変体仮名「いろは」


古文書用語
     
     
         
     

片仮名と平仮名書道用語常用誤字・・・ 
 

時宗・一遍 仏の世界   

[ 変体仮名 【表示字源】 その他の字源 ] 
あ【阿】惡愛   い【以伊】移意異 う 【宇有右】乎雲憂鵜   え【江】盈要衣得縁 お【於】  
 
 
 
か【可賀歌】閑我駕家   き【幾起支】木喜貴記 く【久具】九求倶供 け【介遣希氣】計稀 こ【古】許故期胡興子
 
 
 
 
 
 
   
 
さ【佐沙】左散斜乍作 し【志志】之新四斯事 す【春須】數壽数受寿 せ【世勢】聲瀬声 そ【曽楚】所處蘇処
 
 
 
 
 
た【多多堂】當田 ち【知千地】遲致馳智 つ【川津徒都】頭 て【天帝】轉傅亭低氐 と【登東】度砥土斗
 
 
 
 
 
 
 
 
 
な【奈奈那】難名南菜 に【爾爾耳丹】兒仁尼 ぬ【怒努】駑 ね【祢年子】根念音寝 の【乃能農】野濃迺
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
は【者盤八】半葉婆波 ひ【飛日】比悲非避火 ふ【布婦】風不 へ【遍邊】弊倍辺変 ほ【保本】奉寶穂報
 
 
 
 
 
 
ま【万満萬】末麻馬真 み【三見】美身微 む【無舞】无牟 め【免】面馬 も【毛毛】裳无母茂蒙
 
 
 
 
 
や【夜】耶屋也哉   ゆ【由遊】游   よ【与余】夜餘代
   
   
ら【羅】良 り【利里李】梨理 る【留流類累】ル れ【禮連】麗料礼 ろ【路呂婁樓】露侶
 
 
 
 
 
 
 
 
 
わ【王】和倭 ゐ【井為】遺委   ゑ【衛】恵 を【越遠】乎緒悪
 
   
ん【无无】   【御】 【給】 【候】
 
 
 
古文書用語 [万葉仮名]  
   
あ [阿安吾足] 
【阿】

【亜】あ 次位、次ぐ。亜相、亜将は大納言・近衛中少将を指す 
【相綺】あいいろう 干渉する・関与する 
【相構】あいかまえて 「構えて」を強めた語 
【相図】あいず 約束 
【朝所】あいたんどころ 太政官にあって政務を行う所=朝政所 
【あか事】あかごと 火事 
【県召】あがためし 春の県召の除目。地方官 
【白地・苟且】あからさま 明白・赤裸々・かりそめ・ちょっと・しばらく 
【白風】あきかぜ 秋風 
【悪客】あくかく 酒の呑めない人 
【幄屋】あくのや 公事の儀などに庭上に設ける仮屋、あばげり 
【上所】あげどころ 手紙などを差し出す相手の名あて 
【上分】あげぶん 年貢として上納する米 
【挙申】あげもうす 推挙する 
【吾子】あこ 小児の自称 
【朝更】あさぼらけ 朝、おぼろに明けてくること 
【浅猿・浅増】あさまし 驚嘆・興醒めする・あさましく思う 
【朝旦】あさまだき 夜の明けきらぬ頃、未明 
【足白】あししろ 足軽 
【汗】あせ 血の忌詞 
【阿党】あとう あだ・報復・敵対すること 
【他言】あだごと ほかの人にもらす事、次条をもいう 
【佗言】あだごと 実のないことば・かりそめの言葉・虚言 
【可惜】あたら 惜しくも・あったら 
【不能】あたわず できない 
【充行・宛行】あておこなう・あてがう 所領などを与えること 
【充文・宛文】あてぶみ ある人にあてた文書・所領などを充行うときの文書 
【充催】あてもよおす 雑事課役などを割り当て徴収すること 
【跡】あと 跡職の略・遺領 
【跡職・跡式】あとしき 家督・遺領 
【跡目】あとめ 家督 
【案内】あない あんないの略・事物の内容・事情・公の控書・前例・先格 
【穴賢】あなかしこ あなかしくと同じ・おそれ多い・書状の書止めの言葉 
【強】あながち むりに・しいて 
【剩】あまつさえ それに加えて 
【天山】あめやま 大いに・甚だ 
【操】あやつる 交渉する・取計らう 
【粗々】あらあら ざっと・おおよそ 
【雑兵・荒子】あらこ 小者 
【有増・荒猿】あらまし 概略・大方 
【阿良々岐】あららぎ 塔の忌詞 
【有若亡】ありてなきがごとし ひどい・つまらない・意味がない 
【分野】ありさま 有様、僧の隠語 
【吐嗟】あわや 事の起きらんとするときに発する声 
【案主】あんじゅ・あんず 院司・家司に属した御廚別当の下役・摂関家などの政所で家事や文案・記録を掌る役 
【案上】あんじょう 机の上 
【案中】あんちゅう 期待通り・思った通り 
【安堵】あんど 所領等の所有権を確認してもらう事 
【塩梅】あんばい 身体の工合い、適当に処理すること 
【案文】あんもん 文書の写し
 
い [伊夷怡以異已移易射五] 
【以・伊】

【依違】いい 違犯すること 
【無云甲斐】いいがいなし いうだけの価値がない・ふがいない・意気地がない 
【有若亡】いうじゃくぼう 生きていてもほとんど死人に同じ 
【莫言】いうなかれ いうなかれ 
【違越】いおつ 規則をやぶり法にそむくこと 
【何様】いかさま どのように・いかにも 
【争】いかで どうして・いかにして 
【威儀】いぎ 重々しい装い、作法に適った振舞い 
【以下・巳下】いげ これから下 
【生口】いけくち 証人 
【違期】いご 期限に間に合わないこと 
【一向】いこう まったく・非常に・むしろ 
【去来々々】いざいざ 誘う詞 
【何方】いずかた どちら 
【就地】いずち 何方 
【以次】いし 次の位、つぎつぎ、また「ついでをもって」とも 
【称唯】いしょう 字を逆読みするのは譲位と音が近い為。公事の儀式の際、貴人から呼ばれた折りの「おお」という返辞 
【何方】いずかた どちら 
【焉】いずくんぞ どうして 
【以前】いぜん 前文をうけるとき二ヶ条以上の項目がある場合に用いる 
【夷則】いそく 陰暦七月の異名 
【巳達】いたつ 既に一流に達したこと 
【労敷】いたわし ふびん・心配 
【一宇】いちう 全体・在家の単位 
【一円】いちえん 全部・総て・全体 
【一行】いちぎょう 所領等の命令書や許可状・お墨付き 
【一期】いちご 一生涯・生きている間 
【一事】いちじ 一つの物・一事両様は事実と関係者の申立との間に相違のある事 
【一途】いちず もっぱら 
【一上】いちのかみ いちのおどど、左大臣の異称 
【一倍】いちばい 現在の二倍 
【違勅】いちょく 天皇の命令に背く罪 
【一色】いっしき ひといろ・一品・一式 
【日外】いつぞや さきごろ 
【一所懸命】いっしょけんめい 必死、大事な土地 
【去来】いで さぁ・いざ・実に 
【将々】いでいで 思い立つときの詞 
【糸惜】いとおしく かわいそう 
【田舍九献】いなかくこん 濁り酒 
【忌服】いみぶく 喪に服している期間・喪中 
【違乱】いらん 違法行為/物事が乱れること 
【違例】いれい 前例に反すること/病気=不例 
【位列】いれつ 席次 
【綺】いろい 干渉・口論 
【立色】いろをたつ 叛く・怒る 
【所詮】いわれ 理由・由緒 
【無謂】いわれなし 理由がない 
【引級】いんきゅう ひきあげて授ける・ひいき 
【殞亡】いんぼう 死亡する
 
う [有宇于羽烏紆菟鵜卯得] 
【宇・有・右】

【雨儀】うぎ 雨天の時に行なわれる宮中の略儀式 
【請所】うけしょ 中世荘園を管理した職 
【奉】うけたまわる 謹んでうける 
【承引】うけひく 承諾する・したがう 
【請文】うけぶみ 返事・引きうけたという文書 
【請料】うけりょう 領家との間に請所としての最低保証契約を結んだ地頭・名主が領家に修める一定額の年貢 
【烏滸】うこ・おこ あほらしい・ばからしい 
【有若亡】うじゃくぼう ひどい・つまらぬ 
【打聞】うちぎき 聞いた言葉・聞き書き 
【打付書】うちつけがき 書簡に時候の挨拶を略してすぐに用件を書くこと 
【米】うちまき 御所言葉 
【鬱訴】うつそ 取られた処置に不満を感じて上へ訴えること 
【洞】うつろ 一族・仲間 
【兎毛】うのけ 筆の異名 
【産土】うぶすな 人の生まれた土地 
【浦山敷】うらやまし 羨ましい 
【封裏】うらをふうず 文書等の裏に証明の裏書・裏判をする事 
【破裏】うらをやぶる 裏書・裏判を破棄する 
【羽林】うりん 近衛府の唐名 
【烏乱・胡乱】うろん 乱雑の意から転じて怪しい事 
【運上】うんじょう 上納すべき公物を京都へ運送すること 
【云々】うんぬん 伝聞・省略のことば
 
え [衣愛依埃榎荏得] 
【江】

【穢】え けがれ・わるい・凶徒・騒乱 
【営中】えいちゅう 将軍の居所、陣営 
【穢気】えき 人の死などの不浄として神事に接近し接触する事を禁ずるけがれ 
【依怙】えこ たよりとするもの、依り頼むこと/頼るべき収入 
【家釈】えしゃく 会釈と同じ 
【似非】えせ 似て非なる事 
【寃屈】えんくつ 怨恨や苦悩のために心が晴れないこと 
【烟景】えんけい 銭五百文の称・禅僧の隠語 
【淵酔】えんずい 酒を深く飲んで深く酔うこと 
【淵底】えんてい 根本・全く・悉く 
【塩味】えんみ あんばい・相談 
【寃陵】えんりょう 無罪の罪をきせて、ひどい目にあわせること
 
お [意於隠飫憶応乙] 
【於】

 

【負物】おいもの 背に負う物・負債・借金 
【忝】おうけなし 大気なし・不相応な 
【会期】おうご 機会にあう 
【鞅掌】おうしょう 主宰する・自ら満足する様 
【應鐘】おうしょう 陰暦十月の異名 
【黄鐘】おうしょう 陰暦十一月の異名 
【虚空】おうぞら 大空 
【椀飯】おうばん 盛大な饗応 
【相妨】おうぼう 正当な権利を持たない者が、実力を行使して他領内へ侵入し不当課税などの不法行為をする事 
【大都】おうよそ 凡そ 
【押領】おうりょう 力をもって他人の財産を奪いとる事 
【大田文】おおたぶみ 国ごとの詳細な土地台帳 
【大番】おおばん 京都で禁中を警固する勤務/鎌倉大番役 
【大袋】おおぶくろ 盗賊 
【大間書】おおまがき 除目などの時、任ずる官を書いただけの文書。行間に任官される人名を書き入れる 
【大政所】おまんどころ 摂政関白の母 
【大都】おおよそ 凡そ 
【置文】おきぶみ 遺書 
【嗚呼・烏呼】おこ あほらしい・馬鹿らしい・馬鹿 
【越度】おちど 過失・失敗・落命 
【越階】おつかい 昇進の順序によらず、一度に階を超えて位が昇進すること 
【越訴】おっそ 順序を経ずして直訴する事 
【解頭】おとがいをとく 大いに笑う 
【偽引】おびく 欺き誘うこと 
【無覚束】おぼつかなし はっきりしないこと 
【慮外】おもいのほか 
【以為】おもえらく 思うに・考えるに 
【所念行】おもほす おぼしめす 
【折紙】おりがみ 料紙を横長に二つに折ったもの 
【境節】おりふし 折節・とき 
【御座】おわします おわすの敬語 
【御】おわす いらっしゃる・居るの敬語 
【募御勢】おんいきおいをつのる 御威勢をもとめねがう 
【恩言】おんげん 情け深い言葉 
【御事】おんこと 御逝去 
【恩裁】おんさい 恩情のある裁決 
【御大】おんたい 大将の略 
【奉為】おんために 御為に 
【恩地】おんち 勲功によって得た所領 
【隠田】おんでん かくし田 
【御入】おんいり 御入来・来るの敬語
 
か [加日可賀何珂迦嘉架伽歌舸鹿蚊香] 
が [何我賀河宜蛾餓俄] 

【 可・賀・歌の偏の部分】

 

【雅意】がい 我意・わががま 
【皆具】かいぐ 完備して装束・馬具 
【黄昏】かいくらみどき 日のくれ・たそがれ 
【乖忤】かいご 違犯 
【邂逅】かいごう 思いかけずにあう 
【外実】がいじつ 外聞・実儀の略 
【介錯】かいしゃく 世話をすること・後見・首切り人 
【刷】かいつろう つくろう・容姿をととのえる 
【開発】かいはつ 開墾 
【開白】かいびゃく 法令や儀式のはじまり・初日 
【涯分】がいぶん 分相応・精一杯 
【外弁】がいべん・げべん 諸節会に承明門外で儀式をとりおこなう上卿 
【槐門】かいもん 大臣の唐名 
【回麟】かいりん 返報・返書の表書き 
【回録】かいろく 火事 
【花営】かえい 室町幕府の雅称→柳営 
【課役】かえき 租税と夫役と・仕事を割り当てること 
【替米】かえまい 為替の銭のかわりにする米 
【還殿上】かえりでんじょう 殿上人が昇殿を止められて後、許されること=還昇 
【牙開】がかい 申す・言う 
【拘】かかう もちこたえる・人を雇い入れる 
【家顔】かがん もてなしの意 
【鵞眼】ががん 銭のこと 
【書上】かきあげ 書き上げる・上申書・申状 
【書立】かきたて こまかに一つ書きした文書・個条書き・目録・調査報告書 
【書生】かきなし 書記役・筆写生 
【有限】かぎりある 一定の・定まった・決まった 
【革運】かくうん 戊辰にあたる年>三革 
【恪勤】かくご 精勤・奉公・精勤勇武の侍 
【恪護】かくご 拘え守る・所有する 
【脚力】かくりき 使者 
【獲麟】かくりん 物事の終末 
【掛毛畏支】かけまくもかしこき 言葉にかけるのも恐れ多い 
【懸廻】かけまわる 奔走する 
【懸物】かけもの 勝負事にかける品 
【過差】かさ 贅沢 
【可祝】かしく かしこの転・書状の後付け 
【下若】かじゃく 酒 
【過所】かしょ 関所通行の手形 
【家乗】かじょう 一家の記録・日記 
【過状】かじょう 詫び状 
【隷状】かじょう 官位を望んだり、訴訟を起こすときの嘆願書・陳情書 
【被物】かずけもの 引出物 
【霞】かすみ 山伏の勢力範囲 
【課責】かせき 強制的に取り立てること 
【父母】かぞいろ ちちはは 
【緩怠】かた 務を怠ること・横着 
【掛塔】かた 禅寺に修行のため編入される事 
【片荒】かたあらし 田畠を一年交替に耕作する事 
【過怠】かたい 罪科を償うために金品を出したり労役に服したりすること 
【傾申】かたむけもうす 非難する・反対する 
【片善】かたしきとき 斎の忌詞 
【且・且】かつうは・かつうは 一方では、また一方では 
【且】かつがつ まあまあ・ともかく・せめて 
【合点】がってん・がてん 和歌などに批点をつける事・承諾 
【岸破】かっぱ 倒れるときの副詞 
【加納】かのう 荘園で本免以外に耕作した公田 
【庚申】かのえさる 庚申待ちの略 
【加輩】かはい 扶持 
【甲】かぶと 侍身分の武士 
【壁書】かべがき 壁面に書いたり掲書した法令や掟 
【苛法】かほう 無慈悲な法 
【構】かまい 関係する・世話・故障・放免する 
【構】かまえ 邸宅・仕度・こしらえ 
【髪長】かみなが 僧の忌詞 
【荷用】かよい 宮仕え・配膳 
【仮初】かりそめ 
【雁の使】かりのつかい てがみ 
【肆】かるがゆえに かくあるが故に・数字の四 
【左右・故是】かれこれ とやかく・おおよそ 
【云彼云是】かれといいこれといい いつも・どれも 
【川手】かわて 川で徴収する一種の関料 
【川成】かわなり 畑が川となった土地 
【瓦葺】かわらぶき 寺の忌詞 
【勘過】かんか 検べて通すこと 
【元三】がんさん 元日(年・月・日が一である日)・正月元〜三日 
【勘事】かんじ >勘当 
【貫首】かんじゅ 蔵人頭の唐名・貫主 
【勘収】かんしゅう 調べて没収すること 
【閑所】かんじょ 便所 
【感状】かんじょう 武将が戦功を賞でて与える文書 
【管城子】かんじょうし 筆の異名 
【眼代】がんだい 代理の者・目代 
【堪能】かんのう その道に精通し、優れた才能を持っていること 
【勘発】かんぼつ 叱責 
【堪返上】かんぺんじょう 来書の字句に合点などして、行間に返事を書いて返す書状 
【官物】かんもつ 上納物 
【勘文】かんもん 君主のなどの質問にその道の専門家が勘えて答申する文書 
【歓楽】かんらく 病気の忌詞 
【勘落】かんらく 没収・横領
 
き [乙貴紀幾奇寄記既気城木樹甲支吉岐伎棄企寸杵来] 
ぎ [乙疑宜義擬 甲芸伎祇岐儀蟻]
【幾・起・支】

 

(「支」をくずしたものは「よ」や「爾」をくずしたものと間違われやすい) 
【機相】きあい・きそう 気合に同じ・気分・病気 
【消旦】きえがて きえそめる・消えにくい 
【季夏】きか 陰暦六月 
【聞道】きくならく きくところによると 
【亀鏡】きけい 証拠・亀鑑とも 
【聞食】きこしめす 聞くの敬語 
【鬼籠】きごむ いきごむこと 
【来方】きしかた 過ぎ去った時・方 
【北政所】きたのまんどころ 摂政関白の妻 
【急度】きっと きっと・必ず 
【吉書】きっしょ 改元・年始・譲位・代替などに奏聞する政治上の文書/武家で政始・代始などにはじめてだす政務書 
【稠敷】きびしく 厳重に 
【規模】きぼ 規範・格別の誉れ 
【花車】きゃしゃ 姿のほっそりして上品なこと・風流・華奢 
【給主】きゅうしゅ 所領を給せられた人・領主 
【給人】きゅうじん 代官 
【給人】きゅうにん 扶持人 
【給分】きゅうぶん 給与する高・給料 
【恐悦】きょうえつ かしこまりよろこぶこと 
【向後】きょうこう これからのち 
【頃刻】きょうこく しばらく 
【景迹】きょうざく 経歴・行状・行跡 
【警策】きょうざく 詩文や物事に優れていること 
【矯飾】きょうしょく いつわり・かざること 
【京銭】きょうせん 永楽銭以外の粗悪な銭 
【行粧】ぎょうそう 装いをすること 
【向背】きょうはい 裏と表と・むかいつくことと背くこと 
【競望】きょうぼう しきりにのぞむ・他人と競争して望む事 
【交名】きょうみょう 人名を列記したもの 
【棘路】きょくろ 納言・公卿のこと 
【無曲】きょくなし あじきない 
【居諸】きょしょ 日居月諸の略・月日のこと 
【麗爾】きらびやか はなやかで美しいさま 
【器量】きりょう 物の用に堪えるべき才能 
【勤空】きんくう 書状の書止の詞・余白を残し、謹んで批正を乞う意味 
【金商】きんしょう 秋の異名
 
く [久来玖口苦丘九鳩具倶供君] 
ぐ [具求遇隅虞愚] 
【久・具】

 

【悔返】くいかえし 一旦与えた物・所領を取り返すこと 
【胸臆】くおく あいまいな・あて推量 
【公界】くがい 表向き・世間 
【公験】くげん 土地の売買などにつき、その所有権を公認した国司の文書 
【供御】くご 飯の御所言葉 
【九献】くこん 酒の御所言葉 
【菌】くさひら きのこの類の称・獣肉の忌詞 
【公事】くじ 課役・租税・訴訟事件・儀式 
【拘惜】くしゃく 庇護すること 
【具書】ぐしょ 訴状に副えて出す証拠書類 
【公請】くじょう 朝廷から法会または講論に招請すること・または人 
【曲事】くせごと 罪科・処分 
【如件】くだんのごとし 件は条で、条々の如しの意味・下文等の書止めの言葉 
【甘】くつろぎ 寛ぎ・うちとける 
【口入】くにゅう 意見を述べる・紹介者・仲介者 
【公人】くにん 公の禄を食する者・政所などの寄人・下部・禁中の地下の小官人の称 
【口能】くのう とりもち・斡旋 
【賦】くばり 手配・てくばり・訴状を整えて分配する 
【公平】ぐひょう 収入 
【口分】くぶん 人数に割り当てること 
【公方】くぼう 天皇・朝廷・将軍・お上 
【桑門】くわのかど 出家・僧侶 
【薫風】くんぷう 陰暦五月の異称
 
け [乙気既該毛食飼消 甲祁家結計鶏結価兼険異係] 
げ [乙義気削宜礙 甲下牙雅夏] 

【介・遣・希・氣】

 

【経営】けいえい 饗応接待すること・計画すること 
【掲焉】けいえん いやちこ・著しい・明か 
【計会】けいかい 多忙・困窮・やりくり 
【挂冠】けいかん 官を辞すこと 
【迎寒】げいかん 陰暦八月の異称 
【競望】けいもう しきりに望む・他人と競争して望む > きょうぼう 
【経略】けいりゃく うまく計らうこと・謀計 
【下行】げぎょう 下してやること・支払い 
【現形】げぎょう 蜂起・出軍・挙兵 
【見参】けざん 節会などの出席者名を注して、主人の目にかける事・けんざん 
【候気色】けしきにこうす 機嫌を伺う 
【懈怠】けたい おこたること 
【外題げだい 標題・申文や解状の初めや奧に書き付けて、その裁断・認証のしるしとしたもの 
【結解】けちげ 決算・清算・勘定 
【結句】けっく 却って 
【結構】けっこう 計画・用意・見事 
【闕所】けっしょ 領主のない地所・地所没収の刑 
【解文】げぶみ 身分の下の者から上の者へ奉る書 
【検見・毛見】けみ 田畑の作柄をしらべて年貢の高を定めること 
【下用】げよう 下附・下がかった物事に用いること 
【仮令】けりょう たとえ 
【玄】げん ながつき・九月 
【元英】げんえい 冬季の称 
【玄英】げんえい 陰暦十月の称 
【験気】げんき しるし・ききめ 
【権宜】けんぎ 仮の計らい・便宜の処置 
【兼日】けんじつ ひごろ・かねてから 
【券契】けんけい 手形・割符・立荘を保証する文書 
【玄月】げんげつ 陰暦九月の称 
【見在】げんざい 現在 
【顕然】けんぜん はっきりしている・著しくあからさま 
【検断】けんだん 刑事上の処罰 
【還補】げんぽ もとの官職に復た補すること 
【権門】けんもん 高官の勢力のある 
【立券文】けんもんをたつ 証文をつくること
 
こ [乙己許巨居去虚忌興木 甲古故姑候孤枯児粉] 
ご [乙其期碁凝語御馭 甲胡呉後吾籠児誤悟娯] 
【古】

 

【後院】ごいん 譲位後の御所 
【甲乙人】こうおつにん 誰彼・雑人 
【向顔】こうがん 対面・面会 
【光儀】こうぎ 入来 
【公儀】こうぎ 幕府 
【合期】ごうご 心にかなう 
【黄紙】こうし 経巻の忌詞 
【勘事】こうじ 勘当・拷問 
【高直】こうじき 値段が高いこと 
【定考】こうじょう 上皇と同じ発音になるので逆さ読み/八月十一日六位以下の官人の成績を考定する 
【口状】こうじょう 口上・陳述記録 
【荒説】こうせつ 雑説・とりとものない噂 
【嗷訴】ごうそ 多数の人が徒党を組んで公に訴えること 
【降人】こうにん 降参した人 
【口納・口能】こうのう くちぶり 
【行能】こうのう 品行と才能 
【孔方兄】こうほうひん 銭のこと 
【黄麻】こうま 詔勅 
【厚免】こうめん 罪を許されること 
【荒野】こうや 無税地 
【荒涼】こうりょう 不注意・ぶしつけ 
【校量】こうりょう 考え・考えはかる 
【合力】ごうりき 援助・援兵・施し 
【沽却】こきゃく 売り渡すこと 
【意得】こころえ 心得・理解・計らい 
【鬼籠】こころにくし おぼつかなく気がおかれる 
【巨細・巨砕】こさい 大小・子細 
【来方】こしかた 過去 →きしかた 
【拵】こしらえ 周旋・取計らい 
【姑洗】こせん 陰暦三月の異称 
【社】こそ 強めの助詞のこそ 
【鼓騒】こそう 物音を立てて騒ぎ立てること 
【骨柄】こつがら 人柄・人品 
【御点】ごてん 合点・許可すること 
【如】ごとく 方へ 
【故】ことさらに とくに・別にして 
【事実者】ことじちならば 事実であるならば 
【寄事於左右】ことをさようによせ 色々理由をつけて 
【吾分】ごぶん 目下の者に向かって言う言葉・おまえ・わが身 
【五明】ごめい 扇子の異名 
【先是】これよりさき 
【為之如何】これをなすいかん
 
さ [佐沙作狭左者柴紗磋舎差草散] 
ざ [射蔵奢社謝座装] 
【佐・沙】

 

