2887日 最長政権 メディアの風向き

2887日 歴代最長政権 

メディアの変化 何があったのでしょう
ここのところ 真面目に政権批判を始めました

全社で報道すれば 怖くない 「桜を見る会」
政権成果の検証
がんばってください
 


新聞政権の歩み安倍政権
安倍総理の目玉政策アベノミクスアベノミクスの功罪全世代型社会保障地方創生一億総活躍社会女性活躍人づくり革命安倍政権の外交安保戦略・・・
メディア諸話11/1811/1911/2011/2111/22・・・
祇園精舎平家物語祇園精舎[寺院]祇園精舎の鐘諸行無常と盛者必衰娑羅双樹
 

 



●新聞
●歴代最長政権 「安定」より際立つ弊害 朝日 11/20
日本の政治史には、「歴代最長政権」として、その名が残ることは間違いない。しかし、これだけの長期政権に見合う歴史的な成果は心もとなく、年を追うごとに弊害の方が際だってきたと言わざるを得ない。
安倍首相の通算在任日数がきょう2887日となり、明治・大正期に3度首相を務めた桂太郎を抜いて最長となった。短命に終わった第1次政権の後、12年12月に発足した第2次政権は7年近くに及ぶ。
自民、公明両党は、衆参の国政選挙で6連勝した。第1次安倍政権以降、6年間で6人の首相が交代。とりわけ、政治の変化への期待を背負って政権交代を果たした民主党政権の混迷を目の当たりにした世論が、政治の安定を求めたことが背景にあるだろう。
確かに、アベノミクスの下で株高が進み、企業収益や雇用の改善につながった。しかし、賃金は伸び悩み、国民が広く恩恵を実感できる状況にはなっていない。また、安定した政治基盤を生かして、少子高齢化などの難題に、正面から切り込んできたとも言い難い。長期在任で育んだ外国首脳との個人的な関係も、どれほど具体的な成果につながったであろう。
一方で、長期政権がもたらした弊害は明らかだ。平成の政治改革の結果、政党では党首に、政府では首相に、権限が集中したことが拍車をかけた。自民党内からは闊達(かったつ)な議論が失われ、政府内でも官僚による忖度(そんたく)がはびこるようになった。森友問題での財務省による公文書の改ざん・廃棄がその典型だ。
森友・加計問題は、首相に近しい者が優遇されたのではないかという疑念を招き、政治や行政の公平・公正に対する信頼を深く傷つけた。最近の「桜を見る会」の招待者をめぐる問題も根っこは同じだ。一方で、異論を排除し、自らに反対する者を敵視する首相の姿勢は、社会の分断を助長する危険がある。
さらに、これほどまでに日本国憲法をないがしろにした政権は、過去に例がなかろう。歴代内閣が維持してきた憲法解釈を一方的に変更して、集団的自衛権の一部行使に道を開いた。憲法に基づく野党の臨時国会召集要求にも無視を決め込んだ。
首相の自民党総裁の任期は残り2年である。個人的な信条から、長期政権のレガシー(遺産)を、強引に憲法改正に求めるようなことがあれば、政治の混乱を招くだけだろう。
限られた時間をどう生かすか。国民が今、政治に求めていること、将来を見据え、政治が今、手を打っておくべきことを見極め、優先順位を過たずに、課題に取り組む必要がある。 
●安倍首相が史上最長に 「他にいない」はいつまで 毎日 11/20
.安倍晋三首相の通算在任期間が、きょう、明治後半から大正時代にかけて計3度、首相の座に就いた桂太郎を超えて史上最長になる。
2012年12月に政権に返り咲いた当初は、安倍首相自身、ここまで続くとは考えていなかったろう。
確かに長期政権は安定的に政策に取り組める利点がある。ただし首相は国論を二分した安全保障法制などを強引な手法で実現させたものの、人口減少問題といった中長期的課題を重視してきたとは言えない。
逆におごりや緩みが一段と目立ってきているのが実情だ。公金の私物化が指摘される「桜を見る会」が象徴的である。
首相は自分を支持しない人は敵と見なして批判に耳を傾けず、支持する人は味方扱いで優遇してきたのではないか。公正さを忘れた今回の問題はそれが如実に表れている。衆参予算委員会の場でごまかすことなく丁寧に説明しないと次に進めない。
自民党が国政選挙で連勝してきたのは、旧民主党政権に対する国民の失望が今も続いている事情も大きい。世論調査を見ても、内閣を支持する理由として格段に多いのは「他に良い人や政党がないから」だ。積極的支持とは決して言えない。
おごりを捨てるとともに、内政、外交の厳しい検証が必要だ。
アベノミクスは本当に効果を上げたのか。株価は安定し大企業の収益は総じて増えたが、賃金は上昇しない。景気回復の実感は乏しく、富裕層との格差が広がっていると感じている人は多い。社会保障政策は信頼されず、将来への不安も消えない。
外交では、トランプ米大統領と良好な関係にあるのは事実だが、ロシアとの北方領土交渉では「日本固有の領土」という従来主張を封印するまで譲歩したものの、解決は遠のいている。最重要課題としてきた北朝鮮の拉致問題は糸口も見えない。
首相の自民党総裁としての任期は再来年秋までだ。4選は考えていないと語っており、残る任期で憲法改正を実現して政治的遺産を残したいと考えているのかもしれない。
だが政治への信頼回復が先だ。そして自民党も「ポスト安倍」を考え始める時だ。「他にいない」という1強状況は、むしろ政治の閉塞(へいそく)を招いている。  
●歴代最長政権 惰性を戒め政策で結果示せ 読売 11/20
長期政権ゆえの惰性に陥ってはならない。足元を見つめ直し、政権運営にあたるべきだ。
安倍首相の通算在職日数が20日で2887日となる。戦前の桂太郎氏を抜いて、憲政史上最長を更新する。
2012年に政権に復帰して、推し進めたのが経済政策「アベノミクス」である。大胆な金融緩和や機動的な財政出動により、景気を回復軌道に乗せた。
集団的自衛権の限定的行使を認めた安全保障関連法を15年に成立させ、日米同盟を強化した。自国第一主義のトランプ米大統領とも信頼関係を築いた。
読売新聞の世論調査では、65%が仕事ぶりを評価している。経済政策や外交の実績が国民の支持につながったのだろう。
自民党内に強力なライバルが見あたらず、首相の党内基盤は固い。国政選挙で連勝したのは、多弱の野党に助けられた面もある。
長く政権の座にあった歴代の首相も困難な課題に取り組んだ。
佐藤栄作氏は、米国と交渉を重ね、沖縄返還を成し遂げた。中曽根康弘氏は、戦後政治の総決算を掲げ、日米安保協力を強化し、国鉄民営化を断行した。
両氏とも政策目標を設定し、実現に向けて周到に策を練った。
首相の自民党総裁としての任期は21年9月までだ。残りの任期で、どんな政策を手がけるのか。自らの考えを明確にし、戦略を立てて臨むことが重要である。
憂慮されるのは、政権復帰から約7年が経過し、安倍内閣に綻びが目立つことだ。
9月の内閣改造後、わずか1か月半の間に、2人の重要閣僚が不祥事で辞任した。功労者を慰労する「桜を見る会」の趣旨に反して、首相の事務所は、地元の後援会員らを多数招待していた。
長期政権の緩みや驕おごりの表れと言えよう。首相は、緊張感を持って政策に取り組み、一つ一つ結果を出さなければならない。
内政、外交の懸案は多い。22年には団塊の世代が75歳になり始める。給付費の増加に備え、社会保障制度の見直しが急務だ。
景気回復の実感は乏しい。底堅い企業業績を賃上げにつなげ、経済の好循環を実現したい。
北朝鮮の非核化には、米国との緊密な政策協調が欠かせない。元徴用工問題で、韓国に粘り強く譲歩を促す必要がある。
首相は在任中の憲法改正に意欲を示している。幅広い合意形成に向け、まずは、国会での憲法論議を活性化させることが大切だ。 
●通算在職日数歴代最長を更新「これからもチャレンジャーの気持ちで」 産経 11/20
安倍晋三首相は20日、第1次内閣を合わせた通算在職日数が2887日となり、戦前の桂太郎を抜いて歴代最長となった。首相は同日午前、首相官邸で記者団の取材に応じ、「これからもチャレンジャーの気持ちで、令和の新しい時代を作っていく。そのための挑戦を続けていきたい」と現在の心境を語った。
首相はこれまでの政権の歩みを振り返り、「第1次政権の深い反省の上に、政治を安定させるために日々全力を尽くした。一日一日、(国民に)お約束した政策を実現するために努力を重ねてきた」と説明。「その積み重ねで今日を迎えることができた」と述べた。
首相は今後取り組むべき政策課題について「デフレからの脱却、少子高齢化への挑戦、戦後外交の総決算、その先には憲法改正もある」と強調。「まだ私の自由民主党総裁としての任期は2年近く残っている。責任の重さをかみしめながら、薄氷を踏む思いで緊張感を持って歩みを始めた初心を忘れずに、全身全霊をもって政策課題に取り組んでいきたい」と語った。
首相官邸で記者団の取材に答えた。
−−通算の首相在任期間が今日で単独の歴代最長となった。受け止めを。一方、「桜を見る会」をめぐる問題のように政権の緩みを指摘する声もあるが。
「第1次安倍政権も含め、かつては毎年のようにころころと政権が変わり、重要な政策課題も置き去りにされていた。政治を安定させようというのが、国民の声だったと思う。その原因を作ったのは私だ。短命に終わった第1次政権の深い反省の上に、政治を安定させるために日々全力を尽くしてきた。そして、この間、衆院、参院、6回の国政選挙を通じて国民の皆さまから強く背中を押していただき、一日一日、お約束した政策を実現するために努力を重ねてきた。その一日一日の積み重ねによって今日という日を迎えることができたと思っている。まだ私の自民党総裁としての任期は2年近く残っている。その責任の重さをかみしめながら、薄氷を踏む思いで、その緊張感を持って歩みを始めた初心を忘れずに、全身全霊をもって政策課題に取り組んでいきたい。デフレからの脱却、また最大の課題である少子高齢化への挑戦、戦後日本外交の総決算、そしてその先には憲法改正もあります。これからもチャレンジャーの気持ちで令和の時代、新しい時代を作っていく、そのための挑戦を続けていきたい」
−−桜を見る会や前日に開催された夕食会について説明責任を果たされたと考えているか
「それは国民の皆さまが判断されることだが、この後、国会においてさまざまな指摘に答えたい。この後、開かれる本会議においてさまざまな指摘、質問がありますから答えたいと思う」
−−(夕食会で支払われた)総額なども示すのか
「今申し上げましたように、そうした質問をいただいるので、国会で答えさせていただきたい」
−−(夕食会の)明細書はないということか
「今も申し上げたように、そうした質問が出ているので、国会で答弁させていただきたい」 
●安倍首相、通算在任日数で史上最長 桂太郎に並ぶ  日経 11/19
安倍晋三首相の通算在任日数が19日、戦前の桂太郎と並び憲政史上最長の2886日となった。首相の自民党総裁としての任期は2021年9月まで残っている。20年8月には大叔父である佐藤栄作の連続在任記録も上回ることになる。
首相は06年に首相に就任した。第1次政権は1年で幕を閉じたが、12年12月に政権復帰してから7年近く続いている。第2次政権以降の連続在任日数は19日時点で2520日。佐藤栄作の最長記録は2798日だ。
首相は長期政権の総仕上げとして憲法改正に意欲を示している。自民党は今国会で憲法改正の手続きを定める国民投票法改正案の成立をめざしている。野党側は慎重だ。
内政や外交でも課題が残る。年金や医療などの社会保障改革については年内に方向性を打ち出す。元徴用工訴訟などを背景に日韓関係の悪化が続き、23日に日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が効力を失う。
野党側は首相主催の「桜を見る会」を巡り、首相が後援会関係者を多数参加させるなど私物化していたのではないかと追及している。閣僚2人の辞任と英語民間試験の先送りも続いた。高位安定で推移してきた支持率への影響が注目される。
菅義偉官房長官は18日の記者会見で「経済の再生、外交・安全保障の再構築、全世代型社会保障の実現に向け一つ一つ課題に取り組んできた結果、あっという間に来月で7年過ぎることになる」と述べた。「今後とも国民の声に耳を掲げながら政策課題に成果を出していきたい」と語った。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

●政権の歩み  
 
 
 
●安倍首相、在任歴代最長へ 安定政権の柱「アベノミクス」の成績表 11/19
20日に首相在任期間が歴代最長となる安倍晋三首相だが、経済運営では試練に直面している。米中貿易摩擦で世界経済の経済が減速する中、2019年7─9月実質国内総生産(GDP)の成長率は前期比0.1%増(年率換算0.2%増)とほぼ横ばいにとどまった。10─12月期は10月の消費税率引き上げ直前の駆け込み需要の反動に加え、台風などの被害の影響もあり、マイナス成長は避けられない見通しだ。
安倍首相は2012年12月に第2次安倍政権を発足させて以降、大胆な金融政策と機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」を打ち出し、デフレ脱却に向けた経済政策「アベノミクス」を推し進めてきた。その効果もあり、日本経済に暗い影を落としていた円高は円安方向に転換。2017年の日経平均は年末終値ベースで1991年以来26年ぶりの高値をつけた。前回、景気後退が始まったのは2012年4月で、終了したのは2012年11月。安倍首相が首相に返り咲いた2012年12月以降、景気後退に陥ったことは一度もなく、景気拡大はいざなみ景気(2002─08年)を超え、戦後最長となったもよう。
しかし、足元では企業業績に陰りが見え始めている。SMBC日興証券の調べによると、上場企業の業績は金融危機後、初めて2期連続の減益となる見通しだ。現在は海外経済の減速を背景とした外需の弱さを内需でカバーする状況が続いているが、海外経済の回復がもたつけば、外需と内需の「デカップリング」で景気を支える構図が崩れる可能性もある。
総務省の「家計調査」によると、2人以上の世帯の9月の消費支出(変動調整値)は1世帯当たり30万0609円と、前年同月比(変動調整値)で実質9.5%増となった。伸び率は、前回増税時前の2014年3月の同7.2%増を上回り、比較可能な2001年1月以降で最大となった。政府の需要平準化策で駆け込み需要は発生しないとみられていたが、ふたを開けてみれば前倒し消費が発生していた。市場では駆け込みの反動を懸念する声が出ている。
自民党の山本幸三・元地方創生担当相は「アベノミクスのスタートは大成功だったが、消費税引き上げのタイミングを間違ったために頓挫してしまい、なかなか回復できない状況にある」と指摘。「今後の試金石は補正と来年度予算をどこまで思い切ってできるかだ」と述べ、大胆な財政支出を求めた。
日銀が2013年4月に量的・質的金融緩和を導入してからすでに6年半が経過しているが、市場では金融緩和の効果は限界に近づきつつあるとの見方が目立つ。また、公共事業によるテコ入れも人手不足という制約に直面しており、2020年東京五輪・パラリンピック後の日本経済失速シナリオは現実味を帯びている。
山本氏は「補正予算で国債を発行してもらって、日銀がどんどん買えばいい」と述べ、最低でも5兆円、可能であれば10兆円を上回る補正予算の編成が必要との認識を示した。
日銀は10月30─31日の金融政策決定会合で、政策金利を引き下げる可能性があることを明記した新たなフォワードガイダンスを導入した。しかし、市場では7月声明文の「先行き、物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれる恐れが高まる場合には、躊躇(ちゅうちょ)なく、追加的な金融緩和措置を講じる」、9月声明文の「物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれる恐れについて、より注意が必要な情勢になりつつある」も含め、相次ぐ口先介入は実弾を撃てない裏返しとの見方が出ている。
金融政策の手詰まり感が鮮明になる中で、一部に財政支出を期待する声もあるが、財務省が8日発表した9月末現在の国の借金(国債や借入金など)は1104兆9286億円と、GDPの2倍の規模に達している。第2次安倍政権が始まった2012年12月以来、約30兆円の経済対策が組まれており、市場では財政規律の観点から大盤振る舞いを批判する声もある。
足元では労働力不足で公共事業の消化率が低下しており、財務省内には「補正を組んでも効果が薄い」との見方も出ている。
国民民主党の大塚耕平参院議員は「安倍政権の6年間、産業構造や技術革新が加速的に激変したが、日本はそれに対応できなかった」と指摘。「日本は物価が2%になればすべてが好循環するといってマクロ経済政策に没頭したが、今はそれが問題なのではない」と述べ、旧来の経済政策にとどまる政府の対応を批判した。 

 

●安倍首相 在任期間 通算2886日 歴代最長に並ぶ  11/19
安倍総理大臣の在任期間は、19日で通算2886日となり、歴代最長の桂太郎 元総理大臣と並びました。
安倍総理大臣の在任期間は19日で第一次政権と合わせて通算で2886日となり、歴代最長の桂太郎 元総理大臣と並びました。
菅官房長官は18日、長期政権となった要因について、「政権発足以来、経済最優先を掲げ、金融政策や財政政策、地方創生などを実行に移し、成果をあげてきたことが大きい」と指摘しました。
安倍総理大臣の在任期間は20日、桂氏を抜いて、憲政史上最長となります。
自民党総裁としての任期は2021年9月末までで、残された任期で、憲法改正の実現を目指すとともに経済の再生や全世代型社会保障の実現、それに、北朝鮮による拉致問題や、ロシアとの平和条約交渉で道筋をつけたい考えです。
安倍内閣 2つの新組織
安倍総理大臣は第二次政権発足後、省庁の縦割りを排除し、政治主導の意思決定を進めるとして内閣に2つの組織を新設しました。
外交・安全保障政策の司令塔となる「国家安全保障会議=NSC」と、中央省庁の幹部人事を一元的に管理する「内閣人事局」です。
国家安全保障会議
「国家安全保障会議」は中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発など安全保障環境の変化に加え、大規模災害やテロなどに総理大臣官邸の主導で迅速に対応できる体制が必要だとしてアメリカのNSCをモデルに、平成25年12月に設置されました。
総理大臣を議長に、外務大臣、防衛大臣、官房長官の4人がメンバーの「4大臣会合」、国家公安委員長や国土交通大臣らを加えた「9大臣会合」などで対応を協議するとともに意思決定を行います。
会合は、定例のものだけでなく、北朝鮮による弾道ミサイルの発射や、海外での大規模なテロ事件などの際に開かれていて、これまでに200回余りに上っています。
会議を支える事務局として、内閣官房に「国家安全保障局」が置かれ、外務省、防衛省、警察庁などの職員をはじめおよそ80人が各省庁の情報を集約して、分析を進めています。
初代局長には外務省出身の谷内正太郎氏が就任しました。
現在の局長は警察庁出身で内閣情報官を務めていた北村滋氏です。
 
 
内閣人事局
「内閣人事局」は、中央省庁の事務次官など、およそ700人の幹部職員の人事を一元的に管理することを目的に、平成26年5月に設置されました。
幹部職員の人事は、それまで各省庁が主導して行っていましたが、現在は、官房長官が作成する候補者の名簿をもとに、各大臣が人事案を検討し、総理大臣や官房長官と協議して決定されています。
また、人事院や総務省が担ってきた、国家公務員の採用試験の一部や各行政機関の定員管理などの業務も内閣人事局に移されました。
このほか、第二次安倍政権以降では、サイバー攻撃に対する情報収集や分析、不正アクセスの監視などに取り組む、「内閣サイバーセキュリティセンター」なども設けられました。
 
 

 

●安倍総理の目玉政策
安倍総理大臣は、第二次政権発足後、「目玉政策」として次のような取り組みを進めてきました。
 
 

 

