さんが自分たちの力を行使すれば、もっといい選択ができると感じたときには、いつでも私は身を引く覚悟です。万物の運命を支配する無限の力が、我々の行政府を最高の状態に導き、皆さんの平和と繁栄に貢献できることを祈念いたします。 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 

 

●ケネディ大統領 1961-1963/11/22 
 
 
●第35代 ジョン・F・ケネディ大統領就任演説 1961年 
1960年、ジョン・F・ケネディはリチャード・M・ニクソンを破り第35代合衆国大統領になった。第二次世界大戦の英雄であり、マサチューセッツ州選出の連邦下院議員と上院議員を務めたケネディとその若い家族は、楽観的で若々しい活気をホワイトハウスにもたらした。当時、共産党の率いるソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)を相手にした米国の冷戦の戦いは、世界各地で一触即発の度を強めていた。ドイツからキューバ、さらには東南アジアにかけて、米国が支援する勢力とソ連が援助する勢力の間の緊張が高まり、壊滅的な核の応酬へと発展しかねない情勢となっていた。
1961年1月20日、ケネディはワシントンDCの連邦議会議事堂の石段で就任演説を行った。彼の言葉は、当時の死活的に重要な外交政策の課題に焦点を当てていた。彼は、米国は「いかなる代償も払い、いかなる重荷も負う」と述べて、共産主義の挑戦に対抗して自由の諸勢力を支援する米国の決意を示した。しかしながらケネディは、それに代わる構想もまた提示した。ソ連の国民と米国民に、軍備管理と交渉、そして「人類共通の敵、すなわち圧政、貧困、疾病、そして戦争そのものとの闘い」を呼びかけた。
年若い大統領としてケネディは、自らを「米国民の新しい世代」の一員とみなし、同世代の人々に対して、より良い世の中に向かって働くよう呼びかけることを恐れなかった。就任演説の中の最も有名な部分でケネディは、米国民に自己利益を超えて、自分の国のために働くよう促し、「あなたの国があなたのために何ができるかを問うのではなく、あなたがあなたの国のために何ができるのかを問うてほしい」と述べた。  
ジョンソン副大統領、議長、最高裁長官、アイゼンハワー大統領、ニクソン副大統領、トルーマン大統領、聖職者、そして国民の皆さん、
今日われわれは、政党の勝利を祝っているのではなく、自由の祝典を執り行っている。これは、始まりと同時に終わりを象徴するものであり、変化とともに再生を意味するものである。なぜなら、私は、1世紀と4分の3世紀近く前にわれわれの先達たちが定めたものと同じ荘厳な誓いの言葉を、皆さんと全能の神の前で誓ったからである。
今や世界は、大きく変貌している。死ぬべき運命にある人類が、あらゆる形の人間の貧困とあらゆる形第35代大統領ジョン・F・ケネディ143の人間の生命を根絶させる力を手にしているからである。しかし、それにもかかわらず、われわれの先達がそのために闘った同じ革命的な信念が、今も依然として世界中で争点となっている。それは、人間の権利は国家の寛大さからではなく、神の手からもたらされる、という信念である。
今日われわれは、自分たちがその最初の革命の継承者であることを忘れてはならない。今この時、この場所から、友人に対しても敵に対しても、次の言葉を伝えよう。すなわち、たいまつは米国民の新しい世代に引き継がれた、と。それは、この世紀に生まれ、戦争によって鍛えられ、困難で厳しい平和によって律せられ、われわれの古い遺産を誇りとし、そして、この国が常にそのために尽力してきた、そして、今日もわれわれが国内で、また世界中でそのために尽力している諸々の人権がゆっくりと奪われていく様子を目の当たりにしたり許したりすることを不本意とする世代である。
われわれの幸福を願う国にせよ、われわれの不幸を願う国にせよ、あらゆる国に対して、われわれは自由の存続と成功を確保するためなら、いかなる代償をも払い、いかなる重荷も負い、いかなる苦難にも立ち向かい、いかなる友人をも支持し、いかなる敵にも対抗することを知らしめようではないか。
われわれの幸福を願う国にせよ、われわれの不幸を願う国にせよ、あらゆる国に対して、われわれは自由の存続と成功を確保するためなら、いかなる代償をも払い、いかなる重荷も負い、いかなる苦難にも立ち向かい、いかなる友人をも支持し、いかなる敵にも対抗することを知らしめようではないか。
われわれは、これだけのことを、そしてそれ以上のことを誓う。
われわれが文化と精神の起源を共有する古くからの同盟国に対して、われわれは誠実な友人としての忠誠を誓う。一致団結すれば、多くの共同事業において、できないことはほとんどない。分裂すれば、われわれができることはほとんどない。反目し合い、ばらばらに分裂すれば、とうてい強力な挑戦に立ち向かうことはできないからである。
われわれが自由世界への仲間入りを歓迎する新たな国々に対しては、植民地支配のひとつの形態が過ぎ去ったあとに、単にはるかに強固な専制政治にとって代わるようなことはさせないことを誓う。われわれは、彼らが常にわれわれの意見を支持することを期待はしない。しかし、われわれは、彼らが彼ら自身の自由を強く支持することを望むとともに、過去において愚かにも虎の背に乗ることによって力を得ようとした者は、結局、その虎の腹の中に収まってしまったことを忘れずにいたい。
この地球の半分で、小屋や村落に住み、多大な窮乏の束縛から逃れようと苦闘している人々に対して、どんなに時間が必要とされようと、彼らの自助努力を助けるための最大の努力を誓う。それは、共産主義者がそうしているかもしれないからではなく、また彼らの票が欲しいからでもなく、それが正しいからである。もし、自由な社会が貧しい多くの人々を助けることができなければ、裕福な少数の人々を救うこともできない。
われわれの国境の南に位置する、われわれの姉妹である各共和国に対しては、特別の誓約をする。進歩のための新たな同盟において、われわれの善意の言葉を善意の行動に移し、貧困の鎖を断ち切るために、自由な人々と自由な政府を支援する。しかし、この希望の平和革命が敵対的な勢力の餌食となってはならない。われわれは、すべての近隣諸国に対して、米州のどこにおいても侵略と破壊工作に対抗するため、彼らに協力することを知らしめよう。そして、他のすべての勢力に対して、この西半球は今後も自分の家の主人であり続けるつもりであることを知らせよう。
世界の主権国家の集まりである国際連合、戦争の手段が平和の手段をはるかに追い越した時代の、われわれの最後の、そして最大の希望である国際連合に対して、われわれは、改めて支持を誓約する。国連が単なる罵り合いの場となることを防ぐために。新しい国家や弱い国家を守る国連の盾を強化するために。そして国連憲章の権限が及ぶ範囲を拡大するために。
最後に、われわれに敵対しようとする諸国に対しては、われわれは誓約ではなく要請を提示する。それは、科学によって解き放たれた暗黒の破壊力が、計画的あるいは偶発的に全人類を自己破壊させる前に、双方が新たに平和の追求を始めることである。
われわれは、弱みを示して彼らを誘惑することはしない。われわれの武器が疑う余地なく十分になったときに初めて、その武器が決して用いられないことを、疑う余地なく確信できるからである。
しかし、2つの偉大で強力な国家の陣営は、どちらもわれわれの現在の進路に安心できずにいる。現状では、双方ともに近代兵器のコストの重い負担に悩まされ、双方ともに死をもたらす原子兵器の着実な拡散に当然の警戒心を抱きながらも、双方とも引き続き人類の最終戦争を食い止めている不確実な恐怖の均衡を変えようと競争を続けているからだ。
そこで新たに始めようではないか。再び原点に立ち戻り、礼節は弱さの徴候ではなく、誠実さは常に証明されなければならないことを双方が思い起こしながら、決して恐怖心から交渉をしないようにしよう。ただし、決して交渉に恐怖心を抱かないようにしよう。
双方とも、われわれを対立させている諸問題をくどくど論ずるのではなく、何がわれわれを団結させる問題なのかを探究しようではないか。
双方とも、武器の査察と管理のための真剣かつ厳密な提案を、初めて作成し、他国を破壊する絶対的な力を、すべての諸国の絶対的な統制の下に置こうではないか。
双方とも、科学の恐怖ではなく、その驚異を呼び起こすことを追究しようではないか。一緒に天体を探査し、砂漠を征服し、病気を根絶させ、深海を開発し、芸術と通商を奨励しようではないか。
双方とも、団結し、この地球の隅々にまで、「重荷を取り除き……虐げられている者を解放しよう」というイザヤの言葉に留意しようではないか。
そして、もし協力の拠点が疑惑のジャングルを押し戻すなら、双方とも協力し、新たな試みの創造、つまり新たな力の均衡を生むのではなく、強者が公正で、弱者が安全で、平和が保持される、新たな法の世界の創造に乗り出そうではないか。
このすべてが、最初の100日間で達成されることはないだろう。それどころか最初の1000日間でも、この政権の任期中にも、あるいはわれわれがこの地球上に生きている間でさえも、おそらく達成されないだろう。だが、とにかく始めようではないか。
市民同胞の皆さん、われわれの進路の最終的な成否は、私よりも皆さんの手の中にある。この国が建てられて以来、米国民の各世代は、国家への忠誠を証明することを求められてきた。軍務の召集に応えた米国の若者たちの墓は、地球を覆っている。
今、われわれを召集するラッパが再び鳴っている。それは、武器は必要ではあるが、武器を取れとの合図ではない。われわれは闘争の中にあるが、戦闘に参加せよとの呼びかけでもない。それは、年々歳々、「希望に胸躍らせ、苦難に耐えて」長いたそがれの闘いの重荷を引き受けよ、との呼びかけである。その闘争は、人類の共通の敵である圧政、貧困、疾病、そして戦争そのものに対する闘いである。
われわれは、これらの敵に対抗して、より実り多い生活を全人類に確保することのできる、南北の、東西の壮大な世界的同盟を築きあげることができるだろうか。皆さんは、その歴史的な努力に参加してくれるだろうか。
世界の長い歴史の中で、自由が最大の危機にさらされているときに、その自由を守る役割を与えられた世代はごく少ない。私はその責任から尻込みしない。私はそれを歓迎する。われわれの誰一人として、他の国民や他の世代と立場を交換したいと願っていない、と私は信じる。われわれがこの努力にかけるエネルギー、信念、そして献身は、わが国とわが国に奉仕する者すべてを照らし、その炎の輝きは世界を真に照らし出すことができるのである。
だからこそ、米国民の同胞の皆さん、あなたの国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。あなたがあなたの国のために何ができるかを問うてほしい。
世界の市民同胞の皆さん、米国があなたのために何をするかを問うのではなく、われわれが人類の自由のために、一緒に何ができるかを問うてほしい。
最後に、あなたが米国民であれ、世界の市民であれ、今ここにいるわれわれに対して、われわれがあなたに求めるのと同じ力と犠牲の高い基準を求めてほしい。善良な良心を唯一の確かな報奨として、歴史をわれわれの行為に対する最後の審判として、神の祝福と助けを求めながらも、この地球上における神の御業を真にわがものとしなければならないことを知りつつ、われわれの愛するこの土地を導いていこうではないか。 
 
 
 

 

 
 
 
 

 

