NHKの報道文化

安倍総理誕生 報道文化の変異

経営委員が「お友達」
会長が「お友達」

NHKの報道姿勢が揺れる 問われる
 


 
 
 
 
 
安倍総理誕生でNHK報道にも影響? 会長が“お友達”の危険性 2013/1
安倍晋三総理誕生でNHKの報道姿勢には注意を払わないといけない…。
そんな声がマスコミ関係者の間から聞かれる。安倍総理は次々に“お友達”をトップに送り込み、報道などに介入する可能性が出てきたからだ。
その前兆は'07年6月、第一次安倍内閣のときのNHK経営委員長人事にみられた。新経営委員長に選ばれたのは、富士フイルムホールディングス社長の古森重隆氏。経営委員長はNHKの経営委員から互選されるが、一般紙はすでに経営委員長が決まる前から「古森氏決定」と報道していた。安倍側のリークだが、これに首を傾げる政・財界関係者は少なくなかった。なぜこうなったのか。それは安倍総理の取り巻きに理由があった。古森氏はJR東海・葛西敬之会長らとともに、安倍氏を囲む『四季の会』の主力メンバーだったのだ。
他にも安倍氏には『さくら会』がある。同会は今年に入ってすでに3回、会合が開かれた。「三菱重工業など三菱グループ主要企業の経営者の他、日立製作所の中西宏明社長、東電の取締役で、前NHK経営委員長の数土文夫氏ら豪華なメンバーが名前を連ねている」(財界事情通)
いまのNHKを牛耳っているのはJR東海人脈。松本正之会長('11年1月就任。任期は3年のため'14年1月で任期切れ)は元JR東海社長・副会長を歴任してきた。JR東海・葛西会長の側近である。その松本会長もきわめてきな臭い人事を行っている。「'04年5月に松本氏がJR東海社長になったとき、副社長をつとめた盟友の石塚正孝氏をNHKに連れてきた。肩書きは『特別主幹』で松本会長をサポートするのが目的。ただ実際は“裏広報”的な役割を担っていたようです」(財界関係者)
昨年辺りまでのNHKはトヨタが食い込んでいたが、パワーバランスが変わってきた。'06年に入局し、今年4月に退任した専務理事放送総局長の金田新氏はトヨタ(専務)から送りこまれた。しかし、次期会長の有力候補だった金田氏は権力闘争に敗れる。そして、いまやJR東海出身者が権力を持ち始めているのだ。そんな折、葛西会長と懇意である安倍復権となれば、NHKを牛耳ることは赤子の手をひねるようなものだ。それほど今のNHKは、免疫力が低下している。
痴漢や大麻所持、インサイダー等、そのぬるま湯的体質はあまりにもひどいといえる。そして報道も弱くなっている。現場の記者から報道局長あたりまで、上を見ながら取材し、原稿を書いている。すっかりサラリーマン体質になってしまった。「組織が脆弱化しているときに安倍超タカ派内閣が支配すれば、NHKは安倍個人や内閣の悪口や批判ができなくなる」(テレビ業界事情通)
今後、NHKの報道は期待できない可能性がある。いまや信頼できるのは、ツイッターなどの個人発メディアだけ?  
 
