お前 ・・・

お前 ・・・

日常 
家内に声をかける  前振り言葉
ときに 腹を立てる
 


 
 
●「御前」 おまえ 1
[名] 《「おおまえ(大前)」の音変化で、神仏・貴人の前を敬っていう。転じて、間接的に人物を表し、貴人の敬称となる》
1 神仏・貴人のおん前。おそば近く。みまえ。ごぜん。「主君のお前へ進み出る」
2 貴人を間接にさして敬意を表す言い方。「…のおまえ」の形でも用いる。
 「かけまくもかしこき―をはじめ奉りて」〈枕・二四〉 「宮の―の、うち笑ませ給へる、いとをかし」〈枕・二七八〉
[代] 《古くは目上の人に対して用いたが、近世末期からしだいに同輩以下に用いるようになった》二人称の人代名詞。
1 親しい相手に対して、または同輩以下をやや見下して呼ぶ語。「お前とおれの仲じゃあないか」
2 近世前期まで男女ともに目上の人に用いた敬称。あなたさま。
 「私がせがれにちゃうど―ほどながござれども」〈浄・阿波鳴渡〉
慣用句
【御前百までわしゃ九十九まで】 / 《「お前」は夫を、「わし」は妻をさす》夫婦が共に元気で長生きできるようにとの願い...
おまえがた【御前方】 / [代]二人称の人代名詞。複数をさす。近世、男女ともに目上の人に用いた敬称。のちに...
おまえさま【御前様】 / [代]二人称の人代名詞。近世、男女ともに目上の人に用いた敬称。きわめて高い敬意を...
おまえさん【御前さん】 / [代]二人称の人代名詞。1 庶民層で、親しい間柄の人を呼ぶ語。また、特に妻が...
おまえたち【御前達】 / [代]二人称の人代名詞。複数の同輩以下の相手をさしていう語。[名]宮仕えの女...
おまえまち【御前町】 / 寺社などの前にある町。門前町。「天神橋と行き通ふ、所も神の―」〈浄・天の網島〉
夫婦の呼び方 
うちの嫁は・・・
自分の妻の正しい呼び方について考えます。「うちの嫁は」「こいつんちの嫁は」など、関西出身のお笑いタレントなどがテレビで喋っているのを聞いたことはありませんか?
自分の妻のことを「嫁」と呼び、爆笑トークを繰り広げるいわゆる「嫁ネタ」。関西圏は夫の配偶者のことを人前で「嫁(よめ)」と呼ぶことが多い地域なのか、それともあくまでもネタとして使っているだけなのかよくわかりませんが、この影響もあって最近は関東圏でも「うちの嫁は」「オレの嫁さんは」という人が増えているようです。
結婚するまでは彼女(彼氏)とか恋人と呼んでいたパートナーですが、考えてみると「妻」、「嫁さん」、「奥さん」、「家内」など結婚してからの呼び方にはいろいろなものがあります。気になって周囲を調べてみると、同世代では「うちの嫁は」「うちの奥さんは」などと呼んでいる方が多数派ですが、少し上の世代となると「うちの妻は」「うちのカミさんは」「うちの家内は」など人によってまちまち。本当はどう呼ぶのが正しいのでしょうか?
家内、妻、嫁、奥さん・・・
自分の妻や相手の妻のことをどう呼ぼうと、親しい間柄では気にする必要もないのかもしれません。ですが、例えば相手が上司や取引先、お客さまとなると一般常識を心得ていた方が無難ですよね。辞書を引いてみると、このようになります。
• 妻……夫(自分)の配偶者
• 嫁(嫁さん)……息子の妻
• 奥さん(奥様)……相手(他人)の妻、既婚者と見える女性
• 家内……家の中で暮らす人、亭主の妻
• カミさん(上さん)……商人の妻、その家の女主人
• 女房……妻のこと、朝廷に仕える女官
辞書の通りに解釈すれば、「嫁トーク」で使われる「嫁」とは、本来は自分の妻ではなく自分の息子の妻ということになります。地域性や芸風もあるので一概にいえませんが、例えば「奥さん」というのは相手の妻をいう言葉ですから、「おたくの奥さんは……」は正しくとも「うちの奥さんは……」と使うのは間違いということに。
つまり、妻の職場に電話をかけて呼び出してもらうときに、「○○の夫です。お忙しいところ申し訳ありませんが、うちの奥さんを呼び出してもらえないでしょうか?」と言ったら丁寧に話しているつもりでも赤っ恥かもしれませんね。この場合は、「妻を呼び出して……」と話すのが無難のようです。
それでは、女性は夫のことをどう呼べばいいのでしょうか?