●クリントン大統領 1993-2001年 
 
 
●第42代 ビル・クリントン大統領就任演説 1993年 
今日、われわれはアメリカの再生の神秘を祝おう。
この就任式は冬の最中に行なわれるが、われわれが語る言葉と世界に向ける顔で春を呼びよせようではないか。
春は、世界でもっとも古い民主主義において再生する。その民主主義こそがアメリカを再創生するためのビジョンと勇気を生み出すのである。
われわれの国の創立者たちが、世界に向けてアメリカの独立を、神に向けてわれわれの目的を力強く宣言したとき、創立者たちはアメリカが続いていくとともに、変化しなければならないだろうということを分かっていたのだ。
それは変化のための変化ではなく、アメリカの理想、つまり生命、自由、幸福の追求を守るための変化である。われわれは時代の音楽に合わせて歩んでいくが、われわれの使命は時代を超越しているのである。
アメリカの全ての世代は、アメリカ人であるということの意味を定義しなければならない。
私はわが国を代表して、前任者のブッシュ大統領、その半世紀にわたるアメリカへの献身に敬意を表したい。
そして何百万もの男女にその堅実さと犠牲で、不況、ファシズム、共産主義を乗り越えてきたことに感謝したい。
今日、冷戦の影響下で育った世代は、新しい責任を引きうけている。それは自由の日ざしで暖められてはいるが、まだ過去の憎しみと新しい災いに脅かされている世界においてである。
比類なき繁栄の下で育ち、われわれはまだ世界で最強の経済を受け継いでいる。しかしそれは、経済での失敗、賃金の伸びの鈍化、増大する不公平性、そしてわれわれの間の深い溝によって弱体化している。
ジョージ・ワシントンが、私が誓い終わったばかりの宣誓を最初に行ったとき、そのニュースは陸では馬で、海上では船でゆっくりと伝播していった。しかし今、この宣誓式の模様と音声は、世界中の何十億という人々に即座に放映される。
コミュニケーションと経済はグローバル化し、投資は世界を駆けめぐり、テクノロジーはもはや魔法と区別がつかず、よりよい生活を送りたいという思いは今や世界共通のものとなっている。われわれは、世界中の人々との平和裏に行なわれる競争を通じて生計をたてなければならない。
より深いところからの強い力がわれわれの世界をゆりうごかし、注意をうながしている。われわれの時代の火急の問題は、われわれの敵ではなく味方に変化をもたらすことができるかどうかということである。
この新しい世界ではすでに何百万ものアメリカ人が、競争して勝ち取ることで豊かな生活を送っている。しかし多くの人々が仕事はきびしくなり収入はいよいよ少なくなっていて、一方では全く働けない人もいる。ヘルス・ケアの負担が家族にのしかかり、多くの大企業、中小企業を破綻させようとしている。犯罪の恐怖が法を遵守する国民から自由をうばい、何百万もの貧しい子供たちが、われわれが送ってほしいとよびかけている生活を想像することすらできない。そのようなとき、われわれは味方に変化をもたらすことができていない。
われわれは現実に向き合い、力強く歩んでいかなければならないことを知っている。しかしこれまでは、そうしてこなかった。その代わりに、われわれはただ漂流してきた。その漂流はわれわれの資源を食いつぶし、経済を腰折れさせ、われわれの自信をゆるがせてきた。
われわれのチャレンジはひどいものだったかもしれないが、チャレンジこそがわれわれの力である。そしてアメリカ国民は常に歩みをとめず、何かを捜し求め、希望にみちていた。われわれは、目前にいる人々のビジョンや意思を今日のわれわれの任務としなければならない。
アメリカ独立戦争から、冷戦を通じて、世界大恐慌、公民権運動に至るまで、われわれ国民はいつもこれらの危機から、われわれの歴史を支える柱を打ち立てる決意を奮い起こしてきた。
トーマス・ジェファーソンは、われわれの国のまさに基礎となるものを守るためにこのことを信じていた。われわれには時折大きな変化が必要なのである。さて国民のみなさん、われわれの番だ。これを受け入れようではないか。
われわれの民主主義は決して世界の羨望の的ではなく、われわれ自身の再生のための原動力でなければならない。アメリカにとって正しいことで、癒すことが出来ないほど悪いところはどこにもない。
そして今日、行きづまりと漂流の時代の終わりをわれわれは誓う、新しいアメリカの再生が始まったのだ。
アメリカを再生させるために、われわれは大胆にならなければならない。
われわれは、いかなる世代もかつて義務として課せられたことがないようなことに取り組まなければならない。われわれは、われわれ自身に、その職務に、そしてその将来に、もっと投資しなければならない、そして同時にわれわれの大規模な負債を切りつめなければならない。われわれはあらゆる機会に競争しなければならない。そして世界においても同じことに取り組まなければならない。
それはたやすいことではない。それには犠牲が必要となる。しかしそれは実行可能である。犠牲のためではなく、われわれのために犠牲が払われ、適切にそれは実行されるだろう。われわれは、わが国を家族が子供たちを養うように養わねばならない。
われわれの国の創立者たちは、自身を後世の目を通してみていた。われわれも同じ行動をとることができる。眠りにまどむ子供のまなこを見たことがある人ならだれでも、後世の目がどのようなものかは知っているだろう。後世の目は来るべき世界であり、われわれがそのためにわれわれの理想を持ちつづける世界であり、われわれの地球を借りている世界であり、われわれが果たすべき責任を負うべき世界である。
われわれはアメリカがベストをつくすことをすべきである。全ての人により多くの機会をあたえ、全ての人に責任を求めよう。
われわれは、政府やお互いに何も提供せずに何かを求める悪い習慣を改める時だ。もっと自分自身や家族だけではなく、コミュニティやわれわれの国に責任をもとうではないか。
アメリカを再生させるために、われわれは民主主義に新しい息吹をふきこまなければならない。
文明の夜明けからのありとあらゆる首都と同様に、この美しい首都はしばしば陰謀と策略のうずまく場所だったりした。権力をもった人々が地位をあやつり、際限なく誰にこの地位を与え、誰から剥奪するか、誰を昇進させ、誰を降格するかで気をもんでいる。それも、その血と汗でわれわれをここに送り込み、自活している人々のことを忘れてである。
アメリカ国民はよりよい待遇に値する。そして今日この首都には、よりよいことをしたいと考えている人々が集まっている。そして私は今日ここにいる全ての人にいいたい。われわれの政府を改革することを決意して欲しい、そうすれば、権力や特権が市井の人々の声をかき消すこともなくなるだろう。個人的な利害は少しわきに置いてほしい、そうすれば痛みを感じることができ、アメリカの約束を理解できるだろう。
われわれの政府をフランクリン・ルーズベルト大統領が“大胆で、未来までつづく実験”とよんだ場所にすることを決意してほしい。われわれの将来のための政府であり、過去のための政府ではない。
この首都をそこに属する人の手に戻そうではないか。
アメリカを新たにするために、われわれは国内同様、海外でも挑戦に直面しなければならない。もはや何が海外のもので何が国内のものか区別することはできない。世界の経済、世界の環境、世界のエイズ危機、世界の武器競争、それらがわれわれ全員に影響を与えるのだ。
今日、古い秩序が過去のものとなり、新しい世界はより自由に、しかしより不安定になっている。共産主義の崩壊は過去の反目と新たな危険を生み出してきた。明らかにアメリカは、今までやってきた以上に世界を導きつづけなければならない。
国内でアメリカを立てなおす一方で、われわれは新しい世界をつくる挑戦にひるむこともなければ、また新しい世界を作るきっかけをつかみ損ねることもないだろう。味方も敵もいっしょに、われわれは変化に飲みこまれることがないよう、変化を方向づけることに取り組みたいと思う。
われわれの生命を左右するような国益がおびやかされたり、国際社会の意思や良心が踏みにじられたとき、われわれはできるかぎり平和的なかけひきをもって、ただ必要なときは武力も辞さず、対処したいと思う。われわれの国で今日、ペルシャ湾、ソマリア、その他どんな場所でも任務についている勇気のあるアメリカ人は、われわれの決意に対する表明である。
しかしわれわれのもっとも偉大な力は、その理想の力であり、それは多くの場所でまだ目新しいものである。世界中でその考えが受け入れられ、われわれもうれしく思う。われわれの希望も心も手も、全ての大陸で民主主義と自由を打ち立てている人の希望と心と手とともにある。彼らの大義はアメリカの大義である。
アメリカの人々は、今日われわれが祝福している変化をすでにもたらしてきた。あなたたちは明らかに声をそろえてあげてきたし、歴史的な数の票を投じてきた。そして議会の顔である大統領、そして政治の手続きそれ自体を変えてきた。そう、あなたたち、アメリカ国民は春の訪れを推し進めてきた。さてわれわれはその季節がもとめる仕事をこなさなければならない。
私はこの仕事に、私の執務室の全ての力をあわせて専念したい。議会にも協力を要請したい。しかし大統領だけでも、議会だけでも、政府だけでもこの仕事に着手することはできない。アメリカ国民よ、あなたがたもだ、われわれの改革において果たすべき役割を果たして欲しい。私は新しい世代のアメリカ国民に奉仕を促したい。困っている子供たちに手を貸したり、必要な時はいつでもそばにいてあげたり、ほころびたコミュニティを再び結びつけることで自分の理想に忠実に行動してみてはどうだろうか。まだまだすべきことはたくさんある。まだ精神的に若く、奉仕する心にもあふれている何百万もの人々にとって本当に十分たくさんなほど、すべきことはある。
奉仕において、われわれはシンプルだが力強い真実に思い当たる。つまりわれわれは、お互いを必要としているのだ。そしてわれわれは、お互いの世話をしなければならない。今日、われわれはアメリカを祝福する以上のことをしなければならない。アメリカのまさにその意義に身を捧げなければならない。
その意義はアメリカ独立戦争で生まれ、2世紀におよぶ挑戦を通じて再び新たなものとなってきた。その意義は、運命がかわっていれば、われわれは幸か不幸かお互いの立場を替えていたかもしれないと考えることによって鍛えられてきた。その意義は、われわれの国は多様性にとても富んでいながらも、もっとも深いところまで一致することがもたらされるという信念によって品位をあげてきた。その意義は、アメリカの英雄的な長旅が永遠に上向きでなければならないという確信を吹きこんできた。
そして、アメリカ国民よ、21世紀を迎えるにあたってエネルギーと希望、そして信念と規律をもって始めようではありませんか。われわれの仕事を終えるまで、仕事に取り組もうではありませんか。聖書にはこうかかれています。「いい行いにうんざりすることはない。なぜなら支払いの時がくれば、われわれは支払いをうけるからだ。もしわれわれが弱気にならなければ」
この就任式の喜びにみちた頂上から、谷での奉仕をもとめる声が聞こえます。われわれにはトランペットの音が聞こえました。われわれは警備を交替しました。そして今われわれそれぞれの立場で、神の助けをかりて、その声に答えなければならない。
ありがとう、そして神のご加護がみなにありますように。 
 
 

 

●第42代 ビル・クリントン大統領第二期就任演説 1997年 
我が同胞たる市民諸君よ。
20世紀最後となるこの大統領就任式に際し、来世紀に我々を待ち受ける試練に目を向けてみよう。幸運にも我々は、新たな世紀や新たな千年紀の端緒にだけでなく、人類の営みに関する明るい新たな展望や、今後数十年間に及ぶ我々の進路と性格を決する瞬間の端緒に身を置く時と機会を得た。我々は、我が国の旧来の民主主義を永久に若々しく保たねばならない。約束の地という旧来の展望に導かれつつ、新たな約束の地を見据えよう。
米国の約束は18世紀に、全国民が生まれながらに平等であるという強い信念から生じた。それは我が国の版図が大陸中に拡張し、連邦を救い、奴隷制という惨禍を廃止した19世紀に伸張し、保持された。
その後混乱と勝利の果てに、この約束は今世紀を米国の世紀とし、世界という舞台に押し上げた。
今世紀は何という世紀であったのであろう。米国は、世界最強の工業国となった。2つの世界大戦と長い冷戦の中、圧政から世界を救った。そして、我々と同様に自由の恩恵を切望する世界中の人々に、幾度も手を差し伸べた。
そうした中で、米国民は大規模な中流階級と老後の生活保障を生んだ。比類なき学府を築き、公立学校を全ての者に開放した。原子を分割し、宇宙を探査した。コンピュータとマイクロチップを発明した。そして、アフリカ系米国人と全ての少数民族のために市民権革命を行ったり、女性のために公民権や機会や尊厳の範囲を拡大したりすることにより、正義の源を深めた。
今、3度目の新世紀を目前にした我々は、新たな選択の時にある。我々は19世紀を選択によって開始し、大陸全域に版図を広げた。20世紀を選択によって開始し、産業革命を自由企業制、自然保護、良識といった価値観のために活用した。それらの選択は、大きな変化をもたらした。
21世紀の曙に際し、今こそ自由な人々は、情報化時代とグローバル社会に相応しい力を構築し、全国民の無限の可能性を発揮し、より完全な連邦を形成する道を選択せねばならない。
前回集った際、この新たな未来への足取りは、今日に比べて確固たるものではなかった。当時我々は、自国を改革すべく明確な進路を定めると誓った。
この4年間で、我々は惨劇によって打ちひしがれ、試練によって鼓舞され、達成によって強くなった。米国は、世界に不可欠な国家として抜きん出ている。米国経済は再び、世界最強となった。我が国は再び、より強い家族、活気ある社会、より良い教育機会、より清浄な環境を築きつつある。かつては深まる運命にあるかに見えた諸問題は今や、我々の努力によって克服された。街頭は安全になり、記録的な数の国民が生活保護から抜け出して働き始めた。
そして我が国は再び、当代における政府の役割について大いに議論し、結論を得た。本日、我々は宣言する。「政府が問題なのではないし、政府が解答なのでもない。我々――米国民――、我々こそが解答なのである」と。このことをよく理解していた建国者らは、幾世紀にも亙って存続し得るほどに強い民主主義を、そして共通の試練に立ち向かい新たな日々における共通の夢を進め得るほどに柔軟な民主主義を、我々に与えてくれたのである。
時代が変われば、政府も変わらねばならない。我々には、新世紀に相応しい新政府が必要である。即ち、全ての問題を解決しようとしないほどに充分謙虚であるが、国民自身で問題を解決する手段を与え得るほどに充分強い政府であり、より小規模で、分相応の財政運営をし、少ない歳入でも成果を挙げる政府である。しかし、世界における我が国の価値や利害を擁護し得る分野や、日常生活に顕著な変化をもたらす力を米国民に与え得る分野では、政府は関与を増やすべきであって、減らしてはならない。新政府の重要な使命は、全ての米国人に機会――より良い生活を築くための、保証でなく真の機会――を与えることにある。
さらに国民諸君よ。未来は我々次第である。建国者らが教えるところによれば、我が国の自由と連邦を維持できるか否かは責任ある市民的行動に懸かっている。そして我々には、新たな世紀に相応しい新たな責任感が必要である。為すべき仕事、政府だけではできない仕事がある。即ち、子らに読みを教えることであり、生活保護を受けられず流浪している人々を雇用することであり、施錠された扉や閉じた窓の外に出て、薬物や不良集団や犯罪から街を再生させることであり、他者に奉仕するために時間を割くことである。
己や家族に対してだけでなく、隣人や国家に対しても、各自が各自のやり方で責任を負わなければならない。我々にとって最大の義務は、新世紀に相応しい新たな共同体精神を持つことである。何故なら、我々の誰もが成功するには、我々が1つの米国として成功せねばならないからである。
過去の試練は、未来においても試練であり続ける。我々は1つの共通の運命を有する1つの国家、1つの国民たり得るのか? 我々は協力できるのであろうか、それとも分裂するのであろうか?
人種間の分裂は、米国にとって忌まわしい問題であり続けた。そして、波のように押し寄せる移民は、旧来の偏見の新たな標的となっている。宗教的・政治的信念を装った偏見と侮蔑も、何ら違いはない。これらの力は、過去に我が国を破滅の淵に追いやった。これらは、未だに我々を悩ませている。恐怖の熱狂を煽っている。そして世界中の分裂した国々で、多くの人の生活を苛んでいる。
こうした強迫観念は憎む者も、そして勿論憎まれる者をも蝕み、双方から可能性を奪う。我々は、魂の奥底に潜む邪悪な衝動に屈する訳にはゆかないし、決して屈しない。我々は、これらを克服する。そしてこれらを、家庭にいる際に互いに感じるような、寛大な精神に置き換える。
人種的・宗教的・政治的多様性という我が国の豊かな構造は、21世紀における神の賜物となるであろう。共に生き、共に学び、共に働き、互いを束ねる新たな絆を創り得る人々にこそ、大きな報酬はもたらされる。
この新時代が近付くにつれ、既にその輪郭が見えるようになってきた。10年前、インターネットは物理学者らの神秘の領域であった。今やそれは、多くの学童にとって身近な百科事典となっている。科学者らは今や、人間の生命の青写真を解読しつつある。恐ろしい疾病の治療法が確立される日も近かろう。
世界は、もはや2つの敵対的陣営に分かれてはいない。今や我々は、かつての敵国と絆を築きつつある。商業と文化の関係強化は、世界中の人々の運命と精神を高める機会を我々に与える。そして史上初めて、この地球上で独裁よりも民主主義の下で生きる人々の数が多くなっている。
米国民諸君よ。この注目すべき世紀を振り返るに際し、こう問うてみよう。我々は単に追随するのではなく、米国における20世紀の業績すらも凌ぎ、その遺産を流血で汚すのを避けることを望み得るのか? この場にいる米国民や国中の米国民は今こそ、その質問に対してきっぱり「イエス」と答えねばならないのである。
これが我々の任務の核心である。新たな政府像、新たな責任感、新たな共同体精神をもって、米国の旅を続けよう。我々は新たな地で求めた約束を、再び新たな約束の地で見出してみせる。
この新たな地では、教育が全市民にとって最も貴重な財産となるであろう。我が国の学校は世界最高水準となり、あらゆる少年少女の目の中に可能性という火花を燃え立たせるであろう。高等教育の門戸は、皆に開かれるであろう。情報化時代の知識と力は一握りの者だけでなく、あらゆる教室や図書館や児童の手に届くであろう。親子らは、単に働くだけでなく、共に本を読んだり遊んだりする時間が得られるようになり、彼らが家庭で立てる計画は、より良い家、より良い職、大学に行く確かな機会に関する計画となるであろう。
児童らを銃撃しようとしたり、児童らに薬物を売り付けようとしたりする者はいなくなり、街頭には再び児童らの笑い声が響くようになろう。今日の永続的下流階級が明日の伸びゆく中流階級の一部となり、働ける者は皆働くようになろう。医療の新たな奇跡は、現在治療を求め得る人々だけでなく、長きに亙って無視されてきた児童や勤労家庭にも手が届くようになろう。
我々は平和と自由のために強くあり続け、テロと破壊に対する強い防衛を維持する。子らは、核兵器や化学兵器や生物武器に脅えることなく眠れるようになろう。港や空港、農場や工場は、貿易と技術革新と発想によって栄えるであろう。そして世界で最も偉大な民主主義国家が、民主主義世界全体を導くであろう。
我々の新たな約束の地は、その義務を果たす国であり、予算の均衡を保ちつつも物価の均衡を決して失わない国である。祖父母らが安心して老後を送り医療を受けられる国であり、孫らが自分の時代のため、我々がこうした恩恵の維持に必要な改革をしたことを知ることのできる国である。水や空気や広大な土地といった大自然の恵みを守りつつも、世界で最も生産的な経済を強化できる国である。
そしてこの新たな約束の地で、我々は自国の政治を改革し、もって人々の声を常に私利私欲の雑音よりも大きくし、政治参加を取り戻し、米国民全ての信頼に応えよう。
市民諸君よ。こうした米国を築こう。全市民の潜在能力を引き出す方向へと前進する国家を築こう。繁栄と力は重要であり、保たねばならない。だが、我々が為してきた最大の進歩も、今後為さねばならない最大の進歩も、人間の精神の中にあるということを決して忘れてはならない。つまり、全世界の富も1000の軍も、人間の精神力と良識には及ばないのである。
34年前、我々が今日その人生を称える人物が、このモールの反対側のあの場所から、国家の良心を動かした演説において国民に語り掛けた。彼は昔の予言者のように、いつの日か米国が立ち上がり、全ての市民を法律や精神において平等に扱うであろうという、己の夢について語った。マーティン・ルーサー・キングの夢は「米国の夢」である。彼が求めるものは我々が求めるもの、即ち常に我々の真の信条の実現に努めることである。我が国の歴史は、そうした夢と努力の上に築かれてきた。そして我々は己の夢と努力によって、21世紀における米国の約束を果たすであろう。
私はそのために職権の限りを尽くすことを誓う。議員諸君にも、この誓約に参加して欲しい。米国民は、一方の党から大統領を、もう一方の党から議会を選出した。間違っても国民は、彼らが明白に批判している、つまらぬ論争や過度な党派主義といった政争を進めるためにこうしたのではない。そうではなく、彼らは不和を修復し、米国の使命と共に進むよう我々に求めているのである。
米国は偉大な成果を我々に要求するし、その資格がある――卑小なことからは、偉大な成果など決して生じない。人生の終焉に直面したバーナーディン枢機卿の、不朽の金言を忘れぬようにしよう。彼は語った。「時間という貴重な賜物を、怒りと対立で浪費するのは誤りである」と。
国民諸君よ。我々はこの時という貴重な賜物を浪費してはならない。何故なら、我々は皆、人生という同じ旅の途上だからである。我々の旅は、いつかは終わる。だが、米国の旅は続いてゆく。
だから米国民諸君よ。我々は強くあらねばならない。為すべきことは山ほどあるのだから。当代に必要なものは多種多様である。信仰と勇気、忍耐と謝意と明るい心をもって、これらに対処しよう。この日の希望を米国史上最高の章にしよう。そう、我々の橋を架けよう。米国民全てが祝福された新たな約束の地へと渡れるような、広く強固な橋を。
我々が顔を見ることも名を知ることもないであろう世代が、ここに集う我々について、こう語ってくれることを願う。「米国の夢」を全ての子孫に残すことによって、完全な連邦という米国の約束を全国民に実現させることによって、世界中に広がりつつある自由という米国の輝かしい炎によって、愛する国を新世紀へと導いてくれたのだと。
この地の高みから、この世紀の頂上から前進しよう。神よ、我々に力を与え、もって善行を為さしめ給え。そして常に、常に米国に御加護を与え給え。 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
  