 
NHK経営委員に“お友達”ズラリ 安倍政権の露骨すぎる言論介入 2013/10
「皆サマ」から「安倍サマ」のNHKにする気なのか。安倍政権が示したNHK経営委員の人事案には、首相の“お友達”がズラリ。経営委はNHKの最高意思決定機関で、会長の任命権など強い権限を持つ。来年1月に任期が切れる会長人事をにらみ、日本最大の放送機関を「安倍カラー」に染めようとする狙いはミエミエだ。秘密保護法案で国民の「知る権利」や「報道の自由」を奪おうとする中、安倍のさらなる露骨な言論介入は民主主義への挑戦である。
NHKの経営委員は国会同意人事だ。衆参両院に提出された新任委員の顔ぶれは、JT顧問の本田勝彦氏(71)、哲学者の長谷川三千子氏(67)、小説家の百田尚樹氏(57)、海陽中等教育学校長の中島尚正氏(72)の4人。安倍とは全員親密な仲で、思想的にも極めて近い。よくもまあ、これだけ偏った考えの持ち主を集めたものだ。
「本田氏は安倍支援の保守系財界人の集まり『四季の会』のメンバー。東大生の頃に小学3、4年生だった安倍氏の家庭教師を務めた。東大卒後に当時の日本専売公社に入社し、00年にJT初の生え抜き社長となり、06年まで務めました」(経済ジャーナリスト)
長谷川氏は「オンナは子を産み育てよ」がモットーで、少子化を口実に家父長制の復権を公然と唱える保守論客だ。
百田氏は「永遠の0」や「海賊とよばれた男」のベストセラー作家で、安倍も作品の愛読者のひとり。「探偵!ナイトスクープ」の構成作家という経歴から、単なる「おもろいオッチャン」と思ったら大間違い。いわゆる「自虐史観」を一貫して批判し、ある月刊誌で「安倍政権の最も大きな政策課題は憲法改正と軍隊創設」と言い切ったバリバリの軍国主義者だ。
中島氏が校長を務める「海陽学園」は次世代のリーダー育成を掲げる全寮制の中高一貫校。副理事長を務めるJR東海の葛西敬之会長は、本田氏と同じ「四季の会」の一員だ。葛西氏は財界きっての原発推進論者で、NHKの松本正之会長に不満タラタラだという。
「『アイツは国益に反する放送をしてけしからん』とボロクソに言っている、と雑誌に書かれました。松本会長はJR東海の元副会長で、葛西氏自身が3年前にNHKに送り込んだ。脱原発に転じた小泉元首相が『NHKが震災後に放送した海外ドキュメンタリーを見たのがきっかけ』と発言したのも、元部下への不満に火をつけた。中島氏は、葛西氏の意向に従った“松本降ろし”の刺客でしょう」(財界関係者)
恐ろしいのは、これだけ保守色の強い面々がNHKの首根っこを掴んだことだ。会長選任には経営委員12人のうち9人の同意が必要だ。新任4人が反対すれば「拒否権」が発動される。
安倍やその取り巻きの意に沿わない会長は、簡単に葬られてしまう。
「つまり、安倍首相や偏った思想の“お友達”が、NHKトップの人事を左右し、公然と公共放送を乗っ取ろうとしているのです。狙いはひとつ。放送法第1条に定められた『不偏不党』の原則をかなぐり捨て、NHKの報道姿勢を権力の思うがままに操ること。安倍色に染まった会長の下で、原発推進の一大キャンペーンや、反中反韓の偏向報道だって始まりかねません。戦中の大本営発表を想起させる言論封殺の危機なのに、大手メディアの追及は鈍すぎます。民主主義の基盤である『言論の自由』を抹消する動きを、絶対に許してはいけません」(元NHK政治部記者で元椙山女学園大教授の川崎泰資氏)
安倍ファッショは、すでに始まっている。 
 
 
NHK籾井会長がKO寸前!安倍政権“お友達人事” 2014/2
慰安婦問題などについて個人的見解を就任会見で披露したことが問題視されている籾井勝人NHK会長(70)が、19日に参院総務委員会でボコボコにされた。共産党の吉良佳子氏(31)は「任にふさわしくない」と切って捨て、結いの党の寺田典城氏(73)も「続けるのは困難ではないか」と辞任要求をした。
籾井会長の周辺は常に騒がしかった。矢継ぎ早に繰り出される質問に対応するため、事務方スタッフが資料を持って動き回る。籾井氏は委員長の指名を待たず、答弁するなど平常心を失っていた。答弁も「放送法に基づいてやっていく」を繰り返すばかり。
問題となっているのは「(慰安婦は)どこの国でもあったことですよ」「政府が右ということを、左というわけにはいかない」などの発言だ。後日、籾井会長は取り消していた。この日、日本維新の会の片山虎之助氏(78)が「取り消して、個人的見解は変わったのか」と聞くと、「変わっていません」ときっぱり。すぐに周囲に促され、「個人的な思想をここで言うのは控えたい」と修正した。
また、片山氏は「会長としてNHKをこうしたいとか何か思いはないのですか」と質問。籾井会長はペーパーに目を落としながら、「放送法に基づいて…」と相変わらず。議員らから「こりゃ駄目だ」とため息が漏れた。
もはや籾井会長はノックアウト寸前といった感じだ。永田町関係者は「安倍首相のお友達人事ということで、野党は籾井氏の首を取ろうとしている。少しでも安倍政権にダメージを与えたい狙いがある」と指摘。
籾井氏の辞任は安倍政権にとって大打撃なのは自民党もわかっている。自民党議員は「あまり騒ぐと現場の職員がかわいそうだ。ほどほどにすべき」と沈静化を図っている。
NHK関係者は「またアンチNHKのデモが起きますよ。結構、こたえるんですよね」と嘆いている。 
 
