慰安婦問題 真剣白刃取り

慰安婦問題の日韓合意   
 
外交交渉 模範解答  
「最終的かつ不可逆的解決」


 
 
 
 
 
 
慰安婦問題めぐり日韓合意 「最終的かつ不可逆的解決」  
日韓両政府は28日、ソウルで外相会談を開き、慰安婦問題を決着させることで合意した。日本政府が軍の関与や政府の責任を認め、元慰安婦支援で韓国政府が新たに設立する財団に日本から10億円を拠出すると表明。日韓双方が、この枠組みを「最終的かつ不可逆的解決」とすることを確認した。  
日韓関係の最大の懸案の一つだった慰安婦問題は、安倍晋三首相と朴槿恵(パククネ)大統領の政治決断により国交正常化50年の節目に決着を迎えた。両国関係は今後、改善に向けて大きく進む可能性がある。  
岸田文雄外相と韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相は28日、ソウル市内の韓国外交省で約1時間20分会談した。終了後、両氏は共同記者発表を開催。岸田氏は、慰安婦問題について「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」とし、「日本政府は責任を痛感している」と語った。さらに、安倍首相が元慰安婦に対して「心からおわびと反省の気持ちを表明する」と述べた。  
また、岸田氏は、韓国が設立する財団に10億円規模を日本政府から拠出し、日韓両政府が協力して元慰安婦を支援する事業を行っていく方針も表明。岸田、尹両氏がこの枠組みを進める前提で、慰安婦問題についてそれぞれ「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と強調した。  
一方、尹氏は、日本政府が撤去を求めているソウルの日本大使館(建て替えのため現在は移転)前に建てられた慰安婦問題を象徴する少女像についても言及。韓国政府の方針として「関連団体との協議を行うなど、適切に解決されるよう努力する」と語った。  
両氏は、慰安婦問題をめぐり、それぞれ「国際社会で互いに非難・批判することは控える」という方針も表明した。  
岸田氏は共同発表後、ソウル市内で記者団に「合意ができたことは歴史的であり、画期的な成果。日韓関係は未来志向の新時代へと発展する」と強調。今回の合意と、1965年の日韓請求権協定で請求権に関する問題は解決済みとした従来の姿勢との整合性について「政府の立場は何ら変わらない」と訴えた。  
岸田氏はその後、韓国大統領府(青瓦台)で朴大統領と面会。朴氏は「今回の交渉結果が誠実に履行され、韓日関係が新しい出発点から再び始まることを願う」と述べた。また、安倍首相と朴氏は28日夕、電話で協議し、今回の合意をそれぞれ歓迎した。  
安倍首相は同日夕、外相会談の合意を受けて記者団に「子や孫の世代に謝罪しつづける宿命を背負わせるわけにはいかない。今後、日韓は新しい時代を迎える」と語った。 
 
日韓外相が記者発表した内容 慰安婦問題めぐり合意  
岸田文雄外相と韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相との共同記者発表の内容は次の通り。  
岸田外相  
1 慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。安倍首相は、日本国の首相として改めて、慰安婦としてあまたの苦痛を経験され、心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。  
2 日本政府は、これまでも本問題に真摯(しんし)に取り組んできたところ、その経験に立って、今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。  
3 日本政府は上記を表明するとともに、これらの措置を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。  
あわせて、日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。なお2の予算措置については、規模はおおむね10億円程度となった。以上については日韓両首脳の指示に基づいて行ってきた協議の結果であり、これをもって日韓関係が新時代に入ることを確信している。  
尹・韓国外相  
1 韓国政府は、日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取り組みを評価し、日本政府が表明した措置が着実に実施されるとの前提で、今回の発表により、日本政府と共に、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は、日本政府の実施する措置に協力する。  
