100年不安

耳触りの良いフレーズ  「100年安心」「アベノミクス・三本の矢」「一億総活躍」
悪いフレーズ  「老後2000万円必要」
言葉の独り歩き

麻生金融相 金融庁報告書を受領拒否
政府 現実から目を逸らしたい  耳触りの悪いフレーズは嫌いです
臭いものに蓋をします
 


「高齢社会における資産形成・管理」
 
 
 

 

大変真面目な報告書です
現実の可能性を述べただけです
耳触りの悪いフレーズも 当然でてきます
麻生太郎副総理兼金融担当相
忖度不足の報告書 気に入りませんでした
「・・・審議会」 初めに結論ありき 忖度報告書をまとめるのがお仕事ですか
 
 
 6/3

 

●「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書」
 ・・・不足額約5万円が毎月発生する場合には、20 年で約1,300 万円、30 年で約2,000 万円の取崩しが必要になる。・・・
 
 
 
 6/6-

 

超高齢社会、備えは十分?=年金除き2000万円必要 6/6
金融庁が長寿化に伴う「人生100年時代」の老後の資金不足に備えるため、指南書をまとめた。年金だけでは生活資金を賄えず、95歳まで生きるには夫婦で2000万円の資産の取り崩しが必要になると試算。公的年金制度に頼らず、現役時代から長期積み立て型で国内外の商品に分散投資することを推奨しており、8、9両日に福岡市で開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも超高齢社会に応じた金融商品・サービスの在り方が議論される。
−老後の資金は何が問題になるの。
長寿化が進む日本では、60歳の4人に1人が95歳まで生きる世の中になった。男性が65歳以上、女性が60歳以上の無職の夫婦世帯の場合、年金収入に頼った生活設計であれば、現在、月平均約5万円の赤字が発生しており、単純計算で30年続くと約2000万円の蓄えが必要になる。
65歳時点の夫婦世帯の金融資産の平均保有額は2252万円で、ここ20年間横ばいで推移。ただ、老後の資金を支えてきた退職金はピーク時から3〜4割減っており、少子高齢化で年金給付水準の調整も予想され、介護費用などが膨らむと、生活資金はさらに不足する恐れがある。
−指南書の中身は。
「現役期」「退職前後期」「高齢期」の3段階に分けて対策を例示した。老後に備える現役世代は、生活資金とは別の余裕資金で、少しずつでも毎月一定額を複数の運用商品に分散して投資し続けるよう推奨。定年を迎えるリタイア前後では、退職金の使途や年金受給額を把握した上で、資金が不足する場合は、家計の収支を見直しながら、中長期の資産運用を続けることを勧めた。
さらに、高齢期では想定以上に医療・介護費が膨らむ恐れがあるため、資産を計画的に取り崩しながら、認知・判断能力の低下にも備えて、資産を整理し意思を明確にしておくよう進言。家族らの支援を受け、従来同様に金融サービスを利用できるようにする重要性も説いた。
−金融界の課題は。G20でも話題になるの。
お年寄りの相談に十分応じて、ハイリスクの商品を売らない、トラブルの多い手数料を明快に説明する、といったことが課題だ。2050年には、世界で60歳以上の人口が20億人に達するとの試算があり、G20でも高齢者の貧困・社会的孤立のリスク抑制について共通認識がある。「長生きのリスク」を踏まえた金融商品・サービスのほか、認知能力の低下に伴う資産保全の必要性をはじめ、今回の指南書の内容はG20の議論にも反映されている。  
年金100年安心とは何だったのか? 6/6
金融庁の金融審議会が6月3日に発表した「高齢社会における資産形成・管理」の報告書。その内容に、非難の声が殺到している。報告書によると年金だけでは老後の資金を賄うことができないため、95歳まで生きるには夫婦で2,000万円の蓄えが必要になるとのこと。そのため現役期から「つみたてNISA」や「iDeCo」などを用い、資産形成するよう促しているのだ。
また今回の報告書について金融庁トップである麻生太郎氏(78)は「人生設計を考えるときに100まで生きる前提で退職金って計算してみたことあるか?普通の人はないよ」と話し、「今のうちから考えておかないかんのですよ」と持論を展開している。
「かつて政府は『年金100年安心プラン』をうたっていました。04年当時の小泉純一郎首相(77)によって国庫の負担を増やし、もらえる年金額を抑える仕組みを導入。さらに現役世代が支払う年金保険料を13年間、段階的に引き上げることにしました。そうした“痛み”に耐えれば年金は安泰だと、太鼓判を押していたのです」(全国紙記者)
しかし今回の報告書により、“100年安心”ではないと露呈してしまったことに……。そのためTwitterでは《くらせる公的年金を保障するのは国の責任。その信頼関係があるから、高い保険料を国民は払っている。それを年金だけではくらせないから自分で投資して資産をつくれ、と言い出す。ふざけるな! という思い》という怒りの声や、麻生氏の態度について《他人事のような国会議員の、罪悪感ゼロコメント》《「自分たちで老後に備えろ」って年金を運用している政府の人間が口にしてはいけないセリフだと思う》と批判の声が上がっている。
経済ジャーナリストの萩原博子氏(65)も6月4日、今回の報告書について「スーパーJチャンネル」(テレビ朝日系)でこう語っていた。
「『年金では足りないから自分の資産は自分でどうにかしましょう』というのは国が責任放棄している。株は今やおそらく半分以上の人が損しているだろう。なぜ国が『投資しないと安全じゃない』というのか、わからない」
近年、本誌でもたびたび年金制度を批判してきた萩原氏。17年5月には、納付期間を短縮する「10年短縮年金」に政府の思惑が隠れていると語っていた。
「10年短縮年金」とは、年金の納付期間を25年以上必要だったところから10年に短縮するというもの。荻原氏は「無年金で老後資金が尽きると、生活保護を受給するしかないケースも多い」と明かし、同策について「多少なりとも年金を支給することで、生活保護の増加に歯止めをかけたいのでしょう」とコメント。しかし「切り詰めるべき予算は、ほかにあるのではないでしょうか。生活保護費は、命や生活に直結するお金ですから、むちゃな締め付けを見逃してはいけないと思います」と危惧していた。
また18年6月にはこの30年間で国民年金保険料が2倍以上となったことについてふれ、「家計を、じわじわと苦しめてきた大きな要因」と指摘。「しかし、年金財政のひっ迫は変わらず、16年には、年金受給額を抑えるルールを強化しています」と語り、「“100年安心”はもはやどこにもありません」と警鐘を鳴らしていた。
10年にはフランスで、18年にはロシアで年金支給年齢の引き上げへの怒りからデモが発生したが、現在ついに日本でも同様の動きがネットを中心に現れ始めている。わたしたちの年金は、いったいどうなってしまうのだろうか。 
 6/7

 

金融庁がまとめた日本人のお金の危機的状況 6/7
終身雇用、年金制度など、日本人の生活を支えてきた構造が機能不全となりつつある状況の中で、金融庁は高齢化社会における資産形成・管理についての報告書を発表した。
日本社会で起きている環境の変化
金融庁は6月3日、金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書(案)として「高齢社会における資産形成・管理」を公開した。この報告書は、高齢化社会を取り巻く環境の変化を整理し、それらに対応するための基本的な視点や考え方、個々人がとりうる対応を示唆している。そのポイントをいくつか見ていこう。
人口動態については、「長寿化」「単身世帯等の増加」「認知症の人の増加」を挙げている。人口ピラミッドでは、かつての富士山のような形から、つぼ状に変化。高齢者が若年者にくらべて突出して多くなることが予測される。
ライフスタイルの多様化によって、単身世帯も急増していることから、持ち家比率も60歳未満は低下が著しい。こうした背景もあり、老後の親の世話は子どもが見るというようなかつてのモデル世帯は空洞化してきている。
個人の金融資産の大半を高齢者が保有している現状があるため、認知症の人の増加は金融サービスに大きな影響を与える。加齢とともに、認知や判断力が定価してくると、資産の管理や運用などに一定の制限が必要になりうるからだ。成年後見制度の利用増加にともない、同制度の枠組みに入る金融資産が大きく増加することが予想され、これらの管理も課題となる。
収入が不足する部分をどう補うのか
収入・支出については、年齢層別に見ても、時系列で見ても、高齢の世界を含む各世代の収入は全体的に低下傾向となっている。支出もほぼ収入と連動しており、過去と比較して大きく伸びていない。60代以上の支出では、現役期とくらべて2〜3割程度減少しており、時系列で見ても同様となっている。
収入が年金給付に移行するなどして減少している高齢夫婦無職世帯の平均的な姿は、毎月の赤字額が約5万円。この金額は、自身が保有する金融資産から補填することになる。
しかし退職金の給付状況を見ると、退職金給付制度がある企業の全体の割合は、徐々に低下。2018年で約80%となっており、この割合は企業規模が小さくなるにつれて小さくなる。また、定年退職者の退職金給付額を見ると、平均で1700万円〜2000万円程度となっており、ピーク時から約3〜4割ほど減少している。
老後の生活で年金収入などで足りない部分は、保有する金融資産から取り崩していくことになるが、65歳時点における金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯で2252万円、単身男性で1552万円、単身女性で1506万円。しかし住宅ローンなどの負債を抱えている場合は、ネット(正味)の金融資産で見ることが重要になる。
仮に高齢夫婦無職世帯で毎月の約5万円が不足する場合、その穴埋めには20年で約1300万円、30年で約2000万円の取り崩しが必要になる。ただし支出については、特別な支出、たとえば老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用などを含んでいない。もし、自分の金融資産を相続させたい意向があれば、その分の資産も必要になる。
「見える化」とライフプラン
こうした状況を踏まえて報告書(案)では、早い時期から生涯の老後のライフ・マネープランを検討し、老後の資産取り崩しなどの具体的なシミュレーションを行っていくことが重要だと指摘している。
先ほども触れたが、金融資産の保有における全体的な傾向として、若年層よりもシニア層のほうが全体に占める金融資産の保有割合が高く、若年層は住宅ローンなどの負債を比較的多く抱えている。
今回あわせて公開された資料では、以下のような「ライフステージに応じて発生する費用等の例」を図解している。「現役期」「リタイヤ期前後」「高齢期」の3つに分けてライフステージと資産額の推移を図示している。
金融庁は、これまでの標準的なライフプランが今後はほとんどあてはまらないかもしれないと指摘。自分自身の状況を「見える化」したうえで、自らの望む生活水準に照らして必要となる資産や収入が足りないのであれば、就労継続の模索、支出の再点検・削減、保有する資産を活用した資産形成・運用などの「自助」の充実を行う必要があるとしている。 
年金100年安心神話が崩れた背景 6/7
6月3日に金融庁の金融審議会が発表した「高齢社会における資産形成・管理」の報告書について、波紋が巻き起こっている。
報告書のなかで“100年安心”とうたわれていた年金について「年金だけでは老後の資金を賄うことができないために95歳まで生きるには夫婦で2,000万円の蓄えが必要になる」とし、現役期から「つみたてNISA」や「iDeCo」などを用い資産形成するよううながす文言があったのだ。くわえて金融庁のトップである麻生太郎氏(78)が資産について「今のうちから考えておかないかんのですよ」などと持論を展開。そうした態度に「無責任すぎる」といった声が上がっていた。
かつて“100年安心”とうたわれていた年金。そのキッカケとなったのは04年当時、自民党とともに連立政権にあった公明党の提唱した「年金100年安心プラン」だ。そのプランについて、公明党・池添義春議員(60)は11年に自身のホームページでこう説明していた。
【1】保険料は18,3%を上限に2017年まで段階的に引き上げ、それ以上保険料が上らないようにした
【2】もらえる年金はモデル世帯で現役世代の手取り収入の50%を確保
池添氏は「2009年の財政検証(年金財政の5年後との「定期健診」)でも、今後、100年にわたり、50%台を維持できると試算されています」とも明かしている。
また04年4月当時、自民党・森英介厚労副相(70)も「100年後でも絶対大丈夫ということを申し上げます」と衆議院厚生労働委員会で発言している。
「手取り収入50%確保」のはずが「2,000万円の貯蓄が必要」に……。当時から「年金100年安心プラン」にはその試算を疑う声が上がっていたが、さらに追い討ちをかけたのが年金積立金をもとに安倍政権が“株”に手を出したことだったという。今年2月、社会保険労務士の北村庄吾氏は本誌でその点に触れている。
金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)によると年金積立金とは、保険料のうち年金の支払いなどに充てられなかったもの。GPIFは公式ホームページで「この積立金を市場で運用し、その運用収入を年金給付に活用することによって、将来世代の保険料負担が大きくならないようにしています」とつづっている。しかし北村氏は第2次安倍政権以降、「GPIFがリスクの高い運用制度となった」としてこう明かしていた。
「もともと、GPIFはリスクの低い国内債券を中心に積立金を運用してきました。ところが、14年10月から、株式投資の割合を大幅に引き上げたのです」
現代は超低金利時代であり、国内債券では運用益を見込めない。そのため、株式の割合を増やしたというのが建前だという。しかし……。
「GPIFの豊富な資金を株式市場に投入することで、株高を演出しようとする狙いもありました。つまり、アベノミクスの成長戦略として、年金積立金に手をつけたということです」(北村氏)
もくろみは成功し、当時1万4,000〜1万5,000円台を推移していた日経平均株価は2万円を超えた。しかし株高には誘導できたものの、年金資金は株価や為替変動といったリスクにさらされることに。そして15年度には中国株が暴落し、GPIFは5兆円の運用損を負う。さらに18年には10月の世界同時株安の影響を受けて、約15兆円もの損失を出した。
そんな安倍政権について北村氏は「多くの国では、基礎年金の積立金は、安全性の高い国債で運用されています。こんな“ギャンブル”みたいなやり方には、問題があると言わざるをえません」と、その稚拙な運用方法を強く非難していた。
第一次安倍内閣は07年の参議院議員選挙の際、「消えた年金問題」について「最後の1人まで探し出す」という公約を掲げていた。だが14年に2,000万件が見つからないまま、事実上の打ちきりとなっている。 
 6/9

 

金融庁レポート「老後2000万円必要」のトリック 6/9
金融庁が金融審議会 市場ワーキング・グループによる「高齢社会における資産形成・管理」という報告書を6月3日付で発表し、老後には2000万円必要とするそのレポートの趣旨に野党が気勢を上げ、麻生大臣や菅官房長官が一部表現に不適切なものがある、と非を認めました。
私もその40数ページに及ぶレポートをさらっと拝見しました。第一印象としては多くの統計的資料を基に平均的所帯の在り方を平均数字の上から決めようとしたところにこのレポートの欠陥を見て取りました。
ハーバード大学、個性学研究所所長のトッドローズ氏の著書に「ハーバードの個性学入門、平均思想は捨てなさい」 という本があります。内容が堅い本で読みづらいと思いますが、研究者の視点から極めて重要な指摘がなされています。
それは世の中は平均値を全体の特性だと認識する傾向があるが、世の中、平均値に当てはまるケースはほとんどないというものです。ごく簡単な例を出すと学校の成績に於いて各科目ごとの平均点にすべての教科の成績が一致する人はいますか?まず、そのような生徒はいません。得意、不得意は必ずあり、平均に収まらないはずです。
平均値絶対主義はかつてテイラーシステムが全盛のころの話であり、いわゆる標準偏差の中に収まることこそが優良の証とされたわけです。ところが上述の通り、そんな平均的な人はいないわけで平均値をもって物事を判断するのはおかしいのではないか、というのが本書の趣旨であります。
ではこれが上述の老後の話とどうつながるか、であります。
レポートを読んでいて一番ダイレクトに響いたのが収入と支出の平均像であります。平均実収入が209198円に対して平均実支出が263718円かかるので月々54520円不足すると計算し、これをラウンドし月5万円x12カ月x退職後平均余命30年で約2000万円足りなくなるというのです。
この計算にはいくつもの仮定があります。まず、平均実所得はどこから出てきたのでしょう?サラリーマンと個人事業主は全く違います。またサラリーマンでも大手に長く勤めれば厚生年金に厚生年金基金の3段構えになりますし、小さな会社なら厚生年金まで。一方、個人事業主は国民年金のみです。
263718円という実支出の内訳も面白いもので、老夫婦二人で食費が64000円、飲食25000円、その他の消費54000円、中には家具家事用品が9400円というのもあります。こんな平均的生活をする人はまずいないでしょう。質素だけど旅行する人もいるし、外食が大好きな人もいます。要するに支出の263718円というのは平均であり、十分な収入がない人は当然ながら支出は絞り込む行動に出るはずです。
更に言えばここには経理でいう損益計算書だけの判断で貸借対照表の資産を十分考慮していません。この個人の資産の部分のうち、例えば株に投資し、未実現の利益があるケースや将来相続するかもしれない期待資産があるかもしれません。固定資産である住居は非流動性の資産と考えていると思いますが、リバースモーゲージを組めば景色は全然変わります。
もう一つ、30年という単純な掛け算です。これも人生100年設計という前提がそこにあるのでしょうけれど無職が30年続く人もいれば家賃収入のようにずっと収入がある人もいるでしょう。もちろん、30年生きない人もいます。
つまり、この老後2000万円という数字は確かにいろいろな統計をもとに平均値を積み上げていかにも理論的帰着点のように見えるのですが、ほぼ現実解ではないと断言してよいと思います。ところが2000万円という数字だけが独り歩きしたのが今回の顛末でしょう。
私ならばこんなレポートは作りません。まず、高齢者のセグメントを作ります。例えばサラリーマンがそれぞれ65歳、70歳退職でその後、年金以外無収入になるケース、自営業で75歳まで働くケース、国民年金が満額もらえる人、年金がない人など主だったパターンだけでも最低7-8通りぐらいあるはずですのでそれぞれのケースで実収入、実支出をはじき出す丁寧さが必要だったと思います。
なぜ、様々な人々のライフがある中でたった一つの平均値でレポートをまとめようとしたのか、レポートに関与する21名の立派な肩書のワーキンググループの方々がなぜ、そんな簡単なことに気がつかないのか、私にはさっぱり理解ができないのであります。
ひょっとすると日本人がほぼ単一民族だからケーススタディも一つでよいと考えた、なんてことはないですよね? 
 9/10

 

「老後に2000万円不足」の報告書、麻生財務相「全体は読んでない」 6/10
退職後の年金暮らしの夫婦が95歳まで生きるためには、「2000万円が不足」するとした金融庁の試算をめぐり、野党が国会で反発を強めている。
報告書について、麻生太郎財務相(兼:副総理、金融担当相)は6月10日の参院決算委員会で、「豊かな老後を送るためには上手な資産形成も大切との見方が述べられたもの」と強調する一方、「全体を読んでるわけではない」と答弁した。
麻生氏の発言は立憲民主党・蓮舫氏への答弁だった。
金融庁「95歳まで生きるなら2000万円不足」
槍玉に挙がっているのは、金融庁・金融審議会の市場ワーキング・グループによる「高齢社会における資産形成・管理」(6月3日公表)。
報告書では、日本が「人生100年時代」という高齢社会を迎えるとした上で、「夫65歳以上、妻60歳以上の無職の世帯」をモデルケースに老後に必要なお金を計算している。
このケースでは、毎月の収支は収入が年金の約20万円、支出は約26万円で、差し引き約5万円の赤字と試算。
つまり20年で約1300万円、30年で約2000万円の金融資産の取崩しが必要になるとしている。
また、老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用など「特別な支出」を含まないとした上で、以下のような見解を示した。
「不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる」
「当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くの お金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる」
「公的年金制度が多くの人にとって老後の収入の柱であり続けることは間違いないが、少子高齢化により働く世代が中長期的に縮小していく」
そのため、「自助の充実」が必要であるとし、長期・積立・分散投資による資産形成をするべきだと説明。
特に、長期の資産形成を支援する制度として、「つみたて NISA」「iDeCo」を紹介した。
こうした制度について「利用は国民の一部に留まっている」とした上で、「金融庁と厚生労働省は、それぞれが連携し、今後より一層の制度の周知に努めるとともに、若年期から資産形成に取り組むことの重要性についても、広報していくべき」と記述。「つみたてNISA」「iDeCo」などを奨励する表現になっている。
麻生財務相、読んだのは「冒頭の一部」
この「2000万円が不足」というフレーズは、報告書の発表後の4日、麻生財務相が資産運用を奨励する発言をしたこともあり注目を浴びた。
6月10日の参院決算委員会で、立憲民主党の蓮舫氏は「国民が怒っているのは、100年安心』が嘘だったこと」と、公的年金制度の不安について政府を追及した。
安倍晋三首相は「2000万円不足」の試算について、「不正確であり、誤解を与えるものだった」としつつ、「『100年安心が嘘であった』という指摘があったが、そうではない」と反論。
「アベノミクスの進展で、もはやデフレではないという状況を反映し、今年度は0.1%の増額改定になった」と、改善を主張した。
一方で、簡潔に答弁するよう求められる場面や、野党側のヤジが強まり、審議が中断する場面も見られた。
公的年金制度の安定性をアピールする「100年安心」という言葉は、2004年の小泉政権下での年金改革で叫ばれた言葉。当時、安倍首相は自民党幹事長だった。
麻生太郎財務相は「国民の皆さんに誤解や不安を与えた」としつつ、「高齢者の生活は多様。報告書は、豊かな老後を送るためには上手な資産形成も大切との見方が述べられたもの」と強調した。
一方、蓮舫氏から報告書を読んだのか問われると「冒頭の一部に目を通した。全体を読んでるわけではありません」と発言し、委員会室からヤジが飛んだ。
蓮舫氏は、注目が高まっている報告書を読んでいなかった麻生財務相を批判。「5分で読める」と皮肉り、Twitter上では「10分あれば読めます」とした。ちなみに記者が報告書を読んだところ、45分を要した。
野党は公的年金制度に不安があるとして、参院選の争点にする構えだ。 
 
 
 6/11

 

「老後2000万円」の撤回要求=自民幹事長が金融庁に 6/11
自民党の二階俊博幹事長は11日午前、党本部で記者団に、老後資金に2000万円が必要だとする金融庁の報告書について、「誤解を与えるだけでなく不安を招き、憂慮している」と述べ、金融庁に報告書の撤回を含め厳重に抗議したことを明らかにした。
夏の参院選への影響に関しては「選挙を控えているから(候補者に)迷惑を及ぼすことのないようにしっかり注意しなければいけない」と語った。
萩生田光一幹事長代行も記者会見で「参院選で誤解のないように対応したい」と語った。公明党の山口那津男代表は会見で、野党が反発を強めていることに「年金不安をあおる言動も罪深い」と批判した。
一方、立憲民主党の辻元清美国対委員長は国会内で記者団に「安倍晋三首相は『年金は100年安心』と強弁しているが、『安心安心詐欺』だ。この問題は参院選最大の争点になる」と指摘。衆参両院予算委員会の開催を要求した。  
麻生氏、2000万円試算を受け取らず「政府スタンスと異なる」 6/11
麻生太郎副総理兼金融担当相は11日の閣議後記者会見で、夫婦の老後資金として「30年間で約2000万円が必要」とする試算を盛り込んだ金融庁の報告書について、「政府の政策スタンスと異なる」として受け取らない意向を示した。
麻生氏は「公的年金制度が崩壊するかのように受け止められたが、高齢者の生活は多様で、年金で足りる人もいればそうでない人もいる。公的年金は老後の生活をある程度賄うことができるという政治スタンスは変わらない」と強調。試算について「誤解を招く」と指摘した。
報告書は金融庁の審議会の下に設置されたワーキンググループがまとめたもので、通常は審議会で了承され、担当相に報告される。報告書の受け取りを拒否するのは異例だ。
また、自民党の二階俊博幹事長は11日午前、党本部で記者団に「撤回を含め、党として厳重に抗議している」と述べ、同庁に抗議したことを明らかにした。
二階氏は「2000万円の話が独り歩きしている。国民に誤解を与えるだけではなく、不安を招いており、大変憂慮している」と強調。「(試算は)年金制度とは別問題で、将来にわたり、持続可能な年金制度を構築している」と述べた。
試算を巡っては、野党が夏の参院選に向けて争点化しようとしており、10日の参院決算委員会でも追及。自民党内では、2007年参院選で「消えた年金問題」が大敗の一因となったことから危機感が高まっており、異例の抗議に踏み切った。
2000万円試算は「100年安心詐欺」 立憲・辻元氏 6/11
立憲民主党の辻元清美国対委員長は11日、夫婦の老後資金として「30年間で約2000万円が必要」とした金融庁の試算について「100年安心詐欺だ」と批判した。国会内で記者団に答えた。
辻元氏は、安倍晋三首相が10日の参院決算委員会で「(年金制度の)100年安心はうそではない」と答弁したことに「年金は安心だという詐欺ではないか」と反発。「見直さなければならないのなら、見直すと言えばいい」と述べた。  
金融庁「2000万円」報告書に隠された「年金70歳から」の狙い 6/11
100年、安心と言っていたのに――。「年金だけではたりません」。国が明らかにしたのは、国民にとって厳しすぎる未来だった。金融庁が公開した驚愕の報告書の中身とは?
<(老後資金の)不足額の総額は単純計算で1,300万円〜2,000万円になる >
そんな記述を含んだ金融庁の「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書」が波紋を呼んでいる。この51ページにも及ぶ報告書が発表されたのは6月3日のこと。報告書によれば、年金収入で暮らしている高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の月間収支は約5万5,000円の赤字である。仮にこの生活が20年続けば約1,300万円が、30年続けば2,000万円が年金とは別に必要になる、というわけだ。
ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんは、報告書を読んだ率直な感想をこう語る。
「老後のために、2,000万円ほどの貯蓄が必要という試算は、民間では言われてきたことではあります。でも、省庁が“年金だけでは足りない”と表現したことはなかったかもしれません」
――年金は100年安心
政府はずっとそう喧伝してきただけに、“年金だけで生きていけない”という内容への反発は激しい。6日朝、野党5党派は政府の担当者を追求した。
「政府の責任を放棄したと言わざるをえない。まず謝れよ、国民に。申し訳ないと」(立憲民主党の辻元清美国会対策委員長)
また、経済評論家の平野和之さんは、こう分析する。
「年金の状況の厳しさを伝えるのは、年金受給開始年齢を、短期的に70歳、長期的には75歳に遅らせたいという本音が見えています」
報告書で協調されているのが、日本の長寿化がますます進んでいくということだ。
「60歳の人の約46%が90歳まで、25%が95歳まで生きると試算されています」(平野さん)
「今後、年金は“減っていく”」と話すのは、第一生命経済研究所の首席エコノミストの永濱利廣さんだ。
「額が減るわけではない。価値が減っていくのです。もともと、年金は物価の上昇とともに、支給額も上がっていました。しかし現在、年金制度を維持するために、物価が上昇しても、年金額の上昇は抑制される“マクロ経済スライド”という仕組みが導入されています」
金融庁「報告書」より本誌が作成した、『現役世代の男性の平均手取り額』に対して、夫婦2人で何%の年金が支給されるかを示したグラフを見てみると、今年70歳を迎える夫とその妻は、現役世代の所得の約63%の額の年金をもらっていることになる。
だが、現在50歳の場合、将来の年金額は約55%、40歳に至っては50%ほどにまで下がってしまう。
「これからの世代は、ますます年金だけでは生活できなくなっていく。さらに、長寿にもなっていくので、たとえ金融資産があっても、途中で尽きてしまうかもしれない。そのため、『資産寿命』を延ばすことが必要だと、報告書では強調されています」(風呂内さん)
「資産寿命」とは、報告書によると、<老後の生活を営んでいくにあたって、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間>。これが尽きてしまえば、後は年金だけで生活するほかなくなる……。 
 
 
 6/12

 

