2015年 良い年悪い年

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今年の世界10大リスク 
アメリカの調査会社「ユーラシア・グループ」が今年の国際情勢の「10大リスク」を発表し、最大のリスクとしてヨーロッパの政治が挙げられました。国際情勢のリスク分析を専門とするユーラシア・グループは毎年、世界が直面する可能性があるリスクを10のテーマに絞って発表しています。  
今年最大のリスクとされるのはヨーロッパの政治で、その理由として各国で反EU勢力がそれぞれ台頭していることに加え、各国間でも意見が食い違い、さらにロシアや過激派組織「イスラム国」などの外的な不安要素が高まっていることを挙げています。  
2番目のリスクはロシアで、経済制裁と原油安で経済状況が厳しくなっており、西側諸国と対立が一段と深まればサイバー攻撃や武力による威嚇行為に出る可能性があるとしています。  
3番目のリスクは中国経済の減速で、中国への輸出に頼ってきたブラジルなど資源国の経済が打撃を受けると指摘しています。  
このほかアジア関連では中国と台湾の関係悪化が挙げられ、中国政府が台湾を経済的に取り込もうという政策が進まないと判断した場合、すでに合意した貿易協定を撤回するなど強硬姿勢に転じる可能性があり、米中関係にも影響を及ぼしかねないと分析しています。  
ユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長は「アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、中国、それぞれが違う方向に動いていることが地政学的な環境を一段と不安定化させ、経済にも混乱を引き起こしている。2015年が大きな問題が起こらずに過ぎるとは考えられない」と話しています。  
  2015年「10大リスク」  
1 ヨーロッパの政治 
ヨーロッパでは反EU勢力が台頭していることに加え、それぞれの国の中でも現政権への不満が高まっている。さらに、ロシアや過激派組織「イスラム国」など外的な不安定要因も高まっており、このため、ヨーロッパの政治が国際情勢の最大のリスク要因となっている。  
 
欧州経済はユーロ危機の最悪期に比べると、本質的には良くなっている。しかし、欧州の政治は状況がすごく悪くなっている。草の根レベルの有権者の怒りが欧州全体に広がっている。欧州懐疑主義を唱える極左政党と極右政党が既存の主要政党を脅かしている。このため、主要政党も欧州懐疑主義というポピュリズムに走り始めている。フランスでは極右の国民戦線(FN)が台頭し、英国では欧州連合(EU)離脱を唱える英国独立党(UKIP)が保守党のキャメロン首相を揺さぶっている。EU内部では、これまで欧州の核となってきたドイツ、フランス、英国の足並みが乱れる。フランスのオランド大統領の支持率は13%に落ち込み、財政赤字の削減目標は達成できそうにない。英国はEUに残留するかどうかが問題になっている。EU全体が緊縮策で意見を一致させるのは難しい。さらにウクライナ危機でロシアのプーチン大統領は領土的野心をむき出しにした。米国家安全保障局(NSA)の監視プログラムで米国に対するドイツの不信感が膨らんでいる。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」によるテロの脅威も予測できない。  
2 ロシア 
経済制裁と原油安でロシアの経済状況が悪化する中西側諸国との対立がさらに深まれば、ロシアがサイバー攻撃やNATOとの境界付近での武力による威嚇行為が活発になる可能性がある。プーチン大統領は追い込まれれば追い込まれるほどより強硬で、無謀な行動を取る傾向があり、これが世界のリスクになる。  
3 中国経済減速の影響 
中国経済そのものの見通しは楽観的だが、原油などの資源価格が下落するなかで、中国への輸出に依存してきたブラジル、オーストラリア、インドネシアやタイなどの資源国は経済的に大きな打撃を受けることになる。  
4 金融の兵器化 
アメリカはロシアやイランへの制裁の手段として軍事力に代わって金融を武器として多用し始めている。しかし、これが結果的にドル離れやアメリカが中心になって動かしてきたIMFや世界銀行などの世界の金融システムの弱体化を招くリスクがある。  
5 イスラム国 
「イスラム国」の影響力がイラクとシリアだけでなく、ほかの中東や北アフリカの国々にも広がり、欧米諸国がこうした勢力を抑え込むことは一層難しくなる。こうしたなかで、欧米諸国と協力するスンニ派が多数を占める国々で「イスラム国」は特に支持者を増やし、リスク要因となるだろう。  
6 力を失った指導者たち 
ブラジルや南アフリカ、トルコなどの新興国の指導者にかつてのような求心力がない。これによって生じる新興国の混乱は世界全体の経済成長や政治の安定を妨げ、リスクとなる。  
7 戦略部門の台頭 
経済成長よりも政治の安定を重視する傾向が強まり、ロシアや中国だけでなくアメリカでも、安全保障に関わる情報通信や金融など戦略的な部門で政府の介入が強まり、企業活動が制限されるようになる。  
8 サウジアラビア対イラン 
シーア派のイランとスンニ派のサウジアラビアの対立がさらに顕著になる可能性がある。核開発問題を巡るイランと欧米との協議が決裂すれば、イランが反発を強めて地域のバランスを変え、中東全体で宗派間の対立の激化を引き起こすリスクが高まる。  
9 中国と台湾の関係悪化 
中国政府が台湾を経済的に取り込む政策が進まないと判断した場合、すでに合意した台湾との貿易協定を撤回するなど強硬姿勢に転じる可能性がある。それによって、アメリカと中国の関係にも影響を与えるリスクがある。  
10 トルコ 
エルドアン大統領が強権的に押し進める政策がことごとく裏目に出ており、「イスラム国」の台頭によって不安定になっている中東情勢をさらに混乱させる要因となっている。  
アジア極度に緊張した状態続く  
「ユーラシア・グループ」は、一般的な評価とは異なってリスクには該当しないものとして、「アジアのナショナリズムの台頭」を挙げています。  
アジアでは、強い権力基盤の基で国内の経済改革を優先し、一定の成果を上げている日本と中国、インド、それにインドネシアの4か国が鍵を握るとしたうえで、このうち中国については南シナ海などでの領有権問題を巡って攻撃的な姿勢を変えず、各国との間で極度に緊張した状態がことしも続くと分析しています。  
そして、こうした緊張を背景にアジア全体ではナショナリズムを支持する人が多いものの、日本と中国を含む各国は、地域での経済関係と安全保障を優先させ、仮に突発的な事件が起きたとしても互いに冷静に対応できると分析しています。
日本の問題はロシアとアメリカの間での板挟み  
ことしの国際情勢の「10大リスク」を発表した、アメリカの調査会社、ユーラシア・グループの社長で、国際政治学者のイアン・ブレマー氏は、5日、NHKのインタビューに応じました。  
この中でブレマー氏は、ことしの最大のリスクとして「ヨーロッパの政治」を挙げた理由について、ギリシャやイギリス、フランス、それにスペインなどEU=ヨーロッパ連合の加盟国の間で、離脱を求める声が出ていることに触れ、「確実に国内的なポピュリズムやEUに懐疑的な感情が増大している。こうした動きは、EUを間違いなく弱体化させることにつながる。以前にも増して、EUがばらばらになることへの圧力が高まっている」と説明しました。  
また、2番目のリスクとして挙げたロシアについて、ウクライナ危機をきっかけに、アメリカやヨーロッパなどとの対立が深まり、「新たな冷戦」の時代に入りつつあるという指摘も出ていることについては、「『冷戦』になるとは思わない。アメリカとヨーロッパ、ロシアと中国がそれぞれ協調していないし、ロシアにそこまでの力がない」と述べました。  
一方で、最悪のシナリオとして、「NATO=北大西洋条約機構の軍とロシア軍の対立によって、ヨーロッパで、民間機がロシア側に撃墜されるような偶発的な事態が起こるかもしれない」と述べ、深刻な対立に発展する可能性を排除できないと分析しました。  
また、日本を取り巻く状況については、「ことしは私が懸念する地政学的リスクはアジアにはない。日本にとってはよいことだ」と述べました。  
そのうえで長期的なリスクとして、「アメリカが、他国との関係を軽視する一国行動主義に向かいつつあるなかで、最も重要な同盟相手であるアメリカが、日本に関与することが一層難しくなる」と指摘しました。  
そして、「日本には、アメリカが実施する経済制裁を支持することが期待されるなど、アメリカの同盟国であることのコストが存在する」と述べ、日本が特に経済面で協力を深めたいロシアと、それを嫌うアメリカの間での板挟みが、日本にとっての問題となるとの見方を示しました。
  
  
  
  

 
2015/1  
 
2015年を占う去年の切り抜き
安倍官邸が最も警戒する男・二階俊博〜官邸VS自民党 (2014/5)  
予算委員長の立場を逆手に取って力を誇示  
「間合いが抜群というか、ケンカ上手。とにかく駆け引きでは何枚も上」  
安倍首相側近の1人がそう話すのは二階俊博予算委員長。そして、警戒心をあらわにした。  
「官邸が今一番(動きに)神経をとがらせているのは野党でも何でもない。二階さんだ」  
二階は当選10回の重鎮。運輸相、経産相、自民党総務会長、国対委員長などを歴任してきたが、二階の厚みは、過去、新進党や保守党などにも籍を置いてきたこと。「逆にそれで根気や胆力を身に付け、結果的に与野党問わず幅広い人脈を築くことになった」(自民党幹部)のである。  
人脈は、野党では新進党以来の公明党との太いパイプ。このほか他党の落選議員や、かつて敵対していた議員らが路頭に迷うような状況になれば自らの二階派に受け入れ、「今の時代数少ない本当の親分肌」(前出・自民幹部)との評もある。  
そんな二階を、安倍政権はむしろ重用すればガバナンス上もメリットは大きいはずだが、それが逆に警戒とはなぜか。自民党の7役経験ベテラン議員はこう話す。  
「二階さんをはじめ党内のベテラン議員たちは、参院選で勝ってねじれを解消するまでは、多少の不満はあっても安倍さんに協力してきた。ところが、官邸が政策や人事を決めるいわゆる『政高党低』が相変わらず続いている。じゃあ与党とは何なのかと派閥領袖やベテラン議員などは我慢できないところまできた。そうしたマグマが集団的自衛権見直しなどを契機に、一気に安倍批判の声になって噴き出してきたということ」  
さらに二階の場合、どうしても譲れないのが外交路線だ。  
「二階さんは親中国派。中国や韓国など近隣諸国を大事にしながら経済交流を深め、相互発展していこうという考えだ。そこが安倍さんとは真っ向からぶつかる」(二階派中堅議員)  
こうしたことから、今後は二階が安倍首相の政策に対して度々変更を迫る可能性が高まってきたのである。  
では二階の「何枚も上」の駆け引きとはどんなものなのか。  
例えば、官邸は人事で二階を予算委員長に就けたが、これは実は動きを封じるためのポストだった。「国会のしかも委員長というのは中立でなければならず私情も挟めないから勝手な動きは許されない」(前出・首相周辺)からである。しかし、二階はこれを逆手に取る。  
「二階さんも最初は『今さら俺がなんで予算委員長なんだ』と周囲に怒っていたのに、いざ国会が始まったら予算審議などで安倍さんに意地悪をするどころか、逆に混乱させずにスピード通過させてしまった。つまり『安倍さんよ、与野党をしっかり押さえてちゃんと通したぞ。分かってるだろうな。こっちの言うことも少しは聞けよ』という力の誇示、無言のプレッシャーだ。表向きには安倍さんの国会運営に協力しながら、実は同時に安倍さんを脅す。正面から攻撃してくるよりもずっとすごみがあって、官邸が震え上がるのも分かる」(前出・元7役議員)  
新たな権力闘争の構図がうごめきだす  
また、リベラル派の二階自身も反対の集団的自衛権の解釈改憲については、パイプがある公明党に水面下で接触し連携を図っているという。  
公明党幹部が言う。  
「二階さんは早い段階から、『自民党内でも反対は多い。こっちはこっちで動くから』と言ってくれていた。3月ごろからうちも代表や幹部が『見直しには慎重な議論を』と公言し始めたが、そのとき二階さんは、『いくらでも兵力を出す。遠慮なく言ってくれ』と。つまりうちが反対の声を上げたら同時に援護射撃の声を自民党内でも上げるという意味です。事実二階さんは親しいベテラン同士に持ち掛けて慎重論の声を盛り上げ、『公明党の立場を大事にすべき』とまで言ってくれた」  
むやみに正面切っての殴り合いはしない。間合いの取り方やケンカ上手、人脈をフルに使うといった二階の真骨頂が見え隠れする。ただ、二階にも最後の一線がある。例えば親中・親韓の外交政策は絶対に捨てられないし、集団的自衛権のむやみな行使にも反対だ。「安倍さんがこの2点で暴走するなら、そのときは反安倍ののろしを上げるだろう。党内の人脈は、青木幹雄元参院会長、古賀誠元幹事長、大島理森前副総裁、額賀福志郎元財務相ら。彼らと連携して反安倍の総裁候補を立てて戦うこともあり得る」(三役経験者)という。これに対して安倍側近の一部は、「支持率は高い。古い自民党と戦う形に仕立てて遠慮なく進めばいい」と話す。  
安倍VS二階。自民党の新たな権力闘争の構図がうごめきだした。 
TPP交渉推進の陰で生贄にされる農協の解体シナリオ (2014/6)  
政府が6月にまとめる新たな農業強化策や新成長戦略で、農協の見直しが焦点となっている。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に反対する全国農業協同組合中央会(JA全中)にきついお灸を据えるのが狙いだ。「農業協同組合」はついに解体されるのか。  
噴出した解体論議  
農協(JA)のイメージは、都会に住む人から見れば「お米や野菜を安定的に届けてくれる親切なお百姓さんの組合」といったところだろうか。その一方で、日本のTPP交渉参加の反対集会でムシロ旗を立て、国会前で「絶対反対!」のシュプレヒコールをあげている圧力団体でもある。JAグループの職員は20万人を超える。  
政府の規制改革会議(議長=岡素之・住友商事相談役)は5月22日、JA全中による指導制度の縮小・廃止、企業の農業参入の規制緩和などを骨子とする農業改革案をまとめた。改革案では農地取得が可能となる農業法人に企業が100%出資できるようにするとしている。  