2 韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体と話し合いを行い、適切なかたちで解決するよう努力する。  
3 韓国政府は、今般日本政府が表明した措置が着実に実施されるとの前提で、日本政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに批判することは控える。  
国交正常化50年の今年中に岸田外相とこれまでの交渉に終止符を打ち、この場で交渉妥結を宣言できることをうれしく思う。今回の合意のフォローアップ措置が着実な形で履行され、辛酸をなめさせられた元慰安婦の方々の名誉と尊厳が回復され、心の傷がいやされることを心より祈念する。また両国の最もつらく厳しい懸案であった元慰安婦被害者問題の交渉が妥結したことを機に、来年からは新しい気持ちで、新しい日韓関係を切り開いていけることを期待する。 
 
「屈辱的」「政府に従う」 日韓合意、評価割れる韓国  
日韓両政府の合意について、韓国側では元慰安婦の支援団体などから反発の声が上がった。  
日韓外相会談が行われたソウルの韓国外交省に28日午後、「法的責任に背を向けた安倍政権糾弾」といったプラカードを掲げた市民団体のメンバーら約50人が「会談中止」を求めて集まった。  
元慰安婦の支援団体「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会」(挺対協)は会談終了後、「屈辱的だ」と反発する声明を発表し、「慰安婦は日本政府が主導した犯罪であり、不法という点が明らかになっていない」と批判。安倍首相による直接の謝罪もなかったとして「真心がこもった謝罪と受け入れるのは難しい」とした。さらに真相究明や歴史教育などの「再発防止措置」への言及もないと指摘、韓国政府が受け入れたことは「衝撃だ」とした。  
一方、韓国のYTNテレビは「政府が年内に解決しようとしてくれたのだから、努力してくれた人たちのことを考えて、政府が決めたことに従いたい」という元慰安婦の女性のインタビューを放送した。  
一方、日韓関係の悪化をめぐっては、経済界から「政治と経済の分離」を主張する意見があった。韓国の経済団体・全国経済人連合会は「両国政府が慰安婦問題で和解の合意を得たことを歓迎する」という声明文を発表。「国交正常化50周年を迎える特別な年に問題解決の合意がなされたことで、両国が新たな希望の百年を進むことを期待する」とした。 
 
中国、具体的な評価避ける 慰安婦問題めぐる日韓合意  
日韓外相が28日、慰安婦問題で合意したことについて、中国では国営新華社通信(英語版)が速報するなど高い関心がうかがえた。一方で、中国外務省は今回の合意内容への具体的な評価は避け、慎重な構えを見せている。同省の陸慷報道局長は同日の定例会見で「関連の報道を注視している」とした上で、「韓日関係の改善がこの地域の安定と発展に資するものであることを望む」と指摘。慰安婦問題について「日本軍国主義が第2次大戦時にアジアの人々に対して犯した重大な人道に対する罪だ」とし、「中国側は一貫して日本側に侵略の歴史を反省し、責任ある態度で関連の問題を処理するよう主張している」と述べるにとどめ、踏み込んだ評価は避けた。  
中国、にじむ悔しさ 歴史共闘、韓国“離脱”の動き  
日本と韓国が慰安婦問題で合意したことに関し、中国外務省の陸慷報道官は29日の定例記者会見で、歴史問題についての中国の従来の立場を繰り返した上で「事の成り行きを見守りたい」と述べ、具体的な論評を避けた。だが、中国の官製メディアは批判的な論陣を張るなど、歴史問題で共闘してきた韓国の突然の“離脱”に悔しさをにじませた。  
「米国が裏でいろいろ動いた結果」  
29日付の中国共産党機関紙、人民日報傘下の環球時報は1面トップで、日韓が慰安婦問題で合意に達したことを「意外だ」と伝えるとともに、韓国外務省前で抗議デモを行う市民団体の写真を大きく掲載した。この記事は遼寧省社会科学院の呂超研究員のコメントを引用する形で「米国が裏でいろいろと動いた結果だ。日本は韓国に譲歩したようにみえるが、一種の策略にすぎない。侵略戦争について本気で反省したわけではない」と分析した。  
北京の国際関係学者によれば、習近平政権はここ数年、東・南シナ海に積極的に進出したため日米や東南アジア諸国との関係が悪化した。一方で中国はロシアと韓国との関係を強化。ロシアとは米国と対抗する狙いで連携を深め、韓国とは歴史問題で日本を批判して足並みをそろえてきた。  
世界記憶遺産、一緒に申請のはずが…  
韓国の政治家による日本批判の発言は中国国内で大きく報道されるのが常だ。中国は、伊藤博文を暗殺した安重根の記念施設を韓国政府がハルビン駅前に建設するのを特別に認めたこともある。また、中国国内では一般民衆のデモは認められないため、官製メディアが日本を批判する際は、韓国の反日団体がソウルの日本大使館前で抗議するデモなどの映像を使用。韓国の動きを大きく伝えて習政権の対日強硬策を正当化させる思惑とみられる。しかし、韓国が慰安婦問題で日本と合意したことは、中国が歴史問題で日本をたたく際の重要な仲間を失うことになる可能性もある。中国共産党関係者は「中国は単独での対日批判はやりにくい。来年は中日関係も回復に向かうかもしれない」との見方を示した。  
 