 
NHK・籾井会長退任で“犬猿の仲”報道局は「ホッ」と一息…… 2017/1
NHK籾井勝人会長の退任に、ホッと胸をなで下ろす局員がいる。局内で対立がささやかれた、報道局のスタッフだ。政府の意向に寄り添った数々の問題発言や、ハイヤーの私的利用など批判を受けた籾井会長だが、中でも緊張関係にあった報道スタッフは「一息ついた形」としている。
「『クローズアップ現代』の国谷(裕子)キャスターが降板させられたことで、籾井さんへの反発はかなり強まっていましたからね」(同)
国谷降板問題は2014年7月、番組に菅義偉官房長官が出演した際、国谷キャスターが安保関連法案について食い下がって質問を続けたところ、官房長官が不機嫌な態度となり、その後、国谷キャスターが番組を降板することになったものだ。
籾井会長が明らかに政府寄りの姿勢を見せていたため、さらにNHKの報道姿勢も問われたが、番組を制作していた現場サイドではそれ以降、籾井体制への反発心が強まっていたという。
「ただ、そうしたスタッフは“X”マークが付けられ、人事に響くというウワサも広まりました。実際、籾井会長についての不満を局内で言えば、烈火のごとく上司に叱られる者もいましたよ。国谷キャスターの降板に反対した職員が、急に態度を変えて何も言わなくなったということもあったんです」と同スタッフ。
そんな恐怖政治がNHKを包んでいたせいか、局内では籾井会長への不満がタブー化していたという話もある。
NHKの諸問題を取材するフリーライターの田所敏夫氏は「同じく政府の反発を招いたテレビ朝日の『報道ステーション』の古舘伊知郎氏の降板が決まったのも、同じ流れだったと聞きます。国谷さんが降板させられたのと同日、TBS『報道特集』の顔、金平茂紀さんも執行役員を解任。この方も、政府に厳しい見方をしていた人。NHKのみならず、テレビ界に政府の圧力がかけられていたと見た方が自然」とする。
ただ、NHKでも反対意見はあったようで、2年前、経営委員会を退任した下川雅也理事は、「NHKに対する信頼が揺らいでしまっています。自主・自律が公共放送の生命線という認識は、戦前の根本的反省から生まれています。政府が右と言っても左と言う勇気を持ちませんでした。それがどれだけ悲惨な結果を招いたことか」と、政府追従の危機感を募らせていた。
しかし、昨年は高市早苗総務大臣が国会の衆議院予算委員会で「放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波停止を命じる」という可能性に言及し物議をかもしている。
前出・田所氏は「NHKには労働組合もありますが、ここも経営陣に対しての実質な対抗力はない状況。視聴者から番組内容に関する意見の窓口があっても、直接担当部署に伝えられなかったり、まるで体質を改善する仕組みがないんです」と明かす。
次期会長にはNHK経営委員の上田良一氏が就任するが、その体質は変わるのか。田所氏は「籾井さんはもともと三井物産の副社長で、上田さんも三菱商事の副社長だった人。どちらの会社も与党べったりの企業なので、大して変わらない」とする。
「三菱商事は、傘下の三菱航空機が力を入れて開発している小型航空機MRJを大量に輸出するプランで、政府や官僚にロビー活動しているんです。このタイプの小型航空機は、日本国内であまり需要がないので政府もその意をくむはず。上田さんは穏健な人なので、籾井さんみたいに問題発言はない安全運転型でしょうし、籾井時代のように経営委員に露骨な右寄りの識者を集めたりまではしないと思いますが、本質は今までと同じ、政府寄りのまま」
それこそ右や左というのではなく、NHKには政府の声より国民の声を報道してほしいものだが……。 
  
