お役人の掌 踊る政治家

お役人国家の証明

お役人の掌(手のひら) 絶大です
上で踊る政治家が見えてきます
「厚労省の統計不正」 楽屋裏がちょっとだけ覗けます
 


仏の掌(手のひら)
 
 
 

 

内閣人事局(2014年設置)ができ 
お役人の出世の楽しみ 安倍総理の顔色次第
掌の動き ちょっとだけ「忖度」が加わりました
 
 
 
 
 
 
 
第三者委員会
厚労省作成シナリオどおりの調査報告
毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る
  事実関係とその評価等に関する報告書
 
 
 
 
 
 2018

 

●厚労省の賃金統計「急伸」 実態表さずと認める 政府有識者会議 2018/9/29
厚生労働省が今年から賃金の算出方法を変えた影響により、統計上の賃金が前年と比べて大幅に伸びている問題で、政府の有識者会議「統計委員会」は二十八日に会合を開き、発表している賃金伸び率が実態を表していないことを認めた。賃金の伸びはデフレ脱却を掲げるアベノミクスにとって最も重要な統計なだけに、実態以上の数値が出ている原因を詳しく説明しない厚労省の姿勢に対し、専門家から批判が出ている。
問題となっているのは、厚労省が、サンプル企業からのヒアリングをもとに毎月発表する「毎月勤労統計調査」。今年一月、世の中の実態に合わせるとして大企業の比率を増やし中小企業を減らす形のデータ補正をしたにもかかわらず、その影響を考慮せずに伸び率を算出した。企業規模が大きくなった分、賃金が伸びるという「からくり」だ。
多くの人が目にする毎月の発表文の表紙には「正式」の高い伸び率のデータを載せている。だが、この日、統計委は算出の方法をそろえた「参考値」を重視していくことが適切との意見でまとまった。伸び率は「正式」な数値より、参考値をみるべきだとの趣旨だ。
本給や手当、ボーナスを含めた「現金給与総額」をみると、七月が正式の1・6%増に対し参考が0・8%増、六月は正式3・3%増に対し参考1・3%増だった。実態に近い参考値に比べ、正式な数値は倍以上の伸び率を示している。
厚労省がデータ補正の問題を夏場までほとんど説明しなかった影響で、高い伸び率にエコノミストから疑問が続出していた。統計委の西村清彦委員長は「しっかりした説明が当初からされなかったのが大きな反省点」と苦言を呈した。
SMBC日興証券の宮前耕也氏は「今年の賃金の伸び率はまったくあてにならない」と指摘した上で「影響が大きい統計だけに算出の方法や説明の仕方には改善が必要」と提言している。
毎月勤労統計調査のデータ補正 / 厚生労働省が一定数の企業を選んで賃金などを聞き取るサンプル調査。対象になった大企業や中小企業の割合は世の中の実態と誤差が出るため、総務省が数年ごとに全企業を調査したデータを反映させ、補正する。賃金の伸びを正確に把握するため、このデータを更新した年は過去の分も補正し、連続性を持たせてきたが、今年は「統計改革の一環」(厚労省)として補正をしていない。その結果、規模が大きい企業の割合が多い2018年と少ない17年を比べることになり、賃金の伸び率が実態よりも大きくなった。 
●アベノミクス最重要統計の「賃金伸び率」水増しを統計委員会が指摘 2018/9/30
デフレ脱却を掲げるアベノミクスにとって重要な統計が実態を反映せず「水増し」されていることが統計委員会に指摘されています。
9月28日に政府の専門的かつ中立公正な調査審議機関である「統計委員会」が厚生労働省がサンプル企業からのヒアリングをもとに毎月発表している「毎月勤労統計調査」の賃金伸び率が実態を表していないことを認めました。
統計委員会は基本計画の案や基幹統計調査の変更といった統計法に定める事項に関する調査審議を行うとともに、関係大臣に必要な意見を述べることで、公的統計において重要な役割を果たす機関。
厚労省は2018年1月に世の中の実態に合わせるとして「毎月勤労統計調査」で大企業の比率を増やし中小企業を減らす形のデータ補正を行いました。
しかし、その影響を考慮せずに伸び率を算出したため企業規模が大きくなった分「賃金が急伸する」という結果となりました。そして多くの人が目にする発表文の表紙にはこの「正式」の高い伸び率のデータが載せられました。
デフレ脱却を掲げる安倍政権の目玉経済政策であるアベノミクスにとって賃金の伸びは極めて重要な統計となるため、この時点で既に政策の成否に関する統計データの「水増し」が行われていたわけです。
統計委はこの日、賃金の伸び率は「正式」な数値よりも算出の方法をそろえた「参考値」を重視していくことが適切との意見でまとまりました。厚労省がデータ補正の問題を夏場まで隠蔽していたことに対し、統計委の西村清彦委員長は「しっかりした説明が当初からされなかったのが大きな反省点」と苦言を呈しています。
本給や手当、ボーナスを含めた「現金給与総額」をみると、7月が正式の1.6%増に対し参考が0.8%増、6月は正式3.3%増に対し参考1.3%増となるなど、実態に近い参考値に比べると正式な数値は倍以上の伸び率を示しています。
厚労省といえば裁量労働制に関するデータの2割に当たる2000件超がデタラメだったことが5月に発覚したばかり。
旧ソ連がある日突然崩壊した背景に、あらゆる統計データがぞんざいに扱われていたことが挙げられるため、非常に重く受け入れるべき事態です。 
●実質賃金、再びマイナス傾向を持続 物価上昇が要因 2018/11/30
日本経済は現在、世界経済の回復やオリンピック関連需要を背景に景気回復の状況にある。有効求人倍率も1.64倍にも達し深刻な人手不足の状況だ。企業は人材確保と離職防止のため積極的に賃金引き上げを行っている。名目での賃金上昇傾向は従前からのものであるが、一方で賃金が上昇傾向の物価に追いつけず、実質賃金は低下傾向で推移してきた。
今年に入り物価が落ち着いてきたため実質賃金の伸び率はプラス傾向に転じたが8月に再びマイナスに転じ、直近9月もマイナスとなり再び実質賃金低下の兆しが出てきた。
7日。厚生労働省が毎月勤労統計調査の9月分速報を公表した。いわゆる名目賃金に当たる現金給与総額はフルタイムの一般労働者が34万7013円で前年同月比1.2%の増加、パートタイム労働者は9万6266円で0.5%の減少となった。パートタイム労働者の比率は30.6%で0.15ポイント前年同月より低下している。一般労働者とパートの両者を会わせた就業形態計では27万256円となり、前年同月比1.1%の増加で、名目レベルでは賃金の上昇は続いている。
一方、消費者物価の上昇を考慮した実質賃金の対前年同月比を見ると0.4%のマイナスとなっており、前月8月の確報値0.7%の低下に引き続いて2ヶ月連続の実質賃金低下となった。実質賃金は2018年に入ってから3月が0.7%のプラス、5月が1.3%、6月が2.5%、7月が0.5%と3ヶ月連続でプラスを持続し実質賃金上昇の兆しを見せていたが、8月から再びマイナス傾向となった。
実質賃金がマイナスに反転したのは消費者物価指数が上昇した影響が大きい。9月の消費者物価指数は総合で1.4%、生鮮食料品を除いたコアで1.0%、エネルギーも除いたコアコアでは0.4%となっている。総合での内訳はエネルギーが0.6ポイント、食料が0.47ポイントで中東情勢の不安定による原油価格の上昇傾向と夏の天候不良による農産物の不作による影響が大きい。
所定外労働時間の対前年同月比をみると9月が3.6%のマイナスと大きく減少しており、8月が1.9%、7月が1.8%のそれぞれマイナスで3ヶ月連続の減少となっており景気に頭打ち感も見られる。エネルギーや食料の高騰と景気の足踏み感の中で再び賃金が物価上昇に追いつけないという状況に戻ってしまったようだ。
来年には消費税増税が予定されているが、このまま実質賃金の低下傾向が続けば勤労者の増税感は強いものとなるであろう。実質賃金を上昇させる何らかの政策が必要だ。 
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●不適切勤労統計2004年から 雇用保険など過少給付か
賃金や労働時間の動向を把握する「毎月勤労統計調査」について、全数調査が必要な対象事業所の一部を調べない不適切な調査が2004年から行われていたことが分かった。10年以上にわたって誤った手法で行われ、統計結果を算定基準とする雇用保険などが過少に給付されていた恐れもあり、厚生労働省は影響や詳しい経緯を調べている。
勤労統計は厚労省が毎月、都道府県を通じて調査し、従業員5人以上の事業所が対象で、従業員500人以上の場合は全てを調べるルール。
しかし、東京都内では全数調査の対象が約1400事業所あったが、実際には1/3程度しか調べられておらず、全数調査に近づけるよう係数を掛けるなど統計上の処理をする偽装が行われていた。関係者によると、この誤った形での調査は2004年から行われていた。
賃金が比較的高いとされる大企業の数が実際より少ないと、実態よりも金額が低く集計される可能性がある。
勤労統計は月例経済報告といった政府の経済分析や雇用保険や労災保険の算定基準など幅広い分野で用いられる国の「基幹統計」。雇用保険の失業給付の上限額は、勤労統計の平均給与額を踏まえて決まる。
仕事を通じて病気やけがを負ったと労災認定された場合に支払われる休業補償給付も、平均給与額の変動に応じて見直される仕組みで、正しい手法で調査した結果、平均給与額が高くなれば、こうした保険が過少に給付されていたことになる。
根本匠厚労相は昨年12月20日に問題の報告を受けたが、翌21日には、調査が不適切だったことを明らかにしないまま10月分の確報値を発表していた。
厚生労働省が9日発表した昨年11月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価の影響を加味した実質賃金は前年同月比1.1%増え、4カ月ぶりのプラスとなった。調査対象に漏れがあったことが判明したが、全数調査へと是正されないままの公表となった。調査手法が不適切なため信頼性に疑義が残るが、厚労省担当者は「規則により発表することが決まっているため」と説明した。
基本給や残業代などを合計した一人当たりの現金給与総額は2.0%増の283,607円だった。 
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●不適切統計、厚労省職員の発言で発覚 「東京以外でも」
毎月勤労統計の問題が発覚するきっかけは、厚生労働省の担当職員が総務省の統計委員会の打ち合わせで「東京以外の地域でも従業員500人以上の事業所について抽出調査を実施したい」と発言したことだった。複数の関係者が明かした。
厚労省と総務省の担当職員、統計委員会の西村清彦委員長らが昨年12月13日、次回の統計委員会開催について協議した。西村氏が毎月勤労統計の調査結果について、かねて正確性を疑問視する声が出ていることを踏まえ、詳細に分析する必要があるとし、次回委員会のテーマにする考えを示したという。
その時に厚労省職員から、従業員500人以上の事業所について東京都では抽出調査をしており、東京以外への拡大を計画しているとの発言があった。西村委員長は「抽出調査は重大なルール違反」と指摘し、統計の信頼性確保の観点からも危機的状況だとの認識を示した。厚労、総務両省に早急に事実関係を確認するよう求めた。
今回の問題が発覚するまで、厚労省は神奈川県、愛知県、大阪府でも抽出調査を始める方向で準備していた。 
●勤労統計、昨年1月から急変 算出法変更で賃金高い伸び 1/11
厚生労働省が不適切な手法で調査していた「毎月勤労統計」をめぐり、算出方法が変わった昨年1月調査分から賃金が前年同月と比べて高い伸び率を示すようになった。一部のエコノミストなどから疑念の声が上がったが、厚労省が同じタイミングで本来の調査手法に近づける補正をしていたことも要因とみられる。
厚労省によると、調査対象は無作為に抽出した約3万3千事業所。本来、従業員500人以上の大規模事業所はすべてを対象に、5〜499人の事業所は抽出で調査が行われている。このうち30〜499人の事業所は従来、2〜3年に1度全てを入れ替えていた。しかし、政府の経済財政諮問会議などで「入れ替えの際に生じる結果の乖離(かいり)が大きくなる傾向にある」との指摘があり、見直すことになった。
2020年1月分から、30〜499人の事業所は、毎年3分の1ずつ入れ替える方法に変更する。その経過措置として、昨年と今年1月分は2分の1の事業所が入れ替えられる。そして昨年の入れ替え後、現金給与総額は昨年6月に前年同月比3・3%と21年5カ月ぶりの高い伸び率を示すなどした。一方、入れ替えがなかった事業所に絞った調査では、1・3%の伸びにとどまった。
この点について、昨年9月の総務省の統計委員会で、厚労省は抽出調査から全体を推計する際に用いる、全事業所を対象とする「経済センサス」の最新結果を反映させたためだと説明。センサスで前回より大企業の割合が増え、毎月勤労統計を算出する際の労働者の企業規模別の比率で、給料が高めの大企業の比率が高まったとした。
だが、厚労省が従業員500人以上の事業所について、東京都分は3分の1しか調査していなかったことが判明。関係者によると、昨年1月調査分から約3倍にして本来の調査対象数に近づける補正を始めた。それまでは抽出した少ない事業所数のまま集計しており、補正でも現金給与総額が押し上げられたとみられる。 
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●根本厚労相が毎月勤労統計不適切調査で陳謝
毎月勤労統計調査で都内の500人以上規模の事業所をすべて調査しなければならないところを一部調査にとどめるなど不適切な調査をしていた事について、根本匠厚生労働大臣は11日、平成16年から行われていたことを認め「国民の皆様にご迷惑をかけたことをお詫びします」と陳謝した。
毎月勤労統計調査は賃金や労働時間、雇用変動などを把握する基幹調査だけに、あってはならない手法がとられていたことになる。
根本大臣は「政策立案、学術研究、経営判断等の礎として、常に正確性が求められる政府統計について、こうした事態を引き起こしたことは極めて遺憾で、国民の皆さまにご迷惑をお掛けしたことを心からおわび申し上げる」と述べた。
そのうえで「今後、今般の事案の原因を明らかにするとともに、厚生労働省として統計に関する姿勢を正し、同時に、国民の皆さまに対して必要な追加給付を行う」とした。
また根本大臣は「必要なデータ等が存在する平成24年以降について復元を行い、再集計値として公表する。また必要な追加給付を行うため、決まって支給する給与について、毎月勤労統計調査を基礎として加工した給付のための推計値を公表する。毎月勤労統計調査については正確性、継続性に留意しつつ、今後、早急に適正な取り扱いとなるようにする」とした。 
●統計問題、予算削減の影響背景か 総務省の西村統計委員長が指摘 1/16
毎月勤労統計の不適切調査問題で総務省統計委員会の会合が17日に開かれるのを前に、厚生労働省に是正を求めた西村清彦委員長が16日、共同通信のインタビューに応じ「政府の予算削減の影響が背景にあるのではないか」と述べた。
西村氏は、厚労省が2004年に東京都の従業員500人以上の事業所調査を抽出に切り替えたことを巡り「当時は財政危機でさまざまなコストカットが行われた。厚労省でも、短期的な結果が出にくい統計の部署に人材や予算面でしわ寄せがいったのではないか」と指摘した。 
●実態解明へ厚労省を聴取 総務省統計委 厚労省は第三者委立ち上げ 1/17
賃金や労働時間の動向を把握する厚生労働省の「毎月勤労統計」調査が不適切だった問題で、総務省は17日午前、統計委員会(委員長・西村清彦政策研究大学院大学特別教授)を開き、厚労省から経緯や今後の対応などについて聞き取りを行った。厚労省は原因解明には至っておらず、同省は同日午前、新たに立ち上げた第三者による特別監察委員会を開き、原因の究明を急ぐことを確認した。
統計委で西村氏は「重大な事案が発生している。統計委は重要な問題と考えている」と述べ、厚労省に説明を求めた。同省の大西康之政策統括官は「大変ご迷惑をかけたことを深くおわびする」と陳謝した。
特別委では根本匠厚労相が「常に正確性が求められる政府統計の信頼を毀損(きそん)する極めて重大な事態だ。事実関係をしっかり解明し、国民の皆さまに説明する」と語った。厚労省はこれまで監察チームで職員から聞き取りを行ってきたが、調査の客観性や中立性を担保するため、有識者による特別委を発足させた。
一方、政府は雇用保険などの過少受給者に不足分を支給する関連費用として、平成31年度予算案の一般会計に約6億5千万円を上積みする方針。自民党は同日午後の総務会で修正した予算案について審議し、了承する見通しだ。これを受け、政府は18日に予算案を改めて閣議決定する。
衆院は17日午前、厚労委員会の理事懇談会を開き、厚労省から事実関係について聴取し、閉会中審査の日程も協議する。参院も閉会中審査を行う方向で調整しており、同日午後の参院厚労委理事懇で協議する。
勤労統計調査は、従業員500人以上の事業者については全数調査をするルールだが、16年からは東京都内の約1400事業所のうち約3分の1だけを抽出して調べていた。昨年1月からは全数調査に近づけるために補正処理をしていた。
調査方法を変更する場合は総務相に申請しなければならないが、厚労省は総務相に届け出ておらず、総務省は統計法違反の疑いがあることを指摘している。 
●不適切調査 統計委員長「あぜんとした 明らかな法令違反」 1/17
賃金や労働時間に関する厚生労働省の調査が不適切に行われていた問題で、国の統計委員会の委員長がNHKの取材に応じ、「明らかな法令違反だ」と厚生労働省の対応を厳しく批判しました。
賃金や労働時間に関する厚生労働省の調査「毎月勤労統計調査」をめぐっては、大規模な事業所のすべてを調査することになっていたにもかかわらず、東京都内ではおよそ3分の1の事業所しか調べていなかったことが明らかになっています。
この問題について、国が行う統計について審議する総務省の統計委員会の西村清彦委員長が、NHKの取材に応じました。
今回の問題は、西村委員長の指摘がきっかけで、先月、発覚していて、当時のやり取りについて、「すべてを調査しているか厚生労働省の担当者に尋ねたところ、違うと言われ、あぜんとした。法令違反だと申し上げたが担当者の反応は鈍かった」と話しました。
平成16年から一部を抽出する不適切な手法が取られるようになったことについては、「極めて重大な計画変更で、明らかな法令違反だ。15年にもわたって修正されなかったのは驚きだ」と述べました。
さらに、「政府の統計調査全体に対する信頼が落ちることを最も心配している。統計調査は政策の基本だから、きちんとした調査をしないかぎり、きちんとした政策はできない」と指摘しています。
そのうえで、「厚生労働省には速やかに検証を行ってもらい、正しい方法に修正してもらいたい」と求めました。
今回の問題の影響で、雇用保険や労災保険などが本来より少なく支給されていたことが明らかになっていて、厚生労働省は追加支給に向けた準備を進めるとともに、問題の詳しいいきさつなどを調べています。  
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●官邸への忖度?厚労省の勤労統計調査「捏造」を指示したのは誰か
厚労省の「毎月勤労統計調査」が、安倍政権の新たな火薬庫になりつつある。
この調査が不適切な手法で2004年から行なわれ、それをもとに給付水準が決まる雇用保険や労災保険などで、過少給付のケースが続いてきた。該当者は延べ約2,000万人にのぼるとみられ、厚労省は不足分約567億5,000万円を追加給付する方針だという。
莫大な過少給付が発覚しただけでも十分、安倍政権を揺るがしかねない深刻な事態である。
麻生太郎財務大臣はさっそく追加支給額を確保するため、昨年12月21日に閣議決定したばかりの2019年度予算案を修正する方針を固めたようだ。
だが、問題はそれだけではない。アベノミクスが成功しているように見せかける手管に使われた疑いがあるのだ。
麻生大臣の素早い動きには、この事案を小泉内閣から続いてきた過少給付の問題だけにとどめておこうという意図が隠されているのではないか。筆者はそう怪しんでいる。
まず、長年にわたり続いてきた不適切な手法とはどんなものか、確認しておこう。
従業員500人以上の事業所に対しては全数調査をするべきところを、東京都だけは3分の1の事業所だけ抽出して実施してきた。給料の高い東京の事業所の数字が適切に反映されないため、平均賃金が実際より低めに出ていたわけだ。
小泉内閣の時代、なぜそんなことを厚労省がしはじめたのか、今のところはよくわからない。ひょっとしたら小泉構造改革で社会保障費を削減する政治状況にあったことと関係しているかもしれない。
だが、筆者がここで特に取り上げたいのは、ごく最近の奇怪な行政行為だ。先述した安倍政権にまつわる疑惑である。
「政府の統計は、政策判断や経済分析のもととなる。これが、時の政権の都合で、意図的に操作されることは絶対にあってはならない。だが、安倍政権ならやりかねないという思いが、疑惑を呼ぶ。6月の毎月勤労統計調査によれば、1人当たり平均の現金給与総額は前年同月比で3.6%増加となった。好業績を背景に企業が賞与を増やしたことが要因か」
同年8月7日の日経新聞もこう報じた。
「毎月勤労統計調査によると、6月の名目賃金にあたる1人あたりの現金給与総額は前年同月比3.6%増の44万8,919円だった。増加は11カ月連続で、1997年1月以来21年5カ月ぶりの高水準。」
7月20日の官邸における記者会見で、安倍首相は胸を張った。「この春、連合の調査によれば、中小企業の賃上げ率は過去20年で最高です。経団連の幹部企業への調査では、4分の3以上の企業で、年収ベースで3%以上の賃上げが実現しました」
いい材料だけ選んだ首相発言ではあるが、その後に発表された勤労統計調査結果も賃金上昇を裏付ける形になった。
筆者は首をひねった。たしかに大企業の役員をつとめる筆者の知人らは「景気はいい」と涼しい顔を浮かべる。だが、賞与が上がったといっても、大企業優遇策をとる安倍首相の要請にしぶしぶ財界が応じただけのこと。サラリーマンの小遣いは増えていないし、百貨店はインバウンドに頼り、相変わらずユニクロが賑わっている。国内消費が低迷しているのは個人のフトコロが寂しいからではないのだろうか。
そう思っているうちに、案の定、エコノミストらから統計への疑問の声が上がりはじめた。
「「今年に入り勤労者の賃金は大幅に増えた」との結果が出ている厚生労働省の賃金調査を巡り、調査の信用性を疑問視する見方が広がっている (9月22日)」
「(毎月勤労統計調査に基づく)雇用者報酬は政府がデフレ脱却の判断でも重視する指標。…4〜6月期は現行の統計が始まった94年1〜3月期以降で最大となり、専門家から過大推計を疑う声が上がっていた。 (10月24日)」
なぜ、急に賃金上昇を示す数字が出てきたのか。実は昨年1月から、“復元”という名の操作を厚労省が加えていたからである。
それがわかるきっかけは、厚労省、総務省の担当職員や、統計委員会の西村清彦委員長らが昨年12月13日に開いた会議でのやりとりだった。
その会議の模様を書いた記事がある。
「厚労省職員から、従業員500人以上の事業所について東京都では抽出調査をしており、東京以外への拡大を計画しているとの発言があった。西村委員長は「抽出調査は重大なルール違反」と指摘し、統計の信頼性確保の観点からも危機的状況だとの認識を示した。 (19年1月11日)」
西村委員長は統計調査で賃金の上昇率が異常に高く出ていることを疑問に思っていた。そこに、厚労省からルールと異なる手法で調査を行ってきた事実の披歴があった。それで、過去の数字が低く出過ぎていたことに気づき、厚労省を追及するうちに、昨年1月から全数調査の結果に近づけるよう“復元”の計算をする方式に切り替えられていたことが判明したのではないだろうか。
今年1月12日付の朝日新聞は“復元”のやり方について次のように報じている。
「昨年1月調査分から、対外的な説明もないまま、抽出した事業所数を約3倍する補正が加えられるようになった。その後、低めに算出されていた平均賃金額が実態に近くなった結果、前年同月比で伸び率が高く出るようになった。」
東京都の500人以上の事業所について、3分の1だけの抽出調査をするほうが全数調査の場合より全国の事業所全体の平均賃金は低くなる。
逆に、給料の高い東京がルール通り全数調査になり、サンプル数がどっと増えれば、高い数字が出るに決まっている。
一昨年までは前者の調査をし、数値をそのままにしていたが、昨年1月からは後者に近づくよう補正の計算をしたというのである。比較にならない比較をして政府の統計として公表していたわけだ。
担当部課は前からの引継ぎで抽出調査をしてきたため、ルール違反という意識が希薄だったかもしれない。
しかし、優秀な官僚ともあろうものが、抽出調査によって実態より低い数字になっていることをわかっていなかったとは、とうてい思えない。
決まり通り全数調査に近い数字を算出すれば、前年比が大幅にアップすることを当然認識していたわけで、もし官邸から「賃金が上がっているデータを出せ」と指示されれば、方法を思いつくくらい、いとも簡単だっただろう。
厚労省の中井雅之参事官は記者に「昨年1月調査分から補正したのは意図的な操作だったのか」と質問され、「真実を統計で客観的に伝えることが使命。意図的な操作は全くない」と型通りに否定した。しかし、素直に納得できる人は少ないのではないか。
一方、菅義偉官房長官は「勤労統計を含め56ある政府の基幹統計を一斉点検する」との方針を表明した。どうやら各省庁の統計がズサンかもしれないという問題だけが存在することにして、官邸への疑いを払いたいようである。
安倍政権は知らぬ間にGDPの基準を変えて数値をかさ上げした。人手不足の深刻化で有効求人倍率が上昇していることをもって、アベノミクスの成果だと強調してきた。賃金上昇の数値も、同じ意図による操作で捏造されたとみられても仕方がないのではないだろうか。
通常国会が間もなくはじまる。今度もコトの真相解明に不誠実な姿勢を変えないなら、安倍政権は夏の参院選で、国民から手痛いしっぺ返しを食らうに違いない。 
●総務省統計委員会の西村委員長の証言 1/18
賃金や労働時間に関する厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の問題について、国が行う統計について審議する総務省の統計委員会の西村清彦委員長が、今回の問題は西村委員長の指摘がきっかけで、先月発覚したことが報じられました。
西村委員長は当時のやり取りについて、「すべてを調査しているか厚生労働省の担当者に尋ねたところ、違うと言われ、あぜんとした。法令違反だと申し上げたが担当者の反応は鈍かった」と話しました。また、2004年(平成16年)から一部を抽出する手法が取られるようになったことについては、「極めて重大な計画変更で、明らかな法令違反だ。15年にもわたって修正されなかったのは驚きだ」と述べた、とのことです。
さらに、「政府の統計調査全体に対する信頼が落ちることを最も心配している。統計調査は政策の基本だから、きちんとした調査をしないかぎり、きちんとした政策はできない」と指摘しています。
西村委員長の〈法令違反だと申し上げたが担当者の反応は鈍かった〉との証言は、今回の問題の深刻さを物語るものである、とも言えます。つまり、東京都の大手事業所の賃金や労働時間に関する調査はすべての事業所が対象であることが、法令で決められているにもかかわらず、そのことを全く認識していない、ということであり、中央省庁でそういうことは本来〈あり得ない〉ことだからです。
では何故そのようなことになってしまったのか?ということですが、これから徐々に解明されて行くにしても、やはり大きな問題は15年もの間この〈異常な事態〉が表沙汰にならず続いて来た、ということであって、その背景にあるのは先にも指摘したように「事なかれ主義」ということで、過去の慣例に従ってそれを踏襲することしかない、つまり疑問を持って仕事をするようなことは一切しない、という〈お役人体質〉がある、と考えられます。 
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●勤労統計不正、厚労次官ら22人処分 「統計法違反」と認定
賃金や労働時間の動向を把握する厚生労働省の「毎月勤労統計」の調査が不適切だった問題で、厚生労働省は22日、鈴木俊彦事務次官ら計22人を減給などにする処分を発表した。根本匠(たくみ)厚労相は4カ月分の給与と賞与を全額返納。問題を検証する有識者による特別監察委員会(委員長=樋口美雄労働政策研究・研修機構理事長)が同日、中間報告を公表し、一部に統計法違反に当たる不正な手法があったと認定した。
鈴木次官と宮川晃(あきら)審議官は訓告。最も重いのは元雇用統計課長で、減給(10分の1)6カ月。すでに退職している人が16人含まれており、自主的な給与返納を求めている。副大臣、政務官、事務次官、審議官ら計7人も給与を自主返納する。
報告書では、隠蔽(いんぺい)の意図は、担当者個人としても組織としてもないと結論付けた。監察委の委員の一人は「組織的な隠蔽は一定の権限がある人の指示があるもの」と説明した上で、「真っ白とはいえないが、意図があると認定するには無理がある」と話した。
勤労統計は賃金や労働時間などの動向を探る国の「基幹統計」で、厚労省が都道府県を通じて行い、従業員500人以上の事業所は全数調査がルールとなっている。しかし、15年前からは東京都分約1400事業所のうち3分の1程度しか調べていなかった。
勤労統計を基に算定している雇用保険や労災保険などで過少支給が生じ、延べ約2015万人に追加給付を決定。追加給付費は事務費約195億円を含む計約795億円に膨らんだ。  
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●”報告書公表まで7日間”の「第三者委員会」はありえない
昨日(1月22日)、厚生労働省は、「第三者委員会」として設置した「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」の調査報告書を公表した。
1月16日の委員会の設置の段階では、「調査の中立性や客観性を明確にするため計6人の外部委員で構成する第三者委員会としての特別監察委員会を設置、初会合で根本匠厚労相は、早急な原因究明と再発防止策の策定を委員に要請した。」と報じられていた。また、今回公表された調査報告書にも、「第三者委員会として設置されたものである」と明記されている。
委員会のメンバーは、前統計委員会委員長が委員長を務め、他の委員には、元高裁長官、東大教授、元公認会計士協会幹部、私立大学学長、元日弁連常務理事など、統計の専門家に加えて、各界の有力者の「第三者」が名前を連ねている。
しかし、この委員会は本当に「第三者委員会」と言える存在であり、初会合で厚労相から独立した委員会としての調査を委嘱されたのだろうか。そうであれば、それ以降は、委員会が主導して「何をどのように調査し、どのように原因究明、再発防止策策定」を行うのかを決定し、委員会の責任において調査を行い、調査結果を取りまとめる、ということでなければならないはずだが、この委員会の実体も、調査の経過も、「第三者委員会」の名に値するものだったとは到底思えない。
この委員会の「調査結果」について、「組織的隠ぺいの否定」の点が、大きく取り上げられている。その点は、「隠ぺい」の定義にも関わる問題であり、評価は微妙な面がある。重要なのは、意図的な隠ぺいか否かは別として、いずれにしても、日本の行政組織の信頼そのものを大きく揺るがしかねない今回の問題について、その真の原因を徹底して究明することだ。
しかし、報告書では、末尾に1頁余りの「総括」という項目があるが、そこには、「言語道断である」「考えが甘すぎる」「想像力が著しく欠如していた」などという「叱責の言葉」が並び、
「調査設計の変更や実施、システムの改修等を担当者任せにする管理者の姿勢、安易な前例踏襲主義に基づく業務遂行や部下の業務に対する管理意識の欠如により、統計の不適切な取扱いに気付いても、それを上司に報告して解決しようという姿勢が見られず、また、上司も調査の根幹に関わるような業務の内容を的確に把握しようとせず、長年にわたり漫然と業務が続けられ」
「専門的な領域であるからという理由で、統計に関わる部門が厚生労働省の中でいわば「閉じた」組織となってしまっていて、省内からあまり注目を浴びることもなく、その結果、統計行政がフレッシュな視点でチェックを受けることなく行われてきたこともあるのではないか」
などという、ありきたりの「見方」が示されているだけだ。調査の結果明らかになった事実に基づく原因分析らしきものは全くない。
何より、決定的なことは、委員会設置から、この報告書公表までの期間が僅か7日間だということである。
この委員会が、中立性・独立性を持った「第三者委員会」なのであれば、まず、設置の段階で、委員会が調査事項を確認し、調査の方針、調査の手法を議論し、それを調査の実行部隊に指示し、調査結果について逐次報告を受け、その結果に基づいて委員会で原因について議論して、調査結果と原因論を報告書に取りまとめることになる。これらについて「調査補助者」を活用することは可能だが、いずれにしても、基本的な部分は、委員会が主導して進めていくのが当然だ。
そのような第三者委員会の調査であれば、事実関係のみならず原因究明も含めて、わずか7日間で調査報告書の公表に至るということは絶対にありえない。
今回の厚労省の統計をめぐる問題は、日本の行政組織そのものの信頼性にも関わる問題である。それが、どのような原因で発生し、どのように長期間継続したのか、その問題が把握されたときに厚労省の組織内でどのように対応したのか、という点は、日本という国にとって極めて重要であり、その事実解明は十分な客観性、信頼性を確保できるよう適切に行っていかなければならない。
それを、最初から、わずか7日間の期間で調査報告書を公表する「予定」で、「第三者委員会まがいの委員会」を立ち上げて、ほとんど原因分析も行わず幕引きを図ろうとしたとすれば、そのような厚労省の対応自体が、一つの「不祥事」であり、それを誰がどのように意思決定したのかを問題にすべきだ。そして、今回の勤労統計をめぐる問題について、改めて本物の第三者委員会を立ち上げて、徹底した調査と原因分析を行うべきであろう。 
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●監察“たたき台”「厚労省が作成」
「勤労統計不正は、消えた給付金問題だ」。
国会では、驚きの事実が明らかに。
根本厚労相「国民の皆様にご迷惑をおかけしたことを、深くおわびします」
大臣の陳謝で幕を開けた、厚生労働省による勤労統計の不正調査をめぐる閉会中審査。
立憲民主・西村議員「データがない期間がありますよね。率直に言って、これは『消えた給付金問題』ですよ」
第3者を入れて問題を調査した、厚労省の特別監察委員会による22日の中間報告についても。
立憲民主・大串議員「中間報告の最高責任者は誰ですか」
根本厚労相「そこは、第3者委で中立的にやっていただいたわけですから。そこは第3者委員会ですと申し上げた」
報告書の責任については、「第3者委員会」を連発。
しかし、監察委員会のヒアリングで、対象者31人のうち、11人については第3者が入らず、厚労省の身内だけで行っていたことも判明した。
そして、午後にも“驚きの事実”が明らかに。
立憲民主・石橋議員「監察報告の原案は、厚労省が作ったと報告受けたが、事実か」
根本厚労相「事務方がお手伝いで。原案というよりは、むしろ議論を整理したたたき台を、議論のどだいとして示したのだろう」
第3者委員会の責任で作成された報告書のたたき台を、厚労省が作成していたという。
また、厚労省が2018年、ひそかにデータの集計方法を修正し、賃金の伸び率が実際よりも高くなっていたことについては、「アベノミクス偽装」との批判も飛び出した。
立憲民主・西村議員「アベノミクスで成果が上がってきたとされている、うそをついていたという賃金偽装の問題なんですよ」
審議の中で、根本大臣は、延べ2,015万人に対する失業保険などの追加給付について、現在の受給者に対しては、3月から順次行う考えを示した。
一方、政府の56の基幹統計について点検を行っていた総務省は、手続き上の問題などがある調査が、延べ27見つかったとする結果を取りまとめた。 
●"国民のため"に統計を操作する官僚の驕り 1/25
「なぜ」が不明なうちに、さっさと処分を決定
厚生労働省は1月22日、年明けに発覚した「統計不正」問題で、鈴木俊彦事務次官ら計22人の処分を発表した。鈴木次官と宮川晃審議官は訓告、調査を担当した元職員らを減給などした。加えて、根本匠厚労相は4カ月分の給与と賞与を全額返納。副大臣、政務官、事務次官、審議官ら計7人も給与を自主返納する。
2019年1月17日、厚生労働省の勤労統計不正問題に関する臨時会合で発言する総務省統計委員会の西村清彦委員長(中央)(写真=時事通信フォト)
何とも早い対応である。特別監察委員会(委員長、樋口美雄労働政策研究・研修機構理事長)が同日、中間報告を公表したとはいえ、肝心の「なぜ」そんな不正が続いていたのかも明らかになっていない中で、さっさと処分を決めたのは、早期の幕引きをはかりたいとの意図が見え見えである。
不正があったのは厚労省が発表している「毎月勤労統計」。従業員500人以上の大企業について、本来は「全数調査」をしなければならないにもかかわらず、東京都については、2004年からほぼ3分の1の「抽出調査」しかしておらず、全数調査と違いが生じないようにする統計学的な補正も行われていなかった。
2000万人に600億円を追加支給することに
問題が大きくなったのは、その調査結果で得られた現金給与総額の伸び率である「賃金指数」が、雇用保険や労災保険、船員保険などが支払われる際の算定基準として使われていたこと。大企業の一部を除外した格好になるため、現金給与総額が本来より低い数字に抑えられていた。年初段階で厚労省は、計算上564億円が過少に給付されていた、と発表した。
しかも、その対象になる人数がのべ2000万人を超えることが明らかになったことから、大騒ぎとなったわけだ。早々に政府は、過少給付分を全額、追加支給する方針を表明。金利など37億円と合わせて600億円あまりの支払いが生じることとなった。すでに閣議決定していた2019年度予算の修正を行わざるを得なくなったことから、厚労省の責任問題に発展していた。
早期の幕引きへ処分を急いだ背景には、首相官邸の強い意向があったとされる。というのも、安倍首相周辺は一様に「ある問題」を思い出したからだ。
「データ不備」は安倍首相らのトラウマ
