驕る 民を忘れた自民党

驕りまくる自民党 民を忘れる 

農相の判りやすい 本音  
審議前から 「 強行採決」 発言
ということは 他の大臣も本音は同じようなものなのだろう

一党独裁政権 危うさ恐さを知る


強行採決
[TPP] 環太平洋戦略的経済連携協定日本農業への影響TPP概要
 
 
 
 
 
首相、TPPで「まだ不安、申し訳ない」 特別委で審議 10/17
日本や米国など12カ国が参加する環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案と関連法案を審議する衆院特別委員会は17日午前、安倍晋三首相らが出席して本格審議が始まった。首相は農業対策について、「まだまだ不安を持っている人がたくさんいるのは事実。十分に解消しきれていないことは首相として申し訳ない」と述べた。
自民党・江藤拓氏の「生産者の不安や自民党への不信感を払拭(ふっしょく)するには至っていない」との質問に答えた。
首相は一方で、自民の小泉進次郎氏の質問に、世界で農産物の市場が増えているにもかかわらず、農家収入が減っていることを指摘。「改革をしなければ将来はない」と語り、全国農業協同組合連合会(全農)を改革して農業資材の価格引き下げに取り組むことや、農産物の輸出の支援に力を入れる考えを示した。 
TPP本格論戦スタート 自民・小泉氏、首相の農業改革への覚悟問う 10/17
TPP(環太平洋経済連携協定)。一時は、大変な注目を集めたが、今、微妙なことになっている。
12の国が参加するTPP。
最大のポイントは、「お互いに貿易する時の関税を原則ゼロにする」ということ。
日本は、アメリカからの誘いもあって、交渉参加に踏み切った。
国内の農家などから反対の声が上がったものの、当時の甘利大臣が、徹夜で交渉するなどして、2015年10月に大筋で合意。
2016年、協定文に署名した。
しかし、実際にTPPが効力を持つためには、主な3カ国の議会で承認される必要がある。
その1つ、アメリカで異変が。
次の大統領候補であるクリントン氏とトランプ氏が、「TPP反対」を言い始めた。
はしごを外されたような形となった日本。
そこで、「TPPは大事だ」というアメリカへのメッセージの意味もあり、この国会で、早くTPPを承認しようとしている。
このような状況で始まった国会での本格論戦。
安倍首相に質問をぶつけたのは、自民党の農林部会長を務める小泉 進次郎議員だった。
自民・小泉農林部会長は、「総理のその農業の構造改革に対する決意のほどをお伺いしたいと思います」とただした。
安倍首相も出席して行われた、17日のTPPに関する審議。
首相に対し、農業改革への覚悟を問うたのは、自民・小泉 進次郎農林部会長。
小泉農林部会長は、「全農の皆さん。わたしは、このタイミングで、抜本的に変える必要がある」と述べた。
その矛先は、JA全農(全国農業協同組合連合会)に向けられた。
全農が販売する肥料や農薬の価格が、海外や国内量販店に比べて高すぎるとされる問題。
JAグループといえば、自民党の有力支持団体で、党内からは、改革への慎重論もあるが、小泉農林部会長は、「TPP、農業の構造改革、アベノミクス、これは全てつながっていると思います」、「全農の皆さん、さまざまな思いがあると思いますが、わたしは、このタイミングで、抜本的に変える必要がある、その覚悟が、わたしは政治にも求められていると思う」と述べた。
これに、安倍首相は、「まさにギリギリのところで、わたしたちは来ていますから、だからこそ、今が一番の改革を進めていくチャンスだろう」と述べた。
そして、小泉農林部会長は、「なぜ、農協よりもホームセンターの方が安いという現状が生まれるのか。農業の世界では当たり前なのかもしれませんが、わたしは、その当たり前が理解できません」と述べ、安倍首相は、「肥料や飼料を1円でも安く仕入れ、そして農産物を1円でも高く買ってもらう。そのための努力を全農には行ってもらいたい。時代の要請に応えて、全農も新たな組織に生まれ変わるつもりで頑張っていただきたい」と述べた。
農業改革の旗を振る、小泉議員の後押しをした安倍首相。
小泉農林部会長は、「ありがたいですね。総理から、きょう、はっきりと『頑張れ』と。『その方向で行け』と、そう言っていただいたのは、わたしにとっても力になるし、また農業界の皆さんにとっても、『ああ、これは政府・与党一体なんだな』と、そういったメッセージが、はっきり伝わったんじゃないか」と述べた。
その安倍首相、17日の委員会では、平謝りする場面も。
野党議員が、TPP関連資料について、翻訳ミスが多すぎると批判。
例えば、「政府の貨物を含む」と訳すべきところが、「政府の貨物を除く」となっていたり、「国有企業」が、「国内企業」に。
民進党の近藤洋介議員は、「総理も『結果が全てだ』と、『結果を見てくれ』と胸を張られていたけど、出てきた結果が、18カ所も間違っていたわけですよ。(法案を)出し直すというのが、本来のあるべき姿ではないか」と述べた。
安倍首相は、「訳文にミスがあったことは、大変申し訳ないかぎりであります」と述べた。
しかし、政府・与党に法案を出し直す考えはなく、今の国会で承認案や、関連法案を成立させる方針。  
「うそを言ってはいけない」石原大臣答弁に、近藤洋介議員 10/17
17日の衆院TPP特別委員会で民進党のトップバッターとして質問に立った近藤洋介議員は、政府が9月26日に公表したTPP協定及びその要約説明文書に過去に例のない多くの誤りがあった問題を取り上げた。「誤りは18カ所。異例の多さだ。内容を根本的に変えてしまうような決定的誤りが10カ所以上。政府がTPP協定を提出したのが3月8日で6カ月以上も放置して9月に出し直した。この事実に対して国民にきちんと謝罪すべきではないか」と岸田外務大臣の問題認識をただした。岸田外相は、「大変遺憾なことであり、国民におわび申し上げなければならない」と述べ、前例のない失態について国民に謝罪した。
さらに近藤議員は、18カ所も間違っている協定を6カ月も放置し国会審議続けてきた政府与党のあり方について「これは結果的に国民を欺いていたことになる。非常に見逃せない、大きな問題だ」と指摘。安倍総理に対して「内閣の総責任者として、自ら反省して法案を出し直す。出し直しが本来の筋ではないか」と迫った。それに対して総理ではなく、岸田外相が答弁に立ち「外相に責任があり、再発防止に全力を尽くす」などと述べるにとどめた。
TPP協定の内容に関連して近藤議員は、「日本にとってのTPPは、米国との交渉が肝だった思うが、日本の国益を守ることができたのか。取るものは取れたのか。わが国は何を主張してきたのか、きちんと検証することが極めて重要だ」と指摘。「交渉結果には大問題がある。完成自動車の対米輸出の関税を最長期間維持すると約束してしまった。自動車のみならず、コメ、豚、牛肉で譲ってしまった。これで米国から何を勝ち取ったかのか」と米国の要求を丸のみした安倍政権の交渉能力を痛烈に批判した。
また、2013年12月に自公政権が軽自動車税を約30年ぶりに増税した背景には、TPPの日米2国間協議で米国から要求されたからではないかと石原内閣府特命相を追及した。石原大臣が「普通車と軽自動車の間の性能の差はほとんどない。そのような中、軽自動車メーカーと普通自動車メーカーとの間の関係を整理し増税を決めた。アメリカから要求があったことは知らない」などと述べた。その答弁に対して近藤議員は「うそを言ってはいけない。TPP交渉の2国間並行協議で米国からの声があったというのは周知の事実だ。自民党の税調幹部もそれを証言している」と指摘、不誠実な政府答弁をただした。
さらにTPP交渉内容の大半が甘利前大臣とフロマン米通商代表との会談で決まっているにもかかわらず、内閣官房が正確な会談記録を保管していないと指摘し「これは困ったこと。全て甘利前大臣の頭の中。そして元TPP首席交渉官の鶴岡氏は英国大使となり日本にいない。このような異常事態の中で審議が行われている。書類を出せないなら答弁できる方が答弁の場に立つべきで、それが真摯な政府の対応だ。甘利前大臣に出席を指導するのが(安倍)総理の役目だ」と求めた。それに対して総理は「公表しないことを前提に交渉している。やり取りを外に出さないのは当然だ」などと説明責任に消極的な姿勢を示した。 
TPP強行採決「議運委員長が決める」山本農水相が言及 10/18
山本有二農林水産相が18日に開かれた佐藤勉・衆院議院運営委員長のパーティーで、環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案を審議する衆院の特別委員会をめぐり、「野党が必ず強行採決するだろうと総理に質問するが、強行採決するかどうかはこの佐藤勉さんが決める」と言及した。
山本氏はTPPの関係閣僚。同委員会の自民党理事が「強行採決」に触れて辞任しており、安倍晋三首相が「我が党は結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」と答弁していた。 
TPP強行採決に言及=山本農水相 10/18
山本有二農林水産相は18日、環太平洋連携協定(TPP)に関する衆院特別委員会で審議している承認案・関連法案について、強行採決の可能性に言及した。山本氏は東京都内で開かれた佐藤勉衆院議院運営委員長の会合で、「私は、強行採決するかどうかは、佐藤さんが決めると思っている」と述べた。
安倍晋三首相が17日の同特別委で「強行採決しようと考えたことはない」と表明しており、山本氏は自らの発言について野党から追及を受けそうだ。自民党の福井照衆院議員は「強行採決という形で(承認を)実現するよう頑張る」と発言し、同特別委理事の辞任に追い込まれている。 
 
 
 
 

 

TPP法案、強行採決は「議運委員長が決める」 山本農水相が発言 10/19
山本有二農水相が10月18日、自民党の佐藤勉・衆院議院運営委員長のパーティーで、衆院特別委員会で審議されているTPP(環太平洋経済連携協定)の承認案について「野党が必ず強行採決するだろうと総理に質問するが、強行採決するかどうかはこの佐藤勉さんが決める」と述べ、強行採決の可能性に言及した。時事ドットコムなどが報じた。
安倍晋三首相は17日の衆院特別委員会で「我が党においては(1955年の)結党以来、強行採決しようと考えたことはない」と表明した矢先の発言で、野党からの反発が予想される。
TPP承認案をめぐっては、自民党の福井照衆院議員が9月29日「(衆院TPP特別委員長だった)西川公也先生の思いを強行採決という形で実現するよう頑張らせていただく」と発言。批判を受け、特別委員会理事を辞任している経緯がある。
安倍首相は「強行採決しようと考えたことはない」と表明したが、2015年9月17日には参議院特別委員会では与党などが「安全保障関連法案」の採決を強行。成立直後、参院事務局が作成した議事録では、与野党議員がもみ合い混乱する議場の様子を「速記中止」「発言する者多く、議場騒然、聴取不能」と記している。
安保関連法案の強行採決をめぐっては、新潟県弁護士会が「おかしいだろ、これ」「立憲主義、民主主義を真っ向から否定する暴挙である。断じて許されない」と表明するなど、批判が相次いだ。 
山本農相 強行採決発言を撤回し陳謝 衆院特別委で 10/19
山本農林水産大臣は、TPP協定に関する衆議院の特別委員会で、強行採決をめぐるみずからの発言について、撤回したうえで陳謝しました。
特別委員会の冒頭、山本農林水産大臣は「強行採決するかどうかは、衆議院議院運営委員長が決める」などとしたみずからの発言について、「私の発言で皆様にご迷惑をおかけしたことをおわび申し上げます」と陳謝しました。
そのうえで、山本大臣は「この発言の趣旨は、この委員会において、質問のあった強行採決に関して、私は『あくまで採決は国会でお決めになることである』という意をお伝えしたかったものだ。いずれにしても、この発言を撤回し、おわびを申し上げます」と述べました。
また、山本大臣は「TPP協定の合意内容を丁寧に説明し、国民の皆さんが全員納得頂けるまで審議していただきたい」と述べました。
さらに、山本大臣は「議院運営委員長の立場は、公平・公正でなければならない。採決について、議会、国会がお決めいただくという趣旨が足らざるところがあった」と述べました。
一方、石原経済再生担当大臣は「TPPを所管する大臣として、このような事態を招いたことは本当に国民の皆様方に申し訳ない。今回のことを教訓として、このあと、懇切、丁寧に説明に努めたい」と述べました。 
 
 
 
 

 

強行採決発言 党内から緊張感もった対応求める意見 10/20
自民党の各派閥などの会合で、TPP協定の国会承認を求める議案をめぐる、山本農林水産大臣の強行採決に関する発言について、幹部から、「自民党のおごりと受け止められないか危惧している」という声や、緊張感をもった対応を求める意見が相次ぎました。
このうち、石原経済再生担当大臣は「審議の途中で、担当大臣がああいう発言をすることは、国民から自民党のおごりと見られてしまうのではないかと大変危惧している。気を引き締めて進んでいかなければならない」と述べました。
また、山口元沖縄・北方担当大臣も「農林水産大臣の発言で、衆議院の審議は止まり、状況はなかなか収まりそうもない。大事な局面が来ており、思わぬ所から火をおこさないよう緊張感を持ってもらいたい」と述べました。
さらに、逢沢元国会対策委員長は「閣僚の非常に不適切な発言で、国会が不正常になっているのは大変残念だ。緊張感や集中力が、政府・与党に必要だ」と述べました。
一方、山本大臣が所属する派閥の石破前地方創生担当大臣は「大臣の発言は、『国会で決める』ということを言ったのだろうが、国民が疑問に思う表現が入ってしまった。真摯(しんし)におわびし発言を撤回しているので、なんとか委員会で審議ができるようにお手伝いをしたい」と述べました。 
蓮舫代表「開いた口がふさがらない」 山本農相「強行採決」発言に痛烈批判 10/20
民進党の蓮舫代表は20日、山本有二農林水産相が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)承認案を強行採決する可能性に言及し、のちに撤回、陳謝した対応を「謝って済むものではない」と痛烈に批判した。
TPPの国会審議については「開いた口がふさがらない(山本氏の)発言があり、いったんゼロベースに戻った」と述べ、改めて最優先課題ではないとの認識を示した。福島県いわき市内で記者団に答えた。
蓮舫氏は衆院TPP特別委員会を運営する与党に対し「(地球温暖化対策の新たな枠組みである)パリ協定を最優先すべきだと主張してきたが、それを覆して強行的に(TPP関連)法案の審議に入った」とかみついた。
さらに「安倍晋三首相が強行採決は考えたことがないと言ったその日に、法案の担当閣僚が立法府のあり方に声を出すのは、あってはならないことだ」と非難した。 
 
 
 
 

 

強行採決発言で山本農水相 辞任の考えなし 10/21
山本農林水産大臣は、21日の閣議のあとの会見で、TPP協定の国会承認を求める議案などの強行採決に関する発言で、野党が辞任を求めていることについて、「職責を懸命に努めていくこと以外、考えていない」と述べ、辞任する考えはないことを強調しました。
TPP=環太平洋パートナーシップ協定の国会承認を求める議案などの審議をめぐって今月18日、山本農林水産大臣が「強行採決するかどうかは、衆議院議院運営委員長が決める」などと発言したことについて野党が反発し、国会審議に影響が出ています。
これについて山本大臣は、21日の閣議のあとの会見で「幾重にもおわびを申し上げる。責任を感じている」と述べ、改めて陳謝しました。また、発言を受けて野党が辞任を求めていることについて、「これは内閣の問題で、安倍総理大臣が任命権者だ。その考えに従いたいと思う。職責を懸命に努めていくこと以外、考えていない」と述べ、辞任する考えはないことを強調しました。
一方、一部の週刊誌が山本大臣の事務所で秘書に対する給与の支払いが適切に行われていなかったと報じていることについて、「ルールに従っているつもりだが、事務処理が遅れているという事実が明らかになった。法的に違法かどうかは別として社会的に許されざることだと認識している。なお正確な調査をしたい」と述べました。 
強行採決発言 撤回ではすまされない 10/21
暮らしにどんな影響があるのだろうか−。多くの国民が心配し熟議を求めているTPPの国会論戦。それを強行採決で打ち切ろうというのか。山本農相の発言は撤回してすまされるものではない。
「強行採決という形で実現するよう頑張らせてもらう」。衆院の環太平洋連携協定(TPP)特別委員会理事だった福井照議員が派閥の会合でそう発言し、批判を浴びて特別委の委員も辞任したのは先月末のこと。
ひと月もたたないのに、再び「強行採決」発言が飛び出した。それも議論の主要テーマである農業や食の問題を所管する山本有二農相の口から。多岐にわたるTPP合意の具体的な影響、多くの疑問に説明を尽くし、国民の理解を得るのが担当相の責務であるはずだ。発言にはその自覚が全く感じられない。与党の多数を背景にした「おごり」「慢心」というほかない。
そもそも採決方法は国会の専権事項にあたる。閣僚の言及自体が越権で、連立を組む公明党からも「断じてあってはならない発言だ」と厳しい批判が出ている。
TPPの国会審議は始まったばかり。コメ、麦、牛・豚肉など重要五項目や食の安全を守るとした国会決議は破られていないのか。コメの価格に影響しかねない輸入米の調整金問題や、成長ホルモン剤を投与した牛の肉の輸入、遺伝子組み換え食品の表示ルールなど生産者、消費者が不安を抱くテーマが取り上げられており、議論が深まるのはこれからだ。
山本農相の発言は国民の理解、納得を得るどころか、TPPに対する不信感を強めた。野党は民進、共産、自由、社民の四党が農相の辞任を求め、影響は他の法案審議にも広がっている。
発言の背景には、何としても今国会で関連法案を成立させたいという安倍晋三首相の強い姿勢がある。今月二十八日までに衆院を通過させれば、参院での審議が遅れても十一月三十日の会期末までに自然成立するためだ。
安倍首相は十七日の特別委で「わが党は結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」と述べたが、昨年の安保関連法案の強行採決を目の当たりにしている国民はどう受け止めただろうか。
私たちは、国民の暮らしに直結する分野で不安を払拭(ふっしょく)できなければ、TPPには反対せざるを得ないと主張してきた。
強行採決などあってはならない。あらためて熟議を求める。 
TPP、農家支援が重要 10/21
衆院環太平洋連携協定(TPP)特別委員会は21日、TPP承認案と関連法案について参考人質疑を行った。参考人は「適切な農家支援が重要」「輸出産業の育成を」などと訴え、政府にTPPの発効をにらんだ対策の実施を求めた。
民進、共産両党は強行採決の可能性に言及した山本有二農林水産相に反発して審議を拒否。与党の推薦する有識者だけに対し、質疑が行われた。
農水省出身で学習院女子大教授の荘林幹太郎氏は、TPPで約8割の農林水産物の関税が撤廃されることを踏まえ、「関税(交渉で)の品目別の勝ち負けよりも、悪影響を的確に把握する体制が必要だ」と指摘。TPP発効後に安価な外国産農産物が流入した場合に備え、政府による継続的な影響分析と財政面での迅速な支援を行う重要性を訴えた。 
 
 
 
 

 

山本農水相のTPP暴言と報道 10/22
臨時国会におけるTPP審議に関する重大情報をメディアがほとんど伝えない。山本農水相が衆議院議院運営委員会委員長の自民党衆院議員佐藤勉氏のパーティーに出席して、「野党が必ず強行採決するだろうと総理に質問するが、強行採決するかどうかはこの佐藤勉さんが決める。だから私は、はせ参じた。」と発言したことについて、野党4党が山本農水相の辞任を求めている。
自公と維新は4野党との合意を得ぬまま、民進、共産委員が退席するなかで衆院TPP特別委を強行し、地方公聴会日程などを勝手に決めた。野党4党は山本農水相の辞任を求める方針を確認して国会審議を拒絶している。国会は国権の最高機関である。その国会で最重要の争点になっているのがTPP批准案である。この最重要議案について、政府の中心閣僚が重大な問題発言を行い、国会審議が止まっている。
報道機関として、この問題をトップで扱い、国民に情報を伝えることは、基本的責務である。それにもかかわらず、NHKは夜9時の定時ニュースでこの問題を報道しなかった。テレビ朝日「報道ステーション」もこの問題を報道しなかった。明らかに重要性が劣後する話題に多大の時間を割り当てて、この重大問題を国民にまったく知らせようとしない。安倍政権が報道機関に対して、この問題を報道しないように「指導」を行っている疑いが濃厚である。
野党の要求は筋が通っている。TPPは日本国民の未来に重大かつ深刻な影響を与える最重大問題である。国会で十分な論議を尽くすべきことは当然である。それにもかかわらず、自民党側は一定の審議時間が経過したら、実質的な審議がまったく行われていなくても、「数の力」で批准案を強行可決してしまうとのスタンスを見え隠れさせている。
こうした横暴な政治に対して、主権者国民の意思を受けた野党が反発するのは当然のことである。
9月29日には、衆議院TPP特別委員会理事に任命された自民党の福田照衆院議員が、同氏が所属する二階派の会合で、「この国会ではTPPの委員会で西川(公也)先生の思いを、強行採決という形で実現するよう頑張らせていただく」と発言して同委員会理事ならびに委員を更迭された。福田議員の強行採決発言と更迭について安倍首相は、10月17日の衆院TPP特別委の答弁で、「我が党においては(1955年の)結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」「円滑に議論し、議論が熟した際には採決する。民主主義のルールにのっとっていくのは当然のこと。」「この考え方とは相いれない発言であったから(福井氏)本人が辞職した」と述べている。山本有二農水相の発言は、安倍首相の上記国会答弁の翌日夜に飛び出した。
「強行採決するかどうかはこの佐藤勉さんが決める。だから私は、はせ参じた。」
この発言は、強行採決を決定するのは佐藤勉議院運営委員長だから、その佐藤氏に強行採決をお願いするために「はせ参じた」という意味にしか解釈できない。山本農水相は「強行採決」を求める発言を示したことになる。
安倍首相は10月17日の国会答弁で、「我が党(自民党)は結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」から、「強行採決を形で実現するよう頑張らせていただく」という福井照衆院議員の発言が、「この考え方とは相いれない発言であったから(福井氏)本人が辞職した」と述べている。
したがって、佐藤勉議運委員長に対して強行採決を求める発言を示した山本農水相も「この考えと相いれない」ことは明白である。山本農水相が辞任するべきことは、安倍首相の国会答弁から直ちに導かれる結論であると言える。
普通の状態であれば、メディアは山本農水相発言を繰り返し放映し、山本農水相辞任が実現するまで大々的な報道を展開するところだ。こうしたマスメディアの報道を権力の力で封じ込めているところに、安倍政権のいかがわしさ、非民主性がくっきりと浮かび上がる。主権者は安倍政権の暴走を糾弾する世論を一気に拡散するべきである。「無間地獄行きのバス」であるTPPを強行批准することを絶対に許すわけにはいかない。 
TPP 重要品目に配慮 10/22
衆院TPP特別委員会は21日、環太平洋連携協定(TPP)承認案などに関する参考人質疑を行い、公明党は、新規事業に挑む農家の収入安定化策について「農家が新しい分野にチャレンジするにはリスク(危険性)もある」として、現状の対策に加え、経営安定に向けた支援策のアイデアを求めた。
東京大学大学院教授の中嶋康博参考人は、農家の生産能力を客観的に評価して支援する仕組みづくりを提案した。
これに先立ち、意見陳述で中嶋参考人は「TPP協定の内容は、総合的に見て各国のセンシティビティー(重要品目)に配慮している」と指摘し、「わが国は国会決議の後ろ盾もあって、他国に比べ農産品における関税撤廃の例外を数多く確保している」と述べた。
さらに「ネガティブ(後ろ向き)な影響を中和するための国内対策は、わが国の農と食の実態に即した内容で構成されている」と力説し、政府が進めるTPP国内対策などの農業政策は、日本の農業を守るだけでなく、さらなる発展を促すものだと評価した。
なお、民進、共産両党は、この日のTPP特委を欠席し、審議を拒否した。 
 
 
 
 

 

 
 
 
TPP特別委参考人質疑 食の安全の影響ほぼ出ない 10/25
TPP協定の国会承認を求める議案などを審議する衆議院の特別委員会は、民進党と共産党が欠席する中、与党が推薦する参考人への質疑が行われ、参考人からは、食の安全をめぐり、日本では国際基準に基づき科学的にリスクを評価する仕組みなどがあるため、影響はほとんど出ないという意見が出されました。
特別委員会は、民進党と共産党が、25日の参考人質疑を決めたことに強く抗議して欠席する中、塩谷委員長による職権で開会され、自民・公明両党が推薦する2人の参考人が出席して、食の安全などをテーマに意見陳述と質疑が行われました。
奈良県立医科大学教授の今村知明氏は「海外の食品を日本で安全に食べるためには、国際的に合意が得られた基準に基づき、輸入する仕組みが重要だ。日本では食品安全委員会が、科学的に、国際基準に基づきリスク評価を行う仕組みなどがあるため、TPPによる影響はほとんどなく、わが国の食の安全は担保される」と述べました。
慶応大学教授の渡邊頼純氏は「TPP協定で『SPS=衛生植物検疫』のルールが、アジア太平洋地域で再確認されたのは、日本の食の安全にとって、輸入、輸出の面でも極めて意義深い。また、中国の勃興が著しい中、アメリカと自由貿易の取り決めができ、政治・軍事面での日米安保に加え経済面での安保ができた」と述べました。 
 
TPP審議、公明代表「月内に衆院採決可能」 10/25
TPP=環太平洋パートナーシップ協定の審議をめぐり、公明党の山口代表は、議論を積み重ねてきたとして、月内に衆議院で採決することができるとの考えを示しました。
「今国会でも議論を重ねてきたわけですから、おのずと採決の機は近づきつつある。定例日をきちんと活用すれば、月内にも採決は可能だと思っている」(公明党 山口那津男 代表)
山口氏は、民進党と共産党がTPP特別委員会での参考人への質疑を欠席していることについて、「欠席の理由は到底、合理的ではない」と指摘。そのうえで、「きちんと議論し、終局すれば採決するのが国会の基本的なルール」と述べ、審議時間を活用すれば月内の衆議院通過は可能であるとの考えを示しました。 
 
TPP審議 採決時期めぐる与野党の攻防続く 10/26
TPP協定の国会承認を求める議案などを審議している衆議院の特別委員会は、28日午前の審議日程まで与野党で合意していますが、民進党などは、28日の採決は阻止する姿勢を崩しておらず、採決時期をめぐる与野党の攻防が続く見通しです。
TPP=環太平洋パートナーシップ協定の国会承認を求める議案と関連法案を審議している衆議院の特別委員会は25日、民進党と共産党が欠席する中で、参考人質疑を行いましたが、その後、塩谷委員長が「今後は円滑な運営に配慮したい」と理解を求め、民進党と共産党は審議に復帰することになりました。
これを受けて、特別委員会は26日の地方公聴会に続いて、27日午前には、民進党と共産党が推薦する参考人への質疑を行い、午後は安倍総理大臣の出席を求めて集中審議を行うほか、28日午前に一般質疑を行うことで与野党が合意しました。
その後の審議日程について、特別委員会では、27日の理事会で協議することにしていて、与党側はあくまで議案と関連法案の月内の衆議院通過を目指すとしています。
これに対し、民進党などは、月内の衆議院通過を阻止するため28日の委員会での採決は認められないと強く主張していて、採決時期をめぐる攻防が続く見通しです。 
 