 

●ブッシュ大統領 2001-2009年 
 
 
●第43代 ジョージ・W・ブッシュ大統領就任演説 2001年 
クリントン大統領、そして著名なる来賓とアメリカ国民のみなさん、権力が平和裏に移譲されることは歴史上まれですが、われわれの国ではごくふつうのことです。簡潔な宣誓をすることで、われわれは古い伝統を確認し、新しいスタートを切ります。
スタートを切るにあたって、クリントン大統領がわれわれの国に尽くしてくれたことに感謝します。
そして私はゴア副大統領にも気迫をもって大統領選を戦い、潔い態度で幕を引いたことに感謝します。
私はこの場所に立つことを光栄に思うとともに謙虚に感じます。これまで多くのアメリカのリーダーが立ってきて、これからも多くのアメリカのリーダーが立つことになるこの場所に。
われわれの誰もが長い物語の中で役割があります。われわれがつづっていく物語ではありますが、その結末をわれわれが目にすることはありません。それは新しい世界が古い世界の友人であるとともに解放者となった物語です。奴隷を所有している社会が自由に仕える身となった物語であり、強国が植民地にするためでなく保護するために、征服するためでなく防衛するために世界へと進出した物語でもあります。
それこそアメリカの物語なのです。欠点も誤りもありますが、崇高で不朽の理想によって世代を超えて結びついた人々の物語です。
その理想の中でもっとも崇高なものは、つぼみが開きつつあるアメリカの約束です。全ての人がアメリカに属しており、チャンスを与えられ、その生にはなんらかの意味があるという約束です。
アメリカ人は、人生のなかで法律に従ってこの約束を果たすことを求められます。われわれの国は立ち止まったり、遅れたりはするかもしれませんが、他の道を歩むようなことがあってはなりません。
前世紀の大半を通じてアメリカの自由と民主主義に対する信念は、荒れる大海の一つの岩にすぎませんでした。今、それは風に運ばれる種であり、多くの国々に根をおろしています。
われわれの民主主義に対する信念は、アメリカが信じる以上のもので、われわれの人間性に生来備わった希望であり、われわれが所有こそしませんが推し進める理想であり、われわれが託され受け継いで行くものでもあります。そして建国からほぼ225年たった今でさえも、われわれが旅すべき道のりはまだ先が長いのです。
国民の多くが経済的に豊かになる一方で、アメリカの約束ばかりかその公正さにも疑惑の念を抱いている人がいます。学校教育の荒廃、隠れた偏見、生まれ育った環境で、その志がとざされてしまうアメリカ人もいます。そして時折われわれの間の違いがあまりに大きいので、1つの国に住んでいるというよりは、1つの大陸に住んでいるという気さえするほどです。
われわれは、これを受け入れることも許すこともできません。われわれの団結、州の連合はアメリカの全ての世代のリーダーたちや国民たちが真剣に取り組んできた成果です。そしてこれが私の厳粛なる誓いです。私は公正とチャンスにあふれた1つの国を作り上げるために働きます。
私は、これが手を伸ばせば届くところにあることを知っています。なぜならわれわれは自分自身より大きな力、自分の形に似せて人を創造した神によって導かれているからです。
そしてわれわれは、われわれを団結させ、前進させる原則も固く信じています。
アメリカは血縁、生まれ、出生地によって団結してきた国ではありません。われわれは、生い立ちを超えて損得を離れ、国民であることがどういうことかを教えてくれる理想によって結びついているのです。全ての子供は、この原則を教わらなければなりません。全ての国民は、この原則を支持しなければなりません。そして全ての移民がこの理想を受け入れることで、われわれの国はますますアメリカらしくなるのであって、決してアメリカらしくなくなるのではありません。
今日われわれは、礼儀正しさ、勇気、思いやり、品性をもってこの約束を守り通すことを新しく誓います。
アメリカは、最善の力をつくして礼儀正しさに注意を払いながら、この原則を誓います。礼儀正しい社会においては、われわれ皆に善意と敬意、公正なふるまいと寛容が求められるのです。
政治はどうでもいいことだと信じている人もいるかもしれません。なぜなら平和な時には、議論の結果も小さいことだからと。
ただアメリカのもたらす結果は、決して小さいとはいえません。もしわれわれの国が自由の理想を掲げなければ、それを掲げるものはないでしょう。もしわれわれが子供たちの関心を知識と品性に向けなければ、われわれは子供たちの才能を失い、子供たちの理想主義を打ち砕くことになるでしょう。もし経済が失速し停滞するのを、手をこまねいてみていれば、弱者が一番被害を受けるでしょう。
われわれは共に負担すべき召集に応えなければなりません。礼儀正しさは、戦略や感傷ではありません。シニズムではなく信頼を選び、カオスではなくコミュニティーを選ぶ断固とした決意です。そしてこの誓いを守ることができれば、それが成果を分け合う方法となるのです。
アメリカは、本来は勇敢な国でもあります。
われわれの国家の勇敢さは、共通の敵に立ち向かうことが共通の利益をもたらす時、つまり恐慌や戦争においては明白なものでした。現在われわれは、両親が示してくれた手本に触発されるか、それともとがめられるかを選ばなければなりません。われわれは問題を将来の世代に先送りする代わりに、それに立ち向かうことで、恵まれた時代においても勇敢さをしめさなければなりません。
われわれはともに、無知や無関心からより多くの若い命が失われる前に、アメリカの学校教育を再建しようではないですか。
われわれは社会保障やメディケアを改革し、子供たちにわれわれの手でなんとかできる苦労を味わわせないようにしましょう。そしてわれわれは減税をしましょう、経済を再加速させ、働くアメリカ人の努力と活力に報いようではないですか。
われわれは立ち向かうことを許さない防衛力を築きましょう、弱さがわれわれに立ち向かうことを招いてはなりません。
われわれは大量破壊兵器に立ち向かいましょう、そうすることで新しい世紀は新たな恐怖におびえなくてもすみます。
自由とアメリカの敵が、間違いを犯すようなことがあってはいけません。アメリカは歴史的な経緯からもまた自らの選択によっても、自由を支持する勢力のバランスがとれるように世界にかかわっていきます。われわれは同盟国および国益を守ります。われわれはおごることなく、意図を明確にします。われわれは侵略と不誠実さに対しては、決意と力をもって対処します。全ての国にアメリカがその生をうけた価値観を示したいと思います。
アメリカは、本来は思いやりがある国です。われわれはアメリカ人としての良心で、口にださなくとも、長い間続く極貧状態がわれわれの国の約束にふさわしくないことを知っています。
そしてその原因についての意見がどうであれ、われわれは貧困にさらされている子供たちには罪がないことには同意します。捨て子や虐待は決して不可抗力ではありません、愛情が不足しているのです。
そして、たとえ必要だとしても刑務所の増加は、われわれの心の希望や秩序の代わりにはなりません。
苦しみがあるところには、義務がともないます。困っているアメリカ人は他人ではありません、彼らはアメリカ国民であり、厄介者ではなく、真っ先にとりかかるべきなのです。そして希望を失った人がいることで、われわれ皆の価値が損なわれるのです。
政府は、国民の安全、健康、公民権、そして公立学校について大きな責任があります。けれども、思いやりは確かに政府の仕事ではありますが、政府だけの仕事ではないのです。
必要とするものや痛みがあまりに多いため、師がそっと触れてくれたり、牧師が祈ってくれたりすることにしか反応できない人もいるでしょう。教会や慈善施設、シナゴーグやモスクは、われわれのコミュニティに慈悲の心を与え、われわれの計画や法の中でも敬意を表する位置をしめるでしょう。
われわれの国には、貧困の苦しみを知らない多くの人がいます。しかしわれわれは貧困に苦しむ人の声に耳を傾けることはできます。
私はわれわれの国が目的に向かって、まい進することを誓います。傷ついた旅人がジェリコに向かうのを見るときに、われわれはただ道のわきに寄るようなことはしません。
アメリカは本来、個人の責任が重んじられ、また求められるところです。自己責任を奨励することは、スケープゴート探しではありません、良心への呼びかけです。自己犠牲が必要となりますが、それはより達成感を増すことにもつながります。われわれは人生の達成感を、自身でえらぶものの中だけではなく、約束したことの中にも見出すことができるのです。子供たちやコミュニティこそが、われわれを自由にする約束だということがわかるでしょう。
われわれの公共の利益は、個々の人格、市民としての義務、家族の絆、欠かせない公正さ、そしてたたえられることのない無数の礼儀正しい行為にかかっているのです。またそういう行為こそがわれわれを自由に導くのです。
われわれは人生において時折、偉大なことを成しとげることを求められます。しかし現代のある聖人が口にしたように、日々われわれはささやかなことを偉大な愛をもって成しとげることを求められているのです。民主主義で一番大切な仕事は、全員で成しとげなければなりません。
私はこの原則を貫き、国を導きます。信念を礼儀正しく押し進め、公共の利益を勇気をもって追求し、より公正であることやより思いやりがあることを支持し、責任を求め、その上責任をもって生きていこうとする原則を。
これら全てのことにおいて、私はわれわれの歴史の価値観に現代においても十分注意を払いたいと思う。
あなたがたが行なうことが、政府がすることと同様に重要なのです。個人の快適さよりも全体にとってよいことを追求することを、必要な改革を安易な非難から守ることを、そして国に仕えることを身近なところから始めることを、私はあなたがたにお願いしたい。国民であることを、傍観者ではなく国民であること、被統治者でもなく国民であることを、責任ある国民であることを、奉仕が行なわれるコミュニティーや品性があふれる国家を築くことを、私はあなたがたにお願いしたい。
アメリカ人が寛大で力強く慎み深いのは、自分自身を信じているからではなく、自己を超えた信念をもっているからです。この国民性が失われれば、どんな政府のプログラムもこれに取って代わることはできません。この国民性が存在するかぎり、いかなる悪もそれに立ち向かうことはできないのです。
独立宣言に署名した後、バージニアの政治家だったジョン・ページはトーマス・ジェファーソンにこう書いてよこしました。「われわれは競争が足の速い人のためのものではないし、戦いが強者のためのものでもないことも知っています。天使が旋風にのり、このあらしをおこしているとは思いませんか?」
ジェファーソン大統領の就任から長い月日がすぎました。多くの月日といろいろな変化が重なりましたが、今日の日のテーマがわれわれの国の壮大な勇気の物語であり、威厳のあるシンプルな夢であることをジェファーソンは分かっていることでしょう。
われわれはこの物語の作者ではありません。作者は神であり、無限の時をその目的を達成するために使っています。しかし神の目的を達成するのはわれわれの義務です。われわれの義務は、お互いへの奉仕によって果たされます。
疲れることなく、投げ出すことなく、止めることなく、われわれの国をより公正でより寛大なものにするため、われわれのありとあらゆる生命の尊厳を肯定するために、われわれはその目的を今日新たにします。
この仕事には終わりがありません。この物語は続いて行きます。そして天使はまだ旋風にのり、このあらしをおこしているのです。
あなたがたに神の恩寵がありますように、そしてアメリカにも神の恩寵がありますように。 
 
 

 