●アベノミクス
経済政策「アベノミクス」は、デフレからの脱却を目指して、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の3つを「三本の矢」に掲げています。特に、日銀による“異次元”の金融緩和は、円安・株高をもたらし、輸出企業を中心に業績の改善が進み、昨年度の企業収益はおよそ84兆円と過去最高となりました。また、名目GDPも過去最高の水準となっているほか就業者数も6年連続で増えるなど各種の指標が改善し、政府はことし1月、第二次安倍政権の発足以降の景気回復期間は、「戦後最長になったとみられる」と発表しました。一方、目標としてきた「2%の物価上昇率」は達成できておらず、日銀の最新の見通しでは、再来年度の時点でも、1.5%にとどまるとされています。賃金が期待どおりに上がっておらず企業の内部留保が増え続けているという指摘もあり賃上げや成長分野への投資をしやすくする環境の整備などを通じて、「経済の好循環」を実現できるかが課題となっています。
●アベノミクス
日本の自由民主党の政治家・安倍晋三内閣総理大臣兼同党総裁が第2次安倍内閣において掲げた一連の経済政策に対して与えられた通称である。少数ながら表記揺れに「アベノミックス」「安倍ノミクス」がある。主唱者である「安倍」の姓と、経済学・経済理論の総称である「エコノミクス(英: economics)」とを合わせた造語(混成語)。英語・フランス語・ドイツ語ではAbenomics、ロシア語ではАбэномика(アベノミカ)と表記される。なお、国際的にはAbeconomics(アベコノミクス)と呼ばれることもある。
アベノミクスは、第1次安倍内閣における経済政策の総称として命名されたが、その後の第2次安倍内閣の経済政策とは基本的なスタンスが異なっていた。当初の「アベノミクス」は、財政支出を削減し公共投資を縮小させ、規制緩和によって成長力が高まることを狙った「小泉構造改革」路線の継承を意味するものであった。この言葉は、第1次安倍内閣当時の自由民主党幹事長・中川秀直による造語であり、メディアに売り込んでいたともされる。
「近いうち解散」と呼ばれた2012年(平成24年)11月の衆議院解散前後から朝日新聞が使用したことをきっかけに多用され始めた言葉であるともされるが、「アベノミクス」「三本の矢」という呼称自体は既に2006年(平成18年)時点で、第1次安倍内閣当時の自由民主党幹事長・中川秀直が使用した例が確認されている。
第2次安倍内閣では新たに、デフレ経済を克服するためにインフレターゲットが設定され、これが達成されるまで日本銀行法改正も視野に入れた大胆な金融緩和措置を講ずるという金融政策が発表された。これら一連の経済政策が、第40代のアメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンの経済政策として名高い「レーガノミクス (英: Reaganomics)」にちなんで、アベノミクスと総称されるようになったともされる。
安倍首相は、2013年9月26日にニューヨーク証券取引所での講演で「Buy my Abenomics(アベノミクスは『買い』だ)」と述べている。また同年12月30日の東京証券取引所の大納会でも、「来年もアベノミクスは買いです」と述べた。
「アベノミクス」は2013年新語・流行語大賞のトップテンに入賞し、安倍首相自らが受賞した。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と日本銀行が、東証一部に上場する企業のうちおよそ半数の約980社で事実上の大株主となっていることが、朝日新聞・東京商工リサーチ・ニッセイ基礎研究所の調べでわかった。
韓国経済新聞は、日本国内では2012年末のアベノミクス施行後に日本の名目国内総生産は2012年の494兆円からアベノミクス施行された2017年までの5年間で過去最大となる549兆円に増加したこと、5年間に就業者数は270万人増加と失業者の110万人減少、2017年時点で失業率は2.8%で最も低い水準になったこと、景気拡張傾向が61カ月連続で続き過去2番目の長期好況を経験しているとして、日本経済は「失われた20年」の軛から抜け出したという評価を聞くほど回復基調が明確だと述べられていると伝えた。2000年代まで海外に工場などを移していた大企業から中小企業まで規模や業種を問わず企業の「本国復帰」が2015年以降からブームとなっている。2015年の1年間で日本企業724社が製造本国回帰したことが就活生が職場を選ぶ「売り手市場」の原動力となっている。2017年には製造業による雇用が戻ってきてかつての1000万人を越えた。
内容
アベノミクスの「三本の矢」
アベノミクスは、下記の「三本の矢」を、経済成長を目的とした政策運営の柱に掲げている。
1.大胆な金融政策
2.機動的な財政政策
3.民間投資を喚起する成長戦略
個別の政策としては、それぞれの矢として下記などが提示、あるいは指摘されている。
○大胆な金融政策
2%のインフレ目標
無制限の量的緩和
円高の是正と、そのための円流動化
日本銀行法改正
○機動的な財政政策
大規模な公共投資(国土強靱化)
日本銀行の買いオペレーションを通じた建設国債の買い入れ・長期保有、ただし国債そのものは流動化
○民間投資を喚起する成長戦略
「健康長寿社会」から創造される成長産業
全員参加の成長戦略
世界に勝てる若者
女性が輝く日本
論文
2014年6月30日、安倍首相はフィナンシャル・タイムズ紙に、「私の『第3の矢』は日本経済の悪魔を倒す」と題した論文を寄稿し、経済再建なしに財政健全化はあり得ないと述べ、日本経済の構造改革を断行する考えを表明している。改革の例として、
法人税の引き下げ。2014年に2.4%引き下げ、数年で20%台に引き下げ。
規制の撤廃、エネルギー・農業・医療分野の外資への開放。
働く母親のために家事を担う外国人労働者の雇用。
を挙げた。また、2014年4月の消費税増税については「影響は限定的である」と述べている。
同年8月9日、安倍首相は月刊誌「文芸春秋」9月号に「アベノミクス第二章起動宣言」と題した論文を寄稿し、「経済成長こそが安倍政権の最優先課題」としてデフレ脱却に向けた決意を表明、地方振興・人口減少対策に全力を挙げる考えを示した。
組織
経済政策を進めるために、経済財政政策担当相・甘利明の下に日本経済再生本部を設け、さらにその下に経済財政諮問会議、産業競争力会議を設置している。
アベノミクスの「第四の矢」
2013年5月28日の経済財政諮問会議では、経済財政政策担当大臣の甘利明が財政健全化をアベノミクスの「第四の矢」に位置づけたという。しかしこの発言は、同日の経済財政諮問会議議事要旨にはない。自由民主党の野田毅税制調査会長は「アベノミクスは消費税率引き上げを前提に成り立っている」と表明している。
財政健全化をアベノミクスの「第四の矢」とすべきかについては、大和総研理事の木村浩一は賛成し、第1次安倍内閣で経済政策のブレーンの一人であった経済学者の高橋洋一は反対している。
2013年10月7日、安倍首相はアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議で講演を行い、消費税率の引き上げを決断したことを踏まえ「財政の健全化を図り、国の信認を維持することは、経済再生を進めていく上で不可欠であり、財政再建は私の成長戦略と車の両輪をなすものだ」として、経済成長と財政再建の両立を図る考えを強調している。
財政健全化以外の政策・事象をアベノミクスの「第四の矢」とすべきだという意見もある。ジャーナリストの長谷川幸洋は、政府データの公開(オープンデータ)こそ、第四の矢になりうると主張している。日本経済新聞編集委員の田中陽は、2013年7月参議院議員選挙前の猛暑を「第四の矢」としている。
2013年9月7日、安倍首相は2020年夏季五輪の東京開催が及ぼす経済効果について、「経済、成長、ある意味で『第4の矢』の効果はある」と述べている。
アベノミクスの新「三本の矢」
2015年9月25日の自由民主党総裁選挙で再選した際の記者会見で、安倍首相は、2015年からの3年間を「アベノミクスの第2ステージ」と位置づけ、「一億総活躍社会」を目指すと発表した。その具体策として下記の新しい「3本の矢」を軸としている。
1.希望を生み出す強い経済
2.夢を紡ぐ子育て支援
3.安心につながる社会保障
組織
安倍首相は、2015年10月の第3次安倍晋三改造内閣発足時に、アベノミクスの第2ステージとして、新設の一億総活躍担当大臣・加藤勝信の下に一億総活躍国民会議を設け、「ニッポン一億総活躍プラン」を推進していくと発表している。
2016年8月3日の第3次安倍晋三第2次改造内閣発足時、安倍首相は、一億総活躍社会実現を目指し、働き方改革担当大臣を設置した。また同年9月26日には内閣総理大臣決裁により働き方改革実現会議を設置した。
背景
国内の経済の状況
1990年代初頭のバブル崩壊を直接の発端とし、1997年の消費税増税やアジア金融危機を経て顕著になったデフレーションによって停滞した日本経済は、失われた10年、さらには失われた20年を経験した。20世紀以降の先進国において、20年以上もの長期にわたって年率1%以下の低成長が続いたという事実は、近現代史上きわめてまれである。
1997年4月1日、第2次橋本内閣は、3年前の1994年11月25日に村山内閣が成立させた税制改革関連法案に基づき、消費税率を3%から5%に引き上げた。ところが元来財政再建のための増税であったはずが、翌1998年度の一般会計税収は前年度比4.5兆円減少し、増税前の1996年には3.1%を記録した経済成長率も1998年には前年度比2.2%低下してマイナス成長に転じる結果となった。しかもその後の小渕内閣の緊急経済対策と重なって、国債発行額は18.5兆円(1997年)から翌1998年以降、30兆円超へと一気に倍増した。1997年までは増加し続けていた年間平均賃金も、消費税率の5%への引き上げを契機に、名目GDPよりも急速な減少に転じた。
2012年8月10日、野田第2次改造内閣において、社会保障のための安定財源の確保のため2014年に消費税率を5%から8%へ、さらに2015年には10%への引き上げを盛り込んだ、社会保障・税一体改革関連法案が可決・成立した。
アベノミクスは、このような推移を背景として、長期にわたる経済停滞を打破しようとして生まれた。議員連盟「アベノミクスを成功させる会」の前身は、「デフレ・円高解消を確実にする会」である。
日本国外の経済動向
それまで日本のマーケットは、米国の株価に左右される動きではあるが、米国の大企業が好決算を出していたものの、日本のGDPが上がらず、主力株である銀行や鉄鋼などが低迷したままの状態であった。特に輸出関連のメーカーなどは30年前の株価まで下落する状況であった。グローバルな経済の後退の間、2009年の分離して5.2%の損失をもって続いた、2008年に日本は実質GDPにおける0.7%の損失を被った。対照的に、2008年の世界の実質GDPの成長のそのデータは2009年の0.7%の損失に続く3.1%の上昇だった。2008年から2009年にかけて(アメリカへの)日本からの輸入は27%の縮小の、7465億合衆国ドルから5453億合衆国ドルへと縮んだ。2013年をもって、日本の名目GDPは日経平均株価指数がそれの3番目のピークだったときの、1991年と同じような水準だった。
前政権の政策
民主党政権において数回、円売りドル買い介入をしたものの円高や株安は改善されなかった。2012年に、野田内閣は国の予算のバランスのために2014年に8%そして2015年に10%へ消費税を引き上げるようなひとつの法案を通した。この消費税増税は、消費をより低迷させる一要因となるものと推測された。
アベノミクスのイデオロギー的基礎
1994-1999年の日本の経済の概観
年/名目GDP(10億円)/名目GDP成長率(%)/失業者数(千人)/就業者数(千人)/失業率(%)
1994 486526.3 1.19 1920 66450 2.88
1995 493271.7 1.38 2100 66660 3.15
1996 502608.9 1.89 2250 67110 3.35
1997 512248.9 1.91 2300 67870 3.38
1998 502972.8 -1.81 2790 67930 4.10
1999 495226.9 -1.54 3170 67790 4.67
注:名目GDPは2006年の市場価格での値
政府の動向
政府政策・方針等の公式表明
2013年2月28日 第183回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説
2013年4月19日 安倍総理「成長戦略スピーチ」@日本プレスクラブ
2013年5月17日 安倍総理「成長戦略第2弾スピーチ」@日本アカデメイア
2013年6月5日 安倍総理「成長戦略第3弾スピーチ」@内外情勢調査会全国懇談会
2013年6月14日 「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」を閣議決定
2013年10月1日 安倍総理「安倍内閣総理大臣記者会見」
2013年12月24日、政府は12月の月例経済報告を公表し、物価について「底堅く推移している」として、4年2カ月ぶりに「デフレ」の文言をなくした。ただし、「デフレ脱却宣言」は見送った。
2014年4月17日、政府は4月の月例経済報告で、景気の基調判断を1年5カ月ぶりに下方修正した。
閣僚の発言
2013年1月22日、閣議後の会見で、財務大臣麻生太郎は「円高がだいぶ修正されつつある」との認識を示した。
同年1月28日の臨時閣議後の記者会見で、甘利明経済財政・再生相は、円安誘導との批判がある安倍政権の経済政策について「(ダボス会議で)説明後に、この政策に対して危惧を持っているという発言は無かった」と述べ、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)ではおおむね理解を得られたとの認識を示した。甘利経済財政・再生相はIMF、OECDなど国際機関の責任者や民間の識者から日本の政策を支持する声が「相次いだ」と説明している。また、円安誘導との批判については「ごく一部の国からだ」と指摘し、ドイツや韓国、中国を挙げた。
同年2月9日、財務大臣の麻生は円安について、進みすぎだと発言している。また円安のペースは速すぎるとの認識を示している。
同年2月22日、安倍首相はバラク・オバマ米大統領との首脳会談後の記者会見で、「アベノミクス」について、オバマ大統領が「歓迎した」と明らかにし、「日本経済の再生が日米両国、さらに世界に有意義であるとの認識を共有した」との認識を示した。安倍首相はオバマ大統領が「安倍政権がとった大胆な政策が日本国民に評価されていると認識している」と応じたと述べている。
同年10月1日午後、安倍首相は、官邸で開かれた政府与党政策懇談会で、2014年4月に消費税を8%に引き上げると表明し「経済政策パッケージの実行により、消費税率を引き上げたとしても、その影響を緩和することができ、日本経済が再び成長軌道に、早期に回復することが可能と考えている」と述べた。同日、安倍首相は、首相官邸で記者会見し、2014年4月から消費税率を8%に引き上げる決定を発表し「社会保障を安定させ、厳しい財政を再建するために財源の確保は待ったなし」と述べ、増税に理解を求めた。「経済再生と財政健全化は両立し得る」と強調し、5兆円規模の経済対策を実施する方針を示した。
同年10月11日、麻生財務相は、アメリカのワシントンで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議後の者会見で、2014年4月の消費税率の8%への引き上げについて「日本が国際的にコミット(約束)してきた財政健全化目標の達成に向けた大きな一歩。各国の評価を得られた」と述べた。
2014年1月24日、甘利経済財政・再生相は、衆参両院本会議での経済演説で「もはやデフレ状況ではない」と述べた。
同年4月1日、消費税率の3%引き上げ(8%)を実施。安倍首相は首相官邸で記者団に「やっと手に入れたデフレ脱却のチャンスを手放すわけにはいかない」と述べた。
同年4月8日、甘利経済財政担当相は閣議後の記者会見で、税率引き上げから1週間が経過した消費税増税の影響について「大きく消費が落ち込むという状況にはなっていない。想定内に収まっているのではないか」との認識を示した。また、茂木敏充経済産業相も閣議後会見で、駆け込み需要の反動減に関して「想定を超える反動減は生じていない」と述べた。
同年4月16日、副総理・財務相の麻生は午前の衆院財務金融委員会で、約130兆円の公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) について「6月以降に動きが出てくる」とし、株式市場で「そうした動きがはっきりすれば、外国人投資家が動く可能性が高くなる」と述べた。
同年7月11日、麻生財務相は閣議後の会見で、2015年度の予算編成に関連し、「何が何でもプライマリーバランスの赤字半減達成が優先順位の一丁目一番地」と述べ、財政健全化目標の実現が最優先課題との認識を示した。
同年8月18日、谷垣禎一法相は、自民党有隣会の研修会での講演で、2015年10月に消費税率10%の引き上げを予定通りすべきとの考えを示し「10%にもっていけない状況が生まれれば、『アベノミクス』が成功しなかったとみられる可能性がある」と述べた。
2016年1月4日、安倍晋三は年頭記者会見にて、アベノミクスが国及び地方の税収増をもたらしたと述べる。日本の総合的な平成復興を目指すべく、改めて自らの強いリーダーシップを持って経済政策を断行すると強調し、今年はアベノミクスの果実を隅々まで届けるべくその挑戦と真価が問われる年であると発言。
2017年1月20日、安倍晋三は施政方針演説で、「確実に経済の好循環が生まれている」と述べ、今後の方針についてはこれまでと変わらず「経済再生と財政再建、社会保障改革の3つを同時に実現しながら一億総活躍の未来を切りひらく」と発言。
2017年12月13日にブルムバーグ紙のジェームズ・メーガは、一億層中流化は既に過去の話であり、アベノミクスの所為で格差拡大を助長していると、賃金がほぼ上昇していないことや東京のみがアベノミクスの果実の恩恵に預かっていることなどを含めて指摘した。
内閣参与
2013年11月15日、浜田宏一内閣官房参与は講演で2014年4月からの消費税率の引き上げについて「私を含めて慎重派の説得力が財務省の説得力に打ち勝てなかった」と説明し「日銀の黒田東彦総裁は(追加の)金融政策を発動すると期待しており、心配していない」「黒田総裁が積極的に消費税を上げろと言ったのだから、責任とって金融政策はちゃんとやってもらわなければ困る」と述べている。また、アベノミクスの三本の矢を大学の通知表にならって採点すると「金融緩和はAプラス、財政政策はB、成長戦略の第三の矢はE(ABE)」としている。
2014年9月1日、本田悦朗内閣官房参与は「消費増税は消費や投資に冷や水をかけ(成長)縮小効果がある政策」とし「消費増税とアベノミクスは逆を向いている。今はアベノミクスに集中すべきである」と指摘している。本田は、消費税の再増税の判断は「アベノミクスの成功に対して、非常に大きな影響を与える」と述べ、政策を失敗すれば景気腰折れにつながりかねないとしている。
2014年11月3日、浜田宏一は都内の会見で2014年10月の消費税率10%への引き上げについて「1年半延ばす意見に同調する」との考えを示し、2014年4月の消費増税について「打撃が大きく、日本経済はふらついている」「増税を決定するには状況は非常に悪い」と述べた。
2014年11月17日、本田悦朗はロイターのインタビューで、内閣府が発表した7-9月期のGDP速報値について「ショッキングであり、もはや消費税増税を議論している場合ではない。日本経済を支えるため、経済対策に議論を集中すべきである」と述べた。
経済の動向
2012年(平成24年)11月14日、2日後の11月16日に衆議院解散(近いうち解散)をして12月に総選挙を行うことが決まったため、自民党の政権復帰が視野に入ると共に円安・株高現象が起こった。安倍首相が11月15日、デフレ脱却・無制限の量的緩和策を打ち出したことで、日経平均株価と円安の動きが連動した。そして選挙戦に事実上突入して以降は株高・円安がさらに加速したことで「アベノミックス」「安倍トレード」「安倍バブル」「安倍相場」「アベ景気」「アベノミクス景気」という言葉をマスメディア等が使い始めた。
円安になると円換算の売上が増えて輸出競争力が付き、為替差益が生ずるため、実際に増収増益となる。そのため、マーケットは思惑買いから先取りした相場展開となり、第2次安倍内閣の発足以前から市場が動いて株式市場において株価上昇効果が出た。
第2次安倍内閣発足から2014年3月迄は、2014年4月からの消費増税引上げによる駆け込み需要の影響で、毎月の個人消費は若干増加傾向にあったものの、引き上げ以降は落ち込み、毎月の消費支出は、15年前の小泉政権発足時以降で、最も大きい減少率となる。
2013-2014年
日経平均株価は、2013年3月8日にリーマン・ショック前の水準へ戻った。同年5月10日(日本時間、未明)には4年1ヶ月ぶり1ドル100円を記録したが、同年5月23日場中につけた最高値を境に、2週間で3000円近く下がり、2か月分の上昇を打ち消した。安倍首相が発表したアベノミクスの「第3の矢」とされる「成長戦略」が事前に報道された内容に留まった上、実現への具体策も乏しいと市場に受け止められ、失望売りが膨らんだとみられた他、アメリカの金融緩和が縮小されるとの観測が広がったこともこの流れを後押しした。また、これと同時に円相場が円高に進み、1ドル103円だった円は6月7日には94円に上昇した。
2014年10月31日、アベノミクスに基づいて日銀がマネタリーベースを年80兆円に拡大する追加金融緩和を発表した。この発表は事前に予想されていなかったサプライズ緩和であった。
2014年12月15日、日銀が発表した12月の企業短期経済観測調査は、3か月後の景気の見通しを示す先行きの業況判断指数が大企業、中堅企業、中小企業の規模を問わず、製造業、非製造業ともに悪化した。
2013年にタイ、マレーシアからの観光客に対してビザを免除し、2014年にはインドネシアからの観光客のうちICチップ入りパスポートを所持する人についてもビザを免除するなど、訪日外国人旅行客の誘致も積極的に推進され、2013年は1036万人と初の訪日外国人旅行者数の1000万人超えを達成、2014年は1341万人を記録し、前年の過去最高記録を更新した。また、2014年の訪日旅行客が使った金額も過去最高となる2兆305億円を記録した。
2014年の勤労者世帯実収入は前年比 実質3.9%減、名目0.7%減となり、2人以上世帯の消費支出(実質)は前年比 2.9%減、消費支出(除く住宅等)は前年比 2.5%減となった。日本経済新聞は、4月の消費税の引き上げの影響によるものと見ている。
2015年
2015年4月10日、日経平均株価が15年ぶりに一時2万円を記録した。同月22日には、輸出の増大と輸入の減少により同年3月の貿易収支が2年9ヶ月ぶりに黒字を記録した事が発表された事などにより、終値でも2万円超えを記録した。
2015年5月28日、円安ドル高の加速を受けて日経平均が終値で2万551円を記録、27年ぶりに日経平均株価が10日連続で続伸した。
2015年1月の時点で日本銀行総裁を務める黒田東彦は、2年間で2%のインフレ目標達成は困難になったと認め、2%のインフレ誘導実現は2016年3月になるだろうと述べた。指標となるコアCPIは2014年11月の時点で0.7%であり、その年4月に施行された消費税率引き上げを境に下落基調となっている。黒田は2013年4月の時点で、あらゆる手段を用いてその2%のインフレ目標を実現させると宣言していた。黒田は持続的な物価上昇には賃金上昇が必要との意見に同意した上で、2015年4月に行われるであろう労組と企業の間での賃上げ交渉の動向を見守ると示唆した。また、いまだデフレからの脱却ができていない事実について、人工衛星を打ち上げて安定軌道にのせるにはより大きな脱出速度が必要になるのだと述べた。
2015年の実質賃金指数は速報値で前年比0.9%減となり、4年連続でマイナスとなった。このうち3年間はアベノミクスが推進された期間と一致する。政府主導によるベアで名目賃金は増加したものの、それ以上に金融緩和に伴う円安による輸入物価の上昇などの影響が大きいとみられる。
2015年の総世帯の家計調査で1世帯当たりの実質消費支出が前年比2.7%減(速報値)となり、2014年に続き2年連続の減少となる消費支出の水準は、比較可能な2000年以降で最低だった。
2016年
2016年1月29日、日本銀行の黒田総裁は日本の歴史上初のマイナス金利導入を発表した。
2016年通年では、正規職員・従業員は、前年から51万人増加し3355万人となった。一方、非正規職員・従業員は、前年から36万人増加し2016万人となった。前年度比では、正規職員・従業員は1.5%増加、非正規職員・従業員は1.8%の増加となる。
2016年9月、日銀は「総括的検証」に基づき、従来の枠組を変更した上で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」へ金融政策を変更した。
2016年11月18日、消費税率10%への引き上げを2017年4月から2019年10月に再延期する税制改正関連法が参議院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立した。
2016年の実質賃金指数は速報値で前年比0.7%増となり、5年ぶりに上昇となった。一方で、16年12月の実質賃金は前年同月比0.4%減となり15年12月以来1年ぶりに減少した。
2016年の総世帯の家計調査で1世帯当たりの実質消費支出が前年比1.7%減(速報値)となり、3年連続の減少となった。
2017年
2017年2月17日、総務省は2016年の実質消費支出が前年比1.8%減と発表した。
2017年5月11日、財務省は2016年度の経常収支は20兆1990億円の黒字となったことを発表した。年度累計の黒字額が20兆円台に乗せたのは2007年度以来9年ぶりとなる。一方、16年暦年の対米収支は、円高に伴う輸出額の減少で5年ぶりに黒字額を縮小した。
2017年12月25日、日経平均株価は終値で2万2939円18銭の年初来高値をつけた。1992年1月9日以来およそ26年ぶりの高値。
2018年
2018年1月23日、日経平均株価は終値で2万4124円15銭をつけた。約26年ぶりの2万4000円台の回復。
2018年1月 銀行の貸出金が484兆円と2年前と比べ4%増加、銀行収益はマイナス金利により悪化。
2018年2月7日、厚生労働省は物価変動の影響を除いた2017年通年の実質賃金は16年に比べて0.2%減ったと発表した。2年ぶりのマイナスとなる。名目賃金にあたる現金給与総額は0.4%伸びたものの、物価の伸びに賃金の伸びが追いついていないと報じられている。
2018年2月16日、総務省は2017年の実質消費支出が前年比0.3%減と発表した。マイナス幅は前年の1.7%より縮まったが、4年連続の減少となる。
2018年12月、日経平均株価が一時1万9千円を下回った。
2019年
2019年1月、茂木敏充大臣は景気回復期間が「戦後最長となったとみられる」と表明した。それまで1位の第14循環(与謝野馨命名ダラダラかげろう景気)の年平均の実質国内総生産(GDP)成長率1.6%を下回る1.2%で、「実感なき景気回復」との声もある。
2019年2月 マイナス金利導入から3年が経過するも、消費者物価の伸び率2%は達成できず。マイナス金利により純損失となる地方銀行が相次ぐ。
2019年3月、政府は月例経済報告で同年1月に「戦後最長の景気拡大」とした日本経済の総括判断を中国経済の減速などを理由に3年ぶりに引き下げた。
分析
財政緊縮政策
安倍晋三の貨幣主義の助言者の、浜田宏一は、ジェフリー・フランケルのように経済学者が毎年の1パーセントの税率の段階的な引き上げを提案したことを付け加えた上で、予定された消費税の引き上げは長い景気後退とデフレーションからの復活を始めたようなものである日本の経済を傷つける恐れがあることを警告した。彼は日本へマンデルフレミングモデルを適用することで、日本銀行による金融緩和はそれの負の効果を帳消しにできることを予測する、しかしながら浜田は税の引き上げの効果について心配する。
国内の通貨の引き下げはもしマーシャル・ラーナー条件に合っていればそれの輸出を上げられる。もしそうでなければ、貿易のバランスは初めから悪化しだす。
2011年の福島での悲惨な出来事以来、日本のすべての原子力発電所は閉鎖されつづけてきた。失った電気の発電を補うために、弱い円によっていくぶん国の貿易の損失を悪化させるものである、化石燃料を日本は余計に輸入した。電力のコストの上昇は国内の産業を傷つけ、そして経済を上げることについて妨げるかもしれない。しかし石破茂は、国民が原子力発電なしに電力供給できることに気付きつつあったことを言った。このように、発電所の再稼動はいまだ論争中である:ある全国的な世論調査は76パーセントは原子力発電に反対であるかまたは日本に核エネルギーにおけるその信頼を減らすよう求めることを示し、仙台市に近いコミュニティーのようないくつかの地域でのあいだでの、原子力発電施設が仕事を生み関係した補助金が交付されるところでは、その発電所の再稼動は広く支持された。原子力発電なしには、化石燃料における大きな依存とそして輸入において増大する信頼にしたがって、そのマーシャル・ラーナー条件は合わないだろう。
議論
富裕層への減税
支持
浜田宏一はその経済効果におけるトリクルダウン効果をもったことを主張するアベノミクスからの大企業や富裕層だけが利益を得ているのを批判することに反対した。日本が投資を引き寄せるためには(現行の)35%の法人税を24%にまで引き下げることが必要だと言った。
批判
日本の若年層を助けるためにその課税体系を変える必要があるとトマ・ピケティは言った。そのことは世界の大きな第三世界の経済は富裕層や企業に10%から20%まで課税すべきであることを示唆する。富の再分配はアベノミクスの第4の矢になりうると彼は見ている。国内での不平等を低下させるにはVATの引き上げは悪い方法だったことも、彼は付け加える。
合衆国やイギリスで、富裕層への減税がなされていたとしても、大企業は彼らの雇用を引き上げるのに使うのではなく、それを彼ら個人の利得として使いたがるだろう、ことをジョセフ・スティグリッツは示唆した。
野党の反応
アベノミクスをめぐる論戦で野党は二極化し、競争原理を重視する小さな政府を目指すみんなの党と日本維新の会は方向性には同調しつつ、規制改革の踏み込みが足りないと主張している。一方で、民主党・生活の党・日本共産党・社会民主党は格差拡大を助長するとの見方から、アベノミクスの方向性を批判している。
民主党は「賃上げ無き物価上昇、格差の拡大、国債の金利の乱高下などの副作用が生じている」と副作用を指摘している。みんなの党は規制改革が不十分なことについて「古い自民党体質の政治が露呈していることの表れであり、アベノミクスの欠点」と主張したが、総論としての批判はしていない。日本共産党は「国民の所得を直接増やす『矢』がない。国民の所得を減らして奪うものばかり」と富裕層が豊かになれば国民も豊かになるとする、いわゆる「トリクルダウン理論」を批判している。
日本維新の会
2013年2月12日、日本維新の会の石原慎太郎共同代表は衆議院予算委員会において「何としてもアベノミクスを成功させて欲しい」と要望し、「日本の国家の会計制度に懸念を持っている。これを合理化して企業並みにしないと、アベノミクスのバリアになる。この国には健全なバランスシート、財務諸表がない。国は何で外部監査を入れないのか。アベノミクスを成功させるためにも会計制度を一新させる必要がある。会計制度を変えると税金の使途がハッキリ分かる」と提言を行った。後継政党である維新の党も基本的には、アベノミクスを評価しており、「全否定はしないが、普通の暮らしをしている人たちの生活をどう支えるかが足りない」と指摘し、「イシンノミクス」を打ち出した。
みんなの党
2013年2月5日、山内康一みんなの党国対委員長は、衆議院本会議において、安倍首相が掲げる公共事業について「特定の産業を育成するのは社会主義計画経済的な発想だ。経済政策は保守主義の王道から外れるのではないか」と述べた。
新党改革
新党改革の荒井広幸代表は、アベノミクスについて「効果があると、大勢のみなさんが感じておられる。民主党の沈滞、停滞の時に戻していいかと思っている。」と述べ、家庭にもアベノミクスの恩恵が行くようにしないといけないとして、アベノミクスを補強する手段として「家庭ノミクス」を提唱した。
次世代の党
次世代の党は、第47回衆議院議員総選挙のマニフェストのなかで、アベノミクスについて「基本的方向性は是とするが、軌道修正が必要」とした。「次世代ミクス」として、金融政策への過度の依存是正や、消費税増税の延期、道州制などの規制改革などを主張した。
民主党
2012年12月24日、民主党代表の海江田万里は安倍首相が掲げる金融緩和について「学者の中にもいろんな考え方がある。国民生活を学説の実験台にしてはいけない」と述べ、対決姿勢を示した。同年12月25日、民主党新代表に選出された海江田はアベノミクスに潜む危険性を予算委員会で指摘した。記者会見では「公共事業の大盤振る舞いは古い考え方」と批判し、金融政策について「日銀の独立性が損なわれるような政策は中銀や円の信任にかかわり、様々な副作用が予想される」と語った。野田佳彦元首相は「何でも日銀に責任をかぶせるやり方だ。国際社会では通用しない」と述べアベノミクスを批判した。首相時代に野田は安倍総裁の金融政策に関する発言について「安倍さんのおっしゃっていることは極めて危険です。インフレで喜ぶのは株・土地を持っている人。一般庶民には関係ありません。借金を作ってそんなことをやってはいけない」「金融政策の具体的な方法まで言うのは、中央銀行の独立性を損なう」と批判していた。
2013年1月30日、衆院本会議で海江田万里は、財政政策について「公共事業に偏重した旧来型経済政策は効果に乏しく、財政赤字を膨らませてきた」と批判。物価上昇2%を目標とする金融緩和策に関しても「国民生活への副作用も無視できない」と懸念を示し、「景気回復が一過性なら、雇用や給与はほとんど増えない可能性がある」と指摘し、実質賃金の引き下げなどにつながりかねないと疑問を呈した。 2月7日、民主党の前原誠司は衆院予算委員会において、デフレの背景として、日本の人口減少が影響していると指摘、これに対し安倍首相は「人口減少とデフレを結びつける考え方を私はとらない。デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられる。人口が減少している国は他にもあるが、デフレに陥った国ない」と答えた。これに対して前原誠司はさらに「日本を他の国と比べることは出来ない。他の国との大きな違いとして、日本には莫大な財政赤字ある。人口が減っていくという事は国民一人当たりの負担が増えていくという事ではないか」と応じた。
2月12日、民主党の後藤祐一は衆院予算委員会において「三本の矢は我々民主党が言い出し、三本を一体でやっていこうと主張しているが、安倍首相は『一本目の矢の金融緩和は勝手に日銀がやってくれ。我々政府は知らない』と言っている。三本の矢で行こうというのが日銀と民主党の考え方、一本の矢で行こうというのが安倍首相の考え方であり、食い違いがある」、「人口減少と、デフレギャップおよびデフレは密接に関係している」、「2%の物価安定目標の達成に向けて安倍首相は政府は全く責任を取らないと主張している。本音は(2013年7月の)参院選が気になっているだけだ。安倍首相のマクロ経済に対する考え方は私は大変疑問だ」と発言した。これに対し、安倍首相は「そもそも三本の矢と言い始めたのはあなた(後藤祐一)でも日銀でもなく私であり、総裁選を通じて申し上げてきたもの。単に金融緩和をやるのではなく、それと共に有効需要を作っていき実質経済を成長させ、そして地域が活性化し雇用や賃金に反映させる時差を短くし、景気回復の実感を持って頂く。そのために二本目の矢の財政政策が必要であると主張している。しかしこれは何度も打てないので三本目の矢の成長戦略をしっかり打つ。これを同時に打ち込み、以前から言ってきた経済三団体への賃上げ協力要請も本日行う。私が全く言っていない事について、言った事として批判されても本当に困る」、「山本幸三議員が先程のヤジで指摘した通り、アメリカは日本より遥かにデフレギャップが大きいのにデフレに陥っていない。人口が減少している国の中でデフレ脱却していない国は日本だけ」と反論した。 4月7日、野田佳彦は千葉県佐倉市のパーティーでアベノミクスについて「海外投資家と食事する機会があり、その1人が『ABE』と言った。Aはアセット。Bはバブル。Eはエコノミー。資産バブル経済、という意味だ」と述べ、バブルを生み出していると批判した。 4月17日、国会の党首討論で海江田万里は、安倍政権の金融緩和策について「大変な劇薬を日本は飲んだ。副作用、あるいは落とし穴がある」と指摘し、物価上昇など負の側面があると強調した。それに対し安倍首相は株価上昇で5兆円の年金運用益の数字を並べて反論し「何もしなければリスクがないと思ったら大間違いだ。閉塞感の中で悩んでいた状況を変えることができた」と反論した。 5月29日、海江田万里は、日本外国特派員協会での記者会見で「円安によって輸入品の価格が上がり、人々の生活は苦しくなっている。中小企業などにも影響が出て、漁業従事者も大変厳しい状況だ」「長期金利がほぼ1%に上昇した。国債が暴落して金利が上昇するのが、アベノミクスの一番のリスクだ」と述べ、安倍政権の経済運営を批判した。 6月25日、民主党は参院選公約を発表し、安倍政権の経済政策について物価上昇や国債金利の乱高下など「強い副作用がある」と批判した。 7月3日午後、日本記者クラブ主催の党首討論会で海江田万里は「(安倍)首相の経済政策は国民の期待を膨らませるのには成功したが、副作用として物価が上がっている」と懸念を示した。
海江田万里は、広島市の街頭演説で「アベノミクスは3年たてば必ず破綻する」と述べている。
2014年9月28日、民主党幹事長の枝野幸男は、2015年10月の消費税率の10%への引き上げを先送りすれば、アベノミクスが失敗したことを自ら認めることになるという認識を示した。 10月22日、枝野幹事長は消費税率10%への引き上げについて、「アベノミクスによって経済が好循環に入っていれば、(消費税率を)上げられるはずである。日本のためには、約束通り進めることがベストである」と述べた。 10月28日、枝野幹事長は「アベノミクスが成功だとして続けながら、消費税を上げないのは最悪である。消費税を上げられないような経済環境をもたらしている経済政策を維持しながら、景気が良くないからとして消費税を上げないと、結果的に財政はますます悪化する。財政も経済も両方悪化する最悪の選択である」と指摘した。 11月1日、海江田代表は、日銀の追加金融緩和について「日本売りを加速する。国民生活にとって禁じ手を使った」「大変リスクを持った判断である。日銀は円の価値を損なうことをすべきではない」と述べた。 11月17日、枝野幹事長は7-9月期のGDPの速報値について「想像を大きく超える悪い数字であり、アベノミクスの限界が消費税の駆け込み需要と反動減をはさんで改めて証明された」「この2年間で実体経済、特に家計に大きな打撃を与えた。アベノミクスのカンフル剤と痛み止めに頼った施策では限界がある」と述べた。
2015年2月4日、前原誠司は衆院予算委員会の集中審議で、アベノミクスのリスクとして国債暴落の可能性を指摘し、「国民を巻き込んだギャンブル」と批判した。
日本共産党
2013年2月5日、日本共産党の佐々木憲昭は衆院本会議で2012年度補正予算案に関し「庶民の懐を温める政策に転換すべきだ。家計消費が増えれば、内需が拡大しデフレ克服への道が開かれる」と代表質問を行なった。これに対し安倍首相は「成長期待の低下やデフレ予想の固定化」が不況の原因であると答えた。佐々木は「いま必要なのは、消費税増税の中止など国民の所得を奪う政策をただちにとりやめること」と述べている。2016年2月、赤旗新聞は、実質可処分所得は30年前以下の水準にまで落ち込んだと報道している。
社会民主党
2013年4月21日、社会民主党の福島瑞穂党首(当時)は金沢市内で講演でアベノミクスについて「『アベノミクス』は『安倍のリスク』。ハイパーインフレで人々の生活が壊れるのではないか心配だ」と述べている。
各界の反応
元大蔵官僚でアジア開発銀行(ADB)総裁の黒田東彦(2013年3月末、第31代日本銀行総裁)はアベノミクスについて「適切だ」と評価し、支持する姿勢を示している。黒田は「デフレを克服する一方、中期的な財政再建を堅持し、成長力を高めていくのは適切な政策だ。日本経済の問題にたいして適切に対応するものだ」「日本経済にとって最大の課題はデフレからの脱却だ。15年もデフレが続いているのは異常である。日本経済にマイナスの影響を与え、その結果として世界経済にもマイナスの影響与えている。それを直そうということは日本にとって正しいだけでなく、世界経済にとっても正しい」と評価している。また「日本がデフレから脱却することがアジアにも世界経済にもプラスになる」とし、アジア各国も支持するとの認識を示している。また、政府と日銀が2%の物価上昇率目標を設定する共同声明を結んだことについて「画期的なことであって、非常に正しいことだ」と高く評価する考えを示している。
経団連名誉会長の奥田碩は、1ドル90円から100円が適正な為替レートで、そうなれば自動車や電機の輸出も増え、貿易赤字が解消されるだろうとの見解を示した。
日本自動車工業会会長の豊田章男は「『失われた20年』の間に、日本企業の時価総額は360兆円を失った」と分析し「『アベノミクス』でこの内の約半分が取り返せた」と安倍政権を評価した。
元大蔵官僚で国際通貨研究所理事長の行天豊雄はアベノミクスを小手先の金融政策や景気刺激策に終始するようであれば市場に足をすくわれるのがオチと批判。アベノミクスにより財政悪化が進めば最終的に日本は悪性インフレに陥るとまとめた。
コーポレートガバナンス協会理事の八幡和郎は「とりあえず、やってみるという真珠湾攻撃と同じ」「世界の常識に反した一か八かのかけ」と批判している。
オリエンタル・エコノミスト・アラート代表リチャード・カッツはアベノミクスによってドルに対して円の価値が25%下落したことは、アベノミクスが日本の活力を取り戻せることを確信させる有効な要素の一つであるとした。しかし、メリットがデメリットを上回る場合のみ、円安は経済成長に寄与すると述べた。デメリットとして2012年9月以降、価格調整後の実質輸入量は5%減少したが名目輸入金額は12%上昇し、日本は5%少ない輸入量を確保するのに、日本円を12%多く支払ったと指摘。日本企業の主要輸出事業者の価格戦略が意味しているところは、経済全体の成長をもたらす乗数効果が存在しないことである。この効果は2012年末までには表れるが、円安メリットの大きさは不透明であると結んだ。
2013年1月7日、日本商工会議所会頭の三村明夫(新日鉄住金名誉会長)、経済同友会代表幹事の長谷川閑史(武田薬品工業社長)ら財界首脳は会見で、一段の円安を否定的に受け止める見解を示した。
2016年12月、バンク・オブ・アメリカの世界経済責任者イーサン・ハリスは、労働市場の引き締まりなどを根拠に、日本が2017年に失われた20年を脱出するチャンスを得るという見解を示した。
2017年2月、アメリカのビジネスサイト・マーケットウォッチ(英語版)にて、「なぜ日本は遂に失われた20年から脱出するかもしれないのか?(Why Japan may finally emerge from its lost decades)」と題するコラムが掲載された。
アホノミクス・アベノリスク
アベノミクスは、「アホノミクス」、「アベノリスク」「アベノミクス“不況”」などと批判的な表現もなされている。
「アホノミクス」は、2013年の新語・流行語大賞の候補にノミネートされた。
2014年には山内勉が製作した「アホノミクス〜金は天上の回りモノ〜」という舞台が公演された。
消費税増税
経団連の米倉弘昌会長は、安倍首相が2014年4月に消費税を8%に上げると表明したことについて「大変な英断だ。高く評価する」と歓迎し、投資減税などの5兆円規模の経済対策についても「消費増税のネガティブな側面を下支えする効果が期待できる」としている。
世界の反応
肯定的反応
アメリカのノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマンはアベノミクスについて、ニューヨーク・タイムズのコラムで「素晴らしい結果を伴っている」と絶賛し、安倍首相について「国家主義者であり、経済政策について関心が乏しいのでは」「深く考えているわけではないだろう」と皮肉を込めながらも、「他の先進諸国ができなかった財政と金融の刺激策を実施していることは事実で、その結果も完全に正しい。長期金利は急騰せず円は急落するのは日本にとって非常によいことである」。「私はアベノミクスを評価している。日本がデフレの罠から脱却するために必要な政策である」「日本の期待インフレ率はちょうどよい値で推移している。少しのインフレ期待があることで、経済にとってプラスに働いている状況になっている」「円が安くなれば日本の製造業の輸出増を牽引することになる」と評している。また「日銀が方針を転換し、2%の物価目標を掲げ、その効果を持続させるために政府が短期間、財政出動をし景気を刺激する。発信されたメッセージが何よりも重要である。緩和姿勢を維持し、景気を後押しするだろうという見通しこそ大事である」と述べている。また長期金利と株価が同時に上昇してきたことについては楽観論の表れだと分析し、日本の財政問題への懸念を反映したものではないとの見解を示した。また、「金融・財政政策刺激策への急転換である『アベノミクス』について重要な点は、他の先進国が同様の政策をまったく試していないということである。アベノミクスという政策実験が奏功すれば、同じような状況に陥った国に対しても意義ある示唆になる」「(アベノミクスが)奏功すれば、日本が世界のモデルになる」と述べている。
2013年にノーベル経済学賞を受賞したイェール大学のロバート・シラーは「最も劇的だったのは、明確な形で拡張的な財政政策を打ち出し、増税にも着手すると表明したことである。財政均衡を目指した刺激策といえる。世界中で財政緊縮策が広がる中で、日本の積極策がどういう結果になるか注目している」と述べている。
シカゴ大学の経済学者アニル・カシャップは「日本の長引くデフレの責任を日銀に負わせ、それを是正するためのツールが日銀にはあることをあらためて示したことについては安倍は正しい」と述べた。
ニュー・ケインジアンとして知られるハーバード大学の経済学者ケネス・ロゴフは、日銀が消費者物価2%上昇を目指すインフレ目標を決めたことについて、デフレ克服に向けた「好ましい長期的な戦略である」と評価した上、追加金融緩和が世界的な通貨安競争を招くとの見方は「完全な間違い」と否定した。
ゴールドマン・サックスのエコノミスト、ジム・オニールは2%のインフレ目標を評価、「We Want Abe!」というレターを書き市場で話題となった。
インドネシア財務省の財政政策責任者バンバン・ブロジョネゴロは、緩和政策が日本の内需を刺激し、同国の対日輸出を増やすと期待している。
国際通貨基金(IMF)専務理事のクリスティーヌ・ラガルドは、安倍政権と日銀による2%の物価目標導入を柱にした金融政策について「中央銀行の独立性が確保されている限り、好ましく興味深い計画」と評価した。
国際通貨基金(IMF)アジア太平洋局のアヌープ・シン局長は東京都内の講演で、「三本の矢」で、日本の株式市場などに多くの海外資金が流入するなど「日本が世界の経済地図の中心にきた」と政策を高く評価している。また、安倍首相が2014年4月に消費税率を8%に引き上げることを決めたことについては「財政の機動性確保に向けた第一歩」と歓迎している。
ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長は、安倍政権の政策について、「正しい方向に踏み出している」と評価している。
2013年1月27日、スイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でパネル討論では、ラガルドIMF専務理事や経済協力開発機構(OECD)のグリア事務総長、カナダ銀行のマーク・カーニー総裁らが、アベノミクスへの理解や支持を表明。円安誘導や中央銀行の独立性侵害、財政規律の維持放棄といった批判や懸念は鳴りを潜めた。
2013年2月11日、アメリカのブレイナード財務次官は記者会見し、アベノミクスについて「アメリカは、成長の促進とデフレ脱却を目指す日本の努力を支持する」と述べ、理解を示した。
2013年2月12日、スイス国立銀行(中央銀行)のヨルダン総裁はジュネーヴで記者会見し、「日本は長らくデフレに直面しており、日銀はデフレを回避し、成長を促すために政策を変えつつある」と述べ、金融緩和などを柱とした「アベノミクス」に理解を示している。
英エコノミスト誌の表紙に、スーパーマン風の安倍首相の写真が掲載された。内容的は日本経済の復活と中国へのチャレンジを表している。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、2014年4月からの消費税率8%の増税について、消費税は世代間で均等に税負担を広げる、景気が後退しても比較的あてにすることができる「安定した税収」として重要という、エコノミストの意見を紹介し、高齢化社会という課題に直面する他の先進諸国も、いずれ後を追うことになるため、日本はその先駆例として注目されるべきと評価している。
2013年2月26日、連邦準備制度理事会(FRB)議長のベン・バーナンキは上院銀行委員会での証言で、日銀の金融緩和策について「デフレ脱却に向けた試みであり、支持する」と述べ、日銀の政策は自国経済の強化が目的で「為替操作ではない」との認識を示した。また同年6月20日に「日本がデフレに取り組むのは重要であり、デフレの解消とともに『三本の矢』には賛成である。日銀の政策がアメリカ経済にいくらかの影響を及ぼしたとしても、日銀の黒田総裁や日本の取り組みを支持する」と述べている。また同年7月17日に「日本が力強さを増すことはアメリカの国益にもかなう」と述べ「日本は景気全体を押し上げようと努力している。その結果として、利益と代償が生まれるが、その利益とは日本経済の強化であり、アジア市場の強化である」と述べている。
2013年4月4日、FRBのジャネット・イエレン副議長は日銀のマネタリーベースを倍増させる政策について「日本が行っていることは同国の最大の利益となるものである」「成功すれば、世界経済の成長刺激に有益で、我々にも良いことである」「デフレ脱却を目指し積極策を講じるのは理解できる」と述べている。
2013年4月17日、カナダ銀行のカーニー総裁は「日銀の措置は、モスクワG20声明と完全に整合しおり、国内目標に照準を定めた金融政策である」と述べ、日銀の政策による需要拡大はカナダにとっても利益との見方を示している。同日、アメリカのジェイコブ・ルー財務長官は「日本は長期にわたり内需の問題を抱えていた。日本が国内向けの政策ツールを用いて内需拡大を目標としている限り、G7がモスクワ会合で合意した内容に沿っている」「政策が内需拡大に向けた目標に沿っている限り、国内的な政策を利用することは理にかなっている」と述べている。
2013年5月15日、フィリピンのプリシマ財務相は、「日本の政策が円相場を下落させていることについて懸念していない。円安と日本が現在取り組んでいる措置が日本の成長加速につながるなら、我々にとってプラスであり、期待を寄せている」との認識を示した。
2014年2月11日、FRBのジャネット・イエレン議長は下院金融委員会の証言で、日銀の金融緩和策について「長期にわたるデフレを解消するためには当然であり、筋の通った政策である」「現時点では有効に働いている」と述べ、「日本経済が成長すれば近隣諸国に恩恵が及び、世界経済の利益となる」と表明している。
条件付の肯定
ジョセフ・E・スティグリッツは、日本政府がアベノミクスで彼の10年前に推薦した政策を採用することを歓迎し、「円高を是正して景気を刺激し、本格的なデフレ対策を打つという意図は正しい」と述べ、大胆な金融緩和や財政出動を柱とする安倍政権の経済政策を評価している。また、第一の矢である金融緩和と第二の矢の財政出動に対しては全面的に支持しているが、第三の矢(現状では規制緩和を旨とする規制改革と雇用の流動化などの構造改革)には警戒感を持っているとされる。2013年3月21日に安倍首相と会談した際には、アベノミクスに対して懸念も表明する。NHK BS1でのインタビューでは、「日本には、自由化・規制緩和もアジェンダに加えるべきと考えている人達がいるから彼らには注意しなければならない」と答える。同年3月22日、スティグリッツは東京で記者団に対し、日本の金融政策を通じた円相場の押し下げは正しいことだとの認識を明らかにし、安倍首相の経済政策について楽観的な見通しを示した。スティグリッツは安倍首相の経済政策を評価する考えを示した上で「世界にはユーロ危機などの短期的な問題だけでなく、地球温暖化・格差拡大など長期的問題も残っている。成長戦略の中で、医療・教育など、長期的な課題に予算を振り向け、自立的な成長を目指すべきである」と述べている。
また、スティグリッツは、以下の通り主張している。 「安倍総理が掲げる三本の矢のなかでもっとも難しい三本目の矢の成長戦略については、持続可能な成長を促すためにいかにお金を使うか、これは非常に難しい問題である。イノベーションといえば、人が働くコストを省くことに焦点を合わせてきた。その結果、他方では高い失業率に悩まされている。これはパズルみたいなもので、失業率が高いときに、さらに失業者を増加させることにつながる、労働力を省くイノベーションを追求していていいのか。」、「アベノミクスでは、拡張型の金融政策が必要だということを認識している。また強力な財政政策が必要であり、そして規制緩和など構造上の強力な政策が必要であるということを認識している。世界の中でも、包括的な枠組みを持っている数少ない国である。日本は公共債務が多い。予算の状況を改善しながら、同時に経済に対して刺激策を講じることができるかどうか。私はできると思っているが、それに成功するためには各々の政策を慎重に設計しなければならない。構造改革を考える際は、どのような大きな問題が日本の前に立ちはだかっているのか、またどんな構造改革によって効率を改善し、国民の幸せを改善できるのかを真剣に考えなければならない。そのため、人々は製造業からシフトしなければならない。だからこそイノベーションが必要になってくる。生産年齢人口の減少を調整した場合、日本は過去10年間、OECD諸国の中で最も成功している国の1つである。ここで必要なことは三本の矢と呼ばれる包括的な経済政策に関する行動計画である。まず金融政策はターゲットを絞ることで成功している。これを拡張型の財政政策で補完すべきである。そして規制をコントロールして、経済に刺激を与えることができるか。私は、こうした構造上の改革を日本が成し遂げ、持続可能な繁栄を遂げることができ、そして世界に対して模範を示すことができると信じている。」
トマ・ピケティは「安倍政権・日銀が物価上昇を起こそうしているその姿勢は正しい」とする一方で「2014年4月の消費増税は、景気後退につながった」と指摘している。
ポール・クルーグマンは「黒田東彦日銀総裁が、(2014年10月31日に)追加緩和を発表したが、称賛すべきことである。日銀・政府が実行してきたことは、消費税増税を除いてはすべて歓迎する。日銀が実行してきたことは斬新なことではなく、何年も前から私を含め欧米の専門家たちが実行するように促してきたことである。優先すべきことは、脱デフレのためになんでもやることであり、消費税増税以外の政策はその点で正しい」と指摘している。クルーグマンは「どれだけ追加緩和を行ったとしても消費税増税はそれと真逆の政策であり、ブレーキをかけている状態となる」と指摘している。
2016年に韓国の中央日報は「四年間、金融緩和・財政拡張・構造改革という3本の矢を放っているが1次目標のデフレーシヨンからも抜け出せていないので大局的に見ると日本経済を楽観する理由はない。とはいえ失敗したと見るのは誤算だ。キジの代わりに鶏は捕まえたと考えられる。もしアベノミクスがなければ日本経済の沈滞はさらに深刻だった」と評している。
批判的反応
エスワル・プラサドは「金融政策だけで日本経済の長期停滞から救うことは不可能であり、他の政策からの支援も必要である」「金融政策が効果を持つには、他の政策も役割を果たす必要がある。金融政策だけですべての負荷を支えようとすれば、政策の効果と副作用のバランスが崩れ、副作用が効果を上回ること可能性もある」と指摘している。 BMIリサーチ(英語版)は安倍総理大臣と彼の自民党は、構造的な条件である、高い水準の政府の財政の債務、人口減少、主要な産業の国際競争力(英語版)の喪失による、経済の重荷に対して為す術の見込みがなく、2020年までに財政的な危機を引き起こす極めて高いリスクがあると報告している。
韓国
中央日報は「円安は韓国の輸出鈍化につながりかねない」「円安により韓国の輸出品の競争力に及ぼす影響は大きくないとみる専門家も多い」と報じた。また、朝鮮日報は「韓国の輸出企業は円安ウォン高が続くのではないかと緊張感を強めている」と報じた。
韓国の金仲秀中銀総裁は、日銀の決定に問題があると指摘し「為替水準が影響を受ける。変化のスピードも問題。動きが急過ぎる」と述べている。
2013年(平成25年)2月19日、韓国政府はジュネーヴで開かれた世界貿易機関(WTO)の貿易政策審査会合で「円安誘導政策が疑われる」と日本を批判している。
韓国では「アベノミクス」によるデフレ対策に伴う円安進行に対する「円安脅威論」が過熱し、韓国メディアは「円安は沈黙の殺人者」(中央日報)などと批判している。一方で為替市場をめぐっては、韓国の金融当局が「覆面介入」してウォン安誘導しているとの疑念が付きまとっていた。
なお、朴槿恵韓国大統領が掲げる経済政策を指してクネノミクスと呼ぶことがある。
ドイツ
ドイツのヴォルフガング・ショイブレ財務相は「日本の新政権の政策に、大きな懸念を持っている」と発言し、大胆な金融緩和策を批判した。ドイツ連邦銀行のワイトマン総裁は「新政権が中銀に大きく干渉し、大胆な金融緩和を要求して独立性を脅かしている」などと批判した。
中国
中国・新華社は日本銀行の金融緩和策を「このような近隣窮乏化政策を進めれば、他国も追随せざるを得なくなり、世界的な通貨戦争が巻き起こる可能性がある」と危惧した。
2013年3月4日、中国の格付け会社「大公国際資信評価」は、アベノミクスで日本は財政状況が悪化するとして、日本国債の信用格付けを引き下げを発表した。大公はアベノミクスでは日本経済の構造上の問題は解決できず「日本の長期的な低迷は続く」と酷評し、「日中両国の政治的対立がもたらすマイナスの影響にも注目する必要がある」と指摘した。中国では円安に伴って人民元が上昇し、中国の輸出競争力を低下させるとの警戒感が広がっており、当局者・有識者の間でアベノミクスへの批判が高まっている。
中国の政府系ファンド、中国投資(CIC)の高西慶社長は日銀の金融緩和策について、意図的な円安誘導であり、「(中国など)近隣諸国をごみ箱のように扱い、通貨戦争を始めれば、他国にとって危険であるだけでなく、最終的には自らにも害が及ぶ」と強く批判している。
新華網は、「アベノミクス」は長期的な特効薬とは言えず、その各政策は、日本経済の問題の根本的な解決にならないとしており、日本経済に副作用をもたらしているとしている。
なお、李克強首相が掲げる経済政策を指してリコノミクスと呼ぶことがある。
アメリカ
2013年6月6日、アメリカ合衆国下院の与野党議員226人は、日本を主要な為替操作国と名指しし、安倍首相の政策は「市場を歪めている」として対応を求める連名の書簡をバラク・オバマ大統領に送った。
2013年10月1日、ウォール・ストリート・ジャーナルは社説で、安倍首相が2014年4月からの消費税率引き上げを決めたことについて「アベノミクスを沈没させる恐れがある」と批判し、デフレが克服されていない状況で消費に打撃を与えるべきではないと強調した上で「より速く、持続的な経済成長」こそが財政健全化の唯一の方策だと主張している。
批判的意見への反論
ポール・クルーグマンは「大胆な金融緩和をするとハイパーインフレになってしまうというものだが、まったく的外れである。日本と同じように金融緩和をしているアメリカでハイパーインフレは起こっていない」「大規模な財政出動をやると財政悪化につながるという批判もあるが、現実をきちんと見ていない批判といえる。日本の長期金利は1%未満の水準を超えておらず、政府の借り入れコストはほとんど変化していない。インフレ期待は高まっているのだから、政府の債務は実質的に減っていることになる。日本の財政見通しは、悪くなるというより大きく改善している」と述べている。また円安について「G20で、各国は円安を許容せざるを得ないだろう。欧州中央銀行のマリオ・ドラギ総裁が懸念を示しても、日本に経済制裁を科すわけではない。アメリカも金融緩和でドル安を導いたと批判されてきたので何も言わない。日米ともに景気の現状を踏まえて、金融緩和を進めているに過ぎない。その結果としての通貨安である」と述べている。
ジョセフ・E・スティグリッツは東京都内での国際会議で、アベノミクスの副作用が懸念されていることについて「実施しないほうが将来的なリスクになる」と述べている。
ニーアル・ファーガソンハーバード大学教授は、2013年1月27日のフィナンシャル・タイムズへの寄稿で、日本の差し迫った経済状況を考えれば、国際社会は円安政策をある程度受け入れるべきであり、むしろ過去5年間に実質的な通貨価値が大幅に下落した韓国が日本を非難するのは偽善的だと述べた。
フィナンシャル・タイムズ紙は「中央銀行の金融政策が経済にとって有害である時に政府が中央銀行と意見を交換するのは適切なことで、バイトマン総裁の批判は的外れである」と評している。
G20の当局者は「日本が競争的な(自国通貨)引き下げを図っていると論じることは出来ない」「介入が無い限り、政策期待で市場が動いているだけ」と指摘している。
OECDのグリア事務総長は、日本は円安だけを求めているのではなく、デフレを克服するため行動していると述べ、一部から円安誘導策との批判が出ている日本の積極的な金融緩和策を擁護する考えを示し、「日本が成長を遂げることは、誰にとっても最大の利益になる。特に韓国にとっては重要である。日本の成長が高まり、世界経済に寄与することを望む」と述べた。
IMFはモスクワで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議向けの報告書を公表し、円安をめぐる懸念は行き過ぎとの認識を示し、日銀は一段の決意でデフレ脱却に取り組むべきと指摘した。
FRBのベン・バーナンキ議長は「日銀が何も実施していなかった当時の市場は不安定ではなかったことを考えると、日銀の政策変更の結果として市場が不安定になったと考えるのは論理的である。デフレ期待を壊し物価上昇率を2%に上げるため、日銀は非常に積極的な政策を実施している。政策の初期段階では、投資家は日銀の政策による反応を学んでいる状態で市場が不安定になるのは驚くべきことではない」と述べている。また、中国は人民元を割安な水準で維持しようと為替操作しているとして、日本と中国の金融政策の違いを明確にし「日本は為替レートを操作していない。また為替水準を維持しようと直接介入することもない」と述べている。
警告・問題点の指摘
ポール・クルーグマンは「せっかくアベノミクスを始めたのに、いまこの時期に消費税を増税することは、日本経済の復活のために、何のプラスにもならない。いまは消費税増税を我慢し、2%の物価目標の達成に、全力を注ぐべき時である」と指摘していた。クルーグマンは「8%への消費増税を決定したことにはがっかりした。本来なら、デフレを完全に脱却してからやったほうが安全である。ちょうど光が見えかけていたのに、増税によって消費が落ち込む可能性がある」「すでに消費増税という『自己破壊的な政策』を実行に移したことで、日本経済は勢いを失い始めている。このままいけば、日本はデフレに逆戻りするかもしれない」と述べている。また、消費税増税に関して日本政府へ警告を発し、消費税を10%に上げれば日本はデフレーションに逆戻りするとして、日本政府は消費税率を5%に戻しインフレ期待の醸成に専念するべきであると述べた。
ジョセフ・E・スティグリッツは、経済の回復が安定状態に入る前に消費税率を引き上げる安倍首相の戦略のせいで、日本経済は2014年、失速の危機に見舞われるだろうと述べている。
2014年3月12日、ロバート・シラーは都内の講演で、安倍首相と面会し、アベノミクスに感銘を受けていると話したとする一方で、市場は人々の心理に依存するためアベノミクスの成功がいつまでも続く保証はないと指摘した。
UBS銀行ウェルス・マネジメントは「アベノミクス」が失敗すればスタグフレーションに突入すると述べている。
2013年10月1日、新華社は安倍首相の消費税率引き上げ表明について「国際社会の日本の財政状況に対する関心に答えた」と評価する一方で「ようやく回復してきた日本経済の勢いをそぐ恐れがあると心配されている」と報じている。同日、中国紙チャイナデイリーは消費税率8%引き上げのニュースについて「安倍首相が民衆の抗議デモを無視し消費税の引き上げ決断」とのタイトルで報じた。
ウォール・ストリート・ジャーナルは「2014年4月1日からの消費税率の引き上げ敢行という決断は、安倍首相が前任者たちと同様に、財務官僚とケインズ主義経済学の囚人だということを露呈させた」「景気刺激策を装った公共支出は、過去20年にわたって成果を上げていない。それでも安倍首相は増税と公共支出で日本に繁栄をもたらせると信じている」と述べている。公共事業支出や低所得者層への現金配布などの景気刺激パッケージについて、7.5兆円と予想される増税での増収を帳消しにしてしまうと述べている。
2014年9月21日、アメリカのジェイコブ・ルー財務長官は、G20財務相・中央銀行総裁会議の閉幕後の記者会見で、日本について、消費税率を4月に8%に引き上げて以降、個人消費・投資が落ち込んでおり、「経済活動の縮小による困難に直面している」と懸念を示した。
2014年11月17日、日本の2014年7-9月期のGDP速報値が2四半期続けてマイナス成長となったことについて、ワシントン・ポストは「日本が景気後退入り」と報じ、ウォールストリート・ジャーナルは「景気後退とみなされる」と報じた。
北京大学経済学部の方明は「アベノミクスによって、日本経済はスタグフレーションに陥るだろう」と述べている。
IMF
国際通貨基金のラガルド専務理事は「IMFは、いかなる形でも通貨安競争に賛同しない」と発言した。
2013年7月9日、IMFのオリヴィエ・ブランチャード主任エコノミストは「2本目の矢(の財政出動)が中期的な財政再建策を伴わず、三本目の矢に抜本的な改革が盛り込まれなければ、投資家は懸念を強め、国債金利は跳ね上がるだろう」と述べ、アベノミクスが世界経済へのリスクになり得ると指摘した。
2013年7月16日、ラガルド専務理事は日米英ユーロ圏中銀の非伝統的措置について、資本フローに影響を与えたと指摘し、その解除については段階的に慎重に行われるべきだとの見解を示した。
2013年8月1日、IMFは世界経済のリスクに関する年次評価報告書を発表し、アベノミクスが失敗すれば世界経済にとって主要なリスクの一つになると警告している。IMFは、アベノミクスについて大筋で支持し、計画が完全に実施されれば効果を上げるだろうとしながらも、政治的に困難な部分について実施に移せなければ、深刻な危機をもたらすと分析している。
2014年10月15日、アメリカ財務省は為替報告書で、アベノミクスについて「大幅な円安にもかかわらず、輸出が伸び悩んでいることは意外である」「3本の矢はデフレから脱却する力強い試みだったが、ここに来て(2本目の矢の一環の財政再建が)経済成長を妨げている」と公表した。また「財政再建ペースは慎重に策定することが重要である」と述べ、金融政策は「行き過ぎた財政再建を穴埋めできず、構造改革の代替にもならない」と公表した。
クルーグマンの変節
クルーグマンは当初アベノミクスに肯定的な見解を示していたが、2015年頃より「日銀の金融政策は失敗するかもしれない」「金融政策ではほとんど効果が認められない」とアベノミクスの効果に否定的な見解を示している。
日本政府の批判的意見への反論
国務大臣
財務大臣の麻生太郎は「(2009年4月のG20加盟20カ国の首脳会談で)通貨安競争はやらないという約束をしたが、約束を守った国は何カ国あるのか。米国はもっとドル高にすべきだ。ユーロはいくらになったのか」と言及。1ドル=100円前後で推移していた当時に比べても円高水準にあるとした上で、約束を守ったのは日本だけだとし、「外国に言われる筋合いはない。通貨安に急激にしているわけではない」と述べた。2013年1月28日の臨時閣議後の記者会見は、各国で日本が通貨安政策をとっているとの批判が起きていることに「ドルやユーロが下がった時には(日本は)一言も文句を言っていない」と述べ、「戻したらぐちゃぐちゃ言ってくるのは筋としておかしい」と反論した。円相場については、安倍政権がとった施策を受けて「結果として安くなったもの」と分析。過度な円高の修正局面だとの認識を示した。また「日本は(金融危機だった)欧州の救済のために融資するなど、やるべきことをやっている」と付け加えた。
内閣参与
内閣官房参与の浜田宏一は「麻生副総理も言っておられたように、今まで日本だけが我慢して他国にいいことを続けてきたのに、今自国のために金融緩和しようとするときに、他国に文句をつけられる筋合いはない。日本の金融政策は日本のためであり、ブラジルや他国のためではない」と述べている。また浜田は「日本はこの3年間、世界中からいいように食い物にされてきた。今回は、それをようやく正常な形に戻すことに決めたということである。それを海外が非難すること自体、おかしなことで、日本はそうした非難を恐れる必要はない」と述べている。2013年2月15日にピーターソン国際経済研究所でおこなった講演では、日本の金融政策は国内の物価目標の達成のみを目指したもので、円相場を操作していると解釈されるべきではないとの見解を示した。またリーマン・ブラザーズ破綻後の金融危機時に、日本はイングランド銀行やFRBが行った拡張的な金融政策を批判しなかったとし、日本の積極的な金融政策も非難されるべきではないというのが日本当局者の見解と述べた。また、「変動相場制の下では『通貨安戦争』という概念はない」と述べ、「ブラジルのように不満のある国は、自らの国で適切な金融政策を採用すべきである」と指摘した。同年5月には、韓国について「日本の中央銀行を非難するべきではなく、自国の中央銀行に適切な金融政策を求めるべきである」と語った。
日本銀行
2013年2月14日、日銀の白川方明総裁は、金融政策決定会合後の記者会見で「(金融緩和)は国内経済の安定が目的で、為替相場への影響を目的にしているわけではない」と述べ、先進国の一部や新興国による「円安誘導」との指摘を否定した。
日本国内の識者の見解
経済学者
同志社大学大学院の浜矩子教授(国際経済学・国際金融論)は、アベノミクスを「アホノミクス」と称している。浜によれば、株や不動産の価格が上がるバブルは起きるものの、庶民が生活に必要とする商品の物価は上がらずデフレになるとしており、得をするというのは富裕層のみであり、庶民にとっては厳しい経済状況になるとしている。また、アホノミクスの結果、バブルのムードが起き人々はたぶらかされるようになるとしている。株価が上がり続けて騒がれているのは、何となく安倍ならばやってくれるというムードからであるとしている。企業の業績が伸びたりサラリーマンが昇給となっているのは、一部の大企業のみであるとしている。
経済評論家の植草一秀は、アベノミクスや外交政策、軍事政策によって引き起こされる日本国民、日本経済の危機、損失(リスク)、「アベノリスク」と批判し、アベノミクスの「三本の矢」を「七つの大罪」と表現している。
経済アナリストの森永卓郎は、アベノミクスを「アベノリスク」と呼び、安倍政権によって悪夢のような格差社会、利権社会がやってくるとしている。森永は「2013年7月の参議院選挙後、アベノミクスに沸く中、静かに進む社会変革。その動きは一気に加速する。安倍政権が目指すのは、超弱肉強食、かつ強烈な利権社会である。「そんなこと、おとぎ話だ、妄想だ」と躍起になって否定する人は多いだろう。体制側にいる人ならなおさらである。しかし、庶民にとっての悪夢が現実となってからでは遅いのである」と主張している。
早稲田大学政治経済学部の若田部昌澄教授(経済学史)は、「生活保護の切り下げは、アベノミクスの負の側面である」と指摘している。
同志社大学商学部の服部茂幸教授(数理経済学)は、「円安となり株が上がっただけで、評価する点がない。第2の矢である財政政策の効果は認める」と指摘している。
京都大学の伊東光晴名誉教授(理論経済学)は、「株価上昇と円高ドル安は、総選挙と安倍内閣の発足以前に始まっており、安倍・黒田政策の効果ではない」と指摘している。
東京大学の伊藤元重名誉教授(国際経済学)は、「アベノミクスの成果が大きかったことは株価・為替レート・物価上昇率・失業率や有効求人倍率などの雇用指標など、どれをとっても明らかである」と述べている。
慶應義塾大学経済学部の竹森俊平教授(国際経済学)は、「アベノミクスとはつまり、金融緩和だけである」とし、金融緩和政策が効果を発揮し、雇用が改善されていると述べている。
明治大学政治経済学部の飯田泰之准教授(経済政策)は、「アベノミクスの一本目の矢は、決して金持ちの味方・貧乏人の敵ではない。所得に関しては中立であり、むしろ格差是正的な側面もある」と指摘している。
立命館大学経済学部の松尾匡教授(理論経済学)は、「第三の矢は供給能力を高める政策、新自由主義政策である。第三の矢が景気を押し下げる効果は他の政策(第一、第二の矢)の景気拡大効果には及ばない」と指摘している。
一橋大学の野口悠紀雄名誉教授(ファイナンス理論・日本経済論)は、「2013年から異次元金融緩和することで円安が起きてるが、2014年秋から追加金融緩和を実施したので、将来的に日銀の保有している国債は損失をもたらすだろう」と指摘している。
慶應義塾大学大学院の岸博幸教授(経営戦略・経済政策)は、「旧3本の矢が“全体を良くする”ことだけを目指していたのに対して、新3本の矢が“全体を良くする”ことと“全員を良くする”ことの二兎を追うことにしたというのは、少なくとも方向性としては評価できると思います」と述べている。
エコノミスト
株式会社日本総合研究所(JRI)副理事長の翁百合は、「株高・円安をさせ、人々のマインドを変えた効果は評価するが、量的緩和による直接的な効果は出ていない」と述べている。
片岡剛士は、「アベノミクスを全否定するということはあるべき経済成長のためのツール全てを否定することなる」、「日本のメディアには経済成長を否定しているところもあり、たとえば朝日新聞がアベノミクス批判を強めるのは、道理としては理解できる」と述べている。
第一生命経済研究所主席エコノミストの永濱利廣は、「『アベノミクス』というと特別・目新しい政策と受け取られるが、決してそうではない。アメリカをはじめ諸外国で実行されていたにもかかわらず、日本では踏み込んでこなかったことに、遅ればせながら取り組もうとしているに過ぎない」「1本目の金融政策は『異次元』と形容されるが、実際にはリーマンショック以降のアメリカやイギリスの先例に追随した、グローバルスタンダードな金融緩和である」と述べている。
丸三証券経済調査部長の安達誠司は、「市場関係者とそれに近い経済学者の間では、『量的・質的緩和』に対する評判はすこぶる悪い。彼らの間ではアベノミクスの効果は、財政政策(公共投資の拡大)であって金融政策(量的緩和の拡大)ではないというのがコンセンサスになっている。(量的・質的)金融緩和は、金融政策のレジーム転換が大きな鍵を握っている」と述べている。
村上尚己は相対的貧困率の低下を根拠に、「(2017年時点で)日本の所得格差は縮小している」と述べている。
その他の評論
漫画家の小林よしのりは、「アベノミクスはアホノミクスである」と批判しており、更に小林は安倍信者は「アベノモクズと消える」と述べている。
東京中日新聞論説委員の長谷川幸洋は、「私自身は100点満点で70点と採点する。もちろん合格点である」「増税前までは実に3四半期連続で2.5%前後から3%の成長を遂げていた。この1点をみても、アベノミクスは4月まで完全に成功しており、ただ1つの失敗が消費増税だったことがあきらかだ。だからこそ、ここで軌道を戻す必要がある」と述べている。
元航空幕僚長の田母神俊雄は、「アベノミクス」を推進すると発言しただけで、株価が上がり、円高も是正された点を評価しており、アメリカによる情報戦に振り回されなかった政策であるとしている。
東京大学政策ビジョン研究センター講師(国際政治学)の三浦瑠麗は、アベノミクスは過小評価されているとしている。その理由として、安倍政権が進めている外交・安全保障政策は政治思想に直結するものであるためマスコミの取り上げ方も大きくなり、本来的にはリベラル的な経済政策であるアベノミクスを支持したいはずの左派勢力にとっては、安倍政権の思想的DNAが気に入らないのでイデオロギー的に支持できないのではないかとしている。
経済評論家の上念司は、「大胆な金融緩和に加え、景気の下支えには政府の財政出動が必要」「私たちが一番恐れるべきはデフレだ。アベノミクスの第1の矢は極めて正しい」と述べている。
神戸大学名誉教授の浦部法穂は、「『アベノミクス』なるものによって極端な円高が是正され、輸出企業の業績が回復して株高にもつながった、として、なにやら景気が良くなったような雰囲気が作り出されている。それで多くの国民の生活が楽になったわけではないのに、そういう雰囲気が「右翼の軍国主義者」(ハーマン・カーン賞受賞の際の安倍の挨拶)の首相への支持につながっているのであろう。多くの国民は、彼が「右翼の軍国主義者」であるから支持しているというわけではない。彼の経済政策によって景気が良くなり自分たちの生活も楽になるかもしれない、という期待で支持しているのだと思う。だが、話は古くなるが、600万人もの失業者を抱えていた1930年代のドイツで、1933年1月にヒトラーが政権について以後わずか3年で完全雇用の状態に改善され、そうした経済政策上の成果がヒトラーに対する国民の大きな支持の一つの理由になった、といわれている。そうしてヒトラーを支持したドイツ国民が、その後どのような運命をたどったかは、語るまでもなかろう。「右翼の軍国主義者」を経済政策だけで支持していると、同じ目に遭うことになりかねない。」と批判した。
政治学者の御厨貴が「アベノミクスは本当に成功したのか」と尋ねたところ、安倍は「アベノミクスは『やってる感』なんだから、成功とか不成功とかは関係ない」「何かをやっている感じが大事だ」と答えたという。御厨は「本人がそう言ってはダメ」「アベノミクスとは何か、今でもよく分からない」と述べている。
コストプッシュ・インフレ
株式会社アゴラ研究所代表取締役社長の池田信夫は、「アベノミクスが成功しても失敗しても円は下がる。輸出産業は安泰である一方、エネルギー・輸入品の価格の上昇によって、家計の負担は増える」と述べている。
Office『W・I・S・H』代表の岩本沙弓は、「円安株高が本当にアベノミクスだけでもたらされたのか疑問である。株高ドル高(円安)は、アメリカ発の要素が強いと考えるほうが現実的である」と述べている。
BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミストの河野龍太郎は、「アベノミクスでは、デフレから脱却することで、日本経済が回復軌道に乗るというシナリオを描いていたが、2014年に実際に観測されたのは、円安によるインフレ上昇がもたらした景気減速であった」と述べている。
アライアンス・バーンスタインの村上尚己は、2014年10月時点で「企業倒産の数は全体として抑えられており、円安が原因で倒産した企業がごく僅かに増えたというのが正確な状況である」と述べている。
日本経済研究センター(JCER)参与の新井淳一は、「円安が定着すれば輸出は勝手に伸び始める。2014年12月の輸出数量は前年比で4%近い伸びとなっており、円安分を価格転換させ、市場開拓に努める企業が増えてきている」と述べている。
公共事業
ジャーナリストの田村秀男は「経済は消費・投資・輸出の総体であり、経済成長の度合いはこれらの増加分で決まる。2013年の名目1%の経済成長に最も寄与したのは、公共事業など13%増額された公共投資である」と述べている。
経済学者の原田泰は「公共事業が、経済を下支えしているのではなく、経済効率を低下させている。第一の矢と第二の矢の相乗効果などはない」と指摘している。原田は「景気が良くなったのが、公共事業をしたことによってなのか判断しなければならないが、海外の好景気によって輸出が増えて景気が良くなることもあるし、技術革新によって画期的な新製品が多数登場し、景気が良くなることもありうる。そのような公共事業と無関係の要因を取り除いて、公共事業を増加させるとどれだけGDPが増えるのかを検証しなければならない」と述べている。
エコノミストの櫨浩一は「現在(2014年)の日本では、公共事業による景気対策を行っても建設労働者の不足で事業が執行できないという状況になっている。今回(2014年4月)の消費税増税後に予想されていた需要不足に対して、5.5兆円という規模の2013年度補正予算で対策を講じたはずであったが、GDP統計を見ると4-6月期には公共事業は実質で前期比年率2%の減少(寄与度はマイナス0.1%ポイント)となっており、需要の下支えにはならなかった。日本全体で建設関連の労働者不足が起こっており、公共事業を増やしても景気の下支え効果が期待できない状況になっている」と述べている。
村上尚己は「建設セクターで人手・材料不足が起きているに、市場メカニズムを無視して、供給力を上回る公共工事の発注が実現している。増税によって集められた税収が、限定的なセクターに対して非効率に配分されている」と述べている。
雇用
片岡剛士は「正規雇用の労働者数が減っているのというのは、団塊世代の正社員が退職している影響が大きく、単純に悪いことだとはいえません。非正規雇用の労働者数が増えているのは、本でも触れていますが2013年に増えたのは女性の30〜40代のパートタイマーです。こういった人たちの多くは、民主党政権時代に起こったリーマン・ショックからの景気低迷で、職を失った人なんです。職を失った人が再び職を得られるようになったことを、非正規化の進行と理解するのは短絡に過ぎます。」と述べている。
消費税
浜田宏一は、アベノミクスの第1、第2の矢は需給ギャップを大きく改善させ「大きな役割を果たした」と評価する一方で、2014年4月の消費税率8%への引き上げは「ブレーキをかけた」と述べている。
若田部昌澄は「(2014年4月の)消費税増税が人々の予想に負の影響を与えた。アベノミクスは振り出しに戻ってしまった」と述べている。
本田悦朗は「個人消費、設備投資、住宅投資、インフラストラクチャー投資、すべて縮小してきている」と述べた。本田は、アベノミクス効果が2013年度に比べて減弱しているとし、消費税の10%への増税施行は1年半程度遅らせるべきであると述べた。本田によれば、持続的な経済成長には賃金上昇が不可欠であり、この延期期間を賃金が上昇するための猶予期間にすることができるという。
片岡剛士は「アベノミクスを経済政策として支持していた人の多くは増税に反対しており、安倍首相の政策だからという理由で金融緩和・財政出動に反対していた人は増税に賛成している、という構図がある。アベノミクスという政策パッケージと消費税増税にはまったく関係がない。アベノミクスという経済政策の枠組みとは、成立過程がまったく別のものである」と述べている。
竹中平蔵は「アベノミクスは最初の1年半は、うまく行っていた。歯車を狂わせたのは、当初アベノミクスのメニューにはなかった消費増税(5%から8%)を2014年4月に実施したことである。実際に引き上げたら、景気は失速してしまった。しかも、マイナスの影響は予想以上に大きく、長期化した」と述べている。
実質賃金の低下
服部茂幸は「実質賃金が大きく下がり続けているのが安倍政権の特徴である。消費税増税前からマイナスが拡大しており、消費増税だけが原因ではない。日銀の金融緩和による物価上昇もその1つの要因である」と述べている。
本田悦朗は、足元の実質賃金の減少は2014年4月の消費増税によるものとしており、「このままだと経済の好循環が確認できなくなる」と述べた。
片岡剛士は「名目所得の増加を超える物価上昇率の高まりによって、実質所得が低下していることを問題にするのであれば、早すぎた消費税増税を断行したことこそ批判すべきである」と述べている。
2015年2月4日、日銀の岩田規久男副総裁は、仙台市での金融経済懇談会の講演で「消費税引き上げによる実質賃金の引き下げ効果を除くと、一般労働者・パート労働者の実質賃金は前年比で大きく落ち込んではいない」「最終的に実質賃金は上昇に転じる」と述べている。
成長戦略
中野剛志は、文藝春秋2013年六月号に、『竹中平蔵「成長戦略」と言う毒の矢』と言う記事を寄稿している。ジョセフ・E・スティグリッツの意見を引用しつつ(#条件付の肯定、失われた20年#雇用の流動化に対しての批判参照)、「スティグリッツ的なケインズ主義に向けさえすれば」と条件付で肯定しているのと同時に、「今のアベノミクスは内部に新自由主義とケインズ主義が混在すると言う矛盾を抱えている。そして成長戦略と言う三本目の矢は、明らかに新自由主義に向いている。それは日本の経済、社会、政治そして倫理の根幹をも腐らせる毒の矢になりかねない。日本経済がデフレ脱却するには数年の時間がかかるかもしれない。その間に公共投資悪玉論や財政健全化論が再燃し、新自由主義が支配的になった場合、日本の希望の灯火も消える。安倍首相が新自由主義者を退け、スティグリッツ氏の理論を取り入れる事を切に望みたい」とまとめている。
松尾匡は「第3の矢は、金融緩和の足を引っ張るだけである。そういうことが課題となるのは、完全雇用になった後である」と指摘している」と述べている。
アベノミクス策定・遂行と成果・効果
この項目ではニューパブリック・マネジメント(新公共経営、新公共管理、NPM)の視点から、アベノミクスの政策策定から成果・効果の測定までを行なう。この必要は、アベノミクス第三の矢の集大成である「日本再興戦略」(内閣府、2013年6月14日)でも言及されている。以下、個々の政策について、策定過程・実施・成果・評価を行なう。
インフレ目標
約2年で2%のインフレ目標を達成する。(2019年時点で未達成)
政策策定過程
アベノミクスの「第一の矢」が安倍自民党総裁の経済政策の第1の柱となった経緯は、比較的よく知られている。
安倍総裁のデフレ対策案
「デフレこそ諸悪の根源」と考える総選挙前の安倍総裁によりアベノミクスの第一の矢として採用された。その概要は、以下の通り。
(1) インフレ目標を2%に設定し、日銀法の改正も視野に、政府・日銀の連携強化の仕組みを作り、大胆な金融緩和を行う
(2) 名目3%以上の経済成長を達成する
(3) 財務省、日本銀行、および民間が参加する外債ファンドを創設し、外債購入の方策を検討する
安倍首相にこのような考えをもたらしたのは、リフレ論者で、安倍首相が官房副長官時代に内閣府の所長をしていた浜田教授という。若田部昌澄によれば、自民党衆議院議員山本幸三が超党派の議員連盟「増税によらない復興財源を求める会」を作り、その会長に山本が安倍晋三を据えたことが発端という。安倍は、当初、半信半疑だったが、それが確信に変わっていく。そのあたりで自民党総裁選があり、安倍の後押しをしたのが山本らのリフレ派だった。その関係から、安倍は総選挙の最初から「金融緩和」を掲げた。これがアベノミクスの第一の矢になったという。
政策実施
安倍内閣は、大規模な金融緩和を唱えた黒田東彦を日銀総裁に指名した。黒田総裁は、総裁就任後の初の政策決定会合後の2013年4月4日の記者会見において、「量的・質的金融緩和」政策の概要を公表した。
物価目標を2年程度を掛けて年間2パーセントとするため、以下の5点にわたる政策を実施する。
(1) 日銀の市場操作目標を無担保コールレートからマネタリーベース(日銀券+日銀当座預金+貨幣[硬貨])へ変更。
(2) 2年後の日銀資産を現在(158兆円)の2倍近い290兆円にまで膨らませる。
(3) 買入れ資産対象を従来の短期国債中心から、中期国債その他に拡大する(平均残存期間を3年弱から7年程度に延長する)。
(4) 2パーセント程度のインフレが安定的に実現するまで継続する。
(5) 銀行券ルールを一時停止する。
この発表は、市場からは「驚き」をもって迎えられた。
政策成果
○失業率
完全失業率 全国・季節調整済・速報値 総務省労働力調査2012年11月4.1% 12月4.2%2013年 1月4.2% 2月4.3% 3月4.1% 4月4.1% 5月4.1% 6月3.9%(2013年7月30日公表)2013年4.0%2014年3.6%2015年3.4%2016年3.1%2017年 3月2.8% 4月2.8% 5月3.1% 6月2.8%(2017年7月28日公表)
○物価指数
消費者物価総合指数(前年同月比) 6月に入り始めてインフレ方向に転じた。内閣府統計局消費者物価指数2012年11月-0.2% 12月-0.1%2012年0.0%2013年 1月-0.3% 2月-0.7% 3月-0.9% 4月-0.7% 5月-0.3% 6月0.2%(2013年7月26日発表)2013年0.4%2014年2.7% 目標達成2015年0.8%2016年-0.1%2017年 3月0.3% 4月0.4% 5月0.4% 6月0.4%(2017年7月28日公表)
○実質GDP成長率
2013年2.0%2014年0.3%2015年1.2%2016年1.0%
名目GDP成長率
2013年1.7%2014年2.1%2015年3.3% 目標達成2016年1.3%2017年1.0%(2017/1〜3年率換算)
○株価上昇
第二次安倍内閣の発足以前から見られたが、日経平均(日経平均株価225)は2012年11月末の9,446円から2013年6月末の13,677円まで約45パーセント上昇した。この間の最高値は、2013年5月23日の15,942円。オプション価格から計算されるボラティリティ指数(Implied Index)は、2012年11月末の25.8から2013年6月末の21.84に推移しているが、2013年5月23日から27日までボラティリティ指数が3日間にわたる高値が40%を超え、6月に入っても高値が40%を超える日が10日あった。
5月末の株価大変動 / 5月23日、一日で約1,500円の値幅(高値-低値)を記録した。5月末の株価大変動と円高で市場が乱高下し、経済金融アナリストの吉松崇はボラテイリティの増大を懸念している。2017年3月末1万8909円26銭
○消費需要の動き
1月-4月 / 百貨店の美術・宝飾・貴金属などの売上が上昇していると報道されている。実際、2013年1月〜4月の同売上は前年同月比で6.8%、8.6%、15.6%、18.8%上昇している。しかし、百貨店の総売上は0.2%、0.3%、3.9%、-0.5%と低迷している。同じように、同期間のスーパーの売上高は前年同月比で-4.7%、-5.5%、1.7%、-1.9%、同じくコンビニの売上高は-0.9%、-4.7%、-0.4%、-2.6%と前年に対し減少している。
5月、6月 / 
全国百貨店 2013年5月 対前年比 2.6%増6月 同 7.2%増
スーパー 2013年5月 対前年比 0.2%増6月 同 2.8%増
コンビニ全店 2013年5月 対前年比 4.1%増6月 同 5.5%増
コンビニ既存店 2013年5月 対前年比 -1.2%増6月 同 0.1%増
○法人税率
2012年25.5%2015年23.9%2016年23.4%2017年23.4%
設備投資
日本政策投資銀行の全国設備投資計画調査(2013年6月調査)によると、2013年度計画は、2012年実績に比べ、全産業で10.3%増、うち製造業10.6%増、非製造業10.1%増。
なお、2011年度実績に対する2012年度実績は、全産業で2.9%増、うち製造業2.7%増、非製造業3.1%増であった。これに対し、2013年度実績に対する2014年度計画は、全産業で▲10.0%、うち製造業▲12.4%、非製造業▲9.0%と減少計画となっている。比較は、データが共通にある起業についてのみ行なわれ、2012年度実績は2,088社、2013年度計画は2,205社、2014年度計画は994社の共通回答に基づいている。
投資動機では、全産業2013年計画で能力増強39.5%、維持・補修21.4%、新製品・製品高度化9.5%、合理化・省力化7.1%、研究開発9.0%、その他18.3%となっており、「維持・補修」のウェイトが調査開始以来最大となっている。
企業の資金需要に関係する設備投資計画/キャッシュフローDIは2013年度計画で全産業▲40.3となっている(これは設備投資額がキャッシュフローを上回ると答えた企業数が29.9%、下回ると答えた企業70.2%を意味する)。これは企業の借入需要は回復していないとも、約1/3の企業で資金需要が出てきたとも解釈できる。
地域別(資本金1億円以上)でも2012年度実績にたいする2013年度計画は全国全産業で9.5%増となっているが、北海道と北関東では前年度実績を下回る計画となっている。逆に東海と四国では、増加率が20%を超えている。
賃金低下
2013年のフルタイム労働者の平均月額賃金が前年比から0.7%減少し、4年ぶりに賃金が前年を下回った事が厚生労働省の賃金構造基本統計調査(全国)によって判明した。
また、非正規雇用者が2013年11月時点で1964万人と過去最多となる一方で、正規雇用者は2013年1月から11月までの間に26万人減少しており、雇用の質の悪化が進んでいる。2013年11月の正社員有効求人倍率は0.63倍にとどまっており、大半の新規求人は非正規である。
2014年7月の実質賃金は前年比で6.2%落ち込んだ。
但し、景気回復期に於いて、雇用が数値的に改善される時は、低賃金から始まる新規就業者の雇用が増えるため、一時的に賃金の平均が下がることはあり得るとの見方もある。
消費者態度
内閣府の消費動向調査(2013年7月調査、8月9日発表)の総世帯・季節調整済み数値で消費者態度指数は、5月45.6、6月44.3、7月43.6と2ヶ月連続で悪化している。一般世帯季節調整済みでは、5月45.7、6月44.3、7月43.6である。回答の区分構成比は、下表の通り
消費者意識指標 平成25年7月 原数字(単位%、意識指標はポイント)
     良くなる/やや良くなる/変わらない/やや悪くなる/悪くなる/重み付きDI
暮らし向き 0.5 6.3 59.8 26.7 6.7 -32.8
収入の増え方 0.3 5.4 61.4 24.2 8.7 -35.6
雇用環境 0.3 18.3 60.9 15.4 5.0 -6.5
耐久消費財の買い時判断 0.4 15.3 51.7 26.9 5.6 -22.0
資産価値の増え方 0.6 11.6 65.0 17.5 5.4 -15.5
消費税率の引き上げ
2014年4月から6月までの改訂版の実質経済成長率はマイナス1.8%、年率換算値でマイナス7.1%であった。
速報値は年率マイナス6.8%であったが、それが下方修正された。これは2009年以降で最大の下落率であり、専門家らはこの下落は消費税の増税のためであると述べる。
国債格付け
2014年-2015年に、3大格付け会社のムーディーズ、フィッチ・レーティングス、スタンダード&プアーズはアベノミクスの効果を疑問視し日本の国債の格付けを下げている。
思想的・経済学的背景
大胆な金融緩和
デフレ対策としての量的金融緩和政策、リフレーション
機動的な財政政策
公共事業投資、伝統的なケインズ政策
民間投資を増やす成長戦略
イノベーション政策、供給サイドの経済学
大阪市立大学の塩沢由典名誉教授(複雑系経済学)は、アベノミクスの3本の矢は、それぞれ異なる経済理論・経済思想に基づいていて相互に矛盾があり、アベノミクス全体は整合的な政策体系ではないと述べている。
早稲田大学政治経済学部の若田部昌澄教授(経済学史)は、自由民主党内のアベノミクス推進派には、4つくらいの経済思想が「共存」していると述べている。また、「アベノミクスには、自民党内の政治力学、あるいは政治的妥協の産物という顔と、経済政策のパッケージという2つの側面がある。そもそも安倍首相の復活には麻生太郎、甘利明ら自民党実力者の力が大きく働いた。ここから、3人の実力者のお気に入りの経済政策アイデアを束ねるという妥協が生じた。『第一の矢』大胆な金融緩和(安倍)、『第二の矢』機動的な財政政策(麻生)、『第三の矢』民間投資を呼び起こす成長戦略(甘利)である。こうした妥協の産物として、アベノミクスは関係者をそれぞれ満足させる『三方一両得』のようによくできている」とも述べている。
2013年にノーベル経済学賞を受賞したイェール大学のロバート・シラー教授は、「個々の政策に目新しさはないかもしれないが、組み合わせた点は珍しい」と評価している。
フランスのレギュラシオン学派の経済学者として知られるロベール・ボワイエは、「アベノミクスは、イデオロギー的なケインズ主義である」と述べている。
上武大学の田中秀臣教授(日本経済思想史)は、「池田勇人の経済政策である所得倍増計画は、1)日銀の金融緩和政策スタンス、2)インフラ整備中心の財政政策、3)貿易の自由化・エネルギー政策の転換・規制緩和など、によって実現を目指すものであった。この3つの要素は、アベノミクスの『三本の矢』と相似している」と述べている。
それぞれの政策には、経済学者の応援団がついている。以下はその簡易なリストである。
大胆な金融緩和 / 浜田宏一、岩田規久男、若田部昌澄、伊藤隆敏、浅田統一郎
機動的な財政政策 / 藤井聡、三橋貴明、小野善康
民間投資を増やす成長戦略 / 竹中平蔵、伊藤元重
3つの政策のそれぞれに激しい対立がある。まず、それぞれに対する賛否およびそれぞれの政策間の矛盾について解説する。
リフレーション政策について
デフレーション(物価の持続的な下落)をマイルドなインフレーション(年率2-3パーセント)に転換することを目指す一連の政策をインフレターゲット政策という。これまで多くの国々において、高騰するインフレ率を抑制するための対策としてインフレターゲットが掲げられてきた。インフレターゲットの設定によるリフレーション政策(リフレ政策)は、アメリカのノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン(国際経済学・経済地理学)が提唱し、それに賛同する経済学者・エコノミストたち(リフレ派)が長く導入を求めていた。リフレ派の代表的な経済学者には岩田規久男、浜田宏一、原田泰、高橋洋一ら、エコノミストには森永卓郎、山形浩生、勝間和代らがいる。また、リフレ派の観点から経済学者を格付けした『エコノミスト・ミシュラン』という本もある。
田中秀臣は「現在(2015年)の日銀の金融政策の方向性は、インフレ目標政策・量的緩和などリフレ政策のメニューそのものである」と述べている。
リフレ派と反リフレ派との間には、過去10年以上にわたる激しい論戦があった。たとえば、小野善康は、「アベノミクスの金融緩和は、デフレ脱却への道筋とはならない」と批判している。その一方で、原田泰は「金融緩和によってお金を増やせば、必ず物価が上がり、名目GDPも増加する」と述べている。
アベノミクスの登場により、リフレ派と反リフレ派の争いはさらにエスカレートしている。アベノミクスに対する経済学者・エコノミストの賛否も、多くはリフレ政策の有効性と危険性をめぐってのものである。
リフレ派の多くは、クラウディング・アウト、非ケインズ効果、マンデルフレミングモデルに基づいて、反対しないまでも、財政出動にはあまり効き目がないと主張している。浜田宏一は、「有効需要をつけるために景気を財政で鞭打つというのは、変動相場制の下では有効な政策ではない」と述べている。ただし、リフレ派とされる飯田泰之は、ゼロ金利など流動性の罠に陥っている状況では、財政出動により利子率が上昇する事実はなく、マンデル=フレミング効果の適用には「理論的背景について十分な整理が必要」としている。
日本銀行法改正
安倍内閣の内閣参与である本田悦朗は日本銀行法を改正して物価安定とともに「物価安定を阻害しない限り雇用の最大化を図る」ことを条文で明示するよう主張している。また、日銀法改正の必要性は安倍首相に「会うたびに言っている」と述べている。
2015年2月4日、安倍晋三首相は衆議院予算委員会で、日銀法改正について「将来の選択肢として視野に入れていきたい」と述べた。
成長戦略について
規制緩和・構造改革
若田部昌澄は「アベノミクスの成長戦略は、産業政策的なターゲット政策・官民ファンドが中心であり、規制改革・民営化は副次的である」と述べている。安倍内閣の産業競争力会議メンバーである竹中平蔵は「経済を成長させるためには、規制改革を進めなければならない」「日本経済を動かすには、枠組みを変えなくてはいけない」と述べている。
社会政策
安倍内閣は2020年までに最低賃金を時給1000円まで上げる方針を示している。
アベノミクス解散
2014年11月21日、安倍晋三首相は2014年4月の消費税増税による予想以上の景気の落ち込みで、アベノミクスの継続を問うとして衆議院を解散し、勝利した。
関連人物
内閣官房長官の菅義偉は、浜田宏一と本田悦朗について「2人はまさに『アベノミクス』を作った。多くの反対があったが、実行したらあらゆる経済指標がよくなり始めた」と述べている。
高橋洋一 - ブレーンの一人。第1次安倍内閣では経済政策のブレーンを務めた。嘉悦大学教授(財政学)。
浜田宏一 - 経済政策・金融分野のブレーンの一人。第2次安倍内閣の内閣官房参与。安倍晋三の父・安倍晋太郎が興した「安倍フェロー」の研究員となったことから、安倍首相との親交が生まれた。東京大学・イェール大学名誉教授(国際金融論・ゲーム理論)。
黒田東彦 - 日本銀行総裁。金融政策ブレーンの一人である。
本田悦朗 - ブレーンの一人。第2次安倍内閣の内閣官房参与。2016年より、駐スイス・駐リヒテンシュタイン特命全権大使、兼欧州金融経済特命大使に任命される。
岩田規久男 - 日本銀行副総裁。経済ブレーンの一人。上智大学・学習院大学名誉教授(都市経済学・金融論)。
中原伸之 - 金融政策のブレーンの一人。元東亜燃料工業(現・JXTGエネルギー)株式会社代表取締役社長。日本銀行政策委員会審議委員も務めた。
山本幸三 - 野党時代、安倍に経済政策をブリーフィングし安倍をリフレ派に導いた。自身について、アベノミクスの原案作りに携わる。第3次安倍内閣 (第2次改造)において内閣府特命担当大臣(地方創生・規制改革)。
藤井聡 - 第2次安倍内閣での内閣官房参与(防災・減災ニューディール政策担当)。国土強靭化計画の提唱者。京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学)、同レジリエンス研究ユニット長。
 
 
 
 

 