NYタイムズ「画期的」 日韓外相会談の合意報じる  
慰安婦問題に関する日韓外相会談での妥結について、米ニューヨーク・タイムズ紙は「画期的な合意」と報じた。慰安婦問題を日韓両国の「数十年にわたる歴史論争」と表現した上で、「この画期的な合意は、日韓関係で最も解決困難で行き詰まった問題を取り除くことになるだろう」と論評した。 
「歴史的」「画期的合意」 海外メディアが評価  
日韓両政府が従軍慰安婦問題の決着で合意したことについて米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は「画期的な合意により、日韓関係の最も解決困難な行き詰まり(の原因)が取り除かれるだろう」と評価した。  
英BBC放送は「歴史的」と報道。オーストラリア放送協会(ABC)も、「画期的な合意で『不可逆的』に解決することに同意した」と伝えた。  
英紙デーリー・テレグラフ電子版は、政治学者の分析を引用し、ぎくしゃくした日韓関係の改善を望む米国の圧力が背景にあると報じた。  
日韓慰安婦問題合意 識者の見方  
岸田文雄外相は28日、韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相とソウルの韓国外務省で会談し、慰安婦問題での最終決着となる妥結で合意した。日韓関係に詳しい識者5人に聞いた。  
謝罪、心に届くかが重要  
アジア女性基金で専務理事を務めた和田春樹・東京大名誉教授の話 日本政府が謝罪の意味を込めて10億円の公金を支出し、財団が作られることは前進と言える。問題は、日本の謝罪が元慰安婦たちの心に届き、納得して受け取ってもらえるかどうかだ。私は1990年代から問題解決に当たってきたが、元慰安婦の約3分の2が償い金の受け取りを拒んだ。元慰安婦たちは今回の岸田外相の記者会見では、日本側の謝罪のトーンをくみ取ることはできなかったのではないか。今後、安倍首相が謝罪の気持ちを分かりやすく示さないと、彼女たちにまで気持ちが届かない可能性がある。高齢で入院している人もおり、お金ではなく人生を狂わされたことへの謝罪を求めている。韓国で活動する支援団体がどう反応するのか、韓国の世論がどう動くのか見通しはつかず、問題が収束するかどうか現段階では分からない。  
ネトウヨに説明必要だ  
ヘイトスピーチ問題に詳しいジャーナリスト、安田浩一さんの話 日韓外相の今回の合意は、今年夏に発表された安倍首相の戦後70年談話よりも踏み込んだ印象があり、とても驚いた。気になるのは、私が「ネトウヨ(ネット右翼)史観」と呼ぶ考え方を持つ人々の受け止め方だ。「慰安婦問題などは存在せず、補償の必要はない」という主張を持つ彼らは、ヘイトスピーチ・デモの参加者であり、安倍首相の熱烈な支持層でもあった。今回の合意は彼らと距離を置くもので、実際、一部は「首相に裏切られた」という思いを抱いているようだ。政権には今後国内向けに、なぜ今回の合意が必要だったのか説明が求められる。さもないとネトウヨ史観を持つ人々が、それこそ「不可逆的」に暴走しかねないだろう。  
時間はない 解決模索を  
在日コリアン2世で作家の深沢潮さんの話 歴史の証人に会っておきたくて今月上旬、元慰安婦が暮らす韓国の施設を訪ねた。90歳の元慰安婦を目の前にすると、同じ女性として質問を切り出せなかった。彼女はアルバムをめくりながら、これまで問題解決を求め国内外で活動してきたことを語ってくれた。日本で支援してくれる人たちが大勢いたことも。なぜ日本政府は謝ってくれないのかと話していた。日本に苛烈な感情を抱く人は少なくないが、実は元慰安婦の数だけ個別の事情も思いも異なるはずだ。高齢であることを考えれば時間はない。一人でも多く納得できる解決策を日韓両政府で模索してほしい。慰安婦問題は両国間の懸念事項であり、在日コリアンはブランコのように揺れる日韓関係に左右される生活を送ってきた。長い時間がかかったが、2国間で解決しようとする政治的な動きに光明を見た気がする。  
韓国野党は反発 注意を  
「コリア・レポート」編集長の辺真一さんの話 安倍首相のおわびと反省の気持ちの表明は、元慰安婦たちに対する責任、反省と謝罪の三つが実質的に盛り込まれた踏み込んだものだった。韓国は2016年に総選挙を、17年に大統領選を控えている。日韓どちらが結果を急ぎ、譲歩したかと言えば朴政権だ。李明博政権で解決できなかった問題を解決し、日韓関係が改善されれば、大きな外交的成果になると考えたのではないか。ただ、今回の合意の問題は拘束力がないこと。日本側は「最終的、不可逆的に解決」とくぎを刺したが、既に韓国では野党から「受け入れがたい」と反発の声が出ている。問題を蒸し返さないためには、韓国野党にも同意してもらい、日韓双方の政治家は慎重に行動しなくてはいけないと思う。  
