マスコミ自壊伝

政権とマスコミ / マスコミ諸話20122013201420152016201720182019
政策評価 / 内閣人事局特定秘密保護法平和安全法制テロ等組織犯罪準備罪・・・・・・ゆとり教育・・・
政権不祥事 / 政権不祥事安倍晋三麻生太郎石破茂松島みどり小渕優子片山さつき稲田朋美高市早苗甘利明桜田義孝田中良生宮沢洋一山谷えり子江渡聡徳望月義夫西川公也塩崎恭久竹下亘有村治子左藤章御法川信英大塚高司山田美樹上川陽子下村博文林芳正岸宏一中川郁子世耕弘成菅義偉武藤貴也門博文・・・
岸井成格 / 岸井成格政界疾風録「NEWS23」降板政権圧力批判・・・
国谷裕子 / 国谷裕子「クロ現」降板「クロ現」やらせ疑惑現在評論「クローズアップ現代」報道視点・・・
古舘伊知郎 / 古舘伊知郎「報ステ」降板エピソード権威主義古舘伊知郎談「報ステ」降板後の古舘「報ステ」降板経緯・・・
佐高信 / 佐高信批判評論2014評論2015評論2016評論2017・・・
コメンテーター / 筑紫哲也羽鳥慎一玉川徹尾木直樹寺脇研池上彰田原総一朗小倉智昭宮根誠司須田慎一郎細川隆一郎田崎史郎山口敬之松本人志後藤謙次辛坊治郎青山和弘櫻井よしこ安住紳一郎・・・
マスコミ批判 / 言論出版界の論調朝日新聞2014放送倫理基本綱領「悪の出家詐欺」報道の自由度放送法順守を求める視聴者の会NHKの報道姿勢テレビ朝日株主総会忖度文化史伊藤詩織・・・
 

雑学の世界・補考

政権とマスコミ


2012年12月26日 - 2014年9月3日
内閣総理大臣 / 安倍晋三 衆議院 / 町村派
副総理 財務大臣 / 麻生太郎 衆議院 / 麻生派
内閣官房長官 / 菅義偉 衆議院 / 無派閥
法務大臣 / 谷垣禎一 衆議院 / 谷垣グループ
環境大臣 / 石原伸晃 衆議院 / 石原派
総務大臣 / 新藤義孝 衆議院 / 額賀派
外務大臣 / 岸田文雄 衆議院 / 岸田派
防衛大臣 / 小野寺五典 衆議院 / 岸田派
文部科学大臣 / 下村博文 衆議院 / 町村派
厚生労働大臣 / 田村憲久 衆議院 / 額賀派
農林水産大臣 / 林芳正 参議院 / 岸田派
経済産業大臣 / 茂木敏充 衆議院 / 額賀派
国土交通大臣 / 太田昭宏 衆議院 / 公明党
復興大臣 / 根本匠 衆議院 / 岸田派
国家公安委員会委員長 / 古屋圭司 衆議院 / 二階派
内閣府特命担当大臣 / 甘利明 衆議院 / 無派閥 (経済財政政策担当)
内閣府特命担当大臣 / 山本一太 参議院 / 無派閥
内閣府特命担当大臣 / 森まさこ 参議院 / 町村派
内閣府特命担当大臣 / 稲田朋美 衆議院 / 町村派 
2014年12月24日 - 2015年10月7日         初入閣議員 
内閣総理大臣 / 安倍晋三 衆議院 / 細田派
副総理 財務大臣 / 麻生太郎 衆議院 / 麻生派
総務大臣 / 高市早苗 衆議院 / 無派閥
法務大臣 / 上川陽子 衆議院 / 岸田派
外務大臣 / 岸田文雄 衆議院 / 岸田派
文部科学大臣 / 下村博文 衆議院 / 細田派
厚生労働大臣 / 塩崎恭久 衆議院 / 岸田派
農林水産大臣 / 西川公也 衆議院 / 二階派
        林芳正 参議院 / 岸田派 2015年2月23日就任
経済産業大臣 / 宮澤洋一 参議院 / 岸田派
国土交通大臣 / 太田昭宏 衆議院 / 公明党
環境大臣 / 望月義夫 衆議院 / 岸田派
防衛大臣 / 中谷元 衆議院 / 谷垣グループ
内閣官房長官 / 菅義偉 衆議院 / 無派閥
復興大臣 / 竹下亘 衆議院 / 額賀派
国家公安委員会委員長 / 山谷えり子 参議院 / 細田派
内閣府特命担当大臣 / 山口俊一 衆議院 / 麻生派
内閣府特命担当大臣 / 有村治子 参議院 / 山東派
内閣府特命担当大臣 / 甘利明 衆議院 / 無派閥
内閣府特命担当大臣 / 石破茂 衆議院 / 石破派
国務大臣 / 遠藤利明 衆議院 / 谷垣グループ 
2015年10月7日 - 2016年8月3日
内閣総理大臣 / 安倍晋三 衆議院 / 細田派
副総理 財務大臣 / 麻生太郎 衆議院 / 麻生派
総務大臣 / 高市早苗 衆議院 / 無派閥
法務大臣 / 岩城光英 参議院 / 細田派
外務大臣 / 岸田文雄 衆議院 / 岸田派
文部科学大臣 / 馳浩 衆議院 / 細田派
厚生労働大臣 / 塩崎恭久 衆議院 / 無派閥
農林水産大臣 / 森山裕 衆議院 / 石原派
経済産業大臣 / 林幹雄 衆議院 / 二階派
国土交通大臣 / 石井啓一 衆議院 / 公明党
環境大臣 / 丸川珠代 参議院 / 細田派
防衛大臣 / 中谷元 衆議院 / 谷垣グループ
内閣官房長官 / 菅義偉 衆議院 / 無派閥
復興大臣 / 高木毅 衆議院 / 細田派
国家公安委員会委員長 / 河野太郎 衆議院 / 麻生派
内閣府特命担当大臣 / 島尻安伊子 参議院 / 額賀派
内閣府特命担当大臣 / 甘利明 衆議院 / 無派閥
        石原伸晃 衆議院 / 石原派 2016年1月28日就任
内閣府特命担当大臣 / 加藤勝信 衆議院 / 額賀派
内閣府特命担当大臣 / 石破茂 衆議院 / 石破派
国務大臣 / 遠藤利明 衆議院 / 谷垣グループ 
2016年8月3日 -
内閣総理大臣 / 安倍晋三 衆議院 / 細田派
財務大臣 / 麻生太郎 衆議院 / 麻生派
総務大臣 / 高市早苗 衆議院 / 無派閥
法務大臣 / 金田勝年 衆議院 / 額賀派
外務大臣 / 岸田文雄 衆議院 / 岸田派
文部科学大臣 / 松野博一 衆議院 / 細田派
厚生労働大臣 / 塩崎恭久 衆議院 / 無派閥
農林水産大臣 / 山本有二 衆議院 / 石破派
経済産業大臣 / 世耕弘成 参議院 / 細田派
国土交通大臣 / 石井啓一 衆議院 / 公明党
環境大臣 / 山本公一 衆議院 / 谷垣グループ
防衛大臣 / 稲田朋美 衆議院 / 細田派
内閣官房長官 / 菅義偉 衆議院 / 無派閥
復興大臣 / 今村雅弘 衆議院 / 二階派
国家公安委員会委員長 / 松本純 衆議院 / 麻生派
内閣府特命担当大臣 / 鶴保庸介 参議院 / 二階派
内閣府特命担当大臣 / 石原伸晃 衆議院 / 石原派
内閣府特命担当大臣 / 加藤勝信 衆議院 / 額賀派
内閣府特命担当大臣 / 山本幸三 衆議院 / 岸田派
国務大臣 / 丸川珠代 衆議院 / 細田派  
2017年8月3日 -
内閣総理大臣 / 安倍晋三 衆議院
財務大臣 / 麻生太郎 衆議院
総務大臣 / 野田聖子 衆議院
法務大臣 / 上川陽子 衆議院
外務大臣 / 河野太郎 衆議院
文部科学大臣 / 林芳正 参議院
厚生労働大臣 / 加藤勝信 衆議院
農林水産大臣 / 齋藤健 衆議院
経済産業大臣 / 世耕弘成 参議院
国土交通大臣 / 石井啓一 衆議院
環境大臣 / 中川雅治 参議院
防衛大臣 / 小野寺五典 衆議院
内閣官房長官 / 菅義偉 衆議院
復興大臣 / 吉野正芳 衆議院
国家公安委員会委員長 / 小此木八郎 衆議院
内閣府特命担当大臣 / 江崎鉄磨 衆議院
内閣府特命担当大臣 / 松山政司 参議院
内閣府特命担当大臣 / 茂木敏充 衆議院
内閣府特命担当大臣 / 梶山弘志 衆議院
東京オリンピック担当 / 鈴木俊一 衆議院 
2017年11月1日 -
内閣総理大臣 / 安倍晋三 衆議院
副総理・財務大臣 / 麻生太郎 衆議院
総務大臣 / 野田聖子 衆議院
法務大臣 / 上川陽子 衆議院
外務大臣 / 河野太郎 衆議院
文部科学大臣 / 林芳正 参議院
厚生労働大臣 / 加藤勝信 衆議院
農林水産大臣 / 齋藤健 衆議院
経済産業大臣 / 世耕弘成 参議院
国土交通大臣 / 石井啓一 衆議院
環境大臣 / 中川雅治 参議院
防衛大臣 / 小野寺五典 衆議院
内閣官房長官 / 菅義偉 衆議院
復興大臣 / 吉野正芳 衆議院
国家公安委員会委員長 / 小此木八郎 衆議院
内閣府特命担当大臣 / 福井照 衆議院
内閣府特命担当大臣 / 松山政司 参議院
内閣府特命担当大臣 / 茂木敏充 衆議院
内閣府特命担当大臣 / 梶山弘志 衆議院
内閣府特命担当大臣 / 江ア鐵磨 衆議院 (2017/11/1-2018/2/27)
東京オリンピック担当 / 鈴木俊一 衆議院
   内閣官房副長官 / 西村康稔 衆議院
   内閣官房副長官 / 野上浩太郎 参議院
   内閣官房副長官 / 杉田和博
   内閣法制局長官 / 横畠裕介
2018年10月2日 -  
内閣総理大臣 / 安倍晋三 衆議院
副総理・財務大臣 / 麻生太郎 衆議院
総務大臣 / 石田真敏 衆議院
法務大臣 / 山下貴司 衆議院
外務大臣 / 河野太郎 衆議院
文部科学大臣 / 柴山昌彦 衆議院
厚生労働大臣 / 根本匠 衆議院
農林水産大臣 / 吉川貴盛 衆議院
経済産業大臣 / 世耕弘成 参議院
国土交通大臣 / 石井啓一 衆議院
環境大臣 / 原田義昭 衆議院
防衛大臣 / 岩屋毅 衆議院
内閣官房長官 / 菅義偉 衆議院
復興大臣 / 渡辺博道 衆議院
国家公安委員会委員長 / 山本順三 参議院
内閣府特命担当大臣 / 宮腰光寛 衆議院
内閣府特命担当大臣 / 平井卓也 衆議院
内閣府特命担当大臣 / 茂木敏充 衆議院
内閣府特命担当大臣 / 片山さつき 参議院
東京オリンピック担当 / 桜田義孝 衆議院
   内閣官房副長官 / 西村康稔 衆議院
   内閣官房副長官 / 野上浩太郎 参議院
   内閣官房副長官 / 杉田和博
   内閣法制局長官 / 横畠裕介
 
マスコミ

マス・コミュニケーション (mass communication)
1
新聞、雑誌、映画、テレビ(テレビジョン)、ラジオ、インターネットなどのマス・メディアを通して大衆に向けてなされるコミュニケーション。パーソナル・コミュニケーションと異なり、時間的、空間的距離を隔てて間接的に行なわれるコミュニケーションで、送り手は常に送り手であり、受け手は常に受け手であるというように、一方的な伝達である。受け手は興味のもてない送り手とのコミュニケーションを避けるので、受け手へ伝達する効果を高めるために、感情や欲求に訴えるような刺激的な表現や扱い方が用いられる傾向がある。
2
新聞、雑誌、ラジオ、映画、テレビジョン等のいわゆるマス・メディアを用いて、不特定多数の受け手に情報を流通させる社会的伝達手段。印刷技術や電信・電子メディアの発達とともに成立・発展し、とくに19世紀半ば以降急速に発達した。マス(大衆)に対してマス(大量)の情報を送るためには、専門的な機構と組織が必要となり、伝達内容は画一化され、情報の流通も間接的・一方的になる。その結果、人々の意識や行動に与える影響はきわめて深く大きいと考えられ、それについてさまざまな議論が展開されてきた。現在、さらに双方向性メディアの出現などによって新しい局面が開かれたとする議論もあり、新たなマス・コミュニケーション概念の検討が提唱されてもいる。
3
デモグラフィックとサイコグラフィックの観点からいわゆる大衆視聴者に対してアピールする大量伝達媒体。例えばテレビ、新聞、ラジオ等。
4
マスメディア(具体的にはテレビ、ラジオ、インターネット、新聞、雑誌、書籍など)を用いて、不特定多数の大衆(マス)に大量の情報を伝達すること。対義語としてのパーソナル・コミュニケーションとは異なり、時間的、空間的距離を置いて間接的に行われるコミュニケーション手段である。なおかつ、送り手と受け手が固定される一方的な伝達手段である。
書籍によって多少異なるが、日本における狭義の"マスコミ"の特徴は、情報の速報性、情報の受け取りがほぼ同時であること、受け手側が不特定多数であること(情報の公開性)、情報の流れが一方的であること、などである。しかし、情報の即時性・伝達性・双方向性・発信性・公開性に優れるインターネットの登場により、狭義の呼称による使用を控える動きがあり、既に国内の主要なメディアでは自粛用語となっておりマスメディアに置き換えられている。
マスコミに似た言葉としてミニコミ(受け手が特定少数、和製英語)、口コミ(伝達手段が会話)、パーソナル・コミュニケーション(personal communication、特定個人による少数同士の交流)などがある。
歴史 / 印刷技術や電子媒体の発達とともに成立・発展し、とくに19世紀半ば以降急速に発達した。情報の流通が一方的になるにつれて、人々の意識や行動に与える影響力が大きいことから、さまざまな議論が展開されてきた。
理論 / マスコミュニケーションのモデルマスコミュニケーションの全体像・モデルとしては、シャノンとウィーバーの「情報伝達モデル」(情報理論)が有名である。送り手に関する考察マスコミュニケーションの送り手である、マスメディアについては効果・影響力が盛んに論じられてきた。1920年代から1940年代はラジオやレコードが普及した。弾丸を打ち込まれるように強力な効果がある(弾丸理論)ので、宣伝に利用できる(プロパガンダ理論)と考えられていた。1940年代から1960年代になると、コミュニケーションには2つの段階があり、一般人はオピニオンリーダーやゲートキーパーの意見に従っているので、限定的な効果しかないと考えられるようになった(普及理論など)。1960年代から1980年代になるとテレビが普及した。マスメディアには「議題設定効果」や「培養効果」(カルティベーション理論)があり、少数派は「沈黙の螺旋」に陥って意見を言えなくなる。強力な効果があると再び考えられるようになった。またマスメディアの背後では、大企業や資本家などが操っている(ポリティカル・エコノミー理論)という説もある。受け手に関する考察1920年代から1940年代は、視聴者は受身であり言いなりになる(弾丸理論)と考えられていた。1960年から1980年代になると、視聴者は満足度などを考えて、自分でメディアを選別している(アクティブ・オーディエンス理論)と考えるようになった。また送り手が意図したように視聴者は解釈していない場合があると言った研究(カルチュラル・スタディーズ)もなされるようになった。
5
新聞や放送などのように、複雑な社会組織として機能する送り手が、高度な技術的・機械的装置を駆使して、メッセージや情報をほとんど同時的に、不特定多数の人々に大量伝達する公共的性格を帯びたメディア・コミュニケーションの形態と過程をいう。こうしたマス・コミュニケーション(以下マスコミと略称)の一般的定義にもかかわらず、パソコン、インターネット、電子メールなどの普及にみられる日進月歩、あるいは「秒進分歩」とさえいわれる情報技術の急速な進歩のなかで、マスコミの定義が揺らぎだしていることにも注意深く目を向けなければならないであろう。ちなみに、メディア・ツールとしてのインターネットを積極的に利用すれば、ネット上で公開、提供される多様な情報源に個人でも直接アクセスすることができ、あるいは自らホームページを開設して世界に向けて直接かつ瞬時に情報を発信することができる。マスコミとニューメディア、マルチメディアとは単に棲(す)み分けて共存するだけでなく、相互に越境しあって機能的なシームレス化への道をたどっており、その結果、情報源へのマスコミの独占的アクセスや情報伝達の優位性に風穴を開けることもできるようになったのである。
マスコミの成立と発展
20世紀は「マス・コミュニケーションの時代」とよばれ、現代社会におけるマス・メディアmass mediaの浸透と遍在性は、20世紀のもっとも重要で顕著な歴史的事実の一つであるといえる。マスコミの成立と発展は、なによりもコミュニケーション技術の驚異的発達によってもたらされたといってよい。コミュニケーションの技術革新は次々と新しいメディアを生み出し、マス・メディアを多様化するとともに、その高度化を推し進めた。コミュニケーション・テクノロジーの高度の発達とともに、近代社会の発展を推進した工業化、都市化、民主化の諸過程は、いずれもマスコミの飛躍的成長と密接な相互関連をもつ社会的諸条件であった。これらの社会的条件は、一方でマスコミの発展を助長した独立変数であったし、また他方ではマスコミの発展によっていっそう促進された従属変数でもあった。
工業化の進展は人々の生活水準の上昇をもたらし、教育の普及や余暇の増大と相まって、人々の情報需要の伸張に寄与した。都市化とともに、都市への人口集中が急テンポで進行し、伝統的共同体の権威や統制から解放されたマス・オーディエンスmass audience(大衆的受け手)という巨大な集合体を誕生せしめ、社会的統合のメカニズムとして、マスコミへの依存度をますます高めた。また、消費者としての大衆の潜在的購買力を喚起して、大衆消費社会を支える有力な広告メディアとして機能してきた。民主化の進展はいうまでもなく、マス・メディアの自由かつ多元的な活動への強力な槓杆(こうかん)(てこ)であった。まことに、マスコミは近代化の所産といわなければならないし、現代人の社会生活上欠くことのできない「社会の公器」となったのである。
マスコミの発展を推し進めた技術的伝達手段をマス・メディアといい、新聞、雑誌、書籍などの印刷媒体と、テレビ、ラジオ、映画などの電子媒体とに大別されるが、広告業界では、新聞、雑誌、テレビ、ラジオを四大マス・メディアとよんでいる。また、文字メディア、聴覚メディア、視聴覚メディアといった伝統的メディア分類のほか、新聞、雑誌、書籍、レコードなどのパッケージ系と、テレビ、ラジオ、電話、CATV(有線テレビ)などの電気通信系というメディア分類もある。とくに、エレクトロニクスを中心としたコミュニケーション技術の目覚ましい革新とコンピュータの著しい発展・普及は、新聞、出版、放送、通信、映画といった既存メディアの境界をあいまいにさせ、メディア相互間の融合(メディア・ミックス)や放送とコンピュータ技術との結合によるデータ放送など、伝統的なメディア分類に収まりきらない新しいメディア形態を生み出している。なお、日本では「マス・メディア」と「マスコミ」は同義に扱われることが多い。
マスコミの特徴
マスコミの主要な特徴として、一般に、次の諸点があげられている。
(1)マスコミの送り手は専門化された社会的分業に基づく大規模な企業組織であって、社会の経済的、政治的、文化的な構造に組み込まれ、その一環として機能する。資本主義社会では、一般に、マス・メディアのビッグ・ビジネス化、集中・独占化、エスタブリッシュメント(体制)化が進行し、資本家と経営者はジャーナリストに相対的自律性を認めながらも、究極的にはマス・メディアを統制・管理する。社会主義体制下での、マス・メディア組織は、原則として党・国家の独占的支配、統制下に置かれ、資本主義社会におけるマス・メディアの場合のように商業主義的逆機能が現れにくい反面、大衆的宣伝・扇動・組織化のための機関として明確な役割を付与され、反体制的言論活動に一定の枠がはめられる傾向にある。
(2)マスコミの受け手は総体として大衆を構成し、膨大性、拡散性、匿名性、異質性、雑多性、無定形ないし非組織性などによって特徴づけられる。しかし、日常的次元から微視的にみた場合、受け手は多様な社会集団の網目のなかでマス・メディアに選択的に接触し、メディア内容を差異的に受容する。さらに、多メディア・多チャンネル、インターネットの時代になると、大衆的受け手の細分化や多極化を惹起(じゃっき)し、マス・メディアは受け手を不特定多数の大衆から特定多数の「分衆」へと絞りこむ脱マスコミ化への傾向をはらむことになる。マスコミへの接触と受容において、能動的に行為する受け手は伝統的な読み書きそろばんに加え、メディアリテラシーあるいは情報リテラシーとよばれる技能を身につけ、向上させ、多様な情報通信メディアをそれぞれの欲求や必要に応じて巧みに使いこなすようになってきている。このメディアリテラシーの能力開発は単に多様なメディアを有効的に利用し活用することだけでなく、テクストとしてのメディアを批判的に読み解く能力を学習し、取得していくことをも含んでいる。
(3)マスコミの送り内容は、専門的、特殊関心的な情報やメッセージではなく、一般的、平均的な関心や興味を公分母とする。セックス、暴力、犯罪などヒューマン・インタレストを刺激するニュースや話題は、マスコミのもっとも典型的なコンテンツ(内容)である。しかし、まさに「大衆情念の公分母」に依拠することによって、送り内容は画一化し、ステレオタイプ化しがちで、商業主義的体質と結び付くとき、低俗化やセンセーショナリズム化に陥りやすい。さらに、マスコミの送り内容は通例、受け手がじかに接触することのできない間接的な環境や世界に関する情報やメッセージであって、その情報やメッセージの真実性や妥当性を直接検証することは、受け手にとってほとんど不可能である。
(4)マスコミ過程において、送り手と受け手の位置と役割は通常固定化されて、コミュニケーションの流れも基本的には送り手から受け手への一方通行である。また、送り手と受け手とはインパーソナルな関係にあって、フィードバック作用が円滑に働きにくい。しかし、デジタル技術の開発と発展により、インターネットを利用した情報発信や電子メールによるやりとりなど、送り手と受け手の双方向コミュニケーションが活発に行われるようになりつつある。送り手と受け手との非対称の一方的偏りは変化してきており、今後受け手のメディア参加をいっそう促進してゆくものとみられる。
現代社会のコミュニケーション構造
マスコミは現代社会の中枢神経系であるとしても、他の多種多様なコミュニケーション・メディアが折り重なって、現代社会の錯綜(さくそう)したコミュニケーション網を形づくっている。
現代社会のコミュニケーション構造は、基本的には、パーソナル・コミュニケーションと中間コミュニケーションとマスコミとの三層構造として把握できる。パーソナル・コミュニケーションは、身体的に近接した状態にある2人あるいはそれ以上の人々の間の直接的で対面的なコミュニケーションであって、
(1)話し手と聞き手との位置と役割が相互に交換されること
(2)即時的なフィードバックが存在すること
(3)コミュニケーション状況はおおむね非構造的・インフォーマルであること
など、マスコミと対照的な特徴をもっている。アメリカの社会哲学者・教育学者のジョン・デューイは対面的コミュニケーションが共同体の成立に不可欠な条件であることを力説している。
中間コミュニケーションは、パーソナル・コミュニケーションとマスコミとの境界領域に位置するコミュニケーション形態である。したがって、中間コミュニケーションは両者の特徴を兼ね備えている。パーソナル・コミュニケーションのようにメッセージの受け手は限定され、メッセージも比較的特定化された関心と興味に絞られ、送り手と受け手との相互作用もある程度保持されている。他方、マスコミにみられるように、受け手は空間的に分散し、非対面的状況にあり、メッセージは機械技術的手段を媒介にして同時的ないし短時的に伝達される。具体的にいえば、企業、団体などの組織コミュニケーション、地域社会におけるコミュニティ・メディア、専門的・個別的情報ニーズにこたえる専門メディアなどである。だが、電子メディアの急速な発展によるサイバー空間(電脳空間)やバーチャル・リアリティー(仮想現実)の登場と拡大は、現代社会のコミュニケーション構造に新しい次元を差し込み、そのコミュニケーション構造そのものを変容させつつある。
マスコミを社会的コミュニケーション構造の一環としてとらえるとともに、特定の社会構造ないし社会体制の一翼として把握することも必要である。社会学者の稲葉三千男(いなばみちお)(1927―2002)によると、社会的コミュニケーションの全体状況は、(1)保守組織、(2)行政組織、(3)マスコミ、(4)革新組織の四元論として図式化できるという。そして、社会の階級関係がこの四元の社会的コミュニケーションの相互関係を規定すると考える。行政組織とマスコミと保守組織とが癒着する日本型、保守組織と革新組織とに分極化するか、真の政治的中立を保持するイギリス型、革新組織のコミュニケーションが欠落し、異端的ミニコミの活動するアメリカ型といった考察は興味深く、示唆に富んでいる。体制(保守)コミュニケーション――マスコミ――革新コミュニケーションの三極構造のなかで、三者の緊張・対抗関係を考察することによって、現代社会におけるマスコミの動態を多角的に明らかにできるであろう。
マスコミの社会的機能
現代社会におけるマスコミの役割と機能をめぐって、三つの主要な理論的観点があると思われる。すなわち、(1)大衆社会論的観点、(2)多元主義的観点、(3)マルクス主義的観点である。
大衆社会論的観点
大衆社会論的観点は大衆社会論を母胎とするマスコミ論であって、以下の大衆社会論の命題が理論的支柱になっている。
(1)大衆化の現象とともに、人々を共同体に結び付け、社会秩序のバラスト(安定装置)であった伝統的な社会的紐帯(ちゅうたい)が崩壊したために、非人格的な大衆的組織によってかろうじて結合されているにすぎない、不安定で脆弱(ぜいじゃく)な都市型産業社会が成立したこと。
(2)社会的に孤立化し、疎外されたアノミック(無規範状態)な人間類型の一般化を背景に、コミュニケーション技術の革命的進歩と相まって、大衆的人間は被操作性を高め、マスコミのかっこうの餌食(えじき)となったこと。
こうして、マス・メディアは、大衆社会において大衆操作の道具として強力な直接的影響力を行使する、という単純明快なマスコミ観が形成されることになる。
多元主義的観点
多元主義的観点は、大衆社会論的観点に挑戦し、終止符を打つことを意図し、アメリカの実証的マスコミ研究が隆盛の絶頂にあった1950年代に確立されたといってよい。多元主義的観点の基底にあるのは多元社会論である。支配エリートを頂点とする一枚岩的権力構造を想定する大衆社会論的観点とは逆に、現代社会は相互に競争し、抑制しあう多元的な社会集団によってモザイク的に構成され、とりわけ中間レベルにおける多様な自発的結社の生き生きとした活動が、民主主義への有効な安定装置であると考える。
多元主義的観点はまた、大衆的人間類型の根本的転換を図った。現代の政治過程において、大衆は権力エリートによって一方的に操作される客体ではなく、むしろ権力エリートをさまざまに抑制する政治的主体であると考えられ、灰色の大衆像は市民的人間類型へと塗り替えられたのである。
多元主義的観点の理論的前提で、いま一つ注目すべき点として、マス・メディアの自律性と多元性に関する命題がある。マス・メディアは、国家をはじめあらゆる外部的諸勢力から自立し、報道の自由を主体的に享受するという伝統的自由主義理論を基底にしながら、プロフェッショナルなメディア組織に内在する機能的自律性を主張する。そして、マス・メディアが自律的に機能するならば、多元的な情報と意見が思想の自由市場で交流し、競合することになって、民主主義社会における健全な世論形成に寄与するというわけである。
多元社会におけるマス・メディアの基本的機能は、多元主義的社会体制を総体的に維持し、発展させることにある。多元社会には、広範に共有されている中核的価値体系や合意が存在しており、マス・メディアはこうした合意や価値、規範を反映し、補強しながら、社会体制を統合する機関にほかならない。
マスコミの実証的研究は多元主義的観点の申し子であって、(1)方法論的個人主義、(2)媒介変数アプローチ、(3)能動的受け手観などによって特徴づけられ、多彩な実証的データを積み上げながら、理論的一般化を試みてきた。そのもっとも包括的結論は、「マスコミは通常、受け手への効果の必要かつ十分なる原因として作用せず、受け手の態度の変容要因としてよりも、その補強要因として機能する」ということである。のちに「限定効果モデル」とよばれたこの一般化は、やがてマスコミの効果と潜勢力を過小評価しすぎているのではないかとの疑問と批判を巻き起こし、マスコミの影響力を再評価する動向が現れてくる。マスコミの認知効果や長期的・累積的効果に新たなる問題関心を向けているところに、こうした研究動向の顕著な特徴があるといえよう。
マルクス主義的観点
マルクス主義的観点の基底には、いうまでもなく階級社会論がある。資本主義社会は、生産手段を所有する支配階級と、生産手段を所有せず、自らの労働力以外に頼るものをもたない被支配階級とによって基本的に構成され、それらの基本的階級間の対立と闘争という敵対的関係のなかで、資本家による階級支配が究極的に貫徹する社会である。したがって、資本主義社会におけるマス・メディアは階級支配のためのイデオロギー機能を直接的、間接的に遂行するエージェントないし装置であり、フィンランドのマスコミ研究者ノルデンストレングKaarle NordenstrengとバリスTapio Varisが論じたように、その主要な役割と機能は、
(1)社会の内部における階級対立を隠蔽(いんぺい)し、疎外の諸症候を補償すること、
(2)社会の既成秩序にかわる具体的な社会的選択肢を非正統化すること、
(3)営利を目的とする産業の一環として利潤を追求すること、
だといってよかろう。
日本では、アメリカ的マスコミ研究にかわる批判的パラダイムとして、マルクス主義的観点からのマスコミ研究が早くから活発に展開され、わが国のマスコミ研究に独自の彩りを添えてきた。しかし、欧米では事情を異にして、マルクス主義的観点への関心が高まってくるのは1970年代あたりからである。マルクス主義的メディア研究でとくに注目されるのは、文化主義的なアプローチである。社会は多様な集団文化で構成されているが、マス・メディアは特定集団の特殊な価値・利害・要求をあたかも普遍的で自明なものとして正統化する役割を演じている、というのがこの研究の基本的立場である。イギリスのカルチュラル・スタディーズ(文化研究)の中心的研究者ホールStuart Hall(1932― )は、このようなマスコミの正統化機能に認識の焦点を据えるマルクス主義的メディア研究の特徴を、「イデオロギーの再発見」と名づけている。
実証的マスコミ研究はかつて「第一次集団の再発見」をてこに、大衆社会論的観点のコペルニクス的転回を図った。すなわち、マスコミの影響や効果は、受け手の所属する第一次集団の規範やオピニオン・リーダーという媒介変数によって間接的に規定・限定されており、「皮下注射針モデル」あるいは「弾丸理論」が想定したように、マスコミは、甲らのないカニ同然の受け手に対して、あたかも弾丸のように強烈な決定的影響力を直接行使するのではないと主張した。しかし、すでに触れたように、実証的マスコミ研究の「限定効果モデル」に対して、今日、さまざまの疑義や批判が浴びせられ、マスコミの影響力を見直し、再評価する動きが活発になり、皮下注射針モデルないし弾丸理論の新版ともいうべき「強力効果モデル」が提唱されている。ある意味で、マスコミ理論は一巡したともいえる。イデオロギーの再発見は第一次集団の再発見と同じように、マスコミ研究の理論的観点を切り換える有力な転てつ器の役割を果たしている。
新しい動向
そのほかに注目すべき理論的動向として、マスコミ公共圏論がある。ドイツの社会学者ハバーマスの著書『公共性の構造転換』(1962)の英語版(1989)が引き金となって、公共圏の概念に基づいて現代社会におけるマスコミの役割と機能を考察する議論が盛んになった。公共圏とは公共的議論のための開かれた自律的なコミュニケーション空間のことで、マス・メディアは公共圏の有力な担い手であることを期待されているということにほかならない。
ハバーマスは、成熟した高度資本主義と福祉国家体制のもとで機能する現代のマスコミが、このような民主的な公共圏の構築に十分適切に寄与できるかどうかについて総じて悲観的であるものの、市民参加をいざなう多種多様な自発的結社を基軸とする参加民主主義が力強く進展するなら、明るい展望が開けてくる可能性があることも示唆している。しかしその前途は険しく、幾多の紆余(うよ)曲折をたどると思われるが、マスコミが公共的な対話と論争のフォーラム(公開討論の場)としての役割を十全に果たすことができるようになれば、民主主義の活性化に資する生き生きとした世論の形成機関として復活するであろう。
日本のマスコミの現況
わが国のマスコミは第二次世界大戦以前においても、著しい成長を遂げていたが、戦後は戦前期とは比べ物にならないほど質量ともに飛躍的に発展し、今日では世界有数のマスコミ王国となっている。日刊新聞の総発行部数は世界第1位であり、人口1000人当り部数でも主要先進国のなかでトップの普及率を誇っている。テレビ・ラジオの放送についても受信機台数、放送時間量、視聴時間量などからみて、世界の上位にランクしているし、出版の現状でも、書籍の新刊点数や発行部数は世界においてトップ・グループに属している。テレビの普及とともに斜陽化した映画においても、映画観客数や映画館数こそ激減したものの、封切り本数は最盛期に比べてもさほど減少しておらず、テレビによる映画放送とビデオソフトの利用頻度に目を向けるなら、映像ソフトとしての映画需要はけっして衰えていない。「マスコミの時代」の主役はテレビである。テレビを日常視聴しない人はほとんどいないばかりでなく、テレビ離れが取りざたされながらも、相変わらず長時間(平日で平均3時間台)視聴されている。テレビはもっとも親しみやすい大衆的なメディアだが、テレビ界を支配する視聴率至上主義は、とりわけスポンサーに全面的に依存する民間放送の場合、かつてテレビの草創期に評論家の大宅壮一(おおやそういち)の唱えた「一億総白痴化」という方向に、テレビ文化を全体として低位平準化することになりかねず、そのように危惧(きぐ)する論議がいまなお後を絶たない。テレビといえばとかく大衆的娯楽機能が目だちがちだが、主要な政治的情報源として、また政治家と国民のコミュニケーション・パイプとしてますます重要な役割を担うようになってきていることを見落としてはならない。テレビ時代の到来はラジオ聴取者の激減をもたらしたが、ラジオ放送はテレビ時代への必死の再適応を試みた結果、「生(なま)・ワイド・パーソナリティー」の編成路線のもとで1960年代後半にいわゆるラジオ・ルネサンスに成功し、テレビと共存共生できる態勢を築き上げた。そして、ラジオは今日、
(1)機動性に富む柔軟な番組編成
(2)聴取のモバイル化(可動化)とパーソナル化
(3)聴取者参加路線の徹底
などを推し進めることで、聴取者との日常的な親近感と一体感をますます高め、多メディア時代のなかで人々の日常生活におけるかけがえのない同伴者として機能している。阪神・淡路大震災の際に、ラジオは小回りの効くメディア特性を発揮して大活躍し、災害時に強い不可欠なメディアであることが立証されたといってよい。
わが国の放送は公共放送としてのNHK(日本放送協会)と民間放送との二本立てで営まれ、大局的にみて妙味ある制度のよさを発揮している(別に放送大学学園法に基づく放送大学がある)。しかし、いずれも免許事業として国(総務大臣)の免許を必要とし、免許事業の本質からいって、とりわけ現代政治において重要度をいっそう高めているテレビの場合、他のマス・メディアに比べて国家権力の介入・干渉・圧力を一般に受けやすく、権力の敷居をどう越えるかの問題に恒常的に直面しているといわなければならない。
新聞はかつてのマスコミの王座をテレビに譲り渡したものの、テレビ時代や多メディア時代においても、新聞の特性である詳報性、総合性ないし一覧性、解説性、論評性、提言性といったメディア機能の面で、依然として基幹的メディアである。日本の新聞は、全国の読者を対象に発行される『読売新聞』『朝日新聞』『毎日新聞』『産経新聞』『日本経済新聞』の全国紙、『北海道新聞』『中日新聞』『西日本新聞』のブロック紙、そして地方紙に大別される。全国紙は数百万規模の「大衆紙」的な巨大部数をもちながら、「高級紙」的質の高さもあわせもつ世界に類のない日本独自の新聞形態を形づくっている。日刊紙の総発行部数に対する全国紙のシェアは過半数を占め、新聞界における集中・独占化が顕著である。そして、全国的な大新聞社は放送企業と密接な結合関係をもつとともに、週刊誌やスポーツ紙などの発行に携わり、出版事業や電子メディア事業にも手を出すなど、総合的情報産業のかなめとなっている。
今日はまた「雑高書低」(出版社の雑誌売上げへの依存度が書籍よりも高い傾向)の「雑誌の時代」といわれるが、出版業界は生存競争と栄枯盛衰の激烈なメディア業界である。一般的にいって雑誌は、読者の情報欲求の多様化と差異化にもっとも弾力的かつ機敏にこたえられるメディアであって、その主流は特定の階層に的を絞るクラスメディアである。今日の雑誌を特徴づけているのは、情報と知識のビジュアル化、カタログ化、「軽薄短小」化であると同時に、読者参加の誌面づくりを重要視している。熾烈(しれつ)な過当競争のなかでスキャンダルを売り物にして読者の原始的関心に訴える傾向も強く、市民のプライバシー侵害など社会問題を引き起こす場合が少なくない。1980年代以降の総合雑誌の地盤沈下は覆い隠せぬ事実であるとしても、『文芸春秋』1974年11月号に掲載された立花隆の「田中角栄研究――その金脈と人脈」が金権政治批判の口火となり、田中角栄の首相退陣につながったことは特筆すべき雑誌ジャーナリズムの快挙であった。
マス・メディアは相互に競合しあいながらも、それぞれ受け手の多様な情報欲求を相補的に、あるいは役割分担的に充足する一方で、マス・メディアが一丸となって特定の事件や話題に受け手の注意と関心を一斉に集中させ、しかもその事件や話題への画一的反応を増殖する相乗作用を果たすことも看過してはなるまい。
1990年代以降、IT(情報技術)革命のもたらすコンピュータ化、多メディア・多チャンネル化、マルチメディア化、モバイル化、デジタル化、そしてインターネットのマス・メディア化といった新しい波が容赦なくマスコミ界に押し寄せ、「ビッグバン」の幕が切って落とされた。新聞界は「新聞が消える」という悲壮な危機感に駆り立てられて、ネット配信による電子新聞、記事データベースの電子化、BS・CS放送などへの参入といったメディア複合化を図っている。放送界は2000年12月のBSデジタル放送の開始とともに、デジタル多チャンネル時代に突入し、放送メディアの再編成において主導権を握ろうと苛烈(かれつ)な競争を繰り広げている。また、出版界はCD−ROM、DVDなどの電子出版に乗り出し、さらにはオンライン出版、オン・デマンド出版へと進出するなど、既存のマス・メディアは、急激に変化するメディア環境への待ったなしの対応を厳しく迫られている。  
マスコミ
1
マス━コミュニケーションの略。転じて、マス━メディア。
2
マスコミュニケーション(mass communication)の略である。
3
…高速輪転機で印刷された新聞や雑誌、ラジオとテレビ、映画など)を用いて大量(マス)の情報を大衆(マス)に伝達するコミュニケーション。〈大衆伝達〉〈大衆通報〉などの訳語もあるが、〈マスコミ〉という日本独特の短縮形が愛用されており、この場合情報を生産する送り手(新聞社、出版社、放送局など)をさすこともある。マスコミの特徴は、速報性、受け手の大量性、情報の流れの一方通行one‐way性などにあるが、一方、受け手の量を基準にした反対概念に和製英語の〈ミニコミ〉、マスコミの一方通行性に対して双方通行two‐way性をもつパーソナル・コミュニケーションpersonal communication、マスコミのメディアによる媒介に対しての人間の他人へ対する直接の語りかけをさす〈口コミ〉などがある。…  
マスメディア (mass media)
1
マスコミュニケーションの媒体。新聞・雑誌・テレビ・ラジオなど。大衆媒体。
2
不特定多数へ情報発信するマスコミュニケーションの伝達手段。4マス媒体とは新聞・雑誌・テレビ・ラジオのこと。
3
ラジオ、テレビ放送局やネットワーク、新聞、雑誌、野外広告など、一般の公共に対して訴える広範囲にわたる媒体。
4
テレビ、ラジオ、雑誌、新聞など一般大衆を対象に情報を伝える媒体。マス・メディアは、マス・マーケティングが支配的な時期には販売促進や広告のための媒体として告知広告を中心に利用されていた。しかし今日では、商品販売に直接利用するよりも、企業イメージ創造に利用されるケースが多い。メディアの多様化、分断化現象が起きている。また、フリーダイヤルを記載し、問い合わせや注文を受けるダイレクト・レスポンス・メディアとして使用されるケースも多くなってきている。
5
メディアとは情報が伝わる媒体を指し、マスメディアとは多数の人びとに伝わる媒体をいう。具体的には20世紀に頂点を迎えたテレビ・ラジオ・新聞という媒体を総称していう。この時期、社会の近代化とともに人びとを広く巻き込む大衆文化・市民社会が成立し、また国家レベルで大量の情報を伝達する機会と必要性が生じた社会的背景があり、そのもとにマスメディアは発展した。それは国民国家の成立と呼応し、国民に対して時々刻々と変化する社会的出来事を伝え、安価に娯楽を提供するというかつてない状況を作り出した。したがってマスメディアの最も目覚ましい特徴は、大衆性・公開性・遍在性・一方向性・定期性・不断の活動性といった点にある。人びとはマスメディアを通してこそ、間断なく、いつでも定期的に、分け隔てなく公開された社会の情報や娯楽を一方向的に受け取り、それを社会を見る鏡として、また社会に参加するための情報として、さらに社会から与えられる楽しみの機会として活用するようになったのであり、また他方では、マスメディアこそ低いレベルのリテラシーの持ち主でも社会の出来事を理解できる、広範で遍在的な情報取得の機会をもたらしたのである。
こうしてマスメディアは巨大な情報の「送り手」として「受け手」たる一般の人びとの生活に深く浸透した。それは人びとの身辺の出来事を除いた広い外界の情報について、マスメディアから排他的に取得する以外に情報取得の手段をほとんどもたないことを意味する。しかしいうまでもなくマスメディアとて自らの組織を通じて情報取得が可能な出来事しか報道可能ではなく、また取得した情報をすべて報道できることはなく、取捨選択し、重要度の順序を付けて報道せざるをえない。放送時間や新聞の紙面は電波の希少性やコストによって制約されているからである。こうして受け手は、マスメディアが排他的に収集し、マスメディアが重要だと選択的に定義づけた情報の内側(情報環境information environment)に住まわざるをえなくなる。
マスメディアがもたらす社会的リアリティ
このことは、マスメディアがわれわれの社会的リアリティsocial realityを形成する強力な媒体であることを意味している。われわれがほんとうに生じた、重要だ、と信じている出来事の形成にマスメディアの選択がかかわっているからである。そしてさらに、人びとが同じ情報をマスメディアから受け取るところから、マスメディアは人びとの間の公共的な媒体となり、情報の共有に大きな役割を果たすことになる。その役割の中でマスメディアは社会的な事件や出来事、街の声や現在の流行、世論調査の結果などの報道を通じて、人びとの意見を集約し、世論の変化に影響を与えることになる。もっとも、複数あるマスメディアの報道内容が大きく食い違うのであれば、人びとはそれらを比較考量し、自らの手で何が重要なニュースか、どのマスメディアの情報が正確かを相対的に独立して判断することが可能で、マスメディアの影響力は相対的に弱まるかもしれない。しかしながらマスメディアの報道の相互独立性については、否定的なデータが多い。つまり類似性が高いことが知られている。
マスメディアの強力効果と限定効果
これらのことを念頭におくとき、情報環境の形成者としてのマスメディアが人びとの行動に与える影響はきわめて強いのではないか、というマスメディアの強力効果powerful effect of mass mediaが推定されることになる。人びとが社会的に何が重要な問題か(争点か)を認識するときにその重要さを規定するのはマスメディアであるという主張は、議題設定効果agenda-setting effectとして知られるようになった(議題とは社会で話すべき事柄を指す)。また人びとはドラマの世界から社会全体もその世界と類似したものだと推論しがちだと指摘される(ドラマもまた社会的リアリティを与える)。しかしドラマなどに頻出する人物とその描写に一定の偏りがあることから、世界の実像をゆがめて認識することがドラマでも生じる。これは長期にわたる効果として一般に教化効果ないし涵養効果cultivation effectとよばれる。老人を弱い存在で失敗者として認識する、などのステレオタイプはドラマに頻繁に接触することによって涵養される。
一方、研究史的にはこうしたマスメディアに対する強力効果の認識は、長期の間否定されてきた。1940年代のアメリカにおいてマスメディアを通した選挙キャンペーンの効果が精緻に検討され、そこで影響力の主役となっているのは、マスメディアの情報を選択的に咀嚼し周囲の人びとに解釈する対人的なネットワークであり、マスメディアはそうした情報の解釈を担うオピニオンリーダーを超えていくことはできない、と判明したからである。これをマスメディアの限定効果limited effect of mass mediaという。
じつは強力効果も限定効果も両立しないものではない。人間は能動的に判断する存在であり、そのソーシャルネットワークの中で他者の情報をマスメディアより信頼する点で、限定効果の主張と一貫する特徴をもつ。しかしこれと同時に、人びとが取得する情報そのものはほとんどマスメディア経由のものである点で、人びとの認識はマスメディアに大きく制約されている。さらに、マスメディアの認知心理学的な知見が明らかにしてきたように、マスメディアの情報の提示のあり方によってプライミング効果priming effectやフレーミング効果framing effectが生じることがある。つまり前者ではマスメディアの情報刺激が直後の人びとの判断に影響するなどの現象が生じる(例、テレビが首相の失態を報道すれば与党の支持率が落ちる)。後者ではマスメディアが設定する報道の枠組みに添った判断枠組みで人びとは事件や出来事を判断しがちとなる(例、貧困の報道を特定の失業者のエピソードで枠づけると、貧困は社会的問題よりこの当人の問題に帰属されがちとなる)。これらは強力効果的なポイントである。
インターネット (internet)
21世紀に入って、マスメディアは徐々にインターネットにその地位を奪われている。インターネットは1対1のコミュニケーションから「マス」媒体的な特性まで無数の形状をもちうる媒体であり、その効果をひとくくりにすることはできない。人びとのだれもが発信者として社会に情報を流通させることが可能な参加型のメディアとして登場したインターネットをマスメディアとの関連で見れば、情報の流れの一方向性、すなわちマスメディアの情報源独占を切り崩したために、強力効果の前提を一部打ち砕いた。その一方でインターネットは、社会の大多数の人びとが共有できる情報の媒体としては大きな欠点があるといわざるをえない。人びとは自分にとって最も使いやすい、快適な情報環境のカスタマイズをインターネットで可能としたが、そうして人びとが互いに異なる情報に接することこそが、人びとが情報を共有し、同じ経験について語る妨げとなるのである。このことは選択的情報接触selective information exposureの問題として関心を集めている。  
コメンテーター (commentator)
1
注釈者。ラジオ・テレビなどの、ニュース解説者。
2
解説者。評論する人。
3
注釈者。論評や解説を加える人。特に、テレビ、ラジオ放送におけるニュース番組の解説者。  
ニュースキャスター (newscaster)
1
ニュース newsと放送する人 broadcasterを結びつけた言葉。ニュース番組の放送者のことであるが、従来のアナウンサーと違って、編集されたニュースを読むだけでなく、みずからも編集に立会い、画面出演して報道するとともに、必要に応じて解説を加えることもある。ニュースのワイド化によって比重が加わったもので、アナウンサーだけでなく、放送記者や新聞記者など取材経験の豊富なジャーナリストが就任することが多い。アメリカではアンカーマンという。同じようなスタイルで天気予報を伝える人をウェザーキャスターと呼ぶ。
2
テレビなどのニュース番組で、解説や論評を加えながら番組を進行させる人。
3
解説や論評を加えながら、ニュースを報道する人。キャスター。
4
ニュース番組に出演して、単に報道原稿を読み上げるだけではなく、随時、解説・論評をも加え、その番組を進行させる人。  
 
諸話 2012

 

野田語録 「近いうち」に解散するつもりは? 2012/10/13
雄弁で鳴らす野田佳彦首相だが、その言葉遣いには曖昧さがつきまとい、野党のみならず与党の政治家も惑わしている。まさにつかもうとしてもスルリと逃げてしまう「ドジョウ宰相」の本領発揮だ。本当に「近いうち」の「しかるべきとき」に「不退転の覚悟」で、衆院解散に踏み切る気があるのだろうか。首相の言葉と実際の行動を比較してみた。 
近いうち  
自民党の谷垣禎一前総裁、公明党の山口那津男代表と交わした「近いうちに国民に信を問う」という約束を、首相は2カ月以上も実現していない。  
「総裁が谷垣さんなら、必ず約束は実現しなければならなかったのだが…」  
首相は最近、周囲にこうつぶやいた。安倍晋三総裁に代わり状況が変わったと考えているのだろう。7日にも視察先の福島県で記者団に「決して忘れていないが、特定の時期まで詰めていく性質のものではない」と明確にするのを拒んだ。  
臨時国会の召集が遅れていることで通常国会冒頭の「1月解散」のシナリオも浮上しているが、首相周辺は「野党との話し合いが成立しなければ、臨時国会での解散もあり得る」と語り、結果として「近いうち」になる可能性もあると指摘する。  
しかるべきとき  
11日、「しかるべきとき」に臨時国会を召集する考えを示した。この表現も愛用している。  
「しかるべきときに、やるべきことをやった後に信を問う」  
9月1日には記者団にこう語り、「近いうち」を後退させた。3日前の参院での首相問責決議に自民党が賛成したことで、谷垣氏との約束はほごになったという“本音”が口をついた。  
臨時国会が召集されれば内閣改造で入閣させた田中慶秋法相の献金問題などで集中砲火を浴び、政権への打撃は必至だ。自公両党の協力がなければ、首相が解散の前提とする特例公債法案の成立もおぼつかない。  
「特例公債法案に見通しが立たなければ、予算執行抑制に対する批判は野党にも向かう」  
首相周辺はこう語る。世論の風向きを読みつつ自らに都合のいい「しかるべきとき」を探っているようだ。  
不退転  
沖縄・尖閣諸島をめぐる中国の動きの活発化という事態に、首相は8月24日の記者会見で「冷静沈着に不退転の覚悟で臨む」と語った。消費税増税では不退転の決意を表明しただけでなく、政治生命も懸けた。  
もっとも、1月に「不退転の決意でやる」と言った行政改革、国会議員の定数削減は道半ば。安倍氏は11日、首相の言葉の“軽さ”をこう皮肉った。  
「近いうちに解散する約束は果たしてもらえるだろう。嘘をついてはいけないということを、首相に身をもって示してもらいたい」  

諸話 2013

 

