株価暴落 賢明なFRB

FRB 利上げ判断継続

ちょっと頭を冷やしてください
ストップ ザ ミニバブル 
 


FRB利上げ判断への反応日米株価のピーク連邦準備制度(FRS)FRBアメリカ金融政策の決定・・・
マイナス金利政策マイナス金利導入史アベノミクスに望まれる経済政策・・・
 
 
 

 

FRB 独立性堅持
トランプ大統領に対峙 独自の金融政策表明
利上げ判断継続
 
 

 

日本銀行 独立性放棄
安倍総理の方針 忖度追随
マイナス金利導入 袋小路
 
 
 
 

 

●FRB利上げ判断への反応  
ドルは112円半ば、FOMC議事録や株高支え−米利上げ継続観測 2018/1
➞ ドルは朝方の112円48銭から112円78銭まで上昇後は上値重く伸び悩む
➞ パウエル新議長就任でも3月米利上げ期待変わらない−JPモルガン
東京外国為替市場のドル・円相場は小じっかり。前日に発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録や良好な米経済指標を受けて、米利上げ継続観測が強まったほか、日米株高を背景にリスク選好の動きも支えとなり、ドル買い・円売りが先行した。
ドル・円相場は4日午後3時56分現在、前日比ほぼ変わらずの1ドル=112円55銭。朝方の112円48銭を安値に水準を切り上げ、一時112円78銭まで上昇した。その後伸び悩み、午後には朝方の上げ幅を解消した。主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は一時0.1%上げたが、その後下落に転じている。
JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は、「米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを継続し、リスクオンで株高。パウエル新議長が就任しても3月の米利上げ期待は変わらない」と説明。「米雇用統計はそれほど強気な見方ではないが、米利上げは既定路線なので、ドル・円も大きく動かないのではないか」と言い、今週は112円台で推移する可能性が高いとの見方を示した。
大発会4日の東京株式市場は3営業日ぶりに大幅反発。日経平均株価は前営業日12月29日比741円39銭(3.3%)高の2万3506円33銭と約26年ぶりの高値で取引を終えた。時間外取引で米10年債利回りは一時2ベーシスポイント(bp)高の2.47%程度まで上昇した。
米連邦準備制度理事会(FRB)が3日公表したFOMC議事録(12月12、13日開催)によると、大部分の参加者はフェデラルファンド(FF)金利誘導目標のレンジ引き上げで漸進的なアプローチの継続を支持した。同日発表の12月米供給管理協会(ISM)製造業景況指数は前月から上昇し3カ月ぶりの高水準だった。米国株は続伸し、主要指数は過去最高値を更新した。
オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)取引に基づき推計される3月の米利上げ予想確率は4日時点で68.9%程度。2日時点では65.1%だった。この日はセントルイス連銀のブラード総裁が講演する。
三井住友信託銀行ニューヨークマーケットビジネスユニットの矢萩一樹調査役(ニューヨーク在勤)は、「議事録はタカ派的に捉えられたと考えていいと思う。議事録のような内容をFRB高官が今後も発言していくなら、ドル・円はもっと上昇してもおかしくない」と指摘。「ISM製造業指数が良かったこともあり、雇用統計もあまり悪い数字は出ないのではないか」と述べた。
5日発表の12月米雇用統計の市場予想によると、非農業部門雇用者数は前月比19万人増加、失業率は4.1%が見込まれている。11月は22万8000人増加、4.1%だった。
ユーロ・ドル相場は同時刻現在、0.1%高の1ユーロ=1.2028ドル。ユーロ・円相場は0.2%高の1ユーロ=135円38銭。  
 
 
 2018/ 6

 

ドル・円、3週間ぶり高値−米追加利上げ観測でドル高の流れ継続 2018/6/13
➞ ドル・円は一時110円69銭と5月23日以来の高値
➞ FOMCを受けた年内利上げ回数の織り込みが焦点に−野村証
東京外国為替市場のドル・円相場は続伸し、5月23日以来の高値を更新した。米連邦公開市場委員会(FOMC)での追加利上げを見込んだドル高の流れが継続したほか、株高などのリスク選好の動きも支えとなった。
ドル・円相場は13日午後3時25分現在、前日比0.2%高の1ドル=110円57銭。FOMCの政策決定を控える中で、日本株の上昇も後押しとなり、一時110円69銭まで上昇した。主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は前日比0.2%高で推移している。
野村証券外国為替部の高松弘一エグゼクティブ・ディレクターは、ドル・円について「今回のFOMC会合で利上げをして、そのあと年内に金利水準がどこまで上がるのかを織り込むのかが焦点になっているが、ドル買いで利上げを織り込みに行っている」と説明。その上で、「米朝首脳会談をこなして米株がしっかり、日本株もしっかりで推移しており、リスクオンの流れになっている」と述べた。
FOMCは日本時間の14日午前3時に政策決定を公表し、最新の経済予測とFOMC参加者の金利予測を分布したドット・プロットも示す。パウエルFRB議長は同午前3時半に記者会見を開く予定だ。
オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)マーケッツ本部の吉利重毅外国為替・コモディティー営業部長は、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利誘導目標の引き上げが確実視される中で、「その先の利上げペースに対するコミュニケーション、パウエルFRB議長の記者会見やドットプロットの変化が注目」と指摘。今回のFOMCでの利上げに加え、年内あと2回の利上げが確実視される場合には、「ドル・円は5月21日高値111円40銭も十分に届く動きになっていきそう」と述べた。
FOMC後の為替相場の展開について、野村証券の高松氏は「米長期金利が年初最高水準の3.12%を超える動きは微妙とみられているが、3%や3.1%を超えていく過程で株や資源国通貨などのリスクセンチメントがどこまで耐えられるか。そして、それを受けてドル・円もどこまで耐えらえるかが気になる」と述べた。 
ドル/円欧米市場動向 FRBの利上げ継続観測からドル買い!2018/6/21
欧州市場朝方の取引では、ドルは主要通貨に対して概ね前日比小幅高で推移し、欧州株はやや反発気味だった。欧州時間に予定されているドラギECB総裁やパウエル米FRB議長、黒田日銀総裁などのパネル討議を控えて様子見ムードが強まり110.20円を挟んだもみ合いとなった。オーストリア中銀のノボトニー総裁がユーロの値動きについて、対ドルで弱含むとの見方を示すと、ユーロはドルや円に対して売りが強まった。ドル/円はユーロ・円につれ安となった。欧州株は全面高、NYダウ先物も堅調地合いとなり、前日のリスク回避的な円買いは後退した。ただ、株高にも米長期金利が2.90%台付近から伸び悩んだことからややドル売りが優勢となった。『中国は米関税に強い対抗措置を講じると表明した』との一部報道が伝わると109.95円まで下押ししたが、反応は一時的だった。その後、パウエル米FRB議長がパネル討議で『段階的な利上げを継続する根拠が強い』『雇用市場は一段と強く、賃金成長を後押ししている』と述べると、米長期金利の上昇とともに110.20円台まで切り返した。一旦下落したものの、NYダウが上げに転じたことで円売り・ドル買いがじわりと強まった。パウエルFRB議長がECBフォーラムで、米国経済が非常に良好で、インフレもFRBの目標である2%に近づいたとし、『緩やかな利上げ継続の根拠が強い』とさらなる利上げを示唆したことから、米長期金利の上昇などを手掛かりに円売り・ドル買いが強まった。
パウエル米FRB議長の発言から、米国は引き続き利上げ継続されるとの観測から米長期金利が上昇したことを受け、ドル高・円安が継続した。昨晩の欧米市場でのレンジは109.95円〜110.45円となった。上下限を抜けると、短期筋などのストップロスが入りやすくなり、加速的な動きとなりやすいので注意。米長期金利が再び上昇してきたことから、ドルは底堅い展開となりやすい。 
 
 
 2018/ 7

 

FRB議長の『議会証言』、緩やかな利上げを継続へ 2018/7/17
米国の連邦準備制度理事会(FRB)は、年に2回、金融政策に関する報告書を議会に提出し、併せて上院と下院で議長が証言を行います。これによって、最大雇用と物価安定の実現というFRBの2つの責務達成への見通し、方策を確認することができます。7月17日に上院銀行委員会で行われた今回の『議会証言』で、パウエルFRB議長は、良好な米国の景気、物価情勢を踏まえ、「緩やかな利上げの継続が妥当」と述べました。
経済は堅調に拡大、物価は低い水準で安定
パウエル議長は『議会証言』で、米国経済の見通しについて、(1)良好な金融環境、(2)家計、企業の資金需要に十分、対応しうる、より堅固な金融システム、(3)拡張的な財政政策および減税、(4)引き続き堅調な海外経済、等に支えられて拡大を続け、物価上昇率は今後数年にわたってFRBの目標である+2%近傍で推移する、と述べました。
失業率のさらなる低下を見込む
米国の失業率は、今年上期の平均で4.0%と、およそ18年ぶりの水準近傍まで低下しましたが、パウエル議長にインフレ高騰を懸念する様子は見られません。失業率が下がったにもかかわらず賃金上昇が緩慢なものにとどまっていること、アフリカ系やヒスパニック系の失業率になお改善の余地があること等が理由であり、さらなる失業率の低下を見込んでいます。
一方、経済見通しに対する不透明要因として、トランプ政権による保護主義的な通商政策の影響や、財政支出増加の景気押し上げ効果の規模および、効果が発現する時期等が挙げられました。
今後の展開
景気が拡大を続け、物価上昇率も+2%近傍で安定した動きとなっていること等から、パウエル議長は「当面は、緩やかなペースで利上げを継続するのが最善の道」と述べました。問題は、利上げの最終的な着地点ですが、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーによる政策金利の長期予測の中央値が+2.9%であること等を踏まえると、+3.0%前後がひとつの目安になると考えられます。
パウエル議長の『議会証言』が行われた7月17日の米国市場では、米ドルが日本円、ユーロ等の主要通貨に対して買われ、株価が上昇しました。なかでもナスダック総合指数は、終値ベースで史上最高値を更新しました。パウエル議長の米経済に対する楽観的な見通しと、漸進的な利上げ継続の方針を好感したこと等によるものです。一方、10年国債利回りは小動きにとどまりました。 
 
  
 2018/ 8

 

トルコ以外の新興国も資本流出が本格化する 2018/8/15
 FRBの利上げ継続が原因、先行きを甘く見るな
金融市場にはトルコショックの余波が続いており、ドル円相場は1ドル=110.50〜111円の直近安値圏で推移している。
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は利上げも国際金融支援も退け、米国による追加関税拡大の原因となっている米国人牧師解放にも応じず、ひたすら流動性供給と資本規制だけで対応している。そんなスタンスが市場から評価されるはずもなく、混乱がはっきりと収束する見通しは今のところ立っていない。13日にはこの流れを受けて通貨安に歯止めがかからなくなったアルゼンチン中銀が主要政策金利を従来の40%から45%に引き上げている。後述するように、こうした連鎖は相応に続く可能性がある。
筆者はアメリカが利上げに耐えられるとしても新興国がそうとは限らないという論点を繰り返し強調してきた。そうした懸念の背景にはFRB(連邦準備制度理事会)の緩和環境を前提として新興国に流入していた巨額の資本の存在がある。
ここで少しだけ過去を振り返ってみたい。2010年以降の新興国投資ファンドへの累積資本流入額を見ると、欧州債務危機を横目に見ながらFRBが金融緩和の強化に励んだ結果、一方的な流入が続いた。しかし、2013年5月の議会証言でバーナンキFRB議長(当時)が段階的な量的緩和(QE)の縮小(いわゆるテーパリング)を示唆すると一気に逆流へ転じ、2016年初頭までの約2年半にわたって資本流出が続いた。
いわゆるテーパータントラム(Taper Tantrum、Temper Tantrum「かんしゃく」をもじったもの)が取り沙汰された時期であり、これがFRBの正常化プロセスのペースにブレーキをかけたこともあった。ちなみに、同期間は新興国経済の景気減速局面と合致している。たとえば途上国全体のPMI(購買担当者景気指数)などを見ると、2015〜16年初頭にかけては好不況の分かれ目とされる50を割り込む状態が定着した。先進国および世界全体では50を超えていたが、新興国だけは50割れとなっていた。
2016年入り後に原油価格が1バレル=30ドルを割り込んだのはFRBの緩和縮小に伴い投機資金が縮小したこともあろうが、そもそも新興国経済の停滞により実需が縮小したという側面もあっただろう。FRBの緩和縮小で資本流入が細ったために(資源国でもある)新興国の成長が減速したのか、それとももともと新興国の景気循環縮小局面だったのか、もしくはその両方だったのかは定かではないが、この局面ではNYダウ平均もほぼ横ばいとなり、ドル円相場の一方的な上昇も反転するなど、市場全体で元気のない局面であった。さしずめ、FRBの正常化プロセスに伴う第1次資本流出とでもいうべき局面だろうか。
その後、2016年後半に入ると新興国経済も持ち直し、世界経済は再度拡大局面に入る。テーパータントラムにより及び腰になったFRBの正常化プロセスが遅れたため、完全雇用状態にある米国経済の資産価格が騰勢を強め、これが他国にも波及したというのが筆者の基本認識である。たとえばFRBスタッフ見通しにおける長期失業率(≒自然失業率)見通しは2013年3月時点で5.6%であったが、そこから3年後の2016年6月の失業率は4.9%まで下がっていた。
それでもその時点で利上げは1回しかできておらず、バランスシート縮小に至っては当分先の話だと考えられていた。2015年8月にチャイナショック、2016年6月に英国のEU離脱方針決定、同年11月にドナルド・トランプ大統領誕生という巨大なリスクオフイベントが続いたため、緩和解除に慎重にならざるをえなかったという不可抗力があるが、世界最大の経済である米国において「完全雇用下での緩和継続」という状況が許容された結果、米国内外に資産市場の騰勢がもたらされたという疑いは強い。
ちなみに米国の直近のデータで失業率は2018年7月に3.9%まで下がっており、これに着目すればFRBが正常化プロセスに邁進することはうなずける。だが、繰り返しになるが、FRBの金融緩和を前提に資本流入を当て込んできた新興国の動揺は不可避である。7月の筆者記事「FRBは新興国通貨を本当に追い詰める段階に」でもIMF(国際通貨基金)の分析を引用して議論したように、2014年以降、新興国に流入した資金の9割弱が米国の金融緩和要因によるものであり、新興国のファンダメンタルズに起因する部分は1割程度である。
秋からバランスシートの縮小に着手し、四半期ごとの迷いなき利上げが続けられている以上、新興国からの資本流出は当然の帰結であり驚くべきものではない。市場参加者として関心があるのは「何がきっかけでそれが加速するか」だろう。この点、前掲の資本流出入の動きを見ると、2018年4月に流入がピークアウトし、5月から第2次流出局面が始まったように見受けられる。要するに、5月初旬に見られたアルゼンチンペソ急落がきっかけとなった疑いがある。今、直面しているトルコショックが第2次資本流出局面の到来を決定づけたのかどうかという目線で現状を評価したい。
今、トルコで起きているパニックの大部分はエルドアン大統領に特有の政策運営(利上げの妨害・米国人牧師の解放拒否・IMF融資要請拒否など)に起因しており、他の新興国とリンクさせるべきではないという考え方もあろう。しかし、欧州債務危機時も本当に公的部門に問題を抱えているのはギリシャとイタリアくらいであったが、「経常赤字国である」という一点だけを理由に、本来は財政黒字であったスペインやアイルランドなどもPIIGSと一括りにされ危機が連鎖した。
今回もエルドアン大統領ほどの政治的リスクを抱える国が少ないとはいえ、そもそも対外経済部門に脆弱性を抱える新興国は多く、トルコショックを契機として過剰に流入していた資本が新興国から継続的に流出する恐れはある。実際、足元を見ても下落幅の大きな通貨は往々にして経常赤字国である。
トルコリラやアルゼンチンペソは世界有数の経常赤字国通貨であり、この2通貨がとりわけ騒がれているのは偶然ではない。また、その2通貨の変化率が巨大すぎるために相対的に目立たなくなっているが、南アランドやブラジルレアルも約10%とかなり大きな下落幅となっている。この局面に至っては、「トルコリラだけは特別だから」という言い分は通用しづらくなっている。
第2次資本流出局面が始まった疑いのある中、果たしてFRBが現行の正常化プロセスをこれまで通り敢行できるのか。9月会合までまだ時間はあるが、この状況が続けば少なくとも声明文では国際金融市場のリスクとして言及しなければならないような事態と見受けられる。これは、利上げ見通しにどの程度影響し、米金利およびドル相場はどの程度動くのか。筆者は引き続き年内にFRBの正常化プロセスが終着点に到達し、米金利、ドル共に下方向に振れる展開を予想している。 
トランプ氏はパウエルFRB議長に不満、低金利期待が外れ 2018/8/21
トランプ米大統領は自身が指名したパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長について、低金利政策を推進すると見込んでいたが逆に金利を引き上げていると、ニューヨーク州サウサンプトンで17日に開かれた資金集めのイベントで共和党支持者に不満を漏らした。イベントの出席者3人が明らかにした。トランプ氏の大統領就任以降に米金融当局は5回利上げしており、うち2回はパウエル氏が議長になってから実施した。FRBの議長と理事は大統領が指名するが、連邦準備制度自体は独立しており、過去の大統領も、政治を考慮せずに利上げを実施する金融当局に不満を抱くことがあった。
トランプ大統領はこれまでも、最近の利上げに公然と不満を表明してきたが、今回の非公開のイベントでの発言は、パウエル議長に対する最も直接的な批判に当たる。G10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は、この発言が報じられた直後に下落した。トランプ大統領はロイター通信が20日に伝えたインタビューでも、他の国・地域は米国と貿易摩擦を繰り広げる中、中央銀行の行動に助けられていると発言。「この期間中、金融当局は私を多少でも助けるべきだ。他の国・地域では中銀が便宜を図っている」とした上で、米金融当局が利上げを継続するなら批判を続けるつもりだと述べた。トランプ大統領はまた、米国の主要貿易パートナーである中国と欧州連合(EU)について、為替を操作していると非難した。大統領は貿易問題で中国とEUから譲歩を引き出そうとしている。トランプ大統領はロイター通信とのインタビューで、「私は中国が為替を操作しているのは間違いないと思う。ユーロも操作されているとみている」と述べた。G10通貨の対ドル上昇をユーロがけん引した。ファンドがアジア取引でユーロなどの売りポジションの買い戻しを余儀なくされたとトレーダーは説明した。ロイターが説明抜きに引用したトランプ大統領の為替発言は米政府の調査結果と異なっている。米財務省は4月に公表した半期に一度の為替報告書で、中国やEUを含めいかなる国・地域についても為替操作の認定を見送った。トランプ大統領は先月19日、経済専門局CNBCとのインタビューで、金融当局が借り入れコストを引き上げ、経済を減速させている可能性があるとして、「うれしくない」と述べた。これは、金融当局の独立性を尊重して大統領は金融政策にコメントしないという20数年間続いていた規範を破る発言だった。
米金融当局は、過去の景気拡大局面より緩やかなペースで利上げを進めている。失業率が4%を割り込み、このところ経済成長が加速していることを考慮すれば、金利は過去の水準から見て低い。パウエル議長ら当局者は、目標の2%を大幅に超過する兆候を見せないインフレ率を根拠に、利上げに慎重なアプローチで臨んでいる。直近の6月の利上げによりフェデラルファンド(FF)金利誘導目標は1.75−2%のレンジとなった。ほとんどのエコノミストはこの水準を中立金利より1ポイント前後下回っており、現在でも米経済成長の減速ではなく、加速を促しているとみている。ホワイトハウスのギドリー報道官とFRBのデービッド・スキッドモア報道官はいずれもコメントを控えた。 
トランプ大統領の利上げ牽制発言に大きなリスク 2018/8/21
トランプ大統領が金融政策に再び言及
トランプ大統領が、利上げを進める米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長への不満を示したとの報道を受けて、本日の為替市場はほぼ2か月ぶりの水準まで円高ドル安が進んだ。
トランプ大統領は先週末の会合で、利上げを進めるパウエル議長について、「低金利継続を期待して議長に指名したのに、利上げを続けている」などと不満を表明したとブルームバーグ社が報じた。また、ロイター通信社のインタビューに応じたトランプ大統領は、パウエル議長が利上げを継続する方針であることについて、「気に入らない」と述べたという。
今年7月にもトランプ大統領はFRBの利上げに不満を表明し、その直後にムニューシン財務長官は、トランプ大統領と自分は今もFRBを完全に支持していると語るなど、火消しに回った経緯がある。この際には、トランプ発言は政府が中央銀行の政策に介入するものとして多くの批判を受けたが、そこからわずか1か月で、トランプ大統領は同じ問題発言を行ったことになる。
折しも、トランプ政権は現在トルコ政府と対立を強めている。トルコ・リラの下落に歯止めが掛からない大きな理由の一つは、エルドアン大統領が中央銀行の政策に露骨に介入し、通貨防衛を狙った利上げ策の実施を妨げていることにある。トランプ大統領は、こうした点に全く学んでいないことになる。
市場では2つの見方が拮抗か
トランプ大統領の発言が為替市場で円高ドル安を生じさせたことは、市場がFRBの利上げペースが緩やかになる可能性を意識し、織り込んだことを反映している。他方、米国の債券市場、株式市場はともに上昇しており、トランプ発言の影響は明確には見られない。しかしこれは、トランプ大統領の発言についての金融市場の評価が分かれていることを反映している面があるのではないか。
市場の評価の第1は、トランプ大統領の牽制によってFRBは、先行き、利上げペースを落とさざるを得なくなり、その結果、中長期的にインフレリスクが高まってしまう。いわゆるビハインド・ザ・カーブのリスクが高まる可能性だ。この場合には、長期金利が上昇、イールドカーブがスティープ化する。これは株式市場にも打撃となろう。第2は、FRBが政治介入をはねつけ、その独立性を誇示する観点から、むしろ以前よりも金融引き締めに前向きになることだ。この場合、先行きのインフレ期待が低下するとともに景気悪化懸念(いわゆるオーバーキル観測)が浮上し、長期金利が低下、イールドカーブがフラット化する。金融引き締め強化による景気悪化懸念から、株式市場には大きな打撃となろう。
現状はこうした2つの見方が拮抗し、互いに打ち消し合う中で、金融市場の反応が結果として限られて見えている可能性があるだろう。しかしひとたび両者のバランスが崩れれば、金融市場は俄かに不安定化し、株価の下方リスクが高まる可能性がある。
金融市場の反応が大きくないことに慢心し、トランプ大統領が金融政策を牽制する発言を今後も繰り返せば、いずれはこのような大きな市場の反応を招いてしまう可能性があるのではないか。  
米、段階的利上げ継続 FRB議長、9月決定へ 2018/8/25
米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は24日、西部ワイオミング州ジャクソンホールでの経済シンポジウムで講演し「米経済は力強い」との認識を示し、段階的に利上げを続ける方針を改めて強調。9月下旬に開かれる次の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ決定を示唆した。.
パウエル氏は「所得と雇用の力強い拡大が続けば、さらなる段階的な利上げが適切になるだろう」と語った。11月の中間選挙を控えて高成長を保ちたいトランプ米大統領は利上げを批判しているが、当面は利上げ路線を堅持する考えを示した形だ。.
パウエル氏は今年2月に就任しており、議長として同シンポジウムでの初の講演となった。良好な家計支出や雇用創出に加え、大型減税など財政による景気刺激策に触れて「米経済は力強い状態が続くと見込める理由がある」と先行きを楽観視した。. 
 