金融庁報告書は「公文書」=菅官房長官 6/12
菅義偉官房長官は12日午後の記者会見で、老後に2000万円が必要と記した金融庁の報告書について「正式な報告書としては受け取らない」と重ねて述べつつ、「公文書」との認識を示した。
与党幹事長らが同日、政府の丁寧な説明が必要との認識で一致したことを踏まえ、菅氏は「あくまで審議会の中の一つのワーキンググループの報告書で、審議会の総会も了承していない議論の過程の段階のものだ。こうしたことを丁寧に国民に説明していきたい」と語った。 
野党が予算委要求、与党拒否=「老後資金」、党首討論で攻防へ 6/12
年金給付とは別に老後資金に2000万円が必要とした金融庁の報告書をめぐり、主要野党は12日、政府の見解をただすため、衆参両院予算委員会の開催を要求した。与党は所管委員会での審議を主張して拒否。一方、与野党が調整していた今国会初の党首討論は19日実施で合意した。夏の参院選をにらんだ与野党の攻防は、26日の国会会期末に向けて激化しそうだ。
自民党の森山裕、立憲民主党の辻元清美両国対委員長が12日、国会内で会談。辻元氏は、安倍晋三首相と全閣僚が出席する予算委集中審議を求めたが、森山氏は難色を示し、衆院財務金融委での質疑を提案した。辻元氏は大筋で受け入れ、立憲の枝野幸男代表が集中審議が前提だとしていた党首討論にも応じた。
与党側は、新たな年金問題として参院選に影響が及ぶことを懸念し、早期に沈静化させたい考え。森山氏は会談後、麻生太郎金融相が報告書を受け取らない考えを示していることに触れ、「報告書はないから審議の対象にはならない」と記者団に語った。
これに対し、辻元氏は記者団に「予算委の審議拒否はやめてほしい」と与党を批判。党首討論の合意については「首相を引っ張り出して議論する場の確保を優先させる」と語った。老後資金問題への関心が高いうちに見せ場を設けるのが得策と判断したとみられる。
与党、老後資金「政府は丁寧に説明を」=野党は予算委開催要求 6/12
自民、公明両党の幹事長、国対委員長は12日午前、東京都内で会談した。金融庁が老後資金に2000万円が必要だとの報告書をまとめたことに関し、「政府が丁寧に国民に説明し不安を取り除く努力が必要だ」との認識で一致した。
夏の参院選をめぐり、自民党の二階俊博幹事長は、改選数1の1人区に加えて、公明候補のいない改選数2以上の6選挙区についても自民候補への推薦を要請。公明党の斉藤鉄夫幹事長は「早期に結論を出したい」と述べ、前向きに対応する考えを示した。
一方、主要野党は国会内で国対委員長会談を開催。立憲民主党の辻元清美国対委員長は、麻生太郎金融相が報告書を受理しない考えを示していることに関し、「都合が悪かったら報告書まで消し去ろうとする姿こそ、安倍政権の問題点を浮き彫りにしている」と述べ、衆参予算委員会の開催を求めた。
年金不信、政権の鬼門=参院選へ与党火消し、野党追及 6/12
老後資金として2000万円の不足を指摘した金融庁の報告書をめぐり、与党内で夏の参院選への悪影響を懸念する声が高まっている。世論の公的年金制度に対する不信感の広がりが、第1次安倍政権の崩壊につながった12年前を想起させるからだ。火消しに走る与党を尻目に、野党は政権追及の好機と意気込んでいる。
自民党の林幹雄幹事長代理は11日、金融庁幹部に報告書撤回を要求。この後、二階俊博幹事長は記者団に「国民に誤解を与えるだけでなく不安を招き、大変憂慮している」といら立ちをあらわにし、「われわれは選挙を控えている」と指摘した。
公明党の山口那津男代表も記者会見で、「(金融庁に)猛省を促したい」と強調した。
第1次安倍政権は年金保険料を納付した記録が国に残っていない「消えた年金」問題を追及され、支持率が急落。閣僚の相次ぐ不祥事が重なり、2007年の参院選に惨敗、間もなく退陣した。
自民党内では依然、この時の苦い記憶が消えておらず、あるベテラン議員は金融庁の報告書について「参院選に相当響く」と懸念する。10日の役員会では、参院側から「野党に12年前のように騒がれたら大変なことになる」と悲鳴が上がった。
与党は批判を金融庁に集中させることで、政権全体へのダメージを和らげたい考えだ。麻生太郎金融相は「正式な報告書として受け取らない」と表明。自民党の岸田文雄政調会長は報告書を「極めてずさんなもので、まともな政策議論に供し得るものではない」と酷評した。
野党側は、想定外の敵失を急きょ参院選の「最大の争点」(立憲民主党幹部)に据えた。麻生氏の異例の対応について、立憲の枝野幸男代表は11日の記者会見で「政府にとって都合の悪い事を隠し、ごまかそうとしている」と厳しく指弾。国民民主党の玉木雄一郎代表も「あり得ない」と記者団に語った。両党は衆参両院予算委員会での集中審議開催を改めて要求し、追及を強める方針だ。
金融庁報告書、受領せず=「年金、老後賄える」−麻生金融相 6/12
麻生太郎金融相は11日の閣議後記者会見で、老後資金に2000万円が必要と指摘した金融庁の報告書について「正式な報告書として受け取らない」と表明した。「年金で老後の生活をある程度賄うことができる」という政府見解と異なることを踏まえた対応だ。
報告書は、年金収入に頼る高齢夫婦世帯で毎月平均5万円の赤字が生じ30年間で2000万円の資産の取り崩しが必要になるとの試算を明示。インターネット上に加え、野党などから「公的年金制度の破綻を認めたものだ」などと批判が噴出した。
麻生氏はこれに関し、「世間に著しい不安と誤解を与えた」と釈明した上で、「年金制度が崩壊するかのごとく思われたが、それは全くない」と否定。一方、試算については「高齢者の生活は極めて多様だ。(資金が)一概に足りないと決めつけるのはいかがなものか」と述べ、妥当性を問題視した。報告書の書きぶりについても問題があったとの認識を示した。
報告書は金融審議会(首相の諮問機関)の作業部会が3日に取りまとめた。通常ならば、金融審総会への報告を経て、金融相に提出される。
「老後2000万円報告書」の炎上で隠れる本当に必要な議論 6/12
老後の金融資産として約2000万円が必要とする試算を盛り込んだ金融庁金融審議会の報告書が波紋を呼んでいる。6月3日に公表された「高齢社会における資産形成・管理」という報告書で、報道などでは「老後2000万円報告書」とも表現されている。
SNS上では「年金制度の崩壊を事実上認めた」「年金が出ないなら、これまで納めたお金を返してほしい」という声が相次ぎ、与党・野党議員からも懸念が指摘された。これを受けて麻生太郎金融相は11日、「正式な報告書として受け取らない」と表明。同報告書は事実上の撤回に追い込まれた。
年金制度そのものに対する不安を改めて浮き彫りにした今回の騒動。確かに同報告書では、夫が65歳以上、妻が60歳以上の無職世帯が年金に頼って暮らす場合、毎月約5万円の赤字が出るとの試算を掲載している。その後30年間生きると仮定すると、約2000万円が不足するという計算だ。
しかし、そもそもこのデータは2017年の総務省の「家計調査」に掲載されたもので、とりわけ新しいデータではない。また、上記の内容は金融審議会の報告書の中では序章の「現状整理」にまとめられており、本論の部分ではなかった。本旨の前提として過去のデータを引用したら、そればかりに注目が集まり、炎上につながったということだ。
本論にあたる部分では、高齢化や単身世帯の増加、公的年金とともに老後資金の要となる退職金の平均額の減少など、これまでにない社会的変化が起きていると指摘。年金受給額を含めて自分自身の収支状況を「見える化」して、望む生活水準に収入が足りないのであれば、資産運用などの「自助」の充実が必要と訴えている。
「2000万円」というセンセーショナルな数字の印象とも相まって、「老後の資金は自分で工面すべきだ」「年金に頼るな」というメッセージと受け取った人もいただろう。ただ、年金だけに頼らない資産形成の必要性や、そのために金融リテラシーを向上すべきだという議論自体は以前からあるもので、同報告書は、総論として何か斬新な見解を打ち出したものではない。
しかし、内容が吟味される前に「序論」が炎上して撤回されたことにより、同報告書にある重要な指摘が顧みられなくなっている。
認知症の問題だ。
ここ最近、自動車の暴走事故で議論に上がることが多い。国内の認知症患者は増加傾向にあり、軽度な人を含めるとすでに65歳以上の4人に1人が認知・判断能力に何らかの問題を抱えているとされる。
認知症患者が増えれば、資産の引き出しを自由にできないばかりか、資産運用に関して本人の意思を確認できない状況が生じかねないと同報告書は指摘している。ところが、運用に回せるような金額の資産を手にすることができるのは退職後、つまり高齢になってからという人が多い。就労期間が長引けばその傾向はますます加速するだろう。
こうした背景から危惧されるのが「退職金が狙われる」という状況。実際、退職金で投資デビューしたものの、トラブルに発展したというケースは現時点でも少なくない。投資信託会社に運用を任せた結果、認知症の親の資産が過剰に投資されていたり、リスクの高い債権に振り向けられていたりといった被害を訴える家族の声もある。
退職金を受け取った人の4分の1が投資に振り分けているとされ、実際に多くの金融機関が退職者向けのサービスを提供している。しかし同報告書では「そうした(退職者向け)キャンペーンなどの内容が、真に顧客にふさわしいものであるかについては自問が必要なのではないか」と投げかけている。
同報告書はこうしたトラブルが増加することを念頭に、「認知・判断能力が低下・喪失した後であっても、予め明らかにされた顧客本人の意思を最大限尊重しながら、適切な金融取引の選択を行えることが望ましく、金融サービス提供者も今後より一層対応を進めていくべきである」とまとめている。
認知症社会の到来が近づくものの、社会構造の変化から資産運用の重要性は高まるばかりだ。報告書の撤回によって議論が止まってしまったが、将来起こり得るトラブルに正面から向き合う姿勢がやがて求められるだろう。
報告書をまとめた審議会メンバーの1人であるセゾン投信株式会社代表取締役社長の中野晴啓氏は本誌の取材に次のコメントを寄せた。
「現状確認のために盛り込んだ冒頭の部分だけが独り歩きしていて、審議会が時間をかけてまとめた本論の部分は完全に置き去りにされている。本論の部分こそ、世の中に問いたい内容が入っている。冒頭の部分だけをもって、報告書がずさんであるといった指摘があることは不本意極まりない」。
2000万円報告書 自民「政府は受け取らない。もうない」予算委開催に難色 6/12
自民党の森山裕国対委員長は12日午前、夫婦の老後資金として公的年金以外に「30年間で約2000万円が必要」とする試算を盛り込んだ金融庁の報告書について「政府は受け取らないと決断した。報告書はもうない」と述べ、報告書を巡る国会の予算委員会開催に否定的な考えを示した。自民、公明両党の幹部会合後、記者団に語った。
森山氏は「(報告書で)老後の生活に大きな不安が広がったのも事実。政府も金融庁だけの問題にせずに、政府としてしっかりと国民に説明し、不安を取り除く努力が必要だ」と注文。「現在の年金制度は、将来にわたり持続可能だ」と強調した。
また、公明党の高木陽介国対委員長も報告書に関して「予算委で審議する話ではない。政府として受け取っていないので、政府として答弁しようがない」と述べた。
「老後に不足…金融資産2000万円」を年金受給者は用意できている? 6/12
•「年金以外に夫婦で2000万円の貯蓄が必要」試算に野党から批判続出
•年金受給者「金額が大きすぎる」“金融資産”に住宅は含まれない?
•厚労省データでは「60代の7世帯に1世帯が貯金ゼロ」専門家の見解は
連日、野党の追及が過熱する「老後に2000万円不足」するという金融庁の審議会の試算。これに対する年金受給者の本音を取材した。
6月11日、麻生太郎金融担当相は会見で「夫婦で95歳まで生きると、年金以外に2000万円の蓄えが必要」という試算を出した金融庁の審議会による報告書の受け取りを拒否すると述べた。
麻生金融担当相 / 世間に著しい不安と誤解を与えており、これまでの政府の政策スタンスとも異なるので、 正式な報告書としては受け取らない。
これに対し、野党からは批判が続出。
立憲民主党・辻本清美国対委員長 / 麻生さんが急に言い出しているのは異常事態ですよ。
国民民主党・玉木雄一郎代表 / (受け取りを拒否していたら)ますます老後の暮らしは不安になるのではないか。
与党内からは、自民党の二階俊博幹事長が 「(報告書は)国民の皆さんに対して、 誤解を与えるだけではなくて、むしろ不安を招いていた」と発言し、政府は火消しに追われた。
「ギリギリの生活」年金受給者の本音
そもそも国民年金(基礎年金)とは、20歳から60歳未満までが加入し、40年間保険料を納付した人に原則65歳から満額支給されるシステム。
政府は年金を「100年安心」と謳っていたが、今回の報告書では、65歳以上の夫と60歳以上の妻の無職の夫婦の場合、毎月の収入は約21万円で、 支出はそれを上回る約26万円。約5万円の赤字が出るため、老後30年生きると約2000万円不足するとの試算を発表していた。
この額を街の年金受給者はどう受け止めたのか。
【金融資産なし・年金は月1〜2万円】自営業の男性(77) / ちょっとピンとこないね。(2000万円貯蓄は)金額が大きすぎるので。蓄えは無いです。
【金融資産2000万円未満・年金は月5〜6万円】パートタイマーの女性(71) / 2000万っていうお金は、絶対に蓄えられないと思う。子供を育てて(服を)着せて食べさせて、学校、教育をさせて…だから今70を過ぎてるけど、パートに行って(給料が月に)3〜4万円。
さらに、金融資産については、こんな誤解もあった。
――(金融資産)2000万円ありましたか?
【年金は月約25万円】不動産関係の男性(75) / 自宅とかそういうのを入れれば軽くあったね。
――自宅を入れなければ?
【年金は月約25万円】不動産関係の男性(75) / 自宅を入れないと無いよ。住宅ローンから何から(現金で)みんな整理しちゃったから。
金融資産とは、現金をはじめ、預貯金、有価証券などの 「すぐに現金化できるもの」を指す。その一方で、家やマンション、車などは価格が変動しやすく、金融資産には含まれない。
その金融資産2000万円を用意できているという人もいた。
【金融資産あり・年金は夫婦でつき約 20万円超】航空関係の男性(72) / あったと思います。退職金があったから。今でもフルタイムで働いているので、あんまり年金のことを考えたことがないですね。
「平均保有金融資産 2252万円」
ただ、今回発表された報告書には気になる点がもうひとつある。
総務省のデータをもとに作成された60代後半の平均金融資産額では、単身世帯では男性が1552万円、女性が1506万円と1500万円を超え、2人以上の世帯では2252万円にも上るという。
しかし、厚生労働省発表の60代の貯蓄額のデータを見てみると、2000万円以上の世帯が約22.3%であるのに対し、2000万円未満の世帯は約67%だ。
中でも貯蓄がない世帯は約14%と、 実に7世帯のうち1世帯が貯金ゼロとなる計算になる。
こうしたデータから浮き彫りになる貯蓄額の格差。
年金の専門家は、今回の報告書が示す 「年金受給だけでは生活費が足りない」という警鐘は、 驚くようなものではないと指摘する。
ファイナンシャルプランナーで税理士の清水明夫氏 / (年金だけでは)足りないのは当たり前で、自己防衛で自分で貯めるしかない。退職金とかもこれからはなくなる時代だと言われていますから、(自分に必要な不足額は)退職までにお金を貯めないといけないですね。
取材では、「年金受給だけでなんとかやり繰りできている」という人の中にも、生活費の他に突然の病気による医療費や葬儀にかかる費用など、急な出費への蓄えについても不安を抱えているという声が聞かれた。
麻生大臣が報告書の受け取りを拒否したことについては、7月に控えた参院選を見据えての対策であるとの見方もあり、「責任逃れをしているのではないか」という批判も出てきている。
野党は、この問題を参院選の争点にすることを表明し、今後も追求していく構えだ。 
壊れた「年金100年安心」神話 6/12
「高齢夫婦無職世帯の赤字は月5万円」
[ロンドン発]「平均的な高齢夫婦無職世帯の赤字は毎月約5万円。20年(85歳)で約1300万円、30年(95歳)で約2000万円の取り崩しが必要」と試算した金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」は白紙になりそうです。
「あたかも赤字ではないかと表現したのは不適切だった」との見解を示していた麻生太郎金融担当相は11日の閣議後記者会見で「正式な報告書として受け取らない」と述べました。安倍晋三首相も10日の参院決算委員会で「不正確であり誤解を与えるものだった」と答弁していました。
正直なところ、7月21日投票の参院選前にどうしてこんな報告書を発表したのか、お役所の政治センスを疑ってしまいます。でも、平均寿命が65〜70歳だったころに設計された保険制度が「人生100年時代」にもそのまま維持されると信じるのはかなり無理があるのではないでしょうか。
金融審議会の報告書によると――。
(1)1950年ごろの男性の平均寿命は約60歳。現在は約81歳まで伸びた。健康寿命は男性約72歳、女性約75歳。現在60歳の人の約4分の1が95歳まで生きるという試算も
(2)定年退職者の退職給付額は平均で1700万〜2000万円。ピーク時から約3〜4割程度減少
(3)65歳時点における金融資産の平均保有状況は夫婦世帯2252万円、単身男性1552万円、単身女性1506万円
平均値だけから見るとそれほど大きな問題はないように思えますが、平均以下の世帯、非正規雇用で低賃金労働を強いられ、退職金も十分な貯蓄もない若い世代、子育てに親の介護に追い回される将来世代の不満が一気に爆発しました。
しかし「年金100年安心」はもはや神話で、私たちも、そろそろ現実を直視しなければならない時期が来ています。老後不安が強まると貯蓄する人が増えて個人消費が冷え込み、デフレからますます抜け出せなくなってしまいます。
政府は「年金100年安心」を強調するより、老後も無理なく働けば、安心して暮らしていけるというメッセージを送るべきではないのでしょうか。
インフレ国・英国とデフレ国・日本の違い
筆者の暮らす英国では日本ほど貯蓄している人は見かけません。セーフティネットがしっかりしているからでしょう。老後のニュースと言えば、認知症の予防、老人ホームの現状が中心です。
英国では国民医療サービス(NHS)を使えば医療費は原則無料。万人に等しく医療サービスを――をモットーにNHSは主に税金や国民保険料で賄われています。その代わり、命にかかわらない患者は後回しにされます。
妊娠中の妻がやけどを負って病院の救急救命センターに駆け込んだものの何時間も待たされ自分たちで氷やタオルを買ってきて冷やしたという若い夫婦は恐ろしくなって日本に帰国してしまいました。
高齢者が長生きしたらNHSの予算がパンクするので高度な治療は施さないという話を大学病院の教授から聞いたこともあります。
筆者も、鼻血が止まらなくなり、プライベート(実費を全額負担)やNHSの救急救命センターに駆け込みましたが、6時間近く待たされている間に自然に止まっていました。
日本の消費税に当たる付加価値税(VAT、税率20%)は贅沢品以外の食料品にはかかりません。自分で料理すれば生活費を抑えることができます。筆者は新聞社を辞めた当初、ほとんど収入がなかったので所得税もかからず、随分助かりました。
欧州連合(EU)からの離脱を選択した国民投票をきっかけに英国でも格差にスポットライトが当たりましたが、筆者の目から見ると真面目に働いている低所得者にとっては非常に優しい社会だと実感しました。所得が増えてくると税率がゼロから20%、40%と急上昇してきます。
日本と英国で暮らしていて感じる一番大きな違いは日本では自宅やマンションの不動産価値は下がるのに英国では値上がりすることです。家に手を掛ければ掛けるほど価格は上昇します。貯蓄するより住宅を買った方が得なのです。
英国成人の4分の1は貯金が全くないそうです。英国は基本的にインフレ国なので貯蓄するより消費したり投資したりする人の方が多いのですが、英国から見ると日本人は心配性のように思えます。
「認知症税」で躓いたメイ英首相
選挙で「老後」への負担増を争点にするのは禁物です。先進国はどこも高齢化が進んでいるからです。そして高齢者ほど投票率が高いのも共通しています。
EU離脱交渉を座礁させた責任を取って与党・保守党党首を辞任したテリーザ・メイ英首相が躓いたのは2017年の解散総選挙です。
資産を2万3250ポンド(約321万円)以上保有している高齢者は自らの介護費用を負担しなければならなかったのですが、保守党はマニフェスト(政権公約)でこの金額を10万ポンド(約1380万円)まで引き上げると約束しました。
その代わりマイホームが資産査定の対象に加えられたため、批判が噴出。高齢者が生きている間は介護費用を支払うために持ち家を売却する必要はないものの、亡くなると処分され、未払いだった介護費用を支払うという仕組みでした。
高齢者と同居している家族は住居を失うことを恐れて「これでは、まるで『認知症税』だ」と猛反発し、メイ首相はあわてて撤回に追い込まれました。そしてよもやの過半数割れを喫して少数政権に転落します。
EU離脱のドサクサに紛れて「認知症税」をマニフェストに加えていなかったら、今ごろ英国はEUを離脱できていたかも分かりません。
安倍政権が報告書「高齢社会における資産形成・管理」を事実上なかったことにするのは政治的には極めて適切な判断と言えるでしょう。しかし日本社会は「100年安心」ではなくなった年金制度の現実を直視する必要があります。
日本の年金制度は世界29位
国ごとに年金制度を比較するのは非常に難しいのですが、福利厚生や年金分野などのサービスを提供する国際コンサルティング事務所マーサーの「2018年グローバル年金指数」によると、日本は34カ国中29位です。
「いい加減」と思っていた英国より日本の年金制度の評価が随分低いのには正直言ってびっくりしました。
十分性は24位、持続性は31位、健全性は27位でした。日本のように少子高齢化が極端に進むと、年金制度の持続性を保つためにはどうしても年金給付を抑えなければなりません。そうすると今回、問題になった報告書が指摘したように老後の生活を支えることができなくなってきます。
経済協力開発機構(OECD)はこのジレンマを解消するために次の3点を強調しています。
(1)年金を支給する年齢を引き上げ、できるだけ長く働くようにする(自助)
(2)公的年金の対象を低所得や社会的弱者の高齢者に絞る(公助)
(3)公的年金の代わりに私的年金を拡大する(自助)
OECDの調査で日本の66歳以上の貧困率は19%と他の先進7カ国(G7)に比べると高くなっています。
しかし持てる高齢者の負担を重くして低所得や社会的弱者の高齢者を支えるアイデアはあまり支持されないかもしれません。
フィンテック(金融とテクノロジーの融合)を活用した低所得者でも気軽に入れる金融商品の開発や低所得の高齢者を対象に公的年金を補完する「年金クレジット」の導入を検討する必要があると思うのですが、皆さんはどう思われますか。  
嫌われた報告書〜“老後に2000万円” 6/12
「どんな夢物語なのよ?」とネットの声。「正式な報告書としては受け取らない」とは大臣の声。“老後に2000万円が必要”とした報告書がほうぼうから批判を浴びています。一方、「報告書は自分の金のことを考えるいい機会だと思うぞ」という声もネットに。“いったいどんな報告なんだろう”、ページをめくってみました。読んでみました。
令和元年6月3日
令和元年6月3日 「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」
報告書の表紙に書かれていた正式名称です。
6月3日に出されるやいなや、まずネットで意見が飛び交います。
“老後の30年に2000万円を取り崩す必要がある” この部分がクローズアップされたのです。
「リタイアまでに2000万円貯めろとかどんな夢物語なのよ?」「2000万円なんか無理だな、200円もらって喜んでるのに」
一方、「報告書は自分の金のことを考えるいい機会だと思うぞ」「(批判は)そうとう曲解しているものと感じます。若いうちに投資や運用を学べというニュアンスです」など、報告書に理解を示す意見もあがっていました。
若い人たちからのツイートも多く、将来を考えてか、関心が広がっているようにみえます。どんな報告書なんでしょうか。
現状整理のパートに、、
報告書は付属文書も含めて51ページ。名簿のページを見るとワーキンググループには21人のメンバーがいました。
さまざまな大学の教授、投資関連会社の取締役、マスコミの関係者などでオブザーバーとして消費者庁や厚生労働省、全国銀行協会なども加わっています。
そして去年9月から議論を重ね、高齢社会の資産作りについて、「現状を整理」し、「基本的な視点や考え方」をまとめ、「考えられる対応」を示していました。“2000万円”はこのうち「現状整理」のパートに登場します。
データは国の家計調査
「高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は5万円となっている」「30年で約2000万円の取り崩しが必要となる」
このデータ、元になっているのは2017年の総務省の「家計調査」でした。60代以上の支出は現役期と比べて、2割から3割程度減少しているが、収入も年金給付に移行するなどで減少している。
そこで計算してみると毎月の収入でまかなえない分は平均で月およそ5万円という計算になっています…というものでした。
“計算上では老後は資産を取り崩すような形になる”という調査はめずらしいものではなく、他の機関でも年金だけでは今の生活水準を維持できないという調査結果をまとめています。
課題を改めて提示
また「現状整理」のパートでは
▽平均寿命が延びて現在60歳の人の4人に1人が95歳まで生きるという試算があること
▽結婚後、夫婦と子供、親と同居し、持ち家を持ち、老後の親の世話は子供がみるというようなモデル世帯は空洞化してきていること
などをあげています。
つまり老後が長くなりお金がより必要なこと、経済的にも子どもが親をみるというスタイルは崩れてきたという内容でした。
これもとりたてて新しい報告というより、これまで言われてきた高齢社会への課題を改めて提示していたように感じました。
資産寿命
「基本的な視点や考え方」のパートに入ると、なにやら見慣れない言葉が出てきました。それが「資産寿命」という四文字。
資産寿命とは老後の生活を営むにあたって、築いてきた預貯金などの資産が尽きるまでの期間のこと。長く生きるためにはよりお金が必要となるため資産寿命を延ばすことが必要としています。
そのために
▽資産を「見える化」すること
▽各々の状況に応じて支出の再点検すること
▽高齢社会では認知・判断能力の低下は誰でも起こりえるので事前の備えが重要
といった考え方を提示しています。
提言は長期の資産運用
そして考えられる対応で提言しているのが「長期の資産形成・管理」です。
「現役期であれば、長期・積立・分散投資など少額でも資産形成の行動を」「リタイヤ期前後であれば、長い人生を見据えた中長期的な資産運用の継続と計画的な取り崩しを」
また「高齢期では判断能力の低下などに備えて取引関係の簡素化などの準備を」など、自分で判断できにくくなることを想定した準備が必要とまとめています。
そして以下の文書がこの報告書の考え方をもっとも表しているように感じました。
資産運用には向き不向きもあるとしたうえで、
「老後の収入の重要な柱であり続ける公的年金については少子高齢化という社会構造上、その給付水準は今後調整されていく見込みである…」「人生100年時代というかつてない高齢社会においてはこれまでの考え方から一歩、踏み出して、資産運用の可能性を国民一人一人が考えていくことが重要ではないだろうか」
若い世代が関心
読むと報告書は特別に新しい視点を示したものではないことがわかりました。
ただそれでもネット上に若い世代からの意見も多くあがっていて、関心の高さがうかがえました。
報告書に掲載されていた大手保険会社の調査でも「老後の不安」でもっとも多かったのは20代から50代では「お金」。将来に対する経済的な不安が多くの意見が集まった背景にあるようにみえます。
報告書は将来に備え早くから運用に関心を持って欲しいと訴えるものでした。しかし日々の生活さえ大変だと声をあげている世帯も少なくない中、2000万円の蓄えや、まして運用など考えられないというような意見も多くあがり、将来の不安への根深さも感じました。
そしてどうやって何を糧に長くなった老後を過ごしていくのか、意見の多さは多くの人がその展望が見えない現状を映し出しているようにも感じました。 
 
 
 6/13

 