安倍政権の命運を握る「新・四人組」 2013/1
 「お友達」内閣の苦い教訓は活かされるのか。人事で占う安倍内閣の行方。
「安倍晋三君を第96代総理大臣に指名します」――。
自民党・公明党合わせて325議席という圧勝で、「逆」政権交代を果たした第46回総選挙から10日後の12月26日、安倍晋三は、衆院での首班指名を受け、5年3カ月ぶりに総理大臣に返り咲いた。06年に発足した第1次安倍内閣が掲げたキャッチフレーズ「再チャレンジ」を自ら果たした形だ。
だが、安倍の再チャレンジの成否は、5年前に“お友達内閣”と揶揄され、官邸崩壊の引き金となった人事下手を克服できるか、にかかっている。
「来年夏の参院選では公明党の協力を得なければなりません。日本維新の会やみんなの党とは予算案や政策ごとの部分連合で協力をあおいでいきましょう」
すでにマスコミの情勢調査で「自公で300議席超」が明白になっていた衆院選投開票日数日前の12月中旬。自民党幹事長代行だった菅義偉は、携帯電話で、安倍にこう進言した。安倍は当初から日本維新の会と連立して憲法改正を打ち出すことも視野に入れていたが、菅の言葉で、参院選までは自公体制を基軸とした「安全運転」に徹することに落ち着いた。
内閣の司令塔である菅官房長官に対する安倍の信頼は絶大なものがある。菅は秋田県の農家に生まれ、高校卒業後、集団就職で上京した。働きながら法政大学を卒業、故小此木彦三郎元通産相の秘書から、横浜市議となり1996年、47歳で、初当選を果たした「苦労人」。
そもそも、06年の自民党総裁選で候補の座を、同じ森派の福田康夫元首相と争い、派閥分裂も覚悟した安倍の命を受け、衆院当選6回以下、参院当選2回以下の自民党所属議員94人を集めて「再チャレンジ支援議員連盟」を立ち上げ、勝負の流れを決定的にしたのが菅だった。その論功行賞で当選4回にして総務相に就任。ふるさと納税の創設、地方分権改革推進法の成立、NHK受信料値下げなど、お友達内閣の中で、その剛腕ぶりは異彩を放った。
昨年の自民党総裁選に出馬するにあたっても、8月の時点では迷いを見せていた安倍に対して「自民党支持層には安倍待望論があるが、向こうからはやってこない。飛び込んで局面を打開するべきです」と“主戦論”を唱え、出馬の意思を固めさせた。お友達から一歩踏み込んだ盟友に近い存在だ。
その菅より関係の長い盟友が首相補佐官となった衛藤晟一参院議員だ。
衆院選圧勝の熱気が冷めやらない12月18日午後5時、自民党本部。衛藤は記者の目を避けるように、地下駐車場から4階の総裁室裏手へ直行するエレベーターで安倍を訪ね、ある文書を手渡した。それは安倍の指示を受けた衛藤が、中西輝政京大名誉教授、八木秀次高崎経済大教授らと水面下で接触し、とりまとめた安倍政権の“工程表”だった。
この工程表においては、長期的な目標として「国防軍」の創設を柱とする憲法改正を明記。中期的には米国を狙う弾道ミサイルの迎撃など限定的な集団的自衛権の行使容認、例外を設けた環太平洋経済連携協定(TPP)参加を掲げ、項目ごとに具体的な手法も付記した。短期的な目標としては、尖閣諸島への公務員常駐に加え、「河野談話」の事実上の撤回や拉致問題の解決も盛り込まれた。
いずれも戦後レジームからの脱却を唱える安倍の思想を色濃く反映したものだが、実はこうした安倍の思想形成に大きな影響を及ぼしてきた人物こそ衛藤なのである。衛藤は大分大生時代、右派の学生運動家として全国に名をはせた。25歳で大分市議当選後、大分県議を2期務めて、90年に衆議院議員に初当選した。安倍の父、晋太郎の全面支援で大量当選した新人の1人だった。
晋太郎が志半ばで病に倒れ、晋三が後を継ぐと、衛藤は「晋太郎の夢を晋三に果たさせる」と心に期す。今や、安倍の有力なブレーンとなっている右派のシンクタンク「日本政策研究センター」の伊藤哲夫代表を、若き日の安倍に紹介したのも衛藤だった。伊藤と衛藤は学生運動の同志の関係である。
衛藤は、保守政治家としての安倍晋三の「生みの親」とも言える。
「安倍一族」の登場
新内閣の人事で目新しさを感じさせるのが加藤勝信官房副長官の存在だ。党外からは「加藤って、誰?」という反応で受け止められたが、党内、特に旧福田派(清和会)関係者では、「安倍らしい人事だ」と頷く向きが多い。
2人の関係の源流は、今から20年以上前に遡る。加藤は、加藤六月元自民党政調会長の女婿。六月は安倍の父、晋太郎の「最側近」として、故三塚博元蔵相、塩川正十郎元財務相、森喜朗元首相とともに「安倍派四天王」と称された。安倍にしてみれば、勝信との関係は、父と六月との関係にも重なってくる。
さらに六月の妻で、加藤の義母にあたる睦子夫人は、晋太郎の妻で安倍の母親の洋子夫人と極めて親しく、「姉妹」関係と評されるほど。山中湖畔にある富士急行が開発した別荘地には、安倍、加藤両家の別荘が歩いて行ける距離にあり、毎年、家族ぐるみのつきあいをしている。「安倍一族」という扱いなのだ。
加藤は東大経済学部から旧大蔵省に進み、主計局主査を務めた「政策通」でもある。衛藤の下で「『創生』日本」の事務局長に就任、安倍の発信したいメッセージを巧みに演説の草稿に仕立てたことで、「一族」としてだけでなく、政治家としても信任を得た。額賀派に所属しているが、ここ2年ほどは衆院第1議員会館12階の安倍の部屋で、安倍から呼び出された加藤の姿が頻繁に目撃されている。安倍が総裁に返り咲いた際の党人事では、総裁特別補佐のポストで、重用されたが、一時は、「政調会長」という大抜擢さえ取りざたされた。総裁選で安倍に敗れた石破茂が、安倍主導の人事を牽制するため、その加藤を「政調会長に抜擢して目玉人事にすればいい」と安倍に伝わるよう周辺に言い触らしたためだ。これが後に安倍と石破の間がぎくしゃくする一因にもなった。安倍のお友達である甘利明の政調会長起用を牽制したと受け止められたのである。
この自民党総裁選の直前、甲府市内での街頭演説の帰途、東京・新宿のホテルに安倍が密かに呼び寄せたのが、菅、衛藤、加藤の3人だった。この場には甘利明も呼ばれていたが、安倍選対本部長という立場で声がかかっており、コアメンバーはあくまで前出の3人である。
「1回目の投票で国会議員票は54票となります」
そこで披露された票読みは、決選投票に至るまで、実際の結果とほぼピタリと一致するものだった。事実上、この夜、安倍の中で第2次安倍内閣の陣容が固まっていたのである。
一方で今回の人事において、目立たないが、注目すべき人物が経産省資源エネルギー庁次長から政務秘書官に就いた今井尚哉だ。通常、自民党の首相ならばこのポストには事務所の古参秘書が就くが、安倍は第1次内閣でも内閣府から井上義行を登用している。もっとも、国鉄の機関士出身で、ノンキャリアだった井上と対照的に、今井は経産省のキャリアだ。日本経団連名誉会長の今井敬元新日鉄会長の甥という毛並みの良さも目を引く。今井は、第1次安倍内閣では事務秘書官として安倍を支え、自身も「安倍さんとは相性がいい」と認めるほど、良好な関係を築いた。
その今井は電力自由化が持論という改革派の一面を持つが、関西電力大飯原発再稼働問題では、稼働に向け水面下工作を展開した際の活躍ぶりが際立った。今井は栃木県立宇都宮高校の後輩である枝野幸男前経産相に接近し、閣僚会議に陪席することに成功すると、終始会議をリードした。また、2月下旬には都内のホテルで、「再稼働反対」を掲げていた橋下徹大阪市長と会談、「電力不足になると難病患者が亡くなるなど社会的な犠牲者が出る」という理屈で、橋下をも説得している。
「毛並みの良さや、『ザ・官僚』のような見かけとは裏腹に、鼻っ柱が強く政治的な行動も多い。小泉純一郎元首相の政務秘書官だった飯島勲とは全くタイプが違うが、『新・官邸のラスプーチン』になるかもしれない」との評もある。
菅、衛藤、加藤、今井。この「新・四人組」が安倍政権の命運を握る。
かつての「お友達」は
一方で、第1次安倍内閣で重用されたかつての「お友達」の影は薄くなった。その象徴が、塩崎恭久元官房長官だ。
安倍と塩崎との間に距離ができたのは総裁選直後のことだった。塩崎も安倍の距離感を察したのか、解散後は、自分の選挙に専念。塩崎は、安倍の経済財政政策を策定する日本経済再生本部(安倍本部長)の事務総長に就任すると見られていたが、ふたを開けてみると事務総長は、総裁選で安倍と争った石原伸晃前幹事長の陣営幹部だった茂木敏充前政調会長。
参院枠の官房副長官には、「お友達」の残党である世耕弘成元首相補佐官が就いたものの、安倍が脱・お友達を意識しているのは確かなようだ。
だが、いくら「お友達」を遠ざけても、安倍政権への懸念材料は残る。
「石破幹事長に菅官房長官か……。言っても分からないんだな」
衆院選の投開票翌日から、マスコミで報じられた政権の中枢人事を見ながら森喜朗元首相は苦虫を噛み潰したような表情を見せていた。
かつて自民党を離党した経験があり、脱派閥を掲げる石破や、旧小渕派でスタートしながら、次々と派閥を離脱しては、故梶山静六、加藤紘一、古賀誠そして安倍と、いつの間にか時の党内有力者の傍にいる菅に対して、森は苦々しい思いを抱いてきた。そもそも、自民党が野党に転落した09年の総選挙の際、時の首相、麻生太郎に対して解散先送りを進言し続けたのが、当時選対副委員長だった菅だった。
森は解散前と選挙後の2度にわたって安倍に対して、「菅も塩崎も、君が重用する連中は党内の嫌われ者ばかりじゃないか」と苦言を呈した。安倍は「そうなんですよね。わかっているのですが……」と応じたが、森の忠告が受け入れられることはなかった。
衆院選圧勝の熱気が完全に冷めたとき、今回の人事がベテランの反発を招き、一気に議員の数が膨れ上がった自民党内で遠心力として働く恐れは十分にある。そうなったとき、幹事長に石破を留任させたことも、安倍の党へのガバナンスを低下させることになりかねない。安倍を支持する議員たちは、「石破はポスト安倍を狙っている。参院選後には幹事長から外さなければ」と警戒感を露わにする。
安倍の決断が吉と出るか凶と出るかは、不透明だ。
もう1つの懸念材料は、安倍が「克服できた」と言い張る体調問題だ。首相退陣の原因となった潰瘍性大腸炎を、新薬「アサコール」でコントロールできていると言っているが、衆院選直後の記者会見で自ら認めたようにアサコールは特効薬ではなく、完治したわけではない。政治家の脳内に最もアドレナリンが放出され、免疫力が高まるはずの衆院選の最中、12人の党首の中で、顕著に風邪をひいたのは安倍1人だった。
さらに最も身近で健康管理にあたるべき昭恵夫人の「能天気さ」が関係者の心配の種という。昭恵夫人はアサコールの効用を信じてか、手づくりで、安倍の体調に合わせた料理をつくるようなことも特にせず、反原発の友人たちと都内に開いた居酒屋経営に没頭する日々だ。
「アベノミクス」として市場関係者から歓迎された安倍の経済対策も、この先の経済状況によっては、懸念材料のひとつになりかねない。
12月20日に開かれた日銀の金融政策決定会合。前年比2%の上昇率を達成する消費者物価の目標設定を検討することを決めたことに政財界の注目が集まったが、市場関係者はむしろ「景気は一段と弱含んでいる」という、景気判断の引き下げに着目した。
「憲法改正など右派色を消して、景気回復に全力を注ぎ、7月の参院選で議席増を図る」のが、安倍と菅らの基本戦略だが、半年あまりで、「一段と弱含んでいる」景気を上向かせることは困難だ。
政権の中間評価と位置付けられる参院選も04年以降の3回、与党が勝利したことはない。そして、長引く景気低迷を背景に、いずれも「年金」や「消費税」など生活に直結する課題が争点になり、07年参院選では自民党が惨敗、その後、ほどなく安倍は退陣している。
高揚感の裏で、安倍らの脳裏には「あの悪夢」がちらつき始めている。 
麻生太郎が安倍政権の火種になる日 2013/2
 順風満帆の「ASA」政権。脇の甘い実力者をコントロールできるか。
「私はかつて病のために職を辞し、大きな政治的挫折を経験した人間です。国家のかじ取りをつかさどる重責を改めてお引き受けするからには、過去の反省を教訓として心に刻み、丁寧な対話を心掛けながら、真摯に国政運営にあたっていくことを誓います」
1月28日午後、衆院本会議。首相・安倍晋三が演壇から所信表明演説を行った。安倍が国会で演説をするのは2007年9月10日以来。この日も首相として所信表明したが、わずか2日後に政権を投げ出してしまった。安倍にとって今回の所信表明はリベンジの舞台だった。
演説は「安倍らしさ」がない。中国、韓国などを敵視する勇ましさは影を潜め、憲法改正も訴えない。安全運転の内容だ。とかくニュースを発信することに固執し、批判されるとムキになって反論していた一度目の首相の時の「反省と教訓」が安倍を変化させている。
こんな安倍に世論は好意的だ。共同通信社が27日に発表した世論調査で内閣支持率は66.7%。6年前、失望した有権者は、当時より成長したと評価しているのだろう。
安倍も国民から「1回目と同じ」と思われた時は、終わりだと自覚している。安倍は昨年大みそかの夜、経済再生担当相・甘利明ら、頼りにする閣僚にメールを送った。
「不可能と思われた2回目の首相を担当することになりました。命がけでやります」という決意表明だった。受け取った閣僚は、安倍の決意を感じ「全力で支えます」などと返している。
安倍がものごころついた時、祖父・岸信介は首相だった。そして退陣も目の当たりにした。その後、岸は「もう一度、首相になったら、もっとうまくやれる」と語っていたが、その夢は果たせなかった。祖父、そして一度のチャンスにも恵まれなかった父・安倍晋太郎のためにも、二度目の自分は失敗できないと心に言い聞かせる。大みそかのメールには安倍の決意が感じ取れる。
だが上手の手から水が漏るように、政権下では、ほころびの目が見えるようになってきた。
安倍は1月16日から4日間の日程で、ベトナム、タイ、インドネシアの三国を訪問した。懸案のない三国を比較的ゆったりとした日程で回るのは、体調不安を抱える安倍にとっては格好の「慣らし運転」だった。
ハノイに向かう政府専用機で安倍は上機嫌だった。自衛隊のジャンパーを着てスタッフの席を回り、愛嬌を振りまいた。このジャンパーは7年前、一度目の首相の時にもらったのを大切に保管していて、わざわざ持ち込んだのだった。この後、安倍は、新しいジャンパーも受け取っている。
ハノイで宿舎に入り、少しくつろごうとしていた時、アルジェリアで邦人が拘束された、との一報が入る。「慣らし運転」は終わった。以後は、事件対応の合間に公式日程をこなすようなものだった。
安倍が外遊すると、何かが起きる。07年8月、インドなどを歴訪した際に体調を崩し、結果として辞任に追い込まれたことはよく知られている。首相としての初外遊は06年10月の中国、韓国訪問だったが、移動の政府専用機の中で、北朝鮮が核実験を強行する知らせを聞いた。期せずして今回の外遊の前も、北朝鮮が核実験を強行する可能性があったため、官邸は北朝鮮に対しては万全の備えをしていた。ところが実際は、北朝鮮ではなく無警戒のアフリカで起きた問題に振り回されることになった。
日本はアフリカ外交に弱く、独自の情報収集能力は皆無に近い。湾岸危機の頃から指摘されてきたが、今も変わらない。官房長官・菅義偉は会見で「情報が錯綜していて……」を何度も何度も繰り返し、官邸詰めの記者からは「今年の流行語大賞になるのでは」と苦笑交じりの声が漏れた。安倍が帰国を早める判断が遅れたこと。首相と外相・岸田文雄が同時に日本を離れていた時期があったこと。そして事態が緊迫する19日の夜、安倍が都内のキャピトルホテル東急の「水簾」で自民党政調会長代理・塩崎恭久、みんなの党代表・渡辺喜美らと会食を楽しんだこと……。揚げ足を取られても仕方ないようなミスを政府はいくつも犯している。民主党政権が続いていたら、集中砲火を浴びていただろう。今回、安倍があまり批判されなかったのは政権発足直後の「ご祝儀相場」が残っていたにすぎない。少なくとも安倍政権が、危機管理に強いことをアピールすることはできなかった。
「ASA」政権の火種
安倍は今回の内閣を、副総理兼財務相・麻生太郎と二人三脚で運営しようとしている。
安倍は麻生に恩義がある。07年の7月29日、参院選投開票日のこと。マスコミの出口調査では自民党の敗北が濃厚だった。元首相の森喜朗、参院会長の青木幹雄、幹事長の中川秀直の3人が極秘に会談して「安倍辞任」を決め、中川が公邸の安倍に面会に向かった。まだ投票が続く夕刻の話だ。ところが麻生は、先回りして公邸に駆けつけ「参院選は政権選択ではない」と力説。退陣論を粉砕した。続投した安倍は、結局は体調を崩し1カ月ほどで退陣するが、麻生が、安倍降ろしに体を張って止めてくれたことを今も忘れないのだ。
安倍と麻生は昨年の衆院選で、一緒に遊説する機会が時々あった。選挙戦最終盤のある日、車中で一緒になった際、麻生は安倍の膝をたたきながらこう語りかけたという。
「参院選までは、金だけどんどん刷ってりゃいいんだ。他のことは何もしなくていい。あんたが倒れたら俺が骨を拾う」
安倍は「はい、はい、そうですね」とうなずいた。積極財政派で、言葉が乱暴な麻生らしい話だが、このやりとりから「アベノミクス」の原型がうかがえる。既に2人の間では、麻生が副総理兼財務相となるのは了解事項だった。
安倍、麻生の共通の盟友が菅と甘利。麻生政権のころ「NASA」という言葉が、政界でよく使われた。麻生と、中川昭一、菅、甘利の頭文字を並べたもので、衆院解散の時期など重要な政局判断は4人が決めていた。安倍政権は、NASAのうち急死した中川を除く3人が支えている。「ASA政権」とでも言おうか。麻生は、菅や甘利の顔を見る度に「俺たち3人が支えるしかないんだから」と諭すように語る。
ところが、あろうことかその麻生自身が火種になりつつある。邦人拘束事件で、7人の邦人死亡が確認された1月21日。官邸が最も緊迫したのは、事件とは関係ない麻生の失言だった。
官邸で開かれた社会保障制度改革国民会議で麻生は高齢者の終末期医療にからみ「死にたいと思っても、生かされたんじゃ、かなわない。しかも政府のカネでやってもらっていると、ますます寝覚めが悪い。さっさと死ねるようにしてもらわないと……」などと放言したのだ。
発言が報じられると、安倍は秘書官や官房副長官・世耕弘成らを集め協議。前回政権の時も、閣僚が失言を繰り返し、参院選敗北の要因となった「苦い記憶」が頭をよぎった。安倍は麻生に電話し「個人の信条は分かるが、撤回してください」と伝えた。通常、この種の連絡は秘書官を通じて行うことが多いが、首相自らが伝えたことから官邸の危機感が分かる。
麻生は夜に開かれた邦人拘束事件対策本部に赤みがかった顔で出席するのが見届けられている。酒を飲んでいたのか直接確かめる者はいなかったが、脇の甘い実力者との間合いには、安倍も苦労することになるだろう。
麻生といえば、産業競争力会議の一員になった慶応大教授・竹中平蔵との確執も火種だ。2人の対立は小泉政権時にさかのぼる。首相・小泉純一郎の威光を背に郵政民営化など進めた竹中に対し、政調会長、総務相などとして党内世論に配慮する立場にあった麻生は反目した。
今回、安倍政権発足にあたり、竹中は入閣や日銀総裁への起用も取り沙汰された。麻生は反対だった。結局、競争力会議の一メンバーという「格下」のポストで落ち着いた。
だが、麻生はもちろん、自民党内の多数派は今も竹中に冷たい視線を向ける。競争力会議の初会合が首相官邸で行われた23日、自民党で開かれた政調全体会議では「政府の会議から竹中を外せ」という声が響いていた。竹中は、平然とした顔で「私のことを嫌っている人がたくさんいるのは知っているから、小泉さんに相談した。そうしたら『どんどん正論を吐け。それを受け入れるかどうかは政治の責任だ』と励まされた」と反論。これがまた反竹中勢力を刺激する。
安倍が掲げる財政政策・金融緩和・成長戦略の「3本の矢」のうち成長戦略は、競争力会議にかかる。経済・財政の司令塔・麻生と、競争力会議の主要メンバーの確執が広がれば3本の矢は空中で折れてしまう。
命運を握る「前哨戦」
今年前半の政治日程で最重要なのは7月21日に予定される参院選だ。自民、公明の両党が参院でも多数を確保してねじれを解消すれば、政権の安定度は増す。そのためには両党で64議席が必要。公明党の議席が10と仮定すると自民党は54議席を確保しなければならない。この数字をクリアしたのは01年以来ない。高いハードルだ。安倍も、ハードルを強く意識している。憲法改正などの持論を封印しているのも、参院選での公明との共闘を優先しているからだ。
安倍は参院選を、ねじれの解消の機会としてだけでなく、長期政権へのパスポートと捕らえている。参院選を乗り切れば、3年間は大型国政選挙はない。長期政権が現実味を帯びる。
安倍は一度目の時、自民党総裁を2期務め首相を6年続ける目標だったが、あっけなく頓挫した。今回こそ6年間続け、自分の手で憲法改正を実現しようと夢見る。岸は晩年、こうも語っている。「政治家というものは、地位にかじりつく必要がある」
だが安倍は、参院選と相性が悪い。9年前、幹事長で指揮を執った時は民主党に後れをとり、首相の時は惨敗した。
今回の参院選で安倍を支えるのは、安倍とのすき間風がささやかれる幹事長・石破茂。2人は20日夕、首相公邸で会談した。サシの会談は政権発足後初めて。「電話やメールで頻繁にやりとりしている」というが、首相と幹事長の会談がニュースになること自体、普通ではない。
2人のさざ波は政権が発足した昨年12月26日夜に始まったという説もある。東京・紀尾井町のホテルニューオータニで石破は、同年9月の総裁選で自身を応援した議員約50人を集めて打ち上げを行い「困ったことがあったら何でも言ってほしい。ここに来た人は責任を持って絶対次に当選させるから」と気炎を上げた。「次」を見すえた動きと取られかねない会合だった。
内閣を切り盛りする麻生が早くも弱みをみせ、党の要役・石破と安倍の関係は微妙……。支持が高い間はいいが、下降線になるとほころびは大きくなる。
衆院選で壊滅的な敗北を喫した民主党。新代表・海江田万里と幹事長・細野豪志のコンビで立て直しを目指す。2人の関係は長い。細野は学生時代、海江田の選挙を手伝い、政治と出会った。以来、20年来のつきあいだ。「3・11」の後は、海江田が経済産業相、細野が原発担当の首相補佐官として不眠不休で対応にあたった。
民主党も参院選に生き残りを賭ける。候補者の決まっていない選挙区も多いが、衆院選で敗れた閣僚経験者らを多く抱えているため、候補者探しには苦労しない。元農相・鹿野道彦、前財務相・城島光力らのくら替え出馬も噂される。
だが海江田は「参院選前の都議選が命運を握る」と党幹部にゲキを飛ばし続けている。6月23日に行われる都議選は、国政にも影響を与えることが多い。特に12年に一度、都議選の直後に参院選が行われる巳年は、注目度が高まる。12年前の都議選で自民党は勝ち参院選でも勝った。24年前はその逆だった。
民主党が都議選でも後退すると、もう参院選での浮上は絶望的になる。前哨戦に勝つのが唯一の生き残り策なのだ。東京都選出の海江田らしい判断ではある。
背水の陣の民主党に立ちはだかるのが、都議選を踏み台にして参院選で飛躍しようという維新の会、みんなの両党だ。両党は参院選に向けた選挙協力のモデルケースを都議選でつくろうとしている。(1)定数1か2の選挙区は候補を一本化する(2)定数3以上の選挙区はそれぞれ候補を擁立して競う(3)選挙後、統一会派を組む――というシナリオもささやかれる。昨年衆院選の東京比例得票率は、維新とみんなを合わせると3割を超え、民主はもちろん自民党をもはるかに上回る。選挙協力が機能すれば民主党は大打撃を受け、安倍の長期政権戦略も狂う。
安倍は最近、酒を飲む。以前は乾杯の時、ビールに口をつける程度だったが、水割りやワインを2杯程度は飲み干す。「こんなにうまいものだったんですね」などと軽口たたきながら。健康をアピールするパフォーマンスの一環でもある。
気が張っていて、政権運営がうまくいっているうちはいいだろう。だが悪い方に回り始めると疲労とストレスは蓄積される。実際、アルジェリア対応で忙殺された三国外遊の終盤の安倍は、あきらかに疲れ切っていた。
これから数カ月後、参院選を前にしたころ、安倍が明るくグラスを傾けていられる体力を維持できるかどうか。周辺は気をもんでいる。  
永田町に甦る“大乱世の梶山”流 2013/4
 安倍官邸を仕切る官房長官・菅義偉は「現代の梶山静六」になれるのか。
安倍内閣が発足して約3か月がたった3月23日。首相・安倍晋三は神奈川県茅ヶ崎市内の名門ゴルフ場、スリーハンドレッドクラブでプレーを楽しんだ。桜は満開、同行したのは経済産業省から安倍の下に駆けつけた政務秘書官・今井尚哉ら官庁出身の秘書官たち。日銀総裁人事は国会承認され、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加表明も片付いた。7月参院選までの大きな2つの課題をこなした安倍は「花がきれいで、気持ちよくやれた」とご満悦だった。
ハネムーン期間の3か月を終えても、内閣支持率は高止まりし、景気も上向き。安倍に、今のところ死角は見当たらない。
そんな春爛漫の中での安倍のゴルフは、政権が好調な3つの要因をくっきりと反映している。
まず第一は「復活した」と胸を張る日米同盟関係。ゴルフを首相在任中もプレーするきっかけとなったのは米大統領、バラク・オバマなのだ。
話は昨年末にさかのぼる。初めてオバマとの電話会談に臨もうとした安倍は、先方の都合でかなりの待ち時間ができた。手持ち無沙汰の間、ワシントン勤務の経験がある外交官たちは、オバマがいかにゴルフが好きか、いかに毎週のように首都ワシントン郊外のアンドリュース空軍基地内のゴルフ場でプレーしているかを安倍に伝えた。「へえ、そうなのか。じゃあ、俺もやろうかな」。乗り気になった安倍は年が明けると、ゴルフを再開した。「ゴルフ」は2月の首脳会談の隠し味にもなり、オバマが「今度一緒にラウンドしよう。ただし、ゴルフが上手いこの人は抜きで」と副大統領、ジョー・バイデンを指して大笑いになった記憶も新しい。
そもそも、安倍が3月に満開の桜のもとプレーしたスリーハンドレッドクラブは祖父、元首相・岸信介が元大統領、ドワイト・アイゼンハワーとプレーしたバーニング・ツリー・ゴルフクラブにならったゴルフ場でもある。「強い日米同盟」は、ゴルフと強くリンクしているのだ。
2つ目は、安倍が気のおけないプレー仲間として選んだのが今井たち官僚出身の秘書官であるということだ。
「オバマのゴルフ好き」を伝えた外務審議官・斎木昭隆、政務秘書官の今井、同じく安倍とラウンドした秘書官・柳瀬唯夫ら経産省組が、安倍に近い筆頭格の官僚たちだ。外務省と経産省はTPPの事前交渉でも連携し、秘密を外部に漏らさなかった。そこに政治家代表として加わる官房副長官・加藤勝信も旧大蔵省OB、官僚出身だ。「根回しはお前たちがしろ」と無理難題をふっかけた民主党政権とは異なり、役人の生態を熟知する加藤は自ら携帯電話とメールを駆使し、要所に根回しする。「昔のやり方、普通に戻った」と霞が関の官僚たちが安堵する所以だ。
TPP問題も、政権に就いてからの斎木たちの粘り強い進言がモノをいった。「オバマと1月に会談できないと分かったときは残念だったけど、今にして思えば準備する時間がとれてよかった」と安倍は周辺に語り、外務省への感謝を隠さない。
第1次内閣当時の安倍は、前任者の元首相・小泉純一郎の存在に引きずられ、「政治主導」と気負いすぎていた。だが、今度の比較対象は民主党政権。「普通」にやっているだけで、世間の評価は「よくやっている」となる。
理想像は梶山静六
良好さを演出する日米関係と、円滑に動く官僚機構をベースに、内閣では2人の大物政治家が安倍を助ける。官房長官・菅義偉と副総理兼財務相・麻生太郎だ。
「夏の参院選に勝って初めて、政権交代が完成する」が口癖の菅は、政治の師と仰ぐ元官房長官・梶山静六を、理想像にあげる。梶山は大向うを唸らせる政治的な大技と、緻密な日程づくり、大胆な政策で名をはせた。いまや一般的な用語となった政治日程を示す「工程表」とは、もともとは梶山が国会カレンダーをつくる時に好んで使った表現である。梶山は決断が必要な部分以外は官僚に任せ、一喝すべき時は一喝した。
菅は官僚たちの駆け込み寺にもなり、調整が必要な案件なら「俺に任せろ」と引き受ける。安倍が首相官邸に登用した民間人たちの「ご意見拝聴」係もつとめる。慶応大教授・竹中平蔵は、放っておけば政権批判に回りかねないとみて産業競争力会議のメンバーに取り込んだ。菅と竹中は小泉内閣の総務副大臣、総務相以来の仲である。「総理の指導力をアピールするために、内閣にもめ事をつくり、総理決断の舞台を設定した方がいい」と物騒なアドバイスをする竹中を、菅は「内閣支持率が高いから、そんな必要はない」と軽くいなす。ここでも、政治主導・官邸主導を印象づけた小泉の“呪縛”から解放された政権の姿がある。
菅は野党の頃から付き合いのある日本維新の会国会議員団幹事長・松野頼久とのパイプもつなぎ、民主党政調会長・桜井充ら馴染みの薄かった野党幹部とも精力的に会談する。縦横無尽に与野党議員に人脈を持った梶山譲りの動きだ。
官僚ラインが練り上げた政策を土台に国会の折衝は政治家が担う方針は、鳴り物入りで起用されたはずの内閣官房参与の使い方でも分かる。元外務事務次官・谷内正太郎はTPP交渉の実務には立ち入っておらず、元財務事務次官・丹呉泰健は日銀総裁人事に関与していない。小泉の元秘書官・飯島勲も、官邸の入館カード整理にいそしむ。「小泉内閣の人材を活用する」のは、潜在的な批判勢力を抑え込むカモフラージュでもあった。
梶山が遺言として残した著書『破壊と創造』を、菅は官房長官執務室に持ち込んで拳々服膺(けんけんふくよう)する。副長官の加藤と官僚チームの上に乗る菅は日々、安倍に接して直言する役回りも演じる。これも梶山が元首相・橋本龍太郎に仕えた当時、自らに言い聞かせた日課であった。
「まるで太子党だ」
そして安倍の守護神となった麻生がいる。スリーハンドレッドクラブでのプレー前日の3月22日、麻生は東京・富ヶ谷の安倍の私邸を夜遅く訪ね、1時間半以上も2人で密談に及んだ。下手をすれば命とりになりかねなかった日銀総裁人事も、麻生の「組織運営の経験がない人が日銀を動かすのは難しい」との助言に配慮し、大蔵省OBの元財務官・黒田東彦に落ち着き、無事に国会も通過した。節目節目で、麻生は安倍の精神安定剤の役割を果たしている。
麻生が「ポスト安倍」に野心満々なのは安倍も十分に承知している。それでも蜜月な2人の関係を、ある経済人は「まるで中国の太子党だ」と評する。国家主席・習近平を支える太子党グループとは、共産党高級幹部の子女たちを指す。岸と元首相・吉田茂を祖父に持つ2人の毛並みの良さからくる同胞意識には、余人にうかがいしれない強さがある。
もう1つ忘れてはならない要素がある。外側から安倍政権を支えているのは、野党第1党、民主党の致命的なまでの弱さだ。首相が2度も3度もゴルフすれば、第1次安倍内閣の頃なら「危機管理上、問題だ」との批判が野党から出て、一定の支持を得たに違いない。ところが、今回はそんな声すらあげられない。
3月27日。民主党最大の支持団体、連合の古賀伸明会長は敵地だったはずの自民党本部に足を運んで幹事長・石破茂に「政労トップ会談実現を」と懇願した。夏の参院選で自民党が「31ある1人区で全勝」との調査結果まで出ている。民主党の敗北は織り込み済み。古賀は「選挙の後、誰を担ぐかっちゅう問題が出てくるやろ」と、早くも代表・海江田万里の退任論にまで言及している。
自民党が圧倒的に有利との声に、参院選挙区の候補が決まらない地区も多い。元代表・前原誠司らが必死になって前回衆院選で落選した前議員を口説くが、落選を嫌がってなかなか前向きの返事が得られない。「民主党が1人区で勝てるのは元代表・岡田克也の地元三重と、あと1つくらい」だからだ。
代表辞任どころか、参院選後の遠くない時期に民主党は分裂、消滅するだろうというのが、いまや永田町の常識なのだ。
新進党と重なる民主党
局面打開には野党が共闘するしかない。だが、連合を媒介とした野党協力には日本維新の会、みんなの党は乗ってこない。民主党の最終兵器と目された幹事長・細野豪志は、いったんは「脱連合依存」を提唱しながら日教組のドン、参院議員会長・輿石東に「その方針はまずいぞ」と叱られるや、たちまち「連合との連携は極めて重要だ」と軌道修正した。連合と輿石を重視するなら、維新・みんなとの連携は諦めざるを得ない。
一方で、生活の党代表・小沢一郎と協力すれば、民主党は選挙前に空中分解してしまう。どちらにも進めないジレンマが細野にはある。
だからこそ小沢は「このまんまじゃ民主党は参院選で10議席しかとれない。どうして簡単な足し算ができないんだ」「細野は何をやってんだ。政党間の協力は幹事長の仕事だ」といら立ちを隠せない。このままでは自分も民主党も沈んでしまうことは、過去の経験が教える。1994年、小沢が中心となって非自民勢力を結集した新進党は内紛を抱え、第3勢力だった民主党の追撃もあってあえなく解党した。
いまの政治状況に置き換えれば新進党が民主党で、当時の民主党は維新になる。維新は着々と「第2極」への布石を打つ。
3月26日夜、東京・羽田空港ターミナル内にある中華料理店「赤坂璃宮」で維新幹事長・松井一郎はみんなの党幹事長・江田憲司と向かい合った。大阪府知事としての公務もあり、大阪へとんぼ返りしなければならない松井が指定した場所に江田が出向き、参院複数区での選挙協力を詰めたのだ。
みんなの側には江田と代表・渡辺喜美の対立があり、渡辺は江田を「選挙協力の権限を持っていない」と当て擦る。維新の側にも前東京都知事・石原慎太郎を筆頭とする旧太陽の党と松井、共同代表の大阪市長・橋下徹との間に温度差がある。いずれにせよ、橋下ら大阪勢は維新を中心とした野党再編に、前原や岡田、前首相・野田佳彦ら民主党からの非労組脱藩組を巻き込む戦略を描く。
折しも3月25、26の両日、昨年の衆院選での「1票の格差」に関する訴訟で広島高裁、同岡山支部が相次いで「違憲、選挙は無効」の判決を出した。国会周辺では「今夏の衆参ダブル選」さえ囁かれる。待ったなしとなった選挙制度の抜本改革が進めば、必ずや政界再編を伴うのは、20年前の小選挙区制導入とその後の推移をみれば歴史の必然でさえある。永田町の関心は、与野党とも既に7月の参院選後に向いている。
「参院選で親の敵を討つ」
安倍内閣の剣が峰は、むしろ「選挙後」にある。
内閣の大番頭、菅が言う「参院選に勝って政権交代が完成する」は、裏返せば参院選で与党が過半数を制して「ねじれ国会」が解消すれば、自民党の低姿勢も終わることを意味する。安倍が憲法改正や集団的自衛権の行使など自らのカラーが強い政策の実行に踏み出せば、いまは鳴りを潜めている公明党も動き出す。自民党では内閣改造・党役員人事をにらんだ猟官運動が激しくなり、これまで我慢してきた予算や政策への口出しも始まるのは避けられず、官僚との関係はまた大きく変わる。「過半数に1、2議席届かない結果ぐらいの方が、謙虚さが持続して良い方向に転がるんだが……」。あるベテラン官僚の言葉が、霞が関の不安を物語る。
袖の下の鎧は見え始めている。3月25日夜、東京・平河町の赤坂四川飯店に「郵政選挙」での初当選組約30人を集めた会食の席で、安倍は「参院選は親の敵を討つものだ。これに勝たなければ、死んでも死に切れない」と一席ぶった。「親の敵」は、このところ安倍が好んで使う表現だ。「勝つ自信があるからだろうが、大丈夫かな……」と出席者の1人は独りごちた。
驕りが出れば政界、一寸先は闇だ。仮に苦言を呈してくれる菅をも遠ざけるようになれば危険信号だ。菅が師と仰ぐ梶山の言葉に耳を傾けなくなった橋本が政権の座から滑り落ちたのは梶山の官房長官退任から、1年もたっていなかった。
スリーハンドレッドクラブでのプレーと、前後数日間の出来事は、安倍内閣を取り巻く事情を象徴している。
潮目が変わるのは7月21日、参院選当日である。 
「新・三本の矢」に狙われる公明党 2013/5
 参院選後へ向けて突き進む安倍に“下駄の雪”はどこまでついていくのか。
4月20日朝、東京都の新宿御苑。「日本語を学んでいるインドネシアの若い人たちが、『桜よ』という歌をつくって贈ってくれました。こういうフレーズがあります。『桜よ咲き誇れ、日本の真ん中で咲き誇れ、日本よ咲き誇れ、世界の真ん中で咲き誇れ』。安倍政権としては、日本を世界の真ん中で咲かせるためにこれからも全力をつくしていきたい」恒例の「桜を見る会」に出席した安倍晋三首相は、約1万人の招待客を前に終始、上機嫌だった。
「参院選までは経済だけやる」を合言葉に、ここまで高い内閣支持率を維持することに成功してきた安倍は、いよいよ「参院選後」を見定める。「親の仇」と力の入る参院選で与党過半数を獲得した暁には、これまで“封印”してきた安全保障や憲法改正という「戦後レジームからの脱却」へと突き進むハラだ。
だが、順風満帆に見える安倍政権の足元には、小さな「亀裂」が走っている。
まるで政権の行く末を暗示するかのように、この日の空は鈍く曇り、桜はほとんど散ってしまっていた。
米国との溝
「亀裂」のひとつは、日米関係である。
安倍の思い描く「世界の真ん中で咲き誇る日本」を実現するために、外交・安全保障面で中核となるのが、日米同盟であることは言うまでもない。2月に行われた日米首脳会談では、両国の蜜月を“演出”したが、内実は異なる。
両国に横たわる溝が露呈したのは、4月中旬の北朝鮮による一連の“ミサイル発射騒動”への対応をめぐってだった。
4月15日午前、首相官邸。この日は、北朝鮮の故・金日成国家主席の生誕100年にあたり、この日に合わせて、ミサイルが発射される可能性があった。
「北朝鮮が極めて挑発的な言動を繰り返し、緊張を高めていることは容認できない。日米で断固とした対応を取り、我が国の安全に万全を期していくことが大変重要だ」
韓国・中国歴訪後に来日した米国のケリー国務長官に安倍はこう力説し、拉致問題についても「自分の政権で完全に解決を図りたい」とアピールした。
だが、「断固とした対応」を唱える安倍に対して、ケリーは「対話」の重要性を繰り返し説くばかり。官邸筋は「両者の溝は覆い隠せなかった」と明かす。
来日前に訪れていた韓国で朴槿恵大統領と会談したケリーは、朴が「非核化という前提条件を付けない対話」に前向きな姿勢を見せたことを「大変歓迎すべきだ」と評価していた。これに対して日本政府内では「脅しに屈する外交が先例となれば、北朝鮮に主導権を握られる」(外務省筋)との懸念が広がっていた。
実際に安倍との会談でケリーが「対話」を繰り返したことで、官邸サイドは、対北朝鮮をめぐって「日米が対話重視で一致」という報道が先行しかねないと警戒。世耕弘成官房副長官が夜回りの番記者に、次のような非公表の会談内容をリークした。
――安倍は約1時間の会談終了間際、ケリーに対して恫喝外交で食料援助や重油提供を引き出してきた北朝鮮の過去を列挙し「対話と言っても、これまで北朝鮮には何度も裏切られてきた。それは忘れないでほしい」と念押しした――。
会談後、日本政府内では、「ケリーは東アジア情勢に詳しくない」との声も漏れたが、これは必ずしも正しくない。
ケリーが融和的な発言をする背景には、昨年12月に北朝鮮が長距離弾道ミサイル「テポドン2号」の改良型を発射して以降、ワシントンで「北朝鮮脅威論」が台頭していることがある。
北朝鮮の暴発だけは何としても避けたいという米国の基本姿勢の微妙な変化を日本政府内で理解する者は少ない。
日米同盟を基軸として、北朝鮮、中国に毅然とした対応を志向することで国民の支持を得たい安倍と、東アジアの流動化は避けたい米国。両者の溝は、安倍政権の外交・安全保障戦略の根幹を揺さぶりつつある。
「新・三本の矢」
一方で、内政面でも「亀裂」はある。
最近、安倍と官房長官の菅義偉の周辺では、「集団的自衛権の行使」「憲法96条改正」「道州制導入」を「新・三本の矢」と称するネーミングが生まれている。元祖「三本の矢」が景気刺激、経済回復を狙いとしたのに対して、この「新・三本の矢」が狙うのは、政界再編である。
そして、結果的にではあるが、その矢の先に立たされることになるのは、連立を組む公明党なのである。
「明日、日本維新の会の橋下徹が、安倍首相とも会うようだ。憲法改正について協議するのではないか」
4月8日夜、公明党幹部は降ってわいた「安倍・橋下会談」についての情報収集と確認作業に追われた。
もともとは、9日にJR大阪駅北側の再開発に関する要望を受けるため、菅が橋下と会う予定になっていたが、菅が安倍に「明日、橋下代表が私のところに来ます。時間があったら会いませんか」と持ちかけたことで、急遽、実現させたものだった。
翌9日に行われた会談では、公明党の分析通り、安倍と橋下は、憲法96条で定めた憲法改正の発議要件を、現行の衆参両院議員の「3分の2」以上の賛成から「2分の1」以上の賛成に緩和すべきだとの認識で一致した。
もっとも安倍と菅にとって会談内容はそれほど重要ではなかった。重要なのは、「安倍と橋下が官邸で会談する」という事実だけだった。菅は「会うだけで、後は勝手にマスコミが書いてくれる」と周辺に漏らした。
その最大の目的は、「96条改正」を、参院選の目玉として、既定路線にしてしまうことにあった。
安倍と菅の念頭にあるのは、参院選勝利後の、「憲法改正」「道州制導入」を基軸とした日本維新の会、みんなの党との連携だ。そしてその先には「自民・公明」から「自民・維新・みんな」への政権枠組みの変更も視野に入る。
参院選の結果によっては、公明党は安倍から切り捨てられる可能性があるのだ。公明党が先の安倍・橋下会談の行方を警戒するのも当然だろう。
安倍が連発した「宿題」
一連の安倍政権の動きの背景にあるのは、外交・安全保障や憲法をめぐる両党のスタンスの違いだ。
象徴的だったのは4月19日に政府が閣議決定した在外邦人救出の活動対象を広げる自衛隊法改正案をめぐる駆け引きだ。この改正案は1月のアルジェリア人質事件を受け、自公が法改正を検討し、3月に安倍へ提言したもの。緊急時に在外邦人を救出するため、自衛隊による陸上輸送を可能とする内容で、これまで飛行機と船舶に限定していた在外邦人の輸送手段に車両を追加する。
もともと自民党は野党時代の2010年から、現地の安全確認がない場合でも、自衛隊が陸上輸送を含めて邦人避難のための輸送を担える自衛隊法改正案を国会へ提出していた。当時の改正案では武器使用基準も正当防衛など「合理的に必要と判断される限度」と規定し、これを大幅に緩和する方向だった。
今回の法改正においては、輸送条件については、防衛相と外相が事前協議して「安全が確保されていると認めるとき」から「予想される危険と、危険を避ける方策を協議し、安全に輸送できると認めるとき」との表現に改めて明確化を図った。公明は「安全」との言葉を必ず明記するよう譲らなかった。武器使用権限についても、公明の根強い慎重論に配慮して、緩和されなかった。
結果的に公明の主張が認められた格好だが、この法改正の根底には、「憲法9条」をめぐる問題が横たわる。公明党が「派遣先で他国の軍隊と協力すれば、憲法解釈で行使を禁じる集団的自衛権の問題に突き当たる」と指摘したとおり、たとえ邦人救出が目的ではあっても、危険地帯であれば、自衛隊が戦闘に巻き込まれる可能性は否めないからだ。
4月16日の衆院予算委員会。
「自衛隊が任務を遂行するための使用ができないわけだから、自衛隊法改正案にはさまざまな課題、宿題が残ったのは事実だ。武装勢力によって邦人が襲撃を受けている際、遠く離れて自衛隊の保護下にないと判断された場合には救出に行けない。当局の警察を呼ぶかあるいは軍隊組織を呼ぶかしかない。自衛隊がそういう能力と装備を持っていながら、できないというのは最高指揮官として忸怩たるものがあるだろう」
安倍は民主党の長島昭久前防衛副大臣から在外邦人救出の際の自衛隊武器使用について問われると、こう答え厳しい表情を隠さなかった。安倍が連発した「宿題」の言葉には新たな連立枠組みも視野に入れた改憲への意欲が含意されているのは間違いない。
安倍の“公明党嫌い”
「僕、山口(那津男)さんは苦手なんだよなあ。形式的なことばかり言うんだもの」
安倍は側近の1人に電話口でこう漏らしたことがある。
側近が「今は参院選に勝つことが何より大事なのだからとにかく意志疎通を緊密にして下さい」と釘をさすと、安倍も「わかっているよ」と応じたが、本音が「苦手」という言葉にあることには変わりはなかった。
山口は、公明党内でも「原理主義者」と呼ばれ、木で鼻を括ったような話しぶりは評判が悪い。記者会見などでは「(憲法改正は)政権合意の枠外にある話だ。連立政権で取り組む課題では必ずしもない」「優先課題を間違えずに国民の期待に応えるべきだ」。いっそう強い口調で「平和と福祉の党」の原理原則で安倍を牽制する発言を繰り返す。山口は衆院選の最中には「憲法の柱を守ることが重要だ。はみ出したいなら限界が来るかもしれない」とまで発言している。
その背景には、支持母体「創価学会」の意向がある。今年1月に東京・巣鴨で行われた衆院選後初となる創価学会の本部幹部会。
「公明党は平和・福祉の党として庶民のための政治の実現に邁進し抜いてもらいたい」
原田稔会長は、山口ら出席していた公明党執行部にこう強く要求した。学会の覚えがめでたいことで現在のポストにある山口は、学会の意向に沿った発言をせざるをえないのである。
一方の安倍は、そもそもが“公明党嫌い”だ。
かつて公明党が小沢一郎らと組んで自民党を野党に追い落としていた頃、自民党の亀井静香らが、反学会の学者・文化人を集めて「四月会」なる組織を結成、学会・公明党への攻撃を執拗に繰り返したことがあった。当時は安倍もこれに参加した。山口県下関市の安倍事務所には「四月会」制作の池田大作の糾弾ビラが山積みになっていたこともある。自公連立政権の発足後も親しい議員らには「自民党がきちんと保守の旗を立てて戦えば、公明党の支援など当てにしなくても勝てるんだよ」と繰り返していた。
「ポスト池田」をめぐる争い
公明党にとって唯一の強みは、ことあるごとに「参院選は親の仇。今度の参院選で勝利してこそ本当の政権交代になる」と力説する安倍にとって、参院選までは学会からの支援は喉から手が出るほど欲しいという点だ。
だからこそ山口は、参院選前の今こそ、安倍が目指す集団的自衛権の行使を可能にする解釈改憲や憲法改正問題等でことさら批判的な発言を繰り返し、学会員、とりわけ婦人部に「平和の党」の代表であることをアピールするのだ。
ポイントは、仮に参院選の結果、自民党が参院で単独過半数を確保し、躍進した維新、みんなの党との連携を重視して憲法改正に突き進んだ時、公明党は「平和の党」の看板を旗印に、連立離脱に踏み切る覚悟を決めるかどうか、だ。
その判断に影響を与えそうなのが、「ポスト池田」をめぐる争いだ。
学会の最高指導者である名誉会長の池田大作は事実上、指揮を取れない状態にあると見られている。根城にしている信濃町の創価学会第2別館で幹部たちに会ったり、ごく稀に海外からの訪問者に会ったりはしているが、病気で組織の重大決定には関与できない状態にあるのではないか。
当然、学会内では「ポスト池田」が最大の関心事となっているが、組織拡大が行き詰まりを見せている昨今の学会においては、国政選挙でどれだけ成果を上げたかが、「ポスト池田」をめぐる争いにおいて、最も重要な指標になっているといわれる。
「ポスト池田」の大本命といわれ、実質的に選挙を仕切る事務総長(副会長)の谷川佳樹は、池田後継の地位をより確実なものにするためにも、自民党との連立を維持し、選挙でも自民党と協力して戦うべきだと考える可能性が高い。
一方で、実は学会内では民主党が大勝した4年前の政権交代選挙の頃から、「小選挙区撤退論」が燻り続けている。
小選挙区から撤退し、比例代表に絞れば、自民党との全面的な選挙協力も必要ない。小選挙区での議席確保のため、長年、自民党との全面的な選挙協力を行ってきたことが学会員を疲弊させ、組織にとってはマイナスの方が大きいとの意見は以前からあった。ここにきて再び、自民・民主両党から一定の距離を置いて第3極として存在感を発揮した方が得策だとの主張が広がりつつある。ある公明幹部は「小選挙区で議席獲得を目指すのはもう最後にしたい」と漏らしている。
踏まれても蹴られても自民党に付いてゆく「下駄の雪」と揶揄されて久しい公明党。参院選後に正念場がやってくる。 
安倍圧勝「6年間長期政権」シナリオ 2013/8
 国会より選挙の方が楽……美酒に酔う安倍の周囲は落とし穴だらけ。
「前回とは、まったく違う選挙だったね」
「親の仇」とまで称した参院選に圧勝した首相・安倍晋三は投票日翌日の7月22日夜、感慨深げに振り返った。首相官邸にほど近いザ・キャピトルホテル東急にある日本料理店「水簾」に集めたのは、惨敗して無念の退陣に追い込まれた6年前の参院選をともに戦った第1次内閣の秘書官たち。「国会より選挙の方が楽だった」「これから引き締めていかないと」。首相秘書官・今井尚哉、財務省主税局長・田中一穂、内閣情報官・北村滋らとの勝利の宴は1時間を超えた。
参院選は危なげのない運びで、番狂わせのない予想通りの勝ち方だった。秘書官たちとの美酒に酔う数時間前には、党本部での記者会見で「新しい自民党に生まれ変わった」と宣言した。だが古来、戦いは「勝って兜の緒を締めよ」と言われる通り、圧勝した時こそ落とし穴が待っている。
「新しい自民党」を宣言した安倍のように、1986年の衆参ダブル選挙に大勝し「自民党は左にもウイングを広げた国民政党になった」と自賛した首相・中曽根康弘は長期政権を夢見たが、すぐに売上税の問題でつまずき、総裁任期の延長も1年にとどまった。「1年や2年ではなく6年かけないと、憲法改正などの宿願は達成できない」と漏らす安倍の周囲にも、いくつもの罠が待ち受ける。それは参院選当日から1週間ほどの政界の動きを見ても明らかである。
1つ目は来年4月から消費税を予定通り8%に引き上げるかどうか、だ。
参院選投票日の7月21日昼、安倍は副総理・財務相の麻生太郎と向き合っていた。「このままでは独裁者になりますよ。謙虚にゆかないと」と語りかける麻生に、安倍は「そうですね……」と答えるばかりだった。モスクワで開いていた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議から帰国してすぐ、麻生が安倍と食事をともにしたのは、今後の政局への対応と「アベノミクス」をめぐる国際的な評価を伝えるだけではない。消費税率の引き上げと財政再建が、国際公約になっている重要性も刷り込んでおく意味合いがあった。
安倍は選挙戦終盤から「消費税はよほどの対応策を考えなくては、消費が落ち込む」と思案していた。参考となるのは1997年、消費税を3%から5%に引き上げた橋本龍太郎政権の対応だ。橋本内閣は消費増税による国民負担増に金融危機が重なり、参院選に大敗して退陣した。長期政権を目指すには、橋本内閣の二の舞を演じてはならない――。安倍は当時の政策効果を検証するよう関係部局に指示を出した。これを聞いた麻生は、消費増税を予定通り実施することを訴える必要性を感じたのだった。
麻生との食事がきいたのか、投票日21日夜にハシゴ出演したテレビ各局のインタビューでは「財政再建は重要だ」「財政は市場もみている」と財政再建に理解を示してみせた。だが翌22日、党本部の記者会見では「デフレ脱却に向けて経済政策を進める。強い経済がなければ、社会保障の財政基盤を強くすることもできない」と表明。「強い経済」実現の方に力点を置いて発言した。
「これはまずい」。財務省の危機感は募り、首相会見翌日の23日、麻生が閣議後の記者会見で「増税は法律に書いてある。国際公約に近いものになっている」と力説し、来年1月召集の通常国会には補正予算案を提出して、消費税引き上げの影響を最小限にとどめる案も提示した。
だが「国際公約」「来年1月の補正」は、財務省事務方が推進している案でもある。「国際公約だ。引き上げを見送れば大変なことになる」との論法は安倍の民間ブレーンたちからも「財務省の脅迫じみたやり方だ」と評判が悪い。一方、予定通り増税なら、「秋の補正は不可欠」と考える一派からすれば、1月の補正はあまりに定石通りで、官僚臭が漂いすぎるのだ。
米国が抱く安倍への懸念
こうした状況に安倍と内閣の大番頭、官房長官・菅義偉は「大蔵省の言うことは昔も今も信用できない」との感情を抑えきれない。「1年に1%ずつ、あげるやり方もある」「財政再建の道筋を示す中期財政計画も、消費税上げを決め打ちして8月に閣議決定するのはおかしい」との2人の意向が漏れはじめる。
経産省も「来年4月以降の落ち込みが心配だ」と進言した。
財務省は24日、陣立てを整えて安倍の下に向かった。麻生を筆頭に事務次官・木下康司、主計局長・香川俊介、主税局長の田中、総括審議官・浅川雅嗣。財務省オールスターによる協議は1時間以上に及んだ。安倍は財務省の説明には納得しない。結局、官邸側が譲歩したのは「中期財政計画の策定自体を先送りするのは難しい」と、閣議決定はしない暫定案にとどめる折衷方式。曖昧さは増すばかりとなった。
消費増税にこれだけ焦点があたるのは、裏返せばほかに経済政策の「タマ」が見当たらないからでもある。アベノミクスを構成する「異次元の金融緩和」「財政」「成長戦略」の3本の矢は、すでに放ったあとだ。追加の成長戦略も、法律と予算を伴って実現するための本格的な臨時国会は10月になる予定で、8、9の2カ月は来年度予算案のシーリング策定以外、空白となる。
落とし穴は経済だけではない。“得意技”のはずの外交にも潜んでいる。
参院選から5日後の7月26日午後、シンガポールの高級ホテル、リッツ・カールトンで安倍は米副大統領、ジョセフ・バイデンと会談した。安倍と同じ時期に東南アジアを訪問する予定のあったバイデン=ホワイトハウス側からの打診だった。
会談は型通りに日米同盟の重要性を確認し、安倍は防衛計画の大綱見直しや、米国にならった日本版NSC(国家安全保障会議)の設置は「日米同盟の強化につながる」と語りかけた。だが、米側の真の懸念は、安倍政権が中国、韓国と緊張を激化させる方向へ動いていることにあった。
バイデンには苦い記憶がある。4月、ワシントンを訪れて会談した内閣ナンバーツー、麻生は日本に帰国するや否や靖国神社を参拝し、中韓との緊張緩和を直接、伝えたバイデンは愕然とした。バイデンの「緊張緩和の措置をとるべき」との言葉には、「あんなことは二度とないように」とクギを刺す意味が込められている。バイデン=ホワイトハウスが安倍に会談を申し入れたのは、選挙に勝って一段と同盟を強化しようという肯定的な面だけでなく、中韓との関係改善を安倍がどこまでやる気なのかを「瀬踏み」するためでもあった。
バイデンの要請も踏まえ、安倍は「常に対話のドアは開いている」と応じ、前提条件なしの日中首脳会談実現に意欲を示した。だが「前提条件なし」は、中国と韓国からみれば「歴史認識発言も不問に付せということか」になる。「韓国は日本に引き付け、中国と分断する」との伝統的な戦略に従い、7月に実施した韓国外相・尹炳世との外相・岸田文雄、外務事務次官・斎木昭隆の会談も不調に終わった。斎木は7月29日に訪中し、日中関係の打開を探る構えを示した。だが、官邸にも外務省にも成算はない。米国、中国、韓国との外交は、一歩誤れば安倍の致命傷になりかねない。
もう1つ、懸念すべきは党内の動きだ。
「内閣改造は小幅なのか」「俺たちはどうなる」。選挙直後、人事についてはっきりした方針を安倍が示さず、「党3役は全員留任」との情報も流れ、自民党内には戸惑いと怒りが交錯した。
「幹事長・石破茂の続投はともかく、政調会長・高市早苗まで留任するのは認められない」
野党暮らしと安倍内閣の4年間、冷や飯を食ってきたベテランは憤る。やっと予算の分配にあずかれるのだから、実権を握る政調会長は大派閥に渡すべきだとの論理だ。
町村派、額賀派、岸田派と、かつての福田―安倍派、田中―竹下派、大平―宮沢派の流れをくむ大派閥は参院選でも新人獲得に鎬を削ってきた。引退した後もなお、永田町近くに事務所を構える元参院議員会長・青木幹雄、元幹事長・古賀誠らも「何もかも安倍の思い通りにさせるな」と発破をかける。衆参合わせて400人を超えた自民党の要求はいつになく、強い。
そこで元経済財政担当相・竹中平蔵のように「対決を使って総理決断を演出し、政権の求心力を高める方がいい」との意見が、政権内に出てくる。安倍が官房長官、幹事長として仕えて5年半に及ぶ任期を得た元首相・小泉純一郎にならい、「抵抗勢力との対決」で長期政権を築け、というわけだ。
小泉が長期政権を維持できた理由は、党内問題だけでなく当時の米大統領、ジョージ・ブッシュとの間に、強固な個人的関係があったことも大きい。この点が安倍と小泉では大きく異なる。
輿石に頼る海江田の体たらく
さらに自民党総裁選、衆院選、参院選と3連勝した安倍には「少しずつ独自色を出したい」との思いも強い。それはまず選挙戦最終日の7月20日夜、東京・秋葉原の街頭演説に表れた。
駅前広場には日の丸を手にした聴衆が詰めかけ、前座を務めた司会役の議員らは「領土、領海、国民の生命と安全を守る」と繰り返す。場の雰囲気もあってか、安倍は街頭演説の最後に、これまで封印してきた憲法改正に触れて「誇りある国をつくっていくためにも憲法を変えていこう」と呼びかけた。憲法改正は祖父、元首相・岸信介の悲願でもある。「安倍の本音が出た」と与党は受け止めた。
そこで出てくる火種が公明党だ。
「憲法解釈を変えて集団的自衛権を行使できるようにする、と政府が勝手に決めてしまうのは、国民や国際社会の信頼を損なう恐れがある。私も法律家の端くれだ」。公明党代表・山口那津男は7月23日、大見得を切った。「6年間の長期政権」で憲法改正を実現するため、その第一歩として安倍が考える集団的自衛権の行使にも、反対する姿勢を明確にしたのだ。
公明党は今回、比例代表の得票で自民党に次ぐ第2党の地位を確保し、4つの選挙区でも完全勝利した。もはや第3極を恐れる必要はなく、10年以上に渡る自公協力の実績で、衆院議員は公明党・創価学会の票がなければ選挙はできない状況にまでなっている。公明党幹部は「デフレ脱却に全力をあげろ。集団的自衛権などやっている暇があるのか」と安倍政権を挑発する。「下駄の雪」どころか、公明党は自信を深めているのだ。
これだけの火種がくすぶるのに、当面は政権が安泰にみえるのは、参院選で壊滅した野党の体たらくだ。
安倍がバイデンと会談した26日、民主党は党本部で惨敗を総括する両院議員総会を開いた。結党以来、最低の17議席で、1人区は全敗した。それでも代表・海江田万里は「党をつぶすわけにはいかない。信頼回復は道半ばだ」と続投を宣言し、代表選実施の要求も退けて中央突破した。参院議員会長・輿石東と両院総会前日の25日に何度も会って乗り切り策を協議。前幹事長・細野豪志に代わるナンバーツーに日立労組出身、元経産相・大畠章宏を指名したのは、輿石の意向も汲んでのことだった。
東京選挙区で無所属候補を支援した元首相・菅直人を除籍(除名)処分にする案も覆され、窮地に立った海江田が頼る先は輿石しかいなかった。菅の除名を推進した細野は代表選実施と野党再編に動こうとしており、海江田と輿石周辺は「細野は主殺しだ」「あいつはもう終わりだ」と息巻き、辞任時期も1カ月、前倒しした。混乱だけが、民主党を覆っている。
海江田・輿石ラインの主導権に期待を寄せるのが生活の党代表・小沢一郎だ。小沢は金城湯池だった地元・岩手で初めて敗れ、比例代表では100万票に届かず、獲得議席ゼロの屈辱を味わった。民主党との復縁による再編だけが、71歳になった小沢の最後のよすがなのだ。
野党再編をめぐってはみんなの党で代表・渡辺喜美と幹事長・江田憲司の対立が再燃。日本維新の会では「旧太陽の党」組の園田博之が、民主党の反海江田・輿石・小沢ラインの元外相・前原誠司らとの連携を模索する。次の衆院選直前まで続くであろう野党再編の動きは、1つの新党には収斂しそうもない。
強い外敵がいないことが、安倍の「6年間長期政権」の夢を膨らませる。2015年9月の総裁選で再選を果たし、16年夏に衆参同日選挙を断行して信任を得て憲法改正に取り組む。18年9月、偉大な祖父の岸も実現できなかった憲法改正を成し遂げ、小泉と中曽根の政権も超えて静かに退陣する――。これが安倍周辺の描くシナリオだ。7月22日の記者会見での「今回の参院選で自民党が頂いた議席は、私の20年間の政治家人生で最も多い」「憲法改正は腰を落ち着けて、じっくりと進めていきたい」との安倍の言葉が、それを証明している。
だが、安倍がバイデンと会談し、民主党が両院総会を開いた7月26日、日経平均株価は400円超も下落した。消費税を上げるかどうかの決断も、株価と景気には密接にかかわってくる。長期政権へ越えなければならない壁は早くも秋にやって来る。 
米国も警戒する「安倍のリベンジ」 2013/10
 消費税増税も決着し、いよいよ念願の安保問題に舵を切り始めた。
予定通り来年4月、消費税率を5%から8%に引き上げる――。
デフレ脱却の足かせになりかねないと消費税増税に慎重だった安倍晋三首相。増税へその背中を押したのは、好転した経済指標だけではなく、皮肉にも政権発足以来ともにアベノミクスを強力に推進してきた日本銀行の黒田東彦総裁、そして菅義偉官房長官だった。
「3%の上げ幅を2%に圧縮、2%相当分の経済対策を打って、デフレ圧力を相殺することはできないか」
来年4月の引き上げ時期を先送りにするか、予定通り引き上げるとしてもデフレ圧力を抑え込む方法はないか。安倍は8月上旬まで、本田悦朗内閣官房参与らと模索していた。
そんな安倍に真正面から釘を刺したのが、黒田だった。
「消費税率引き上げを先送りした場合の国債に対する信認の影響を見通すことは非常に難しい。国債価格が大幅に下落するリスクがどれほどあるか分からないが、リスクが顕現化した場合の対応は非常に難しくなる」
首相官邸で8月26日から31日まで行われた有識者から消費税率引き上げについての意見を聴く「集中点検会合」の席上、黒田は婉曲な表現で、予定通りの消費税率引き上げを求めた。この発言の公表は伏せられたが、安倍の耳にはすぐに届けられた。
安倍がそれでも、引き上げ幅の圧縮を模索しているとの情報を得ると、9月5日の会見で、さらに強い表現で牽制した。
「14年4月に3%、15年10月に2%引き上げることは法律で定められており、それと違うことをすることは、新たに法律を出し、国会で可決しなければいけない。そのような状況が、市場やその他にどのような影響を及ぼすかは予測しがたい。私の意見ではないが、例えば、政府が一回決めたことを止めて『今度は違うことをやります』と言った時、その『違うことをやります』ということを市場が本当に信認するかどうか分からない」
〈本当に信認するかどうか分からない〉という表現は、先送りや引き上げ幅を圧縮した場合、「国債が暴落する」という見方を示したに等しかった。官邸内では「自分の発言を市場に織り込ませることで、予定通り実施しない場合のリスクをより高め、安倍を踏みとどまらせようという瀬戸際作戦」と受け止められた。
一方、官房長官の菅は、もともと消費税率引き上げには慎重だった。ただ、「白紙から見直す」という安倍の指示を「実施見送り」から「影響を最小限に抑えて予定通りに実施」する可能性まで、幅広く受け止めた。そして、自らの役割を、景気への影響を最小限に抑えるため、財務省から大胆な経済対策を引き出すことと見定めていた。
「実施しなかったら国債が暴落するというのが財務省の口癖だが、オオカミ少年みたいなもんだ」
「何にもしないで税金を引き上げるだけなんて、そんなの政治じゃねえだろう。仮に実施するにしても思い切った景気対策が必要だろう」
菅は、「陳情」に来る財務省幹部に、絶対に首を縦に振らず、一層の財政出動には及び腰の財務省をつるし上げ続けた。
財務省が折れたのは、有識者からのヒアリングが始まる直前の8月20日すぎのことだった。
「財務省としても思い切った対策をやらせていただきます」
首相官邸の菅の執務室で、財務省の木下康司事務次官らは頭を下げた。
財務省が、最後のカードを切ったことで、東日本大震災の復興に充てるため上乗せしている「復興特別法人税」の、1年前倒しとなる13年度末廃止、法人税率の引き下げ方針などからなる5兆円規模の経済対策に道筋が付いた。
さらなる決め手は「東京五輪」だった。一時は、東京電力福島第一原発の汚染水漏洩問題の影響で、苦戦が予想されただけに、決定後の世論の反応は大きかった。
「経済波及効果は100兆円、150兆円との声もある」との威勢の良い声があがり、財務省の「思い切った経済対策」を大きく上回る規模の景気浮揚策となった。安倍が放ったアベノミクスの「第4の矢」が、消費税率引き上げという決断の最後の後押しとなった。
集団的自衛権への反対包囲網
消費税問題が片付くと、今後の焦点は安倍の宿願である「集団的自衛権の行使容認」の調整に移る。「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が今年12月に、憲法解釈変更による行使容認を求める提言を安倍に提出する見通しだ。水面下では、集団的自衛権の行使を「全面的」に認めるか「限定的」にするか、調整が進んでいる。
五輪招致決定の余波が続いていた9月11日の首相官邸。そこには、記者の目を避けるように官邸に入った兼原信克官房副長官補(外交担当)と高見澤將林(のぶしげ/安全保障・危機管理担当)が、安倍と向き合っている姿があった。
「言わんとすることは理解できなくはないが、やはり私は全面的な行使容認が望ましいと考えている」
全面的に容認するのは困難、という政府内調整の結果を説明する2人に、安倍はこう伝えた。
この密会に先立ち、外務、防衛両省と内閣法制局、内閣官房の幹部が内々で断続的に集まって、この問題を協議していた。その中で、日本の安全保障に直接影響がある場合に限り、行使を容認するという方針を固めていた。
しかし、安倍は頑なに、全面的な行使容認に向けた調整を求めている。
第1次安倍内閣で発足した安保法制懇は、「(1)米国を狙った弾道ミサイルの迎撃」「(2)国連平和維持活動(PKO)で他国軍への攻撃に反撃するための武器使用」「(3)共通の目的で活動する多国籍軍への後方支援」などの4類型で実施可能とするため、「国際的に適切な新しい憲法解釈を採用することが必要だ」としていた。安倍は、後任の福田康夫首相にその継続を求めたが、「憲法解釈を変えるなんて話をしたことはない。憲法は憲法だ」と一蹴されている。それは安倍にとって屈辱以外の何物でもなく、今回はなんとしてもリベンジしたいのだ。
政府内では内閣法制局を中心に、(1)は、「日本有事として防衛出動が下されていなければ自衛隊法第82条の弾道ミサイル等に対する破壊措置に基づいて迎撃され、警察権の行使に該当。日本の領空を通過する場合には個別的自衛権により対応可能」、(2)も「自己の管理下にある状況なら、自衛隊法が定める『武器等防護』で対処できる」との解釈が支配的だ。
となると、実際に自衛隊が集団的自衛権を行使するようなケースは何か。
それを検討した結果、最も可能性が高いのは「日本の周辺事態」との見方に集約されてきた。政府は公言しないが、具体的には朝鮮半島有事に加え、中国と台湾の紛争を想定している。こうした事態に米軍と一緒に自衛隊が正面で戦う。それが考え得るシナリオである。
具体的な検討が進む中、連立相手の公明党は、集団的自衛権の行使容認について反対を貫いている。
「行使容認は、私たちの支持者を裏切ることになる。党の存立基盤にかかわる重大な問題。他の政策では妥協できても、これだけは絶対に妥協できない」
安保法制懇が再開された翌日の9月18日、公明党の山口那津男代表は、井上義久幹事長、石井啓一政調会長ら幹部を集めて対応を協議し、断固反対の方針を確認した。政府、自民党は水面下のルートで、集団的自衛権の行使容認問題は年明け以降に結論を出す段取りを伝え、配慮の姿勢を見せている。しかし、この日の公明党幹部会談では「問題を先送りしても決して歩み寄らない」「安倍首相が解釈改憲で行使容認に踏み切ることは認められない」ことでも一致した。
これらの発言には前段があった。公明党の支持母体である創価学会もお盆明けの8月下旬、この問題をめぐり原田稔会長ら最高幹部が議論した。その結果、婦人部を中心に「他国の戦争に巻き込まれる恐れがある」と反対論が支配的で、「平和と福祉」を金看板とする公明党が行使容認に踏み切ることは困難との結論に至った。
公明党は、米艦船が狙われた場合の対応や米国向けミサイルの迎撃など詳細な検討を加え、個別的自衛権の枠内と判断されるケースに限り自衛隊による対応を認める方向で協議を進めていく。
米が抗議した「幻のやりとり」
安倍内閣は、集団的自衛権問題と同時に、自衛隊による敵基地攻撃能力の保有を検討しているが、こちらは公明党どころかオバマ政権も強く警戒している。
「ミサイル攻撃に日本として、どう対処するのか、議論を活発化させなければならない」。小野寺五典防衛相は参院選前から、巡航ミサイルなどで相手のミサイル発射基地を攻撃できる態勢を整える必要性を繰り返し、12月に策定する新たな「防衛計画の大綱」に反映させる意向も示してきた。北朝鮮のミサイル攻撃などに対抗する狙いだが、米側から見ると違った意味合いを持つ。
8月28日、ブルネイの首都バンダルスリブガワン。第2回拡大ASEAN(東南アジア諸国連合)国防相会議に合わせて、小野寺はヘーゲル米国防長官と会談した。その席上、小野寺が「敵基地攻撃能力の保有については、日米間で慎重に検討していくことが大切と考えている」と切り出し、ヘーゲルは「その通りだ。日本を取り巻く厳しい状況は理解している」と応じた、と防衛省サイドは同行記者団にブリーフした。
だが、米政府関係者によると、実際の会談では敵基地攻撃能力に関し、小野寺から具体的な言及はなく、一般論として米軍と自衛隊の連携強化の重要性を確認したに過ぎなかったという。米側は、この「幻のやりとり」を問題視し、防衛省に抗議したと明かす。
防衛省が「慎重」「大切」との言葉を繕ってまで、あえてこの問題を記者にアピールしたのは、米側から敵基地攻撃能力保有に対する不快感を事前に伝えられていたことに配慮した結果だった。だが虚偽のやりとりは、逆に米側の不信感を増幅させた。そもそも自衛隊による敵基地攻撃能力の一方的な保有は、「矛」の米軍と「盾」の自衛隊という役割分担を大きく変容させる。
「米国の軍事的な傘から、日本が擦り抜けていくことになりかねない。自衛隊が日本防衛以外で前線に立てないがゆえに、日本は米軍に施設・区域を提供している。対等な関係になれば、米軍基地の不要論が高まる」(政府関係者)
このように調整を欠いたまま、集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊が敵基地攻撃能力まで保有することに対してこう懸念する声も米側には根強い。
10月初旬には、外務、防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2+2)が東京で開かれる。そこで、米軍と自衛隊の有事での任務と役割を規定する防衛協力指針の改定作業に入ることで合意する見通しだ。
だが、安倍の目指す方向と、米国の志向は必ずしも一致していない。歴史認識や従軍慰安婦の問題でナショナリズム色が濃くなっている安倍に対して、米国の警戒感は容易に和らぎそうにない。
東京五輪が生んだリスク
順風に見える安倍内閣のアキレス腱は、安保政策に限らない。
五輪を招き寄せるため、汚染水漏洩について「コントロールされている」とまで言い切った福島第一原発である。
実際には、海への流出は止まっておらず、強弁であることは東京電力のみならず政府関係者も認めている。
「既に私がブエノスアイレスで話したように、この汚染水の影響は湾内の0.3平方キロメートル以内の範囲において完全にブロックされている」
9月19日、福島第一原発を訪れた際、安倍が「0.3平方キロメートル以内の範囲」と前提条件を付けて「ブロックされている」と言い方を変えたのは、「コントロール」という言葉が実態と余りにもかけ離れているからだ。20日、猪瀬直樹東京都知事も、記者会見で「必ずしもアンダーコントロールではない。だから(首相が)アンダーコントロールになると表明した」と説明した。
さらに安倍が頭を悩ませているのが、汚染水対策の切り札とされている凍土遮水壁の設置の可能性と実効性だ。凍土遮水壁は現在、事業化の調査の最中。原子炉建屋の四方約1.4キロの土を凍らせなければならないが、今回ほどの大規模な凍土遮水壁を設置した実績はなく、10年単位という長期間の運用も世界的に前例はない。他に有効な手がなく、完成時期の前倒しを打ち出してはみたものの「本当に前倒しできるのか。そもそも、これで原子炉建屋への地下水の流入を防ぐことができるかどうかはやってみないと分からない」(政府関係者)のが実情だ。
福島第一原発訪問に合わせ、安倍が東京電力に指示した「5、6号機の廃炉」は事実上の既定方針で、首相指示は特に必要がなかった。それをわざわざ指示して見せたのは、有効策を打ち出せない窮状の裏返しである。
福島第一原発事故の「収束」に道筋を付けられなければ、野党時代に民主党政権に向けた批判が、ブーメランのように自らに返って来る。
今後、IOCから事故対応について注文が付く可能性も指摘されている。となれば、東京五輪という「第4の矢」が予想していなかった求心力低下の可能性を招き寄せたとも言える。 
混線する「対米中韓」官邸外交 2013/12
 安倍へのすり寄り合戦が続く政権は、「春」を無事に乗り越えられるか。
株価は上がり、野党は壊滅、自民党内にも向かうところ敵なし、内閣支持率も高値安定――。
首相・安倍晋三が政権への返り咲きを果たして12月26日で1年を迎える。この1年間の絶好調はおそらく、平成26年度予算の成立が見込まれる来年春までは続く。だが、政権の落とし穴はえてして、得意技にあらわれる。安倍が長年、心血を注いできた外交と、アベノミクスで好調を謳歌した経済だ。安倍へのすり寄りを競い合う官僚たちの存在と公明党の動向が、この2つの課題の前途に暗雲を投げかけ始めている。11月下旬のある1週間を追えば、その予兆はすでに出ている。
11月23日土曜日。安倍は母・洋子らと映画鑑賞を楽しんだ後、予定外に首相公邸に立ち寄った。官房副長官補・兼原信克、高見沢将林たちから緊急の報告を受けるためだった。
「中国が沖縄県の尖閣諸島を含む東シナ海空域に、防空識別圏を設定しました」
「米政府とも緊密に連携し、中国へ厳重に抗議します」
官僚たちの報告に、安倍は「それでいい」と指示を出すと、わずか40分足らずで公邸を後にした。
翌24日の日曜日も、首相官邸と外務省の事務方は休日返上で調整に奔走した。米国務長官ジョン・ケリー、米国防長官チャック・ヘーゲルも相次いで中国の動きを懸念する声明を出した。一触即発の危機を勃発させかねない中国の動きに対する安倍内閣と米国の連携は、政権交代前は考えられなかった。米国からは故ジョン・F・ケネディ大統領の長女で米政界のセレブ、キャロライン・ケネディが駐日大使として着任し、米国でもケネディの動静が連日、伝えられる。駐中国米大使のゲイリー・フェイ・ロックは突然の辞任を表明したばかり。日中の差は歴然としている。
一見すると好循環にみえるこの一件も、一皮めくればそれほど簡単ではない。米大統領、バラク・オバマとの関係はギクシャクしているのだ。
中国が防空識別圏を発表する2日前、11月21日。官邸と外交当局は、外電で伝わってきた「オバマ大統領が来年4月にアジアを訪問する」との一報に驚いた。官房長官・菅義偉は「大統領の訪日は調整中」と記者会見でとりつくろったが、安倍も「一体、どういうことなんだろう」と困惑と不快感を隠せなかった。
オバマは10月、米国内の債務削減問題の解決を優先するため、予定していたインドネシアなどのアジア訪問を中止した。来春の日程はその代替策に過ぎない。オバマのアジア訪問を発信した国家安全保障担当の大統領補佐官、スーザン・ライスは「今度、創設される国家安全保障会議(日本版NSC)の私のカウンターパートと連携することを待ち望んでいる」などとリップサービスはしたものの「4月」という時期や、日本へ行くのかなどの肝心な事項は、一切事前に通報していない。
日本メディアが「オバマ大統領、来春訪日へ」と書き立てたのは「アジアに来るなら日本も当然だろう」との読み筋に過ぎない。日本政府の高官は「日程が窮屈だ。訪日しない可能性がある」と懸念する。仮にオバマが来日しなければ、今度は「日本は素通り」「日米関係に打撃」と評されかねない。駐米大使・佐々江賢一郎はワシントンでオバマ政権に「もう少し日本に連絡してほしい」と陳情せざるを得なかった。これが来春に訪れるかもしれない。
中国の防空識別圏設定は、韓国との関係改善策にも影響を与えた。
霞が関の官僚群が「外交も取り仕切っている」とみる官房長官の菅は「中国の習近平国家主席と会談すれば、韓国は必ず折れてくる」と読んで独自人脈で感触を探り、「中国との間合いは縮まりつつある」と周辺に自信のほども漏らしていた。
韓国も防空識別圏問題で中国に懸念を伝えたとはいえ、大統領・朴槿恵の反日姿勢は変わらない。菅の戦略は水泡に帰した。
ここで、もう1つの不安定要素となる官邸外交が登場してくる。首相の安倍、官房長官の菅、2人の意向を忖度した対韓強硬論を主導する経産省組だ。
「対韓投資規制を」。今秋、官邸内で浮上した秘密作戦は内閣広報官・長谷川榮一のアイデアだ。
長谷川は第1次安倍政権でも内閣広報官を務め、山登り仲間でもある。今回も安倍本人に直訴して首相補佐官と広報官の兼職という、役人社会の常識を超えた厚遇を受ける。
経産グループが中心となったアイデアは官房副長官・加藤勝信の下まであがったが、安倍が「外務省の意見も聞くように」と言って立ち消えになった。官邸の内部は、安倍に「いかにして気にいられるか」の競争となり、道具として外交関係が弄ばれている。
北朝鮮、中国とのパイプを自任した内閣官房参与・飯島勲も、その延長線上にいる。「日本人拉致問題は動き出す」「中国との首脳会談は近い」との予測はことごとく外れた。飯島は元外務事務次官・谷内正太郎を小泉内閣のころから嫌っており、谷内が責任を担う日本版NSCの運営を阻害する恐れもある、と関係筋は懸念を隠せない。
もう1つ、外交上で官邸内部の人間関係が入り乱れる最大の難問は、安倍の靖国神社参拝問題である。第1次内閣で靖国参拝しなかったことを「痛恨の極み」とまで振り返った安倍は、近いうちに参拝する意向を変えていない。
脱原発発言で話題を呼んだ元首相・小泉純一郎は11月12日、日本記者クラブで「私が首相を辞めた後、首相は1人も参拝しないが、それで日中問題はうまくいっているか。外国の首脳で靖国参拝を批判するのは中国、韓国以外いない。批判する方がおかしい」と安倍を挑発した。中韓との関係が冷え込んだ今こそが好機だ、という小泉流の論理だ。
だが、小泉が靖国を参拝しても政権が盤石だったのは、イラクへ自衛隊を派遣して米国の対テロ戦争に全面的に協力し、当時の大統領、ジョージ・W・ブッシュと個人的な強い結びつきがあったからにほかならない。しかも米国の力は小泉=ブッシュ時代より遥かに弱まっている。「コイズミの言う通りにやってやれ」と日本に甘かったブッシュの米国はもう、存在しない。ドライなオバマの米国は、防空識別圏設定には戦略爆撃機B52を飛ばして応酬したものの、安倍の靖国参拝は「中国、韓国との決定的な関係悪化と東アジアの緊張激化をもたらし、無用な負担を米国にもたらす」と警戒している。外交は単純な敵味方関係ではない。
官房長官の菅も「体を張ってとめる」とは言うものの、「本当に行ったら……」と不安を隠せない。米、中、韓とのパワーゲームでもある靖国問題は、オバマ訪日の有無とも絡んでくる。遅くとも来春までには結論が出るのでは――。関係当局では緊張感が高まっている。
春の大型選挙に戦々恐々
内政でも来春は1つのメルクマールとなりつつある。
中国が防空識別圏を設定した前日の11月22日。東京都知事・猪瀬直樹は衆院選と同時に実施された都知事選前に大手医療法人「徳洲会」グループから5000万円を借り入れたことを認めた。事件の渦中にある徳田毅衆院議員が失職か議員辞職し、鹿児島2区で来年4月に補欠選挙が行われるのは不可避とみられている。仮に猪瀬知事の進退にまで波及すれば、安倍自民党は政権に返り咲いて以来、初めての大型選挙を迎えることになるからだ。
平成26年4月は、消費税率が現行の5%から8%へ引き上げられた直後にあたる。鹿児島補選は「消費増税への審判」と位置付けられる。万が一にも敗れるようだと打撃は大きい。
このところ地方首長選で自民党推薦候補は相次いで敗北しており、支持基盤の揺らぎは明らかだ。中でも痛かったのは10月、政権最大の実力者、官房長官の菅が神奈川県連会長として候補擁立を主導した川崎市長選だった。菅は総務相時代から旧知の元官僚を擁立し、公明、民主両党との相乗り体制をつくって臨んだものの苦戦。終盤3日間で菅は県選出の国会議員らに「団体を回れ」となりふり構わず指示を出し、自らも現地入りしたが、敗北を喫した。3割強と低い投票率で組織力がモノをいう「選挙の常識」が通じない。
自民党の選対幹部は「劣勢を伝えられてからは、どこから手をつけていいのか分からない不気味さを感じた」と振り返り、神奈川選出の自民党衆院議員・田中和徳も「人口が増え、自分たちの力が及ばない住民が増えている」と川崎市内のホテルでの反省会で吐露している。
かつての政・官・財が一体となった自民党の基盤は、大きく崩れているのだ。
その証左は議員会館、霞が関の中央官庁街のそこかしこにあふれている。
11月20日、安倍は東京・神南のNHKホールでの全国町村長大会で「景気回復の実感を全国の隅々にまで届け、地域を元気にしていかなければいけない」と訴えた。そこに集まった全国の町村長や、随行の自治体職員らは三々五々、陳情に出向く。昨年の予算編成は衆院解散、新政権発足直後だったため、ほとんど陳情はできなかった。自民党系の地方首長や議員たちにとっては5年ぶりの晴れ舞台。国土交通省の1階ロビーは陳情客であふれ、永田町の宿泊施設も満室となった。
ところが、自民党の古参秘書は「5兆円の大型経済対策、大盤振る舞いの予算といっても、新規案件の陳情は少ない。ほとんどが継続ばかり」と首をひねる。地方自治体は合併を重ね、人口が減り、借金が膨らんだ。公共事業圧縮とデフレ不況で、地方の中小ゼネコンはその多くが退場した。5年ぶりに「アメ」を与えて支持団体をフル回転させようにも、受け皿が衰退してしまった。
消費税が上がれば、地方の経済が縮み、政治活動がまた塞ぎ込む可能性は高い。これも来春リスクの1つだ。
名誉会長の復活で原点回帰?
そしてもう1つ、連立政権を組む公明党と支持母体、創価学会の動向がある。
11月18日、永田町で「創立記念日を迎えた創価学会で、会長人事があるのでは」との噂が駆け巡った。
結局、人事はなく過ぎ去ったが、この噂は長く病気療養中とされてきた名誉会長・池田大作の健康回復が伝えられたことと深い関係がある。与党へ復帰する前後から、消費増税や安保体制強化に協力した現実路線で行くのか、それとも反戦・平和を掲げる公明党の原点へ回帰するのか。「名誉会長の健康回復が、トップ人事とその後の路線選択を左右するのは間違いない」というのが、学会ウオッチャーの一致した見立てだ。
創価学会内では反戦・平和色の強い婦人部の発言権が、名誉会長の健康回復が伝わるとともに強まっているとされ、代表・山口那津男や幹事長・井上義久ら党執行部の方針に影響している。経済政策でもその意向は無視できない。
「軽自動車が生活の足となっている地方の実態を考えれば、軽自動車を狙い撃ちした大幅な増税には理解が得られない。党として慎重な立場で臨む」
11月13日、公明党政調会長・石井啓一は断言した。軽自動車の増税反対、消費増税での軽減税率導入は学会婦人部の要望が特に強い事項でもある。軽減税率導入に「眦(まなじり)を決して臨む」と語る山口の決意は、表向きだけではない。
学会人事の噂が伝わった翌日の11月19日、山口は安倍との党首会談で「政治決断すべきだ」と迫った。安倍も「承りました」と引き取ったが、友党支持団体の人事、路線闘争までが絡んでいるだけに、通常の案件とは異なる難しい判断になる。
税の問題で齟齬を来せば、来年4月の予算成立後に公明党の動向が注目を集める。公明党・創価学会の意向を汲んで来春以降に結論を先送りした集団的自衛権の行使容認問題が、政局の焦点となるからだ。
自民党の大勢は「公明が連立から飛び出すなどあり得ない」と楽観的に見ている。特定秘密保護法案などで日本維新の会、みんなの党と協調を進めたのも「自維み」の枠組みでも国会運営は可能だと公明に圧力をかける狙いだった。
しかし、300小選挙区の1選挙区あたり2万票を持つとされる公明党・創価学会は、15年近くにわたる選挙協力によって、自民党の重要な票田となっている。小選挙区制しか知らない当選6回以下の世代は「創価学会こそが自民党の最大支持勢力。学会抜きの選挙は考えられない」と実感している。自民党が、公明党を簡単に切れない仕組みは、全国にビルトインされている。
来春以降に公明の動きが政権の攪乱要因となる可能性は十分にあるのだ。
疲弊した支持団体と地方、混線する一方の官邸内外交、複雑化した米中韓とのパワーゲーム、不気味な公明の動向……。どれもが対処をあやまると、連動して政権は危機に陥る。
11月24日、神奈川県茅ヶ崎の名門ゴルフ場、スリーハンドレッドクラブでプレーした安倍は「気持ちいいですね、秋晴れで」と空を仰いだ。特定秘密保護法案は2日後の26日、強行採決で衆院を通過させた。秋晴れのように順風満帆な政権運営を脅かすのは慢心と「内なる敵」である。 
 
諸話 2014

 

新聞社の「ヤル気」と「覚悟」 2014/1/1
朝日新聞  
朝日新聞の2014年の最初の新聞の一面トップは『めざす 世界の1%』『済州島に英語都市』『慶大中退 アブダビに』。  
この日から始まった「教育2014 世界は日本は」という連載の第1回で「グローバルって何」というタイトルがついている。少子高齢化が進む日本。海外に経済成長の活路を見いだそうと、政府は英語教育の強化を打ち出す。ただ、グローバル人材の育成という目的地は、語学の壁を越えたその先にある。日本の教育は、世界をとらえられるか。  
◇特集「教育2014 世界は日本は」「世界1%のグローバルリーダーを育てるアジア最高の英語教育都市」 / そんなキャッチコピーの新都市の建設が、韓国・済州島で進んでいる。379hの広大な敷地に、欧米トップクラスの名門私立校の分校と大学を誘致。病院やコンビニでも、フィリピン人従業員を雇うなど英語を常用化する計画だ。2011年9月、英国の私立女子校「NLCS(ノース・ロンドン・カレッジエイト・スクール)」は韓国政府の要請を受け、初の海外分校「NLCSチェジュ」(定員1508人)を開校。幼稚園から高校まで14年間の共学の一貫校だ。皮膚の構造を描く中学3年の生物の授業。女子生徒19人が筆や絵の具を一斉に手に取り、英語で部位の名称や説明文を加えていく。「どんな色がいいかな?」「神経をまだ描いていないよ」……。生徒の会話はもちろん英語だ。1997年の通貨危機後、韓国政府は外貨を稼ぐ企業や人材を育てるため、英語教育にかじを切った。小中高生の早期留学も急増。この学校の寮費を含む学費は平均年約4500万ウォン(約450万円)と高額だが、海外留学よりは安い。都市を運営する公営企業は、中国や日本からも学生を呼び込み、21年には居住人口を2万3千人に増やそうとしている。  
◇ オーストラリアでは、87年から小中高での外国語教育が政策として始まった。白人を優遇する白豪主義を廃止し、多文化主義に転換した象徴として導入した。 / その後、94年にアジア語重視が打ち出され、日中韓インドネシアの4カ国語について「小3から高1までの6割がいずれかを学ぶ」との目標が設定された。いま、豪州で最も盛んに教えられている外国語は日本語だ。全国に約30万人いる日本語学習者の9割以上が初中等教育で学んでいる。「アジア語必修化」を起案したラッド前首相(当時はクインズランド州政府事務次官)は「将来的な貿易の重要性から選んだ。国の将来がかかった優先事項であり、その重要性は今も変わらない」と話す。  
◇ 慶大中退、アブダビに / アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビに2010年に開校した米ニューヨーク大アブダビ校。102カ国から集まった約620人の学生が学ぶ。橋本晋太郎さん(21)は慶応大法学部を1年半で中退し、飛び込んだ。「数百人もの大教室で講義を聴き続ける毎日」に危機感を覚えたからだ。  

安倍政権が進めようとしている教育改革を前提として、どこが日本の教育の遅れている点がを先進地域の現状を紹介して行こうという試みだ。グローバルな人材を育成するにはどうすればよいのか、と課題を探る連載で、韓国の済州島やアラブ首長国連邦のアブダビ、さらには長野県の軽井沢などに出来つつあある「グローバル人材育成学校」を取材する。 
こういう連載そのものは否定しないが、しかし、これがはたして元日の一面トップの内容なのか?朝日新聞として、「教育のグローバル化」が最重要課題だと認識しているのだろうか。日本経済の将来に結びつくテーマであるので経済専門紙なら理解できるが、一般紙としてはどうなのか? 他にやるべきテーマがあるのではないか? 日本のジャーナリズム界で朝日新聞がこれまで果たしてきた役割を考える時、物足りなさを感じざるえない。  
毎日新聞  
さて、毎日新聞の一面トップの見出しは、『中国、防空圏3年前提示』『日本コメント拒否』『非公式会合 発表と同範囲』。  
中国人民解放軍の幹部が、2010年5月に北京で開かれた日本政府関係者が出席した非公式会合で、中国側がすでに設定していた当時非公表だった防空識別圏の存在を説明していたことが31日、明らかになった。毎日新聞が入手した会合の「機密扱」の発言録によると、防空圏の範囲は、昨年11月に発表した内容と同様に尖閣諸島(沖縄県)を含んでおり、中国側が東シナ海の海洋権益の確保や「領空拡大」に向け、3年以上前から防空圏の公表を見据えた作業を進めていたことが改めて裏付けられた。非公式会合は10年5月14、15の両日、北京市内の中国国際戦略研究基金会で行われた。発言録によると、中国海軍のシンクタンク・海軍軍事学術研究所に所属する准将(当時)が、中国側の防空圏の存在を明らかにしたうえで、その範囲について「中国が主張するEEZ(排他的経済水域)と大陸棚の端だ」と具体的に説明し、尖閣上空も含むとの認識を示した。また、この准将は「日中の防空識別区(圏)が重なり合うのは約100カイリ(約185キロ)くらいあるだろうか」と述べるとともに、航空自衛隊と中国空軍の航空機による不測の事態に備えたルール作りを提案した。  
人民解放軍の最高学術機関である軍事科学院所属の別の准将(当時)も「中国と日本で重なる東海(東シナ海)の防空識別区(圏)をどう解決するかだ」と述べたうえで、同様の提案をしていた。中国の防空圏に尖閣諸島が含まれていれば、「尖閣に領土問題は存在しない」という日本政府の公式的な立場を崩しかねない。このため、日本側出席者の防衛省職員が「中国は国際的に(防空圏を)公表していないので、どこが重複しているのかわからない。コメントできない」と突っぱねた。  

毎日新聞の記事は、読売新聞と同じように、中国との関係が緊張をはらみ、予期せぬ衝突が起きて戦争突入の可能性もある現状を強く意識している。昨年11月に一方的に発表した防空識別圏について、中国が3年前に非公式会合で日本側に提示していたという事実を伝える。中国側の「野心」を暴く一方で、日本側もこの情報を防衛省内や外務省、官邸などに上げてうまく処理できた可能性があったこともうかがわせている。読売新聞のように中国側だけを取材したものでなく、中国軍、日本の防衛省、自衛隊のやりとりを多角的に取材した深みのある記事だ。毎日新聞の記事は「隣人 日中韓」という連載を昨年末から始めていて、その第2弾としての立派なスクープといえる。3面の「隣人 日中韓」の記事には『予期せぬ衝突 回避策急務』『緊張「いつ起きても…」』『交渉 靖国参拝で遠のく』という見出しが並び、自衛隊と中国軍との間で現場レベルの話し合いやホットラインが出来つつあったのに、首相の靖国神社参拝などの「政治」がその動きを止めてしまったことを報じている。 
毎日新聞からは、こうした日中韓の3カ国の関係を「複眼的に」見つめていこうとする「覚悟」が伝わってくる。読売が対中国で「単眼的」なのと比べると物事を単純化しないで相手国の立場でも考えようとする姿勢が見える。 
読売新聞  
読売新聞は、一面トップの見出しは『中国軍 有事即応型に』『陸海空を統合運用』『機構再編案 7軍区を5戦区に』とある。  
中国軍が、国内に設置している地域防衛区分である7大軍区を、有事即応可能な「5大戦区」に改編することなどを柱とした機構改革案を検討していることがわかった。5大戦区には、それぞれ陸軍、海軍、空軍、第二砲兵(戦略ミサイル部隊)の4軍種からなる「合同作戦司令部」を新たに設ける。複数の中国軍幹部などが明らかにした。これまでの陸軍主体の防衛型の軍から転換し、4軍の機動的な統合運用を実現することで、沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海や南シナ海での制空権・制海権の確保に向けて攻撃力の強化を目指すものだ。新型装備の増強に加え、運用の近代化が実現すれば、日本や米国の脅威となるのは必至だ。軍幹部によると、5年以内に、7大軍区のうち、沿海の済南、南京、広州の3軍区を3戦区に改編して、各戦区に「合同作戦司令部」を設置し、それぞれ黄海、東シナ海、南シナ海を管轄する。東シナ海での防空識別圏設定と連動した動きで、「『海洋強国化』を進める上で避けては通れない日米同盟への対抗を視野に入れた先行措置だ」という。その後、内陸の4軍区を二つの戦区に統廃合する見通しだ。現在も演習などの際には軍事作戦を主管する戦区という呼称を一時的に使っているが、戦区に改編することで有事即応態勢を整えることになる。  

この記事の重点は「沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海や南シナ海での制空権・制海権の確保に向けて攻撃力の強化を目指すものだ。新型装備の増強に加え、運用の近代化が実現すれば、日本や米国の脅威となるのは必至だ」という部分にある。日本の自衛隊の仮想敵である中国軍について、中国軍の複数の幹部を取材して脅威の実態を探った記事だ。 
文章として書かれてはいないが、日本の防衛体制は現状で大丈夫なのか?と読者に思わせるに十分な内容だ。読売新聞にとって、日本の国防こそが重要課題であり、特に中国軍の動きには目を光らせていくぞという覚悟が読み取れる。  
産経新聞  
産経新聞の一面トップは、『河野談話 日韓で「合作」』『原案段階から すり合わせ』『関係者証言 要求受け入れ修正』というものだ。  
慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の「河野洋平官房長官談話」について、政府は原案の段階から韓国側に提示し、指摘に沿って修正するなど事実上、日韓の合作だったことが31日、分かった。当時の政府は韓国側へは発表直前に趣旨を通知したと説明していたが、実際は強制性の認定をはじめ細部に至るまで韓国の意向を反映させたものであり、談話の欺瞞(ぎまん)性を露呈した。当時の政府関係者らが詳細に証言した。日韓両政府は談話の内容や字句、表現に至るまで発表の直前まで綿密にすり合わせていた。証言によると、政府は同年7月26日から30日まで、韓国で元慰安婦16人への聞き取り調査を行った後、直ちに談話原案を在日韓国大使館に渡して了解を求めた。これに対し、韓国側は「一部修正を希望する」と回答し、約10カ所の修正を要求したという。原案では「慰安婦の募集については、軍の意向を受けた業者がこれに当たった」とある部分について、韓国側は「意向」を強制性が明らかな「指示」とするよう要求した。日本側が「軍が指示した根拠がない」として強い期待を表す「要望」がぎりぎりだと投げ返すと、韓国側は「強く請い求め、必要とすること」を意味する「要請」を提案し、最終的にこの表現を採用した。  

平成5年の「河野洋平官房長官談話」が、原案の段階から韓国側とすり合わせていた「合作」だったとし、当時の政府関係者が証言したという内容の記事だ。2面で「河野談話の欺瞞性はもう隠しようがなくなった」と書く。日本側が自分自身で考えて発表したものでなく、韓国側と妥協点を探っていた産物だったので「欺瞞」だという展開。 
産経新聞が2014年も従軍慰安婦問題など「歴史認識」に重点を置いていく、というヤル気と覚悟は伝わってくる。ただ、外交交渉では、相手先と水面下で妥協点を探るのは通常行われていることなので、それがけしからんとする論調は外交交渉術をあえて知らないふりしているようでかなり意図的な印象だ。また、当時の「日本政府の関係者」だけに取材するという取材の薄さも気になる。2014年もこれまで同様に一点突破の路線で、やっていくということなのだろう。 
日本経済新聞  
日本経済新聞の一面トップは『空恐ろしさを豊かさに』という見出し。『常識超え新しい世界へ』という見出しも続く。  
元日から始まった「リアルの逆襲」という連載の第1回の記事だ。速すぎる科学や技術の進歩に一線を越えたような空恐ろしさを感じることはないだろうか。これまでの常識を覆し、新たな秩序を築く過程では抵抗や反発も避けられない。豊かな未来。それは「リアルの逆襲」を乗り越えた先にある。  

一度、絶滅した動物を蘇らせるようなバイオの科学が「空恐ろしい」一方で、ビジネスにもつながる面を強調する。それはネットを使って、人間を格付けする技術も同様だ。ネット上の「いいね!」が多い人間ほど、政治でもビジネスでも高く評価される時代になりつつある。 
iPS細胞ひとつ考えても、そうした技術は確かに今後のビジネスのカギを握る一方、一歩間違えると「人間としてどこまで許されるのか」という倫理的な問題を突きつける。そうした時代にいるということを元日に伝える、というスケールの大きい世界観が日経新聞らしい。この連載が今後どこまで広がっていくのが興味深いが、経済専門新聞としてはこうした方向性もありだろう。  
東京新聞  
こうしたなかで元日の一面トップでひとり気を吐いた印象だったのが東京新聞だった。『東電 海外に200億円蓄財』『公的支援1兆円 裏で税逃れ』『免税国オランダ活用』という見出しの記事だ。  
東京電力が海外の発電事業に投資して得た利益を、免税制度のあるオランダに蓄積し、日本で納税していないままとなっていることが本紙の調べでわかった。投資利益の累積は少なくとも二億ドル(約二百十億円)。東電は、福島第一原発の事故後の経営危機で国から一兆円の支援を受け、実質国有化されながら、震災後も事実上の課税回避を続けていたことになる。東電や有価証券報告書などによると、東電は一九九九年、子会社「トウキョウ・エレクトリック・パワー・カンパニー・インターナショナル(テプコインターナショナル)」をオランダ・アムステルダムに設立。この子会社を通じ、アラブ首長国連邦やオーストラリアなどの発電事業に投資、参画していた。子会社は、こうした発電事業の利益を配当として得ていたが、日本には送らず、オランダに蓄積していた。オランダの税制について米国議会の報告書は、「タックスヘイブン(租税回避地)の特徴のある国」と指摘。専門家も「多くの企業が租税回避のために利用している」とする。東電のケースも、オランダの子会社が得た配当利益は非課税。仮に、東電がオランダから日本に利益を還流させていれば、二〇〇八年度までは約40%、それ以降は5%の課税を受けていたとみられる。こうした東電の姿勢について、税制に詳しい名古屋経済大学大学院の本庄資教授は「現行税制では合法」としつつ、「公的支援を受ける立場を考えると、企業の社会的責任を問われる問題だ」と指摘。会計検査院は蓄積した利益の有効活用を東電側に要求した。東電担当者は「多額の税金が投入されていることは、十分認識している。国民負担最小化をはかる観点から、海外投資子会社の内部留保の有効活用は引き続き検討したい」としている。  
福島第一原発事故による経営危機で政府から1兆円の支援を受けている東京電力が海外で200億円の蓄財をしていたという事実をすっぱ抜いたスクープ記事だった。 

この『東電 海外に200億円蓄財』のすぐ横に『浜岡増設同意 地元に53億円 中部電ひそかに寄付 80年代』という記事も載っている。 
中部電力(名古屋市)が浜岡原発3、4号機の増設同意を旧静岡県浜岡町(現御前崎市)から得た一九八〇年代に、公にした寄付金三十六億円と別に五十三億円を支払う約束を町と結んでいたことが分かった。本紙が秘密扱いの町の文書を入手した。当時の町長は「金額を大きく見せたくなかった」と話し、寄付金と別の「分担金及び負担金」の項目で会計処理していた。同社と町は増設同意時に、3号機の八二年八月に十八億七千二百万円、4号機の八六年四月に十八億円の寄付金(協定書上は協力費)を同社が町に支払うとの協定書を公表していた。入手したのは七〇〜八七年度の同社との金銭授受などを示す御前崎市教委保管の旧浜岡町分「原発関係文書」。協定書と別に、確認書と覚書があった。3号機の協定書と同じ日に、別に二十九億二千八百万円を支払う確認書が交わされた。町の地域医療の整備計画が具体化した時点で「応分の協力措置をとる」との記述があり、八四年十二月に覚書を交わした十七億円の寄付は、確認書に沿ったとみられる。4号機でも同様に、六億八千百万円の確認書と十七億円の覚書を交わした。当時の鴨川義郎元町長(86)は非公表を「中部電側の意向。隣接自治体の嫉妬があり派手に見せたくなかった」と説明。数年に分け金額を少なく見せたという。中部電力本店広報部の話 「地域との共存共栄や発電所の安定的な運営のために必要と判断すれば、要請に基づき協力金を出すことはある。相手があるので、個別具体的な内容については回答を差し控える。 」 
こちらも電力会社と地元自治体との密約を暴いたスクープ。 