 
NHK「籾井節」衰えず 会長最後の会見 2017/1
NHKの籾井勝人会長は19日、最後の定例記者会見を開いた。24日に任期満了を迎え、NHK会長としての会見はこれが最後。籾井会長は3年間の任期を振り返り、「まっすぐな生き方を貫くことができた」と語った。歴史認識などを巡る数々の失言で世間を騒がせた籾井氏。この日は体調を崩しながらの会見だったが、「籾井節」は健在だった。
「体調が悪いので、30分で」
「会長は体調が悪いので、30分でお願いします」。最後の定例会見は、進行役のアナウンスから始まった。風邪を引いたらしく、昨日から具合が悪いという籾井氏。体調を問われると「破裂しそうですよ」とこぼした。
籾井氏は「とてもハッピーだった」と振り返ったが、最後は断念した受信料引き下げの話になると、語気を荒らげた。
「経営委員会が値下げを認めなかったことは理解しがたい。放送センター建て替え計画が具体化した段階で見直すとしてきた約束と、これまで守ってきた収支均衡の原則を覆すほどの根拠があったのか」
籾井氏は止まらない。「非常に残念」と強い口調で訴え、「お金が余ったら返すのが原則」とも話した。
後任会長の上田良一氏については「ああだ、こうだ、と言うのは差し控える」と言葉少なだったものの、「改革を推進してほしい」とエールを送った。
NHKの会長職は上田氏まで4代連続で外部からの登用が続いている。籾井氏は「できるだけ早くプロパー(生え抜き)が会長を担えるようなNHKにしてほしい」と語った。
「私は悪いことはしていません」
会見中、就任直後の失言やハイヤーの不適切な利用について聞かれると、色を成して反論した。
「国会でも取り消した。みなさんから、わあわあ言われる筋合いはない」
「いまだにハイヤーとか言っているのはどうしてかわからない。私は悪いことはしていません」
職員の受信料の着服問題などについて質問されると、「なんでもかんでも発表すればいいというものではない」と断言。隣に座る坂本忠宣理事が慌てて「その件については調査中」と取りなす場面もみられた。
三井物産出身の籾井氏は、2014年1月にNHK会長に就任。国内外での経営経験の豊富さを買われての抜てきだった。
ところが、就任会見で従軍慰安婦問題をめぐり、「戦時下では他国でもあった」と発言し、批判されたことがある。「緊張感を持たせるため」として就任初日に10人の理事全員に辞表を提出させたことなども波紋を広げ、朝の番組で異例の謝罪に追い込まれた。
国際放送やネット活用で実績も
その後も私的なハイヤー利用をめぐる不適切な請求手続きなど、騒ぎが相次いだ。NHK予算案の国会承認は、籾井氏が会長になった2014年度から3年連続で全会一致で承認されず、慣例が崩れた。
ならば、籾井氏は「お騒がせ会長」と評価しておけばよいのだろうか。
任期中、国際放送の強化やインターネットの活用にも取り組んだ。受信料収入が過去最高となるなど業績は改善。受信料は2017年10月から3%引き下げることを提案していたが、「中長期的な影響が明らかでない」として2017年度は見送られる方針となった。
「蓋棺事定(がいかんじてい=人の評価は棺おけに蓋をしてから定まる、という意)」。籾井氏は就任前のインタビューで座右の銘について、こう答えていた。
最後の会見に詰めかけた記者はざっと70人ほど。席が足りず、急きょ空いたスペースに椅子が並べられるほどの盛況ぶりだった。 
 