「政治家もメディア関係者も有権者も、ちゃんと報告書を読みましたか?」 6/13
老後の資金として2000万円が必要とする試算を盛り込んだ金融庁の報告書などを巡って国会が紛糾している。麻生太郎財務大臣はこの報告書を受け取らないことを明言、追及の姿勢を見せる野党は19日に開催される党首討論でも、この問題について安倍総理と論争を行う見通しだ。
しかし、AbemaTV『AbemaPrime』に出演した現役世代のコメンテーターからは「もともと年金はあてにはしていなかった」「金だけで生活することが現実的ではない」「金融庁はよく言った、と言うべき」といった意見も相次いだ。出演者の一人、ジャーナリストの堀潤氏は「"抽出"された報道だけで議論するのはもうやめよう」と訴える。
まさに税金の無駄遣い、知の軽視、ポピュリズム
11日、いわゆる統計不正問題について政府に申し入れる内容を話し合う自民党の行政改革PTのブリーフィングに参加してきました。議論に使われた特別監察委員会による報告書についての報道を見ると、"隠蔽は無かった"、"政府、官邸から指示があったかどうかについては調査対象としていない"といった"抽出"されたワードで報じられていますから、"そんなふうに結論づけたのか!"と心がざわついた人もいると思います。でも全文を読めば、委員会がどんな根拠に基づいてそうした判断をしたのかがわかります。それは当然ながら、新聞やテレビ以上の情報でもあります。
しかも僕たちはそれらにアクセスできないわけではありません。「特別監察委員会 統計問題 報告書」などと検索すれば、数秒でpdfファイルにたどり着くことができるでしょう。文量もそれほど多くないので、スマホで移動中に流し読みしながら、"なるほど、そういう経緯だったのね"とわかるはずです。でも、多くの場合そうしないまま、良い・悪いという話をしてしまう。
「僕は子育て支援に関する厚生労働省のワーキンググループに参加したことがありますが、議論の中では率直に現場の意見を言い合うし、文書については各自で推敲します。そうやって出したものを軽く扱ってほしくはないし、中身を読んで議論をしてほしいと思います。
今回の金融庁の報告書にしても、みなさんちゃんと読んだのでしょうか。麻生大臣は答弁で「冒頭の一部に目を通した。全体を読んでいるわけではない」と答弁した上で、「受け取らない」と言いましたね。ちゃんと読んでよと思います。実務家たちが時間と税金を使って作り上げたものだし、そんなに難しく書いているわけではありません。グラフはもちろん、アメリカの新しい事例の解説も入っています。メディアがよく言う"失われた20年"だとか"政府は対策を急ぐべき"だというテーマについてもファクトで裏付けながら説明しているんですよ。それなのに"2000万円"という抽出され言葉のイメージだけで批判し、すぐに取り下げようとする。本当のことを言っていると思うのであれば。安易な批判には反論してほしいと思います。まさに税金の無駄遣い、知の軽視、ポピュリズムだなと、腹立たしい思いです。
評論家の宇野常寛さんが「遅いインターネット」という考え方を提唱していますが、昨今、インターネットといえばSNS上でのコミュニケーションの話が大半を占めるようになっていますが、時間や空間を超えてアーカイブされた知の倉庫にローコストでアクセスできる。それも魅力だったはずでしょうと。そんなことを思い出しました。
お金を通して公と個人の関係について語ろう
今回、報告書によって急にクローズアップされた感がありますが、人口減少の話なんて1970年代から始まっていましたし、年金だけでは足りないのではないかという話は総務省の統計でも出ていました。単に先送りしてきただけでしょう、ということを冷静に考えてほしいです。
今は安定政権なんだから、消費税も含めて、本当の話をしてほしいです。それなのに自民党の二階幹事長は「2000万円の話が一人歩きしている状況だ。国民の皆さんに誤解を与え、不安を招いており、大変憂慮している」と語り金融庁に抗議したと話し、「われわれは選挙を控えているので、そうした方々に迷惑を及ぼすことがないように、党として注意しなければならない」と選挙への影響を懸念した。野党はこれが最大の争点だ、という姿勢になっている。与野党は「社会保障と税と一体改革」と言って、ずっと議論してきたはずではないですか。"100年安心"を本当に実現するためには、どんな社会保障政策を実行すべきなのか、今こそきちんと具体策を出すべきです。
一方で、そんな政治家を当選させ、政治の不作為を許してきた有権者の責任の問題もあります。真正面から議論しなければならないことを受け止めてくれる有権者が少ない。言うと負けてしまう。
加えて、格差是正の観点からも、生きる力としての金融教育の必要性がますます高まっていくと思います。お金の話なんて下品、お金だけが幸せじゃないでしょ、なんていうのはこれからの時代、センチメンタルにすぎます。なにも儲けるということだけではなく、税金って、何に使われているの?、なぜ他人を支えることが必要なの?適正に分担されているの?と。公について考える機会にもなります。それなのに、消費税や所得税が上がるという話ばかりで、お金を通して公と個人の関係について語ることが日本人には希薄ですね。
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用についてもそうです。知識のない個人が運用するよりも、GPIFに運用してもらったほうがベターなのではないか。ESGといって、環境対策や女性活躍が積極的な企業への投資を積極的に手がけたり、記者クラブをフリーランスに開放するなどの取り組みも行っているんですよ。でも、言われるのは上がった・下がった、いくら溶けた、ということばかり。これも報告書を読んでほしいと思いますね。 
「老後2000万円」金融庁報告書の正しい読み方 6/13
金融庁が6月初めに公表した「高齢社会における資産形成・管理」の報告書が、国会で大きな焦点となっている。これ自体は長寿化にともない、健康寿命だけでなく資産寿命も伸ばすことの重要性を訴えたものに過ぎない。
ただ、(1)発表主体が民間機関ではなく金融庁という政府機関であったこと、(2)年金給付だけでは老後の生活が困難なこと、(3)平均2000万円の資産積立が必要という具体的な金額、などから、厚労省が掲げていた「100年安心年金」の約束違反だという批判を浴びている。
この金融庁報告書の試算方法は、まず現実の高齢夫婦無職世帯の毎月の収入(その大部分は年金)と支出の赤字額は約5.5万円(年額66万円)という、『家計調査(2017年)』の数値に基づいている。これと2015年人口推計での全人口の約4分の1が95歳まで生存することを前提として30年間で約2000万円の金融資産の取り崩しが必要という、きわめて単純な計算である。
もっとも、この基礎資料を家計調査の代わりに、よりサンプル数の大きな『全国消費実態調査(2014年)』に置き換えれば、毎月の赤字額は約3.4万円で、必要な積立額は30年間で約1200万円と大幅に減少する。そもそも、このレポートの本来の趣旨は、既存の金融資産を効率的に運用すれば、老後に必要な資産額はより少なくて済むことを示すことであり、これが年金制度の信頼性の議論と結びつけられるとは夢にも思わなかったであろう。
この金融庁の報告書に欠けている重要な点は、日本の高齢者の資産全体に占める住宅などの実物資産の重要性を、わずか1行で片付けていることである。日本の高齢者の所得に対する住宅資産の保有率は米英と比べて3倍もある(OECD, Aging and Income)。これは米国では子どもが育った後の夫婦は小さな住宅に住み替え、その差額を金融資産で運用するのが普通だが、日本では固定資産税率の低さなどから住宅の住み替えが進まない。このため広い住宅を求める子育て世代との時間的なミスマッチが生じており、空き家問題などの1つの要因ともなっている。
もっとも、日本の高齢者が住み慣れた住宅を固守するなら、住み続けながら資産価値を流動化させる「逆住宅ローン」の活用がある。これは住宅を担保に銀行からの借金を返済する通常の住宅ローンとは逆に、持ち家を担保に毎月の生活資金を借り入れ、死亡時に清算する手法である。これには地価の値下がりリスク等から金融機関は消極的だが、土地価額の比率の低い高層マンションであれば住宅の資産価値は安定している。今後、急速な高齢化が進む東京圏では、逆住宅ローンの普及に向けた環境整備がとくに重要であり、そのための具体的な制度設計も提示すべきであったといえる。
それにもかかわらず、仮に、今回の大々的な批判をきっかけに、公的年金制度の持続性を野党が参院選の争点とすれば、国民的な議論を巻き起こす点でむしろ望ましい。
公的年金は最低生活費を保障する生活保護費と同じものではなく、政府が運営する巨大な保険制度である。平均寿命の予想以上の伸長や金融資産運用利回りの長期的な低下等、経済社会環境の変化にともなう保険リスクが高まれば、それに対応した保険料の引き上げや支給額の抑制等の調整は、保険財政を維持する上で論理的に避けられない。
それに対して、野党が「国民の怒り」とか「国家的な詐欺」と批判しても、政府は本来こうすべきであるという明確な対案を示さなければ、国民の支持は得られない。旧民主党の目的消費税を財源とした基礎年金改革案は、現行制度に対する有力な代替案の1つであったが、自らの政権時には全く改革に手が付けられなかった。
政府も現行の年金制度には問題がないと強弁するだけではなく、現行制度をどう改善すればよいかを、逆に野党に問いかけてみればどうだろうか。年金制度は仮に政権が交代しても変更することは困難であり、当初から与野党合意で形成することが、日本以外の先進国の常識である。野党がより望ましい案を示せば、それを取り入れればいいし、何も示せなければ、与党への信頼性を高めるだけである。
日本人の平均寿命は、女性が87.3歳、男性が81.1歳(2017年)と世界でもトップ水準にある。これが、今後さらに大幅に伸びて、将来人口の半分が100歳まで生きる「人生100年時代」になる可能性もある。個人にとって寿命が伸びることは望ましいが、年金保険を運営する政府にとっては、それだけ「長生きのリスク」が高まり、放置すれば年金制度自体が維持できない。
これに対して、他の先進国では、年金支給開始年齢の67〜70歳への引き上げでリスクの中立化を図っているが、日本だけは、なぜか現行の65歳以上への引き上げがタブー視されている。
その代わりに、厚労省は個人の年金受給を70歳まで繰り延べると年金額が大幅に増える選択肢を推奨しているが、これでは長寿化による年金給付の自動的な膨張の歯止めにはならず、年金改革の名に値しない。年金支給年齢の引き上げは、確かに国民の負担増だが、それは年金財政の持続性を高めるためには不可欠なことを、なぜ国民に訴えないのだろうか。これが第1の争点である。
厚労省が年金支給開始年齢引き上げの代替策としているのが、マクロ経済スライドという年金給付の抑制策だ。これはインフレ率の範囲内で年金給付を削減する仕組みで、今年度の年金給付額に4年ぶりに適用されたが、わずか0.1%に過ぎない。このインフレ頼みのささやかな仕組みで、本当に高齢化社会の年金制度が持続可能といえるのかが、第2の争点である。
より大きな論点は、仮に日本経済がデフレ脱出に成功し、このマクロ経済スライドが本格的に稼働し始めた場合であり、毎年、実質ベースで0.9%の年金額が持続的に削減される。現行の厚生年金は、勤労時に高賃金の労働者ほど給付額が多い「勤労時の所得格差を老後にも持ち込む仕組み」であるが、その削減率は基礎年金のみの低年金者にも画一的に適用される。これはいわば人頭税と同じ、きわめて逆進的な仕組みであることが第3の争点である。
年金の支給開始年齢引き上げのスケジュールは事前に示されるため、何歳まで働くという個人の生涯就業プランに反映できる。しかし、マクロ経済スライドによる年金の削減額は、その前年のインフレ率次第で、直前にならなければ予想がつかず、不確実性が大きい。平均寿命の伸長で生涯に受け取る年金額が自動的に増え続けることが、年金制度の長期的な持続性を脅かす主因である以上、これを調整することは不可避だ。そのための手段として、年金の受給期間の先延ばしと毎年の受給額の削減のいずれが望ましいのだろうか。
今回の報告書をきっかけに、公的年金制度の持続性について、国会や参院選で与野党が活発な議論を行うことは望ましい。ただ、それは「国民をだました、だまさない」という低次元なものではなく、現行制度の問題点について明確な代替案を示した政策論議が必要とされよう。  
残念ながら「老後資金2000万円必要」は歴然とした現実である 6/13
ナースの休憩時間にも話題に上る「老後資金2000万円」問題
金融庁の審議会の報告書が大きな話題になっている。6月3日に公表され、1週間あまりで「老後資金は2000万円必要」というフレーズは、誰しも知ることになった。ネット上の話題から、与野党の攻防の政治材料にまで発展し、この状況はしばらく続きそうだ。
麻生太郎金融担当大臣が報告書を受け取らないと言い出し、さらに混乱状態に。審議会に関わった金融庁職員、審議会メンバーは、予想を超える反響の大きさに驚くとともに、大臣の対応にはやりきれない思いを持っていることだろう。
そもそもの発端は、5月22日に行われた金融庁の審議会報告書案(6月3日の報告書の素案)を朝日新聞が翌日の朝刊1面トップで大きく取り上げたこと。
記事の内容は「人生100年時代に向けて長い老後を暮らせる蓄えにあたる『資産寿命』をどう延ばしていくか。平均寿命が延びる一方、少子化や経済環境の変化などにより、政府は年金支給額の維持が難しくなり、老後の生活費についてかつてのモデルは成り立たなくなっていると金融庁は指摘。現役期、退職前後、高齢期の3つの時期ごとにできる対策を報告書で指針している」というもの。
朝日新聞のこの記事がヤフートピックスで終日上位に掲載されていたことから、従来の新聞読者以外の人に多く読まれることになった。
掲載日の夕方には、4000前後ものコメントが付いており、そのほとんどが報告書案に否定的なもので、ネット上は炎上気味。「年金制度を維持できないのは政策ミスなのに、なぜ国民が2000万円ものお金を自助で貯めなくてはいけないのか」といったコメントが多数だった。
他紙が大きく取り上げなかったせいか、この段階では「ネット上での大きな話題」に留まっていたように思える。
ところが、6月3日の審議会で報告書が取りまとめられると、新聞各紙、テレビなどが大々的に取り上げ、「老後資金は2000万円必要」という言葉が一人歩きし、ちょっとした流行語になっている。
大手メディア、とりわけテレビの論点は、「『資産寿命』を延ばすために、長く働くことや資産運用で強く『自助』を呼びかけているのは、事実上、『公助』の限界を認めたことになる。年金だけでは暮らしていけないのか。若いうちからの投資を促すのは国としていかがなものか」といったもの。
数日後に定期検診で行ったクリニックの担当医は、私がFPであることを知っているので、「うちのナースたちが老後資金は2000万円必要、投資もするようにと急に言われても困ると怒っているわよ」と教えてくれ、私は思わず苦笑い。
「老後のお金」と「投資」の話題が同時に、仕事休憩中の女性の会話に出てくるってすごい。大手メディアが大きく取り上げると、こんなに影響が大きいのだと改めて実感した。
政府批判の流れに乗れないとコメントを入れられないと言われ…
報告書公表の翌日の午後、夜のニュース番組のディレクターから電話があり「老後資金2000万円」についてのコメントを求められた。
私は「そもそも日本の年金制度は、現役時代の収入を100%保障する仕組みではない。年金収入で足りない分は、現役時代に貯めたお金を取り崩して生活することになるので、今も昔も老後資金が必要なことに変わりはない。ただし、70代以上の親世代と違って、今の現役世代はお金が貯まりにくい環境にあるから、知識を持ったうえで、お金を貯める意識を高めることは必要」など、いつも考えている持論を話す。
ディレクターからの質問は続き「金融庁が若いうちから投資による資産形成を促していることについてはどう思うか」と言うので、「それについては51ページもある報告書のほんの4〜5ページに記載されていることで、資産形成をするための他の手段にも触れている。これについて批判的なコメントは持ち合わせていない」と答えた。
番組の落としどころは「政府批判」にある程度決まっているようで、私の考えはその流れに入れ込むことが難しいため「またの機会に」と、コメントは不採用になった。
数日間、複数のニュースを観ていたが、「老後のお金は自助努力なのか。国は投資で老後資金作りをしろというのか」と、批判的な番組作りが多かったように思う。政府批判は、テレビ番組を作っている人たちの仕事のひとつなのだろう。
フィルターがかかった二次情報には注意!
前述の通り、金融庁の審議会の報告書は51ページもある。当コラムを書くために改めて読んでみたが、現状と課題がバランスよくまとめられたレポートになっている。老後資金作りのマネー本1冊に充当するくらいのコンテンツである。
私たちを取り巻く経済環境や社会構造の変化、高齢化社会で今、将来すべきことが端的に書かれている。一読に値するだろう。報告書は、金融庁のHPで読める(金融審議会市場ワーキンググループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」)。
例えば「老後資金は2000万円必要」とする根拠として、総務省の家計調査より「高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の二人世帯)」の1ヵ月の平均収支を示している。このデータはFPや専門家がよく使うもので、私も当コラムで何度も紹介している。
月の収入が約21万円に対し、支出が約26万円。毎月5万円の赤字でこの分は老後資金より取り崩すことなる。1年間で60万円、65歳から95歳の30年間では2000万円近くに上る。よく見る数字だ。
もちろん、データは平均であるため、もっと赤字額が多い世帯もあれば、収入の範囲内で暮らせる世帯もある。必要な老後資金は人によってさまざまであるが、年金生活を想像する上での「目安」になる。
しかし、東京新聞は「報告書は2017年の家計調査に基づいて示した高齢夫婦無職世帯の1ヵ月の平均収支を示しているが、その中身は実に衝撃的だ」と書いている(6月4日付朝刊)。
実際の高齢者の生活実態を示すデータであり、多くの専門家が使う調査結果を、新聞社が「その中身は実に衝撃的だ」と記事に書くことのほうが、「えっ、見たことなかったの?」と衝撃的だった。
見たことがあったとしても、あえて「その中身は実に衝撃的だ」と書いたなら、恣意的とも言えるだろう。
「国から言われたくない」という気持ちはわかるが実は「国」による報告書ではない
「老後資金は2000万円必要」が炎上ワードになったのは、多くの人が「国から言われたくない」と思ったからだろう。働いて収入があるうちは、誰だって老後のことを考えたくないのが本音。それが突然、目標とも言える老後資金の金額が具体的に示された。驚くだろうし、戸惑うだろう。
そして、年金だけで暮らしていけないのは政策ミスなのに、国民が自助努力で老後資金を作るように国が言うわけ?とカチンときている人が多いのである。
私のようなFPが「老後資金の目安と作り方」をコラム記事や単行本で説いたとしても、カチンをくる人はそれほど多くないと思う。なぜなら、老後資金について知りたい人や読みたい人が読んでいるからだ。
今回の金融庁の指針は、政策でもなく、官僚の人が考えていることをまとめたものでもなく、「市場ワーキンググループ」という審議会の委員が何度も議論を重ね、それをまとめた報告書であることを知っておきたい。
審議会メンバーは大学教授をはじめ、個人マネーに携わる専門家も多数いる。私は傍聴に行ったことはないが、報告書を読む限り、国民の老後生活について真剣に考え、指針という形にまとめ上げていることがうかがえる。
つまり「国」が言っているわけではないということ。部分的に切り取られた二次情報に嫌気を持ち、何もアクションを起こさないのは避けたい。寿命が長くなって高齢化が進み、70代、80代以上の親世代と同じような老後を迎えることが難しいのは、歴然とした事実なのである。
興味深い調査データがある。20〜60代の勤労者(会社員・団体職員)の男女に聞いたアンケート(有効回答1101名)で、「あなたは将来の自分の生活において、どの程度お金が必要か計算したことがありますか」という質問に対し、回答は次のようなものだった。
(1)「計算してみたいが、やり方がわからない」32.5%
(2)「考えたことがない」32.3%
(3)「計算したことがある」23.5%
約3分の2の人が「考えたことがない、計算の仕方がわかない」、約4分の1の人が「計算をしたことがある」という結果だ(アンケートは、SOMPOホールディングスによる「人生100年時代の働き方に関する意識調査」2018年12月実施より)。
老後のお金について無関心なわけではないことがわかる。とはいっても、働いている間は、仕事に子育てにと、目先のことでいっぱいいっぱいになりがちなのも十分に理解できる。
老後資金作りのポイントは、時間を味方につけて少しずつ貯めていくこと。そして、少し先のことを想像しながら、制度改正なども見逃さずに、その時期その時期にやるべきことを実行していくのも大切だ。お金のことは、本当に知らないとソンをすることがたくさんある。
FPとしては、今回の報告書が大きな話題を集めたことで、これまで老後資金作りに関心がなかった人にちょっとした気づきをもたらし、計算の仕方がわからなかった人がわかるようになるといいと切に願う。 
金融庁「老後資金2000万円」報告書に目新しい事実はない 6/13
年金問題を巡って繰り返される与野党の争い
金融庁の審議会が「公的年金だけでは老後の生活資金が2000万円不足する」「公的年金は今後実質的に切り下げられる(調整される)」との指摘を盛り込んだ報告書「高齢社会における資産形成・管理」原案が報道されて以来、自民党は金融庁に報告書の撤回を要求し、その受け取りを拒否するなど政府与党に混乱が広がっている。かかる事態に対して、立憲民主党は「安心安心詐欺」と批判し、2004年の参議院議員選挙で消えた年金問題を追及し第一次安倍内閣を退陣に追い込み、その後の政権交代に繋げた成功体験を忘れられず、二匹目の泥鰌を狙ってか、7月に予定される参院選の争点化を宣言するなど、野党各党が攻勢を強めている。
しかし、年金問題を政治争点化しても国民には何ら利益がないことは、2009年の政権交代のきっかけとなった「消えた年金問題」は結局解決しなかったことや、消費税引き上げにより社会保障を強化するとした税と社会保障の一体改革も、最終的には消費税引き上げに対する各党のスタンスの違いから頓挫したことなど、これまでの年金改革の歴史を振り返っても明らかだ。
「100年安心プラン」への誤解
今回の騒動の発端となった2004年の年金制度改革いわゆる「100年安心プラン」では、少子化、高齢化の進行に鑑み、それまでの年金支給額の増加に応じて現役世代の負担を増加させる仕組みを維持すれば、現役世代の負担が重くなりすぎて、社会保障制度を支える基盤である現役世代の生活が破壊されてしまっては元も子もないという至極もっともな懸念から、現役世代が負担できる範囲内で高齢者への給費水を決める仕組みへと180度転換した。なお、同時に、給付水準が際限なく下がっていくことは問題であり、一定の給付水準を確保するため、給付水準の下限を現役世代の所得の 50%とされた。
この改革により、年金財政の収支バランスが崩れた時に負担増を嫌う現役世代の反対で必要な財源が確保できずに年金財政が危機に陥る事態は回避され年金財政の安定性が増したため100年安心プランと呼ばれる所以である。さらに、念には念を入れ、5年に一度年金財政の状況を再評価し、もし安定性に疑問が付く場合には、相応の対応を取ることとされた。これまで、2009年、2014年の2度にわたって財政再検証が公表され、今年が3回目の財政再検証公表の年に当たる。
しかし、年金財政の一応の安定を確保した裏側で、現役世代が負担できる水準に応じて高齢世代の給付額を決めることになり、所得代替率50%という給付水準の下限を導入したとはいっても、現役世代の所得水準が下がり続ければ、それにあわせて高齢者の年金給付額も下がり続けることから、今度は逆に高齢世代の給付額の安定性が損なわれることとなった。好調な経済を背景に現役世代の所得水準が上昇し負担力が上がるのであれば年金額も増えるが、現状では経済が低迷し所得も一向に増えず負担力は落ちる一方で年金額が増える余地がないからだ。
このように、国民の間には誤解があるようだが、100年安心なのは年金制度であって、我々の年金額ではない。
2014年財政再検証でも書かれていた年金切り下げ
2014年の「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」(以下、2014年財政再検証)では、賃金上昇、運用利回り、インフレ率などに関してさまざまな想定を置いた8つのケースのもとで、所得代替率(年金給付額が現役世代の所得の何割に相当するか)がどのように推移するかを示している。
現状から考えると実現不可能な高経済成長ケース(ケースAからケースE)を前提としてはじめて、所得代替率が50%を維持できるが、より現状に近い低成長ケース(ケースF・ケースG)では所得代替率が40%台に達する事態も想定されている。例えば、所得代替率が40%とは現役世代の所得が30万円だとすれば年金給付額は12万円になるということだ。
財政再検証に関しては、厚生労働省のウェブサイトで、年金部会に提出された詳細な資料などともに全て公開されている。与野党の政治家も、メディアも、国民も知らなかったでは済まされないはずなのだが、今更大騒ぎしているのはなぜだろうか。
金融庁の報告書は高く評価されるべき
より現状に近い経済想定のケースでは、現役世代の負担増への配慮から、年金給付額が切り下げられる事態が起こる可能性が高いことを考えると、足りない部分は老後の生活水準を落とすか、十分な資産を確保しておくしか手段がないことは明らかだ。
そうだとすれば、公的年金に頼るだけでは老後の生活資金が2000万円不足するし、場合によっては年金給付額の減額もあり得るため、今から資産運用などの対策を講じておくべきと率直に提言した金融庁の報告書は、年金給付水準の調整問題という不都合な真実を白日の下にさらすことでシルバー民主主義が高じて参院選への悪影響を恐れ真実を隠蔽しようとする与党や、政権交代の時に、国民に約束した年金の抜本改革を結局何一つ実現できなかった責任を棚に上げて、政権の座を下ろされた瞬間、年金のことは忘れて、モリカケ国会や閣僚の失言問題など政権与党の揚げ足取りに終始した野党よりも、少子化に歯止めがかからず、所得も低迷が続く中、年金給付額の切り下げは不可避で、年金の引き下げを前提に老後の生活資金計画を立てる必要があることを正直に国民に広く知らしめた点で高く評価できる。
公的年金で不足する老後資金確保のための資産運用は先進国共通の課題
実は、先進国の公的年金制度の方向性については、OECDが公表している「図表で見るOECDの年金(Pensions at a Glance)」を見れば、かなりの程度見通しがきく。実際、厚生労働省が金融庁金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第21回)に提出した資料の中でも引用されている(図)。
日本だけではなく、先進国共通の課題として、公的年金給付の削減を補完する私的年金等の奨励として、公的年金給付額の引き下げを補うための自助努力の活用が謳われていることがわかるだろう。
2000万円以上貯蓄があるのは60代でも22%だけ
金融庁の報告書が明らかにしたように、平均的な世帯を考えれば、公的年金のほかに老後の生活資金を別途2000万円蓄える必要があるが、現時点ではどの程度の世代が2000万円の資産を保有しているのだろうか。ここでは、データの制約から貯蓄額に絞って明らかにする。
厚生労働省「国民生活基礎調査」で、年齢別の貯蓄金額を見ると、そもそも貯蓄がゼロである世帯は平均で全体の15%にも及んでいる(表1)。
年代別では、29歳以下15.3%、30歳代14.5%、40歳代17.3%、50歳代14.8%、60歳代14.1%、70歳代15.0%、80歳以上13.9%と、いわゆる40歳代の氷河期世代で無貯蓄世代の割合が一番高くなっている。
次に、すでに貯蓄額が2000万円以上保有している割合は、全世代平均では15.0%、年代別では29歳以下0.3%、30歳代2.5%、40歳代7.6%、50歳代14.8%、60歳代22.3%、70歳代18.6%、80歳以上18.1%となっている。若い世代ほど少ないのは当然であり、貯蓄を取り崩し始めている70歳以上の高齢世代でも減るのは当然である。貯蓄を取り崩し始める直前の60歳代世帯を見ると、当該世代のうちでも22%しか2000万円以上の貯蓄を保有していない。「老後資金2000万円」というハードルは絶望的に高くクリアするのは困難だ。
減額される退職金
ところで、老後の生活資金は現役時代の蓄えと退職金が主な原資となる。ここでは厚生労働省「就労条件総合調査」により、企業規模別、学歴別の退職金の推移を見ると、総じて減少していることがわかる(表2)。
2003年には大卒以上と高卒(非現業職)で退職金が2000万円を超えていたが、2018年ではどの学歴を見ても2000万円を下回っている。
しかも企業別にみても2000万円を超えているのは従業員が1000人以上の大企業の大卒以上と高卒(非現業職)に限定されている。大企業でも現業職であったり、大卒以上でも中小企業の従業員では退職金は2000万円には遠く及ばない。
「人生100年時代」の強調は景気を下押しする
このように、賃金が上がらず、さらに退職金が減額される昨今、「人生100年時代」を口実に、老後の生活資金を2000万円、公的年金のほかに用意しろと金融庁に煽られても、国民の大多数はどうしようもできないというのが正直なところだろう。
今から2000万円の資金が用意できない年齢や職種では、死ぬまで働き続けるか、ハイリスクを覚悟でハイリターンの金融資産に投資するしかない。場合によっては、詐欺に引っかかるかもしれないし、虎の子の資金が元本割れで一文無しの事態も発生するかもしれない。
そうなれば、生活保護を受給するしかない。氷河期世代には、非正規でずっと働かざるを得なかった結果、公的年金の網の目から漏れてしまっている者も多く、生活保護受給者の急増が懸念される。貯蓄なし世帯が氷河期世代では17%を占めていることと相まって、年金の負担に加えて税負担もその時点の現役世代に重くのしかかることは不可避だ。かかる事態を未然に防ぐために用意された税と社会保障の一体改革が頓挫した今、政治の無為無策のツケを負わされるのは結局、我々国民である。
つまり、いくら金融庁が「老後資金2000万円」と煽ったところで、「人生100年時代」「老後資金2000万円」を強調すれば強調するほど、消費は冷え込むため、景気動向が消費税引き上げの前提となっている現状に鑑みれば、全世代型社会保障を支えるはずの消費税の引き上げが難しくなってしまい、さらに貯蓄に励む必要が出てきて、景気は一層冷え込み・・・の無限ループに陥ってしまう。
公的年金だけで老後生活を送るために必要な財源
それでは、金融資産の取り崩しに頼らずとも老後の生活が何不自由なくとは言えずとも、それなりに十分な生活水準を保てる年金額として、金融庁の試算と同じく、毎月5万円に相当する金額を上乗せしてすべての高齢世帯に支給するにはいくら財源が必要になるか、試算してみた。
その結果、総額で14兆円の財源が必要になり、この財源を年金保険料で賄おうとすれば18.30%から4ポイント引き上げ22.30%に年金保険料率を引き上げることに相当し、消費税であれば5ポイント引き上げ15%(本年10月の10%への引き上げを前提)にまで引き上げる必要があることがわかる。
総額14兆円もの負担増を、保険料率の引き上げで財源調達しようとすれば、現役世代の負担のみが重くなるし、消費税で調達するにしても高齢世代は年金増額と相殺されるものの、現役世代は消費増税だけやはり負担が重くなる。
これでは、現役世代の犠牲の上に高齢世代の生活を助けるシルバー民主主義のそしりは免れないだろう。
移民受け入れで年金財政安定を図れ
年金財政の安定と景気への中立性を両立させるには、経済成長による財源確保が不可欠だ。そのためには、人工知能(AI)やロボット技術などを軸とする「第4次産業革命」を推進することで日本経済の付加価値創造能力の向上を図りつつ、適切な制度設計を行ったうえで移民の受け入れを本格化させる。移民の受け入れは、硬直化した日本の労働市場の活性化にもつながるし、多様性が増すことで、斬新なアイデアが生まれやすくなったり、イノベーションが活発化するなど生産性の向上や多様なニーズへの対応が期待できる。
そうすれば、人口構造も若返り、高度成長期のように、税収や保険料が増加することで給付額も増やせるし、同時に年金財政も安定するので、一石二鳥となる。
年金を政争の具とする愚を繰り返すな
金融庁「老後資金2000万円」報告書の核心は、2000万円という数値にあるのではない。ましてや、試算根拠データの出所が総務省統計局「家計調査」なのでデータが(所得の高い世帯に)上振れしているとか、平均値と中央値の違いとか、は枝葉の技術論に過ぎない。本質は、このままいけば、「年金給付額の切り下げ」という不都合な真実が図らずも金融庁の報告書によってあぶり出されてしまったため、与党は慌て、野党は一斉に攻勢に転じたのだ。しかし、先述の通り、すでに2014年金再検証にも記載されているのだから、何ら目新しい事実ではない。
それより、日本の年金制度は、現役世代が引退世代を支えるという世代間連帯を根幹に置いているのだから、少子化の進行で将来的に現役世代が先細り、かつ、日本経済が緩やかに衰退しつつある流れを前提とすると、現在の年金制度の延長線上に将来の年金制度が存在するとすれば、どの政党が政権を取ったとしても、バラ色の未来など約束されるわけがないのだ。対案もなくただただヒステリックに政府を攻撃するのは単なる選挙目当てに過ぎず、公的年金制度と政治に対する国民の不信を一層増す効果しか生まないだろう。
少なくとも、年金問題のように目の前の課題であると同時に、長期的な課題でもあるテーマについては「選挙の争点にしない」と与野党が合意の上で一致協力し、専門家の知見も借りつつ、解決策を見出していくしかない。このままいけば、与党・野党ともに勝者にはなり得ないのは明らかだ。
さらに言えば、不都合な真実については聞く耳を持たず、被害者面ばかりして、政府に責任を押し付けてきた我々国民にも責任の一端があることを肝に銘じるべきだ。
一般国民、専門家、メディア、政治家、政府は真に100年安心なプランの策定に向けて英知を結集しなければならない。 
ほくそ笑む財務省 「老後2000万円」騒動のワナ 6/13
金融庁の金融審議会報告書で、夫婦が老後30年間生きるとして2000万円の金融資産が必要としたことが、話題になっている。
これに対して、金融機関エコノミスト、新聞は現実を直視し年金充実という。野党は年金どうしてくれると与党批判する。与党(自公)は選挙前だし報告書をなかったことにしたい。テレビは年金はどうなると騒ぎながら、与野党の争いを報じている。
こうした喧騒をほくそ笑んでいるのは財務省だろう。
消費増税との関係
筆者の見立てとして、金融庁の報告書は金融庁官僚が書いたものだが、金融庁はもともと大蔵省(現・財務省)から分離し今の金融庁幹部はもともと大蔵官僚だ。であれば、「今の年金制度は危ないのでそのために消費増税」という「ロジック」は当然身につけている。一方金融業界も金融商品を売るために、やはり同じ「ロジック」を用いている。そこで、金融庁は金融業界の監督官庁なので、自然と冒頭の報告書ができあがったのだろう。
となると、今の展開は財務省にとって好都合である。
金融機関エコノミスト、マスコミのいう年金充実とは、消費増税になる。野党が年金で攻めれば、これも解決策として消費増税になる。与党も、選挙公約で消費増税を掲げているので、選挙の争点になったとしても致命的な問題にならない。すべてが、財務省の手のひらの上で踊っている。
そもそも、「今の年金制度は危ないのでそのために消費増税」という「ロジック」が間違いだ。
シンプルな数学問題
今の年金制度は大丈夫で、消費税を社会保障目的税としている国はないからだ。後者はこれまで本コラムで述べてきたので、前者を説明しよう。
年金は保険である。極端に単純化すれば、平均的な人で20歳から70歳まで保険料を払って70歳から90歳まで年金を受け取るようなものだ。
所得代替率(年金額の現役時代の給与との比率)を50%とすれば、簡単な数学であるが、保険料は20%になる。70歳で死ねば年金が受けられないが、100歳まで長生きして死ねば所得の1.5倍の年金を受け取れる。
要するに、年金は保険であり、早く死ぬ人から長生きの人への資金移転なので極めてシンプルな数学問題だ。このため政治的に議論してもスキームとしてはどの国も似たような話にしかならない。しかもその長期的な性格上制度をコロコロ変更できない。このため政争の具にできないというのが世界の常識である。
今回の報告書騒動をみていると、いかに年金を理解していないかがわかる。年金理解の第一歩として、自分のねんきん定期便を見てみよう。これは、自分の年金保険料払い込み金額と将来もらえる見込みの年金額が書いている。年金額が少ないという人もいるだろうが、払込金額も少ないはずだ。年金額を高くしようとすると年金保険料が高くなるのは上の単純例で述べたとおりだ。
筆者は、年金専門家として、今の年金制度の土台である2004年改正とねんきん定期便の創設に関わっていただけに、いまだに年金がよく理解されていないのは極めて残念だ。 
このまま「2000万円」が争点でいいのか 6/13
老後の30年間で2000万円の貯金の取り崩しが必要になると指摘した金融庁審議会の報告書の問題では、野党は第1次安倍政権が退陣する一因となった「消えた年金」問題(2007年)の再来とばかりに攻勢を強めたい考えだ。
ただ、野党がキーワードとして位置付ける「100年安心」をめぐってかみ合わない議論も展開されており、このまま争点化するかは不透明だ。
生活の「100年安心」と年金制度の「100年安心」は別問題
安倍晋三首相は19年6月10日の参院決算委員会で、報告書について 「不正確であり、誤解を与えるものだった」 と述べる一方で、立憲民主党の蓮舫副代表は、「不正確でも誤解でもない」 などと反論。自らの問題意識を 「今回の報告書で国民が怒っているのは『100年安心』が嘘だったこと」「『自分で2000万円貯めろ』という、非常に無責任な国民を欺いた内容になっている」 などと説明した。
そもそも、「100年安心」は、公明党が主導で04年に実現した年金制度改革のことを指しており、大きく(1)保険料の上限を決めて、その範囲で年金の給付水準を自動的に調整する「マクロ経済スライド」を導入する(2)積立金を100年かけて取り崩す(3)給付水準は現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)との比較(所得代替率)で50%以上を確保すること、が柱。生活が「100年安心」なのではなく年金の制度が「100年安心」だとしているに過ぎない。仮に今回の報告書に「自分で2000万円貯めろ」というメッセージが込められていたとしても、ここでいう年金の「100年安心」にどう影響するかは見えにくい。
若い世代ほど少ない「全面的に公的年金に頼る」派
さらに、年金だけでは老後は暮らせないという認識は、国民の間で広く広まっている。例えば 「老後資金の現実 『年金+3000万円』が必要額の目安」(17年9月、日本経済新聞) といった記事は枚挙にいとまがないし、三菱UFJ信託銀行ウェブサイトの「老後資金はいくら必要?どうやって貯める?」と題したコーナーには、「一般的には老後資金の目安は3,000万円だといわれることもありますが、これは年金以外の収入がなくなった際に、年金だけではまかないきれない分を指しています」 とある。
世論調査でも、その傾向が見て取れる。内閣府が18年11月に行った「老後の生活設計と公的年金に関する世論調査」では、老後の生活設計を「考えたことがある」と答えた人は67.8%にのぼり、そのうちの過半数にあたる55.1%が「公的年金を中心とし、これに個人年金や貯蓄などを組み合わせる」と回答。「全面的に公的年金に頼る」と答えたのは23.0%だった。これを年齢別にみると、すでに受給している70歳以上は45%で、60〜69歳が23.8%、50〜59歳が17.7%、40〜49歳が9.2%、30〜39歳が2.5%、18〜29歳が6.7%。最も若い18〜29歳を除くと、若くなるほど公的年金に頼ろうとする人の割合は減少している。
「財政検証」の結果次第では争点化も?
一方で19年は、公的年金がこのまま制度を維持できるかをチェックする5年に1度の「財政検証」の年にあたる。09年は2月23日、14年は6月3日に発表されたが、19年の発表は未定。参院選まで発表されないのではないかと疑う声も出る。
政府・与党から出る 「正式な報告書として受け取らない」(麻生太郎副総理兼金融担当相) 「この報告書はもうなくなっている」(自民党・森山裕国対委員長) といった発言にも野党から批判が出ている。こういった状況で、給付水準の引き下げにつながるような「財政検証」の結果が出れば、年金のあり方が改めて争点化する可能性もある。 
 
 
 6/14

 