東京新聞の元日の一面の記事からは2つのことが読み取れる。それは東京新聞が2014年も当局が発表する情報を元にした「発表報道」ではなく、記者個人の問題意識を重視した「調査報道」に徹するという覚悟を持っているということ。さらに、東京新聞としては、原発の問題を報道の核として位置づけていくという覚悟を持っているということだ。報道された内容も見事だったが、他の新聞とは明確に一線を画した姿勢が明快だった。 
靖国参拝、知られざる官邸の暗闘 2014/2
 “同志”と参拝を強行した安倍。しかし、同盟国の「真意」は計れなかった。
「今年は第一次大戦から100年を迎える年である。当時、英独は大きな経済関係にあったにもかかわらず第一次大戦に至ったという歴史的経緯があった」
スイスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に参加した安倍晋三首相が1月22日、外国メディアに向けて述べた発言が、国際的な波紋を呼んだ。現在の日中関係を第一次世界大戦で対決する前の英独関係に例えたことから、安倍が「日中戦争」の可能性を認めたと受け止められたのだ。
もちろん安倍に中国と軍事的にことを構える考えは毛頭ない。しかし、国際社会がそう受け止めた背景には、尖閣諸島をめぐる日中の応酬、そして昨年末、安倍が踏み切った靖国神社参拝の生々しい記憶があった。
靖国参拝をめぐっては、官邸の「奥の院」でも暗闘が繰り広げられていた。
「総理が私の意見を聞き入れなかったのは、これが初めてのことです」
安倍が靖国参拝に踏み切った12月26日の夕刻、首相官邸。菅義偉官房長官は衛藤晟一首相補佐官(国政の重要課題担当)に問わず語りにそう漏らした。
中韓関係や経済への影響を懸念して参拝に慎重な菅と、大分大生時代から右派活動に身を投じ「他国に干渉されるべきではない」と参拝に積極的な衛藤。靖国参拝をめぐる2つの水脈は、安倍が2度目の首相に就任した一昨年12月26日夜に、いきなり表面化していた。
就任翌朝の参拝を推すのは衛藤と小泉政権で首相政務秘書官を務めた飯島勲内閣官房参与。これに対して、今井尚哉首相政務秘書官が「私が体を張って阻止する」と猛反対し、菅は今井を支持した。
菅―今井ラインは経済を最優先し、靖国参拝に否定的な世論を重視する。衛藤や飯島も同じ考えだが、いつまでも参拝を封印できないとの思いも持っていた。安倍は、衛藤―飯島ラインに心情的には共鳴しながらも、この時は菅―今井ラインに軸足を置き、参拝を見送った。
この抑制的な対応は、昨年4月の春季例大祭、8月の終戦記念日まで続いた。次のヤマは10月17日から20日まで行われた秋季例大祭だった。飯島が靖国参拝を強く進言したのだ。結局は、台風26号への対応に万全を期すことを理由に見送ったとされたが、実態は異なる。
安倍と衛藤は、沖縄県の仲井眞弘多知事が米軍普天間飛行場の移設予定地である名護市辺野古沿岸部の埋め立てを年内に承認するのかどうか、その一点を見極めて参拝を判断する方向に傾いていたのだ。というのも、仲井眞の承認を得られれば、辺野古移設に向けた米国との約束実現へ大きく歩を進めることになり、オバマ政権は靖国参拝に異を唱えにくいと読んだのである。
一方、菅は、安倍が「首相としての参拝は国民との約束なんです」と漏らすようになった心情を理解はしていた。しかし当面、アベノミクスによる経済再生に集中すべきで、外交、経済など様々な領域で対応が必要となる靖国参拝は可能な限り見送った方がいいと考えていた。
特に、中国は、秋季例大祭直後の10月24、25両日に共産党最高幹部7人が「周辺外交工作座談会」を開き、習近平国家主席が「(相手国の)感情を重んじ、常に顔を合わせ、人心をつかむ必要がある」と融和姿勢とも取れる異例の重要講話を発表。日本政府では「強硬な対日外交が行き詰まり、距離を縮めるシグナルかもしれない」との見方がささやかれた。さらにその見方を裏付けるようなメッセージが習、さらには韓国の朴槿恵大統領の周辺から届いていたことも大きかった。
「まず中国と、第一次安倍内閣の実績である『戦略的互恵関係』を再構築する。そして、日中の急接近に遅れまいとする韓国とも関係を修復する」というのが、菅の描く東アジア外交の正常化シナリオだ。「戦略的互恵関係」の大前提は、靖国参拝について有無や時期を明確にしないことだ。靖国参拝は首相の任期が終わる間際に行うことで、外交的利益と「国民との約束」の両立を図ってはどうかと安倍に進言していた。政権の弱体化を招きかねない事態を避けたい菅が、靖国参拝を「悲願」とする安倍と衛藤に配慮した妥協案だった。
米国への密使派遣
菅、衛藤がそんな神経戦を繰り広げる中、事態が動いた。秋季例大祭を見送った直後、衛藤が安倍と首相官邸で対峙した。仲井眞サイドから埋め立て承認の感触を得た時期だった。
「次のタイミングは、就任1年の節目ではないですか。任期は残り2年ほど。2014年4月にはオバマ大統領の訪日が検討され、秋には北京でAPECが開かれる。翌年春には統一地方選を迎えます。ベストではないが、ベターな選択は1周年だと思います」
衛藤の進言に安倍は答えた。
「中韓は首脳会談を呼び掛けても頑なな姿勢は変わらないので、靖国参拝しても同じでしょう。むしろ米国にはしっかりと事前に説明しなければいけないと思います。衛藤さん、行ってもらえますか」
安倍が就任1年での参拝を決断した瞬間だった。このタイミングを逃せば「なぜ1年目は行かなかったのか」と保守層から不満が出かねない。参拝に批判的な勢力からも「筋が通らない」と非難される懸念があった。就任1年は安倍にとって無視できない時機だった。
衛藤は、ワシントンのシンクタンク「ランド研究所」で開かれる北朝鮮崩壊シナリオのセミナー出席を表向きの理由として訪米することになった。菅が靖国参拝への布石と感じ取り、「セミナーの報告書を取り寄せれば、米国まで行かなくとも構わないでしょう」と難色を示すと、衛藤は「実は、靖国参拝について米側に説明してきたい。総理も了承しています」と打ち明けた。菅が事後承諾する形で密使の派遣計画が固まった。
衛藤は11月20日から23日まで訪米、ラッセル国務次官補(東アジア・太平洋担当)ら米政府高官、アーミテージ元国務副長官と相次いで会談した。
「安倍総理は近く靖国神社を参拝する。参拝を支持する日本国民のほとんどは日米同盟の強化を歓迎している。一方、参拝に否定的な人は親中国派が多い。靖国参拝と日米同盟強化は矛盾しない」
衛藤の説明に対し、ラッセルは「中国や韓国との関係を悪化させるような挑発的行為は控えてほしい。慎重に対応すべきだと考えている」と異論を唱えた。アーミテージも「オバマ大統領はリベラルだ。この民主党政権が終わるまで靖国参拝を控えることはできないか」と自粛を求めた。衛藤はワシントンの日本大使館を通じて一連の会談内容を安倍と菅に報告した。この時点の米側の反応は、衛藤にとってさほど驚きではなかった。
さらに衛藤が米国を発つ直前、中国は尖閣諸島を含む防空識別圏(ADIZ)の設定を発表した。この一方的な通告に国際社会は反発し、米国も戦略爆撃機B52を、中国の設定したADIZに飛行させる対抗措置を取った。結果、中国が孤立する形になったことも、靖国参拝への弾みを付けた。
12月18日夜、安倍は森喜朗元首相や麻生太郎副総理、下村博文文科相らと東京五輪をめぐり公邸で会食した。新聞各紙によると、安倍にその後の来客はない。だが人目を避けて、公邸の食堂で待機していたのは、衛藤その人だった。すでに、1周年での参拝は2人の暗黙の了解となっていた。安倍は「アメリカには改めて連絡できる態勢を取ってほしい。齋木(昭隆外務事務次官)さんとも緊密に連絡を取ってください」と指示した。
衛藤は翌日、東京・赤坂の米国大使館にカート・トン首席公使を密かに訪ねている。そして「総理が靖国に行く前にきちんと連絡します。米政府として反対しないでほしい」と説いたが、「慎重に対処すべきだ」との応答は変わらなかった。
「アメリカは何なんだ……」
そして、26日午前11時過ぎ、安倍は靖国神社へ向かったのだ。
参拝直後、安倍は記者団に力説した。
「靖国神社の鎮霊社にもお参りした。諸外国の人々も含めて戦場で倒れた人々の社だ。中国、韓国の人の気持ちを傷つける考えは毛頭ない。戦場で散った英霊の冥福を祈り、リーダーとして手を合わせることは世界共通のリーダーの姿勢だ」
だが米国大使館と国務省は相次いで声明を発表した。「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米政府は失望している」
「アメリカは何なんだ……」
米国の反応を聞いた安倍はこう漏らした。賛成してくれとは言わない。だが同盟国に対して「失望(disappointed)」という表現まで使って批判するのか。自らの行動を理解してくれない米国に対する苛立ちが、安倍のひと言に凝縮されていた。
しかし、苛立っていたのは米国側も同様だ。米国からみると、靖国参拝は多くの若者の血を犠牲にして民主主義を守り抜いた栄光の戦いと、その後の国際秩序に対する「異議申し立て」に映る。靖国には米国が主導した「東京裁判」のA級戦犯、東條英機元首相らが合祀されているからだ。
また米政府は、昨年3月の衆院予算委員会で、安倍が第二次大戦の総括をめぐって「日本人自身の手によることではなくて、東京裁判という、いわば連合国側が勝者の判断によってその断罪がなされたということなんだろう、このように思うわけであります」と述べたことに着目していた。
「わが国としてはサンフランシスコ講和条約第11条により極東国際軍事裁判所の裁判を受諾しており、国と国との関係においてこの裁判について異議を述べる立場にはない」と事実関係にとどめるのが、それまでの政府答弁。「不公正」というニュアンスを伴う「勝者による断罪」という表現は、これまでの見解と異なっていた。さらに安倍はこの前後、衆参両院の予算委員会や米外交専門誌で「首相の靖国参拝は米大統領のアーリントン国立墓地参拝と同様だ」と述べ、米国を念頭に参拝の正当化を図っている。
安倍の主張に業を煮やした米政府は行動に出ている。10月3日、東京で開かれた外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)に出席するため来日したケリー国務長官とヘーゲル国防長官が千鳥ケ淵戦没者墓苑を訪れ、献花、黙とうを捧げたのだ。同行した国防総省高官が一部記者団に、墓苑はアーリントン国立墓地に最も近い存在だとブリーフする念の入れよう。安倍の主張に対する反論であり、靖国参拝に対する警告でもあった。
首相在任中、参拝を重ねた小泉純一郎元首相には表立って抗議しなかったのは、小泉が歴史認識に踏み込まなかったからだ。ケリーらの墓苑訪問後も参拝に意欲を見せる安倍に米政府は直接、間接の忠告をしたが、参拝は現実化した。
米政府関係者によると、安倍の参拝に備えて米大使館が事前に用意したコメント案では「disappointed(失望した)」の前に「deeply(深く)」が付いていたという。『同盟国』に対する配慮で、最終的には削られたが、米側の苛立ちは尋常ではなかったのだ。そんな米側の真意を安倍は見誤っていた。
都知事選でも「誤算」
安倍はこの時期、内政でも想定外の事態に直面している。
「細川さんが出馬すれば、小泉さんも応援すると言っています」
安倍が靖国参拝した翌27日午後、田中秀征元経済企画庁長官は細川護熙元首相と会い、小泉純一郎元首相の支援があるとして「脱原発」を旗印に東京都知事選に立候補するよう迫っていた。
かつてのブレーンの強い要請を、細川はやんわり断ったものの「小泉さんは本当に支援してくれるんでしょうか」と尋ねた。田中は、小泉の支援が確実なら検討の余地があると受け取った。さっそく、小泉側の代理人的な役割を果たしていた中川秀直元自民党幹事長にその感触を伝えた。中川は小泉に報告、細川支援の内諾を得るとともに翌日以降、安倍、菅、石破茂幹事長に相次いで電話する。
「小泉さんの支援を受けて細川さんが出馬する可能性がある。そうなれば強い。対決は避けた方がいいのではないか」
そう言って相乗りするよう提案した。しかし、安倍らは中川の提案を一笑に付した。首都とはいえ自治体の首長選挙で、首相経験者連合が成立するわけがないと踏んだのだ。
1月に入って、細川が出馬する意向を固めたことが報道されると安倍ら官邸サイドは「昨年から動きは知っていた。織り込み済みだ」と平静を装った。だが、それは強がりだ。自民党が世論調査を頻繁に行ったことがそれを裏付ける。
ふがいない野党に助けられる「ぬるま湯政局」が続いたせいか、小泉、そして米国といういわば内外の「身内」との間合いに誤算が生じた。
1月24日の施政方針演説。安倍は集団的自衛権の行使容認に言及した。そこにはオバマ政権の「失望」を挽回するためにも、同盟強化の証しを示したいとの思いが読み取れる。
しかし、連立相手の公明党は行使容認に本音では反対だ。来年春には統一地方選、16年夏には衆院選との“ダブル”も予想される参院選を迎える。いずれも公明党の選挙協力が欠かせない。行使容認と憲法解釈を変更しても、その手続きを定める法改正が必要だ。一部野党の賛成を見込んで強引に関連法案を提出すれば、公明との選挙協力に支障をきたす。次は、公明党という「究極の身内」の真意を見極めなければならない。
安倍は大きなジレンマを抱えながら、1年をスタートさせた。 
「失言連鎖」が呼び起こす悪夢 2014/3
 細川陣営の自滅で都知事選も圧勝。安倍政権のたがが緩み始めた。
「米国がディスアポインテッド(失望した)と言ったことに対して、むしろ我々の方が失望なんですね。米国が同盟関係の日本を、何でこんなに大事にしないのか。あの言葉(失望)は、中国に対する言い訳として言ったにすぎないという具合に理解している」
首相補佐官・衛藤晟一が、動画サイト「ユーチューブ」に投稿した国政報告で、首相・安倍晋三の靖国神社参拝に「失望」を表明した米国に猛反発したことが2月19日、明らかになった。
衛藤は昨年12月26日の参拝前、安倍の密使として訪米し、政府高官らに参拝の真意を説明して回っていた。しかし、米側の反応は予想を上回る厳しいものだった。動画での発言は、衛藤の苛立ちの表れだった。
衛藤は筋金入りの超保守派で、憲法改正や「東京裁判史観」見直しの必要性を唱える点で、安倍と通じ合う。そもそも、安倍が1993年に初当選した直後から付き合いを深め、まだ政治的な軸足が定まっていなかった安倍をタカ派色に染め上げた中心人物とされる。
2人の関係は、安倍が第1次政権当時の2007年、郵政造反組だった衛藤を特例で復党させたことでも明らかだ。当時、自民党党紀委員会は復党について異例の採決を行い、わずか3票差で容認した。郵政造反組のなし崩し的な復党に対して世論の批判が集中し、参院選惨敗の一因となったことは記憶に新しい。
衛藤は動画での発言が明らかになった19日、記者団に対して、「個人としての発言は自由だ。あなた方の指摘の方がおかしい」と開き直り、さらには、最初に報じた毎日新聞の記者に対して、「馬鹿じゃないか。あなたに話すことは何もない」とまで言い放った。
さすがに波紋の拡大を懸念した官房長官・菅義偉は直ちに衛藤を電話で叱責。衛藤は「誤解を与えるのなら」として発言を撤回し、動画も削除した。
安倍発言で公明も刺激
安倍周辺の失言騒動は続いた。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は2月19日、政権の経済ブレーンを務める内閣官房参与・本田悦朗が、安倍の靖国参拝について「誰かがやらなければならなかった。勇気を称賛する」と語ったとの記事を掲載した。本田は「発言の趣旨が違う」と同紙記者に抗議したものの、本田が特攻隊などを引き合いに「日本人にとっての靖国」について熱弁を振るったことが誤解され、安倍政権異質論に拍車を掛けた。
安倍がNHK経営委員に任命した作家・百田尚樹、埼玉大名誉教授・長谷川三千子の言動も物議を醸した。
百田は、東京都知事選で元航空幕僚長・田母神俊雄の応援演説をした際、南京大虐殺を全否定したほか、他の候補者について「人間のくずみたいなのが知事になったら日本は終わる」と酷評した。
長谷川は経営委員就任前の昨年10月、朝日新聞東京本社で93年に拳銃自殺した右翼活動家・野村秋介をたたえる文章を野村の追悼集に寄せたと報じられた。
NHKの政治的中立性に疑問符が付きかねないとの懸念が広がり、駐日米大使館はNHKが申し込んだキャロライン・ケネディ大使のインタビュー取材に難色を示した。
20日には、安倍の後ろ盾である東京五輪・パラリンピック組織委員会会長・森喜朗が、ソチ五輪・フィギュアスケート女子で6位に入賞した浅田真央を「大事なときには必ず転ぶ」と評し、自民党本部にも抗議電話が殺到するという、とばっちりまで受けた。首相在任中に見せた森の失言癖が復活した形だった。
「閣僚の失言で苦しめられた第1次政権と同じ展開ですね」
官邸スタッフの一人は20日、衛藤らの言動に激怒して、そう安倍にこぼした。1次政権は当時の厚労相・柳澤伯夫の「女性は子供を産む機械」発言、防衛相・久間章生の「原爆の投下はしょうがない」発言などに苦しめられた。
安倍は「それは分かっている」と応じたが、内閣支持率は依然として高水準を保っており、安倍の危機感がどの程度か定かではない。
安倍自身の発言もやり玉に挙がった。
12日の衆院予算委員会で安倍は、集団的自衛権行使をめぐる憲法解釈に関し「最高責任者は内閣法制局長官ではない。私だ。政府の答弁に対しても私が責任を持っている。その上で私たちは、選挙で国民から審判を受ける。審判を受けるのは法制局長官ではない。私だ」と明言。20日には、憲法解釈見直しは国会論議を経ずに閣議決定で決めると答弁した。
これに対し、21日の自民党総務会で「閣議決定で解釈を変えていいのか。内閣法制局が精緻な答弁を積み重ねていくべきではないのか」と、異論が噴出した。戦後日本の安全保障政策を大転換することになる憲法解釈見直しには、与党内でも慎重論が多い。公明党の支持母体・創価学会の固い組織票に支えられて国政選挙を戦ってきた自民党の議員は、安倍が集団的自衛権行使容認を決めた場合の公明党の対応に気をもむ。
公明党代表・山口那津男は1月24日、「政策的な意見の違いだけで連立離脱は到底考えられない」と明言したが、最大の「武器」である連立離脱カードをやすやすと手放すはずはなく、安倍に方針転換を促した発言との見方が有力だ。
細川陣営に飛び交った罵声
2月9日に投開票された東京都知事選は、自民、公明両党が支援した元厚生労働相・舛添要一の圧勝に終わった。
安倍の「政治の師」だった元首相・小泉純一郎は、原発ゼロを掲げて元首相・細川護熙を応援したが、共産、社民両党推薦の前日弁連会長・宇都宮健児にも及ばず、3位に沈んだ。当初、小泉の挑戦を警戒した安倍は脱原発ムーブメントの不発に安堵し、予定通り原発再稼働を進める考えだ。
細川と小泉は96年、「行政改革研究会」を設立、同年8月には天下り原則禁止や郵便事業への民間参入自由化を柱とする緊急提言をまとめた仲だ。細川が首相就任後、太平洋戦争は侵略戦争だったと明言した際、異論が根強い自民党にあって小泉は「その通りだ」と細川に同調するなど、意外に波長が合う間柄だった。
「元首相タッグ」は注目を集めたが、細川陣営の選挙戦術は混乱を極めた。
細川と昵懇の元駐仏大使を父親に持つ元衆院議員・木内孝胤や、元総務相・鳩山邦夫の秘書だった元衆院議員・馬渡龍治が当初、選挙戦を取り仕切っていた。
馬渡らが目指したのは、原発ゼロを訴えの中心に据えてテレビ出演や街頭演説で世論喚起を図る「空中戦」だった。
だが、公約の取りまとめに手間取ったほか、細川が首相を辞める契機となった佐川急便からの借金問題をめぐる釈明の詰めに時間を要し、立候補表明から告示までにテレビ出演する機会を見送ってしまった。告示後は主要候補の扱いが平等になるため、思うようにテレビでの露出を増やせない。出馬の決断が遅れたことの代償だった。
政党色を極力排除するため、支援に動いた民主党の議員でさえ細川選対への出入りを禁じられた。ところが、1月23日の告示直後に行われた報道各社の調査で舛添優位の情勢が判明すると、かつて細川が率いた旧日本新党系の関係者が選挙戦術に異を唱えた。
選対事務局長を務めていた馬渡は解任され、細川周辺から「選挙戦を盛り上げてほしい」と要請された民主党議員らが選対に顔を出し始めた。
民主党は電話作戦などの組織戦を主張。演説では、社会保障や防災、東京五輪など脱原発以外のテーマにも触れるよう求めた。細川は1月31日、国会前での脱原発デモに参加したが、民主党関係者が「デモでの訴えは公選法違反に該当するかもしれない」と反対し、マイク・パフォーマンスを封じられた。
このころの陣営の選対会議では、細川の目の前で選挙戦術をめぐりしばしば怒鳴り合いになることもあった。細川は「こんなにも事務所内がもめるとは思わなかった」と、ぼやいたという。
さらに、首都圏を襲った大雪は、過去3番目という投票率の低さに繋がり、無党派層獲得を狙った細川の惨敗を決定付けた。
元航空幕僚長・田母神は、「ネトウヨ」(ネット右翼)と呼ばれる愛国的なネットユーザーらの支持を集め、大方の予想を上回る約61万票を得た。保守化傾向を強める世論を背景に、国政進出もうかがう。
政権の「中間選挙」ともいえる都知事選を乗り切った安倍は、集団的自衛権の行使容認手続きを加速させる。
有識者懇談会の議論や公明党との与党内協議を急ぐ背景には、4月から消費税率を引き上げた後の景気失速に対する不安がある。自身の求心力が健在なうちに最大の政策目標を実現する狙いだ。さらに、来年9月には安倍が再選を目指す自民党総裁選が予定される。大きな課題を片付けるなら年内、という計算があるのは間違いない。
「清和会はいないんですね?」
相変わらず自民党内に有力な「反安倍」勢力は存在せず、再選を阻む要因は見当たらない。みんなの党や日本維新の会を政権側に引き寄せ、野党の分断にも成功した。
とはいえ、政策決定に関して政府から自民党に対する説明が足りないとの反発が表面化しており、不穏なムードが皆無とはいえない。安倍が一昨年末の第2次政権発足以来、内閣改造や本格的な党人事に手を付けていないことには入閣待望組の不満が募っている。
「うちのムラはまだ総裁選対応を決めていない」
元財務相・額賀福志郎がトップを務める額賀派に隠然たる影響力を保持する元参院議員会長・青木幹雄は周囲にそう語り、安倍をけん制する。
来るべき人事で額賀派をどう処遇するか、見極めようという腹だ。
青木は同派出身の党幹事長・石破茂について、「石破は総裁選の地方票で勝ったが、国会議員票で負けた。うちが安倍についたからだ」と指摘。次期総裁選から地方票の比重が高まることを念頭に、石破を担ぐ可能性に言及している。消費税増税や環太平洋連携協定(TPP)交渉に地方の反発が強まれば、総裁選で安倍の対抗馬に地方票が集まる展開もあり得る。
当の石破は集団的自衛権の行使容認で安倍に歩調を合わせ、支える姿勢は揺らいでいないものの、自身が勝てる可能性が出てきたときにどんな対応に出るのか予断を許さない。
石破は2月、党幹事長特別補佐に腹心の前国対委員長・鴨下一郎を充てると決めた。この人事は官邸への根回しなしで実施された。安倍周辺では石破の真意をいぶかる声が上がった。
額賀派からみれば、首相の靖国参拝にからんでも、不信感を増す出来事があった。
額賀派の元少子化担当相・小渕優子ら日中友好議員連盟訪中団が昨年12月に訪中する際、小渕は安倍に事前報告した。
「清和会(町村派)の議員はいないんですね?」
そう念押しした安倍は、直後の同月26日、靖国を参拝。小渕らと中国副首相ら要人との会談はキャンセルされた。
小渕がメンツをつぶされたことで額賀派は不快感を抱き、安倍の独走を苦々しく見つめている。
石破以外の動きはどうか。内閣を支える立場の副総理兼財務相・麻生太郎は、安倍が失速した場合の後継は自身だとみて、麻生派の勢力拡大や他派閥との友好関係構築を進める。73歳という年齢を考えれば、再登板のチャンスは多くない。
12年の総裁選で推薦人を確保できず再選出馬断念に追い込まれた法相・谷垣禎一が、集団的自衛権行使容認に反対する自民党リベラル派に担がれることも想定される。弁護士出身の谷垣は2月14日の記者会見で「憲法解釈は時代で変遷する可能性も否定できないが、同時に安定性もないといけない」と、憲法解釈変更に前のめりの安倍にくぎを刺した。
6月22日に会期末を迎える通常国会後、9月の党役員人事に合わせて安倍が内閣改造などに着手する場合、石破や麻生ら総裁候補を引き続き要職にとどめて囲い込むとの観測がもっぱらだ。
石破は有力閣僚への横滑りが取り沙汰される。官房長官・菅の幹事長起用説もあるが、官邸を取り仕切って霞が関ににらみを利かせてきた菅が代われば、政権のパワーダウンは避けられないだろう。
「今の政治状況、どちらかというと右に傾きすぎる競争をしているグループがある。その対極にある共産党も元気になってきた。国民が期待をしている中道リベラル、穏健保守の支持層を集める担い手がみえなくなっているのが、日本の最大の課題だ」
民主党の前首相・野田佳彦は2月23日、岡山市内での会合で、現在の政治状況を評した。
安倍が集団的自衛権や教育委員会制度見直しなど「戦後レジームからの脱却」に血道を上げる中、戦後日本の国造りを主導してきた保守本流路線が衰退しているのは事実だ。
日本政治でぽっかりと空いたポジションを誰が取りに行くのか。それが来年の自民党総裁選や民主党代表選の対立軸となり、安倍の再選や野党再編の行方を左右するかもしれない。 
集団的自衛権
読売新聞の世論調査 集団的自衛権、解釈改憲派が多数? 3/7  
 米国が引き起こすクリミア紛争に日本も参戦!  
憲法の解釈改憲や9条に関する読売新聞(2014年3月15日付報道)の世論調査によれば、次のような結果となっています。  
憲法を「改正する方がよい」42%(昨年3月 51%)  
「改正しない方がよい」 41%(昨年3月 31%)  
集団的自衛権 「憲法の解釈を変更して使えるようにする」 27%  
「憲法を改正して使えるようにする」22%  
行使容認派計49%  
「これまで通り使えなくてよい」43%  
戦争放棄などを定めた憲法9条 「解釈や運用で対応する」 43%  
「解釈や運用で対応するのは限界なので改正する」30%  
集団的自衛権を認めよというのが日本国民の多数ということなのでしょうか。  
かなり大雑把な報道なのか、そもそも大雑把な世論調査項目なのかはわかりませんが、ひとくくりに憲法を改正すべきかどうかなどは質問事項としての意味があるようにも思えません。  
さて、憲法9条について改正せよ(要は軍事力の保有を正面から認め、集団的自衛権の行使にも憲法の明文上の根拠を与えるということ)は、30%に過ぎないということでもあります。  
ここから見えることは、集団的自衛権について憲法改正によるのは反対であるが、解釈の変更によって可能とするのが多数であるかのような結果ということでしょうか。  
恐らく憲法まで変えて憲法9条を実質、廃止してしまうような改憲には不安を覚えるが、ただ解釈の変更ならば、まだ憲法9条はそのまま維持されているし、歯止めになるんじゃないかという漠然とした感覚ではないかと思われます。  
とにかく安倍政権は、集団的自衛権を解禁したい、それが国際化だ、米国との歩調を合わせることが国益だと宣伝し、他方で、中国軍機が尖閣の領空侵犯を繰り返しているような報道が繰り返し行われている中で国民の中にも漠然とした不安があるからと思われます。  
しかし、この世論調査には大きな矛盾があります。  
解釈の変更でできてしまうという前提の問題です。憲法学では、このような集団的自衛権を認めるような解釈改憲は不可能というのは常識です。従来の内閣法制局の常識でもありました。  
憲法は、このような国家の枠組みとして軍事行動に縛りを掛けているのですから、その縛りを取っ払う手段としては憲法の「改正」しかないわけです。あくまで憲法が国家の行動を縛るためのものである以上、解釈による変更で、国家の縛りを解くなどということが許されようはずもないのです。  
ところが読売新聞の世論調査では、その大事な点がすっぽりと抜け落ちてしまっています。  
この点の産経新聞(FNN)の世論調査は露骨でした。誘導・誤導満載の悪意に満ちた世論調査でした。  
「FNNの世論調査は誘導が露骨、これに乗せられることこそファシズムへの道」  
それと比べれば読売新聞の世論調査はまだかわいいとは言えますが、それでも大事な点を抜かしてしまったものである以上、問題のある質問方法と言わざるを得ません。  
なお、かかる世論調査は参考程度の意味しかありません。憲法改正にはもっと厳しい改正要件を定めているのですから、この程度の世論調査を元に解釈改憲を合理化することができないのは当然のことです。  
ところで、集団的自衛権を解禁した場合、どのような効果があるのでしょうか。  
今、話題に上っているクリミア半島を巡る問題で、仮に米ロの対立が軍事衝突に発展した場合には日本はどのような行動を取ることになるのか。  
集団的自衛権の行使ということから日本は米国側に立って対ロ戦争に参戦することになります。  
このような例で見てみれば集団的自衛権の行使の解禁がいかに愚かなものであるかがわかろうというものですが、前述したとおり、世論調査に答えた方々は、集団的自衛権の行使の理解が十分でなく、むしろ尖閣問題が念頭にあるのかもしれません。また前掲産経(FNN)の世論調査が悪質な誤導だったように日本の「防衛」にとって不可欠のものという大いなる誤解をしているのかもしれません。  
集団的自衛権の行使の解禁は、要は米ロの武力衝突が起きたときには日本は米国側に立ってロシアに対し参戦するということなのです。  
集団的自衛権の行使の解禁を支持する人たちには、このような理解があるのかが問われているわけです。  
えっ? 米ロが武力衝突するはずがないですって?  
そうですね、私もあり得ないと思います。その意味では米中の軍事衝突もあり得ないと思います。  
せいぜい米ロ間では相互の「経済制裁」であって、これだっていずれなし崩し的に「解除」されているでしょう。それは米ロ両国にとって経済的にはマイナスでしかないからです。  
米中間だって同じ。  
そもそも尖閣程度の島をめぐって米国が対中戦争を始めるわけがありません。  
全面戦争になるかもしれいない尖閣での武力衝突には米国にとって何の経済的価値もありませんから。  
そして、そもそも中国が尖閣に武力侵攻すること自体、あり得ない話です。今の時点で現状変更のリスクを抱えてまで経済にマイナスになることをするはずもなく(相互の「経済制裁」は結局のところ双方にとってマイナス)、要は中国による尖閣への武力進行は、仮想敵国を作って軍拡を進めたい政権側のプロパガンダなのです。  
日本の防衛のためでもない、米国と日本の財界の利益だけのための集団的自衛権の行使の解禁。日本国民にとって何も良いことはありません。政府のプロパガンダに騙されてはいけません。
集団的自衛権 「限定的に容認」44% 4/20 毎日新聞
毎日新聞が19、20両日に実施した全国世論調査で、憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認について尋ねたところ、「限定的に認めるべきだ」と答えた人は44%だった。政府・自民党が行使容認に向けて想定している限定容認論が広がっていることがうかがえる。ただ「認めるべきではない」は38%で慎重意見も強い。「全面的に認めるべきだ」は12%にとどまった。  
限定容認論は、他国への武力攻撃が日本の安全に密接に関係していることなどを条件として限定的に行使を認める考え方。安倍晋三首相が言及したほか、自民党の高村正彦副総裁が「1959年の最高裁判決(砂川判決)に基づく必要最小限度の行使容認」が憲法解釈の変更で可能との考えを表明している。  
集団的自衛権の行使を巡っては、海外派兵などで武力行使の歯止めが利かなくなるのではないかという懸念がある。「限定的」と強調して世論の理解を得ることを目指す政権の手法が一定程度、奏功しているとみられる。  
自民、公明両党は集団的自衛権を巡る与党協議を始めており、公明の対応が焦点だ。「認めるべきではない」は自民支持層では約2割だったのに対し、公明支持層では3割強だった。  
憲法改正手続きを定め、投票年齢を改正法施行の4年後に18歳以上に引き下げる国民投票法改正案に関しては、18歳への引き下げに「賛成」は49%で、「反対」は44%だった。民法の成人年齢や公職選挙法の投票年齢が20歳以上の現状で、世論は二分されている。 
集団的自衛権「反対」49%賛成38% 原発再稼働反対も55% 4/20 日経新聞
日本経済新聞社の世論調査では、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更に49%が反対し、賛成の38%を上回った。原子力発電を重要電源と位置 づけ、安全が確認された原発の再稼働を進めるとしたエネルギー基本計画への反対も5割を超えた。安倍政権が掲げる重要政策の浸透は道半ばといえ、懸念の払 拭に向けて丁寧な政権運営が求められそうだ。  
集団的自衛権は米国など同盟国が他国から攻撃を受けた際、日本が直接攻撃されていなくても反撃に加わる権利。現在の憲法解釈では行使を認めていないが、 安倍晋三首相は行使に向けて解釈を変更したい考え。野党にも賛成意見があるが、公明党は反対しており、世論は割れている。  
集団的自衛権の行使容認は、自民支持層に限れば賛成が56%で、反対の32%を上回った。一方、無党派層では反対が62%に上り、賛成は22%にとどまった。公明支持層も無党派層と同じような比率だ。性別でみると、男性は50%が賛成だが、女性は27%にとどまった。  
自民支持層と無党派層の間で、支持・不支持の傾向の違いはエネルギー政策でも目立つ。政府が11日の閣議で決めたエネルギー基本計画は、安全が確認され た原発を動かす方針を記し、原発の再稼働に一歩踏み出した。自民支持層は賛成が47%で反対の42%を上回った。無党派層では反対が65%を占めた。年齢 別では20〜30歳代のみ賛成が反対を上回り、40歳代以上と違いを見せた。  
政府が2015年10月に予定する消費税率の8%から10%への引き上げを巡っては反対の60%が賛成の32%をなお、大きく上回っている。無党派層に限ると、反対が67%を占めた。自民支持層では賛成が42%、反対が49%だった。  
首相は今年12月に消費税率の10%への引き上げを決断する方針だが、今後の景気回復なども絡み、難しい判断を迫られる。安全保障、エネルギーなど他の分野の重要政策に関しても、幅広い層に理解を得る必要がありそうだ。
集団的自衛権の行使容認「反対」が56% 4/22 朝日新聞
安倍政権が目指す「憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認」に対して、56%の人が「反対」していることが世論調査でわかった。22日、朝日新聞デジタルが世論調査の結果を報じた。 朝日新聞社が19、20日に実施した全国世論調査(電話)で、安倍晋三首相が目指す憲法の解釈変更による集団的自衛権の行使容認について尋ねたところ、「反対」は56%で、「賛成」の27%を上回った。今国会中に憲法解釈を「変える必要がある」は17%にとどまり、「その必要はない」の68%が圧倒した。  
集団的自衛権に関する質問と回答は、以下の通り。  
集団的自衛権についてうかがいます。集団的自衛権とは、アメリカのような同盟国が攻撃された時に、日本が攻撃されていなくても、日本への攻撃とみなして、一緒に戦う権利のことです。これまで政府は憲法上、集団的自衛権を使うことはできないと解釈してきました。憲法の解釈を変えて、集団的自衛権を使えるようにすることに、賛成ですか。反対ですか。  
 賛成 27 反対 56  
また、公明党に配慮するため、自民党の石破茂幹事長は2日、安倍首相に解釈変更の閣議決定を先送りして自衛隊法など個別法の改正で対応することを提案した。首相はこの案に難色を示したという。20日、朝日新聞デジタルが報じた。  
憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認について、自民党の石破茂幹事長が今月2日、公邸で安倍晋三首相と会談した際、解釈変更の閣議決定を先送りしたうえで、自衛隊法など個別法の改正で対応することを提案していたことがわかった。ただ、安倍首相はこの案に難色を示し、結論は出なかった。  
47NEWSによれば、全国50超の市町村議会が2013年9月以降、集団的自衛権の行使容認について反対の意見書を参院両院に提出していたという。地方の懸念も浮き彫りになっている。18日までに国会に意見書を提出した地方議会は、以下の通り。  
衆院に51、参院に52の市町村議会から届き、北海道、福岡県など17都道府県に及ぶ。別に3議会は慎重論議を要請した。行使容認を求める意見書は提出されていない。  
【反対】北海道芦別市、小樽市、士別市、奈井江町、仁木町、本別町、斜里町▽青森市▽岩手県二戸市▽福島県石川町▽茨城県取手市▽埼玉県鳩山町▽東京都小金井市▽神奈川県座間市、大和市、葉山町▽山梨県市川三郷町▽長野県佐久市、中野市、小布施町、富士見町、飯綱町、南木曽町、松川町、上松町、下諏訪町、飯島町、坂城町、木曽町、山ノ内町、長和町、高山村、泰阜村、木祖村、大桑村、山形村、野沢温泉村、筑北村、中川村、阿智村、豊丘村▽愛知県岩倉市、扶桑町▽滋賀県湖南市、守山市▽京都府向日市▽大阪府吹田市▽広島県庄原市▽高知県土佐市▽福岡県大牟田市、太宰府市、中間市  
【慎重論議】長野県松川村、生坂村▽愛知県大府市 
集団的自衛権 4/26.27 テレビ朝日
集団的自衛権  
日本は、憲法第9条で、他国から直接攻撃を受けた場合のみ、武力行使することができるとされています。あなたは、これを変えて、日本と密接な関係にある国が攻撃を受けて、協力を求められた場合も、集団的自衛権を使って、自衛隊を海外に派兵して武力行使できるようにする必要があると思いますか、思いませんか?  
 >>> 思う31% / 思わない50% / わからない、答えない19%  
安倍総理は、憲法を改正しないで、第9条の解釈を変えることで、海外での武力行使ができるようしようとしています。あなたは、憲法を改正せずに、解釈でできるようにすることを、支持しますか、支持しませんか?  
 >>> 支持する23% / 支持しない54% / わからない、答えない23 %  
TPP  
安倍内閣は、輸入を制限するために、関税を撤廃しないと公約してきた農産物5項目について、撤廃しないかわりに、関税を引き下げることで交渉を進めている模様です。あなたは、関税引き下げを支持しますか、支持しませんか?  
 >>> 支持する42% / 支持しない27% / わからない、答えない31%  
あなたは、農産物5項目に関わる関税の引き下げは、安倍内閣や自民党が約束してきた公約に反するものだと思いますか、思いませんか?  
 >>> 思う35% / 思わない30% / わからない、答えない35% 
集団的自衛権決裂なら「公明党と連立解消を」6割 4/29 産経新聞
産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が26、27両日に実施した合同世論調査で、安倍晋三首相が目指す集団的自衛権の行使容認について「必要最小限度で使えるようにすべきだ」との回答が64・1%に上った。「全面的に使えるようにすべきだ」(7・3%)をあわせて、7割以上が行使容認に賛意を示している。  
憲法解釈の変更による行使容認を目指す自民党と、慎重な公明党の調整が「決裂」した場合の「連立解消」を支持する人は59・9%に達した。行使容認に前向きな日本維新の会、みんなの党の支持層の8割以上が支持しており、行使容認の議論が進めば、政権の枠組み変更を求める声が強まりかねない。  
集団的自衛権の行使に賛成した人のうち「憲法改正が望ましいが、当面、解釈変更で対応すればよい」が45・1%を占め、自民党の方針が一定の支持を受けているようだ。「憲法解釈の変更は認められず、必ず憲法の改正が必要だ」との回答は28・9%だった。  
憲法解釈で現在認められていない米国に向かう弾道ミサイルの迎撃は「賛成」が57・7%で多いが、「米艦防護」については反対が44・4%で多かった。 
集団的自衛権「否定」45% 行使容認上回る 4/30 北海道新聞
5月3日の憲法記念日を前に、北海道新聞社は憲法に関する道民世論調査を行った。安倍晋三首相が憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使容認を目指していることについては「集団的自衛権の行使を認めない」が45%で、「行使できるようにする」の40%を上回った。憲法改正への賛否では改憲派が60%に対し、護憲派が39%だった。2004年以降の同様の世論調査はいずれも改憲派が7割台だったが、大きく減少した。憲法改正については「全面的に改めるべきだ」が8%、「一部を改めるべきだ」が52%。改憲派は昨年12月の前回調査より10ポイント減った。一方、「改正する必要はない」とする護憲派は前回より11ポイント増え、04年以降では最多。憲法9条の「陸海空軍その他の戦力は保持しない」という条文については「変更しなくてもよい」が51%で最多。「変更して、自衛隊を持つことを明記すべきだ」が35%、「変更して、軍隊を持つことを明記すべきだ」が10%だった。 
9条改憲、反対62%に増 解釈改憲も半数反対 4/30 東京新聞
来月三日の憲法記念日を前に本紙は二十五〜二十七日、全国の有権者約千五百人を対象に世論調査を実施した。戦争放棄や戦力を保持しないと定めた憲法九条について「変えない方がよい」が62%で、「変える方がよい」の24%を大きく上回った。集団的自衛権の行使容認に向け安倍晋三首相が意欲を示す九条の解釈改憲でも「反対」が半数の50%を占め、慎重な対応を求める民意が浮き彫りになった。「賛成」は34%にとどまった。  
本紙が参院選前の昨年六月に実施した前回調査では憲法九条を「変えない方がよい」は58%、「変える方がよい」は33%。今回は「変えない」が4ポイント増、「変える」が9ポイント減となった。  
解釈改憲をめぐっては五月の連休明けにも政府は自民、公明の両与党との本格的な協議を始める。ただ、最優先で取り組むべき政治課題について尋ねたところ「経済対策」の34%をトップに「社会保障改革」(21%)、「震災復興」(17%)などと続いた。「憲法9条の解釈見直し」は4%にとどまり、民意とのずれを示す結果になった。  
安倍首相は当初、憲法九六条を先行的に見直し、国会手続きを緩和するなどして九条の改憲につなげようとしたが、現在は国会手続きも経ない閣議決定による解釈改憲へと方針を転換。こうした首相の政治姿勢に対し「政治のルールを軽視した強引な対応」(35%)、「一貫性がなく信頼できない」(17%)との批判的な回答が半数を超えた。
集団的自衛権、行使容認71% 5/12 読売新聞
政府が目指す集団的自衛権の行使に関して、「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」とした「限定容認論」を支持する人は63%に上ることが、読売新聞社の全国世論調査で分かった。  
「全面的に使えるようにすべきだ」と答えた8%と合わせて計71%が行使を容認する考えを示した。行使容認論の国民への広がりが鮮明となり、近く本格化する集団的自衛権を巡る与党協議にも影響を与えそうだ。  
9〜11日に実施した世論調査では、限定容認論を選んだ人が前回調査(4月11〜13日)より4ポイント上昇した。一方、「使えるようにする必要はない」と答えた人は25%で、前回より2ポイント下がった。  
支持政党別にみると、限定容認論への支持は、自民支持層で7割を超えた。公明党は集団的自衛権の行使容認に慎重だが、限定容認論を選んだ同党支持層は7割近くに上り、党と支持者の間で考え方に隔たりがあった。民主支持層と無党派層でも、限定容認論はいずれも6割近くに上った。
集団的自衛権、71%が容認 5/12
読売新聞社が2014年5月9日から11日にかけて行った世論調査によると、71%が集団的自衛権の行使を容認する考えを示した。大半が「限定容認論」を支持しているが、8%は全面的に容認する考えだ。  
設問の内容は  
「日本と密接な関係にある国が攻撃を受けたとき、日本への攻撃とみなして反撃する権利を『集団的自衛権』と言います。政府はこれまで、憲法上、この権利を使うことはできないとしていました。この集団的自衛権について、あなたの考えに最も近いものを、1つ選んで下さい」 というもの。「使えるようにする必要はない」という選択肢を選んだ人が25%にとどまったのに対して、「全面的に使えるようにすべきだ」が8%、「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」は63%にのぼった。  
一方、朝日新聞社が4月19〜20日に行った世論調査では、容認に否定的な結果が出ている。  
「集団的自衛権についてうかがいます。集団的自衛権とは、アメリカのような同盟国が攻撃された時に、日本が攻撃されていなくても、日本への攻撃とみなして、一緒に戦う権利のことです。これまで政府は憲法上、集団的自衛権を使うことはできないと解釈してきました。憲法の解釈を変えて、集団的自衛権を使えるようにすることに、賛成ですか。反対ですか」  
という問いに対して、賛成は27%にとどまり、反対は56%にのぼった。
集団的自衛権:政府方針「方向性」に 公明・世論に配慮 5/13 毎日新聞
安倍晋三首相は集団的自衛権の行使容認に向け、政府の考え方を示す「基本的方向性」を15日に記者会見して発表する。「方向性」というあいまいな表現は公明党や世論の慎重論に配慮し、結論ではなく途中段階であることを強調するための苦肉の策だ。ただ、首相は根幹は譲らず、手順を踏んで行使容認に突き進んでいるのが実態だ。自民、公明両党は相互に不信感を抱えたまま20日に協議をスタートする。  
菅義偉官房長官は13日の記者会見で「首相から政府としての検討の進め方についての基本的方向性を示す予定だ。その上で与党とも相談の上で対応を検討する」と語った。  
政府は当初、首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の報告書を受け取った後に「政府方針を出す」(4月9日の菅氏の記者会見)と説明していた。しかし、与党協議を始める前に政府方針を示してしまえば、「結論ありき」との批判が想定され、「基本的方向性」との位置づけに落ち着いた。  
15日に首相が記者会見する際にも、起こり得る事態に現在の法律では対処できない不備があることを指摘するにとどめ、集団的自衛権の行使容認に踏み切るかの最終判断は、与党協議の結論を待つとの姿勢を示すことになりそうだ。報告書の提出と首相の表明を同日にしたのも、検討範囲を絞り込む姿勢を明確にすることで、慎重論に配慮した手順だ。  
背景には、政府方針をめぐる水面下の接触ですでに公明党から反発が出ていることがある。政府高官や自民党の高村正彦副総裁らは、公明党実務者トップの北側一雄副代表と会談を重ね、首相の表明を「自公が深刻な対立に至らない範囲にとどめる」(自民党関係者)ように調整してきた。首相は13日の自民党町村派のパーティーで「連立関係は揺るぎない」と強調した。  
ただ、首相は「長年、目指してきた集団的自衛権の行使容認をぶれずに断行するつもりだ」(政府高官)とされる。表現などで配慮はしても、今秋の臨時国会前に行使容認のための政府方針を閣議決定し、臨時国会に自衛隊法改正案などを提出する構えは崩していない。  
公明党の山口那津男代表は13日の記者会見で、安倍政権の発足時の与党政策合意では景気回復などを優先課題としていたことに触れ、「政権合意に書いていないテーマに政治的エネルギーが行くことを国民は期待していない」と首相をけん制した。与党協議の行方はなお不透明だ。 
世論調査で集団的自衛権の行使容認は過半数超え 5/13
大手紙で唯一、世論調査を先延ばしで様子見だった読売新聞であったが遂に1面トップで報じた。結果は、「集団的自衛権で71%が容認、「限定」容認なら63%」と産経新聞と遜色なかった。これによって、大手紙の集団的自衛権に関する世論調査は下記のようにまとめることができよう。  
読売新聞(5月9-11日)  全面賛成8% 限定賛成 63% 反対 25%  
朝日新聞(4月19-20日) 賛成 27% 反対 56%  
毎日新聞(4月19-20日) 全面賛成 12% 限定賛成 44% 反対 38%  
産経新聞(4月26-27日) 全面賛成7% 限定賛成 64% 反対 26%  
この結果で明確な事実は、4紙中3紙が集団的自衛権の行使で全面賛成と限定賛成を合わせれば過半数を占めて、朝日新聞だけ全面賛成も限定賛成の選択肢が無く賛否の二者択一なことである。つまり、朝日新聞だけ設問が一様で無く、結果に類似性が無く、統計の参考にならないのである。  
集団的自衛権行使に反対する左翼勢力は、設問が間違っている、選択肢が間違っている、憲法改正か閣議決定かを問わないことが間違っていると行使容認が過半数となった事実に目を向けない。  
憲法改正だろうが閣議決定だろうが方法論に関わらず、集団的自衛権の行使を限定容認すべきが過半数の支持を得ていることは、朝日新聞以外の大手3紙が共通する世論調査の結果なのである。  
このことは、読売新聞の設問と朝日新聞の設問を比較した下記の記事を見れば非常に理解できる。  
[J-CAST 5月12日]集団的自衛権、71%が容認 読売調査  
読売新聞社が2014年5月9日から11日にかけて行った世論調査によると、71%が集団的自衛権の行使を容認する考えを示した。大半が「限定容認論」を支持しているが、8%は全面的に容認する考えだ。  
設問の内容は「日本と密接な関係にある国が攻撃を受けたとき、日本への攻撃とみなして反撃する権利を『集団的自衛権』と言います。政府はこれまで、憲法上、この権利を使うことはできないとしていました。この集団的自衛権について、あなたの考えに最も近いものを、1つ選んで下さい」というもの。「使えるようにする必要はない」という選択肢を選んだ人が25%にとどまったのに対して、「全面的に使えるようにすべきだ」が8%、「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」は63%にのぼった。  
一方、朝日新聞社が4月19〜20日に行った世論調査では、容認に否定的な結果が出ている。「集団的自衛権についてうかがいます。集団的自衛権とは、アメリカのような同盟国が攻撃された時に、日本が攻撃されていなくても、日本への攻撃とみなして、一緒に戦う権利のことです。これまで政府は憲法上、集団的自衛権を使うことはできないと解釈してきました。憲法の解釈を変えて、集団的自衛権を使えるようにすることに、賛成ですか。反対ですか」という問いに対して、賛成は27%にとどまり、反対は56%にのぼった。  
これを見れば、集団的自衛権の行使の説明については読売新聞も朝日新聞も遜色ない内容である。  
読売新聞 / 日本と密接な関係にある国が攻撃を受けたとき、日本への攻撃とみなして反撃する権利を『集団的自衛権』と言います。  
朝日新聞 / 集団的自衛権とは、アメリカのような同盟国が攻撃された時に、日本が攻撃されていなくても、日本への攻撃とみなして、一緒に戦う権利のことです。  
さらに、これまで政府は憲法上、集団的自衛権を使うことはできない説明も遜色ない内容である。  
読売新聞 / 政府はこれまで、憲法上、この権利を使うことはできないとしていました  
朝日新聞 / これまで政府は憲法上、集団的自衛権を使うことはできないと解釈してきました。  
唯一違うのは、集団的自衛権について回答する選択肢を与えたのか与えなかったのかだけである。  
読売新聞 / この集団的自衛権について、あなたの考えに最も近いものを、1つ選んで下さい。全面的に使えるようにすべきだ。必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ。使えるようにする必要はない。  
朝日新聞 / 憲法の解釈を変えて、集団的自衛権を使えるようにすることに、賛成ですか。反対ですか  
なぜ、朝日新聞は集団的自衛権の行使で全面容認、限定容認、行使反対にしなかったのだろうか。なぜ、朝日新聞は賛成、反対以外に「どちらともいえない」の選択肢が無かったのだろうか。朝日新聞が、集団的自衛権の行使で全面容認、限定容認、行使反対の選択肢にしなかった理由は他3紙の如く全面容認と限定容認を合わせて過半数超えの結果となることを恐れたためである。  
このことは、読売新聞、毎日新聞、産経新聞の世論調査で過半数の結果を見れば明らかであろう。朝日新聞が、朝日新聞は集団的自衛権の行使で賛成、反対以外に「どちらともいえない」の選択肢を加えず二者択一だった理由は反対が過半数超えの結果にならないことを恐れたためである。  
このことは、NHKによる世論調査で集団的自衛権の行使についての結果を見れば明らかとなる。  
NHK安倍内閣「支持56%」「支持しない29%」  
NHKの設問は、朝日新聞と同様「憲法解釈を変更することで、集団的自衛権を行使できるようにすること」に「賛成」「反対」「どちらともいえない」の3つの選択肢を用意したのである。  
その結果は、「賛成」27%、「反対」30%、「どちらともいえない」36%だったのである。  
朝日新聞の、「賛成」27%、「反対」56%と見比べれば朝日新聞の何が問題か明らかである。  
つまり、朝日新聞の世論調査では集団的自衛権の行使容認に「賛成」を過半数超えを阻止するため、大手他紙と違えて解答欄から「全面容認」と「限定容認」の選択肢を削除したのである。朝日新聞の世論調査では集団的自衛権の行使容認に反対の回答を過半数超えを確実にするため、NHKと違えて解答欄から「どちらともいえない」の選択肢を削除したのである。その結果、朝日新聞だけ世論調査で集団的自衛権の行使容認に反対が過半数を突破したのである。
集団的自衛権の世論調査、各社で違い 選択肢数など影響 5/14 朝日新聞
安倍首相が目指す憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認は政治の最大の焦点になっている。それだけに、報道各社は電話による世論調査でこの問題について質問し、民意を探ろうとしているが、調査結果には大きな違いがあるようにみえる。世論調査の回答は、質問の順番や文章などに影響されることがあり、今回は選択肢の立て方や文言が異なっていることが大きそうだ。4月中旬の共同通信、日本経済新聞・テレビ東京、朝日新聞の調査は、集団的自衛権について説明した上で、憲法の解釈を変えて集団的自衛権を行使できるようにすることに「賛成」か「反対」か、二択で尋ねている。結果は多少異なるものの、いずれも「反対」が「賛成」を上回るという傾向は一致している。一方、毎日新聞、産経新聞・FNN、読売新聞の調査では選択肢は三つ。集団的自衛権の行使を必要最小限に限るとする、いわゆる「限定容認論」を選択肢に加えたのが特徴で、「全面的に使えるようにすべきだ」「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」「使えるようにする必要はない」といった三択になっている。結果をみると、「全面」賛成派は1割前後にとどまるが、「限定」賛成派は最多の4〜6割。反対派は2〜4割だった。「全面」と「限定」を合わせると、賛成派は反対派を上回る。二択では反対派が多数なのに、三択になると賛成派が多数になるのはなぜか。 
集団的自衛権、反対50%=賛成37% 5/16 時事通信
時事通信が9〜12日に実施した5月の世論調査で、安倍晋三首相が意欲を示す集団的自衛権の行使容認について、反対が50.1%に上り、賛成37.0%を上回った。賛成と答えた人のうち、「憲法解釈変更で認めてよい」は50.8%、「解釈変更ではなく、憲法改正すべきだ」は45.3%だった。首相が目指す憲法解釈変更による行使容認を支持する人は、全体では2割に届いていない計算になる。行使容認の賛否を支持政党別にみると、自民支持者は賛成58.8%、反対32.8%。公明支持者は賛成32.6%、反対54.3%。全体の約6割を占める無党派層では、賛成29.7%、反対55.4%だった。男女別では、男性は賛否が拮抗(きっこう)し、女性は反対54.3%、賛成26.3%だった。  
集団的自衛権は、自国と密接な関係にある他国が武力攻撃を受けた場合、自国が攻撃されていなくても、実力で阻止する権利。政府は憲法解釈で行使を禁じており、首相は15日、行使を可能にする解釈変更の検討を加速する方針を表明した。 
海外メディア、反応はまちまち 集団的自衛権の行使容認 5/16
日本の集団的自衛権の行使を容認する動きについて、海外メディアの反応はまちまちだった。中国と韓国では、日本が北東アジアの軍事的緊張を高めるとの指摘など日本に批判的な論調が目立った。欧米メディアからは行使の条件など細部でより議論が必要との指摘もあった。  
中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は16日の紙面で「安倍政権は日本を『戦争の道』へと向かわせている」との見出しを付け、安倍政権の動向を警戒すべきだと呼びかけた。記事では日本の学者を引用する形で「安倍晋三首相の真意は、日本帝国を再興させるところにある」との見方を伝えた。  
日本の国内世論では集団的自衛権の容認に反対する声が多いと指摘した上で、安倍政権が強引に意思決定を進めているとも分析した。  
韓国メディアは批判的な論調で大きく報じている。最大手紙の朝鮮日報は16日付朝刊で1面と2面を使い「(首相の)目標は平和憲法の無力化」などと報道。北東アジアの軍拡競争を触発しうると懸念を示した。  
通信社の聯合ニュースは15日に「いわゆる大東亜共栄圏を掲げて軍国主義の歩みに拍車をかけた当時と同じ国になるということだ」との論評を配信した。  
英フィナンシャル・タイムズは15日付の電子版で「安倍氏が軍事面での自由度を広げ、北京に対抗する地域の同盟を強化しようとしている印象が強まった」と指摘。「集団的自衛権を行使するうえで、自衛隊にどのような制約を加えるかは言及しなかった」とし、一層の議論を促した。  
ロイター通信は「戦後の日本の安全保障政策において歴史的な変化になる」と紹介した。仏AFP通信は日本の世論調査で解釈変更への反対が増えていることを紹介し「連立相手である公明党との分裂につながりかねない」との見方を示した。 
憲法解釈はどうやって変えられてきたか  
自民党の中で集団的自衛権の議論が始まった。その中には憲法解釈の変更という論点も含まれる。これまで憲法解釈はどうやって変えられてきたのだろうか。これまでに憲法解釈が変更されたと内閣法制局が認めているケースがひとつある。憲法第66条第2項に規定する「文民」と自衛隊との関係に関する見解だ。  
質問主意書に対する答弁書で内閣はこう述べている。  
 
『憲法の解釈・運用の変更』に当たり得るものを挙げれば、憲法第66条第2項に規定する『文民』と自衛官との関係に関する見解がある。  
すなわち、同項は、『内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない』と定めているが、ここにいう『文民』については、その言葉の意味からすれば『武人』に対する語であって、『国の武力組織に職業上の地位を有しない者』を指すものと解されるところ、自衛隊が警察予備隊の後身である保安隊を改めて設けられたものであり、それまで、警察予備隊及び保安隊は警察機能を担う組織であって国の武力組織には当たらず、その隊員は文民に当たると解してきたこと、現行憲法の下において認められる自衛隊は旧陸海軍の組織とは性格を異にすることなどから、当初は、自衛官は文民に当たると解してきた。  
その後、自衛隊制度がある程度定着した状況の下で、憲法で認められる範囲内にあるものとはいえ、自衛隊も国の武力組織である以上、自衛官がその地位を有したままで国務大臣になるというのは、国政がいわゆる武断政治に陥ることを防ぐという憲法の精神からみて、好ましくないのではないかとの考え方に立って、昭和40年に、自衛官は文民に当たらないという見解を示したものである。  
(内閣衆質159第114号 平成16年6月18日)  
  
