安倍天皇 退位

安倍天皇 上皇となる
唯我独尊 利権政治完成

不都合なこと 全てなかったことにする
お役人 メディア 封じ込み  忖度文化創る
公文書も消える
お飾りは 何もしない 順番こ大臣

1000兆円超え 国の借金 若い世代にプレゼント
 


政権キャッチコピー2006・・・
201220132014201520162017201820192020辞任会見政界反応・・・
昔話 / 前川前次官叩き桜を見る会2018おとぎ話2006総理就任演説・・・
財政再建 / 202020192018・・・2015・・2013・・・2005・・・
 
 
 

 

●政権のキャッチコピー
常套句 キャッチコピー 口先だけで何もしない 
   「丁寧な説明」
   「遺憾」「大変遺憾」「誠に遺憾」
   「痛恨の極み」
   「不徳の致すところ」
   「任命責任」「任命したものとして責任を痛感」
   「政治は結果責任」
論点をはぐらかす
   「あなたの前提が間違っている」
   「悪魔の証明であります」
答弁の前に遣り返す 2016/9/28
   「ただスローガンを重ねるだけでは、社会を変えることはできない。具体的な政策な
   くして、そのスローガンを現実のものとすることはできない。具体的な政策を提案し、
   実行し、そして結果を出していく決意だ。」 蓮舫(民進)への答弁
新型コロナ対応 2020/4/27
   「私はこれまでも政治は結果責任であると申し上げてきた。全ての責任は首相で
   ある私にある。その大きな責任を先頭に立って果たしていく決意に変わりはない」
 
 

 

●2006年の安倍総理 2006/9/26-2007/9/26
 「美しい国づくり内閣」
 「創りあげたい日本がある。 美しい国、日本。」
 「地域に活力。成長で活力。 暮らしに届く改革。」
 「成長を実感に! 改革を貫き、美しい国へ。」
 「戦後レジームからの脱却」
 「改革実行力」
 
 

 

●2012
 真部沖縄防衛局長 「親戚も投票所に行くよう話して・・・」講話 2/2
 民主党の小沢元代表 戦闘開始「野田叩き」 4/29
 東電の資産売却 6/
 野田総理 「近いうち解散」 10/16
 田中眞紀子文科大臣 大学不認可騒動 11/2
 「アベノミクス(アベノミックス)」 12月衆院選公約の経済政策 12/16
   デフレと円高からの脱却 名目3%以上の経済成長の達成
   自民党は「日本を取り戻す」
 第二次安倍政権が発足 「危機突破内閣」 12/26  
 
 

 

●2013
 アルジェリアで日本人を含む外国人が拘束・人質となる 1/21
 麻生副総理 社会保障制度改革国民会議で「さっさと死ねるように」 1/21  
 日本維新の会・橋下徹共同代表(大阪市長)「慰安婦制度は必要だった」 5/13
 復興庁幹部、ツイッターで暴言「左翼のクソども」 6/13   
 「アベノミクス」・三本の矢 6/14
 三原じゅん子参院議員 「民主党は恥を知りなさい」 6/24
 参院選 自公の圧勝 民主党は自己崩壊 7/21
 麻生副総理 「ナチスの手口に学べば」 (憲法改正論議に) 8/1
 東京2020オリンピック開催 9/10 
 福島原発 「不幸な事故だった」語る政治家 10/?
 特定秘密保護法 閣議決定 10/25
 NHK経営委員に安倍政権“お友達”ズラリ 露骨すぎる言論介入 10/29
 首相の靖国神社参拝 12/28  
 
 

 

●2014

 NHK籾井新会長 「従軍慰安婦、どこの国にもあった」 1/25  
 小松長官 安保基本法めぐる答弁「言葉足らずだった」と陳謝 3/12
 8%へ消費税率引き上げ 4/1
 原発 前代未聞「凍土遮水壁」チャレンジ 4/1
 内閣人事局設置 (お役人の忖度文化の起源) 5/30
 石原伸晃環境相 「最後は金目でしょ」 原発汚染土の中間貯蔵施設 6/16
 東京都議会 塩村議員「早く結婚したほうがいいんじゃないか」セクハラヤジ 6/18
 「女性の活躍推進の取組」 6/24-
 集団的自衛権の行使を認める閣議決定 7/1  
 「2%の物価安定目標」と「量的質的金融緩和」日銀 10/31
 宮沢経済産業相 「川内原発」「カワウチ原発」と読んだ 11/3
 「アベノミクス解散」 11/21
 金融大緩和 公共投資の大盤振る舞い 一番大事な三本目の矢は掛け声だけ
 「元気で豊かな地方の創生」「地方創生」「まち・ひと・しごと創生法」 9/3-12/2施行
 特定秘密保護法 施行 12/10

 
 

 

●2015
 加計問題で新文書 首相「獣医大学いいね」 (2/?)
 加計疑惑 愛媛県職員は柳瀬さんに会う (4/2)
 稲田政調会長 、戦後70年談話 「総理の談話、総理に任せるべき」 2/24  
 安倍首相 「決めるべき時には決める」 安保法制 武力の行使の新三要件 6/26 
 礒崎首相補佐官 安保法制審議に「法的安定性は関係ない」 7/26 
 安全保障法制成立 9/18
 「集団的自衛権行使容認」 首相判断は法律より優先
 「新三本の矢」 GDP600兆円 第2ステージ 9/24  
 「一億総活躍社会」
 慰安婦問題めぐり日韓合意「最終的かつ不可逆的解決」 12/28    
 
 

 

●2016
 衝撃告発「私は甘利大臣に賄賂を渡した」 1/20  
 マイナス金利政策 2016/2 
 餓鬼の要職 大盤振る舞い
   高市総務大臣 憲法改正に反対したテレビ局に「電波停止ありうる」 2/9 
   除染基準に根拠なし 丸川環境大臣兼原子力防災担当大臣 2/12 
   「歯舞」読めない 島尻沖縄・北方担当大臣 2/9 
   TPP など知りません 岩城法務大臣 
   黒人が米大統領 丸山参議院政策審議会副会長 2/17 
   育休口実に不倫 宮崎青年局次長 2/12
 国会はまるで「学級崩壊」 離席・読書・スマホ・居眠り 2016/3
 「女性活躍推進法」 4/?
 「恥ずかしい日本 報道の自由度72位」 4/22
 近畿財務局は約8億円値引きし森友学園に国有地売却 2016/6
 安倍首相 「アベノミクス果実で税収21兆円増加した」 6/8
 安倍首相 「新しい判断」 判断理由は不透明 6/11
 安倍首相所信表明 9/26
   災害復旧復興 アベノミクス加速 一億総活躍 地方創生 地球儀を俯瞰する外交
   「ただスローガンを重ねるだけでは、社会を変えることはできない。具体的な政策な
   くして、そのスローガンを現実のものとすることはできない。具体的な政策を提案し、
   実行し、そして結果を出していく決意だ。」 蓮舫(民進)への答弁 9/28
 首相の農業改革 TPP本格論戦スタート 10/17
 プーチン大統領 会談直前の発言「日露間に 領土問題はない」
 安倍首相 領土問題は「困難な道」 12/16
 森友学園 安倍昭恵名誉校長
 
 

 

●2017
 総理「(云々)でんでん」読み間違い 1/25
 金田法相 共謀罪「(具体的な犯罪例について) 何か一つでも頭にあるのか」の問いに
   「理事会で協議していただいている事項ですので......」 回答できず 1/30
 「私や妻が関与していたら総理も国会議員も辞める」 2/17
 務台政務官 「たぶん長靴業界は だいぶもうかったんじゃないか」 3/8
 森友学園値引き問題発覚 3/14
 籠池理事長 理不尽なつるし上げ
 不思議 「忖度」側のお役人 証人喚問なし 
 佐川氏・理財局長として森友問題の国有地「規則にのっとって適切に処分した」
   「(交渉記録は)破棄した。残っていない」「(担当者の)記憶に残っていない」
   「政治家は関与していない」 ご褒美は「国税庁長官(次官級)」昇格
 加計学園問題 
   加計学園 首相と加計氏 「腹心の友」
 今村雅弘「(東日本大震災が) まだ東北で あっちの方だったから良かった・・・」 4/26
 「テロ等準備罪」 5/19
 菅官房長官「前川氏は人格に問題がある方です」「(前川文書)怪文書のたぐい」
 「前川前文科次官の会見」放送抹殺 テレビ局の官邸忖度 6/23
 稲田防衛相 都議選 「防衛省・自衛隊 防衛相 自民党としてもお願いしたい」 6/27 
 「こんな人たちに私たちは負けるわけにいかない!」 7/3
 「結果本位の仕事人内閣」「仕事師内閣」 8/3
   「丁寧な説明」「印象操作」「怪文書」「前提が間違っている」
 麻生副総理 「ヒトラー いくら動機正しくてもダメ」 8/29
 御用記者・山口敬之レイプ疑惑が不起訴 9/22
 「国難突破解散」 9/25
   「急速に進む少子高齢化」「北朝鮮の脅威」
   (「大義なき解散」「森友・加計疑惑隠し解散」)  
 「この国を守り抜く」自民党衆院選公約 10/20
 「人づくり革命」人材への投資 12/1
 
 

 

●2018
 松本内閣府副大臣辞任 沖縄米軍機事故「何人死んだんだ!」 1/26
 近畿財務局勤務の男性職員自宅で自殺 3/7
 森友文書改ざん原本 公になる 3/8
 勝田東京労働局長 「是正勧告してあげてもいいんだけど」 3/30
 大阪地検特捜部 前国税庁長官・佐川氏を不起訴処分 5/31 
 「規制改革」「放送法4条の撤廃」「ややこしい質問受けます」 6/1-
 「カジノ法案」強行採決 6/15
 「働き方改革」 6/29成立 (2019/4/1施行)
 「全員野球内閣」 10/2
 柴山昌彦文科相「教育勅語」復活 10/3
 安倍総理所信表明演説 10/24
   強靱な故郷(復旧復興の加速) 地方創生(農林水産新時代)
   外交・安全保障(戦後外交の総決算・強固な日米同盟・新たな時代のルールづくり)
 菅原一秀議員 買収疑惑で閣僚辞任 10/25
 「ピンチをチャンスに変える」 10/26
 入国管理法改正 (中身のない入れ物法案 中身は省令で定める) 財界大喜び 12/8
 水道の民営化を含む「水道法改正案」 12/16
 環太平洋連携協定(TPP) 発効 12/30
 
 

 

●2019
 「桜を見る会」問題 1/10-
   内閣府は治外法権 「桜を見る会」名簿の取扱い 
   「公文書」でも取扱い自由 すぐに廃棄 PCデータはゴミ箱
   紙はシュレッダー データは復元不可処理
 「裁量労働制」 1/?
 厚労省の統計不正 2/7-
 麻生副総理兼財務相 「子供産まぬ方が問題」 2/3
 「悪夢の民主党政権が誕生」 2/12-
 「働き方改革」 4/1
 「高度プロフェッショナル制度」 4/1
 塚田国交副大臣 安倍と麻生を結ぶ道路事業が止まっている 「私はすぐ忖度」 4/1
 桜田五輪大臣辞任 「・・・復興以上に大事なのは高橋さんです」 4/10
 下村元文部科学相 セクハラ録音は「犯罪」 4/23
 麻生財務相 「はめられた可能性」「セクハラ罪ない」 4/24 (福田事務次官辞任)
 日本維新の会・丸山衆院議員 北方領土「戦争で奪還」 5/11
 穴見衆院議員 がん患者に「いいかげんにしろ」 6/15
 韓国 元徴用工問題を再燃 2019/7-
 杉田衆院議員 LGBT「生産性ない」 7/1
 森友問題 佐川氏ら10人再び不起訴 特捜部捜査終結 8/9 
 全世代型社会保障 9/20-
 消費税率8%から10% 10/1
 二階幹事長 台風被害「まずまずに収まった」 10/13
 萩生田文科相 受験生は「自分の身の丈に合わせて...」 10/24 
 河野防衛相 「よく地元で雨男と言われた。防衛相になって既に台風が三つ」 10/28
 河井法務大臣辞任 妻の参院選公選法違反の疑い 10/31 
 「共産党か」総理のヤジ 11/8
   
 

 

●2020
 安倍首相 辻元幹事長代行質問に「意味のない質問だよ」とやじ 2/12
 黒川検事長の500万円賄賂疑惑 3/8-
 「新型コロナ対応・全責任は首相にある」 4/27
 新型コロナ 25兆円超えの補正予算 4/30
 アベノマスク配布 5/8
 黒川元検事長の辞職 「批判を真摯に受け止める」 5/22
 持続化給付金事業 不透明な受託経緯「電通とサービスデザイン推進協議会」 6/12-
 国会強行閉会 6/18
 河井克行前法相と妻の案里参院議員・逮捕 自民党から政治資金1.5億円支給 6/19
 「Go To キャンペーン」 トラベル・スタート 7/22
 辞任記者会見 8/28

 

●安倍内閣総理大臣記者会見 2020/8/28 
猛暑が続く中、国民の皆様にはコロナウイルス対策、そして熱中症対策、ダブルの対策に万全を期していただいておりますこと、国や地方自治体から様々な要請に対して、自治体の様々な要請に対して御協力を頂いておりますことに心から感謝申し上げます。
コロナウイルス対策につきましては、今年の1月から正体不明の敵と悪戦苦闘する中、少しでも感染を抑え、極力重症化を防ぎ、そして国民の命を守るため、その時々の知見の中で最善の努力を重ねてきたつもりであります。それでも、残念ながら多くの方々が新型コロナウイルスにより命を落とされました。お亡くなりになられた方々の御冥福を心よりお祈り申し上げます。
今この瞬間も患者の治療に全力を尽くしてくださっている医療従事者の皆様にも、重ねて御礼申し上げます。
本日、夏から秋、そして冬の到来を見据えた今後のコロナ対策を決定いたしました。この半年で多くのことが分かってきました。3密を徹底的に回避するといった予防策により、社会経済活動との両立は十分に可能であります。レムデシビルなど、症状に応じた治療法も進歩し、今、40代以下の若い世代の致死率は0.1パーセントを下回ります。他方、お亡くなりになった方の半分以上は80代以上の世代です。重症化リスクが高いのは高齢者や基礎疾患のある方々であり、一人でも多くの命を守るためには、こうした皆さんへの対策が最大の鍵となります。
冬に向けてはコロナに加え、インフルエンザなどの流行で発熱患者の増加が予想されます。医療の負担軽減のため、重症化リスクの高い方々に重点を置いた対策へ今から転換する必要があります。まずは検査能力を抜本的に拡充することです。冬までにインフルエンザとの同時検査が可能となるよう、1日20万件の検査体制を目指します。特に重症化リスクの高い方がおられる高齢者施設や病院では、地域の感染状況などを考慮し、職員の皆さんに対して定期的に一斉検査を行うようにし、高齢者や基礎疾患のある方々への集団感染を防止します。医療支援も高齢者の方々など、重症化リスクの高い皆さんに重点化する方針です。
新型コロナウイルス感染症については、感染症法上、結核やSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)といった2類感染症以上の扱いをしてまいりました。これまでの知見を踏まえ、今後は政令改正を含め、運用を見直します。軽症者や無症状者は宿泊施設や自宅での療養を徹底し、保健所や医療機関の負担軽減を図ってまいります。コロナ患者を受け入れている医療機関、大学病院などでは大幅な減収となっており、国民のために日夜御尽力いただいているにもかかわらず、大変な経営上の御苦労をおかけしております。経営上の懸念を払拭する万全の支援を行います。インフルエンザ流行期にも十分な医療提供体制を必ず確保いたします。以上の対策について順次、予備費によって措置を行い、直ちに実行に移してまいります。
コロナ対策と並んで一時の空白も許されないのが、我が国を取り巻く厳しい安全保障環境への対応であります。北朝鮮は弾道ミサイル能力を大きく向上させています。これに対し、迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか。一昨日の国家安全保障会議では、現下の厳しい安全保障環境を踏まえ、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を協議いたしました。今後速やかに与党調整に入り、その具体化を進めます。
以上、2つのことを国民の皆様に御報告させていただいた上で、私自身の健康上の問題についてお話をさせていただきたいと思います。
13年前、私の持病である潰瘍性大腸炎が悪化をし、僅か1年で突然、総理の職を辞することとなり、国民の皆様には大変な御迷惑をおかけいたしました。その後幸い新しい薬が効いて、体調は万全となり、そして国民の皆様から御支持を頂き、再び総理大臣の重責を担うこととなりました。この8年近くの間、しっかりと持病をコントロールしながら、何ら支障なく総理大臣の仕事に毎日、日々、全力投球することができました。
しかし、本年6月の定期検診で再発の兆候が見られると指摘を受けました。その後も薬を使いながら全力で職務に当たってまいりましたが、先月中頃から体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状況となりました。そして、8月上旬には潰瘍性大腸炎の再発が確認されました。今後の治療として、現在の薬に加えまして更に新しい薬の投与を行うことといたしました。今週初めの再検診においては、投薬の効果があるということは確認されたものの、この投薬はある程度継続的な処方が必要であり、予断は許しません。
政治においては、最も重要なことは結果を出すことである。私は、政権発足以来、そう申し上げ、この7年8か月、結果を出すために全身全霊を傾けてまいりました。病気と治療を抱え、体力が万全でないという苦痛の中、大切な政治判断を誤ること、結果を出せないことがあってはなりません。国民の皆様の負託に自信を持って応えられる状態でなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきではないと判断いたしました。
総理大臣の職を辞することといたします。
現下の最大の課題であるコロナ対応に障害が生じるようなことはできる限り避けなければならない。この1か月程度、その一心でありました。悩みに悩みましたが、この足元において、7月以降の感染拡大が減少傾向へと転じたこと、そして、冬を見据えて実施すべき対応策を取りまとめることができたことから、新体制に移行するのであればこのタイミングしかないと判断いたしました。
この7年8か月、様々な課題にチャレンジしてまいりました。残された課題も残念ながら多々ありますが、同時に、様々な課題に挑戦する中で、達成できたこと、実現できたこともあります。全ては国政選挙の度に力強い信任を与えてくださった、背中を押していただいた国民の皆様のおかげであります。本当にありがとうございました。
そうした御支援を頂いたにもかかわらず、任期をあと1年、まだ1年を残し、他の様々な政策が実現途上にある中、コロナ禍の中、職を辞することとなったことについて、国民の皆様に心よりお詫(わ)びを申し上げます。
拉致問題をこの手で解決できなかったことは痛恨の極みであります。ロシアとの平和条約、また、憲法改正、志半ばで職を去ることは断腸の思いであります。しかし、いずれも自民党として国民の皆様にお約束をした政策であり、新たな強力な体制の下、更なる政策推進力を得て、実現に向けて進んでいくものと確信しております。もとより、次の総理が任命されるまでの間、最後までしっかりとその責任を果たしてまいります。そして、治療によって何とか体調を万全とし、新体制を一議員として支えてまいりたいと考えております。
国民の皆様、8年近くにわたりまして、本当にありがとうございました。 

 