 
退任した名物会長が今だから明かす 2017/2
前NHK会長の籾井勝人氏(もみい・かつと)(73)が20日、産経新聞単独のインタビューに応じた。3年の在任中は型破りな発言で常に物議を醸してきた“名物会長”。1月24日の退任後、メディアの取材に初めて応じて自らの仕事や発言を振り返った。
もう少し言葉を選んでいれば…
−−平成26年1月の就任記者会見で、国際放送をめぐり「政府が右というものを左というわけにはいかない」と発言するなど、言動が度々、物議を醸してきた
「今にして思えば、もう少し言葉を選んで話せば、ああいうことにはならなかったと思うんですが…。まあ、(就任会見で)質問した記者に『籾井に失言させよう』という意図があったんじゃないの? という感じはしないでもない。ただ、それを言ってもせんないことです」
「今だったら、ああいう言い方はしませんよ。でも、就任初日ですからね。(記者が)手ぐすね引いているところに、『ほら、キター』っていうようなもんだったでしょう。発言した内容については…おっしゃる通り、物議を醸したので、国会でも取り消しています。しかし、最後まで問題視され続けた」
「国際放送について『政府が右というものを左というわけにはいかない』と発言したのは、尖閣諸島のことが頭の中にあったからなんですよ。政府は、尖閣を『日本固有の領土』としているわけです。NHKの国際番組基準には、重要な政策や国際問題については、日本の公式見解を正しく伝えるよう明記されています。だから、政府の立場を伝えなくてはいけないと言いたかった。しかし、(発言の中の)『右』『左』という言葉が(メディア側にとって)使いやすかったんじゃないでしょうか」
−−個人としては、尖閣諸島は日本固有の領土との認識か
「そう思います。竹島だってそうです。竹島も全く同様ですよ。私は今、無職で、NHK会長は辞めましたから」
−−記事にするが
「いいですよ。堂々と胸を張って」
−−放送内容について自分の考えを主張したことはあったか
「それはないですよ」
−−政府からの圧力あるいは、NHK内に政治を忖度(そんたく)した動きはあったか
「本当にないと思いますよ。NHKはいつも厳しい目で見られているわけだから、注意しなければいけないし、あからさまに忖度があるように見えてもいけないでしょう」
−−改めてNHK会長を務めた3年間を振り返ると
「自分なりにやらなければいけないことを実感し、理解するまである程度の時間はかかりました。私がやらなければと感じたのは、格好良く言うと『企業文化を変える』ということでした。前例踏襲のままでは、ますます時代の流れに追いつけなくなってしまう」
「ただ、会長が大声で『変えよう』といえば済む話ではありません。職員の話を聞き、問題意識を共有してもらうことが大切です。ささいなことかもしれませんが、形式的だった理事会に加え、局長クラスも交えた会合を設けたり、職場のキャビネットをなくしてペーパーレス化を進めたり…。『何だ、そんなことか』と思われるかもしれないが、こうして働き方を少しずつ変えることで、ものの考え方も変っていくと思ったのですよ」
−−自身の実績についての評価は
「大事にしてきたことは、僕の考え方を含め、役職員の考えをどう経営に反映していくかということ。仕事とは、みんなで一緒にやっていくものです。僕の基本的な物事の考え方は『蓋棺事定(がいかんじてい)』という言葉です。杜甫の詩ですが、人間の評価は棺にふたをされて初めて決まるということです」
−−一緒に仕事をした職員に今、どんなことを思うか
「それはもう、感謝しかないですよ。(NHKに)素人(の会長)が来たわけですから。放送について私が口を出すことはほとんどありませんでした。ただ、『ネットや国際放送を充実させよう』ということはいえる。実行するのは職員です。職員が心からやる気を持ってやってくれれば物事は動いていくんです。今、言いたいことがあるとすれば、変えることを恐れるなということですね」
受信料値下げ なぜ実行できない
−−では、3年間で、最も悔やまれることは
「いやー、特にありませんね。ただね、僕は全てのことは納得しているんですが、今回の受信料の値下げが(NHKの最高意思決定機関である経営委委員会の承認を得られず)実行できなかったことは、全く理解できないですね」
「『たった50円では意味がない』という指摘もありますが、僕に言わせれば、『今回は、50円』。様子を見て、また余裕が出れば下げればいい。それに、これは予算ですから、何にお金がいるのかをはっきりさせないといけない。『将来、何かにお金がいるかもしれないから、いただいた受信料をためておかなくてはならない』という理屈は、NHKにはないと思います」
「例えば(東京・渋谷の)放送センター建て替えは大プロジェクトですから、余ったお金を積み立てさせていただいたわけです。今後、仮に何千億円というお金が必要になったら、また新たに積み立てればいいんですよ」
−−上田良一現会長は、かつて役員らに値下げを主張していたと聞いているが
「僕は直接、彼から聞いていない。上田さんの考えは、上田さんに聞いていただくのがいいと思う。あの(受信料値下げ見送りの)件は(合議体である)経営委員会全体の考えです。僕は本当に、納得できていません」
「ただ、NHKの予算は経営委の議決をへないといけませんから、これはこれで、仕方がないということです。ぜひ、議事録を読んで、値下げをすべきでなかったかどうか、検討していただけるとありがたいですよ」