2007年の「消えた年金記録」問題である。当時の社会保険庁(現・日本年金機構)のデータ不備が発覚、年金記録5000万件が消えているとして大騒ぎになった。これが第1次安倍晋三内閣の支持率を急落させ、わずか1年の短命内閣として崩壊するひとつの原因になった。それが安倍首相らの「トラウマ」になっている、と官邸の幹部は言う。今回の統計不正の影響が2000万人にのぼるとあって、安倍官邸には大きな衝撃が走ったわけだ。
問題を公表した1月11日から14日までの4日間だけで、過少給付に関する問い合わせが1万2000件以上に達したことが明らかになり、国民の不満が燎原の火のごとく広がる懸念が強まっていた。だからこそ、処分を急いだのである。
また、今回の問題を「過去の問題」として矮小化しようという意図も透けてみえる。事務次官と審議官を除く処分対象者20人のうち、現職は4人だけ。すでに退職している官僚が16人にのぼる。2004年以降、統計に直接携わった人たちだ。
処分の理由はあくまで「全数調査」すべきなのを「抽出調査」にした「不適切」な手法を、問題だと気付きながら、前任から踏襲したというもの。あくまでも「初歩的なミス」ということにしている。不正の意図はなかった、ということで問題を終わらせようとしているわけだ。
「不正ではない」と結論づけていいのか
確かに、全数調査すべきところを東京都だけ抽出調査にしたのは、作業量を抑えるためだったのだろう。厚労省が2003年に作った厚労省のマニュアル「事務取扱要領」に「全数調査でなくても精度が確保できる」とする記述があり、翌年から抽出調査になっていたとされる。今回の問題発覚する前まで、「抽出調査」を東京都だけでなく、大阪や愛知などにも広げようと準備をしていたことも明らかになっており、まったく「悪意」がなかった傍証とも言える。
過去から続いてきた調査方法の不備は、確かに統計法違反で、保険支給に多大な影響を与えたが、それ自体が「不正」として悪質性の高いものではないように見える。厚労省が言うように「不適切」な「基本的ミス」ということかもしれない。
それでは問題はない、不正ではない、と結論づけていいのか、というとそうではない。問題は、統計手法に問題があると気づいて以降の対応だろう。
2015年になって前述のマニュアルから、抽出調査で問題ないとする記述が消えた、と報じられている。つまりこのタイミングで、厚労省は問題に気づいていたということである。
ちょうどこのタイミングで、ひとつの動きがあった。
公式な会議で見直しを「指示」した麻生氏
2015年10月16日に首相官邸で行われた経済財政諮問会議。その席上、麻生太郎副総理兼財務相が、毎月勤労統計について「苦言」を呈しているのだ。
「毎月勤労統計については、企業サンプルの入れ替え時には変動があるということもよく指摘をされている。(中略)統計整備の司令塔である統計委員会で一部議論されているとは聞いているが、ぜひ具体的な改善方策を早急に検討していただきたいとお願いを申し上げる」
公式な会議で、正式に見直しを「指示」されたのだ。厚労省はこれを受けて、統計手法の見直しに着手する。従業員30人以上499人以下の事業所についてはもともと「標本調査」を行っていたが、その対象入れ替えの方法を変えたのだ。
実は、麻生氏がこの調査にかみついたのには理由があった。ほぼ3年に1度行われてきた対象入れ替えは、「総入れ替え」して行われていた。2015年1月にも総入れ替えが行われたが、過去にさかのぼって実績値が補正された。その結果、安倍政権が発足した2012年12月以降の数字が下振れしてしまったのだという。安倍政権発足以降も賃金が下がっている、というのはおかしいのではないか。麻生氏が指摘したというのだ。
「サンプル入れ替え」の影響に気付いていたはず
おそらく、このタイミングで、厚労省の担当者は全数調査とされていた500人以上の大企業が東京都では抽出調査になっていたことに気づいたはずだが、それでも調査方法を全数調査に戻すことはしなかった。この辺りから、意図的な隠蔽が始まったとみていいのではないか。
調査方法の見直しによるサンプル入れ替えが実施された2018年1月以降、賃金指数が非常に高い伸びを示した。麻生大臣にはご満悦の結果になったわけだが、統計を見ているエコノミストの間からは疑問の声が上がった。
「名目賃金6月 3.6%増、伸び率は21年ぶり高水準」(日本経済新聞)
「6月の給与総額、21年ぶり高水準 消費回復の兆しも」(産経新聞)
2018年8月8日、新聞各紙はこう一斉に報じた。厚労省が発表した現金給与総額の伸びの速報値である。その後の確定値では、5月が対前年同月比で2.1%増、6月は3.3%増となったが、このデータが景気回復と賃金上昇を裏付けることになったことは間違いない。ところがエコノミストから「数字が変だ」という指摘が相次いだのである。
実は、対象入れ替えが大きな影響を及ぼしていることに厚労省は気づいていた。そのため、「継続標本」での比較という資料を公表していた。入れ替えの前後で共通するサンプルだけで比較した場合、5月は0.3%増、6月は1.3%増であるという。もちろん、新聞記者はそんな数字には全く気が付かず、厚労省が発表した統計数字を「21年ぶりの高水準」と報じたわけだ。
達成されていなかった「3%の賃上げ」
安倍首相はかねて経済界の首脳たちに、賃上げの拡大を求めてきた。2018年の春闘では「3%の賃上げ」と具体的な数値を示していた。つまり、毎月勤労統計の数字は、「公約」が守られたことを「証明」する数字だったのだ。これが報じられた8月は、自民党総裁選に向けて自民党有力者たちの立候補の動きが注目された時期である。
今回、明らかになった「不適切」な統計によっても、この数字が押し上げられていたことが明らかになった。厚労省の再集計によると、6月の賃金指数の伸びは2.8%。サンプル入れ替えを問題なしとしても、抽出調査の影響で0.5%も低かったことが判明したのだ。3%という公約は、実際には達成されていなかったことが明らかになった。
日本の統計は政治家や官僚たちに都合のよいように、恣意的に操作されているのではないか。そんな疑念が広がる。政策決定の基礎である統計が操作されていたとすれば、その政策決定自体が歪んでいることになりかねない。
厚労省は昨年2018年にもデータで大チョンボを引き起こしている。安倍首相の答弁用に用意した裁量労働を巡るデータが都合よく加工されたものだったのだ。
「都合のよいデータ」を使うのは官僚の常套手段
安倍首相は1月29日の衆議院予算員会で、「平均的な方で比べれば、一般労働者よりも(裁量労働制で働く人の労働時間が)短いというデータもある」と発言した。ところが、その前提だったデータは、調査方法が違う2つの結果をくっつけたもので、本来は単純に比較できない代物だったのだ。
安倍首相は答弁を撤回しただけでなく、裁量労働制拡大を「働き方改革関連法案」から削除するところまで追い込まれた。なぜ、そんなデータを首相答弁用に作ったか、今も真相はやぶの中だ。法案を通したい安倍首相に「忖度」したとも、逆に裁量労働制拡大を潰すために仕掛けた「自爆テロ」だとも言われている。いずれにせよ、官僚が自分たちに都合のよいように鉛筆をなめていたのだ。
自分たちに都合のよいデータを使って政策説明をする、というのは霞が関官僚の常套手段になっている。政策官庁自身が多くの統計を自分たちで調査していることも、そうした「操作」の温床になっている。政策が正しいかどうか、あるいは、政策実施によって効果が表れたかどうか、中立的な統計が保証されていなければ、実態が分からない。
霞が関からは、不適切な調査が行われたのは人手不足だからだという声が出始めている。欧米に比べて公務員数は少ないのだから、増やせというのだ。霞が関の真骨頂である「焼け太り」だ。独立性を重視した統計を目指すならば、いっそのこと、すべての統計作業を民営化するなり、民間シンクタンクに委託するべきではないか。 
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●統計の第三者調査、厚労省の次官級も同席 中立性に疑い
毎月勤労統計の不適切調査問題を巡り、厚生労働省が設けた特別監察委員会による厚労省幹部らへの聞き取りに定塚由美子官房長のほか、次官級の宮川晃厚労審議官が同席していたことが28日、わかった。第三者委員会としながら内部の首脳がかかわり、調査の中立性を欠いた恐れがある。監察委の出した報告書への信頼が大きく揺らいでおり、監察委は異例の再調査を急いでいる。
厚労省は28日、不適切調査に関する資料を野党に示した。監察委の聞き取りはのべ40人。1回あたり10〜100分だった。部局長級の1人への聞き取りは電子メールですませていた。
課長以上の幹部への聞き取りは外部の委員が実施し、定塚氏も出席し質問をしていた。関係者によると、宮川氏が同席することもあった。宮川氏は日本経済新聞の取材に対し「ノーコメント」としている。現役の幹部がいる前で過去の不祥事を正直に話せたかどうかに疑問が出てくる。
監察委は外部の弁護士らで構成する。16日に設立し、22日に報告書を公表した。不適切な調査に「組織的な隠蔽は認められない」としていた。
24日の衆参両院の閉会中審査では一部の調査を同省職員だけで聴取していたことを認めたが、厚労審議官や官房長が同席していたことは明らかにしていなかった。
この問題に関連し、統計の専門家でつくる日本統計学会は28日、声明を発表した。「公的統計の信頼性に深刻な打撃を与えた」と厚労省を批判したうえで、再発防止策を講じるよう求めた。 
●厚労省、止まらぬ不祥事 基幹統計の誤り追加判明 1/28
厚生労働省が調べる基幹統計で新たな誤りが28日、見つかった。主要産業の賃金実態などを調べる賃金構造基本統計調査で、最低賃金を決める際に使われている。調査対象が一部抜け落ちており、すでに不適切な調査が発覚している毎月勤労統計のように影響が出てくる恐れもある。統計を巡る相次ぐ不祥事は厚労省の信用を大きく揺るがす事態に発展した。
賃金構造基本統計は性別や年齢、学歴などに基づいて労働者の賃金を年に1回調べる。政府が特に重要と位置づける56の基幹統計の一つだ。最低賃金を決める際や労災保険の年金給付額の算定にも使われている。
総務省は基幹統計を一斉点検し、24日に22の基幹統計に誤りがあったと発表した。厚労省は25日午後になり、賃金構造基本統計にも「誤りが見つかった」とし、基幹統計の誤りは合計で23に増えた。厚労省は基幹統計の点検すらずさんだったことになる。
誤りは3点あった。本来なら調査の対象先に出向いて書類を渡すことになっていた調査を郵送で済ませていた。2つ目は調査対象の宿泊・飲食サービス業のうち、バーやキャバレーなどを外していた。3つ目は回答期限を計画より短く設定していた。
焦点は統計数値の訂正が必要になるかどうかだ。厚労省は「数値に変更が生じないとは断言できない」と明確に回答できていない。仮に毎月勤労統計のように数値が変わる事態になれば、労災保険の算定などにも影響を及ぼす恐れがある。
不適切調査のあった毎月勤労統計でも厚労省の対応は後手に回っている。外部の弁護士らで構成する特別監察委員会の聞き取り調査に、事務方ナンバー2の宮川晃厚労審議官や、ナンバー3の定塚由美子官房長が同席していた。
定塚官房長は28日夜に「5人の元幹部への聞き取りに出席した。事務局員として出席することは非常に自然なことだと考えていた」と記者団に釈明した。「おわびを申し上げる」と陳謝した。
厚労省は特別監察委による聞き取り調査のやり直しを始めた。だが、再調査の結果をいつ、どのような形で公表するのか見通しは立っていない。誤りや不手際が相次いで見つかっており、根本匠厚労相の監督責任も問われそうだ。 
●勤労統計調査問題、特別監察委員は実際にヒアリングを行ったのか 1/28
毎月勤労統計の不正調査問題に関し、1月24日に衆議院および参議院の厚生労働委員会において、閉会中審査が行われた。  
1月22日に記者会見で公表された特別監察委員会の報告が、厚生労働省職員の強い関与による「お手盛り」の調査だったことが野党の追及により明らかになり、翌25日には追加の調査を実施すると根本大臣が表明する異例の事態に追い込まれた。  
政府は現在の特別監察委員会で追加の調査を行うにとどめる方針のようだが、第三者性が担保されていないことが明らかになったこの特別監察委員会ではなく、真の第三者委員会による徹底した事実究明を行うべきだ。
この問題に対し、筆者は国会パブリックビューイングとして1月26日に緊急ライブ配信で国会審議を解説つきで紹介し、その内容を録画でも公開した。
この1月24日の閉会中審査では、今回の調査不正が、前年度比の賃金の伸び率を高く見せるための「アベノミクス偽装」「賃金偽装」だったのではないか、との疑惑が出ている。その点を明らかにするためにも、事実関係を明らかにすべきだった特別監察員会がどのように「お手盛り」だったのかを整理しておきたい。  
そして、国会答弁の中で定塚官房長は、処分に関わるヒアリングなのでヒアリングの実施概要を明らかにしないのがルールである旨を答弁したが、昨年の裁量労働制データ問題をめぐってはヒアリングの実施概要は報告書に明記されており、この定塚官房長の答弁は虚偽答弁であることを指摘したい。
調査不正の概要とこれまでの経緯
まず、これまでの経緯を簡単に整理しておこう。昨年12月28日に朝日新聞が勤労統計の調査不正を報道して問題が明るみになった。  
1月11日には厚生労働省が「毎月勤労統計調査において全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたことについて」として経緯を公表(参照:厚労省発表)。問題は多岐にわたるが、現在、焦点となっているのは次の2つの事実だ。
(1)2004年以降、全数調査するとしていた東京都の500人以上規模の事業所について、およそ3分の1の事業所だけを抽出調査していた。抽出調査を行っていたことは公表されておらず、総務省には全数調査であると報告し続けていた。また、抽出調査であれば行われるべき復元処理が行われていなかったため、2004年から2017年にかけて、賃金の額が本来よりも低めに公表されることとなった。
(2)2018年1月分からは、東京都の500人以上規模の事業所について、抽出調査を続けた上でその結果を復元し、実態に近づける処理が行われた。しかし、そのことは公表されなかった。その結果、2017年の値と比較した2018年の賃金の前年同月比の伸び率が、実態とは異なり、過大に示されることとなった。  
特に2018年6月分は、速報値(8月7日公表)で3.8%増、確報値(8月22日)で3.3%増と大きな伸びを示し、アベノミクスの成果がようやく賃金に波及したかのように大きく報じられていた。9月20日の総裁選を控えた時期だ。結局、1月23日に公表された再集計値では、6月分は3.3%増から2.8%増へと0.5ポイントも下方修正されている。
また、2018年1月からは、
ローテーションサンプリングの導入による一部のサンプルの入れ替え(今回は半数を入れ替え)。従来は行っていた遡及訂正を今後は行わないとの決定
ベンチマークの更新
という2つの変更も併せて行っていたため(参照:総務省第126回統計委員会資料7−2)、調査不正が明らかになる前から、前年同月比での断層が生じ、変化が的確に読み取れないとのエコノミストらの指摘があった。そのため、サンプルの入れ替えがない「共通事業所」のみを取り出した「参考値」が公表されるようになり(参照:厚労省「毎月勤労統計調査−平成30年8月分結果速報」の「概況」)、昨年6月分についての参考値の値は1月23日の発表では、前年同月比1.4%増となっている。  
1月24日の衆議院厚生労働委員会では、伸び率を見る際には公表値(再集計値)の2.8%と参考値(共通事業所)の1.4%のどちらを見るのが適切かと、横山均総務省大臣官房審議官に国民民主党の山井和則議員が問うたところ、1.4%だと横山審議官は明言。昨年1年間の実質賃金の伸び率は年でマイナスになると山井議員は指摘し、再集計で公表された2.8%もなお賃金偽装、アベノミクス偽装ではないかと指摘している。  
そのように、この間の経済情勢の判断も揺るがし、10月に予定されている消費税増税は妥当であるのかという判断も揺るがす事態を今回の毎月勤労統計調査の不正は招いているわけだが、この問題に対して厚生労働省が設けた特別監察委員会が行った調査が全く「お手盛り」の調査であった、というのが1月24日の国会審議で明らかになったことだ。
「お手盛り」の特別監察委員会
特別監察委員会は、毎月勤労統計の不正調査問題に関して、厚生労働大臣のもとに1月16日に設置され、1月17日に第1回会合が開かれた。  
しかしわずか5日後の1月22日には第2回会合を開いて報告書を取りまとめ、16:30から樋口美雄委員長が記者会見でその内容を公表(参照:厚労省発表)。同日18:00からは、根本厚生労働大臣が関係者の処分を公表した(参照:厚労省発表)。  
1月24日に予定されていたこの問題に関する衆議院および参議院の厚生労働委員会における閉会中審査、そして1月28日の国会の開会、それらの日程の前にこの問題にケリをつけたい、という意図が見えるあわただしさだった。  
1月24日の閉会中審査で、根本匠厚生労働大臣はこの特別監察委員会が「第三者委員会」であると何度も答弁した。しかし野党はこの特別監察委員会なるものが、実は厚生労働省の職員が職員に対してヒアリングを行い、報告書のたたき台も職員が作成した「お手盛り」の委員会であったことを質疑で明らかにしていったのだ。
特別監察委員会は「第三者委員会」か?
1月24日の閉会中審査でまず明らかになったのは、特別監察委員会は監察チームからの「横滑り」の委員会であったということだ。  
報告書にはこういう記載がある(p.4)。
「今般の事案については、本委員会の設置以前から、弁護士、公認会計士等の外部有識者もメンバーとして参加した厚生労働省の監察チームにおいて、職員への聴取等が行われてきた。本委員会は、調査の中立性・客観性を高めるとともに、統計に係る専門性も重視した体制とするため、厚生労働大臣の指示により、監察チームで行ってきた調査を引き継ぎ、統計の専門家を委員長とし、監察チームの外部有識者、統計の専門家等が委員となる形で、第三者委員会として設置されたものである。」
となると、監察チームと特別監察委員会の関係や、いつから監察チームが聴取を行ってきたのか、などが気になるが、この報告書には特別監察委員会の構成員8名の名前は記されているが、監察チームの構成員は記されていない。また、いつから監察チームが聴取を始めていたのかの記載もない。不自然だ。  
特別監察委員会が1月16日に立ち上がったときには、メンバーは委員長を含め6名であったそうだ。翌日の1月17日の午前に第1回会合が開かれているが、朝日新聞はそのメンバーについてこう報じている。
「特別監察委は6人で構成。委員長には、基幹統計の調査手法などを審議する総務省の統計委員会元委員長の樋口美雄労働政策研究・研修機構理事長が就いた。ほかは省内に常設の監察チームメンバーだ。」
つまり、第1回会合時の特別監察委員会は、厚生労働省内に常設された監察チームメンバーからの5名に樋口美雄委員長を加えたに過ぎないものだった。  
その後、いつの時点か不明だが、構成員は2名増員され、1月22日の報告書には8名の名前が記載されている。誰が常設の監察チームメンバーかはここには明記されていないが、昨年の裁量労働制のデータ問題に関する監察チームの報告(参照:2018年7月19日「裁量労働制データ問題に関する経緯について」)に記載がある構成員と照らし合わせると、玄田有史教授と廣松毅名誉教授の2名が後ほど追加された構成員であるらしいことがわかる。
<毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会 構成員>
(委員長)樋口美雄 (独)労働政策研究・研修機構理事長(前統計委員会委員長、労働政策審議会会長)
(委員長代理) 荒井史男 弁護士(元名古屋高等裁判所長官)
(委員)  
井出健二郎 和光大学学長・会計学  
玄田有史  東京大学社会学研究所教授  
篠原榮一  公認会計士(元日本公認会計士協会公会計委員会委員長)  
萩尾保繁  弁護士(元静岡地方裁判所長)  
廣松毅   東京大学名誉教授・情報セキュリティ大学院大学名誉教授
        (元統計委員会委員)  
柳志郎   弁護士(元日本弁護士連合会常務理事)
<裁量労働制データ問題に関する経緯について 監察チーム 構成員>
(主査) 官房長
(メンバー) 総括審議官 /大臣官房人事課長 /大臣官房人事課参事官 /大臣官房会計課長 /大臣官房地方課長 /荒井史男(弁護士) /井出健二郎(大学教授) /篠原榮一(公認会計士) /萩尾保繁(弁護士) /柳志郎(弁護士)  
また、この構成員名簿からは、監察チームの主査が官房長、つまりは厚生労働省の職員であることがわかる。
報告書には上に見たように「本委員会の設置以前から、弁護士、公認会計士等の外部有識者もメンバーとして参加した厚生労働省の監察チームにおいて、職員への聴取等が行われてきた」という記載があり、その監察チームに職員が加わっていることをうかがわせる記述はなかった。しかし、監察チームの主査は官房長であり、事務局は厚生労働省なのだ。
「外部有識者『も』メンバーとして『参加した』厚生労働省の監察チーム」という記述のなかに、職員の存在は隠し込まれていたというわけだ。  
その監察チームから5名を横滑りさせ、樋口氏を委員長に迎えて作られたのが特別監察委員会だった。にもかかわらず、この特別監察委員会が「第三者委員会」だと、根本大臣は24日の審議で強調したのだ。衆議院厚生労働委員会で大串博志議員(立憲民主党)に対し、根本厚生労働大臣はこう答弁している。
「私がなぜ、第三者委員会を置いたか。それは、厚生省(ママ)内部でやってたら、やってたら、なかなかそれでいいのか、という話になりますよね。 だから、監察チームというのは、確かに現にあった。もともと、あった。常設機関として。そして、厚労省の皆さんと監察チームを組んで、有識者がいて監察をしているという仕組みはあった。しかし、こういう事案ですから、これはより中立性、客観性を高める必要があるのではないか、と。だから、これは、私は、第三者委員会にすべきだと思って、第三者委員会というのを設けました。だから、第三者委員会を私の指示で設けたということは、当然、私の指示。」
「第三者委員会」という表現がこの箇所だけで4回も出てくるが、根本大臣が特別監察委員会を「第三者委員会」と強調したことが、この審議の中で墓穴を掘る結果となっていく。
何人に対してヒアリングを行ったのか?
この1月24日の閉会中審査で、特別監察委員会が「お手盛り」であることを最も質疑の中で暴き出したのは、大串博志議員(立憲民主党)の質疑だ。答弁に窮してたびたび速記が止まったその様子を、ぜひ「衆議院インターネット審議中継」の録画で見ていただきたい。  
大串議員は、監察チームと監察委員会が、実際に何人にヒアリングしたのかを尋ねている。報告書には次の通り、延べ人数しか記されていないからだ。
「今般の事案に係る事実関係及び責任の所在を解明するため、監察チームとして局長・課長級延べ14名、課長補佐以下級延べ15名に対してヒアリングを実施してきた結果を踏まえ、本委員会においてもさらに局長・課長級延べ27名、課長補佐以下級延べ13名に対してヒアリングを実施し、合計で延べ69名の職員元職員に対してヒアリング等を実施した。なお、ヒアリングの企画及び実施は、外部有識者の参画の下で行われた。」
しかし、この問いに答弁がなされない。すぐに答弁が行われない場合は、野党の質疑時間を確保するために委員長が「速記を止めてください」と指示しなければならないが、大串議員が求めても富岡勉委員長はすぐに速記を止めようとしない。  
そのあとで根本大臣は実数を答えるのだが、この人数が答弁で定まらないのだ。  
最初、根本大臣は、「実数で言えば、局長級11名、課長級9名、補佐以下級19名、実数で言うと39名」と答弁する。しかし、この39名のうち、監察チームで1月15日までにヒアリングしたのは何名で、特別監察委員会で1月16日以降ヒアリングしたのは何名か、と大串議員が質問すると、また答弁ができない状況に陥り、速記が止まる。
その後、根本大臣は「監察委員会としてヒアリングした実人員、これは局長級9名、課長級2名であります」と監察委員会のことだけを答弁し、監察チームについては答弁せず、再び速記が止まる。  
そののち、根本大臣は、監察チームについては、「チームの有識者が直接該当したと思われる人間にヒアリングをするということではなくて、担当部局から、中身を、内容を、聴取している、こういうことであります」と、監察チームのヒアリングは有識者ではなく担当部局が行っていたことを明らかにするのだ。  
さらに、その後に答弁に立った定塚由美子官房長は、「監察委員会としてヒアリングした実人員、これは局長級9名、課長級2名」という根本大臣の答弁を訂正してこう語る。
「まず、監察チームでございます。局長級3名、課長級8名、補佐以下が13名の計24名でございました。 また、監察委員会、本委員会でございますが、局長級が11名、課長級が9名、補佐以下が11名の計31名となっております。なお、チームと委員会双方でヒアリングを行っているという方も18名ございますので、合計での実人員、ヒアリングをした数というのは37名ということでございます。」
大串議員は前日から事務方に実人員を出すことを求めていたという。にもかかわらずそれが答弁できずに長々と速記が止まり、根本大臣の答弁を定塚官房長が訂正するというのはどういうことなのか。どうやらここに「不都合な事実」が隠れているらしい、ということがこの経緯からわかる。
監察チームのヒアリングは職員だけが行っていた
質疑で明らかになった1つの「不都合な事実」は、監察チームにおいては有識者ではなく職員がヒアリングを行っていた、ということだ。先ほどの根本大臣の答弁からもそれがうかがわれるが、大串議員が改めて確認すると定塚官房長はこう答えている。
「監察チームにつきましては職員及び有識者で構成されるものではございますけれども、今回のヒアリングにおきましては、今申し上げた人数、24人につきまして、私官房長以下、職員であるチームメンバーが行っているというものでございます。」
そのように職員だけで行ったヒアリング結果が、監察委員会に引き継がれて、監察委員会の判断の素材となったのだ。どこが第三者委員会だ、ということになる。
先にも見たように報告書では監察チームに職員がいること(しかも主査は職員である定塚官房長だ)をうかがわせる記述はなく、「今般の事案については、本委員会の設置以前から、弁護士、公認会計士等の外部有識者もメンバーとして参加した厚生労働省の監察チームにおいて、職員への聴取等が行われてきた」(p.4)と記されていた。
しかし、大串議員の質疑で明らかになったように、監察チームによる聴取には監察チームの外部有識者は参加せず、監察チームの職員だけがヒアリングを担当していたのだ。
特別監察委員は実際にヒアリングを行ったのか?
こうなると、この特別監察委員会の報告書の内容そのもの信憑性を疑ってかかる必要が出てくる。「弁護士、公認会計士等の外部有識者『も』メンバーとして『参加した』厚生労働省の監察チーム」という記述のように、都合の悪いことは巧妙に隠されているのだから。  
となると、気になるのは、特別監察委員会が行ったヒアリングの実人員について、根本大臣の答弁と定塚官房長の答弁に齟齬が生じていたことだ。根本大臣は「監察委員会としてヒアリングをした実人員、これは局長級9名、課長級2名であります」と答弁していたのに、そのあとに答弁に立った定塚官房長はこれを訂正して「監察委員会、本委員会でございますが、局長級が11名、課長級が9名、補佐以下が11名の計31名となっております」と人数が変わっているのだ。
そしてさらに「不都合な事実」が露呈していく。特別監察委員会としてのヒアリングは、特別監察委員会の委員がみずから行ったとは限らない、という事実だ。  
上に構成員名簿で確認したように、監察チームには職員がメンバーとして参加しているが、特別監察委員会は外部有識者だけで構成されていた。根本大臣も西村智奈美議員(立憲民主党)に対する答弁の中で、「有識者だけで構成される監察委員会」「これは事務方も入らない監察委員会」と答弁していた。  
しかし特別監察委員会としてのヒアリングは外部有識者がヒアリングをしているのか、という大串議員の問いに対して、定塚由美子官房長は次のような微妙な答弁を行うのだ。
「監察委員会の先生方とご相談をしまして、局長、課長については大変責任が重いということで、これは必ず委員の方にヒアリングをしていただくということにしたわけでございます。したがいまして、局長、課長、合計20名の方には委員の方に必ず加わっていただいております。」
補佐以下11名はどうなのだ、という話だが、補佐以下11名は事務方だけでヒアリングをしたことがその後の根本大臣の答弁で明らかになる。  
しかしここで問題にしたいのは、局長級11名と課長級9名のヒアリングを有識者委員が自ら行ったのかどうかだ。定塚官房長は「必ず委員の方にヒアリングをしていただくということにした」と言いつつ、「局長、課長、合計20名の方には委員の方に『必ず加わっていただいております』」と答弁している。  
ということは、委員は「加わって」はいたが、実際に委員が自分でヒアリングしたかどうかは、明言されていないということだ。では委員の他に誰がいるのかと言えば、根本大臣は「有識者だけで構成される監察委員会」「これは事務方も入らない監察委員会」と答弁していた。矛盾が生じる。
特別監察委員会も事務方が主導
その後の高橋千鶴子議員(日本共産党)の質疑でその謎は解けていく。「有識者だけで構成される監察委員会」「これは事務方も入らない監察委員会」と根本大臣は答弁しており、報告書には事務方の記載はなかったが、報告書の「たたき台」を書いたのは事務方であることが高橋議員の質疑で明らかにされていくのだ。つまり、特別監察委員会も事務方が主導していたというわけだ。  
高橋議員の質疑に対し、定塚官房長は、特別監察委員会における事務方(=職員)の役割をできるだけ消し去ろうとする方向での答弁を行う。「ワープロ作業」という言葉を二度使った定塚官房長の次の答弁をじっくり読んでいただきたい。
「たたき台は事務局人事課でつくり、ワープロ作業は人事課職員がしてまいりましたけれども、もちろん、これは委員長と他の委員の方が議論しながら、こういうことだよね、ヒアリングを聞きながらこうだよねということをおっしゃっていたことを事務方としてまとめたというものでございまして、また、人事課としても、今回この事案が起こりました統計情報部とは異なる部局に置くということで、官房人事課に置いたものでございます。そうした意味で、委員の先生の指導を受けながら、省内では、中立的な立場である官房人事課において、委員の先生方の意見をワープロ作業するというような形でまとめていったものというふうにお考えいただければと思います。」
なんとか自分たち官房人事課の役割を消そうという気持ちは伝わってくるが、定塚官房長をはじめとする官房人事課が特別監察委員会で重要な役割を果たしたことは否定しようがない。  
こうなってくると、特別監察委員会として行ったヒアリングも、委員が行ったのではなく、構成員としては名前が挙がっていない事務方の職員が行った可能性が浮上してくる。  
そこで気になるのが、この定塚官房長の答弁にある「ヒアリングを聞きながらこうだよねということをおっしゃっていたことを事務方としてまとめた」という表現だ。「ヒアリングを『聞きながら』」とはどういうことだろう? 自らがヒアリングを行ったのではなく、ヒアリングの席に同席していただけなのだろうか?
特別監察委員会の委員は自らヒアリングを行っていないのか?
大串議員に対する答弁でも、定塚官房長は「局長、課長、合計20名の方には委員の方に『必ず加わっていただいております』」と答弁していた。ヒアリングの場にはいたが、みずからヒアリングをしたわけではない、少なくても局長級11名と課長級9名の20名すべてについて委員がみずからヒアリングを行ったわけではない――その可能性が高そうだ。  
もしかしたら、委員である外部有識者は、みずからヒアリングを行わず、ヒアリングの場に「同席」していただけなのかもしれない。  
この閉会中審査の後の1月27日の日本経済新聞は、「勤労統計巡る監察委調査、厚労省幹部が同席 中立性に疑念」という見出しで、「監察委委員が実施したとしていた20人の局長・課長級の職員・元職員への聞き取りについても、少なくとも一部の調査対象者に同省幹部が同席していたことが新たに判明した」と報じている。しかし、職員が「同席」していたのではなく、少なくとも一部のヒアリングについては、委員が「同席」していただけだったのかもしれない。  
さらに1月28日の朝日新聞は、「監察委に厚労省官房長も同席 聴取の第三者性確保されず」という見出しで、特別監察委員会の外部有識者が実施した課長・局長級職員への聞き取りに、定塚由美子官房長が同席し、質問もしていたことが分かったと報じている。複数の関係者が明らかにしたという。これらは、国会での追及があったからこそ明らかになった事実だろう。  
国会答弁の中で定塚官房長は、「ワープロ作業」などの言葉で、自分たち職員の存在感をできるだけ消そうとしていたが、その存在は消しようがなかったのだ。  
24日午後の参議院厚生労働委員会になると、特別監察委員会の委員が直接ヒアリングしたのかどうかに関する答弁は、ますます混迷していく。
「監察委員会がヒアリングをした、そのうち監察委員会の方が直接ヒアリングをされたのは何人ですか」との石橋通宏議員(立憲民主党)の質疑に対し、根本大臣は、
「監察委員会が、要は、有識者の監察委員会が直接ヒアリングをしたのは、局長級が11で課長級が9人、そして補佐以下が11人、トータル31人であります。そして、監察委員会のメンバーが具体的に何人ヒアリングしたかということについては、大変申し訳ありませんが、精査中であります。」
と、答弁している。  
さらに、補佐以下の11人については事務方がヒアリングをしたことを答弁したあとで、根本大臣はこうも答弁している。
「委員会で委員がヒアリングをしたのは、局長級が11人、課長級が9人でありますが、これは今なお精査中でありますので、少しここは精査をさせていただきたいと思います。」
何が言いたいのか意味不明だが、おそらく、「委員会で委員がヒアリングしたのは、局長級が11人、課長級が9人」という答弁は撤回に追い込まれていくだろう。  
石橋議員は、「ちょっと待ってくださいよ。委員長をはじめ、委員の皆さんが直接ヒアリングした方はいないんですか」と質疑の中で問うていた。それに対する根本大臣の答弁が、上記の「精査をさせていただきたい」なのだ。
この質疑では、野党が求める樋口委員長のこの閉会中審査への参考人招致が認められなかった、という事実も明らかにされている。与党も勤労統計調査の不正については大問題だという姿勢を国会質疑では見せているが、委員長の参考人招致は認めなかったのだろう。果たして委員長はみずからヒアリングを行ったのか。これも疑問だ。
ヒアリング日時は本当に開示できないのか?
さて、特別監察委員会の委員が実際にみずからヒアリングを行ったのか、行っていないのか、これを野党が今後の予算委員会で明らかにしていこうとすると、政府は処分に関わるヒアリングだから、という理由で答弁を拒否してくる可能性がある。  
1月24日午前の衆議院の厚生労働委員会の質疑で大串議員は「誰に対して、どの委員が、いつ、何時間、どういうヒアリングを行ったのか」の資料の提示を求めた。内容まではなくてもいい、名前も伏せてもよいから、どの役職の人がどの役職の人に対して、いつ、何時間、何時からヒアリングを行ったのかの事実関係を、と求めたのだ。  
しかしそれに対して定塚官房長は、次のように、そうした情報は「一切出さない」のがルールだと答弁している。
「何が出せるかを、精査をするということを申し上げたので、出せるか出せないかも含めて、ヒアリングを誰が、いつ、どうして、誰に対してというようなことでございまして、通常このような、処分につながるヒアリングでございますので、こうしたことについては一切出さないというのが、私どものルールでございます。」
しかしこれは、端的に言って、嘘だ。虚偽答弁だ。  
なぜなら、先に示した昨年の裁量労働制のデータ問題に関する監察チームの報告(参照:2018年7月19日「裁量労働制データ問題に関する経緯について」)では、処分もあわせて発表されており、つまりはそれも処分に関わるヒアリングであったのだが、次のように、誰が、いつ、誰に対して、ヒアリングを行ったのかが、「監察チームによる確認作業の経過」として記されているからだ(p.22)。職員によるヒアリングであるか、外部構成員によるヒアリングであるかの違いも明記されている。
「監察チームによる確認作業の経過
○3月下旬〜5月上旬:
監察チームの事務局である大臣官房によるヒアリング
・平成25 年から現在までの局長・課長級4名、課長補佐以下級 13 名(延べ20 回)
・監察チーム外部構成員に今回の事案を情報提供
○5月18日:監察チーム会合(第1回)
・今回の事案の説明
・大臣官房によるヒアリング結果の報告
・外部構成員によるヒアリングの方針の検討
○5月28日:監察チーム外部構成員による追加ヒアリング
・局長・課長級等5名
・別途、大臣官房による課長補佐以下級1名のヒアリングを実施
○6月5日:監察チーム会合(第2回)
・外部構成員によるヒアリング結果の報告
・今後の進め方の検討
○6月21日:監察チーム会合(第3回)
・確認結果の取りまとめに向けた検討
○7月12日:監察チーム会合(第4回)
・確認結果の取りまとめに向けた検討 」
24日の衆議院厚生労働委員会で西村智奈美議員も指摘していたが、この裁量労働制データ問題に関する監察チームのヒアリングと結果のとりまとめの方が、今回の特別監査委員会のようなヒアリングと結果のとりまとめよりも、はるかに長い時間をかけて行われている。そして上記のようにヒアリングの日程とその概要が公開されている。図表などの関係資料も8枚添えられている。  
それに対し、基幹統計の不正であり政策決定全般により広く深刻な影響を与える今回の毎月勤労統計調査をめぐる不正に関しては、ヒアリングの実施日程も公表されず、会合はわずかに1月17日と1月22日の2回であり、ごく短期間のうちに結論が出され、資料も添えられていない。  
これは絶対におかしい。この特別監察委員会には事実究明の姿勢がないことが明らかだ。関係者の処分のためのヒアリングを行って、処分によって幕引きを図ろうとしている。この特別監察委員会の報告書は、そのような性格の報告書だ。  
24日の厚生労働委員会で、野党は真の意味での第三者委員会、事務局も含めて第三者が担う第三者委員会の設置を求め、調査のやり直しを求めた。それに対し現在政府は、若干の追加調査を行うことで事態を収拾させようとしている。  
そのような小手先の対処で問題の収拾を図ろうとすることは認められない。認めないためには、私たちが、国会をしっかり注視していくことが必要だ。  
 1/29