●辞任の政界反応 
森法相「びっくりした」
「今日の新型コロナウイルス対策本部のときの様子などからは、引き続き総理大臣を担われていくのかと思っていた」
茂木外相「残念な思いでいっぱい」
「7年8か月の間、日本経済の再生をはじめ、日米同盟の強化、地球儀をふかんする外交など、内外ともに存在感の大きい総理大臣だった。病気とはいえ退陣されることは残念な思いでいっぱいだ。安倍総理大臣のこれまでの功績や考え方をみんなで引き継いでいきたい」
萩生田文部科学相「後輩への指導を」
「これまで体調が悪い中でも業務を続けてこられたのに、ここにきて辞任されるのは非常に残念だ。まだお若いので、今後は体調に気をつけていただきながら後輩への指導をしっかりしてもらいたい」
加藤厚労相「『体調万全で政治 その思いで判断』とうかがった」
「安倍総理から『体調が万全な中で政治を担っていきたい。そういう思いで判断した』とうかがった」
江藤農相「責任を果たしていく」
「安倍総理大臣の辞任の決断は残念だ。日本の農業は大規模な農家だけで成り立つものではなく、規模の小さい農家も集まっている。規模にかかわらず、基盤を強化していく方針が、今の内閣では明確に示されてきた。新たな体制までは、総理大臣の重責を担っていくということなので、私も閣僚として、その責任をともに果たしていきたい」
小泉環境相「大変残念だ」
「大変残念だ。環境大臣としては、次の新しい体制がつくられるまで、一つ一つの仕事にしっかり集中して全力を尽くしたい」「総理自身が再チャレンジを経験した人だったということが大事なことだと思う。一度、病で体調を崩しても、病と闘いながらもう一度、チャンスをつかんで長期政権を実現した。どのような体制になろうとも受け継ぐべきことだと思う」「仲間の支えが無ければスタート地点には立てない。政策論争をしっかりやって、全党員に選択の機会が与えられるのが望ましい」
梶山経済産業相「残念な思いがする」
「安倍総理大臣から辞職する旨のお話があった。特に経済産業行政に対して関心を持ち、折りに触れて指導をいただいていたので、非常に残念だと思っている。景気回復ということをまず第1にやってきて、コロナ禍のあとの日本の経済をしっかりと立て直すということを言っていただけに、残念な思いがする」
河野防衛相「自分の仕事をまずしっかり」
「その前に日の丸を背負ってグアムに行くんだから、まず、あしただ。自分の仕事をまず、しっかりやらなければならない」(29日、アメリカのグアムで予定されるエスパー国防長官との会談に集中したいという考えを示しました。)
竹本IT担当相「大変残念だ」
「驚いた。新型コロナウイルスの対策会議が終わったあとも元気だったので、まさか辞めるとは思わなかった。大変残念だ。アメリカのトランプ大統領との親しい関係もあるので、大統領選挙の結果を見るまでは続投して欲しかった」
西村経済再生相「全く想像していなかった」
「安倍総理大臣は、ここ数日、ふだんと変わらない様子で仕事にあたっていたので、全く想像していなかった。新型コロナウイルス対策については、安倍総理大臣からの指示も受け、きょうも今後の方向性を決めているので、政府として感染防止と社会経済活動の両立をしっかり図っていく」
北村地方創生相「ゆっくりと休んでほしい」
「きょう会ったときはふだんと変わらない様子だったので、辞任と聞いて驚いた。難病を抱えて、十分な休みも取れない中で大変だったと思う。これからは身体を大事にしてもらい、まずはゆっくりと休んでほしい」
橋本五輪相「これからも指導を」
「報道で知って驚いた。体調を万全にしていただきたいと思う。これからどういう立場であっても指導をいただき、オリンピック・パラリンピックの開催に向けて準備をしていきたい」
副大臣の1人
「事前に全く聞いていなかったので、非常に驚いた。憲法改正や北方領土問題、北朝鮮による拉致問題などを、安倍総理大臣なら前に進められるのではないかと期待していただけに、非常に残念だ。少なくとも任期いっぱいは続けてほしかった」「後任の総理大臣の選び方については、安倍総理大臣がいつまで続けられるかや、いつまでに選出しなければならないかにもよるのではないか」
自民 二階幹事長「二の句を継げなかった」
「辞任は、私自身が十分納得できたわけではなく、残念に思っているが、体調の問題や、真面目で真摯な意見をうかがい、二の句を継ぐことはできなかった。ただ、気持ちよく安倍総理大臣を支え、みんなで一致団結してやっていたというのは、自民党の歴史でも誇るべきことだ」「自民党は、人材が極めて豊富な政党なので、安倍総理大臣の実績を汚さないよう、やがてはそれを上回っていけるような人を選んでいきたい」
自民 岸田政務調査会長「『ありがとう』ということばがあった」
「地方出張で臨時役員会に間に合わなかったおわびを兼ねて総理にごあいさつに上がった。こちらから、ご労苦に対して敬意と感謝を申し上げた。安倍総理から、『ありがとう』ということばがあった」
自民 森山国対委員長「治療に専念という考えのようだった」
「安倍総理大臣は、病気の治療に専念したいという考えのようだった。次の総裁の決め方は、幹事長一任となったが、正式には来月1日に総務会を開いて決める。次の総裁は速やかに決めるべきだ」
自民 稲田幹事長代行「正直、驚いている」
「全く予想していなかった事態なので、正直、驚いている。まだ新型コロナウイルスが収束せず、先行きが見通せない状況で、安全保障環境も厳しい状況なので政治空白を作ってはいけない。安倍総理大臣には、政権を奪還してから8年近く、経済、安全保障、それに外交で日本の存在感を高めた意味からも、全身全霊で頑張ってこられたと敬意を表したい」
自民 石破元幹事長「敬意表したい」
「長きにわたる在任期間に対し、敬意を表したい。8年前、安倍総理大臣とともに幹事長として政権を奪還した感激を改めて思い出している。今後のことについてはまだ何も決めていない」
自民 石原元幹事長「さまざま判断されたのだろう」
「新型コロナウイルス対応をこれから引き続き、行わなければならないこのタイミングで辞めることになるとは思わず、驚いている。長期政権を担ってきた中で、さまざま判断されたのだろう」
自民 山崎拓元副総裁「断腸の思いではないか」
「よもやという感じで驚きだ。本人は任期いっぱいまでやりたかったと思う。延期した来年の東京オリンピック・パラリンピックを待たずして辞めるのは断腸の思いではないか」「一強支配が続き、一種の政治の安定期をもたらしたことは評価してもいい。ただ、政治の活性化、活力という意味では、国民の声なき声を代弁する機能が失われたマイナスの面もあった」「国民から人気を得ているのは石破元幹事長であり、民意を尊重すべきだと思う。彼は気力、行動力、迫力、カリスマ性の点で、ほかの名前が挙がっている候補よりも一歩先んじている」
自民 河村元官房長官「想定していなかった」
「ああいう形で辞意を表明することは想定してなかった。安倍総理大臣みずからの判断なので、どうこう言うつもりはない。総理大臣として全力投球してきて、本当によく頑張ったと思う。心から敬意と感謝を申し上げたい」
自民 中谷元防衛相「総理としても残念だろう」
「新型コロナウイルス対策も景気対策も必要なこの時期に辞任することについては、安倍総理大臣としても残念だろうし、党としても責任感をもって継続して対応しなくてはいけない」「党員が参加する総裁選挙をやって、理解と納得と共感が得られるような選び方にしてほしい。丁寧さが欠けると後でできた政権も続かない。丁寧な手続きでやるべきだ」
自民 猪口元少子化担当相「人柄が出た決断」
「鋭く決断し、中途半端を潔しとしない、安倍総理大臣の人柄が出た決断だと思う。新型コロナウイルスへの対策が道半ばで、災害の脅威も見込まれるなか、政治が止まってはならない。空白を生じさせないよう、いまは自民党が一致団結する必要がある」
自民 佐藤前外務副大臣「安全保障環境に大きな影響が…」
「お元気そうに見え、大丈夫だと思っていたので、非常に驚いている。米中の対立など安全保障環境が変化し、ミサイル防衛体制や新たな抑止力の議論を始めているなかで、大きな影響が出るのではないか」
自民党の閣僚経験者の1人
「とてもびっくりして、途方に暮れている。このところの安倍総理大臣は、持病との闘いだったのだろう。新型コロナウイルスへの対応もあり、空白を置くことはできないので、党内で対応を考えていきたい」
立民 枝野代表「持病が原因 大変残念だ」
「政治的な立場や意見は違うが、持病が原因での辞任は大変残念だ。療養に万全を尽くし、回復されることをお祈り申し上げる。新型コロナウイルスの影響で経済状況も深刻化しているので、与党には、政治的空白を少しでも短くするよう責任を持って取り組んでもらいたい」
立民 安住国対委員長「今後は緊張感のある政治体制を」
「安倍政権の7年半は、戦後史に残る長さで、株価が上昇し、雇用などがよくなったのは事実だ」「『1強』の状態になってけん制する力が失われ、森友学園や加計学園、それに『桜を見る会』の問題にみられるように、官僚が総理を見て、国民を見なくなり、政治に緊張がなくなったことが大きなマイナスだった。今後は、緊張感のある政治体制を作り、国の大きな課題を乗り越えていきたい」
立民 逢坂政調会長「もっと早い判断があっても」
「率直に驚いている。療養に専念して、1日も早く健康を回復してほしい。きょう、辞意を表明しなければならないほど、体調が悪かったならば、国民の命と生活を考え、もっと早い判断があってもよかったのではないか」「安倍一強と言われる中、政治家も官僚も、忖度(そんたく)せざるをえない状況が生まれ、その結果、公文書の隠蔽や廃棄、改ざん、ねつ造というような、民主主義にあってはならないことも発生してしまった。野党として、しっかり大きな塊になって、緊張感のある政治情勢を作らなければいけない」
国民 玉木代表「今後の体制注視したい」
「大変驚いている。職を辞さなければならないほど体調が悪化していたということであれば、治療に専念していただきたい。一方で、新型コロナウイルス対策などで国政は継続されなければならず、後継の総理大臣が誰になるかなど、今後の体制を注視したい」
国民 小沢一郎衆議院議員「国の倫理観や道徳心を破壊した」
「安倍政権では、森友学園や加計学園、それに『桜を見る会』の問題などに象徴されるように、隠蔽や公文書の改ざん、それに虚偽答弁があたり前のことになってしまった。最大の問題は、国の倫理観や道徳心を破壊したことであり、政権交代で1日も早く国民の命とくらしを第1に考える政権を作らなければならない」
公明 山口代表「“体調芳しくない”と話があった」
「安倍総理大臣から辞任の意向を伝えられた。理由として安倍総理大臣は、『体調が芳しくなく、今後の政権運営を考えた時に辞めるなら今だと判断した。これまで大変お世話になりました』と話があった。私からは、『長きにわたり、大変お疲れさまでした。支えきれないこともあったと思うが、今後とも与党として一緒に頑張っていきたい。これから体をいたわって健康回復してほしい』と伝えた」
維新 松井代表「まずは健康を取り戻してほしい」
「辞任には本当にびっくりした。われわれは野党であり、選挙では争ったが、少しでも国民サービスを拡充するという点では全力で協力しあい、前に進めることができた。大阪への万博やG20の誘致、成長インフラなど、僕自身、ありとあらゆる形で安倍総理大臣と協議しながら進めることができ、感謝している。辞任されたあとの人生を楽しんでいただきたいので、まずは健康を取り戻してほしい」
維新 鈴木宗男参議院議員「7年8か月は歴史に名を刻む」
「驚いた。アメリカのトランプ大統領、ロシアのプーチン大統領といった大国の首脳とも五分の外交を展開した7年8か月は歴史に名を刻むものだ。北方領土問題の解決と日ロ平和友好条約の締結は安倍総理大臣に実現してもらいたかった」
共産 志位委員長「速やかに臨時国会を」
「病気が理由では、辞任はやむをえず、じっくり治療し回復されることを願っている。国政は一刻の空白や遅滞も許されず、速やかに臨時国会を開いて後継者を指名し、十分な審議を行うことを強く求めたい。1つの激動的な時代が始まったと受け止めており、野党は、解散総選挙がいつあっても対応できる構えを作るべきだ。今後も自民党政治の抜本的な転換を求めたい」
共産 小池書記局長「政府・与党には責任ある対応を」
「新型コロナウイルスは、深刻な事態となっている。報道が事実で、辞任するのであれば、政府・与党には、国政に停滞をもたらすことがないよう責任ある対応を強く求めたい」
社民 福島党首「最後に説明責任果たすべき」
「体調が回復するよう心からお見舞いを申し上げるが、安倍総理大臣は、河井夫妻による選挙違反事件の問題などで最後に説明責任を果たすべきだ。そのうえで、これまでの政治を変えなければならず、速やかに衆議院の解散・総選挙で民意を問うべきだ」
岡田元副総理「野党の力を示していく必要がある」
「総理大臣は本当に重責なので、それを長期間務めることは人間の限界に挑むようなものだ。ぜひ、体力の回復に努めてもらいたい」「新しい総理大臣が決まれば、今までとは全然違った状況になり、国会も開催されると思う。堂々の国会論戦を行いながら野党の力を示していく必要がある」
村山元首相「治療に専念を」
「安倍総理の突然の辞任に驚いている。国のトップである総理は、心身ともに激務で、体調が万全でないと続けられない。辞任が病気による体調不良ということなので、治療に専念してほしい」 
●安倍首相の会見、「辞任を受け入れざるを得ない」と思わせる練られた言葉 8/31 
8月28日、安倍総理が突然、辞任表明をする記者会見を開きました。健康不安説は流れていましたが、多くの人は驚きをもってこの辞任会見を見たのではないでしょうか。総理の入念な準備、珍しい質問、手厳しい質問、上から目線の質問や非礼な服装、そして報道官の配慮など見どころが多くありました。
28日の昼すぎには、辞任会見になることが広まり、17時からの会見に集まった報道陣は辞任会見であることがわかっている状態でした。会場を見て最初にあれっと思ったことは、プロンプターがなかったことです。いつもと違うことが感じ取れました。そして、会見全体の時間は1時間。総理の最初の言葉は10分ほどで、いつもよりは少なく、多くの時間を質疑応答にあてた形での配分でした。つまり、十分質問に回答する時間を作ろうとする方針があったことがわかります。内閣報道官も「あと数問で」「あと2問で」「あと1問で」と時間の細かいアナウンス。配慮があり、穏やかに終えたいという気持ちが出ていたように思います。
さて、内容ですが、前半はコロナ対策に取り組む人達への感謝、亡くなった方への哀悼、医療従事者への感謝に続き、新型コロナウイルスの現状説明。「社会経済活動との両立は可能」「40代以下の致死率は0.1%以下、亡くなった方の半分以上が80代以上」「重症化リスク対策に重点を置く」と方針を述べました。重症化リスク対策は繰り返してきた言葉ですが、「0.1%以下」「80代以上」といった数字の出し方に、むやみに恐れるな、日本を担う世代は経済活動せよ、といったメッセージがあったように思います。そして、新型コロナウイルスをSARSやMERSといった2類感染症以上の扱いから、運用を見直すと明言。経済活動シフトを明確にしたといえます。
次に安全保障に言及し、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威と置かれている厳しい環境を述べ、ご自身の健康と辞任の理由に話をつなげました。概要は次の通り。
潰瘍性大腸炎の持病があり、13年前にその持病が原因で1年で辞任し国民の皆様にご迷惑をかけた。その後新しい薬が効いて、再就任してからのこの8年近くの間は問題なく全力投球できた。しかし、今年6月から兆候があり、8月に再発してしまった。任期までのあと1年何とかできないかと1か月悩みぬいたが、政治判断を誤ってはいけない、7月から感染拡大が減少に転じた、冬に実施すべき対策がまとまった、新体制移行の前のこのタイミングしかないと判断して辞任を決意。
「任期まであと1年、まだ1年を残し」と繰り返した部分に無念な思いが見て取れました。総理だけでなく、私を含め多くの国民が共有した気持ちであろうと思います。「体調が万全ではないという苦痛の中、大切な政治判断を誤ること、結果を出せないことがあってはならない」「国民の負託に自信をもって応えられる状態でなくなった以上、総理大臣の職にあり続けるべきではないと判断」は、受け入れざるを得ない判断だろうと思います。よく練られた言葉です。
その理由は、記者からの珍しい質問で明らかになりました。「なぜ、今日はプロンプターがないのか」。回答は「ぎりぎりまで原稿が決まっていなかった。自分も推敲していたから」。つまり、今回は総理ご自身が直前まで言葉を練り、思いを込めた内容であったということです。プロンプターはイベントではよいのですが、直前まで内容を練るような記者会見には不向きなのです。このような質問はめったにありませんが、やはり報道陣も違和感をもっていたのでしょう。
報道陣の質問は、過去の評価と課題として残ったこと、引き継ぎに集中しました。違和感を持ったのは質問の仕方と内容。2月の新型コロナウイルス会見からずっとそうなのですが、これまでの「反省」は?こうしておけばよかったという「後悔」は?そして同じような質問ばかり。そもそも「反省」「後悔」を促す言葉は上から目線です。批判する際でも相手に対する尊重心は必要だと感じていたところ、ジャーナリストの江川紹子さんが「原因」という言葉を使いました。
「新型コロナの感染者情報を集約するデータベースで発症日とか職業などのデータを把握できないというようなことが起きているというニュースがありました。・・・・このコロナ禍で日本がいかにIT後進国であるかということが露呈してしまったわけです。安倍政権では、2013年に新IT戦略を立てられて、今年までに、2020年までに世界最高水準のIT活用社会を実現するということを目標にして、首相自身も世界の後塵(こうじん)を拝してはならないと宣言されました。ところが、今、正に世界の後塵を拝しているのは明らかで、安倍さんも本当に非常に不本意だというふうには思うのですけれども、こうなってしまった原因はどこにあると考えておられるか・・・・」
質問は手厳しい内容でしたが、聞いていて嫌な感じがしませんでした。総理も唯一「江川さん」と名前を呼び、自ら「反省点である」と言いました。このように、自分で反省という言葉を使う方が自然です。ジャケットを着用し丁寧な態度で厳しく質問する。受ける側は謙虚に反省。見ていて気持ちがよいと思いました。
報道陣の服装も気になりました。赤シャツ、カジュアルすぎる服装で質問マイクの前に立つ姿に相手への敬意が感じられませんでした。国民の声を背負う特別の立場であるなら、それ相応の緊張感ある服装で立ってほしいと思います。総理大臣がネクタイとスーツであれば、報道陣もせめてジャケットを着用するといったマナーがあってもよいのではないでしょうか。
このタイミングでの辞任会見、さまざまな意見があるでしょうが、日本にとって良い決断であったと評価します。最初に辞任表明の話が流れた時には、「またか」と思いましたが、記者会見を見て納得しました。これでコロナ一辺倒の報道が次の総理に向かい、それが経済再生の道筋になるのではないかと予測が立ったからです。通常の会見であったのなら、国民が混乱しているこの時期にはもっと頻繁に記者会見をすべき、とコメントする予定でしたが、辞任は全てをかき消すほどのインパクト。安倍総理は無念でしょうが、この1年留まってもコロナ問題が重く総理がやりたかった拉致問題、日露平和条約、憲法改正の取り組みはできないでしょう。今は落ち込んだ経済を立て直す時期であり、エネルギッシュな新しいリーダーが日本には必要です。今回、このタイミングでの辞任表明は英断です。  

 

●官邸語録・前川前次官叩き  
「怪文書のたぐい」 (菅義偉官房長官)
「文書の存在が確認できない」 (松野博一文科相)
「そもそも獣医学部新設については自民党政権では認めなかったのに民主党政権で認める方向になった。安倍政権はそれを引き継いで今回の動きとなった」 (首相)
前川氏の証人喚問「明確に必要ない」 (竹下亘国対委員長)
「会議録を処分したからわからない」「調べたが確認できない」 (政府与党)
「和泉氏から『そのような発言をしたことはなく首相から指示を受けたこともない』と聞いている」 (萩生田官房副長官)
「(文科省からは)該当する文書の存在は確認できなかったと聞いている」
「(文書は)出所不明で信憑性も欠けている」
「文書に書かれたような事実はない」
「法律に基づいて行っていることで、ゆがめられたということはまったくない」
「作成日時だとか作成部局だとか、そんなものが明確になってない」
「何を根拠に。まったく怪文書みたいな文書。出所も明確になっていない」
「この国家戦略特区の会議、その議論を得て策定しているわけです。それについてはみなさんご存じの通りオープンにされるわけで、お友だち人脈だとか、そういう批判はまったくあたらない」
不自然な経緯「批判はまったくあたらない」常套句でシャットアウト
「出所不明で信憑性も定かでない」「文書の存在は確認できなかった」「そういう事実はない」「指摘はあたらない」を連発
「1回調査したが文書の存在は確認できなかったと大臣も言っているから、それ以上でもそれ以下のことでもない」
「文部省として大臣のもとで調査をしたと。その結果、確認できなかったから、ないということ。それに尽きるんじゃないですか?」
前川文書「文科省が行った調査で存在が確認できなかった」
安倍首相の関与「指示は一切なかった」

「地位に恋々としがみつき、世論の批判にさらされて、最終的に辞任を承知した」
出会い系バー通い「さすがに強い違和感を覚えた。多くの方もそうだったのでは」「常識的に言って教育行政の最高の責任者がそうした店に出入りして小遣いを渡すようなことは、到底考えられない」
「文科省を辞めた経緯について、記事には『自分に責任があるので自ら考えて辞任を申し出た』とあったが、私の認識とはまったく異なる」「前川氏は当初は責任者として自ら辞める意向をまったく示さず、地位に恋々としがみついていた。その後、天下り問題に対する世論の極めて厳しい批判に晒されて、最終的に辞任した人物」
「当初は責任者として自ら辞める意向を全く示さず、その後に世論からの極めて厳しい批判などにさらされて、最終的に辞任された方だ」
「天下りの調査に対し問題を隠蔽した文科省の事務方の責任者で、本人も再就職のあっせんに直接関与していた」
「自身が責任者の時に、そういう事実があったら堂々と言うべきではなかったか」

「前川前次官が出会い系バー通い」5/22 読売新聞朝刊1面 

 

●「桜を見る会」 
優秀なお役人 野党の質問責め 矢面に立つ 
「刑事訴追の恐れがございますので、答弁はご容赦させていただきたいと思います」 
「記憶にない」
「記憶の限りでは会っていない」
「会った記憶はない」
「覚えていない」
「否定できない」
「置いてきた可能性は否定できない」
「存在しない」
「ない、全くない」
「記録がない」
「これから調査したいと思っている」
「調査中で答えられない」
「調査を行っていて最終段階」
「調査したが、そういった文書は見つからなかった」
「調べることは調べた」
「精いっぱい確認作業を進めたい」
「現時点では文書が確認できるものは見つかっていない」
「仮定の質問には答えられない」
「コメントした通りです」
「コメントできる状況ではない」
「報道は拝見しましたが、これまでのコメントのとおりです」
「相手のある話なので」
「面会の相手先のことはコメントできない」
「(文書を)読んでいないので、コメントできません」
「中身についてはコメントできない」
「承知していない」
「(発言について)承知をしていない」
「政府として、そのような文書は承知していない」
「文科省で関係者に事実関係を確認している」
「(テレ朝から)まずはお話をよく伺いたい」
「可及的速やかにと(弁護士に)お願いしている」
「事実関係については財務省として調査をしていく」
「内閣府に伝えておりますのでそちらにお尋ねいただければと思います」   

 

●2018年春  お役人・政治家 おとぎ話
米軍機事故「何人死んだんだ」
粗悪データ 裁量労働制法案の撤回
森友学園 決裁文書の改ざん発覚
異例の調査 前川氏の授業
佐川氏証人喚問 「刑事訴追の恐れがございますので、答弁はご容赦・・・」
「TPP 新聞には一行も・・・」 
東京労働局 「皆さんの会社に行って是正勧告してもいい」
防衛省 陸自の海外派遣部隊日報 ありました
加計学園疑惑  柳瀬首相秘書官と面談・職員メモ見つかる
自衛官 「国民の敵」と罵声
財務次官 「セクハラ発言」
   「隠しテープを週刊誌に売って、ある意味犯罪だ」 下村氏
   「はめられたとの意見もある」  麻生財務相
厚労省局長のセクハラメール   

 