夫、旦那、主人・・・
「うちの旦那は」、「おたくのご主人は」など女性たちの間でも夫であるパートナーをどう呼べばいいのかは曖昧なものですよね。辞書を引いてみると、このようになります。
• 夫……女性を「妻」というのに対し、男性をいう語
• 主人……家の長、店の主(あるじ)、自分の仕える人
• 旦那……お布施をする人、商家の奉公人が自分の主人を敬っていう語、男の得意客、自分や他人の夫
• 亭主……その家の主(あるじ)、夫、茶の湯で茶事を主催する人
辞書の通りに解釈すれば、「主人」よりも「旦那」のほうが丁寧な呼び方であることがわかります。つまり、訪問先で「ご主人はいらっしゃいますか?」と伺うよりは「旦那さんはいらっしゃいますか?」の方が丁寧ということに。もちろん地域性なども加味しなければいけませんが、勘違いしている方が多いのではないでしょうか?(ガイドは間違ってました)
こうやって実際に辞書を引いてみると、その言葉の持つ本来の意味を勘違いして使っている可能性は無きにしも非ず。そういえば、「拘(こだわ)り」という言葉は現在は良い意味で用いられることが多いですが、以前は反対の意味だったといいますし、その昔「奥様」という言い方には「夫=表、妻=裏」という男女差別・女性蔑視にあたるとして抗議された例もあるほどです。  
例文
・・・「まあ、御待ちなさい。御前さんはそう云われるが、――」 オルガンティノは口を挟んだ。「今日などは侍が二三人、一度に御教に帰依しましたよ。」「それは何人でも帰依するでしょう。ただ帰依したと云う事だけならば、この国の土人は大部分・・・ 芥川竜之介「神神の微笑」
・・・「御前は銀の煙管を持つと坊主共の所望がうるさい。以来従前通り、金の煙管に致せと仰せられまする。」 三人は、唖然として、為す所を知らなかった。        七 河内山宗俊は、ほかの坊主共が先を争って、斉広の銀の煙管を・・・ 芥川竜之介「煙管」
・・・この様を見たる喜左衛門は一時の怒に我を忘れ、この野郎、何をしやがったと罵りけるが、たちまち御前なりしに心づき、冷汗背を沾すと共に、蹲踞してお手打ちを待ち居りしに、上様には大きに笑わせられ、予の誤じゃ、ゆるせと御意あり。なお喜左衛門の忠直なる・・・ 芥川竜之介「三右衛門の罪」
・・・お傍医師が心得て、……これだけの薬だもの、念のため、生肝を、生のもので見せてからと、御前で壺を開けるとな。……血肝と思った真赤なのが、糠袋よ、なあ。麝香入の匂袋ででもある事か――坊は知るまい、女の膚身を湯で磨く……気取ったのは鶯のふんが入る・・・ 泉鏡花「絵本の春」
・・・ごぼりと咳いて、「御前じゃ。」 しゅッと、河童は身を縮めた。「日の今日、午頃、久しぶりのお天気に、おらら沼から出たでしゅ。崖を下りて、あの浜の竃巌へ。――神職様、小鮒、鰌に腹がくちい、貝も小蟹も欲しゅう思わんでございましゅ・・・ 泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」
・・・と低いが壁天井に、目を上げつつ、「角海老に似ていましょう、時計台のあった頃の、……ちょっと、当世ビルジングの御前様に対して、こういっては相済まないけども。……熟と天頂の方を見ていますとね、さあ、……五階かしら、屋の棟に近い窓に、女・・・ 泉鏡花「開扉一妖帖」
・・・向島の言問の手前を堤下に下りて、牛の御前の鳥居前を小半丁も行くと左手に少し引込んで黄蘗の禅寺がある。牛島の弘福寺といえば鉄牛禅師の開基であって、白金の瑞聖寺と聯んで江戸に二つしかない黄蘗風の仏殿として江戸時代から著名であった。この向島・・・ 内田魯庵「淡島椿岳」
・・・その老臣は、謹んで天子さまの命を奉じて、御前をさがり、妻子・親族・友人らに別れを告げて、船に乗って、東を指して旅立ちいたしましたのであります。その時分には、まだ汽船などというものがなかったので、風のまにまに波の上を漂って、夜も昼も東を・・・ 小川未明「不死の薬」
・・・かれ男爵、ただ酒を飲み、白眼にして世上を見てばかりいた加藤の御前は、がっかりしてしまった。世上の人はことごとく、彼ら自身の問題に走り、そがために喜憂すること、戦争以前のそれのごとくに立ち返った。けれども、男は喜憂目的物を失った。すなわ・・・ 国木田独歩「号外」
・・・見かえればかしこなるは哀れを今も、七百年の後にひく六代御前の杜なり。木がらしその梢に鳴りつ。 落葉を浮かべて、ゆるやかに流るるこの沼川を、漕ぎ上る舟、知らずいずれの時か心地よき追分の節おもしろくこの舟より響きわたりて霜夜の前ぶれをか為し・・・ 国木田独歩「たき火」
・・・それにもまして美しい、私の感嘆してやまない消息は新尼御前への返書として、故郷の父母の追憶を述べた文字である。「海苔一ふくろ送り給ひ畢んぬ。……峰に上りてわかめや生ひたると見候へば、さにてはなくて蕨のみ並び立ちたり。谷に下りて、あま・・・ 倉田百三「学生と先哲」
・・・客と主人との間の話で、今日学校で主人が校長から命ぜられた、それは一週間ばかり後に天子様が学校へご臨幸下さる、その折に主人が御前で製作をしてご覧に入れるよう、そしてその製品を直に、学校から献納し、お持帰りいただくということだったのが、解ったの・・・ 幸田露伴「鵞鳥」