既に、イトーヨーカ堂やイオン、ローソン、住友化学、トヨタグループ、大手商社などが農業に参入しているが、現在の農地法では食品関連など一部の企業を除いて出資比率25%以下に制限されており、実現すれば企業の農業進出が加速。農協の地盤沈下が進む。  
一方、農協組織の見直しでは、「中央会制度の廃止」をうたっている。JA全中は農協法に基づき、全国約700の地域農協を指導する権限を持つ。指導料として年間約80億円の賦課金を集めるほか、監督権も持つ。この構造がJA全中を頂点とするJAグループのピラミッド型組織の根底にある。  
「組織の理念や組合員の意思、経営・事業の実態と懸け離れた内容だ。JAグループの解体と受け止めざるを得ない」。全中の萬歳章会長は規制改革会議の改革案に猛反発する。自民党の農林族議員も「日本の農業が崩壊する」「選挙を戦えない」などと批判。党独自の対案をまとめることを決めた。  
JA全中が4月に自ら発表したJA改革プランでは、地域農業で中心的な役割を果たす「担い手農家」を理事に登用することや、食品メーカーの運営参加、農産物の輸出額を2020年までに10倍超に増やすなどの目標が掲げられた。しかし、株式会社化が検討されている全国農業協同組合連合会(JA全農)改革や肥大化批判がある金融事業の見直しには踏み込まなかった。  
赤字の本業・農業関連事業を支えているのは、生協や中小企業など他の協同組合では認められていない金融事業だ。戦時統制団体である「農業会」をルーツとする農協は食糧管理制度(食管)を利用し、政府から組合員の農協口座に振り込まれるコメなどの販売代金を農協貯金として貯め込んだ。また、会社や役所、農協に勤める兼業農家の給料やボーナス、退職金などの農業外所得や、農地売却代金の受け皿になった。  
農林中央金庫(農林中金)の貯金残高は約90兆円とメガバンク並み。農林中金の資金運用は債券(国内・海外合計)での運用が約7割で、日本最大の機関投資家だ。投資銀行化した農林中金は証券化商品を急速に買い増し、09年9月末時点で6兆8千億円もの投資残高を抱えた。これとは別に、連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)、連邦住宅貸し付け抵当の住宅ローンを担保にした証券を3兆円も抱えていた。  
これらの債権がリーマンショックの影響をモロにかぶり、09年3月期決算では単体の経常損失が6200億円にも膨らみ、農協など系統機関からの1兆円規模の資本注入でようやく危機を脱した。  
狙われる金融事業  
TPP交渉参加の議論でコメ・牛肉など農業の危機ばかり騒がれているが、米国の金融業界の最大の関心事は日本人の金融資産である。規制改革会議が「脱農(業)化」「本末転倒」と批判、米国が開放を求めているのが金融事業だ。がん保険など、日本郵政グループのかんぽ生命保険の新規事業が認められないのもこの影響からだ。  
日本郵政が、米保険大手アメリカンファミリー生命保険(アフラック)のがん保険を販売するのもTPP交渉での米国の開放圧力をかわすためだといわれる。一方、JA共済は自前のがん保険も扱い、かんぽ生命にはない自動車保険も揃えている。  
民間保険が不特定多数に対して営利事業として行っているのに対し、共済事業は組合員同士の相互扶助が目的の非営利団体という建前だ。身元が分かっている人を対象とするためリスク管理費用を安く抑られ、掛け金も一般の生命保険よりも安い。  
国内の農家が減少する中、逆にJA共済の総資産が増加しているわけは数千円の出資金を払えばサラリーマンや主婦などがJAのサービスが受けられる「准組合員」になれる仕組みだからだ。准組合員にはJA貯金・共済加入者のほか、農協経営のガソリンスタンドを利用するだけの会社員や主婦も多い。  
農業を営む「正組合員」の数が09年度に逆転。11年度は准組合員が約516万人、正組合員が約466万人と差は開きつつある。金融事業が正組合員に限定されれば、JAグループの解体は避けられない。  
「郵政」の上場が決まった今、最期の官製企業はJAグループだ。米国とのTPP参加交渉をまとめるため、安倍首相は農協解体の指示を下すだろう。 
戦争を知らない安倍政権の暴走を憂うリベラル派の自民長老たち (2014/8)  
風向きを変えた集団的自衛権の容認  
「な、言ったとおりだろう。これで、またあの人たちがいろいろ仕掛けてくるよ」  
かつて官房長官や主要閣僚を歴任した自民党国会議員の元老秘書が、あきれ顔で語った。7月13日投開票の滋賀県知事選の結果を受けてのことだ。自民、公明両党推薦の小鑓隆史氏が前民主党衆院議員の三日月大造氏に敗れたのだ。  
小鑓氏の選対関係者はこう言って肩を落とす。  
「7月1日、集団的自衛権行使の限定容認に関する新たな政府見解が閣議決定されてから風向きが変わった。投票率も50%を超えるとは想定外だった」  
集団的自衛権行使の限定容認−−。これまで国民の関心の枠外で、とりわけ首長選挙には関係ないと思われていたが、この閣議決定が大きく影響したというのだ。前出の元老秘書の言葉に耳を傾けてみる。  
「安倍晋三首相は、憲法改正がやりたくて仕方ない。だから、最初は96条改正を持ち上げ、なかなか進められないと見ると解釈改憲に路線を変更した。やるのは構わない。しかし、手順が悪過ぎる。百歩譲って閣議決定するにしても、国会会期中に定例の閣議でやるべき。それが閉会後に臨時の閣議を開いて行うなんて、あまりにも強引で姑息。これまでの自民党の保守の王道≠ゥら逸れた手法だ」  
30年以上、自民党の政権中枢で権力者の所作を見続けてきた男はこう嘆くのだ。その元老秘書が冒頭語ったあの人たち≠ニは誰を指すのか。  
「引退した長老たちのことだよ。野中広務元幹事長、青木幹雄元参議院議員会長、古賀誠元幹事長、山崎拓元副総理たちのことだ。彼らは自民党リベラル派として、安倍政権の危うさを事あるごとに訴えてきた。今後は、早晩崩れるだろう安倍政権を見据え、ポスト安倍に向けて動き出すに違いない」  
彼らは権力者として長年君臨し、利権の象徴として批判の矢面に立ってきた。しかし、一方で彼らに共通するのは、幼少期に戦争を体験していること。焼け野原の日本を立て直すことを目標に政治家を志したことだ。  
この約半年内で山崎氏、古賀氏が語ってくれた言葉がよみがえってくる。  
「今は政高党低の特別な状態。僕の経験上で振り返れば、田中角栄政権、中曽根康弘政権、小泉純一郎政権が、首相のリーダーシップが目立った時期。しかし、田中政権時は党内に青嵐会ができ、党内で激しい摩擦が生じた。中曽根政権時は、田中角栄氏の影が見え隠れして田中曽根内閣≠ニ呼ばれ、党内からも批判を浴びた。小泉政権時は、郵政民営化で大混乱に陥った。いずれも党自らが権力の暴走を許さなかったが、今は権力の暴走期≠セ」(山崎氏)  
自民党の劣化を憂い嘆く、山崎氏の思いがひしひしと伝わってくる。  
「勇気のある国とは、どんなことを指すのだろうか。イケイケドンドンが勇気ある国なんだろうか。本当の勇気とは、1歩も2歩も立ち止まって、経済的な繁栄が100から80になっても、各地域の産業をどう育てるのか、地域の特性をどう生かすのか、そういうきめ細かさが必要だと思う。日本はホワイトカラーだけで成り立っているわけではありません。だけど、痛みが出てくるところもあるでしょう。何が一番大事かといえば、思いやりや温かさが(政治に)にじみ出てくれば、国民は理解してくれると思う」(古賀氏)  
小泉純一郎政権以降、疲弊した地方経済に思いをはせる古賀氏の心情が伝わる言葉だ。  
来年の総裁選に向けシミュレーション  
いずれも、変質した自民党への危機感が根底にあり、バッジを外した今も、自分にできる役割を模索しているように感じる。それは決して、再度バッジを付けたいとか、権力を握り院政を敷くとかいう、低俗な欲望ではない。自分たちが築いてきた、道半ばの日本の再生が崩れてしまっているという危機感からの発露だと感じるのだ。  
政治スケジュールを見れば、今後は9月に内閣改造、10〜11月に沖縄と福島の県知事選、12月に消費税10%への再増税決定、来年4月統一地方選、9月に自民党総裁選となっている。それぞれが難しい関門となっていて、1つ手順を間違うと政権が瓦解する恐れがあるという。  
バッジを外した長老たちは、このような政治スケジュールを見据え、さまざまなシミュレーションを想定しながら、来年9月の総裁選で安倍外しに動くというのが、永田町関係者たちの共通した見方だ。果たして、あからさまな安倍降ろしの旗振り役をするのか、それとも自民党リベラル派の再構築の黒子となるのか。間もなく69回目の終戦記念日だ。バッジを外した長老たちの真夏の闘いは続く。 
小泉進次郎氏が衆院解散時「バンザイ」をしなかった本当の理由とは (2014/12)  
政権の感度の鈍さについて問題提起  
それにしても、「大義」や「争点」がいまひとつはっきりせず、有権者も迷う総選挙だった。  
確かに安倍首相にとって、今後の長期政権の足場固めに向けて今やるのが最も有効と判断したのだろう。もちろん解散は「首相の専権事項」であり、最高権力者が権力を維持するためにはいつどんなときでも「解散」していいのだ。こうしたことから、今回は「政策」ではなく「政局」解散だったと言えそうだ。  
しかし、今回の解散・総選挙では、明らかに「国民の政治意識と永田町の認識との乖離」が露呈したと思う。選挙が終わったから「それでおしまい」かというと、この乖離が、今後安倍政権が政策を実現していく際に、意識のズレ、政策の失敗、支持率の低下といった負の連鎖を生む危険性を、政権は十分認識すべきだ。  
実は、解散当日に、早くもそうした「政権の国民に対する感度の鈍さ」について、行動をもって、安倍首相や自民党全体に問題提起したのが、小泉進次郎前内閣府政務官(復興担当)だった。  
11月21日、衆議院の解散詔書読み上げ直後に行われる恒例のバンザイ。今回、民主党と維新の党は「大義なき解散に対する抗議」として「バンザイ」をしなかった。ところが、何と与党自民党の中にあってこの「バンザイ」をしなかったのが進次郎氏だった。  
議場から出てきて記者団に囲まれた進次郎氏はこう話した。  
「多くの国民は解散を『今じゃない』と冷めている。国民が解散の大義を感じていないのにシロだクロだと選挙をやることは国民の思いから離れてしまう。バンザイしている姿は、余計に国民との心の距離を生むんじゃないか」  
与党の一員として、バンザイをしなかったその行為に対して、自民党内からは批判の声が次々に上がった。  
安倍首相の出身派閥の町村派幹部は「世論調査などをすると国民の間には解散反対が多いから、それに乗ったポピュリズムでしかない。解散はいろいろ考えはあるだろうが安倍総理の決断。これは厳重注意モノじゃないか」。また、自民党中堅議員は「彼特有のパフォーマンスでしょう。野党時代なら『少々暴れても許される』ということだったが、今はもう与党なんだから、どう行動するか少し自覚してほしいと思いますね。彼もずぶの新人じゃないんだから。進次郎なら許されるという時期は過ぎたんです」と語る。  
選挙応援で実感する自民党への逆風  
だが、自民党内のこうした見方に真っ向から反論するのは、東日本大震災の被災地の東北地区自民党若手県議会議員だ。  
復興政務官を自ら希望した進次郎氏は「復興がライフワーク」と公言するほど。進次郎氏は被災地に通い詰め、地方若手議員や被災者、地元の自治体関係者らと膝詰めで話をしてきた。  
「バンザイをしなかった進次郎さんに私たちは拍手を送りました。被災地の人たちは私の知る限りほとんどが解散に疑問を持っていました。特に、今も寒くて狭い仮設住宅で過ごす人たちなどは『もう4回目の年越し』ですよ。選挙なんかやっている時間があるのか? 復興はどうした? という怒りです。被災してからこれで3回目の国政選挙ですが、1票入れても何が変わるのかという不信感が根強い。進次郎さんは被災者の本音を受け止めてくれる数少ない自民党国会議員。だからこそあの行動(バンザイをしない)をしてくれたんです」(若手県議)  
進次郎氏が代弁したのはそうした被災地の声だけではない。  
実は、常日頃から進次郎氏は国政選挙から地方選挙に至るまで応援要請が党内でもトップクラスだ。ところが、逆に彼が応援に呼ばれる選挙はどれも自民党候補が厳しい戦いを強いられている選挙なのだ。「負けているから彼が呼ばれる」(自民党選対幹部)のである。そうした選挙応援に出向くと、進次郎氏は誰よりも「自民党への批判や今の逆風」を実感するのである。  
かつて、同じように選挙応援で引っ張りだこだった故橋本龍太郎元総理が政調会長時代に私にこう言ったのを思い出す。  
「俺が呼ばれるのは厳しい選挙ばかり。だから応援に行くと、今自民党のどこが悪いのかなど批判の風が読める。だから東京に戻ったら『これやっちゃいけない、こうしたほうがいい』と幹事長や総理に必ず報告するんだ」  
被災地をどの自民党議員よりも回り、全国の自民党に厳しい声の選挙区を回っている進次郎氏。今の世論に最も身近に触れている彼が「バンザイしている場合か」と行動したのは、今回の解散総選挙や安倍政権に対して世論が抱く批判や本音を自民党自身に警告したのだ。そんな進次郎氏を「パフォーマンスだ」などと軽視していると、自民党は痛い目に遭うかもしれない。 
お金持ちたちのお金の使い方はどうか (2014/9)  
江上治(富裕層専門のカリスマFP)  
お金持ちの生活費は多くない  
お金の貯め方、ではなく使い方をテーマにした書籍というのは、意外に少ないことに気づく。資産運用も「お金の使い方」の一種と言えば言えるが、消費ではなくお金を増やす世界であるから、貯め方の一種と言ったほうがいい。  
まして、お金持ちたちがどのようなお金の使い方をしているか、実態を伝えているものは稀である。その意味で、私が『年収1億円人生計画』(経済界刊)で示した、年収1億円超の事業家の家計簿はなかなか価値があると思うのだが、どうだろうか。  
…ま、そんな自画自賛はどうでもいいのだが、富裕層のお金の使う流儀というものを、今回、考えてみたい。  
前掲『人生計画』で登場していただいた方は年収が1億3500万円だった。税金を支払った後の収入は月690万円。支出で注目したのは、生活費の少なさだった。  
夫婦2人プラス長男の3人の生活ながら、月の食費は7万円、通信費は1万8千円、交通費は4万2千円だった。衣服費が200万円と高かったが、奥様が衣装関係の仕事をしているという背景があった。外食費と交際費が各50万円と高額だったが、これには定期的に催す社員との懇談会が含まれている(自腹)という。  