●安倍内閣総理大臣所信表明演説 2006/9/29 
はじめに
この度、私は、内閣総理大臣に任命されました。日本が、厳しい時期を乗り越え、新世紀の発展に向けた出発点に立った今、初の戦後生まれの総理として、国政を預かる重責を与えられたことに、身の引き締まる思いです。多くの国民の期待を正面から真摯に受け止め、身命を賭して、職務に取り組んでまいります。
国政を遂行するに当たり、私は、まず、自らの政治姿勢を、国民の皆様並びに議員各位に明らかにいたします。私は、特定の団体や個人のための政治を行うつもりは一切ありません。額に汗して勤勉に働き、家族を愛し、自分の暮らす地域や故郷を良くしたいと思い、日本の未来を信じたいと願っている人々、そしてすべての国民の期待に応える政治を行ってまいります。みんなが参加する、新しい時代を切り拓く政治、誰に対しても開かれ、誰もがチャレンジできる社会を目指し、全力投球することを約束いたします。
我が国は、経済、社会全般にわたる構造改革と、国民の自助努力の相乗効果により、長い停滞のトンネルを抜け出し、デフレからの脱却が視野に入るなど、改革の成果が現われ、未来への明るい展望が開けてきました。
一方、人口減少が現実のものになるとともに、都市と地方の間における不均衡や、勝ち組、負け組が固定化することへの懸念、厳しい財政事情など、我が国の今後の発展にとって解決すべき重要な課題が、我々の前に立ちはだかっています。家族の価値観、地域の温かさが失われたことによる痛ましい事件や、ルール意識を欠いた企業活動による不祥事が多発しています。さらに、北朝鮮のミサイル発射や、テロの頻発など、国際社会の平和と安全に対する新たな脅威も生じています。
このような状況にあって、今後のあるべき日本の方向を、勇気をもって、国民に指し示すことこそ、一国のトップリーダーの果たすべき使命であると考えます。私が目指すこの国のかたちは、活力とチャンスと優しさに満ちあふれ、自律の精神を大事にする、世界に開かれた、「美しい国、日本」であります。この「美しい国」の姿を、私は次のように考えます。
 1つ目は、文化、伝統、自然、歴史を大切にする国であります。
 2つ目は、自由な社会を基本とし、規律を知る、凛とした国であります。
 3つ目は、未来へ向かって成長するエネルギーを持ち続ける国であります。
 4つ目は、世界に信頼され、尊敬され、愛される、リーダーシップのある国であります。
この「美しい国」の実現のため、私は、自由民主党及び公明党による連立政権の安定した基盤に立って、「美しい国創り内閣」を組織しました。世界のグローバル化が進む中で、時代の変化に迅速かつ的確に対応した政策決定を行うため、官邸で総理を支えるスタッフについて、各省からの順送り人事を排し、民間からの人材も含め、総理自らが人選する枠組みを早急に構築するなど、官邸の機能を抜本的に強化し、政治のリーダーシップを確立します。未来は開かれているとの信念の下、たじろぐことなく、改革の炎を燃やし続けてまいります。
活力に満ちたオープンな経済社会の構築
我が国が21世紀において「美しい国」として繁栄を続けていくためには、安定した経済成長が続くことが不可欠なことは言うまでもありません。人口減少の局面でも、経済成長は可能です。イノベーションの力とオープンな姿勢により、日本経済に新たな活力を取り入れます。
成長に貢献するイノベーションの創造に向け、医薬、工学、情報技術などの分野ごとに、2025年までを視野に入れた、長期の戦略指針「イノベーション25」を取りまとめ、実行します。自宅での仕事を可能にするテレワーク人口の倍増を目指すなど、世界最高水準の高速インターネット基盤を戦略的にフル活用し、生産性を大幅に向上させます。
アジアなど海外の成長や活力を日本に取り込むため、お互いに国を開く経済連携協定への取組を強化するとともに、WTOドーハ・ラウンド交渉の再開に尽力します。地方の活性化にも資する海外からの投資を2010年にGDP比で倍増する計画の早期達成を目指します。アニメや音楽などのコンテンツ、食文化や伝統文化などについて、国際競争力や世界への情報発信力を強化する「日本文化産業戦略」を策定します。今後5年以内に、主要な国際会議の開催件数を5割以上伸ばし、アジアにおける最大の開催国を目指します。その他、使い勝手も含めた日本の国際空港などの機能強化も早急に進め、ヒト・モノ・カネ・文化・情報の流れにおいて、日本がアジアと世界の架け橋となる「アジア・ゲートウェイ構想」を推進します。
新たな日本が目指すべきは、努力した人が報われ、勝ち組と負け組が固定化せず、働き方、学び方、暮らし方が多様で複線化している社会、すなわちチャンスにあふれ、誰でも再チャレンジが可能な社会です。格差を感じる人がいれば、その人に光を当てるのが政治の役割です。私は、内閣の重要課題として、総合的な「再チャレンジ支援策」を推進します。
新卒一括採用システムの見直しや、パート労働者への社会保険の適用拡大などを進めます。再チャレンジ職場体験制度の創設や団塊世代などベテラン人材の再雇用の促進といった、再び仕事を始めるためのハードルを引き下げる取組も行います。2010年までにフリーターをピーク時の8割に減らすなど、女性や高齢者、ニートやフリーターの積極的な雇用を促進します。再チャレンジする起業家の資金調達を支援するとともに、個人保証に過度に依存しない融資を推進します。こうした様々な再チャレンジを支援する民間や自治体の取組を応援するため、内閣総理大臣による表彰制度を新たに設けます。
地方の活力なくして国の活力はありません。やる気のある地方が自由に独自の施策を展開し、「魅力ある地方」に生まれ変わるよう、必要となる体制の整備を含め、地方分権を進めます。知恵と工夫にあふれた地方の実現に向け、支援も行います。地場産品の発掘・ブランド化や、少子化対策への取組、外国企業の誘致などについて、その地方独自のプロジェクトを自ら考え、前向きに取り組む自治体に対し、地方交付税の支援措置を新たに講ずる「頑張る地方応援プログラム」を来年度からスタートさせます。
活力に満ちた日本経済には、全国430万の中小企業の元気が不可欠です。中小企業の知恵とやる気を活かし、地域資源などを活用した新商品・新サービスの開発や販売を促進します。
地方を支える農林水産業は、新世紀にふさわしい戦略産業としての可能性を秘めています。日本の農林水産物や食品は国内向けとの固定観念を打破するため、「おいしく、安全な日本産品」の輸出を、平成25年までに1兆円規模とすることを目指します。「人生二毛作」の実現に向け、就業を促進する仕組みをつくります。
NPOなど「公」の担い手を支援し、官と民との新たなパートナーシップを確立します。
財政再建と行政改革の断行
我が国財政は、極めて厳しい状況にあり、人口減少や少子高齢化が進めば、将来の世代に一層重い負担がかかることは明らかです。歳出・歳入の一体改革に正面から取り組みます。「成長なくして財政再建なし」の理念の下、引き続き、経済財政諮問会議を活用して、経済成長を維持しつつ、国民負担の最小化を第一の目標に、歳出削減を徹底し、ゼロベースの見直しを行います。
2010年代半ばに向け、債務残高の対GDP比を安定的に引き下げるため、今後5年間に歳出改革を計画的に実施し、まずは2011年度に国と地方の基礎的な財政収支「プライマリー・バランス」を確実に黒字化します。このため、来年度予算編成に当たっては、成長に資する分野への重点化とともに、効率化を徹底して、メリハリの効いた配分を行い、新規の国債発行額を今年度の29兆9730億円を下回るようにするなど、着実に黒字化に向けての第一歩を踏み出します。
国や地方の無駄や非効率を放置したまま、国民に負担増を求めることはできません。抜本的な行政改革を強力に推進し、簡素で効率的な、「筋肉質の政府」を実現します。
国の行政機関の定員について、5年で約1万9000人以上の純減を行うなど、公務員の総人件費を徹底して削減します。公務員の労働基本権など、公務員制度全般について、国民の意見を十分に聴きながら、見直しを進めます。平成20年度から政策金融機関を一つに統合するとともに、国の資産の売却・圧縮を積極的に進め、平成27年度までに政府の資産規模のGDP比での半減を目指します。郵政民営化法の基本理念に沿って、平成19年10月からの郵政民営化を確実に実施します。公共サービス改革法に基づく市場化テストの積極的な実施により、官業を広く民間に開放し、民間活力を最大限活用します。特別会計の大幅な見直しを実行に移すとともに、道路特定財源については、現行の税率を維持しつつ、一般財源化を前提に見直しを行い、納税者の理解を得ながら、年内に具体案を取りまとめます。公共事業については、これまでの改革努力を継続する中で、未来への投資となる、真に必要な社会資本の整備を、重点化や効率化を徹底しながら実施します。
地方の行財政改革を進め、自治体の再建法制の整備に向けた検討など、「地方の自律」を求めます。
このような改革を徹底して実施した上で、それでも対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定的な財源を確保するため、抜本的・一体的な税制改革を推進し、将来世代への負担の先送りを行わないようにします。消費税については、「逃げず、逃げ込まず」という姿勢で対応してまいります。
さらに、21世紀にふさわしい行政機構の抜本的な改革、再編や、道州制の本格的な導入に向けた「道州制ビジョン」の策定など、行政全体の新たなグランドデザインを描いてまいります。
健全で安心できる社会の実現
本格的な人口減少社会の到来に備え、老後や暮らしに心配なく、国民一人ひとりが豊かな生活を送ることができる、安心の社会を構築しなければなりません。年金、医療、介護を柱とする社会保障制度は、本来日本人が持っている助け合いの精神の延長上にあるもので、「人生のリスクに対するセーフティネット」であります。自立の精神を大切にし、分かりやすく、親切で信頼できる、持続可能な「日本型の社会保障制度」を構築すべく、制度の一体的な改革を進めます。
公的年金制度は、国が責任を有しており、破綻したり、「払い損」になったりすることはありません。若い世代も安心できるよう、制度に対する信頼を取り戻さなければなりません。どれくらいの期間いくら払い、将来いくらもらえるかを若い時から定期的にお知らせする「ねんきん定期便」の仕組みを一刻も早く整備するなど、親切で国民に分かりやすい年金制度を確立します。社会保険庁は、解体的出直しを行います。厚生年金と共済年金の一元化を早急に実現し、官民の公平性を確保します。
医療や介護につきましては、政策の重点を予防へと移し、健康寿命を伸ばす「新健康フロンティア戦略」を推進します。レセプトの電子化などにより医療費適正化に取り組むとともに、小児科、産婦人科等の医師不足対策の推進など、地域医療の体制整備に努めてまいります。
我が国は、昨年初めて、総人口が減少に転じていく人口減少社会を迎え、合計特殊出生率も1.25と、過去最低の水準になりました。直近の出生数は昨年を上回っていますが、第2次ベビーブーム世代がまだ30歳代である、残り5年程度のうちに、速やかに手を打たなければなりません。内閣の総力をあげて少子化対策に取り組み、「子育てフレンドリーな社会」を構築します。出産前後や乳幼児期における経済的負担の軽減を含め、子育て家庭に対する総合的な支援を行うとともに、働き方についても、子育てを応援する観点から改革を進めていきます。子育ての素晴らしさ、家族の価値を社会全体で共有できるよう、意識改革に取り組みます。
国民の安全を確保するのは、政府の基本的な責務です。子どもが犠牲となっている凶悪事件や飲酒運転による悲惨な事故が相次いでいます。地域社会との連携の強化や、取締りの徹底などにより、「世界一安全な国、日本」の復活に全力を尽くします。
最近、エレベーターの事故や、ガス瞬間湯沸かし器による一酸化炭素中毒といった、規律の緩みを思わせる事故が相次いでいます。事故リスク情報の公開や安全規制の強化など、再発防止に向けて取り組んでまいります。
2008年から始まる京都議定書の約束を実行するため、「京都議定書目標達成計画」を着実に推進します。政府としても、地球温暖化防止の取組を、まず身近なことから始めるとの考え方の下、地方支分部局も含め国の庁舎について、太陽光発電の導入や建物の緑化を進めます。自動車燃料にバイオエタノールを利用するなど、バイオマスの利用を加速化します。
教育再生
私が目指す「美しい国、日本」を実現するためには、次代を背負って立つ子どもや若者の育成が不可欠です。ところが、近年、子どものモラルや学ぶ意欲が低下しており、子どもを取り巻く家庭や地域の教育力の低下も指摘されています。
教育の目的は、志ある国民を育て、品格ある国家、社会をつくることです。吉田松陰は、わずか3年ほどの間に、若い長州藩士に志を持たせる教育を行い、有為な人材を多数輩出しました。小さな松下村塾が「明治維新胎動の地」となったのです。家族、地域、国、そして命を大切にする、豊かな人間性と創造性を備えた規律ある人間の育成に向け、教育再生に直ちに取り組みます。
まず、教育基本法案の早期成立を期します。
すべての子どもに高い学力と規範意識を身につける機会を保障するため、公教育を再生します。学力の向上については、必要な授業時間数を十分に確保するとともに、基礎学力強化プログラムを推進します。教員の質の向上に向けて、教員免許の更新制度の導入を図るとともに、学校同士が切磋琢磨して、質の高い教育を提供できるよう、外部評価を導入します。
こうした施策を推進するため、我が国の叡智を結集して、内閣に「教育再生会議」を早急に発足させます。
主張する外交への転換
去る7月の北朝鮮によるミサイル発射は、改めて、我が国が安全保障上の大きな問題に直面していることを浮き彫りにしました。これに対し、日本が主導して、国連安全保障理事会に、北朝鮮に対する制裁決議案を提案し、米国との緊密な連携の下、最終的に全会一致で、決議が採択されました。我が国の外交が、新たな思考に基づく、主張する外交へと転換するときがやってきたのです。「世界とアジアのための日米同盟」をより明確にし、アジアの強固な連帯のために積極的に貢献する外交を進めてまいります。
外交と安全保障の国家戦略を、政治の強力なリーダーシップにより、迅速に決定できるよう、官邸における司令塔機能を再編、強化するとともに、情報収集機能の向上を図ります。
日米同盟については、その基盤である信頼関係をより強固にするため、総理官邸とホワイトハウスが常に意思疎通できる枠組みを整えます。在日米軍の再編については、抑止力を維持しつつ、負担を軽減するものであり、沖縄など地元の切実な声によく耳を傾け、地域の振興に全力をあげて取り組むことにより、着実に進めてまいります。
中国や韓国は、大事な隣国です。経済を始め、幅広い分野で過去に例がないほど緊密な関係となっています。両国との信頼関係の強化は、アジア地域や国際社会全体にとって極めて大切であり、未来志向で、率直に話し合えるようお互いに努めていくことが重要であると考えます。
拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はありえません。拉致問題に関する総合的な対策を推進するため、私を本部長とする拉致問題対策本部を設置し、専任の事務局を置くことといたしました。対話と圧力の方針の下、引き続き、拉致被害者が全員生存しているとの前提に立って、すべての拉致被害者の生還を強く求めていきます。核・ミサイル問題については、日米の緊密な連携を図りつつ、6者会合を活用して解決を目指します。
ロシアも大事な隣国です。日ロ関係の発展が両国に恩恵をもたらす潜在的な可能性は大きく、そのためにも、領土問題の解決に向け、粘り強く取り組んでまいります。
ASEANとの協力を一層進めるとともに、アジアに存在する民主国家として、自由な社会の輪をアジア、そして世界に広げていくため、オーストラリアやインドなど、基本的な価値を共有する国々との首脳レベルでの戦略的な対話を展開します。
イラクにおいて、陸上自衛隊が一人の犠牲者も出すことなく人道復興支援活動を遂行したことは、歴史に残る偉業であり、厳しい環境の中、汗を流した自衛隊員を、心から誇りに思います。引き続き、航空自衛隊の支援活動やNGOとも連携した政府開発援助により、イラクの復興を支援してまいります。
テロ対策特別措置法の期限の延長など、国際社会と協力してテロや国際組織犯罪の防止・根絶に取り組みます。
大量破壊兵器やミサイルの拡散、テロとの闘いといった国際情勢の変化や、武器技術の進歩、我が国の国際貢献に対する期待の高まりなどを踏まえ、日米同盟がより効果的に機能し、平和が維持されるようにするため、いかなる場合が憲法で禁止されている集団的自衛権の行使に該当するのか、個別具体的な例に即し、よく研究してまいります。
私が主宰する海外経済協力会議が主体となって、政府開発援助を戦略的に展開してまいります。
原油など資源価格の高騰が続く中、安定的なエネルギー資源の確保にも努めます。
日本が国連に加盟して50年。日本が安全保障理事会の常任理事国となって、しっかりとその責任を果たしていかなければならないと考えます。戦後つくられた国連を、21世紀にふさわしい国連に変えていくため、我が国の常任理事国入りを目指し、国連改革に引き続き取り組んでまいります。
むすび
私は、国民との対話を何よりも重視します。メールマガジンやタウンミーティングの充実に加え、国民に対する説明責任を十分に果たすため、新たに政府インターネットテレビを通じて、自らの考えを直接語りかける「ライブ・トーク官邸」を始めます。
「美しい国、日本」の魅力を世界にアピールすることも重要です。かつて、品質の悪い商品の代名詞であった「メイド・イン・ジャパン」のイメージの刷新に取り組んだ故盛田昭夫氏は、日本製品の質の高さを米国で臆せず主張し、高品質のブランドとして世界に認知させました。未来に向けた新しい日本の「カントリー・アイデンティティ」、すなわち、我が国の理念、目指すべき方向、日本らしさを世界に発信していくことが、これからの日本にとって極めて重要なことであります。国家としての対外広報を、我が国の叡智を集めて、戦略的に実施します。
国の理想、かたちを物語るのは、憲法です。現行の憲法は、日本が占領されている時代に制定され、既に60年近くが経ちました。新しい時代にふさわしい憲法の在り方についての議論が、積極的に行われています。与野党において議論が深められ、方向性がしっかりと出てくることを願っております。まずは、日本国憲法の改正手続に関する法律案の早期成立を期待します。
私たちの国、日本は、世界に誇りうる美しい自然に恵まれた長い歴史、文化、伝統を持つ国です。その静かな誇りを胸に、今、新たな国創りに向けて、歩み出すときがやってきました。
かつて、アインシュタインは、訪日した際、「日本人が本来もっていた、個人に必要な謙虚さと質素さ、日本人の純粋で静かな心、それらのすべてを純粋に保って、忘れずにいてほしい」と述べています。21世紀の日本を、アインシュタインが賞賛した日本人の美徳を保ちながら、魅力あふれる、活力に満ちた国にすることは十分に可能である、日本人には、その力がある、私はそう信じています。
新しい国創りに共にチャレンジしたいと願うすべての国民の皆様に参加していただきたいと思います。年齢、性別、障害の有無にかかわらず、誰もが参加できるような環境をつくることこそ、政治の責任であります。戦前、戦中生まれの鍛えられた世代、国民や国家のために貢献したいとの熱意あふれる若い人たちとともに、日本を、世界の人々が憧れと尊敬を抱き、子どもたちの世代が自信と誇りを持てる「美しい国、日本」とするため、私は、先頭に立って、全身全霊を傾けて挑戦していく覚悟であります。
国民の皆様並びに議員各位の御理解と御協力を心からお願い申し上げます。  
 
 

 



2020/8/28-
 
 
 

 