・・・ここの御社の御前の狛犬は全く狼の相をなせり。八幡の鳩、春日の鹿などの如く、狼をここの御社の御使いなりとすればなるべし。 さてこれより金崎へ至らんとするに、来し路を元のところまで返りて行かんもおかしからねばとて、おおよその考えのみを心頼み・・・ 幸田露伴「知々夫紀行」
・・・七「困ったって、私は人の家へ往ってお辞儀をするのは嫌いだもの、高貴の人の前で口をきくのが厭だ、気が詰って厭な事だ、お大名方の御前へ出ると盃を下すったり、我儘な変なことを云うから其れが厭で、私は宅に引込んでゝ何処へも往かない、それで悪けれ・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三「梅若七兵衞」
・・・で、まあ新講談と思えば、講談の奇想天外にはまた捨てがたいところもあるのだから、楽しく読めることもあるけれど、あの、深刻そうな、人間味を持たせるとかいって、楠木正成が、むやみ矢鱈に、淋しい、と言ったり、御前会議が、まるでもう同人雑誌の合評会の・・・ 太宰治「鉄面皮」
・・・「あたし、巴御前じゃない。薙刀もって奮戦するなんて、いやなこった。」「似合うよ。」「だめ。あたし、ちびだから、薙刀に負けちゃう。」 ふふ、と数枝は笑った。数枝の気嫌が直ったらしいので、さちよは嬉しく、「ねえ。あたしの言うこと・・・ 太宰治「火の鳥」
・・・と駄目をおし、「むかし嵯峨のさくげん和尚の入唐あそばして後、信長公の御前にての物語に、りやうじゆせんの御池の蓮葉は、およそ一枚が二間四方ほどひらきて、此かほる風心よく、此葉の上に昼寝して涼む人あると語りたまへば、信長笑わせ給へば、云々」とあ・・・ 寺田寅彦「西鶴と科学」
・・・柵の外より頻りに汽車の方を覗く美髯公のいずれ御前らしきが顔色の著しく白き西洋人めくなど土地柄なるべし。立派なる洋館も散見す。大船にて横須賀行の軍人下りたるが乗客はやはり増すばかりなり。隣りに坐りし静岡の商人二人しきりに関西の暴風を語り米相場・・・ 寺田寅彦「東上記」
・・・もし木戸松菊がいたらば――明治の初年木戸は陛下の御前、三条、岩倉以下卿相列座の中で、面を正して陛下に向い、今後の日本は従来の日本と同じからず、すでに外国には君王を廃して共和政治を布きたる国も候、よくよく御注意遊ばさるべくと凜然として言上し、・・・ 徳冨蘆花「謀叛論(草稿)」
・・・又狭斜の巷に在っては「池の端の御前」の名を以て迎えられていた。居士が茅町の邸は其後主人の木挽町合引橋に移居した後まで永く其の儘に残っていたので、わたくしも能く之を見おぼえている。家は軽快なる二階づくりで其の門墻も亦極めていかめしからざるとこ・・・ 永井荷風「上野」
・・・「御前、訳ア御わせん。雪の上に足痕がついて居やす。足痕をつけて行きゃア、篠田の森ア、直ぐと突止めまさあ。去年中から、へーえ、お庭の崖に居たんでげすか。」 清五郎の云う通り、足痕は庭から崖を下り、松の根元で消えて居る事を発見した。父を・・・ 永井荷風「狐」
・・・むかし土手の下にささやかな門をひかえた長命寺の堂宇も今はセメント造の小家となり、境内の石碑は一ツ残らず取除かれてしまい、牛の御前の社殿は言問橋の袂に移されて人の目にはつかない。かくの如く向嶋の土手とその下にあった建物や人家が取払われて、その・・・ 永井荷風「水のながれ」
・・・演説者は濁りたる田舎調子にて御前はカーライルじゃないかと問う。いかにもわしはカーライルじゃと村夫子が答える。チェルシーの哲人と人が言囃すのは御前の事かと問う。なるほど世間ではわしの事をチェルシーの哲人と云うようじゃ。セージと云うは鳥の名だに・・・ 夏目漱石「カーライル博物館」
・・・「いえあの御顔色はただの御色では御座いません」と伝通院の坊主を信仰するだけあって、うまく人相を見る。「御前の方がどうかしたんだろう。先ッきは少し歯の根が合わないようだったぜ」「私は何と旦那様から冷かされても構いません。――しかし・・・ 夏目漱石「琴のそら音」
・・・「御宮までは三里でござりまっす」「山の上までは」「御宮から二里でござりますたい」「山の上はえらいだろうね」と碌さんが突然飛び出してくる。「ねえ」「御前登った事があるかい」「いいえ」「じゃ知らないんだね」「・・・ 夏目漱石「二百十日」
・・・題しらず雲ならで通はぬ峰の石陰に神世のにほひ吐く草花歌会の様よめる中に人麻呂の御像のまへに机すゑ灯かかげ御酒そなへおく設け題よみてもてくる歌どもを神の御前にならべもてゆくことごとく歌よみ・・・ 正岡子規「曙覧の歌」
・・・そんなに沈んだ泣いた眼をして居ると御前の美くしさは早く老いてしまうから――誰かが御身をつらくしたなら私は自分はどうされても仇をうってあげるだけの勇気を持って居るのだよ。精女 誰にもどうもされたのではございませんけれ共――今ここに参りま・・・ 宮本百合子「葦笛(一幕)」