●第43代 ジョージ・W・ブッシュ大統領第二期就任演説 2005年 
チェイニー副大統領、連邦最高裁判所長官、カーター大統領、ブッシュ大統領、クリントン大統領、尊敬すべき聖職者諸君、来賓諸君、そして国民諸君よ。
本日我々は、法に基づき、そして儀式によって、憲法の不朽の叡智を祝うと共に、我が国を団結させる深い決意を思い起こす。只今受けた栄誉に感謝すると共に、我々が生きるこの重大な時代について心に留めつつ、先程諸君が見守る中で行った宣誓を断固遂行する所存である。
この2度目の就任式において我々の義務を明らかにするのは、私が使う言葉ではなく、我々が共に見てきた歴史である。この半世紀間、米国は遠き国境を監視することで己の自由を守ってきた。共産主義の崩壊後、比較的静かで平穏な、安息の年月が訪れた――その後、苦難の時代が到来したのである。
我々は己の脆弱性を――同時に、その最も深い根源を――思い知った。世界中が怨嗟と圧政で爆発間近である限り――そして、憎悪を煽り殺人を許容するようなイデオロギーに傾倒する限り――、暴力は集積し、破壊力を増し、堅固な国境を越え、死の脅威を高める。この憎悪と怨嗟による支配を打破し、暴君の仮面を剥ぎ、寛容な民の希望に報いることのできる歴史的な力はただ1つ、人類の自由という力を措いて他にない。
我々は、種々の事象や常識によって、ある結論に至った。即ち、我が国における自由の存続は、他国における自由の成功にますます左右されるということである。世界平和のための最も有望な方法は、自由を世界中に拡げることなのである。
米国の重大な関心と我々の深き信念は、今や1つとなった。我々は建国の日以来、地球上の全人類が権利、尊厳、及び無比の価値を有することを宣言してきた。何故なら、人類は天地の創造主の似姿を持つからである。我々は幾世代にも亙って、自治の必要性を宣言してきた。何故なら、何人たりとも支配者となり、あるいは奴隷となる必然性を持たないからである。こうした理想を推し進めるという使命によって、我が国は建国されたのである。それは建国の父らの偉業である。今やそれは、我が国の安全にとって喫緊の要件であり、当代の使命なのである。
故に、あらゆる国や文化における民主的な運動・制度の成長を求め、支援することが合衆国の政策である。その最終目標は世界の圧政を止めることにある。
これは本来、武力に頼るべき任務ではない。もっとも我々は、必要とあらば己や友を武力で守る所存であるが。自由というものは本来、国民によって選び取られ、守られ、そして法の支配と少数派の保護とによって支えられるべきである。そして、ある国の国民が最終的に発言力を得たときに生ずる諸制度は、我々とは大きく異なる慣習や伝統を反映しているやも知れぬ。米国は自国政府の方式を、それを望まぬ他国に押し付ける気はない。むしろ我々の目標は、他の諸国が己の声を見出し、己の自由を獲得し、己の道を造るのを支援することにある。
圧政を止めるという大目標は、幾世代にも亙る集中的な取り組みであった。任務の難しさは忌避の口実にはならない。米国の影響力にも限界はあるが、幸いなことに、被虐者に対する米国の影響力は相当なものである。自由という大義のため、我々は確信をもってその影響力を行使する所存である。
私にとって最も厳粛な任務とは、この国と国民とを更なる攻撃や新たな脅威から守ることである。一部の者は、愚かにも米国の決意を試すことを選び、それが揺るぎないことを思い知った。
我々はあらゆる統治者や国家に対し、選択について粘り強く説明する。ここでいう選択とは、常に誤りであるところの抑圧と、永久に正当であるところの自由との道義的選択である。米国は、「獄中の反体制派は枷を好む。女性は恥辱と隷属を歓迎する。誰でも抑圧者の為すがままに生きたいと願う」などと強弁する気は全くない。
他国の政府に対しては、「我が国との関係を成功させるには、自国民への寛大な待遇が必要である」ということを明らかにすることにより、改革を促す。人間の尊厳に対する米国の信念は、我が国の政策を導いてくれるであろう。だが権利というものは、独裁者が渋々譲歩した程度のことでは到底満たされない。それは自由な異論と被統治者の参加とによって確保されるのである。結局、自由なくして正義はない。また人間の解放なくして人権はないのである。
自由を求める世界規模の訴えに疑念を持つ者もいる。しかし、この40年間に未曾有の速さで自由が進展したというのに、この訴えを疑うのは奇妙な話である。米国民は、どの国民よりも我々の理想の力をよく知っているに違いない。やがてはあらゆる心、あらゆる魂に自由の呼び声が掛かる。我々は永続的な圧制の存在など認めない。何故なら、我々は永続的な隷属の可能性を認めないからである。自由は、それを愛する者の許に訪れるのである。
本日、米国は世界の人民に改めて言いたい。
圧政と絶望の中で生きる全ての民よ。合衆国は諸君への抑圧を黙殺したり、抑圧者を赦したりはしない。諸君が自由のために決起するときは、共に起つ。
抑圧、投獄、追放の憂き目に遭っている民主改革者らよ。米国は諸君を、将来諸君の母国が自由を手に入れたときの指導者として見ている。
無法な体制の支配者らよ。我々は、エイブラハム・リンカンの言葉を今なお信じている。「他者の自由を否定する者は自由を享受するに値せず、公正な神の支配下にあっては、彼らの自由は長続きし得ない」という言葉を。
長きに亙る支配に慣れた政府の指導者らよ。国民に奉仕するには、彼らを信頼することを学ばねばならない。この進歩と正義の旅を始めるならば、米国は諸君と共に歩む所存である。
そして、合衆国の全同盟国よ。我々は諸君の友好に敬意を表し、諸君の助言と支援を恃みにしている。自由国家間の分裂は、自由の敵にとっての最大目標である。自由諸国が協力して民主主義を推進すれば、我々の敵を打倒できよう。
本日、私は同胞諸君にも改めて言いたい。
私は諸君全員に対し、米国防衛という困難な任務に耐えるよう求めた。諸君はそれによく応えてくれた。我が国は、実現困難な、しかも放棄すれば不名誉を蒙る義務を引き受けた。しかし、我々が偉大なる解放というこの国の伝統に基づいて行動したことにより、これまでに数千万の民が自由を得た。そして希望が希望を生むが如く、更に何百万もの民が自由を見出すであろう。しかも我々は、己の努力によって火を――人民の心の中の火を――灯してきた。その火は、その力を感じる人々を暖め、燃え広がるのを阻む人々を焼き払っている。そしていつの日か、消すことのできないこの自由の火は、世界の最も暗い片隅にまで届くことであろう。
この大義のため、最も厳しい任務を引き受けた米国人たちが僅かながらいる――それは情報及び外交という地味な任務、自由政府の樹立支援という理想主義的な任務、そして我々の敵と戦うという危険かつ不可欠な任務である。名誉ある死をもって、自国への献身を示した者もいる――我々は彼らの名を、彼らの犠牲をいつまでも讃える。
あらゆる米国人が、この理想主義を目撃した。中には、初めて目撃した者もいる。若者よ、その目に映ったものを信じてほしい。諸君は米国兵の決然たる顔に、義務と忠誠を見たはずである。生命が儚いこと、悪が現実に存在すること、そして勇気が勝利することを見たはずである。己の欲望や己自身よりも大きな大義のために尽くすという選択をしてほしい――そうすれば諸君は、自身が生きている間に自国の富ばかりか、自国の気概をも増進させることができるであろう。
米国には理想主義と勇気が必要である。何故なら、我々は国内で重大な仕事を抱えているからである。それは、米国の自由という未完の仕事である。自由へと進む世界の中にあって、我々は自由の意味と約束とを示す決意をしている。
自由という米国の理想において、国民はぎりぎりの生活をしながら働くのではなく、経済的自立の尊厳と安心を見出す。これは広義の自由であり、ホームステッド法、社会保障法、及び復員兵援護法の成立を促した。そして今、我々は時代の要望に奉仕すべく、偉大な諸制度を改革し、もってこの将来像を拡大する。自国の約束や将来において全ての米国民に恩恵を与えるため、国内の学校を最高水準に引き上げ、所有者社会を構築する。我々は、住宅や事業、定年後の貯蓄、健康保険などの所有を拡大する――自国民を自由社会における生活課題に備えさせるために。己の運命に対する責任を全国民に持たせ、もって米国民諸君に貧困と恐怖からのより偉大な自由を与え、社会をより繁栄し、公正で、かつ平等なものにする。
自由という米国の理想において、公益は個人の気質――清廉さ、他者への寛大さ、そして己の生活における良心の掟――に左右される。詰まるところ、自治は自己の統治に依存している。その気質の体系は家庭の中で築かれ、規範を有する地域社会によって支えられ、そしてシナイの真実、山上の垂訓、クルアーンの言葉、及び自国民の様々な信仰により、国民生活の中で維持される。米国民はどの世代においても、今まで善であり真実であるとされてきたもの全て――昨日も今日も、そしていつまでも変わらない、正義と行動という理想――を再確認しながら前進するのである。
自由という米国の理想において、権利の行使は、弱者への奉仕、慈悲、及び愛情によって気高くなる。万人のための自由は、互いからの独立を意味しない。我が国は、隣人を世話したり、迷える者を愛で包み込んだりする人々を信頼する。本来米国民は、互いの命を尊重する民である。米国民は、望まれざる者にさえも価値はあるということをゆめゆめ忘れてはならない。そして、我が国はあらゆる人種差別の陋習を放棄せねばならない。何故なら、我々は偏見というお荷物と自由の伝言を同時に運ぶことはできないからである。
この就任式の日を含め、1日という見地で考えれば、我が国が直面する問題は数多くある。世紀という観点で考えれば、我々への問いは限られており、数も少ない。我々の世代は自由という大義を前進させたのか? 我々の気質はその大義に貢献したのか?
我々を裁くこれらの問いは、同時に我々を団結させる。何故なら米国民は、政党や経歴の違いや、移民であるか生来の米国人かという違いに関係なく、誰もが自由という大義のもとで互いに義務を負っているからである。我々は過去に数々の対立を経験してきた。偉大な目的を持って前進するためには、これらの対立が癒されねばならない。そして、私はこれらを癒すため、真摯に取り組む所存である。しかし、これらの対立は米国を定義するものではない。自由が攻撃に晒された時、我々は自国の結束と連帯を感じ、一心同体となって対応した。そして、米国が善なるもののために行動する時には常に、同様の結束と矜持を感じることができ、被災者は希望を与えられ、不正は正義によって阻まれ、虜囚は解放されるのである。
我々は、自由は最後には必ず勝つとの確信を持って前進する。歴史が必然性という名の車輪に乗って走っているからではない。事象を動かすのは、人類の選択なのである。我々が己のことを選ばれし民と見做しているからでもない。神がその意のままに動かし、選ぶのである。我々には自信がある。何故なら自由は人類や、暗黒の地で飢える者や、魂を求める者の永続的な希望だからである。建国の父らが未来のための新秩序を宣言したとき、自由に基づく連邦を求めるうねりの中で兵士らが戦死したとき、そして、市民が「今こそ自由を」の旗印の下、静かな憤りを胸に行進したとき――、彼らは実現されるべき古くからの希望に基づき行動したのである。歴史には、正義の盛衰がある。だが、歴史には明白な方向性もあり、自由によって、また自由の創造主によって定められているのである。
独立宣言が初めて人民の前で読み上げられ、自由の鐘が祝福の中で鳴り響いたとき、目撃者は言った。「鐘は、意味ありげに鳴り響いた」と。当代においても、鐘の音は意味を持ち続けている。新世紀を迎え、米国は全世界と全人民に対して自由を宣言する。我々は力を新たにし――試練を受けつつも倦むことなく――、自由の歴史における最大の偉業を成し遂げようとしているのである。
神の祝福が諸君にあらんことを。神よ、アメリカ合衆国を見守り給え。 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 

 