【在家】ざいけ 僧に対する在俗の人・いなかや中世住家と在宅・園を含めた収税単位/在家役は家別の課税 
【在所】ざいしょ 住家。ふるさと 
【在地人】ざいちにん 地下人の事・官位のないもの 
【近會】さいつころ さきごろ 
【割符】さいふ 為替手形・金銭の預証文 
【際目】さいめ 地所の境目 
【遮而】さえぎって わざわざ・事前に 
【尺木】さかもぎ 逆茂木 
【作意】さくい つくりごと・考え 
【作事】さくじ 家を造ること・普請 
【下墨】さげすみ 測定・物事をおしはかる 
【支】ささえる 支持する・妨害する 
【指事】さしたること 指して・これというほどの 
【作善】さぜん 善根をつむこと・造仏や法会を行うこと 
【沙汰】さた 処置する・とりきめる・取り扱う・議定・裁断・訴訟・公事・官府の命令・報知・報告・音信・うわさ 
【沙汰居】さたしすう 命令して与える・決着をつける 
【雑掌】ざっしょう 雑事を掌る役・居留守役・代理人 
【左道】さどう 失礼・つまらぬ(謙譲語)・不都合なこと 
【随候】さぶろうままに あるにまかせて 
【任地】さもあらばあれ ままよ 
【左右】さゆう 有様・便り・指図・自由に処置する 
【去文・避文】さりぶみ 売買・譲与等の証文・後世は離縁状 
【去・避】さる 権利を移転すること 
【去社】さればこそ 思いし如く 
【散位】さんに 位のみがあって官職に就かない者 
【散用】さんよう 算用・みつもり
 
し [斯志之指師紫新四始子思司芝詩旨寺時此次水芝死偲事詞伺信色式磯為] 
じ [自司爾士慈尽時寺仕弐児餌耳下] 
【志】 

 

(「志」の「心」の部分が平らになってしまったものも良く見かける)
【四一半】しいちはん 博打の一種 
【仕置】しおき 統治・処置・刑罰 
【潮垂る】しおたる 泣くの忌詞 
【知客】しか 禅寺で客と応接する役僧 
【死骸敵対】しがいてきたい 遺言に背く罪 
【爾々】しかじか しっかりと・確かに 
【併】しかしながら さながら・すっかり 
【加之】しかのみならず 
【然而】しかれども 
【時宜】じぎ 都合・様子・礼物 
【直銭】じきせん 代価・あたい 
【色代】しきたい 挨拶・追従 
【直務】じきむ 直接の支 
【施行】しぎょう 上意を受けて執行すること 
【地口】じぐち 屋敷地の間口一間毎にかかる税 
【治定】じじょう 決定・きまって 
【下地】したじ 上分に対する言葉・実際の土地 
【入魂】じっこん 親密・こころやすくする・世話する 
【失墜】しっつい 失費・失うこと 
【無四度解・無四度計】しどけなし しまりのない 
【取次筋斗】しどろもどろ 甚しく秩序の乱れたさま・ととのわぬさま 
【支配】しはい 分配すめこと・統治 
【入眼】じゅげん 叙位除目に際し姓名を書き込むこと・物事が成就する事 
【首座】しゅそ 禅宗で修行僧の上首にたつ役僧 
【順孫】じゅんそん 嫡孫 
【常荒】じょうこう 荒地として年貢をかけないことになっている土地 
【成功】じょうごう 売官の制度・私物を納めて官を申請すること 
【承仕】しょうじ 雑役に従う僧形の者 
【笑止千万】しょうしせんぱん 気の毒 
【商人】しょうにん 詐り 
【証人】しょうにん 人質 
【上林下若】じょうりんかじゃく 酒肴の事 
【如在】じょさい ておち・悪意・疎略 
【所帯】しょたい 官職・所領・財産 
【所当】しょとう あてられた上納物 
【所務】しょむ つとめ・やくめ・田租以外の雑税、転じて土地の支配 
【叙用】じょよう とり用いる・承知する 
【云為】しわざ 仕わざ 
【神載】しんさい 神に誓う言葉をのせた文書・起請文 
【進止】しんし 進退すること・処分すること 
【参差】しんし 物の長さの揃わぬこと
 
す [寸須周栖酒洲州珠主数素殊酢渚為] 
ず [受授殊儒] 
【春・須】

 

【吹嘘】すいきょ 推薦・吹挙 
【随逐】ずいちく つき従う 
【水鳥】すいちょう 酒のこと 
【杉原】すいばら 杉原紙のこと 
【透と】すきと すっきりと・さっぱりと・残らずに 
【冷】すさまじ 凄まじい 
【筋目】すじめ 由緒・条理 
【無術】すべなし 仕方がない 
【墨付】すみつき 墨字の書いてある紙・署判のある文書
 
せ [勢世西斉是瀬背脊迫] 
ぜ [是湍筮] 
【世・勢】

 

【青女】せいじょ 妻の異称・身分の低い女房・侍女・若い女房 
【成敗】せいばい 政務の処理・裁決・処刑・殺すこと 
【青扶】せいふ 銭 
【済物】せいもつ 納め済ますべき物・租税 
【関手】せきて 関料・関銭・通行税 
【世智弁】せちべん けち 
【切所・節所】せっしょ 要害の所・難所 
【遂節】せつをとぐ 責任を果す 
【無為方】せんかたなし 
【先途】せんど 困難・行き詰まり・せとぎわ 
【先判】せんぱん 以前の署判がある証文
 
そ [乙曾所憎僧増則衣背苑襲 甲蘇宗祖素十麻] 
ぞ [乙叙存序賊茹鋤 甲俗] 
【曽・楚】

 

【造意】ぞうい 計画・くわだて 
【雑意・悪意】ぞうい 悪計 
【相続向】そうぞくむき 経済・生計 
【相博】そうはく 交換 
【相論】そうろん あらそい・争論 
【坐元】ぞげん しゅそに同じ 
【坐】そぞろ わけもなく・漫然 
【訴陳状】そちんじょう 訴状と陳状と 
【番訴陳】そちんをつがう 訴えと弁明とを互いに行うこと 
【染紙】そめがみ 経の忌詞 
【存候】そうこう 安否を尋ねる
 
た [多太他丹立駄党田手] 
だ [太大陀驒嚢] 
 【多・多・堂】

 

(「多」は崩しの程度で二種類あり)
【大綱】たいこう 大事 
【怠状】たいじょう わび状・あやまる・屈服する 
【題目】だいもく 主旨・用件・名目 
【駄餉】だしょう 弁当・旅行の食料 
【直也事】ただごと 常のこと 
【立柄】たちがら 状況・様子 
【仮令】たとい 縦令・よしんば 
【田文】たぶみ 一国内の田畑の数量とその領主・地頭の名などを記した帳簿 
【魂打】たちまち 驚いてきもをつぶすこと 
【御】たもう 給に同じ 
【短束・短息】たんそく 処置・心配・配慮
 
ち [知智陳道千乳血茅] 
ぢ [遅治地恥尼泥] 
【知・千・地】

 

【知行】ちぎょう 所領から収益を得ている事 
【逐電】ちくでん 急に退出すること・逃亡 
【竹葉上林】ちくようじょうりん 酒肴 
【致仕】ちし 官を辞すこと・引退 
【千入】ちしお 幾度も染めること 
【置酒】ちしゅ 酒宴をひらく 
【馳走】ちそう せわをすること・奔走・饗応 
【治罰】ちばつ 征伐 
【調儀】ちょうぎ 企み・戦争・勝負 
【停止】ちょうじ さしとめること 
【地利】ちり 土地からのあがり高
 
つ [都豆通追途徒川津] 
づ [豆頭逗弩] 

【川・津・徒・都】

 

【刷】つくろう 計らう・整える 
【辻者】つじは 要は・結局は 
【募る】つのる 招きあつめる・はげしくなる・ねがう 
【具】つぶさに 詳細に 
【一二】つまびらか 詳細 
【頬】つら 側のこと・面に対する語 
【強面】つれなし 薄情な
 
て [提天帝底堤手代直] 
で [提代伝殿庭田泥弟涅] 
【天・帝】

 

【為体】ていたらく 様子 
【手返】てかえし 返り忠・謀叛 
【行】てだて 手段・計らい・策略 
【手継文書】てつぎのもんじょ 所領の証文をつぎつぎに継ぎ足した文書 
【者】てへり と云えり 
【天気】てんき 天皇の御気色・勅命 
【点定】てんじょう 指定・検定 
【典座】てんぞ 禅寺で食事などを司る役僧 
【点役】てんやく 指定された役
 
と [乙止等登騰藤得鳥澄十跡迹常 甲刀斗土度徒渡戸門利速] 
ど [乙杼等騰藤特耐 甲度渡土奴怒] 
【登・東】

 

【当意】とうい 当座 
【同心】どうしん 同意・協力 
【東司】とうす 禅寺で便所 
【当知行】とうちぎょう 現在知行していること 
【頭役】とうやく 係り・当番の役 
【左右】とかく とかく・かれこれに 
【徳日】とくじつ 衰日の忌詞・忌み慎むべき日のこと 
【得替】とくたい 没収 
【得分】とくぶん 収入 
【土貢】どこう 土地からの上り・年貢 
【閉目】とじめ 経略・終わり 
【届】とどけ 誠意を尽くすこと・忠節 
【唱】となえ 風評・状況 
【取箇】とりか 収穫 
【執申】とりもうす 上に周旋する 
【頓作】とんさく 俄に・速成
 
な [那奈寧南難名魚中菜七男] 
 
【奈・奈・那】

 

(「る」と間違えそうな「奈」もある) 
【乃刻】ないとき 即刻 
【直る】なおる 死の忌詞 
【中子】なかこ 仏の忌詞 
【胡為】なんすれぞ なんとしてか 
【何与】なんと
 
に [迩仁日二尼耳人弐丹柔煎荷煮似] 

【爾・爾・耳・丹】

 

【入弁】にゅうべん 受納して支弁すること 
【仁躰】にんてい 本人・当主・人品
 
ぬ [奴怒努濃農沼宿] 
【怒・努】

 

【ぬるけ】 熱病・女房詞 
【忽滑】ぬめる 滑る・しそんずる
 
ね [尼禰泥年根宿] 
【祢・年・子】

 

【座る】ねまる 蹲踞 
【苦・懇・痛切】ねんごろ 
【念人】ねんじん 競技の応援・肝煎をする人・念者とも
 
の [乙乃能笑荷廼 甲努怒奴野] 
【乃・能・農】

 

【乃貢】のうぐ 年貢 
【野散】のさん 公有地以外の無税の山野 
【莅】のぞむ 臨むこと 
【暖気】のんき 苦労のないこと
 
は [波播幡速芳婆破方八房半薄伴泊簸倍早羽葉歯者] 
ば [婆伐魔磨] 
【者・盤・八】

 

【無墓】はかなし とりとめのない・つまらぬ・粗略 
【擬】はからい 計らい 
【斗】ばかり 計 
【婆佐羅】ばさら はで・しどけない・みえ 
【走廻】はしりまい 奔走・尽力・馳走 
【筈】はず 一致・都合・予定 
【破損】はそん 修繕 
【為当・将】はた それとも・或は・もしくは 
【礑】はたと はったと・事のさし当ったさま 
【八木】はちぼく>やぎ 
【鼻突】はなつき であいがしら・勘当 
【晴】はれ 表向き・公式 
【般若湯】はんにゃとう 酒の寺詞 
【判物】はんもつ 所領授与の文書で、花押を加えたものをいう
 
ひ [乙非斐秘肥悲飛被彼妃費火樋干乾甲比卑必檜臂賓嬪譬避日氷負飯] 
び [乙備肥秘媚眉 甲鼻妣婢弥] 
【飛・日】

 

【引替・引違】ひきかえ 費用 
【非拠】ひきょ 謂われないこと 
【比興】ひきょう おかしい・面白い・つまらぬ・お恥しい・おもいつき 
【秘計】ひけい うまく計うこと・周旋 
【日来・日者・日比】ひごろ 日頃 
【備進】びしん 年貢などを完備して進上すること 
【日縦・東西】ひたたし 東西の道 
【一行】ひとくだり 一行書・所領などの命令書 
【日次記】ひなみのき 日記 
【捻・拈】ひねり ひねり文のこと 
【非分】ひぶん 分にあらざる・過分の・道理にあわぬ 
【表裏】ひょうり 不正直・裏切り 
【尾籠】びろう 失礼・不作法 
【便風】びんぷう たより・音信
 
ふ [布部不敷富府否負符浮経歴] 
ぶ [夫父部扶歩矛府柔]
【布・婦】

 

【無為】ぶい 何もしないこと、平穏無事 
【浮蟻】ふぎ 酒のこと 
【不孝・不興】ふきょう 勘当のこと 
【更米】ふけまい 湿気・虫などで傷んだ米 
【扶持】ふち 助ける・合力する 
【物忽】ぶっそう いそがしい・物騒がしい 
【与風】ふと ちょっと・直に・偶然に 
【不図】ふと 偶然に 
【夫丸】ふまる 人夫 
【夫役】ぶやく 公用に使役する人夫から、それ相当の銭を課すこと 
【不例】ふれい 病気 
【態】ふりはえて わざわざ 
【翔】ふるまい 行為、人目につくような行動 
【粉骨】ふんこつ 骨折り・努力
 
へ [乙閉倍拝陪背俳戸綜経 甲平蔽霸幣陛遍返反弁部辺重隔] 
べ [乙倍陪毎 甲弁便謎別部] 
【遍・邊】

 

【平均】へいきん 一率均等で例外がないこと 
【陪従】べいじゅう 供奉・神楽などに従事する楽人 
【壁書】へきしょ 役所で役人が執務上守るべき心得や布告などを壁に張紙して掲示したもの 
【蔑爾】べつじ 軽んじないがしろにする 
【篇】へん 箇条、事柄、件、事項、条 =篇目 
【片時】へんし しばらくの間 
【返抄】へんしょう 請取状・命令を逐行した報告書 
【篇籍】へんせき 書物、典籍 
【片土】へんど 片田舎 
【偏頗】へんば かたよって公平を欠くこと 
【反閇】へんぱい 貴人の出行・神拝に際し、邪気を払うため陰陽師が足で地をふみしめる呪
 
ほ [富菩凡方百帆保宝本朋倍抱報穂火] 
ぼ [煩菩番] 
【保・本】

 

【本意】ほい 本懐 
【奉加】ほうが 寄進 
【奉書】ほうしょ 上意を受けて出す文書・手紙 
【謀書】ぼうしょ 偽文書 
【印時】ほうち 人足 
【謀判】ぼうはん 偽判 
【奉免】ほうめん 社寺に寄進すること、社寺の万雑公事を免除すること 
【謀綸旨】ぼうりんじ  
【傍例】ぼうれい 先例 
【欲】ほっす したいと望む、しようと思う/しそうになる 
【殆】ほとほと 危うく・・・するところ、すんでのところに、だいたい 
【外持】ほまち 私財・へそくり 
【本給】ほんきゅう もとから領有している給田 
【凡下】ぼんげ 凡夫・庶民 
【本銭返】ほんせんがえし 買戻特約附き売買・物で売買するときはほんものがえしという 
【本知行】ほんちぎょう もとから知行していた所領 
【凡卑】ぼんぴ 身分の低いこと、出自が卑しいこと/凡庸にして下劣な者 
【本文】ほんもん 古書に見える典拠となるべき文句、文献=本説 
【本領】ほんりょう 私領として代々相伝の領地 
【本領掌】ほんりょうしょう 本領地
 
ま [麻磨万前馬末摩満魔真間目鬼] 
【万・満・萬】

 

【枉】まげて しいて 
【間別銭】まべちせん 一間ごとにかかる税 
【万雑公事】まんぞうくじ 年貢以外の色々の上納・課役 
【政所】まんどころ 政治を執り行う場所/家政機関の事務所/鎌倉幕府の政庁
 
み [乙未味尾微身実箕 甲美民瀰三御見水参視] 
【三・見】

 

【御影】みえい 絵像の敬称 
【御方討】みかたうち 戦場で誤って味方の兵士を傷つけて、死に至らしめること 
【御教書】みぎょうしょ 三位位上の家が出す奉書形式の文書 
【砌】みぎり 軒下や階下の石畳のところ、殿舎と庭との境界/場所、ところ 
【御厨】みくりや 伊勢神宮の私領 
【御気色】みけしき 御意・おぼしめし 
【水流】みずながれ 失火の忌詞 
【御園】みその 神社領の園の総称 
【密々】みつみつ きわめて内密なさま 
【身放】みはなつ 見捨てる 
【御牧】みまき 朝廷御用の牧場 
【耳聞】みみきき 探偵 
【名主】みょうしゅ 荘園・国衙領において耕作地を所有して年貢以下の役納責任をもつ農民 
【名代】みょうだい 代理 
【名田】みょうでん 荘園・国衙領の収納の基礎単位となった田
 
む [牟武模務無謀霧夢六] 
【無・舞】

 

【迎買】むかえがい 市場または特定の場所へ運ばれる売荷を中間で待ち受けて買い取ること 
【無足】むそく 無銭・無禄 
【六借】むつかし むずかしい 
【棟別】むなべち 家ごと・棟別銭は家毎にかかる税
 
め [乙米梅迷昧毎目眼海 甲売馬面迷女] 
【免】

 

【明鏡】めいきょう・めいけい 明かな証拠 
【鳴弦】めいげん 弓の弦を引き鳴らして悪霊・妖気を退散させる呪法 
【名名】めいな 除目の際、任官すべき人々の姓名を列記して、太政官から天皇に奏聞する文書 
【召放】めしはなつ 所領を官へ取り上げる、没収する 
【乳母・乳人】めのと 母親に代わって幼主に母乳を与え、養育する女/男で幼主の養育を担当する人 
【乳母子】めのとご 乳母の子 
【目安】めやす 見やすいように一つ書に書くこと・訴状 
【免給】めんきゅう 荘園領主が免田を支給すること 
【免田】めんでん 年貢・課役を免除された田地 
【面拜】めんぱい 面会の謙譲語
 
も [毛母茂望文聞忘木方面蒙畝問門物裳藻喪] 
【毛】

 

【申沙汰】もうしさた 理非を論じ裁決すること、訴訟で事務手続・判決を進行させる事をいう 
【申状】もうしじょう 官府に上申する文書、訴訟における原告の訴状 
【目代】もくだい 地方官の代官 
【目録・目六】もくろく 人名や品名、内容の項目などを見やすく書き出したもの 
【黙止】もだし だまっている・無視する 
【没官】もっかん 官に没収する 
【物怪】もっけ 思いがけない 
【無勿体】もったいない 畏れおおい 
【尤】もっとも 当然のこととして、いかにも/とりわけ 
【物成】ものなり 収穫・年貢 
【胡慮】ものわらい 世間のあざけり 
【持相】もやい 共有 
【門客】もんかく その家に一時的に身を寄せている食客
 
や [移夜楊耶野也屋八矢箭] 
【夜】

 

【館】やかた 充名などで姓名の下につけた場合は敬意を表す 
【屋形】やかた 主君のこと 
【八木】やぎ 米 
【役夫工米】やくぶたまい 役夫工すなわち造営人夫の料米の意味 
【夜前】やぜん 前日の夜・昨夜 
【良久】ややひさしくして 
【動】ややともすれば ややもすれば 
【止事无】やんごとなし 貴い 
【無止】やむなし
 
ゆ [由喩遊油湯] 
【由・遊】

 

【由緒】ゆいしょ 根拠・理由/いわれ、由来 
【遺跡】ゆいせき 故人が住んだ場所/故人が残した領地・権益・相続すべき所領/死者の後に残った家族、遺族 
【維那】ゆいな 寺の事務を処理する僧の職 
【遺領】ゆいりょう 故人が残した所領、遺跡 
【右職】ゆうしょく 高官 
【有職】ゆうそく ものしり・学者 
【宥免】ゆうめん 罪を許す 
【鱈】ゆき たらの女房詞 
【行次】ゆくて 行く先・行くついで 
【努力努力】ゆめゆめ 決して 
【許】ゆる ゆるす・許可する・沙汰する 
 
え(ヤ行) [叡延遥要兄曳江枝吉]
 
 
よ [乙余与予誉世吉四代 甲用欲容庸夜] 
【与・余】

 

【余】よ うつき・四月 
【夜居】よい 夜詰める・宿直 
【陽】よう かみなづき・十月 
【用脚】ようきゃく 銭・費用 
【用途】ようと 費用、必要とする費用 
【用途米】ようとまい 費用にあてる米 
【容用】ようよう 聞き入れる、受け入れる 
【豫儀】よぎ 躊躇すること、ためらう心 
【余儀】よぎ 他のこと・別の方法 
【抑留】よくりゅう 押さえ留めること/徴収した年貢・所当を押さえ留めて領家・国衙へ差し出さない事、横領 
【横合】よこあい いわれない・横車 
【餘算】よさん 残りの寿命、余命 
【予参】よさん 列参・参列して列座すること/物事に参与する 
【寄】よせ 後援・後見・信頼/後見人 
【寄沙汰】よせさた 訴訟人が権門・有力者の威を借り、これに代償を払って名義上の当事者になってもらうこと 
【寄文】よせぶみ 寄進状 
【与奪】よだつ 与えることと奪うこと 
【四会】よつつじ 四辻 
【与党】よとう ある人に味方する仲間 
【与同】よどう 同意して仲間に加わること 
【余内・余荷】よない 芸人などの給料の割増を取ること 
【与判】よはん 免許・許可の判をおすこと 
【四方山・四極山】よもやま 世間 
【自】より (経過点・手段・方法を表す助詞)によって 
【寄人】よりうど 記録所、御書所、後院などの主典。庶務・執筆などを掌る 
【与力】よりき 助力 
【寄子】よりこ 付属する兵士・配下・寄親に対する語 
【夜白】よるしら 昼夜 
【據所無】よんどころなし どうしようもない
 
ら [羅郎良浪楽等]
【羅】

 

【洛】らく 都、京都 
【落書】らくしょ 人目に付きやすい所に書いて掲示する匿名の文書 
【落堕】らくだ 僧侶が戒律を捨てて不謹慎な生活をすること 
【濫悪】らんあく 法を無視した乱暴な行為 
【埒】らち 馬場の周囲にめぐらした柵 
【落去・落居】らっきょ 片づく・落着 
【乱波】らっぱ 雑兵の一種・間諜 
【濫行】らんぎょう 不都合なおこない 
【乱逆】らんぎゃく 謀反、反逆 
【濫刑】らんけい 刑罰を無法・無秩序におこなうこと 
【蘭省】らんしょう 太政官・弁官の異称 
【濫觴】らんしょう 事の起こり 
【濫吹】らんすい 乱暴・不都合 
【濫妨】らんぼう 乱暴 
【濫望】らんぼう 当否を考えずみだりに乞い望むこと
 
り [利理里隣梨離入煎]
【利・里・李】  

 

(「わ」にそっくりな「り」があり要注意。「里」を崩したものも定番)
【理運・利運】りうん 道理・勝利 
【力者】りきしゃ 百姓・かごかき 
【陸梁】りくりょう 気まま勝手に振る舞うこと 
【理世】りせい この世を治めること =治世 
【理訴】りそ 訴訟において道理の通った主張 
【理致】りち 道理、すじみち 
【率法】りっぽう 割合を定めた法令/新補地頭の権限である得分基準を定めた法令 
【利売】りばい 利益を得て売ること 
【理不尽】りふじん 道理にかなわないこと 
【利分】りぶん 利子、利息 
【釐務・吏務】りむ 国司などの執務 
【歴名】りゃくみょう 名前を順序に書き記すその帳簿 
【掠領】りゃくりょう 掠奪し領有する 
【掠籠】りゃくろう 奪い取り領有する 
【柳営】りゅうえい 将軍のいる陣・幕府・将軍 
【竜象】りゅうぞう 高僧・僧侶 
【竜集】りゅうしゅう 竜は星の名・集はやどること・年号の下に書く語 
【流例】りゅうれい 古くから伝わる慣例、先例 
【陵夷】りょうい 物事が廃れ衰えること 
【領家】りょうけ 荘園制の本所に次ぐ地位の領主 
【料簡】りょうけん 考えて判断を下す 
【了見】りょうけん 考えをめぐらし解釈すること 
【令旨】りょうじ 皇族一般の御教書 
【領所】りょうしょ 領地・所領 
【両所】りょうしょ 執権・執事のこと 
【料所】りょうしょ 特定の費用に当てるために料物を徴収した所領 
【領状】りょうじょう 承知すること・承知した書状 
【領掌】りょうじょう 領地として支配すること=領有 
【料足】りょうそく 費用・代金・銭 
【陵遅】りょうち 衰微 
【料物】りょうもつ そのことに使う資財、または費用 
【綸旨】りんじ 天皇の命を蔵人が奉じて発給する文書
 
る [留流琉類盧婁]

【留・流・類・累】

 

【累家】るいか 古くから代々続いた家、旧家 
【累日】るいじつ 幾日も続くこと 
【類書】るいしょ 事項別に分類編集した図書 
【類地】るいち 同種類の地所・関係ある地所 
【累葉】るいよう 代を重ねること、代々 =累代 
【留守】るす 主人が外出している間、家を預り守ること。またその人/留守職の略/外出していないこと 
【留守所】るすどころ 国司が不在の場合、代わりに留守の在庁官人が国務を執る場所 
【流例】るれい 伝来のしきたり・慣例
 
れ [礼例列烈連戻]
【禮・連】

 