●財政黒字化一段と遠のく 25年度困難、29年度に後ずれ 7/31 
内閣府は31日の経済財政諮問会議で、国と地方の基礎的財政収支(PB)の黒字化が2029年度になるとの試算を示した。新型コロナウイルスの感染拡大による景気悪化や財政支出により、1月の前回試算から2年遅れる。政府が目標に掲げる25年度の黒字化は極めて難しい情勢だ。
内閣府は毎年1月と夏にまとめる「中長期の経済財政に関する試算」を公表した。29年度のPBの黒字化は政策が想定通りに効果を出して潜在成長率が高まる「成長実現ケース」として示した。潜在成長率をほぼ横ばいにした「ベースラインケース」では29年度もPBは国内総生産(GDP)比で1.7%(約10兆円)の赤字となる。
PBの赤字は米リーマン危機後からの景気回復局面でほぼ毎年縮小が続いてきたが、19年度はGDP比で2.6%、20年度は12.8%に急拡大する見通しになった。コロナ対応の20年度補正予算で財政支出が計120兆円を超える規模に膨らんだことに加え、企業業績の悪化で税収が減るためだ。黒字化の目標としていた25年度は1.1%(約7兆円)の赤字だ。
試算の前提は楽観的との指摘が多い。成長実現ケースは名目経済成長率が21年度から3〜4%で推移する前提を置く。実質成長率も21〜22年度に3%台半ば、その後は2%程度で安定する予想だ。23年度ごろには名目GDPが600兆円に達し、24年度からは消費者物価上昇率が日銀の目標である2%で安定する。
90年代のバブル崩壊以降、年度単位でみた日本の名目成長率が3%を超えたことは一度もない。物価の見通しも毎年のように下方修正している。名目経済成長率は税収を試算する前提となっており、財政改善のシナリオにも疑問符がつく。
日本の財政悪化は先進国の中でも際立つ。経済協力開発機構(OECD)が6月にまとめた試算では19年度に1.6%だった加盟国全体のPBの赤字のGDP比は20年度に9.4%まで拡大する。日本は11.4%で11.9%の米国に次ぐ規模だ。もともとPBが黒字で推移してきたドイツやイタリア、韓国などはマイナス幅が比較的小さい。
懸念されるのは国債の格下げだ。格付け会社のフィッチ・レーティングスは28日、日本国債の格付け見通しを「安定的」から「弱含み」に引き下げた。S&Pグローバル・レーティングも6月に見通しを「ポジティブ」から「安定的」に引き下げている。感染の再拡大などで景気悪化や財政支出の拡大が続いて格下げになれば、金融機関や企業の資金調達コストの上昇につながりかねない。
BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、新型コロナで企業の倒産や失業を防ぐための政府・日銀の資金繰り支援策は不可欠だったとしながらも、結果として成長産業に労働者が集まりにくい環境を生み出す副作用もあると指摘。次の危機に備えて企業が支出を抑える動きも加われば「低成長・低インフレ・低金利・公的債務の膨張という傾向がさらに強まる」と予測する。政府には信認維持にむけた丁寧な説明が求められる。 
●経済成長でも2025年度 7兆円超赤字の試算 7/31 
内閣府は財政健全化の指標となる「基礎的財政収支」について、高めの経済成長を実現できたとしても2025年度の赤字が7兆3000億円に上るという最新の試算をまとめました。黒字化の目標達成は一段と厳しい状況となっています。
政府は財政健全化に向けて政策に充てる経費を借金に頼らず税収などでどれだけ賄えるかを示す「基礎的財政収支」という指標を2025年度に黒字化する目標を掲げています。
内閣府が経済財政諮問会議で示した最新の試算によりますと、今年度・2020年度の「基礎的財政収支」の赤字額は、半年前の試算の4倍を超える67兆5000億円に拡大する見込みです。
新型コロナウイルスの感染拡大に対応するための2度にわたる補正予算で、財源として57兆円余りの国債を追加で発行したことが主な要因です。
そして、今後、実質で年間2%程度の高めの経済成長を実現できたとしても政府が黒字化を目指している2025年度の赤字は7兆3000億円に上る見通しです。赤字額は半年前の試算のおよそ2倍に拡大し、黒字化は目標より4年遅れて2029年度にずれ込むとしています。
一方、今後、実質で1%程度の経済成長が続いた場合は、2025年度は12兆6000億円の赤字となり、試算の最終年度となる2029年度でも10兆3000億円の赤字が残るとしています。
黒字化の目標達成はすでに極めて厳しい状況になっていますが、今後、新型コロナウイルスによる経済の停滞が長引けば、さらなる財政出動と税収の落ち込みで財政状況がさらに悪化することも懸念されます。
このため、景気を早期に回復させるとともに日本経済の成長力を高め、歳出・歳入の両面で一段と踏み込んだ改革を断行できるかが財政健全化の鍵を握ることになります。
“最悪の水準”が一段と悪化
内閣府が発表した最新の試算によりますと、今年度の国と地方を合わせた借金の残高は昨年度より82兆9000億円増えて、1146兆5000億円に達する見込みです。これは、GDP=国内総生産の2倍以上にあたります。
新型コロナウイルスの感染拡大に対応するための2度にわたる補正予算で、財源として57兆円余りの国債を追加で発行したことが主な要因です。日本の財政はすでに先進国で最悪の水準でしたが、大規模な財政出動によって一段と悪化した形で、感染拡大による経済の停滞が長期化すれば、さらなる財政支出が必要になる可能性があります。
また、いわゆる団塊の世代が75歳以上となっていく2022年が2年後に迫り、国の一般会計の歳出の3分の1を占める社会保障費のさらなる増大が避けられない状況です。
政府は基礎的財政収支を2025年度に黒字化し、借金の残高を安定的に引き下げていく目標を維持するとしていますが、財政健全化への道筋は見通せず、新型コロナウイルスによる影響が収まったあと、財政再建への取り組みをどう進めていくかが問われます。
各国の状況は
新型コロナウイルスの感染拡大で景気が落ち込む中、世界各国も大規模な経済対策の実施によって日本と同様に財政が悪化しています。
このうちアメリカでは今月までに総額300兆円規模の経済対策が発表され、職を失った人に対する失業保険の給付や中小企業の支援などにあてられています。
中国はウイルス対策のためのおよそ15兆円規模の特別国債を発行するほか、地方がインフラ事業などに使う債券の発行枠を去年より大幅に拡大して56兆円余りとするなどの対策を打ち出しています。
イギリスはGDP=国内総生産の15%にあたる45兆円規模の企業の資金繰り支援に加えて、飲食や観光の分野で日本の消費税にあたる付加価値税の税率を半年間、引き下げるなどしています。
また、ドイツは補正予算で新規国債を7年ぶりに発行したほか、付加価値税の引き下げなどを実施しています。
IMF=国際通貨基金によりますと、世界全体の公的債務残高のGDP比は、先月時点の推計で101.5%と、去年より18ポイント余り上昇し過去最悪となる見通しです。
国別に見ると、
▽日本が去年より30ポイント高い268.0%
▽アメリカが32ポイント高い141.4%
▽イギリスが16ポイント高い101.6%
▽フランスが27ポイント高い125.7%
▽中国が12ポイント高い64.1%などとなっています。
各国ともに大規模な財政出動の財源を国債の発行などで賄い、債務が急激に膨らんでいることがうかがえます。
専門家は「感染拡大が収まらないと財政悪化は長く続く」
政府の財政健全化目標の達成が一段と困難になったとする見通しが示されたことについて、大和総研の神田慶司シニアエコノミストは「新型コロナウイルスの感染拡大への対応で歳出が増えた一方、景気が急激に悪化して税収が大幅に落ち込み、歳出歳入の両面で財政が悪化した。感染拡大が収まらないと経済活動が本格化できず、財政悪化は長く続くと考えられる」と述べました。
そのうえで、今後の課題について「歳出を拡大した分の財源をどうやって確保するかに加えて、高齢化が加速する中、社会保障の負担と給付のバランスの見直しも同時に進めなければならない」と述べました。
そして財政の持続可能性について、「現時点で国債への信認が揺らいでいるとは思わないが、どんどん財政が悪化すればいずれ条件が変わるので、少しずつ取り組みを進める必要がある。2025年度の健全化目標の達成はほぼ不可能だと思うが、単純に先送りするだけでは全く意味がなく、どう達成できるのか、きちんと筋道を示すべきだ」と指摘しました。
そのうえで感染拡大への対応で先進国と比べ経済基盤が弱い新興国でも国債が増発されるなどして財政が悪化していることについて「アジア通貨危機のように新興国の通貨、経済が揺らいで先進国に飛び火する可能性があるので、新興国の感染拡大をどう抑えるかについても日本を含めた先進国が積極的に関与すべきだ」と指摘しています。 
●財政健全化「2025年度の黒字化も不可能ではない」経済再生相  7/31 
「基礎的財政収支」という財政健全化の指標を2025年度に黒字化するという政府の目標の達成が、一段と困難になったとする見通しが示されたことについて、西村経済再生担当大臣は、記者会見で「今回のシナリオは歳出改革を織り込んでいないので、これまでと同等の改革を行えば2025年度の黒字化も決して不可能ではない」と述べました。
そのうえで、「行政のデジタル化や生産性の向上などを通じて、経済成長しながら歳出改革を進める。2025年度の黒字化を引き続き堅持して目指していきたい」と述べ、基礎的財政収支を黒字化する政府の目標を維持する考えを示しました。 
●補正予算衆院可決:ついに国債「1000兆円突破」で迫る「大増税」 6/10 
政府は新型コロナウイルス対策で、2020年度予算において2度目の補正予算案を組み、6月8日、国会に提出した。
成立すれば、2020年度の新規国債発行額は過去最高となり、財政赤字は対GDP(国内総生産)比で250%を超える“未曽有”の借金財政に突入する。
目下、6月17日に会期末が迫る終盤国会で、野党はこの補正予算案の内容に厳しく噛みついている。10日午後に衆議院予算委員会では可決された。
まず、2020年度の財政状況は以下の通りになっている。
2020年度の新規国債発行額90.2兆円は、リーマンショック後の2009年度の経済対策による国債発行額52兆円を大きく上回り、公債依存度(一般会計歳出額のうち、国債発行が財源となっている割合)は、当初予算時には31.7%(うち赤字国債の割合は24.7%)だったが、第2次補正予算まで含めると56.3%(同44.5%)に跳ね上がる。
つまり、国の歳出額の半分以上が国債という借金によって賄われるわけだ。
公債依存度はリーマンショック後の2009年度で51.5%、東日本大震災復興の2012年は48.9%だった点を考慮すれば、いかに異様なほどの“借金漬け”になっているのかは明らかだろう。
これは、補正予算(第1号)と第2次補正予算(第2号)の一般会計歳出分(いわゆる真水部分)の財源をすべて国債の発行に頼った結果だ。これにより、2020年度の国債発行残高は、ついに1000兆円を突破することになった。
2020年度当初予算102.7兆円のうち、国債費(国債の償還と利払いを行うための経費)は予算の22.8%を占める23.4兆円にも上り、政府が政策などに使える経費である基礎的財政収支対象経費は79.3兆円と、80兆円に満たない。23.4兆円に上る巨額の予算が借金返済(国債費)に充てられており、その分、国民生活のために充てられるべき基礎的財政収支が減っているのだ。
先進国で日本だけ
予算に占める国債費の割合は、1960年度には僅か0.03%に過ぎなかった。
それが、1970年度に0.3%、1980年度に5.5%、1990年度に14.3%、2000年度に21.4%と一貫して上昇しており、基礎的財政収支を圧迫している。
政府の公的債務(大半が国債で、ほかに借入金、政府短期証券など)の国際比較を行う場合に、公的債務の対GDP比が使われる。
IMF(国際通貨基金)の推計によると、2019年のG7(先進7カ国)の公的債務の対GDP比は、日本が飛びぬけて237.7%である。100%を上回っているのは米国(106.2%)とイタリア(133.2%)だけで、それ以外は100%未満なのである。
さらに問題なのは、比率が継続して上昇しているのが唯一、日本だけだという現実だ。日本以外のG7各国は、財政規律に目を配り、財政健全化を進めているわけだ。
しかも今回、2020年の日本の公的債務の対GDP比は、2回の補正予算によって250%を超える水準まで上昇する。
こうした財源を新規国債発行に頼る財政出動が罷り通っている背景には、もちろん新型コロナによる危機がある。日本のみならず、世界の多くの国々が新型コロナの感染拡大による国民の健康被害と経済的なダメージを天秤にかけた上で、外出自粛や休業要請を行い、経済を犠牲にした。
その結果として、国が企業や個人に対する支援を行うのは当然であり、ある程度新型コロナの感染拡大が収束した後も、引き続き、感染拡大防止と経済活動を両立させるために、適切な財政出動を行う必要がある。
需要を支えていくためには、財政政策の役割は重要だ。
こうした“有事対策”としての財政拡大による財政の出動については、国民感情的に非常に許容しやすい。
その上、5月8日の拙稿『禁じ手「財政ファイナンス」踏み込んだ日銀「黒田総裁」に財政規律は効くか』で述べたように、日本銀行が金融政策の一環として「国債買い入れ枠を無制限に拡大」し、“事実上の財政ファイナンス”に踏み出したことも大きい。
政府にとってみれば、日銀が無制限に国債の買い入れを実施することで、どれだけ国債を発行しても、その消化に困ることはないし、日銀によって長期国債の金利が超低金利に抑え込まれているため、新規国債発行による金利負担は軽微で済む。
こうした状況が財政赤字の拡大に容易に踏み出しやすい環境を作っている。
加えて、通常はこれだけ巨額の財政出動を行えば物価が上昇し、インフレが発生する懸念があるが、現在は新型コロナ対策による経済活動の停滞が招いた需給ギャップが発生しているため、インフレ懸念がないことも背景事情として大きいだろう。
たとえば、内閣府の2020年1-3月期GDP速報によると、GDP需給ギャップは-2.7%だ。
さらに、公益社団法人「日本経済研究センター」(JCER)調査によるエコノミストの4-6月期GDP見通しは、前期比年率-21.33%、2020年度の消費者物価(生鮮食料品を除く)の前年比は-0.45%と予測されている。
“厳しい目”が必要
しかし、ではだからと言って、無秩序に野放図に財政出動を行い、財政赤字を拡大させてよいものであろうか。
国債はあくまでも借金であることに変わりはない。財政赤字は将来世代に“ツケを回す”ことに他ならない。
日本のように、公的債務の対GDP比が上昇を続け、財政赤字が拡大し続けると、何が起こるだろうか。
消費者や企業は、ほぼ間違いなくやがて行われるであろう大型増税などを予想し、内部留保や貯蓄に走り、投資や消費を減速させる要因にもなる。つまり、公的債務の拡大は、将来的な経済成長の阻害要因になるのだ。
加えて、公的債務の拡大は国債費の増大につながり、それが経済規模を超えて拡大すれば、公的債務をコントロールできなくなり、財政破綻を招くという潜在的なリスクを抱えている。
だが、財政再建は容易なことではない。
たとえば、財政規律を強めるとしよう。そのためには歳出の削減と増税を実施しなければならず、当然ながら経済にとって悪影響を与え、その結果、税収は落ち込む。すなわち、財政状況は改善しない。
一方で、高い経済成長の実現を目指し、税収増による財政の改善を目指しても、景気動向は常に変化し、期待した税収が得られるとは限らない。
ましてや、現状は新型コロナ感染拡大の第2波、第3波が襲来する可能性もあり、更なる財政出動が必要になるかもしれない。予想以上に経済へのダメージが大きければ、財政は一段と悪化する可能性を秘めている。
だからこそ、政府の新型コロナ対策には“厳しい目”が必要になる。
たとえば、最近話題となっている、持続化給付金をめぐる「サービスデザイン推進協議会」なる団体への不透明な業務委託問題。あるいは、安倍晋三首相が「強盗」と言い間違えたことで脚光を浴びる形となった総事業費約1兆7000億円規模の支援事業「Go Toキャンペーン」の事務経費が2割近い約3000億円にものぼる問題。
これらのような、国民の税金を不透明な形で、効果の少ない事業に使わせてはいけないのだ。
やがては国民に跳ね返る
筆者は、補正予算(第1号)が発表(4月27日)された時点で、「V字回復フェーズ」として、
(1)生徒やアマチュアを含む地域の文化芸術関係団体・芸術家によるアートキャラバン(文部科学省)
(2)子供たちの自然体験・文化芸術体験・運動機会の創出(文部科学省)
等々、明らかに新型コロナとは関係ないものまで含まれている点をいくつかのメディアで指摘したが、この時、政治家も大手メディアも、この問題についてまったく関心を示さなかった。
政治家も大手メディアもすでに忘れているかのようだが、2011年3月11日に発生した東日本大震災では、復興財源が所得税、住民税、法人税への上乗せで徴収された。具体的には、法人税の場合、2012年4月1日以降の事業年度から2年間の減税を実施した後、2年間、税額の10%が上乗せされた。
法人税の増税はすでに終了しているが、住民税は、2014年度から10年間、1人あたり年1000円、所得税は2013年1月1日から25年間、税額に2.1%が増税されており、現在も増税が続いている。
新型コロナ対策に使われた財政出動も、「新型コロナ対策税」などのような形か消費税増税などで、やがては国民に跳ね返ってくるだろう。
今、求められているのは、効果があり必要な対策には十分な財政出動を行う一方で、不必要、不透明な財政出動をなくし、財政出動額を抑制することで、新型コロナ禍後の財政再建の国民負担を少なくしながら、いかに財政再建・財政改善を進めていくかの明確なビジョンではないだろうか。  
●国の借金プロパガンダに騙されるな! 5/13  
国民の皆様、騙されないで下さい。メディアは、嘘をつかないようにして嘘をつきます。PCR検査の拡大問題もそうですが、5月9日のNHKのTVニュースでも毎度のお馴染みの「国の借金」プロパガンダニュースが流されました。
この映像を視せつつ、キャスターが「国債や借入金などを合わせたいわゆる国の借金は、ことし3月末の時点で1,114兆円余りとなり、過去最大を更新しました」とやる。いかにも「国民の皆さーん、日本は借金地獄で大変ですよぅ〜」という語調で。
深刻化する新型コロナウイルス不況によって、さすがの財務省も25兆円規模の国債を発行し補正予算を認めざるを得なかったわけですが、緊縮財政を省是とする彼らはその腹いせにメディアを使ってこの種のニュースを流させる。
真実を知る由もない視聴者たちは、「ああ、日本は借金で大変なんだ」と誤解することになります。こうした誤解のうえに誤解が重なってルサンチマンが煽られ「もっと公務員を減らせ」だの、「無駄な公共事業を減らせ」だのという歪んだ世論が形成されていくわけです。
本来、真実を報道すべきメディアが、どうして財務省の言いなりになってこの種のプロパガンダニュースをウイルスのように撒き散らすのか言うと、理由の一つは財務省様の意に沿わないと財務省記者クラブ(財政研究会)から弾き出されるからです。ここから弾き出された放送会社や新聞社は、経済財政関係の政府情報を入手することができなくなります。
さて、NHKの言う「国の借金」ですが、これは明らかに嘘です。国ではなく、正しくは「政府」の借金です。なんども言うように、我が国は国全体としては世界最大の対外純資産国です。なお政府の負債の1,114兆円の大部分を国債が占めていますが、2019年末の国債発行残高は897兆円です。それに国庫短期証券やら財投債やらをかき集めてきて「1,000兆円を超えてるぅ〜」とやるわけです。しかも、だからと言って、それのいったい何が問題なのでしょうか。政府の国債発行残高とは要するに政府の通貨発行残高にすぎません。おカネは「債権債務の記録媒体」であり、「負債の一形体」です。例えば財布の中にある千円札をみてほしい。そこには「日本銀行券」と記されています。
要するに「千円札」は政府の子会社たる日本銀行が発行した負債(借用証書)であり、それを所持することで、所持するものが日本銀行に対し千円の債権を有することを表券しているのです。しかも日銀がおカネという負債を発行するとき、金や貴金属など何らかの価値をもった商品を担保(裏付け)にして発行しているわけではございません。
では、何を担保に発行しているのでしょうか。まさに政府が発行した国債という借用証書を担保としています。しかも政府は何の担保も必要とせず国債を発行しています。唯一の制約はインフレ率(物価上昇率)だけ。物価変動に大きな影響を与えないかぎりにおいて、政府の通貨発行(国債発行)に上限はなく、経済が成長していくほどに通過発行量も増えていくのだから国債残高は増えて当然です。それともNHKは日本経済が成長すること自体が問題だ、と言いたいのでしょうか。NHKが日本を嫌いなのは知っていましたが、そこまで国を恨まなくても…  
●財政健全化が話題とならなくなった4つの理由 2/21 
最近、マスコミで財政健全化がすっかり話題にならなくなった。
例えば1月17日に公表された中長期の経済財政に関する試算の報道ぶりである。「わが国の財政目標」の進捗度合いを年2回示す試算で、今回、「2025年度PB(基礎的収支)の黒字化」という目標達成が、昨年夏の試算より1年遅れ、2027年度になるという内容であった。
しかし各紙の報道は、淡々と事実を伝えるのみで、財政目標達成がより困難になったことの意義やその重大性を伝えるところではなかった。財政目標が、ここまで国民の関心事から外れた事情や背景を考えてみたい。
第1の理由は、財政健全化が進まず財政目標が先延ばしされても、金利や為替レートに変化はみられず、国民に不都合な事態は生じていないという、多分にわが国特有な事情である。
しかし市場に変化が生じないのは、日銀による超金融緩和策、財政ファイナンスの結果であり、その政策自体の持続可能性、正当性が問われるべきであろう。「市場金利が経済成長より低い」という都合のよい状況は、世界経済の状況から見ても、長続きしないということである。
第2の理由は、財政目標の前提となる政府の試算が、都合よく策定されており、試算の信ぴょう性が薄いことである。試算(成長実現ケース)はその前提として、2020年代前半に実質2%程度、名目3%程度を上回る成長率が想定されている。潜在成長率はプラス0.6%程度、全要素生産性(TFP)上昇率もバブル期並みの1.3%程度まで上昇する。
これまでの試算での甘い前提は実現されず、財政赤字やPBバランスの数値は、改定のたびに悪化(PB黒字が遠のく)した。このような政権におもねった内閣府の試算が、国民の健全な危機意識をゆがめ、財政再建に対する関心を失わせている。
さらには、安倍総理が「今後10年間消費増税は必要がない」と語ったことも、国民が受益と負担の問題を真剣に考えるきっかけを奪ってしまった。
3番目の理由は、世界的なポピュリズムの蔓延から緊縮財政への反発という流れが生じていることである。米国では、「財政健全派・小さな政府の共和党」、「財政拡大派・大きな政府の民主党」というのがこれまでのすみわけであったが、トランプ大統領は共和党にもかかわらず、法人税減税や大型投資などでかつてない景気拡大策を取り、一兆ドルという巨額の財政赤字を作っている。英国のジョンソン首相も、BREXITへの対応もあり、財政規律を重視したこれまでの保守党とは一線を画した政策をとっている。
極めつけはEUで、これまでの厳格な財政ルールの見直しに着手している。公表された改革案では、環境投資(グリーンニューディール)とデジタル分野への投資を財政規律から外し容認する内容となっている。
図は先進諸国の財政赤字(GDP比)の推移で、2019年は推計値だが米国、英国、フランス、イタリアの財政赤字が拡大しはじめていることが見てとれる。
   図 財政収支の国際比較(GDP比)
4番目に、財政拡張政策を支援する現代貨幣理論(MMT)という「異教」の登場である。この理論は、政府と中央銀行は統合勘定とみなすので、政府の国債発行残高のうち日銀が保有している分は相殺(プラスマイナスゼロ)される。そこで、国債が基本的に国内でファイナンスされている国では、「政府の借金の拡大は国民の資産の拡大」ということになる。この結果、政府は、民間経済に貯蓄の余剰や需要不足があるかぎり、赤字を出す財政政策が望ましいことになる。金融政策の有効性を否定し、すべては財政政策だということで、筆者は「遅れてきたケインズ主義」と呼んでいるが、財政再建不要論に使われている。
このようなことから財政健全化が国民の関心から落ちてしまった。これをどう考えるべきだろうか。
筆者が思うのは、わが国のように、国内貯蓄で財政赤字をファイナンスできる国では、ギリシャのような金利高騰、インフレといった状況は突然やってくるのではないということだ。
GDPの2倍規模の借金を積み上げても、毎年予算の3分の1を借金に頼っても、国の信頼を揺るがすようなハイパーインフレや円安はやってこない。デフレ脱却は成らないまでも、物価安定・低失業率の下で国民はそこそこ安定した暮らしを維持できている。これは事実である。
しかし、例えば、逃げ水のようなわが国の公的年金制度は、財政破綻の兆候といえなくもない。
高齢化の下、抗がん剤やアルツハイマーの薬の開発が進んでいるが、治療に必要にもかかわらず高額で保険対象とならない、「カネの切れ目が命の切れ目」という事態も想定される。これも、約束した社会保障が提供されないということで財政破綻の一歩ともいえよう。
一般会計予算の3分の1を借金に依存し、歳出の2割超の予算を過去の借金の返済に回さざるをえない状況は財政破綻の始まりともいえる。
わが国では、財政破綻は突然やってくるのではなく、じわじわと押し寄せてくるのであろう。オオカミの好物は、小さな財政破綻で、それを作らない地道な努力が最大のオオカミ対策ということではないか。 
●そもそも日本で財政健全化は必要なのか?  2020/2 
今回は財政のネタで記事を書いてみようと思います。今、与野党問わず、日本の国会議員の多くが、財政健全化が必要不可欠であると、金科玉条のごとく財政健全化論を振りかざし、財政健全化競争が与野党の論戦で行われています。それはあたかも、「財政健全化を言う政治家こそ、責任ある政治家である」といった、一種の財政健全化ポピュリズムであると私は感じています。
しかし、本当に財政健全化は必要なのでしょうか。また、その方法として、国債発行額の圧縮、歳出削減は適切なのでしょうか。「責任ある政治家」の皆様にこそ、今一度、財政健全化について、よくよく考えて頂きたいとの思いから、今回こうした記事を書くに至りました。また、記事は初見の方でも分かりやすいように、説明していきたいと思います。
1.国の借金が1000兆円を超えて大変だから財政健全化だ!
まず、一般的に良く言われるのが、国の借金が1000兆円という、とてつもない金額に達しているから、財政健全化が必要だと言った議論です。確かに、1000兆円という金額は巨額ですし、一見すると、この金額がこれ以上膨れ上がると大変だという心理に駆られてしまうのかもしれません。しかし、ここで立ち止まって考えてもらいたいことは、「では、他の国ではどうなっているのだろうか?」といった点です。1000兆円という金額は主観的に見れば巨額な金額ですが、他国と比較して、客観的に見つめると、どうなのでしょうか。これを恐らく日本で初めて解き明かした私のグラフがコチラになります。
   21世紀の日米の政府総負債額の推移
これが21世紀に入ってからの日米の政府総負債額の推移です。良く「日本は世界一の借金大国!」などと言われていたため、未だに日本が世界一の借金大国だと思っている人も居ますが、明確に違います。現在の世界一の借金大国は文句無しにダントツでアメリカ合衆国です。確かに、21世紀初頭では、青で示したアメリカの政府総負債額は5.6兆ドルに対し、赤で示した日本の政府総負債額は6.3兆ドルだったので、この時は世界一の借金大国、もとい政府総負債大国でした。しかし、2005年に8.5兆ドルのところで、日米の政府総負債残高の金額は逆転し、以降、アメリカは増えに増え続けており、今では20.9兆ドル、日本円にして、2200兆円あまりの世界一の借金大国になっています。
対する日本ですが、2013年からは円安の影響もあって、政府総負債額は、アメリカほど増えてはいません。2017年で11.5兆ドル、日本円にして1200兆円程度といったところです。こうして比較して見ると、日本の国の借金はそこまで増えてはいないと感じ、これまでとの印象も大分変って来るのではないでしょうか。もし、借金の金額そのものが大変なのであれば、日本よりもアメリカこそ圧倒的に財政健全化が必要な国と言えますが、アメリカに財政健全化を求めている日本人の財政健全化論者は1人も居ないのではないでしょうか。であるならば、借金の総額そのものには全く関係がないことになります。「日本は国の借金が1000兆円もあって大変だ!」と言われたら、「アメリカは国の借金が2200兆円もあるぞ!」と反論してやれば良いと思います。
2.国の借金はG7諸国どこの国でも増えている
   21世紀のG7諸国の政府負債の増加率
続いて、アメリカ以外の国の政府総負債の増加率も見てみましょう。グラフは、2001年の政府総負債額を100とした時のG7諸国の政府総負債の増加率です。一番多いのはイギリスで、15年後の2016年には446.7と約4.5倍にも政府総負債が膨らんでいます。「国の借金が増えたら大変だ!」と仰る方からすれば、これはもうイギリスは財政破綻待ったなしといったところだと思いますが、イギリスが財政破綻するといったニュースは全く耳にしません。誰もイギリスの国の借金について騒がないということは、やっぱり、国の借金が増えていくこと自体には何ら問題がないようです。次いで、先ほど見て来たアメリカが約3.5倍、フランスは約2.4倍、カナダが約2.0倍で続きます。以下はドイツが約1.7倍、日本が約1.65倍で、イタリアは約1.63倍となっています。あれっ、国の借金が1000兆円とこんなに増えて大変!と騒がれている日本は、世界的に見るとそんなに増えていないみたいですね。
以上のように、この2つのグラフによって、世界各国は日本以上に国の借金(政府総負債)が増え続けていることをご認識頂けたことかと思います。そして、国際比較をすれば、日本はそこまで国の借金が増えている国ではないという、今まで知らなかった人からすれば、驚愕の新事実が明らかになったのではないかと思います。国の借金が増えるのは、世界中で、ごくごく当たり前のことであることを全国民に認識して頂きたいです。
3.債務対GDP比が200%を超えている日本は世界一の借金大国だ!
それでも、日本の財政が心配な人は、次のように言うでしょう。「いや、日本の債務対GDP比は200%を超えていて世界最悪だ。だから、財政健全化が必要だ!」といった具合です。こういうことは、分数が出来ない人が言うセリフだと私は思います。一応、債務対GDP比とは何かを説明すると、政府債務残高/名目GDPで、求められる比率となります。債務対GDP比を口にする人は、何故か、分子の政府債務残高を減らそう、伸びを抑えようとします。これに対する反論は、「分母の名目GDPを増やせば良いじゃないか」です。ということで、政府債務を毎年5兆円増やして、名目GDPも5兆円増やしていった場合の債務対GDP比の推移を示したグラフが下記の通りになります。
   債務対GDP比の推移
初見の方に補足しておくと、GDPとは、個人消費+民間投資+政府支出+純輸出(輸出−輸入)の4項目の足し算によって求められます。名目GDPを増やしたければ、この4項目のうち、いずれかを増やせば良いだけです。そして、計算項目の一つに、政府支出が入っていますので、政府債務を5兆円増やして、政府支出を5兆円増やせば、必ず名目GDPも5兆円増えることになります。
このような形で、スタートの金額を政府債務が1200兆円、名目GDPが550兆円とざっくりと今の日本での金額を入れた場合、現在の債務対GDPは約218%になります。ここから毎年5兆円ずつ増やしていくと、政府支出の増加に伴って名目GDPも5兆円ずつ増えていきます。すると、20年後の2040年には、政府債務も名目GDPも100兆円ずつ増えて、政府債務は1300兆円、名目GDPは650兆円となります。これを割り算すると、1300÷650=2で、債務対GDP比は200%まで下がりました。20年間で218%から200%まで下がり、政府債務を増やしたことで、無事、財政健全化を果たしたことになります。
以上のように、債務対GDP比の悪化を嘆いて、財政健全化を果たそうとするには、むしろ政府債務を増やした方が財政は健全化するのです。にも関わらず、分子の債務金額を減らそうとする人は、割り算が出来ないか、政府支出がGDPの一項目であることを忘れている人だと思います。そんなバカなと思うかもしれませんが、そんなバカです。
4.財政健全化論者が見落としている点
以上が、巷の財政健全化論に対する、常識的な回答になります。言われれば、こんなのは当たり前じゃないかと思うかもしれませんが、こんな当たり前のことを日本の国会議員はもとい、財務官僚も経済学者も忘れています。最初で述べた他国の債務残高に関しては、まず知りません。アメリカの政府債務残高が日本以上に増え続けていることを指摘したのは、恐らく私が日本初だと思いますので、財務官僚や経済学者も初耳ではないでしょうか。是非、政府債務は世界中で増え続けているという当たり前の事実をしっかりと認識して欲しいと思います。
2点目の債務対GDP比に関しては分数の割り算の問題です。恐らく、債務対GDP比の公式が、政府債務残高/名目GDPで求められることを知らないか、もしくは名目GDPの一項目に政府支出が入ることを忘れているのだと思います。政府支出を増やせば、名目GDPが増えることを彼らは見落としているのです。もっと言うと、彼らは名目GDPの公式や名目GDPの増やし方すら忘れていると言えます。繰り返しますが、そんなバカなと思うかもしれませんが、そんなバカです。そんなバカがこの20年間の日本政府の経済財政運営を行って来たのです。だから、20年間も日本の名目GDPは増えなかったのです。
結論としては、財政健全化とは国の借金の残高を減らすことではありません。むしろ、国の借金を増やし、政府支出を増やすことが財政健全化にも繋がるのです。
ちなみに、私自身は、債務対GDP比は全く何の意味もない指標だと考えていますので、特段気にする必要はないと思います。なので、財政健全化自体も、特に必要はないと考えていますが、今回はあえてその指標に乗って、記事を書いたことを最後に注釈として付け加えておきたいと思います。 
●財政健全化 遠のく日本 25年度の赤字、税収減で拡大 1/15 
内閣府は17日の経済財政諮問会議で、国と地方の基礎的財政収支(PB)が2025年度に3.6兆円程度の赤字になるとの試算を示す。政府は25年度の黒字化を目指すが、世界経済の減速で足元の税収が減ることなどから、赤字幅は19年7月時点の見通し(2.3兆円)より拡大する。社会保障費の膨張などにより先進国の間で遅れが目立っていた日本の財政健全化は、さらに遠のく。
内閣府は毎年1月と7月に中長期の財政見通しをまとめる。試算は生産性の向上などの政策効果を見込んだ「成長実現」と、成長率を比較的慎重に見積もる「ベースライン」の2ケースを示す。
成長実現ケースは経済成長率が20年代前半に名目で3%、物価変動の影響を除く実質で2%に達する前提を置く。イノベーションによる生産性の大幅な改善などを当て込んでおり、民間エコノミストの予測に比べるとかなり楽観的な想定になっている。
政府が期待するような高成長は過去を振り返っても実現性に乏しく、甘い試算は下方修正につながることが多い。足元でも米中貿易戦争などの影響で企業業績にブレーキがかかり、税収が減少傾向にある。
20年度の国の税収見通しは半年前の19年7月時点の試算で65.6兆円としていたのが、20年度当初予算案では63.5兆円に減った。18年度の詳細な決算や20年度予算案での歳出改革を織り込んでも、25年度の赤字幅の拡大は避けられない見通しだ。
基礎的財政収支を25年度に黒字化する財政健全化目標の達成は一段と難しくなりつつある。今回の試算では、黒字化の時期は半年前の試算と同じ27年度で変わらない。ただ27年度の黒字幅は半年前の1.6兆円から0.3兆円程度まで縮小し、黒字化がさらに後にずれる懸念が強まっている。成長率などをより慎重に見込むベースラインケースでは、試算期間中の29年度までに黒字化は達成できない。
政府は19年10月に消費税率を8%から10%に引き上げたが、当初の予定から4年遅れた。食品への軽減税率の導入などの家計支援策も用意した分、財政再建は遠のいた。さらに当面の景気浮揚のため国・地方で13.2兆円を支出する経済対策も19年12月にまとめた。
歳出面では、高齢化で膨張する年金や医療・介護などの社会保障費の抑制も欠かせない。政府は「全世代型社会保障」をテーマに掲げ、改革の議論を進めているが、負担と給付のバランスの抜本的な見直しには踏み込めていない。
日本は国内総生産(GDP)比の債務残高が240%近くあり先進国で最悪の水準にある。主要7カ国(G7)をみてもイタリアと米国が100%を上回っているが、英国やカナダは80%台でドイツは60%程度だ。財政収支も黒字を堅持するドイツなどとは開きがあり、GDP比の赤字幅はイタリアやフランス、カナダなどより大きい。 
●国の借金、29年度末1064兆円 歳出削減急務―財務省試算 2020/1 
財務省は24日、2020年度予算案を踏まえ、国の財政状況の試算を国会に提出した。国の借金である国債の発行残高(20年度末見通し900兆円)は、今後名目で毎年3%の高成長が続く前提でも、膨張を続ける社会保障費などの歳出削減を行わない場合、26年度末に1012兆円と1000兆円を突破。29年度末には1064兆円まで拡大すると見込んだ。
「団塊の世代」(1947〜49年生まれ)が75歳以上の後期高齢者に差し掛かる22年度以降、年金、医療、介護をはじめ社会保障費が急増。税収が伸びる一方で、歳出増に追い付けず、20年度まで10年連続で減少する見通しの新規国債発行額は22年度に増加に転じる。国債利払い費の拡大も発行残高を押し上げる形で、社会保障分野を柱に歳出削減努力が急務となる。  
 2019

 