自公 TPP 審議状況など見極め採決時期探る 10/26
自民・公明両党の幹事長と国会対策委員長が会談し、今の国会でのTPP協定の承認に向けて、衆議院の特別委員会での審議の状況や民進党などの出方をぎりぎりまで見極めながら、採決の時期を探っていく方針を確認しました。
この中で、自民・公明両党の幹事長と国会対策委員長は、TPP=環太平洋パートナーシップ協定の国会承認を求める議案と関連法案の今後の審議について、衆議院の特別委員会では、今週28日午前までの日程は与野党で合意しており、引き続き充実した審議を行う必要があるという認識で一致しました。
そして、今の国会でのTPP協定の承認に向けて、特別委員会での今後の審議状況や民進党などの出方をぎりぎりまで見極めながら、採決の時期を探っていく方針を確認しました。
会談のあと、自民党の竹下国会対策委員長は記者団に対し、「来月30日の会期末までに承認することをにらんで、さまざまな動きをしてきたことは事実で、採決の時期は審議の状況をしっかり見極めたうえで慎重に判断しようということだ」と述べました。
一方、これに関連して、自民党幹部は記者団に対し、採決の時期について、「われわれとしては依然、月内を希望しているが、横暴に進めるということではない」と述べました。
民進 笠氏「28日に強行採決しないのは当然」
民進党の笠国会対策委員長代理は記者会見で、「28日に与党側が強行に採決してくることはないのは、当然のことだと思っている。11月に入って、集中審議のほかに参考人質疑や中央公聴会など、いろいろなことをやらないといけない。採決の環境が整うかどうかは今後の審議しだいで、充実した議論を求めていきたい」と述べました。
共産 穀田氏「国民の声をしっかり聞くこと必要」
共産党の穀田国会対策委員長は記者会見で、「アメリカ大統領候補のさまざまな発言もあるので、日米間の問題や知的財産権などのテーマ別の集中審議を行わなければ、TPPが国民にどういう影響を及ぼすのかがはっきりしない。また、中央公聴会を行うとともに地方公聴会をさらに開催し、国民の声をしっかり聞くことが必要で、慎重審議を求めていきたい」と述べました。
官房長官「審議の在り方は国会で」
菅官房長官は午前の記者会見で、「政府はTPP協定の早期発効を目指し、今国会での協定承認および法案成立を求めている。ただ、国会での審議の在り方は国会で決めることで、政府としては丁寧にしっかり説明し、国会の判断に従いたい」と述べました。 
 
衆院のTPP論議大詰め 首相出席し集中審議へ 10/27
環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案をめぐり、衆院TPP特別委員会では27日午前、参考人質疑が行われた。同日午後には安倍晋三首相が出席する集中審議が行われ、衆院でのTPP審議は大詰めを迎えつつある。
参考人質疑は「農業」「食の安全」をテーマに行われた。野党側の参考人、鈴木宣弘・東大院教授(農業経済学)が「(TPPの)多くの懸念事項に対し、(政府から)納得のいく説明が得られているのかどうか、厳しく問われている」と指摘した。
承認案をめぐる特別委での審議は、与党は当初、28日の採決も辞さない構えを見せていたが、野党側が反発。与党内に月内採決を見送る動きも出たことで、28日午前に一般質疑を行うことまで与野党間で合意した。与野党間で採決時期をめぐる攻防が続いている。
民進党の山井和則国会対策委員長は27日午前の記者会見で、「まだまだ審議は深まっていない。さらに審議を充実させていくべきときなので、採決がいつかということを議論する時期ではない」と牽制(けんせい)した。 
 
TPP承認議案 首相 審議が熟せば採決 説明尽くす 10/28
安倍総理大臣は、TPP協定の国会承認を求める議案などを審議している衆議院の特別委員会の集中審議で、「審議が熟せば採決に付されると了解している」と述べるとともに、協定の合意内容に国民の理解が得られるよう説明を尽くす考えを示しました。
この中で、民進党の玉木幹事長代理は「TPP協定への国民の理解や納得は、どの程度進んでいるのか。TPP協定の合意内容について、丁寧に説明し、国民の皆さん全員が納得してもらえるまで審議をしたいという思いは変わらないのか」とただしました。
これに対し、安倍総理大臣は「今、どれぐらいの人が納得しているかということを問われてもなかなか難しいが、できるだけ多くの、1人でも多くの方々に納得していただけるよう、わかりやすく丁寧に努力を重ねていきたい」と述べました。
そのうえで、安倍総理大臣は「審議の日程は、審議が熟せば委員の皆さんの判断によって採決に付されると了解しているが、われわれ説明する立場としては、納得していただけるように努力を重ねていきたい」と述べました。
一方、安倍総理大臣は、TPP協定に、農産物や食品などの特産品を国が地域ブランドとして登録する「地理的表示保護制度」に関するルールが盛り込まれていることについて、「日本の産品のブランド価値が海外でも守られるため輸出に取り組みやすくなる。地理的表示の登録を拡大するとともに、さらなる輸出の拡大や和食文化の海外展開を全力で後押ししていく」と述べました。
また山本農林水産大臣は、コメなどの農産物5項目の関税の扱いについて、「無傷で守ったものは1つもないのではないか」と指摘されたのに対し、「完全に関税を維持して、守り切ったというものはない」と述べ、生産物などの種類別に見た場合には、関税の税率をすべて変更することになったという認識を示しました。 
 
TPP協定・対策法案の特別委員会での審議について 10/31
特別委員会で地方公聴会・参考人質疑を実施
環太平洋パートナーシップ(TPP)協定と対策法案に関する特別委員会での質疑が10月14日から再開したが、農水相の失言をめぐり民進・共産両党の委員が欠席するなど審議が難航してきました。そうした中でも、これまで26日には北海道と宮崎県で地方公聴会が開催されました。農林業を中心とした中山間地である宮崎県高千穂町での公聴会に参加しましたが、県知事、地元畜産農業者など4名の公述人から意見を伺い、与野党5党の委員が質疑を行いました。
また、3回にわたり有識者を招致しての参考人質疑が行われ、農業・食の安全などさまざまな分野・立場の専門家8名から意見を伺い、質疑を行いました。そのほか、総理が出席しての集中質疑を度々行い協定と対策法案に係る審議はかなり進んできました。
協定・対策法案に関係の薄い質疑も多く
民進党の質問は、提出されているTPP協定・対策法案には直接関係の薄いものも多くなってきました。また、閣僚にかかる政治資金問題や週刊誌記事をネタにした質問も多く、TPP協定について真剣に議論する姿勢があるのでしょうか。これまでにも60時間以上の審議を行ってきましたが、時間をかけて質疑を行っても、議論が深まるのか疑問を禁じ得ません。
輸入米SBS問題は本質とは程遠い議論
民進党委員が盛んに取り上げている輸入米の同時入札制度(SBS)にかかる輸入商社・米穀卸業者間の“調整金”も本質的な問題ではありません。SBS方式による米の輸入は、ガット・ウルグアイ・ラウンド合意に基づき2009年からはじまった制度です。国内の米市場は年間8百万トン超ですが、SBSで主食用の輸入枠は10万トンで、半分以上の年度では枠が消化されていません。1%未満の輸入米が国内の米価格に大きな影響を及ぼすことは考えられず、現にSBS入札が実施された前後で平均価格はほとんど変化していません。TPP協定では、13年間かけて新たに5〜8万トンのSBS枠が追加されることで合意されていますが、政府による対策を含めて国内の米需給に大きな影響があるとは考えられません。
TPPで食の安全に関する制度変更はない
TPP協定で“食の安全”制度の変更を懸念する質疑も多くありますが、日本の輸入農産物・食品の衛生・検疫、国内の食品安全基準、食品表示制度の変更を求めるような内容は含まれていません。既に締結してきた世界貿易機関(WTO)協定などに準拠するほか、新たに規制を強化する場合には、科学的根拠に基づくものであるべきこと、関係国には対応が十分できる期間を設定することなどを定めています。
ただし、現行の「食品衛生法」や「食品表示法」のルールが、近年輸入されている農産物・食品の実態に対応できていないとの指摘については、十分に検討していく必要があると考えています。例えば、加工食品の材料の原産国表示の拡大については、現在、政府・与党で検討をはじめています。また、家畜に使用されるホルモン剤や薬品の安全性の確認や食肉等での検査方法に関する研究は進めていくべきだと考えます。 
 
首相 TPPの再交渉拒否 今国会での協定承認を 10/31
安倍総理大臣は、TPP協定に関する衆議院の特別委員会の集中審議で「このまま無為に時を過ごせば、再交渉を求められる事態にもなりかねない」と述べ、再交渉には応じないという日本の意思を明確に示すためにも、今の国会での協定の承認と関連法案の成立が必要だという考えを示しました。
この中で、公明党の中川康洋・衆議院議員は、「日本が、アメリカ大統領選挙の動向によって、承認手続きの歩みを緩めたり、ちゅうちょしたりすれば、ほかの参加国との信頼を大きく損ねる。日本こそが主導すべきだ」と指摘しました。
これに対し、安倍総理大臣は、「日本がTPP協定を承認することは、貿易、投資のルール作りを主導していくという意思を世界に示すことになる」と述べました。そのうえで、安倍総理大臣は、「国会でTPP協定が承認され法案が成立すれば、『再交渉はしない』との、立法府も含めたわが国の意思が明確に示されることになる。このまま無為に時を過ごせば、むしろ再交渉を求められる事態を引き寄せることにもなりかねないと憂慮している。日本は受け身で他国の動きを待つのではなく、国益に合致する道をみずから進んでいくべきだ」と述べました。
また、安倍総理大臣は、TPP協定によって、遺伝子組み換え食品への規制が緩むのではないかと指摘されたのに対し、「TPP協定は、必要と考える制度の変更に新たな制約を加えるものではなく、安全性において必要な措置を求めることに変更を求めるものではない。安全ではないものが一般家庭に届けられることは絶対にない」と述べました。
さらに、安倍総理大臣は、協定の発効後、参加国による規制に関する小委員会が設置されることについて、「アメリカが、日本の薬剤価格に介入するおそれがあるのではないか」と問われたのに対し、「薬価を極めて合理的に決めており、アメリカから要求されたとしても、今の仕組みを変える考えはない」と述べました。
一方、岸田外務大臣は、内閣官房のホームページに掲載していた、TPP協定の英語表記の一部に誤りがあったとしたうえで、「ニュージーランド政府のホームページから引用したが、その記載が不正確だった。表記を差し替えるとともに、ニュージーランド政府に訂正を申し入れた。政府の一員として遺憾に思っている」と述べました。 
 
首相、「食の安全」を強調 衆院TPP特別委 10/31
安倍晋三首相は31日の衆院環太平洋経済連携協定(TPP)特別委員会で、食の安全について「安全ではないものが一般家庭に届くことはない」と強調した。遺伝子組み換えの農水産物や、肥育ホルモンを使った牛や豚の肉などが輸入されることも想定され、表示義務の強化を求める指摘に答えた。TPPは「国が必要と考える制度の変更に新たな制約を加えるものではない」と述べた。
同日開いた有識者から意見を聞く参考人質疑では、知的財産の保護を巡って著作権者の告訴がなくても捜査や起訴ができる非親告罪化について賛否が分かれた。推進派は「海賊版対策に有効だ」と指摘。慎重派からは「(パロディーなど)二次利用を萎縮させる」との声が上がった。 
 
TPP法案、4日衆院通過へ 自民・民進が採決合意 11/1
今国会の焦点である環太平洋経済連携協定(TPP)承認案・関連法案が4日に衆院通過する見通しとなった。自民党が民進党に2日に衆院TPP特別委員会、4日に衆院本会議でそれぞれ採決することを提案し、民進党が受け入れた。TPP審議の舞台は参院に移るが、与党は承認案を自然成立させるため、11月30日までの会期の延長を視野に入れる。
自民党の竹下亘国会対策委員長が1日午前、民進党の山井和則国対委員長と国会内で会談し、今後の審議日程を協議した。自民党は31日に民進党に1日の特別委での採決を提案したが、民進党は審議の充実を求めて反発していた。
1日の会談で竹下氏は「円満にやりたい」として民進党側の主張に配慮し、特別委での採決を1日遅らせて2日にすることを提案。山井氏は会談後、記者団に「今日の強行採決を見送ったことはありがたい」と述べ、竹下氏に提案を受け入れる意向を伝えた。
民進党が採決に応じたことで、TPP承認案・関連法案は4日の衆院通過が確実になった。参院では7日に審議入りする見通しだ。
憲法の規定により、承認案は衆院を通過し、参院に送付して会期内ならば30日後に自然成立する。自民党は自然成立させるため会期を12月上旬まで小幅延長する案を検討している。同党の二階俊博幹事長は1日午前の記者会見で会期延長について「必要があればやらせて頂くこともありうる」と述べた。
与党がTPP承認を急ぐのは8日に予定する米大統領選を意識しているためだ。民主、共和両党の候補はともにTPPに反対。日本が早期に承認し、米国に承認を働きかけ、発効に弾みをつけたい考えだ。
安倍晋三首相は31日の衆院TPP特別委で「無為に時を過ごせば、むしろ再交渉を求められる事態を引き寄せることにもなりかねない」と早期承認の必要性を強調している。 
 
“お友達偏重”の安倍政権は疑惑の韓国朴政権と本質同じ 11/1
韓国政界に激震が走っている。朴槿恵大統領の親友で、「陰の実力者」と呼ばれる民間人女性の崔順実氏(60)が国政に介入した疑惑だ。崔氏は31日午後、ソウル市内の検察庁舎に出頭し、特別捜査本部の取り調べを受けた。その後、捜査本部は崔氏を緊急逮捕して身柄を拘束。正式な逮捕状を地裁に請求した。
韓国メディアによると、崔氏は「親友」という立場を利用し、朴大統領から演説草稿などの機密文書を事前に入手してアドバイスしたり、大統領府高官らと接触して人事や外交などの政策決定に口を挟んだりしていたという。事実であれば大統領記録物管理法違反。流出させた者は7年以下の懲役または罰金刑だ。
要するにタダの民間人が、国の機密情報を手に入れた上、国政に関わるのは言語道断――という姿勢だ。当たり前と言えば当たり前の対応なのだが、それにしても演説の添削にも国民の怒り爆発とは……。元検事の落合洋司弁護士がこう言う。
「今回の韓国のケースに該当する日本の法律といえば、国家公務員法(守秘義務違反)でしょうか。法体系が日韓で異なるため断定的なことは言えませんが、おそらく韓国は文書管理がかなり厳しいのだろうと思います」
確かに隣国の北朝鮮がいつ戦争を仕掛けてきても不思議じゃない立地だ。機密情報のダダ漏れは国家の一大事に直結するだけに韓国国民は政治家の動静に敏感なのだろう。日本の政界も韓国政界ぐらい緊張感を持った方がいいと思うが、安倍首相の「首相動静」を見ていると、そんな姿勢は感じられない。“癒着”と批判されている大マスコミや財界の幹部と頻繁に会食したり、ゴルフを楽しんだりしているからだ。
国民から見れば、安倍首相がメシを食べたり、ゴルフしたりしながら、つい気が緩んで国家情報を漏らしている疑念は晴れない。韓国なら怒りのデモが起きているだろう。
「韓国では過去にも大統領の取り巻き政治や親族の利権集中が問題になった。強大な権限が集中する韓国の大統領と違い、日本の総理大臣はそこまで権限を持っていません。そのため、日本では韓国ほど国民の目が厳しくならないのでしょう」(前出の落合洋司弁護士)
すでに政府の有識者会議にバンバン“お友達”を送り込んでいる安倍政権は、朴政権と“本質”は何も変わらない。 
 
「安倍語」を検証する 改憲論熱弁…一転、「貝」に 11/4
改憲勢力が初めて衆参両院ともに3分の2の議席を超え、「安倍1強体制」が強まる中で開かれている臨時国会。だが、安倍晋三首相は悲願の改憲について、急に“だんまり戦術”をとり始めた。雄弁になった時は、比喩や情緒的反論で矛先を変える“はぐらかし戦術”で、議論は一向に深まらない。独特な「安倍語」をまたまた分析する。
戦略優先「答える義務ない」
「今、いよいよ憲法改正がリアリティーを帯びてきている中で、私は自民党総裁として発言することは控えた方がいいと判断した」。安倍首相の口からこんな言葉が飛び出したのは、10月12日の衆院予算委員会でのことだ。民進党の山尾志桜里議員が「この国会、冗舌な総理が突然貝のように答弁をしなくなる場面が何回かあった。自民党憲法改正草案について質問されたときだ」と「貝」になった理由を尋ねたことへの答えだ。
確かに首相はかつては冗舌だった。第2次安倍政権発足直後の2013年通常国会では、「憲法を改正する際には他国と同じように『国防軍』という記述が正しい」「まずは(改憲発議の要件を緩和するため)96条を変えていくべきだというのが我々の考え」と、とうとうと説明。今年の通常国会でも改憲項目への言及は減ったものの「在任中に成し遂げたい」と改憲への強い意欲を表明していた。
過去の答弁は何だったのか。首相は12日の衆院予算委で「憲法審査会が動く前の段階だったから、自民党総裁の立場として機運を盛り上げるために紹介した」と説明。「(首相の立場としては)論評はできるが、答える義務はない」とも語った。
首相が「語らなくなった」背景には、「タカ派」とみられる自らが改憲を語ると野党の標的になり、改憲がむしろ遠のきかねないとの計算があるようだ。現に首相は26日、首相官邸で会談した保岡興治・自民党憲法改正推進本部長に「自分は政局の一番中心にいるから党に任せる」と発言。首相に近い議員は「民進党議員には『安倍さんだけが問題だ』と言われる。首相も自分は何も言わないほうがいいと自覚している」と解説する。
「だんまり」は野党をなだめて国会主導で改憲論議を進めるための戦略で、与党内ではこうした首相の変化を好意的に見る向きが多い。
だが、政治家の言葉を専門的に研究する早稲田大教授のソジエ内田恵美さん(応用言語学)は首をかしげる。「安倍首相は何かを語りたいときは『自民党総裁』という形で語り、語りたくないときは『内閣総理大臣なので』語れないという。アイデンティティーをその場の都合で変えている」と言う。
その指摘通り、9月30日の衆院予算委でも、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」と定めた憲法97条が自民党の改憲草案で削除されたことを巡って、細野豪志議員(民進党)が理由をただしたのに対して、首相は「逐条的にこれ以上議論を首相である私がするのは適当ではない」と答弁。答えぬ首相に業を煮やした浜田靖一衆院予算委員長に促され、渋々「条文の整理に過ぎず、基本的人権を制約するということではない」とだけ述べた。
首都大学東京教授の木村草太さん(憲法学)は「首相は97条を削除すべきだと考えている政党の代表でもある。(行政府の長としても)97条が行政に対する不当な障害となっているのか、行政を良い方向に向ける働きを担っているのか、見解を述べるべきだった」とした上で、「首相が行政府の長として語らない、ということは、少なくとも行政に関わる分野では現行憲法に問題がないと考えているとも受け取れる」との見方を示す。
一見、首相は持論を変えたのかとも映るが、さすがにそれはないだろう。ソジエ内田さんは「戦略性が目に付き、国民を議論に巻き込むという意識が弱い」と指摘。「『改憲を成し遂げたい』と言うなら、なぜ改憲が必要で、どこを変えたくて、改憲にどのような利点があるのか、逐条的な議論がなければ説明責任を果たしているとは言えないのではないか」と疑問を呈する。
憲法改正と同様、けむに巻く答弁を繰り返しているのが、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)への陸上自衛隊派遣を巡るやりとりだ。
10月12日の衆院予算委で安倍首相は「南スーダンは例えば我々が今いる永田町と比べればはるかに危険な場所であって、危険だからこそ自衛隊が任務を負って、武器も携行して現地でPKO活動を行っている」と説明。一方、「任務が増えるからといって自衛隊員が実際に負うリスクは、1足す1足す1が3といった足し算で考えるような単純な性格のものではない」と語った。
永田町と南スーダンを比べる発言に、質問者の高橋千鶴子議員(共産党)は「断じて許せない。そんな問題じゃないでしょう」とかみついた。
現地で民生復興支援を行う日本国際ボランティアセンターの谷山博史代表理事は、国会の議論が「『言葉遊び』になっている」と批判する。治安が悪化する南スーダンの状況について「政府は答弁で『衝突』や『発砲事案』と言うが、現地は紛争状態。自衛隊が相対する勢力は紛争当事者であり、場合によっては政府軍になりかねないという事実を認識する必要がある。事実をもって、もっともっと追及しないとまずい」と危機感を募らせる。
肝心なことを「語らない」首相について、ソジエ内田さんは「結論は既に決まっており、戦略的に不利だと判断した場合には『語らない』選択をする。実質的な議論をせずに済ませようという意図があるのではないか」と推測。「憲法など国家の根幹に関わる事柄がこれから議論となる中、首相は強い政治力を握っているからこそオープンな議論に努め、熟議を通じて国民的な合意を得ていくべきだ」と語る。
肝心な時に議論しなければ、国民的な議論はいつするのか、ということだ。
「トランプ風」の情緒的切り返し
安倍首相の言葉を海外から見るとどう映るのだろうか。「歴代首相の言語力を診断する」などの著書がある東照二・ユタ大教授(社会言語学)は「善きにつけあしきにつけ言葉の機能、力を非常に意識している人だ」と言う。
この秋の臨時国会、盤石な体制を手に入れた上での所信表明演説では、「未来」を18回、「世界一」を8回も繰り返した。
「世界的に今、『grandiosity(壮大さ)』がトップリーダーの言葉のはやりになっていて、安倍首相も非常に意識している。中身がどうかは二の次で、大切なのは壮大で光り輝いて見えること。多くの有権者をひきつけるために、簡単で平凡なキャッチフレーズや情緒的な言葉を多用するのが特徴です」と言う。
ソジエ内田さんは、所信表明演説で多用されたキーワードについて「ポジティブなイメージで共感を呼びやすい表現だが、具体的な政策の方向性を示さず広告的と言える」と指摘。東さんも「反知性主義に近いものがあり、議論を避ける傾向が強い」と語る。
第1次安倍政権当時のキーワードは「美しい国」。東さんは、首相のイメージ戦略がかつての「詩的なレベル」から、現在は「力強く壮大で自信のある姿」への脱皮を図ろうとしているが、自信が「過信」と映る発言も散見される、と指摘する。
首相の情緒的な言葉が、議論を深める雰囲気を壊す場面も目立つ。
例えば10月3日の衆院予算委では長妻昭議員(民進党)が、自民党改憲草案について「谷垣(禎一)総裁のときに作ったものを世に出したものだから、僕ちゃん知らない、と聞こえた」と投げかけたのに対し、首相は気色ばんで比喩に反論。「全く言っていないことを言ったかのごとく言うというのがデマゴーグなんですよ。これは典型例ですね、典型例じゃないですか。言っていませんよ」とまくしたてた。
9月27日の衆院本会議でも民進党の野田佳彦幹事長に対し「決断すべきときに決断し切れない過去のてつは踏むことのないよう全力を尽くしたい」と過去の民主党政権をあてこすった。
こうした攻撃的な態度について東さんは「レベルが低く首相らしさが欠けた発言です。感情をコントロールできておらず、少し(米大統領候補の)トランプ気味になっている」と指摘。「安倍さんは『自信の表れだ』と思っているのかもしれないが、自信が裏目に出て、重厚さや知的さ、リーダーとしてあるべき太っ腹の部分が欠けている。(自民党の総裁任期延長で)戦後最長の首相在任も視野に入っているのだから『宰相の器』を考えるべきだ」と語る。
そのうえで東さんは野党にも「首相の情緒的な言葉に対して、情緒的に切り返していて、安倍さんのレベルで一緒に踊っている」と苦言。「情緒ではなく『情報』でもって反論しないと、議論はいつまでも深まらない」と語る。
世界各地でトップリーダーたちの言葉が荒れ放題の今。安倍首相は「百の言葉より一の結果」と言うが、政治家には議論が深まるような言葉づかいをしてほしい。
今国会で気になる安倍首相語録
だんまり戦術
「逐条的な議論は憲法審査会でやっていただきたい」(改憲について、9月30日など)
「(首相の立場として)憲法について論評はできるが、答える義務はない。答える場合もあるし、答えられない場合もある」(同、10月12日)
けむに巻く言い回し
「(自民党改憲草案を)撤回しなきゃ議論をしないというのは、例えば、自民党の綱領は気に食わないから撤回しろよと言っているのとやや近いところがある」(改憲について、10月3日)
「南スーダンは我々が今いる永田町と比べればはるかに危険な場所」(南スーダンPKOについて、10月12日)
「我が党において、今まで結党以来、強行採決しようと考えたことはない」(環太平洋パートナーシップ協定<TPP>承認案の採決について、10月17日)
民進党攻撃
「決断すべきときに決断し切れないという過去のてつは踏むことのないように全力を尽くす」(TPPについて元首相の野田佳彦議員に、9月27日)
「民主党政権の3年3カ月、児童扶養手当はたったの一円も引き上がらなかった。重要なことは、百の言葉より一の結果だ」(子育て施策で蓮舫代表に、9月28日)  
 