【霊寺】れいじ 仏の霊験著しい寺 =霊場 
【麗爾】れいじ きらびやか 
【例式】れいしき きまった儀式・作法 
【伶人】れいじん 楽人・雅楽の楽師 
【冷然】れいぜん 冷淡・立腹 
【例日】れいにち いつもの日・常の決まりの日 
【任例】れいにまかせて 
【黎民】れいみん 庶民 
【零落】れいらく 勢力・資財を失い衰える、落ちぶれる/(土地・建物なとが)破損する、荒廃する/死亡 
【零余】れいよ 残り・あまり・わずか 
【練行】れんぎょう 仏法の習練 
【連枝】れんし 貴人の兄弟 
【連署】れんしょ 文書に複数人が署名連判すること/執権の補佐して政務を執る重職 
【練若】れんにゃ 寺の異称 
【連々】れんれん 引つづき・しばしば
 
ろ [乙呂侶慮 甲漏路盧楼露]

【路・呂・婁・楼】

 

【掾zろう 年功・僧が受戒後、修行した年数 
【狼逆】ろうぎゃく 乱暴狼藉 
【搦氈zろうじ 揩つんだ年数 
【郎従】ろうじゅう 家来、従者、血縁関係がない家来 
【狼藉】ろうぜき 乱暴、無法な行為 
【浪人】ろうにん 浮浪人、また牢人 
【狼唳】ろうれい 狼の如く凶悪で道理に背く行為/狼藉、実力による違法行為 
【牢籠】ろうろう 浮浪する・困窮落魄 
【睦】ろくに・よくよく(・・・しない)・楽に・自由に 
【露見】ろけん あらわれる・発覚する 
【露次】ろじ 野宿・露宿 
【閭里】ろり 村里 
【論人】ろんにん 被告
 
わ [和倭丸輪] 
【王】

 

【我式】わがしき 私ごとき 
【若宮】わかみや 天皇の皇親 
【和讒】わざん 讒言・注意・取り計らい 
【和市】わし 売買・商売・相場 
【煩】わずらい 他人の領内へ侵入して与える不法な被害 
【移徙】わたまし 転居の尊敬語 
【和談】わだん 和睦・和解すること 
【和主】わぬし 対象の人代名詞 
【和与】わよ 贈与・和解・処分 
【還礼】わんれい 答礼
 
ゐ [為位威謂偉井猪藍居]
【井・為】

 

 
ゑ [恵廻隈坐座咲面]
【衛】 

 

 
を [乎烏遠怨呼少麻男雄緒越小綬]
  【越・遠】 

 

 
ん [无]
【无・无】 

 

字源「无」の草書体。 「ん」という文字が使われるようになったのは室町時代頃とされる。それより前の時代に「ん」という文字は無く、平安時代には「む」が代用的に使われた。  
 

 

 
【候】 「候」は現在の「〜です・ます」に相当する言葉で、「侍り」を押しのけて中世から近世まで大変広く使われた言葉です。それ故、「候」は書きやすいようにどんどん崩れて、最終的には文末での「ヽ」になってしまいました。

 

 
【給】 「給」は現在の「〜なさる」に相当する尊敬語です。現在よりも縦の序列がはっきりし、また、神仏が広く信じられていたいにしえにおいて、この言葉は度々使われ、そしてこのように崩れてゆきました。

 

  
【御】 「御」は現在も使われる丁寧語です。いにしえにおいてもその使用の度合いは多く、相手の行動に「御」を付けることによって尊敬を表しました。
 
片仮名と平仮名

 

カタカナ(片仮名)とひらがな(平仮名)はどちらも平安時代初期に作られた音節常用文字で、カタカナは漢字の一部を取って作られ、ひらがなは漢字の草書体から作られたというのが定説になっています。資料によって多少の違いはありますが、カタカナとひらがなの字源は漢字だと言われています。 
カタカナが漢字の一部を取ったものだとすれば、漢字を崩して作ったひらがなよりも字源がはっきりしていてもよさそうなのに、実際にはひらがなに比べて字源がはっきりしない文字が多いのはなぜでしょうか?また、同じ音節常用文字をなぜ同時に2種類も作り出す必要があったのでしょうか? 
カタカナは平安時代初期の天平勝宝年間(西暦749-756年)に、吉備真吉備が50音図と共に選定したと伝えられています。しかしこれはあくまでも伝承で、実際には当時の多くの学者が協力して選定したと思われます。そして「片仮名」という呼び名は、漢字の一部を取って作ったため、「片方だけの仮名(仮の文字あるいは借りた文字)」からきているとされています。 
カタカナは漢文を訓読するための補助文字として作られた文字で、原則として漢字と一緒に使用され、カタカナだけで文章が書かれることはありませんでした。そして、当時の日本では漢文を公式記録用の文字体系として用いていましたから、カタカナも公式補助文字として位置づけられ、主として公式の文章や学問的な堅い内容の文章に用いられました。 
現在でも法律などのお堅い文章には漢文調の漢字+カタカナ文が用いられていますが、これは漢文とカタカナが公式文字体系だった名残です。 
カタカナは非常に安定した文字で、最初は様々な字体がありましたが、平安時代中期には既に現行に近いものに整備され、以後はほとんど変化していません。漢字のような表意+表音文字から表音専門の常用文字が作られ、それが定着するまでには、通常、千年単位の時間が必要ですから、このカタカナの安定性は驚異的です。例えば韓国のハングル文字は、公式に制定されたのは1446年ですが(実際にはそれ以前から作られていました)、民衆の間に定着したのは第2次世界大戦後(1945年以後)ですから、500年以上の年月がかかっています。 
ちなみに50音図は、この頃には次第に曖昧になっていた、8つの母音と8つの複合母音を5つに統一するために、漢字の反切表(漢字の音韻を研究するための表)や、悉曇学(しったんがく、梵語つまりサンスクリット語を研究する学問)の音韻表を参考にして、カタカナの選定とほぼ同時に作られたものと思われます。この50音図とカタカナを作る段階で、音韻の研究から濁音と半濁音を「゛」と「゜」で表す、日本独特の表記法が発明されたのではないでしょうか。したがって50音図はカタカナで書くのが本来で、「いろは歌」はひらがなで書くのが本来でした。
ひらがなは、カタカナ選定の少し後に、弘法大師が万葉仮名の草書体から作り、同時にその普及のために「いろは歌」も作ったとされています。しかしこれも伝承にすぎず、実際には色々な人々の手によって作られたと思われます。奈良時代後期から平安時代初期にかけて、和歌などの非公式な文章には、万葉仮名を草書体にした「草(そう)」という万葉仮名が用いられることが多くなります。そして草をさらに簡略にしたものを「女手(おんなで)」と呼び、主として宮中の女官達によって作られ、女性の間で用いられていました。これが後の「ひらがな」です。 
いろは歌いろはにほへどちりぬるをわがよたれぞつねならむ 
うゐのおくやまけふこえてあさきゆめみしゑひもせず 
ひらがなは万葉仮名の代わりの文字ですから、最初の頃はひらがなだけで用いられていました。やがてその書きやすさから男性の間にも普及するようになり、カタカナと同じように、漢字と一緒に用いられるようにもなります。そして「平易な、あるいは非公式な平素の仮名」という意味から、「片仮名」に対して「平仮名」と呼ばれるようになったとされています。「をとこもすなる日記といふものを、をんなもしてみむとてするなり」と、ネットオカマの元祖のような紀貫之が、女性を装って書いた「土佐日記」は、日本初のひらがなで書いた日記文学として有名です。 
このようにひらがなは自然発生的な要素が強いため、字体が安定するまでに長い年月がかかっています。また万葉仮名はひとつの音節に対して何種類もの漢字が用いられていましたから、ひらがなもひとつの音節に対して何種類もの文字がありました。そしてそれらが最終的に現行のものに固定されたのは、何と1900年の明治政府による小学校令施行規則によるもので、これを「欽定平仮名」といいます(カタカナに一番よく似た字体の文字が採用されたようです)。 
この欽定平仮名以外のひらがなは、「変体平仮名」あるいは「変態平仮名」と呼ばれて、その後も長い間併用されていました。何しろ大正時代までは高等女学校で変体平仮名を教えていたほどですし、現在でも看板や暖簾に「うなぎ」と「そば」という文字を書く場合、変体平仮名を用いている店がたまにあります(漢字の草書体に近い文字です)。女学校で変体平仮名を教えていたのは、「ひらがなは女性が使う文字」という意識の名残でしょう。 
このようにひらがなは定着するまでに千年近くの時間を要していますが、これは常用文字が定着するまでの時間としては決して長い方ではありません。ひらがなに比べてカタカナは元字との関係がより不明確であるにもかかわらず、なぜこれほど驚異的な安定性を持っていたのでしょうか?また2種類の音節常用文字がほぼ時を同じくして作られ、それらが併用されていたのはなぜでしょうか?我々が日常使っている文字体系ですから、あまり不思議に思いませんが、同じ目的の表音文字体系を2種類併用している例は、世界中でほとんど日本語だけなのです。 
これらの疑問に対するひとつの答として、「カタカナは基本的に漢字の一部を取って作ったが、漢字以前に存在した日本の固有文字も参考にしたのではないか?」という考えがあります。もちろんこの考えは今のところ憶測の域を出ませんが、非常に魅力ある考えだと思います。そもそもある集団に文字が発生する条件としては、次のようなものがあると言われています。 
・小共同体がいくつか分立していること。 
・それらをまとめてカバーする、より大きな共同体が存在していること。 
日本の弥生時代(紀元前300年〜紀元後300年頃)は、この条件をある程度満足していますから、原始的な絵文字程度のものが存在していても決して不思議ではありません。事実、弥生時代から古墳時代にかけての色々な遺跡から、絵文字らしきものがいくつも発掘されています。特に歴史の教科書でお馴染みの銅鐸の絵は有名で、これまでにも何人かの研究者が、これらを絵文字の一種と考えて解読しようと試みています。世界各地の古代絵文字とこれらの絵を比べますと、確かに類似性があり、絵文字である可能性は十分あるように思われます。もしこれらが絵文字だとしますと、他の古代文明の初期の絵文字がそうであったように、これらの絵文字は主として権力者や神官などが、政治的および宗教的な目的で使用した可能性が高いはずです。そしてこれらの絵文字は一部の権力者や神官によって伝えられて、飛鳥・奈良時代には原始的な線文字段階にまで発達していたのではないでしょうか。 
初期の線文字は、漢字のように表意文字的な使い方と表音文字的な使い方が混在していることが多く、例えば一般名詞や動詞を表す文字は表意的に、語尾変化や助詞や固有名詞を表す文字は表音的に使われたりします。漢文を訓読しようとした時、そういった線文字の持つ表意+表音的な使い方を参考にして、漢字を表意文字とし、その補助文字として表音的な文字を作ることを思い付いたとは考えられないでしょうか。そしてその表音文字つまりカタカナは、基本的に漢字の一部を取って作ることにしたものの、適当な漢字が無いものについては、初期の線文字段階にあった日本の固有文字を流用したのではないでしょうか。 
この憶測を裏付ける考古学的な資料は、現在のところ岩戸文字などごくわずかしかなく、しかもこれらの古代文字が残された正確な年代は、残念ながらはっきりしないものが多いのですが、興味深いことに、これらの古代文字の一部にはカタカナに良く似た字形の文字(特にア、キ、サ、ス、ヘ、ラ、ワ)があるのです。もちろんそれらの固有文字が本当に存在していたとしても、それらに関する資料も伝承もほとんど残されていないことから考えて、広く民衆に用いられていたとは考えられず、一部の学者や神官だけが用いていたと思われます。 
もしこの考えが正しければ、カタカナが最初から権力者や神官や学者用の、公式文字的な性格を持っていたとしても不思議ではありません。仮名は「神名(かむな)」に由来していて、カタカナは、本来は「象神名(かたかむな、神の名を表す象形文字)」であった、と主張する研究者もいますが、この説も一理あるのかもしれません。 
これに対してひらがなは、おそらくカタカナの影響を受けて、万葉仮名の草書体から自然発生した表音文字と考えられます。万葉仮名は古代朝鮮の「吏読(イドウ)」と呼ばれる万葉仮名方式の表記法──古代朝鮮語を漢字の音読みと訓読みの音を使って表記したもの──の影響を受けた表記法と考えられ、カタカナとは別の発生系統を持っています。このためひらがなは最初から女性を中心とした一般民衆が用いる、非公式な文字体系だったのかもしれません。 
またひらがなはカタカナの影響を受けたため、カタカナの字形に似せて崩した文字が多く、特に「へ」は適当な漢字が無いので、カタカナをそのまま流用したものと思われます。ひらがなは漢字の草書体から発達したために、筆で書くのに適した字形をしていますが、カタカナは漢字の一部を取ったせいもあるでしょうが、どちらかと言えば土器や石などに線刻するのに適した線文字系の字形です。これは、何となく2種類の文字の起源を暗示しているような気がしないでもありません。
では今までの憶測に基づいて、カタカナとひらがなの発生について想像してみましょう。 
今から1万年以上も前から紀元前300年頃まで、日本列島には南方系モンゴロイドがいて縄文文化を築いていました(関東以北には北方系モンゴロイドも住んでいたと思いますが、ここではその話に深入りしません)。縄文時代は新石器時代に相当し、10万〜20万人の人口で、それなりに安定した狩猟採集生活をしていました。それが縄文時代晩期になり、朝鮮半島から北方系モンゴロイドが集団で渡来してきます。彼等は青銅器から鉄器時代に相当する大陸の進んだ文明と、稲作技術を持っていましたので、それまでの狩猟採集生活を稲作を中心とした農耕生活に変えてしまいました。こうして、縄文時代から弥生時代へと移行します。 
この時渡来してきた北方系モンゴロイドの人数は、それまで日本列島にいた南方系モンゴロイドの10倍近くにもなり、またたく間に九州地方、中国・四国地方、関西地方、中部地方に広がり、人口が一挙に100万人ほどに膨れ上がりました。稲作により食料供給が安定したため、これ以後、日本列島の人口は急激に増加していくことになります。 
この時の2系統のモンゴロイド民族の関係は、争いによる征服・被征服といった関係ではなく、文明の進んだ民族が文明の遅れた民族を文明化したといった関係でした。何しろ新しく渡来した北方系モンゴロイドは人数が圧倒的に多い上、文明の程度にも歴然とした差がありましたので、争いを起こす必要もなかったのです。元々住んでいた縄文人は新しく渡来した民族に吸収同化され、両者の文化が混合して独特の融合文化が生み出されました。これが、南方系の海洋文化と北方系の大陸文化が融合した弥生文化です。 
この融合の過程で、北方系モンゴロイドが使っていた古代朝鮮語に、南方系モンゴロイドである縄文人が使っていたオーストロネシア語族(現在のマレー・インドネシア語、ポリネシア語、メラネシア語等の言語一族、インド・ヨーロッパ語族に近い文法を持つ)の語彙が入り込み、独特の混成言語─古代日本語が形成されます。 
ある民族が他の民族を征服して吸収同化した場合、征服した側の言語に征服された側の言語の語彙が入り込んで、独特の混成言語が形成されることがあります。そういった言語の例としては旧植民地で発生したピジン語やクレオール語が有名ですし、英語もフランス人がイングランドのゲルマン人を征服した時に発生したクレオール相当の言語ではないかと言われています。古代日本語が北方系モンゴロイド語に南方系モンゴロイド語の語彙が入り込んでできたピジン・クレオール語相当の混成言語であったという説は、言語学研究者の間で次第に認められつつあります。 
こうして古代日本語が形成されると同時に、縄文人の卓越した絵画能力と、渡来人の進んだ文化とが相まって、日本固有の絵文字が発明されます。中国の漢字は志賀島の「漢委奴國王」の金印(紀元後57年)でわかるように、弥生時代中期にはすでに日本に伝わっていましたが、それを使いこなすまでには至っていなかったのです。 
縄文時代晩期から弥生時代初期に渡来してきた人達の一部は、瀬戸内海を経由して、現在の畿内一帯に広がり、どことなく故郷の朝鮮半島内陸部を思わせるその土地に定住します。彼等は早い時期に日本列島に渡来したため、縄文人との融合度が高く、比較的穏和な農耕民族となっていました。そして馬鈴を発達させて銅鐸とし、農作業用の道具として利用したり、表面に絵文字を刻印して祭具として祭ったりしました。こうして彼等は、畿内を中心として「銅鐸文化圏」を形成します。 
弥生時代中期から後期に遅れて朝鮮半島から渡来してきた人達は、九州北部から瀬戸内海西部に広がり、畿内とは別のグループを形成します。彼等は戦国時代になっていた中国大陸や朝鮮半島の影響を強く受けた、比較的好戦的な民族で、銅剣と銅鉾に象徴される「銅剣・銅鉾文化圏」を形成します。やがて北九州一帯を統一したある部族が、畿内にいた部族まで支配下に組み入れようと東進を開始します。この争いは大陸のより進んだ戦争道具、すなわち鉄器を中心にして武装していた九州の部族の勝利に終わり、彼らは畿内に進出して、以前からそこにいた多くの部族を支配下に入れます。こうして日本初の統一王朝・大和朝廷が成立し、時代は古墳時代へと移ります。 
古墳時代にも朝鮮半島から渡来人が沢山やって来ますが、日本が独立国としての体裁を整える奈良時代までは、渡来人は「今来(いまき)の人」と呼ばれていて、「帰化人」とは呼ばれていません。これは、この時代の日本人の出自を考えれば当然のことです。大和朝廷は出身地である朝鮮半島と密接な関係にあり、中国文化を取り入れるのにも積極的でした。まず漢字を取り入れて漢文を国の公式な文字体系にし、ついで仏教を取り入れて、仏教を中心として国を治めていこうとします。そして大化の改新の後、律令制度を取り入れて法治国家としての体裁を整え、各部族に伝わっていた神話と歴史を都合の良いように再編集して、天皇支配の正当性を強調します。 
独立国としての体裁が整いますと、中国の物真似一辺倒から脱し、日本独自のものを確立しようとする動きがでてきます。そのひとつが、文字体系を日本語に合ったものにしようとする動きです。色々と試行錯誤した後、当時の国際社会の共通語である中国語からかけ離れないように、原則として漢文を中心とし、それを日本語で訓読するために補助的な表音文字を作ることになります。その表音文字は基本的に漢字の一部を取って作るものの、適当な漢字がないものについては、各部族の間に伝わっていた日本古来の固有文字を流用することにしました。 
日本古来の固有文字であった絵文字は、主として畿内にいた部族の神官などによって細々と伝えられ、それでも原始的な線文字段階にまで発達していました。それらの固有文字は日本独自のものでしたし、一応、一部の神官や学者が使っていましたので、日本の独自性を打ち出すのに好都合だったのです。こうして作られたカタカナは、それまでの固有文字に形が近いため、すぐに字形が安定して漢字の補助文字として定着します。 
このカタカナに刺激されて、万葉仮名の草書体から主として宮中の女官達の手によって、ひらがなが自然発生します。ひらがなは非公式な表音文字でしたが、筆に適した書きやすさから、次第に広く使われるようになります。 
やがて長い年月を経てようやくひらがなが定着した頃、今度は欧米の文化とアルファベット文字体系が日本に入ってきます。外国の文化を取り入れることにかけては、弥生時代から得意中の得意だった日本人は、その新しい欧米の言葉と文字を漢字と同じように独自の方法で消化して、準日本語として取り入れてしまいました。中国の漢字が日本では読みも意味も多少異なったものとなり、和製漢字である「国字」まで作ってしまったのと同様に、欧米の外来語がその元々の言葉とは読みも意味も多少違ったものとなり、和製英語まで作ってしまうところなど、まさに日本人の面目躍如たるところです。 
外来語の氾濫に「美しい日本語が乱れる!」と反発する人もいますが、その美しい日本語を奈良時代以前の日本人が聞いたら、「何という中国語かぶれの、汚い日本語だ!」と驚くことでしょう。どんなものでも自分達なりに消化して取り入れてしまう柔軟性が、良きにつけ悪しきにつけ、弥生時代以後の混血日本人と混合日本語の大きな特徴と言えるでしょう。 
もちろん以上のシナリオは全くの夢想にすぎませんが、ちょっとした疑問をとっかかりにして、こんな空想の翼を広げてみるのも楽しいものです。
片仮名2 
日本語の表記に用いられる音節文字である。仮名の一種で、万葉仮名を起源として成立した。元となる漢字の画数に応じて、万葉仮名をそのまま用いたり、その一部を採るなどして作られている。 
吉備真備が片仮名を創作したという伝承があるが、これは俗説に過ぎない。万葉仮名の省略は8世紀初めから見られるが、片仮名の起源は、9世紀初めに奈良の古宗派の学僧が漢文を和読するため、訓点として万葉仮名を付記したものに始まると考えられている。それらは余白に小さく素早く記す必要があったため、字形の省略・簡化が進んだ。片仮名はその発生より、僧侶や学者によって漢字の補助として使われることが多く、ごく初期から仮名交文に用いた例も見られる。後には、歌集や物語をはじめ一般社会の日常の筆記にも使用範囲が広がったが、平仮名で書かれたものが美的な価値をもって鑑賞されるに至ったのと比べると、記号的・符号的性格が強い。 
当初は字体に個人差・集団差が大きく、10世紀中頃までは異体字が多く見られる。時代を経るに従って字体の整理が進み、12世紀には現在のそれと近いものになったと考えられている。現代の片仮名では、1900年の小学校令施行規則で一音一字の原則に従い、標準とされた字体だけが普及している。それ以前に存在した多くの字体を字源によって分類した場合、およそ230種ほどを数えられる。 
2002年、大谷大学所蔵の経典に、角筆の跡があり、これについて、表音を企図して省略された漢字であり、片仮名的造字原理の先行例ではないかとする説が出された。この角筆について小林芳規は、八世紀に朝鮮半島で表音のために漢字の省略が行われており、それが日本に渡来したのではないかとする説を提出した。犬飼隆はこの小林説について、表音を企図した漢字の省略が朝鮮半島で先行して実施されていた可能性を認めながらも、なお検証を要するとした。また平川南は経典の成立年代と読みの書きいれにはずれがあることが十分想定できるため、典籍の年代確定の難しさを指摘している。さらに、「根」字の脇に見られる「マリ」の如き角筆の痕跡が「ブリ」の音を表すとした上で、現代韓国語の「根(ブリ)」と一致するとの小林の主張は、新羅時代に「根」を「ブリ」と発音した可能性はないとされ、ソウル大学名誉教授の安秉禧(アン・ビョンヒ)、韓国口訣学会会長の南豊鉉(ナム・プンヒョン)らによって否定されている。
片仮名3 
片仮名の「片」は不完全の意で、平仮名が万葉仮名の全画を書きくずしたものであるのに対して、片仮名は万葉仮名の一部の字画を省略したものであることから名づけられたのであろう。漢字の省画は奈良時代から見えるが、平安時代にはいると、漢文に訓点を記入することが起こり、漢字の傍訓や送り仮名として手早く書き込むために簡略な字形が求められ、省画の字体が生み出された。 
もともと訓点の記入は個人の備忘のために始められたで、その仮名字体はまちまちであった。省画による仮名が多いが、初期には万葉仮名や草書体の仮名も含まれていた。また、文献が異なれば、使用の仮名も字体が違うことが多く、社会的な統一もなかった。 
平安中期になると、同じ学統の人たちの間では共通した字体が用いられ、字形も簡略化されるようになった。そして、後期には仮名字体が社会的に統一され、ほぼ一音節一字となった。また、字形も現行に近いものが使われるようになったが、一部「子」のような変体仮名は後世まで用いられた。 
「かたかんな」という名称は「宇津保物語」に既に見え、10世紀の中ごろには貴族社会にも普及していた。10世紀中葉の「醍醐寺五重塔天井落書」には平仮名で三首の和歌を記しているほか、片仮名でも三首の和歌が書かれており、この頃には片仮名が平仮名とは別個の文字体系として意識されていたことがわかる。 
「堤中納言物語」の「虫めづる姫君」(平安後期成立)には、主人公の少女が和歌を書き記す場面に「仮名はまだ書き給はざりければ、片かんなに」とあって、当時仮名の習得がまず片仮名から始められ、次いで平仮名に進んでいったことがわかる。平仮名が美的鑑賞としての品格を要求されるのに対して、片仮名は実用的であったことを物語っている。 
片仮名主体の表記は12世紀ごろから現れ、和歌を記した「極楽願往生歌」や大福光寺本「方丈記」などはその代表的なものである。しかし、中世では一般に、その使用の範囲は平仮名に比べると限定されており、主に注釈書などの学問的色彩の濃いもの、もしくは草稿や手控えの類に用いられた。 
片仮名は漢文訓読によって生じたこともあって、普通の文章表記に用いられるのではなく、ヲコト点と同様、その読み方を示すという表音性に優れた文字体系である。江戸時代に「ハイさやうでございます」「タシカお十六かネ」「よこしやアがる」など口語性の強い部分に用いられているのも、そうした片仮名の実用性に基づくものである。 
明治時代には啓蒙書・翻訳書や自然科学関係の書物、また法律などに漢字片仮名交じり文が用いられた。これは漢文訓読の系統を引くもので、1900年(明治33)の小学校令施行規則改正によって現行の字体に統一されると、国語の教科書にも採用され、使用が広がっていった。しかし、一般的には平仮名の使用が主流であり、片仮名は専門的、実用的分野に限られていた。1945年(昭和20)以降は法律や公文書の文章も漢字平仮名交じり文で表記されるようになって、漢字片仮名交じり文はほとんど見られなくなった。 
片仮名はその表音的機能によって、平仮名の中に交えて用いられると、漢字と同じような表語性をもつ点にも大きな特徴がある。そのため、漢字表記になじまない語、たとえば外来語や擬声語・俗語・隠語・方言の表記などに適しているのである。また、「私ってサ、ホントはスゴク内気な人なのヨネ。」のように口頭語的な特徴を示す場合や、感情・評価を表す語(たとえば「ガンバリ屋」「ワガママな人はキライだ」)に用いることも一部に見受けられるが、これらは江戸時代の片仮名表記の流れを引いていると見てよい。 
外来語は、日本語に融合して外来語という意識の希薄な「たばこ」などの一部の語を除いて、片仮名で表記されるのが一般的である。今日でも外来語の表記は必ずしも一定ではなく、慣用が固定している表記と、原音の発音やつづりに近い表記とが併用されている。外来語に用いる片仮名は五十音図の直音・拗音に枠に入りきらず、また[v]を表すために「ヴ」という字体が福沢諭吉(「増訂華英通語」)によって新たに生み出されたこともそれを象徴するものである。
平仮名2 
日本語の表記に用いられる音節文字である。仮名の一種で、万葉仮名を起源として成立した。楷書ないし行書で表現される万葉仮名を、極度に草体化したものである。 
空海が平仮名を創作したという伝承があるが、これは俗説に過ぎない。平仮名の元となったのは、楷書ないし行書で表現される万葉仮名である。「あ」は「安」、「い」は「以」に由来するように、万葉仮名として使用されていた漢字の草体化が極まって、ついに元となる漢字の草書体から独立したものが平仮名と言える。 
すでに8世紀末の「正倉院文書」には、字形や筆順の上で平安時代の平仮名と通じる、半ば草体化した万葉仮名が見られる。9世紀中頃の「藤原有年申文」(867年(貞観9年))や同時期の「智証大師病中言上艸書」などの文書類にも見られる、これら省略の進んだ草書の万葉仮名を、平仮名の前段階である草仮名(そうがな)と呼ぶ。宇多天皇宸翰「周易抄」(897年(寛平9年))では、訓注に草仮名を、傍訓に片仮名を、それぞれ使い分けており、この頃から平仮名が独立した文字体系として次第に意識されつつあったことが窺える。 
9世紀後半から歌文の表記に用いられていた平仮名が、公的な文書に現れるのは、醍醐天皇の時代の勅撰和歌集である「古今和歌集」(905年(延喜5年))が最初である。その序文は漢文である真名序と平仮名で書かれた仮名序の2つが併記された。また935年(承平5年)頃に紀貫之が著した「土佐日記」について、後にその原本の最終帖を藤原定家が臨模したものが伝存しており、当時すでに後世の平仮名と同じ字体が用いられていたことを確認できる。951年(天暦5年)の「醍醐寺五重塔天井板落書」になると、片仮名で記された和歌の一節を平仮名で書き換えており、この頃には平仮名は文字体系として完全に独立したものになっていたと考えられる。なお、平仮名という言葉が登場するのは16世紀以降のことであり、これは片仮名と区別するため、「普通の仮名」の意で呼ばれたものである。 
貴族社会における平仮名は私的な場かあるいは女性によって用いられるものとされ、女流文学が平仮名で書かれた以外にも、和歌、消息などには性別を問わず平仮名を用いていた。そのため女手(おんなで)とも呼ばれた。ちなみに平安時代の貴族の女性は、平仮名を使って多くの作品を残した。しかし、その作者の本名は未だにほとんど分かっていない。 
例えば、平仮名による最初期の文学作品である紀貫之の作品「土佐日記」は、かつては作者が女性であるという前提に立って書かれているといわれていたが、2006年(平成18年)に小松英雄が行った検証によると、この日記は女性に仮託したものではなく、冒頭の一節は「漢字ではなく、仮名文字で書いてみよう」という表明を、仮名の特性を活かした技法で巧みに表現したものであるという。平仮名で書かれたものは、漢文のものより地位が低く見られていたが、中国との公的交流が絶えて長くなるにつれて、勅撰の和歌集に用いられるまでに進出した。 
平仮名の異体字は、万葉仮名のそれと比べると遥かに少ない。平仮名による表現が頂点に達した平安時代末期の時点で、異体字の総数が約300種、そのうち個人が使用したのはおよそ100から200種ほどとされる。時代が下るにつれて字体は整理される傾向にあり、現代においては、一音一字の原則に従って、1900年(明治33年)の小学校令施行規則の第一号表に示された48種の字体だけが普及している。この時採用されなかった字体を指して変体仮名と呼ぶが、このような概念はそれまで存在しなかったものであり、1900年(明治33年)までは(現代の)平仮名も変体仮名も区別なく、「平仮名」として用いられていた。
 