−−1月4日に行なった局内向けあいさつで、職員給与の改善について言及していた。上田良一現会長に対し、職員の賃上げを求めたことはあるか
「言いましたよ。短い引き継ぎの中で言っただけですから、特にリアクションは求めていません。あとは、彼がどうするか。給料の話は、経営委員にもしています」
「例えば民放と比較して、NHKは3割近く低い。民放と同水準にすべきだとは思わないが、今なぜ、下げなければならないのか。これは全く理解できない。NHKを志望する学生は減っています。給料だけが理由とはいわないが、民放と比べて安いのなら、民放のほうに行く若者はいますよね」
−−山形放送局記者が住居侵入と強姦致傷の容疑で逮捕された。不祥事が続いている
「その件について僕はよく分かりませんが、まず、犯罪と不祥事は分けて考えた方がいいと思います。山形の件は、個人の資質、法令順守意識の問題だと思います。一方、着服やタクシー券の私的利用はガバナンス(企業統治)の側面が大きい」
−−NHKに期待したいことは
「NHKは受信料で成り立っています。一番大事なことは、いい番組を作ることです。予算が許す限り、ある程度お金が掛かっても良い番組を作る。自然ものとかが典型例ですよね。そして、放送法に掲げられているように、自主・自律、不偏不党、公平・公正を貫くことです。いろんな人がいますから、難しいことですが、バランスをとってやっていかなければいけません。これからもそうしたことは貫いてほしいです」
由紀さおりに感激
−−会見で芸能の話題に言及することも多かった
「僕、(出身が)福岡でしょう? 芸能界の福岡県人の集まりがあって、顔を出すことがあるんです。歌手も俳優さんもいらっしゃいますが、基本的にお笑いの方が多いんですよ。見ていて思うのは、本当に大変な仕事だなと。ギャグ一つウケるかどうかで、沈むか、浮くか。本当にね、頭が下がりますよ」
「正直を言うと、以前はそれほど関心はありませんでしたが、(交流することで)目からうろこが落ちたんです。だから、芸能人には、尊敬の念があるんです。それをもって、籾井は『芸能界好き』といえばそうですがね(笑い)」
−−「会えてよかった」という芸能人はいるか
「…もう会長じゃないから言ってもいいと思うんですが、由紀さおりさんですね。僕、(三井物産時代の)25歳の独身のとき、オーストラリアに留学していたんです。由紀さおりさんが『夜明けのスキャット』で初出場した1969年の紅白歌合戦を、僕は翌70年に、メルボルンで見たんですね。彼女は確か、19歳だったと思うけれど、『こんなに声のきれいな美人がいるのか』と思って、早く日本に帰りたくなったんです(笑い)。去年、ある賞のときにお会いして、感激しましたね」
「このことがあったから言うわけではありませんが、本当に、ハッピーで楽しい3年間でした。いろんな経験をさせていただいて、自分の中では本当に貴重な3年間でした。そういう意味では、最初の記者会見で口が滑ったどうの、ということは大したことじゃないですよ」
今後は芸能界入り?
−−退任から1カ月弱。どう過ごしているのか
「一言でいえば、途方に暮れています。朝起きて、行くところがないわけですよ。今までは決まった予定で動いていたから。今は、自分で何をするか決めなければいけない。そういう意味では、サラリーマンというのは、ある意味では楽だなと思いましたね。先日、ある書類に職業を記入する欄があって、『無職』と書きました。私は今、無職です」
−−1月19日の最後の記者会見では、インフルエンザを発症していたが
「非常に申し訳なかったです。本人としては『つらい』という意識はなかったんですが…。(当日のことは)覚えていないんです、あんまり。(新聞記事に会見での発言が)出ているのを見て、『俺、こんなこと言った?』というくらいで…。大変、皆さんにご迷惑をおかけしました」
−−今後、どういうことに取り組むのか。芸能界入りか
「いやいや。芸能界は、とってもとっても、厳しいところだと思っていますから、そう軽々とは…」
「決まっていることはないです。今、考えているのは、自分の決められることをやろうと思っています。いろいろ書かれて、ゴルフから3年間、遠ざかっていましたから、もう1回やろうというのが一つ。腕はもう、戻らないかもしれませんが。それから、趣味の小唄をまたやろうと思っています」
「仕事については今のところ、全くノーアイデアです。これは自分じゃ決められませんからね。ただ、僕のところに好んで声をかける人がいるでしょうか。3月で74歳ですからね。ただ、もう74だから仕事をやる気がない、とは書かないでくださいよ(笑い)。もし、自分が何か役に立つようなことがあればね」
−−時事問題などについてメディアなどで発信していく考えは
「経営など自分の経験したことなら構いませんが…。例えば、(米大統領の)トランプさんについて、とかになったらね…。意見は言えますよ。でもね、それは僕が言う話じゃないでしょう?」
「トランプさんについては、移民の問題は横に置いておいて、彼は『メーク・アメリカ・グレート・アゲイン』というスローガンに沿ってやっているわけですよね。最近、一番大きかったのは、(2月の日米首脳会談後の)共同声明で、尖閣諸島が日米安保の対象と明記されたことです。今までなかったでしょう。日本はこれだけでも大ハッピーですよ」 
 