 
 2018/ 9

 

FRB利上げ継続観測でドル上昇、対円で9カ月ぶり高値=NY市場 2018/9/28
ニューヨーク外為市場では、米連邦準備理事会(FRB)が2020年まで利上げを継続するとの見方からドルが買われ、対円で9カ月ぶりの高値を付けた。イタリア予算案を巡る懸念がユーロの重しとなったことことも作用し、ドル指数は2週間ぶりの水準に上昇した。
主要6通貨に対するドル指数.DXYは7─9月は0.5%上昇し、四半期ベースで2四半期連続での上昇となる見通し。ドルは過去6カ月で約6%上昇している。
タイラー・グローバル・ビジョン(ニューヨーク)のプレジデント、ジョン・タイラー氏は、「ドル相場を押し上げている要因には変わりがない」とし、「世界経済に減速の兆しが見られる中、通商戦争も継続している。こうした状況下で米国の金利が上昇していることは、先進国通貨であれ、新興国通貨であれ、循環に敏感な通貨に対する主要なバリアとなる」と述べた。
終盤の取引でドル指数は0.3%高の95.144。3日続伸となった。
ドル/円JPY=は113.66円と、9カ月ぶりの高値を更新。終盤の取引では0.2%高の113.59円となっている。
この日発表の米経済指標は、8月の個人消費支出が前月比0.3%増となったほか、9月の米ミシガン大消費者信頼感指数(確報値)が100.1と今年3月以来の高水準となり、米経済が安定的な成長軌道に乗っていることが示された。
ユーロ/ドルEUR=は一時、2週間ぶりに1.16ドルを下回った。終盤の取引で0.2%安の1.1613ドルとなっている。
イタリア連立政権は前日、来年度の予算案を巡り財政赤字の対国内総生産(GDP)比率を2.4%とすることで合意。同予算案を巡る懸念が重しとなり、ユーロは前日の取引で約2カ月ぶりの大幅な下落となっていた。 
 
 
 2018/10

 

トランプ大統領「FRB狂った」 株価急落受け非難 10/11
トランプ米大統領は10日、米利上げ継続観測を背景に株式相場が急落したことを受けて「連邦準備制度理事会(FRB)は狂ってしまった。引き締め過ぎだ」と連日のFRB批判を展開した。選挙遊説先のペンシルベニア州で記者団に語った。大統領が独立機関のFRBを名指しで非難するのは、極めて異例だ。
FRBは米経済の過熱を防ぐため、政策金利を3カ月に1回のペースで引き上げている。11月の中間選挙を控えて好景気を保ちたいトランプ氏は、9日にも「早く動く必要はない」と利上げを急ぐ必要はないとの見方を示していた。
「FRBは気が変」とトランプ氏、株価急落で不満 10/11
トランプ米大統領は10日、遊説先の東部ペンシルベニア州で記者団に対し、この日の株価急落について「実際は長らく待っていた調整だ」と語った。
また、政策金利の引き上げを続ける連邦準備制度理事会(FRB)に「賛同しない」と指摘したうえで、「(FRBは)気が変になっていると思う」と述べ、金融引き締めに対する不満をにじませた。大統領が独立機関のFRBを名指しで非難するのは、極めて異例。
FRBは米経済の過熱を防ぐため、政策金利を3カ月に1回のペースで引き上げている。11月の中間選挙を控えて好景気を保ちたいトランプ氏は、9日にも「早く動く必要はない」と利上げを急ぐ必要はないとの見方を示していた。 
米利上げ回数の予想が後退、「来年末までに3回」に疑問符ー株安で 2018/10/11
➞ 来年末までに3回目の利上げの確率は80%前後に
➞ 今年12月の利上げ確率は81%から74%に低下
世界的な株安の中で、トレーダーらは連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げ回数予想を後退させた。
短期金融市場が完全に織り込む来年末までの利上げ回数は2回となり、3回目の確率は80%前後と見なされている。9日には3回以上の利上げが完全に織り込まれていた。今年12月の利上げ確率は81%から74%に低下した。
米当局は2015年12月以降、8回の利上げをしている。ナスダック100種株価指数は10日に4%余り下落し、過去7年間で最悪の下げとなった。11日のアジア株も下落した。 
ダウ平均が連日下落、トランプ大統領「FRBは制御不能」 10/12
アメリカのトランプ大統領は11日、金利の引き上げが続くという観測を背景にダウ平均株価の下落が続いていることについて、「FRB=連邦準備制度理事会は制御不能だ」と前日に続いて非難しました。
「FRBは制御不能だ。彼らがやっていることは間違っている」(トランプ大統領)
トランプ大統領は、金利の引き上げが続くという観測を背景に11日もダウ平均株価が連日下落したことについてこのように述べ、10日に続いてFRBを名指しで非難しました。FRBのパウエル議長については、「彼を解任するつもりはない。ただ、利上げに失望しているだけだ」と述べました。
トランプ氏は、外国為替市場についても「ドルが非常に強く、企業にとって若干の困難を引き起こしている」と語り、ドル高をけん制しました。 
株式相場は20%急落が必要か、「Fedプット」期待なら 2018/10/12
➞ 米当局の大規模な政策見直しには15−20%調整必要−エバコア
➞ 株安を米金融当局は恐らく重大視していない−ウエストパック銀
米金融当局が市場を救ってくれると期待している人は、失望するかもしれない。事態が今よりずっと悪くならない限り、そうした状況が生まれる公算は小さい。
こう指摘するのは、エバコアISIで中央銀行の戦略分析責任者を務めるクリシュナ・グハ氏だ。S&P500種株価指数は10日に前日比3.3%安と、2月以来の大幅下落となったが、米金融当局の注意を引くには少なくとも10%の調整が必要だと同氏はみる。また、仮にそうした事態になったとしても、想定される利上げ路線の変更には恐らく至らないだろうと言う。
グハ氏は「Fed(米金融当局)が政策を大きく見直す必要に迫られるとすれば、15−20%という、もっとずっと大きな調整が必要になろう」とリポートで指摘。信用スプレッドと為替レートのボラティリティーを当局が考慮する公算も大きいと論じた。相場急落時に米当局が金融政策を緩和するとの考えは、「Fedプット」という言葉で知られる。
S&P500種が9月に付けた終値ベースの最高値2930.75から10%下げた水準は約2638となり、10日の終値(2785.68)を大きく下回る。20%急落となれば2345。2017年半ば以来の水準だ。
ウエストパック銀行のシニアストラテジスト、ショーン・キャロー氏もグハ氏と同様の見方だ。キャロー氏は米金融当局が自国経済の堅調さに自信を示していることを挙げ、当局は恐らく株式相場下落を「成長とインフレの見通しに実質的な影響はない」とみているとリポートで言及。少なくとも当面は「Fedプットという考えは葬り去ろう」と記した。 
 
 
 2019

 

FRB、ハト派急旋回のドタバタ劇 2019/6/24
 「鏡に映った自分」に怒るトランプ大統領
注目された6月18〜19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、アメリカの政策金利である「フェデラルファンド(FF)金利」の誘導目標を2.25〜2.50%に据え置くことを決定した。
FOMCの会合後に公表された声明文の修正ポイントは2点。
(1)利上げに「忍耐強く(patient)」あるとの文言を削除したこと、その代わりに(2)「適切に行動する(act as appropriate)」との文言を加えたことである。
さらに「見通しに対する不透明感が高まった(uncertainties about this outlook have increased)」との記載も加わったことを踏まえれば、利下げの"露払い"という整理で良さそうだ。
焦点は利下げの「有無」から「幅」へ
今回はセントルイス連銀のブラード総裁が0.25%の利下げを主張して却下されているが、FOMCメンバーの金利見通し(ドットチャート)では2019年末までに0.25%か0.5%の利下げを見込むメンバーが17人中8人と半数近くに達している。年内の焦点は利下げの「有無」ではなく「幅」(0.25%なのか、0.5%なのか)に移ったと考えて良いだろう。
ドットチャートを詳しく見ていくと、前回公表された3月時点では17人中11人が現状維持、4人が1回利上げ、2人が2回利上げを想定していた。つまり、利下げを視野に入れていたメンバーはいなかった。
だが、今回は17人中1人が1回利上げ、8人が現状維持、1人が1回利下げ、7人が2回利下げとかなり大きく変わっている。
2回利下げの7人は「0.25%×2回」か「0.5%×1回」を意味しているため、「7月に0.5%」という腹積もりのメンバーも含むかもしれない。
【図表】は、年4回目の利上げを決断した直後となる2018年12月と今回について、ドットチャートを比較したものである。もはや想定している政策金利の軌道は半年前と別物であり、2020年末などは1%も齟齬が出ている。
2019年末は中央値・最頻値ともに2.375%なので2018年末から0.5%程度の下方修正にとどまっているように見えるが、上述したようにこれは8人が現状維持を予想した結果である。半数近いメンバーは利下げを予想している実情があるため、図が示すイメージ以上にドットチャートは下方修正されていると考えて良い。
FRBの「のりしろ論」が招いた混乱
それにしてもここまで性急な修正が許されてしまうと、ドットチャートはかえって混乱を招くだけにも思える。
確かに、この半年間で米中貿易戦争の激化やイギリスのEU離脱(ブレグジット)を巡る混乱が不透明感を強めたという事実はある。とはいえ、「年4回利上げからの年2回利下げ」という急旋回を要するほど経済・金融環境が激変したかと言われると疑問だ。
例えば、米連邦準備制度理事会(FRB)スタッフ見通し(SEP、予想中央値)に目をやれば、実質国内総生産(GDP)成長率見通しはやや上方修正され、失業率も低下している。
失業率については「自然失業率」と同一視される長期見通しも下がっているため、今回の失業率低下は需給ギャップの縮小をもたらすものではない(つまり物価も押し上げない)という整理なのだろう。
しかし、それでも成長率見通しが引き上げられていることは事実である。そのようなタイミングで金融政策運営が顕著にハト派(金融緩和に積極的)色を強めることの正当性は分かりにくいものがあると言わざるを得ない。
トランプ政権の保護主義は確かに不透明感を強めているが、それ自体は2018年からリスク視されていたことであり、その不規則な言動も常態と言えば常態であった。インフレ基調も元々さほど強くはなかった。
結局、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)よりも「将来の利下げ余地」を作るための「のりしろ論」を主軸としてきた政策運営が、このドタバタ感につながっているということではないのか。
トランプ大統領の二枚舌
金融市場では6月18日、トランプ米大統領が追加緩和の可能性を示唆した欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁に「口撃」を放ったことが注目された。
ドラギ総裁がECB年次総会でインフレ率の鈍化が続く状況に対し「追加の景気刺激が必要」と述べ、利下げや資産購入の再開について言及した。これを受けてユーロ相場が対ドルで一時下落するという場面があった。
トランプ大統領はこれに噛み付き、自身のツイッターで「対ドルでのユーロ下落を引き起こしており、アメリカと競争しやすくしている」と反撃し、市場で「ドラギ vs. トランプ」の構図がはやし立てられるようになった。
利下げや量的緩和(QE)の再開などの潜在的な実施可能性は6月6日のECB政策理事会でも言われていたことであり、ドラギ総裁としてはその確認をしただけだったと思われる。トランプ大統領の攻撃的な反応でかえって事が大きくなった感じがある。
しかし、である。FRBがこれだけハト派色を強め、そうした方向転換を大統領自身が扇動してきた経緯を思えば、二枚舌も甚だしいと言わざるを得ない。
わざわざトランプ大統領が騒いだことでECBはもちろん、日本銀行も今後の言動に気をつけなければならない雰囲気が出てしまっている。
6月19日、浅川雅嗣財務官が「緩和的金融政策を取ることは、自国通貨安への誘導ではないのであれば、お互いに許容しようというのがG7、G20での合意」とメッセージを発しているのは正しい動きであり、国際的な紳士協定をツイッター1つで反故にするような動きには看過できないものがある。
これまで国内の金融政策運営や海外との通商関係など、ことごとく口を出してきたトランプ大統領だが、他国政府ですら介入をちゅうちょする他国中央銀行の政策領域に踏み込むことは異常であり、ますます孤立を招く契機になるかもしれない。
打つ手限られる日銀、ドル全面安・円高へ
そもそも変動為替相場制の世界において通貨の方向感を思い通りに設定でき、しかもその動きに継続性をもたせる能力がある中央銀行はFRBくらいであり、本来ならば最も政治的介入を排除しなければならない存在と考えられる。
ドラギ総裁の発言は確かにユーロ安を誘う内容ではあったが、結局、FOMC後の動きを見ると対ドルで上昇している。FRBや米金利、ドルこそが為替市場の潮流を作るということが良く現れた地合いになっている。
いずれにせよ6月のFOMCを境にFRBは利下げ局面に入ることになる。だが、FRBがハト派色を強めるほどに円やユーロに上昇圧力がかかり、日銀やECBが「次の一手」を検討せざるを得ない状況になる。
上述したように、基本的に為替市場の潮流はアメリカの通貨・金融政策によって規定される部分が大きく、「次の一手」は無為に終わる可能性が高い。しかし、だからと言って「何もしない」わけにはいかないのが中央銀行の辛いところである。日銀もECBもなけなしの金融政策の「カード」から、何らかの妙手を検討せざるを得ない。
そうして通貨高に対応しようとする海外中銀にいきり立つトランプ大統領は、まるで「鏡に映った自分に怒る」という不毛な行為にいそしんでいるようにも見える。
円やユーロが騰勢を強め、日銀やECBが動きを強いられているのはFRBのハト派傾斜によるところが大きく、そうしたFRBの動きを政治的に要求してきたのがトランプ大統領自身である。
筆者は過去2年ほど、FRBの金融政策の正常化プロセスは物価・賃金情勢に照らせば過剰と考え、FRBがハト派に急旋回する結果、「ドル全面安の下でユーロ高、円高が進む」という展開を警戒してきた。ここにきてそのシナリオの確度は急速に高まっているように思える。 
NYダウの上値のメドはどれくらいなのか? 7/3
2019年の株式市場も折り返しを迎えた。日経平均株価は年初来高値2万2362円をピークに、終値ベースで約8%調整する場面もあったが、上半期は総じて右肩上がりの上昇トレンドを描いている。それだけに安値2万289円を底とする戻りを継続できるかが、当面の焦点となりそうだ。
一方で、長期のローソク足である月足を見ると、12カ月移動平均線と24カ月移動平均線はデッドクロスしている。エリオット波動での短期間の5波動構成では順調な戻りをみせている日経平均株価だが、このデッドクロス示現で重要な正念場を迎えている。
ただし、デッドクロスではあるものの、現在も長期の24カ月移動平均線が上昇基調を維持している点は心強い。実際、この12カ月・24カ月線のデッドクロスは2016年にもみられたが、のちに解消された。今回も、一気に奪回するための期待材料が少なくとも2つはあると考える。
まず期待材料のひとつ目は、為替市場の円高一服があげられる。ドル円相場は一時1ドル=106円台まで円高が進行したものの、いったん転換点を迎えた可能性が大きい。需給面で見ても、6月末は四半期とも重なり、実需の円買いドル売りが増えていた可能性が高い。実際、こうした動きは為替市場のサイクルにも反映されており、四半期末を境にトレンドが変わるパターンは少なくない。1ドル=109円近辺まではチャート上の節目も少なく、ドル高に向かうリバウンドのパワーだけでも十分に戻せる水準だと考える。
二つめ目は、アメリカ株の市場の堅調さが維持されそうなことだ。NYダウは取引時間中の最高値を更新したとはいえ、2018年1月高値以降の高値保ち合いを上放れるには至っていない。
しかし、比較的浅い押しを経て高値更新を実現した今回は「三度目の正直」となる期待が大きいとみる。株式市場が上値抵抗ラインからの上放れを認識する段階では、4月高値形成後の約1500ドル幅の下げを「倍返し」とする2万8000ドルを目指す展開も意識されそうだ。今の株価水準には割安感こそないものの、アメリカの米利下げ期待が持続している間は金融相場の色彩が強まり、結局は割高ゾーンを堂々と突き進む展開も想定できる。
今挙げた2つの期待材料とも米長期金利の動向が深く関わっていることから、やはり今後の最大の注目材料は7月30・31日の米FOMC(連邦公開市場委員会)となりそうだ。FOMC開催前のマーケットは、5日発表の雇用統計など重要な米経済指標で景気動向を、さらに中旬から始まる米主要企業によって、一喜一憂する展開が予想される。ただ、いずれにしても当面は円高一服とアメリカの株高が両立しやすいとみている。すでに年内2〜3回分の利下げが織り込まれつつある状況では、実際に利下げが行われた場合でもインパクトは乏しく、それだけで一段の円高を誘発するとは考えづらいからだ。
では逆に利下げが見送られた場合はどうか。その場合は短期的にはネガティブな影響がありそうだが、「好景気と株高の状況下で予防的利下げカードが温存された」との理解も得られやすい。その場合は円高が進まず、利下げ期待だけを残す相場展開も想定される。
筆者としては、なによりドナルド・トランプ大統領が2020年の米大統領選での勝利を意識し始めた重要性を踏まえておきたい。米中首脳会談での中国の情報通信機器最大手ファーウェイに対する禁輸措置の一部解除への言及や、電撃的な板門店での米朝首脳会談に臨んだ背景には、大統領選挙に向けた支持拡大があると推察される。
特に米中貿易摩擦については、ここまでアメリカ側が一方的に押しているように見えても、トランプ大統領の任期を考えれば、長期戦では中国側に有利だ。短期決戦で一気に決着したい中での敢えての譲歩は、まずは次の任期をがっちり確保するための政権運営に舵を切ったと思われる。それなら株価に配慮した施策が実現する可能性も高い。
さて、当面の日経平均株価だが、米中貿易摩擦への懸念を深める前の年初来高値水準である2万2362円を試す場面があるとみている。7月1日の日銀短観は先行きに不安を残す内容だったが、少なくとも当面は商品投資顧問(CTA)の買い戻しが優勢になりそうだ。
もっとも2万2000円へ接近する場面では戻り売りから上値が重くなる公算も大きい。ここからは待機資金を誘発する支援材料も欲しいところだ。7月中旬には米企業決算、7月下旬から国内企業決算が本格化する。待機資金が本格的に動き出すタイミングは、下期のガイダンスを見極めてからとなりそうだが、上昇トレンドの維持を確認するためには、年初来高値である2万2362円の更新は「マスト」である。
物色テーマからは、半導体関連銘柄の上昇トレンドへの転換の可能性に注目したい。牽引役のパワー半導体関連だけでなく、ここに来て製造装置も含めた広義の半導体関連株のトレンドが良化しつつある。この業界の重要指標であるフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)も、13週移動平均線近辺まで戻っており、日経平均を押し上げる効果の大きいテーマだけに注目したいところだ。また、SaaS(サービスとしてのソフトウェア)関連銘柄ではフィードフォース(7068)のIPO(新規株式公開)を5日に控えている。同社株の値動き次第では、テーマとしての人気が再燃する可能性がある。同テーマは値動きの活発な銘柄が多く引き続き注目だ。 
 
 
 

 

●日米株価のピークは過ぎた?  2018/10/8   
投資家の皆さんはしばらく様子見が吉かもしれません。今回の「押し目」はそこそこ深く、もしかしたら「そこそこ大きな調整局面入り」の可能性があります。
年内のピークは10月第1週だった?聡明な投資家は「様子見」が吉
好調すぎる雇用統計
10月5日に発表されたアメリカ雇用統計では、失業率が3.7%と、1969年12月以来の驚異的な低い数字となりました。なんとなんと49年ぶりの低さです、市場予想を「良い意味」で裏切りました。平均の賃金上昇率のほうは、市場予測通りに2.8%増しと安定。平均の賃金上昇率は鈍化はしませんでした。この日の雇用統計は、かねてからパウエルFRB議長が指摘するように「アメリカ経済は、低インフレと低失業率が共存する、類いまれな景気拡大期にある、この景気拡大期は長く継続するだろう」ことを、しっかりと裏付ける形になりました。
利上げ路線は継続か
この日の市場関係者は、「今後kのFRBの利上げ路線(今年残り1回、来年3回から4回)は、FRBの見通しどおりになるだろう」と、予測を改めるようになりました。大方の市場関係者や当メルマガの予測は、一部修正を迫られる結果となりました。マーケットは「パウエルFRBの見通し」のほうを信頼し始めたわけです。その結果、アメリカの長期金利は「上昇」しました。
長期金利上昇が株価を下げる
アメリカ経済は「低インフレ・低失業のたぐいまれな景気拡張」を続けるでしょう。ところが、長期金利の上昇は株価にはマイナスです。長期金利の上昇は企業業績を食います。具体的には、住宅ローンの金利の上昇や自動車ローンの金利の上昇、社債の金利の上昇を伴って、企業業績を圧迫します。この日のアメリカ株式市場は、FAANGなどのモメンタム株を中心に、「下落」で反応しました。
米国株「今年のピーク」は10月第1週か
アメリカ株式市場は今年に限ってみれば、10月第1週あたりが「頂点」だったかもしれません。ただし、アメリカの株式ブームがこれで去るというわけではなく、当面、アメリカ株式市場は行ったり来たりの横ばいになる可能性があります。ここまでは、「アメリカの景気が良いので長期金利が上昇する。けれども、長期金利の上昇は株価にはマイナス」というお話でした。ここから、もっと深刻な話をお伝えします。
中国がApple・Amazonに「ハードウェア攻撃」の真相は…
10月4日の夕刻、ブルームバーグは「中国がAppleやAmazonなど30社以上の米企業のサーバーにアクセスできるチップを取り付け、機密情報を取得している」という、とてもショッキングなニュースを大きく報道しました(編注:米国国土安全保障省、被害者とされるApple・Amazonおよびチップを埋め込んだとされる中国企業のSupermicroはこの報道を否定しています)。これはかなりショッキングなニュースです。米中の「経済覇権をめぐる戦い」は、今後さらに本格化・長期化するかもしれません。アメリカは、中国製のパソコンや半導体などの部品に25%の関税をかけるどころか、「輸入しない」方向へ向かうかもしれません。
各国経済に広がる波紋
週明け、上海株式市場は大幅下落で始まることでしょう(執筆時点2018/10/7)。今後の中国の出方がとても気になるところです。新興国株式市場もまだまだ下落を続けるかもしれません。
日本株は当面「横ばい」か
今後の日本株式市場は、アメリカ株式市場と上海株式市場の中間的な動きをする可能性があります。アメリカの長期金利の上昇による「ドル高・円安」が日本株を下支えするかもしれませんが、日本株式市場も今にして思えば、10月第1週が「頂点」だった可能性も否定できません。と言っても、これで「アベノミクス」が終わったわけではありません。黒田日銀の金融緩和は継続されています。また10月24日に召集される予定の臨時国会での「補正予算」も期待されています。今後は日本株式市場も当面は行ったり来たりの横ばいかもしれません。 
 
 

 