●オバマ大統領 2009-2017年 
 
 
●第44代 オバマ大統領就任演説 2009年 
国民の皆さん、
私は今日、私たちの目の前にある職務に対して謙虚な気持ちを抱き、皆さんからの信頼に感謝し、先人が払った犠牲を心に刻んで、この場所に立っています。私は、ブッシュ大統領の国家に対する貢献、そして政権移行期間に示していただいた寛容さと協力に感謝します。
これで、44人の米国人が大統領の就任宣誓を行ったことになります。繁栄の波に乗っている時や、平和な安定した時期に宣誓が行われたこともありましたが、時には暗雲が垂れ込め、嵐が吹きすさぶ中で行われたこともあります。こうした時も米国が前進し続けてきたのは、指導者たちの技量や洞察力のためだけではなく、「われら人民」が先人の理想と建国の文書に忠実であり続けたからでもあります。
これまでそうあり続けてきました。ですから、今の世代の米国人もそうでなければなりません。
私たちが危機のさなかにあるということは、もう十分理解されています。わが国は戦時下にあります。暴力と憎しみの大規模なネットワークとの戦争です。わが国の経済はひどく弱体化しています。これは一部の人々の強欲と無責任さの結果ですが、私たち国民全体が難しい選択を行って、新たな時代に備えることができなかったことも一因です。家は失われ、職は奪われ、企業は破たんしました。わが国の医療コストは高すぎ、学校はあまりにも多くの人の期待を裏切っています。また、私たちのエネルギーの消費の仕方が敵を強くし、この地球を脅かしていることを示す新たな証拠を毎日のように目にします。
これらは、データと統計に基づく危機の指標です。これよりも測定は難しいけれども、同じように深刻なのは、国全体が自信を喪失していることです。米国の衰退は不可避であり、次の世代は目標を下げなければならない、という恐怖にさいなまれていることです。
今日、私は皆さんにこう申し上げます。私たちが直面しているさまざまな課題は現実のものです。深刻で、多数に及びます。容易に、あるいは短期間に解決できるものではありません。けれども、米国民の皆さん、これらの課題は解決することができます。
今日この日、私たちがここに集まったのは、恐怖ではなく希望を、対立と不和ではなく目標をひとつにすることを選択したからです。
今日この日、私たちは、この国の政治をあまりにも長い間抑圧してきた、ささいな不満や偽りの約束、非難や使い古した教義に終わりを告げるためにここにやってきました。
米国は今も若い国です。けれども、聖書の言葉にあるように、子供じみたことをやめる時が来たのです。米国の揺るぎない精神を再確認し、より良い歴史を選択し、何世代にもわたって受け継がれてきた貴重な贈り物、高潔な理念を進める時が来たのです。それは、すべての人は平等かつ自由であり、幸福を最大限に追求する機会に値する、という神から与えられた約束です。
わが国の偉大さを再確認する上で、私たちはその偉大さが天賦のものでないことを理解しています。これは獲得しなければならないものです。私たちが来た道のりが近道であったことは一度もなく、途中で妥協することもありませんでした。それは、労働よりも娯楽を好み、富と名声の喜びだけを求める臆病者が通る道ではありませんでした。長く、険しい道を繁栄と自由に向かって進むことができたのは、危険を冒す者、物事を実行する者、何かをつくり出す者たちのおかげであり、このうちの何人かは称賛されていますが、多くはその苦労が世に知られていない人たちです。
私たちのために、彼らはわずかな財産を荷物にまとめて、新しい生活を求めて大洋を渡ってきたのです。
私たちのために、彼らは悪条件の下、汗を流して働いて西部に入植し、むち打ちに耐えて、硬い土地を耕しました。
私たちのために、彼らは(独立戦争の)コンコード、(南北戦争の)ゲティズバーグ、(第2次世界大戦の)ノルマンディー、(ベトナム戦争の)ケサンなどの戦場で戦って死にました。
彼らは私たちがより良い生活を送ることができるよう、再三にわたり奮闘し、自分を犠牲にし、手の皮がむけるまで働いてきました。彼らは米国を、個人の野心をすべて合わせても及ばないほどの大きな存在であり、生まれや富や党派によるすべての違いを超えるほど偉大なものだと考えていました。
こうした旅を私たちは今日も続けています。米国は今も地球上で最も繁栄した、強い国です。今回の危機が始まったころと比べて、米国人労働者の生産性が落ちたわけではありません。先週、先月、あるいは昨年と比べて、米国人の創造力が劣ったり、米国の製品やサービスが必要とされなくなったりしたわけではありません。私たちの能力は衰えていません。けれども、従来のやり方を変えず、私利私欲を守り、嫌な決定を先延ばしにする時代が終わったことは明らかです。今日から私たちは立ち上がり、体のほこりを払って、米国の再生という仕事を再び始めなければなりません。
なすべき仕事は至るところにあります。経済状況は大胆で迅速な行動を必要としています。私たちは、新規雇用を創出するためだけでなく、新たな成長の基礎をつくるためにも行動します。商業を支え、私たちをひとつに結び付ける道路や橋、送電網、デジタル回線を整備します。科学を正当な地位に戻し、技術の驚異的な力を使って医療の質を向上させ、コストを下げます。太陽や風や土壌を利用して自動車を走らせ、工場を動かします。そして、学校や大学を改革して、新たな時代の要請に応えられるようにします。これらすべてのことを、私たちは実現することができます。これらすべてのことを、私たちは実現します。
私たちの野心の大きさに疑問を抱き、わが国の制度はあまりに多くの大きな計画に耐えられないと言う人たちがいます。彼らは物事をすぐに忘れてしまう人たちです。なぜなら、この国がすでに何を成してきたか、想像力が共通の目的と、必要性が勇気と結び付いたとき、自由な人々が何を成し遂げることができるかを、もう忘れているからです。
こうした皮肉屋たちは、足元の地面が動いたこと、長年にわたり、私たちを消耗させてきた陳腐な政治的議論がもはや通用しないことを理解していません。今日私たちが問うているのは、政府が大きすぎるか小さすぎるかではなく、政府が機能するか、つまりそれぞれの家庭が人並みな賃金の仕事を見つけ、費用を負担できる医療を受け、品位ある引退生活を送るために、政府が役に立つかどうかです。答えが「イエス」であれば、その施策を継続します。「ノー」であれば、終わらせます。そして、公金を管理するものは、説明責任を負うことになります。つまり、賢明に支出し、悪しき慣習を改め、誰からも見える形で業務を行うのです。なぜなら、国民と政府の間に不可欠な信頼を回復するには、そうするほかないからです。
また、市場は善悪どちらを促進する力なのか、を問うているわけでもありません。富を生み出し自由を拡大する市場の力は並ぶものがありませんが、今回の危機で、監視の目がなければ市場は制御不能になりうること、そして富める者だけを優遇する国家は長く繁栄することができないことを再認識しました。米国経済の成功は常に、国内総生産の規模だけでなく、繁栄の及ぶ範囲や、やる気のあるすべての人に機会を広げる能力にもよるものでした。これは慈善としてではなく、それが私たちの共通の利益に通じる確実な道だからです。
防衛については、安全と理想の間の二者択一を誤りとして拒絶します。建国の父たちは、私たちが想像もできないような危険に直面しながら、法の支配と人権を保障する憲章を起草しました。そしてこの憲章は、その後いくつもの世代が血を流しながら拡充してきました。こうした理想は今も世界を照らしており、便宜上の理由でこれを手放すことはありません。ですから、巨大な首都から私の父が生まれた小さな町に至るまで(さまざまな場所で)、今日この式典を見ている他国の国民や政府にこう伝えたいと思います。米国はそれぞれの国の友人であり、平和と尊厳のある未来を求めるすべての男性、女性、子供の友人であることを。そして、再び主導的役割を果たす用意があることを。
先人たちが、ミサイルや戦車だけでなく、確固たる同盟と揺るぎない信念も武器にして、ファシズムや共産主義に立ち向かったことを思い起こしましょう。彼らは、軍事力だけでは自分たちを守れないことも、軍事力が好きなように振る舞う資格を与えるわけではないことも理解していました。その代わりに、先人たちは、軍事力は慎重に使うことで力が増すこと、私たちの安全は、私たちの大義の正当性や模範を示す力、そして謙虚さや自制心といった気質から生まれることを知っていました。
私たちはこの遺産を引き継いでいきます。再度こうした原則に導かれ、国家間のなお一層の努力、一層の協力と理解を必要とする新たな脅威に立ち向かうことができます。私たちは責任ある形でイラクをイラク国民に委ねる手続きを開始し、苦労はするでしょうが、アフガニスタンに平和を構築します。古くからの友人やかつての敵と共に、核の脅威を減らし、地球温暖化を食い止めるために辛抱強く努力します。私たちは、自らの生き方について謝ることはありませんし、それを守ることに迷うことはありません。テロを引き起こし、罪のない人々を殺すことによって自分たちの目的を遂げようとする者たちには、こう言っておきます。私たちの意志の方が強く、これをくじくことはできません。生き残るのは私たちです。勝つのは私たちです。
なぜなら、私たちの多様性という遺産が弱点ではなく強みであることを、私たちは知っているからです。私たちの国は、キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒、そして無宗教の人々で構成されています。世界各地から集まったあらゆる言語と文化で形作られています。私たちは南北戦争や人種隔離という苦い経験もし、その暗い時代から抜け出して、より強く、より団結するようになったため、どうしてもこう信じてしまいます。かつての憎しみがいつか消え、民族を隔てる境界線もすぐになくなると。世界が小さくなるにつれ、共通の人間性が現れると。そして、米国が新しい平和の時代を先導する役割を務めなければならないと。
イスラム世界に対しては、私たちは相互の利益と尊敬に基づく新たな道を模索していきます。紛争の種をまき、自らの社会の悪を西洋のせいにする世界中の指導者たちは、国民は、あなたが壊すものではなく、あなたが築くことができるものによってあなたを判断する、ということを知るべきです。腐敗、偽り、そして異論を封じることによって権力にしがみつく者たちは、自分たちが歴史の誤った側にいること、そして握ったそのこぶしを開くのならば、私たちが手を差し伸べることを知るべきです。
貧しい国の人々に対しては、農場に作物が実り、きれいな水が流れるようにし、飢えた体と心を満たすために共に努力することを約束します。そして、私たちと同じように比較的豊かな国に対しては、もはや国外の苦難に無関心でいることはできないし、その影響を考慮することなく世界の資源を消費することもできない、と言いたいと思います。世界が変化したのですから、それと共に私たちも変化しなければならないのです。
目の前に開ける道を考えるとき、謙虚な感謝の気持ちを持って、今この瞬間もはるかかなたの砂漠や遠く離れた山をパトロールしている勇敢な米国人のことを思い起こします。彼らは、アーリントン墓地に眠る、亡くなった英雄たちが時代を超えてささやきかけるように、私たちに何かを語りかけています。私たちは彼らを誇りに思いますが、それは彼らが私たちの自由を守ってくれているからだけでなく、彼らが奉仕の精神、つまり自分自身よりも大きな何かに意味を見出そうとする意志を体現しているからでもあります。そして、ひとつの世代を定義付けようとするこの時に私たちが持たなければならないのは、まさにこの精神なのです。
政府はできること、やらなければならないことをしますが、この国が頼りとするものは、詰まるところ、国民の信念と決意です。最も難しい局面を乗り切ることができるのは、堤防が決壊したときに見知らぬ人を助ける親切心や、友人が職を失うのを見るよりは自分の労働時間を削る無私の心があるからです。最終的に私たちの運命を決めるのは、煙に覆われた階段を駆け上る消防士の勇気であるとともに、子供を喜んで育てようとする親の意志です。
私たちの課題は新しいものかもしれません。それに立ち向かう手段も新しいかもしれません。しかし、私たちの成功の可否を左右する、正直さと勤勉、勇気と公正、寛容と好奇心、忠誠心と愛国心といった価値観は、古くからあるもので、真実です。これらは米国の歴史を通じて、前進するための静かな原動力となってきました。必要とされているのは、こうした真実に立ち返ることです。今私たちに求められているのは、新たな責任の時代です。米国人一人ひとりが、自分自身、国、そして世界に対して義務を負っていると認識することです。そして、全力を尽くして困難な仕事に取り組むことほど心を満たし、米国人らしさを示すものはないと確信して、この義務をいやいやではなく、喜んで引き受けることです。
これが市民であることの代償であり、約束です。
これが私たちの自信の源です。神が、定かではない運命に方向性を与えるように、私たちに求めているのです。
これが私たちの自由と信条の意味なのです。これが、あらゆる人種や信仰の男女や子供たちが、この巨大なモール(広場)に集まって祝うことができる理由、そして、60年足らず前に地元のレストランで食事することを許されなかったかもしれない父親を持つ男が、今、極めて神聖な宣誓を行うために皆さんの前に立つことができる理由です。
だから、私たちが誰で、どれだけ遠くから旅してきたかを思い起こして、この日を心に刻みましょう。建国の年、最も寒い季節に、愛国者の小さな一団は、凍った川の岸辺で消えそうなたき火のそばで身を寄せ合いました。首都は見捨てられ、敵が進軍していました。雪は血に染まっていました。革命の結果が最も危ぶまれたとき、国民の父(ジョージ・ワシントン)はこの言葉を人々に読み聞かせるよう命じました。
「未来の世界にこう語られるようにしよう。極寒の中、希望と美徳しか生き残れなかったときに、共通の危険にさらされた都会と地方が、それに立ち向かうために立ち上がったと」
アメリカよ。共通の危険に直面したこの苦難の冬の時期に、時を超えたこの言葉を忘れないでいましょう。希望と美徳を持って、再びこの氷のように冷たい流れに勇敢に立ち向かい、いかなる嵐が来ようともそれに耐えようではありませんか。そして、私たちの子孫にこう言われるようになりましょう。試練にさらされたとき、私たちはこの旅を終わらせることを拒み、後戻りすることもたじろぐこともなく、地平線と神の恩恵をしっかり見つめ、自由という偉大な贈り物を未来の世代に無事に届けたのだと。 
 
 

 

●第44代 オバマ大統領第二期就任演説 2013年 
バイデン副大統領、連邦最高裁判所長官、連邦議会の議員の皆さん、来賓の皆様、そして市民のみなさん。
大統領の就任式のたびに、我々は合衆国憲法の変わらぬ強靭さを目の当たりにします。アメリカ合衆国の民主主義への誓約が確固としたものであることを確信します。この国の結束は、肌の色でも、信仰でも、どんな名前を持つかということでもたらされるものではありません。我々を際立たせるのは、2世紀以上も前に作られた独立宣言に明記された理念への忠誠です。
「我々は、すべての人間は生まれながらにして平等であり、生命、自由、幸福の追求という侵すべからざる権利を神から与えられているのだという真理を自明なものとします」
今、我々はこの言葉の意味することと、我々が現在直面している現実との間に橋をかけようと、終わりのない旅を続けます。歴史を見れば、この真理は自明なものかもしれません。しかし、これらの理想が、ただそのまま我々に与えられるものではないことは分かっています。自由は神からの贈り物です。しかし、それは地上にいる人間が努力して確保すべきものなのです。1776年当時の愛国者たちは、王の暴政を少数の特権階級や暴徒の支配にとって代わらせるために戦ったのではありません。彼らは人民の、人民による、人民のための共和国を我々に残し、後世にその建国の信念を守ることを託したのです。
そして200年以上にわたり、我々はそれを守ってきたのです。
むち打ちによって流された血、剣によって流された血を通して、我々は自由と平等の理念に立つ連邦は、奴隷と自由民とに分断された社会とは共存できないことを学びました。我々は自らを刷新し、ともに前に進むことを誓いました。
我々は共に、近代経済において、迅速に移動し、商取引をするために鉄道や高速道路が必要だと判断しました。労働者を訓練するために学校や大学も不可欠だと考えました。
我々は共に、自由な市場は競争と公平さを保証するルールがあってこそ、繁栄するということを学びました。
我々は共に、偉大なる国は無防備な部分を意識して、最悪の危険や不幸から自国民を守らなければならないと決心しました。
とはいえ、我々は中央に権力が集中しはじめていないかどうか、一貫して疑うことを止めませんでした。社会の病巣が、政府によって全て治療されるだろうという虚構にも惑わされませんでした。我々の、自らのイニシアチブで、参画してゆくことをよしとし、勤勉で個人個人が自らの責任において活動することを求める国民性は揺るぎのないものです。
しかし、我々は、時代が変われば、我々も変わらなければならないことは分かっています。建国の精神を厳しく守っていくには、新たな挑戦への新たな対応が必要です。個人の自由を守るためには、結局のところ集団行動が必要なのです。アメリカ兵がマスケット銃や民兵集団でファシズムや共産主義とは対抗できなかったように。今、この世界の要求にアメリカ単独では応えられないのです。
子どもたちの将来に必要な数学や科学の教師を、たった一人の人間が育成することはできません。新たな雇用やビジネスをうみだす道路やネットワーク、研究所をたった一人でつくることもできません。今まさに、これまで以上に一つの国、一つの国民として共にみなで取り組む必要があるのです。
現在、我々の世代は、アメリカ国民が様々な危機にさらされ、不屈の回復力でそれを乗り越えてきました。10年にわたる戦争も終わりました。経済も回復しはじめています。アメリカには限りない可能性があります。というのも、ボーダーレス化する世界で必要な若さ、活力、多様性そして開放性といった資質が我々にはあるからです。リスクに持ちこたえる力やさらなる改革への才能もあるのです。
国民のみなさん、我々は今この時のためにここにいるのです。いっしょに取り組もうとするかぎり、それを獲得することはできるはずです。なぜなら少数の人だけがうまいことやり、かろうじて暮らすような人が増えるようであれば、この国は成り立たないと、我々は分かっているからです。アメリカの繁栄は台頭する中間層の肩にかかっています。
すべての人が自立し、自分の仕事に誇りを持てたとき、誠実に働く人が自らの賃金で家族の苦境を救うことができたとき、アメリカは繁栄できるのです。職のない貧しい中に生まれた少女でも、他の誰とも同じように成功するチャンスがあると知ったとき、そしてそれは神が見ているからということだけではなく、我々自身が、彼女が自由で平等なアメリカ人であると認識していることによってそうなったとき、我々の信条が真実であるといえるのです。
使い古した制度は現代のニーズとは合わないということを我々は知っています。政府を再建するためには、新しいアイデアや技術を利用しなければなりません。税制を見直し、学校を改革して、人々がより熱心に働き、学んで、自らを向上させるためのスキルを身につけられるようにしていかなければなりません。しかし、手段は変わったとしても、すべての国民の努力と決意に報いる国を作ろうという目標は変わりません。それこそが今必要なことなのです。我々の信条に真の意味を与えるものなのです。
当然のことながら、すべての国民が基本的な安全と尊厳を持つ権利があります。医療費と財政赤字を減らすために厳しい選択を強いていかなければなりません。しかし、それがこの国を築いてきた世代を大切にするか、未来を担う世代に投資するかという選択であってはならないことは言うまでもないことです。我々は老後に貧困にあえぎ、障害のある子をもつ親が行き場がなく途方にくれていた教訓を覚えています。この国において自由は幸運な人だけのものでもなく、幸福も限られた人だけのものであってはなりません。どれほどしっかりと人生を歩んでいても、仕事を失ったり、突然病に倒れたり、または嵐で家を流されることは誰にでも起こり得るということです。メディケアやメディケイドといった医療保険、社会年金制度によってお互いに助け合う共同体は、我々の自発性を奪っていくものではありません。それは、我々を強くしてくれるものなのです。こうした制度はただ受給するためにあるのではなく、それによって、我々はこの国を繁栄させるためのリスクをとることのできる自由を獲得できるのです。
我々は、アメリカ人として、自らのためのみならず、後に続く世代のために責務を果たすべきです。気候の変化の脅威に立ち向かわなくてはなりません。失敗すれば、それは子どもや未来の世代を裏切ることになります。科学に頼りすぎることをよしとしない人が、今でもいるかもしれません。しかし手のつけられない森林火災や深刻な干ばつ、どんどん凶暴になっている嵐を回避することは誰にもできないのです。持続可能なエネルギーを模索する道は長く、時には試練にも直面するでしょう。しかし、我々アメリカ人は、この変化への過程に逆行することはできません。我々こそが先導していかなければならないのです。新たな雇用や産業を生み出す技術を他の国に譲り渡すわけにはいきません。その約束をしっかりと示してゆきましょう。こうしてアメリカ経済のバイタリティや、国の宝である森や川、耕作地や雪を頂く山々を守っていきましょう。神が命じたように、このようにして我々はこの地球を守ってゆきましょう。これこそが我々の祖先が独立宣言で謳い上げた信条を未来へと導くことなのです。
安全と平和を永続的に確保するために、絶えず戦争をする必要はないと我々は信じます。我が兵士の戦火によって鍛えられた勇気と技能は比類なきものです。戦没者のことは、我々の記憶に刻まれ、彼らが自由のために払った代償をしっかりと認識しています。彼らの犠牲によって、我々はアメリカに危害を加えようとする者たちへの警戒を怠らなくなりました。しかし我々は戦勝によって平和を我が者にしただけでなく、敵を友人へと変えることのできた人々の子孫でもあるのです。こうした教訓を現在に活かしていこうではありませんか。
強い軍隊と法の原則のもとに、国民とアメリカの価値を守っていきましょう。そして、他の国々との異なる見解を平和的に解決する勇気を示していきましょう。それは直面する危機への憂慮からではありません。戦争をすれば、より一層不信や恐怖が永続するからです。これからもアメリカは、地球上のあらゆる地域において強い同盟国としての「錨」の役目を果たしてゆきます。そして海外で起こる危機に対処する能力を強化するよう、制度を刷新していきます。平和な世界へ貢献できる国は、最も強力な国である我々以外にないのです。
我が国は、アジアからアフリカ、中南米から中東にいたるすべての国の民主主義を支持します。自由を待ち望む人たちのために、アメリカの関心、そして良心が、自由を求める人のために行動するよう我々に求めます。我々は貧困に苦しむ人、病める人、社会から取り残された人、そして偏見に苛まれる人にとっての希望の源であるべきです。慈善心からではなく、今の時代の平和のために寛容、平等な機会、人間の尊厳と法の正義といった共通の信念が必要だからなのです。
我々は今日宣言します。すべての人間は生まれながらにして平等である、という最も明白な事実こそが、我々を導いてゆく星であると。ちょうどセネカフォールズや、セルマ、そしてストーンウォールへと我々の祖先を導いたように。ちょうど、男も女も、唄った人も層でない人も、牧師のいう我々は一人では歩けないという言葉をこのワシントンの公園で共に聴き、キング牧師が、「地球上のすべての魂の自由と個人の自由は結びついている」と宣言したように。
先駆者の始めたことを引き継ぐのは、我々の世代の仕事です。我々の旅は、妻や母、そして娘たちた努力した結果に見合う生活ができるようになるまで、同性愛の兄弟姉妹が法のもとで全ての人たちと同様に扱われる日がくるまで終わることはありません。もし本当に我々が平等な人間として創造されたのであるならば、互いへの愛もまさに平等でなければならないはずだからです。投票する権利を行使するために何時間も待つ人がいなくなるまで我々の旅は終わりません。我々の旅は、努力し希望をもった移民を歓迎し、アメリカはチャンスに開かれた国だと信じてもらえるような施策ができるまで終わりません。優秀な学生や技術者がアメリカから退去させられることなく、労働力として受け入れられるようになるまで終わりません。そして、我々の旅は、デトロイトの路地からアパラチアの丘陵、ニュータウンの静かな小道まで、すべての子どもが愛され、大事にされ、そして暴力から守られていると感じられるようになるまで終わらないのです。
これが我々の世代の使命です。それは、「生命、自由、そして幸福の追求」——この言葉、権利、価値がすべてのアメリカ国民にとって現実になるようにする使命です。独立宣言は、すべての人の生き方が同じであることを求めません。自由を皆が同じように解釈し、全く同じやり方で幸福を追求する必要もありません。前に進めるためといって、長年に渡って議論されてきた政府の役割に関して、その議論の中断を強いるものではありません。ただ、我々の時代に合った行動をしようではありませんか。
決断は我々の手中にあります。そして、これ以上決断を先延ばしにすることはできません。絶対主義を理念であると取り違え、政治を見せ物にし、中傷合戦を論理的な議論であるかのように思ってはいけないのです。例え、我々の行動が不完全であったとしても、今、アクションをおこさなければなりません。今日の勝利はまだ部分的なものに過ぎず、かつてフィラデルフィアの議事堂で我々に与えられた永遠の精神を未来へと前進させる役割は、4年後、40年後、いや400年後にこの場に立つ人にも委ねられるのだということを知ったうえで、行動するべきなのです。
国民のみなさん、本日私が行なった宣誓は、連邦議会で職務を遂行する人たちの誓いと同じく、神と国への宣誓であり、政党や派閥への誓いではありません。そして任期中、誓いは誠実に実行されなければなりません。ですが、今日の私の言葉は、兵士が任務に赴くときの宣誓や、移民がこの国に住むという夢がかなったときの宣誓とそんなには違わないのです。我々の心を誇りで満たしながら我々の上にはためく星条旗に向かって行なう、我々全ての誓いと同じなのです。
これらは国民の言葉であり、我々の最も偉大な希望を代弁する宣誓です。
皆さんと私は、市民としてこの国の方向を定める力を持っているのです。
皆さんと私は、市民としてこの時代に何を議論していくべきか定める責任があります。投票するだけでなく、最も由緒ある価値観や不滅の理想を守るために声をあげましょう。
我々一人ひとりひとりが、ここに、生まれながらの権利を厳粛な義務と畏敬に満ちた喜びとをもって享受していきましょう。共通の努力と共通の目的、情熱と献身によって歴史の呼びかけに応え、尊い自由の光を不確かな未来にむけて掲げていきましょう。
ありがとう。皆さんに神のご加護を。そして、アメリカ合衆国に永遠の神のご加護がありますように。 
 