 
「籾井降ろし」とNHK「腐敗」の真実
不思議なことにリベラル派からは「政権癒着」と国会でつるし上げを食らい、同時に逆の極端な保守派からは「反日」と叩かれることもあるNHK。
NHKについては、あまりにも外側から妄想で語られることが多いので、私はあえてNHKの真の姿と課題を知ってもらうことにします。
2014年1月25日、私は渋谷にある放送センターの自席で業務を続けたまま、NHKの館内共聴回線でテレビ画面に映し出される、籾井勝人NHK新会長の初会見に何げなく耳を傾けていました。
私が最初の会見で受けた印象は、籾井会長という人はずいぶんとよく喋る人だな、というものでした。私が働き始めたころのNHK会長は、NHK専務理事から昇進した川原正人氏でした。2008年まで20年間、NHKの会長には、NHK内部からの叩き上げの人間が就任する時代が、長く続きました。
だいたいが組織の人間というのは、現場にいるころはよく喋りますが、偉くなって責任が重くなってくると、舌禍を恐れて口が重くなるものです。
それに比べると組織の外部から来た籾井会長のリップサービスは、いささか無防備に過ぎるように感じられました。最初のうちは、僕が注意深く聞いていなかったせいでしょう、籾井会長がよく喋るのは、総合商社でのキャリアが長かったせいだろう、くらいに甘く考えていたのです。
ところがその初会見の直後、報道各社から一斉に籾井新会長の発言内容に対する激しい責任追及の声が高まり、私も新会長の発言を再検証することになりました。事態は2月27日の衆議院総務委員会での質疑応答にまでもつれ込む大騒動に発展したのです。
当時は特定秘密保護法が安倍政権により強行採決されたばかり。マスコミ各社が、これは報道の自由を損なうとして厳しく批判しているさなかでした。
その特定秘密保護法に関するNHKの報道姿勢が政府寄りではないか、と指摘された際に、籾井新会長は、
「まあ一応通っちゃったんで、言ってもしようがないんじゃないかと思うんですけども」
「あまりカッカする必要はない」
と発言しました。
報道機関としては特定秘密保護法が施行されると、自由な取材活動が制限されて、真実の報道が難しくなるわけですから、NHKの会長は自らにとって重要な問題と認識して、責任ある発言をすべき立場だったのです。
それにもかかわらず、籾井会長の発言はずいぶんと軽はずみでした。
また時の政権の施策に対して、公正中立な立場からしっかりとした検証を行うという重要な任務が公共放送にはあります。それをはなから放棄しているような籾井会長の姿勢がマスコミ各社から問題視されたとも言えるでしょう。
さらに、
「政府が『右』と言っているのに我々が『左』と言うわけにはいかない」
この発言は衝撃的でした。安倍首相が右を向けと言えば、ハイと無条件に右を向く。そんな政権与党に言われるままの人物に、不偏不党であるべきNHKの舵取りを任せて大丈夫なのか。動揺が走りました。
国のリーダーに言われるままの放送を行うということは、北朝鮮や中国の国営放送と同じような放送局になることを意味しています。
先の大戦の時、日本の報道機関はすべて軍部によりコントロールされていました。NHKから新聞各社まで、軍部に都合の良い片寄ったニュースだけを、そのまま報道するように強要されていたのです。
軍部が率いる時の政権の方針を、国民は正しいものだと信じ込むようになり、いつのまにか洗脳されていきました。そして結果的に報道機関は、悲惨な戦争を長期化へと誘導する旗振り役を果たしてしまったのです。
逆に戦後、サンフランシスコ講和条約が結ばれるまでの7年間は、GHQが決めたプレスコードで管理され、戦勝国側に不都合な報道は禁じられていました。原爆の被害の大きさや、国民の貧窮について語ることさえ許されませんでした。
この苦い経験を生かして今の放送法は作られました。放送局は時の政権から干渉されない独立した編集権を持ち、不偏不党で公正中立な報道をすることを、その精神としたのです。  
残念なことに籾井会長の発言は、この編集権の独立という報道の自由にとって重要な概念を、もののみごとに吹き飛ばした感があると思います。
国会に呼び出されて以降は、さすがに饒舌な籾井会長も言葉をつつしむようになり、何を質問されても、
「放送法に従って粛々と」
としか答弁しないようになりました。しかし一連の発言については、
「考えを取り消したわけではないが、申し上げたことは取り消した」
と答弁しています。つまり事態が収拾した後も、安倍政権に追従するという籾井会長の考え方そのものは、何ら変化しないことを確認したのです。