●連邦準備制度 (Federal Reserve System, FRS)  
アメリカ合衆国の中央銀行制度である。ワシントンD.C.にある連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board, FRB)が全国の主要都市に散在する連邦準備銀行(Federal Reserve Bank, FRB)を統括する。連邦準備制度理事会は連邦議会の下にある政府機関であるが、予算の割当や人事の干渉を受けない。各連邦準備銀行は株式を発行する法人である。
前史
ウォール街とスイス
1776年の建国以来、アメリカ合衆国では第一合衆国銀行や第二合衆国銀行のような試みはあったものの、アンドリュー・ジャクソンら分権主義者の反対で取り潰される等して(Bank War)、中央銀行は成立せず、個々の銀行等が米国債や金準備を使って紙幣を発行していた。もっとも、インディアナ州においては連邦準備制度の原型とみられる金融制度が採用されていた。
分権主義を逆手にとって、欧州資本が進出してきた。1834年ロスチャイルドが大規模に合衆国公債を引受け、翌1835年までにボストン・ニューヨーク・フィラデルフィア・ボルチモアにロスチャイルドの利益を代表する支店または代理商がおかれ、さらにロスチャイルドは500万ドルのアメリカ公債を保有した。1837年恐慌で州立銀行がデフォルトすると、代わりにウォール街の金融が栄え出した。州債発行額は1835年から著しく増加して1842年をピークに漸減したが、それは恐慌にかまわず公債が欧州へ輸出されたことを意味する。この現象は綿花の売上げ低下と関係する。恐慌をすぎて合衆国銀行はニコラス・ビドル(Nicholas Biddle)の主導により、綿花受入・販売のためリヴァプールに、州債売却のためロンドンに、各代理店を同時に置いた。そして買いつけた綿花を代理店に蓄え相場の上がるまで卸さず、またその間の信用は手形を代理店に送って州債を担保に調達した。1839年10月の州債デフォルトによりビドル体制は行き詰まりだした。ベルギー・プロイセン・ザクセンの綿産業が(メリノ種羊毛と競い)不況となったからである。デニソン商会(Denison & Co.)とロスチャイルド、そしてホープ商会は合衆国銀行に1220万ドルの州債を担保に追加するよう求めた。1840年3月に州債を連邦で保証する法案が否決され、ペンシルベニア州債が利子の支払いを遅滞するとベアリングス銀行が連邦保証を求めた。6月からベアリングはニューヨーク(市と州)とオハイオ州の公債を売りまくった。1841年2月に合衆国銀行が営業停止となってフリーバンキング時代が到来した。しかしホープ商会とベアリング家が買収を支援したルイジアナ州では地金型金貨を銀行に準備させる制度が採られた(The Forstall System)。
1839年にベルギーが永世中立を保障されてから、欧州綿産業は大雑把に表現すれば次のように展開した。1843年にプロイセンのケルンとベルギーのアントウェルペンが鉄道で結ばれた。1848年スイス連邦が分離同盟戦争を経て成立した。その北部ではカルヴァン派をふくむ宗教改革派が産業革命を達成した。それはチューリッヒを核とする勢力であったが、ミュルーズと高ライン地域に綿工業ベルトをつくっていた。製品を南へ出荷することは戦争のほとぼりが冷めるまで難しかったから、西・北・東でベルト地帯に接するフランス・バーデン王国・ヴュルテンベルク王国・バイエルン王国・オーストリアのいずれかを取引先とした。これらの輸出先もカトリックをルーツにもっていたが、当時は啓蒙思想による改革が進み、割り切った輸入がなされていた。
貿易金融の掌握
1861年にアメリカで南北戦争が起こり、綿製品需要が生じた。スヘルデ川の航行権を回復したベルギーから、ベルト地帯の製品が取引先を経由して戦地へ輸出された。綿ブローカーが戦地アメリカで利権を築こうとし、ドイツの証券市場が盛況となった。するとアメリカでも販路開拓の動きが起こった。1864年、New York Guaranty and Indemnity Company という信託会社が生まれた。1870年の普仏戦争でミュルーズをふくむアルザスがドイツ帝国のものとなり、輸出経路の国境が取り払われてベルトは回転速度を増した。
世界的な大不況が進行するにつれて欧州各国で金本位制が採用されていった。その前半に三国同盟が成りスイスの商圏が広がった。合衆国への拡大は時間の問題であった。1891年、相互生命(Mutual Life Insurance Company of New York、現アクサ)が先に英名で書いた信託会社の経営権を取得し、5年後にその信託会社をギャランティ・トラスト・カンパニー(1959年からモルガン・ギャランティ・トラスト)へ改名した。ギャランティは1897年にロンドン支店を開設し、巨大な外国部もニューヨークへ置いた。
1901年、ハートリー(Marcellus Hartley)が地元コネチカットの認可を受けて貿易金融会社(International Banking Corporation)をつくった。エドワード・ヘンリー・ハリマンやアイザック・グッゲンハイムを重役としてアジア開発を仲介した。競争相手のギャランティから1904年にアジアの三支店を譲り受けたが、1907年恐慌は主力のロンドン支店を窮地へ追いやった。
ギャランティは恐慌をすぎてから急速に総資産額を伸ばした。1909年時点で、ギャランティは次の銀行とコルレス契約を結び、証券の発行・引受・償還を代行していた。ナショナル・シティ、チェイス・ナショナル、そしてメロン・ナショナルである。このころのギャランティが擁した主要な重役を並べてみる。リーヴァイ・モートン、ジェームズ・デューク(James Buchanan Duke)、ジェイ・グールドの息子(George Jay Gould I)、ダニエル・グッゲンハイム(Daniel Guggenheim)、トーマス・ラモント(Thomas W. Lamont)、C.A.ピーボディ(C.A.Peabody)J.D.ライアン(J.D. Ryan)、ウィリアム・ダグラス・スローン(エミリー・ソーン・ヴァンダービルトと結婚)、アルバート・ウィギン(Albert H. Wiggin)、A.W.フェリン(Augustine William Ferrin, 米外交官)。
フランスに学ぶ理由
中央銀行を欠いた時代の金融技術とはコルレス制度のことであった。地方銀行は手形の取立支払のためニューヨーク市銀行に預金を蓄積した。この蓄積をバンカーズ・バランス(bankers' balance, 以下ババ)と呼ぶ。この手法は1830年代に相当発展していたが、1864年国法銀行法(National Bank Act 1864)により追認された。1887年まではニューヨークが唯一の中央準備市であったが、同年シカゴとセントルイスも加えられた。1890年から1910年の間には、ニューヨークの地位をそのままに、新しい中央準備市へも個人預金とババが動いた。1902年から1914年まで個人預金総額に対するババの割合は、中央準備市銀行の場合1910年を除いて7割をくだることがなかったし、特に1908年は9割に近かった。準備市銀行、地方銀行、非国法銀行は順に割合が低くなっていくが、どれも横ばいで、順に書いて二割強、二割弱、一割未満であった。ニューヨーク市国法銀行に限っていえば、1870年で69%もあったのが1900年で100%を超えて、その後も割合が増えていった。その内訳に着目すると、ニューヨーク市国法・州法銀行は70-100行に及ぶが、そのうち上位6-9行がババの半分以上を保有していた。この意味で、ニューヨーク市のメガバンクは金融界の頂点であった。ニューヨーク市国法銀行は巨額のババを財源に、貸付総額の1/3から1/2を占めるコールマネーを証券ブローカーに与えた。コールマネーは銀行間取引でも下位の銀行に貸し出されたが、その額は恐慌のときだけでなく連邦準備制度設立の直前にも跳ね上がった。
メガバンクにも焦る局面は存在した。1864年国法銀行法は国法銀行券を発行するときに米国債を担保とするよう定めた。1866年7月、州法銀行券に10%課税されるようになり、州法銀行券は駆逐されていった。これをもって発券が国法銀行に独占されたのは事実であったが、州法銀行は預金通貨の普及により1880年代に金融界での地位を回復しつつあった。それに、独占したはずの発券業務は手形を担保にすることができなかった。1880年代は国債の償還が進み、国債を担保とする国法銀行券が減り、国債と銀行券の流通量減少が国債価格を騰貴させた。すると発券用に調達する国債の利回りが減り、また銀行券の流通減少で市場金利が上昇、機会費用を差し引いた通貨発行益が目減りすることになった。国法銀行券発行益の減り具合は、農業地帯の西部・南部で深刻なものとなった。なぜなら券の発行総額は上限を法定された上で、人口等の経済規模にしたがって各州に配分されたからである。
通貨の不足した農業地帯はミシシッピ川流域を指す。ここはジョン・ローのときモーゲージを貸しこまれ、19世紀末の時代人にフランスをモーゲージ大国と呼ばせたエリアである。そこでフランスの金融制度を研究することになった。
歴史
FRB設立
ジョージ・コーテルユー財務長官は、金融業界を保護するために、経済の安定を維持する国家主導の十分な能力が必要であると考えた。その対策として、まずオルドリッチ・ヴリーランド法(1908年)でアメリカ通貨委員会を設立。1910年11月22日、ジョージア州沿岸のジキル島にJ・P・.モルガンが所有するジキル島クラブで秘密会議が開かれ、FRBを設立する計画が討議された。計画は、彼らが掌握した貿易金融を促進すべく、アメリカの国際的な手形交換制度を建設した。
ギャランティなどが担う綿・穀物の貿易金融とは一見独立して、国内の工業系大企業は自己金融による輸出を拡大していた。デュポン・コダック・ゼネラルモーターズ・ゼネラルエレクトリック・NCR・レミントンランド・ウェスタンエレクトリック・ウェスティングハウスなど約30社は、1910年にアメリカ製造業者輸出協会(American Manufacturers Export Association)を結成した。
1913年中に、この段すべての出来事がおきた。まずアメリカ合衆国憲法修正第16条とアメリカ合衆国憲法修正第17条が批准された。ジキル島での会合時すでに修正が議論されていた2つの変革は、各州の財政力と政治力をそぎ落とした。基礎工事が済むと、J.P.モルガンやポール・ウォーバーグ(ドイツ語版、英語版)、ジョン・ロックフェラーの後ろ盾の下に、ウッドロウ・ウィルソン大統領がロバート・オーウェンとカーター・グラスの提出したオーウェン・グラス法に署名した。こうして、多くの上院議員が休暇で不在の隙を突いて12月23日にワシントンD.C.に駐在する連邦準備制度理事会と12地区に分割された連邦準備銀行により構成される連邦準備制度が成立した。「準備」とは預金準備のことを意味する。
1914年、USスチール社長でAMEA理事でもあったジェームズ・ファレル(James A. Farrell)が、連邦準備法に外国手形の割引特権と外国支店の設立(次節)が認められていることを指摘し、これらにより米系銀行による貿易金融が現実的となったことを喜び、また積極的な資本輸出を主張した。このAMEAは1917年、フランスの復興需要について報告書をまとめている。
外国手形の日本語訳はまちまちで、銀行引受手形(Bankers Acceptance)と書くことが比較的多い。それまで銀行引受手形の割引は(ニューヨーク銀行やギャランティ・トラストが)ロンドン市場で行っていたが、資金調達コストが割高であった。そこで、国内の銀行引受手形市場を整備・拡充することで資金調達コストを引き下げる努力がなされた。連邦準備制度が全面的にサポート、国債ディーラーも積極的に参加した。しかし肝心の清算銀行が資金を積極的には供給しなかった。1918年、連邦準備制度が手形を売戻条件付で買い入れた。こうして銀行引受手形がレポ市場の端緒となった。
1921年4月、ポール・ウォーバーグが国際引受銀行(International Acceptance Bank)をニューヨークで開業した。主要株主はクーン・ローブ、M・M・ヴァールブルク&CO、N・M・ロスチャイルド&サンズおよびその他であった。業務は銀行引受手形であり、合衆国では連邦準備局(連邦準備制度の旧名)とIAB が事実上独占した。ヨーロッパでは馴染みの貿易金融であった。
ロスチャイルド家だけでなくユニオン・バンクもIAB の経営を支えた。ロックフェラーのEquitable Trust Company(現・JPモルガン)やディロン・リードも協力し、IAB の短期信用網をティッセンなどが利用した。
エッジ法
FRBができるときにウォルター・エッジが、FRBの会員銀行は国際銀行業務とその他の国際金融業務に参入するため、連邦企業を組織できるようにするべきだと提唱した。この提案は、オーウェン・グラス法に附属する形で法律エッジ法となった。当時、欧州諸国は債務を抱え、合衆国からの輸入物をUSドルで買う余裕がなかった。そこでウォルター・エッジは、連邦企業がヨーロッパの輸入を金融し、短期貸しを長期貸しへロールオーバーしつつ、欧州経済の回復に応じて償還させるという提案をした。グラス・スティーガル法が通過した1933年、議会は連邦企業の商業銀行業務を制限するのを忘れた。
エッジ法は、大銀行がオフショア・ファンドや合同運用信託を使って1940年投資会社法を脱法するとき、連邦企業を通じて資金を供給した。1956年銀行持株会社法(Bank Holding Company Act)は銀行持株会社とその子会社による非銀行業務を原則禁止としていたが、オフショア・ファンド、つまりユーロ市場で活躍中の連邦企業は例外だった。
第二次世界大戦中はレポ取引が停止され、一方では大銀行だけでなく生保・年金までもが大量の米国債を消化していた。1951年に財務省との「アコード」が法制化して、連邦準備制度の金融政策の独立性を保障するとともに、米国債にかぎってレポ取引を再開した。こうしてアメリカの機関投資家へ資金が流れた。それは住宅ローンだけでなく、地方債と連邦債でも運用された。1962年、OECDが資本移動自由化コードを設定し、多国籍企業にも資金を供給できるようになった。
1975年、会員銀行とその系列企業が20をこえ、それらは30以上の連邦企業(Edge Act corporation)を経営している。この連邦企業は普通、会員銀行の子会社である。FRBは国内の連邦企業について、会員銀行が行う海外事業に付随する業務しか行わないと約束してはいるが、しかしウォール・ストリート・ジャーナルをはじめとする経済各紙掲載の公告は、オフショア市場開発、穀物取引、ロンドンのよく分からない市場混乱、国際的な中期融資、国際的な不動産貸借、そして合衆国輸出入銀行の事業に対し、連邦企業が連邦政府を通して融資を行っている実態を示す。
エッジ法は国際銀行法(International Banking Act of 1978)によって修正され、国際銀行業務へ参入する要件を緩和した。シティバンクは代表的な連邦企業であるが、ユーロ債市場を牽引したことでも有名である。
2002年9月、エッジ法によりニューヨーク連邦準備銀行の監督で即時決済銀行(CLS)がサービスを開始した。CLSは国際銀行間通信協会のネットワークを利用した、世界で唯一の多通貨決済システムである。為替差損を回避するため、参加通貨を発行する各中央銀行の重なった営業時間帯に、CLSが中央銀行にもつノストロ口座を利用してPVP決済する。国内決済のように、流動性供給銀行という通貨不足を互助する仕組みがある。CLSは通貨取引開発税をめぐる議論でも言及されている。
世界準備制度
1928年12月14日の国際連盟理事会で、金融委員会からの勧告が採択された。勧告の内容は、金購買力変動を調査する委員会を設置するものであった。アルベルト・ヤンセン(Albert-Édouard Janssen)を議長とする委員会に、ジョージ・ロバーツ親子(父がGeorge E. Roberts、子はミドルネームだけが父と異なりBassett)が委員として参加した。1930年6月に最初の中間報告書が提出された。報告書は金本位制の準備金が世界的に不足している計算結果を示した。さらに各国の準備金保有割合も弾き出した。1928年時点で、主要15カ国が世界の準備金100億3500万ドルの91.2%をもっており、そのうちアメリカだけで37.3%を占めるというのである。FRB が報告書の公表に強く反対したので、公表は1930年9月となった。報告書は準備金節約の手段として、郵便諸制度の活用を推奨したり、金為替制度の拡大を追認したりした。前者はライヒスバンクに、後者はフランス銀行に有利な主張であった。準備金の偏在と世界恐慌との関係は、後にも委員会の権限外として調べられることがなかった。
1934年、金準備法(Gold Reserve Act)が成立して、アメリカの金輸出は固定価格で金売買を行っている外国中央銀行に対してだけなされることになり、1974年12月まで民間の金兌換はできなくなった。財務省は通貨安定基金を使いドル相場を統制できるようになった。また物価の安定を名目とした外国為替介入や公開市場操作も可能となった。こうした手段は準備金の輸出を直接規制しうるものであった。固定化するドル安に、欧州各国はデフレ政策と通貨切り下げで応戦した。1936年9月25日、英仏が白旗をあげてアメリカと三国通貨協定(Tripartite Agreement)を結んだ。この策定にパウル・ファン・ゼーラントらベルギー勢が尽力した。
第二次世界大戦中の1938年、FRB はフランス銀行から準備金600トンの移送を受け入れた。戦後経済ではキューバが米州機構を脱退するまでにファンド・オブ・ファンズや知的所有権保護合同国際事務局でジュネーヴ金融が台頭した。
ブレトンウッズ体制下の1962年7月21日、FRB はスイス国立銀行と結んだスワップ協定を公表した。ニクソン・ショックより9年も早いドル防衛である。二者の他にスイス銀行と国際決済銀行が連携して、ニューヨーク連邦準備銀行に4.32億スイスフランを集め、その反対債権を利用して米国債に1億US ドルをもっていき兌換を阻止した。技術的に同様のスワップ協定は少し前に英仏オランダベルギーカナダと結んでいた。イングランド銀行は年始に金プールの代理人として参加国中央銀行から承認され、プール引き出しを連銀に報告しなくてよいことになっており、協力的な立場にあった。それにしても7月21日協定は直ちにプロセスの半分を履行するという電撃的なものであった。公表から2週間ほどの間に国際決済銀行はさらに1千万ドルのスワップを追加した。そして少し後に連銀と西ドイツブンデスバンクの間に5千万ドルのスワップ協定が結ばれた。
銀証分離の緩和
1968年から銀行引受手形市場は、ギャランティのユーロクリアが支配するユーロダラーに奪われていた。1971年、NY手形交換所(New York Clearing House)加盟銀行9行がCHIPSを稼動。これは、ユーロダラーやマネー・マーケット・ファンド、コマーシャル・ペーパーと並んで、連邦準備制度が要求する預金準備率をメガバンクが無視する常套手段としてもてはやされた。
1970年代、エージェンシー(政府=ジニー・メイ)と政府支援機関(GSEs)がモーゲージを証券化するようになった。
1975年、連邦準備制度による通貨供給量の増加に歯止めをかけようと議会が挑み、金融政策の目標値を公表・達成させるために民主的統制を制度保障する合意を得た。しかし同年3月の両院共同決議を最初として、連邦準備制度は二方向から攪乱してきた。通貨の定義を複数設けて(M1A, M1B, M2, M3, L)、それぞれに目標値を出すようにした。しかも供給量伸び率目標値の変動幅を算定する式を年内に五回も変更した。
1976年、怒った議会は連邦準備制度の重役を連銀レベルまで調べあげて、民間銀行や大企業との具体的な人的関係を暴露した。連邦準備制度は同年からフェデラル・ファンド金利の変動許容幅を狭めて現金の不足を演出し、なおかつ供給量伸び率の変動許容幅を広げて存分に現金を注入、インフレを煽動した。
1978年アメリカで外国銀行の支店設置を一つの州に限るという法律ができたが、バークレイズは適用除外された。
1979年10月、オイルショックがボルカー・ショックに発展した。そこで1982年後半から金融と規制を順に緩和した。
規制緩和について。グラス・スティーガル法第20条と1956年銀行持株会社法は、それぞれ異なる角度から銀証分離を定めている。これらに基づいて、銀行持株会社が所有できる非銀行子会社は、常識的な態様で銀行業務に付随し、かつ証券業務を主体としないものに制限されていたのである。ここで子会社の認可を出していたのはFRB であり、司法当局ではない。そして銀証分離はグラム・リーチ・ブライリー法ができる前からFRB が大幅に緩和していた。
1987年4月にFRB は、コマーシャル・ペーパー、モーゲージ担保証券、特定地方財源債の引受を業務に含む子会社に対する認可を求めてきた銀行持株会社に対し、これら業務を銀証分離の対象とした上で、それら業務からの収入がその子会社の総収入において5%以内であれば先の主体性を否定して認可するという態度を示した。この5%以内という収入制限は、1989年に10%、1997年には25%になった。子会社の営める証券業務範囲も1989年には社債、1990年には株式にまで拡大した。
このような緩和に伴い、地方債・モーゲージ証券・および国債をあつかうミューチュアル・ファンドへ資金が流入した。ファンドは以前から株式も積極的に購入しており、銀行は流れ出た預金を独自の投資信託で吸収していた。1863年国法銀行法(National Bank Act 1863)は銀行が事業会社株式を取得することを禁じていたが、投信は良い抜け穴であった。
このようなシャドー・バンキング・システムはグローバル化してゆき、世界金融危機までシステミック・リスクを高めた。
世界金融危機以降
FRBは世界金融危機に際し、TARPに紛れて16兆ドルもベイルアウトした。融資先は以下の15行。
シティグループ 2.5兆ドル / モルガン・スタンレー 2.04兆ドル / メリルリンチ 1.949兆ドル / バンカメ 1.344兆ドル / バークレイズ 8,680億ドル / ベア・スターンズ 8,530億ドル / ゴールドマン・サックス 8,140億ドル / JPモルガン・チェース 3,910億ドル / ドイツ銀行 3,540億ドル / UBS 2,870億ドル / クレディ・スイス 2,620億ドル / リーマン・ブラザーズ 1,830億ドル / スコットランド銀行 1,810億ドル / パリバ 1.750億ドル / ロイヤルバンク・オブ・スコットランド 5,410億ドル
2008年11月7日、ブルームバーグがベイルアウトなどの情報開示を求めてニューヨーク南部地区地方裁判所で連邦準備制度理事会を提訴した。翌年8月24日、FRB に対し開示命令が出た。27日、裁判所はFRB の打診を受けて9月30日までの履行延期を認めた。その間に手形交換所協会の加盟銀行が連絡をとり、訴訟に介入しFRB を弁護しはじめた。2010年5月4日に協会とFRB は控訴したが、いずれも8月20日に却下された。26日、合衆国最高裁判所は上告の準備として10月19日までの履行延期を認めた。訴訟は最終的に棄却され、2011年3月21日に再び開示命令が出た。FRB は5日以内にブルームバーグへ情報を提供することとなった。なお、ブルームバーグへはメリルリンチが30%資本参加している。
名前の列挙された銀行は手形交換所協会の加盟銀行として上のような防戦を展開する一方で、サブプライム住宅ローン危機の引き金となった住宅ローン担保証券をめぐり次々と訴訟を提起されている。またベイルアウトを受けた銀行の多くは、手形交換所協会の加盟銀行であるHSBCの不祥事とロングターム・キャピタル・マネジメントの救済融資に登場する。
不祥事の一部が周知され、2015年5月13日に米上院銀行委員会の長が、FRBに対する議会の監査強化や大手金融機関の資産基準引き下げなどを盛り込んだ、多岐にわたる法案を提出する運びとなった。同年3月、FRB とその他主要中央銀行はブロックチェーンによる通貨のデジタル化と決済ネットワークの構築に関してIBM と非公式に協議していた。
2018年5月22日、下院がドッド・フランク法の規制を一部緩める改正案を通過させた。賛成258票、反対159票の賛成多数。法案審議は超党派で進められた。オバマ前政権による規制強化を転換させた。上院は同法案を3月中旬に既に可決しており、ドナルド・トランプ大統領が近く署名して成立する見通し。骨子は3点。第1に、ストレステスト(健全性検査)を受けなければならないなど、厳しい規制の対象となる銀行の基準が、現行の資産規模500億ドルから2,500億ドルに引き上げられ、その対象が狭められる。第2は、小規模銀行に対して、住宅担保貸出関連業務や証券トレーディングへの規制が緩和される。第3に、ボルカー・ルールは総資産100億ドル以下などの条件を満たせば適用しない。改正の見送られた項目もあるが、実質的な修正は連邦準備制度などが裁量をもっている。5月30日にボルカー・ルールを改定する「ボルカー・ルール2.0」が採決される。ドラフト作成を主導したのは、昨年トランプ政権が金融監督担当のFRB副議長に指名したクォールズ(Randal Quarles)である。
「ボルカー・ルール2.0」には2017年6月の段階で5つの要点を指摘されている。そのうち二つは先に掲げたドッド・フランク法改正の骨子(第2および第3)と共通している。残りの3点はシャドー・バンキング・システムの再拡大へ直結する(以下に箇条書き)。
マーケットメイカーをスケープゴートにして発展した私設取引システムに対する銀行参加の規制を緩和
専門的なコンプライアンス担当者を雇用することを条件としたボルカー・ルールの適用免除
ヘッジファンド子会社を100%支配できる期間の上限を1年から3年に延長
連邦準備銀行の株主
連邦準備制度理事会は政府機関であるが、各連邦準備銀行は株式を発行する法人である。ただし、合衆国政府は連邦準備銀行の株式を所有しておらず、各連邦準備銀行によって管轄される個別金融機関が出資(=株式の所有)義務を負っている。また、個人や非金融機関の法人は連邦準備銀行の株式を所有できない。
個別金融機関による出資額は金融機関の資本規模に比例するが、連邦準備銀行理事を選出する際の投票権は出資規模に関わらず一票ずつであるため、大手銀行が主導権を握るといったことはできない。
連邦準備法により、連邦準備銀行の株主が連邦準備制度に及ぼす影響力はきわめて小さいものに限定されている。連邦準備法における連邦準備銀行の株主の位置づけは、9人の連邦準備銀行理事のうち6人を選定するにすぎない(他の3人は連邦準備制度理事会が指名)。また、連邦準備銀行理事の権限は理事長の選出のみであり、その理事長の権限も以下のものに限られている。
連邦公開市場委員会(FOMC)委員12人中5人の選出
連邦準備制度理事会への提言
連邦準備制度は大統領の指名と議会の承認による連邦準備制度理事会の主導により運営されている。但し、連邦準備制度理事会が政府機関であるのに対し、連邦準備銀行が民間企業の形式を採っているのは事実である。とはいえ完全な民間企業とも言えず、両者を折衷した性格を持っている。
主要業務
中央銀行としての一般的な業務は次のようなもの。
  市中銀行の監督と規制(ユーロダラーの台頭から形骸化)
  金融政策の実施(レーガン時代の高金利が連邦貯蓄貸付保険公社にダメージ)
  財務省証券などの売買による公開市場操作(オイルショック手前のインフレを煽動)
以下は新しい知見となりうるもの。
  支払制度の維持とFedwireの運営。
  en:Automated Clearing Houseの規制。設立者のen:NACHAと共に行っている。
実際、支払制度が十分に維持されているとは言いがたい。2016年2月にバングラデシュ銀行が不正送金で損害を受けた事件をめぐり、バングラデシュ警察が捜査したところ、FRBはファイアウォールを有効にせずに10ドルの中古ルーターで国際銀行間通信協会に接続していたことが分かった。他にもずさんな実態の中央銀行があるものと世銀関係者が見ている。
金融政策の独立性については発足当時政府の影響を強く受けたとされる。この点、ミルトン・フリードマンなどが、「世界恐慌にまで発展した1920年代のアメリカの金融バブル崩壊に際して、連邦準備制度が明白な不作為によって事態を深刻化させた」と指摘する。この考え方は今ではベン・バーナンキ(第14代議長)をはじめとする経済学者に広く受け入れられている。戦後、ブレトンウッズ体制がスタートし、FRBと財務省が協定を締結し、金融政策の独自性を持つようになったとされる。  
 
 

 

●FRB  
FRBは、"Federal Reserve Board"の略で、日本語では「連邦準備制度理事会」と呼ばれ、アメリカ合衆国の中央銀行制度である「FRS(連邦準備制度)」の最高意思決定機関(中核機関)をいいます。これは、米国の中央銀行に相当する機関であり、1913年の連邦準備法に基づいて設置された連邦準備局が前身で、1935年の銀行法により現名称に改称され、現在、首都のワシントンD.C.に本拠が置かれ、7名の理事(うち議長1名、副議長1名)から構成されています。また、FRBの下に位置するのが12の地区連邦準備銀行(Federal Reserve Banks)で、実際の中央銀行業務を行っています。
一般にFRBの主な業務は、公開市場操作を含む金融政策の決定のほか、連邦準備銀行の統括・監督、市中銀行に対する支払準備率の設定、連邦準備銀行が設定する割引率(公定歩合)の審査・決定などとなっています。また、金融政策の手段である公開市場操作を決定するのは「FOMC(連邦公開市場委員会)」で、これはFRBの7名の理事の他、5名の地区連銀総裁(ニューヨーク連銀総裁の他は11地区連銀からの輪番制)で構成されています。
※FRBの理事は、大統領が指名し、上院の承認を得て任命され、任期は14年間(再任なし)で、また理事の中から正副議長が選ばれ、正副議長の任期は4年で再任も可能。(2年毎に理事の1人が任期満了)
※米国では、FRB議長は大統領に次ぐ影響力や権威を持つと言われる。 
 
 

 