また、夫婦の親への仕送りが、合わせて月90万円あった。親孝行なのである。  
私の疑問に答えてくれる一書  
この人の日常生活のお金の使い方は、質素そのものだった。しかし、知り合いへの貸付金(出資金)は毎月50万円ほどあり、累積で3億円となっている。いずれはリターンとなる投資だ。また、不動産への投資もかなりある。  
さて、息子は既に成人しているので、この場合、教育投資はわからなかったが、当時から私は、お金持ちたちは子どもたちに、どのような形で資産を残そうとするのかに関心が強かった。  
特に目に見える実物資産として残すのか、目には見えない教育に投資するのか、知りたいものだと考えていた。  
その意味で『新 日本のお金持ち研究』(橘木俊詔・森剛志、日本経済新聞出版社)は私の疑問に答えてくれる内容と言っていい。  
この本は、だれがどのようにしてお金持ちになったのかを分析した『日本のお金持ち研究』の続編。今度は、お金持ちが何を考え、自分の生活をどう判断し、どんな消費行動や資産選択行動しているかを分析している。  
まず、自分の子どもの教育に対してお金持ちが支出している金額に触れてみたい。  
習い事に月10万円、授業料は年300万円以上  
この本には、わが子への教育投資(月々の習い事代・年間授業料)がいくらになるか、実数が出ている。  
それによると、習い事代では5万〜10万円未満がいちばん多い。10万〜18万円までで全体の40%近くを占めている。月に10万円程度の習い事は普通というわけだ。  
年間授業料はどうだろう。最も支出が多かった時を聞いた結果だというが、100万〜200万円が約20%でいちばん多く、次いで300万〜500万円(約17%)、200万〜300万円(約15%)と続く。全体の40%以上は、年間300万円以上の授業料を払っている実態が明らかになっている。この辺りがなかなかマネのできないところで、お金持ちならではと言っていい。  
もちろん、子どもの数が多ければ年間授業料も多くなるのは当然である。また、職業によっても年間授業料に高低差が出る。医師の家庭では子どもも医学部進学であることが多いと想定されるが、約6割が年間300万円以上支払っている。経営者の家庭では同額の支払いは4割未満だ。  
だが、総じて教育熱心な姿が浮かび上がってくる。  
[今号の流儀] お金の掛け方、使い方にメリハリを利かせるのがお金持ち流。 
劇的なイノベーションが期待される省エネの取り組み (2014/9)  
さらなる省エネは可能  
これまで、このコラムでは、再生可能エネルギーや原発の話を中心に議論をしてきましたが、今後の世界のエネルギー問題への対応策を考えた場合、省エネルギー対策が王道と言えるでしょう。何しろエネルギーを使わなければ、エネルギー安全保障の問題も起こりませんし、電気代も掛かりません。また、CO2も増えません。  
逆の視点から見ると、今後、中国(13億人)、インド(12億人)、さらに他の新興国において、生活水準が向上していく中で、世界中の人々が、今の先進国のようなエネルギーの使い方をするようになれば、いくらシェールガスがあっても、あっという間に化石燃料は枯渇するようになり、資源をめぐる争いが起こることが懸念されます。  
もちろん、新興国の人々に、豊かな生活をするなというわけにはいきません。したがって、エネルギーをめぐる争いが生じるような事態を避けるためには、そもそもエネルギーをできる限り使わずに豊かな生活が送れるようにする必要があります。すなわち、省エネをどれだけ進められるかが大きな鍵を握るのです。  
多くの場合、省エネは、創エネに比べて、短い期間で実現できるはずです。例えば、家庭でも、太陽光発電システムを屋根に取り付けるのに比べ、蛍光灯をLEDに変えたり、クーラーを省エネのものに買い替えたりすることは、短時間でできます。  
それでは、なぜ省エネが一挙に進まないのでしょうか。それは省エネのためのコストが、節約されるエネルギーコストよりも高い場合は、家庭も企業も省エネ投資を行わないからです。  
日本の産業部門は、オイルショックを経て、費用対効果の高い省エネ投資はほぼやり尽くしており、日本の産業界での省エネをこれ以上進めるのは、産業競争力をそぐことになり、難しいということがいわれてきました。こうした認識も踏まえ、2012年に民主党政権が決定した「革新的エネルギー・環境戦略」においては、30年に電力量で10年比1割減、最終エネルギーで2割減を「極めて野心的な目標」として掲げていました。しかしながら、現実には、10電力会社の発受電力量の実績ベースで12年度は10年度に比べ5・5%、13年度では6・5%の節電を実現しています。20年かけて実現しようとした削減幅の6割程度は既に実現しているのです。もちろん、東日本震災後の日本では、原発の停止に伴い、節電の必要性が高まり、「我慢の節電」といえるものもあったと思います。  
ただ、震災から3年たち、経済活動も上向いている中で、これだけの節電がなされていることは、既に、LED化や工場の省エネ化などの構造的な省エネが進んでいることを意味しています。それらが費用対効果を無視した省エネ投資とは思えません。  
8月14日の日本経済新聞に、日本の有名企業の国内の主力工場での省エネに対する取り組みの記事がありました。日立建機は、16年度末までに10年度比で電力使用効率を3割以上改善するとしています。また、コマツは、15年度に、国内の電力使用量を10年度比で半減させる目標を掲げています。  
こうしたニュースを見る限り、日本の産業界でもさらなる省エネは可能と考えられますし、産業界以外では、まだ費用対効果の見合った省エネ投資があると考えられます。さらにいえば、LEDなどは、普及が進めば進むほど、価格が下がる傾向にあり、そうすれば、費用対効果が上がり、さらに普及が進むという好循環が期待できます。  
日本が発信地に  
そうしたことも勘案して、例えば、40年に、エネルギー消費量を半分にするという目標を立てることは無謀でしょうか。もちろん、この目標を実現するためには、今の延長線上の省エネ対策だけでは無理でしょう。ただ、40年といえば、今から25年後です。今から25年前の1990年頃を考えてみてください。その頃、インターネットや携帯電話がこれほどまでに普及すると考えていた専門家がどの程度いたでしょうか、さらにはスマートフォンなるものが世界中で使われるようになると予想していたでしょうか。  
通信分野の爆発的な変化を起こしたのは、イノベーションであり、それを支えたのは、規制が追い付けないほどのスピードであり、その結果としての自由な競争環境だったのだと思います。したがって、省エネについても、こうした劇的なイノベーションを目指すべきです。  
省エネは、世界的な要請なのです。省エネ機器や省エネサービスは、広く世界で広がるべきものであり、日本がそのイノベーションの発信地となることで、世界から尊敬される国にもなれるのではないでしょうか。 
北半球のオーストラリア〜外国人に愛される街・ニセコ〜 (2014/3)  
札幌の空の玄関口、新千歳空港から車で3時間、蝦夷富士とも呼ばれる雄大な羊蹄山を望む場所に、今回の目的地「ニセコ」エリアがある。ニセコエリアのスノーリゾートはニセコ町だけでなく、倶知安町にまで広がる。この場所に、近年多くの外国人が訪れているというのだ。その半数以上をオーストラリア人が占める。  
米国出身のゲストで、ニセコはトライアスロンのコースとして走ったこともあるマイケル・ライスさんもニセコの映像を見てびっくり。スーパーの従業員が英語で話しているところや日本のスーパーとは思えない品揃えに、「私も外国人の多い、長野県の白馬村でスキーを楽しみますがニセコほど外国人はいない」と言う。では、なぜこのように外国人、しかも多くのオージーがこの地を訪れるのだろうか。  
その理由のひとつ、倶知安町在住のロス・フィンドレーさんは、1990年にスキーインストラクターとして来日し、ニセコの魅力にはまった。彼の口コミなどで徐々にオーストラリアの人々に浸透したようだ。オージーが魅了されたのは「パウダースノー」。オーストラリアのスキー場は降雪機に頼ることが多く、極上のパウダースノーのあるニセコはあっという間に広まったという。  
さらに、米国同時多発テロの影響で、今まで欧米でスキーを楽しんでいた層も、安全でしかも距離や時差の負担の小さい日本に目を向け、ニセコを目指すようになった。  
町役場でも、標識の英語表記を増やし、外国人職員を採用するなど積極的に受け入れ体制を整える。  
ニセコの国際化はまだ止まらない。最近、特に増えてきているのがアジア、特に東南アジアの富裕層だ。一部のスキー場や高級コンドミニアムに東南アジアの資本が入ったことが引き金になったようで、経済成長著しいアジアの人たちの姿もニセコの街で珍しくなくなった。  
常夏の国から来た客人にとっては雪自体が珍しく、初めての雪という人も多い。マイケルさんも「雪と一緒に写真を撮ることがステータス」と東南アジアの友人から聞いたことがあるそうだ。さらに、おみやげ文化や宿泊代にもお金を惜しまない。マレーシアの資本が入った高級コンドミニアムは1泊13万5千円もするそうだ。当然、街に落ちるお金も多い。  
外国人観光客誘致で元気を取り戻したニセコエリア。だが、スノーリゾート特有の問題も抱える。多くが冬のシーズンで夏のオフシーズンをカバーしている現実だ。しかし、ここでもフィンドレーさんたちが、オフシーズンの夏に急流をボートで下るラフティングや自転車、カヌーなどの新たなアクティビティーを用意し、徐々にお客さんを増やしている。ゲストのマイケルさんも、  
「日本人にとっての温泉と同じように、欧米の人たちにとって豊富なアクティビティーは必須なんです」と言う。また、夏にも仕事ができたことで、地元の若者の雇用も生まれた。ニセコに定住する外国人の若者も増えてきており、古い幼稚園を改装したインターナショナルスクールも誕生した。  
街の元気を日本人だけで取り戻す必要はない。街を愛するニセコ人が街を救っていくのだ。 
2015年はこうなる 食 (2015/1)  
中村耕史(クックパッド トレンド調査室)  
20代から30代の女性を中心に、月間のべ5千万人以上の人が利用する料理レシピサイト「クックパッド」。2014年12月時点のレシピ数は190万品以上、利用人数からも分かるように、主婦はもちろん、料理には欠かせないサイトになっている。今回、15年の食卓をにぎわせる食材や料理の兆しを読むということで、トレンド調査室の中村耕史氏に話を聞いた。  
データが語る日本の食卓  
クックパッドの豊富なデータを見ると、ユーザーが検索する食材や料理名などの変化の移り変わりが分かる。実際に、こうしたデータをビジネスに活用、法人向けに情報を提供する「たべみる」といったサービスを行う。各社は、こうしたデータを基に仮説を立て、営業企画や新商品の開発を行っているようだ。  
中村氏には、15年のトレンドを聞く前に、14年を振り返り、検索件数の中で目立ったものを3つ挙げてもらった。  
「2014年に話題となったものの筆頭に『塩レモン』が挙げられます。13年ブレイクしたばかりですが、既に食卓の新たな味覚として根付いています。もう1つが、『卵料理』ですね。上期は、イングリッシュマフィンの上にポーチドエッグやチーズを載せた『エッグベネディクト』、下期にはガラス瓶の中に半熟卵とじゃがいものピューレを入れ湯煎した『エッグスラット』など、複数のヒットが生まれています。そして、『妖怪ウォッチ』です。14年話題になったアニメですね」  
「妖怪ウォッチ」は、もちろん食材でも料理法でもない。子どもの好きなキャラクターを弁当で再現されたレシピを参考にしようとお母さんたちが検索をかけたものだ。  
クックパッドおうちごはん番付 「『アナと雪の女王』のキャラクターオラフ≠烽烽ソろん検索されたのですが、つくりやすさという点で、妖怪ウォッチが支持されたようです」(中村氏)  
こうしてみると、レシピサイトから、食や食材のトレンドだけでなく、社会で何が起こっているのかが見えてくる。例えば、あるものが少なくなると、その代替品が求められる。バター不足の今なら、バターを使わないでどうするか知恵を出す。  
また、野菜の値段が高くなると、モヤシやきのこを使ったレシピ投稿や検索が増える。14年、卵がこれだけ流行った背景も中村氏は、価格が安定している影響をみる。  
「新しいものはつくりたいが、お金も掛けられないので食材は限られます。その上で、ひと手間かけて味や見栄えを工夫することで作る満足感も得られます。今後も鶏肉や卵を使って、味覚や視覚の驚きを求める傾向は続くのではないでしょうか」  
食事は既に人生を形づくるものになっている。データから読み取れるのはモノ以上に心なのかもしれない。  
キーワードその1 ラム肉  
「羊年なので、ということも無きにしもあらずなのですが、実は、ラム肉というのは年々検索数が上がってきているので、15年の一押しと考えます」  
ラム肉というと、ジンギスカンをイメージしやすいが、検索で組み合わされている言葉はステーキやカレーなど。脂肪分が吸収されにくく、コレステロールを減らす働きを持つ不飽和脂肪酸も多いというヘルシーさが伸びている理由のようだ。  
キーワードその2 アーモンドミルク  
「ヒットの理由は、最近のニュースでも報じられました深刻なバター不足が挙げられます。その結果、生乳がバターに振りかえられることになり、牛乳の代替品として注目を集めています。豆乳やライスミルクというライバルはいますが、癖のない味に加え、既にアーモンドそのものの人気が高かったこともその方向性を示しています」  
キーワードその3 ドラゴンフルーツ  
「このフルーツも年々検索数の増加で売れる土壌はできています。むくみなどに良いということも知られていて、彩りもいいことからサラダなどにして食べられているようです。ただ、輸入品ですので、これ以上円安が進むと難しいかもしれませんね」 
10年後の電力業界の様相 (2014/10)  
9月9日号の本コラムでは、老朽化した原発などを除いた原発が再稼働した上で、現在計画・公表されている火力発電所の新増設がなされただけでも大きく需給が緩むこと、さらに日本の全設備容量の約3%に当たる太陽光を中心とした資源エネルギー庁の設備認定を受けた再エネの多くが実際に稼働すれば、昼間帯が深夜をも凌ぐオフピークとなることを論じた。  