書道用語

 

あ 
あざな【字】 実名のほかに周囲の物が呼びならわしている通称。別名。別名としての字は中国の影響でおこったといわれ、文人、学者に多く用いられた。書では実名を署し、印に字を刻したものが多い。 
あしで【葦手】 書体の一種。料紙の装飾下絵として、葦叢(あしむら)、鶴、岩、雁、などの略画を描き、そこに水辺の景物に見立てて書き入れられた遊戯的な書体である。葦手によって一首の和歌が読み込まれ、贈られた人は機知を働かしてそれを読み解く、情趣豊かなものであった。「本願寺本三十六人家集」「久能寺経」「平家納経」などの遺品もあるが、そこに読み込まれた和歌を解読することは難しい。  
い 
いしずり【石摺】 石碑に刻み込まれた文字や絵画、あるいは文様などを紙に摺り取ること。また、摺り写したもの。石面に白紙をあてて水でぬらし、刷毛か綿で押して密着させ、その上をタンポに墨液、油墨を含ませて一様に打つ。石摺の呼称は日本でのもの。中国では拓本という。 
いたいじ【異体字】 遺体文字。漢字で、同一の字ではあるが、標準とされる字体と異なった形をとるもの。標準字に対する俗字なども異体字の一種。  
いちぎょうしょ【一行書】 条幅の一紙に、中国の漢籍、あるいは祖師や高僧の禅語の中から、佳句をえらんで一行に大書した墨跡のこと。一行物ともいう。  
いっぽんきょう【一品経】 法華経の一部八巻は、二八品に分かれる。その二八品に開結(かいけつ)無量義経・観普賢経の具経を合わせて都合三十巻とし、一人が一品一巻ずつを結縁分担して書写供養すること。一人で全てを書写する一筆経に対する語。  
いのちげ【命毛】 毛筆の鋒先(先端)の部分。野毛(のげ)ともいい、毛筆の中心になる部分で、書の線を生かすための大切な毛。この毛の働きが書の線の命となる。  
いひつ【異筆】 肉筆で書写されたものの中に交じる異なった筆跡のこと。  
いぼく【遺墨】 故人の筆跡。ふつう、書についてのみ用いることが多い。  
いりん【意臨】 臨書法の一つの形態で、手本を側に置き、その字形や筆使い、字配りや全体の気分をまねて練習すること。手本の意(こころ)に重きをおき表現する方法。  
いろはうた【伊呂波歌】 音の異なる四十七文字を一回だけ使った七五調四句の今様歌。作者は弘法大師(空海)とされるが、平安中期の作。  
いんえい【印影】 印に印泥をつけて、印箋紙絹などに押捺したあと。印その物ではない。印の影。  
いんく【印矩】 印の位置を決めたり、重ね押し出きるように印の側面にあてて用いるL字形、T字形の定規。  
いんじょく【印褥】 印を捺印するための平らな台。日本独特のもの。中国には無い。  
いんせん【印箋】 印を押捺するのに用いる紙。表面が滑らかで細かく、油をよく吸収するものが適している。  
いんでい【印泥】 古代の印は泥に押したが、紙が使用されるようになってからは、朱を押捺するよぅになった。現代の印泥は、朱と油ともぐさで調合する。  
いんぷ【印譜】 陰影を集めて書物の体裁にしたもの。研究鑑賞の対象として貴重なものが多い。  
いんしゅいん【引首印】 書幅の頭初に押捺する印。多くは長方形である。関防印(冠冒印)ともいう。関防とはもと明代に、官府の公文書の偽造を防ぐために押捺した割印のことであり、本来は別のものであった。 
う 
うたあわせ【歌合】 平安時代から明治年代まで続いた、和歌を用いた合物(勝負事)。基本的には、左右二組に分かれ、一首ずつの和歌を合わせてその優劣を争う遊びで、宮廷や貴族の間で行われていた。  
うだがみ【宇陀紙】 阿波の吉野川流域山間の村落、宇陀から産出した楮(こうぞ)を原料とした、炎褐色の素朴でしっかりとした丈夫な紙をいう。また埼玉県小川町から小宇陀という紙が出る、現在、高知県からも産出する。表装の裏打ちに用いられる。  
うらうち【裏打】 書画を表装、または保存のために本紙(作品)の裏に和紙を貼ること。作品のしわがのび、墨色がよくなり、美しく見える。  
うらがき【裏書】 古文書、記録、書画、などの料紙の裏に記された文語。表書に関する由緒、証明、保証、注釈、考勘、承認、受領などが書かれた。  
うんぴつ【運筆】 毛筆で字を書く時の筆の運び方、動かし方、筆の使い方をいう。  
え 
えいじはっぽう【永字八法】 漢字の基本点画の用筆法を永の字の八種の部分をもって説いたもの。第一画の点=そく 第二画の横画=ろく それに続く縦画=ど その左へのハネ=てき 第三画の左から上に引く画=さく 左下へ払う画=りゃく 第四画の右から左へ引く画=たく 第五画の左から右下へ払う画=たく と呼ぶ。  
えまきもの【絵巻物】 文字どおり、絵を描いた巻物の意。平安〜鎌倉時代に我が国独自の発展を遂げた絵画芸術で、物語等を絵で描き、説明を字で書き、左手で開き、右手で巻き込むという動作の繰り返しにより、眼前の一定の幅の画面が次々と変化する。「源氏物語」に代表される。ふつう、詞書を絵と交互に配するが、「鳥獣人物戯画」のように絵のみの場合もある。 
えんけん【円硯】 円形の硯のこと。別名を円面硯(えんめんけん)ともいう。  
えんせい【円勢】 筆を直にし、起筆に蔵鋒を用いると、筆の穂先が開き、線の全てに筆鋒がはたらく。篆書の用筆がこれにあたり、楷書でも石門銘、鄭道昭や顔真郷の書は円勢の代表作である。  
お 
おいえりゅう【御家流】 伏見天皇の第六皇子、尊円親王(そんえんしんのう)が創始した書流「青蓮院流(しょうれんいんりゅう)尊円流」を、とくに江戸時代に入って御家流と呼んだ。 
おういん【押印】 捺印と同じ。印章をおすこと。我が国の印の制度は大宝令(たいほうりょう)大宝元年<701>制度にはじまる。平安中期ごろより各種文章に印を押すことが稀となり、かわって、花押(かおう)が多く用いられた。 
おくがき【奥書】 中国でいう跋のことで発行物の少なかった時代に巻物、冊子、帖などの末尾に、書写した目的、理由、年月日、筆者名などを書いたもの。後世古筆に精通した別人の手で書かれることが多くなった。 
おのこで【男手】 奈良時代、漢字の音を借りて日本語の音にあてはめた万葉仮名が生まれた。当時の書体は、楷書または行書で、このスタイルの仮名を男手、あるいは真仮名(まがな)という。漢字は男性が使用する正式の文字とされていた。 
おりほん【折本】 製本形式の一つ。長い紙を折り畳んで作る。お経の本などに多く、書道手本にも使用される。 
おんなで【女手】 男子が使用する漢字(真仮名)に対して、女子専用の書体をさらに簡略化した平易なかな(平かな)を平安時代にこう呼んだ。かなの誕生は日本人の最高の創造と言え、その後の日本文化の発展に大きな功績をもたらした。
 

 

か 
かいし【懐紙】 貴族が日常懐に入れて携帯したことからこの名がある。手紙や和歌などを書くために使った。(ふところがみ)(たとうがみ)ともいう。 
かいしょ【楷書】 漢字の書体の一。現在、標準の字体とされており、一点、一画を独立させて書きあらわしたもので、真書・正書ともいう。楷書は隷書(れいしょ)から変化したもので、後漢の終わり頃に登場するが、最盛期は六朝時代から晋の時代であり、楽毅論・九成宮醴泉銘・孔子廟堂碑・雁塔聖教序などは頂点を示す作品として有名。 
かいせん【界線】 写経用紙に引かれた罫のこと。 
かいわんほう【廻腕法】 腕法の一。親指と他の4指の先で筆管をはさみ持つ執筆法で特殊な腕の構え方。親指と人差指との上を水平にし、指頭に力を集中し、筆が体の全面にくるようにする。わが国では、明治の初め楊守敬(ようしゅけい、明治13年42才の時、清の駐日大使の随員として来日)によって伝えられた。日下部鳴鶴がこの法を用いていたことは有名。 
かえしがき【返し書き】 手紙を最後まで書き、さらに右端に返って本文より小さめに書く。これを追而(おって)書き、尚々(なおなお)書き、返し書きという。この手紙は大きな字から小さな字へと読めばよい。 
かおう【花押】 書判(かきはん)ともいう。文書の署名は楷書で書いたが、まねをしにくい書体(草書)で書くようになり、これをさらに装飾的に図案化したいわば今日のサイン。平安時代中ごろにはじまり、近代まで、個人の書状、公家・武家の各種文書に多く用いられた。 
がくそう【額装】 書画の掲示、鑑賞形態の一。床の間に掛ける軸装から、近代建築の変化で額縁が増え、展覧会は額装が中心である。 
かけじく【掛軸】 書画を軸物に表装し、床の間や壁面に掛けて鑑賞するもの。 
かこうし【加工紙】 礬水(どうさ)または胡粉(ごふん)などで加工した紙。細字用を料紙という。画仙紙に礬水をひいて墨のにじみを少なくし、胡粉に色を加えてぼかしたり、文様を施したもの。 
かごじ【籠字】 すぐれた筆跡の上に薄紙をのせ、字の外辺を囲むように写すこと。そのなかに墨を塗って同じような書跡をつくる複製法を双鉤填墨(そうこうてんぼく)という。写真技術のない時代に、盛んに用いられた。 
がせんし【画仙紙】 雅箋、雅宣などとも書かれる。中国の宣州で産出する紙なので宣紙と呼ばれた。大きさによって大画仙、中画仙、小画仙。厚さによって単宣、二層、三層。紙質によって煮つい箋、玉版箋、羅紋箋、豆腐箋。などがある。日本では産地によって、甲州画仙、因州画仙、越前画仙、土佐画仙などがある。最近は台湾で大量に生産されている。 
かたかな【片仮名】 現在の片仮名の字体は、明治33年の小学校令で制定され、今は外来語の表記などに使う。もとは漢字の訓読のとき、送り仮名としてもちいられた。もと万葉仮名の遍や旁などを略して作られた。 
かっぴつ【渇筆】 墨付の量が少ないためにかすれたり、筆の穂先が割れて墨ののっていない部分を含んだ筆線。墨をたっぷりと含んだ潤筆と相対し、この潤渇の変化が紙面構成の上に大切な効果を果たす。 
かな【仮名】 漢字を字源として、日本語表記のためにその音を借りて草書の簡略化から生み出された。日本人の発明として最も文化的意義がある。漢字の真名(まな)にたいして平仮名、片仮名、万葉仮名の総称。明治33年の小学校令で平仮名と片仮名は47文字と定められ、それ以外は草仮名(変体仮名)と呼ばれる。 
からかみ【唐紙】 本来「からかみ」、すなわち中国製の紙という意味、今日いう唐紙(とうし)とは異なり、特に平安時代に舶載された北宋製の紙のことをいう。紙の生地に胡分(ごふん)と雲母を用いた装飾的な紙である。我が国でも模造されるようになり、今では模様入りの和紙もこう呼ぶ。 
からよう【唐様】 中国風の書風。江戸時代に幕府から庶民まで隆盛した御家流(和様)に対し、文人、儒学者の間で流行した宋・元・明(蘇東坡、黄山谷、文徴明、ら)の書家の影響を受けた書の一大潮流をさす。 
カリグラフィ【calligraphy】 筆跡・書道。書の国際性、国際交流が言われる中、この語の意味は大きいが、書道、書法のもつ東洋的な意味は失われているように思える。たんに装飾文字的意味が強い。 
かんえいのさんぴつ【寛永三筆】 平安初期の三筆になぞらえて、江戸時代初期の寛永年間に活躍した三人の能書家、近衛信尹(このえのぶただ)「近衛流、三貘院流」・本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)「光悦流」・松花堂昭乗(しょうかどうしょうじょう)「滝本坊昭乗、昭花堂流」をいう。それぞれが独自の個性的な書風を残しているが、戦国の乱世を経て、沈淪した書の世界に、伝統に束縛されない自由奔放な書表現という新たな息吹をもたらした点で、共通するものをもっている。 
かんかけっこうほう【間架結構法】 漢字の造型理論の一。間架とは点画の余白、結構とは点画の組み合わせ方をいう。これらを考えあわせて均衝よく造型する方法で、楷書を主体とし、唐の欧陽詢の「36法」や明の李淳の「大字結構84法」などの分類が伝えられる。 
かんきゅう【緩急】 運筆の速度をいう。ふつう、潤筆は急に、渇筆は緩く書く。書は白と黒の芸術であり、筆者の意志で紙上に潤渇、濃淡、明暗、強弱などの変化により美的要素を生み出す。 
かんすぼん【巻子本】 日本では巻物をいう。紙を何枚も継いで、その端に軸を付け、それを芯にして巻き付けていく。聖徳太子の「法華義疏」は、現存最古の巻子本とされ、最古の肉筆でもある。中国では巻子と呼ぶ巻物の形をした本。 
かんぞういん【鑑蔵印】 書画などの鑑賞者や収集家が、鑑賞や収蔵の証として押す印。中国では唐、宋時代にはじまった。この印によって作品の由緒や伝来、制作年代を推定する事もできる。 
かんたく【乾拓】 金石に鋳刻された文字や図象を紙に写し取る方法の一。湿らせた紙を用いる湿拓(水拓)に対して乾いた紙のままに押しあてて、上から鑞墨(ろうぼく、石花墨)をこすりつけて写す。 
かんたいじ【簡体字】 中華人民共和国の文字改革によって簡略化された漢字。日本人に読めない字が増えてきた。 
かんていりゅう【勘亭流】 江戸時代に御家流指南をしていた岡崎屋勘六(勘亭)がはじめた歌舞伎用の看板文字。独特の工夫を加え、一種の絵文字化した書風で現在は、芝居のほか、相撲、寄席などの看板文字にも使用され、ポスターの文字、商品名のタイトルなどの分野にも活用されている。 
がんぴし【雁皮紙】 斐紙(ひし)ともいう。雁皮(ジンチョウゲ科)の数年物を根ごと引き抜き、外皮を剥ぎ乾燥して祖皮としたものを水に浸し、その繊維を漉き上げて成紙とする。繊維は短く光沢があり絹のようで粘液を含み、これがネリの作用をする。 
き 
きごう【揮毫】 毫は筆のことで、筆をふるうこと。主に額や条幅を筆で書くことをいう。 
きひつ【起筆】 書き始めの筆の入り方。書の線の生命である。 
きみゃく【気脈】 線と線の気持ちのつながり。実際にはつながっていないが、あたかもつながって見えるように筆を運ぶこと。一字から数字を一筆で書く。文字と書の違いはこの気脈のつながりの有無にある。 
ぎょうしょ【行書】 漢字の書体の一。可読性があり、速写できる実用書体。美的表現が多彩にできるため、優れた古典が多くある。 
きれ【切】 古人が書いた筆跡の断簡。古筆の断簡を古筆切、歌集を書いた断簡を歌切などという。 
きんせきぶん【金石文】 紙以外のあらわれる文字や紋様をいう。多く金属や石材に残るためこの名がある。木竹簡、骨片、陶片の墨書資料も金石学で扱う。 
く 
ぐびき【具引】 具とは胡粉(ごふん)のことで、引染めの一種。料紙装飾としての技法の一つ。膠(にかわ)の溶液を布でこして微細な胡粉と混ぜ合わせ(顔料を入れて色付けすることもある)刷毛で引染めしたもの。具引紙という。胡粉、膠、水のバランスが難しい。 
くまのふで【熊野筆】 広島県安芸郡熊野町で生産される筆。江戸末期に、筆作りの技を奈良から持ち帰った井上弥介と音丸常太が百姓に教えたのが始まりで、書道の筆のほか画筆、刷毛も生産され現在日本の毛筆の90%以上が生産されている。 
け 
けいりん【形臨】 臨書の一。手本とする碑帖の文字の原型を忠実に写すことによって、その形態と用筆の技法を学ぶ。写実的臨書、客観的臨書とも呼ばれる。 
けっこう【結構】 一字における一点一画の組み合わせ、構造をいう。点画の長短、方向、交わり方、接し方などの条件を考え一字の形を構成する。主として楷書の字形について用いられる。行書、草書、仮名などには結体(けったい)と呼ばれることが多い。 
げんぽん【原本】 著者自身の手に成る本。草稿本、改稿本、清書本など原本といっても一様ではない。 
けんわん【懸腕】 腕法の一。腕とは手首をさし、本来、執筆の祭に手首を浮かせて書く方法であるが、一般的には腕を肘まで上げて書く懸肘法(けんちゅうほう)の意味で用いられることが多い。 
こ 
こうこつぶん【甲骨文】 亀の甲や獣骨に刻された、現存最古の中国文字。 
こうせい【向勢】 漢字の造型法で、縦画が外にふくらんで向きあうように書くこと。背勢に対する語。丸味があり、ゆったりとした、暖かみのある書風。顔真卿や鄭道昭の壊の広い字がそれである。 
こうぞ【楮】 著紙(ちょし)の原料となるクワ科の木。製紙原料としては3年〜15年くらいまでの木が適している。落葉低木で、かじ、かぞ、かず、かみそ、かみのき、などとも呼ばれている。 
こくいん【刻印】 石材などに印を刻すること。 
こくじ【刻字】 木材などの素材を生かし、造型性のある字を刻すること。篆刻から発達した書芸術の一つで、彫書、刻書とも呼ばれ、そのルーツは古い。 
こくせき【刻石】 自然石や磨いた石に文字や紋様を刻すること。また、泰山刻石、開通褒斜道刻石のように、刻されたものをいうときもある。 
ごたい【五体】 書道でいう、いわゆる書体の総称。三体とは、楷書、行書、草書。四体とは、隷書を加える。五体とは、それに篆書を加える。 
こひつ【古筆】 古い時代の筆跡。日本書道史では奈良時代から鎌倉時代までの仮名の優れた書をいう。中国のそれを古典。 
こもんじょ【古文書】 現在でいう、いわゆる手紙を文書(もんじょ)という。その手紙が目的を達成し、一定の時間が経過したとき、古文書という。多くは紙を用いて書いたが、木、金石に書かれたものもある。奈良時代の古文書の多くは正倉院に所蔵され、一万数千点に及ぶ。 
ごろく【語録】 語は言語、録は記録の意。高僧一代の言行を弟子たちが筆録し、まとめた書物で、特に禅僧に多く、「○○禅師語録」などと称す。転じて偉人などの言葉を収録したものも語録という。
 

 