●アメリカの金融政策を決定する「FRB」と「FOMC」とはなにか  
2015年12月末にアメリカの量的緩和政策(QE)のうち、フェデラルファンド金利(FF金利)を事実上ゼロとする「ゼロ金利政策」の解除が発表されました。これは、アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)が開催する連邦公開市場委員会(FOMC)で決定されました。今回は世界経済に大きな影響を与えるアメリカ中央銀行制度である「連邦準備制度(FRS)」と、FRSを構成する連邦準備制度理事会(FRB)と連邦準備銀行(FRB)、連邦公開市場委員会(FOMC)の3つの機関の役割を見てみましょう。
アメリカの「連邦準備制度(FRS)」を構成する3つの機関
アメリカの中央銀行にあたる「連邦準備制度理事会(FRB)」
連邦準備制度理事会(FRB)は、アメリカの中央銀行制度である連邦準備制度(FRS)の最高意思決定機関(中核機関)です。FRBの本部はアメリカの首都であるワシントンD.C.に置かれ、7名の理事(うち議長1名、副議長1名)によって構成されています。
FRBの主な業務は、公開市場操作を含む金融政策の決定をはじめ、地区連邦準備銀行の統括・監督、市中銀行に対する支払準備率の設定、地区連邦準備銀行が設定する割引率(公定歩合)の審査・決定などあります。
FRBの決定に基づいて実際の金融業務を担当するのが全米に12行ある地区連邦準備銀行(FRB)であり、FRBの金融政策を決定するのが連邦公開市場委員会(FOMC)です。
連邦準備制度(FRS)の業務を担当する「連邦準備銀行(FRB)」
連邦準備銀行 (FRB) は、公開市場操作以外のFRSの業務や連邦準備券(ドル紙幣)の発行を実施する、連邦準備制度の要となる銀行です。連邦準備銀行は全米で12行あり、第2地区を担当するニューヨーク連邦準備銀行が中心的な役割を果たしています。
第1地区:ボストン連邦準備銀行 / 第2地区:ニューヨーク連邦準備銀行 / 第3地区:フィラデルフィア連邦準備銀行 / 第4地区:クリーブランド連邦準備銀行 / 第5地区:リッチモンド連邦準備銀行 / 第6地区:アトランタ連邦準備銀行 / 第7地区:シカゴ連邦準備銀行 / 第8地区:セントルイス連邦準備銀行 / 第9地区:ミネアポリス連邦準備銀行 / 第10地区:カンザスシティ連邦準備銀行 / 第11地区:ダラス連邦準備銀行 / 第12地区:サンフランシスコ連邦準備銀行
金融政策を決定する「連邦公開市場委員会(FOMC)」
連邦公開市場委員会(FOMC)とは、FRBが定期的に開催する金融政策の最高意思決定会合(機関)であり、アメリカの金融政策を決定するため、アメリカだけではなく各国の金利や政策方針などにも大きな影響を与える重要な会合として注目を集めます。
FOMC委員長はFRB議長、副委員長はニューヨーク連邦準備銀行総裁が務めます。委員長・副委員長以外の委員は、FRBの理事全員とニューヨーク連邦準備銀行を除く、11の連邦準備銀行総裁から選ばれた4名が1年ごとの持ち回りで正規委員として参加します。この他に委員ではない連邦準備銀行総裁7名も会議に参加できますが、この7名は議決権を持ちません。
景況報告・経済報告に基づいて金融政策を決定するFOMC
「ベージュブック」を参考に金融政策を決定するFOMC
FOMCは約6週間ごと年8回の定例開催を基本に、必要に応じて随時開催され、景況報告(ベージュブック)や経済報告(グリーンブック)に基づいて金融政策を議論します。メンバーの多数決(投票)により、フェデラルファンド金利(FF金利)の誘導目標や景況判断、今後の政策方針などを決定します。FF金利の変更は金利のみならず、マーケットにも大きな影響を与えるため、FF金利の誘導目標は特に高い注目を集めます。
政策の内容を発表する声明文はFOMC開催最終日(アメリカ東部標準時間午後2時15分頃)、議論の推移をまとめた議事要旨は政策決定日(FOMC開催最終日)の3週間後に公表され、これらも重要な材料として注目を集めます。
外国為替市場に大きく影響する会合の決定
アメリカ経済の方向性を左右するFOMCですが、その決定は外国為替市場にどのような影響を与えるのでしょうか。
金利引き上げは一般的に景気引き締めと通貨価値の引き上げを狙う金融政策であり、金利引き下げやゼロ金利は景気拡大と通貨価値引き下げを狙う金融政策です。金利引き上げではドル安、金利引き上げではドル高が大まかな方向性となります。
世界金融危機とFRBの採用した「量的緩和政策(QE)」
アメリカ経済の景気後退とFRBの量的緩和政策
2007年のサブプライム危機から2008年のリーマンショックと世界金融危機により、それまで好調だったアメリカは急激な景気後退に見舞われます。これに対してFRBは、中央銀行として大規模な資産買い入れを進めて市中に流通するお金の量を増やす「量的緩和政策(QE)」の採用に踏み切りました。
緊急対応として導入されたQE1とQE2
結果として3回に分けて導入されるQEは、導入時期によってQE1とQE2、QE3と呼び分けられ、その目的や内容はそれぞれ異なります。
QE1はサブプライム危機とその後の世界金融危機への緊急対応として導入され、総額約1兆7,250億ドルが投入され、2010年に導入されたQE2では約6,000億ドルが費やされました。
アメリカの景気回復を確固としたものにするQE3
QE1とQE2に続いて2012年に導入されたQE3は、緊急対応としての側面が強かった従来のQEとは違い、アメリカの景気回復を確実なものにするために導入されました。
QE3では市場から住宅ローン担保証券(MBS)の月額400億ドル規模での買い取りと事実上のゼロ金利政策の延長による2本柱ではじまり、のちに長期国債の買い入れも含めた3本柱となります。FRBはQE3をインフレ率が抑制されている限り無制限に継続し、さらなる追加緩和の可能性を明言するなど、「雇用の最大化」と「物価の安定」という目標達成のため、積極的な姿勢を打ち出しました。
QEの終了と緩和逓減(テーパリング)・利上げ
アメリカの景気回復を目的として導入されたQE3ですが、導入から1年が経った2013年末から緩和逓減(テーパリング)に踏み切ります。テーパリングではFOMC会合ごとに毎月の資産購入金額をそれぞれ50億ドルずつ減額することで進められ、2014年10月にはQE3が終了しました。
しかし、これまでのQEでFRBが買い入れた資産は再投資などにより維持されていることから、膨らんだバランスシートをどう管理するかや、事実上のゼロ金利政策が導入された政策金利(FFレート)をどのように引き上げるかが注目されています。

世界の国内総生産(GDP)の半分を占めるアメリカの中央銀行制度である連邦準備制度(FRS)と、FRSを構成する連邦準備制度理事会(FRB)と連邦公開市場委員会(FOMC)は、アメリカ経済の先行きを左右することから、その動向に大きな注目が集まります。
特にFOMCで決定されるFF金利はアメリカの景気のバロメーターとなるため、その内容は外国為替市場にも影響することは珍しくありません。FOMC会合の前後には、その内容には要注目と言えそうです。 
 
 
 

 



2018/10/10-
 

 

