八ッ場ダムは誰のもの

八ッ場ダムは誰のもの 
 
下流の安全 
電源開発 
気候変動の緩衝施設
 


八ッ場ダム
 
   
一度決定された事業を 中止させる法律のないことが判りました
 
 
 
   
当初の事業予算は ただただ事業開始のためのものです 
開始してしまえば後は口実で事業費の増額は意のままのようです
 
 
 
 
地元住民のご苦労と 
事業関係者の算段は別世界のようです
 
 
 
 
事業目的理由の変更まで可能とは知りませんでした 
部外者に知らされたりはしません
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
まだまだ全国にダム事業が計画中とのこと 
誰のためでしょうか
 
ひとつ事業が始まれば  
それによって20-30年は食っ逸のない人が生まれるのでしょう 
今となっては地域の失業対策事業なのかもしれません

 
2009/10  
 
●八ッ場ダム  
吾妻川は、群馬と長野の県境にある鳥居峠を源流として、複数の支川を合わせて、途中、吾妻峡と称される景観をつくりながら、渋川市付近で利根川と合流する一級河川で、その流域面積は約1,370平方キロメートル、幹線流路延長は約76キロメートルに及ぶ利根川水系の代表的な支川のひとつです。八ッ場ダムは、この吾妻川において「利水」「治水」「発電」を目的とする国直轄事業の多目的ダムです。このダムの建設事業には、群馬県のほか、埼玉県、東京都、千葉県、茨城県、栃木県も共同事業者として、事業費の一部を負担しています。群馬県は、首都圏の水道水の安定供給に必要な水源を確保するため、また、利根川の洪水から県民や下流都県の皆さまの生命、財産を守るため、八ッ場ダムは必要であると考えています。 
●八ッ場ダムの歴史  
八ッ場ダムは、利根川の氾濫による洪水被害を防ぐとともに、首都圏の人たちの生活用水や工業用水を確保するため、昭和27年に建設省(現在の国土交通省)が、長野原町と東吾妻町の町境に計画したダムです。  
1.反対運動  
計画が発表された当初、「首都圏の人たちのために故郷が水没する」ことに地元住民の方々はダム建設に強く反対をしました。その後、賛成派と反対派に分かれ、町を二分するような深刻な問題となり、地元住民の方は大変つらい思いをされました。昭和55年に群馬県が生活再建案を、平成2年には建設省と群馬県で地域居住計画を提示し、ダム建設に向け動き出しました。  
2.苦渋の選択  
住民の方々の苦渋の選択の末、平成4年に長野原町で、平成7年には吾妻町(現東吾妻町)でも「八ッ場ダム建設に係る基本協定書」が締結され、ダム建設事業が動き始めました。このとき既に、ダム建設構想から、40年以上が経っていました。  
3.一方的な方針転換  
平成21年9月17日、鳩山内閣の下、前原国土交通大臣は、八ッ場ダムの工事中止を明言しました。これは、地元住民の意見、関係市町村、共同事業者の1都5県の意見を聞くことなく、国が一方的に判断したものです。  
4.八ッ場ダムの再検証  
国は、八ッ場ダムの工事中止を発表後、一切の予断を持たずに再検証を実施することを表明し、有識者の意見を十分に聞き、最終的には、その検証結果に沿って国土交通大臣が適切に判断することとしました。  
5.「建設継続」の決定  
平成23年12月22日、前田国土交通大臣は、国交省政務三役会議において「八ッ場ダムの建設継続」を決定したことを発表しました。また、同日に長野原町を訪問し、群馬県知事、長野原町長、東吾妻町長、地元住民らに「建設継続」を報告しました。  
6.本体関連工事の開始  
平成25年5月15日に「利根川・江戸川河川整備計画」が策定され、「八ッ場ダム」が盛り込まれました。また、平成25年度の予算成立直後より、国は順次、本体関連工事の契約手続きを開始し、着工しています。  
7.群馬県の今後の対応  
群馬県は、八ッ場ダムが一日も早く完成するよう国に働きかけていくとともに、地元の方々が、これ以上将来への不安や不便な生活に苦しむことがないよう、ダム湖を前提として進められている生活再建事業の早期完成に、今後も引き続き1都4県と連携して努めていきます。  
8.事業の経緯  
•昭和27年 :利根川改定改修計画の一環として調査着手  
•昭和55年11月:長野原町及び同議会に「生活再建案」を提示  
•昭和55年12月:吾妻町及び同議会に「生活再建案」を提示  