●アベノミクスの功罪
 
 
●アベノミクスの功罪 
デフレ脱却のための物価上昇率2%目標は達成できず、結局、昨年2%の目標時期を未定にした日銀。日銀の国債の買いオペは2012年度44.9兆円、2013年度88.0兆円、2014年度96.6兆円、2015年度114.9兆円、2016年度115.8兆円、2017年度上半期50兆円とアベノミクスが始まって以来ずっと買いオペの量が増えていて、もう日銀が400兆円を超える国債を持っています。
しかし、そもそもアベノミクスが始まって、約6年、本当にアベノミクスは成功してきたのでしょうか?
そこで、今回は二回に別けて、国民の所得だけではなく、国自体も揺るがせないアベノミクスの功罪について考えたいと思います。まず、一回目の今回はアベノミクスが間違っている理由について考えたいと思います。
アベノミクスを一言で言うと浅はかでしかありません。これは端的に言うと、今まで日本がやってきた高度経済成長の夢をもう一度政策です。現在の日本のGDP500兆円を600兆円にすると言っていますが、経済成長は今の時代、もはや意味がありません。アベノミクスで物価上昇率年2%を目標に掲げ、デフレ脱却を目指しています。とにかく、世の中のお金の量を増やせば、インフレになるだろうという浅はかな考えです。結局、何年もやってきてもインフレなんて起きていません。
アベノミクス初期の3本の矢は
・大胆な金融政策
・機動的な財政出動
・民間投資を喚起する成長戦略
です。
アベノミクスが根本的に間違っているのは、大胆な金融政策つまり異次元の金融緩和です。従来の景気が悪くなったら、金利を下げ、それでも利かなくなったら、金融緩和でお金を増やすと同じことを行っているに過ぎません。結局、今までの仕組みの中で、借金を増やしてお金を増やしているだけです。要はアベノミクスの異次元の金融緩和は世の中の借金の量を増やしているだけです。
しかも、同じことを異次元のスピードでやっているからさらに加速させています。そもそも世の中のお金の量が問題ではありません。アベノミクスをやる前から実体経済を遥かに超えるマネーストックがあります。だから、お金が足りないわけではありません。ただ、本当に必要な人の所へ届いていないだけです。今の金融資本主義では届かない仕組みになっているからです。
その結果、経済成長がないかので、銀行が信用もできず、安心して貸せる相手もいないから銀行が土地担保融資みたいななるべくリスクがない様な形でお金を貸そうとします。そうするとそれを手にした人達が土地を買います。アベノミクスやり出してから地価がジワリジワリ上がっています。これは土地やマンションに投資する人にたくさん貸し出すようになり、それを押し上げているに過ぎません。喜んでいるのは土地を持っている高齢な人達です。若い人達が負担になっているのが家賃です。日本の場合、バブルが崩壊して一時的に地価が下がったが、それでも世界的にみれば地価が高いです。アベノミクスのせいでお金が不動産市場に流れると、それが不動産価格を高止まりさせます。お金を借りた人が不動産を買って、金利を含めたお金を返すために家賃を高く設定して、結局若者は何も持っていないから、社会に出たときから高い家賃を払わされます。持てる人達はどんどんリッチになり、持てない人は搾取されます。地代と金利は何の生産性をもたらさない不労所得です。結局、家賃を高止まりさせて、その家賃は若い人たちが払う一方なのです。だから、どんどん格差が広がって当たり前なのです。お金というのはヒエラルキーがあって一番上がお金を貸す人で、その下が信用がありお金を借りられる人、一番下は信用もなくお金を借りられない人達です。そのお金を借りられない人達が、一方的に払う人達になり、全部そのコストを負担しているのです。
積極財政策も結局、国家戦略特別区域の人達が利益を得る政策です。成長戦略もいくら成長を描いたところで、そもそも経済成長がずっと続く筈がありませんアベノミクスは今まで通りの悪い方向へ加速しているだけなのです。
お金の発行の仕組みは全部が誰かの借金でその全てに掛かる金利はその借りた人の手によってあらゆる製品、サービスに組み込まれ、その元々お金を貸している人にいく仕組みになっています。そのお金を使って経済を動かせば動かせるほど、金利は元々お金を持っている人達に集められていきます。
お金を借りる為に作られた金利が全てのモノの値段に含まれていくから、労働所得のコストカット、消費者として上乗せされるから搾取され続けることになります。労働所得が低ければ実際にモノを作っている人達が苦しくなります。高齢の人達は引退して、これからどれだけお金を使うか解らないから結局使わず、貯めて、自縄自縛の状態になります。
GDPを上げることは高度経済成長期には上手く行っていました。しかし、バブルが崩壊しても高度経済成長期と同じ成功モデルにしがみつき、その結果、ひたすら国民のコストを削りました。アベノミクスはそれに拍車を掛けているだけなのです。
結局、お金を巻き上げて全て資本家が持って行ってしまう仕組みがあるから、その中でいくら金融緩和してもお金は回ってきません。日銀の金融緩和は借金を増やすための金融政策で、日銀が発行済み国債900兆円の内、400兆円を買ってしまっています。それだけではなく、2018年はETFの買いオペは6兆5049億円に達し、日銀のETFの保有残高は23兆円、時価で日本の市場の約4兆円です。また投資信託、株式、J-REITも買いオペを続けています。そんな状況が続けば、いくら日銀が買いオペをしても企業経由で給料としかお金を得られない国民にお金が行き届く筈ありません。その一方、国民は依然、安い賃金で長期間労働を強いられています。厚生労働省の国民生活基礎調査の調べでは日本で生活苦しい人は60%です。6人〜7人に1人は相対的貧困(年収200万円以下の人)で、1人暮らしの女性は、20歳〜60歳の相対的貧困は3人に1人です。
これだけ、日銀内の民間銀行の口座に500兆円近くものお金があるのに民間銀行はなかなか、国内に投資をしません。2016年のマイナス金利政策とイールドカーブコントロール政策をしても、民間銀行は国内に将来絶対に金利も含めて、お金を返してくれるだろうという成長見込みがある企業が見つけられず、貸出相手がいない状況が続いています。借金とお金がどんどん増え続けるにもかかわらず、経済成長が止まれば、お金ばっかり増えたって使いようがありません。
しかも、悪いことにアベノミクスは円安政策を取っています。円安政策で喜ぶのは大手輸出企業です。大手輸出企業が固まっている経団連が自民党に大きな献金をして、利益誘導政治をしています。アベノミクスと消費税増税は矛盾する政策です。何故なら、お金を増やす一方で、消費税でその増やしたお金を取るので、マネーストックが減ることになり、政策は矛盾しているからです。法人税の減税も明らかに人のための政策ではなくて、ごく一部の大手輸出企業のための政策です。
その結果、消費税を上げる代わりに、毎年のように、法人税を引き下げて貰っていた上場企業590社の内部留保が2017年度時点で446兆4844億円とアベノミクスの5年間で43.4%増加しました。ただ、金融危機があった時の保険ために大企業の預金口座に眠っているお金が増えた所で、それは国民の給料として支払わられず、消費として使われないお金なので、物価は上がらないのは当然なのです。
TPPで関税撤廃も大手輸出企業のためです。それをやれば、輸出は増やせるという言い訳をしていますが既に日本はずっと輸出黒字を稼ぎ続けています。これ以上黒字を稼いでも仕方ないのにもかかわらず、同じようなことをしています
オピンピックも巨大なインバウンド政策です。結局、観光客がドルを円に換えて行くので、国内で貯まっていくのはドルです。これは国内輸出と同じで、またひたすら外貨を稼ぐだけです。今そんなことやる必要はありません。
カジノもそうです。カジノなんて博打産業ですので、時間と労力の無駄な事業です。生産性のないカジノでGDPを増やしても全く意味がありません。GDPや株価を上げることは高度経済成長の指標になっていた数字の所だけを上げても意味がありません。お金を膨らませたら株価は上がるかもしれないが、株価がいくら上がろうがそれで実体価値が増えるわけではない。
日本の個人金融資産は60歳以上が7割を持っています。個人金融資産はアベノミクスが始まって、約200兆円増え、現在、1818兆円になっています。
これはアベノミクスの恩恵以前に税金の取り方に問題があります。
日本の株式、土地、為替の売買の利益や配当所得等は分離課税制度となり、所得税は20%と一律です。しかしその一方、労働所得は総合所得となり所得税の最高所得税率は住民税を合わせると55%です。必死に働いている実体価値を作っている人達よりも単に株、土地、為替の売買で儲けている人達の方が税金が低いのです。
要するに、アベノミクスは元々お金を持っている人達がさらに金利と株価上昇でお金を増やし、ずっと低賃金で働かされている国民の労働力を搾取し、大企業が儲けるための政策なのです。
アベノミクスがやっているのは国債の大量の間接引き受けです。つまり、日銀が民間銀行の代わりに国の借金を肩代わりしただけです。
アメリカの中央銀行にあたるFRBが金利を上げ続けていて、これは計画的に高金利を保っています。円だとほとんど金利が付かないので、銀行は高金利のドルを買っています。そして、アベノミクスの副作用の最大の汚点はだぶついたお金が海外投資に回っていることです。銀行が国内の投資に回せないので、海外に投資していることです。銀行は日本国内で貸す相手が見つからないからそれをドル転して、高い金利のドル資産を買っています。
現在、2017年度末の日本の対外資産は1012兆円突破しました。これは純粋に日本が海外に投資している金額です。しかし、この数字は実際には円ではなく、ドルで貯まっているのです。
一方、対外負債つまり、海外から日本への投資は683兆円です。ヨーロッパに対する投資が18%、アメリカに対する投資が4.5%前年比伸びています。前年比ですと、海外に投資している部分が26兆円増えて、投資を受けている分が34兆円増えました。差し引き前年よりより多くの投資を受けています。それによって8兆円、対外純資産は減っています。
これはあくまでも円換算数字で実際は貿易の通貨はドルで決済するので、日本の対外資産は10兆ドル程度です。つまり、純資産は外貨、現地通貨なのです。
一方、683兆円投資を受けている部分は外国人が持っている円資産です。
これは為替レートが重要なファクターになってきます。
確かに、この為替レートで推移している間は儲かります。100円の間は良いですが、もしこれがドル円が70円に下がれば、10兆ドルは700兆円になり、日本の対外純資産はほとんどなくなります。今のドルの実力からすると、ドル円の為替レートが100〜110円に留まっているようなレベルではありません。
アメリカの対外純負債は9兆ドルです。世界中から借金をしているドルは紙クズ同然の資産です。
今のアベノミクスは日本政府がドル円の為替レートが下がらないように大手輸出企業に加担しています。アベノミクスで大量のお金を作り出していますが、お金を貸す相手が日本国内に見付からず、そのお金がどんどん海外に投資され、出て行っています。しかし、そのお金は円で出て行っていません。
大量にお金を持った銀行が、日本国内に投資できないから、円を売って、それをドルや他の通貨に換えているのです。これは、銀行が売った円は海外に出て行くわけではなく、必ず国内に留まって、その売られた円を市場で外国人投資家が買うことになります。こうして、日本の対外負債が増えて行きます。
目先の利益しか考えていない銀行はもし、ドルが暴落したら、ドル資産は無価値になります。こういった馬鹿げた政策をすると、どんどん海外の資産を買って、日本の資産(株、土地)を外国人に売り渡すことになります。その円で、日本の株や土地を買って、日本の資産を抑えることになります。現在、東京証券取引所の30%以上が外国人投資家が持っていて、日本の土地、国債、著作権で日本に投資している部分が680兆円あります。つまり、日本の支配権を海外に売り渡し、海外の罠にはめられているということです。その一方、海外の不良資産を買わされ続けています。これは、明らかに意図的にやっています。日本政府が解っていてやっているのか解らずにはめられているのかは解りません。
結局、それで海外資産を買い続けて、もしある日突然ドルが暴落することになったら、日本は一気に借金大国になります。それがどんどんアベノミクスで進んでいます。
一瞬の為替の崩れでいつのまにか円高になり、世界最大の対外純負債に転落する可能性があるということです。それは恐らく、計画的にやられています。日本の市場を解放したら、一気に外国人投資家が入ってきました。だから、他人のボロ屋を買って、自分の豪邸を売り渡す行為を計画的にやっているとしか思えないのです。中国は賢く、ドル離れをして日本の資産を買っています。
しかし、アベノミクスや安倍政権を批判している野党も、解決策や問題の本質が解っていないので、結局、期待しても時間の無駄です。とにかく、アベノミクスには出口戦略が全くないのです。それは、アベノミクスではなく、現代のお金の発行の仕組み自体が問題なのです。
アベノミクスは考え方が古すぎます。出口戦略を何のことを言っているのは解っていません、
アベノミクスの怪我の功名は少なくとも今までのやり方がダメだとわかったことくらいです。既存の仕組みではこの方法でしか金融政策はできないということです。政府が借金をするか、民間銀行が民間企業に貸し出すかの2つの方法で、いずれにしても借金を増やす以外でしか、お金は増やません。
新規国債発行も一定期間の国債はマイナス金利が付いて、その分、民間に貸しなさいというのが異次元の金融緩和ですが、結局、民間への貸出残高は10兆円ずつしか増えていません。日銀内にある民間銀行の預金残高の400兆円のほとんどがブタ積みになっているだけで、マネタリーベースは増えていますが、マネーストックは劇的には増えていません。現在、マネーストックM3が1300兆円で、民間企業への貸出残高が400兆円で日本の政府の借金が900兆円になっているので1300兆円の内400兆円程度が民間の企業への借金として発行していて、あとの900兆円は日本の政府が借金をして、お金を発行しているということです。現在、日銀が日本の国債を400兆円買っていることということは、900兆円の内半分近く、日銀が国に貸しているということです。
アベノミクスの功名は政府が日銀に借金をしているので、それをそのまま政府通貨で置き換えて消してしまうことに何の問題もないということです。これは、無利子の永久国債と入れ替えても同じです。日銀は基本的には行政の一部で、自分達でバランスシート作っているだけなので、400兆円分政府通貨と置き換えてしまっても何も問題ありません。政府が日銀に払っている利息は結局、国庫に納付されるので、自分たちの中でやっていることです。要するに、日本の政府の借金は400兆円消せるということです。同じことを後の残りの500兆円でやることも可能です。
それで困るのは銀行だけです。銀行は国債を持つことで今まで曲がりなりにも低い利息でも安定して利息を受け取っていましたが、それが日銀に買われたことで、国内に運用先を見付けられません。銀行も貸せる相手を見つけられなくなってしまっていることは、無尽蔵にお金を借りてくれる人がいないということです。借金を増やし続けても限界があります。
カジノ法案を通して、賭博の資金を銀行が貸そうという話になっているのはとにかく借金を増やし続けなければならないから、そうなっているだけです。現在の金融市場はカジノと一緒で負け続けてくれる相手に金利を付けて、どんどん貸し込むのと同じです。全体を観れば価値の内賭博場になっています。
また、最近特に多い借金の増やし方はクレジットカードです。クレジットカードは貸し手が後からお金が回収されるので、ダブルの金利を払っているのです。クレジットカードは受益者負担ではく、クレジットカードを使う人がいればいるほど、回収しないといけないので、店側はクレジットカードを使っていない人、いる人関係なく、全てのモノの値段にその手数料を入れていくことになります。クレジットカードを使える人と使えない人でまた格差が広がっていきます。
現在、日本は日本の株を持っていて利益が出ても、分離課税のせいで税金優遇されているので、株取得規制や税制改正を掛けなければ、国を守れません。
国防は軍事力だけではなく、経済戦争の方がはるかに重要です。軍事力はあくまでも見世物で、戦いの本丸は経済戦争です。
やるべきことは通貨発行権を政府に取り戻すことです。直接の政府の国債の引き受けは法律で禁止されているので、やっていないが代わりに日銀が民間銀行から買って、同じようなことをやっています。
しかし、アベノミクスの金融緩和は結局、借金を大量に増やすだけなので、絶対に経済成長は追いつかなくなります。だから、誰の借金でもないお金を発行して、内需拡大をして、国民にお金を配ることが的策なのです。
日銀が政府の債権を400兆円以上持っている今こそ、信用創造でお金を発行する仕組みを止めて、政府通貨を発行して、400兆円の国債を政府通貨に置き換えるべきなのです。 
●経済政策の過ち  
2019年度の公的年金の支給額を4年ぶりに前年度比0.1%引き上げると発表しました。2019年度の年金の支給額は、自営業者らの国民年金(満額)で月6万5008円(前年度比67円増)、会社員らの厚生年金は、夫婦2人の標準的な世帯で22万1504円(同227円増)となりました。
しかし、その一方、マクロ経済スライドと呼ばれる将来、年金を貰う世代が減り過ぎないように抑制する仕組みが2004年の導入以来、二回目の実施となり、物価の伸びに比べると上昇幅は小さく、実質的な年金の価値は目減りしました。マクロ経済スライドとは少子高齢化で保険料を負担する現役世代が減り、年金を受け取る人が増える中、高齢者にも痛みを分かち合って貰い、年金財政の持続性を維持する狙いがあります。年金の支給額は毎年、経済動向を踏まえて改訂されます。その支給額の決め方ですが、物価や現役世代の賃金の変動と連動して、毎年見直されます。2018年の物価上昇率は1.0%、賃金上昇率が0.6%でした。物価上昇率よりも賃金上昇率が低い場合、賃金を基本に計算します。物価上昇率と賃金上昇率が共にマイナスの場合は実施されません。抑制率は、平均寿命の伸び率や公的年金の被保険者数の変動を基本にして決めます。
今回は指標となる物価、賃金ともに上昇し、本来であれば、賃金変動率に合わせて0.6%の増額になるところ今年の抑制率0.2%と2018年度の繰越された未実施分の抑制率0.3%の合計、0.5%が圧縮されて、増額は0.1%に留まりました。マクロ経済スライドはデフレ化では適用しないルールのため、国内経済の低迷で2015年度の一度しか実施されていませんでした。そこで、政府は過去に実施できなかった抑制分を翌年度以降に持ち越せるように、2016年に法改正をしました。今回はこの新ルールも始めて適応されました。将来、年金の支給額は実質的に徐々に目減りしていく予定です。2014年に公表された年金財政の長期見通しでは、経済条件を中間的にとった場合、現役世代の手取り平均収入に対する厚生年金のモデル世帯の年金給付水準は、30年後に約2割低下するとしています。また、給付額の水準がその時の現役世代の手取り平均収入の50%を維持することは法律に明記されていて、これを下回る場合は、法改正が必要になります。つまり、最低でも年金の支給額が現役世代の手取りの平均収入の半分まで下がるまで、支給額の法改正はされないということです。
公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2018年10〜12月期の収益額で14兆円規模の損失を出しました。21世紀に入り、皆さんが毎月払っている年金保険料が積立方式ではなく、その集めた年金保険料、約160兆円をGPIFが元金として運用して、その運用益も含めたお金がそのまま現在の受給者に対して支給額として支払わられる賦課方式だということが明らかになりました。
そして、その運用のポートフォリオの内、国内債権が35%程でその中には日本政府の借金である国債が含まれています。日本の政府の借金はほとんど、国内の貸し借りで過ぎなく、日本の国債の9割以上は日本の銀行、生命保険、損害保険、GPIF等の機関投資家が保有して運用しています。つまり、現在、年金を受給している人達はGPIFが運用してもらって、国債の利息を間接的に受け取っていて、その年間の利息を政府は借り換えて払っているのです。今期、GPIFは14兆円損益を出しましたが、2001年の運用開始から平均収益率は年率3.33%、累積収益額は71.5兆円と17年間の運用は成果を出しています。しかし、これだけ成果を上げても、年金の受給額は2019年度みたいに、わずかしか上がらない年もあれば、下がる年もあります。
団塊の世代の全員が65歳以上の年金受給者になってから、約4年が経ちました。国民年金の免除、猶予申請をしていないと平成30年度から年間所得が300万円以上で7ヵ月間以上、年金保険料が未納だとほとんど税金と同じ仕組みで強制的に徴収されます。これからさらに労働人口が減り、年金の支給額も減る一方で、今の年金システムはGPIFの運用次第のまさに綱渡り状態です。
しかし、日本は世界一のお金持ち国です。現在、日本の対外純資産は3兆ドルで世界第一位です。対外純資産とは日本が海外に投資している海外の通貨、証券、債権、土地、モノ、サービス等の金融資産から外国が日本に投資している日本の通貨、証券、債権、土地、モノ、サービス等の差し引き、つまり輸出と輸入の差し引き金額です。それが、3兆ドルもの経常黒字が貯まっているのです。
そんな世界一のお金持ち国である日本が何故、「将来、自分は年金が貰えるか?」、「貰えても僅かしか貰えないのではないか?」といった低い次元の話で悩まなくてはならない状況になってしまっているのでしょうか?
勿論、少子高齢化対策をしてこなかった政府に問題があります。団塊ジュニア世代以降の世代がバブル崩壊後と共に就職氷河期世代となり、そのままその世代を放置し、現在も派遣労働者やフリーターとして生きていて、とても結婚や子供を作れる状況でないことをずっと看過してきました。特に小泉、竹中政権時代に大きく職種を広げた派遣労働者制度のせいで未だに労働に苦しんでいる人達が多くいます。
しかし、年金の問題はあくまでもお金の問題であって、多くの現役世代の労働者が働いて、沢山の年金保険料を払ってくれるかどうかということは労働で得たお金で年金保険料を払うという間接的に労働がお金に紐付いているだけであって、また話は別です。
人口がさらに増え続けないと年金が支給できないというのならば、その増やした子供達が結婚して子供を作ろうという時に、それ以上の数の子供を作らなければ、この年金システムは破綻してしまいます。実際、団塊の世代が多くの子供を作り、その子供達が現在、40代の現役世代として働いており、あと20年ほど経てば、年金受給者となり、その負担は現在の子供達に強いられます。ある世代で多くの子供を作れば、その世代を超えて子どもをより多く作らないと年金が貰えないというサイクルに入ってしまえば、永遠に抜け出せず、ただ単に子供の数を増やせば良いということだけがこの年金システムを崩壊させないための条件ではありません。
ですので、現在の年金システムの根本的な問題は子供の数ではありません。日本人はホワイトカラーの生産性は世界一です。ですので、一人当たりの労働力の生産性、効率性をみれば、十分、年金システムが破綻しないだけのお金を稼ぐ力はあるのです。
ただ、そうなっていないのは、政府が大手輸出企業のためにいつまでも、輸出でGDPを上げることに加担して、円安政策をし続けて、内需を拡大してこなかったことに尽きるからです。
昨年12月に発行されたTPP11で関税をなくして、輸出を増やすという意見がありますが、根本的に輸出を増やすのは間違いです。輸出型の経済の成功は戦後復興まででした。日本は戦後、焼け野原状態で国内で加工する資源も、海外から資源を買う外貨もなかったので、まず海外からドル借款し、ドルで加工するための原材料買って、国内で製品化し、製品を輸出し、その得たお金で海外からの借金を返済するしかありませんでした。そして、ドル借款は1970年代に終わりました。1971年のニクソンショックから、為替相場でずっと円高になり、ドルが国家単位で売れないのでどんどん円高になり、ドルが貯まって行きました。
しかし、日本はそれをやり過ぎてしまったために、デフレになってしまいました。1985年のプラザ合意で当時のアメリカの貿易摩擦解消のために、ドル安、円高、マルク高誘導しました。バブル期の3年間だけ内需拡大型の経済政策をしましたが、バブルが崩壊してから、また元の輸出型の経済に戻り、輸出でGDPを増やした結果、案の定、円高になりました。例えば、1ドルが200円から100円になると、今まで国内で200円で生産して、海外に1ドルで売ってきたモノが、200円で生産すると海外に2ドルで売ることになります。そうなると、当然、外国人は同じ製品が今までの価格の2倍になるので、買うのを躊躇い、海外で日本製の製品は売れなくなります。しかし、それでも多くの輸出を止めなかった日本はひたすら、コストを削りました。今まで、国内で200円で生産したモノと全く同じ性能、性質のモノを100円で作り、引き続き、1ドルで売ってきました。コストというのは中小企業の売上または従業員の給料です。国内で、皆のコストを削っていくとどんどん給料が減っていくことになります。そうすると、国内にお金が回らなくなり、デフレになります。
極端な話、将来、年金保険料だけで支給額が足りなくなるのならば、保険料を上げずに、今まで稼いだ3兆ドルの経常黒字で補うことをすれば良いのです。それができないのはその資産は全てドルで貯まっていて円に交換できないので、その富を国内に持ち込むにはドルで買えるアメリカ産の食料、モノ、サービスを輸入するしかないからです。つまり、現在よりも3兆ドル分のアメリカ産の食料、モノ、サービスが増えてそれが豊かさとして感じるしかないということです。
しかし、それすらもできないのはただ、アメリカの方が金利が高いからというそれだけ理由のために機関投資家らが長期国債、定期預金という金融資産を買っているため、ドルで実体価値の買い物ができないからです。
その結果、現在、日本人の労働力として作り出された300兆円以上のお金は外国にあり、日本国内にそのお金を持ち込むことはできません。日本政府が1兆ドルのアメリカ国債を保有して、ずっと貸しっぱなし状態です。言い換えれば、政府や大企業はそれだけ国民の労働力を無駄に使ってしまったということです。円安政策を止め、多くの輸出を止めれば、国内にその実体価値が残り、それが流通したら、その分もお金も国内で回ることになります。現在よりも3兆ドルものアメリカ産の実体価値を得られない代わりに、日本産の実体価値が300兆円以上もの国内に流通していました。
また例え、多くの輸出を止めなくても、輸入をもっと増やせば、外国産の実体価値を手に入れることができ、それと同等の円を政府通貨で発行すれば、その分だけのいつでも国内で実体価値を買える円という安心できる通貨が多く国民に行き届いていました。毎年の経常黒字が減って行くのに合わせて、その分の円を国債で発行するのは止めて、政府通貨で発行すべきだったのです。そうすればマネーストックを増やしながら、国債を発行することなく国家予算も組めることも可能でした。そうすれば、一人一人の年金の保険料を上げても問題にならず、国民が年金で悩むことはなかったかもしれませんし、もしかしたら、ベーシックインカムもできたかもしれません。
しかし、国債で円を発行すれば、いくら、発行してもそれは利息が付く借金なので、結果的に税金でその元本と利息を返そうとすれば、銀行、生命保険、損害保険、銀行などの機関投資家が運用している国債の利息分のみがマネーストックとして残り、折角、増やしたマネーストックが減る結果となります。
ですので、守らなければならないのは信用創造でお金を増やすことを止めて、政府通貨でお金を発行することです。借金でお金を増やすのが良かったのは、借りたお金は必ず返さないといけないという経済成長を企業が銀行から強要され、金利と借金が企業を縛り付け、生産性拡大がされ、国民によって大量消費され、売上が上がった企業に対して銀行は再投資し、それが生産性の効率化となるという好循環の有効な手段だからです。しかし、有限な地球の資源や土地、人口も限られていますので、お金が金利の複利とともに増え続けることに対して、経済成長が続く筈ありません。モノも減価したり、壊れたり、古くなったり、腐ったりします。米や野菜や果物も一年に一回しか取れませんし、肉や魚や山の食べ物も育つのに時間が掛掛かります。ですので、お金は借金で無限に増え続けますが、経済成長は必ず止まります。それでも借金でお金を増やせば、無理やり経済成長をさせられ、最終的には地球が壊されます。
また、今苦しい生活をしている人達を社会保障で救うために政府が借金をして、お金を発行して、それを社会保障に使うと、どうやっても、今生きている人はプラスのお金でしか生きられないので、必ず先食いしていくことになります。そのプラスのお金を誕生させるために作り出された借金はまだ生まれていない人達や現在の子供達に押し付けられ将来払う税金へ後払いされます。
話を元に戻して、日本は資本主義による生産性の拡大、効率化とうの昔に達成されています。むしろ、ずっと生産しすぎて、消費が全く追い付いていない状況です。モノやサービスで溢れかえって、お金が本当に必要な人達に行き渡っておらず、「お金がないからモノやサービスが買えない、売れない」という理由で例え欲しいモノやサービスがあり消費をしようと思っても、消費できず、中小企業、零細企業、お店、個人事業主等がどんどん倒産や廃業に追い込まれています。また、世の中にモノやサービスはありふれ買わされることを強要させている感もします。
世の中のお金の量が増えるとハイパーインフレを心配する人もいます。しかし、ハイパーインフレは基本的には圧倒的に、モノが足りない時にしか起きません。ですので、まず、輸入をもっと増やして、経常黒字が減って行くのに合わせて、その分だけの円を発行すれば、全くその心配はありません。現在よりもマネーストックがその分だけ増えるので、輸入でモノやサービスを増やしても、物価は上がるかもしれません。しかし、物価が上がれば、それに合わせて、国民の給料や売上も上がることになります。国民の給料や売上が上がれば、その分だけ消費が活発されます。
政府の経済政策で一番頭に入れて置かなくてはならないことは、通貨の価値を守ることよりも国民のリソースをいかに大事に使うかということです。お金はリソースではありません。お金は政府支出として例え、無駄だと思われていることに使われたとしても、消えることなく国内でグルグル回るだけです。しかし、国民の時間と労力や国内の資源を一度使えば、それは永遠に返ってきません。国民の活動を阻害する要因は全部除去する必要があります。例えば、高速料金が高いから下道で行くことや新幹線代が高いから夜行バスを使うことや電車賃が高いから自転車で行くことやタクシー代が高いから歩いて行くことや銀行の振り込み手数料が高いから直接貰いに行く等、お金が理由で国民の時間や機会がどんどん失われることはそれだけで国家単位で見れば大きな損失なのです。もし、それが利用できやすくなったらその分、もっと個人にとって大事なことのために時間を使えます。
また、子供達が部活動や文化的な体験など、今、この年齢でしかできないことがたくさんあるのに、それがお金の問題でできないのはお金では計算できないくらいの損失なのです。インフレになるとお金の価値が落ち、全く同じモノやサービスの価格が時間が経つにつれて上がるので、「今買わないと損」、「今やらないと損」といった人の行動や購買力を促すことに繋がります。
根本的な問題は必要な人に必要なお金が足りていないということです。現在の資本主義は企業が折角、売って利益を出しても、資本家によってその利益が搾取され、国民の所へお金が行き届いていません。それを解決するためには信用創造を止めて、政府通貨を発行して、年金やベーシックインカムでお金をバラまくことが必要なのです。 
●お金の支配者  
現代のお金の大事な事実として現代のお金はほとんど、信用創造でお金が発行されていることです。つまり、誰かが借金をしないとお金が発行されないということです。通貨発行システムは大きく分けて3つあります。中央銀行発行システム、民間銀行発行システム、政府発行システムです。
中央銀行発行システム=紙幣
民間銀行発行システム=預金
政府発行システム=硬貨
日本は併用制ですが、ほとんどが民間銀行の信用創造でお金を発行しています。(1018兆円) ちなみに現在、政府発行通貨は5兆円、中央銀行発行通貨は現在、96兆円あります。政府発行通貨を壊すと犯罪ですが、中央銀行発行通貨は壊しても問題ありません。全てのお金は支配者のモノで、国民は支配者によって労働させられる奴隷ではなくお金の本当のオーナーを知らないいわば家畜のようなものです。
働かなないと生きていけない人と働かなくても生きていける人がいる時点でほとんどの国民はお金の発行者によって支配されています。支配者が欲しいのは国民のお金ではなく、労働力と実体価値です。お金は元々、支配者が勝手に仕組みを作って、発行しているからです。
お金は実体価値の交換の媒体ではなく、元々、国民に借金をさせて、その借金を金利も含めて返す為に、国民の労働と時間を縛る道具の為に生み出されました。その支配者が作った建前上の理由は実体価値との交換でした。
物々交換の時代があり、金銀を鋳造貨幣として使用していた時代があり、盗まれたり、なくしたりすると大変ですから、銀行へ金銀を預け、その金銀の預かり証明証が誕生しました。しかし、金銀の預かり証明証をいちいち、銀行へ持って行き、金銀を引き出すのは手間になり、その金銀の預かり証明証がそのままそのまま紙幣として使うようになりました。
しかし、銀行(通貨発行権)はこれを利用したビジネスを考え出しました。それは国民にお金を貸して、金利を取るビジネスです。お金がなく仕事が回っていない人にお金を貸して、自分の仕事を継続させようと考えたのです。これによって、資産通貨(金銀と交換出来る引換券)と債務通貨(債務を証券した通貨)の2種類の通貨が併存することになりました。見た目は全く同じです。
しかし、ここで疑問が生じます。当然、金銀を預かっている分の紙幣しか、発行できないのになぜ銀行がお金を貸せるのか?
それは単純に預かっている金銀を遥かに上回る量の紙幣を発行し、実際にはない金銀の預かり証明証の分もお金として貸し出したに過ぎないのです。つまり、通貨発行者が勝手にお金を増やして、貸すといういわば、信用創造の原型の始まりです。そして、大量に増やした引換証で預けている自分の金銀に引き換えしたい人がある銀行にやってきても、他の銀行から金銀を借りて、一時的にその場を凌ぎます。
国民にお金を貸して利子を取るならば、例えば、その国に銀行が1000万円貸し出して、その国に1000万円しかなかったら、全国民を巻き込んだ1000万円の奪い合いになります。そして、利子も含めて、1年後に銀行に全体で1100万円返すとします。しかし、このお金は全て借金で、当然、お金の量は1年後も1000万円と一定量なので、全体で1100万円返せず、お金を返せない人が出てきます。
すると、銀行はお金を返せない人にさらにお金をお貸して、そのお金で借金の利子の部分だけを返す様に言いました。そして、その利子は前回貸した時よりもさらに高くしました。借金で借金の利子だけを返すという複利で加速度的にお金と借金は増えます。
そして、借金を返すためにお金を使えなくなる人が出てきます。そうなると、当然、デフレになり、銀行はデフレからインフレにする為に、さらに国民にお金を貸します。国民はお金によってモノやサービスの生産効率がアップした事実のみを捉え、言われるがままにお金を借ります。
そして、いずれ借金を返せなくなり、破産する人が必ず出てきます。その場合、借金を返せなくなったら、お店や企業、土地の所有権を銀行が頂くという担保システムができました。
こうして、仕事をすることが各自、必要なモノを作り出し助け合って生活することから、お金を稼ぐことに変わっていきました。
そして、通貨発行者は考えました。この仕組みそのものを誰かに任せて、お金によって自分達は何もせずとも国民の労働と時間を搾取できないか?
そして、世界各国に中央銀行システムができました。借金でお金を発行するシステムを中央銀行が管理する民間銀行に任せて、資本家はその仕組みをただ監視しているだけになりました。
日本の中央銀行の日本銀行、アメリカの中央銀行のFRB、EUの中央銀行の欧州中央銀行、イギリスの中央銀行のイングランド銀行、全て民間銀行です。
1914年のFRBの株主は以下の通りです。
・ドルの支配者(FRBの株主 1914年)
ロスチャイルド一族(ロンドン) / ロスチャイルド一族(ベルリン) / ラザール・フレール(パリ) / イスラエル・セイフ(イタリア) / クーン・ローブ商会(ドイツ) / ウォーバーグ家(アルステムダム) / ウォーバーグ家(ハンブルク) / リーマン・ブラザーズ(ニューヨーク) / ゴールドマン・サックス(ニューヨーク) / ロックフェラー一族(ニューヨーク)
日本銀行は株式に相当する出資証券を発行されていて、JASDAQに上場しています。現在の日銀の資本金の比率は以下の通りです。
・出資者
日本政府 55% / 個人 35.9% / 金融機関  2.4% / その他 6.7%
そして、銀行がお金を借りられ、返せるだけの生産性があった企業が成長し続けました。
さらに、世界各国の中央銀行を管理する機関が作られました。それが、国連機関の世界銀行、IMF、BISです。BISは実は民間銀行で非公開の株主がいます。
そして、現在までずっとお金の発行者によって世界経済は支配され続けられています。 
●安倍政治を問う アベノミクス 勘定を回されるのは誰だ 2018/9 
「ジャパン・イズ・バック(日本経済が復活した)」「バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは『買い』だ)」−−。
政権復帰から9カ月後の2013年9月、安倍晋三首相はニューヨーク証券取引所で自らの経済政策を誇らしげに売り込んだ。
それから5年。安倍政治の継続か否かを問うのが今回の自民党総裁選だ。まずなされるべきは、アベノミクスの総点検である。安倍氏に挑戦する石破茂氏には、将来に回ったツケも含め、「最終的な勘定」の論争を挑んでもらいたい。
12年末、安倍政権は「デフレからの脱却」を看板に発足した。政権奪還を果たした衆院選ではそれまでの政策を糾弾。「民主党政権や日銀はデフレから脱却できたのか、円高を是正できたのか」と問い詰めた。
では、「結果が全て」と言う安倍氏に聞きたい。「2年程度で」達成される約束だった物価上昇率2%が、なぜ今も視野に入らないのか。
歴史的にも世界的にも異例の大規模金融緩和を導入し5年半も経過しているのである。
首相は「デフレではない状態になった」と答えるかもしれない。しかし、劇薬である異次元緩和になお依存している。
リーマン・ショックの震源地、米国では、金融政策の正常化が進み、15年末以来、7回も利上げを実施した。日本はいまだマイナス金利だ。この現実をどう説明するのか。
安倍首相は、政権復帰前と現在を比べ、改善した数字を使って実績を誇張する。例えば名目国内総生産(GDP)だ。「58兆円増加した」というが、基準改定効果などで30兆円超もかさ上げされたものである。
もちろん訪日外国人の急増に伴う需要増など、好転した部分もある。しかしながら、成果を得るのにかけた総コストを吟味しなければ、政策の成否の判断はできない。
問題は、アベノミクスのコスト、そして最終的な勘定が、現時点の我々にはわからないことだ。
例えるとこういう話になろう。レストランで客をもてなす。目を引く料理を次々と注文し、異次元の量と質の酒を振る舞う。
客は驚き、良い気分になっていく。だが、異次元の額の請求書が来た時、招待主はいないかもしれない。
「請求書」とは、異次元緩和策と先進国一悪い財政が組み合わさって生じ得る経済危機である。「客」とは他ならぬ国民のことだ。
アベノミクス第一の矢を担う日銀は、過去に例のない勢いで国債(国の借金)を買ってきた。その結果、国債価格は大幅に上昇し(長期金利は大幅に低下し)、今では国が借金するほどもうかるという異常さが常態化している。
国のもうけだから国民の得だと感じそうだが、長くは続かない。どこかで逆方向に動き出す。
急増する利払いに国が対応する力を投資家に疑われた時、国債は暴落するだろう。待ち受けるのはギリシャであったような経済の大混乱だ。
5年半前に異次元緩和が始まった時点でこうしたリスクは指摘されていた。政策の長期化により、リスクは膨らむ一方である。
いつかはわからないが、「勘定」に注目が集まるのは恐らく安倍政権後となろう。それだけに石破氏は、首相のあいまいな返答を許さない追及を今しておく必要がある。
少なくとも、今後の財政健全化への具体的考えを明らかにしてもらわねばならない。
安倍氏は政権交代後、税収が24兆円増加したと胸を張る。しかしこれは国と地方を合わせた税収で、12年度と17年度を比較した国の税収の差額は15兆円に満たない。しかも、そのうち約7兆円は、この間税率が引き上げられた消費税分だ。
10%への消費増税は2度見送った末、来年実施する際には、使途を本来の財政健全化から教育や子育て支援に付け替えると宣伝している。
子どもへの投資に映るが、結局、その対価を払わされるのは将来の世代なのだ。「人生100年時代」と新たなテーマを持ち出す前に、団塊の世代が全て後期高齢者となることで急膨張が懸念される医療費をどうするのか、差し迫った問題への答えを示してほしい。
「1強」となって久しい与党の党首選である。国民の将来負担も含め、責任ある議論を望む。  
●前原誠司のアベノミクス批判はあながち間違っていない 
10月22日投開票の第48回衆院選で、安倍政権は国民に信を問う。日銀の異次元緩和はアベノミクスの心臓部ともいえる経済政策の中軸であるだけに、その成否が問われることになるだろう。来春には、異次元緩和を導入した日銀総裁の黒田東彦が5年の任期を迎える。異次元緩和の功罪をあらためて検証したい。
民進党代表の前原誠司は9月28日に開かれた両院議員総会で、希望の党との合流を提案した。これで民進党は事実上の解党となった。
「自分勝手に政治をゆがめる安倍政権を退場に追い込む」
前原は、希望への合流の目的を安倍政権打破と位置付けた。そして、その際に前原が安倍政権の失政として最初に取り上げたのが、異次元緩和だった。
「日銀に大量に国債を買わせて無理矢理に金利を下げて、円安にして株価が上がったかもしれない。しかし所得は上がっていない。実質賃金は下がり続け、企業の利益は増えたけれども国民の生活は困窮している」
「日銀にETF(上場投資信託)を買わせて、みせかけで株価を上げて、アベノミクスはうまくいっているということを引きずっているだけだ」
前原はアベノミクスに反対する姿勢を鮮明に示し、「反異次元緩和宣言」に踏み込んだ。小池百合子率いる希望の党は公約で「ユリノミクス」を掲げ、「金融緩和や財政出動に過度に依存せず、民間の活力を引き出す」と訴える。前原のように異次元緩和にはっきりとノーを突き付けたわけではないが、異次元緩和の出口に早期に向かわせる公約とも読める。
ただ、小池はロイター通信のインタビューに対して、日銀が国債を買い過ぎていると指摘したものの、「大きく方向性を変える必要はない」とし、次期総裁の資質についても「今の延長の部分はあろうかと思う。あまり急激に変えるということは、株式市場にも影響を与えるのではないか」と話し、黒田日銀の異次元緩和の基本的な枠組みは支持する考えを示した。
黒田の任期は来春に迫っている。日銀法では、総裁は衆参両院の同意を得て内閣が任命すると定められており、事実上、人事権を握るのは時の首相だ。自民単独で過半数を占め、安倍政権が安定的な基盤を維持すれば、黒田の続投か、コロンビア大教授の伊藤隆敏ら、異次元緩和の理論的なバックボーンであるリフレ派から総裁が起用される可能性が高くなるだろう。
しかし、安倍が首相の座から降りることになれば、次期総裁の行方は途端に混とんとする。実は、日銀が大胆な金融緩和に踏み出せた背景には、安倍の経済ブレーンにスイス大使の本田悦朗や嘉悦大教授の高橋洋一らリフレ派がそろっていたことに加えて、第2次安倍政権の誕生と日銀総裁交代のタイミングが合致していたことがある。
日銀の金融政策は、日銀法で政府からの独立性が守られている。たとえ首相であっても、5年間の任期の途中で、総裁の首をすげ替えるわけにはいかない。
つまり次期衆院選の結果は、日銀総裁人事を通じて、金融政策の行方に決定的な影響を与える可能性があるのだ。市場では、安倍退陣となれば「円高、株安」に向かうとの観測も出始めている。
異次元緩和の目標は、物価が持続的に下落するデフレを解消することにある。裏を返せば、デフレは、持続的に円という通貨の価値が向上していることを意味する。円に対する過剰な信任を破壊し、モノやサービスへの欲望を取り戻すことが、その狙いだ。そのために、日銀が国債を大量に買い込み、円の供給を爆発的に増やすことで円の価値を破壊することが、異次元緩和の要諦といえるだろう。
黒田は2013年春に、デフレ脱却の旗印として2年で2%の物価目標を達成することを示した。しかし、物価目標の達成時期は繰り返し先送りされ、今年7月の「展望レポート」では「19年度ごろ」とされている。デフレ脱却の見通しは不透明なままなのだ。
「賃金の上昇が価格の上昇に転嫁されるのを控えるような行動がとられている面もあります」
黒田は物価が上昇しない理由について、9月21日の金融政策決定会合後の記者会見でこう指摘した。
その背景について、日銀は1年前に公表した「総括的な検証」で「適合的な予想形成」という分析を示した。過去のデフレに引きずられて企業や消費者が行動するため、異次元金融緩和を実施しても人々の物価観を転換できなかったという説明だ。1年後の今も、根強いデフレマインドから抜け出せていないのだ。
黒田は総括的な検証と合わせて昨年9月、異次元金融緩和とマイナス金利10年物国債の利回りをゼロ近辺に誘導する長期金利の目標を導入した。伝統的な金融政策では、中央銀行が操作するのは短期金利で、長期金利は操作できないと考えられていただけに、異例の政策といえる。
この政策の枠組みでは、日銀の国債購入は政府の国債発行の増減と表裏一体となり、金融政策は事実上、政府の財政政策に従属する形になった。
なぜなら長期金利の行方を左右する最大のファクターは、政府が発行する「10年物国債」の量だからだ。政府が財政再建を進めて、国債の発行量を絞れば、長期金利は下落傾向を示し、財政の拡大を進めれば、長期金利は上昇傾向を描く。結局、長期金利をゼロ近辺に誘導するという目標は、政府の国債発行の動きに連動するしかなくなるのだ。
黒田は、国債購入のげたを政府に預けてしまったのだ。市場では、これを「黒田の敗北宣言」と受け止め、この段階で、異次元緩和は事実上の終止符を打ち、出口に向かって舵を切り始めたと受け止められている。
欧州も「出口戦略」へと進んでいる。米連邦準備制度理事会(FRB)は2008年のリーマンショック後に導入した量的緩和政策を終結、10月から拡大した保有資産の縮小に向かう。米欧の金融政策が引き締めに向かっていることで、日銀は現状維持していても、為替相場は円安に向きやすい。これは、日本経済にとって追い風だ。
ただ、世界的な経済ショックに見舞われたとき、日銀には、もう多くの手段は残されていない。金融機関の収益を圧迫し猛反発を浴びたマイナス金利を深掘りするのは難しいだろう。市場の価格形成をゆがめていると批判の強いETFの買い増しも採用できないと考えられる。
そうするとデフレ脱却に失敗した異次元緩和は、前原が指摘するように「国民を困窮させた」だけの失政だったのだろうか。
民主党政権時代の2011年から2012年、為替相場は1ドル=70円台後半を軸に推移、歴史的な円高になっていた。日経平均株価(225種)も2012年には9000円の大台を割り込む場面もあり、低迷が続いていた。
こうした円高の流れを変えたのが、異次元緩和であった面は否定できない。異次元緩和はデフレ脱却が目的だが、対ドルとの関係でいえば、円の供給量が増えれば円安に向かう効果は当初から期待されていた。
グルーバル企業の海外子会社において、円安は円換算の利益を押し上げる。この効果は大きく、日経平均株価も、円安を好感して上昇トレンドを描いた。最近では1ドル=110円前後が定着、日経平均株価も2万円の大台を回復している。
総務省が9月29日に発表した8月の完全失業率(季節調整値)は、前月と同じ2・8%となり、バブル期並みの高水準となった。団塊の世代の大量退職による循環的な人手不足の効果もあるものの、円安による企業収益の好転も企業の採用意欲にプラスの影響を与えたと考えられる。
株価の好転と雇用の増大は、安倍政権の支持率を支えていると言えるだろう。森友学園、加計学園問題をめぐる対応の不手際で、支持率を大きく下げた安倍政権だが、解散総選挙に踏み切る力を与えたのは、異次元緩和の効果も大きかったと考えられる。
9月21日の金融政策決定会合で、新任審議委員の片岡剛士が「効果が不十分だ」と、むしろ緩和強化の必要性を訴え、大規模な金融緩和策の維持に反対した。一方で、審議委員を退任した木内登英はマスコミのインタビューに「金融緩和の副作用は膨らんでいる」「2%の目標を断念して柔軟化すべき」と主張、日銀のOBの中にも、異次元緩和の効果を疑問視する声もある。
果たして、国民は異次元緩和に、どのように審判を下すのか、注目される。 
●アベノミクスの限界「3本目の矢」は放たれない 
解散総選挙は、希望の党と立憲民主党の誕生によって状況が流動化してきた。希望か立憲民主が多数の議席を獲得した場合には経済政策が大きく変わる可能性がある一方、自民党が勝利しても、今回の解散は失敗と見なされる可能性があり、そうなった場合にはポスト安倍が強く意識されることになる。いずれにせよ5年間続いてきたアベノミクスは今回の総選挙をきっかけに何らかの方向転換を余儀なくされる可能性が高い。本稿ではアベノミクスの成果について、あらためて検証していきたい。
アベノミクスは説明するまでもなく第二次安倍政権が掲げた経済政策のことだが、その内容は徐々に変化しており、現在では明確な定義が難しくなっている。
当初のアベノミクスは「3本の矢」というキーワードに象徴されるように、3つの柱からなる政策であった。1本目の矢は「大胆な金融政策」で、これは日銀の量的緩和策のことを指している。2本目は「機動的な財政政策」で、主に大規模な公共事業である。そして3本目が「成長戦略」である。
量的緩和策は、日銀が積極的に国債を購入することで、市場にマネーを大量供給し、世の中にインフレ期待(物価が上昇すると皆が考えること)を発生させるという金融政策である。期待インフレ率が高くなると、実質金利(名目金利から期待インフレ率を引いたもの)が低下するので、企業が資金を借りやすくなる。これによって設備投資が伸び、経済成長が実現するというメカニズムである。
日本は不景気が長期化し、デフレと低金利の状態が続いていた。名目上の金利は、これ以上引き下げることができないので、逆に物価を上げて、実質的な金利を下げようというのが量的緩和策の狙いであった。
しかし、物価が上がる見通しがついただけでは、経済を持続的に成長させることはできない。本当の意味での成長を実現するには、日本経済の体質を根本的に変える必要があると考えられており、それを実現する手段が成長戦略であった。
成長戦略の内容は、時間の経過とともに変わっていくのだが、少なくともアベノミクスが提唱された当初は、いわゆる構造改革のことを指していた。だが、構造改革を実施すると、一部の人は転職を余儀なくされたり、もらえていた補助金を失ってしまうなど、痛みを伴うことになる。また、構造改革が一定の成果を上げるまでには、それなりの時間が必要である。その間のショックを緩和するための措置として掲げられていたのが2本目の財政出動であった。
整理するとアベノミクスは、金融政策でデフレからの脱却を試み、財政出動で当面の景気を維持し、その間に痛みを伴う構造改革を実施するという流れだったことになる。
だが、アベノミクスは、当初描いていたような形には進展しなかった。構造改革に対する世論の反発が強く、安倍首相はやがてこの言葉を使わなくなり、構造改革の司令塔であった規制改革会議も有名無実化された。その後、成長戦略は何度か追加されたが、多くが予算措置を伴うものであり、3本目の矢は、実質的に2本目の矢に収れんしたとみてよい。つまり、アベノミクスは、量的緩和策と財政出動を組み合わせた2本立ての経済政策にシフトしたのである。
1本目の矢については、当初はうまく機能するかに見えた。量的緩和策がスタートした時点では、消費者物価指数(「生鮮食品を除く総合(コア指数)」)は前年同月比マイナスだったが、すぐにプラスに転じ、消費税が8%に増税された2014年5月にはプラス1・4%(消費税の影響除く)まで上昇した。2%という物価目標の達成はもうすぐかと思われたが、ここを境に物価は失速を開始し、2015年2月には0%まで低下。2016年に入るとマイナスが目立つようになってしまった。
日銀は2016年1月にマイナス金利政策を導入し、同年9月にはイールドカーブ・コントロールという聞き慣れない手法の導入に踏み切っている。この手法は、購入額をコミットするという従来の考え方をあらため、購入額ではなく金利水準に軸足を置くというものだが、市場はこの措置について物価目標からの事実上の撤退と認識した。
結果として、消費者はデフレマインドを強めることになり、物価が上がるとイメージする人はほとんどいなくなってしまった。スーパー大手のイオンは、2度にわたって商品の値下げを敢行したほか、家具大手のイケアも大幅な値下げに踏み切っている。
もっともアベノミクスがスタートして以後の実質GDP(国内総生産)成長率は、2013年度がプラス2・6%、2014年度がマイナス0・5%、2015年度がプラス1・3%、2016年度がプラス1・3%と微妙な状況が続く。直近の四半期については世界経済の回復もあって、1〜3月期が年率換算でプラス1・2%、4〜6月期が年率換算でプラス2・5%となっており、まずまずの結果だった。
かなりスローペースではあるものの、日本経済は回復しつつあると評価することもできるが、一方で、安倍政権が掲げていた名目3%、実質2%の成長目標という点からすると、現時点ではほど遠い状況にある。
ただ、量的緩和策については、国債の総量という上限があり、無制限に継続できるわけではない。市場では量的緩和策はそろそろ限界との見方が支配的であり、少なくとも緩和策の拡大という選択肢はなくなりつつある。消費増税については自民と希望で方針が異なっているが、アベノミクスの主軸であった量的緩和策が限界に近づいている以上、希望が獲得する議席数にかかわらず、何らかの形でアベノミクスが軌道修正される可能性は高いだろう。  
●このままでは政権維持しても「アベノミクスの果実」を享受できない 
2012年末の政権交代以降、日本経済の「潮目」が明確に変わったことは確かだ。株価・為替・雇用についてその数字を繰り返す必要はないだろう。
さらに、アベノミクスの勢いを大きくそぐこととなった14年の消費増税ショックもようやく一巡しつつある。先日発表された9月の日銀短観で、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた「業況判断DI」は、大企業で製造業・非製造業ともに20を超える。これは10年ぶりの水準であり、大企業の景況感がリーマン・ショック前まで回復していることを示している。そして、中小・中堅企業を含めても同指数は15となっており、これは27年ぶりの数字である。製造業・非製造業間、地域間、企業規模間の格差が相対的に小さい点も今回の景気拡大の特徴だ。
アベノミクスの政策目標である2%のインフレは達成されていないが、その意味するところは政策の失敗ではない。昨夏の寄稿で指摘したように、鈍い賃金上昇、その結果としての低インフレといまなお続く雇用の拡大が同居している状況は、日本経済の潜在能力の高さを意味している。
ここであらためてアベノミクスとは何かを振り返ってみよう。当初のアベノミクスは「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を誘発する成長戦略」の三本の矢であるとされていた。金融政策において大きな転換が行われたことは確かである。だが、成長戦略についてはようやく働き方改革の検討が始まったばかりだし、社会保障改革については手つかずと言ってよい。まだまだ不十分というのは多くの論者の見解が一致するところだろう。しかし、後述するように成長戦略はいわゆる構造改革のみによって達成されるわけではない点にも注意が必要だ。
一方、アベノミクスへの評価をめぐる議論でいつも混乱の元となるのが財政政策である。「財政・金融政策をフル稼働させて短期的な経済浮揚を果たしただけだ」といった言及が行われることがあるが、これは二重に誤りである。第一に、安倍政権下の財政運営は拡張的なものではない。アベノミクスのマクロ政策運営の基本方針は「金融緩和+財政再建」である。
政府支出(正確には公的需要)の対国内総生産(GDP)比は12年第4四半期の25・3%から17年第2四半期には24・5%まで低下している。また、政府の赤字を示す資金循環勘定の国と地方の資金過不足の対GDP比は−7%台から17年第2四半期には−1・8%(季節調整値)まで改善した。14年の消費増税だけでなく、支出の抑制や景況の回復による自然増徴によって財政再建が進んでいる。終盤を迎える衆院選をめぐる政策論争に際し、ここ数年の日本経済が抑制的な財政運営の中、事実上金融政策のみで一定の経済浮揚効果を得てきたという点を忘れてはならない。
第二に、財政政策・金融政策は短期的な経済の改善のみをもたらすものではない。短期の蓄積が長期なのだ。
労働者の能力・技能は現場で形成される。短期的な経済停滞によって青年期に仕事の経験を積み、その能力を向上させる機会を得られなかった労働者が多いと、10年後・20年後の日本の生産性に大きな足かせとなる。逆もまた真(しん)なりだ。さらに、労働市場の逼迫(ひっぱく)が深刻になる、つまりは人手不足が深刻化すると、企業は自動化・機械化といった省力化投資を余儀なくされる。
長期的な人口減少傾向の中で、その初期から人手不足対応型の経済にシフトしていくことは将来の日本経済にとっても必要な変化である。人手不足という圧力により、企業のみならず社会・制度が人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)にむけたシステムに変化していくことが予想される。制度や構造問題が景気に押されて変化するケースは、海外でも労働者保護的な制度改正などで頻繁に観察されてきた。
現下の短期的な(?)景気回復は、日本の企業・社会を「人手不足対応型経済」に変えていく上で大きな原動力となり得る。近年の東アジア、そして東南アジアの出生率の低下をかんがみると、日本が人手不足対応型経済の先進国となる意味は大きい。少子化・高齢化にマッチした商品・サービス、経営手法はより長期にわたる日本経済の成長の源泉なのだ。
企業行動の変化、制度改革を後押しする人手不足状態を創り出したという点で、アベノミクスは短期的にとどまらない成果を残しつつある。次に課題となるのは、この状態をどうやって維持し、さらなる成長に結びつけていくかだ。そのためには、(1)安定政権による将来予想可能な政策運営、(2)適度の人手不足プレッシャーを引き続き維持するための財政・金融政策の組み合わせが必要となる。
この両条件が満たされるか否かに日本経済の未来はかかっている。第一の条件に関するリスクは当然衆院選にある。いずれの党も安定的な議席数を確保できず、連立の枠組みや政策協調が猫の目のように変わるようになると、政策の継続性に疑問符がつくことになり、経済政策は「効くモノも効かない」状態に陥る。
そして、第一の条件が満たされたとしても、第二の条件に配慮した政策運営が行われなければ、日本経済は「人手不足の果実」を享受することはできないだろう。10月22日以降の政権には、これまでの金融政策の効果を軽視することなく、そして2014年の消費増税ショックの教訓を生かして、財政・金融一体での「適度の人手不足プレッシャー」の維持をはかっていただきたい。 
●「異次元金融緩和は成功した」数字が語るアベノミクスの5年間 
第2次安倍晋三内閣が発足したのは2011年12月26日。既に第3次安倍内閣の第3次改造(17年8月3日)になっているが、この間の政策全体が「アベノミクス」と呼ばれた。
アベノミクスの3本の矢は「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」であった。このうち、金融政策は13年から安倍総理によって任命された黒田東彦日本銀行総裁によって実施された。
「異次元金融緩和」と呼ばれた積極的な金融緩和によって円ドルレートは大きく円安に動き、日経平均株価も急速に上昇した。
【年間平均レート】
2012年:1ドル79・79円、2013年:1ドル97・60円、2014年:105・94円、2015年:121・04円
【終値】
2012年12月:1万395円、2013年12月:1万6291円、2014年12月:1万7451円、2015年12月:1万9034円
経済成長率もリーマン・ショックによるマイナス成長(2008年マイナス1・09%、2009年マイナス5・42%、2011年マイナス0・12%)から1〜2%のプラス成長に転じた。大胆な金融政策は明らかに成功し、日本経済は息を吹き返したのである。
2014年は5%から8%の消費税増税によって成長率は0.34%に鈍化したが、2015年には1・20%に戻し、その後も1〜2%の成長が続いた。成熟段階に既に達している日本経済にとって1%前後の成長率は「巡航速度」といえるだろう。日本経済は1956〜73年の高度成長期(年平均成長率9・1%)、1974〜90年の安定成長期(年平均成長率4・2%)を経て、1990年から成熟期に入ったのである。(1991〜2016年の年平均成長率1・00%)
経済成長率の低下に伴って、インフレ率もまた次第に低下した。高度成長期の年平均インフレ率は2桁に達することにあり、1970年代でも年平均9%、1980年代でも2・4%に達していた。90年代に成長率が鈍化し、日本経済が成熟期に入るとインフレ率も低下し、90年代は年平均1・21%、2000年代はデフレ状況になり年平均マイナス0・53%。2010年代に入ってデフレ状況は脱したものの、2010〜16年の年平均インフレ率は0・27%と極めて低いものであった。日本は明らかに低成長、低インフレの局面に入ったのである。
この状況は日本だけの現象ではない。先進国は軒並み低成長、低インフレの局面に入っている。先進国の中では成長率が高いアメリカでも、2010〜16年の年平均成長率は2・09%、年平均インフレ率は1・62%だった。同じく2010〜16年のイギリス、ドイツ、フランス、イタリアの年平均成長率はそれぞれ1・96%、1・97%、1・13%、0・42%だった。
一方、インフレ率はイギリスが年平均2・18%、ドイツが1・23%、フランスが1・18%、イタリアが1・36%で、各国とも経済成長率は1〜2%、インフレ率も1〜2%に収斂(しゅうれん)しつつある。
こうした中で日本銀行は2%のインフレ・ターゲットを維持しているが、世界的な低成長、低インフレ時代に日本で2%のインフレ率を達成するのは極めて難しいだろう。「1%成長、1%インフレ率」が日本経済の巡航速度であり、それで大きな問題はないのではないだろうか。「2%ターゲット」を今すぐ引き下ろす必要はないだろうが、次第に1%に目標を下げることが妥当なのではないかと思われる。
アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和を終了し、引き締めに転じ、欧州中央銀行(ECB)も金融緩和の出口を探り出している。こうした状況の中、いつ日本銀行が出口を模索するのかが、次第にマーケットの関心事になってきている。日本銀行は今のところ、大規模金融緩和を維持するとしているが、そろそろ黒田東彦総裁も出口戦略を考え始めているのかもしれない。前述したように大規模金融緩和は成功し、日本経済はリーマン・ショック前の状況に戻っている。いつまでも緩和を継続する必要は次第になくなってきている。日経平均もこの4年間大きく上昇し、既に2万円の大台を突破した。当面インフレの懸念はないものの、FRB・ECBと同様、日本銀行も次第に舵(かじ)を穏やかな引き締めに切ってくるのではないだろうか。
日本銀行の黒田東彦総裁の任期は2018年4月に切れる。このところ、日銀総裁は1期5年で交代している。総裁はこれまで財務省OBと日銀プロパーが交互に務めるケースが多く、これまでの慣例からいけば、次の総裁は日銀出身者から選ばれることになるだろう。現在、日銀出身の副総裁は中曽宏氏だが、中曽氏がそのまま総裁になる可能性はそれほど高くないと思う。むしろ、「日銀のエース」と言われる雨宮正佳理事が昇格する可能性もあるが、理事からそのまま総裁ポストに就くのは現実的に難しい。
総裁ポストをめぐっては、さまざまなシナリオが考えられるとはいえ、来年4月の任期満了後に黒田氏が再任され、雨宮氏を副総裁に指名した後、短期間で雨宮氏に交代するという筋書きが有力だろう。時として総裁人事が国会承認でもめるということがあったが、このシナリオに抵抗があるとは思えないし、「黒田―雨宮」のバトンタッチがスムーズに進む可能性は十分にある。黒田総裁は財務省の国際派。財務官を務め、アジア開発銀行の総裁も経験している。以前は財務省出身の総裁は事務次官経験者で、どちらかというと国内派(23代森永貞一郎、25代澄田智、27代松下康雄)だったが、金融の世界でも国際化が進む中、国際派の起用は適切だと言えよう。 
●アベノミクスの七不思議を考えながら、今後を占う 2017/3 
アベノミクスで景気が回復したことには、疑いありませんが、過去30年以上にわたって景気を見続けてきた筆者にとって、不思議なことが非常に多い景気回復でありました。今後のことを考えるためにも、なぜ不思議なことが起きたのかを振り返っておくことが重要と考えて、本稿にまとめてみました。
通常の金融緩和というのは、日銀が大量の資金を供給することで市場金利を押し下げ、それによって設備投資等を刺激して景気を回復させようというものです。しかし、ゼロ金利になると、金融を緩和しても金利がそれ以上は下がりません(マイナス金利のことは、忘れましょう)。それならば、金融緩和は効かないはずです。
ゼロ金利下で日銀が銀行から国債を購入しても、銀行は融資先が見つからないので、日銀から受け取った札束をそっくり日銀に貯金します(準備預金と呼びます)。従って、資金は世の中には出回りません。銀行の国債保有(銀行の政府への貸出)が減り、準備預金(銀行の日銀への貸出)と日銀の国債保有(日銀の政府への貸出)が増えた、というだけです。実際、白川総裁の時は、金融を緩和しても何も起きませんでした。
しかし、黒田緩和が始まると、株価(およびドル、以下同様)が値上がりしました。それは、一部の投資家(本稿では黒田教信者と呼びます)が「金融が緩和されると世の中に資金が出回るから株価が上がるはずだ」と考えて株に買い注文を出したからです。株価は人々が噂を信じて買い注文を出せば上がるので、その噂が真実であるか否かは関係ないのです。そうなると、黒田教信者でない投資家も、「黒田教信者が買い注文を出しているから、株価は上がるだろう」と考えて株の買い注文を出したので、株価は一層上がったのです。
医者が患者に小麦粉を渡して「よく効く薬だ」と言うと、患者の病気が治る場合があり、これを「偽薬効果」と呼んでいます。今回も、効くはずのない政策を「効く」と宣伝しながら実行したら、本当に効いてしまったというわけですから、まさに偽薬効果であったと言えるでしょう。
黒田総裁が、本当に効くと信じていたのか、効かないと知りながら効くと言っていたのかわかりません。後者であれば、彼を嘘つきと呼ぶことも名医と呼ぶこともできるでしょうが、本稿では結果重視で「名医」と呼んでおきましょう。
1ドルが80円から120円になれば、普通は輸出数量が増えます。輸出企業が「輸出すれば儲かるから頑張って輸出しよう」とするからです。しかし、今回は輸出数量は増えていません。
一因は、円高時に計画された海外現地生産が、円安後に実行され、海外の生産が開始したので、輸出先が減ってしまったというものです。しかし、円安から4年も経つのですから、既にそうした効果は剥落しているはずです。
輸出企業が輸出価格を下げていないから、海外から見て日本製品が安くなっていない、という指摘も聞かれました。契約通貨ベースの輸出物価指数を見ると、たしかに2014年までは、円安にもかかわらず輸出価格は下落しておらず、円建て輸出価格指数が上昇しています。しかし、2015年からは、一段の円安に応じて契約通貨ベースの輸出価格を引き下げる動きが明瞭となっています。輸出価格が下がったら輸出数量が増えるのが普通なのですが、そうなっていないのです。
輸出を増やすためには、国内工場の生産ラインを輸出品向けに組み替える必要がある、とも言われています。日本の輸出企業は、長期的に円高に傷めつけられ続けて来たので、円高トラウマがあり、「また、どうせ円高になるのだから、生産ラインの組み換えはやめておこう」と考えているのかもしれません。
輸出企業が円高トラウマ等で輸出を頑張らなくても、外国のバイヤーが「日本製品が安く買えるから」と押し寄せても良いのに、そうした動きも今ひとつのようです。日本製品はガラパゴス化しているので、国内用の製品と輸出用の製品では、あまりにスペックが異なっていて、外国人バイヤーのお目に留まる製品が無いのかもしれません。
輸入数量が減っていないことも不思議です。日本人にとって、輸入品が高くなったのですから、国産品に乗り換える消費者が増えても良いように思います。これについては、「カジュアルな服は中国で、高級品は国産で」といった棲み分けが確立しているので、国産のカジュアル服が存在せず、円安になっても中国から輸入せざるを得ない、という事情もあるようです。
それにしても、不思議です。筆者は輸入品のウイスキーやワインを減らして国産の日本酒や焼酎を飲むようにしていますが、そうした消費者は少ないのでしょうか(笑)。
景気の予想屋が経済成長率を重視するのは、「経済が成長すると、企業が物作りのために人を雇うから失業が減り、景気が良くなる」からです。従って、今回のように成長率が低いままだと、失業率が低下せず、労働力不足は生じないはずなのです。それなのに、失業率は下がり、有効求人倍率は上がり、人手不足の悲鳴があちらこちらから聞こえています。なぜでしょうか?
一つには、高齢化に伴う医療・介護サービスの増加が挙げられます。ロボットが自動車を作る全自動の工場が減って、介護施設が建てられれば、GDPはプラスマイナスゼロだとしても、労働力の需要は大幅に増加するからです。もっとも、これは長期的なトレンドとして進んでいる話であり、アベノミクスによって始まったわけではありません。「アベノミクス前から徐々に水位が下がり続けていたが、誰も気付かなかったところ、アベノミクスにより川底の石が顔を出したために皆が水位の低下に気がついた」といったイメージでしょう。
もしかすると、アベノミクスを契機として、値下げ競争からサービス競争に変化した部分も大きいのかも知れません。従来は、ペットボトルの水を買うには自分でスーパーへ行って水を買い、自分で持って帰る必要がありましたが、今では通販会社にインターネットで注文すれば、早ければその日のうちに到着します。販売側としては、「送料無料」と宣伝することで、「代金と送料の合計から送料分を値引きした」というつもりでしょうが、買い手からすれば「水を買ったら宅配してくれた。サービス向上だ」と感じられる、というわけです。
企業収益が好調で、しかも労働力不足なのに、正社員の給料はそれほど上がっていません。なぜでしょうか? それは、正社員が釣った魚で、給料を上げなくても辞める心配がないからです。
正社員は年功序列賃金ですから、若い時には会社への貢献より給料が低く、中高年は会社への貢献より給料が高いのが普通です。そうだとすれば、途中で退職してしまい、転職先では会社への貢献に見合った給料しか受け取れないとすると、損をしてしまうので、転職をしないのです。
アルバイトや派遣といった非正規労働者の時給は上昇しています。それは、彼等が時給を上げないと退職してしまうからです。そこが正社員と非正規社員との大きな違いなのです。
かつて、日本企業が「従業員主権」で「会社は家族」であった時代には、会社が儲かったら、配当を増やすのではなく従業員に還元したものです。したがって、経済の成長につれて正社員の給料も順調に上がって行ったのです。しかし、最近では「企業は株主のものだから、儲かったら配当をするのが当然」という企業が増えています。中途半端に日本的(年功序列賃金だけ残り、会社は家族ではなくなってしまった状態)である事が、給料が上がらない理由なのかもしれませんね。
そうだとすると、非正規労働者の時給は引き続き上昇し、新入社員の初任給も就職戦線が売り手市場である事を考えると上昇せざるを得ず、意図せずして「同一労働同一賃金」に近づいて行くのかも知れませんね。
企業の収益は好調で、史上最高レベルにあります。しかし、設備投資は盛り上がりに欠けています。その一因は、生産も売上も増えないので、能力増強投資を行なう必要がない、ということでしょう。今ひとつは、過去の不況のトラウマだと思われます。バブル崩壊後の日本経済は、何回も景気が回復しかけては挫折し、そのたびに「景気回復を期待して能力増強投資を行なった企業」が痛い目に遭ってきました。それがトラウマになって、「どうせ遠からず不況になるのだろうから、能力増強投資はやめておく」という企業が多いのでしょう。
一方で、省力化投資には期待が持てます。これまで安価な労働力が豊富にあったので、企業は省力化投資のインセンティブを持たず、省力化投資を怠って来ました。そこで、少しの省力化投資で大幅な省力化ができる余地がいたる所にあるからです。少子高齢化を考えると、中長期的に労働力不足は続きそうですから、「どうせ遠からず安価な労働力が豊富に手に入るだろう」とは思われませんから。
労働者の平均賃金は、アベノミクスによってもほとんど上がっていません。しかし、これは正社員よりも非正規社員が増えたことによって平均が押し下げられたことの影響が大きいのです。サラリーマンに養われていた専業主婦がパートの仕事を始めると、家計の収入は増えて家計は豊かになりますが、労働者一人当たりの平均賃金は下がります。そうしたことが多くの家庭で起きているため、日本全体としても「労働者階級の稼ぎは増えているのに、一人当たり労働者の所得は増えていない」という統計になっているわけです。
このように、人知れず日本の労働者階級の総所得は増加しているのですが、その割に消費支出は伸びていません。「社会保険料負担が増加しているから、給料が増加しても実質的には豊かになっていない」「老後が不安だから人々が貯蓄に励んでいる」という面もありますが、「アベノミクス前から社会保険料は徐々に上がっていた」「アベノミクス前から人々は貯蓄に励んでいた」ことを考えると、「アベノミクスによって所得が増えたのに消費が増えない理由」の説明には使いにくいです。
やはり、不況のトラウマで、「どうせ遠からず失業するのだから、せっかく受け取った給料は貯蓄しておこう」と考えているのかもしれませんね。これについては、少子高齢化による労働力不足が今後中長期的に深刻化していくことを考えれば、おそらく心配無用なのでしょうが、そこまで考えずに不安に思っている人が多いのでしょう。
七不思議の最後は、そもそもなぜ景気は回復したのか、ということです。アベノミクスで景気が回復したことは疑いありません。今の景気が素晴らしいという訳ではありませんが、兎にも角にも消費税率を5%から8%に引き上げたのに景気が腰折しなかったわけですから、その程度には景気は強くなっていたわけです。では、なぜ景気は回復したのでしょうか?
円安で輸出数量が増えたからでしょうか? 違います。輸出数量はほとんど増えておらず、輸入数量もほとんど減っていません。では、輸出企業が円安によって潤ったからでしょうか? 違います。日本は輸出と輸入がほぼ同額なので、輸出企業が外国から持ち帰ったドルが高く売れたのと、輸入企業が輸入代金を支払うためにドルを高く買わされたのと、同じくらいの金額なのです。
株高で個人消費が増えたからでしょうか? 違います。当初こそ、富裕層の高額品消費が話題になりましたが、最近では聞かれません。労働者の所得が増えたのに、消費が増えていないのは上記の通りです。インバウンドによる「爆買い」も一時的な現象に終わってしまいました。
企業が儲かったから設備投資をしているのでしょうか? 違います。企業は、史上最高レベルの高収益を稼いでいながら、設備投資には慎重で、銀行からの借金を返すことに熱心です。省力化投資は少しずつ増えていると思われますが。
そう考えると、景気を回復させた原動力が何であったのか、不思議です。公共投資は、当初は効果があったはずですから、これで景気の方向が変わり、そのまま「慣性の法則」で景気が回復を続けた、ということのようですが、いずれにしても不思議ですね。
安倍政権は当分続きそうですし、日銀の金融政策も大幅な変更は無いでしょう。その前提で、今後の日本の景気を占ってみましょう。
過去が説明出来ないのに将来を予想するのは無謀かも知れませんが、おそらく緩やかな景気の拡大は続くでしょう。最大の理由は、「景気は自分では方向を変えない」「景気を悪化させる特段の要因(消費税率引上げ、海外景気悪化等)が見当たらない」ということだと思います。
労働力不足が深刻化すれば、企業の省力化投資は着実に増えて行くでしょう。労働者の所得が増え続ければ、いつかは消費も増えるでしょう。景気回復が続けば、いつかは「不況のトラウマ」も弱まっていくでしょう。
加えて、円安水準が持続すれば、いつかは企業の円高トラウマも弱まると期待されます。円安効果によってワインやウイスキーより日本酒や焼酎を飲む日本人が増えることも期待しています。
もちろん、トランプ大統領が大規模な国際紛争を生じさせたりしない、ということが大前提ですが(笑)。 
●「アベノミクスの功罪」 2018/6 
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功罪といいますと、いい面と悪い面という意味ですが、そもそもアベノミクスにいい面なんかあるのかとお思いのことと思います。しかし、どんな本当に最悪のニュースの中にもいい面、見つければあります。本当最悪のことが起きたから、そこから人々が目覚めてよくなるとか、英語でよくThere is always a silver lining.っていう言葉ありますけれども、シルバーライニングっていうの、雲の裏側のことなんですね。雲の裏側に必ず光ってる裏地があるという。本当にどんな暑い雲の裏側にも、そこに、裏におてんと様が照っていて、そして、光る面が裏に隠れてるという、分厚いアベノミクスの雲の向こう側には光があるということで。ちょっとしゃべること多いんで、もしかしたら今日1日では全部しゃべりきれないかもしれないんですが。このアベノミクス、今さらながらなんですけれども、散々もう長いことやってます。で、散々批判もされています。しかし、批判ばっかり、安倍政権がやることだからだめなんだろうという、そんなような批判もありますし、もうちょっと冷静に何がだめなのか、どこがいけないのか。そして、出口戦略、出口戦略と言っていますが、そもそも出口があるのかないのかと、そんなような話もちょっと広げて話せたらいいなと思って。もしかしたら2、3回シリーズになるかもしれません。アベノミクス、今さらながらテーマにしてみたいと思います。
まずアベノミクス、一言で言うと、これは本当に浅はかとしか言いようがないです。小学校の課題発表みたいなもんだなと思いました、これ見たときに。要するに、教えられたこととか一般的にいいとされているステレオタイプの考え方、それから過去の成功例とか、そんなものいろいろ引っ張り出して、焼き直して、いかにもすごいことのように、すごいことを思いついたかのように大々的に言ってやったなんていう、そんなようなもんだと思います。しかしやってることは基本的に、今まで本当に何十年もやり続けてきて、その方向はだめだという、その方向性をさらに加速させるための施策でしかありません。ですから、今までの従来的な考え方で言うと、必ずしも間違ってはいなかったんだと思うんですよ。例えばアベノミクス、もう一回おさらいすると、3本の矢って最初に言ってましたね。その3本の矢っていうのが大胆な金融政策、機動的な財政出動、三つ目が成長戦略と。要するにこれ、今まで日本がこの何十年もやれてきた経済成長を、夢よもう一度と。新3本の矢みたいなあとで出してきて、それもやっぱりGDP600兆円みたいなことも言ってます。要するにGDPが上がれば幸せになれるという、そういう本当にステレオタイプの、もう高度経済成長からずっとやってきたことをもう一度やろうとしてる、ただそれだけのことです。そのために、金融緩和、これも実はもう何十年も、景気が悪化すれば金融緩和をして金利を下げればいいという時代が一定期間続いて、そして、もう金利がこれ以上下げられなくなったから、今度は異次元の金融緩和みたいなかたちでそれをやっていくと。要するに、もう本当に手あかのついた、使い古した、そういった、いろんな効かなくなった政策をいっぱい引っ張り出してきて、もう既にそっちの方向じゃないということをさらにやろうとしてるという、そんなような、時代の大きな変わり目とか、今、何が起きようとしてるのかっていう、そういう本質的な理解とか、今起きてることに対する深い洞察というようなものが全くない、ぺらっぺらの、浅はかな、本当にどうしようもないことをやってます。今さら私が何でこれを言ってるかというと、その弊害がとてもいろんなところに出てきてるなというふうに思うので、そこら辺のことも含めて皆さんにお話しできたらいいなと思ってます。
功罪と言ってるので、いい面っていうわけじゃないんですけども、そもそも今までどおりの考え方で言うと、この最初の3本の矢、大胆な金融政策、金融緩和ですね、これは。それから機動的な財政出動。まあ成長戦略はその結果ですけれども、これ何をやろうとしてるかというと、要するにデフレ脱却ですよね。デフレっていうのはお金が足りない、お金をじゃぶじゃぶにして増やせばインフレになるんだろうという、それは今までの固定観念とか今までの常識です。だから、大胆にそれをやればデフレから脱却するんだろうという、そういう浅はかな考え方です。それでやってきてますが、結局、もう本当に何年もやってきて、インフレなんて全く起きないわけですね。そもそもお金の量が問題じゃないということです。実際に金融政策でお金を増やすといっても、もう既にここ数年、アベノミクスやる以前から実体経済をはるかに超える額のマネーストックがあります。GDPが500兆ぐらいなのにもかかわらず、当時からもう800兆、900兆のマネーストック、お金があったわけですね。ですから、お金が足りないわけじゃないんです。お金を増やせばそれがトリクルダウンで皆さんのところに行ってっていうことで金融緩和をしていますが、それもどうも行ってるようには思えない。結局何が起きてるかという、皆さんも多分直感的にわかってると思うんですよ。本当に必要な人のとこに届いてないんですよ。何でそうなってるかというと、届かない仕組みになってるんですよ、今の金融資本主義は。結局、お金をみんなから巻き上げて資本家が持ってってしまうという、そういう仕組みが既にあるから、その中にいくら金融緩和でお金を放り込んだところで、皆さんのところには回っていかないんですよね。結局、今のお金の発行の仕組みというのは、もうこの動画の皆さんわかっているとおり、借金でお金を発行します。ですから、結局、日銀の金融緩和って何をやってるかというと、借金を増やすための政策をやってるわけですね。大胆な金融政策、異次元の金融緩和っていうの何をやってるかというと、皆さんもご承知のとおり、日銀が銀行が持ってる国債をどんどんどんどん買い上げちゃうわけです。それで、買い上げたお金、それを日銀の中にある各銀行の当座預金にその代金を振り込みます。そうすると、もう日銀、400兆ぐらい国債を買ってるんですね。もう発行済みの国債の半分ぐらい買ってしまってるんです。そうすると、今まで国債を持って利息を得ていた銀行のお金がキャッシュに変わってしまうわけですから、そして、今はある一定以上の金額に関してはマイナス金利がかかることになってますから、それじゃ困るということで、そのお金を民間銀行が民間に貸すようになる。貸せよという話です。貸せば、借金が増えればお金が増えますから、金融緩和の効果が出て、皆さんの、要するに借りたお金を借りた人が使って何かをして、そして、そのお金が皆さんのとこに行けば皆さんの預金が増えるという、こういう方法でお金を増やそうとしてるんですが、もうそもそもお金を借りてもやることがないと。経済成長が止まってもう本当に20年以上たってますから、それを使って実体経済で何かをできるような状況ではないんですね。これも本当におっきな歴史の流れの中で、経済成長というのは基本的に無限に永遠に続くことはないですから、ある時点でそれは必ず止まる。しかし、借金でお金を発行する限りは、どんどんお金と借金を増やし続けなければいけない。借金を返すためにさらに多くの借金が必要で、それにも金利がかかりますから、さらにもっと多くの借金が必要でっていうことで、借金とお金がどんどん増え続けるのにもかかわらず、経済成長が止まれば、もうこれはお金ばっかり増えたって使いようがないわけです。さらにそれでもお金を増やそうとしてるから、こんな無理なことが起きる。
その結果何が起きてるかというと、お金を無理やりにでも銀行は貸そうとしますけれども、経済成長がなくなると貸せる相手も減っていきます。借りたい人も減っていくんで、そして安心して貸せる相手自体がそんないないわけですね。だから、どういうことをやるかというと、例えば土地担保融資みたいな、なるべくリスクのないようなかたちでそのお金を融通しようとします。そうやって貸そうとするんですね。そうすると、それを手にした人が土地を買ったりとかするわけです。今もう本当、アベノミクスやりだしてから地価がじわりじわりと上がってます。地価が上がる、で、喜んでる人はいるかもしれません、土地を持ってる人たちね。でも考えてみれば、今、土地を持ってる人たちっていうのは本当にごく一部の、大体ご高齢の方々がほとんどの土地を持ってらっしゃいます。対して、そういった土地なんかももちろん持たずに生まれてくるのが子どもたち、若い人たちですね。彼らは本当に社会に出た瞬間に、もう何も持たない状態で社会に放り出されて、生計を立てるために働いて、そして、あらゆるものを払っていかなきゃいけない。その中で本当におっきな負担となってるのが家賃なんですね、日本の場合地価が高いですから。そもそもバブルが崩壊しても結局、まあ一時的に下がってますが、それでも世界的に見れば高いです。何でそういうことになるかというと、例えば先ほど言ったような、アベノミクスのような政策で、じゃぶじゃぶのお金が不動産市場に流れると、それが不動産価格を高止まりさせるわけですね。当然それが家賃を下支えします。結局そうやって、例えばお金を借りた人が不動産を買って、その金利も含めたものを返すために家賃高く設定して、結局、若者たちは何も持ってないですから、そういう家賃を払うとこから社会に出た瞬間にやらされることになる。そうやって、結局、持てる人たちはどんどんどんどんリッチになりますけれども、持たざる、持たないまま生まれてきた子どもたち、若い人たちはどんどんどんどん搾取され続けるという、そんなことが起きるんですね。これは何にもいいことありません。結局、例えば家賃収入とか、家賃はまだ上に建物建てますからいいですけど、地代収入みたいな、それから金利もそうなんですけど、これは不労所得です。日本の場合、不労所得というのはとても大きな部分を占めています。家賃もそうですし、それから金利もそう。結局、土地を買うために発行された膨大な借金、お金、そこにかかる金利がやはりすべてのものの値段に含まれていきますから、我々が払う値段の中で含まれる金利と、それから、もちろん土地代もそこに含まれています。家賃が高ければどんな商売をしていても、もちろんそのぶんコストに乗っかってきます。その不労所得、家賃収入とか金利収入、その不労所得が大きければ大きいほど、やはり何も基本的には持ってない人たち、現役世代、労働所を得て生きている、特に若者たちは搾取され続けることになります。労働所得が相対的に低ければ実際にものを作り出してる人たちが苦しくなるに決まってるんです。そうすると結局その人たちが、活発な世代ですから、現役世代っていうのは。その人たちが十分なお金を手にすれば、もっと市場は広がっていく、もっと経済も大きくなっていく、順調に推移するのにもかかわらず、その人たちから搾取してるから、結局それでご高齢の方々、おおむね資産のある方々がその不労所得を得ても、今度、ご高齢の方々はもうそろそろ引退してしまって、これからどのくらい生きるのかわかりませんから結局お金を使わないっていうことで、結局、自縄自縛の状態になってます。
ですから、ちょっとアベノミクスから多少離れましたが、要するにそういう今までどおりの考え方、今までどおりのGDP成長とかインフレを作るとか、そういった考えで今までどおりの古い政策を引っ張り出して、焼き直して、さもすごいことを思いついたかのようにやってるというのがアベノミクスです。しかし、本当に大きな時代の流れはもうそこまできていて、今までどおりの経済成長だったりとか、それから今までどおりの金融政策、そもそも今までどおりの金融のシステムそのものがもう実はおかしいんだという、そんな時代にきて、それを根本的に変えていかなければいけない時期に、本当に20世紀型の夢よもう一度みたいなことをやっているようなアベノミクスは、残念ながら本当に完全に時代遅れです。アベノミクスに関してはもっといろいろ、多分、話すべきことがあるんです。功罪の功の部分まで今日全然いかなかったので、来週また今日話し足りなかったことも含めて少し整理して、このアベノミクスについてはもうちょっと話したいと思います。もう一つとても大きな、地価を上げるとかそういったことのほかに、日本の支配権、日本の土地だったりとか会社の株だったりとか、そういったものを実はアベノミクスのおかげでどんどん売り渡してるという、そんなことも起きてます。それについては来週また話したいと思います。今日はアベノミクスの功罪について、功のところまではいきませんでしたが、話してみました。第1回目ということで、このアベノミクスについてはあと1回、2回かかるかもしれません。もうちょっとお話ししたいと思います。
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前回に続いて「アベノミクスの功罪」。功罪といってもほとんど罪ばっかりで(笑)、巧の部分まで今日いかないと思います。
結局アベノミクスは何かというと、本当に古いモデルをそのまま引きずって、要するに、高度経済成長の夢よもう一度とやってるにすぎません。とにかく経済成長、経済成長、経済成長。これは残念ながら安倍政権だけではなくて、野党も結局おんなじようなこと言ってます。経済成長、経済成長。さも経済成長がいいことかのような、それ以外に幸せな方向性はないかのような、そんなことを言っていますが、これは本当に今までの固定観念に捉われてるだけです。かつてはそれでいい時代はありました。経済成長っていうのはご存じのとおりGDPがとにかく増え続けることです。GDPっていうのはどうやって計算するかというと、「消費」+「政府支出」+「投資」+「純輸出」です。結局、高度経済成長の時代は全部が右肩上がりで増えていたわけです。戦後復興、何もない状態から、とにかく資源を輸入して加工して、輸出して黒字を稼いで、黒字をたくさん稼げばそれで輸入が増えて、さらに生産が増えて、ものもたくさん作られて、消費も上がって。結局純輸出も増え、そして消費も増えて、それから、そのための投資も増えて当然税収も上がるので、政府支出も増えて、とにかく全部が上がったから、全部がうまくいったその結果として当然GDPも上がっていく。それが、ですから幸せの指標というか、うまくいってる証拠だったわけです。株価も結局おんなじです。GDPを上げて株価を上げて、そして地価も上がって、土地の値段も上がって、すべてがうまくいっていたのが高度経済成長期です。しかし、そういった戦後復興のモデルというのはバブルが崩壊してから完全に行き詰ってます。とにかくたくさん作っても売れるわけではなくなっています。ですから、このGDPを増やそうとし続けるために、ひたすら黒字を、要するに純輸出を増やそうとし続けています。ひたすら今度海外に売るなんてことを必死にやって、それで何とか純輸出の部分が増えればGDPが上がって、それが政治家の点数になったというようなことをずっと続けています。しかし、残念ながらこのやり方が大きく間違え続けてきたのは、1985年のプラザ合意で大幅な円高になりました。当時230円ぐらいだったドル円の為替レートが一気に100円ぐらいまで2、3年で落ちたわけですね。そうすると海外に当然売るのは難しくなります。そもそものプラザ合意の意図というのは、そうやって日本の輸出が減って、黒字が減るという、日本が黒字を稼ぎすぎたから、そういったプレッシャーをアメリカからかけられたというのがプラザ合意の本質です。ですから、そうしなければいけなかったのにもかかわらず、結局バブルが崩壊して我々は何をしたかというと、同じ成功モデルにしがみついたんです。ですから、輸出をさらにするためにひたすら国内のコストを削った。しかし、コストというのは皆さんの売り上げまたは給料です。要するに、85年のプラザ合意以降も30年以上たっていますが、バブル崩壊以降も結局それをずっとやり続けて、ひたすら皆さんの、要するに売り上げと給料です。コストというのは皆さんの売り上げ、給料です。それを削り続けて海外に売り続けて、その結果、日本は世界一のお金持ち国になりました。世界一の黒字国になりました。しかし、それはすべて海外に貸しっ放しで、皆さんのためには使われていない。かたや、皆さんはひたすらコストカットで自分たちの給料と売り上げを減らされ続けて、だから世界一のお金持ち国になっても皆さんは全くその実感がないんです。そういう間違った国家経営をさらにドライブをかけて進めようとするのがアベノミクスです。ですから、ひたすら異次元の金融緩和をして、お金をじゃぶじゃぶにして、しかも円安政策を基本的には取ってます。円安政策で喜ぶのはもちろん大手輸出企業です。これはおそらく大手輸出企業が固まって作ってるような経団連みたいなところが自民党に大きな献金をしてるということとも、もちろん無縁ではないと思います。これはいわゆる、要するに利益誘導政治みたいなもんです。
それから消費税。アベノミクスの異次元の金融緩和と消費税の増税っていうのは明らかに矛盾する政策です。なぜなら、異次元の金融緩和でお金を増やそうとする一方、消費税を上げれば、要するにそのぶん税金を皆さんから取るわけですから、マネーストックは減ります。ですから、お金を増やす一方、消費税増税で皆さんからお金を吸い上げるという全く矛盾した政策を、そんなこともやってしまっています。前回の消費税増税もそうでした。それから法人税の減税。もう明らかに人のための政策ではなくて、ごく一部の大手輸出企業とか、そういった大きな企業のための政策です。ですから、そんなことをやって、それで、例えばほかに何をやろうとしてるかというと、例えばTPP、関税を下げる、誰のために?輸出企業のためです。結局そうやってやれば輸出が増やせると思ってる、それが言い訳になってますけれども、もう既に黒字は稼ぎすぎて、それ以上黒字を稼いでも仕方がないのにもかかわらず、それでTPPをやろうとするのは、理由としては、それで海外に売りやすくなるとか、それで輸出が増えるとか、もうそっちはだめだというのに同じことをやってる。それから例えばオリンピック、これも巨大なインバウンド政策です。インバウンド政策というのは、観光客、日本に訪れる人たちを増やして、そこでお金を落としてもらうと。これは、落としてもらうお金っていうのは基本的に日本国内では円を使いますけども、ドル、外貨を持ってきて、それを換金して円にして使うわけですから、結局落ちていくのは外貨なんですね。これ国内輸出と同じです。ですから、これもやっぱり戦後復興と同じだめだった方向性、ひたすら黒字を稼ぐという方向性をそのままさらに大規模にやろうとしてるのがオリンピックです。今、そんなことやる必要はないです。それから、カジノに至ってはもうばかですかっていう話です。カジノでGDPが増える。GDPはただ増やせばいいわけじゃないんです。お金をただ回せばGDPっていうのは増えます。例えば、よく私この話をしますが、1億円の穴掘り事業があったとして、公共事業で、全く無駄な事業ですけど、それで1億円使えば1億円動いてGDPは増えるんです。しかし、穴掘り事業っていうのは全く無駄な事業で、それが何を無駄にするかというと、これはお金じゃないんですね。1億円は右から左、それから、さらにその先にどんどんどんどんお金というのは回り続けて、決してなくなることはありません。しかし、それで本当になくなってしまうのは、全くそういう意味のない穴掘り事業のようなものに使われてしまった人の時間と労力、それから資源、それは永遠に失われてしまいます。結局カジノ産業なんてそんなようなもんです。カジノ産業の本質はただのばくち産業です。そんなことをいくらやってGDPを動かして、人の時間と労力と資源を使ったところで、そんなものはおそらく子どもたちの未来には大してためにはなりません。そんなことのために皆さんの、今、時間と労力を使うことが本当にもったいないんです。国家経営の本質っていうのはGDPを上げることでも黒字を稼ぐことでもありません。いかに皆さん一人一人の時間と労力、それから貴重な地球の資源を本当に大事に使って、それを本当に意味あること、本当に皆さんのため、未来の子どもたちのため、そして世界中の人たちのためになることをやるか、それを、その方向性を示すのが本来の国家経営の本質です。ですから、そういうものがわかっていないで、ただ本当に、GDPとか経済成長とか株価を上げる、今まで高度経済成長時代に指標となっていたその数字のところだけを上げようとする、そんな浅はかな政治家がこの国を動かしてる限りは我々は方向性を失ってしまいます。そもそも、例えば株価、もうこれアベノミクスの一つの目的なのかどうかわからないですけれども、株価なんて、まあお金をじゃぶじゃぶにすれば株価は上がるかもしれません。しかし、株価なんて別に上がったって大して意味はないんです。株価がいくら上がろうが、それで実体価値が増えるわけじゃないですから。例えばそもそも分離課税、今20%になってます。株でもうけた税金っていうのはたかだか上限20%です。かたや、それに対して所得税の最高税率と地方税を合わせると55%です。要するに、実体価値を作って所得として得てる人よりも、単に株価、また、土地なんかの投機でもうける人のほうが税金が低いということです。(笑)。要するにこれ、社会として額に汗をして働いて何か実体価値を作って、それで所得を得るよりも、投機をして右から左、とにかく何も作り出さずに売り買いして、それでもうけたほうがいいよという税制です。こんなおかしな社会はあったもんじゃないんです。ですから、根本的に今おかしくなってます。何が大事なのか、何をしなければいけないかという、そういったことがわからなくなってしまっている。そして、そういったことがわからない人たちが、経済、財政、金融、そして政治を動かしてるという、そういう本当に由々しき事態になっていますので、そこからそろそろ根本的に考え直す必要があります。
あともう一つ、このアベノミクスの副作用で非常に私が危惧してるのは、だぶついたお金が結局、海外投資に回ってるんですね。アベノミクスで、異次元の金融緩和でたくさん増やそうとするお金、それは結局国内の投資には回りません。GDPの成長がないとか、そもそもお金を銀行が貸したくても借りられる人、借りたい人がいなくて、銀行も貸せる相手を見つけられないので、それを今度海外に投資する。しかし投資するといっても問題は、そうやって金融緩和で膨れた円がそのまま海外に出てくわけじゃないんですね。これは当然、円は日本に残りますから、そして売った円資産も日本に残って。結局円を売って、海外、外貨を買って、それを海外に投資して、海外の資産を買うわけです。そして、売られた円は結局誰が買うかという話です。日本人が買うんならまだいいかもしれません。しかし、これをもし外国人が買って、その円を外国人が買って、その円で今度は日本の株とか、それから土地とか国債とか、そういったものを買っていくということになると、今度、日本の支配権を外国人に売り渡すことになります。かたや、日本の銀行とか投資家たちは円を売って海外の資産を買う。それこそドルのような紙くず資産、アメリカ国債のような紙くず資産を買う。そんなようなことになれば、我々は自分たちの本当に世界の最優良の円資産、日本っていうのは世界一のお金持ち国で世界一の黒字国ですから、要するに、その通貨の裏づけが最もある国なんです。その国の通貨、それから資産を外国人に売り渡して、逆に世界一の借金大国のアメリカ合衆国のドル、それからその国の国債、借金まみれの国の政府の国債なんかを大量に買って、要するに、他人のぼろ家を買って自分ちの豪邸を売り渡すようなことになりかねません。それがどんどんどんどんアベノミクスで進行してるんです。ですから、日本は世界一のお金持ち国と言いましたが、これは日本が海外に持ってる対外資産と、海外勢が日本に持ってる対外負債、要するにこれは差額です。この話は以前もしました。それが今、328兆円ぶんぐらいになってますが、為替の変化、それから我々がこのどうしようもないアベノミクスをさらに続けることによって、それは一瞬にして、もしかしたら逆転する可能性があります。ですから、本当にまずい状況になってるんです。ですから、そろそろこういう本質的な問題をしっかりと我々が認識する必要があります。アベノミクス確かに機能していません。しかし野党は言うように、ただアベノミクスがだめだとか、安倍政権憎しでそんなことを言っていたところで、結局、彼らはどんな解決策をほかに持ってるかというと、何にも持ってやしません。野党なんかにいくら期待したってもうだめです、あんなものは。与党も野党もひっくるめて、問題の本質が全くわかっていないんです。問題の本質はアベノミクスがだめだから、今度、出口戦略、出口戦略みたいなことを批判をする人は言っていますが、そもそもこのアベノミクスに出口戦略なんてあるわけありません。なぜなら我々が入り込んでる袋小路っていうのはアベノミクスの問題ではないんです。そもそも今のお金の発行の仕組みの問題が根本にあります。それを変えないことにはアベノミクスがどうのこうのとかいう話でもないですし、それから、こういった戦後70年間の方向転換をするなんていう、そろそろGDP成長とか株価とか、そんなことばっかり言ってるんじゃなくて、日本の経済構造そのものを根本的に変えるなんていうことも結局野党はもちろん言っていませんし、もちろん与党も言っていません。しかし、そういうところから今変えなければいけない。本当に長い間、それこそ20世紀ほとんど戦後やってきたようなことを根本的にすべて転換していく必要があるんです。今、その時期です。今、そういった議論ができない、与党も野党も含めて政治家は全く役立たずです。ですから、まずそれを皆さんにわかっていただくためにこんな話をしています。
ちょっとまた長くなりましたし、まだしゃべりきってないので、来週はこの「アベノミクスの功罪(3)」をやりたいと思います。来週は功罪のうちの巧の部分。これはもう功績というよりも、どちらかというと、けがの功名の巧です。しかし、けがの功名でも何でも、これだけおかしなことをやったからこそわかったこと、それから、こんなことをしたからこそ次できることっていうのが実はあります。それについて来週はお話ししたいと思います。
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今日は功の部分、ずっと私はけがの功名の巧だというふうに言ってますが。まずこのアベノミクス、前回、前々回言っていますが、何が根本的にだめかというと、要するに考え方が古すぎるんですよ。今までの経済成長至上主義、そして、今、デフレで経済成長がないからとにかくお金をじゃぶじゃぶにして、お金をいっぱいにすれば消費が上がって経済成長するとか、GDPが上がるとか、要するに20世紀ずっとやってきたことの踏襲を、一気にドライブをかけてやろうとするのが基本的アベノミクスなんですね。何がいけないかというと、アベノミクスそのものじゃなくて、その考え方そのものなんですよ。古いやり方をそのままやろうとすると。そういった意味では、別に野党も全く新しいことを何も言ってないんですね。ただアベノミクスはだめだって批判してるだけで、何が本当にだめで何を変えなければいけないという根本のところは野党も結局わかっていません。結局、出口戦略、出口戦略と言う人はよくいます。本当に多いんです。ただ、出口戦略って何のことを言ってるのかほとんどの人はわかってないんですよ。要するに、異次元の金融緩和いつまでも続けるわけにはいかないとか、そういう固定観念にこり固まってそんなことをただ言ってるだけで、おそらく自分で何を主張してるのかわかってすらいないんだと思います。出口戦略って、例えば、じゃあそれはアベノミクスの異次元の金融緩和でやってることっていうのは、特にやってるっていうのは国債を大幅に買ってます。日本の銀行から400兆以上の国債を日銀が買ってしまってるんですね。その日銀が400兆以上の国債を持ってることを何とかしろというのが出口戦略なのか、金融緩和そのものをやめろと言っているのか、何が問題だと言ってるのか、それもはっきりしないんですね。アベノミクスの一つよかった点っていうか、けがの功名なんですが、今までのやり方をそのままいくら踏襲しても、考え方を踏襲しても全くだめだということがこれで多分はっきりしてることがまず一つあります。今までのやり方で金融緩和をするとなると、もうこの方法しかないんですよ。要するに金融緩和っていうのは世の中のお金を増やすことです。世の中のお金を増やすっていうことは、要するに借金でお金を発行してますから、借金を増やすということ以外に今までの仕組みの中ではないんです。それをやる方法というのは、民間銀行がお金を貸すか、政府が借金でお金を使うか、いずれにしても政府の借金なのか、民間銀行が民間にお金を貸すのか、どちらでも、とにかく借金を増やす以外の方法はないんです。一つ、財政、財政ってよくいわれます。これも言ってる人が根本的にわかってないんです、仕組みが。結局、今の金融システムっていうのはとにかくお金と借金が増え続けないと立ち行かない仕組みです。なぜなら、お金を貸すことによってお金を発行して、その借金に金利がつくわけですから、それを返してもらうためにはさらにもっと貸し込まないと返ってこないんです。ですから、これは永遠に貸し続けて借金を増やし続けないと、貸したものが金利で増えて返ってくるためにはとにかくそれをやり続けなければいけないという仕組みなんです。それが行き詰まってる。だから要するに日本の場合は、経済成長が止まってから民間銀行は貸す相手を見つけられないから貸さないんです。バブルが崩壊して、日本の銀行の貸出残高というのは、バブルのピークには500兆以上あったものが500兆を切って、一時、本当に400兆切れまでいってから、もうほとんどずーっとそれから20年以上400兆円台をうろちょろしてるだけです。今回の異次元の金融緩和でも、日銀は銀行から国債を400兆以上買ってます。つまり、それは銀行が今まで400兆円ぶんの政府の国債を買って、それに曲がりなりにも金利がついてたものです。それに金利がつかなくなる。場合によっては一定量以上のところはマイナスさえ、要するにマイナス金利で減ってしまったりするので、銀行はそれを貸しなさいと。要するに、銀行にそのぶんの借金を民間に対して増やしなさいっていうのが異次元の金融緩和なんですが、結局、日本の銀行の貸出残高増えてるかというと増えてないんです、そんなに。ま、ちょっとずつ年間10兆円ずつぐらいは増えて、今、それでも400兆円台です。だから結局、日銀が400兆円以上の国債を買ったとしても、その400兆円ぶんがそのまま日本の銀行が民間に貸してお金が増えるわけでもないんです。ただ単に買った国債のぶん日銀にある銀行の口座にブタ積みになってるまんまなんです。だから、異次元の金融緩和をやったってお金は結局増えないっていうのが今回のアベノミクスでよくわかったことなんです。要するにマネーストックはそんなに増えてないんです。ベースマネーといわれる貸せる元のお金は、種銭は増えてますけど、結局増えないっていうのがまず一つ。だから結局、何がこれでわかるかというと、もう今の仕組み、お金を誰かの借金で発行し続ける仕組み、それによってお金が増え続けないと立ち行かない仕組みそのものが、もうこれは限界を迎えてるという。その仕組みがわかってれば、おそらく野党もそういった論法で今の政権を追い詰めることが、まあできるのかどうかわからないですが、少なくともそういったまともな議論はできるはずなんですが、結局そういったまともな議論っていうのはほとんど聞かれないまんまです。アベノミクスの一つのけがの功名というのは、要するに、今まで20世紀の間、戦後復興のあとずっとやってきたその方向性を踏襲して、そのまんまさらにドライブをかけてやったところで全くだめだったよっていうのがはっきりしたというのはまず一つ、これはけがの功名の一つですね。
あともう一つは、日銀が400兆以上の国債を買ってしまってるっていうことは何を意味するかというと、もう既に日本のお金、マネーストックっていうのは大体、私も繰り返し説明してますが、マネーストックM3が大体1300兆円なってます。それは皆さんの現金、預貯金、これは農協とか郵便貯金にある預金も含めると全部で1300兆円ぐらいになってます。要するに、皆さんのお金が全部で1300兆円あるうちのどのぐらいの割合が誰の借金かという、そこの部分なんですね。この動画をご覧の方はご存じだと思いますが、ほとんどすべてのお金っていうのは誰かの借金として発行されてます。要するに、その1300兆円のうちの、先ほども言ったように、民間の銀行の民間に対する貸出残高っていうのはまだ500兆もありません。四百数十兆です。かたや、日本の政府の借金っていうのはもう900兆ぐらいになってます。つまり1300兆円のうち、3分の1だけ日本の民間銀行が借金として発行していて、あとの900兆円ぶんは日本の政府が借金をしてお金を作ってるということなんです。これが何を意味するかというと、それで、その900兆円のうちの半分近くをもう日銀が既に持ってるっていうことなんですね。ですから、もうこの時点で、銀行が持っていた国債っていうのはもうかなりの部分日銀に買い取られてしまって。これどういう状態になってるかというと、政府が日銀に借りてる状態なんですね。何ができてしまうかというと、既に日銀は400兆円ぶんの国債を買ってしまってるわけですから、それをそのまま政府通貨で置き換えて消してしまうことは何の問題もないんです。だって日銀っていうのは基本的に政府の一部ですから、行政の一部ですから、要するに自分たちでバランスシートを作ってるだけの話で、400兆円ぶん政府通貨と国債を置き換えてしまえばいいわけですね。政府が日銀に借りてる状態で、政府が払ってる利息っていうのは結局国庫に返納されるわけですから、要するに自分たちの中でやってると。その状態に既に日本の政府の借金の半分がなってるっていうことは、もう半分の日本の政府の借金は消せるということなんです。多分、同じことはあとの残りの半分にもやることは全く可能なんです。それで困るのは銀行。日本の銀行は何で困ってるかというと、今まで曲がりなりにも国債を持って金利を稼いだ、利息を稼いでいたものが全部日銀に買われてしまって、その運用先を見つけられないと。これ要するに、銀行がそれじゃ困るじゃないかって言うかもしれませんが、そもそも何が問題なのかというと、銀行も貸せる相手を見つけられなくなってるっていうのは、無尽蔵にお金を借りてくれる人がいるわけじゃないということですね、もちろん。一生懸命、本当に借金を増やそうとしてます。カジノ法案をとおして、賭け資金、賭博の資金を銀行が貸そうなんていう話にもなってるのは、とにかく借金を増やし続けなきゃいけないからそうなってるんですね。この仕組みそのものがもう立ち行かないわけですよ。銀行も結局、だって利息をつけて返してもらうためには、そのぶんも含めてどんどん貸し込んでいかないと。それこそ、これはもうカジノと一緒で、負け続けてる相手にどんどんお金を貸し込んで、そこにさらに金利をつけてという、これはもう本当に高利貸しの世界で、これは今、もう本当に経済全体、そして、日本だけではなく世界全部がそういった方法でお金を発行していますから、巨大な、もう勝ちのない賭博場になっていて、もう本当に今の金融システムそのものがだめだということが明らかなんです。
ですから、そろそろそういう本質的な議論を皆さんが知ることによって根本的に変えていく。これはもう世界的な大チャンスがそろそろきてるということです。もうこの仕組みは立ち行くことは絶対にないです。今の金融システムはもう本当にそろそろ終わりにするべき時期がきてます。そのためにフェア党というのは政治団体として活動してるわけです。この世界的なムーブメントは必ず日本にも及びますし、そして、この考えのもとに、今の金融システムを変えるという考えのもとに新しい時代というのは開けてくるというふうに確信しています。ですから、我々のほうに風が吹いてくるのはもうすぐです。ですから、皆さんもぜひこういったまともな話、特にまずはお金の発行の仕組みを知るということ、これがもう立ち行かないということがわかれば、あとはそれをどうやって変えるかっていうのは議論はいくつあってもいいと思います。しかし、少なくともこの仕組みだけは絶対にもう立ち行かない、変えなければいけないということをみんながわかれば、そっから踏み出すべき方向は大雑把な方向としてこれを変えるという、大きな方向性が決まれば、みんなでまとまることができると思います。そうすれば数も作っていけると思いますので、来年の統一地方選、それから、参議院にかかわれるかどうかわからないですが、これも皆さんしだいです。本当にたくさんの人たちが、フェア党本当に来年の参議院で10人の統一名簿を作れと、そのためには供託金が「600万円×10人ぶん」の6000万は必要ですが、本当にみんながその気になって寄付してくれれば、それも可能かもしれません。とにかくそうやって新しい時代、本当に新しい時代を作っていくムーブメントをそろそろ我々自身で盛り上げていかないと、いつまでも本当に狭いコップの中の堂々巡りで終わってしまっては、皆さんも全く未来に希望が持てないと思います。特に子どもたちの未来に対して。ですから、それをやるためにも、皆さん、ぜひ、このお金の発行の仕組みを根本的に勉強するということと、それをたくさんの人たちに知らせるということ。そして、それをやろうとする我々に力を与えてくださいということで、今日はこの辺にしたいと思います。
 