●マイナス金利政策  
 政策 1
中央銀行(もしくは民間銀行)が名目金利をゼロ以下に設定する政策であり、経済を刺激するために行われる非伝統的金融政策である。似たような低金利政策にゼロ金利政策があるが、マイナス金利政策は名目金利をゼロ未満にするという点で異なっている。
通常の金利政策(正の値の金利)の下では、民間銀行は中央銀行の当座預金にある準備預金のうち、法定額を超過した部分(超過準備)に対してしばしば利子を受け取っている。しかし、マイナス金利政策の下では、民間銀行が中央銀行に(中央銀行の当座預金の超過準備に対して)利子を支払わなければならない。マイナス金利政策は、その国の通貨を切り下げる圧力につながるため、その国の輸出を促進しうる。また、マイナス金利は民間銀行の資金を退蔵させておくのではなく投資へと向かわせる圧力となる。信用条件を緩和させるように働くため、国内需要への資金の貸し出しを増加させうる。しかしながら、マイナス金利は民間銀行の収益性を損ない、高いリターン率を求める投資家の過剰なリスクテイクを誘発するため、国内金融を不安定にさせる要因にもなりうる。
名目金利と実質金利
マイナス金利政策でゼロ以下にまで下げられるのは名目金利である。しかし、このとき実質金利は必ずしもマイナスにはならない。名目金利というのが額面上の金利であるのに対し、実質金利とは物価変動分を加味した金利である。たとえば、経済が4%のインフレ状態にあり、このときの名目金利が5%であるとする。すると、資金を5%の金利で貸し出すことで1年後に名目上5%の利益を得ることができる。しかし、この経済は4%のインフレ状態にあるので、1年間で貨幣の価値は4%下がっている。よって、1年間資金を貸し出したことによる実質の利益は5-4=1%であり、実質的には1%の利益に過ぎない。この「名目金利−インフレ率」によって導かれる金利を実質金利と呼ぶ。
ここで、4%のデフレ状態にある経済を考える。名目金利が5%であるとき、資金を1年間貸し出すことで名目上5%の利益を得ることができる。しかし、この経済は4%のデフレ状態(インフレ率がマイナス4%の状態)にあるので、この1年間で貨幣の価値は4%上昇している。すると、1年間の資金の貸し出しで実質的に5+4=9%の利益を得ていることになり、すなわち実質金利が9%であるということができる。これは、仮にこの経済の名目金利が0%にまで下がったとしても、4%のデフレである限り、実質金利は0+4=4%に留まることを意味する。通常、名目金利はゼロ以下にはならないため、低金利政策にはこのような限界があった。
なお、名目金利は通常マイナスにはならないが、インフレ下の経済では実質金利はしばしばマイナスになることがある。
実際にマイナス金利政策が採用された事例
欧州・北米
欧州では一部の中央銀行でマイナス金利政策が採用されている。たとえば、欧州中央銀行、デンマーク国立銀行、スウェーデン国立銀行、スイス国立銀行は政策金利(中央銀行の超過準備に対する金利)についてマイナス金利を採用している。これらの銀行がマイナス金利政策を採用したのは、すでに緩和状態にある金融政策をより緩和させるためであり、2013-2015年初頭にかけての減少圧力のかかったインフレ予想によるデフレリスクを懸念したものである。 また、2016年現在、カナダもマイナス金利政策の採用を検討している。
日本
2016年1月29日、日本銀行はマイナス金利政策の採用を発表した。これは民間銀行の日銀当座預金にある超過準備に対して-0.1%のマイナス金利を課すものであり、2月16日より実行される。日本銀行の黒田東彦総裁によれば、マイナス金利を採用したのは2%のインフレ目標をできるだけ早期に達成するためである。黒田総裁は以前から2%のインフレ率を2016年末には達成したいとしていたが、市場は広くその目標が達成できるかどうか懐疑的であった。2016年1月現在、日銀は2016年4月から2017年3月の期間で、コアインフレ率は平均0.2-1.2%と予想している。 マイナス金利導入後、半年が経過した2016年8月現在、都銀の貸出残高(全国銀行協会ベース:7月末)は3年9か月ぶりに減少に転じる等、マイナス金利導入が企業の資金需要に繋がっていない。また、各金融機関の総資金利鞘は減少し続け、2017年3月決算の段階で20行が逆ざやの状態となっているなど、金融業界への影響は大きく、大手銀行では収益改善のために顧客から口座維持手数料を徴収することを検討している。  
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1月29日の金融政策決定会合で日本銀行が決断した「マイナス金利」。日銀史上初の政策で、個人の預金もマイナス金利になるのかなど、疑問点も少なくない。円安が期待される反面、運用難で銀行の収益悪化も懸念されている。
2013年4月、黒田東彦総裁の下に始まった「異次元緩和」は、大量の国債を金融機関から買い上げることで資金を大量供給する、量的・質的緩和(QQE)へと大きく踏み出した。しかし、その効果は判然とせず、目標とする「2%の物価上昇率」の達成が17年度前半に先送りされた中での、マイナス金利導入だ。
すでに欧州では導入されているマイナス金利だが、具体的に個人や企業にはどんな影響を及ぼすのか。Q&Aにまとめた。
マイナス金利とはどんなものか?
通常なら、銀行におカネを預けると金利を受け取り、おカネを借りると金利を支払わなければならない。これがマイナス金利では逆となり、“おカネを預けると金利を取られる”ことになる。
マイナス金利の対象になるのは、民間銀行が日銀に預ける当座預金の一部だ。日銀が資金供給のために行う国債の買いオペレーション(公開市場操作)に応じ、銀行は国債を売って得た資金を超過準備として日銀の当座預金に預けている。日銀は08年、これに「付利」として0.1%の利息をつけ、銀行側も「ゼロよりはまし」と積み上げてきた。
現在、日銀の当座預金には、259兆円のおカネが積まれている。すべてをマイナス金利にすると影響が大きいので、日銀は、1.政策金利残高、2.マクロ加算残高、3.基礎残高と、三つに分割。このうち、「マイナス0.1%」の金利を導入するのは、新たに設ける、1.のみだ。その規模は当初約10兆円と見込まれる。
日銀はマイナス金利を課すことで全体の金利を引き下げ、融資や投資を活発化させることを狙っている。日米の金利差拡大で為替が再び円安に向かうことも期待できる。
なおマイナス金利が適用されるのは、2月16日の準備預金積み期間から。黒田総裁は今後の金利について、「必要であれば、さらに引き下げる」と記者会見で述べており、一層の追加緩和に含みを持たせている。
人や企業への 影響はどうなる?
個人が銀行に預けた預金に対して、直ちにマイナス金利が適用されることはない。銀行預金に利息の支払いが課されれば、預金流出の事態に陥りかねないからだ。もっとも、メガバンクなどは大企業向けに口座手数料の新設を検討しているとされ、実質的な金利徴収に近づくことも否定できない。
今後は低下する市場金利を反映し、個人向けの預金金利は下がる可能性が高い。りそな銀行は2月、定期預金の金利について、期間にかかわらず、すべて0.025%へ一律に引き下げた。一方、住宅ローンにおいても、住宅金融支援機構の長期固定ローン「フラット35」の金利が下がる見込みだ。マイナス金利はおカネの借り手にこそ都合がいい。
マーケットには早くも金利低下の圧力がかかっている。長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは、フシ目となる0.1%を下回り、一時0.04%台と史上最低水準を更新した(価格は上昇)。従来も短期国債の利回りはマイナスだったが、残存期間8年の国債にまでマイナス利回りが定着している。
さらに円安メリットで輸出企業の業績が改善すれば、政府の後押しする賃上げや設備投資増の要求に、余剰資金のある企業が応えるかもしれない。投資の対象が株や外国債券に向けられることも考えられる。
デメリットは今後 生じないのか?
銀行にとっては、調達(預金)金利を変えないまま、貸し出し競争激化で運用(融資)の金利を下げれば、本業である利ザヤの縮小が想定される。特に地方銀行は、融資先が資金需要の乏しい国内に限られ、国債で運用しているので、ますます経営が苦しくなりかねない。
実際に日銀発表後、株式市場では、銀行株が一斉に下落する局面があった。日銀としては、マイナス金利が適用される当座預金を新規に限ることで、「銀行収益への過度な圧迫がないようにした」と説明。一定の配慮をしたとしている。
運用面の逆風も見逃せない。財務省は個人向けに窓口で販売する、10年物国債の募集を初めて中止する。国債などの運用で収益を稼ぐゆうちょ銀行も運用難は必至だ。投信会社はMMF(マネー・マネジメント・ファンド)の申し込み受け付けを停止した。今のところ、資金の受け皿となるMRF(マネー・リザーブ・ファンド)は各社とも継続する方針だが、厳しい運用が予想される。かえって証券投資の実務を阻害するおそれも考えられる。
政府や日銀が期待した円安・株高も、今のところ効果は見えない。一時は1ドル=121円台まで進んだ円安は、早くも117円台に押し戻されている。日経平均株価も1万7800円台に急伸したが、3日間しか持たずに反落してしまった。
海外で導入された 事例はないのか?
現状では、スイス、スウェーデン、デンマークに欧州中央銀行(ECB)を加えた、四つの中央銀行が導入済みだ。いずれも自国通貨高やデフレの回避を、その目的に挙げている。
ECBの場合、14年6月、マイナス金利を初めて採用。まずマイナス金利を始め、その後、量的緩和をするという、日本と逆の展開になった。15年12月にはマイナス0.3%まで引き下げ。ドラギ総裁は3月にも追加緩和に踏み切ると言及している。 ただし、現実には欧州でも、貸し出しが期待したほどには拡大していないようだ。一方、預金口座からは管理手数料を徴収するなど、一部では預金者にとってのデメリットが表面化している。 
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マイナス金利はどのような影響を与えるのか?2016年1月29日に日本銀行が、初めての「マイナス金利政策」の導入に踏み切りました。これによって、さらなる金融緩和を推し進めようという思惑がありますが、今後の日本経済にどのような影響を与えるのでしょうか。
マイナス金利とは
マイナス金利とは、銀行が余分に日本銀行にお金を預けた場合、日本銀行が「罰金」を取るという仕組みです。一般の消費者にとってみれば、住宅ローンの金利は下がって得をする一方で、預金金利や運用商品の利回りが下がる不利益も予想されます。
また、マイナス金利は日本銀行以外の市中銀行の収益も圧迫します。銀行が損をしないように、預金を引き出して一般消費者や企業などの貸し出しを増やせば、金回りは良くなりますが、逆に銀行自身が自分の経営を守ろうとして、貸し出しを慎重にする可能性もあります。各種金融サービスの手数料も上がるかも知れません。
さらに、これまで続けてきた政策との相性も決して良くありません。日本銀行は、銀行等から大量に国債を買って金利の引き上げを狙う政策を続けています。しかし、今後は国債を売ったお金を貯めると「罰金」がかかるため、銀行は国債を売り惜しんで、これまでどおりの金融緩和策が、行き詰る可能性もあります。
マイナス金利に踏み切った背景とは?
日本銀行はこれまで、金融機関から長期国債などを大量に買い取り、巨額の代金を渡すことで、世の中に供給するお金を年80兆ずつ増やす金融緩和策を進めています。ただ、原油安などの影響で消費者物価は0%近辺で伸び悩んでいます。国債などを買うだけでは、早期に物価が上がらない恐れがありました。
日本銀行は、従来の製作は維持したまま、2月16日以降に金融機関が日本銀行の口座に積み上げるお金の一部について、金利をマイナス0.1%としています。日本銀行に預けたままだと、逆に利子を取られることになるため、金融機関は損しないように貸し出しや投資に回し、結果的に経済の活性化につながる、と日本銀行はみています。マイナス金利政策は、欧州中央銀行(ECB)などがすでに導入しています。金融機関同士が貸し借りする最も短い期間の金利がマイナスになるのに加え、日本銀行が長期国債を大量に買い続けるため、住宅ローンや企業の借り入れなどの金利がさらに下がる可能性があります。一方、社会的な影響が大きいため、銀行を一般預金者の預金金利をマイナスにすることはないとみられます。日本銀行は今回、政策変更の効果を加味した上で、2016年度の生鮮食品を除く消費者物価の上昇率を、2015年10月時点の予想の1.4%から0.8%に引き下げました。物価目標の達成時期はこれまでの「2016年度後半ごろ」から「2017年度前半ごろ」に先送りしました。原油価格の下落が主な要因としています。
マイナス金利のメリット
今回、日本銀行が取ったマイナス金利政策は、一般消費者にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。家を建てる時に借りる際に利用する「住宅ローン」を例に取った場合、例えば2000万円借りたとしたら、通常約22000万円は返済しないといけません。それでは、今回のマイナス金利政策で、1900万円を返済すればいいのかと言えば、そんなことはありません。それは、マイナス金利政策とは、個人と銀行の間の話ではなく、銀行と日本銀行の間の話だからです。一般消費者がいつも利用している銀行(市中銀行)は、日本銀行にお金を預けていて、その利子を何%かもらっています。その金利をマイナスにしようっていうのが、今回のマイナス金利政策です。従って、銀行は日本銀行に預けると利子が減るから、結果的に預けなくなります。なぜなら、預けることで利益がでないどころか、マイナスになってしまうからです。それでは、利益を出せない分をどこで利益を出そうと考えるかというと、民間の会社などに今まで以上に借りてもらおうとします。しかも、今までの金利を下げて、より多く借りてもらおうと考えます。そうなれば、個人の住宅ローンや車のローンなども同じような考え方で、金利が下がると考えられます。このように、民間企業や一般消費者にも安い金利でお金を貸し出すことで、経済を活性化させようとしているのです。以上が、マイナス金利政策のメリットと言われています。
マイナス金利のデメリット
次に、デメリットです。今回のマイナス金利政策で、民間の銀行が日銀とのやり取りで生じるマイナス0.1%の金利は、どこが負担するかということです。一般消費者が銀行でお金を借りたりする場合の金利は、今回のマイナス金利のおかげで安くはなると考えられます。しかし、逆に民間の銀行が、以前よりも利益を上げられないという負担は、結局そのしわ寄せが預金している一般消費者になるのではないかという懸念があるます。つまり、一般消費者が銀行に預けている金利も、今以上に下げられてしまうということです。今回、日本銀行が決定したマイナス金利は0.1%ですが、今後もその金利を拡大していく可能性もあります。そうなれば、ますます銀行の負担は増えていくことになります。さらにそうなれば、その負担を軽減するために預金している人からお金を徴収するしかなくなります。結局のところ、マイナス金利政策をしても、ある一定の時期だけはお金が回るようになるだけで、最終的には民間銀行とその銀行に預金をしている一般消費者の負担にしか、ならないのではないかという不安があります。
マイナス金利が与える影響とは?
今回、日本銀行がマイナス金利政策に踏み切った最大の狙いは、銀行が日本銀行の当座預金に滞留させているお金を、企業への貸し出しに回すように促すためです。しかし、現在の歴史的な超低金利の下でも、銀行が貸し出しを増やさないのは、企業の資金需要が乏しいからです。しかし、その根本的な問題が、マイナス金利の導入によって、解消するわけではありません。また、この方法は銀行が金利コストを預金者に転嫁し、預金金利までマイナスにしてしまう可能性があります。こうした問題があるため、マイナス金利政策の導入は難しいとみられていましたが、金融緩和手法の手詰まりが課題となっていた欧州中央銀行が、2年前に採用しました。これまでの運用で、大きな混乱がないという判断から、今回日本銀行も導入を決めたという事情があります。
しかし、欧州中央銀行をはるかに上回る規模で量的緩和策を講じている日本銀行では、当座預金残高が250兆円で、かなりの多額です。マイナス金利の影響は予測できないという話もあります。このため、マイナス金利政策の導入を決めた「金融政策決定会合」では、政策導入の賛否が9人の審議委員で、賛成5、反対4の僅差でした。こうした経緯から、実体経済に効果を発揮する政策手段は限られており、効果がはっきりしない政策に頼らざるをえなくなっている日本銀行の苦しい事情が見えます。
日本銀行の黒田彦総裁は記者会見で、「2%物価目標の実現のためなら必要なことは何でもやる」と改めて強調しました。しかし、国民自身に働きかけるこの政策をこのまま続けていいのか、一部では疑問も出ています。今回、中国を始めとする新興国経済の減速や原油価格の下落など、世界経済の不安定さに対抗して、日本銀行は新政策を導入しました。ただ、内外経済が不安定になるたびに、新たなサプライズを市場に与える今の方法が、いつまでも続けられるとは思えません。その方法は、限界に来ている印象があります。
マイナス金利と海外
金融市場の混乱と、その背景にある世界経済の減速に対して、対応を迫られているには、日本だけではありません。国際通貨基金(IMF)は、2016年1月に、今年の世界経済の成長率見通しを3.4%として、2015年10月時点での予(3.6%)から引き下げました。2015年4月時点では3.8%と予想していて、下方修正が相次いでいます。
このような背景にあるのが、金融危機後の成長を支えた中国など新興国の減速です。アメリカなど先進国が金融緩和で流通した巨額のお金が流れ込み、成長を支えました。しかし、現在その歯車が逆回転しています。旺盛な需要で、資源などを「爆買い」していた中国経済の減速で、2014年半ばに1バーレル100ドルだった原油価格が、2016年に入って一時30ドルを割り込み、資源の輸出に頼る新興国を苦しめる結果になっています。また、さらなるリスク要因が、アメリカの利上げです。景気回復が続くアメリカは2015年12月、9年半ぶりに利上げに踏み切りました。金利が上がり、より高い収益が見込めるアメリカに向って、中国などの新興国から急速にお金が流れ出しています。最近の中国を指標の変化で、2016年の初めは、世界的な株安になりました。
しかし、アメリカも難しい局面に立たされています。金融緩和を続ける日本やヨーロッパとの政策の違いもあり、この1年半ほどでドル高が急速に進行しました。この結果、輸出や製造業が低迷し、次第に景気が減速傾向にあります。 
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最近あちこちで聞かれるようになった「マイナス金利」という言葉ですが、私たちの生活においても無縁ではありません。マイナス金利とは、一言でいうと金利がマイナスになることを意味します。通常、銀行などの金融機関に預金として預ける場合、その銀行預金残高は元本保証となることに加えて、預金金利年率〜%と設定されており、預金者は相応の利息がもらえる仕組みとなっています。しかし、マイナス金利は金利がマイナスとなっていますので、逆に利息を差し引かれてしまう仕組みとなります。つまり預金として預けていても、預金残高から利息が差し引かれて元本が目減りすることを意味します。
ただし、マイナス金利は日本銀行(以下、日銀)が、銀行などの金融機関が日銀に預ける当座預金の一部を対象としているため、個人や法人などの一般の顧客が銀行に預ける預金に対して、日銀が直接マイナス金利を適用させることはありません。マイナス金利はあくまで日銀が行う金融政策のひとつであり、銀行が日銀に預ける当座預金を世の中に出回らせて、景気回復につなげることを目的とした政策です。一般の銀行の預金金利はその預金先の銀行が設定しており、現在のところ預金金利をマイナス金利で設定する銀行はみられません。マイナス金利が銀行の収益にどれほど影響を与えるかは未知数です。しかしマイナス金利導入後、金融商品の金利水準を引き下げる動きがみられ、間接的に影響が及び始めています。
マイナス金利は日本経済の景気回復の手段として採用されており、厳密には物価の上昇を目的とした金融政策です。日本の経済は1990年初頭のバブル崩壊以降、長らくデフレに悩まされてきました。デフレとはデフレーションの略で物価が下落している状態のことを意味しますが、景気が低迷する要因とされています。物価が下落している状態とはモノの値段が安くなっている状態のことです。
例えば、製造業を営む企業において安いモノをいくら売っても売上は思ったほど上がりません。しかし製造にかかるコストなどは、モノの値段が下がっても早々に圧縮できるものではなく、利益を出しにくい状態となります。すると企業は、先行き不安から設備投資を控えたり、労働者の給与賃金を抑えたりという行動を起こします。個人においても給与や雇用に不安が生じると、家計の出費を抑える動きにつながります。このように誰もがお金を使いたがらない状態では、景気が刺激されるはずもありません。
第二次安倍政権はデフレが景気回復の妨げになると考え、アベノミクスによるデフレ脱却を本格化しました。日銀も政府に同調する動きをみせ、日銀総裁である黒田総裁を中心に物価の上昇目標を2%と設定し、異次元緩和といわれる過去に例をみない大規模な金融緩和策を現在まで強烈に推し進めてきました。しかしデフレの根は深く、個人消費や企業の設備投資などが思うように進まないことから、資金の出し手としての役割を担う銀行の貸し出しの活発化に着手します。
マイナス金利は、銀行などの金融機関が日銀に預ける当座預金の残高を対象としています。ただし厳密には、ある基準時点よりも増加している残高の部分を対象としています。つまり新たに日銀に預けると、マイナス金利を課すことを意味していることになります。マイナス金利が課されないようにするには、企業に貸し出すなど日銀に預けないようにしなければなりません。こうした仕組みで銀行貸出を促し、景気回復に活用させようとしたことがマイナス金利導入の目的です。
マイナス金利の導入後、金融市場や金融商品を取り巻く環境は大きく変化しています。市場金利(10年国債が取引されている金利水準)はマイナスとなり、10年の国債を購入しても運用利回りがマイナスとなる事態に陥りました。また民間銀行は普通預金や定期預金などの預金金利に加えて、住宅ローンなどのローン商品の借入金利も軒並み引き下げて対応しています。
市場金利や預金金利のさらなる低下によって、あらためて資産運用に焦点があたっています。日銀はマイナス金利導入以前から、金融緩和策の一つとしてETFやJ-REITといった上場株式投資信託や上場不動産投資信託などのリスク資産の買い入れを進めてきました。また日銀は2%の物価安定目標を掲げていますので、目標にめどが立つまで現在行われている金融緩和策を継続して実施されることが考えられます。まだまだ道半ばですが、将来的には持続的な物価上昇のサイクルが構築されることに変わりはなく、物価の上昇に備える個人投資家も増えています。
マイナス金利のメリットとデメリット
マイナス金利のメリットの一つは、ローン商品が低い金利で借入しやすくなっていることです。そしてマイナス金利のデメリットの一つは、預金商品の金利が低下していることです。
マイナス金利は日銀の金融緩和策
マイナス金利は日銀が民間銀行などに対して課しているため、個人や法人など一般預金者向けの普通預金や定期預金などの預金金利に対しては、直接影響を与えません。しかし、マイナス金利を課されている民間銀行は、マイナス金利が業績に与える影響を想定しきれていないことから、マイナス金利導入に合わせて取扱う金融商品の適用金利を引き下げています。
今後もマイナス金利のさらなる引き下げ(深堀り)状況によっては、適宜、金融商品の適用金利を引き下げて対応することが考えられます。マイナス金利の導入によって、金融商品の見方やメリット、デメリットが変わってきていますので、マイナス金利が各金融商品に与える影響などを確認しつつ、効率的な資産運用を行いましょう。
マイナス金利のメリットは、住宅ローンや企業融資などのローン商品において、マイナス金利導入以前よりも相対的に低い金利で借入しやすくなっていることです。そもそもマイナス金利導入の目的は、物価の上昇を通じて国内の個人消費や設備投資などを活性化させることにあります。そのために、お金の貸し手としての役割を担う銀行などの金融機関が余剰な資金を貯め置かないように、積極的な貸し出しを行う仕組みを採用しています。
銀行などの金融機関は預金や貸出の金利を設定する際に、市場金利(10年物国債が売買される金利水準)や日銀が設定する政策金利などを基準に金利を設定する傾向にあります。マイナス金利は、日銀が中央銀行として行う金融緩和策であり、実質的な金利引き下げにあたることから、ローン商品の基準金利も低下する傾向にあり、マイナス金利導入前よりも安い金利で借入を行うことが可能となっています。
ローン商品について、例えば住宅ローンでは契約時に固定金利、または変動金利を選択することがあります。マイナス金利は物価の上昇を目的とした金融緩和政策の一つとして2016年初頭に導入されましたが、現在のところ、実施期間や将来にわたるマイナス金利の適用金利水準(段階的な引き上げや引き下げ)など、決められた計画はありません。日銀は物価目標の進捗状況や景気動向によって、マイナス金利の拡大や終了を柔軟に行うことが考えられます。
マイナス金利導入後の住宅ローンの借入金利は、歴史的にみても低水準となっていますが、あくまで住宅ローンは銀行が販売する金融商品であり、マイナス金利が更なるマイナス幅を拡大させたとしても、ビジネスとして住宅ローンを取扱う以上、住宅ローンの金利引き下げ余地は限られてきています。表面金利は、変動金利の場合は足下の金利水準を基準とし、固定金利の場合は将来にわたる契約満了期間を勘案した金利が設定されるため、固定金利が変動金利よりも高くなる傾向にあります。しかし、変動金利については時勢を反映した金利が適用されるため、仮にマイナス金利が終了して市場金利が上昇した場合には、返済負担額は増加することになります。借入についてはしっかりと返済計画を立てて、返済期限や返済金額に無理がなく継続して返済できることが重要なため、歴史的な低金利水準となっている現在では、全期間固定金利で対応することが多くのメリットを享受できると考えられます。
マイナス金利のデメリットは、普通預金や定期預金などの銀行預金金利が低下していることがあげられます。マイナス金利は、銀行などの金融機関が日銀に預けている日銀当座預金残高の新規増額分を対象にマイナス金利を課す仕組みとなっています。預金を集めることは市中銀行の本業の一つですが、過剰な預金残高の増加はマイナス金利が課されることにつながりかねないことや、銀行の先行きの収益にも不透明感が残ることから、マイナス金利の導入にあわせて多くの銀行は、預金金利を引き下げています。
しかし、銀行が集める預金は銀行の体力を示す指標の一つでもあり、全ての銀行が預金に消極的な姿勢をとっているわけではありません。銀行は一般の定期預金に加えて、相続金や退職金、年金契約などを契機とした様々な定期預金を取り揃えています。また、投資信託などの購入とセットにした定期預金の上乗せなどもあります。預金額の上限はありますが金利も高めに設定されています。そのような条件付きの定期預金も、該当する場合には是非活用するべきだと考えられます。
マイナス金利導入後の定期預金の状況
日本銀行によるマイナス金利の導入以降、多くの銀行では定期預金の預金金利が引き下げられています。高金利で知られているネット銀行も例外ではありません。
メガバンク地方銀行とネット銀行の金利の違い
日銀によるマイナス金利導入後、民間銀行は普通預金や定期預金などの預金金利を引き下げています。民間銀行は、銀行預金の預金金利を設定する際、市場金利(10年国債が市場で売買されている金利水準)や日銀が設定する政策金利などを基準に預金金利を設定する傾向があります。マイナス金利導入直後は、たちまち市場金利がマイナス圏で推移していたため、市場金利にあわせて預金金利を引き下げる動きにつながっています。
ただし、マイナス金利は日銀に当座預金口座を開設している金融機関の預金残高に課せられますが、全ての金融機関がマイナス金利を支払う義務を負っているとは限りません。マイナス金利が課される対象は、日銀の当座預金口座に預ける新規増加分の預金残高です。日銀の当座預金残高を新規に増加させなければ、マイナス金利を負う必要はありません。日銀当座預金とは、銀行などの金融機関が金融機関同士の日々の決済などに使用している預金口座であり、日々、最終決済を終えた資金が預けられています。そのため、国債などの資産運用商品の購入や企業などを相手先とした貸出を行うことで減らすことも可能です。
マイナス金利の導入以降、多くの銀行で定期預金の金利は引き下げられていますが、全ての金融機関が一律に超低金利を設定しているわけではありません。定期預金は、安全性の高い金融資産であり、個人の資産運用においても切り離せないものです。また、定期預金を集める銀行においても、定期預金は貸し出しなどの原資になることや銀行の体力を示す指標とみられることから、多くの定期預金を集めたいという意図は、マイナス金利導入前後から変化がないものだと考えられます。しかし、マイナス金利は日銀当座預金へ新規に預け入れられた預金に課せられるため、マイナス金利の影響度合いによって預金金利が設定されている側面もあると考えられます。
マイナス金利の導入によって、多くの銀行では定期預金の預金金利を引き下げています。そのような中で他の銀行と比較して定期預金の金利が高い銀行は、住信SBIネット銀行や楽天銀行などのネットバンクです。ネットバンクは、インターネット環境があれば、日本全国どこからでも無料口座開設や取引などのサービスを受けられます。ただ銀行業界の中では比較的歴史が浅く、支店などの実店舗を持たないため、実質的な営業基盤といえる地域はありません。預金残高は銀行として経営を行ううえで生命線の一つともいえ、継続的に定期預金を集める必要があるため、ネットバンクは比較的高い金利を設定していることが考えられます。
他方、ネットバンクは全般として個人向け金融商品やサービスの提供にも注力しており、投資信託や保険商品などの運用商品の販売によって収益を稼いでいます。また、集められた預金は法人企業ではなく、住宅ローンやカードローンなど個人向けの融資が中心となっていますので、他の銀行よりも不良債権などのコストも低くなっています。ネットバンクのこのような収益構造はマイナス金利の影響を受けにくい仕組みとなっていますので、同業他社比でも高い水準で定期預金の金利を設定することが考えられます。
地方銀行は定期預金の金利について、概ね金利引き下げで対応しています。地方銀行は、メガバンクの小規模地域版といえる銀行であり、収益構造も類似しています。特にマイナス金利を導入したからといって、たちまち地方の大企業や中小企業が借入を増加するわけではありませんので、融資が厳しい地域を基盤とする地方銀行においては、融資が伸びない中で預金量が増加してマイナス金利の対象となる可能性も否定できません。このような点から引き続き、地方銀行は定期預金の金利を低金利で据え置くことが考えられます。ただし、一部では上乗せ金利を適用した定期預金キャンペーンを展開している地方銀行もみられます。キャンペーン定期については、利用して損はないでしょう。
みずほ銀行や三菱UFJ銀行などのメガバンクは、マイナス金利導入後、普通預金や定期預金の金利を引き下げて対応しており、業界最低水準の低金利を設定しています。しかし、メガバンクは業界最高水準の信用力を誇っており、金利水準に関わらず信用力があるから預金している人も少なくありません。そのため多少、預金金利が引き下げられたところで、たちまち多くの預金が引き出されることはないことが考えられます。仮に預金金利を高く設定している他の銀行と同じ水準で預金金利を設定した場合、信用力が高い分だけ預金が集まりすぎることが想定されます。そうなるとマイナス金利が課される可能性まで出てきますので、過度な預金を必要とはしていません。
また市場金利がマイナスまで低下していることから、メガバンクは金融市場を通じて低金利でお金を調達することもできます。金融機関同士が資金の運用や調達を行っている金融市場をインターバンク市場といいますが、インターバンク市場において貸出や借入に伴う金利は、一般として信用力を基に決められる傾向にあります。メガバンクはインターバンク市場において、他の銀行と比較してもかなりの低金利で借入を行うことができます。メガバンクは金融市場を通じて低金利で資金を調達できるため、当面、定期預金の金利を低い水準で設定することが考えられます。
現在のところ、メガバンクは、マイナス金利が銀行収益に多大な影響を及ぼす場合においても、預金金利をマイナス金利に設定することは考えていないようです。なぜなら一般の預金にマイナス金利を設定すると、預金者離れを引き起こす可能性も否定できないからです。ただし、マイナス金利を設定しない代わりとして、口座手数料の有料化など、個人口座の利用などに手数料負担を求める手段を講じる可能性はあります。そうした意味では金融関係のニュースに対して、常にアンテナを張っておくほうがよさそうです。
マイナス金利が金融機関に与える影響
日本銀行によるマイナス金利の導入は銀行に限らず、証券会社や保険会社などの金融機関にも大きな影響を与えています。プラスの影響を受けやすいのは証券会社で、マイナスの影響を受けやすいのが保険会社だと言われています。
ビジネスチャンスの広がる証券会社
マイナス金利は、銀行預金の金利や住宅ローンなどの貸し出し金利に対して、間接的に大きな影響を与えていますが、その影響は銀行に限らず、証券会社や保険会社などの金融機関を取り巻く環境に及んでいます。マイナス金利の導入は、銀行の融資姿勢を積極的なものに転換させ、世の中に多くのお金を供給することで個人消費や企業の設備投資の活発化につなげることにあります。そして、最終的には物価の上昇とともに日本経済を継続的な成長路線に乗せることを目的としています。景気が良くなる局面では、企業活動が活発化し、企業融資の増加によって銀行収益が押し上げられることや、株高に始まり様々な金融資産の価格が上昇するため、運用を主とする証券会社や保険会社の利用頻度が高まり、収益環境が好転することも考えられます。
しかし、実際にはマイナス金利導入以降、株式市場ではメガバンクなどの銀行株や生命保険株は振るわない株価推移となっています。株価の動向が金融機関に対する評価の全てを示すものではありませんが、日本の金融政策では初の試みであるマイナス金利が与える影響は不透明な部分も多く、金融機関にとって必ずしも好業績をもたらすものではないことを示しているとも考えられます。
マイナス金利の導入によって最も恩恵が期待される金融機関は証券会社とみられています。マイナス金利とは、金融緩和をさらに推し進める政策のひとつであり、銀行などの金融機関を通じて多くのお金を出回らせることを目的としているため、個人投資や消費を一層、促すものとなることが想定されるためです。そもそも第二次安倍内閣は、発足当初からアベノミクスといわれる経済政策を展開し、物価の上昇による景気回復策を講じてきました。その結果として、銀行預金の金利や国債などの債券利回りは低下の一途をたどる中で、低金利の改善や物価上昇への備えを目的として、株式や投資信託などの資産運用商品を活用する個人投資家が増加しています。
他方、低金利や将来的な物価の上昇によって、現預金の実質的な価値が目減りすることから、金融資産を防衛する意味での資産運用にも注目が集まっています。こうした背景によって株式や投資信託などのリスク資産による取引が増加する局面では、資産運用を専門に取り扱う証券会社のビジネスチャンスの広がることが考えられます。
マイナス金利によって収益環境が厳しさを増すことが予想される金融機関は保険会社とみられています。保険会社は、生命保険や傷害保険、年金保険などを取扱っており、保険契約者から保険料を受け入れ、保険契約者に保険金を支払う事由が発生した場合に契約内容に沿って払い戻しています。ただし、保険会社は保険契約者に対して保険金を支払うまでは受け入れた保険料を様々な金融資産で運用しており、保険会社自身の収益を確保しているという側面もあります。マイナス金利によって運用が難しくなったことが、保険会社に悪影響をもたらしていると考えられます。
保険会社の運用は、保険金の支払いなどを考慮して安全性の高い国債などの債券を中心に据えています。マイナス金利導入以降、市場金利(10年国債が取引されている金利水準)がマイナスに陥るなど、安全資産の運用利回りが軒並み低下しており、運用が難しくなっていることから、マイナス金利は保険会社の収益環境を厳しくしているとみられます。
マイナス金利が銀行に与える影響は、収益悪化が懸念される見方となっています。銀行は、個人や法人などから集めた預金をお金を必要とする個人や法人に貸し出すことで生じる利ざやによって収益を稼いでいます。マイナス金利の導入は、預金やローンに限らず金利が付される多くの金融商品の金利を低下させています。銀行の収益構造においては、預金の金利引き下げは調達コストの低下、ローン商品の金利引き下げは利益の低下として捉えられます。
一見すると銀行の収益が悪化しているようには感じられませんが、金利が低下する以前の収益を継続するためには、預金残高は過度に増やさず(預金残高の増加は調達コスト増)、ローン商品は金利低下前よりもさらに多くの貸し出しを行わなければ(貸出金利が低いため、同じ貸出量では利益低下)、金利低下以前の収益水準を維持することができない状態にあります。
マイナス金利の導入理由のひとつは、銀行などの金融機関による貸し出しを後押しすることにあります。しかし言い換えると、銀行などの金融機関による貸し出しが伸びていないということもいえます。マイナス金利を導入したからといって、導入直後からすぐにローン商品の貸出量が大きく伸びることはなく、利益を損なうことが懸念されています。
また、銀行は受け入れた預金の全てをローン商品にあてているわけではなく、一般に余資と呼ばれる差額部分で資産運用を行っています。しかし、運用資金の原資も預金となるため、極めて積極的な運用を行うことはありません。あくまで国債や社債などの債券による安全性を重視した運用が中心となりますが、市場金利の低下によって債券の利回りも大幅に低下しています。マイナス金利導入以前のような運用による収益を稼ぐことが困難となっている、いわゆる運用難の状況において、銀行が資産運用によって収益を稼ぎ出すことは容易でない状態となっています。
マイナス金利下での資産運用
日本銀行がマイナス金利を導入してから、定期預金などの金利収入を目的とする金融商品は軒並み運用利回りが低下しています。
短期よりも中長期での運用が望ましい
日銀が導入したマイナス金利政策によって、資産運用の重要性がますます高まっています。マイナス金利の導入決定以降、市場金利(10年国債が取引されている金利水準)が低下していることに加えて、定期預金などの銀行の預金金利も引き下げられており、主に金利収入を目的とする金融商品は軒並み運用利回りの低下を余儀なくされています。
また、マイナス金利政策は金融緩和策の一つです。2012年末に自民党政権となり、第二次安倍内閣が発足して以降、アベノミクスといわれる経済政策を実施していますが、この政策による日本経済の景気回復シナリオは継続的に物価を上昇させるサイクルを形成することにあります。正常な物価上昇の継続は、国内経済そのものが成長している証でもあり、物価の上昇をもたらす手段として効果的な金融緩和策を推し進める延長として、マイナス金利は導入されていると考えられるでしょう。
しかし物価の上昇は、言い換えれば実質的なお金の価値を低下させることになります。本来、物価の上昇とともに給与や預貯金の金利が上昇することで、物価上昇をあまり感じさせないように、中央銀行が物価の安定を図ることが多いと考えられます。しかし、日本の場合はデフレーション(物価が下落した状態)が根深いため、国や日銀が主導で物価の引き上げを図っていますが、給与や預貯金の金利などが物価の上昇に連動するかは不透明です。そのため、物価の上昇に備えた金融商品でお金の実質的な価値の低下を防衛することに注目が集まっていると考えられるでしょう。
マイナス金利が導入されて、普通預金や定期預金などの銀行預金の金利は軒並み低下していますが、私たちの生活において元本の安全性が高く、いつでも換金できる資金を貯め置くことは必要です。そのため資産運用とはいえ安全性を確保する意味で、定期預金などでの運用は切り離すべきものではありません。現在の銀行を取り巻く環境は、短期的にはマイナス金利で厳しさを増しているとみられていますが、逆にみれば安全性が高まっているともいえます。日銀は、物価の安定を図るべく、様々な金融政策を実施する一方で、金融庁は今回のマイナス金利が銀行などの金融機関の経営状況にどのような影響を与えているかを注視する動きもみられます。監督官庁との連携した金融政策の実施は、言い換えれば金融機関の安全性を高めているともいえるでしょう。
こうした状況下で銀行預金を利用する際には、信用力の高い大手銀行の利用にこだわる必要はなく、非対面ですが利便性が高まっている楽天銀行などのネット銀行やショッピングポイントなどのサービスを銀行でも活用できるイオン銀行などの小売業系列の銀行を利用することも有用だと考えられます。これらの銀行は、同業他社と比較しても銀行預金の金利を高めに設定しています。また、全国に提携ATMも多く手数料も安く設定されており、利便性が高いことも特徴的です。
安全性が高い金融商品として、国債などの債券で運用する方法もあります。市場金利が基準となりますので、マイナス金利の導入によって低下した表面利率によって債券の運用利回りは低下しており、投資妙味は薄れています。ただし、変動10年の個人向け国債については、低金利や物価の上昇に対応できる商品性となっています。変動10年の個人向け国債は6ヵ月で適用金利を見直し、実体経済に即した金利で運用できることに加えて、換金性も高く、償還時には元本は目減りしません(ただし、個人向け国債を途中で解約する場合は、直近2回分の利子相当分を差し引いた中途換金調整額が差し引かれるため、元本金額は目減りします)。金利上昇局面における安全性を重視した運用を行う場合には、固定金利ではなく、変動金利を採用した金融商品を活用することが効率的な資産運用につながるため、変動10年の個人向け国債は有用な投資と考えられます。
安全性の高い金融商品については、金利上昇のリスクに備える必要もありますので、長期運用よりも短中期運用を行うことが望ましいと考えられます。なぜなら、マイナス金利は実施期間や期限を設けているわけではなく、日本銀行が想定する景気動向に至った場合は、突如としてマイナス金利を終了させる可能性があるからです。確かに、現在の市場金利は大幅に低下していますが、マイナス金利が終了した場合には景気改善を理由に市場金利が上昇に転じる可能性があります。一般に、定期預金はを中途解約する際には、金利が低い中途解約利率が適用されるため、あまり中途解約はおすすめできません。そのため、金利上昇局面が想定される場合、長期の定期預金は望ましくないと考えられます。また、長期国債などは金利上昇局面において債券の単価が下がるため、評価損、または低い金利で満期まで保有せざるを得ないという機会損失を被る可能性が出てきます。金利上昇のリスクに備えるべく、換金性や時勢にあった金利水準で運用できる、短中期での運用の継続が望ましいと考えられます。
物価上昇への備えを目的とする場合は、株式や投資信託などのリスク商品を分散投資することが望ましいと考えられています。過去には第二次安倍政権の発足以来、日経平均株価を始めとする多くの日本株は相次ぎ急騰し、国内の株式市場が久方ぶりの活況を極めたことは記憶に新しいことでしょう。いわゆる物価上昇に負けない金融商品が、物価上昇への備えとして選択されているわけです。
またマイナス金利の導入によって、さらに市場金利が低下したことを受けて、不動産投資への注目も集まっています。不動産投資については、日銀が金融緩和策の一環として金融市場からJ-REIT(上場不動産投資信託)の買い入れを継続しており、価格の安定が図られています。J-REITは様々な投資家から資金を募り、その資金で不動産を購入し運用している商品です。J-REITに組入れられた資産は大都市圏や地方の一等地の物件が多く、また、2020年には東京オリンピックも開催されるため、不動産の用途や需要が高まることが予想されるため、不動産価値は高まりやすい状態にあります。さらに、低金利によって新たな不動産を調達する際のコストを圧縮できることから、相対的に運用利回りも高く、将来の物価の上昇と低金利の両方の恩恵を受けられる金融商品として選択されています。 
 

 