籾井会長はさらに、直属の部下である理事たちを全員集めて辞表を提出させ、それを一時的に預かるという極めて異例な儀式を行いました。これにより理事たちは籾井会長に生殺与奪を握られ、事実上の絶対服従を誓わされたのです。
理事たちは直接ニュースや番組を作りませんが、これらを作る現場の管理職トップの人事権を握っているので、その影響はないとは言えません。
そもそもNHKの会長は、経営委員会という会議で選任します。NHKの経営委員会というのは、株式会社に例えれば株主総会のようなものです。委員になるのは衆参両議院の承認を得て内閣総理大臣に指名された有識者など12人です。籾井会長を専任した時の委員は、作家の百田尚樹氏らでした。経営委員会の委員を指名するのが首相ですから、NHK会長の選任が時の政権に左右されやすいのは、今に始まった状況ではないと言えるでしょう。
ただし時の政権の意向が、すぐさまニュースや番組に反映されるわけではありません。NHKの現場で働く記者やディレクターは、会長の指示をそのまま受け入れるとは限らないからです。
2016年4月14日に始まった熊本地震に伴う原子力発電所関連の報道について、籾井会長がNHK役職員らに対して、
「(国や電力会社の)公式発表をベースに伝えるように」
と指示したことが各紙に伝えられました。これに対し4月25日に、NHKの労働組合である日放労の中央委員長はただちに声明を出し、
「公共放送として、報道にあたってベースとするものは、取材してわかった事実であり、判明した事実関係である」
とする見解を発表しました。公式発表をただ流すのではなく、記者たちが自らの取材で事実関係を追求していく調査報道の姿勢を強く示したのです。
7月13日には、天皇陛下に遠くないうちに譲位のお気持ちがあることを、NHKは7時のニュースで独自のスクープとして報道し、世間を驚かせました。
これは全く官邸の意向に沿うものではありませんでした。この直後、官邸や宮内庁の高官は憮然とした表情でインタビューに答え、そのような事実はない、と当初は全面否定していました。
しかし実際には8月8日の天皇陛下ご自身のビデオメッセージで、このスクープが事実であることを示されたのです。
NHKには放送法とは別に、内規として国内番組基準というものがあります。そこには「何人からも干渉されず、不偏不党の立場を守って、放送による言論の自由と表現の自由を確保」することが謳われています。
何人からも干渉されずとは、時の政権、圧力団体その他のあらゆる干渉を受け付けず、「事実と己の良心のみに基づいて」判断することだ、と私は教えられました。
視聴者からの受信料で成り立つNHKの番組は、国内の放送に税金を一切使っていません。政府から独立して自主的な取材を綿密に行い、独自に事実関係を検証し、良いものは良い、悪いものは悪いと放送するためです。
取材結果によっては、時には上司はもちろんのこと国家権力からの反発も覚悟の上で、屈することなく真実を述べる存在でなければならないのです。
それが出来るかできないかは、ひとえにNHKで働くスタッフや職員一人ひとりのジャーナリズム精神と矜持にかかっていると言えるでしょう。
報道機関に不当な圧力をかけて萎縮させているのでは、と一部から批判された安倍首相本人は、その批判に対してこう答えています。
「私の圧力ごときに萎縮するような頼りないマスコミであっては困る」
実に挑発的な表現ですが、まさに政治権力とジャーナリズムは、常に真剣勝負なのだと再認識する一言でした。
政権による報道への介入を批判する態度はもちろん大切ですが、そもそも国家権力というものはいつの時代も、報道に介入したがるものだという認識を持たなければいけません。その上で政治的な圧力に負けないように、自分の足元を見つめ直し、タフなものへと固めていくことの方がより重要ではないでしょうか。ジャーナリストとしてブレない態度が求められているのです。
2017年1月24日に、籾井会長は任期満了を迎えます。
籾井会長は解任され、現在経営委員を務める上田良一氏が新しいNHK会長の座に着くことになりました。首相が直接指名した経営委員出身ですから、安倍政権の意向をより強く反映した人物であることが予想されます。
NHKは一歩間違えれば、政権与党あるいは安倍首相の私的な広報組織に成り果てる危険性と、今もなお隣り合わせです。
現場のスタッフや職員一人ひとりが高い志を持ち続ける限り、NHKを健全な報道機関として保ち続けることは可能だと思っています。 
 
 
 
 

 
2017/10