消された2000万円”報告書 麻生大臣を野党追及 6/14
「年金だけでは老後2000万円が不足する」という金融庁の報告書を「受け取らない」とした麻生副総理兼金融担当大臣が14日、国会の財務金融委員会に出席した。野党は「受け取らない」ことを徹底追及した。
年金収入だけでは毎月5万の赤字。30年で2000万円の生活費が不足。老後の生活に不安を抱かせている金融庁の報告書。麻生大臣がこの報告書の受け取りを拒否したことで、むしろ年金問題の議論がストップしてしまうと野党が追及。
Q. 立憲民主党会派・大串博志議員:「2000万円ためないと老後を暮らせないと、やっぱりそういうことなんだなと。ある意味そうだろうなと思っていたことが改めて政府によって言われたと。正鵠(せいこく)を射た報告書だという意見も結構あるんです。そういったなかで、ところが大臣はこの報告書を受け取らないと」
A. 麻生副総理兼金融担当大臣:「『生活費として(毎月)5万円不足する』とか『足らない』とか(報告書は)述べておりますので、これは著しい誤解とか世間に対して不安を与えると。我々の政策スタンスと違っておると思っております」
Q. 「大臣自身がこれで終わり、これ以上、上げてくるなと議論を止めちゃっている」
A. 「議論をするなというお話でしたけれども、作業部会の(報告書を)受け取らないと申し上げているんであって作業部会で引き続き審議をされるのは、それはご自由なんだと思いますが」
Q. 「世論が盛り上がったから選挙やばいと思って焦って火消しに走って、権限があるかどうかもはっきりしないのに(報告書を)受け取らないことにしたと。そういう前代未聞の逃げ工作をやっている、隠蔽工作をやっている、そういうことじゃないですか」
A. 「全く違うと思いますけども。選挙向けのパフォーマンスというようなご指摘をなさりたいようにお見受け致しましたけど、私どもとしてはそんなつもりは全くございません」
Q. 「ちなみに大臣、年金はお受け取りになってらっしゃいます?」
A. 「受け取っていないと存じます」
Q. 「『受け取っていないと思います』。ご自分が年金を受け取っているかどうかもご存じない?」
A. 「私はこのことに関して正確な記憶はありませんので」
Q. 「驚きました。自分が年金をもらっているか、もらっていないか知らない人いるか? 私、いないと思いますよ」
自分が年金受給者かどうか把握していないという麻生大臣。質問が事前に通告されていれば答えられたとしている。 
政権に不都合な"年金報告書"が出てきた訳 6/14
参院選を前にして、安倍政権が1本の報告書に慌てふためいている。「年金だけでは老後に2000万円不足する」と書かれた金融庁審議会の報告書のことだ。「消えた年金」問題で2007年の参院選で惨敗した安倍晋三首相にとって、「年金」は鬼門。それだけに逆風の初期消火に必死になっている。
問題の報告書を簡単に紹介しておこう。金融庁の金融審議会・市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」というもの。ことし6月3日に公表されており、6月14日現在、金融庁のウェブサイトからダウンロードできる。
A4で51ページあるが、分かりやすい文章で書いてあるので、だれでも20〜30分あれば読むことができるはずだ。麻生太郎副総理兼財務相は10日の参院決算委員会で立憲民主党の蓮舫氏から「報告書を読んでいますか」と尋ねられ「全体を読んでいるわけではありません」と答えているが、それほど難しい内容ではない。
「現状整理」「基本的な視点及び考え方」「考えられる対応」の3編に分かれており、問題の記述は主に最初の「現状整理」のところに出てくる。高齢夫妻の実収入は実支出と比べて月平均で約5万円少ないことを指摘した上で「20年で1300万円、30年で約2000万円の取り崩しが必要になる」などと表記されている。
政府は日本の年金制度を「100年安心」と説明してきた。人生100年時代が現実味を帯びてきた今、年金で安定的な老後を期待していた人たちにとっては、まさに「年寄りに冷や水」を強いられるようなリポート。国民が怒るのも当然だ。
政府はもともと「年金だけで老後は安心」と説明してきたわけではない。ただ「年金だけでは足りない」と真正面から説明するのを避けてきた経緯がある。「100年安心」とは「100年間制度が維持される」という意味だが、「100歳まで生活するのに十分な年金をもらえる」という意味だと理解する人も多いだろう。政府はそれを積極的に正そうとはしなかった。
それにしても、あえて明らかにしてこなかった「不都合な真実」を、この報告書ではなぜ明記してしまったのか。
この報告書は、年金制度そのものについて書いたものではない。金融庁が、高齢者の貯蓄を投資に振り向けようという意図を持って書かれたものだ。
そのためには「今のままではお金が足りないので投資に振り向けて増やしたほうがいい」という方向に誘導したい。だから「足りない」という前提を、てらいもなく書いたのだろう。
2012年に首相に返り咲いて以来、安倍氏は6年半を超える長期政権を謳歌しているが、2006年に最初の首相に就任した時は1年の短命で終わってしまっている。「消えた年金」が主要因として07年の参院選で大敗したのが辞任の引き金となった。
「消えた年金」とは、社会保険庁のずさんな事務管理にともない、記録のない年金が次々に見つかった問題。この問題を追及した民主党(当時)の長妻昭氏は後に「ミスター年金」と呼ばれるようになった。
「消えた年金」と今回とは性格は全く違う。ただし、安倍氏は、国民の年金についての関心が極めて高いことを身に染みて覚えている。しかも「消えた年金」の被害者は一部の人だったが、今回の報告書は、あまねく全国民に影響してくる。それだけに恐れおののいているのだ。
初期消火を図ろうという政府の姿勢は、どうにも異常だ。まず報告書は、まだ金融審議会の総会を通っていないことを理由に「公式な文書ではない」と説明。麻生氏は「今までの政府の政策スタンスとは違う」として報告書を受け取らないと宣言した。
森山裕自民党国対委員長に至っては、野党からの予算委員会開催要求に対し「報告書はもうない。なくなっているのだから予算委になじまない」と報告書の存在を「完全消去」してしまった。しかし、報告書は今も簡単に閲覧できる。恐らく多くの国民がプリントアウトし、それを読んで憤慨していることだろう。
いつからか今回の件は「消された報告書」問題と呼ばれるようになった。「消えた年金」を想起させるネーミングであることは言うまでもない。
政府が焦っているのを最も象徴しているのが「政府のスタンスとは違う」という説明が大うそだったとばれたことだ。毎日新聞は14日の朝刊トップで、「年金だけでは約5万円足りない」という試算は厚労省が示したデータであると報道した。政府のうそを暴いた大スクープのように見えるが、そう褒められたものではない。
実は問題の報告書の10ページにある「毎月の赤字額が約5万円」という記載と、それを示すグラフの下にはご丁寧に「(出典)第21回市場ワーキング・グループ 厚生労働省資料」と明示されている。つまり、報告書の問題部分は厚労省のデータに基づいて書かれている「政府の政策」であることが、その報告書の中に明示されているのだ。
データの出典が政府によるものだと報告書に明示されているのに「政府のスタンスとは違う」と言い張っていたことになる。この、お粗末な対応は、安倍政権が「消された報告書」問題に慌てふためいている証左でもある。
今回の問題は7月に予定される参院選の大争点となるだろう。不都合な内容の報告書を「消す」ことの是非が問われるのはもちろんだが、現行の年金制度の設計そのものの議論に発展することになるだろう。野党側は、単に現行の制度を批判するだけでなく、野党としての対案を示すことができるかどうかにも注目したい。
それと同時にこの問題は、安倍政権が進める経済政策(アベノミクス)への問いかけに発展するだろう。先に触れたように、今回の「消された報告書」は金融庁の審議会ワーキング・グループが「高齢者の貯蓄を投資に振り向ける」方向に誘導する意思のもとで書かれたものだ。
「貯蓄から投資」は、まさに安倍政権の大方針。だからこの報告書は「政府のスタンスと違う」どころか「安倍政権の政策のど真ん中」の報告書ともいえるのだ。  
「老後2000万円」報告書問題で、本当に悪いのは誰か 6/14
金融庁の金融審議会が提出した「老後資金が2000万円不足する」という報告書が、国会で問題になっています。麻生金融担当相はこの報告書の受取りを拒否。批判を受けた金融庁は、報告書の修正も検討しているそうです。要するに、まだ正式ではない報告書に書かれた内容にそのような記述があっただけで、政府の見解ではないという公式発表によって、騒動は落ち着きつつあります。
さて、思いのほか波紋を広げてしまった観のある今回の問題について、「本当に悪いのは誰か」を考えてみたいと思います。
今回の件で何が問題なのかをひとことで言うと、「この報告書がたぶん正しいこと」が問題なのです。本当は、今の50代よりも若い世代が晩年を迎える頃に、そういう時代が実際に来る可能性は高いです。たぶん、政治家も官僚もみんなそれをわかっていて、でも口にしなかった。今回、こっそり審議会が口にしてみたら騒動になった。それが今回の問題なのです。
では、老後資金はなぜ不足するのか。それはおそらく、年金制度が破綻するからです。今はぎりぎりで後期高齢者の生活を支えている年金制度が、じきにもたなくなる。だから50代以下の若い世代は、働けるうちにお金を稼いで、老後資金を2000万円くらいは用意しておいたほうがいい。そういうことなのです。
私がこれから述べることは、まっとうな政府関係者なら口に出せないと思います。かつてテレビのバラエティ番組で「地下クイズ王」になった経験を持つサブカル経済評論家の私だからこそ言える、独自解釈でわかりやすい解説を展開させていただきます。その本筋は、おおむね間違っていないはずです。
1959年から発足した国民年金制度とは、そもそも働く若い世代から納付させた年金保険料の大半を、そのまま引退した高齢者世代に年金として給付するために設計されました。若い世代が納めたお金をそのまま高齢者に分配するという仕組みの基本構造は、今でも本質的には変わっていません。
そのような制度は、1960年代のように人口ピラミッドで若者の方が多い時代には成り立っていました。しかしこれから先の2030年代、団塊の世代が80代を迎えて人口ピラミッドが完全に逆転するような時代がくれば、制度が破綻することは誰でもわかります。
昔はたくさんの若者から集めたお金を、少ない高齢者に配っていた。それに対して、少ない若者から徴収して大量の高齢者に分配すれば仕組みが回らなくなることは、子どもでもわかる理屈です。
それではもたないということで、その後高齢者に給付する年金の財源として、若い世代から徴収した年金保険料以外に、税金を加えることになりました。現在では、高齢者が受け取る年金の4割超は税金が財源となっています。
このように、年金はタコ足財源で設計されている制度です。本来なら、国民年金は2010年代に入って、破綻の危機に晒されていたかもしれません。しかし2004年、年金を受け取る年齢をさらに遅らせたり、支給される年金額を改悪したりした結果、国民年金は2019年時点でも破綻せず、我が国の「老後」を支えています。
この2004年の年金制度改正のキャッチフレーズが、「年金100年安心」だったわけですが、これを設計した段階で、それに関与した人たちは皆、本当は100年安心できるような制度ではないことをわかっていたはずです。年金は安心どころか、『黒ひげ危機一髪』ゲームのようにみんなをドキドキさせながら、制度改正に尽力した公明党の坂口大臣、第一次安倍内閣が任命した舛添大臣、そして鳩山内閣の長妻大臣といった具合に、次々と新しい厚生労働大臣へと受け渡されていったのです。
さて、世の中には「不可能問題」というものが存在します。一見解決できそうでいて、しっかり調べてみると本当は解決方法がないという問題です。年金制度を痛みなしに正常な制度へと切り替えることは、簡単に言えば「不可能問題」の一種です。
2004年に行われたのは100年安心な年金改革ではなく、「年金修復」だと思います。船が沈むタイミングは遅らせることができても、船は最後には沈みます。ただ厄介なことに、実際はそうだとしても、まだまだ船が沈まないように見せる「手品」が存在します。解決することは不可能な問題なのに、解決していけるかのように見せることが可能な問題という、不思議な特徴が年金にはあるのです。
その手品をわかりやすく説明すると、税金をもっともっと年金の財源に投入することです。団塊の世代が全て後期高齢者になることで起きる2025年問題も、日本の高齢者人口が約4000万人のピークを迎える2042年問題も、年金の財源の大半を税金にしてしまえば、乗り切ることができます。本質的な解決になっていませんが、こうして不安を引き起こさない手法が存在するのです。
でも、そのためには問題の主役が最終的に入れ替わる必要があります。厚生労働省が「この問題はお手上げだ」と音を上げて、その上で財務省が表舞台に登場する必要があります。つまり、問題が「財源」にすり変わる必要があるのです。
今秋、予定されている消費税増税では、税率が10%に上がることで(ポイント付与などの一時的な緩和策が終わった後の)税収は14兆円ほど増加すると言われています。ではこれから先、年金問題をさらなる税金投入で解決することができるとすれば、いったいどれくらいの財源が必要になるのでしょうか。
同様に破たんの危機にある厚生年金は別問題だとして、国民年金の満額、年額約78万円の年金を約4000万人の高齢者に交付することだけを考えても、毎年約30兆円の財源が必要です。これに現在の年金支給総額や税金の投入額の情報を加えれば、追加で必要になる増税の規模は小学校の算数の計算式でだいたいわかります。
問題は、裸の王様を見つけた子どものように、あっけらかんと「あ、消費税は○○%に上げないとダメなんだ!」と口に出してはいけないということです。
オトナの政治家の立場としては、そのような「痛み」を国民にどう納得させられるのかと思案するでしょう。年金だけではなく医療保険にも、やがてテコ入れが必要な未来がやってきます。10%の増税の先にさらに増税していく計画を立てるのか、それとも今のうちに国民に2000万円程度のお金を貯めてもらい、将来は国に頼らないように仕向けて行くのか――。これこそが、内閣府の外局である金融庁が、今回の報告書をきっかけとして行ないたかった、本当の議論のポイントではないかと思うのです。
でも、7月には参院選が控えています。国政選挙の直前にそんな議論はできません。それで政治家たちは、今回の報告書をなかったことにしたわけです。そしてたぶん、2025年くらいには、今回の報告書の内容が再び問題になるでしょう。
「なぜ、あのとき真剣に議論しなかったのか」と――。
そうしたことは、官僚も政治家も全員がわかっているはず。でも今回は、もうこれ以上口にしないことを決めたということでしょう。推理小説的に言えば、「過去の関係者を含め全員が犯人だった」という事件と同じ構造です。
とはいえ、くどいかもしれませんが、本当は真剣に議論したところで、本質を解決できない問題なのですが――。 
「年金は100年安心」に終止符を 6/14
以前、『「老後は持ち家」は今や昔。年金より住宅を!』で、こう書いた。
「 年金について、政府はもっと正直に呼びかけた方がいい。「老後の生活は、年金だけでは頼りないですよ。持ち家を買って、貯金するなり、家族で支え合うなりして、まずは自助努力をしてくださいね』と。その上で、セーフティーネットを設けて、「さまざまな事情で老後の備えが十分にできなかった方々にも、最低限の生活は保証します」というのが責任ある政府の姿であろう。ところが、こうはっきりと言えない事情が政府にはある。2004年の年金改革で「100年安心」と謳ってしまったからだ。これは「国民の老後生活は100年安心」だったわけではなく、「年金制度の存続が100年安心」だったのだ。制度は続いても、少子高齢化を克服できなければ、老後に受け取れる年金額は目減りしていく。 」
5月22日に、ついに政府からこうしたメッセージが出てきた。
金融庁の審議会が「高齢社会における資産形成・管理」についてまとめた報告書案で、次のような文言が盛り込まれた。
「・少子高齢化により働く世代が中長期的に縮小していく以上、年金の給付水準が今までと同等のものであると期待することは難しい
・老後の収入が足りないと思われるのであれば、各々の状況に応じて、就労継続の模索、自らの支出の再点検・削減、そして保有する資産を活用した資産形成・運用といった「自助」の充実を行っていく必要があるといえる 」
年金の給付水準が目減りする見通しを明記し、「自助」を促すとは、ずいぶん思い切ったことを書き込んだものだ、と驚いた。
ところが、セーフティーネットについて何も触れず、「働け」「倹約しろ」「投資しろ」というメッセージしか発していないので、これは大変な反発が起きるな、とも思った。
案の定、5月22日の公表後、Yahoo!リアルタイムで「自助」がしばらくトレンドワードになり、怒りのツイートが相次いだ。
「『年金は100年安心な制度』だったはずよね……」
「自助するから年金払わすな」
「年金徴収やめないけど、将来に向けて自助努力しろっていうなら消費税やら所得税やらの税率引き下げをするか、給与引き上げを厳命して欲しいところ」
審議会では「年金が減る事実をはっきり言うべきだ」「現役世代の危機意識を引き出すべきだ」という意見が出たようだが、6月3日にまとまった報告書では「年金の給付水準が今までと同等のものであると期待することは難しい」という文言は消え、「年金制度の持続可能性を担保するためにマクロ経済スライドによる給付水準の調整が進められることとなっている」という、給付が減るのかどうかがよくわからない表現になった。公的年金制度への不安を招き、保険料を納めない人が増えることを恐れたのだろう。
少子高齢化が続いている以上、年金支給額が目減りしていくのは確実であり、それを踏まえた上で対策を議論するべきだろう。いつまでも「100年安心かどうか」をめぐって議論していてもしょうがない。民主党政権を担っていた人たちも、それを認識していた。
政府・与野党は「100年安心というのは、支給額ではなく制度の存続のことでした。誤解を与えて申し訳ありませんでした」と表明した方がいい。そうしないと国民は、公的年金をどう捉えたらいいのかわからないままだ。
ここで「公的年金は破綻している」「保険料納めてもしょうがない」と早とちりしてはならない。公的年金をなくせば、あらゆる福祉制度を最小化する「小さな政府」を志向する人たちの思うつぼである。
公的年金は、「長生きリスク」に備えた社会保険である。人間、何歳まで生きてしまうか、わからない。長生きすればするほど、生きるために金が必要だ。貯金があっても尽きてしまうかもしれない。その点、公的年金は、死ぬまで一定額を支給してくれる「終身年金」だ。こんな金融商品は、民間ではまずないだろう。
民間の個人年金で多いのは、老後の決まった期間だけにもらえる「確定年金」だ。死ぬまでもらえる「終身年金」もあるが、もらえる金額が少なかったり、納める保険料が高かったりする。
平均寿命まで生きた場合、公的年金で納めた保険料分のうち、どれくらいを支給されて戻ってくるか、あるいはどれくらい「払い損」になるかを試算する人たちがいる。そういう試算を出して何が言いたいのだろうか。保険というのは、リスクが訪れなければ払い損になるものだ。払い損を恐れていたら、自動車保険も生命保険も、どんな保険にも入れなくなる。
公的年金には、収入が低くて保険料を納められない人には、免除したり、猶予したりする制度もある。
さらに「富の再分配機能」もある。老後にもらう支給額は、働いているときに納めた保険料に応じて決まるが、所得が低くて少なくしか納められなかった人には、多めに支給されている(多く納められた人には、少なめに支給される)。また、税金も投入されるので、納めている税金を取り戻すことにもなる。
このほか、一家の大黒柱が亡くなった時や、障害者になった場合にも年金を支給してくれる。
さまざまなメリットがある公的年金だが、支給額は目減りしていく。それを補うためのセーフティーネットをまずは議論すべきだろう。公的な住宅手当制度、生活保護とは切り離した低年金高齢者への支援制度、それらの財源として相続税を引き上げて、富裕層が使い切れずに残していった資産を社会に還元することなどを考えてもいい。
そうした議論を後回しにし、この政権は国民に「倹約しろ」「働け」「投資しろ」と呼びかけた。
野党が反発し、世論に火がつくと、選挙に不利になるとみて、何と、報告書を受理しないで、ないものにしてしまった。これでは公的年金をどうとらえていいのか、国民はますますわからなくなってしまった。
また、以前にこうも書いた。
「 信用面で脆弱な年金制度を、野党は攻撃したがる。国民生活(特に選挙でよく投票する高齢者の生活)に直結するので、不安を起こして、内閣支持率を下げようと企む。国民生活に直結するからこそ政争の具にはせず、必要な政策論に徹してほしい。 」
参院選の争点として、攻め手に欠いていた野党は、この問題に飛びついた。・・・  
バレた年金「100年不安」 6/14
6月3日に公表された「人生100年時代を年金だけで乗り切るのは不可能、老後資金として2,000万円が必要」とする金融庁の報告書が大きな議論を呼んでいます。これまで政府が喧伝し続けてきた「年金は100年安心」という文言は偽りだったのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、「安心なのは年金制度の維持であり国民の生活ではない」と看破するとともに、報告書の選挙への影響を恐れ慌てふためく政権の姿に苦言を呈しています。
将来への不安がつきない日本社会。老後破産、長生き地獄、漂流老人…すべて他人事ではない。いまは豊かで幸せでも、時とともに人の運命などどう変わるかわからない。
多くの人が知っている。「100年安心」の年金改革も、70歳まで受給を繰り下げれば年金額が42%増えるという魅惑の囁きも、額面通りに受け取れないことを。
これら、危機的状況にある年金制度を長持ちさせるための苦肉の策は、年ごとの負担増で苦しくなる庶民の生活に、陰鬱な影を落とすことはあっても、希望の光をもたらしはしない。
そして、これからも年金カットが粛々と実行されていくのだろう。
その不安要素を、具体的数字を示して“可視化”してくれたのが、年金行政をつかさどる厚労省ではなく、麻生太郎大臣の諮問機関「金融審議会市場ワーキング・グループ」の報告書であった。
市場ワーキンググループの目的は、いかにして、総額1,000兆円に迫る国民の預金・現金を、金融マーケットへの投資に振り向けるかだ。
報告書では、厚生労働省資料として、夫65歳以上、妻60歳以上の無職夫婦世帯をモデルとする家計収支のグラフを示し、次のような試算をしてみせた。
実収入が年金など20万9,198円、実支出が26万3,718円として、毎月の不足額の平均は約5万円。「あと20〜30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円〜2,000万円になる」。
年金だけでは人生100年時代を乗り切れないので、持っているお金を投資にあてるなどして資産を増やす「自助」をはかりなさい、というのである。
投資の促進をめざす提言は、はからずも、「100年安心」と言ってきた政府の年金改革が、いかに欺瞞に満ちているかを示すものとなった。
「100年安心」、それとも「100年不安」。どちらが本当か。厚労省、金融庁と担当部署は違っても、安倍首相のもとの同じ政府である。
報告書の内容を知った記者クラブの面々が、金融担当でもある麻生大臣のコメントを求めて集まったのは当然のことだ。すると、大臣は得々として麻生節を唸りはじめた。
「オレが生まれたころの平均寿命はいくつだったか知ってるか?47だ。戦後は53になって、このあいだまで81とか言ってたのが、100だってんだろ」
「そうすると、人生設計を考えるときに100まで生きる前提で退職金って計算してみたことあるか?普通の人はないよ、たぶん。オレ、ないと思うね」
「いきなり100って言われて、あと20年間ゴルフ続けられるのか、そんな体力ねえとか、金がねえなとか、そういったようなことを今のうちから考えておかないかんのですよと」
長く生きるにはカネがかかる。当たり前のことだ。だから「100年安心」の年金制度とPRし続けてきたのではなかったか。
国民がそんな甘言を鵜呑みにせず、財布の紐を締めて節約につとめてきたために、長い消費不況を抜け出せないでいるのだが、誰も心の片隅では、国を信じたい気持ちがないわけではない。
それを、「長生きしたいなら2,000万円自分でつくれ」と、大金持ちの副総理に上から目線で言われると、ちょっと待ってくれと言いたくなる。毎年のように年金保険料をあげられても黙って従ってきた国民を愚弄するのはいい加減にしてもらいたい。
長期不況と貧富格差の拡大、少子化対策の無策。その責任を負うべきは誰なのか。どこに2,000万円のカネを蓄えたり、投資にあてる余裕があるというのか。それが、多くの国民の実感であろう。
報告書をめぐる報道にあわてふためいたのは安倍官邸だ。選挙が迫っているというのに、またしても年金問題の火の粉が降りかかってきた。一刻も早く払いのけねばならない。
菅官房長官が6月7日の記者会見で、「誤解や不安を招く表現であり、不適切だった」とさっそく釈明したのは、危機感のあらわれだった。
12年前の参院選に敗れて退陣につながった「消えた年金」問題の悪夢がいまだに安倍首相を脅かしているのだろうか、6月10日の参議院決算委員会で久しぶりに答弁に立った安倍首相はなんと、年金への信頼がますます強固になっていると主張した。
蓮舫議員 「100年安心がウソだったと国民は怒っている」
安倍首相 「年金100年安心はウソではない。今年度においてはマクロ経済スライドも発動された。それでもなおかつ年金受給額は0.1%の増額改定となった。積立金も6年間で44兆円の運用益が出ており、公的年金への信頼性はより強固になったと考えている」
安倍首相がマクロ経済スライドなる用語を使いながら説明する「100年安心」とは何か。日本年金機構のサイトに以下の説明がある。
平成16年(2004年)の年金制度改正によって導入された、賃金・物価による改定率を調整して、緩やかに年金の給付水準を調整する仕組みです。具体的には、賃金・物価による改定率がプラスの場合、当該改定率から、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出した「スライド調整率」を差し引くことによって、年金の給付水準を調整します。
これでは何のことかよく分からない。要するに、保険料を負担する現役の人たちが減り、受給する高齢者が増えるのに、賃金・物価の上昇に比例して受給額を上げるのではお金が足りなくなるので、実質的に受給額が下がっていくよう調整するということである。その制度改正が04年に行われた。
そしてさらなる受給額抑制策を導入したのが2016年に成立した年金改革法だ。物価上昇より賃金上昇が下まわる場合、賃金変動に合わせて受給額を調整するのがミソである。これにより、物価に関わりなく現役世代の賃金が下がれば、年金受給額も減少することになった。
現役世代が払う年金保険料は2017年まで段階的に引き上げ報酬月額の18.3%で固定されている。もらえる年金はモデル世帯で現役世代の手取り収入の50%を確保することになっている。
これをもって、自公両党は「100年安心プラン」と称してきたが、実質賃金は、安倍政権が誕生した2012年以降、インフレ誘導政策もあって顕著に下がり続け、これにともなって、実質的な年金受給額も落ちている。
その傾向は今後も続くと見られるからこそ、「金融審議会市場ワーキング・グループ」の報告書に次のような記述があるのであろう。
公的年金の水準については、今後調整されていくことが見込まれているとともに、税・保険料の負担も年々増加しており、少子高齢化を踏まえると、今後もこの傾向は一層強まることが見込まれる。
年金の水準は下がっていくと見込まれるから、「自助」が必要というのだ。
安倍首相が蓮舫議員に反論した「100年安心はウソではない」の本当の意味は、年金制度の維持についての安心であって、年金があれば安心して国民が暮らしていけるということではない。それを、ごちゃまぜにして「安心」という言葉でごまかすから、ウソだったと言わざるをえないのである。
21人で構成される金融審議会市場ワーキング・グループの大半は投資や金融を専門とする企業人や大学教授らだ。年金不安を利用して投資に誘導する目的は明らかであるにせよ、年金の水準が低下していくのは、二度の“年金改革”に埋め込まれた仕組みから見通せるわけで、そこにさほどウソはないだろう。
選挙を前に痛いところをつかれた自民党の萩生田光一幹事長代行は記者会見で「不安や誤解を広げるだけの報告書であり、評価に値しない」と述べ、林幹雄幹事長代理が国会内で金融庁幹部に撤回を要求したという。
麻生大臣も今になって、せっかく長い議論の末にまとまった報告書の受け取り拒否を決めた。「世間に著しい不安や誤解を与えており、これまでの政府の政策スタンスとも異なる」というのが、その理由だとか。
あの麻生節はどこへ行ったのか。政策への信念はまるでなく、選挙への影響を恐れ、あわてふためいて態度を変える姿はまことに見苦しい。 
「100年安心な年金」はどこにいったのか 6/14
金融庁の金融審議会が6月3日に「高齢社会における資産形成・管理」の報告書を発表しました。これは金融審議会・市場ワーキング・グループにおいて、2018年9月より、計12回にわたり、「高齢社会における金融サービスのあり方」など「国民の安定的な資産形成」を中心に検討・審議を行い、とりまとめられたものです。
報告書の原文にはこうあります。
「夫 65 歳以上、妻 60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ 20〜30 年の人生があるとすれ ば、不足額の総額は単純計算で 1,300 万円〜2,000 万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支 出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる。重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。それを考え始めた時期が現役期であれば、後で述べる長期・積立・分散投資による資産形成の検討を、リタイヤ期前後であれば、自身の就労状況の見込みや保有している金融資産や退職金などを踏まえて後の資産管理をどう行っていくかなど、生涯に亘る計画的な長期の資産形成・管理の重要性を認識することが重要である。」
そして、年金だけでは老後の資金を賄うことができないため、95歳まで生きるには夫婦で2,000万円の蓄えが必要になるとして、そのため現役期から「つみたてNISA」や「iDeCo」などを用い、資産形成するように促しています。
かつて政府は「年金100年安心プラン」を謳っていました。2004年当時の小泉純一郎首相によって、国庫の負担を増やし、支払う年金額を抑える仕組みを導入し、更に現役世代が支払う年金保険料を13年間、段階的に引き上げることにしました。そしてこうした“痛み”に耐えれば年金は安泰だと、太鼓判を押していた筈です。
これがガラリと変わり、「100年安心」ではないのだと。
「暮らしていける公的年金を保障するのは国の責任。その信頼関係があるから、高い保険料を国民は払ってきた。それを年金だけでは暮らせないから自分で投資して資産をつくれたとは何だ」と国民が怒り・批判するのは当たり前ではないでしょうか。
わたしたちの年金は、いったいどうなってしまうのだろうか。高い保険料を支払い続けている国民に誠実に説明するのは、政府の義務です。徹底的に議論するのは、国会の役割です。
公明党の「年金100年安心プラン」
様々な世論調査を見ても、政府が最優先で取り組むべき課題として、「景気対策」と並んで「年金や医療など社会保障政策」が挙げられています。特に「年金制度」は高齢者だけでなく、子どもから働き盛りのすべての国民にとって重要な課題です。若い人々の中には年金など将来もらえる訳がないとして全く払わない方も多いようですが、これはとんでもない誤りです。基礎年金は確かに給付額としては満足のいくものではありませんが、これを掛けておかなかったために働けなくなってから苦しんでいる人も多いのです。また働ける時に十分な貯蓄をしてその元本と利息だけで老後を食べていけるような人は極めて稀でしょう。経済が低成長の時代こそ、高齢社会を安心して生きてゆけるように、みんなで助け合う年金制度を維持する必要があります。
公明党と坂口厚生労働大臣はこのような観点にたって、100年先までを展望した「年金100年安心プラン」を提案致しました。マスコミはこれまで旧厚生省の年金改革案に対して抜本改革先送りであると批判的でしたが、今回の坂口試案についてはなかなか評価をしているようです。それは坂口大臣がこれまで役所が絶対手をつけなかった「年金積立金」(147兆円)を取り崩し、将来の世代が受け取る年金額の底上げに使うことを認めさせたからです。取り崩す最大の理由は、「団塊の世代とその子どもたちの年金受給が終わる2060年ごろまでの年金財政が最も苦しいので、その時に積立金を給付費に使いたい」からです。同プランではこの積立金を2100年時点で1年分約25兆円が残るようにします。
これは大変な抜本改革です。坂口大臣と役所との激しい対立もありました。しかし、これによって年金の給付水準を「現役世代の平均収入の50%以上、できれば55%程度」を確保できるわけです。現在の水準は59%です。積立金を維持する従来の方式だと、少子化が現状程度(1.39)なら現役平均収入の52.8%、少子化が進行した場合(1.10)は47.8%と給付が5割を割り込んでしまいます。一方、積立金を使う同プランでは、少子化が進行しても51.2%、少子化が現状程度であれば54.5%を確保できます。なお同プランでは政府は5年ごとに向こう95年間の年金財政を見直して計画を作り直し、2100年以降も積立金が底をつかないようにします。
さらに同プランでは、厚生年金は保険料を将来も「年収の20%以内(労使折半)」に抑えること、国民年金は国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げ、将来も納めた保険料の1.7倍以上の年金が受けられる「月1万8千円台までにとどめる」ことにします。このような「保険料固定方式」によって負担が過度にならないようにします。
これらの改革によって、少子高齢化が進んでも年金水準が下がらないようにすることができ、将来世代ほど年金給付が減るとの国民の不安(世代間格差)を和らげることができるのです。 
 