●「マイナス金利」導入史   
 2016 
マイナス金利政策 2016/2/2
予想通り、日本銀行のマイナス金利政策を受け、長期金利が異様な低下を示しています。
先週、日銀がマイナス金利という新たな金融緩和策に踏み切ったことを受けて、満期まで10年の国債の利回りで代表される長期金利は一時、0.05%まで低下し、過去最低を更新しました。
週明け1日の国債の市場では、先週、日銀が金融機関から預かっている当座預金の一部につけている金利をマイナスに引き下げる新たな金融緩和に踏み切ったことを受けて、満期までの期間が10年の国債に買い注文が集まりました。(後略)
八年物国債もマイナス金利に突入しましたので、長期金利(十年物)でマイナスになるのも時間の問題のような気がします。先日、ある講演で金融関係者の参加者から、「長期金利がマイナスになりますか?」と聞かれ、「半年以内にはなると思います」と答えたのですが、それどころではないペースで金利が低下していっています。それほどまでに、我が国には「実需」が不足しているという話です。
ところで、黒田日銀総裁は、今回のマイナス金利導入に際し、「イールドカーブを全般にわたって引き下げ、一方で予想物価上昇率を引き上げることで、実質金利をイールドカーブ全般にわたって押し下げる。それによって、消費や投資を刺激し、経済が拡大し、その中で需給ギャップが縮小し、インフレ期待の上昇と相まって、物価上昇率を2%に向けて引き上げていく」と、説明しています。
前半について何を言っているか分からないかも知れませんが、イールドカーブとは超簡単に説明すると、債券の残存期間を含めた金利動向です。横軸に残存期間、縦軸に債券利回りを表示します。
先述の通り、八年物国債はマイナス金利ですが、十年物は「まだ」0.05%の金利がついています。今、八年物、十年物国債を買ったと仮定すると、イールドカーブはマイナスからプラス0.05%に向かう右肩上がりの曲線になります。
要するに、黒田日銀総裁は、「残存期間に関わらず、全体的に債券の金利が引き下げられ、同時に期待インフレ率(予想物価上昇率)を引き上げることで、実質金利を債券の残存期間に関わらず押し下げる」と、言っているわけです。フィッシャー方程式により、
実質金利=名目金利−期待インフレ率
でございます。一応、黒田日銀総裁の発言の前半は(フィッシャー方程式的には)筋が通っています。
問題は後半。「消費や投資を刺激し、経済が拡大し、その中で需給ギャップが縮小し、インフレ期待の上昇と相まって、物価上昇率を2%に向けて引き上げていく」この部分は、かなり重要です。ポイントは二つあります。
一つ目、黒田日銀総裁が、「需給ギャップが縮小し」と、語っていること。需給ギャップは、もちろん上記の文脈では「デフレギャップ」を意味します。すなわち、需要不足が消費や投資の拡大により「解消に向かう」と言っているわけです。
黒田日銀総裁も「デフレは総需要の不足」であるという認識に立っていることになります。
と言いますか、日銀の計算方式だと、需給ギャップはすでに「解消した」ということになっているのですが、黒田日銀総裁の「需給ギャップが縮小し」という発言は明らかに不整合です。いい加減、デフレギャップを「小さく見せる」日銀方式の潜在GDP計算手法も変えた方がいいのではないでしょうか。
それはともかく、二つ目。デフレが総需要の不足であるとして、例により「実質金利の低下」から「消費や投資の増加」の部分が不明確である点です。青木先生がコラムで指摘された、「効果波及過程(トランスミッション・メカニズム)」について説明しないのです。
何度も書いていますが、この世に「実質金利」を見て投資を決断する企業など、ほとんど存在しません。もし存在すると考えているとしてら、それはビジネスの経験がないためです。
特に、二十年もの間、デフレーションが続き、国民にデフレマインド(物価は下がるものという意識)が染みついた状況で、「期待インフレ率が上がった。実質金利が下がるから投資を拡大しよう!」などと考える経営者など、一人もいないでしょう。
企業経営者が投資をするときは、「名目金利」と「投資利益」を比較して判断します。特に、十分な投資利益が見込める案件があるならば、企業経営者は少々高い金利を借りても投資を拡大することになります。なぜなら、儲かるためです。
すなわち、現在の日本の問題、厳密には消費や投資の拡大のボトルネック(制約条件)になっているのは、「実質金利が高い」ではなく、「デフレで高い投資利益を見込める需要がない」なのです。
というわけで、政府が「需要拡大」に乗り出さない限り、今回のマイナス金利は一時的な円安と株高をもたらすのみで、長期金利をマイナスに落ち込ませ、銀行の収益を悪化させ、低金利競争に拍車をかけ、それでも企業への融資や設備投資は十分に増えず、政府や日銀を袋小路の最奥に追いつめることになるでしょう。政府による大々的な財政出動(需要創出)という正しい解を実行しない限り、袋小路を突破することはできません。  
マイナス金利決定が銀行業界へ与える影響 2016/02/10
マイナス金利という言葉はあまりにも衝撃的だった。多くの投資家はマイナス金利をどのように評価して良いのかいまだ分からないままだ。誰が得をして誰が損をするのか、新たな材料が出た瞬間、投資家はまずそれを考える。
日銀がマイナス金利を発表した1月29日の業種別騰落率を見ると、上昇率トップは不動産業だった。そして全業種のうち唯一下落したのが、銀行だった。多額の資金を借入により調達する必要がある不動産業が恩恵を受け、金利で商売をしている銀行が苦しむという構図だ。
とりわけ、運用先に恵まれず、メガバンクほど海外進出のノウハウもないため、地方銀行の経営は更に苦しくなるだろう。マイナス金利決定は資金の運用先に恵まれない地銀の再編を促すきっかけになる可能性がある。
マイナス金利というサプライズ
1月29日金曜日、その日は日銀政策決定会合が開かれており、午後3時30分からは黒田日銀総裁の記者会見が予定されていた。日銀の持っているカードは2つ。「追加金融緩和」と「マイナス金利」だ。黒田総裁はこれまでマイナス金利については「検討していないし、考えが変わることもない」と否定し続けていた。
「このタイミングでまさかマイナス金利のカードは切るまい」と、多くの投資家はそう高をくくっていた。ところが、12時38分、日銀はマイナス金利の導入を発表した。銀行など民間金融機関は、日銀に当座預金口座を開設し、そこに資金を預けている。この資金により、企業や個人の金融、経済取引に伴う資金決済が円滑に行われる。日銀は金融市場における資金の総量を、この当座預金の増減により調整している。
マイナス金利の内容は?
現在の当座預金の残高はおよそ210兆円。日銀の当座預金に資金を預けているだけで、金融機関は0.1%の金利を得ることができる。その金利が付かない、ことによってはマイナス金利ともなれば当然銀行は大きな打撃を受けることになる。融資の貸出先に恵まれない地方銀行ほど、マイナス金利の影響は大きいはずだ。それが懸念され、マイナス金利の発表と同時に銀行株が売られることとなった。
マイナス金利政策が金融仲介を担う金融機関の収益に悪影響を及ぼす面があることは日銀も十分に承知している。今回のマイナス金利の導入に当たっては、 金融機関収益への過度の圧迫により金融仲介機能がかえって低下するようなことがないよう、3段階の「階層構造」を採用し、ある残高まではプラス金利、ないしはゼロ金利とすることとした。
マイナス金利が銀行業界へもたらす影響
従来通り0.1%の金利が適用される残高は、約210兆円。また、ゼロ金利が適用される残高(マクロ加算残高)は、当初は約40兆円。2月積み期間の当座預金残高は未定であるが、仮に260兆円とすれば、マイナス0.1%が適用される残高(政策金利残高)は、当初は約10兆円となる(260兆円−210兆円−40兆円= 10兆円)と日銀は試算している。 すでに銀行が日銀に預けている当座預金に対してはマイナス金利は適用されない。日銀は銀行に対し、最大限の配慮を行ったことが理解できる。
日銀の当座預金には法定準備金とそれを上回る部分とに分類される。企業や個人の資金需要が旺盛であれば、銀行は法定準備金を上回る当座預金を日銀に預けることはない。
本来であれば、この資金は有効に活用されていない資金であり、花札用語で価値がないことを意味する「ブタ」を用いて、「ブタ積み」と呼ばれている。日銀はこのブタ積みに0.1%の金利を付けていたのだ。皮肉なことに有望な運用先が見つからない銀行にとって日銀の当座預金は最も有望な運用先のひとつである。
マイナス金利で銀行の負担が増えること以上に懸念されるのは、マイナス金利が金融市場で一層の金利低下を招いてしまったことだ。当座預金にマイナス金利が適用されることよりも、市中金利の低下で融資の利ザヤが縮小することのほうが、銀行の収益基盤にとっては大きな痛手となる。
日銀が意図したのは、マイナス金利によりブタ積みになっている巨額の資金が、企業の設備投資などに流れ込むことだ。それが経済の好循環をもたらし、物価上昇の目標も達成できるはずだった。
しかし、それは画に描いた餅に過ぎない。銀行が新たに日銀の当座預金に資金を預ければ、金利を支払わねばならない仕組みができあがった。さらに市中金利の低下により、融資の金利までも引き下げざるを得ないとなれば、銀行の収益力が悪化することは目に見えている。
銀行にとって逆風はそれだけでは無い。融資金が増えなければ、投資信託や保険の販売で収益を確保するという方法もある。しかし、銀行窓口の最前線では運用ではなく、タンス預金を選択する顧客が増えているという。マイナンバー制度の普及により資産を把握されることをきらい、銀行から現金を引き出している富裕層が増えているのだという。
地銀の再編が進むだろう
とりわけ、ただでさえ人口減少地域を営業基盤とする地方銀行の経営はより不安定なものとなるだろう。最近では生き残りをかけて経営統合を行う銀行が増えている。地方都市を中心に人口減が止まらず、地銀と第二地銀だけで100行を越えるいわゆる「オーバーバンキング」であることに加え、メガバンクなどとの競争も激化しているため収益性が落ちてきている。
地域を越えた経営統合を行なうことで、規模のメリットによる経費削減だけではなく、営業戦略上も様々なメリットがある。顧客数が増加すれば、M&Aのような仲介ビジネスのチャンスが増えるだろう。有能な行員のノウハウが持ち寄れるため、人材の質の面でもメガバンクに対抗しうる可能性も出てくるだろう。地方銀行の再編が今後更に増加する可能性は十分にあるだろう。 
マイナス金利導入2年、銀行経営は正念場に 2018/2/16
日銀がマイナス金利政策を導入してから16日で2年となる。銀行による企業や個人への貸し出しを促しデフレ脱却につなげる狙いで導入された。実際、全国銀行協会によれば1月の貸出金は484兆円と2年前と比べ4%増えたが、銀行の収益悪化という副作用が目立っている。
全銀協会長(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)の平野信行氏は「マイナス金利に加え、少子高齢化といった社会的な構造変化がボディーブローのように効いている」と指摘する。
今月出そろったメガバンクグループの2017年4―12月期連結業績で傘下銀行の業務純益は、マイナス金利導入前の15年4―12月期と比べ約3割減った。預金金利が低下したが、貸出金利も下がることで利ざやを確保しにくくなっている。
地方銀行の収益も深刻だ。全国地方銀行協会の集計によれば会員行の17年4―9月期の業務純益は2年前と比べ約2割減った。
地銀協会長(千葉銀行頭取)の佐久間英利氏は「未曾有の金融緩和政策が続くと基礎体力が失われていく。地域の金融仲介機能の維持に深刻な影響が出る可能性がある」と懸念を示している。
こうした中、銀行の店頭での両替や振込手数料を引き上げる動きが広がっている。三井住友銀行が昨年5月、みずほ銀行が1月に両替手数料を引き上げたほか、4月には三菱東京UFJ銀行も実施する。地銀の間でも振り込みや両替手数料の引き上げが相次ぐ。
野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は「マイナス金利による収益悪化分を2年近く時間が経過した後に利用者に転嫁する動きと解釈できる」と指摘する。
木内氏によれば、ユーロ圏でも欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利政策を導入して相当時間が経過した後に、手数料引き上げなどを通じて利用者にコストを転嫁する動きがみられた。
利用者に転嫁するだけでなく、人工知能(AI)やRPAなどの技術を活用し業務プロセスを効率化して収益力を強化する努力が銀行には求められる。利ざやに依存したビジネスモデルも変革を迫られている。
袋小路に追い込まれた日銀が打てる手段とは 2016/7
12日の安倍首相とバーナンキ前FRB議長の会談では、バーナンキ氏が「金融緩和の手段はいろいろ存在する」と指摘したそうである。しかし、ヘリコプターマネーといった筋悪な手段は別にして、まともな追加緩和手段はほとんど残ってはいないと思われる。
日銀前理事の門間一夫氏はブルームバーグのインタビューで、マイナス金利拡大も量の拡大も慎重な判断が必要で、もはやバズーカ砲第3弾の「余地はない」との見方を示した。量は次第に限界に近づいており、そう遠くない時期に長期国債の買い入れペースを落としていくことが「常識的な将来の見通し」だと語っていた。
門間前理事は調査統計局長をはじめ、金融政策担当理事、国際担当理事を歴任し、5月末に退任したばかりである。2013年4月の時点で「多少野心的な目標であっても、気合で一気呵成(かせい)に2%に持っていこうという戦略は正しかった」と現在の日銀が行っている異次元緩和について肯定している面はあるものの、「気合」との表現を使うあたり、やや懐疑的な見方もしていたと思われる。
いずれにしても保有残高が年80兆円増えるペースで行っている長期国債の買い入れについて「永遠には続けられないのは当たり前だ」と前理事が指摘していることは重要である。(国債買入の)限界に「だんだん近づいているという認識は日銀も持っている」と語った点については、黒田総裁のこれまでの発言とは相反する。しかし、日銀としての本音の部分でもあると思われる。ここにきての債券先物の板を見ても流動性という面からは、やや危険な兆候も出てきている。
門間氏は、国債買入のペースを多少落としてもバランスシートは拡大し続けるので、引き続き緩和方向に行くという大きなフレームワーク自体は変わらないことを「しっかり説明していけば、引き締めになるとか為替相場の円高に作用するとか、そういう誤解を招く可能性は排除できる」と語ったそうである(ブルームバーグ)。日銀もこのあたりの落としどころをすでに探っているのではなかろうか。
さらに門間氏は、明確な効果が出ていないのにどんどんマイナス金利を深掘りしていくことは「慎重に考えた方がよい」とも語っている。「明確な効果が出ていない」とはっきり言い切ってしまっているが、これについて日銀執行部は認めたくはなかろうが、これが現実であろう。
7月28、29日の金融政策決定会合における追加緩和の可能性について門間氏は明言は控えているが、英のEU離脱など世界経済のリスクを重視するなら、追加緩和をするという判断はあり得るともしている。しかし、その場合の手段について門間氏は明確にしていない。
市場参加者も7月の決定会合では政府の経済対策とも歩調を合わせての追加緩和を予想する向きは多い。しかし、実際に何をするのか、何ができるのかと問われるとトーンダウンせざるを得ない。黒田総裁ならばあらたなバズーカを用意できる、バーナンキ前FRB議長のアドバイスをもらってのヘリコプター・クロダが生まれるのではとの憶測もあるかもしれない。しかし、日銀はすでに「常識的な判断」からは袋小路に追い込まれつつあることも確かであり、追加緩和を決定するとすれば、かなり無理をしてのものとなることも意識しておく必要があろう。 
 2017

 

「マイナス金利」導入によって各金融機関が受ける影響 2017/3
さらに再編圧力が強まる「地域金融機関」
この「マイナス金利」導入は、今後の銀行、証券、生・損保といった金融機関経営にどのような影響を及ぼす可能性があるのか。
間違いなく得をするのは、企業と政府だ。企業は資本市場を通じて低金利での借換債の発行を行なっているし、国債発行で借金している政府は国債の発行利回り低下で調達コストが下がった。
では、一般家庭はどうかといえば、住宅ローンを借りている人は金利が更に低水準となってメリットを得ているが、多くの家庭では預金の金利収入はますます縮小し、デメリットを受ける。
また、預貸金の利ざやが減る銀行も損失を被る。国債運用で生き延びていた地方金融機関やゆうちょ銀行などは、更に追いつめられ、再々編の導火線に火が付いた。
直近の全国銀行(都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合)平均の預貸率は70%弱で、年々低下している。つまり預金の伸びの大きさが、貸出しの伸びを上回っている。
しかも貸出し競争の激化で金利ダンピングが横行し、スプレッド(利ざや)も年々低下しており、融資部門では収益が生まれにくくなっている。そのため、収益の多くの部分を、購入した20年物を中心とした超長期国債のクーポン(金利)収入と、売買による売買益に頼っている。
とくに、メガバンクのように海外業務で収益を上げる構造にはなっていない地方銀行は、収益の主力は国債の金利や売買益だ。
一方で、規模の大きい銀行ほど、証券業務や、リース、消費者金融といったグループによる収益の多様化が進んでいるほか、国内に比べて利ざやが厚い海外での融資業務を拡大して収益を挙げている。3メガバンク(三菱UFJ、三井住友、みずほの各グループ)にとっては、マイナス金利での影響はさほどないだろう。
長期金利が低下しても悪影響は少ない「損害保険」業界
「地域金融機関」
地方銀行、信用金庫・信用組合といった地域金融機関はどうか。「日銀がマイナス金利政策の導入を決めたことで、地方銀行に激震が走っている」。日銀のマイナス金利導入発表後、こういったマスコミ報道が多かった。このマイナス金利が長期化すれば利ざやの縮小など収益の減少は避けられないという理由からだ。
それでなくても、地方金融を担う地域金融機関は長い間、人口減少、資金需要の乏しさ、運用難の三重苦≠ノ悩まされている。そこにマイナス金利時代の到来によって、地銀はこれまで以上に難しい経営を迫られ、今まで以上に業界再編が加速することもあり得る。
現実的には、マイナス金利の対象となる部分にまで日銀の当座預金に積むことは希で、直接的な影響は少ないが、懸念されるのは運用。これまで以上に運用手段の分散化・多様化を迫られる事は確実だ。
「生命保険」
金利が低下することは生命保険会社の経営にとっても大きなマイナスになる。というのも、生命保険会社は保険商品を販売すると同時に、一方では「機関投資家」と呼ばれるように、株式を保有したり、債券運用を行なう有力な運用会社でもある。
預かった保険料の多くは20〜30年の日本国債で運用している。かつての高金利時代の国債をまだ多く保有しており、直ちに経営危機には直結しないものの、金利が低下すると、債券を運用することによって将来得られる収益が減少する。低金利時代が長引けば、ボディブローのように効いてくる。そうすれば、体力勝負となり再編に繋がることもある。
「逆ざや」をようやく解消したばかりだが、海外展開していない体力の弱い中堅生保を中心に、再び厳しい経営環境に逆戻りする可能性も出てきた。現にマイナス金利の影響で、富国生命保険や、第一生命保険傘下の第一フロンティア生命保険などが、貯蓄性の高い一時払い商品の販売の一部停止を決めた。
「損害保険」
一方、損保業界の場合は、生命保険のように20〜30年と続く契約はほとんどなく、1年契約が基本。そのため、長期金利が低下しても、運用の逆ざやが発生する懸念はほとんどないと見られている。
日本の損保会社は長年にわたり、自動車保険の赤字に苦しんできた。ところが、近年、損益改善のために料率引き上げを実施した効果で、自動車保険は改善。つまり、本業損益は改善しつつあることも背景にあるが、影響を受けるとすれば生命保険業界と同じく、運用環境の悪化だ。 
地銀の新たな取り組みが日本経済底上げの鍵? 2017/9/27
金融機関、特に銀行への就活を考えている皆さんの多くは、どうしてもメガバンクをはじめとする都市銀行に目が行きがちではないでしょうか。ですが、最近は地方銀行も様々な新しい取り組みを行っており、かなり注目を集めています。ここでは、そんな地方銀行の新たなビジネス事例などを紹介してみましょう。
従来型ビジネスと問題点
地方銀行は、基本的に本店がある道府県を営業拠点とし、「全国地方銀行協会」に加盟する銀行です。地銀とも呼ばれ、現在64行あります。法律上は都市銀行と同じ普通銀行ですが、各地方の個人や企業などを主な対象としていて、地方金融に関して主導的な役割を担っていると言えます。
従来の地方銀行における主な業務は、預金を集め、地元の中堅・中小企業に融資したり、個人へ住宅ローンなどの貸し出しを行うなどで利ざやを稼ぐことです。
ところが、最近はそのビジネスモデルに陰りが見えてきています。主な理由は「ゆうちょ銀行」の預け入れ限度額引き上げやマイナス金利の影響などが挙げられます。また、地方の人口減少による貸し出し減少などの問題もあり、最近では地銀同士の合併や提携などによる業界再編も進んでいます。
地域密着型金融としての期待
特に、地方の人口減少は地銀だけでなく地域経済にも大きな影響を及ぼしています。急速な人口減と東京圏への一極集中は地方における人手不足や、生産性・所得水準・消費活動などの低下を生み、それがさらに地方からの人口流出を引き起こすという悪循環を生んでいるのです。
そういった流れの中で、政府が推進している「地方創生」においても、地方経済と密接に繋がっている地方銀行など地方金融機関の役割が最近注目されています。
政府の「まち・ひと・しごと創生本部」では、2015年に国や地方自治体が策定した様々な地方創生に関する総合戦略の個別施策への協力を要請。また、起業・創業する地方企業への融資などを行う政府系金融機関との連携なども依頼しています。
一方、銀行側でも日本国内の銀行を代表する「全国銀行協会」が、2015年に「地方創生に向けた銀行界の取り組みと課題」と題した政策提言レポートを発表。
その中で、地方銀行など地方金融機関には今後、地方企業のニーズを積極的に発掘することや、地域特性に応じたコンサルティング機能などを持つ必要があることなどに言及しています(詳しくは「地方創生で金融機関が果たすべき役割パート3主役となる地域金融機関の動きや事例」参照)。
地銀の新しい取り組み事例
以上のように地方銀行には今、地方経済の再生や活性化において重要な役割を担うことが期待されています。以下で、これに関連する実際に行われた地銀の新たな取り組みをいくつか紹介しましょう。
【静岡銀行】観光などの新規ビジネス支援
2015年に「地方創生部」を設立した静岡銀行(静岡県)では、地元で起業する企業などへの様々なビジネス支援を行っています。 例えば、下田市で豪華なキャンプ場を手掛けるVILLAGE INC.という会社や、富士宮市でドライブインを複合型レジャー施設に改修する事業などを支援。「しずおか観光活性化ファンド」を立ち上げて、そこからそれら事業に資金を出資するといった実績を持っています。13億円規模のこのファンドは、静岡銀行グループのほかスルガ銀行、浜松、三島、富士、富士宮などの信用金庫が出資しています。また、ヤマト運輸やANA総合研究所と連携し、県産の農産物をアジアに輸出する動きなども始動しています。これは、主に地銀がコーディネーターのような役割を果たすことで新しいビジネスが生まれ融資案件が発生、結果的に地元経済を活性化させる、といった流れを生み出している事例と言えます。
【広島銀行】瀬戸内地域の産業創出を目指す投融資
地方経済を活性化させるための投融資で、全国的に注目されている地域金融機関の一つが広島銀行(広島県)です。多くの取り組みの中で特に注目なのは、戦後初の水陸両用飛行機メーカーを買収し、瀬戸内海の島々を巡る遊覧飛行サービスを2016年から展開する企業「せとうちSEAPLANES」などへの支援。同社の親会社「せとうちホールディングス」に設立初期から融資を行った実績を持っています。また、2013年には瀬戸内海に面する7県(兵庫・岡山・広島・山口・徳島・香川・愛媛)が合同で「瀬戸内ブランド推進連合」を設立。これは、瀬戸内エリアが一体となり、地域経済の活性化促進などを目指す取り組みです。広島銀行も金融機関としてこれに参画し、中国銀行、山口銀行、阿波銀行、百十四銀行、伊予銀行、みなと銀行、日本政策投資銀行などと連携を取りながら、観光ファンドやクラウドファンディングなどで主に資金面の支援を行っています。
【東北銀行】“稼ぐ”公共施設の開発に投融資
公共施設の新しい事業モデルを組み入れた、岩手県紫波町の「オガールプラザ」への融資を行ったのが東北銀行(岩手県)です。この施設は図書館を中核としたものですが、施設内に民間テナントを併せ入れ、そのテナント収入を施設の運営費に充てるという、従来にない事業モデルを取り入れているのが特徴です。従来の公共施設では、公共性は高くても事業性がないものが多く、あくまでも利益追求が必須の金融機関では関与が困難でした。そのため、財政的に苦しい地方自治体の場合は、このような社会サービスをカットせざるを得ないケースも多く見られました。この事例は、その問題をクリアするためにテナント収入を運営費に充てるという新たな方法論で事業性を創出、金融機関の融資を可能にした点で注目されています。
【南日本銀行】新規販路開拓のコンサルティングを実施
地域の中小企業・個人事業主向けに、新規販路開拓コンサルティング「WIN-WINネット業務」を展開しているのが南日本銀行(鹿児島県)です。地方銀行にとって主要な取引先となる地域の中小企業や個人事業主の「売上を増やしたい」というニーズに応える形で、2013年から実施しているのがこの業務です。取引先が販路拡大に成功した場合にコンサルティング手数料をもらう成果報酬型など、顧客の目線に立った業務内容を実施。2015年3月までの約4年間で、契約締結先数1,621件、売上高改善実績294件、17億5,900万円、委託手数料獲得額2,330万円の実績を残しています。
【福岡銀行】アウトバウンドビジネスの支援
中小企業を中心に、海外輸出や海外進出といったアウトバウンドビジネスの支援を行っているのが福岡銀行(福岡県)です。まず、2015年に企業向け冊子「海外ビジネス スタートブック」を制作。これは、海外ビジネスへの取り組み方や情報ネットワークの導き方、海外ビジネスから派生する外国為替取引や海外現地法人の資金調達などについてまとめたものです。この冊子を取引先に配布しツールとして使うことで、海外ビジネスに関する提案やコンサルティングを実施。進出先の検討から市場調査、取引先開拓、貿易実務のサポートなど、海外進出の実現までをワンストップで支援しています。
まとめ
地方銀行による新たな取り組みには、他にもオール宮崎産地ビール「穂倉金生」の増産支援を行った宮崎銀行(宮崎県)、地元学生が企画した「ときめく南房総 花のデニッシュ」の開発支援を行った千葉興業銀行(千葉県)など、数多くの事例があります。
それらの傾向は、主に
○ 新ファンド開設など、従来にない手法による資金などの支援
○ 起業や新規事業などに対するコンサルティング的役割
○ ビジネスマッチングなどによるコーディネーター的機能
○ 中小企業では資金面などで難しい商品PR
などが挙げられます。いずれも、従来の地銀で行ってきた業務とは異なる内容で、その範囲もかなり多岐に渡っているといえるでしょう。
そして、これら地方銀行の新たな取り組みにより、地方の中小企業などが元気を取り戻し、いかに地域の活性化に繋がるかが今とても注目されています。
地方創生は、地域経済に再び活力を取り戻すことで、日本経済全体の底上げを目指すものです。その中で、地方銀行が果たすべき役割は重大と言えるでしょう。メガバンクなどとは業務内容やスケール感は違うかもしれませんが、やりがいがあるという意味では同じです。自分が生まれ育った地域へ、ひいては日本経済全体の発展に貢献したい方などは、ぜひ地方銀行への就活も検討してみてはいかがでしょうか。  
地銀は収益構造の転換を急げ 2017/11/3
地方銀行の経営が正念場を迎えている。2017年3月期には全国の地銀の過半数が貸し出しなどの本業で赤字となった。地域経済の停滞という構造的な逆風にとどまらず、日銀が昨年2月に導入したマイナス金利政策の影響で融資金利が下げ止まらない。
地銀はメガバンクのように海外市場に活路を求めることはできない。担保や保証に過度に依存した旧来型の経営を改め、収益構造の転換を急がなければならない。
金融庁は昨年秋、貸し出しと手数料ビジネスの銀行本業で、25年3月期までに地銀106行のうち6割超が赤字に転落しかねない、との厳しい試算を示していた。ところが今年3月期実績を集計したところ、すでに5割超が本業で赤字となったことが判明した。
想定を上回るペースの収益の悪化である。保有株式や債券の益出しで当面は最終利益を確保できても、いずれ限界がおとずれる。
日銀の大規模な金融緩和がいつまで続くかは見通せない。貸し出しの利ざやが低迷を続けるなかで急務となるのは、コンサルティング業務の強化など非金利収益で稼ぐビジネスモデルへの転換だ。
地元中小企業の販路開拓や埋もれた技術力の掘り起こしで、地銀が果たすべき役割は大きい。担保を要求するばかりでなく、取引先の経営上の相談に応えている銀行ほど、融資利回りの低下が緩やかだというデータもある。
規模を拡大しシェアを高める他行との統合は経営の重要な選択肢だ。ただ市場の寡占による収益向上を主目的にした再編には公正取引委員会の視線が厳しい。今後はコスト負担が重いITシステムや商品開発などの分野における広域の提携戦略の巧拙も問われる。
地方の人口減や高齢化の深刻度を踏まえると、すべての地銀が生き残るのは難しい。日銀は地方発の金融混乱のリスクに言及しはじめた。金融庁は監督・検査を通じて、地域経済を一段と疲弊させるような地銀破綻を未然に防ぐ備えに万全を期してほしい。 
地銀、生き残りに向け正念場 3メガバンク以上に合理化迫られる 2017/11/16
地方銀行が、三菱東京UFJ銀行など3メガバンク以上に合理化を迫られている。海外展開をしていないため、人口減少や日銀のマイナス金利政策の影響を大きく受ける形で、稼ぐ力が奪われているからだ。ただ、地域密着型、公共の指定金融機関としての位置付けを維持するには店舗削減は難しい。地銀経営は生き残りに向け正念場を迎えている。
「生産性を上げて、できるだけ店舗機能は維持していきたい」。15日記者会見した全国地方銀行協会の佐久間英利会長(千葉銀行頭取)はこう述べた。地銀の店舗網が地域経済のインフラ的役割を果たしているためだ。事務機能を本部に集中させたり、支店の営業時間に昼休みを作るほか、ITを活用した生産性の向上などに取り組み、店舗網の統廃合は最小限にとどめたい考え。佐久間会長は、「大手行が地方店舗を引き揚げるならば、カバーしていきたい」と意欲を示した。
だが、日銀のマイナス金利政策で貸し出し利ざやが縮むなか、政策の長期化も見据えれば、1店舗あたり数千万円ともいわれる店舗維持コストの削減は小手先の改革では不可能だ。また、大手行などにない独自のサービスなどで差別化を打ち出せなければ、存在意義そのものが問われることになる。
公正取引委員会は独占禁止法に照らして、シェア5割を超える地銀の経営統合の承認には慎重姿勢をみせている。だが統合が実現できなければ、経営が立ちゆかなくなる地銀が増え、日本経済の足かせにもなりかねない。 
「マイナス金利」政策が地方経済を蝕む 2017/12/5
「地銀の破綻」と「地方経済の劇的悪化」という悪夢
「金融緩和政策の継続により、長短金利差が縮小し、収益性が低下している」
「今後においても、金融機関が保有する比較的高い金利の融資や債権が次第に低金利の融資・債券に置き換わり、資金利益の低下圧力が継続することが予想される」——。
これは、10月25日に金融庁が発表した、地方銀行の苦境を伝える「金融レポート」の一節だ。そこでは、日本銀行が2016年2月にマイナス金利を導入して以降、初の通期決算となった17年3月期に、第二地銀を含む地銀106行の半数が、本業である顧客向け金融サービス業務で赤字に陥ったとされる。
無論、主たる理由はアベノミクスの「異次元の金融緩和」政策が生んだマイナス金利政策による「収益性」の低下で、預貸金利ザヤの縮小が一段と加速している。しかも、預金を国債で運用することで得ていた「特定取引純益」も、望むべくもない。
実質業務純益は前期比約2割減
安倍晋三首相が乱発し、一時的に関心を集めたものの、その後何かのプラス面があったか定かでなく、記憶にも残りにくいようなバナナの叩き売りに酷似した種々の「政策」の一つに、「地方創生」がある。しかし、地銀は地方経済にとって欠かせない存在だから、その経営の落ち込みは「地方創生」どころではない悪影響を与えるのは間違いない。
何しろ、地銀64行の実質業務純益の現状は、前期比で19・8%も減少しているのだ。もはや、銀行の本来業務では食えなくなりつつあると言ってよい。第二地銀も、41行の合計値はやはり同じく16%の減少だ。しかも、過疎化と人口減で、地銀の貸出先の減少が止まらない。
資金需要が乏しいが故に、一部では少ない融資先を巡って金利のダンピング競争が起きているという話を聞く。地銀関係者によれば、顧客先を訪問すると「マイナス金利だから、金利を下げろ」と要求されるという笑えない話も珍しくないとか。
他方で、マイナス金利政策はメガバンクも直撃している。店舗の削減のみならず、三菱東京UFJ銀行は今後10年間で総合職3500人を削減し、みずほ銀行は従業員約1万9000人を削減。三井住友銀行は20年度までに、4000人分の業務を削減する。
だがメガバンクは、既に収益基盤を海外での手数料ビジネスに求めるようになっており、三菱東京UFJだけでももはや全収益の約40%が海外業務の時代だ。生き残りの道はある。連日の相場上昇で一時、東京証券取引所の業種別指数の上昇率で全33業種中、大規模なリストラが避けられなくなっている3大メガバンクの株がトップになった。これは、よく指摘される「株式市場のマネーゲーム化」ということだけでは必ずしも説明されないだろう。
しかし、地銀はメガバンクと違う。その収益源に、海外業務はほとんど存在しないに等しい。このままの趨勢が続くと、金融庁の試算では25年3月期までに地銀の半数以上が赤字に転落するのは疑いない。ただでさえ疲弊した地方経済に今後、どれだけマイナス要因として働くか予想がつき難い面がある。
当面の打開策として考えられるのは、有価証券の運用などによる収益の確保だろうが、問題は金融庁だ。運用体制面や運用ノウハウでリスクを抱えたケースがあるという理由で、「金融システムの安定性」から有価証券運用の検査を厳しくしている。その結果、ますます地銀にとって収益源の確保は至難になっていく。
既に昨年3月の時点で、全国地方銀行協会の寺沢辰麿会長(横浜銀行頭取)は定例の記者会見で、地銀を取り巻く厳しい環境について、「再編も一つの手段」と発言している。だが、いくら地銀同士の合併が繰り返されたところで、マイナス金利政策に対応する抜本策にはならない。フィンテック(金融テクノロジー)のような最新技術を導入して決済業務のような人件費を削減しても、限界がある。そもそも一口に地銀と言っても、横浜銀行や千葉銀行のように、富裕層を多く抱えた大都市圏を立地条件にしている地銀ばかりではないはずだ。
このままだと生じかねないのは、「地方創生」どころか「地方切り捨て」だ。だが、そもそも地銀だけが不利を被らなければならない合理的理由はないはずだ。本質的な問題は、資本主義の経済原理とはどう考えても相容れないはずのマイナス金利という政策を、いつまで続けるのかという点にあるだろう。
日銀が出口戦略を議論しない理由
日銀は今年4月に発表した「金融システムレポート」で、地銀について「収益力の低迷が続き、損失吸収力の低下した金融機関が増えれば、金融機関全体でみた金融仲介機能が低下して実体経済に悪影響を及ぼす可能性も考えられる」などと他人事風だ。しかし、マイナス金利政策は地方経済、さらには経済全体を蝕む元凶にもなりかねない。
黒田東彦・日銀総裁は、物価上昇率の2%目標実現を既に6回も先送りしているのでから、この辺でマイナス金利政策に象徴される超緩和策からの出口戦略をいつから具体化するのか、という議論を始めてしかるべきだ。しかし、その気配は一向にない。理由は、それほど複雑ではないだろう。日銀が金融政策を正常化し、金利の上昇を容認でもしたなら、政府の毎年の利払費が激増するからだ。
過去16年の間に、国債の残高は実に4倍以上増えている。だが、利払費は現在9兆円ほどで、2000年の約10兆円と比較すると逆に減っている。マネタリーベース(資金供給量)で見ても、アベノミクスのスタート当初から今年6月までに330兆円も増加して、計468兆円にもなっているにもかかわらずだ。先進国でこれほど財政規律が弛緩した国も珍しい。
国債残高が4倍に増えても利払費がそうならなかったのは、ひとえに金利低下のペースを早くしてきたらで、その挙げ句がマイナス金利だ。本来なら利払費に40兆円前後を充てねばならず、日本は今頃、予算を組むのに往生する財政難に追い込まれていたに違いない。安倍がこれまで繰り返してきた人気取りや米国のご機嫌伺いを狙った、歳出上限を設けない大盤振る舞いの予算編成も、最初から実現不可能だったはずだ。
だが、安倍や日銀がどうあがこうが、マイナス金利を永久に続けることなど出来ない。11月2日にはイングランド銀行(英国の中央銀行)が10年ぶりの利上げに踏み切ったが、欧米の中銀は緩和政策の出口に向かって既に動き始めている。米国の連邦準備制度理事会(FBR)も緩和を縮小し、金利を引き上げた。安倍の後先考えない国家予算の実質的な私物化は、いつか財政の極度の悪化という形でツケを払わねばならない日が必ず来る。
その日が、地銀の破綻と地方経済の劇的悪化の前に来るのか後に来るのか、定かではない。だが、宴には終わりがある。そのことを、今回の総選挙でまたも安倍に勝たせた有権者達のどれほどが知っていたのか。  
 2018