•平成2年12月:建設省と群馬県は地域居住計画を作成し関係住民に配布  
•平成4年7月:長野原町が「八ッ場ダム建設に係る基本協定書」を締結  
•平成7年11月:吾妻町が「八ッ場ダム建設に係る基本協定書」を締結  
•平成13年6月:「利根川水系八ッ場ダム建設事業の施行に伴う補償基準」を調印  
•平成13年9月:八ッ場ダム建設に関する基本計画(第1回変更)が告示(工期:平成22年度に延伸)  
•平成16年9月:八ッ場ダム建設に関する基本計画(第2回変更)が告示(総事業費:約4,600億円に増額)  
•平成17年9月:「利根川水系八ッ場ダム建設事業の施行に伴う代替地分譲基準」を調印  
•平成20年9月:八ッ場ダム建設に関する基本計画(第3回変更)が告示(工期:平成27年度に延伸)  
•平成25年11月:八ッ場ダム建設に関する基本計画(第4回変更)が告示(工期:平成31年度に延伸) 
●八ッ場ダム、とめどなく溢れる思考停止報道 (2009/9/23)  
前原国土交通大臣が八ッ場ダムの視察に向かった。  
これと前後して洪水のように溢れるテレビ報道は、どれもステレオタイプな表層をなでるばかりのもので、「ここまで造ったのにもったいない」「住民の怒りはおさまらない」などと繰り返している。私たちが10年にわたってこのダムの問題点と向き合ってきたのは、「造ること自体がもったいない」「住民の意志は踏みにじる」旧建設省河川局以来の国の姿勢そのものだった。  
政権交代によって危機に陥った国土交通省のダム官僚たちが煽っているデマを何の精査もせずに垂れ流しているテレビ番組を見ていると「思考停止社会」も極まっていると感じる。まず代表的なデマは「工事の7割はすんでいて、あと3割の予算を投入すればダムが出来る」というもの。これは4600億円の予算をすでに7割使用したということに過ぎなくて、工事の進捗率とは何の関係もない。嘘だと思ったら、国土交通省河川局に聞いてみるといい。ダムは当初、半額以下の予算で建設されるはずだった。しかし、総工事費を4600億円にひきあげても、この金額で完成すると断言している人は誰もいない。工事が6年後に終わるという説明にも無理があり、竣工がのびのびになれば、実際の総工事費はどこまでふくらむかわからない。  
明日から公共事業チェック議員の会のメンバーと打合せをして、八ッ場ダム問題についての客観的な論点を提出すべく作業を急ごうと考えている。民主党の大河原雅子さんに聞いたら、八ッ場ダムをストップさせる千葉の会が作成した『みんなの八ッ場 パーフェクトガイド』がよく出来ていると教わった。なるほど、この情報をもとにしてこれまでの八ッ場ダム報道を再検証してみてほしい。  
先週、長いこと激しい反対運動と裁判闘争を重ねてきた熊本県の川辺川ダムについて蒲島郁夫知事が反対を表明したことで、「動き出したら止まらない公共事業」は大きな転換点を迎えた。もうひとつ、八ッ場(やんば)ダムが止まれば「日本が変わる」ことを示したシグナルになる。総額1兆円にも届きかねない大型公共事業は55年前に企画され、激烈な反対運動を巻き起こしながら「半世紀」のスパンで動いている公共事業である。  
八ッ場ダム事業こそ総事業費と関連事業費をあわせて9000億円という究極の無駄な事業である。そもそも、草津温泉上流の強酸性の水質は、飲用には適さない。このダムが計画された頃、「酸性なら中和すりゃいいじゃないか」という自然征服思想そのものの発想で当時の建設省は草津温泉に中和工場を建設した。中和工場とは簡単にいえば、酸性の川に「石灰」を投下していって、水質を中性化するもの。しかし、中学校の理科(小学校だっけ)で習うように、酸性の水を石灰で中和するとドロドロの石灰生成物が出来るということを思い出そう。だから、この中和生成物(ヘドロ)を貯めておくダムが必要だと品木(しなき)ダムがつくられた。1963年(昭和38年)に中和工場が完成し、1965年(昭和40年)にはこの品木ダムが完成している。  
品木ダムとは、この世のものとは思えない「エメラルドの湖」である。深さ40メートルのダム湖には中和生成物と土砂が溜まり、7〜8メートルの水深になってしまい、1985年(昭和60年)から石灰浚渫船を湖面に浮かべて一日60トンの中和生成物と土砂のヘドロを浚渫している。これを脱水・圧縮する工場が建設され、またダンプが横付けされて山に捨てにいくといことが営々と続けられている。  