合意に米国の支持期待  
八木秀次・麗沢大教授(憲法学)の話 慰安婦問題は、いま振り返ると、戦争で一部の女性の人権が侵され、日本にも道義的な責任があるという意味で、今回の合意は日韓両政府が協力して支援を行うと表明したと捉えられる。韓国政府が日本政府にのみ一方的に責任を押しつけてきたこれまでのパラダイム(土台)を大きく転換するものといえる。しかしながら、日韓の口約束であれば、韓国側は今回定まったゴールを動かす可能性がある。第三者である米国が今回の合意に対し支持を表明すれば、外交的に確定した形になり、画期的な最終解決になるだろう。法的責任は負えないが、両政府が慰安婦問題に同情し、反省もし、生活も支援するということだ。  

 
2015/12  
 
「愚かな約束」を前提にすべきではない
 日本軍「慰安婦」問題解決全国行動声明に寄せて
日本軍「慰安婦」問題に関する日本の責任追及をいかになすべきか。現時点であえて分けるならば、昨年12月28日の日韓外相三項目「合意」をうけて大きく二つの路線があらわれているといえる。第一は「合意」を前提に、「責任」の具体化を日本政府に求める路線、第二は、「合意」を前提とせず、この破棄・無効化も視野に日本政府に法的責任の承認を求める路線である。第一の路線は主として日本の言論人や被害者支援団体にみられ、第二の路線は被害当事者たちや挺対協の示したものといえる。
第一の路線の特徴は、繰り返しになるが、「合意」を前提にすることである。この路線を代表する和田春樹のコメントを引こう。
「日本政府が謝罪の意味を込めて10億円の公金を支出し、財団が作られることは前進と言える。問題は、日本の謝罪が元慰安婦たちの心に届き、納得して受け取ってもらえるかどうかだ。私は1990年代から問題解決に当たってきたが、元慰安婦の約3分の2が償い金の受け取りを拒んだ。元慰安婦たちは今回の岸田外相の記者会見では、日本側の謝罪のトーンをくみ取ることはできなかったのではないか。今後、安倍首相が謝罪の気持ちを分かりやすく示さないと、彼女たちにまで気持ちが届かない可能性がある。高齢で入院している人もおり、お金ではなく人生を狂わされたことへの謝罪を求めている。韓国で活動する支援団体がどう反応するのか、韓国の世論がどう動くのか見通しはつかず、問題が収束するかどうか現段階では分からない。」
すなわち、「合意」を「前進」と評価し、今後の「解決」の大前提としながらも、日本側の「謝罪のトーン」が被害者たちに理解されていない、「気持ち」を届ける努力をすべき、というのが和田の主張である。この立場からみると、残された問題は日本側の「謝罪の気持ち」の示し方、そして、被害当事者たちの受け取り方だということになる。こうした和田の立場は日本政府を補完するものといえよう。
だが、私はこうした第一の路線は「合意」についての過大評価に基いており、採用すべきではないと考える。二つの路線は一見似通っているが、三項目「合意」後の運動、とりわけ韓国における被害当事者たちとその支援者の闘いを考えるうえで、看過しがたい違いがあると考える。そして、この路線は和田春樹以外にも、とりわけ日本の支援団体にみられる立場である。以下に日韓外相会談に対する日本軍「慰安婦」問題解決全国行動の声明「被害者不在の「妥結」は「解決」ではない」(以下、全国行動声明)をとりあげ、その理由を示したい。
第一の問題は、日本側声明にある「責任」の解釈である。全国行動声明は日本政府の責任について次のように指摘する。
「2, 日本政府は、ようやく国家の責任を認めた。安倍政権がこれを認めたことは、四半世紀もの間、屈することなくたたかって来た日本軍「慰安婦」被害者と市民運動が勝ち取った成果である。しかし、責任を認めるには、どのような事実を認定しているのかが重要である。それは即ち「提言」に示した1軍が『慰安所』制度を立案、設置、管理、統制した主体であること、2女性たちが意に反して「慰安婦」にされ、慰安所で強制的な状況におかれたこと、3当時の国際法・国内法に違反した重大な人権侵害であったことを認めなければならないということだ。「軍の関与」を認めるにとどまった今回の発表では、被害者を納得させることはできないであろう。」
果たして今回の日本側声明は、「国家の責任を認めた」と評価できるものなのだろうか。全国行動声明が問題にしたのは、今回の「合意」のうち岸田外相発表の(ア)「慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している」である。だが、すでに多くの指摘がある通り、日本側声明の文言は河野談話を継承したものである。河野談話に「責任」の語はないが、今回の日本側声明の文言は日本軍「慰安婦」制度が日本による戦争犯罪であることを認めたうえでの法的責任を意味しない。