そうした中、現在資源エネルギー庁が推し進める卸売市場の取引量の拡大が進めば、大きく卸売市場価格が低下することになる。  
今回は、その場合の発電市場、小売市場の様相を論じたい。  
発電市場は収益性が低下  
電力取引所など卸売価格を入札で決める市場が厚みを増し競争的になると、発電会社等の売り手の入札行動は、各発電所の発電コストのうち燃料費など変動費での入札となる。  
老朽化した原発などの廃炉される供給力を補うべく建設が計画されている火力発電所のうち、多くが最新鋭のLNG火力が多くを占めるが、そのコストはトータルでは競争力はあるが燃料費等変動費が高い。  
これらが売電先として競争的な卸売市場を選択した場合、弊社(ATカーニー)が行った分析によれば年間の約85%の時間帯でLNG火力の変動費が卸売市場の約定価格となった。  
これは、LNG火力は稼動するほとんどの時間で変動費分しか収入が得られず、固定費回収が十分にできないことを意味する。  
今後も、電力取引所以外での電力小売会社と相対で売電契約をすることも可能となるが、厚みが増した卸売市場からの調達が可能となった小売り会社は、相対取引でも取引市場価格並みとなるようプレッシャーをかけるだろう。  
来年の国会に向け準備が進められている法的分離で生まれる既存電力の発電子会社は、そうした状況でも固定費回収を含め利益を上げられる原発や水力、石炭火力など多様な発電所を保有するため、LNG火力の赤字を補い得るだろう。  
しかし、新規参入事業者や都市ガス・石油会社などLNG火力だけしか所有しない発電会社は、相対取引を含めた卸売価格低下の直撃を受けることになり、運転開始間もない発電所資産の減損処理などを迫られる可能性もある。  
小売市場は収益性が増す  
そうした状況で電力小売市場サイドはどうなるだろうか。  
海外の電力自由化市場を見ると、電力小売を行う事業者にはさまざまなタイプがある。ネット販売などを通じ販売費を押さえた格安電力小売会社や、都市ガスや水道、通信、ケーブルテレビ、さらにはさまざまなホームサービスをバンドルで販売する小売り会社、再エネなど安全・低炭素の電力に特化し、これにプレミアムを付けて販売する電力小売会社など多岐にわたる事業者が存在している。  
現在の日本では、既に自由化されている業務用需要やマンションなど高圧低負荷需要においては、いわゆるクリームスキマーと呼ばれる事業者が伸長している。  
例えば高圧で一括受電し、低圧にして各戸に売電すれば一定の利ざやが稼げるマンション一括供給などはその典型例だと言える。  
また、卸売市場などの厚みがないため、自治体の持つごみ発電に買い入札をしたり、補助金を受けたりすれば、電力取引所の価格より遥かに安価になるメガソーラーから、その高さが問題視されているFiT価格にさらにプレミアムまで乗せて買い取ったりもしている。  
これを電気料金の引き上げが著しい関東・関西地域で小売りしているが、これもある種のクリームスキミングとも言えるだろう。そうした中、卸売価格を低下させつつ電力取引所の厚みが増していけば、現在クリームスキミングを行う事業者にネット通販事業者などが加わり、競争・淘汰の後に海外で見られるような格安電力小売会社に進化していくだろう。  
また、通信やCATVなどより収益性の高いサービスを拡販するためにバンドル販売の対象とされることも考えられる。  
これらとは一線を画した、家庭用太陽光発電と家電の消費、さらには電気自動車を含む蓄電池を最適制御して節電を薦めるHEMSを梃子に、電力小売を行う事業者なども現れるであろう。  
電力に対して価格面を含め大きな関心を持たない消費者層も相応に残るであろうから、完全に淘汰はされないと思われるが、安定的な供給を唯一の提供価値としてきた既存の電力会社の小売り会社は、そのままではプレゼンスを低下させていくことになるだろう。  
今回の議論は卸売電力取引所が市場の厚みを増し、需給緩和を受け大きく市場価格が低下することを前提に業界構造の変化を考えてみた。  
現在、エネ庁は既存電力会社に対し取引所に売入札を増やすよう期待しているが、自社地域の安定供給を重視する電力会社の抵抗は非常に大きい。次回は、需給は緩和しても、市場の活性化が起きなかった場合の業界構造の変化を論じたい。 
米国の利上げと株式市場の反応 (2014/12)  
米国の量的緩和は終わっていない  
2015年のグローバルマーケット最大の注目材料は米国の利上げであろう。先日発表された14年11月雇用統計では非農業部門の雇用者数が前月比で大きく増え、平均時給も伸びた。雇用情勢の回復が鮮明となり、早期利上げ観測も高まっているが、初回の利上げ時期は15年半ばとの見方が市場のコンセンサスと思われる。  
08年の金融危機以降、非伝統的政策を駆使して金融緩和を続けてきた米連邦準備理事会(FRB)は10月をもって資産購入プログラムを停止した。ここで気を付けなければならないのは、量的緩和はまだ完全には終わっていないということだ(前回の小欄で筆者は不注意にも「量的緩和終了」と述べたが撤回させていただきます)。なぜならFRBはバランスシートの拡大は止めたが、縮小することはしていない。拡大させたまま当分その水準を維持するとみられるからだ。  
QE3(量的緩和の第3弾)で毎月850億ドル購入していた米国債とMBSを毎月100億ドル減額してきて、ついに10月に購入額をゼロにした。これはクルマのアクセルに例えれば、踏み込み幅を縮めてきたようなものだ。しかし、踏み込んではいたのだ。そして今はどういう状態かというと、これ以上踏むことはないが、アクセルを戻さずベタ踏みのまま走っている状態である。  
債券は満期が来るので、いったん購入してそのままにしておくとFRBのバランスシートが縮小してしまう。よって満期償還になったものは、その分だけ再投資してバランスシートの規模を維持するようにしているのだ。市場筋の観測によれば、満期償還分の再投資は、利上げ後も続けると見られている。バランスシート縮小よりも利上げが先に来る。「利上げ=ブレーキを踏む」ととらえるなら、アクセルを戻す前にブレーキを踏むようなもので、クルマがスピンを起こさないか、と心配する向きもあるが、アクセルも戻す、ブレーキも踏むという急制動に比べれば市場への影響は限定的だ。  
過去の利上げ局面で株価は堅調だった  
1990年代以降、過去3回の利上げ局面で米国の株式市場がどのように反応してきたか。94年の利上げ局面では、2月から翌年の2月にかけて3%から6%にFF金利が引き上げられた。米国株式は、利上げの初期に8%ほど調整したが、その後はほぼ横ばいで推移した。99年6月から翌年5月にかけて4・75%から6・5%までFF金利が引き上げられた。米国株式は、94年同様、利上げの当初こそ7%ほど調整したものの、その後上昇に転じた。04年のケースは6月から06年6月までの2年間に1%から5・25%まで、実に4・25%も利上げが行われたが、前の2回と同様、利上げ直後こそ小幅に調整したものの、その後は上昇に転じている。  
過去3回の利上げ局面を振り返ると、米国株式市場が利上げ開始で弱気相場入りすることはなく、むしろ一定期間の調整と揉み合いを経たのちには上昇基調をたどるというパターンが確認できる。これは、利上げというのはそれだけ経済が強い証拠であるため好景気の株高が起きた、という説明が直感的に理解しやすいだろう。  
実際にこの間の1株当たり利益の変化をみると、平均して21・4%増加している。企業が利益を増やしたから株価が上がったという単純な理由である。ここで注目点は業績増加ペースほど株価が上がっていないことである。  
結果として株価/1株当たり利益の比率を示す株価収益率(PER)が低下している。PERとは金利の逆数だから利上げ局面ではPERが低下するというのはきわめて理にかなっている。利上げで株価は堅調だったが、やはり株価上昇の抑制効果はあったのである。  
その一方で、過去3回の利上げ局面を通じて長期金利がほとんど上昇していないという矛盾も観察されている。特に04年のケースでは当時のFRB議長だったグリーン・アランスパン氏でさえ、長期金利が上がらないその状況を「コナンドラム(謎)だ」と評したほどだ。  
米国の株式市場は利上げ局面でも堅調であった。むしろ暴落は利上げが終了したあとの楽観のなかで起きている。00年のITバブル崩壊や07年サブプライム問題そして08年リーマンショックである。マーク・トウェインは「歴史は同じように繰り返さないが、韻を踏む」と言った。過去の利上げ局面から市場関係者が学ぶことは決して少なくないだろう。 
『21世紀の資本論』が描く 米国経済の状況 (2014/8)  
200年の統計分析が暴く「謎」の正体  
トマ・ピケティ著『21世紀の資本論』という書籍が欧米で話題になっている。英語版(原書は仏語)で700ページ近いハードカバーがベストセラーになっている。同書の主張は明快である。貧富の差は拡大する。富裕層が所得と富を独占し中産階級は没落していくというのである。それはなぜか。資本収益率をR、経済成長率をGとすると、R≫Gという不等式が常に成り立つ。これは、資本収益率(すなわち株式や不動産など資本が生み出すリターン)が、経済成長率(すなわち労働などが生み出す経済的付加価値)を上回ることを示している。労働者の賃金の伸びよりも、資本(家)のリターンが常に高いというのである。ピケティ氏は可能な限り世界中からデータを収集し、200年に及ぶ世界の資本収益率と経済成長率を統計にまとめ上げた。それによると資本のリターンはだいたいのところ、5%程度に収斂する。一方、経済成長率は概ね1〜2%である。この差がそっくり、「格差」となる。まさにカール・マルクスが『資本論』の中で述べた、賃金労働者からの搾取によって自己増殖する資本の論理そのものである。  
この理論を現実論として直感的に把握するためにS&P500株価指数と米国10年債利回りのグラフをご覧いただきたい。  
低成長の経済を反映して長期金利はなかなか上がらない。その一方で株価は最高値更新が続いてきた。2000年代半ば、米連邦準備理事会(FRB)による相次ぐ利上げにもかかわらず、長期金利が上昇しなかったことを当時のグリーンスパン議長は「コナンドラム(謎)」と言ったが、現在の状況もまた「新たなコナンドラム」と言われる。株式市場が好調なのは、普通に考えれば経済が好調ということだ。景気が良いなら金利も上がるはず。そうなっていないのだから「謎」である。  
しかし、過去200年の統計分析をもとに書かれたピケティの『21世紀の資本論』によれば、株のリターンが高く、金利が上がらないのは、「謎」でも何でもなく、極めて「当然のこと」となる。  
労働者の犠牲の上に成り立つ利益成長  
200年にはとても及ばないが、直近10年の例を見てもS&P500株価指数は約1・8倍に上昇している。これは年率6%で成長した計算になる。これに約2%の配当利回りを足せばトータル・リターンは8%となり、過去10年間のインフレ率は平均2%程度なので実質リターンは6%である。  
一方、過去10年間の実質GDP成長率は平均1・5%だった。また、過去10年の米国10年債利回りの平均値は3・4%である。2%のインフレを調整した実質金利は1・4%と実質GDP成長率にほぼ一致する。実質金利=実質経済成長率という教科書通りの結果である。資本のリターンが経済成長を上回るというのが『21世紀の資本論』のエッセンスだが、過去10年の米国経済と市場のパフォーマンスはまさにそのとおりの結果となっているのである。  
長期金利が上昇しないということは、米国景気がそれほど強くなく、ずっと低成長の経済が続いてきたということであり、そのような低成長の時代にあって、企業は業績を上げるためにリストラや賃金抑制などコストカットを進めてきた。確かに米国企業は1株当たりの利益を倍増させたが、それは売上高の伸びを伴わない、労働者の犠牲の上に成り立つ利益成長であったと言える。  
7月の初めに発表された米雇用統計で非農業部門の雇用者数は20・9万人増えた。雇用者数の伸びが20万人の大台を超えるのは6カ月連続で1997年以来のことである。この点からすれば米国の労働市場は着実に改善が進んでいるが、その一方で賃金上昇は起きていない。福利厚生費も含む広義の賃金インフレ指標である雇用コスト指数も前年比は+2・0%にとどまっている。  
このデータが示しているのは、労働者の賃金が抑制される中で企業は利益を捻出し、そしてその利益成長を背景に株価が上昇するという『21世紀の資本論』で書かれたとおりの事象である。同書が、米国で多くの支持を集めているのは、長期にわたる歴史と普遍的事実を語りながら、今の米国の経済状況が同書の内容に非常によくフィットするからだろう。 
不動産バブルが崩壊し、株バブルが始まった中国の謎 (2014/12)  
不動産の値崩れが止まらない  
中国の不動産バブルが弾けたようだ。2014年5月以来、70都市のほとんどで7カ月連続の価格下落である。  
日本でもたびたび報道されているが、高級マンションをはじめとするゴーストタウンが中国のあちこちに出現している。また、マンション等の空き室が今では1億戸に上るとも言われる。これで不動産の値崩れが起こらないほうが不思議である。  
実は、それと反比例するかのように、2014年秋以降、中国本土の株式市場の上場銘柄の値動きを示す上海総合指数が急上昇している。3月14日には1974ポイントという2014年の最安値を付けたが、秋から徐々に株価が上がり、12月9日には3091ポイントの年間最高値を記録した(2014年12月10日現在)。  
投資家が値崩れの止まらない不動産に見切りをつけて、株への投資を始めたのだろう。マンション建設や石炭発掘に回っているはずの年利のよい「理財商品」(ハイリスク・ハイリターンの投機品)がしばしば償還されないため、投資家はもっと安全な投資としての株へ走ったと思われる。その結果、景気が減速しているのに、上海総合指数は株高になるという現象が起きた。  
一般に、株価は経済の先行指数と言われる。そのため、本来であれば、株価の上昇は歓迎すべき兆候のはずである。だが今の中国は、経済成長が鈍化しているのに株価が上昇するという妙な事態になっており、実態経済が伴っていないバルブの可能性が高い。不動産バブルが終焉し、再び株バブルが到来したのではないだろうか。  
景気浮揚か、それともインフレ突入か!?  