こうして無理やり中性化して吾妻川は魚の生息出来る環境になったというのが国土交通省の自慢である。しかし、そもそも何のために中和事業(年間10億円)が発案されたのかと言えば、八ッ場ダムを建設し「首都圏の水ガメ」とするためだった。ところが、この「利水」についてはまったく需要がなく、現在ではダム建設目的から外れている。このダムは「治水」のために50年かけてつくられようとしているが、実は防災上ダムの存在が水害をもたらす危険性が高いことが従来から指摘されている。  
それでも、ダム事業は止まらない。小泉政権とは、こうした巨大公共事業に税金を垂れ流す自民党政権だったのである。それでいて、「改革」とはちゃんちゃらおかしい。私たち野党が中心となって政権交代を果たせば、「日本が変わる」という号砲として「八ッ場ダム事業」を中止する。もちろん、半世紀にわたって国策る翻弄されてきた地元住民の生活再建をしっかり補償していくモデルケースにしたいと思う。 
●八ッ場ダムとマスコミ報道  
●I.中止した方が高くつく 
1.八ッ場ダムを中止した方がはるかに安上がり  
(1) 事業費の再増額は必至  
八ッ場ダム建設事業の事業費は4600億円(水源地域対策特別措置法事業と水源地域対策基金事業も含めると、約5900億円)とされているが、ダム事業を継続すれば、ダム完成までに事業費の大幅増額は必至である。増額要因としては、東京電力への多額の減電補償(吾妻川の大半を取水している5つの発電所への発電減少分の補償)が残されていること、貯水池予定地の周辺で地すべりの危険性がある場所が22箇所もあるため、大滝ダムや滝沢ダムの例に見るように、新たな地すべり対策費が膨れ上がる可能性がきわめて高いこと、関連事業の工事進捗率がまだ非常に低く、完成までにかなりの追加予算が必要となる可能性が高いことなどがある。  
(2) 継続した場合と中止した場合の今後の事業費の比較  
八ッ場ダム事業を継続した場合は上述の要因によって1000億円程度の事業費増額が必要となると予想される。仮に1000億円とすれば、八ッ場ダム建設事業の今後の公金支出額は残事業費1390億円+1000億円=2390億円となる。一方、中止した場合の必要事業費は国交省が示す生活関連の残事業費770億円程度である。したがって、中止した方が差引き1620億円も公金支出を減らすことができる。  
2.利水負担金の返還について  
(1)利水負担金についての正しい話  
国交省は、ダムを中止すれば、利水予定者が今までに負担した約1460億円を返還しなければならないとし、都県知事もそれに呼応して返還を要求すると主張しているが、二つの点でこの話は間違っている。第一はこの約1460億円の中には水道事業および工業用水道事業への国庫補助金(厚生労働省と経済産業省からの補助金)が含まれており、それを除くと、6割の約890億円である。利水負担金の問題は国庫補助金も含めた数字が罷り通って話が一層大きくなっている。第二に、特定多目的ダム法および施行令ではダム事業者が自らダムを中止した場合は想定されておらず、利水予定者への全額返還は明記されていないことであるから、利水負担金をどのように取り扱うかは今後の検討課題である。不要なダム建設を推進してきた責任は利水予定者側にもあり、さらに、今回の総選挙で多数の有権者が八ッ場ダムの中止を求めたのに、あえて返還を求めることは民意に反することでもある。  
(2)利水負担金を仮に返還した場合は?  
ダムを中止して利水負担金を仮に利水予定者に返還した場合、今後の国費支出額は次のようになる。国交省は今後の国費支出額を利水負担金返還額約1460億円+生活関連の残事業費約770億円=約2230億円としているが、1460億円には上述の国庫補助金が含まれているから、国交省の数字は誤りである。正しくは、利水負担金返還額約890億円+生活関連の残事業費約770億円=約1660億円が今後の国費支出額である。利水負担金を返還しても、事業を継続した場合の公金支出額約2390億円より約730億円小さい金額になる。  
(3)利水者負担金の返還は公会計内の話  
しかし、利水者負担金の返還は公会計内での国と地方の負担割合のことであって、公金支出額の総額、すなわち、国民の負担額が変わるわけではないから、本質的な問題ではない。1で述べたとおり、ダムを中止した方が、公金支出額がはるかに小さくなるのであって、広い視点から見て無駄な公費の支出をなくすため、ダムの中止が必要である。 
●II.ダムはすでに7割できている 