●日本の財政が「絶対破綻しない」理由 2019/12 
政府は、お金を作り出せる
まずは、「実践的」「政策的」な視点から、MMTを解説することとしたい。まずは、MMTの「財政政策論」の側面からの定義を改めて以下に記載したいと思う。
「財政政策論」としてのMMTの定義 / 国債発行に基づく政府支出がインフレ率に影響するという事実を踏まえつつ、「税収」ではなく「インフレ率」に基づいて財政支出を調整すべきだという新たな財政規律を主張する経済理論。
ただし、MMTが提唱するこうした経済政策の正当性を理解するためには、まず、現代社会における「紙幣」とは(中央政府と中央銀行とで構成される)「国家」が作り出すものである、という「事実」を認識しておく必要がある。ついては、このお金をめぐる「事実」について解説したいと思う。
実際、私たちが普段使っている千円札や一万円札には「日本銀行券」と書かれている。つまりそれは、「日本銀行」という日本の中央銀行が作り出したものだ。そして、その日本銀行の株主は、55%が日本国政府であり、日本政府の事実上の「子会社」である。
もちろん、日本銀行には経営の自主性が認められているが、日本銀行法第4条に「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とも明記されており、政府から完全に独立な振る舞いをすることは法律的にも禁じられている。
だから、政府というものを中央銀行と一体的なものとして捉えるのなら、政府は貨幣を作り出すことができるのである。
借金で日本が破綻する?
政府は貨幣を作り出すことができる――このシンプルな1点を認めてしまえば、さまざまな経済財政政策についての「帰結」が、普段素朴に信じているものとはまったく違うものとなっていく。
その代表的な帰結が、「政府は、自国通貨建ての国債で破綻することは、事実上ありえない」というものだ。
それはつまり日本で言うなら、「日本政府が、日本円の国債で破綻してしまうということはありえない」、言い換えるなら、「日本政府が日本円の借金が返せなくなってしまうことはありえない」というもの。
なぜならそもそも、日本円を作っているのは日本政府なのだから、自分で「作ることのできる日本円」を「返せなくなる」なんてことはありえない。どれだけ借金をしていても、返済を求められたときに自分で作って返せばそれで事足りるからだ。
しかし、多くの国民は、この帰結を耳にするだけで、「何と滅茶苦茶な話だ!」と感ずるのではないかと思う。
そもそもテレビや新聞や雑誌、さらに最近では学校の教科書ですら、「日本の借金は1000兆円を超えるほど、膨大に膨らんでしまっている。このままでは、日本が破綻して、大変なことになってしまう!」という話が、連日繰り返されている。多くの国民が、そんな話を鵜呑みにして、政府の借金を返さなきゃエライことになる――と信じてしまうのも当たり前だと言えよう。
しかも、「借金で日本が破綻する」という最悪の事態を避けるための「緊縮」的な対策が、政府の「財務省」を中心に長年展開され、消費税が2014年に8%にまで増税され、2019年10月には10%にまでさらに増税された。消費増税をめぐっては、いまだに多くの国民が反対しているわけだが、それを押し切ってまでこれまで何度も増税が繰り返されてきたのは偏(ひとえ)に、「このままなら、借金で日本が破綻する」と危惧する声が強烈にあったからだ。
それにもかかわらず――「日本政府が日本円の借金で破綻することはない」と主張しているのだから、そんなMMTに対して多くの国民は面食らってしまうことだろう。「だったら、これまで嫌々消費増税を辛抱してきた俺たちはいったい何だったんだ?」となるからだ。
しかし日本政府が、日本円の借金で破綻することはない、というのは、水が高きから低きに流れるほどに当たり前の「事実」なのだ。実際、消費増税を推し進めてきた、あの財務省ですら、次のように明記する公式文書を、発行している。
「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」
ここにある「デフォルト」とは、債務不履行を意味する言葉であり、要するに「破綻する」ということである。つまり、日本政府が日本円の借金で破綻することなどありえないという話は、何もMMTを持ち出さずとも、日本政府の財政を司る財務省自身が認める「事実」なのである。
日本の現実を精査してみる
ただし、「人から金を借りておいて、それを返すときに自分で作って返すなんて、不道徳極まりないじゃないか!」と感ずる国民は、やはり多いのではないかと思う。だから、「お金を作っているのは、理論上は政府かもしれないが、そんなこと、実務的に無理じゃないか?」と、狐につままれたように感じている方も多かろうと思う。
しかし、実務的に、それはありうることなのだ。
第1に、少なくとも「帳尻」のうえでは、政府の借金返済(国債の償還)はこれまでつねに、税金、ないしは、国債の発行(つまり借り換え)で賄う、という体裁が守られてきている(ただし、実際上は、徴税で貨幣は消滅しているので、事実上、すべての政府支出は、中央銀行も含めた政府が作り出していると言うこともできる)。
つまり、一般の人々が、心理的な抵抗感を持つような「金を返すときに、金を自分で作って返す」ということは、形式上ない格好で運用されているのだ。だから、「日本政府が日本円の借金で破綻することはない」というのは、あくまでも、「いざとなれば」帳尻あわせを度外視して自分でお金を作って返すことが実務的に可能だという話にすぎないのだ。
第2に、日本銀行は、普段の業務の中で、マーケットに出回っている「国債」を売り買いしている。もしも、政府に対して金を貸す人(銀行など)が減り、国債の価格が不安定化してくれば、その安定化を目指して、マーケットで売られている国債を買っていく、という対策を図ることができる。
そうすれば(あるいは、「そうする」と公言する=コミットするだけでも)、国債の価格が安定化し、政府に対して金を貸す人がいなくなっていく、という事態を回避することができる。
第3に、そうした取り組みにもかかわらず、万万が一、政府に誰も貸してくれなくなったという特殊なケースが、(例えば、とんでもない天変地異などによって)生じた場合においても、政府が破綻することになるとは考えがたい。なぜなら、どんな最悪のケースでも、日本銀行が「最後の貸し手」(Lender of last resort)として、政府にお金を貸してくれるからである。
そもそも、この「最後の貸し手」という機能は日本銀行においては法律でしっかりと定められた公式の機能であり、しかも、それは先進諸国の中央銀行ならばどこの国にもある当たり前の機能だ。
日本銀行が発動するものは法的には「日銀特融」と呼ばれており、金融機関が危機に陥ったときに、経済の大混乱を回避するために、日本銀行が「特」別に「融」資する(金を貸す)という仕組みだ。実際、戦後においても証券不況やバブル崩壊などで何度か発動されてきた。
もちろん日銀特融の対象は特定の機関だけであり、必ずしもすべての機関が対象となるわけではない。あくまでも、その機関が「破綻」すると経済的混乱が深刻化してしまう場合に限って発動される特別措置だ。
そうである以上、「政府の破綻」が、本当に大変な混乱を巻き起こすとするなら、この「日銀特融」が発動されないということなどありえない。
政府が破綻することなど、事実上ありえない
そもそも、日本銀行法の第38条には「内閣総理大臣及び財務大臣の要請があったときは(中略)当該要請に応じて特別の条件による資金の貸付け(等の)(中略)業務を行うことができる」と明記されてもいる。
もちろん、この書き方なら日銀が、総理大臣や財務大臣の要請を「拒否」することも「可能」ではあるが、これまで木津信用組合、兵庫銀行、北海道拓殖銀行などの、ローカルな金融機関の危機のときにすら発動されてきた日銀特融が、日本政府の財政破綻という未曽有の危機のときに、総理大臣や財務大臣の要請があってもなお発動されないことは、現実的にありえないわけだ。
万一それがあるとすれば、「ジェット機の飛行中に逆噴射をしてしまうようなトンデモないパイロット」と同じような、著しく資質を欠いた人物が日本銀行の総裁に就任している場合に限られよう。そしてもちろん、そうならないよう、日銀総裁人事は、国会における最重要案件の1つになっている。
こう考えてみれば、今の日本の法制度や現実をしっかりと見据えると、日本政府が破綻することなど、事実上ありえないとしか言いようがないのである。 
●税収不足で赤字国債 借金に借金重ねる野放図 2019/11 
国の借金残高が1000兆円を超す危機的状況なのに、いつまで野放図な財政運営を続けるのだろうか。
今年度の国の税収が、当初想定した62兆円余りから1兆〜2兆円も減る見通しとなった。政府は来月編成する補正予算案で穴埋めの赤字国債を追加で発行する方針だ。
今年度の当初予算は100兆円超と税収を大きく上回り、既に多くを借金に頼っている。今回は借金に借金を重ねるものだ。
安倍政権は3年前も、税収が想定を1・7兆円下回ったため、同規模の赤字国債を追加発行した。同様の事態を繰り返すことになる。
日銀の異次元緩和で金利は極めて低い。税収が足りなくなっても借金で賄えば済む。そうした安易な対応がまかり通るのは異常だ。
税収不足の主因は、3年前と同じ法人税収の減少である。米中貿易戦争で中国など海外景気が悪化し、日本からの輸出が振るわず、企業の利益も減った。10月からの消費増税による税収でも補えないという。
米中の対立はもともと長期化が予想されていた。税収も当初から慎重に見積もる必要があったはずだ。
そもそも法人税収は景気に左右されやすい。それでも安倍晋三首相は税収増を当てにして予算を膨張させてきた。痛みを伴う歳出抑制を避けるためだ。赤字国債の追加発行は、甘い税収見通しを続けてきたアベノミクスのつけである。
消費増税の目的は本来、将来への無責任なつけ回しに歯止めをかけることだ。国民に痛みを求める以上、政府は財政再建の道筋を示す必要がある。借金を増やしてしまうと何のための増税か分からなくなる。
さらに懸念されるのは歳出拡大圧力が一段と強まっていることだ。
政府は防災や景気てこ入れを柱とした経済対策を来月取りまとめ、補正予算案と来年度予算案に盛り込む。与党からは10兆円規模の大型対策を求める声が相次いでいる。それでは国債発行がさらに膨らむ。
しかし、政府は「景気は緩やかに回復している」との認識を変えていない。ならば、大がかりな景気対策は不要なはずである。
今回の税収不足ではっきりしたのは歳出抑制の重要性だ。借金をずるずる膨らませるのは許されない。  
●1100兆円もある日本の借金、日本はどうして破綻していないのか 2019/10 
読者の皆さんは、借金をした経験はありますでしょうか?奨学金、カードローン、自動車ローンや住宅ローンなど、あらゆる借金が、皆さんの身近にあります。「しゃっきん」という言葉には、昔からネガティブなイメージがつきまといます。
では、日本の「借金」について、皆さんは、どのくらい知っていますか?
よく「日本は借金大国だから、このままでは破綻する」などと言われますが、なぜ破綻しないのでしょうか。今回は「国の借金」に関して掘り下げてみたいと思います。
日本の借金1105兆円でも、問題は金額じゃない
財務省が発表する「国の借金」は、2018年度末でおおよそ1105兆円となっています。
数年前、国の借金が1000兆円を超えた、と話題になりましたね。国民一人当たりに換算するといくらだとか、世界の中でもトップクラスの借金大国だとか、キャッチーな話題は数多くありましたが、「そもそも日本は誰から借入れをしているか」ご存じでしょうか。
実は日本の借金は、国内から借入をしています。日本の国債(=ここでは、国の借金だと考えてください)は、約88%を「国内」で保有しているのです。
これは例えば、ある家庭の借金額が1105万円だとして、その88%が「家庭内」で貸し借りしている状態を指します。お父さん(国)が、「家を建てたい」などといって、同じ家族であるおじいさん(国内)に、毎年いくらかお金を借り続けています。そうしてできたおじいさんへの借金の額が累積で972万円あり、他に親しい知人(海外)から、133万円借りているという状況です。
国の借金の話をするときは、「累積金額」だけがピックアップされることが多いのですが、実は「貸してもらっている相手」こそが重要なポイントなのです。「国内」の中で最も多く国債を持っているのは日本銀行で約47%、続いて生損保険会社等が約21%、銀行等が約15%の順になっています。
家族間での借金は、誰のもの?
借金をしている相手がおじいさんの場合、その債務はやがて相続されお父さん自身の債務となります。これは国の借金をひとつの家族で例えた話ですが、イメージとしては現在の日本の借金事情そのものです。
家族間で借金をしている場合、5年10年の単位で考えればそれは「借金」なのですが、100年以上といった家系単位で考えた場合、いずれは自分の財産になる相続財産を借り入れ(前借り)しているに過ぎません。会社の友人、つまり「海外」から借り入れをしているのとは、事情が全く異なるのです。
日本の、収入と支出の現状
お父さんは会社の知人への返済はもちろん、おじいさんへの借金もきちんと約束の期日に、約束した額を返し続けています。ただ、お父さんの収入から生活に必要な支出額を除くと、借金を返すお金が足りないどころか、生活費自体も足りない状態。ですから、生活費の不足分と借金の返済をするために、新たに借金している、という状態です。 (ただし、新たに借金をしている相手は、これまた家族である、おばあさんであったりするのですが・・・)
どうしてお父さん(国)が収入(税収)だけでやっていけないのか、その理由は財務省のホームページで確認することができます。一般会計歳出(国の支出)を見ると、支出の1/3が社会保障関連になっていることがわかりますね。社会保障関連の費用が近年膨らみ続けていて、話題になっています。
図を先ほどのお父さんの例に置き換えると、お父さんの収入は62万円ですが、生活費に78万円掛かっているという状態です。そして、足りない16万円と、おじいさんと知人への借金返済額24万円を、さらに借金をして支払っている、というわけです。
先ほどから借金という言葉を連呼していますが、借金は、借り手が貸し手へ「利息」を払います。お父さんがおじいさんへ、利息を払っている構図になります。おじいさんが得た利息は、孫へのこづかいや教育費の援助になっているのも事実です(文教及び科学復興費)。
家族間でのお金の貸し借りを「家系の存続」を考えるほどの長期間で見た場合、それほど「借りる」行為が悪いのかと改めて問うと、皆さんいかがでしょうか?
忘れてはいけない、税金と日本銀行の存在
「日本は借金大国だから、このままでは破綻する」という意見に反論できる材料は、まだ他にもあります。
「いくら家族間の貸し借りだからといって、家計が赤字ではいずれ破綻する」と思われている方がいるかもしれませんので、話を整理しましょう。
国の会計で、収入の主たる源泉はなんでしたか? そう、税金です。お父さん(国)はおじいさんを含めた一族(国民)に対して、税金をかける権利がありあます。もちろん勝手に決定できるものではありませんが、国会(家族に置き換えると家族会議、でしょうか)で議論したうえで、税率を上げる決定をすることができます。
また、国債は「債券」なのですが、返済の為の通貨は日本円です。日本円は日本銀行が発行することができます。日本国債の最も多い保有者は、日本銀行でしたね。最悪、借金の返済に行き詰まってしまった場合、日本銀行はお金を刷ることができるのです。極端な話ですが、お金をたくさん刷って返済に当てれば、借金の返済は完了します。実際にはそのようなことをすると、大きなインフレーションが起こってしまうので現実的ではないものの、「日本が、借金が原因で破綻する」という定義が通らないことが、お分かりになるかと思います。
まとめ
今回はあくまでも「借金によって日本が破綻するのか」という点を考えましたが、問題は借金の有無ではなく、物価が安定し、国民が明るい将来を描き、幸せに暮らせるのかということです。今後も増え続ける社会保険料や人口減少の問題に対して必要な政策をとるとしても、その政策や国を守るために借金が膨らみ続け、「国債の返済で破綻」することがなかったとしても、国が貧弱になっては本末転倒です。
結局生活を豊かにするには、日本の経済を強化し、国民の個人資産を増やすしかないと筆者は考えます。私たち個人にできることは、借金の額を考えることではなく、なるべく政府に頼らず、今も老後も、自分自身の資産と収入で、生活できる環境をつくることだと思います。 
●竹中平蔵「日本の1000兆円の借金は問題ない」 2019/10 
この本を書いた高橋洋一氏は、かつて私が小泉内閣時代に郵政民営化に取り組んだとき補佐役として助けてくれた仲間であり、東大の数学科を出て大蔵省に入った異才です。
彼いわく、文系の人は数字に苦手意識があるけれども、実は数字って細かい部分を見る必要は一切ない。大きな数字の枠組みを組み合わせるだけで、物事をクリティカルに考えることができるんです。
「大きな枠組みで考える」ということを具体的に説明しましょう。日本はGDPの2倍ぐらいの債務を持っている財政赤字の国だと言うけれども、実はGDPの1.5倍ぐらいの資産を持っているんですよね。そうすると日本の負の資産というのは言われているほど大きくはないんです。
だから、高橋氏も私も消費税の拙速な引き上げにはずっと反対しています。そんなことより売れる資産がたくさんあるから売れと。考えてみれば、政府はその資産を使って特殊法人をつくって、そこにたくさん天下らせているじゃないか。そういったことを全部見抜くために、大きな数字というのが役に立つということなんです。
もちろん、それをもっと細かく分析する方法もこの本には書かれていますが、私は全体として流れている大きな数字を理解する頭を持てばよいと思います。
数字と聞くと、おそらく多くの人は、「何だか細かいもの」と思うから嫌がるんですよ。本当は細かい数字なんか全然必要なくて、大きな枠組みで考えて、私たちの世の中がどんなふうな仕組みで回っているのかを考えればいい。
企業に置き換えると、自分の会社は大体何億円ぐらい収入があって、何億円の利益が出ているのか。これはほかの会社に比べて何%高いか、低いか。それくらいで考えればいいということですよね。
本書の中では次のような言葉で書いてあります。
“負債を持つことには何の問題もないかというとそれは違う。ならば、資産が多ければ問題がないかというとそれも違う。重要なのは「負債と資産のバランス」である。”
“そして、これもあたりまえの話なのだが、「資産」から「負債」を引くと「純資産」となる。「資産」の大きさや「負債」の大きさが問題ではなく、「純資産」の大きさ=「純資産がプラスかマイナスか」が問題なのである”
これをふまえて政府の貸借対照表(BS)を見てみると、財務省(旧大蔵省)が1980年代から主張している「日本は今1000兆円の借金がある」という論もいたずらに不安を煽るための話だということが見抜けます。
2017年度の政府のBSでは、負債の部の「公債」が約966兆円。「政府短期証券」の約76兆円と合わせて、「借金1000兆円」と言っているのです。
しかし、先ほど述べた通り重要なのは資産と負債のバランスです。資産から負債を引いた純資産は、約マイナス568兆円になります。この数字は政府の話として見れば問題のないレベル。借金額だけを強調し、増税を推し進めることがいかにばかげているかがわかるのです。 
●財政赤字が増え続けても大丈夫なのか 2019/8 
日本は巨額の政府債務[国債残高883兆円、その他の政府短期証券や財投債を合わせた「国の借金」は18年度末で1239兆円、対GDP比は218%]を抱えているのですが、《借金=国債残高を増やし続けても大丈夫》という議論も堂々とまかり通っています。最近では、MMT(現代貨幣理論)が持て囃されています。こうした議論は、社会保障財源の持続的な確保のために公正な増税を断行するべきだという提案に反対する、あるいは足を引っ張る役割を演じています。
経済成長すれば財政赤字は問題ではない?
その1つは、《経済成長率(名目)が長期金利を上回るならば、債務残高の対GDP比は低下するから、赤字財政を続けることは可能である》という主張です。
これは、名目成長率 > 長期金利であれば赤字財政も持続可能である、という「ドーマーの条件」に依拠して主張されます。安倍政権は、「財政健全化」の指標としてきた「PB(基礎的財政収支)の20年度までの黒字化」が絶望視されるため、「債務残高の対GDP比の安定的な引き下げ」を「財政健全化」の新しい指標として前面に持ち出した(「新財政健全化計画」18年7月)。
   国・地方の公債残高の推移の見通し
         2017年   2020年   2027年
対GDP比    188.2   183.7   157.1
名目成長率     1.7    2.8    3.5 (単位:%)
   (内閣府「中長期の経済財政に関する試算」18年7月9日)
この議論は、経済成長さえすれば増税がなくても財政再建は可能である、という経済成長主義の論理です。例えば、「経済成長すれば、そのぶん税収が増える」から「増税せずとも財政再建ができるし、社会保障も維持できる」(高橋洋一『日本はこの先どうなるのか』、16年、幻冬舎)、と堂々と主張される。
実際はどうか。
安倍政権で想定されている名目3.5%(23〜27年度、実質2.0%)という高い成長率は、アベノミクス6年の実績(名目1.9%、実質1.2%)からすれば、まったく根拠に乏しい願望にすぎません。
また、成長率が高くなれば、長期金利も上昇します。内閣府の「試算」では25年度までは長期金利が名目成長率を下回る(21年度は2.7%、25年度は0.9%下回る)とされているが、27年度には名目成長率=長期金利(3.5%)となる。
名目成長率の想定が高すぎるから、長期金利が20年代に入って毎年0.5%ずつ上昇する(21年度0.3% → 27年度3.5%)ならば、早々と名目成長率 > 長期金利が成り立たなくなる。つまり、債務残高の対GDP比は低下しなくなります。
財務省自身が紹介している大和総研の試算(19年3月)では、債務残高の対GDP比はゆるやかに上昇し20年代半ば(23〜27年度)には195%で高止まりするだろうと予測しています(図12)。経済同友会の試算でも低下していない。安倍政権の想定がいかに現実離れしているかが分かります。
借金は500兆円にすぎない?
次に、《政府の純債務残高(債務残高から資産額を差し引いた額)は1000兆円の半分にすぎず、大騒ぎすることはない》という主張があります。政府の「粗債務から資産を差し引いた純債務がいくらになるかと言えば、『1172兆円−680兆円』で、約492兆円だ。つまり、日本の実質的な借金は、巷間で言われている1000兆円の半分以下ということである」(高橋、前掲)。
純債務は、2017年度には次のようになっています。
   純債務A 569兆円(負債1239兆円−資産※670兆円) 
   純債務B 494兆円(国債848兆円−金融資産354兆円)
   (2017年度末  ※資産には有形固定資産を含む)
事柄の本質は、純債務残高もどんどん増え続けていることです。対GDP比でも119.9%(17年、10年は106.2%、IMF)と世界最悪です。
   純債務残高(負債−資産)の推移
 2003年度  2008年  2013年  2017年
  245.2   317.4   490.4   568.4 (単位:兆円)
   (財務省「わが国財政の現状について」2019年4月17日)
純債務残高が1000兆円の半分にすぎないから大丈夫だという議論は、債務が増え続けている事態に目をつむる気休めの議論でしかありません。
政府債務が増えてもインフレが起こっていない
《日銀による国債の事実上の直接引き受けになっているが、心配される高インフレにはなっていないから、国債を増発し続けてもよい》という主張もあります。これだけ政府債務が膨らんでいてもインフレになっていないのだから、借金を続ければよい、つまり国債を増発して、それを日銀が買い取り・保有すればよいというわけです。
政府が発行する巨額の国債は、いったん民間金融機関が購入する形で消化されるのですが、すぐに日銀が高値で買い取って保有しています(年間80兆円を買い取り、現在は半減)。日銀による事実上の国債の直接引き受けになっている。これは、戦争中の経験から政府による借金を無制限に許しインフレを招くということで禁じられている。しかし、実際には日銀による国債の直接引き受けになっているにもかかわらず、心配される高インフレ(ハイパーインフレ)はたしかに起こっていません。
そこから、リフレ派(高橋洋一、松尾匡ら)は、デフレ期には日銀が国債を大量に買い取って資金(緩和マネー)を供給しても、インフレにはならずに景気回復と雇用拡大に役立つ、と主張します。これは、MMT派のケルトンやレイが日本について主張したことで話題になりました※。
「日銀が緩和マネーで国債を引き受けて、政府が財政支出を増やし、福祉・教育・医療などに充てる……ような政策をとっても、財政が悪化するわけではありません。インフレの懸念が懸念されるため、『禁じ手』と呼ばれますが、デフレ経済では問題ありません。大事なことは、インフレを適切に管理することであって、短期的に財政のつじつまを合わせようとすることではありません」(松尾ほか「民進党が勝利する経済政策のために」16年9月5日)。
ただし、リフレ派も、インフレ目標が達成されてもこの政策を続けるとインフレが進行する。したがって、2%を超えて物価が上昇する局面に入れば、日銀が金融引き締め政策に転じてインフレを抑えればよい、と主張しています。「やがて経済が完全雇用の『天井』に達し、インフレ率が政府のインフレ目標を超えて高まった時には、政府(日銀)はインフレ抑制策を実施せねばなりません。……。日銀の持っている国債を売って、通貨を市場から吸収すればよいのです。……そうやって民間が保有することとなった国債については、満期が来たら政府がおカネを返さなければなりません」(松尾ほか前掲)。
※MMTについては、白川「MMTは日本を救うか」(19年6月、PP研WEB)を参照されたい。
失敗がもたらした「安定」
日銀は、「異次元の金融緩和」によって大量のマネー(マネタリーベース)を供給してきました。13年から5年間で365兆円もマネーを増やした。しかし、そのお金は設備投資や賃金の増大として市中(企業や個人)に出回らず、日銀の当座預金に積み上げられただけです(同期間に340兆円の増大)。したがって、高インフレは引き起こされていないが、2%のインフレ目標も達成されていない。
もともと大規模な金融緩和の狙いは、2%の物価上昇の実現にありました。そのシナリオは、《2%のインフレ目標達成まで金融緩和を継続 ➩ 人びとはインフレを予測=期待 ➩ お金の価値が下がる(実質金利の低下) ➩ 借金したり手元のお金を消費や設備投資に回す ➩ 景気回復》というものでした。ところが、大規模な金融緩和による2%のインフレの実現という政策は、見事に失敗した。
アベノミクスは、その行き詰まりが目に見える形で現われず、激しい批判を浴びることを回避できています。アベノミクスを評価する38% 評価しない43%(朝日新聞19年6月24日)と、評価は拮抗している。