2014年11月21日、中国人民銀行(中央銀行)が2年4カ月ぶりに期間1年の貸出金利を0.4ポイント下げて5.6%とし、1年物預金金利を0.25ポイント下げて2.75%とした。人民銀行が利下げへ踏み切ったのは、経済を刺激し、成長を加速するためである。もっとも、この措置では、中国国内にインフレが起きる懸念があり、同時にカネがさらに株へ向かう可能性もはらんでいる。  
しかし、輸出と不動産開発に依存している中国経済は、近年、成長が落ち込んでいる。「グローバルノート – 国際統計・国別統計専門サイト」によれば、中国の国内総生産(GDP)に占める輸出依存度は、2013年には同国単独で23.7%だが、香港(単独では194.19%)経由での輸出を含めると、もう少し数値は高くなるだろう。だが、欧州連合(EU)をはじめ、世界的な景気減速で、中国の輸出はあまり伸びていない。  
一方、BRICs辞典によれば、総固定資本形成で、中国はGDPの45%以上もの割合を占める。今の中国では、社会保障の不備(失業保険・疾病保険・年金)により、内需主導への転換は起こりにくい。子供への教育費高騰も一因である。一般家庭では、給与の約40%以上を貯金しなければ、いつ借金地獄に落ちるかわからない状況だという。したがって、GDPに占める消費の割合は35%あればよいほうだろう。  
腐敗・汚職撲滅運動で景気が後退!?  
最近、習近平政権は、「新常態」(ニュー・ノーマル)という言葉を使い始めている。経済を自然に任せるという意味だが、実際には、単に打つ手がなく、お手上げ状態なのかもしれない。  
中国共産党は、現時点で、経済成長鈍化を回復する術を持っていない。なぜなら、財政出動できないからである。  
2008年のリーマン・ショックの際、胡錦濤政権は、4兆元(約60兆円)の財政出動により、落ち込んだ景気をV字回復させた。当時は、中国が世界経済を救ったと称賛されたものである。だが、本当は財政出動額の桁数が1桁違う(40兆元<約600兆円>)という指摘もある(例えば、産経新聞上海支局長の河崎眞澄氏)。  
ブルームバーグの報道によれば、政府や民間の借金は、2150兆円に達していると言われる。実に中国のGDPの約2倍以上である。もし、この報道が事実ならば、財政出動は難しい。  
他方、中国の外貨準備高は世界一で400兆円あるとされる。だが、その一部は、銀行の不良債権償却に充てられているとの疑惑がある。また、中国は外貨準備高のうち、半分の200兆円は米国債であると主張しているが、米国の統計では中国の米国債は130兆しかないとされる。ならば、差額の70兆円はどこに消えたのだろうか。もしかしたら、党・政府幹部の懐に入り、すでに海外の銀行に預けられているのかもしれない。  
ところで、現在、習近平政権は、「腐敗・汚職撲滅運動」を展開しており、いわゆる「贅沢禁止令」を打ち出した。クリーンな政治を目指すことがうたわれているが、実際には、賄賂となる高額の贈答品の授受が減り消費を冷ますことから、経済成長の阻害要因ともなっている。皮肉なことだが、党・政府幹部の贅沢三昧を認めたほうが消費が増え、経済成長につながるという妙な構造になっている。 
中国進出する日本企業の経営難 (2014/7)  
13億人の巨大市場にはなり得ない中国  
中国には、約2万5千社の日本企業が直接投資している。そのうち、約8千社が赤字経営に陥っているといわれている。長い間、中国はその廉価な労働力を背景に世界の工場と位置付けされてきた。近年、1人当たりGDPが拡大し、中国は世界の市場として大きく躍進した。中国は13億人の人口を有する大国であり、巨大市場であるという認識が広がっている。  
しかし、中国には13億人の人口がいるのは間違いないが、13億人の巨大市場にはなり得ない。所得格差の大きい国であるため、中国で商品や製品を売る企業にとってターゲットを厳しく絞る必要がある。また、有望な市場には新規参入者がたくさん集まることから1社当たりのマーケットシェアが限られてしまう。要するに、有望な市場ほどし烈な競争になるため、各々の企業が生き残るためには、周到な経営戦略を用意することが重要である。  
結論を先取りすれば、中国が巨大かつ有望な市場であることは確かであるが、企業にとって簡単に攻略できる市場ではない。日本企業の中国進出の意思決定をみれば、中国市場の認知、商品戦略、販売戦略、人材管理などについて十分な準備を行わないまま、進出した企業がほとんどではなかろうか。  
無防備な日本企業の中国進出  
中国の「改革・開放」政策は国内の外貨不足と低い技術力を補うため、外資を積極的に誘致する「招商引資」だった。外資を引き付けるために、中国政府は外資系企業に免税や減税といった優遇政策を導入した。外資にとり中国市場の魅力は、有望な潜在市場と豊富かつ廉価な労働力に加え、中国政府が約束する種々の優遇政策だった。一方、チャイナリスクについては、政策が勝手に変更されたり、カウンターパートの地場企業が契約不履行を行ったりすることが挙げられる。  
世界的にみれば、最初に中国に進出したのは香港や東南アジアなどの華僑系企業だった。華僑系企業は故郷に錦を飾る目的で中国に進出したが、チャイナリスクを見て見ぬふりをしたわけではなく、そのビジネスモデルの特徴といえば、資金回収周期がいずれも短く抑えられていた。華僑ほど中国の怖さを知るものはいない。  
実は、中国進出企業の2番手は中国のことをあまり知らない日本企業だった。無論、日本企業はビジネスの軸足を中国に置いたわけではなかった。初期の段階で日本企業の多くは中国ビジネスをテストする目的で工場を設立した。  
また、日本人経営者の中に戦争で中国に申し訳ないことをしたため、一企業家として中国の「改革・開放」政策に協力したいと考える者も少なくなかった。日本企業のこうした動機を支えたのは日本国内のビジネスが順調に拡大していたことだった。  
日本企業の中国進出の動機からも分かるとおり、その本気度が不十分だったため、きちんとした投資戦略を用意しないまま、進出した企業が多かった。中国進出に失敗した日本企業にとり好都合だったのはチャイナリスクを誇張してそれを口実にできたことだ。しかし、チャイナリスクは日本企業にのみ向けられるものではなく、地場企業を含めてすべての企業が直面するものである。  
「招商引資」から「招商選資」へ  
信じられないことだが、中国経済の発展は外国企業にとり必ずしもグッドニュースとは限らない。かつて、外貨不足と低い技術力を補うために、中国政府は低姿勢をもって「招商引資」していた。今、中国政府が保有する外貨準備は3兆8千億jに上り、中国企業の技術力も以前に比べればはるかに強化されている。  
その結果、中国政府の外資誘致姿勢は「招商引資」から「招商選資」に変わりつつある。「招商選資」とは、進出するすべての外資企業を受け入れるのではなく、セレクティブに(外資を選別して)受け入れるとのことである。また、これまで導入されていた外資優遇政策も大きく変更されている。その大義名分は外国企業と地場企業のすべてについて内国民待遇を適用するとのことである。  
今後、予想される動きとして、セメントや製紙といった環境汚染につながる恐れのある外資系企業が退出させられる可能性が高い。そして、中国国内で過剰設備の問題が浮上している自動車製造業などについて地場企業への技術移転に消極的な外国メーカーが退出させられよう。これは一石二鳥の政策と言える。問題は日本企業がこうした政策変更リスクの射程内にあることである。  
日本企業の中国ビジネスを立て直すためには、赤字経営に陥っている、再生する見込みのない現地法人をリソースリアロケーション(経営資源の再配置)によって配置転換する必要がある。経営の効率性を基準に考えれば、日本企業の中国進出は明らかに行き過ぎて肥大化している。中国市場の現実からすれば、日本企業は限られた経営資源を集約して競争力を強化しなければならない。 
動き出した日露関係 (2014/10)  
独自ルートを活用した森喜朗氏  
日露関係が動き始めている。そのきっかけとなったのが、9月10日、モスクワで行われた森喜朗元首相とロシアのプーチン大統領の会談だ。会談の席で、森氏は、安倍晋三首相の親書をプーチン大統領に手渡した。  
〈森氏によると、プーチン氏は会談の席で親書を読み、「日本との対話はこれからも続けていかなくてはならない」と発言。「安倍氏によろしく伝えてほしい」との旨を森氏に重ねて述べた。/日露両政府が合意している今秋のプーチン氏の訪日については議題とならなかったが、プーチン氏は安倍氏との定期的な会談など、日露間の対話継続に意欲を示したという。〉(9月11日『産経新聞』)  
今回の森・プーチン会談は、森氏が機転を働かせて、独自の人脈を用いたので実現した。9月2日、ロシアのチェリャービンスクで柔道世界選手権が行われた。このとき観客席で全日本柔道連盟の山下泰裕副会長がプーチンに、「森喜朗元首相が来週、モスクワを訪れます」と話し掛けた。するとプーチンは、「ヨシが来るのか。俺は聞いていない。安倍晋三首相はロシアに対して随分厳しいことを言うが、森さんが来るなら、日本が何を考えているのか直接聞いてみたい」と答えた。  
森氏の訪露については、モスクワの日本大使館がロシア外務省に外交ルートを通じて要請したが、その要請はプーチンに到達していなかった。森氏を外務省が本気でプーチンと会わせたいと考えたならば、日本大使館がクレムリン(露大統領府)に直接働き掛けなくてはならない。  
現在の日本大使館のロビー能力には限界がある。原田親仁大使がウシャコフ大統領補佐官(外政担当)に働き掛けたくらいでは、森氏の会談要請はプーチンの耳には入らない。最低限、原田大使は、プーチンの盟友であるセルゲイ・イワノフ大統領府長官に面会して、会談取りつけに努力すべきであった。現地の大使が大統領府長官といつでも会える関係を構築できていないような状態では北方領土交渉の進捗は期待できない。  
モスクワの日本大使館の「実力」を熟知している森氏は、日本外務省のみに頼らずにいくつかの信頼できるルートも活用した。例えば、在京のアファナシエフ・ロシア大使は、露外務省に対してのみでなく、クレムリンにも直接公電(公務で用いる電報)を打つ権限を有している。森氏はアファナシエフ大使と接触して、山下氏から聞いたプーチンの発言について伝えるとともに会談要請を行った。プーチンの発言についてならば、アファナシエフ大使は必ずクレムリンに公電で報告すると森氏が計算したからだ。クレムリンには、日本との関係を発展させたいと考えるグループと、日本との関係は冷却させたほうがよいと考えるグループが暗闘を展開している。  
こういうときに駐日大使の意見具申がクレムリンに影響を与える。クレムリンのゲームのルールを熟知する森氏だからこそこのような働き掛けができたのである。  
能力が基準に達していないモスクワ日本大使館  
今回の会談において、プーチンは、森氏に訪日の意向を有していることを再度確認した。首脳レベルでの政治対話を継続する意志をプーチンが有していることを確認できたのは大きな成果である。  
複数の日露関係筋から得た情報によると、ロシア外務省が事務レベル協議を中止したために事実関係に関する正確な情報がプーチンには入っていない。ロシア外務省、クレムリンの双方に、情報をブロックする動きがある。このような動きは、モスクワの日本大使館の能力が基準に達していれば封じ込めることができるはずだが、それができていない。大使交代を含む在モスクワ日本大使館の大幅な人事刷新を行わないと、官邸主導に対応した対露外交を行うことができない。  
森・プーチン会談の影響は、9月21日、プーチン大統領のイニシアティブにより、安倍首相との電話会談という形で表れた。この日は安倍氏の誕生日だ。ロシア人は誕生日に友人に電話をする習慣がある。プーチンは、安倍首相を「個人的友人」と考えているというシグナルをこの電話会談で送った。  
電話会談で、安倍首相は、プーチンに11月に北京で行われるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)での首脳会談を要請し、プーチンは基本的に応じると回答した。これにより、当初今年11月頃に予定されていたプーチン大統領の公式訪日は、準備が間に合わないために延期されることが確実になった。ただし、APECにおいて首脳レベルでの日露政治対話が継続されるため、来年の前半にもプーチン訪日が実現される可能性が出てきた。  
日露接近の動きに米国は警戒感を高め、水面下で日本政府に対する牽制を行うだろう。もっとも9月23日、シリア領内の過激組織「イスラーム国」(IS)支配地域に米国は空爆を行った関係で、ロシアともIS対策については協調しなくてはならない。米国に日露交渉に本格的に干渉する余裕はない。 
韓国経済の実態 (2014/12)  
財閥令嬢の行きすぎた行為が世間を揺らす  
現在、韓国では大韓航空の「ナッツ・リターン事件」が大問題になっている。  
2014年12月5日の午前0時50分、米ケネディ国際空港で大韓航空86便(ニューヨーク発仁川行き)は、すでに滑走路に向かっていた。その時、ファーストクラスに乗っていた趙顕娥(チョ・ヒョナ)副社長(当時)は、客室乗務員が差し出した「ナッツ」の出し方が気に入らないという理由で機内サービス責任者を呼び出した。趙副社長は、ひざまずいて謝罪する客室乗務員とその責任者を激しく罵倒したという。そして、趙副社長の指示のもと、旅客機は搭乗口に引き返し、責任者を降ろして再度、滑走路に向かい飛び立った。  
航空法の常識として、いったん飛行機が動き出したら、誰が搭乗していようと、機長が機内のトップである。問題は、機長が趙副社長の命令を優先した点にあるだろう。  
大韓航空は、“ナショナル・フラッグ・キャリア”にして、10大財閥の1つである。そして趙副社長は、そのオーナーの娘で、かつ創業者の3世である。  
結局、財閥令嬢による行きすぎた行為は、韓国マスコミから徹底的に叩かれた。その背景には、裕福な財閥一族に対する庶民のあこがれと表裏一体で妬みが存在するという現実がある。  
韓国では、10大財閥だけで国内総生産(GDP)の75%以上を産み出すと言われる。資産規模ではサムスン(三星)グループが最大であり、ヒュンダイ(現代)、SK、LG、ロッテと続く。  
しかし、韓国財閥の大半の株を握っているのは外国人である。特に、外国資本による韓国の銀行支配は顕著であり、外資が70〜80%、場合によってはほぼ100%入っている。これでは、韓国人労働者が一生懸命働いても、利益は(主に日米の)外国人株主に持って行かれてしまうだろう。  
厚い雨雲が立ち込める韓国の事情  
目下のところ、韓国経済は決して好調とは言えない。  
韓国は財閥依存型の経済構造となっており、サムスングループだけでGDPの約2割を占めている。そのため、スマートフォン「ギャラクシー」の販売不振によりサムスンが変調をきたすと、韓国経済全体が低調に陥ってしまった。  
また韓国経済は輸出志向型であるため、世界経済の動向に左右されやすいという特徴がある。グローバルノートのレポートによると、2013年は輸出依存率が45.8%と高い。つまり、輸出の伸びが経済成長のカギとなっている。  
これに関連して、日本の円安も韓国経済に影響している。ご存じのように、2012年末に第2次安倍政権が誕生して以来、日本では強力に「アベノミクス」が推し進められており、その「第1の矢」として日銀が金融緩和を行い、円安へと誘導した。その影響で、韓国の輸出競争力低下を招いたとして、朴槿恵大統領は日本の円安に対して不快感を表明している。  
韓国は、日本と中国の間で苦悩していることも事実である。日本は世界的に高い技術やブランドを多く有するが、韓国は必ずしも同じ水準ではない。その一方で中国は、韓国レベルの技術に追いつきつつあり、かつてに比べて韓国の優位性は著しく低下している。  
その一方で、韓国国内では、台湾と同様に中国への傾斜が激しい。近年は、中国との貿易額が伸びている(2013年は貿易全体の約25%)。また、2014年11月には、中韓の間で自由貿易協定(FTA)が結ばれた。ただし、ここに来て中国の成長が鈍化しているので、韓国もその影響を受けてしまっている。  
朴大統領は景気対策に専念できるのか!?  