その昭和40年5月31日の衆議院予算委員会をみてみよう。  
石橋政嗣委員 それから、この防衛庁長官の問題で一つただしておきたいと思うことがあるわけです。それは、防衛庁長官が文民であるということが一つシビリアンコントロールの柱として常にあげられるわけなんです。ところが、現在の日本国憲法は軍備放棄をいたしておりますから、軍事条項というのは全然ありません。だから、シビリアンコントロールについても憲法にその根拠を求めることは不可能なんであります。しいてあげる方がこの憲法六十六条の文民条項というのをあげるのですが、ここで問題になるのは、制服の諸君がこの文民条項に該当するかどうかということですよ。排除されるのかどうかということです。この点については政府の中でも妙な議論があるようでございますので、念を押しておきたいと思うのですけれども、将来内閣総理大臣の考え方によってはユニホームの諸君でも防衛庁長官になり得るのかということです。この点いかがお考えになりますか。  
佐藤栄作内閣総理大臣 これはたいへん大事な問題ですし、ことに法制局でいろいろ検討しておりますから、間違わないように長官から説明させます。  
高辻正巳政府委員(内閣法制局長官) 文民の解釈は、率直に申し上げまして、憲法制定当時から、政府のみならず学者の面におきましてもかなり問題になったところでございます。石橋先生御承知のとおりに、これは第九十回帝国議会で審議している際に、当時の貴族院でやっております場合に、アメリカのほうから、もっと詳しく言えば極東委員会でございますが、そこから要求がありまして、実は貴族院の段階で入った。当時、シビリアンでなければならないという、このシビリアンを何と訳すべきか、実はそのときから問題があったわけでございます。詳しいことは別としまして、さてそれでは解釈をどうするかということにつきましては、多くの学者は、旧職業軍人の経歴を有しない者というのがほとんど圧倒的な考え方でございます。政府のほうはどう言っておったかと申しますと、これも御承知のとおりに、旧職業軍人の経歴を有する者であって軍国主義的思想に深く染まっている者でない者、そういうようなふうに言っておりました。  
これにつきましては、憲法制定当時に実は国の中に武力組織というものがなかったわけで、これを意義あるものとしてつかまえようとしますれば、どうしてもそういう解釈にならざるを得なかった。そういう解釈から言いまして、いままで−−−いままでと申しますか、憲法制定当時からのそういう解釈の流れから申しまして、自衛官は文民なりという解釈にならざるを得なかったのであります。これは、憲法制定当時の日本における状況から申しまして、そう解することについていわれがあったと私は思いますけれども、さてしからば、いまひるがえって考えてみます場合に、「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。」という趣旨は、やはり国政が武断政治におちいることのないようにという趣旨がその規定の根源に流れていることはもう申すまでもないと思います。したがって、その後自衛隊というものができまして、これまた憲法上の制約はございますが、やはりそれもまた武力組織であるという以上は、やはり憲法の趣旨をより以上徹して、文民というものは武力組織の中に職業上の地位を占めておらない者というふうに解するほうが、これは憲法の趣旨に一そう適合するんじゃないかという考えが当然出てまいります。  
結論的に申しまして、いままでくどくどと申し上げましたが、文民の解釈についてのいままでの考え方というものは、これは憲法が制定されました当時からの諸種の状況で了解されると思いますが、これにはいわれがなかったわけではないと思いますけれども、平和に徹すると総理がよくおっしゃいますそういう精神は日本国憲法の精神そのものでございますが、そのことから考えました場合に、自衛官はやはり制服のままで国務大臣になるというのは、これは憲法の精神から言うと好ましくないんではないか。さらに徹して言えば、自衛官は文民にあらずと解すべきだというふうに考えるわけでございます。この点は、実は法制局の見解として、佐藤内閣になってからでございますが、その検討をいたしまして、防衛庁その他とも十分の打ち合わせを遂げまして、そういう解釈に徹すべきであろうというのがただいまの私どもの結論でございます。  
石橋委員 この条項一つとってみても、現行憲法というものが一切の軍備というものを否定しておるということが明らかなんですよ。だから、法制局長官がおっしゃるような解釈しか出てこないわけなんです。ただ、いまの解釈によりますと、従来の法制局の見解よりも一歩前進しておりますね。この点変わっております。というのは、この文民条項によって排除されるものは軍国的色彩の強い旧職業軍人に限る、いままでの法制局の見解はここでとどまっておった。ところが、いまの高辻さんの答弁によりますと、やはり憲法の精神から言って、自衛官がそのままで防衛庁長官になる、国務大臣になるということは、これは排除されるべきだ、こういう一歩進んだ見解を述べておられますので、これはやはり総理大臣の追認が必要だと思います。どうぞお願いします。  
佐藤内閣総理大臣 私も、法制局長官のただいま答弁したとおりだと、かように考えております。憲法解釈の変更は、この一点だけだというのは「内閣法制局」の解釈であるが、この時は内閣法制局長官が答弁し、総理がそれを追認するという形で行われた。ただし、憲法解釈はこれしかないというのは、内閣法制局の主張であるということには気を付けなければならない。 
「株価依存内閣」の危うい舵取り 2014/4
 成長戦略を描けず伸び悩む経済。外交では首相周辺の不甲斐なさが目立つ。
ロシアのクリミア併合と中国の進出。2つの帝国主義勢力の勃興は、「冷戦後」を終わらせ、世界を20世紀前半の弱肉強食時代に戻しつつある。日本は、どう対処すべきなのか。艦長としてその舵をとるべき首相・安倍晋三は内政、外交ともに誤算が続き、身動きがとれない。東日本大震災から3年を迎えた日からの2週間ほどを振り返るだけでも、明瞭になる。
「アベノミクスのバロメーターは、なにより株価だ」
3月11日、首相官邸。安倍は居並ぶ経済関係閣僚を前に漏らした。
安倍の側近、経済再生担当相・甘利明が8%への消費増税、6月の成長戦略とりまとめを控えて呼びかけ、経済財政諮問会議の閣僚メンバーを集めた会合だった。副総理・財務相の麻生太郎、官房長官・菅義偉も顔をそろえた。
「事務方がいては率直な議論ができない」と甘利が関係省庁の官僚を出席させなかった席での安倍の発言。内閣支持率が高止まりし、国会もすいすいと乗り切る源が株高である。この政権は「株価依存内閣」であると、ほかの誰よりも安倍自身が承知していると告白した発言でもある。
民主党政権の8000円台から一気に跳ね上がった株価は、昨年末に1万6000円台をつけて以降は伸び悩む。金融緩和、財政出動に続く第三の矢となるはずの成長戦略、中でも核となる規制緩和に「見るべきものはない」と市場関係者も官僚たちも、見切ってしまっているからだ。
危機感を強めるのは官房長官の菅だ。菅は安倍に「とにかく経済優先で」と説き、靖国参拝にも最後まで反対の立場をとった。それだけに、株価の下落傾向が定着してしまえば自らの立場は揺らぎ、政権の勢いも失われる。
首相官邸で横目にする日経平均株価のボードは、師と仰ぐ元官房長官・梶山静六が旧官邸時代に初めて持ち込んだ。株価と支持率、政権の勢いが密接に絡み合い始めたのは梶山が官邸にいた1990年代後半を嚆矢とする。梶山は山一證券の自主廃業に端を発した金融危機への対応策として、10兆円の国債を発行して破綻処理と財政出動に充てる案を官房長官退任後に打ち出し、官僚群を驚かせた。「あんなアイデアはないものか」と菅は日々、株価の即効薬を探すが、妙案はみあたらない。
3月19日、諮問会議で菅は「法人税の実効税率引き下げに来年から取り組んでほしい。首相は引き下げを明言している」と下げ幅、実施時期まで明確にするよう促した。
1週間前の3月12日には都内のホテルに中堅・若手議員を集めて法人税の勉強会を開いた。「党の税制調査会が税の権限を握っているのはおかしい」を持論とする菅が、安倍と経済閣僚による「御前会議」の結果を踏まえ、自民党内から援護射撃させる戦略である。
それでも市場は冷たい。
外国人投資家、株式ディーラーたちは「昨年と同じように、今年もできない」「安全保障政策に気をとられている安倍政権が、財務省の反対する法人税引き下げを実現できるのか」と会話を交わした。
法人減税以外に、アベノミクス効果を維持する手段はみあたらないというのが「経済優先」を唱える菅、そして経産省出身の首相政務秘書官・今井尚哉の共通認識。第一次安倍内閣で経産相を経験した甘利も「骨太の方針に、法人税引き下げの方向性はできるだけ具体的に書きたい」と後押しした。昔ながらの商工族が一致団結し、法人減税に反対する財務省を屈服させようというのだ。
菅はもう1つの課題でも財務省と対決姿勢をとる。2015年10月に予定する10%への消費税再引き上げだ。
「10%の前提で持ってくるな」
戦後3番目のスピードで本予算が成立し、早くも2015年度予算の政策を「ご説明」に来る官僚たちを、菅はこう言って押し返す。
予算カレンダーでいえば6月には成長戦略と骨太方針が確定し、これをもとに概算要求基準を定め、各省の要望が決まる。10%への引き上げ判断の「今年末まで」という期限は、実は「来年度予算編成にぎりぎりで間に合う」意味しかない。中央官僚界での既成事実は、どんどん積み上がっていく。
菅が消費税10%に慎重なのは、安倍とも気脈を通じる。8%への引き上げでさえ、最後の最後まで悩んだ安倍は今、「再増税は白紙だ」と周囲に漏らす。
消費増税の影響、株価の動向を見極め、場合によっては消費税を8%のまま据え置く――安倍の本音はこれだ。
7―9月期の景気指標がそろうのは11月。そこまで株価を持たせるのが、政権の至上命題なのだ。
「もったいない……」
しかも、株価には思わぬ「敵」があらわれた。外交だ。
ウクライナ問題が緊迫し、クリミア自治共和国が住民投票でロシアへの編入を支持。ロシア大統領・プーチンは3月18日、直ちにクリミアを併合した。
「これではロシアと北方領土問題交渉はできない」
国会答弁の勉強会などで、安倍を中心とする政権中枢はこう判断せざるを得なかった。翌3月19日、参院予算委員会で安倍は「ウクライナの統一性と主権、領土の一体性を侵害するもので、非難する」と踏み込んだ。これまで我慢して控えてきた「非難」を初めて使っただけではない。重要なのは、次の表現だった。
「我が国は力を背景とする現状変更の試みを決して看過できない」
沖縄の尖閣諸島をめぐる対立で、中国に対して使う表現だ。ロシアのクリミア併合を非難しなければ、中国が尖閣で力を行使した場合も非難できなくなる。中国は米国のロシアへの対応を見極めている。米国は共和党ブッシュ政権でも、ロシアとグルジアの紛争に手をこまぬいた。民主党でも共和党でも、武力行使はもはや、できない。国際法、条約交渉の専門家の意見に、安倍は断腸の思いで乗らざるを得なかった。
再登板してから5回も会談を重ねたプーチンは、安倍にとって最もケミストリーの合う首脳だった。ソチ・サミットでの首脳会談、秋のプーチン訪日に期待をかけ、米欧とは一線を画してまで慎重姿勢に徹したことがすべて、無駄になった。
安倍はその一方で、「しかし、もったいない……。残念だ」との未練もみせた。
ロシアを排除したG7体制に回帰しても、最も緊密な同盟相手であるはずの米大統領、バラク・オバマへの不満が、内にはたまっているからだ。
3月14日。国会答弁で、普段は自分の言葉で質問に答える安倍が珍しく、手元の資料を読み上げた。従軍慰安婦問題で旧日本軍の関与を認めた1993年の河野洋平官房長官談話、いわゆる「河野談話」について「安倍内閣で見直すことは考えていない」と答弁したのだ。
険悪な日本と韓国の関係を懸念するオバマ米政権が、慰安婦問題にこだわる韓国大統領、朴槿恵の意向を汲み、安倍に明言を求めていたのだ。もとより安倍の本心は、河野談話に懐疑的だ。その想いが安倍に資料を棒読みさせたのだろう。
そこまでの「河野談話」への思いは封印し、オバマの要請に応えて「見直さない」と答えざるを得なかったのは、オバマが仲介した日米韓首脳会談がオランダのハーグで実現できるかどうか、の瀬戸際にあったからにほかならない。
いま、米国の要請を無下にするのは、日本が世界で孤立することを意味する。
3月19日、予算成立を翌日に控えた夜。安倍は官房副長官・世耕弘成ら政治家との会合を30分そこそこで切り上げ、南麻布の日本料理店「有栖川清水」に向かった。待っていたのはJR東海会長・葛西敬之や富士フイルムホールディングス会長・古森重隆ら経済人。アベノミクスの効果と賃上げをほめそやす経済界は、もともと強固な対米関係を望んでいる。
「今回のウクライナ、クリミア問題は対米関係改善のチャンスだ」
「欧州が慎重なロシア制裁を強化してオバマ大統領に恩を売ればよい」
経済界の声は、安倍の真意とはズレていた。
菅が声荒げた萩生田発言
無念続きの外交で、安倍にとって唯一の光明となったのは北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさんの娘キム・ウンギョンさんと横田滋、早紀江さん夫妻が3月10日から14日までの間、モンゴル・ウランバートルで面会したことだった。
拉致問題への取り組みは安倍が官房副長官から首相にまで駆け上がるきっかけとなった重要な課題だ。外務省の正規ルートを駆使してようやく面会にこぎつけた。横田夫妻にとっては喜ばしい悲願の面会だったが、外交的なタイミングは間が悪かった。
金正恩体制の北朝鮮は中国と距離を置き、米国も韓国も、核問題をめぐる6か国協議が停止状態にある中での「日朝突出」を嫌う。オバマが仲介の労をとって日本と韓国を同席させようとしていたさなかの横田夫妻の面会。米韓、そして中国も日本を警戒する構図だ。
政治主導が叫ばれる中、米中韓露を相手に、複雑な連立方程式を解かねばならない安倍政権の外交を遂行するのは、政治家ではない。プロの外交官である。
ウクライナ危機後、直ちにロシアへ飛んだのは、国家安全保障局長・谷内正太郎。そして、日米韓首脳会談の露払いを務めるため、3月12日にソウルへ飛んだのも外務事務次官・齋木昭隆だった。
齋木は、昨年7月にも韓国を訪問するなど、最悪の日韓関係にあっても外交官としてのパイプを水面下ではつないできた。ソウルでは「齋木次官と韓国側で激しい応酬があった」と日本政府高官は明かす。硬軟取り混ぜた国際交渉を展開するのは、古くからの「事務方」である。
事務方が表舞台に出ざるを得ないのは、政治家や首相周辺にいる民間人たちの不甲斐なさをも浮き彫りにする。
環太平洋経済連携協定(TPP)担当相も兼ねる甘利は「俺が決めてやる」と意気込んだ米国との交渉がうまくゆかず、米通商代表部(USTR)代表、マイケル・フロマンとの仲は、いまや険悪だ。
北朝鮮との独自のパイプを誇示していた内閣官房参与・飯島勲は、横田夫妻の面会を「外交カードとしては失敗の策かもしれない」と批判する。
そして自民党総裁特別補佐・萩生田光一は日米韓首脳会談が正式に決まった2日後の3月23日、「河野談話」の検証について「新たな事実が出てくれば、その時代の新たな政治談話を出すことはおかしなことではない」と河野談話に代わる談話の必要性に言及した。
政治家たちが、事務方の交渉を踏みにじる発言を続ける現象は止まらない。
官房長官の菅は業を煮やした。
同時多発的に起こる外交問題で、外務省と二人三脚で歩む菅は萩生田の発言を聞くや否や「またか!」と声を荒げた。2月には首相補佐官・衛藤晟一が、安倍の靖国参拝を「失望(disappointed)」と評した米国を「我々の方が失望だ」と批判して物議をかもし、この時も菅が火消しに追われた経緯がある。
菅や外務省が神経を尖らせるのは、首相周辺の発言が中韓との関係をより悪化させるだけでなく、米ホワイトハウスや国務省にも「安倍首相が自らの真意を代弁させている」と受け止める空気があるからだ。
日本政府筋は「米国の本音は『失望』ではなく『怒り』だ。同盟国だからこれ以上は言えない、と我慢しているに過ぎない」と解説する。
衛藤、萩生田ら政治家の発言、さらにはNHK会長・籾井勝人の、従軍慰安婦は「戦争をしているどこの国にもあった」などの発言を、米政府は「アベの真意ではないか」と疑い始めている。靖国参拝、周辺発言は戦前への回帰――つまり、米国主導の国際秩序への挑戦ではないか、と懸念する。
それだけに「経済優先」の菅は気が気でない。菅に同情する自民党議員からは「今国会終了後の内閣改造・自民党役員人事で、側近たちは重要ポストから外すべきだ」との声も聞こえる。
ところが、首相と保守的な心情をともにするグループの受け止めは異なる。
韓国との首脳会談に関して、要求を重ねる青瓦台にうんざりしている安倍の様子も、彼らはうかがっている。安倍の悲願である靖国参拝すら反対した菅の方が「総理の心を分かっていない」というわけだ。世界は20世紀初めの動乱期に匹敵する波乱に直面しているのに、安倍の周囲では内閣改造を巡る小さな鞘当てばかりが目立つ。
日本時間の3月26日未明、安倍はハーグで日米韓首脳会談に臨み、初めて朴と公式に顔を合わせた。とはいえ安倍、オバマ、朴三者の空気はぎこちなく、先行きは楽観できない。
戦前、列強のパワーゲームに翻弄され「欧州情勢は複雑怪奇」と声明を出して倒れた内閣があった。自主的な外交ができなくなれば、国は滅びる。長期政権を求める世論を背景に、どこか緊張感を欠く国内政治状況とは裏腹に、列強がしのぎを削り始めた国際状況が、安倍内閣の潮目を変えつつある。 
「白旗」揚げさせられた公明の急所 2014/7
 集団的自衛権をクリアし、絶頂期の安倍政権。焦点は内閣改造に移った。
第186通常国会が6月22日に閉会し、政界の関心事は内閣改造・自民党役員人事に移った。
内閣改造は、各省庁による2015年度予算の概算要求終了後の9月が有力視される。閣僚人事では政権の屋台骨を支える官房長官・菅義偉、副総理兼財務相・麻生太郎、経済再生担当相・甘利明の続投は確実とみられ、大幅な入れ替えにはならないとの見方が多い。
しかし、12年12月に発足した第2次安倍内閣では一度も閣僚の入れ替えがなく、自民党内に膨れ上がった衆院当選5回以上、参院当選3回以上の「入閣待機組」には不満がたまっている。首相・安倍晋三は金銭スキャンダルや答弁ミスのない現在の陣容におおむね満足しているが、来年9月に控える自民党総裁選を意識すれば、各派閥の期待に応えねばならない立場にある。
「最後は金目でしょ」。環境相・石原伸晃は6月16日、東京電力福島第一原発事故の除染廃棄物を保管する国の中間貯蔵施設建設に関し、難航する福島県側との交渉について記者団にこう語り、最終的には交付金など金銭で解決するとの立場を示した。
慌てて電話で経緯を問いただした官房長官・菅に対し、石原は「何が問題になっているんですか」。のんきな石原に、菅は、ただあきれるしかなかった。
結局、石原は緊急に記者会見して、「住民説明会で金銭の話がたくさん出たが、具体的内容は受け入れが決まるまで説明できないという意味だった」と釈明したが、過去に福島第一原発をオウム真理教施設になぞらえ「福島第一サティアン」と発言したことに続き、失言癖を強く印象づけただけだった。野党が提出した不信任決議案と問責決議案は20日の衆参両院本会議で否決されたものの、交代閣僚の一番手に挙がったのは間違いない。
改造では当然ながら、自民党幹事長・石破茂の続投の有無が焦点だろう。
石破は来春の統一地方選での陣頭指揮に意欲を見せるが、生来の「政策優先思考」が災いし、相変わらず人間関係の構築や根回しが得意ではない。集団的自衛権をめぐる与党協議を担当する自民党副総裁・高村正彦との意思疎通を欠き、協議の行方について石破、高村が首相官邸に違う内容を報告することもしばしばだった。
見かねた菅は6月13日、2人を官邸に呼び出している。その上で、安倍から密に連絡を取り合うように指示させた。
石破の出身派閥・額賀派の後ろ盾である元自民党参院議員会長・青木幹雄は「今さら閣僚をやってどうする。入閣を打診されても断れ」と、幹事長続投を勝ち取るよう石破の尻を叩いている。「ポスト安倍」一番手に目される石破に政権禅譲をにおわせて留任させるのか、党内での足場固めを阻止するため軽量級の閣僚ポストを与えて閣内に封じ込めるのか。
長期政権を狙う際、対抗馬になりかねない石破の処遇は、安倍にとって悩ましい案件だ。石破が18日に開いた自身の勉強会「さわらび会」には衆参両院議員80人以上が集まり、侮れない勢力であることを見せつけた。
腰砕けの公明
集団的自衛権をめぐる与党協議では、公明党が限定的な行使容認を受け入れた。政府が例示した行使事例の個別撃破を試み、憲法解釈変更の閣議決定を先送りさせようとしたが、安倍は「決めるときには決める。内閣支持率が多少下がっても仕方ない」と強硬姿勢を貫き、公明党・創価学会をねじ伏せた。
公明党代表・山口那津男が1月の段階で早くも連立政権離脱を否定し、安倍と対峙するための切り札を封印したことも響いた。結党50年の節目を迎える「平和の党」は、集団的自衛権行使を認める憲法解釈変更を不本意ながらも受け入れることになった。
自民党副総裁・高村は6月24日の与党協議で、集団的自衛権の行使容認に向けた新3要件の修正案を提示した。
修正案は、憲法9条の下で認められる武力行使について(1)わが国に対する武力攻撃が発生したこと、またはわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること、(2)これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと、(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと――に該当する場合の自衛措置とした。日本への攻撃がなくても、他国に対する武力攻撃が発生した場合に自衛権行使を認める内容だ。
お互いの携帯電話番号を交換するところから始まった高村と公明党副代表・北側一雄による協議は、水面下でも続いた。
6月23日に死去した小松一郎の後任として内閣法制局長官に就いた横畠裕介が2人の協議に立ち会い、微妙な文言調整に知恵を出した。公式には憲法解釈変更に抵抗した公明党も早くから妥協点を探り、受け入れ可能な案を自民党側に伝えた。
議員会館の各事務所には「新3要件は公明党が作った」と主張する怪文書が送り付けられ、それを知った北側は苦渋の表情を浮かべた。憲法解釈変更に反対するある公明党議員は「次の選挙は負ける覚悟だ。北側の首を締め上げてやる。北側と井上義久幹事長が責任を取ればいい。何が平和の党だ」と、息巻いた。所属議員や支持者と自民党の板挟みになった北側は「俺もつらいんだよ」と、周囲に嘆いた。
公明党が白旗を揚げた背景には、安倍サイドからの露骨な圧力があった。
「公明党と創価学会の関係は政教一致と騒がれてきたが、内閣法制局の発言を担保に、その積み重ねで政教分離ということになっている」
安倍のブレーンである内閣官房参与・飯島勲は6月10日、ワシントンでの講演で集団的自衛権をめぐる自公対立に触れて、そう指摘した。さらに「法制局の答弁が一気に変われば、政教一致が出てきてもおかしくない」と、公明党をけん制した。
自民党は1995年、宗教法人法改正問題に絡み、創価学会名誉会長・池田大作の参考人招致を要求。当時の「公明」が参加していた野党の新進党は反発したが、秋谷栄之助会長が参考人招致されるに至った苦い記憶がいまだに残る。飯島は憲法解釈変更をちらつかせ、譲歩を求めた訳だ。
歴代の自民党政権は、1小選挙区当たり平均で2〜3万票をたたき出す公明党・創価学会の選挙協力に期待して政策面で最大限の配慮を見せてきたが、集団的自衛権行使容認に前向きな日本維新の会やみんなの党が政権にすり寄る中、安倍サイドは連立組み替えも辞さない構えをにじませた。
安倍周辺は「『集団的自衛権をのめないなら連立から出て行け』という首相の思いは十分に伝わっているはずだ」と、言い放った。
99年の連立参加以来、政権党の政策実現力を痛感してきた公明党に、連立離脱の選択肢はなかった。
「責任与党として、国民の命と暮らしを守るため、決める時にはしっかりと決めてまいります。経済であろうと外交・安全保障であろうと、私たちは自らの力で壁を突き破り、前に進んでいくほかありません」。通常国会閉会を受けて行われた24日の記者会見で、安倍は憲法解釈変更の閣議決定にあらためて決意を示した。山口は26日夜のNHK番組で、限定行使容認を表明した。
勝者なき野党再編
巨大与党に圧倒され存在感を示せない野党側では、日本維新の会分裂を機に野党再編論議が活発化している。
統一地方選や次期衆院選をにらんで再編を急ぐ日本維新共同代表・橋下徹は、結いの党との早期合流を目指し、同じく共同代表の石原慎太郎とたもとを分かった。
両党の政策協議では、石原が掲げる「自主憲法制定」の文言が焦点になった。結いの党代表・江田憲司は、現行憲法の破棄を意味する自主憲法明記に反対。石原は6月11日の党首討論で「何とかいう党の党首は、集団的自衛権には反対、自主憲法制定と言ったら外国からとんでもない誤解を受けかねないと公言しているが、これは昔の社会党と同じような言いぶりだ」と、江田の名前を口にすることさえはばかられるといった体で不快感をあらわにした。
しかし、日本維新の分裂は、結いの党との隔たりだけが原因ではない。
石原は5月29日の記者会見で、橋下との出会いについて「人生の快事だった」と語る一方、旧太陽の党と合流する際に橋下が「私たちが必要としているのは石原さん1人で、平沼赳夫さん(代表代行)は必要がない」と発言したことを紹介。「その時の心理的な亀裂が尾を引いた」と明かした。
橋下にとって、石原が結成する新党「次世代の党」への参加者が衆参両院で22人に上り、自身の新党が38人にとどまったのは誤算だった。
「多数派工作なんていうのは、そんなに意識していない」。橋下は6月5日の記者会見で平静を装ったが、橋下が目指した「維新・結い新党」に民主党議員が雪崩を打って参加する状況にはない。
民主党幹部は「石原には企業や宗教団体などの組織がついている。橋下には風しかない。選挙を考えれば議員は石原を選ぶ」と読み解いた。
そんな橋下が民主党との橋頭堡に見定めたのは元代表・前原誠司だ。
橋下と江田は5月下旬、前原と京都市内で会談した。前原は維新分党決定後の6月7日、読売テレビの番組で「小選挙区では野党がバラバラだったら自公を利するだけだ。民主党も含めた野党再編の努力をしなくてはいけない」と発言。橋下と合流する可能性を問われ「100パーセントだ」と言い切った。
番組後、記者団には「海江田万里代表は去年の参院選後、『1年で目に見える成果が出なければ辞める』とおっしゃっていた。その総括をしっかりしていただくことがまず大事だ」と、海江田降ろしをぶち上げた。これに先立ち、前外相・玄葉光一郎も代表選の前倒し実施を要求。前原、玄葉に近い若手議員約10人は16日、来年9月に予定される代表選の前倒し実施を海江田に直談判した。元行政刷新担当相・蓮舫ら参院議員約10人も18日、海江田に辞任を迫った。
海江田ら党執行部がそれに応じる様子はない。
日本維新や結いの党主導の再編論議には乗らず、次期衆院選まで我慢すれば他の野党が息切れし、党勢を回復した民主党が主導権を握れるとの見通しを持っているためだ。
民主党幹部は「地方組織のネットワークや支持団体・連合の集票力、豊富な資金は日本維新や結いの党の比ではない」と強調する。
次期代表に色気を持つ前原の態度も煮え切らない。日本維新幹事長の大阪府知事・松井一郎は6月7日、前原の発言に関し「『100パーセント』というなら『いつですか』ということだけだ。政治は結果だ」と記者団に語り、「言うだけ番長」と揶揄される前原に決断を促した。
6月11日の党首討論で論戦力不足をさらけ出した海江田で次期衆院選を戦おうという声は、民主党内でほぼ皆無だ。元代表・岡田克也や前原とともにポスト海江田候補に挙げられる前幹事長・細野豪志は7日の会合で「安倍政権は単一の考え方を押し付けている。異論に聞く耳を持たない政治指導者は恐ろしい」と批判。「民主党は困った時に助け合う『共生』を大事にする政党だ」と述べ、発信力不足の海江田に取って代わる意気込みを見せた。
「野党全党が足並みをそろえて自民党政権に対峙する姿は、これからも大切にしていかなければならない。そうした動きの中で、団結した民主党が中心にいることが極めて重要だ」
民主党が24日に開催した両院議員総会で、海江田は懸命に党の結束を訴えた。海江田にとっては就任後1年間の「成果」を訴え、辞任論を封じ込めるはずの場だったが、出席者からは代表選の前倒し要求が続出。海江田を明確に擁護したのは、わずか1人にとどまった。
海江田は「外からは、我々の党にバラバラ感があるという風に見えている。その克服に当面、意を注がなければいけないという大変残念な現状だ」と嘆くしかなかった。
政府は6月20日、従軍慰安婦問題をめぐる河野洋平官房長官談話の作成経過に関する検証結果を公表した。
談話自体の見直しはしない方針だが、安倍は戦後70年を迎える来年夏に「安倍首相談話」を出し、歴史問題に関する過去の政府見解をいわば上書きする構えだ。「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍の最終目標は憲法改正。16年の参院選や次期衆院選で発議に必要な3分の2を確保し、早ければ17年の国会発議を狙う。集団的自衛権行使を認める憲法解釈の変更に続き、次々に安倍カラーを実現するつもりだ。
安倍を止める対抗勢力は現れないのか。圧倒的な数の力と野党のふがいなさ、腰砕けに終わった公明党の非力さを考え合わせると、安倍政権は絶頂期に入ったといえるだろう。ただ、それで国民がどこに導かれるかは別問題である。 
安倍と石破、覆い隠せない溝 2014/9
 内閣改造で見えてきた自民党内政局。二大知事選が新体制の運命を決める。
8月9日昼。首相・安倍晋三は、官房副長官・加藤勝信、世耕弘成にそれぞれ電話し、いたずらっぽく話しかけた。
「産経新聞見た? そういうことだから、まあよろしく」
同日の産経新聞には、安倍のインタビューが載った。そこで安倍は官房長官・菅義偉のほか加藤、世耕、杉田和博の三副長官らの続投を明言している。改造の約1カ月前、特定の新聞に首相が具体的人事を語るのは前代未聞のこと。加藤や世耕は他のポストに異動するとの見方もあっただけに、周囲はもちろん本人たちも驚いた。「新聞辞令」とは、伝聞に基づいてマスコミが伝える不確かな人事報道を指すことが多いが、加藤や世耕は正式な辞令を新聞を通じて受け取ったことになる。
安倍が首相に返り咲いて600日を過ぎた。安倍にとって第1次政権の発足時、改造時、第2次政権発足時に続く4度目の人事は、知恵袋でもある菅ら少人数で練り上げられた。元財務相・額賀福志郎ら、派閥領袖の要望には耳を傾けたが、言質を取らせることは、ほとんどなかった。その代わりサプライズ人事を連発して党内を翻弄した元首相・小泉純一郎の名をあげ「小泉さんも人事は嫌だと言っていました」などと、けむに巻いてみせたりもした。
第2次安倍政権の強みは、少々失敗しても、早く修正して傷を大きくしないところにある。昨年暮れ、特定秘密保護法を強行成立させた時や、今年7月に集団的自衛権を行使できるように閣議決定した時は、内閣支持率が大幅に落ちたが、その後、支持を回復した。その粘り腰が、小泉政権以来の長期政権の気配を漂わせている。
夏の“気の緩み”
ただ酷暑の中、8月には政権の緩みも随所に見えた。
20日早朝。山梨県鳴沢村の別荘でくつろいでいた安倍に、広島市の土石流災害の一報が入った。安倍は、十分な対応をするように指示をした上で車に乗り込んだ。向かった先は富士河口湖町の「富士桜カントリー倶楽部」。元首相の森喜朗、経済産業相の茂木敏充、加藤らとゴルフをする予定になっていたのだ。車中では、秘書官から「場合によっては帰京する事態になるかもしれません」と報告を受けたが、ゴルフ場に到着した安倍は、予定通り数ホールをラウンドした。
「首相とゴルフ」といえば、真っ先に思い浮かべるのが2001年2月に起きた愛媛県立宇和島水産高校の実習船えひめ丸と米原潜との衝突事故だろう。当時の首相・森は、事故の報告を受けた後もゴルフを続けたことで批判され、退陣の遠因となった。森が世論の袋だたきになるのをそばで見ていたのが当時官房副長官だった安倍だった。
広島での死者が多数にのぼりそうだという続報が入ったのはプレーを始めて1時間半後だった。13年前の痛い思い出のある森は「あの時は大変なことになった。早く戻った方がいい」と安倍に忠告。安倍も帰京を決断する。
米原潜との事故と災害。性格はまったく違うが、「えひめ丸」の死者は9人。今回の土砂災害の犠牲者は、それをはるかに上回る。「えひめ丸」で森は、ゴルフを始めてから一報が入ったが、今回、安倍は一報を受けた後にゴルフを始めている。森よりも安倍の方が非難される要素が多いようにも感じられるが、マスコミは、安倍に対し総じて温かかった。「えひめ丸の事故を教訓に対応した」と評価した新聞さえあった。これも、今の政権の求心力が保たれているからだろう。
だが安倍は、この後も軽率と言われかねない行動をとった。東京に戻り、状況の報告を受けて対応を指示した後、夜になって再び別荘に戻ったのだ。天皇、皇后両陛下が長野、群馬両県での静養を取りやめられると発表されたことと対比され、野党側からは批判の火の手が上がった。
自然災害の中で、首相が実際に果たす役割は限られている。首相官邸にとどまっていたからといって、被害拡大が食い止められたというわけではないだろう。だが、世論に敏感な政治家なら、被災地の住民感情に配慮して「快適な別荘に戻る」選択はしなかっただろう。災害発生後、ゴルフをしていたという引け目を感じているなら、なおさらだ。
安倍が首相に返り咲いてから、メディアの報道は二極化している。新聞では読売、産経、日経などが常に政権に好意的で、朝日、毎日、東京などは厳しい目を向ける。安倍は「何をやっても批判する勢力は批判する。自分の信じるようにやれば、わかる人は分かってくれる」という思いが強くなっている。いきおい周囲の批判に鈍感になってきているともいえる。
安倍は今年4月にも、熊本県内で鳥インフルエンザの発生が確認された日にゴルフをしていたとして批判された。今回も責められることは自覚していたことだろうが、それを承知で取った行動は、よく言えば一徹さの表れ、悪く言えば開き直りでもある。
「緩み」は他の場面でもみられた。8月6日、広島で行われた平和記念式典で、安倍のあいさつが去年のあいさつと同じ内容の部分が多いことが指摘され「コピペ疑惑」と話題になった。
毎日のように会議やパーティーに出席する安倍のあいさつ文は、秘書官ら事務方が原案をつくる。それが昨年と似ているのをチェックできなかったとして首相を責めるのは酷だろう。ただ広島で「コピペ疑惑」が指摘された3日後の9日に長崎で行われた平和祈念式典でも、同様の事態が起きた。長崎で安倍は約1000字のあいさつ文を読んだが、約半分は前年の長崎でのあいさつとほぼ同じ。残りの半分は3日前の広島でのあいさつとそっくりだった。
この日の式典では被爆者代表の城台美弥子さんが集団的自衛権の行使を認める閣議決定をした安倍政権に対し「憲法を踏みにじる暴挙」と痛烈に批判。生中継していたNHKテレビは苦々しい表情をした安倍をアップで捕らえている。その後に首相が行ったあいさつが「コピペ」と指摘される内容だった。被爆者団体からは、失望の声があがった。
経済失政を待つ海江田
来年は夏から秋にかけて大きな節目がある。自民党は総裁選。民主党は代表選。秋以降の政局は、その2つの節目をにらみながら動き始める。
民主党代表・海江田万里は今年、夏休みをほとんど取らずに党本部か議員会館の自室にこもり、本を読んだり有識者に会ったりした。
「海江田降ろし」は不発に終わったが、来年の代表選で海江田が再選されると思う議員は、ほとんどいない。代表就任以来、自民党を攻め込んでポイントを稼ぐシーンがほとんどなかったからだ。それでも代表の座にこだわる海江田を、口の悪い同僚議員は「(退陣要求を受けながらなかなかイラク首相を退かなかった)マリキ」と揶揄する。
だが海江田は、あわてるそぶりを見せない。夏休み中、海江田が読んだ本の中に、先輩の元財務相・藤井裕久の近著『政治改革の熱狂と崩壊』がある。この中で藤井は、これまで日本では、極端な金融緩和の後には社会不安が起きていると指摘。金融緩和政策を続ける安倍政権の危うさを強調している。経済通を自任する海江田は藤井に同調、経済で安倍政権が急失速する時が来ると読み、その時を待っている。実際、消費税増税の影響もあり、4〜6月期の実質国内総生産(GDP)成長率が前期比年率マイナス6.8%となった。藤井の表敬訪問を受けた海江田は「今の民主党の再生には奇手はない。パフォーマンスはいらない。地道にやるだけだ」と激励され、わが意を得たりという表情でうなずいた。
民主党が浮上するには野党再編を主導するしかない。党内でも野党再編には異論はないが、道筋をめぐり対立がある。海江田は、社民党や生活の党などリベラルな勢力との結集を優先させる。一方、海江田と対立する元外相・前原誠司らは、維新、結いらとの合流を優先。生活の党の代表・小沢一郎との「復縁」には絶対反対だ。
野党再編の主導権争いは代表選に直結する。海江田にとっては生き残りをかけた戦いでもある。7月末、「海江田降ろし」が吹き荒れたころは「人間、いつ死ぬかわからない」などと弱気な発言をもらしていた海江田だが、最近は「闘志がわいてきた」と自分を鼓舞するように語ることが増えてきた。
「私はふられますか」
自民党の政局は今後、石破茂を中心に進む。石破は改造前に、安倍の安保政策、憲法論について「100%同じというわけではない」と明言し、対立軸を鮮明にした。安倍も石破に対し「仕事はできるが、迫力がない」と不満をもらす。8月29日、首相官邸で行われた2人だけの会談で、石破は安倍を全力で支え、緊密に連携することを確認したが、2人の間の溝は、覆い隠せないレベルに達している。
8月上旬、事実上の自民党石破派でもある「無派閥連絡会」の研修会が新潟・湯沢温泉で開かれた。これまで連絡会は、派閥に属さない若手議員をサポートするために幹事長の石破が教育係を担う組織で「いわゆる派閥ではない」という建前になっていた。だが研修会の冒頭、石破は約30人の出席者を前に「よく『脱派閥』だと言われるが、3人寄れば派閥はできる。それを否定しても始まらない」と話し始めた。出席議員は、名実共に「石破派」の旗揚げ宣言と受け止めた。
石破の懐刀で幹事長特別補佐を務めてきた鴨下一郎は、「ポスト安倍」の戦略を練る。山本有二、小坂憲次、浜田靖一ら石破と政治行動を共にしてきたベテラン、中堅もここに加わる。
石破は衆院のバッジをつけて28年たつ。「政治を辞めたら夏目漱石を読んだり、鉄道の旅に出たりのんびりしたい」と冗談めかして引退を口にすることもある。だが石破は、まだ57歳。政界では、これから円熟期に入る年齢だ。本人の意思がどうであろうと安倍の対抗勢力の頭として注目度を高めることになる。
連絡会の懇親会では、柏原芳恵の隠れた名曲「夏模様」を歌った。自他共に認めるアイドルおたくの石破らしい選曲だが、この曲は、別れの歌。
「さよなら 私はふられますか」
「さよなら 夏模様」
二人三脚で安倍を支えてきた1年8カ月に区切りをつけて、新しい道を歩む決意のようにも聞こえた。
秋から暮れにかけて自民党、野党の力関係を左右する2つの地方選挙がある。10月の福島県知事選と11月の沖縄県知事選だ。福島は、福島第一原発事故の後、初の知事選。沖縄は、米軍普天間基地移転問題に直結する。野党結集の動きは加速し、安倍の求心力は低下する。「今のままで来春の統一地方選が戦えるか」という声も自民党内で高まりかねない。
安倍はこれから1年の間に日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を再改定し、集団的自衛権関連の法を整備し、来年の8月15日には「戦後70年談話」を出す考えだ。これで安倍が目指す「戦後レジームからの脱却」に一定のめどをつけようとしている。
当然、党内リベラル派、野党、そして国際社会とのあつれきを生むこともあるだろう。その時、政権が弱体化していれば亀裂はさらに深まる。ただ安倍は逆風にさらされても自分が進もうとする道を変えないだろう。1960年の日米安保条約改定をまとめ、改憲を目指した祖父の元首相・岸信介を最も尊敬する安倍は、その遺志を引き継ぐことに迷いはない。それが、安倍のアキレス腱でもある。
首相執務室には岸と、元米大統領・アイゼンハワーのツーショット写真が飾られている。 
W辞任で狂った解散シナリオ 2014/11
 人事と消費増税で消耗する政権。解散に出る“体力”は残っているのか。
9月の内閣改造で起用されたばかりの経済産業相・小渕優子と法相・松島みどりが10月20日、そろって辞任した。首相・安倍晋三は2012年末の第2次政権発足以来、最大の逆境に直面している。
改造人事で安倍は歴代最多に並ぶ5人の女性閣僚を並べ、看板政策である「女性活躍」を誇らしげにアピールしていただけに、小渕と松島のダブル辞任は皮肉な事態と言うほかない。
消費税率10%への再増税や原発再稼働といった難しい政策判断を控える時期に、政権の求心力は急降下してしまった。安倍がタイミングを熟考する衆院解散・総選挙の戦略にも影響するのは不可避だ。
「国会対策を長年やった感覚から言えば、2人とも続投は厳しいですよ」
若手の頃、国対畑に身を置いた自民党幹事長・谷垣禎一は17日、官房長官・菅義偉に警告した。巨大与党が腹を固めれば、数の力で法案成立を無理押しすることは可能だ。しかし、疑惑にふたをすれば民意の離反は避けられず、安倍長期政権を悲願とする菅にとっては受け入れがたい選択だった。危機管理にたける菅は谷垣の進言を踏まえ、週明け20日のダブル辞任で幕引きを図ると決めた。
小渕の関連政治団体は、支援者向けに10年と11年に東京・明治座で開いた観劇会をめぐり、費用の一部を負担した疑いが浮上していた。
有権者に対する利益供与を禁じた公選法に抵触する恐れが指摘され、政治資金収支報告書の記載によると、負担額は約2642万円に上る可能性があった。故・小渕恵三元首相の次女である小渕は父の代から続く政治資金処理システムを踏襲したとみられる。
辞表提出後の記者会見で小渕は「私自身も、何でこうなっているのかという疑念を持っている。私自身が甘かった」と繰り返した。
小渕は盤石の選挙基盤を持ち、歯切れの良い弁舌も手伝って「初の女性首相候補」といわれてきたが、大きな痛手を被った。小渕が所属する額賀派(平成研究会)は、かつて絶大な権力を保持する一方、大物議員らの金銭スキャンダルが後を絶たなかった。清新なイメージのある小渕までが疑惑にまみれ、直近の首相候補を持たない額賀派の復活は遠のいた。
政界引退後も同派への影響力を誇る元自民党参院議員会長・青木幹雄は「10年たったら小渕首相」と公言してきた。青木は秘蔵っ子の苦境を見かね「さっさと身を引いた方が将来のためだ」と、潔い辞任を促した。
一方、松島は国会審議で「討議資料として、成立した法律の内容などを印刷して配った。うちわのような形をしているかもしれないが、有価物である物品ではないと解釈して配った。公選法の寄付には当たらない」と強弁。官邸側も当初は「たかがうちわの問題」と軽視していた節がある。
だが、民主党は17日、松島を公選法違反容疑で東京地検に告発した。弁護士出身の幹事長・枝野幸男の発案だった。「外形的なものであっても疑惑を持たれてはならない」(法務省幹部)はずの現職法相が刑事告発されるに至り、安倍は松島辞任やむなしとの判断に傾いた。前防衛相・小野寺五典が選挙区内で線香セットを配ったとして書類送検され、2000年に議員辞職した例が念頭にあった。
松島は初登庁の際、法務省職員の出迎えが少ないとしてやり直しを求めるなど、就任直後から傲慢な振る舞いを見せた。うちわ問題発覚後の国会審議では、答弁資料を渡そうとする事務方をひじで押しのける姿も目撃され、自民党内でも「尊大な態度が目に余る」と不興を買っていた。
辞任を決めた安倍=菅会談
安倍は19日午後、東京・赤坂のANAインターコンチネンタルホテル東京に入り、ひそかに菅と約2時間、会談した。
菅は「小渕は辞めざるを得ない。松島を残しても野党の攻撃が集中し、いずれ辞任に追い込まれる。だったら一緒に辞めさせた方がいい」と早期収拾を進言。小渕と松島を20日に同時辞任させるシナリオが固まった。
安倍と菅の脳裏に、1年間で閣僚5人が交代し、回復不能のダメージを受けた第1次政権当時の記憶があったのは間違いない。安倍は閣僚の辞任ドミノを回避するため、事務所費疑惑が発覚した農相・松岡利勝を約5か月間にわたってかばい続け、結果的に松岡は07年5月、自ら命を絶った。松岡の悲報を聞いて首相執務室で号泣した安倍は今回、その痛恨事を教訓に決着を急いだ。
「任命責任は総理大臣である私にあります。こうした事態になったことを、国民の皆様に深くおわびを申し上げる次第であります」
安倍は2閣僚の辞表提出後、事務方が作成した応答要領にはない「おわび」の文言を使い、記者団の前で国民に陳謝した。
野党側は、久々の「見せ場」に勢いづいた。10月21日には「閣僚が交代したばかりで審議はできない」として、広島市の土砂災害を受けた土砂災害防止法改正案の衆院本会議での審議入りを蹴った。与党は23日に審議入りを遅らせ、想定した国会日程に狂いが生じつつある。民主党などが反対する労働者派遣法改正案や、カジノ導入に向けた関連法案の成立は危うくなってきた。
「野党の追及が厳しいとお考えだろうが、私たちが野党の時はこれ以上だった。2年間、静かにここまで来たが、ある意味正常な形に戻った」
自民党国対委員長・佐藤勉は22日、当選1回の衆院議員との昼食会で強がって見せたが、23日には小渕の後任に就いた経産相・宮沢洋一の資金管理団体が10年、広島市内のSMバーに政治活動費を支出していたことが発覚した。宮沢は「事務所関係者が誤って政治資金として支出した」と釈明。所管する東京電力の株式保有も判明し、たちまち野党の標的に加わった。環境相・望月義夫には政治資金収支報告書の虚偽記載問題が浮上した。望月は28日未明に緊急会見し、亡くなった妻が処理したものだとして「私自身の法令違反はない」と主張した。
消費増税と解散の関係
安倍にとって当面の最重要課題は、12月上旬に予定する消費税率10%への引き上げ判断だ。
閣僚のスキャンダル連鎖により政権がパワーダウンする中で、増税という国民負担増を決断するのは容易でない。安倍は「一内閣で二度の増税なんて、あり得ないよね」と周囲にぼやく。4〜6月期の実質国内総生産(GDP)は年率で前期比7.1%減の大幅マイナスになった。10月には日米欧で株安が連鎖し、経済情勢は厳しさを増している。
「アベノミクスは順調に進んでいた。株価が上昇し、円安になり、雇用も増え、給料も上がった。4月の消費税増税によって、水を掛けられた」。自民党の元経済産業副大臣・山本幸三は22日、自ら主宰する議員連盟「アベノミクスを成功させる会」の会合を開き、再増税の延期を提唱した。会合には首相補佐官・衛藤晟一ら約40人が出席した。山本は「首相には国民生活のために何が一番、大事かということを踏まえて決断していただきたい」と訴え、増税延期論の拡大を目指す。
副総理兼財務相・麻生太郎や自民党幹事長・谷垣ら、政権中枢には有力な増税派が並ぶ。民主党政権当時の自民党総裁で、公明党とともに増税の3党合意を実現した谷垣は「法律に明記されている以上、絶対に税率を上げないといけない」と主張する。
これに対し、官房長官・菅は経済状況を見極めて判断すべきだとの立場だ。安倍の在任期間を最大限延ばすのが自身の役割と心得る菅にとって、増税判断が国民の批判を浴びて政権転落につながる事態は何としても避けねばならない。「増税は1年半、先でいい」と、16年の参院選後まで増税を先送りするよう求める菅に、財務省幹部は様々なルートで説得を試みるが、菅が揺らぐ気配はない。
安倍が税率8%への引き上げ判断時以上に慎重を期すのは、衆院議員の任期が今年12月で折り返し地点の2年を迎え、衆院解散戦略を本格的に練り上げる必要があるためだ。再増税の有無と解散時期の判断は、政権の消長に直結する。
安倍は内閣改造前の8月、周辺に早期解散をシミュレーションさせた。野党の態勢が整わないうちに「電撃的な総選挙」で勝利を収め、増税判断への追い風とする狙いがあった。
安倍が幹事長・谷垣や総務会長・二階俊博ら選挙向けの看板にはなりにくい重鎮を起用したことを受け、解散論はいったん沈静化した。ところが、臨時国会での閣僚不祥事を踏まえ、安倍周辺では「政権が本格的に下り坂になる前に選挙をした方が、負け幅を少なくできる」との早期解散論がくすぶり続けている。ある側近は「11月解散―12月総選挙」を唱えるが、解散の明確な大義名分を見いだしにくいのが最大の難点だ。
公明にも増税見送り論
閣僚問題で野党の反撃を許したことにより、解散に関する安倍の選択肢は狭まったとの見方が強まっている。
当初、集団的自衛権行使容認の関連法案を来年の通常国会で成立させた後、夏の解散が本命視された。
同年9月には自民党総裁選が予定され、与党が過半数を確保すれば安倍が無投票で再選できるとの算段だ。
しかし、来年の通常国会は、安保関連法案の採決強行などで、恐らく大荒れになる。今年夏、憲法解釈変更の閣議決定を強行した際のような「体力」は、安倍政権からもはや失われた。通常国会の終盤以降、安倍が内閣支持率下落を無視して解散を打てるのか、疑問視する向きは少なくない。
また、安倍が来年9月の総裁選を無難に乗り切った後に再び改造人事を行い、知名度が高い選挙向けの「顔」を並べて解散に踏み切る案も取り沙汰される。ただ、安倍が再増税を決めた場合、10月からの税率引き上げと同じタイミングの選挙となるため、影響を不安視する声も多い。
公明党は、安倍が再増税を決断すれば15年中には解散に踏み切れず、結果として最も警戒する16年夏の参院選との同日選が現実味を帯びかねないと危惧する。選挙戦でフル回転する支持母体・創価学会の負担が増えることから、是が非でも避けたい展開だ。
このため公明党執行部の一部には、再増税の先送りを容認する声さえ出始めた。支持者の理解取り付けに苦労した税率10%への引き上げを白紙にする「禁じ手」だ。公明党の悩みは深まるばかりだ。
「結局、安倍は解散できないんじゃないか」
自民党幹部は、難題続きの安倍が解散時期をずるずると引き延ばし「追い込まれ解散」を余儀なくされるのではないかと危ぶむ。08年に首相就任直後の解散を検討しながら、リーマンショックを理由に見送った麻生と同じパターンだ。不利な選挙情勢を承知の上で「負け幅」を少なくできるとみられたタイミングを外した麻生は、翌09年の衆院選で惨敗。自民党は政権の座から転落した。
政府は年末以降、九州電力川内原発1、2号機の再稼働判断を控える。成立に際して世論の批判を浴びた特定秘密保護法も12月10日に施行されるなど「不人気政策」は今後も続く。変数が多い解散政局で最適解を見出せるのか。安倍内閣が最大の岐路を迎えているのは間違いない。 
安倍・菅が謀った師走「覇道」解散 2014/12
 戦慄の財務省、冴えぬ野党。18年まで続く「絶対王政」は実現するか。
2018年末まで4年間続く「安倍絶対王政」を認めるのか、否か。これこそが今回選挙戦の真の争点である。
衆院が解散された翌日、11月22日から24日までの3連休。自民党総裁、首相・安倍晋三はメディア対応や長野県北部地震の対応に勤しみ、街頭には出なかった。
野党は出遅れ、過去2回の総選挙とは違って政権交代の可能性は絶無なことが、永田町に弛緩した空気を生んでいる。
野党を焦らせた「電撃師走選挙」はいつ、軌道に乗ったのか。発端は前経済産業相・小渕優子、前法相・松島みどりのダブル辞任だった。
10月19日午後、東京・赤坂のANAインターコンチネンタルホテル東京。安倍は、官房長官・菅義偉と約2時間、2人のスキャンダルについて収拾策を話し合い、その中で「年内解散で難局を打開してはどうか」という案が急浮上した。菅はその場で、得意とする世論調査で感触を探ると約束した。
そして翌週の10月25、26両日に実施した極秘調査の結果は、小渕と松島のダブル辞任と野党の攻勢にもかかわらず「自民党は過半数確保、公明党は現状維持、民主党は伸び悩み」と出た。「スキャンダル国会を仕掛けてくる民主党に目にものみせる」。安倍、菅の意見は一致した。相前後して安倍は外交当局に「12月は外交日程を入れないように」と指示を出した。
党内の根回しは2日間
安倍に解散を急がせた民主党以外の勢力は、財務省だ。
11月18日、解散を宣言した記者会見で安倍が冒頭から「5%から8%への引き上げを決断したあの時から、10%へのさらなる引き上げを来年予定通り行うべきかどうか、私はずっと考えてまいりました」と語ったのは、本音の吐露だった。
昨年の引き上げでも、安倍と周辺は「税率引き上げを見送る場合は法改正が必要」と定めた法律の仕組みに「財務省に地雷を仕掛けられた」と不満を隠さず、その不信感は1年間にわたって続いていた。「同じ総理の任期中に2回も消費税を引き上げるなんて、あり得ないよね」。安倍がこう漏らすのを聞いた議員、官僚、関係者は多い。
危機感を募らせた財務省は、各方面への「ご説明」で大々的な反攻に出た。自民党内に広がった増税実施論に対して、安倍と菅は「皆が嫌がる増税は今の首相官邸にやらせ、景気が悪くなれば責任を押し付けようという政局にらみの動き」を見てとった。消費税問題は、官邸奥の院では「政局」と同義語になっていた。
官邸、自民党、財務省の三者暗闘のクライマックスは10月31日、日銀総裁・黒田東彦が異次元金融緩和の第2弾を放ったその日に訪れた。日経平均株価は急騰し、「消費税10%への下地は整った」とみたのは政局の素人で、事実は逆だった。
2日前の10月29日、安倍は自民党幹事長・谷垣禎一に「4月に8%に引き上げた後、景気の戻りが弱い。もう一度の消費増税は見送り、そのために解散を検討したい」と伝えていたのだ。谷垣は会談後、記者団に「厳しい状況を打開しなきゃいけない時には、いろいろ議論が出てくる」と間接話法で安倍の意向を内外に知らしめていた。
財務相を経験し、自民党総裁として民主党と手を携えた消費増税に道筋をつけた谷垣の陥落。財務省は眦(まなじり)を決した。
10月31日午後2時過ぎ、首相官邸に副総理兼財務相の麻生太郎が、財務省事務次官・香川俊介、主計局長・田中一穂、主税局長・佐藤慎一らを伴って現れた。消費税10%を前提とする来年度予算編成、社会保障施策を説明する財務官僚たちに、安倍は目を合わそうともしない。「増税先送りのため、総理は衆院解散を考えている」。財務省は戦慄した。
自民党内の増税派と、安倍政権の失速を願う勢力を粉砕するには「平時ではなく有事を作り出すしかない」と首相周辺は解説した。有事、即ち衆院解散だ。
日銀緩和を実施した翌日からの11月初めの3連休、安倍は目立った日程は入れずに黙考し、11月4日から本格的に動いた。一連の国際会議への出席を目的とした外遊への出発が5日後に迫ったタイミングで、一気に根回しをすまそうというのだ。
元参院議員会長・青木幹雄、元幹事長・古賀誠の2人が「何としても増税は実現すべきだ。そうでなければ無責任すぎる」と、ベテランOB議員の根城となった東京・平河町の砂防会館の事務所で訪問客が来るたびに説いていた。青木と古賀、さらに元首相・森喜朗も加われば、安倍に不満な勢力が「増税実施」を旗印に結束し、最近は長老連中と和解した地方創生担当相・石破茂を担ぐ可能性も否定できない。一刻の猶予もならない、と安倍・菅の官邸コンビは調整を急いだ。
まず11月4日夜、安倍と菅は首相公邸に経済財政担当相・甘利明をひそかに呼びよせた。麻生、菅と並ぶ内閣の大黒柱で、政権の方針立案に常にかかわってきた甘利に、安倍と菅は「消費増税は見送り、衆院を解散して信を問う」と告げた。「今なら勝てる。野党は時間切れだ」と力を込める2人に、甘利は「分かりました」と了承した。あとは財務省の立場を代弁せざるを得ない麻生の説得だ。
麻生は11月5日、事務方の「総理を説得したい」との要請を受け、安倍の日程をおさえていた。午後5時前、麻生は前回と同じく香川、田中、佐藤らを引き連れて首相執務室に向かった。ほぼ1時間にわたった会議の様子は前回と変わらない。「増税見送り、解散は濃厚だ」。官僚たちは呻いた。
その夜、安倍は前日の甘利に続いて麻生を公邸へ呼び、ブランデーのオンザロックを自らつくりながら「年内に解散したい」と打ち明けた。予算編成への影響を考えれば、選挙日程は12月2日公示―14日投開票しかない。政権を担当した時、解散の機を逸した麻生には、安倍の気持ちは手にとるように分かる。「解散権は総理の大権です。尊重します」と返した。すでに増税実施派の筆頭格、谷垣も取り込み、自民党内の根回しは2日間で終わった。残るは公明党・創価学会ブロックだ。
「年内選挙」歓迎の公明党
成算は十二分にあった。2015年4月の統一地方選、16年夏の参院選を考えれば、14年中の衆院選は組織戦を展開する公明党にとって、ダブル選を回避でき、選挙の間隔があく好都合な日程になる。
11月7日、首相官邸で安倍から「年内解散を検討している」と聞いた公明党代表・山口那津男は即座に動いた。支持母体の創価学会に急報すると、学会は翌8日、一連の会合を開き、会長・原田稔が「常在戦場」とゲキを飛ばし、11日には選挙担当者が集まる方面長会議を招集して「12月2日公示―14日投開票」を想定した準備に突入した。1選挙区あたり2万とされる票を持つ創価学会は、いまや建設業界や農業団体をも凌駕し、自民党にとっても最大の支持勢力。公明党・創価学会が、解散風を一気に強める役割を果たした。
一方、財務省は、無駄な足掻きと知りながら「解散はするが、消費増税は予定通り実施」に一縷の望みをかけた。解散が既定路線となった11月17日、安倍が豪州から帰国する政府専用機に麻生が同乗した。だが、7―9月期の国内総生産(GDP)の伸び率は予想外に2期連続のマイナスとの結果が直前に伝わった。「消費増税は1年半先送りに」で安倍と麻生は一致した。
「大義なき解散」と批判されようとも、安倍チームに迷いはない。「負けない選挙」さえ展開できれば、先にあるのは「黄金の4年間」だ。
2015年9月の自民党総裁選は無風で再選し、16年夏の参院選にも勝ち、17年4月に消費税を10%へと引き上げ、18年9月に総裁任期切れを迎える。18年12月までの衆院議員任期とほぼ同じ期間を、安倍は手にすることになる。憲法改正にも手が届き、上手くゆけば総裁任期の延長さえあり得る時間の余裕だ。
安倍と菅に不意打ちを食らった野党は、それでも必死に候補者調整を進めた。主役の1人は生活の党代表・小沢一郎だ。
1993年の非自民連立政権、2009年の民主党政権と2度にわたる政権交代を成し遂げた小沢の哲学は「小選挙区制なら、野党は一つにならなければ勝てない」とシンプルだ。11月19日、小沢は所属議員たちに「新党を模索したが時間切れになった。君たちは総選挙で勝ち残る一番いい方法を考えてくれ」と党の移籍を容認すると伝えた。11月20日には恩讐を超え、民主党代表代行・岡田克也と会談し、自らの側近2人の民主党への移籍を決めた。2年前、日本未来の党として71人の小選挙区候補を擁立しながら、小沢本人以外は誰も勝てなかった轍は踏まない。これで前回は小沢一派にも票を出さざるを得なかった連合の動きが、一本化される期待もある。
梶山静六の見識はどこへ
だが、野党の動きは冴えない。
「今回は戦わず、統一地方選で戦いたい」
11月23日、維新の党共同代表・橋下徹は大阪市内のホテルで公明党陣営への殴り込みを諦め、立候補はしないと表明した。「勝てる戦いしかしない」と評される橋下の不出馬は、野党の先行きを暗示もしている。「第三極」のもう一方の雄だったみんなの党は分裂の果てに解党した。
事実、自民党が解散直前の11月15、16両日に実施したサンプル調査では「自民は多くて30議席減、民主は85から95議席で、100議席には届かず」と出た。仮にこの結果でも、民主党は前回の57議席と比べれば「大躍進」。党代表・海江田万里の責任論は封殺される。民主党にとっても今回は「負けない選挙」が保証されているのだ。
安倍と菅が謀りに謀って持ち込んだ「アベノミクス解散」は政略的には正しくとも、王道ではなく覇道の匂いがする。
菅が師と仰ぐ元官房長官・梶山静六は96年1月、橋本龍太郎政権の参謀となった時、「解散はいま、支持率が高い政権発足時が最も好都合だ。しかしそれは覇道、奇策だ」と見送り、予算成立と米軍普天間飛行場の返還合意、政策課題の遂行を果たしてからの9月に解散した。小選挙区制で初めての解散・総選挙は、これだけの好材料があっても自民党は28議席増だったのだ。
今回、解散時点で自民党が弾いた「30減プラスマイナス5」が下振れし、40議席以上減れば政局は流動化する。仮に「25―35議席減」の幅におさまっても、15年の景気動向や集団的自衛権法制の審議など、いくつも課題はある。総裁選と組み合わせる解散日程を放棄した以上、政権が落ち目となれば対抗馬が出てくる公算は大きい。
各種世論調査でも、アベノミクスそのものへの評価は割れている。安倍が解散会見の参考にした元首相・小泉純一郎の口癖は「政界、一寸先は闇」だった。
11月26日、岩手県で初めて街頭に立った安倍は「負けられない選挙だ」と力を込めた。
「黄金の4年間」か、政局激変か、総裁選前の流動化か。いずれの可能性も孕んだ選挙戦の結果は、間もなく出る。 
 
諸話 2015

 

民主党会合、NHK籾井会長と衝突 2015/2
NHK会長、過去の発言追及され民主議員とどなり合いに
NHKの籾井会長、就任から1年、数々の発言が物議を醸してきました。「従軍慰安婦はどこの国にもあった」「政府が右というものを左とは言えない」など、NHKの公共性を無視した発言や、政権寄りの発言が目立っていました。その籾井会長が18日、民主党の会議に出席しました。議員たちから過去の発言を追及され、激しいどなり合いとなってしまいました。
民主党の会議に呼ばれた籾井会長。来年度の経営計画を説明するためでしたが、話題は会長就任直後、当時の理事全員に辞表を出させた問題に。
「(理事全員から)辞表を預かっている問題に対して、こんなことは世の中ではやっていないですよと私が指摘したところ、『一般社会ではよくあること』とおっしゃいましたよね」(民主党 階猛衆院議員)
「皆無ではありません、そういう意味で別に間違ったことを言っているわけではありません」(NHK 籾井勝人会長)
「『皆無ではない』と言っていないでしょ。『よくあること』と言っていたんじゃないですか。『よくあること』なんですか本当に」(民主党 階猛衆院議員)
「『よくあること』じゃないですか。言葉尻を捉えないでくださいよ」(NHK 籾井勝人会長)
「信用できませんよ。撤回してください」(民主党 階猛衆院議員)
「撤回いたしません。何を撤回するんですか」(NHK 籾井勝人会長)
「『一般社会でよくあること』という表現を撤回してください」(民主党 階猛衆院議員)
「昨年の話じゃないですか。先の話をしているときに蒸し返して1年前に戻らなければいけないんですか。私が場外で何を言ったとか」(NHK 籾井勝人会長)
「国会は場外なのか!」(会場)
「もう少し冷静に言ってくださいよ」(NHK 籾井勝人会長)
話題は籾井会長の歴史認識にも。
「『河野談話』は日本の公的見解か」(民主党 後藤祐一衆院議員)
「いいと思います」(NHK 籾井勝人会長)
「『村山談話』については」(民主党 後藤祐一衆院議員)
「今のところはいいと思います」(NHK 籾井勝人会長)
そして、会議後も延長戦が。
「『くだらん』て本当ですか、『くだらん』と思ってるのか」(民主党 階猛衆院議員)
「発言ではないです」(NHK 籾井勝人会長)
「失礼だな」(民主党 階猛衆院議員)
「何が失礼だ、あなたこそ失礼」(NHK 籾井勝人会長)
「何、言ってるんですか」(民主党 階猛衆院議員)
「何を言ってるんですか、あなたどなり声でね」(NHK 籾井勝人会長)
「あなたの発言が質問とかみ合ってないから」(民主党 階猛衆院議員)
民主党は「政治の顔色を伺って忖度しながら発言する人はNHK会長として失格」として、19日からの予算委員会でも追及していく構えです。
NHK・籾井会長、民主党会合に出席も怒号飛び交う激しい応酬に
NHKの籾井会長は18日、中期経営計画の説明のため、民主党の会合に出席したが、出席議員から、過去の籾井会長の発言を問いただす質問が相次ぎ、怒号が飛び交う激しい応酬となった。会議では、民主党議員から、籾井会長が就任した2014年、理事全員に辞表を提出させたことなどに関する質問が出た。
民主・階 猛衆院議員「(国会で)こんなことは世の中ではやってないと、わたしが指摘したところ、一般社会でよくあることとおっしゃいましたよね?」
籾井会長「あるものはあるんです。皆無ではありません」
階衆院議員「よくあることなんですか、本当に?」
籾井会長「よくあることじゃないですか?」
籾井会長「言葉尻をとらえないでください」
階衆院議員「わたしたちは、そんな会長がトップである以上、このような、いくら立派なお題目を唱えても信用できませんよ。撤回してください」
籾井会長「撤回いたしません。真実に基づき、公平公正、不偏不党、何人からも規律されずというスタンスでやっている。何がやってないんですか? やってなかったら言ってくださいよ。放送が一番大事なこと。そういう意味で、わたしが場外で何を言ったとか...」
議員「場外!? 国会は場外なのか!」
籾井会長「もう少し冷静に言ってくださいよ」
また、籾井会長は、村山談話について、「今のところはいい。将来のことはわからない。政権が変わって、その人が、村山談話はもういらないと言うかもしれない」と述べた。
民主党は、今後も籾井会長を呼び、意見を聴く方針。
NHK籾井会長:民主党会議で発言巡り応酬「くだらん」
NHKの籾井勝人会長は18日、民主党の総務・内閣部門会議に出席した。1月に策定した2015年度から3カ年の経営計画の説明のために呼ばれたが、人事政策や過去の自身の発言についての質問が相次ぎ、議論はヒートアップ。時折、怒号が飛び交った。
籾井会長は昨年1月の就任直後に全理事から辞表を取り付け「よくあること」と述べたが、その発言を撤回すべきだと迫る議員に「屁理屈(へりくつ)だ」「言葉尻をとらえている」と反論。議論の応酬後、「くだらん」とこぼした。枝野幸男幹事長は同日の記者会見で、「くだらん」発言について「その一点をもって(会長)失格」と厳しく批判した。
会議で籾井会長は、従軍慰安婦問題を番組で取り上げるかどうかは政府の方針をみて判断する意向を示した今月5日の定例記者会見の発言について、「外交問題に発展する恐れがあることもよく考えて扱わなければならないという認識。政府の言うことを聞くということではない」と釈明した。発言については撤回しない考えを示した。
また過去の植民地支配と侵略を反省し謝罪した戦後50年の村山富市首相談話について「今のところ(日本の公式見解と考えて)いい。将来は、(政権が代われば)わからない」と述べた。
民主・安住氏「籾井氏はNHK会長として失格」
民主党の安住淳国対委員長代理は18日午前の記者会見で、NHKの籾井勝人会長が5日の会見で、慰安婦を番組で取り上げるかどうかについて「政府のスタンスが見えないので放送は慎重に考える」などと発言したことを踏まえ、「政府の顔色をうかがって放送をつくるような発言をしている」と批判。
その上で、「会長として失格だ」と、辞任を求めていく考えを示した。
民主党は同日午前、国会内で開いた総務部門会議に籾井氏を呼び、これまでの言動などについての真意をただした。
民主党会合、NHK籾井会長と衝突
2月18日にNHKの籾井会長が民主党の会合に出席し、放送方針などを巡って激しい議論を行いました。民主党は「今のNHKが政権寄り」と批判し、2014年にNHKの旧経営陣を辞任させたことなどを問いただすも、NHK会長は「真実に基づき、公平公正、不偏不党、何人からも規律されずというスタンスでやっている」等と返答。更には去年1月の記者会見で、NHK会長の発言が問題となった件に関しては、「NHKの事を何も知らなかったから仕方ない」と述べています。喧嘩のような激しい議論が続きますが、NHK会長はまともな返答をせずに曖昧な返事で誤魔化し続けました。
映像を見てみましたが、これは中々凄いですね・・・(苦笑)。NHKの籾井会長はちゃんと答えようとはせず、適当な返事をするもその内容も酷くて、お互いに激怒。これではまともな議論なんて出来ないです。というか、籾井会長が昨年の記者会見について、「NHKを何も知らなかった」等と発言したことには驚きました。普通の企業ならば、会長になるような人物は会社で色々な経験をしている方がなるため、「何も知らなかった」とは言えないと思います。これを「世間一般ではよくある」とか言っている籾井会長のその後の言葉にもビックリですが、この発言を彼の口から引きずり出した民主党は中々良い仕事をしたと言えるでしょう。是非とも次の民主党会合にも籾井会長が出席して欲しいところです。    
農相辞任に揺れる余裕なき一強政権 2015/3
 W辞任に続く不祥事。首相自ら記憶違いのヤジ。求心力低下は避けられない。
「衆院予算委員会の基本的質疑も終わりましたし、私がいくら説明しても分からない人は分からない、と。そういうことで、辞表を出してきました」
自身が支部長を務める自民党支部への寄付問題が浮上していた農相・西川公也は2月23日夕、官邸で首相・安倍晋三に辞意を伝えた後、吹っ切れたような表情で記者団に語った。
安倍は12日に行った施政方針演説で「戦後以来の大改革」に取り組むと訴え、具体的な政策課題の筆頭に農政改革を掲げたばかり。昨年10月に前経済産業相・小渕優子、前法相・松島みどりがダブル辞任した危機を電撃的な衆院解散・総選挙で乗り切った安倍が、再び閣僚不祥事に見舞われた。
西川が支部長を務める自民党支部は、国の補助金支給が決まった木材加工会社や砂糖業界から寄付を受けていた。政治資金規正法は補助金の交付決定から1年間、政党や政治資金団体への寄付を禁止している。
「違法性はないが、農相の職責に鑑みて、いささかも疑問を持たれないよう返金した」。17日の記者会見などで疑惑を否定していた西川は、農相就任前には自民党の環太平洋経済連携協定(TPP)対策委員長として交渉を支える立場だった。砂糖は、日本が米や麦とともに関税撤廃の例外とするよう求める重要5項目の一つであるだけに、民主党などは「疑惑の構図」として追及を強めていた。
西川が弱気を見せ始めたのは、辞任表明の数日前からだ。
「家族が参ってしまっている。もう嫌になった」
西川は親しい議員らに繰り返した。週末土曜日の21日、自身の選挙区にある栃木県日光市で開かれた会合に西川は欠席。心配した同じ栃木選出の自民党選対委員長・茂木敏充は「どうされたのですか」と電話をかけ「法的問題はない。支えますよ。安倍首相も西川さんの仕事ぶりをほめていました」と励ました。
「ありがとう」と元気に応じた西川だったが、辞意は首相官邸側に伝わっていた。
23日、西川が安倍に辞表を提出した直後、官邸に後任の前農相・林芳正が現れた。林は20日の時点で、周囲に「ひょっとしたら農相をやれと言われるかもしれない」と漏らしていた。官房長官・菅義偉を中心に、人選が進んでいたとみられる。
「任命責任は私にあります。国民の皆様にお詫び申し上げたい」
西川が退出した後、記者団にこう語った安倍は公邸に入り、自民党幹事長・谷垣禎一ら党幹部と予定通り会食した。安倍は「西川さんには、もう少し頑張ってもらえると思ったんだけど」と漏らした。
西川の問題が気に掛かっていたのか、安倍は変調をきたしていた。
民主党議員・玉木雄一郎が19日の衆院予算委員会で西川問題をめぐり「脱法献金だ」と追及した際、安倍は「日教組はどうするの」と自席からやじを飛ばし、翌20日に予算委員長・大島理森から注意を受けた。
安倍は同日の予算委で「日教組は補助金をもらっていて、民主党には日本教育会館から献金をもらっている議員がいる」と発言。これについて安倍は23日、「教育会館から献金という事実はなかった。記憶違いであり、正確性を欠いた。遺憾だ」と陳謝した。
西川の辞任を受け、野党側は「基本的質疑をやり直せ」と要求。24日に予定されていた衆院予算委の一般質疑は取りやめとなった。
政府、与党が目指した2015年度予算案の年度内成立は絶望的だ。
「もっと早く辞めるべきだった。首相も変なやじまで飛ばしてかばったわけだから、責任は重い」
民主党代表・岡田克也は23日夜、視察先の福島県庁で記者団に追及強化を宣言した。大臣2人が辞任した昨年の臨時国会に続く敵失に勢いづいたのは間違いない。
翻弄された「イスラム国」対応
それまで政府は、中東の過激派組織「イスラム国」による2邦人人質事件に忙殺されていた。
フリージャーナリスト後藤健二さん殺害の一報は、日本時間2月1日早朝に入った。急報を聞いた官房長官・菅は、全速力で首相官邸のエレベーターに駆け込んだ。安倍は記者団の前で涙を浮かべ「テロリストたちを決して許しません。その罪を償わせる」と表明した。
イスラム国が1月20日、湯川遥菜さんと後藤さんを拘束している映像を公開した際、安倍はイスラエル・エルサレムに滞在中だった。安倍はホテルのスイートルームに官房副長官・世耕弘成や外務副大臣・中山泰秀を集め、身代金要求に応じない方針や、ヨルダン・アンマンの現地対策本部に中山を派遣することを決めた。安倍は菅に電話でこう指示した。
「日本の2億ドルの中東支援は、あくまで人道支援だと発信してほしい」
今回の事件で特異なのは、後藤さんを拘束したとのメールを昨年12月初めに受け取った妻が、英国の危機管理コンサルタント会社に犯行グループとの折衝を依頼した点だ。後藤さんが英国保険会社の誘拐保険に加入していたため、そうした運びになったという。
日本政府は「テロリストと交渉はしない」との立場を決めており、イスラム国と直接交渉することはなかった。イスラム国が後藤さん解放の条件として、ヨルダンに収監されていた女死刑囚の釈放を要求してからは、ヨルダン政府の交渉に依存した。
政府対応に目立った問題点はなかったとの評価が支配的だが、政府内には「犯行グループとの折衝を妻任せにせず、政府が当たるべきだった」との意見がくすぶり続けている。日本政府が犯行グループに翻弄されたという敗北感が痛恨事として外交史に刻まれた。
野党は、政府が邦人2人の身柄拘束情報を昨年から把握しながら、1月17日のエジプトでの安倍演説でイスラム国対策として2億ドルの人道支援を発表したことの是非や、イスラム国に言及した演説内容の妥当性を追及した。
「ご質問はまるでISIL(イスラム国)に対して、批判をしてはならないような印象を我々は受ける。それはまさにテロリストに屈することになるんだろうと思う」
2月3日の参院予算委員会。安倍は共産党議員・小池晃が人質事件の政府対応をただしたのに対し、不快感をむき出しに反論した。
「これは首相の意向です」
安倍の「一強」らしからぬ余裕のなさは、足元で続く不協和音と無縁ではない。安全保障法制をめぐっては、与党内でも、公明との駆け引きも続いている。
「公明党は『ガチンコで議論したい』と言っている。与党協議は大変な運びになる」
自民党副総裁・高村正彦は2月12日、安全保障法制に関する与党協議の自民党メンバーと首相補佐官・礒崎陽輔らが党本部で開いた会合で、議論の先行きに不安をにじませた。
実際、翌13日、7カ月ぶりに再開された与党協議は早速紛糾した。政府側が武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」で、自衛隊が米軍以外の艦船なども防護対象にする法整備を提案したのに対し、公明党は「必要性が分からない」と反発した。
20日の協議では、政府が朝鮮半島有事を想定した周辺事態法を改正し、自衛隊の活動について地理的概念を撤廃する案を提示。他国軍の後方支援に向けた自衛隊の海外派遣を随時可能とする恒久法の新規整備も提案した。公明党側は地理的概念の撤廃をめぐり「99年の周辺事態法制定時、小渕恵三首相は『中東やインド洋は想定されない』と国会答弁している。整合性はどうなるのか」と指摘。恒久法についても「個別事案ごとに特別措置法を制定して対応すべきではないか」と疑問を呈した。
しかし、安倍は16日の衆院本会議で、「あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とすることが重要で、将来、具体的なニーズが発生してから、あらためて立法措置を行うという考え方は取らない」と、恒久法制定への意欲を強調し先手を打っている。通常国会での法整備を急ぐ安倍の方針に全くぶれはない。むしろ、ガチンコで協議に臨んでいるはずの公明党の抵抗が“及び腰”になっているのが実態だ。
「これは首相の意向です」。政府側は公明党幹部への個別説明の場で「殺し文句」をささやく。同党内には恒久法制定を容認する声も既に出始めている。現在の与党協議での強硬姿勢は、4月の統一地方選を前にした支持者向けのポーズだとの冷めた見方が強い。
何よりも大きいのは、支持母体・創価学会の変化だ。公明党が昨年末の衆院選で議席増を果たしたことについて、創価学会は自公選挙協力が成果を上げたと評価、官邸との良好な関係を維持する思惑がこれまで以上に先行している。昨年夏の集団的自衛権行使容認の閣議決定に関する自公協議当時の緊迫感には、ほど遠い。
今夏に発出する戦後70年の首相談話も、当面の焦点だ。政府は2月18日、談話策定に向けて設置する有識者懇談会の座長に日本郵政社長・西室泰三、座長代理に安倍ブレーンの国際大学長・北岡伸一を充てるなどの人事を内定した。ただ、有識者懇談会の結論は、今回は参考材料として扱われるにすぎないだろう。
談話内容は、もちろん安倍自身が決めることになる。東京裁判史観に違和感を抱く安倍は、談話で「未来志向」を強調する一方で、1995年の村山富市首相談話を上書きして「自虐的」な文言を葬り去るとの見方が大勢だ。連立与党の公明党は、村山談話に盛り込まれた「日本の植民地支配と侵略」などのキーワードが姿を消す事態を懸念する。
「改憲の争点化」に慎重な菅
安倍の究極の目標は、初の憲法改正だ。5月に予定される大阪市の住民投票で、維新の党の大阪都構想が認められた場合、最高顧問の大阪市長・橋下徹が来年の参院選に出馬するとの見方が浮上している。橋下の国政転出が起爆剤となって参院で現有11議席の維新が躍進すれば、安倍が悲願とする改憲がいよいよ現実味を帯びる。
安倍は2月4日、自民党憲法改正推進本部長・船田元と会い、参院選後に改憲を国会発議する日程案を確認した。首相補佐官・礒崎は21日の講演で、国会発議を受けた国民投票を「できれば来年中、遅くとも再来年の春ぐらいには実施したい」と語った。
一方、官房長官・菅は改憲を参院選の争点として打ち出すことには一貫して慎重な構えを取る。第一次政権当時の07年、参院選で改憲を掲げて惨敗した記憶がトラウマになっているからだ。安倍が維新との連携を強化すれば、公明党が連立政権の組み替えにつながりかねないと警戒することも想定される。公明党は憲法に環境権などを盛り込む「加憲」には前向きだが、官邸が維新と接近した場合、自民党の改憲草案が復古的だなどとして難色を示すかもしれない。
「どういう条項で国民投票にかけようか、発議しようかというところに至る最後の過程にある」
安倍は20日の衆院予算委で、改憲の現状認識を口にした。だが、衆院選での勝利もつかの間、西川辞任による求心力低下や与党内のあつれきなど、不安材料も目立ち始めた。9月の自民党総裁選に向けては、既に引退した元幹事長・古賀誠らリベラル派が安倍の対抗馬擁立をうかがう。
安倍が本当に長期政権を実現し「戦後レジームからの脱却」を果たせるのか、難所はこれからだ。 
「お友達内閣」安倍晋三内閣の菅義偉官房長官が「自爆気味」 2015/3
「お友達内閣」と言われている安倍晋三首相の女房役である菅義偉官房長官が、このところ、「友達関係」を鼻にかけて、わがまま三昧に振る舞い、内閣を攪乱している閣僚に、頭を悩ましているという。
その筆頭が、下村博文文科相だそうだ。熱烈な「支持者」の集まりである任意団体「博友会」にかかわる「政治とカネ」問題で安倍晋三内閣が揺さぶられているので政権運営を心配して、「辞めて欲しい」と伝えると、「どうして止めなくてはならないのか。安倍晋三首相と私との関係は、あんたより古くて長い」などと言って反発して、テンで相手にしないのだという。しかし、某週刊誌が近々に下村博文文科相に関する「スキャンダル」をすっぱ抜くという情報が伝えられているので、菅義偉官房長官は、下村博文文科相を助けるつもりはないという。「事と次第では、菅義偉官房長官自身が、安倍晋三首相を見限って自爆するのではないか」とさえ言われている。
やはり「友達関係」の塩崎恭久厚労相も、菅義偉官房長官の言うことに耳を貸そうとしないという。世耕弘成官房副長官が、130兆円にも上る国民の巨額の年金資産を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に新設の最高投資責任者(CIO)に、水野弘道氏(大阪市立大学法学部卒、ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院卒、英プライベートエクイティ=PE、未公開株=投資会社コラー・キャピタルの水野弘道パートナー)を送り込み、自由に運用させようとしたところ、日本銀行出身の塩崎恭久厚労相が2014年9月の内閣改造で就任し、待ったをかけたのがキッカケで、いがみ合うようになった。調整役の菅義偉官房長官が、世耕弘成官房副長官の上司という立場から、塩崎恭久厚労相に注意したのだが、安倍晋三首相とのお友達関係を鼻にかけて、これを聞き入れようとしない。このため、閣内でギクシャクが続いていて、菅義偉官房長官の「鼎の軽重」が問われているという。
9月の総裁選挙出馬に意欲を失っているかに見える麻生太郎副総理兼財務相や石破茂地方創生相は、「他人事」と冷ややかで、我関せずの構えだ。
中川郁子農水政務官が、不倫路上キス問題や緊急入院先の病室で喫煙した問題で野党の追及を受けた際、菅義偉官房長官は、「辞めさせることは考えていない」としながらも、積極的に庇う姿勢を見せず、「不祥事ドミノ」が続いて、安倍晋三政権が、自壊するのを待っている感さえある。安倍晋三内閣が、バラバラになってきていることと連動して、自民党内でも、バラバラ現象が起きているという。
谷垣禎一幹事長も覇気がなく、勢いづいているのは、二階俊博総務会長のみ。さりとて、総理総裁の大器であるかは、未知数である。中川郁子農水政務官とその相手の門(かど)博文衆院議員(和歌山1区落選→比例近畿ブロック復活当選)が、二階派所属というのも、辛い。
「巨象」をシンボルマークにしている自民党が、大勢力を誇りながら、統制が取れなくなったとき、「一体、だれを中心にまとまって行けばいいのか」という不安感が漂い始めているのだ。大きく太り過ぎると、かえって身動きが取れなくなるものらしい。 
サラリーマン組織に堕した自民党 2015/4
 経済で批判を封じる安倍。しかし、議論なき党内は静かに弱体化している。
「俺は安倍さんの後をヤル気はないね。もう年だ。あんたがやったらどうだい?」「いやいや、とても……」「私はとことん、尽くしていきますよ」
副総理兼財務相・麻生太郎と経済財政担当相・甘利明、さらに官房長官・菅義偉を加えた3人が、最近かわした会話の一端だ。
今秋の自民党総裁選での再選が確実視される首相・安倍晋三に、党内の死角はない。民主党が仕掛けた「政治とカネ」スキャンダルの攻勢も不発に終わった。再選されて参院選に勝ち、悲願の憲法改正へと突き進むため、安倍は高い支持率を支える「経済」に、まずは全力をあげた。
3月17日、春闘の一斉回答を翌日に控えた閣議前。安倍は甘利にこうつぶやいた。
「賃金が上がれば、野党が国会で私を攻める決め手はなくなる」
「アベノミクス」が恩恵をもたらしたのは富裕層、都市部、株を持っている人たちだけ――そんな不満が、じわじわと広がる。その芽を摘むため、安倍と甘利は賃金引き上げ=ベースアップに照準を合わせた。
準備は昨年12月から進められていた。
衆院選での自民党勝利を確信した安倍、甘利、麻生らは、春闘を見据えて製造業の集積地、愛知に足を運んだ。トヨタ自動車など世界に名だたる大企業の裾野は広い。その賃上げは、下請け企業を通じて愛知から全国へと波及する。安倍の意を受けた甘利は、「賃上げの効果を下請け企業にまで波及させることが重要だ」と説いて回っていた。
甘利と春闘について囁きあった日と同じ3月17日、安倍は参院予算委員会で「原材料価格の上昇分を、適正に取引価格に転嫁できるよう、下請けガイドラインを改定する」「下請け企業がしっかりと賃金を上げられる状況ができて、初めて本格的に消費が拡大していく」とぶった。
「取引価格」という業界用語を安倍が使いだしたのは年初からだ。「内閣総理大臣が『取引価格』という言葉を使うとは」と、経済界と労働界に驚きが広がった。
安倍と甘利の理屈は極めてシンプルだ。「輸出型の製造業が史上最高益を記録できるのは円安だから。円安はなぜ起こったか。アベノミクスだ。よって政権に協力するのは当然だ」。
官製春闘の標的となったトヨタは安倍に「満額回答」した。すでに凍結していた取引先への部品価格の引き下げ要請を今回も見送り、賃上げも一気に4000円にのせた。
3月16日、経産省出身のトヨタ副社長・小平信因は、甘利に「全力でやりました。もう一段のご理解をお願いします」と頭を下げた。
地方にアベノミクスを波及させる切り札としての賃上げには、官邸チームも動いた。
経産省出身の首相補佐官・長谷川榮一、政務秘書官・今井尚哉は財界人脈をフル動員した。民主党支持母体の連合にも手を伸ばした。連合にとって、どんな形であれ賃上げは歓迎すべき事象である。連合対策は経団連が引き受け、会長の榊原定征が連合会長・古賀伸明に頻繁に声をかけた。
古賀は「ベアの要求水準は2%以上とする」と高めの目標を打ち出し、結果として安倍内閣を後押しした。大企業、経産省、経団連、連合――政労使官によるスクラムが組まれた。
賃上げと同時に注力したのはアベノミクスの要である金融政策を司る日銀、とりわけ総裁・黒田東彦との関係であった。
黒田総裁との“復縁”
昨年10月末、予想外の追加金融緩和で日経平均株価を急騰させた「黒田バズーカ」。安倍はこの緊急緩和を、当時判断期限が迫っていた15年10月の消費税再引き上げへの「援護射撃だ」と受け止めていた。周辺には「結局、黒田も大蔵省の人間だということだ」と不快感を隠さなかった。
黒田は財務官、アジア開発銀行総裁を経て日銀トップに転じたが、大蔵省主税局の経験が長く、DNAは旧大蔵省の財政再建にある。財務省が仕掛けた消費増税を蹴散らすために、衆院解散・総選挙にまで打って出た安倍にとって、黒田日銀は「許されざる者」となっていた。
安倍と黒田の間は冷え込み、2月12日の経済財政諮問会議ではオフレコを前提に黒田が「日本国債が大変なリスクになる可能性がある。財政健全化を急ぐべきだ」と訴え、安倍が苦虫を噛み潰す一幕もあった。
株価が2万円近い水準にまで上昇してきたのは、日銀が指数連動型上場投資信託(ETF)を買い入れ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が日本株買いの比率を高めた「官製相場」の色合いが濃い。春闘で賃上げ目標が「2%以上」となったのは、日銀の物価上昇目標「2%」とも連動する。春闘と日銀はこの一点でつながる。安倍は黒田との関係修復に応じた。
3月23日、首相官邸で安倍と黒田は昼食をともにしながら1時間、半年ぶりで会談した。
会談後、黒田は「経済、金融の一般的な話をした」とだけ記者団に説明した。会談の中身よりも、不仲を囁かれていた首相と日銀総裁が顔を合わせたことが、なにより市場へのメッセージになるのだ。この日、日経平均株価の終値は194円高で約15年ぶりの高値を回復した。安倍の狙いはまたもや的中した。
「経済」で後顧の憂いはひとまずなくなった。集団的自衛権の行使容認を具体化する安全保障法制も3月20日、自民党と公明党でなんなく合意に達した。
折しも公明党の支持母体、創価学会では元総関西長・西口良三が3月15日に死去している。現在はミニ政党の党首に甘んじている元自由党党首、元民主党代表の小沢一郎が学会で最も気脈を通じていたのが選挙と政局のプロとみなされていた西口だった。1990年代から「反自民」の旗手だった小沢に近い西口の死と、安保法制のスムーズな合意は、もはや公明党が「自民党最大の集票基盤」になっていることを象徴的に示してもいた。
自公で合意した以上、安保法制は時間がかかっても必ず今国会中に成立する。安保法制の次に見据える憲法改正に向け、安倍は「維新の党」取り込みも怠りない。
2月20日、衆院予算委員会。維新国会対策委員長・馬場伸幸は2027年に東京―名古屋間で開通する予定のリニア中央新幹線について、2045年開通予定となっている名古屋―大阪間の建設前倒しを要請した。
実は、リニア新幹線に関しては維新創設者の大阪市長・橋下徹が「大阪都を実現して、東京―大阪間をリニアで結び、国の行政機構をまずは二極化。東京一極集中の是正策の切り札が大阪都構想と、東京―大阪間のリニア開業だ」と、大阪都構想実現に絡めて積極的に言及し始めていた。
安倍は「関係者で相談していただきたい」と公式答弁は型通りにとどめたが、答弁後には馬場に「JR東海の葛西敬之名誉会長に個人的に言っておきますよ」と話しかけた。安倍と菅は、橋下の意向を踏まえてリニア延伸にまで網の目を張り巡らせている。
総裁選も節目にならず
ひと昔前ならば予算案成立がかかる2、3月こそが、与野党攻防で最大のヤマ場だった。しかし最大野党・民主党のカゲは薄い。代表・岡田克也は網膜剥離で統一地方選の応援にさえ思うように飛び回れない。
政局の次の節目は9月の自民党総裁選だ。ところが、総裁選でさえも節目とはほど遠い状況にある。
「ポスト安倍」の最右翼と目される地方創生担当相・石破茂は3月21日、安倍の無投票再選でよいのか、とテレビ番組の収録で問われて「それぞれが与えられた役割をきちんと果たす、それ以外は考えてはいかん」と早々に白旗をあげた。
本来なら「ポスト安倍」に名前のあがっておかしくない麻生、甘利、菅の政権中枢も冒頭で紹介した会話のように、手をあげる気配はない。
わずかに前総務会長・野田聖子が3月8日に「危機的な状況にある日本を支えようとする人であれば、誰でも出馬を考える」と意欲をにじませた程度だ。野田は安倍と同期の衆院当選8回、元幹事長・古賀誠が初当選のころから目をかけて「将来の宰相に」と今に至るまで推す政治家だ。
とはいえ、野田への支持が広がるとも思えない。元防衛相・浜田靖一らが秋に向けて奔走するが、「総裁選出馬に必要な20人が集まるのか」と懐疑的な声も、党内には根強い。
安倍本人は「最初から誰も出ない、と決まるのはよくないよね」と余裕の言葉を漏らすが、これは本音でもある。無投票再選は、いいことばかりではない。総裁選は対立候補と争い、勝ち抜いてこそ党内基盤は固まる。1997年9月、無投票で再選された当時の首相・橋本龍太郎は2か月後の金融危機で失速すると翌年には退陣に追い込まれた。出身派閥の小渕派は橋本とは遠く、他派閥も様子見していた。橋本の退陣は再選から1年もたっていない。
「安倍一強」は、当時の橋本と同じように、砂上の楼閣に過ぎない。
いま自民党内では、政権の方針に逆らえば役職に就けないだけでなく、次期衆院選で公認されないかもしれないとの恐怖感が強い。事実、選挙区で負けて比例代表で復活した議員に対しては内閣官房参与・飯島勲らの進言で「連続して小選挙区で負けた議員の公認は、実績を評価して考え直す」とのアイデアが浮上している。小泉純一郎内閣は郵政民営化反対派に「刺客候補」を送り込む荒業を現にやってのけた。自民党は新人議員から幹部までが「上」の意向を気にせざるを得ない、“悪しきサラリーマン組織”に堕しているのだ。
古賀や総務会長・二階俊博らが「リベラルな自民党を」「党内議論の活性化を」といくら提唱しても、国会議員の意識は変わってしまったのだ。政権の勢いが持続しているうちは、反対論が大きくなるはずもない。
ワシントンとの鞘あて
反面、何かのきっかけで支持率が下がれば、党内にたまった不満と鬱憤は爆発し、政変を引き起こす。97年から98年にかけて橋本が直面したのは経済危機だった。一方の安倍も、経済の変調に直面する危険は否定できないが、蓋然性が高いのは外交だ。
3月23日、一時帰国中の駐米大使・佐々江賢一郎は外務省事務次官・齋木昭隆とともに首相執務室へ入り、安倍に4月26日から5月3日までの訪米日程を報告した。
首都ワシントンだけでなく西海岸までを回る一大旅行だが、正式決定前から鞘あてがあった。
2月、米大統領国家安全保障担当補佐官、スーザン・ライスが安倍の訪米を発表する直前の折衝では、中国国家主席・習近平の訪米を「State Visit(国賓訪問)」と呼びながら、安倍は「Official Visit(公式訪問)」と差がついていたという。日本側の主張で正式発表は日中とも「国賓級待遇」となったが、米オバマ政権と安倍官邸の距離はかくも遠いのが実態だ。
夏には戦後70年談話があり、米国、中国、韓国とのパワーゲームは本番を迎える。テロの懸念も消えず、ウクライナ情勢も不透明なままだ。25年前の夏に起こった湾岸危機は当時の首相・海部俊樹の覚束なさを際立たせ、翌年の退陣につながった。
いつ起きるか分からぬ危機とその対応は、永田町の空気を一変させかねない。 
安保法案を迷走させる「慢心」の官邸 2015/7
 憲法学者の違憲発言、支持議員の暴言。プロの手借りぬ国会対策は緩みきった
「好事、魔多し」「政界、一寸先は闇」。それは得てして、宰相の得意分野にあらわれる。
株価も高値で推移し、党内に敵もおらず、内政が万全なはずの首相・安倍晋三が窮地に陥ったのはまさに内政――国会対策である。
「戦後最長の会期にしよう」
6月19日昼、安倍は首相官邸で自民党幹事長・谷垣禎一、官房長官・菅義偉に伝えた。
1回しか会期を延長できない通常国会で、これまでの最長記録は鈴木善幸内閣の94日間。これを1日だけ更新し、95日間とすることで、日本の針路を変える重要法案である安全保障関連法案は「審議を尽くした」とアピールする狙いだ。この後、安倍は公明党代表・山口那津男にも「世論は丁寧な審議を求めている。戦後最長の期間で、じっくり議論する意思を国民に示したい」と説明した。
だが、安倍と菅の意向が当初、お盆休み前の8月10日までの延長だったのは公然の事実だ。それが、さらに長い会期延長に追い込まれたのは、潜在的に安倍に反感を持つ参院自民党の動向と、稚拙な国対のためにほかならない。
国会対策を軽視した官邸
6月16日、自民党の参院議員会長・溝手顕正は「9月末まで会期をとらないと、安保法案の成立は保証できない。他の重要法案もダメになる」と安倍に告げた。参院側は6月9日にも衆院執行部に「8月10日で会期を締めたら、法案に責任は持てない」と通告している。にもかかわらず、官邸と衆院の反応は鈍い。業を煮やした溝手の最後通告だった。
国対には「荷崩れ」という概念がある。
衆院で強行採決し、混乱した状態で参院に法案が送られてくることを指す。参院で自民党は過半数に届いておらず、野党が長期間、審議に応じなければ、会期は足りなくなる。溝手ら参院執行部がおそれたのは「荷崩れ」をきっかけに法案を成立させられない事態だった。
参院自民党は1989年以来、26年の長きにわたって一度も過半数を回復したことがない。しかも、来年に選挙を控える参院議員は安倍が第一次内閣の当時、参院選で惨敗した記憶が忘れられない。
「野党は大したことない」と周辺に漏らしていた安倍も参院の意向は聞かざるをえない。政権に返り咲いて衆院選に勝った安倍にとって、来年の参院選での勝利は第一次政権の悪夢を払拭するためにも、不可欠だからだ。
なぜ、安保法案がここまでトラブルの種になったのか。直接の原因は衆院憲法審査会で自民党推薦の学者までが、集団的自衛権の行使を「憲法違反」と断じたことにあるが、本質的には安倍政権が議会対策を疎かにし、国対や政策のプロの手を借りなかったことに尽きる。
国会対策委員長・佐藤勉や官邸サイドは「参院はだらしない、弱腰だ」「見通しが甘い」と参院の責任を言いつのる。だが、国対の司令塔は幹事長であり、官邸の力が強いときは官房長官が司令塔であることが、自民党の歴史だった。全体の日程、法案の進捗状況を把握し、的確な手を打つのが司令塔の役割だ。剛腕官房長官、菅の手腕はどうだったか。
会期延長を決める直前、菅は維新の党対策に全力をあげた。
6月14日、日曜日の夜に虎ノ門ヒルズにできた超高級ホテル「アンダーズ東京」の下界を見下ろすレストランで約3時間、菅は安倍とともに大阪市長・橋下徹と大阪府知事・松井一郎を歓待した。
安倍は大阪都構想で一敗地にまみれた橋下を「結果は結果だったけれど、よくここまで来たね」と労うとともに「維新のあの質問は本当によかった。本質をついていた」と、自らも出席した6月12日、衆院厚生労働委員会での一幕を披露した。この日の審議で、維新の足立康史が「日程闘争のための日程闘争だ。55年体制の亡霊がこの部屋にいる」と、審議拒否する民主党を批判していたからだ。
足立は経産官僚出身、当選2回の大阪系議員。橋下シンパの一員である。民主党と維新を離間させたい安倍と菅の、この維新大阪系議員への賛辞に、橋下と松井は相好を崩した。
このやりとりを踏まえ、橋下は「維新は審議引き延ばしなどの日程闘争はやりませんから」と応じてみせた。
さらに安倍は「橋下徹という政治家への期待は、なくなっていないんじゃないですか」ともリップサービスした。もともとの安倍―菅構想は「都構想で橋下が勝利→来夏の参院選で橋下出馬で維新が増加→野党再編派と維新大阪が分裂、橋下一派と連携する」とのシナリオだった。
いずれにせよ、橋下を担ぐ議員たちが、維新内の親・民主グループと袂を分かつことは安保法案の行方だけでなく、将来の憲法改正にとっても好都合であることは間違いない。その直後から橋下は「民主党とは一線を画すべき」などとツイッターで連続発信。野党陣営から維新を引きはがし、安保法案に賛成はしないまでも、審議には協力する態勢はできる、と菅は踏んだ。
菅は2日後の16日には、維新前代表の江田憲司、17日は維新国対委員長・馬場伸幸ら橋下に近い「大阪系」メンバー、19日には維新代表・松野頼久と次々に会談し、維新の感触を探った。
かつての国対政治なら、この手の会談事実が漏れてくるのはことを成してからだったのが、いまはリアルタイムで漏れてくる。菅が「会っていない」と否定しても、維新側が「官邸は俺たちのことを気にかけている」と喜び、会談が公知の事実となってしまう。
維新対策に奔走する姿に、連立を組む公明党からは不快感が出て、肝心の維新内部でも「政権に協力するのはおかしい」と揺り戻しが起きた。菅と安倍が頼みとする「橋下大阪系」は10人程度にとどまり、ほとんどの議員が当選回数も2回と少なく、松野や江田ら野党再編派の力は、いかに橋下の意向があれども無視できない。
菅をはじめとする官邸は「維新対策は長期戦だ」と見切り、大幅延長を決断する。参院の審議が滞っても、衆院で再可決できる「60日ルール」の適用を視野に入れた会期が、戦後最長のもう一つの理由だ。
サミット開催地と経産人脈
「国対」政治の本質は時間をかけた野党との話し合い、信頼関係にある。公明党との連立が始まって既に15年以上がたち、法案の調整は専ら与党内調整だけで済んだ。自民党全体に、野党と協議して果実を得る経験も実績も乏しい。
加えて安倍官邸には「世論の支持は野党にはない。内閣支持率がその証拠だ」との思いがある。この驕りが、時間をかけた野党との協議を軽視させる。
実は国対=議会対策は、民主主義国家の首脳にとって避けることのできない問題なのだ。「G7」の場では、共通の話題として「いかに議会対策が大変か」で盛り上がるのが通例。議会対策を上手くこなした首脳は、非公式な場で称賛される。米大統領、バラク・オバマも環太平洋経済連携協定(TPP)関連法案を通すため、野党・共和党と組んで複雑な議会対策を余儀なくされた。
議会対策の基礎となるのは日程、「国対カレンダー」だ。予算審議を軸に外交日程、自民党総裁選、野党の党首選や党大会、皇室日程を織り込み、審議できない時間を差し引いて日々更新していく。その時、大きな力となったのが野党にも人脈のあった旧大蔵省の日程管理表だった。
安倍官邸は財務省を敵視し、遠ざける。かわって差配するのは首相秘書官・今井尚哉を中心とする経済産業省グループである。今回、官邸の「国対カレンダー」が大幅に狂ったのは、議会対策に慣れぬ「経産カレンダー」をもとにしたことにも原因がある。
経産グループは国対だけでなく、外交でも蠢く。来年5月26、27両日に決まった伊勢志摩での主要国首脳会議(サミット)を主導したのも経産省一派だ。
サミット開催地となる三重県の知事、鈴木英敬は経産官僚出身で、第一次安倍内閣では官邸に勤務していた。安倍は鈴木に「政治家になるなら、30歳代でなった方がいい。私もそうだったから」と薦め、昨年の欧州訪問にも鈴木を参加させるなど親密な関係にある。さらに、鈴木は秘書官の今井とも先輩後輩の関係。サミット招致レースで最後に名乗りをあげたのは、今井が「今からでも遅くはない。サミットに手を挙げたらどうか」と鈴木に示唆したからだった。
鈴木は今年1月5日、伊勢神宮を参拝した安倍に立候補の意向を伝え、安倍も「いいよ」と即答した。外交を司る外務省もあずかり知らぬうちの今井―鈴木―安倍の連携によるサミット立候補の経緯が示すのは、最初から伊勢志摩が大本命だった事実だ。国対も外交も、財務省や外務省のプロフェッショナルを軽視して進めるのが、いまの手法だ。
総裁選は無投票濃厚
9月末までの延長で自民党総裁選と日程が重なり、安倍の対立候補が出るとすれば「この人がキーマン」とみられていた総務会長・二階俊博は6月23日の記者会見で「もし出馬の意向のある人がいれば、今年初めから動いているはずだ。今日現在、誰からもそんな話は聞かない」と安倍の無投票再選だと断言した。
延長を決めた衆院本会議に先立つ6月22日夜、自民党代議士会で安倍は「安保法制など戦後以来の大改革を断行する国会。もとより議論百出は覚悟のうえだ」と大見得を切ってみせた。周辺に「答弁は全部俺がやる。民主党などの反対論は論破してやる」と漏らす意気軒昂ぶりが、挨拶に表れていた。
しかし、超長期の延長は総裁選に好都合に働いても、副作用ももたらす。
8月の「戦後70年の談話」は国会会期中になる。野党の追及、中国・韓国の反応、米国の態度など、不確定な要素が安保法案の参院審議のヤマ場にかかってしまうのだ。
日米首脳会談、ドイツでのサミットと外交で成果をおさめながらの内政の失態に、内閣官房参与・飯島勲は「これはまずい。宮沢喜一内閣は国連平和維持活動(PKO)協力法でしくじったとき、国対委員長を剛腕の梶山静六氏に交代して成功した。あの故事にならい、国対関係者を総入れ替えすべきだ」と声をあげた。
官房長官の菅が師と仰いだ梶山は国対カレンダーを「工程表」と呼び、国会対策は「芸術作品だ」と言って憚らなかった。沖縄対策の法案を通した時には国会議員だけでなく連合や創価学会にまで手を伸ばした。その細心さは、いまの官邸にはない。
それどころか、安倍を支持する保守系議員の勉強会では沖縄、マスコミを巡る暴言が相次ぎ、執行部は土曜日の6月27日に党青年局長・木原稔を更迭せざるを得なかった。緩みと慢心は安倍支持グループ全体に広がっている。
不吉な符合もある。通常国会では戦後最長だが、実は総選挙を受けた特別国会なら最長は田中角栄内閣の280日間がある。
日中国交正常化をなしとげて「決断と実行」を掲げ、高い支持率を誇ったはずの田中内閣はこの国会の途中で失速。最後は重要法案を力でごり押しし、国会閉幕の翌年には退陣に追い込まれた。その特別国会閉幕日は、くしくも今回と同じ9月27日。まさに「政界、一寸先は闇」である。 
首相 礒崎氏は法的安定性重視し職務続ける 8/4  
安全保障関連法案を審議する参議院の特別委員会で、安倍総理大臣は、法案を巡り「法的安定性は関係ない」などと発言した礒崎総理大臣補佐官について、政府として法的安定性を重視していることを礒崎氏も十分理解して職務を続けていくと強調しました。  
この中で、自民党の佐藤正久元防衛政務官は、国連のPKO活動に参加する自衛隊について、「国内でできることがPKO活動ではできないギャップに、これまで現場の隊員が悩んだり迷ったりしたことがあった。実情を見極め自衛隊が動けるよう法改正するのが政治の責任だ」と質問しました。  
これに対し、安倍総理大臣は「法律が不十分であることを、現場の自衛官に埋めさせてはならない。法律の不備を埋めるのは行政と立法府の責任であり、今回はそのための法整備だ。現場の課題に対処する形で法整備されてきたが、まず現実を見て法律を整備してから、自衛隊員を現場に送るという順番でなければならない」と述べました。  
民主党の櫻井元政策調査会長は「安倍総理大臣は日頃から『自衛隊員のリスクは軽減する』と言っているが、新しい任務に機雷の除去作業が入ればリスクが高くなるのは当然ではないか」とただしました。  
これに対し、安倍総理大臣は「私は『リスクが減る』ということを機雷の除去について言ったことはなく、PKO活動で同じ基地をともに警護できるようになるという文脈で申し上げている。従来も、自衛隊はペルシャ湾における機雷の掃海にあたったが、停戦後に行ううえでも相当な危険が伴う作業であることは言を待たない」と述べました。  
公明党の矢倉克夫参議院議員は「いろいろな人が防衛費が2倍、3倍に膨れあがるのではないかというイメージを持っているが、今回の法案は、自衛隊が、今持っている能力をしっかり活用するためのものであることを確認したい」とただしました。  
これに対し、安倍総理大臣は「新たな法制により、全く新しい装備が必要になったり、装備の大増強が必要になったりすることはなく、防衛予算が2倍、3倍に膨れあがることは全くない。今後も厳しい財政事情を勘案し、効率化・合理化を徹底した防衛力の整備に努めていく」と述べました。  
維新の党の小野幹事長代理は、集団的自衛権の行使について、「『われわれや国家が生き延びるための最小限の自衛権の行使だ』と言っていながら、国民保護法制や国内の防衛体制にもリンクしていない。他国のドンパチを応援に行くだけではないか」と指摘しました。  
これに対し、安倍総理大臣は「公海上でアメリカの艦船を守る行為などの際に、国民保護法制をかけることは、国民にさまざまな義務を負ってもらうことにもなり、国民の権利も縛ることになる。存立危機事態においては、そこまで求める必要はないだろうと考えた」と述べました。  
共産党の仁比参議院国会対策副委員長は、海上自衛隊の内部資料では存立危機事態で機雷掃海や後方支援、アメリカの艦船の防護などを同時に行うことが想定されていると指摘したうえで、「わが国への武力攻撃がないにもかかわらず、これだけのことをやるのは憲法違反でなくて何だというのか」とただしました。  
これに対し、安倍総理大臣は「何ができるかをイメージ図として1枚の紙にまとめて書いているものだ。武力行使の新3要件にあたることが前提で、この中のものを全部やるということではなく、総合的に判断していくことになる」と述べました。  
社民党の福島副党首は、法案を巡り「法的安定性は関係ない」などと発言した礒崎総理大臣補佐官について、「更迭すべきだ。集団的自衛権の行使を初めて合憲とし、法的安定性を最も破壊している安倍総理大臣だから更迭できないのではないか」と指摘しました。  
これに対し、安倍総理大臣は「礒崎総理大臣補佐官は発言を取り消し、撤回した。政府としては法的安定性を重視しており、昭和47年の政府見解の基本的な考え方や論理はそのまま踏襲している。そのことは礒崎氏も十分理解しており、今後、誤解を受ける発言をしないことは当然だ。そのうえで職務を続けていく」と述べました。  
また、中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣は、外国軍隊への後方支援で弾薬の提供を可能にすることに関連して、「ミサイルや劣化ウラン弾、クラスター爆弾は弾薬にあたるのか」と質問されたのに対し、「劣化ウラン弾もクラスター爆弾も弾薬だ。ミサイルについては、あえて当てはめるとすれば弾薬にあたる」と述べました。これに関連して、安倍総理大臣は「クラスター爆弾については、日本は禁止条約に加盟し、所有していないので、提供することはありえない。劣化ウラン弾もそうだ」と述べました。  
さらに、中谷大臣は、「サイバー攻撃に対して集団的自衛権を行使することはありうるのか」という質問に対し、「新3要件を満たす場合に、武力攻撃の一環として行われたサイバー攻撃に対し、武力を行使して対応することも法理としては考えられる。ただ、これまで、サイバー攻撃に対して自衛権が行使された事例はなく、現実問題としては、国際的な議論を見据え、さらに検討を要する」と述べました。 
無念の安倍談話、決着の舞台裏 2015/9
 「村山談話」を上書きするという宿願は、なぜ叶わなかったのか
8月14日午後6時。首相官邸の1階にある会見場は、張り詰めた空気に包まれていた。海外メディアも生中継しているその場で、安倍は戦後70年談話をこう切り出した。
「8月は、私たち日本人にしばし立ち止まることを求めます。今は遠い過去なのだとしても、過ぎ去った歴史に思いを致すことを求めます」
安倍は25分もかけて、演台横に備え付けられた左右のプロンプターに交互に目をやりながら、静かな口調で談話を読み上げた。だが、これまで会見への準備を怠らない安倍には珍しく、6カ所も談話を読み間違えた。4月29日の米議会演説でみられたような高揚感も、全く感じられない。
村山談話からの脱却にあれほど意欲を示していた安倍。過去の植民地支配と侵略を認めた20年前の村山談話を、どこまで「上書き」するかに、国内外の注目が集まっていた。しかし、村山談話で用いられた4つのキーワード「侵略」「植民地支配」「痛切な反省」「おわび」は次々と読み上げられ、結局は全てを踏襲する結果となった。
これらのキーワードを使う際に引用や間接話法を駆使したこと、「子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と謝罪外交の終わりを提示したことが、精一杯の「安倍カラー」だった。欧米諸国は歓迎し、反発が予想された中国、韓国ですら抑制的な反応だった。これが、当たり障りのない談話となったことの証左だろう。
内外が注目した談話だけに、内容が事前に漏れないように細心の注意が払われた。メディアへの談話の事前配布は勿論なかった。さらには、談話を閣議決定した臨時閣議ですら、ある閣僚は内閣官房副長官・世耕弘成が読み上げることで内容を知り、封筒に入った談話本文を見ることなく署名を促されたというほどの念の入れようだった。
言及回避を狙った「おわび」
談話の内容をめぐって、安倍はこの数カ月間、理想と現実の間で揺さぶられ続けていた。
4月末、スタンディングオベーションに包まれた米議会演説を終え、ワシントンからサンフランシスコに向かう政府専用機の機上にいた安倍は手応えを感じていた。
「今回の原稿は非常に良かった。70年談話にも十分使えるよね」
満足げな表情を浮かべながら周囲に語った。安倍にとって、喉に刺さった小骨のように引っかかっていたのは、側近からの「談話の本質は外交問題。対象は中韓ではなく米国だ」という忠告だった。この議会演説の成功で、米国における「歴史修正主義者」との懸念が払拭され、新談話へ弾みがついたのだ。
議会演説では先の大戦への「痛切な反省」「深い悔悟」を盛り込む一方で「おわび」は回避していた。この1週間前のバンドン会議の演説でも「侵略」に言及したが、引用にとどめた。この時点で、新談話では「侵略」は引用、「おわび」は回避とのプロットが固まった。
しかし、この構想は2カ月足らずで転換を強いられる。原因は、この夏のもう一つの肝煎り案件である安全保障関連法案の審議難航だ。通常国会として戦後最長となる95日間の延長を余儀なくされ、70年談話も国会開会中に出さざるを得なくなったのだ。
国会開会中の談話発表は、安倍の選択肢を狭めた。自身の思いを反映させた談話を発表すれば、村山談話の継承を訴える公明党との「閣内不一致」と野党から追及を受ける。「今回は好きなようにやりたい」との安倍の要望を踏まえ、検討していた閣議決定をしない安倍個人の談話とする案も、国会での野党の追及をかわすため、公明党の太田昭宏国土交通相の署名が必要な政府の公式見解である閣議決定とする方針に傾いた。
それまで、安倍の口述を聞き取りながら原案作りをしていたのは内閣官房副長官補・兼原信克や首相秘書官・今井尚哉らだった。安倍は彼らを執務室に呼び、「おわびを入れた文案を作るように」と、指示せざるを得なかった。ただ同時に「この件に関してはマスコミに漏れないように」とくぎを刺すことを忘れなかった。この時点ではまだ「おわび」の言及を回避する機会をうかがっていたからだ。
そんな安倍のかすかな期待すら打ち砕いたのが内閣支持率低下だ。7月16日の安保法案衆院通過後、各社の世論調査ですべて内閣支持率が不支持を下回る逆転現象が起きた。支持率に過敏な官邸は大いに揺れた。
そして、安倍が最終的に決断を下したのは、7月下旬だった。
「今の状況では、これでいくしかない」。無念の表情を浮かべながら、兼原らに新たに作成させた「おわび」入り原案を了承した。
決断を受けて、8月5日から7日までの3日間で、自民党幹事長・谷垣禎一や総務会長・二階俊博、公明党代表の山口那津男ら政権幹部と次々と会談し、14日の閣議決定と原案了承を取り付けた。
同時に安倍を支持する保守派の政治家、論客らへのケアも怠らなかった。自ら電話をかけ、ある議員には「私が謝ったわけではないですから」と、引用を多用した談話の内容を説明し、理解を求めた。
「おわび」を受け入れた安倍が、最後にこだわったのは、謝罪を繰り返すことに「区切り」をつけることと、さらには談話を発表する「場」だった。
「区切り」については、総務相・高市早苗から差し入れられた、戦後処理で常に引き合いに出される西ドイツ大統領のワイツゼッカーの資料が役立った。彼が1985年に行った演説にあった「自らは手を下してはいない行為について自らの罪を告白することができない」との文言から着想を得て、「謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」との一文を盛り込ませたのだ。
「場」については、国民に丁寧さをアピールしようと、国会本会議での発表を模索した。しかし、参院自民党幹部が「国会で発表すると、発言を受けて予算委開催などを求められ、安保法案審議に影響しかねない」と大反対。安倍も引き下がらざるを得なかった。
「これで良かったんだろう」
14日の会見直後、安倍は執務室に戻る途中、今井ら秘書官にそう呟いた。その日の夜、夕食を共にしていた副総裁・高村正彦にも「良かったでしょ」と会見の感想を求めた。安倍の心中をおもんばかった高村は、その時点で会見を見ていなかったが「良かった」と同意するしかなかった。
沖縄と官邸を繋いだ男
安保法案、70年談話、原発再稼働……。大きな課題が続く中、支持率低下に歯止めを掛けるため官邸が動いたのが、米軍普天間飛行場の辺野古移設問題だ。
表面化したのは、8月4日午前の官房長官会見だった。安倍にこの問題を丸投げされている菅は、8月10日から9月9日までの1カ月間、全ての移設作業を中断し、沖縄県側と集中的に協議することを明らかにした。
この種の発表には珍しくメディアに事前に漏れることはなかった。背景には、半年以上に及ぶ菅と沖縄県副知事・安慶田(あげだ)光男による水面下の入念な摺り合わせがあった。
安慶田は那覇市議会議長を務めた那覇市政の重鎮。「辺野古移設反対」を掲げ自民党沖縄県連に反旗を翻し、那覇市長だった翁長雄志を県知事に担ぎ上げた立役者の1人で、翁長の知事就任とともに副知事に起用された。
菅と安慶田の2人をつないだのは、全国市議会議長会の前会長で、前横浜市議会議長(現市議)の佐藤祐文だ。佐藤は菅と同じ小此木彦三郎の秘書出身で、菅には仲人をしてもらったほどの間柄。一方、九州市議会議長会会長だった安慶田とは、議長会を通じて旧知の仲だった。
佐藤の仲介によって、1月以降、水面下も含めた菅と安慶田の会談は十数回にも及んだ。2人は同い年ということもあり意気投合したものの、当然ながらスタンスは大きく異なる。菅は「辺野古移設が唯一の解決策」との立場で、安慶田は「辺野古移設は反対」。両者の“水面下のチャンネル”として機能しても、具体的な動きが生まれるわけではなかった。
そこに手を差し伸べたのが、菅と初当選同期で沖縄県出身、維新の党の下地幹郎だ。5月下旬、訪米中の翁長にメディアが集中するのを見計らって、安慶田は密かに上京、菅と会談した。下地、外務省国際法局長の秋葉剛男、防衛事務次官の西正典も同席していた。下地が「政府は移設工事を中断、県も埋め立て承認の取り消し手続きを中断し、両者が集中的に交渉すべきだ」と提案。安慶田の感触も悪くない。決定的な対立を回避したい菅にとっては渡りに船だった。早速、秋葉に米国の理解が得られるか探るように指示した。
その後も、2人は水面下で交渉を重ね大筋合意。7月4日、東京・虎ノ門のホテルオークラの日本料理店「山里」で、菅はいよいよ翁長、安慶田と向かい合った。この日、普天間問題は話題に出なかったとされるが、当然ながら事実は異なる。
「方向性は違っても互いが険悪にならないようにしましょう」
テーブルに出された天ぷらを前に、菅は集中協議期間の設置を提案。翁長も赤ワインのグラスを置き、菅の申し出に対し前向きに返答した。
しかし、両者が同床異夢なのには変わりはない。
9月9日という集中協議の終了時期にも危うさが伴う。この時期は、参院での安保法案審議が佳境を迎え、自民党総裁選の告示が控える。当初、中断期間を3カ月にする案もあったが、沖縄県側の要望で1カ月に落ち着いた。
政治日程を考慮すれば、政府側は一方的に打ち切ったと思われないように譲歩せざるを得ず、沖縄県側が期間延長を見越してまずは「1カ月」という期間を打診したとみられる。政府と県の腹の探り合いはしばらく続く。
秋の難題は「人事」「経済」
集中協議の終了時期と重なる自民党総裁選は無風の公算が大きく、安倍の再選は確実だ。関心は、10月にも予定される内閣改造と党本部人事に移りつつある。副総理兼財務相・麻生太郎、経済財政担当相・甘利明、官房長官・菅ら主要閣僚と、幹事長・谷垣、総務会長・二階らの留任は既定路線だ。
問題になるのは、地方創生担当相・石破茂の処遇だ。石破は18日夜、東京・永田町のホテルで側近の元金融担当相・山本有二、元環境相・鴨下一郎と意見交換。この日は結論が出なかったが、石破は総裁選出馬を見送る方針。改造で閣外に去れば、一時の求心力は失っているとはいえ、ポスト安倍という立場が鮮明になる。
昨年末の衆院選を経て、“入閣適齢期”と呼ばれる衆院当選5回以上の議員は自民党で50人以上に膨れあがった。安倍の出身派閥細田派の細田博之会長も「アフター・ユー(お先にどうぞ)、アフター・レディー(女性優先)の精神は少し修正しなければいけない」と待機組の処遇を公言する。安倍が総裁再選後、人事で誤れば党内にたまる不満が噴出する。
安倍政権の最大の支えだった経済にも「黄信号」が灯り始めた。8月17日に発表された4―6月期のGDPの伸び率は、3四半期ぶりのマイナス成長。甘利は「(景気)回復の見込みはかなりある」と強気の姿勢だが、25日には中国の景気減速懸念に端を発した世界同時株安が進行、日経平均株価は終値で1万8000円を割り込んだ。
重要課題が続いた猛暑の夏を過ぎても、安倍が穏やかに過ごせる日は遠い。 
融解寸前、民主を揺らす小沢一郎 2015/12
 園遊会の立ち話で解党論議。「らしさ」の抜けない野党第一党の迷走は続く
全国の注目を集めた大阪ダブル選挙は、2015年11月22日に投開票を迎え、府知事選は現職の松井一郎、大阪市長選は新人の吉村洋文が当選した。どちらも地域政党「大阪維新の会」が推す候補。NHKはじめ報道機関が、投票が締め切られた午後8時、一斉に2人の当選確実を伝える圧勝で、前任の市長となる橋下徹の政治的影響力が健在であることをまざまざと見せつけた。
自民党は、市長選で勝ち「一勝一敗」の五分に持ち込みたかったが2敗に終わった。同時に行われた大阪市議補選(西成区)も負けているので、厳密にいえば3連敗となる。
だが、党全体がダメージを受けているようには見えない。橋下率いる国政政党「おおさか維新の会」は早晩、安倍政権と共同歩調をとると噂されている。松井が官房長官・菅義偉と昵懇の仲であることも周知の事実だ。安倍政権にしてみれば、この選挙は勝っても負けても痛くない選挙。言い換えれば自民一強の時代を象徴する1日だったともいえる。
主要20カ国・地域(G20)首脳会議出席のためトルコ・イスタンブールを訪れていた首相・安倍晋三に悲劇の一報が届いたのは現地時間13日の夜だった。
「フランス・パリで同時多発テロ発生。死傷者多数」
どういうわけか安倍は、外遊中に大きな出来事が起きる。1月の「イスラム国」がジャーナリスト・後藤健二らの拘束を公表した時、安倍は中東訪問中。2013年1月、アルジェリアの人質拘束事件の時は東南アジア歴訪中だった。古くは安倍の首相としての初外遊となった06年10月には、北朝鮮の核実験の知らせを北京からソウルに飛ぶ専用機の中で聞いた。
「慣れている」からというわけではないのだろうが、安倍は留守を預かる菅に電話で「テロ対策に緊張感を持って当たるように」と指示。翌朝に自ら「断固テロを非難する」とメッセージを発した以降は、粛々と外交日程をこなした。17日昼にいったん帰国すると、その20時間後、翌朝にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が行われるマニラに。そして20日からはマレーシアに飛び、22日の東アジアサミット(EAS)などの国際会議に臨んだ。
一連の会議の中で安倍はEASを最重視していた。米大統領・オバマやアジア諸国首脳と連携し、中国が南シナ海で人工島を造成する動きに強い警告を発し、包囲網を敷こうという考えでいたのだ。
EASが開会する直前のわずかな時間に、日中両国は神経戦を繰り広げている。安倍が、フィリピン大統領・アキノと談笑していると中国首相・李克強が近寄り、随行の日本語通訳を介して「ソウルで行われた日中韓首脳会談は良かったですね」などと話し掛けてきた。安倍は、李克強の話に同調しながらも「南シナ海の問題をEASで取り上げないように牽制してきたな」と感じた。安倍の方は逆に李克強が、日本の歴史認識問題を取り上げるかどうか、気にしていた。
EAS会合は、発言を希望する首脳がボタンを押し、それに沿って議長に指名されるというルールだった。アジア各国の首脳が相次いで中国を批判する発言をしたが、安倍はなかなかボタンを押さなかった。李克強は安倍の発言を見極めてから発言をしようと考えていたのかもしれないが、しびれを切らしたようにボタンを押し、先に発言。歴史認識などで日本を非難することはなかった。それを見届けて、最後に安倍が「大規模かつ急速な埋め立てや拠点構築、軍事目的での利用の動きが今なお継続している。深刻に懸念する」と訴えた。
中国からの日本批判を封印させ、中国包囲網を敷くことに成功したことになる。「待ち」の戦術が当たり、安倍は会議後の随行団との懇談会でもいつになく上機嫌だった。
2つの「TPP」
安倍が1カ月の半分、日本を空ける外交重視シフトを敷いた11月。国内では憲政史上珍しい事態が起きていた。臨時国会が開かれなかったのだ。
憲法53条には「いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」とある。それに従い野党は召集を求めたが要求は封殺された。
安倍の外交日程が立て込んでいたことや、通常国会が95日間も会期延長されたことで秋以降の政治日程が窮屈になったという事情もあった。ただ最大の理由は「できれば開きたくない」と政府・与党が考えていたからだった。
10月から11月にかけて永田町では「2つのTPP」の嵐が吹いていた。一つは言うまでもなく大筋合意した環太平洋経済連携協定。安倍政権は「画期的な合意」と胸を張るが、農家、酪農家などの反発は強い。12年の衆院選で自民党がTPP反対を訴えていたこととの整合性も問われている。
もう一つのTPPは、与党国対などの間で、暗号のように使われている言葉、「タカギ・パンツ・プロブレム」だ。復興相・高木毅が約30年前、地元・敦賀市で女性宅に侵入し下着を盗んだとされる問題は、週刊誌報道で火がつき騒動となった。「大臣が下着泥棒」という前代未聞の疑惑は、かねて「脇が甘く、閣僚は任せられない」とささやかれていた高木を起用した安倍の任命責任が問われかねない。
「2つのTPP」以外にも、政権側は多くの難問を抱える。
9月に成立した安保関連法は、今も国民の過半数が反対する。消費税が10%に上がる時に導入する軽減税率を巡っては与党内の自民、公明両党の間でせめぎ合いが続く。国会が開かれれば野党側は、与党内の足並みの乱れを追及してくるだろう。一連の難問を追及されるのを回避したい。これが政府・与党の本音だ。
憲法に従い、召集すべきだという動きは政権内にもあることはあった。衆院議長・大島理森は、12月初旬に10日程度だけ臨時国会を開くという案を首相官邸側に打診している。だが回答は「ノー」だった。
臨時国会を開かないことが決まったのは11月12日。安倍と自民党幹事長・谷垣禎一の会談だった。だが、会談後記者対応した谷垣は、その事実を明かさなかった。「召集せず」は16日に安倍がトルコで行う同行記者団との懇談で明かすことになっていたのだ。こんな回りくどい手法をとることからも、政権内で安倍の存在が突出していることがうかがえる。
臨時国会が開かれなかったのは野党側にも問題がある。
10、11の両日には衆参で1日ずつ予算委員会が、閉会中審査という形で開かれたが、ここで野党が政権を追い詰めれば「本格論戦が必要だ」と世論も高まっていただろう。しかし野党側はそれができなかった。特に代表・岡田克也、元外相・前原誠司らエース級をそろえて臨んだ民主党の低調さは顕著だった。この時、民主党は分裂含みの内紛で揺れ、安倍政権を追及する態勢はとれていなかったのだ。
「左に振れすぎた」
11日。つまり岡田と前原が国会で質問した翌日の夜。東京・赤坂のANAインターコンチネンタルホテル東京には前原、政調会長の細野豪志、そして結いの党の前代表で今は維新の党の江田憲司の姿があった。3人は、民主党を解党し、ゼロベースで維新の党などと野党結集を図るべきだという考えで一致した。
「一度裸になって、一つの理念に沿って再結集すべきだ」
議論をリードしたのは江田だった。この夜の会合で前原と細野は記者を避けるように地下から会場に入り、帰りも地下から出ようとした。ところが江田が「カメラの前を通って帰りましょう」と促したため、結局、民主党の2人はマスコミの前を通って細野の車でホテルを後にし、それが報じられて話が大きくなった。
翌12日午後、前原は東京・元赤坂の赤坂御苑で行われた園遊会の席で顔を合わせた岡田に、前夜の会合の経緯を伝え、決断を迫った。が、岡田は「単なる看板の掛け替えではダメだ」と難色を示した。これほどの重大な案件を皇室行事の合間の立ち話でするというのも、いかにも民主党らしいが、結果として話し合いは平行線に終わり、党分裂か、との緊張感が走った。
それにしても、安保法案の審議の過程では、反対の世論を背に攻勢に立っていたように見えた民主党が、なぜ内紛に直面しているのか。これについては、自民党の会合で谷垣が口にした「先の国会でわれわれも傷ついた。そして、左に振れすぎた民主党も傷ついた」という解説が正鵠を得ている。
民主党の中には、安倍の外交・安保政策に一定の理解を示す議員が少なからずいる。その代表格が前原であり、細野である。彼らは先の国会で岡田執行部がとった「安保法案絶対反対」の抵抗野党ぶりに失望した。
亀裂をさらに深めたのが共産党との連携問題。「国民連合政府」構想を掲げる共産党委員長・志位和夫のラブコールに岡田が前向きと見えたことに、前原らは強い危機感を持った。その彼らが民主党解党を訴えた。民主党内では野党結集を図るべきだという点では一致しているが、岡田ら執行部は共産党も排除せず左側から進めようとし、前原らは「センターライト」に戻した結集を目指す。この路線対立が今回の解党騒動の本質だ。
今度こそ最後?
野党再編問題を複雑にしているもう一つの要因が「生活の党と山本太郎となかまたち」の共同代表・小沢一郎の存在だ。民主党の歴史の中で「親小沢」か「反小沢」かは永遠のテーマである。岡田、前原、前首相の野田佳彦、幹事長の枝野幸男ら、かつて「七奉行」と言われた幹部は反小沢を結集軸にしていた。岡田、枝野ら執行部は今も小沢との連携には慎重だ。
一方、前原は親小沢側に転向している。05年9月の衆院選で民主党が惨敗を喫した時、小沢は前原の後見人である稲盛和夫を介して「君を代表に推すから、党務は任せてほしい」と「前原代表・小沢幹事長」を打診してきたことがある。前原はこれを断り、以来2人は疎遠になっていた。だが前原と小沢は12年に政権転落して以降、2人だけで3回食事を共にしている。過去の恩讐は薄れ「今なら一緒にできる」と言ってはばからない。今は細野も、小沢と組むことに違和感がない。
その小沢は、2016年の参院選を「最後の戦い」と位置付け、野党結集の旗振り役を演じようとしている。ここ10年あまり小沢は選挙や政局の度に「最後」を乱発しているが、73歳という年齢からしても、今度こそ本当に「最後」となるだろう。
最近小沢は、かつて民主党で同じ釜の飯を食いながら今は別々の道を歩んでいる議員のパーティーを精力的に回る。かつての「壊し屋」がつなぎ役を果たそうとしている。批判も根強いが、過去自民党が下野した2回の政局で、小沢はいずれも主役だった。
民主党の岡田執行部と前原らの確執は、双方トーンダウンして、年内の分裂は回避したようだ。当面は民主党と維新の党の統一会派を目指す。ただ共産党と小沢を縦軸、横軸に置いた再編のグラフを作れば、党内の意見はあまりにもバラバラで、一本化が難しいのは明らかだ。
近い将来、再び激しい対立が表面化する可能性は十分にある。そして、その展開は、安倍にとってありがたいシナリオなのだ。 
『報ステ』降板、古舘伊知郎を追い詰めた安倍政権とテレ朝上層部の癒着! 2015/12
ついに、懸念されてきた日がやってきた。古舘伊知郎が『報道ステーション』を降板するというのだ。テレビ朝日の発表によれば、古舘自らが契約終了となる来年3月に降板したいと申し出たといい、本人は「新しいジャンルに挑戦したい」という意志を示しているという。
しかも、古舘の降板について番組プロデューサーをはじめとする現場スタッフは、昨晩まで一切、伝えられていなかったらしい。
「昨晩は年内放送の最終日で、番組終了後に納会が開かれ、早河洋会長、吉田慎一社長、そして古舘さんも挨拶したのですが、まったくそういうそぶりはなかった。鋭気を養って来年も頑張ろう、みたいな感じで。プロデューサーも知らされていなかったようで、会がお開きになった後、降板が伝えられたそうです」(テレ朝関係者)
つまり、今回の番組降板は、ごく一部のテレ朝上層部と古舘のあいだで秘密裏に交渉されてきたということになる。
だが、「古舘自らが降板を申し出た」という発表を、額面通りには受け取ることはできない。本サイトは1年以上前から言及してきたように、古舘はずっと安倍政権からの報道圧力に晒されつづけていたからだ。
そもそも『報ステ』およびキャスターの古舘は、ことあるごとに自民党から「偏向報道だ!」と抗議を受けてきた。だが、今回の降板にいたる流れがはじまったのは、一昨年のこと。2013年3月22日には、安倍首相は昵懇の仲である幻冬舎の見城徹社長による仕切りで、テレ朝の早河洋会長と会合。それ以降、早河会長は『報ステ』の安倍政権・原発批判路線からの転換を迫ってきたといわれている。
しかし、こうした早河会長からのプレッシャーに対し、古舘と番組の現場スタッフは抵抗を見せてきた。実際、昨年4月に開かれた「報ステ」10周年パーティーで挨拶に立った古舘は、こんな挨拶をしている。
「早河社長から好きなようにやってくれ。何の制約もないからと言われて始めたんですが、いざスタートしてみると制約だらけ。今では原発の“ゲ”も言えない」
そんななかで起こったのが、昨年9月の川内原発報道問題だ。BPO案件となったこの問題を盾に安倍政権は『報ステ』への圧力を強める。さらに今年1月には、コメンテーターを務めていた古賀茂明の「I am not ABE」発言が飛び出し、官邸は激怒。番組放送中の段階から官邸は直接、上層部に抗議の電話をかけてきたという。そして、早河会長の主導により、古賀の降板とともに古舘からの信頼もあつかった番組統括の女性チーフプロデューサーも4月に更迭されてしまう。
それでも、古舘は踏ん張りつづけた。安保法制をめぐる議論では問題点を検証、参院特別委での強行採決前夜に古舘は「平和安全法制というネーミングが正しいのかどうか甚だ疑問ではあります」と述べた。これには番組スポンサーだった高須クリニックがスポンサー撤退を表明するという事件も起こったが、古舘には“言わなければいけないことは言う”という強い意志があったはずだ。
事実、古舘は昨年開いた自身のトークライブで、このように吠えている。
「あ、そういえば古舘伊知郎が『報道ステーション』降ろされるらしいじゃないか。ずっと噂がつづいているっていうのはどういうことなんだ、アレは」
「このまえも週刊誌をじっくり読んだら、なんか俺の後釜は宮根だっつうんだよ。え? 冗談じゃない。それがダメだったら羽鳥だとか言うんだよ。俺は聞いてないぞそんなこと! え? 誰が辞めるかっつうんだよ、ホントにバカヤロー!」
そして、「俺は覚悟がないばっかりに、最後の一言が言えずにここまできた。俺はこれからは、そうはいかない覚悟を決めた」「みんないいか、よーく俺を見ててくれ。俺がそのことができるようになるのが先か、俺の賞味期限が切れちゃうのが先か、どっちか、よーくみんな見ててくれ」とさえ言い切っていたのだ。
抵抗をつづけてきた古舘の心を折ったものは何か──。だが、同じく安倍政権が圧力のターゲットとしてきた『NEWS23』(TBS)のアンカー・岸井成格とキャスター・膳場貴子に降板騒動が巻き起こっているいま、古舘の降板は単なる偶然の重なりとは到底考えられない。
さらに、古舘の後任については、根強く囁かれてきた「宮根誠司」説と「羽鳥慎一」説に加え、現在、TBSの局アナである「安住紳一郎」説まで飛び交っている。
「安住アナの場合、尊敬する久米宏と同じくTBSを退社後にテレ朝メインキャスターというコースを辿るという話のようです。だが今回、古舘降板の一報を打ったのが幻冬舎御用達のスポーツニッポンだったことを考えると、今回の降板に見城氏が噛んでいる可能性は高い。宮根氏、羽鳥氏と同様、安住氏も独立してバーニング系に所属……という線も考えられます」(前同)
しかし、結局、誰が後任となっても、『報ステ』の政権批判路線は古舘降板で立ち消えるのは決定的だ。これまで、圧力に晒されながらも一定の存在感を放ってきた『報ステ』と『NEWS23』が政権批判を行わなくなったら、この国のテレビにおけるジャーナリズムはいよいよ機能不全に陥るだろう。 
NEWS23岸井成格氏と報ステ古舘伊知郎氏は降板してよかった 2015/12
真実は言えない
古館さんは「ニュースで真実はほとんど語られない」メディアに対する不満を述べていたそうだ。
古館さんを使うテレビ朝日の意向には逆らえないもんね。彼が仮に真実を語ったら、テレビ朝日からクレームが来るだろう。テレビというより大手メディアは基本、広報局だ。
古館さんは降板した後、今までとは違う論調で行くのでしょうか?もしそうなら番組を降板して良かったねといいたいのです。
中立はない、無理
報道ステーションやNews23他、これらはニュース型バラエティ番組だ。バラエティだから、キャスターやコメンテーターの意見は、視聴者の感情を煽るための手段に過ぎない。
よって、視聴者が番組を批判する行為こそメディアが求める姿だ。
本気でニュース番組を見るだけなら「いつ、どこで、誰が、何を、どうした」しかいわない。5W1Hのみを言ったらすぐ新しいニュースを流せねばならない。
それをやると時間が余ってしまうし、つまらないんだよね。だから視聴者の感情をあおるような特集が組まれる。このとき、テレビ側は意見に対する結論を持っており、他の意見をあまり言わせないようにしている。
武田邦彦教授は虎ノ門ニュースでおっしゃった。「NHKとしての意見と私(武田)の意見が違うと、絶対に採用しない。NHKは中立でなく、あらかじめ主張がある。自分と反対する意見は招こうとしない」
NHKから見ると、自分の意見と反対のことを述べて、番組自体が崩れてしまう恐れがあるから、呼ばないのは当たり前だ。しかし、NHKなどメディアが報じている事柄は全て事実ではない。
という認識を持っておかねばならぬ。じゃないと、自分で考えているようで相手の考えに沿って、私たちは操り人形のごとく、活かされる状態になるからね。
一緒に考えましょう
私として限りなく信頼できる発信者、青山繁晴氏も述べている。
「一緒に考えましょう」と、なぜ彼は言うのか?時と場合によって今まで持っていた考えが間違っているからだ。
様々な事実や事件、意見を積み重ねることで、今まで持っていた意見がひっくり返る。珍しい事じゃないし、私だって体験している。反対に「何があっても真実はこれしかない」という人は気を付けるべきだ。
昨日、成功法則に対する疑問を記事に書いたんだけど、成功法則だって「確率は高いよね」であり「例外」も存在する。
成功法則だって情報の一種だし、使い方によっては洗脳の道具にもなる。例「成功したいと願っているのに、君は自ら失敗に手を出そうとしているのか?本当に君は成功したいのか」この言葉が脅しに聞こえちゃったんだ。
メディアは「真実はこれしかない」と意見を押し付けてきたから、私たちは「意見や事実の一つでしかない」と考え、様々な情報を集めて真実をつかんでいこう。
降板は何を意味する?
世の中の流れという視点から、彼らの降板を考える。一つはあまりにも現実が見えていない報道は許されなくなった。現実が見えないすなわち局側が仕掛ける洗脳(プロパガンダ)が、今までのやり方じゃ通用しなくなったことを意味する。
二つ目は仕掛ける側が新しいモデルにそって、より巧妙な手口で洗脳をかけようとすることだろう。
誰に仕掛けるか? 国民だ。ただ全員じゃない。何でもかんでも文句をつけて暴れる悪質なクレーマーだ。彼らが動いて「革命」を起こすようなやり方をするんじゃないか?
危惧はしている。しゃしゃはどう?とりあえず、岸井さんに古館さん、お仕事お疲れ様でした。  
 