その大きな理由は、皮肉にも2%のインフレ目標を達成できなかったことにあります。インフレが目に見えて進行しなかったことが、アベノミクスに対する強い不満や憤りを招かなかった。給料が実質的に減り続ける状況で2%のインフレになっていれば、人びとの生活はいっそう苦しくなったでしょう。インフレ目標を達成できなかったことが安倍政権を助けた。皮肉にも「失敗が安定をもたらす」という現状になっているわけです。
日本経済は、2%のインフレ目標だけが達成されないまま、デフレから脱却しています。失業率は2.4%で「完全雇用」に近い状況です。需給ギャップは、16年秋から需要が供給を上回るようになって解消されている。物価が継続的に下落する事態(デフレ)からは抜け出して、1%程度のゆるやかな上昇が続いている。政府も「デフレではない状況」と認めている。しかし、「デフレ脱却」宣言をしません。宣言しないまま年金のマクロ経済スライドを発動して、年金を実質的に引き下げた。ケシカランことです。
リフレ派は、現在もデフレ局面だと言い張って(その論拠は2%のインフレ目標の未達成?)、金融緩和の継続による財政ファイナンス、つまり日銀の国債購入による「緩和マネー」の創出を主張しています。
リフレ派は、デフレを脱却し物価がインフレ目標を超えて上昇すれば、金融引き締め政策に転じればよい、と気楽に言っている。しかし、日銀が大量の国債を抱えて場合には、金利の引き上げや国債売却による資金吸収(売りオペ)といった金融引き締めの手段をタイムリーに行使することが難しくなる。金融政策の「正常化」の自由度が狭められているのです。リフレ派はこの点を見ておらず、インフレ抑制(=管理)が容易にできると思い込んでいる。
この点は後で触れますが、松尾たちケインズ主義者は、インフレ抑制などマクロ経済政策の有効性を過大評価し、経済政策によって経済を望むようにコントロールできるという発想が強い。「経済学の知見によれば、不況は金融政策と財政政策によって『治療可能な病』であり」(朴勝俊ほか「宮部彰さんに問う」)といったことを、平気で言う。いいかえれば、グローバル化や少子化による人口減少といった構造変化を無視し、マクロ経済学のモデルの限界性を直視せず、経済政策の力を信奉する。ここに致命的な弱点があります。
超低金利が財政危機を隠蔽
これだけ財政赤字が膨らんでも危機が表面化していない最大の秘密は、超低金利が続いているからです。
借金をもっと増やしても大丈夫という主張の一つとして、《日銀が発行された大量の国債を購入・保有すれば問題ない》という議論があります。その論拠として持ち出されるのが、日銀は政府の子会社であるという「統合政府」論です。《「統合政府」の観点から見れば、政府の債務としての国債は日銀の資産としての国債によって勘定の上で相殺され、政府の対民間債務は消えてなくなる(財政再建は達成されている)》という議論です(図13)。
「統合政府のバランスシートで見れば、政府の債務である国債残高は、日本銀行が保有する国債資産で相殺されるから、今の日本の財政問題はほぼなくなった」(高橋洋一「教育投資の財源は『こども保険』より『教育国債』が筋がいい」、「DIAMOND online」17年5月12日)。
国の貸借対照表(17年3月末)によれば、国債残高は848兆円だが、金融資産354兆円を差し引くと純債務(負債)は約500兆円(494兆円)になる。一方、日銀が保有する資産としての国債は437兆円(17年6月)。したがって、両者は相殺され、債務はほとんど消えてなくなる、というわけです。
しかし、政府債務は消えたはずなのに、現実には多額の国債の利払いと償還が行われ続けています。そして金利が上昇すれば、利払いが急増するから国債費は増大し財政を圧迫する。つまり社会保障や教育への財政支出を削らざるをえなくなります。
この間、国債を日銀が大量に買い上げる異次元金融緩和に加えて、企業がカネあまりで資金需要が弱いことから、長期金利がゼロ近傍になる超低金利が続いている。この超低金利のおかげで、国債の利払い額は約9兆円の水準で横ばいであり、国債費(利払い+償還)も23兆円強(歳出全体の23%)と微増にとどまっています(図14)。
しかし、名目1.8%、実質1.2%(22〜27年度)の低成長が続く場合でも、長期金利は2%近くに上昇するから、国債費は33.2兆円(27年度、歳出全体の28%)に増えます。安倍政権が望むように名目3.5%、実質2.0%の高い経済成長の場合は、長期金利は毎年0.5%ずつ上昇し3.5%にまで上昇するから、利払い額はもっと膨らむ。そうなると巨額の債務を抱えているリスクが表面化し、人びとも事柄の大変さに気づくでしょう。
これに対して、《日銀が国債の4割を保有しているから、支払われた利子と償還分は日銀に入り、国庫納付金の増大として政府に還元されてくる》という反論がされる。「日銀が保有する国債に対する利払いは、最終的には日銀から政府への納付金ということで、政府の『その他収入』となる」(高橋「財務省は『借金』だけを見て財政再建を言うから間違える」「DIAMOND online」17年5月12日)。
しかし、巨額の国債費はすべて日銀に支払われるわけではありません。また、日銀が債務超過に陥ることが確実視されるなかで、国庫納付金が増えることは困難でしょう。
日銀が国債の4割を保有するリスク
日銀が保有する国債は5年間(13年3月→18年3月)で急増して437兆円、国債発行残高の43.9%に達しています(図15)。
日銀は国債を資産として保有していますが、それに見合う日本銀行券と当座預金を負債(債務)としています。とくに当座預金は387兆円(18年10月)にも増大している(図16)。日銀は、国債などの資産運用で金利収入を得る一方で、当座預金の大部分に利子を付ける。国債の運用による利子収入と当座預金への利払いの差が通貨発行益(シニョレッジ)であり、このなかから国庫納付金が政府に支払われるわけです。
超低金利の下で、国債の平均利回りは0.4%という低い水準にとどまりますが、当座預金の利子(付利)も0.1%にすぎないので、利ザヤ(国債からの利息収入 > 当座預金への利払い)が得られます。16年3月期には、国債などの利息収入(および株からの運用益)が1兆5190億円、当座預金などへの支払いが2220億円で、利ザヤは1兆2970億円。
しかし、原油価格の高騰、急激な円安など経済情勢の変動によってインフレが進行し金利(政策金利)を引き上げる必要が生じると、当座預金への利子の水準も引き上げられます。この付利を0.4%以上に引き上げるだけで、逆ザヤ(国債からの利息収入 < 当座預金への利払い)が発生します。金利上昇に伴って国債の運用利回りも上昇するが、それは遅れて緩やかにしか上昇しないから、当座預金への付利が上回る。逆ザヤが1%発生すると、当座預金が300兆円を超えているから年3兆円以上の損失が発生します。
《統合政府として見れば、政府の対民間債務は消滅する》という議論は、日銀の国債保有の増大に対応して負債としての当座預金が増え続けているという問題を無視しているのです(この点を指摘したのは、翁 邦雄である)。超低金利の下では当座預金の利払いは国債からの利子収入を下回っているが、金利が上昇すると当座預金の利払い問題が顕在化します。
金利引き上げは、インフレ目標が達成されると(あるいは達成されなくても)、異次元の金融緩和政策を転換し「正常化」する(「出口」)過程で必然的に行われます。そこで、逆ザヤの発生による経常赤字の累積によって、日銀にどのくらいの損失が生じるのか。金利を2%にまで引き上げるというシミュレーションによると、24〜30年度に累計約19兆円(岩田一政・左三川『金融正常化へのジレンマ』、18年、日本経済新聞出版社)、あるいは22〜28年度で累計約14兆円(吉松崇ほか『アベノミクスは進化する』、15年、中央経済社)の損失が発生する。
これだけ巨額の損失が生じれば、日銀はそれを自己資本などでカバーできず、債務超過に陥ります。それは政府の公的資金投入によって補うしかなく、新たな税負担が生じるでしょう。これに対して、リフレ派は、日銀が債務超過に陥っても、日銀の自己資本には経済的な意味はないし、いずれ自己資本も回復するから、債務超過を放置しておいても問題もない、と主張します(吉松、前掲)。
しかし、日銀が一定期間とはいえ債務超過に陥ることは、政府への国庫納付金が支払えなくなる(歳入の税外収入分が減少する)だけではありません。それは、中央銀行に対する信認を揺るがし、金融政策への不信や金融システムの不安定性を招くことになります。
金利の上昇は、さらに厄介な問題を引き起こします。それは国債価格の低落を招くから、大量の国債を資産として抱える日銀に含み損が発生します。日銀自身が、金利が1%上昇しただけで含み損が20.6兆円に達すると公表しています。
そのため、日銀は、買い入れてきた国債、つまり値下がりした国債を売却することができず、満期になった国債の償還を待つしかなくなる。したがって、インフレ対策として、保有する国債を売却して資金を吸い上げる金融引き締め(売りオペ)の実行が封じられます。
インフレ抑制と低金利維持
リーマン・ショック後の先進国の経済では、緩やかな景気拡大を続けながらも低インフレ・低金利・低成長が常態化してきました。とくに日本は、低成長・低インフレ・低金利が続く典型となってきた。低インフレは低金利の継続を許容し、低金利は国債の利払いを軽くしますから、大規模な金融緩和に支えられた財政拡張が可能になってきました。日本では、ゼロ金利が続いたことが財政規律を緩め、「財政ファイナンス」を可能にする条件となってきた。超低金利は経済停滞の表現にほかなりませんが、皮肉にもそれが財政危機の表面化を押しとどめてきたわけです。
日本の潜在成長率は、1%を切っています(0.78、日銀18年1月)。また、上場企業が予想する「今後5年間の日本の成長率」は実質で1.1%です(内閣府「企業行動に関するアンケート調査」18年1月)。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの予測する20〜25年度、26〜30年度の実質成長率は0.8%、0.7%にすぎない。そして、70%の人が「日本の経済がこれから成長することは期待できない」と予想している(「期待できる」は23%、朝日新聞19年1月13日)。したがって、今後も人口減少のなかで1%前後の低成長が続くという見通しにリアリティがあります。
しかし、低成長が続く場合でも、インフレ、例えば2%を超える消費者物価の継続的な上昇が出現する可能性はあります。原油価格の高騰や急激な円安が輸入品価格を上昇させる、あるいは深刻な労働力不足による賃金上昇がサービス分野(小売や飲食など)の価格を上昇させるといった可能性である。景気のめざましい拡大や経済成長の加速だけがインフレを招くとは限らないのです(スタグフレーションの経験)。
インフレが進行した場合、これを抑制・コントロールする日銀の金融政策として採られる主要な手段は、金利(政策金利)の引き上げと売りオペ(保有する資産や株の売却によるマネーの吸収)です。しかし、この金融政策の発動は、日銀が大量の国債を保有している異常な状態の下では、大きなジレンマに直面します。
すでに見たように、金利引き上げは、日銀が負債として抱える巨額の当座預金への利払いを急増させ債務超過に追いこむ可能性がある。また、資産として保有する国債の価格を下落させ巨額の含み損を発生させる。したがって、金利の引き上げ、あるいは売りオペといった金融政策の発動を制約したり難しくします。
さらに、インフレ抑制のために金利を引き上げようとする日銀(金融政策)と国債の利払い抑制のために低金利を維持したい政府(財政=国債管理政策)との対立が表面化することが予想されます。この対立は、米国の政策金利の引き上げをめぐって、利上げをめざすFRBと減税によって膨らむ債務の利払い軽減を求めるトランプとの対立として現われました。結果的にFRBが押し切られ、景気拡大のための利下げにまで転じようとしています。
すでに、日銀は400兆円を超える巨額の国債を保有することによって、インフレの出現に対して有効な金融政策を発動することはおろか、「出口」=金融正常化(金利引き上げや資産減らし)に踏み出すことも困難であるという身動きできない状態に置かれています。「深刻なのは、日本銀行が、異次元緩和の果てに中央銀行としての機能を失いつつあることだ。次のショックが起きても、『打つ手』がなく、日銀自身も打撃を受ける『リスク』が高まっている」(金子 勝「日本経済最大のリスクは金融ショックに打つ手がない『中央銀行の死』だ」、「DIAMOND online」18年10月31日)、という指摘はけっして大げさではない。
低成長・低インフレ・低金利が続けば、財政危機が一挙に表面化することはないでしょう。しかし、巨額の政府債務を抱えていることを過小評価し、どんどん借金しても大丈夫だと振れまわるのは、無責任です。社会保障の拡充のために必要とされる財源を確保するために、「公正な増税」の必要性を考えていかなければなりません。 
●「増税しなくても国の財政は大丈夫」“俗説”の誤り 2019/8 
2020年度の国の予算をつくる作業が始まっています。
国の借金は1000兆円を超えて膨らみ続け、台所事情は「先進国で最悪」と言われます。「このままではいつか財政が破綻する。もっと収支改善の努力が必要だ」という見方は、専門家の間ではほぼ一致しています。
ただ、「そんなことしなくても大丈夫。以前から『財政は破綻する』と言われてきたのに、何も起きていないわけだし」と考える人も少なくないようです。そうした考え方の根拠とされがちな3つの「俗説」のどこに問題があるのか、ざっくり解説します。
社会保障と借金返済に予算の7割強を使っている
俗説(1)増税しなくてもムダをなくせば財政は再建できる
まず、国の財政の現状を見てみましょう。
ふつう「国の予算」と呼ばれてメディアで大きく報じられるのは「一般会計」ですが、それとは別に国の借金返済に回すお金や、公的年金や健康保険にかかわるお金などを一般会計とは別に管理するさまざまな「特別会計」があります。財政の全体像をつかむには、これらをトータルで見る方がいいです。
国の予算は最近では「100兆円規模」と言われますが、これは一般会計に限った話です。特別会計も合わせるとその倍以上になります。
2019年度分を見ると、支出額は243.2兆円【図表】。うち年金、医療、介護といった「社会保障費」と、国が積み重ねてきた借金の返済に回すお金である「国債費」がそれぞれ4割弱を占め、都道府県や市町村にお金を回す「地方交付税交付金」が1割弱で続きます。
「ムダ減らし」だけでは財政再建はできない
少子高齢化が深刻化するなか、政府は年金の支給額の伸びを抑えたり、働く世代が負担する保険料を引き上げたりといった対策をとってはいますが、それでも社会保障費は年々膨らみ続けています。
この先も支出を抑える努力を続けることは必要ですが、社会保障費を極端に切り詰めすぎれば、「年金が少なすぎて生活できない」「お金がかかりすぎるから病院に行けない」といった形で私たちの暮らしに深刻な影響が出ます。
金利がものすごく低い状態が続いているため、巨額の借金を抱えている割に国債費は少なくて済んでいます。しかし当面、借金の残高は増えていく見通しなので、少なくとも国債費が減っていくようなことは期待できません。
ごく一部の例外を除けば、都道府県や市町村の財政も軒並み苦しいので、いったん国が集めた税金を自治体に配る地方交付税交付金を大きく減らすのは簡単ではありません。
これらの3項目以外が予算全体に占める割合は、たったの2割弱にすぎません。
【図表】の「その他」には公共事業や教育、防衛といったさまざまな項目が並んでいます。1円だって国民のお金をムダに使うことは許されませんが、徹底的に支出を見直したとしても、残念ながら節約できる金額は全体から見れば大きくはありません。
社会保障費は2019年度までの6年間で平均2.6兆円ずつ増えていますが、この金額を例えば防衛費の2019年度の予算額と比べると、ほぼ半分にあたります。
「防衛費を削って社会保障を充実させよう」といった考え方自体はもちろんあり得ますが、防衛費を半分に削ったとしても社会保障費がたった1年間に増える分さえ賄えるかどうか、といったところです。その他の項目を見ても、社会保障費とは金額のスケールが違いすぎますよね。
常にムダを減らす努力は必要ですが、それだけではどう考えても財政再建の決定打にはなりません。
「バブル期以来の高成長」でも減らない借金
俗説(2)増税しなくても経済成長によって税収が増えれば財政は再建できる
「経済が成長すれば自然に税収が増えるので大丈夫」という説も目にします。
ただでさえ少子高齢化で働き手の頭数が減っていくことが見込まれるなか、遠い昔のような「右肩上がり」を期待して、後は何もしなくていいというのは能天気すぎると思いませんか?
政府が公表している財政再建計画でさえ、おおむねバブル期以来の高成長(名目で3%)が続くという非常に強気な仮定を置いたケースでも、国の借金残高が安定的に減っていく見通しにはなっていません。そもそも、そんな高成長が続くと予測している民間の専門家はほとんどいません。
いつかは金利も物価も上がり始める
俗説(3)「国の借金」の貸し手はほとんど日本人なので、まだまだ増やしても問題ない
国の収入についても一般会計と特別会計をトータルで見ると、借金が占める割合は実に4割弱。私たちが納める税金や社会保険料は合計しても5割弱にすぎません。
国は「国債」(とりあえず借用書のようなものと思ってください)を発行して、民間の銀行や保険会社といった金融機関などからお金を借ります。
相手に「お金を返してくれる可能性が低い」と見られたら、高い利子を払わないとお金を借りられないのがふつうです。身の丈に合わないほどに借金をどんどん増やしている人がいれば、貸し手は高い利子を求めます。
そうなると借金の利払いが膨らんで台所事情はますます苦しくなり、いつかは借金を返しきれなくなる日が来るでしょう。
日本国債の9割以上は国内の金融機関や個人が持っていて、海外勢は1割未満です。「日本人は貯蓄好きだから、預け先の金融機関にはたくさんお金があるので、まだまだ国債を買える。万一、国が借金を返せなくなって大混乱が起きたら日本人はみんな困るので、国債を買うのを急にやめたり投げ売りしたりして金利の急上昇を招くような行動は誰もとらないはずだ」と主張する人もいます。
とはいえ借金が果てしなく増え続けていけば、国債の買い手が日本人だろうと外国人だろうと、いずれかの時点で必ず「危なすぎて国債は買いづらい」という見方が広がり、金利は上がっていきます。ふつうは金利と物価の上昇はだいたい連動するので、インフレも進むでしょう。
利払い費が増えて国の財政が急速に悪化し、さらに金利が上がり、また利払い費が膨らんで……という悪循環に陥り、最後は企業で言う「倒産」にあたる「財政破綻」に行き着くおそれさえ出てきます。
「破綻」までは考えないとしても…
そうならないための手段は、大きく分けて2つ。
A:増税して収入を増やしたり、公的サービスをカットして支出を減らしたりして収支を改善し、借金を減らす。
B:(詳しい説明は省きますが)政策によって金利だけは無理やり低く抑え込む一方、インフレは放置する。
Bの場合、利払い費はそれほど増えず、インフレによってお金の価値が下がっていくと国が過去に抱えた借金の価値も下がり、実質的な借金減らしにつながります。
ただし預金者から見れば、金利が上がれば増えたはずの利子収入が得られないどころか、インフレによって預金の価値はどんどん目減りしていき、国民は相応の「コスト」を支払うことになります。結局は増税される場合と同じく、強制的に負担を強いられるのです。
どちらの手段をとるか、あるいは両方を組み合わせるかにかかわらず、「過去の世代から積み重ねられてきた借金のツケを、今を生きる世代とその後に生まれてくる将来世代が支払う」ことになります。
そしてツケの支払いが遅れれば遅れるほど、大きな負担が一気にのしかかることになり、暮らしへの悪影響も深刻になります。
今のところ安倍政権も野党も、財政再建に向けた現実的な道筋を示していません。しかし、増税も支出カットも経済成長への努力も、すべて同時に目一杯取り組んで、ようやく危機を脱出できるかどうかという瀬戸際に立たされているのが、今の日本です。
日本の財政はまだ危ういバランスを保っていますが、私たちは後に続く世代にツケを回して逃げ切れるとは限りません。そもそも今の政治に対して発言権がない幼い子どもや孫たち、さらにその先の世代に過酷な負担を押し付けて後はしらんぷり、ということが許されるでしょうか。
そろそろ地に足のついた議論を始めませんか? 
●日本の借金は1000兆円!? なぜ、お金を印刷しないの? 2019/4 
大量のお札が世の中にあふれると…
日本銀行が国債を買いとっている
お金が足りなくて1000兆円も借金している日本。「じゃあ、日本銀行に命令して、もっとお金を印刷したらいいのに」と、思うかもしれません。ところが、そう簡単にはいかないんですね。
ふつう、日本銀行がお札を発行するときは「同じ価値のあるものと引きかえにする」というやり方をします。たとえば、「銀行が持っている国債を、日本銀行が買いとる」ときに、お金を発行します。そのお金が、銀行を通じて、世の中に出回っていくわけです。
お札が世の中にあふれると経済が大混乱
前のページでお話ししたように、国債を発行するのは日本政府です(関連記事『子どもたちも払う「消費税」が増税される本当の理由』参照)。「それなら、国がたくさん国債を発行して、全部、日本銀行に買いとってもらったら?」。じつは、それも禁止されているんです。
大量のお札を手に入れた政府がそれを使って、大量のお札が世の中にあふれたとしましょう。でも、お金で買える商品の数はすぐには増えませんよね。すると、お金と商品の「需要と供給」の関係が変わり、お金の価値が下がります。つまり、商品の値段が上がっていくんです。後でくわしく説明しますが、こうして商品の値段がどんどん上がっていくことを「インフレ」といいます。
インフレは経済を大混乱させるもとです。昔、ドイツでインフレが起きたときは、喫茶店でコーヒーを注文してから、飲み終わってお会計するまでのあいだにコーヒー代が値上がりしていたそうですよ。
「 おうちの人と考えてみよう / 「日本にあるお札」は全部でいくら?
日本銀行によると、家庭や会社、銀行など、世の中に出回っていたお札は合計で106.7兆円でした*。お札をつみ重ねると、富士山の約438倍の高さ(約1653km)、また横に並べると地球の約64周ぶん、月までの距離の約7倍の長さ(約257万km)になるそうです。(2017年12月31日の時点) 」
景気をよくするための「2つの対策」とは?
景気は上下をくり返している
景気がいい、景気が悪いという言葉も、よく聞きますね。商品がたくさん売れてもうかった、給料が増えたからたくさん買い物をしよう、そういう人や会社が増えて経済が元気になっている状態を「景気がいい」といいます。反対に、商品が売れない、会社がもうからない、給料も減った、仕事がなくなった、お金を使わず節約しよう、こんなふうに経済の元気がなくなっていく状態を「景気が悪い」といいます。
おもしろいのは、景気はよくなったり悪くなったり、波のように上下をくり返すことです。景気がよくて商品が売れるからといって商品をつくり続けると、いつかは売れなくなります。「需要と供給」のうち供給のほうが上回るからです。すると景気は悪くなります。そこで、つくる商品を減らすと、「需要と供給」のバランスがよくなり、また商品が売れはじめます。景気がよくなる、ということです。
景気をよくするための対策は2つ
だれだって、景気がいいほうがうれしいですよね。だから景気が悪くなるたびに国はいろいろな「景気対策」で景気をよくしようと工夫します。1つは「財政政策」です。新しく道路や橋をつくったり、公共事業のためにお金を使うことで仕事を増やし、売れる商品を増やします。
もう1つは「金融政策」です。これは金利を下げることをいいます。日本全体の金利をコントロールしているのは、日本銀行です。日本銀行が金利を下げると、会社がお金を借りやすくなります。お金を借りて、新しい工場を建て、新しい機械を買えば、そこでも新しい仕事が生まれ、商品が売れます。  
●国・地方借金1000兆円超 若者の3割「増やしてきた世代が責任を負うべき」 2019/3 
後の世代に負担を回しているだけで、国債を返済するという問題を解決する姿勢が見られない―。日本財団が17歳から19歳までの若者を対象に行った調査で、国・地方合わせて借金が1000兆円以上あるといわれている現状に対する厳しい若者の姿が浮き彫りとなった。国債頼りの予算構造の否定的に取る若者の数は、「仕方ない」とする若者の倍以上いた。借金の返済に関しても、約3割が実際に借金を増やしてきた世代が行うべきと答えた。「借金は国民に対してのもの」とする意見も聞かれたが、自分たちが生んだわけでない借金の返済を将来求められることへの不満の声が寄せられた。調査はインターネットを用いて行われ、800名から回答があった。
歳入の3分の1は借金(国債発行)で賄い、わが国の予算構造が歳出の4分の1は借金の返済にあてるという構図になっている(来年度予算案)ことを踏まえて、借金を前提とした予算構造について考えを聞いた。29.9%が「反対」と答え、「やむを得ない」の13.8%を上回った。一方、過半数の56.4%は「わからない」と答えた。
「反対」の理由としては、返済する額の方が国債発行額より少ないことについて、「このままでは財政破たんしてしまう」という意見が目立った。さらに、「無駄にお金を使っている」「借金してまで公共サービスを過剰にする必要はない」という声も寄せられた。
さらに、「後の世代に負担を回しているだけで国債を返済するという根本的な問題を解決する姿勢がみられない」「私たち若者が背負っていく責任を無責任に増やしている。使わなくてもよいところに無駄にお金を使っている部分が大きいせいで、借金に頼る状況になっているのではないか」との意見が聞かれた。
一方、やむを得ないと答えた若者からは、「もはや国債や地方債を全額返済することはできないため、お金の価値が変わらない程度であれば、税金よりも借金で賄ったほうが日本経済が回る」「日本の借金は国民に対しての借金で、外国に借金しているギリシャ等とは違うという話を聞いたことがある」との意見も寄せられた。
わからないと答えた理由としては、「借金がないと国が回っていかないことは確かなので、どちらがいいのか一概に言えない」と答えがみられた。
では、どうしてこのような状況になったのだろうか?。若者からの回答で最も多かったのは「政治家の努力が足りなかった」で、約半数の50.9%を占めた。また、「国民の負担(税金など)が軽かった」「国民の権利の主張が強すぎた」も、20.9%、18.6%あった。
1000兆円超の借金は、誰が負うべきかという質問に対しては、59.0%が国民全体と答え、28.5%が借金を増やしてきた世代と回答した。若者自身の世代が負うべきとしたのは、5.1%だった。
この問いに関しては、回答理由も聞いている。国民全体が負うべきとの回答者は「一部の世代に責任を押し付けるのではなく、世代に関係なく国民全体で負う方が現実的な解決方だと思う」と冷静な意見が聞かれた。
一方、借金を増やしてきた世代が負うべきとした回答者からは「さんざんお金を使ってきた世代が得して、若い世代が借金を背負うという矛盾が生じる」「なぜ関係ない世代が負うべきなのか理解に苦しむ」と率直に理由を述べる。
天文学的な借金を抱えるわが国の将来については、72.8%が「不安」であるとした。理由としては、「経済破綻は免れない」「自分が老いたとき、年金がもらえるのか不安」「何歳まで働かなければならないのか不安ばかり」と、将来を危惧する意見が多数寄せられた。 
 2018