朴槿恵大統領の反日姿勢も経済減速に拍車をかけていると思われる。例えば、2013年7月、日韓通貨スワップ協定が満期終了を迎えたが、現時点で韓国は日本との間で通貨スワップを行っていない。日中韓のFTAもままならない状況なので、韓国経済の浮揚は難しいだろう。  
青瓦台での政治の混乱も成長を後退させている一因かもしれない。2014年4月の「セウォル号転覆事故」の際、朴大統領が密会していた相手は、元側近で影の実力者でもあるチョン・ユンフェ氏とされている(ちなみに、前産経新聞ソウル支局長の加藤達也氏は、この件を記事にしたため朴大統領への名誉毀損で起訴された)。先ごろ、韓国では、そのチョン氏が国政に関与しているという大統領府文書が流出した。チョン氏と大統領の弟・朴志晩(パク・ジマン)氏が青瓦台で権力闘争をしているという情報が暴露され、大騒動となっている。このような状況下では、朴大統領も景気対策に専念できないだろう。 
エボラ出血熱と情報セキュリティー (2014/9)  
「エボラ出血熱と情報セキュリティー」とは、不思議なタイトルだと思われる方も多いかもしれない。謎かけでは、「どちらもウィルスが問題です」ということになるのかもしれないが、そう呑気な話ではない。この2つの事象の共通点から社会の脅威を考えてみたい。「ウィルスによるパンデミックと情報セキュリティーの問題」は、全く別種の脅威であるが、こちらが強力な防御手段を用意すればするほど、さらに強力になって社会を襲ってくるという共通点がある。  
エボラ出血熱が西アフリカで猛威を振るっており、世界への拡散も心配されている。エボラ出血熱への対応に関しては、いまだワクチンが準備されていないという差し迫った問題があるが、さらにウィルスによる感染症は、ワクチンを開発してもいずれそのワクチンに対する耐性を持ち新たな脅威を生み出すという厄介な問題がある。さらに、特定のウィルスを封じ込めても、人間と他の動物との棲み分けがなくなり人間の生活圏が広がってくると、ウィルスの宿主も動物から人間に代わり、新たなウィルスが人間の社会に登場してくる。  
この、人間の生活圏の拡大、生活様式の変化という豊かさの追求が脅威を生み出すという構造は、情報リスクも同じである。そして、この情報リスク、特に情報セキュリティーの問題は、人間の意思や悪意が関係してくるので、さらに克服が厄介になる問題でもある。  
情報を守る仕組みは、どんなに高度に複雑にしてみても、工学技術によって作られたシステムには、必ずそのシステムをコントロールする仕組みが存在するため、その仕組みを破壊したり悪用したりすることを防ぎきることはできない。  
地震のような自然災害は、こちらの防御体制とは関係なく発生する。しかし、情報システムに関する攻撃は、こちらが準備した対応策の弱点を突いてくる。守りを固めるためにさまざまな仕組みを構築すると、大変使い勝手の悪い情報システムになってしまうというジレンマがある。  
巨大な脅威は、大丈夫だと安心しているところに潜在している場合もある。守り手は、この脅威が顕在化する前に、いかに先手をとって守る体制を構築できるかが問われている。この競争は、人間の理性と欲望との競争でもある。 
錦織圭の躍進をもたらしたコーチ、マイケル・チャンの言葉 (2014/10)  
「小よく大を制す」方法を知悉した指導  
錦織圭の勢いが止まらない。この9月、日本人として初めてグランドスラムのひとつである全米オープンのシングルスで準優勝を果たしたのは、日本テニス界のみならず、この国のスポーツ界にとって晴れがましい出来事だった。  
テニスの世界では全豪、全仏、全英、全米をグランドスラムと呼ぶ。言うまでもなく、これまでグランドスラムの決勝に進出した日本人はひとりもいなかった。  
波に乗る錦織は全米後、最初の大会となったマレーシア・オープン、続く楽天ジャパン・オープンも制覇。世界ランキングは自己最高の6位にまで浮上した。  
錦織躍進の影に中国系米国人マイケル・チャンコーチの指導があったことは広く知られている。錦織を指導するにあたり、まずチャンが手を付けたのがメンタル面だった。  
テニスは究極のマインドゲーム(心理戦)であると同時に、ネットをはさんだボクシングでもある。  
やるか、やられるか。少しでも弱気な素振りを見せれば相手につけ込まれる。といって、強気一辺倒で勝てるほど甘い競技ではない。いったいチャンは、どんな言葉で錦織の背中を押したのか。  
3年前の11月、スイス・インドアでの決勝で、錦織は世界ランキング4位(当時)のロジャー・フェデラーにストレート負けを喫した。  
「僕の自信は完全に打ち砕かれた。何をすればいいのか、全く分からない」  
途方に暮れる錦織にチャンは、こう喝を入れた。  
「フェデラー戦でキミは、ひとつミスを犯した。それはフェデラーを尊敬し過ぎていることだ。尊敬するのは構わないが優勝するのはオレだ!≠ニいうくらいの強い気持ちがないと勝てない」  
チャンは17歳3カ月で全仏を制している。これは大会史上最年少優勝だった。世界ランキングの最高は2位。アジア系では最高のテニスプレーヤーと言っていいだろう。  
17歳でグランドスラムを制したチャンだが、それ以降はピート・サンプラス、アンドレ・アガシ(以上、米国)、ボリス・ベッカー(ドイツ)らの分厚い壁にはね返され続けた。  
ボクシングにたとえて言えば身長175センチ、体重72キロのチャンは、テニスの世界では軽量級である。中量級や重量級の選手と互角に戦うためには、何よりも強い意志が求められた。  
錦織も身長178センチ、体重68キロと軽量級である。小よく大を制するには、どうすればいいか。それを誰よりも知悉していたのがチャンだった。  
厳しいトレーニングの陰にある信頼  
2012年10月、TBSとWOWOWが共同制作した番組のインタビューで錦織の印象について聞かれたチャンは、こう語った。  
「彼が自分自身や自分のプレーに本当に自信を持っているかどうかまだ分かりませんが、自信がプレーに表れるようになれば、彼はもう一段レベルアップするはずです。大切なのは自分を信じることです。最高の選手に勝てる、しかも大きな試合でも倒せると信じることです」  
スポーツの世界において相手をリスペクトすることは基本中の基本である。敵を愛し、敬う心がなければ、試合は殺伐としたものになる。  
その一方で、チャンが指摘するように相手を叩き潰すというくらいの闘争心がなければ、ゲームを制することはできない。時として「リスペクト」が邪魔をすることもある。  
不意に思い出したのがエディ・タウンゼントというボクシングの名トレーナーである。力道山の要請で1962年に来日し、ガッツ石松、友利正、井岡弘樹ら6人の日本人世界チャンピオンを育てた。  
「先に倒さなかったら、アンタがやられるのよ」  
セコンドでエディは鬼のような形相で指示を送った。  
しかし、試合が終わると仏のような表情に一変した。  
「相手を抱き締めてあげなさい。最高のフレンドになるのよ」  
エディは指導するボクサーを「マイ・ボーイ」と言って可愛がった。選手がエディの課した厳しいトレーニングに耐えられたのは、信頼の絆で結ばれていたからである。  
聞けばチャンが錦織に課すトレーニングも尋常ではないという。錦織は昨年12月、自身のブログに「だいたいですが10個以上直されたところがあります。(中略)例えばサーブだとトスの位置、ワイドサーブの打ち方、足をもっと使うとか。おいおい。ほとんど全部じゃないか。と書きながら泣きそうですが頑張ります(笑)」と書いた。  
名伯楽なくして、名選手は生まれない。  
錦織にとって本当の勝負は世界ランキングのサブテン(10位以内)で迎える来シーズンだろう。頂点は、はっきりと見えている。 
ステラージアLEDのマツウラ・リチャードCEOがグランプリ受賞 (2014/12)  
「金の卵発掘プロジェクト2014」は、学生部門3本、社会貢献部門2本、本部門3本の計8本の中から厳正な審査を経て、ステラージアLEDのマツウラ・リチャードCEOがグランプリに選ばれた。  
日本人と米国人のハーフで29歳のリチャード氏は、シンガポールの貿易商社に勤務した後、個人でLEDの販売を手掛け、12年8月にステラージアLEDを設立。既存のLEDが抱える問題を解決し、世界初の技術によって、最も省エネ、最も長寿命、人にやさしく眼にもやさしい「革新的なLED」を開発したという。  
審査委員全員から絶賛されたその事業内容とはどのようなものか。詳しくは、日を改めて本サイトでする予定だ。  
2014金の卵発掘プロジェクト審査を終えて  
グランプリを受賞したステラージア社は、直流LEDを交流化する技術をベースに世界中の大型施設のLEDマーケットを獲得しようという本格的テクノロジー・ベンチャーで、審査委員から「投資したい」との声が上がるほどの可能性を感じさせた内容でした。  
若きCEO、マツウラ・リチャード氏が日本の有名大企業のシニア・エンジニアを糾合して商品開発をしている点と、高性能をベースに巨大マーケットを狙える点が評価されました。もし彼らの技術が占有性の高いものならば、これは大変なことになるでしょう。  
学生部門はそれなりのアイデアでしたが、若者たちが考えるにしては、想像力も創造力も寂しい感じでした。せっかくの金の卵チャレンジなのですから、われわれが思いもつかないようなぶっ飛んだアイデアが欲しかったです。  
社会貢献部門の応募も、ビジネスとしても社会貢献としても的が絞られておらず、中途半端な印象をぬぐい去ることができませんでした。 
ルネサスが再び人員削減、整理統合の先にあるものとは (2014/8)  
ルネサスエレクトロニクスが設計・開発部門の組織再編に合わせて5回目となる早期退職優遇制度を実施する。今回の組織再編は既定路線ではあるが、人員削減を加速させることになり停滞感は否めない。市場環境を考えると成長戦略を急ぐ必要がある。  
組織再編に伴い人員削減が加速  
作田久男会長の指揮の下、構造改革を進めているルネサスエレクトロニクスだが、生産部門の整理統合は今年4月に生産部門と生産関係会社を子会社2社に統合したことで一巡した。  
今年度は設計・開発部門の整理統合に乗り出す。具体的には、ルネサスの100%子会社であるルネサスソリューションズ(RSO)、ルネサスシステムデザイン(RSD)、ルネサスエンジニアリングサービス(REG)およびルネサス本体の設計・開発にかかわる機能を8月1日付で再編する。  
この3社とルネサス本体にある、デバイス開発やデバイス応用技術などのハードウエア開発に必要な機能をRSDに集結し、開発効率を高める。また、ソフトウエア開発や事業推進機能をルネサス本体に集結。さらにREGの機能を開発・技術支援に特化させる。RSOはその機能をルネサス本体とRSDに移管させることになり、存在意義がなくなる。再編後の運営については現時点で未定だという。  
ここまでの機能集約なら、ただの組織再編と言えるが、今回ルネサスは同時に早期退職優遇制度を実施する。もともと設計・開発部門のリストラは作田体制2年目の既定路線。しかし早期退職優遇制度を同時に実施することに、ルネサスの尋常ではない状況がうかがえる。  
今回の早期退職者優遇制度は、募集人員は特に定めていないが、応募期間は8月7〜21日で、退職日は9月30日付を予定。通常の退職金に特別加算金を加算して支給するほか、希望者には再就職支援サービスを提供するという。  
ルネサスが早期退職優遇制度を実施するのは今年に入って2回目、通算では5回目となる。1回目は2011年3月に実施しており、1年に1回以上のペースで実施していることになる。最初の3回目までで「ルネサスを去りたいと思う層」は既に去ったと思われる。このため、今年2月に実施した4回目からは優遇制度の意味合いが変わってきている。  
4回目は、今年4月の生産部門の組織再編に伴い拠点異動が困難な社員や、組織再編に沿えないと考える社員が対象となった。今回の5回目も設計・開発部門再編に伴い影響を受ける者、具体的には、高崎への異動に応じられない者が対象となる。なお、今回の再編で機能を集約するルネサス本体、RSD、REGはいずれも高崎に拠点を有する。こうなると、異動困難者をあらかじめ想定して辞令を出す可能性を否定できない。  
今回の組織再編発表に先立ち、今年1月の労使協議では、経営陣から労働組合に設計開発拠点の再編成案が示された。それによると、玉川事業所(神奈川県川崎市)、相模原事業所(神奈川県相模原市)、北伊丹事業所(兵庫県伊丹市)の3拠点を15年9月までに閉鎖し、従業員を配置転換する予定だという。配置転換の対象となる従業員は6千人。玉川、相模原、北伊丹の3拠点の閉鎖が既定路線だとすると、この3拠点の従業員を狙い撃ちして、高崎への異動の辞令を出すこともあり得る。  
組織再編と併せた早期退職優遇制度の実態は、人員削減を加速させる格好となる。ルネサスは産業再編機構の支援を受けており、国税が投入された国策企業だ。経営再建のためとはいえ、国策企業でこのような露骨な人減らしは道義的に問題となる可能性があるだろう。  
今回の早期退職優遇制度の応募期間は8月までだが、設計3拠点の将来的な閉鎖を考えると、人員削減は今回だけでは終わりそうにない。今後もだらだらと人員削減を続けるようだと、なおのこと質が悪い。  
構造改革の間にビジネスが一変も  
ルネサスが産業再編機構を中心に1500億円の出資を受けてから、まもなく1年になろうとしている。構造改革は計画通りに進んでいるとはいえ、いまだに組織再編に窮している印象を受ける。作田会長は「構造改革は常にやり続けるもの」というスタンスだが、今のままでは組織を縮小していくだけだろう。今後はいつ成長戦略に舵を切るのかが問題となる。  