 

落日のメガバンク・地銀は「土日営業」導入で生き残れるか 2018/1/10
再び始まる大リストラと大合併 
「口座維持手数料」って何?
銀行員「受難の時代」は'18年も続く。日本銀行のマイナス金利政策で国内の収益減に歯止めがかからない。大企業は内部留保を溜め込んでいて、銀行融資を必要としていない。
金融コンサルティング会社「マリブジャパン」代表の高橋克英氏が言う。
「その結果、法人向け融資から撤退する銀行が相次ぐでしょう。すでに三菱UFJ信託銀行が法人融資からの撤退を表明しています。法人向けの貸し出しは、融資先企業の財務分析や業界動向の把握など、手間がかかる割に、金利がここまで下がれば儲けが少ない。これまで銀行内では法人融資を行う法人営業部が花形でしたが、今後、日の当たらない部署になるのは間違いありません」
その上、フィンテックやAIの発展で銀行員の仕事がコンピューターに取って代わられていく。
あるメガバンク内の研修会で講師に呼ばれた外資系金融機関OBの金融アドバイザーが匿名でこう明かす。
「これまで、40代の行員向けに『黄昏研修』と称した退職後に向けた研修がありましたが、最近は30歳前後の若手行員向けの研修会が行われています。内容はAI時代における銀行員の業務内容の変化についてのもの。たとえば、住宅ローンや小口融資の判断もAIで代替可能ですし、フィンテックによって決済業務も様変わりしました。これまでのような、現金を数えておカネを貸し出す銀行員の業務は不要になっていくのです。みんな暗い顔をして聞いていたのが、印象に残っています」
かつては年越しのための現金を引き出そうと、年末の銀行窓口は非常に混み合っていたものだ。だがそれも、コンビニにあるATMでどこでも現金を引き出せるようになり、現金以外の決済方法が充実した今、過去の光景になった。銀行の窓口は歴史的な役目を終えつつあるのだ。とはいえ、まだまだ銀行は多くの人員を抱えている。'17年には3メガバンクで合計3万2500人分の業務削減が報じられたが、大リストラは始まったばかり。
しばらくは余剰人員にも仕事をさせなくてはならない。そこで、経営陣が目をつけるのが「土日営業」だ。
「融資では儲けにならないので、資産運用の相談に乗って、金融商品を売り、手数料を稼ぐビジネスモデルに転換しています。しかし、サラリーマンなど、平日忙しい人は銀行窓口が開いている時間帯に足を運べません。なので、'18年は土曜日や日曜日の窓口営業が全国の銀行で始まる。メガバンクではすでにターミナル駅を中心に休日営業の窓口を開いていますが、この動きがさらに広がります」(東京商工リサーチ情報本部長・友田信男氏)
めぼしい融資先も少なく、マイナス金利で利ザヤも稼げないのならば、銀行にとって、顧客の預金は「邪魔」なものになりかねない。貯金箱代わりに預けられても、口座の維持管理に経費がかかるばかりで困る、というのが銀行の本音だろう。
「すでに法人からの預金を断っている銀行もあるほどです。かといって、預金にマイナス金利を適用すると反発が大きい。そこで'18年に銀行が『口座維持手数料』を導入する可能性があります。個人の場合は年間数千円、法人は数万円の手数料を取られるイメージです」(経済ジャーナリスト・須田慎一郎氏)
メガバンクよりも苦しいのは、地方銀行だ。地方経済の衰退は加速している。融資先がなく、顧客が高齢化していく地銀は切羽詰まった状況が続く。岡山商科大学教授の長田貴仁氏が解説する。
「私のゼミ生が中国地方の有力地銀に内定をもらいました。その地銀の頭取が大学に来て講演をする機会があった際、その方が冒頭言ったのは、『父兄はうちの銀行に就職が決まって喜ばれたでしょう。ところがそれは20年前、30年前のイメージです』ということ。その頭取は、こうも言いました。『将来、銀行がどうなっているのか、わからない。自分の食い扶持は自分たちの頭で考えて欲しい』と。地銀のトップもこのままではジリ貧だということはよくわかっている。しかし、打つ手がないのです」
メガバンクは海外事業に移行することができるが、地銀には海外進出のノウハウも能力も資金力もない。結局、地銀同士で統合して生き残ろうとするしかない。'18年には地銀のさらなる大合併が加速する。
「これまでは弱小地銀が肩を寄せ合うように合併したり、大手地銀に救済される形で吸収されたりしてきましたが、今後は地銀グループのメガ再編が起こるでしょう。関東地方で言えば、すでに横浜銀行と東日本銀行のコンコルディアFG、常陽銀行と足利銀行のめぶきFG、千葉銀行と武蔵野銀行の千葉・武蔵野アライアンスが三大勢力になっています。'18年にはさらに再編が加速して、コンコルディアFGとめぶきFGが合併することもあり得ます。また、大手地銀が東京などの比較的資金需要が大きいエリアの信金を買収して、業務エリアを拡大させる動きも出てきそうです。都心に進出するために資産規模が小さい信用金庫を買いたい地銀も多いはず。具体的には芝信用金庫や東京シティ信用金庫などが大手地銀に狙われる可能性があります」(前出・高橋氏)
合併すら許されない
こうした地銀再編に待ったをかけているのが、公正取引委員会だ。地方の有力銀行が統合することで競争相手がいなくなってサービスが低下するという理屈で、合併の審査が長期化している。このため、'17年10月の予定だったふくおかFGと十八銀行(長崎県)の経営統合は、異例の再延期に追い込まれた。
神戸大学大学院経営学研究科准教授の保田隆明氏が言う。
「そうは言っても、地銀に信金・信組を加えた地方の金融機関は450社以上あり、それぞれが店舗を構えている。明らかにオーバーバンキングの状態です。森信親金融庁長官は、こうした状況を変えようと、地銀再編とビジネスモデルの抜本的改革を後押ししてきましたが道半ばです。さらに森長官はカードローンや投資信託の手数料などで荒稼ぎする金融機関に対して、融資やコンサルティング業務で収益を上げるように方針転換を迫っています。こちらもまだ道半ば。私の希望的観測もまじりますが、余人をもって代えがたい森長官が極めて異例の4期目に突入することも考えられます」
銀行員がエリートと羨ましがられたのも、今となっては昔のこと。'18年は再び「大リストラ」も含めた激変の波に晒されそうだ。 
メガバンクが地方から消える日、みずほ全国で100店削減へ 2018/2/2
みずほフィナンシャルグループが1万9000人の人員削減を計画するなど、メガバンク3行に他の大手行分を含めると7万人程度の削減が予想される。大手銀行がスリム化を急ぐのには、3つの要因がある。(夕刊フジ)
1つは人工知能(AI)に代表される機械による代替可能性だ。ATMやネット取引の普及などで、有人店舗がどんどんなくなっているのがその証拠だ。かつては難しいと思われていたAIによる自動運用についても、銀行本体も顧客向けも、既に実用化されている。
2つ目は「対面」ないし「行員による」営業の喪失だ。以前はこれが基本だったが、現在では電話、ネット、ダイレクトメールなどに中心が移り、行員でない外部受託者が顧客に対応する時代となっている。
法人向けは個人と違い、対面が基本だとの反論もあろうが、そもそも行員が顧客を訪れなくなっている昨今、言い訳にしか聞こえない。
そして3つ目が外部環境の変化だ。とりわけマイナス金利と、国際金融規制「バーゼル規制」が脅威といえる。
マイナス金利については地域金融機関だけの問題と理解されることが多いが、メガなど大手行も相当困っている。かつてのように余資をとりあえず日銀に預けたり、国債購入に充てたりというわけにはいかなくなっているのだ。
バーゼル規制も3段階目に入り、資産評価が厳しくなるため、銀行はかつてのように、地銀株を含む「政策投資株」を持ちにくくなっている。ちなみに米銀はこうした政策投資株はほとんど保有していない。これが最近の地銀再編にも影響を与えている。
人員削減で、より高度なサービスを提供することになる(はずの)銀行本体はよいとして、減らされる行員や支店はどうなるのか。店舗は廃店されればそれまでだが、何か補完策は打ち出されるのだろうか。
みずほは全国で100店舗減らすと発表したが、これには地方店も含まれる。前身の1つである日本勧業銀行の時代から地方店数は多く、即廃止することには顧客から相当な反発があるだろう。
ならばどうするか。おそらく地銀や第二地銀、信用金庫、信用組合などに店舗売却あるいは業務譲渡するだろう。同じことは三菱UFJフィナンシャル・グループや三井住友フィナンシャルグループも考えているだろうから、地方からメガバンクの看板がなくなる未来はすぐそこにある。 
銀行の合従連衡は必要、メガと地方銀行の連携進む 全銀協新会長 2018/4/1
全国銀行協会(全銀協)の会長に1日付で就任した藤原弘治みずほ銀行頭取は、国内金融機関の収益性が低下している問題について、今後、顧客ニーズに対応するためにも「合従連衡が進んでいかなければならない」との見方を示した。提携や統合の形態は、これまでにない多様なものになるとしている。
会長就任に先立つブルームバーグとのインタビューで藤原氏は、日本にはオーバーバンキング(金融機関の過剰)との見方があるのは認識していると述べた上で、これまでのメガバンク同士の統合や地域金融機関の持ち株会社化に加え、今後はメガバンクと地方銀行との連携が進むだろうと語った。顧客ニーズの変化に対応するのが大きな理由。
具体的には、地方の中堅企業が海外進出をしたときにはメガバンクの海外ルートを提供する一方、地域特有のサービスは地銀に担ってもらうといった互いの強みを合わせることなどを想定。サービスの高度化と生産性向上を同時に進めることで、「収益構造を変えていく大きな礎になると信じている」と述べた。
日本銀行は昨年10月に公表した金融システムリポートで、金融機関の従業員数、店舗数は需要対比で過剰である可能性があり、収益性を低下させる構造的要因となっていると指摘していた。リポートによると、人口と金融機関店舗数の関係では、日本はオーバーバンキングとされるドイツとほぼ同水準で、2000年代半ばにかけて金融機関統廃合が進んでも過剰が解消されないのは、人口や企業数など需要側が減少を続けているためと指摘している。
藤原氏は、少子高齢化で銀行の重要性は増すとの見方を示した。政府が「人生100年時代構想」を掲げ、長寿社会における経済・社会システムのあり方を議論する中、藤原氏は「人の寿命と資産の寿命をマッチングさせる必要がある」と述べた。07年生まれの子どもが107歳まで生きる確率が50%あると政府が示しているのを受け、藤原氏は、定年退職後に50−60年生きるのに必要な新たな資産運用プランや資産を引き継ぐための事業承継などの分野で銀行が果たす社会的な役割が大きいと述べた。
藤原氏は全銀協会長としての1年を、銀行業界が少子高齢化を含む構造的問題に向き合い、社会課題解決に貢献する年にしたいと述べた。こうした役割を果たしていくことがビジネスにつながるとし、少子高齢化は悲観一色ではないと語った。
日銀のマイナス金利の影響やフィンテック技術の台頭で、邦銀は預金貸し出しを軸に据えた事業構造の転換を迫られており、国内3メガ銀行は、それぞれ業務量や店舗数の削減方針を打ち出している。みずほフィナンシャルグループは3月、静岡銀行と提携し、信託や住宅ローン業務、投資信託での新サービス開発などの分野で連携すると発表していた。
全銀協会長の任期は1年で、三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループを含む3メガグループが交代で就いている。 
地銀経営に「夜明け」は来るか マイナス金利長期化で限界 2018/5/24
上場地方銀行の6割が最終減益になったと報じられた。高収益とされたスルガ銀行も融資の審査書類を改竄(かいざん)していたことが明らかになっている。
金融機関の収益構造はシンプルだ。貸出金利や債券運用金利が運用利回りになり、預金金利が調達コストになる。収益は主として運用利回り、費用は調達コストと経費(人件・物件費)である。
都市銀行、地方銀行、第二地方銀行の2017年度中間決算から、国内業務の運用利回り、調達コスト、経費率、総資金利ざや(運用利回りから「調達コスト+経費率」を引いたもの)をみてみよう。
運用利回りは都銀が0・68%、地銀が1・05%、第二地銀が1・17%。調達コストは都銀▲0・04%、地銀▲0・02%、第二地銀0・01%、経費率は都銀0・67%、地銀0・85%、第二地銀1・03%。総資金利ざやは都銀0・05%、地銀0・22%、第二地銀0・13%となっている。
運用利回りは、日銀のマイナス金利によってさらに下がりつつある。一方、調達コストはほぼゼロで、これ以上は下がらない。そこで、経費率の高さがネックになっているのだ。
都銀は合理化をして経費率が低くなっているし、海外業務からの収益もあるので、総資金利ざやが多少低くてもやっていける。だが、地銀などは海外業務がなく、国内業務での合理化にも限界があるので、今のマイナス金利が将来も長引くと、やっていけなくなるだろう。
もっとも、長い間の金融緩和によってデフレ脱却しつつあるのも事実だ。実際、貸出は伸びつつある。
過去の例をみると、デフレ脱却後に金利上昇が生じている。ひとまずはデフレ脱却しないと、話は始まらない。
これまで、金利の低下局面では、債券や株式の「益出し」や融資先の貸し倒れに備えた引当金が不要になって戻ってくる「戻り益」で利益のかさ上げを図ってきた。これらの手段に永遠に依存できないのは確かであるが、今少しの辛抱である。
都銀では、将来の人工知能(AI)化をにらんで、支店統廃合などで猛烈な人件費カットをしている。経費率のうち人件費率は、都銀0・25%、地銀0・43%、第二地銀0・53%。地方銀行などはまだまだ甘いといわざるを得ない。
今の段階で、やっていけない地銀などは、合併や再編の対象になっても仕方ないだろう。そうすれば、経費率は今より少なくできる。これまでの蓄えで、「益出し」や「戻り益」を出すのもいいが、それができなければ、再編に委ねるのも一案だろう。
シェークスピアの代表作『マクベス』に「どんなに長くとも夜は必ず明ける」というセリフがある。日銀のマイナス金利は、地銀経営に悪影響を及ぼすという副作用を生んでいる。一刻も早くデフレを終結させるのが最善手だ。
デフレが続くと、貸出という銀行の本業もダメになってしまう。適切な金融政策を実施すれば「どんなに長くとも夜は必ず明ける」のだ。 
強力な金融緩和継続のための枠組み強化 日本銀行 2018/7/31
1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、強力な金融緩和を粘り強く続けていく観点から、政策金利のフォワードガイダンスを導入することにより、「物価安定の目標」の実現に対するコミットメントを強めるとともに、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の持続性を強化する措置を決定した。
(1)政策金利のフォワードガイダンス(注1)
日本銀行は、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している。
(2)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成7反対2)(注2)
次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
短期金利 / 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に▲-0.1%のマイナス金利を適用する。
長期金利 / 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし(金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する) 、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。
(3)資産買入れ方針(全員一致)
長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。
[1]ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。(2015年12月に決定した「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象とするETFの買入れについては、これまでどおり、年間約3,000億円の買入れを行う)
[2]CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。
2.日本銀行は、1.の措置と合わせて、以下の実務的な対応を行うこととした。
(1)政策金利残高の見直し
日本銀行当座預金のうち、マイナス金利が適用される政策金利残高(金融機関間で裁定取引が行われたと仮定した金額)を、長短金利操作の実現に支障がない範囲で、現在の水準(平均して10兆円程度)から減少させる。
(2)ETFの銘柄別の買入れ額の見直し
ETFの銘柄別の買入れ額を見直し、TOPIXに連動するETFの買入れ額を拡大する。
3.わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大しており、労働需給も着実な引き締まりを続けている。一方、物価は、経済・雇用情勢に比べて弱めの動きが続いている。その背景には、本日公表した「経済・物価情勢の展望」で示したように、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスや値上げに対する家計の慎重な見方の継続といった要因が複合的に作用しており、2%の「物価安定の目標」の実現には、これまでの想定より時間がかかることが見込まれる。もっとも、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることにより、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる。
4.こうした認識のもとで、日本銀行は、政策金利のフォワードガイダンスを導入するとともに、金融市場調節や資産の買入れをより弾力的に運営していくことにより、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の持続性を強化し、需給ギャップがプラスの状態をできるだけ長く続けることが適当と判断した。こうした対応は、経済や金融情勢の安定を確保しつつ、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することに繋がると考えている。
5.日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。  以上
(注1) 原田委員は、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとして反対した。片岡委員は、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成する観点から、長短金利維持のコミットメントではなく、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和手段を講じるとのコミットメントが適当であるとして反対した。
(注2) 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:原田委員、片岡委員。原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、物価が伸び悩む現状や今後のリスク要因を考慮すると、10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げるよう、金融緩和を強化することが望ましく、長期金利操作の弾力化は「ゼロ%程度」の誘導目標を不明確にするとして反対した。 
日銀、緩和策を修正するも出口見つけられず 2018/8/1
行き止まりになっている小路を「袋小路」というが、日銀はこの袋小路に入り込んだようだ。日銀は21日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の修正を決めた。長期金利の変動幅を少々(0.1%)程度上げるようだ。しかし黒田総裁の発言は全く煮え切らない。修正するとも、しないともとれる。5年間にわたる政策の間違いを絶対認めたくないようだ。
「異次元緩和」と称してもう5年以上続けている。2%の物価目標はいまだに達成できず、逆に副作用がはっきりと目に見えるようになってきた。一つは金融機関の体力低下である。地銀の半数以上が本業の金融業務では赤字だという。有価証券の益出しなどでかろうじて黒字にしているのだ。なかにはスルガ銀行のように不正な融資に精を出すところも出てきた。
二つ目は国債のマーケットが正常に機能しなくなってきている。日銀が国債を大量に購入するので、マーケットの参加者はあほらしくてさじを投げているようだ。
三つめは上場投資信託を大量に買い上げるから、株式市場がゆがんできている。こんな状況では中国のマーケットを見下げたような発言はできないだろう。事実上の株式買い支え政策だ。
いまは何となくぬるま湯につかったような状態だから、みな安心しているようだが、何らかのクラッシュが発生したら手の打ちようがなくなる。今気を付けるべきはトランプカードのジョーカーを決して引かぬことだ。
この異次元緩和の終結には、気の長くなるような時間をかけるしか解決に道はないだろう。緊縮政策などは取りえない状況にある。来年の消費税増税は極めて危険な道を歩むことになるだろう。  