一強安倍の敵は永田町の外にいる 11/10
 米大統領選、新潟県知事選、衆院補選から見えた脅威の萌芽
「安倍一強」。永田町の風景はここ4年、この言葉に凝縮されてきた。
10月も自民党総裁の任期延長、東京10区と福岡6区で行われた衆院補欠選挙の全勝と、首相・安倍晋三の栄耀栄華がなお続くと思わせる事象が相次いだ。だがおそらく、安倍を倒すのはこれまでのような党内の敵や野党ではなく、永田町の外にある。その萌芽は激戦だったアメリカ大統領選挙と、東京都知事・小池百合子の活躍が象徴する「異端児」選挙にみえる。
まずは安倍一強を印象づけた自民党総裁の「3期9年」への任期延長だ。
「異論はありませんね」
10月26日、党・政治制度改革実行本部の会合。本部長を務める党副総裁・高村正彦は、自らが示した「連続2期6年」から「3期9年」への任期延長案への反対がないことを確認した。議論を開始して約1カ月、この日の会合もわずか30分、党所属国会議員の約1割しか出席していなかった。2021年9月末まで安倍が総理・総裁であり続けることのできる道は、あっさりと開かれた。
21年9月まで務めれば、第一次政権時代とあわせ、安倍は大叔父の元首相・佐藤栄作(在任7年8カ月)を超え、戦前の元首相・桂太郎(同7年10カ月)をも上回って憲政史上最長の政権を築くことになる。これほどの大問題が、首相周辺も「自民党は変わったな。昔なら大激論になったはずだが……」と拍子抜けするほど簡単に決まったのはなぜか。高村や自民党幹事長・二階俊博、政調会長・茂木敏充らが「安倍総理はこう思っているだろう」と先回りして動いたからだ。
二階は7月の参院選後、幹事長になるや否や任期延長論をぶち上げ、官邸サイドに「党内はまとめるから」と伝えた。弁護士資格を持つ高村に本部長を依頼したのも二階だ。茂木は首相周辺の意向を忖度し、総裁任期の完全撤廃に動いてみせ、自らの忠誠ぶりをアピールした。この間に安倍が口出しした形跡はない。「全部、党に任せてある」。安倍は任期延長について、こう繰り返すばかりだった。
衆院で初の小選挙区選挙が実施されて20年。目的だった「派閥の弊害除去」は完全に達成され、与党党首の力こそが絶大なものになった。「党内の権力争いが、自民党の活性化につながってきた伝統が揺らいだ」などの評は、党首に逆らえば公認されない「サラリーマン化」した自民党を理解していない。あの当時、小選挙区導入に反対していた当選1回の安倍が今、総理・総裁としてその権限をフルに使っているのは歴史の皮肉でもある。
安倍の稲田への不満
幹部たちが任命権者の意向を先回りしようとするのは、任期延長に限らない。衆院解散・総選挙の時期もそうだ。
「皆、そのつもりでちゃんと準備はしますから」。10月6日夜、東京・銀座のステーキ店「銀座ひらやま」で、二階は安倍に水を向けた。副総理兼財務相・麻生太郎、国会対策委員長・竹下亘や首相秘書官・今井尚哉らが集まった席で、安倍は二階の「解散準備は整える」との言葉を笑いながら、黙って受け流した。二階はこの4日後、10月10日にも「選挙の風は吹いているか、吹いていないかと言われれば、もう吹き始めているというのが適当だ」と来年1月解散をあおってみせた。
実は二階の胸中は疑念と不信に満ちている。「1月解散」は来年夏の東京都議会選を前に、集票マシンをフル回転させておきたい公明党・創価学会の希望でもあり、解散論の発端は公明党だったからだ。学会と官邸ですでに話がついているのか――。「総理は俺に何も言わない」。二階は周辺に、こんな不安を漏らしている。安倍の真意をつかめない二階は10月28日、今度は「私の勘では切迫したことはない」と早期解散に否定的な見方を示した。
衆院当選11回、数々の政党で要職を歴任した77歳の大ベテラン政治家も、ひと回り以上年下の首相に翻弄されているのが実情だ。「ポスト安倍」を狙う元幹事長・石破茂や外相・岸田文雄が抗えないのも、致し方ない。
岸田は高村に「安倍さんに限って(任期延長を)やるのではありませんから」と伝えられて「そういうことなら、お任せします」と陥落。石破は岸田の降伏をみて「なにも、俺は制度としての延長に反対してるわけじゃない」と一気にトーンダウンした。「次の総裁選には必ず出る」と公言する元総務会長・野田聖子も、昨年9月の総裁選では推薦人20人を集められず、結局撤退している。
もう1人、安倍の「秘蔵っ子」とされた防衛相・稲田朋美の評判もよくない。国会答弁では「防衛費」を「軍事費」と言ったり、涙を流したり、外国訪問の日程を土壇場でキャンセルするなど、不安定さが目立つ。防衛相抜擢は安倍の期待の大きさであり依怙贔屓と見る向きもあるが、そうではない。ある政権幹部は「実は安倍さんは政調会長の時、財務省の言いなりになっていた稲田さんに不満だった。本人が希望した経産相ではなく防衛相にしたのには『ここで勉強して這い上がってこい』との叱咤の意味があった」と解説する。
今のところ稲田はテストに合格したとは言い難い。とすれば、21年まで安倍が総裁を務めた場合、石破、岸田、野田、稲田の4人はいずれも60歳を超えて旬を過ぎる。ライバルなき党内情勢が安倍一強を補完しているのだ。
「希望の塾」に4000人
政権再交代を狙う野党のだらしなさも、安倍長期政権を後押しする。
2つの衆院補選で自民党が勝利した翌日の10月24日。共産党書記局長・小池晃は「民進党はできる限りの協力と言っていたが、これは協力して選挙に臨む姿勢とはいえない。政党間の信義にも関わる問題だ。しっかり総括しないといけない」とぶちまけた。選挙直前に野党4党の党首クラスが集まった東京都内の街頭演説に、民進党候補が姿を見せなかったからだ。
共産党とは戦後、長年にわたって死闘を続けてきた労組、連合は今回の東京補選で「共産党と組むなら支援しない」と民進党に通告していた。10月16日に投開票があった新潟県知事選で勝利した新知事・米山隆一は、原発再稼働に否定的。電力総連を抱える連合の意向を踏まえ、民進党は米山の推薦を見送り、自主投票を選択した。ところが、勝利しそうになると党代表・蓮舫が急きょ米山の応援に入った経緯に激怒していたからだ。
90年代に自身が率いた「自由党」に党名を戻し、自民党打倒に血道をあげる党代表・小沢一郎が「勝ちそうになったから応援に行くのは、野党第一党の党首として主体性がなさすぎる。民進党は何のために政党を構成しているのか。政権を取る気がないなら、そんなのは解散した方がいい」と言ったのは正論でもある。
東京都知事選への出馬を見送ってまで「初の女性宰相」を目指した蓮舫は、国政選挙の緒戦で躓いた。日本と台湾の「二重国籍」問題が代表選の最中に表面化した時、蓮舫周辺は「民進党内からの密告に違いない」と疑心暗鬼に包まれた。この不安が「体を張って代表を守ってくれる人がナンバーツーの幹事長でなければいけない」との理屈になり、前首相・野田佳彦の幹事長起用となった。党内で異論の強かった「野田幹事長」を強行した挙句、補選に全敗し、共産党の異議申し立てで野党共闘にも暗雲が垂れ込める。慌てた蓮舫は10月27日、自らの直属組織として「尊厳ある生活保障総合調査会」を発足させた。会長は蓮舫と代表選を争って敗れ、小沢との連携を志向する元外相・前原誠司。蓮舫は「前原さんの考え方には共鳴するところが多い。社会保障政策、経済成長に関して理論構築してもらいたい」と秋波を送った。なりふり構わぬ非主流派の取り込みである。
与党にライバルはなく、野党も凋落の一途をたどり、安倍の敵は永田町にはない。あるとすれば永田町の「外」からの動きだ。衆院補選と新潟県知事選に、その兆しがあった。衆院福岡6区補選の投票率は45.46%、東京10区補選は34.85%と過去最低を更新。一方で野党推薦候補が勝利した新潟県知事選の投票率は53.05%と、前回を約10ポイント上回った。投票率が高く、有権者の関心が「脱原発」のような一点に絞られれば、与党は完敗の可能性がある。
補選投開票翌日の10月24日、衆院当選1、2回生を集めた勉強会で幹事長代行・下村博文は「野党が次の衆院選で一本化すれば、単純な得票の足し算をすれば86議席で勝てない」と脅し、官房副長官・萩生田光一も「皆さんの活動次第では、候補を差し替えるというのが首相の意向だ」と安倍の名前まで持ち出した。自民党衆院議員290人のうち、安倍総裁の下での順風の選挙しか知らない1、2回生は121人、約4割を占める。安倍側近の下村、萩生田の発言はともに半分は脅し、半分は本心でもある。
安倍は12年衆院選、13年参院選、14年衆院選、16年参院選と国政選挙に4連勝して求心力を保っている。裏を返せば、選挙で議席を減らすことは即、退陣につながりかねない。
補選で安倍周辺の心胆を寒からしめたのは、実は東京10区の「小池旋風」だった。
「引き続いて東京大改革を進めろ、地域のことは若狭に任せろと有権者が決断された」
10月23日、小池は自ら後継指名した衆院議員・若狭勝の事務所で胸を張った。知事選以来の党都連との対立は解消せずとも、小池は12日間の選挙戦中、7日間も応援に入って野党も都連も圧倒した。小池が立ち上げた政治塾「希望の塾」の応募者は4000人を超えた。自ら衆院議員の座を捨てて都知事選に出馬した小池は、劇場型選挙の元祖でもある。2005年の郵政解散で兵庫から東京に国替えした「刺客」第1号だった。
その郵政選挙を主導した元首相・小泉純一郎も動き出している。新潟県知事選で原発再稼働慎重派が勝った直後の10月19日、小泉は共同通信社のインタビューに応じ、「原発が争点なら自民党は負ける」と断言した。小泉は9月15日、盟友だった元自民党幹事長・加藤紘一の葬儀に出席して車を待っている際、出くわした安倍に「なんで原発ゼロにしないのか。なぜ分からないのか。経産省や原発推進派の言っていることはすべてウソだ。だまされるなよ」と詰め寄っている。
5年半の長期政権を築いた小泉は途中、支持率が低迷したことはあっても、最後は郵政解散で一気に名を上げた。小池はその一番弟子ともいうべき存在である。「ポスト安倍の最右翼は小池百合子だ」との声もあがり始めた。
小池の手法は小泉や前大阪市長・橋下徹の手法と相通じる。海外に目を転じれば、インターネットを駆使してプロ政治家を倒したアメリカ共和党の大統領候補、ドナルド・トランプがいる。
トランプは共和党主流派、主要メディアが攻撃し続けても予備選中は失速することなく、事実上の党首である大統領候補にまで躍り出た。今は、世界的に既成の政治権力への怒りと不満が渦巻き、ネットの威力で一夜にして英雄となり、また失墜する時代だ。アメリカのトランプ現象、英国の欧州連合(EU)離脱の国民投票結果が、それを象徴する。前述の「希望の塾」を、小池が自らのツイッターとフェイスブックだけで募集した事実は注目に値する。
石破ら4人の首相候補に勢いがなく安倍が21年まで政権を担えば、その時40歳の党農林部会長・小泉進次郎がポスト安倍の有力候補になる。これを阻むのは小池か橋下か、それとも新たな国民的英雄か。永田町の「外」から目が離せない。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
安倍政権の命運を握る「新・四人組」 2013/1
 「お友達」内閣の苦い教訓は活かされるのか。人事で占う安倍内閣の行方。
「安倍晋三君を第96代総理大臣に指名します」――。
自民党・公明党合わせて325議席という圧勝で、「逆」政権交代を果たした第46回総選挙から10日後の12月26日、安倍晋三は、衆院での首班指名を受け、5年3カ月ぶりに総理大臣に返り咲いた。06年に発足した第1次安倍内閣が掲げたキャッチフレーズ「再チャレンジ」を自ら果たした形だ。
だが、安倍の再チャレンジの成否は、5年前に“お友達内閣”と揶揄され、官邸崩壊の引き金となった人事下手を克服できるか、にかかっている。
「来年夏の参院選では公明党の協力を得なければなりません。日本維新の会やみんなの党とは予算案や政策ごとの部分連合で協力をあおいでいきましょう」
すでにマスコミの情勢調査で「自公で300議席超」が明白になっていた衆院選投開票日数日前の12月中旬。自民党幹事長代行だった菅義偉は、携帯電話で、安倍にこう進言した。安倍は当初から日本維新の会と連立して憲法改正を打ち出すことも視野に入れていたが、菅の言葉で、参院選までは自公体制を基軸とした「安全運転」に徹することに落ち着いた。
内閣の司令塔である菅官房長官に対する安倍の信頼は絶大なものがある。菅は秋田県の農家に生まれ、高校卒業後、集団就職で上京した。働きながら法政大学を卒業、故小此木彦三郎元通産相の秘書から、横浜市議となり1996年、47歳で、初当選を果たした「苦労人」。
そもそも、06年の自民党総裁選で候補の座を、同じ森派の福田康夫元首相と争い、派閥分裂も覚悟した安倍の命を受け、衆院当選6回以下、参院当選2回以下の自民党所属議員94人を集めて「再チャレンジ支援議員連盟」を立ち上げ、勝負の流れを決定的にしたのが菅だった。その論功行賞で当選4回にして総務相に就任。ふるさと納税の創設、地方分権改革推進法の成立、NHK受信料値下げなど、お友達内閣の中で、その剛腕ぶりは異彩を放った。
昨年の自民党総裁選に出馬するにあたっても、8月の時点では迷いを見せていた安倍に対して「自民党支持層には安倍待望論があるが、向こうからはやってこない。飛び込んで局面を打開するべきです」と“主戦論”を唱え、出馬の意思を固めさせた。お友達から一歩踏み込んだ盟友に近い存在だ。
その菅より関係の長い盟友が首相補佐官となった衛藤晟一参院議員だ。
衆院選圧勝の熱気が冷めやらない12月18日午後5時、自民党本部。衛藤は記者の目を避けるように、地下駐車場から4階の総裁室裏手へ直行するエレベーターで安倍を訪ね、ある文書を手渡した。それは安倍の指示を受けた衛藤が、中西輝政京大名誉教授、八木秀次高崎経済大教授らと水面下で接触し、とりまとめた安倍政権の“工程表”だった。
この工程表においては、長期的な目標として「国防軍」の創設を柱とする憲法改正を明記。中期的には米国を狙う弾道ミサイルの迎撃など限定的な集団的自衛権の行使容認、例外を設けた環太平洋経済連携協定(TPP)参加を掲げ、項目ごとに具体的な手法も付記した。短期的な目標としては、尖閣諸島への公務員常駐に加え、「河野談話」の事実上の撤回や拉致問題の解決も盛り込まれた。
いずれも戦後レジームからの脱却を唱える安倍の思想を色濃く反映したものだが、実はこうした安倍の思想形成に大きな影響を及ぼしてきた人物こそ衛藤なのである。衛藤は大分大生時代、右派の学生運動家として全国に名をはせた。25歳で大分市議当選後、大分県議を2期務めて、90年に衆議院議員に初当選した。安倍の父、晋太郎の全面支援で大量当選した新人の1人だった。
晋太郎が志半ばで病に倒れ、晋三が後を継ぐと、衛藤は「晋太郎の夢を晋三に果たさせる」と心に期す。今や、安倍の有力なブレーンとなっている右派のシンクタンク「日本政策研究センター」の伊藤哲夫代表を、若き日の安倍に紹介したのも衛藤だった。伊藤と衛藤は学生運動の同志の関係である。
衛藤は、保守政治家としての安倍晋三の「生みの親」とも言える。
「安倍一族」の登場
新内閣の人事で目新しさを感じさせるのが加藤勝信官房副長官の存在だ。党外からは「加藤って、誰?」という反応で受け止められたが、党内、特に旧福田派(清和会)関係者では、「安倍らしい人事だ」と頷く向きが多い。
2人の関係の源流は、今から20年以上前に遡る。加藤は、加藤六月元自民党政調会長の女婿。六月は安倍の父、晋太郎の「最側近」として、故三塚博元蔵相、塩川正十郎元財務相、森喜朗元首相とともに「安倍派四天王」と称された。安倍にしてみれば、勝信との関係は、父と六月との関係にも重なってくる。
さらに六月の妻で、加藤の義母にあたる睦子夫人は、晋太郎の妻で安倍の母親の洋子夫人と極めて親しく、「姉妹」関係と評されるほど。山中湖畔にある富士急行が開発した別荘地には、安倍、加藤両家の別荘が歩いて行ける距離にあり、毎年、家族ぐるみのつきあいをしている。「安倍一族」という扱いなのだ。
加藤は東大経済学部から旧大蔵省に進み、主計局主査を務めた「政策通」でもある。衛藤の下で「『創生』日本」の事務局長に就任、安倍の発信したいメッセージを巧みに演説の草稿に仕立てたことで、「一族」としてだけでなく、政治家としても信任を得た。額賀派に所属しているが、ここ2年ほどは衆院第1議員会館12階の安倍の部屋で、安倍から呼び出された加藤の姿が頻繁に目撃されている。安倍が総裁に返り咲いた際の党人事では、総裁特別補佐のポストで、重用されたが、一時は、「政調会長」という大抜擢さえ取りざたされた。総裁選で安倍に敗れた石破茂が、安倍主導の人事を牽制するため、その加藤を「政調会長に抜擢して目玉人事にすればいい」と安倍に伝わるよう周辺に言い触らしたためだ。これが後に安倍と石破の間がぎくしゃくする一因にもなった。安倍のお友達である甘利明の政調会長起用を牽制したと受け止められたのである。
この自民党総裁選の直前、甲府市内での街頭演説の帰途、東京・新宿のホテルに安倍が密かに呼び寄せたのが、菅、衛藤、加藤の3人だった。この場には甘利明も呼ばれていたが、安倍選対本部長という立場で声がかかっており、コアメンバーはあくまで前出の3人である。
「1回目の投票で国会議員票は54票となります」
そこで披露された票読みは、決選投票に至るまで、実際の結果とほぼピタリと一致するものだった。事実上、この夜、安倍の中で第2次安倍内閣の陣容が固まっていたのである。
一方で今回の人事において、目立たないが、注目すべき人物が経産省資源エネルギー庁次長から政務秘書官に就いた今井尚哉だ。通常、自民党の首相ならばこのポストには事務所の古参秘書が就くが、安倍は第1次内閣でも内閣府から井上義行を登用している。もっとも、国鉄の機関士出身で、ノンキャリアだった井上と対照的に、今井は経産省のキャリアだ。日本経団連名誉会長の今井敬元新日鉄会長の甥という毛並みの良さも目を引く。今井は、第1次安倍内閣では事務秘書官として安倍を支え、自身も「安倍さんとは相性がいい」と認めるほど、良好な関係を築いた。
その今井は電力自由化が持論という改革派の一面を持つが、関西電力大飯原発再稼働問題では、稼働に向け水面下工作を展開した際の活躍ぶりが際立った。今井は栃木県立宇都宮高校の後輩である枝野幸男前経産相に接近し、閣僚会議に陪席することに成功すると、終始会議をリードした。また、2月下旬には都内のホテルで、「再稼働反対」を掲げていた橋下徹大阪市長と会談、「電力不足になると難病患者が亡くなるなど社会的な犠牲者が出る」という理屈で、橋下をも説得している。
「毛並みの良さや、『ザ・官僚』のような見かけとは裏腹に、鼻っ柱が強く政治的な行動も多い。小泉純一郎元首相の政務秘書官だった飯島勲とは全くタイプが違うが、『新・官邸のラスプーチン』になるかもしれない」との評もある。
菅、衛藤、加藤、今井。この「新・四人組」が安倍政権の命運を握る。
かつての「お友達」は
一方で、第1次安倍内閣で重用されたかつての「お友達」の影は薄くなった。その象徴が、塩崎恭久元官房長官だ。
安倍と塩崎との間に距離ができたのは総裁選直後のことだった。塩崎も安倍の距離感を察したのか、解散後は、自分の選挙に専念。塩崎は、安倍の経済財政政策を策定する日本経済再生本部(安倍本部長)の事務総長に就任すると見られていたが、ふたを開けてみると事務総長は、総裁選で安倍と争った石原伸晃前幹事長の陣営幹部だった茂木敏充前政調会長。
参院枠の官房副長官には、「お友達」の残党である世耕弘成元首相補佐官が就いたものの、安倍が脱・お友達を意識しているのは確かなようだ。
だが、いくら「お友達」を遠ざけても、安倍政権への懸念材料は残る。
「石破幹事長に菅官房長官か……。言っても分からないんだな」
衆院選の投開票翌日から、マスコミで報じられた政権の中枢人事を見ながら森喜朗元首相は苦虫を噛み潰したような表情を見せていた。
かつて自民党を離党した経験があり、脱派閥を掲げる石破や、旧小渕派でスタートしながら、次々と派閥を離脱しては、故梶山静六、加藤紘一、古賀誠そして安倍と、いつの間にか時の党内有力者の傍にいる菅に対して、森は苦々しい思いを抱いてきた。そもそも、自民党が野党に転落した09年の総選挙の際、時の首相、麻生太郎に対して解散先送りを進言し続けたのが、当時選対副委員長だった菅だった。
森は解散前と選挙後の2度にわたって安倍に対して、「菅も塩崎も、君が重用する連中は党内の嫌われ者ばかりじゃないか」と苦言を呈した。安倍は「そうなんですよね。わかっているのですが……」と応じたが、森の忠告が受け入れられることはなかった。
衆院選圧勝の熱気が完全に冷めたとき、今回の人事がベテランの反発を招き、一気に議員の数が膨れ上がった自民党内で遠心力として働く恐れは十分にある。そうなったとき、幹事長に石破を留任させたことも、安倍の党へのガバナンスを低下させることになりかねない。安倍を支持する議員たちは、「石破はポスト安倍を狙っている。参院選後には幹事長から外さなければ」と警戒感を露わにする。
安倍の決断が吉と出るか凶と出るかは、不透明だ。
もう1つの懸念材料は、安倍が「克服できた」と言い張る体調問題だ。首相退陣の原因となった潰瘍性大腸炎を、新薬「アサコール」でコントロールできていると言っているが、衆院選直後の記者会見で自ら認めたようにアサコールは特効薬ではなく、完治したわけではない。政治家の脳内に最もアドレナリンが放出され、免疫力が高まるはずの衆院選の最中、12人の党首の中で、顕著に風邪をひいたのは安倍1人だった。
さらに最も身近で健康管理にあたるべき昭恵夫人の「能天気さ」が関係者の心配の種という。昭恵夫人はアサコールの効用を信じてか、手づくりで、安倍の体調に合わせた料理をつくるようなことも特にせず、反原発の友人たちと都内に開いた居酒屋経営に没頭する日々だ。
「アベノミクス」として市場関係者から歓迎された安倍の経済対策も、この先の経済状況によっては、懸念材料のひとつになりかねない。
12月20日に開かれた日銀の金融政策決定会合。前年比2%の上昇率を達成する消費者物価の目標設定を検討することを決めたことに政財界の注目が集まったが、市場関係者はむしろ「景気は一段と弱含んでいる」という、景気判断の引き下げに着目した。
「憲法改正など右派色を消して、景気回復に全力を注ぎ、7月の参院選で議席増を図る」のが、安倍と菅らの基本戦略だが、半年あまりで、「一段と弱含んでいる」景気を上向かせることは困難だ。
政権の中間評価と位置付けられる参院選も04年以降の3回、与党が勝利したことはない。そして、長引く景気低迷を背景に、いずれも「年金」や「消費税」など生活に直結する課題が争点になり、07年参院選では自民党が惨敗、その後、ほどなく安倍は退陣している。
高揚感の裏で、安倍らの脳裏には「あの悪夢」がちらつき始めている。 
 
 
 

 

強行採決
国会などで与野党による採決の合意が得られず、少数派の議員が審議の継続を求めている状況で、多数派の議員が審議を打ち切り、委員長や議長が採決を行うことである。
強行採決そのものは、戦前の帝国議会の時代から存在していた。帝国議会は議院法の規定により本会議中心の読会制で運営されていたため、採決は本会議で行われることがほとんどで、委員会での強行採決はまずなかった。戦後の国会では委員会中心主義に変わり、委員会、本会議の2回の採決を経ることになったが、どちらにおいても質疑応答および議論を審議で一通り終われば採決に至ることと決められており、この審議の手続きが明確に立法化されている場合は審議の無作為な引き延ばしや中断ができない。
日本の国会では、制度上は多数派による議事運営が規定されているものの、55年体制以降長く自民党が過半数を占める状態が続いたため、「多数派の専制」を避けるという意味でも、法案採決において何らかの形で野党の合意を取り付けるという紳士協定が存在し、現実には与野党の合意が慣例化されていた。
議案に充当させる審議時間の配分や審議の順番など議事日程は議案ごとの均等割ではなく、議案ごとに議院運営委員会で調整され、ここでの調整が重要な政治上での駆け引きの材料となってきた(国対政治)。
○委員会の議事運営は委員長の職権である(衆議院規則、参議院規則)が、現実には当該委員会の理事会や理事懇談会での与野党交渉で審議日程が決定される。
○本会議の議事運営は議長(衆議院議長、参議院議長)の職権であり(国会法第55条)、議院運営委員会(議運)の決定に基づいて審議日程が組まれる。しかし、現実には議運の理事会あるいは理事懇談会での与野党交渉によって審議日程が決定され、議運においても多くの場合は(多数決採決ではなく)全会一致で決定される。
○本会議や委員会の議事運営の与野党交渉が暗礁に乗り上げた場合は、各政党の機関である国会対策委員会が調整に乗り出す。
しかし、それでも与野党が合意に達しない場合は、与党が単独で採決日を決めて採決を行うべきか否かが与党内で検討される。この際、議院運営委員会での与党側の優勢を背景に、野党の合意を取り付けないまま審議を終了させ、法案を採決することを「強行」とマスコミや野党が表現したのがもともとの語源である。また与党が一方的に審議を打ち切ることから、「与党による審議拒否」とのレトリックが用いられることもある。ただし、法案に反対する野党側が無作為に審議継続を要求し、法案の可決を引き延ばす行為に出た場合に審議を終了させるのは批判の対象とならない。
委員会審議における強行採決は、通常、与党の若手議員が質疑打ち切りの動議を審議途中に挙手して口頭で提案し、それを可決するか、委員長の職権で質疑終局の宣告をして採決に移る。これに対して、野党が議案の採決を阻止を企図する場合もある。物理的な議事妨害としては、委員長の入室を妨害する、委員長のマイクを奪う、などが挙げられる(これに対して与党は、委員長を衛視に護衛させて入室させ開会し審議を通す)。このほか、牛タン戦術や審議拒否などの手法が採られることもある。本会議の場合、議長の本会議場入場を阻止するピケ戦術を行う、内閣不信任決議案・議長不信任決議案・委員長解任決議案等を提出して牛歩戦術を行う、などの手法が挙げられる。
委員長が与党議員であると比較的円滑に採決が行われるが、野党議員の場合は一般にそのままでは強行採決は不可能となる。このため、野党が委員長ポストを占める「逆転委員会」に付託される内閣提出法案は、野党に宥和的な内容となる傾向がある。また、逆転委員会で法案審議が滞った場合、本会議が中間報告を求め、直ちに本会議での審議に移行して採決させるという手法が採られることもある。
一方の議院で可決してももう一方の議院で可決できないまま会期終了すると国会の議決とならないため、法案成立のためには衆議院の再議決するためのみなし否決の60日間、予算成立や条約承認のために自然成立する30日間の日数が必要なため、会期日数を考慮して衆議院で強行採決をする場合がある。特にいわゆるねじれ国会の場合は与党による参議院での強行採決が不可能なため、会期日数を考慮に入れて衆議院における委員会と本会議での採決日が決められる。
評価
強行採決を批判する立場からすると、少数派議員にとっては国民の持つ主権の至上性を代表している議員の名誉に対する極端な冒涜であり、多数派のなかの反対議員に対して行われる党議拘束や、造反への処分とともに代表民主政治(間接民主政治)を否定する数の暴力の典型、となる。一方で審議の後に多数決で立法を決定する手続きは議会政治の基本であり、審議とはあくまでも意見の発表の場であり少数派が納得するまで続けよなどとする要求は会期制をとる議会の議会運営を無理に難しくするもので、少なくとも憲法典が多数決による法案採否を前提としている以上「強行」と批判的に表現すること自体には法的効果はない。また少数派は多数派の譲歩や妥協を得るための交渉を禁じられているわけではなく、また議員や投票有権者に説得を続けることで多数派を形成し自らの理念の立法化を目指すのが本筋であるという対立意見も存在する。党議拘束については政治的拘束にすぎず、これに反して自由投票を行うことが法律上禁じられているわけではないので、不満であれば人事処分を覚悟して自らの意志で投票すればよいとの主張もしばしば見られる。
命令委任の観点では個々の議員は有権者団の結論の仮の投票者にすぎないため、「強行」採決には倫理上の問題は生じず「強行」と表現されることもない。日本の国会議員は自由委任と解される(憲法43条)が半代表の主張も有力である(国民主権も参照)。判例では強行採決による立法過程が法律の効力に影響を与えることは無いと判示している。
ただし、近年は日本も二大政党政治に移行しようという風潮が見られた。この場合、野党側としては、与党の政策を批判して、明確な対立的立場を表明する方が次期の選挙において有利なため、特に重要な案件では、与党側の立案に賛成しない傾向が増えてきているため、こぞって、審議が野党の合意を取り付けないまま採決に至る「強行」が増えてきている。
一方、野党が採決で議題を否決しようとせず最初から採決そのものを否定するのは、議案を可決することによる問題点を審議過程で野党が明らかにしても、ほとんどの場合、与党の党議拘束に基づく数の論理を背景に議案が可決されるためである。このため、与党議員への造反工作をほとんど行わずに議事妨害に終始していることから、野党の対応への批判もある。
いずれにせよ、与野党ともどこまで強硬な姿勢を維持できるかは、世論の動向により、ケースバイケースである。
背景
日本で強行採決が繰り返されてきた理由としては、
○審議時間が比較的短いこと / 「議論が尽くされていない」などの野党側の言い分が説得力を持ちやすい。
○会期が短く、本会議で継続審議の議決をしない限り会期終了とともに廃案となること(「会期不継続の原則」) / 審議未了を防ぐために早めに採決をしなければならない与党の事情と、採決を引き延ばせば廃案になるという野党の 国会戦略が対立して、採決日程が合意に至らない。
○与野党とも造反が少ないこと / 内閣提出法案が採決に持ち込まれた場合は、可決がほぼ保証されている。
が挙げられる。このような事情から、円滑に法案を成立させるためには、与党が野党の法案修正協議に応じるか、与党が強行採決に踏み切ることとなる。
これに対して、多くの西側民主主義国の議会では、
○審議時間が比較的多いこと
○会期制や法案審議の継続性が緩やかであること
○造反が多いこと、あるいは党議拘束がかけられないこと
などにより、強行採決があまり行われない。なぜなら、野党にとっては廃案を目的とした採決の引き延ばしの意味が薄く、また、与党にとっては議会制度を理由とした早期採決への誘因が乏しい上に、むしろ与党議員の造反による政権へのダメージを考慮するためである。
具体例
政府与党が議事手続の枠組みを越えて強行採決した例として、1965年の日韓条約・協定および関連法案や、1969年の大学運営臨時措置法案がある。
裏話
与党が強行採決する際は、国会対策委員長同士や会談や委員会の理事懇談会といった非公式な場で、野党側に対して「○時○分に採決に踏み切る」あるいは「○○議員の質疑終了後に質疑を終局する」などと事前通告されている。このため、採決間近になると、与野党の議員が集結の準備を整えており、マスコミ各社のカメラもスタンバイを終えている。採決する時間も、NHKの生中継がしやすい時間帯を選んで設定されている。一方、一部の野党が出席して強行採決に踏み切る予定が、段取りを間違え全野党議員が欠席のまま採決してしまったため、数時間後に改めて野党議員の出席の上で強行採決をやり直した例もある。また、与野党対立を激化させないため、委員会で強行採決を行ったあと、当該委員会の委員長が引責辞任することもある。
このように、与野党が対立する法案にあって、どうしても妥協点が見出せない場合、ギリギリの落とし所として、強行採決が選択される。与党は法案を可決させるという「実」を取り、野党側は「体を張ってこの法案を阻止しようとした」という姿を国民にアピールする「名」を取る。その意味では、与党が野党の顔を立てたものとも言える。
かつては岸内閣における安保国会や佐藤内閣における日韓国会などでは野党への事前通告なしに抜き打ちで強行採決が行われていた。しかし、田中角栄が自民党幹事長に就任して以降は、野党を懐柔するために裏舞台で根回しをする国会運営が浸透し、事前通告なしの抜き打ちでの強行採決はほぼ無くなった。
その意味で、長らく政権交代のない55年体制、国対政治で醸成された日本的慣習・慣例であるとも言える。
また、かつては強行採決が原因で各会派入り乱れての乱闘となる場合、それに巻き込まれた国会職員には国会特別手当が支給される制度があった。この制度は第2次小泉改造内閣時代の2005年(平成17年)に廃止が決定され、2006年度以降は管理職には国会特別手当の支給は行われなくなり、2007年度をもって廃止された。 
 