 

●厚労幹部職員への聴取、半数近く「身内」
毎月勤労統計の不適切調査問題を巡り、厚生労働省は29日、特別監察委員会による部局長級、課室長級の計20人の幹部職員の聴取について、うち8人は事務方の職員だけで聞き取りをしていたと明らかにした。半数近くの聴取を「身内」が実施していたことになり、第三者をうたう監察委報告書の中立性がさらに疑われる。同省は全面的に調査をやり直している。
部局長級の聞き取りは11人のうち2人、課室長級9人のうち6人の職員の聴取を省職員だけで行っていた。厚労省はこれまで、この計20人の部局長・課室長級の聴取には必ず有識者委員が加わっていたと説明していた。事実関係が違っていたことについて根本匠厚労相は閣議後記者会見で「大変遺憾だ」と述べた。
委員による聞き取りでも宮川晃・厚労審議官や定塚由美子・官房長ら最高幹部が同席していたことも判明している。根本氏は「(監察委の)第三者性に疑念を生じさせてしまった」と述べた。
厚労省は25日に再調査の実施を表明。すでに40人について委員だけで聴取したという。賃金構造基本統計でも調査方法に誤りがあったことが発覚しており、根本氏は「事実関係の調査を行うよう指示した」と述べた。 
 1/30

 