 
 
 

 

●全世代型社会保障
ことし秋から議論を本格化させているのが、「全世代型社会保障制度の実現」です。9月には、みずからがトップを務め、関係閣僚や有識者がメンバーの「全世代型社会保障検討会議」を設けました。会議では、希望すれば70歳まで働ける就業機会の確保や、年金受給開始年齢の選択肢の拡大、健康寿命を延ばすための病気や介護の予防、いわゆる「就職氷河期」世代などの低年金対策として、パートで働く人などへの厚生年金の適用拡大などについて議論が行われる見通しです。会議は、年末に中間報告、来年夏までに最終報告をまとめることにしていて、給付と負担の見直しを含めた抜本的な改革の議論に踏み込めるのかが焦点となっています。
●全世代型社会保障、今後何を議論すべきか 
子供たちからお年寄りまで、すべての世代が安心できる令和の時代の新しい社会保障制度の在り方を大胆に構想していくーー。
9月の内閣改造で初入閣した西村康稔・経済財政再生相に担当大臣を兼務させ、安倍晋三首相は「全世代型社会保障検討会議」を新たに設けることを表明した。
民間有識者の顔ぶれから読み解く議論のゆくえ
9月20日に検討会議の第1回会合が開催された。検討会議は、今年末に年金や介護を中心とした中間報告、来年夏に医療を含めた最終報告をまとめる予定としている。メンバーは、主要閣僚7人と民間有識者9人、計16人から構成される。
政府には、社会保障改革について議論する会議がすでにいくつか存在する。それなのに、新たな会議を設けて何をするのか。既存の会議の存在をないがしろにするつもりなのか。そんな声もある。しかし、民間メンバーの構成をみると、今後の議論の展開が占える。
民間有識者は、遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所所長、翁百合・日本総合研究所理事長、鎌田耕一・東洋大学名誉教授、櫻田謙悟・経済同友会代表幹事、清家篤・慶應義塾前塾長、中西宏明・経団連会長、新浪剛史・サントリーホールディングス社長、増田寛也・東京大学公共政策大学院客員教授、柳川範之・東京大学大学院教授である。
このうち、中西、新浪、柳川の3氏は経済財政諮問会議の民間議員、翁、櫻田と中西の3氏は、成長戦略の決定に影響力を持つ未来投資会議の主要メンバーである。西村大臣は、経済財政諮問会議の司会進行役と未来投資会議の副議長を兼ねている。このことから、今後の社会保障改革の議論は、厚生労働省の会議だけで議論するのではなく、経済財政諮問会議と未来投資会議と密接に連携していこうとしていることがうかがえる。
そのスタイルは、小泉純一郎内閣における社会保障改革の詰めた議論が、経済財政諮問会議で行われたことを思い出させる。
とはいえ、より専門的な内容を検討するとなると、厚生労働相の諮問機関である社会保障審議会や労働政策審議会で議論しなければならない。検討会議のメンバーである遠藤氏は、社会保障審議会長であり、増田氏は同会長代理である。鎌田氏は労働政策審議会長である。だから、社会保障審議会や労働政策審議会の議論を無視するわけではないだろう。
また、第2次安倍内閣以降の社会保障改革は、内閣官房に置かれた社会保障制度改革推進会議でも議論してきた。検討会議のメンバーである清家氏は、同会議の議長、増田氏は同議長代理である。
さらに、経済産業相の諮問機関である産業構造審議会は、中西氏が会長で、増田氏が会長代理、柳川氏は同審議会の2050経済社会構造部会長である。加えて、増田氏は、財務相の諮問機関である財政制度等審議会の財政制度分科会長代理でもある。
ちなみに、検討会議の第1回会合に配布された基礎資料には、産業構造審議会2050経済社会構造部会の配布資料にあった図表や、同部会や未来投資会議の議論を経て今年6月に閣議決定された「成長戦略実行計画」の引用が盛り込まれている。
国民の負担増伴う増税論議には踏み込まず?
他方、政府税制調査会の会長や会長代理は、検討会議のメンバーとはならなかった。政府税調は総理大臣の諮問機関であり、格の高い政策会議だが、その主要メンバーが検討会議のメンバーにならなかったことから、検討会議は国民の負担増に直結するような増税論議には踏み込みたくないという意図が見え隠れする。
こうしてみると、検討会議の議論の展開が見えてくる。検討会議は、民間メンバーが兼務している審議会などと連携して、論議を組み立てていくことになるだろう。検討会議の議長は安倍首相だが、ただでさえ多忙な首相が出席する会合で、2時間も3時間も議論を続けるわけにはいかない。
首相が臨席するほかの会議同様、検討会議も改革内容のすべてを決めるのではなく、検討結果を首相をはじめとするメンバーに報告し、方針について了承し、安倍首相がさらなる指示を出すという展開が予想される。
そして、検討会議で示された方針や意向を受けて、民間メンバーが兼務する審議会などでさらに議論を深め、細かい制度設計を固めてゆく。最終的には、そうして固められた政府の原案を与党に諮って決めることになるのだが、その政策決定過程の中で、検討会議に新たな役割が与えられることになるだろう。
検討会議は、その名の通り「全世代型社会保障」のあり方を検討する場となる。では、どのような議論をしていくのだろうか。
社会保障というと、年金、医療、介護などを想起するが、これらの恩恵を受けるのは主に高齢世代で、若年世代に恩恵はあまり及ばない。その印象を変えるため、若年世代にも恩恵が及ぶ「子ども子育て支援」も社会保障の枠内に含めることにした。「全世代型」とは、待機児童解消や幼児教育無償化も含んでいる。
消費税率10%の増税財源は、待機児童解消や幼児教育無償化などに充当した。今はその成果を見届けている最中で、対策をただちに追加しなければならないわけではない。したがって、検討会議で、子ども子育て支援の追加策がどんどん出てくるとは考えにくい。
若年世代に恩恵が及ぶ社会保障改革は何か
すると、議論の焦点は、改善が求められる年金、医療、介護に集中するかもしれない。
しかし、そうなると、検討は高齢世代に恩恵が及ぶものと見られてしまう。看板倒れにならないようにするには、若年世代に恩恵が及ぶ案件も検討しなければならない。
社会保障制度の中で、若年世代に「給付増」という形で恩恵が及ぶものはあまり残されていない。逆に「負担減」という形でなら、恩恵が及ぶものが残されている。
例えば、医療で75歳以上の患者負担が原則1割となっているのを、今後75歳になる人から順次、原則2割負担とするという改革だ。若年世代が払う医療保険料の多くは、高齢者の医療費の財源に回っている。世代間の助け合いとしては美しいが、度が過ぎては若年世代の重荷となる。若年世代の医療保険料負担の増加を放置したままでは、若年世代を苦しめる。
だから、75歳以上の患者負担割合を引き上げることで、若年世代の医療保険料の負担増を抑えることができる。これは、若年世代にも恩恵が及ぶ社会保障改革となる。他方、75歳以上の患者負担割合の引き上げは、高齢者や医療界に根強い反対がある。
「全世代型」というからには、高齢世代だけでなく若年世代にも恩恵が及ぶ社会保障改革に着手することが求められる。検討会議はその名のように、全世代型の改革を提起できるのだろうか。 
●2019年 社会保障 『全世代型』への転換を進めるために 
2019年、社会保障は、二つの意味で大きな節目を迎えます。ひとつは、10月に予定されている消費増税によって、子育て支援などを強化して「全世代型」社会保障への転換が加速されること。もうひとつは、この増税後、今度は、現役世代が急速に減少する2040年代に向けた改革論議が、今年本格的にスタートすることになります。
「全世代型」の社会保障を目指して、今年、消費増税に伴って予定されている制度改革の中身とその課題。また、2040年代はどのような社会になり、政府はどんな改革を進めようとしているのか。そして、今後増加する単身世帯をモデルとした社会保障にかえるために何が必要かを考えます。
まず、今年、消費増税で社会保障の何が変わるのか。
今回の改革は、2012年から始まった社会保障制度改革国民会議が、団塊の世代が全て75歳以上になる2025年に向けて、「全世代型」の社会保障への転換を打ち出したことがスタートでした。消費税の負担を求める代わりに、子育て世帯など現役世代まで支援を広げて、「全世代」を支援する社会保障にする。そして、高齢者にも、経済力に応じた負担を求め、支え手に回ってもらおうというものです。
消費税率が8%に引き上げられた2014年から第一弾の改革が実施され、二回の増税延期などを経て、今回の10%への引き上げで、予定されていた一連の改革(いわゆる社会保障と税の一体改革)が実施に移されることになります。
具体的な内容をいくつか見ていきますと、柱は、増税分の財源を毎年およそ7800億円かけて実施される、幼児教育・保育の無償化です。
少子化対策のために、▽幼稚園、認可保育所などに通う3歳から5歳までの利用料を一律に無料にし、▽認可外の施設などを利用している人にも、ひと月3万7000円までの補助を出す方針です。少子化に歯止めをかけなければ支え手が細り、高齢者向けの年金や医療も抑制せざるを得なくなります。このため、子育て世帯への支援を増やしていく方向性は一定の前進といえるでしょう。
しかし、この制度設計をめぐっては、まだ問題があります。一つは、待機児童の多い地域の保護者からは、無償化よりも、まずは待機児童対策や保育士の確保を優先してほしいという声が上がっていることです。無償化すれば、利用を希望する人が増え、待機児童の解消が遅れるのではないかという懸念もあります。また、スタートから5年は、全ての認可外施設を利用している人も補助の対象にしていることに、「安全性や質は大丈夫か」という懸念が自治体などから出ていて、安全性や質の確保について、政府と自治体の協議が続いています。
全ての人に消費税の負担を求めて、新たなに実施する無償化。同じ子育て支援でも貧困世帯への支援も不足しています。
多くの人が納得できる制度設計にするためにも、まずは、高所得者は除外するなど、段階的に無償化を進め、待機児童解消のめどが立ったところで、一律の無償化に移行することも選択肢ではないでしょうか。
もし、予定どおり実施するのであれば、早い時期に、各地域の待機児童が急増していないか、安全性に問題はないかを検証をし、柔軟に制度を修正していくことが求められます。
このほか、低所得者への支援も拡充されます。
低年金で低所得となっている高齢者にひと月最高で5000円の支援金が支給されるほか、低所得者の介護保険料の軽減なども実施されることになっています。
こうした子育て支援、低所得者支援の対策など、今度の消費増税による増収分5兆7000億円のうち、2兆8000億円が社会保障の強化に充てられ、残りは借金の返済に充てられることになっています。
しかし、ここまでの取り組みだけでは、社会保障改革は不十分です。むしろ、2025年以降が人口構造上さらに厳しい時代に入ります。
これは世代別の人口の推移です。このように2025年までは、高齢者が急増する時代で現役世代の減少は緩やかです。ところが、2025年以降2040年代にかけては、現役世代が急減していくのです。しかも、高齢者はまだ増え続けます。加えて、未婚率の上昇で、2040年には単身世帯が4割に増加すると推計されています。しかも、社会人になる頃に就職氷河期だった団塊ジュニア世代は、いまも非正規やパートで働く人たちが多くて未婚率も高く、そうした世代が高齢期を迎えるため、生活保護を受ける高齢者の急増が心配されているのです。
このため今年、政府は、支え手を増やすために、新たな社会保障改革の議論を本格化させます。高齢者の健康寿命を延ばし、働きたい高齢者には働き続けてもらおうというものです。
具体的には、3年間かけて改革を進めるとしていて、まずは、意欲があれば、70歳まで働き続けられる雇用環境をつくる、そして、年金の受け取りを、希望すれば75歳以上に遅らせることができるようにすることや、一定の収入がある高齢者の年金を減額する今の仕組みを見直すなどの年金の改革案を年内にもまとめる予定です。
しかし、このように支え手を増やしただけで、暮らしの安心が確保できるわけではありません。今は非正規で働く人が増え、単身世帯も増加し続けているにもかかわらず、社会保障制度は、高度成長期につくったサラリーマンと専業主婦の世帯をモデルとした設計のまま。年金も医療も介護も、セーフティネットとして機能させていくためには、単身世帯を標準とした制度につくりかえていく必要があるのです。
では、雇用や家族の変化に合わせて、単身世帯を標準とした社会保障にかえていくために、何が必要なのか。
まず、低年金で低所得に陥る高齢者の増加を防ぐために、受け取り額の比較的手厚い厚生年金に非正規やパートで働く人の多くが加入できるよう、制度の見直しを急がなければなりません。非正規やパートで働く人の多くは、国民年金に加入している人も多く、保険料を支払えずに将来低年金、低所得になる恐れがあるからです。また、社会保障の柱に「住まいの保障」をしっかりと組み込み、住宅補助や地域の空き屋などの活用をもっと進めていくことも必要です。一人暮らしで持ち家のない人は、老後に家賃を払えなくなり、住まいを失う可能性があるからです。
さらに、今、医療や介護も在宅サービスを広げる改革が進められていますが、一人暮らしの高齢者に、必要な医療、介護、そして生活支援のサービスを届けるために、地域で支えあう仕組みづくりも新たに求められます。
そうした単身モデルの社会保障につくり直した上で、将来必要となる負担を「全世代」でどう分かち合っていくのか。負担増や給付の削減に向けた改革の全体像と工程表を早く示す必要があります。将来の社会保障の姿を示すことが、現役世代の安心につながり、消費の拡大や少子化に歯止めをかけることにもつながっていく、そうした好循環を生み出すことが必要なのです。
平成の時代、社会保障は、非正規で働く人の増加といった雇用の変化や、単身世帯の増加といった家族の変容にあわせた改革が停滞しました。こうした改革の遅れが、今後20年以上続く現役世代の急減を招いたことは否定できません。急速な技術革新も進む中、平成の時代の教訓を活かして全ての世代に必要な保障を組み込んだ社会保障制度に創りなおすことできるのか。それとも同じ失敗を繰り返すのか。今、その分岐点にきているように思います。 
●全世代型社会保障改革の狙いは何か  
社会保障負担と受給の世代間格差は当然
10月24日召集の臨時国会で、安倍首相は所信表明演説を行い、当面の政策課題について語った。その一つが、従来から政府が提示してきた「全世代型社会保障改革」だ。首相は、「子どもから現役世代、お年寄りまで、すべての世代が安心できる社会保障制度へと、今後3年間かけて改革を進める」と説明している。さらに具体策として、生涯現役社会を目指した65歳以上への継続雇用の引き上げ、来年10月からの幼児教育無償化、再来年4月から一部高等教育の無償化を挙げている。これら以外にも、年金の受給開始年齢の選択範囲を70歳超に伸ばすこと、社会人になった後にあらためて学び直すリカレント教育の支援なども、全世代型社会保障改革の一環として、政府は挙げてきた。
しかし、社会保障制度の本来の機能を考えた際に、全世代型社会保障改革という言葉は、その意味が明確ではなく、また現在の社会保障制度が抱える本質的な問題を覆い隠してしまっている面があるのではないかと感じる。
社会保障制度は、高齢、病気、失業などによって生活の維持が困難になる場合に、国民の生活を支えるセーフティーネットの役割を果たしている。個人が、こうした事態に備えて自ら資金を積み立てる、あるいは独自に保険に加入するように、社会全体がそうした機能を担っているのが社会保障制度だ。その際に、年金制度が典型的で医療保険制度でもそうした傾向は強いが、現役世代、あるいは若年世代が多くの保険料を負担し、退職後や高年齢時にサービスを受給する傾向が強い。つまり、負担と受給のバランスが世代によって異なること自体は、社会保障制度の機能を考えれば当然のことであり、この点が問題視されることはない。
全世代型社会保障改革にバラマキの懸念も
ところで、全世代型社会保障改革と聞くと、高齢者に偏る社会保障サービスの受給を、全世代へと広げていくというイメージがある。ここには、バラマキ政策に繋がるリスクも感じられる。特に、政府が全世代型社会保障改革の一環として挙げている高等教育の無償化やリカレント教育支援は、社会保障政策とは言えないだろう。これらは、経済の生産性向上などの観点から、その実効性をしっかりと検討しつつ実施すべき、教育改革の一環と位置付けるべきではないか。
現在の社会保障制度の主な問題は、世代間でのサービスの格差よりも世代間での負担の不公平感にある。社会保障サービスが、現役世代の保険料支払いや現役世代が負担する傾向が強い税金によって賄われる一方、自身が高齢化し退職世代になった際には、十分なサービスを受けられないのではないか、という不公平感が現役世代には強くある。
消費税率の引き上げには負担の世代間公正化の要素
これへの対応としては、退職世代に支払う社会保障支出を抑制するとともに、退職世代の負担も相応に高める必要があるだろう。社会保障制度の持続性を高めるためには、そうした方向での改革を進めていくことは避けられない。全世代型社会保障改革という名称には、そうした痛みを伴う改革のイメージを少しでも良くしたい、という意図も感じられる。さらに、現役世代の当座の不満を和らげるため、全世代型社会保障改革と銘打ち、現役世代や若年層にもより恩恵が及ぶことをアピールする狙いもあるのではないか。
しかし、本当に必要な社会保障関連支出は当然ながら別としても、バラマキ的な支出を安易に増やす結果となれば、財政環境は一段と悪化し、社会保障制度の安定性、持続性も低下してしまう。
政府は、退職世代に支払う社会保障支出を抑制するとともに、退職世代の負担も相応に高めることの必要性を、逃げることなくストレートに国民に説明すべきではないか。
ところで、退職世代の相対的な負担を高める手段として長らく議論されてきたのが、幅広い世代の人が負担する消費税の税率引き上げだ。政府による消費税率引き上げの議論は、その経済への悪影響に集中してしまっている感が強い。世代間の負担不公平感への対応を進めつつ、財政の健全化や社会保障制度の持続性を高めるために必要な措置であるという、消費税率引き上げの本来の重要性を、政府は改めて国民に説明し、それを思い起こさせることが必要だ。 
●全世代型社会保障の課題 
消費税率が10%に引き上げられ、2000年代半ばに始まった「社会保障・税一体改革」が終了した。だが、団塊の世代が75歳以上となる2025年問題もあり、社会保障の改革はこれからが正念場だ。低成長で貧困化が進み、人口減少・少子高齢化が本格化する中、いま政治に求められているのは持続可能な社会保障の再構築、すなわち、給付と負担のバランスを図る抜本改革である。
政府が改革議論の出発点とするのは、18年5月公表の「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」だ。当然、政府も予測誤差を承知で社会保障給付費を推計したはずだが、成長率の不確実性などもあり、この予測のみを前提に改革議論を進めるのは一定のリスクを伴う。
例えば、政府の予測(ベースラインケース)では社会保障給付費が18年度に121.3兆円(対GDP21.5%)だったのが、25年度に約140兆円(同21.8%)、40年度に約190兆円(同24%)となる。
対GDPの数値では2.5%ポイントしか増えず、改革を急ぐ必要はないとの声もある。だが、19年度予算ベースの社会保障給付費は対前年度2.4兆円増の123.7兆円、対GDPで22.1%だ(GDPは内閣府7月試算)。対GDPでは25年度の予測値(21.8%)を既に上回っている。
図の太実線で1970年度から18年度までの社会保障給付費の実績推移を示した。増加スピードは年平均2.5兆円程度(消費税率1%に相当)である。このスピードが継続するという予測のもとに、社会保障給付費の増加を推計したものが図の太点線である。
実は、ベースラインケースでは28年度以降の名目経済成長率を1.3%と見込んでいる。これは95年度から18年度の平均成長率(0.39%)の約3倍という強気の数字だ。給付費が伸びても経済が大きく成長すれば、対GDPの給付費率の上昇は抑制できるというシナリオである。
しかしながら、現実的にこれからの成長率を0.5%とみて、年平均2.5兆円増の社会保障給付費の対GDPを試算すると、40年度の値は28%に急上昇する。成長率が1%ならば、40年度の対GDPの給付費は25.1%となり、成長率1.3%のときの政府推計(24%)に近い。とはいえ、成長率が0.3ポイント低下するだけで対GDPの給付費は約1%ポイントも跳ね上がる。
消費税率1%増で対GDP約0.5%の税収増のため、もし給付費が18年度から40年度で6.5%ポイント(=28%-21.5%)も増えると、現在の財政赤字圧縮分を除いても、消費税率換算で約13%分もの増税に相当する財源が必要だ。もちろん財源は消費税以外でも構わず、社会保険料の引き上げや医療・介護の自己負担増のほか、社会保障をスリム化する政治判断もある。
また、理論的には国債発行で財源を賄う方法もあるが、現下の厳しい財政状況でそれが本当に持続可能な手段なのだろうか。現今の財政の厳しい現実は、経済学の「ドーマー命題」で確認できる。
この命題は「名目成長率が一定の場合、財政赤字を出し続けても、財政赤字(対GDP)を一定に保てば、債務残高(対GDP)は一定値に収束する」というもので、財政赤字比率がq、名目成長率がnのとき、「債務残高(対GDP)の収束値=q/n」が成立する。
内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」(19年7月)のベースラインケースでは28年度の財政赤字比率は2.3%で、その後も赤字は拡大基調のため、甘い評価だが、q=2.3%としよう。また、nを既述の95年度からの平均成長率0.39%とすると、債務残高比率の収束値は約590%(=2.3%/0.39%)で、現在の債務残高比率200%の約3倍もの水準となる。成長率0.5%としても、債務残高比率を現在と同水準に収めるには、財政赤字比率を約1%に縮減しなければならない。
このような状況の中、改革の司令塔として政府は「全世代型社会保障検討会議」を設置し、全世代が安心できる新しい社会保障制度の方向性を議論し、19年末までに中間報告、20年夏までに最終報告を取りまとめる予定だ。
では、本当の改革には何が必要か。そもそも、全世代型社会保障という概念は、社会保障制度改革国民会議が13年8月に提言し、主として高齢者世代を給付の対象とする社会保障から、切れ目なく全世代を対象とする社会保障への転換を目指すものだ。提言では、年金・医療・介護が 中心の従来型社会保障(1970年代モデル)を修正し、現役世代の雇用・子育て支援・低所得者や住まいの問題なども対象とする新たな社会保障(2025年モデル)の構築を目指すとした。
改革の理念には概ね賛成だが、財源の裏打ちが無ければ、現役世代への新たなバラマキ的な政策となる恐れもある。最終的には財政赤字が膨らみ、ツケを将来世代に先送りするだけだ。また、成長に過度に頼った改革議論もリスクが高い。
例えば、名目経済成長率の予測(政府経済見通し)では、実績が予測を上回ったのは過去21年間のうち6回のみだ。すなわち、政府予測の的中確率は28%しかなく、厳しいシナリオを前提に改革を進める覚悟を政治や我々国民が持つことが重要である。
ならば低成長で貧困化が進む我が国で、最も重要な視点は何か。例えば、現行制度上、基礎年金や医療保険などには所得や資産の高低に関係なく公費が投入されているが、限られた財源の使途として、本当に効率的な使い方だろうか。
公的保険給付の範囲見直しや公立病院の再編なども必至だが、効率的な再分配政策という視点では、「リスク分散」機能を担う保険と「再分配」機能を担う税の役割を切り分け、世代にかかわらず、公費は本当に困っている人々に集中的に投下するといった新たな「改革の哲学」を政治主導で示すことである。
真の困窮者を救うためには、社会保障の支え手を増やす努力も必要であり、在職老齢年金の見直しや年金の繰り下げ拡充など最低70歳までの就労促進を軸に、働き方改革や資産形成を促す政策も重要だ。
その関係で、負担のあり方も見直しが必要だ。例えば、現在の「年齢差別」的な医療の窓口負担を改め、「応能負担別」の窓口負担に変更する改革は不可避だが、保険料や税でも、世代にかかわらず、社会保障・税番号制度も活用し、年金などの所得も合算しつつ、資産を含む負担能力に応じて負担する仕組みとするのが望ましい。
まずは、団塊の世代が75歳以上となりはじめる22年に向けた改革断行が急務だ。短期的でパッチワーク的な改革でなく、中長期的な視点での抜本改革が必要なことも明らかであり、「何を守り、何を諦めるのか」といった国民視点での「新たな社会保障の哲学」や国民が共有できるビジョンを構築する必要があろう。 
 