諸話 2016

 

安倍の解散戦略を狂わすWパンチ 2016/2
 株安に甘利スキャンダル。波乱の始動となった1年をどう乗り切るのか
「閣僚のポストは重い。しかし、政治家として自分を律することはもっと重い。何ら国民に恥じることをしていなくても、私の監督下にある事務所が招いた国民の政治不信を、秘書のせいと責任転嫁するようなことはできない。それは私の政治家としての美学、生きざまに反する」
1月28日夕刻、首相官邸近くにある内閣府一階の会見室。1週間前に発売された週刊文春が報じた金銭授受疑惑について記者会見する経済再生担当相・甘利明は時折、声を詰まらせながら閣僚を辞任する理由を語った。
安倍晋三首相にとって、甘利のスキャンダルは、年初からの急激な株価下落に続く予期せぬ事態となった。
「甘利さんはどう言っているんですか?」
甘利の記事が掲載されるとの一報を聞いた安倍は、困惑した表情で甘利に確認するよう指示したという。
閣僚の「政治とカネ」の問題は内閣支持率に影響しやすい。第一次安倍内閣も、閣僚の「政治とカネ」が失速の始まりだった。安倍の脳裏には、その記憶がよぎったのだろう。
甘利は、安倍が初めて自民党総裁の座を射止めた2006年総裁選でいち早く安倍支持を打ち出し、第一次安倍内閣では経済産業相に就任。安倍が再起をかけた2012年の総裁選では選対本部長を務め、政権復帰するまでは政調会長として野党党首の安倍を支えた盟友である。第二次内閣では担当相としてTPP締結交渉に尽力するなどアベノミクスの立役者でもある。
雑誌が発売になる直前、甘利は安倍にこう伝えていた。
「迷惑をお掛けするので、お任せします」。事実上の進退伺いとも言える内容だった。しかし安倍は「事実関係をしっかりと調べて、説明できれば大丈夫です」と慰留した。
雑誌が発売になった21日、安倍は、東京・大手町の読売新聞東京本社ビルで、同グループ本社会長の渡辺恒雄、産経新聞相談役の清原武彦らと会食。その席上、出席者から「政権維持のために甘利を辞めさせた方がいい」と助言されても、安倍は頷いただけで答えなかったという。そして「ただ答弁できる人はいても、TPP交渉の場にいた人が答弁するのとは迫力が違う」と、甘利を改めて評価した。
しかし、程なくして甘利から安倍サイドに、金銭の授受に関しては事実であること、甘利自身が直接受け取った分については政治資金収支報告書に記載していることが伝えられた。一方、その後の週末を費やした調査で、秘書が受け取った500万円のうち300万円を使ってしまっていた上、フィリピンパブなどで度重なる接待を受けていたことも確認された。
週が明けた25日、甘利は官房長官の菅義偉に自身の金銭授受は問題ないが、秘書の問題で閣僚辞任は避けられないとの意向を電話で伝えた。甘利が続投を断念した瞬間だった。甘利を擁護し続けてきた安倍も方針を転換せざるを得ない状況となった。
辞任会見の直前、甘利は安倍に電話を入れて改めて辞意を伝えた。
「国会の状況もあり、監督責任もある。最後は自分で決めさせて下さい」
「残念ですが、あなたの意思を尊重します」
ただ、閣僚は辞任するにしても政治資金規正法違反などで立件され、議員も辞職せざるをえなくなる事態は避けなければならなかった。それは甘利にとっても、安倍にとっても最悪のケースである。
「あの建設会社の総務担当者はその筋の人らしいね」。菅は番記者たちにこうささやいた。一連の疑惑が「罠」であるというわけだ。メディアやネット上にも、総務担当者や建設会社を問題視する情報が流れ始めた。
甘利も辞任会見で、建設会社社長からさらに口利きをしてもらえるならば総務担当者を説き伏せて疑惑を否定するという口裏合わせを持ちかけられたことを明らかにした。安倍サイドによる「ささやかな反撃」だった。しかし、「政治とカネ」の問題による盟友の閣僚辞任という事実には変わりはなかった。
死活問題だった宜野湾市長選
そんな状況の中、1月24日の沖縄・宜野湾市長選を制したことは、安倍にとって数少ない朗報だった。
「この勝利は大きい」。市長選の直後、安倍は自民党幹部にそう率直に語ったほどだ。衆院選とのダブル選も取りざたされる7月の参院選、4月の衆院北海道5区補選の前哨戦である以上に、この選挙は辺野古移設の進捗にとって、死活的な意味を持っていた。
現状行われている辺野古沿岸部を埋め立てる工事は準備段階に過ぎない。重要な節目は、後戻りできない大規模な工事となるコンクリートブロックを投下して土砂を流し込む「海中埋め立て」だ。政府は、宜野湾市長選に勝利したことで、その結果を追い風に、海中埋め立て作業の着手を目論む。いったん埋め立てに入ってしまえば、辺野古移設は既成事実化し、反対論もやがて収束していくとの皮算用だ。
安倍と菅は昨年秋から防衛省に「できるだけ早く埋め立てに着手してほしい」と指示していた。
幻の秘策も練られていた。昨年12月4日、日米両政府は宜野湾市の米軍普天間飛行場(約481ヘクタール)の約4ヘクタールを含む計7ヘクタールの米軍用地を2017年度中に先行返還する合意文書を発表した。実は、この発表と同時期に「コンクリートブロック投下」を始める案も防衛省で検討されていた。いわば「アメとムチ」作戦だ。
安倍も菅も一時はその案に傾いたとされるが、ブロックを投下する作業に着手する前段階までに知事との調整が必要な複雑な法的手続きがあることが次第に分かってきた。法務省など政府内の一部から「沖縄県につけいる隙を与えてはいけない」と異論が高まり、秘策は封印された。
沖縄は6月に県議選を迎える。さらに7月の参院選もある。早期埋め立てに踏み切るタイミングは難しい。かといって、様子見をすれば米国からの圧力もさらに強まる。
1996年の普天間返還の移設合意から20年。米政府高官から昨年暮れ「いつ埋め立て作業に入るのか?」と問い詰められた日本側は、「宜野湾市長選まで待ってほしい」と釈明せざるを得なかった。
米高官が急かすのには理由がある。米国も一枚岩ではないのだ。米海兵隊の内部では辺野古移設への反対論が根強い。移設となれば新たな飛行場は規模が縮小され、連動する米軍再編でグアムの施設整備など米側にも巨額の負担が生れる。米高官は「11月の大統領選まで移設工事が加速しなければ、米国内で再び辺野古移設への反対論が噴出しかねない」と漏らす。日本側が埋め立てに手をこまねいていれば、新大統領の姿勢と連動して米国が辺野古移設に及び腰になりかねないのだ。
宜野湾市長選の勝利は事態の「前進」を担保したというより、「後退」を防いだにすぎない。沖縄をめぐって安倍の苦悩は続く。
“中抜き”にされる自公両党
衆参ダブル選が本当にあるのか。
この動向を見定めるには、軽減税率論議と同様に、官邸と公明党、より直截に言えば支持母体の創価学会との関係を見定める必要がある。
昨年12月28日夜、菅が財務省事務次官・田中一穂ら財務省首脳を招いて慰労会を開いた。
「長官、今年はいろいろお手数おかけしました」。田中らは、菅が推し進めた食品などの軽減税率導入に抵抗したことを釈明した。財務省としては、2015年10月に予定されていた消費税引き上げの先送りに続く、官邸に対する“敗北”だった。
「香川さんが生きていたらここまで混乱しなかった」。財務省幹部は、学会との意思疎通ができなかった軽減税率騒動について、こう振り返る。「香川さん」とは、昨年8月に亡くなった前事務次官・香川俊介。香川は、東大同窓で年齢も近い創価学会の主任副会長(事務総長)・谷川佳樹と関係が深く、谷川を通じて会長の原田稔ら首脳部とのパイプを持っていたからだ。谷川は昨年11月の学会内の「政変」で、「ポスト池田」時代の学会を率いていく次期会長の座を確実にしている。財務省は香川のパイプが太かったため、代わりうる人脈を築いていなかった。軽減税率騒動の前後、財務省は学会の真意を知ることなく、やはり情報過疎の自民党幹事長の谷垣禎一らを頼みに戦略を組み立てた挙げ句、一敗地に塗れた。
一方の菅は、軽減税率論議を通じ、学会とのパイプを一層強くしていた。
菅は、副会長(広宣局長)・佐藤浩を通じて、政権与党で唯一、谷川の正確な意向を受け取っていた。自民党税調の幹部は「党税調が長かった伊吹文明さんら重鎮も、それぞれのルートで学会の八尋頼雄副会長らに連絡をとったが役に立たなかった」と明かす。いまは究極の形ともいえる「菅-佐藤・谷川」ラインが生まれているのだ。
菅は、次期会長とされる谷川と元々パイプを持っていた。菅が長年自民党神奈川県連の会長を務める一方、谷川は公明側の神奈川県の選挙責任者を務めていたからだ。自公の選挙協力に向けた協議を重ねて親密になった。
自公連立である安倍政権の内実は、いまや自民党も公明党も“中抜き”にした「官邸-創価学会」という剥き出しの関係になっている。ダブル選の判断も、当然このラインの判断となる。
自民党幹部の間には、菅が党内の反対を押し切って軽減税率を1兆円規模にしたことから「学会から『同日選に反対しない』との約束を取り付けた」との観測が広がっている。
これに対して、創価学会の中枢幹部は「最終的には拒めないにせよ、解散には最後まで反対する」と語る。
学会は、選挙の半年近く前から地方議員を動かし、候補者の名前を組織内に徐々に浸透させる。ダブル選となれば、長期スケジュールが崩れる。またダブル選では、一度に最多で3人の名前と、別に政党名を書く必要がある。高齢の支持者に名前を覚え込ませるのも、学会員以外に公明候補への投票を呼び掛けるのも、難易度が高い。
衆院で小選挙区比例代表並立制が施行されてから、ダブル選は実施されていない。「ダブル選は投票率が上がって自民党に有利」と言われたのは、30年も前の中曽根内閣までの話だ。そもそも、本来は電撃的に行ってこそ意味のあるダブル選が、永田町ではもはや当然のことのように語られ、サプライズではなくなっている。
そんな状況下で与野党の一部でささやかれているのが「4月解散-5月投開票」という奇策。伊勢志摩サミット直前に解散はないと思われている虚を突くという見立てだ。
衆院選の時期は、消費税率の10%への引き上げに踏み切れるか否かにも影響する。
安倍は「経済情勢がよほど好転しない限り、引き上げは容易ではない」と周辺に本音を漏らしたとされる。財務省では安倍が再び先送りを決断する展開を強く警戒する。軽減税率問題では財務省と一体だった自民党税調幹部ですら「1年の先送りなら仕方がない」との意見を出し始めている。食品業界だけでなく、半年前から消費税率引き上げへの対応時期が訪れる住宅業界などで、準備が遅れているのがその理由だ。再度先送りするには、その前に再び衆院を解散して先送りを国民に訴えるしかない。となれば事実上、前倒し解散か、ダブル選しか選択肢はない。
全ては、新年早々に株価とスキャンダルに翻弄される安倍の判断にかかっている。 
高市早苗の“電波停止”発言に池上彰が「欧米なら政権がひっくり返る」! 2016/2
高市早苗総務相が国会で口にした「国は放送局に対して電波停止できる」というトンデモ発言。これに対して、ジャーナリストたちが次々と立ち上がりはじめた。
まずは、あの池上彰氏だ。民放キー局での選挙特番のほか、多数の社会・政治系の冠特番を仕切る池上氏だが、2月26日付の朝日新聞コラム「池上彰の新聞ななめ読み」で、高市大臣の「電波停止」発言を痛烈に批判したのだ。
池上氏は、テレビの現場から「総務省から停波命令が出ないように気をつけないとね」「なんだか上から無言のプレッシャーがかかってくるんですよね」との声が聞こえてくるという実情を伝えたうえで、高市発言をこのように厳しく批難している。
〈高市早苗総務相の発言は、見事に効力を発揮しているようです。国が放送局に電波停止を命じることができる。まるで中国政府がやるようなことを平然と言ってのける大臣がいる。驚くべきことです。欧米の民主主義国なら、政権がひっくり返ってしまいかねない発言です。〉
池上氏がいうように、高市発言は、国が放送局を潰して言論封殺することを示唆したその一点だけでも、完全に国民の「知る権利」を著しく侵犯する行為。実際、海外では複数大手紙が高市大臣の発言を取り上げて問題視、安倍政権のメディア圧力を大々的に批判的しているとおり、まさにこれは、民主主義を標榜する国家ならば「政権がひっくり返ってしまいかねない」事態だろう。
さらに池上氏は、高市発言に象徴される政府側の論理の破綻を冷静に追及。停波の拠り所としている「公平性」を判断しているのは、実のところ、政府側の、それも極端に“偏向”している人間なのだと、ズバリ指摘するのだ。
〈「特定の政治的見解に偏ることなく」「バランスのとれたもの」ということを判断するのは、誰か。総務相が判断するのです。総務相は政治家ですから、特定の政治的見解や信念を持っています。その人から見て「偏っている」と判断されたものは、本当に偏ったものなのか。疑義が出ます。〉
まったくの正論である。とくに、高市氏といえば、かつて『ヒトラー選挙戦略』(小粥義雄/永田書房)なる自民党が関わった本に推薦文を寄せるほどの極右政治家。同書は、本サイトでも報じたとおり、ヒトラーが独裁を敷くために用いた様々な戦略を推奨するもので、堂々と「説得できない有権者は抹殺するべき」などと謳うものだ。こんな偏っている大臣がメディア報道を偏っているかどうか判断するというのは、恐怖でしかない。
前述の朝日新聞コラムで池上氏は、他にも放送法は〈権力からの干渉を排し、放送局の自由な活動を保障したものであり、第4条は、その際の努力目標を示したものに過ぎないというのが学界の定説〉と解説したうえで、放送法第4条を放送局への政府命令の根拠とすることはできないと批判。〈まことに権力とは油断も隙もないものです。だからこそ、放送法が作られたのに〉と、最後まで高市総務相と安倍政権への苦言でコラムを締めている。
念のため言っておくが、池上氏は「左翼」でも「反体制」でもない。むしろ良くも悪くも「政治的にバランス感覚がある」と評されるジャーナリストだ。そんな「中立」な池上氏がここまで苛烈に批判しているのは、安倍政権のメディア圧力がいかに常軌を逸しているかを示すひとつの証左だろう。
そして、冒頭にも触れたように、「電波停止」発言に対する大きな危機感から行動に出たのは、池上氏ひとりではない。本日2月29日の14時30分から、テレビジャーナリズムや報道番組の“顔”とも言える精鋭たちが共同で会見を行い、「高市総務大臣「電波停止」発言に抗議する放送人の緊急アピール」と題した声明を出す。
その「呼びかけ人有志」は、ジャーナリストの田原総一朗氏、鳥越俊太郎氏、岸井成格氏、田勢康弘氏、大谷昭宏氏、青木理氏、そしてTBS執行役員の金平茂紀氏。いずれも、現役でテレビの司会者、キャスター、コメンテーターとして活躍している面々だ。
なかでも注目に値するのは、報道圧力団体「放送法遵守を求める視聴者の会」から名指しで「放送法違反」との攻撃を受け、この3月で『NEWS23』(TBS)アンカーから降板する岸井氏も名前を連ねていること。本サイトで何度も追及しているが、「視聴者の会」の中心人物である文芸評論家の小川榮太郎氏らは安倍総理再登板をバックアップし、他方で安保法制や改憲に賛同するなど、安倍政権の別働隊とも言える団体だ。
同会は『23』と岸井氏に対する例の新聞意見広告と並行して、高市総務相宛てに公開質問状を送付し、高市総務相から“一つの番組の内容のみでも、放送法違反の議論から排除しない”という旨の回答を引き出していた。これを経て、高市総務相は国会での「電波停止」発言を行っていたのだが、これは明らかに、安倍政権が民間別働隊と連携することで世間の“報道圧力への抵抗感”を減らそうとしているようにしか見えない。事実、高市総務相は国会でも、放送局全体で「公平」の判断を下すとしていた従来の政府見解を翻して、ひとつの番組だけを取り上げて停波命令を出すこともあり得ると示唆。ようするに、“すこしでも政権や政策を批判する番組を流せば放送免許を取り上げるぞ”という露骨な恫喝だ。
何度でも繰り返すが、政府が保持し広めようとする情報と、国民が保持し吟味することのできる情報の量には、圧倒的な差がある。政府の主張がそのまま垂れ流されていては、私たちは、その政策や方針の誤りを見抜くことはできず、時の政権の意のままになってしまう。したがって、“権力の監視機関”として政府情報を徹底的に批判し、検証することこそが、公器たるテレビ報道が果たすべき義務なのだ。
ゆえに、池上氏や、田原氏をはじめとするメディア人が、いっせいに「電波停止」発言に対して抗議の声を上げ始めたのは、他でもない、「国民の知る権利」をいま以上に侵犯させないためだろう。これは、親政権か反政権か、あるいは政治的思想の対立、ましてやテレビ局の「特権」を守る戦いなどという図式では、まったくない。「中立」の名のもと、政府によるメディアの封殺が完了してしまえば、今度は、日本で生活する私たちひとりひとりが、政府の主張や命令に対して「おかしい」「嫌だ」と口に出せなくなる。それで本当にいいのか、今一度よくよく考えてみるべきだ。
高市総務相の「電波停止」発言は、メディアに対する脅しにとどまらず、国民全員の言論を統制しようとする“挑戦状”なのである。そういう意味でも、本日行われる「高市総務大臣「電波停止」発言に抗議する放送人の緊急アピール」に注目したい。 
高市早苗が憲法改正に反対したテレビ局に「電波停止ありうる」と… 2016/2
恐ろしい発言が国会で飛び出した。高市早苗総務相が、昨日の衆院予算委員会で“政治的に公平ではない放送をするなら電波を停止する”と言及、本日午前の国会でも「放送法を所管する立場から必要な対応は行うべきだ」と再び口にした。
しかも、きょうの高市発言がとんでもないのは、答弁の前の質問にある。きょう、民主党の玉木雄一郎議員は「憲法9条改正に反対する内容を相当の時間にわたって放送した場合、電波停止になる可能性があるか」と質問し、高市総務相はこの問いかけに「1回の番組で電波停止はありえない」が「私が総務相のときに電波を停止することはないが、将来にわたって罰則規定を一切適用しないことまでは担保できない」と答えたのだ。
つまり、高市総務相は、“憲法9条の改正に反対することは政治的に公平ではなく放送法に抵触する問題。電波停止もありえる”という認識を露わにしたのである。
憲法改正に反対することが政治的に公平ではない、だと? そんな馬鹿な話があるだろうか。改憲はこの国のあり方を左右する重要な問題。それをメディアが反対の立場から論じることなくして、議論など深まりようもない。というよりも、改憲に反対し「憲法を守れ」とメディアが訴えることは、法治国家の報道機関として当然の姿勢であり、それを封じる行為はあきらかな言論弾圧ではないか。
だいたい、現行憲法99条では「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」と規定されている。ようするに、政治家には現在の憲法を守る義務があり、「9条改正に反対することが政治的に公平ではない」などと言うことは明確な憲法違反発言である。
こんな発言が躊躇う様子もなく国会で堂々と行われていることに戦慄を覚えるが、くわえて高市総務相は重大なはき違えをしている。そもそも高市総務相は、放送法の解釈を完全に誤っている、ということだ。
昨年、放送界の第三者機関であるBPO(放送倫理・番組向上機構)が意見書で政権による番組への介入を「政権党による圧力そのもの」と強く批判、高市総務相が昨年4月に『クローズアップ現代』のやらせ問題と『報道ステーション』での元経産官僚・古賀茂明氏の発言を問題視し、NHKとテレビ朝日に対して「厳重注意」とする文書を出した件も「圧力そのもの」と非難したが、その際にはっきりと示されたように、放送法とは本来、放送局を取リ締まる法律ではない。むしろ、政府などの公権力が放送に圧力をかけないように定めた法律なのだ。
まず、放送法は第1条で「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」と定めている。これがどういうことかといえば、今回のように政治家が暴走することのないよう、政府に対して表現の自由の保障を求め、政治権力の介入を防ぐために規定されているものなのだ。
一方、放送法4条には、たしかに放送事業者に対して〈政治的に公平であること〉を求める規定がある。だが、この4条は政府が放送内容に対して介入することを許すものではけっしてない。
以前の記事でも紹介したが、放送法4条について、メディア法の権威である故・清水英夫青山学院大学名誉教授は著書『表現の自由と第三者機関』(小学館新書、2009年)でこう解説している。
〈そもそも、政治的公平に関するこの規定は、当初は選挙放送に関して定められたものであり、かつNHKに関する規定であった。それが、「番組準則」のなかに盛り込まれ、民放の出現後も、ほとんど議論もなく番組の一般原則となったものであり、違憲性の疑いのある規定である〉
〈かりに規定自身は憲法に違反しないとしても、それを根拠に放送局が処分の対象になるとすれば、違憲の疑いが極めて濃いため、この規定は、あくまで放送局に対する倫理的義務を定めたもの、とするのが通説となっている〉
つまり、第4条は放送局が自らを律するための自主的な規定にすぎず、これをもって総務省ほか公権力が放送に口を挟むことはできないということだ。むしろ第4条を根拠に公権力が個々の番組に介入することは、第1条によって禁じられていると考えるのが妥当だろう。
すなわち、放送法4条は放送局が自らを律するための自主的な規定にすぎず、これをもって総務省ほか公権力が放送に口を挟むことはできないということだ。むしろ4条を根拠に公権力が個々の番組に介入することは、第1条によって禁じられていると考えるべきだ。
しかも、4条にある〈政治的に公平であること〉とは、「両論併記」することでも「公平中立」に報道することではない。というのは、メディアで報道されているストレートニュースのほとんどは発表報道、つまり権力が自分たちに都合よく編集したプロパガンダ情報である。これがただタレ流されるだけになれば、政策や法案にどんな問題点があっても、国民には知らされず、政府の意のままに世論がコントロールされてしまうことになりかねない。
逆にいえば、高市総務相の今回の発言は「世論を政権の都合でコントロール」しようとするものであり、それこそが放送法に反しているのだ。にもかかわらず、無知を重ねて電波法を持ち出し、テレビ局に脅しをかける──。これは報道圧力、言論弾圧以外の何物でもない。
しかし、つくづく情けないのは当事者たるテレビ局だ。このような発言が総務大臣から飛び出したのだから、本来は問題点を突きつけて高市総務相に反論を行うべきだ。なのに、昨晩のニュース番組でこの発言を報じた番組はひとつもなし。きょう、またしても高市総務相が電波停止に言及したため、取り上げられはじめているが、そうでなければどうするつもりだったのだろうか。
だが、テレビに期待するほうが間違っているのかもしれない。NHKも民放も、幹部や記者たちは安倍首相と会食を繰り返し、官邸からの圧力にあっさり屈してキャスターを降板させる……。こんな調子だから、為政者をつけ上がらせてしまうのだ。報道の自由を自ら手放し、権力に力を貸している時点で、もはやテレビも同罪なのだろう。 
英「ガーディアン」「エコノミスト」 “安倍の圧力でTV司会者降板”報道! 2016/2
「萎縮はしないんですよ、毎晩の報道を観ていただければわかるように。それはですね、むしろ言論機関に対して失礼だ」と、2月、安倍政権下での“メディアの萎縮”を否定した安倍首相。さらにはこうも述べた。
「外国から誤解される恐れがある。まるでそんな国だと思われるわけでありますから」(4日、衆院予算委での答弁)
「誤解」ではない。事実である。安倍首相は昨年3月16日の国会でも、衆院選前報道をめぐる民放テレビ局への“クレーム”を追及され「国民に放送されている場で圧力をかけることはあり得ない」と嘯いたが、これも大嘘だ。
そして、いまや世界も、日本が「そんな国」であることを看破しつつある。最近、イギリスの複数新聞が、立て続けに“安倍政権の圧力により3人のテレビ司会者が番組を去ることになった”と報じたのだ。
まずは英大手一般紙「ガーディアン」。2月17日付で、「政治的圧力のなか日本のTVアンカーたちが降板する」(Japanese TV anchors lose their jobs amid claims of political pressure)というタイトルの記事を公開、ウェブ版で全世界に配信した。
その内容は、日本で〈タフに疑義を呈することで定評のある〉報道番組の司会者3人が、同時期に番組を降りることになったと伝えるもの。ご存知のとおりその3人とは、テレビ朝日『報道ステーション』の古舘伊知郎氏、TBS『NEWS23』の岸井成格氏、そしてNHK『クローズアップ現代』の国谷裕子氏のことだ。
「ガーディアン」は3氏の名前と番組名を具体的に挙げて降板に至る経緯を説明しながら、先日の高市早苗総務相による「電波停止発言」を問題視。そして、数々の例をあげて〈安倍が放送局の編集の独立権の議論を紛糾させるのは、これが初めてではない〉と強調する。
〈2005年、安倍は、NHKスタッフに戦時中の従軍慰安婦についてのドキュメンタリー番組の内容を変更させたことを、自身で認めている〉
〈安倍が2014年暮れに突如、総選挙をぶちあげたとき、自民党は東京のテレビキー局に対して、報道の「公平中立ならびに公正の確保」を求める文書を送りつけた〉
〈また、安倍は公共放送NHKの会長に、オトモダチの保守主義者である籾井勝人を据え、編集方針に影響を及ぼそうとしているとして非難されている〉
〈報道関係者を懲役5年以下の刑に処すことを可能にした2013年の特定秘密保護法の成立と同様、メディアへの脅迫の企ても日本の国際的評価を打ち砕いた〉
他にも、記事では国境なき記者団による世界報道自由ランキングで、05年に12位だった日本が15年には61位まで低下したこと、昨年11月に国連の表現の自由に関する特別調査官デイビッド・ケイ氏の訪日調査を政府がキャンセルしたことなども触れられているが、こうした事態が英国と比較して異常だと受け止められていることは明らかだ。「ガーディアン」はこの記事の冒頭で“もしもBBCの著名なジャーナリスト3人が同時にキャスターをやめたら、英国の政治家の多くは大喜びするだろう”と皮肉を込めて書いている。
さらに、英経済紙「エコノミスト」も2月20日付で古舘氏、岸井氏、国谷氏の番組降板問題を大きく取り上げた。タイトルは「日本におけるメディアの自由 アンカーたちがいなくなった」(Media freedom in Japan Anchors away)で、こちらは一層安倍政権に批判的なトーンである。
記事では、冒頭から“日本の標準から見れば力強く政権批判を行う司会者である3名がそれぞれ同時に番組を去るのは、偶然の一致ではない”と断言。3氏降板の背景を深く掘り下げて報じている。
たとえば、岸井氏については、放送のなかで自衛隊の海外での役割を拡張する安保法案の違憲性に疑問を付したが、それは〈ほとんどの憲法学者も指摘していたことと同じものであって、高級官僚たちも、日本には危険な近隣諸国があり、より安全保障を強化しなければならないという見地から安保法案を正当化しているようなときにあってさえも、官僚たち自身も私的には法案が憲法に違反するものであることを認めている〉と指摘。
しかし、岸井氏の番組内発言は、本サイトで何度も追及している「放送法遵守を求める視聴者の会」なる安倍応援団の槍玉にあげられてしまうのだが、これについても〈保守派団体がテレビ放送を許諾された者の公平中立性に反するものだと、彼を非難する意見広告を新聞に載せるという行動を招いた〉と、はっきりと報じている。そのうえで「エコノミスト」は、〈TBSはその意見広告の影響を否定しているが、それを信じる者はほとんどいない〉と断じているのだ。
また、国谷氏に関しては、“NHKはなぜ彼女を降板させるのか口にしないが、『クロ現』内での菅義偉官房長官へのインタビューに原因があったと同僚たちは言っている”と伝え、政治家と日本のメディア両者の態度を説明。英米のジャーナリズムと比較して、このように批判する。
〈菅氏は、ジャーナリストの質問に対して事前通告を要求し、報道組織を厳しく監督することで知られる。だが、インタビューの中で国谷氏は、無謀にも新たな安保法が日本を他国の戦争に巻き込む可能性があるのではないかと質問した。イギリスやアメリカのテレビの、政治家との口角泡を飛ばすような激しい議論の基準からすれば、国谷氏と菅氏のやりとりは退屈なものだった。しかし、日本のテレビジャーナリストというのは、政治家に対してめったにハードな疑問をぶつけたりはしないものなのだ。菅氏の身内たちは彼女のこうした質問に激怒した〉
ここからもわかるとおり「エコノミスト」は、単に安倍政権による報道圧力だけでなく、その温床となっているテレビ局の体制もまた問題視している。記事では、大メディアの幹部たちがたびたび安倍首相と会食をしていることに触れ、マスコミのあり方にもこう苦言を呈すのだ。
〈報道機関に対する政治的圧力は今に始まったことではない。五つの主要なメディア(日本の五大新聞は主要な民放と提携している)は、各社の社風や商業的方針から体制側の見解を垂れ流す傾向にあるので、それを精査したり敵対的に報道することはめったにない。彼らの政府との親密ぶりは度を超えている〉
本サイトも常々指摘していることだが、まず安倍政権は会食などでメディア関係者を懐柔しながら“忖度”の下地をつくりあげる。そして、それでも健全な批判的報道を行う番組や司会者に対しては、表立った抗議という名の恫喝、あるいは応援団を動員して圧力をかけ、局幹部に彼らを降板させるよう仕向けるのである。
こうした構造的な日本のマスコミと政府の報道圧力をめぐる現状は、海外のジャーナリズムのフィルターから見ると、あらためて奇妙で異形なものに感じられる。前述の「ガーディアン」「エコノミスト」だけでなく、他にも英紙では「インディペンデント」が20日付で、同じく古舘氏らの降板問題を批判的に取り上げているが、おそらく英字で発信されたこれらのニュースは、アメリカやフランス、ドイツなど他の欧米メディアにも波及し、世界中に轟き渡るだろう。
本稿でとりあげた「エコノミスト」の記事の最後の一文は、このように締めくくられている。
〈政府はメディアと一歩も引かない度胸試し(チキンゲーム)をしている、と古舘氏は言う、そして、政府が勝利した〉
国内マスコミを御すことはできても、海外メディアの目まではごまかせない、ということだ。安倍首相はこれでも、「報道圧力はない」「メディアは自粛していない」と言い張るのだろうか。
解散の地ならしをする「安倍主導」政局 2016/3
 衆院定数削減に補選対策。決断に向けて、総理自ら党の先を走りはじめた
経済状況が激変し、スキャンダルが次々に勃発する中、政局の底流では衆参ダブル選挙も視野に、年内衆院解散・総選挙に向けた動きが進んでいた。首相・安倍晋三の戦略、そして野党の対抗策が、2月になっていよいよ姿を現し始めた。
「今度(2015年)の簡易国勢調査で区割りを改定する際、衆院定数の10削減をしっかり盛り込んでいきたい」
2月19日、国会3階にある衆院第一委員室で開かれた予算委員会。安倍は、民主党の前首相・野田佳彦から「約束を覚えていますか」と問いかけられたのに対し、堂々と言い切った。
2012年11月、まだ政権を担当していた野田は、安倍との党首討論で、衆院解散の条件として定数削減を「約束」することを挙げていた。それから3年以上が経っても約束は実現していない。その追及を狙った、異例となる首相経験者の登板だった。
しかし安倍は一枚、上手を行っていた。野田が質問に立つと知った首相官邸サイドは論戦前日の18日、翌日に質問する自民党の前厚生労働相・田村憲久に「定数削減について質問してほしい」と要請。19日午前、安倍は田村に答える形で、定数削減を前倒しして実施する姿勢を示した。冒頭のやりとりは、田村への答弁を補足したに過ぎなくなり、野田の見せ場は消えた。
そもそも定数削減問題は、安倍が党の先を走ってきた。
「1票の格差」をめぐる訴訟で「違憲状態」とする判断が続いていたが、自民党執行部は「2020年以降に先送り」案を考えていた。
「国会答弁で立っていられなくなる。今まで言ってきたことと齟齬(そご)を来してしまう」。2月8日、国会内の大臣室で安倍は、幹事長・谷垣禎一や選挙制度改革の取りまとめ役である幹事長代行・細田博之らを前に、定数削減に関する党の方針は手ぬるい、と叱責している。国会答弁は強気一辺倒で野党を蹴散らす安倍の「立っていられない」発言。出席者の中の1人は「なぜこの問題では、そこまでこだわるのか」と違和感を感じたほどだった。さらに、安倍は2月9日、谷垣に「先送りはダメだ」と強く指示、「2020年の大規模国勢調査に合わせて実施」が自民党原案となった。
それから、たった10日で「5年前倒し」となり、「今国会実現」にまで進むことになる。2月20日土曜日、安倍は、ニッポン放送のラジオ番組に出演。長年の知り合いで、第一次内閣で退陣、失意のころも大阪で付き合った辛坊治郎が司会とあってか、安倍は「責任を果たすため、『今国会で』定数10減などをやりたい」と、6月1日が会期末となる通常国会での法改正にまで踏み込んだ。
ここで「今国会で」とまで、法改正の時期をはっきりさせた意図は明白だ。夏の参院選に合わせたダブル選挙も含め、早期に衆院解散の環境を整えることだ。実際の選挙で定数を削減するのは来年以降になるとしても、メドさえつけておけば、選挙時に「違憲状態」を放置しているという世論の批判はおさまるという見立てだ。
定数削減を巡る一連の事態では谷垣ら党側だけでなく、官房長官・菅義偉のカゲも薄い。第二次安倍政権が発足以来、政局を動かす問題では必ずといっていいほど菅の姿がみえた。それが今回、見えないのはなぜか。
「俺がいなくなると菅ちゃんの力が強く大きくなり過ぎる。それが心配だ」
政治とカネの問題で1月末に辞任した前経済再生担当相・甘利明が漏らした言葉だ。
菅は軽減税率の導入劇では副総理兼財務相・麻生太郎と対立し、麻生が「菅は規(のり)をこえた」と不快感を隠さなかったのは記憶に新しい。第二次内閣が発足してからずっと安倍、麻生、菅、自民党と霞が関の調整役、緩衝材を務めてきた甘利の言葉は本音であり、重い。
解散権の制約を解く定数削減問題は、これまでの安倍、菅が一体となった首相官邸主導というより「安倍主導」の色彩が濃い。政権中枢のパワーバランスに異変が生じていないか、永田町と霞が関は息を凝らして見つめる。
安倍・黒田・財務省の一体感
市場環境の悪化で消費税を予定通り10%に引き上げるのかどうかも、議論になってきた。それでも、財務省幹部は、10%増税が延期になった一昨年当時よりも、「今の方が、はるかに予定通りに実施できる手ごたえがある」と楽観的な見通しを示す。
安倍の周辺は「総理は人から引き継いだ政策と、自分が決めた課題は分けて考える」と明かす。
消費税を5%から2段階で引き上げる法律は民主党政権で成立し、自民党総裁は谷垣だった。だからこそ8%から10%への引き上げを延期することに躊躇(ためら)いはなかった。
だが2017年4月からの10%への増税は、一昨年に衆院を解散してまで自らが決めたものだったから、こだわらざるをえないのだ。
そのサインも散見される。先のラジオ出演の機会に、安倍は「基本的に日本の実体経済は堅調だ。リーマン・ショックの時は実体経済そのものに大きな影響があった。現段階ではリーマン・ショック級とはまったく考えていない」と述べた。
2016年は年明けからみるみるうちに円高・株安が進行して原油安も止まらず、世界規模で市場は変調を来している。それでも、消費増税を見送る条件として定めた2008年の「リーマン・ショック級」ではない、というのだ。
この経済状況認識は財政・金融当局と事前に詰めてあった。
ラジオ発言の8日前、2月12日。朝は首相官邸に財務省事務次官・田中一穂と財務官・浅川雅嗣を呼び、昼には日銀総裁・黒田東彦と食事をともにしながら1時間、会談している。黒田は日銀が導入を決めたマイナス金利政策を改めて説明するとともに「緩やかに回復する日本経済、物価についてのメーン・シナリオは何も変わっていません」と伝えた。安倍も頷き、「総裁を信頼しています」と応じた。
異次元の金融緩和からマイナス金利にまで踏み切った黒田と、消費増税を延期してまで解散に踏み切った安倍は、実体経済の悪化を認めれば「アベノミクスは失敗した」と公言したに等しくなってしまう。
一昨年の衆院解散当時、安倍は「黒田総裁と財務省は結託し、消費税を上げさせようとしている」と不信感を抱いていた。それが今、安倍は「解散のフリーハンドを握らなければならない」、黒田は「異次元緩和の失敗は認められない」、財務省は「何としても予定通り消費税を10%に引き上げる」と三者の思惑は違えど、「実体経済の悪化」を認められないという、同じ船に乗っている。
宮崎の辞職を促した安倍
いつの時代も、参院選は政権交代の可能性がないだけに、政権与党に「お灸」を据える選挙になりがちだ。
折しも自民党は甘利スキャンダルに続いて、環境相・丸川珠代が被ばく線量に関する問題発言をして物議をかもした。さらに参院議員・丸山和也が2月17日の参院憲法審査会で「アメリカは黒人が大統領になっている。これは奴隷ですよ、はっきり言って」などと発言し、謝罪に追い込まれるなど失態が相次ぐ。「お灸」を据えたい世論の感情は高まる。
「参院選から調子が狂う例が続いている。第一次安倍政権もそうだった」
公明党前代表・太田昭宏は2月19日の講演で警告した。
遡れば1989年、結党以来初の過半数割れを参院選で喫してから、自民党単独では参院で過半数を回復できていない。89年の参院選は消費税導入、農政不信、当時の首相・宇野宗佑の女性問題の3点セットで自民党は負けた。今回も、消費税増税、環太平洋経済連携協定(TPP)の農政問題……と不気味な符合がある上に、「女性問題」も出た。育児休暇取得をぶちあげながら、女性タレントとの不倫問題が発覚した前衆院議員・宮崎謙介のスキャンダルだ。実際、宮崎スキャンダルを受けた世論調査では、甘利辞任では動かなかった内閣支持率が低下した。
「週刊文春」の報道で発覚した直後、宮崎が属する派閥領袖、総務会長・二階俊博は2月10日の会合で「問題に遭遇した時こそ、団結して対応すべきだ」と擁護していた。補欠選挙にはならない「自民党離党」が落としどころのはずだった。
だが、「離党ではダメだ」と議員辞職まで必要だと促したのは、安倍本人だったとされる。
2月16日、衆院本会議で宮崎の辞職は許可され、衆院京都3区は4月24日に補選となった。ここでも安倍は「今回は謹慎すべきだ」と不戦敗を指示した、と党執行部の1人は明かす。
2月19日、安倍の意向を受けて、幹事長の谷垣は京都府連会長・西田昌司に「全体の流れをみれば、候補は出せないのではないか」と促した。
ここでも垣間見えた「安倍主導」。第一次政権時、参院選敗北をきっかけに退陣した安倍の選挙をにらんだ政治判断は細心で、現実的になっている。
遅れた「民・維」合流
野党を引っ張るのは、共産党だ。
安倍が定数削減を明言した2月19日、共産党委員長・志位和夫は民主、維新、社民などとの五党党首会談で「国民連合政府構想は横に置きます。選挙協力の協議に入ります」と宣言。翌20日には戦後、長きにわたって対立してきた日本社会党の後身、社民党の定期党大会に志位は共産党幹部として初めて出席し「今日を新たな契機とし、野党が力を合わせて頑張り抜こう」と高らかに宣言した。
集団的自衛権行使を容認した安全保障関連法の廃止法案を野党五党で国会に共同提出したことで最低限の政策の一致はあり、野党候補が一本化されれば32ある参院一人区で、かなりの確度で善戦が見込める。共産党にとっては選挙区を捨てても、比例代表で躍進する結果もあり得る。
2月22日、共産党は全国都道府県委員長と志位が協議し、ほとんどの参院一人区の独自候補撤回を正式に決めた。志位は衆院選の選挙協力についても、「直近の国政選挙の比例得票を基準としたギブ・アンド・テークを原則に推進したい」と踏み込んだ。
乾坤一擲の大勝負に出た共産党に煽られる形で、遂に野党再編も動いた。
同日夜、民主党代表・岡田克也と維新の党代表・松野頼久はひそかに落ち合った。松野は「民主解党にはこだわらない」、岡田も「党名を変更し、新しい党をつくる」と応じ、懸案だった両党の合流は一気に進んだ。そして26日、両党は3月に合流することで正式に合意した。衆参ダブル選をにらめば、ここがギリギリのタイミングだ。
遅ればせながら迎撃態勢を整えた野党に、安倍は次の手を打つ。
今春、安倍はロシアを訪問して大統領のプーチンと会談し、自らが議長を務める5月末の伊勢志摩サミットになだれこむ。国際会議の成果を掲げた選挙には1986年、当時の首相・中曽根康弘が断行した衆院解散がある。東京サミットの後、「死んだふり解散」といわれた衆参ダブル選挙で、自民党は圧勝した。
衆院解散を巡る「安倍主導」政局。世論の風向き、経済動向、外交、野党の勢い、あらゆる要素を見定めた安倍の「答え」は、5月の大型連休明けまでには示される。 
丸山議員 奴隷発言
自民党の丸山和也参院議員は18日、オバマ米大統領を念頭に「黒人の血を引く。奴隷ですよ」などと発言した責任を取り、参院憲法審査会の委員を辞任した。谷垣禎一幹事長らが引き締めに躍起になっているのに、同党議員の失言は止まらない。安倍晋三首相が描く選挙戦略への影響を懸念する声も出始めた。
谷垣氏は18日、丸山氏に「足をすくわれることがないよう発言には注意するように」とくぎを刺した。丸山氏はこの日、部会長を務める党法務部会を「さまざまな予定」(部会関係者)で欠席した。
一方で記者団の取材には応じ、「真逆の批判をされているとしたら非常に不本意だ。人種差別の意図はまったくない」と正当性を強調。民主、社民、生活3党が議員辞職勧告決議案を参院に共同提出したことに対しても「良心において恥じることはない。受けて立つ」と言い切った。
自民党では、丸川珠代環境相が東京電力福島第1原発事故による除染の長期目標を「何の科学的根拠もない」と発言し、12日に撤回した。島尻安伊子沖縄・北方担当相は記者会見で北方四島の「歯舞」を読めないという失態を演じた。
さらに18日の衆院予算委員会では、民主党議員が丸山氏の発言を追及した際、自民党の長坂康正衆院議員が「言論統制するのか」とやじを飛ばす場面も。見かねた小此木八郎国対委員長代理は長坂氏を口頭で注意した。
自民党は17日に各派閥の事務総長を集め、引き締めを図ったばかりだった。ある派閥会長は18日、「大勢の議員が当選して『自民1強』になり、目立ちたい人が出てきたのではないか」と指摘。岸田文雄外相も岸田派会合で「マスコミの目はますます厳しくなる」と改めて注意喚起した。
公明党の漆原良夫中央幹事会長は18日の記者会見で「(発言を)撤回すれば済む問題ではない。こういうことが重なりボディーブローのように政権に響く」と不満を表明した。
同党幹部は「支持者から『なぜ自民党を止められないのか』とわが党まで批判を受けかねない」。夏の参院選と衆院選の同日選が取りざたされる中、「こんな状況で解散などできない」と首相をけん制する声も出ている。
17日の発言要旨
例えば日本が米国の51番目の州になることについて憲法上、どのような問題があるのか。そうすると集団的自衛権、日米安保条約も問題にならない。拉致問題すら起こっていないだろう。米下院は人口比例で配分され、「日本州」は最大の選出数になる。日本人が米国の大統領になる可能性がある。例えば米国は黒人が大統領だ。黒人の血を引く。これは奴隷ですよ、はっきり言って。当初の時代に黒人、奴隷が大統領になるとは考えもしない。これだけダイナミックな変革をしていく国だ。
18日の釈明
<米国の51番目の州> 参院憲法審査会で参考人から「大統領制を導入すべきだ」と言われた。日本的にいえば首相公選制だ。2院制で大統領制を持つ国の代表として米国を引き合いに出した。
<米大統領関連> 自己変革があり今の米国が生まれたことをたたえるつもりで話した。人種差別だという真逆の批判は非常に不本意だ。私はマーチン・ルーサー・キングを尊敬している。
<野党の議員辞職要求> 良心において恥じることは何もない。良心対良心の問題なので受けて立つつもりだ。 
山田俊男 暴行
山田俊男参議院議員は先週、部会に出席した農協関係者と口論になり、みぞおちのあたりを殴りました。伊達参議院幹事長が事情を聴いたところ、山田議員も事実を認めたということです。
大西英男 「巫女さんのくせに何だ」
自民党の大西英男衆議院議員は24日、衆議院の補欠選挙の応援で神社を訪れたことを紹介した際に、「『巫女さんのくせに何だ』と思った」などと発言しました。これについて自民党の谷垣幹事長などから批判が相次ぎました。
自民党の大西英男衆議院議員は24日、みずからが所属する派閥の会合で、衆議院北海道5区の補欠選挙の応援で神社を訪れたことを紹介し、「私の世話をやいた巫女さんは、『自民党はあまり好きじゃない』と言う。『巫女さんのくせに何だ』と思った」などと述べました。
これについて自民党の谷垣幹事長は記者会見で、「意味不明で、誠に不適切な発言だ。われわれは公人なので、私人として言いたいことを言えばすむという立場ではなく、自分の発言がどう世間に受け止められ、反応があるかという配慮がなければ、公人の発言としては不適切だ」と批判しました。そして、谷垣氏は、「党内のすべての人が緩んでいるというわけではないと思っているが、注意は喚起していかなければならない」と述べました。
民主 岡田代表「コメントするのも恥ずかしい」 / 民主党の岡田代表は記者会見で、「政治家として、コメントするのも恥ずかしい。このような形で、政治に対する信頼が失われるのは非常に残念だ。自民党の中で、しっかり対応してもらいたい」と述べました。
大西議員「軽率な発言をおわび」 / 自民党の大西英男衆議院議員は「私の発言でお騒がせし、申し訳ございません。軽率な発言であったことを謝罪するとともに、関係者の皆さまにおわび申し上げます。今後は、発言、行動により一層の注意を払い、議員として活動してまいります」というコメントを発表しました。 
育休議員の自民党・宮崎謙介がゲス不倫  
男性国会議員で初めて、育休を取得すると宣言して話題となった自民党・宮崎謙介衆議院議員(35)。イクメンの鑑とも言える行動でしたが、なんと妻が出産入院中に、女性タレントを自宅に連れ込んだことが文春にスクープされてしまいました。  
イケメンで高身長(188cm)、高学歴(早稲田大学院卒)の宮崎謙介氏は、2015年5月に同じ二階派所属の衆議院議員である金子恵美氏(37)と結婚。恵美議員はすでに妊娠しており、恵美議員を献身的に支えている宮崎議員の姿がたびたび報じられていました。  
宮崎議員といえば、2015年12月に男性国会議員では初となる育児休暇取得を宣言し話題となりました。賛否両論はあったものの、イクメンの鑑とも言える行動は、一部では称賛されていたことも事実。1月には育児休暇を推進する勉強会も立ち上げ、新しい流れを作るかに見えたのですが…。  
2016年1月15日、恵美議員は切迫早産の危険性があり緊急入院。2月5日に無事第1子の長男を出産しました。  
しかし、スクープされたのは、恵美議員が入院中の1月30日。週末は選挙区である京都に戻って政治活動をしている宮崎議員。この週末も京都に戻っており、京都市内の自宅マンションで34歳の女性タレント・宮沢磨由さんと密会。2時間ほど過ごすと時間をずらしてマンションから出た2人は、十字路で別れ笑顔で見つめ合ったところを激写されています。その後、自宅マンションで再び合流し一夜を過ごした翌日、京都を後にしたそうです。  
宮沢さんと知り合ったきっかけは、恐らく1月4日に行われた自民党仕事始めの会合での出会いだったのではないかと推察されています。宮沢さんは自身のブログでも「お着物の仕事」と書き込んでいます(現在は削除済み)。  
宮崎議員の着物の着付けをしたのが宮沢さんで、同じ日に国会見学に招待していたとか。以前から親密だったのでしょうか。それとも、1月4日の出会いで親密になったのでしょうか。どちらにしろ、和服美人にふらっとやられてしまったのは間違いなさそうです。  
2月5日に出産に立ち会った宮崎議員。「とくダネ!」のカメラには、出産の様子を興奮冷めやらぬ感じで語っていましたが…。  
出産に立ち会った6日前に、京都の自宅に女性を連れ込んで不倫していたわけでしょうか!?にわかに信じられない…いや、信じたくないですよね。  
なお、2月9日(火)の衆議院本会議に出席した宮崎議員。議場に登場し一礼したものの、同僚に声を掛けられても硬い表情のまま。同僚議員、心の声が聞こえてきそうなまなざしですね。  
会議終了後、議場の外に出た時、目がうつろ…というか完璧に死んでました。  
そして、待ち構える報道陣に気付くと、関係者に促されるままダッシュ。報道陣を振り切り、車に乗り込み去って行きました。  
なお、2月9日の朝、フジテレビの単独取材に対しては、宮沢さんとの「不適切な関係」を認める発言をしています。  
ちなみに、宮崎議員は2006年に元自民党の加藤紘一衆議院議員の三女で、現在自民党所属の加藤鮎子衆議院議員と結婚しました。しかし、わずか3年で離婚。離婚の原因は女性問題だった…とも言われており、女性にはだらしなかったのでしょうか!? 
育休国会議員の“ゲス不倫”お相手は女性タレント  
自民党の宮崎謙介衆院議員が地元・京都で女性タレントと不倫・密会していたことが、週刊文春の取材により明らかとなった。1月30日、宮崎議員は伏見区の自宅に東京から来た女性タレントを招き入れた。女性タレントは一泊した後に帰京した。この6日後の2月5日朝方、宮崎氏の妻で同じく自民党の金子恵美衆院議員が都内病院で無事男児を出産。宮崎氏も出産に立ち会っている。宮崎氏は昨年12月、自らの結婚式後の囲み取材で国会議員としては前代未聞の「育児休暇取得宣言」をぶち上げ、議論を巻き起こしていた。「公職にある国会議員がプライベートを優先し、育休中も歳費が全額支払われるのはおかしい」といった批判も上がったが、宮崎氏は「ここまで批判があるなら、絶対に折れるわけにはいかない。女性だけに産め、働け、育てろなんて不可能だ」と反論。女性を中心に「子育ての在り方を考え直すよい機会になる」と期待の声も大きかった。週刊文春は宮崎氏に電話で事実確認を求めたが、「いやいやいや。勘弁してくださいよ。どういう時期か分かってるでしょ!」と話し、一方的に電話を切った。宮崎氏は女性タレントの名前すら知らないとトボケたが、電話の直後、女性タレントのブログやツイッターから2人が会っていた1月30日と31日の記述が削除された。妻だけでなく、男性の育休取得を応援するすべての人の期待を裏切ったイクメン政治家の“ゲス不倫”。宮崎氏には、選良として責任ある対応が求められる。   
英EU離脱が「神風」になった自民党 2016/7
 キーワードは「経済の安定」。舛添問題もアベノミクス失政も吹き飛んだ
「きのう、イギリスが欧州連合(EU)からの離脱を決断した。やはり消費増税先送りの判断は正しかったのではないでしょうか」
参院選が公示された初の週末、英国の国民投票でEU離脱が決定して金融市場が大荒れした翌日の6月25日土曜日。官房長官・菅義偉は山形県米沢市での遊説で熱弁をふるった。
首相・安倍晋三も宮城県で「英国のEU離脱で経済にリスクを与えないか懸念している。日本はG7(主要7カ国)の議長国として国際協調して万全を期す」と訴えた。
消費税率10%への引き上げを2年半先送りし、衆参同日選挙を見送ってまで臨んだ参院選。6月23日夜に明らかになったマスコミ各社の序盤情勢では「改憲勢力3分の2をうかがう勢い」と与党に有利な結果が出た。
それでも野党四党が統一候補を擁立した32の1人区では弱さも感じられ、なにより「リーマン・ショック級の危機」を未然に防ぐために増税を延期した、との首相官邸の理屈に批判と疑問が高まり、安倍の演説もどこか言い訳めいた色彩もあった。
そこに飛び込んできた英国のEU離脱の一報。6月24日、一報を聞いて「えっ!」と驚きながらも、安倍は急きょ、首相官邸で関係閣僚会議を主催して「世界経済の成長、金融市場の安定に万全を期していく」と指示を出した。選挙演説も「今、日本に求められているのは政治の安定だ。それは世界から求められている」と力強いトーンにかわった。
菅は「国際関係の中では何が起きるか分からない。そういうリスクに対応するための政策を私たちは常日ごろからとっている」とも訴え、消費増税再延期の正当性を強調した。
5月末の伊勢志摩サミットで、リーマン・ショック級の危機を回避するためと各国首脳に提示した「参考データ」は経産省出身の首相政務秘書官・今井尚哉が作成したものだった。今井は数カ月前から、安倍と外務省、財務省幹部によるサミット打ち合わせでも、会議を根回しする役割のシェルパが説明する国際的な経済認識についても「君たちは分かっていない」と叱責し、消費増税延期の地ならしを進めてきた。
サミット本番ではイギリス首相、デービッド・キャメロンが「危機とまで言うのはどうか」と発言した。そのキャメロンの英国が、EU離脱で本当にリーマン・ショック級の危機をもたらしかねない皮肉。自民党幹部、政府高官からも「増税延期は正しかったと訴えられる」「リーマン・ショック級の危機回避、としたサミット文書は正しかった」との声があがった。
日経平均株価が下落し、為替が円高にふれても、もはや「アベノミクスの失敗」ではなく、国際情勢の激変が原因となる。災い転じて福となす。選挙戦の基調が守勢から攻勢に転じた瞬間だった。
ヒラリーを重ね合わせた蓮舫
それまで、安倍と自民党は「不気味な選挙だ」と、いまひとつ手ごたえをつかみかねていた。それを象徴したのが6月21日、テレビ朝日での党首討論番組の収録シーンだった。
「6時までと言ったじゃない。時間を守ってもらわないと困る。飛行機の時間があるんだから!」
番組収録が1分、長引くと、安倍は激しく詰め寄った。
収録が終わった後の模様も、モニターしている記者団には聞こえていた。安倍サイドは翌22日にSNSサイト、フェイスブックに「報道ステーションの対応にはあきれました」と書き込むなど、怒りはおさまらない様子だった。
官邸や自民党はこのころ、選挙戦の風向きに異変を感じていた。野党と1対1で激突する1人区で、当初予想よりも多い10程度の選挙区で苦戦が伝わった。大きな要因は前東京都知事・舛添要一の「政治とカネ」を巡る一連の騒動だった。
家族での旅行やネットオークションで絵画を購入するなどした舛添の政治資金流用疑惑。テレビは連日、ワイドショーで報じ、米紙ニューヨーク・タイムズは「せこい(sekoi)」と打電するなど、舛添問題は都政の枠を超え、国政に影響を与えていた。6月7日、東京で自民党は2人目の参院選候補を発表したが、支持が伸びない。
「何とかしなくちゃいけない」
この日、首相官邸へ2020年東京五輪について報告に訪れた元首相・森喜朗と安倍の見解は一致した。
東京自民党のドン、都連幹事長・内田茂らが模索した「リオデジャネイロ五輪の閉会式に舛添が出席して花道を飾り、9月の定例議会で辞職すれば、4年後の都知事選は東京五輪後になる」とのシナリオは水泡に帰した。「このまま放っておけば1日100票、1000票単位で票が減っていく」と官邸は危機感を募らせた。すべては参院選のためだ。
舛添は粘り腰をみせる。「議会で不信任決議案が出る前に辞職しろ」と迫る自民党都連に、舛添は都議会解散の可能性をちらつかせて反撃する。都連側の説得も行きづまり、タイムリミットである定例議会の会期末、6月15日までもつれ込んだ。
しかし、その15日午前零時半すぎ、都議会全会派が共同で不信任案を提出し、本会議に上程されることが決まった。舛添が辞めなければ、不信任案は可決される。舛添に辞職以外の道はなくなった。
朝、舛添辞職の意向が伝わった官邸は安堵に包まれた。参院選の阻害要因はなんとしても取り除くとの官邸の決意が「舛添降ろし」を結実させた。
一方、この絶好の機会に大攻勢に出られなかったのが民進党だ。
「私のガラスの天井は、国政にある」
6月18日昼、大本命候補だった民進党の代表代行・蓮舫は、こんな表現で都知事選への不出馬を表明した。
「ガラスの天井」というセリフは8年前、アメリカ大統領選の民主党候補選びでバラク・オバマ大統領に敗れた前国務長官、ヒラリー・クリントンが「ガラスの天井を打ち砕けなかったが、ひびは入れられた」と言い、候補指名を確実にした今年も「ガラスの天井を壊す」と宣言した言葉をもじったもの。米国史上、初の女性大統領を狙うクリントンにならい、都政ではなく女性初の首相を目指すと表明したのだった。
6年前の参院選で、約170万票と東京選挙区での最高記録をうちたてた蓮舫は、自民党からも「都知事選に出馬すれば当選確実だ」との声があがったほどの最強候補だった。
舛添の辞任を受けて、民進党幹事長・枝野幸男や国会対策委員長・安住淳は「蓮舫なら与野党対決型で勝てる。都知事選の効果が全国に波及し、参院選にも好影響を与える」とみて、蓮舫擁立に動いていた。
だが蓮舫サイドには警戒と疑念があった。とりわけ慎重論を唱えたのが前首相・野田佳彦。「都知事選は後出しジャンケンの方が有利」との理由だ。
都知事選は7月14日告示―31日投票の日程で、参院選の候補者でもある蓮舫は公示前日の6月22日までには態度を明らかにしなければならない理屈となる。「最悪なら蓮舫が勝つはずだった東京選挙区で1議席失い、都知事選でも負ける」というのが前首相の論法だった。
もうひとつの理由があった。蓮舫は参院選後、9月末に予定している民進党になって初の代表選を視野に入れている。枝野や安住らの都知事選擁立論は「代表選出馬の芽を事前に摘もうとの思惑」とみたのだ。
蓮舫は先手を打った。事務所開き当日の6月18日、枝野を訪ねて「仲間の声はありがたいですが、都知事選には出ません。国政を選びます」と伝える。諦めきれない枝野は「参院選の公示まで、まだ数日あるから」と促したが、蓮舫の決意は固い。枝野ら執行部は翻意させる手段もないまま、参院選公示日を迎える。「蓮舫都知事」は幻に終わった。
アベノミクス批判は響かず
参院選へなりふり構わぬ安倍自民党と、首相にもなれない野党代表の座を巡る思惑が交錯する民進党。その執念の差は、間違いなく結果に響いてくる。
自民党と安倍にとって、参院選は鬼門以外のなにものでもない。
1989年は結党以来、初めて過半数を割り込む惨敗を喫し、それから27年間の長きにわたって自民党は一度も過半数を回復できなかった。
この時、野党側は労組・連合主導で連携して無所属統一候補を擁立し、これが過半数割れの主因になった。今回も野党四党はすべての1人区に統一候補を立てている。
98年は今回と同じように序盤は優勢を伝えられながら、橋本龍太郎首相の「恒久減税」を巡る発言の二転三転ぶりから急激に失速し、「経済失政」と呼ばれて大敗した。2007年はいうまでもなく、安倍が敗北して退陣に追い込まれたトラウマの選挙である。
いまEU離脱問題は短期的に安倍自民党にとって「神風」(党関係者)になっている。
野党の主張は「アベノミクスの失敗が、英国問題でハッキリした」という組み立てだ。民進党代表・岡田克也は「円高、株価の乱高下に、EU離脱が拍車をかける。分配と成長を両立させる経済政策が必要だ」と語る。共産党委員長・志位和夫も「アベノミクスがつくりだしたのはもろい経済だった。英国のEU離脱で日本経済に大打撃が起きているのはアベノミクスの結果だ」と訴えるが、有権者に響かない。先の見えない混乱を前に、世論が求めているのは改革ではなく危機対応であり、経済の安定だからだ。岡田は「地元で公認候補が負ければ代表戦に出ない」と、この期に及んで言い出す始末だ。
英国のEU離脱による市場への影響は年単位で長期化するだろう。今年後半からの政局は「経済」が中心にならざるを得ない。目先の参院選では「神風」となっても、参院選後を考えれば、高い株価が支えてきた安倍政権にとって「逆風」ともなりかねない。まさに正念場を迎える。
さらに、自民党内には麻生太郎政権時代、リーマン後の対応に失敗して政権を失った悪夢がよぎる。
「あのときは後手を踏み、衆院解散の時期も逸した。あの二の舞は避けたい」が、自民党幹部の合言葉だ。
「党に緊急特別本部を設置しました」。6月24日夜、自民党政調会長・稲田朋美は党本部で政権党の即応性をアピールした。安倍政権は秋の臨時国会に大型の補正予算案を提出し、危機回避への動きを強める構えをとる。
補正予算も「10兆円超の大型が必要」と、選挙戦中から早くも掛け声がかかる。
6月25日、遊説を終えた安倍は午後7時過ぎに自民党本部へ入って幹事長・谷垣禎一、選対委員長・茂木敏充の報告を受けて情勢を分析し、てこ入れする重点区を吟味した。「世論調査の好結果に踊らされず、引き締めていく」「ひとつひとつ確実にとっていく」と意思統一した。
英国のEU離脱は世界中で内向きの姿勢を強める引き金となる。11月の米国大統領選も孤立主義のドナルド・トランプが共和党候補だ。ロシア大統領、ウラジーミル・プーチンにとって対露強硬派の英国がEUから離脱するのは望むところであり、安倍が悲願とする北方領土問題解決の行方にも影響は避けられない。
英国民投票と参院選、2つの選挙が日本を揺さぶっている。 
「安倍晋三の野望は恐ろしい」 大橋巨泉さん“遺言”の壮絶 2016/7
がん闘病中の大橋巨泉(82)が、94年から続いていた週刊現代の人気コラム「今週の遺言」を今週(27日)発売号で最終回としたことが話題になっている。「これ以上の体力も気力もありません」というのが断筆の理由で、自らの深刻な病状や大量の薬で死に直面したことを告白。まさに壮絶そのものなのだが、コラムのラストの部分に記された「最後の遺言」には、読んだ誰もが胸を打たれたのではないか。少し長くなるが、その部分を転記したい。
〈今も恐ろしい事や情けない事、恥知らずな事が連日報道されている。書きたい事や言いたい事は山ほどあるのだが、許して下さい。しかしこのままでは死んでも死にきれないので、最後の遺言として一つだけは書いておきたい。安倍晋三の野望は恐ろしいものです。選挙民をナメている安倍晋三に一泡吹かせて下さい。7月の参院選挙、野党に投票して下さい。最後のお願いです〉
参院選の真っただ中に迎えた最終回のコラム。安倍の恐ろしい野望とは、自公とおおさか維新、こころを合わせて3分の2の議席を獲得し、憲法改正を発議をすること。そしてその先に9条を改正し、日本を戦争のできる国につくり変えることを指しているのだろう。直近の新聞各社の情勢調査では、「改憲勢力3分の2」が現実になりつつある。巨泉は病床でジリジリとした焦りを感じながら、有権者が賢明な判断を下すのを、祈るような思いで見つめていることだろう。
法衣の下に鎧を隠している男
巨泉は安倍政権の危険性を、これまで幾度となく指摘してきていた。
かつて同コラムには、〈安倍首相を始めとする現レジームにとって、戦前のように「自由に戦争のできる国」は理想的なのだろうが、われわれ昭和ヒトケタにとっては、「平和憲法に守られたこの70年こそ理想の天国」なのである〉(15年6月13日号)と書いた。
日刊ゲンダイ本紙のインタビューでもこう言っていた。
「僕は、ポピュリズムの権化のような安倍首相をまったく信用しない。経済はムードをあおる手段に過ぎず、本当にやりたいのは憲法改正であり、日本を『戦争ができる国』に変えることでしょう。法衣の下に鎧を隠しているような男の言動にだまされてはいけません」(14年5月10日付)
安倍から発せられる戦争の臭い――。戦争経験のある戦前世代はそうしたものを、嫌でも嗅ぎ取ってしまう。それがこの政権の危険性に対する異口同音の訴えとなる。
本紙インタビューに登場した作家の瀬戸内寂聴(94)の言葉はこうだった。
「当時もね、われわれ庶民にはまさか戦争が始まるという気持ちはなかったですよ。のんきだったんです。袖を切れとか、欲しいものを我慢しろとか言われるようになって、ようやく、これは大変だと思いました。こうやって国民が知らない間に政府がどんどん、戦争に持っていく。そういうことがありうるんです」(14年4月4日付)
学徒出陣を経験した石田雄・東大名誉教授(93)も本紙インタビューでこう言っていた。
「平和というのは最初は、非暴力という意味で使われる。しかし、日本においては次第に東洋平和という使い方をされて、日清、日露、日中戦争において戦争の大義にされていく。これは日本の戦争に限った話ではなく、ありとあらゆる戦争の言い訳、大義名分に『平和』という言葉が利用されてきたのです。こういう歴史を見ていれば、安倍首相が唱える『積極的平和主義』という言葉のいかがわしさがすぐわかるんですよ」(14年7月3日付)
参院選の投票を目前にして、こうした先達の言葉の重みを、いま一度、噛みしめる必要がある。
「野党に投票を。最後のお願いです」
安倍政権の恐ろしさ─―。戦前世代の政治評論家・森田実氏(83)は過去の自民党政権と比較しながら、こんなふうに解説してくれた。
「古代ギリシャの抒情詩人ピンダロスは、『戦争はその経験なき人々には甘美である。だが経験した者は戦争が近づくと心底、大いに恐れるのだ』と書きました。悲惨な戦争の体験者がこの世にいる間は止める力が働くが、未経験者だけになったら戦争を始めるという意味を含んでいて、戦争体験のない世代、中でも特に政治権力を持つ者たちにその傾向があります。歴代自民党政権でも小渕政権のころまでは、『平和のためなら体を張る』という強い意志が感じられました。しかし、森政権以降、それがボヤけてきて、小泉政権になって、何をしでかすかわからなくなった。もっとも、小泉さんは安保や軍事面には口を出しませんでした。安倍首相も小泉さん同様、何をやらかすかわからないようなムキになる性格ですが、小泉さん以上にタチが悪いのは、軍事の問題になるとがぜん、張り切ることです。そして、そんな安倍さんを支えるのが極右のグループで、そうした支援者をバックにますます張り切る。安倍さんは自らの中にブレーキを持たない人間じゃないか。だから、いざとなったら戦争に突っ走ってしまう恐ろしさがあるのです」
九州大名誉教授(憲法)の斎藤文男氏(83)の分析はこうだ。
「安倍首相の言動や己に課している使命感には、戦前回帰のにおいがプンプンします。『国威発揚のあの時代はよかった』『敗戦で米に押し付けられた憲法ではなく自前の憲法を作らないと独立国家じゃない』『国のために命を投げ打つ気概のない日本人は腰抜けだ』─―そんな考え方です。実際に著書『美しい国へ』にもそう書いてありますよね。そんな人物が自民党の中で独裁的な権力を持ち、自民党イコール安倍党の状態に陥っている。そして、第1次政権での失敗を経て、改憲願望は『経済』で隠す、世論を騙すという“戦術”を身につけた。しかし、戦時体験を持っている私たちの世代には、安倍さんがどんなに隠しても、ベールの下の素顔が見えてしまうのです。昨年、安保法制が成立した時、私は『新たな戦前が始まった』と言いました。モノも言えず、権利や自由は剥奪され、国家のために生きる。それが日本人の美学だとされる。そんな国になってしまっていいんですか。年寄りが歴史と人生を踏まえて、揃って警鐘を鳴らしているのです。冷や水などと言わないで、耳を傾けて欲しい」
「時代錯誤が」現実になる
安倍の側近たちが野党時代にまとめた自民党改憲草案に、彼らが目指すこの国の形がある。一言でいえば、明治憲法に戻ろうという時代錯誤である。
改憲草案13条は「全ての国民は、人として尊重される」とし、現行憲法の「個人」を「人」に変えてしまっている。国民を「個人」と見るのではなく、「人」という“束”で見なす考え方だ。9条の改正案では、戦力の不保持を定めた現行2項を「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」と改めた。そして、「国防軍の保持」を明記した条文を追加している。
参院選で改憲勢力が3分の2を確保すれば、時代錯誤と片付けられなくなる。国民は国家のために奉仕することを義務付けられるような、とんでもない国につくり変えられる。
安倍による憲法改悪を何としても阻止しなければならない。巨泉の遺言〈野党に投票してくれ〉という叫び。民進党が嫌いでも、共産党にアレルギーがあったとしても、再び戦争をする国になることに比べたら、賢明な選択は何なのか、おのずとわかるはずだ。 
大橋巨泉の遺言 「安倍晋三に一泡吹かせて下さい」 7/21
以前より体調の悪化を心配されていたタレント・司会者の大橋巨泉氏が、今月12日に急性呼吸不全で亡くなっていたことが明らかになった。82歳だった。
本サイトでも以前、紹介したように、巨泉氏は「週刊現代」(講談社)7月9日号掲載の連載コラム「今週の遺言」最終回で、すでに病が身体を蝕んでいることを綴っていた。だが、それでも巨泉氏は〈このままでは死んでも死にきれない〉と綴り、直後に迫った参院選について、読者にメッセージを送っていた。
〈今のボクにはこれ以上の体力も気力もありません。だが今も恐ろしい事や情けない事、恥知らずな事が連日報道されている。書きたい事や言いたい事は山ほどあるのだが、許して下さい。しかしこのままでは死んでも死にきれないので、最後の遺言として一つだけは書いておきたい。安倍晋三の野望は恐ろしいものです。選挙民をナメている安倍晋三に一泡吹かせて下さい。7月の参院選挙、野党に投票して下さい。最後のお願いです〉
まさに、このメッセージが巨泉氏にとってほんとうに最後の遺言となってしまったわけだが、しかし、ワイドショーやニュース番組はこの巨泉氏の遺言をことごとく無視。ベテラン司会者としての仕事を紹介するに留め、『報道ステーション』(テレビ朝日)でさえ最後のコラムの〈今も恐ろしい事や情けない事、恥知らずなことが連日報道されている〉という部分までしか紹介しなかった。安倍首相について言及した部分まで報じたのは、『NEWS23』(TBS)だけだ。
たしかに、『11PM』(日本テレビ)や『クイズダービー』(TBS)、『世界まるごとHOWマッチ』(MBS)といった人気番組の司会を数々こなし、一方でお茶の間ロックやアングラ演劇などのサブカルチャーをテレビにもち込んだり、クイズバラエティを定着させたりといった巨泉氏の功績が大きいのは言うまでもないが、最後の遺言にも顕著なように、巨泉氏は自民党の強権性にNOの姿勢を貫きつづけた人であった。テレビはそこから目を逸らしたのだ。
巨泉氏といえば、民主党議員だった2001年に、アメリカの同時多発テロを非難し「アメリカを支持する」との国会決議に民主党でたった1人反対、戦争へ向かおうとする姿勢を断固拒否したエピソードが有名だが、すでにセミリタイア状態だった巨泉氏が政界へ進出しようとしたのは、そもそも当時人気絶頂だった小泉純一郎首相の進めようとする国づくりに対する危機感があった。
周知の通り、小泉首相は新自由主義的な政策を押し進め、この国は弱い者にとって非常に生きづらい国になってしまった。巨泉氏は「週刊現代」の連載コラムで小泉政権がつくったこの国の在り方をこう批判している。
〈冷戦終了以降、アメリカ型の新自由主義経済がわがもの顔の現在、それに歯止めをかける思想や組織の存在は必須なのである。でないと「負け組」や「新貧困層」が拡大し、その中からテロリズムが増殖するのである。(中略)小泉やハワードが目指しているのは、「強者の論理」でくくる社会。自由主義経済なればこそ、弱者のための政党や組合は必要なのだ。何万人とリストラする大企業に対し、個人でどう戦うのかね!?〉(「週刊現代」05年12月10日号より)
周知の通り、その後、巨泉氏は議員を辞職し、再びセミリタイア状態に戻る。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドを転々とする悠々自適な生活を送るのだが、第二次安倍政権の時代に入ると再び社会的なメッセージを発信するようになっていく。それは、安倍首相は経済を最優先にすると口当たりのいいことを言っているが、その本音は憲法を変えて国民から権利を奪い、日本を再び戦争ができる国へと戻そうとしていることを見抜いていたからだ。
〈彼にとって「経済」はムードを煽る道具に過ぎず、本当の狙いは別のところにあるからだ。(中略)
安倍は先日、「国づくり」に関する有識者会議で、「ふるさと」や「愛国心」について熱弁をふるった。曰く、「日本人は生れ育った地を愛し、公共の精神や道徳心を養って来た。ふるさとをどう守ってゆくかを考えて欲しい」。見事なウソツキと言う他ない。(中略)
「公共の精神や道徳心」を強調することで、現憲法が保障してくれている、「個人の権利(人権)」に制限を加えたくて仕方がないのだ。それでなくても「知らしむべからず」なのに、もっと制限を加えて、政権の思う通りにあやつれる国民にしたいのである。そのためには現在の憲法が邪魔なので、これを改正するために、まず人気を取り、その勢いで改正してしまおうという訳だ。(中略)
そもそも憲法とは、国民が守るの変えるのという法律ではない。国家権力(時の政府)の公使を制限するためにあるものだ。軍部が暴走して、数百万人の国民の命を奪った戦前戦中のレジームへのタガとして現憲法は存在する。それを変えて戦前への回帰を計る現レジームは、禁じ手さえ使おうとしている。止めようよ、みんな〉(「週刊現代」13年5月4日号より)
巨泉氏はさらにこのようにも語っている。
〈ボクの危惧は、4月にウォール・ストリート・ジャーナルに、麻生太郎副総理が述べた言葉によって、裏うちされている。麻生は「参院選で安倍政権が信任された時、首相の関心はおそらく経済から教育改革と憲法改正に向うだろう」と言っていた。要するにボクの持論通りなのだ。“経済”とか“景気”とかいうものは、あくまで人気(支持率)を高めるための道具であり、本当の目的は教育と憲法を変えて、「強い日本」をつくる事なのである。この鎧を衣の下に隠した、安倍晋三は恐ろしい男なのだ〉(「週刊現代」13年6月22日号)
しかし、巨泉氏の警告も虚しく、「アベノミクス」を釣り餌に圧倒的な議席数を獲得した安倍政権は横暴な国会運営を開始。周知の通り、昨年はまともな議論に応じず、国民の理解を得られぬまま安保法制を強行採決させてしまった。
そんな状況下、巨泉氏は「週刊朝日」(朝日新聞出版)15年9月18日号で、自身の戦争体験を語っている。1934年生まれの彼が実際にその目で見た戦争は、人々が人間の命をなにものにも思わなくなる恐ろしいものだった。それは安倍政権や、彼らを支持する者たちが目を向けていない、戦争の真の姿である。
〈何故戦争がいけないか。戦争が始まると、すべての優先順位は無視され、戦争に勝つことが優先される。昔から「人ひとり殺せば犯罪だけど、戦争で何人も殺せば英雄になる」と言われてきた。
特に日本国は危ない。民主主義、個人主義の発達した欧米では、戦争になっても生命の大事さは重視される。捕虜になって生きて帰ると英雄と言われる。日本では、捕虜になるくらいなら、自決しろと教わった。いったん戦争になったら、日本では一般の人は、人間として扱われなくなる。
それなのに安倍政権は、この国を戦争のできる国にしようとしている。
(中略)
ボクらの世代は、辛うじて終戦で助かったが、実は当時の政治家や軍部は、ボクら少年や、母や姉らの女性たちまで動員しようとしていた。11、12歳のボクらは実際に竹槍(たけやり)の訓練をさせられた。校庭にわら人形を立て、その胸に向かって竹槍(単に竹の先を斜めに切ったもの)で刺すのである。なかなかうまく行かないが、たまにうまく刺さって「ドヤ顔」をしていると、教官に怒鳴られた。「バカモン、刺したらすぐ引き抜かないと、肉がしまって抜けなくなるぞ!」
どっちがバカモンだろう。上陸してくる米軍は、近代兵器で武装している。竹槍が届く前に、射殺されている。これは「狂気」どころか「バカ」であろう。それでもこの愚行を本気で考え、本土決戦に備えていた政治家や軍人がいたのである。彼らの根底にあったのは、「生命の軽視」であったはずである〉
しかし、立憲主義を揺るがすような国会運営をし、メディアに圧力をかけて「報道の自由度ランキング」が72位にまで下がるほどの暗澹たる状態に成り果てたのにも関わらず、先の参院選では改憲勢力が3分の2を超えれば遂に憲法改正に手がかかるという状況になった。
そんななか、巨泉氏の体調は悪化。3月半ばごろから体力の落ち込みがひどく、4月には意識不明の状態に陥り2週間ほど意識が戻らなくなったことで、5月からは集中治療室に入っていた。そして、前述した「週刊現代」の連載も、4月9日号を最後に休載となっていたのだが、家族の助けを受けて何とか書き上げたのが、7月9月号掲載の最終回。ここで巨泉氏は本稿冒頭で挙げた〈安倍晋三に一泡吹かせて下さい〉という「最後のお願い」を読者に投げかけたのだ。
だが、残念なことに改憲勢力が3分の2を越え、現在政権は選挙中に争点隠しをつづけていたのが嘘のように、したたかに憲法改正への動きを進めようとしている。最後の最後まで、平和を希求するメッセージを投げかけつづけた巨泉氏の思いを無駄にしないためにも、我々は政権の悪辣なやり方に断固としてNOを突きつけつづけなくてはならない。
〈「戦争とは、爺さんが始めておっさんが命令し、若者たちが死んでゆくもの」。これは大林素子さんの力作「MOTHER 特攻の母 鳥濱トメ物語」の中で、特攻隊長が、出撃してゆく隊員に、「戦争とは何か」を告げるセリフであった。
現在にたとえれば、「爺さん」は、尖閣諸島の国有化のタネをまいた石原慎太郎維新の会共同代表だろう。「おっさん」は当然、“国防軍”を平気で口にする安倍晋三首相である。彼らはおそらく死なない筈だ。扇動したり、命令したりするだけで、自分達は安全なところに居る。前の戦争の時もそうだった。そして実際に死んでゆくのは、罪もない若者なのだ。それを知っていたからこそ、9条改正に6割以上の若者が反対しているのである。おそらく前の戦争のことは、学校で教わったに違いない。安倍政権は、この“教育”さえも改悪しようとしている。怖ろしい企みである〉(「週刊現代」13年5月11日・18日合併号より)  
小倉智昭に“大橋巨泉の弟子”を名乗る資格なし! 7/22
 『とくダネ!』では巨泉の遺言を封殺
やっぱりこの男は裏切り者だ──。大物司会者・大橋巨泉の死を報じるテレビ各局のワイドショーをチェックしていて、そう確信した。この男というのは、巨泉と40年にわたって師弟関係にあり、自ら巨泉を「師匠であり恩人」と公言していたフジテレビ『とくダネ!』の司会者・小倉智昭のことだ。
もちろん表向き、小倉は身内のように巨泉の死を悼んでいた。巨泉の死を最初に伝えた7月20日の『とくダネ!』では、小倉は開口一番、「巨泉さんがいなかったら、今こうやって『とくダネ!』の司会をやってるということはなかった」と発言。自分を抜擢してくれた巨泉への感謝の思いをとうとうと述べていた。そして、間近で見た巨泉の人柄、テレビ界に果たした役割、夫人から聞いた闘病の様子などを涙ながらに話した。
小倉は同日の『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ)にも生出演し、ここでも涙を流しながら、巨泉の思い出話を語った。さらに、翌21日の『とくダネ!』では、自分の結婚式の写真を紹介しながら、巨泉に仲人をしてもらったエピソードを公開。千葉の家までテレビの配線をしに出かけたこと、大量のレコードを譲り受けていたことなども明かし、いかに自分が巨泉と身内同然の関係にあったかを強調した。
しかし、小倉はその一方で、巨泉が最後に一番伝えたかったメッセージを完全に黙殺してしまったのだ。
周知のように、巨泉は晩年、病床から憲法をないがしろにする安倍政権の危険性を必死で訴えていた。そして、直前の「週刊現代」(講談社)7月9日号の連載コラム「今週の遺言」最終回では、「安倍晋三の野望は恐ろしいものです。選挙民をナメている安倍晋三に一泡吹かせて下さい」「このままでは死んでも死にきれない」と、まさに遺言ともとれる壮絶な安倍批判の言葉を残していた。だが、小倉は巨泉のこうした政権批判について一秒たりとも触れなかったのだ。