●「第三者委員会」の明言が根本厚労大臣の“最大の失敗”
1月22日に、厚生労働省が、「第三者委員会」として設置した「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」の調査報告書を公表した時点で、以下のように指摘した。
1月16日の委員会の設置の段階では、「調査の中立性や客観性を明確にするため計6人の外部委員で構成する第三者委員会としての特別監察委員会を設置、初会合で根本匠厚労相は、早急な原因究明と再発防止策の策定を委員に要請した。」と報じられていた。また、今回公表された調査報告書にも、「第三者委員会として設置されたものである」と明記されている。
しかし、この委員会は本当に「第三者委員会」と言える存在であり、初会合で厚労相から独立した委員会としての調査を委嘱されたのだろうか。そうであれば、それ以降は、委員会が主導して「何をどのように調査し、どのように原因究明、再発防止策策定」を行うのかを決定し、委員会の責任において調査を行い、調査結果を取りまとめる、ということでなければならず、いずれにしても、日本の行政組織の信頼そのものを大きく揺るがしかねない今回の問題について、その真の原因を徹底して究明することが必要なのに、「言語道断である」「考えが甘すぎる」「想像力が著しく欠如していた」などという「叱責の言葉」が並び、ありきたりの「見方」が示されているだけだ。調査の結果明らかになった事実に基づく原因分析らしきものは全くない。
この委員会が、中立性・独立性を持った「第三者委員会」なのであれば、まず、設置の段階で、委員会が調査事項を確認し、調査の方針、調査の手法を議論し、それを調査の実行部隊に指示し、調査結果について逐次報告を受け、その結果に基づいて委員会で原因について議論して、調査結果と原因論を報告書に取りまとめることになるはずであり、これらについて「調査補助者」を活用することは可能だが、いずれにしても、基本的な部分は、委員会が主導して進めていくのが当然である。
そのような第三者委員会の調査であれば、事実関係のみならず原因究明も含めて、わずか7日間で調査報告書の公表に至るということは絶対にありえない。それを、最初から、わずか7日間の期間で調査報告書を公表する「予定」で、「第三者委員会まがいの委員会」を立ち上げて、ほとんど原因分析も行わず幕引きを図ろうとしたとすれば、そのような厚労省の対応自体が、一つの「不祥事」であり、それを誰がどのように意思決定したのかを問題にすべきだ。そして、今回の勤労統計をめぐる問題について、改めて本物の第三者委員会を立ち上げて、徹底した調査と原因分析を行うべきだ。
その後、この「特別監察委員会」の調査に関して、調査における事情聴取の多くが、厚労省の職員によって行われており、委員会が直接聴取したのは、対象者37人中12人だけだったこと、委員会による聴取に厚労省の官房長が立ち会っていたことなど、「第三者性」に疑念を生じさせる事実が明らかになっている。
上記記事で指摘したように、今回の「特別監察委員会」の調査とその結果についての報告書は、その設置と報告書公表の経過から考えて、本来の中立性・独立性を備えた「第三者委員会」とは到底言えないものだったことは間違いない。しかし、ここで、問題を整理する必要があるのは、「第三者委員会」というのは、不祥事の事実解明・原因究明のための手段であり、(1)「特別監察委員会」が「第三者委員会」としての実体を備えたものと言えるかという問題と、(2)今回の勤労統計不正の問題の事実関係やその原因の問題とは区別して考える必要があるということである。
今回の「特別監査委員会」のメンバーは、もともと自ら聴取を行うことを前提にしているとは思えない。最初から、調査は基本的に厚労省の事務方に委ね、主要な関係者の聴取にだけ委員会メンバーが同席する、という方針だったのであろう。そうであれば、なぜ、設置の段階で、根本匠厚労大臣が、「第三者委員会としての原因究明と再発防止策の策定を委員に要請した」などと明言したのであろうか。それ以降、「第三者委員会」としての調査であることが前提とされ、それと調査の実態とがあまりに乖離していることで、“第三者委員会の偽装”のようにとらえられてしまった。
最近の中央官庁の不祥事として記憶に新しいのが、一昨年の森友学園に関する「決裁文書改ざん問題」である。議会制民主主義の根幹を損なう行政機関の国会及び国民に対する裏切りであり、到底許容できない問題であった。それが明らかになった当初から、私は、以下のように指摘していた。
この問題に関しては、客観的な立場から、事案の経緯・背景を解明し、行為者を特定し、なぜ、このようなことが行われたのかについて、詳細に事実を解明することが不可欠であり、犯罪捜査や刑事処罰は中心とされるべきではない。その調査を、今回の問題で著しく信頼を失墜した財務省自身が行っても、調査結果が信頼されることはないだろう。独立かつ中立の立場から信頼できる調査を行い得る「第三者による調査」の体制を早急に構築することが必要である。そして、その調査体制の構築も、当事者の財務省に行わせるべきではない。今回の問題の性格・重大性に鑑みると、「書き換えられた決裁文書」の提出を受けた「被害者」とも言える「国会」が主導的な立場で調査を行うべきであり、福島原発事故の際に国会に設置された「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」のような、国会での国政調査の一環と位置付けるべきだ。
しかし、実際にはどうであったのか。
財務省は、「第三者委員会」どころか、外部者を含めた調査を全く行わず、検察当局の不起訴処分直後に極めて抽象的で曖昧な内容内部調査結果を公表しただけだった。だが、「第三者委員会」を設置しなかったことに対する批判はほとんどなかった。そして、内部調査である以上、その結果に責任を持つのは、財務省のトップの麻生太郎財務大臣だが、調査結果の公表の際、「改ざんの動機」を質問された麻生大臣は、「それがわかれば苦労しない」などと開き直った。
このような財務省の「決裁文書改ざん問題」への対応と比較すれば、今回の厚労省の対応は、はるかに“まし”と言えるだろう。厚労省にとっては、最初から、監察チームによる徹底した内部調査を行い、その調査手法、調査結果等について、厚労大臣の諮問機関としての外部者で構成される委員会に検証してもらう。また、その意見を踏まえ、さらなる調査と原因究明を行うという選択肢もあったはずだ。
そういう意味では、問題の重大性から調査の「第三者性」にこだわった根本大臣の姿勢は、決裁文書改ざん問題における麻生財務大臣の対応より、はるかに真面目だったと言える。しかし、最大の問題は、根本大臣が、「第三者委員会」というものの意味を十分に理解しないまま、「特別監察委員会」の調査について、「第三者委員会による調査、原因究明、再発防止」と表現したことにある。調査報告書の公表後も、国会で、国民民主党大串議員から、調査結果について誰が最終責任を負うのかと質問されて、「調査結果については第三者委員会が責任を負う」と答弁し、責任の所在についても「第三者委員会」を強調してしまった。それによって、調査の実態が「第三者委員会」というレッテルとは大きく乖離していたということで野党やマスコミの激しい追及を受け、調査の枠組みに関する問題に議論が集中したため、統計不正の事実関係とその原因や、今後の再発防止策という重要な点に議論がなかなか進まない現状を招いている。 
官公庁、企業を問わず、組織の重大な不祥事対応において「第三者委員会」の設置が検討されるが、実際には、第三者委員会をめぐって、様々な問題が起きていることも事実であり、今回の厚労省の問題も「第三者委員会の失敗事例」と言ってよいであろう。
「第三者委員会」を設置することについては、設置することがどのような意味を持ち、それがどのような効果等をもたらすのか十分に認識理解した上で判断を行う必要がある。「第三者委員会の基本論」を踏まえた対応が行われていれば、厚労省がこれ程までの混乱に陥ることもなかったのではなかろうか。 
●不正統計問題、“身内”聞き取りで追加調査「第三者の感覚が欠如している」 1/30
厚生労働省の不正統計問題で、第三者委員会による聞き取り調査のうち約7割が、委員会のメンバーではなく厚労省の職員のみで行っていたことがわかった。
厚労省は聞き取り対象37人のうち、幹部級など20人には有識者が聞き取りを行ったとしていたが、実際は12人だったという。残りの25人は職員のみで聞き取りを行っていた。根本匠厚労大臣は29日、これまでの答弁を訂正し「ヒアリングの人数について、合計12名と答弁すべきだったところ合計20名であるなど謝った答弁があった。大変遺憾だ」と述べた。
また、部局長級の職員らの一部ヒアリングに厚労省の定塚由美子官房長らが出席していたことも疑問視されている。これについて定塚官房長は「私たちがいることでもっと聞き出せるのではないかと思っていた」と説明した一方、「特別観察委員会の第三者性に疑念を持たれることになり申し訳ない。追加調査にも人事課職員は同席しているが、記録など事務的な作業に徹している」として、第三者性には問題がない考えを示した。
不正統計問題で起こった更なる不備について、政治学者で東京大学先端科学技術研究センター助教の佐藤信氏は問題点を次のように指摘する。
「厚労省の職員のみの聞き取りでは第三者性に疑問符がつくということで、特別観察委員会のメンバーが追加で聞き取りをして正当性を持たせようとしている。そもそも、それをわかって最初に報告した特別観察委員会の第三者性は本当にあるのか。こういう調査を行うにあたってどこが勘どころなのかきちんとわかっているのか。第三者が調査するから意味があるのであって、中にいる人が聞いても意味がないという感覚が欠如している人が委員会にいる」
この特別観察委員会の委員長を務めるのは樋口美雄氏。樋口氏は、厚労省が所管する独立行政法人労働政策研究・研修機構の理事長も努めている。それを踏まえ佐藤氏は「これは本当に第三者性があって、専門性がある委員会が行っているものだと我々は信じられるのか。そこが大きな焦点になっている。これから追加報告が出てくるが、恐らくそれで終わりにはならない。また問題が出てくることになりかねない状況」と懸念を示した。
野党は根本大臣の責任も追求しているが、どのような幕引きになることが予想されるか。佐藤氏は「安倍政権としては支持率もそれなりにあるし、安倍総理が自身も根本大臣も辞めないと立場をはっきりさせている。しかし、官僚のヘッドを政治家が務めている以上、政治家が責任をとることは大事。根本大臣は『遺憾だ』といっていたがこれはニュアンスが広い表現で、自分の責任でもあるから謝るという態度は行政の一部局の長として当然のことだと思う」と指摘した。  
●「辞任ドミノ」の再来警戒=安倍首相、厚労相を徹底擁護 1/31
毎月勤労統計の不正調査問題をめぐり、安倍晋三首相が野党の集中砲火を浴びる根本匠厚生労働相を徹底して擁護、続投させる方針を繰り返し明言している。旧民主党政権を含む歴代内閣で続けられてきた不祥事だとの思いが強いためで、第1次政権時のような「辞任ドミノ」に発展する事態も警戒しているもようだ。
首相は31日の衆参両院の代表質問で、統計問題に関し「長年にわたって誤った処理が行われ、それを見抜けなかった責任は重く受け止めている」と述べた。不正は第2次安倍政権の発足前から厚労省内で行われてきたことから、安倍政権だけの問題ではないと印象付ける狙いがある。
根本氏は首相と衆院当選同期で親しい間柄。参院選への影響を抑えるため、自民党執行部の中にも「根本氏の首を差し出すしかない」との声が上がるが、首相は野党からの罷免要求に国会答弁で一貫して「再発防止の先頭に立ってもらいたい」と突っぱねている。
2006〜07年の第1次政権では「政治とカネ」の問題や失言で閣僚が次々と辞任するなどの事態に発展。07年の参院選大敗とその後の退陣につながった。
現在、閣内には財務省の決裁文書改ざんなどで責任を問われた麻生太郎副総理兼財務相や、政治資金収支報告書の訂正が相次いだ片山さつき地方創生担当相らを抱える。公明党幹部は「根本氏は絶対辞めない。仮に辞任すれば、なぜ麻生氏は辞めないのか、となる」と指摘。与党関係者も「野党の罷免要求に屈しないのは、辞任ドミノを避けるためだ」と解説する。
これまでのところ各種世論調査で内閣支持率に不正調査問題の影響は見られず、数で劣る野党も攻め切れていないのが実態。「不思議なのは、権力を掌握している間に不正を見つけられなかった旧民主党の方々が、不正を見つけた安倍政権を叱り飛ばしていることだ」。政権と気脈を通じる日本維新の会の馬場伸幸幹事長は31日の代表質問で、旧民主党出身者が主流の立憲民主、国民民主両党をこう皮肉り、援護射撃した。 
●勤労統計不正『賃金偽装』野党合同ヒアリング 実質賃金伸び率めぐり追及 1/31
国民民主党をはじめ野党5党1会派は31日、「勤労統計不正『賃金偽装』野党合同ヒアリング」を国会内で開いた。昨年の実質賃金伸び率が下がるのではないかということや、安倍総理がこの問題の報告を最初に受けたのが根本厚生労働大臣からではなく秘書官からであることなどが論点となった。
山井和則国会対策委員長代行は、昨年6月の名目賃金伸び率を見るときに再集計値の2.8%よりも共通事業所による参考値の1.4%が適切であることを総務省も厚生労働省も認めていることに触れた。そのうえで、物価が上がっていれば実質賃金伸び率は1.4%よりも低いはずだと指摘。名目賃金伸び率1.4%が適切と言っているにもかかわらず、再集計値の名目賃金伸び率2.8%を撤回せずに実質賃金伸び率2.0%として海外にも公表するのは、物価が上がっているのに論理が破綻していると批判。前日の代表質問で安倍総理が実質賃金が上がっているのか下がっているのか明確な答弁をしなかったことに触れ、「それで、よく消費増税なんて言えますね」と強調した。
原口一博国会対策委員長は、根本厚労大臣が不正調査問題を昨年12月20日に知らされながら、安倍総理大臣は12月28日に知らされたことを問題視。別の野党議員は、28日に朝日新聞の夕刊で報道されてから、報道を見て初めて説明を受けたのではないかと指摘した。原口委員長は、根本厚労大臣が安倍総理に説明したわけではなく、秘書官を通じて知ったという総理の答弁に触れ、「あまりにひどい」と憤った。 
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●安倍首相、実質賃金の再計算を検討=統計不正、経済判断の変更は否定
参院は1日午前の本会議で、安倍晋三首相の施政方針演説に対する各党代表質問を続行した。首相は、毎月勤労統計の不正調査に絡み、2018年の実質賃金の伸び率が大半の月で前年同月比マイナスになるとの指摘が出ていることについて、「昨年1月から11月の実質賃金の算出が可能かどうか担当省庁で検討を行っている」と述べた。 。
立憲民主党の福山哲郎幹事長が、昨年の実質賃金を実態に即した方法で再計算した野党の試算を念頭に、「18年は実質賃金がマイナスになる可能性が出てきた。アベノミクス偽装そのものだ」として、事実関係をただしたのに対し答えた。
一方、首相は、21年5カ月ぶりの高い伸びを記録した昨年6月の名目賃金が従来の3.3%増から修正値で2.8%増となったことに触れ、「再集計でも増加傾向が続いていることに変わりはない。雇用所得環境が着実に改善しているとの判断に変更はない」と強調した。
不正統計に伴う雇用保険などの過少給付への対応については、「システム改修の準備を進めている」と述べ、早期に具体的なスケジュールを公表する考えを示した。 
●根本厚労相、統計担当幹部を更迭=不正調査問題で引責 2/1
根本匠厚生労働相は1日午前の閣議後記者会見で、統計政策担当の大西康之政策統括官を同日付で官房付に異動させる人事を発表した。一連の統計不正問題の責任を取らせた形で、事実上の更迭となる。大西氏の後任には、総合政策担当の政策統括官の藤沢勝博氏を充てた。
根本厚労相は、総務省が基幹統計の一斉点検結果を発表した後、厚労省の賃金構造基本統計で訪問調査を郵送で行う不正が見つかったことを「大変遺憾だ」と指摘。同統計での不正について「彼(大西氏)は知ってはいたが、総務省へ報告した次の日に『そういえばこれがあった』と気づいて報告した」と説明し、「政策統括官の職務を担わせるには適当ではないと考えた」と述べた。 
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●厚労省 13年前には不正調査を把握 公表などせず 
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」の不正問題で、少なくとも13年前には全国の労働局で不正な調査が行われ、本省の担当部署も把握していたと厚生労働省が明らかにしました。NHKの取材では、数十年前から同様の手法が行われていたと、複数の関係者が証言しています。
労働者の賃金の実態を雇用形態や職種ごとに把握する、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」は、全国の労働局を通じて行われ、事業所に出向いて調査することになっていますが、実際にはほぼすべてが郵送で行われていました。
この問題で、厚生労働省は過去の担当者に聞き取りを行った結果を公表し、少なくとも13年前の平成18年の時点では、全国の労働局で不正が行われ、本省の担当部署も把握していたということです。
しかし、不正を公表したり、国の統計を所管する総務省に報告したりすることはありませんでした。
NHKの取材では「数十年前から同様の手法で調査を行っていた」と複数の関係者が証言しています。
この「賃金構造基本統計調査」をめぐっては、別の統計の不正発覚を受けて、先月行われた政府の一斉点検の際に、担当室長が意図的に不正を報告しなかったことが明らかになっています。 厚生労働省は不正がいつから行われていたかや、それが是正されなかった詳しいいきさつなどについて確認するとしています。  
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●ボロボロ出てくる事実 厚労省勤労統計問題はオモシロイ
新聞は連日一面の厚労省毎勤統計問題ですが、テレビのニュースはともかく生ワイド番組はほとんど取り上げません。事が「統計」ですから視聴率稼ぎには不向きです。しかしこのネタ次々と「裏の事実」が見えてきて、ヤジウマ的にけっこうオモシロイのです。 す。
調査報告書発表の記者会見、荒井史男委員長代理(元名古屋高裁長官)の発言。
『(隠蔽の)意図があったとまでは認められなかった』
のならば、
『(隠蔽の)意図がなかったとまでは認められなかった』
ということでもあるはずです。要は「わからなかった」ということですから調査を続ければ良かったのですが・・・。これほど重大かつ長期間、日本経済、国際社会、さらに政権に打撃を与えかねない問題で、その事実経過と責任を調査し、明らかにするのは大変な作業です。
その大変な作業にあたる外部有識者による第三者委員会・特別監察委員会が厚労省によって設置され、最初の全体会合がもたれたのは1月17日でした。5日後の1月22日には第二回の、それが最終の全体会合が開かれ、調査報告書を発表します。
報告書の最終行にわざわざ『関係職員の厳正なる処分が行われることを臨む。』とあり、厚労省は即日に懲戒処分を発表します。これだけの重大事例で、たった足かけ6日で、のべ69名からヒアリング、資料調査、議論検討、報告書作成を済ませ、さらにこれを受けて一事不再理が常識の懲戒処分まで発表するのはもはや神の業です。人には不可能のはずですが、厚労省には奥の手がありました。
以前から厚労省は「監察チーム」と呼ばれる組織を常設していました。たびたび重大問題を起こしてきた厚労省が内部に置いた職員と外部の弁護士などで構成された監察組織です。
昨年12月末、毎勤統計不正が明らかになるとこのチームは内部調査をはじめます。この「監察チーム」の弁護士など5名に樋口美雄委員長を含む2名ほどの外部識者を新たに加えて新設されたのが「特別監察委員会」でした。
樋口委員長は厚労省の研修機構の理事長です。つまり、内部組織である「監察チーム」に外部風の冠を乗っけて作った第三者委員会モドキが「特別監察委員会」です。先行した「監察チーム」の調査を土台とし、すこぶる聞き分けの良い「特別監察委員会」は奇跡の突貫工事で「組織的隠蔽はなかった」と結論づけ、厚労省はさっさと懲戒処分まで終えます。これで、「すべては済んだ話」として火を消すべく国会の閉会中審査に臨みます。
しかし厚労省の大甘な目論見は次から次へと木っ端微塵と吹っ飛びます。国会閉会中審査は極めて痛快な法廷劇のごとく展開します。まず大もめにもめたのはこの「監察チーム」と「特別監察委員会」のヒアリング数についてでした。報告書には「のべ69人からヒアリング」とあるのですが、「のべ」ではない実数を確認する質問あたりから雲行きが怪しくなります。この単純な質問になぜかあやふやな答弁で議事が再三中断します。
あげく「監察チーム」がヒアリングした24人はすべて厚生省職員だけによるものとバレて、議場全体に「やっぱり!」感が漂います。誰もが6日でまともな調査が出来るはずはないと考えていたのです。
さらに「特別監察委員会」の外部委員がヒアリングした人数についての質問でも、大臣をはじめ官僚も右往左往、あげく30分も質疑がストップします。結局、「特別監察委員会」の外部委員がヒアリングしたのは局長級11名、課長・課長補佐級9名の計20名と答えたのですが、どこかアヤシゲです。
そこで野党議員が重ねて詳細な説明を求めると、また混乱。あげく懲戒処分との関係で公開できない決まり、などという不可解な理由で逃げ回ります。やはりなにかを隠しているニオイがプンプンです。後日、20名は嘘っぱちで本当は12名、しかも第三者委員会と言いながらすべて厚労省幹部や職員が同席し、逆に外部委員だけでのヒアリングはゼロだったことまで報道されます。またヒアリング総数も37名に訂正されるます。
さらに報告書の原案も厚労省職員が作成していたことが発覚、どこが第三者委員会だ、と議場は大荒れに。
結局のところ、ほとんど厚労省側が作成した調査結果を、あたかも第三者外部委員による「特別監察委員会」の調査結果であるがごとき体裁で発表したのが報告書だったとわかったのです。強く第三者偽装のニオイがしますが、それが奇跡のスピードのヒミツでした。
一方で、この報告書の最終責任者は誰か、と問われた根本厚労大臣は、どういうわけか「責任は特別監察委員会にある」とし、自らが最終責任者であることを頑なに否定しました。しかし報告書の冒頭にはこう書かれています。
『厚生労働省監察本部長たる厚生労働大臣の下に設置された委員会である』
監察本部長たる厚労大臣が最終責任を拒否するような監察報告書で事態を収拾できるはずがありません。案の定、あまりの批判の強さに調査結果発表から3日後の1月25日、根本大臣から「一部再調査」が発表されました。再調査を同じ委員でやるという話です。
調査も結論もすべて厚労省のひいたレールに乗った特別監察委員会には独立性も第三者性もなく、委員は調査のドシロートという強い批判があります。こんな再調査で世間の批判に耐えられるのかと思った矢先、4日後の29日午前、わずか中3日ほどで「特別監察委の外部有識者が計40人の再ヒアリングを終えた」と報じられます。しかも、すべての再ヒアリングに厚労省職員が同席とも。信用失墜の第三者委員会にとっては、たとえヒアリングの記録要員であろうが独立した外部スタッフがあたる厳しさを示すことが重要でしょうに。またまた非常識対応を強行する厚労省には何か調査を外部にまかせられない事情があるかのようです。
姑息な対応がバレて、その批判にまた姑息な対応でこたえ、それがバレてまた批判が・・・。今回の騒動、ボロボロ、ボロボロとこそげ落とされるように明らかになる事の事実、筆者のようなヤジウマにはどこかミステリーを読んでいるようなオモシロサがあります。おそらくは再調査もまたボロが・・・。
今回の毎勤統計不正問題には二つの要素があります。ひとつは長年にわたり保険金給付などで膨大な数の国民に与えた重大な影響。もうひとつは不正確な統計値をアベノミクスの成果と誇った安倍政権の振る舞い。いまのところメディアは前者を中心に報道していますが、国会審議や野党合同ヒアリングなどでは、お役人たちが後者の問題を認め始めているようにも見えます。こちらの方もボロボロと真実が見えてくるかも知れません。
2017年2月27日、全国ネットの生ワイド番組がそれまで取り上げなかった森友問題を一斉に伝えた日です。その日から森友は歴史的事件になりました。今回の問題、「統計」ながら厚労省の狼狽ぶりや、事の経緯、広がりが謎解き感覚でけっこうオモシロイのです。そろそろ生ワイド番組でも取り上げはじめ、歴史的事件に化けるのかもしれません。 
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●不正統計“第三者委の独立性”長妻氏が迫る
厚生労働省による不正統計調査問題について、国会では4日午後から野党議員が政府の責任を追及している。 いる。
立憲民主党の長妻代表代行は、この問題を調査する第三者委員会の独立性をどのように高めるのか安倍首相に迫った。
長妻代表代行「独立性を高めるということをおっしゃいました。具体的にどういうふうに高めるんですか」
安倍首相「具体的な運営方法についても特別監察委員会においてお決めいただくことが適当だと考えていますが、事実の検証や実態の解明に関する部分については職員の関与を極力排除した形で行われることが望ましい」
この独立性をめぐり長妻議員は、第三者委員会の委員長が厚労省から運営費を得ている独立行政法人の理事長であることを指摘し、「中立的な立場で厳しいことを書けるわけがない」と批判した。
一方、午前は自民党の小泉厚労部会長が質問に立ち、与党としても厳しく対処する姿勢をアピールした。
小泉厚労部会長「危機管理上でアウトだと思います。そして、この賃金構造基本統計については組織の隠ぺい体質の表れ、厚労省の改革がされたということにしなければいけないと思いますので」
根本厚労相「私も厚生労働省改革が必要だと思っています。信頼を損なうことになってしまっていることについて、私は率直に国民の皆さまにおわびを申し上げます」
根本厚労相はさらに「しっかりとした組織のガバナンスを確立する」と強調した。  
●統計不正問題 厚労省幹部「走りながらの作業」 追加給付、難航必至 2/4
「毎月勤労統計」の不正調査によって雇用保険などの支給額が約15年間にわたり不足していた問題で、厚生労働省は4日、過去の支給漏れを追加給付するスケジュール(工程表)を公表した。雇用保険や船員保険の現行受給者が4月と最も早く、対象者の特定に時間がかかる労災保険の一部でも年内には支払いを始める。
「走りながらの作業だ」。厚労省は追加給付の工程表を公表したが、同省幹部が3日夕にこう語ったように、スケジュール通りに作業が進むかは不確定だ。それでも同省が4日に工程表を示したのは、衆院予算委員会に間に合わせた側面がある。発表された工程表では、過去の受給者への追加給付の開始時期に「頃」の文字が付された。
同省は対象者や給付額を特定するため、大規模なシステム改修を進めているが、完了時期は「システム会社と確実な約束ができていない」(別の同省幹部)という。同省がこの問題を受けて設けた専用ダイヤルには3日までに約6万6000件の問い合わせがあった。「いつ、いくらを支払えるか」と聞かれても、明確に回答できる材料はなく、実質的に「謝罪窓口」になっている。「せめて支払いできる『月』は示したい」(同)という考えもあり、4日の工程表発表につながった。
4日午前の衆院予算委員会で根本匠厚労相は自民党厚労部会長の小泉進次郎氏の質問に「住所を把握して4月から11月ごろにかけて、順次お知らせを開始する」と答えた。そもそも同省は毎月勤労統計の不正調査問題が発覚した後、自民党厚労部会からも追加給付の見通しを早期に示すよう強く求められていた。与野党の追及を少しでもかわそうと急ごしらえで作成したとみられる。小泉氏は質問後、記者団に「最大の成果は工程表が明確になったこと。スケジュール感は安心につながる」と満足げに語った。
ただ、不足分を受け取るべき人の特定が進んでも追加給付の難航は必至だ。過少給付が生じている雇用保険、労災保険、船員保険の各保険のうち、延べ約1942万人と最大の雇用保険については住所が記載された受給申請書の保存期限(5年)が過ぎて破棄されているものがあり、延べ1000万人以上の住所データが残っていないからだ。住所が分からなければ通知を出すこともできない。
システム改修で住所不明の過去の受給者の氏名や生年月日、被保険者番号が判明するという。同省は住民基本台帳から氏名、生年月日を検索し、対象者の特定を進める方針だが、気の遠くなる作業が待ち受ける。労災保険などで対象者が死亡している場合、遺族捜しから始めざるを得ないケースも想定される。「最後の1人までの追加給付」の実現も未知数だ。 
●安倍首相、アベノミクス偽装を否定=「できるはずがない」 2/4
安倍晋三首相は4日の衆院予算委員会で、毎月勤労統計調査の不正発覚を機に、政権の経済政策「アベノミクス」の成果を裏付けるとされる他の統計にも不信が広がっていることに関し「私たちが統計をいじってアベノミクスを良くしようとできるはずがない」と強調した。
立憲民主党会派の小川淳也氏が不正の背景を問う中で「正しい統計を出すと表で言いながら、裏では良い数字を出せと暗に政治的圧力をかけているのではないか」などと追及したのに対し答えた。
これに関連し、立憲の長妻昭代表代行は、2015年10月の経済財政諮問会議で、麻生太郎副総理兼財務相が勤労統計で改善を求めたことが調査手法の変更につながったと主張。麻生氏は「私の発言が不適切な取り扱いのきっかけになったという記録はない。全く関係がない」と否定した。
長妻氏は、国の補助金を得ている労働政策研究・研修機構の樋口美雄理事長が厚生労働省の特別監察委員会トップを務めていることも問題視。樋口氏は「私自身、統計に長い間携わってきた。今回の問題を解明するには統計的な知識が必要ということで、正義感から受けた」と反論した。
首相は監察委の再調査に関し「事実の検証や実態の解明に関する部分は、職員の関与を極力排除した形で行われることが望ましい」と述べた。  
●毎勤統計で一喜一憂してない、実態は総雇用者所得みるべき=安倍首相 2/4
安倍晋三首相は4日午後の衆院予算委員会で、厚生労働省による不正調査が行われていた毎月勤労統計について、これまで実際の毎月の数字の報告は受けていなかったとし、同統計に一喜一憂する考えはないと語った。小川淳也委員(立憲)への答弁。
首相は、2018年6月の毎勤統計において現金給与総額が大きく伸びたことの感想を問われ、「いちいち毎勤統計について報告を受けてない。基本的に毎勤統計について一喜一憂する考えはない」とし、経済実態を示しているかどうかは「総雇用者所得でみるべきとの議論をいつもしていた」と語った。
そのうえで、統計を操作してアベノミクスの成果が上がっているように見せることは「できるはずがない」と強調し、適切に東京の500人以上の事業所を全数調査していれば、「指標はもっと良くなっていた」と述べた。  
●首相「GDPに影響なし」 統計不正、野党は組織隠蔽追及 2/4
安倍晋三首相は4日の衆院予算委員会で、厚生労働省の毎月勤労統計の不正問題に関し「国内総生産(GDP)には影響はない。他の統計への影響を関係省庁で精査している」と述べた。野党は、不正を調査する特別監察委員会が組織的隠蔽を否定したことを批判し、厚労省の外に調査機関を設置するよう要求した。根本匠厚労相は省外設置案を拒否。首相は「監察委が行う検証や実態解明は厚労省職員の関与を極力排除した形で行うのが望ましい」と強調した。 衆院予算委の論戦がスタート。統計不正問題が最大焦点となり、野党は根本氏の罷免を求めるなど攻勢を掛け、首相側が守勢に回っている。 
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●厚労省の統計不正が示す、IT劣等国ニッポンの惨状
信じられないような官民の不正が相次いだので大概のことには驚かなくなっているが、厚生労働省の毎月勤労統計の不適切調査には心底驚いた。なんせ、統計だぞ。勝手に調査方法を変えてはいけないことは素人でも分かる。それなのに、恣意的に変更された不正な状態が長く放置された。その結果、雇用保険などの給付で多くの人が不利益を被った。揚げ句の果てに本問題に関する調査報告書もまがい物らしい。もうあきれ果てるしかない。 。
で、まがい物疑惑にまみれた調査報告書を読んでみた。外部の有識者による中立の調査報告書のはずが、職員への聞き取りの際に厚労省幹部が同席していたとかで、事実上お蔵入りとなった代物だ。ただ、システムに関する問題点も指摘しているとのことなので、あえて読んでみた。そうしたら、またまた驚いた。厚労省だけでなく他の役所や企業などでの「あるある話」が記述されていたからだ。
そこで今回の「極言暴論」では、まがい物疑惑にまみれた調査報告書を基に記事を書いてみる。本来なら、再調査によって中立性が担保された新たな報告書を待つべきだが、極言暴論で追及したいのは「厚労省の組織ぐるみによる不正なのか、単に現場の愚かな判断による不正なのか」ではなく、今回の事件から垣間見えた日本型組織と日本型IT活用の問題である。なので、調査報告書がまがい物であっても、素材としては十分に役に立つのだ。
この毎月勤労統計の不適切調査の問題は少々ややこしいため、まず簡潔に説明しておく。統計の精度に関わる問題は大きく3つ。1つ目は、東京都にある大規模事業所に対する全数調査が、なぜか2004年1月調査から抽出調査になった点。2つ目は、抽出調査にしたにもかかわらず、なぜか統計の精度を全数調査に近づける「復元処理」を行わなかった点。3つ目は、ずっと不正状態を放置していたにもかかわらず、なぜか2018年1月調査から復元処理を行って統計を上振れさせた点だ。
で、1つ目と3つ目の問題が「不正の本丸」だ。これについては、まがい物疑惑にまみれた調査報告書の内容は当てにならない。そして2つ目がシステムに関わる問題。実は、これがとても不思議な話なのだ。たとえ統計法に違反して調査方法を勝手に変えたとしても、統計処理の常識である復元処理さえきちんと実施していれば、統計の精度が保たれて惨事には至らなかったのだ。それなのにシステムが対応していなかったというから、もうビックリ仰天である。
システム改修を怠った犯人が分からない
さて、この調査報告書は正式には「毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する報告書」という。ここで書かれた事実関係とその評価のうち、復元処理を実施していなかった事実はこんなふうに記述されている。
「企画担当係からシステム担当係に東京都の事業規模500人以上の事業所における産業ごとの抽出率を復元処理するための作業依頼や必要な資料の提供等がなされ、システム担当が東京都における抽出調査に伴い必要となるシステムの改修を適切に行っていれば、今般の必要な復元処理がなされていなかったという問題は生じなかったはずである」。
そりゃそうだ。だったら、なぜシステムの改修を適切に行わなかったのか。その原因についての記述を探すと、まあビックリである。「なぜなのか分からない」というのだ。つまり、統計担当部署が復元処理を行うためのシステム改修をIT部門に依頼するのを失念したのか、依頼を受けたIT部門の担当者がシステム改修を怠ったのか、現時点ではどちらが犯人か分からないというのだ。
「そんなばかな」と思ってしまうが、次のような記述を読むと、いかにもありそうな話である。「抽出替え等によりシステム改修の必要性が生じた場合には、企画担当係とシステム担当係が打ち合わせをしながら、必要な作業を進めていくが、その際にはすべての仕様をペーパーで依頼する訳ではなく、口頭ベースで依頼することもあった。なお、毎月勤労統計調査については、具体的なシステム改修関係の業務処理は係長以下で行われ、一般的には課長や課長補佐が関与しない」。
さらにこんな記述もある。「毎月勤労統計調査に係るシステムのプログラム言語はCOBOLであり、一般的にシステム担当係でCOBOLを扱える者は1人又は2人に過ぎなかった。(中略)2003年当時はCOBOLを扱える者は2人いたが、それぞれが別の仕事を分担して処理していたため、当該者同士でダブルチェックをするようなことはなかった」。
これを読んだら、民間企業のIT部門の人も描かれている情景をリアルに思い浮かべることができるだろう。かなり重要な(はずの)システム改修であっても、幹部マネジャーは現場の担当者に丸投げで、担当者も仕様を記したドキュメントを用意することなく、打ち合わせを開く。改修を重ねてきた古いCOBOLプログラムを触れるIT担当者はわずかしかおらず、改修結果をテスト・確認することもままならない……。まさに企業でも「あるある」だ。
相次いだ大手製造業での不正と構図は同じ
断っておくが、「あるある」だから仕方がないなどと言っているわけではない。全数調査を勝手に抽出調査に変えたのは統計法違反の可能性が高そうだが、統計の精度にとっては致命傷ではない。致命的だったのは、先に書いた通り復元処理を行わなかった点である。その結果、日本の統計に対する不信感が広がっただけでなく、毎月勤労統計を参照して決まる雇用保険や労災保険の給付などで多数の過少給付が生じた。これはもう国による“災害”である。
ちなみに厚労省の推計によれば、影響を受けた人は延べ2015万人で、彼らに支払う追加給付は総額564億円という。このお金は本来給付されるべきだったから、いくら高額でも文句はない。だが納得できないのは、追加給付に必要なプログラム改修などの関連事務費が200億円近くかかる点だ。システムを改修しないと追加給付額を確定できないのは理解できても、なぜ役人の不始末の尻拭いに多額の公金を使わなければならないのか。
冒頭で「中立性が担保された新たな報告書を待つべきだ」と書いたが、やはり抜本的原因を考察したくなる。つまり、不適切行為あるいは不法行為に役人が手を染めた理由である。2018年調査からこっそり復元処理を行った件については、組織的な隠蔽工作の可能性があるから現状では何とも言えない。ただ、問題の発端となった全数調査を勝手に抽出調査に変えた件については、現場による間違った“創意工夫”の発露だった可能性が高い。
というのも、この問題が発覚した後、政府統計に詳しい識者たちから次のような趣旨の指摘が相次いだからだ。「霞ヶ関では統計やデータが重要だと言いながら、実際には統計の予算確保の優先順位が低く、統計の専門家の地位も低い。限られた予算と人員で全数調査を続けるのは難しいのでは」――。必要な予算や人員が確保されず、現場が過重労働を強いられているのなら、現場が「別に全数調査でなくてもいいんじゃない」と考え、“創意工夫”しても不思議ではない。
「それはありえない」と笑う読者もいると思うが、つい最近相次いだ大手製造業によるテストデータの改ざんといった不正行為の数々を思い出していただきたい。中には無資格者によるテストなど明白な違法行為もあり、「日本製」への信頼は大きく損なわれた。いずれも人員が足りないなかで高いノルマや品質要求に対応するために、現場が“創意工夫”して不適切あるいは不正なやり方を編み出したのだ。今回の厚労省の不適切調査もこの構図に似てなくないだろうか。
統計システムの刷新が一番手っ取り早いが……
似ているといえば、統計担当者が置かれている状況はIT担当者やIT部門が置かれている状況と極めてよく似ている。先ほどの識者の話を次のように置き換えてみるとよく分かる。「システムやデータが重要だと言いながら、実際にはITの予算確保の優先順位が低く、ITの専門家の地位も低い。限られた予算と人員でシステムの保守運用を続けるのは難しい」。まさにピッタリ当てはまる。統計担当者とIT担当者が「同病相あわれむ」状態にあるのだ。
しかも「統計のシステムは今では仕様が古くなっている」との指摘もある。まあ、COBOLプログラムを属人的に保守してきたようだから、当然といえば当然だろう。地位が低く人員も限られている統計担当者とIT担当者が、古いシステムをだましだまし使いながら統計をつくり上げている。そんななかで幾つもの不適切行為が行われ、信じられないようなポカも発生した。安倍晋三首相は先の施政方針演説でビッグデータ活用やデータ流通の重要性を説いたが、その足元はお寒い限りである。
そんな訳なので、不適切調査の真相究明もさることながら、抜本的な対策が必要である。そのためには統計システムの刷新が最も手っ取り早い。毎月勤労統計だけでなく他の政府統計もミスのオンパレード、ボロボロの状態なので、統計担当者の人員増の必要性などが叫ばれているが、今こんな状態の役所に入ってやろうという統計の専門家や統計を学ぶ人がいるだろうか。それよりも霞ヶ関を横断して利用でき、不正やミスを排除するチェック機能を持ったシステムを構築するほうが筋が良い。
そうだ。そもそもなぜ、統計で使うデータをオンラインで収集しないのだろうか。紙の調査票に記入するなどアナログな形で集めているから、答える側も役所側も余計な手間がかかり、不正やミスの温床になる。中小企業はともかく大企業なら、統計作成のために必要なデータは自社のシステムで管理しているはずだ。必要なデータをオンラインで受け取るための仕組みをクラウドで作っておけば、大概の問題は解決してしまうのに……。 と書いたものの、現実的ではないと気が付いた。先ほどの「あるある話」が今度は企業のIT部門などで生じてしまう。いつも極言暴論で書いている通り、企業においてもIT担当者の地位は低く、最近のIT部門は長年の予算削減・人員削減の影響で疲弊し劣化している。システムも当然、長年の場当たり的な保守でグチャグチャだ。統計用のデータを様々なシステムから正しく抽出する機能を作るのは大変だぞ。ITベンダーに丸投げすればよいかもしれないが、いくら請求されるか分からない。  
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●統計不正問題「官僚叩き」よりも先にやるべき抜本的解決策を示そう
本質的な原因はすぐに分かった
2週間ほど前には「不適切な調査」という報道であったが、最近の報道では「統計不正」というようになった。当然である。
データは「21世紀の石油」といわれる。データ流通のためにはその品質が重要だが、国家統計はそのなかでも最高のものとされている。
日本では「統計法」が定められており、基幹統計として公的統計の根幹をなす「重要性の高い統計」を56個指定している。基幹統計では、統計調査を受ける国民にも、統計報告を拒んだり虚偽の報告をしたりすると罰則がかかる。
もちろん、基幹統計に従事する公務員にも真実に反する行為や機密漏洩を行った場合には罰則がある。だからこそ、国家統計は高い品質を誇るのだ。
筆者は、大学時代に数学を専攻していた。大学卒業後は大蔵省に入省したが、文部省統計数理研究所での内々定ももらっていたくらいなので、一応統計の専門家である。その目からみると、今回の「統計不正」は、国の統計職員の人員・予算不足、各省庁ごとの縦割り文化に本質的な原因がある、とすぐにわかった。
また、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」が不正な手法で行われていたとも報道されたが、これも筆者の予想通り、現場の人員予算不足を激しく想起させるものであった。
「賃金構造基本統計調査」では、マニュアルでは事業所に直接調査の担当者が出向いて調査することになっていたが、実際にはほぼすべて郵送で行われていたという。たしかに、それは明らかなマニュアル違反であり、そのこと自体は不味いことだ。しかし、統計的な観点から言えば、両者に統計誤差はあまりないだろう。慢性的な人員・予算不足から、直接訪問での調査は難しく、やむを得ず郵送で対応せざるを得なかったのだろう、という気がする。
もともと、本件は「毎月勤労統計」において、東京都の一部事業者について全数調査するところを「一部抽出調査で行っていた」のが不正であるということだが、統計技術的には全数調査でも一部抽出でも誤差率は大差ない。つまり、結果には大差はないのだが、適正なルールの変更手続きを隠れて行ったことが問題である。繰り返しになるが、筆者はこの問題は、統計調査・作成を担当する人員と予算に不足が原因だろうと考えている。
世は「ビッグデータの時代」なので、海外では、官公庁も民間企業も、ともに統計専門家は高給取りになっている。しかし、日本政府では、統計専門家は主にノンキャリアで、出世しない地味なポストだ。しかも最近は人員・予算不足、縦割り組織の弊害が甚だしく、満足な仕事が出来ない。この現状を認識し対策を打たなければ、「統計不正を行った官僚が悪い」と非難しても、再発防止にはまったくならない。
そこで、筆者は抜本的な解決策として、人員・予算の拡充、統計庁のような横断的な組織の創設を2週間前の本コラムに書いた。
しかしこの2週間、マスコミでは人員・予算不足、省庁ごとの縦割りの弊害はほとんど報じなかった。そのうえ、厚労省の事後対応の不味さが相次ぎ見られたので、その不手際を指摘する報道があふれた。このままでは、統計不正の根本を改善する方向に向かうのではなく、官僚バッシング、政権バッシングに終始することになりそうだ。
信頼回復のためには
振り返ると、今回の統計不正について、厚労省の対応は驚くほど素早かった。事件発覚後10日ほどのうちに、「第三者委員会」として「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」を立ち上げ、責任の所在の解明を行った。そして1月22日、「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」の報告書を公表し、関係者の処分を行った。
厚労省らしからぬその素早さに驚いていると、その後、前出の「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」そのものやその調査方法に疑惑が報じられた。
この「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」の委員長になったのは樋口美雄氏。この方は慶大出身の学者だが、いまは厚労省所管の労働政策研究・研修機構理事長も務めている。
これでは、外形的に中立性を疑われてしまう。労働政策研究・研修機構は独立した行政法人であるが、そのトップは厚労大臣が任命する(独立行政法人通則法第20条)からだ。労働政策研究・研修機構は、厚労省からみれば、いわば子会社であるから、身内感覚で「特別監査」を行っているとみられても仕方ないだろう。
案の定、特別監察委員会委員の職員への聴取において、厚労省官房長が職員に質問していたことが発覚し、そのことが報道されてしまう。実態は、厚労省が職員への聴取を行う場に、委員が同席させてもらった、ということだろう。
厚労省は、特別委員会委員の入れ替えなどを模索して、再調査したいようだが、この際、その程度の小手先では手ぬるい。
こうした事後処理の稚拙さの責任が、いまの厚労省幹部にあることは間違いない。統計に不案内な厚労省幹部が国会答弁を上手くできないので、答弁しないで済むように早期決着を目論んだ、と言われても仕方なく、一連の対応は非常識すぎるにもほどがある。
本件は、明らかに統計法違反である。であれば、厚労省は身内で調査するのではなく、捜査当局に告発するほうがいい。それであれば、捜査当局という立派な「第三者」が取り調べることになるので、国民の誰もが納得するだろう。あるいは国会で独立委員会を作ってやるのもいい。一刻も早く、国民が納得するような調査を行い、統計に対する国民の信頼を回復しなければいけない。
とんちんかんな追及
しかし、野党の追及にもとんちんかんなものが少なくないことも指摘しておきたい。この機会にアベノミクスを叩きたいという気持ちが先走り、一部野党とメディアは2018年1月〜11月の実質賃金の平均増減率がマイナスになると指摘し、「アベノミクス偽装だ」と批判している。
これに対しては、そもそも実質賃金にこだわる意味があるのかということと、18年1月〜11月の増減率は何を意味しているのか、と言いたい。
今回の統計不正により、GDPなどを算出する際の基礎データである毎月勤労統計の数字が変更になった。そのため、雇用者報酬も変更された。2017年の名目雇用者報酬は前年比1.6%増、実質雇用者報酬は1.2%増だ。
各四半期において、再集計前と後で名目雇用者報酬がどのように変化したのか、さらに、名目雇用者報酬を雇用者数で割った名目賃金がどのように変化したのかも、合わせて図に示そう。
こういう数字を見れば、今回の統計不正が「アベノミクスをよく見せるために行われた」という指摘が、いかに的外れかがわかるだろう。伸び率はいざしらず、肝の所得水準を過小評価されてきたのだ。
名目雇用者報酬について、青の点線が再集計前、青の実線が再集計後である。再集計後のほうが高くなっている。
その理由は簡単だ。このデータは毎月勤労統計から作成されるが、毎月勤労統計は本来全国200万事業所を対象とするが、実際には3万件程度のサンプル調査にならざるをえない。しかし、東京都において1500事業所を調べるべきところが500事業所しか調べなかったので、実際のサンプル数は2.9万だった。それを、統計処理で本来であれば2.9万で割り算すべきところ、3万で割り算したため、過小の数字になったのだ。それが是正されると、数字としては大きくなるだけだ。
名目雇用者報酬を雇用者数で割った名目賃金についても、赤の点線が再集計前であるが、赤の実線の再集計後のほうが高くなっている。
いずれにしても、青の名目雇用者報酬、赤の名目賃金は右上がりであることは間違いない。
以上は、名目でみた数字であるが、物価上昇分を割り引いた実質値で、実質雇用者報酬、実質賃金をみることもできる。それを示したのが下図だ。
点線と実線の説明も名目の場合と同じである。
これらをみると、青の実質雇用者報酬が増加しているのは、間違いない。
ただし、赤の実質賃金についてみると、点線の再集計前も実線の再集計後も傾向として右上がりかどうか、判断はつきにくい。
やるべきことは再発防止だ
本コラムで繰り返して書いているが、マクロ経済政策を評価するには、まずは雇用、次に所得で行うのが基本である。要するに、まず仕事があって、その上で衣食が足りていれば、満点、ということである。
これを具体的にみるには、[1]雇用は就業者数、失業率など[2]所得はGDP、雇用者報酬などを基準にすることである。
このように評価基準をハッキリさせた上で、アベノミクスを評価し、筆者として[1]雇用はまずまずであるが、[2]所得の観点からまだ不満があるので、70−80点という評価を下している。
[2]は名目N、実質Rがあり、[2]N名目雇用者報酬=[3]名目賃金×雇用者数、[2]R実質雇用者報酬=[4]実質賃金×雇用者数。景気回復の過程で、[1]、[2]N、[3]、[2]R、[4]の順で上がる。これまで[1]、[2]N、[3]、[2]Rまでプラス、100点ではないが及第点というわけだ。
民主党時代は、[1]さえクリアをできなかった落第である。率直にいって、アベノミクスでは最後の[4]をクリア出来ているのかどうか、なかなか判断つきにくいが、[3]まではクリアしているのは事実だ。100点でないと一部野党とマスコミは批判しても、及第点ではあるだろう。
ちなみに、筆者のような大学教員は、いま、学期末の採点で忙しい時期だ。どこの大学でも似たような採点基準であろうが、学生への通知は、S、A、B、C、Dの5段階で通知する一方で、教員が大学に提出するのは100点満点での点数だ。
90点以上をS、80点以上90点未満をA、70点以上80点未満をB、60点以上70点未満をC、60点未満をDとし、60点以上で及第だ。ちなみに、筆者のクラスの採点は、S19%、A8%、B17%、C25%、D31%という分配にしている。今年は例年よりSが多いが、それでもSはあまりいない。
筆者のアベノミクスの評点はBである。この評価は、統計不正後でも変わりはない。B評価でも不満がある人は、学生時代にSばかりだったのだろうか。 統計不正は、統計の信頼を根底から揺るがすので許せない。しかし、その誤差を的確に把握したうえで、やるべきことは再発防止である。そのためには、アベノミクスがどうこうと言うより先に、不正者の告発、人員・予算の拡充、横断的な統計部署の創設を行うことが必要だろう。 
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●統計不正問題はなぜ起こった?世界と比較すれば分かる「最大の元凶」
統計職員2人で10万人を担当
厚労省の統計不正をきっかけに、霞が関の統計に対する信頼が揺らいでいる。
各省庁ではさまざまな統計調査を出しており、それぞれ職員を割いているが、その人数が少ないのではないか、と見る向きがある。現状はどうなっているのか。
政府内で統計問題が議論されたのは、2004年の小泉政権で示された「骨太方針」からだ。その当時の各省庁での統計職員数をみると、内閣府63人、警察庁6人、総務省590人、財務省85人、文科省20人、厚労省351人、農水省4674人、経産省343人、国交省75人、人事院24人、計6241人だった。農水省の統計職員が圧倒的に多く、各省で人数のばらつきがある。
その後、日本の統計職員は大きく減少した。
'18年の各省庁の統計職員数は、内閣府92人、警察庁8人、総務省584人、財務省74人、文科省20人、厚労省233人、農水省613人、経産省245人、国交省51人、人事院12人、計1940人だ。
'04年のころ、人口10万人あたりの統計職員数はおよそ5人だったのが、およそ2人にまで減少している。
海外の人口10万人あたりの職員数と比較すると、アメリカ4人、イギリス6人、ドイツ3人、フランス9人、カナダ15人と、現在の日本は後れを取っていることがわかる。
国の統計事務の「司令塔」となるのは総務省の統計委員会だが、それ以外の大所である厚労省、経産省、とりわけ農水省は大きく人員を減らしている。
これまで農水省に多くの統計職員が割かれていたのは、農業統計が重要視されていたためだ。
時代のニーズが変わったのはわかるが、なぜその減員分を他省庁に振り替えることができなかったのかは、縦割り行政の弊害の最たるものと言わざるを得ない。
海外と比べ、だいぶ安月給
統計職員の減少は、霞が関官僚が数学の素養を必要とする統計を軽視していることにある。文系官僚が跋扈する霞が関では、ジェネラリストの文系キャリアがトップになり、スペシャリストの理系は出世できない。今回問題になった厚労省はその典型である。
ハッキリ言って、財務省や外務省などに比べれば、厚労省は「格下」である。そんな厚労省で威張る文系キャリアがいる一方で、医師免許を持つ医系技官はせいぜい局長止まりだ。
医学では、薬品効果の検証などで統計分析が必要になる。したがって統計ユーザーとしての素質はかなりあるはずなのだが、彼らの能力が生かされる場はまず設けられないだろう。
また、厚労省には年金数理を扱う技官もいる。数学の専門家である彼らにとって統計処理は朝飯前だが、ここにも縦割り行政の壁があり、彼らを旧労働省関係の統計部門で活用することはまずない。
こうして統計事務は、さほど専門性のないノンキャリアが中心になって担うことになる。結果として、日本の統計業務は世界から見劣りしている。
ビッグデータも活用される近年、海外の統計スペシャリストは高給取りであるが、日本の役所では低い扱いを受けている。 今回の不祥事は、統計職員に対し、省庁縦割りの弊害と、人員と予算をカットしすぎた悪影響が出た結果といえよう。 
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●厚労省統計不正の「尻拭い」195億円
「追加支給のための経費195億円」を なぜ誰も追及しないのか
「毎月勤労統計調査における不適切な事務処理」と、厚生労働省は発表資料では言いつくろっているが、不適切な事務処理とは、何らかの事務処理をしたという意味であって、今回の統計不正スキャンダルは、すべき事務をしなかったという“手抜き”である。
なぜそんなことになったのかという追及が開会中の国会や報道でかまびすしいが、忘れられていることがある。あるいは意図的に無視しているのか。それは事務費である。
毎月勤労統計調査の再集計によって明らかになった、本来給付されるべき手当、保険金、補助金、助成金の不足分の支払いは無駄でも何でもない。しかし、その追加支給にかかる事務費195億円は、手抜き役人の尻ぬぐいに使われるカネである。
まず、追加給付600億円のために195億円かかるという、そのコスト構造は想像も付かないほど高いものであり、その点については厚労省も「その算出根拠必要額を精査した」としか説明していない。言い訳のように「既定の事務費等の節減により財源を捻出」するとしているが、その捻出には国民誰かの犠牲か、あるいは無駄遣いがあったわけで、いずれにしても、役人の手抜き仕事を国民の税金で尻ぬぐいしようとしている悪事に変わりはない。
労働組合を支持母体とする野党各党も、旧労働省のスキャンダルには忖度しているということかとゲスの勘ぐりをしたくもなるが、国会議員がアテにならないのなら、怒りは納税者自らが広げていかねばならない。
そこで調べてみたのが、「195億円あったら何ができたか」。
貧困が原因の給食費未納者全員を35年間も救える!
女性の社会進出、働き方改革のための最重要課題の一つとされるのが保育所の確保。保育所開設は民間・地方自治体の仕事になるが、1ヵ所の開設には土地や建物は“ありモノ”を活用するにしても、保育士や園児の募集、内外装工事、備品などで500万〜1000万円かかるとされている。高めに見積もっても「195億円あったら保育所が2000ヵ所開設できた」と言える。
2018年7月に文部科学省が学校給食費の未納の実態を調査した結果を公表した(「学校給食費の徴収状況に関する調査の結果について」参照)。これによると、公立小学校における未納者割合は0.8%とある。公立小学校の児童数は631万2251人(学校基本調査 2018年度)、給食費の平均月額が4323円(学校給食実施状況等調査 2016年度)から推計すれば、5万498人が年間で26億1963万円を払っていないことになる。
貧困の実態を垣間見るようだが、実際に経済的な困窮が原因となっているのは、そのうち21.1%で、6割以上の未納原因は「保護者としての責任感や規範意識」。要するにダメ親が多いのである。
これらの数字から計算すると、「195億円あったら、経済的理由で給食費を払えない児童の未納分総額を35年分補填できた」。
同じく初等教育では情報リテラシー教育が重要なテーマとなっている。そのために必要なモノは、なにを置いても情報端末だ。小学生に与えるならタブレット型となろうが、いまどきは1万円以下から手に入る(たとえばAmazonのFire HD8タブレット 16GBは8980円)。大量調達ならコストはさらに劇的に下がるだろう。2018年度の国公私立小学校の1年生の総数は104万4213人、2年生は106万2479人なので「195億円あったら、小学生1年生と2年生、うまくすれば3年生も入れた全員にタブレット端末を支給できた」。
インフルエンザ患者全員に1シーズン無償で投薬できる
今年もインフルエンザが猛威を振るっているが、2018年から使用が始まった新薬、ゾフルーザは1回の服用で済むという利便性で注目されている。1日分の薬価は4789円。3割負担で約1600円。1月25日に厚生労働省が発表した資料によると、昨シーズン(2017〜18年)、の推計患者数は1458万人。その前が1046万人。患者全員が3割負担してゾフルーザを服用したとして、自己負担額総額は過去2期の平均で約200億円である。「195億円あれば、おおむねインフルエンザ患者全員の自己負担を無料にできる」。
2018年ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑・京都大学名誉教授がメカニズムを解明した免疫作用を利用して、皮膚ガンや肺ガンの治療薬として2014年に投与が認められたオプジーボ、当初は年間3500万円かかるとして、医療費の増大がさかんに懸念されたことでも話題となった。
数度の薬価改定を経て、現在は体重60キロの患者で年間1000万円にまで抑えられているが、それでも高額であることには変わりない。その超高額医療でも「195億円あったら、約2000人にオプジーボを投与できた」。
車いすはどうだろうか。電動車いすでリクライニングや直立機能がついた最高級機種では120万円という機種もあるものの、安いもので1万円台後半で手に入る。ということは、「195億円あったら、車いすの安いモデル100万台が買えた」。
6000人もの遺児が6年間学校に行ける!
基準を満たした勤労者が新たな技能を身につけるために指定された機関で訓練を受けた場合には、20〜70%の援助を受けることができる。その対象となるものには大型自動車免許もある。
ひときわ人手不足が深刻で、多くの産業に悪影響を与えつつある物流業者のためにトラック運転手を養成するのは、どうだろうか。普通AT免許取得者が大型自動車免許を取得するために必要な最低金額は39万1204円(レインボーモータースクール:埼玉県和光市の場合)。ということは、「195億円あれば、国費でトラック運転手を4万9846人育成できた」。
親を亡くした子どもたちを支援する「あしなが育英会」が4726人の高校生大学生らに貸与する奨学金は21億7449万円(2017年度)、交通遺児育英会は1161人に7億5700万円(2017年度)。つまり「195億円あれば、約6000人の遺児たちに高等教育の機会を与える奨学金を6年以上にわたって支給できる」。
ちなみに195億円とは、ニューヨークヤンキースの田中将大投手の7年間の契約年俸と移籍金総額1億7500億ドル(1ドル=109.3円で換算して191億円)、2018年8月に引退したことでCDや映像ソフトが売れに売れまくった結果、年間売上高首位となった安室奈美恵の音楽ソフト総売上高とほぼ同額。全部を1万円札にすると、重さにして2トン近くになる。これが虚空に消えるのである。
そもそも納得のいかない国費の無駄遣いなだけに「おまえらで弁償しろよな」と嫌みのひとつも言いたくなる。厚生労働省の職員数は3万7657人。ということは「195億円は厚生労働省の職員1人あたり52万円払うことで集まる」。
夏のボーナス1回をあきらめていただければ、国民の怒りも多少は収まろうというものだが、どうだろうか。 
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●長妻昭氏「参考人招致の拒否は立民への嫌がらせ」 
厚労省による統計不正問題が大きなテーマになった4日の衆院予算委員会で、与党側は野党側が求めた参考人の招致を徹底的に拒否した。
新たに不適切な処理が発覚した賃金構造基本統計の担当幹部で、1日付で大臣官房付に更迭された大西康之元政策統括官。立憲民主党の長妻昭議員は「大西氏の招致を前提に(質問する立民の)3人は質問内容を組み立てている」として、委員会の一時中断まで求めたが、野田聖子委員長は突っぱねた。長妻氏は「大西氏は実態解明のキーマンだ。(質問を予定した立民への)嫌がらせではないのか。参考人の隠蔽(いんぺい)だ」と批判した。
大西氏が、衆院予算委直前の先週末に更迭されたことに、野党は「与党による口封じ」と反発を強めている。与党は、一連の問題について調べた特別監察委員会の樋口美雄委員長の招致要求にも、応じなかった。
一方、根本匠厚労相は、毎月勤労統計の不正を調査する特別監察委の聴取に厚労省職員が同席するなど、中立性に疑義が出ている点を自民党の小泉進次郎厚労部会長に「第三者性を強調しすぎたのでは」と指摘され、「強調し過ぎた点は反省している」と陳謝。野党からは怒号が飛んだ。首相は特別監察委の独立性に関し、「厚労省職員の関与を極力排除した形で行うのが望ましい」と述べた。 
●非常識にもほどがある「厚労省」 手続き面で統計法違反の疑い… 2/5
厚生労働省などによる不正統計問題が国会でも焦点になっている。責任追及の矛先はどこに向かうべきなのか。
まず問題を整理しよう。2004年からの統計不正について、ルールどおりにやらなかったのは統計法違反の恐れもある。次に統計不正の調査に関する第三者委員会の運営問題であるが、これは事後対応に問題がある。
両者を区別して考えると、前者の統計不正について、(1)全数調査するところを一部抽出調査で行っていたこと(2)統計的処理として復元すべきところを復元しなかったこと(3)調査対象事業所数が公表資料よりもおおむね1割程度少なかったこと−が問題だ。手続き面から(1)〜(3)は、統計法違反ともいえるものでアウトだ。
(2)では04〜17年の統計データが誤っていたということになり、統計の信頼を著しく損なうとともに、雇用給付金等の算出根拠が異なることとなり、追加支給はのべ1900万人以上、総計560億円程度となる。
一方、統計技術から、(1)はルール変更の手続きをすれば正当化できるし、(3)では誤差率への影響はなく、統計数字の問題自体は大きくない。
いずれにしても、世間からの統計の信頼を失ったのは痛いが、04年からの責任を問うのは実際問題としてかなり困難だ。むしろ過去の責任より未来志向で人員・予算・組織面での再発防止策を考えたほうが国民のためになる。
具体的には、人員・予算を拡充し、省庁ごとの縦割り統計組織から統計庁のような横断的組織に変えるべきだ。
後者の第三者委員会については、統計法違反の案件に留意すべきだ。「第三者」とは告発した先の捜査当局である。まずこれが筋であって、もし告発しないなら、可能な限り捜査当局のような姿に近づけないと第三者とはいえない。
厚労省が、第三者委員会とするのは毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会。その委員長は厚労省所管の労働政策研究・研修機構理事長の樋口美雄氏だ。
同機構は独立行政法人であるが、そのトップは厚労相が任命する(独立行政法人通則法第20条)ので、厚労省からみれば、いわば子会社であり、身内感覚だろう。これでは第三者とはいえない。
監察委員会委員の職員への聴取において、厚労省官房長が職員に質問していたことが発覚した。厚労省が主導で職員への聴取を行う場に、委員が同席させてもらったのが実態だろう。
こうした事後処理の稚拙さは、今の厚労省幹部に責任があることは間違いない。統計に不案内な厚労省幹部が国会答弁をうまくできないので、答弁しないで済むように早期決着を目論んだといわれても仕方なく、非常識にもほどがある。
一刻も早く、国会での独立委員会を含めキチンとした第三者委員会を立ち上げ、国民が納得するような調査を行い、統計に対する国民の信頼を回復しなければいけない。 
●統計不正の背景にある"デジタル軽視"の罪 2/5
「毎勤はわが国の宝」と指摘される重要統計
わが国の経済統計の中で屈指の重要性を持つ、毎月勤労統計調査を厚生労働省がこれまで不適切に実施してきたことが発覚した。厚労省は長い間、その実態を組織的かつ長期的に放置してきた。それは、統計制度への不信感を高めるだけでなく、過去の景気判断への疑義を生じさせるとても深刻な問題だ。
世界的に見ても、毎月勤労統計調査ほど詳細に全国および都道府県レベルで給与、労働時間、雇用者数などの推移を示す統計データは珍しい。常用労働者を5人以上雇用する事業所に関しては、厚生労働省が抽出して調査を行ってきた。また、500人以上規模の事業所に関しては、抽出調査ではなく全数調査(対象すべてを調査する)することとされてきた。
この特徴ゆえに、多くの経済の専門家が毎月勤労統計調査を重視してきた。「毎勤はわが国の宝」と指摘する経済の専門家もいるほどだ。
背景には、官僚組織において“ガバナンス”が機能してこなかったことがある。この問題は、可及的速やかに是正されなければならない。政府は統計調査の運営方法を見直し、ガバナンスが機能する組織体制を整備すべきだ。それは、政府への信用を左右するだろう。
2013年に認識するも、厚労省は復元せずに放置
厚生労働省が毎月勤労統計調査(毎勤)の不適切な実施を続けてきた原因は、ガバナンスの欠如にある。以前から、毎勤に収録されている現金給与総額などに関して、「過大に推計されているのではないか」「どうもおかしい」と考えるエコノミストはいた。
今回明らかになった不適切な統計調査は次の通りだ。まず、2004年から東京都の500人以上規模の事業所の調査が全数調査ではなく、抽出調査に切り替えられていた。東京都にある500人以上規模の事業所数は約1500だ。本来であれば、1500件の事業所すべてに調査を実施しなければならない。しかし、実際には500件程度しか調査されてこなかった。東京都には大企業の拠点が多く、賃金水準は高い。抽出調査が実施されたことによって、一定期間、給与水準が実態よりも低く報告されてきたと考えられる。
2013年ごろ、厚労省幹部はデータの復元(抽出調査を全数調査に近づける統計処理)が行われていないことを認識したとみられる。しかし、厚労省は復元せず、放置した。復元されたデータは2018年以降のものだ。
厚労省は組織ぐるみで隠蔽してきた
このため、昨年に入ってから「毎勤のデータはおかしいのではないか」との疑義が呈されてきたのである。結果的に、専門家の指摘の通り、統計がおかしかった。
企業では考えられないずさんな業務実態だ。企業の場合、業務が内規や法令を遵守しているか、内部監査による客観的な検査が行われる。それでも、自動車メーカーの不適切検査などが明るみに出る。それを受けて、内部統制の実施体制をはじめ、企業統治=コーポレート・ガバナンスの強化に取り組む企業は増えている。
これに対して、厚労省は不適切な統計調査業務の実態を、組織ぐるみで隠蔽してきたといわれても仕方ないだろう。長期間にわたって不適切な統計が放置され、データが専門家などに使われてきたことを考えると、同省はガバナンスの意義を理解してこなかった。
政府の景気判断にも疑義を生じている
統計データは、経済の状況を映す鏡だ。統計調査が適切に実施されたか否かは、景気判断の信頼性や政策の正当性にかかわる。統計の信頼性が揺らぐことは、景気判断そのものに疑義を生じさせる。明確な根拠なしに統計調査の手法を変更することはあり得ない。
調査段階におけるミスや不適切な処理が発覚した際には、統計データを修正しなければならない。過去のデータも適切に管理し、必要に応じて利用できるようにすることが欠かせない。しかし、厚労省は2004年から11年までの毎勤の基礎資料を廃棄・紛失している。政府は毎勤データの補正を行うとしているが、事実上データ補正は困難だ。
毎勤のデータは、内閣府が作成する国民経済計算の基礎統計に使われている。すでに内閣府は毎勤が再集計されたことを受けて平成29年度の国民経済計算年次推計(フロー編)を再推計した。内閣府が公表した資料を見ると、雇用者報酬、家計貯蓄率が上方修正された。
“賃金構造基本統計”でも不適切な調査を放置
国民経済計算は、経済の全体像を把握し、国際的な比較を行うことを目指している。基礎データの不適切な集計によって国民経済計算が再推計されたという事実は、雇用・所得環境の把握が難しくなったことと言い換えられる。
また、国民経済計算は、わが国の経済の実力を見極め、必要な政策を進めるための基礎材料だ。それが改定されたということは、経済に関する政府の判断(景気判断)が正しかったかという疑義を生じさせる。それは、政策の立案と運営に関する政府の判断が正当であったかという不信感を高める問題といっても過言ではない。
厚労省は、毎勤だけでなく“賃金構造基本統計”に関しても不適切な調査を放置してきた。総務省が所管する小売物価統計調査においても、大阪府で店舗訪問が行われず、過去の価格が報告され続けるという不適切な業務実態が明らかになった。こうした実態の発覚には、言葉を失う。公的な統計制度そのものに対する不信感が高まっている。
民間企業のノウハウを積極的に活用すべき
わが国の統計制度は、危機的状況に直面していると考えるべきだ。過去から現在まで、すべての統計調査が適切に行われていたか、政府は迅速に調査を進めなければならない。その上で、統計の信頼回復に取り組む必要がある。
政府は、この問題に真剣に取り組まなければならない。特に、経済分析のうえで欠かせない毎勤が不適切な調査に基づいていたことは、外国人投資家や各国政府の政策担当者にかなりのショックを与えた。
政府に求められるのは、ガバナンスの確立だ。統計をはじめ、政府の業務が適切に行われているかをモニターし、より良い成果を目指すためにガバナンスが働くようにしなければならない。
そのためには、統計制度の運用に関する政府の認識を、根本的に改める必要がある。まず、民間企業のノウハウを積極的に活用すべきだ。政府内の限られた統計担当者を中心に問題の解決にあたることが信頼回復につながるとは考えづらい。外部の視点から、客観的にこれまでの統計調査が適切かつ効率的に行われていたかを確認する必要がある。民間シンクタンクに統計調査を委託することも積極的に検討すべきだ。
当たり前の「デジタル化」を政府は遠ざけてきた
デジタル技術の活用も重要だろう。小売物価統計調査のように企業などへの訪問が必要な統計調査は多い。アンケート調査を行うウェブサイトを構築すれば、調査側にも回答する者にとっても負担は軽減できる。
紙ベースでアンケート調査などを行うことに比べ、データの保管や不正の発見も容易になる。デジタル化は統計データの利便性向上にもつながる。そうした当たり前のことを、政府は取り入れてこなかった。
不適切な統計調査の発覚を受けて、安倍政権は景気判断を変えないとの見解を示している。一方、ガバナンスをどう機能させるかについては、具体的なプランが示されていない。政府が、今回の問題の深刻さをどの程度理解しているのか、気がかりだ。
統計不正の問題は、政府の信用を左右する。政府は統計制度に関するガバナンスを確立し、これまでの景気判断と政策運営が正当であったか否かを明らかにする必要がある。 
 2/6