 

●財政再建で日本経済はどうなるのか? 2018/5 
政府債務残高の削減が中長期的にはマクロ経済へプラスに働く可能性
要約
本稿では、経済の好循環を阻む将来不安や政策の不確実性の中身について確認した上で、OECD 諸国の長期データを用いて、政府債務残高対 GDP 比の削減が 1 人当たり実質 GDP成長率に与える影響を試算した。
家計や企業に尋ねたアンケート結果から、人々の将来不安や不確実性を取り除くには、特に財政再建が必要である。
OECD30 ヶ国の長期パネルデータから政府債務残高対 GDP 比が 1 人当たり実質 GDP 成長率に与える影響を試算すると、政府債務残高対 GDP 比が 104%を超えると成長率にマイナスの影響を与えるという結果が得られた。これは、日本の場合、政府債務残高比の削減がマクロ経済には中長期的にプラスに働く可能性を示唆している。
財政再建には、消費税率引き上げのような歳入改革に加えて、社会保障制度の歳出改革や財政状況をモニターする中立的な財政機関の設置も必要だ。その際、高齢者雇用の促進や健康維持への強い動機付けを持たせるなど、財政再建と整合的な経済・社会制度を構築できるか否かも、財政再建の成否のポイントとなる。
1.先延ばしされていく財政再建計画
先延ばしがもたらす影響を探る
2018 年 6 月、政府は新たな財政健全化計画を提示する。これまで堅持していた国・地方のプライマリーバランス(PB)を 2020 年度までに黒字化するという目標は撤回され、黒字化の新たな目標達成時期は 2025 年度となる見込みである。2018 年 1 月に政府が公表した数字では 2020年度の PB は 10.8 兆円の赤字と試算されている。度々延期されてきた消費税率の 10%への引き上げも 2019 年 10 月に迫り、政府は今秋にもその引き上げの最終判断を行う見通しである。
財政再建には消費税率の引き上げだけでなく、もちろん社会保障などの歳出改革も必須だ。こうした財政再建は、一般に足下の実質的な購買力の低下や給付削減につながることに加え、将来不安を増長させるなどして経済を悪化させると考えられてきた。そのため、政治的にはなかなか実行に移しにくい政策となっている。
そこで本稿では、将来不安や不確実性の中身を家計や企業に尋ねたアンケート結果などを踏まえて、将来不安や不確実性を取り除くには特に財政再建が必要なこと、現状の大幅に積み上がった日本の政府債務残高比の削減がマクロ経済には中長期的にプラスに働くことを示す。
2.経済の好循環を阻む将来不安とは?
「国や地方の財政状況の悪化」などの将来不安を解消していく取組みが必要不可欠図表 1 で示される内閣府のアンケート調査[2014]によると、20 代から 40 代の三つの世代が挙げる将来不安の中身は、「所得や資産の格差の拡大」や「自分や家族の健康状態の悪化」など様々な項目が取り上げられている。しかし、どの世代でも共通する将来不安の中身として注目されるのが、1「雇用状況の悪化」、2「子育て、教育に対する負担の増加」、3「国や地方の財政状況の悪化」、の三つであることが分かる。
   図表 1 年齢階級別・将来不安の要因
1と2は、第 2 次安倍内閣以降、「働き方改革」や「人づくり革命」によって、家計や企業の将来不安の解消へ向けた取組みが既に始まっている。その一方で、3の財政再建の本格的な取組みについては、これからがまさに本番と言える。経済の好循環へとつなげていくには、政府は本格的に財政再建を行うことで、人々が持つ将来不安を解消していく取組みが必要不可欠だ。
3.政策の不確実性と影響度
社会保障制度を中心に財政再建を行うことが喫緊の課題
財政状況の悪化は、それを解決するためのプロセスにおいて不透明感を生み、政策の不確実性を高めるだろう。それでは具体的に、家計や企業はどのような政策で不確実性が高いと感じているのだろうか。図表 2 は、家計と企業が認識している「政策の不確実性」とその「影響度」をスコア化したものだ。
   図表 2 政策の不確実性と影響度(左:家計、右:企業)
家計と企業のいずれもが社会保障関連の政策で不確実性が高いと考えており、背景には社会保障関連予算の膨張による財政悪化も当然あるだろう。しかもそうした社会保障関連の政策は、他の政策と比べても、家計・企業に与える影響度が高いとの認識だ。
たとえ年金などの給付削減が避けられないとしても、社会保障制度に起因する財政赤字拡大を抑えることは、政策の不確実性を軽減し、人々の行動にプラスの影響を与える可能性が高い。つまり、経済の好循環を実現するには、家計や企業の不確実性を軽減させるべく、社会保障制度を中心に財政再建を行うことが喫緊の課題と言えるだろう。
4.政府債務残高対 GDP 比が 104%を超えると、成長率にはマイナスの影響
日本の政府債務残高比の削減がマクロ経済には中長期的にプラス
財政再建が行われる場合、消費税率引き上げ後の消費の落ち込みのように、それがマクロ経済に与えるマイナスのインパクトを想像しがちだ。もちろん、財政再建は短期的にこうした影響を与える可能性はあるが、もし財政再建を先延ばしにすれば、以下で見るように長期的にマクロ経済へ大きなマイナスの影響を与え続けることになりかねない。
図表 3 は、OECD30 ヶ国の 1970 年〜2013 年(一部は 2016 年まで)のパネルデータを用いて、OECD 平均で見て、政府債務残高対 GDP 比の削減が長期的に 1 人当たり実質 GDP 成長率に与える限界的な影響(政府債務残高比 1%の変化が 1 人当たり実質 GDP 成長率を何%変化させるのか)を試算したものだ。
   図表 3 政府債務残高対GDP比が 1人当たり実質GDP成長率に与える限界的な影響
ここでは経済成長理論に基づいた基本的な回帰式を使い、長期的に 1 人当たり実質 GDP 成長率に影響を与える他の変数からの影響を除去した上で、純粋に政府債務残高比から受ける影響だけを見ている。定式化は、先行研究より、政府債務残高比がある閾値を超えると成長率にマイナスの影響を与えるとの実証結果を踏まえたものとなっている。
さらに信頼性の高い推計結果を得るために、国と時間に関する固定効果モデルを採用し、国ごとの異質性やリーマン・ショックのような世界共通の外的ショックの影響を除去した上で、国ごとに変数のばらつき(不均一分散)があると正しい推計結果が得られないため、こうしたばらつきによる影響も修正している。
ここで注意すべきは、経済成長率が低くなると経済対策が施されることで政府債務残高比が増える、といった逆の因果関係が想定されることだ。逆の因果関係が存在すると、政府債務残高比の変化が成長率に影響を与えるという、本来調べたい因果関係が特定できなくなる(因果推論における内生性の問題)。そのため、ここでは Cecchetti, Mohanty and Zampolli[2011]に倣い、経済成長率に 1 期〜3 期先までの前方移動平均値を取って、それを現時点の各変数(先決変数)に回帰させることで、逆の因果関係が発生しないような推計上の工夫をしている。
すると、政府債務残高対 GDP 比の増加ははじめのうち成長率にプラスの影響を与えるものの、その比率が 104%を超えると成長率にマイナスの影響を与えるという結果が得られた。これは、大幅に積み上がった日本の政府債務残高比の削減がマクロ経済には中長期的にプラスに働く可能性を示唆している。データから計算すると、OECD 平均では政府債務残高比を現在より 10%pt減らすことができれば、1 人当たり実質 GDP 成長率は 0.29%pt 改善する計算となる。ただし、日本の財政再建によるマクロ経済への影響は、日本固有の事情をより詳しく踏まえて判断されるべきものであり、図表 3 の結果が直ちに日本へ適用されるものではないことに留意されたい。
5.歳入・歳出改革等に加えて財政再建と整合的な経済・社会制度の構築もポイント
中立的な財政機関の設置、国民からの理解、経済成長を支える周辺施策が同時に必要
冒頭で述べたように、我が国で財政再建を行うには、消費税率引き上げのような歳入改革だけでなく、社会保障制度を中心とした歳出改革や財政状況をモニターする中立的な財政機関の設置も必要だ。
消費税率の引き上げを含む財政再建は、一時的にはマクロ経済にマイナスの影響が見られるものの、消費税は現役層の労働供給に歪みをもたらさず、全世代で公平に負担できるメリットがある。もちろん、消費税率も含めた総合的な税制改革は引き続き必要だろう。その一方で、社会保障制度改革を中心とする歳出改革、具体的には年金支給開始時期の引き上げや医療・介護支出の効率化は急務である。さらに、長期金利が政策的に低位に抑制されており、財政再建へのインセンティブが機能しにくい中では、政治的に中立な立場から財政状況をモニターする財政機関の設置も早急に検討すべきだろう。
こうした財政自体の改革に加えて、人々が年金や医療・介護に過度に頼るインセンティブを抑えるために、例えば、経済・社会全体で高齢者雇用の促進や人々の健康維持への強い動機付けを持たせるべきである。諸外国の財政再建の成功事例を分析した内閣府[2010]が指摘しているように、財政再建の際には、国民からの理解を確保することや、経済成長を支える周辺の施策にも同時に取り組むことが重要である。日本の置かれた文脈で解釈すると、たとえ年金給付が削減されても、働ける人は働けば所得が増えたり、健康であれば生活費や通院時間を削減できてより長く多く稼げることが実感できれば、初めて人々が持つ社会保障制度改革への不安や不確実性が解消されていくだろう。Bloom[2014]も、不確実性が高いと消費だけでなく、設備投資、研究開発投資、人材投資も先送りされやすく、こうした不確実性の根本的な原因の除去が政策としてより効果的だと述べている 10。従って、人々が健康で長く働けるような日本型雇用慣行の改革など将来不安や不確実性を取り除き、財政再建と整合的(誘因両立的)な経済・社会制度を構築できるか否かも、財政再建の成否のカギを握ると思われる。
財政再建は政治的に非常に難しい課題ではある。しかし、日本で財政再建がこれ以上先送りされれば、経済全体の供給力が抑制されて成長率がさらに下がる、ジリ貧状態に陥るだろう。日本経済が桎梏から抜け出すためには、財政再建に向けた政府の強力なリーダーシップが期待される。以上 
 2015

 

●「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした 2015/12 
鳥越俊太郎氏もダマされていた
先週26日(土曜日)、大阪朝日放送の番組「正義のミカタ」に出た。大阪のニュース情報番組だが、東京とは違って、自由な面白さがある。そこで、「日本経済の諸悪の根源はZ」というコーナーをやった。Zとは財務省である。
その中で筆者が強調したのは「借金1000兆円のウソ」である。借金が1000兆円もあるので、増税しないと財政破綻になるという、ほとんどのマスコミが信じている財務省の言い分が正しくないと指摘したのだ。
借金1000兆円、国民一人当たりに直すと800万円になる。みなさん、こんな借金を自分の子や孫に背負わせていいのか。借金を返すためには増税が必要だ。……こんなセリフは誰でも聞いたことがあるだろう。財務省が1980年代の頃から、繰り返してきたものだ。
テレビ番組は時間も少ないので、簡単に話した。「借金1000兆円というが、政府内にある資産を考慮すれば500兆円。政府の関係会社も考慮して連結してみると200兆円になる。これは先進国と比較してもたいした数字ではない」
これに対して、番組内で、ゲストの鳥越俊太郎さんから、「資産といっても処分できないものばかりでしょう」と反論があった。それに対して、多くの資産は金融資産なので換金できる、といった。
筆者がこう言うのを財務省も知っているので、財務省は多くのテレビ関係者に対して、「資産は売れないものばかり」というレクをしている。鳥越さんも直接レクされたかがどうかは定かでないが、財務省の反論を言ってきたのには笑ってしまった。
番組が昼にかかり15分くらいの休憩があった。そのとき、鳥越さんから、「金融資産とは何ですか」と筆者に聞いてきた。「政策投資銀行(旧日本開発銀行)やUR都市機構(旧住都公団)などの特殊法人、独立行政法人に対する貸付金、出資金です」と答えた。それに対して「それらを回収したらどうなるの」とさらに聞かれたので、「民営化か廃止すれば回収ということになるが、それらへの天下りができなくなる」と答えた。
このやりとりを聞いていた他の出演者は、CM中のほうがためになる話が多いといっていた。実際に、番組中で言うつもりだったが、時間の都合でカットせざるを得なくなった部分だ。
借金1000兆円。これは二つの観点から間違っている。
バランスシートの左側を見てみれば…
第一に、バランスシートの右側の負債しか言っていない。今から20年近く前に、財政投融資のALM(資産負債管理)を行うために、国のバランスシートを作る必要があった。当時、主計局から余計なことをするなと言われながらも、私は財政投融資が抱えていた巨額の金利リスクを解消するために、国のバランスシートを初めて作った。
財政が危ういという、当時の大蔵省の主張はウソだったことはすぐにわかった。ただし、現役の大蔵官僚であったので、対外的に言うことはなかった。
筆者の作った国のバランスシートは、大蔵省だからか「お蔵入り」になったが、世界の趨勢から、その5年くらい後から試案として、10年くらい後から正式版として、財務省も公表せざるを得なくなった。今年3月に、2013年度版国の財務書類が公表されている。
その2013年度末の国のバランスシートを見ると、資産は総計653兆円。そのうち、現預金19兆円、有価証券129兆円、貸付金138兆円、出資66兆円、計352兆円が比較的換金可能な金融資産である。そのほかに、有形固定資産178兆円、運用寄託金105兆円、その他18兆円。
負債は1143兆円。その内訳は、公債856兆円、政府短期証券102兆円、借入金28兆円、これらがいわゆる国の借金で計976兆円。運用寄託金の見合い負債である公的年金預り金112兆円、その他45兆円。ネット国債(負債の総額から資産を引いた額。つまり、1143兆円−653兆円)は490兆円を占める。
先進国と比較して、日本政府のバランスシートの特徴を言えば、政府資産が巨額なことだ。政府資産額としては世界一である。政府資産の中身についても、比較的換金可能な金融資産の割合がきわめて大きいのが特徴的だ。
なお、貸付金や出資金の明細は、国の財務書類に詳しく記されているが、そこが各省の天下り先になっている。実は、財務省所管の貸付先は他省庁に比べて突出して多い。このため、財務省は各省庁の所管法人にも天下れるので、天下りの範囲は他省庁より広い。要するに、「カネを付けるから天下りもよろしく」ということだ。
財政再建は、実は完了している?
第二の問題点は、政府内の子会社を連結していないことだ。筆者がバランスシートを作成した当時から、単体ベースと連結ベースのものを作っていた。現在も、2013年度版連結財務書類として公表されている。
それを見ると、ネット国債は451兆円となっている。単体ベースの490兆円よりは少なくなっている。
ただし、この連結ベースには大きな欠陥がある。日銀が含まれていないのだ。日銀への出資比率は5割を超え、様々な監督権限もあるので、まぎれもなく、日銀は政府の子会社である。
経済学でも、日銀と政府は「広い意味の政府」とまとめて一体のものとして分析している。これを統合政府というが、会計的な観点から言えば、日銀を連結対象としない理由はない。筆者は、日銀を連結対象から除いた理由は知らないが、連結対象として含めた場合のバランスシート作ることはできる。
2013年度末の日銀のバランスシートを見ると、資産は総計241兆円、そのうち国債が198兆円である。負債も241兆円で、そのうち発行銀行券87兆円、当座預金129兆円である。
そこで、日銀も含めた連結ベースでは、ネット国債は253兆円である(2014.3.31末)。
直近ではどうなるだろうか。直近の日銀の営業毎旬報告を見ると、資産として国債328兆円、負債として日銀券96兆円、当座預金248兆円となっている。
直近の政府のバランスシートがわからないので、正確にはいえないが、あえて概数でいえば、日銀も含めた連結ベースのネット国債は150〜200兆円程度であろう。そのまま行くと、近い将来には、ネット国債はゼロに近くなるだろう。それに加えて、市中の国債は少なく、資産の裏付けのあるものばかりになるので、ある意味で財政再建が完了したともいえるのだ。
ここで、「日銀券や当座預金も債務だ」という反論が出てくる。これはもちろん債務であるが、国債と比べてほぼ無利子である。しかも償還期限もない。この点は国債と違って、広い意味の政府の負担を考える際に重要である。
滑稽すぎる 「日本の財政は破綻する」論
このようにバランスシートで見ると、日銀の量的緩和の意味がはっきりする。
政府と日銀の連結バランスシートを見ると、資産側は変化なし、負債側は国債減、日銀券(当座預金を含む)増となる。つまり、量的緩和は、政府と日銀を統合政府で見たとき、負債構成の変化であり、有利子の国債から無利子の日銀券への転換ということだ。
このため、毎年転換分の利子相当の差益が発生する(これをシニョレッジ〔通貨発行益〕という。毎年の差益を現在価値で合算すると量的緩和額になる)。
また、政府からの日銀への利払いはただちに納付金となるので、政府にとって日銀保有分の国債は債務でないのも同然になる。これで、連結ベースの国債額は減少するわけだ。
量的緩和が、政府と日銀の連結バランスシートにおける負債構成の変化で、シニョレッジを稼げるメリットがある。と同時にデメリットもある。それはシニョレッジを大きくすればするほど、インフレになるということだ。だから、デフレの時にはシニョレッジを増やせるが、インフレの時には限界がある。
その限界を決めるのがインフレ目標である。インフレ目標の範囲内であればデメリットはないが、超えるとデメリットになる。
幸いなことに、今のところ、デメリットはなく、実質的な国債が減少している状態だ。
こう考えてみると、財務省が借金1000兆円と言い、「だから消費増税が必要」と国民に迫るのは、前提が間違っているので暴力的な脅しでしかない。実質的に借金は150〜200兆円程度、GDP比で30〜40%程度だろう。
ちなみに、アメリカ、イギリスで、中央銀行と連結したネット国債をGDP比でみよう。アメリカで80%、65%、イギリスは80%、60%程度である。これを見ると、日本の財政問題が大変ですぐにでも破綻するという意見の滑稽さがわかるだろう。
以上は、バランスシートというストックから見た財政状況であるが、フローから見ても、日本の財政状況はそれほど心配することはないというデータもある。
本コラムの読者であれば、筆者が名目経済成長でプライマリー収支を改善でき、名目経済成長を高めるのはそれほど難しくない、財政再建には増税ではなく経済成長が必要と書いてきたことを覚えているだろう。
その実践として、小泉・第一安倍政権で、増税はしなかったが、プライマリー収支がほぼゼロとなって財政再建できた。これは、増税を主張する財務省にとって触れられたくない事実である。実際、マスコミは財務省の言いなりなので、この事実を指摘する人はまずいない。
さらに、来2016年度の国債発行計画を見ると、新規に市中に出回る国債はほぼなくなることがわかる。これは、財政再建ができた状況とほぼ同じ状況だ。こうした状態で、少しでも国債が市中に出たらどうなるのか。金融機関も一定量の国債投資が必要なので、出回った国債は瞬間蒸発する。つまり、とても国債暴落という状況にならないということだ。
何しろ市中に出回る国債がほとんどないので、「日本の財政が大変なので財政破綻、国債暴落」と言い続けてきた、デタラメな元ディーラー評論家(元というのは使い物にならなかった人たちということ)には厳しい年になるだろう。
今の国債市場は「品不足」状態
2016年度の国債発行計画を見ると、総発行額162.2兆円、その内訳は市中消化分152.2兆円、個人向け販売分2兆円、日銀乗換8兆円である。
余談だが、最後の日銀乗換は、多くの識者が禁じ手としている「日銀引受」である。筆者が役人時代、この国債発行計画を担当していたときにもあったし、今でもある。これは、日銀の保有長期国債の償還分40兆円程度(短国を含めれば80兆円程度)まで引受可能であるが、市中枠が減少するため、民間金融機関が国債を欲しいとして、日銀乗換分を少なめにしているはずだ。
要するに、今の国債市場は、国債の品不足なのだ。カレンダーベース市中発行額は147兆円であるが、短国25兆円を除くと、122兆円しかない。ここで、日銀の買いオペは新規80兆円、償還分40兆円なので、合計で120兆円。となると、市中消化分は、最終的にはほぼ日銀が買い尽くすことになる。
民間金融機関は、国債投資から貸付に向かわざるを得ない。これは日本経済にとっては望ましいことだ。と同時に、市中には実質的に国債が出回らないので、これは財政再建ができたのと同じ効果になる。日銀が国債を保有した場合、その利払いは直ちに政府の納付金となって財政負担なしになる。償還も乗換をすればいいので、償還負担もない。それが、政府と日銀を連結してみれば、国債はないに等しいというわけだ。
こういう状態で国債金利はどうなるだろうか。市中に出回れば瞬間蒸発状態で、国債暴落なんてあり得ない。なにしろ必ず日銀が買うのだから。
こうした見方から見れば、2016年度予算の国債費23.6兆円の計上には笑えてしまう。23.6兆円は、債務償還費13.7兆円、利払費9.9兆円に分けられる。
諸外国では減債基金は存在しない。借金するのに、その償還のために基金を設けてさらに借金するのは不合理だからだ。なので、先進国では債務償還費は計上しない。この分は、国債発行額を膨らせるだけで無意味となり、償還分は借換債を発行すればいいからだ。
利払費9.9兆円で、その積算金利は1.6%という。市中分がほぼなく国債は品不足なのに、そんなに高い金利になるはずない。実は、この高い積算金利は、予算の空積(架空計上)であり、年度の後半になると、そんなに金利が高くならないので、不用が出る。それを補正予算の財源にするのだ。
マスコミはいつまで財務省のポチでいるのか
このような空積は過去から行われていたが、その分、国債発行額を膨らませるので、財政危機を煽りたい財務省にとって好都合なのだ。債務償還費と利払費の空積で、国債発行額は15兆円程度過大になっている。
こうしたからくりは、予算資料をもらって、それを記事にするので手一杯のマスコミには決してわからないだろうから、今コラムで書いておく。
いずれにしても、政府と日銀を連結したバランスシートというストック面、来年度の国債発行計画から見たフロー面で、ともに日本の財政は、財務省やそのポチになっているマスコミ・学者が言うほどには悪くないことがわかるだろう。
にもかかわらず、日本の財政は大変だ、財政再建が急務、それには増税というワンパターンの報道ばかりである。軽減税率のアメをもらったからといって、財務省のポチになるのはもうやめにしてほしい。 
●「国の借金」3月末は1053兆円 国民1人当たり830万円 2015/5  
財務省は8日、国債や借入金、政府短期証券を合わせた「国の借金」の残高が2015年3月末時点で1053兆3572億円になったと発表した。4月1日時点の人口推計をもとに単純計算すると、国民1人当たり約830万円の借金を抱えていることになる。
国民1人当たり830万円の借金。なるほど、わかったようでわからない借金額。誰しもいつの間にこんなにもお金を使ったのかな、と心配になります。国民1人ひとりが知らぬ間に1千万円近い借金をしてしまった、これはまずいんじゃないか、と思うでしょうが、それは大きな勘違いです。
まず、「国民1人当たり830万円の借金」といっていますが、実のところ借金しているのは国債を発行している「日本国政府」であって「日本国民」ではありません。だから「1053兆3572億円」を日本の人口で割ることがそもそもの間違いです。 
暴論を言えば、国債を買わされている国民は、1人当たり830万円の返してもらえない「貸し」を政府にしている、と言った方がいいでしょうか。
「日本の財政関係資料」(財務省)にある「わが国財政を家計にたとえたら」がおそらく、このおかしな論理の元凶のようですね。
毎月23万円も借金している家庭があったら、いま時とっくに一家離散していますよ。破綻もせずに国家財政が動いているのは、貸し主の「日本国民」が黙っているからではないでしょうか。
1970年代まで健全だった財政が、1980年代から急速に国債に頼るようになったのは「国民」がじゃぶじゃぶ浪費して借金したわけではありません。
1980年代から35年をかけて、日本政府と国会議員達が作り上げた借金財政が1053兆円になっただけのことです。その累積に旧大蔵省と現財務省が荷担してきたのではありませんか。
どうせ割り算をするなら、政府、国会議員、財務省等の国家公務員を足した人数で割ったほうがまだ説得力があります。政府と議員、行政機関は自分たちの放漫経営な体質を反省して、政府の借金を減らす努力をするべきでしょう。
国民1人ひとりの節約や努力が足りないからこうなった、と国民をミスリードするような報道はもう止めるべきです。
1053兆円の負債があたかも国民の浪費の結果のような論調に疑問を持ったので、書かせてもらいました。 
2013