1.工事の進捗は大幅に遅れている  
7割というのは、八ッ場ダム建設事業の事業費4600億円のうち、7割が平成20年度までに使われたということであって、工事の進捗率とは全く別物である。本体工事は未着手である。関連事業のうち、規模が大きいものは付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地造成であるが、平成20年度末の完成部分の割合はそれぞれ6%、2%、75%、10%であり、まだまだ多くの工事が残されている。付替鉄道は75%まで行っているとはいえ、新・川原湯温泉駅付近は用地未買収のところがあって、工事の大半はこれからであるから、完成までの道のりは遠い。  
2.完成が平成27年度末よりも大幅に遅れることは必至  
八ッ場ダムの完成予定は平成27年度末で、今年度後半から本体工事着手となっているが、実際の完成は大幅に遅れる可能性が高い。八ッ場ダムの場合、ダムサイト予定地を国道と鉄道が通過しているので、付替国道、付替鉄道を完成させ、現国道と現鉄道を廃止しないと、本格的なダム本体工事をはじめることができない。この付替国道、付替鉄道の工事が用地買収や地質の問題で大幅に遅れているので、事業が継続されても、ダムの完成は平成27年度末より大分先になることは確実である。 
●III.暫定水利権がダム中止に伴って失われる 
1.八ッ場ダムの暫定水利権は長年の取水実績があり、支障を来たしたことがない。  
八ッ場ダムの暫定水利権とは、八ッ場ダムの先取りの水利権として暫定的に許可された水利権のことで、そのほとんどを占めるのが埼玉県や群馬県などの農業用水転用水利権の冬期の取水である。農業用水を転用した水利権であるから、冬期は権利がないとされ、八ッ場ダム事業への参加で冬期の水利権を得ることが求められている。しかし、これらの農業用水転用水利権は夏期も冬期も長年の取水実績がある。古いものは37年間も取水し続けている。その間、冬期の取水に支障を来たしことがない。  
2.利根川の冬期は取水量が激減するので、水利用の面で余裕がある。  
利根川の冬期は夏期よりも流量が少ないが(冬期の晴天日の流量は夏期の6割程度)、農業用水の取水量が激減するので(冬期の都市・農業用水の全取水量は夏期の3割程度、左下の図)、水利用の面でも十分な余裕がある。それを反映して、利根川では冬期の渇水はきわめてまれである。過去において冬期に取水制限が行われたのは平成8年と9年の冬だけである。その取水制限率は10%であって、ほとんど自主節水にとどまっており、生活への影響は皆無であった。平成8、9年当時と比べて現在は首都圏の保有水源が増えていることと、取水量が減少してきていることもあり(右下の図)、八ッ場ダムなどなくても、埼玉県水道等の農業用水転用水利権が冬期の取水を続けることに何の問題もない。  
3.ダム中止後も継続される暫定水利権  
今まで数多くのダムが中止されてきている。その中には、中止されたダムの完成を前提とした暫定水利権がそのダムの利水予定者に許可されていたケースがあるが、ダム中止後にその暫定水利権が消失することはなく、そのままの使用が認められている。具体的な例としては、徳島県の細川内ダムや新潟県の清津川ダムがある。両ダムとも国土交通省のダムである。八ッ場ダムの暫定水利権がダム中止後、使用できなくなることは決してない。  
4.埼玉県民の過重負担  
埼玉県水道を例にとれば、農業用水転用水利権の確保のため、すでに多額の費用を負担している。利根中央事業の場合は1m3/秒あたりの負担額が125億円にもなっている。八ッ場ダムの非かんがい期(冬期)の水利権に対する同県の負担額は約74億円であるから、夏期と冬期それぞれ水利権を得るということで、約200億円の負担になっている。一方、八ッ場ダムで通年の水利権を得る茨城県水道の1m3/秒あたりの負担額は131億円であるから。埼玉県民はその1.5倍以上の負担をさせられつつある。  
5.水利権の許可権をダム建設推進の手段に使う国交省  
上述のとおり、八ッ場ダムの暫定水利権は、八ッ場ダムがなくても取水し続けることが可能なのであるから、安定水利権として認めればよいのだが、利根川の水利権許可権者は国交省で、八ッ場ダム建設の事業者も同じ国交省である。国交省は水利権許可権をダム事業推進の手段に使っていると言ってよい。実態に合わない非合理的な水利権許可行政を根本から改める必要がある。 
●IV.大渇水到来のために必要 