 
  

 

●地方創生
人口減少などの課題に直面する地方の活性化を目指すのが「地方創生」です。地域を限定して大胆な規制改革などを行う「国家戦略特区」を創設。これまでに合わせて10の区域が指定されています。また、東京一極集中を是正するため、東京23区から地方に移住して就職する人などを対象に、最大300万円を給付する制度などを設けました。さらに、地方創生につながる自治体の取り組みに寄付した企業の法人税などを軽減する、「企業版ふるさと納税制度」も導入しました。政府は、こうした取り組みで、すべての都道府県で有効求人倍率が1倍を超えるなど成果が出ているとしています。ただ、東京一極集中は、依然解消されておらず、政府は、来年までに東京圏への人口の転入と転出を均衡させるとした目標の達成を断念しました。今後は、地方への移住などに加え、都市部に居住しながら週末に地方で過ごす人の増加を図るとしています。
●地方創生 
東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることを目的とした一連の政策である。2014年(平成26年)9月3日の第2次安倍改造内閣発足後の総理大臣記者会見で発表された。ローカル・アベノミクスともいう。
加速度的に進む日本全体の人口減少は、日本の経済社会にとって大きな重荷であり、今後も続くと推計される東京圏への人口流入に起因する、地方から始まり都市部へと広がる人口減少の是正のため、各地域の人口動向や将来の人口推計(地方人口ビジョン)、産業の実態や、国の総合戦略などを踏まえた、地方自治体自らによる「地方版総合戦略」の策定と実施に対して、国が情報・人材・財政の各種支援を、地方の自立性、将来性、地域性、直接性、そして結果重視の原則に即して行い、地方における安定した雇用の創出や、地方への人口の流入、若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえ、時代に合った地域をつくり、安心な暮らしを守るとともに、地域間の連携を推進することで、地域の活性化とその好循環の維持の実現を目指すとしている。
国の総合戦略の具体的な目標や展望については以下のとおり。
○2020年に向けての主な目標
地方の若者の雇用数:5年間で30万人(2015年時点では5.9万人→2016年9.8万人)
若い世代の正規雇用労働者など(自らの希望による非正規雇用労働者等を含む)の割合を、ほかの年代と同水準に(2014年の15〜34歳の割合は92.7%に対し、すべての年代では93.7%→2015年はそれぞれ93.6%、94.0%)
女性の就業率:77%(2014年70.8%→2015年71.6%)
地方から東京圏への人口転入:6万人減(2014年は1732人増加)、東京圏から地方への転出:4万人増(2014年は11,152人減少)→(2015年は12万人の転入超過)
安心して結婚や出産・子育てができる社会の実現(2013年度で、そう考える人の割合が19.4%のところを、40%以上に)
第一子出産前後の女性の継続就業率:55%(2010年38%→2015年53.1%)
結婚希望実績指標:80%(2010年68%)
夫婦の予定子供数(平均は2.12人)の実現率:95%(2010年、2015年共に93%)
公共交通の利便性の高いエリアに居住している人口割合:三大都市圏90.8%(2014年度90.5%→2015年度90.6%)、地方中核都市圏81.7%(78.7%→79.1%)、地方都市圏41.6%(38.6%→38.7%)
地域公共交通網形成計画の策定総数:100件(2015年11月末時点で60件→2016年9月末で13件)
○長期ビジョン(中長期の展望)
希望出生率である1.8を達成し、東京一極集中の是正を行うことによって、2050年台の実質GDPを1.5〜2%に維持しつつ、2060年には一億人前後の人口を確保
政策
新型交付金
地方自治体それぞれの地方版総合戦略に対しての交付金。地方創生推進交付金、地方創生加速化交付金など。地方の自立性や官民連動を要件とした先駆性のある事業に用いられる。例えば人口流入策なら、一定期間の流入数や増加率のような、自治体自らが策定した具体的な数値目標を、国が精査して交付額や対象事業を決定し、進捗状況を国や地域住民とともに毎年検証して、場合によっては見直しを求めたり交付の変更が可能と、目標達成のために、具体的な数値目標を立て、その進捗状況を計測する「KPI(重要実績評価指標)」の設定や、「PDCAサイクル」を確立するとともに、個々の事業において民間資金を誘発し、将来的には本交付金に頼らない自立した事業構築を促すとしている。
国の総合戦略に設定している主なKPIは以下。
6次産業化市場:10兆円(2013年度4.7兆円→2014年度5.1兆円)
農林水産物などの輸出額:1兆円(2014年6117億円→2015年7451億円)
訪日外国人旅行消費額:8兆円(2014年2.0兆円→2015年3兆4771億円)
地域の中核企業、中核企業候補の支援:3年で2000社支援、雇用数8万人創出(2014年度0.1万人→2015年度0.1万人)
年間の地方移住あっせん件数:11,000件(2014年約4000件→2015年度約7600件)
企業の地方拠点機能強化件数:7500件増加(2015年目標値808件→2016年1403件)、地方での雇用者数を4万人増加(2015年目標値6600人→2016年11,560人)
地元の大学に進学する割合:平均36%(2015年度32.3%→2016年度32.2%)
若者の就業率:79%(2014年76.1%→2015年76.1%)
支援ニーズ高い妊産婦への支援実施:100%(2015年度86.4%)
男性の育児休業取得率:13%(2014年2.30%→2015年2.65%)
「小さな拠点」の形成数:1000か所(2016年度722か所)
住民の活動組織(地域運営組織)形成数:3000団体(2014年度1656団体→2015年度1680団体)
連携中枢都市圏の形成数:30圏域(2015年4圏域→2016年17圏域)
中古・リフォーム市場規模:20兆円(2013年11兆円)
政府関係機関の地方移転
東京一極集中是正の観点から、中央省庁や研究・研修機関などの地方移転を検討。道府県からの提案を踏まえ、地方経済活性化や人口流入の好循環、機関として機能の維持や向上、移転への全国的な理解、不要な財政負担や組織・人員の焼け太りを防ぐような、地元の官民の協力・受入体制が可能なのかの視点に立って検討される。政府関係機関の新設に当たっては、真に東京圏内での立地が必要なものを除き、東京圏外での立地を原則とすることとなった。
特区
地域の活性化のために、国のよる規制を緩和するなどの特例を、特定の地域に適用する制度。特別区域。
国家戦略特区
産業の国際競争力を強化し、国際的な経済活動の拠点の形成のため、経済社会の構造改革や規制改革などの施策を推進する特区。また、国家戦略特区の制度を利用した特区の中で、地方創生を目的とした「地方創生特区」があり、更にその一つの形として、遠隔医療、遠隔教育、自動飛行、自動走行などの新技術を実証する領域を確保し、新たな商品・サービスに関するイノベーションの喚起をコンセプトにした、「近未来技術実証特区」がある。主な規制改革の例は以下。
○起業・開業・雇用
起業や年金・社会保険などの各種手続きを一箇所で申請可能な窓口の設置など、公証人の役場外での職務が可能に(公証人法の特例)
NPO法人の設立手続きの迅速化(特定非営利活動促進法の特例)
起業直後の企業の人材確保を支援するため、国家公務員が企業に転職したのち、再び国家公務員となった場合の退職手当の配慮(国家公務員退職手当法の特例)
シルバー人材センターに登録している高齢者の労働時間の延長など、高齢者の雇用の規制緩和(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の特例、現在は全国展開)
外国人による起業の要件の緩和や、家事代行サービスの解禁(出入国管理及び難民認定法の特例)
法人税の優遇措置などの課税の特例の適用(租税特別措置法の適用)
特区に関する事業を営む企業に融資を行った、指定金融機関への利子補給金の支給
○医療
高度先進医療の実現のための病床増設(医療法の特例)
医療法人の理事長に、医師でなくても就任可能に(医療法の特例)
血液が原料の試験用細胞などの製造・販売の規制を緩和(安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律の特例)
臨床修練制度における、外国人医師の受け入れの規制を緩和(外国医師等が行う臨床修練等に係る医師法第十七条等の特例等に関する法律の特例)
○農林水産業
企業などの農業への参入の要件の緩和(農地法等の特例、現在は全国展開)
国有林の貸付・使用の対象者や面積の規制を緩和(国有林野の管理経営に関する法律の特例)
漁業生産組合の設立や維持の要件人数の緩和(水産業協同組合法の特例)
○保育・教育・社会福祉
地域限定保育士の導入(児童福祉法等の特例)
公立学校の管理運営を民間に委託する、公設民営学校の設置(学校教育法等の特例)
都市公園に保育所や社会福祉施設の設置を認可(都市公園法の特例)。
○まちづくり
建築における、容積率や用途地域の規制の緩和(建築基準法の特例)
路上イベントなどの、道路占用の規制の緩和(道路法の特例)
宿泊施設に個人所有のマンションなどを利用できる民泊や、歴史的建築物を宿泊施設として活用する場合の要件緩和など、旅館業法の適用の除外(旅館業法の特例)
都市計画などの認可を、総理大臣の認定をもってなされたとみなす、認可手続きの一括化(土地区画整理法・都市計画法・都市再開発法・都市再生特別措置法の特例)
○政令・条例等による規制の特例措置
総合特区
日本の経済社会の活性化と持続した発展のために、産業構造や国際的な競争条件の変化、少子高齢化の進展などの経済社会情勢の変化に対応して、産業の国際競争力の強化と、地域の活性化に関する施策を推進する特区。産業の国際競争力強化を目的とした「国際戦略総合特区」と、地域の活性化が目的の「地域活性化総合特区」の2つがある。
○国際戦略総合特区と地域活性化総合特区の両方の特例など
大枠で住居・商業・工業の用途に分けられている、用途地域の規制の緩和(建築基準法の特例)
法人税の優遇措置などの課税の特例の適用(租税特別措置法の適用)
特区に関する事業を営む企業に融資を行った、指定金融機関への利子補給金の支給
補助金などの処分の制限に係る承認の手続きの特例
中小企業基盤整備機構による市町村への資金貸付
政令・条例等による規制の特例措置
○国際戦略総合特区の特例
国有の建物と敷地の無償譲渡(国有財産法の特例)
MICE(国際会議など)の参加者を載せた客船が寄港可能に(海上運送法の特例)
農業用の自動車の車検の有効期間を一年伸長(道路運送車両法の特例)
工場建設の際の敷地面積に対する緑地面積率・環境施設の設置規制の緩和(地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律の特例)
構造改革特区
官民の事業や経済活動が、古い規制により妨げられていることに対して、特区を設けることによって構造改革を進めることにより、地域の特性を活かした地域活性化の実現を目指して創設された特区。2015年の法改正で、以下の特例が追加された。
通常、国家資格が必要な通訳案内業務を、地方自治体の研修の修了で可能に(通訳案内士法の特例)
地方道路公社が有料道路の施設を所有したまま、料金徴収などの運営権を民間に売却可能に(道路整備特別措置法及び民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律の特例)
その他の主な規制緩和については「構造改革特別区域#主な構造改革特別区域分類」を参照
情報・人材支援
地域経済分析システムの提供
国や民間が持つ、企業間取引や産業の分野別の情報、時間ごとの人の流れなどの地域経済に関わる様々な情報を収集したビッグデータを可視化した、地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」とデータのAPIを提供。一部の情報を除き誰でも利用できる。あわせてRESASの使い方を学べるオンライン講座も開講している。
地方創生カレッジ
地方版総合戦略の事業展開に必要な人材の育成・確保のためのオンライン講座。データ分析・総合戦略の検討、事業化・事業推進、官民の連携などを学ぶ基盤編と、総合戦略の事業化、資金調達の各種手法、地域産業の振興などを学ぶ総合プロデューサー、観光・DMO、地域商社、生涯活躍のまちなどについて学ぶ分野別プロデューサー、住民自治や交流について学ぶ地域コミュニティーリーダーの3種類の専門編がある。
地方創生人材支援制度
市町村長の補佐役として、国家公務員や大学の研究者、民間シンクタンクの人材などを派遣し、地方創生に意欲のある市町村の総合戦略の施策の推進を支援する制度。
地方創生コンシェルジュ
地方自治体の地方創生の取り組みの相談を、一括して引き受ける国の相談窓口。それぞれの都道府県の出身や勤務経験がある、各省庁の職員が対応にあたる。
プロフェッショナル人材事業
各地域の企業と、都市圏などの企業で商品開発など様々な分野の専門知識を持つ人材を結びつける拠点の設置。地域活性化の好循環のため、地域企業の事業革新や新商品開発など、積極的な経営への転身をサポートを行うとしている。
地域活性化伝道師
地域の成長力の強化や雇用創出などを将来担えるような人材育成のために、地域産業、農林水産業、観光などの特定の知識を持つ専門家を紹介。
地域再生・計画
地域再生制度
地域の活性化や雇用の創出などを推進するため、地域再生法に基づき、地方自治体の「地域再生計画」を支援する制度。農地を面積などの要件にかかわらず、企業やNPO法人の施設に転用の可能化や、地方に本社機能を移した企業への税制優遇措置などの規制緩和、観光客の誘致、道路や港のインフラ整備などの事業に対して、補助金で支援などの施策を行うほか、地方交付税を交付されていない一部の自治体以外の対象事業に、企業が寄付をした場合、約3割の損金算入と、最大で3割の税額控除を合わせて、寄付額の約6割が減税の対象となる「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)」。地方や、地域の町中への移住を希望する、50代以上を中心とした中高齢者の生活拠点「生涯活躍のまち(日本版CCRC)」や、診療所や学校、交通サービスなどの各種生活支援機能を集約・確保する「小さな拠点」の形成事業に対して、情報・人材・財政支援に加え、移住者の雇用や介護サービス等の、事業のための認可手続きを簡略化する特例措置などを行う。
中心市街地活性化
中央市街地の都市機能や経済活動の活性化を、少子高齢化、消費生活などの社会環境の変化に応じて支援する制度。市町村が策定した中心市街地活性化基本計画を内閣が認定して、都市再生整備計画事業、暮らし・にぎわい再生事業、中心市街地共同住宅供給事業、街なか居住再生ファンド、中心市街地再興戦略補助金、中心市街地活性化ソフト事業の各種支援を行う。
都市再生制度
21世紀型都市再生プロジェクトや土地の有効利用を、環境、防災、国際化等の観点から推進する制度。2014年の閣議決定で、医療・福祉、商業施設などが住居の近くにある、あるいは公共交通によりアクセスができるなど、日常生活に必要なサービスが身近にある「コンパクトシティ」を目指すことによって、生産性の向上や都市経営コストの縮減を目指すなどの、都市再生基本方針の変更が行われた。
環境モデル都市・環境未来都市
温室効果ガス排出の大幅な削減などの目標を掲げて、低炭素社会の実現と持続的発展に向けて取り組む「環境モデル都市」を基盤として、低炭素・省エネルギーなどの環境価値や、介護や育児などの社会的価値、雇用や観光などの経済的価値の三側面の価値のある、「環境未来都市」の実現と、その成功事例の国内外への普及を目指す取り組み。
評価・論点
2016年度の新型交付金の要求額が1000億円規模と、2014年度補正予算で先行計上した1700億円を下回っており、2014年度補正を大幅に上回る規模を要請していた全国知事会から不満の声があがっていた。政府はこれに対応して、1000億円規模の「地方創生加速化交付金」を2015年度の補正予算に組み込んだ。
政府関係機関の地方移転について、東京一極集中是正の観点から、まずは国が率先して移転を行い、民間企業にも本社機能の地方分散を促す狙いがあるとされるが、中央省庁では文化庁の全面的な移転が決定されたのみで、消費者庁など他の省庁の移転は難航しており、与党からは迫力に乏しいとの声もある。
特区において、外国人医師が臨床修練制度の要件緩和で地方の診療所でも受け入れ可能になったことについて、日本医師会の横倉義武会長は、「単独の診療所で外国人医師に対して一人の指導医がいるだけでいいというのは、安全上の問題がありすぎる」と指摘し、更に、指導医について資格要件を明確にするべきと述べた。
都道府県の地方人口ビジョンでは、人口増加を見込む沖縄県をはじめ、人口ビジョンを示した他の道府県でも施策なしの場合より、人口減少に歯止めがかかるとの推計が示された。ただ、一部の地方議員や有識者からは、出生率や人口流入などの想定が、根拠に乏しいなどの批判や、大都市の出生率こそ改善させる必要があるとの意見も出ている。
地域振興に関わる自治体職員にアンケートを行ったところ、約8割の職員がやりがいを持って取り組んでいると答えたが、施策が平均的な水準より劣っていると感じている職員は全体平均で約25%、小規模の町村では50%以上おり、原因として職員の金融・経済の知識の不足、起業支援のノウハウや人材の不足などが挙げられている。対策として知識不足を補うための研修や、民間企業との人事交流、地元の金融機関との連携の推進などが必要。
東京への転入者の大半が15歳から29歳の若者であり、大学進学で上京して、そのまま就職や結婚をする場合が多いので、政府は東京での大学の新増設を抑制する対策の検討や、東京圏の学生に対して地方企業へのインターンシップの拡大の目標を2016年の政府の総合戦略の改訂版に盛り込んだ。東京での大学の新増設抑制には大学の経営の自由度を損なう恐れがあるとの意見が出ている。
政治の動向
2014年9月3日、地方創生担当として、大臣に石破茂、内閣府副大臣に平将明、内閣府大臣政務官に小泉進次郎、大臣補佐官に伊藤達也が就任。同日、まち・ひと・しごと創生本部の設置を閣議決定。
同年11月21日、まち・ひと・しごと創生法、改正地域再生法が成立。
2014年度の補正予算で「地方創生先行型交付金」「地域消費喚起・生活支援型交付金」として、それぞれ1700億円、2500億円が配分され、前者は観光振興や産業振興、人材育成・確保などの事業に、後者はプレミアム付き商品券や、ふるさと名物商品・旅行券、多子世帯等支援策などに使用された。
2015年10月7日に行われた内閣改造で、石破が地方創生担当の内閣府特命担当大臣に就任、平と小泉が退任し、新たに副大臣に福岡資麿、政務官に牧島かれんが就任。
同年12月24日、国の総合戦略の改訂が閣議決定。地域全体の観光戦略を、地域のホテルなどの宿泊施設や飲食店などと連携して一体的に行う「日本版DMO」の整備の推進などが盛り込まれた。
2016年1月20日、地方創生に関連して、1000億円の地方創生加速化交付金など、合計で3188億円が盛り込まれた2015年度補正予算が成立。
同年3月29日、地方創生推進交付金1000億円(事業費ベースで2000億円)や、総合戦略に関連する事業費として約6579億円など、合計で約1兆5500億円が盛り込まれた2016年度予算が成立。
同年8月3日に行われた内閣改造で、政務三役全員が退任し、新たに大臣に山本幸三、副大臣に松本洋平、政務官に務台俊介が就任。
同年12月22日、国の総合戦略の改訂が閣議決定。東京での大学の新増設の抑制の検討や、地域を牽引する産業に財政支援を行う事業、空き家の観光利用などが盛り込まれた。  
 
 
 
 
 
 

 

●国土強じん化
自然災害が相次ぐ中、安倍政権が防災・減災のキーワードとして掲げるのが、「国土強じん化」です。平成25年には、大規模災害に備え、広くインフラ整備を進めることを明文化した「国土強じん化基本法」が成立。総理大臣を本部長とする「推進本部」を設置し、担当大臣も任命しました。また、道路や橋などの維持管理や更新を確実に実施することなどを盛り込んだ「国土強じん化政策大綱」をまとめました。さらに、去年の西日本豪雨などを受けて、防災・減災対策の3年間の「緊急対策」をまとめ、来年度までの3年間で総額7兆円程度の事業を行うとしています。ことしの台風19号をはじめとする一連の自然災害を受けて、政府・与党内からは、対策の延長と予算の拡充を求める声が出ています。
●安倍首相 国土強じん化へ予算確保や治水対策強化を強調 2019/11 
一連の台風による被害を受け、安倍総理大臣は国土強じん化に向けて予算の確保や治水対策の強化に取り組む考えを強調しました。
一連の台風による被害を受けて、自民党の林幹事長代理らは総理大臣官邸で安倍総理大臣と会談し、決議文を手渡しました。
決議文では、国土強じん化に向けて予算を拡充することや、治水対策の在り方を抜本的に考え直すことなどを求めています。
これに対し安倍総理大臣は「国民の命と生活を守るため、国土強じん化は待ったなしの課題だ。予算をしっかり確保して取り組んでいく必要がある。台風19号で生じた課題も踏まえ、治水対策などをさらにパワーアップしていきたい」と述べました。 
●「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」 
被害を最小限にとどめ、迅速に回復させるのが国土強靱化です。災害が頻発、激甚化しています。災害によって最悪の事態が発生しないように、日頃からどのような備えをすれば良いのでしょうか?政府では、従来の取組に加えて、災害時に人命・経済・暮らしを守り支える重要なインフラの機能を維持できるよう、予算を大幅に増額し、3年間集中で緊急を要する対策を進めています。
1.どうして緊急対策?
1) 災害の頻発、激甚化
昨年も平成30年7月豪雨、平成30年台風第21号、平成30年北海道胆振東部地震が発生するなど、災害が頻発、激甚化しています。昨年の災害により、多くの尊い人命が失われ、また、
・関西国際空港の浸水、
・上水道の長期断水、
・ブラックアウト、
・幹線鉄道の長期運行休止、
・携帯電話基地局の停波   等、
重要インフラの機能に支障を来すなど、我が国の経済や人々の生活に多大な影響が発生しました。
2) 「重要インフラの緊急点検」の実施
政府では、国民の生命を守り、電力や空港、鉄道など国民経済・生活を支える重要インフラが、あらゆる災害に際して、その機能を発揮できるよう、 全国で132項目の点検を実施し、平成30年11月27日に開催した「重要インフラの緊急点検に関する関係閣僚会議」において、 点検結果と対応方策をとりまとめ、公表しました。
3) 3か年緊急対策を決定
「重要インフラの緊急点検」の結果・対応方策やブロック塀、ため池等に関する既往点検の結果等を踏まえて、 特に緊急に実施すべきハード・ソフト対策について3年間集中で実施することとして、 平成30年12月14日に「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」を閣議決定しました。
2.どのような緊急対策?
1) 2つの観点から、緊急対策160項目
3か年緊急対策は、
・人命を守る「T.防災のための重要インフラ等の機能維持」
・電力、上水道など「U.国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持」
の2つの観点から、特に緊急に実施すべきハード・ソフト対策として、緊急対策160項目を、3年間(2018〜2020年度)で集中的に実施するものです。
具体的には、全国で、
・2,000を超える河川の改修、整備
・1,000か所のため池の改修、整備
などにより、人命を守る防災・減災に取り組むほか、
・55万kWの分散型電源等の導入
・関西国際空港を含む6空港での浸水対策
・携帯電話基地局に関する緊急対策
などを進め、災害時時もライフラインを維持できるように強靱化します。
2) 事業規模 概ね7兆円程度
3か年緊急対策は、概ね7兆円程度の事業規模で、事業拡充や制度改正等(PDF:570KB)も行いつつ着実に実施します(財政投融資を活用した事業規模概ね0.6兆円程度を含みます)。
通常予算とは別枠・上乗せで予算を大幅に増額して国土強靱化の取組を進めます。
3.緊急対策の進捗状況は?
1) 予算の状況(国費ベース)
令和元年度予算(百万円) / 平成30年度二次補正予算(百万円)
内閣府 9,919 15,105
警察庁 12,395 54,478
総務省 7,545 8,290
法務省 39,876 23,394
文部科学省 213,286 78,422
厚生労働省 68,961 29,067
農林水産省 120,740 93,825
経済産業省 65,630 28,500
国土交通省 730,796 632,326
環境省 24,699 105,800
防衛省 50,836 13,077
合計 1,344,683(うち公共事業関係費)850,300 1,082,284(うち公共事業関係費)779,500
注1)四捨五入により、合計が合わない可能性がある
注2)3か年緊急対策に関連する平成30年度二次補正予算としては、上記の他、裁判所施設の強靱化5.2億円(非公共)があり、エネルギー対策特別会計前年度剰余金を除いた一般会計では、合計で1兆723億円となる
注3)3か年緊急対策に関連する令和元年度予算としては、上記の他、裁判所施設の強靱化28億円(非公共)があり、合計で1兆3,475億円となる
注4)3か年緊急対策に係る予算としては、上記の他、平成30年度一次補正予算等において措置したものがある。
2) 事業費ベースの進捗状況
3) 160項目の対策の進捗状況
4.緊急対策後の取組は?
「3か年緊急対策後も、国土強靱化基本計画に基づき、必要な予算を確保し、オールジャパンで対策を進め、国家百年の大計として、災害に屈しない国土づくりを進める」こととします。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

●一億総活躍社会
少子高齢化が進む中、政府は、誰もが活躍できる社会をつくり、持続的な経済成長を目指そうと、働き方改革や子育て支援、女性活躍などの政策を総合的に進めるとしています。具体的な目標として、「希望出生率1.8」や「介護離職ゼロ」などを掲げ、保育士や介護職員の処遇改善などを進めています。働き方改革では、同一労働同一賃金の実現や、すべての企業に労働時間の把握を義務づける規定を盛り込んだ、働き方改革関連法を去年6月に成立させました。また、労働規制を緩和する新たな仕組みとして、高収入の一部専門職を対象に労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」も導入しました。
●一億総活躍社会1  
「一億総活躍社会」発足の経緯
2015年10月に発足した第3次安倍晋三改造内閣の目玉プラン。安部首相自身が次の3年間を「アベノミクスの第2ステージ」と位置付け、「一億総活躍社会」を目指すと宣言した。少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持し、家庭・職場・地域で誰もが活躍できる社会を目指すという。具体的には、同時に発表したアベノミクスの新しい「3本の矢」を軸に、経済成長、子育て支援、安定した社会保障の実現を目指している。
経済面は、「希望を生み出す強い経済」により、東京五輪が開催される20年頃にGDP600兆円を達成。
子育ては、「夢をつむぐ子育て支援」により、希望出生率を1.8(現在は1.4前後)まで回復。
社会保障は、「安心につながる社会保障」により、団塊世代が70歳を超える20年代に介護離職ゼロを実現。
以上の目標に向け、新たに「一億総活躍担当大臣」が設置された。初代大臣には、自民党の加藤勝信(女性活躍担当大臣、拉致問題担当大臣他と兼任)が任命され、内閣官房に「一億総活躍推進室」が設置された。具体策は、「一億総活躍国民会議」で話し合われる。
「一億総活躍社会」とは?
•若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、みんなが包摂され活躍できる社会
※社会的包摂(しゃかいてきほうせつ)(ソーシャルインクルージョン) / 社会の中から排除する者をつくらない、全ての人々に活躍の機会があること
•一人ひとりが、個性と多様性を尊重され、家庭で、地域で、職場で、それぞれの希望がかない、それぞれの能力を発揮でき、それぞれが生きがいを感じることができる社会
•強い経済の実現に向けた取組を通じて得られる成長の果実によって、子育て支援や社会保障の基盤を強化し、それが更に経済を強くするという『成長と分配の好循環』を生み出していく新たな経済社会システム
 「一億総活躍国民会議」の開催状況
構成:担当大臣・首相を含む閣僚13人と有識者15人から成る。2015年10月29日に第一回が開催され、平成28年5月18日まで第8回開催され、「ニッポン一億総活躍プラン」の審議がされ、平成28年6月2日の第9回で閣議決定されている。
1. 成長と分配の好循環メカニズムの提示
2. 働き方改革
同一労働同一賃金の実現:非正規雇用の待遇改善を図るため、ガイドラインの策定等を通じ、不合理な待遇差として是正すべきものを明示。また、その是正が円滑に行われるよう、労働関連法の一括改正。
長時間労働の是正:仕事と子育ての両立、女性のキャリア形成を阻む原因。法規制の執行を強化するとともに、労働基準法については、36(サブロク)協定の在り方について再検討を開始。
高齢者の就労促進:65歳以降の継続雇用延長や65歳までの定年延長を行う企業等に対する支援等の実施。
3. 子育ての環境整備
保育の受け皿整備:待機児童の解消を目指し、平成29年度末までの整備量を40万人分から50万人分に上積み。企業主導型保育の推進。
保育士の処遇改善:新たに2%相当(月額6,000円程度)の改善を行うとともに、予算措置が執行面で適切に賃金に反映されるようにしつつ、保育士としての技能・経験を積んだ職員について、現在月額4万円ある全産業の女性労働者との賃金差がなくなるよう、追加的な処遇改善。
多様な保育士の確保・育成:返済免除型の貸付制度の拡充、ICT等を活用した生産性向上等の総合的取組。
放課後児童クラブの整備:平成31年度末までに30万人分の追加的な受け皿整備。職員の処遇改善や業務負担軽減対策を進めるとともに、追加的な受け皿整備を平成30年度末に前倒して実現するための方策を検討。
4. 介護の環境整備
介護の受け皿整備:介護離職ゼロを目指し、現行計画等における約38万人分以上(2015年度から2020年度までの増加分)の整備加速化に加え、2020年代初頭までに約50万人分を整備。
介護人材の処遇改善:競合他産業との賃金差がなくなるよう、平成29年度からキャリアアップの仕組みを構築し、月額平均1万円相当を改善。
多様な介護人材の確保・育成:返済免除型の貸付制度の拡充、高齢人材の活用、介護ロボットやICT等を活用した生産向上等の総合的取組。
5. すべての子どもが希望する教育が受けられる環境の整備 
学びの機会の提供:スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーの配置など教育相談機能を強化。フリースクール等の学校外で学ぶ子どもを支援。地域住民の協力及びICTの活用等による原則無料の学習支援を行う地域未来塾を平成31年度までに5000か所に拡充。
奨学金制度の拡充
無利子:残存適格者の解消と、低所得世帯の子供に係る成績基準の大幅緩和により、必要とするすべての子供たちが受給できるようにする。
有利子:固定金利方式・金利見直し方式ともに現在の低金利の恩恵がしっかり行き渡るようにする。特に、金利見直し方式では、ほぼ無利子になるような仕組みを検討。
給付型:世代内の公平性や財源などの課題を踏まえ創設に向けて検討を進め、本当に厳しい状況にある子供たちへの給付型支援の拡充を図る。
返還:所得に応じて返還額を変化させる新たな制度を平成29年度の進学者から導入。
6. 「希望出生率1.8」に向けたその他の取組 
女性活躍:子育て等で一度退職した正社員の復職が復職する道が一層開かれるよう、企業へ働きかけ。マザーズハローワークの拡充。ひとり親の資格取得を支援。役員候補段階の女性を対象としたリーダー育成研修等の先進的な取組を推進。
若者・子育て世帯への支援:子育て世代包括支援センターの平成32年度末までの全国展開。不妊専門相談センターを平成31年度までに全都道府県・指定都市・中核市に配置して相談機能強化。
子供の医療制度の在り方等に関する検討会での取りまとめを踏まえ、国民健康保険の減額調整措置について見直しを含め検討し、年末までに結論を得る。
三世代同居・近居:大家族で、世代間で支え合うライフスタイルを選択肢として広げるための環境づくりを推進。
子供・若者等の活躍支援:困難を有する子供・若者等に対して、地域若者サポートステーション等の関係機関が連携して伴走型の支援を実施。
7. 「介護離職ゼロ」に向けたその他の取組
健康寿命の延伸:老後になってからの予防・健康増進の取組だけでなく、現役時代からの取組も推進。
障害者、難病患者、がん患者等の活躍支援:障害者、難病患者、がん患者等が、希望や能力、障害や疾病の特性等に応じて最大限活躍できる環境を整備するため、就職支援及び職場定着支援、治療と職業生活の両立支援等を推進。障害者のスポーツ、文化芸術活動の振興を図る。障害のある子供も、障害のない子供と可能な限り共に学べる環境を整備。
地域共生社会の実現:子供・高齢者・障害者など全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる「地域共生社会」を実現。このため、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、自分らしく活躍できる地域コミュニティーの育成等を推進。
8. 「戦後最大の名目GDP600兆円」に向けた取組
(1)第4次産業革命 (2)世界最先端の健康立国へ (3)環境・エネルギー制約の克服と投資拡大 (4)スポーツの成長産業化 (5)2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた見える化プロジェクト (6)既存住宅流通・リフォーム市場の活性化 (7)サービス産業の生産性向上 (8)中堅・中小企業・小規模事業者の革新 (9)攻めの農林水産業の展開と輸出力の強化 (10)観光先進国の実現 (11)地方創生 (12)国土強靭化、ストック効果の高い社会資本整備 (13)低金利を活かした投資等の消費・投資喚起策 (14)生産性革命を実現する規制・制度改革 (15)イノベーション創出・チャレンジ精神に溢れる人材の創出 (16)海外の成長市場の取り込み  
●一億総活躍社会2 
安倍首相が新たに掲げた「一億総活躍」というフレーズに、多くの人が首をかしげただろう。「希望を生み出す強い経済」だの、「夢をつむぐ子育て支援」だの、結局何がやりたいのかさっぱり分からない…。そんな声もよく耳にする。ネーミングセンスはともかく、決して政策の中身まで笑うことなかれ。
「一億総活躍社会」安倍政権に破壊のエネルギーはあるか
一億総活躍という言葉を最初に耳にしたときの感想は、正直、時代遅れだがまあ日本というのはそういう国なのだろうというあきらめでした。印象論の域をでませんが、大衆デモクラシーの時代の政権の看板政策ですから、イメージも大事です。そして、なぜそういう印象を持ったかというと、昭和の「一億総中流」を彷彿とさせる、古き良き時代への復古がモチーフだからなのです。かつての一億総中流社会に、子育て中の女性や、介護をしている人も参加してもらって、経済成長を実現しようという発想なのだろうと思うのですが、根本的な時代認識が違っています。
昭和の一億総中流社会を支えた牧歌的な経済条件はすでに過去のものです。グローバル経済の下では市場を取り合うだけでなく、資本も、情報も、人材も競争の対象となります。当然、格差が広がる素地があります。日本のような先進国が最も対応に苦しんでいるのは、労働者間の格差です。経済がグローバル経済に組み込まれるにしたがって、日本の労働者は中国やベトナムの労働者との競争に晒されます。かつて存在した国家間の格差が、国内の格差へととって代わったのです。
製造業から始まったグローバル化は、ネット化などの技術革新を媒介としてサービス業へも波及し、ブルーカラーもホワイトカラーもこの構造に直面しています。グローバル経済とのかかわりの中で国富を得て、消費者としても大きな便益を得ている我々には、そこに背を向ける選択肢はありません。
グローバルな競争の下にある企業は労働者への総体としての分配は増やせませんから、結果としてできることは、労働者内の分配を変えることなのです。この再分配は、金持ちから搾り取ろうというレベルの問題ではありません。再分配は、正社員から非正規社員へ、中高年男性から若者と女性へと行われなければならないのです。政権も、自民党も、野党も、この事実と向き合っていません。
一億総活躍社会を本当に築くためにやるべきことは、残された日本的労働環境の残滓を取り払うことなのです。そこでは、同一労働同一賃金の価値観に裏打ちされた制度設計の根本的な改変が必要であり、金銭解雇を認め、労働市場を流動化させる必要があります。一億総活躍社会を築くことは、本来は、破壊をモチーフとするものでなければいけないのです。
問われるべきは、現政権に破壊のエネルギーはあるかということであり、そこが小泉政権時代との最大の違いです。小泉構造改革への評価については諸説あるでしょうが、国民は小泉改革がその本質において破壊であることを理解していました。
一億総活躍社会と、それを支える新三本の矢に対して期待が高まらないのは、元々の三本の矢がどうなったのか総括がない中で、屋上屋を架す形で出てきたからでもあるでしょう。
アベノミクスによって日本経済の雰囲気が変わったことは事実です。国際社会の日本を見る目も、長年の不決断に対してあきれを通り越して無関心というところから、何だか日本経済が熱いらしいというところまで戻しました。新興国経済の冷え込みによって日本のような安定した市場が再評価される気運もあります。
しかし、デフレ脱却が道半ばである中、景気が息切れしてきてしまいました。石油価格の下落など誰にも見通せなかった要素もあるのだから、政策を微修正しながら継続していく他ないでしょう。問題は、第三の矢と言われていた成長戦略が遅々として進んでいないことです。規制改革は政権の一丁目一番地と言っていたのに、どうしてしまったのでしょうか。過去30年間の議論を通じて、農業や医療や労働の分野においてやらなければならない規制改革テーマは出そろっています。
農業でいけば、農業への株式会社の農地取得を自由化して、新しい資本や技術や担い手を市場に参入させることです。農業政策は、GHQの農地改革以来の自作農家族経営主義から転換しなければなりません。農業の主流は、資本と技術と組織に基づく会社が担っていくことになります。
医療でいけば、公的保険の適用範囲を最適化して、混合診療を大幅に認めることです。そうすることで初めて、医療財政を破たんさせずに国民皆保険を守り、同時に新しい医療市場を作っていけるのです。医療政策は、すべての国民が受ける医療の結果の平等を目指すのではなく、国民としてのナショナル・ミニマムを守ることに眼目が移ります。
人口が減少局面入った超高齢化社会の日本はすでに借金漬けです。我々は撤退戦を戦っているのです。撤退戦を戦う中で、国民にとって最も大切な本丸を守るために改革が必要なのです。農業政策であれば一定の食料自給率と国土の保全が本丸であり、医療政策であれば、国民皆保険を守ることでしょう。
日本が迫られている選択肢は甘いものではありません。それを実現する政権には強い意志が必要です。現在の日本政治は、官邸一強と言われています。一億総活躍社会をぶち上げた官邸の狙いが、自民党や霞が関の抵抗勢力を押さえつけ、改革を一気に進めることであってほしいと思います。どうでしょう、希望は失っていませんが、期待が急速に萎んでいく今日この頃です。
「一億総活躍」で何が悪い? レッテル貼りで国民を煽る民主党の愚
第3次安倍改造内閣が10月7日に発足した。加藤勝信氏が就任した「1億総活躍相」が、俄かに注目されることになった。確かに、聞いたことのない、変わった名前の大臣だから、注目が集まる理由は理解できる。多くがこの名前に批判的だった。だが、この名前にヒステリックなほど過剰に否定的に反応するのは、おかしくないだろうか。
批判の声は様々あるが、代表的な批判を引用しておこう。
「政治の役割は、一人一人の力を発揮させるため壁を取り除くことだ。国が号令を掛けるのは違和感を覚える」 (民主党 岡田克也代表 10月18日)
「戦前を思い出すような全体主義的なキャッチコピーだ」、「前回公約に掲げた『女性の活躍』に結果が出ず上書きした。女性をばかにしている」(民主党 蓮舫副代表)
「個人を国家に従属させる動きを露骨にしている」(2015年10月9日『赤旗』)
確かに、「1億総活躍相」が重みのあって素晴らしい名称だとは思わないが、そこまで批判されるべき名称なのだろうか。
一番痛烈な批判は「戦前を思い出すような全体主義的なキャッチコピー」という蓮舫氏の批判だろうが、これは全くの的外れな批判だろう。
共産党が政府の政策を「個人を国家に従属させる動き」などと批判していることは、笑止千万というよりほかない。共産主義体制とは、まさに、個人の自由を蹂躙し、共産党の「指導」という名の下で、個人を国家、共産党の下に従属させる体制ではないか。自分たちが掲げる、その極端な隷従体制を棚に上げ、まるで自分たちが自由を尊重する政党であるかのように振る舞うのは、国民を欺く詭弁というものであろう。
仮に、全体主義というならば、一人一人が、このような活躍をしろという、各自の自由が抑圧され、国家の意志が押し付けられる状態が生み出されているはずだが、勿論、政府がそういう危険な状況を目指しているわけではない。各自の生き方にまで国家が不当に干渉してくるのは、無用なパターナリズムだといってよいが、この「一億総活躍」とは、そこまでパターナリスティックなものではないだろう。
首相官邸のサイトを調べてみると、「一億総活躍社会」とは、次のように説明されていた。
我が国の構造的な問題である少子高齢化に真正面から挑み、「希望を生み出す強い経済」、「夢を紡ぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」の「新三本の矢」の実現を目的とする「一億総活躍社会」。
国家が国民一人一人の生き方に干渉するなどということは微塵も感じさせない表現だ。
我が国の少子高齢化は、深刻な問題だ。この問題に対策を講ずるのは政府の責務と言ってよいだろう。
一つずつ検討してみても、当たり前のことを当たり前だといっているように思えない。 「希望を生み出す強い経済」。
これは、多くの人が期待していることではないだろうか。日本経済が崩壊して欲しいなどと望む人は、余程変わった人ではないだろうか。
「夢を紡ぐ子育て支援」。
これも何がいけないのだろうか。子育て支援の充実に関して、民主党は反対だというのだろうか。
「安心につながる社会保障」。
誰もが否定できない類の政策ではないだろうか。社会保障を破壊せよという主張は、あまりに極端だ。
要するに、目標とされている「一億総活躍社会」とは、全ての国民が、それぞれの個性に応じて活躍出来る環境を整備しようというだけの話であって、全体主義的な政策とはいえない。むしろ、これらは政治の基本であり、これを全体主義的だというならば、政治の役割を放棄していると批判されても仕方あるまい。
実際問題として、民主党は、これらの個別の政策に全て反対なのだろうか。
そうではないだろう。
中身に関しては全く触れることなく、「名称」に関して「全体主義的だ」というレッテルを貼り、国民を煽っているだけだろう。
安全保障法案を「戦争法案」と呼んだときも同じなのだが、内容について一切言及しないで、思いつきの印象論で、ただ反対の声をあげるだけなのだ。これでは、責任ある野党とはいえない。
そもそも、「一億総活躍社会」について、岡田代表は、当初、次のように述べていた。
「民主党の綱領には『すべての人に居場所と出番のある社会をつくる』とある。これのぱくりみたいな感じだ。本当にやって下さいねということだ。」(10月7日)
仮に蓮舫氏がいうように、「一億総活躍社会」を目指すことが全体主義的だということならば、岡田代表が「一億総活躍社会」を民主党の「ぱくり」だといってるのだから、ご自身も全体主義的な主張をしていたということになる。
だが、私は、民主党が掲げた「すべての人に居場所と出番のある社会をつくる」という言葉を見ても、全体主義的だとは思わない。政治の基本だと思う。むしろ、こうしたまっとうな目標を掲げながら、民主党政権は、殆ど成果を上げられなかったことを残念に思う。
中身を精査しないで、印象だけで、レッテル貼りする無責任な非難の繰り返しでは、国民の支持は得られない。民主党は、真剣に国民の支持を得るべく政策研究に取り組むべきだ。無責任な非難を繰り返す万年野党の道を歩むべきではなかろう。
ネーミングのセンスなし?
第3次安倍晋三改造内閣の目玉政策「1億総活躍社会の実現」に向けた具体策を話し合う「1億総活躍国民会議」の民間議員に抜擢されたタレントの菊池桃子氏。
元アイドルとしての知名度に加え、子育てとタレント業を両立し、さらに戸板女子短大の客員教授として労働分野の講義を担当するなど労働問題にも強い思い入れがあり、「1億総活躍」を体現する第一人者として白羽の矢が立った。
菊池氏は10月29日に開かれた第1回会合で「1億総活躍」のネーミングが分かりづらいとして、「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」という新名称を提案。さらに11月12日の第2回会合では「企業の採用基準に『心身ともに健康な者』という一文がある。これによって病気や障害を持った人がチャレンジすることを諦めてしまう現実がある」と指摘。企業は障害者を考えた採用条件を示すことが必要だと訴えるなど、存在感を発揮している。
このほか民間議員には「消滅可能性都市」の問題を提起した「日本創成会議」座長の増田寛也元総務相のほか、経団連の榊原定征会長、日本商工会議所の三村明夫会頭、日本総合研究所の高橋進理事長、慶応大の樋口美雄教授らが名を連ねている。
「戦前のスローガンは全くの的外れ」と安倍首相
安倍晋三首相の肝いりで始まった「一億総活躍社会」の取り組みについては、野党から「戦前のスローガンを想起させる」「国家による押し付けだ」などと批判の声も上がる。民主党代表代行の蓮舫氏は記者会見で「なんか戦前を思い出すような全体主義的なキャッチコピーで、誰が名前を付けたのかと素朴に思う」と指摘した上で、「女性活躍を公約してキャッチコピーに掲げ、結果が出ないのに新しいものを乗せるのは上書きという。上書きしたらその前のはどこに行ってしまうのか。その意味では女性をバカにしているという気がする。女性も活躍できないのに、1億全員が活躍できると思わない」と政策の実現性にも疑問を呈した。一方、民主党の岡田克也代表も「国がこれをしろと言う政治は(戦前の)1億総動員と変わらない」とやり玉に挙げ、「政治の役割は、一人一人の力を発揮させるため壁を取り除くことだ。国が号令を掛けるのは違和感を覚える」と批判した。こうした批判について、安倍首相は「戦前のスローガンだとか、国家による押し付けだという批判がある。私が話すと、どうしてもそうしたレッテルを貼りたくてしようがない人たちがいるが、全くの的外れだ」と反論し、「大切なことは1億人の一人一人が希望をかなえ、能力を発揮し、生きがいを感じることができる社会を作ることだ。すべてを画一的な価値観にはめこむのとは対極にある発想だ」と強調した。
「弱者」に冷たい政権の表れ / 一億総活躍ならぬ「一億総カツアゲ」社会に私たちは生きている
「単に金銭的な意味での『一億総中流』を私は志向しません。そうではなくて、若者もお年寄りも、女性も男性も、難病を抱えた人も障害がある人も、一度失敗した人も、みんなが活躍できる社会を作るために、それを阻むあらゆる制約を取り払いたい。そうした思いから生まれたのが『一億総活躍』なのです」
文藝春秋2015年12月号に、安倍晋三氏が執筆した「『一億総活躍』わが真意」から引用した一文だ。
この原稿には、「新・三本の矢」の説明もある。「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」―――。「何か言ってるようで何も言っていない言葉選手権」があれば、間違いなく優勝できるレベルではないだろうか。
同原稿で、安倍首相は自身の「失敗」にも触れている。
「私自身が一度失敗した人間だからこそ強く主張したいのが、失敗しても再チャレンジできる社会の構築です」
06〜07年の第一次安倍政権時、突然総理の座を投げ出したことに触れているわけだが、祖父が総理大臣という政治家一家に生まれ育ち、生まれてこのかた「お金の心配」「失業の心配」「生活の心配」などとは無縁だった安倍首相の「失敗談」に共感するほど、庶民の暮らしは甘くない。
第一次安倍政権時、社会問題として大いに注目を集めたのは若者の貧困化や不安定化、非正規化だった。当時、安倍首相は「若者の再チャレンジ」という言葉を強調したが、その言葉を繰り返すだけで根本的な対策は何もしなかった。それどころか、この夏の国会では貧困化、不安定化、非正規化を更に押し進める労働者派遣法の改悪を断行。当時30代だった層はもう40代に差しかかり、更なる苦境に経たされている。自分だけが再チャンレジに成功しているのである。
それだけではない。「アベノミクス」の恩恵などとは無縁の、圧倒的多数の人々の暮らしはじわじわと追いつめられている。第二次安倍政権になってから、貯蓄ゼロ世帯は前年比5ポイント増で31%と過去最悪の数値に(2013年「家計の金融行動に関する世論調査」)。また、15年7月に発表された国民生活基礎調査によると、「生活が苦しい」と感じている世帯はやはり過去最高の62・4%。86年の調査開始からもっとも高い数字だという。世帯ごとの平均所得も約529万円と前年比で8万円以上ダウン。特に苦しいと感じているのは「子どものいる世帯」で67・4%。高齢者世帯も58・8%が「苦しい」と回答している。
また、今年11月には厚労省が、非正規雇用率がとうとう4割に達したことを発表。学生や主婦のパートなど「選んで」非正規をしているのだから問題ない、という意見もあるだろうが、非正社員のうち、生活を支える主な収入が「自分自身の収入」という人は48%。そんな非正規の増加を裏付けるように、第二次安倍政権以降、年収200万円以下のワーキングプアは100万人増え、1100万人となった。
つまり、第二次安倍政権以降、貧困はより深刻化しているのである。
「希望出生率1・8」「介護離職ゼロ」。
安倍首相はそんな勇ましい言葉も掲げる。しかし、20代、30代の非正規男性のうち、配偶者がいる割合は正社員の半分以下。非正規の年収は平均168万円。そもそも経済的に安定していないと結婚も出産も考えられないだろう。一方の正社員も長時間労働に忙殺され、「子育てなど考えられない」という声もよく耳にする。また、現在10万人にも及ぶ介護離職者をゼロにすると言いながらも、具体的な方策は何も示されていない。それどころか、今年の4月には過去最大の介護報酬引き下げを断行。介護職員不足が問題となった。
冒頭の文章では、障害者や難病を抱える人にも活躍を、と述べているが、11月、厚労省は障害福祉サービスの利用者負担を拡大する方針を発表。現在、93パーセントの人が無料で利用できているサービスが有料となる見通しだ。
一方で難病者に対しては、昨年「難病の患者に対する医療等に関する法律」(「難病対策新法」と呼ばれる)が成立した。これによって、医療費助成の対象となる疾患が56から300まで拡大され、それ自体は一歩前進と言えるものの、問題点も残った。今まで人口呼吸器などをつけている人の自己負担額はゼロだったのに対し、有料となったのだ。
「息をするだけでお金をとらないでください」
全国の人工呼吸器装着者たちや家族がそう声を上げている。
一方、若者に対してはどうか。大学生の52・5%が利用している奨学金(多くが有利子)が「もはや貧困ビジネス」と非難を受けるようになって久しいが、10月、財務省は国立大学の授業料を40万円上げる方針を発表した。これが実現すると、現在年間53万円の授業料が93万円にもなる。現在、大学生の2人に一人は卒業時点で数百万円の借金を背負っているという恐ろしい状況だが(私が会った学生の中には、1000万円を超える人も2人いた)、更に若者は借金漬けになるだろう。昨年5月、政府の有識者会議で経済同友会の前原金一氏が、奨学金の返済を滞納している若者に、防衛省や消防庁、警察庁でインターンさせたらどうか、と話して「経済的徴兵制?」「奨学金で勧誘って、アメリカの国防総省と同じじゃん!」と大きな話題となったわけだが、既に笑い話では済まされないレベルになっている。安保関連法も成立したし。
さて、安倍政権は以前から「女性の活躍」も大いに打ち出しているわけだが、こちらの事情はどうか。これについては、やはり「女性の活躍とか言いながら派遣法を改悪した時点でアウト」という意見が圧倒的に多い。なぜなら、非正規雇用の7割を占めるのは女性だからだ。「そもそも私たちの働く基盤を崩しておいて『女性の活躍』って何?」「活躍したくたって、不安定雇用じゃできるはずがない」。そんな女性たちの叫びは、安倍首相にはまったく届いていないようだ。
一方で、防衛省は「女性活躍推進」の一環として航空自衛隊の戦闘機パイロットに女性自衛官を起用していくという。そういうのが「活躍」なんだとさ・・・。おそらく、多くの女性が求めているのはそんな極端な話じゃなくて、普通に安心して働けたり子育てできたりすることなんだと思うけれど、圧倒的にセンスがどうかしてるのだ。
さて、高齢者に対してはどうなのか。同原稿では「生涯現役」「意欲ある高齢者に多様な就労機会を提供」などと「老体に鞭打つ」ようなハードな要求が続く上、「介護なしで豊かな老後を送れるよう」など、「本人だって好きで要介護だったり寝たきりじゃないんだけど」と思わず呟きたくなるような無神経な言葉が続くのだが、こちらは思い切り切り捨てるつもりだ。なんといっても、2015年度の社会保障予算は3900億円も削減。年金や医療、介護にかかわる予算がどんどん削減されているのだ。一方で、日本政府は3600億円かけてオスプレイ17機を購入するのだという。国民の生活なんかより、軍事の方が大切☆翻訳すればそういうことだろう。
ここまで見てきてわかるように、「一億総活躍」を掲げる第三次安倍政権は、若者にも高齢者にも女性にも男性にも、難病を抱えた人にも障害がある人にも猛烈に冷たいことがおわかり頂けたと思う。
「一億総活躍じゃなくて、一億総カツアゲ!」
最近、芸人のおしどりマコ・ケンさんと話していた時に2人は言った。ホントにその通りだ。
ということで、消費税も増税するし、マイナンバーとかでいろいろ管理されてるし、一億総カツアゲの社会に私たちは生きているようである。
「一億総活躍社会」が真に意味すること
一体「一億総活躍社会」とは、何を意味しているのでしょうか?それに、国民の多くが、「俺は(私は)はもっと活躍したいと思っているのだが、社会にはいろいろな制約があってなかなか自由に活動ができない」とでも思っているのなら、分かります。でも、そのようなことを言っている国民なんて殆どいないでしょ?それに、今現在の日本の人口は、約1億2685万人。その差である2685万人は、活躍しなくてもいいと言うのでしょうか?でも、そんなことを言うと、バカだと言われるでしょう。そうではなく、1億というのは、日本の全ての人々を指しているのだ、と。しかし、そうだとすると「1億2685万人総活躍社会」と言うべきではないでしょうか。でも、そんなことを言うと、再びバカだと言われるでしょう。日本は、これから先、人口が益々減っていくことが予想されるが、例えば人口が約1億になったときに、全ての国民が活躍する社会を目指そうと言っているのだ、と。
では、何時になったら日本の人口は1億人にまで減るのでしょうか。で、安倍総理は、そのことについてこう言っているのです。50年後において日本の人口が1億人を割らないことを目指す、と。そして、その一方で、安倍総理は、2020年代半ばまでに出生率を現在の1.4程度から1.8程度まで引き上げることを目指すとも言っているのです。ということは、出生率が1.8程度まで上がれば、50年後も1億の人口がキープできるということなのでしょうか?当然、そう予想しますよね。しかし、昨年5月に経済財政諮問会議が設置した専門調査会である「選択する未来」委員会がまとめた中間整理案によれば、「このままでは2060年に日本の人口は8700万人まで減少する。50年後に人口1億人を維持するためには、2030年までに出生率を2.07まで回復させる必要がある」というのです。
話が違うではないですか!一体どうなっているのか、と言いたい! ただ、いずれにしても、安倍総理としても人口減少のペースを少しでも遅らせたいと考えているのは分かります。人口が減少し続ければ、益々GDPの成長率は低くなってしまうからです。そうですよね、安倍総理。そして、だからこそアベノミクス第二弾の第二の矢は、子育て支援(出生率1.8)を掲げ、そして、第三の矢は、社会保障(介護離職ゼロ)を掲げているのです。つまり、出生率を引き上げ、介護離職をゼロにすることによって少しでも労働力人口の減少を食い止めようという狙いなのです。ところで、一般の方々は、介護離職ゼロを目指すなんて言われても、なんのこっちゃいなと思うと思うのですが…
何故そのような理解がイマイチ難しいものが第三の矢になっているのでしょうか?繰り返しになりますが、そうしないと労働力人口の確保が難しいからなのです。介護のために仕事を辞められると、その分、労働力人口が減ってしまうではないか、と。確かにそれはそうなのですが…でも、自分の親の面倒を見るためにやむなく職場を離れることになってもそれは仕方のないことではないでしょうか。仮に、面倒を見るべき親がいるのに、それでも仕事を辞めないとなれば、誰が面倒を見てくれるのでしょう?国が面倒をみるというのでしょうか?
私は、仕事を辞めて親の面倒を見ることも、人としての立派な務めだと思うのです。つまり、その人はその人なりに立派に活躍している、と。
しかし、安倍総理は、介護のために仕事を止めるようなことをするなという訳ですから、不当に家族による介護を低く評価しているとしか思えません。一体、何が総活躍なのでしょう?
要するに、安倍総理は、何がなんでもGDPを増やすことしか頭にないものだから、女性や高齢者や介護すべき親がいる人にも、もっと働いて欲しいと願っているだけの話なのです。「輝く」だとか「活躍」だとかといった一見見栄えのいい言葉は、そうした人々を職場に駆り出すためのものでしかないのです。(2015/10) 
●「一億総活躍社会」批判は現代の多様な価値観に即していない  
「一億総活躍社会」に対する、「意味不明」「具体的ではない」「理解できない」といった批判や論評。主に野党からの政権攻撃の一環として利用されているが、「突如登場した」として懸念を表明する石破茂地方創生相のような政権内部からの指摘もある。
しかしながら、筆者にはそれら批判ロジックの多くが「的外れ」であり、本質的な理解ができていないことの「裏返し」でしかないように思えてならない。
もちろん、筆者は安倍政権を熱心に支持している層というわけではない。それでも、客観的に見て、野党からの「一億総活躍社会」への批判の多くが、単なる「揚げ足取りキャンペーン」でしかないことに寂しさを感じる。
特に目に付く批判の柱になっているのが以下の3つだ。
「一億総活躍」の表現が「一億総玉砕」などを想起させる全体主義的な印象だ。
「総活躍」「活躍」の中身が具体的でない。
「一億総活躍担当相」の役割や仕事がわからない。
しかし、これらは冷静に見みれば、繰り出される批判がいづれも「ほぼ批判になっていない」ことに気づかされる。それどころか、民主党や社民党などが強くアピールする「全体主義的」という批判に至っては、むしろ自分たちの主張こそ全体主義になっている、というブーメラン、論理破綻を起こしてさえいる。
では、3つの批判ポイントを一つづつ見てみよう。
まずは1つ目。「一億総活躍」が全体主義的でネガティブな印象を受ける、あるいは「一億総白痴化」「一億総中流」といった、昭和を象徴するような「古いイメージ」を受ける、という批判。これは批判というよりは「言いがかり」だ。
古い表現であることは事実だが、むしろ、説明を要さないほど浸透した(馴染みのある)わかりやすい感覚を利用した、と考える方が自然ではないのか。ガバナンスだ、コンプライアンスだ、マニフェストだ、ネクスト・キャビネットだ、といった横文字を乱発されるよりは、遥かにわかりやすく、ポジティブだ。
次に2つ目。「一億総活躍社会」の「活躍」の内容が明示されていない、具体的ではない、という批判。これは一見まともな批判のように見える。確かに具体的な各論やアクションプランは明示されておらず、「これから決める」といった印象だ。そういう観点からみれば、「漠然としたキャッチフレーズ」のみの政策であるようにも感じる。
しかし、ちょっと考えてみれば、「一億(全国民)みんなが活躍できる社会を目指す」という構想を進めるためには、「細かい具体策が事前に設定されていない」ということは当然であり、現段階が大枠だけであることの方が妥当であることに気づく。
なぜなら今日、「多くの国民が活躍できる場面」やそのニーズは多様であり、しかもそのあり方は、日々刻々と変化している。価値観も様々だ。必ずしも特定のプランや計画を事前に用意することができるわけではないし、それが妥当でもない。
「一億総活躍社会」に向けたニーズや要望は政治家や官僚が考える以上に多様で、有機的である。特に若者層はそうだろう。従来の価値観では予測できない部分も少なくない。現在進行形で変化する社会のニーズが「官僚や政治家の事前の計画」で決められるはずがない。そんなことをしても時代に合わないし、そもそもうまく運用できるはずがない。
「一億総活躍社会」の推進を標榜する以上、前提的な目標設定よりも、その都度ニーズや要望を拾い上げ、それにあった有機的なプランやリアクションを出すというスタイルの方が現在には適している。活躍する場面やニーズが事前に決まっているなどありえないし、現実も反映しておらず、時代にも即していない。事前に具体的なプランが用意されていれば、それこそ誘導的であり、全体主義だ。
そして3つ目。加藤勝信「一億総活躍担当相」が何をすべき役職で、どのような仕事が期待されているのかが見えてこない、という批判。拉致問題なども担う加藤勝信氏が、一億総活躍大臣に就任したものの、果たして十分な活躍ができるのか。そもそも「一億総活躍」に取り組む人材として適切なのか? といったオプションもつく。
しかし、この批判への回答こそ、「一億総活躍社会」がその表現の古さとは裏腹に、これまでの日本にはなかった新しさと「もしかするとすごく重要な仕組み作り」につながる可能性を示唆しているように思う。
まず前提として、2つ目のポイントでも述べたように、アクションプランが事前に定められるべきものではない。更に現実問題として、一億総活躍社会のリーダーとして広い範囲で有機的に動かねばならない大臣を全うできるような専門家などはいるはずがない。つまり、この大臣はある程度の経験と機動力さえあれば、どの国会議員が就任しても大きな差が出るわけではない。むしろ、安倍晋三首相が兼務した方が良いぐらいの任務だ。
一億総活躍大臣に期待される役割は、国民の多様なニーズを吸い上げ、多様なニーズに対応した「活躍」への支援の可能性を提示できる窓口作り、仕組み作りを推し進める「旗振り」であろう。なまじっかの「政策通」とか「有力者」は、わかってもいないのに余計なパーソナリティが発揮される分、むしろ弊害だ。
一億総活躍大臣個人に「何かやって欲しい」わけではないのだ。「活躍したくない」という人を無理やり活躍させるような構想であるはずもなかろう。
そう考えれば、設置される「国民会議」こそ、そういった国民の細かいニーズや要望を汲み取る仕組みとして機能させることが期待されるように思う。
筆者の最大の関心は、「一億総活躍国民会議」と称する組織(その名称の是非はさておき)のメンバリングや人選で、現在感覚・国民感覚に即した人材を選ぶことができるかどうかだ。加藤勝信一億総活躍相に求められる構想の成否を分ける最大の重責であろう。
どこででも見るような「審議会の委員」やら、いつも目にする「文化人・学識経験者」やら、若者を意識したとしか思えない「(オワコン感のある)若者のオピニオンリーダー」のようなチョイスではない、より「リアル」な国民とのパイプ役、広く国民の意見を代弁してくれるような人選をしなければならない。地方との接続や連携、あるいは地方の声をダイレクトに組み上げる仕組み作りも含まれるので、意外に「難問」だ。
「一億総活躍社会」構想とは前向きに考えるべきものであって、政争のための批判の材料にすべきものではない。もしかしたら筆者の発想は楽観的すぎるのかもしれない。しかし、そのような前向きな発想を持つことは、現在の野党が忘れている重要な要素の一つだ。表現の是非や瑣末な局部の揚げ足をとることなどは、国民にとっては何の意味もないことだ。
「新三本の矢」が良い例だが、GDP600兆円にするための経済成長は過去を見ても不可能であるとか、出生率1.8人が続いても2050年までに1億人は維持できないとか、介護離職ゼロのためのコストと財源はどうするのかとか、そもそも2050年まで安倍政権も自民党政権もないだろう、など、細かい指摘をしようと思えば簡単だ。
しかし、今回の「一億総活躍社会」構想は、そういった細かい数値目標よりも、もう少し大き視点と長期的な観点から取り組まれるべき「夢のある」案件であると思う。政権批判のために「一億総活躍社会」を批判することに何のメリットも見当たらないのではないだろうか。 
●結局よく分からない…いきなり不評の「1億総活躍相」って何? 
安倍改造内閣の「目玉」閣僚の一つであった「1億総活躍相」の評判がよくありません。メディアなどの反応に加えて、他の閣僚から名称を疑問視する声まで上がっています。果たして1億総活躍相とはどのような大臣なのでしょうか。
1億総活躍という概念は、安倍首相が自民党総裁に無投票で再選された9月24日の記者会見において、出てきたものです。安倍首相は「アベノミクスは第2ステージに移った」として、「ニッポン一億総活躍プラン」というものを提唱しました。現在490兆円である名目GDPを600兆円にするという目標も、同じタイミングで発表されたものです。
安倍首相は「誰もが家庭で、職場で、地域で、もっと活躍できる社会を作る」と述べています。このキャッチフレーズを実現するための担当大臣が1億総活躍相ということになると考えられます。
しかし、今のところこの大臣がどのような仕事をするのかはっきりしたことは分かっていません。野党は、何をする大臣なのか分からないと批判していますが、なんと身内からも疑問の声が出ています。石破地方創生相は「最近になって突如登場した概念だ」とし、国民の中に戸惑いの声があるのではないかと語っています。また、二階総務会長は「あんな大臣」とまで言ってしまいました。講演会の場での発言ですから、多少、ジョークのような意味合いがあったと思われますが、何をするのか分からないという疑問が与党内にも存在していると露呈してしまった格好です。
1億総活躍相に就任した加藤勝信氏は「多岐にわたる政策を総動員する」としていますので、大臣本人も十分に範囲を絞り切れていないようです。ただ、重点項目として、子育て支援や高齢化対策を掲げたほか、安倍首相が記者会見で述べた社会保障の問題や、GDP600兆円の実現にも言及していますので、想定している政策は幅広いと考えられます。13日には、誰もが活躍できる社会づくりについて有識者が話し合う「国民会議」を今月中に開催すると発表しました。社会保障政策や経済政策については、明確に担当官庁が決まっていますから、やはり子育て支援や高齢化対策などが担当業務となる可能性が高いでしょう。
そうなってくると、やはり気になるのが、地方創生相や女性活躍相との重複です。両大臣が担当する業務とはかなりの部分で重複する可能性が高く、このあたりをどう切り分けるのかが課題となりそうです。ちなみに女性活躍相は加藤氏が兼務していますから、担当大臣という意味ではあまり混乱はないかもしれません。ただ組織が二重になってしまうと、調整に時間がかかり政策実行のスピードが落ちる、二重に予算配分が行われムダが発生するといったリスクもあります。 
 