 
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小池知事「現実考えるチャンス」2000万円報告書 6/15
東京都の小池百合子知事が14日、会見を行い、95歳まで生きるには夫婦で2000万円の蓄えが必要だと試算した金融庁金融審議会の報告書について触れ、「ある種、現実を考えるいいチャンスになったのでは」と話した。
2000万円の数字について「ざっくりした試算のようなものの数字が、一人歩きしたと思う」と推測した。
麻生太郎金融担当相は正式な報告書としては受け取らない意向を示唆。自民党の森山裕国対委員長は「報告書はもうない」と話すなど、異例の展開が続いている。「審議会の方々はご苦労さまだと思うし、(報告書が)なくなってしまうと、審議会メンバーを引き受けてくださる方が今後いるのかなと危惧(きぐ)した」としながらも「むしろ、あらためて生活の基盤どうなっているか、老後どうするか、あらためて考えるいいチャンスになったのではと率直に思う」と、前向きに受け止めていた。 
老後資金「2000万円騒動」の本質 6/15
95歳まで生きると、公的年金以外に2000万円の資金が必要であるという金融庁の金融審議会の報告書が、政府や与野党から総攻撃を受けている。
閣内や自民党幹部らが「誤解を与える」「国民に不安を抱かせる」などと激しく批判すると、担当閣僚である麻生太郎副総理兼財務相は報告書の受け取りを拒否してしまった。
しかし、この騒ぎ方は明らかに間違っている。問題の本質は現在の年金制度のままで将来、高齢者は安心して生活できるのかどうかということであり、正直に推計した報告書がけしからんというのは、真実を隠せというに等しい。
そもそも金融庁は年金制度を担当する役所ではない。報告書は、年金だけでは毎月の生活に不足額が生まれるから、一人ひとりが長寿に備えた資産の形成や管理に取り組む必要があることを指摘したうえで、金融機関などはこうした社会的変化に適切に対応するため、「金融商品、金融サービスを提供することが要請されている」と強調している。
力点は、所管する金融業界に対して、高齢化時代に対応した商品開発を求めることに置かれており、金融庁本来の役割を踏まえたまっとうな提言といえる。
ところがその中の2000万円足りなくなるという部分だけが切り取られ、大騒ぎになっている。
理由は単純だ。7月に参院選を控えたこのタイミングで、高齢者を不安に陥れるような話を政府が発信するのでは、与党に不利な材料になるからだ。自民党にとって高齢者は今や最大の票田である。この票が逃げてしまわないよう、幹部総出で必死に火消しに走っている。
しかし、おかしな話である。そもそも公的年金制度は高齢者の生活に必要なお金を100%賄うという設計にはなっていない。ところが自民党の反応を見ていると、政府が何もかもすべて面倒を見るという、できもしないストーリーを国民に信じ込ませたいのだろうかとさえ思えてくる。
急速に進む高齢化社会を前に、年金、医療、介護などの社会保障制度が安定的で維持可能なものになるよう抜本的な制度改革の必要性が言われて久しいが、遅々として進まない。わかってはいるのだが、政府も与野党も積極的に改革に取り組もうとはしない。
その理由は明らかだ。今、政府がとりうる社会保障制度改革は、高齢者の負担を増やすか、政府の提供するサービスを減らす以外の道はない。そんなことをすれば、高齢者のみならず年金生活予備軍の50代後半以降の世代からも反発を買いかねない。ゆえに痛みを伴う改革には触れたくない、あるいはできるだけ遅らせたい。これは形を変えた現代版「利益誘導政策」である。
そもそも自民党は1955年の結党以来、利益誘導を武器に政権を維持してきたと言ってもいい政党だ。高度経済成長初期の時代には、田中角栄氏に象徴されるように日本中に新幹線や高速道路を造ったり、さまざまな公共事業を行うことで有権者の支持を獲得、維持してきた。
自民党を支持する医師会や建設業界、農協などの業界団体が集票力を増すと、業界団体と自民党と官僚組織が強く結びついた「政官業の鉄の三角形」と呼ばれる政権維持の仕組みが確立され、予算や補助金を業界に流すことで強固な権力基盤を構築した。
こうした利益誘導による権力維持を可能にしたのが経済成長だった。経済が成長することで税収が入り、それを原資に予算を増やし続けることで、支持団体への利益誘導が可能になったのだ。
ところが1990年代初めのバブル経済崩壊で、この仕組みが維持困難になってくる。経済成長が止まり、かつてのような税収増がなくなってしまった。しかし、その後も自民党政権は予算を増やし続けてきた。足らざる財源を赤字国債で賄ってきたことは言うまでもない。
同時に、自民党を支えてきた業界団体などの弱体化も始まった。価値観の多様化や生活様式の変化などで企業や組織に対する人々の帰属意識が弱まってきた。その結果、いわゆる組織票が急速に減り、自民党は業界団体を当てにした選挙ができなくなったのである。
そこで新たなターゲットの1つになったのが高齢者だ。2017年の総選挙の投票結果を見ると、世代別投票率は20代が30%台、30代が40%台、40代が50%台、50代が60%台、そして60代が70%台と、きれいに右肩上がりとなっている。有権者数も釣り鐘型の人口構成を反映して、高齢者に比べて若い世代は少ない。
つまり政党にとって高齢者世代は最大の票田となったのだ。選挙に勝つため、高齢者にターゲットを絞り、年金や医療、介護などの制度を優遇する個人給付型の利益誘導を打ち出した。それが「シルバー民主主義」と呼ばれる高齢者に手厚い政治である。
しかし、この現代版利益誘導政治が大きな問題を抱えていることは言うまでもない。かつてのような経済成長という原資がないにもかかわらず、バブル経済崩壊後も果てしなく財政拡大路線を続けている。その結果は、財政の危機的状態である。
昨年11月に財政制度等審議会が出した「平成31年度予算の編成等に関する建議」は、一般政府債務残高が対GDP比238%に達したという数字を挙げて、「平成という時代は、こうした厳しい財政状況を後世に押し付けてしまう格好となっている」「将来の世代はそのツケを負わされ、財政資源は枯渇してしまう。悲劇の主人公は将来の世代であり」などと徹底した政府批判を展開している。
金融庁の報告書よりはるかに手厳しい内容だが、政府、自民党内では議論の対象になるどころか、完全に無視された。ちなみにこの建議も麻生氏に提出されたが、こちらは受け取りを拒否されたとは聞かない。
実は同じことが野党に対してもいえる。金融庁の報告書に対して野党は「政府が約束した100年安心が嘘だった」などと批判している。中には参院選を意識して、「2000万円ためなきゃいけない政治か、ためなくても安心して老後を預けられる政治か、どっちを選ぶかだ」という声も出ている。これも高齢者に対する利益誘導という点では自民党とまったく同じ発想でしかない。
日本の場合、与野党ほとんどの政党が積極財政をうたう「大きな政府志向」で、その点では差がない。そればかりか2009年に政権を獲得した民主党の場合は、自民党以上のバラマキ政策を展開し、過去最大の赤字国債を発行したことは記憶に新しい。
つまり、与野党は一見、対立しているように見えるが、政策の本質は同工異曲で、どちらも「財源なき利益誘導」を掲げている。
かつては日本にも骨のある政治家がいた。オイルショックの後遺症が残る1975年、時の大平正芳蔵相は2兆円の赤字国債発行に踏み切ったが、そのことを恥じて「万死に値する」と悔いた。そして、後に首相になったとき、一般消費税の導入を試みた。
ところで報告書で2000万円が必要になるとされたのは夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のケースである。それより若い世代については具体的な数字を挙げていない。しかし、寿命が延びる一方で年金額が増える見通しはないのだから、若い世代の必要額は2000万円以上になることは間違いない。これも見過ごせない問題である。
とになるだろう。そして、参院選が終わるまで社会保障制度の改革についての政府内の議論は凍結される。財政の深刻さや社会保障制度の抱える問題を語らず、利益誘導の競演を展開する。まさに政治の貧困である。 
"老後2000万円"で解る安倍政権の不誠実 6/15
「年金だけでは不十分」は世間の常識だ
老後の資産形成について「2000万円必要になる」とまとめた金融庁の報告書をめぐって与野党の攻防が続いている。沙鴎一歩はこの報告書は、金融庁の本心から出た内容だと考えている。つまり老後に豊かな生活を送るためには、年金だけでは不十分だということだ。
しかしそんなことは金融庁に言われるまでもなく、これまで散々指摘されてきたことだ。なぜ安倍政権はこの報告書について「受け取らない」などといっているのか。
報告書は「高齢社会における資産形成・管理」と題し、首相の諮問機関の金融審議会の作業部会が6月3日に公表した。金融庁が金融審議会の事務局を務める。金融庁審議会のもとに設けられた有識者会議のひとつである、市場ワーキング・グループ(大学教授や金融機関の代表者ら21人の委員で構成)が昨年9月から12回、議論を重ねた後、金融庁内部の了承を得てまとめ上げた。
高齢化が進むなか、個人が備えるべき資産や必要な金融サービスについて安定的に資産を築けるようにすることが審議会の狙いだった。
与野党が問題にしているのは、報告書が「収入が年金中心の高齢夫婦の世帯は、収入よりも支出が上回るため、平均で毎月5万円の赤字になる。老後30年間これが続くと、2000万円が必要になる」と試算し、「赤字分は貯蓄などの金融資産から取り崩す必要がある。現役世代から長期の投資を行い、資産形成を進めるべきだ」と指摘している部分である。
「年金こそが老後の生活設計の柱だと思っている」
この部分に対し、野党から「国民の不安をあおっている。年金の『100年安心』はうそだったのか」と反発の声が上がった。
諮問して報告書を求めた麻生太郎・副総理兼金融担当相は公表直後の4日の記者会見では「100歳まで生きる前提で自分なりにいろんなことを考えていかないと駄目だ」と話して報告書の中身を肯定していた。
しかし、参院選の争点にする野党の動きが出てくると、麻生氏は7日の記者会見で「貯蓄や退職金を活用していることを、あたかも赤字ではないかと表現したのは不適切だった。一定の前提で割り振った単純な試算だった」と修正した。
菅義偉官房長官も7日午後の記者会見で「家計調査の平均値に基づいて単純計算したものとはいえ、誤解や不安を招く表現であり、不適切だった。政府としては将来にわたり持続可能な公的年金の制度を構築しているので、年金こそが老後の生活設計の柱だと思っている」と話し、「100年安心の年金」を強調した。
100年安心は「年金額が変わらない」という意味ではない
麻生氏も菅氏もよくそこまでうそが言えると、沙鴎一歩は感心する。
支える現役世代が減り、支えられる引退組がますます増える少子高齢化現象が原因でこの先、年金財政が苦しくなることは目に見えている。それを少しでも食い止めようと、安倍政権は年金支給の繰り下げを国民に呼びかけ、70歳支給という繰り下げの選択肢が出てきたのである。
小泉政権下の15年前の2004年、「安心プラン」と銘打った年金改革によって、厚生労働省は現役世代の所得に対する年金支給額の比率を毎年、切り下げるシステムを作り上げ、それを着実に実行している。
年金が「100年安心の年金」というのも、年金の制度が長く続けられるという「安心」であって、もらえる年金額が変わらずに100年続くという「安心」ではない。
そう説明すればいいのに、なぜか「年金こそが老後の生活設計の柱」という言葉が出てきてしまう。国民が年金をどう考えているかを、理解していない証拠だ。
金融庁の報告書には「一部、目を通しただけ」
麻生氏は10日の参院決算委員会で立憲民主党の蓮舫参院幹事長に「報告書を読んだのか」と質問され、こんなすっとんきょうな答弁をしている。
「冒頭部分に一部、目を通しただけで、全体を読んでいるわけではない」
麻生氏はまるで庶民の気持ちを理解していない。趣味で好きな漫画本を読む時間があるのになぜ、仕事上の重要な報告書に目を通す時間がないのか。しかも報告書は自分が諮問したその答えのではないのか。
参院決算委員会終了後、蓮舫氏は記者団のインタビューに答えて「5分で読める報告書を読んでいなかったことに驚いた。報告書のどこにも『豊かな生活の額だ』とは書いていない。読んでいない人がめちゃくちゃなことを言っている。生活が苦しく、非正規雇用で頑張っている人たちに『お金をためろ』と上から目線で言うことができるのか」と強く反発する映像がテレビのニュース番組で流れたが、まさに彼女の指摘の通りだ。
さらに驚いたことに、麻生氏は11日、記者会見で「正式な報告書としては受け取らない」と述べた。審議会の報告書を担当の大臣が受け取らないというのは、聞いたことがない。異例である。これはどういう意味なのか。
「報告書がなくなったので、論点になりようがない」
麻生氏のこの発言を受け、自民党の森山裕国会対策委員長は11日の記者会見で、まず野党の求めている予算委員会の集中審議の開催について「報告書そのものがなくなった」として応じない考えを示した。さらに森山氏は参議院選挙への影響について「正式な報告書として受け取らない決定をしており、論点になりようがない」と答えた。
与党自らが勝手に「受け取らない」とし、その結果「報告書がなくなった」とか「論点になりようがない」と言うのは、何ともとぼけた話である。開いた口がふさがらない。
10日の参院決算委員会での安倍晋三首相の答弁も、年金の受給を受ける国民の目から見て納得のいかないものだった。
年金問題は安倍政権にとって鬼門
野党が「『年金制度は100年安心だと言っていたのはうそだったのか』と国民は憤っている」と攻撃すると、安倍首相は「不正確であり、誤解を与える内容だった」と釈明し、こう答弁していた。
『年金100年安心がうそだった』という指摘には、『そうではない』と言っておきたい。今年度の年金は0.1%の増額改定となり、現在の受給者、将来世代の双方にとってプラスとなるものだ。公的年金の信頼性はより強固なものとなったと考えている」
わずかな増額改訂を示し、「先細りが確実だ」と懸念される今後の年金制度に対する具体的解決策は示そうとしない。それでいて「公的年金の信頼は強固」と言うのだから、つじつまが合わない。野党が怒るのも無理はない。
なぜ、安倍政権は年金制度の問題を追及されるのを嫌がるのか。
第1次安倍政権の2007年に年金の杜撰管理問題が発覚し、自民党はこの年の参院選で大敗し、この大敗が尾を引いて安倍政権は退陣に追い込まれた。有権者の関心が高い、年金問題は安倍政権にとって鬼門なのである。年金管理問題は深刻で、いまだに2000万件もの年金記録の持ち主が不明で、宙に浮いた状態が続いている。
「不適切な表現だった」と問題をすり替えるのは間違っている
朝日新聞は6月11日付と13日付の2回、今回の年金報告書問題を社説に取り上げ、安倍政権を批判している。11日付の見出しは「『年金』論戦 まずは政府が説明を」だ。「安倍首相と全閣僚が出席する参院決算委員会がきのう開かれた」と書き出し、こう主張する。
「『年金は〈100年安心〉はうそだったのか』『勤め上げて2千万円ないと生活が行き詰まる、そんな国なのか』。野党の追及に、首相や麻生財務相は「誤解や不安を広げる不適切な表現だった』との釈明に終始したが、『表現』の問題にすり替えるのは間違っている」
「表現の問題へのすり替え」。その通りである。夏の参院選への影響を気にするあまり、お得意の答弁が出てしまったのだろう。
「制度の持続性の確保と十分な給付の保障という相反する二つのバランスをどうとるのか。本来、その議論こそ与野党が深めるべきものだ」
どの指摘ももっともだ。真に安心できる年金制度を構築するためには、経済が推移する節目節目で、「給付の保障」と「制度の維持」に対する柔軟な改革が求められる。その改革を実行するのが政治家だ。
政府の役割は、正確な情報を提示することだ
後半で朝日社説は書く。
「年金の給付水準の長期的な見通しを示す財政検証は、5年前の前回は6月初めに公表された。野党は今回、政府が参院選後に先送りするのではないかと警戒し、早期に明らかにするよう求めたが、首相は『政治的に出す、出さないということではなく、厚労省でしっかり作業が進められている』と言質を与えなかった」
参院選に圧勝して憲法改正にこぎ着けるという安倍首相のもくろみが透けて見える答弁である。
その辺りを朝日社説も見破り、「年金の将来不安を放置したままでは、個人消費を抑え、経済の行方にも悪影響を及ぼしかねない。財政検証を含め、年金をめぐる議論の土台となる正確な情報を提示するのは、まずは政府の役割である」と主張する。正論である。
議論を頼んでおきながら、風向きが悪くなると背を向ける
朝日社説の13日付の見出しも、麻生氏の報告書拒否表明を受け「議論避ける小心と傲慢」と手厳しい。
「報告書は、学者や金融業界関係者らが昨秋来12回の会合を重ねてまとめられた。金融庁が事務局を務め、会合は公開、資料や議事録も公表されている。そもそも麻生氏の諮問を受けて設けられた作業部会だ。議論を頼んでおきながら、風向きが悪くなると背を向けるのでは、行政の責任者の資格はない」
報告書は民間で活躍する有識者らが作り上げたものだ。最初、金融庁も麻生氏も支持した。それに突然「背を向ける」のはこれこそ、手のひらを返す以外の何ものでもない。
さらに朝日社説は主張する。
「麻生氏は『これまでの政府の政策スタンスとも異なっている』という。異論があるなら、受け取ったうえで反論すればいい。不正確なところがあるのなら、より正確なデータや解釈を示すべきだ」
正式な報告書として受け取らなければ、議論が始まらない。報告書に問題があるのなら、受け取ってうえで指摘すればいい。そうすれば突っ込んだ議論ができる。深い議論は、年金制度を維持しながら受給者への的確な年金額を決めていくうえで欠かせない。
国民は年金制度の厳しさから目を背けてはいない
朝日社説とは反対に安倍政権擁護に回るのが、産経新聞の12日付の社説(主張)である。
まず「老後『2千万円』 厳しい現実に目を背けるな」という見出しだ。この社説を書いた論説委員は違和感がないのか。
厳しい現実が分かるから、国民は憤っているのである。その現実を隠そうとした安倍政権に怒っているのだ。
有権者の怒りが参院選で爆発すると惨敗する。そう自民党はこれまでの経験から判断し、報告書の存在をなきものにしようとした。国民は年金制度の厳しさから目を背けようとはしてないからこそ、麻生氏らの答弁に怒りを感じたのである。
産経社説の見出しは上から目線で読者をこき下ろす。産経ファンを欺く、悲しい主張である。産経社説は序盤でこう書く。
老後資金の全てを賄えないことは誰もが理解している
「だが野党は、ことさらに公的年金と豊かな老後を送るための余裕資金を混同させ、不安をあおってはいないか。これが参院選を控えた戦術であるとすれば、あまりに不毛だ。これでは少子高齢化が加速する中で、国民の利益につながる老後のあり方について、建設的な論議など望みようがない」
野党が参院選を乗り切るために有権者の不安をあおっている。産経社説はそう言いたいのだろうが、報告書をまとめさせたにもかかわらず、それを受け取ることを拒否したことが今回の問題である。最初に参院選への影響を気にしたのは与党自民党の方だ。それを見て野党が攻撃材料に利用した。野党であれば当然の行為だろう。決して「不毛」には当たらない。
産経社説はこうも書く。
「野党は報告書について『〈100年安心〉は嘘だったのか』と揚げ足取りに終始している。だが公的年金は元来、老後資金の全てを賄う設計とはなっていない。この大原則は民主党政権時も同様で、知らないはずはない」
「老後に必要な資金額を紹介し、自助努力を促すことは本来、当然のことである」
老後資金の全てを賄えないことは誰もが理解している。しかし「自助努力を促す」という書き方にはうなずけない。
今回の産経社説の書きぶりは、安倍政権の代弁者のようで情けない。たとえ安倍政権であっても、「おかしい」と批判するのが、産経社説のいいところだった。読者はそんな醍醐味を味わいたくて産経社説を読むのだ。 
「老後2000万円」の衝撃 それでも慌てない人の“ほったらかし投資” 6/15
「今後、年金だけでは、夫婦で約2000万円も足りなくなる」。そんな驚きの試算が金融庁より発表され、世間に驚きを与えました。
「え? 今から2000万円を貯めるなんてムリだよ……」という絶望の声も聞こえてきますが、「この機会に、資産形成について改めて考えよう」と考えた人も多いのではないでしょうか。
そこで、日本屈指のファンドアナリストであり『貯金も節約もできない人でもお金が増える方法』著者の篠田尚子さんに、資産を増やすポイントを、初心者でもわかるよう教えてもらいました。
資金運用はスマホで100円から始められる
まだ始めたことのない人にとって、"資産形成"は、かなりハードルが高く感じるかもしれません。また、投資をするにあたっては、まとまった資金が必要なのではないかと思っている人もいるでしょう。
ところが、インターネットとスマートフォンの普及によって、近年このハードルがぐっと下がり、今やネット証券を使えば、100円から資産運用を始められるようになりました。まさに、この「ワンコイン投資」を実現できるのが、「投資信託」です。
投資信託とは、運用をプロにまるっとお任せできる金融商品です。
具体的には、ファンドマネジャーと呼ばれる運用のプロが、あらかじめ掲げた投資方針にのっとって、投資家から集めた資金を株式、債券、不動産などに分散投資し、その成果を最終的に投資家に還元するというしくみです。「投信」「ファンド」と呼ばれることもあります。
私たち投資家はというと、投資信託の購入後は基本的に「ほったらかし」にしておいて問題ありません。ですから、投資に詳しくない初心者でも安心して始められる資産形成術としてオススメしています。
海外では150年以上もの歴史を持つこの投資信託という金融商品ですが、近年は、日本でも、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)や、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)など、個人の資産形成を後押しする制度の拡充が進み、これらの制度と相性のよい投資信託にも注目が集まるようになってきています。
この投資信託とは、1つの投資信託を買うだけでたくさんの投資先に投資できる「詰め合わせ」の商品です。
株式だけ、債券だけに投資するタイプはもちろん、株式と債券の双方に投資するタイプのほか、不動産(リート)に投資する投資信託もありますし、ひと口に「株式だけに投資」といっても、日本の株式だけで構成されたもの、日本を含む世界の株式で構成されたものなど、さまざまな種類が存在します。
このように、なんらかの「詰め合わせ」になっている理由は、1つの投資信託の中で1つの銘柄だけ、あるいは、同じような値動きをする銘柄ばかり保有していた場合、相場環境が悪化すると、保有銘柄が一気に下落し、投資信託の成績も悪化してしまうからです。
このため、投資信託を運用するファンドマネジャーは、値動きの異なる複数の資産に投資をおこない、下落リスクを抑えます。これを、「分散投資」といいます。
私たち投資家は、投資信託という金融商品の「詰め合わせ」をまるごと保有することで、少ない資金でも、たくさんの銘柄に投資することができます。結果的にリスクを分散させることができ、効果的な資産運用が可能になるのです。
積立で投資信託のリスクを抑える
投資信託の失敗を避けるために実践していただきたいのが、「積立」(定時定額購入)です。毎月決まった日に、決まった金額で自動的に投資信託を買い付けていくというもので、日ごろ仕事にプライベートに忙しくしている方々にもぴったりの投資方法です。
投資信託のリスクは、完全に排除することこそ難しいものの、こうして買い方を工夫することで抑えることができます。
積立の効果について説明する前に、まずは投資信託の値段のしくみについて、簡単にご説明しましょう。
投資信託の値段は「基準価額(きじゅんかがく)」と呼ばれ、1日に1回公表されます。基準価額は、一般的に、1万口(くち)当たりの値段を指すことが多く、「1万口あたり1万円」から運用をスタートします。
すでに頭が「?」でいっぱいの方は、スーパーで売っているパックのお肉をイメージしてみてください。
一般的なパック詰めのお肉は、「100グラムあたり○○円」として売られていますよね。そしてその値段は、日によって変わります。
お肉の「100グラムあたり」の値段が日によって変わるように、投資信託の場合は、「口数(くちすう)」あたりの値段が運用の成果によって日々変動するイメージです。投資信託の基準価額は、日によって1万口あたり1万500円に上昇したり、9500円に下落したりするのです。
積立投資の場合、毎月の積立額は変わらないので、基準価額の変動によって購入口数が自動的に変わります。
基準価額が上昇すると購入できる口数は減少しますが、基準価額が下落した場合は、より多くの口数を購入することができます。100グラムあたりの値段が下がると、同じ予算で多くのお肉を買うことができるのと同じだと考えてください。
このように、積立は、相場下落時の「心の拠りどころ」として重要な役割を果たします。市場環境が不安定になって、保有する投資信託の基準価額が大きく下落しても、「オトクに積立できている」と、気持ちを切り替えることができるからです。
また、積立投資のメリットとしてはもう1つ、基準価額の下落時であっても自動的に積み立てられることで、平均買付単価を下げられるという点があります。
積立を続けていく過程では、どうしても、基準価額が高いときも安いときも出てきます。一時的な値段の上下に振り回されず定額を積み立てていくことで、長い目で見ると、平均買付単価をならすことができるのです。
積立投資を成功させる2つの秘訣
積立効果は「種まき」が何よりも重要
では実際に、積立投資をおこなった場合、どのように投資資金が積み上がっていくかをみてみましょう。
図は日経平均株価(日経225)に連動した投資成果を目指すAファンドを、毎月1万円ずつ、2009年3月から2019年2月までの10年間(120カ月)積み立てていた場合のシミュレーションです。
図を見てもわかるとおり、積立開始から44カ月目にあたる2012年10月末時点まで、実際の投資額に対して、運用資産の評価額はなかなかプラスになりませんでした。
しかし、その後2012年11月にプラスになってからは、評価額が完全に「黒字化」し、順調に資産が積み上がっていることがわかります。
このように、積立というのは、始めてすぐに利益が期待できるものではないものの、数年間にわたってコツコツと「種まき」を続けることで、「開花」後は順調に資産を増やしていくことができるのです。
保有する投資信託が下落したとき、不安に感じるのは、ごく自然なことです。しかし、相場の下落時に冷静さを失い、積立をやめてしまうと、結果として損失だけが残り、それまでかけてきた時間も無意味になります。
積立投資を成功させる秘訣は2つ。
1つは、時間を味方につけること。先ほどの日経225インデックスファンドの例にもあったように、積立投資は、効果を実感できるようになるまでに3年から5年程度の時間がかかります(半年から1年などの短い投資期間の場合、積立よりも一括購入のほうが相場上昇時に結果が出やすくなります)。
2つ目は、発想の転換です。相場下落時に「たくさん買えてオトク!」と思えるような発想の転換をすると同時に、日々の値動きに一喜一憂しない「鈍感力」を身に付けること。ほったらかしにできる人ほど、積立投資が成功しやすいのです。
絶対に使ったほうがオトクな公的制度
いざ投資信託で資産運用を始めようと思ったとき、まず考えるべきは、どの「器」で投資信託を購入・保有するかということです。
先ほども少し触れた通り、近年は、個人の資産形成を後押しする公的な制度が充実してきました。その代表格が、NISAとiDeCoです。
こうした制度、つまり、「器」の中で投資信託を保有すれば、自動的に節税メリットの恩恵を受けることができます。
まず、NISAとは、毎年一定金額の範囲内で購入した金融商品から得られる利益が非課税になる制度のことです。
2014年に導入された一般NISAは、年間120万円×5年間=合計600万円までの上場株式と投資信託の配当・譲渡益が非課税になります(通常は20. 315%の税金がかかる)。
対して、2018年に導入されたつみたてNISAは、その名の通り、積立を前提としているため、年間40万円の非課税枠を20年という長期間にわたって利用できる点が特徴です。ただし、対象商品は金融庁が定めた要件を満たす投資信託に限定されています。
NISAよりもさらに高い節税効果を期待できる制度としては、iDeCoがあります。
iDeCoは、国民年金や厚生年金といった公的年金に上乗せして、個人が任意で加入できる私的年金の一種です。
掛金が全額所得控除になるほか、NISAと同様、投資信託で運用し、運用益が出た場合は、その分も非課税になります。iDeCoは長期にわたって手厚い税優遇を受けられるのです。
日ごろはあまり意識しないかもしれませんが、資産形成と税金は、切っても切り離せない関係にあります。銀行の普通預金にただ預けているだけでも、実は利息に対して20. 315%の税金がかかっているのです。
投資信託や株式など、有価証券の配当・譲渡益(売却益)にも20. 315%の税金がかかります。20. 315%というと、1万円の利益が出ても、受け取れるのが約7970円。ですから、税負担を軽減できる制度は、最大限に活用したほうがよいのです。
何を隠そう、資産形成のプロである私も、野球観戦やライブへ行くことを何よりの生きがいにしている‟浪費型人間"です。だからこそ思います。「貯めるのが苦手なら増やせばいいのだ」と。
投資信託は、ワンコインで気軽に始められるから元手もいりませんし、リスクも調整できます。趣味にも私生活にもお金や時間を使いたいからこそ、「ほったらかし」にできる投資信託を最大限に活用しています。
せっかくのお得な制度があるのですから、みなさんもぜひ活用して、着実に資金を増やしてください。  
 6/16

 