もちろん、巨泉の安倍批判を無視したのは、小倉だけではない。とくに「安倍晋三に一泡吹かせて下さい」という遺言については、『NEWS23』(TBS)以外、どのテレビ番組も取り上げなかった。
しかし、小倉は自他共に認める「巨泉の弟子」である。師匠が「このままでは死んでも死にきれない」と言いながら発したメッセージは、体を張ってでも伝えるのがスジではないか。
しかも、小倉の態度は他の番組MCよりもっと悪質だった。実は、7月20日の『とくダネ!』では、コメンテーターの深澤真紀氏が「週刊現代」のコラムのことを取り上げようとしていたのだが、小倉がそれを封じ込めていたのだ。
「(「週刊現代」の連載で)世界情勢だったり、日本の政権だったりということにずっと問題意識をもって、ずっと怒ってらっしゃっていて、俺はこのままでいいのか、日本は……っていうことを最後まで書いてらっしゃった」
こう話を切り出した深澤。ところが、小倉氏はこれを完全にスルー。菊川怜に向かって「実は巨泉さんはこの番組を見てくれていて、最近の怜ちゃんの仕事を褒めていた」と全く関係のない話を始めた。
ようするに、自分が巨泉の安倍政権批判を口にしなかっただけでなく、師匠の“遺言”を番組が取り上げること自体を許さなかったのだ。これが「裏切り」でなくて、なんだというのか。
いや、そもそも、小倉の巨泉への裏切りは今回の“遺言封殺”という問題だけでない。「愛弟子」「恩人」などといいながら、小倉はとっくに、巨泉を切り捨てていたという見方がテレビ業界では根強い。
小倉はテレビ東京のアナウンサー時代、上層部と対立して進退きわまった際、大橋巨泉に拾われて1976年に「大橋巨泉事務所」(現オーケープロダクション)入りした。当時小倉には多額の借金があり、しかも仕事も鳴かず飛ばず。そんな中、『大橋巨泉の日曜競馬ニッポン』(ニッポン放送)に小倉を起用し、『世界まるごとHOWマッチ』でブレイクさせたのが巨泉だった。
その後、小倉は巨泉を師匠として仰ぐようになり、まさに『とくダネ!』で語ったような身内同然の関係になるのだが、しかし、その関係は実際には09年頃から大きく変化していた。
原因は、巨泉が「オーケープロダクション」の株式を売却、同社が大手テレビ制作会社「イースト・グループ・ホールディングス」の完全子会社になったことだった。当初は、それでも、オーケープロダクションの社長だった巨泉の実弟が引き続き社長を務めたのだが、しかしほどなくして社長の椅子を追われ、そのため巨泉と「オーケープロダクション」の縁が切れてしまう。
このとき、多くのテレビ関係者は、小倉も巨泉の弟と一緒に事務所を出るのだろうと思ったようだが、小倉のとった行動は逆だった。小倉はもともと同社の株式を持ち取締役に就任していたが、そのまま居残っただけでなく、イーストと蜜月関係を築き、一気に経営への関与を強めていった。そして、「オーケープロダクションの事実上の経営者」と呼ばれるくらいに大きな影響力を持って君臨するようになる。
「この小倉さんの変わり身に、古くから巨泉さんを知る局員の中には『裏切り者』呼ばわりする人もいたようです。実際、その後、小倉さんは巨泉さんと疎遠になり、あまり会っていないという話もある。今回の『とくダネ!』でも小倉さんは巨泉の病床の様子を話していたが、全部、夫人からのまた聞きで、直接、見舞いにいっている感じはしませんでしたからね」(テレビ局関係者)
そして、小倉のスタンスが変わっていったのも、この頃からだった。権力に迎合するような姿勢が目立ち始め、巨泉との師弟関係があった頃には絶対にしなかったような発言を口にするようになった。
その典型がかつてオーケープロダクションに所属していた俳優・萩原流行のバイク事故死についてのコメントだった。昨年4月23日放映の『とくダネ!』で、小倉は萩原が事務所が反対する中国の“反日映画”に出演したことが原因で事務所を辞めたなどと、事実無根のレッテルを張り、萩原を貶めるような発言をした。萩原への「反日」攻撃は明らかに濡れ衣なのにもかかわらずだ。その後、萩原の未亡人が警察による事故隠蔽を告発して大きな話題となったが、しかし小倉氏は未亡人を擁護することはなく、切り捨てた。
政治的にも、自民党や安倍政権に擦り寄るような発言をしきりに始め、14年12月に起こった韓国のいわゆる「ナッツリターン」事件では、「韓国の人は自分の責任は認めないで他人の責任にするのか」「韓国人は日本人を見習わないと追いつけない」といった上から目線のヘイト発言をして大きな批判を浴びた。
「小倉さんが変わったというより、本音を出せるようになったということじゃないですか。それまでは巨泉さんの手前、リベラルなふりをしていたけど、巨泉さんがいなくなったことでタガが外れ、もとから持っていた本性があらわになったんじゃないですかね」(前出・テレビ局関係者)
そう考えると、今回、小倉が大橋巨泉の安倍批判を封殺したのも当然というべきだろう。安倍政権のPR放送局の情報番組キャスターという地位に大満足しているこの男はおそらく端から、利用価値がなくなった“元師匠”の遺言など歯牙にもかけるつもりはなかったのだ。
7月20日の『直撃LIVE グッディ!』に生出演し、司会の安藤優子から「巨泉の後継者」などと持ち上げられた小倉はまんざらでもないという様子で「継げないでしょうね、大きすぎて」などと発言した。
しかし、小倉が巨泉の後継者になれないのは、大きさの問題ではない。最後まで権力に対峙し、命を削りながら憲法を守るために発言を続けた昭和の名司会者と、世間の空気に迎合し無自覚な差別意識を垂れ流す電波芸者とでは、志が決定的に違うのだ。 
安倍内閣 「支持する」39% 「支持しない」43% 8/7
NHKの世論調査によりますと、安倍内閣を「支持する」と答えた人は、先月行った調査より4ポイント上がって39%だったのに対し、「支持しない」と答えた人は、5ポイント下がって43%でした。
NHKは、今月4日から3日間、全国の18歳以上の男女を対象にコンピューターで無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかける「RDD」という方法で世論調査を行いました。
調査の対象となったのは2233人で、59%に当たる1309人から回答を得ました。
それによりますと、安倍内閣を「支持する」と答えた人は、先月行った調査よりも4ポイント上がって39%だったのに対し、「支持しない」と答えた人は、5ポイント下がって43%でした。
支持する理由では、「他の内閣より良さそうだから」が50%、「実行力があるから」が16%、「支持する政党の内閣だから」が13%でした。
逆に、支持しない理由では、「人柄が信頼できないから」が46%、「政策に期待が持てないから」が30%、「実行力がないから」が8%となっています。
安倍総理大臣が今月3日に行った内閣改造と自民党の役員人事を評価するか聞いたところ、「大いに評価する」が6%、「ある程度評価する」が44%、「あまり評価しない」が30%、「まったく評価しない」が11%でした。
内閣改造で、自民党の野田聖子氏を総務大臣に起用したことを評価するか聞いたところ、「大いに評価する」が12%、「ある程度評価する」が46%、「あまり評価しない」が26%、「まったく評価しない」が7%でした。
また、自民党の河野太郎氏を外務大臣に起用したことを評価するか聞いたところ、「大いに評価する」が12%、「ある程度評価する」が47%、「あまり評価しない」が26%、「まったく評価しない」が6%でした。
安倍総理大臣は、秋の臨時国会に自民党の改正案を提出したいなどとしていた憲法改正のスケジュールについて、日程ありきではないとして、党や国会での議論に委ねる考えを示しました。これについて評価するか聞いたところ、「大いに評価する」が8%、「ある程度評価する」が33%、「あまり評価しない」が35%、「まったく評価しない」が14%でした。
学校法人「加計学園」の獣医学部新設をめぐる問題で、安倍総理大臣は先月の閉会中審査で、ことし1月20日に学部新設の申請を初めて知ったなどと説明しました。安倍総理大臣のこれまでの説明に納得できるか聞いたところ、「大いに納得できる」が3%、「ある程度納得できる」が12%、「あまり納得できない」が33%、「まったく納得できない」が45%でした。
“茶坊主”と“お友達”だけ優遇 安倍改造内閣の恐怖人事 2016/8
3日に行われた内閣改造で留任閣僚がズラリ並んだ。麻生太郎財務相、岸田文雄外相、菅義偉官房長官という2012年末の第2次政権発足時からのメンメンに加え、高市早苗総務相、塩崎恭久厚労相、加藤勝信1億相、石原伸晃経済再生相まで続投である。「内閣の骨格を維持して、安定した政権運営」などと解説されているが、要は自分の言うことを聞く“お友達”や“茶坊主”を置いておきたいだけ。世界情勢が混迷を深め、経済の先行きも不透明になっているのに、安倍にとっては国民生活より、やりたい放題の暴政を続けることの方が大事なのである。
閣僚人事に先立って決まった自民党役員人事もその最たるものだ。特にケガで復帰できない谷垣の続投を断念した後の幹事長ポスト。総務会長からの昇格となった二階俊博を、大メディアは“重量級”“調整力に定評”だとか実力者扱いしているが、ちゃんちゃらおかしい。
昨年の総裁選で安倍支持をいち早く表明したことや、年寄り過ぎて寝首をかかないという“忠誠心”がホントの起用理由だ。二階は最近、18年9月の総裁任期の延長まで口にしていた。安倍へのスリ寄りがミエミエで呆れるほどだ。
政治学者の五十嵐仁氏はこう言う。
「調整型といいますが、機を見るに敏なだけ。敏過ぎて政党を渡り歩き、出世できなかったから重鎮になった。今、安倍首相にくっついているのもそう。総裁再選を真っ先に支持し、総裁の任期延長でタイミング良く自分を売り込んだ。中身は、公共事業にバンバン予算をつける古いタイプの政治家ですよ」
二階が国土強靱化の旗振り役だったのは有名な話。2日、閣議決定された28兆円超の経済対策に、リニア中央新幹線の全線開業前倒しやクルーズ船を受け入れる港湾施設の整備などの事業を盛り込ませたのも二階という。公共事業重視で利権のにおいがプンプンなのに、持ち上げるメディアはどうかしている。
細田博之が総務会長に決まったのは、出身派閥の長で安倍にとって気心知れた間柄だからだ。茂木敏充の政調会長起用は、選対委員長として参院選を仕切った論功行賞。
「茂木さんは額賀派の領袖を狙っている。総理との距離感の近さで実力をアピールしたいのだろう」(自民党ベテラン議員)というから、党三役が政府に異論を挟むなんて光景は今後もなく、安倍に唯々諾々が続くことになる。
超タカ派の防衛相でますますナショナリズム高揚
初入閣、再入閣の大臣もヒドい顔ぶれだ。稲田朋美は安倍の一番の子飼い。直前まで政調会長だった上、当選4回で2度目の入閣。それも防衛相である。女性初の首相にするため、自分のそばで帝王学を学ばせようということか。
官房副長官だった世耕弘成の経産相抜擢も、お友達人事だ。第2次政権発足後から長期にわたり副長官を務め、在任期間は歴代1位。当選3回の入閣は当たり前の参院で当選4回まで入閣を待たされた。安倍からすれば「今までお勤めご苦労さん」てなところだろう。
麻生の子分の松本純など、その他も派閥の要望を受け入れた形。政治家としての能力や資質なんて、全く考慮しない布陣なのである。
「安倍さんは何でも自分が一番じゃなきゃ気が済まないタイプ。自分に従順であるかどうかが重要で、逆らったり、盾を突くような人は徹底的に干し上げる。稲田さんの起用はお友達人事ではありますが、入閣させられるような女性が他にいなかったという理由もあるようです。稲田さんなら首相の言いなりですからね。ただ、防衛相というのはいかがなものか。自衛隊の最高司令官がウルトラタカ派では周辺諸国に刺激を与えてしまう。ま、安倍さんは、安全保障上の危機感をあおって、国民のナショナリズムが高揚するのを、むしろ好都合とでも思っているのでしょう」(政治評論家・野上忠興氏)
留任閣僚で驚愕なのは石原伸晃だ。都連会長として都知事選に敗れたこともあり、閣僚も交代と噂されていた。「安倍さんが個人的な関係もあり残した」(前出のベテラン議員)とされるが、無能無政策で従順なのも、安倍が伸晃を重宝する理由だろう。
失敗が明らかなアベノミクスを、これからも最大限ふかさなければならないし、TPPもある。留任する麻生財務相とともに経済オンチ大臣の方が、安倍にとってやりやすいわけだが、国民にとっては悲劇としか言いようがない。
自民党と国会の“ダブル1強”で強権
こんな最悪人事なのに自民党内は強権首相の前に皆ひれ伏し、沈黙。異様で異常としか言いようがない。
国会も衆参で憲法改正発議に必要な3分の2の勢力を確保し、いつの間にか改憲が既定路線になってしまった。安倍は「おおさか維新の会」を取り込むため先週末、橋下徹前代表と会食。「憲法審査会で改憲の議論をやっていきたい」と伝えたという。
自民党は参院選後に無所属議員を1人入党させ、あれよあれよという間に、衆参とも単独過半数を達成している。いざとなれば、改憲に慎重な公明党を福祉政策などをエサに揺さぶることもできるわけだ。
「今や安倍さんは、自民党内と国会内の『ダブル1強』です。参院選でもそこそこの成績を残したので、これまで以上に誰も物を言えない空気になっている。ただ、改憲については急ぐと失敗しかねません。改憲勢力とはいえ、維新の会は何を改憲するかの項目が違います。経済が順調とはいえない中で、世論を納得させるのも簡単ではありません」(五十嵐仁氏=前出)
恐怖政治が吹きすさぶ今度の改造で唯一、安倍に抵抗したと言えるのは石破茂ぐらいだ。農水相などでの閣内残留を打診されたものの拒否。次期総裁選で「ポスト安倍」を目指すため、「野に下るべき」という仲間の意見に耳を傾けざるを得ない事情もあった。
「みんなおとなしくしてはいますが、相変わらずのお友達人事には、入閣待望組を筆頭に不満がマグマのようにたまっている。そんな中で石破さんが安倍さんの要求をはねつけたことは、アリの一穴になるかもしれません。交代が確実視されていた伸晃さんを留任させたのも、野に放って、石破さんと連携されるのを恐れたからともいわれていますからね」(野上忠興氏=前出)
いずれにしても、どこぞの国の将軍さながらの、国民そっちのけの亡国政治が続くことだけは確実である。 
自民党vs.共産党 大変身は成功するか 2016/9
 「議席三分の二確保で改憲」か「野党共闘で国民連合政府」か?
 対照的な二つの政党は日本の政治をどう変えてゆくのか
七月の参議院選挙、結果は安倍政権が目指した「改憲勢力による三分の二の議席確保」という目標が達成されて幕を閉じた。この結果が、「自民圧勝」なのか、それとも「野党善戦」だったのかは、見方の分かれるところだろう。だが、三十二ある一人区での勝負に限ってみると、自民二十一勝対野党十一勝という数字は、極めて興味深い。一人区に限っていえば、全選挙区での野党統一候補擁立(ようりつ)作戦が、それなりに成果を上げたといってもいいだろう。仮に民進党が単独で戦った場合、一人区では三〜四議席しか確保できなかったという推測もあるほどだ。
さて、今回の参院選、言うまでもなく野党第一党は民進党。当然、野党側の主役は民進党だったかに見える。焦点は「自民党対民進党」という対決構図だったはずだ。だが、本当にそうだろうか。確かに議席の上では民進党が最大野党であることはいうまでもない。だが、この参院選挙で政権与党側、つまり自公両党が最も意識した“敵”は民進党ではなく、実は共産党だった。
共産党が従来の方針を大転換し、香川県を除く全ての一人区で候補者擁立を見送るという、大胆な決断がなかったら、全三十二の一人区で野党共闘が成立することはなかっただろう。その結果の二十一対十一だとすれば、“仕掛け”たのは共産党であり、野党内で主導権を握り、他の野党はこれに追随、あるいは巻き込まれる形で従った、というのが実際の構図だったのではないか。
確かに共産党はこの選挙で、「比例八百五十万票以上、九議席獲得」という目標には届かず、選挙区一、比例五にとどまった。一人区での候補者擁立を見送ったために、比例票が伸びなかった可能性もある。その意味では、一見、野党共闘を実現するため、敢(あ)えて共産党が犠牲的精神を発揮したととれなくもない。
だが、共産党は今回、「それ以上のもの」を手に入れたはずだ。それは野党陣営内での「孤立」からの脱却であり、一般の有権者が抱いていた拭いがたい警戒心、アレルギーの大幅な緩和といってもいい。野党共闘を成立させたことで、共産党は少なくとも表面的には「普通の政党」に変身を遂げつつある。
その意味で、今回の参院選挙における野党側の真の主役は共産党ではなかったか。となれば、自民対民進という対決構図はあくまでも表面的なものに過ぎず、その実態は「自共対決」だったのかもしれない。
今回のような野党共闘の構図が、今後も続くかどうかは不透明だ。共産党が掲げる「国民連合政府」構想が実現する可能性は低い。だが、「したたか」な野党に変身しつつある共産党の挑戦は今後も間違いなく続いていく。そのターゲットは言うまでもなく自民党だ。「自共対決」はこれからが本番かもしれない。
カラフルから単色へ
自民党と共産党、いうまでもなく政策・理念、主義主張等全ての面で水と油、ハブとマングース、右と左……、加えて政党としての組織構造に関しても、極めて対照的である。それを一言で表現すると「議員政党対組織政党」とでもいおうか。
政党は大きく分けると、議員中心の「議員政党」と、党組織主導の「組織政党」に分けられる。自民党は明らかに前者、つまり議員政党だ。
確かに自民党は約百万人の党員を抱えている。地方議員も全国に三千三百五十一人と、他党を圧倒しているし、選挙区支部(衆院は小選挙区ごと、参院は選挙区ごと)、基礎自治体単位の地域支部や職域支部など、地方組織も整備されている。
だが、これらの組織は基本的に国政レベルでの政権与党体制、つまり過半数以上の国会議員を生み出すためのマシーンといってもいい。
自民党の場合、組織政党に見られるような、地方議員や非議員が党内で力を持つといったケースはほとんどない。時に、今回の東京都知事選のように、都議会自民党の「暴走」といった例外はあっても、大半の地方議員は国会議員を支える組織の歯車でもある。百万党員とはいうものの、その実態はかなりの部分、国会議員(その予備軍)が自前で作り上げた個人後援会のメンバーと重複している。外部の応援団である業界団体や宗教団体の本体部分は党本部、あるいは派閥、個々の国会議員と結びついている。こうした面からみれば、自民党は間違いなく「議員政党」であり、より具体的には「国会議員政党」というべきだろう。
かつて、自民党議員の大半は、自分たちを「一国一城の主」だと思っていた。党の看板(公認)や資金提供など、それなりの恩恵は受けているものの、基本的には自らの力で選挙を勝ち抜き、国会議員の地位を手に入れたという意識が強かった。その「主」たちの集合体が自民党という政党だったわけだ。
後述するように、自民党は「ある制度改革」がきっかけとなって、国会議員の地位、立ち位置が大きく変化した。ただ、基本的な組織構造、つまり国会議員政党としての性格は維持されている。
となれば自民党という組織体の実態を解明するためには、やはり党本部、それを構成する国会議員たちにフォーカスする以外にない。
かつてはその自民党のスタッフでもあった筆者からすると、今の自民党はイメージの中にあるそれとは全くの別ものに変身してしまったという気がしてならない。敢えてその変化を表現すれば「カラフル」から「モノカラー」へ、ということになるだろう。
「昭和の自民党」は実にカラフルだった。当時の自民党は一つの政党というよりは、むしろ「派閥」という名の政党の連合体という色彩が強かった。それがもっとも顕著だったのが、「三角大福中」と呼ばれた時代。三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘という、それぞれ個性的で強いリーダーシップをもった政治家が、自らの派閥を率いて覇権を競った時代である。
かつて、派閥は「諸悪の根源」といわれ、様々な批判に晒(さら)されてきた。むろん、それには一理も二理もある。派閥順送りの人事が不適材不適所を生み出したこと、派閥間の抗争がしばしば政治的混乱を生み出したこと、総理・総裁の座を巡る熾烈(しれつ)な戦いが、結果的に政治とカネの問題を引き起こしたこと……。
だが、一方で自民党自身にとってみると、派閥には様々な効用があった。まず、派閥は教育機関としての機能を持っていた。新人たちは、派閥内で先輩議員から様々な教育を受け、いい意味でも悪い意味でも政治家として一人前になっていった。
「派閥の中の派閥」といわれた田中派の教えの一つに、「二回当選するまでしゃべるな」というのがあった。当選してきた新人に対し、先輩議員はこういったという。
「君たちのやるべきは、何より次の選挙に勝ち残ることだ。まず、そこに全力投球すること。一方で、勉強を忘れてはいけない。党の部会や調査会にはできるだけ出席しろ。ただし、そこで一言もしゃべってはいけない。先輩議員の発言、議論をひたすら聞いて勉強しろ。会議で発言するのは二回当選してからだ」
また、当時の自民党は派閥の長にならなければ総裁レースに参加することもできなかった。従って、総理・総裁を目指す政治家はまず、派閥内での熾烈なサバイバルゲームに勝ち残り、トップの座を射止めたのち、次には他の派閥の長たちと総裁の座を目指してさらなる過酷な戦いに臨まなければならなかった。当然、その過程で政治家として、様々な試練を経験する。それがある意味で、「リーダー育成システム」になっていたともいえる。
他方、当時の派閥はそれぞれ独特のカラーを持っていたし、理念や政策面でも明確な違いを見せていた。例えば三木派は「ハト派集団」で中曽根派は「タカ派集団」だったし、田中派が財政出動派なら、福田派は緊縮財政派。そうした個性の違いが、実は自民党という組織のバランスを保つ上で、大きく作用していたといえる。
また、派閥という「疑似政党」の集まりだったから、時の政権が世論の批判を浴びて倒れても、他の派閥の長が新たに政権の座に就けば、それがあたかも「政権交代」のように見えた。国民の目先をかえることで、長期政権に対する「飽き」を緩和することもできたのではないか。加えて言えば、党内には常に主流派と反主流派の対立、抗争が存在し、その抗争自体が実は自民党の活力を再生産するエネルギーにもなっていた。
「奇人・変人」の不在
自民党には今も八つの派閥がある。往時に比べて、数の上ではむしろ多いかもしれない。だが、中身をみれば、全くの別物というべきだろう。そもそも派閥は「三つの構成要件」によって成り立っていた。「カネと選挙とポスト」がそれだ。派閥は構成員に対して、この三つを提供し、構成員はその見返りとして派閥に忠誠を誓い、ボスを総裁に押し上げるために全力を挙げる、というある種のバーター関係で成り立っていた。
だが、リクルート事件に端を発した政治改革の結果、選挙制度、政治資金制度の大改革によって、このシステムは崩壊する。衆議院の選挙制度は中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に変わり、まず「選挙」が消えた。中選挙区時代は自民党候補が一選挙区から複数立候補したから、先ず派閥の後押しで党の公認を獲得し、選挙戦では派閥単位の選挙応援を仰ぐことができたが、小選挙区では公認候補は一人だけ。党中心の選挙になったから、公認権は執行部が握り、選挙戦でも派閥の出る幕はほとんどない。
また、政治資金制度が変わり、派閥単位の資金集めをしにくくなったうえ、政党助成制度が創設されたことで、資金は党に、つまりは時の執行部に集中することになった。これで「カネ」も消えた。
今もわずかに残っているのが「ポスト」だが、それも閣僚以外の人事に対する影響力程度である。つまり、派閥の存在意義の大半は消えてしまったことになる。従って、今現在も派閥が残っていること自体が不思議なことといってもいい。
はっきり言って、今の派閥は「仲良しクラブ」に毛が生えた程度。かつてのような戦闘力はない。有名無実な存在となったことで、派閥ごとの独自性、言い方を変えれば多彩な色合いも消え去った。
現行の制度がスタートした時点で、こうなることはある程度予想できた。過去の積み重ねもあってか、その進行には時間がかかったが、第二次安倍政権に至って、完成形となったかに見える。ほぼ、すべての権力が時の総理、執行部に集中することで、今、党内には明確な反主流派は存在しない。党の実権を握った総裁派閥のみがわが世の春を謳歌(おうか)し、他の派閥は息をひそめ、官邸(総理)の方針に黙々と従うだけの存在になってしまったかに見える。
一方、個々の議員についても、似たような傾向が読み取れる。中選挙区制の時代は、例えば五人区であれば自民党から最低三人は立候補し、その多くが当選できた。一人は世襲、一人は官僚出身の落下傘だとして、残る一人は党の方針に公然と叛旗(はんき)を翻すような、あるいは特定の政策に精通する「奇人・変人」でも当選が可能だった。実はそうした「奇人・変人」が自民党という政党をカラフルな、幅広い人材を擁する、ある意味で懐(ふところ)の深い政党に仕立て上げていたのではなかったか。
だが、今やそうした政治家の出る幕はない。一対一の戦いとなるケースが多い小選挙区制では理論上「五一%」の票を獲得した候補が勝利する。当然、問題児は立候補も当選もおぼつかない。結果、優等生的候補や無難な世襲候補が大多数を占めることになる。“百面相”のような政党だった自民党は、いつの間にか、“金太郎飴”のような、どこを切っても同じ顔の政党に変わってしまった。自民党は相変わらず自民党。外見はさほど変わっていない。だが、その組織構造、内実は大きく変化している。
今の自民党は、まさに「安倍カラー」一色に塗りつぶされている。かつての多彩で軟体動物のように柔軟で、それゆえにしたたかな自民党は消え、異論を許さない一枚岩の政党に姿を変えた。確かに、命令一下、粛々(しゅくしゅく)と動く組織には、それゆえの強みもある。例えば安保法制。世論の逆風にあっても、党内から異論がでることもなく押し切ることができたのは、一枚岩ゆえだろう。
だが、その強さは、逆に「もろさ」と裏表でもある。政権に対する批判が高まり、危機的な状況に陥った時、もはや「顔」を変えるだけでは済まないだろう。モノカラーとなった自民党に、メタモルフォーゼの道はない。全体がもろともに沈没する危険を孕(はら)んでいるからだ。果たして自民党の組織体としての変質は、長期的に見て吉と出るのか、それとも……。
組織政党ゆえの大転換
一般に「組織政党」という言葉で誰もが連想するのは、公明党と共産党だろう。だが、厳密に言うと公明党は組織政党ではない。なぜなら公明党を支えている組織は実態的に創価学会であり、公明党自身は自前の組織を抱えているとはいえないからだ。その意味で、日本における唯一の組織政党は日本共産党ということになる。
組織政党とはなにか。一般には、政党が有権者に直接訴えかけ、支持を獲得し、広報活動(機関紙誌など)を通じて政治教育を行い、党員を拡大し、日常的に政治活動を展開するスタイルがそれだ。組織運営はあくまで党中心。地方議員や地方組織、一般党員を多数抱え、党幹部に非議員が少なくないことも特徴の一つだ。
共産党の党員は約三十万人(二〇一五年現在)、基本的には職場、地域、学校につくられる支部を基礎とし、支部→地区→都道府県→中央という形で組織されている。共産党の強みは、なんといっても全国に張り巡らされた約二万の支部組織にある。底辺部分を支えるこの支部組織が、それぞれの地域や職場に密着し、住民や労働者の要望にきめ細かく対応(共産党ではこれを「生活相談活動」と呼ぶ)することで、支持を拡大、維持している。
その支部活動の中心にいるのが、地方議員たち。共産党の地方議員数は自民党(三千三百五十一人)、公明党(二千九百二十一人)には及ばないものの、二千八百十七人(二〇一五年総務省調査)と国政レベルに比べて強力だ。地域等での彼らの評判は押し並べていい。住民の行政等に対する要望に、丁寧に、しかも迅速に対応するからだ。「相談事は共産党」が定評になっているともいわれている。
また、財政面でも他党に比べると、極めて強固。他の政党の多くが、党収入の大半を政党交付金でまかなっているのに対し、共産党は自前の収入で党運営ができている。ちなみに、政党交付金の受け取りを拒否している政党は共産党のみだ。
二〇一五年の党収入は約二百三十八億円。党財政を支える柱は「しんぶん赤旗」の購読料、党員が納める党費、個人からの寄付の三本柱から成り立っている。このうち最大の柱は「赤旗」で、収入の約八割(百九十億円)を占めている。「赤旗」がこれほどの収益を挙げている理由は、配達や集金がほぼ党員のボランティアで支えられているからだが。なお、党費(党員は実収入の一%を納める規定)は約六億五千万円、個人からの寄付は約七億円だ。
また、共産党には党組織以外にも民商(全国商工団体連合会)や民医連(全日本民主医療機関連合会)など、強力な関連団体がある。ちなみに民商の会員数は約二十六万人、民医連は百四十一の病院、五百五の診療所を擁する日本最大規模の医療関係団体だ。これらの関連団体が様々な形で共産党をバックアップしているのである。
いうまでもないが、組織政党である共産党は「組織の論理」がすべてに優先する。組織内の序列も外部的な肩書とは関係ない。議員、非議員の違いもない。
「国会議員、地方議員の上下関係はありません。みんなが役割分担をしているだけ」(山下芳生副委員長)というわけだ。そのため、時に国会議員本人よりも、その秘書のほうが党内の序列では上、といった現象も起きるという。
とはいえ、実態的には党大会にかわる最高意思決定機関である中央委員会(中央委員、準中央委員合わせて約二百名)、そのトップである委員長に権力が集中していることも事実。これがいわゆる民主集中制だ。言い方を変えれば中央委員会の決定は絶対であり、党内でこれに異を唱えることなどあり得ない。
今回の参議院選挙で、共産党は一人区での候補者擁立という従来からの方針を転換し、野党共闘路線に切り替えた。その方針を決定したのは志位和夫委員長だが、この大転換が、どのような状況下で決まったのかをみれば、それは明らかだろう。前出の山下副委員長はこう述べている。
「方針を決めたのは昨年の九月十九日、安保法制が成立した当日です。志位委員長の提案で方針を決めました。提案があった時に、みんなが驚いたのは事実ですが、特に異論はなかった。安保法制廃止にはこの方法しかないと思ったからです」
これほどの大転換が、異論なく決まること自体が、この政党の性格のある一面を物語っているといえるかもしれない。
野党内での存在感を増す一方、ソフト路線の徹底で一般の国民が抱いているアレルギー反応の緩和にも成功しつつある共産党。だが、その一方で、あるいはそれゆえに直面しつつある課題も見え始めている。共産党の党員数は現在約三十万人だが、これはピーク時の約四十九万人から見ると、約四割近い減少だ。また、このところ若い層の入党が増えているとはいえ、全体として党員の高齢化が進んでいることも事実。これは財政面にも直結する。組織政党だからこそ、党員数の減少というのは極めて重大な問題だともいえる。
組織が弱体化する中で、それを補うためにはどうしても組織外の支持拡大が必要になってくる。それが、実はソフト路線であり、今回の野党共闘路線の背景なのではないか。だが、それは一方で組織政党としてのアイデンティティ、政治理念、イデオロギーを薄めていくことにもつながりかねない。
共産党は共産党であり続けるのか、それとも本当の意味で「普通の政党」に向かっていくのか。自民党と共産党、規模でいえば自民党が象なら、共産党は同じアフリカの草原に住む、俊敏な山猫サーバルキャットくらいの違いがある。だが、今後も自民党にとって、共産党は油断がならない存在であり、共産党にとって、自民党はどんな奇手奇策を講じてでも疲弊させ、倒すべき対象であり続けるだろう。
その両党が、生き残るために党の体質を変化させていく中で、ともにそれぞれが持っていたはずの本質的な部分、あるいはアイデンティティまでも変質させかねないというジレンマに陥っているように見えるのは、果たして偶然の一致だろうか。 
安倍「北方領土解散」はもろ刃の剣 2016/10
 二階幹事長と創価学会の主導で解散の流れは加速するのか
「領土問題を解決し、戦後71年を経ても平和条約がない異常な状態に終止符を打ち、(略)首脳同士のリーダーシップで交渉を前進させていきます」
淡々と語る安倍晋三首相に、「二島じゃ駄目だぞ!」と野次が飛んだ。
9月26日に開会した臨時国会の所信表明演説で、北方領土問題の前進への決意を表明した安倍は、地元の山口県長門市の旅館で12月15日にプーチン・ロシア大統領との日ロ首脳会談に臨む。この場で安倍は北方領土の返還に一定の道筋を付け、その勢いで年明け1月の通常国会冒頭で衆院解散・総選挙に踏み切るとの見方が取りざたされる。だが、期待を高めるほど失望が深くなるのは世の常。安倍の賭けはもろ刃の剣になりかねない。
対ロ経済関係を発展させるため、北方四島の面積の93%を占める択捉、国後両島の返還実現を事実上放棄する――。安倍政権内で、小さな歯舞群島、色丹島が戻ってくればよしとする案、すなわち「二島先行返還論」が台頭し始めている。
垣間見えるのは、会談後に「択捉と国後も諦めない。粘り強く交渉を続ける」との建前論を展開すれば、国民を説得できるという読みだ。安倍首相がリスク承知で対ロ融和路線に舵を切る先には、北方領土問題の歴史的解決を演出することで、超長期政権樹立への足場を固めたい思惑がある。日ロ首脳会談は、日本固有の領土である国後、択捉が置き去りになる危険を内包している。
鈴木宗男との6度の会談
「択捉、国後は難しいよ。ロシアの立場に照らせば、この二島は軍事上の要衝だ。『日本に引き渡す』と言うはずがないだろう。原則論にこだわれば、進む交渉も進まなくなる」
安倍の厚い信任を得ている日本政府高官は、9月2日にロシア極東ウラジオストクで行われた日ロ首脳会談の直後、周囲にこう漏らした。
異変は表面化しつつある。「領土を断固守り抜く」と繰り返す安倍は昨年から、かつて二島先行返還論を提唱してメディアから「国土を切り売りするのか」と叩かれた鈴木宗男元衆院議員と6回にわたり会談を重ねてきた。ウラジオストク入りを目前に控えた8月末にも、鈴木を官邸に招き、北方領土交渉で助言を受けている。鈴木は会談後、記者団に「総理は(北方領土交渉への)強い情熱に満ちたお話をされていた」と持ち上げ、複数の知人に「総理はそれ(二島先行返還)しか解決方法はないと分かっている」と漏らした。
鈴木が「段階的解決論」と呼ぶ二島先行返還論に安倍が同意したことを表す発言は、確認されていない。だが安倍が鈴木と官邸で堂々と顔を合わせ、日ロ関係について意見交換した事実そのものが、対ロ外交を混乱させたとして鈴木を忌み嫌う外務省と、四島全島返還を「譲れない一線」と位置付ける保守層への牽制球なのは間違いない。
タカ派イメージを売りにする安倍だが、北方四島人道支援事業の入札関与疑惑(ムネオハウス問題)を巡る負のイメージを引きずる鈴木を受け入れる土壌は、実はある。もとはと言えば、安倍自身が「政治の師」と仰ぐ森喜朗も首相時代、二島先行返還論に賛意を示していたからだ。ムネオハウス問題で国政が揺れ続けた02年4月、小泉政権の官房副長官だった安倍は講演で「二島返還決着論であれば問題だが、二島先行返還論は必ずしも問題ではない。森首相時代の対ロ交渉の考え方自体は決して間違っていなかった」と踏み込んでいる。
日ロ経済交流に携わる世耕弘成官房副長官が8月3日の内閣改造で経済産業相に就任し、さらに9月1日に新設のロシア経済分野協力担当相に起用されたのも、安倍の意欲の表れにほかならない。二島先行返還方式と経済協力の先行実施を絡めた対ロ交渉こそ、安倍が5月にロシア南部ソチでの日ロ首脳会談で、プーチンに秘中の秘として示した、領土問題を解決するための「新たなアプローチ」の核心部分と見ていいだろう。
ここまで安倍が前のめりになる理由は、歴史にその名を刻むことに尽きる。
「オバマ大統領には既にきちんと説明して日ロ交渉を進める了解を取っている。日本の国益に関わる問題だといえば、アメリカも黙らざるを得ないんだよ。アメリカが北方領土交渉をしてくれるわけではないからね」。安倍は春先、自らに言い聞かせるように知人に説いた。この直前、2月9日の日米首脳電話会談で、オバマが安倍の5月の伊勢志摩サミット前の訪ロに懸念を示すと、安倍は「日ロ2国間には、領土問題という重要な問題がある。これは日本の国益にかかわる問題であり、私に任せて欲しい。あくまで2国間の問題であり、懸念には及ばない」と力説している。押されたオバマは「あなたが日本の首相として、日本の国益の観点からロシアでプーチンと会うなら、それはそれでいいんじゃないか」と了解せざるを得なかった。
2月の電話会談でオバマが安倍の訪ロに懸念を示したとの情報は、時間を置いて一部のマスコミで報道された。それも「懸念を示した」との部分だけが流され、オバマが最終的に了承した事実は抜け落ちていた。日ロ交渉に前のめりの安倍に米国が不快感を抱いていることを重視し、日ロ交渉の進展を阻止したいと考える外務省幹部が流したといわれている。
その外務省を事務次官として率いた齋木昭隆の後継に6月に就任したのは杉山晋輔。国家安全保障局長で安倍の外交ブレーンである谷内正太郎らキーパーソンへの擦り寄りが功を奏して、夢の事務次官の座に就いた杉山に、安倍に逆らう行動を取る心配はない。党三役への就任を望んでいた外相の岸田文雄を先の内閣改造で再度留任させたのも、岸田であれば逆らうことはないという安心感があるからだった。安倍は、米国と外務省という日ロ関係の進展に向けた内外の障害を取り除いた上で、12月の日ロ首脳会談に臨もうとしているのだ。
だが二島先行返還方式がリスクを秘めているのは言うまでもない。「北方四島の日本帰属」を条件にしていないため、ロシアは歯舞と色丹について、返還ではなく「日本にプレゼントする」ことが可能になってしまう。この道を走りだせば、1945年に旧ソ連軍が北方領土を侵攻し、70年以上も不法に占拠しているという歴史的事実をロシアに認めさせる機会は永遠に失われかねない。日本がそうした立場を口にすることさえ難しくなる恐れもある。
択捉と国後の扱いについては「引き続き話し合いを進める」との建前論の裏で、ロシアが問題を棚上げしてしまう公算は大きい。ロシアが歯舞と色丹を日ソ共同宣言に基づきプレゼントするというスタンスに立つなら、択捉と国後を巡り日本と協議する必要性はそもそも存在しないはずだ。仮に「協議継続」に応じたとしても、日本側のメンツを立てるための方便でしかなくなるだろう。
安倍周辺は事実上の二島返還で決着した場合、「弱腰外交」との批判が出ることを警戒する。そこで日ロ平和条約を締結する際、仮に中国と日本の緊張が高まったときにロシアは中国側に付かないとの条項を盛り込めないかとの意見も出ている。ロシアとの平和条約締結は膨張する中国の封じ込めを考えてのことだという説明ができるようにして、右派勢力からの批判を抑える思惑だ。
だが、政権のレガシーづくりに邁進する安倍にそうした意見が耳に入るかどうかは読み切れない。
鴨ネギと化した蓮舫
秋風とともに年明け衆院解散の風が吹き始めた永田町で、対する民進党は蓮舫新体制に揺らぐ。台湾との二重国籍問題が顕在化するまでは、党再建への希望となると期待されていた新執行部の発足は、党内に不安と反発を生んだ。
「野田さんの幹事長、良くなかったかな」。蓮舫は野田幹事長を提案し、了承された両院議員総会後、苦笑いしながら漏らした。消費税を増税する自民、公明両党との三党合意をまとめて党を分裂させた上に衆院を解散、同志の多くを落選させ、政権からも転落させた「A級戦犯」野田佳彦の幹事長抜擢。反発が出るのは蓮舫も予想していたが、大きさの目測を誤った。攻撃には強いが、守りと自己統制、組織統治はまったく不得手という実像を国民の前にさらけ出した。
新代表に選出された当夜の蓮舫がNHKの「ニュースウオッチ9」に登場すると視聴率が5%も下落。テレビ業界では尋常でない出来事だ。テレビから生まれ、テレビで化けた蓮舫が、テレビにダメ出しされた瞬間だった。この情報は政治記者の口コミを経て、官邸にも伝わった。民進党の動向を注視する安倍官邸が期待していたのは「台湾籍問題を処理しきれない蓮舫代表の誕生」だった。その期待通り、鴨がネギを背負ってきたのである。
ネギを背負った鴨となった蓮舫を待ち構える最初の罠は、実は衆人の前に公にされている。日本維新の会が提出した、国会議員の二重国籍を禁止する公職選挙法改正案である。きっかけはもちろん、蓮舫が行政刷新担当相などを歴任していたことにある。現状では、閣僚の二重国籍は禁止されていない。今後そうした事態を防ごうというのが、この法案の狙いである。日本維新の会は民進党に共同提案や賛同を求める予定だ。ここで民進党はジレンマに陥る。党首の蓮舫が自分の過去は棚上げしたまま、それを禁止する法案をつくることは世論の理解を得られないからだ。逆に日本維新の会の法案に同調しなければ「やはり台湾籍を持っていたからだ」と大きな批判を受けることになるだろう。この問題で菅義偉官房長官と日本維新の会の馬場伸幸幹事長は完全に連携している。
一方で、自民党内にも権力構造の決定的な変化が生じている。安倍による独裁体制が続いていたが、二階俊博幹事長の誕生によって独裁体制が崩れ、首相と幹事長という二元体制に移行する可能性が生じてきたのだ。
二階が、自らの号令一下で所属議員が動く派閥らしい派閥を率いているというだけではなく、公明党の支持母体である創価学会に太いパイプを持っていることがその大きな要因だ。二階は名誉会長・池田大作に直接面会することができる数人の国会議員の1人だった。
実は、公明党と支持母体の創価学会は年明け早々の衆院解散を密かに望んでいる。来年7月には東京都議会議員が任期満了だ。東京都議会は1955年に創価学会が初めて政治進出を果たした「聖地」。長らく創価学会の所管官庁が東京都だったこともあって、公明党は都議会議員選挙を極めて重視する。公明党では、都議会議員は国会議員と同列に扱われ、その選挙には首都圏だけでなく、全国から学会員を大量に動員して戦う。その都議会議員選挙と衆院選の時期が重なることは絶対に避けたい。1月解散なら半年間のインターバルが得られる。
安倍政権ではこれまで、創価学会対策は官房長官の菅が副会長の佐藤浩を仲介役に谷川佳樹事務総長とのパイプを独占してきたが、二階幹事長の登場で、この構造が変容する気配だ。
「二階先生と菅先生の間はどんな感じなのか」
二階の幹事長就任後、佐藤は親しい自民党議員に探りを入れた。創価学会側も測りかねているが、そんな状況を見透かしたように二階は公明党が慎重姿勢だった共謀罪の今国会提出を見送るなど、創価学会の意向を受けたような独自の動きを見せ始めた。今後、二階と創価学会の主導で、日ロ首脳会談の成果如何にかかわらず、衆院解散の流れが加速する可能性も否定できない。外交の天王山に向かう安倍の視界は決して良好ではない。 
一強安倍の敵は永田町の外にいる 2016/11
 米大統領選、新潟県知事選、衆院補選から見えた脅威の萌芽
「安倍一強」。永田町の風景はここ4年、この言葉に凝縮されてきた。
10月も自民党総裁の任期延長、東京10区と福岡6区で行われた衆院補欠選挙の全勝と、首相・安倍晋三の栄耀栄華がなお続くと思わせる事象が相次いだ。だがおそらく、安倍を倒すのはこれまでのような党内の敵や野党ではなく、永田町の外にある。その萌芽は激戦だったアメリカ大統領選挙と、東京都知事・小池百合子の活躍が象徴する「異端児」選挙にみえる。
まずは安倍一強を印象づけた自民党総裁の「3期9年」への任期延長だ。
「異論はありませんね」
10月26日、党・政治制度改革実行本部の会合。本部長を務める党副総裁・高村正彦は、自らが示した「連続2期6年」から「3期9年」への任期延長案への反対がないことを確認した。議論を開始して約1カ月、この日の会合もわずか30分、党所属国会議員の約1割しか出席していなかった。2021年9月末まで安倍が総理・総裁であり続けることのできる道は、あっさりと開かれた。
21年9月まで務めれば、第一次政権時代とあわせ、安倍は大叔父の元首相・佐藤栄作(在任7年8カ月)を超え、戦前の元首相・桂太郎(同7年10カ月)をも上回って憲政史上最長の政権を築くことになる。これほどの大問題が、首相周辺も「自民党は変わったな。昔なら大激論になったはずだが……」と拍子抜けするほど簡単に決まったのはなぜか。高村や自民党幹事長・二階俊博、政調会長・茂木敏充らが「安倍総理はこう思っているだろう」と先回りして動いたからだ。
二階は7月の参院選後、幹事長になるや否や任期延長論をぶち上げ、官邸サイドに「党内はまとめるから」と伝えた。弁護士資格を持つ高村に本部長を依頼したのも二階だ。茂木は首相周辺の意向を忖度し、総裁任期の完全撤廃に動いてみせ、自らの忠誠ぶりをアピールした。この間に安倍が口出しした形跡はない。「全部、党に任せてある」。安倍は任期延長について、こう繰り返すばかりだった。
衆院で初の小選挙区選挙が実施されて20年。目的だった「派閥の弊害除去」は完全に達成され、与党党首の力こそが絶大なものになった。「党内の権力争いが、自民党の活性化につながってきた伝統が揺らいだ」などの評は、党首に逆らえば公認されない「サラリーマン化」した自民党を理解していない。あの当時、小選挙区導入に反対していた当選1回の安倍が今、総理・総裁としてその権限をフルに使っているのは歴史の皮肉でもある。
安倍の稲田への不満
幹部たちが任命権者の意向を先回りしようとするのは、任期延長に限らない。衆院解散・総選挙の時期もそうだ。
「皆、そのつもりでちゃんと準備はしますから」。10月6日夜、東京・銀座のステーキ店「銀座ひらやま」で、二階は安倍に水を向けた。副総理兼財務相・麻生太郎、国会対策委員長・竹下亘や首相秘書官・今井尚哉らが集まった席で、安倍は二階の「解散準備は整える」との言葉を笑いながら、黙って受け流した。二階はこの4日後、10月10日にも「選挙の風は吹いているか、吹いていないかと言われれば、もう吹き始めているというのが適当だ」と来年1月解散をあおってみせた。
実は二階の胸中は疑念と不信に満ちている。「1月解散」は来年夏の東京都議会選を前に、集票マシンをフル回転させておきたい公明党・創価学会の希望でもあり、解散論の発端は公明党だったからだ。学会と官邸ですでに話がついているのか――。「総理は俺に何も言わない」。二階は周辺に、こんな不安を漏らしている。安倍の真意をつかめない二階は10月28日、今度は「私の勘では切迫したことはない」と早期解散に否定的な見方を示した。
衆院当選11回、数々の政党で要職を歴任した77歳の大ベテラン政治家も、ひと回り以上年下の首相に翻弄されているのが実情だ。「ポスト安倍」を狙う元幹事長・石破茂や外相・岸田文雄が抗えないのも、致し方ない。
岸田は高村に「安倍さんに限って(任期延長を)やるのではありませんから」と伝えられて「そういうことなら、お任せします」と陥落。石破は岸田の降伏をみて「なにも、俺は制度としての延長に反対してるわけじゃない」と一気にトーンダウンした。「次の総裁選には必ず出る」と公言する元総務会長・野田聖子も、昨年9月の総裁選では推薦人20人を集められず、結局撤退している。
もう1人、安倍の「秘蔵っ子」とされた防衛相・稲田朋美の評判もよくない。国会答弁では「防衛費」を「軍事費」と言ったり、涙を流したり、外国訪問の日程を土壇場でキャンセルするなど、不安定さが目立つ。防衛相抜擢は安倍の期待の大きさであり依怙贔屓と見る向きもあるが、そうではない。ある政権幹部は「実は安倍さんは政調会長の時、財務省の言いなりになっていた稲田さんに不満だった。本人が希望した経産相ではなく防衛相にしたのには『ここで勉強して這い上がってこい』との叱咤の意味があった」と解説する。
今のところ稲田はテストに合格したとは言い難い。とすれば、21年まで安倍が総裁を務めた場合、石破、岸田、野田、稲田の4人はいずれも60歳を超えて旬を過ぎる。ライバルなき党内情勢が安倍一強を補完しているのだ。
「希望の塾」に4000人
政権再交代を狙う野党のだらしなさも、安倍長期政権を後押しする。
2つの衆院補選で自民党が勝利した翌日の10月24日。共産党書記局長・小池晃は「民進党はできる限りの協力と言っていたが、これは協力して選挙に臨む姿勢とはいえない。政党間の信義にも関わる問題だ。しっかり総括しないといけない」とぶちまけた。選挙直前に野党4党の党首クラスが集まった東京都内の街頭演説に、民進党候補が姿を見せなかったからだ。
共産党とは戦後、長年にわたって死闘を続けてきた労組、連合は今回の東京補選で「共産党と組むなら支援しない」と民進党に通告していた。10月16日に投開票があった新潟県知事選で勝利した新知事・米山隆一は、原発再稼働に否定的。電力総連を抱える連合の意向を踏まえ、民進党は米山の推薦を見送り、自主投票を選択した。ところが、勝利しそうになると党代表・蓮舫が急きょ米山の応援に入った経緯に激怒していたからだ。
90年代に自身が率いた「自由党」に党名を戻し、自民党打倒に血道をあげる党代表・小沢一郎が「勝ちそうになったから応援に行くのは、野党第一党の党首として主体性がなさすぎる。民進党は何のために政党を構成しているのか。政権を取る気がないなら、そんなのは解散した方がいい」と言ったのは正論でもある。
東京都知事選への出馬を見送ってまで「初の女性宰相」を目指した蓮舫は、国政選挙の緒戦で躓いた。日本と台湾の「二重国籍」問題が代表選の最中に表面化した時、蓮舫周辺は「民進党内からの密告に違いない」と疑心暗鬼に包まれた。この不安が「体を張って代表を守ってくれる人がナンバーツーの幹事長でなければいけない」との理屈になり、前首相・野田佳彦の幹事長起用となった。党内で異論の強かった「野田幹事長」を強行した挙句、補選に全敗し、共産党の異議申し立てで野党共闘にも暗雲が垂れ込める。慌てた蓮舫は10月27日、自らの直属組織として「尊厳ある生活保障総合調査会」を発足させた。会長は蓮舫と代表選を争って敗れ、小沢との連携を志向する元外相・前原誠司。蓮舫は「前原さんの考え方には共鳴するところが多い。社会保障政策、経済成長に関して理論構築してもらいたい」と秋波を送った。なりふり構わぬ非主流派の取り込みである。
与党にライバルはなく、野党も凋落の一途をたどり、安倍の敵は永田町にはない。あるとすれば永田町の「外」からの動きだ。衆院補選と新潟県知事選に、その兆しがあった。衆院福岡6区補選の投票率は45.46%、東京10区補選は34.85%と過去最低を更新。一方で野党推薦候補が勝利した新潟県知事選の投票率は53.05%と、前回を約10ポイント上回った。投票率が高く、有権者の関心が「脱原発」のような一点に絞られれば、与党は完敗の可能性がある。
補選投開票翌日の10月24日、衆院当選1、2回生を集めた勉強会で幹事長代行・下村博文は「野党が次の衆院選で一本化すれば、単純な得票の足し算をすれば86議席で勝てない」と脅し、官房副長官・萩生田光一も「皆さんの活動次第では、候補を差し替えるというのが首相の意向だ」と安倍の名前まで持ち出した。自民党衆院議員290人のうち、安倍総裁の下での順風の選挙しか知らない1、2回生は121人、約4割を占める。安倍側近の下村、萩生田の発言はともに半分は脅し、半分は本心でもある。
安倍は12年衆院選、13年参院選、14年衆院選、16年参院選と国政選挙に4連勝して求心力を保っている。裏を返せば、選挙で議席を減らすことは即、退陣につながりかねない。
補選で安倍周辺の心胆を寒からしめたのは、実は東京10区の「小池旋風」だった。
「引き続いて東京大改革を進めろ、地域のことは若狭に任せろと有権者が決断された」
10月23日、小池は自ら後継指名した衆院議員・若狭勝の事務所で胸を張った。知事選以来の党都連との対立は解消せずとも、小池は12日間の選挙戦中、7日間も応援に入って野党も都連も圧倒した。小池が立ち上げた政治塾「希望の塾」の応募者は4000人を超えた。自ら衆院議員の座を捨てて都知事選に出馬した小池は、劇場型選挙の元祖でもある。2005年の郵政解散で兵庫から東京に国替えした「刺客」第1号だった。
その郵政選挙を主導した元首相・小泉純一郎も動き出している。新潟県知事選で原発再稼働慎重派が勝った直後の10月19日、小泉は共同通信社のインタビューに応じ、「原発が争点なら自民党は負ける」と断言した。小泉は9月15日、盟友だった元自民党幹事長・加藤紘一の葬儀に出席して車を待っている際、出くわした安倍に「なんで原発ゼロにしないのか。なぜ分からないのか。経産省や原発推進派の言っていることはすべてウソだ。だまされるなよ」と詰め寄っている。
5年半の長期政権を築いた小泉は途中、支持率が低迷したことはあっても、最後は郵政解散で一気に名を上げた。小池はその一番弟子ともいうべき存在である。「ポスト安倍の最右翼は小池百合子だ」との声もあがり始めた。
小池の手法は小泉や前大阪市長・橋下徹の手法と相通じる。海外に目を転じれば、インターネットを駆使してプロ政治家を倒したアメリカ共和党の大統領候補、ドナルド・トランプがいる。
トランプは共和党主流派、主要メディアが攻撃し続けても予備選中は失速することなく、事実上の党首である大統領候補にまで躍り出た。今は、世界的に既成の政治権力への怒りと不満が渦巻き、ネットの威力で一夜にして英雄となり、また失墜する時代だ。アメリカのトランプ現象、英国の欧州連合(EU)離脱の国民投票結果が、それを象徴する。前述の「希望の塾」を、小池が自らのツイッターとフェイスブックだけで募集した事実は注目に値する。
石破ら4人の首相候補に勢いがなく安倍が21年まで政権を担えば、その時40歳の党農林部会長・小泉進次郎がポスト安倍の有力候補になる。これを阻むのは小池か橋下か、それとも新たな国民的英雄か。永田町の「外」から目が離せない。 
都議会のドン内田茂 成り上がり一代記 2016/11
 地元でブラブラしていた青年時代に転機があった
今から三年前の二〇一三年春のことだ。蕎麦屋の「やぶ」やあんこう鍋の「いせ源」など、老舗の名店がそこかしこにある東京の下町、神田淡路町の小学校跡地に四十一階建ての超高層ビルが出現し、話題になった。総工費六百三十八億円かけて建設された地上百六十五メートルの「ワテラスタワー」である。
ビルのオープンから間もない六月十四日、東京都議会選挙が告示された。〇九年七月の都議選で二十六歳の新人候補に煮え湯を飲まされ、落選した内田茂(当時74)にとっては、まさに政治生命をかけた戦いである。内田はリベンジを誓って支持者に動員をかけた。ワテラス前の出陣式には、地元の商店主だけでなく、大手不動産業者やゼネコン幹部が駆け付け、ごった返した。
「ワテラスができたのは内田先生のおかげ」
支援者が口々に語り、選挙戦に勢いをつけた。内田は、この新たな神田のシンボルタワーの生みの親として、選挙戦に臨んだ。
千代田区立淡路小学校出身の内田にはワテラスに特別な思い入れがある。折に触れ、大きな行事をこの地でおこなってきた。選挙の最終盤、投票日三日前の六月二十日、サミットで欧州を歴訪し、帰国した当日にも、安倍晋三がワテラス前での応援演説に駆け付けた。
「もう一度、内田さんに東京の真ん中で活躍してもらいたい」
このリベンジ選挙でみごと復活した内田は、「東京都のドン」と異名をとり、人気絶頂の小池百合子の敵役として、その存在感をますます増している。
「都政の宝」と持ち上げられ
そんな内田茂の政治資金パーティが開かれたのは、折しも小池がリオ五輪から帰国した当日、今年八月二十四日だった。夕刻五時過ぎ、皇居のそばにある丸の内のパーティ会場「パレスホテル東京」に行ってみると、開場の三十分以上前なのに、二階の宴会場「葵」の入り口付近は、黒山の人だかりで前方が見えない。ホテルで最も広く、千五百人も収容できる宴会場は、マスコミシャットアウトだという。大物国会議員並みの会費二万円もするパーティ会場で「内田茂さん政治活動40年を祝い励ます会」という壇上の大題目を目にしたときは、開宴予定の六時を回っていた。パーティの開会宣言のあと、国会議員のなかで真っ先に挨拶したのが元文科相で東京に地盤を持つ下村博文だ。
「本来なら石原伸晃都連(自民党東京都支部連合会)会長が挨拶をするところですが、いま駆け付けている最中です」
下村の次、いわば主賓として壇上に上がったのが、官房長官の菅義偉である。日頃、世辞など言わない強面の官房長官がいつになく笑顔を振りまいて、立て板に水のごとく、舌を滑らかにまわした。
「内田先生には私が総務大臣のときお世話になりました。東京には法人事業税が集中しているから、消費税の一%分にあたる二兆六千億円を地方に回したい。地方財政のためとはいえ、東京は税収が減るわけですからね。それで、実力者の内田先生のところへ、恐る恐る陳情に行ったわけです。すると、案外やさしく接してくださり……、私は内田先生を心底尊敬申し上げています」
菅に続いたのが、自民党幹事長に就任したばかりの二階俊博だ。運輸・建設族の大物議員らしく、離島のインフラ整備で世話になったとこう話した。
「自民党本部には東京都連の役員室が一階にあって、私のいる幹事長室は四階ですが、いつも私が降りて行って内田先生と会う。国の政治と都の政治を密接に結びあわせ、ご高配いただいています。私は東京都にある小笠原の空港建設に取り組んでいるのですが、内田先生のおかげで見通しがつきました」
さらに東京五輪担当大臣の丸川珠代や自民党総務会長の細田博之が続き、遅れて到着した石原伸晃は、息を切らせながら登壇した。先の東京都知事選の惨敗を自虐ネタにして笑いをとって気勢をあげた。
「大きな顔をしてここにいづらいのですが、今日はわれらが内田兄ぃの四十周年。内田先生にオリンピックの成功を導いてもらわなければ」
馳せ参じた国会議員は十五人とも三十人とも報じられたが、実際、大物議員が勢ぞろいした感がある。外相の岸田文雄や派閥を立ち上げた石破茂、前経産相の林幹雄や官房副長官の萩生田光一、片山さつきは内田と固いハグを交わし、場内を盛り上げた。自民党幹部で参加しなかったのは、首相の安倍晋三と財務大臣の麻生太郎ぐらいか。
国会議員たちに負けじと、自民党の都議会議員たちも大はしゃぎだ。「地方自治の神様」「東京都政の宝」とこれ以上ないほど持ち上げ、当の内田が照れ笑いしていた。
当人は、マスコミが名付けた「東京都議会のドン」という呼び名を嫌がっているらしいが、これだけの権勢を見せられると、そう呼ばざるをえない。ドンの実力は本物か、それとも単なる虚像か。それを確かめるべく、足跡を追った。
高校中退後はブラブラ
内田茂は戦前の一九三九(昭和十四)年三月十五日、千代田区神田に四人兄弟の長男として生まれた。七十七歳だ。内田の公式ホームページにはこうある。
〈お世辞にも豊かな暮しとはいえませんでしたが、仲の良い家族でした。それがある日、一家離散することになります〉
一家離散の原因が火事だという。
〈住む家のなくなった私たちは、それぞれに生活の場を設けなければなりませんでした。私は28歳になっていましたが、実は2つ下の弟には障害があり、ひとりで自活することはできなかったのです〉
生家の火事は六七年頃だろう。HPによれば、このとき初代東京都知事の安井誠一郎の紹介で、介護施設へ障害のある実弟を入居させたという。その福祉政策に感銘を受け、政界入りしたとも語っている。
もっとも戦後の混乱期に青年時代を過ごしただけに、プロフィールには謎も多い。親の生業についても、野菜の行商と鮮魚売り、さらに額縁職人と諸説あるが、地元で何らかの商売をしていたのは間違いないだろう。終戦直前のころから地元の淡路小学校に通い、戦後、一橋中学、都立九段高校と進んだ。
九段高校は進学校なので学業成績は悪くなかったのだろう。が、HPには五六年に高校を中退したとある。終戦から十年あまり経っているものの、日本はまだまだ貧しく、東京がようやく復興の途についたばかりの時期だ。
終戦後、神田界隈では満州から引き揚げてきた日本軍の通信兵たちがラジオ部品を並べて売る露天商をはじめた。四九年、GHQが摘発に乗り出し、露店撤廃令を発した。このとき露天商を代表してGHQ側と掛け合ったのが、山本長蔵である。山本はGHQに対し、路上販売をやめる代わり、集合店舗の開業を認めさせた。それがのちの「秋葉原ラジオセンター」となる。
内田は、この山本の息子たちと幼馴染であり、今も親交が深い。内田より少し年長の山本無線元社長の山本修右は、こう振り返った。
「内田さんのところの次男は、子供の頃、階段から転げ落ちて頭を打って障害が残ったと聞いてるよ。その弟が銭湯でリンチに遭って、茂ちゃんが仕返しをしに行った」
青年時代の内田はかなり荒れた暮らしぶりだった。五六年、高三の途中で高校を中退してから千代田区議会議員になる七五年までのおよそ十八年間については、HPにもプロフィールの記載がない。
「内田氏を初めて知ったのは一九七三年、主人が東京都議選に初めて出馬したときでした。『木村先生の選挙を手伝わせてほしい』と頼むので、職業を尋ねると『パチンコ店の景品替えだ』という。そのとき九段高校を中退したとも言っていたので、人づてに聞いたところ、中退は先生をぶん殴ったのが原因だと」
若かりし内田が師事してきた元千代田区長の木村茂(病気療養中)の夫人はこう話すが、政界に足を踏み入れる前の内田が頼ったのが、父長蔵の跡を継いで山本無線を立ち上げた幼馴染の山本だった。高校中退後、香具師(やし)、テキ屋を生業にしていたという説もあるが、山本は言葉少なにこう語った。
「『人生劇場』というパチンコ屋に出入りしていたみたいだけど、茂ちゃんはテキ屋でもやくざでもなかったと思うよ。たまたま淡路町の相撲大会でばったり再会してね。ただフラフラしているという。ならうちを手伝え、となって、山本無線で働き始めたんだ」
弟二人は山本無線で社員として働くことになる。が、本人は仕事に身が入らず、電気店の社員にはならなかった。店に顔を出すものの、雑談をしてふらりと遊びに行く日々だ。放蕩を繰り返していた。 
2016「報道圧力&自主規制」事件簿! 2016/12
「72位」──なんの数字かお分かりだろうか。今年4月、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」が発表した、2016年度の「世界報道の自由度ランキング」における日本の順位で、東アジアでは香港や韓国よりも低くなっている。
第二次安倍政権の誕生以降、どんどん激しさを増している官邸、自民党やその応援団によるメディアへの圧力。今年はそれが完遂し、もはやテレビをはじめとするマスコミは圧力なんて加えなくたった、勝手に萎縮、政権の意向を忖度した自主規制をしてくれるようになった。個別の事案をひとつひとつあげていけば、それこそ除夜の鐘がとっくになり終えて初日の出を迎えそうなので、今回はとくに象徴的な7つのトピックスを選んでみた。では、さっそくリテラが振り返る2016年「報道への圧力事件簿」をお伝えしていこう。
【圧力&自主規制その1】
国谷、岸井、古舘が降板して番組が骨抜きに! 政権批判弱まり首相にも追及できず
やはり、2016年をもっとも象徴するのは、政権に批判的なテレビキャスターたちの降板劇だろう。言うまでもなく、NHK『クローズアップ現代』の国谷裕子、TBS『NEWS23』の岸井成格、そしてテレビ朝日『報道ステーション』の古舘伊知郎のことである。本サイトが昨年から報じ続けてきたように、彼らは官邸から陰に陽に圧力を受け続けてきた。そして、今年の春をもって、いっせいに番組を追われることになったのだ。
もっとも、国谷氏も岸井氏も古舘氏も、最後の番組出演時の挨拶では、明確に「官邸からの圧力」を公言することはなかった。しかし、のちに国谷氏は『世界』(岩波書店)のなかで、官邸を激怒させた“菅官房長官インタビュー事件”を振り返りながら、〈人気の高い人物に対して切り込んだインタビューを行なうと視聴者の方々から想像以上の強い反発が寄せられるという事実〉について語り、これらを「風圧」と表現。また岸井氏も、番組降板後に発売された「週刊文春」(文藝春秋)での阿川佐和子との対談のなかで、官邸の「ディープスロート」から「『この人が岸井さんの発言に怒ってますよ』という情報が、逐一私に入ってたから、よっぽど、気に入らないんだろうなとは前から知っていました」と語っているように、実際、官邸はTBSの幹部に“岸井は気に食わない”と様々なかたちで伝えていた。その結果、番組降板に結びついたのであり、それは“古賀茂明「I am not ABE」事件”をめぐる『報ステ』及び古舘氏のケースも同様だった。
はたして、彼らが去り“リニューアル”した各番組はどうなっただろうか。ご存知の通り、まさに「両論を併記していますよ」と言わんばかりのVTRやコメンテーターの解説が幅を利かせるようになり、さらに、参院選前の党首討論や日露首脳会談後の安倍首相の生出演時も、新キャスターたちが痛烈な質問をぶつける場面は皆無。ほとんど“政権との馴れ合い”の様相を呈している。その意味でも、3名のキャスター降板劇は、まんまと官邸の思惑どおりの結果になったと言えるだろう。
【圧力&自主規制その2】
高市総務相が「電波停止」発言で本音むき出し! 池上彰は痛烈批判するもNHKは…
キャスターたちの同時降板問題と同時期に国会で飛び出したのが、放送事業を管轄する総務省の大臣・高市早苗による「電波停止」発言だ。この「国の命令で電波を止めることもありうる」というトンデモ発言には、さすがにジャーナリストたちが続々と反論。そのひとり、池上彰は朝日新聞の連載コラムで〈国が放送局に電波停止を命じることができる。まるで中国政府がやるようなことを平然と言ってのける大臣がいる。驚くべきことです。欧米の民主主義国なら、政権がひっくり返ってしまいかねない発言です〉と痛烈批判するほどだった。
さらに2月29日には田原総一朗を筆頭にテレビで活躍するジャーナリストたち6名が、高市「電波停止」発言を批判する共同声明を発表。外国特派員協会で記者会見を行った。会見では複数テレビ局関係者たちの〈気付けば、街録で政権と同じ考えを話してくれる人を、何時間でもかけて探しまくって放送している。気付けば、政権批判の強い評論家を出演させなくなっている〉など、生々しい現場の実態も代読された。
ところが、この会見の模様を報じたのはごく一握りの民放番組だけ。NHKにいたっては会見の取材にすら行かない有様だった。なお、NHKは今年で籾井勝人会長の任期が終わり、上田良一氏体制に移行するが、その状況はまったくかわらないともいわれている。実際、年明けの副会長人事には官邸の代理人となる“実務屋”を据えると目されており、官邸とNHKの今後の動きを注視し続けるべきだろう。
【圧力&自主規制その3】
参院選で自民党が“違法”政党CMゴリ押し、弁護士連れて局に乗り込み!
安倍政権に批判的なキャスターを一斉に“パージ”したテレビ局。では、それによって官邸からの圧力が軽減されたかといえば、実際には逆だった。むしろ、“言論”という武器を奪われたことで、露骨な介入事件が勃発。そのひとつが、夏の参院選での“自民党オバマCM強要事件”だった。
これは民放局の政党CMをめぐって、公職選挙法の規定から難色を示す局側に対し、自民党が弁護士をつれてゴリ押しを仕掛けたというもの。当初、自民党が代理店を通して出してきたCMには、5月の広島訪問時のオバマ米大統領と安倍首相のツーショット写真が挿入されていた。しかし、そもそも公選法において政党CMは「選挙運動が目的でない政党の日常の政治活動」の広告でなくてはならず、オバマの広島訪問は明らかに日本政府の外交の中で実現したことであり、自民党の活動ではない。当然、こんな違法の疑いの高いシロモノを垂れ流すと放送局は罰則を受けるが、さらに政党CMの随所に登場する“経済実績”を喧伝する数字も、各局で「数字が恣意的で、客観的ではない」という指摘の声があがり、一度は自民党側に「このままでは放映できない」と突き返したという。
ところが、自民党は修正案でもオバマと安倍首相のツーショット写真を譲らず、各局の営業部に代理店が毎日のようにやってきて、CMを放映するように圧力をかけ始めた。さらに一部民放には弁護士まで送り込み、恫喝をはじめたのだ。最終的に、本サイトがこの圧力問題を報じた直後、自民党は一転して各局から“オバマCM”案を引き下げてしまったというが、経済実績の誇大広告的数字はそのまま。さるキー局関係者によると、政党CMをめぐってここまで露骨に圧力をかけられたことは、これまでなかったという。官邸&自民党はいまや完全にテレビ局をなめきっているといっていいだろう。
【圧力&自主規制その4】
沖縄で地元紙記者拘束も、本土メディアは無視! 政権忖度して沖縄を見放す新聞・テレビ
沖縄をめぐって、国が新基地建設を正当化するため県を相手取った訴訟や、機動隊による反対派市民への「土人」発言など、県民に対するいじめ、締め付けが一線を超えた今年、なんと沖縄タイムスと琉球新報の記者が取材中、当局に拘束されるという、民主主義国家とは思えない言論弾圧事件が発生した。当然、これには日本新聞労連も抗議声明を発表したが、政府は10月11日に「県警においては警察の職務を達成するための業務を適切に行っており、報道の自由は十分に尊重されている」などとする答弁を閣議決定。記者の拘束を正当化してしまったのである。
まるで中国共産党や朝鮮労働党を彷彿とさせるモロな言論弾圧だが、本土のメディアはこれに抗議の声をあげることもなく、テレビはこれをほとんど報じることもしなかった。
沖縄をめぐっては他の問題についても、本土のメディアは安倍政権を忖度して、過剰な自主規制を見せるケースが相次いだ。たとえば5月に逮捕された、米軍属の男による女性強姦殺人事件については、沖縄二紙と本土メディアとの差別的ともいえる温度差が際立った。そもそも、女性が4月に行方不明になった後、「琉球新報」が5月18日付朝刊で、県警が軍属の男を重要参考人として任意の事情聴取していることをスクープ。「沖縄タイムス」も後追いし、沖縄では一気に報道が広がっていった。にもかかわらず、本土の新聞・テレビは“米軍関係者が事件関与の疑い”との情報を得ていながら報道に尻込み。しかも、逮捕が確定的になってからも読売新聞と日本経済新聞(全国版)は、男が米軍関係者であることに一切触れなかった。さらに読売にいたっては19日までこの事件そのものをまったく報じなかったという異常ぶりだ。
また、先日のオスプレイ墜落についても、現場の状況などから「墜落」という表現を一貫して使い続けている沖縄2紙とは対照的に、本土メディアのほとんどは政府発表を垂れ流すかたちで「不時着水」などと言い換え、テレビ朝日にいたってはネット局の琉球朝日放送に圧力をかけ、「墜落」の表現を潰しにかかった。
「分断された沖縄」ということがよくいわれるが、これはメディアも同様だ。報道の萎縮によって、本土メディアは完全に沖縄を見放し、沖縄のメディアだけが孤軍奮闘している。そのことを痛感させられた一年だった。
【圧力&自主規制その5】
熊本地震でも大本営発表垂れ流し…原発報道“自主規制”完全復活で住民の命は?
最大震度7を観測した4月の熊本地震。本サイトでは安倍政権のあまりにお粗末な対応を一貫して指摘、批判してきたが、安倍政権に飼いならされた大新聞やテレビは、たとえば現地対策本部長を務めていた松本文明副大臣が自分への差し入れを要求し更迭された問題についても申し訳程度に触れるだけで、首相の任命責任をまったく問わなかった。とりわけ忠犬ぶりが尋常でなかったのが“安倍様のNHK”だ。震災発生後、籾井会長が熊本大地震の原発への影響について、“政府の公式発表以外は報道しないように”と指示していたことが判明している。
そのほかにも、フジテレビでは熊本地震を受けて4月17日分の『ワイドナショー』を中止にしたが、実はこの放送回では安倍首相が出演予定で、14日に収録も終えていた。もちろんこの放送中止は、震災被害が広がるなか、安倍首相がテレビで松本たちと楽しく談笑している姿を流させたくないという意向が働いたからだが、本来、17日の放送日は北海道での衆院補選の選挙期間中で、そんななか首相だけを出演させるのは明らかに公平でない。ところが翌週の放送で松本ら出演者は、安倍首相が出演していた事実に一切触れなかったのである。これも、局側が完全に官邸にコントロールされているという事実を示す一例だろう。
さらに、熊本地震における川内原発だけでなく、日本各地の原発をめぐっても、政府は原子力ムラと一体となってメディアに圧力かけ続けた。たとえば3月の高浜原発の運転差し止め判決では、判決を評価するような報道をしたテレビ局に関西電力が逐一「反原発派の一方的な言い分だけを流さないでほしい」という抗議を入れていたことが明らかになっている。また、柏崎刈羽原発の再稼働が争点となった10月の新潟県知事選では、再稼働反対の米山隆一候補が自公推薦の再稼働容認派・森民夫候補(前長岡市長)を破って当選をはたしたが、この選挙をめぐっても官邸と自民党は謀略を張り巡らし、再稼働反対派の泉田裕彦氏(前知事)の出馬撤回に追い込んだともいわれている。
3.11以降、一時期は鳴りを潜めていた新聞やテレビへの“原発広告”が、再稼働政策とともに完全復活しているが、それとともに、原発ムラの圧力も完全復活したということだろう。
【圧力&自主規制その6】
ピーコ、永六輔、大橋巨泉の“反戦メッセージ”がカット! 石田純一は言論剥奪
圧力を受けているのは、マスコミという“組織”だけではない。そのメディアで活躍する芸能人たちもまた、圧力や自主規制により政治的な発言を封印されている。これは、たんに芸能人が政治家や政策について語ったりできない、ということではない。問題は、その内容だ。
たとえばファッション評論家のピーコ。ピーコはNHKが7月17日に放送した永六輔の追悼番組『永六輔さんが遺したメッセージ』に出演したのだが、放送時に番組がある部分を意図的にカットしていたことを、のちにピーコ自らこう告白している。「『永さんは戦争が嫌だって思っている。戦争はしちゃいけないと。世の中がそっちのほうに向かっているので、それを言いたいんでしょうね』と言ったら、そこがばっさり抜かれていた。放送を見て力が抜けちゃって……。永さんが言いたいことを伝えられないふがいなさがありますね」(朝日新聞8月20日付)。
言っておくが、これはNHKだけの問題ではない。実際、7月に永が逝去した際、こうした永の「反戦平和」「護憲」への想いをほとんどの番組は触れようとしなかったし、同じく今年亡くなった大橋巨泉に関してはそれがもっと露骨だった。本サイトでもお伝えしたように、晩年、病床から憲法をないがしろにする安倍政権の危険性を訴えていた巨泉は、死去直前の「週刊現代」(講談社)7月9日号の連載コラム最終回で、「安倍晋三の野望は恐ろしいものです。選挙民をナメている安倍晋三に一泡吹かせて下さい」「このままでは死んでも死にきれない」と、苛烈な安倍批判の“遺言”を綴っていた。ところがテレビは、この巨泉の最期のメッセージを、完全に封印してしまったのである。
その意味では、今年もっとも“言論の不自由”を味わったのは、もしかするとあの人かもしれない。そう、石田純一だ。ご存知のとおり石田は安倍政権による“戦争のできる国”に反対しており、その危機感から都知事選に出馬を模索するも断念に追い込まれた。その間、官邸とテレビ関係から多大な圧力と恫喝にさらされたのだが、なかでも悲惨なのは断念後の7月15日、所属事務所が「11日の会見をもちまして、(石田は)今後一切、政治に関する発言はできなくなりました」との発表を行ったことだ。
繰り返すが、安倍政権を応援するような発言を行う芸能人はわんさかいる。だが、彼らがそうした「政治に関する発言」によって言論の自由を奪われることはほぼない。それどころか、これまで以上にメディアで重用され、ご意見版風なポジションを獲得している。対して、石田の場合は「都知事選の争点は憲法改正」と護憲を掲げ、明確に安倍政権と対峙する態度を示していた。だからこそ、メディアと芸能界はここまで過剰反応した。この状況は、あまりにも歪すぎると言わざるをえない。
【圧力&自主規制その7】
「反戦平和」「護憲」が取り締まられる“美しい国” メディアの死は民主主義の死
あらためて言うが、「反戦平和」や「護憲」というのは、日本国憲法の下で生活している者は当たり前に口にしてよいものだ。ところが、改憲を目指し、日本を戦争のできる国に変貌させようとしている安倍政権を忖度したメディアは、こうした発言すら禁句に指定してしまった。ようするにマスコミ、とりわけテレビメディアは、自分で自分の首を絞めていて、言論の自由もクソもないのだ。もはや戦前そのものである。
大げさに言っているわけではない。事実、そうした流れは市民生活のなかでも確実に兆している。ツイッターで安倍批判や反戦・平和をかたっただけで、ネット右翼が絡んでくるのはもちろん、7月には、自民党が“「子供たちを戦場に送るな」と主張することは偏向教育、特定のイデオロギーだ”と糾弾し、そのような学校や教員の情報を投稿できる“密告フォーム”を設置していたことが判明。しかも、自民党はその後、“密告フォーム”に寄せられた情報は「公選法違反は警察が扱う問題」(木原稔・現財務副大臣)などとし、情報の一部を警察当局に提供する考えまで示した。
戦争を憎み平和を希求することを「偏向」と非難され、当局の監視下に置かれかねない、そんな時代を私たちは生きているのだ。事実、参院選の公示前の6月18日には、大分県警の捜査員が民進党や社民党の支援団体などが利用していた建物の敷地内にビデオカメラ2台を設置していたことも判明。さらに、4月に日本の表現の自由の現状を調査するため来日した国連特別報告者デイビッド・ケイ氏についても政府はその動向を監視し、さらにケイ氏が接触した市民に対しても内閣情報調査室が監視や尾行を行っていたとの報道もある。いまに「おいおい、ディストピア小説かよ」と笑っていられなくなるだろう。
そして、こうした市民の監視、表現の自由の弾圧は、安倍政権のメディアに対する圧力支配と、まさしく地続きのものだ。忖度と自主規制に慣れきったメディアは“権力のウォッチ・ドッグ”であることを放棄する。実際、すでにテレビのワイドショーやニュース番組では、安倍首相や閣僚の不祥事をとりあげ批判することはほとんどなくなっており、政治家のスキャンダルでも舛添要一・前都知事のように、政治的後ろ盾が弱い人物をアリバイづくりで血祭りにあげるだけ。
一方、安倍首相や閣僚の不祥事が絡む案件となると、とりわけテレビはとたんに弱腰になる。たとえば先日、ある民放の夜のニュース番組では、オスプレイ墜落事件よりも例の「おでんツンツン男」を先に、それも大々的に報じていた。だが、その番組が特殊ということではないだろう。事実として、いま、マスコミ報道では政治の話題が相対的に減少し、一般人の迷惑行為や炎上事件ばかりを盛んに報じるようになっている。そこでは、口利き・賄賂疑惑で辞職した甘利明・前TPP担当相が“潔いサムライ”に祭り上げられ、おでんツンツン男は“極悪非道の犯罪者”とされるのだ。
このままいくと、マスメディアは来年、完全に「死」を迎えるだろう。政権が息の根を止めるのか、自ら首をくくるのか、どちらが先かはわからない。ただひとつ、確実に言えるのは、メディアの死は、民主主義の死に他ならないということだ。欧州で極右が台頭し、アメリカではドナルド・トランプが大統領に就任する。2017年、その暗雲を振り払えるか。それは、わたしたちひとりひとりに託されている。 
 