 
 
 
 
 

 

●女性活躍
「女性活躍」は、一億総活躍社会の実現に向けた重要政策の1つとして、成長戦略の中核に位置づけられています。平成27年に成立した女性活躍推進法では、国と自治体に加え、従業員が300人を超える企業には、女性の採用比率や管理職の割合について数値目標を盛り込んだ行動計画の策定が義務づけられています。また、5月に成立した改正法は、採用比率などを公表しなければならない企業の対象を広げ、中小企業にも取り組みを促しています。こうした取り組みを背景に、平成26年には25歳から44歳の女性の就業率が7割を超え、女性の就業者数も、ことし6月に初めて3000万人を超えました。しかし、女性の管理職の割合は依然として低く、男性との賃金格差が大きいのも課題となっています。
●女性活躍推進 
働く場面で活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現するための一連の施策のことである。第2次安倍内閣下における最重要施策の一であり、安倍晋三首相は「すべての女性が輝く社会づくり」を唱える。その基本法は、2015年(平成27年)9月4日公布・同日施行の女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)である。
背景
女性活躍推進が掲げられるまでの施策としては、1985年(昭和60年)に男女雇用機会均等法、1991年(平成3年)に育児休業法(現在の育児介護休業法)、2003年(平成15年)に次世代育成支援対策推進法が制定され、仕事と家庭の「両立支援」、雇用管理における男女の「均等推進」が推し進められてきた。また、2003年6月に「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるよう期待する」といった目標が示されていた。
しかしながら、2014年(平成26年)9月30日の労働政策審議会建議(女性の活躍推進に向けた新たな法的枠組みの構築について)では、以下の点が指摘され、目標と現実との落差が大きいことが示された。
雇用者全体に占める女性の割合は43.3%(2,406万人)。その半数以上は非正規雇用。
出産・育児期に就業率が低下する「M字カーブ」が未だ顕著。就業を希望しながら働けていない女性は315万人に達する。
意思決定層(管理職以上)に占める女性の割合(7.5%)は、国際的に見ても特に低い水準。
第2次安倍政権下では2013年(平成25年)に「日本再興戦略」を掲げ、その「『日本再興戦略』改訂2014」(平成26年6月24日閣議決定)において、「女性の活躍推進の取組を一過性のものに終わらせず、着実に前進させるための新たな総合的枠組みを検討する」とされ、国・地方公共団体、民間事業者における女性の登用の現状把握、目標設定、目標設定に向けた自主行動計画の策定及びこれらの情報開示を含め、各主体が取るべき対応等について、検討するとされた。その理由は少子高齢化に伴い労働者不足の加速化が予想され、女性の潜在的能力の活用が求められてきたことや、産業構造の変化により多様な人材を活用していこうという機運が高まってきたことなどが挙げられる。安倍首相は2014年(平成26年)、第187回国会の所信表明演説で、「女性が輝く社会」の構築をテーマとして挙げ、労働政策審議会の建議を受け、同国会に安倍内閣は女性活躍推進法案を提出したが、衆議院解散により審議未了で廃案となる。翌年の第189回国会に再度法案を提出し、可決・成立した。
概要
施策の柱は、女性活躍推進法に基づく、事業主に対する行動計画の策定の義務付けと情報公表、女性活躍推進に関する取組の実施状況等が優良な企業に対する厚生労働大臣の認定(えるぼし認定)である。国はあらゆる機会をとらえ、直接企業に対してこれらの働きかけを行うなどの周知を行っている。
2016年(平成28年)4月1日より、301人以上の労働者を雇用する事業主は、女性の活躍状況の把握、課題分析を行ったうえでの一般事業主行動計画の策定と届出・外部への公表が義務付けられた。なお300人以下の労働者を雇用する事業主については、努力義務となる。企業における女性の活躍推進に向けた取り組みを一層促進する上で、企業における女性の活躍状況や女性の活躍推進のための取組内容の情報開示を進めることが効果的であることから、その意義・効果の周知を図るとともに、企業や就職希望者に対して「女性の活躍・両立支援総合サイト」内の「女性の活躍推進企業データベース」の活用を促し、情報開示を推奨している。
一般事業主行動計画を届け出た企業のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況等が優良な企業は、「えるぼし認定」を受けることができる。えるぼし認定は、基準を満たす項目数に応じて3段階あり、認定を受けた企業は、認定マークを商品や広告、名刺、求人票などに使用することができ、女性の活躍を推進している事業主であることをアピールすることができるほか、公共調達における加点評価、日本政策金融公庫による低利融資(基準利率から−0.65%)の対象になる。
経済産業省は東京証券取引所と共同で、2012年(平成24年)度より女性活躍推進に優れた上場企業を「なでしこ銘柄」を選定し、発表している。なでしこ銘柄は、女性活躍推進に優れた上場企業を「中長期の企業価値向上」を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介することを通じて、企業への投資を促進し、各社の取組を加速化していくことを狙いとしている。2018年(平成30年度)からは従来の「なでしこ銘柄」選定に加えて、女性活躍推進に優れた企業をより幅広い視点で評価する「準なでしこ」の選定と、女性活躍推進に積極的に取り組んでいることを対外的にアピールできる仕組みとして、「なでしこチャレンジ企業」リストを作成する。選定を希望する企業は、事前に経済産業省が実施する「女性活躍度調査」に回答し、そのうえで所定の選考基準をクリアした企業の中から、各業種ごとに1~2企業程度が選ばれる。 厚生労働省は、従業員101人〜300人の中小企業に拡大させる女性社員の登用や昇進に関する行動計画の策定義務は2022年4月1日からとした。
●女性活躍の推進 意味を知れば働きやすさは進化する 2019/4
職場で対応「進んでいる」4割足らず
女性活躍推進法の施行を巡り、働く人からは「女性に気を使いすぎて不公平感が生まれた」(製造業、49歳の男性)など不満が聞こえる。日本企業の多くは男性優位だっただけに、女性の活躍には意識改革が不可欠。理由が分からなければ、不満が高まりやすい。
果たして、「女性の活躍推進」の理由や背景は、どのくらい理解されているのか。従業員300人以上の企業で働く男女に聞くと「知らない」が56.4%と半数を超えた。一方で研修による啓発など近年の企業の取り組み成果を映すように「(理由や背景を)知っていて人に説明できる」も9.4%となった。
説明できるグループの人は、勤務先が女性の活躍推進に積極的だ。「職場で女性の活躍を推進するための対応が進んでいるか」を聞くと、全体では時期や度合いを問わず「(対応が)進んでいる」を合計した割合は38.4%と4割足らず。説明できるグループでは73.4%に高まる。
「女性の活躍推進による職場の変化」(複数回答)も同様の傾向だ。全体では「育児をしながら働く女性が増えた」(27.4%)が最多。これに「管理職への女性の起用が増えた」(18.8%)が続く。
管理職起用は説明できるグループでは37.3%に上昇。さらに差が開くのが「経営層や会社から女性活躍やダイバーシティ推進を説くメッセージが増えた」との項目だ。同グループでは42.7%で、全体(14.1%)を30ポイント近く上回る。
先進企業では管理職への対応が進む。「『無意識の偏見』の研修を受けて、改めて内なる偏見を自覚し部下との対話が必要だと感じた」。第一生命保険団体保障事業部部長の井上大輔さん(45)はそう話す。同社は日本経済新聞社と女性誌「日経ウーマン」による「女性が活躍する会社」2017年版の首位だ。
納得感を重視、やる気引き出す
「女性に能力を発揮してもらわないと、うちの部は発展しない」。井上さんは団体保険事務企画課長を兼務し、21人の部下の半数弱が女性。育児で短時間勤務などを使う人もいる。同課は保険契約をはじめ様々な業務にまつわる事務の企画や設計で常に複数のプロジェクトが進む。井上さんはその都度、担当を決める。
「育児や介護など制約のある人には、どうしても負担の少ない仕事を任せた方がいいのでは、と思いがち」(井上さん)。だが、在宅勤務で進めやすい仕事を任せ、「大規模プロジェクトに参加したかった」といわれたことも。「やる気を引き出すには部下の納得感が大事。その方が成果が高まる」と研修で再認識した個別対応を意識して仕事の采配を工夫する。
企業の育児支援策が充実し、ママ社員増加など人員構成が変わってきた。女性の活躍推進による職場の変化は自身の働きやすさにどう影響しているか。
調査への回答で「働きやすくなった」と「やや働きやすくなった」の合計は16.7%。その理由は、「残業の減少と休日の増加」(サービス業・56歳の男性)のほか、「男女両方の価値観が生かされ、より顧客ニーズにこたえられている」(運輸業・郵便業、38歳の男性)、「課長職になる女性も出て来て、先々のキャリア形成に希望を持てるようになった」(通信業、28歳の女性)などが挙がった。
活躍推進の背景を説明できるグループでは、働きやすくなった割合が合計で46.6%と5割近くに。職場の変化では「全社的に残業が減った」(24%)や「全社的にフレックス勤務など柔軟な勤務の利用が進んだ」(20%)などで全体を10ポイント以上上回った。
利害や不安に対応、女性の活躍促す
ダイバーシティ・マネジメントに詳しい立教大学の尾崎俊哉教授は「男性も、女性が活躍するための施策を通じて具体的メリットを実感できると、改めて理由を振り返り、女性活躍推進法に対する認識が深まるのではないか」とみる。
尾崎教授によると「育児休業や残業管理のしわ寄せと管理職ポストの競争激化」が問題になりがち。「総合職への職種転換や昇進を望まない女性社員にもプレッシャーがかかる」(尾崎教授)。女性の活躍を促すには、性別や職位などのグループごとに、関連施策によって生じる利害やその背景にある不安、勘違いなどを明らかにして対応できれば効果的だという。
尾崎教授の独自調査でも、経営層の理解が不十分で人事部門に丸投げといった企業が見られたという。「数年先に、業績を含めて企業の明暗がハッキリ分かれる可能性が高い」と改めて経営課題として女性の活躍推進へ取り組むよう、強調している。
女性活躍推進法 従業員301人以上の企業に、女性の育成や登用の数値目標を盛り込んだ行動計画の策定を義務付ける。行動計画は都道府県労働局への届け出、社内外への公表を義務付け。対象企業の計画策定届け出状況は18年12月末時点で99.3%。政府は3月8日、女性活躍推進法の改正案を閣議決定した。行動計画策定と情報公表の対象を従業員101人以上の企業まで拡大することなどを盛り込んだ。外部で比較しやすいような公表情報の充実や、企業の行動計画の進捗状況把握は課題が残る。
調査の概要 対象は従業員300人以上の企業で働く20〜50代の会社員・役員。18年12月21〜25日、調査会社マイボイスコム(東京・千代田)を通じてインターネット上で聞いた。男女・年代別の各層から100人ずつ、計800人から回答を得た。
実態「見える化」意義大きく
女性の動向が経済成長を左右するという考え方「ウーマノミクス」を広めた立役者、ゴールドマン・サックス証券のキャシー松井・副会長に、現状の評価と課題を聞いた。(1994年、ゴールドマン・サックス証券入社。チーフ日本株ストラテジストを務め15年から現職。女性の社会的活躍を推進する活動に参画。米国生まれ。家族は夫と2人の子ども。)
――女性活躍推進法の効果をどう見るか。
同法は初めて、企業にジェンダー・ダイバーシティ(人材の多様性)関連の情報開示を義務付けた。罰則がない点や同業種横並びで項目を比べられない点など課題はある。それでも女性の活躍実態を「見える化」した意義は大きい。この国のダイバーシティを改善したいなら実態把握が目標設定に不可欠だからだ。2012年に内閣府の検討会で情報開示義務化を求めた際は、人事部の負担増などを理由に猛反対にあった。13年にウーマノミクスが国の成長戦略に織り込まれ、風向きが変わった。女性の問題がそれまでの人権など社会政策から初めて経済の文脈に位置づけられた。経営陣や学生は意識が変わり始めている。
――だが、今回の調査で「日本はまだ女性が仕事で能力発揮をしにくい社会だと思う」に「当てはまる」または「まあ当てはまる」と答えた割合は79%を占めた。
ダイバーシティの変化は短距離走でなくマラソン。5年で変わるようなものではない。だが状況は動き出した。女性の就業率は米国より高い。日本は資源がない国で人口減で資本も減っていく。成長に有効なものは人材しかない。企業は優秀な人材の確保が必須だが人事評価でいまだに「○年入社」という時間軸が聞かれる。同質性重視では低成長期にイノベーティブなことが起きる確率は低い。
――女性の活躍推進へ、企業は何をすべきか。
キャリアサポートだ。女性は結婚、出産、介護などで負担を抱えがち。優秀なら早い段階でストレッチアサインメント(高難度業務の付与)によりチャレンジングな仕事を与える必要がある。「皆と一緒」では妊娠などライフイベントを迎えた際に職場に残る誘因が弱まり、そちらに引っ張られて離職しかねない。日本の企業は女性に「やさしすぎる」ところもある。男性陣との競争レースに勝てるキャリアマネジメントを考えないと。女性たちを最低のポストではなく、役員ポストに就くように育てるべきだ。
――キャリア形成に向けて女性たちへの助言は。
もっと自信を持ってほしい。昇進を打診されたら、すぐ断るのでなく、なぜ自分のところに話が来たのか考えてみてほしい。完璧な候補者はいない。会社はその職務を満たす要件を検討したうえで、あなたにお願いしている。
――育児との両立で昇進に二の足を踏む人は多い。
子育て中はオフィスでも自宅でも罪悪感を抱えがちだ。私はワークライフバランスという言葉が嫌い。月曜はこう、火曜はこうと均衡水準を意識している。片付かない部屋でファストフードを食べる日もあっていい、健康ならば。ストレスの種を減らそう。
若い男性は「ライフのための仕事」をするように価値観が変わってきている。仕事とライフの両立は女性だけの問題という時代は終わった。この点も光明となろう。  
 
 
 
 
 

 

●人づくり革命
人生100年の時代を見据えて、人材への投資を重視しようと掲げたのが「人づくり革命」です。柱の1つが、幼児教育の無償化で、消費税率引き上げによる増収分を財源に、ことし10月から、0歳から2歳までは所得の低い世帯を対象に、3歳から5歳までは世帯の所得にかかわらず一律で、認可保育所や幼稚園などの利用料を無償化しました。また、高等教育についても、来年4月から、所得の低い世帯を対象に、大学などの入学金や授業料を減免するなどの制度を実施することにしています。
●人づくり革命とは? 
日本が直面してる問題のひとつ、「少子高齢化」。総務省の調査によれば、2010年には23.0%であった65歳以上の人口が2060年には39.9%までに増加することが見込まれています。その一方で、2013年には7,901万人だった15〜64歳までの生産年齢人口は2060年に4,418万人まで落ち込む可能性があります。少子高齢化が進む状況で、国はいかに労働力人口を確保していくのかは重要なテーマです。また、日本では健康寿命が世界一の長寿社会となり、100歳を迎えることも難しい時代ではなくなりつつあります。それは「2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳まで生きる」と海外の研究で推計されていることからも、十分窺えることでしょう。2017年12月、政府はそんな「人生100年時代」に、すべての国民が元気に活躍し続けられる社会を実現しようと「人づくり革命」に乗り出しました。
人づくり革命とは?
端的に言うと、「人づくり革命」は“人材への投資”です。政府は国民が高い教育を受けられる環境を整え、誰もが生きがいを感じながら生活できる社会の実現を目指しています。
たとえば社会で自立し、活躍できる人材を育てるために大学進学を支援したり、出産や育児、病気などで離職せざるを得なかった人々に学び直し・やり直しができる社会を提供したりしようとしているのです。
さらに高齢者向けの社会保証制度を、誰もが利用できる全世代向けの社会保証に変えることで安心して暮らすことができる社会も目標としています。では、具体的に「人づくり革命」の施策について見ていきましょう。
幼児教育の無償化
政府が発表した「人づくり革命」の基本構想によれば、人々が子どもを持たない最大の理由は「子育てや教育にお金がかかり過ぎるから」というもの。現在の日本では子どもを産んだところで十分な教育を受けさせる費用の捻出が難しく、結果的に「子どもを生まない」という選択を迫られている状況です。
政府は子育て世代の金銭的な負担を減らし、子どもを持ってもらう狙いから幼児教育の無償化を「人づくり革命」の施策のひとつとしました。
これは生まれて0歳から2歳までは住民税非課税世帯のみ、3歳から5歳までのすべての子どもを対象に、幼稚園・保育所・認定こども園の費用を無償化するというもの。2020年4月からの実施予定が2019年10月に前倒しとなることが決定し、幼い子どもを持つ人々からは喜びの声も聞こえています。
その反面、「待機児童の解消」を優先すべきではないか、という意見も多くあります。匿名ブログやSNSを中心に「保育園に入れなかった」という悲鳴が増加しているように、幼稚園や保育園に入所申請をしているにも関わらず、入所できない状態にある「待機児童」は後を絶ちません。
また、労働人口が減少している背景には、女性が出産や育児により仕事から離れざるを得なくなったことも大きく関わっています。仕事と育児を両立させるためにも、保育園・幼稚園の入所は必要不可欠。政府は「女性就業率80%」の実現に向け、32万人分もの待機児童を解消する受け皿の整備を進めることを宣言しています。
働く女性を悩ませるのは、幼稚園の待機児童だけではありません。小学校入学後の子どもが放課後を過ごす場所、“学童保育”にも定員があり、ひとりで留守番を任せることに不安を感じた結果仕事を辞めてしまう女性も少なくないといわれています。
こうした課題を解決するために、政府は幼稚園、保育園の待機児童解消とともに、30万人分の学童保育の受け皿を拡大するプランも視野に入れているようです。幼児教育の無償化、そして待機児童の解消に取り組むことは、子育て世代への金銭面でのサポートとともに、女性の社会進出を実現することでもあるのです。
高等教育の無償化
現在、日本は低所得者層における大学進学率が低い状況にあります。生涯賃金も高校卒と大学・大学院卒では7,500万円ほどの差が生まれており、貧困から抜け出すことが容易ではありません。貧困の連鎖を断ち切る意味でも、社会で活躍できる人材を育てる意味でも、所得が低い家庭の子どもにこそより良い学びの場を提供することは重要です。
どれほど学力が高くとも、学費が払えずに進学を断念してしまう……そんな経済格差が教育格差を生んでいることを危惧したことから、政府は高等教育(大学、専門学校など)の無償化実施に向け動き始めました。
具体的な内容としては、住民税非課税世帯(年収270万円未満)の子どもたちに対し、国立大学であれば授業料を免除、私立大の授業料を一部免除、入学金に関しても一部減額を行うとしています。
さらに給付型奨学金の支援額を大幅に増やし、学生が学業に専念できるよう、十分な生活費を賄えるような措置を講じるとのこと。
ただし、支援を受けられるのは低所得世帯の学生全員ではありません。大学進学への意欲を十分に持っている学生を対象としており、進学後の学習状況が芳しくない場合は支給を打ち切られる可能性もあります。あくまでも無差別に支援をするのではなく、本人が自立し、社会に対して貢献できるかどうかを見極めることを重要視しているのです。
大学革命
人づくり革命の主軸であり、時代に合ったかたちに改革を進めることが重要視されている「大学」。その一端として、政府は生徒の学習成果の「見える化」、大学間の連携、統合を検討しています。
現在、日本全国には800校弱もの私立大学が存在します。しかしそのうちの定員充足率は6割にとどまり、赤字となっている大学は37%にも昇ります。そんな時代だからこそ、大学は魅力的なカリキュラムを用意し、なんとか生徒を集めようとしているのです。
無意味に進学するのではなく、大学で何を学ぶのか。最終的に社会に出た際のことも踏まえ、政府は大学が持つ意義を再構築し始めています。
リカレント教育
政府の調査によると、労働者の5割ほどがあらためて学び直しを実施したことが明らかになっています。学習への意欲を持つ一方で、多くの時間や費用が必要となることを課題に感じている労働者。政府はそんな人々に対し、生涯にわたり教育と労働を繰り返す「リカレント教育」を推奨しています。
リカレント教育は、趣味とは異なり、労働が前提にある学習のこと。もともとスウェーデンの経済学者レーンが提唱した考えであり、OECD(経済協力開発機構)で取り上げられたことで国際的に注目されるようになったといわれています。
海外ではオーソドックスなスタイルですが、日本ではなぜ今まで定着してこなかったのか。それは、新卒で入社した会社で定年まで働き続けることが一般的だったからに他なりません。「社会人になったら、特に新しいスキルや知識を身につけることなく、ただ働けばいい」……そんな考えも、現代の日本では古い時代のものになりつつあります。
そもそも、誰もが現在の仕事をいつまでも続けられる保証はどこにもありません。単純な間接業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)やAIをはじめとする技術革新が著しい昨今、多くの仕事が機械に取ってかわられる可能性が考えられます。
また、女性は出産や育児といったライフイベントで、男性も大きな怪我をすれば一時的に仕事から離れざるを得ない状況に陥るかもしれません。「このまま働き続けられれば大丈夫」と過信するのではなく、どんな場合でも働き続けられるよう、自身の能力やスキルを常にアップデートすることこそが今後の社会でも生き残る秘訣だといえるでしょう。
また、「働き方改革」として多様な働き方を企業が見つめ直す今だからこそ、キャリアアップを目的とした学び直しが注目されています。
政府はそんなリカレント教育をサポートするため、在職者であっても利用しやすい土日の教育訓練コースを設けること、講座の最低時間を緩和、仕事と両立しながら学べる環境を整えることを勧めています。
現時点でも一部の大学ではリカレント教育として夜間の講座を開講しており、最終的に診療心理士や学芸員といった資格を取得することも可能。給付金を受けられる対象の講座もあり、今後もさらにリカレント教育の場は広がっていくことでしょう。
そして学び終えた後、再び就労できるよう、企業に対して中途採用を拡大することも呼びかけています。年齢に関わらず、いつまでも能力を高めて働くことができる……政府はこうして経済を活発化させることを目指しているのです。
高齢者雇用の促進
政府は、65歳を過ぎてもなお、働く意思を持つ人が65%にも昇ることを調査によって明らかにしました。さらにそのうちの29%は「働けるうちはいつまでも」という強い就労の意思を示しています。
人生100年時代に向け、高齢者雇用の促進は避けては通れないもの。「働きたい」という希望を尊重することで人々の生活を充実したものにすることはもちろん、経済の成長力を引き上げる何よりの要因になります。
実際に高齢者の身体年齢や読解力はそれほど衰えていないとの調査結果もあり、働くことは決して難しいわけではありません。それどころか、60歳以上で起業を考えている人も増加しており、社会での活躍が期待できるほど。そんな高齢者たちを後押しする意味でも、政府は基礎的なIT・データスキルの習得のための訓練を拡充し、活躍の場を支援しようとしています。
事実、安倍首相は2018年10月22日、議長を務める未来投資会議で、高齢者が希望すればこれまでより長く働けるよう、企業の継続雇用年齢を65歳から70歳に引き上げる方針を示しました。
まとめ
健康寿命が長くなったことは、嬉しいことに他なりません。しかし、少子高齢化がこのまま進んでいけば、労働人口の減少に伴い日本は今よりも貧しい国になってしまう可能性もあります。長く生きられるようになったにも関わらず、経済力が衰えてしまった日本で生きるのはなんとも悲しいもの。その最悪のシナリオを回避すべく、日本は「人づくり革命」の実現に踏み切りました。
実現にはまだまだ多くの課題があり、単純にいかないことは誰の目にも明らかです。それでも、まずは行き届いた教育の環境を整え、充実した人生を送ることができるように政府は努力を続けていくのでしょう。 
 
 

 

●安倍政権の外交・安保戦略
第二次安倍政権は発足後、アメリカをはじめ関係国と協調して、テロ、自然災害など国際的な課題の解決に取り組む「積極的平和主義」と、世界全体をふかんし、自由や法の支配など基本的な価値に立脚しながら、戦略的な外交を展開する「地球儀を俯瞰する外交」を掲げました。こうした方針を踏まえ、政府は、2013年、外交・安全保障政策の司令塔、NSC=国家安全保障会議と、その事務局の「国家安全保障局」を発足させ、官邸主導で首脳外交を展開する体制を整えました。そして、外交・防衛の基本方針となる初めての「国家安全保障戦略」を決定。日本が直面する安全保障上の課題として、北朝鮮の軍事力の増強と挑発行為、中国の急速な台頭とさまざまな領域への積極進出などをあげました。また2014年に、これまでの憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認することを閣議決定し、翌年9月には、安全保障関連法も成立しました。2016年には、太平洋からインド洋にまたがる地域で、自由や法の支配に基づく国際秩序の確保や航行の自由、自由貿易の促進などを目指す、「自由で開かれたインド太平洋」という外交構想を打ち出しました。また、経済外交も重視し、TPP=環太平洋パートナーシップ協定や日本とEU=ヨーロッパ連合とのEPA=経済連携協定を締結するなど、自由貿易のルール作りに取り組みました。
 
 

 

外国訪問は延べ172の国と地域
「地球儀を俯瞰する外交」を掲げる安倍総理大臣が、第二次政権以降、今月までの6年11か月で訪れたのは80の国と地域、延べ172の国と地域になります。その移動距離は155万キロ余り。実に地球およそ38周に相当します。外務省によりますと、訪問国数や移動距離は、確認できるかぎりで過去最多だということです。最も多く訪れているのはアメリカで16回にのぼります。第一次政権の時に訪れた国は18か国、延べ20か国でした。一方、過去の総理大臣の訪問国数は、野田氏が10か国、延べ16か国、菅氏が7か国、延べ8か国、鳩山氏が8か国、延べ11か国、麻生氏が12か国、延べ15か国、福田氏が9か国、延べ10か国、小泉氏が、2回の北朝鮮訪問も含めて、49の国と地域、延べ81の国と地域などとなっています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

外交戦略
アメリカ
2国間関係で最も重視するのが、同盟国、アメリカです。政府は、北朝鮮による核・ミサイル開発や中国の海洋進出など、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているという認識のもと、日米関係の一層の強化に努めてきました。安倍総理大臣は、2017年に就任したトランプ大統領と首脳会談や会食、ゴルフなどを重ね個人的信頼関係を強めてきたことから、日米同盟はかつてなく強固だとしています。政府は、アメリカと連携し、北朝鮮の非核化に向けて、制裁を維持しているほか、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指しアジア諸国などとの安全保障協力を促進しています。一方、トランプ大統領が日本との貿易赤字を問題視する姿勢を示す中、日米の新たな貿易交渉を行い、ことし9月に最終的な合意に達しました。
中国
安倍総理大臣が第二次政権を発足させた当初、先の野田政権が行った沖縄県の尖閣諸島の国有化などの影響で、日中関係は冷え込んでいました。政府としては、日中関係は最も重要な2国間関係の1つであり、関係改善を進めるべきだとして、議員外交なども積み重ねながら、繰り返し対話を呼びかけました。その結果、2014年11月、安倍総理大臣と習近平国家主席との初めての首脳会談が実現。第一次政権で打ち出した「戦略的互恵関係」に立ち戻り、関係改善を目指すことで一致しました。安倍総理大臣は去年、日本の総理大臣として7年ぶりに中国を公式訪問し、李克強首相との首脳会談を行いました。そして、「競争から協調」、「脅威ではなくパートナー」、そして「自由で公正な貿易体制の発展」という新たな原則を確認しました。また、ことし6月には習主席が、国家主席としては8年7か月ぶりに日本を訪問し、安倍総理大臣と首脳会談を行いました。日中両政府は、両国関係が正常な軌道に戻ったと評価していて、関係をさらに強化するため、ハイレベルの相互往来を継続させていく方針です。
ロシア
安倍総理大臣は、ロシアとの関係強化を一貫して目指してきました。2013年、日本の総理大臣としては10年ぶりにロシアを公式訪問してプーチン大統領と会談。戦後、平和条約が締結されていない状態は異常だという認識を共有し、条約交渉の再開で合意しました。そして、2016年の首脳会談で、双方に受け入れ可能な解決策の作成に向け、「新しい発想のアプローチ」に基づいて交渉を進めていく方針を示し、12月の山口県長門市での会談で北方四島で共同経済活動を行うための特別な制度について交渉を開始することで合意しました。さらに、去年11月の首脳会談では、「平和条約を締結したあと歯舞群島と色丹島を引き渡す」とした1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速することで合意しましたが、北方領土の主権をめぐる双方の立場の隔たりは埋まらず、交渉が続いています。
韓国
日韓関係は2012年、当時のイ・ミョンバク(李明博)大統領が島根県の竹島に上陸したことなどをきっかけに悪化しましたが、日韓国交正常化50年にあたる2015年、安倍総理大臣と当時のパク・クネ(朴槿恵)大統領の首脳会談が実現して改善に向かいその年の日韓外相会談で、両国間の最大の懸案だった慰安婦問題の最終的な解決で合意しました。しかし、ムン・ジェイン(文在寅)大統領が就任すると、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題で、韓国の最高裁判所が日本企業に賠償を命じる判決を出したほか、韓国政府が、元慰安婦を支援する財団を一方的に解散すると発表したことや、自衛隊の哨戒機に対する韓国軍の駆逐艦からのレーダー照射など、両国間の信頼関係を揺るがす事態が相次ぎ、両国関係は悪化の一途をたどっています。
北朝鮮
北朝鮮について、政府は、2002年の日朝ピョンヤン宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、国交正常化を図ることを基本方針としています。拉致問題をめぐっては、2014年、スウェーデンのストックホルムで開かれた協議で北朝鮮が、「拉致問題は解決済み」としてきた従来の立場を改めて、「特別調査委員会」を設置し、拉致被害者を含む日本人行方不明者の全面的な調査を約束しました。しかし北朝鮮の核実験や弾道ミサイルの発射を受けて政府が独自の制裁措置を強化したことに北朝鮮は反発し、調査の中止と特別調査委員会の解体を一方的に発表し、解決に向けた状況は行き詰まりを見せています。また、核、ミサイル問題をめぐって、政府は、CVID=完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄を目指し、アメリカや韓国など関係国と連携し、国連の安保理決議に基づく制裁を維持しています。安倍総理大臣は、「対話のための対話では意味がない」として、北朝鮮が具体的な行動をとるまでは、制裁などの「圧力」を維持する考えを強調していましたが、トランプ大統領が、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長に、拉致問題を提起したことなどを踏まえ、前提条件をつけずに日朝首脳会談の実現を目指す考えを表明しています。 
 
 

 

●メディア諸話
 11/18

 

●安倍首相在職、20日で歴代最長に 2887日、桂太郎超える 11/18
安倍晋三首相の在職日数は20日で通算2887日となり、戦前に3回政権を担った桂太郎を抜き、歴代最長となる。経済最優先の路線が底堅い支持を集める一方、長期政権の「おごり」を指摘する声も根強い。自民党総裁としての残り任期は2年。首相は憲法改正など宿願達成に意欲を示すが、先行きは見通せない状況だ。
菅義偉官房長官は18日の記者会見で「安倍政権はやるべきことを明確に掲げ、政治主導で政策に取り組み、経済状況を抜本的に改善させることができた」と述べ、成果を強調した。
首相は2006年9月、戦後最年少の52歳で第1次政権を率いた。「戦後レジームからの脱却」を掲げたものの、相次ぐ閣僚辞任や自身の健康悪化もあり、わずか1年で退陣。12年12月に返り咲いてからは、1次政権の反省を生かして経済重視を前面に打ち出し、最近も40〜50%台の高い支持率を維持している。
一方で、長期政権の緩みも目立つ。森友・加計学園問題では、野党が国会などで徹底追及。首相主催「桜を見る会」をめぐっては、「権力の私物化」との批判を受けている。
背景には、与野党に強力なライバルが不在で、内閣人事局を通じて霞が関を掌握するなど、「安倍1強」と呼ばれる盤石の体制を構築したことがある。2度にわたる消費税増税や集団的自衛権行使を一部認める安全保障関連法制定など賛否が割れる課題も押し切った。
首相は21年9月に党総裁3期目の任期を終える。党則改正が必要となる4選は首相自身が否定しているが、党内には4選論もくすぶる。 
 11/19

 