・・・の問題は、文学作品の形をとっていたから、文学者たちの注目を集め、批判をうけましたが、ひきつづきいくつかの形で二・二六実記が出て来たし、丹羽文雄の最後の御前会議のルポルタージュ、その他いわゆる「秘史」が続々登場しはじめました。なにしろあの当時・・・ 宮本百合子「新しい抵抗について」
・・・かくて直ちに清兵衛が嫡子を召され、御前において盃を申付けられ、某は彼者と互に意趣を存ずまじき旨誓言いたし候。しかるに横田家の者どもとかく異志を存する由相聞え、ついに筑前国へ罷越し候。某へは三斎公御名忠興の興の字を賜わり、沖津を興津と相改め候・・・ 森鴎外「興津弥五右衛門の遺書」
・・・かくて直ちに相役の嫡子を召され、御前において盃を申つけられ、某は彼者と互に意趣を存ずまじき旨誓言致し候。 これより二年目、寛永三年九月六日主上二条の御城へ行幸遊ばされ、妙解院殿へかの名香を御所望有之、すなわちこれを献ぜらる、主上叡感有り・・・ 森鴎外「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」 
 
 
●「御前」 おまえ 2
二人称。元々は「御前(おんまえ)」など言い、相手を敬った言い方であるが、「お前(おまえ)」「おめえ」などという風に言う場合は、相手をぞんざいに言う言い方。
[名] 《「おおまえ(大前)」の音変化で、神仏・貴人の前を敬っていう。転じて、間接的に人物を表し、貴人の敬称となる》
神仏・貴人のおん前。おそば近く。みまえ。ごぜん。「主君のお前へ進み出る」 貴人を間接にさして敬意を表す言い方。「…のおまえ」の形でも用いる。「かけまくもかしこき―をはじめ奉りて」〈枕・二四〉 「宮の―の、うち笑ませ給へる、いとをかし」〈枕・二七八〉
[代] 《古くは目上の人に対して用いたが、近世末期からしだいに同輩以下に用いるようになった》二人称の人代名詞。
親しい相手に対して、または同輩以下をやや見下して呼ぶ語。「お前とおれの仲じゃあないか」 近世前期まで男女ともに目上の人に用いた敬称。あなたさま。「私がせがれにちゃうど―ほどながござれども」〈浄・阿波鳴渡〉
おんまえ −まへ 【御前】
貴人の前。 「陛下の−に進み出る」 女性の手紙の脇付(わきづけ)に用いる語。御前に。
おまい 【御前】 
[代] 〔「おまえ」の転〕 二人称。同等以下の相手に用いる。 〔「おまえ」よりやや卑俗な語感をもつ〕
おまえ −まへ 【御前】
[名] 神仏・貴人の前。おんまえ。みまえ。 「神の−にぬかずく」 身分の高い人を直接にさすことを避けていう語。 「 −にはいと悩ましげにて/落窪 1」  (「…のおまえ」の形で)身分の高い人を敬う気持ちで付ける語。 「殿の−は三十より関白せさせ給ひて/大鏡 道長」
[代] 二人称。同等またはそれ以下の相手をさしていう。多く男性が用いる。 「 −はなんというだらしない男だ」 相手を敬っていう語。男女ともに用いる。あなたさま。 「 −にだにつつませ給はむことを、ましてことびとはいかでか/源氏 手習」 三人称。第三者を敬っていう語。あのかた。 「これは−に参らせ給へ/源氏 玉鬘」 〔二人称としては近世前期までは最も高い敬意をもって用いられたが、次第に敬意が薄れ、明治以降は対等またはそれ以下の者に対する語となった〕
おめえ 【御前】
[代] 〔「おまえ」の転〕 二人称。 同輩以下の者に対するぞんざいな言い方として用いられる。 「おれがこうなったのも−のせいだ」 近世には、対等あるいはそれ以上の者に対して、男女ともに用いる。 「 −お茶を上がるかえ/洒落本・青楼楽種」
ごぜ 【御前】 〔「ごぜん(御前)」の転〕
[名] 貴人などに対する敬称。ごぜん。 「夷(えびす)の−腰掛けの石/狂言・石神」
[代] 二人称。女性に対し敬意を含めて用いる。ごぜん。 「や−、−と言ひけれども音もせず/義経記 7」
[接尾] 女性の名などに付けて、敬意を添える。ごぜん。 「姫−」
ご ぜん 【御前】 〔「おまえ」の漢字表記「御前」を音読みした語〕
[名] 天皇や貴人の前。また、神仏の前。 「 −に伺候する」 〔「御前駆」の略〕 騎馬で貴人の先導をする者。 「 −どもの中に例見ゆる人などあり/蜻蛉 下」 貴人に対する敬称。近世、大名・旗本・大名の奥方に対する敬称。 「 −御寝なりて/今昔 24」
[代] 二人称。女性に対し敬意を含めて用いる。 「 −たち、さはいたく笑ひ給ひてわび給ふなよ/宇治拾遺 14」 近世、大名・旗本、その奥方などを家臣が敬っていう語。 「是ははしたない、−の御いでなさるる儀ではござりませぬ/歌舞伎・毛抜」
[接尾] 神の名に付けて、尊敬の意を表す。 「かかる折節には竜王−ともこそかしづき申すべき/盛衰記 18」 人の名などに付けて軽い尊敬や親愛の気持ちを表す。 「小松三位中将殿の若君六代−/平家 12」 白拍子(しらびようし)の名に付ける敬称。 「祇王−/平家 1」
みさき 【御先・御前】
貴人の外出の際などの先導をすること。先払い。前駆(ぜんく)。 「 −の松明(まつ)ほのかにて、いと忍びていで給ふ/源氏 夕顔」 神が、使者としてつかわす動物。御先物。
 
 
 
●「お前」と呼ばれるのは不愉快か
許容できる場合もある人が6割超
「お前」と呼ばれたらどう感じますか?