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 
 

 

 
 
 

 

●トランプ大統領 2017-2021年 
 
 
●第45代 トランプ大統領就任演説 2017年 
ジョン・ロバーツ連邦最高裁判所長官、カーター大統領、クリントン大統領、ブッシュ大統領、オバマ大統領、アメリカ国民の皆さん、そして、世界中の皆さん、ありがとうございます。
私たちアメリカ国民は今、素晴らしい国家的な努力に参加し、国を再建して、すべての人のために約束を果たします。私たちは共に、アメリカの、そして、世界の歩む道を決めるのです。これから歩む長い道です。私たちは課題に直面するでしょう。さまざなま困難にも直面するでしょう。しかし、その仕事をやり遂げます。
4年ごとに、私たちはこうした道のりのために集まり、秩序だって速やかに政権を移行します。この政権移行を快く支えてくれたオバマ大統領とミシェル・オバマ大統領夫人に感謝します。素晴らしい人たちです。ありがとうございます。
本日の式典には、とても特別な意味があります。なぜなら、ひとつの政権から別の政権へ、または、ひとつの政党から別の政党へ、単なる政権交代をしているわけではなく、ワシントンD.C.から国民である皆さんへ、政権を取り戻しているからです。
あまりにも長い間、ワシントンにいる一部の人たちだけが、政府から利益や恩恵を受けてきました。その代償を払ったのは国民です。ワシントンは繁栄しましたが、国民はその富を共有できませんでした。政治家は潤いましたが、職は失われ、工場は閉鎖されました。権力層は自分たちを守りましたが、アメリカ市民を守りませんでした。彼らの勝利は、皆さんの勝利ではありませんでした。彼らは首都ワシントンで祝福しましたが、アメリカ全土で苦しんでいる家族への祝福は、ほとんどありませんでした。
すべての変革は、この場所から始まります。今、ここで始まっているのです。なぜなら、この瞬間は皆さんの瞬間だからです。皆さんのものです。今日、ここに集まっている皆さん、アメリカ中でこれを見ている皆さんのものです。今日という日は、皆さんの1日なのです。これは皆さんの式典です。そして、このアメリカ合衆国は、皆さんの国なのです。
本当に大切なことは、どの党が政権を握るかということではなく、政府が国民により統治されることです。2017年1月20日は、国民がこの国の治める日として、これからずっと記憶に刻まれるでしょう。この国の忘れ去られた人々は、もう忘れ去られることはありません。誰もが皆さんに耳を傾けています。何千万の人々が、歴史的な運動に参加しています。
今まで世界が見たことのない動きが起きています。この動向の中心にあるのは、とても強い信念です。それは、国は国民に奉仕するために存在しているということです。アメリカ国民は、子供たちのために素晴らしい学校を望んでいます。また、家族のために安全を、自分自身のために良い仕事を望んでいます。正しい人々、そして、正しい国民がそう望むのは正当で、当然のことです。
しかし、多くの市民には、異なる現実が存在しています。母親と子供は都市部で貧困に苦しみ、工場は錆びき、アメリカ中に墓石のごとく散らばっています。教育は高額で、若く輝かしい生徒たちは、知識を習得できていません。犯罪、ギャング、麻薬があまりにも多くの命を奪い、花開くことのない可能性をこの国から奪っています。
こうしたアメリカの殺戮は、今ここで終わります。今、ここでです。
私たちはひとつの国家であり、彼らの痛みは、私たちの痛みです。彼らの夢は、私たちの夢です。そして、彼らの成功は、私たちの成功です。私たちは、ひとつの心、ひとつの故郷、ひとつの輝きに満ちた運命を共有しています。今日、私がした就任の誓いは、すべてのアメリカ国民の忠誠の誓いです。
何十年もの間、私たちはアメリカの産業を犠牲にし、外国の産業を豊かにしてきました。他の国々の軍隊を援助してきました。一方で、アメリカの軍隊は、悲しくも枯渇しています。私たちは他の国の国境を守っていますが、自分たちの国境を守るのを拒んでいます。海外に数兆ドルを投資しましたが、アメリカのインフラは絶望に陥り、腐っています。他の国々を豊かにしましたが、自国の富、力、自信は、地平線のかなたへ消えて行きました。ひとつずつ、工場が閉鎖され、この国を去りました。数百万人のアメリカ人労働者が置き去りになることなど考えもしないで、そうしたのです。中間層の富が、その家庭から奪われ、世界中に再分配されました。
しかし、それは過去です。今、私たちは未来だけを見据えています。私たちは今日、ここに集まり、新しい決意を発し、すべての街、すべての外国の首都、すべての政権にそれを響かせます。今日、この日から始まります。新しいビジョンがアメリカを治めるでしょう。今日、この日から、アメリカ第一のみになります。アメリカ第一です。
貿易、税金、移民、外交についてのすべての決定は、アメリカの労働者と家族の利益のために下されます。他国の暴挙から国境を守らなければなりません。彼らは私たちの商品を生産し、私たちの会社を盗み、私たちの仕事を破壊しています。保護こそが偉大な繁栄と力に繋がるのです。
私は全力で皆さんのために戦います。決して失望させません。アメリカは再び勝利します。これまでにない勝利です。雇用を取り戻し、国境を回復し、富を取り戻し、そして、夢を取り戻します。このすばらしい国の隅々に新しい道路、橋、空港、トンネル、鉄道を建設します。生活保護を受けている人たちに仕事を与え、アメリカの労働者の手と力で国を再建します。
私たちは2つの単純なルールに従います。アメリカ製の商品を買い、アメリカ人を雇うことです。世界の国々と友好的な善意の関係を築きますが、すべての国には自国の利益を優先させる権利があることを理解した上で、そうします。私たちは自分たちの生き方をすべての人に押し付けることはしませんが、模範として輝やかせたいと思っています。私たちはすべての人が追随するような輝きを放つでしょう。私たちは古い同盟関係を強化し、新たなものを形づくります。イスラム過激派のテロに対し世界を結束させ、地球上から完全に根絶させます。
私たちの政治の基盤は、アメリカ合衆国への完全な忠誠心です。国への忠誠を通し、私たちはお互いへの忠誠を再発見するでしょう。愛国心に心を開けば、偏見など持たないはずです。聖書はこう教えています。神の民が一体となって暮らすのは、何と素晴らしく喜ばしいことでしょう、と。私たちは隠さずに思っていることを語り、相違について討論しますが、いつも団結を求めなければなりません。アメリカが団結すれば、誰もアメリカを止めることはできません。
恐れることはありません。私たちは守られています。そして、私たちはこの先も守られるでしょう。私たちは軍や法執行機関の素晴らしい人たちに守られるています。そして、最も大切なのは、神により守られていることです。
最後に、私たちは大きく考え、さらに大きな夢をみなければなりません。アメリカで、私たちは分かっていると思うのですが、国家は、努力してこそ存続するのです。口ばかりで行動が伴わない政治家をこれ以上受け入れることはできません。彼らは文句ばかり言って、何もしていません。意味のないお喋りは終わりを迎える時です。今、行動の時が来ています。それはできない、と言うのはやめましょう。どんな課題も、心を開き、戦い、アメリカの精神を持てば、乗り越えられます。失敗することはありません。私たちの国は再び繁栄し、栄えるでしょう。
私たちは、新しい時代の誕生に立ち会っています。宇宙の神秘を解き明かし、地球上から病気の苦しみを失くし、未来の産業とテクノロジーを利用する準備をしています。新しいアメリカの誇りは、私たちの魂を揺さぶり、視野を高め、分断を埋めるでしょう。今こそ、思い出す時です。兵士が永遠に心に刻む知恵です。黒い肌、褐色の肌、白い肌、誰であろうと、同じ愛国心の赤い血が流れています。私たちは同じ輝かしい自由を享受しています。みんな同じ偉大な星条旗に忠誠を誓っているのです。子供がデトロイトの都市部で生まれようと、ネブラスカの風の吹く平原で生まれようと、同じ夜空を見上げ、同じ夢を心に抱き、同じ全知全能の創造主によって生命の息吹が吹き込まれます。
ですから、アメリカ国民の皆さん、すべての街に住んでいる市民の皆さん、それが近くても、遠くても、小さくても、大きくても、山から山まで、海から海まで、この言葉を聞いてください。皆さんは再び無視されることは決してありません。皆さんの声、希望、夢が、アメリカの歩む道を決めるのです。そして、皆さんの勇気、善意、愛が、その道を永遠に照らすのです。
一致団結して、私たちはアメリカを再び強い国にします。アメリカを再び富める国にします。アメリカを再び誇り高い国にします。アメリカを再び安全な国にします。そうです。ともに力を合わせ、アメリカを再び偉大な国にします。ありがとうございます。皆さんに神の祝福がありますように。そして、アメリカに神の祝福がありますように。ありがとうございます。アメリカに神の祝福あれ。 
●「優先テーマを率直に語った超実務的なスピーチ」 トランプ新大統領 2017/1 
1月21日(日本時間)、ドナルド・トランプ氏が第45代米国大統領に就任した。就任前から政策の方向性のみならず、メディアとの向き合い方、自らの情報発信にも注目を集めてきたトランプ氏の大統領就任を広報・情報戦略、企業のリスクマネジメント、メディアの専門家はどう見ているのか?日本企業の広報・コミュニケーション戦略への影響という観点から予測する。
スピーチのセオリーを排除
大統領就任演説としては随分ざっくばらんな、選挙戦の流れを踏まえると大きなサプライズのない内容だというのが、第一印象だろう。しかし同時に、新たな見方も得た気がする。
第一に、「型にはまった」演説ではなかった。
ああいった式典の場では、ジャケットの前ボタンはきちっとするものだ、とイメージコンサルタントは言うだろうし、多様性に気を遣い国を形づくってきた偉大な先駆者に思いを馳せ、歴史のコンテクストから現状認識を語る表現が不可欠だ、とスピーチライターならば言うだろうが、そうした従来のセオリーからは無縁の演説だった。
昨年の選挙後、とりわけ2017年になってから日本国内でも大きな会合の話題は常に「トランプで、どうなるか」だった。候補者時代に頻繁に使われてきた「過激な発言」という彼を象徴する表現は、いつの間にか「先の見えない」という時代を示す表現にシフトしつつあるが、それが不安であれ期待であれ、注目度は高まる一方だ。
そんな中での大統領就任ということであり、世界の注目が最高潮に高まるタイミングでどのようなメッセージを発信するかは、何よりトランプ大統領本人にとって紛れもなくたいへん重要なものとして認識されていたと考えられる。
アメリカ第一主義、中身は「雇用」
第二のポイントとして挙げるならば、ところがそれは新大統領の就任演説というよりは、内容面でも表現面でも、支援者集会での1コマを見るような演説だったということだ。世界が注目する超大国の大統領就任、というイメージでは決してなかった。
就任演説で一貫して語られたテーマは、「仕事」であり、「雇用」であり、めざす方向としてのアメリカの「繁栄」だった。アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)という一つの言葉でまとめられるであろう中身は、アメリカ人の仕事の話である。
従来の大統領演説との違いを感じざるを得なかったのはその捉え方だ。典型的な大統領演説のイメージなら、アメリカ国民が不断の努力によって現在の地位を得たこと、一人ひとりが国を発展させ、アメリカを偉大な国にする力となっていることなどを語る。つまり、今「ある」ものの価値を評価する形だ。
これに対してトランプ大統領の就任演説では、本来あるべき仕事や雇用が失われている、トランプ的に言えば、奪われている、という見方を示した。つまり今「ない」ものに注目して見せたのだ。
そうして象徴的に選ばれたのが、「取り戻す」(bring back)という表現だった。
   雇用を取り戻す。
   国境を取り戻す。
   富を取り戻す。
   夢を取り戻す。
まるで労使対決の激しい労働組合の会合を感じさせるようなフレーズだ。
メッセージははっきり出た
しかし、意外と言葉を大事にしている人物ではないか、と見方を新たにした点もあった。それが大統領らしいかどうかは別にして、ある意味で主張と優先順位のはっきりした演説であったことだ。具体的に2つのシンプルなルールを守る、と言い切ったからだ。それは、
   アメリカ製品を買わせる。
   アメリカ人を雇用させる。
というものだった。これは言葉の使い方として、即興的なものでなく厳密に狙いを定めた表現だ。これは演説後にトランプ氏のツイッターでも発信されている。これを守る以外は、逆に言えば、フレキシブルな対応をする、というのが演説から伝わるメッセージだろう。
従来のように「ある」ものに注目させれば、それは共通の価値を認識し、結束を呼び掛けるための軸にしやすくなる。ところが「ない」ものに注目させれば、身内の団結には効果的なこともある一方で、排外的な思想に走ったり仮想敵を強く意識しやすくなり、選挙以降も心配されていた国の分断が修復する方向には進みにくい。
しかしトランプ氏に言わせれば、それよりも何よりも、アメリカ人の雇用だ、ということなのだろう。
   繁栄してこそ国。
   我々の国は繁栄する。
トランプ氏の英語は平易で分かりやすい。大切な言葉は繰り返すので、キーワードは頭に残りやすい。
スピーチの名手だったオバマ前大統領のようにレトリックを使うことはないし、言葉で聞くものを心酔させたり、大統領スピーチ本がたくさん出てお手本にされるような種類のものではないかもしれないが、何をしようとしているのかははっきりしている。その意味で、就任演説もざっくばらんで超実務的なものだった。
とにかくニュースの中心にいる、ということを重視した情報発信の仕方をしてきたのがこれまでのトランプ氏だったと私は分析しているが、今後はより政策的な優先順位のはっきりした発信になるのではないか、というのが今回の就任演説で得た印象だ。 
●トランプ大統領・異色の就任演説から学ぶリーダーのスピーチ 2017/1
1月20日、アメリカでドナルド・トランプ大統領が誕生しました。選挙戦で過激な発言が目立ったことから、トランプ大統領に対しては好き嫌いが分かれるものと思います。しかし、彼が就任式で行った演説は、短く、分かりやすく、率直に、アメリカ再建にかける、熱い思いが語られたものでした。組織改革や意識変革に取り組むビジネス・リーダーにとって、参考になる点が多々あります。主義主張を脇において、「疲弊した国の再建に取り組むリーダーのスピーチ」として解説したいと思います。
異色の就任演説
今回のトランプ大統領の就任演説は、3つの点でこれまでの大統領就任演説に比べて異色でした。
第1に、格調高い文学的なレトリックを極力控えて、平易な分かりやすい言い回しでスピーチを行った点。第2に、選挙戦で対立した相手候補支持者との融和を図るというよりは、疲弊したアメリカの内陸部の中間層にターゲットを絞ってメッセージを届けた点。そして、第3は、目指すべき理想を語るというよりは今後の改革のビジョンを示し行動を呼びかける、「アメリカ国家再建宣言」とも言える具体的な内容だったという点です。