大渇水到来の話は八ッ場ダムには直結せず  
石原慎太郎東京都知事は「異常気象が深刻化しており、日本だって、いつ干ばつにさらされるか分からない」から八ッ場ダムを必要だと語っているが、これは八ッ場ダムについての知識を持たないことによる発言である。  
八ッ場ダムはそれほど大きなダムではなく、夏期は洪水調節のため、水位を下げるので、利水容量は2500万m3しかない。一方、利根川水系にはすでに11基のダムがあって、それらの夏期利水容量は合計では4億4329万m3あるから、八ッ場ダムができても、約5%増えるだけである。  
渇水が起きることがあるのはほとんど夏期であるから、夏期の利水容量が重要であるが、八ッ場ダムはその容量が小さいダムなのである。  
大渇水が来るという話自体が現実性のない話であるが、そのことはさておき、八ッ場ダムが完成しても、利根川水系ダムの状況が現状とそれほど変わるわけではないから、都知事の発言は完全にピント外れである。 
●V.利根川の治水対策として重要 
1.八ッ場ダムの治水効果はわずかで、治水対策として意味を持たない。  
(1)カスリーン台風再来時の八ッ場ダムの治水効果はゼロ  
利根川の治水計画のベースになっているのは1947年のカスリーン台風洪水であるが、同台風の再来に対して八ッ場ダムの治水効果がゼロであることが国土交通省の計算によって明らかになっている。2008年6月6日の政府答弁書は、カスリーン台風再来時の八斗島地点(群馬県伊勢崎市にある利根川の治水基準点)において、八ッ場ダムの治水効果がまったくないことを明らかにした。これは八ッ場ダム予定地上流域の雨の降り方が利根川本川流域と異なっていたからであるが、他の大きな洪水でもよく見られる現象である。  
(2)過去50年間で最大の洪水における八ッ場ダムの治水効果はわずかなもの  
最近50年間で最大の洪水は平成10年9月洪水で、八斗島地点のピーク流量は9,220m3/秒であった。昭和56年から八ッ場ダム予定地に近い岩島地点で流量観測が行われているので、実際の観測値から八ッ場ダムの治水効果を知ることができる。同洪水について八ッ場ダムの効果が最も大きくなる条件で求めた結果が図1である。八斗島地点における八ッ場ダムの水位低減効果は最大13cmで(実際には8cm程度)、そのときの水位は堤防の天端から4m以上も下にあった。八ッ場ダムがあったとしても、この洪水においては何の意味もなかった。また、図2は堤防の天端と同洪水の痕跡水位(最高水位の痕跡)を八斗島地点から栗橋地点(埼玉県)までの区間について示したものである。どの地点とも痕跡水位は堤防天端から約4m下にあるので、八ッ場ダムによるわずかな水位の低下が意味のないものであることは明らかである。このように利根川はほとんどのところで大きな洪水を流下できる河道断面積がすでに確保されているから、八ッ場ダムのわずかな治水効果は意味を持たない。  
2.ダム建設のために後回しにされる河川改修  
(1)破堤の危険性をはらむ利根川の堤防  
堤防は何度も改修を重ねてきたため、十分な強度が確保されているとは限らない。洪水時に河川の水位が高い状態が維持されると、水の浸透で堤体がゆるんで堤防が崩れたり(すべり破壊)、あるいは堤防にみず道が形成されて堤防が崩壊したりする(パイピング破壊)危険性がある。国土交通省が利根川の堤防の安全度を調査した結果を情報公開請求で入手して、整理した結果の一例を図3に示す。利根川中上流部の右岸は、すべり破壊・パイピング破壊の安全度が1を大きく下回って破堤の危険性がある堤防が随所にあることがわかる。利根川の他の区間も同じような状況である。  
(2)河川改修の事業費が急減  
このように、利根川は破堤の危険性がある堤防が各所にあるから、堤防の強化対策を早急に実施しなければならない。ところが、利根川水系の河川予算の推移を見ると、図4のとおり、八ッ場ダム等のダム建設費が増加する一方で、堤防の強化を含む河川改修の事業費は年々急速に減少してきている。堤防の強化対策を後回しにして、治水効果が希薄な八ッ場ダム等のダム建設に河川予算の大半が注ぎこまれている。このように、治水に関しては、八ッ場ダムは必要性が希薄なだけでなく、利根川の真の治水対策を遅らせる重大な要因になっている。 
●VI.ダム予定地の生活再建と地域の再生 
1.地元の町とダム予定地からの反発  
八ッ場ダムの中止に対して、地元の町とダム予定地から次のように強い反発が出されている。  