   不愉快 30.9%
   親しみを感じられない場合は不愉快 49%
   目下の相手から言われたら不愉快 14%
   気にならない 6.1%
3割の方が無条件に「不愉快」とし、「気にならない」方は1割に満たず。また「目下から言われたら不愉快」(つまり目上や同輩からなら構わない)という方は1割程度でしたが、「親しみが感じられなければ不愉快」(つまり親しみがこもっていれば構わない)という方は約半数で最多でした。上下関係といった立場よりは、お互いの距離の近さや会話の雰囲気が重要なファクターであるようです。
元々は敬意のこもった言葉だが…
このほど、中日ドラゴンズの応援歌のフレーズ「お前が打たなきゃ誰が打つ」について、選手を「お前」と呼ぶのは避けてほしいと球団が応援団に要請したことが話題になりました。これについてネット上では「『お前』は元々敬意の含まれていた言葉だからよい」という意見もありました。
確かに日本国語大辞典2版によると、「江戸前期までは、敬意の強い語として上位者に対して用いられたが、明和・安永(1764〜81)頃には上位もしくは対等者に、さらに文化・文政(1804〜30)頃になると、同等もしくは下位者に対して用いられるようになり今日に至った」とあります。
同じような変遷をたどった言葉に「貴様」があります。元々は「かなりの敬意をもって使われた語」ですが、「やがて庶民の話言葉として使用されるようになってから敬意を失」い、「江戸時代の末にはぞんざいな語、ののしりの語として用いた」そうです(堀井令以知編「日常語の意味変化辞典」東京堂出版)。そしてご存じの通り「今日では男性が同輩以下に親しみを持って用いるか、あるいは軽蔑して相手を呼ぶときに用い、上品とは言いにくい語に意味を変え」ました(同)。
現在、仲間内でふざけるのでもなければ、「貴様」呼ばわりが問題になるだろうことは共通認識だと思います。「お前」についても、同等または目下に使うようになってから相当の歴史があり、元々の意味を根拠に「『お前』を使うことに問題はない」とするのは無理があるでしょう。アンケートの結果から見ても、相手に不快感を与えるリスクが高いことは確実で、球団側の要請は分からなくもありません。
相手との距離を詰める場合も
しかし応援歌なんてものはどうしても、勝手な思いがこめられるものです。「お!ま!え!が!きめろ!」(広島カープ)、「お前のバットで決めてやれ!」(DeNAベイスターズ)など、「お前」と呼びかけるのは珍しくありません。さらに「打て」だの「走れ」だの命令形を連発します。
これは別に選手を下に見ているわけではありません。中日の他の応援歌に「我らと共に歓喜への道 進め勝ち取るんだ」「いざゆけ我らのドラゴンズ」とあるように、親しみを込めるどころか選手と一体となる気持ちで呼びかけているはず。この気持ちを否定するのもまた難しいことです。
中日の与田監督は応援歌の「お前」について、「子供の教育上よくない」という見解も示しました。確かに子供に「お前呼ばわりはよろしくない」と教えるのは重要です。一方でアンケートの結果からも分かるように、親しみをこめて「お前」と呼ぶことは十分にあり得るし是認されます。そのような仲の友人を作ることで人生が楽しくもなるでしょう。
応援歌からも締め出すような言葉かどうか…
逆にそれほど親しみを感じない相手から一方的に「お前」と呼ばれることもあるものです。昨年には吉本興業の新入社員が「お前」と呼ばれたことを理由に退社した、というニュースが話題になりました。もしその呼び方が高圧的なものだったなら、嫌な気分になるのは当たり前です。しかしまた「お前」という言葉自体がそんなに重みを持ってしまうなら、いささか妙な感じがします。「相手はこちらに対して距離を縮めようとしているのかも」などと思える程度に慣れておくと言いますか、使い方に幅のある言葉であることを知る機会も必要ではないでしょうか。
「お前」と呼んで相手がどう感じるか想像することは大切ですが、一律に「お前」を排除する、という方向に行くとすれば少しおかしなことだと思います。   (2019/7)
質問に際して
プロ野球・中日ドラゴンズの応援歌のフレーズ「お前が打たなきゃ誰が打つ」について、選手を「お前」と呼ぶのは避けてほしいと球団が応援団に要請。応援団はこの応援歌の使用を自粛することになり、議論が起こっています。
三省堂国語辞典7版によると「お前」は「もとは、同等以上の相手に対する表現」でしたが現在では「同等、または目下の相手を指す語で、二人称のぞんざいな言い方」。そして「男性が近い関係にある相手に用いる場合は、親しみの気持がこめられる」とのこと。
すると問題点は二つ。呼びかける相手を「同等以下」と見ていること。もう一つは「ぞんざい」であること。呼ばれた方が気分を害する可能性はありそうです。ただしその一方で「親しみ」も込められているわけですから、一概に使用を否定はできません。呼ぶ相手との関係が問題になりそうです。
応援歌問題では「お前呼ばわりは失礼」よりも「なぜだめなのか分からない」という意見をネット上で多く見ましたが、アンケートではどういう傾向が出るでしょうか。  
 
 
●「お前」と呼ばれて新人が退社? パワハラにならないよう気をつけるべき“呼び方”
上司から「お前」と呼ばれたことはないだろうか?