 

●首相 賃金統計の不正は総務省で原因調査 参院予算委
安倍総理大臣は、参議院予算委員会で、厚生労働省の統計不正問題に関連し、労働者の賃金の実態を調べる「賃金構造基本統計調査」については、今後、総務省の行政評価局で、不適切な取り扱いが行われてきた経緯や原因の調査を進め、再発防止に万全を期す考えを示しました。
この中で立憲民主党の石橋通宏氏は、厚生労働省の統計不正問題について「統計法に基づく厳正な処罰も含めて、再発防止のために総理大臣として具体的にどのような考えで指示を出しているのか」と質問しました。
これに対し安倍総理大臣は「『毎月勤労統計調査』の事案については、厚生労働省の特別監察委員会でさらにより独立性を強めた形で検証作業を進め、その結果も踏まえて今後しっかりと適切に対処していく」と述べました。
そのうえで安倍総理大臣は「新たに問題が指摘された『賃金構造基本統計調査』については、統計値の問題というよりは、むしろ行政のやり方に大きな問題があったことから、総務省行政評価局に調査を担当させることとし、不適切な取り扱いが行われてきた経緯や原因などをよく調べさせたうえで、再発防止に万全を期していきたい」と述べました。
また根本厚生労働大臣は、特別監察委員会が先月22日に公表した調査結果について、東京都などへの十分なヒアリングが行われておらず撤回すべきだと問われたのに対し「当時の担当者や現在の部長、課長級らにヒアリングしたうえで、事実と思われる供述を客観的に書いており、これはこれで明らかにされている」と述べ、撤回しない考えを示しました。
自民党の長谷川岳氏は、ロシアとの北方領土問題を含む平和条約交渉をめぐって「日本の本気度をしっかりと示していくことが平和条約締結の前提になる。安倍総理大臣とプーチン大統領の間でさまざまな課題を解決したうえで日ロ平和条約へと結び付けてほしい」と質問しました。
これに対し安倍総理大臣は「6月のG20大阪サミットにプーチン大統領を招き、併せて首脳会談を行う。日本国民とロシア国民がお互いの信頼関係、友人としての関係をさらに増進し、根室、北海道と、ロシア、四島の皆さんとの交流や相互理解が進んでいくことが極めて重要だと思っており、平和条約交渉をできるかぎり前進させていく決意だ」と述べました。
また安倍総理大臣は、憲法改正について「憲法審査会でわが党の議員と議論を交わしてもらえれば国民の理解も進む。憲法審査会の場で議論をしたら、国民から『国会もすばらしいな』と思われるのではないか」と述べました。
このほか安倍総理大臣は、IWC=国際捕鯨委員会から脱退し、ことし7月から再開する商業捕鯨について「クジラの利用については、他の水産資源と同様に、科学的根拠に基づき、持続的に行っていくべきだ。これを機に学校給食での提供や外食産業での新メニューの開発など、若い方々もターゲットにした需要拡大に積極的に取り組んでいく」と述べました。
立憲民主党の辻元国会対策委員長は、会派の会合で、「厚生労働省が、お手盛りの調査で、『名ばかり第三者委員会』を作り、幕引きをしようとした事実が次々と明るみになってきており『組織ぐるみだったのではないか』という疑いが、さらに濃厚になってきた。徹底的にうみを出し切ることが大事だ」と述べました。
国民民主党の玉木代表は、記者会見で「『毎月勤労統計調査』は基幹統計であり、不正な調査をした場合は刑事罰が科せられるような重い統計だということを安倍総理大臣は十分に理解しておらず、あらゆるものに影響があるという認識が全くない。まともに答えず、都合のいい数字だけをもって、延々としゃべることを改めないと、統計不正の問題は直らない」と述べました。
公明党の石田政務調査会長は、記者会見で、厚生労働省の一連の対応について、「どこかちぐはぐな感じがする。組織の中で連携が取れておらず、それぞれ個人の考え方で動いているような気もする。『悪いことは、すぐに上司に報告や連絡をする』といった、当たり前のことが、ちょっと欠けているのではないか」と苦言を呈しました。 
●統計不正 大臣報告の1週間後に関係者への聞き取り開始 厚労省 2/6
6日の参議院予算委員会で、厚生労働省は、統計不正問題を根本厚生労働大臣に報告した1週間後となる去年12月27日に、官房長をトップとする省内の「監察チーム」の職員だけで関係者への聞き取りを始めたことを明らかにしました。
6日の参議院予算委員会では、厚生労働省の統計不正問題が、去年12月に発覚してから、安倍総理大臣らに報告されるまでのいきさつなどについても、質疑が行われました。
それによりますと、根本厚生労働大臣が報告を受けたのは問題発覚から1週間後となる去年12月20日でしたが、その際の報告は、本来、全数調査を行うべきところを抽出で行っていたこと、統計上の処理をして復元しないまま集計していたことの2点だったということです。
一方、翌21日に閣議決定された新年度予算案への影響を考慮しなかったのかと問われ、大西氏の後任の藤澤政策統括官は「給付に影響があるかどうか把握していなかったのだろう」と述べ、その時点では雇用保険などの給付にまで影響が及ぶかどうか認識はなかったという考えを示しました。
そして、藤澤統括官は、根本大臣に報告した1週間後の27日に、問題の概要を把握するためだとして官房長をトップとする省内の「監察チーム」の職員だけで、関係者への聞き取りを始めたことを明らかにしました。
この聞き取り調査について、根本大臣は、年明けになってから報告を受けたということです。
また質疑では、安倍総理大臣が、その後に発足した特別監察委員会による調査報告書を読んだかと問われ、「そのものは読んでいない。概要について秘書官から報告を受けている。森羅万象すべてを担当しており、すべて精読する時間はとてもない」と述べました。 
●統計不正 東京都「調査方法変更を国に要望は確認できず」 2/6
厚生労働省の統計不正問題で、毎月勤労統計調査が不適切な手法に変更されたいきさつを調べていた東京都は、「都が調査方法の変更を国に要望した事実は確認できなかった」などとする当時の職員への聞き取り調査の中間まとめを公表しました。
厚生労働省の統計不正問題のうち、毎月勤労統計調査では大規模な事業所のすべてを調査対象とすべきなのに都内では平成16年以降、3分の1の事業所しか、調べていませんでした。
厚生労働省から委託を受けて実務を行ってきた東京都は、今回のいきさつについて当時の担当職員、延べ35人に聞き取り調査を行い、その中間まとめを公表しました。
それによりますと、調査対象が平成16年1月に変更されたことについては当時の複数の職員が覚えていたことなどから、「組織として調査方法の変更を認識していた」としました。
しかし、厚生労働省から配布された統計調査のマニュアルに変更が記載されていたことなどから、「適正な手続きを行った変更だと認識していたと推認される」としました。
また、「都が今回の調査方法の変更を国に要望した事実は確認できなかった」としたうえで、「さまざまな機会で統計調査の事務負担の軽減を求めているものの、違法や不適切な取り扱いを国に求めることはありえない」として改めて都の対応に問題はなかったとしました。
都は、引き続き連絡がとれていない元職員への聞き取り調査を行って最終報告をまとめることにしています。 
●与党「やむを得ない」 野党 審議拒否の構え 2/7
毎月勤労統計の不適切調査問題で、国会への参考人出席を巡る与野党の駆け引きが続いている。野党は、厚生労働省の大西康之・前政策統括官ら3人の出席を求め、2019年度予算案審議拒否も辞さない構えだ。与党内では出席容認論も出てきている。
立憲民主党の辻元清美国会対策委員長は6日、野党5党1会派の国対委員長会談後、「招致できない限り、今後の国会審議に臨むのは難しいと確認した」と記者団に強調した。
野党が出席を求めているのは、同省統計部門の責任者だった大西氏、問題検証にあたる同省の特別監察委員会の樋口美雄委員長、最初に問題を指摘した総務省の統計委員会の西村清彦委員長。特に大西氏出席を予算案審議入りの必須条件に掲げる。総務省から指摘を受け、根本厚労相に報告した「キーパーソン」(辻元氏)とみているからだ。
ただ、大西氏は今月1日、賃金構造基本統計の不適切な調査を総務省に報告しなかった問題で更迭されており、与党は「今の責任者が答弁すべきだ」(自民党の森山裕国対委員長)として出席を拒否している。樋口氏については、兼務する独立行政法人の理事長として出席に応じたが、4日の衆院予算委員会では、監察委に関する質問に「(独立行政法人の)理事長として呼ばれている」として答えなかった。西村氏は米国出張中を理由に応じておらず、野党は「証人隠しだ」と攻勢を強めている。
与党は19年度予算案について、8日の衆院予算委での実質審議入りを目指しているが、不適切調査問題への世論の厳しい反応もあり、「大西氏らの出席はやむを得ない」(自民党国対幹部)との考えも広がりつつある。 
 2/8

 

●大西前統括官、不正調査を昨年12月に次官に報告
厚生労働省の大西康之・前政策統括官が8日の衆院予算委員会に参考人として出席した。同省の「毎月勤労統計」の不正調査について、大西氏は昨年12月18日に担当部局の参事官が、厚労審議官、官房長、総括審議官に報告。19日には大西氏が事務次官、厚労審議官、官房長に報告したことを明らかにした。
立憲民主党の川内博史氏の質問に答えた。大西氏は同省の「賃金構造基本統計」の不正調査の報告漏れを理由に更迭され、1日付で大臣官房付。同氏の参考人招致については、7日に与野党が合意していた。
大西氏、知ったのは「12月13日だった」
厚生労働省の大西康之・前政策統括官は8日の衆院予算委員会で、同省の「毎月勤労統計」の不正調査を知ったのは「(昨年)12月13日だった」と述べた。
特別監察委員長「答弁は差し控えたい」
厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正調査を検証する特別監察委員会の樋口美雄委員長は、8日の衆院予算委員会で「(委員会へは)労働政策研究・研修機構理事長として呼ばれていると認識している。答弁は差し控えたい」と述べた。
立憲民主党会派の大串博志氏の質問に対する発言。
官房長「私に聞いて」 立憲批判「のり超えている」
8日の衆院予算委員会で、厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正調査を検証する特別監察委員会の樋口美雄委員長について、同省の定塚由美子官房長は「労働政策研究・研修機構理事長として(委員会に)呼ばれている。監察委員会については私に聞いて下さい」と述べた。
これに対し、立憲民主党会派の大串博志氏は「私に聞けというのはおかしい。なぜ官僚に言われないといけないのか。のりを超えている」と問題視。定塚氏はすぐに「大変失礼しました。申し訳ありません」と陳謝した。
根本厚労相「政策統括官担うのは適当ではない」
根本匠厚生労働相は8日の衆院予算委員会で、同省の大西康之・前政策統括官を1日付で大臣官房付に更迭した理由について、「12月20日に(毎月勤労統計の不正調査の)報告を受けた後、厚労省職員は大変だった。原因究明や再発防止を年末までやっていた。その中で総務省の一斉点検があったが、信頼回復に努めている最中に(賃金構造基本統計の不正調査の)報告漏れがあったので、政策統括官という立場を担うのは適当ではないと判断した」と述べた。
立憲民主党の逢坂誠二氏の質問に答えた。
自民、大西氏の出席求めず
衆院予算委員会は8日、新年度予算案の基本的質疑に入った。厚生労働省の統計部門を束ねていた同省の大西康之・前政策統括官(1日付で大臣官房付)を参考人として招致し、午後に野党が質問する。大西氏について、午前に質問した自民党は参考人としての出席を要求しなかった。午後の公明党も求めていない。
参考人と政府参考人 / 衆参両院の各委員会は議決すれば、対象者を「政府参考人」や「参考人」として国会に招致することができる。衆参両院の規則で、「政府参考人」は「技術的、専門的な説明が必要」と定められている。主に公務員が対象で、慣例として局長級が呼ばれることが多い。一方、「参考人」の肩書は定められていない。どちらも証人喚問とは異なり、出席は任意。虚偽証言をしても偽証罪には問われない。 
●統計不正の「重要人物」大西氏とは? 2/8
厚生労働省の大西康之(おおにし・やすゆき)・前政策統括官は、一連の統計不正発覚の端緒となった「毎月勤労統計」で不正な抽出調査が行われた原因を調べる責任者であり、「賃金構造基本統計」では計画と異なる郵送調査をしていたことを知りながら根本匠厚労相に報告しなかった職員でもある。衆参厚労委員会が1月24日に行った閉会中審査では答弁していたが、今月1日付で更迭され、大臣官房付に異動となった。
野党は「毎月勤労統計」「賃金構造基本統計」の問題解明の重要人物とみて国会招致を求めていた。与党は当初拒否していたが、8日の衆院予算委員会に招致することで合意した。
大西氏は、1960年10月生まれの58歳。東大法学部卒業後、84年に旧労働省に入省。内閣法制局参事官、厚労省労働基準局監督課長、職業安定局総務課長などを経て、2018年7月に政策統括官(統計・情報政策、政策評価担当)。19年2月1日付で大臣官房付となった。 
●不正統計の真相究明はできた?キーマンが国会に出席 2/8
厚生労働省の不正統計問題を巡るキーマンが国会に参考人として出席した。不正統計の真相は明らかになったのか。
不正統計問題のキーマンとされている厚労省の前政策統括官・大西康之氏が参考人として国会に出席。
立憲民主党・川内博史議員:「監察委員会の報告書では平成30年の1月まで大西前政策統括官は違法な毎月勤労統計における取り扱いが行われていたということを知らなかったということになっているが、大西さん本当ですか?」
厚労省・大西前政策統括官:「今、委員から30年1月とありましたが…」
立憲民主党・川内博史議員:「あっ、31年1月。ごめん」
厚労省・大西前政策統括官:「報告書にも書かれているが、30年12月13日に初めて知ったところです」
立憲民主党・川内博史議員:「12月20日、大臣説明会合が行われていて、大臣への説明は審議官、大西前政策統括官から説明を聞いたと、その時に陪席をしていた厚労省幹部を教えて頂けますか?」
厚労省・大西前政策統括官:「厚生労働審議官と私の2名です」
その後、どのように報告したかなど問題発覚後の対応への説明を求めるのかと思いきや、質問はともに参考人として出席していた樋口氏へ。
無所属(立憲民主党会派)・大串博志議員:「追加調査がどのようなものかご説明下さい」
独立行政法人労働政策研究、研修機構・樋口美雄理事長:「本日は私は独立行政法人労働政策研究・研修機構の理事長として招致。このため、ただいまの質問については答弁を差し控えさせて頂きたいと… 
●大西康之元政策統括官、上司報告は5日後 2/8
衆院予算委員会は8日、安倍晋三首相と全閣僚が出席して平成31年度予算案の基本的質疑を始めた。更迭された厚生労働省の大西康之元政策統括官が参考人として出席し、同省の「毎月勤労統計」の不適切調査について「昨年12月13日に初めて知った」と説明した。
大西氏は同委で、厚労審議官や官房長など上司へ問題を報告したのは、5日後の同月18日に部下を通じて行ったと明らかにした。大西氏は厚労省の統計部門の責任者だった。
また、厚労省で一連の問題を再調査している特別監察委員会の樋口美雄委員長は、調査内容について「今後の検討に影響を及ぼす危険がある」と答弁を避けた。同時に「厚労省に手心を加えるつもりは一切ない」とも述べた。
根本匠厚労相は厚労省の対応について「不適切な取り扱いを漫然と踏襲し、上司への報告を怠り、適切に判断しない」と問題点を指摘した。「省全体が国民の目線を忘れず、寄り添った行政ができる体制を構築しなければならない。信頼回復に努めることが私の責任だ」とも述べた。
安倍晋三首相は、北方領土問題を含むロシアとの平和条約締結交渉をめぐり、四島返還を求める従来の立場が後退したとの指摘に対し「批判を甘受しても、交渉を進める努力を重ねたい」と述べた。「いかに静かな交渉ができるかにかかっている」とも語った。
与党は、31年度予算案を今月中に衆院通過させ、3月末までの成立を目指す。 
●大西氏「上司に5日後報告」 統計不正で元統括官証言 2/9
毎月勤労統計の不正を巡る問題発覚当時、厚生労働省で統計担当の責任者だった大西康之元政策統括官(現大臣官房付)が8日、衆院予算委員会に参考人として出席した。大西氏は統計不正を「昨年12月13日に初めて知った」と説明、上司への報告は5日後の同月18日だったことを明らかにした。厚労省内部の対応の遅れがあらためて示された。
立憲民主党の川内博史氏への答弁。川内氏は、上司への報告が問題把握から五日後になった理由について質問せず、大西氏も自ら説明しなかった。
大西氏は、12月18日に、部下の参事官を通じて宮川晃厚労審議官や定塚(じょうづか)由美子官房長らに不正を報告、翌19日に大西氏自身が鈴木俊彦次官らに、20日に根本匠厚労相に伝えたと経緯を話した。
定塚氏は特別監察委員会の調査報告書の原案について「人事課職員がたたき台のようなものを事務的に作成した」と明らかにした。監察委による聞き取り調査に、定塚氏自身が同席したことを巡っては「先輩の職員に対して、正しいことを話してもらわなければいけないと思った。反省している」と語った。
監察委の樋口美雄委員長も参考人として出席。現在行っている再調査について「厚労省に手心を加えるつもりは一切ない」と強調。再調査の内容は「今後の検討に影響を及ぼす危険がある」と言及を避けた。立民会派の大串博志氏への答弁。
参考人招致された大西康之氏は、不正発覚時に統計分野で政策統括官をしており、実態解明の鍵を握る人物と目されていた。しかし、招致を求めていた野党から大西氏への質問は、二人の議員が計7回行っただけ。大西氏も答弁で厚労省の初動対応や、組織的な隠蔽の有無について目立った新事実を明らかにせず、国民の疑問に答える審議にはならなかった。
この日の審議は計七時間で、自民党が約3時間10分、公明党が約1時間、立憲民主党が約2時間50分だった。本紙集計では大西氏の答弁時間の合計は約2分40秒にすぎなかった。
審議では、昨年12月18日から順次厚労省幹部が不正を把握していく経緯が新たに分かったが、なぜ歴代幹部が不正を知りながら放置していたのかや、どうして不正な調査を始めたかについては、質問もなかった。
追及の甘さは否めず、与党議員からは委員会終了後に「野党は何のために大西氏を呼んだのか」との声も出た。立民に先立って質問に立った与党議員は、大西氏の出席を求めなかった。 
 