ルネサスを取り巻く市場環境の変化からも成長戦略を急ぐ必要がある。ルネサスが拠り所としている自動車用マイコンは足の長いビジネスであり、開発から製品化、採用までのスパンが長く、さらに製品寿命も長い。それだけに現在の自動車用マイコン世界一の座は昨日今日で築き上げたものではない。しかし自動車の電子化は加速度的に進んでいる。  
実際に競合の米フリースケールセミコンダクターは自動車分野での売り上げを着実に伸ばしており、ルネサスからシェアを奪っている。さらに今後は電気自動車や燃料電池車などでパラダイムシフトが起こり、自動車用半導体市場の勢力図が一気に変わりかねない。ルネサスと言えども、うかうかしていられないのが現状だ。  
ルネサスが構造改革にめどを付け、追撃態勢を整えるころには次世代自動車ビジネスの領域では大勢が決している可能性もある。早期に成長戦略に転じるために、構造改革の進め方とめどの付け方が問われてくる。 
「いったん下山してもう一度登りなおす気持ちで」 (2014/9)  
宇野康秀(U‒NEXT社長)  
2000年代初頭のITバブル全盛期には、「ITベンチャーの兄貴分」として、世間から注目を浴びていた宇野康秀氏。若くして人材サービス会社インテリジェンスを立ち上げて成功に導いた後、USEN社長として、無料動画配信サービス「Gyao(ギャオ)」、映画配給会社のギャガ、カラオケ通信、インターネット接続事業など、さまざまな領域を手掛けてきた。  
しかし、08年秋にリーマンショックが直撃。その後は財務状態が悪化し、グループ内の事業を整理せざるを得なくなり、宇野氏もUSEN社長の座から退くこととなった。特に事業をゼロから立ち上げ、USENの連結子会社にしていたインテリジェンスの売却を決断した時は「一番つらかった」と、同氏は振り返る。  
そんな中、将来的に大きなポテンシャルがあると信じていた有料動画配信「U-NEXT(ユーネクスト)」については、宇野氏が自ら引き継ぐことを決断。私財をも投じて、再出発を遂げることになった。  
現在は、有料コンテンツ配信と、低価格のモバイル接続サービス「U-mobile(ユーモバイル)」などを軸に展開している。U-NEXTの会員数はここに来て飛躍的な伸びを見せている。  
一度は表舞台から姿を消した宇野氏だが、U-NEXTの事業が軌道に乗り始めた今、再び存在感を高めつつある。現状を登山に例えて、「いったん下山して再び登頂を目指している」と語る同氏。その過程で何を考えてきたのか、これから何を目指すのか、本人を直撃した。  
インフラとコンテンツで成長の条件が整う  
 U-NEXTの現状について教えてください。  
宇野 立ち上げの頃から順調に伸びてはいましたが、昨年あたりから加速的に伸び始めました。  
 USEN時代にGyaOを手掛けていた頃と比べて、動画配信の市場環境はどう変わりましたか。  
宇野 GyaOは基本的に無料配信で、広告収入を柱としたビジネスモデルでした。USENで手掛けていた頃は、動画広告というものが世の中にまだ広まっておらず、どういう売り方をしていくのか試行錯誤の段階でした。その過渡期のタイミングで、USENの財務改善で事業をすべて整理することになり、無料サービスはヤフーさんに譲渡して、途中で立ち上げた有料サービスをU-NEXTで引き継ぎました。今、Gyaoの事業はヤフーさんの下でうまくいっているようなので、あのままわれわれが手掛けていても、事業として成立していたのではないかと思います。  
 参入が早過ぎたということでしょうか。  
宇野 自分たちが市場を創っていかなくてはいけないという部分で、生みの苦しみはありました。ネットワークの環境そのものが当時は脆弱でしたし、モバイル回線も非常にスピードが遅かった。コンテンツをご提供いただく方々にも既存の事業が潰されるのではないかといった認識が強く、敵対視されるようなこともありました。そうした意識を徐々に変えていってもらうよう取り組み、今の状況になったのです。以前は10年落ちのコンテンツなどしか供給してもらえませんでしたが、今ではDVD発売より早く配信できるものも出てきました。もう1つ、成長が加速した要因はデバイスの進化です。テレビにセットトップボックスをつないでいて視聴していた時代から比べると、タブレットやスマートフォンの登場で大きく変わったと思います。  
 会員数の目標は。  
宇野 どこまでも伸ばしたいと思いますが、まずは100万人を目指していきます。  
 競合との差別化をどう打ち出そうと考えていますか。  
宇野 例えば、レンタルビデオでツタヤが圧倒的なシェアを取ったのは、やはり店舗の工夫や、ユーザーとのコミュニケーションなどを、きちんと行っていたからです。われわれもどんな作品をどう並べるか、料金の設定をどう工夫するか、ユーザーとの接点をどう広げていくか、解約をどうやって減らすかといった、細かい努力を積み重ねるしかないと思っています。今は有料動画配信のプレーヤーが増えている時期ですが、数年後には3社くらいに集約されるのではないでしょうか。  
 最初からコンテンツビジネスを主軸にする考えだったのでしょうか。  
宇野 2000年代初頭にブロードバンドが登場してインターネット網が高速化していく中で、さまざまなコンテンツの配信が可能な状況が生まれました。そういう意味で、インフラとコンテンツは両輪と考えていました。コンテンツとネットワークという2つのテーマを常に両にらみで追いかけながら、努力をしてきたつもりです。U-NEXTも通信ネットワーク事業とコンテンツ事業の両輪で展開していて、映像配信のユーザーを増やしながら、一方でインフラコストをどんどん安くしていきたいと考えています。  
 既存の通信キャリアと対抗していくスタンスなのでしょうか。  
宇野 われわれがU-mobileで掲げている「スマホにもLCCが誕生」というキャッチコピーのような立ち位置と思っていただければ良いかと思います。飛行機で言えば、大手航空会社が飛ばない路線を飛んだり、過剰なサービスを減らして料金を安くしたりといったリクエストに応えていくイメージです。つまり、大手キャリアとガチンコで張り合うのではなく、ユーザーの選択肢を増やすということです。  
退路を断ち、危機感を持って再出発  
 10年にUSENの事業を整理して再出発したわけですが、当時を振り返って。  
宇野 USENグループとしてかなり大きな組織を手掛けていた頃からすると、いったん登頂を断念して、もう1回登りなおすぞという気持ちです。登りなおすための十分な体力は付いたし、今は充実感があります。下山をしていくプロセスでは正直つらいこともありましたが、自分の中で糧になったと思っています。結果的にはそれぞれの事業が良い嫁ぎ先を見つけて、皆幸せそうにやっているので良かったかなと。ただ、やはり事業を整理していく中で、社員にもつらい思いをさせなければならなかったことが一番きつかったですね。  
 インテリジェンスを創業した時と、下山してから再び登るのでは気持ちの面でも違うところがあるのではないですか。  
宇野 まぁ、歳も違いますからね(笑)。インテリジェンス創業は25歳の時でしたから。  
 U-NEXTには私財をかなり投じて自ら事業を継続したわけですが、経営から身を引く選択肢もあったかと思います。あらためて、今の道を選んだ動機は何だったのでしょう。  
宇野 その時は自分が経営者を続けるかどうかということより、どの事業をどう残してどう整理すべきかだけを考えていました。各事業の売却などを進めましたが、U-NEXTでやっていた事業については解決策がなく、銀行からも撤退するようと言われたのですが、これは世の中に対して新しい進化をもたらす事業だという信念を持っていたし、社員たちもそういう想いでかかわってきてくれていたので、潰すという考えはありませんでした。退路を断って危機感を持って再出発したことが、現在順調にいっている1つの要因かなとも思います。  
 今後の仕掛けとして考えていることは。  
宇野 映像配信サービスについては認知が広がっているので、普通に頑張っていけばユーザーは増えていくと思っています。その一方で、例えばイオンシネマさんと協力して、われわれのポイントを映画館の割引クーポンとして使えるようにするなど、他企業とのアライアンスにも力を入れています。さらに、コンテンツのジャンル拡大にも取り組んでいて、USENと連携して「スマホでUSEN」という音楽ラジオ放送700チャンネルを聞き放題にするサービスや、電子書籍の取り扱いなども始めました。映像以外にもコンテンツの領域を広げて、デジタルコンテンツのプラットフォームのような立ち位置を取りたいと考えています。  
ベンチャーに成功の法則はない  
 IPOについてはどう考えていますか。  
宇野 なるべく近いうちにIPOしたいとは考えています。  
 アベノミクスで景気は回復していますが、ITブームの時と比べて今の市場環境をどうとらえていますか。  
宇野 波の起こり方は似ているかもしれませんが、当時の波の高さはおかしいくらい高かったので、熱気は比べものにならないですね。  
 ITブームを経て生き残った企業は非常に少ないと思いますが、生き残るための秘訣があるとすればどんなことでしょうか。  
宇野 う〜ん、そうですね。何を持って生き残ったとするかもあると思いますが、私も見る人によっては生き残っていないことになっているかもしれないですし(笑)。結局は何を大事にして、何を残すかを決めることではないでしょうか。  
 これから起業する人たちへのアドバイスを。  
宇野 自分も今はベンチャーをやっている立場なので、偉そうなことは言えない気もしますが、自分の後輩たちがうまくいったり失敗したりするのを数々見てきた中で、あまり成功の法則というのはないのかなと思います。自分のスタイルでやればいいし、それが新たな経営スタイルになったほうが面白い気がします。こんな会社が世の中に出てきたんだと、われわれがびっくりするような経営スタイルが生まれてきてほしいという期待はありますね。 
ゼロからの“やり直し”でスピード再生 (2014/5)  
南原竜樹(オートトレーディングルフトジャパン社長)  
一度は他企業への再就職も考えた  
1960年東京都生まれ。大学在学中に高級外車の並行輸入で起業し、88年オートトレーディングルフトジャパンを設立。輸入車ディーラー、インポーターとして事業を拡大。人気テレビ番組「マネーの虎」への出演などで知名度を上げる。2005年に英国MGローバー社の経営破綻の影響を受け、全従業員の解雇という事態に見舞われるも、会社を再生し、現在は旅館経営、自動車の個人売買、メディカルケア、レンタカー、出版事業など多方面で展開する。  
絶頂からどん底に落ちる瞬間はあっけなかった。  
業績は絶好調、新規事業のアイデアを持ち寄った応募者を査定するテレビ番組「マネーの虎」への出演で一躍有名人となり、破竹の勢いだった南原竜樹氏は、主要仕入れ先である英MGローバーが倒産したという知らせを聞き、にわかには信じられなかった。  
「知り合いから初めてそれを知らされた時は『えっ?』という感じでした。自動車業界では資本の移動はよくあることだから、まだどこかの傘下で再生するんじゃないかと思っていました。そしたら2週間後、本当に生産を中止して破綻してしまった」と、同氏は振り返る。  
南原氏は大学在学中、海外から日本への自動車の並行輸入で起業。その後、伊アルファロメオの代理店であるチェッカーモータースの買収、英ロータス、MGローバーの輸入権獲得などで事業を拡大した。そして、いよいよ上場へと準備を進めていた2005年4月、最悪の事態が襲ったのだ。  
ダメージは大きかったが、当時、会社の純資産は約45億円あり、優秀な社員も多かった。シミュレーション上では新たなブランド展開などでしのげるはずだったが、金融機関の反応は冷たかった。当時の借り入れ状況は、銀行13行から約30億円。これらがいずれも一斉に融資の引き上げにかかった。  
南原氏は自社ビルやショールームをすべて売り払い、営業活動ができなくなった。悩んだ末にたどり着いた結論は、全従業員263人の解雇。従業員の前でそれを告げた時、冷徹なマネーの虎は泣いた。  
従業員の解雇手続きや税務署への対応といった敗戦処理が終わった後は、疲れきってサラリーマンとしての再就職も考えたという南原氏。だが、最終的にはたった1人での会社再建を決心することになる。同氏は当時の状況をこう語る。  
「就職先を探したのですが、求人情報誌を見ると35歳以上で就ける職は、夜間警備とタクシーの運転手だけ。ヘッドハンターもたくさん来たけれど、僕が有名だったのが仇になった。相手先の経営者にしてみれば、僕は使いにくそうな奴でしょうからね。あとは、ロータスの子会社にでも逃げて、2千万円ぐらいの年収をもらってやっていく選択肢もあったけどそれはしなかった。簡単に言うと、それでは面白くなかったからです」  
こうして南原氏は、「会社の再建」という最も厄介な道を選択することになる。  
とはいえ、事業資金どころか個人的な預金もなしというゼロからの再出発。自動車販売をやれば儲けるノウハウは十分持っていたが、何しろ資金が全くない。そこで、資本ゼロで始められる商売は何かと考え、リストラを行った知人の会社のオフィススペースを借りて、人材派遣業を始めた。家賃は出世払い、派遣する人材は自らの人脈をたどって確保した。  