諸話 2017

 

全局「海老蔵」忖度テレビの怪 2017/6/23 
TBS 
PM5時ちょっと前か 前川会見を楽しみにテレビをつける。ニュースは、前川前文科次官の会見 開始直前の中継映像、コメンテーター 岸井成格が中継の解説を始めようとした その瞬間 、「次のニュースに移ります」と割り込み 海老蔵会見の再放送に切り替わる。
PM5時 テレビ「全局」 海老蔵会見の再放送を始める
「前川前文科次官の会見」放送予定を 急きょ変更したためか、 30分以上 海老蔵会見の再放送をしていた局もありました。 なぜテレビ全局で 海老蔵会見の再放送になったのでしょうか、 勘ぐりたくもなります。
( 市川海老蔵の妻・麻央さん逝く / 歌舞伎俳優の市川海老蔵さんが6月23日午後2時30分から東京・渋谷区の劇場で行われている記者会見で、妻でフリーアナウンサーの小林麻央さんが亡くなったことを正式に公表した。34歳だった。海老蔵さん「昨日(6/22)夜に妻、麻央が旅立ちました。それによりまして、いろいろございます。家族としてなすべきこと、話すべきこと、子供たちとのこと、そういった時間で、思ったより皆さまに伝わったということが早かったということで、急きょ皆さまにお時間を作っていただきました。多くの人にご迷惑がかからないように、ブログやアナウンサー時代から妻のことを応援してくださった皆さまへのご報告として、こういった席を設けさせていただきました」 ) 
前川前文科次官の会見 1
前川喜平前文部科学省事務次官は23日夕、東京都内の日本記者クラブで記者会見し、学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部新設を巡る問題に関し「第三者性の高い組織で検証される必要がある」との認識を示した。安倍晋三首相が丁寧に説明すると19日の記者会見で表明していることを踏まえ、首相に「先頭に立って説明責任を果たしてほしい」と訴えた。文科省が20日に公表した萩生田光一官房副長官の「発言概要」とされる文書に関しては「ほぼ事実だと思う」と表明。萩生田氏に関しては「何らかの関与があった可能性が高い」との見方を示した。獣医学部新設のキーパーソンは誰かとの問いには、和泉洋人首相補佐官ではないかと答えた。文科省が獣医学部新設を巡る規制緩和に抵抗していたとの批判があることについては「文科省は設置認可をする立場で、責任を自覚していた」と述べた。 
前川前文科次官の会見 2
早期開学促す一連の文書「ほぼ100%間違いない」
学校法人「加計(かけ)学園」(岡山市)の獣医学部新設計画を巡り、前川喜平・前文部科学省事務次官が23日、日本記者クラブで会見した。前川氏は文科省の追加調査で明らかになった、内閣府が同省に早期開学を促したとされる文書について「ほぼ100%間違いないもの」と断言した。前川前事務次官の冒頭発言は以下の通り。

前回、私が記者会見したのは1カ月ほど前ですが、国家戦略特区における獣医学部の新設の問題を巡りましてはその後もさまざまな動きがあった。日本記者クラブのご依頼というのもいい機会と捉えまして、会見させていただくことにした。
私には、何ら政治的な意図はない。また、いかなる政治勢力とのつながりもない。「安倍政権を打倒しよう」などという大それた目的を持っているわけでなく、その点についてはぜひご理解をたまわりたいと思っている。都議選の告示日とたまたま今日は重なってしまいましたが、これは単にスケジュール調整の結果であって、政局であるとか選挙に何らかの影響を与えるというつもりは全くない。
また、文科省における再就職規制違反問題があった。私はその責めを負って辞任したという経緯があるが、この問題との関係を臆測する方もいる。あるいは新国立競技場の整備計画、その白紙撤回や再検討といった問題、これとの関係があるのではないかと臆測される向きもある。あるいは私の親族が関与する企業とか、そういったところとの関係もあるんじゃないかと、このような臆測もあるわけですが、これは全て全く関係はございませんのでその点ははっきりさせておきたいと思う。
(前回は)5月25日に会見させていただいたが、その際に私が考えたのは獣医学部新設を巡って、私は行政がゆがめられたという意識を持っており、これにつきましてはやはり国民に知る権利があると思った、ということ。またその事実が隠ぺいされたままでは日本の民主主義は機能しなくなってしまうのではないか、という危機感を持っていたということです。
一部の者のために国の権力が使われるということがもしあるのであれば、それは国民の手によって正されなければならないと、そのためにはその事実を知らなければならないと、そこに私の問題意識がある。
文科省は最初、問題となっている文書について存在が確認できないという調査結果を発表したわけだけれども、その後、追加調査で文書の存在についても認めた。これによって文科省は一定の説明責任を果たしたと思うし、私は出身者として、追加調査を行うことによって隠ぺいのそしりを免れたということはうれしく思う。
松野(博一)文科相も大変苦しいお立場だと思っていて、その苦しいお立場の中で精いっぱい誠実な姿勢を取られたのではないかと思っている。その点については敬意を表したいと思う。
文科省が存在を認めたさまざまな文書の中には私が在職中に実際に目にしたもの手に取ったものもあるし、私自身は目にしたことのないものもある。しかし、いずれも私が見る限り、その作成の時点で文科省の職員が実際に聞いたこと、あるいは実際に触れた事実、そういったものを記載しているというふうに考えていて、ほぼ100%、その記載の内容については間違いのないものだと評価している。
こういった文書をそれぞれ、現職の職員も行政のゆがみを告発したいという思いから外部に提供する行為が相次いでいるが、勇気は評価したい。こういった文書が次々と出てくることによって国民の中にも、この問題を巡る疑惑というのはさらに深まっているのではないかなと思う。
文科省が100%の説明責任を果たしたかと言えば、それはまだ100%とは言えないかもしれないが。一定の説明責任は果たしつつあると思う。一方、記載されている事実は多くの場合、内閣府との関係、総理官邸との関係を巡るものだ。これらは官邸、内閣府はさまざまな理由をつけて、認めようとしていないという状況にある。そういった姿勢は私から見れば、不誠実と言わざるをえない。真相の解明から逃げようとしている。
特に文科省の文書の中に出てくる「官邸の最高レベルが言っていること」という文言や「総理のご意向」という文言がある。内閣府が自分の口から発した言葉を、いわば自ら否定しているという状況で、これはありえない話だ。
それから、規制改革全般をスピード感を持って進めるという総理の意思を反映したものという説明は、これはかなり無理がある説明と思っている。そうした指示があったとして、それをこの文書に書いてあるような、記載事項のように取り違えるはずがないと思っている。
素直に読めば、「官邸の最高レベルが言っていること」「総理のご意向」であるという発言が何を指すかと言えば、「(愛媛県)今治市における獣医学部の開設時期を平成30年4月にしてほしい」という1点だ。それが加計学園のことというのは関係者の間では、公然の共通理解だったと言える。
こういった状況を踏まえ、官邸あるいは内閣府は、この加計学園に獣医学部新設を認めるに至ったプロセスを、国民に対して説明責任を果たす必要があると思っている。そのために必要があれば、第三者性が高い組織がプロセスを検証してもいいのではないかと思う。
私は、文科省時代に政策を検証するプロセスに携わったことがあって、新国立競技場の建設計画を巡って最初の計画が白紙に戻った後、「どうして経費が3000億円に達するようなものになってしまったのか」の経緯を検証し、その責任の所在を明確化する検証委員会を設けたときのその事務局長を務めていた。アドホック(目的が限定された)な組織を作り、政策決定を検証することはできる。その際に諮問会議の議員や、内閣府の幹部職員からヒアリングすることもできる。
月曜日の記者会見で総理が「指摘があれば、その都度、真摯(しんし)に説明していく」と話し、「国民から信頼が得られるよう、冷静に一つ一つ、丁寧に説明を積み重ねる努力をしなければならない」とも話した。総理が先頭に立って説明責任を果たしていただきたいと思っている次第です。 
「共謀罪」は「パノプティコン」装置である 2017/9
Q.ココがわかりません
「テロ等準備罪」と名前を変えた「共謀罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案が5月19日に衆院の法務委員会で強行採決されて、自民党・公明党・維新の賛成で可決しました。そのねらいは沖縄の反基地運動を潰していくことにあるのでしょうか?
A.お答えします
「一罰百戒」方式
短期的にはそれもあるでしょうけれど、もっと大きく、反政府的な活動すべてに「網をかける」ための法律だと思います。戦前の治安維持法と同趣旨のものです。
ただ、治安維持法として効果的に運用するためには思想警察・秘密警察的な組織、かつての特高や憲兵隊に相当する組織を新たに作る必要が出てきます。既存の公安警察や自衛隊の情報保全隊を改組するにせよ、日本版のゲシュタポを新設するにせよ、かなりの手間とコストがかかります。縄張りを守ろうとする官僚たちからの抵抗もあるかも知れない。
ですから共謀罪は「市民主体」に運用されるだろうというのが僕の予測です。市民が市民を疑い、監視するという「心理戦」的な運用がなされるのだろうと思います。
中国はネット上の政府批判の検閲をしていますけれど、これは機械的には処理できません(ユーザーはすぐに検閲を逃れる方法を探し出しますから)。検閲官たちの人海戦術の手作業です。その人件費が国防予算に迫っているという話は前に紹介しました。日本政府にはそれだけの人的リソースがありません。
ご記憶でしょうが、前回の衆院選挙のときに、在京TVキー局に対して、官邸から「政治的中立性を守れ」という指示が出ました。政府批判に多くの時間を割くような番組を作ることはまかりならんという恫喝でした。でも、この通達が送られたのは東京のTVキー局に対してだけでした。僕は大阪のラジオに時々出るんですけれど、その番組のスタッフが怒っていたんです。政府が番組内容に踏み込んでくる通達がけしからんといって怒っていたのではなくて、その通達が大阪の局には来てないことに怒っていたんです。大阪のTVやラジオが何を流そうと、そんなことは官邸にとっては「どうでもいい」ことなんです。官邸が監視し、コントロールしているのは東京のテレビ局と大手メディアだけなんです。官邸だって人的リソースには限界がありますから、ローカル局の番組まではチェックできない。
だから、官邸はとりあえず「一罰百戒」戦術で来ると思います。政府批判した人間をランダムに選び出して個人攻撃する。一人でいいし、それほど過激な人でなくてもいい。むしろ意外な人選である方がいい。「あの程度のことでも、官邸ににらまれると、あんな目に遭う」という不条理感がメディアの世界に醸成されれば、それでいいんです。
パノプティコン
「パノプティコン」というのは英国の哲学者ベンサムが発明した監獄です。中央の監視塔を取り巻くように獄舎が円周に配列されている。獄舎からはつねに監視塔が見えるけれども、監視塔が誰を監視しているかは見えないし、そもそもそこに看守がいるかどうかもわからない。でも、囚人は「自分が監視されているかも知れない」と思うと身動きができなくなる。
「パノプティコン」はコストが最も安い監視システムです。誰が、誰を、どういう基準で、どういう方法で監視しているかわからないと、監視コストは限りなくゼロに近づきます。
「一罰百戒」というのは中国の言葉ですから、古代中国にも同じ発想が存在したことが知れます。同じようなことをしていたのに、ある人だけが処罰され、ある人は見逃される。どういう基準で犠牲者が選ばれるのかがわからない。そうすると全員が怯える。
量刑の基準がはっきりしていて合理性があると、「ここまではやっても大丈夫」というラインがわかります。でも、「一罰百戒」にはそれがない。たいしたことをしていない人間を処罰すると、みんなが「自分も処罰されるかも知れない」と怯え出す。それが狙いです。去年、TVのキャスターの国谷裕子さん、岸井成格さん、古舘伊知郎さんがまとめて降板させられました。彼らは別に際立って反政府的な発言をしていたわけではありません。でも、いきなり番組から降ろされた。この程度でも「反政府的人物」のブラックリストに載るのかとメディアは震え上がった。
「一罰百戒」システムのもう一つのメリットは、「本来なら処罰されるべき99人がまだ放置されている」という信憑を市民の間に広めることです。そうなれば「反政府的な人間を探り出して、それに罰を与えるのは政府の仕事を代行することだ。これは公益に資する行いなのだ」と思い込んで、ボランティアで「非国民探し」を行い始める人が出てきます。必ず出てくる。「どんな非道なことをしても処罰されるリスクがない」という見込みが立つと、どれほどでも卑劣で暴力的になることができる人間が社会には一定数います。ふつうは表に出てきませんけれど、今の日本はこの種の人々が活気づいている。
安倍首相の「卓越さ」
政府が「反日的な人間が市民社会に紛れ込んで、政府批判をしている」というデマゴギーをばらまけば、市民による市民の監視、市民による市民の排除、市民による市民への暴力行使が始まります。僕が安倍政権を危険なものだと思うのは、警察がいきなり僕を逮捕するようになると思っているからではありません(そうなるまでにはまだだいぶ時間がかかります)。そうではなくて、政府を批判するものは「非国民」であり「国賊」であるから、どれほど非道な仕打ちをしても、政府がそれを許してくれると信じ込んでいる人間を大量に生み出すリスクがあるからです。
去年、相模原市の障害者施設を襲って、19人を殺害し、26人に重軽傷を負わせた男は、事件前に首相と衆院議長に書簡を送って、障害者殺害への「官許」を求め、事件後も「権力者に守られているので、自分は死刑にならない」と語っていました。これは彼の個人的妄想ですけれど、このような奇怪な妄想を生み出すような風土がすでに日本社会に存在する。そのことにもっと恐怖を感じるべきだと僕は思います。
ゲシュタポの思想犯摘発はほとんどが隣人からの密告に基づいたものでした(そして、その多くは個人的怨恨や嫉妬によるものでした)。たった一通の密告状で隣人の生活を破滅させられることを喜び、そこから全能感や嗜虐的快感を得ていたドイツ人が一定数いた。同じことは治安維持法下の日本でもありましたし、マッカーシズム時代のアメリカにもありました。「この国の中には、国を滅ぼすことをめざしているスパイたちがうじゃうじゃいる」という信憑はそうやって国民同士がお互いを疑うような分断国家を作り出します。共謀罪は人間の「醜さ」を解発します。そのリスクを過小評価してはならないと思います。
安倍晋三がこれだけ長期政権を維持できた理由の一つは、彼が人間の「性根の卑しさ」を熟知しているという点にあると思います。どれほど偉そうなことを言っている人間でも、ポストを約束し、金をつかませ、寿司を食わせれば尻尾を振ってくる。反抗的な人間も、恫喝を加えればたちまち腰砕けになる。人間は誰もが弱く、利己心に支配されている。口ではたいそうなことを言っている人間も、一皮剥けば「欲」と「恐怖」で動かせる。この人間「蔑視」において、人間の自尊心についての虚無的な考え方において、安倍首相は歴代首相を見ても比肩する人が見出せません。人間の欲心と弱さにフォーカスして政権運営をしているという点で「卓越」していると言ってよいでしょう。
「下半身」ネタで攻める
加計学園の獣医学部新設をめぐり、「総理のご意向」文書は本物と証言した文科省の前事務次官が出会い系バーに通っていたということが読売新聞で暴露されました。大新聞が官邸の意を汲んで個人攻撃に加担したこと自体、メディアの末期的徴候ですけれど、それ以上に僕が愕然としたのは、官邸が人間の「弱点」は「下半身」にあり、そこを攻めればふつうの人間は抵抗力を失うという卑俗なリアリズムを政治的利器として利用したことです。
たしかに、それはしばしば有効でしょう(それを最も活用したのはFBI長官を48年務めて、盗聴で集めた下半身ネタで歴代大統領の首根っこを押さえたJ・エドガー・フーヴァーです)。けれども、そういう「下半身」情報というのは、これまでの政治の世界では「その情報を公開しない代償として、あることをさせる(あるいはさせない)」というかたちでひそやかに運用されていたものです。それを大新聞にリークさせたということは官邸の情報管理スタッフが素人だということを露呈してしまった。官邸には当然ながらさまざまな機密性の高い情報が集まってきます。それをどうやって効率的に利用するか、どうやって政権維持のために活用するか、それを考えるのが官邸スタッフの仕事のはずですけれども、このところの「わきの甘さ」「詰めの甘さ」を見ると、情報は入っても、その使い方がわからなくなっている。
共謀罪については、国連の人権理事会の特別報告者から疑義が提示されました。政府は国連の越境組織犯罪防止条約の批准のために必要だという名目で法案をごり押ししていますが、当の国連のスタッフから「法案が恣意的に適用されるリスク」、「プライバシーと表現の自由に対する抑圧のリスク」についての懸念が表明されてしまった。
官邸はこのクレームを無視する構えですが、特別報告者のジョセフ・カナタチ氏は書簡の中で、共謀罪法案が「国際法秩序と適合しない」ことを指摘し、法案の「改善」のために「専門知識と助言を提供すること」を申し出ています。
官房長官は「抗議する」だけで、どこが「国際法秩序に適合しないのか」、法案のどこに「改善」の余地があるのかを問い合わせてさえいません。日本国内では「木で鼻をくくった態度」でも通るでしょうけれど、国際社会でこれが通るとは僕は思いません。安倍政権はこの件のコントロールを誤ると危機的な状況に立ち至るでしょう。  
 
 
諸話 2018

 

 
 
諸話 2019

 

NHKで国谷裕子を降板に追い込んだ“官邸の代弁者”が専務理事に復帰 4/10
安倍政権に対する目に余る「忖度」報道が相変わらずつづくNHKだが、今後はさらに「安倍放送局」に拍車がかかりそうだ。
というのも、NHKは9日に板野裕爾・NHKエンタープライズ社長を専務理事に復帰させる人事を発表したからだ。
板野氏は、経済部長、内部監査室長などを歴任して2012年に理事に就任。籾井勝人・前会長の「側近中の側近」「籾井シンパ」と呼ばれ、2014年には専務理事・放送総局長に昇格した人物だ。
そして、この板野氏こそ、『クローズアップ現代』の国谷裕子キャスターを降板させた張本人と言われているのだ。
今回の人事について、毎日新聞はこう報じている。
〈16年3月に「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターが番組を降板。複数のNHK関係者によると、番組全般を統括する放送総局長だった板野氏が、番組に対する政権内の不満を背景に降板を主導したとされる。また、15年の安全保障関連法案を巡る国会審議中、個別の番組で政治的公平性を保つのが難しいとの理由で、安保関連の複数の番組の放送を見送るよう指示したとも言われる。〉(Web版8日付)
板野氏が国谷キャスターを降板に追い込んだ──。じつは、今年2月に発売された『変容するNHK 「忖度」とモラル崩壊の現場』(花伝社)でも、約30年にわたってNHKを取材してきた朝日新聞記者・川本裕司氏がこの内幕を詳細にわたって紹介。そこでは、NHK報道局幹部が「国谷キャスターの降板を決めたのは板野放送総局長だ」と証言。さらに、別の関係者は板野氏についてこう語っている。
「クロ現で国民の間で賛否が割れていた安保法案について取り上げようとしたところ、板野放送総局長の意向として『衆議院を通過するまでは放送するな』という指示が出された。まだ議論が続いているから、という理由だった。放送されたのは議論が山場を越えて、参議院に法案が移ってからだった。クロ現の放送内容に放送総局長が介入するのは前例がない事態だった」
じつは、こうした板野氏の官邸の意向を受けた現場介入については、以前から証言が相次いでいた。たとえば、2016年に刊行された『安倍政治と言論統制』(金曜日)では、板野氏の背後に官邸のある人物の存在があると指摘。NHK幹部職員の証言として、以下のように伝えていた。
〈板野のカウンターパートは杉田和博官房副長官〉
〈ダイレクトに官邸からの指示が板野を通じて伝えられるようになっていった〉
杉田和博官房副長官といえば、警察庁で警備・公安畑を歩み警備局長を務めた公安のエリートであり、安倍氏が内閣官房副長官だった時期に、同じ内閣官房で、内閣情報官、内閣危機管理監をつとめたことで急接近し2012年の第2次安倍内閣誕生とともに官房副長官(事務担当)として官邸入り。以後、日本のインテリジェンスの中枢を牛耳る存在として、外交のための情報収集からマスコミ対策、野党対策、反政府活動の封じ込めまで一手に仕切っている。実際、官邸のリークで「出会い系バー通い」を読売新聞に報道された前川喜平・元文科事務次官は、その前年の秋ごろ、杉田官房副長官から呼び出され、「出会い系バー通い」を厳重注意されたと証言している。
板野氏は安倍首相の「後見人」と呼ばれる葛西敬之・JR東海名誉会長ともパイプをもつ。そして、杉田氏はJR東海の顧問をつとめていたこともあり、安倍首相に杉田氏を官房副長官に推したのも葛西名誉会長だといわれているほど。こうしたなかで杉田官房副長官の“子飼い”となった板野氏だが、NHK新社屋建設にかかわる土地取引問題では籾井会長に反旗を翻し、結果、籾井会長から粛清人事を受けて2016年4月に専務理事を退任した。
もちろん、このとき板野氏が籾井会長を裏切ったのも杉田官房副長官の意向に従っただけで、実際に官邸は任期満了で籾井会長を引きずり下ろす方針で動いていた。逆に、粛清人事で板野氏を専務理事から外した籾井会長に対し、杉田官房副長官や菅義偉官房長官は怒り心頭。そのため、じつは籾井会長の後任は板野氏が選ばれるのでは、という見方も出ていたほどだった。
ようするに、板野氏の専務理事復帰は満を持して官邸主導でおこなわれたわけだ。いったいNHKはこれからどうなってしまうのか。
そもそも、板野氏の復帰以前に、NHKの報道局幹部幹部は完全に安倍政権の言いなり状態になっていた。
たとえば、森友問題をめぐるNHK内部の“圧力”などを暴露したノンフィクション本『安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』(文藝春秋)を出版した元NHK記者の相澤冬樹氏は、局内上層部からの“圧力”を赤裸々に明かしている。
その最たる例が、2017年7月26日の『NHKニュース7』で報じられた相澤記者のスクープをめぐる“恫喝”だ。これは近畿財務局の担当者が森友側に国有地の購入価格について「いくらまでなら支払えるか」と購入可能な金額の上限を聞き出していた、という事実を伝える内容。それまで「森友側との事前交渉は一切なかった」と強弁してきた財務省のウソ、佐川宣寿理財局長(当時)の虚偽答弁を暴く特ダネで、すべての大手マスコミが後追いに走った。しかし、その渾身のスクープ当日の夜、NHK局内では、こんなことが起こっていた。
〈ところがその日の夜、異変が起きた。小池報道局長が大阪のA報道部長の携帯に直接電話してきたのだ。私はその時、たまたま大阪報道部のフロアで部長と一緒にいたので、すぐ横でそれを見ていた。報道局長の声は、私にも聞こえるほどの大きさだ。「私は聞いてない」「なぜ出したんだ」という怒りの声。〉
この「小池報道局長」というのは、政治部出身で安倍官邸とも強いパイプを持つとされる小池英夫氏のこと。国会でも取り上げられたように、森友問題関連のニュースで現場に細かく指示を出しているのは周知のとおりで、局内ではその頭文字から「Kアラート」なる異名がついている。相澤氏の著書によれば、小池報道局長からの大阪の報道部長への“怒りの電話”は、いったん切れても何度も繰り返しかけてきたという。
しかも、信じがたいのは、小池報道局長の最後のセリフだ。
〈最後に電話を切ったA報道部長は、苦笑いしながら言った。
「あなたの将来はないと思え、と言われちゃいましたよ」
その瞬間、私は、それは私のことだ、と悟った。翌年6月の次の人事異動で、何かあるに違いない……。〉
大スクープを掴んだのに、逆に「将来はないと思え」と恫喝する──。これは加計問題でも同様のことが起こっている。NHKは、文科省の内部文書をスクープできたというのに、肝心の「官邸の最高レベルが言っている」などの部分を黒塗りにしてストレートニュース内で消化するという“忖度”報道を行い、翌朝の朝日新聞にスクープを譲ってしまった。さらに、早い段階で前川氏の独占インタビューも収録していたにもかかわらずお蔵入りにしてしまった。
前述した『変容するNHK』では、当時の出来事として、こんなエピソードが紹介されている。
〈NHK関係者によると、加計学園問題を取材する社会部に対し、ある報道局幹部は「君たちは倒閣運動をしているのか」と告げたという。〉
このように、NHKには社会部が安倍政権に都合の悪い事実を伝えようとすると、安倍政権の意向に沿うことしか頭にない政治部、報道局幹部がそれらに介入するという図式ができあがっているのだ。
それに加えて、今回、“官邸の最大の代弁者”ともいえる板野氏が専務理事に復帰するのである。官邸はもっと直接的に報道に介入し、現場の萎縮はさらに進んでゆくことは間違いない。これまでは社会部のぎりぎりの奮闘によって、政権の不正や疑惑を追及する報道がわずかながらも放送されていたが、そうした報道は完全にゼロになるかもしれない。
この異常な状況を打ち破るには、視聴者がメディアを監視し、声を上げてゆくほかない。本サイトもNHKの「忖度」報道を注視つづけるつもりだ。 
報道の死は国の死につながる 6/26
NHKニュースの奇異
6月23日、沖縄「慰霊の日」である。太平洋戦争時、沖縄は日本国内で地上戦が行われた地であり、その死者数は約20万人、県民の4人にひとりが死亡したといわれる酸鼻極まる戦いだった(米兵もまた1万2500人もの戦死者を出している)。
沖縄で“組織的戦闘”が終結したとされるのが、1945年6月23日。その日を沖縄県は「慰霊の日」として、県民の休日にした。県民が、死没者を悼み、あの戦争を忘れないためである。毎年この日、沖縄では「沖縄全戦没者追悼式」が行われる。今年もその日が来た。
正午から、慰霊の式典が行われるということで、ぼくはテレビを点けた。昼のNHKニュースの時間。そこで、ぼくは愕然とした。なんだ、こりゃ? トップニュースは延々と“逃亡容疑者逮捕”で、なかなか沖縄は出てこない。あれ? 今日は「慰霊の日」じゃなかったっけ?
だけど、ニュースが終わると「特別番組」が始まり、式典の模様が生中継された。ああ、そういうことか、と一応は納得した。
小学6年生の山内玲奈さんの平和の詩の朗読、そして玉城デニー沖縄県知事のウチナーグチ(沖縄言葉)と英語を交えた式辞。どちらも静かだが胸に沁みるスピーチだった。
来賓あいさつは安倍首相。こちらはまるで心に響かない。毎年同じような文面を、さっさと終わりたいのか猛烈な早口で読み飛ばす。そんなにイヤなら出席しなきゃいいのに。
会場からは、かなりのヤジや批判の声が挙がる。それはかすかだが、NHKのマイクも拾っていた。しかし、耳をそばだてていなければ聞こえないほどの音量。NHK技術陣の苦労のほどがしのばれる。
実際、後でSNS上に公開されていた動画で確認すると、多くの声が聞きとれる。とくに安倍首相が「沖縄の負担軽減」「そのための辺野古移設」などに触れると、叫びは一層高まった。「ウソをつくな!」「何しに来たっ!」「帰れ!」「恥を知れ!」……。会場には怒号ともいえる叫びが響いていた。NHKが拾えなかった(拾わなかった)声だ。
ところが安倍首相が退席すると、NHKはあっさりと中継を止めた。そして「八重山カヌー紀行」というような番組を始めたのだ。まだ式典は続いていたのに、あれはどういう意図だったのだろう?
ぼくの大好きな沖縄の海の番組だったけれど、異様な編成だ。ぼくはテレビを消した…。
この日のNHKの夜7時のニュースでは、会場での安倍首相への批判の叫びを流し、コメントもあったということだが、ぼくはどうせ同じだろうと思い、7時のニュースは見なかった。いや、見る気がしなかったのだ。
テレビが壊れかけている。
テレビ朝日の、ある人事
辛辣な政権批判で知られるウェブサイト「LITERA」に、ギョッとする記事が載っていた。(6月23日)
「 テレビ朝日が2000万円報告書問題で麻生財相を追及した「報ステ出身の経済部長」を報道局から追放! 露骨すぎる安倍政権忖度人事 ・・・(略)「経済部長・Mさんに、7月1日付人事異動の内示が下ったんですが、これが前例のない左遷人事だったんです。M部長の異動先は総合ビジネス局・イベント事業戦略担当部長。今回、わざわざ新たに作った部署で、部長とは名ばかり。これまでの部長は政治部長やセンター長になっているのに、これはもう嫌がらせとしか思えません」 M部長は古舘伊知郎キャスター時代、“『報道ステーション』の硬派路線を支える女性プロデューサー”として有名だった女性。経済部長に異動になってからもその姿勢を崩さず、森友問題などでは、経済部として財務省をきちんと追及する取材体制をとっていたという。(略) 」
このM部長は重要な局面では、自らも記者会見の場へ出て質問をすることもあったという。その人が、何をやるかも定かでないような新設の部へ飛ばされた。要するに、安倍政権にとって都合の悪い報道をして来た者は、こんな目にあう、ということか。
報道という現場から、政権(権力)批判が消えていく。それも“忖度”という目に見えない圧力によって消されていく。そのことを、報道機関であるテレビ局が自ら行う。テレビ局はもはや報道機関ではなく“放送企業”でしかなくなってしまったのか。
差別やヘイトを煽る番組や広告
企業であれば、売れる(視聴率が取れる)なら何でもやる。公共の電波を使っているという意識は捨て去ったようだ。
6月24日の毎日新聞が社説でこう書いている。
「 在阪民放局で、人権への配慮を欠く放送が相次いだ。偏見を助長する恐れのある内容だ。業界全体への信頼にかかわる。読売テレビはニュース番組で、見た目で性別が分かりにくい人に対し、しつこく確認するという主旨の企画を放送した。(略)  一方、関西テレビではバラエティー番組に出演した作家が、韓国人気質について「『手首切るブス』みたいなもん」とコメントした。民族差別や女性蔑視をあおる表現であり、ヘイト発言と受け取られかねない。(略)  とくに関西テレビでは、同様の発言が以前にも放送され、社内で議論した上で「差別的な意図はない」と判断していた経緯があった。(略)  若者を中心にテレビ離れが進み、視聴率競争や制作費削減で現場には疲弊が広がる。構造的な問題も横たわる。(略) 」
書いてある通りだと思うが、この批判は、書いている新聞へも撥ね返ってくるはずだ。同じことが、新聞社内でも起ってはいないか。
毎日新聞にだって、それこそヘイト表現としか思えないような書籍や雑誌の広告が散見されるではないか。社内の広告審査が機能していないとしか思えない広告が、かなり多く見かけられるのだ。
新聞購読者数が減っていることは紛れもない事実。そのために、多少ヤバイ広告でも、目をつぶって掲載しているというのが実際のところだ。
そのようなマスメディアの窮状をいいことに、カネのある組織がTVCMや新聞広告でヘイトをばら撒く。
ほんとうに、気をつけなければならない。
日本の報道の危機に国際的懸念も
国際NGO(非政府組織)の「国境なき記者団」が毎年発表している「報道の自由度ランキング」で、日本は今年67位だった。この順位は安倍政権になってから急落の一途をたどっている。例えば民主党(鳩山首相)政権時代は世界で11位だったものが、第2次安倍政権以降は、53位→59位→61位→72位→67位と無残なほどの落ち込みである。
「国境なき記者団」だけではなく、国連も日本のメディアの独立性に憂慮を示す報告書をまとめている。
毎日新聞(6月24日付)に、こんな記事が載っていた。
「 言論と表現の自由に関する国連のデービッド・ケイ特別報告者が、日本では現在もメディアの独立性に懸念が残るとする新たな報告書をまとめた。日本の報道が特定秘密保護法などで委縮している可能性があるとして同法の改正や放送法4条の廃止を求めた2017年の勧告を、日本政府がほとんど履行していないと批判している。沖縄の米軍基地の県内移設などに対する抗議活動についても当局の圧力が続いているとし、日本政府に集会と表現の自由を尊重するように要請した。報告書は24日に開幕する国連人権理事会に正式に提出される予定。(略)  政府に批判的なジャーナリストらへの当局者による非難も「新聞や雑誌の編集上の圧力」と言えるとした。「政府はジャーナリストが批判的な記事を書いても非難は控えるべき」としている。(以下略) 」
さらにこの記事では、辺野古基地反対運動のリーダー山城博治さんの有罪確定についても「(表現の自由の)権利行使制限の恐れがある」として深刻な懸念を示したとされている。
これに対し菅官房長官は、またも紋切り型の反応。「極めて遺憾。報告書は不正確かつ根拠不明のものが多い。日本では憲法の下、表現の自由、集会の自由は最大限保証されている」と記者会見で反論した。
よく言うよ、である。あの東京新聞・望月衣塑子記者に対する会見での扱いを見ていれば、菅氏の言うことが絵空事であることはバレバレではないか。
こんなマスメディア状況にありながら、前述のテレビ朝日のような露骨な“安倍忖度人事”が行われている現実もある。
――報道が死ねば、国も死ぬ―― それこそが、日本を敗戦に導いた報道機関の「痛苦な反省」ではなかったのか。 
税収60兆円突破でバブル期超えか 日本の税収は増えているの? 7/2
2018年度における税収が60兆円を突破することが明らかとなりました。新聞記事にはバブル期超えなどという見出しが躍っていますが、日本の税収は増えているのでしょうか。
2018年度の当初予算における税収見込みは59兆790億円となっており、その後、編成された補正予算では約59兆9000億円に増加していましたが、最終的な税収はさらに増え60兆円を突破する見込みです。これまでの最高額はバブル崩壊直前の1990年度における約60兆1000億円ですから、この金額を突破した場合には、バブル期超えを実現することになります。しかしながら、バブル期と今とでは、経済規模が大きく異なりますから、バブル期との比較で増減を議論してもあまり意味はありません。
2018年度における日本の名目GDP(国内総生産)は約550兆円ですが、1990年度における名目GDPは約450兆円しかありません。また消費者物価指数も当時との比較で約10%上昇しました。GDPが450兆円しかない時に60兆円の税収があったことと、550兆円の現在において60兆円の税収があることの意味は大きく異なります。
税収の割合も大きく変わっています。当時は消費税が導入されてから1年しか経過しておらず、消費税率も3%でした。全体の43%が所得税からの税収となっており、法人税も30%と現在と比較すると高い割合でした。消費税による税収は全体のわずか8%しかありません。その後、消費税が8%まで増税されたことや、安倍政権が急ピッチで法人税の減税を推し進めたことから税収の比率は大きく変わりました。2018年度の当初予算ベースでは、所得税の割合は32%まで下がり、法人税はさらに下がって20%となっています。一方で消費税の割合は30%まで上昇しています。もし消費税が10%まで増税された場合には、消費税は日本における最大の税収という位置付けになるでしょう。
消費税の増税が消費の低迷を招いたとして、消費増税の延期や廃止を求める声が大きくなっていますが、そもそも消費税が導入された理由は、景気に依存しない安定的な財源を確保するためでした。所得税や法人税は景気への依存度が高く、安定的な財源にはなりにくいというのが一般的な解釈であり、もし消費税の位置付けを変えるということになると、今後の税収や財政に大きな影響を与えることになります。
日本は高齢化の進展で、今後、社会保障費の増大が確実視されていますが、景気に左右されにくい消費税を強化するのがよいのか、景気によって大きく税収が変化する法人税や所得税を重視した方がよいのか、もっと国民的な議論が必要でしょう。  
櫻井よしこ氏が“安倍麻生道路”忖度発言の塚田一郎氏を応援演説 7/3
明日、参院選が公示されるが、“安倍応援団”ジャーナリストといわれる櫻井よしこ氏が応援演説で事実を歪曲した野党攻撃を行い、批判の声が上がっている。
櫻井よしこ氏といえば、安倍首相の推し進める憲法改正運動の旗振り役であるだけでなく、自ら主宰するインターネット番組「言論テレビ」でも安倍首相をさかんに擁護し、最近でも月刊誌「Hanada」(飛鳥新社)8月号で「無責任野党と朝日新聞に問う 安倍総理、大いに語る」と題するロング対談をするなど“首相の広報官役”も果たしている。
ところが、その櫻井氏が6月25日、塚田一郎参院議員(参院選新潟選挙区予定候補)の集会に登場し、応援演説を行ったのだ。
塚田議員といえば、今年4月、山口県下関市と北九州市を結ぶ道路整備をめぐって、「安倍晋三総理大臣から麻生副総理の地元への、道路の事業が止まっている」「私はすごくものわかりがいい。すぐ忖度する」「今回の予算で国直轄の調査計画に引き上げた」と、忖度による安倍首相、麻生太郎財務相への利益誘導を公言。責任を取って国交副大臣を辞任したばかりだ。
一応、ジャーナリストを名乗っておきながら、そんな候補者の応援演説を引き受ける感覚には首を捻りたくなるが、もっと問題なのはその内容が、事実を歪曲していることだ。候補者に関して虚偽の事実を公にすることは、「虚偽事項公表罪(公職選挙法235条第2項)」違反に当たる可能性がある。
櫻井氏は塚田議員の対抗馬である野党統一候補で弁護士の打越さく良氏に対してこう批判した。
「(参院選の)新潟の場合は塚田さんと打越さんの一騎打ちです。この中で『自衛隊をなくして皇室をなくす』という打越さんがいいと思う人はいるはずがない。(参加者から『そうだ!』『負けてられないよ!』という声)。負けてられないけれどもお父さん、今ね、調査すると、打越さんのほうが少し有利なのですって。恥ずかしくない? (参加者から『恥ずかしい!』との声)だから、これを一日も早く逆転しないといけない。逆転して、そして、さらに彼女に打ち勝って、選挙の当日にはすごい票差でこっちが勝たないといけない。(大きな拍手)皆さん、打越さんに聞きましょう。『あなたは皇室のことをどうなさるおつもり?』『自衛隊を解散するのですか?』。聞いて下さい。だって共産党が一生懸命支援をしている」
しかし櫻井氏が放った「『自衛隊をなくして皇室をなくす』という打越さん」という発言は、フェイクの可能性が高い。というのも筆者は打越氏の集会を取材しているが、予定候補本人はもちろん応援演説をした共産党の国会議員からも、櫻井氏が言うような“自衛隊をなくす”や“皇室廃止”の訴えなど聞くことはなかったからだ。
また打越氏の出馬会見を報じた5月11日の産経新聞でも、打越氏の5本柱の政策が紹介されているが、「(1)格差と差別のない社会(2)地域経済の躍進(3)原発ゼロ(4)暮らしの安心・安全確保(5)新時代の平和政策」という政策であり、“自衛隊解散”も“皇室廃止”も入っていない。
念のため打越氏の選対関係者にも問い合わせたが、「打越氏が街頭演説で自衛隊解散や天皇制廃止を訴えたことはない」と否定しているし、さらに櫻井氏は演説のなかで、打越氏がいつどこで「自衛隊をなくして皇室をなくす」という発言をしたのかの根拠を示すことはなかった。
さらに唖然としたのは、慰安婦に関する櫻井氏の発言だ。少し長くなるが、その部分の演説を引用しよう。
「そして今度の参院選挙でも塚田さんは圧倒的に勝たないといけない。(拍手)打越さんという方、立派な頭のいい弁護士さんなのだと思うのです。私は、打越さんがどういうことを仰っているのかをやっぱりきちんと調べようと思いまして、彼女のいろいろ書いたもの、発信したものを見てみました。
おかしなことが書いてあるのです。これは、2016年9月21日付のネットサイト『LOVE PIECE CLUB』というところに打越さんが書いてありますね。ここで慰安婦の問題について書いています。『かなりリベラルと信頼する友人たちからも“慰安婦って朝日新聞のねつ造なのでしょう”と言われてビックリすることも多い』と彼女は書いています。これは、2016年9月21日のネットサイト『LOVE PIECE CLUB』に書いたものです。
さあ朝日新聞といえば、慰安婦問題で大誤報をしました。で、『間違っていた』ということを彼らは認めましたよね、それが2014年8月5日と6日の紙面です。本当に、こんなに一面も二面も三面も使って大検証をしました。朝日新聞が報道した慰安婦関連記事、吉田清治さんという職業的詐欺師がいた。朝鮮半島に行ったことはないのに、息子さんがちゃんと言っています。『うちのオヤジは済州島なんか行ったことがありません』。にもかかわらず、『戦時中、軍に命令されて済州島に行って若い女性たちを慰安婦狩りをして、何百人も泣き叫ぶ女性たちを連れて行って慰安婦にした』という嘘を書いた人が吉田清治さん。朝日新聞がこのことを大きく取り上げた。そこから慰安婦問題に対する本当に深刻な誤解が始まったのです。朝日新聞はこの吉田清治さんに関する一連の記事の全てを虚偽であるとして訂正をして取り消しました。これが2014年8月5日と6日です。
ところが打越さんの書いた先ほどの記事、これは2016年9月21日です。朝日新聞は2014年8月に取り消している。ところが彼女は、それから2年以上後に2016年9月になって、自分の友達が『慰安婦問題、朝日のねつ造でしょう』ということを書いたのをビックリしたと言っている。でも2年以上も前に朝日新聞が大訂正をした。『慰安婦問題、吉田清治、嘘でした』と訂正したことに対して、彼女はどう思っているのでしょうか。『お友達が“朝日新聞のねつ造でしょう”とお友達が書いたことにビックリした』と言っているのです。そんなこと(“朝日新聞のねつ造でしょう”)は当たり前で、(打越氏が)ビックリしたことに私たちのほうがビックリした。(参加者から『バカじゃないの』の声)
打越さん自身がやっぱりすごくリベラルで左で、現実を見ることを拒否しているのかも知れないとさえ、私は思いました。いずれにしましても、この共産党を含めた野党が応援する打越さんの政治的立場というのはどこまで信用して良いのか。打越さん自身が極めてリベラルで左かかっている考え方を、どこまで私たちは支持できるのか。信用も出来ないし、支持も出来ないのではないかしら?(大きな拍手)」
これは、明らかに打越氏の記事の一部分をすり替え、事実を歪曲した発言だ。たしかに、朝日新聞は慰安婦を暴力で強制連行したとする吉田清司氏の証言を誤報だとして、取り消した。しかし、その際、右派メディアや歴史修正主義者は、あたかも、慰安婦制度そのものが存在せず、朝日新聞が慰安婦問題全体をでっちあげたかのような間違った認識を広めた。
打越氏が「慰安婦って、朝日新聞の捏造なんでしょ」と友人に言われて「びっくりした」と書いているのは、そのことであり、朝日新聞の吉田清司氏関連記事の誤報を否定したわけではない。
念のために、櫻井氏が問題にしている打越氏の記事も紹介しておこう。『LOVE PIECE CLUB』に発表された「歴史修正主義にのみこまれる危機に瀕している」という表題の記事は、以下のようなものだった。
「『歴史戦』と称して、日本の右派が『慰安婦』問題をはじめとする、植民地主義や戦争責任を否定する歴史修正修正主義のメッセージを発信する動きが活発になっている。『海を渡る「慰安婦」問題――右派の「歴史戦」を問う』(岩波書店、2016年)を読めば、第2次安倍政権成立後、現在では、その動きは『一部の右派によるもの』と見くびっていることは到底できない状況にあることがわかる」「能川元一による第一章は、歴史教育に対する歴史修正主義的な攻撃は1997年前後が転機であったという(中略)」
「能川は、安倍と右派論壇との密接な関係をデータをもって明らかにする。具体的には、2000年2月号から12年10月号までの間に、ポスト小泉の自民党総裁経験者である福田康夫や麻生太郎、谷垣禎一、そして安倍の、雑誌『正論』や『諸君!』(後に『WiLL』)での登場回数を比較する。その間、安倍は『正論』に20回、『諸君!』『WiLL』に17回登場。これに対し、福田は全くなし、麻生は『諸君!』に、谷垣は『正論』に、それぞれ1回の登場のみ。安倍は、07年の首相退任から2度目の党総裁就任までの期間も、『正論』に11回、『諸君!』『WiLL』に10回も登場。安倍は右派論壇から待望された総理大臣なのだ。
能川は、右派論壇の『歴史戦』言説の特徴をまとめてくれる。それはまず、『圧倒的な物量作戦』。まさに『声が大きい方が勝つ』を実践している。通常、アカデミズムやジャーナリズムは、『新規性』という価値に拘束され、同じ内容の繰り返しは忌避される。しかし、『歴史戦』の観点からは、新規性に価値を置かない。そのため、右派メディアとそれらのメディアとの間に情報発信量の著しい非対称性が生じてしまい、市民は否認論にならされてしまっている、という。確かに…。かなりリベラルと信頼する友人たちからも、『慰安婦って、朝日新聞のねつ造なんでしょ?』と言われてびっくりすることも多い。『声が大きい』戦略の威力は侮れない」
打越氏はまさに、朝日の誤報を利用して慰安婦問題全体を否定する、櫻井氏たちのような歴史修正主義の動きに警鐘を鳴らしたのである。そうした打越氏の記事全体の主旨を紹介した上で批判をするのならまだしも、実際には、“友人が信じ込んだ慰安婦朝日ねつ造説”が「当たり前の」であるかのように訴えた上で、それを「びっくりした」と批判的に捉えた打越氏を、極左で現実直視回避癖の疑いがあると指摘、塚田氏への支持を呼びかけたのである。
櫻井氏は、これまでも福島瑞穂氏や元朝日新聞記者・植村隆氏について、発言や記述のねつ造をして攻撃したことが明らかになっている。植村氏のケースでは訴訟にも発展した。
弁護士である打越氏がこの櫻井氏の応援演説に対して、どんな批判や反論をするのか、注目される。 
 
 

 

 
政策評価

 