この問題を考えるにあたり、今回の日本側声明の「責任」の意味を理解する助けになるのは、『世界』2016年1月号に掲載された和田春樹の論文「問われる慰安婦問題解決案 : 日韓首脳会談以後を展望する」である。和田は「法的責任」をめぐる対立をふまえ、次のように提案した。
「第一条件[朴槿恵大統領の提示した「被害者が受け入れ、韓国国民が納得できる」案という条件]はまさに問題の核心である。これに対して日本政府が出している条件は三つであるように思われる。第一は、日韓条約時の協定で請求権問題は「解決済み」となっているので、法的責任という論理を使うことはできないということである。それなら「法的」な措置をとると言わなければいいのである。」
外務省が和田の提案を受け容れて「責任を痛感」の文言を採用したかどうかはわからない。ただ、すでに和田論文が紹介するように、2012年には日韓両政府の間で従来の「道義的責任を痛感」という文言を避け、「責任を痛感」とする謝罪文を作成することで「合意」していた。和田論文が2012年の「合意」を外務省に想起させる目的で書かれたことは明らかである。「法的責任」とも「道義的責任」とも明記しない「責任を痛感」という表現を採用することで、日韓双方が国内向けには自らに都合のいい説明をできるような文書を作成したのである。
はっきりしていることは、「責任を痛感」という文言には、日本政府が法的責任を認めたという含意はない、ということである。むしろ法的責任の認定を回避するために挿入された文言と解釈するのが妥当である。この点で1995年の国民基金以来の日本政府の立場は本質的には変わっていないと考えるべきであろう。
このようにみた時、全国行動声明の「日本政府は、ようやく国家の責任を認めた」という評価は、被害当事者や支援団体の運動の成果を謳う文脈で記されたものであることを差し引いても、日本側声明における「責任」の語の、それこそ責任回避的な文脈を看過させるものといわざるを得ない。確かに日本政府の事実認定は全く曖昧であることは間違いない。そしてそれは「責任」という曖昧な語の使用の必然的な帰結なのである。日本政府が10億円を「賠償」ではないと明言するのは当然といえば当然のことである。
同様の問題は「女たちの戦争と平和資料館」(wam)の「日韓外相の政治的妥結に対するwamからの提言」にもいえる。「提言」は、「最終的かつ不可逆的に合意」を「愚かな約束」と評するにも拘らず、「政治的「妥結」を、被害者が受け入れ可能な「解決」につなげる道を、時間がかかっても丁寧に探っていきたい」として、「合意」を前提とした「解決」という路線に立ってしまっている。その上で、「日本政府は、責任に「道義的」といった限定をつける報道に反駁し、それ以上でもそれ以下でもない「責任」を痛感していることを繰り返し表明しなければならない」と提言をする。
だが問題は「道義的」をつけるかどうかではない。「責任」という語は、上の和田論文で明確に指摘されているように、手垢のついた「道義的責任」を用いることにより生じる反発を回避するために作られた用語なのである。「責任」の語の不明瞭さを衝き、「合意」の前提そのものを問い直す作業こそが必要なのではないか。
「責任」に関するこうした過大評価と密接に関連する全国行動声明の第二の問題が、以下の第六項である。
「6, 日本政府は、被害者不在の政府間の妥結では問題が解決しないことを認識し、以下のような措置をとらなければならない。
1 総理大臣のお詫びと反省は、外相が代読、あるいは大統領に電話でお詫びするといった形ではなく、被害者が謝罪と受け止めることができる形で、改めて首相自身が公式に表明すること。
2 日本国の責任や河野談話で認めた事実に反する発言を公人がした場合に、これに断固として反駁し、ヘイトスピーチに対しても断固とした態度をとること。
3 名誉と尊厳の回復、心の傷を癒やすための事業には、被害者が何よりも求めている日本政府保有資料の全面公開、国内外でのさらなる資料調査、国内外の被害者および関係者へのヒヤリングを含む真相究明、および義務教育課程の教科書への記述を含む学校及び一般での教育を含めること。
4 アジア・太平洋各地の被害者に対しても、国家の責任を認めて同様の措置をとること。」
私が全国行動声明を第一の路線、すなわち「合意」を前提に、「責任」の具体化を日本政府に求める路線であると考えるのは、この第六項ゆえである。果たして問題は首相がお詫びをする形式の問題であろうか。外相に代読させたことは確かに破廉恥である。だがそれは今回の「合意」の本質をむしろ日本政府が率先して示してくれた行為なのではあるまいか。安倍が来てひざまずこうが、今回の「合意」の欺瞞性は変わらない。むしろ「合意」を前提にするならば、安倍の破廉恥な行為ゆえに明確になった本質を糊塗することになりかねない。かかる行動の要求は、「合意」の撤回とセットでなければ意味がない。