「よく、どうやってモチベーションを保ったかと聞かれるんですが、僕にはもともとモチベーションがないんです。従業員を解雇して1日や2日泣くことはありましたが、大体いつも精神的にフラットだから、落ちることがない。もともとお金がない状態から起業したので、以前と同じようにゼロから頑張ろうと。考えてみたら、ゼロから始めるのは以前より簡単だったんです。最初に起業したときはファックスを買うのにも200万円以上掛かったし、海外との通信費も高かったけど、2度目はケータイとメールアドレスがあればスタートできました。以前は24年間で売り上げを100億円にしたから、今度は半分の期間で同じくらいにすることはできると思いました」  
ちょっとだけ賢くやれば生き残れる  
以降は、派遣事業で得た資金を元手に、M&Aの仲介、レンタカー会社買収、メディカルケア会社の買収、旅館の再生と次々に規模を拡大していくことになる。15年3月期には売上高100億円と、最盛期の水準に戻る見通し。予言どおり、鮮やかな復活を遂げた。  
「商売の失敗は山で遭難するわけではないので、マイナスではなくゼロに戻るだけ。挫折したと大騒ぎしている奴はただサボッているだけ。中途半端にカッコつけたがるから、ゼロからやり直せない。僕なんかは不安定な生活をむしろ好んでいますから。チマチマ賭けずに、リスクを最大限に取って、リターンは倍になるから、短期間で立て直せたんです」  
構造不況業種と言われる出版事業にも参入した。勝算について尋ねると、南原氏は  
「日本の人口が減っていく中、棺桶屋以外はすべてが不況産業。そんなことを言っていたら、何もできなくなる。徹底的な合理化を行うなど、緻密な経営を行えばちゃんと成長できます」と、言い切る。  
アイデアマンとしての能力は健在だ。例えば旅館の再生を手掛けた時のこと。家族風呂と隣接していた客室とをつなぐ工事を行って客室露天風呂にし、常に満室状態の大人気の部屋につくり変えた。  
さらに、旅館では「FLコスト(食事の原材料費と人件費)」を下げるのが常識だが、むしろ料金に見合わないほどの料理を提供することで評判を高め、客室稼働率を高めた。また、買収した沖縄のレンタカー会社でも、それまでハイシーズンとオフシーズンの2種類しかなかった料金体系を見直し、何段階にも細分化することで顧客を増やすことに成功している。  
「僕に言わせると、ちょっとだけ賢くやれば会社は生き残っていけるんです。普通のことをきちんとこなしていない経営者が日本には多過ぎる」と、南原氏は言う。  
どん底に落ちる前と今とでは、経営者として変わった部分があるのだろうか。この質問に南原氏はこう答える。  
「以前は車が大好きで、仕事で遊んでいるようなものでした。今手掛けている事業もそれぞれ好きですが、一歩引いた目で経営ができる。例えば、以前は自社広告の写真に自ら指示を出したり、営業マンの頭越しに自分で車を売ったりしていました。でも、それは売上高100億円の企業の社長がすることではないですよね。今は、大人の経営ができるようになりました」  
そして、こうも言う。  
「経験を重ねているぶん、テレビに出たら以前より今のほうが(起業を目指す人に)いいアドバイスができるでしょうね」 
「夜の商工会議所」マダムの秘話 (2014/7)  
加P文惠氏(なつめ加Pグループ社長)  
俳優の宇津井健さんが亡くなる数時間前に入籍した女性がいた。その女性とは、いつも名古屋でお世話になっている「なつめ」のマダムだった! 衝撃のニュースでした。そういえば、随分と前から「私は80近くになったら結婚するわ」と冗談のようにおっしゃっていたマダム、あれは有言実行だったのですね。今回はその純愛を探りたく、対談の運びとなりました。  
運命の出会い  
佐藤 マダムが随分前から「私は80近くになったら結婚するわ」とおっしゃっていたのはふざけているのかと思いました(笑)。で、宇津井健さんとの出会いはいつ頃なのですか。  
加P サントリー本社ビルの完成を祝うパーティーのお席で、佐治敬三さんに紹介していただいたのよ。一緒に写真を撮っていただいてね。  
佐藤 40年くらい前のことですか?  
加P ええ、そのあと、何度かお店にいらしてくださったのに、私は留守でお会いできなかったんです。  
佐藤 なつめのお客さまは、政治家や実業家の方々、芸能界の方、さらには皇族の方もお見えです。いまだ「夜の商工会議所」と言われ、賑わっていますね。健さんもよくいらしてたんですか。  
加P いいえ、10年くらい前に石井ふく子先生と一緒に私どものレストランで再会したんです。  
佐藤 健さんとはどんなお話をなさったのですか。  
加P 話をするというより、信じがたいことですが、思わず「あっ」と言ってお互いを覚えていたことに、何かしらの縁というものを感じました。それから、お付き合いするようになりました。  
佐藤 宇津井さんは芸能界とは全く違う、経済界の方々の武勇伝を聞きながら、映画のストーリーのように興味を持っていらっしゃったのでしょうね。  
加P 東急の五島昇会長ご夫妻に、ハワイのホテルオープニングパーティーに私たち4ババ≠ファーストでご招待していただき、何日も楽しく過ごしたことなどを話しますと「文惠さんすぐにでも行こうよ」と、少年のように次々と計画を立てました。  
佐藤 付き合い始めの高校生のカップルのようですね(笑)。  
加P その後、2人でハワイに行ったときに、突然、結婚式を挙げようと言って、お手製のブーケを作ってくれたんです。私は何も準備していなかったのに、うれしかったですね。  
佐藤 愛する人のお手製ブーケで結婚式なんて、素晴らしいサプライズ!  
加P 彼は入籍を強く希望していたのですが、その時は、お互いの立場を尊重して、あえて入籍はしなかったの。  
佐藤 それにしても、お2人とも有名人なのに、周りは誰も気が付かなかったのが不思議ですね。  
加P よく2人で食事に出歩いたりもしましたのに、誰も気付きませんでしたね。お互いに「健ちゃん」「文ちゃん」なんて呼び合ったりしてね、かわいいでしょ(笑)。  
佐藤 もぉ〜、マダムったらおのろけばかり(笑)。  
加P 彼と一緒に過ごしたのはわずか9年くらいでしたけれど、病床で「僕は加P文惠の夫として死にたいんだ。宇津井健の妻として喪主をやってもらいたい」と言われました。  
佐藤 健さん、引き際までカッコいい!  
加P そう。死ぬまでカッコつけられました(笑)。  
なつめ創業のきっかけ  
佐藤 日本一と言っても過言ではないなつめですが、創業したきっかけを教えてください。  
加P 17歳の時に家出した私を拾ってくださった方のご縁で、「三姉妹」というバーでお運びをしたんです。  
佐藤 最初からホステスさんではなかったのですね。  
加P 開店前に掃除をしたり、お客さまのところに、お使いや集金などにも行きました。  
佐藤 お客さまから見れば、まだ小娘ですものね。先輩方にいびられたりしませんでしたか?  
加P 頂いたチップを横取りされるなど日常茶飯事でした。また、みんなで遠くに出掛けた時に、置いてけぼりにされて、街灯もない道を雨に濡れながら一晩中泣きながら歩いて帰ったこともあるんです。  
佐藤 若くて可愛らしかったから嫉妬の的だったのでしょう。  
加P 悔しくてね、絶対にいつか見返してやる、と思いました。  
佐藤 その悔しい思いが開業するきっかけになったのですね。  
加P 私の恩人のおばさんが住んでいた自分の家を担保に借金して開店させてくれました。その当時から素晴らしいお客さまばかりでした。  
佐藤 なつめには若かりし頃から、父も通っていましたね。  
加P 正忠先生は中曽根康弘さんが連れてきてくれたの。「経済誌を作っている若者だからよろしく頼むよ」とね。三鬼陽之助さんは正忠先生を「僕の弟分だよ」とおっしゃっていて、いろいろな方に応援されていましたよ。  
佐藤 わあ、すごい方々に。ありがたいですね。また、影響を受けた同業者はいらっしゃいますか。  
加P 昔、銀座のエスポワールというクラブに川辺るみ子さんという日本一のママがいらしたんです。川口松太郎の小説『夜の蝶』のモデルになった方でね、お店には白洲次郎さんや吉川栄治さんなどの文豪から経済界の方々もご家族でいらしてね。  
佐藤 なつめも、ご家族といらしている方は多いですね。渡辺淳一先生もよくおいででした。  
加P ご家族と一緒に楽しめる社交場というスタイルを学んだのは川辺ママからなんです。尊敬する女性経営者でした。  
佐藤 最近は一流の社交場としてのクラブは少なくなりました。  
加P そうですね、一流とは、長い年月をかけてお客さまに育てていただいて、やっと認められるものなんです。健さんもこのお店が大好きだったから、まだまだ頑張ります。 
2014年の10大政治リスク (2014/1) 
国際政治学者イアン・ブレマー 
2008年の金融危機以降、世界最大のリスクは経済だった。ユーロ圏のメルトダウンから中国経済のハードランディングや米債務危機まで、アナリストらは過去5年、いかにして「金融崩壊」を回避するかに気をもんできた。  
しかし、それは終わった。2014年、大局的な観点から見た経済は比較的安定している。一方、地政学的問題が非常に大きな変動を見せている。中心的な役割を果たす国が不在の「Gゼロ」世界の姿が、ますます浮き彫りとなっていると言えよう。  
  2014年「10大リスク」  
1 米国の同盟危機  
中東政策のつまずき、スノーデン容疑者問題、議会の機能不全などにより、米国の外交政策は国際社会にますます理解されにくくなっている。安全保障面では、米国の最友好国であるイスラエル、英国、日本にとって選択肢はほとんどないが、ドイツやフランス、トルコ、サウジアラビア、ブラジルにはそれは当てはまらない。こうした国々は米国との緊密過ぎる関係を避け、米国発の問題が自分たちに波及するのを防ぐため、世界での立ち位置を変え始めるだろう。  
2 新興国デモ  
新興国を代表する6カ国、ブラジル、コロンビア、インド、インドネシア、南アフリカ、そしてトルコでは、選挙が問題になる(中国に選挙はなく、ロシアの選挙も当てにならない)。こうした国々では、経済成長の鈍化と新たに生まれた中間層からの要求が、不確実性の高まりを生み出す。ブラジルやトルコ、コロンビア、ロシア、ウクライナで最近行われた反政府デモは、市民の不満が抗議行動に直結する可能性を浮き彫りにした。  
3 新しい中国  
習近平国家主席を中心とする中国の指導部は、過去20年では見たことないほどの広範囲な改革を掲げた。しかし、実行には大変な政治的試練が待ち構えており、失敗すれば改革のみならず指導部そのものが弱体化する可能性がある。あまりに多くの改革を性急にやり過ぎれば、既得権益を手放したくない共産党内部からも反発が出てくるかもしれない。一方、改革の成果が少なすぎれば、国民の不満が噴出することになりかねない。  
4 イラン  
イラン核プログラムの進行、制裁によるイラン経済への壊滅的な影響、昨年6月の大統領選でのロウハニ師の劇的な勝利は、イランと西側の核協議での包括的合意に向けた道を開いた。イラン核問題はさらに進展すると予想するが、仮に交渉が不調に終われば、軍事行動のリスクが高まる。どちらにせよ、イラン核問題をめぐる交渉は、今年が本当の正念場となる。  
5 石油大国  
非従来型のエネルギー革命(シェール革命)は重要な地政学的影響を持つが、過去数年は産油国への影響は限られていた。2014年は、この傾向が変わるだろう。生産量の一段の拡大、原油価格の下落圧力、産油国間の競争激化により、ロシアやナイジェリア、ベネズエラ、サウジアラビアなど石油大国が打撃を受けるだろう。  
6 戦略的データ  
インターネットとその管理は、国家の果たす役割が増すにつれ、ボトムアップ型のオープンソース分野からトップダウン型の戦略的分野に変容しつつある。2014年はその傾向がさらに加速するとみられる。サイバー攻撃も受けやすくなっており、企業のインターネット管理コストは増すことになるだろう。  
7 アルカイダ  
アラブ世界の混乱は、スンニ派過激組織とアルカイダ系グループが再び台頭することを許し、シリアの内戦はイスラム聖戦主義者を引きつける強力な磁石になっている。米国本土は9・11同時多発攻撃の後に比べれば安全だが、中東や北アフリカでは、現地政府や西側機関は今や彼らの格好のターゲットとなっており、危険が高まっている。  
8 中東の混乱拡大  
中東情勢は過去3年の混乱を経て、一段と混迷の度合いを深めそうだ。2014年は、イラク政府に対するイランからの影響力が強まるのに伴い、イラクでの治安が急激に悪化すると予想される。また、米国の中東政策をめぐる混乱、イランの核開発問題、アルカイダの脅威、エジプトとチュニジアの政情不安なども、中東を一段と不安定化させる恐れがある。  
9 ロシア政府  
プーチン大統領は依然として、世界で最も重要な国の1つで唯一の最高権力者として君臨し続けている。しかし、国民からの支持は著しく低下しており、原油に過度に依存するロシア経済は停滞している。これにより、ロシア情勢の予測はかなり難しくなっている。ただ、それでもなおプーチン大統領は自身が望む政策を実行できる。2014年のロシアは不測の事態を見込んでおくべきだろう。  
10 トルコ  
新興国の中では今年、トルコが特に不安定な存在だ。隣国シリアの内戦から波及する問題のほか、クルド系反政府組織の勢力拡大、エルドアン首相に対する国民の反発を契機に強まった政情不安を抱えている。エルドアン首相は自身の政党の内外で反対勢力を厳しく非難しており、2015年に予定されている次の総選挙が前倒しされる可能性がある。