 

 
 
 

 



2019/2
 
 
 
 

 

●仏の掌 (手のひら)
西遊記の孫悟空の話の中で、孫悟空が、ある仙人と対決をする話がある。
その仙人は、力を誇って威張っている孫悟空に対して自分の手のひらを差し出して、「ではこの手のひらを飛び越えてみてごらん」という。
孫悟空は、この仙人は頭がイカれてると思ったが、自分の力を見せつけてやろうと、空飛ぶキント雲に飛び乗り、一直線に世界の果てを目指す。
世界の果ては遠く、さすがの悟空も疲れるが、やがてその果てに大きな岩山が5つ見えてくる。
悟空は満足して、その山の頂上に、「我ここに到達する」と書き残して、仙人のもとに戻ってくる。
「どうだ、俺は世界の果てまで行って、証拠まで残してきたぞ!」
彼が豪語すると、仙人は、「何を言うかバカ者。お前はわしの手のひらの周りをくるくる回っとっただけじゃ」と叱る。
悟空は怒って、「証拠がある!」と叫ぶと、仙人は、「このことか?」と自分の中指に書かれた文字を見せる。そこには、孫悟空が書いた「我ここに到達する」という書が、書かれていた。
この仙人は実は仏様なのですが、上には上がいる、日頃ごちゃごちゃやっていることも、誰かの手のひらの上でくるくる踊っているだけだとしたら、つまらないことにかまけていてはいけないと、思うわけです。  

 

●「西遊記」 釈迦の手のひら
西王母の宴には「観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)(=観音)」も招待されていた。 観世音菩薩が来て見ると、蟠桃会は悟空のおかげで、滅茶苦茶になっていた。 玉帝は悟空を征伐するために、非常に苦労していることを観音に話した。 観音は「二郎真君(じろうしんくん)」に征伐してもらうほか無いと玉帝に話した。 二郎真君はこれまでに多くの魔王を退治した強い勇士だ。 二郎真君は6人の弟達を引き連れて、悟空の居場所である花果山水簾洞に殴り込んだ。
「おい、石ザル野郎。出て来い来やがれ!」
「しゃらくせぇ。泣きっ面を見られたくなかったら、さっさと消えうせろ!」
二郎真君は悟空が言った言葉に怒り狂い、身丈を大きくして、悟空に刃を振りかざした。悟空も負けじと身丈を大きくして、反撃に出た。 二郎真君の弟達は隙を見て、悟空の兵士達を攻め始めた。それを知った悟空は、とてもかなわないと思うと、水簾洞に逃げ込もうとした。 しかし、入口は二郎真君の弟達がすでに包囲しており、悟空は行き場を失った。 悟空はとっさに、「雀」に変身して藪の中に隠れようとした。空かさず、二郎真君は「鷹」になり悟空を追いかけた。 悟空が「鷲」になると二郎真君は「鷹」になり、悟空が「魚」になると二郎真君は「鵜(う)」になり...と戦いつづける。 しかし、なかなか決着がつかない。天界から見ている神の一人である「太上老君(たいじょうろうくん)」が「らち」があかないと見切ると、ひとつの「金剛輪(こんごうわ)」を投げ放った。 それは、キラキラと落ちていき、悟空の頭にすっぽりと、はまってしまった。悟空はやがて気を失い、縛り上げられ天界の処刑場へ連れて行かれた。
捕らわれた悟空を処刑しようと刀で首を打とうとするが、打てない。悟空は、すでに不死身の体になっているので、打つ手が無くなっていた。 困り果てた玉帝は、太上老君と相談し「八卦炉(はっけろ)」に入れて溶かしてしまおうと考えた。 炉の中に入れられた悟空は49日間、火を焚き続けられた。49日が経ち、そろそろ溶けてしまっただろうと炉の口を開けると、中から悟空が飛び出してきた。 発狂した悟空は誰にも止められることが出来なかった。玉帝はすべての手を尽くしてしまい、どうしようも出来なくなってしまった。 玉帝は、「釈迦(しゃか)」に相談した。釈迦はすぐさま悟空の所へ出向いた。
「悟空といいましたね。私が話を聞きましょう。」
「何だお前は。どこの坊主だ?」
「そんなことより、あなたはどのような生い立ちをしたのですか?」
悟空は生まれてから今までの生い立ちを話すと、釈迦は高笑いをしながらこう言った。
「玉帝は1億年以上も修行をして、今の地位を築き上げられたお方です。お前のようなサルから成り上がった者には、到底相手になりません。」
「俺様は、72変化(へんげ)の術をすべて会得した。その他に筋斗雲もある。乗れば一瞬にして10万8000里飛べる。怖いものはない。恐れいったか。」
「ならば、悟空。ここでひとつ賭けをしないか?」
「何だ?」
「私の右の手のひらからあなたが飛び出すことができれば、私が玉帝に天界を譲り渡すよう、話をつけましょう。どうですか?」
「そんな、簡単なのか?俺をバカにするな!一尺足らずの手のひらなんて朝飯前よ。それっ。」
悟空は筋斗雲に飛び乗り、世界の端を目指した。しばらくすると、雲の間に5本の柱が立っていた。近くに寄ってみると...。
「ははぁ。これが世界の行き止まりだな。来た証拠に名前でも書いていくか。」
悟空は、自分の毛を1本抜いて筆に変えると、真中の柱に「斉天大聖」と記して、ついでに「オシッコ」までもひっかけていった。
「これで、よし。」
「悟空よ、いい加減にしなさい。」
「なんだよ。俺様は今、世界の端まで行って来たんだ。しかも、そこにあった柱に、斉天大聖って書いてきたんだぜ。疑うなら、いっしょに見に行こう。」
「いくまでもありません。」
「何でだ。」
「私の手のひらを、よくご覧なさい。」
「・・・・・。これって、どういうこと?」
悟空は目を凝らしてよく見てみると、釈迦の手に中指には「斉天大聖」と書いてあり、しかも中指の根元には先ほど悟空がオシッコした後があり、まだ乾かず湯気が立っていた。 悔しい悟空はもう一度行こうと、筋斗雲に乗り込もうとする。しかし、それを見ていた釈迦は怒り、自分の5本の指を「五行山(ごぎょうざん)」という山脈に変え、悟空を山の下敷きにして閉じこめてしまった。 悟空はもがき出ようとするが、釈迦が山の頂にお札を貼ると、完全に動けなくなってしまった。そして、番人を呼びつけ、悟空の腹が減れば「鉄の玉」を食わせ、のどが渇けば「熔けた銅」を飲ませた。
こうして、悟空はここで、長い年月を暮らさなくてはならなくなった。  

 

●孫悟空が釈迦如来に勝てなかったワケ
孫悟空と釈迦如来の対決は、「西遊記」序章部のハイライトとも言えるエピソードである。天界の大軍勢ですらモノともしなかった孫悟空をあっさりと調伏した如来の偉大さは、この作品において、いかに如来が最強の存在であるかを物語っているのだ。
しかし、実際のところ、釈迦が唱えた仏教とは、そこまで凄い超人パワーを身につけさせてくれる教え(宗教)だったのであろうか。仏教が目指す最終目的とは、解脱である。これは、この世の煩悩から解き放たれ、無の境地に達する事で、真の幸福状態を得ようと言うもので、別に万能神になる訳でも、超能力が手に入ると言う事でもないのだ。ゆえに、仏教を極めたところで、本当ならば、暴力を振るう孫悟空を叩き伏せる事はできないはずなのである。
しかし、それでは物語が成立しない。そこで、仏教の教えを少し拡大解釈して、こんな風に考えてみる事にしよう。
言わば、現世(物質世界)とは全て煩悩で出来上がっているのだ。天界の神様や偉大な仙人たちさえも例外ではない。地上に伝わる(仏教以外の)あらゆる宗教も、煩悩の一部なのである。当然ながら、宇宙で自分が一番強いと思っていた孫悟空も、煩悩以外の何物でもない。
これらの煩悩全てを克服した場所に、解脱者の如来は存在している。たとえるならば、煩悩で出来た現実世界とは作られたパノラマのようなものであり、如来はその外に立つパノラマ制作者みたいなものなのだ。そもそも、存在そのものの次元が違ったのである。
このような前提で考えれば、世界一早い觔斗雲でも如来の手のひらから飛び出す事ができなかった仕掛けが、何となく頷けてくるだろう。如来は、世界の中にいたのではなく、世界そのものを包み込んだ存在だったのだ。宇宙の果てにも如来の手があったのは当たり前なのであり、怖いもの知らずの悟空はとんでもない相手と戦ってしまった訳である。
このように、「西遊記」の物語においては、如来は西洋宗教の唯一絶対神のような描かれ方をしているのだが、それ以上に、仏教そのものが「西遊記」の中では多神教のたぐいのような扱われ方をしているのだった。
仏教は仏教なりに、釈迦如来を中心とした組織図(曼荼羅)を組み立てていた次第だが、もちろん、これは仏教が多神だったと言う事ではなく、仏の概念を分かりやすくする為の一種の喩えなのである。しかし、道教などの多神教と同格に扱う事で、「西遊記」内の仏教はすっかり仏教派閥みたいなものになってしまったようだ。でも、一般人にしてみれば、宗教は多神教スタイルの方が分かりやすくて、親しみやすく、あくまで大衆向け娯楽小説だった「西遊記」としても、仏教を多神教風に見立てた方が描きやすかった訳である。ただし、その結果として、「西遊記」内の仏教関係者たちは、どこか超越した解脱者とは思えないようなキャラにと化けてゆく事になるのだ。
「西遊記」が執筆された頃の中国では、まだまだ道教が人気のある宗教であり、「西遊記」の中にも、相当数の道教の概念が用いられていた。天界を構成する神々からして道教神が主体だし、そもそも仙人なるものも道教から生まれてきた人種なのだ。そう言う意味では、妖仙である孫悟空は、本来は道教サイドの人材だったのである。
道教の特徴は、現世における不老長寿も目的としていた(この部分が仙人へとつながってゆく)点で、現世からの解脱を目指していた仏教とは本当なら相容れない宗教のはずなのだが、「西遊記」では、この二つの宗教の指導者たちをすっかり仲良しにしてしまった。上述したように、仏教は道教をも覆う存在なのだから、如来たち仏門メンバーは煩悩(現実世界)の中でも良い部分と見なして、天界や道教神たちともお付き合いしていたという事なのかもしれないが、道教と仏教が同水準で扱われている事によって、「西遊記」内の仏教関係者や説話は、今日の仏教とは異なる描かれ方がしているものも多いのである。
「西遊記」序盤でまず登場する仏教関係者が、須菩提祖師だ。この人物は、作中では、孫悟空に觔斗雲や変化の術などを伝授した、隠れた実力者であり、つまりは、仙人と言う設定なのだが、しかし、仏教の伝承では釈迦の十大弟子の一人とされているのだった。当然ながら、仏教徒なので、仙人でもなければ、仙術も使えるはずがない。だが、「西遊記」では、そのような人物(の名前)を何の配慮もなく、孫悟空の師匠にとあてがってしまっているのである。恐らく、「西遊記」が書かれた当時は、仏教の公式マニフェストもまだ整理しきれていなかったのかもしれない。「西遊記」の本編内では、このあとも、当時の仏教説話内では混沌としていたらしき人物やら寓意などが、こんな感じで次々に飛び出す事になるのだ。
「西遊記」の本来の主役たる三蔵法師は、その前世が如来の第二弟子、金蟬子だったと言う設定になっており、その事が彼が天竺までお経を取りに行かざるを得なくなった理由と深く関係しているのだが、物語のこんな要の部分ですら、実は仏教の正統な伝承とは一致していないのだった。と言うのも、現在伝えられている釈迦の十大弟子の中に、金蟬子なる人物は含まれていないからである。それ以前に、金蟬子と言う名前自体が、仏教の歴史の中には見当たらないのだった。金蟬子は金禅子と書くのが正解で、十大弟子の誰かのあだ名ではないかと言う説もあるようだが、やはり十分な根拠のない推論だ。そもそも、「西遊記」の中で語られている玄奘(三蔵法師)の生い立ちからして、実在した玄奘のそれとは似ても似つかぬデタラメなのだった。
「西遊記」の作者が、仏教の生半可な知識しか持っていなかったから、こんなウソを書き並べたのだろうかとも思えそうなところだが、しかし、そうでもないようである。「西遊記」では、大雷音寺に鎮座している如来の一番の側近(弟子)の名前が阿難と迦葉になっているからだ。この二人は、間違いなく、釈迦の十大弟子たちであり、特に重要な位置づけにあった人物なのである。「西遊記」を書いた人物は、仏教をよく知らなかったどころか、本当はそうとう博識だったのではないかと考えられ、事実を承知の上で、「西遊記」の中に巧みに虚偽の内容も混ぜていたようなのだ。
もちろん、金蟬子なる仏教徒の名前が、「西遊記」執筆時代にはまだ知られていても、今日までには記録が残り損ねた可能性も否定はしきれない。ここで色々な憶測を並べ立てたりするのは止めておくが、「西遊記」で語られる眉唾ものの仏教説話の数々はどれもこんな感じで、原典を知っていながら、わざとホラをふいている(小説らしく言えば、脚色している)と見えるものばかりなのだ。
たとえば、仏教経典には善財童子という人物が出てくる。これが、「西遊記」にかかると、悟空たちに討伐された妖魔の一人、紅孩児が改心して、仏門に帰依した姿だと言う事になるのだ。当然ながら、正統な仏教思想には採用されていない逸話である。ほとんど同じようなノリで、「西遊記」では、悪い妖魔の一人、霊感大王を調伏した時の観音菩薩の姿が魚藍観音として伝えられるようになったなどともサラリと書かれているのだった。
仏教が信仰対象としている菩薩たちはそれぞれが様々な動物の上に身を置いているのだが、これらの動物たちも「西遊記」にとっては格好の創作の材料なのだ。菩薩そのものは邪悪な存在になれない以上、代わりに、これらの獣たちが地上に降りて、三蔵一行を襲う悪い妖魔の役目を担うのである。ほとんどの動物は菩薩との間の関連性が詳しくは語られていないのだが、「西遊記」では、その動物としての外見だけあれば十分なのか、何の掘り下げもなく、ただの悪い妖怪として大暴れする事になるのだ。のみならず、「西遊記」独自の設定すら付け加えられ、孔雀はまだ修行中だった釈迦を飲み込んだ事になっているし、文殊菩薩が乗る青毛の獅子は天界の10万の軍隊をたいらげた武勇伝の持ち主として紹介されている次第なのだった。あるいは、こうした動物たちのエピソードもまた、今日に伝わっていないだけで、「西遊記」の外でも語られていた時代があったのだろうか。
弥勒菩薩は動物に乗っていない為か、「西遊記」内では、彼の磬をつかさどる童子(黄眉童子)が魔王となって、三蔵一行の前に立ちふさがる。この童子がなかなか虚栄心の強い悪ガキだったようで、地上では黄眉大王とか黄眉老仏などと言う大それた名前を名乗っているのだ。黄眉童子が持つ最強の武器は、主人の弥勒菩薩の元から盗んできた後天袋で、弥勒菩薩と言うよりも七福神の布袋さま(世俗の信仰では弥勒菩薩の化身と考えられている)の道具である。やっぱり、「西遊記」の作者は、仏教や菩薩の事情にやたらと詳しいようなのだった。
物語中盤に登場したニセ悟空の六耳獼猴も、仏教とは少なからず関係があったらしい。六耳獼猴は、四猴混世と言って、その存在を観音菩薩すらも知らなかったと言う超妖怪である。その目的は、三蔵を食べて長生きしようなどと言うチャチなものではなく、三蔵の代わりに、天竺の如来から経文を貰ってきて、南瞻部州に我が名を広めよう、という壮大なものだった。しかし、彼の野望は、如来その人によって否定され、息の根も止められる事になる。その結末は、実は、彼の名前の中ですでに説明されていたのだと言う。仏教には「法不伝六耳」と言う諺があるのだそうだ。仏法は無関係な第三者には伝えない、と言った意味合いだそうで、六耳とは耳が六つあるとかではなく、三人いると言う事である。六耳獼猴と言う名前は、まさに、その第三者の猿を指しているに他ならない。「西遊記」本文を読んだ限りでは、その実体がまるで掴めなかった六耳獼猴も、仏教の説話と照らし合わせてみれば、うっすらと理解できる仕組みになっていたのである。もちろん、六耳獼猴と「法不伝六耳」の間をさらに埋める説話が、かつては伝わっていた可能性も大いに考えられる訳だ。
こんな風に、「西遊記」の中には大量の仏教の知識が組み込まれているのだが、ならば、「西遊記」の作者は熱心な仏教徒だったのかと言うと、それはそれで疑問が残る部分である。「西遊記」は、主人公たちが仏教徒と言う設定上、仏教優位の視点で描かれてはいるのだが、それでも時々、仏教を茶化しているように感じられる場面もあるからだ。「西遊記」の作者は、あくまで冷静な立場であり、仏教ばかりを贔屓して讃えているのでもなく、道教に関しても、仏教と同じぐらい詳しく「西遊記」の中で取り扱っているのである。恐らく、「西遊記」を書いた人物は、宗教全般に強い学者か一種の宗教オタクだったのであろう。つまりは、現在の我々が、軍人や警官になりたい訳でもないのに戦闘ヒーローものが大好きで、その点に関しては豊富な知識を持ち合わせていると言うのと同じだ。今も昔も、マニアの圧倒的な物知りぶりは世を唸らせるものなのである。
付記
テレビで「飛べ!孫悟空」(TBS系・1977〜1979年)が放送された頃は、私もまだ「西遊記」の原作は児童向けのダイジェスト版すら読んでいませんでした。そのため、「飛べ!孫悟空」に人参果とか火炎山と言った、そのまんまのネーミングのアイテムが登場した時は、てっきり「飛べ!孫悟空」オリジナルの設定だとばかり思ったものでした。今日では、これらのアイテムがいずれも原作「西遊記」に忠実なものだった事をはっきり理解しています。それどころか、原作「西遊記」に出てくるアイテムやキャラの多数は「西遊記」固有のものではなく、さらに別のルーツがあった事を知って、驚かされている次第なのです。
ここでは、そうした「西遊記」以外の文献や伝承、実際の地理などからスピンオフされた「西遊記」用語を色々と取り上げて紹介してゆき、随時、追加していきたいと思います。
斉天大聖
「西遊記」では、孫悟空が、天界に対抗して自称した肩書きである。「天に斉(ひと)しい大聖」と言う意味合いで、ウヌボレも甚だしいところだが、天界組織としては、乱暴な悟空を懐柔するために、のちに、この名称の役職を実際に天界に設け、そのポストを悟空に委ねている。
ところが、この「斉天大聖」と言うネーミングは「西遊記」独自の大ボラではなく原典があったらしい。中国の福建のそばにある梅嶺という山には、斉天大聖申陽公なる、女をかどわかす怪物猿の伝説があるそうなのだ。(「陳巡検梅嶺失妻記」)たかが敵役の悪者妖怪の分際で、この伝説の化け猿こそ、ハッタリかまし過ぎな感じもしなくはない。
三昧真火
元々は内丹術(煉丹術)の用語らしいのだが、「西遊記」では悪玉妖怪・紅孩児が用いる不滅の猛火の名称である。(先行して登場する黄風大王も、似たような名前の三昧神風と言う必殺技を使用するが、こちらも内丹術用語からの流用なのだろうか?)
三昧真火は、紅孩児のみならず、中国の伝奇小説「封神演義」に出てくる姜子牙や、同じく中国の民間伝説「白蛇伝」に出てくる小青が用いる火炎術の呼称としても使われており、中国の幻想文学界においては、けっこうポピュラーな火術の名前なのかもしれない。
火焔山
「西遊記」では、孫悟空が過去の不祥事(太上老君の八卦炉を壊して、その破片を天界の外にまでまき散らした)から地上界にもたらしてしまった、燃え上がる巨大な山(火山とも異なる)の名称だが、実際の中国の地理にも、火焔山という場所は実在している。
中国ウイグル自治区の天山山脈のそばにある丘陵がそれで、高さ500メートル、長さ98キロ、幅9キロもの広さを誇っている山地だ。赤い砂岩による燃えてるような表面模様を特徴としているものの、活火山や休火山と言う訳ではない。
過去には、シルクロードの通過点だった時期もあり、実在した玄奘(三蔵法師)も天竺に行く途上で通り過ぎていたのかもしれず、それゆえに「西遊記」の物語にもバッチリ組み込まれる事になったみたいである。
火焔山にまつわる古い言い伝えとしても「サルの王が天界でひっくり返した窯の残り火が火焔山になった」と言うものがあるようで、この伝承が洗練されて、孫悟空の武勇伝の一部を形作る事になったらしい。
西梁女国
「西遊記」本編では、三蔵一行が西への旅の途中で通過した国の一つである。女しか住んでいないと言う荒唐無稽に思える設定の国なのだが、そのルーツは、実在した玄奘(三蔵法師)が記した西方見聞録「大唐西域記」の中で紹介されている西女国らしい。実話の旅行記のはずのこの書の中で、西女国は確かに女しか居ない国として説明されているようなのだ。(ただし、玄奘はこの国に自ら立寄った訳ではなく、聞いた噂をそのまま紹介しただけみたいである)
「西遊記」内に出てくる女人国のエピソードは、もっとも古いネタの一つのようで、「西遊記」のプロトタイプである「大唐三蔵取経詩話」の時点で、すでにその国名が登場する。それが完全版「西遊記」に編纂されてゆく過程において、西梁女国のくだりは、落胎泉(西梁女国がなぜ女だけで成り立っているかを説明した上で、牛魔王の弟の如意真仙も登場させる事で、間もなく訪れる牛魔王との抗争も予告しておいた、よく出来た序章部)、西梁女国本国、毒敵山のサソリの精、と言う優れた構成の三部作へと洗練されていったようなのである。
通臂猿猴
「西遊記」中盤に登場する六耳獼猴を含む四猴混世は、「西遊記」の中でももっとも原典がよく分からない存在である。そのはずの四猴混世の四種のうち、なぜか通臂猿猴だけははっきりと元ネタがあるのだ。
通臂猿猴とは、左右の腕が一本に繋がっていて、片手を伸ばせば、もう片方の手が短くなる猿なのだと言う。伝説上の猿と言うか、一種の妖怪であり、日本の河童もこれと同じ特徴を持ち合わせている。と言う事は、四猴混世の残りの三種も(現在では記録が残っていない)妖怪変化の猿だったのであろうか。
通臂猿猴をテナガザルと見なす仮説があるため、中野美代子女史は四猴混世全てを実在する猿に当てはめてみる試みも行なっているが、かなり豪快な解釈とも言える。ただし、四猴混世の一つである霊明石猴は、なるほど石猿(石から生まれた猿)だった孫悟空を指していたような気もしなくはない。
孫悟空は、過去の大罪の一つとして、幽冥界(地獄)に連れてこられた時は、閻魔の生死簿に載っていた自分を含む猿たちの名前を消してしまうようなマネをしているのだ。四猴混世とは、この生死簿に名前のない生き物なので、この時に悟空に名前を消された(よって、悟空と同じように寿命の束縛を超越した)猿たちだった可能性がある。実際、テナガザルとかは確かに水簾洞時代の悟空の側近として物語内には登場しているのだ。(六耳獼猴のエピソード内では、生死簿の猿の項目が悟空に塗りつぶされていたため、ニセ悟空・六耳獼猴の正体をせっかくの生死簿でも見極める事が出来なかった、と言う伏線もきちんと張られている)
この六耳獼猴のエピソードに続く火焔山のエピソードでも、悟空は自分の過去の罪の尻拭いをしている(やっかいな火焔山は、もともと悟空のせいで誕生した)ので、案外、六耳獼猴と火焔山の二大エピソードは「悟空の過去の尻拭い」話として意図的に並べられていたのかもしれない。(上述の私の研究エッセイ「『西遊記の秘密』の秘密」を参照のこと。「西遊記」中盤のエピソードは、後半部冒頭という事で、物語初期のキャラやエピソードが再登場する構成になっている)
白沢
白沢は、中国神話時代に、伝説の帝王・黄帝にあらゆる妖怪変化の対処法を伝授したと言う尊い神獣なのだが、「西遊記」では、獅子妖怪総登場のエピソードに無理やり狩り出され、悪玉妖怪の手先を務めさせられた上、何の見せ場もなく退治されると言う、たいへん気の毒な扱いを受けている。(邪悪な怪物でもないのに、獅子妖怪ゆえに、同エピソードに出演させられたと言う点では、雪獅や狻猊も同様である)
ところが、白沢の正しい出自は以上の通りながら、それとは別に、白澤の名は「獅(ライオン)の別名」と言う説明で「本草綱目」ないし「説文解字」でも紹介されているのだと言う。「本草綱目」は、「西遊記」と非常に密接な関係にある「西遊記」執筆当時の博学書である。中野美代子女史の主張によると、「西遊記」に出てくる妖怪はいずれも「本草綱目」の範疇内との事なので、意外と白沢も「神話時代の伝説の聖獣」としてではなく、「本草綱目」内で紹介された「ライオンの別名」としての採用だったのかもしれない。  
 
 

 

 

●毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る
  事実関係とその評価等に関する報告書
        平成31年1月22日
        毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会
(委員長)    樋口美雄  (独)労働政策研究・研修機構理事長
              (前統計委員会委員長、労働政策審議会会長)
(委員長代理)  荒井史男  弁護士(元名古屋高等裁判所長官)
(委員)     井出健二郎 和光大学学長・会計学
        玄田有史  東京大学社会科学研究所教授
        篠原榮一  公認会計士
              (元日本公認会計士協会公会計委員会委員長)
        萩尾保繁  弁護士(元静岡地方裁判所長)
        廣松毅   東京大学名誉教授
              情報セキュリティ大学院大学名誉教授
              (元統計委員会委員)
        柳志郎   弁護士(元日本弁護士連合会常務理事)
●第1.特別監察委員会の目的等
○ 厚生労働省による毎月勤労統計調査の不適切な取扱いにより、国民の統計に対する信頼が失われ、また、国民生活に大きな影響を及ぼす事態となったことは、甚だ遺憾である。毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会(以下「本委員会」という。)は毎月勤労統計調査を巡り長年にわたる不適切な取扱いが指摘されたことを受け、事実関係及び責任の所在の解明を行うとともに、厚生労働省が作成する統計に対する正確性・信頼性を確保し、国民の信頼を回復するための方策等を策定するために、厚生労働省監察本部長たる厚生労働大臣の下に設置された委員会である。
○ 今般の事案については、本委員会の設置以前から、弁護士、公認会計士等の外部有識者もメンバーとして参画した厚生労働省の監察チームにおいて、職員への聴取等が行われてきた。本委員会は、調査の中立性・客観性を高めるとともに、統計に係る専門性も重視した体制とするため、厚生労働大臣の指示により、監察チームで行ってきた調査を引き継ぎ、統計の専門家を委員長とし、監察チームの外部有識者、統計の専門家等が委員となる形で、第三者委員会として設置されたものである。
○ 今般の事案に係る事実関係及び責任の所在を解明するため、監察チームとして局長・課長級延べ14名、課長補佐以下級延べ15名に対してヒアリングを実施してきた結果を踏まえ、本委員会においてもさらに局長・課長級延べ27名、課長補佐以下級延べ13名に対してヒアリングを実施し、合計で延べ69名の職員・元職員に対してヒアリング等を実施した。なお、ヒアリングの企画及び実施は、外部有識者の参画の下で行われた。また、本委員会の全体会合は、これまで平成31(2019)年1月17日及び同月22日の2回開催したが、この他にも随時委員がヒアリングや関係資料の精査等を実施する等、検証を重ねてきた。
○ 本報告書においては、毎月勤労統計調査について、全数調査とするとしていたところを平成16(2004)年から一部抽出調査で行っていたことやこれに関連してこれまでなされている様々な指摘について、短期間で集中的に検証を行い、事実関係とその経緯や背景を明らかにするとともに、これに対する責任の所在について、本委員会としての評価を行った。厚生労働省が作成する統計に対する正確性・信頼性を確保し、国民の信頼を回復するための方策等については、引き続き議論を続け、別途、意見を取りまとめる予定である。
●第2.本委員会の調査によって明らかになった事実関係

 