トランプ大統領は、どんな相手でも理解できる平易さ、注意力を持続して聞くことができる長さを意識して、短く、コンパクトに思いを語りました。具体的な政策の柱は、同じ日にホワイトハウスのホームページに掲げた6つのイシューで示すことを意識したのではないかと思います。
就任演説の構造
トランプ大統領の演説は、5つのパートからなるとてもシンプルな構造で構成されています。
メイン・メッセージ、即ち、演説を通して一番伝えたい内容は、「この瞬間から、アメリカ・ファーストで、国家を再建する」という改革に向けた力強い意志です。
オープニングは極めてシンプルでした。儀礼的な部分は最小限に抑えて、「今、この瞬間から、アメリカの再建に、国を挙げて取り組んでいく」という、国家再建に向けた思いをストレートに伝えています。
演説のボディは3つのパートで構成されています。
1つ目のパートは、「国家は国民に奉仕するためにある。ワシントンの既得権益層から、国民に権力を取り戻」し、国民のための国づくりを行う必要があるという、問題意識を述べています。
2つ目のパートは、「アメリカは、今、悲惨な状況にある。外国を守り、外国を豊かにしながら、国内は疲弊している」と、アメリカの、特に内陸部中間層の厳しい現実を伝えています。
3つ目のパートは、「今、この瞬間から、『アメリカ・ファースト』をビジョンに掲げ、アメリカの再建に最優先で取り組む」という改革方針の宣言を行っています。その際のルールは2つ。1つはアメリカ製品を買うこと、そしてもう1つはアメリカ人を雇用することと、明確な指針を述べました。
最後のクロージングは、「再びアメリカを、偉大な国にしていく」という、強い意志を伝え、「力をあわせて取り組もう」との呼びかけでスピーチを締めくくっています。
レトリック
効果的なスピーチにするための工夫として、トランプ大統領は2つの技法を使っています。1つは反復法です。文法的に同じ構造の文章を繰り返すやり方です。例えば、アメリカ・ファーストについて語る場面で以下のように述べています。
We will bring back our jobs. We will bring back our borders. We will bring back our wealth. And we will bring back our dreams.(私たちは、雇用を取り戻します。私たちは国境を取り戻します。私たちは富を取り戻します。そして、私たちは夢を取り戻すのです)
トランプ大統領は、選挙期間中から演説の随所にこの技法を使っています。文書として読むと、単純な内容が同じような書き方で繰り返されており、少し退屈に感じるかもしれませんが、演説で話し手がこの技法で話をすると、まず、話し手自身の気分が高揚して興奮状態になり、その感情が聴衆に伝わり、聴衆も興奮状態になるという効果があります。有名なキング牧師の演説「I have a dream」も、この反復法で語られました。
2つ目のレトリックは名言の引用です。大統領の就任演説のクロージングでは、必ずと言っていいほどこの技法が用いられます。大統領演説以外でも、スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式スピーチでは、「Stay hungry, Stay foolish」という言葉が引用されました。
トランプ大統領は、「神の民が、ともに力をあわせて生きていくことができたら、なんと素晴らしいことか」という聖書の言葉とともに、終盤では、「私たちの肌の色が黒いか、茶色いか、白いかにかかわらず、私たちは皆、同じ愛国心の血を流し、皆、同じ輝かしい自由を享受し、皆、同じ偉大な星条旗に敬意を払うのです」という兵士の間で古くから語られている言葉を用いました。
トランプ大統領はアメリカ国民に結束を呼びかける時、自分の言葉を使うよりも、聖書の言葉や兵士に語り継がれる言葉を使うほうが聴き手にとって納得感がある、と考えたのだと思います。
話し方
トランプ大統領は、演説の前半はかなり緊張していたのか、少し迫力に欠けていたように思われます。しかし、中盤の「アメリカ・ファースト」以降では熱がこもり、気迫に満ちた話し方になっていました。心から信じることを伝える時、その思いが、目、表情、身振り手振り、姿勢、そして声といった非言語に乗り、聴衆に届いていくのだと思います。
トランプ演説からの学び
ビジネス・リーダーにとってトランプ演説から学べることは、「短く、分かりやすく、率直に、気迫を込めて」話をするという点だと思います。
アメリカはマクロ経済成長率でみれば、リーマンショックを乗り越えて堅調に推移しているとも見ることができますが、所得の分配という点では貧富の格差が年々開いています。
クリントン政権で労働長官を務め、オバマ大統領のアドバイザーも務めたロバート・ライシュ教授によれば、第二次大戦後30年では、大企業のCEOの所得は平均的労働者の20倍程度であったものが、今や実質的に200倍を超えている。往時には富裕層の上位1%の所得が米国総所得に占める割合は9〜10%であったのが、今では2割を超える状況となったとのこと(出典:「最後の資本主義」ロバート・ライシュ著、雨宮寛・今井章子訳、東洋経済新報社)。
アメリカの西海岸と東海岸はハイテク産業や金融サービス産業で経済が比較的好調なのに対して、内陸部の諸都市では製造業による工場の海外移転などで雇用が失われ、中間層の没落が起きており、トランプ大統領は、この地域、この層の立て直しを強調しています。
今、日本でも様々な業界で、かつて繁栄を謳歌したトップ企業が変調をきたす厳しい時代になっています。そうした企業や組織を率いるリーダーにとって、トランプ大統領のスピーチは大いに参考になるのではないかと思います。
ドナルド・トランプ大統領就任演説
   国家の再建に向けて
ロバーツ最高裁判所長官、カーター大統領、クリントン大統領、ブッシュ大統領、オバマ大統領、アメリカ国民の皆さん、そして、世界の皆さん、ありがとう。
私たちアメリカ国民は、今、この瞬間から、国を再建し、国民のための約束を取り戻す、偉大なる努力に、国を挙げて取り組んでいきます。私たちは共に、これからのアメリカと世界が進む道を決めていくのです。
私たちには、たくさんの挑戦が待ち受けているでしょう。私たちは、数多くの困難に遭遇するでしょう。しかし私たちは、必ずやり遂げることができます。
   国民のための国づくりを
4年に1度、私たちはここに集い、秩序を重んじ、平和的に、権力を移行します。この過程において、オバマ大統領とファーストレディーのミシェル・オバマ夫人が、丁寧に、思慮深く支援してくれたことに、感謝しています。2人は本当に素晴らしかったです。
しかしながら、今回の大統領就任式には、特別な意味があります。それは今回の式が、単に、1つの政権から別の政権に、1つの政党から別の政党に、権力を移行させるだけでなく、首都ワシントンから、皆さん、アメリカ国民の手に、権力を取り戻しているからなのです。
余りにも長い間、首都ワシントンの一握りの集団が、政府の恩恵に浴する一方で、国民はそのコストを支払ってきました。ワシントンは栄えましたが、国民は富の分け前を手にすることはありませんでした。政治家は潤いましたが、人々の仕事はなくなり、工場は閉鎖されました。支配階層は自分たちを守っても、国民のことを守ることはありませんでした。
彼らの勝利は、皆さんの勝利ではありませんでした。彼らの成功は、皆さんの成功ではありませんでした。彼らが首都ワシントンで、祝杯をあげる一方で、アメリカ全土の苦境に陥った家族たちは、そんな恩恵にあずかることは、一切ありませんでした。
そのすべてが変わります。今、この場所から、始まります。この瞬間は、皆さんの瞬間です。そう、皆さんのものなのです。この瞬間は、今日ここに集まった全ての皆さん、そして、これを観ているアメリカ全土の人たちのものです。今日の日は、皆さんのものです。今日の日は、皆さんの祝福の日であるのです。
本当に大切なことは、私たちの政府を、どの党が統治するかではなく、私たちの政府が、国民によって統治されるか否かという点なのです。2017年1月20日は、国民が、再びこの国の統治者になった日として、記憶されることになるでしょう。
この国の忘れ去られた人々は、最早、忘れ去られることはありません。今、誰もが皆さんの声に、耳を傾けています。何千万もの皆さんが、世界がかつて見たこともなかったような、歴史的な運動の一部となったのです。
この運動の中核をなす大切な信念は、国家は国民に奉仕するためにある、ということです。アメリカ人は、子どもたちのために素晴らしい学校を、家族のために安全な地域を、そして、自分自身のためによい仕事を求めています。これらは、まっとうな国民の、公正で理にかなった要求です。
   アメリカの現実
しかし、あまりに多くの国民にとって、異なる現実が存在しています。都市部では、母親と子どもたちが、貧困に喘いでいます。国中のあちこちに、さび付いた工場が墓石のように点在しています。教育にはお金がかかり、若く、輝く生徒たちは、知識を得る機会を奪われています。そして、犯罪、ギャング、ドラッグが、あまりに多くの命を奪い、この国が持つ可能性を奪っているのです。
アメリカのこの悲惨な状況は、今ここで終わります。今すぐにです。私たちは、一つの国です。彼らの痛みは、私たちの痛みです。彼らの成功は、私たちの成功です。私たちは、一つの心を、一つの家を、そして、一つの輝かしい運命を、共にしているのです。今日の私の宣誓は、全てのアメリカ国民に対する忠誠の誓いです。
何十年もの間、私たちは、アメリカの産業の犠牲の下に、外国の産業を豊かにしてきました。自国の軍隊が疲弊する悲しむべき状況を放置しながら、他国の軍隊を援助してきました。自国の国境を守ることを拒みながら、他国の国境を守ってきました。そして、国内のインフラが荒廃し、朽ち果てる一方で、海外で何兆ドルものお金を使ってきました。
私たちは、アメリカの豊かさと強さと自信が、地平の彼方に消えゆく中で、他国を豊かにしてきました。一つ、一つと工場がシャッターを下ろし、国外に去って行きました。後に取り残されるアメリカの労働者のことは、考えられもしませんでした。中間層の富は、家庭から奪われ、世界中に再配分されていきました。
   アメリカ・ファースト
しかし、これらは全て、過去のことです。私たちは、今、未来だけを見ているのです。今日、ここに集まった私たちは、新たな号令を発します。それは、全ての都市で、全ての国の首都で、そして、権力が集まる全ての場所に届くことになるでしょう。今日から、新しいビジョンが、私たちの国を治めることになるでしょう。
今、この瞬間から、「アメリカ・ファースト」がビジョンとなるのです。貿易、税金、移民、そして外交についてのあらゆる意志決定は、アメリカの労働者とアメリカの家族のために行われます。
私たちは、他国の脅威から、国境を守らなければなりません。私たちの製品を作り、会社を盗み、雇用を破壊するのを止めなければなりません。保護こそが、偉大な繁栄と国の力をもたらすのです。
私は、全身全霊を尽くして、皆さんのために戦います。皆さんを、決して失望させることはありません。アメリカは、再び勝利を手にします。かつて見たことがないほどの勝利です。雇用を取り戻します。国境を取り戻します。富を取り戻します。そして、私たちは、夢を取り戻すのです。
私たちは、この素晴らしい国全土に渡って、新しい道路、ハイウェイ、橋、空港、トンネルを建設します。私たちは、人々が福祉頼みから脱却し、職に戻れるようにします。私たちの国を、アメリカ人の手で、アメリカ人の力で、立て直していくのです。
私たちは、2つのシンプルなルールに従います。アメリカ製品を買う、そして、アメリカ人を雇用する、ということです。
私たちは、世界中の国々と、友情と善意を持ってつきあいます。しかし、その前提は、全ての国が、自国の利益を第一に考えて行動する権利がある。そのことを理解した上においてです。私たちは、自分たちの生き方を、他国に押しつけたりはしません。むしろ、自らを輝かせ、他国がお手本にしたくなるような国になりたいと思います。
私たちは、従来からの同盟関係を強化するとともに、新しい関係も築きます。文明世界を結束させ、イスラム過激派のテロリズムに立ち向かい、地球上から完全に根絶させます。
私たちの政治の基盤は、アメリカ合衆国への完全なる忠誠心です。そして、この国家に対する忠誠心を通して、私たちは、互いへの忠誠を再び発見することになるでしょう。愛国心に心を開けば、偏見の入る余地はないのです。
聖書は私たちに、こう教えています。「神の民が、ともに力をあわせて生きていくことができたら、なんと素晴らしいことか」と。私たちは、心を開いて語り合い、意見の違いについて率直に議論することが必要です。しかし、そんな時でも団結することを目指していかなければなりません。
アメリカが団結すれば、もう、誰にも止めることはできません。恐れることはありません。私たちは、守られ、そして、いつも守り続けられるのです。私たちは、軍や警察で働く、偉大な人たちに守られています。そして、何より大切なことは、私たちが神によって守られているということです。
   アメリカを再び偉大な国に
最後に、私たちは、大きく考え、もっと大きな夢を見るべきです。アメリカでは、国家は努力してこそ、存続できるということを、皆が理解しています。私たちは、もはや、口先ばかりで行動に移さない政治家や、不平ばかり言って何もしない政治家を、受け入れることはできません。中身のない話は、もう終わりです。行動を起こす時が来たのです。
そんなことは無理だと言うのは、もう、やめにしましょう。どんな問題も、アメリカの心、アメリカの努力、そして、アメリカの精神を持って取り組めば、必ず解決することができます。私たちは、失敗することなどありません。
この国は、再び栄え、豊かになるのです。私たちは、新たな時代の幕開けにいます。宇宙の謎を解き明かし、地球上から病の苦しみをなくし、未来のエネルギー、産業、技術を役立てる準備ができています。この国に対する新たな誇りが、私たちの魂を呼び覚まし、視野を高め、分断を癒すでしょう。
今こそ、私たちの兵士が決して忘れることのない、古くからの知恵を思い出す時です。私たちの肌の色が黒いか、茶色いか、白いかに関わらず、私たちは皆、同じ愛国心の赤い血を流し、皆、同じ輝かしい自由を享受し、皆、同じ偉大な星条旗に敬意を払うのです。
そして、デトロイトの不規則に広がる都心部で生まれた子どもであれ、ネブラスカの風吹きすさぶ平原に生まれた子どもであれ、同じ夜空を見上げて、同じ夢で心を満たし、同じ全能の創造主から命の息吹を吹き込まれるのです。
すべてのアメリカ人の皆さん、皆さんの街が、近かろうが遠かろうが、大きかろうが小さかろうが、山から山、そして、海から海に渡るまで、この言葉を聞いて下さい。
皆さんは、もう決して無視されることはありません。
あなたの声、あなたの希望、あなたの夢が、アメリカの運命を決めるのです。あなたの勇気、あなたの善意、そしてあなたの愛が、私たちを永遠に導いてくれるのです。
力をあわせて、再びアメリカを強い国にするのです。再びアメリカを豊かな国にするのです。再びアメリカを誇り高い国にするのです。再びアメリカを安全な国にするのです。
そして、そう、皆で力をあわせて、アメリカを再び偉大な国にするのです。
ありがとうございます。神の祝福が皆さんに、そして、アメリカにありますように。 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 