「『お前』なんて呼ばれ方をする職場では働けない」と言って、会社を辞めたという新入社員がネット上で話題となっている。
「お前」で会社を辞めた新入社員
「僕は親にも『お前』なんて言われたことはありません」
「『お前』なんて呼ばれ方をする職場で僕は働けないです。」
新入社員が入社早々、会社を辞めると言い出した理由は、なんと「『お前』と呼ばれた」からだという。これは、あるバラエティー番組で吉本興業所属の芸人が、吉本を退職したという新入社員のエピソードとして披露したもの。この発言を受けてネット上では「辞めるほどではない」や「上司がお前って言ったらパワハラ案件なんだが」などと賛否両論が沸き起こった。
実際に「お前」を使っている人は…?
銀座にいた新社会人に「お前」問題について聞いて見ると、「『お前さぁ』って言われたら、顔には全然出しませんけど、嫌だと思います。ぞんざいな扱いに感じるので」という意見。また他の男性は「これから職人さんが多い建設の現場で働くんで、そう言われるのもしょうがないかなと思っています」と諦めムードを口にしていた。では、上司に当たる年齢の人たちは、部下のことをどう呼んでいるのだろうか。
「部下を呼ぶときは、『さん付け』で呼んでます。なるべく『〇〇さん』とか『〇〇ちゃん』とか呼ぶようにして、逆に『お前』って言わないようにしています」と答える男性や、「昔は『お前』っていう人も多かったですね。それが原因で辞めちゃう人がいるのであれば、気にした方がいいと思います」という意見。
上司に当たる人々は、言葉に気を使っているという人がほとんどだった。
パワハラの境界線を調査
そもそも、この芸人の話したエピソードは本当なのだろうか?吉本興業に確認したところ「少なくとも過去3年間で、「お前」という呼ばれ方をしたことが原因で辞めた人はいない」との答えが返ってきた。しかし、このエピソードが話題になるということは、言葉についての問題意識を持っている人も多いのかもしれない。そこで「パワハラの境界線」について、新紀尾井町法律事務所の江口大和弁護士に聞いた。
名前の呼び捨て / パワハラに当たらない。
名前を呼ばずに「君は…」とか「お宅は…」 / パワハラに当たらない。
人種や宗教などをもじった差別的な呼び名 / 当然アウトで、呼んだ瞬間にパワハラになる。
身体的特徴を揶揄するような、変なあだ名 / これも一発でパワハラになる。
「お前」に「さん」をつけた「お前さん」 / 実はこれ、笠井アナウンサーが部下によくする呼び方だが、これはセーフ。
今回話題となってる「お前」 / これは場合によってはパワハラになるという。
「貴様」「てめぇ」 / 「お前」と同様、場合によってパワハラになる。
この「場合によって」の場合とは、「お前」などと呼んだ部下に対して、続けてどのような言葉を投げかけたのかによってパワハラかどうか変わってくると江口弁護士は解説する。
「お前」の後に、どんなことを言うとパワハラになるのだろうか。パターン別に江口弁護士に見解を聞いた。
お前は新人だからずっと判子だけ押していればいいからな / パワハラに当たる。能力に比べて、過少な仕事を指示するような発言で、「お前は新人だから」も侮辱の意味を持つという。
お前、時間は守れ!お客様が待ってるんだぞ! / パワハラに当たらない。教育的な言葉を述べているため。
新人「あの…書類の確認を…」 上司「なんだお前 今忙しいから置いとけ」 / パワハラに当たらない。相手を攻撃をするために言っている言葉ではないため。
お前は1年目なのに有給を取るのか / パワハラに当たる。「有給」についての発言がパワハラにあたり、「お前は1年目なのに」も侮辱の意味を持つということだ。
こう並べて見てみると、呼び方でパワハラかどうか決まるわけではなく、やはり発言の内容に注意しないといけなさそうだ。また、発言をする相手との関係性によっても、それがパワハラに当たるかどうか変わってくるという意見もスタジオで聞かれた。自らの発言がパワハラに当たらないよう、普段から相手の気持ちに立ち、気をつけて発言することが必要だ。 
 
 
●結論出てます! 女性に「お前」は...