年金問題、不足の”2000万円”は遊ぶためのお金? 6/16
与野党が論戦を繰り広げている、金融庁の"老後2000万円不足"報告書問題。
14日の衆議院財務金融委員会で立憲民主党会派の大串博志議員に「選挙がやばいと思って焦って火消しに走って、権限もあるかどうかもはっきりしないのに、受け取らないことにした」「隠蔽工作をやってる。そういうことじゃないか?」と追及された麻生財務大臣「全く違うと思う」「選挙向けのパフォーマンスとご指摘なさりたいようにお見受けしたが、私どもとしてはそんなつもりは全くない」と否定した。
3日に報告書が発表された当初は「きちっと今までの年金制度があるわけだから」「(不足しているなら)自分なりにいろんなことを考えるということをやっていかないとダメだし」とコメント、自助努力が重要だとする報告書の内容に肯定的な発言をしていた麻生大臣。しかし報告書が批判を浴びると「貯蓄や退職金を活用してというということが、あたかも赤字なんじゃねえかという表現をしたというのは、あれは表現自体が不適切だったと思う」(7日)と釈明。さらに「これまでの政府の政策スタンスとも異なっているので、担当大臣としては、これは正式な報告書としては受け取らない」(11日)と明言した。
この問題について、元経産官僚の宇佐美典也氏はツイッターで「『結局のところ一番の割りを食うのは、高齢者側じゃなくて、金利も遺産もなく莫大な政府負債だけが残されてそのリスクコントロール長期期間しなきゃいけない俺らの世代じゃね』ってことです」と指摘した。
実際、報道などでは定年から95歳までの30年間で不足額の総額が単純計算で2000万円が不足するという点ばかりがクローズアップされているが、報告書を取りまとめた「市場ワーキング・グループ」の議事録をひもとくと、「団塊ジュニアから先の世代は月々の赤字は5.5万円ではなくて10万円ぐらいになってくるのではないか」との発言も見られる。つまり現在40代以下の人々の場合、単純計算で10万円×12カ月×30年=3600万円が不足するということになっているのだ。
作家の乙武洋匡氏は「100年安心というネーミングにマスコミも国民もが安易に乗っかって、幻想でここまで来てしまったという問題もある。報告書に書かれていた内容は別に目新しいものではなく、もともとわかっていたこと。何を今更大騒ぎしているのか、というのが第一印象。政府の対応についても、野党にワーワー言われたからといって態度を変えたり、受け取りませんと言ってしまったのはなぜなのか。麻生さんも最初の姿勢で一貫していた方が、こんな大きな騒ぎになっていなかったのではないか」、紗倉まなは「負担が大きくなるということもわかっていたし、未来に支払っている感覚はもうなかった。年金だけで生活しようと思っている人はそんなにいないんじゃないかと思うが、2000万円という数字がドンと突きつけられた時に不安が大きくなるというのは分かる気がする」とコメント。
また、ウツワ代表のハヤカワ五味氏は「私の同世代はちょうど社会人になりたてだが、奨学金の返済も含めると、手取りで月々15万円いかないくらいでやりくりしている人も多いと思う。どういう生活をする設定なのだろうかと思っていた」と感想を述べた。
こうした疑問に対し、宇佐美氏は「完全に見出しが炎上した形だ。30年で2000万円、月に5.5万円が足りないという話だが、そもそもそこに間違いがあるというところから入りたい」とし、次のように説明した。
「金融庁の報告書に出ている、収入が約20万のうち19万が社外保険給付で、支出が26万だから5.5万円足りないという夫妻のモデルケースは、総務省の「家計調査」(2017年)を元にしている。この支出の内訳を見てみると、教養娯楽費と、その他の消費支出が合わせて8万円となっている。その他の消費支出というのは、飲み代、小遣い代、仕送り代、タバコ代などだ。つまり基本的には足りているが、もっと遊びたい。5.5万円足りない、主張しているということだ。ふざけるな、生活できるじゃないか、遊ぶ金くらい自分で稼げと言いたい。そこに金融庁が"もっと投資してください"みたいなことを言うために表現したというのも問題だ」。
その上で「今の世代はお金があるから年金以上の消費をしているけれど、僕らの世代はそうじゃない。金利もなく、お金を預けても増えていかないんだから、今の世代みたいに月8万円くらい遊びたいならちゃんと運用してください、株を買ってください、そういうことを書いた報告書。だから至極真っ当。さらに言えば、所得代替率といって、いま年金をもらっている世代は現役時代に稼いだ額の大体63%がもらえる。政府の見解では、今後それは下がるが、50%以下にはしないとなっているが、試算のうち最も低い見通しでは33%くらいまで下がる。そもそも"100年安心"というキャッチフレーズも、100歳まで生きられますよという意味ではなく、想定通り運用ができれ100年間は年金制度が持つという意味。当時から年金だけで暮らせるとは言ってない。だから年金で遊んで暮らしてる人たちは文句を言うな、負担するのは働いてる俺らなんだぞと言いたいし、ちゃんと報道してくださいと思う」と訴えた。
ZOZO執行役員の田端信太郎氏は「麻生大臣が言っていた"自助努力"って、"宿題やりなさいよ"ということだと思う。いずれにせよ年金だけではあまり良い生活ができなくなりそうだということは分かりきっているし、先生から"それに向けて宿題やろうね"と言われたのに、生徒たちが"宿題やりたくねえ"とか"やれねえ"とか言って、生徒会も"そうでしょ、みんな!そう思わない?"とか言って、それが過半数とっちゃったような状態。でも、宿題やらなくていいのかっていう。そうやって煽りにかかってるのがおかしいなと思う。宿題やらない大人が居直って、それが多数派になると通っちゃうような民主主義ってどうなんだろうか。困るのは先生ではなく、生徒だ」と指摘。宇佐美氏は「その宿題を出されたのは、実は僕らの世代。それなのにモンスターペアレントが騒いで、僕らの世代の宿題を無くそうとしている」と話していた。 
 
 

 

●年金「100年安心」発言録
『政府といたしましては「100年安心」と謳ったことはありませんが・・・』
2009年3月31日の衆議院本会議における舛添厚生労働大臣の発言で、一過性ながらも再び「100年安心」という言葉がクローズアップされました。
年金「100年安心」は、与党が2004年の年金法改正時において喧伝してきたことで、その意味は、100年後であっても現役の平均手取り収入の50%の年金給付水準を確保するというものです。
今でこそ「100年安心」と発言する与党議員はいなくなりましたが、当時の厚生労働大臣、厚生労働副大臣は確かに「100年安心」あるいはそれに準ずる発言をしていました。(あるいは慎重、否定的な発言も)
このページでは、その「100年安心」発言をピックアップし、改めて再確認してみようと思います。
  2004
自民党 森英介厚労副相(当時)「100年後でも絶対大丈夫」
『給付水準の下限とした50%を上回る見通しとなっておりまして、以上をもちまして、100年後でも絶対大丈夫ということを申し上げます。』
これは、2004年(平成16年)4月7日の森英介厚生労働副大臣(当時)の発言です。「絶対大丈夫」と断言し、さらなる念押し質問にも「そのとおり」だと認めています。
衆議院厚生労働委員会 平成16年(2004年)4月7日
○長勢委員 / (略)今回の改革によって百年間は大丈夫なんだ、絶対もらえるんだ、こう政府はおっしゃっておられるわけで、そのとおりだと思いますけれども、残念ながら、国民の方々は、本当かねと、必ずしも十分信用しておるという段階には至っていないというのが本当ではないでしょうか。やはり、これだけは、ただ大丈夫だ、大丈夫だと言っていたってなかなか信用してもらえない、今までの実績がありますから信用されないわけで、ここはひとつ、百年間大丈夫だというのを明確に、具体的に説明して、国民の方々もわかるように、安心させてやっていただきたいと思います。
○森副大臣 / 今回の年金制度改正案のポイントは、先ほども申し上げましたとおり、まず、五年ごとに給付と負担を見直すのではなくて、将来の負担が過大とならないように極力抑制しながら、一方で、将来の負担の上限と給付の下限を法律上明らかにしております。また、急速な少子高齢化が進行する中で、年金を支える力と給付のバランスをとることができる仕組みに転換をいたします。また、課題でありました基礎年金の国庫負担割合についても、引き上げの道筋をお示ししております。こういったことによりまして、年金制度が将来にわたって高齢者の生活の基本的部分を支えるという役割を果たすことのできる持続可能な制度設計ができたというふうに自負をしておりまして、今回の改革は大変大きな意義があると思います。その結果として、現在生まれた子供がほぼ受給を終える二一〇〇年までの約百年間の財政バランスをとることといたしておりまして、将来推計人口の中位推計や、実質賃金上昇率が二〇〇九年度以降年率一・一%など、一定の人口や経済などの前提のもとでは、将来の保険料を一八・三%に固定いたしまして、社会全体の年金を支える力に応じて年金額を改定する新しい仕組みとなっておりますので、調整後の給付水準は、平成三十五年度、すなわち二〇二三年度以降五〇・二%を確保でき、給付水準の下限とした五〇%を上回る見通しとなっておりまして、以上をもちまして、百年後でも絶対大丈夫ということを申し上げます。
○長勢委員 / これからの、少子化なりそういういろいろなファクターのそれなりに慎重な水準を推計して、それに合わせて今回の改正をやれば、そういう事態が生じても百年間は大丈夫なように設計をしてある、こういうことでありますね。(森副大臣「そうです」と呼ぶ)もうちょっと力強く言っていただけませんかね。
○森副大臣 / そのとおりでございます。
 2004
公明党 坂口力厚労相(当時)「100年安心にしていくという案を作った」
『100年安心にしていくという案を作ったわけでありますから、それに向かって政策努力を重ねていくということが与えられた課題であると思っております。』
これは2004年6月1日の坂口力厚生労働大臣(当時)の発言です。推測ですが、「100年安心の年金」だと断定するわけにもいかず、かといって100年は希望だと認めるわけにもいかず・・・何とか実現可能なプランだということを示したいという苦しみを感じます。
衆議院厚生労働委員会 平成16年(2004年)6月1日 議事録抜粋
○柳田稔君 / 抽象論で答えられると分かりづらいので、もう一回簡単に聞きます。今回の年金改革というのは百年安心だと今でも思われますか。
○国務大臣(坂口力君) / 百年安心にしたいと思っております。
○柳田稔君 / 希望で百年安心、そうおっしゃってくれると僕らも分かるんです。ところが、先日、山本議員が質問に立ったときに、自由民主党、公明党、パンフレットがありましたね、その一ページ目に百年安心と書いてあったんですよ。それを見られた人は、ああ、百年安心なんだ、大丈夫なんだと思いますね、普通の人だったらですよ。大臣、今でも本当に百年大丈夫だと、希望じゃないですよ、安心だといって胸を張って言えますか。
○国務大臣(坂口力君) / 世界経済、これからどういうふうになっていくかというようなことは、それはもちろんあるわけでございますから、それはなかなか言いにくいところでございますけれども、しかし百年安心にしていくという案を作ったわけでありますから、それに向かって政策努力を重ねていくということが与えられた課題であると思っております。
 2006
公明党 赤松厚生労働副大臣(当時)「ある意味で選挙戦術的な側面も」
平成18年5月26日厚生労働委員会における赤松厚生労働副大臣の発言です。
衆議院厚生労働委員会 平成18年(2006年)5月26日
○高木(美)委員 / 私は、いい機会ですので、これは赤松副大臣に質問させていただきたいのですが、こうした社会保険庁の事件がさまざま出てまいりますと、必ずそこで国民の皆様から出てくるお声は、だから年金は危ないじゃないか、だから払いたくない、そういう意識をお持ちのお声でございます。私は、最近、年金財政も、運用も好調であると聞いておりますし、予定どおりのプログラムで進行していると伺っております。こうした点の状況と見通しにつきましてお伺いをさせていただきたいと思います。あわせまして、やはり、年金は危ないというのはもう今般当たらないのだ、百年安心なのだから安心なのだ、お約束したものは大丈夫なのだ、この点も再度はっきりと明言をお願いしたいと思います。
○赤松副大臣 / 高木委員御承知のように、年金制度につきましては、平成十六年、今から二年前の改正におきまして、四つの柱、保険料の上昇をできる限り抑制しつつ上限を固定する、また、保険料水準の範囲内で給付水準を自動的に調整する仕組みの導入、また、三つは、基礎年金の国庫負担割合の引き上げ、四つは、積立金の活用、こういったものを一体的に行って、長期的な給付と負担の均衡を図って、持続可能な制度を構築したわけでございます。
そういう流れの上に今あるわけですけれども、今委員御指摘のように、年金財政に影響を与える要素というのは、プラスもマイナスも両方、さまざまな要素があると思います。例えば、マイナスといえば出生率の低下ということがありますけれども、一方で、景気の回復ということを背景にいたしまして高い運用利回りが確保されている、あるいはまた厚生年金の被保険者数が増加している、こういった年金財政上のプラス要因もある、こういうふうなことが指摘できると思います。
年金制度につきましては人の一生にわたる長期の制度であって、年金財政の見通しにとっては人口や経済の長期の趨勢がどのようになるのかが重要だ、こういうことが言えるわけでございまして、今後の流れの中で、少なくとも五年に一回財政状況の検証を行いながら、年金制度の安定を確保してまいりたい、こんなふうに厚生労働省としては思っております。
今、年金百年安心プラン、こういうことで、国民の皆さんは年金に対して安心をしていたはずなのに、それに対してさまざまな要素があってそれに不安を持つ向きがある、こういう御指摘であります。あの選挙に向けてさまざまな、与野党入り乱れての選挙戦の流れの中で、私は、百年安心プラン、よく言ったなという、いろいろな意味を含めて、ある意味で選挙戦術的な側面もありますけれども、しかし、ちょうど百年どうこうは別にして、長期にわたって安心できるという意味合いにおいて、私は適切な目標だったろうと思います。それに向けて、先ほど来申し上げておりますように、しっかりと検証しながら、確実にやっていけば大丈夫である、こんなふうに思っておる次第でございます。
 2007
自民党 野田毅議員「これはとてもじゃないが百年なんて」
平成19年(2007年)年2月1日衆議院予算委員会における自民党の野田毅議員の発言です。
与党議員なので一種のガス抜き発言?とも取れそうですが、3年前に発行された野田毅『消費税が日本を救う(PHP、2004年2月6日発行)』を読むとそんな軽い発言ではないことがわかります。
『年金制度改正の歴史は、負担増をなかなか国民に切り出せない政治家と、「社会保険」制度を維持したい厚生官僚らによる抜本改革の先送りの繰り返しだった側面があります。それは、社労族と言われる族議員だけの責任ではありません。私たち政治家全員の責任と言えます。今度の改正では、多少時間をかけても、少なくとも二十一世紀半ばまで見通した持続可能な制度をつくらなければなりません。』(67ページより抜粋)
衆議院予算委員会 平成19年(2007年)年2月1日
○野田(毅)委員 / これは、きょうこれ以上深く論議を進めるのは時間の関係上できませんけれども、ただ、なぜこうやって分野を限定したかというと、一つは、既存の借金返しのために消費税を引き上げることはしませんよという一つの意思表示でもある。それから、一般の、他の歳出をふやすために消費税を引き上げるつもりもありませんよと。やはり、使い道を限定させるということが大事なことだ。そしてそれは、反面で、こういった老後の社会保障の基礎的な部分について、過度の世代間の不公平をなくしていこうという要素も入っているわけですよね。これはもう当たり前のことです。そして、そのことによって長期的にこの社会保障制度を安定させることができるんじゃないか。私はこのことを頭に置いて、こういうことはなんですが、百年安心年金みたいなことを言っていましたけれども、これはとてもじゃないが百年なんて、出生率だってどう変わるかわからないし、経済成長率だってどう変わるかわからないのに、余り大きな声で言わぬのがいいんじゃないか、私はそう思いますよ。だから、それよりか、むしろこういう根本的なことを本当はこれから議論をしてほしいなということだけつけ加えておきたいと思うんです。
 2008-2009
自民党 舛添厚生労働大臣
舛添厚生労働大臣の発言ですが、下記のうち衆議院厚生労働委員会(平成21年(2009年)4月22日)の議事録が『百年安心プラン』の総括的内容となっています。
参議院予算委員会 平成20年(2008年)10月16日
○国務大臣(舛添要一君) / 百年の財政計算をしたということは申し上げたと思いますが、百年安心ということは政府は言ってないというふうに私は記憶しております。
衆議院厚生労働委員会 平成21年(2009年)4月10日
○舛添国務大臣 / これは、百年安心という、この旗を掲げてやっているのかということでありましたので、百年安心プランという旗があるかどうか、これを国会の議事録や何かで精査をさせました。その結果、国会の議事録を見る限り、百年安心プランという旗は公式に立てたという記録がないということで、公式的には政府が百年安心とうたったことはありません、そういう御答弁を申し上げました。
衆議院厚生労働委員会 平成21年(2009年)4月22日
○舛添国務大臣 / 私自身が百年安心という言葉を使っていないので、百年安心という言葉は使いたくないんですが、いずれにしても、持続可能な制度を目指すためには、いかなる制度であれ、必要な見直しは適宜行わないといけない。
 2009
自民党 麻生首相
下記は2009年(平成21年)4月27日の参議院本会議の答弁ですが、注目は質問の方にあります。
昨年の中央公論三月号・・・ということは、2008年3月の麻生幹事長(当時)の頃ですが、年金についての論文の中で「政府がどんなに百年安心とうたっても、自戒を込めて言えば、もはや信用する人はだれもいない」と論じています。
参議院本会議 平成21年4月27日
○中村哲治君 / 民主党・新緑風会・国民新・日本の中村哲治です。(略) さて、昨年、麻生総理は、中央公論三月号に年金についての論文をお書きになりました。以下、この麻生論文の内容と政府の方針やこれまでの答弁との比較を中心にして、年金関連法案について会派を代表して質問をいたします。平成十六年の年金法改正の特徴は、一つ、百年安心、二つ、年金給付水準は所得代替率五〇%以上、三つ、基礎年金部分の国庫負担は平成二十一年度までに引上げの三つでした。しかし、今年二月に発表された財政検証は十六年改正を覆すものでした。 麻生総理は麻生論文で、政府がどんなに百年安心とうたっても、自戒を込めて言えば、もはや信用する人はだれもいないのだとお書きになっています。これに対して、舛添厚生労働大臣は、三月三十一日の衆議院本会議で、政府といたしましては百年安心とうたったことはありませんと答弁なさっております。委員会でも同じです。麻生総理、政府は百年安心とうたってこなかったのでしょうか。麻生論文と舛添大臣の答弁のどちらが正しいのか、お答えください。次に、麻生論文の、もはや信用する人はだれもいないのだという部分についてです。(略)
○内閣総理大臣(麻生太郎君) / 中村議員の質問にお答えをいたします。(略) 次に、政府として百年安心をうたってこなかったのかというお尋ねがありました。私が総理就任前に執筆した論文は、平成十六年の制度改正の当時、世上においてそのように語られていたと記憶があったことから記述したものであります。政府として公式に百年安心をうたったことはありませんが、平成十六年の年金改正により、おおむね百年程度を見通して長期的な給付と負担の均衡が維持される仕組みとしたところであります。そうした持続可能な年金制度を確立するためにも、基礎年金の国庫負担の二分の一への引上げが不可欠であり、一刻も早い本法案の成立が必要だと考えております。

なお、麻生首相のサイト内には、中央公論へ投稿した「安心を取り戻すプラン(平成20年1月22日)」のリンクがあり、それによると『政府がどんなに「100年安心」と謳っても、自戒を込めて言えば、もはや信用する人は誰もいないのだ。年金制度はまさに「負のスパイラル」に陥っている。』(2ページ目より抜粋)と記されています。(論文は、問題提起だけではなく、財源を消費税(10%)に置いた税方式導入の年金改正案も展開されている。)
 
事実は答弁の通りなのですが・・・
ここまで「100年安心」に関する発言を見てきましたが、「1.舛添厚生労働大臣は100年安心という言葉を使っていない」ということは事実ですし、「2.政府として公式に「100年安心」とうたったことはない」という点も、平成21年(2009年)4月22日の衆議院厚生労働委員会議事録を読み込んでみると一応確かなようです。
しかし・・・
1・・・「私自身が100年安心という言葉を使っていないので」というコトバから自己保身のような雰囲気が感じられます。(組織の末端、社会保険事務所の年金窓口では、年金記録問題や組織の不祥事に関する苦情も日常的にあるものと思われますが、おそらく「自分が居ないときの話なのですが〜」「自分は関与していない話なのですが〜」などと断りを入れることなく、組織の一員として誠意を持って対応するのではないでしょうか。)
2・・・実態として政府公約と変わらないがごとく与党が「100年安心」というコトバを使っていたにもかかわらず、「100年安心」を追及されると「政府として公式に〜」と答弁。事実であることはわかっていても、逃げ口上にも聞こえてしまいます。  
 
 

 



2019/6
 
 
 

 

●金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書
   「高齢社会における資産形成・管理」
   令和元年6月3日 
「市場ワーキング・グループ」 メンバー名簿   令和元年6月3日現在
座 長
神田秀樹  学習院大学大学院法務研究科教授
委 員
池尾和人  立正大学経済学部教授
上田亮子  株式会社日本投資環境研究所主任研究員
上柳敏郎  弁護士(東京駿河台法律事務所)
鹿毛雄二  ブラックストーン・グループ・ジャパン株式会社特別顧問
加藤貴仁  東京大学大学院法学政治学研究科教授
神作裕之  東京大学大学院法学政治学研究科教授
神戸孝    FP アソシエイツ&コンサルティング株式会社代表取締役
黒沼悦郎  早稲田大学法学学術院教授
駒村康平  慶應義塾大学経済学部教授
島田知保  専門誌「投資信託事情」発行人兼編集長
高田創    みずほ総合研究所副理事長エグゼクティブエコノミスト
竹川美奈子 LIFE MAP,LLC 代表
佃秀昭    株式会社企業統治推進機構代表取締役社長
永沢裕美子 Foster Forum 良質な金融商品を育てる会世話人
中野晴啓  セゾン投信株式会社代表取締役社長
野尻哲史  合同会社フィンウェル研究所代表
野村亜紀子 野村資本市場研究所研究部長
林田晃雄  読売新聞東京本社論説副委員長
福田慎一  東京大学大学院経済学研究科教授
宮本勝弘  日本製鉄株式会社代表取締役副社長
オブザーバー
消費者庁 財務省 厚生労働省 国土交通省 日本銀行 日本取引所グループ 日本証券業協会 投資信託協会 日本投資顧問業協会 信託協会 全国銀行協会 国際銀行協会 生命保険協会  
 
●はじめに 

 

近年、金融を巡る環境は大きく変化している。例えば、デジタライゼーションの急速な進展により、金融・非金融の垣根を越えて、顧客にとって利便性の高いサービスを提供する者が出現している。こうした者の出現や低金利環境の長期化等の状況と相まって、金融機関は既存のビジネスモデルの変革を強く求められている状況にある。
こうしたなか、金融を巡る特に大きな背景の変化として挙げられるのが、人口減少・高齢化の進展である。わが国の総人口が減少局面に移行した中、長寿化は年々進行し、「人生100 年時代」と呼ばれるかつてない高齢社会を迎えようとしている。この構造変化に対応して、経済社会システムも変化していくことが求められ、政府全体の取組みとして、高齢者雇用の延長、年金・医療・介護の制度改革、認知症施策、空き家対策など多くの政策が議論されているが、金融サービスもその例外ではなく、変化すべきシステムの一つである。政府全体の取組みや議論に相互関連して、高齢社会の金融サービスとはどうあるべきか、真剣な議論が必要な状況であり、個々人においては「人生100 年時代」に備えた資産形成や管理に取り組んでいくこと、金融サービス提供者においてはこうした社会的変化に適切に対応していくとともに、それに沿った金融商品・金融サービスを提供することがかつてないほど要請されている。
このような問題意識の下、金融審議会市場ワーキング・グループにおいて、高齢社会のあるべき金融サービスとは何か、2018 年7月に金融庁が公表した「高齢社会における金融サービスのあり方(中間的なとりまとめ)」を踏まえて、個々人及び金融サービス提供者双方の観点から、2018 年9月から、計12 回議論を行い、その議論の内容を報告書として今回提言する。本報告書の公表をきっかけに金融サービスの利用者である個々人及び金融サービス提供者をはじめ幅広い関係者の意識が高まり、令和の時代における具体的な行動につながっていくことを期待する。
他方、高齢社会への対応は世界各国共通の課題であり、諸外国においてもわが国と同様に手探り状態で議論され、発展途上段階にある。このため、今後様々なビジネス・学術分野等におけるプラクティス(取組み)が積み重なる中で、その対応が進化していくものと考えられる。今後の更なるIT 技術の進展や金融ビジネスモデルの発展、社会的意識の変化など、前提条件も急速に変化していくことが見込まれるところ、本報告書は金融面でのこうした対応の始まりと位置づけられるべきものであり、金融サービス提供者による取組み等の状況について、例えば四半期ごとにフォローアップをしていくことが望ましい。今後とも、金融サービス提供者や高齢化に対応する企業、行政機関等の幅広い主体が、今回の一連の作業を出発点として国民に本報告書の問題意識を訴え続け、国民間での議論を喚起することにより、中長期的に本テーマにかかる国民の認識がさらに深まっていくことを期待する。 
  
●1.現状整理(高齢社会を取り巻く環境変化) 

 

令和の時代を迎えた現在、平均寿命は男性約81 歳、女性約87 歳と大きく伸び、医療技術の進展と相まって、今後も更なる長寿化が見込まれている。古来より長寿は喜ばしいものとしてとらえられてきたが、こうした長寿化に伴い、ライフスタイルの変化や高齢者の介護の増加など、社会の様相も大きく変容してきた。また、いわゆる「失われた20 年」と呼ばれる経済停滞の中、勤労者の収入等は伸び悩むとともに少子高齢化による人手不足などを背景として就労期間が延長されつつあるなど、就労環境も大きく変化している。更に、高齢の世帯を中心として、資産の保有状況も一様ではなくなってきている。
ここではこうした高齢社会を取り巻く環境変化につき、人口動態、収入支出の状況、金融資産の保有状況、金融環境に対する意識の四つについて、足元の現状や今後の見込みを確認する。  
(1)人口動態等 
ア.長寿化
冒頭でも述べたとおり、日本人は年々長寿化している。1950 年頃の男性の平均寿命は約60 歳であったが、現在は約81 歳まで伸びている。現在60 歳の人の約4分の1が95 歳まで生きるという試算もあり、まさに「人生100 年時代」を迎えようとしていることが統計からも確認できる。
   60歳の人のうち各年齢まで生存する人の割合
     2015年推計     1995年推計
80歳     78.1%         67.7%
85歳     64.9%         50.0%
90歳     46.4%         30.6%
95歳     25.3%         14.1%
100歳     8.8%         ―
(注)割合は、推計時点の60歳の人口と推計による将来人口との比較。1995年推計では、100歳のみの将来人口は公表されていない
寿命に関連して、「健康寿命」1という概念があるが、この健康寿命は、男性で約72 歳、女性で約75 歳である。平均寿命から考えると9〜12 年は、就労が困難など、日常生活に何らかの制限が加わる形で生活を送る可能性がある。日常生活に制限が加わるということは、金融面でいえば、就労の困難化に伴う収入の減少や、介護費用など特別の費用がかかることによる支出の増大といった家計の影響のほか、金融機関の窓口へ出向くことが困難になるなど円滑な金融サービスの利用にも支障が出るようになることから、この健康寿命と平均寿命の差を縮めていくことが重要である。
   健康寿命と平均余命の推移(男性)
   健康寿命と平均余命の推移(女性)
イ.単身世帯等の増加
わが国の人口動態の特徴として、長寿化に加えて、少子高齢化が挙げられる。人口ピラミッドで見ると、かつては「富士山型」であったものが、現在は「つぼ型」であり、今後も「つぼ型」の形状は変わらず、高齢者が若年者に比べて突出して多いという姿になることが見込まれている。
人口構成が「富士山型」であった頃の家族形態は、親と子の世帯や祖父母を含めた三世代世帯が多かった。しかし、最近では、少子化等を背景として夫婦のみの世帯が割合を伸ばすとともに、未婚率の上昇やライフスタイルの多様化と相まって、近年単身世帯もその割合を急速に伸ばしている。少子化や晩婚化の動向を踏まえると、今後もこうした傾向は続くものと思われる。
また、かつては持ち家があることが当たり前であったが、持ち家比率も60 歳未満は低下が著しい。
   年齢階級別未婚率の推移
   年齢階級別持ち家比率の推移
結婚後、夫婦と子供、親と同居し、持ち家を持ち、老後の親の世話は子供がみるというようなかつて標準的と考えられてきたモデル世帯は空洞化してきている。
ウ.認知症の人の増加
近年、認知症の人の増加が顕著となっている。2012 年の65 歳以上の認知症の人は約462 万人、65 歳以上の約7人に1人とされ、また、正常なもの忘れよりも記憶などの能力が低下している状態と言われるいわゆる軽度認知症の人の数は約400 万人と推計されている。これらをあわせると65歳以上の4人に1人が、認知・判断能力に何らかの問題を有していることになる。80 歳から84 歳では認知症の有病率は、男性は約6人に1人、女性は約4人に1人、85 歳〜89 歳ではこの割合は倍ほどに増加し、以降の年齢でも認知症の有病率が増加している。さらに、今後の高齢化と相まって、2025 年には認知症の人は約700 万人前後まで増加すると推計され、これは65 歳以上の約5人に1人が該当することになる。
   年齢別の認知症有病率の推移
加齢とともに認知・判断能力が低下し、心身の機能が衰えていくことには個人差はあるものの誰にでも起こる現象である。これに起因する金融サービスにおける制限は多岐に渡るが、その一つに資産の管理が自由に行えない点が挙げられる。資金の自由な引き出しはもちろん、これまで資産運用を行ってきた場合でも、認知・判断能力に問題があり、本人意思が確認できないと判断された場合には一定の制限がかかりうる。
認知・判断能力に支障がある者や障害者の生活や財産を守ることを目的とした制度の一つとして、成年後見制度がある。成年後見制度の利用は、同時期に制度がスタートした介護保険制度に比べると、現状低調であるものの、国が策定した成年後見制度の利用を促進する計画に基づく環境整備が進んでおり、認知症の人も含めて、今後、成年後見制度を利用する者が増加することが予想される。後述する個人の金融資産の大半を高齢者が保有する状況に鑑みれば、同制度の利用増加に伴い、同制度の枠組みに入る金融資産が大きく増加していくことが想定される中、これらをどう管理していくかは重要な課題の一つと言える。
   認知症患者の保有する金融資産額(推計と将来試算)
   成年後見制度利用状況
【米国におけるプルーデント・インベスタールール】
資産形成においては、ポートフォリオ全体のリスク・リターン管理の観点からの分散投資が有効である。米国ではこうした考え方に基づきプルーデント・インベスタールールを定め、同ルールにおけるフィデューシャリー(受託者)に原則として分散投資を求めている。そして、成年後見制度における後見人もフィデューシャリーであるとして、資産管理に分散投資が義務付けられている。
2.目指すべき方向性
<参考>フィデューシャリー・デューティーの考え方
n 他者の資産に対し裁量権を有する後見人は、フィデューシャリーとなる。米国では、1994年に制定されたUniform Prudent Investor Act (UPIA)において、被後見人の信託資産は、ポートフォリオとして保全しなければならない、とされている。
プルーデント・インベスター法(Uniform Prudent Investor Act)の主な内容
2条:ベスト・プラクティス、ポートフォリオ戦略、リスク・リターンの目標
• 信託の受託者は、目的や条件、分配要件及び信託のその他の状況に鑑みて、プルーデント・インベスターとして運用しなければいけない(2条(a))。
• 信託の受託者による個々の資産に関する投資および運用判断は、単独にするのではなく、信託のポートフォリオ全体、リスク・リターンが信託に合理的に合致するような全体の投資戦略の一部として、評価しなければならない(2条(b))。
• 信託の受託者は、同法の基準と矛盾のない、いかなる種類の資産、或いはいかなるタイプの投資も行うことが出来る(2条(e) )。
• 専門知識を有する信託の受託者は、持っている専門的な知識や技術を活用する義務を負っている(2条(f))。
3条:分散投資
• 信託の受託者は、信託の目的が分散投資をしないほうがベターだと合理的に判断する特別な状況を除いて、分散投資をしなければいけない。
5条:ロイヤルティ
• 信託の受託者は、受益者の利益だけのために、信託資産の投資・運用を行わなければいけない。
6条:公平無私
• 受益者が二人以上いる場合、信託の受託者は、受益者の利益の相違を考慮しながら、信託財産の投資・運用を公平無私に行わなければならない。
7条:投資コスト
• 信託資産の投資・運用を行うに当たり、信託の受託者は、投資に必要なコストは、資産や信託の目的、信託の受託者のスキルとの兼ね合いで見て適切かつ合理的な水準におさえなければいけない。
9条:投資・運用機能の委託
• 信託の受託者は、投資・運用機能を外部委託することが可能である。
(2)収入・支出の状況 
ア.平均的収入・支出
わが国では、バブル崩壊以降、「失われた20 年」とも呼ばれる景気停滞の中、賃金も長く伸び悩んできた。年齢層別に見ても、時系列で見ても、高齢の世帯を含む各世代の収入は全体的に低下傾向となっている。公的年金の水準については、今後調整されていくことが見込まれているとともに、税・保険料の負担も年々増加しており、少子高齢化を踏まえると、今後もこの傾向は一層強まることが見込まれる。
   世帯主の年齢階級別収入の推移
   出生年度別の65歳時点の所得代替率と平均余命
   社会保険料率(従業員負担分)の推移
支出もほぼ収入と連動しており、過去と比較して大きく伸びていない。年齢層別に見ると、30 代半ばから50 代にかけて、過去と比較して低下が顕著であり、65 歳以上においては、過去と比較してほぼ横ばいの傾向が見られる。
60 代以上の支出を詳しく見てみると、現役期と比べて、2〜3割程度減少しており、これは時系列で見ても同様である。
   世帯主の年齢階級別消費支出の推移
   高齢層の支出額の推移
しかし、収入も年金給付に移行するなどで減少しているため、高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる。
イ.就労状況
わが国の高齢者は総じて元気である。これは、他国に比して、また過去と比較しても当てはまる。2016年においては、65 歳から69 歳の男性の55%、女性の34%が働いており、これらの比率は世界でも格段に高い水準となっている。
体力レベルを見ても、現在の高齢者は過去のわが国の高齢者と比較して高い水準にある。また、アンケート結果では、60 歳以上で仕事をしている者の半数以上が70 歳以降も働きたいと回答している。
   65歳〜69歳の労働力率
   高齢者の運動能力の推移
   あなたは、何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいですか。
思考レベルも高い。現在、60 歳から69 歳でインターネットを使っている人は全体の4分の3にのぼるほか、OECD の調査によれば、60 歳から65歳の日本人の数的思考力や読解力のテストのスコアはOECD 諸国の45 歳から49 歳の平均値と同じ水準となっている。
   高齢者のインターネット利用状況
   数学的思考能力と年齢の関係
   高齢者の性・年齢階級別就業率
こうした現状を踏まえれば、高齢者の就労継続は今後も続くのではないかと考えられる。
他方、若年層を中心に働き方は多様化している。最近では、転職はもちろんのこと、副業という形態で、個人が複数の仕事を持つという形式は増えつつあるし、企業や組織に属さず働く、いわゆるフリーランスという働き方も増加してきている。
   フリーランス人口の推移
   年齢階級別非正規雇用比率の推移
このように多様なスキルを身につけ、そのスキルを生かしながら、一つの企業に留まらず働くということは、長く働き続けることができる可能性を高めうる。その一方、退職金が一定の勤続年数に応じて発生する又は勤続年数に比例して増加する形式の場合、転職が多い者や自営業も含め企業や組織に留まらない働き方の者は退職金が受け取れないか、退職金があっても低い水準になる可能性がある。すなわち、一つの企業に留まらない働き方は、多くの者にとって老後の収入の柱である退職金給付という点で不利な面もある。
ウ.退職金給付の状況
わが国に根付いてきた賃金制度として、退職給付制度がある。かつては退職金と年金給付の二つをベースに老後生活を営むことが一般的であったと考えられるが、公的年金とともに老後生活を支えてきた退職金給付額は近年減少してきている。
この退職金の推移について詳しく見ていくと、退職金給付制度がある企業の全体の割合は徐々に低下をしており、2018 年で約80%となっている。この割合は企業規模が小さくなるにつれて小さくなる。
   退職給付制度がある企業(全規模)の割合(折れ線)
   規模別に見た退職金制度がある企業の割合(2017年度)
また、定年退職者の退職給付額を見ると、平均で1,700 万円〜2,000 万円程度となっており、ピーク時から約3〜4割程度減少している。
   平均退職給付額(全規模)の推移
今後見込まれる雇用の流動化の広がりを踏まえると、退職金制度の採用企業数や退職給付額の減少傾向が続く可能性がある。退職金制度の有無、その給付金額は退職後の生活に大きな影響を及ぼしうるため、自身の退職金の見込みや動向については、早い段階からよく確認しておく必要がある。
退職金を受け取った後に関するアンケート調査によれば、4人に1人が投資に振り向けており、また、投資に振り向けた人の半数弱は退職金の1〜3割を投資に回している。
他方で、退職金の給付額を把握した時期について、約3割が「退職金を受け取るまで知らなかった」、約2割が「定年退職半年以内」と回答している。
退職金の金額の大きさを踏まえると資産運用に回す金額は多額であると言えることから、こうした投資を行う際には、運用方針や資産運用にあたって必要な金融に関する知識を、事前にある程度は身につけてから臨むことが望ましいと言える。 
(3)金融資産の保有状況 
金融資産の保有状況は各人により様々であることから、平均的な姿をもって一概に述べることは難しい面があるが、全体的な傾向として、若年層よりもシニア層の方が全体に占める金融資産の保有割合が高く、この傾向は今後も続く見込みである。また、若年層は住宅ローンなどの負債を比較的多く抱えている。
   金融資産の年齢階級別割合の推移見込み
   世帯主の年齢階級別貯蓄・負債現在高、負債保有世帯の割合
老後の生活においては年金などの収入で足らざる部分は、当然保有する金融資産から取り崩していくこととなる。65 歳時点における金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯、単身男性、単身女性のそれぞれで、2,252 万円、1,552 万円、1,506 万円となっている。なお、住宅ローン等の負債を抱えている者もおり、そうした場合はネットの金融資産で見ることが重要である。
(2)で述べた収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20 年で約1,300 万円、30 年で約2,000 万円の取崩しが必要になる。
   世帯主が65歳〜69歳の金融資産額
支出については、特別な支出(例えば老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用など)を含んでいないことに留意が必要である。さらに、仮に自らの金融資産を相続させたいということであれば、金融資産はさらに必要になってくる。(2)と合わせ、早い時期から生涯の老後のライフ・マネープランを検討し、老後の資産取崩しなどの具体的なシミュレーションを行っていくことが重要であるといえる。
なお、米国では75 歳以上の高齢世帯の金融資産はここ20 年ほどで3倍ほどに伸びている一方、わが国の同年代の高齢世帯の金融資産はほぼ横ばいで推移しており、対照的な動きとなっている。米国では、市況が好調だったことに加え、401(k)プラン等の制度的な後押しもあり、現役期から資産形成を実行し且つ継続するとともに、そのような世代が歳を重ねるに従い、高齢世帯の資産が増加していったと推察される。この点、わが国でも後述するつみたてNISA やiDeCo 等が整備され、個人が長期の資産形成を行うに際して、制度的な環境が整いつつある。
   米国における年齢階級別金融資産額の推移(一世帯あたり平均)
   日本における年齢階級別金融資産額の推移(一世帯あたり平均) 
(4)金融環境に対する意識 
では、こうした環境変化に対応して、国民は老後の生活をどのように意識しているか。内閣府が実施した世論調査では、「老後の生活設計を考えたことがある」と回答した人は、全体で67.8%となっており、60 代をトップに30 代以上では軒並み50%以上となっている。また、「ある」と回答した人に対して考えたことがある理由は何かを問うたところ、多数を占めた回答が「老後の生活が不安だから」であり、多くの人が老後生活に不安を抱えている現状がわかる。
   老後の生活設計を考えたことの有無
   老後の生活設計を考えたことがあると回答した者のうち、
    その理由65歳以上の者の老後資産の満足度別
他のアンケート調査でも、「老後に対する不安がある」と答えた比率が高い傾向があり、50 代以下の世代では、老後に対する不安要因として「お金」が挙げられていることが多い。また、世代を問わず老後の備えとして自ら想定する金額と現在の金融資産額(平均)との間に大きく差額が生じているとするアンケート結果もある。こうしたことから、老後の不安として「お金」が主要要因となっていることが窺える。
では、こうした老後の資金の不安に対して、どのように対処すればよいと考えているか。資産寿命2を延ばすために必要なことを尋ねた調査によれば、「現役で働く期間を延ばす」、「生活費の節約」を挙げる回答が多いが、このほかに約3割の者は「若いうちから少しずつ資産形成に取り組む」を挙げている。
年代別の老後不安
世代別の老後への備え
資産寿命を延ばすために必要だと思うこと
他方、別の調査では「老後に向け準備したい(した)公的年金以外の資産」として「証券投資(株式や債券、投資信託など)」を挙げた者は2割以下に留まり、実際に投資を行っている者の割合はこれよりもさらに低い水準となっていることが予想され、意識と行動に乖離があることが窺える。投資による資産形成の必要性を感じつつも、投資を行わない理由として上位を占めているのが、「まとまった資金がない」、「投資に関する知識がない」、「どのように有価証券を購入したらよいのかわからない」という回答であり、顧客側の問題に加え、金融機関側が顧客のニーズや悩みに寄り添いきれていない状況が窺える。
老後に向け準備したい(した)公的年金以外の資産
有価証券投資は必要だが、保有経験がない理由(有価証券投資未経験者ベース) 
 