「地元はダム事業に多大な犠牲を払って協力してきた。ダムの完成は地元との約束である。中止となれば、地元住民は途方に暮れ、観光再建計画でも再度ゼロからの再考を余儀なくされ、ダメージは計り知れない。」  
ダム予定地では、多くの人々が代替地への移転、補償金など、ダムを前提として生活設計を立てざるをえない状況が長く続いてきたため、ダムの中止はその生活設計を白紙に戻し、地元の人たちを苦境に追い込みかねず、この反発は当然のことである。3で述べるように八ッ場ダムの中止に当たっては、水没予定地の人たちの生活を立て直し、地域を再生させるため、政治の真摯な取り組みが求められる。  
2.ダム事業を進めても地元の活気は取り戻せない  
ただ、留意すべきは、このままダム事業を進めても、人口の激減で活性が大きく失われてきているダム予定地が再び活気を取り戻すことはきわめて困難だということである。  
(1)八ッ場ダム湖は観光資源にならない。  
国と県は、八ッ場ダム湖を観光資源としてダム予定地周辺を一大リゾート地にする地域振興構想を示しているが、八ッ場ダム湖は観光資源になるような代物ではない。夏期は洪水調節のため、満水位から28mも水位が下がり、渇水時にはさらに10mも下がるダム湖である(末尾のグラフ参照)。しかも、上流の観光地や牧場等から多量の栄養物が流入してくるダム湖であるから、浮遊性藻類の増殖による水質悪化が避けられない。貯水池の底の方に汚れた水がたまっているダム湖が観光資源になるはずがない。  
(2)美しい吾妻渓谷の喪失  
吾妻渓谷は八ッ場ダムができると、その上流部は破壊されるか、ダム湖の底に沈んでしまうが、残される中下流部の渓谷も今の美しさを失ってしまう。岩肌の美しさは時折洪水が起こることによってその表面が洗われ、現在の景観が維持されているから、ダムが洪水を貯留するようになると、下久保ダム(群馬県藤岡市)直下の三波(さんば)石峡(せききょう)のように岩肌をコケが覆い、草木が生い茂って様相が大きく変わってしまう。  
(3)ダム湖による地すべり発生の危険性  
八ッ場ダム予定地の周辺は地質が脆弱なところが多いので、ダムができてダム湖から水が浸透し、湖水位が大きく上下すると、地すべりが起きることが予想される。川原湯の代替地の一つである上湯原地区(川原湯温泉新駅予定地周辺)は面積では最大の地すべり危険地区である。ダムができれば、ダム湖予定地周辺の住民は地すべり発生の危険性をいつも心配しなければならない日々を送る可能性が高い。  
以上のことを考え合わせると、このままダム事業を進めても、ダム予定地が観光地として活気を取り戻し、人々が経済的にも精神的にも安定した生活を送ることはむずかしいと考えざるをえない。  
3.ダム中止後こそ、真の地域再生を  
(1)ダム中止後の生活再建支援法案の制定  
ダム中止後は、今まで国土交通省や県が示してきた絵空事ではなく、吾妻渓谷などの自然を観光資源として活かして着実に地域を再生する道筋を考えなければならない。生活再建と地域振興、それらを進めるためには、そのことを制度的に可能にする法律の制定が必要である。民主党は今年5月20日に「ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関する特別措置法案(仮称)骨子案」を発表し、パブリックコメントの募集を行った。その骨子案では、国、都道府県、市町村、住民で地域振興協議会を組織した上で、そこでの協議を経て、都道府県が地域振興計画を作成し、その計画に基づく事業が国の交付金で実施されることになっている。今後の法案化の段階で具体的な内容が加えられていくであろうが、何よりも大事なことは地元住民の意向に基づいて生活再建・地域振興の計画が策定されなければならないということである。そのためには、地元住民の合意形成が必須条件であることが法律に明記される必要がある。  
(2)生活再建、地域再生のためのきめ細かな取り組みを!  
このような法律に基づき、老朽化した家屋・建物の新改築、生活再建のための物心両面の支援措置、衰退した地域の基幹産業を再生させる支援プログラムの推進、移転した人たちを呼び戻すための既買収地の譲渡など、地域を再生させるための様々な取り組みがされていかなければならない。それは、不要なダム計画の推進で地元を半世紀以上も苦しめてきた国と群馬県、さらに、ダム計画を後押ししてきた下流都県の責任の下に行われるべきものである。