OLさんたちとお食事をしたとき、「いいな、と思っていた男性が私のことを『お前』と呼んで、一気に冷めた」という話に。一同が深くうなずき、昭和の女のわたくしはびっくり仰天しました。
「『お前!』と呼び掛けられたら『お前って誰のこと?』と言い返します。いまどき、女性をお前って呼ぶセンスがまったく分かりません」(商社・27歳)
「『お前』は論外ですが、じゃあ、好きな人になんて呼ばれればいいのだろう?と考えると、名前か名前にチャン付けですね。好きでもない人に『お前』呼ばわりされたら、はらわたが煮えくり返ります」(コンピューター・25歳)
「先日、チームの飲み会でパートの30代後半の女性が42歳の上司に『お前さぁ〜』と言われて、『ちょっと待ってください! 私、夫にもお前と呼ばれたことないです。生まれて初めてお前って言われました』と憤慨していました。分かる、分かる。上司であるなら、なおさらその呼び方はナイヨ」(情報処理・27歳)
「同じ課に『ドラえもん君』と課長に呼ばれているコがいます。彼女に『お前と呼ばれるのとドラえもん君と呼ばれるのとどっちがいい?』と聞いたら、『ドラえもん君』と言っていました。『君』がついてるからかな?(笑)」(損害保険・26歳)
「社風だと思いますが、弊社はみんな下の名前で呼び合います(上司に対しても)。女性の場合は『呼び捨て』『ちゃんづけ』『さんづけ』、男性の場合は『呼び捨て』『くんづけ』『さんづけ』がデフォルト。たまに名字にちゃんづけの人とか、キムタクみたいに名字と名前を縮めてくっつけられている人とかはいます。なんか風通しがいいですよ〜」(IT・25歳)
「いまどき『お前』呼ばわりされてキュンとする女性は、よほど古風な人かMか、だな」(食品・23歳)
「お前話とは外れますが、結婚している先輩たちが『名前で呼ばれたい』と言っていました。名字だと(改名している人は)自分の個性が死んじゃう感じなんですって。だから既婚の先輩はできるだけお名前+さんで呼んでいます」(アパレル・28歳)
「合コンのとき、男性陣が隠れていろいろな呼び方をしていたことが判明。胸の大きなコは『おっぱいちゃん』、目の大きなコは『クリクリちゃん』、ぽっちゃりしてるコは『おデブちゃん』、私は眼鏡かけてるから『眼鏡ちゃん』。どれもまんまや〜ん!と知能指数を疑いました(笑)」(石油・25歳)
「付き合い始めたとたんに私のことを『お前』と呼ばれ、引きました。しかもカレの友達の前でも、お前を連発。男の見え? 男の権威? 酔っぱらって気が大きくなったのでカレのことも『お前』と呼んでやりました。そしたら、カレの友達、大爆笑。スッキリ。もちろん別れました」(不動産・26歳)
「『決めた〜決めた〜お前と道連れに〜♪』と歌う上司がものすごく悦に入っていて、ちょっとイヤ」(都市銀行・24歳)

「カレに限らず『お前』と呼ばれるのは嫌」と答えたOLは98%。 
 
 
●「お前」と言われたら・・・
今年、プロ野球ファンの私にとって、野球とは別に、注目すべき出来事があった。中日ドラゴンズの与田監督が、応援団が歌う応援歌に「お前」ということばが使われていることに対して、疑問を呈したことである。チームが好機の際に歌われるチャンステーマに、ピンク・レディーの「サウスポー」の歌詞を、「お前が打たなきゃ誰が打つ」と替えて歌っていたところ、与田監督が、「選手にお前というのはどうなのか」「子どもも多く観戦する中で、そういう表現はいかがなものか」と言ったというのだ。
ひと言お断りしておくと、中日は私のひいきのチームではないが、だからといって与田監督の考えを批判しようと思っているわけではない。ただ、この「お前」ということばは、時代とともに意味が変遷した語なので、ご存じの方も多いだろうが、一応その流れを押さえておいてほしいと思ったのである。
「お前」は「御前」と書くのだが、古くは、神仏や貴人の前を敬っていう語であった。「おそば近く」といった意味もある。これがやがて、貴人に対して、その人を直接ささずに、尊敬の意を込めた言い方として使われるようになる。そしてさらには、人称代名詞、すなわち、話し手が聞き手をさし示す語としても用いられるようになった。
これが、問題の「お前」である。
当初、この「お前」は、目上の人に対して、敬意をもって用いられていた。例えば、平安時代から室町時代頃までの使用例は、ほとんどがその意味である。
ところが江戸時代になると、面白いことに、対称になる相手の立場がどんどん下がっていく。江戸時代の国語辞書『俚言集覧(りげんしゅうらん)』(1797年頃)に、「御前(オマヘ)。人を尊敬して云也、今は同輩にいふ」とあるので、江戸中期には敬意がかなり失われていたことがわかる。そしてその後も敬意が失われ続け、現在のように、同輩どころか、下位者にまで用いるようになるのである。
与田監督が反応したのは、この下位者に対して使われる点であろう。確かに、「お前のせいで負けたんだぞ」「お前が悪い」と言われると、いわゆる“上から目線”のようで、言われた側はあまりいい気持ちはしないであろう。