さ 
さいじ【細字】 小さく書かれた字。経に代表されるような字をいう。 
さいじ【歳次】 としまわり。年のこと。文書(もんしょ)、記録などで年月日を記すとき、「天平二十年<748>歳次戊子二月二十五日」のように記す。「歳(とし)は戊子に次(やど)る」ともよむ。 
さきはく【裂箔】 料紙の装飾に用いる一つの技法。竹を削った刀(箔刀)を用いないで、箔挟(はくばさみ)でちぎった大形で不整形の金箔・銀箔をいう。  
さっしぼん【冊子本】 書物の装幀の一形式。中国をはじめ日本の奈良時代までは、ほとんどが巻子本(かんすぼん=巻物)一点ばりであったが、平安初期から冊子(そうし)の形式が工夫流行しはじめて以来、次第に冊子本がおおくなった。そのご冊子にもいくつかの異なった装幀が生まれ、本紙を糊で貼り重ねた粘葉装(でっちょうそう)、紙を何枚か重ねて二つ折りにし糸で綴った綴葉装(てっちょうそう)、本紙を二つ折りにして重ね表紙の上から紐で綴った仮綴本(かりとじぼん)がある。 
さばきふで【捌筆・散毛筆】 水筆がふのりで固めてあるのに対しての名称。一旦ふのりで固めた後金櫛ですきながらさばいててく。 
ざんかん【残巻】 一部分または大部分が散逸し、不完全な形で残った書物。狭義には一部分が残存する巻子本をいう。 
さんしきん【三色紙】 伝紀貫之筆「寸松庵色紙」 伝小野道風筆「継色紙」 伝藤原行成筆「升色紙」をいう。平安時代中期の代表的色紙ではあるが、もとから色紙でも、色紙形でもなく、もとはみな冊子本であった。しかし、三作品があまりに優れた筆跡であり、美しい散書の絶妙さを示しており、切断されて、色紙としての鑑賞の対象となったらしい。 
さんせき【三跡】 和風文化が興った平安時代中期能書、・小野道風(おののみちかぜ)・藤原佐理(ふじわらのすけまさ)・藤原行成(ふじわらのゆきなり)の三人のことをいう。和様書道の基礎を築いた道風の書法は佐理に受けつがれ、行成によって完成の域に達した。この時期を我が国の書の黄金時代と呼ぶことがある。またそれぞれの筆跡は、官名あるいは姓名の一字をとって・野跡(やせき)・佐跡(させき)・権跡(ごんせき)と呼ばれる。 
さんぴつ【三筆】唐風文化が横溢した平安時代初期の能書、・空海(くうかい)・嵯峨天皇(さがてんのう)・橘逸勢(たちばなのはやなり)をいう。奈良時代以来の伝統的な王羲之書法が根底であったが、入唐した空海、逸勢らがじかに接して将来した新書風、顔真卿などの新しい書の影響を受けて、日本書道空前、質的に高度な書が残された。 
ざんぽん【槧本】 槧は、文字を書くのに用いた大型の木札、手紙、文書、あるいは書籍の版木の意。槧本とは、版木で印刷された本のことである。版本(はんぼん)に同じ。 
し 
じうん【自運】 臨書に対する語で、自分の創意によって自由に制作すること。近年は「創作」と呼んでいる。古典の臨書をくり返して得た表現力が自運を向上させる近道である。 
しきし【色紙】 文字どおり色の紙。つまり染紙のこと。平安朝の歌集や歌合の清書、あるいは写経料紙など、当時の人々の鋭い色彩感覚の反映といえる。また和歌などを書く方形の料紙で、色紙形の始源をもつ。扉、屏風などの一部を区切って彩色、装飾を加えて、詩歌を書いたもの。やがて色紙形が分離独立、室町以降、下絵や金銀で飾られた方形の紙は、色紙として流行した。次第に大きさも規格化され現代の色紙となる。 
じくそう【軸装】 掛軸。書画の鑑賞や保存のために掛軸の形に表装すること。中国から伝来した表具法を文人(ぶんじん)表具、日本で生まれたものを大和(やまと)表具という。軸は一幅・対幅・三幅対・四幅対・六幅対などもある。また茶室につかう小型の茶掛もある。 
じくばり【字配り】 限られた紙面の中で一字一字の位置のとり方のこと。文字の形を生かして調和をとる。字の多い時は各字、各行の流れを大切に、少字数の書は1画1画の調和を大切にするとよい。 
じたい【字体】 文字の基本的形体で、各時代に正体(本字)は変化するが、碑や法帖で正しい字形を知らなければ誤字を書く。異体字、略字、俗字、筆写体、印刷体、教科書体、新字体、旧字体、などの字体がある。 
したえ【下絵】 ものを書くべき料紙や絹、綾、色紙などに描かれた絵。あくまでも書をひきたてるための装飾であり、その書の内容に適合することが必要。絵の上に書を書き、書の下に絵があることからこう呼ぶ。下書きの絵という意味ではない。 
したがき【下書】 文字の筆写に際し、その草稿として書いたもの。案文(あんもん)土代(どだい)ともいう。 
しはいもんじょ【紙背文書】 一度使った紙の裏に文字を書いた場合、後に書かれたものが主体となり、始めに書かれたものはこう呼ばれる。裏文書(うらもんじょ)ともいう。 
しゃきょう【写経】 経文を書き写すこと。経文を広く普及させるために行われた。写された経典そのものも写経と呼ばれる。 
しゃほん【写本】 書写された本。抄写本(しょうしゃほん)、鈔本(しょうほん)などともいう。書写年代の古い室町末期までのものを古写本、それ以後のものを新写本と呼ぶ。編者自身が書写したものを自筆本、著者以外の名筆家によるものを手写本、という。天皇の書写したものを心宸筆本(しんひつぼん)、皇族のそれを御筆本(ぎょひつぼん)他人の編者を直接・間接に写した本を伝写本という。二人以上で分担書写したものが寄合書(よりあいしょ)、一人で書いたものが一筆書。写本を低本(ていほん=親本)としたものが転写本、底本を模したものが模写本、底本を直接透写(すきうつし)にしたものが影写本、写本を見ながら書体、字配り、行数などを似せて書いた本が臨写本・見取本という。 
しゅいん【朱印】 朱色で捺印された印。また花押にかえて朱印の押された文書(もんじょ)のうち、特に戦国時代から江戸時代末にかけてのものをいう。 
しゅうひつ【収筆】 点画の終わりの部分を言い、しめ、はね、払いなどがある。次の画、次の字を書き易くするために筆毛をまとめる用筆法。 
しゅぶん【朱文】 篆刻のとき使用する語で、いわゆる陽刻(浮き彫り)の印を押したとき、文字の部分が印泥で朱となる印影をこのように呼ぶ。 
じゅぼくどう【入木道】 入木(文字を書くこと)。書道のこと。王羲ぎ之が板の上に墨黒々と字を書いたところ、あと、いくら削っても墨が浸み込んで、字が消えなかった、という故事がその語源。平安末期の宮廷貴族の間では、書道・手習いの観念として定着していたことがわかる。 
じゅんぴつ【潤筆】 書道の場合、渇筆に対する語で、筆に墨をよく含ませた時は潤いのある表現ができる。 
じょう【帖】 もとは木簡や竹簡に対して布切れに書いたものの意味であつたが帖本、折り本、といった本の装幀を言う。法帖の略でもある。固有名詞の下に付けて使うこともある。(秋萩帖・風信帖など)また、半紙20枚を1帖という。 
しょうえんぼく【松煙墨】 松煙は墨の異名でもある。松の樹脂のすすを原料として造られた墨。 
しょうじすうしょ 【少字数書】 漢詩などの多字数を素材とする書に対する言葉で、造型性を重視、1〜2字の中に墨色効果を生かした書をさす。 
しょうそく【消息】 手紙のこと。「かな」が主体の手紙に限って消息といい、これに対し漢字の手紙は書状の名で統一されている。 
じょうだいよう【上代様】 日本の書道は王羲之流で始まる。やがて平安中期から、日本人独自の字が生まれる。字形が整い、とりわけ「かな」は豊潤である。鎌倉時代以降の御家流の和様体に対して、平安時代盛期の和様体を特ににこう呼ぶ。 
しょうてん【小篆】 秦の始皇帝が天下を統一し、乱れていた各国のそれぞれの文字を整理統一した。この文字を秦篆あるいは小篆という。篆刻、印鑑などに使われている縦長の文字。 
じょうふく【条幅】 半紙は文字の練習に用いるが、条幅は作品制作の形式で、全紙(136,4×69,7cm)、半切(全紙の半分)、聯(れん 全紙の縦4分の1)、聯落(れんおち 全紙の縦4分の3)、がある。 
しょうほう【章法】 文章の章の組立から来た語で、書作品の文字、文字群をうまくおさめる方法を言う。文字の大小、線の太細、強弱、墨の濃淡や潤渇の変化などをもって、臨機応変に余白を生かすことを言う。 
しょたい【書体】 古来、明確な規定はないに等しい。通説では、漢字の古文、大篆、小篆、隷書、草書、行書、楷書、飛白と、日本のかな(平仮名、片仮名)がある。楷、行、草、隷、篆の書体を5体と呼ぶ。 
しょふう【書風】 文字の書きぶりを言い、同じ書体でも筆者の美学、時代性、で異なる。個性ある師の書風の模倣に終始することは芸術活動とは言えない。古典、古筆などの名跡を会得し、個人の個性を出すことによりその人の書風が生まれる。 
しょほう【書法】 中国では日本で言う書道のことを書法と呼んでいる。一般的には文字の書き方で、書法には執筆法、腕法、結構法、用筆法、章法、用墨法などの方法があり、こうした内容の研究とともに、精神の高さが求められる。 
しょろん【書論】 書についての学問すべてのこと、古来、書体に関すること(書体論)書の技法のこと(書法)書の考証的研究(書学)書の優劣上下(書品)などが論じられる。 
しんかん【宸翰】 天皇自筆の筆跡のこと。天皇の消息(書状)をはじめ、日記、歌切、写経、懐紙、色紙、短冊などに及ぶが、狭義には消息のみを指す。 
しんせき 【真跡・真蹟】 真筆、真迹と同じで、まちがいなくその人が書いた肉筆(筆跡)。わが国における最古の真跡は、聖徳太子の「法華義疏」である。 
しんぴつ 【宸筆】 天皇自筆である筆跡のこと。(宸翰)と同じ。  
す 
すいてき【水滴】 硯に水を注ぐ容器。水孔(注ぎ口)が二つ(水を入れる口と出す口)あり、入れる口を指でふさぐと水が出ないので指で適当に調節して水を注ぐ。古い物は骨董品として珍重される逸品も多い。 
すきうつし【透写】 模写の技法で、敷写(しきうつし)ともいう。原本の上に紙を置き、下の字形を透かして写すこと。 
すきぞめ【漉染】 染め紙を作るための技法。二とおりあり、漉槽の中に染液を入れて染まったものを漉くのと、紙の繊維を染めたものを白紙の上に流して漉くのとがある。「関戸本古今集切」の緑の部分などは後者の方法である。 
すなご【砂子】 料紙の装飾に用いる一つの技法。竹筒の一端に目の細かい網をはり、その中に金箔又は銀箔(もみ箔)を入れ、礬水(どうさ)をひいた料紙の上に振りかける。不整形の細かな形になり、あたかも砂をまいたように見えるところから砂子という。 
すみつぎ【墨継ぎ】 書くにつれ墨量が少なくなり、だんだんとかすれてくる。そのとき、さらに墨を筆に含ませて書くこと。墨量、濃淡とともに墨継ぎの位置は、紙面に明暗、強弱、立体感などの変化を表現する手法である。 
すみながし【墨流し】 紙の装飾技法の一つで、墨流し染めともいい、水面に流した墨の描く模様を紙に写し取る方法。「西本願寺本三十六人家集」などにみられる。 
せ 
せいしょ【清書】 草稿などを、新たに丁寧に書き直すこと。また、そのもの。浄書(じょうしょ)に同じ。 
せきとく【尺牘とく】 手紙のこと。尺は一尺、牘は文字を書いた木や竹の札のことで、中国の漢代に一尺ほどの木の札に手紙を書いたことによる。日本では、主として漢文を用いた中国式のものをいう。 
ぜんえいしょ【前衛書】第二次世界大戦後、旧来の書法や造形にとらわれず、創造性を強く押し出す芸術運動がおこった。西洋の芸術論も踏まえ、文字の概念を超えたこの運動は、海外にも積極的に活動の場を求めた。墨象という言い方も、しばしばされる。 
ぜんし【全紙】 画仙紙一枚全判の大きさをいう。半折(はんせつ)、聯落(れんおち)、聯(れん)などの寸法の標準になっている。 
せんじぼん【千字本】「天地玄黄」にはじまり「焉哉乎也」で終わる4言250句千字の異なる文字で成る。梁の武帝は王子たちに書を学ばせるため、殷鉄石(いんてつせき)に命じて王羲之(おうぎし)の筆跡の中から重複しない文字1000字を模写させ、さらに周興嗣(しゅうこうじ)にその1000字を順序立てて韻文(いんぶん)にするように命じたところ、周は一夜にしてこれを完成した、という。 
せんそう【線装】 冊子本の装幀様式の中、糸で綴じる方法。5枚ぐらいずつ重ねた紙を2つ折りにし、その幾束かを重ねて糸でかがる大和綴(やまととじ)は、鎌倉時代以降、それまでの粘葉装(でっちょうそう)にかわって広く用いられた。室町時代を過ぎると、袋綴じがあらわれる。これは、紙を1枚づつ半分に折って重ね、折り目でない側を糸で綴じる方法である。その後、一般的な冊子は大半が袋綴じになった。 
そ 
そうがな【草がな】 かな文字は学問的に、真がな、草がな、平がな、片かなに分類される。草がなは草のかな、草の手、草といい、平安初期から漢字の草書を用いてかなを表記した。楷書の真がなと違い、造形も豊かで早く書けるため、かなの簡略化は一層進んだ。これがさらに単純化されたのが女手(平がな)である。 
そうこうてんぼく【双鉤填墨】 複製品を作る技術の一種。真跡の上に薄い紙を置き、文字の輪郭を写しとり(籠字)、その中に裏から墨を塗り真跡と見まごうばかりに作る技術。御物の「喪乱帖(そうらんじょう)」は代表作である。 
そうし【冊子、策子、草子、双紙、草紙】 書物、本その物を指すが、一説に冊子(さっし)の音便とするように、巻子本でない本の装幀をいう。 
そうしょ【草書】 漢字の書体の一つ。漢の初め頃に生まれた書体で隷書の点画を省き、波勢を消滅し、簡略化し、さらに速書したもの。王羲之(おうぎし)らに至り頂点に達した。この書体は、わが国のかなの書体にも用いられ、草のかなとして一世を風靡した。「秋萩帖」はその代表作である。 
ぞうしょいん【蔵書印】書籍や文書などに、その所蔵者が自己の所有であることを明確にするために押す印。社寺や個人の名を記したもの、堂号、詩句など種々の印が用いられる。 
ぞうぞうき【造象記】 造象の由来を記した金石文。北魏の龍門造象記は石に刻してある。金銅仏の金文とともに当時の所有知る貴重な遺品である。右図は 龍門四品と称し最佳と言われている。 
そうひつ【送筆】 紙面に筆を下ろし、筆を起こしてから線が始まる。この時から収筆に至るまでの筆の送り方、すなわち運筆法を言う。送筆の遅速、緩急、抑揚、強弱などの変化が書の線の生命である。 
ぞうほ【蔵鋒】 用筆法の一種で、鋒とは筆の穂先を意味し、露鋒に対する語。起筆の時、筆の穂先を包みかくす筆使いを言う。すなわちその用筆法は逆入して穂先を包み込むようにして起筆し、筆を真直ぐに立てて送筆する(隷書の書き方)。 
そくひつ【側筆】用筆法の一つで、筆を傾けて書くこと。この方法は書線の一辺だけに穂先が通るため、別の一辺は穂の腹がこすってささくれる。点画を角ばらせて鋭さを出しやすいが、扁平な線になる。一般的にはこの用筆法は死鋒と言われ好まれない。 
そし【素紙】 漉き上げたままの紙で、何の加工もしていない紙。 
そつい【率意】 なにも意図しないで何気なく書かれたものを率意の書と言う。芸術作品は意図をもって制作するが、書道史上の名品は必ずしもあらかじめ用意して揮毫したものより、作品に傑作が多い。「蘭亭序」などはその例であり、真の実力が発揮されている。
 

 

た 
だいてん【大篆】 周の宣王(西紀前827)のとき、史官であった史籀(しちゅう)が、これまでの古文を変じて大篆十五編を著したという。世にこれを籀文(ちゅうぶん)という。大篆とは秦の小篆に対した名称である。「石鼓文(せっこぶん)」がその典型である。 
たいひつ【退筆】 穂先がちびて使用できなくなった筆のこと。 
たくほん【拓本】 金属、石、木、煉瓦、などに刻された文字、または文様を、その上にじかに紙を押しあてて原型を墨で写し取った紙。拓本採取の方法は、湿拓と乾拓がある。 
たとうがみ【畳紙】 「たたんかみ」「ふところ紙」「帖紙」「会紙」などといわれ、懐中に折り畳んで入れておき、鼻紙、歌などを書くのに用いたり、贈答用に品物を包んで差し出すのに用いた。現在では半懐紙判、色紙、短冊の大きさに納め得るような台紙を添えた包み紙があり、また和服の包装用紙にもある。 
だびし【荼毘紙】 奈良時代の写経料紙。麻紙に白檀などの香木の粉末を漉き込み、表面に胡粉を引いた特殊なもの。遺品では、「大聖武(おおじょうむ)」「阿弥陀院切(あみだいんぎれ)」など、東大寺や正倉院に伝来したものに多く、天平中期に中国から渡来したものと思われる。 
ためがき【為書】 書画の落款に、依頼者の名前を書くこと。また、その書き添えた字句をいう。はじめに「為」と書くことから為書と称す。「為老友大観子雅鑑木堂書」(犬飼木堂)、「為伊藤博文君属実美書」(三条実美)の如く書くが、書式は一様でない。 
ためずき【溜漉】 紙漉の方法で、パルプ状になった紙料を水とともに流槽に入れて十分かき混ぜ、竹や茅で作った「簀(す)」をはめた漉桁で槽中の紙料をすくって平らに持ち上げ、前後左右にゆっくり動かして繊維を縦横にからみあわせ、水分を取り紙を作る。 
だんかん【断簡】 巻物、冊子などに書かれた詩歌や物語、また、絵巻物、経典、日記などの一部が切断されて残ったものをいう。古筆に「切」の呼称がつくことが多い。名跡の断簡を古筆切という。 
たんこう【単鉤】 執筆法の一つ。親指と人差し指で筆を持つ持ち方を単鉤法。これに対して、親指と人差し指、中指の三指で持つ持ち方を双鉤(そうこう)法という。 
たんざく【短冊】 詩歌を書く料紙。短冊の書式は、縦三分の一、又は四分の一をあけて染書し、上部の余白に題を書く。寸法は縦約36p、横約6p。 
たんたい【単体】 各文字をつなげず、単独に離して書くこと。連綿に対していう。 
だんぴ【断碑】 何らかの事故で割れた石碑。我が国の「宇治橋断碑」や王羲之の行書を集字してできた「興福寺断碑」が有名である。 
たんぽう【短鋒】 穂の短い筆。その丈が太さの割に短いもの。丈と直径の比率はメーカーによって違うが、おおむね三倍前後以下の筆を短鋒という。中鋒、長鋒に対していう。 
ち 
ちくし【竹紙】 竹を原料として漉かれた紙をいう。 
ちゃがけ【茶掛】 茶室の床の間に掛ける軸物を言う。千利休は掛け物を第一の道具とし、墨跡が最もよいとした。季節にあい、外見、内容が茶の精神にふさわしいものが喜ばれる。 
ちゆうそん【虫損】 文書などが虫食いによって受ける損害。これを防ぐために黄蘗染め(きはだぞめ=ミカン科の黄蘗を染料として紙を染める技法。このほかに黄蘗に含まれている成分が虫害を防ぐ効果がある)の処理や製本の糊の改良、虫干しなどをおこなっている。 
ちゅうほ【中鋒】 1)穂の長さが標準的な筆。一般的に穂の丈と直径との比率が四倍前後のものをいう。短鋒、長鋒に対していう。2)用筆法の一つで、穂先が常に筆画の中央を通るように書くこと。3)これも用筆法の一つで、筆を正しく持ち、紙面に対し筆毛を垂直に保って運筆する(直筆)と、穂の墨は下りやすく、線は重厚な趣を出すことができるという。 
ちゅうほん【中本】 美濃本を半分の大きさにした本のこと。美濃本は、美濃紙(三椏を原料とし、28p×40p大の紙)を縦に二つ折りした大きさの本をいう。 
ちょうせき【鳥跡】 文字、筆跡の異称。中国古代、黄帝のとき、鳥の足跡を見てはじめて文字を作ることを思いついたという故事に由来する。 
ちょうほう【長鋒】 穂の長い筆。鋒は筆の穂を意味し、その丈が太さの割に長いもの。その比率がおおむね五倍以上のもの。中鋒、短鋒に対していう。 
ちょくせんしゅう【勅撰集】 勅撰和歌集の略で、天皇もしくは上皇の宣旨(せんじ=天皇の命令書)・院宣(いんぜん=上皇の意をうけて、奉じて発給する文書)によって選ばれた歌集のこと。平安時代初期の勅撰漢詩集にならって選ばれた醍醐天皇による「古今和歌集」に始まるとされている。その後、後撰(ごせん)、拾遺(しゅうい)、後拾遺、金葉(きんよう)、詞花(しか)、千載(せんさい)、新古今、新勅撰、続後撰(しょくごせん)、続古今、続拾遺、新後撰、玉葉(ぎょくよう)続千載、続後拾遺、風雅(ふうが)、新千載、新拾遺、新後拾遺、と続き、室町時代中期に完成した後花園天皇の「新続古今和歌集」がとどめとなった。古今、後撰、拾遺の三集を三大集、古今から新古今までを八代集、新勅撰から新続古今までを十三代集と呼び、八代集と十三代集を合わせて二十一代集と呼ぶことが多い。 
ちょくひつ【直筆】 用筆法の一つで、筆を真直ぐにして書くこと。則筆に対していう。 
ちょし【楮紙】 楮(こうぞ)を原料とした紙で、楮は栽培が容易で、日本各地で栽培された。質は雁皮紙(がんぴし)に比べ美しくはないが、通気性があり、伸縮性がなく強靱なところから、古くは写経用紙、中世以降は奉書紙、障子紙、傘紙、帳簿用紙など、広く日用紙として全国的に生産され、使用範囲も広い。 
ちらしがき【散らし書き】 日本のかな書道の最も特徴的な書き方であるが、特別な決まりはなく、行頭・行脚・行間の変化をつけ、余白の美を最大限に生かした書き方。 
ちんわん【枕腕】 腕法の一種で、腕とは手首をいい、左手の手のひらを平らにして紙の上に伏せ、その背を枕にして、右手の手首を載せて書く方法で細字を書くのに適している。右手首を枕に強く押しつけると手首の動きを殺すので軽く載せてあるという状態を保つことが肝心である。なお鉛筆書きのように直接右手首を紙に着けて書く方法を着腕(ちゃくわん)という。 
つ 
ついふく【対幅】 双幅とも。軸仕立ての幅が二幅で一対となったもの。書の場合、対句をなすものが多い。絵画においても、相互に関連のある画題が選ばれるのが普通。二幅とも同じ表装をほどこす。三幅対、四幅対、などもある。 
つぎがみ【継紙】 色々な色に染めた紙を継ぎ、一枚の料紙にしたもの。切り継ぎ=刃物で切って継ぐ。破り継ぎ=破ったように切って継ぐ。重ね継ぎ=二種以上の紙を切り口をずらせて継ぐ。などの方法がある。「正倉院文書」の天平15年<743>に初見する。「本願寺本36人家集」が数少ない例である。 
つけぞめ【浸染】 染め紙を作る技法。奈良時代の写経料紙は、黄檗(きはだ)刈安(かりやす)橡(つるばみ)等の煮汁の中に紙を浸して染め上げる。このような植物染料による染め方は、現在では草木染(そうもくぞめ)とよばれている。濃い色に染めるときは、回を重ねて段々に濃くしていく。仕上げを美しくするために、表面に刷毛で更に色を引き、礬水(どうさ)を引く。墨付きをよくするために、卵白、胡粉、白土の類を用いることもある。「桂本万葉集」「関戸本古今集切」「継色紙」などがある。 
て 
ていほん【底本】 「そこほん」とも。伝本の書写、比較校合、あるいは出版など、作品の本文にかかわる作業をする場合に、様々な伝本の中から一つだけ選んで、作業の基礎におき、拠りどころとする本文。一般には、最も流布している本文か、最も原本に近いと判断される本文を選ぶ。 
ていわん【提腕】 腕法の一種。書写の際、肘を机に軽く載せ、手首を浮かして書く方法。懸腕(けんわん)と枕腕(ちんわん)との中間にあって両者の長所を兼ねそなえ、中字、小字を書くのに適す。 
てかがみ【手鏡】 ゜「手」は筆跡、「鏡」は顔を映す鏡、あるいは模範の意味。つまり、手鏡とは、あたかも鏡を開くように手軽に鑑賞できる、厚手の紙で作られた折帖に古人のすぐれた筆跡を貼り込んだもの。古筆家が鑑定の基準とした古筆の断簡の作品集。現在国宝に指定されている「翰墨城(かんぼくじょう)」「藻塩草(もしおぐさ)」「見ぬ世の友」「大手鏡(おおてかがみ)」はその代表的なものである。 
てかき【手書】 文字を上手に書く人。能書家、また書記、右筆(ゆうひつ)のこと。書の最も優れた人を、奈良時代では手師(てし)といい、平安時代では能書(のうしょ)または手書とよんだ。 
てっちょうそう【綴葉装】 我が国で行われた装幀の一種。列帖装(れつちょうそう)とも。料紙を数枚(3〜8枚程度)重ね合わせて半折とした括りを作り、この括りを数括り重ねて糸綴りで一冊とする。奈良時代の末から鎌倉時代にかけて流行し、厚手の鳥の子紙で両面書写が可能な我が国料紙の存在によって考案された装幀。「元永本古今集」「更級日記」などが代表的装幀である。 
でっちょうそう【粘葉装】 古筆の綴方法の一つ。一枚ごとに二つ折りにして積み重ね、一枚ずつ折り目近くを糊で貼り合わせたもの。従って一紙捲るごとに、折り目まで広く開く見開きと、糊代の分だけ幅が狭い見開きとが交互になる。この重ね合わせた本紙の外側に表紙を付ける。平安時代の冊子本の大半はこの方法による。「継色紙」「本願寺本万葉集」「粘葉本和漢朗詠集「筋切」などがある。 
でん【伝】 伝称筆者であることを表すために人名に冠する文字。「…と 言い伝えられている」の意。江戸時代、古筆鑑定家が極めた筆者名は、歴史上、あるいは文学上著名な人物に仮託したもので、そのほとんどが全く根拠のないものである。 
てんかく【点画】 文字の構成要素である点と線。幾何学でいう点や線とは異なり、独特の形と骨法を持ち、点は画が凝縮したもの、画は点が拡大変化したものである。書体によって異なるが、古来、楷書について説明されることが多く、点、横画、縦画、左払い、右払い、撥ね、転折、湾曲などの基本点画に分類される。永字八法はその最も著名な説明である。 
てんこく【篆刻】 石、木、牙、角、銅などの印材に、篆書体を用いて印を刻すこと。姓名印、雅号印、引首印、収蔵印、住所印、など。 
てんしょ【篆書】 漢字の書体の一つ。大篆(だいてん)と小篆(しょうてん)の二体を総称して篆書という。大篆の方が古く、「石鼓文(せっこぶん)」はその代表例。小篆は、秦篆(しんてん)ともいい、大篆を略体化したもので、「泰山刻石(たいざんこくせき)」はその代表例。 
てんせつ【転折】 広義には基本点画のうちの筆鋒を屈折転換する筆画を総称し、狭義にはそのうちの右肩の折れ曲がる筆画「┓」をいう。 
てんどく【転読】 広義には経典を読むこと。普通は、「大般若経」(600巻)のような大部分の経典全体を通読せず、経題、訳者名、経の初、中、終の要所数行を略読し、全体を読むのにかえることをいう。経典全部を丁寧に読む真読(しんどく)に対する語。 
てんぴょうひつ【天平筆】 奈良正倉院に残る天平時代の筆が代表的なもの。それらはいずれも獣毛が失われているが、雀頭筆か、短鋒としても短めのものが多い。 
とうけん【陶硯】 陶土を素材に焼造された硯。中国では漢代から制作されはじめ、六朝から隋・唐まで主流をなした。我が国では、奈良・平安時代が中心であり、平安時代の末期には、瓦硯(がけん)といわれ、石硯に対比させていた。 
 