1.平成16(2004)年以降の東京都における規模500人以上の事業所に係る抽出調査の実施及び年報の記載との相違についての事実関係
○ 毎月勤労統計調査については、遅くとも平成元(1989)年から、最新版である平成29(2017)年の年報に至るまですべての年の年報において、規模500人以上の事業所については、「抽出率1/1」(「抽出率」とは、母集団に占める調査対象事業所の割合をいう。)又は「全数調査」と明記されている。
○ しかしながら、平成15(2003)年5月22日付で当時の担当課の企画担当係長名で毎月勤労統計調査に係るシステム担当係長あてに通知された「毎月勤労統計調査全国調査及び地方調査の第一種事業所に係る調査の抽出替えに関する指定事業所の決定及び指定予定事業所名簿作成について」という事務連絡がある。この事務連絡に添付された「毎月勤労統計調査全国調査及び地方調査の第一種事業所に係る調査の抽出替えに関する指定事業所の決定及び指定予定事業所名簿作成要領」においては、「事業所規模500人以上の抽出単位においては、今回から全国調査でなく、東京都の一部の産業で抽出調査を行うため注意すること。」との記載がある。この事務連絡は、雇用統計課長の決裁を経た上で、係長名で指示を行っている。
○ また、平成15(2003)年7月30日に厚生労働省大臣官房統計情報部長名で各都道府県知事宛に通知された「「毎月勤労統計調査全国調査及び地方調査第一種事業所に係る調査」における指定事業所の抽出替えの実施について」に添付された「毎月勤労統計調査抽出替えに伴う事務取扱要領」(以下「事務取扱要領」という。)において、平成16(2004)年1月からの取扱いとして、「従来から規模500人以上事業所は全数調査としていたが、今回は東京都に限って一部の産業で標本調査とした。」と記載された。
○ その後の毎月勤労統計調査における指定事業所の抽出替えの2年ないし3年ごとの実施に伴い通知された平成18(2006)年7月、平成20(2008)年4月及び平成23(2011)年4月の事務取扱要領においても同様の記載がなされ(なお、後述するように平成26(2014)年4月の事務取扱要領からは当該記述は記載されていない。)、実際には平成16(2004)年1月調査以降、毎月勤労統計調査における東京都の規模500人以上の事業所については抽出調査となっており、年報における「全数調査」との記述と相違する取扱いがなされている。
○ このことは、毎月勤労統計調査における指定事業所の抽出替えに伴い、都道府県あてに別途通知されている平成16(2004)年1月以降の「逆数表」(都道府県・産業・事業所規模別に設定する抽出率の逆数を記載した表をいう。)における東京都の規模500人以上の事業所に係る産業別の数値に「1」以外の数値(注:抽出率が100%でないことを示している。)が記載されていることからも確認できる。
○ なお、平成14(2002)年9月18日、平成20(2008)年2月29日及び平成23(2011)年8月4日に、毎月勤労統計調査の変更について、厚生労働大臣から総務大臣あて申請され、それぞれ、総務大臣から厚生労働大臣に「変更を承認する」旨の通知がなされているが、当該承認事項の中には、抽出率に関する記載はなかった。これらの手続に係る決裁は、大臣官房統計情報部長の専決により行われた。
2.平成16(2004)年以降の東京都における抽出調査の実施に伴い必要であった復元処理が実施されなかったことに関する事実関係
○ 1.で述べたように、平成16(2004)年1月以降、東京都における規模500人以上の事業所については、実際には抽出調査となった。
○ 一方、抽出調査への変更に伴い、復元(抽出調査を行った際に行うべき統計的処理で、母集団の調査結果として扱うための計算をいう。)のための必要なシステムの改修が行われなかったため、平成16(2004)年からシステムの改修が行われる直前の平成29(2017)年まで、抽出調査への変更に伴い必要となる復元が行われず、一般的には給与の高い東京都の規模500人以上の復元倍率が低くなり、この結果、平成16(2004)年から平成29(2017)年までの調査分の「きまって支給する給与」等の金額が低めになるという影響があったことが確認されている。
3.公表していた調査対象事業所数に比べて実際に調査した事業所数が少なくなっていることに係る事実関係
○ 毎月勤労統計調査の全国調査については、調査対象事業所を厚生労働大臣(厚生労働省設置前は労働大臣)が指定することになっている。全国調査は、規模30人以上の事業所に関する調査と、規模5人以上29人以下の事業所に関する調査に分かれており、全国調査の調査対象事業所数は各調査の事業所数の合計である。公表されている資料における調査対象事業所数については、昭和48(1973)年3月分の毎月勤労統計調査報告(月報)が約33,000事業所であるのに対し、昭和48(1973)年4月分の毎月勤労統計調査報告(月報)から約33,200事業所となっており、以後、現在に至るまで約33,200事業所として月報や年報に記載され続けている。
○ 一方で、実際の調査対象事業所数については、平成31(2019)年1月11日付プレスリリース「毎月勤労統計調査において全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたことについて」において、「調査対象事業所数が公表資料よりも概ね1割程度少なくなっていました。確認できた範囲では、平成8(1996)年以降このような取扱いとなっていました。」とされている。
○ 平成20(2008)年2月29日、調査対象の産業分類の変更を内容とする毎月勤労統計調査の変更について、厚生労働大臣から総務大臣あて申請された。この申請に係る決裁は大臣官房統計情報部長の専決により行われた。この申請を受け、平成20(2008)年3月5日に総務大臣から厚生労働大臣に「変更を承認する」旨の通知がなされたが、当該承認事項の中には、調査対象事業所数に関する記載はなかった。
○ 平成19(2007)年に統計法が全面改正され、統計報告調整法が廃止されたことに伴い、統計報告調整法に基づく統計報告の範囲及び申請手続に関する事務処理要領(平成17(2005)年8月15日総務省政策統括官(統計基準担当)決定)が廃止され、新たに、基幹統計調査及び一般統計調査に係る承認申請等の手続に関する事務処理要領(平成20(2008)年12月18日総務省政策統括官(統計基準担当)決定)が制定され、平成21(2009)年4月1日から施行された。この中で、基幹統計調査を変更しようとする場合には、統計調査を行うに当たって、実際に報告を求められる被調査者の数を記載することとなった。
○ 平成23(2011)年8月4日、毎月勤労統計調査の変更について、厚生労働大臣から総務大臣あて申請された。この申請に係る決裁は、大臣官房統計情報部長の専決により行われた。この申請は、平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災の被災地である岩手県、宮城県、福島県の3県及び東京電力福島第一原子力発電所周辺の一部地域について、当面の間は調査を実施しないこととすること等に係るものであったが、基幹統計調査及び一般統計調査に係る承認申請等の手続に関する事務処理要領が施行されてから初めての申請となったため、当該事務処理要領に則って、全国調査の調査対象事業所数を「約33,000事業所」と明記した上で申請がなされた。この申請を受け、平成23(2011)年8月4日に総務大臣から厚生労働大臣に「変更を承認する」旨の通知がなされた。
○ また、年報において公表されている調査対象事業所数「約33,200事業所」と、平成23(2011)年8月4日に承認された調査計画における調査対象事業所数「約33,000事業所」の記載には齟齬があるが、平成28(2016)年10月27日、ローテーション・サンプリング(サンプル(調査対象事業所)を毎年一定割合ずつ入れ替えていく方式)の導入等を内容とする毎月勤労統計調査の変更について、厚生労働大臣から総務大臣あて申請がなされた際に、あわせて調査計画における調査対象事業所数を「約33,200事業所」とする変更についても、申請の内容に含まれている。この申請に係る決裁は、政策統括官の専決により行われた。この申請を受け、平成28(2016)年11月に総務大臣から統計委員会に対し、平成30(2018)年1月調査以降の毎月勤労統計調査に係る調査計画が添付された申請書が諮問され、平成29(2017)年1月27日に「変更を承認して差し支えない」旨の答申がなされた。
4.平成21(2009)年調査以降、東京都の規模30人以上499人以下の事業所の一部で異なる抽出率の復元が行われていなかったことについての事実関係
〇 平成21(2009)年1月からの抽出替えに当たって、平成20(2008)年4月に事務取扱要領を改正し(毎月勤労統計調査抽出替えに伴う事務取扱要領〜全国調査及び地方調査第一種事業所〜)、平成20(2008)年7月に抽出率の逆数表を各都道府県に送付した。
〇 平成20(2008)年調査までは、東京都と他の道府県(全国調査分)の抽出率は同一であったが、平成21(2009)年調査から、東京都と他の道府県(全国調査分)の抽出率が、一部の産業で異なることになった。しかしながら、東京都と他の道府県とで同一の復元倍率を用いて復元を行ったため、正しい復元がされなかった。以降、平成29(2017)年調査に至るまで、復元方法についてプログラム上必要な改修がなされず、正しい復元が行われなかった。
〇 この結果、平成21(2009)年から平成29(2017)年までの間、東京都では、東京都の規模30人以上499人以下の事業所のうち母集団事業所数が比較的少ない産業(鉄鋼業など)に属する事業所について、他の道府県とは異なる抽出率を設定し、標本数を多めに配分していたが、正しい復元が行われなかった。
○ また、毎月勤労統計調査の年報には、産業別・規模別の抽出率が記載された表が掲載されているが、抽出率が他の道府県と異なることになった産業についての東京都における抽出率は掲載されなかった。
○ 平成23(2011)年8月4日、毎月勤労統計調査の変更について、総務大臣から調査計画の承認を受けた際、調査対象事業所の選定の方法に係る項目において、全国調査のうち、常用労働者を常時30人以上雇用する事業所については、地域別に異なる抽出方法を行わないことを意味する「産業・規模別の層化無作為一段抽出」という方法によって抽出を行うことを調査計画に明記し、承認を受けていた。一方で、実際には、事業所数が多い東京都は地方調査を実施しない代わりに、鉱業,採石業,砂利採集業等の一部の産業における規模30人以上499人以下の事業所の調査について、それらの産業が極めて少ないという特殊事情に鑑み、全国調査において定められた全国一律の抽出率とは異なる抽出率を使用して全国調査として実施していた。これにより、承認を受けた調査計画と実際の調査方法との間に一部齟齬が生じることとなった。この際、規模500人以上の事業所についても、東京都のみ抽出調査を実施しており、調査計画と実際の調査方法との間に齟齬が生じることとなった。
5.平成27(2015)年1月調査分からの事務取扱要領の見直しに係る事実関係
○ 平成15(2003)年7月、平成16(2004)年1月調査分からの抽出替えに伴う事務取扱要領(雇用統計課名)が、都道府県知事宛の部長通知の別添資料として各都道府県知事に通知された。この事務取扱要領において、名簿の構成に関する記述の中に、「従来から規模500人以上事業所は全数調査としていたが、今回は東京都に限って一部の産業で標本調査とした。これは、規模500人以上事業所は、東京都に集中しており(約4分の1)、全数調査にしてなくても精度が確保できるためである。」との記載がなされた。以後、平成19(2007)年1月調査分からの抽出替えに伴う事務取扱要領、平成21(2009)年1月調査分からの抽出替えに伴う事務取扱要領、平成24(2012)年1月調査分からの抽出替えに伴う事務取扱要領についても、同様の記載がなされていた。
○ 一方、平成26(2014)年7月に各都道府県へ送付された、平成27(2015)年1月調査分からの抽出替えに伴う事務取扱要領(雇用・賃金福祉統計課名)においては、規模500人以上の事業所について東京都を抽出調査とする旨は記載されなかった。なお、過去の事務取扱要領は大臣官房統計情報部長の決裁を経ていたが、平成27年調査分からの抽出替えに伴う事務取扱要領については決裁を取っておらず、平成26(2014)年5月に毎月勤労統計調査関係用品(平成26(2014)年下半期分)の送付に関する統計情報部雇用・賃金福祉統計課毎勤第一係長から各都道府県統計主管課毎月勤労統計調査担当係長あて事務連絡において、各都道府県に調査用品の1つとして事務取扱要領を送付する旨の事前連絡をし、後日、発送されていた。
6.平成16(2004)年から平成23(2011)年の調査の再集計値の算出に必要な資料の一部の存在が確認されていないことの事実関係
○ 平成16(2004)年調査以降、東京都の500人以上の事業所において抽出調査を実施したにもかかわらず復元が行われていなかったこと、及び、平成21(2009)年調査以降、東京都の30人以上499人以下の事業所の一部で異なる抽出率の復元が行われていなかったことに関しては、復元に必要なデータ等が存在する平成24(2012)年以降について復元して「再集計値」を平成31(2019)年1月11日に公表したところである。一方で、平成16(2004)年以降平成23(2011)年までについては、復元に必要なデータ等である、1平成19(2007)年1月分調査の旧対象事業所分の個票データ、2平成21(2009)年の抽出換え時点における旧産業分類の指定予定事業所名簿、3平成16(2004)年から平成22(2010)年までの雇用保険の事業所別頻数データの3つが揃わず、再集計値が算出できない状態となっている。
○ 調査票情報等の文書については、平成21(2009)年2月6日に、総務省政策統括官から、厚生労働省大臣官房統計情報部長宛に「調査票情報等の管理に関するガイドラインの決定について(通知)」(総政企第42号。平成21(2009)年2月6日)が通知され、厚生労働省大臣官房統計情報部企画課が2月9日に収受した。当該ガイドラインにおいては、統計調査に関する文書管理として、「調査実施者又は統計調査の所管部局等におかれる管理責任者は、その管理する調査票情報等の受払い、搬送、閲覧、複写、保存期間の設定、保管方法、廃棄等について必要な手続を定める。なお、調査票情報の保存期間の設定については、以下を参考にするとともに、ドキュメントの保管期間との整合に考慮する。(1)基幹統計調査の調査票情報(電磁的方法により記録しているものに限る)については、最長期間」と記載されている。同ガイドラインは、平成21(2009)年4月1日から施行された。
○ また、平成22(2010)年3月15日には、総務省政策統括官付統計企画管理官から、統計データの有効活用に関する検討会議構成メンバー宛に、事務連絡「調査票情報等における保存期間の延長について(協力依頼)」が発出され、「平成22(2010)年度までに調査票情報等の保管に関するガイドラインを作成するとされております。調査票情報等については、府省横断的な対応として、平成22(2010)年度末まで保存期間の延長手続をとること等により適切に対処いただきますようお願いいたします。」との依頼がなされている。
○ さらに、平成23(2011)年3月28日には、総務省政策統括官から厚労省統計情報部長宛に「調査票情報等の管理に関するガイドライン及び統計法第33条の運用に関するガイドライン等3ガイドラインの改正について(通知)」(総政企第89号。平成23(2011)年3月28日)が通知され、総務省政策統括官付統計企画管理官から統計データの有効活用に関する検討会議構成メンバー宛てに、平成23(2011)年3月28日付事務連絡「調査票情報等の管理に関するガイドライン等第4ガイドラインの改正及び運用について」が発出された。当該改正により、「調査票情報等の保存期間については公文書管理法施行令第8条第2項に基づき定めることとし、次の整理によって決定するものとする。作業段階別における具体的な調査票情報等の種類及び保存期間は別表のとおりとする。」とされ、「調査票情報(正本)」について、「調査実施者については、「公的統計の整備に関する基本的な計画」(平成21(2009)年3月13日閣議決定)に基づき、本ガイドラインによって調査票情報等の適正に管理を行う。また、法第24条の規定による届出を行った地方公共団体、法第25条の規定による届出を行った独立行政法人等及び法第37条の規定により全部委託を受けた独立行政法人等については、本ガイドラインを参考として調査票情報等を適正に管理する。」、「調査票情報等の保存期間については公文書管理法施行令第8条第2項に基づき定めることとし、次の整理によって決定するものとする。作業段階別における具体的な調査票情報等の種類及び保存期間は別表のとおりとする。なお、管理する調査票情報等の保存期間及び分類については、調査実施者が公文書管理法第10条に基づく行政文書管理規則(以下「行政文書管理規則」という。)に規定する保存期間及び分類と整合性を保つこととし、齟齬が生じないようにする。また、行政文書管理規則において保存期間及び分類が規定されていない場合については、行政文書管理規則に基づき任命された文書管理者が定める標準文書保存期間基準において定められた保存期間及び分類に準じることとし、その場合も以下の保存期間及び分類と齟齬が生じないようにする。」とされ、別表において、「調査票情報(正本)」の保存期間については「調査規則で定めている期間(永年保存となるように対応)」とされた。当該ガイドライン改正は、平成23(2011)年10月1日に施行された。
○ 平成16(2004)年以降の東京都における抽出調査の実施に伴い必要であった復元処理が実施されなかったこと、平成21年調査以降、東京都の30人以上499人以下の事業所の一部で正しい復元が行われていなかったことについては、必要な復元処理を実施し、適正な調査結果を再集計する必要がある。
○ しかしながら、平成16(2004)年から平成23(2011)年の調査の再集計に必要な資料の一つである平成16(2004)年から平成22(2010)年までの事業所別頻数データ、平成21(2009)年分の指定予定事業所名簿(※)(以下「調査回答書等」という。)について、必要な保存措置がとられなかった結果、現在、その存在が確認できていない。このため、調査回答書等はその内容の復元ができないものであることから、平成16(2004)年から平成23(2011)年の調査の再集計値の算出ができないという事態が生じた。
(※)指定予定事業所名簿とは、厚生労働省が母集団情報(平成30(2018)年からは総務省が整備する事業所母集団データベース)から抽出して作った名簿。
7.平成27(2015)年10月からの調査方法の見直し等の議論の中での事実関係
○ 政府の統計調査については、統計委員会などの外部機関による定期的な検証などを経て、その正確性や信頼性を確保し、向上させていくことが求められている。この点、毎月勤労統計調査については、厚生労働省内でもその改善について有識者による検討が行われていたが、平成27(2015)年10月に開催された経済財政諮問会議において、全サンプルを3年に一度一時に入れ替え、段差が発生した場合は過去に遡って数値を修正する方式について、「事業所サンプルの入替え時に「非連続な動き(数値のギャップ)」が生じているのではないか」との指摘があり、この指摘を踏まえ、総務省の統計委員会で毎月勤労統計調査へのサンプルを毎年3分の1ずつ入れ替えていくローテーション・サンプリングの導入等の議論が行われた。この間、「規模500人以上事業所については全数調査」である旨説明してた。
○ 当該議論の結果、平成28(2016)年10月27日、ローテーション・サンプリングの導入等を内容とする毎月勤労統計調査の変更について、厚生労働大臣から総務大臣あて申請された。この申請に係る決裁は、政策統括官の専決により行われた。この申請を受け、平成28(2016)年11月18日に総務大臣から統計委員会に対し、平成30(2018)年1月調査以降の毎月勤労統計調査に係る調査計画が添付された申請書が諮問され、平成29(2017)年1月27日に「変更を承認して差し支えない」旨の答申がなされたが、当該調査計画には「規模500人以上事業所については全数調査」である旨の記載が含まれていた。また、この答申を踏まえ、同年2月13日に総務大臣から厚生労働大臣に「変更を承認する」旨の通知がなされた。
○ 平成29(2017)年1月11日には、統計法を所管する総務省から、平成28(2016)年12月に明らかになった経済産業省所管の繊維流通統計調査の不適切な処理を契機として、各府省に統計法遵守の状況の一斉点検の要請が行われた。毎月勤労統計調査については、平成29(2017)年1月24日付で厚生労働省の担当係から「特段問題なし」との回答が行われた。
8.平成30(2018)年1月調査以降の集計方法の変更に際しての事実関係
○ 毎月勤労統計調査については、厚生労働省内でもその改善について有識者による検討が行われていたが、平成27(2015)年10月に開催された経済財政諮問会議において、全サンプルを3年に一度一時に入れ替えることによって「事業所サンプルの入替え時に「非連続な動き(数値のギャップ)」が生じているのではないか」との指摘があり、この指摘を踏まえ、総務省の統計委員会で毎月勤労統計調査へのサンプルを毎年3分の1ずつ入れ替えていくローテーション・サンプリングの導入等の議論が行われた。
○ これを受けて、雇用・賃金福祉統計室長(当時)Fは、平成29(2017)年度開始後遅くとも5月以降、当時のプログラム担当者に対し、平成30(2018)年1月調査以降の毎月勤労統計調査におけるローテーション・サンプリングの導入に向けたプログラム改修を指示した。その中で、それまで実施していなかった東京都における規模500人以上の事業所に係る抽出調査の結果及び30人以上499人以下の事業所のうち東京都と他の道府県で抽出率が異なる一部の産業の調査結果についてプログラム上適正に復元されるよう改修がなされた。
9.平成30(2018)年調査の実施に当たっての事実関係
○ 平成29(2017)年7月21日付で、東京都における規模500人以上の事業所を抽出調査とする内容の平成30(2018)年の毎月勤労統計調査の指定予定事業所名簿(※1)が政策統括官名で東京都に通知され、また、抽出率の逆数表が参事官(雇用・賃金福祉統計室長)名で各都道府県に通知された。さらに、平成29(2017)年10月23日付で、東京都における規模500人以上の事業所を抽出調査とする内容の平成30(2018)年の毎月勤労統計調査の指定事業所名簿(※2)が、政策統括官名で東京都に通知された。これらは、総務大臣から承認を受けた「500人以上事業所全数調査」とする調査計画に反する内容であった。
(※1)指定予定事業所名簿とは、厚生労働省が母集団情報(平成30(2018)年からは総務省が整備する事業所母集団データベース)から抽出して作った名簿。
(※2)指定事業所名簿とは、指定予定事業所名簿から、指定予定となった事業所が現在も存在するか、従業者の階級(30人以上499人以下と500人以上など)に変動がないかを都道府県に確認の上、その結果を反映した名簿。
10.平成30(2018)年1月調査以降の給与に係る数値の上振れの問題についての事実関係
○ 平成30(2018)年7月2日に、総務省の統計委員会国民経済計算体系的整備部会に「ローテーション・サンプリングへの移行状況」が報告された。同月20日の統計委員会で同部会の審議状況報告が行われた際に、平成30(2018)年1月以降の毎月勤労統計調査結果における上振れについての説明を求められ、同年8月28日の統計委員会で説明が行われた。その際、政策統括官Jは、「東京都における規模500人以上の事業所について全数調査でなく抽出調査により実施していたこと、さらに復元という適切な統計処理がなされていなかったこと」(以下「これまでの調査方法の問題」という。)を認識しておらず、部下からの説明もなかったため、これまでの調査方法の問題についての説明を行わなかった。
11.平成31(2019)年調査の実施等に当たっての事実関係
○ 都道府県の担当者から、規模500人以上の事業所が増え、負担が増えてきていることへの対応を求める要望があったことなどを踏まえ、平成30(2018)年6月27日付で、神奈川県、愛知県、大阪府における規模500人以上の事業所を抽出調査とする内容の平成31(2019)年の毎月勤労統計調査の指定予定事業所名簿が政策統括官名で該当する府県に通知され、また、抽出率の逆数表が参事官(雇用・賃金福祉統計室長)名で各都道府県に通知された。さらに、平成30(2018)年10月24日付で、神奈川県、愛知県、大阪府における規模500人以上の事業所を抽出調査とする内容の平成31(2019)年の毎月勤労統計調査の指定事業所名簿が、政策統括官名で該当する府県に通知された。これらはいずれも、総務大臣から承認を受けた「500人以上事業所全数調査」とする調査計画に反する内容であった。
○ その後、雇用・賃金福祉統計室長Iは、毎月勤労統計調査の規模500人以上の事業所の数値について、本来であれば全数調査であるため、ローテーション・サンプリング前後で段差が生じることはないにもかかわらず、実際には段差が生じていることについて、総務省から指摘を受け、その点を含め平成30(2018)年12月13日に統計委員会委員長・総務省との打ち合わせの場において総務省統計委員会委員長に本件についての説明が必要になった。これを受けて、同日に東京都の規模500人以上の事業所は抽出調査であり、平成29年(2017)以前の調査については復元処理をしていないこと及び抽出調査の対象府県を拡大する予定であることを上司である政策統括官Jに報告した。Jはこの時初めて今回の問題事案を把握し、当該打ち合わせの前にIに対し「統計委員会委員長に正直に話すよう指示した」と述べている。同日の打ち合わせでは、東京都及び3府県における抽出調査について説明を行い、統計委員会委員長より「大きな問題ではないか」という趣旨の指摘がなされた。これを踏まえ、平成30(2018)年12月14日に、Iは3府県に対し「抽出調査を撤回し、全数調査を行う」旨を電話連絡した。また、同日に、総務省の統計管理官から厚生労働省の担当参事官あてに、毎月勤労統計調査の実施に係る経緯等の報告及び法令遵守等の注意喚起を求める通知が出された。さらに、平成31(2019)年1月4日に、総務大臣から厚生労働大臣あてに、統計法第55条第1項に基づく毎月勤労統計及び毎月勤労統計調査に係る同法の施行の状況についての報告の依頼がなされた。これらを踏まえ、平成31(2019)年1月16日、厚生労働大臣から総務大臣に対し、統計法第55条第1項の規程に基づく報告について回答を通知し、1月17日、総務大臣から統計委員会委員長に対し、毎月勤労統計及び毎月勤労統計調査に係る統計法の施行状況についての報告が通知され、その内容について同日に開催された統計委員会において、厚生労働省政策統括官Jより説明を行った。
○ 平成30(2018)年12月20日に、東京都の規模500人以上の事業所が調査計画と異なり抽出調査になっている旨の一報が政策統括官Jらから厚生労働大臣になされた。一方で、同時並行で毎月勤労統計調査の10月分結果確報の準備作業が両者を結びつけることなく進められ、同年12月21日に毎月勤労統計調査の10月分結果確報が公表された。この公表資料においては調査計画と異なる調査となっていたことに係る注記が付されておらず、また、大臣に当該公表資料の公表及びその内容は説明されていなかった。
●第3.第2の事実関係の評価等

 