●首相「やっぱりずさんだったかな」 歴代最長政権の陰り 11/19
安倍晋三首相の通算在職日数が20日、歴代最長になった。自民党内に有力なポスト安倍候補が見当たらず、野党もまとまりを欠くなかで、一定の世論の支持に支えられてきた。ただ、その足もとでは不祥事がやまず、長期政権ゆえのひずみもあらわだ。残り任期は2年を切り、求心力に陰りも見える。
15日夜、都内の日本料理店でフジサンケイグループの日枝久代表と食事をした安倍首相は、神妙な言葉を口にした。「我々も悪いんだよな。長くやってきたから。やっぱりずさんだったのかな」
その直前、首相は国の予算で毎年4月に主催する「桜を見る会」について、首相官邸で記者団の取材に応じていた。首相の地元有権者らが大勢参加していたことが「公私混同」などと批判され、自ら説明に立たざるを得なくなったのだ。「やっぱり長期政権になれば増えるんですよね」。首相は出席者の増加について、そうも語ったという。
憲政史上最長となる在職期間の達成を目前に、首相の足もとではいくつもの問題が噴き出した。
9月の内閣改造で初入閣した閣僚が週刊誌で疑惑を報じられて連続辞任。大学入学共通テストで導入を予定していた英語民間試験をめぐっては、側近の萩生田光一文部科学相による「身の丈」発言を契機に批判が沸騰し、土壇場で延期に追い込まれた。
そこに追い打ちをかけるように浮上したのが、「桜を見る会」の問題だ。野党は首相に照準を定め、国会で実態を明らかにするよう迫る。だが、政府は招待者名簿などを「廃棄した」などとして詳細を明らかにしない。その構図は公文書の改ざんや廃棄が明るみに出た森友問題などにも重なり、野党は「長期政権のおごりとゆがみの表れ」(立憲民主党・安住淳国対委員長)と批判を強める。 
●安倍首相、在職日数が歴代最長に 106年ぶり更新 11/19
安倍晋三首相の通算在職日数は20日で計2887日となり、明治、大正期に首相を3回務めた桂太郎の2886日を超えて憲政史上最長となった。記録更新は約106年ぶりだ。
安倍氏は51歳だった2006年9月、戦後最年少で初の戦後生まれの首相として組閣。第1次政権は自身の体調不良などで約1年で終わったが、12年12月の衆院選に勝利して民主党から政権を奪い返した。
第2次政権以来約7年、「アベノミクス」と呼ばれる大胆な金融緩和を主軸とする経済政策を進めている。消費税は14年4月と19年10月の2回、引き上げた。「働き方改革」などの労働法制にも取り組んだ。また、集団的自衛権の行使を可能とした安全保障法制を成立させたほか、トランプ米大統領と良好な関係を築いた。
安倍氏は12年以降、自民党総裁選に3回連続で勝ち、任期は21年9月末まである。20年8月まで政権を維持すれば、安倍氏の大叔父、佐藤栄作が持つ連続在職日数の2798日も超える。安倍氏は今月15日、記者団の取材に「日々全力を尽くした結果。緩みが出ないか、自らに問いかけつつ、より緊張感をもって進んでいきたい」と語った。
菅義偉官房長官は19日の記者会見で「あっという間に7年近く来たというのが正直な思いだ。安倍政権はやるべきことを明確に掲げ、政治主導で政策に取り組んできた」と述べた。
通算在職日数が長い首相(20日現在)
1安倍晋三  2887日
2桂太郎   2886日
3佐藤栄作  2798日
4伊藤博文  2720日
5吉田茂   2616日
6小泉純一郎 1980日  
●歴代最長に!桜を見る会で逆風も安倍政権が強い理由 11/19
 「官邸一強」の陰で進む「霞が関萎縮」の副作用はこうして防げ
毎年4月、新宿御苑にて開催される総理大臣主催の「桜を見る会」に、安倍晋三首相や閣僚らの地元後援会関係者らが多数招待されていた問題で、政権への批判が高まっています。
今年9月に内閣改造を断行し、わずか1カ月半ほどの間に閣僚が2人も辞任に追い込まれるというダメージも癒えぬうちに、今度は安倍首相自身に「公金を使った後援会接待」の疑いがかけられている状況です。事態の着地点はまだ見えませんが、共産党をはじめとする野党の追求も鋭く、首相自身も関わる問題なだけに「モリカケ問題」 (森友・加計問題)ほどの騒動に発展する可能性も取り沙汰されています。
しかし、私見では、現状を見る限り、政権が倒れるほどの問題に発展することはなさそうです。というのも、現在の安倍政権は、守りが非常に堅い権力構造を作り上げているからです。
11月20日、安倍首相の通算首相在職日数は、歴代最長だった桂太郎(2886日)を超えることになります。さらに、このまま安倍政権が続けば、来年夏には、佐藤栄作の7年8カ月の連続在任記録をも破ることになります。
なぜ安倍首相はこれほど長期間、政権の座を独占することができたのでしょうか。その理由は、安倍首相のリーダーシップとかカリスマ性といった個人の資質よりも、「チーム安倍」とも言うべき組織のマネジメント力の高さにあるのではないかと私は睨んでいます。
それを説明する前に、まずは安倍政権のこれまで振り返ってみましょう。面白いことに、安倍政権は「予想を裏切る政権」という側面が見えてきます。
まずは2006年から2007年にかけての第1次安倍政権ですが、このときは5年5カ月も続いた小泉政権の後を受けて発足しました。その後、発足した安倍政権は国民的期待を受け、満を持して「登板」した内閣であり、やはり長期政権化するのではないかと予想されていました。
安倍さんは、小泉内閣で官房副長官を務めていたときに、北朝鮮への強硬姿勢が注目を浴びてスターとなります。首相就任時の年齢は52歳。戦後最年少の首相で、現在で言えばちょうど小泉進次郎さん的な存在でした。当然、小泉路線を継承しつつ、本格政権になるだろうと思われていたのですが、その予想を裏切って、1年ほどで退陣してしまいました。
二度目の政権は2012年12月から。このときは、安倍政権が長期政権化すると予想した人はほとんどいませんでした。
前任の野田首相が解散総選挙に打って出て政権与党の民主党が大敗、自民党に政権の座が転がり込んでくるわけですが、総選挙での自民党の勝利は、ボロボロになった民主党への批判票が集中したという側面が強く、積極的に自民党を選んだ有権者はさほどいなかったように思います。
しかも総選挙の3カ月ほど前に実施されていた自民党総裁選では、決選投票でこそ安倍さんが勝利しましたが、1回目の投票では石破茂さんの後塵を拝していました。そうした中で第2次政権をスタートさせた安倍さんだけに、「今回の安倍内閣も長続きしないのではないか」という見方が大勢でした。ところがその予想も裏切られ、これほどの長期政権になったわけですから、分からないものです。
ただ、小泉政権にしても、第2次安倍政権にしても、長期政権の構造を分解してみれば、そこには共通項が見いだせます。
小泉さんは派閥の長でもなく、子分もいない。「政界の一匹狼」と呼ぶべき存在でした。そんな小泉さんが長期間にわたって政権を握り続けられたのは、永田町と霞が関の関係と含めて大きな構造変化が起こっていたからです。
江戸末期の作と言われる有名な落首に「織田がつき羽柴がこねし天下餅、座して喰らうは徳の川」というものがあります。これは徳川政権が長く続いたのは、織田信長が断行したさまざまな改革と、豊臣秀吉による太閤検地などの制度整備があったお陰だ、という意味です。そのひそみに倣って、「小沢がつき橋本がこねし天下餅」を座って食べたのが小泉さんだったと言われたりもしています。
小沢一郎さんがついたのは、選挙制度改革という餅でした。細川内閣時代に、実質上、小沢さんが主導して選挙制度改革が進み、小選挙区制を導入し、二大政党制への道筋を作りました。小選挙区制では与党の候補者は一人になるので、党首の公認権はとても大きな権限となります。さらに橋下龍太郎さんは、首相の権限強化を伴う内閣機能の見直しを実施します。これにより、首相の基本方針発議権を明確にするなど、官邸機能が強化されました。こうして、与党の総裁として、また内閣を統べる総理大臣として、首相の権限は格段に強くなるわけですが、こうした条件が整備された中で小泉政権は発足し、またこれらをフルに活用し切ったからこそ、長期政権が実現したのでした。
自公連立政権だった小泉政権下で日本でも徐々に二大政党制が定着していきます。すると、それぞれの党では「党の顔」としても党首の力が非常に大きくなってきました。
二大政党制での選挙は、党の顔によって各候補者の得票数が大きく変わってきます。なによりも、先述のとおり、選挙区ごとの公認権を握っているのもその党首です。党首が、各候補の政治生命を握っていると言っても過言ではありません。こうして党内で絶大な権限を持つようになった党首が政権を獲れば、党内から足を引っ張られる可能性は少ない。つまり長期政権化する、と解説されていたのです。実際、小泉さんはその権限をフルに使い、長期にわたって政権を維持しました。
ところが第1次安倍政権は、前述のように1年ほどで終焉しました。短命の一番の原因は参議院選挙での敗北です。二大政党制ではねじれが生じやすくなります。いくら首相や党首としての権限、官邸機能が強化されても、議会でねじれが生じてしまうと、法案を通すことが極めて難しくなり、政権運営がたちまち行き詰まってしまうのです。
安倍政権が倒れた後も、ねじれの構図は変わらず、福田政権、麻生政権もそれぞれ一年ほどでバタバタと崩壊していったのです。
逆に、議会でのねじれさえなければ、強化された官邸機能を十分に活用して、強力な政権を作ることができます。
第2次安倍政権はまさにそういう政権でした。そしてそれは冒頭の方でも書いたように、安倍さん自身の強力なカリスマ性などというよりは、チーム安倍の運営力、マネジメント力の賜物だと思うのです。これがよく言われる「官邸一強」と呼ばれる状況です。安倍首相のリーダーシップは確かに強いですが、それはもともと安倍さん本人が備えていた資質というよりも、首相がリーダーシップを発揮しやすい仕組みが、さまざまな制度改革の末に出来上がっているから、と見るべきなのです。
この第2次安倍政権も私が見るところ、前半と後半でだいぶギアの入れ方が変わってきているようです。
前半は、第1次政権が不本意な形で終わってしまったこともあったのでしょう。リベンジに燃えるような、「今度はやるぞ」といった気合が感じられ、かなり「攻め」の政策が多く実施されました。思い切った金融緩和に代表されるアベノミクスの実施、農業票の関係から党内で圧倒的に反対者が多かったTPP参加への道の切り開き、少し時期は後になりますが支持率を削っての安保法制の可決・施行もそうでしょう。
それに対して後半は、どちらかと言えば守りに徹している印象です。これは、ただじっとして何もやらないという意味ではなく、いろいろ起こる事象に対して上手く対処し、トラブルの芽を巧みに摘み取っているというイメージです。アメリカのトランプ大統領、韓国の文在寅大統領のような、想定外の行動を取る人物への対応も上手くこなしている。消費税増税にしても、2014年4月の8%への引き上げが不評だったので、10%への引き上げは2度延期した後、今年10月に実施されました。その慎重な姿勢が功を奏し、今回の引き上げは、前回のような大きな反発は起こっていません。そういうところを見ても、まさに守りが堅い政権です。経営学者の三品和広さんは、世の中すごく変わった時に上手に受け流して対応していく様を、柔道の受け身に見立てて「柔道のメタファー」と呼んでいますが、まさに第2次安倍政権、特に後半はこの受け身が非常に巧みなのです。これが、政権が長期化している秘密であり、ちょっとやそっとの騒動などでは倒れない要因だと思うのです。
攻めにしても守りにしても、その司令塔となっているのは官邸です。官邸のパワーが強い時には、政権は長期化します。官邸の能力を使いこなせない政権は、短命に終わります。
実はこの官邸の権限強化には私自身もいくぶん関わっています。元々、新しい霞ヶ関を創る若手の会の代表として、縦割り打破のための霞ヶ関の司令塔機能の強化を訴えていましたが、そんな中、第2次安倍内閣時代の2013年11月、当時すでに経産省を辞めて青山社中を旗揚げしていた私は、法案審議の際に国会に参考人として呼ばれ、内閣人事局の創設をメインとする公務員制度改革を訴える機会を与えられました。この法案は、結果的には翌2014年5月末、現実となりました。こうして各省庁の審議官以上の人事は、内閣人事局、すなわち「官邸」の要である官房長官や官房副長官の力がかなり強く及ぶような形で決まっていくようになったのです。
私が内閣人事局の必要性を強調したのは、それまでの霞が関は省庁ごとの縦割り行政が横行し、省庁間の足の引っ張り合いが日常茶飯事だったからです。これを是正するためには、霞が関の幹部の人事は官邸で一元的に行い、霞が関の官僚を同じ方向に向けさせる必要があると痛感していたからです。
その目的は、内閣人事局の設置で、官邸さえその気になればほぼ達成できる形となりました。それにより官邸の権限はますます大きくなり、政権の長期化を促すことにもなっていると感じています。
ただ残念ながら、その一方で、私が予想していなかったような弊害も目に付くようになってきています。それは霞が関の「草食化」です。
例えば冒頭でも触れた「モリカケ問題」ですが、これは霞が関の役人たちによる官邸への忖度の中で生まれた事件でした。首相自身や官邸自体が何か指示をしたというよりも、「官邸がこう思っているんじゃないか」とか「官邸はこういう方向に行こうとしているんじゃないか」という具合に、霞が関が勝手に官邸や総理の考えを推し量って動くようになってしまっているのです。
ただし、それでも私は、官僚による忖度よりも、霞が関の縦割りのほうが、弊害が大きいと思っています。縦割り除去のためにも、官邸が人事を使って霞が関全体ににらみを利かせる態勢は必要です。
一方、官邸機能が強化されていく中で、この忖度文化は、それはそれとして改めなければなりません。霞が関の役人が官邸の意向をルールを逸脱してまで過度に推し量るのは論外ですが、そもそも、言われたことだけをしていればいいというわけでもありません。もっとアグレッシブに新しい政策を立案し、世の中の仕組みを変えていかなければならないのです。そうした意欲ある官僚たちがダイナミックにいい政策を作っていくためには、例えば、官邸が中心となって霞が関内部(場合によっては外部も含む)から案を募る政策コンテストのようなものを実施し、優れた政策は取り入れていくような方策が必要ではないでしょうか。逆説的ですが、政治主導で、若手官僚のやる気を引き出す対策が早急に必要だと感じています。
私の古巣である経済産業省は、かつては非常に元気のいい官僚がひしめいていましたが、今はずいぶん大人しくなってしまっているように思います。現在の安倍政権は、「経産省主導政権」とも称されています。経産省出身の今井尚哉氏や長谷川栄一氏が首相秘書官(今井氏は現在は補佐官の肩書も)や補佐官として霞が関全体を仕切っていると言われているからです。そうであれば、彼らの出身母体である経産省も「我が世の春」を謳歌していそうなものですが、実はそうではありません。聞くところによると、この一年だけで、定年や定年近くなって辞める方を除いた、若手・中堅のキャリア官僚が25名も退職しているそうです。一方で私が入省した当時に比べ、キャリア官僚の採用人数は激増していますし(私の同期は37名。今年は50名近く入ったと聞いています)、加えて、中途採用にも乗り出しています。そうでもしないと、とても人手が足りずに組織が回らなくなっているのでしょう。
これは、官邸を中心として霞が関全体に上意下達の指揮命令系統ががっちりいきわたり過ぎてしまったために、主体的に政策を考えるという意味で官僚たちの意欲が著しく低下していることに原因があるのではないでしょうか。
経産省に限った話ではありませんが、このままでは霞が関から優秀な人材が次々といなくなってしまいます。若い世代になればなるほど、当然ながら、官邸の意向を汲むような仕事しかしたことのない人材の比率が高まっていきます。ここで思い切って、官邸が若手の政策や提案を吸い上げる仕組みを作り、彼らに自由闊達な活躍の場を与えていかないと、この国を支える幹はどんどん細ってしまいます。国家百年の計に思いを巡らせば、クリエイティブな思考ができる役人の育成も不可欠です。そうした改革も、史上最長の政権となる可能性が濃厚な、力のある安倍政権で実行してもらいたいと願います。 
●歴代最長政権 長さに見合う実績あるか 11/19
安倍晋三首相は第1次政権からの通算在職日数がきょうで2886日となり、戦前の桂太郎首相と並んで歴代最長となった。
戦後の長期政権だけをみても、佐藤栄作首相は非核三原則を提唱し、沖縄の返還を実現。吉田茂首相はサンフランシスコ講和条約を結び戦後復興の枠組みをつくった。
長さではこれらを超えた安倍政権だが、それに見合うレガシー(政治的遺産)があるかは冷静に検証されなければなるまい。
第2次安倍政権は経済政策アベノミクスとともに始まった。日銀の金融緩和や市場への資金供給が円安を誘導し、企業業績や株価を押し上げたのは事実だろう。
政府は今年1月に景気拡大期間が戦後最長になったとみられるとしたが、経済成長率が低い上に賃金はなかなか伸びない。日銀による2%の物価上昇目標も実現せず、政府はデフレ脱却を宣言できずにいる。
実質経済成長率の目標2%をいまだ達成できないのは、消費の伸び悩みが大きな要因だ。それは多くの国民が景気回復を実感できていない証しといえる。
東京五輪に伴う需要が終わり、米中貿易摩擦の影響などで景況感が厳しさを増す来年以降はなお、これまでの政策の真価が問われよう。
トランプ米大統領との親密な関係を軸に存在感を発揮してきたとされる外交にも、成果には首をかしげざるを得ない面がある。
「遺産」になりうる懸案では、ロシアとの北方領土交渉を含む平和条約締結交渉が行き詰まっている。
首相は日本が「固有の領土」としてきた択捉、国後両島の返還を事実上諦める2島決着案を持ち出したが、これは日本にとってむしろ後退を意味する。
北朝鮮による日本人拉致問題でも、首相が呼び掛ける日朝首脳会談への見通しは開けていない。
首相は野党時代の2012年衆院選を含めて6回の国政選挙を連勝。これを力の源泉とした「安倍1強」の下で、集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法などを数の力で成立させてきた。
一方で「1強」ゆえのおごりや緩み、身内への甘さもあらわになってきた。行政の中立・公平性が問われた森友・加計両学園問題に加え、いまは「桜を見る会」を巡って説明を求められている。
共同通信の10月の世論調査では、内閣支持率は54・1%と高い水準を維持している。ただ、支持する理由は「ほかに適当な人がいない」が49・6%にも達した。選択肢不在の消極的な支持が「1強」を実現させていることを物語っている。
長期政権の「遺産」がないと指摘される中で、首相が悲願とする憲法改正の議論が今後も注目される。
しかし、これまでのように国会を軽視し、十分に説明を尽くそうとしない強硬な政治手法では、広く国民の理解を得られないことを自覚しておくべきだ。 
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●「史上最長政権」でも首相の表情が晴れない理由 11/20
安倍晋三首相が11月20日、通算在任記録(桂太郎首相の2886日)を更新した。政治史に燦然と輝く大宰相の勲章にもかかわらず、首相の笑顔はぎこちない。突如浮上した「桜を見る会」の私物化疑惑が原因だ。
ここ数日、メディアへの釈明に追われる安倍首相の表情には、想定外の政治的危機への戸惑いと焦りがにじみ出ている。首相サイドには「こうなれば桜解散だ」と来年1〜2月の衆院解散・総選挙での局面打開を狙う強気の声もあるが、内閣支持率が低下し、安倍バッシングが加速すれば「解散どころか死に体化が進みかねない」(細田派幹部)との不安も浮上している。
桜を見る会は、長年にわたり、歴代首相がそれぞれ毎年4月に新宿御苑で主催してきた。政財官界幹部や各国大公使のほか、芸能・スポーツ界の有名人も招き、満開の八重桜などを愛でながら首相夫妻が各界の功労・功績者等を接遇する、政界の春の風物詩として定着してきた。多くのメディア幹部も招待され、税金を使っての開催も「マスコミ公認」(自民幹部)とされてきた。
この状況が一変したのは、11月8日の参院予算委員会で共産党の追及をきっかけに、野党や国民の間で「私物化批判」が大炎上したからだ。確かに、今年4月の開催実績でみると、功労・功績者等に交じって、安倍首相の地元・山口県から850人もの支援者が招待され、当日朝の開催時間の前に17台のバスに分乗して会場に先に入り、首相夫妻もグループ別に記念写真撮影に応じていた。
この「安倍首相ご一行様」は、安倍事務所の参加者募集に応じた地元後援会のメンバーが大半とされる。しかも、ほとんどの人々が開催前日、都心の高級ホテルでの前夜祭にも参加し、首相夫妻を囲んで歓談していたことが首相動静にも記録されていた。このため、野党からは「あからさまな選挙対策で、明確な公職選挙法違反」(立憲民主党幹部)との批判が噴出し、ワイドショーなどで安倍首相のスキャンダルとして大きく取り上げられた。
8日の国会答弁では「私は招待者の取りまとめなどには関与していない」と冷静さを装った安倍首相だが、批判の高まりを受けて菅義偉官房長官とも協議。13日に「来年の開催を中止して運営方法見直す」ことを発表した。
さらに、15日には首相自身が首相番記者の取材に応じ、「すべての費用は参加者の自己負担で、事務所・後援会の収入・支出は一切ない」と釈明。そのうえで、「招待人数が多くなってきたことは反省しなければならない」などと、約20分間にもわたって事情を説明した。
確かに、野党などが指摘する公選法・政治資金規正法違反の明確な証拠はない。問題となっている交通・宿泊費や前夜祭の会費も、「すべて招待者が負担し、ツアーを企画した旅行会社やホテル側とも、事務所のサポートで直接支払い、領収書も受け取っている」(安倍事務所)のが事実なら、「違法性はない」(同)ことになる。だからこそ首相も、事務所に確認した話として、弁護士にも相談したうえで異例の詳細説明に踏み切ったとされる。
しかし、野党側は「首相の説明は火に油を注いだようなもの」(立憲民主幹部)と勢いづいている。そもそも、「850人もの地元支援者を招いたのは、開催趣旨を逸脱しており、歴代首相と比較しても安倍首相による私物化が突出している」(国民民主党幹部)ことは否定できない。しかも、高級ホテルでの前夜祭も、立食パーティとはいえ「1人5000円は超格安」(業界関係者)との指摘も相次ぐ。
首相は「ほとんどの人が同じホテルに宿泊することもあって、ホテル側が設定した価格だ」と説明しているが、「通常のセット料金の半額以下となれば、ホテル側の首相への過度の忖度としかみえない」(他ホテル担当者)との声も噴き出す。さらに、前夜祭の会場では安倍事務所側が会費5000円を徴収し、ホテルの領収書を渡していたことも疑惑の対象となった。
前夜祭の運営などについて、司法関係者は「事前に事務所からの支払いがなければ、ホテル側が領収書を出すことは想定しにくい。もし、事務所とホテル側に別途の金銭のやり取りがあれば、結果的に全額参加者負担だったとしても、政治資金収支報告書への記載義務が生じる」と指摘する。
週明けの18日に安倍首相は、「事務所にも後援会にも入金は一切ないので、(事務所などから)領収書も発行していない」と違法でないことを改めて力説した。ただ、証拠となる前夜祭の参加者数や総額を記した明細書の存否を問われると、「事務所に確認しているが、そうしたものはないということだ」と答えた。
この説明に対して野党側の追及の先頭に立つ安住淳・立憲民主党国対委員長は18日、「明細書も作らずにパーティを開催するなんて、戦後聞いたことがない」と大げさな表現で疑惑を指摘。野党側も同日「首相の後援会が懇親会を主催したのなら、政治資金収支報告書への記載は必要」との認識で一致し、与党側に1予算委員会の集中審議開催、2今週開催の衆院内閣委への、安倍事務所の会計責任者と前夜祭を開催したホテルの担当者の参考人招致を要求した。
こうした動きに対し、安倍首相は18日、「国会から求められれば、説明責任を果たすのは当然だ」としながらも「国会対応は自民党にすべてお任せしている」と返答。同日夕、森山裕自民党国対委員長は「所管する内閣委員会で議論すべきだ。参考人招致もあまり前例がない」などとして野党要求を事実上拒否した。
今回の安倍首相らの対応について、与党内には「役に立つはずだった早期幕引き策には、誤算が生じている」(自民幹部)との不安が広がる。
問題発覚後の各メデイアが実施した世論調査でも、「桜を見る会」での首相の説明に「納得できない」が7割近くに達し、内閣支持率は1〜6ポイント低下、不支持率も数ポイント上昇した。首相周辺も「こんな状態が続けば、年末に向けてさらに支持率が低下する」と焦りの色を隠さない。
市民団体は18日、桜を見る会について公選法違反などの疑いで安倍首相を東京地検に告発する方針を決定。その一方で、首相の地元・下関市の前田晋太郎市長は18日、「(桜を見る会は)70歳、80歳のおじいちゃん、おばあちゃんたちがうれしそうに新宿御苑に向かう。ものすごく地元に勇気を与えてくれる会と思っている」と擁護した。同市長は安倍首相の元秘書で、政界では「身内が地元有権者の接待を認めた格好で、ひいきの引き倒しだ」(自民幹部)との声も出る。
鳩山由紀夫元首相は18日夜、自身のツイッターで人気女優の沢尻エリカ容疑者が逮捕されたことに絡めて、「政府のスキャンダルを覆い隠すのが目的」と投稿。さらに、「私も主催したが、前年(麻生太郎内閣)より招待客を減らしている。安倍首相は私物化しすぎているのは明白である」と書き込むなど場外乱闘も始まった。
こうした政局混乱を受け、憲法改正実現に向けて今臨時国会中の成立が期待されていた国民投票法改正案の衆院憲法審査会での審議も停滞。自民党の二階俊博幹事長は18日、「できることから順番にやればいい。別に焦る必要はない」と述べ、今国会成立にこだわらない考えを示すなど、国会運営でも与党が防戦一方となっている。
政府与党としては来年1月1日発効が前提となる日米貿易新協定の会期内成立を最優先し、臨時国会を会期通りの12月9日に閉幕させて、その後は安倍首相の訪中と訪印、10兆円規模とされる今年度補正予算案と来年度予算案の年内編成に全力を挙げることで、事態の鎮静化を図る構えだ。
ただ、過熱化するメディア取材の現状などから、「当分は国民レベルでの首相批判も収まらないのでは」(官邸筋)との不安も拭えない。「桜を見る会」の招待者に関して、省庁別の推薦者名簿は保存されており、19日の閣議後会見でも、一部閣僚が「求めがあれば適切に公開する予定だ」と述べたことも、問題長期化の要素になりそうだ。
これまでの安倍政権のスキャンダルでは衆院解散説が野党側への牽制効果が大きかったのは事実。このため、今回も「通常国会冒頭で補正予算を処理したうえでの1月下旬解散・2月中旬総選挙」という、いわゆる「桜解散」説も国会内で飛びかう。
ただ、次期衆院選での野党共闘の指南役を自任する国民民主党の小沢一郎氏は18日夜、「年明けの解散・総選挙がささやかれている今日において、(野党結集は)急務だ」と強調する一方、主要野党リーダーの立憲民主党の枝野幸男代表も「こちらが解散に追い込む」と語るなど、「今回は牽制になっていない」(自民幹部)のが実態だ。
今年4月13日に開催された桜を見る会で安倍首相は、令和改元を踏まえて「平成を 名残惜しむか 八重桜」「新しき 御代(みよ)寿(ことほぎ)て 八重桜」と自作2句を披露して会場を沸かせた。
その時点では半年後のピンチなど夢想もしなかったはずだが、今や永田町で首相の「五輪花道論」も取りざたされている。「結果的に、首相にとってあれ(今年の桜の会)が最後の晴れ舞台になるかも」(自民長老)との声も出始めている。 
●「なんもしない人」安倍晋三、史上最長政権に押される烙印 11/20
私はこれまでの言説を修正しなければならないと、本気で悩み始めている。
これまで私は、「自民党の最大支持勢力は、創価学会・公明党である」と主張してきた。第2次安倍晋三政権に限れば、そのように見えてきたのも確かだ。しかし、麻生太郎内閣は創価学会・公明党の支持があったにもかかわらず、鳩山由紀夫民主党に惨敗した。国民が「鳩山民主党でも構わないから、麻生自民党は嫌だ!」と本気で怒ったら、創価学会・公明党が味方になってくれても何の役にも立たないほど脆弱なのが、自民党の実態だ。
そして約3年後、「誰でもいいから、景気を回復してくれ。民主党を倒してくれ」との国民の声にこたえて、安倍晋三が政権に返り咲いた。そして本日、憲政史上最長の政権になった。
この間、創価学会・公明党も安倍内閣を支えた。自民党も支えた。7年の間に、「かつての三角大福の時代なら即死」のような危機が何度もあったが、すべて乗り越えた。果たして、創価学会や公明党、あるいは安倍側近や自民党の力だけで可能だろうか。ここまでの長期政権を築いた功労者は他でもない。「野党」であろう。
もちろん「野党」とは、常に安倍内閣の「よりによって正しいことだけを批判してくれる勢力」のことである。この人たちが「野党」の地位に居座ってくれれば、特に野党第一党の地位にふんぞり返ってくれれば、絶対に安倍自民党は選挙で負けない。
思えば、「野党」は綺羅星の如く人材が豊富だった。海江田万里、岡田克也、蓮舫、そして枝野幸男。第2次安倍政権期の、歴代野党第一党党首である。いかなる安倍批判者であろうとも、この人たちに日本の運命を任せようとは思わないだろう。実際に有権者は、そういう選択をしてきた。圧倒的多数の日本国民は、何でもかんでも安倍批判に結びつける「アベノセイダーズ」を白眼視し続けてきた。
だが、それは「安倍首相」に対する一切の批判を許さない「アベノシンジャーズ」を増長させてきた。安倍さん以外に誰がいるのか? 自民党の他に政権担当能力がある政党があるのか? 確かにその通りなのだが、安倍内閣や自民党が、それほど威張れるほど能力があると思っている時点で、「アベノシンジャーズ」は度し難い。
では「野党」よりマシだとして、自民党にいかほどの政権能力があるのか。
かつての民主党は、官僚の言いなりになってはいけないことだけは分かっていた。「だけ」は。一方の自民党は、官僚の振り付けで踊る能力だけはある。選挙で選んだ政治家が官僚の言いなりなら、選挙などやめてしまえばよいではないか。選挙がある限り、官僚は責任を国民に押し付けた上で、やりたい放題ができる。自分は陰に隠れて、権力を振るうだけでよい。選挙が忙しくて政治の勉強をする暇がない政治家を、洗脳してしまえばよいだけだ。
自民党の政治家は、朝から晩まで勉強している。涙ぐましいほど勉強している。料亭で夜な夜な会合を重ねるなど、政局が近いときの幹部くらいだろう。大半の自民党議員は、絶望的なまでに熱心に、勉強をしている。
何が絶望的なのか。自民党議員の勉強とは、何か。「官僚から情報を貰うこと」である。官僚とは、絶対にポジショントークから逃れられない生き物である。自分の所属する官庁の立場から離れたら、それは官僚ではない。
例えば、である。今は知らないが、少し前までの財務省は、内部では上司部下関係なく、対等の議論が許された。ただし、外部に対しては、組織で決まった結論以外を出してはならない。だから、「内部では消費増税に反対している官僚が、政治家に対する説得工作で増税を熱弁する」ということも、あり得る。そういう場合、政治家が「官僚の言うことだから正しい」と最初から信じ込んでいたらどうなるか。
そもそも、自民党は官僚機構をシンクタンクとして活用している。この時点で、根本的に間違っている。シンクタンクとは、官僚機構に対抗する知見を政治家が身に付けるために存在するのだ。自民党には、「官僚と会う前に、頭を作っておく」という発想がない。
たとえ話をしよう。東京から新幹線で岡山駅に行くとする。東京駅から、東海道新幹線に乗れば一本だ。だが、今は上野駅にいる。ならば、山手線なり、京浜東北線で東京駅に向かえばよい。ところが、東北新幹線に乗るべきか、はたまた常磐線に乗るべきかを議論している。
常にマヌケな議論をしているのが、自民党だ。
平成の30年間は不況で暮れた。不況を克服しなければならない。これは自民党全員の総意だ。どこまで真面目かの温度差はあるが、建前として景気回復などしなくてよいと言い切れる自民党政治家はいない。そうした自民党がとった施策は三つだ。消費増税、財政出動、金融緩和だ。
増税をした政権は竹下登、橋本龍太郎。岡山県に行くのに、東北新幹線に乗ったようなものだ。景気回復から劇的に遠のいた。財政出動をした政権は、小渕恵三と麻生太郎。山手線をぐるぐる回っていただけだ。ついぞ東京駅で乗り換えることはなかった。金融緩和をした政権は、小泉純一郎。こだま号で西に向かったが、名古屋あたりで列車を止めてしまった。
第2次安倍政権は、この三つすべてをやっている。最初は「黒田バズーカ」で一気にのぞみ号にのって品川まで来たが、突如として山手線に乗り換え東北新幹線に乗るがごとく消費増税8%を断行した。思い直して東京駅まで戻ってきたが、必死の全力疾走を続けて、ようやく新横浜駅までたどりついたにすぎない。そして、またもや10%の増税である。日本経済は、再び戻って「ただいま品川駅で停車中」というところか。
何をやっているのか? 確かに民主党に任せておけば東京駅に爆弾を仕掛けかねないが、では自民党に政権担当能力があると言えるのか? いずれも、合格最低点を切った政治にすぎない。安倍政治とは、よりマシな政治でしかないのだ。
証拠を上げよう。絶望的なまでに、実績がない。先の参議院選挙でも「民主党の悪夢に戻っていいのか」と絶叫していたが、本当にそれしかないのだろう。
安倍政権と比較するのも失礼だが、これまでの史上最長政権だった桂太郎内閣の業績は目覚ましい。第1次内閣で日英同盟と日露戦争の勝利、第2次内閣で日韓併合と条約改正の達成である。どれか一つでも歴史に残る偉業だが、桂その人は「第2次内閣の実績は第1次に劣る」と、厳しく自己評価していたほどだ。
戦前の偉大な政治家と比較するのは、安倍に酷だとしよう。では、戦後の首相と比べるとどうか。
   吉田茂 …サンフランシスコ条約。占領下にあった状態から、独立を回復
   鳩山一郎…日ソ共同宣言。シベリアに抑留されていた50万人の日本人を奪還
   岸信介 …日米安保条約。完全な軍事的従属関係を脱却
   池田勇人…高度経済成長。日本国の指針を確立
   佐藤栄作…小笠原、沖縄返還。戦争で奪われた領土を奪還
いずれも、教科書に残る事績と評価してよい。
さて、安倍内閣には何が残るか? 景気は緩やかな回復軌道にあった。オバマ民主党だろうがトランプ共和党だろうが、アメリカとの友好関係を維持している。
だから、どうした?
安倍も気にしているのか、ときどき思い出づくりを試みる。憲法改正、北朝鮮拉致被害者奪還、北方領土交渉。だが、いずれも官僚が敷いたレールの上を走る行政ではなく、道なき道に自ら道を作るべき政治課題だ。官僚が差し出す時刻表、しかも絶対に目的地に着かない時刻表を眺めているだけの総理大臣に何ができるか。
安倍内閣は、「野党」よりマシなだけだと自白している。よりマシな政治家を選べば、安倍自民党内閣にならざるをえなかった。
だが、「野党」が本当に野党だったのか。
再び問う。海江田、岡田、蓮舫、枝野が一度でも安倍内閣を潰しにいったのか? むしろ最初から政権を担う気などなく、無責任な立場で言いたい放題を言える野党第一党の維持こそが目的だったのではないか。
この人たちは野党ではなく、体制補完勢力、すなわち体制の一部ではなかったのか。さも選挙を行い、「安倍か野党か」と選択肢が二つあるように思わせる。しかし、実際は一択だ。消費増税の問題一つとっても、野党も増税賛成だ。
かつても長期政権で腐敗した時代があった。官僚を従える桂が、衆議院で万年第一党の立憲政友会と談合して、政権を独占していた。しかし、桂は政争に敗れて憤死、政友会の増長が甚だしかった。これに、引退していた元老の井上馨が激昂、鉄槌を下して政友会を結党以来初の第二党に叩き落したことがある。国民は熱狂的に支持した。
史上最長政権となった以上、安倍は歴史の法廷で被告人となる覚悟をした方がよいだろう。 
●歴代最長政権支える「官邸官僚」 11/20
安倍晋三首相が達成した前人未到の長期政権の背景には、官僚出身で首相への忠誠心が厚い「官邸官僚」の存在がある。官邸主導の政策遂行を支え、閣僚辞任など数々の“ピンチ”をしのいできたのは、首相の懐刀といわれる経済産業省出身の今井尚哉(たかや)首相補佐官と内閣情報官から転身した警察庁出身の北村滋国家安全保障局長。各省庁事務次官より年長で警察庁出身の杉田和博官房副長官が霞が関の動きにも目配りしてきた。
今井氏は第1次政権で首相秘書官を務め、平成24年12月の第2次政権発足に伴って資源エネルギー庁次長から政務秘書官に起用された。首相の看板政策「1億総活躍社会」を発案し、景気動向を見極めて2度の消費税増税を後押しした。政府関係者は「今井氏は社会保障改革を首相のレガシー(遺産)にするつもりだ」と話す。今年9月には秘書官と兼務し、政策企画の総括を担当する首相補佐官の肩書を持つ。経産省時代からの海外要人との人脈をフル回転し、外交でも本格的に首相をサポートする。
今井氏と二枚看板で外交を担う北村氏と首相の交流は古く、警視庁本富士署長時代に首相の父、安倍晋太郎元外相が管内の病院に入院していた縁で知り合った。旧民主党政権下の23年に就任した内閣情報官を第2次政権発足後も続投し、今年9月には外交の司令塔である国家安全保障局長に就任。米中央情報局(CIA)出身のポンペオ国務長官ら各国要人とのパイプを武器に、北朝鮮による拉致問題や北方領土問題の解決に挑む。
官邸が高い危機管理力を示したのは4月30日の天皇陛下(現上皇さま)のご譲位に伴う皇位継承行事だ。平成28年8月に上皇さまが譲位の意思を表明後、憲法との整合性を維持しつつ、広く国民の理解を得るため、有識者会議による論点整理や万全なテロ対策で一連の行事を成功に導いたのは危機管理の実務に精通する杉田氏の差配が大きい。
一方で、懸念材料もある。補佐官として政策全般で発言力が高まった今井氏と、新元号発表で知名度を上げて自信を深め、国土交通省出身の和泉洋人首相補佐官を重用する菅義偉(すが・よしひで)官房長官は距離を置く。警察庁に外交の主要ポストを奪われた外務省は、北村氏起用への不満が根強い。今後、具体的な成果を示せなければ、政権内のパワーバランスが変化し、首相の足かせになる恐れもある。 
●安倍政権が歴代最長に、トランプ大統領再選なら総裁4選論拡大も 11/20
安倍晋三首相の通算在職日数が20日で2887日となり、戦前の桂太郎氏を抜いて歴代最長となった。自民党総裁としての任期は2021年9月だ。首相自身は続投には否定的だが、良好な関係にあるトランプ米大統領が来年の選挙で再選された場合、同党内で任期延長や連続4選に向けた動きが具体化する可能性があるとの見方も出ている。
安倍首相は20日午前、「短命に終わった第1次政権の深い反省の上、政治を安定させるため日々全力を尽くしてきた」と記者団に語った。残りの任期に取り組む課題については「デフレからの脱却、少子高齢化への挑戦、戦後日本外交の総決算、その先には憲法改正もある」と述べ、挑戦者の気持ちで取り組んでいくとの意欲を示した。
安倍首相に近い自民党の世耕弘成参院幹事長は、「まさかこんなに長く続くとは思わなかった」と振り返り、経済政策で成果を出し、国際社会でも存在感を増したことが長期政権の理由だと解説する。
厳しさを増す安全保障環境や不透明な世界経済の下で、トランプ氏ら「非常に難しいリーダーの相手」をしながら、日本のかじ取りができるのは「やはり安倍首相しかいない」という状況に数年前からなってきていると話した。
岩屋毅元防衛相は、自民党総裁4選について、「米国の大統領がどうなるかによって考え方が違ってくる」との見方を示す。日本の首相は、日米関係を良好に保ちながら国益を追求することが不可欠であり、安倍首相は「トランプ政権に対して国益を損ねることがないよう振る舞ってきている」と評価した。
こうした声は安倍政権を中枢で支えてきた他の自民党議員からも出始めている。時事通信によると、甘利明税制調査会長も11日の講演で、トランプ米大統領ら強烈な個性の指導者をつなぎ、世界全体をまとめる役割を期待されているとして、総裁任期延長も選択肢の一つとの考えを明らかにした。
茂木敏充外相は10月発売の月刊誌「文芸春秋」に掲載されたインタビューで、政治状況によって総裁任期を1年、2年延長することは十分に考え得ると語った。二階俊博幹事長も19日の会見で、安倍首相が4選を決断すれば党として全面的に支援したいとの立場を示した。
15−17日に実施された読売新聞の世論調査では、安倍政権の支持率は49%となり、前回(10月18−20日)の55%から6ポイント低下した。前回調査の後、閣僚2人の辞任と「桜を見る会」を巡る問題で野党の追及が強まった。政党支持率は自民党37%に対し、野党第1党の立憲民主党が7%と大きな開きがある。
次の首相にふさわしい人を問うと、石破茂元幹事長が21%と最多。2位は小泉進次郎環境相で18%、3位は安倍首相の15%だった。
旧民主党政権で副総理や外相を務めた岡田克也衆院議員は、与党内などから日米首脳の個人的関係が強調されることについて、安倍首相が「トラブルにならないように自らの信念を捨てて合わせている」にすぎないと冷ややかな見方を示す。
10月に署名された日米貿易協定では、農業分野などで「かなり譲ってしまっており、今後さらに要求が出てきた時に切るカードがない状態」と指摘。両首脳が本当にうまくやっているか、「まだ分からない」と見る。
岡田氏は、長期政権の弊害について「チェックが働かないと思ってなんでもやってしまう」と指摘。安倍首相の後援者が多数参加し、批判を受けたことで来年度の中止が決まった「桜を見る会」は「その典型だ」とした。安倍政権長期化の背景には「世界経済が比較的順調だった」ことがあり、その状況が変われば首相を取り巻く状況も「様変わりする可能性はある」という。
第2次安倍政権発足時、内閣府特命担当相として入閣した山本一太群馬県知事は、「戦略的で野党が言うべき政策の軸を奪い取った」と話す。時間外労働の上限規制などを導入した働き方改革や幼児教育無償化は、野党支持層が関心の高い政策で、「過去の政権よりもウイングをさらに広げ、したたかにいろいろな政策を取り入れている」ことが、長期政権を維持してきた理由の一つだと説明した。
外務副大臣などの経験もある山本氏は、トランプ政権が続く限り、安倍首相のように同氏と交渉できる人でなければ「日本の首相はできない」と指摘する。自民党内から総裁連続4選を期待する声が出ている背景には「選挙に勝ち続け、政権維持するために首相にいてほしいという政治的思惑」があると語った。 
●「史上最長政権」でも首相の表情が晴れない理由 11/20
安倍晋三首相が11月20日、通算在任記録(桂太郎首相の2886日)を更新した。政治史に燦然と輝く大宰相の勲章にもかかわらず、首相の笑顔はぎこちない。突如浮上した「桜を見る会」の私物化疑惑が原因だ。
ここ数日、メディアへの釈明に追われる安倍首相の表情には、想定外の政治的危機への戸惑いと焦りがにじみ出ている。首相サイドには「こうなれば桜解散だ」と来年1〜2月の衆院解散・総選挙での局面打開を狙う強気の声もあるが、内閣支持率が低下し、安倍バッシングが加速すれば「解散どころか死に体化が進みかねない」(細田派幹部)との不安も浮上している。
桜を見る会「私物化批判」が大炎上
桜を見る会は、長年にわたり、歴代首相がそれぞれ毎年4月に新宿御苑で主催してきた。政財官界幹部や各国大公使のほか、芸能・スポーツ界の有名人も招き、満開の八重桜などを愛でながら首相夫妻が各界の功労・功績者等を接遇する、政界の春の風物詩として定着してきた。多くのメディア幹部も招待され、税金を使っての開催も「マスコミ公認」(自民幹部)とされてきた。
この状況が一変したのは、11月8日の参院予算委員会で共産党の追及をきっかけに、野党や国民の間で「私物化批判」が大炎上したからだ。確かに、今年4月の開催実績でみると、功労・功績者等に交じって、安倍首相の地元・山口県から850人もの支援者が招待され、当日朝の開催時間の前に17台のバスに分乗して会場に先に入り、首相夫妻もグループ別に記念写真撮影に応じていた。
この「安倍首相ご一行様」は、安倍事務所の参加者募集に応じた地元後援会のメンバーが大半とされる。しかも、ほとんどの人々が開催前日、都心の高級ホテルでの前夜祭にも参加し、首相夫妻を囲んで歓談していたことが首相動静にも記録されていた。このため、野党からは「あからさまな選挙対策で、明確な公職選挙法違反」(立憲民主党幹部)との批判が噴出し、ワイドショーなどで安倍首相のスキャンダルとして大きく取り上げられた。
8日の国会答弁では「私は招待者の取りまとめなどには関与していない」と冷静さを装った安倍首相だが、批判の高まりを受けて菅義偉官房長官とも協議。13日に「来年の開催を中止して運営方法見直す」ことを発表した。
さらに、15日には首相自身が首相番記者の取材に応じ、「すべての費用は参加者の自己負担で、事務所・後援会の収入・支出は一切ない」と釈明。そのうえで、「招待人数が多くなってきたことは反省しなければならない」などと、約20分間にもわたって事情を説明した。
確かに、野党などが指摘する公選法・政治資金規正法違反の明確な証拠はない。問題となっている交通・宿泊費や前夜祭の会費も、「すべて招待者が負担し、ツアーを企画した旅行会社やホテル側とも、事務所のサポートで直接支払い、領収書も受け取っている」(安倍事務所)のが事実なら、「違法性はない」(同)ことになる。だからこそ首相も、事務所に確認した話として、弁護士にも相談したうえで異例の詳細説明に踏み切ったとされる。
しかし、野党側は「首相の説明は火に油を注いだようなもの」(立憲民主幹部)と勢いづいている。そもそも、「850人もの地元支援者を招いたのは、開催趣旨を逸脱しており、歴代首相と比較しても安倍首相による私物化が突出している」(国民民主党幹部)ことは否定できない。しかも、高級ホテルでの前夜祭も、立食パーティとはいえ「1人5000円は超格安」(業界関係者)との指摘も相次ぐ。
前夜祭の明細書は「存在しない」
首相は「ほとんどの人が同じホテルに宿泊することもあって、ホテル側が設定した価格だ」と説明しているが、「通常のセット料金の半額以下となれば、ホテル側の首相への過度の忖度としかみえない」(他ホテル担当者)との声も噴き出す。さらに、前夜祭の会場では安倍事務所側が会費5000円を徴収し、ホテルの領収書を渡していたことも疑惑の対象となった。
前夜祭の運営などについて、司法関係者は「事前に事務所からの支払いがなければ、ホテル側が領収書を出すことは想定しにくい。もし、事務所とホテル側に別途の金銭のやり取りがあれば、結果的に全額参加者負担だったとしても、政治資金収支報告書への記載義務が生じる」と指摘する。
週明けの18日に安倍首相は、「事務所にも後援会にも入金は一切ないので、(事務所などから)領収書も発行していない」と違法でないことを改めて力説した。ただ、証拠となる前夜祭の参加者数や総額を記した明細書の存否を問われると、「事務所に確認しているが、そうしたものはないということだ」と答えた。
この説明に対して野党側の追及の先頭に立つ安住淳・立憲民主党国対委員長は18日、「明細書も作らずにパーティを開催するなんて、戦後聞いたことがない」と大げさな表現で疑惑を指摘。野党側も同日「首相の後援会が懇親会を主催したのなら、政治資金収支報告書への記載は必要」との認識で一致し、与党側に1予算委員会の集中審議開催、2今週開催の衆院内閣委への、安倍事務所の会計責任者と前夜祭を開催したホテルの担当者の参考人招致を要求した。
こうした動きに対し、安倍首相は18日、「国会から求められれば、説明責任を果たすのは当然だ」としながらも「国会対応は自民党にすべてお任せしている」と返答。同日夕、森山裕自民党国対委員長は「所管する内閣委員会で議論すべきだ。参考人招致もあまり前例がない」などとして野党要求を事実上拒否した。
今回の安倍首相らの対応について、与党内には「役に立つはずだった早期幕引き策には、誤算が生じている」(自民幹部)との不安が広がる。
問題発覚後の各メデイアが実施した世論調査でも、「桜を見る会」での首相の説明に「納得できない」が7割近くに達し、内閣支持率は1〜6ポイント低下、不支持率も数ポイント上昇した。首相周辺も「こんな状態が続けば、年末に向けてさらに支持率が低下する」と焦りの色を隠さない。
国会審議は与党の防戦一方に
市民団体は18日、桜を見る会について公選法違反などの疑いで安倍首相を東京地検に告発する方針を決定。その一方で、首相の地元・下関市の前田晋太郎市長は18日、「(桜を見る会は)70歳、80歳のおじいちゃん、おばあちゃんたちがうれしそうに新宿御苑に向かう。ものすごく地元に勇気を与えてくれる会と思っている」と擁護した。同市長は安倍首相の元秘書で、政界では「身内が地元有権者の接待を認めた格好で、ひいきの引き倒しだ」(自民幹部)との声も出る。
鳩山由紀夫元首相は18日夜、自身のツイッターで人気女優の沢尻エリカ容疑者が逮捕されたことに絡めて、「政府のスキャンダルを覆い隠すのが目的」と投稿。さらに、「私も主催したが、前年(麻生太郎内閣)より招待客を減らしている。安倍首相は私物化しすぎているのは明白である」と書き込むなど場外乱闘も始まった。
こうした政局混乱を受け、憲法改正実現に向けて今臨時国会中の成立が期待されていた国民投票法改正案の衆院憲法審査会での審議も停滞。自民党の二階俊博幹事長は18日、「できることから順番にやればいい。別に焦る必要はない」と述べ、今国会成立にこだわらない考えを示すなど、国会運営でも与党が防戦一方となっている。
政府与党としては来年1月1日発効が前提となる日米貿易新協定の会期内成立を最優先し、臨時国会を会期通りの12月9日に閉幕させて、その後は安倍首相の訪中と訪印、10兆円規模とされる今年度補正予算案と来年度予算案の年内編成に全力を挙げることで、事態の鎮静化を図る構えだ。
ただ、過熱化するメディア取材の現状などから、「当分は国民レベルでの首相批判も収まらないのでは」(官邸筋)との不安も拭えない。「桜を見る会」の招待者に関して、省庁別の推薦者名簿は保存されており、19日の閣議後会見でも、一部閣僚が「求めがあれば適切に公開する予定だ」と述べたことも、問題長期化の要素になりそうだ。
飛び交う年明けの「桜解散」説
これまでの安倍政権のスキャンダルでは衆院解散説が野党側への牽制効果が大きかったのは事実。このため、今回も「通常国会冒頭で補正予算を処理したうえでの1月下旬解散・2月中旬総選挙」という、いわゆる「桜解散」説も国会内で飛びかう。
ただ、次期衆院選での野党共闘の指南役を自任する国民民主党の小沢一郎氏は18日夜、「年明けの解散・総選挙がささやかれている今日において、(野党結集は)急務だ」と強調する一方、主要野党リーダーの立憲民主党の枝野幸男代表も「こちらが解散に追い込む」と語るなど、「今回は牽制になっていない」(自民幹部)のが実態だ。
今年4月13日に開催された桜を見る会で安倍首相は、令和改元を踏まえて「平成を 名残惜しむか 八重桜」「新しき 御代(みよ)寿(ことほぎ)て 八重桜」と自作2句を披露して会場を沸かせた。
その時点では半年後のピンチなど夢想もしなかったはずだが、今や永田町で首相の「五輪花道論」も取りざたされている。「結果的に、首相にとってあれ(今年の桜の会)が最後の晴れ舞台になるかも」(自民長老)との声も出始めている。 
●歴代最長政権 「安定」より際立つ弊害 11/20
日本の政治史には、「歴代最長政権」として、その名が残ることは間違いない。しかし、これだけの長期政権に見合う歴史的な成果は心もとなく、年を追うごとに弊害の方が際だってきたと言わざるを得ない。
安倍首相の通算在任日数がきょう2887日となり、明治・大正期に3度首相を務めた桂太郎を抜いて最長となった。短命に終わった第1次政権の後、12年12月に発足した第2次政権は7年近くに及ぶ。
自民、公明両党は、衆参の国政選挙で6連勝した。第1次安倍政権以降、6年間で6人の首相が交代。とりわけ、政治の変化への期待を背負って政権交代を果たした民主党政権の混迷を目の当たりにした世論が、政治の安定を求めたことが背景にあるだろう。
確かに、アベノミクスの下で株高が進み、企業収益や雇用の改善につながった。しかし、賃金は伸び悩み、国民が広く恩恵を実感できる状況にはなっていない。また、安定した政治基盤を生かして、少子高齢化などの難題に、正面から切り込んできたとも言い難い。長期在任で育んだ外国首脳との個人的な関係も、どれほど具体的な成果につながったであろう。
一方で、長期政権がもたらした弊害は明らかだ。平成の政治改革の結果、政党では党首に、政府では首相に、権限が集中したことが拍車をかけた。自民党内からは闊達(かったつ)な議論が失われ、政府内でも官僚による忖度(そんたく)がはびこるようになった。森友問題での財務省による公文書の改ざん・廃棄がその典型だ。
森友・加計問題は、首相に近しい者が優遇されたのではないかという疑念を招き、政治や行政の公平・公正に対する信頼を深く傷つけた。最近の「桜を見る会」の招待者をめぐる問題も根っこは同じだ。一方で、異論を排除し、自らに反対する者を敵視する首相の姿勢は、社会の分断を助長する危険がある。
さらに、これほどまでに日本国憲法をないがしろにした政権は、過去に例がなかろう。歴代内閣が維持してきた憲法解釈を一方的に変更して、集団的自衛権の一部行使に道を開いた。憲法に基づく野党の臨時国会召集要求にも無視を決め込んだ。
首相の自民党総裁の任期は残り2年である。個人的な信条から、長期政権のレガシー(遺産)を、強引に憲法改正に求めるようなことがあれば、政治の混乱を招くだけだろう。
限られた時間をどう生かすか。国民が今、政治に求めていること、将来を見据え、政治が今、手を打っておくべきことを見極め、優先順位を過たずに、課題に取り組む必要がある。 
●歴代最長政権 惰性を戒め政策で結果示せ  11/20
長期政権ゆえの惰性に陥ってはならない。足元を見つめ直し、政権運営にあたるべきだ。
安倍首相の通算在職日数が20日で2887日となる。戦前の桂太郎氏を抜いて、憲政史上最長を更新する。
2012年に政権に復帰して、推し進めたのが経済政策「アベノミクス」である。大胆な金融緩和や機動的な財政出動により、景気を回復軌道に乗せた。
集団的自衛権の限定的行使を認めた安全保障関連法を15年に成立させ、日米同盟を強化した。自国第一主義のトランプ米大統領とも信頼関係を築いた。
読売新聞の世論調査では、65%が仕事ぶりを評価している。経済政策や外交の実績が国民の支持につながったのだろう。
自民党内に強力なライバルが見あたらず、首相の党内基盤は固い。国政選挙で連勝したのは、多弱の野党に助けられた面もある。
長く政権の座にあった歴代の首相も困難な課題に取り組んだ。
佐藤栄作氏は、米国と交渉を重ね、沖縄返還を成し遂げた。中曽根康弘氏は、戦後政治の総決算を掲げ、日米安保協力を強化し、国鉄民営化を断行した。
両氏とも政策目標を設定し、実現に向けて周到に策を練った。
首相の自民党総裁としての任期は21年9月までだ。残りの任期で、どんな政策を手がけるのか。自らの考えを明確にし、戦略を立てて臨むことが重要である。
憂慮されるのは、政権復帰から約7年が経過し、安倍内閣に綻びが目立つことだ。
9月の内閣改造後、わずか1か月半の間に、2人の重要閣僚が不祥事で辞任した。功労者を慰労する「桜を見る会」の趣旨に反して、首相の事務所は、地元の後援会員らを多数招待していた。
長期政権の緩みや驕おごりの表れと言えよう。首相は、緊張感を持って政策に取り組み、一つ一つ結果を出さなければならない。
内政、外交の懸案は多い。22年には団塊の世代が75歳になり始める。給付費の増加に備え、社会保障制度の見直しが急務だ。
景気回復の実感は乏しい。底堅い企業業績を賃上げにつなげ、経済の好循環を実現したい。
北朝鮮の非核化には、米国との緊密な政策協調が欠かせない。元徴用工問題で、韓国に粘り強く譲歩を促す必要がある。
首相は在任中の憲法改正に意欲を示している。幅広い合意形成に向け、まずは、国会での憲法論議を活性化させることが大切だ。 
●「多弱野党」1強を助長 民主党の失敗 今も影 安倍最長政権 11/20
安倍晋三首相が歴代最長の長期政権を築き上げた大きな要因に、政権批判の「受け皿」になりきれない野党の存在がある。民主党政権の失敗を引きずり、対立と分裂で力を弱めていった野党の「敵失」と、国政選挙のたびに「消極的選択」を重ねる民意に支えられ、図らずも「安倍1強」が続いている構図だ。
「安倍政権が長いのは、それだけ野党の力不足だということだ」「私たちがだらしなかった」
首相の通算在職日数が歴代最長の桂太郎と並んだ19日、立憲民主党の福山哲郎幹事長ら野党幹部は口々に反省の弁を述べた。
10月末以降、2閣僚辞任や大学入試の英語民間検定試験導入見送り、「桜を見る会」問題など政権は逆風にさらされる。だが報道各社が行った先週末の世論調査によると、内閣支持率が下落したにもかかわらず、野党各党への支持率は微増かほぼ横ばいだった。
2012年衆院選で政権の座から転落した民主党はその後、立民、国民民主、無所属などに四分五裂し、もはや影も形もない。だが首相にとって民主党は今も都合のいい「仮想敵」であり続ける。
首相は国会論戦で事あるごとに経済が低迷した旧政権時代のデータを持ち出し、野党議員のアベノミクス批判に反論。今夏の参院選では「悪夢のような民主党時代に戻すわけにはいかない」と繰り返した。立民の逢坂誠二政調会長は「首相は徹底的に民主党時代に悪いイメージを植え付けている。それが長く続く柱の一つだ」と批判する。
ただ、その立民は幹部の多くが枝野幸男代表ら旧政権の中心メンバーだ。民進党時代には、当時衆院当選2回だった山尾志桜里氏の幹事長起用が浮上したが、山尾氏のスキャンダルで消えて以来、旧政権のイメージ刷新を担う人材がなかなか出てこない。
野党は首相の「争点つぶし」にも手をこまねいている。同一労働同一賃金や給付型奨学金充実など、野党の看板政策を取り込む首相の戦略に翻弄(ほんろう)され、対立軸を消されてきた。
首相は14年11月の衆院解散で消費税増税の先送りを表明し、17年9月の衆院解散時には増税分の税収を幼児教育・保育の無償化に充てる使途変更を掲げた。「いずれも私たちが反対しづらいテーマだった」と国民の中堅議員。第2次安倍政権で行われた大型国政選挙で野党は5連敗中だ。
国民の玉木雄一郎代表は安倍政権について「野党が言ってきたことをパクるしかなくなるほど、政策的な資源が減っている」とみる。その上で次期衆院選での政権批判の受け皿づくりに向け「次の10年を見据え、新たな政策を掲げて堂々と論争を繰り広げなければならない時期に来た」と話す。 
●安倍最長政権 「1強」の弊害が目に余る 11/20
長きにわたる政権維持は、権力基盤の安定化に腐心してきたことの成果だろう。しかし現状は、「1強」長期政権であるが故のおごりや緩みといった弊害の方が際立つ。
安倍晋三首相は、第1次内閣を含む通算在職日数が20日で2887日となり、戦前の桂太郎を超え歴代最長となった。
1次政権は、年金記録問題などのスキャンダルを受けた参院選惨敗と首相の体調不良で約1年で崩壊した。首相は「政権投げだし」と批判を浴びた。
2次政権では、その失敗の反省を踏まえた周到な政権運営が目に付く。
気心が知れた政治家や官僚を配した強力な官邸主導で政策を進める体制を構築した。府省庁の幹部人事を握る内閣人事局の設置は、官僚ににらみを利かせることにつながった。
政権の維持に貢献してきた政治手法は弊害もまた大きい。
官僚のコントロールを強めるようなやり方が、政府内に首相の意向を「忖度(そんたく)」するような空気を生んだのではないか。
森友学園問題を巡る財務省の決裁文書改ざん、加計学園問題で出てきた「総理のご意向」文書などはその象徴に映る。
民主党から政権を奪還した2012年の衆院選を含め、衆参両院選挙で6連勝していることも力の源泉だろう。首相は不利な状況をリセットする形で解散を仕掛け、勝利に結び付けてきたように見える。
ただし衆院解散は、14年は消費税率引き上げ実施延期を、17年は消費税増税分の使途変更をそれぞれ争点に据えた。ご都合主義の印象は拭えない。解散権の乱用との批判も根強い。
政権の安定と長期化は政府・与党の国会軽視や緊張感の欠如を生んだ。安全保障関連法など国民に異論が強い法律は数の力で強引に成立させ、疑惑に関わる不都合な質問ははぐらかす。そんな光景が常態化した。
最近も公選法違反疑惑を巡る2閣僚辞任や、首相の桜を見る会「私物化」問題でも、国会で説明責任が果たされていない。
政策の面では、懸案に腰を据えて取り組めるはずの長期政権のメリットが生かされてきたとはいえない。
アベノミクスは目標であるデフレ脱却には遠く、地方では実感に乏しい。地方創生、1億総活躍、働き方改革、全世代型社会保障。先行政策の結果も見えないうちに、次々に看板政策が打ち出されてきた。
首相は外交では拉致問題や北方領土問題の解決に意欲を燃やすが、成果は出ていない。
憲政史上最長政権となった背景には、野党の弱体もある。首相や政権に必要なのは口だけで「真摯(しんし)」「謙虚」と強調するのではなく、自らの足元をきちんと見据えることだ。
首相のこだわる憲法改正は国民にとって優先順位は低い。自民党総裁として残り任期が2年を切った中、何をやるのか。レガシー(政治的遺産)づくりよりも、国民最優先で考えてもらいたい。 
●私物化の政治に終止符打とう 11/20
安倍晋三首相の在職日数が20日で戦前の桂太郎の通算2886日を抜いて歴代最長となります。もちろん明治憲法下の戦前と主権在民が確立した戦後とでは制度が違いますし、長ければいいというものでもありません。とりわけ安倍政権で際立つのは、政治の私物化です。いまの「桜を見る会」の疑惑をはじめ、「森友・加計」疑惑などはその典型です。閣僚に起用した側近政治家の相次ぐ辞任、2度にわたる消費税増税や戦後政府の憲法解釈を大転換した安保法制の強行、9条明文改憲を公言する憲法破壊策動など、モラルの崩壊と民意に反する暴走はあらわです。
安倍氏が戦後最年少などともてはやされて、最初に首相に就任したのは、2006年9月でした。安倍氏は就任直後から任期中の改憲を主張し、改憲のための国民投票法制定や教育基本法改悪を強行したものの、年金記録問題の発覚や相次ぐ閣僚不祥事で、07年の参院選で自民党が大敗、体調不良を理由にわずか1年で退陣しました。自らの持論を国民に押し付け、側近政治家を重用する政治の私物化は、当初から顕著でした。
安倍氏が再び政権に復帰したのは、12年12月です。それ以後7年近くにわたる安倍政権は、「経済再生」を最優先させると言って金融緩和や財政出動、「規制緩和」を柱とする「アベノミクス」を売り物にしてきました。日本経済は再生するどころか国民の暮らしは苦しくなり、貧困と格差は拡大しています。とりわけ14年4月に消費税を8%に増税してから長期にわたって消費の不振が続き、家計の実質消費支出は年間25万円も減少しています。戦後最長の「景気拡大が続いている」と自慢していたものの、昨年末以降は不況色が濃くなるばかりです。暮らしと経済を破壊した責任は重大です。
「長期政権」下のモラルの崩壊と政治の私物化は底なしです。首相自身に関わる「森友学園」や「加計学園」の疑惑で批判を集めたことに続き、いままた首相主催の「桜を見る会」疑惑が大問題になっています。税金を使った公的行事を、自分の後援会活動のために私物化するなど言語道断です。来年の「桜を見る会」を中止しただけでは済まされません。
問題は首相だけではありません。第2次安倍政権以降だけでも「政治とカネ」の疑惑などで辞めた閣僚は9月初めの内閣改造からわずか2カ月足らずで辞任した菅原一秀前経済産業相や河井克行前法相を含め10人に上ります。首相は口先では「任命責任」を認めますが、“お友だち”や側近の政治家で政権を固め、忖度(そんたく)や情報隠ぺいを横行させたことには全く無反省です。
歴代政府の憲法解釈を百八十度転換させた安保法制=「戦争法」の強行や、戦後憲法を否定する改憲策動への固執は、首相による憲法の私物化です。不況が深まるにもかかわらず10月からの消費税増税を強行したのは、税・財政の私物化に他なりません。
安倍首相の在職日数が歴代最長になる直前に行われた世論調査では、軒並み支持率が下落しました。戦後最悪の安倍政権が続くことは日本の民主主義にとって有害です。市民と野党が力を合わせ、安倍首相を一刻も早く退陣させましょう。 
●安倍首相在任、歴代最長に…前途は内憂外患 11/20
20日、通算在任日数2887日となり、安倍晋三首相が在任最長の首相になった。戦前に2886日間在任した桂太郎元首相を超える記録だ。
安倍氏は2006年9月〜07年9月、12年12月から現在まで首相を務めている。首相任期が21年9月まで。自民党総裁の任期を連続3期までとする規定を変更して4期までとする可能性も提起されている。本人の政治力によっていくらでも最長政権の記録を継続する条件が設けられるわけだ。しかし、最近、首相主催の公的行事「桜を見る会」の私有化問題、長期政権への疲労感などが今後の障害になる可能性があるという見方も出ている。
朝日新聞など日本メディアは、安倍氏の長期独走の背景に選挙の連勝および経済の復活を挙げた。安倍氏は第2次政権直後の12年12月、衆院選を含め計6回の選挙すべてで圧勝した。「選挙の安倍」というニックネームがついたほどだ。御厨貴東京大学名誉教授は19日、同紙のインタビューで、「自民党で首相に代わる人物が出てこず、野党は分裂した」と診断した。
安倍氏は第2次政権で、金融緩和と景気刺激による「アベノミクス」を強行した。これを受けて12年末4.3%だった失業率が昨年末には2.4%まで下がった。同期間の求職者1人当りの就職比率は0.8から1.61に高まった。今年3月の就職希望大卒者の97.6%が就職した。事実上、完全雇用状態を迎えた若者が安倍氏に票の入れているという分析が出ている。同紙の年齢別世論調査の結果を見ると、毎調査で20、30世代の支持率が最も高い。
にもかかわらず最近、内憂外患を経験している。安倍氏みずから「来年は『桜を見る会』を開催しない」と明らかにしたにもかかわらず、ある市民団体が「首相を公職選挙法および政治資金規定法違反の疑いで告発する」と追及している。
韓国との外交関係も最悪だ。世宗(セジョン)研究所の陳昌洙(チン・チャンス)首席研究員は、「安倍政権が歴史および過去の問題について『これ以上謝罪しない』という態度を見せ、両国が衝突する可能性がますます高まっている」と診断した。 
 11/21

 

●安倍政権を歴代最長にした政治的要因と、その限界 11/21
<野党勢力の方向性が分裂したこと、保守勢力を取り込んだことなどが要因だが、一方で保守派を取り込んだゆえの限界も示している>
安倍政権が11月20日、憲政史上最長の在職日数に達しました。あまり機能しなかった第一次政権を除外して、2012年末に発足した第二次政権だけでも、今年の年末には丸7年になるのですから、ずいぶん長いのは事実です。
これだけの長期政権を維持するには政治的な要因があるわけで、その要因を考えることは、現代の日本の政治状況を考えることになると思います。本稿では3つ指摘したいと思います。
1つ目は野党の分裂です。現在の野党に関しては、表面的には統治能力に欠けるというイメージが蔓延していることがありますが、それはあくまでも印象論であって、それ以上に分裂しているという要素が大きいと思います。
野党の分裂というのは、例えば大所帯であった新進党が瓦解した90年代、同じく二大政党制を自認した民主党が看板を掛け替えつつ崩壊した2010年代のように、政党が集合離散を繰り返したということではありません。そうした現象はあくまで結果論で、問題は政治的な対立軸がバラバラなことです。
現在の野党の立ち位置というのは、見事に分裂しています。
まず立憲民主党は左派ポピュリズムが軸です。軍事的には反米(疑米程度かもしれませんが)で一国平和の孤立主義ですが、経済は基本的には大きな政府論であり、主として引退世代を中心にバラマキを主張しています。妙に財務省にはフレンドリーで財政規律には熱心ですが、有権者に媚びて増税には消極的。その一方で官公労には甘いので、財政の辻褄を合わせるアプローチではありません。
一方で、日本維新の会は小さな政府論に右派的なポピュリズムを加えた政党ですが、産業構造の改革にはそれほど熱意はありません。軍事外交に関しては意外と穏健で、アジア諸国との関係については基本的にフレンドリーです。小さな政府といっても、官公労や地方公務員、福祉や文化政策の受給者といった権益を打破する「コストカッター」としてのイデオロギーが軸になっているだけで、財政再建や民間活力という意味では強い推進力を見せているわけではありません。
維新に近い存在として、希望もしくは国民民主の勢力がありますが、こちらは軍事外交では穏健であり、親米かつ西側フレンドリー。イデオロギー的な意味では右派ポピュリズムへの依存は限定的です。ただし、郵政、五輪、水産市場といったトピックを使ったピンポイントの既得権攻撃という意味では、技巧的なポピュリストとも言えます。基本的に小さな政府論ですが、維新ほどコストカットには情熱を傾けない一方で、官公労に対しては強く出られるという期待はできます。
ということで、本当に見事に分裂しています。ですから、政権与党に対抗するような結束はできないわけです。それだけではありません、安倍政権の自民党は、この3つの勢力の方向性に対して、うまく敵対することで求心力を得ているという面もあると考えられます。
2つ目は、安倍政権が保守イデオロギー勢力を「取り込んでいる」ということです。これは多分、政権が長期化している要因の核になる問題だと思います。例えば、第一次政権の際にはこの構造は比較的単純でした。当時の安倍政権は、本気で憲法改正へ突っ走ろうとし、また歴史認識問題では米ブッシュ政権から「二枚舌」を指摘されて不信感を買うなど散々な結果となりました。
ところが、第二次政権になってからは様子が違います。「意図せざる効果」なのかもしれませんが、保守イデオロギー勢力を味方につけることで、リベラルな政策を安心して進めることができているのです。
例えば、中国・ロシアとの関係改善、入管法の改正、新元号の前倒し発表、TPP11など自由貿易の推進、児童手当の拡充、オバマ米大統領との相互献花外交、靖国参拝の自制などです。もしかしたら女性宮家創設もやるかもしれません。こうした政策については、仮に中道左派系の政権が進めようと思えば、保守派が反対して立ち往生する危険がありますが、安倍政権の場合は「保守派を取り込んでいる」ことで比較的スムーズに進めることが可能になっています。
実態としては中道政権にシフトしているわけですが、それでも第一次の時から「祖父岸信介の名誉回復にこだわり、右派論客と交友を続け、戦後レジーム否定を口にする」ことで、安倍首相本人に関しては保守派イデオローグという印象を強く持ち、それゆえに頑固なまでに敵視する左派の固定層があります。
これも政治的には興味深いのですが、政策的には中道にシフトしても、左派が激しい敵視をやめないので、イメージ的には保守派は「やはり安倍政権は保守だ」と安心してくれる、そのために中道政策を強い抵抗なく進めることが可能になっている、そんなメカニズムも機能しています。ある種の偶然のなせるわざです。
3つ目は、産業構造改革への消極姿勢です。保守派に支えられつつ、中道政策を実施して長期化している政権ですが、結果的に保守派が支えていることから、構造改革を強く推進することはできていません。アベノミクスの「第3の矢」については、第二次政権になって7年かかっても成果が出ていない、これは支持基盤を考えるとやはり不可能なのだと思います。
そして、これが安倍政権の最大の問題であって、円安による「円建ての株価高騰」という「第1の矢」の効果がそろそろ賞味期限となる中では、最終的に政権の限界を示しているとも言えるでしょう。 
●歴代最長政権 海外はどう見たか  11/21
アメリカ「他国がまねしたい位な蜜月。ただ、簡単に政策がひっくり返る可能性も」
中国「永遠の隣国関係どうし協力して手をとりあうべき」
ロシア「個人的信頼はあるが、領土問題の解決は、幻想では…」
11月20日、歴代最長となった安倍政権を世界はどう見ているのか。今回、私たちは各国メディアの東京駐在の特派員を取材し、二国間関係を中心に安倍外交の評価を聞くとともに各国の本音を探った。
“地球儀俯瞰(ふかん)外交”
安倍総理大臣が、第2次政権以降の6年11か月で訪れた国は、延べ172の国と地域。移動距離は155万キロ余り、地球を38周以上した計算になる。
この中で、最も多く訪れたのはアメリカ。その数、実に16回。
3年前に行われたアメリカ大統領選挙でトランプ氏の当選が決まった直後の11月、「初めて」会った外国の首脳は、安倍総理大臣だった。トランプ大統領との個人的な関係は世界の首脳の中でも際立っている。
“安倍・トランプ” 日米関係は
日本が、かつてない強固な関係だとしている日米関係。アメリカのメディアはどう見てきたのか。
有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長で、日本取材歴は通算およそ17年になる、ピーター・ランダースさん(50)。安倍総理大臣に直接、インタビュー取材した経験もある。
「最初、読者の間では、『アベノミクス』で日本経済を復活させるという意味で安倍総理は注目されていた。最近はあまり言われなくなったがね…。アメリカの経済関係者の評価は悪くはないと思うよ」
そして、注目してきたのは、やはり、トランプ大統領との関係だ。
「トランプ大統領という、全く誰も予想しなかった人に対して、ほかの国が被っているようなダメージを避けているという意味で、大きな成果を上げている」
どういう意味か。
ランダースさんは、激しい貿易摩擦が起きている米中関係と比較して説明した。
「中国は高い関税を払わなければならなくなり、トランプ大統領になるまでと比べ、全く不利な状況だ。これに対し、日本は、貿易協定もそうだが、状況はそれほど変わっていない。日本経済全体で言えば、ほとんど被害はなかった」
「日米首脳の蜜月は、アメリカにとってどうかはわからないが、日本にとってはプラスだと思う。他国がまねしたい位にプラスになっている」
安全保障面でも、日米同盟はより強固になったとされる中、日米の関係に死角はないのだろうか?
「うーん…。トランプ大統領との個人的な関係は、かつてないほど強い。一方、国家の組織どうしの関係では、まだそこまでは基盤を作り切れていない気がする。仮に来年の大統領選挙で、日本に懐疑的な見方をする民主党の候補が当選した場合、日本にもっと貿易の不均衡を見直すよう迫ったり、防衛面で負担を求めたりなどと、簡単に政策がひっくり返る可能性はあると思う」と指摘した。
日本とヨーロッパは
そのトランプ大統領との関係が、貿易や安全保障面でぎくしゃくしているとも言われるヨーロッパ。フランスの有力紙、ル・モンドの東京特派員、フィリップ・メスメールさん(47)の指摘はこうだ。
「トランプ政権と交渉するのは、とても難しいことだ。だから安倍総理は、やりすぎだとは思うが、ベストを尽くし現在の関係はよい。しかし、あすは…。もし米中の貿易交渉が解決したら?、もしアメリカが在韓米軍の韓国負担増額に成功したら?、次は日本にもっと求めてくる。それがトランプ大統領のやり方だ。日米の首脳の関係は強固だと言うけれど、簡単に壊れかねない。トランプ政権を見ているとそういう印象だ」
一方、安倍政権の日本と、ヨーロッパの関係については。「関係は非常によいと思う。特に経済面で日本とEU=ヨーロッパ連合のEPA=経済連携協定が締結されたことはよい進展だった。フランスも、日本を外交における優先順位の高い国とし、安全保障分野では、インド太平洋地域への関心を共有し関係は非常によい」
ただ、メスメールさんからは、環境問題や女性政策について手厳しい指摘が相次いだ。
「ことし6月のG20大阪サミットでは、地球温暖化対策の国際的な枠組み『パリ協定』をめぐり、日本は、協定に否定的なトランプ大統領に配慮して、消極的だった」
「『女性活躍』については、女性を輝かせると大キャンペーンをやっているが、ことばよりも行動が重要だ。しかし、女性の働きやすさに向けた待機児童対策のほか、企業の女性管理職を増やすこともあまり進んでいない。男女の所得格差は広がったままで、経済大国なのにとても残念だ」
中国は日本をどう見る
そして、大国となった中国。今、安倍政権に何を思っているのか。
「外交は、相手国の政権に合わせてやっている。一つの政権が長期に続いている間は、基本方針が変わらないだろうから、そういう意味では外交がやりやすいでしょうね」こう話すのは、中国国営の経済紙、「経済日報」の東京支局長、蘇海河さん(55)だ。
「僕たちから見れば、安倍さんは、第2次政権に入ってから、第1次よりソフトな態度で、日本国内でも国際社会でもいろんな意見が聞けるようになり、より現実的になってきた。そういう意味で、よく協力できるパートナーになると思う」
日中関係は、民主党政権では沖縄県の尖閣諸島の国有化や、中国漁船の衝突事件をきっかけに悪化。安倍政権になっても、尖閣諸島をめぐっては中国公船の領海侵入などが相次ぎ、そのつど、日本側は抗議してきた。
しかし、蘇さんは、そうした中でも、対話と協議、そして経済交流を重視してきた安倍政権の姿勢が、今の関係改善につながっていると指摘する。
「安倍総理は、『中国の発展は、日本にとってチャンスだ』というスタンスで臨んできた。経済交流がどんどん密になり、中国人の日本に対する理解も深まってきた。それも、両国間に横たわる問題は『対話と協議を通じて情勢悪化を防ぐ』という合意を、安倍政権が中国政府との間でできたからだと思う」
一方、中国は、貿易問題で対立するアメリカを念頭に「保護主義や一国主義に反対する」としたうえで、日本には接近を図っているとみられている。日米同盟を基軸とする日本の立ち位置がアメリカ側にある中で、中国政府は、日本をどう評価しているのだろうか。
「まさに、一国主義か国際協調路線かですよね。日本はTPP=環太平洋パートナーシップ協定も、そして、今交渉が行われている中国も含めたRCEP=東アジア地域包括的経済連携も積極的に進めている。これを中国は高く評価している」
そのうえで…。「日本はアジアの国で永遠の隣国関係だ。国際自由経済をどんどん進めるため、中国と日本が協力し、もっと広い範囲で、いろんな国と手をとり合って進めていくべきだ」
“安倍・プーチン” 日本とロシアは
そして、もう一つの大国、ロシア。
「安倍晋三氏は、ロシアでは、作家の村上春樹氏、映画監督の北野武氏の次に有名だ。ただ、安倍政権の長さは、ロシア人にとってはそれほどでもないね。というのも、ロシアのプーチン政権は、合わせて15年ほども続いているからね…」
そう話すのは、ロシア国営テレビ・ラジオの東アジア支局長、セルゲイ・ミンガジェフさん(42)だ。
北方領土問題を含む平和条約交渉という難題を抱える日ロ関係。
安倍総理大臣とプーチン大統領は27回もの会談を重ね、お互いを「ウラジミール」、「シンゾウ」と、ファーストネームで呼び合う関係を築いてきた。
これについて、ミンガジェフさんは、「通訳のみを同席させた1対1の会談で本音で話ができるという意味での信頼関係はあるとは思うが、それだけで実際に問題を解決できるかというと、不十分だ」と厳しい見方を示す。
それはなぜか。
「首脳間だけでなく、国民どうしによい信頼関係がないといけない。両国政府は、『関係がよくなっている』としているが、数字を見ると、貿易量や経済協力は低いレベルだ。二国間関係の発展には、必ず、経済分野での関係強化が伴わなければならないと思っている」
そのうえで…。
「両首脳が目指すのはウィン・ウィンの解決を見つけることだ。しかし、ロシアにとってのウィンとは、北方四島の主権はロシアに残ったうえで平和条約を締結し、経済分野の関係強化を進めることだ。一方、日本の最終的な目的は、どんな形かわからないが、主権は日本に戻すことなんでしょう?これだと、ウィン・ウィンにはならない」
さらに、ロシアと対立するアメリカを強く意識した発言も。
「ロシア政府から見ると、日本は経済は強いが、国際政治で強いポジションを取れているとはまだ言えない。日本のイメージは、何よりもまず、アメリカの同盟国であり、アメリカの政策に従っているとみている。そうした点からも、領土問題の解決は、幻想ではないでしょうか」
日韓関係は
一方、戦後最悪とも言われる日韓関係。
韓国の人たちは、安倍政権をどう見ているのか。韓国の保守系有力紙、朝鮮日報の東京支局長、イ・ハウォンさん(李河遠・51)に聞いた。
「安倍政権は率直に言って人気はない。安倍総理は日韓関係を大切にしない、そんなイメージが韓国では強い。植民地の被害者だったので、日本から学びながら、どのように乗り越えるのか。日本は友好関係を結ぶライバルじゃないかと思っている」
日本政府は、関係改善のためには、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題で、韓国が国際法違反の状態を是正するよう、重ねて求めてきた。
イさんは、具体的な解決策を打ち出さないムン・ジェイン(文在寅)政権の対応には批判的だ。
「1965年の日韓請求権協定は、守っていくほうがよいと思う。被害者の救済については、韓国政府がまず法整備して解決し、日本企業が未来志向で、自発的に救済のための取り組みに参加する案が考えられるのではないか」
一方、日本政府が、ことし7月に「安全保障上の措置」として行った韓国への輸出管理の強化については、強く批判する。
「G20大阪サミットで自由貿易を宣言した安倍総理が、直後にこのような措置をとったのは大いに間違った行動だ。参議院選挙を前に、政治的な徴用の問題に対し、経済的に報復したことになる。韓国経済が悪化し、国民が心配している中だったので不安感を増幅させることになった」
ただ、羨ましい点があるという。
「ことしは令和時代に入ったのを利用してトランプ大統領を国賓として招待し、TICADではアフリカの首脳を、即位の礼でも200人近い各国の要人を招待した。このような役割を果たせているのは、本当に羨ましい」
そして、日韓関係改善に向けては…。
「私はある程度、日本の立場を理解できるが、最後の段階で安倍政権や日本国民が柔軟性をみせてほしい。法律的な問題ではなく、日本は加害国だと謙虚に考え、問題解決に乗り出すことを望みたい。遠い道かもしれないが、お互い知恵を出す。日米韓3か国の協力を強くするのが利益であり、日韓がけんかして時間をむだにする余裕はない。未来志向が重要だ」
日本に期待される役割とは
日本の長期政権に、さまざまな見方を持つ海外メディアの記者たち。取材の最後に、全員に問いかけてみた。「今後、国際社会において、日本に期待される役割はなんですか?」
アメリカ・ランダースさん「民主主義に厳しい時代、世界のお手本に」
フランス・メスメールさん「平和構築へ他国の後追いせずみずから戦略を」
中国・蘇さん「経済の国際協調主義を守る」
ロシア・ミンガジェフさん「米の意思決定に左右されない役割を」
韓国・イさん「近隣国の不安解消し平和と経済に役割を」 
●史上最長首相 今こそ政権運営の検証を 11/21
安倍晋三首相の通算在職日数が憲政史上最長となった。第1次内閣は約1年の短命に終わったが、政権を奪還した2012年衆院選からは国政選挙に6連勝。圧倒的な議席数を後ろ盾に1強多弱体制を築いている。
首相は20日、これまでの道のりを「国民に強く背中を押してもらい、約束した政策を実現するために努力してきた」と総括した。しかし、長期政権が続く最大の理由は、政策が評価されたというより、むしろ首相を脅かす存在がいなかったことにあろう。
野党は旧民主党政権の失態のイメージを払拭[ふっしょく]できないまま乱立状態から抜け出せず、国政選挙で敗北を重ねている。自民党内にもライバルは見当たらず、首相をいさめるブレーキ役も不在だ。
アベノミクスの大規模な金融緩和により、株価をはじめとする経済指標は確かに好転した。だが、恩恵が中小企業や地方など広く国民に行き届いたとは言い難い。
人口減少や少子高齢化といった国民的な課題についても、どのように解決するのか道筋は見えないまま。全世代型社会保障制度の論議も緒に就いたばかりだ。
「地球儀を俯瞰[ふかん]する外交」も順風満帆とは言い難い。トランプ米大統領との関係を基に表向き強固な同盟を築いてきたが、ロシアとの北方領土交渉は停滞。日韓関係は最悪の事態となっている。対北朝鮮外交も、日本人拉致問題などに進展の気配はうかがえない。
長期政権下で失われたものも少なくない。何より気がかりなのは政治から緊張感が消えたことだ。異論に真正面から向き合おうとしない首相の政治姿勢もあり、行政監視機能を持つ国会は機能不全に陥っている。象徴的なのが、安全保障法制、特定秘密保護法、いわゆる「共謀罪」法などへの対応だろう。国論を二分するテーマなのに、政府は疑問点に真摯[しんし]に答えず、数の力で強行突破した。
さらに、官僚の人事権も首相官邸主導となった結果、霞が関にも政権の意向を必要以上にくむ忖度[そんたく]の空気がはびこってしまった。
モラルの低下も深刻だ。森友学園問題では、財務省で決裁文書の改ざん・破棄が発覚したにもかかわらず、麻生太郎副総理兼財務相は今も職にとどまっている。首相の「腹心の友」が経営する大学が獣医学部新設にこぎ着けた加計学園問題も、納得できる説明はされていない。
そして最近は、閣僚の相次ぐ辞任、大学入試改革を巡る混乱、首相が主催する「桜を見る会」への私物化批判など、政権の緩みを象徴するかのような事態も次々と露呈している。
首相は節目の時を迎えた今こそ、これまでの政権運営を自ら検証すべきだ。政策に関しては国民の要望を見極めた上で優先順位をつけ、幅広い合意の形成に努める。政府の隠蔽[いんぺい]体質も一掃し、国会論戦からも逃げずに説明責任を全うする−。長期政権こそ、そうした自省と自制が強く求められることを認識してもらいたい。 
 11/22