 
 

 


 
2016/10
 
 
環太平洋戦略的経済連携協定 [TPP] 

 

(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement または単に Trans-Pacific Partnership、環太平洋連携協定、環太平洋経済連携協定、環太平洋パートナーシップ協定、環太平洋経済協定)
環太平洋地域の国々による経済の自由化を目的とした多角的な経済連携協定 (EPA) である。TPPの北大西洋版があり、大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(TTIP)と呼ばれる。 
●概要 
原協定
環太平洋戦略的経済連携協定の原協定(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement, TPSEP)は、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国の経済連携協定(EPA)として始まり、2005年7月に署名され2006年5月に発効となった。
2010年3月から、原加盟4か国にアメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルーの4か国を加えた拡大交渉が開始された。2011年時点では、アメリカ、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ペルーが加盟交渉国として、原加盟国との拡大交渉会合に加わっていた。9カ国による拡大交渉は、2011年11月12日に大枠合意に至り、2012年内の最終妥結を目指していた。
2006年1月1日に加盟国間の全ての関税の90%を撤廃。産品の貿易、原産地規則、貿易救済措置、衛生植物検疫措置、貿易の技術的障害、サービス貿易、知的財産、政府調達(国や自治体による公共事業や物品・サービスの購入など)、競争政策を含む、自由貿易協定の全ての主要な項目をカバーする包括的な協定となっている。目的の一つは、「加盟国の戦略的提携によってマーケットにおけるプレゼンスを上げること」である。
環太平洋パートナーシップ協定への拡大
米国の参加表明によって2010年3月から拡大交渉会合が始まり、レベルの高い自由化を目指す包括的な協定になるとされている。アジア太平洋地域の新たな経済統合の枠組みとして発展する可能性も指摘されている。またTPPは原則非公開とされ全文の閲覧が行えるのは、この協定に関わる各国の3名ずつのみとなっている。 拡大交渉中のTPPについて、加盟国・交渉国に日本を加えた10か国のGDP(国内総生産)を比較すると域内GDPの91%を日本とアメリカの2か国が占めるため、実質は日米のFTAだとする見方もあるが、あくまで原加盟国4か国間で発効している環太平洋戦略的経済連携協定の拡大である。
TPPの本質
バーニー・サンダースとドナルド・トランプという一見すると政治に関するスタンスが大きく違う両者が反TPPでは一致を見ている。左側は「(TPPによって)非民主的な大企業による逸脱行為が正当化される」、右側は「TPPが国家主権を侵食する」と唱え、TPPやTTIPに反対する。
NAFTA以後の貿易協定(TPPなど)は、特定の集団にアドバンテージを与え、その他には不利益となるものだった。
NAFTAに含まれる条項はゼネラルモーターズ(GM)のような多国籍企業がメキシコに工場を移し、メキシコで自動車を製造した後にその自動車を米国に売りつけることを容易にするものだった。これはGMの収益のためはよい知らせだった。だが米国国内の自動車製造会社にとっては、(メキシコの安い労働力と争わなければならないために)その会社の従業員の賃金カットもしくはリストラせざるを得なくなった。NAFTAは米国の労働者にとっては悪い知らせだった。
トランプは、キャリアやナビスコで大規模解雇が行われ雇用がメキシコへ移っていることを指摘しつつ、「サンダースは、米国が貿易で大損してることをわかっている」と述べている。
NAFTAでは、貿易の特定の領域に関しては自由どころか保護が強くなった。処方薬の特許や本・映画・ソフトウェア・音楽の著作権などである。2016年4月時点で、米国国民は一人あたりにして年間およそ1300ドルを薬剤購入に費やしている。これが本当に自由貿易ならばその10分の1の費用ですむだろう。
TPPには、健康や環境保護を目的とした規制を緩和させる狙いがある。カナダの企業が石油パイプライン建造を米国政府に拒否されたために、米国政府を訴えて(そして多額の賠償金を請求して)いる。TPPのメリットを議論することは特定のグループの利益を議論することだと言っても過言ではないだろう。
カリフォルニア大学バークレー校の研究者らはTPPを以下のように説明している。TPPは環境、労働(基準)、ヘルスケア、医療に関しての規制権を大企業に握らせるための協定であり、大企業の利益になるが環境や労働者を保護しない性格をもち、仕事がアウトソースされるために中低所得者を害する協定である。2016年アメリカ合衆国大統領選挙でのアメリカ合衆国大統領候補であるバーニー・サンダース(民主党)とドナルド・トランプ(共和党)、両者ともにTPPに反対している。
2016年4月、米国ニューヨーク市長ビル・デブラシオがTPP反対の声を上げた。デブラシオは強い口調で語る。「TPPに反対する熱意が我々にあるのは当然だ。我々米国国民は以前にもこの手の映画(すなわち北米自由貿易協定、NAFTA)を見ているのだから。NAFTAがどれだけひどいものだったか我々は見てきている。その過ちを繰り返すことはない。」 「物欲に囚われ米国の中間層を犠牲にした。それがNAFTAだった。NAFTAによって米国の百万もの雇用が失われた。ここニューヨークでも何万という職が海外にもっていかれた。中流生活を送っていた人々がラグを処分させられる破目になった。勤労・誠実だった人々から突如として全てを奪った。それがNAFTAだったのであり、同様にTPPも米国に悪影響をもたらすと考えるべきだろう。よって我々はTPPに反対すべく立ち上がっているのだ。」
TPP交渉に関連した文書・メールなどが非公開となっている。しかしながら国際法の観点から条約法に関するウィーン条約を尊守し、交渉過程で何かしらの(直接的・間接的)不正が存在したかどうかを確認することは重要である。例えば同意に至る交渉・調整過程で何らかの詐欺的行為、(直接的または間接的)買収があった場合には、ウィーン条約の49条・50条に則り自国の同意を無効にする根拠となる。脅迫などがあればウィーン条約51条に則り、自国の同意は法的拘束力を失う。 
●内容 

 

主権国家は環境保護、食品衛生、薬価上限、知的財産に関する国内法に基づく決定、公益事業に関連する規制など様々な規制を設けている。 TPPに含まれるISDS条項によれば、それらの規制が企業の将来的収益を損ねると判断される(もしくはTPPの取り決めに違反している)などの場合、その企業がその損失の賠償などを求めてその主権国家を訴えることが可能となる。その裁判は特別法廷で行われ、政府側が負けた場合は訴えた企業に賠償金を支払い、仮に政府側が勝ったとしても、裁判にかかる弁護士料など諸費用を政府が負担させられる可能性もある。初期のリークされた文書では特別法廷員にかかる費用の下限は1時間あたり375ドルであったが、最終合意文書ではその費用限度は撤廃された。特別法廷がその裁量で以ってその額を決めることができる。よってその賠償金と特別法廷員にかかる費用などは訴えられた国家の納税者に負担をかけるだろう。
ISDSによる特別法廷で、政府側が賠償金を支払うことを命じられた場合はその国の有権者に課される「隠れた税金」となる。それは、政府によってではなく多国籍企業などの企業側によって課される税金である。
これまでの判例では、特別法廷は訴えられた側と訴えた側両者に対して、弁護士・特別法廷員料など特別法廷に関連するコストを支払うよう命じている。特別法廷に関連するコストの平均は、政府側が約440万ドル、申し立てた側が約450万ドルとなっている。
また、原理的にはTPP非加盟国の企業にも潜在的にTPP加盟を訴える権限がある可能性がある。例えば中華人民共和国の(国営)企業がベトナムやマレーシアに存在し、それらの企業が米国に投資していた場合にISDSを使って米国を訴えることも可能かもしれない。
ISDSでの賠償金
仲裁
企業とTPP加盟国がその国での投資に関して論争が起きた場合はまず両者の協議などで解決を図る。9条18項
協議開始から6か月経過しても論争が決着を見ない場合には、企業側は国家側が9条1項から9条17項の義務を果たしていないことや投資に関する協定に則っていないなどの主張を行うことができる。企業側は国家側のTPP義務不履行によって損失を被ったとする主張も行うことができ、申し立てを行って 仲裁に持ち込むことができる。仲裁の方法はthe ICSID Convention and the ICSID Rules of Procedure for Arbitration Proceedings、the ICSID Additional Facility Rules、the UNCITRAL Arbitration Rulesなどから選ぶことができる。 9条19項から抜粋
特別法廷の構成員の決め方
一般的には、特別法廷は3人の仲裁人から構成され、申し立てる側・対応する側から各1名選ぶ。残りの1人は法廷の長であり双方の協議で決めるが、申し立てから75日以内に決まらない場合はICSIDのSecretary Generalが決める。当事者同士が特別に同意する場合はそれ以外の方法で仲裁人を構成する。9条22項より抜粋
賠償金額に関して
特別法廷は、金銭的損害賠償や資産の損害賠償(資産によっては利子なども対象となる)の額などについて決定する。
仲裁にかかった費用や弁護士費用なども支払わなければならない。どちら側がどのような方法で支払うかは特別法廷が決めることである。
ICSIDの規約の下で賠償金額が決定した場合は、
○賠償金額が決まり当事者が賠償金額の修正や取り消しを要請することなく120日経過すること
○もしくは金額の修正や取り消しが完了すること
これが満たされてはじめて賠償金額が最終決定する。
ICSIDの追加的ルールやUNCITRALの仲裁ルール、その他で賠償金額が決定した場合は、
○当事者が賠償金の修正や取り消しなどの手続きを始めず90日経過すること
○もしくは裁判所が賠償金の修正・取り消しなどの申請を却下もしくは許可し、それ以上の申し立てが無いこと
が賠償金額の最終決定に必要である。
各TPP加盟国はTPP域内において賠償金の支払いを施行することとする。 対応する側が判定に従わない或いは賠償金を支払わない場合は、申し立てる側の国家が出てくる。 申し立てる側の国家はパネルを設け、
○対応する側が判定に従わないもしくは賠償金を支払わないということがTPP協定の義務に違反しているかを決定する
○28条17項に則り、対応する側が判定に従うもしくは賠償金を支払うように勧告する
という手続きをとる。 9条29項より抜粋
医薬品・医療機器の価格決定プロセス
政府側が新しい医薬品・医療機器をリストに加えそれらの価格を決める場合、政府側は価格決定に関する公式かつ正式なすべての提案(医薬品・医療機器メーカーなど企業側からの提案も含める)を検討することを確約する。
医薬品・医療機器メーカーなど企業側は、専門家らによる審査を行う機会が政府から与えられる。それは内部審査であり、その製品の価格決定に最も影響を受ける申請者(すなわち企業側)の要請で行われるプロセスである。
その内部審査は一回限りでもよい場合がある。そして政府が許可すれば、その内部審査においてその製品の価格を決定することが可能となる。このシナリオでは医薬品・医療機器メーカーが事実上それら製品の価格を決定することになる。
政府が内部審査のみでの価格決定を許可しない場合は企業側がISDSを行使し政府側を訴える可能性がある。26条付則Aより
特許・コピーライト
薬剤特許、新薬剤保護など
政府側は提出された薬剤の認可に関する申請書を速やかに処理しなければならない。特許薬剤の認可では、政府による認可プロセスが遅れる等して実質的な特許期間が短くなった場合には政府が特許期間を延長しなければならない。18条48項より
新薬剤の認可プロセスにおいて、政府側が申請者にその薬剤の効能と安全性に関係するデータを提出するよう求めた場合には、 その薬剤は保護される。保護されれば、(データ保持者の許可が無い限りは)第三者がそのデータに基づく類似薬剤を販売できない。18条50項より
新薬剤の保護期間は最短で5年、バイオ医薬品の保護期間は最短で8年。
認可された薬剤の安全と効能に関するデータを第三者が使用する場合は、政府が、仮に特許を侵害するような薬剤の販売がなされたという申し立てがあった場合の対応策をとるための十分な時間と機会を特許保持者に与えなければならない。その場合には対応策は(差止請求権の行使など)迅速であり、法的対応策あるいは行政手続きといったものになる。18条51項より
転職・起業の制限
18条78項には企業秘密の公開・取得・無断使用の罰則に関する条項が盛り込まれている。 企業秘密の公開・取得・無断使用に対する罰則規程によって、従業員が会社を辞め(同じ産業の)別の会社で働くことができなくなる場合がある。
会社勤務の労働者はその会社の企業秘密にアクセスできる。仮にその労働者がその会社を辞め(もしくは解雇され)、同じ産業の別の会社で働き始めたとする。この場合、その労働者は既に知っている企業秘密を新しく勤め始めた会社に持ち込むことが物理的に可能になる。 よってTPP18条78項が定める企業秘密の公開・取得・無断使用に該当することになり、その労働者が企業秘密を漏洩させる意図が無いとしても、罰則規定の対象になりうる。これはより高い賃金を目指して別の企業に移ろうとする労働者にとっては厳しい。逆に、企業側にとっては労働者の賃金を固定できる道具となる。
同様の理由で、起業や会社の新規設立も制限されうる。
競業避止義務はミシガン州では施行されているがカリフォルニア州では導入されておらず、近年の調査ではそれがカリフォルニアでテクノロジー部門が成功した重要な要因だったことがわかっている。 
●背景 

 

原協定
環太平洋戦略的経済連携協定 (Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement, TPSEP) は、その名の通り、環太平洋の国々における (Trans-Pacific)戦略的な (Strategic) 経済連携協定 (Economic Partnership Agreement) である。2005年6月3日にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国間で調印し、2006年5月28日に発効した。
当初は、Pacific Three Closer Economic Partnership (P3-CEP) として知られ、2002年にメキシコのロス・カボスで開かれたAPEC首脳会議でチリ、シンガポール、ニュージーランドの3か国間で交渉が開始された。2005年4月に開かれた5回目の交渉会合で、ブルネイは完全な交渉当事者として加わった。 この成立の経緯から、この貿易圏を構成する原加盟国4か国は Pacific-4 (P4) と呼ばれるようになった。
拡大交渉中のTPP協定と区別するために、原協定 (original agreement) は、P4協定 (P4 Agreement) と呼ばれることがある。
条文は、ニュージーランド政府サイト上で公開されており、日本語への私訳も複数存在している(日本政府からは、農林水産省から第3章の仮訳が公開されているのみである)。
原協定の拡大
原協定の第20章 最終規定の第1条および第2条において、「別段の合意が無い限り、この協定に投資に関する章と金融に関する章を盛り込むことを目的として、この協定の発効(2006年5月28日)から遅くても2年後までに交渉を開始する」と定められている。これに従い協定の拡大交渉会合が開かれており、その後も続いている。
拡大交渉に伴い、拡大交渉中の協定は 環太平洋パートナーシップ協定 (Trans-Pacific Partnership, TPP) と表現されるようになったが、内容は、環太平洋戦略的経済連携協定 (Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement, TPSEP, P4) の拡大である。
拡大交渉会合までの流れ
2008年2月4日、アメリカ合衆国通商代表部(以下、USTR)代表(当時)のスーザン・シュワブは、アメリカが投資と金融に関する交渉に参加すると表明し、その後、リーマン・ショックから1週間後にあたる2008年9月22日に、USTR代表のスーザン・シュワブは、原加盟国4か国の代表と共に交渉の立ち上げの声明を出し、アメリカは最初に追加された交渉国となった。
翌日の2008年9月23日に、オーストラリアは参加の検討を発表した。
なお、アメリカは、参加表明に先立ち日本、オーストラリアなど数カ国に一緒に参加することを外交ルートなどを通じ呼びかけたが、日本は、当時の経済産業大臣・二階俊博(自由民主党・公明党の連立政権)が参加に意欲をみせたものの、同協定が原則関税撤廃であることから国内の同意が取れないと判断し、参加を見送っている。
2009年11月14日に、アメリカは改めて表明を示し、その中で、大統領・バラク・オバマは初めてTPPに係合する意向を発表し、USTR代表のロン・カークは輸出拡大と雇用確保などのメリットを強く訴えている。
2010年3月14日に、ペルー貿易観光大臣のペレスは交渉参加を発表した。
拡大交渉会合の流れ
2010年3月の第1回の拡大交渉会合から、アメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルーの4か国が交渉国として拡大交渉会合に加わり、2010年10月の第3回から更にマレーシアが加わった。
2010年11月14日、2010年日本APECの最終日、原加盟国と交渉国の計9か国の政府首脳は米大統領バラク・オバマを議長とし、「2011年のAPECまでに妥結と結論を得ることを目標にしたい」との呼びかけに賛同した。
2011年11月12日、ホノルルでの2011年アメリカAPECの会合で、交渉は大枠合意に至り、米大統領バラク・オバマは今後1年間での最終妥結を目指すことを明らかにした。
2012年11月12日の会合からカナダとメキシコも正式な加盟交渉国に加わった。
大枠合意
2011年11月12日に拡大交渉は大枠合意に至り、輪郭が発表された。その中で、以下の5つが「重要な特徴」として挙げられている。
1.包括的な市場アクセス(関税その他の非関税障壁を撤廃)
2.地域全域にまたがる協定(TPP参加国間の生産とサプライチェーンの発展を促進)
3.分野横断的な貿易課題(TPPに以下を取り込みAPEC等での作業を発展させる)
   1.規制制度間の整合性:参加国間の貿易を継ぎ目のない効率的なものとする
   2.競争力及びビジネス円滑化:地域の経済統合と雇用を促進する
   3.中小企業:中小企業による国際的な取引の促進と貿易協定利用を支援
   4.開発:TPPの効果的な履行支援等により、参加国の経済発展上の優先課題が前進
4.新たな貿易課題:革新的分野の製品・サービスの貿易・投資を促進し、競争的なビジネス環境を確保
5.「生きている」協定:将来生じる貿易課題や新規参加国によって生じる新しい課題に対応するため、協定を適切に更新
同大枠合意に示される以上の交渉内容の詳細については、交渉参加国から公表されていない。
守秘義務合意
2011年11月29日、ニュージーランド外務貿易省のマーク•シンクレアTPP首席交渉官は、率直かつ生産的な交渉を促進するために、通常の交渉慣行に沿って、交渉文書、政府の提案、添付資料、交渉の内容に関連した電子メール、交渉場面で交換されるその他の情報を、発効後4年間 秘密にすることに合意したことをニュージーランド公式サイトに掲載した。TPPが成立しなかった場合は、交渉の最後の会合から4年間秘匿される。一方で、2011年10月3日、同首席交渉官は、ニュージーランド外務貿易省のウェンディ・ヒントンが、アナンド・グローバーの質問に対し、最終TPP文書は批准前の議会審査の時点で公的に利用可能になると2011年8月8日に回答したことをニュージーランド公式サイトに掲載した。
2012年1月27日に当時の総理大臣・野田佳彦はこれは通常の交渉の慣行に沿った扱いであるとした。
その後の流れ
2011年12月の第10回の拡大交渉会合の概要で、「『オブザーバー参加や交渉参加前の条文案の共有は認めない』との従来方針の再確認」と「『交渉会合中はこうした国との協議は行わない』ことで意見が一致した」となされている。
拡大交渉会合への参加手順
日本をはじめとした拡大交渉会合に参加していない国が、交渉国として拡大交渉会合に参加するには、現在の拡大交渉会合参加国9か国全ての承諾が必要である。なお、アメリカでは2-3か月の事前協議を経た上で、交渉開始の90日前に議会への伝達が必要とされている。
交渉参加後発国の追加条件
後れて交渉参加を表明したカナダとメキシコが、既に交渉を始めていた九カ国から「交渉を打ち切る権利は九カ国のみにある」、「既に現在の参加国間で合意した条文は原則として受け入れ、再交渉は要求できない」との追加条件を承諾した上で参加を認められていたと東京新聞は報じた(2013年3月)。
2013年3月8日、外務大臣の岸田文雄は、第183回国会の衆議院予算委員会にて、当事者であるメキシコやカナダ自身が自らの立場を明らかにしていない、日本はそうした条件の提示はされていないと答弁した。
2013年3月15日、総理大臣の安倍晋三は、メキシコとカナダに送付されたと報道されている念書は受け取っていないとしながらも、「遅れて参加した日本がそれをひっくり返すことが難しいのは、厳然たる事実」として「だからこそ、1日も早く交渉に参加しなければならない」とした内容を参加表明と同時に発表した。
2013年4月18日、北海道新聞は、社説で、条件提示を政府が最近になってようやく認めたとしている。 
●合意条項 

 

投資家対国家紛争解決(ISD)条項
2013年11月6日、「紛争解決」制度を導入することに合意した。この制度は、不利益を被った企業が国を訴えるルール。但し、訴訟の乱発を防ぐことが条件。日本経済新聞は、「海外進出する日本企業には追い風になりそう」と書いた。
ラチェット(Ratchet)条項
2013年11月23日、ラチェット条項の導入に合意した。この条項は、国が自国の産業を守る為、外資を規制する等が、出来なくなる仕組み。原則、法律で再び規制すること等を禁止する。日本経済新聞は、「日本企業が安心して進出できる環境が整いそう」と報じた。
TPPの為替操作防止条項
2015年11月6日、米財務長官は、TPPに異例の為替関連条項が盛り込まれたことに関して発言。「貿易相手国が為替操作に従事することを防ぐ新たな手段が米政府に与えられる」として、このTPP為替条項を歓迎した。
また、為替の介入についての報道で、「一部の国は輸出競争力を高めるため自国の通貨を堂々と落としたりもする。 日本のアベノミクスも例外でない。為替市場への介入は程度の差があるだけだ。このため為替レート政策を含むことになればTPP妥結が難しいという観測が多かった。しかしこの部分に対する米国の立場は強硬であり、結局、相当部分が貫徹された。」と、米国側の意見が通りTPPに為替操作防止条項が入ったと報道した。 
●各国の動向 

 

シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国は原加盟国である。
アメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルーは参加を表明し、拡大交渉会合に第1回から参加している。
次いで、マレーシア、コロンビア、カナダも参加の意向を明らかにし、その内、マレーシアが交渉国として認められた。ただし、マレーシアでは、厚生大臣のリョウ・チョンライが米国の主張する医薬品の特許権保護期間算定方法に疑義を呈し、国益を大きく損なう、としてTPPには参加すべきでないと主張している。
マレーシア
特許有効期間が現地で発売された時期から計算されるアメリカ案に対して、2012年8月6日、マレーシアのリュウ・ティオンライ厚生相は、ジェネリック医薬品の取得が遅れることを危惧し、「新薬の特許に関する米国の主張はマレーシアにマイナス」と懸念を表明している。
カナダ
酪農などの市場開放が十分でないとの理由で2010年10月に一旦、参加を断られた。その後、2012年11月に拡大交渉に参加したが、カナダのファスト国際貿易相は、中国向け輸出拡大を目指す経済交流に参加する為、2014年5月19日の閣僚会合に欠席。首席交渉官が代理を務めた。
The Council of Canadiansは、TPPによって大規模製薬会社が薬価をつり上げることを狙っていると論じる。またイーライリリー・アンド・カンパニーの例を出し、TPPに含まれるISDSの下で大規模製薬企業が国家を相手取り訴訟をおこすだろうと述べる。TPPはカナダの公的保健制度を弱め、製薬会社の知的財産権を強め、薬剤市場での独占を日常的にするだろう。また、TPPは製薬会社の研究開発の不透明性を高める。薬剤登録に関して、政府が製薬会社に対して研究開発のコストについての情報を提示させるような情報公開をTPPは阻害するのだという。
メキシコ
2012年11月に拡大交渉に参加した。
韓国
参加に前向きな姿勢を見せていたが、その後TPPへの参加が自国に不利に働くとみてアメリカとの二国間交渉に切り替え、米韓FTAで合意、妥結に至っている。2011年11月16日には、韓国外交通商省が記者会見で、TPPは国益にならない、として正式に不参加の旨を明らかにした。2013年11月29日、ヒョン・オソク経済副首相兼企画財政相が「(韓国政府が)まず、TPP交渉に参加することへの関心を示し、交渉参加各国との2カ国間協議を行う必要がある」と述べ、日本などTPP交渉参加国と個別協議を行う方針を表明。これに対して2014年3月13日、米政府高官は、米韓自由貿易協定の問題が解決されるまで、韓国がTPP交渉に参加することは歓迎されないとの見方を示した。
中国
関心を示し情報収集などを行っていたが、その後の判断で参加しないことを明らかにした。
ベトナム
交渉国として交渉会合に参加しているものの、今後、正規の交渉メンバーとして臨む覚悟があるかどうかについて疑問視する見方もある。しかし、マイケル・フロマン米通商代表はTPPで最も利益を受ける国であると重視しており、甘利明TPP担当相によれば交渉でも主導的な役割を果たしており、世界銀行によればTPPで最も恩恵を受ける国である。2014年5月19日の閣僚会合にブー・フイ・ホアン商工相は欠席し、首席交渉官が代理に出席した。
ブルネイ
リム第2外務貿易相は、2014年5月19日の閣僚会合には欠席し、首席交渉官が代理として交渉に参加した。
チリ
新政権が発足したばかりであった為、副大臣として交渉の責任者が、2014年5月19日の閣僚会合に参加した。
タイ
2012年11月18日に、首相のインラックは米大統領バラク・オバマとの会談後の会見でTPPへの参加を表明していた。
インドネシア
「自由化品目の割合が非常に高く、対象になった品目の関税撤廃を一気に進める」としてTPPに不参加の意向を明らかにしている。2015年参加の意向を表明したことがある。
台湾
参加の意向を表明したことがある。
フィリピン
参加の意向を表明したことがある。
コロンビア
参加の意向を表明したことがある。
ニュージーランド
原加盟国のニュージーランド政府は「TPPにそれほどメリットがあるとは考えていない」とアメリカの外交文書が伝えていたことがウィキリークスに暴露されている。その一方で表向きニュージーランド政府は、TPPは外交の主要な柱とすると国内の説得も行っている。また同じくウィキリークスにおいて、ニュージーランドTPP主席交渉官マーク・シンクレアの「TPPが将来のアジア太平洋の通商統合に向けた基盤である。もし、当初のTPP交渉8か国でゴールド・スタンダード(絶対標準)に合意できれば、それは日本、韓国その他の国に対して強い圧力となり、それは長期的な実質的利益となる。」とした発言が米外交公電経由で流出した。当時の加盟予定国グループ内での貿易をお互いに有利にすることで、その外にある非加盟の日本、韓国その他の国の経済的優位性を奪えるという意味である。その後取材に応じた同氏は、真偽の確認を拒み、TPPの広域性の強調を繰り返した。2016年1月下旬、ウェリントンでは何千もの人が反TPP集会に参加した。ニュージーランドの総督邸前に集まったおよそ500人が、ニュージーランドの総督はTPPを法的拘束力付きの国民投票にかけるべきだとし署名活動を行った。
日本
自由民主党は、第46回衆議院議員総選挙選挙公約として、聖域なき関税撤廃を前提にする限りはTPPの交渉参加に反対すると明言していた。ある議員は明確に交渉参加反対を宣言し当選し、ある支部では「嘘つかない・TPP断固反対・ぶれない・日本を耕す自民党」と書かれたポスターを製作していた。
[ 自民党 / TPPについての考え方の変容 ]
野党時代
「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、TPP交渉参加に反対します。
○「経済連携に関する特別委員会」を設置し、更なる情報開示と徹底審議を求めます。
本年11月のAPECを前に、わが党はTPP交渉参加について、政府の準備不足、情報不足、国民に対する説明不足を指摘し、拙速な交渉参加に反対の方針を決定しました。APEC後1ヶ月以上経った現在も、情報不足をはじめ状況はまったく改善されていないままです。従って現段階においても、我々の交渉参加反対のスタンスはまったく変わっていません。
特に、政府が正確な情報を出さないために、国民的議論が全く熟していないことは、世論調査の結果を見ても明らかです。国民の8割以上がTPPに関し政府の情報提供が不十分であると感じています。我々は、政府にTPP協議に関する更なる情報開示を求め、経済連携問題の徹底した審議を進めるため、国会に「経済連携に関する特別委員会(仮称)」を設置すべく働きかけます。
○アジア太平洋地域における経済連携には、様々な進め方があります。
経済連携交渉においては、各分野において「何を取り、何を守るのか」の検討が重要です。この点、TPPにおいて「例外なき関税の撤廃」を約束させられて交渉に入るなど論外であり、たとえすべての品目が交渉のテーブルに載るとしても、国益の観点から、農業分野をはじめきちんと例外項目を取るという方針を定めない限り、交渉に参加すべきではありません。
将来目標としての「アジア太平洋自由貿易圏」の構築については、その必要性を関係各国、国内各層と共有していくが、そこに至る過程のアジア太平洋地域における経済連携については様々なオプション・進め方が考えられます。例えば、経済連携協定の経済効果という点ではTPP(10年間で2.7兆円)よりASEAN+3/+6(同5.2〜5.5兆円)の方がはるかに大きく、例外品目の取り扱い等のハードルもASEAN+3/+6の方が低い。山登りの懸賞にたとえて、「富士山に登ったら550万円、エベレストに登ったら270万円、どちらに登りますか」と聞いたら答えは明らかだと思います。
登山はロマンかも知れませんが、経済連携交渉は国益をかけて、わが国の成長、発展に向けて推進すべきです。自民党は、今後、日本のあるべき経済連携戦略についても検討を進めます。
○TPP交渉参加の判断基準を明確にしています。
TPPについては、国民の理解を得る為の情報が決定的に不足しており、政府の改善努力も全く見られません。従って、国益を踏まえて、何を取り、何を守るかの国民的議論が未だ深まっていない状況です。
昨年11月のAPEC前に、野田総理は「(交渉参加の為の)関係各国との協議を開始する」と表明しましたが、これは国内的事情によって、敢えて曖昧な表現にしたものであり、外交の常識では、事前協議の段階から事実上の交渉は始まっていると言わざるを得ません。
アジア太平洋地域における経済連携については、様々なオプション・進め方(例えば、ASEAN+3/+6など)が考えられ、わが党もその構築の必要性については、関係各国、国内各層と共有してきたところです。更に、日・EUや日・中・韓の経済連携も着実に進めていくことが重要です。
また、アジアが今後も世界の成長センターとしての地位を維持していく為に、米国との経済的な繋がりを一層強くしていく必要があることは言うまでもありません。わが国は、米国も含めたアジア太平洋全体の経済発展に主体的に取り組んでいくべきです。
こうしたことを踏まえ、わが党は、TPP交渉参加の判断基準を明確に示します。
   ○TPP交渉参加の判断基準
   1. 政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。
   2. 自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。
   3. 国民皆保険制度を守る。
   4. 食の安全安心の基準を守る。
   5. 国の主権を損なうようなISD条項(注)は合意しない。
   6. 政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。
(注)ISD条項...外国政府の差別的な政策により何らかの不利益が生じた場合、投資家である当該企業が相手国政府に対し、差別によって受けた損害について賠償を求める権利を与えるための条項。これが濫用されて、政府・地方自治体が定める社会保障・食品安全・環境保護などの法令に対し、訴訟が起こされる懸念があります。
与党に復帰
2016年4月7日の衆院TPP特別委で、民進党から
「かつては断固反対と言っていたTPPに活路を見出そうとしているのではないか」
と質問されて、安倍総裁は
「私自身は、TPP断固反対と言ったことは一回も、ただの一回もございませんから。まるで私が言ったかの如くのですね、発言は慎んでいただきたい」
(安倍首相は自民党総裁として2012年の衆議院選挙を戦いましたが、この際の自民党総裁は同年9月26日に就任した安倍晋三議員でした。この衆院選の際のマニフェストには「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉参加に反対します。」と明記されており、ポスターには「TPPへの交渉参加に反対!」「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。」と明記されています。)
首相就任後の2013年2月23日の国内外の報道陣に向けた記者会見で、安倍首相はこのように発言しています。
「私は選挙を通じて「聖域なき関税撤廃」を前提とするTPPには参加しないと国民の皆様にお約束をし、そして今回のオバマ大統領との会談により、TPPでは「聖域なき関税撤廃」が前提ではないことが明確になりました。」
「今般の日米首脳会談については、TPPの意義やそれぞれの国内事情について時間をかけてじっくりと議論をいたしました。私からは先の衆院議員選挙で聖域なき関税撤廃を前提とする限りTPP交渉に、交渉参加に反対するという公約を掲げ、また自民党はそれ以外にも5つの判断基準を示し政権に復帰をした、そのことを大統領に説明をいたしました。」
アメリカ合衆国
アメリカは2000年以降、「Asia only」(アジアのみ)の経済ブロックを懸念していたが、TPPの拡大を進めることは「アメリカ締め出し防止」を推進するための機会にもなる。
2006年のAPEC首脳会議から本格化したアジア太平洋自由貿易圏 (FTAAP) 構想は、東アジア地域での経済統合にアメリカが関与する機会となる。2010年のAPEC首脳会議で、FTAAPの実現に向けた具体的な手段の基礎として、ASEAN+3、ASEAN+6、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が挙げられている。この3つの地域的な取り組みの中で、アメリカが直接関与できる取り組みはTPPのみである。アメリカは2008年にTPPの#拡大交渉を持ちかけ、最初に追加された交渉国となった。
サブプライム住宅ローン危機に端を発し2008年のリーマン・ショックで深刻な不況に陥ったアメリカは、2010年1月、5年間で海外輸出を二倍に増やすとする輸出倍増計画を立ち上げ、一般教書演説で大統領バラク・オバマは公にした。輸出促進関係閣僚会議がこの計画の為に纏めた報告書では、「アメリカの経済的利益の増進を図る手段と輸出拡大のツールを生み出す」として、TPPの実現を明記しているとしている。
また、同大統領は、APECに出席する為、来日した折、横浜市において輸出倍増計画の大部分はアジアにあり、アメリカにとって大きな機会、とし、TPPはその計画の一環であると演説した。そのうえで国外に10億ドル輸出を増やすたびに、国内に5000人の職が維持される、と発言した。また日本でのスピーチで、「巨額の貿易黒字のある国は輸出への不健全な依存を止め、内需拡大策を採るべきだ。いかなる国もアメリカに輸出さえすれば経済的に繁栄できると考えるべきではない」と発言したとしている。。
○TPP推進のためのアメリカ企業連合
シティグループ、AT&T、ベクテル、キャタピラー、ボーイング、コカ・コーラ、フェデックス、ヒューレット・パッカード、IBM、インテル、マイクロソフト、オラクル、ファイザー、ジョンソン・エンド・ジョンソン、先進医療技術協会、生命保険会社協議会、ウォルマート、タイム・ワーナー、カーギル、モンサント、アメリカ大豆協会、トウモロコシ精製協会、全米豚肉生産者協議会等が参加する「TPP推進のための米国企業連合」は米国ホワイトハウスに対して、「アメリカの対外投資にとっての予測可能かつ非差別的な法的環境、強力な投資保護、市場アクセス条項、紛争解決手段を組み込むべき」等の市場アクセス、知的財産、投資、更なる貿易の簡素化、規制の調和、公正な競争の様々な要求を行なった。
○例外要求事項
2011年3月28日に始まった第6回交渉会合で、アメリカは砂糖などを関税撤廃の例外とするよう求めている模様、と読売新聞がシンガポールからの記者の記事として報じている。これはアメリカ、オーストラリア間のFTAでは、砂糖など108品目を関税撤廃の例外としており、TPPでも同じ扱いを求める、との見方による。
しかし、第6回交渉会合を終えた2011年4月1日、ニュージーランドのシンクレア首席交渉官は「関税撤廃の例外は認めない」と改めて強調している。
2012年2月から3月にかけて、日本政府は各国との協議結果を公表した。それによると、例外の扱いに関しては、各国での認識の相違がみられる発言がある。米国との協議結果資料においては、「日本側より、センシティブ品目の取扱いについて関税撤廃からの除外があり得るのか質問したのに対し、米側より、TPPは包括的な協定を目指している旨回答があった」と記載されている。
また、米国以外の国の発言として、「センシティブ品目の扱いは合意しておらず、最終的には交渉次第」、「全品目の関税撤廃が原則。他方、全品目をテーブルにのせることは品目の関税撤廃と同義ではない」との発言や、「90-95%を即時撤廃し、残る関税についても7年以内に段階的に撤廃すべしとの考えを支持している国が多数ある」、といった発言があった旨、記載されている。
○米国内での反対の動き
2012年2月2日、ゼネラルモーターズ、フォード・モーター、クライスラーのアメリカ自動車大手3社で組織する米自動車貿易政策評議会 ( (American Automotive Policy Council) , AAPC) のマット・ブラント (Matt Blunt) 会長は、TPP交渉への日本の参加を拒否するよう、大統領バラク・オバマに求めていることを明らかにし、「TPP交渉に日本が参加すれば、交渉が数年にわたって長引き、おそらく実を結ぶことはないだろう」と語った。なお、これはUSTRが1月に意見を公募した結果でもある。
2013年10月1日、ローリー・ワラックは次のように伝えた(要旨)。
   ○米国では連邦議会がTPP草案文面を見ることが許された。
   ○そこで議員たちの間では次に掲げる4点が懸念されている。
    1.医薬品と関係する項目が大手製薬会社に有利
    2.著作権がweb上の言論規制に利用される
    3.食料安全基準/表示
    4.米国ですら自由に金融政策をとれない
アメリカン大学のロースクールは、米韓FTAや偽造品の取引の防止に関する協定 (ACTA) の規定を超えた知的所有権強化を懸念し、USTR代表(ロン・カーク)宛に下院議員10名による開発途上国、特にベトナムでの公衆衛生(public health)や医薬品の利用を脅かす事態を憂慮する書簡が提出されている。
ワシントン州議会の民主党の議員らがワシントン州選出の上院・下院議員宛に手紙を書き、TPPの様々な問題点を指摘した 。その手紙の中で、製薬会社のための知的財産権の拡大による薬価高騰、法的拘束力無き環境・天然資源保護、航空宇宙産業の雇用へのダメージ、 基本的人権へのコミットメントが無いことや労働基準のコンプライアンス欠如などについて懸念を表明した。 USTRは「環境・健康その他に関係する規制には例外処置がある(よって守られる)」と主張している。だが過去のISDS特別法廷では、「政府側の義務」を(申し立てる側が)拡大解釈するのを防ぐ条項を特別法廷が無視してきた。ゆえにUSTRのいう例外処置は役に立たないだろう。そしてTPPはより多くの投資家にISDSを使わせることを可能にする。米国の自己決定権保持者は米国国民であり、外国の大企業ではない。ワシントン州議会議員らはワシントン州選出の上院・下院議員に対してTPPに反対するように呼びかけた。
2016年4月中旬、オックスファムや国境無き医師団を含めた50以上の団体が米国議会に書簡を出し、TPPに反対するよう請願した。
TPPは製薬企業に市場独占を許し新薬の価格設定にも関与する権限を強めるために、薬価が高騰する。バイオ医薬品については基本的に8年間の独占期間が与えられる。Federal Trade Commission(FTC)は、「企業のイノベーションのインセンティブとなりコストの回収にもなるように、バイオ医薬品については独占期間を設けないことが必要である」と結論づけているにもかかわらずである。
薬価を下げる効果的な方法は薬剤市場にジェネリック医薬品を流通させることである。米国ではジェネリック医薬品によって医療コストを(過去10年間で)1.5兆ドル削減することが出来ている。またジェネリック医薬品はHIV流行への対応策としての側面も持っている。
だがTPPはジェネリック医薬品の販売も制限する。薬価高騰の結果、患者が救命のための薬剤を使用することがより難しくなる。さらには製薬会社がISDSを使って政府を訴えて多額の賠償金を請求する場合もあるだろう。既にイーライリリー・アンド・カンパニーがNAFTAのISDSを行使し、2つの薬剤特許の無効化を不服としてカナダ政府を訴えて5億ドルの請求をしている。
オックスファムらの団体は、TPPが米国国内の保健のための優先事項や世界的保健政策と相容れないものであることを指摘している。
エリザベス・ウォーレン上院議員は、米国のプログレッシブ派の議員らにTPPに反対するよう呼びかけている。 「TPP支持者は、TPPは国際貿易の枠組みを構築するにあたっての米国の存在感の大きさを示すものだと信じさせようとしています。しかし TPPは米国労働者を助けるような枠組みを構築するものではありません。TPPは巨大企業のための枠組みをつくるものなのです。」 
●経済への影響 

 

PECC(太平洋経済協力会議)試算
ブランダイス大学のピータ・ペトリ教授が担当したPECCの試算では、関税撤廃に加えて非関税措置の削減、サービス・投資の自由化の効果も含めて試算した。
TPP(12か国)に参加した場合は1050億ドル程度(10兆円程度,GDP比2.0%)、RCEPに参加した場合は960億ドル(GDP比1.8%)、FTAAPに参加した場合は2280億ドル(GDP比4.3%)の効果がそれぞれあるとしている。
しかしながらペトリらの試算には大きな問題がある。ペトリらが使うモデルでは、「労働者は失職してもすぐに別の職に就くものとする」という前提条件が置かれている。この前提が非現実的であることは言うまでもない。
ペトリらは労働生産性と実質賃金が同じ上昇率になるとする前提条件も用いているが、現実には1970年代後半から米国の労働分配率は低下している。
ペトリらは計算を容易にするために、政府の財政収支と経常収支が共に均衡しているとする条件も用いている。だが現実の世界では、景気悪化の局面では政府は財政赤字を拡大させて景気底上げを図るだろう。経常収支の均衡も現実的とは言えない。リーマンショック以前、米国と東アジアとの間で経常収支の大きな不均衡が生じていた。
ペトリらによる試算は2008年のリーマンショック以前のデータに基づいている。計算過程において経済成長、輸入額、政府債務額、設備投資等様々な数値・変数を関連付けるわけだが、危機以前のデータを用いればその関連付けが危機以前のトレンドを使ってなされることになる。結果として算出されるマクロ経済指標は危機以前の延長上のものでしかなく、金融危機以後の経済事情がうまく反映されない。
ペトリらはFDI(foreign direct investment)が大幅に増加するというシナリオで試算を出している。TPPの全インカムゲインの3分の1を生み出すというシナリオである。だが自由貿易協定とFDIとの間に有意な相関関係があるとする確固たる理論は無い。
タフツ大学の研究者による試算
タフツ大学の研究者らによる試算では、TPPに加盟した場合、2025年までに全ての加盟国でTPPが雇用へのダメージになると予測されている。雇用への打撃が最も軽度なのはニュージーランドの6000人分であり、そして最も深刻な打撃を受けるのは米国であり約45万人分の雇用が失われる。カナダでは約58000人分の雇用が失われる。日本でも約75000人分の職が失われることになると予測されている。
TPPに加盟した場合、2025年までに全ての加盟国で労働分配率が低下すると予測されている。カナダでは労働分配率が0.86パーセント、米国では1.31パーセントほど押し下げられると考えられている。低下の度合いはラテンアメリカ諸国が最も小さく0.54%、最も打撃が大きいのが日本の2.32%である。
TPPに加盟した場合、TPPがもたらす各国の経済成長率への影響にはばらつきがある。10年間で経済成長率をどれだけ底上げするかについては、ラテンアメリカ諸国や東南アジア諸国では10年間で2%以上の押し上げになる。(それでも単年度で見れば0.2から0.3%程度の押し上げでしかない。)
一方、日本や米国ではTPPは経済成長にマイナスに作用してしまうと予測されている。TPPに加盟してアジアの成長を取り込むという主張があるが、日本や米国は取り込むどころか取り込まれてしまうだろう。 
●重大な問題点 

 

ウィキリークスによる「TPPの草案」の一部公開
ウィキリークスがTPPの草案の一部を入手し書類を公開した。リークされたのは知的財産分野の条文草案で、TPP交渉会合の首席交渉官会合で配布された英文資料95ページとなっている。
文書では、以下のことが明らかになった。
   著作権侵害の非親告罪化
   ○いわゆるスリーストライクルール などを含む不正流通防止条項
   ○新薬に対する特許権の保護強化
   ○著作権保護期間を70年へ期間延長、著作権侵害に対する法定賠償金の導入
   など
著作権侵害について、著作権を持っている権利者が権利侵害を申請していない状態であっても、警察などの非権利者が法的措置を実行できる「著作権侵害の非親告罪化」をし、商業的動機なく実行される著作権侵害に対しても刑事制裁を確実に適用することが見込まれている。
また、この条項について文書では米国など10カ国が賛成にまわり、日本とベトナムは反対をしていた。その他ソフトウェアの改造などの「デジタルロックの開錠」を違法とすることや安価なジェネリック医薬品などの利用が制限される提案が米国からなされている。
○TPPの問題点の指摘
シドニー・モーニング・ヘラルドは公開文書から、以下の様に指摘した(2013年11月)。
「これは消費者の権利および利益を大きく度外視していると同時に、アメリカ政府と企業の利益を優先した内容であり、製薬企業、大手IT産業、ハリウッド、音楽業界(英語版)に有利な内容で、まるで大企業へのクリスマスプレゼントだ」
ウィキリークスの編集長ジュリアン・アサンジは、以下の様に指摘した(2013年11月)。
「TPPによる知的財産保護の枠組みは個人の自由と表現の自由を踏みにじるものだ。読む時、書くとき、出版する時、考える時、聴く時、踊る時、歌う時、発明する時、それらすべてがTPPの規制対象になる。『創作活動家』、『農家とその消費者』、また『病気を持つ人や今後病気になり得る人』がターゲットにされる」。
○指摘に対するコメント
USTR米通商代表部代表のマイケル・フロマンは「ウィキリークスの公開文書から結論を導き出さないように」と発言、公開文書の信憑性についてはコメントせず、「合意はまだ存在せず、引き続き交渉中で最終的な条文は存在しない」と述べた。
日本のTPP担当相甘利明はウィキリークスが公開した文書について、「公開文書の信憑性や事実関係はかなり疑わしいと述べた。
ISDS条項
ISDS条項は企業や投資家側に非常に大きな権力を与える。国家が課す法・規制が外国の企業の将来的損失となる場合、ISDS条項に従ってその企業はその国家を訴えることができ仲裁人は国家の国内法に従う必要がない。その法的争いの場も特別法廷であり公正ではない。国際法の人権についての専門家アルフレッド・デゼイヤスはISDS条項と特別法廷に関して投資家が政府を訴えられるが政府が投資家を訴えられないことは不公正だと述べる。
コロンビア大学教授ジェフリー・サックスらがTPPに含まれるISDS条項を削除するべきと唱えている。TPPやTTIPに含まれるISDS条項はNAFTAに含まれるISDSをさらに拡大させたものになる。そのISDS条項は防衛・食品安全・薬品安全・環境保護・医療サービス・気候変動など米国政府の様々な政策に関心を持つ市民にとって大きな懸念事項になるとサックス教授らは述べる。
現存するISDSを使ってフィリップ・モリスがウルグアイ政府を訴えていることはよく知られている。
環境保護目的のための法・規制が石油・ガス関連企業の将来的損失になるとみれば、それら企業が政府相手に法的措置をとり大きな賠償金を得る可能性もある。すでに石油・ガス関連会社Lone Pine Resources Inc.はNAFTAに含まれるISDS類似条項を使ってカナダ政府を訴えている。ケベック州がセントローレンス川下での水圧破砕法を止めるための法案を通したことが企業側の利益を損ねるとしたためである。
2015年11月上旬、バラック・オバマ政権はトランスカナダ(カナダの企業)による米国とカナダを連結する石油パイプライン建造の申し出を拒否した。そのパイプライン建造は米国の国益にならないことと気候変動への取り組みに悪影響がでることが理由であった。しかしながらその2か月後トランスカナダはオバマ政権の決定を不服とし、NAFTA11条のISDSを以って米国政府を訴えた。そしてパイプライン建造計画中止にかかる損失と将来的な収益減の補償として150億ドルもの金額を米国政府に要求した。これといくらか類似するケースで企業側が勝利していることも無視できない。 仮に米国政府がトランスカナダに法的勝利したとしてもそれはNAFTAの制度の下であり、TPPの制度において米国政府が訴訟を回避するために何百万ドルを費やす恐れがある。 環境保全への動きにも悪影響が出るだろう。
底辺への競争
バーニー・サンダース上院議員はNAFTAなど過去に米国が締結した自由貿易協定の結果おこったことを分析し、TPPに強く反対する。TPPに加盟すればベトナムやマレーシアなど労働法が国際基準から大きく離れた国々と米国が競争する事態となる。もし競争となれば、企業側は低賃金・長時間労働など劣悪な労働環境で労働者を働かせて搾取できるようなそれらの国々に生産拠点を移すだろう。雇用がオフショアされない場合では、それらの国々と競争するために企業が人件費などを削らざるをえなくなる。結果として賃金が低下していく。それらの国々と競争することは自由貿易ではなく底辺への競争であるとサンダースは述べる。
サンダー・レヴィン下院議員は「ベトナムの法は国際的労働法基準とのコンプライアンスからはずれている。もし独立した労働組合をつくろうとすれば囚人となってしまう。」と指摘。対するバラック・オバマはTPPによってアジア諸国の労働者の労働環境が良くなるとし、ベトナムの労働者が独立した労働組合を結成できるようになると主張した。だが2015年5月時点でさえベトナム労働法と国際労働法基準には大きな隔たりがある。TPP発効初日から突然ベトナム労働法が修正されて国際基準にまで引き上がるとは考えにくい。レヴィンは、ベトナム政府やマレーシア政府がそれらの労働法を国際基準まで引き上げるという根拠は無いと述べる。
エリザベス・ウォーレン上院議員は2015年5月にレポートを発表しTPPの問題点を指摘した。そのレポートによれば米国が過去に締結した自由貿易協定には、労働法について協定の内容と現実に大きな隔たりがあった。ペルーやコロンビアなどと結んだ協定では、労働組合への暴力を減らすためにバラック・オバマが2011年にコロンビアとアクションプランを採用した。だが現実はその4年後に約100名もの労働組合員が殺され約1300人もの組合員が死の脅迫をうけていた。
外国人労働者の受け入れを促進
カナダのAFLによれば、TPPによって経営者側が際限なき数の外国人労働者をカナダに連れてくることができるようになり、経営者側がカナダ人を雇いにくくなるという。カナダの労働市場が変えられてしまい、下級労働者を搾取するような流れになると考えられている。 
●分析 

 