1.平成16(2004)年以降の東京都における規模500人以上の事業所に係る抽出調査の実施及び年報の記載との相違の評価等
(1)東京都における規模500人以上の事業所に係る抽出調査の実施の評価等
○ 本件に関わる文書としては、平成15(2003)年5月22日付で当時の担当課の企画担当係長名で毎月勤労統計調査に係るシステム担当係長あてに通知された「毎月勤労統計調査全国調査及び地方調査の第一種事業所に係る調査の抽出替えに関する指定事業所の決定及び指定予定事業所名簿作成について」という事務連絡がある。この事務連絡に添付された「毎月勤労統計調査全国調査及び地方調査の第一種事業所に係る調査の抽出替えに関する指定事業所の決定及び指定予定事業所名簿作成要領」においては、「事業所規模500人以上の抽出単位においては、今回から全国調査でなく、東京都の一部の産業で抽出調査を行うため注意すること。」との記載がある。この事務連絡は、雇用統計課長の決裁を経た上で、係長名で指示を行っている。
○ 平成15(2003)年7月30日に通知された事務取扱要領には、東京都の規模500人以上の事業所について抽出調査とした理由が併せて記載されており、「規模500人以上事業所は、東京に集中しており(約4分の1)、全数調査にしなくても精度が確保できるためである。」と記載されている。
○ 「平成15(2003)年度毎月勤労統計調査ブロック別事務打ち合わせ会 質疑応答集(平成15(2003)年8月現在)」という題名の資料においては、「規模500人以上の事業所の抽出率が1/1となっており、継続して指定され、対象事業所からも苦情が来ているが、継続指定を避けることができないか。」という都道府県からの質問に対して、「今回から全数調査をしなくても精度が確保できる東京都の一部の産業で標本調査とした。」との回答が、担当係の見解として記載されている。
○ 東京都の規模500人以上の事業所について抽出調査が導入された平成16(2004)年頃に担当課である統計情報部雇用統計課の担当係長は、ヒアリング調査において抽出調査の導入の理由について「継続調査(全数調査)の事業所については企業から特に苦情が多く、大都市圏の都道府県からの要望に配慮する必要があった。」、「理由は都道府県の担当者の負担を考慮したからだと思うが、誤差計算しても大丈夫だという話だったと記憶している。」、「平成16(2004)年からこれまでの集計方法をやめることとしたが、それだけだと都道府県の負担が増えてしまうので、その調整という意味でも(東京都の規模500人以上の事業所に限り)抽出調査とすることとしたように思う。」旨述べている。
○ これらの記載や供述の内容は矛盾なく符合しており、平成16(2004)年以降の東京都における規模500人以上の事業所に係る調査が抽出調査となった理由は、規模500人以上の事業所から苦情の状況や都道府県担当者からの要望等を踏まえ、規模500人以上事業所が集中し、全数調査にしなくても精度が確保できると考え、東京都について平成16(2004)年1月調査以降抽出調査を導入したものと考えられる。一方で、東京都の規模500人以上の事業所について抽出調査にすることについて、調査計画の変更等の適切な手続を踏むことなく、担当課のみの判断として調査方法を変更したことは、不適切な対応であったと言わざるを得ない。
○ なお、これまでの集計方法とは、規模30人以上499人以下の事業所のうち、抽出されるべきサンプル数の多い地域・産業について、一定の抽出率で指定した調査対象事業所の中から、半分の事業所を調査対象から外すことで、実質的に抽出率を半分にし、その代わりに調査対象となった事業所を集計するときには、抽出すべきサンプル数の多い地域・産業についてその事業所が2つあったものとみなして集計する方式であり、全体のサンプル数が限られている中、全体の統計の精度を向上させようとしたものである。
○ この手法により得られる推計結果は、抽出率に基づき復元を行っているのと同程度の確からしいものと考えられ、標準誤差にゆがみが発生する可能性はあるが、平均値に関しては大きな偏りはなく、給付等に影響を及ぼすこともない。しかしながら、こうした手法は当時公表されることなく行われており、統計調査方法の開示という観点からは不適切と言わざるを得ない。
(2)平成16(2004)年以降の東京都における規模500人以上の事業所に係る調査が抽出調査となったにも関わらず、年報における記載が変更されなかったことの評価等
○ 年報における記載が変更されなかった理由を明らかにするような書面等の客観的な資料の発見には至らなかったが、職員・元職員からのヒアリングからはその理由を伺わせる供述が得られた。まず、年報の記載との相違については、「そもそも全数調査だと思っていた。」、「知らなかった」などと相違を認識していなかったとする一部職員・元職員(管理職を含む。)もいるが、相違に気付いていたとする者もおり、そうした者の供述内容を見ると、「(公表)資料は「原則」として認識しているが、細かく書くとすれば異なっているという認識はあった。また周りもそういう解釈をしていたと推測する。」、「齟齬があるという認識はあったが、東京都は数が多く例外的であると考え自己満足していた。」「そもそも年報に調査方法の全てを事細かに書かなくてはいけないと考えていなかった。」などと述べる者もいる一方で、「当時、変えた方が良いと思ったが統計委員会とか審議会にかけると、問題があると思った。何かの改正に併せて、やろうと思ったが、できず、忸怩たるものがある。」、「全数調査でやっていたものを抽出に変更すると、精度が悪化していないかという資料を作ることとなり、ウソの上塗りになってしまう。」などと述べる者もいた。部内でも透明性が保たれておらず、総務省・各都道府県と議論すべきところ、一部の職員のみの間で議論したことがうかがわれる。
○ 第2の1.のとおり、規模500人以上の事業所についての「抽出率1/1」又は「全数調査」との年報における記載は遅くとも平成元(1989)年から継続されていたものであって、平成16(2004)年以降の調査に係る職員らにおいて作為的に記載したというものではなく、また、上記のとおり、年報における記載が実際の調査方法と相違することを認識していた一部の職員・元職員らとしても、ことさら不正確な内容のものにしようとした意図までは認められないが、正確性や信頼性が強く求められる国の統計資料に誤った記載がなされたままであることを放置することは、重大な問題であり、問題の是正を怠ったものであると言え、到底許されるものではない。年報の記載と実際の調査方法の記載の相違について認識していなかった幹部職員らにしても、同様に、到底許されるものではなく、記載の相違に気付き、それを是正することができなかったことについての監督責任が問われなければならない。また、統計調査方法の開示の重要性の認識が欠如していたものと言わざるを得ない。
2.平成16(2004)年以降の東京都における抽出調査の実施に伴い必要であった復元処理が実施されなかったことの評価等
○ 本件に関わる文書としては、平成15(2003)年5月22日付で当時の担当課の企画担当係長名で毎月勤労統計調査に係るシステム担当係長あてに通知された「毎月勤労統計調査全国調査及び地方調査の第一種事業所に係る調査の抽出替えに関する指定事業所の決定及び指定予定事業所名簿作成について」という事務連絡がある。この事務連絡に添付された「毎月勤労統計調査全国調査及び地方調査の第一種事業所に係る調査の抽出替えに関する指定事業所の決定及び指定予定事業所名簿作成要領」においては、「事業所規模500人以上の抽出単位においては、今回から全国調査でなく、東京都の一部の産業で抽出調査を行うため注意すること。」との記載がある。この事務連絡は、雇用統計課長の決裁を経た上で、係長名で指示を行っている。この事務連絡と併せて、企画担当係からシステム担当係に東京都の事業規模500人以上の事業所における産業ごとの抽出率を復元処理するための作業依頼や必要な資料の提供等がなされ、システム担当が東京都における抽出調査に伴い必要となるシステムの改修を適切に行っていれば、今般の必要な復元処理がなされていなかったという問題は生じなかったはずである。
○ なお、当時の担当課長の供述によれば、「抽出調査としたことについて、覚えていないが当時自分が決裁したと思われる決裁文書を見たらそのように残っていたのでそうなのだと思う。だだ、抽出していたとしても労働者数に戻す復元を行っていれば問題ない。」との認識であった。復元プログラムを入れたか否かの記憶もないが、統計の集計に当たっての復元プログラムの重要性に対する認識も低かったと言わざるを得ない。また、当時の統計情報部長は、供述において「それ以外の抽出率の違いなど認識していなかった。」、「連続している統計は変更点がなければ、あまり内容を見ることもなく決裁していた。」と述べており、意識が低かったと言わざるを得ない。
○ 一方、職員・元職員のヒアリング調査によれば、企画担当係とシステム担当係との間の作業発注及び作業のフォローアップの仕組みやシステム改修の進め方については、以下のような供述が見られる。
・ 抽出替え等によりシステム改修の必要性が生じた場合には、企画担当係とシステム担当係が打ち合わせをしながら、必要な作業を進めていくが、その際にはすべての仕様をペーパーで依頼する訳ではなく、口頭ベースで依頼することもあった。なお、毎月勤労統計調査については、具体的なシステム改修関係の業務処理は係長以下で行われ、一般的には課長や課長補佐が関与しない。
・ システム改修の依頼を受けたシステム担当係は外部業者等に委託することなく自前でシステム改修を行うことになるが、毎月勤労統計調査に係るシステムのプログラム言語はCOBOL であり、一般的にシステム担当係でCOBOL を扱える者は1人又は2人に過ぎなかった。このため、一般的にシステム改修を行う場合はダブルチェックを行うが、ダブルチェックができない場合も多かった(平成15(2003)年当時はCOBOL を扱える者は2人いたが、それぞれが別の仕事を分担して処理していたため、当該者同士でダブルチェックをするようなことはなかった。)。
・ 一度改修されたシステムのプログラムの該当部分は、それに関連するシステム改修がなされない限り、当該部分が適切にプログラミングされているか検証されることはなく、長期にわたりシステムの改修漏れ等が発見されないことがあり得る。
○ 上記の供述を踏まえると、毎月勤労統計調査に係るシステム改修の体制が、事務処理に誤りが生じやすく、発生した事務処理の誤りが長年にわたり発見されにくい体制となっていたことが、この問題の背景にあると言える。こうしたことから、本件についても、例えば、企画担当係から追加でシステム担当係に東京都における規模500人以上の事業所の抽出率を復元処理するための依頼を失念した、東京都の規模500人以上の事業所における産業ごとの抽出率等の必要な資料が渡されなかった、あるいは渡されたが、システム担当が東京都の抽出調査の導入に係るシステム改修をしないまま、その後ダブルチェックがなされず、長期にわたり復元処理に係るシステム改修が行われていない状態が継続した可能性が否定できない。
○ このことは職員・元職員のヒアリングの中で「単純なプログラムミスだと思う。」、「システム更改のタイミングでオペレーションが漏れたのではないかと思う。」といった供述が出ていることとも符合し、システム改修の過程において事務処理の誤りを生じやすく、事務処理の誤りのチェックが適正に行われにくい体制上の問題点は職員の間でも認識されていることがうかがわれる。
○ このように考えると、本件については、システム改修についての処理の誤りを起こした職員の責任もあるが、それ以上に処理の誤りを起こしやすく、誤りが誤りのまま実施されないように適切なチェック体制を整備せず、また、プログラム改修を部下に任せきりにしていた責任は重い。問題事案の的確な把握を怠った平成15(2003)年以降の統計情報部長及び政策統括官並びに雇用統計課長、雇用・賃金福祉統計課長、参事官(雇用・賃金福祉統計室)及び管理官(雇用・賃金福祉統計室)の責任こそが強く問われるべきである。
3.公表していた調査対象事業所数に比べて実際に調査した事業所数が少なくなっていることの評価等
○ 第2の3.のとおり、調査対象事業者数が約33,200事業所との年報あるいは月報における記載は昭和48(1973)年4月分の月報から記載されていたものであり、遅くとも今般問題となっている抽出調査の開始された平成16(2004)年以降の調査の担当職員らにおいて作為的に記載したというものではなく、また、後述のとおり、年報あるいは月報における記載が実際の調査方法と相違することを認識していた一部の職員・元職員らとしても、ことさら不正確な内容のものにしようとした意図までは認められないが、正確性や信頼性が強く求められる国の統計資料に誤った記載がなされたままであることを放置することは、重大な問題であり、問題の是正を怠ったものであると言え、到底許されるものではない。
○ すなわち、政策統括官付参事官(当時)Fによると、対外的に公表している調査対象事業所数に比べて実際の調査対象事業所数が少なくなっていることについて、「良くないと考え、予算担当の職員に予算を増やせないか相談したが、予算の作業が大変になるのでやめてくれと言われた」と述べている。
○ このように、公表されていた調査対象事業所数と実際に調査した事業所数が長年にわたり異なっている状態にあったにもかかわらず、こうした状態は是正されることなく、漫然と放置されていたものであり、不適切と言わざるを得ない。
○ 雇用統計課長(当時)Aは、公表していた調査対象事業所数と実際に調査した事業所数が異なることを認識していたにもかかわらず、漫然と調査を継続するのみならず、平成23(2011)年8月4日に総務大臣への申請を行うに当たって、この問題を上司や総務省に報告せず、是正の方策を検討することもないまま、調査計画に対象事業所数を記載することとなったが、平成23(2011)年8月15日に、平成24(2012)年1月調査からの抽出率逆数表を都道府県知事に送付しており、結果として、調査方法を是正する機会を逸しただけでなく、一連の行為の中で、統計調査方法の開示の重要性と法令遵守意識の両方が欠如していたものと言わざるを得ない。
○ さらに、平成23(2011)年8月4日の総務大臣への申請は、大臣官房統計情報部長(当時)Bの専決決裁を経た上で厚生労働大臣名で申請がなされている。この申請に係る決裁は、大臣官房統計情報部長の専決により行われた。この申請は、平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災の被災地である岩手県、宮城県、福島県の3県及び東京電力福島第一原子力発電所周辺の一部地域について、当面の間は調査を実施しないこととすること等に係るものであったが、基幹統計調査及び一般統計調査に係る承認申請等の手続に関する事務処理要領が施行されてから初めての申請となったため、当該事務処理要領に則って、全国調査の調査対象事業所数を「約33,000事業所」と明記した上で申請がなされた。この申請を受け、平成23(2011)年8月4日に総務大臣から厚生労働大臣に「変更を承認する」旨の通知がなされた。Bは当時、公表していた調査対象事業所数と実際に調査した事業所数が異なることを認識していなかったが、当該申請に係る決裁権者としてなど担当の局長級職員としての責任を免れない。
○ 雇用・賃金福祉統計課長(当時)D及びF、政策統括官付参事官(当時)F及びIは、調査計画に記載していた調査対象事業所数と実際に調査した事業所数が異なることを認識していたにもかかわらず、是正の方策を検討することもなく、漫然と従前のやり方を踏襲し調査を実施しており、結果として調査方法を是正する機会を逸した。このことは、法令遵守意識が欠如していたものと言わざるを得ない。
○ これについて、雇用・賃金福祉統計課長(当時)Dは、「一定の予算の範囲内で、サンプル数を単に増やしてしまうと都道府県の負担が増大するため、課長の立場からすると、調査対象事業数を減らすことはある意味仕方ない」「理論上は調査対象事業所数が少なかったとしても、適切に復元処理を行っていれば、一定の誤差の範囲に収めることができ、統計としての精度は確保できるため、統計手法としておかしいわけではない」と述べている。また、雇用・賃金福祉統計課長(当時)Fは、統計法に基づく総務大臣の承認を受けた調査計画に従い調査を実施しなければならないことを認識していながら、「自分の前任より前から長年にわたり続いてきたため、一定の予算の範囲内で、今から調査事業所数を実際に約33,200事業所に戻してしまうと、都道府県の負担も増加してしまう。都道府県から負担軽減を要望されている中で、実行上、軋轢を生むのを避けるため、やむを得ず前例を踏襲した」と述べている。しかし、統計の精度を確保しつつ、調査計画と齟齬することなく適切に統計を実施するための方策を考え、それを実行することは、担当参事官として当然のことであるにもかかわらず、それを怠り、結果として調査方法を是正する機会を逸した。こうしたことは、問題を意図的に隠そうしたことまでは認められないものの、法令遵守意識が欠如していたと言わざるを得ない。
○ また、大臣官房統計情報部長(当時)C及びE、政策統括官G、H及びJは、公表していた調査対象事業所数と実際に調査した事業所数が異なることを認識していなかったが、抽出替えや調査計画の変更申請などのタイミングにおいて、調査設計・実施方法について自ら的確に把握することを怠ったため、この問題を認識する機会を逸し、それを是正できなかったものであり、担当の局長級職員としての責任は免れない。
4.平成21(2009)年調査以降、東京都の規模30人以上499人以下の事業所の一部で異なる抽出率の復元が行われていなかったことの評価等
〇 毎月勤労統計調査の調査表の作成の基礎となる復元倍率について、平成21(2009)年1月の抽出替えに伴い、東京都と他の道府県(全国調査分)の抽出率を異ならせることとなったが、復元方法についてプログラム上必要な処置がなされなかった。
○ この時代においても、2.で指摘したような、事務処理に誤りが生じやすく、発生した事務処理の誤りが長年にわたり発見されにくい毎月勤労統計調査に係るシステム改修の体制の問題点は、引き続き解消されていなかったものと考えられる。
○ また、年報における抽出率の記載と東京都の規模30人以上499人以下の事業所における実際の抽出率が異なっている点については、毎月勤労統計調査の年報は、正確性が強く求められる国の統計の公表資料であることから、統計調査方法の開示の重要性を認識し、年報の記載について変更された抽出率に基づき、年報の抽出率の表に注釈を加える等の見直しを行うべく、担当者のみならず、管理職員を含め、確認を怠らなければ、年報の記載が事実と相違するような事態は起こらなかった。
○ このように考えると、本件についても、システム改修についての処理の誤りを起こした職員等の責任もあるが、それ以上に処理の誤りを起こしやすく、誤りが誤りのまま実施されないように適切なチェック体制を整備せず、また、プログラム改修を部下に任せきりにし、問題事案の的確な把握を怠り、かつ年報の記載についても担当者への適切な確認を促し、自らも必要な確認をすることを怠った管理職の責任こそが強く問われるべきである。
○ また、平成23(2011)年8月4日、毎月勤労統計調査の変更について、総務大臣から調査計画の承認を受けた際、調査対象事業所の選定の方法に係る項目において、全国調査のうち、常用労働者を常時30人以上雇用する事業所については、地域別に異なる抽出方法を行わないことを意味する「産業・規模別の層化無作為一段抽出」という方法によって抽出を行うことを調査計画に明記し、承認を受けていた。一方で、実際には、事業所数が多い東京都は地方調査を実施しない代わりに、鉱業,採石業,砂利採集業等の一部の産業における規模30人以上499人以下の事業所の調査について、それらの産業が極めて少ないという特殊事情に鑑み、全国調査において定められた全国一律の抽出率とは異なる抽出率を使用して全国調査として実施していた。これにより、承認を受けた調査計画と実際の調査方法との間に一部齟齬が生じることとなった。この際、規模500人以上の事業所についても、東京都のみ抽出調査を実施しており、調査計画と実際の調査方法との間に齟齬が生じることとなった。
○ この申請の内容について、雇用統計課長(当時)Aや担当係長は、これまで公表してきた調査方法を安易に申請書に記入したのであり、申請と異なる調査方法を実施したという認識はなかったと述べており、その後の担当者については、東京都の抽出率が他の道府県と異なることを認識している者はいたものの、「産業・規模別の層化無作為一段抽出」との申請と齟齬があるとの認識はないと述べている。このような齟齬が生じたことについては、「産業・規模別の層化無作為一段抽出」との記載は、地域別に異なる抽出は行わないという意味であり、地方調査の場合、都道府県によって抽出率が異なるのが当然であったことから、全国調査についても、地域によって抽出率が異なることに違和感を持たなかったことが要因として考えられる。
○ この調査計画の承認の申請は、大臣官房統計情報部長(当時)Bの専決決裁を経た上で、厚生労働大臣名で申請がなされている。Bは当時、東京都の規模30人以上499人以下の事業所において他の道府県と異なる抽出率によって調査を実施していることを認識していなかったが、当該申請に係る決裁権者として担当の局長級職員といての責任を免れず、法令遵守意識が欠如し、不適切な対応であると認められる。
5.平成27(2015)年1月調査からの事務取扱要領の見直しに係る事実関係に対する評価等
○ 平成26(2014)年4月の抽出替えに伴う事務取扱要領の担当課長である雇用統計課長(当時)Dは、「東京都の規模500人以上が実際には抽出調査であったことを隠す意図は全くなく、平成26(2014)年4月の事務取扱要領から記載を落とした理由は、既にだいぶ前から抽出調査で行われていること、特定の都道府県(東京)のことをわざわざ全国の都道府県に送付する事務取扱要領に書かなくても良いと考えたこと、都道府県には抽出率逆数表を示すので、あえて要領に記載しなくても実作業に影響はないと考えたことを踏まえたものである」と述べており、東京都の規模500人以上の事業所が抽出調査であることを隠蔽する意図があるとまでは認められなかった。
○ また、Dは、「事務処理要領はテクニカルな文書であるため、要領の改正について、上司である大臣官房統計部長に相談した記憶もないし、相談する必要もないと考える。また、隠蔽の意図はない。」と述べている。平成27(2015)年1月の抽出替えに伴う事務取扱要領については、決裁を取っておらず、各都道府県に送付されていた。過去の事務取扱要領は大臣官房統計情報部長の決裁を経ており、事務取扱要領が毎月勤労統計調査の実施に当たって重要であるとの認識を持っていたと考えられる。そうであるにもかかわらず、Dは決裁を取ることや上司に相談することなく、事務取扱要領の記載を変更する判断を行っており、文書決裁規程の解釈如何にかかわらず、不適切な対応である。
6.平成16(2004)年から平成23(2011)年の調査の再集計値の算出に必要な資料の一部の存在が確認されていないことに対する評価等
○ 平成16(2004)年から平成23(2011)年の調査の再集計値の算出には、先に述べたとおり、1平成19(2007)年1月分調査の旧対象事業所分の個票データ、2平成21(2009)年の抽出換え時点における旧産業分類の指定予定事業所名簿、3平成16(2004)年から平成22(2010)年までの雇用保険の事業所別頻数データの3つすべてが揃う必要がある。
○ このうち、1の個票データに関しては、平成19(2007)年1月は調査対象事業所の入替え時であったため、新旧対象事業所の両方を調査しているが、旧対象事業所分の個票データが確認されていない。このため、調査対象事業所入替え時のギャップ修正を行うことができない。当該個票データは、統計法第2条第11項に規定する調査票情報に該当し、平成19(2007)年1月当時、毎月勤労統計調査規則、行政文書分類基準表(厚生労働省文書管理規程に基づき大臣官房統計情報部雇用統計課が定めた行政文書の保存規則)において、少なくとも3年間は保存することとされていた情報である。その後、平成21(2009)年行政文書分類基準表においては5年間、平成23(2011)年行政文書分類基準表においては常用保存することとされた。また、平成23年4月には公文書管理法が施行され、厚生労働省文書管理規程に代わり定められた厚生労働省行政文書管理規則に基づき厚生労働省大臣官房統計情報部雇用・賃金福祉統計課が定めた標準文書保存期間基準においても常用とされた。このため、当該文書の保存期間は満了になっておらず、当該文書の存在が確認できないことは、標準文書保存期間基準等、調査票情報の取扱いに反するものであり、統計法及び公文書管理法に照らし、不適切な取扱いであると言わざるをえない。
○ また、2の名簿に関しては、平成22(2010)年に産業分類の変更を行った際に、新産業分類による抽出率逆数表を作成しておらず、再集計を行うためには、抽出率逆数表を作成しなければならない。このためには、平成21(2009)年の抽出換え時に作成した、旧産業分類の指定予定事業所名簿に掲載されている事業所を新産業で分類しなおさなければならず、その上で母集団事業所名簿を比較して抽出率逆数表を作成する必要があるが、当該指定予定事業所名簿は、行政文書分類基準表において、3年保存とされており、現在ではその存在が確認できない。当該指定予定事業所名簿の保存期間は満了しているものの、その廃棄に当たっての公文書管理法に基づく内閣総理大臣の同意の存在は確認できないものである。
○ 3の平成16(2004)年から平成22(2010)年までの雇用保険の事業所別頻数データに関しては、当時(公文書管理法施行前)の厚生労働省文書管理規程における1年未満の期間保存が必要な資料に該当し、永久保存が必要な資料には該当しないため、保存されておらず、その存在が確認されていない。
○ 当時の担当職員によれば、総務省のガイドライン改正を受けて、大臣官房統計情報部雇用統計課の標準文書保存期間基準を改正し、調査票情報の保存期間を「常用」とした。しかしながら、毎月勤労統計調査規則については平成29(2017)年8月10日の改正まで当該ガイドライン改正に伴う改正がなされなかったことは、文書管理に対する意識の低さを伺わせるものであるなど、統計法及びガイドラインへの適切な対応を怠ったものと言わざるを得ず、文書管理の責任者である課長級職員の責任は免れない。
○ 他方で、再集計を行うために必要なデータ等の一部は、いずれにしても、保存期間が満了しており、引き続き、それを確認するための努力が継続されるべきとしても、その存在が確認できない現時点では、当該期間については、再集計ができないことは事実である。
7.平成27(2015)年10月からの調査方法の見直し等の議論の中での事実関係に対する評価等
○ 雇用・賃金福祉統計室長(当時)Fは、これまでの調査方法の問題を認識していたにもかかわらず、漫然と調査を継続するのみならず、平成28(2016)年10月の変更申請に向けての総務省との協議の中で、同省担当者から調査計画に「規模500人以上の事業所については、全数調査とする」と記載するように指摘があった際に、これまでの調査方法の問題を上司や総務省に報告しなかった。Fは、調査の改善に向けての一連の議論や手続の過程において、規模500人以上の事業所はあくまで原則であり、東京都は例外扱いである、ということが読み込めるよう、「「原則として全数調査」としようとしたが、これまでとあまり変わらないなら従前のままにする」こととした旨述べており、結果として、調査計画と実際の調査方法を合わせて公表する機会を逸した。
○ 政策統括官(当時)E及びその後任の政策統括官(当時)Gは、これまでの調査方法の問題を認識していなかったこともあり、当該問題を是正するに至らなかったが、調査の改善のための議論を進める中で、調査対象事業所の選定方法を含めた毎月勤労統計調査の調査設計・実施方法について自ら的確に把握することを怠ったため、これまでの調査方法の問題を認識する機会を逸したものであり、担当の局長級職員としての責任は免れない。
8.平成30(2018)年1月調査以降の集計方法の変更に際しての事実関係に対する評価等
○ 雇用・賃金福祉統計室長(当時)Fは、これまでの調査方法の問題を前任の室長から聞いて認識していた。その上で、ローテーション・サンプリングの導入に伴い、一定の調査対象事業所を毎年入れ替える必要が生じるが、抽出率が年によって異なるため、東京都の分も適切に復元処理を行わなければローテーション・サンプリングがうまく機能しなくなると考え、東京都についても復元処理がなされるよう、システム改修を行うとの指示を部下に行っていたと述べている。この点、これまで東京都が抽出調査であったことを隠蔽しようとするまでの意図は認められなかった。
○ 一方で、Fは、ローテーション・サンプリングの導入により、プログラム改修の前後で集計結果に段差が生じると予想し、要因分析を行っていたと述べているが、集計方法の変更に関する一連の対応の中で、東京都の一部の事業所に関する復元処理による影響について、「東京都分を的確に評価すると誤差は0.2%程度であり、正直、誤差の範囲内であると思っていた」と述べており、復元処理による影響を過小評価し、これまでの調査方法の問題、さらには当該機能追加及びそれによる影響について上司への報告をせず、必要な対応を怠った。また、Fは東京都を抽出調査としていることの影響について、後任であるIに対し、復元処理の影響は大したことはない旨の誤った認識に基づく引継ぎを行っており、結果的に、Iが平成30(2018)年1月調査以降の給与に係る数値の上振れの要因分析をする際に、東京都を抽出調査としていることの影響を考慮しなかった原因を作り出しており、不適切な対応であると認められる。
○ 政策統括官(当時)Hは、在任中に当時の担当室長Fから「東京都の規模500人以上の事業所については全数調査を行っていない」旨の説明を受けた(説明を受けた時期は平成29(2017)年度の冬頃であったと述べている。)。その際Hが、公表資料と齟齬があるのであれば手続き的に問題であり、「然るべき手続きを踏んで修正すべき」旨指示したと述べているが、統計技術的な問題となる復元は当然行われていると思い込んでいたと述べており、その後の処理はFに委ね、放置した。Hが復元処理の有無を含めた調査設計・実施方法について自ら的確に把握し、部下であるFへの適切な業務指示及びその後のフォローアップ等を行っていれば、今般の事案に対する早期対応が可能となったと考えられることから、適切な対応を行わなかったと認められる。また、後任者であるJに対し、東京都の規模500人以上の事業所については全数調査を行っていない旨を引き継いでおらず、適切な対応を行う機会を逸した。
9.平成30(2018)年調査の実施に当たっての事実関係に対する評価等
○ 雇用・賃金福祉統計室長(当時)Fは、漫然と従前のやり方を踏襲し、一連の通知の中で、総務大臣から承認を受けた「500人以上事業所全数調査」とする調査計画に反する内容を通知させた。Fは、このような一連の行為の中で、調査方法の開示の重要性と法令遵守意識の両方が欠如していたものと言わざるを得ない。
○ また、指定予定事業所名簿及び指定事業所名簿は、政策統括官(当時)Hの決裁を経た上で政策統括官名により通知されているのは当時、これまでの調査方法の問題を認識していなかったためだが、当該通知及び上記通知に係る決裁権者としてなど担当の局長級職員としての責任を免れない。
10.平成30(2018)年1月調査以降の給与に係る数値の上振れの問題についての事実関係に対する評価等
○ 雇用・賃金福祉統計室長Iは、平成30(2018)年1月調査以降の毎月勤労統計調査における給与に係る数値の上振れについて、平成29(2017)年までの調査については東京都の規模500人以上の事業所に係る抽出調査分の復元処理を行っていないこと及び平成30(2018)年以降の調査では復元処理を行っていることを知りながら、前任者から東京都の抽出調査を復元していなかったことの影響は大きくないと聞いていたことから、これを当該上振れの要因分析において考慮せず、結果として不正確な説明を行った。
11.平成31(2019)年調査の実施等に当たっての事実関係に対する評価等
○ 神奈川県、愛知県、大阪府における規模500人以上の事業所を抽出調査とする内容の通知の担当部署の責任者であった雇用・賃金福祉統計室長Iは、これまでの調査方法の問題を認識していたが、標本数の多い都道府県で規模500人以上の事業所が増えてきている状況を踏まえ、都道府県の負担等を考慮し、総務大臣から承認を受けた「500人以上事業所全数調査」とする調査計画に反する調査方法を、漫然と継続して実施するのみならず、東京都に加えて他府県にも拡大しようとした。このことは、法令遵守意識が欠如していたものと言わざるを得ない。
○ 神奈川県、愛知県、大阪府における規模500人以上の事業所を抽出調査とする内容の指定予定事業所名簿の通知は政策統括官(当時)Hの決裁を経た上で政策統括官名により通知されている。Hは当該通知については認識していないとのことであるが、当該通知に係る決裁権者としてなど担当の局長級職員としての責任を免れない。
○ 神奈川県、愛知県、大阪府における規模500人以上の事業所を抽出調査とする内容の指定事業所名簿の通知は政策統括官Jの決裁を経た上で政策統括官名により通知されている。Jはこの時点では本件通知の問題点を認識していなかったが、当該通知に係る決裁権者としてなど担当の局長級職員としての責任を免れない。
○ 雇用・賃金福祉統計室長Iは、平成30(2018)年12月13日の統計委員会委員長及び総務省との打ち合わせにおいて説明が必要になったことを受けて初めて、これまでの調査方法の問題を政策統括官Jに報告したものであり、これまでの調査方法の問題を知りながら上司に報告せず、適切な対応を怠った。また、政策統括官J及び雇用・賃金福祉統計室長Iは、平成30(2018)年12月20日に厚生労働大臣に一報を行った際に、同月21日に予定していた毎月勤労統計調査の10月分確報の公表及びその内容について説明しなかったことについて、その時点では実態がきちんと分かっていない中で特に注記せずにそのまま公表すると判断した旨述べている。Iは大臣に報告をしなかった理由について、そこまで思いが至らなかったと述べており、意図的に報告をしなかったとまでは言えないが、このような対応は、慎重さに欠け、軽率な行為であった。
12.統計法との関係等
(1)統計法の規定
○ 平成19(2007)年に新しく制定された統計法の第9条第1項においては、基幹統計調査を行おうとするときは、あらかじめ、総務大臣の承認を受けなければならないこととされている。また、統計法第11条第1項においては、第9条第1項の承認を受けた基幹統計調査を変更しようとするときは、あらかじめ、総務大臣の承認を得なければならないこととされている。
○ 統計法第60条第2号においては、「基幹統計の作成に従事する者で基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為をした者」についての罰則が設けられている。「本号は、(中略)基幹統計の内容を意図的に歪めた者を処罰することを定めたものである。」、「基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為」とは、基幹統計を作成する過程において、通常の方法によって作成されるはずの結果と異なる結果を意図的に生ぜしめる不正な行為という。具体的には、基幹統計調査の実施に当たって、架空の調査票を捏造する行為、調査票に記入された報告内容を改ざんする行為、基幹統計調査の集計過程においてデータを改ざんする行為などが該当する。調査票の審査過程における適正な修正行為や基幹統計の精度を高めるために推計方法に改善を加える行為が「真実に反するものたらしめる行為」に当たらないことは言うまでもない。」と解されている。(平成21(2009)年2月「逐条解説 統計法」(総務省政策統括官(統計基準担当)))なお、統計法第60条第2号違反の罪の時効期間は3年である。
○ 明らかになった事実関係及び職員の証言等によれば、統計法との関係は、以下のとおりと整理できる。
(2)平成23(2011)年の変更承認に係る整理
○ 平成23(2011)年8月調査以降の毎月勤労統計については、全国調査の調査対象事業所数が約33,000事業所である旨や産業・規模別の層化無作為一段抽出で行う旨の記載を含む調査計画により、平成23(2011)年8月4日に統計委員会に諮問され、同日に総務大臣から厚生労働大臣に承認がなされている。その後の調査において、全国調査の調査対象事業所数をこれに沿ったものとしない場合や、地域別に異なる抽出方法を行う場合には、予めその旨の調査変更に係る総務大臣の承認を得なければならないが、その承認を受けないまま、約33,000事業所よりも1割程度少ない調査対象事業所数で全国調査を行うとともに、東京都の規模500人以上事業所についてのみ抽出調査を実施し、また、東京都の規模30人以上499人以下の事業所についてのみ全国調査として実施した。これにより、承認を受けた調査計画と実際の調査方法との間に一部齟齬が生じることとなったものであり、統計法第9条及び第11条に違反するものと考えられる。
(3)平成29(2017)年の変更承認に係る整理
○ 平成30(2018)年1月調査以降の毎月勤労統計については、「規模500人以上事業所については全数調査」である旨の記載を含む調査計画により、平成28(2016)年11月に統計委員会に諮問され、平成29(2017)年2月に総務大臣から厚生労働大臣に承認がなされている。その後の調査において、東京都における規模500人以上事業所について抽出調査を行う場合には、予めその旨の調査変更に係る総務大臣の承認を得なければならないが、その承認を受けないまま同抽出調査を行った。これにより、承認を受けた調査計画と実際の調査方法との間に一部齟齬が生じることとなったものであり、統計法第9条及び第11条に違反するものと考えられる。
○ もっとも、平成30(2018)年1月調査以降の調査においては、従来適切な復元処理が行われていなかったものについて復元処理が開始されており、これはより統計の精度を高めるためのものであるから、意図的に「基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為」(統計法第60条第2号)をしたとまでは認められないものと考えられる。
○ また、平成29(2017)年以前の調査については、総務大臣による承認を受けた調査計画には、規模500人以上事業所について全数調査を実施することが明記されておらず、その限りにおいては統計法第9条及び第11条に明確に違反するとまでは言えないものの、公表されている年報において、規模500人以上事業所については「抽出率1/1」及び「全数調査」と明記されていることを踏まえれば、いずれにしても、統計法の趣旨に照らして、不適切な対応であったものと考えられる。
○ 平成16(2004)年からシステムの改修が行われる直前の平成29(2017)年まで、抽出調査への変更に伴い必要となる復元処理が適切に行われなかったことについては、統計の精度に問題のある行為ではあるが、架空の調査票を捏造する行為、調査票に記載された報告内容を改ざんする行為、基幹統計調査の集計過程においてデータを改ざんする行為などではないことから、明確に「真実に反するものたらしめる行為」に該当するとまでは認められず、また、当時の担当者からのヒアリングによれば、調査結果に大きな影響を与え得るとの認識まではなかったということであることから、意図的とまでは認められないものと考えられる。
●第4.総括

 

○ 国民生活に直結する各種政策立案や学術研究、経営判断等の礎として、常に正確性が求められ、国民生活に大きな影響を及ぼす公的統計において、このような統計法違反を含む不適切な取扱いが長年にわたり継続しており、かつ、公表数値にまで影響を与えていたということは、信じがたい事実であり、言語道断である。
○ 今般の事案について調査を行った結果、まず浮かび上がってくるものは、担当者はもちろんのこと厚生労働省として統計の正確性というものに対するあまりにも軽い認識である。統計は「数値が物語る」ものであるのだから、どのような前提条件の下で行われた調査の結果得られた数値であるのかについては、綿密に明らかにしなければならない。これは、統計に携わる者としての基本中の基本である。統計は、調査方法により結果が変わるのであり、だからこそ、調査方法を正確に開示することは、結果と同じくらい重要であるということについて、考えが甘すぎると言わざるを得ず、行政機関としての信頼が失われた。
○ 今般の事案でも、適正な手続きを踏んだ上で抽出調査を行い、集計に当たってこれに適切に復元処理を加え、それをきちんと調査手法として明らかにしていれば、何ら問題はなかったとも言える。たとえ調査を行う地方自治体の事務負担への配慮があったにせよ、統計を歪めることなく、そのような制約条件の中で如何にして統計としての有効性を確保していくのかに知恵を絞るのが、統計に携わる職員としてのあるべき姿であろう。
○ また、統計がどのような形で利用されているのかということについて、想像力が著しく欠如していたと言わざるを得ない。今般の事案では、結果として、雇用保険、労災保険等において、多数の国民に対し、追加給付の支払いが必要な事態となっている。職員は、統計を単なる数値としてしか見ていなかったのではないか。その先にある国民の生活を想起すれば、このような杜撰な対応が長年にわたり継続するような事態にはならなかったであろう。
○ さらに、組織としてのガバナンスの欠如についても、指摘せざるを得ない。調査設計の変更や実施、システムの改修等を担当者任せにする管理者の姿勢、安易な前例踏襲主義に基づく業務遂行や部下の業務に対する管理意識の欠如により、統計の不適切な取扱いに気付いても、それを上司に報告して解決しようという姿勢が見られず、また、上司も調査の根幹に関わるような業務の内容を的確に把握しようとせず、長年にわたり漫然と業務が続けられ、結果として、外部からの指摘で初めて問題が公になる。これは、単に統計の問題に留まらず、行政機関としての信頼の問題である。
○ 今般の事案の背景には、専門的な領域であるからという理由で、統計に関わる部門が厚生労働省の中でいわば「閉じた」組織となってしまっていて、省内からあまり注目を浴びることもなく、その結果、統計行政がフレッシュな視点でチェックを受けることなく行われてきたこともあるのではないか。今般の事案を、単に統計に関わる部門が引き起こした問題と断じるだけでは、また、同じことが繰り返されかねない。厚生労働省が組織をあげて全省的に対応していく覚悟が問われている。
○ 本委員会としては、まず、厚生労働省に猛省を促したい。その上で、今後このようなことが二度と起きないよう、真摯に再発防止に取り組んでほしい。統計に携わる職員の意識改革を図るための研修の強化、統計部門の組織の改革とガバナンスの強化、統計に対して全省的に取り組むための体制の整備などが柱となろう。
○ また、統計は社会を映す鏡であり、その在り様は社会の在り様に合わせて不断に見直されていかなければならない。今般問題となった毎月勤労統計調査そのもののあるべき姿についても、時代の変化に対応したものとなるように点検していくことが求められているのではないか。
○ 最後に、本報告書で明らかになった事実関係及び関係職員の対応の評価に基づき、関係職員の厳正なる処分が行われることを望む。
   (以上)  
 
 

 


賃金水準の動向

現金給与総額

実質賃金

定期給与 所定内給与

 

 

前年比

製造業
前年比

前年比

製造業
前年比

前年比

前年比

 

 

 

2013

316,023

-0.2

-0.7

-0.7

-1.2

-0.8

-1.0

2014

319,171

0.5

1.8

-2.8

-1.6

0.0

-0.3

2015

315,859

0.1

0.4

-0.8

-0.5

0.3

0.3

2016

317,871

0.6

0.7

0.8

0.8

0.2

0.3

2017

319,442

0.4

1.5

-0.2

0.9

0.5

0.5

2017

10

269,385

0.4

1.1

0.0

0.7

0.4

0.5

 

11

280,345

1.0

1.4

0.2

0.7

0.5

0.4

 

12

557,195

0.8

2.4

-0.4

1.2

0.6

0.6

2018

1

273,961

0.7

0.4

-1.0

-1.3

0.8

1.0

 

2

266,460

0.8

1.1

-1.0

-0.7

0.5

0.5

 

3

285,151

1.8

3.1

0.5

1.8

1.0

0.9

 

4

277,657

0.2

1.5

-0.6

0.7

0.7

0.6

 

5

276,517

1.4

1.3

0.6

0.5

1.1

1.1

 

6

450,166

2.8

3.2

2.0

2.4

1.0

0.8

 

7

378,257

1.4

1.7

0.3

0.6

0.8

0.7

 

8

276,953

0.6

1.4

-0.9

-0.1

1.0

1.0

 

9

270,604

0.7

-0.1

-0.6

-1.4

0.4

0.5

 

10

272,229

1.1

1.1

-0.6

-0.6

1.1

1.1

 

11

r 285,196

r  1.7

r  3.3

r  0.8

r  2.2

r  1.3

r  1.3

      厚生労働省「毎月勤労統計調査」
      (注1) 規模5人以上。
      (注2) 東京都の「500人以上規模の事業所」についても復元して再集計した値。