 

●歴史に残る米大統領の就任演説 
史上最短と最長の演説
初代大統領のジョージ・ワシントンは一七八九年四月三十日に就任演説をニューヨークで行い、再選後の二期目の演説は九三年三月四日にフィラデルフィアで行った。
この二期目の就任演説は「大統領としての任務を遂行せよと、再び国民から求められた」で始まる百三十語ほどの史上最短演説で、わずか二分で終了。大統領職に執着しなかったワシントンらしい簡潔さだった。
逆に史上最長は、一八四一年三月四日に就任した第九代大統領のウィリアム・H・ハリソンが行った、実に八千四百四十五語に上る大演説。就任時の年齢が六十八歳(ロナルド・レーガンが一九八一年に六十九歳で就任するまでは最年長)と高齢だったにもかかわらず、ハリソンは、強風と厳寒の中で、帽子もかぶらず、手袋も着けず、オーバーも着ずに一時間四十分に及ぶ長広舌を振るった。
このためハリソンは風邪を引き、肺炎を起こして、就任からちょうど一カ月後の四月四日に死去してしまった。ハリソンは何の実績も残せないまま、在任中に死去した最初の大統領として記憶されることになった。
なお、この故事があったからか、レーガンが七十三歳の高齢で二期目の就任式に臨んだ一九八五年一月二十一日(二十日が日曜日で、式典は翌二十一日に行われた)には、氷点下の厳しい寒さがワシントンを襲ったため、宣誓式は議会の建物内部で行われ、恒例のパレードは中止となった。
「皆がリパブリカン」─ジェファーソン
首都がワシントンに移ってから、初めて同地で就任演説に臨んだのは一八〇一年三月の第三代大統領トーマス・ジェファーソン。中央集権を目指す第二代大統領のジョン・アダムズら連邦派(フェデラリスト)と、州権優位を主張するジェファーソンらの共和派(リパブリカン)が正面から激突した一八〇〇年選挙は、米国史上初めて党派対立が先鋭化した選挙として知られる。
このため、勝者のジェファーソンは就任演説で「国論分裂」を修復することに腐心し、次のように呼び掛けた。「あらゆるケースで多数派の意思が通るとしても、少数派が平等の権利を持つのを忘れてはならない。さあ、皆さん、心を一つにしよう」
「あらゆる見解の相違は、原則の不一致ではない。われわれは皆、共和派であり、同時に皆が連邦派である」
それからちょうど二百年後の二〇〇〇年選挙で、共和党のジョージ・W・ブッシュと民主党のアル・ゴアが大接戦を演じ、開票の混乱から三十六日間も勝者が決まらない未曽有の政治危機に見舞われた。この期間中、二人が演説でジェファーソンを想起させながら、支持者に理解を求めたのは偶然ではなさそうだ。
ブッシュは「見解の相違が原則の不一致ではない」という部分を引用し、「ゴア氏と私の間には意見の相違は存在するが、重要な原則では広範な一致がある」(十一月二十六日にテキサス州オースティンで行った演説)と語った。一方、ゴアは「ジェファーソンの就任演説は、わが国の歴史の中で傑出した大統領演説の一つだ。彼は『われわれは皆、共和派であり、同時に皆、連邦派である』と呼び掛けた。わが国の民主主義の回復力は、しばしば過小評価される。しかし、いつも最後にはその力を証明している」(同日のニューヨーク・タイムズ紙とのインタビュー)と述べ、党派対立を乗り越えて卓越した指導力を発揮したジェファーソンをたたえた。
分離は不可能─リンカーン
南北戦争の直前、一八六一年三月四日に就任したエーブラハム・リンカーンの目的は、何としても戦争を食い止めることだった。就任演説で、リンカーンは次のように訴えた。
「南部諸州の人々の間には、共和党による政権継承で自分たちの財産や安寧、安全が脅かされるのではないかとの危惧(きぐ)が存在しているようだ。私は、直接的にも間接的にも、南部諸州に存在する奴隷制度に干渉する意図はない」
「ただし、物理的にはわれわれの分離は不可能だ。一部の地域を外したり、通行を妨げたりする壁などを築けるはずがない。夫婦なら離婚して、姿を消したり、互いに手の届かぬところへ去ったりできるだろう。だが、わが国の異なる地域がそのように分離するわけにはいかない」
「不満を抱く仲間の国民よ。内戦という重大な問題は私の手中にあるのではなく、あなた方の手中にある。政府はあなた方を攻撃しない。あなた方が自ら攻撃しさえしなければ、紛争は起きない」
リンカーンのこうした呼び掛けにもかかわらず、それからわずか一カ月後の同年四月十二日、南軍がサウスカロライナ州チャールストンの港の入り口にあった連邦軍のサムター要塞に砲撃を開始して、南北戦争の火ぶたが切られた。
ゲティスバーグ演説
南北戦争といえば、わずか三日間の戦闘で五万一千人もの兵士が亡くなり、一つの戦いとしては米国史上で最大の犠牲者を出したゲティスバーグの戦い(一八六三年七月一〜三日)を忘れるわけにはいかない。北軍九万三千人、南軍七万人を動員したこの激戦は、劣勢に立たされた南軍が起死回生の反撃を狙って仕掛けた北上作戦のクライマックスだった。
首都ワシントンの北西百二十キロに迫った南軍に対し、リンカーンは司令官を更迭して防備を固めた。後に騎兵隊を率いてスー族との戦いで壮絶な死を遂げるジョージ・カスターも、二十三歳の若さで少将として北軍の一翼を担った。こうした思い切った若手登用の抜てき人事は、リンカーンの卓越した指導力を示すエピソードの一つである。北軍は多大な犠牲を払いながらも、南軍の進撃を食い止めた。
この戦いから四カ月後の同年十一月十九日、リンカーンはゲティスバーグで演説を行った。就任演説ではないものの、歴史的重要性があるので、紹介しておこう。
演説は「八十七年前、われわれの父祖は、自由の理念と万人は平等との信条に基づく一つの新しい国家をこの大陸につくり上げた」で始まる。戦場で命を落とした兵士たちの死を無駄にせず、新たな自由を誕生させると約束し、「人民の、人民による、人民のための政治」(GOVERNMENTOFTHEPEOPLE BYTHEPEOPLE FORTHEPEOPLE)という有名な文句で締めくくっている。
実は、この演説、わずか二分足らずの短いものだった。カメラマンが群衆の中で手間取っているうちに終わってしまったといわれ、演説中のリンカーンの姿は写真として残っていない。
現在、演説が行われた国立墓地には、兵士をしのぶ慰霊塔が建っている。その碑には、「団結すれば、立ち向かえる」(UNITED WE STAND)、「分裂すれば、敗北する」(DIVIDED WE FAIL)と刻み込まれている。
恐れるべきは恐れそのもの─F・ルーズベルト
今から約八十年前、米国を発火点として世界を襲った大恐慌(一九二九年)は、資本主義経済のもろさを露呈した。混乱の最中、民主党のフランクリン・D・ルーズベルトは三三年三月四日に第三十二代大統領に就任する。二十世紀を代表するこの偉大な大統領は、就任演説で次のように語り掛けた。
「まず最初に、私の固い信念を述べさせていただきたい。われわれが恐れなければならない唯一のものは、恐れそのものである。いわれのない、不合理で明確な理由のない恐怖心は、後退を前進に変えるのに必要な努力をまひさせてしまう」「国家は行動を求めている。しかも、早急な行動を。われわれが優先すべき最も大きな任務は、人々に働いてもらうことだ。賢明かつ勇敢に対処すれば、それは解決不能な問題ではない。その一部は政府自身による直接的な雇用によって達成できる。戦争のような緊急時の対応と同様の対応で臨めばいい。同時にこうした雇用を通じて、わが国の自然資源の活用を刺激し、再組織化するためにぜひとも必要なプロジェクトを達成できる」
ルーズベルトはそれから一週間後の三月十二日、ホワイトハウスから直接国民に呼び掛ける初の「炉辺談話」(FIRESIDE CHAT)を行い、銀行システムの信用回復を目指す計画を明らかにした。この演説には、六千万人が耳を傾けたといわれる。国民はルーズベルトを信頼した。
「希望と信頼の回復」こそ、ルーズベルトが三〇年代の米社会にもたらした最大の貢献だと高く評価されている。ルーズベルトはその後、しばしば「炉辺談話」の形で政策を国民に伝え、安心と自信を与えていく。
第二次世界大戦末期の四五年一月二十日、ルーズベルトは史上唯一となった四期目の就任演説で次のように語っている。
「われわれは一国では生きていけない事実を学んだ。わが国の繁栄は、遠隔の地にある諸国の安寧に依拠している」「われわれは世界市民、人類社会のメンバーであると学んだ」「(著名な思想家で詩人の)エマーソンの言葉にあるように、『友人をつくる唯一の方法は自分自身が友人になることだ』という単純な真実を学んだ」
たいまつは受け継がれた─ケネディ
「ニューフロンティア精神」を掲げて、さっそうと登場したのは第三十五代大統領のジョン・F・ケネディ(民主)だった。一九六一年一月二十日に行われた就任式では、「今、この場所から、世界に伝えよう。今世紀に生まれたアメリカ人の新しい世代に、たいまつは受け継がれた」と高らかに宣言した。ケネディは続ける。
「世界に知らせよう。自由が生き延び、成功するために、われわれはいかなる代価も払い、負担にも耐え、困難に立ち向かい、いかなる友邦も支援し、敵には対抗すると」「アメリカ国民よ。国家が君たちのために何を成し得るかを問うな。君たちが国家のために何を成し得るかを問いたまえ。世界の人々に言いたい。あなた方のために、アメリカが何をするかを問うなかれ。人類の自由のために、われわれが共に何を成し得るかを問い掛けよう」
ケネディは就任から四カ月後の同年五月二十五日にも、議会で重要な演説を行った。六〇年代末までに人類を月に送り込むと宣言したのである。就任演説ではないが、この演説にも触れておこう。
旧ソ連が五七年十月に人類初の人工衛星、スプートニク1号を打ち上げたのは、米国にとって大変なショックだった。科学技術の面で旧ソ連に後れを取ったのだから、当然である。ケネディは大胆に訴えた。
「就任以来、宇宙政策面での政府の努力を見直した。……今や米国が主導的な役割を演じる時だ。われわれにはあらゆる資源と必要な才能があると信じる」
「私は、この国が六〇年代末までに、人間を月に着陸させ、無事に地球に帰還させる目標を達成すべきだと信じる」相当思い切った決断だったが、アポロ計画による月面着陸と地球への帰還は、ニクソン政権下の六九年七月、アポロ11号の飛行で実現した。
政府は問題の解決にならず─レーガン
リチャード・M・ニクソンが辞任に追い込まれたウォーターゲート事件やベトナム戦争、それにカーター政権時代のスタグフレーション(景気後退とインフレの同時進行)やイランでの米大使館占拠・人質事件など、米国の衰退を感じさせる厳しい七〇年代を経て、八一年一月に第四十代大統領に就任したのはロナルド・レーガン(共和)だ。彼はフランクリン・D・ルーズベルトとは正反対の姿勢で「小さな政府」を訴え、国民の創造性と民間企業の活力に国力復活の期待を掛けた。
「現在の危機においては、政府がわれわれの問題の解決にはならない」「だが、私の意図は政府をなくすことではない。政府が上からではなく、われわれと共に働き、われわれの背にのし掛かるのではなく、われわれの側に立つようにしよう。政府は機会を提供できるし、そうしなければならない。決して、機会を握りつぶしてはならない。生産性が高まるように促すべきだが、それを抑制してはならない」「一部の人々はわれわれにそう信じ込ませようとしているが、衰退は不可避ではない。われわれが何をしようと悲運が訪れるなどと、私は信じない。信じるのは、何もしなければ、破滅が降り掛かってくることだ」
世界に自由拡大を─ブッシュ
二〇〇四年に再選されたジョージ・W・ブッシュは〇五年一月、自信満々で二期目の就任式に臨んだ。そこで打ち出されたのは、壮大な「全世界への自由拡大」構想だった。
「わが国における自由の存続は、ほかの地での自由の成功にますます依存しつつある。世界平和のために最も望まれるのは、全世界への自由拡大だ」
アフガニスタン戦争やイラク戦争など、対テロ戦争に明け暮れたブッシュの一期目。一時は再選が危ぶまれながらも、民主党のジョン・ケリーを振り切って再選されたことが、よほどうれしかったのだろう。二期目の政権にとって「最終目標は圧政(TYRANNY)の終えん」とまで言い切った。
ブッシュは就任演説の中で、「自由」を意味する「フリー」「フリーダム」「リバティー」という言葉を合計で四十九回も使った。しかし、世界はブッシュの思惑通りには動かなかった。イラクでは形だけの民主化が行き詰まり、一時はイスラム教のスンニ派とシーア派の内戦状態に陥った。〇八年春の段階では、シーア派内の抗争が武力衝突に発展。米軍は長期駐留を余儀なくされている。
パレスチナでは、民主的な選挙でイスラム原理主義組織ハマスが政権を握った。ところが、ブッシュ政権はテロ組織としてハマスを相手にせず、イスラエルとパレスチナの和平は混迷を深めている。パキスタンでは総選挙を控えた〇七年十二月、米国が後押ししたブット元首相の暗殺事件が起きた。ブッシュが「自由」の拡大を主張すればするほど、国際社会から反発を買う。それほど、米国の威信低下は著しい。世界における「信頼回復」は次期大統領が抱える最大の課題であり、ルーズベルトやレーガンの直面した困難に匹敵する緊急性と重大性を持っている。