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

●アベノミクス3期目に望まれる経済政策 2018/9
 〜旧3本の矢は平時向けに再設計が必要〜
 
要点
○ 過去5年半のアベノミクス下で経済状況は大きく好転。良好な世界景気にも支えられつつ、安倍政権が発足当初に適切な政策パッケージを講じたことが背景。もっとも、昨今の経済情勢の変化に鑑みれば、アベノミクスを非常時モードから平時モードに組み替えていくべき。
○ 金融政策に関しては、大胆な金融緩和から、持続性ある金融政策に転換することが必要。金融政策の限界・副作用が明らかになるなかで、日銀の政策枠組みは袋小路に。2%インフレという高すぎる目標を掲げている政府・日銀間のアコードは見直すべき。
○ 財政政策に関しては、不況対応から好況モードに切り替えることが必要。経済が正常化した以上、景気刺激策としての財政支出は不要。さらに、実現可能性のある財政再建の道筋を固めておくことも重要。消費税を1%刻みで、複数回にわたって引き上げていくべき。
○ 成長戦略に関しては、実行力を重視することが不可欠。アベノミクス下の成長戦略は、作成ばかりに労力が費やされた結果、潜在成長率を引き上げることに失敗。サンドボックス制度を本格活用して、成長戦略の取り組みをスピードアップすべき。
失われた20年からの脱却
9月20 日に予定されている自民党総裁選では、安倍晋三・現総裁の勝利が有力視されている。安倍氏が勝利した場合、2012 年12月に始まった安倍政権は3期目を迎えることになる。当然、安倍政権の経済政策パッケージ「アベノミクス」も、今後3年間は継続することになる。わが国景気の帰趨を左右するという意味で、引き続きアベノミクスは重要な役割を担うことになるだろう。
今後を展望する前に、まず、これまでのアベノミクスの成績を確認しておきたい。過去5年半にわたるアベノミクス下で、経済状況は大きく改善した。とくに好転したのは、雇用環境と企業業績である。失業率は2%台まで低下し、バブル期の水準まであと一歩というところまで来た(図表1)。売上高経常利益率も急ピッチで上昇し、足元ではバブル期の2倍の水準に達している。
もちろん、これら全てがアベノミクス効果というわけではない。失業率の低下や収益改善はアベノミクス前から始まっていたし、アベノミクス期間中は世界経済が堅調に回復し、景気後退の誘因が少なかったという環境面の幸運にも恵まれた。総裁選中に石破茂氏が「ラッキーな状況があった1」と評したのは正鵠を射ている。
しかし、アベノミクスがわが国経済にパラダイムシフトを起こしたのも事実である。これは、二つの面に現れている。一つは消費者物価である。消費者物価は2000 年ごろから下落に転じ、その後10年以上にわたって下がり続けた(2 図表2)。ところが、アベノミクス開始と同時に上昇に転じ、足元まで緩やかながらも上がり続けている。もはやデフレ的な状況ではなくなったと判断して差し支えない動きである。もう一つは名目GDPである。物価下落と相次ぐ景気後退で低迷が続いた名目GDPは、アベノミクス開始とともに力強く拡大するようになった。政府は600 兆円を目指しているが、現在のペースで増えていけば、近い将来この目標は確実に達成されるだろう。
このように、戦後2番目の長さとなった今回の景気回復は、良好な外部環境にも支えられつつ、安倍政権が発足当初から適切な政策パッケージを講じたことでもたらされたものといえる。わが国経済を「失われた20 年」から脱却させたという点で、これまでのアベノミクスは及第点といってよい。
では、3期目も従来アベノミクス路線の継続が望ましいだろうか。答えはノーである。アベノミクスの開始当初は、需要不足を解消して経済を正常化することが大きな政策課題であった。だからこそ、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略というポリシーミックス(旧3本の矢)が有効に機能した。しかし、わが国経済はすでに正常化を果たしている。GDPギャップは2017 年からプラス圏が定着しており、来年1月には戦後最長景気を更新する見込みである。所期の目標を達成した以上、ポリシーミックスは適宜修正しなければならない。病状が改善したのに処方箋を書き換えないと、かえって人体に害を及ぼすことになるからだ。
安倍政権3期目に求められる政策目標は、景気を失速も過熱もさせず、回復を継続させることである。だが、アベノミクスの旧3本の矢は、この目標の手段として適合しなくなっている。旧3本の矢を非常時モードから平時モードに組み替えていくことが必要なのだ。具体的には、以下のような見直しを提言したい。
第1の矢:大胆な金融政策は、持続性ある金融政策へ
まず、金融政策に関しては、緩和の規模よりも継続性を重視すべきである。
過去5年半を振り返ると、日本銀行の金融緩和政策は一定の効果を発揮してきた。最も象徴的な実績は、為替相場と株価に与えたプラス影響である。アベノミクス開始時点で1ドル=80 円前後を推移していた為替レートは急ピッチで円安が進み、企業業績を大きく改善させた。1万円を割っていた日経平均株価も、2年半で2倍以上に上昇した。前述したようにデフレにも歯止めがかかり、消費者物価は緩やかに上昇するようになった。まさに、目覚ましい成果であった。
しかし、金融緩和が長期化するにつれ、様々な問題点が指摘されるようになってきた。とくに大きな問題と考えられるのは、日銀に対する信認が低下していることである。これは、日銀がとっている一見矛盾ともいえる行動が背景にある。
まずは、目標に対する姿勢である。日銀は2%インフレを目標に金融政策を運営している。しかし、この目標はまだ未達である。消費者物価は上昇に転じたとはいえ、目標を大きく下回る伸び率にとどまっている。このように、既往の金融政策で目標を達成できなかったのであれば、本来なら追加の金融緩和策を講じるところである。日銀の片岡委員が追加緩和の必要性を主張しているのは、ある意味、極めて筋の通った意見である。しかし、追加緩和を訴えるのは、9人の審議委員のうち片岡委員一人にすぎない。この結果、傍目からは目標未達を傍観することが日銀の総意であるようにみえる。こうした追加緩和に消極的な姿勢は、2%インフレ目標を放棄しているとのメッセージと解釈されてもおかしくない。
それだけでなく、日銀は金融緩和政策の出口を想起させる政策変更を行っている。2016 年9月に、長期国債の買入ペースの目標を緩め、実質的な量的緩和の縮小(ステルステーパリング)に乗り出した3。今年7月には、長期金利の変動幅を拡大し(実質的な上限引き上げ)、ETFの買入額にも変動幅を許容した(実質的な縮小?)。一連の流れからは、日銀が極めて慎重に出口政策を模索し始めたと捉えることも可能である。
これらの行動は、日銀の政策スタンスに対して疑心暗鬼を生むことになった。日銀は7月31 日の政策決定会合で金融政策を微修正し、「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」と説明した。しかし、マーケットでは「出口政策を一段と進めたのではないか」との声も多かった。「強化」と言いながら特段何も強化せず、むしろ緩和縮小を連想させる行動をとり続ける。日銀が建前と本音を曖昧にするばかりに、マーケットとの対話に失敗するようになっている。
では、なぜこのような事態に陥ったのか。必ずしも日銀に非があるわけではないと思う。それよりも、5年半の異次元緩和で、三つの問題点が浮上してきたことが大きい。
第1に、緩和効果の限界が明らかになったことである。日銀は、金利・量ともに最大限の規模で金融緩和を行ってきた。GDPギャップの解消も物価上昇要因として働くはずであった。それにもかかわらず、2%インフレ目標に到達するメドは全く立っていない。この背景には、「失われた20年」の間に蓄積された根強いデフレマインドをなかなか払拭できないことが主因と考えられる。こうした現実を目の当たりにして、景気回復下でも2%インフレを早期に達成するのは困難で、相当長期にわたる取り組みが必要というのが共通認識になってきた。おそらく日銀でさえ、近い将来に2%インフレを達成できるとは信じていないのではないだろうか。
第2に、量的緩和政策の持続性に限界がみえてきたことである。国債市場における日銀の保有割合はすでに4割を超えているため、いつまでも大量の国債を買い続けることはできない。むしろ、国債買い入れが長期化すればするほど、将来の弾切れを意識させるようになってくる。もともと量的緩和政策は、長期戦には向かない政策なのである。
第3に、副作用が無視できなくなってきたことである。マイナス金利の導入は金融機関の利鞘縮小・収益圧迫をもたらし、金融仲介機能を低下させるとの批判が根強い。また、日銀によるETF購入で「物言わぬ株主」の保有シェアが高まり、企業のコーポレートガバナンスを阻害しているとの見方もある4。国債市場における日銀のプレゼンス拡大で、価格発見機能5も働かなくなった。こうしたマイナス影響が強まっていけば、全体としてみた金融緩和効果は限界的に低下してしまう。
結局のところ、問題噴出で日銀の打つ手がなくなってきたのに、高すぎる目標を掲げ続けていることが問題の根因といえよう。非現実的な2%目標の下で、日銀は自縄自縛に陥ってしまったのである。日銀が何か行動を起こしても、あるいは何も行動を起こさなくても、2%目標の下では必ず批判の的になる。これでは、マーケットとも対話のしようがない。
こうした事態の解決策は、2%インフレ目標を掲げた政府とのアコード(政府・日本銀行の共同声明)を見直すことである。アコードを締結した経緯からしても、日銀の方から積極的に2%目標の変更を申し出ることは難しい。まず政府が2%目標の見直しに前向き姿勢を示す必要がある。その際に重要なのは、2%目標の見直しは決して出口政策への転換を意味するものではなく、日銀の金融緩和政策の持続性を担保し、日銀に対する信認を回復するためという点を明示することだ。いま必要なのは、2%インフレの早期達成ではなく、デフレマインド払拭という長期戦に耐えうる金融政策の自由度を回復することである。現在のまま市場との対話を蔑ろにし続けると、日銀に対する不信感が累積し、日銀の金融緩和政策は早晩行き詰まってしまうだろう。
第2の矢:機動的な財政政策は、好況期の財政政策へ
次に、財政政策に関しては、不況対応から好況モードに切り替えることが必要である。
もともとマクロ政策としての財政政策に与えられた役割は、不況期に財政支出を拡大して景気を下支えする一方、好況期には財政支出を抑制し、景気変動を平準化することである。アベノミクス開始前は景気後退の渦中にあったため、即効性のある財政政策は望ましい政策手段であった。しかし、アベノミクスの5年半を経て、景気はすでに好転している。これから求められる財政政策は、景気刺激策としての財政支出を最小限に抑えることである。
こうした観点からみると、安倍氏の財政政策スタンスには一抹の不安が残る。安倍氏は総裁選中に、消費増税対策として「思い切った駆け込み反動減対策を講じたい6」と発言していた。たしかに一定の駆け込み反動減対策は必要であろう。しかし、好調な経済状況下で、「思い切った」規模で行うのは本当に必要なのだろうか。大盤振る舞いの財政支出の問題点は、いたずらに財政収支を悪化させるのもさることながら、景気を過熱させて、その後の後退局面入りを早めかねないという面も指摘できる。米国トランプ政権の財政政策が懸念されているのも、まさにこれと同じ理由である。財政政策のあり方に関しては、財政規律への配慮の必要性を訴えた石破氏の方が時宜に適っているように思われる。
もちろん、好況期に財政を抑制するのは、経済的には正しい理屈でも、政治的にはハードルの高い政策である。とくに、毎年のように選挙を控えて国民の審判を仰がなければいけない局面では、余計に言い出しにくい。しかし、財政状況が厳しいことは国民も十分に理解している。諸外国でとられているポピュリズム的な財政拡大策は、わが国ではかえって国民の不安を煽るだけではないだろうか。消費増税時の対応も含め、財政政策を使った景気刺激策に関しては慎重に検討すべきである。
さらに、長期的視野に立った財政政策を策定することも必要である。財政状況が深刻なわが国では、好況期にこそ、実現可能性のある財政再建の道筋を固めておかなければならない。
財政再建の手段は、大きく歳出改革と歳入改革とに分けられる。歳出改革は社会保障制度の見直しや支出効率化など様々な切り口があるが、ともすれば総論賛成・各論反対に陥りやすく、実施にこぎつけるのは容易ではない。一方、歳入改革では、消費増税が必要なことで意見はおおむね一致しているように思われる。そのため、消費税をどのように上げていくかという方法論から着手するのがよいだろう。
ここで重要な論点は、消費増税が景気の下振れ要因として働くということだ。消費増税で景気を失速させて税収を減少させたら元も子もない。国民の間でも、消費税に対する印象がさらに悪化してしまう。したがって、消費増税で景気を失速させないことが最低限の条件である。
景気への影響という文脈で考えると、物価上昇で消費者の実質所得が減少しないかどうかが大きなポイントになる。実質所得が減少すれば個人消費も減少するし、実質所得の増勢を維持できれば個人消費の落ち込みも避けられる。こうした点を念頭に、過去3回の消費増税を振り返ってみると、最初の2回は成功、直近の3回目は失敗だったと整理することができる。
1989 年の消費税導入時(0→3%)の直後には、物価は前年比2.7%上昇したものの、雇用者報酬が同7.9%増加したため、実質所得はプラスを維持することができた(図表3)。バブル経済のピークという絶好のタイミングだったため、消費増税は景気にほとんどマイナス影響を与えなかった。
1997 年の増税時(3→5%)も同様、物価が2.0%上昇したのに対し、雇用者報酬はそれを上回る3.6%増加したため、実質所得は減少しなかった。このときは、直後に景気後退に陥ったため、消費増税は失敗だったとの見方もある。しかし、景気後退の直接の原因はアジア通貨危機と国内金融危機であった。もしこの二つが起きなければ、景気後退は避けられたと考えられる。
唯一失敗したのは、3回目の増税となった2014 年(5→8%)である。このとき、物価が3.5%も上昇したのに対し、雇用者報酬は1.4%しか増えず、実質所得が大きく落ち込んだ。アベノミクス開始直後で好循環メカニズムが十分に作動しなかったにもかかわらず消費増税を断行した結果、景気は低迷を余儀なくされたのである7。
では、次回2019 年の増税(8→10%)はどうなるだろうか。おそらく、懸念するには及ばないだろう。その理由は、消費税の引き上げ幅が前回よりも小さいことに加え、所得環境が一段と改善するため、雇用者報酬の伸びが物価上昇率を上回ると予想されるからである。ただし、100%大丈夫とは言い切れない。予想される実質所得の伸びはそれほど大きくないため、経済状況が悪化すれば実質所得が減少するリスクもある。
このようにみてくると、消費税の引き上げ幅が小さいほど、実質所得を押し下げる力が弱くなることに気付く。したがって、1%ずつの消費増税が経済に最もストレスをかけない方法といえる。1%の引き上げであれば、景気後退局面さえ避ければ、実質所得が減少することはまずなさそうである。増税幅を最小化する代わりに、増税の回数を増やすという方法が、わが国にとって最も現実的な選択肢である。
予想される反対論は、メニューコストがかかるという企業からの不満である。確かに、消費税を導入した1989 年には多大なメニューコストがかかったと思われる。しかし、これだけIT化が進んだ社会で、メニューコストが負担になるというのは言い訳にすぎない。経済界も消費増税の必要性を強く主張するのであれば、多少のコスト負担は受け入れるべきである。
1%ずつの増税であれば、景気へのマイナス影響もそれほど大きくならないため、長期的な財政再建のスケジュールを組み立てやすい。これに対して、2%、3%と一気に消費税を上げる方法は、慎重にタイミングを見計らうことが必要になるほか、直前になって先送りするインセンティブを生み出してしまう。結果的に、1%ずつ消費税を上げていく方が、財政再建の近道になる可能性が高い。
第3の矢:民間投資を喚起する成長戦略は、実行力を重視する成長戦略へ
最後に、成長戦略に関しては、とにかく実行力を重視することが求められる。
アベノミクス3期目では、二つの理由から成長戦略の重要性がこれまで以上に高まることになる。
第1に、潜在成長率の引き上げが待ったなしのテーマになるからだ。アベノミクスの前半は需要不足経済であったため、まず需要を創出することが大きな課題であった。そのため、成長戦略の優先順位は相対的に低かった。需要不足下で潜在成長率を引き上げすぎると、需要不足をさらに深刻化させる恐れがあるからだ。しかし、GDPギャップはすでにプラス圏に転じ、需要不足から供給不足の世界に変わっている。こうした状況下では、需要創出策の議論はもはや不要で、代わって、いかに供給力を拡大するかが重要な課題になる。とくに、人材や資源などに供給制約が強まるなかでは、成長戦略を通じて供給力の天井を引き上げることが不可欠である。
第2に、来るべき景気後退に備えるためである。わが国の景気後退の原因は、たいてい海外からもたらされる。輸出の減少が企業業績を悪化させ、設備投資と雇用者所得を押し下げて、内需が減少トレンドに変化していくというコースである。とくに、「失われた20 年」の間は内需が脆弱な状態が続いたため、外的ショックに翻弄されることが多かった。足元の状況をみると、貿易戦争、新興国危機、過剰債務問題など、世界経済は下振れリスクが懸念されるようになってきた。こうした外的ショックに耐えて、景気後退入りを回避するためには、内需の景気牽引力を高めることが最善手である。幸い、足元では設備投資と雇用者所得の回復が明確化している。成長戦略を通じてさらに自律回復力を強めれば、海外からの景気後退圧力の波及を食い止めることも可能になるだろう。
しかしながら、これまでの成長戦略の成績は決して芳しくない。むしろ、アベノミクス期の成長戦略はほとんど効果を発揮してこなかったというのが実情である。実際、潜在成長率は2012 年からほとんど上昇していない(図表4)。それどころか、成長戦略の成果が現れるべき全要素生産性の伸び率は逆に低下している。第1の矢、第2の矢は一定の効果を示したものの、第3の矢は完全に期待外れだったといえよう。
では、なぜこのような結果になったのだろうか。様々な原因が考えられるものの、一つの理由として、成長戦略の実行力が欠如し、「絵に描いた餅」で終わったことを指摘できる。
アベノミクス下の成長戦略は、最初は産業競争力会議で、その後は未来投資会議で議論されてきた。しかし、いずれの会議でも、成長戦略を実行することよりも、策定すること自体が重視されてきたようにみえる。例えば、成長戦略に盛り込まれる政策リストがあまりにも多岐にわたり、優先順位が不明瞭になっている。例年6月に取りまとめられる成長戦略の資料は、あたかも政策候補の総花的カタログであり、全て実行できるとは到底思えない内容だ。さらに、この膨大な量の成長戦略が毎年作り直される。本来、優先的に取り組むべき政策課題は、たった1年でそう大幅には変わらないものである。こうして貴重な政策資源が毎年の作成作業で浪費されてしまい、実行に回す余力が残らなくなってしまったのだ。
結局、わが国の成長戦略は作成だけに労力が費やされ、実行が軽視されてきたと言わざるをえない。成長戦略が進展しなかったのであれば、潜在成長率が高まらないのも当然の話である。安倍政権3期目では、これまでの失敗の経験を踏まえ、いかに実行に移すかに焦点を絞るべきである。
実行力を高めることを考えたとき、スピード感が非常に重要となる。現在世界各国が取り組んでいる成長戦略は、以前に比べて大幅にスピードアップしている。典型例は中国である。中国は、まずやってみて、ダメだったら見直すことを繰り返しながら、急ピッチで新しい取り組みにチャレンジしている。その結果、日本とは比較にならないくらいのスピードで新技術・サービスが広がっている。最近の事例でみても、ライドシェア、キャッシュレス化、無人店舗、自動運転などは、日本よりも数歩も先んじている。もちろん、失敗例も枚挙にいとまないが、「失敗は成功の母」と前向きに捉えられていることも特筆に値する。このような中国の実行力は、わが国も参考にすべきところが多い。
では、中国並みのスピードで成長戦略を実行していくにはどうしたらよいだろうか。昨年と今年の成長戦略に記載されているサンドボックス制度を活用するのが最も近道だろう。これは、事前規制を最小限に抑えて「まずやってみる」ことを優先し、先進技術の開発・実証をスピードアップさせるための仕組みである。似たような仕組みとして特区制度が用意されているが、実際には多くの規制がかかっており、まだ使い勝手の悪い一面が残っている。サンドボックス制度を本格活用すれば、これまで遅々として進まなかった成長戦略も、スピード感をもって実現に向かっていくことが期待できるようになる。そのうえで、効果が認められた施策については、これまでの遅れを取り戻すべく、規制や制度を速やかに見直していくべきである。当然、こうした取り組みの第一歩として、まずサンドボックス制度を迅速に導入すべきなのは言うまでもない。
おわりに
総裁選での発言をみる限り、3期目の安倍政権は、社会保障、働き方改革、憲法改正などに意欲的に取り組む構えである。もちろん、これらを含む新3本の矢8の重要性は論をまたないし、憲法改正という誰も手をつけられなかった政策にチャレンジするのも大事である。成功すれば、3期目を飾る大きなレガシーになるだろう。
しかし、安倍政権が景気拡大に支えられていることも忘れるべきではない。各種調査によれば、安倍政権に対する国民の支持は決して盤石とはいえない。それでも政権が継続しているのは、若年層を中心に、景気拡大という実績が認められたからだ。もし景気に変調を来すことになれば、政権支持率がさらに低下し、新たなチャレンジも水泡に帰すことになりかねない。悩ましいことに、景気のコントロールは過去5年半に比べて格段に慎重さが求められるようになっている。その意味でも、経済政策の土台を形成している旧3本の矢の再設計も喫緊の課題である。 以上

1 日本経済新聞2018 年9月8日。
2 2008 年に一時的に上昇したのは、資源価格の上昇が原因である。資源価格が落ち着くにしたがい、消費者物価も元のトレンドに戻っている様子が読み取れる。
3 それまで日銀の国債保有残高は目標通り年80 兆円ペースで増加していたが、足元の増勢は年30 兆円ペースにまで低下している。
4 根本寛之『日銀のETF買入政策の功罪』2018 年3月30 日。
5 金融経済状況に対する市場参加者の見方を価格に映し出す「鏡」としての機能(『日銀レビュー:金融混乱下のスワップ市場と国債市場の価格発見機能』2009 年7月)。
6 日本経済新聞2018 年9月8日。
7 ただし景気後退とは認定されていない。
8 2015 年9月に打ち出された「希望を生み出す強い経済」「夢を紡ぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」からなる新しい3本柱。旧3本の矢は「希望を生み出す強い経済」に包摂されたと位置付けることができる。
(図表1)失業率と企業収益
(図表2)名目GDPと消費者物価
(図表3)消費増税時の雇用者報酬と消費者物価(前年同期比)
(図表4)潜在成長率