どうさ【礬水】 明礬水(みょうばんすい)。膠(にかわ)を溶かした液に明礬を入れたもの。この液を和紙に塗る(礬水を引くという)と、墨や絵の具のにじみをおさえ、発色をよくする効果がある。 
とくひつ【禿筆】 使い古して穂先のすり切れてしまった筆。ちびた筆をいう。自由に書けないところから、転じて、自分の文章ゃ筆跡の謙譲語としてもちいられね。「禿筆を駆る」などという言葉がその例。 
とこのま【床の間】 座敷の一隅の床を一段高くし、正面の壁に書画をかけ、床板の上に三具足(みつぐそく=香炉・花瓶・燭台)等をおくところ。 
とびくも【飛雲】 鳥の子(とりのこ)の料紙に、藍と紫の繊維を、あたかも空に浮遊する雲のように散らしたもの。飛雲をほどこした紙を飛雲紙(とびくもがみ)という。必ず藍の繊維を先に、その上に重ねて紫の繊維を漉き込む。 
とりのこ【鳥の子】 雁皮(がんぴ)を主原料として漉いた紙。奈良時代には斐紙(ひし)、平安時代には厚様(あつよう)といった。卵黄の色に似ているのでこう呼ぶ。 
とんしゅ【頓首】 本義は「周礼」にいう九拝の一で、頭で地をたたくような敬礼であるが、転じて書簡、上書などの書止(かきとめ)文言に用い、相手に対する敬意を示す言辞として多用されている。
 

 

 
ながしずき【流漉】 溜漉(ためすき)から流漉への改良は、紙の質と生産能率の向上を促し、成紙の厚さの範囲をひろげて用途を拡大し、日本独特の製紙法を完成させた。 この法の特色はねり剤(黄蜀葵とろろあおい)などを紙料に混入させることにある。繊維を離散させパルプ状になった紙料を水槽に入れてよくかき混ぜ、ねり剤を混和させて漉き桁に紙料を汲み上げ、繊維を平均に簀面全体にゆきわたらせ、何回か紙料を汲み上げ、前後左右にゆり動かし水の漏下とともに繊維を平均にからみあわせ、残った水液を反対側に流して不純物を流し去る紙漉の法である。 
なちいし【那智石】 三重県熊野市神川町神の上に産出する石。有名な那智の滝にちなんでねこの名がある。那智黒とも呼ばれ、碁の黒石になる石である。硯石としては、材質が堅すぎるため、磨墨が悪く、鋒鋩(ほうぼう)も弱い。 
なにわづ【難波津】 手習詞(てならいことば)。平安時代の貴族が手習の初歩の学習用手本として使った、「なにはづ」ではじまる一首「なにはづにさくやこのはな冬ごもりいまははるべとさくやこの花」のこと。この歌は法隆寺五重塔の初層天井組木に落書きされていたものである。 
に 
におう【二王】 書聖と仰がれた王羲之(おうぎし)とその七子王献之(おうけんし)の父子を言う。羲献(ぎけん)とも呼ぶ。 
ぬ 
ぬのめうち【布目打】 仕上げた料紙に少し湿気をあたえ、紗、麻などをはさんでバレンで強くすりつけ、布目を料紙にうつしとる方法。「寸松庵色紙」などの中国製唐紙に多く見られる。 
 
のうしょ【能書】 能の字義に、才芸がすぐれている意味がある。能筆とも言う。専門的に書の訓練をした人のすぐれた筆跡を言う。技術的にも人間的にも立派なうえに、情趣のある書のこと。 
のげ【野毛】 1)料紙の加工に使用される截金(きりがね=金箔・銀箔を細い線状に切ったもの)の一種。長さ1pぐらい、幅1o内外の大きさに箔を切ったもので料紙の上に撒布する。高度な技術を必要とする。2)筆の命毛(いのちげ)のこと。
 

 

は 
はいせい【背勢】 向勢に対する語。楷書を書いたとき、二本の縦画が背き合う(中央部を引きしめて上下に開いた形)ように書く造型法。理知的で引きしまった、厳しい感じが出る。欧陽詢の楷書が代表的な作品である。 
はいりん【背臨】 臨書の一形態であり、原本を見ないで臨書することを言う。古典の習熟度を知ることができる。鮮やかに古典が浮かぶほど臨書を繰り返してつちかった力量が、創作へとつながる。 
はく【箔】 金、銀などの金属をたたいて平らに延ばし、紙よりも薄くしたもの。一枚10p内外の正方形。一辺の長さを箔足いう。これを縦横に細かく切り刻み、あるいは揉み砕いたものが、截金(きりかね)、切箔(きりはく)、揉箔(もみはく)、砂子(すなご)、野毛(のげ)などとなる。 
はくまし【白麻紙】 麻紙の一種。正倉院その他に残る。隋、唐のころのものと推定される紙の一つで、正倉院の聖武天皇の震翰「雑集」は、「東大寺献物帳」には白麻紙と記してある。上質の白色の料紙で、表面は平滑で光沢があり、象牙か玉のような堅い物で磨かれたらしい形跡がある。 
ばくまつのさんぴつ【幕末三筆】 江戸時代末期に活躍した唐様(からよう)の能書のうち、特に優れた、巻菱湖(まきりょうこ)・貫名菘翁(ぬきなすうおう)・市河米庵(いちかわべいあん)の三人を指す。平安時代の三筆に倣って称されたもの。 
はこがき【箱書】 書画を収める箱に、題・年月日を書き、署名・捺印すること。原則的に筆者本人が書く。 
はたい【破体】 正しくない字体。破体字(略字・俗書)破体書(楷法に合わない俗書)、行・草の中間の書体等の意をもつが、一つの作品を楷・行・草の各体で書くことをいう。右図顔真卿の「裴将軍詩」(はいしょうぐんし)は破体の傑作と言われている。 
はたく【波磔】 波勢とも言い、波は波法の右払いをいう。なお 森・食などの右払いが二画以上ある字は、一字一波あるいは減捺(げんなつ)といって、最も重要な一画のみを右払いに作るのが原則である。 
ばつ【跋】 書物の終わりに書く文章。あとがき。跋文(ばつぶん)とも。本文の終わりに、著述のいきさつや感想などを記した部分。内容的には序文と変わりなく、そのどちらを選ぶかは著者次第であって特に意味はない。 
はなちがき【放書】 文字を続けて書かないで、一字ずつ切り離して書くこと。 
はんぎ【版木】 木版印刷用の摺り板。また、文字や絵、図などを彫った板。我が国では桜や朴(ほお)、黄楊(つげ)などの板を用いる。 
はんし【半紙】 今日最も多く作られ使われている、代表的な書道の練習用の紙。近頃は三椏を純粋に使用した紙は少なく、パルプ等の混入物の多い機械漉の半紙が主流である。 
はんせつ【半切・半折】 全紙を半分に切った紙を言う。 
はんぽん【版本】 木版本のこと。版木を彫って印刷した本。摺本(すりほん)とも呼ばれる。版をおこした場所や時代から、春日版・五山版・宋版などの名称がある。 
はんもつ【判物】 花押を判といい、中世では守護・大名が花押を据えて、発給する直状形式の文書(もんじょ)を、近世では将軍・大名よりのそれをいう。土地の給付、特権の付与などに用い、印章を押した文書よりも丁重とされた。 
ひ 
ひ【碑】 文章、事跡を刻んで建てすえた石。石碑としては、中国後漢時代に生まれ流行した。碑は、碑身と跌石(ふせき=台になる部分)から成り碑身の上部(碑首)に題字を刻む。この形式を整えたものは、中国の碑に多く、我が国の石碑は、単なる方形の立石が主となっている。これを碣(けつ)ともよぶ。右図は、群馬県吉井町にある多胡碑(たこのひ)当地に多胡郡を設置した記事。 
ひきぞめ【引染】 染め紙を作るための技法。まず、礬水(どうさ)を引き、乾燥させてから染液を刷毛につけて紙の表面に引く。薄い色を何度も重ねると美しいものができる。厚手の紙に染料を引く場合は胡粉(ごふん)に顔料を混ぜる。唐紙(唐紙)、蝋箋(ろうせん)はこの引染の方法による。 
ひし【斐紙】 雁皮(がんぴ)を原料とした紙で、奈良時代には原料を斐紙麻といった。厚手のものを厚斐紙・厚様・鳥の子といい、色染めや、金銀箔、金銀泥の下絵などで装飾して、写経、物語、和歌など調度的なものを書写した。薄手のものは薄斐紙・薄様・雁皮紙とよばれる。紙質はともに光沢があり、強靱で薄手のものは半透明で絹のように優美で、虫害にも高い気温にも耐え、変質しないところから「紙の王様」と呼ばれる。 
ひつい【筆意】 書は筆意の芸術である。運筆の趣が、筆を通して自然に表れるものである。単なる模倣の書には筆意のない書が多く、美的価値は乏しい。レタリングと書・ハンコと篆刻の違いが筆意である。 
ひつあつ【筆圧】 筆の穂先にかかる圧力。筆者の呼吸が筆を通して線として表れる。筆管の握りを強弱変化させて、微妙に圧力を加えると書の線は生気を帯び、余白を輝かす。間違えた筆圧は側筆を生み、書は低俗になる。 
ひっか【筆架】 筆かけ。筆格(ひっかく)・筆床(ひっしょう)・厳密には筆を吊り下げておくものを筆架という。筆を寝かせておくときの枕を筆床という。 
ひっせき【筆跡】 筆の跡。すなわち筆で書かれた文字。書そのもののこと。文字が意志の伝達、事柄の記録しいう実用を満たした上、造形芸術の一分野として鑑賞の対象にまで高められたのは、中国と我が国のみである。筆者と時代によって際だった筆跡の個性が映し出される。 
ひっせん【筆洗】 書画の筆を洗うのに用いる小さな鉢。筆池とも言う。 
ひっとう【筆筒】 筆の穂先を上にして立てておく筒。筆立てのことであるが、筆立てには一度使用した筆を洗わずにそのまま下向きに建てておく円錐形の器具を言うことがある。 
ひっぽう【筆鋒】 筆の部分の名称で、筆の穂先・筆端・筆尖(ひっせん)のこと。竹の部分が筆管、毛のつけねが腰、中央部が腹、腹と穂先の間をのどなどという。筆は鋒の使い方が命で、のどや腹も使うが、腰がいかに働くかが用筆法の研究で大切なことである。 
ひっぽう【筆法】 文字、点画をかくための筆の使い方。そのなかで用筆法は運筆(筆の運び方)・用鋒(穂の使い方)・墨(濃淡など用い方)から成り、執筆法は手(指、腕、掌の使い方)・肘(ひじの使い方)・身(姿勢のとり方)より成る。 
ひっみやく【筆脈】 筆意のつながり、脈絡を言う。文字は筆順という約束事で成立している。形連(点画の形がつながる)と意連(意、こころのつながり)を言い、各自それぞれのリズムがあり、個性ある造形を生んでいる。 
ひはく【飛白】 漢字の書体の一種。雑体書(篆、隷、楷、行、草の各書体を混合させたょうな筆法で珍奇な字形を示す)の中でも刷毛書華やかな表現性において随一のものである。日本で飛白を最も活用したのは空海で「真言七祖像賛並行状文」「二荒山碑銘」があり、中国では唐太宗の「晋祠銘」などがある。 
ひょうぐ【表具】 表装と同じ意味に用いられる事が多いが、元来は掛軸の表装を言う。 
ひょうそう【表装】 書画を、巻子本、冊子本、掛軸、額など種々の鑑賞形態に仕立てる工芸の技法。 
ひらがな【平仮名】 漢字を一字一音にあてた万葉仮名(まんようがな 真仮名まがな)を字母(字源)とし、その草書体を更に書きくずして簡素化した字。古くは女手(おんなで)の名に呼んだが、中世末ころから、平仮名の名前が用いられるようになった。同音の仮名は、字母の相異や、くずし方の度合いにより、複数の形があったが、明治三十三年(1900年)の「小学校令施行規則」(第16条)により一音一字と定められ、平仮名は48文字と確定した。これ以外の文字は「草がな」と呼ばれ日常ではほとんど使用しない。ただし、書道の作品においては、現在も使用されている。 
ふ 
ふうたい【風帯】 掛軸の天の幅を三等分した位置に、天の高さだけ上から垂らす二本の細長い布。中国では、驚燕、払燕とも呼ぶ。もともと、燕に汚されるのを防ぐために考案したものという。 
ふぎょうほう【俯仰法】 筆を運ぶ方に筆管を倒して書く用筆法で、右に進むとき掌は仰ぎ、左に戻るとき掌が俯すのでこう言う。手首を使う技巧になり、用筆も不自然なため、初心者にはすすめられない。 
ふでづか【筆塚】 使い古した筆の供養のために築いた塚。昔は土中に埋めて土を盛り上げたものらしいが、昨今では焼却する方が多い。祝詞、経などをあげて筆供養をする。 
ぶんちん【文鎮】 紙や書物などが散らないように重石として置く文房具。金属製が多いが、陶器、玉石、木製のものもある。用途によって形、大きさもさまざまである。 
ぶんぼうしほう【文房四宝】 文房とは書斎のことで、現在のような文房具革命のある前、書斎で最も重要な用具は、筆・墨・硯・紙・であったので四宝と言う。 
へ 
へんがく【扁額】 扁は「戸」と「冊」からなる。「冊」は竹簡で、家号、屋号を表す語を書いた、門戸に掛ける竹片を指した。社寺の堂舎や門に掲げる木の額。室内では、横長の紙本、絹本を横額に仕立てたものを言う。 
へんたいがな【変体仮名】 現在使われている「かな文字」47文字とは異なる形をした仮名のこと。つまり、字源を異にしたり、字源は同一でもくずし方が異なるものを言う。現在では、かな書道において、変化に富んだ表現効果を意図して、作品の素材として用いられてる。 
ほうしょ【奉書】 上のおおせを奉じて下知する書状のこと。やがて奉書を書く紙そのものも奉書(奉書紙)と呼ぶようになった。楮(こうぞ)を漉いた楮紙(ちょし)で、丈夫で厚く肌ざわりが細やかで書きよく、墨色が美しい。越前奉書がよく知られ、祝儀用目録や版画用にも使われている。 
ほ 
ほうしょ【倣書】 古法帖の筆意を生かし、古人の用筆法で、別の素材を書くことで、創作への導入とする。臨書、背臨、倣書、創作という学習が大切である。 
ほうじょう【法帖】 古人の優れた筆跡を鑑賞や学習のために、石や木に刻って拓本をとり、折本や帖に仕立てたもの。 
ほうしよしほう【法書四法】 法書は手本とすべき古名跡をいい、その別本を作る四つの方法、臨(りん)・模(も)・響搨(きょうとう)・硬黄(こうこう)をさす。「臨」は見写し、「模」は敷き写し、または透き写し、「響搨」は明かり写し、「硬黄」は油紙を用いた写しで、中国では古くから行われていた。 
ほうひつ【方筆】 円筆に対する語。方は角ばったという意味があり、力強さをむき出しにした書といえる。六朝時代の北魏の書法がその代表作であるが、かなり刀意があらわれて、毛筆でそのまま真似るのは難しい。 
ぼくせき【墨跡・墨蹟】 中国では肉筆一般の意味であるが、日本では特に、鎌倉、室町時代の禅僧の書や、この頃伝えられた宋、元の高僧の書を言う。近年は江戸時代の禅僧、現代の高僧の書を呼ぶこともある。 
ぼくほん【墨本】 墨帖、墨拓本等とも言う。名筆を石に模刻し、拓本をとる方式で、印刷した法帖。のちには板に刻することも行われた。我が国の江戸時代に量産された法帖類の多くは、この木版による墨本であった。 
ほご【反故・反古】 ほぐ。書画などの役に立たなくなった紙。紙を貴重とした昔、反故を巻物や冊子に仕立て、その裏側に日記や典籍を書写していた。現存する遺品の中に、当時反故であった書状や文書が紙背文書として残され、国文学、歴史の重要資料となって脚光を浴びた例も多い。 
ぼしめい【墓誌銘】 故人の業績を書き、墓中に収めた石文。地上の立碑が禁止され、墓誌が盛んに作られた。地上では風化が著しいが、地中では摩滅もなく、謹厳に書かれているため、初学者の貴重な手本にもなる。 
ほひつ【補筆】 筆を補うこと。加筆と同義。書画が経年によって損傷したり剥落したのを補うため、あとから墨や絵具を加えることを言う。原本の品格を損なうことが多い。  
 

 

ま 
まがいしょ【摩崖書】 人目にふれる自然の岩山に刻された書。 
まきがみ【巻紙】 切紙(楮質の上質の紙、料紙を横二つ折りにして切って使う)を、横に何枚も長く継ぎ合わせて端から巻いたもの。手紙を書くための便宜を図って考え出されたもの。 
まくり【捲】 屏風、襖、掛軸、額装などに表装して貼ってあった書画などの作品を剥がしたもの。または、まだ表装していない作品をいう。 
まし【麻紙】 麻(クワ科の一年生草本)を原料とした紙で、紙としては最も古い歴史がある。紙質に品位もあり墨引きも頃合いなので、奈良時代の上質紙の座は、麻紙が占めていた。 
まな【真名・真字】 本来は「かりな」(仮名)に対して正式の文字としての漢字をいう。そのうち、これを表音文字として用いたものを真仮名(まがな)と称し、片仮名・平仮名の成立した平安時代にこれらと区別する別体系の仮名として行われた。「男の手(おのこのて)」「男手(おのこで)」とも呼ばれた。 
まんようがな【万葉仮名】 日本語の表記のために漢字を表音文字として用いたもの。用法の上からは仮名の一種とされるが、文字の形としては漢字であり、漢字を省画化した片仮名や、略草化した平仮名とは異なる。奈良時代以前の漢字専用時代には、仮名としてはこれに限られる。特に「万葉集」に多種多様に用いられ、用字上、重要な位置を占めたのでこの名がある。万葉仮名の種類には、字音を借りた音仮名(おんがな)と字訓を借りた訓仮名(くんがか)がある。 
み 
みかえし【見返】 巻子本の表紙の裏側。冊子本の表表紙の裏側をいう。 
みせけち【見消】 文字、文章の訂正、注記のしかたの一つ。誤写、誤記、異文などを、もとの文字がわかるように、傍点をつけたり、文字の上に細い線を引いて訂正、異文を示す方法。 
みつまた【三椏】 雁皮(がんぴ)楮(こうぞ)とともに和紙の主原料である。枝が三叉に分かれているのでこの名がある。ジンチョウゲ科に属し、落葉の低木である。栽培により増産できることと、皺(しわ)による伸縮性が強いところから高額紙幣に使用され、世界に冠たる質を誇っている。 
みのがみ【美濃紙】 美濃の国は天平時代から大量の製紙国であり、ここで漉かれた三椏を原料とした28cm×40cm大のものは、和歌の詠進用や履歴書、公文書に広く使われたので、この大きさのものを「美濃判(みのばん)」といっている。 
む 
むつはん(ろくはん)【六半】 紙の大きさと形を表す語。長辺方向を横にした大形の料紙を横に二等分、縦に三等分した大きさで、正方形に近い形となる。この形の冊子本を六半本あるいは升型本(ますがたぼん)と呼ぶ。もとの紙の大きさにより、大・中・小の別があり、「古筆名葉集」には、大六半・中六半・小六半などの名称が用いられている。 
め 
めい【銘】 金石、器物などに、その来歴や由来などを刻み記した文。銘文。また、すぐれた器物などに特につけられた名をいう。 
も 
もうしぶみ【申文】 申状ともいう。下位の者が上位へむかって差し出す上申文書の一つ。平安時代以降では、諸官人が叙位任官、官位の昇進を朝廷に申請するときに作成する文書をいうことが多い。これ以外の目的で上申するときには、一般的に申状(もうしじょう)と称した。 
もこく【模刻】 筆跡、書物を忠実に写し取ってそれを版木に刻むこと。石に刻む(石刻)もある。中国おいては、淳化三年に成った「淳化閣帖」。わが国では、現存最古の浄土教典版本といわれる「無量寿経」。名筆の模刻が本格的に行われるのは、江戸時代に入ってからのことである。 
もしゃ【模写】 すぐれた書画の原本を真似て写すこと。書画における学習法であると同時に、鑑賞用、保存用の複製法でもある。 もっかん【木簡】 木の札に墨書したもの。中国では、楼蘭城跡の発掘で発見され、わが国では、昭和36年奈良市の平常宮跡から出土以来、多く発見されている。史料の少ない古代史の解明に重要な役割を果たしている。また、書跡としても、肉筆資料の宝庫であるばかりでなく、下級の官人ゃ地方の書風をうかがうことができ、独自の価値をもっている。  
 

 

や 
やせき【野跡】 小野道風筆跡を縮めていった言葉。同様に、藤原佐理を「佐跡」・権大納言藤原行成を「権跡」と略して愛称した。 
やたて【矢立】 武士が持った陣中携帯用の筆墨具。墨液をしみこませた綿を墨壺に入れ、柄に筆を入れるように作られている。  
やはず【矢筈】 掛軸を高い所に掛けるための棒。掛物掛(かけものかけ)とも。矢筈はもともと矢の上端の弦(つる)を受ける部分の名称。 
やぶりつぎ【破継】 つぎがみ「継紙」参照  
やまとこいん【大和古印・倭古印】 中国の印に対して日本(おおよそ奈良時代から平安時代)で製作使用された印を指す。律令制度の確立とともに、公文書に公印を押すようになり、隋・唐印の様式を模倣した鋳銅印が作られるようになった。すべて朱印で、書体は和様化した篆書、楷書のものが多く、わが国独特の風趣がある。 
ゆ 
ゆういん【遊印】 姓名印や雅号印など実用の印ではなく、自分の好む故事成語などを刻し、その中に己の意志、主張を寓することが多い。姓名印と併用したり、押脚印として用いる雅印の一種。 
ゆうひつ【右筆・祐筆】 平安末期からの歴史があり、江戸時代には幕府や大名が正式に職制として各種の文書をつかさどった。身分の高い人は、自ら文書を書かず、側近に代筆させた。この人を右筆といい、その書を右筆書という。 
ゆえんぼく【油煙墨】 油煙を原料として造られた墨。菜種油から採った油煙が上質のもので、その他、胡麻油、椿油、大豆油、桐油、など。 
よ 
ようこく【陽刻】 木や石、金属などに文字を刻するとき、文字を浮き彫りにすること。篆刻の場合は朱文という。碑の篆額は陽刻されるが、碑文の陽刻は「始平公造像記」ぐらいしかない。 
よはく【余白】 ほとんどの作品は、墨書部分より空白が多い。これを余白という。東洋美術に欠くことの出来ない表現せざる表現部分であるといえる。 
よりあいがき【寄合書】 「古今和歌集」「法華経」などの大部分のものを何人かで分担して執筆すること。
 

 