 

●国の借金1000兆円超え。家計への影響は?  2013/9 
国債や借入金を合わせた国の借金が、6月末で1000兆円を超えた。これを国民1人あたりで割ると、生まれたばかりの赤ん坊から、100歳を超えた高齢者も含めて、1人につき792万円もの借金を背負っていることになる。
このようなニュースが流れるたびに、「日本はギリシャ化する」とか、「財政が破綻して国民の生活は大変なことになる」といった話がさまざまな方面から聞こえてくる。
では、本当にそうなるのか。国家財政の危険水準を推し量るうえで参考になるのは、あらゆる事象を先に織り込みながら推移しているマーケットの動向だ。もし、日本の財政が破綻するとしたら、とっくの昔に長期金利は大幅に跳ね上がり、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ、企業の債務不履行のリスクを対象にした金融派生商品)の保証料率も急騰しているだろう。円安だってもっと急激に進んでいるかもしれない。
それらは、欧州債務危機が高まったとき、ギリシャやスペイン、イタリアなどがすでに実体験したことだ。長期金利は7%を超え、CDS保証料率も大幅に上昇した。ちなみに同債務危機の元凶となったギリシャのCDS保証料率は、2008年の秋口は0.8%近辺で推移していたが、12年3月8日には259.60%を記録している。
では、日本の長期金利はどうなっているのかというと、8月23日時点の10年物国債利回りが0.767%。黒田バズーカが発令された直後の4月4日につけた0.446%からすれば上昇しているが、相変わらず低水準で推移している。
またCDSの保証料率は0.65%にとどまっている。過去5年における日本のCDS保証料率を見ると、最も高かったのが12年1月10日の1.3%で、そこから比べれば格段の低さだ。ちなみにCDS保証料率は2%が要注意水準、4%が危険水準と言われている。
為替も1ドル=75円時代から見れば円安だが、100円前後で落ち着いていることから考えると、別段、日本売りが加速している印象も受けない。
財務省が発表している「国の財務書類(平成23年度)」を見ると、負債が1088兆円ある一方、資産は629兆円。すべての資産を負債の返済に回すことはできないので、このうち現金化しやすいものを拾い上げると、現預金、有価証券、貸付金、出資金で、その合計額が約317兆円。ネットの負債額は、771兆円程度まで圧縮できる。
確かに、借金の総額を見ると圧倒されるが、資産との見合いで考えれば、まだ大台には乗せていない。
加えて、日本の対外純資産が相変わらず世界一であること、個人金融資産が1500兆円あることなどから、何だかんだいってもまだ日本はお金持ちであるという判断が市場参加者の間には働いているように見える。明日にでも日本国債の暴落や急激な円安が起こるというほどまで、事態は切迫していないのが現実だ。
とはいえ、この借金を放置しておくわけにもいかない。このまま借金が増え続ければ、いつかは破綻をきたすだろう。その匂いをマーケットは敏感に嗅ぎつける。その結果、長期金利が急騰すれば、変動金利型の住宅ローンで借りている個人の負担は一気に高まるし、円安が加速すれば、2%以上の物価上昇に見舞われる恐れもある。いずれにしても、そのしわ寄せは家計にくる。
では、個人としてどう対応するべきか。結論として、今すぐに焦って行動する必要はない。ただし今後、急激な円安に備えて外貨建て金融商品を調べたり、またはインフレへの対応として株式や不動産、金などの購入を考えるなど、マーケットが落ち着いているうちに戦略を練っておく必要はありそうだ。 
●国の借金1000兆円突破 国民1人あたり792万円 2013/8 
財務省は9日、国債や借入金、政府短期証券をあわせた「国の借金」の残高が、2013年6月末時点で1000兆円を突破したと発表した。前年同月末に比べて32兆円超増えた。7月1日時点の総務省の人口推計(1億2735万人)をもとに単純計算すると、国民1人あたり約792万円の借金を抱えていることになる。
国の借金の残高は1008兆6281億円。一国の公的債務の大きさを国際比較する際には、国と地方の分を合算した指標を使うが、今回の発表は国の分だけだ。
国の借金は1981年度に100兆円を超えた。00年に19年近くかかって500兆円を突破した。1000兆円を超えたのは、その13年後で借金増加のペースは年々上がっている。クレディ・スイス証券の白川浩道氏は「歳出削減や増税だけでなく、経済成長しない限り借金は今後も増え続ける」と指摘する。
残高の内訳は、国債が830兆4527億円、借入金が54兆8071億円、一時的な資金不足を補うための政府短期証券が123兆3683億円だった。国の借金は13年度末には、1107兆円になる見通しだ。
政府は15年度までに国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の名目国内総生産(GDP)比でみた赤字幅を、10年度から半減させる方針だ。だが、消費税率の引き上げをふくめ、仮に計画通りに財政健全化を進めても債務膨張には歯止めがかからない。国の借金もさらにふくらみそうだ。  
●1,000兆円の借金を財務省はこう考えている! 2013/8 
「日本の国債や借入金、政府短期証券を合わせた国の借金の残高がついに1,000兆円を超えた!」という発表が2013年8月9日に財務省からありました。1人頭800万円の借金などといわれますが、さてこの借金はどうやったらなくなるのでしょうか?
こんな難しい話は財務省に直接聞いた方が早い!というわけで、1,000兆円の借金について、ちまたでよくいわれている素朴な疑問を財務省にぶつけてみました。その回答をまとめてみましたので、ご覧ください。
日本には資産もあるはず!?
――日本の借金は1,000兆円となっていますが、日本には資産もあるはずで、それと差し引きしないとフェアではないのではないでしょうか? また、日本の資産の部はいくらあるのですか?
財務省 政府が公表している平成24年度「国の財務書類」(民間企業におけるバランスシートに当たるもの)によると、日本は資産を約640兆円持っています。これを聞いたら640兆円分の借金は、資産を売ればいつでも返せるのだから、その分は差し引きして考えようと思いますよね。
でも、その考えには大きな落とし穴があります。確かに、国が持っている資産が、今すぐ売ってお金に換えられるものばかりだったら、そういう考え方もアリかもしれません。しかし、国の資産にはすぐに売って借金の返済に充てられないものが多く含まれているのです。
例えば、皆さんが老後にもらえる年金の積立金が約110兆円あります。もしこれを借金返済のために使ってしまうと、せっかく毎月払った年金がもらえなくなるかもしれません。また道路や堤防は約180兆円ありますが、これは基本的に売り物になりません。だって道路が欲しくて買いたい人いませんよね。
こうした理由で、政府が財政状況を説明するときには、借金から資産を差し引いた額ではなく借金の総額を使っています。欧州連合(EU)でも加盟国が守るべき基準として借金の総額を使っているので、こちらがワールド・スタンダードだといえるでしょう。
ちなみに、それでも資産を差し引きしたときの日本の借金はどのくらいなのか、他の国と比較したらどうなのかを知りたい場合は、OECD(経済協力開発機構)という機関が出している統計が役立ちます。
それによると、2013年末の日本の借金残高は対GDP比で230%、ここから資産を差し引いても140%。これは、主要先進国の中でダントツの水準です(2位のイタリアの借金残高が150%、差し引きで120%)。こんな種目で金メダルはちょっと悔しいですね。
借金返済の解決策は!?
――このまま借金が増え続けると大変だと思うのですが、解決するにはどんな方法があるのですか?
財務省 借金を帳消しにする魔法の杖はないので、コツコツ借金を返していくしかありません。
そのためのカギとなるのがプライマリー・バランスです。プライマリー・バランスとは、その年の政策に必要となるお金をその年の税金でどれだけカバーできているのかを示す指標です。
例えば、「プライマリー・バランス」が±0になれば、借金に頼らずに政策の経費を100%税金でカバーできるということを意味します。ただし、このときの経費には、国の借金の元利払いなどの分が入っていないことに注意する必要があります。
ただ、まずはこの「プライマリー・バランス」をプラスにすることが、国の財政を良くするための第一歩なのです。
政府は、すでに、2015年度までに(2010年度を基準にして)プライマリー・バランスのマイナスを半分に、2020年度までにプライマリー・バランスをプラスにする、という計画(「中期財政計画」2013年8月8日)を立てています。
この目標を達成するために、予算をスリムにして出ていくお金を節約すると同時に、経済成長などによって入ってくるお金を増やす、という「出」と「入」両方の取り組みを進めていきます。
2020年といえば東京オリンピック開催の年。その時までに、借金部門金メダルを手放すための準備体操は済ませておきたいものですね。
お札を刷って返せるか!?
――いざとなったらお札を刷って返せばいいじゃんという意見もあるようですが、これについてはどう思われますか?
財務省 そのアイデア、いただき!と言いたいところですが、現実はそう甘くありません。
日本銀行が国の借金と同じくらいお札をたくさん刷ると、世の中のお金の量が急に増えて、急激なインフレーション(物価の上昇)という現象が発生します。これは、お金の価値が急落することを意味し、最悪の場合、お金が紙くず同然となってせっかく貯めた貯金がパー、買い物するのにショッピングカートいっぱいのお金が要るような異常事態になってしまいます(第一次世界大戦後のドイツでは、パン1個の値段が1年間で数千億マルク(!)になるほどの強烈なインフレーションが発生しました)。
また、このような極端なことをすれば、日本政府や「円」という通貨に対する海外からの信用もなくなって、金利は急上昇、為替は下落して、海外からお金を借りたり物を買ったりできなくなります。
付け加えれば、そもそも、お札を刷る日本銀行は政府から独立しているので、仮に日本銀行が市場に出回っている国債(国に貸したお金を返してもらえる権利)を買い集めて、全て保有したとしても、政府の借金そのものがなくなるわけではありません。
このように、借金を返すためにお札をたくさん刷るという方法は、問題の根本的な解決にはなりません。
日本人が諦めたらなんとかなる!?
――日本の借金はそのほとんどが日本政府が日本人にしたものなので、最終的には日本人が諦めたらチャラになるという意見もありますが、こういった意見についてどのように思われますか?
財務省 こうした意見をおっしゃる方は、「私は政府にお金を貸していないし、関係ないかな。チャラにしてあげればいいじゃん」と思っているかもしれません。
しかし、実際にチャラにすると私たちの生活にも影響が及んでしまうとしたらどうでしょうか?
順に説明していきましょう。
日本政府の借金は、その9割以上が日本国内に対するものです。お金を貸しているのは主に銀行や生命保険・損害保険などの金融機関、そして年金を積み立てて運用する年金基金です。
これらの機関などが、政府に貸したお金を返してもらえる権利を手放せば、政府の借金のほとんどは消えてなくなります。
しかし、これらの機関も、当然ボランティアではなく、商売や資金運用のためにお金を貸しているわけですから、常識的に考えれば、貸した多額のお金を帳消しにするはずありません。
万が一、権利を手放した場合には銀行や生命保険・損害保険などの金融機関は倒産し、年金基金は残高がほとんどなくなります。
そうなると、銀行に預けていた私たちの預金が失われ、保険金・年金は受け取れなくなるなど、私たちの生活にも大きな悪影響が及んでしまう可能性があります。
以上、素朴な疑問にお答えさせていただきましたが、いかがだったでしょうか。借金を帳消しにする「うまい方法はない」ということをご理解いただけたら幸いです。
政府としては、先ほど申し上げた、「2015年度までにプライマリー・バランスのマイナスを半分に、2020年度までにプライマリー・バランスをプラスにする」という計画に基づいて、地道に、しかし着実に財政再建に取り組んでいくこととしています。

いかがだったでしょうか。やはり借金は地道に返していくしかないようですね……。  
 2005

 

●日本の借金ついに1000兆円を超える 2005 
国の借金 過去最高を更新
小泉自民党の衆議院選挙での歴史的大勝利から間もない9月22日。株式市場は外国人の日本株買いが加速し、平均株価も上昇中。「景気回復」の高揚感がじわりじわりと国全体に浸透し始めていた。しかしこの日、財務省が発表した「国の借金」は小泉大勝の裏でおそるべき事態が進んでいることを物語っている。
翌日の日経新聞に小さなべた記事としてその内容は掲載された。それによると、今年の6月末現在、国の借金はついに795兆8000億円になったというのだ。過去最高を更新したという。
政府の借金の中身を詳しく見てみよう(図1参照)。
一般に言われる「国債」は「普通国債」であり、約510兆円である。先ほど、「2005年度末(2006年3月末)で538兆円になる」という財務省の見込みを示したが、すでに年度開始から3ヶ月の6月末の時点で約510兆円に上っている。また、実際にはこの他に何種類もの「国債もどき」が存在する。表中、普通国債の下には「財政融資資金特別会計国債」がある。これはいわゆる財投債である。以下、「交付国債」、「出資国債等」と続く。そして旧国鉄の債務を引き継いだ「日本国有鉄道清算事業団債券等承継国債」。これらを合わせて「内国債」と呼び残高は約640兆円にのぼる。さらに、「借入金」、「政府短期証券」を加えると合計で795兆円にもなる。大雑把に言って、国債500兆円に加え、国債以外の借金が何と300兆円近くもあるのだ!
   【図1】国債および借入金並びに政府保証債務現在高(平成17年6月末現在)
日本が抱える借金の総額はいくらになるのか?
しかし日本の借金はこの795兆円には留まらない。借金漬けになっているのは中央政府だけではないからだ。中央政府だけでなく、私たちが住む都道府県や市町村などの自治体、つまり地方もこれまで積み重ねた債務の返済に迫られているのである。では、いったい国と地方自治体を合わせた公的部門全体が抱える借金はいくらになるのか。
「公的債務」を示す統計として、政府は複数の資料を公表している。その中で、これまで「財政赤字」の問題を説明する際によく用いられているのが、期間一年を超す「長期債務残高」と呼ばれる数字だ(図2)。2005年度末に国だけで約602兆円に上る見込みである。さらに地方政府も地方債などをはじめとする債務を抱えており、これが同じく今年度末で約205兆円となる。この合計から国と地方の重複分である約34兆円を引いたものが「国と地方の長期債務残高」とされ、2005年度末で約774兆円となる。これはGDPの151.2%にあたり、主要国の中でも最悪の水準となっている。「国の長期債務残高」は、将来の負担を把握するために利払いや償還に当てる財源が、主に税金で賄われるものを集計したもので「普通国債」「出資国債」「一般会計借入金」などが含まれている。
   【図2】国の長期債務残高
この数字には「政府短期証券」などの短期の債務や、公団や公庫などの特殊法人が発行する「財投債」は含まれていない。一般の家計で、来月返す借金は短期の借り入れなので、借金に含まないということはありえない。「借金」は「借金」である。
そこで短期の借金や、特殊法人が抱える借金なども加えてみよう(図3)。「政府短期証券」が約142兆円。さらに「財投債」が143兆円。これらすべてを合計すると、「国と地方の長期債務残高」774兆円+「政府短期証券」142兆円+「財投債」143兆円=1059兆円。2005年度末で日本の公的部門が抱える借金はゆうに1000兆円を超えてしまうのである。これが「日本政府の借金 1000兆円を超える」といわれる内訳だ。借金1059兆円。これは実に日本のGDP(512兆円)の2倍にあたる。GDPの2倍というのは、恐ろしい数字である。これは60年前、日本が太平洋戦争に負けたときと同じ割合にあたる。こんなに物が豊かになり、食べ物に困ることなどない日本人の日々の生活からはとうてい想像もつかないが、実は国民が背負っているものはとても重い。なぜなら、総額1059兆円の借金を国民一人当たりで割ると、約830万円。産声をあげたばかりの赤ん坊から、老人まですべての人にこれだけの借金がのしかかっている。
   【図3】
さらにこれに、公団、公庫、営団などの政府関係機関が発行する債券の「政府保証債務」約58兆円を加えると、1117兆円にまで公的債務は膨れ上がってしまう。
GDP2倍の借金、日本は世界の落ちこぼれ?
日本の公的部門が抱えるGDPの2倍もの債務。国際的に健全だといわれている基準は、GDPのおよそ60%。これはヨーロッパの国がユーロに加盟する条件になっている基準だ。日本の状況、GDPの2倍という数字がいかにひどいものかがわかる。今の日本の状況では、ヨーロッパ圏内であればユーロにも入れてもらえない、落ちこぼれだということだ。図4を見ると日本のここ数年の債務の増え方がいかにひどいか一目瞭然だ。このグラフによると、日本の債務残高の対 GDP比は、161%。小泉政権が発足した2001年との比較で、18.8ポイントも増えたことになる。
また、「政府債務」がいかに世界の中で最悪の水準に近いかを示す数字がある。世界経済フォーラムが発表した「2005年世界競争力報告」で、日本は「政府債務」の部門で117カ国、地域のうち、なんと114位と不名誉な順位に上げられた。報告は「世界最悪の諸国に含まれ、財政的節度が欠如している」と指摘している。
   【図4】債務残高の国際比較
かつて(そう遠くない過去であるが)塩川財務大臣(当時)は、日本国債が海外の格付け会社によって格下げされた際に、「日本は世界最大の経常黒字を誇っており、国債の95%を日本人が保有しているため、信用度はもっと高い」と猛然と反論していた。
そこで、日本の経常黒字がいくらあるかご存知だろうか。
日本と海外との貿易、旅行などのサービスの取引状況を示す経常黒字は2005年3月末で約18兆円超。日本の借金1059兆円はその約58倍にのぼっている。さらに、日本経済を下支えしてきた貿易黒字にもこのところ先行きに陰りが見えてきている。直近の2005年9月の貿易黒字額は前の年の同じ月に比べて 21%も減少し、この6ヶ月連続で減少を続けている。理由は原油価格の上昇。さらに円安も留まるところを知らない。この分ではとても、借金の担保にはなりそうもない。
では、日本が借金を返すことができるのか、日本国が持っている資産と比較してみよう。日本が持っている資産は一体どれくらいあるものなのか。それを表す経済指標に「国富」がある。国内の土地、建物、金融資産、在庫、地下資源などをすべて換算した「正味資産」がいわゆる「国富」。企業や政府などの公的部門なども含めて国民全体が所有している資産から負債を差し引いたものだ。国を企業に例えれば「自己資本」に相当する。みずほ証券の試算によれば、2005年度末の資産から負債を差し引いた正味資産は、2710兆円。日本の借金は国内の資産すべてと比較してみても、その40%にのぼってしまう。ただし、この資産の中には、借金の返済に充てられるはずもない、政府の建物や構造物も含まれるため、実際に換金できる資産となると大幅に目減りすることは間違いない。
   【図5】1059兆円の借金
次に、塩川財務大臣(当時)発言の2番目、「国債保有者が日本人だから大丈夫だ」という説についてはどうだろうか。日本国債を保有しているのは、国内の金融機関や個人などで、海外からの借金ではないところに、アメリカなど他の国と事情が異なっているのは事実だ。ただし、このまま財政赤字が続けば、日本が国内で政府の借金を賄いきれなくなることは目に見えている。それが証拠に、政府の借金に対する安心材料として引き合いに出される、国民個人の金融資産も正味で見てみると、実は頼りにならないということがわかったからだ。
本当は既に個人金融資産を上回っている
政府の借金の担保として期待(?)されている個人金融資産は約1400兆円といわれる。個人資産が1400兆円あるから1000兆円の負債があってもまだ大丈夫という理屈はよく聞かれる。ただ、この1400兆円という数字は日銀が発表しているものであり、中身を分析すると実質的な資産はそれほど大きくないことがわかる。
では、日本の個人金融資産はどのくらいあるのか見てみよう。図6をご覧いただきたい。図中の「日本銀行資金循環勘定」の欄を見ると、資産合計は1425兆円である。これが一般によく知られている個人金融資産額である。
しかし、個人にも住宅ローンを中心に負債がある。それが326兆円。これを差し引いた額が「ネット」と表示されていて、その額は1099兆円となっている。先ほど検証した政府の借金額1059兆円と比べてみよう。すると大した余裕などないことがわかる。せいぜいプラス40兆円程度のものである。政府の借金増加ペースを考えれば、2年以内には逆転してしまうに違いない。
しかし、この数字はあくまでも日銀の統計であり、実際にはもっと少ないと考えられるのである。国立国会図書館より発表されたレポートによると、国家財政の持続性を考える場合、個人の純金融資産は、負債はもちろん個人事業主の保有分、現金、年金基金を除くべきで、そう考えると相対的には「総務省家計調査」の数値の妥当性が高いというのだ。
図6中の『総務省家計調査』の欄を見ると、資産合計は829兆円しかない。負債の257兆円を差し引くと、ネットは何と572兆円である。個人純金融資産を572兆円とすれば、政府の借金1000兆円には実に400兆円以上も不足する。もはや個人資産では担保できないのは誰の目にも明らかである。
   【図6】国立国会図書館 個人金融資産についてのレポート
このままでは、いかに日本の将来が危ないか ー破綻を裏付ける20年後の試算ー
20年後の日本はこのままでは財政破綻―――ついにこんな言葉が財務省内の審議会ですら聞かれるようになってしまった。20年後の2025年、日本の公債残高はGDPの220%を超えるという試算が発表されたときのことである。今年度末の公債残高は538兆円、GDPとほぼ同じ金額だ。試算によれば20 年後、公債残高は1600兆円、なんと現在の3倍に増えてしまうという。政府の借金は国債だけではないので、公債だけでGDPの220%を超えるとなると、財政破綻は避けられない。実はこの試算は、財務省の財政制度等審議会の部会に提出された資料で、委員自身が「20年先、こういう姿であれば、わが国は財政破綻ということである」と付け加えている。
一般会計の様相も異常である。図7をご覧いただきたい。2005年の現在、10年後、20年後の一般会計を予測しているが、特に20年後の歳入に注目してほしい。公債収入が税収を大幅に上回り、公債依存度が6割を超えている。歳出が増える大きな要因は、国債費と社会保障費である。国債を発行しなければ予算は組めない、発行すればその利払いと返済が付いて回るという悪循環なのである。
基礎的財政収支(プライマリーバランス)は10年後の2015年、約25兆円の赤字。これを均衡するためには、試算結果に比べて歳出を3割圧縮する必要があるという。もしくは消費税の引き上げで歳入を増やす場合には、消費税を19%に引き上げなければならなくなる。さらに20年後には消費税の引き上げ幅は、なんと22%に相当することになる。
ただし、ここで付け加えておくが、この試算の前提となっている長期金利は、2008年までが現在とほぼ同水準の1.9%、その後は3%だ。この前提以上に金利が上昇すれば、状況はもっと悪くなる。例えば、金利が1%上昇したら、3年で4.4兆円も国債費が増えるというデータがある。たった3年後でこれだけ影響が出るのだから、10年後、20年後金利が上昇したら、それだけ国債の利払いにかかる費用も増えることになる。さらに、これは一般会計だけの試算であって、地方やその他の公的部門の借金は含まれていないのだ。
   【図7】国の一般会計に関わる長期試算の結果
国民負担を増やすためのアピール
政府は構造改革を進めることで、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)が2012年度にはプラスに転じるとしている。しかし、上記の試算を元にすると、生ぬるい財政改革でとても追いつく金額とはいえないことが明白だ。先ほどの試算ではじき出された削減の比率、歳出の3割を削るほどの改革が果たして可能なのか。
冒頭、財務省が広く国の窮状を国民に訴えていることに触れたが、その理由は、やはりこのまま行けば、消費税の負担や社会保障費の自己負担が避けられないからに他ならない。国の財政を立て直すために、個人の家計が圧迫される方向に向かっているからである。来年以降、五月雨式に減税幅が減らされたり、国民年金の保険料が引き上げられたりする予定だ。
一方で、国は「個人向け国債」を大量に売り出し、「安全な資産」だとしてアピールしている。自ら財政危機をキャンペーンで訴え、「借金で火の車だ」と言いつつ、もう一方で「赤字でつぶれそうなところにお金を貸しなさい」、「日本国債をもっと買ってください」というのは、大いなる矛盾である。 この夏の個人向け国債のポスターのキャッチフレーズは皮肉にも「10年先まで楽しみたい」。だが、とても日本の10年後に楽しい未来を描けそうもないことは、数字が物語っている。