ハフィントン・ポストではDean Bakerの見解、実質的にはTPPは大企業の利権を増幅させることがその目的であり、自由貿易とは関係がない、を報じている。
ノーベル経済学賞受賞者ジョセフ・スティグリッツによれば、TPPは最悪の貿易協定であるという。TPPは環境保護のための規制、保健、安全性のための規制、マクロ経済に影響を与える金融部門の規制などに大きな制限をかけるものである。それらの規制がTPPの条項に違反すると解釈されれば海外の投資家らが政府を訴えることができ、裁判は私的な特別法廷で行われる。過去の判例からもわかるようにそのような特別法廷では、海外投資家が公正で正当な扱いを受けるべきだとする要求を、政府による規制が不当であるという根拠として解釈されていた。たとえそれらの規制が正当性のあるものであり、新たに発見された害から市民を守るための規制だったとしてもである。
6000ページをこえる協定の内容も複雑であり、政府を相手取って温室効果ガスの規制までもが訴訟の対象となり、その他の非常に幅広い領域において訴訟の対象になる可能性が依然として残っている。 さらには内国民待遇条項によって、大企業が最上級の扱いを受けられるホスト国での扱いと同じ扱いを要求でき、これは底辺への競争につながる。米国大統領バラク・オバマの約束したこととは正反対のことが起こるのである。TPPは21世紀の貿易ルール作りを主導する国が米国なのかそれとも中華人民共和国なのかを決定するものだとオバマは繰り返し述べていたが、本来は透明性を保ちつつ皆の意見を聞きながら協調してルールを作っていくべきだろう。しかし現実は米国の大企業によってそれらのルール作りがなされているのである。これは民主主義的原則を重んじる人間にとっては許容できないものである。
ノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマンによれば、TPPによって多国籍企業が主権国家を訴え、その裁判が部分的に民営化された司法団体によって裁かれるようなシステムが作られてしまうのだという。 TPPに含まれるISDS条項によって大企業が政府を訴えることが出来、その仲裁は特別法廷の場でなされる。 薬の特許や映画のコピーライトといった知的財産権も強化され、顧客の出費は上昇する。薬価は上昇し人々が薬剤にアクセスできなくなることが懸念される。
ゴールドマン・サックスといった巨大銀行がISDS条項を含んだTPPを推進しているのは、それを使って彼らにとって不都合な金融市場の規制を無効化することが可能になるからである。 
 
 
 
 
 
TPP協定による日本農業への影響

 

政府はTPPを「21世紀型のルールの構築」としているが、多くの農産物の関税撤廃に合意しており、日本農業にとって非常に厳しい合意結果であり、冷静な分析が必要である。政府は昨年11月に「総合的なTPP関連政策大綱」を決定し、農林水産業に関しては「攻めの農林水産業への転換」「経営安定・安定供給のための備え」を行うとしているが、農業者の不安、懸念を解消するには至っていない。昨年末に政府が公表した農林水産業への影響試算も含めて、日本農業にどんな影響があるのか、農林中金総研の清水徹朗部長に分析してもらった。 (2016/2/4) 
●TPPの背景と交渉経緯 
最初に、TPPの背景と交渉経緯を再確認しておきたい。
戦後の世界(主に西側先進国)の貿易秩序はGATTのもとで運営されてきたが、GATTは戦前の経済ブロック化への反省から、特定の国・地域を差別的に扱わないという「最恵国待遇」を基本原則としており、FTA、関税同盟などの地域的枠組みは限定的に認めているのみであった。日本もGATT加盟(1955年)以降、この原則に従って自由貿易協定は締結せず、90年代前半に進んだEU統合深化(マーストリヒト条約)やNAFTA結成などの世界の地域主義的な動きを批判・牽制し、89年に発足したAPECはFTAや関税同盟ではなく「開かれた地域協力」だと主張してきた。
しかし、ソ連崩壊以降、EUが中東欧諸国とFTAを締結するとともにメキシコともFTAを締結し、WTOに加盟したばかりの中国がASEANとのFTA締結の方針を打ち出すと、日本もそれまでの方針を転換し、2000年頃からFTAを推進するようになった。その結果、現在までにアジア諸国を中心に15の国・地域とFTAを締結した。
一方、米国は、NAFTA締結直後に中南米も含めたFTAA(米州自由貿易圏)を提案し、一旦は合意したものの、その後南米で反米左派政権が多く誕生してFTAA構想は空中分解した。また、WTOドーハラウンドで投資、競争、政府調達等を交渉議題に乗せようとしたが、途上国の反発を受けて挫折した。その後、米国は成長するアジアを取り込もうとアジア諸国とのFTA交渉を開始したが、韓国とは締結に至ったものの他の国とは成功せず、APEC全体のFTA(FTAAP)の提案も他の国の賛同を得られなかった。
こうしたなかで米国が次に打ち出してきたのが、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイという4か国のFTA(06年発効)を拡大したTPPであり、10年4月に交渉が開始された。交渉開始と同時に日本にも参加の打診があったと考えられ、菅首相が交渉参加の意向を表明したが、多くの批判・懸念があり、横浜で開かれたAPEC首脳会議(同年11月)では参加表明はできなかった。翌11年3月に東日本大震災が発生したためTPP論議は一時中断したが、同年11月に野田首相はTPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることを表明した。
さらに、第2次安倍政権発足(12年12月)直後の13年3月に、日本はTPP交渉への参加を表明し、米国の手続きを経て同年7月より交渉に参加した。そして、15年6月の米国議会でのTPA法成立を受けて、10月5日に大筋合意に至った。
(注1) 新しいTPA法は、一般には「貿易促進権限法」と訳されているが、「Trade Priorities and Accountability Act」であり、議会が貿易交渉権限を大統領に与えてはいるものの議会に強い権限を残している。 
●今回の合意結果 

 

大筋合意の直後に甘利大臣(TPP交渉担当)の会見が行われ、その後農産物に関する合意内容が数回に分けて発表された。TPPは、政府が「21世紀型の新たなルールの構築」というように交渉分野は知的財産権、投資、金融、政府調達、競争政策など21分野に及び、TPP協定は全30章の膨大なもので、農産物関税はそのうちの1章(物品貿易)の一部に過ぎない。
農産物については、「原則関税撤廃」という当初の懸念からすれば、米、麦などは国家貿易を維持しそれなりに例外を確保したという見方もできるが、多くの品目の関税撤廃を約束し、日本農業にとって極めて厳しい合意内容になった。
農産物に関する合意結果を整理すると、以下の通りである。
高い関税撤廃率
日本の関税撤廃率は95.1%であり、うち工業品は100%、農林水産物は81.0%である。日本のこれまでのFTAにおける関税撤廃率は86〜88%で、うち農林水産物の撤廃率は46〜59%であったが、今回の合意はそれを大きく上回る撤廃率である。
また、交渉参加に当たって、衆参両院の農林水産委員会で「重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること、十年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと」との決議が行われたが、重要品目についても3割近い品目の関税撤廃に合意し、今後、国会決議との整合性が問われることになろう。
主要品目の合意内容
米 / 米は、これまでの国家貿易とミニマムアクセス(MA)の枠組みは維持したが、現行のMA枠(77万t)とは別に米国、豪州に国別輸入枠(当初5万6000t、13年目7万8400t)を新設する。また、既往のMAの中に米国、豪州に中粒種・加工用限定の国別枠(6万t)を設定する。さらに、米粉調製品の関税について、一定の輸入実績のある品目については5〜20%削減、輸入量が少ないか関税率が低い品目については撤廃する。
小麦・大麦 / 小麦・大麦とも現行の国家貿易の枠組みは維持するが、マークアップ(政府が輸入の際に徴収している差益)を9年目までに45%削減する。小麦は、米国、カナダ、豪州にSBS方式の国別輸入枠(当初19.2万t→7年目25.3万t)を設定する。また、小麦粉調製品も国別のTPP枠(当初4万t→6年目6万t)を設定し枠内関税を撤廃する。さらに、ビスケット、クッキーの関税を撤廃し、マカロニ、スパゲティの関税率を60%削減する。大麦は、TPP枠(当初2.5万t→9年目6.5万t)を設定し、麦芽は現行の関税割当数量の範囲内で米国、豪州、カナダに対して国別枠(当初18.9万t→11年目20.1万t)を設定する。
牛肉 / 現在の関税率は38.5%であるが、これを初年度27.5%に引き下げ、16年かけて9%まで削減するとともに、輸入が急増した場合のセーフガード(発動基準は当初59万t、16年目73.8万t)を設ける。また、牛タン、コンビーフ等の関税を撤廃する。
豚肉 / 差額関税の適用範囲を縮小し、従量税を現行の482円/kgから当初125円/kg、10年目に50円/kgに引き下げる。また、輸入価格が基準価格を上回った場合に適用される従価税(現行4.3%)を初年度2.2%に引き下げ、10年後に撤廃する。さらに、ハム・ベーコン(8.5%)、ソーセージ(10%)の関税を6〜11年後に撤廃する。
乳製品 / 特定乳製品(バター、脱脂粉乳)の国家貿易を維持するが、民間貿易のTPP枠(当初6万t、6年目7万t)を設定し、その枠内関税を削減する。また、ホエイの国別枠を設け、枠内関税を11年で撤廃し、枠外関税も21年目に撤廃する。プロセスチーズの関税は維持するが、ナチュラルチーズの一部(チェダー、ゴーダ)の関税を16年かけて撤廃し、フローズンヨーグルトや乳糖、カゼインの関税も撤廃する。TPP重要品目合意内容 乳製品
砂糖・でん粉 / 砂糖は、高濃度原料糖(98.5〜99.5%)を無税化して調整金を削減し、新商品開発用の試験輸入に対して無税・無調整金の輸入枠500tを設ける。また、加糖調製品、キャンディ、チョコレートについてTPP枠を設定し、関税率を削減する。でん粉は、既存の関税割当数量の範囲内でTPP枠を設定するとともに、特定のでん粉等(コーンスターチ、バレイショでん粉、イヌリン)について国別輸入枠を設定し、でん粉誘導体の関税を撤廃する。
その他の品目 / 小豆、いんげん、こんにゃくいも、パイナップル缶詰は関税割当が維持されるが、枠内関税は撤廃する。小豆、いんげんは枠外関税が維持されるものの、こんにゃくいも、パイナップル缶詰の枠外関税は削減される。また、鶏肉・鶏肉調製品の関税を6〜11年目に撤廃し、鶏卵の関税を6〜13年目に撤廃する。野菜・果実類はほとんどの関税を撤廃し、関税率が比較的高かったトマト加工品(16〜29.8%)、オレンジ(16%、32%)、りんご(17%)の関税も撤廃される。 
●TPPの影響 

 

TPP参加を巡る議論が起きるなかで、農林水産省は10年11月に、TPPによって関税が撤廃されると日本農業の生産額は4兆1000億円減少し、食料自給率は14%に低下するとの衝撃的な試算を発表した。
さらに、TPP交渉参加後の13年3月には、TPP参加12か国に限定した政府統一試算を発表し、関税撤廃による農業生産額の減少を2兆6600億円と推計した。今回のTPP合意は、重要品目について国家貿易の枠組みと二次関税を一定程度維持したため、この試算ほどの影響が出ることはないと考えられるが、これまで国内農業を守ってきた関税の多くが撤廃・削減されるため、輸入増大と価格低下によって日本農業に大きな影響を与えるであろう。
TPPの日本農業・食品市場への影響を整理すると、以下の通りである。
(1) 輸入増大と国内農業縮小
関税が撤廃・削減されるため、国産品に対する輸入品の競争力が高まり、輸入が増大して国内農業が縮小することが予想される。
(2) 農産物価格低下
輸入品価格が関税率の削減分だけ低くなるため、輸入品と競合する国産農産物の価格も低下する。ただし、価格低下の程度は輸入品と国産品の競合度に依存し、野菜・果実等の生鮮品では影響が軽微な品目もあろう。
(3) 農業者の意欲減退
農産物価格の低下によって農業経営が悪化し、農業者の高齢化と世代交代も相まって離農する農家が増大することが予想される。その一方で、ブランド化、差別化、コスト削減に成功した経営体のなかには、規模拡大をさらに進めるものも出てくるであろう。
(4) 食品市場の競争激化と業界再編
日本の食品市場は人口が減少しているため全体として縮小傾向にあり、そのなかで輸入が増大すると競争が激しくなり、食品業界の再編が進展する可能性がある。
(5) 食品企業のグローバル展開の進展
国内需要が縮小するなかで、海外市場の獲得を目指した食品企業のグローバル展開が加速し、M&Aや資本参加などの動きが増大するであろう。その一方で、日本市場に対する外国資本の参入も増加することが予想される。
(6) 食品安全基準、食品表示のルール変更
政府は、今回のTPP合意によって日本の食品安全基準や表示制度が変更させられることはないと説明しているが、これまで米国は「年次改革要望書」でたびたび日本の制度改革を求めてきており、今後もTPPに盛り込まれた「規制の整合性」の条項等に基づいてルール変更が求められる可能性がある。
(7) 限定的な農産物・食品輸出増大
TPPでは相手国の関税も撤廃されるため、日本の農産物・食品の輸出が増大する可能性が高まり、政府はこの点を特に強調し「攻めの農業」として輸出拡大を政策の柱に掲げている。しかし、日本の農林水産物の輸出先は香港、台湾、中国、韓国で過半を占めTPP参加国の割合は小さく、TPPによる輸出増大の効果は限定的である。また、輸出している「農産物」の7割近くは加工食品や産物であるため、輸出増大が日本農業に寄与する部分は小さい。 次に、TPPによる影響が大きいと考えられるいくつかの品目について、もう少し詳しくみると、以下の通りである。
米 / 米国、豪州に対して追加設定した輸入枠(13年目7.84万t)の米は、今後、主に外食産業で使われ、一部はスーパーの店頭に並ぶ可能性がある。政府は、この輸入枠設定が国内の米需給に影響を与えないようにするため政府備蓄米(現在100万t)の回転期間を5年から3年に短縮することにより対応するとしているが、その対策をとったとしても輸入米が国内の主食用米市場に出回ることの影響は無視できない。また、米粉調製品、米加工品の関税も撤廃・削減されるため、これらの輸入が増大して国内の米需給に影響を与えるであろう。
小麦・大麦 / 小麦・大麦の輸入の際に政府が課しているマークアップを45%削減するため、その分、製粉会社等が政府から買い入れる輸入小麦の価格が低下し、それに連動して国産小麦・大麦の価格も下落する。また、国内対策の財源が減少するため、国内生産を維持するためには一般会計から新たな財源を確保する必要がある。さらに、小麦粉調製品・加工品の関税が撤廃・削減されるため、これらの輸入が増大し国内の小麦粉需要が減少することが見込まれる。
牛肉 / 牛肉は、日米牛肉・オレンジ交渉の結果、91年より輸入自由化し、当初75%であった関税率はウルグアイラウンドによって現行の38.5%になった。TPPではこれが初年度に27.5%、16年目に9%に低下するため、輸入牛肉の価格が低下し輸入が増大することが見込まれる。特に、輸入牛肉と競合する乳雄、交雑種(F1)に対する影響が大きい。セーフガードが設けられたが、発動基準は現在の輸入量(14年52万t)に比べて高水準であり、また今後牛肉需要の大幅な増加が見込まれないことを考えるとセーフガードはほとんど機能しないと考えられる。また、牛肉価格が低下すると子牛価格が低下するため、子牛を供給している酪農の販売収入が減少し酪農経営を悪化させる。一方、近年日本の牛肉輸出が伸びており、TPPでは米国が日本からの牛肉輸入に無税枠(当初3000t、15年目6250t)を設定し、カナダ、メキシコが牛肉の関税を撤廃するため、日本からのこれらの国に対する牛肉輸出が増大する可能性がある。しかし、14年の牛肉輸出量は1400tで輸入量(52万t)の0.3%に過ぎず、牛肉輸出が関税削減による輸入増のマイナスを補うことにはならない。
(注2) 肉用の子牛の供給のうち約5割は酪農部門から供給されており(乳雄、F1、)、子牛の販売収入は酪農経営の販売収入全体の8%を占めている。
豚肉 / ウルグアイラウンドでは、輸入価格と基準価格の差額を税金として徴収する豚肉の「差額関税制度」が実質的に残ったが、現実の豚肉輸入では高級部位(ヒレ、ロース)と低級部位(ウデ、モモ等)を組み合わせて基準価格で輸入するコンビネーション輸入が一般的になっており、差額関税を払っている輸入業者はほとんどいない。TPPによって差額関税の適用範囲が狭まり従量税が大きく低下し、従価税(現在4.3%)も撤廃される。そのため、従量税を払っても低級部位を輸入する業者が出てくる可能性があり、また従価税の削減によって輸入豚肉の価格が低下する。また、ハム、ソーセージ、ベーコンの関税が撤廃されるため、これらの輸入が増大するであろう。
乳製品 / バター、脱脂粉乳については、これまでの国家貿易、二次関税は維持されるものの、民間貿易枠が設けられるため、国内需給がひっ迫した際に機動的な輸入が行われる可能性はあるが、関税率引下げによって輸入が恒常化する懸念もある。また、ホエイの関税が撤廃されるため、一部競合する脱脂粉乳の需給に影響を与える可能性がある。さらに、一部のチーズの関税が削減・撤廃され、そのほか多くの乳製品の関税が削減・撤廃されるため、牛乳全体の需給に影響を与える。
砂糖・でん粉 / 高糖度粗糖の無税化は既に日豪EPAで合意したことであるが、調整金の削減によって輸入粗糖の価格が低くなる。また、加糖調製品、チョコレート、キャンディなどの関税も削減・撤廃されるため、これらの輸入が増大して日本の砂糖需要全体が減少する。でん粉については、一部の品目について関税が撤廃・削減されるものの、その影響は限定的であろう。
オレンジ(みかん) / オレンジの関税が撤廃されるため、オレンジの輸入増加、価格低下が見込まれる。温州みかんはオレンジとは完全に代替的ではないが、オレンジの消費量が増大すればみかんの購入量や価格にも影響を与え、ぽんかん、夏みかんなど他のかんきつ類にも影響を与えるであろう。 
●今後の見通しと課題 

 

米国議会での承認が鍵
大筋合意の1か月後の15年11月5日に、米国オバマ大統領はTPP署名の意向を議会に通知し、同時に合意文書が公表された。米国では「90日ルール」によって署名が可能なのは議会に通知してから90日後であるため、TPPの署名式は2月4日の予定であり、その後、各国が批准手続きをとることになる。
TPPの発効条件は、(1)全ての加盟12か国が批准、(2)署名後2年間に12か国の批准ができなかった場合は、GDPの85%以上を占める6か国の批准、であるが、交渉参加12か国のGDPのうち米国が60.4%、日本が17.7%を占めるため、日米の2国が批准することがTPP発効の不可欠の条件となる。
米国では今後、国際貿易委員会による分析レポートが作成されることになっており、また関連法案も作成する必要があるため、議会審議が開始されるのは4月以降になると見られている。しかし、米国は今年(16年)11月に大統領選があり、有力大統領候補であるクリントン(民主党)やトランプ(共和党)をはじめ多くの議員がTPPに反対しており、米国議会が今年中にTPPを批准するのは難しい状況にある。そのため、米国のTPP批准は新大統領が就任する17年1月以降になる可能性が高く、その時点での議会の勢力分布や新大統領の意向によっては、米国がTPPの再交渉を求めてくることもあり得る。
日本でも今年7月に参議院選挙があり、政府・自民党はTPPをめぐる農業者や地方の不安、不満が選挙に及ぶことを懸念しており、日本の批准手続きは米国の動向を見ながら対応していくと考えられる。
農家の不安は解消せず
大筋合意を受け政府はTPP総合対策本部を設置し、15年11月25日に「総合的なTPP関連政策大綱」を取りまとめた。その主な柱は、(1)中堅・中小企業等の海外展開の支援、(2)経済再生・地方創生の実現、(3)農林水産業支援、(4)その他必要な支援(食の安全・安心、知的財産等)であり、これらはいずれもTPP交渉参加を巡って懸念されたことである。
農林水産業については、「攻めの農林水産業への転換(体質強化対策)」と「経営安定・安定供給のための備え(重要5品目関連)」の二本柱であり、「攻めの農林水産業への転換」に盛り込まれたのは競争力強化と輸出増大など「農林水産業・地域の活力創造プラン」の内容であり、「経営安定・安定供給のための備え」の内容は既往の制度の拡充が中心である。
この「政策大綱」は、TPPに対する農業者の不安・不満を緩和させるための緊急対策という面が強く、盛り込まれた対策は重要5品目が中心で野菜や果実などの対策はほとんど盛り込まれていないし、重要品目の対策も酪農対策は不十分である。また、これまで安倍政権で進めてきた「農業成長産業化」「輸出増大」が中心に据えられており、今回発表された政策の内容では農業者の不安を解消するものにはなっていない。政府は「政策目標を効果的、効率的に実現するという観点から、定量的な成果目標を設定し進捗管理を行うとともに、既存施策を含め不断の点検・見直しを行う」としているが、今後、農業生産を支えるためのより根本的で本格的な検討が必要になるであろう。
他のFTA交渉に影響
日本は、現在、TPP以外にEUとのEPAやRCEP(東アジア地域包括的経済連携協定、ASEAN+6の枠組み)、日中韓FTAの交渉も行っており、TPP合意を受けてこれらの他のFTA(EPA)の交渉が加速化する可能性がある。
日EU・EPAは、TPP参加表明とほぼ同時期の13年4月に交渉が開始され、これまで14回の交渉が行われている。TPPが発効すれば、デンマーク、オランダ、イタリアなど日本に豚肉、乳製品、パスタ、トマト加工品を輸出しているEU加盟国において、日本とのFTAの早期締結を望む声が強まるであろう。また、RCEPと日中韓FTAは、12年11月に交渉開始が宣言され、これまでRCEPは10回、日中韓FTAは9回交渉が行われたが、TPP合意はこれらの交渉にも影響を与えるであろう。
また、TPP合意を受け、タイ、インドネシア、フィリピン、韓国などTPP交渉に参加していないアジアの他の国もTPP参加に関心を示すなど、TPPが今後アジア太平洋地域の他の国にも広がっていく可能性がある。
国会で徹底した審議を
TPPは米国主導の交渉であり、過度の「秘密主義」であったため、「異常な契約」(ジェーン・ケルシー)、「亡国」(中野剛志)との批判を受け、このため合意は困難で、一時は交渉全体が漂流するとの見方があったが、粘り強い交渉の結果、今回合意に至った。
経済のグローバル化が進展するなかで、各国の制度・規制を調整する必要性は理解できるし、これまでもWTOで国際ルールの調整が進められてきた。TPPはWTO以上のルールを盛り込んでおり、政府はTPPを「21世紀型のルール」としているが、国民生活にも大きな影響を与える協定であるためTPPに対する国民理解の深化が不可欠である。
しかし、大筋合意後に発表された政府の説明文書は概略のみで、しかもその内容はかなり偏りのある説明になっている。また、合意文書の翻訳(一部)が行われたものの十分な分析・検討は行われていない。米国では国際貿易委員会による分析レポートの作成が義務付けられているし、TPA法の中には「議会との協議を条件とする」、「要請があればいかなる議員とも会合をもつ」、「機密扱いの資料を含む関係資料を提供する」、「米国法と矛盾するどの条項の適用も効力を持たない」という条項がある。これに比べると、日本では国民や国会議員に対する説明が不十分であり、国会審議も始まっていない段階で国内対策のみが先行している状況は問題である。
今年に入ってようやくTPPに関する国会審議が始まったが、TPPは日本の農業や経済、国民生活に対する影響を分析・評価し、批准しない、あるいは再交渉を求めることも含め十分な検討を行う必要があろう。
(注3) WTOにおいて関税以外の分野が重要になっており、ウルグアイランドにおいて、サービス貿易(GATS)、知的財産権(TRIPS)、投資(TRIM)に関する協定が成立した。  
●政府影響試算の問題点 

 

結論ありきの過小評価
政府は昨年(平成27年)12月24日にTPP協定の「農林水産物への生産額への影響について」を公表した。それによると、TPPによって農林水産物の生産額は1300億円〜2100億円減少し、うち農産物は878億円〜1516億円減少するとしている。これは農業生産額(2014年、8兆3639億円)の1〜2%程度であり、TPPの影響は限定的だということになる。政府は13年にはTPPの農業への影響額を2兆6600億円と試算していたのであり、今回の試算はそれに比べると非常に小さい。この試算は妥当なものであろうか?
試算の方法
試算の対象は関税率10%以上かつ国内生産額10億円以上の19品目、対象国は日本以外のTPP参加国11カ国であり、これは13年に行った試算と同じである。 
まず、生産量については、重要品目は国家貿易と枠内関税が維持され、体質強化対策による生産コストの低減・品質向上や経営安定対策などの国内対策をとるため、TPPによっても国内生産量は維持されると想定している。
一方、関税削減・撤廃に伴う輸入農産物価格低下によって国産農産物の価格も低下するとしている。その影響額を推計するため、品目ごとに「輸入品と競合する部分」と「競合しない部分」の2つに分け、「競合する部分」は関税削減相当分の価格が低下し、「競合しない部分」は競合する部分の価格低下率の2分の1の割合で価格が低下すると想定している。ただし、品目によっては品質向上や高付加価値化によってさらにその半分の価格低下を見込んでいる。
生産量は本当に減少しないか?
今回の合意では、確かに重要品目は国家貿易と枠内関税が維持されたものの、一部品目の関税を撤廃・削減し、重要品目以外はほんとんどの品目の関税を撤廃している。それにもかかわらず、生産コスト削減や品質向上、経営安定対策によって国内生産量は本当に維持できるであろうか?
関税が削減・撤廃されれば国産品に対して輸入品の価格競争力が増すため、輸入量が増え、その結果、国内生産が縮小するというのが常識的な考え方である。
もちろん努力すれば生産性や品質が向上して輸入品に対抗できる品目もあるかもしれないが、それは努力目標、政策目標であって影響分析ではない。この試算自体が、大きな影響が出るとして生産者に不安を与えないようにという指示のもと、結論ありきで役人が作成したものであり、現実にTPPが発効すれば輸入が増え国内生産量は減少する可能性が高い。
また、日本では人口減少によって食料需要の縮小が見込まれており、その中で国内生産量が維持されるということは、輸入が増えるどころか減ることになる。しかし、これはTPP合意そのものを否定することになりかねない。なぜなら米国やNZ、豪州は日本への輸出が増えるからTPPに合意したのであって、輸出が増えないということならこれらの国はTPPを批准しないであろう。
価格低下の試算は妥当か?
この試算では、生産量は維持されるものの、関税の削減・撤廃によって輸入品の価格が低下するため国産品の価格も低下するとしているが、その試算結果が妥当であるかを、主要品目について検討してみよう。
牛肉 / 牛肉の関税率が38.5%から9%に低下するため(29.5%の削減)、輸入価格は150円/kg低下するとしている。その結果、ホルスタイン種の価格が75円〜150円/kg(8〜17%)低下し、和牛・交雑種はホルスタイン種と品質格差があるため価格下落率は半分の4〜8%であるが、和牛・交雑種の価格が高いため93円〜187円/kgの価格下落を見込んでいる。牛肉全体では、牛肉生産減少額は311億円〜625億円で、生産額(5940億円)の5〜11%の減少率を見込んでいる。この牛肉の影響試算は「比較的まとも」で妥当な試算であると考えられるが、内蔵や加工品等の関税撤廃の影響が含まれていないことが問題である。
豚肉 / 豚肉は従量税が50円/kgになることから、これまでほとんどなかった従量税部分の輸入が1割程度になり、従来と同様の分岐点価格での輸入が9割になるとしている。その結果、関税引き下げによる輸入品の価格低下を43円/kgと推計し、銘柄豚以外はその半分の価格低下(22〜43円、4〜7%)、銘柄豚はさらにその半分の価格低下(13〜26円、2〜4%)を見込んでいる。豚肉の生産減少額は169億円〜322億円となり、これは生産額(6331億円)の3〜5%にあたる。しかし、ハム、ソーセージ、ベーコンの関税撤廃の影響は反映されていない。また、加工用豚肉は輸入品の割合が大きいものの3割程度は国産を使用しており、その分を輸入品が奪うことになれば国内の豚肉生産は減少するだろう。
牛乳乳製品 / 牛乳乳製品の輸入価格は関税削減によって生乳価格換算で7円/kg下がり、その影響で生クリーム等は4〜7円/kg(5〜9%)、バター・脱脂粉乳は4〜7円/kg(6〜10%)下がると見込んでいる。チーズは国産との抱き合わせ対象のチェダー・ゴーダチーズは30円/kg(57%)と大きく下がるが、それ以外は4〜7円/kg(8〜13%)の低下にとどまるとしている。その結果、全体で約198億円〜291億円の生産減少額であり、これは生乳生産額(6967億円)の3〜5%にあたる。この試算において、ホエイや練乳、アイスクリームなどが含まれているかどうかは不明である。また、脱脂粉乳・バターの輸入増によって脱脂粉乳を原料とする加工乳の価格が低下すれば、飲用乳の需要が落ちる可能性もあり、飲用乳価格の引き下げ圧力となるが、この試算では飲用乳への影響については一切考慮していない。
加工用トマト / 加工用トマトは、関税削減相当分の価格下落を17円/kgとしている。しかし、この試算ではトマトケチャップとトマトソースへの影響しか見ておらず、トマト加工品(原料で30万t程度)のうち0.7万t(2%)しかカバーしていない。つまり、ほとんどのトマト加工品には影響がないという試算になっている。しかし、例えば国産トマトジュースは輸入品とは差別化されているとはいえ、輸入品の価格低下の影響をある程度は受けると考えるべきだろう。
かんきつ類 / オレンジ(生果)の季節関税16円/kg、32円/kgが撤廃されるが、その影響を受けるのは極早生みかんと中晩柑の一部のみであるとし、極早生みかんは8〜16円/kg(3〜7%)下落し、中晩柑は12〜24円/kg(5〜10%)下落すると試算し、生産減少額は約21億円〜42億円としている。しかし、32%の関税が撤廃されれば、みかんからオレンジに需要がある程度シフトするであろうし、生産減少額がこの程度でとどまるとは考えられない。また、他の果実の関税撤廃の影響があるだろう。
りんご / りんご(生果)の輸入価格は35円/kg下落し、国産りんごの価格は18円〜35円/kg(6〜12%)下落するとしているが、7月出荷分(8000t)しか影響を受けないとし、生産減少額は1〜3億円と試算している。しかし、これも過小評価である。
鶏肉・鶏卵 / 鶏肉の輸入価格は23円/kg下落し、その結果、冷凍品は12円〜23円(3〜5%)、冷蔵品は6円〜12円(1〜3%)下落するとしている。しかし、この試算では業務用・加工用のみに影響があるとし家庭用には一切影響しないとしている。確かに国産品は輸入品と差別化されているが、関税撤廃で輸入品の価格が安くなれば輸入鶏肉が量販店の店頭に並ぶ可能性はある。また、業務・加工用が安くなれば唐揚げなど惣菜が安くなり、鶏肉としての購入が減ることも考えられる。鶏卵の輸入価格は16円/kg下落し、その影響で業務・加工用の一部が8〜16円/kg(4〜8%)、一部差別化できるものは4〜8円/kg(2〜4%)価格が下落すると試算している。しかし、この試算では輸入冷凍・乾燥液卵の使用は一部に限られるとしている。 
●政府試算の問題点 