「合意」を前提にすることは、少女像を撤去し、財団を作り10億円を受け取ることを意味する。「今回の発表により,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」ことが発表されているのである。「wamからの提案」のいうとおり、これは「愚かな約束」である。そして「愚かな約束」であるならば、これを前提にすべきではない。「合意」を前提にして、いかなる義務を日本政府に課すことができるだろうか。残念ながら、日本の市民運動にそのような力はないし、そもそも「合意」の論理的帰結として、そのようなことは不可能である。さらに、4に至っては今回のような法的責任回避の「責任」論を、他のアジア諸国の被害者にも適用することにつながることになろう。「wamからの提言」も全く同様の問題を含んでいる。
最大の問題はこれらの日本側の支援団体の「合意」を前提にした声明が、現在「合意」を前提とせず、その破棄をふまえて少女像の前で闘おうとしている被害当事者や挺対協をはじめとする韓国の人びとの運動、すなわち第二の路線にとって、大きな制約になる可能性が高いことにある。声明の「合意」を前提にする立場は、極めて困難な韓国の政治状況のなかでより普遍的な視野に立ち原則的な抵抗を試みている人びとを、韓国内の運動に孤立させることになりかねない。これらの声明はこうした意味で、単に不十分なのではなく、被害当事者や挺対協の運動の障害になりかねないのである。
「政府の間違った拙速な合意を受け入れないならば、政府として被害者が生きているうちにこれ以上どうにかする余地がないという言葉は、説得ではなく脅迫に近いものだ」という、挺対協の論評の一節は、直接には朴槿恵大統領を対象としたものだが、日本人たちにも向けられていることを忘れてはならない。日本のマスメディアがくり返す「対話」は、ここでいうところの「脅迫」である。「合意」を前提とすることは、こうした「脅迫」の列に加わることになりかねない。仮に挺対協が第一の路線をとるようになれば、いかに日韓の両政府に対して批判的であったとしても、被害当事者に納得してもらう役割を引き受けること、つまり「合意」の路線を補完する役割を担うこととなる。当事者たちの運動に支援運動が制約をかけるということは、絶対にあってはならないのではないか。
何ら支援運動に貢献したことのない私がこうしたことを書くことの僭越さは承知している。ただそれを承知で、以下に二つのことを求めたい。
第一は、「全国行動」及びwamはこれらの声明・提言を再検討し、「合意」を前提とした箇所を撤回すべきである。見直した上で仮に新たな提言を出すならば、挺対協等の韓国の支援団体と協議のうえで、明確に「合意」を拒絶したうえでの、日本政府の戦争犯罪の責任追及のための提言を出すべきである。これは、現になされている被害当事者や支援団体の要求を阻害しないために、最低限必要な行動であると考える。
第二は、「被害当事者が受け入れられる解決」という言葉に代わる目標を掲げることである。もちろん被害当事者を無視せよ、と言いたいわけではない。むしろ「被害当事者」を押し出すことが、現状においては逆に当事者たちを苦境に追い込みかねない構図が生まれていることを危惧してのことだ。日韓両政府の政治的「合意」がなされた今日、「被害当事者が受け入れられる解決」という言葉の下で、日韓両政府の攻略(日本のマスメディアが「対話」と呼ぶもの)の矛先が、個々の被害当事者に向かうことは必至である。朴裕河がやろうとして失敗したこと――当事者と支援団体の分断――を、今度は韓国政府がやろうとするだろう。日本と韓国という二つの国家に対し、このレトリックは被害当事者たちを矢面に立たせる逆効果を生み出してしまうのである。
必要なのはどのような言葉なのであろうか。この局面において、問われているのは被害当事者のみならず、「私たち」、とりわけ日本にいる者たちが日本軍「慰安婦」制度を、普遍的な規範に基づき自らの問題として考え、いかなる責任を日本に追及するのかではあるまいか。「被害当事者が受け入れられる解決」という言葉は、被害当事者や挺対協の極めて原則的な姿勢に支えられていたがゆえに、日本の戦争犯罪の責任を追及することと同義でありえた。だがもう一歩進んで、日本人たちが自らの言葉で、日本軍「慰安婦」制度は戦争犯罪であり、日本は「不可逆的」にその責任を認めよ、と主張することが、他ならぬいま求められているように私には思う。これは極めて喫緊の課題である。
今回の「合意」は、国民基金失敗の「教訓」を表面的にのみ学び、「被害当事者が受け入れられる解決」という言葉を逆手に取って、新たなマジックワード(「責任」)で本質的な対立を覆い隠そうとしたものであり、いわば〈安倍晋三=和田春樹路線〉の帰結と考える。〈安倍晋三=和田春樹路線〉の「愚かな約束」を前提にせず、原点に立ち返ることが求められているのではないだろうか。 
声明「日本軍「慰安婦」問題、早まった「談合」を警戒する」を支持する