 

●歴代最長政権、やはり経済が「鍵」 11/22
11月20日で安倍晋三政権が歴代最長となった。長期政権を維持できた理由は何か。そして、ポスト安倍政権に求められる条件についても考えてみよう。
以前にも書いたが、政権在任期間とその間の株価上昇率には、明らかな相関関係がある。第2次吉田茂政権以降、30の政権(安倍政権は第1次と第2次以降の2つとカウントする)をみると、在任月数と株価の相関係数は「0・77」(1が最大)だ。「10%の株価上昇で3カ月ほど任期が伸びる」といえ、良好な経済環境が、長期政権をもたらすことを示している。
安倍政権以外に、戦後、米大統領の1期にあたる4年を上回ったのは、佐藤栄作(7・7年)、吉田茂(7・4年)、小泉純一郎(5・4年)、中曽根康弘(4・9年)、池田勇人(4・3年)の各政権で、岸信介政権(3・4年)が続く。それぞれの株価上昇率は、226%、102%、16%、187%、10%、92%と総じて高い。
株価が全てというわけではないが、おおよその経済状況を反映しているとみていいだろう。これが長期政権と短命政権の違いともいえる。
今の安倍政権のスタート時の日経平均株価は1万0230円で、今のところ200%以上の上昇率を保っている。長期政権になっているのも納得だ。
経済には雇用の観点もあるが、株価と雇用は密接に関係している。2000年以降、株価と半年先の就業者数の相関係数は「0・89」で、株価は半年先の就業者数を映し出す鏡だといえる。メカニズムは以下のようなものだ。金融緩和をすると、雇用の増加につながるが、それと同時に株価も上がる。ただ、株式市場は先取りして動くので、株価は半年後の就業者数と高い相関になるというわけだ。
いずれにしても、マクロ経済(単純にいえば株価と雇用)の良好なパフォーマンスが、安倍政権が長期政権を維持できた理由だと説明できるだろう。
一方、前述した長期政権後の後継を見てみると、佐藤政権の後が田中角栄政権(2年)、吉田政権の後が鳩山一郎政権(2年)、小泉政権の後が第1次安倍政権(1年)、中曽根政権の後が竹下登政権(1・6年)、池田政権の後は前出の佐藤政権(7・7年)だった。いずれも有力者だったが、岸、池田、佐藤政権の自民党黄金期を除き、期待ほどは長くもたなかった。
「ポスト安倍」が長期政権になるためには、やはり経済を良くするしか方策はないだろう。経済が良ければ、ほかの欠点は目立たなくなる。
安倍政権は、財政政策と金融政策のうち、財政政策は当初は良かったが、その後は緊縮になったので、金融政策の片翼飛行となっている。金融政策も完璧とはいえないがそれなりで、経済は及第点だった。日銀人事をそれなりにコントロールできたのが大きかった。
ただし過度な金融政策依存は経済にとって危うい。今はマイナス金利なので財政政策を安心して活用できる。ポスト安倍政権は財務省を人事でうまくコントロールして財政政策を行い、良好なマクロ経済を維持するのが必要最低限の条件だろう。 
●桜を見る会 首相の答弁納得できない 11/22
招待者の人選には関与していない。安倍晋三首相は、そういわんばかりだった先の国会答弁を修正した。夫人による推薦があったことなど、新事実も次々に判明している。
事は、税金が費やされる公的行事の私物化疑惑という重大な問題である。中途半端な説明で納得は得られまい。
安倍首相は20日の参院本会議で、首相主催の桜を見る会招待者の推薦を巡り「私自身も事務所から相談を受ければ、推薦者についての意見を言うこともあった」と述べた。
首相は8日の参院予算委員会で「招待者の取りまとめはしていない」と人選への関与を否定していた。それを覆し、事実上関与を認めたことになる。
その一方で、20日の参院本会議では「招待者の最終的な取りまとめなどには一切関与していない」と語り、「先日の答弁が虚偽だったとの指摘は当たらない」と強調した。
意見を言うことは、取りまとめへの関与ではない−そんな理屈で批判をかわそうとしているように映る。
桜を見る会を巡っては、首相の事務所がツアー参加者を募って地元後援会員らを招待していたことが発覚した。
さらに会の前日に後援会関係者向けに開いた「前夜祭」の夕食会について、野党は会費5千円が安過ぎると指摘。選挙区の有権者に便宜を図る公選法違反や政治資金規正法違反ではないかと追及してきた。
首相は否定するものの、それを裏付ける明細書はなく、疑問が晴れたわけではない。
主催者として「私物化」批判を受けている当事者にもかかわらず、答弁は説得力を欠く。真摯(しんし)に説明責任を果たそうとしているように見えない。
20日の衆院内閣委員会では菅義偉官房長官が今春の推薦枠の内訳について説明した。自民党が約6千人、首相が約千人、副総理や官房長官、官房副長官で約千人だった。
各省庁が推薦する功労者らは約6千人で、「政権枠」はそれを超えていた。「公私混同」と批判されるのも当然だ。
さらに驚くのは、首相夫人の昭恵氏による推薦もあったことだ。首相の推薦枠に含まれているという。
政府は2017年3月、首相夫人は「私人」とする答弁書を閣議決定している。私人であるはずの昭恵氏が公的行事の招待者を推薦していたことになる。
選挙に利用していたのではないかとの疑問も消えない。
ことし4月の桜を見る会を前に、自民党は7月の参院選で改選を迎えた党所属議員に対し、招待枠割り当てに関する案内状を送っていた。
招待者名簿の廃棄では、内閣府が野党から資料要求があった当日にシュレッダーにかけていたことが分かった。
疑念は深まるばかりである。野党は衆参両院予算委員会の集中審議を求めている。首相は正面から向き合い、国会の場できちんと疑問に答えるべきだ。 
 
 
 
 
 

 

●祇園精舎 
 
 
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりをあらはす。おごれる人も久しからず。只春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。遠く異朝をとぶらへば、秦の趙高、漢の王莽、梁の周伊、唐の禄山、是等は皆旧主先皇の政にもしたがはず、楽みをきはめ、諫をもおもひいれず、天下のみだれむ事をさとらずして、民間の愁る所をしらざしかば、久しからずして、亡じにし者どもなり。
近く本朝をうかがふに、承平の将門、天慶の純友、康和の義親、平治の信頼、おごれる心もたけき事も、皆とりどりにこそありしかども、まぢかくは、六波羅の入道前太政大臣平朝臣清盛公と申し人のありさま、伝承るこそ心も詞も及ばれね。
其先祖を尋ぬれば、桓武天皇第五の皇子、一品式部卿葛原親王九代の後胤、讃岐守正盛が孫、刑部卿忠盛朝臣の嫡男なり。彼親王の御子高視の王、無官無位にしてうせ給ぬ。其御子高望の王の時、始て平の姓を給て、上総介になり給しより、忽に王氏を出て人臣につらなる。其子鎮守府将軍義茂、後には国香とあらたむ。国香より正盛にいたるまで、六代は諸国の受領たりしかども、殿上の仙籍をばいまだゆるされず。  
1
祇園精舍の鐘の音には、諸行無常すなわちこの世のすべての現象は絶えず変化していくものだという響きがある。娑羅双樹の花の色は、どんなに勢いが盛んな者も必ず衰えるものであるという道理をあらわしている。世に栄え得意になっている者も、その栄えはずっとは続かず、春の夜の夢のようである。勢い盛んではげしい者も、結局は滅び去り、まるで風に吹き飛ばされる塵と同じようである。
遠い外国 (の例) を見ると、秦の趙高、漢の王莽、梁の朱忌、唐の安禄山、これらはみな元の君主や先代皇帝の政治に従わず、(栄華の)楽しみを極め、忠告にも深く考えようとはせず、天下が乱れることもわからずに、人々の苦労するところとなるものも知らなかったので、長続きせずに滅びた者たちである。
身近な日本 (の例) を見ると、承平の平将門、天慶の藤原純友、康和の源義親、平治の藤原信頼、(これらの人は)得意になる心も猛々しい心も、みなそれぞれ持っていたが、最近では六波羅の入道、前太政大臣平朝臣清盛公と申した人の様子は伝え聞いても想像することも形容することもできない(ほどである)。
その清盛の先祖を調べると、桓武天皇の第五皇子、一品式部卿葛原親王から数えて九代目の子孫、讃岐守正盛の孫で、刑部卿忠盛の嫡男である。葛原親王の御子、高見王は、官職も官位もないままなくなられた。その御子の高望王のとき、初めて平の姓を賜わって、上総介になられてから、ただちに皇籍を離れて臣下の列に連なる。その子・鎮守府将軍良望は、後には国香と名を改めた国香から正盛に至るまでの六代は、諸国の国守ではあったが、殿上人として昇殿することは、まだ許されなかった。  
2
祇園精舎の鐘の声
中インドの舎衛城(しゃえじょう)の南にある祇陀(ぎだ)太子の林苑に鳴り響く鐘の音というのは、
諸行無常の響きあり
今日は今日という日の鐘の響きであり、明日はまた今日とは異なった鐘の響きをまた響かせることでありましょう。(この世とは常に変化し続けている)
沙羅双樹の花の色
「沙羅双樹」は釈尊の入滅されたとき側に生えていた木の名前で、釈尊が亡くなると余りの悲しさゆえに、木々や草花までもが白く枯れたという、今生において、生けとし生ける物は必ず死が訪れるのである。
盛者必衰の理をあらわす おごれる人も久しからず
今生の栄など朝露の如く、宇宙の時間から見れば瞬きの如く、いつまでも続くものではない。仮に、今生に於いてもし栄が途絶えなかったとしても、その栄は、死後に持って行けることはない。(地位・財産・名誉等は死んだ後、全て持って行かれないものばかり)
ただ春の世の夢のごとし
今生というのは、ただただ夢の如しである。あっという間に人生というものは終えてしまうのであり、心地よい春を感じている間にも刻々とやがて訪れる苦しい死が一歩一歩近づいているのである。
たけき者も遂には滅びぬ 偏に風の前の塵に同じ
どんなに長者であろうとも、どんな地位や名誉を従えようともそのようなものは死後には通用しない。逆にどんなに貧乏であれ、生活が貧しかろうとも「死」はみな平等であり、必ずこの世に生を受ければ一人一人に訪れるのである。それを知って・感じて尚且つ一生掛けて追い続け地位・名誉・財産を貪るはまさに愚かである。つまり「心こそ大切にしなさい」という教えであります。人は必ず一度は死ぬのであります。 私たちは朝露の如くに、あっと言う間の人生です。放埒に生きるのか、崇高な人生を歩むのかは全て自分次第であると思います。 
 
 
 
 

 

●祇園精舎1
祇園精舎とは
「祇園精舎」とは、祇園に建てられた精舎、ということです。
「祇園」とは、約2600年前、インドのコーサラ国(拘薩羅国)の祇多太子(ぎだたいし)が所有していた林で、祇樹(ぎじゅ)ともいいます。「精舎」とはお寺のことで、祇園精舎は、ブッダが説法をされた代表的なお寺です。正式には祇樹給孤独園精舎(ぎじゅぎっこどくおんしょうじゃ)ともいいます。
5世紀初め、中国からインドへ行った三蔵法師、法顕(ほっけん)の『法顕伝(仏国記)』によれば、コーサラ国の首都の舎衛城(しゃえいじょう)の南門から南へ1200歩のところにあったといいます。門の左右に柱があり、周りの池は清らかで、樹木が生い茂り、色々な花が咲いていたそうです。ところが7世紀の三蔵法師、玄奘(げんじょう)の『西域記』によれば、城の南5〜6里に祇園精舎があったそうですが、すでに荒廃していたとあります。
祇園精舎の鐘の声とは?
平家物語の一番最初に、「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」とあるのは、もともとは平安時代の天台宗の僧侶、源信僧都(げんしんそうず)の『往生要集』にこのようにあります。
「諸行は無常なり。これ生滅の法なり。生滅滅しをはりて、寂滅なるを楽となす」 
祇園寺の無常堂の四の隅に、頗梨(はり)の鐘あり。鐘の音のなかにまたこの偈を説く。「病僧音を聞きて、苦悩すなはち除こりて、清涼の楽を得ること、三禅に入り浄土に生れなんとするがごとし」
この「祇園寺」というのが祇園精舎です。祇園精舎には、無常堂という建物があって、祇園精舎で修行していた僧侶が病気になり、死期が近づくと、そこに移されました。
無常堂の四隅には、はりというガラスか水晶の鐘があり、その透き通った音色からは、『涅槃経』に「諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅為楽」と説かれる有名な無常偈(むじょうげ)が聞こえます。
『涅槃経』に説かれる雪山童子は、命をかけてこの無常偈を求め聞き、さとりを開いたように、病の僧侶も、この無常の説法を聞いて、苦しみが除かれ、浄土へ生まれるような喜びが起きるということです。
このことを、平家物語の冒頭に、「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり」と言われているのです。
祇園精舎を建立した給孤独長者
この祇園精舎を建立したのは、コーサラ国の長者であり、大臣でもあったスダッタ、またの名を給孤独長者(ぎっこどくちょうじゃ)といいました。
「給孤独」というのは、大変布施の心が強く、身寄りのない孤独な人たちに食事を与えていたからでした。
なぜ給孤独長者はブッダにめぐりあい、仏教を聞くようになったのでしょうか?
当時、給孤独長者は、子供の一人にすてきなお嫁さんを探していました。そこで、インド一の強国、マガダ国に住んでいた、妻の兄を尋ねます。
ところが給孤独長者がお義兄さんの家に到着すると、いつになく、バタバタしています。
使用人たちが、忙しそうに掃除をしたり、料理の準備をしたりしているので、結婚式か、王様クラスのお客さんでもあるのだろうかとお義兄さんに尋ねると、「実は、明日、仏陀(ブッダ)をご招待しているのだよ」と嬉しそうに答えます。
「……ぶぶぶ、仏陀を招待!?」あまりのことに、給孤独長者は言葉を失いました。仏陀とは、インドに古くから伝えられる、最高のさとりを開いた、伝説の聖者です。同じくインドの全世界を支配する伝説の王である天輪王(てんりんのう)にたとえられます。
そんな尊い方が今の世に存在しているだけで信じられないのに、明日家に招待しているとさらっとお義兄さんは言うのです。
「仏陀……そんな方がおられるのですか……?」
「そうだよ、釈迦族のシッダルタ王子が、大宇宙最高のさとりを開かれて仏陀になられたんだ。各地で、どんな人でも本当の幸せになれる道を説かれているんだけど、明日はうちで、ご説法をしてくださるんだよ」「仏陀が、お義兄さんのうちでご説法……本当ですか?」「そうだよ、なにしろ仏陀だからね。失礼があったら大変だろ?それで最高のおもてなしの準備をしてるんだ」「……それは、私も聞きにきてもいいのでしょうか」「もちろんいいよ、ぜひ聞きにおいで」
給孤独長者は、布施の心が強かったため、すでにたくさんのお金に恵まれ、高い地位も得て、子供も立派に育てましたが、それでも何か満たされない、虚しい心がありました。「私の人生とは本当にこのままで終わっていいのだろうか」とかねがね本当の生きる意味を求めていた給孤独長者は、翌日、ブッダのご説法を聞きに来たのです。
最初は半信半疑だった給孤独長者も、ブッダのご説法を聞くと、よくある生き方程度の話とは次元の違う内容に、鳥肌が立ちました。「これは、本物だ……」続けて仏教を聞かずにはいられなくなった給孤独長者は、やがて、この教えこそがすべての人が救われるたった一本の道であることが知らされると、こんなすばらしい、貴重な教えのあることをもっと多くの人に知らせたいと思うようになったのです。
祇園精舎の建立
給孤独長者は、仏教の教えを聞く会場となるお寺を建てて、ブッダに寄進しようと考えました。
しかし、人が多いからといって、あまりに都会の真ん中では話を聞くのに騒がしく、あまりに辺境の地では、多くの人が参詣するのに大変です。
給孤独長者はちょうどいい場所はないものかと、ブッダのお弟子の舎利弗尊者と各地を探し回っているうちに、理想的な候補地を発見しました。
調べてみると、そこはコーサラ国の王子、祇多太子の所有地です。
そこで給孤独長者は、祇多太子に会いに行き、「何とかその地を譲ってもらえないでしょうか」とお願いしますが、太子は相手にしません。
給孤独長者が、まったくあきらめずに熱心に懇願するので、祇多太子は、誰も思いつかないような法外な値段を言ってあきらめさせようとしました。
「そんなにたのむなら仕方ない、ほしいだけの地面を黄金で埋めれば、その黄金と引き替えに、敷き詰めた分の土地を売ってあげよう」
ところが長者は驚かないばかりか、大喜びで家に飛んで帰りました。
そして、さっそく使用人たちに、「皆の者、家財の一切を売り払って黄金に変え、祇多太子の所有林に敷き詰めよ」と命じました。
あまりのことに一同驚きますが、長者さまのご命令ですから、従わざるをえません。蓄えてあった宝をどんどん金貨に変え、祇多太子の林に敷き詰めて行きます。
林にだんだんと黄金が敷き詰められていくのを見た祇多太子は、給孤独長者の常識では考えられない行動に驚き、「お前はなぜそんなにあの林が欲しいのだ」と問いただします。
「それは、今、ブッダが、すべての人が救われるこの上ない教えを説いておられるのです。人は、どれだけお金や地位を手に入れても、心からの安心も満足もありません。どこへ向かって生きればいいのかわからず、暗い毎日を送っている人類にとって、光となる教えなのです。聞き難い仏教を聞けることは、果てしない生まれ変わり死に変わりの中にもないことです。お金など惜しくはありません。一人でも多くの人にこの教えを聞いてもらいたいのです」。
それを聞いた祇多太子は驚いて、「そういうことであったのか……。それなら私にも手伝わせてくれ」そして残りは祇多太子がブッダに布施をすることになりました。
こうして、その場所は、祇多太子と給孤独長者の名前をとって祇樹給孤独園と名づけられ、建立された精舎には、「祇樹給孤独園精舎(ぎじゅぎっこどくおんしょうじゃ)」、略して祇園精舎と名づけられたのです。
こうして建立された祇園精舎を拠点とされ、ブッダは、たくさんの教えを説かれ、有名なものでは華厳経の最後や阿弥陀経などもあります。今日までどれだけの人が救われたかわかりません。
ブッダの十大弟子の一人、フルナ尊者も、この祇園精舎で仏縁を結びました。
今日の日本でも、祇園精舎の名前が平家物語に登場するばかりでなく、阿弥陀経は、日本の最大宗派である浄土真宗の葬式や法事でよく読まれますので、給孤独長者の祇園精舎建立は、今日でも、不滅の光を放っているのです。  
●祇園精舎2
正式名:祇樹給孤独園精舎、インドのコーサラ国首都シュラーヴァスティー(舎衛城)、現ウッタル・プラデーシュ州シュラーヴァスティー県にあった寺院である。釈迦が説法を行った場所であり、天竺五精舎(釈迦在世にあった5つの寺院)の1つである。
名の由来
梵語名は、「ジェータ太子の森(林)」 (祇陀林, Jetavana) と「身寄りのない者に施しをする」 Anāthapiṇḍada) を連記した名であり、以下の由来による。
コーサラ国のシュラーヴァスティーに、スダッタ(Sudatta 須達多)という富豪がいた。身寄りのない者を憐れんで食事を給していたため、人々から「給孤独者」あるいは「給孤独長者」 (アナータピンディカ Anāthapiṇḍada) と呼ばれていた。
ある日、スダッタは、釈迦の説法を聞いてこれに帰依し、彼に説法のための寺院(精舎)を寄付しようと思い立った。以前の仏教教団は一年中歩きまわって布教・托鉢などの修行(遊行)を行っていたが、雨季での遊行は虫や植物などを多く踏みつけて殺生してしまうため、雨季だけは建物内で修行するようになっていた(安居)が、教団にふさわしい施設を欠いていたからである。
そして見つかった土地が、ジェータ(jetṛ、祇陀)太子の所有する園林(vana) であった。その土地の譲渡を望むスダッタに対して、ジェータ太子が「必要な土地の表面を金貨で敷き詰めたら譲ってやろう」と戯れで言った。しかし、スダッタが本当に金貨を敷き詰め始めたため、ジェータ太子は驚いて、そのまま土地を譲渡し更に自らも樹木を寄付して、寺院建設を援助した。(一方で増谷によれば、スダッタが土地の取引を求めた際ジェータ太子がそれを強く拒否したため、スダッタは大臣に仲裁を求めたが、その結果「(黄金を敷き詰めるという言葉によって)太子が既に土地の価格を定めたので土地は売却されなければならない」との裁定が下り、スダッタは土地に黄金を敷き詰めて買収したという。)
そのため、この僧園はジェータ太子と給孤独者スダッタ両者の名を冠して祇樹給孤独園と呼ばれ、そこに建てられた精舎を「ジェータ太子の森(漢訳で「祇陀樹」、略して「祇樹」)、身寄りのない者に施しをする長者(漢訳で「給孤独長者」、略して「給孤独」)の園林(園)にある精舎」と呼び、漢訳では「祇樹給孤独園精舎」、略して「祇園精舎」と称するようになった。
鳩摩羅什などが漢語に訳した表記が「祇樹給孤独園」であるが、玄奘三蔵の訳では「誓多林給孤独園」となっており原語により近い表記となっているが、あまり広まらなかった。
現状
場所は北緯27度30分34秒 東経82度02分24秒座標: 北緯27度30分34秒 東経82度02分24秒であり、一帯は歴史公園に指定されている。公園内には釈迦が説法を行った場所とされる香堂(ガンダクティ Gandhakuti、釈迦が寝食を行っていたとされる場所)やストゥーパなどが残されている。また園内には、仏教において二番目に尊いとされる菩提樹、「阿難菩提樹」がある。北インドの仏教徒にとって、祇園精舎は聖地の1つとして重要な位置を占めているが、その中でもガンダクティが最も重要とされる。
日本での受容
徳川家伝来「祇園精舎図」
江戸幕府三代将軍・徳川家光は、長崎のオランダ語の通訳・島野兼了(嶋野兼了)に仏教の聖地「祇園精舎」の視察を命じている。その頃、カンボジアのプノンペンの日本人町の人達は、アンコール・ワットが祇園精舎であると誤認していた為、その誤った情報が日本にも伝えられ、大勢の日本人が祇園精舎の参詣としてアンコール・ワットへ出かけていた。
島野兼了もその誤った情報により、そこが天竺(インド)の「祇園精舎」であると思い込んだままアンコール・ワットを視察し、一枚の「見取図」を作成した。また、一説には森本一房が作成したとも考えられている。それが当時の長崎奉行・藤原忠義によって正徳5年 (1715年) に模写され、その後所有者の変遷はあったものの『祇園精舎図』と題された古地図は、今も彰考館(茨城県水戸市)に保存されている。明治末期になって、建築史学者の伊東忠太がこの見取図を鑑定した結果、全体構造から推してアンコール・ワットの見取図であることが判明した。
平家物語
「 祇園精舎の鐘の聲、諸行無常の響あり。沙羅雙樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。驕れる人も久しからず、唯春の夜の夢の如し。猛き者もつひには滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ。 」 と、『平家物語』の冒頭に詠われているところから、特に日本ではよく知られている。
実際の祇園精舎には鐘は無かったが、2004年に日本の「日本国祇園精舎の鐘の会」が梵鐘と鐘楼を寄贈した。なお、梵鐘は中国起源で日本に伝わったもので、元来インドには無かったものである。
牛頭天王との関係
出自不明の習合神「牛頭天王」は、祇園精舎の守護神とされる。そのため、牛頭天王は別名「祇園天神」と呼ばれ、祇園天神を祀る神社を祇園神社という。八坂神社、天王神社など別の名称の祇園信仰の神社も、「祇園神社」や「祇園様」と呼ばれる。八坂神社の祭礼を祇園祭という。総本社の京都八坂神社の門前町「祇園」は、花街として有名である。  
●祇園精舎が建立された経緯
コーサラ国の富豪・スダッタは、身寄りのない恵まれぬ人々に、多くの富を施してきたので「給孤独長者(ぎっこどくちょうじゃ)」といわれている。
彼がお釈迦様と初めてお会いしたのは、マガダ国に住む妻の兄を訪ねた時のことだった。いつもなら歓待してくれる義兄が、その日は玄関先で呼んでもなかなか出迎えに来ない。屋敷の中では、使用人たちが騒がしく走り回り、
「広間の掃除は終わったか。料理の準備はよいか」と指示する義兄の声が遠くに聞こえるだけ。何の騒ぎだ?婚礼か?それとも国王でも招待したのだろうか?≠ネどと考えながら待っていると、義兄がようやく姿を見せた。「やぁ、すまない。お待たせした。取り込んでいたもので……。実は明日、仏陀(ぶっだ)をわが家へご招待したのだよ」
義兄は事もなげに答えた。予期せぬ言葉に、一瞬、耳を疑った給孤独は、思わず聞き返した。「──今、何と言われました?仏陀ですって?本当ですか?」
仏陀とは最高のさとりを開いた方をいう。かねて長者は仏陀の存在を知り、もしそんな方がましますなら、一度、教導を仰ぎたいと思っていた。だが、それは想像上のことに違いない。人は、現実の苦しみに汲々としながらも、耐えて生きていくだけなのだ、と半ばあきらめていた。
しかし、カピラの城主・浄飯王(じょうぼんおう)の太子・シッタルタさまが、無上のさとりを求めて出家し、仏のさとりを開かれた、と義兄は言う。万人が本当の幸せになれる教えを、各地で説いておられる、と。給孤独は、はやる気持ちを抑えて尋ねた。
「……明日は私も、仏陀のご説法をお聞かせいただけるのでしょうか」「もちろん。明日の朝にはお会いできるでしょう。楽しみにお待ちなさい」
その晩、興奮の冷めぬまま床に就いた給孤独の胸には、さまざまな思いが浮かんでは消え、なかなか寝つかれなかった。裕福な家に生まれ、幼少の頃から暮らしに困ったことはない。そんな身の上に感謝はしているが、それ自体を幸せと感じたことはない。そう聞けばぜいたくだ≠ニ不快に思う人も多いだろう。だが、金や物の有無と幸福感は無関係なものなのだ。
現に、人も羨む大富豪の自分の心には、
「何かむなしい。なぜだろう?」「この飢えた心にどんな滋養を与えたらよいものか」
という焦燥感が絶えず去来している。それは持つ者にも持たざる者にも等しくある苦悩に違いない。その焦りや渇きを解決したいと、彼はできる限りの慈善に努め、特に孤独な人へ多く施しをしたので、人々から「給孤独」と慕われ、称賛されてもきた。だが、それによっても心底からの喜びはなかった。
一体どうすれば人生の歓喜を味わえるのだろうか。仏陀にお会いすれば、この願いはかなえられようか。真実を求めるスダッタの思いは切実だった。
そんなことを考えながら、眠りに就く間もなく、夜は白々と明けてきた。給孤独は待ち切れず、身仕度を整えて部屋を出る。まだ薄暗い道を、仏陀の宿舎へ向かって歩き始めた。しばらく歩くと、ちょうど昇りくる陽光を背にスッと背筋を伸ばして近づいてくる人影に気づいた。
あ、あのお方は……。もしや仏陀では……?
彼は、素早く歩み寄り、恭しく声をかけた。にじみ出るお徳から、そのお方こそ釈迦牟尼世尊(しゃかむにせそん)だと確信する。彼は仏足を取り、丁重に礼拝する。世尊は、全てを知り尽くしたように、給孤独を受け入れられた。その場で人間の苦しみの原因と、その解決の道、仏の法を諄々と説かれた。
「人間の幸、不幸はどのように定まるか。善い行為は幸せを生み、悪い行為は不幸を招く。自分が受ける結果は、全て自分が生み出したものである。幸せになりたければ、悪を恐れ、光に向かいなさい」
初めて聞く真実のみ教えに魅せられた長者は、心に歓喜生じ、
「暗闇の中で一条の光を見いだした思いです。その素晴らしい法を、私の国にもどうかお伝えください」
静かにうなずかれる世尊。深々と頭を垂れ、給孤独は続けて申し上げた。
「世尊をお招きするにつきまして、何千もの人が集える大講堂と、お弟子方の滞在できる精舎(しょうじゃ)の建立をお許しください」長者はその場で快諾を得、喜色満面で故国・コーサラへ帰った。精舎建立の準備に、早速取りかかったのである。
義兄を縁に仏陀・お釈迦様と出会った富豪・スダッタは、故郷のコーサラに帰り、仏陀を招待する精舎(寺院)建立に動きだす。まずは用地探し。方々を当たり、祇陀太子(ぎだたいし)の土地が最適と見て、早速、譲渡を願い出た。使用人が告げたスダッタという長者の名に、祇陀太子は聞き覚えがあった。コーサラでも有数の資産家であり、多くの身寄りのない者に財を施して「給孤独」と呼ばれている。
さて……何の用件か?
訪問の意図が読めぬ太子は、警戒心で一杯になる。若い頃から、利権を散らつかせて近づき、自分の立場や名前を利用しようとする輩に、何度もイヤな目に遭わされてきたからだ。
この男も、慈善の名の下、売名や儲け話を企んでいるのではなかろうか。どんなうさんくさい話をしてくるやら……
うんざりしながらも、部屋へ通すよう、使用人に促した。現れたスダッタは、想像とまるで違っていた。穏やかな笑みを湛えた長者は、礼儀正しく率直に言う。「太子さま。ぶしつけにも突然お伺いしましたこと、お詫び申し上げます。今日は、太子さまが郊外に所有なさっている土地をお譲りいただきたいと思い、お願いに上がったのです」
あの土地が欲しいって?一体何に使うのだろう?°旧ヌ独の真意を量りかね、太子は即座に断りの言葉を口にした。だが、想定内、とばかりに、長者はなおも熱心に続けた。
「なぜあの土地が必要なのか。今日はそれを知っていただきたいのです」並々ならぬ熱意が感じられる。
今までの者たちとは少し違う。聞いてみようか≠ニ心が動いた。
「実は先日、私は、マガダ国の義兄の家で、最高のさとりを開かれたという仏陀・釈迦牟尼世尊にお会いすることができました。世尊は、全ての人が本当の幸せになれる教えを説いておられ、私は深く感動いたしました。この国の人たちにも仏の教えを伝えたいと思い、お釈迦様にお越しくださるようお願いしました。そこで、太子のあの土地に、仏陀が説法される精舎を、ぜひとも建立させていただきたいのです」
仏陀については、太子も以前、耳にしたことがある。だがそれは伝説上のことではないか。かりにそんな尊い方がおられても、ただ話を聞くのに、あれほど広い土地が必要なのか。コーサラにも優れた婆羅門(ばらもん)は多くある。他国からわざわざ招かずとも、それら修行者や師を手厚く供養していけばいいのではないか。太子の胸中の、そんなつぶやきを察してか、長者はこう続けた。
「仏陀は紛れもなく真如(しんにょ)より来現(らいげん)したお方。(関連:如来と菩薩はどちらが偉いの?)尊いお姿を拝見し、み教えを聞かれれば、他の修行者との違いは歴然でしょう。そんな仏さまと同時代に生を受けることは、幾多の生死(しょうじ)を重ねても有り難いのに、今こうしてご教導を頂けることは何よりの驚きであり、喜びでございます。万劫(まんごう)にも遇えぬこんな機会を逃すことはできません。さればこそ、お迎えする土地も最高の場所にしたいもの。町に近すぎては騒がしくて聞法(もんぽう)の邪魔になり、遠すぎては参詣者に不便です。毒蛇や猛獣が出没する危険な場所は避けねばならない。太子さまの樹林こそが最適なのです。市街からも近く、広さも十分。静かな森、澄んだ水の流れる小川、小鳥のさえずりが心を洗う豊かな環境に、すっかりほれ込みました。どうかお譲りいただきたい」
真摯に請う長者の言葉に、太子はしばらく言葉がなかった。その熱意には、確かに打たれるものがある。彼の話を聞いて、今すぐにでも仏陀に会ってみたいと思ったほどだ。しかし、それと土地のこととは違う。あそこは譲りたくないのだ。何とか諦めさせる手はないか。断念させるために、何か難題を提示してみようか。果たして太子が考えついたのは、驚くべき条件だった。
「よろしい。あの土地のこと、考えようじゃないか。欲しいだけの土地に金貨を敷き詰めよ。それと引き換えになら譲ってもいい。どうかな?」
我ながらバカげたアイデアだ。あれほどの広大な土地。全て入手するにはどれほど金貨が要るものか。目もくらむ巨額に諦めるに違いない。だが意外にも、給孤独は跳び上がらんばかりに喜び、転がるように出ていった。一体どうしたことだ。跡を追わせた使用人が、やがて慌てふためいて駆け込んでくる。その報告に、太子は耳を疑った。屋敷に着くなり給孤独は、蔵という蔵から金貨を集め、家人を総動員して車に積ませ、件の土地へと向かっているという。
「……まさか、本気か?」
慌てた太子は、取るものも取りあえず、その樹林へ出向く。途中、延々と続く金満載の車列に肝を潰した。その列を追いつつ、馬で到着した太子の目に、これまでに見たこともない光景が飛び込んできた。
なぜここまで……
給孤独の本気を思い知らされ、太子は半ばあきれてつぶやいた。まばゆい光を放つ黄金が大地に輝いて、はるか向こうまで広がっている。そうこうするうちにも、長者の使用人たちが車を引いては、次々と金貨を無造作に地面へ敷いていく。急かすように指示を与える、給孤独の声が響く。
「さあ、どんどん運べ。敷き詰めよ。蔵が空になってもいい。全て運ぶんだ」その声に我に返った太子は、息せき切って長者に駆け寄った。
「待ってくれ。そなたはなぜ、なぜそんなにまでしてこの土地を仏陀に寄進したいと思うのか」屈託のない笑みで、給孤独は答えた。「先ほども申しましたとおり、仏陀・釈迦牟尼は万人が救われるまことの教えを説かれています。この私の苦しみ迷いの人生が、現在ただ今から、光明輝く幸せに生かされ、未来永劫の楽果を得られる法です。そんな尊い教えが、今現に説かれている。いかなる所へも参じて、恭敬して教導を頂くべきでしょう。ところが仏陀は、自ら赴くと仰せです。何という慈悲の極み。せめてわが為すべきは、世尊をお迎えする最高の土地と建物をご用意することです。太子さま、私は、この国に、仏法を伝えたいのです。 金や財はこの世だけの宝。私もやがて滅んでいく。しかし、永久に滅びぬ宝、仏の法を聞くために生かせるなら、こんなうれしいことはないのです。全財産なげうって、何の悔いがありましょうや」長者の熱誠は太子の心に通じ、素直な感動がほとばしり出た。
「ああ、あなたがそれほど尊敬される仏陀・釈迦牟尼とは、何と偉大な方でしょう。その法は、いかに尊いみ教えなのでしょう。もう金貨は結構。残りの土地はお譲りします。どうか私にも、尊い布施のご縁を求めさせてください。樹林の立ち木は精舎建立のために寄進いたします」
後日、経緯を聞かれた仏陀は、この精舎を「祇樹給孤独園」と名づけられた。「祇樹」とは、祇陀太子が献上した樹木を意味し、「給孤独園」は、給孤独長者の買い取った園地を指す。略して「祇園精舎」という。この祇園精舎で人々の心を救う教えが説かれた。
平家物語の冒頭の「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」の祇園精舎は、このようにして建立されたのだった。 
 
 
 
 

 

●祇園精舎の鐘1
祇園精舎の無常院に無常堂という堂があって、それには鐘が八つあり、四つは白銀、四つは頗梨(はり)で、その頗梨の鐘から、「諸行無常、是生滅法、生滅滅已、寂滅為楽」の声を出し、または「無常、苦、空、無我」の音を出したという。祇園図経の説。 
●祇園精舎の鐘2
諸行無常の響きを持つという祇園精舎の鐘は、どのような形か? また、その音色は?
学生に尋ねると十中八九、除夜の鐘を意識した答えが返ってくる。火の見櫓や半鐘などは知らない世代だ。鐘といえば梵鐘しか思い浮かばない、という事情もあるだろう。だが、何よりも彼等の中にある平家の栄華と滅亡のイメージが、はかなく消えていった梵鐘の響きと通じ合うようだ。
しかし、祇園精舎の問題の鐘は、梵鐘のように大型ではない。音色も違う。
祇園精舎に、大型の鐘がなかったのではない。たとえば中院には、3万斤の銅鐘があった。戒壇院には、さらに大きい10万斤の鐘があった。無常院にも同じ10万斤の白銀製の鐘が、しかも4口あった。10万斤は、60トンだ。現存する日本最重量の梵鐘は、知恩院の70トン。それに近い。
『祇園寺図経』はこれら10万斤の鐘を、須弥山のようだと形容している。須弥山とは、仏教説話で世界の中央にそびえ立つとされる山だ。知恩院の鐘は、高さ3.3メートル、口径2.8メートル、厚さ30センチ。祇園精舎の大鐘は重量だけで高さや口径はわからないけれど、厚さによっては、知恩院のそれをかなり上回ることになる。この大鐘の響きは、三千世界にとどろいたという。
大鐘の響きは、仏教の力を外の世界に向かって誇示するはたらきを持つ。それとは対象的に、信者の内なる世界にしみこみ、不安やおそれを取り除いて心の平安をもたらす癒やしの鐘も、祇園精舎にはあった。無常院無常堂の鐘だ。
無常堂は祇園精舎で終末期を迎えた僧たちが、最後のひとときを過ごす場所だ。いわばホスピスである。彼等が臨終を迎えると、建物の4隅に配されていたこの鐘が、ひとりでに鳴った。
その音は、「諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅為楽」(すべての物がうつろうのは世の定め。この法則を超越すると、死もまた楽しみとなる)と聞こえた。病僧は、その響きを聞いて死の苦悩から解放され、安らかに浄土に旅立ったという。
『平家物語』の冒頭に掲げられている祇園精舎の鐘は、これだ。
鐘の形は、「腰鼓の如し」と説明されている。腰鼓は首にかけてつるし、腰に固定して打ち鳴らす鼓だ。現在、中国や台湾で腰鼓と呼ばれているのは胴がふくらんだ小型の太鼓だが、伎楽で用いられた腰鼓は、胴がくびれている。無常堂の鐘も、鼓型だったろう。素材は、「頗梨」だとある。
「頗梨」とは、水晶かガラスだ。水晶は硬くて、細工が難しいらしい。当時の技術では、ガラスとて鐘を作るのは容易ではなかっただろうが、素材である可能性は水晶よりも高そうだ。いずれにしても、さほど大きくはなかっただろう。『祇園寺図経』に、鐘の大きさについての記述はない。
さて、その音色だ。ガラス製で小型の鐘だとすれば、梵鐘のように腹にずしんと響く音であるはずがない。げんに、『図経』には清涼とある。余命幾ばくもない病僧の心は、この音で安らいだ。耳に心地よい、妙なる音色なのだ。しかし、ただ美しいだけではない。この音には、世の無常を感じさせる深さもあった。なにしろ、命が一つ、消えようとしていることを示しているのだ。 
●祇園精舎の鐘の声3
皆さんもこんな経験がおありの事と思います。
ご自身が大事にしていたものが壊れてしまい、当初は落ち込みますが、気持ちが落ち着くと「形あるものは必ず壊れる」とふと思う。
これを仏さまの教えでは”諸行無常”といいます。
つまり、「この世の中の存在全ては一瞬たりとも同じ物はなく常に変化し続ける。永久不変なものはなく、生まれてはやがて消え行く。」という事です。
”祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり”
皆さんもご存知であろう、平家物語の冒頭部分です。
これは”鐘の音”に例えて、世の中の道理を表した文章なのです。
「祇園精舎の鐘は毎日鳴るが、その時々の天気や叩く人の力加減など様々な状況に応じて鐘の音は変化する。そして同じ音の響きは二度と奏でることはない。」
これをご自身の生活に当てはめて考えてみて下さい。
同じ日は二度となく何かが常に変化し続けていませんか?
若さもしかり、老いもしかり、一生に一度しかない
”今日”という日を大切に過ごして頂きたいと切に願います。 
●祇園精舎の鐘の声4
「平家物語」の冒頭に「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり」の有名な一節があります。「諸行無常」のことは「大般涅槃経(だいはつねはんきょう)」に「諸行無常(しょぎょうむじょう)、是生滅法(ぜしょうめつぽう)、生滅滅巳(しょうめつめつい)、寂滅為楽(じゃくめついらく)」と説かれています。
京都のお祭りと云えば「祇園祭」が有名ですが、「祇園」とは何を指しているのでしょう。「祇園精舎ぎおんしょうじゃ 」とは、お釈迦様が説法をされた場所でインドの遺跡、僧侶達が修行をした僧坊です。
また平家物語の中には「 生者必滅しょうじゃひつめつ 」のことが書かれています。その意味は「この世は無常であるから、生命ある者は必ず死滅する時がある」です。私達は日々に追われ、「生・老・病・死」さえ忘れている時があります。日本は少子高齢化の時代に入りました。物質の幸福を追い求めた日本人達は、心に冷たいすきま風が吹いているようで、家族のことさえ考える余裕がないようです。
自分が大事なら、自分の周りの人達や物を大事にしなければならないと思います。「情けは人の為ならず」と言うたとえがありますが「人に情けをかければ、それは巡り巡って必ず自分の身に返り、結局は自分の為になるものだ」と言う意味です。
お釈迦様の教えの中に「布施」第一とあるのは、他に施す心の事で、自然に感謝をし、皆で「心の幸福」を得る事です。
「祇園精舎の鐘の声」は、私達の先祖の声です。美しい日本を守ってくれた先祖の声を、子孫につなげましょう。 
 
 
 

 

●『平家物語』のテーマ「諸行無常・盛者必衰」とは
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりをあらわす。
あまりにも有名な『平家物語』の冒頭です。『平家物語』は、NHK Eテレの番組『100分de名著』の「5月の名著」に選ばれています。原典は、12巻もある長編のため、最後まで読み切った方は、少ないのではないでしょうか。今回は、意訳で楽しむ古典シリーズ『美しき鐘の声  平家物語(一)』から、著者不明でありながらも、現代まで語り継がれてきた大作の魅力に迫りたいと思います。
地下人だった平家が発展したワケは?
平家といえば平清盛。平家の繁栄は、たったの20年でしたが、彼は、なぜ太政大臣まで上り詰め、天皇をも意のままに動かすことができるようになったのでしょうか。
平家は清盛の父、忠盛(ただもり)の代には、西日本の海上の流通経済網を独占し、富を築いていました。
当時、武士は天皇や貴族から「地下人(じげにん)」と呼ばれ、さげすまれていました。
忠盛は、「大きな寺がほしい」と言った鳥羽上皇の願いを叶え、巨額の財を使って寺院を建立したことで、上皇に気に入られ、「殿上人(てんじょうびと)」の身分を獲得したのです。
経済力があれば、軍備の充実も図れます。
忠盛の跡を継いだ嫡男の清盛は、保元の乱、平治の乱を勝ち抜いて、ついには藤原家に代わって朝廷の実権を握り、日本の半分近くの国を支配するまでになったのです。
「平家にあらずは人にあらず」は誰の言葉?
平家のおごりといえば、「平家にあらずは人にあらず」の言葉が思い出されると思います。
これは、清盛のセリフと思っている人も多いかもしれませんが、実は清盛の妻の弟、平時忠(ときただ)の言った言葉です。
・・・ されば入道相国のこじゅうと、平大納言時忠卿ののたまいけるは、「この一門にあらざらん人は皆人非人なるべし」とぞのたまいける。(巻第一 禿髪)
権力を握った平家を、当時、非難中傷する者はありませんでした。それは、清盛が、一切の批判を封じ込める策略を用いたからです。
300人もの少年を密偵として雇い、平家を悪く言う者があれば報告させました。捕らえられた者は、家財を没収され、平家の六波羅蜜の屋敷へ引き立てられていったのです。
平家の繁栄を決定づけたものは
平家が政治を思いのままに動かせるようになったのは、ある出来事からでした。それは、高倉天皇の即位です。
8歳の新天皇は、母親が清盛の妻の妹。つまり、清盛の甥にあたります。高倉天皇が即位したことによって、平家はついに、天皇の外戚(母方の親族)という立場を得たのです。
新天皇の父、後白河上皇は、出家して法皇と呼ばれるようになっていましたが、「清盛の思い上がりはもってのほか」と不満を持っていました。
その後、左大将という名誉職をめぐって、貴族の間で争奪戦が繰り広げられます。任命されることを期待していた大納言藤原成親は、清盛の次男が就いたことで、出世を越されたと激怒します。
平家打倒を企てた成親は、自分と同じような不平・不満を持っている者を集め、密会を重ねていきました。
ところが成親の陰謀は、やがて密告により清盛の知るところとなり、関わった者の身辺では、悲劇が次々と起こります。
物語はまだまだ前半ですが、平家の繁栄の陰にも、さまざまな諸行無常・盛者必衰のドラマが描かれているのが、『平家物語』なのです。 
●諸行無常
1 この現実の世界のあらゆる事物は,種々の直接的・間接的原因や条件によってつくりだされたもので,絶えず変化し続け,決して永遠のものではないということ。これに諸法無我,涅槃寂静 (ねはんじゃくじょう) を加えて三法印 (さんぼういん) といい,仏教の根本説をなす。
2 仏教の根本主張である三法印の一。世の中の一切のものは常に変化し生滅して、永久不変なものはないということ。
3 仏教の基本的教義である三法印の一。この世の中のあらゆるものは変化・生滅してとどまらないこと。この世のすべてがはかないこと。 → 雪山偈せつせんげ
4 仏教の命題。「諸法無我(むが)」「涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)」とともに仏教教理の基本的特徴を示す三法印の一つ。とくに原始仏教経典にしばしば記されている。諸行の「行」とは「つくられたもの」の意であるから、全体で「一切(いっさい)のつくられたものは時間の推移によって生滅(しょうめつ)変化し、常なることはない」という意味になる。この命題を真に理解すれば、たとえば人の死にあっても悲しむことはないといわれる。後の部派仏教(小乗仏教)はこの命題に関して「つくられたもの」と「つくられないもの」とを峻別(しゅんべつ)し、また無常の構造をより精緻(せいち)に理論的に考察して独特の体系をつくりあげていった。諸行無常は日本文学でも好んで扱われてきたテーマであるが、インド仏教の論理的考究と異なり、時間が過ぎゆくにつれて消滅する過去への詠嘆としてのみとらえる傾向が強く、日本人の仏教観をやるせなく力弱く暗いものにしてきたことは否定できない。
5 仏語。仏教の根本主張である三法印の一つ。世の中のいっさいの造られたものは常に変化し生滅して、永久不変なものはないということ。※観智院本三宝絵(984)上「諸行无常是生滅法と云ふ音(こ)ゑ風(ほ)のかに聞こゆ」 ※平家(13C前)一「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり」 〔北本涅槃経‐一四〕。
6 … 仏教的な時間のもう一つの特徴は〈無常〉である。この世界のいっさいは〈諸行無常〉,変化し定まらぬ。その意味では,これは恒常的な世界の否定ではなく,むしろ,変化する世界の根元を積極的に表現した言葉と解すべきなのかもしれない。… / …すなわち未来世に存するさまざまな可能性をもった雑乱住の法が現在に引張り出され,そこで一瞬間我々に認識され,次に過去に落謝する(去る)という。このように我々は映画のフィルムの各こまを見るように,瞬間ごとに異なった法を経験しているのだと唱え,諸行無常を説明するのである。 心理論としては46の心所(心理現象,これは上述の70ほどの法に含まれる)のおのおのが認識主体としての心と結びつき(相応,チッタサンプラユクタcittasaṃprayukta),心理現象が現れるという心・心所相応説を明示している。… / …釈迦が悟り,人に説いたところの法(真理=教え)とは何か。仏教の教理の基本は,しばしば〈諸行無常(しよぎようむじよう)〉〈一切皆苦(いつさいかいく)〉〈諸法無我(しよほうむが)〉〈涅槃寂静(ねはんじやくじよう)〉の四句に要約される(これを一般に四法印と呼ぶ。ときには〈一切皆苦〉を除いて三法印という)。… / …したがって人なり物なりに執着しても,それは変化消滅するものなので,失望するだけである。これを諸行無常といい,この理を悟り,人と物への執着から解脱すれば心の安楽が得られるという。この教説を表現したのが諸行無常偈または雪山偈(せつせんげ)である。…  
●盛者必衰
1 『平家物語』でおなじみの言葉である。この世は無常であり、勢いの盛んな者もついには衰え滅びるということ。
2 この世は無常であり、勢いの盛んな者もついには衰え滅びるということ。この世が無常であることをいう。▽仏教語。「盛者」は「しょうじゃ」「しょうしゃ」とも読む。『平家物語へいけものがたり』の冒頭の「…沙羅双樹さらそうじゅの花の色、盛者必衰のことわりをあらわす」の句は有名。
3 今、栄えて絶頂にいる者も、必ず、衰える時がくるものであるということ。人生の無常をいうことば。
4 無常なこの世では、栄花を極めている者も必ず衰えるときがあるということ。「娑羅双樹 (しゃらさうじゅ) の花の色、―のことはりを表す」〈平家・一〉
5 仏教用語。ひとたび盛んとなっても,必ず衰えるときがある,ということで,世の中の有為転変を表現した言葉。仏教の無常観を表わしている。
6 勢いのさかんな者は必ず衰えるということ。この世の無常であることを示したもの。せいしゃひっすい。※高野本平家(13C前)一「娑羅双樹(しゃらさうじゅ)の花の色、盛者必衰(ジャウシャヒッスイ)のことはりをあらはす」。※妻鏡(1300頃か)「年齢盛にして、富貴心に任せ、種姓高貴にして、能徳皆備りつる者、老少不定の理遁がたく、盛者必衰(シャウジャヒッスイ)の謂を免れ」 〔仁王経‐下〕。
7 ・・・『仁王経』の「盛者必衰、実者必虚(盛んな者はやがて衰え、満ちている者はやがてからっぽになる」に基づく。仏教にある人生観で、この世の無常を表している言葉。『平家物語』の冒頭にある「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理(ことわり)をあらわす(祇園精舎の鐘の音は「世の中に不変はないと言っているように聞こえる。沙羅双樹の花の色は、盛んな者は必ず衰えることを表している。思い上がった者は長く続かない)」は、あまりにも有名である。「盛者」は「しょうしゃ」「せいじゃ」とも読む。平家琵琶(『平家物語』の文章に節をつけて琵琶で伴奏する日本の伝承文化)では「沙羅双樹」を「しゃらそうじゅ」と読むときには「盛者必衰」を「じょうしゃひっすい」と読み、「さらそうじゅ」と読むときには「せいじゃひっすい」と読むとされている。 ・・・
盛者必衰と栄枯盛衰の違い
「栄枯盛衰(えいこせいすい)」は「この世のすべてが盛んな時と衰える時を繰り返す」という意味で、非常に意味の近い言葉です。ただし「盛者必衰」は盛んなものに焦点をあてているのに対し、「栄枯盛衰」では衰えることをも平等に扱っているという違いがあります。「栄枯盛衰」は絶えず変化が繰り返されることに対するはかない気持ちを表すため、「盛者必衰」よりも比較的長いスパンで使われるという違いもあります。
盛者必衰と諸行無常の違い
「諸行無常(しょぎょうむじょう)」とは、「あらゆるものは絶えず変化し続け、不変のものなどない」という意味です。「諸行無常」は栄えるものと衰えるものだけでなく、物事が生まれたり壊れたりすることも含めた非常に広い概念です。また「盛者必衰」や「栄枯盛衰」は人や一族、組織など人間の営みに対して使われますが、「諸行無常」は人間に限らないという違いがあります。 
 
 

 

●娑羅双樹1
1 1>フタバガキ科の常緑高木。高さ約30mに及び、葉は光沢のある大きな卵形。花は淡黄色で小さい。材は堅く、建築・器具用。樹脂は瀝青の代用となり、種子から油をとる。インドの原産。さらのき。さらじゅ。しゃらそうじゅ。2>釈迦がインドのクシナガラ城外のバッダイ河畔で涅槃(ねはん)に入った時、四方にあったという同根の2本ずつの娑羅樹。入滅の際には、一双につき1本ずつ枯れたという。しゃらそうじゅ。3>ナツツバキの俗称。
2 「さらそうじゅ(娑羅双樹)」に同じ。 「 −の花の色、盛者必衰のことはりをあらはす/平家」
3 植物。インド原産の常緑大高木 / 植物。ツバキ科の落葉高木,園芸植物。ナツツバキの別称
4 フタバガキ科の常緑高木。インド北部原産で、日本では温室で栽培される。幹は高さ30mに達する。葉は互生し有柄の卵状楕円形で先はとがり長さ15〜25cm。葉柄の基部には托葉がある。葉腋に径約2cmの淡黄色の五弁花を円錐状に多数集めてつける。果実には長さ5cmぐらいの、萼が生長した翼が五枚ある。材は堅く、くさりにくく、インドの代表的有用材で、建築材、枕木、橋梁、カヌーなどに用いる。樹脂はサール‐ダンマーといい、ワニスや硬膏の原料になる。釈迦が入滅した場所の四方に、この木が二本ずつ植えられていたという伝説からこの名がある。しゃらそうじゅ。さらのき。さらじゅ。さら。しゃら。しゃらじゅ。植物「なつつばき(夏椿)」の異名。 
●サラソウジュ (沙羅双樹、娑羅双樹、学名: Shorea robusta) 2
フタバガキ科Shorea属の常緑高木。シャラソウジュ、サラノキ、シャラノキともいう。ラワンの一種レッドラワン(S. negrosensis)と同属である。
幹高は30mにも達する。春に白い花を咲かせ、ジャスミンにも似た香りを放つ。
耐寒性が弱く、日本で育てるには温室が必要である。日本では温暖な地域の仏教寺院や植物園に植えられている程度である。かつて本種の代用として、各地の寺院でツバキ科のナツツバキが植えられたことから「沙羅(シャラ)」と呼ばれることもあるが別種である。
分布
インドから東南アジアにかけて広く分布。
サラソウジュと仏教
沙羅樹は神話学的には復活・再生・若返りの象徴である「生命の木」に分類されるが、仏教では二本並んだ沙羅の木の下で釈尊が入滅したことから般涅槃の象徴とされ、沙羅双樹とも呼ばれる。
サンスクリットではシャーラ(サンスクリット語: शाल, śāla)またはサーラ(サンスクリット語: साल, sāla)と呼ばれる。日本語の沙羅樹の「シャラ」または「サラ」はこれに由来している。 現代ヒンディー語での名はサール(sāl)。
釈迦がクシナガラで入滅(死去)したとき、臥床の四辺にあったという、4双8本の沙羅樹。時じくの花を咲かせ、たちまちに枯れ、白色に変じ、さながら鶴の群れのごとくであったという(「鶴林」の出典)。
以上のように伝本により木の本数には異同がある。しかし、いずれにせよ「双」は元々の樹木の名に含まれておらず、二本もしくは二本組ずつになった木の謂である。
○仏教三大聖樹
無憂樹(マメ科):釈迦が生まれた所にあった木
印度菩提樹(クワ科):釈迦が悟りを開いた所にあった木
娑羅樹(フタバガキ科):釈迦が亡くなった所にあった樹木
利用
かつて東南アジア、とりわけマレー半島近隣で用材として家屋の建築やカヌー(舟)等に広く使用された。樹脂は香料や船板の水漏れ防ぐための槙皮(まいはだ)として、種子胚芽から取れる油は地域によって燈火や料理に用いられる。  
●沙羅双樹3
きっと、一度は聞いたことのある樹木の名前ではないでしょうか?「沙羅双樹(サラソウジュ)」平家物語の冒頭でも有名な「祇園精舎の鐘の声、諸行無常(しょぎょうむじょう)の響きあり、沙羅双樹(サラソウジュ)の花の色、盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理(ことわり)をあらわす」という一節に浮かび上がるこの植物は一体どんな植物なのだろう?と静かな情景を描いた美しい印象の中に灯(とも)されるように浮かびあがる、「花の色」という鮮やかな言葉に心惹かれた事はないでしょうか?今回は沙羅双樹の事を色々な角度からご紹介いたします。
「沙羅双樹(サラソウジュ)」と「沙羅の木(サラノキ)」
平家物語に出てくる沙羅双樹(サラソウジュ)という樹木は、じつは本当の沙羅双樹(サラソウジュ)ではありません。本当の沙羅双樹(サラソウジュ)は「沙羅(サラ)の木」というインド原産のフタバガキ科の高さ30mにもなる熱帯の常緑樹なんです。
  沙羅の木(沙羅双樹)は仏教の三大聖木の中の一つ
沙羅の木(シャラノキ、サラノキ)は仏教において三大聖木(さんだいせいぼく)と呼ばれる樹木の中のひとつです。三大聖木は「無憂樹(ムユウジュ)」「菩提樹(ボダイジュ)」「沙羅の木(シャラノキ、又はサラノ)」の三つの樹木があり、いずれも仏教においては重要な役割を持ち大切にされています。
  「沙羅の木」を「沙羅双樹」と呼ぶのはなぜ?
沙羅の木が沙羅双樹(サラソウジュ)と呼ばれるようになった始まりは、お釈迦様が旅の途中で最期を迎えるときに選び、横たわった場所が2本の対(つい)になった沙羅の木の下だと言われています。
お釈迦様が入滅(高僧が天に召される事)の時を迎えると、いい香りがする淡い黄色の花が咲いていましたが一旦枯れ、2本の沙羅の木(双樹)は、お釈迦様の死を悲しみ再び真っ白の花を咲かせ、その白い花は次々とお釈迦様の上に舞散り、覆いつくしたと言われています。
※お釈迦様が横たわった場所が2本の沙羅の木の間だった為、その場所に双(ふた)つの樹があった様子から名づけられた沙羅双樹という説と、横たわるお釈迦様を囲う様に2本づつの沙羅の木が四つ角に8本生えていたという説等、諸説あります。いずれにしても沙羅の木が2本一緒に生えている様子を「沙羅双樹(サラソウジュ)」と呼んでいるようです。
  沙羅の木(沙羅双樹)ってどんな木?
和名 沙羅の木、沙羅双樹 / 英名 sal tree / 学名 Shorea robusta / 科属 フタバガキ科コディアウエム属 / 開花時期 3〜7月 / 花の色 淡い黄色 / 分類 常緑高木 / 原産国 インド
沙羅の木はいったいどんな樹木なのでしょう?仏教では「生命の木」と言われ、若返りや復活を意味する樹と伝えられています。インドの中北部からヒマラヤにかけて分布している樹木で、日本ではなかなかお目にかかれない植物ですが、開花は3〜7月、小さな花が密集して咲き、淡い黄色の花を咲かせ、香りはジャスミンやオレンジ、が合わさった様な甘い爽やかな香りを放ちます。日本では植物園などに植えられていて、その様子を楽しむ事が出来ます。
日本での沙羅の木(沙羅双樹)は夏椿
日本では夏椿(ナツツバキ)を沙羅の木(沙羅双樹)と呼んでいます。春に芽吹く柔らかそうな葉も、夏には明るい色味の涼しそうな葉が素敵です。 5月〜7月頃、夏椿はこの写真のとおり可憐で可愛らしい白い花を咲かせ朝咲いて夕方に散る儚い一日花です。蕾もまん丸で可愛らしい様子をしています。 秋になると紅葉も楽しむ事ができる落葉樹で、四季を通して色々な表情を見せてくれる魅力的な樹木です。木の幹の皮がはがれてスベスベとした木肌が現れる為、地域によってはサルスベリと呼ぶ地域もあるようです。
  夏椿ってどんな木?
和名 夏椿(ナツツバキ) / 別名 沙羅(サラ)沙羅の木(サラノキ)沙羅双樹(サラソウジュ) / 学名 Stewartia pseudocamellia / 科属 ツバキ科ナツツバキ属 / 開花時期 5月〜7月 / 分類 落葉広葉、小高木 / 原産国 日本
○平家物語に出てくる沙羅双樹も夏椿
平家物語に出てくる沙羅双樹(サラソウジュ)は夏椿(ナツツバキ)の事です。
日本においては、お釈迦様に縁の深い沙羅の木が日本に無かったため、沙羅の木に葉が良く似ていて同じ季節に白い花を咲かせる夏椿(ナツツバキ)を沙羅の木の代わりに寺院等に植えたという事がはじまりの説と、夏椿を見たお坊さんが沙羅の木と葉が良く似た夏椿を見間違えてそう呼んだといわれる説があります。
  タイやカンボジア、ベトナムでの沙羅の木(沙羅双樹)はホウガンノキ
ホウガンノキ タイやカンボジア、ベトナムなどの寺院でも本物の沙羅双樹(サラソウジュ)の代わりに植えられている「ホウガンノキ」があります。 各地に仏教が伝達されていく中で、世界各地の寺院で代りの樹木が植えらる程、仏教において沙羅の木が重要な役割を持つ事が見受けられますね。
○ホウガンノキってどんな木?
和名 ホウガンノキ / 別名 ホウガンボク / 英名 Cannon ball tree、sal tree(沙羅双樹) / 学名 Couroupia guianensis / 科属 サガリバナ科ホウガンノキ属 / 開花時期 3月〜5月 / 分類 常緑高木 / 原産国 南アメリカ
ホウガンノキは南米原産のサガリバナ科ホウガンノキ属の高木で、高さ20〜30mになる樹木です。
花は3〜5月頃になると、地上に近い幹から花芽をつけた枝を伸ばし、10〜15p程の甘い香りがする、鮮やかなサーモンピンクの花を咲かせます。花が咲いた後は直径10〜20p程の名前の通り砲丸の様な丸い実をみのらせ幹にぶらさがります。その姿は大変個性的な樹木です。
いかがでしたか?今回は平家物語からはじまり、沙羅双樹のお話をさせて頂きました。代わりの樹木を用いられる程、仏教では重要な役割を持つ沙羅双樹の木。日本では、植物園等で見る事が出来る様です。花の咲く季節に優しく香る花を眺めながら、お釈迦様を包んだ香りを知る時間を過ごすのも豊ですね。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 

 



2019/11