ら 
らっかん【落款】 落成款識(らくせいかんし)の略。書画などの作品が出来上がった時、自己の作品であることを示すと共に、一層の風雅を添えるために、姓名、字号などを署し、併せて印を押捺すること。更に制作の年月干支、識語、詩句や、贈る相手の姓字、書いた場所などを書き加えることもある。 
り 
りょうし【料紙】 楮・雁皮・三椏などを原料として漉いた紙に、礬水(どうさ)や胡粉などで何らかの加工を施した紙を言う。主にかなを書くために使用する。   雲紙(くもがみ)=染料で染めた紙の上部及び下部に、藍または紫に染めた繊維を雲形に置いたもの。 
  飛雲紙・羅紋飛雲紙(とびくもがみ・らもん)=紙の繊維を藍および紫に染めて部分的に置いたもの。 
  羅紋紙(らもんし)=紙の繊維を紫に染めて成紙の上に流して振動させたもの。 
  具引紙(ぐびきがみ)=胡粉を刷毛で引いたもの。 
  雲母引紙(きらびきがみ)=雲母を刷毛でひいたもの。 
  唐紙(からかみ)=唐草文様の版木に雲母または胡粉を引いて摺ったもの。 
  蝋箋(ろうせん)=紙の裏面に版木を置いて表面に蝋を引き胡粉を透明にして文様を摺ったもの。 
  空摺紙(からすりがみ)=蝋の代わりに猪の牙で磨いて文様を摺り出したもの。 
  装飾紙(そうしょくし)=これらの紙に金銀の箔、金銀の砂子、野毛などを施したもの。 
  下絵紙(したえがみ)=金銀泥または緑青、群青で鳥、蝶、草木などの下絵を描いたもの。 
またこれらの紙を切り継いだものに  切継(きりつぎ)・破継(やぶりつぎ)・重継(かさねつぎ)などがある。 
りんしょ【臨書】 古碑帖や古筆などを手本として書法を学習すること。またそうして書いた書。書法の最も基本的な学習方法で、字形、用筆、結構法、章法、情趣などを学ぶ。 
臨書の仕方に 
  形臨(けいりん)=字形の追求を主とする臨書。 
  意臨(いりん)=筆意を汲むことに重きを置く臨書。 
  背臨(はいりん)=臨書を重ねた後に手本を見ないで記憶によって臨書すること。 
れ 
れいしょ【隷書】 漢字の書体の一つ。古文、篆書についで成立し、直線的な古隷(これい)と波勢の美しい八分(はっぷん)を合わせて隷書という。 
れつちょうそう【列帖装・列葉装】 書物の装幀の一様式。数枚の紙を重ねね縦に半折し、その折り目に糸を通して、数折りをまた重ねて綴じ合わせたもの。  一紙の両面に書写したものを綴じるのに適し、鳥の子紙のような厚手の紙が料紙に使われたものが多い。平安時代後期からあり、装飾性を強調した歌書、物語などにこの装幀のものがよくみられる。 
れん【聯】 1)漢詩文で対応して連なる二句をいう。律詩では二句ずつ一組として聯と称する。2)縦に細長い一対の紙や板に対句を書いたもので、対聯(たいれん)、楹聯(えいれん)ともいう。3)対聯用に全紙大の画仙紙を縦四分の一に切った大きさのものをいう。作品としては二幅を一対にして聯、聯幅という。一幅だけのものは柱隠(はしらかくし)という。 
れんおち【聯落】 全紙大の画仙紙の縦四分の一または三分の一を切り落とした残りの大きさをいう。一般には縦136.0p×横43.5pの大きさを標準とする。 
れんめん【連綿】 二字以上の文字を続けて書くことで、かなや草書の漢字に見られる。 
ろ 
ろうせん【蝋箋】 「料紙」参照 
ろほう【露鋒】 筆の鋒先をあらわにする用筆法で蔵鋒に対する語。筆力のある露鋒は切れ味鋭く見応えもするが、筆の弾力のない側筆、偏鋒だけの露鋒は死鋒となり、線に冴えがない。
 

 

わ 
わし【和紙】 中国製の唐紙に対して、わが国において作られた紙をいう。わが国の製紙の始まりは、推古天皇18年(610)に高句麗僧曇徴が紙墨を作ったことが記録に残っている。和紙の特微は斐紙(雁皮)を使用していることで、その他、麻、穀などなどを主原料として造られた。 
わぼく【和墨】 中国製の唐墨に対して日本製の墨をいう。和墨は和紙に書くのに適している。唐墨に比べ膠の力が強く光沢を持ち、水に強いから表札や看板などにも適している。油煙墨と松煙墨(しょうえんぼく・松の樹脂から採ったすす)を用いて造る。 
わよう【和様】 日本風を意味する言葉で、中国風をあらわす唐様に対していい、書のほか建築の様式などにも用いる。和様は日本語表記の成立とともに、国風文化が開花したときに確立をみたもので唐様とは違った柔和な趣がある。その要因は、日本語が「かな」を軸として表記されるようになり、その曲線的な書風が、漢字を交ぜて書き表すことによって、漢字がかなの筆線に同化した結果と考えられる。つまり和様は、平安中期以後の中国書風と相対立する日本独自の書風全般を指して呼ぶ。
 
常用誤字

 

あ 
相容(あいい)れない < 「相入れない」。互いに受け入れないこと。 
愛(あい)くるしい < 「愛苦しい」。「くるしい」は、強意の接辞。 
合(い)言葉 < 「相言葉」。 
曖昧(あいまい) < 「曖味」。「三昧(さんまい/ざんまい)」など。 
相俟(あいま)って < 「相待って」。互いに影響し合って。 
青二才(あおにさい) < 「青二歳」。 
赤(あか)の他人 < 「垢の他人」。「赤」は梵語の「閼伽(あか)」からとも。 
悪態(あくたい) < 「悪体」。憎まれ口。 
あくどい < 「悪どい」。「あく」は灰汁(あく)の意、「どい」は接尾語。あくが強いの意。 
浅(あさ)漬(づ)け < 「朝漬け」。野菜を短時日ぬかや薄塩で漬けること。 
与(あずか)り知らぬ < 「預り知らぬ」。 
渾名(あだな)/綽名 < 「・・・をつける」。「徒名(あだな)」。ニックネ・・・ムのこと。「徒名/仇名」は色事の評判、ぬれぎぬのこと。 
脂(あぶら) < 「・・・が乗った」「・・・ぎった」。「油」。常温で液体のものを「油」、固体のものを「脂」、特に肉の脂肪を「膏」と書く。 
雨合羽(あまがっぱ) < 「雨河童」。 
過(あやま)ち < 「誤ち」。「誤」は「誤り」。 
餡(あん)こ < 「餡子」。 
暗号 < 「・・・化」「・・・鍵」。「暗合」。「暗合」は偶然一致する事。 
安全(あんぜん)保障(ほしょう) < 「安全保証」。外部からの侵略に対して国家の安全を保障すること。 
案(あん)の定(じょう) < 「案の条」。 
アルプス一万尺(いちまんじゃく) < 「アルプス一万弱」。アメリカ民謡。 
い 
意外(いがい)と < 「・・・ある」。「以外と」。 
遺憾(いかん) < 「遺感」。思い通りにいかず心残りなこと。 
異口同音(いくどうおん) < 「異句同音」。 
異彩(いさい)を放(はな)つ < 「異才を放つ」。「異彩」とは、普通とは異なって目立つようす。 
潔(いさぎよ)い < 「いさぎ良い」。 
意思 < 「・・・表示」。「意志」。「意思」とは思い、「意志」とは志(こころざし)。 
慰藉(いしゃ)料(りょう)/慰謝料 < 「医者料」。生命・身体・自由・名誉・貞操などを侵害する不法行為によって生じた精神的苦痛に対する損害賠償。「藉」はなぐさめるの意、「謝」は書き換え字。また、「慰藉料」を「いせきりょう」と読むのは誤り。 
忙(いそが)しい < 「急がしい」。 
居丈(いたけ)高(だか) < 「威丈高」。手を抑えつけるような態度のこと。「居丈」とは、座っている時の背の高さ。 
徒(いたずら)に < 「・・・時間が過ぎる」。「悪戯に」。無駄に、むなしく。 
一堂(いちどう)に会(かい)する < 「一同に会する」。 
逸早(いちはや)く/逸速く < 「一早く」。 
一分(いちぶ) < 「・・・の隙(すき)もない」。「一部」。「一分」とは、ごくわずかなことのたとえ、「一部」とは、ある部分のこと。 
一抹(いちまつ) < 「・・・の不安」。「一末」。 
一律(いちりつ) < 「一率」。 
一蓮(いちれん)托生(たくしょう) < 「一連托生」。本来は、極楽の同じ蓮華(れんげ)の上に生まれ変わるという意味の仏教用語。 
一介(いっかい) < 「・・・の医師」。「一界」。取るに足りない一人。 
一攫(いっかく)千金(せんきん) < 「一獲千金」。本来は「一攫千金」。「獲(と)る」ではなく「攫(つか)む」。 
一括(いっかつ) < 「一活」。一つにまとめること。一声、大声でしかりつけるのは「一喝」。 
一巻(いっかん)の終わり < 「一貫の終わり」。すべてが終わること。結末がついていて、もはや手遅れであること。 
一心同体(いっしんどうたい) < 「一身同体」。 
一炊(いっすい)の夢 < 「一睡の夢」。人生の栄華のはかないこと。 
一斉(いっせい)に < 「一勢に」。同時に。そろって。 
一朝(いっちょう)一夕(いっせき) < 「一朝一石」。 
一頭地(いっとうち)を抜く < 「一等地を抜く」。多くの中で一段と優れている、という意味。 
一辺倒(いっぺんとう) < 「一遍倒」。 
衣鉢(いはつ)を継(つ)ぐ < 「遺髪を継ぐ」。「衣鉢」とは、師から弟子に伝えるその道の奥義のこと。 
未(いま)だに < 「今だに」。 
今際(いまわ)の際(きわ) < 「今はの際」。最後の時。 
意味深長(いみしんちょう) < 「意味慎重」。奥深い意味をもっていること。裏に別の意味が隠されていること。また、そのさま。 
芋(いも)掘(ほ)り < 「芋堀」。「掘(ほ)る」、地面の下にあるものをさがして取りだすこと。そして、掘った穴のことを「堀(ほり)」。ちなみに、「芋」はいも類の総称またはさといも、「藷」はさつまいも、「薯」はじゃがいも、「蕷」はやまいも。 
淹(い)れる < 「御茶(おちゃ)を・・・」。「入れる」。 
好(よ)い < 「色・・・返事」「心地・・・」。「良い」。 
違和感(いわかん) < 「異和感」。 
う 
憂(う)き目 < 「浮き目」。つらく悲しいこと、つらく悲しい経験。 
後(うし)ろ盾(だて)/後ろ楯 < 「後ろ立て」。 
堆(うずたか)い < 「うず高い」。物が積み重なって高くなっていること、気品があること、高慢なこと。 
嘯(うそぶ)く < 「嘘吹く」。平然として言うこと。 
有頂天(うちょうてん) < 「有頂点」。 
呻(うめ)く < 「呷く」。「呷」は「呷(あお)る」。「酒を呷る」など。 
心(うら)寂(さび)しい < 「裏寂しい」。「心(うら)悲(がな)しい」「心(うら)恋(ごい)し」など。 
うらぶれる < 「裏ぶれる」。落ちぶれて、みじめな様子になること。「うらぶれた姿」「うらぶれた生活」など。 
うるさ型(がた) < 「うるさ方(がた)」。何事にでも口を出し、文句をつけずにはいられない性質・人。 
え 
英気(えいき) < 「・・・を養う」。「鋭気」。 
A級戦犯(せんぱん) < 「永久戦犯」。「A級ライセンス」など。 
蜿蜒(えんえん) < 「・・・長蛇(ちょうだ)の列(れつ)」。「延延」。ヘビなどがうねり行くさま。 
延焼(えんしょう) < 「炎焼」。「延焼」は、火事が燃え広がること。焼けどなど発熱を起こすのは「炎症」。ちなみに、火が燃え上がるのは「炎上(えんじょう)」。 
遠慮(えんりょ) < 「・・・させていただきます」。「遠虜」。「慮(おもんぱか)る」の「慮」。「虜」だと、とりこの意。 
お 
応対(おうたい) < 「応待」。 
椀飯(おうばん)振(る)(ぶる)舞(ま)い < 「大番振る舞い」。「大盤(おおばん)振る舞い」は当て字。 
嗚咽(おえつ) < 「鳴咽」。「鳴(な)く」ではなく、「あ」という声をあらわす「嗚」。声を詰まらせて泣くこと。 
大(おお)いに < 「・・・学ぶ」。「多いに」。非常に。 
尾頭(おかしら) < 「・・・付き」。「御頭」。 
冒(おか)す < 「危険を・・・」。「犯す」。 
悪寒(おかん) < 「悪感」。 
臆面(おくめん) < 「・・・もなく」。「憶面」。気おくれした顔色・様子。 
御仕着(おしき)せ < 「押し着せ」。上から一方的に与えられたり、定められたりしていること。 
白粉(おしろい) < 「お白粉」。「しらに/はくに/はくふん」とも読む。 
遅(おそ)蒔(ま)き < 「・・・ながら」。「遅巻き」。「蒔き付け」「蒔き直し」など。 
阿多福(おたふく) < 「・・・風邪」「・・・豆」。「御多福」。阿亀(おかめ)。 
躍(おど)らせて < 「胸・・・」。「踊らせて」。 
鬼(おに)の霍乱(かくらん) < 「鬼の攪乱」。いつも非常に健康な人が、珍しく病気にかかることのたとえ。「霍乱」とは、気あたりによって起きる諸病の総称。 
御待(おま)ち遠様(どおさま) < 「おまちどうさま」。 
面舵(おもかじ) < 「・・・いっぱい」。「主舵(おもかじ)」。首を右へ向けること。逆は取り舵。 
親不孝(おやふこう) < 「親不幸」。「先立つ不孝」など。 
織(り)(おり)交(ま)ぜる < 「折り交ぜる」。「織る」は合わせて作ること、「織り上げる」「織り糸」など。「折る」は深く曲げること、「折(り)込み広告」「折れ線グラフ」など。 
卸売(おろしうり) < 「御売」。産者・輸入商から大量の商品を仕入れて小売商人に売り渡すこと。 
御(おん)の字(じ) < 「恩の字」。「御」の字をつけたいほど、の意。ありがたいこと。
 

 

か 
怪傑(かいけつ) < 「快傑」。非常にすぐれた能力をもつ人。不思議な力をもつ人物。 
会心(かいしん) < 「・・・の作」。「快心」。「会心」とは心から満足に思うこと、「快心」とは気持ちのよいこと。 
該当(がいとう) < 「概当」。一定の条件にあてはまること。 
解答 < 「模範(もはん)・・・」。「回答」。「解答」は問題を解いて答えを出すこと、「回答」は質問・要求などに答えること。 
解放(かいほう) < 「人質・・・」「・・・区」。「開放」。 
却(かえ)って/反って < 「・・・よくない」。「返って」。反対に。 
嚊(かかあ)天下(でんか) < 「かかあ殿下」。妻の権力がつよくて、夫の頭があがらないこと。 
瓦解(がかい) < 「瓦壊」。組織や秩序あるものがばらばらに崩れてだめになってしまうこと。 
鑑(かがみ)/鑒 < 「日本人の・・・」。「鏡」。 
拘(かか)わらず < 「……に・・・」「……にも・・・」。「関わらず」。 
書(か)き入れ時(どき) < 「掻き入れ時」。帳簿の記入に忙しい時の意から。 
架空(かくう) < 「仮空」。空中に架(か)け渡すこと、事実に基づかず、想像によって作る・こと(さま)。 
学生服 < 「学制服」。 
崖っ縁(がけっぷち) < 「崖っ淵」。 
陰日向(かげひなた) < 「影日向」。人の見る、見ないによって言葉や態度の変わること。 
嵩(かさ)に懸(か)かる < 「傘に懸かる」。優勢に乗じて攻勢に出ること。微力な者が権勢者の後援を頼りにして威張るのは「傘(かさ)に着(き)る」。 
瑕疵(かし)担保(たんぽ)責任 < 「貸し担保責任」。売買の目的物に隠れた瑕疵(きずや欠点)があった場合、売主が負わなければならない責任。 
鍛冶屋(かじや) < 「鍛治屋」。 
堅(かた)苦(くる)しい < 「肩苦しい」。 
象(かたど)る/模る < 「形取る」。ただし、語源としては「形取る」は正しい。 
荷担(かたん) < 「加担」。本来は「荷担」。 
価値観(かちかん) < 「価値感」。 
活(かつ)を入(い)れる < 「喝(かつ)を入れる」。 
課程(かてい) < 「教職・・・」「博士・・・」「修士・・・」。「過程」。「過程」は進行のプロセス、「課程」はある期間の学業・仕事。 
果報(かほう)は寝て待て < 「家宝は寝て待て」。「果報」とは、運のよいこと。また、幸せなさま。 
烏(からす) < 「・・・骨鶏(うこっけい)」「・・・竜茶(ウ・・・ロンちゃ)」「・・・帽子(えぼし)」。「鳥(とり)」。 
駆(り)(かり)立(た)てる < 「狩り立てる」。 
画竜点睛(がりょうてんせい) < 「画竜点晴」。それが無いと、完成したことにはならない、大事な最後の仕上げ。「睛」はひとみの意。 
可哀想(かわいそう)/可哀相 < 「可愛そう」。「かあいそう」ではなく「かわいそう」。「可哀想」「可哀相」ともに当て字。 
為替(かわせ) < 「替為」。 
感心(かんしん)する < 「関心する」。「感心」とは、心動かされること。「感心しない」「感心な」など。「関心」とは興味を持つこと。「関心を示す」「関心を持つ」など。 
眼前(がんぜん) < 「顔前」。めのまえ。 
勧善(かんぜん)懲悪(ちょうあく) < 「完全懲悪」。 
勘(かん)違い < 「感違い」。 
癇(かん)に障(さわ)る < 「勘に障る」。「癇癪(かんしゃく)」。「癪に障る」。 
堪忍(かんにん) < 「勘忍」。「勘弁」なら正しい(「堪弁」は誤り)。 
堪能(かんのう) < 「語学に・・・」。「たんのう」。これは慣用読みであり、本来は「かんのう」。 
完璧(かんぺき) < 「完壁」。「璧」とは、宝玉の意。「双璧」など。 
漢方(かんぽう) < 「・・・医」「・・・薬」。「漢法」。 
還暦(かんれき) < 「還歴」。 
き 
利(き)いた風(ふう) < 「・・・なことを言うな」。「聞いた風」。いかにも知っているような態度をとって生意気なさま。 
義捐(ぎえん)/義援 < 「・・・金」。「義損」。不幸や災難にあった人のために出す寄付。「捐」は捨てるの意、「援」は書き換え字。 
気(き)が狂(ふ)れる < 「気が触れる」。 
器官(きかん) < 「呼吸・・・」。「器管」。「器官」とは、いくつかの組織の集まりで、一定の独立した形態および特定の機能を有するもの。ちなみに、気道の一部は「気管(きかん)」。 
危機一髪(ききいっぱつ) < 「危機一発」。 
機嫌(きげん) < 「気嫌」。 
喜色満面(きしょくまんめん) < 「気色満面」。うれしそうな表情が顔に満ちあふれていること。 
気(っ)風(きっぷ) < 「・・・のいい」。「切符」。「きふう」の転。気前。 
生真面目(きまじめ) < 「気真面目」。 
決(ま)(きま)り/極り < 「・・・が良い」「・・・が悪い」。「気まり」。 
欺瞞(ぎまん) < 「偽瞞」。「偽(いつわ)る」ではなく「欺(あざむ)く」。 
黄身(きみ) < 「黄味」。 
救急(きゅうきゅう) < 「・・・車」「・・・処置」。「急救」。 
急遽(きゅうきょ) < 「急拠」。 
宮廷(きゅうてい) < 「宮庭」。 
旧約(きゅうやく)聖書(せいしょ) < 「旧訳聖書」。旧約の「約」は約束・契約。「新約聖書」。 
狂喜(きょうき)乱舞(らんぶ) < 「狂気乱舞」。 
興味津津(きょうみしんしん) < 「興味深深」。 
教諭(きょうゆ) < 「教論」。 
軌(き)を一(いつ)にする < 「機を一にする」。同じ行き方、立場をとること。「軌」とは、車輪の通った跡。 
き 
均衡(きんこう) < 「均衝」。 
く 
苦渋(くじゅう) < 「・・・に満ちた」。「苦汁」。 
屈伸(くっしん) < 「・・・運動」。「屈身」。 
沓(くつ)脱ぎ < 「靴脱ぎ」。 
国破(やぶ)れて山河(さんが)あり < 「国敗れて山河あり」。 
苦悩(くのう) < 「苦脳」。「脳(のう)」ではなく「悩(なや)む」。ちなみに、「脳殺」も誤り。正しくは「悩殺」。 
首実検(じっけん) < 「首実験」。「実検」とは、本当かどうかを吟味すること。 
与(くみ)し易(やす)い < 「組(くみ)し易い」。扱いやすいこと。 
曇(り)(くもり) < 「雲り」。 
軍艦(ぐんかん) < 「軍鑑」。 
け 
掲示板(けいじばん) < 「提示板」。 
気(け)圧(お)される < 「気押される」。 
劇薬(げきやく) < 「激薬」。 
毛(け)嫌(ぎら)い < 「気嫌い」。鳥獣が相手の毛並みによって嫌うことから。 
化身(けしん) < 「化神」。 
決選(けっせん)投票(とうひょう) < 「決戦投票」。一回の選挙で候補者のだれもが当選に必要な得票数を得なかった場合、上位二者について行われる投票。 
結膜炎(けつまくえん) < 「血膜炎」。 
けりを付ける < 「蹴りをつける」。「けり」とは決着のこと。和歌や俳句に助動詞「けり」で終わるものが多いところから。 
減価(げんか)償却(しょうきゃく) < 「原価償却」。使用および時の経過のため固定資産に生ずる減価を、各決算期ごとに費用として記帳していくこと。 
肩甲骨(けんこうこつ)/肩胛骨 < 「健康骨」。 
元帥(げんすい) < 「元師」。 
見当(けんとう)違(ちが)い < 「検討違い」。 
けんもほろろ < 「剣もほろろ」。無愛想に人の相談などを拒絶するさま。「けん」「ほろろ」は雉(きじ)の鳴き声。 
こ 
小(こ) < 「・・・一時間(こいちじかん)」。「子」。また、この「小」を「しょう」と読むのは誤読。 
期(ご) < 「この・・・に及(およ)んで」。「後(ご)」。とき。「一期(いちご)一会(いちえ)」など。 
濃(こ)い < 「濃(こ)いい」。 
更改(こうかい) < 「契約・・・」「予算・・・」。「公開」。過去の決定や契約などを新たなものに変えること。 
向学心(こうがくしん) < 「好学心」。学問に励もうと思う気持ち。 
交感(こうかん)神経(しんけい) < 「交換神経」。 
厚顔無恥(こうがんむち) < 「厚顔無知」。 
講義(こうぎ) < 「講議」。 
抗生物質(こうせいぶっしつ) < 「抗性物質」。 
侯爵(こうしゃく) < 「候爵」。もと五等爵(公・侯・伯・子・男)の第二位。 
後生(こうせい)畏(おそ)る可(べ)し < 「後世おそるべし」。「後生」はここでは「ごしょう」ではなく「こうせい」と読む。後生(後から生まれてくる者)は、これからどれほどの力量を示すかはかり知れないから、おそれなければならない、ということ。論語の「後生可畏」より。 
膠着(こうちゃく) < 「・・・状態」。「硬着」。ある物に他の物がくっついて、離れにくくなること。ちなみに、柔軟でないことは「硬直(こうちょく)」。 
口頭(こうとう)弁論(べんろん) < 「口答弁論」。 
購買(こうばい) < 「購売」。 
公表 < 「公評」。「好評」なら正しい。 
子会社(こがいしゃ) < 「小会社(こがいしゃ)」。反意語は「親会社」。大会社に対するなら小会社(しょうがいしゃ)。 
互角(ごかく) < 「互格」。 
虎視眈眈(こしたんたん) < 「虎視耽耽」。 
御仁(ごじん) < 「御人(ごじん)」。 
御存じ < 「御存知」。本来は「ご存じ」。「存じる」。 
御多分(ごたぶん) < 「・・・に洩(も)れず」。「御多聞」。「御多分」とは、世間一般の例、という意味。 
こぢんまり < 「こじんまり」。 
木っ端(こっぱ)微塵(みじん) < 「木っ葉微塵」。 
殊(こと)の外(ほか) < 「事の他」。予想に反して。「殊」とはとりわけの意。「殊(こと)に」。 
言葉遣(づか)い < 「言葉使い」。「金遣い」「無駄遣い」など。 
御破算(ごはさん) < 「御破産」。 
戸別(こべつ)訪問(ほうもん) < 「個別訪問」。「個別」は一人一人、「戸別」は一軒一軒。 
固有(こゆう) < 「・・・性」「・・・名詞」。「個有」。 
孤立(こりつ)無援(むえん) < 「孤立無縁」。 
五里霧中(ごりむちゅう) < 「五里夢中」。「五里霧(五里にもわたる深い霧)の中にいる」という意から、全く方角が分からないような状態に陥ること。 
声高(こわだか) < 「こえだか」。 
今日(こんにち)は/今晩(こんばん)は < 「こんにちわ」「こんばんわ」。「は」は助詞。 
混乱(こんらん) < 「困乱」。  
 

 