明日12月28日、日韓外相会談が開かれる。詳述する余裕はないが、会談をめぐる報道は改めて日本社会の「慰安婦」問題認識の歪みを曝け出している。当事者たちを無視した水面下の交渉が是とされ、さらには「蒸し返し」を禁じることが獲得すべき外交的目標であるかのように語られる。恥ずかしげもなく「口封じ」を「解決」とみなす主張が横行している。結局のところ、1965年以来、この社会は何ら本質的には変化していないのである。
ただ1965年よりも悪いといえるかもしれない。歪んだ「和解」観は日本政府が独力でつくりあげたわけではない。日本政府はこれまで度々日本軍「慰安婦」問題についての日本の責任を否定する発言を繰り返してきた。明らかに、問題を「蒸し返し」続けてきたのは日本政府である。にもかかわらず、日本式の問題解決案(国民基金)を受け容れなかったこと、少女像を設置し抗議したことがあたかも問題「解決」の障害であるかのような報道が、日本においては繰り返されている。
そして、このような問題の捉え方は、大沼保昭、和田春樹をはじめとした国民基金推進派の諸氏が繰り返し日本の言論界に宣伝し続けてきたものである。言うまでもなく、朴裕河『和解のために』『帝国の慰安婦』は、そうした「和解」観の伝播に、極めて重要な役割を担った。「口封じ」を最終的な解決であると考える歪んだ「和解」観は、いわばこの間の日本の政界・言論界が挙国一致で作り上げてきたものといえよう。
この問題に関連して、本日12月27日、韓国の「日本軍「慰安婦」研究会設立準備会」(*)が、下記の声明「日本軍「慰安婦」問題、早まった「談合」を警戒する」を発表した。私は同準備会の声明を支持する。ぜひ多くの方々、とりわけ日本の人びとに下記の声明の熟読を願う。
* 同準備会は、朴裕河の起訴に抗議する声明への批判として声明「『帝国の慰安婦』事態に対する立場 」を発表した人びとを中心とした集まりである。 
『 日本軍「慰安婦」問題、早まった「談合」を警戒する 』
日韓国交正常化50周年である2015年の暮れに、日本軍「慰安婦」問題をめぐる日韓両国政府の慌ただしい動きがメディアの報道を埋め尽くしています。
日本の安倍晋三総理が岸田文雄外相に訪韓を指示し、日韓両国は12月28日に外相会談を開催し協議することにしたと伝えられています。また、この背後には李丙h青瓦台秘書室長と谷内正太郎国家安全保障局長による水面下の交渉があったといいます。
すでに高齢である被害者たちが存命中に問題を解決することが最善であるという点については異議を差し挟む余地はありません。しかし時間を理由として早まった「談合」をするのならば、それは「最悪」になるでしょう。
1990年代初めに日本軍「慰安婦」問題が本格的に提起されてからすでに四半世紀が過ぎました。この長い月日に渡って、被害者たちと、彼女たちの切なる訴えに共感する全世界の市民たちが問題解決のための方法を共に悩み、それによって明確な方向が定まってきました。「事実の認定、謝罪、賠償、真相究明、歴史教育、追慕事業、責任者処罰」がそれです。このことこそが、これまで四半世紀をかけて国際社会が議論を重ねてきた末に確立された「法的常識」です。
日本軍「慰安婦」問題の「正義の解決」のために、日本政府は「日本の犯罪」であったという事実を認めなければなりません。この犯罪に対し国家的次元で謝罪し賠償しなければなりません。関連資料を余すところなく公開し、現在と未来の世代に歴史の教育をし、被害者たちのための追慕事業をしなければなりません。そして責任者を探し出し処罰しなければなりません。
そうすることではじめて、日本の「法的責任」が終わることになるのです。
私たちは日本軍「慰安婦」問題に対する韓国政府の公式的な立場が「日本政府に法的責任が残っている」というものであることを再び確認します。韓国政府は2005年8月26日「韓日会談文書公開後続対策関連民官共同委員会」の決定を通じ「日本軍慰安婦問題など、日本政府・軍等の国家権力が関与した反人道的不法行為については請求権協定によって解決されたものと考えることはできず、日本政府の法的責任が残っている」という立場をはっきりと表明しました。
また、これは2011年8月30日の憲法裁判所の決定と、2012年5月24日の大法院判決でも韓国政府の公式的な立場として重ねて確認されました。
私たちは1995年に始まった日本の「女性のためのアジア平和国民基金」が失敗したことは「日本の責任」を曖昧な形でごまかそうとしたためであることをもう一度確認します。国民基金は日本国民から集めた募金で「償い金」を支給し、日本政府の資金で医療・福祉支援を行い、内閣総理大臣名義の「お詫びの手紙」を渡す事業でした。しかし日本政府が「道義的責任は負うが、法的責任は決して負えない」と何度も強調し、まさにその曖昧さのせいで多くの被害者たちから拒否されたのです。