ただ、「お前」はこのようにぞんざいな言い方でも使われる一方で、「ここはお前だけが頼りなんだよ」と、親しみを込めた言い方で使われるということも見落としてはならないであろう。私には、ドラゴンズの応援歌はそのような意味に聞こえる。
ことばは一面だけで判断して何でも排除しようとするのではなく、多面的に考えた方が、風通しがよいような気がするのだが、いかがであろうか。 
 
 
●なんで東京人は『お前』と呼ばれると怒るのか
会話の最中思わずイラッとくる言葉と聞いて、思い出す言葉はキリがない。
会議なんかをしていると「言葉遣いまで気にしてられないッスよ」が通用するとでも思っているのか。はたまた堅い言葉はダサいとでも思っているのか。
会議中はイラッとしないように聞き流す、というのは東京の広告業界に来てから一つの姿勢になってしまった。
例を挙げるとキリがないのだが、「ぶっちゃけ〜」を連呼する人からぶっちゃけた話を聞いたことがないし、「逆に言うと〜」も同じくまっすぐな答えしかない。「ぶっちゃけたところ、逆にいいと思います」という強者もいた。
その話者がクライアント様だったりすると「はじめからいいんじゃないかって話してたよ」と返すのも憚られる。そんなガマンが馬鹿言葉を生んでいるのだろう。
他にも、急に改まった顔をして「山田(仮名)的に言わせて頂きますとぉ〜」や「あんまり言いたくないんですけどね、言っちゃいますよ?」なんて言われた日にゃ、「おい、なに言うとんねん。ええ格好すなや」と大阪弁丸出しで返したくなる。
大阪弁は東京人にとって怖がられやすい。感情を込めた大阪弁で回答をしてしまったらミイラ取りがミイラになり兼ねないから場所や人を選ばなければならない。
「あほか!」「ボケか!」「知らんがな!」は大阪では特に怒っていなくても、というか楽しい会話の最中にも出てくるコミュニケーションである。
しかしながら東京でそのような言葉を発した場合胸ぐらを掴まされ兼ねないのはわかっている。東京で暮らす大阪人は「大阪弁って怖く聞こえるから気をつけなあかん」とトライ&エラーを繰り返して勉強してしていくものなのだ。
私のこれまでの失敗で多いのはきっと『お前』についてだと思う。年齢の近い者同士、仲の良さを表す「お前」と呼び合う関係。また男が女性へ、愛情の深さを表す「お前」と呼ぶ表現。
どちらも全国共通だと思っていたことが東京へ来て否定されることは今でもある。
ものすごく使い古した言葉なだけに、ついつい口に出してしまうことが失敗経験を生んでいく。
男の友人であっても相手が関西生まれだと気兼ねなく言えるのだが、東京の友人から「お前お前ってうるせーよ」と言われたことがあり、楽しそうに笑ってはいたが『お前』だけ抜き取られるとなにか別の意味を感じているのでは?と気になってしまい、簡単に呼べなくなった。
また「お前、いい加減にしろよ」と泥酔した先輩に言われたときは、すごい愛されてるんだと勘違いしお礼したこともある。
数少ないとはいえ女性経験のなかでも「『お前』と呼ぶこと、呼ばれること」について議論になることは多かった。
誰に対しても、もっとも親しみを込めた呼び名として『お前』と呼んでいるのにわかってもらえない。
矢沢の永ちゃんも「アイ・ラブ・ユー、OK」の中で「たった一人のおまえに 俺の愛のすべてを捧げる」って歌っているのにわかってもらえない。
「なんか馬鹿にされてる気分になるからいや」
「私のこと呼んでるのかわからないからやめて」などと否定してきた女性には、つい『お前』と呼んでしまったらそれは地雷を踏んでいるのと一緒なのかといつも注意しなければならず、「私の前で屁をこかないで」と言われいつも体内が空気でパンパンに膨れ上がっている錯覚に捕らわれてしまうくらいの苦しさが生まれる。
その反対に「『お前』って呼ばれるの好きなんです」という女性もいた。
「私、標準語で喋る男嫌いやねん」と宣言する大阪女性はいても『お前』と呼ばれることをどう感じているかなど聞いたことがない。
総じて、面倒臭い。
先日、仲の良い東京人とお酒を飲んでいたときのこと。
もちろん親しみを込めて『お前』と呼んだ友人に「ごめん、なんか変なこと言った?」と聞かれた。
まったく意味がわからず「え?」と聞き返すと友人は「え?、って?」とちょっと怒り気味になる。
さらに私が「え?ごめん?って?」と再び聞き返すと、友人は「は?」と険悪なムードに陥った。
その後、『お前』と言った言われたを超えた禅問答を繰り広げた結果、「『お前』っていうじゃん?あれ怒ってんのかと思ってたよ。人相悪いから」と相手が耳馴染みのない言葉を遣うことで別の角度からダメ出しを喰らうことがあるのかと、また一つ勉強になったよ、お前。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
2020/10