さ 
最高潮(さいこうちょう) < 「最高調」。 
細大(さいだい)漏らさず < 「最大漏らさず」。 
栽培(さいばい) < 「裁培」。「栽植」など。 
殺到(さっとう) < 「殺倒」。「倒(たお)す」ではなく「到(いた)る」。 
諭(さと)す < 「悟す」。「悟」は「悟(さと)る」。 
散散(さんざん) < 「惨惨」。 
三人寄れば文殊(もんじゅ)の知恵 < 「三人寄れば文珠の知恵」。 
三半規管(さんはんきかん) < 「三半器官」。“三、半規管”。 
散漫(さんまん) < 「散慢」。 
し 
ジーパン < 「Gパン」。jeans+pants、和製英語。 
自画自賛(じがじさん) < 「自我自賛」。 
試行錯誤(しこうさくご) < 「思考錯誤」。 
鹿(しし)威(おど)し < 「獅子脅し」。「添水(そうず)」に同じ。畑を荒らす鳥獣をおどし、追い払うための装置。かかし・鳴子・添水の類の総称。「鹿(しし)」とは獣の意。 
自信(じしん) < 「・・・がない」「・・・を持つ」。「自身」。自分の才能・価値を信ずること。 
志操(しそう)堅固(けんご) < 「思想堅固」。「志操」とは、主義や考えなどを固く守る意志。 
しち面倒臭い < 「七面倒くさい」。「しち」は接頭語。 
質疑(しつぎ)応答(おうとう) < 「質議応答」。 
死に物狂い < 「死に者狂い」。 
鎬(しのぎ)を削(けず)る < 「凌ぎを削る」。激しく争うこと。 
しぶとい < 「渋太い」。 
始末(しまつ) < 「仕末」。 
沁(し)みる < 「泌みる」。「染みる/浸みる/滲みる」とも書く。 
社交(しゃこう)辞令(じれい) < 「社交辞礼」。 
弱冠(じゃっかん) < 「若冠」。本来は男子二〇歳のこと(二〇歳を「弱」といって元服して冠をかぶったことから)。ちなみに、それほど多くはない、不定の数量は「若干(じゃっかん)」。 
娑婆(しゃば/さば) < 「裟婆」。 
洒落(しゃれ) < 「酒落」。 
縦横(じゅうおう)無尽(むじん) < 「縦横無人」。 
収穫(しゅうかく) < 「・・・秋」。「収獲」。「獲(え)る」ではなく「獲(と)る」。「獲」は魚・獣にたいして「獲」は作物にたいして使う。ただし、成果の意味での「しゅうかく」は「収獲」と認めるものも。 
週刊誌(しゅうかんし) < 「週間誌」。 
収拾(しゅうしゅう) < 「・・・がつかない」。「収集」。「収拾」とは乱れた事態などをおさめること、「収集」とはいろいろ集めること。 
衆人(しゅうじん)環視(かんし) < 「衆人監視」。大勢の人がまわりをとりまいて見ていること。 
修整(しゅうせい) < 「画像・・・」「写真・・・」。「修正」。「修整」とはととのえなおすこと、「修正」とはまちがっていたり、不十分であるところを正しく直すこと。「誤字修正」「修正液」など。 
修了(しゅうりょう) < 「・・・証書」。「終了」。一定の学業・課程を全部おさめおえること。 
縮小(しゅくしょう) < 「縮少」。 
趣向(しゅこう) < 「趣好」。 
純真(じゅんしん) < 「・・・無垢(むく)」。「純心」。 
順不同(じゅんふどう) < 「順不動」。「順序不同」。 
性(しょう) < 「脂・・・」「凝り・・・」「心配・・・」。「症(しょう)」。「性」は生まれつきの気質・傾向・素質など、「症」は病気の性質。 
鍾乳洞(しょうにゅうどう) < 「鐘乳洞」。「鐘(かね)」ではなく「鍾(しょう)」。 
諸行無常(しょぎょうむじょう) < 「諸行無情」。 
食餌療法(しょくじりょうほう) < 「食事療法」。本来は「食餌」。しかし「食事」もあえて使われる場合もある。「食餌」とは食べ物のこと。 
徐徐(じょじょ)に < 「除除に」。「除(のぞ)く」ではなく「徐(おもむろ)に」。 
処世(しょせい)術(じゅつ) < 「処生術」。生きてゆく術策。世渡りの術。 
除幕式(じょまくしき) < 「序幕式」。 
所要(しょよう) < 「・・・時間」。「所用」。「所要」とは必要なこと、「所用」とは用いること、用事。 
地雷原(じらいげん) < 「地雷源」。地雷を敷設してある危険地帯。 
知(し)らず識(し)らず < 「知らず知らず」。無意識のうちに。「不知不識」の返り読みから。 
自律(じりつ) < 「・・・神経」。「自立」。 
持論(じろん) < 「自論」。かねて主張している自分の説のこと。 
嗄(しわが)れ声(ごえ) < 「皺枯れ声」。かすれたような声。 
心機(しんき)一転(いってん) < 「心気一転」。 
人工衛星(じんこうえいせい) < 「人口衛星」。 
親告罪(しんこくざい) < 「申告罪」。被害者などによる告訴・告発・請求が公訴の提起に必要とされる犯罪のこと。 
人事(じんじ)異動(いどう) < 「人事移動」。地位・職務・勤務地などが変わること。 
新事実 < 「真事実」。 
心神(しんしん)耗弱(こうじゃく) < 「心身耗弱」。 
真犯人 < 「新犯人」。 
信憑(しんぴょう) < 「・・・性」。「真憑」。 
辛抱(しんぼう) < 「辛棒」。 
実践(じっせん)する < 「実戦する」。「実践」とは、理論や理念を行動に移すこと、「実戦」とは、演習などに対して、実際の戦闘。 
す 
睡蓮(すいれん) < 「水蓮」。 
素(す)饂飩(うどん) < 「酢うどん」。うどんだけを丼に入れて汁をかけたもの、かけうどん。 
頭蓋骨(ずがいこつ/とうがいこつ) < 「頭骸骨」。“頭蓋、骨”。 
ずつ < 「少し・・・」「一つ・・・」。「づつ」。 
図(ず)に乗る < 「頭(ず)に乗る」。調子に乗ってつけあがること。 
据(す)わる < 「肝が・・・」「腰が・・・」「目が・・・」。「座る」。 
既の所で < 「寸での所で」。もう少しのところで。既(すんで)に。「既(すんで)のこと」。 
せ 
精根(せいこん) < 「・・・尽き果てる」「・・・使い果たす」。「精魂」。「精根」とは、物事をする精力と根気。「精魂」とは、物事に打ち込む精神力、「精魂込めて」「精魂を傾ける」。 
清聴(せいちょう) < 「御・・・を感謝します」。「静聴」。「清聴」とは他人が自分の話などを聞いてくれることを敬っていう語、「静聴」とは静かにきくこと。「ご静聴願います」など。 
青天(せいてん) < 「・・・の霹靂(へきれき)」「・・・白日(はくじつ)」。「晴天」。 
正統派(せいとうは) < 「正当派」。 
征服 < 「世界・・・」。「制服」。 
絶体絶命(ぜったいぜつめい) < 「絶対絶命」。 
節(せつ) < 「・・・を曲げる」。「説」。自分の意思を曲げて人に従うこと、節を折る。 
是非(ぜひ) < 「是否」。「是が非でも」など。 
善後策(ぜんごさく) < 「前後策」。 
宣戦(せんせん)布告(ふこく) < 「戦線布告」。他国に対し戦争に訴えることを宣言・公布すること。 
選択肢(せんたくし) < 「選択枝」。「枝(えだ)」ではなく、手足という意味の「肢」。「肢骨(しこつ)」「四肢(しし)」「多肢(たし)選択法」など。 
全面的(ぜんめんてき) < 「前面的」。 
専門(せんもん) < 「専問」。 
そ 
錚錚(そうそう) < 「・・・たる人物」。「蒼蒼」「壮壮」。多くのもののなかで傑出しているさま。 
速戦(そくせん)即決(そっけつ) < 「速戦速決」。短時間で物事の決着をつけること。 
率先(そっせん) < 「卒先」。 
袖振(そでふ)(触)り合うも多生(たしょう)(他生)の縁 < 「袖振り合うも多少の縁」。ちょっとした出来事もすべて宿世の因縁によるという意。「袖触れ合うも……」という送り仮名も誤り。 
逸(そ)らす < 「話を・・・」。「反らす」。 
遜色(そんしょく) < 「損色」。  
 

 

た 
戴冠(たいかん) < 「載冠」。「載(の)せる」ではなく「戴(いただ)く」。「・・・式」。 
大義名分(たいぎめいぶん) < 「大義名文」「大儀名分」。何か事をするにあたっての根拠。 
台風一過(たいふういっか) < 「台風一家」。台風が通り過ぎて、風雨がおさまり晴天になること。 
高嶺(たかね)の花 < 「高値の花」。 
高(たか)みの見物(けんぶつ) < 「高見の見物」。 
佇(たたず)む < 「立たずむ」。 
祟(たた)り < 「崇り」。「祟」は「祟(たた)る」、「崇」は「崇(あが)める」。 
蓼(たで)食う虫も好き好き < 「田で食う虫も好き好き」。「蓼(たで)」とは、タデ科タデ属に属する植物の総称。辛い蓼を食う虫もあるように、人の好みはさまざまであるということ。 
縦(たとえ)/仮令 < 「・・・どんなにつめたく別れても 」。「例え」。かりに〜ても。 
譬(たと)え話(ばなし) < 「例え話」。 
荼毘(だび) < 「・・・に付す」。「茶毘」。火葬のこと。 
玉(たま)の輿(こし) < 「玉の腰」。「輿入(れ)(こしいれ)」「神輿(みこし)/御輿」など。 
担架(たんか) < 「担荷」。 
炭疽菌(たんそきん) < 「炭素菌」。バチルス科バチルス属の細菌。 
端的(たんてき)に < 「単的に」「短的に」。 
単刀直入(たんとうちょくにゅう) < 「短刀直入」。 
蛋白質(たんぱくしつ) < 「淡白質」。 
ち 
血腥(ちなまぐさ)い < 「血生臭い」。鮮血のにおいがする。流血をみるような残酷なさまである。 
着服(ちゃくふく) < 「着腹」。他人の物をこっそりと自分の物にしてしまうこと。 
宙(ちゅう)吊(づ)り/宙釣り < 「中吊り」。「ちゅう返り」も「宙」、「ちゅうぶらりん」なら「中/宙」。 
寵愛(ちょうあい) < 「籠愛」。「籠(こ)める」ではなく「寵(ちょう)する」、特別にかわいがるの意。 
鳥瞰図(ちょうかんず) < 「鳥観図」。高い所から見おろしたように描いた風景図または地図。「瞰」とは見下ろすこと。 
貯水池(ちょすいち) < 「貯水地」。 
鏤(ちりば)める < 「散りばめる」。ただし、語源としては「散り嵌める」は正しい。 
つ 
追及(ついきゅう) < 「責任・・・」。「追求」。「追及」とは責任・欠点などをどこまでも問いただすこと、「追求」とは目的とするものをねばり強く追い求めること。「利潤追求」など。 
次(つぎ) < 「次ぎ」。「次ぎ」は、動詞「次ぐ」の活用形。 
謹(つつし)んで < 「・・・申し上げます」。「慎んで」。「謹む」は神仏・貴人などの前でかしこまった態度をとること、「慎む」は度がすぎないようにすること。 
務(つと)める < 「主演を・・・」。「勤める」。「務める」は役目にあたること、「勤める」は勤務すること、「努める/勉める」は力を尽くして行うこと。 
爪楊枝(つまようじ) < 「妻楊枝」。 
て 
体(てい)たらく/為体 < 「低たらく」。ありさま。 
定番(ていばん) < 「夏の・・・」。「定盤(ていばん)」。流行に左右されず安定した売上げを保つ商品。「定盤(じょうばん)」は金属加工の台。ちなみに、「定番(じょうばん)」と読む場合、常時、番をしていること。またその者。 
木偶(でく)の坊(ぼう) < 「木偶の棒」。 
捏(でっ)ち上げる < 「丁稚上げる」。 
手放(ばな)し < 「・・・でほめる」。「手離し」。 
出(で)不精(ぶしょう) < 「デブ症」。外出をめんどうがること。外出したがらないこと。 
手短(てみじか) < 「手短か」。 
寺子屋(てらこや) < 「寺小屋」。 
天涯孤独(てんがいこどく) < 「天外孤独」「天蓋孤独」。 
天守閣(てんしゅかく) < 「天主閣」。 
と 
と雖(いえど)も < 「と言えども」。 
問(と)い質(ただ)す < 「問い正す」。 
籐(とう)椅子(いす) < 「藤椅子」。籐の茎などを編んで作った椅子。 
当事者(とうじしゃ) < 「当時者」。 
当籤(とうせん) < 「・・・番号」。「当選」。くじに当たること。「当選」は選ばれること、選挙で選び出されること。 
疾(と)うの昔(むかし) < 「当の昔」。ずっと以前、疾(と)っくの昔。 
遠(とお)ざける < 「遠避ける」。 
通(とお)り一遍(いっぺん) < 「通り一辺」。 
土地鑑(とちかん)/土地勘 < 「土地感」。本来は「鑑」(見分けるの意)。 
土用(どよう)の丑(うし)の日(ひ) < 「土曜の丑の日」。「土用」とは、立夏・立秋・立冬・立春の前の十八日間の称。狭義では、夏の土用を指す。 
泥仕合(どろじあい) < 「泥試合」。互いに相手の秘密・失敗などをあばきあってする、醜い争いのこと。 
頓興(とんきょう) < 「頓狂」。本来は「頓興」。すっとんきょう。 
蜻蛉(とんぼ)返(がえ)り < 「とんぼ帰り」。ある場所へ行き、すぐ戻ってくること。  
 

 

な 
鳴(な)かず飛(と)ばず < 「泣かず跳ばず」。 
半(なか)ば < 「中ば」。 
擲(なげう)つ/抛つ < 「全財産を・・・」。「投げ打つ」。 
投(な)げ遣(や)り < 「・・・な態度」。「投げ槍」。 
梨(なし)の礫(つぶて) < 「無しの礫」。返事のないこと。「梨」は「無し」にかけたもの。 
為(な)せば成(な)る < 「成せば成る」。やればできる。「為せば成る 為さねば成らぬ 成る業を 成らぬと捨つる 人のはかなさ(武田信玄)」「為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の 為さぬなりけり(上杉鷹山)」。 
嬲(なぶ)る < 「嫐る」。「嫐」なら「うわなり」。ちなみに「嫐(うわなり)」とは、歌舞伎十八番の一。 
生兵法(なまびょうほう) < 「なまへいほう」。 
馴(な)れ馴(な)れしい < 「慣れ慣れしい」。 
に 
肉薄(にくはく) < 「肉迫」。本来は「肉薄」と書く。「薄」は迫るの意。 
人気者(にんきもの) < 「人気物」。 
ぬ 
濡(ぬ)れ手で粟(あわ) < 「濡れ手で泡」。苦労せずに多くの利益をあげることのたとえ。 
ね 
年(ねん)がら年中(ねんじゅう) < 「年柄年中」。 
年俸(ねんぽう) < 「年棒」。それから「ねんぼう」ではなく「ねんぽう」。 
の 
能(のう)ある鷹(たか)は爪(つめ)を隠(かく)す < 「脳ある鷹は爪を隠す」。ちなみに、「低脳」も誤り。正しくは「低能」。 
農機具(のうきぐ) < 「農器具」。「機具」は構造が複雑な機械、「器具」は仕組みが簡単な道具。 
脳梗塞(のうこうそく) < 「脳硬塞」。脳の血管がつまり、その先に血液が流れなくなる疾患。 
喉(のど)が渇(かわ)く < 「喉が乾く」。 
伸(の)るか反(そ)るか < 「乗るか反るか」。一か八か。  
 

 

は 
驀進(ばくしん) < 「爆進」。勢いよく、まっしぐらに進むこと。 
莫大(ばくだい) < 「漠大」。 
旗揚(はたあ)げ < 「旗上げ」。 
波長(はちょう) < 「波調」。 
発効(はっこう) < 「京都議定書・・・」「条約の・・・」。「発行」。「発効」とは、条約・法律などが効力をもつようになること、「発行」とは、図書・新聞などを印刷して世に出すこと、また、証明書・証券・貨幣などを作って世の中に通用させること。「発行価格」など。 
発車 < 「見切り・・・」。「発射」。 
発泡(はっぽう)スチロ・・・ル < 「発砲スチロ・・・ル」。 
洟(はな) < 「・・・垂(た)れ小僧」「・・・をかむ」「・・・も引っ掛けない」。「鼻」。「洟」とは鼻水のこと。 
話(はなし) < 「話し」。「話し」は、動詞「話す」の活用形。 
花実(はなみ)が咲く < 「花見が咲く」。よい結果を得ること。 
餞(はなむけ)/贐 < 「花向け」。せんべつ。「馬の鼻向け」の略。 
万事(ばんじ)休(きゅう)す < 「万事窮す」。もはや施す手段がないこと。 
万雷(ばんらい) < 「・・・の拍手」。「万来」。 
ひ 
鬚(ひげ) < 「竜の・・・」。「髭」。「髭」はくちひげ、「鬚」はあごひげ、「髯」はほおひげ。 
人心地(ひとごこち) < 「一心地」。 
一入(ひとしお) < 「感慨も・・・である」。「一塩」。 
独(ひと)り < 「・・・占(じ)め」「・・・者(もの)」「・・・善(よ)がり」。「一人」。 
日(ひ)の目(め) < 「・・・を見る」。「陽の目」。 
微妙(びみょう) < 「徴妙」。 
繙(ひもと)く < 「史書を・・・」。「紐解く」。書物を読むこと。「紐解く」は下紐を解くこと、男女が共寝(ともね)すること。 
瓢箪(ひょうたん)から駒(こま)が出る < 「瓢箪から独楽が出る」。玩具の「独楽」ではなく、馬という意味の「駒」。冗談で言った事が、思いがけず本当に実現するたとえ。 
ふ 
不可欠(ふかけつ) < 「不可決」。ちなみに、可決の反意語は否決。 
不協和音(ふきょうわおん) < 「不響和音」。 
輻射(ふくしゃ) < 「・・・線」「・・・熱」。「複写」。点からまわりへ放射すること。 
腹蔵(ふくぞう)/覆蔵 < 「腹臓」。心の中に秘め隠すこと。 
部署(ぶしょ) < 「部所」。 
無精髭(ぶしょうひげ) < 「武将髭」。「無精」とは、精を出さずに、なまけること。「筆無精(ふでぶしょう)/筆不精」など。 
不随(ふずい) < 「半身(はんしん)・・・」。「不髄」。からだが思うように動かないこと。 
不断(ふだん) < 「普段」。本来は「不断」で「普段」は当て字。いつも。絶えないこと。 
浮動(ふどう) < 「・・・株」「・・・票」。「不動」。一定しない状態で存在すること。不安定に存在すること。ちなみに、だれを支持するかが初めから決まっている票のことは「固定票」。 
不良(ふりょう)債権(さいけん) < 「不良債券」。 
附和(ふわ)雷同(らいどう)/付和雷同 < 「不和雷同」。自分にしっかりした考えがなく、他人の意見にすぐ同調すること。 
文明(ぶんめい)開化(かいか) < 「文明開花」。 
へ 
平衡(へいこう)感覚 < 「平行感覚」。 
遜(へりくだ)る/謙る < 「へり下る」。 
編制 < 「部隊・・・」。「編成」。「編制」とは、個個のものを組織して団体とすること。「編成」とは、個個のものを集めて一つのまとまったものにすること。 
ほ 
拇印(ぼいん) < 「母印」。「拇」とは親指のこと。 
蜂起(ほうき) < 「峰起」「烽起」。蜂(はち)がいっせいに巣を飛び立つように事が群がり起こること。 
坊主(ぼうず) < 「坊頭」。「・・・頭」「丸・・・」。 
放逐(ほうちく) < 「放遂」。追いはらうこと。「遂(と)げる」ではなく「逐(お)う」。 
報道(ほうどう) < 「報導」。 
捧腹(ほうふく)絶倒(ぜっとう) < 「抱腹絶倒」。本来は「捧腹絶倒」。「捧」はかかえる意。 
方便(ほうべん) < 「方弁」。 
訪問(ほうもん) < 「訪門」。 
包容力(ほうようりょく) < 「抱擁力」。相手のことを寛大に受け入れられる心の大きさ。 
恣(ほしいまま)/縦/擅 < 「欲しいまま」。やりたいままに振る舞うこと。 
保証金(ほしょうきん) < 「保障金」。債務の担保としてあらかじめ債権者に交付される金銭。「保証」とは請合うこと、「保障」とは守ること、「補償」とは償うこと。  
 

 

ま 
魔(ま)が差(さ)す < 「魔が刺す」。「差す」とは、ある種の気分や心的状況におそわれること。「嫌気が差す」など。 
摩訶(まか)不思議 < 「摩可不思議」。「摩訶」は大きなの意。 
馬子(まご)にも衣装(いしょう) < 「孫にも衣装」。馬子のような者でも、ちゃんとした衣装を付ければ立派に見える。「馬子」とは、昔、おもに、人を乗せた馬を引くことを職業とした人。 
摩天楼(まてんろう) < 「魔天楼」。天に届くほどの超高層ビル。 
魔方陣(まほうじん) < 「魔法陣」。「魔法、陣」ではなく「魔、方陣」。 
回り(まわり) < 「大立ち・・・」「金・・・」「身の・・・」「・・・道」。「周り」。「周り」と表記するものは限られている。幾つかの辞書で調べたが、見出し語となっているのは「周り」のほか「一周り」のみ。 
満場(まんじょう)一致(いっち) < 「万場一致」。 
満天(まんてん) < 「・・・の星」。「満点」。空いっぱいになること。 
み 
み < 「甘・・・」「旨・・・」「辛・・・」「酸っぱ・・・」。「味(み)」。「み」は接尾語。「味」は当て字。ちなみに、「甘味」とかけば普通は「かんみ」。 
見(み)出(いだ)す < 「見い出す」。「見(み)」+「出(だ)(いだ)す」。 
実入(みい)り < 「身入り」。収入。 
身(み)代(わ)(がわ)り/身替(わ)り < 「身変わり」。ちなみに、「かわりみ」は「変(わ)り身」。 
右へ倣(なら)え < 「右へ習え」。横の隊列を整えるときの号令、人のまねをしたり追随したりすること。 
見極(みきわ)める < 「見究める」。 
瑞瑞(みずみず)しい < 「水水しい」。若若しく新鮮であるという意味。ただし、「水」の字を掲げる辞書もある。「瑞木(みずき)」「瑞穂(みずほ)」など。 
未成年(みせいねん) < 「未青年」。 
見せる < 「魅せる」。「魅せる」は、「見せる」と「魅する」からできた造語。 
三(つ)叉(みつまた) < 「三つ又」。三叉(さんさ)。三筋に分かれているものや場所。「三股」「三椏」とも。 
見(み)蕩(と)れる < 「見取れる」。心を奪われてうっとりと見ること。 
身(み)を挺(てい)する < 「身を呈する」。 
む 
無我(むが)夢中(むちゅう) < 「無我無中」。 
無間(むげん) < 「・・・地獄」「・・・道」「・・・の底」。「無限」。ひっきりなしであること。 
無謀(むぼう) < 「・・・運転」。「無暴」。 
め 
名刺(めいし) < 「名剌」。 
銘(めい)ずる < 「肝(きも)に・・・」。「命(めい)ずる」。 
も 
黙読(もくどく) < 「目読」。 
黙秘(もくひ)権(けん) < 「黙否権」。 
蛻(もぬ)けの殻(から) < 「もぬけの空(から)」。 
守(も)り立(た)てる < 「盛り立てる」。守り育てること、力を発揮できるように支援すること。  
 

 

や 
焼(や)き餅(もち)焼(や)き < 「焼き餅妬き」。嫉妬ぶかいこと。 
疫病神(やくびょうがみ) < 「厄病神」。 
山間(やまあい) < 「山合い」。「さんかん」とも。 
和(やわ)らぐ < 「柔らぐ」。和らげる。「柔ら」は「柔らかい」。 
和(やわ)らげる < 「柔らげる」。 
ゆ 
有終(ゆうしゅう)の美(び) < 「優秀の美」。「有終」とは、物事の最後をまっとうすること。 
よ 
予断(よだん)を許さない < 「余談を許さない」。 
甦(よみがえ)る/蘇る < 「黄泉返る」。 
余裕綽綽(よゆうしゃくしゃく) < 「余裕釈釈」。「綽綽」とは、ゆとりのあるさま。 
縒(よ)りを戻(もど)す/撚りを戻す < 「寄りを戻す」。もと通りにする。転じて、別れた男女がまた一緒になるのにいう。「紙縒(り)(こより)/紙捻(り)/紙撚(り)」など。「よる」とは、まじえてねじり合せること。 
輿論(よろん)/世論(よろん/せろん/せいろん) < 「・・・に訴える」「・・・調査」。「与論」。「世(よ)」は書き換え字。  
 

 

ら 
雷名(らいめい) < 「天下に・・・を轟(とどろ)かす」。「雷鳴」。 
落花生(らっかせい) < 「落下生」。 
り 
利器(りき) < 「文明の・・・」。「力(りき)」。便利な道具・機械。 
理想郷(りそうきょう) < 「理想境」。 
流言(りゅうげん)蜚語(ひご)/流言飛語 < 「流言非語」。世の中で言いふらされる確証のないうわさ話のこと。「飛」は書き換え字。 
れ 
歴(れっき)とした < 「列記とした」。 
錬金(れんきん)術 < 「練金術」。 
ろ 
老朽(ろうきゅう) < 「・・・化」。「老旧」。 
狼藉(ろうぜき) < 「・・・者」。「狼籍」。戸籍の「籍(せき)」ではなく、「ふむ」という意の「藉(し)く」。 
露天商(ろてんしょう) < 「露店商」。 
ロケハン < 「ロケ班」。和製英語でlocation huntingの略。撮影に適当な場所を探し歩くこと。  
 

 

わ 
わ < 「咳は出る・・・、鼻水は出る・・・」。「は」。(文末に用いられた係助詞「は」からの転)終助詞の「わ」。感動の意を表しながら並べあげる場合に用いる。 
賄賂(わいろ) < 「賄路」。 
和気(わき)藹藹(あいあい) < 「和気愛愛」。「藹藹」とは、なごやかなさま。 
倭寇(わこう) < 「倭冠」。「寇」は、はむかう・侵略する、の意。 
業物(わざもの) < 「技物」。工が鍛えた切れ味のよい刀剣。「業師(わざし)」「人間業(にんげんわざ)」など。 
笑(わら)う門(かど)には福(ふく)来(き)たる < 「笑う角には福来たる」。 
ワイシャツ < 「Yシャツ」。ワイシャツは「White shirt(ホワイト・シャツ)」の訛りから。  
 

 


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