●2.基本的な視点及び考え方 

 

以上が高齢社会を取り巻く環境変化についての現状整理であるが、ここから、高齢社会における金融サービスに関して、個々人及び金融サービス提供者の双方が共に認識することが望ましい事項が導き出されるのではないかと考えられる。以下、その事項について述べる。  
(1)長寿化に伴い、資産寿命を延ばすことが必要 
前述のとおり、夫 65 歳以上、妻60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20〜30 年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300 万円〜2,000 万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる。重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。それを考え始めた時期が現役期であれば、後で述べる長期・積立・分散投資による資産形成の検討を、リタイヤ期前後であれば、自身の就労状況の見込みや保有している金融資産や退職金などを踏まえて後の資産管理をどう行っていくかなど、生涯に亘る計画的な長期の資産形成・管理の重要性を認識することが重要である。
【長期・積立・分散投資の有効性】
長期・積立・分散投資による効果は、積立が長期であればあるほど、投資先を分散すればするほど、収益がバラつきにくくなる特徴がある。
1985 年以降の各年に、毎月同額ずつ国内外の株式・債券に積立・分散投資したと仮定し、各年の買い付け後、保有期間が経過した時点での時価をもとにして運用結果を算出すると、保有期間が5年ではマイナスリターンも発生するが、保有期間が20 年になるとプラスリターンに収斂し、さらにそのバラつきも小さくなる。
長期・積立・分散投資の効果(実績)
国内外の株式・債券に積立・分散投資した場合の収益率(実績)
さらに期間を40 年という超長期で見ても、日経平均だけに積立投資するよりも、米国NY ダウと組み合わせた方がトータルリターンはさらに大きくなり、そのバラつきも小さくなる。80 年代頃は日本国内でも高金利を享受できたが、同じく40 年間、毎年定期積金した場合のトータルリターンは13.9%ほどにとどまる。これらの例は、過去の実績に基づくものであり、将来においても同様の結果になるとは限らず、想定外の損失が発生するリスクも存在することには留意が必要であるが、長期・積立・分散投資がリスクをコントロールし、一定のリターンをもたらしやすい点で、多くの人にとって好ましい資産形成のやり方であると考えられる。
40年間、毎月末積立投資した場合のトータルリターンは
・・・(日経平均株価、NYダウ円換算、両市場半々に投資した場合)
日経平均株価への投資
NYダウへの投資(円換算)
半分ずつの分散投資212%
同様の条件で預金で積立した場合のトータルリターンは
・・・13.9%(郵便貯金(通常)への積立)
仮に、月に5,000 円、年6万円の少額拠出であっても、30 年拠出し続ければ(総拠出額180 万円)、全期間において年2%の利回りを想定すると、246 万円となる。ここで確認しておく点は、上のシミュレーションで確認したように市況は短期的に変動しうるが、長期的に見ればリスク・リターンのバラつきは収束することである。また、年2%の利回りを想定したが、これが仮に1%だと209 万円まで減少する。利回りの減少に影響を与える要因として、市況以外には信託報酬等の恒常的な手数料があげられる。この手数料の高低が長期投資においてはその果実に大きく影響を与えることはよく認識しておく必要がある。
(2)ライフスタイル等の多様化により個々人のニーズは様々
かつて高齢者の世帯形態は親、子、孫という三世代が同居する世帯が多数を占めていたが、最近では夫婦のみの世帯や単独世帯の割合が増加しており、三世代が同居する世帯はむしろ少数派となってきている。特に単身世帯の増加は著しい。働き方も柔軟化し、終身雇用や年功序列といったこれまでの雇用慣行も変わりつつある。かつて「一億総中流」と呼ばれた日本社会であったが、前述のとおり、保有資産や所得等の状況はバラつきが見られるようになってきている。こうした変化は、個々人の行動にも大きく影響を与えているものと考えられる。
このようにライフスタイルが多様化する中では、個々人のニーズは様々であり、大学卒業、新卒採用、結婚・出産、住宅購入、定年まで一つの会社に勤め上げ、退職後は退職金と年金で収入を賄い、三世帯同居で老後生活を営む、というこれまでの標準的なライフプランというものは多くの者にとって今後はほとんどあてはまらないかもしれない。今後は自らがどのようなライフプランを想定するのか、そのライフプランに伴う収支や資産はどの程度になるのか、個々人は自分自身の状況を「見える化」した上で対応を考えていく必要があるといえる。
(3)公的年金の受給に加えた生活水準を上げるための行動
人口の高齢化という波とともに、少子化という波は中長期的に避けて通れない。前述のとおり、近年単身世帯の増加は著しいものがあり、未婚率も上昇している。公的年金制度が多くの人にとって老後の収入の柱であり続けることは間違いないが、少子高齢化により働く世代が中長期的に縮小していくことを踏まえて、年金制度の持続可能性を担保するためにマクロ経済スライドによる給付水準の調整が進められることとなっている。こうした状況を踏まえ、今後は年金受給額を含めて自分自身の状況を「見える化」して、自らの望む生活水準に照らして必要となる資産や収入が足りないと思われるのであれば、各々の状況に応じて、就労継続の模索、自らの支出の再点検・削減、そして保有する資産を活用した資産形成・運用といった「自助」の充実を行っていく必要があるといえる3。
(4)認知・判断能力の低下は誰にでも起こりうる
前述のとおり、わが国の高齢者は元気であり、たとえば60 代ぐらいは昔のイメージの高齢者とは違う存在になりつつあるといえる。実際に、定年延長の影響もあり、多くの高齢者がいまだ現役で働き、社会の中で活躍し続けている。
しかしながら、長寿化と認知症の人の増加を踏まえると、今後は認知症の人はもはや決して例外的存在ではなく、認知・判断能力の低下は誰にでも起こりうると認識すべきであるといえる。現状では、認知・判断能力が低下し、本人による意思能力が不十分となった場合、また、そのように判断された場合には日常生活を送るにあたって様々な制約を受けることになる。これを出来る限り回避するための事前の備えや適切な対応の重要性が増していくものと考えられる。 
 
●3.考えられる対応 

 

今まで述べた現状及び基本的視点と考え方をよく認識しつつ、個々人や金融サービス提供者はどういった対応が考えられるか。また、各主体による対応に加え、その対応を有効なものにしていくための環境整備も必要になると考えられる。 
(1)個々人にとっての資産の形成・管理での心構え
長寿化が進む中、資産形成・管理において、資産寿命を延ばす観点から、広く国民が知っておくことが望ましい事項があると考えられる。詳しくは付属文書1で述べることとするが、人生のステージに応じて整理すると以下のような点が考えられる。
○ 現役期
長寿化に対応し、長期・積立・分散投資など、少額からでも資産形成の行動を起こす時期であり、例えば、以下のような対応が有効と考えられる。
・ 「人生100 年時代」においてこれまでよりも長く生きる人が多いことを前提に、老後の生活も満足できるものとなるよう、早い時期からの資産形成の有効性を認識する。
・ 生活資金やいざというときに備えた資金については元本の保証されている預貯金等により確保しつつ、将来に向けて少額からでも長期・積立・分散投資による資産形成を行う。
・ 自らにふさわしいライフプラン・マネープランを検討する(必要に応じ、信頼できるアドバイザー等を見つけて相談する)。
・ 金融サービス提供者が顧客側の利益を重視しているかという観点から、長期的に取引できる提供者を選ぶ。
○リタイヤ期前後
リタイヤ期以降の人生も長期化していることに対応し、金融資産の目減りの抑制や計画的な資産の取崩しに向けて行動する時期である。人によって、退職金などの多額のお金が入ったり、働き方に変化が生じることが想定されるため、これらを受けた対応が必要と考えられる。
・ 退職金がある場合、早期の情報収集と使途の検討及び退職金を踏まえたライフプラン・マネープランを再検討する。
・ 必要に応じ、収支の改善策を実行する。
・ 長い人生を見据えた、中長期的な資産運用の継続(長期・積立・分散投資等)とその後の計画的な取崩しを実行する。
○高齢期
資産の計画的な取崩しを実行するとともに、認知・判断能力の低下や喪失に備えて行動する時期であり、心身の衰えに関わらず金融サービスを引き続き享受するために、事前の準備や対応が必要と考えられる。
・ 心身の衰えを見据えてマネープランを見直す(医療費、老人ホーム入居費等)。
・ 認知・判断能力の低下や喪失に備え、取引関係の簡素化など心身の衰えに応じた対応をしやすくする。また、金融面の本人意思を明確にしておき、自ら行動できなくなったとしても、他者のサポートにより、これまでと同様の金融サービスを利用しやすくしておく。
(2)金融サービスのあり方
(1)で述べた個々人のニーズに対して、顧客の資産寿命を伸ばしていく上で、金融サービス提供者がどのように顧客をサポートできるか、考えられる対応を整理する。詳しくは付属文書2で述べる。
まず前提として重要になってくることは以下の二つである。
・ 顧客本位の業務運営の徹底
 ・ 顧客の状況からみて、過度にリスクの高い商品の販売を行わない等、顧客にとってふさわしいサービスを提供すること
 ・ 手数料の明確化
 ・ リスクやリターン等を顧客が自ら判断できるようにするための分かりやすい情報提供等
・ サービスに見合う適切な対価の説明と請求(サービスの持続可能性や顧客の利用しやすさにも配慮)
その上で、顧客の「長寿化」「自助の充実」「多様化」「認知・判断能力の低下・喪失への備え」に対して、考えられる対応としては以下が考えられる。
・ 「自助」充実のニーズ増に応じ、資産形成・管理やコンサルティング機能の強化
・ 多様な顧客ニーズに応じ、商品・サービスの多様化や「見える化」の推進
・ 認知・判断能力が低下・喪失した者に対する資産の運用・保全向けの商品・サービスの充実
顧客の年代別に整理すると、以下の通り。
○現役期の顧客への対応
現役期の顧客は他の年代に比べ、ネットの金融資産は多くなく、金銭的にも時間的にも生活に余裕は少ない。しかしながら老後の資金も含め、資産形成ニーズを潜在的に保有している。これらの特徴を踏まえた商品やサービスの提供が必要であると考えられる。
・ 可能な限り、金融以外の資産・負債も含む家計のポートフォリオ全体を俯瞰し、個々の状況に即したマネープランの提案など総合的なコンサルティングサービスの提供。
・ 資産形成のニーズに対して、短期的な取引関係に終わらせず、長期・積立・分散投資等を提案。
・ 顧客との信頼関係の構築により、退職後も含めた長期的な取引関係へと結実。
○リタイヤ期前後の顧客への対応
リタイヤ期前後の顧客は、働き方を変える、退職金を得るなどにより、残りの人生の過ごし方とあわせて、顧客自らの収支を見直す時期と言える。顧客の多様性に応じた対応が特に求められる。
・ 就労延長や支出抑制策を含めた、特定の金融サービスに留まらないライフプラン・マネープランの提供
・ 就労延長・資産取崩し・リスク許容変化・長生きリスクに応じた多様な商品サービスの充実
・ 顧客の利益に沿ったワンストップ化サービスの提供
・ 他社の類似商品との比較のしやすさに配慮した商品の説明や内容の開示
○高齢期の顧客への対応
高齢期の顧客は心身の衰えに応じ、介護等ニーズが増大し、マネープランを改めて見直すとともに、認知能力の低下・喪失に備えて、金融面でも準備を行う時期である。心身が衰えた後でも、金融サービスを受けられるサポートを提供することが重要と考えられる。
・ 業界の垣根を越え、非金融サービスとも連携した総合的なサービスの提供
・ 認知能力が衰えた後でも、出来る限りそれ以前と同様に金融サービスを享受できる環境作りの推進  
(3)環境整備 
(1)及び(2)では、高齢社会における金融サービスに関して、個々人の資産形成・管理での心構えやこれに対応した金融サービス提供者のあり方が重要であることを述べた。これに加えて、行政機関や業界団体などによる種々の環境整備も劣らず重要である。
ア.資産形成・資産承継制度の充実
ライフステージを通じた長期の資産形成における長期・積立・分散投資の有効性についてはこれまで述べてきたとおりであるが、こうした長期に亘る資産形成を支援する制度として、税制面で一定の優遇が行われている「つみたてNISA」と「iDeCo」がある。
つみたてNISA は年間40 万円までの積立投資について運用益が非課税(2037 年までの時限措置)であり、手数料等が安い公募株式投資信託商品などに限定されている。20 歳以上の国内居住者であれば誰でも利用でき、その資産はいつでも引き出し可能である。iDeCo は、掛金の上限は年間14.4万円〜81.6 万円であり、運用益は課税停止中であることに加え、掛金も全額所得控除、年金受給時も一定の税優遇がある。商品は各金融機関等により異なるが、国内外の株式・債券や投資信託など幅広く取り扱う。加入可能年齢は20 歳から60 歳までとなっており、その資産は年金という制度趣旨に鑑み、60 歳になるまで中途引き出しは原則不可となっている。
ライフイベントに応じて引出すことが可能なつみたてNISA と、年金制度として所得控除が認められているiDeCo とは、両者を併用することで、住宅購入などの計画的に準備が必要な支出や、病気、事故、失業などの予想外の支出への備えをしつつ、老後に向けた資産形成が可能となるものである。よって、お互いが補完しあう関係として活用が進むことが望ましい。このように、制度面では、個人の資産形成を促す制度が相応に整備されてきているといえる。
また、保有可能期間は5年間と短いが同じく個人の資産形成に資する制度として一般NISA が存在する。制度開始からの5年間で口座数が1,100 万口座を上回り、つみたてNISA に先行して個人投資家の増加に寄与してきた。これから長寿社会を迎えるに当たって、退職金の受け皿としての機能も期待される。
つみたてNISA とiDeCo の両制度ともまずは順調に利用者が増加しているものの、その利用は国民の一部に留まっている。わが国の成人人口を考えれば、今後さらに広く普及が進む余地も大きいが、未だ十分に制度の存在を知らない層や、知っていたとしてもその意義を十分理解していない層も多いと考えられる。金融庁と厚生労働省は、それぞれが連携し、今後より一層の制度の周知に努めるとともに、若年期から資産形成に取り組むことの重要性についても、広報していくべきである4。
そうした普及に向けた取組みと並行して、つみたてNISA、iDeCo ともに、利用者の声を聞きながら、制度そのものの改善にも努めていくべきである。つみたてNISA については、まずもって国民が長期のライフプランに沿った資産形成に安心して活用できるよう、時限を撤廃し、恒久的な措置とすることが強く望まれる5。
また、より利便性の高い制度を構築するため、非課税保有期間について無期限とすること、ライフプランに沿って拠出額を柔軟に変更させることができるようにすること、現在は回転売買防止の観点などから認められていないスイッチング6を条件次第で可能とすること、その他、例えば配偶者死亡時においてNISA の非課税枠を引き継げるようにすることなども、検討していくべき課題であるとの指摘があった7。
iDeCo についても、長寿化を踏まえ、拠出可能年齢の上限を引き上げることのほか、利便性向上や働き方の多様化等への対応、また、更なる税優遇を行うことの政策的必要性を勘案して、拠出限度額のあり方についても検討することも望ましい。
その他の課題として、個々人において多様化が進んでいるとはいえ、高齢期の者を中心に持ち家比率は高く、住宅資産を有効に活用できる環境整備も重要と考えられる。例えば、リフォーム市場の活性化や、良質な既存住宅の資産価値の適正評価を促すなど既存住宅の流通を活性化させるための施策を、より一層推進することが望まれる。
資産形成により構築した資産を次世代に有効に承継していくという視点も重要である。相続税評価額の算出時には、不動産の時価に一般的に時価より低い路線価が用いられる一方、株などの有価証券では時価である株価等が用いられている。この違いにより、不動産が金融資産よりも投資対象として選好され資産選択に歪みが生じているとの指摘があり、資産承継に関する制度のあり方についても、検討していくべき課題である。
また、企業経営においても高齢化が進んでいる。今後、10 年間で200 万人を超える中小企業等の経営者が引退時期を迎えるとされる中、事業承継は重要な課題である。こうした状況を踏まえ、一般の非上場株式の場合と事業承継に伴う非上場株式の場合の違いに留意しながら、非上場株式の売買の媒介に関する業界の自主規制を改正し、金融サービス提供者が事業承継の円滑化に貢献することが期待される8。
イ.金融リテラシーの向上
若年層を中心として、少額からの長期・積立・分散投資を行う層が拡大しつつあるが、つみたてNISA などの関連制度がより幅広く活用されるためには、ア.に加えて、金融リテラシーの向上に向けた取組みも重要である。
これまでも金融庁や金融広報中央委員会(事務局:日本銀行内)、業界団体などが、学校や職場、自治体などの場で、金融リテラシー向上に向けた授業やセミナーなどを活発に開催してきたところであり、その中でも資産形成については取り扱われてきたが、長寿化の進展等の環境変化を踏まえ、より一層取組みを工夫・強化していくべきである。本報告書で示している「個々人にとっての資産の形成・管理での心構え」についても、高齢社会において個々人が金融サービスに向き合うための基礎となる一つの考え方として、関係省庁・企業・機関・地方公共団体等の協力を得つつ、ライフステージ毎の様々な機会を捉えて広く浸透を図っていくことが望まれる9。
また、多くの者にとって退職金や年金は老後の資産の大きな柱であることから、金融リテラシー向上に向けた企業の取組みも重要である。
退職金がある場合には、大きな金額が資産運用に回りうることを踏まえると、退職金の使途の検討に十分な時間をかけることができることが望ましい。退職金がいくらになるかの見通しを出来る限り早い時期に雇用者から本人に通知することは社員の福利厚生の向上の面でも重要であり、各企業の積極的な取組みが望まれる。
金融リテラシーの向上における企業年金の役割も重要であり、適切なガバナンスの下で受益者本位で運用されることはもとより、その前提として運用状況や給付額について、より職員が把握しやすくなるよう各企業が取り組むことも望まれる。また、確定拠出型の企業年金(DC)では、事業主は確定給付型の企業年金のような運用の責任は負わないが、従業員に対する投資教育の義務などその役割は小さくない。事業主においては、より従業員一人ひとりの資産形成に資するような投資教育・継続教育を行うことや、従業員のリテラシーも踏まえつつ資産形成に資する運用の選択肢を用意することが求められる。従業員の金融リテラシーを高め、資産形成を支えていくという点では、DC に取り組んでいない企業についても、同じく企業に期待される役割は大きい。
ウ.アドバイザーの充実
個々人のライフスタイルが多様化する中、金融商品・サービスも多様化してきている。こうした多様な商品・サービスを個々人が自身の力のみで選ぶことについては、人によって困難が伴うことも想定される。
この観点から、個々人に的確なアドバイスができるアドバイザーの存在が重要である。現状では、その役割は主として本人に一番身近な金融機関などが担うことが想定されるが、業態ごとの商品・サービスが多様化しているため、単一の業態の金融サービス提供者が全ての商品・サービスを俯瞰したアドバイスを行うことには難しい面がある。このため、特に強く求められるのは顧客の最善の利益を追求する立場に立って、顧客のライフステージに応じ、マネープランの策定などの総合的なアドバイスを提供できるアドバイザーである。こうしたアドバイザーとなり得る主体としては、投資助言・代理業、金融商品仲介業、保険代理店やフィナンシャルプランナーなど様々な業者が存在する。米国では証券会社などの金融サービス提供者から独立して、顧客に総合的にアドバイスをする者が多数いるが、日本においてこれに類似する者は存在するものの、まだまだ認知度は低く、数は少ない。今後は認知度向上に努めるとともに、そのサービスの質的な向上に努めることが望まれる。
また、本人に一番身近な金融機関などの者においても、単一の業態に留まらない顧客のニーズに応じた総合的なアドバイスを行うことは、顧客からの信頼を得る上で、また、高齢社会の金融サービス提供における役割を果たす上でも重要なことである。
エ.高齢顧客保護のあり方
高齢期における顧客への対応のあり方は「(2)金融サービスのあり方」ですでに述べた。しかしながら、個社レベルでの対応のみならず、全体としての対応のあり方に再検討を要する面があると考えられる。例えば、現在の日本証券業協会の投資勧誘等のルールでは一定の年齢を目安にそれまでの年齢の顧客と違う対応を求めている10。75 歳頃から認知症の発症率が上昇していくことを踏まえると、これには一定の合理性が認められるが、高齢者の状況も非常に多様である。75 歳以前でも認知能力に問題がある者もいれば、80 歳を超えても非常に元気な者もいる。本来は、個々人に応じたきめ細やかな対応が望ましく、例えば、リスクが高い複雑な商品の提供は厳しく抑制する一方で、リスクが低い簡素な商品については説明内容を軽減し、商品のリスクや複雑さに応じてメリハリをつけるなどの対応が望まれる。高齢顧客保護のあり方については、顧客本位の業務運営を徹底しつつ、業態を問わず金融業界として横断的に、金融ジェロントロジー11の進展に応じて見直していくことが必要と考えられる。
また、本人が望む場合には、認知・判断能力の低下・喪失後も資産運用を続けられることが望ましい。前述のとおり、認知・判断能力に支障がある者や障害者の生活や財産を守ることを目的とした制度の一つとして、成年後見制度がある。成年後見制度における資産管理のあり方について、わが国においても、前述の米国のプルーデント・インベスタールールの考え方12なども参考にしながら、本人意思の尊重と財産保護という二つの両立を図るための方策を、関係省庁等が連携して検討していくべきである。 
 
●おわりに 

 

以上が、市場ワーキング・グループにおける、高齢社会における金融の目指すべき姿とは何かをテーマに、金融サービス提供者や専門家の意見を伺いながら議論を重ねた検討結果である。
日本人は長生きするようになった。さらに、現在の高齢者は昔に比べて格段に元気であり、社会で活躍し続けている。これ自体は素晴らしいことであり、多くの人にとっても、社会全体にとっても望ましいことである。しかしながら、寿命が延び活動し続けるということは、それだけお金がかかるということを意味する。余暇活動を楽しむなど心豊かな老後を楽しむためには、健康と同様にお金も重要である。長寿化に応じて資産寿命を延ばすことが重要であり、この観点から、ライフステージ別に知っておくことが望ましい事柄をこれまで紹介してきた。
特に2025 年は、いわゆる団塊の世代が75 歳を迎える年とされる。75 歳を超えたあたりから認知症有病率は大きく上昇するとされており、今から準備を始めることが重要と考えられる。認知能力・判断能力の低下は誰にでも起こりうるという認識の下、これに備え、対応することは、本人にとってこれまでと同じ形で金融サービスを受けるという意味で必要であり、家族など周囲の者を混乱させないという意味でも非常に重要である。また、その先の2030 年ごろにはもう一つの人口の塊である団塊の世代ジュニアの者が60 代となり、資産の取崩し期を迎えることが予想される。
これを見据えて、今何ができるか、何をすべきか。標準的なモデルが空洞化しつつある以上、唯一の正解は存在せず、各人の置かれた状況やライフプランによって、取るべき行動は変わってくる。今後のライフプラン・マネープランを、遠い未来の話ではなく今現在において必要なこと、「自分ごと」として捉え、考えられるかが重要であり、これは早ければ早いほど望ましい。そして、金融サービス提供者はこうした顧客の状況に対して、どれだけ顧客本位で一緒に考えることができるか。「自分ごと」として顧客に寄り添って考えることができる金融サービス提供者が顧客からの信頼を勝ち得ていくと考えられる。
冒頭で述べたとおり、高齢化は世界共通の課題となりつつある今、先進国、新興国を問わず、各国は対応を模索している、国際社会の中で、わが国は高齢化の最前線にいる。中国、韓国、シンガポール、タイそしてベトナムといったアジアの国では、わが国の高齢化に急速に追いつきつつあり、多くの国がわが国と同じように高齢化の問題に遠からず直面することが予想される。わが国はそのトップランナーとして高齢化対応に取り組んでおり、その取組みは各国から注目されている。今後、この成果を踏まえながら、各国の取組みの加速や知見の共有が期待されるが、特に高齢化先進国であるわが国については、その経験を共有することで各国の状況に適応できる解決策の検討に貢献することが期待されるところである。実際に、今年、わが国はG20 の議長国を務めるが、「G20金融包摂のためのグローバルパートナーシップ(GPFI)」において、高齢化が金融サービスに与える影響と対応について、議論を主導し、「高齢化と金融包摂のためのG20 福岡ポリシー・プライオリティ」をまとめたところである。
しかしながら、わが国が世界のトップランナーであるということは、世界でも先例がない議論を行っているということでもあり、皆が手探りで議論を行っている現状である。前述のとおり、現時点で一つの解はない。今回の当ワーキング・グループの議論も、絶対的な解決方法を提示できているわけではなく、ブループリントを描いたのみと言えるかもしれない。ただ、それでも皆が高齢者対応を模索している中で、意義が大きい議論であると考えられる。この議論においては、個々人や金融サービス提供者、行政機関などのあらゆる主体がメインプレーヤーであり、多様な主体が意識を共有して、協働していくことが非常に重要である。公的な場に留まらず、シンポジウムなどの場、さらには周りの者ともこの問題を話し合い、皆で高齢社会における資産形成・管理や金融サービスのあり方に対する知見を深めていくことを通じて、対応のあり方が進化していくものと考えられる。この報告書が契機の一つとなり、幅広い主体に課題認識等が共有され、各々が「自分ごと」として本テーマを精力的に議論することを期待している。  
 