 

政府試算の問題点を整理すると、以下の通りである。
(1) 生産量の減少を無視している
これは既に指摘した通りであり、「生産量維持」というのは、政策目標、努力目標を掲げたに過ぎない。
(2) 全品目をカバーしていない
試算の対象としている19品目の生産額の合計は6兆8000億円であり、1兆6000億円程度が対象からはずれている。そのほとんどは野菜(加工用トマトを除く)だと考えられるが、野菜の関税(3%程度)が撤廃され、カバーしていない品目の生産額が2%低下しても320億円減少することになる。
(3) 品質差を根拠に影響ゼロとしている品目が多い
みかん、りんご、鶏卵など、品質差を根拠に影響ゼロとしている部分を多くとっているが、何らかの影響があると考えるのが妥当であろう。
(4) 加工品の影響を軽視・無視している
ハム、ソーセージ、スパゲティや小麦粉調製品、加糖調製品など加工品の影響がほとんど考慮されていない。

こうした点をふまえると、TPP協定の農産物への影響は、実際には政府試算の2〜3倍に及ぶと考えられ、5000億円程度の生産額減少ということも十分ありうるだろう。また、TPPが発効すれば、生産者の意欲が減退する可能性があり、それを考慮すれば生産減少額はさらに大きくなる可能性がある。
また、今後、タイ、インドネシアなどがTPPに参加すれば影響はさらに広がるし、RCEP、日中韓FTA、日EUFTAが発効すれば関税削減・撤廃の影響はより大きなものになるだろう。 
 
TPP概要 

 

●1 協定の発効に向けた各国の動きは
発効の条件
日本やアメリカなど12か国が参加したTPP協定の署名式は、日本時間の2月4日、協定文書のとりまとめ役を務めたニュージーランドのオークランドで行われました。各国は、現在、協定の発行に向けて国内手続きを進めています。
TPP協定は、署名から2年以内に参加する12の国すべてが議会の承認など国内手続きを終えれば発効します。しかし、2年以内にこうした手続きを終えることができなかった場合には、12か国のGDP=国内総生産の85%以上を占める少なくとも6か国が手続きを終えれば、その時点から60日後に協定が発効する仕組みになっています。
日本のGDPが17.7%、アメリカが60.4%と、この2国だけで加盟国の全体の78%に達するため、日本とアメリカのほかにGDPが比較的大きな4か国が手続きを順調に終えれば、TPPは2018年の4月に発効することになります。
アメリカの動き
オバマ大統領は9月6日、ラオスで行ったアジア政策についての演説で「TPPが前進しなければアジアにおけるアメリカのリーダーシップが疑われる事態になる」と述べ、来年1月までの自らの任期中にアメリカ議会を説得し承認を目指す考えを示しました。
これについて議会多数派の野党・共和党のライアン下院議長は、9月8日の記者会見で、「現状では賛成が得られず、協定を修正する必要がある」と述べ、国内の反発が強い知的財産の保護などの項目が修正されなければ議会で採決しない、という考えを改めて示しました。しかし、TPPの参加各国が再交渉に応じ協定の内容が見直される可能性は極めて低いと見られています。
TPPをめぐっては、11月のアメリカ大統領選挙で民主党のクリントン候補も共和党のトランプ候補もともに反対する姿勢を示していて、発効の行方は不透明になっています。
日本時間の9月27日に行われた第1回テレビ討論会でクリントン氏は、自由貿易について「すべての貿易協定について雇用、収入、安全保障の面から検討を重ねてきた。既存の貿易協定を強化し、問題があれば責任を追及していく」と述べ、既存の貿易協定はアメリカの国益にかなうとして評価しました。
これに対し、トランプ氏は「われわれは貿易協定を見直し、他国がアメリカから企業や雇用を盗むのを止めなくてはならない」と訴えるとともに、「中国はみずからの通貨の価値を低く設定し、アメリカを貯金箱にして国を立て直しているのに、政府の誰もそれをただそうとしない」と述べ、貿易面におけるクリントン氏を含む従来の政治家たちの対応を批判しました。
そのうえで、TPPについては、トランプ氏が「クリントン氏はかつてないすばらしい協定だと言っていたが、私の主張を聞いて突然反対し始めた」と述べて、クリントン氏が大統領になれば考えを覆して賛成に転じるだろうと攻撃したのに対し、クリントン氏は「よい協定になることを期待していると確かに言ったが、交渉が行われた末、そうはならなかったと結論づけた」と述べて釈明しました。
日本の動き
安倍総理大臣は9月23日、訪問先のキューバで記者会見し、TPPについて「アメリカのオバマ大統領はことし中の議会通過に向け尽力しており、バイデン副大統領ともTPPの早期発効に向け、日米双方が努力を続けていくことで一致した。日本の国会の承認が得られれば、早期発効の弾みとなる。臨時国会でTPPの承認が得られ、関連法案が成立するよう全力で取り組む」と述べました。
そして臨時国会の召集日の9月26日、安倍総理大臣は所信表明演説を行い、TPPの承認を求める議案について臨時国会で早期成立を目指す考えを示したほか、農家の所得向上に向けた構造改革を進めるため、年内をメドに改革プログラムを取りまとめる考えを示しました。
これに対し民進党はTPPについて、「守るべきものを守っておらず、アメリカの2人の大統領候補も反対しており、国会承認を急ぐ必要はない」として反対姿勢を鮮明にしています。 
●2 “経済効果は約14兆円”政府試算 
政府は、TPPへの署名を前に、経済効果の試算をとりまとめました。貿易や投資の拡大で、GDP=国内総生産を約14兆円押し上げる効果があるとする一方、農林水産物の生産額は最大で2100億円、減少するとしています。
約80万人の雇用創出
試算によりますと、協定の発効によって関税の削減や投資のルールが明確化されることで貿易や投資が拡大し、さらに、日本経済の生産性が向上するとしています。その結果、労働者の実質賃金が上昇するほか、海外からの投資が増えて、新たに約80万人の雇用が生まれ、GDP=国内総生産を約14兆円、率にして2.6%押し上げる効果があるとしています。
TPPの経済効果について、政府は、TPP交渉に参加する前の2013年3月にも試算を行っています。この際、GDPの押し上げ効果は3.2兆円で、農林水産物の生産額は3兆円減少するとしていて、今回の試算とは大きく異なります。これについて、政府は、前回は、農林水産物などの関税がすべて撤廃され、国内対策を一切行わないという想定で試算を行ったためだとしています。
農林水産業への影響は
農林水産省は、TPPによって輸入品が増加し価格が下落することによって、国内の農林水産業の生産額は最大で年間2100億円減少するものの、政府の農業対策などによって生産量や農家所得は変わらないという試算をまとめました。
農林水産省は、国内生産額が一定規模以上ある農林水産物33品目について、TPPによる影響をどれぐらい受けるか試算をまとめました。試算によりますと、国内の農林水産物の生産額は全体で年間1300億円から2100億円減少するとしています。
○コメ / コメは、今の国が義務的に輸入する制度や高い関税が維持されることなどから生産額の減少はないとしています。
○牛肉・豚肉 / 牛肉は、品質や価格で輸入牛肉と競合するホルスタインの牛肉などが値下がりするほか、和牛も一定程度、値下がりすることで牛肉全体で生産額は311億円から625億円減少するとしています。また、豚肉は、全体で169億円から332億円減少するとしています。
○乳製品 / 乳製品は、チェダーチーズやゴーダチーズなどの関税が撤廃されることなどで原料となる生乳の価格が下落するとして、乳製品全体の生産額は198億円から291億円減少するとしています。
○かんきつ類 / かんきつ類は、出荷時期の早いみかんやみかん果汁などが値下がりするとして、 21億円から42億円減少するとしています。
○かつお・まぐろ類 / かつお・まぐろ類は、かつお節や缶詰などに加工されるものが値下がりするなどとして、57億円から113億円減少するとしています。
農林水産省は、国による農業の競争力強化策によって、国内の農家はコスト削減が図られるとともに経営安定対策による補てんもあることから、生産量や農家所得は変わらないとしています。ただ、これらの政策によって、どれぐらいコスト削減が図られるのか、また、どの程度国費を投入するのかは試算に入っていないと説明しています。 
●3 TPPで強い経済を実現 
政府は、TPPの大筋合意を受け、農林水産物と食品の輸出額を1兆円にする目標を平成32年から前倒しして達成することを目指すことや、農家の保護策などを盛り込んだ政策大綱を決定しました。
政策大綱ではこのほか、「新輸出大国」を目指し、中堅・中小企業などが海外で事業を成功する割合を60%以上とすることや、高速鉄道などのインフラ輸出を平成32年に30兆円に拡大すること、日本を「貿易・投資の国際中核拠点」にすることを目指し、平成30年度までに少なくとも470件の外国企業の誘致を達成することなどの数値目標を掲げています。
安倍総理大臣は「国民の理解と支持を得てTPPのメリットを最大限生かし強い経済を実現するという結果を出していきたい」と述べました。
農林水産業への対策
政策大綱のうち農林水産業への対策は、生産者の競争力強化とコメや麦など重要5項目の経営安定化が柱となっています。
【生産者の競争力強化】
次世代の担い手の育成に向けて、農業機械や施設の設備投資への支援を強化するほか、耕作されなくなった農地を意欲のある生産者に貸し出して大規模化を図る「農地中間管理機構」、いわゆる「農地バンク」の取り組みを拡充します。
【国際競争力の強化】
「産地パワーアップ事業」と呼ぶ支援策を新たにつくり、収益性の高い作物への切り替えを行う生産者の支援や、新たな国産ブランドの品種の開発を強化することを支援していくとしています。
【畜産・酪農の収益力強化】
農家が新しい設備を導入する際に費用の一部を補助する「畜産クラスター事業」を拡充するほか、地域の食肉処理施設や中小の乳業メーカーの再編を進めるとしています。
【重要5項目の経営安定化】
コメの対策では、アメリカとオーストラリアから合わせて年間7万8400トンの輸入枠を新たに設けることから、輸入が増える分に相当する国産のコメを政府が備蓄用として買い入れることで主食用のコメの価格が下落するのを防ぎます。
現在、国は原則として年間20万トン程度買い入れて5年間保管し、全体で100万トン程度を備蓄しています。これを保管の期間を3年に短縮することで、1年に買い入れるコメを33万トン余りまで増やします。市場からより多くの国産米を買い入れることで市場に余裕をつくり、そこに輸入米を受け入れる余地をつくるというものです。
ただ、この支援策は、毎年、国が買い入れるコメの量が増えることになり、国費として負担する額は今の300億円規模からさらに100億円規模で増えることになります。
大麦と小麦は、国が一括して輸入する国家貿易を行っています。国内業者に販売する際にマークアップと呼ばれる事実上の関税を上乗せしていますが、事実上の関税を段階的に45%削減します。今の制度では、この上乗せ分で得られた資金を元手に国内の農家への所得安定対策を行っていますが、削減によって資金が減ることから、不足分を国の予算で賄うことで今の制度を維持することにしています。
牛肉と豚肉の生産者への支援では、生産者の平均的な収入が生産コストを下回り、全体で赤字経営になった場合にその赤字分の8割を国と生産者でつくる積立金から補填している今の制度を拡充します。毎年度、予算編成にあわせて決められるこの仕組みを法制化して恒久的な措置にするとともに、補填の割合も9割に引き上げます。
乳製品の対策では、飲用向けに比べて単価が安いバターやチーズ向けの生乳に補助金が支給されている今の制度を拡充し、菓子やパンなどに使われる生クリーム向けの生乳などについても需要が高まっていることから、補助金の支給対象に加えることにします。
【農産物の輸出促進】
農産物の輸出を促進するため、生産から加工、販売までを一体的に手がける「6次産業化」を進めるとともに、和食文化や日本食の海外展開を促進します。さらに、「HACCP」と呼ばれる食品の安全や衛生管理の国際基準を満たすため、必要となる設備投資の資金を助成する今の制度を拡充します。
中小企業への対策
政策大綱では「『新輸出大国』を目指す」として、中小企業が海外展開する際の支援策も盛り込んでいます。
国や地方自治体、JETRO=日本貿易振興機構などによる新たな組織をつくり、国内のほかの産業との連携を通じた新商品の開発や、進出した国での現地企業の紹介などの支援を行います。また、この組織では専属のアドバイザーを置いて中小企業からの相談に応じる体制をつくります。
さらに、外国企業の研究開発部門などを日本に誘致し、国内の中小企業などと連携しながら日本の技術開発力を高めることを目指します。 
●4 農林水産物 約82%で関税撤廃 
TPPの大筋合意によって日本が輸入している2594品目の農林水産物のうち、2135品目で関税が撤廃され、その割合は約82%となっています。また、過去のEPA=経済連携協定では一度も関税が撤廃されなかった901品目のうち、446品目は今回、TPPで初めて関税を撤廃します。
肉加工品など
ソーセージは現在の10%の関税が協定の発効後、段階的に引き下げられ、6年目に撤廃されます。昨年度、国内に流通したソーセージは約12%が輸入品となっています。このうち、TPP参加国からの輸入はほとんどがアメリカからで、輸入品全体の24%を占めています。
牛タンは、現在の12.8%の関税が協定の発効後、段階的に引き下げられ、11年目に撤廃されます。昨年度、国内に流通した牛タンは約97%が海外から輸入されたものです。このうち、およそ99%がアメリカやオーストラリア、ニュージーランドなどTPP参加国からです。
鶏肉は、11年目までに関税を撤廃します。
果物
生の果物はすべての品目で関税を撤廃します。
オレンジは、国内のかんきつ類の生産が盛んになる冬から春にかけて関税を高くする「季節関税」が導入されています。現在の関税は、▽6月から11月までが16%、▽みかんなど国内のかんきつ類の生産がピークを迎える12月から翌年の5月までは32%となっていますが、交渉の結果、税率は発効時から段階的に引き下げられ、8年目以降すべての関税が撤廃されます。オレンジは年間約10万トンが輸入されており、TPP参加国のアメリカとオーストラリアが輸入先の9割以上を占めています。
ブドウは国産の収穫の時期に主に重なる3月から10月は17%、このほかの11月から2月は7.8%の関税がかけられていますが、協定の発効後、すぐに撤廃されます。そのまま食べる果物として国内に流通している輸入のブドウは、ほとんどがチリやアメリカなどのTPP参加国から輸入されていて、流通全体に占める割合は約9%です。
リンゴは、現在17%かけられている関税が協定の発効後、段階的に引き下げられ、発効から11年目に撤廃されます。ただ、そのまま食べる果物として国内に流通しているリンゴはほとんどが国内産です。輸入されるリンゴは、ほとんどがTPP参加国のものですが、流通全体に占める割合は0.1%にとどまっています。
野菜
野菜もすべての品目で関税を撤廃します。
このうち、キャベツや、ほうれんそう、トマトなど、多くの野菜にかけている3%の関税は協定発効後すぐに撤廃します。TPP参加国からの輸入実績が多いブロッコリーやアスパラガスも含まれます。
一方、国産と競合することなどから、年数をかけて撤廃するものもあります。例えば、8.5%などの関税がかかっているたまねぎは6年目に撤廃されます。8.5%の関税がかかっているフライドポテト向けに加工したじゃがいもは4年目に撤廃します。
水産物
TPP参加国から日本に輸入される527品目のうち、のりや昆布、ひじき、わかめなど10品目を除いて関税が撤廃されます。
すしネタとして人気のマグロは現在3.5%の関税がかけられていますが、発効から税率が段階的に引き下げられ11年目以降は撤廃されます。おととし、国内で消費されたマグロのうち、金額でみると全体の65%は海外から輸入されたもので、このうちオーストラリアやメキシコなどTPP参加国からの輸入は18%を占めています。
すけそうだらのすり身、まぐろ缶詰、ひらめ・かれい、にしん、えびは、すぐに撤廃。めばちまぐろは11年目に撤廃。あじ、さばが16年目に撤廃されます。
輸入ワイン
輸入ワインについては、1リットル当たり125円、または、15%のいずれか低い方の関税が適用されていますが、協定の発効後8年目以降は関税が撤廃されることが決まりました。
チョコレート菓子など
チョコレート菓子には、現在、10%の関税がかけられています。今回の合意で、TPP参加国からの毎年の輸入量に匹敵する9100トンに関税がかからない輸入枠が設けられます。この枠は11年目には1万8000トンまで拡大されます。
アイスクリームは、現在21%から29.8%かけられている関税が協定の発効後、段階的に引き下げられ、6年目には7%から9.8%になります。日本が輸入するアイスクリームのうち、約70%がニュージーランドやアメリカなどTPPの参加国からの輸入です。
スイートビスケットと呼ばれる糖分が多いビスケットは、現在の20.4%の関税が協定の発効後、段階的に引き下げられ11年目に撤廃されます。それ以外のビスケットやクッキーは、現在の15%の関税が協定の発効後、段階的に引き下げられ、6年目に撤廃されます。日本国内で流通するビスケットやクッキーのうち6%が輸入品で、このうち、マレーシアやベトナムなどTPPの参加国が34.5%を占めています。
緑茶は、現在の17%の関税が発効から6年目に撤廃されます。日本国内で流通する緑茶のうち、約5%が輸入品で、中国産が多くを占めていて、オーストラリアやベトナムなどTPPの参加国からの輸入品は12%となっています。
天然のはちみつは、現在の25.5%の関税が、発効から8年目に撤廃されます。日本で流通するはちみつの約93%は輸入品です。このうち、カナダやニュージーランドなどTPPの参加国からは9%が輸入されています。
マーガリンは、現在の29.8%の関税が、発効から6年目に撤廃されます。日本で流通するマーガリンのうち約6%は輸入品で、このうち、アメリカやカナダなどTPP参加国からは99%が輸入されています。
日本から輸出する際の関税
日本がTPP参加国に輸出する際にかかっている農林水産物の関税の撤廃率は、11か国全体で98.5%となっています。
コメの輸出総額(約14億円)のうち、TPP参加国向けは、シンガポールやアメリカ向けなどを中心に4億円となっていて全体の34%を占めています。このうち、アメリカが日本のコメにかけている1キロ当たり1.4セントの関税は協定発効後、5年目に撤廃されます。
牛肉の輸出総額(約81億円)のうち、TPP参加国向けは主にアメリカとシンガポール向けの21億円で全体の26%を占めています。このうち、アメリカがかけている26.4%の関税は、協定発効から15年目に撤廃されます。
しょうゆの輸出総額(約51億円)のうち、TPP参加国向けはアメリカとオーストラリア向けなどの19億円で、全体の37%を占めています。このうち、アメリカがかけている3%の関税は発効から5年目に撤廃されます。
みその輸出総額(約25億円)のうち、TPP参加国向けはアメリカとシンガポール向けなど11億円で全体の45%を占めています。このうち、アメリカがかけている6.4%の関税は5年目に撤廃されます。
日本酒の輸出総額(約115億円)のうち、TPP参加国向けはアメリカとシンガポールなど55億円で全体の48%を占めています。このうち、アメリカがかけている1リットル当たり3セントの関税は発効後すぐに撤廃されます。
一方、アメリカ以外では、ベトナムがブリやサバ、それにサンマなどすべての生鮮および冷凍の魚にかけている最大で15%の関税が協定発効後、すぐに撤廃されます。 
●5 工業製品 99%の品目で関税撤廃 
日本がTPP参加国に輸出している工業製品の額は平成22年で約19兆円に上っています。TPPの大筋合意で、11か国全体で86.9%の品目が協定の発効後すぐに関税がなくなります。その後も段階的に関税は引き下げられ、最終的に99.9%の品目で関税が撤廃されます。
割合が100%にならなかったのは、メキシコがトラックとバスなどに、オーストラリアが中古車に、それぞれ関税を残すことになったためです。
アメリカ
アメリカへの輸出では、自動車にかかっている2.5%の関税が25年目に撤廃されます。排気量が700CCを超える大型二輪車にかかっている2.4%の関税は5年目に、バスにかかっている2%の関税は10年目に、トラックにかかっている25%の関税は30年目に撤廃されます。
火力発電所などに使う蒸気タービンにかかっている6.7%の関税や、テレビの3.9%から5%の関税が協定発効後すぐに撤廃されます。
ナイロンなどの化学合成繊維にかかっている2.7%から13.2%の関税が最大で11年目に、タオルの一部にかかっている9.1%の関税が5年目に、撤廃されます。
カナダ
カナダへの輸出では、自動車の本体にかかっている6.1%の関税が5年目に撤廃されます。
ニュージーランド
ニュージーランドへの輸出では、自動車の本体にかかっている10%の関税が協定発効後すぐに撤廃されるほか、エアコンやショベルカーなどへの5%の関税もすぐに撤廃されます。
ベトナム
日本はベトナムとの間ですでに経済連携協定を結んでいますが、日本からの主な乗用車に対しては最大で83%もの高い関税がかけられていました。TPPの大筋合意でこの関税は13年目に撤廃されることになりました。
日本の関税撤廃
日本は海外から輸入する工業製品の大半の品目についてはすでに関税を撤廃していましたが、一部、関税が残されていた品目についてもTPPの大筋合意で撤廃されることになり、工業製品は100%、すべての品目で関税がなくなることになります。
プラスチック原料の化学製品にかかっている1.6%から6.5%の関税や、生地や衣類などほとんどの繊維製品にかかっている最大で14.2%のほとんどの関税が、協定発効後すぐに撤廃されます。
革製のかばんやハンドバックにかけられている最大で16%の関税が11年目に、毛皮や野球用のグローブにかけられている最大で30%の関税が16年目に撤廃されることになりました。 
●6 自動車分野の主な合意内容 
自動車・自動車部品の関税
○アメリカ
日本とアメリカの2国間協議では、現在、日本から輸出している自動車にかけられている2.5%の関税を25年かけて段階的に撤廃することになりました。
日本とアメリカで何らかの協定違反があった場合に自動車本体の関税を元に戻すことができる措置については、アメリカが違反した場合、日本に輸入される自動車以外の品目に関税をかけるとしています。
日本から輸出している自動車部品への関税については、アメリカが協定発効後、輸出金額ベースで8割を超える品目で関税を即時に撤廃します。ただ、残る部品のうち、アメリカ製と日本製が競合しやすい、エンジンの一部の関税は5年で撤廃を、パワーステアリングは7年で撤廃するなど一定の期間を設ける形となっています。
○カナダ・ベトナム
交渉参加国の中で市場規模が大きいカナダは、日本から輸出している乗用車の本体にかけている6.1%の関税を段階的に削減し、5年かけて撤廃することになりました。
国内産業を保護するため参加国の中で乗用車に最も高い関税をかけているベトナムは、3000ccを超える乗用車にかけている約70%の関税について、10年かけて段階的に撤廃することになりました。
自動車の関税を巡っては、中小企業などへの経済波及効果が大きいことからアメリカ以外の国との交渉でも、大きな焦点となっていました。カナダ、ベトナムなどの関税撤廃によって日本からの輸出の拡大がつながることが期待されます。
原産地規則は55%
自動車の「原産地規則」は、TPPに参加する国で生産された部品をどれぐらいの割合使えば自動車の関税をゼロにするのか、その基準を決めるものです。交渉での大きな焦点となっていました。
日本は、日本が使っている計算方法で40%程度に近い低い水準にするよう求めてきました。これに対して、メキシコやカナダは、アメリカと結んでいる自由貿易協定ですでに70%を上回る水準に設定していることを踏まえ、高い割合にするよう譲らず、対立してきました。
交渉の結果、自動車本体の原産地規則の割合については55%とすることで合意し、日本にとっては、メキシコなどに対して一定の譲歩をした形となりました。 
●7 知的財産の主な合意内容 
著作権
○保護期間
現在、日本では、文学や音楽などの著作物の保護は「作者の死後から50年」となっていますが、今回の大筋合意で保護期間を少なくとも70年とすることが決まりました。
また、模倣品や海賊版などの取り締まりも強化されます。著作権侵害の疑いのある商品がTPP域内で輸出入された場合などでは、権利を侵害された当事者の申し立てがなくても、当事国の政府が差し止めできるようになります。
○刑事罰・非親告罪化
著作権の保護が強化される一環として、著作権侵害があった場合に原則、作者などの告訴がなくても起訴できるようにする非親告罪とすることが決まりました。日本は現在、親告罪となっていて作者など被害を受けた人の告訴が必要です。
非親告罪について、日本ではアニメや漫画などを二次創作する同人誌などの活動を行う人たちからは、創作活動が取り締まりを受けるおそれがあるとして反対の声が上がっています。ただ、非親告罪が適用されるのは、オリジナルの著作物の収益に大きな影響を与える場合に限られています。具体的にどのような活動が非親告罪の適用対象となるのかについては、今後、著作権法の改正の議論の中で決めていくことになります。
○民事訴訟・法定損害賠償
著作権が侵害された際の民事訴訟の損害賠償も焦点となりました。作者など被害を受けた人が民事裁判を起こし、損害賠償を求める際、日本では実際にこうむった損害額を立証する必要がありますが、インターネットなどを通じた侵害が増えるなかで損害の正確な立証が困難とされていました。
交渉では、著作権の侵害を立証すれば裁判所が一定額の賠償の支払いを命ずることができる法的損害賠償金ルールを導入することで各国が一致しました。このルールが導入されれば、権利者が損害額を立証をする必要がなくなり、悪質な海賊版などに対して訴訟を起こしやすくなる一方、軽微な侵害についても訴えられるリスクが増えることになります。
医薬品の開発データ保護
医薬品の開発データの保護期間では、▽データ保護の期間を8年以上とする方法と、▽データ保護は5年としたうえで、その後3年間は医薬品が販売できないような規制を導入することで実質的に8年間保護する方法のいずれかを選択できるようになりました。
医薬品の開発データの保護期間はTPP交渉で難航分野の一つとなり、最後まで焦点となっていました。世界有数の製薬会社を抱え、業界のロビー活動を背景に議会からのプレッシャーにさらされたアメリカと、薬の購入費用の一部を国が補助する制度があるために財政負担を抑えたいオーストラリアや新興国などとの対立は、交渉の結果、双方の主張に配慮したいわば折衷案の形でまとまりました。 
●8 サービス分野などの主な合意内容
TPPではサービス業の市場開放を進めるルールも規定されました。特に、外国資本の企業への制限が多い、東南アジアのベトナムやマレーシアで、規制緩和が進められることになりました。日本政府としては、こうした規制緩和やルールの整備が進むことで、企業が進出しやすい環境が整うとしています。
小売流通業
ベトナムでは、小売企業が2店舗以上を出店する際に必要となる政府の審査制度が廃止され、コンビニなどの業態では協定の発効から5年後には、自由に出店ができるようになりました。この結果、日本のコンビニエンスストアなどが進出しやすくなります。
マレーシアでは、これまで認められていなかったコンビニへの外国資本の出資が30%まで可能になりました。
金融
マレーシアでは、外国の銀行が設けることができる支店数の上限がこれまでの2倍の16店舗に拡大されたほか、ATMの設置制限が原則、撤廃されることになりました。
ベトナムでは、国内の銀行に対する外国資本の出資の上限がこれまでの15%から20%まで引き上げられました。
海外の金融機関などが進出する際に、現地の国籍を持つ者を経営幹部に入れるよう求めたり、国内への居住を求めたりすることを禁止しています。
アメリカやカナダ、オーストラリアなど連邦制の国では、州政府が金融分野の監督を行っていますが、進出した日本など外国の金融機関がトラブルに巻き込まれた場合には、州政府相手ではなく、国どうしで協議を行う仕組みが設けられることになります。
電気通信
携帯電話を海外で使う際に、現地の国の通信会社を通じて通信を行う国際ローミングについて、透明性や合理性のある料金になるように各国が協力することで一致しました。海外での通話料金が下がることが期待されます。
ベトナムでは、電気通信業の分野で、外国資本の出資上限がこれまでの65%から75%まで引き上げられました。 
●9 貿易ルールなどの主な合意内容 
政府調達
公共事業を行う政府の機関は、一定額以上の規模の事業を行う場合には原則、公開入札とすることや、海外の企業と国内の企業を差別しないことなどがルール化されました。日本の建設会社などが大規模な開発プロジェクトに参加しやすくなることが期待されています。
投資
海外に進出した企業が、その国の急な制度の変更などによって損害を受けた場合、国を相手取り国際的な仲裁機関に訴訟を起こすことができる「ISDS条項」と呼ばれる制度が導入されます。この制度の導入によって、企業は海外進出によるリスクを減らすことができるとしています。
ただ、企業が国を相手に多額の賠償金を求めるケースがあったため、一部の国からはこの条項の導入に反対する意見が根強くありました。このため、今回の大筋合意では、訴訟を起こすことができる期間を3年半以内に制限するなど、訴訟の乱発を防ぐ規定もあわせて設けることになりました。
電子商取引
インターネット上で販売される音楽のコンテンツや電子書籍などに関税をかけることは禁止されます。
海外の企業が新興国などで電子商取引を行う際の条件として、国内にサーバーの設置を義務づけることは禁止されます。
ソースコードと呼ばれるソフトウエアの情報を企業側に開示するよう義務づけることも禁止しています。
国有企業
政府の手厚い支援を受けている企業について、公平な競争を妨げるような低い価格で商品やサービスを提供することを禁止しています。ただ、多くの国有企業を抱えるマレーシアなどに配慮し、特定の企業の活動では例外的な優遇措置も認めています。
輸出入手続き
急を要する貨物を輸出する場合、相手国の税関に書類を提出したあと6時間以内に荷物の引き取りをできるようにルール化されます。これによって、生鮮品を短時間に輸送しやすくなり、新たなビジネスチャンスが期待されています。
腐敗の防止
汚職などが貿易や国際的な投資に悪影響を及ぼさないよう、一定程度の統一ルールを設けることになりました。各国は、国内の法律を整備するなどして、贈収賄の横行を防ぐための対策を一定の水準で強化することで一致しました。 
●10 農業への影響 
TPP=環太平洋パートナーシップ協定の大筋合意を受けて、農林水産省は、コメや果物など農産物への影響をまとめました。多くの品目で「影響は限定的だ」としながらも、一部は長期的には価格が下落する可能性もあるとしています。このため、農林水産省では、品種改良や農業施設の整備などの安定供給のための対策のほか、輸入品に対する競争力の強化などが必要としています。
【コメ】
主食用のコメは高い関税や国が義務的に輸入するミニマムアクセスという制度など輸入の枠組みはこれまでと変わりません。ただ、TPPによってアメリカとオーストラリアから合わせて年間7万8400トンの輸入枠が新たに設けられます。輸入が増えるとその分、国産のコメの価格が下落する可能性があるため、国は備蓄用として毎年買い入れているコメの量を増やすことで影響を抑えることを検討しています。
【小麦・大麦】
小麦と大麦は国が一元的に輸入する制度を維持するものの、事実上の関税であるマークアップを9年目までに45%削減するため、輸入品の価格下落が国産の販売価格に影響を及ぼす可能性を指摘しています。
【オレンジ】
オレンジは関税が段階的に引き下げられ、8年目までに撤廃されます。国産のうんしゅうみかんの平均価格は1キロ当たり235円。これに対して、オレンジの国際価格は1キロ当たり142円で2倍近い価格差がありますが、味や食べやすさが異なることから差別化が図られているとしています。関税は段階的に引き下げられるうえに一定の輸入量を超えた場合には関税を引き上げるセーフガードを設けることから、影響は限定的だと見込まれるとしています。
ただ、関税が撤廃されることで輸入先の国が日本向けにオレンジの輸出を増やしたり、品質を改良したりした場合は、長期的には国産のみかんや果汁の価格が下落する可能性もあるとしています。
【さくらんぼ】
さくらんぼは協定が発効した1年目に関税が50%削減され、その後、6年目に撤廃されます。国産のさくらんぼの平均価格は1キロ当たり1816円。これに対して国際価格は1キロ当たり1038円と大きな開きがあります。国産のさくらんぼは味や外観の良さから贈答用などの高級品として差別化が図られており、影響は限定的だと見込まれるとしています。ただ、関税の撤廃によって長期的には国産品の価格が下落する可能性もあるとしています。
【りんご】
りんごは協定が発効した1年目に関税が25%削減され、11年目に撤廃します。価格は国内の平均価格が1キロ当たり295円なのに対して国際価格は1キロ当たり217円となっています。国産のりんごは品質の面で国際的に高い競争力を持っており、限定的だと見込まれるとしています。ただ、関税が撤廃されることで輸入先の国が日本向けの輸出を増やしたり、品質が改良されたりした場合は、長期的には国産のりんごや果汁の価格が下落する可能性もあるとしています。
【キウイフルーツ】
キウイフルーツは現在6.4%の関税を協定の発効後すぐに撤廃します。農林水産省によりますと、キウイフルーツは国内の消費量のうち約6割がTPPに参加しているニュージーランドからの輸入が占めていて、関税撤廃によって長期的には国内産の価格が下落する可能性があるとしています。
【メロン・いちご】
メロンといちごは現在6%の関税を協定の発効後すぐに撤廃するため、長期的には国内産の価格が下落する可能性もあるとしています。
【野菜】
かぼちゃやアスパラガス、にんじんなど多くの野菜は、3%の関税が協定発効後すぐに撤廃されます。かぼちゃとアスパラガスは輸入量の9割をTPP参加国が占めているものの、国産と外国産で収穫の季節によるすみ分けができていること、にんじんは輸入量の9割がTPPに参加していない中国からで、影響はいずれも限定的だと見込まれるとしています。ただ、関税が撤廃されることで長期的には国産の価格下落の可能性があると指摘しています。
じゃがいもは、カットポテトなどの加工品で最大20%の関税が11年目までに撤廃されるため、長期的には国内産の価格が下落する可能性があるとしています。
トマトとパプリカ、レタス、ブロッコリーも、現在3%の関税を協定の発効後すぐに撤廃するため、長期的には国内産の価格が下落する可能性もあるとしています。
重要5項目
農林水産物の中でも特に影響が懸念されているのが、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖の原料の5項目です。このため、衆議院と参議院の農林水産委員会は、日本の交渉参加を前にした2013年4月、政府に対して農林水産物への配慮を求める決議を行いました。
具体的には、コメなどの5項目を重要項目として位置付け、将来にわたって生産が維持できるよう、段階的な撤廃も含めて関税撤廃の対象から除外することなどを求めています。また、これらの項目が関税撤廃の対象から除外されないと判断した場合、TPP交渉からの脱退も辞さないことを求めています。
大筋合意を受けた記者会見で、安倍総理大臣は、コメや麦など農産物5項目の決議を踏まえ、重要品目を関税撤廃の例外とすることができたとしたうえで、国内農業への影響を最小限に抑えるため、政府内にすべての閣僚をメンバーとするTPP総合対策本部を設置する考えを示しました。
“攻めの農業へ”
安倍総理大臣はTPPの総合対策本部の初会合で、「農林水産業については、『守る農業』から『攻めの農業』に転換し、意欲ある生産者が安心して再生産に取り組める、若い人が夢を持てるものにしていく。万全の対策を講じていく」と述べ、農業の競争力の強化策を含む、万全な国内対策を講じていく考えを示しました。
農林水産物の生産減少額
農林水産省が2013年に行った試算によりますと、TPP交渉参加国に対する関税がすべて撤廃された場合、日本の農林水産物の生産額は約3兆円減少するとしていました。 
●11 農産物重要5項目の合意内容 
TPPの大筋合意で影響を受ける農林水産物。なかでも特に影響が大きいのが、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖の原料の5項目です。このため、衆議院と参議院の農林水産委員会は、日本の交渉参加を前にした2013年4月、政府に対して農林水産物への配慮を求める決議を行いました。
交渉の結果、農産物の重要5項目では、594品目のうち71%に当たる424品目は、関税撤廃の例外となりました。
コメ
日本とアメリカの2国間協議で最大の焦点となっていた主食用のコメの輸入拡大については、日本はこれまでの関税は維持する一方、新しい輸入枠として年間7万トンの枠を設けることで合意しました。新たな輸入枠は、協定の発効時は年間5万トンで、13年目以降、7万トンまで増やします。
一方、日本はオーストラリアとも主食用のコメの輸入枠を設定することになり、発効時は年間6000トンで、13年目以降、年間8400トンとすることになりました。
これとは別に、お菓子のほか、みそなど調味料の原料に使う加工用のコメについても、年間6万トンの新たな輸入枠を設けます。