今、日韓両国政府がどのような議論をしているのかは明らかではありませんが、メディアによって報道されている内容は上述のような国際社会の法的常識と日本軍「慰安婦」問題の歴史はもちろん、韓国政府の公式的な立場とも明らかに相容れないものです。1995年の国民基金の水準さえも2015年の解決策とはなりえません。それ以下であるのならば、さらに言うまでもありません。何よりもそれはこれまでの四半世紀の間、「正義の解決」を訴えてきた被害者たちの願いをないがしろにするものです。
今から50年前、日韓両国政府は「経済」と「安保」という現実の論理を打ち立て、過去清算問題に蓋をすることを「談合」しました。まさにそのために今も被害者たちは冷たい街頭で「正義の解決」を訴えざるをえなくなりました。50年前と同じ「談合」をまたしても繰り返すのであれば、これは日韓関係の歴史に大きな誤りをまたひとつ追加する不幸な事態になってしまうでしょう。 2015/12/27 
真剣白刃取り
相手が勢いよく頭上に振り下ろしてくる刀剣を待ち受けて、両手で受け止める防衛方法。なお、実際には実行不可能に近いきわめて危険な技で、講談や剣豪小説といった純然たるフィクションの産物に近く、作中における超人的な達人が用いる、それも危機一髪でかろうじて成功することが多い。また、柳生新陰流の無刀取りと混同されることがあるが、別物である。実際の無刀取りは、こちらから先に相手の懐に飛び込み、勢いをつけて振り下ろされる前に刀を取り押さえるという、より現実的な技である。  
 
真剣白刃取りは柳生宗矩が祖と伝えられ、映像でよく表現される振り下ろした刃(やいば)を額の眼前で受け止めるものがそうであるかのように伝えられていますが、それは現実的ではありません。実際は、太刀筋を見切り空振りさせ、相手が振り抜き停止した刀身の背の部分を手のひらで挟み込み、眼前に引き戻し真剣白刃取りとするのが現実的です、この場合、刃は反転し、刀を握る相手の手首も返されるわけで、容易に刀を奪う事が可能です。実戦で使われたかどうかは疑問です。なぜなら戦場では鎖帷子(くさりかたびら)に甲冑を纏う(まとう)ので、手で刀を取る事はなく、腕で止める事が多かったと想像されます。実際、戦場では刀より槍の戦果の方が高く、刀は指揮官が指揮を鼓舞するアイテムであり、とどめを刺す刀は脇差だったりします。甲冑を纏わない太平の世の決闘や敵討ちで使われたかも疑問です、やはり道場での稽古程度だったのではないでしょうか? むしろ、振り下ろす速度に劣る刀の柄(つか)を取る方が主流で、ドラマ水戸黄門の格さんはこの手法をとっているようです。  
 
何らかの理由によって刀を備えていない際、脳天目掛けて振り下ろされる相手の刀を両掌に挟み受けて斬撃を防ぐ対刀剣用の防御法を指す。  
誤解 / そもそも、真剣白刃取りは「剣術流派『柳生新陰流』秘中の秘技」として広く認識されているが、これは通説や漫画上の誇張表現などが混在した誤解を多分に含むものであり、この誤解を以下の4点に分解して説明する。  
第一に、柳生新陰流とは開祖とされる柳生石舟斎宗厳が名乗った流派ではなく、正確には「柳生宗厳の教えを修めた高弟が免許皆伝に際して特に譲り受けた柳生姓を名乗った傍系柳生氏の流派」、即ち上泉信綱が興した剣術流派『新陰流』に源を発する分派の一つであり、柳生宗厳そのものは新陰流第二世宗家である。これを踏まえ、多岐に及ぶ新陰流諸派を厳密に分類する必要がある場合は、宗家筋にあるものを新陰流、傍系柳生氏筋にあるものを総括して柳生新陰流と称する。  
第二に、真剣白刃取りは独立した一個の技術ではなく、上泉信綱が基礎を編み出し柳生宗厳が大成した徒手技術『無刀取り』の一つに過ぎず、「振り下ろされる相手の刀を受け止める」とする明確な定義は存在しない。  
第三に、無刀取りに見る真剣白刃取りの実像は古流柔術や合気道の対武器術の一つ『剣取り』に極めて近く、「相手の打ち込みの一手先を読んで懐深くに飛び入り、振り抜かれる前の刀身を両拳、または両掌に挟み込んで完全に制し、その後に加える一撃を以って相手の手元から刀を離す」事を本来の目的としており、決して「刀身の重量と遠心力の相互効果で高い加速度状態にある刀を脳天の間際で受け止める神域の妙技」ではない。  
第四に、いざ刀を備えた相手と対峙した際の実用性を考えた場合、振り抜かれる刀に対しては回避の優先こそが明らかに危機を脱するに適しており、その過程の前後に見つけた相手の隙に付け入って刀を制する順序を踏んだほうが理に適っている。  
以上の4点から、大多数が頭の中に思い浮かべる「柳生新陰流秘伝・真剣白刃取り」は、由来から形式に至るまで後世の文筆や演劇、映画、漫画などの誇張表現を通して徐々に形作られた虚構に近いものである。  
その上で、真剣白刃取りそのものを今に伝来する古武道諸派の存在、真剣白刃取りを実際に成功させた達人の存在を併せて記し、最終的に日本武道の真髄に等しい「相手を殺す術を転じて相手を活かす術」にまで昇華させた代表例な理念として存り続ける事実を付け加えるものである。