 

 

●【付属文書1】高齢社会における資産の形成・管理での心構え 
長寿化が進行する中、資産寿命を延ばす観点から、個々人が各ライフステージ別にどういったことに留意すべきか。 
(1)現役期 ⇒ 長寿化に対応し、長期・積立・分散投資など、少額からでも資産形成の行動を起こす時期 
早い時期からの資産形成の有効性を認識する
現役期は、他の年代に比べて、老後に備えた準備のための「時間」を多く保有しており、これは老後に向けた資産を形成する点で、非常に大きなメリットである。保有する資産が少ない、もしくは収入が少なくても、少額からでも長期・積立・分散投資を習慣化して行う13ことにより安定的に資産を形成できる可能性は十分にある。多くの「時間」を保有している現役期においては、取りうる手段は他の期に比べて非常に多い。ここでは主に金融面における資産形成という観点で有効と考えられる手段を述べるが、各々の特性に応じて、副業を含めた新たな収入の確保や支出の見直しなど、取るべき手段を総合的によく吟味することが重要である。
現役期でまず大事なことは想定以上に長生きした場合でも老後に貯蓄が尽きないよう早い時期から資産形成を行うことの重要性と有効性を認識することであり、こうした認識の下、少額からでも長期・積立・分散投資の行動を起こすのに最もふさわしい時期といえる。
少額からであっても安定的に資産形成を行う
そして、生活資金やいざというときに備えた資金は元本の保証されている預貯金等により確保しつつ、資産形成においては、
・ 投資期間が長期であればあるほど、投資タイミングと投資対象を分散すればするほど、市場の価格変動に強く、収益がバラつきにくくなること。
・ 自らにふさわしいリスクの程度を認識し、過度にリスクの高い投資は行わないこと。
・ 市況変動に一喜一憂することなく着実に長期・積立・分散投資を継続することが、長期的な資産形成には重要であること。
・ 金融サービス提供者に支払う販売手数料や信託報酬等の高低が長期投資の果実に与える影響が大きいこと。
等を認識することが重要である。
自らにふさわしいライフプラン・マネープランを検討する
このような資産形成を行動に移し、金融や関連する経済に関する知見を得ていくことを通じて、資産及び収入・支出状況と照らし合わせ、自らにふさわしい長期的なライフプランやマネープランを検討することが可能となってくるのではないだろうか。つみたてNISA やiDeCo を活用するなどして長期・積立・分散投資を続け、将来の資産を想像していく中で、自身の長期的なライフプランとマネープランも想像しやすくなっていくと思われる。そうしたプランにあわせて、自身の収入・支出の今後の姿や今後の資産形成について検討しやすくなる。その検討に際しては、一つの見通しだけでなく、楽観的、悲観的な見通しも考慮することが重要であり、必要に応じて、第三者としての立場からアドバイスできる信頼できるアドバイザー等を見つけて相談することも有効であろう。
長期的に取引できる金融サービス提供者を選ぶ
また、金融サービス提供者を選ぶ際は、提供者が顧客の利益を重視しているかという観点から、長期的に取引できうる提供者を選ぶように心がけたい。その一つの目安としては、前述したような商品の手数料は高すぎるものではないか、コストや対価は適当か、その説明は十分なものかといったことであろう。
長期・積立・分散投資は早く始めれば始めるほど有利である。特に、老後の生活の柱の一つとなりうる退職金がない自営業の者などにおいては、この退職金に代わる自助努力が求められるところ、長期・積立・分散投資を出来る限り早めに始めて「時間」を味方にした資産形成を行うことが、特に有効に作用するものと考えられる。
現役期は、仕事や家庭など、何かと忙しい時期である。そうした時期に老後の資産を考えなければいけないことは、本人にとってあるいはわずらわしいことかもしれない。しかし、長寿化が進む中、現役期から老後を意識して準備を行うことが重要であることは事実である。老後の資産を不安に思い、資産を溜めがちであるが、過度な不安は投資や消費の抑制につながり、結果的にマクロ的な経済活動の低下という合成の誤謬14に陥る恐れもある。従って、自らの現在及び今後の資産や収入・支出を把握かつ見通しを立て(「見える化」)、安定的な資産形成を行うとともに、ライフプラン・マネープランを立てることで、使うべきお金を安心して使うことが経済全体にとっても望ましいという認識を共有することが重要であろう。 
(2)リタイヤ期前後 ⇒ リタイヤ期以降の人生も長期化していることに対応し、金融資産の目減りの防止や計画的な資産の取崩しに向けて行動する時期 
例えば、企業に勤めている場合、50 代から60 代において定年退職を具体的に意識し始めると思われる。多くの人にとって、これまでの資産を踏まえて、その目減りを極力抑えるとともに、将来の計画的な資産の取崩しに向けて行動する時期と言える。
退職金がある場合、それを踏まえたマネープラン等を再検討する
退職金がある場合には、まず退職金について早期に情報収集を行うとともに、その使途や退職金を踏まえたライフプラン・マネープランを検討することが望ましい。具体的には、例えば以下を行うことが有効と考えられる15
1 退職金の金額や形式(一時金や年金)等を退職前の早期に確認する。
2 公的年金等を始めとする定期的な収入や支出、その時点での資産や負債などを自らに「見える化」し、老後の生活に十分な資金状況であるかを確認する。
収支の改善策を実行する
これらを行った上で、自らの老後にとって十分な金融資産がないと考える場合、多くの人がまず模索するのは収入の確保、特に就労継続の検討であろう。これは就労期間を長くし、所得を確保できることから、資産寿命を延ばすという観点から非常に有効である。ただし、就労延長や再雇用における給与はこれまで得てきた収入よりも下がる可能性が高いことには留意しておかなければならない。
次に検討する事項としては、支出の見直しであろう。この際に留意したいことは、収入や保有資産に見合った支出の検討である。老後の支出は、現役時の収入が高かった時の支出に引きずられがちという一般的な特徴がある。現在の収入と保有資産を踏まえて、資産寿命を延ばすという観点で、支出が適正なものかをよく吟味するように心がけたい。また、仮に就労延長や支出の見直しを行ってもなお収支および資産が十分でないとなったとき、自宅等の不動産がある場合には、それを売却して金銭化するなどの住宅資産の活用や、住居費や生活費が相対的に安い地方への移住も選択肢に入ってこよう。
中長期的な資産運用の継続と計画的な取崩しを実行する
こうした検討を踏まえつつ、次に検討・実行していくことが望ましい事項として、高齢社会では、リタイヤ後もまだ20〜30 年の人生が続くことを前提に、中長期的な資産運用(長期・積立・分散投資等)の継続・実行とその後の計画的な取崩しの実行があげられる。
すでに長期・積立・分散投資を現役期より行っている場合は、それを続けられるうちは続け、その後は計画的に資産を取り崩していくことが有効である。仮に長期・積立・分散投資を現役期より行っていない場合であっても、リタイヤ後でもまだ20〜30 年の人生が続くことを踏まえると、リタイヤ期前後から長期・積立・分散投資を始めても遅くないと考えられる。
その際には、自身の資産や収入、ライフプランをよく吟味するとともに、自身の投資経験を踏まえ、投資リスクにどの程度耐えうるのかなどをよく検討することが重要である。その検討の際に、自身のみでは難しい場合には、第三者としての立場からアドバイスできる信頼できるアドバイザー等に相談することが有効である。
なお、退職金等の資産を運用する場合は、当座の生活資金や十分な予備資金等を余裕をもって控除した上で、当面の使途がない資金について運用を検討すべきである。仮にその運用に失敗した場合、それを就労や更なる投資により補填しようとしても、加齢とともに心身は衰え、残された期間は自ずと短くなる。この現実を踏まえると、取れる投資リスクは加齢とともに小さくなっていくことをよく認識することが重要であり、この時期においても、リスクを抑えた長期・積立・分散投資を基本とすることが望ましいといえるのではないだろうか16。
定年延長の影響もあり、多くの高齢者がいまだ現役で働き、社会の中で活躍し続けている。日本の元気な高齢者が今までと同様に活躍し続けるためには、健康であり続けることが重要である。同時に、寿命が延び活動し続けるということはそれだけお金がかかるということも意味し、お金の問題は多くの者にとって避けて通れないものであろう。現役期から十分な余裕を持って準備をしておくことが望ましいが、長寿化を踏まえると、リタイヤ期前後からでも行動を起こすことは遅すぎることはない。 
(3)高齢期 ⇒ 資産の計画的な取崩しを実行するとともに、認知・判断能力の低下や喪失に備えて行動する時期 
個々人によって大きく差があるため、年齢による区分は困難であるが、ここでの高齢期は心身の衰えを感じ始める時期を想定する17。この時期においては、心身の衰えも踏まえて、資産の計画的な取崩しを実行するとともに、認知・判断能力の低下や喪失は誰にでも起こりうるという認識の下、それに備えて行動することが重要となる。
心身の衰えを見据えてマネープランを見直す
具体的には、医療や介護の費用が当初想定していたよりも大きな金額であった場合、資産の取崩しにも影響を与える。老人ホームなどへ入居が必要となった場合には、大きな費用が発生しうるため、自身の心身の衰えを見据えたマネープランの検討が改めて必要になってくる。
認知・判断能力の低下・喪失に備える
この時期は認知・判断能力の低下・喪失に備える時期でもある。認知・判断能力の低下は誰にでも起こりうる、そしてその認知・判断能力の低下には本人も周囲も気付きにくい。こうしたことを本人はもちろん周囲も含めて認識し、金融面での備えを行っておく必要がある。認知症には記憶障害と判断力に障害が生じ、これまで出来た計画や段取りが立てられなくなり、例えば将来の備えを使ってしまうなど、資産寿命を短縮させる恐れがある。これを防止するためには、例えば以下の対策が有効と考えられる。
・ 取引関係のシンプル化など、金融面の自身の情報を整理するとともに、適切な限度額の設定など、使い過ぎ防止のための手段を講じる。
・ 金融資産の管理方針(運用・取崩し、財産の使用目的、遺産相続方針等)を決めておく。
・ 可能であれば、金融面の必要情報(財産目録、通帳等の保管、上記の金融資産の管理方針等)を、信頼できる者18と共有する。
これらにより、たとえ認知・判断能力が低下した場合でも、資産寿命の短縮化をある程度防ぐことができると考えられる。また、こうした能力を喪失した場合でも、予め共有された情報や方針に基づき、周囲の者が本人の金融行動をサポートするとともに、周囲の者の混乱も抑えることが期待される。
この時期では、人生の晩年を迎えるとともに心身の衰えが現れ始め、本人にとって必ずしも望ましい生活を送ることが難しい場合もあるかもしれない。本人にとって、出来る限り望ましい生活を送るために、まずは健康であり続けることが重要であるものの、これに加えて、誰にでも起こりうるといえる認知・判断能力の低下・喪失に備えた対応を取ることは、本人や周囲にとって必要になってきている。これまでは、認知・判断能力が低下・喪失した者が金融サービスを従前どおり受け続けることは難しかった状況があったが、認知・判断能力の低下・喪失に備えた社会全体の意識・対応も徐々に改善しつつある。認知・判断能力の低下・喪失後も、金融サービスを引き続き受けるために、事前の備え、具体的には本人意思を予め明確に示しておくことが重要であると言える。

ここまで、ライフステージ別に、長期・積立・分散投資等による資産形成や資産管理の重要性を述べてきた。前者については、人によっては資産運用が性にあわないと考える人もいるかもしれない。長期・積立・分散投資といえども、経済情勢によっては、資産が目減りする時期も当然ありうるし、資産の構成を見直さなければならない場合もありうる。資産運用に対する向き・不向きも一定程度存在するだろう。また、就労によって新たな所得を得る方が資産運用よりも効率的と考える人もいるかもしれない。しかしながら、今後も老後の収入の重要な柱であり続ける公的年金については、少子高齢化という社会構造上、その給付水準は今後調整されていく見込みである。加えて、低金利環境が長く続く中、資産運用による資産形成の可能性を閉ざしてしまうことは、豊かな生活のための有力な選択肢の一つを放棄してしまうことになるのではないだろうか。長期・積立・分散投資ならば、金融の先端知識や手間はほとんど必要ない。人生100 年時代というかつてない高齢社会においては、これまでの考え方から踏み出して、資産運用の可能性を国民の一人一人が考えていくことが重要ではないだろうか。 
 
 

 

●【付属文書2】高齢社会における金融サービスのあり方 
個々人の資産の形成・管理での心構えに応じて、金融サービスはどうあるべきか。
顧客本位の業務運営の徹底
大前提として、顧客本位の業務運営を挙げておきたい。人生100 年時代というかつてない高齢社会においては、金融サービス提供者には資産形成・管理やコンサルティング機能の提供が求められている。これまでは標準的な世帯モデルにあわせた、いわば業者起点の画一的な商品を提供すれば足り、顧客もその商品に対して、疑問を持つことは少なかった。しかし、個々人の状況が多様化する中においては、そのような対応では顧客を十分に満足させることが難しくなってきている。多様化する個々人のニーズに見合ったサービスを提供することができるか。資産寿命を延ばす為に、顧客にどういった金融サービスを提供しうるか。金融ビジネスを取り巻く環境が厳しさを増す中、顧客が真に必要とする金融サービスを提供し、信頼を勝ち得た金融サービス提供者が、中長期的に選ばれていくと考えられる。
「顧客本位の業務運営に関する原則」が策定されて2年が経過し、各金融機関等の取組みも進展してきたが、販売担当といった現場レベルには必ずしも十分に定着していないといった厳しい指摘も行われている。今後の更なる改善に向けて、今一度、各金融サービス提供者は顧客本位の業務運営とは一体何なのか、突き詰めて考える必要があるといえる。
そして、顧客へのサービス提供にあたり、
・ 顧客の状況からみて、過度にリスクの高い商品の販売を行わない等、顧客にとってふさわしいサービスを提供すること
・ 手数料の明確化
・ リスクやリターン等を顧客が自ら判断できるようにするための分かりやすい情報提供
等について徹底していく必要がある。
持続可能な金融サービス
顧客本位の追求は、持続可能な金融サービスの提供と同時に実現されるべきものである。金融サービスもビジネスである以上、顧客の利用しやすさにも配慮した適切な対価を得ることは正当なことである。対価を開示し、コストとサービスを踏まえ適切であることを顧客に対して説明し納得してもらうことも顧客の信頼を勝ち取るポイントの一つであるだろう。
高齢社会における金融サービスについても、一つだけの正解はない。下記に示す方策はあくまで一例であり且つ大きな方向性としてのあり方となる。ゴールにいたるまでの過程・方法やゴール自体についても金融サービス提供者各々で異なっていることは自然なことであろう。大事なことは、顧客と目的を共有し、寄り添いながら、顧客を満足させ且つその利益を中長期的に最大化させられるかどうかである。そうした観点から、金融サービス提供者各々は、高齢社会において求められる金融サービスのあり方について具体的に考え、それぞれが持つ強みを生かしていくことが重要である。 
(1)顧客や社会の変化に応じて、金融サービスに何が求められているか 
ア.「長寿化」と「自助の充実」への対応
公的年金の水準が、今後調整されていく見込みの中、長寿化に応じて、資産寿命をどう延ばしていくか、個々人の資産の形成・管理での心構えの一つとして「自助」の充実について述べた。顧客がこうした「自助」の精神に基づき行動すれば、例えば、現役期においては長期・積立・分散投資等の資産形成を志向することが考えられるほか、リタイヤ期以降では、引き続きの資産形成とともに計画的な資産の取崩しを模索していくと考えられる。
これに対して、金融サービス提供者に求められることとしては、こうした顧客に対する資産形成・管理のサポートや顧客のライフプラン・マネープランに関するコンサルティング機能を強化し、顧客の最善の利益を追求することがあげられよう。ライフプランに関する相談内容は、多岐に及ぶと考えられ、一つの金融サービスの形態に留まらない可能性があるほか、場合によっては金融以外のサービスに対しての相談にも及ぶかもしれない。金融サービス提供者は、こうした多岐に渡るニーズに対して、顧客本位の観点から、非金融サービスとの連携やワンストップ化の推進なども含め、総合的に応えていくことが求められている。同時に、異業種の主体との提携を含め、高齢者向けサービスに関する地域での連携の発展に努めていくことも重要である。
イ.「多様化」への対応
単身世帯の増加、持ち家比率の減少、金融資産の保有状況等、多様化の動きはライフステージを問わず進んでいる。このような状況下においては、標準的なモデルを想定した画一的な金融商品・サービスでは、顧客のニーズに十分に対応できると言い切れない。商品・サービスの多様化や前述したコンサルティング機能の強化のほか、顧客ニーズに応じて商品・サービスを組み合わせて提供するといったことも求められていると言えよう。
また、商品・サービスの「見える化」も重要である。顧客が自らのニーズに応じて商品・サービスを選択する際に、また金融サービス提供者が顧客に対して商品・サービスを説明する際に、その商品・サービスがどのような内容であるかが容易に理解できること・理解してもらうことが重要である。商品・サービスが多様化すればするほど、顧客が適切な選択を行うことが困難となり、顧客のもとに本当に必要な商品・サービスが届かない、というパラドックスが起こり得る。「見える化」を推進し、金融機関や業界の垣根を越えて様々な商品・サービスの内容やコスト等の相互比較を容易にすることが重要である。加えて、前述のコンサルティング力を発揮し、顧客に寄り添った提案をすることで、顧客がニーズにあった商品・サービスを適切に選択できるメカニズムが形成されていくことが期待される。
ウ.「認知・判断能力の低下・喪失への備え」への対応
これまでは本人意思が確認できないとなった場合、従前どおりの金融サービスを受け続けることは難しい面があった。しかしながら、認知・判断能力の低下・喪失に備えた社会全体の意識・対応も改善しつつあり、金融サービスにおいても対応が進みつつある。今後この動きをさらに加速し、認知・判断能力が不十分となった後も、本人意思の確認を十分に行い、又は予め明らかにされた本人意思に基づいて、判断能力が低下・喪失した後でも継続して金融サービスを受けられるよう予め本人意思を明示させるよう働きかけることが望ましい。
認知・判断能力の低下が進むにつれて、人によっては、介護等のニーズが増大し、これに応じた支出が増加する可能性が高い。そうすると金融資産の目減りのスピードは加速することになる。医療技術の進歩等に伴い、介護が開始して以降の寿命も長期化し、それにつれて費用も増大することが想定されるため、そうした事態にも備えておくことが望まれる。仮に、認知・判断能力が高いうちに示された本人意思において、資産運用の継続など自身の金融資産の活用を本人が望んでいる場合、資産寿命の延伸や顧客本位の観点からも、金融サービス提供者はこれを出来る限り実現することが望ましい。上記事態が発現した場合にどうするのか、金融サービス提供者は予め具体的に検討しておくべきである。この実現には、公的な環境作りも必要だが、金融サービス提供者はそうした環境作りに協力するとともに、本人意思の定期的な確認など、自らの取組みも推進していくべきである。 
(2)現役期の顧客に対する対応の方向性 
現役期の顧客は、他のライフステージに比べて、収入・保有資産ともに少なく、且つ住宅ローンなどの負債を抱えているケースが多い。少子高齢化という社会構造の大きな変化の中、老後の資金も含め、将来に備えた資金形成ニーズを潜在的に保有していると同時に、そうした資産形成をどう行っていくかを考えていく上で漠然とした不安を抱えていると考えられる。将来の年金収入はいくらぐらいか、それが老後の生活に十分でないとして就労収入で補うに足りるか、税や社会保険料等、将来の負担はどれぐらいになるかなどである。
金融サービス提供者がこうした不安を完全に取り除くことは難しいが、資産形成ニーズに応じた商品・サービスを提供することが金融サービス事業者に求められていることの一つと言えるのではないだろうか。金融サービス提供者と現役期の顧客との接点は、これまで住宅ローンや保険等の一部サービスに留まってきたかもしれないが、家計のポートフォリオ全体を意識した資産形成・資産配分という観点からのサービス提供の必要性が増してきていることを念頭に対応していくべきである。
具体的な対応としては、まず顧客の状況をよく知り、金融以外の資産・負債を含めて家計のポートフォリオを俯瞰することである。その上で顧客の状況に則したマネープランの提案など総合的なコンサルティングサービスを提供することが考えられる。こうした資産形成のニーズに対しては、短期的な取引に基づく収益追求に終わらせるのではなく、例えば長期・積立・分散投資等を提案することなどにより、長期的な取引関係につなげることが重要ではないだろうか。
現役期は仕事や家庭、全てにおいて忙しく、何かと負担の大きい時期である。こうした苦しい時期に顧客の側に立った支援を行うことは、顧客との信頼関係を構築し、退職後も含めた取引関係に繋がっていく。これを長期的に金融サービス提供者自らの利益に繋げることもできるのではないか。 
(3)リタイヤ期前後の顧客に対する対応の方向性 
一昔前には、公的年金や十分な退職金により老後の資金を心配する人は今ほどは多くなかったものと思われるが、高齢社会の進展により、状況は変化した。リタイヤ期前後の顧客は、定年や加齢により働き方が変わり、収入の減少、退職金の取得などにより、収入や資産の状況が大きく変化する時期にある。収入と支出の差額について、資産を取り崩すとともに、まとまった資産の一部の運用を検討することもあるだろう。同時に老後の生活が現実となり、自身の心身の状況に応じて、残りの寿命の過ごし方を考え始める時期でもある。
多くの人が退職金という多額の金融資産を取得する時期であることから、多くの金融機関が退職者向けのキャンペーンを盛んに行っている。しかしながら、そうしたキャンペーンなどの内容が、真に顧客にふさわしいものであるかについては自問が必要なのではないか。
顧客側では退職金の使途について十分な時間をかけて検討しているとはいえない現状が窺える中、退職金を元にした資産運用に対するニーズも存在する。ここで金融サービス提供者に求められるのは、短期的な利益ではなく、中長期の資産形成の観点からの商品・サービスの提供である。そのためにもまずは、今後のライフプランをいかに考えているのか、顧客に寄り添ってコンサルティングを行うことが重要となる。現行の退職者向けキャンペーンなどで提供されている商品が老後の豊かな生活を望む顧客の本質的な投資目的に照らして適切なのか、また、本人の投資経験等を踏まえ、当該商品サービスのリスク・リターンや手数料などの特徴を説明した上で、本人が十分に理解して購入に至っているか、顧客本位を徹底することが何よりも重要である。顧客のその後の人生に必要なプランや商品・サービスを提供できた金融サービス提供者が中長期的に選ばれていくことになるのではないだろうか。
仮に、顧客において収支の改善が必要となった場合、まずは就労の延長や支出の抑制が有力な選択肢と考えられる。そうした時に、具体的に考えられる対応としては、就労延長や支出抑制策を含めた、特定の金融サービスに留まらないライフプラン・マネープランの提供があげられる。また、就労延長に加え、資産取崩しやリスク許容度の変化、長生きリスクなどがこの時期において発生することを踏まえると、こうしたことに対応した商品・サービス19のますますの充実が期待されるところであろう。これら多様な商品・サービスを一括で比較検討できるワンストップのサービスの提供や他社の類似商品との比較のしやすさに配慮した商品の説明や内容の開示なども検討されるべき事項だろう。 
(4)高齢期の顧客に対する対応の方向性 
医療や介護等のニーズが増大している顧客に対して、どのような金融サービスの提供が求められているか。顧客の心身の状態にもよるが、医療・介護ともに多額の費用がかかりうる。老人ホームなどの施設入居ということになれば、相当額の費用を要する。顧客にとっては、各々の状況に応じて改めて今後のマネープランを見直す時期であることから、コンサルティング機能を発揮し、顧客のマネープランを「見える化」するサポートがここでも求められるのではないだろうか。
心身の衰えを踏まえれば、顧客のニーズはもはや金融のみにとどまらない。家事が億劫になったり、家族などの周囲の者が心身が衰え始めた顧客を心配したりするなど、業界の垣根を越えた非金融分野のニーズも増大していくと思われる。顧客のマネープランの相談の際に、こうした非金融の分野に関する商品・サービスの提案・提供も考えられるところである。すでに多くの金融サービス提供者がこうした取組みを進めているところであるが、さらに拡充・推進していくべきである。
医療や介護の事業者と金融サービス提供者との共通点は、他の事業者と比べて顧客の生活に深く入り込む局面もある点ではなかろうか。医療や介護は心身を通して、金融サービス提供者はお金を通して、本人も気づかない領域にすら入り込み、サポートやアドバイスを行うこととなる。心身の状態とお金の問題は密接に関係すると考えられ、この両事業者が顧客本位の立場で連携することは、顧客の利益につながっていく可能性が高いのではないだろうか。
なお、心身の衰えに応じて、本人だけではなく家族や後見人などの周囲の者とのコミュニケーションも必要になってくると思われる。後述のように、認知・判断能力が低下・喪失し、本人との意思疎通が難しくなった場合には、本人を代理する家族や後見人など周囲の者とのコミュニケーションが重要であると思われ、この時期においては、必要に応じて早い時期から周囲の者とも関係を先んじて構築しておくことが望ましい。また、そこで構築された信頼関係は、周囲の者との次の取引につながることもあるだろう。
この時期の顧客は、認知・判断能力の低下・喪失に備える時期でもある。本人意思が確認できないとなった場合、これまでは金融サービスを従前どおり受けることは難しい面があった。しかし、社会全体の対応が変わりつつある中で、金融サービスもそれに応じて対応していかなければならない。金融ジェロントロジー20等の学問的見地を取り入れるなどして、その対応を進化させるとともに、環境づくりをより一層推進していくべきである。
また、認知・判断能力が低下してきたとすれば、顧客自身が自ら資産管理を行うには困難が伴い始めると考えられる。求められるサービスの一つとしては、例えば信託サービスや投資一任サービスなど、資産管理が難しくなった本人に代わって、本人から信頼された者が受託者(フィデューシャリー)として、本人意思に則って、資産管理を行うサービスが挙げられるであろう。その際には、認知・判断能力が低下・喪失した後であっても、予め明らかにされた顧客本人の意思を最大限尊重しながら、適切な金融取引の選択を行えることが望ましく、金融サービス提供者も今後より一層対応を進めていくべきである。
なお、認知・判断能力が低下した者であっても、周囲の者のサポートなくこれまでと同じ日常生活を送れること(「ノーマライゼーション」21)が本来望ましい。認知症の人が今後増加することを踏まえれば、一定程度の認知・判断能力の低下を社会全体として包含しうる仕組みづくりが求められている。金融サービスにおいても、例えば、顧客の資金の使い過ぎが問題なら、本人や周囲の者に自動的にアラートする仕組みを構築するなどのサービスの提供も考えられる。こういった視点も念頭に、金融サービス提供者の対応が進められていくことが望ましい。 

 

1 寿命において健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間(平成26 年版厚生労働白書)。
2 資産寿命とは、「生命寿命」や「健康寿命」と関連して、老後の生活を営んでいくにあたって、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間。資産寿命が尽きた後は年金等のフローの収入のみで生活を営んでいくこととなる。
3 この他、企業年金などの充実も、老後収入の確保という視点から、重要な視点である。
4 NISA について、現在3 つの制度(一般NISA、つみたてNISA、ジュニアNISA)が並存しており分かりにくいとの指摘もあり、それぞれの制度の違いを広報することも重要である。
5 NISA が参考にした英国のISA 制度においては、1999 年の導入時は、順調にいかなかった際に制度を取りやめられるよう10 年間の時限措置であったが、2008 年に、順調に広く普及したことを踏まえ正式に恒久的な制度と認められたという経緯を辿っている。また、更にライフステージにあわせた資産形成制度が必要との観点から、各種プランが導入されるなどの制度の改善が行なわれている。こうした制度改正の追い風もあり、広く国民に普及した制度として成長してきたと考えられる。
6 NISA 口座内で保有している金融商品を売却し、別の金融商品を購入することで入れ替えること。
7 つみたてNISA のみならず、一般NISA についても利便性の高い制度とすべきとの意見があった。
8 非上場株式については、日本証券業協会規則によりその投資勧誘が原則として禁止されているものの、2019 年5月、事業承継を含む経営権の移転等を目的とする非上場株式の取引に係る投資勧誘を解禁する規則改正案が公表された。
9 例えば、ライフステージごとに、一定の年齢ゾーンの世代にとって必要となる考え方や心構えについて記述した一連のパンフレットを幅広く用意することが考えられる。特に、公的年金の受給の開始や退職金の受取りといった資産・収入の面での変化が起きるリタイヤ期前後において、こうした変化を契機に資産形成・管理の考え方について研修などが行われる仕組みが作られることが望まれる。
10 例えば、日本証券業協会では、リスク商品を販売する際の自主規制規則及びガイドラインにおいて、75 歳以上を目安として高齢顧客として、その顧客に対する商品勧誘にあたっては役席者による事前承認などを求めている(80 歳以上の高齢顧客に対しては更なる慎重な対応を求めている。)。
11 P50 脚注参照。
12 P8「プルーデント・インベスタールール」のコラム参照。
13 例えば、給与天引きなど定期的な収入から自動的に引き落とす方法が考えられる。
14 個人や企業など、個別レベルで見て合理的で正しい行動でも、その行動の積み重ねが、社会全体から見ると必ずしも正しい行動になるとは限らないこと。
15 自営業の者など、退職金がない場合は2の事項のみとなる。
16 特に資産運用の経験・知識が乏しい場合には、一度に多額の資産の運用を始めることについては、慎重な検討が必要であろう。
17 ここでいう高齢期(心身の衰えを感じ始める時期)は、世界保健機関 (WHO) の定義による高齢者(65 歳以上の者)よりも高い年齢層を指す場合が多いと考えられる。
18 例えば、任意後見制度を利用して、将来の財産管理などを、信頼できる者に依頼しておくことも考えられる。
19 例えば、就業不能保険、定率取崩しサービス、ターゲット・デート・ファンド(ライフステージ等に応じてリスク資産の比率が変化)、トンチン年金(掛け捨ての終身年金で、出資者が死亡した場合、その受けるべきであった年金原始は他の生存する出資者に分配される)等の商品・サービスが考えられる。
20 金融ジェロントロジーとは、高齢者の経済活動、資産選択など、長寿・加齢によって発生する経済課題を、経済学を中心に関連する研究分野と連携して、分析研究し、 課題の解決策を見つけ出す新しい研究領域のこと(ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター)。
21 ノーマライゼーションとは、障害のある人もない人も、互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会を目指すこと(厚生労働省)。