小麦と大麦は、国内の需給と価格を安定させるため、国が一括で輸入して国内業者に販売する「国家貿易」を行っています。業者に販売する際には、国内の生産者を保護するため、「マークアップ」と呼ばれる事実上の関税を輸入価格に上乗せしています。
交渉の結果、国家貿易の仕組みは維持する一方、小麦と大麦の事実上の関税の金額を段階的に引き下げ、9年目までに 45%削減することになりました。
さらに、小麦はアメリカとカナダ、オーストラリアを対象に国ごとの輸入枠を設けることになり、輸入枠は協定発効時には合わせて19万2000トン、7年目以降は25万3000トンになります。一方、大麦もTPP参加国を対象にした輸入枠を設けることになり、協定発効時は年間2万5000トン、9年目以降は6万5000トンにすることになりました。
牛肉
牛肉の関税は現在38.5%ですが、協定発効時に27.5%にまで引き下げることになりました。さらに、協定発効から10年で20%に、16年目以降は9%に段階的に引き下げます。
一方、一定の輸入量を超えれば関税を引き上げる「セーフガード」という制度を導入をすることで、国内の生産者への影響を抑えたい考えです。
牛肉のセーフガードは、協定の発効1年目には最近の輸入実績から10%増えた場合に関税を現在の水準である38.5%まで戻します。関税の引き上げ幅は段階的に縮小し、15年目以降、18%にする方針です。その後、4年間、セーフガードの発動がなかった場合は、廃止されます。
豚肉
豚肉は、価格が安い肉には現在1キロ当たり482円の関税がかけられていますが、協定発効時に125円に引き下げます。その後、発効5年目に70円、10年目以降には50円に削減することになりました。
豚肉のセーフガードは、安い肉で発効5年目に関税が70円になった段階で導入され、一定の輸入量を超えた場合に100円まで戻します。その後、関税の引き上げ幅は段階的に縮小され12年目以降は廃止されます。
乳製品など
乳製品について、日本は輸入を制限する現在の国家貿易の仕組みは維持する一方、バターと脱脂粉乳について、TPP参加国を対象にした新たな輸入枠を設けることになりました。輸入枠は、協定の発効当初には生乳換算でバターと脱脂粉乳合わせて年間6万トンとしたうえで段階的に増やし、6年目以降は7万トンまで増やすことになりました。
チーズでは、粉チーズとチェダー、ゴーダチーズは16年目に関税を撤廃します。一方、モッツァレラチーズやカマンベールチーズは、今の関税が維持されます。
重要5項目の中でも、ソーセージは6年目に、牛タンとフローズンヨーグルトは11年目に、関税を撤廃します。
協定発効7年後に再協議規定
政府が公表したTPPの暫定的な協定文書の概要によりますと、農産物や工業製品などの関税の取り扱いについて、協定発効後、交渉参加12か国のいずれかの国からの要請があった場合には、関税の撤廃時期の繰り上げに関して、再協議を行う規定が盛り込まれています。
ただ、日本の農林水産物などは関税撤廃の例外となっている品目が多いため、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、チリの5か国との間で、協定の付属文書に例外規定が設けられています。この中では、協定が発効してから7年後以降に、アメリカなどから要請があった場合、日本の農林水産物の関税や、輸入量が急増した場合に一時的に関税を引き上げる「セーフガード」の取り扱いについて、再協議を行う規定が盛り込まれています。
これによって、農林水産物の関税のさらなる引き下げを求められる可能性もありますが、政府の担当者は「この規定で、日本の農産物などの関税が一方的な不利な扱いを受けるような事態は想定していない」などと説明しています。 
●12 畜産・水産物への影響 
農林水産省は畜産物や乳製品などへの影響をまとめました。それによりますと、牛肉や豚肉、一部の乳製品では長期的には価格が下落する可能性があるとしています。
牛肉
牛肉は、現在の38.5%の関税を段階的に引き下げ、16年目に9%となります。
農林水産省によりますと、国内産の和牛の昨年度の平均価格は1キロ当たり2977円、和牛と乳牛を掛け合わせた交雑種の価格は1893円なのに対して、国際価格は633円と大きな差がありますが、品質による差別化が図られているとしています。
一方、肉用のオスのホルスタインの価格は1251円となっていて、農林水産省では、長期的には輸入牛肉と競合するとして、国内産全体の価格が下落する可能性もあるとしています。
豚肉
豚肉は、価格の安い肉にかけている1キロ当たり最大482円の関税を段階的に引き下げ、10年目に50円になります。
国内の畜産農家と競合する安い豚肉ほど関税を高くする今の差額関税制度を維持することや、中国など海外で豚肉の需要が急激に伸び、ほかの輸入国との買い付け競争が激しくなる可能性があることから、当面は輸入の急増は見込みにくいとしています。
ただ、長期的には関税の引き下げに伴って、価格の安い豚肉の輸入が増えることによって、国内産の価格が下落する可能性もあるとしています。
乳製品
乳製品は、バターと脱脂粉乳について原料の生乳に換算して7万トンの新たな輸入枠を設けます。
農林水産省は、バターや脱脂粉乳は無秩序に輸入されることはなく、牛乳も含めた乳製品全体の国内需給への影響はない見込みだとしています。一方、バターを巡っては、日本では酪農家の減少を背景にバターの原料となる生乳の生産量が減少傾向にあり、最近は年末にかけて店頭でバターが品薄になる年が続いていましたが、新たな輸入枠によってバター不足の解消につながることが期待されています。
チーズでは、粉チーズとチェダーチーズ、ゴーダチーズは16年目に関税を撤廃するため、長期的には国内産の価格が下落することで乳製品の原料となる生乳の価格も下落する可能性があるとしています。
鶏肉
鶏肉は、最大11.9%の関税を11年目までに、鶏卵は、最大21.3%の関税を13年目までに撤廃します。
いずれもTPP参加国からの輸入量が少ないうえ、輸入品は大部分が冷凍骨付きもも肉や、加工食品の原料などに使う液卵などに限定されていることから、国内産との競合はほとんどないとして、影響は限定的だと見込まれるとしています。
ただ、関税の撤廃によって輸出国が日本向けの輸出を増やしたり、品質を向上させたりした場合、長期的には国内産の価格が下落する可能性もあるとしています。
水産物
あじとさばは、最大10%の関税が16年目までに撤廃されます。いずれもTPP参加国からの輸入量が少ないことから、影響は限定的だと見込まれるとしています。ただ、関税の撤廃によって長期的には価格が下落する可能性もあるとしています。
まぐろは、缶詰など加工品に使われる「きはだまぐろ」が協定の発効後すぐに3.5%の関税が撤廃されるほか、高級食材として寿司などに使われる「太平洋くろまぐろ」や「みなみまぐろ」、刺身などに使われる「めばちまぐろ」なども3.5%の関税が11年目までに撤廃されます。まぐろは国際的な資源管理が行われていることから、漁獲量や輸入が急増しにくく、影響は限定的だと見込まれるとしています。ただ、長期的には価格が下落する可能性があるとしています。
さけとますは、3.5%の関税が11年目までに撤廃されます。関税の撤廃に長い期間をかけることから、影響は限定的だと見込まれるとしていますが、長期的には、価格が下落する可能性があるとしています。 
●13 5年越しの大筋合意 
アメリカ南部のアトランタで行われた閣僚会合は日本時間の10月5日夜、共同記者会見を開き、議長国アメリカのフロマン通商代表が交渉は大筋合意したと発表しました。
フロマン代表は「5年以上に及ぶ集中的な交渉の結果、アジア太平洋地域で雇用を創出し、持続的な成長を生み出し、技術革新を促進する合意に至ることができた。この合意は貿易や投資の自由化を進めるだけなく、地域が21世紀に直面している課題に対応するものだ」と述べ、合意の意義を強調しました。
“国家100年の計”
安倍総理大臣は大筋合意を受けて記者会見し、TPPは国家100年の計で、中小企業や地方に大きなビジネスチャンスを与えるものだと意義を強調したうえで、国内農業への影響を最小限に抑えるため、責任を持って必要な対策をとりまとめる考えを示しました。
政府は、すべての閣僚によるTPPの総合対策本部を設置することにしており、農業の振興や競争力の強化、若者の農業への就労支援など、総合的な対策の検討を本格化させる見通しです。
高い水準の貿易自由化
TPP=環太平洋パートナーシップ(Trans-Pacific Partnership)協定は、太平洋を囲む12の国で貿易や投資の自由化やルール作りを進めるための枠組みです。交渉参加国の人口を合わせると約7億7千万人で世界全体の11%、GDPは約36%を占め、協定が発効すれば、世界最大規模の自由貿易圏が実現する見通しです。
TPPの特徴は「モノ(関税)」だけでなく「サービス」「投資」などで、高い水準の貿易自由化を目標にしていることです。特許や著作権など「知的財産」の保護に向けたルール作りや、金融や通信といった「サービス」分野の自由化など21に及ぶ幅広い分野が交渉の対象となっていました。
繰り返された“先送り”
TPP交渉は2010年3月にアメリカやオーストラリアなど8か国で始まりました。その後、マレーシア、メキシコ、カナダが交渉に参加。日本は2013年7月にマレーシアで開かれた交渉会合から正式に交渉に参加しました。交渉は日本とアメリカが主導する形で進められました。
2014年4月には、すべての関税の原則撤廃にこだわってきたアメリカが、一定程度の水準の関税を維持することを容認し、交渉が大きく進展するきっかけとなりました。しかし、分野ごとの交渉で参加国の折り合いが付かず、大筋合意を目指す期限が何度も示されては先送りされるというパターンが繰り返されてきました。
2015年6月には、アメリカで政府に強力な交渉権限を与える法律(TPA法)が成立し、合意に向けた機運が再び高まりました。7月末に開かれたハワイでの閣僚会合は“最後の閣僚会合”として注目が集まりましたが、医薬品の開発データの保護期間や、乳製品の関税の取り扱いなどを巡る主張の溝が埋まらず、またしても大筋合意は見送られました。
“最後”の閣僚会合
2015年9月30日からアメリカ南部ジョージア州のアトランタで交渉参加12か国による閣僚会合が開かれました。安倍総理大臣は会合に先立って、「今回を最後の閣僚会合としたい」と述べ、大筋合意を目指して全力で交渉に臨むよう指示しました。
当初2日間の予定だった閣僚会合は大幅に延長されました。その後、交渉の最大の焦点となっていたバイオ医薬品の開発データの保護期間を巡って、アメリカとオーストラリアの間で合意に達したほか、自動車分野でも日本とアメリカなどの間でほぼ合意したため、日本時間10月5日夜、日本を含む交渉参加12か国による全体会合が開かれ、開始から5年、日本が参加してから2年に及んだ交渉は大筋合意に至りました。 
●14 大筋合意後の企業の動きは 
TPPの大筋合意後、企業の間では、関税撤廃が見込まれる国での生産を拡大するなど海外の生産拠点の態勢を見直す動きが出始めています。
例えば、アメリカが衣料品を輸入する際にかけている関税は、多くの場合、協定が発効したあと、すぐに撤廃されることになりました。このため、TPPの交渉参加国で、縫製業が盛んなべトナムが、新たなアメリカへの輸出先として注目されるようになっています。
商品開発や生産で提携している衣料品チェーンの「ユニクロ」と繊維・化学メーカーの「東レ」は、ベトナムでの生産を大幅に拡大するとしています。
さらに、TPPでは「原産地規則」と呼ばれるルールが適用されます。関税がゼロになったり引き下げられたりする優遇措置を受けられる製品は、参加12か国内で生産された「メイド・イン・TPP」に限られます。原産地規則は、TPPに参加する国で生産された原材料や部品をどれぐらいの割合で使えば、「メイド・イン・TPP」とみなすかの基準のことです。
衣料品の場合、ベトナムの工場で生産しても、中国など域外国の生地や糸を使っていれば関税がかかってしまいます。一方で、TPP参加国のマレーシアの生地や糸であれば関税はかかりません。
TPPの大筋合意によって、海外の生産拠点や部品の調達先などを大きく変える可能性を秘めています。 
●15 世界の中のTPP 
TPP交渉参加国の世界に占める割合は、GDPが約36%、貿易が約26%、人口は約11%。協定が発効すれば、世界最大規模の自由貿易圏が実現する見通しです。 
●16 日本から見たTPP
日本からのモノとカネの流れはアメリカが圧倒的に多く、輸出は交渉参加国全体の60.3%、対外直接投資残高は70.5%を占めています。 
●17 TPPから見た日本 
TPP交渉参加国から日本へのモノとカネの流れはアメリカが圧倒的に多く、輸入は交渉参加国全体の34.9%、対内直接投資残高は73.7%を占めています。 
●18 経済連携は成長戦略の切り札 
政府は成長戦略の柱の1つとして、FTA=自由貿易協定やEPA=経済連携協定の締結などの推進を掲げており、2018年までに、日本の貿易額に占めるFTAなどの締結国との貿易額の割合(カバー率)を70%にまで引き上げることを目指しています。
日本のカバー率は現在、22.3%。大筋合意したTPPを加えると37.2%に拡大します。さらに、日本とEUの間の経済連携協定やRCEP=東アジア地域包括的経済連携などが合意すれば73.3%となり、政府の目標を上回ることになります。
日EU・EPA 2016年早期の合意目指す
日本とEUに加盟する28か国のGDPの合計は世界全体の29%、人口は約6億人と、TPPに迫る規模となります。
日本にとっては、TPPによって巨大市場アメリカを含むアジア太平洋地域での自由貿易の足がかりをつかみ、さらに、EUとの交渉をまとめることができれば、世界の広い範囲でヒト、モノ、カネ、サービスが自由に行き来できるようになります。
日本とEUは、当初、目標として掲げていた年内の大筋合意を見送り、2016年の早い時期での合意を目指すことにしています。
これまでの交渉で、日本は、EUに対して自動車や電子部品などの関税撤廃を強く求めています。一方、EUは、チーズやハムなどの加工食品の関税について、TPPの水準を上回る自由化を求めたほか、高級ブランドのバッグなど革製品について、日本側の関税をできるかぎり早期に撤廃するよう新たに求めているということです。日本側は、国内産業の保護を理由に応じられないという姿勢を示すなど双方の主張は折り合っていません。
RCEP 2016年中の交渉妥結を目指す
RCEP=東アジア地域包括的経済連携は、日本、中国、インド、ASEANなど合わせて16か国の間で、関税の撤廃や投資の自由化を目指すものです。TPPには参加していない中国とインドが加わっていることが特徴の1つです。総人口は約34億人、経済規模では世界全体のGDPのおよそ3割を占め、TPPなどと並び「メガFTA」と呼ばれています。
RCEPでは、関税の削減や投資の自由化のほかサービス業に対する規制の緩和、知的財産の保護の強化などといった幅広い分野を協議しています。8月の閣僚会合で、関税を撤廃する品目の割合を、貿易の自由化が進んでいない中国やインドなどを除いて原則として80%とすることなどで一致しましたが、関税撤廃の品目については各国の隔たりが大きく、当初、目標としていた2015年末までの合意は困難になりました。
交渉参加16か国の首脳は、11月にマレーシアで開かれたASEAN関連の首脳会議に合わせて、RCEPの交渉に関する共同声明を発表。「われわれは、2016年内のRCEP交渉の妥結により、地域および世界的な経済統合に大きく貢献すること、経済協力が強化されることを期待する」などとして、2016年中の交渉妥結を目指す方針を明記しました。