 
内閣人事局
内閣官房に置かれる内部部局の一つ。2014年(平成26年)5月30日に設置された。
内閣人事局は、内閣法に基づき、内閣官房に置かれる内部部局の一つである(内閣法21条1項)。2013年(平成25年)の第185回国会(臨時会)に内閣が提出し、翌2014年(平成26年)の第186回国会(通常会)で可決・成立した「国家公務員法等の一部を改正する法律」(平成26年4月18日法律第22号)による内閣法改正で、同年5月30日に設置された。
国家公務員の人事は、最終的には、すべて内閣の権限と責任の元で行われる(日本国憲法73条4号)。しかし、すべての国家公務員の具体的な人事を内閣が行うのは現実的でなく、内閣総理大臣が国務大臣の中から「各省の長」(行政機関の長)である各省大臣を命じ(国家行政組織法5条1項)、各省大臣が各行政機関の職員たる国家公務員の任命権を行使するには、各行政機関の組織と人員を駆使して個々人の適性と能力を評価し、末端に至る人事を実施することになる(国家公務員法55条1項)。そのため、内閣総理大臣や国務大臣などの政治家が実際に差配できる人事は、同じく政治家を登用することが多い副大臣や大臣政務官、内閣官房副長官や内閣総理大臣補佐官などに限られ、各省の事務次官を頂点とする一般職国家公務員(いわゆる事務方)の人事については、事務方の自律性と無党派性(非政治性)にも配慮して、政治家が介入することは控えられてきた。もっとも、各省の人事を全て事務方に牛耳られては、政治家は官僚の傀儡となりかねず、縦割り行政の弊害も大きくなってしまう。そこで、各省の幹部人事については、内閣総理大臣を中心とする内閣が一括して行い、政治主導の行政運営を実現することが構想された。2008年(平成20年)に制定された国家公務員制度改革基本法では、「政府は…内閣官房に内閣人事局を置くものとし、このために必要な法制上の措置について…この法律の施行後一年以内を目途として講ずるものとする。」と定めていた(11条)。同法では「この法律の施行後一年以内を目途」としていたものの、その後の紆余曲折を経て、施行後6年となる2014年(平成26年)に内閣人事局は設置された。
内閣人事局は、「国家公務員の人事管理に関する戦略的中枢機能を担う組織」と位置付けられ、(1)幹部職員人事の一元管理、(2)全政府的観点に立った国家公務員の人事行政を推進するための事務、(3)行政機関の機構・定員管理や級別定数等に関する事務などを担当する。
組織
局長 1人(内閣総理大臣が内閣官房副長官の中から指名する者をもつて充てる。)
人事政策統括官 3人(うち1人は、関係のある他の職を占める者をもつて充てられるものとする。)
内閣審議官
内閣参事官  
内閣人事局 / 沿革
福田政権
内閣人事庁の創設を提言
安倍政権にて、内閣総理大臣の下に設置(2007年7月12日)された「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」は、国家公務員の人事制度の課題について検討を重ねてきた。政権が福田内閣に変わり、2008年2月、同懇談会は、国家公務員人事の一元管理を謳い「内閣人事庁」の創設を提言する報告書を策定し、内閣総理大臣福田康夫に提出した。この報告書にて、内閣人事庁は、国家公務員の人事管理について、国民に対し説明責任を負う機関として位置づけられた。内閣人事庁の業務として、総合職の採用や配属のみならず幹部候補育成や管理職以上人事の調整、指定職の適格性審査などが盛り込まれ、総務省人事・恩給局と人事院の関連機能の内閣人事庁への統合が明記された。また、内閣人事庁の長として国務大臣を置くことも盛り込まれた。
国家公務員制度改革基本法案を閣議決定
同懇談会座長の岡村正から報告書を受け取り、福田康夫は「志の高い人材が国家公務員のなり手となるような制度にする」と表明したうえで「具体化に向け、よく検討したい」と述べた。これを受け、内閣人事庁の設立の具体案が検討されることになった。しかし、内閣官房長官の町村信孝が「閣僚の人事権が弱まる」と述べるなど、懐疑的な見方も指摘された。行政改革担当大臣と公務員制度改革担当大臣を兼任する渡辺喜美は「首相と私との間では改革の基本線で合意している」と述べ、福田も「渡辺氏の考えと私の考えは一致する」との発言を行い、最終的に内閣人事庁の新設を盛り込んだ国家公務員制度改革基本法案の提出で合意した。2008年4月3日に与党からの諒承も得たうえで、同年4月4日、福田康夫内閣は内閣人事庁新設を含む国家公務員制度改革基本法案を閣議決定した。
国家公務員制度改革基本法案の成立
国家公務員制度改革基本法案は、第169回国会に政府提出法案として提出された。参議院の議席が野党優位であることに加え、与党の中にも国家公務員制度改革基本法への異論が根強いとされ、当初は第169回国会での成立が疑問視されていた。しかし、福田が成立への強い意向を示したうえ、与党と民主党との間で法案の修正協議が合意に達したことから、2008年6月6日に与野党の賛成多数で成立した。この修正により、新たに創設される機関の名称は「内閣人事庁」ではなく、内閣官房の内部組織である「内閣人事局」とされた。法律は2008年6月13日に公布・施行された。
麻生政権
内閣人事局の設置の見送り
国家公務員制度改革基本法では、法律施行後一年以内に内閣人事局設置に関する法整備を行うよう定めており、2009年度中の発足を予定していた。福田改造内閣総辞職に伴い後任の内閣総理大臣となった麻生太郎も、自由民主党行政改革推進本部の本部長である中馬弘毅との間で、2009年度中の設置で合意していた。しかし、2008年11月、麻生内閣は2009年度中の内閣人事局の設置を断念し先送りすることを決定した。2008年11月28日、行政改革担当大臣・公務員制度改革担当大臣の甘利明は緊急記者会見にて「(内閣人事局設置を)強引に21年度予算に間に合わせるのは必ずしも適切ではない」と発言し、正式に見送りを表明した。
議論の混乱
麻生内閣成立後のこれらの公務員制度改革に対し、政府や与党からも批判する者が現れた。国家公務員制度改革推進本部顧問会議の顧問である屋山太郎は、「首相はこの公務員制度改革を甘利明行革相に丸投げした」と指摘したうえで「麻生氏は問題の本質を理解せず、甘利氏は逃げている。これでは日本は救われない」などと批判する論文を公表した。2009年1月15日の国家公務員制度改革推進本部顧問会議の会合の席上、甘利が「改革を前進させた自負がある。どこが逃げているのか」と屋山を問い詰め、屋山が麻生内閣の問題点を列挙し「行革担当相が黙っているのは納得がいかない。逃げている」と反論するなどの混乱が生じている。
改革工程表の決定
2009年2月3日、麻生太郎が本部長を務める国家公務員制度改革推進本部は、新しい公務員人事制度についての改革工程表を決定した。この改革工程表では、新たに創設される機関に人事院の機能だけでなく総務省行政管理局を一括して移管することになり、その組織のの名称は「内閣人事局」から「内閣人事・行政管理局」に変更され、さらに仮称であることが明記された。また、内閣人事・行政管理局の長は内閣官房副長官兼任案も議論されたが、この規定は削除された。その後、内閣人事・行政管理局の長は大臣政務官級とする組織案がまとめられた。この工程表について、人事院総裁の谷公士は「政府案は公務員制度改革基本法の範囲を超えている。(公務員は全体の奉仕者とする)日本国憲法第15条に由来する重要な機能が果たせなくなり、労働基本権制約の代償機能も損なわれると強く懸念する」と指摘し、人事院の意見が取り入れられなかったことに対し遺憾の意を表明した。
与党からの反発
工程表によると、総務省行政管理局が内閣人事・行政管理局に移管されるため、公務員人事だけでなく個人情報保護や情報公開制度も所管するとされていた。しかし、この案を与党に提示したところ、内閣人事・行政管理局の肥大化が問題視され、自由民主党行政改革推進本部から異論が相次いだ。自由民主党行政改革推進本部では、総務省行政管理局の全局移管の撤回と、新組織の長を内閣官房副長官級にすることを要求している。また、新組織の名称も「内閣人事局」に戻すよう要求した。しかし、新組織の長を内閣官房副長官級にするとの案に対しては、内閣官房副長官の漆間巌が「公平な立場で政権と関係なく(公務員人事を)見るとなると、政治家でいいのか」と指摘するなど、政府側からも反論がなされた。
民主党政権
2009年8月の第45回衆議院議員総選挙によって政権交代が起こり、民主党を中心とした民社国連立政権(翌2010年5月以降は民国連立政権)が誕生した。政権交代によって、従来の自由民主党政権が推進していた内閣人事局構想は一時的に頓挫した。
第2次安倍政権
法案提出と野党の抵抗
2012年の第46回衆議院議員総選挙により政権復帰した自民党・第2次安倍内閣は、翌2013年秋の臨時会に内閣人事局を新設する法案を提出することを指示し、2013年6月の国家公務員制度改革推進本部の会合で、内閣総理大臣の安倍晋三は2014年の設置を明言した。11月5日、国家公務員制度改革関連法案が閣議決定され、内閣人事局の人事対象を審議官級以上の幹部職600人とし、局長には内閣官房副長官を任命することが決定した。11月22日に法案が衆議院に審議入りするが、民主党・日本維新の会・みんなの党が「行政機関が増え機能不全になる」と批判し、事務次官廃止を柱とする幹部国家公務員法案を共同提出して政府案に対抗した。自民党は野党との修正協議を行うが合意出来ず、28日には臨時会での法案成立を断念し継続審議とし2014年の法案成立に方針を転換した。
法案成立と内閣人事局設置
12月3日、自民党・公明党・民主党は国家公務員制度改革関連法案の修正に合意。合意文書を交わし、2014年の通常国会での法案成立について確認した。これを受けて、2014年1月24日に規制改革担当大臣の稲田朋美は内閣人事局を5月までに設置する方針を示した。3月、法案が可決されたことを受け、5月30日に内閣人事局が発足した。当初、初代局長には官僚の杉田和博が内定していたが、直前に撤回され衆議院議員の加藤勝信が任命された。元内閣参事官の高橋洋一によると、直前になっての人事変更は政治主導を推し進めるために官房長官の菅義偉が主導したとされる。  
2014
内閣人事局の誕生で、キャリア官僚たちが大慌て 霞が関「7月人事」 2014/6
「行政のタテ割りは完全に払拭される」。安倍総理が高らかに宣言して発足した内閣人事局。一見、清新なイメージだが、その水面下では霞が関と官邸が人事をめぐって壮絶な抗争を繰り広げていた—。
財務省の前例なき人事
安倍政権と霞が関の間で「夏の幹部人事」をめぐる攻防が激烈を極めている。
発端は先月末に発足した内閣人事局だ。
「これまで官僚主導で行われてきた幹部の人事権を内閣人事局に一元化し、官邸主導で審議官級以上、約600名の人事を決定することになった。要は政権の意に沿わない官僚を、要職からパージできるフリーハンドを官邸が握ったわけだ。安倍官邸の方針に従った政策をする人物しか幹部に登用しないということを、霞が関に叩き込むためのものだ」(自民党ベテラン秘書)
内閣人事局の初代局長ポストをめぐっても、一波乱があった。当初内定していた警察庁出身の杉田和博官房副長官('66年入庁)の人事が直前に撤回され、同じく官房副長官で政務担当の加藤勝信氏(旧大蔵省出身、当選4回)が抜擢されたのだ。
「杉田氏は周囲に『俺がなる』と吹聴していましたから、内定は間違いありません。それをひっくり返したのは、菅義偉官房長官です。官僚トップの杉田氏が霞が関の人事改革を担うのは、印象が悪い。そこで、安倍総理の了承を得た上で、加藤氏の起用を決め、その結果、緒戦から『政治主導』を鮮烈に印象づけることに成功しました」(官邸関係者)
安倍官邸が霞が関の聖域に手を突っ込んでくることを、官僚たちが手をこまねいて見ているはずがない。財務省はすでに鉄壁の防御を張り巡らせている。
現在、事務次官を務める木下康司氏('79年入省、以下同)が、6月末で就任1年を迎える。通常、財務事務次官の任期は1年で、2年を務めたのは、「10年に一人の大物次官」と呼ばれ、現在はIIJ社長の勝栄二郎氏('75年)ぐらいのもの。慣例どおり、木下氏は退官する見通しだ。その後継人事に、財務省は「異例中の異例」となるプランを持ってあたるという。
「木下氏の後任には現在、主計局長の香川俊介氏('79年)が有力視されています。香川氏は勝次官時代に政界工作を主導し、消費増税の与野党合意の筋道をつけた功労者です。昨年秋に食道がんの手術を受けましたが、再発は見られませんし、酒を飲まなくなって体調管理も万全。官邸からもその実力は認められているため、今夏の次官就任は既定路線です。問題はその次の次官なのです」(全国紙経済部デスク)
財務省は、「次の次」の事務次官に木下氏、香川氏と並んで、「'79年入省の三羽ガラス」と評価される実力者、田中一穂主税局長を当てようとしているのだ。
田中氏は第一次安倍政権で首相秘書官を務め、安倍総理が政権を投げ出したあとの不遇な時代にも政策面での助言を続けた「総理の身内的な存在」だという。
財務省の次官人事は、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の事務総長を務める武藤敏郎氏('66年)や勝氏といった元財務省首脳と、前任の事務次官の意見などを元に決められてきた。
今回、安倍官邸に恭順の意を示すために彼らが出した結論が、田中氏をいったん主計局長か国税庁長官にして、木下→香川→田中という同期3人で次官職をたらい回しにする、前例のない人事構想というわけだ。 
稲田朋美大臣の「内閣人事局」看板 美人書家が一刀両断 2014/6/1
30日発足した「内閣人事局」。所管する稲田朋美大臣が自ら書いた「看板」に注目が集まっている。あまりにもヘタ過ぎるとネットでもバカにされているのだ。
稲田大臣にとっては自慢の力作のようで、自身のフェイスブックで、〈吉川壽一先生の指導のもと「内閣人事局」の看板の字を気合込めて書きました〉と報告している。
吉川壽一先生とは、稲田の地元・福井県の書家で、NHK大河ドラマ「武蔵」(03年)の題字、人気漫画「バカボンド」などのタイトルを書いている大家だ。あの字は、大家のお墨付きらしい。
そこで、本当にヒドイ字なのか、腕前をプロに鑑定してもらった。文字から稲田大臣の性格も分かるという、美人書家として有名な夕凪氏が言う。
「バランスに癖があり、一般ウケはしないでしょうね。見た人に不安を感じさせるかもしれません。1文字ごとに分析すると、『内』が尻つぼみになり、『閣』の門構えの右側が内向きになっています。このような字は、下狭型ともいい、不安定な状況を表している。気になるのは、『事』が非等間隔であることです。無計画、よく言えば直感で動く人に多い。人の意見を聞かないので、一緒にいる官僚方は大変かも知れません」
「扇千景さんの揮毫(きごう)した『国土交通省』の看板も、尻つぼみな字でした。その後、政局は混乱していきました。尻つぼみな字には危うさを感じます」(夕凪氏)
扇が初代国交大臣に就任した後、道路公団民営化問題などが噴出している。「内閣人事局」の先行きが不安である。 
2015
 
2016
内閣人事局という「静かな革命」 2016/5
安倍政権の強さの原因として牧原出氏も御厨貴氏も一致して指摘するのは、菅官房長官が内閣人事局を通じて霞ヶ関の幹部600人の人事を握り、実質的な政治任用にしたことだ。
官僚の人事は各官庁が決めて人事院が承認するのが当然と考えられていたが、これはおかしい。国家公務員法では「任命権は、内閣、各大臣に属するものとする」と定めている。もちろん何万人もいる職員を閣僚が任命できないので、人事を官僚に委任することはできるが、本来は政治任用なのだ。
戦前の政党政治の時代には、幹部人事は政治任用で、政権交代のたびに各官庁の幹部が大幅に入れ替わった。これは政治主導になる反面、縁故採用が横行して腐敗の原因ともなった。戦後改革でGHQは日本の官僚制度を民主化するため、職階制を導入した。これは幹部を政治任用にして公務員を職能ごとに採用し、その成績によって昇進させるものだった。
しかし当時の大蔵省給与局を中心とする官僚機構は、これに徹底的に抵抗した。彼らは高等官/判任官という身分制度を守るために15段階の「給与等級」を定め、その6級に編入する試験に「上級職試験」という通称をつけ、戦前の高等文官と同じ昇進制度を守った。このとき政治任用も廃止され、官僚は100%内部昇進になった。
だから内閣人事局はほとんど注目されないが、GHQでさえできなかった「霞ヶ関の革命」である。特に局長に加藤勝信と萩生田光一という総裁特別補佐官が就任したため、人事は官邸の意向を直接反映する。かつては「霞ヶ関の人事部長」は官房副長官(事務)が行なう慣例になっていたが、それを官邸(菅官房長官)が動かすようになったのだ。
この結果、党の力は弱まり、官邸の特命チームがトップダウンで各官庁を動かすようになった。官僚も民主党政権の政務三役は無視したが、自分の人事を握る官邸の意向には逆らえない。チャンドラーは「組織は戦略に従う」といったが、日本では戦略が組織に従うので、人事権を握ったものが最大の権力を握るのだ。 
日本の官僚は「内閣人事局」で骨抜きにされた 2016/11/22
これまで日本の経済成長から福祉まで様々な行政サービスを支えてきたのは、日本の優秀な頭脳を揃えた、勤勉で実直な官僚テクノクラートだちだった。それは戦後から今日までかわらず、世界でも珍しい日本独自の構造であったと言えるでしょう。官僚テクノクラートとは財務省から経済産業省、法務省、厚生労働省、文部科学省、農林水産省、外務省、国土交通省、警察庁など私たち国民のために全力を尽くして指針を策定し、行政の実務を行っている国家公務員たちの幹部のことです。
たいていは東京大学法学部などを卒業し、難関の国家公務員試験を突破した頭脳明晰な若者たちが、日本国民のために尽くすといった高い志を持って入局します。それぞれの省庁に配属され、各分野のスペシャリストとして専門知識を習得し、実地経験を積んでいきます。「自分たちは日本という船を率いる船頭だ」という自覚が、高くはない給料にもかかわらず残業をいとわず職務に没頭する動機になっています。
実際に日本の高度成長時代には大蔵省の官僚指導のもと、財界が一致団結して経済を向上させる護送船団方式で、世界第二位の経済大国に押し上げました。また厚生省の官僚指導のもと、国民皆保険制度を充実させ、誰もが医者にかかれるよう福祉を充実させてきました。これらは何より優秀な官僚たちが高い志を持ち、政権に左右されず、純粋な奉仕精神で良かれと思われる政策を策定、実施してきたからだと思います。法案を審議して法律として成立させるのは国会議員の仕事ですが、具体的な政策、法案を練り上げるのは、専門知識を持った官僚の仕事であることが多いのです。
この官僚組織がしっかりしていれば、仮に組織のトップである大臣の座に、不勉強な政治家、タレント議員、二世議員など「これから勉強させていただきます」といった人物が座ったとしても、事務次官以下はなんら影響を受けることなく、黙々と高度な業務を遂行していきます。政権が変わっても大丈夫です。かつて社会党の村山富市総理大臣が生まれたときにも、政権交代で民主党政権が続いたときにも、官僚は動じることなく、国民のために働き続けました。
官僚たちにとって、日本を実際に動かしているのは自分たち官僚テクノクラートであり、政治家センセイはお飾りにすぎない、という自負があったからでしょう。これは良くも悪くも日本の独自の国のあり方であり、三権分立の理屈から行くと、試験に合格しただけで公務員になった官僚よりも、国民に選挙で選ばれた政治家のほうが上になって統治すべきということになります。それが政治主導という名目になったのでしょう。
しかしながら実態は、政治家は当選するために「地盤、看板、カバン」の3つの要素が必要であると言われ(地盤とは親が選挙区で元議員だとか地元の有力者であること、看板とは自民党公認などのこと、カバンとは選挙資金のこと)、必ずしも頭脳明晰である必要はないのです。とてもじゃないが優秀な頭脳で入省し、専門の行政現場で切磋琢磨してきた官僚テクノクラートとは、行政能力では太刀打ち出来ないのです。
官僚がなぜ高い志と、純粋な奉仕精神を持っているかというと、大学を卒業してそのまま国家公務員として中立公正に仕事を始めるからだと思います。財務省などになると、同期入省の職員メンバーが、入省してみたら東京大学時代の同窓生だった、ということも珍しくなく、良くも悪くも大学時代の延長のような面もあり、それが彼らの純粋な職業倫理と志を維持するのに一役買っている気もします。大学生のように生真面目に、国民への奉仕を考え続けることが可能だったのです。
もちろん厳しい出世競争も、入省すると同時に始まります。横一列で入省した同期の中から、誰が最も優秀なトップで、自分は何番目かということも、暗黙の了解でわかると言います。昇級試験などもあり、一生を続けて受験勉強の連続のような側面もあるかもしれません。上に行くほどポストの数は減っていき、参事官などの役職に絞られ、最終的には官僚のトップである事務次官一人になれれば出世競争の勝利です。事務次官になるのは実力、実績がトップの職員一人であり、二番目の職員は、自分は事務次官になれないと、あきらめて天下り先へ転職したり出向したりします。ポストの数が減るたびに天下り先や出向先が必要になります。
僕が強調しておきたいのが、官僚たちの出世レースや人事の決定が、実力主義と実績主義で極めてフェアに行われてきたということです。政権から行政の方針について、担当の大臣を経由して事務次官が大雑把な指示を受け、それを実行に移して行くというのは正しいことですが、あくまでその時の大臣から指示を受けるだけで、日々の業務についてまで政権に振り回されることはありませんでした。
大きな変革があったのは、安倍政権で平成26年4月11日に「国家公務員法等の一部を改正する法律案」が成立した時で、霞が関には大きな動揺が走りました。平成26年5月30日、「内閣人事局」という恐ろしい組織が設置されたからです。これは各省庁の事務次官以下幹部職員、計600人の人事権を、首相官邸に集中させ、首相の独断で官僚の上層部の人事を左右できるというもので、戦後依頼の大激変です。
それまで国民のことだけを考えて、真面目にコツコツと公正中立な仕事をし、実績を積み上げていけば出世できる、と考えていた官僚テクノクラートたちの倫理観さえ覆してしまいます。いくら実力や実績を積み上げても、安倍首相に嫌われたら出世できない。常に安倍首相の顔色を伺わなければならない。国民目線ではやって行けず、官邸の意向に従うべくビクビクしながら、安倍首相の喜ぶ仕事をしなければ出世できないと考えるようになります。実際に上司である事務次官や参事官は、官邸に指名された人物がなっているのだから、その指示に従わなければならない。こうして国民目線から官邸目線に、役所の倫理が変わりました。
安倍政権はこのようにして、国中の省庁を一手にコントロールする仕組みを作りました。今までの自民党内閣がしてきたように、優秀な官僚を呼び寄せ、頭脳としてレクチャーを受けて勉強する、ということもできなくなります。もはや官僚そのものが、今までのように独立した現場からの意見として、優秀な頭脳で政治家にアドバイスをする立場ではありません。彼らは安倍首相の選んだ安倍首相のイエスマンに成り下がってしまったわけです。まさに誰一人注意してくれる人のいない「裸の王様」の総理大臣が生まれてしまいました。
坂井万利代さんが「古舘伊知郎さんの降板の本当の理由」という記事の中で書いてくれた、官邸の導入した役人の「成績表のようなもの」というのは、たぶんこの内閣人事局の活動のことだと思われます。マスコミからあらゆる官庁の細部まで、自分の権限のもとに掌握することに成功した安倍首相は、さぞかし気分良く仕事をしていることでしょう。でもお坊ちゃま大学卒で二世議員である安倍首相が、裸の王様となって好き勝手に日本を動かしていくことは、非常に危険な兆候だと思います。
貴重なブレーンをすべて骨抜きにし、イエスマンに替えてしまった権力。誰も止めることのできない権力。最高裁判所はもちろん内閣法制局長官までイエスマンを配置し、司法にさえ縛られない権力。もし仮にこの権力が暴走しはじめたら日本はファシズムを許し、独裁国家になることは間違いないと思われます。気がついたときは手遅れ、ということもあります。
トランプを大統領に選んでしまったのがアメリカ国民なら、安倍晋三を総理に選んだのは日本国民です。私たちは、もう少し賢くあるべきだったと思います。 
2017-
官邸一強の背景にあるもの 2/28
はじめに
安倍晋三氏の在任期間は、第一次安倍内閣を加えると1,800日を超え、戦後の首相の在任日数第4位となった。
そうした中で、「官邸の一強、あとは多弱」との評価も定着した。
このような状況はどうやって形作られたのだろうか。他の政党との力関係か、それとも安倍氏自身の能力に拠るものか。
三位一体改革の影響
私なりの結論を先にいうと、様々な理由はあるものの、2004年の小泉政権下の三位一体改革こそが今日の強さの根源であろう。
この三位一体改革の内容を簡単に復習してみよう。「国庫補助負担金の廃止・縮減」「税財源の移譲」「地方交付税の一体的な見直し」がそれである。そしてこの中では、補助金改革が、安倍政権はもちろん、今日の政官界のパワーバランス形成に大きな影響を与えたと考えている。
補助金改革の影響
そもそも、政官界における力の源泉はどこにあるか。こう答えてしまうと身も蓋もないが、「金(を配分する力)、そして人事権」ということになろう。もちろん、能力や高潔な人格も重要だが、それも金と人事の裏打ちがあってのことだろう。
さて、この補助金改革以前は、中央省庁の官僚が強大な権力を持っていた。地方自治体に対して、ないしは省庁直轄で補助金を配分する権限を持っていたからだ。「箇所付け」という言葉をお聞きになったことがあるだろう。かつて官僚たちは、全国津々浦々のどこのどんな施設・事業に対して、どの程度の金額を配分するかという権限を一手に握っていた。したがって、各県知事はもちろん、自治体職員は中央省庁詣でをし、国会議員もまた、その決定に何がしかの関与をし、自らの存在を誇示しようと官僚たちになびいた。
改革の中で、補助金の一部は、「税源移譲」と言う言葉に表されるように税源ごと自治体に移譲され、実質上廃止された。残ったものも、交付金という「大きな財布」のような形に姿を変え、実際の細かな配分は自治体レベルに委ねられることとなった。
国会議員にとっても
こうなると、国会議員にとって官僚詣では意味をなさなくなったし、一定の敬意を払う必要もなくなった。
そうして官僚の持っていた強力な権限を剥奪したつもりだったかもしれないが、個々の国会議員も、気が付いてみるとその存在意義を低下させることになった。元々、こういう箇所付けには、いわゆる何々族と呼ばれる、ほぼ省庁単位の関係議員の集団が関与していたが、箇所付に伴う恩恵がなくなった以上、族議員のような集団を形成し続けるだけの求心力も低下した。
そうなると議員の興味は人事、すなわち、大臣他の閣僚人事に移ることになる。少しさかのぼるが、1999年の国会審議活性化法により、国会における政府委員制度及び政務次官が廃止され、副大臣と大臣政務官が新たに設置された。厚生労働省のような大きな省では副大臣、政務官は2人ずついる。すると大臣を含めての従来の2人が5人となり、ポストにあずかる機会は倍増以上となった。実はこの大臣他の人事も、かつては派閥や何々族のボスの意向が大きかったのだ。当選回数等も考慮した「派閥順送り」という言葉を覚えておられる方もあろう。 
ところが、前述のような状況で派閥や族の求心力が低下すると、相対的に首相を中心とする官邸の意向が大きくなった。小泉政権以降では、派閥の意向等閣僚任命に係るこれまでのしきたりや不文律をほとんど考慮せず、人物本位となった。
官僚たちの来し方行末
一方、官僚の人事に関して言うと、指定職と呼ばれる審議官、局長級の人事権を掌握したことも大きいだろう。その象徴が2008年12月に設置された国家公務員再就職等監視委員会であり、2014年5月30日に設置された内閣人事局である。前者は指定職が退官したあとの再就職先を監視するもの、後者は本来の所掌は広範だがもっぱら職員人事の一元管理の名のもと、指定職の候補者について官邸の意向を汲み入れるものとなっている。
従来、官僚の人事は、官僚たち自身の手に委ねられており、国会議員はもちろん、官邸と言えど、簡単に口は挟まないし挟めないというのが不文律であった。官僚の人事に口を出すと、別の方法で抵抗されたり裏切られたりするとの噂さえあった。そしてその拠り所は霞が関の中でもきわめて独立性の高い人事院であった。
第二次以降の安倍政権は、この官僚たちの力の源泉の、その最後の砦とも言うべき、人事と、そしてその人事の総仕上げとも言うべき再就職に切り込んだのである。
その拠り所として、国家公務員制度改革基本法の第11条第2号において、内閣人事局が「総務省、人事院その他の国の行政機関が国家公務員の人事行政に関して担っている機能について、内閣官房が新たに担う機能を実効的に発揮する観点から必要な範囲で、内閣官房に移管するものとすること。」と明記されたのである。
官僚たちの立場から考えると、部下が上司に従うのは、上司の考えに一定の理屈があるのはもちろんだが、最終的には上司が人事権を持っているからであり、しかも従っていれば、その先の退官後の再就職についてまで世話をしてもらえるという、強固なシステムがあればこそである。
補足すると、これに先立つように特殊法人、認可法人改革も進行し、これはこれで官僚たちの進路に大きな影響を与えたが、その顛末と影響についてはまた別の機会としたい。
いずれにしても、指定職候補者は、ある程度の地位までくれば、同僚や上司よりも、官邸や国会議員の評価・評判を気にせずにはおられなくなる。また、それ以外の職員もある程度の年数が経てば再就職を考えなければいけないが、最早上司や同僚が考えてくれるわけではない。いやむしろ今般の文部科学省の事例を見れば、上司や同僚に考えてもらえば、違法行為とさえみなされるという事態にまで陥っている。
官僚たちの冬
私がここで危惧するのは、官僚の士気の低下である。実際に接してみると、個々の官僚は能力が高いだけなく、その能力でもって国家に貢献したいという高い志を持った人が多い。集合体として見ても、軍隊組織とも思えるほどの指揮命令系統・統率とともに役割・責任分担が明確にされている。それにしても、これまではそうした志を支えるための仕組みのようなものが備わっていたのである。逆に不心得で、利己的な人もいたかも知れない。そうした人を排除するための改革であることは理解できる。それでも一定の地位まで上り詰めた官僚たちは国民の方を向くこともなく、また上司や同僚を気遣うでなく、単に官邸やその住人たちの顔色を伺うことに腐心するだろう。退官後の人生も保証されない中で、一体こうした指揮命令系統・統率が保たれていくのだろうか。
広く社会に目を転ずれば、一流と言われる企業の多くが、一定の年齢を超えると関係企業へと異動していく。また、一部の識者は米国の役人には天下りなどないと力説するが、私の少ない経験の中でも、連邦政府を去ったあと、ほどなく関係企業で破格の待遇で迎えられたケースを見聞きした。
これから
いずれにしても、概観してみると、仮に安倍氏が退陣したとしても、官邸には以前とは比較にならないほどの大きな力が備わっていると言えるし、最早時計の針を戻すこともできないだろう。  
「全く問題ない」内閣官房長官 「介入と忖度」の演出 5/29
「木で鼻をくくる」という言葉がある。そっけなく冷淡で無愛想な対応についていうが、近年、この言葉が稀に見る精度で、ぴったりあてはまる人物がいる。菅義偉内閣官房長官である。在任1600日を超えて、歴代最長の在任記録を更新し続けている。昨日(5月28日)、安倍晋三首相が歴代第3位の長期政権となったが(1981日)、これは菅氏の力に負うところが少なくない。
「政府首脳」「政府高官」「政府筋」といったマスコミ業界用語があるが、「政府首脳」は内閣官房長官、「政府高官」ないし「政府筋」(官邸筋)は内閣官房副長官(政務)などを指すようである。戦後、これまで58人の政治家(安倍晋三もその1人〔第3次小泉改造内閣〕)が「政府首脳」としてその任にあった。内閣官房の事務を統轄する(内閣法13条)。内閣官房の主任の大臣は内閣総理大臣である(同24条)。これが内閣官房長官の力の源泉となる。「最大の権力者の最側近」。「これは総理のご意向だ」と内閣や与党に大見得を切り、「俺に刃向かうことは、総理に弓を引くことだ」という台詞を吐いた官房長官もいるという。
内閣官房の事務は行政のほとんどすべての領域に及びうるので、それを統括する官房長官の職務は極めて広範かつ多岐にわたる。とりわけ、1 内閣の諸案件について行政各部の調整役、2 国会各会派(特に与党)との調整役、3 日本国政府(内閣)の取り扱う重要事項や、様々な事態に対する政府としての公式見解などを発表する「政府報道官」(スポークスマン)としての役割が重要である。執務室は総理大臣官邸5階にあり、閣議では進行係を務める。歴代官房長官のなかで名長官として名高いのが中曽根内閣での後藤田正晴だろう。他方、最も怪しい動きをしたのが、小渕恵三内閣の青木幹雄官房長官である。2000年4月に小渕首相が脳梗塞で倒れ、入院した時、「昏睡状態」の小渕首相が青木長官を「総理大臣臨時代理」(内閣法9条)に指名して、内閣総辞職をはかったとされている。憲法70条の「総理大臣が欠けたとき」にあたるかきわめて微妙なケースだった。
さまざまな政治ドラマをもつ58人の歴代官房長官のなかで、おそらく史上最強にして最悪の長官が現在の菅義偉だろう。上記の1 について言えば、各省庁にかつてない規模の介入と忖度の構造を生み出している。2 については野党には傲慢に対応し、与党にも時に恫喝に近い対応をとってきた。そして最も問題があるのは3 である。
記者会見を通じてその菅の顔を見る機会が増えている。通常、官房長官と内閣記者会との記者会見は午前11時と午後4時の2回、閣議のある火曜日と金曜日の午前の会見は閣議終了後直ちに開催されるというが、北朝鮮のミサイル発射などでは日曜早朝から、いやでもこの顔を私たちはテレビで目撃することになる。その記者会見で頻繁に用いられる言葉が、「問題ない」「全くない」「全く問題ない」「全くあたらない」である。これが「木で鼻をくくる」ということなのだが、後述する加計学園問題における前川喜平・前文部科学事務次官の件では、持ち前の陰湿で粘着質な態度に、むき出しの憎悪と敵意も加味され、凄味と威圧感を増して、殺気すら感じられる。
「全く問題ない」と普通の大臣が言おうものなら、記者から「こういう場合もあるでしょう」などと突っ込みを入れられるのがおちである。しかし、この政権では、安倍首相の国会答弁や官房長官の記者会見における居直り、逆質問、人格攻撃、「情報隠し、争点ぼかし、論点ずらし」などの芸にならって、官僚までもが答弁や説明をいとも簡単に拒否するようになった(財務省佐川理財局長の答弁拒否は典型)。メディアの劣化もあるだろうが、この政権の独特の「ふるまい」と「空気」が定着してしまったことも大きい。だから、問題を問題として感じたときにしっかりと指摘しておかないと、いつの間にか「別にいっかぁ」という思考の惰性が広まってしまうことにもなりかねない。
私の体験を言えば、先週23日の夕方、共同通信の記者から電話が入った。何か急ぎのコメントかなと思っていると、自衛隊のトップ、河野克俊統幕長が、日本外国特派員協会の記者会見で、安倍首相が、自衛隊を9条に明記した新憲法を2020年に施行することを目指すと表明したことについて問われ、安倍首相の提案を「非常にありがたい」と述べたという。記者は「これは問題ですよね」と聞いてきたが、同業他社の記者のなかにはこの発言を問題と感じない人もいたようである。私は、ここはしっかり言っておこうと、問題の性質や背景を含めて記者に話した。それを短くまとめたコメントが下記である(『毎日新聞』5月24日付、『東京新聞』同日付など)。
○ 自衛官トップ 姿勢問われる / <水島朝穂早稲田大教授(憲法学)の話> 安倍晋三首相は、自衛隊の存在が違憲との主張があるから9条に「加憲」すべきだという論理を展開しているが、これは自民党改憲草案と異なり、自民党内でも合意されていない唐突な主張である。統合幕僚長は、この首相の論理に乗っかる形で心情を吐露したわけで、憲法改正を巡る特定の政治的主張に肩入れしたことになりかねない。憲法尊重擁護の義務がある公務員、しかも「(現行の)日本国憲法及び法令を順守し」と服務宣誓した自衛官のトップとしての姿勢を問われる。統幕長の今回の逸脱は、見過ごすわけにはいかない。
河野は、「憲法という非常に高度な政治問題なので、統幕長という立場から言うのは適当でない」と述べながらも、「一自衛官として申し上げるなら、自衛隊の根拠規定が憲法に明記されることになれば、非常にありがたいと思う」と踏み込んだ。自衛隊法61条1項は隊員の政治的行為を禁止し、そこでいう「政治的目的」として、「特定の内閣を支持し、又はこれに反対すること」(自衛隊法施行令86条4号)や、「政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し、又はこれに反対すること」(同5号)を挙げている。河野統幕長にはこのような目的はなかったというが、政治的行為には、「官職、職権その他公私の影響力を利用すること」も含まれる(同87条1号)。一般の公務員の場合は、休日に政党ビラを郵便受けに配っただけで、国家公務員法違反に問われた例もあるのに、最高幹部は日頃政治家との密接な関係をつくって、実質的には政治的行為をしているに等しい。
菅官房長官は、この件について、直ちに、「全く問題ない」「個人の見解という形で述べた」と言い切った。しかし、河野が「一自衛官」と言っても「一個人」とは言っていないことをねじ曲げている。仮に「一個人」ならば職務中に公式の記者会見の場で言うべきではない。実際は「一自衛官」と言っているので明らかに「公務員」としての発言である。公式の記者会見の場で、権力を制限される国家機関の長(公権力)が言論の自由(個人の人権)を無邪気に用いることはできない。かつての自民党政権の官房長官ならば、「立場をわきまえ、発言には慎重さが求められる」くらいのことは言っていただろう。この政権では、すべてが「全く問題ない」でスルーされていく。
ちなみに、この河野統幕長は歴代自衛隊トップのなかでも際立った政治性をもつ人物として私は注目してきた(直言「気分はすでに「普通の軍隊」」参照)。防大21期だが、古庄幸一(13期)や齋藤隆(同14期)らに続く「海の人脈」である(「政治的軍人」の筋悪の例として田母神俊雄がいる)。安倍首相と菅官房長官のおぼえめでたく、河野統幕長は「ありがたい」発言の直後に、異例の定年1年再延長が認められた(『毎日新聞』5月26日付)。すでに昨年11月に定年になるところだったが、部内の昇進見込みに反してこの5月27日まで6カ月延長になったのは、官邸(特に安倍首相)の意向とされている(『軍事研究』2016年12月号「市ヶ谷レーダーサイト」参照)。安倍改憲提案を「ありがたい」と歓迎した「ご褒美」とまでは言わないが、定年の1年半延長は自衛隊高級幹部の昇進計画に大きく影響を及ぼし、就任予定のポストに届かずに退官する高級幹部が続くことになろう。安倍首相の「お友だち」はどこの組織でも「異例の人事」や「スピード感あふれる出世」をして、当該組織の出世コースに混乱や停滞を生じさせ、高級幹部の間の士気を下げている。
なお、安倍政権は2015年に安全保障関連法に先行して、防衛省設置法12条を改正した。内局(背広組)の運用企画局長ポストを廃止して、防衛省庁舎A棟12階(内局)の権限が14階(統幕長)に委譲され、「統合運用機能の強化」(部隊運用業務の統合幕僚監部への一元化)がはかられている。このような経緯のなかで、自衛隊のトップが特定の内閣、特定の首相と過度な関わり合いをもつことは、権力の私物化傾向を一層促進することになる。これも菅官房長官にかかれば、「全く問題ない」ということになるのだろうか。
「全く問題ない」官房長官の面目躍如は、共謀罪をめぐる国際的批判をめぐってである。国連人権高等弁務官事務所(ジュネーヴ)の「プライバシー権に関する特別報告者」ジョセフ・ケナタッチ(マルタ大学教授)が、日本政府と安倍首相に対して、共謀罪(テロ等準備罪)法案に対する懸念を書簡で伝えたところ、菅官房長官は信じられない言葉と態度でこれを一蹴した。書簡は5月18日付で、「計画」「準備行為」の定義が抽象的で、恣意的に適用されかねないこと、対象犯罪が幅広く、テロや組織犯罪と無関係なものが含まれていること、令状主義の強化など、プライバシー保護の適切な仕組みがないことなどを指摘する、きわめてまっとうな疑問の提示だった。
ところが、18日当日のうちに、菅官房長官は怒気を込めた表情(いつもの顔)で記者会見し、テロ等準備罪は国民の意見を十分に踏まえて行っている、海外で断片的に得た情報のみで懸念を示すのはバランスを欠き不適切などと、とんでもない「抗議」を行った。ケナタッチは日本のプライバシー権の問題について30年あまり研究を続けてきた学者であり、海外からの批判だからといって軽視することはできないし、「断片的に得た情報のみで」というのは、根拠のない無礼な決めつけである。ケナタッチは直ちに反論。「日本政府は怒りの言葉だけで、プライバシーなどに関する懸念に一つも対処していない」と批判したのは当然だろう。
これに対しても、菅官房長官は、「一方的な報道機関を通じて、懸念に答えていないと発表したのは不適切」と「再反論」を試みている(『東京新聞』5月24日付)。国連の関係者から指摘を受ければ、もっと法案の内容で説明したり、反論したりすればすむのに、相手に対して、「何も知らないくせに」というトーンで、言葉をぶつけるのはあまりにも大人気ない。報道機関に伝えるのは当然のことで、一種の「公開書簡」である。菅官房長官の国際的な対応は、歴代官房長官の誰に聞いても、「ありえない」と驚くことだろう。なお、ケナタッチ氏は「日本政府からの回答を含めて全てを国連に報告する」と述べた。
検討すべき問題は山積みであるにもかかわらず、「全く問題ない」という言葉で押し通す菅官房長官の姿勢は、世界にむけて、日本の政権の独善的で危険な傾向を広く発信する結果になったのではないか。
安倍政権のかたくなで独善的な姿勢は、2014年11月16日の沖縄県知事選挙で当選した翁長雄志知事が上京して官邸で面会を求めても会おうとせず、信じられないような「沖縄いじめ」の露骨な対応をとったことにも見られる。菅官房長官がようやく沖縄を訪問し、知事と面会する機会をつくったときも、「とんでもない場所」に知事を呼びつけて、「植民地総督」のようだと顰蹙をかったこともまた記憶に新しい。
2015年6月4日、衆議院の憲法審査会に参考人として呼ばれた3人の憲法研究者全員が「安保関連法案は違憲」と陳述したとき、菅長官はその日夕方の記者会見で、「全く違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」と発言した。6月10日の衆院特別委員会で辻元清美議員は、「違憲じゃないと発言している憲法学者の名前を、いっぱい挙げてください」と迫った。菅長官は3人の名前を挙げたが、最後は、「私は数じゃないと思いますよ」と逃げた。圧倒的多数の憲法研究者が「7.1閣議決定」と安保法案を憲法違反としていたから、「違憲でない」という見解をもつ人を探すのは困難だった。菅長官が「全く違憲でない」という形にしぼったことも墓穴を掘ることになった。
2015年10月21日、「いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があったときは、…臨時国会が召集されなければならない」(憲法53条)に基づき、野党が臨時国会の召集を求めたときも、臨時国会を開かないことについて、菅官房長官は「全く問題ない」とはねつけた(直言「臨時国会のない秋――安倍内閣の憲法53条違反」)。憲法でここまで明確に定めているのだから、従来の政権ならば、何か他に理由を示しただろう。「問題はある」のに「問題がない」というだけではなく、「全く問題ない」と言い切る。これはかなり危ない思考領域に足を踏み入れていると言えよう。
「全く問題ない」といって許されるのも、人事権を使った官僚統制が完成水準に近づいているからではないか。国家公務員人事は内閣の権限と責任で行われるが(日本国憲法73条4号)、事務次官以下の一般職国家公務員(事務方)の人事については、これまでは役所の自律性が一応尊重され、政治は表向きの介入を控える慣行が続いてきた。2014年5月に内閣人事局ができて、審議官級以上の人事を官邸が握ることになった。その発足時の所管大臣は稲田朋美で、彼女が「揮毫」した霞ヶ関・合同庁舎8号館5階の看板は有名である。稲田らしく、「人」という字が右に圧倒的に偏っている。内閣人事局の発足で、官邸は人事を通じて官僚機構を「安倍色(カラー)」に染め上げてきた。それは「モリ」と「カケ」の問題に実にわかりやすい形であらわれた。
森友学園「安倍晋三記念小学校」建設をめぐる財務省、国土交通省、大阪府(←文部科学省)の迷走は周知の通りだが、官邸側の情報隠しと論点ずらしはすさまじかった。しかし、今月になって一気に浮上した加計学園の獣医学部設置問題では、まったく違った展開になった。森友では小学校の設置認可は大阪府だったので見えにくかったが、こちらは大学なので文部科学省が一元的に所管するため、介入と忖度、圧力の方向と内容が実に明確で、「可視化」されてきた。また、内閣府が所管する国家戦略特区が絡んでいるので、内閣府や内閣官房からの圧力もよく見えるようになってきた。「総理のご意向」「官邸の最高レベル」という言葉が「レク文書」中に使われていることからも、圧力の本体が浮き上がってきた。そこに、文部科学省の前川喜平・前事務次官の登場である。大学の設置認可の所管官庁のトップの証言は決定的な意味をもつ。だからこそ、菅官房長官の対応はすさまじい怒気を含み、特に5月25日の会見では、前川前次官に対するむき出しの人格攻撃を繰り返した。これは官房長官の記者会見の枠を超えるものだった。公安警察やさまざまな情報機関を駆使して、身内から政敵までの性的指向・嗜好まですべて調べつくし、その情報を使って調略する。内調・公安情報を『読売新聞』に流し、実話週刊誌並みの記事に仕立てて、それを使って記者会見で叩く。前川の発言内容ではなく、まさにそうした枝葉の話で問題をすり替えようとしている。だが、最近まで政府の一員で、文部科学省の事務方トップだった人物を貶める発言を繰り返す菅官房長官をみていると、明らかに焦りの色がうかがえる。もはや「全く問題ない」ではすまなくなったために、相手は「問題だらけ」と言い張るしかなくなったようである。さしもの菅も、官房長官としての在任期間こそ最長となったが、その中身の点では「最悪の官房長官」としての足跡を残して、安倍首相とともに退場してもらうしかないだろう。
鳥取県知事や総務相を務めた片山善博は、「今の霞が関は「物言えば唇寒し」の状況である。14年の内閣人事局発足以降、この風潮が強まっている。役人にとって人事は一番大事。北朝鮮の「最高尊厳」、中国の「核心」。そして今回の「官邸の最高レベル」。似てきてしまったのかなと思います」と皮肉っている。
ここで思い出すのは、マックス・ヴェーバー『職業としての政治』の一節である。実に「安倍一強の国」日本がこれに似ているのである。部下という人間「装置」を機能させるためには、内的プレミアムと外的プレミアムが必要となる。「内的プレミアムとは、…憎悪と復讐欲、とりわけ怨恨と似而非倫理的な独善欲の満足、つまり敵を誹謗し異端者扱いしたいという彼らの欲求を満足させることである。一方、外的なプレミアムとは冒険・勝利・戦利品・権力・俸禄である。指導者が成功するかどうかは、ひとえにこの彼の装置が機能するかどうかにかかっている」(98頁)。安倍・菅コンビの「部下」たちも、内的・外的プレミアムの「毒」を見抜き始めている。何よりも、国民がこれに気づき始めたら、この政権は終わりである。メディアもここで腰砕けになってならない。 
内閣人事局・官邸主導人事に弊害 官僚側に忖度や不満 2017/6
安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題をきっかけに、各省庁の幹部人事を内閣人事局が管理する「官邸主導」の弊害が指摘されている。官邸が強い人事権を握ることで政策や改革が進みやすくなった半面、締め付けられた官僚が過度に政権を「そんたく」したり、不満を抱いたりして政官の関係がきしむ恐れもある。
先月30日に発足3年を迎えた内閣人事局の下で、安倍政権に近い官僚の登用が進んだ。第1次安倍内閣で首相秘書官を務めた財務官僚は、同期で3人目となる異例の人事で財務事務次官に就任。官邸が推進した法人減税や消費税の軽減税率導入決定など「政治案件」に貢献した。
同局の設置はもともと、省庁が「省益」を優先して政策が頓挫したり、族議員の利益誘導を招いたりする弊害をなくし、政治主導を進める狙いがあった。ただ柔軟な抜てき人事などの半面、官邸の意向に反した幹部が冷遇されるケースもある。
関係者によると、2015年夏の総務省人事で、高市早苗総務相がある幹部の昇格を提案したが、菅義偉官房長官が「それだけは許さない」と拒否。高市氏は麻生太郎副総理から「内閣人事局はそういう所だ。閣僚に人事権はなくなったんだ」と諭され、断念に追い込まれた。この幹部は菅氏が主導したふるさと納税創設を巡る規制緩和に反対していた。
そして最近相次ぐ問題はこうした人事が官僚の萎縮やそんたく、面従腹背を呼ぶ可能性を浮き彫りにした。加計学園を巡る「総理の意向」文書では、文部科学省の前川喜平前次官が「本物」と証言。当時官邸側に押し切られたと政権への不満を公言した。
首相は1日のラジオ収録で「霞が関にしろ永田町にしろ『総理の意向ではないか』という言葉は飛び交う。大切なのはしっかり議論することだ」と強調。菅氏も2日、「次官が首相に自分の意見を言う機会はいくらでもある」と反論した。だが文科相経験者は「次官が言うと、官邸と省全体の対決になってしまう」と人事を握る官邸に逆らえない省庁の立場をおもんぱかる。
また前川氏が出会い系バーに出入りしたとの報道では、前川氏は在職中に杉田和博官房副長官から注意を受けていただけに「官邸の圧力か」と疑心暗鬼の官僚も少なくない。ある省庁幹部は「長期政権の弊害だ。何とも言えない腐敗臭がする」と漏らした。
逆に、学校法人「森友学園」問題で矢面に立たされる財務官僚には、霞が関から「あれだけ首相を守れば、昇進は確実」とのささやきも。東大の牧原出教授(行政学)は「政権が人事権で官僚を威圧すれば、行政をゆがめる。官邸や政権がしっかり自制すべきだ」と指摘する。
内閣人事局 / 国家公務員の幹部人事を一元管理する政府組織。2014年に成立した国家公務員制度改革関連法に基づき、同年5月に内閣官房に設置された。審議官級以上の約600人が対象で、官房長官が適格性を審査した上で、幹部候補名簿を作成。閣僚は幹部の任免に当たって首相や官房長官と協議する。局長は官房副長官だが、実際の運用では官房長官が強い権限を持つ。 
稲田防衛大臣の悪筆で見くびった? ヒラメ官僚激増の原因とは… 7/1
官僚たちの“ヒラメ”ぶりがひどすぎる。
森友学園との交渉記録を「廃棄した」と開き直る財務省の局長はもとより、加計(かけ)学園スキャンダルでも、獣医学部の認可は「総理のご意向」と文科省に伝えたとされる内閣府の審議官が「そんな発言はしていない」とすっとぼける始末だ。
全国紙の政治部記者がこうため息をつく。
「明らかに政権の側に立ち、安倍首相をスキャンダルから守ろうとしている。でも憲法15条にあるように、公務員は『全体の奉仕者』なんです。なのに、常に上を見ているヒラメのように政権の顔色をうかがってばかりいる官僚が増えている。前川前文科事務次官がせっかく、『総理のご意向』と記した文書を本物と証言し、安倍政権下における行政のゆがみを正そうとしているのに、霞が関ではこれを援護する動きもさっぱりない。ゴマスリ官僚ばかりでは、公正な行政など期待できません」
どうしてこんなことになったのか? 某省の中堅キャリア官僚がこうつぶやく。
「稲田防衛相ですよ。彼女のヘタクソな筆字に完全にしてやられました」
朋チンがヒラメ官僚激増の原因? このキャリアによれば、官僚のヒラメ化が目立つようになったのは2014年からだという。
「この年の春に、国家公務員法が改正され、『内閣人事局』が設置されたんです。これにより、それまで官僚主導で決めていた各省庁の審議官級以上、約600名の人事を首相官邸が一元的に決定するようになった。こうなると、官僚はもう首相に逆らえません。嫌われると、出世できなくなってしまいますから。そのため、公平中立な行政をすることよりも、官邸の顔色をうかがう官僚が増殖したんです」
実はこのとき、法改正を主導したのが、当時、国家公務員制度担当大臣の朋チンだった。キャリア官僚が続ける。
「本来なら、『内閣人事局』ができたとき、霞が関はもっと警戒すべきでしたが、油断してしまったんです」
油断とは?
「ひとつは官邸主導とはいえ、多忙な首相が600以上の幹部ポストについて、適材適所を判別するなんてできっこない。こだわりのある一部のポストは首相が直接任命することになっても、人事の大枠は各省庁の提出した任用リストに沿って行なわれることになるはずと、霞が関側がタカをくくってしまったこと。そしてもうひとつ、私たち官僚を油断させたのが、稲田さんのあのヘタな文字でした」
政府には新組織が発足する際、その看板を時の大臣が書くという習わしがある。そのため、内閣人事局の看板書きは当時、所管大臣だった朋チンが担当することになったのだ。
「人気マンガ『バガボンド』の題字も手がけた書家、吉川壽一(じゅいち)氏の指導を受けて書いた看板なのですが、稲田大臣は本人も認める悪筆。はっきり言って小学生よりヘタ。そのあまりのトホホぶりに、『こんな貧相な看板をぶら下げる組織に、大した仕事なんてできるはずがない』と、官僚たちがすっかり見くびってしまったんです」
あのヘタな文字は官界の抵抗を封じる朋チンの深謀だったのかもしれない。  
何サマなのか? 怪しい国会答弁の内閣人事局長が我が物顔 7/14
支持率下落は止まりそうにない。安倍首相は内閣改造で局面打開をもくろんでいるそうだが、菅官房長官の留任が既定路線では、この先も上がり目ゼロだ。森友学園問題や加計学園問題で、この政権の縁故主義や隠蔽体質が国民に知れ渡り、嫌悪感が広がった。それが支持率急落に表れている。疑惑の目を向けられているのは安倍本人であり、政権中枢なのである。
「官邸が犯罪の巣窟になっていることがバレてしまったわけで、疑惑の中心人物がトップに居座っているかぎり、国民の疑念が晴れることはない。小手先の内閣改造で乗り切るなんて無理ですよ。安倍首相は『説明責任を果たしていく』と言っていましたが、だったら首相夫妻、官房長官、官房副長官、首相補佐官、加計学園の理事長など疑惑に関係する当事者たちの証人喚問が不可欠です。普通の国会審議では、政治家も役人もウソばかり言う。10日に行われた閉会中審査では、首相を筆頭にキーパーソンが出席しないし、たとえ出席しても、菅官房長官は前川前次官をおとしめるのに必死だし、萩生田副長官はシラを切り通していました。この調子では、国民の疑問は何ひとつ解明されない。真相解明には、証人喚問できっちり白黒つけるしかありません」(政治評論家・本澤二郎氏)
10日の閉会中審査では、文科省が公開した「10/7萩生田副長官ご発言概要」という文書について前川前次官が「私が事務次官在職中に担当課からの説明を受けた際に受け取り、目にした文書に間違いない」とあらためて証言。これは昨年10月に萩生田が文科省の常盤豊高等教育局長に話した内容を専門教育課の課長補佐が聞き取ってまとめた文書だ。さらに10月21日付の文書には「官邸は絶対やると言っている」「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた」などとの発言が記載されている。
萩生田は「このような項目について、つまびらかに発言した記憶はない」「間違った文書なんだと納得している」などとトボけていたが、偽証罪に問われる証人喚問でも同じことを言えるのか。
公平公正より情実優先が横行
萩生田は安倍の側近中の側近で、加計学園とも縁が深い。落選中は加計系列の千葉科学大の客員教授に就任し、報酬も受け取っていた。現在も無給の「名誉客員教授」の肩書を持っている。13年5月には、自身のブログに安倍、加計理事長と親しげに談笑するスリーショットをアップしていた。
通常国会の集中審議で、安倍と加計が「腹心の友」だと知っていたか聞かれた萩生田は、「最近、盛んに報道されているから承知している」と、まるで最近知ったかのように答えていた。千葉科学大学で客員教授をしていたのも「安倍首相とはまったく関係のないルート」としらばっくれたが、誰が信じるというのか。
「客観的に見れば、ウソやゴマカシに終始している印象ですが、おそらく萩生田氏には、ウソを言っているという罪悪感もないのでしょう。自分を見いだして目をかけてくれた親分を守って忠誠心を見せる、落選中にお世話になった加計理事長への恩義を示す。彼にとってはその方が、国民への説明よりも大事なのだと思う。公正公平より情実優先。それはこの政権の体質とも言えます」(政治学者の五十嵐仁氏)
問題は、こういう怪しい国会答弁を続ける人物が、官僚の幹部人事を握る内閣人事局の局長を務めていることだ。生殺与奪を握られた官僚は“本当のこと”が言えなくなる。萩生田が関与を否定している以上、それを覆す証言はできない。閉会中審査で文科省の常盤局長が「記憶にない」と繰り返す姿は、見ていて気の毒なほどだった。
国民の声で追い込まなければ大変なことになる
萩生田の発言が記された文書や、内閣府が「総理のご意向」を根拠に文科省に獣医学部新設を迫ったことを示す文書は、内部告発を経て公になったものだ。当初は「怪文書」扱いで、存在しないとされていた。世論の高まりで隠しきれなくなり、公表せざるを得なくなったのだが、すると、なぜか松野文科相は「内容が不正確」と謝り、関係した官僚は処分されてしまった。
一方で、森友学園問題で「文書は廃棄した」「自動的に消えるシステムで復元できない」とフザケた答弁を繰り返し、官邸の関与を隠し通した財務省の佐川理財局長は5日付で国税庁長官に昇進したわけだ。
憲法学者で慶大名誉教授の小林節氏は、13日付の日刊ゲンダイのコラムでこう書いていた。 
<首相と親しい者が、法律に反してまで不当に利益を得る。それに協力した役人が出世して、それに逆らった役人は処分を受ける。まるで、時代劇で将軍と御用人と代官と御用商人の関係を見せられているようである>
まったくその通りで、納税者より権力者の方を向いて忖度する国賊が出世し、正直者がパージされるのでは、どこぞの独裁国家を笑えない。
「国税庁長官人事を決めたのも、萩生田副長官が局長を務める内閣人事局です。財務省にしてみたら理財局長から国税庁長官というのは通常のルートかもしれませんが、森友問題であんな答弁をした人が出世すれば、論功行賞に見えてしまう。普通の感覚ならば、『李下に冠を正さず』で、こんな人事は認めないでしょう。天下に向かって、イエスマンを優遇し、歯向かえばパージすると宣言したようなものです。内閣人事局が、行政を私物化する装置になってしまっている。官邸や、そのお仲間のために、政治も行政も歪められているのです」(五十嵐仁氏=前出)
ワルが幅を効かせる独裁国家でいいのか
メディアの締めつけにも熱心なのが萩生田だ。14年の衆院解散直前、自民党筆頭副幹事長の萩生田の名前で、在京テレビキー局に、「公平中立」と「公正」な放送を心がけろという要請文書が出された。公正というと聞こえはいいが、要は、選挙があるから政権批判を控えろという圧力だ。当時の萩生田は総裁特別補佐も務めていた。自他ともに認める安倍側近からの要請にメディアは黙り込んだ。
こういうことを平気でやるのが、この国の中枢なのである。異論を認めず、批判は封じ込め、告発者には人格攻撃まで仕掛けて潰しにかかる。停波をチラつかせてメディアを脅し、報道も自分たちに都合のいいようにコントロールしようとする。
「こんな恐怖支配を許していたら、その矛先はいずれ国民に向かってきます。自分を批判する者は“敵”とみなすのが安倍首相の性質だからです。都議選の街頭演説で有権者から批判の声が上がると、『こんな人たち』と敵視していたのが証拠です。内閣改造で目先を変えても、安倍首相が続くかぎり、この政権の本質は変わらない。国家中枢が骨の髄まで腐っているのです。萩生田氏は首相の威光をカサにきて威張り散らし、人事を握られた官僚は官邸の意向を忖度する。フダツキが我が物顔で闊歩し続ける。命がけで告発した正直者は報われず、ワルが幅を利かせる独裁国家でいいのでしょうか。この国で進行しているのは、モラルハザードという言葉では言い尽くせないほど深刻な亡国政治です。国民の声で安倍首相を追い込まなければ、正義は失われ、この国は完全に民主主義国家ではなくなってしまいます」(本澤二郎氏=前出)
加計学園の獣医学部新設をめぐる問題では、安倍が出席して予算委の閉会中審査を実施する方針が、13日に決まった。自民党はかたくなに拒み続けていたが、ここへきて一転。世論に抗しきれなくなったのだ。「こんな人たち」が一斉に声を上げれば、この破廉恥政権は行き詰まる。今こそ、国家中枢に巣食う悪人どもを一掃しなければ、この国に未来はない。 
安倍政権の切り札、内閣人事局長は杉田和博官房副長官! 8/4
安倍総理大臣は政権で最重要の要職と言われている「内閣人事局」に杉田和博官房副長官を起用しました。
内閣人事局は2014年に官僚の人事権を政治家が抑えるために作った組織で、この内閣人事局が出来てからは官僚が内閣に従う構図が続いています。
事務副長官が内閣人事局長になるのは初で、官僚とのパイプを持っている杉田氏を任命することで官僚側の反発を押さえ込む狙いがありそうです。
杉田氏は警察での活動経験が長く、警視庁第一方面本部長や神奈川県警察本部長、警察庁警備局長、内閣官房内閣情報調査室長などを担当。 
内閣人事局がぶっ壊した霞が関の秩序 8/8
14年に発足した内閣人事局は霞が関の鉄筋コンクリート並みの秩序をぶっ壊してきた。官僚らに何が自身を利するのか卑しく問いながら。「森友疑惑」で木で鼻をくくったような答弁を続けた財務官僚の栄達などは一つの証明である。
「内閣人事局」が設立されたのは、2014年5月のこと。この組織を政治部デスクに解説してもらうと、
「これまでは各省庁が人事をまとめてきましたが、そのうち審議官クラス以上の約600人について、政治主導で人事を決めるために作られたものです」
ときに批判にさらされる非効率的な縦割り体質や多年の弊風を打ち破る意味で、あるいは社長が会社の人事権を握ることに異論を挟む者がいないのと同じように、官邸首脳が行政機関の人事を差配するのは当然のことだろう。したがってその方向性は間違っていないわけだが、
「政権が長く続きすぎたことで、その澱みが出てきているのではないでしょうか。局長は政治家の官房副長官が務めることになっていますが、実質的には菅さん(義偉官房長官)が決定権を持っており、その意向が強く働きすぎているようにも感じます」(同)
文科省OBの寺脇研氏は、
「人事局ができたことで、それぞれの官僚の心の中に、常に官邸からチェックをうけているのではないかという気持がめばえるようになったと思います」
と指摘する。このことに加えて、選挙を連戦連勝に導き、「軍師・菅」の名を高からしめることで霞が関を牽制・睥睨する手法を前にしては、人事こそ人生最大の関心事であるキャリア官僚はひとたまりもない。まさに「建設よりも破壊」によって力を見せつけてきた、その具体例を見て行こう。
論功行賞
最初に取り上げるのは、「我ら富士山、他は並びの山」と最強官庁を自負する財務省である。まず、学校法人「森友学園」への国有地売却問題を巡る国会答弁で、「記録は廃棄した」「電子データは自動的に消去される」などと、木で鼻をくくったように対応した佐川宣寿氏について。今夏、理財局長から国税庁長官へ栄達を果たしたが、財務省担当記者によると、
「理財局長からは4代続いての昇格ですが、佐川の場合、直前に関税局長を務めています。これは局長ポストの中で末席なんです。銀行局長や証券局長という役職があった大蔵省時代でさえ、省内では最も低く見られる立場で、以前なら関税局長で終わりでしょう。13年にこのポストから国税庁長官になった例はあるにせよ、あくまでもイレギュラー人事。さすがに佐川も理財局長で退官だと見ていたのですが……。あの国会答弁を官邸が諒とした、その論功行賞以外の何物でもありません」
裏を返せば、安倍政権に刃向うとどうなるかわからない、その匕首(あいくち)を霞が関に突きつけたということになる。
姑息な人事
もう1つ、予想外の声が省内であがったのは、事務次官、主計局長に次ぐ官房長人事だ。官房長経験者は過去11代続けて次官になっている。ベテラン記者に聞くと、
「一橋大経済学部卒の矢野康治。とても優秀だって聞きますけれど、彼は菅さんの秘書官をやっていたんですよ。『消費税10%再々延期なし』が悲願の財務省としては長官との距離感が大事ということで矢野を推薦したのは間違いない」
もっとも、
「大蔵省(財務省)で予算編成を担当する部署である主計局の中でも、総務課の企画担当主計官(主計企画官)という役職は全体の予算フレームを決めるところで、各年次の出世頭が就くポスト。ゼロ・シーリングの発案者・山口光秀、竹下登に消費税導入を提案した吉野良彦、国民福祉税構想を提唱した斎藤次郎ら歴代の大物次官はみな企画担当主計官を経ています。その仕事をしていない矢野がこの地位に来たというのは時代が変わったのかな」
と漏らす。元財務官僚で民進党の玉木雄一郎代議士は、
「3代続けて同期入省が次官になったあたりからおかしくなってきたんだと思います」
と言うし、先のベテラン記者も同様に人事の歪みだと論難するのは、15年に田中一穂氏が同期で3人目の次官に就任したことだ。
「田中と同期の昭和54年組だと、13年に次官になった木下康司と翌年にその後を襲った香川俊介が、早くから将来の次官候補と目されてきました。花の41年組に続いて優秀だと言われていたので、同じ期から次官が2人出ても不思議はなかったけれど、田中は目立たない存在で、特筆すべきキャリアと言えば、第1次安倍政権で首相秘書官をやったことぐらいです」(同)
ちなみに、41年組には長野厖士(あつし)、中島義雄、武藤敏郎の各氏ら人材は綺羅星の如くだったが、長野・中島の両氏はともに醜聞のぬかるみにはまり、武藤氏だけが次官の座に就いている。田中氏に話を戻そう。
「同じ期から3代連続で次官が出るというのは、財務省の歴史をひもといても皆無。内閣人事局ができた時、“600人もの人事を管理できるわけがない。きっと安倍さんは自分の秘書官を経験した人間を省庁のトップに据えるだろう”と霞が関で言われていましたが、実際その通りになったわけです。田中は主税局長から主計局長を経て次官になっていますが、そのような流れは聞いたことがありません」(同)
わざわざ次官コースの主計局長をやらせてその資格を与えた、姑息な人事だと言い切って、その政治的な臭いに鼻をつまむのだ。
進次郎の振付師
一方で、重要な人材を摘んでしまったのが、農水省の次官人事である。
「農水省の次官というのは水産庁長官か林野庁長官から昇格するのが定石でした。でも去年、それが崩れて経営局長から奥原正明が就きました。彼と同期の前任者は、定年でもないのに任期僅か10カ月で辞職を余儀なくされたんです」(前出・デスク)
先の玉木代議士が続けて、
「今回の人事に関しては農水省が特におかしいと私は思っています。見る人が見ればわかりますが、(次官待機組の)水産庁長官、林野庁長官、そして消費・安全局長が全員退職に追い込まれているのです」
このサプライズを演出したのも、他ならぬ菅官房長官だという。
「『菅―奥原ライン』は攻めの農業という、定義のよくわからないことをとにかく推し進めていて、意味のない農協潰しなんかをやっている。今までも全員が守りの農業をやってきたわけではないのに、それこそ印象操作に近いのです」(同)
そもそも奥原次官とは、
「農水省にあって農協解体が悲願という変わり種で、稲田朋美が自民党の政調会長だった頃、2人でせっせと農林族を回っている姿がありました。彼のそうした行動を菅さんは高く評価していて、“奥原っていいでしょ?”と周辺によく言っていたほどです」(前出・デスク)
他方、農水族に重きをなすある代議士は、
「農業を成長産業にするという考え方は良いことですが、規制緩和をして一般企業を農業に参画させることで市場の論理に晒された農業がどうなるか考えていない。奥原と官房長官は一体で、そこに農林部会長の小泉進次郎もうまく取り込まれた恰好ですね。“農業改革が自分の使命”なんて進次郎は盛んに言っていますが、奥原に吹き込まれたんでしょう。演説で主張している内容が奥原の訴えと同じだったことが何度もありましたからね」
とし、こう続ける。
「例えば、進次郎は“農協の肥料は高く、韓国や中国の2〜3倍する。余剰分を農協が懐に入れているのではないか。このままでは日本の農業の国際競争力が落ちてしまう”といった考えをお持ちのようだが、そうではない。日本の土壌に合う肥料を長い時間をかけて開発してきたという事情を知らず、単に値段だけを見て中途半端な発言をしているんです」 
忖度する人が栄転? 2017/11
森友学園をめぐる土地取引の記録文書を廃棄したと答弁した佐川宣寿氏が、今月5日付で国税庁長官となった。民進党は、この人事異動について“なぜ昇進させたのか”と、国家公務員の幹部人事を首相官邸が決めていることを批判している。
幹部人事を一元的に行う「内閣人事局」とはどのような組織なのか。日本テレビ政治部・柳沢高志記者が解説する。
――「内閣人事局」とはどのような組織なのか。
内閣人事局は、第2次安倍政権が2014年に新たに設置した組織。首相官邸直轄で、約600人の国家公務員の幹部人事を決めている。つまり人事を官僚主導から政治主導に変えたということになる。
例えば、国交省はもともと建設省や運輸省などが統合してできた役所だが、トップの事務次官は、旧建設省の事務官、技官、そして旧運輸省から1年ずつ順番に選ばれるという“慣行”が長く続いていた。
――つまり、官僚が自らの判断で身内の人事を決めていたと。
そうなる。しかし、これでは官僚が国の利益よりも自分の省庁の利益を優先することが多くなるとして、安倍政権はこれを変えた。
他にも安倍政権は、農水省の事務次官に次の次官と目されていた人物ではなく、あえて別の改革派と言われる官僚を次官に据えて、60年ぶりとなる農協改革を推し進めた。また、日本の海を守る海上保安庁の長官にキャリア官僚ではなく、現場をよく知る生え抜きの職員を起用するなど、前例のなかった人事を進めている。
――そうすると、前向きの改革のように聞こえるが、どうして野党は批判しているのか?
いま、官僚人事を一手に握る菅官房長官は「官僚人事は政権が進める改革に賛成か反対かで決めている」と明言している。これに対し、あるキャリア官僚は「人事権を握られたことで、官僚が官邸の意向ばかりを気にするようになった」と話している。
野党側は、こうした人事制度が官邸の意向を役所が過剰に忖度(そんたく)することにつながり、今回の“森友問題”や“加計問題”の原因の1つになったと指摘している。
政府高官は「国民から選ばれた政治家が官僚の人事を握るのは当然だ」としている。しかし、行政のゆがみを生むような過剰な忖度を防ぐためには、人事が客観的に見て適切に行われたと納得できる説明が必要なことは言うまでもない。 
一段と拍車がかかるNHKの偏向放送 2017/12/11
安倍政権は人事権を濫用してNHKを私物化している。
NHKの最高意思決定機関は経営委員会だが、経営委員会の委員の任命権は内閣総理大臣にある。放送法第31条は経営委員会の委員について次のように定めている。
「(委員の任命)
第三一条 委員は、公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。」
そして、実際のNHKの業務運営は、NHKの会長、副会長、および理事に委ねられるが、会長、副会長、理事については、放送法第52条が次のように定めている。
「第五二条 会長は、経営委員会が任命する。
2 前項の任命に当たつては、経営委員会は、委員九人以上の多数による議決によらなければならない。
3 副会長及び理事は、経営委員会の同意を得て、会長が任命する。」
つまり、内閣総理大臣がNHK経営委員会の人事権を握り、その経営委員会がNHK会長を選出する。そして、NHK会長は経営委員会の同意を得てNHK副会長と理事を任命するのだ。
これを見ると、内閣総理大臣はNHKを支配し得る人事権を有しているということになる。ただし、経営委員の任命を定めた第31条には、
「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、」
の記述があり、内閣総理大臣が、この記述に沿って適正に経営委員を任命するなら大きな問題は生じないが、内閣総理大臣が、この記述を無視して、偏向した人事を行えば、NHK全体が偏向してしまうのである。
また、NHKの財政運営については、第70条が次のように定めている。
「(収支予算、事業計画及び資金計画)
第七〇条 協会は、毎事業年度の収支予算、事業計画及び資金計画を作成し、総務大臣に提出しなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
2 総務大臣が前項の収支予算、事業計画及び資金計画を受理したときは、これを検討して意見を付し、内閣を経て国会に提出し、その承認を受けなければならない。」
NHKは予算を総務大臣に提出し、総務大臣が国会に提出して承認を受ける。国会において、与党が衆参両院の過半数を占有していれば、NHKは与党の承認さえ得れば、予算を承認してもらえる。
そして、NHKの収入の太宗を占めるのが放送受信料である。放送受信料を支えているのが放送受信契約である。これについては、第64条が次のように定めている。
「(受信契約及び受信料)
第六四条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」
この条文は、家にテレビを設置したら、放送受信契約を結ぶことを義務付けるものである。しかし、NHKの番組編集は著しく偏向しており、NHKと受信契約を締結したくない主権者が多数存在する。NHKの偏向を是正せずに、受信契約を強制することは、基本的人権の侵害である。
受信契約拒絶の自由を求めて訴訟が提起されたが、政治権力の忖度機関に成り下がっている裁判所が、放送法64条の規定を合憲と判断した。
政治権力がNHKも裁判所も支配してしまっている。NHKは「みなさま」のことを一切考える必要がない。NHKは、ただひたすら「あべさま」のご機嫌だけを窺う機関に成り下がっている。
12月10日放送の「日曜討論」では、安倍政権の経済政策をテーマに討論番組が編成されたが、一段と偏向が強まっている。
この討論番組を評価する基準は、出演者の選定である。そもそも司会者が偏向を絵に描いた存在の島田敏男氏である。この時点で、放送内容が大きく歪む。この日は4名の出演者だったが、政府代表プラス太鼓持ち発言者は定石である。残りの2名の出演者に、対論を述べる代表的な論者が出演して、初めて「討論」の意味が生じる。
しかし、偏向NHKはこの2名の人選において、露骨な偏向を実行している。残りの2名も、政府施策賛同者、財政規律優先論者を揃えており、これでは、公平な議論にならない。
安倍政権の施策に問題があることはもちろんだが、財政規律を主張する論者だけを登場させるのは、財務省への配慮なのである。こんな偏向番組を制作するNHKとの受信契約強制を合憲とする裁判所は、もはや裁判所としての機能を失っている。
政治権力=行政権力がすべてを支配し、憲法も無視した政治を実行しているのが現実であり、この現状を打破するには、ただひとつ、この行政権力を打倒するしかない。
この点を明確にしておく必要がある。  
 
特定秘密保護法 2013 

 

「その他」の数だけ 闇から闇へ 
大臣役人の好き勝手  拡大解釈はお手の物 
煩わしいことは全て 特定秘密保護法「その他」を適用 
プライバシーの侵害  
秘密保護法には、「特定秘密」を取り扱う人のプライバシーを調査し、管理する「適性評価制度」というものが規定されています。調査項目は、外国への渡航歴や、ローンなどの返済状況、精神疾患などでの通院歴…等々、多岐に渡ります。秘密を取り扱う人というのは、国家公務員だけではありません。一部の地方公務員、政府と契約関係にある民間事業者、大学等で働く人も含まれます。その上、本人の家族や同居人にも調査が及ぶこととなり、広い範囲の人の個人情報が収集・管理されることになります。
「特定秘密」の範囲  
「特定秘密」の対象になる情報は、「防衛」「外交」「特定有害活動の防止」「テロリズムの防止」に関する情報です。これはとても範囲が広く、曖昧で、どんな情報でもどれかに該当してしまうおそれがあります。「特定秘密」を指定するのは、その情報を管理している行政機関ですから、何でも「特定秘密」になってしまうということは、決して大袈裟ではありません。行政機関が国民に知られたくない情報を「特定秘密」に指定して、国民の目から隠してしまえるということです。  
例えば、国民の関心が高い、普天間基地に関する情報や、自衛隊の海外派遣などの軍事・防衛問題は、「防衛」に含まれます。また、今私たちが最も不安に思っている、原子力発電所の安全性や、放射線被ばくの実態・健康への影響などの情報は、「テロリズムの防止」に含まれてしまう可能性があります。これらが、行政機関の都合で「特定秘密」に指定され、主権者である私たち国民の目から隠されてしまうかもしれません。  
その上、刑罰の適用範囲も曖昧で広範です。どのような行為について犯罪者として扱われ、処罰されるのか、全く分かりません。
マスコミの取材・報道の自由への阻害  
「特定秘密」を漏えいする行為だけでなく、それを知ろうとする行為も、「特定秘密の取得行為」として、処罰の対象になります。マスコミの記者、フリーライター及び研究者等の自由な取材を著しく阻害するおそれがあります。正当な内部告発も著しく萎縮させることになるでしょう。
秘密保護法・監察室は補佐的役割、第三者機関と隔たり  
特定秘密保護法に基づく特定秘密の指定や解除を検証する監視機関として、菅義偉官房長官が5日に設置を表明した「情報保全監察室」(仮称)が、事務次官級の「保全監視委員会」(同)の補佐的役割にとどまることが分かった。同日の自民、公明、日本維新の会、みんなの党の4党合意では、監察室は「独立した公正な立場で検証、監察する新たな機関」(同法付則9条)との位置付けだったが、合意を受けた実際の制度設計は「第三者機関」にはほど遠く、チェック体制は何ら強化されていないことになる。  
4党合意は法案修正に携わった実務者レベルの署名にとどまっており、独立性の強い機関を主張する維新から「骨抜き」と批判が出る可能性もある。  
政府案によると、情報保全監察室は内閣府に設置し、警察庁や外務、防衛両省の官僚20人程度で構成する方向。同じく内閣府に新設する審議官級ポスト「独立公文書管理監」(仮称)の下部組織とするが、内閣府設置法3条は内閣府を「内閣官房を助ける」と定めており、4党合意も監察室の所掌事務を「同条に基づく」としていることから、実際は保全監視委員会の補佐が主になる。  
保全監視委員会は行政機関の長による特定秘密の指定や解除などをチェックし、運用に問題があれば、首相が各機関を指揮監督する。一方、情報保全監察室は4党合意を踏まえ、指定や解除の適否などを検証、監察するが、独立性はない。森雅子特定秘密保護法担当相が6日の記者会見で「特定秘密の中身をしっかり見られるようにしないと、違法な指定をしているか判断できない」と述べたのも、監察室を政府の一組織にすることを想定しているためだ。  
本来、監察権限を持つ第三者機関を設置するには法律が必要だ。しかし、政府はもともと第三者機関に消極的で、4党合意でも監察室は「政令で設置する」ことになっていた。菅氏は5日の参院国家安全保障特別委員会で、維新の室井邦彦氏に対し「高度の独立性を備えた機関への移行のため、内閣府設置法の改正も検討していく」と答弁したが、自民党幹部は「公正取引委員会や消費者庁のような内閣府の外局にはなるわけがない」と語っている。 
特定秘密保護法案とうとう強行採決
ついに特定秘密保護法が12月6日深夜、成立した。世論調査の結果でも「慎重に審議を尽くせ」との声が多数にもかかわらず、「年はまたがない」という強い意志のもと、安倍政権は強行突破。採決後には、自民党・石破茂幹事長(56)から差し入れのアイスクリームが届き、居合わせた幹部らで簡単ながら甘い甘い祝勝会が始まった。
政府、自民党にとってはまさに思惑どおりの国会運営ではあったが、弛緩しきった雰囲気も漂っていた。
まずは石破幹事長がブログで市民団体のデモを「テロ行為」と同一視。マスコミから集中砲火を浴びると、「何とかしてくれないか」と周囲に懇願する始末。
委員会採決当日には、委員会室の応援席に座った1年生議員たちが、緊張感のかけらもなく談笑。開会前には女性議員が答弁席に立ち答弁のまねごとをし、傍聴席から「遊びでやってるのか」との声が漏れた。
また計算どおりとはいえ、同じ党内からも「無理をしすぎ」(閣僚経験者)との声が出る国会運営で、盤石と思われてきた政権基盤が傷ついたのは確かだ。
「成長戦略実行国会」と安倍首相自らが呼びながら、今国会でのトルコ、UAEとの原子力協定の承認は時間切れ。原発輪出は安倍政権が成長戦略の柱としていただけに、「特定秘密保護法案に政治的パワーを使いすぎた。思わぬ誤算」と自民党幹部は振り返る。
そして6日、内閣不信任案や問責決議案が飛び交った後に成立。この幹部は「強行イメージがますます増幅して、内閣支持率は5、6ポイント下がるだろう」とも口にした。今回の国会運営が政権の体力をそぎ落としたのは確実だろう。
こうした強引な国会運営は、第1次安倍政権の命取りにもなった。姿見に映る第2次安倍政権は、そのころと相似形になっている。 
 
平和安全法制 2015 

 

9月19日を新しい祝日とします  「憲法の命日」 
憲法は 時々の政治家により 
いかようにも解釈変更できることとなりました  黙祷

「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」、通称平和安全法制整備法と「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」、通称国際平和支援法の総称である。平和安全法制関連2法とも。マスメディア等からは安全保障関連法案、安保法案、安保法制、安全保障関連法、安保法と呼ばれる他、この法律に批判的な者や政党(民主党(現・民進党)、日本共産党、社会民主党等)が主に使用する戦争法という呼び方も存在する。
「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」(平和安全法制整備法案)は、自衛隊法、周辺事態法、船舶検査活動法、国連PKO協力法等の改正による自衛隊の役割拡大(在外邦人等の保護措置、米軍等の部隊の武器保護のための武器使用、米軍に対する物品役務の提供、「重要影響事態」への対処等)と、「存立危機事態」への対処に関する法制の整備を内容とする。
また、「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案」(国際平和支援法案)は、「国際平和共同対処事態」における協力支援活動等に関する制度を定めることを内容とする。
第3次安倍内閣は、2015年5月14日、国家安全保障会議及び閣議において、平和安全法制関連2法案を決定し、翌日、衆議院に提出した。
衆議院では、同年5月19日、我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会を設置して平和安全法制関連2法案が付託され、審議が開始された。7月15日、同特別委員会で採決が行われ、賛成多数により可決。翌7月16日には衆議院本会議で起立採決され、自民党・公明党・次世代の党(現:日本のこころを大切にする党)などの賛成により可決。参議院へ送付された。
参議院では、9月17日には、我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で採決が行われ、賛成多数により可決。同日午後8時10分に参議院本会議開会。翌々日の9月19日午前0時10分には参議院本会議が改めて開会された。17日の参院特別委員会で採決が混乱し、野党側は無効だと指摘したが、鴻池祥肇委員長は本会議の冒頭、「採決の結果、原案通り可決すべきものと決定した」と報告。その後、各党が同法に賛成、反対の立場から討論を行った後、記名投票による採決がされ、自民党・公明党・次世代の党・新党改革・日本を元気にする会などの賛成多数により午前2時18分に可決・成立。さらに、政府は平和安全法制による自衛隊海外派遣をめぐる国会関与の強化について5党合意を尊重するとの閣議決定をした。同月30日に公布された。
政府は、平和安全法制関連2法が「公布の日から六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」としていることを踏まえ、2016年3月22日の閣議で施行日を同月29日とする政令と自衛隊法施行令をはじめとする26本の関連政令を改正する政令を制定する閣議決定をした。2016年3月29日午前0時から施行した。
安保法案で野党が批判する「強行採決」とは? 
7月15日、集団的自衛権の行使を可能にすることなどを盛り込んだ安全保障関連法案が、衆議院の特別委員会で採決されました。民主党、維新の党、共産党は、委員会に出席はしたものの、政府案の採決には応じなかったため、与党のみで採決をする「強行採決」という形が取られました。国会の周辺では、この「強行採決」に反対するデモの声が響き渡りました。しかし、議会制民主主義は多数決で物事を決定していくシステムです。昨年の総選挙で多数を獲得した与党は、「民意」にしたがって決を取ったに過ぎないと考えることもできます。一体「強行採決」は、何が問題なのでしょうか。
法案1本あたりの審議時間は10時間?
「強行採決」とは、マスコミが作り出した用語であり、法律に定められているわけでもなく、厳密な定義もありません。実は、日本の法律は、そのほとんどが多数決ではなく「全会一致」で成立しています。与野党がきちんと議論をして修正をした上で、各党が共通して支持する法案が、圧倒的に多いのです。また、与野党で法案に対して部分的に賛否が分かれた場合でも、そのほとんどは、審議を打ち切ることについての与野党の合意があった上で採決をします。
しかし、法案の内容をめぐって与野党の主張が真っ向から対立する、いわゆる「対決法案」では、お互いに妥協の余地があまりありません。採決をするに足りる十分な議論ができていないとして、少数派である野党が採決をすること自体を拒否すると、多くの場合に与党側である委員長の職権で、与党だけでも採決を行うことができるルールになっています。この委員長職権による採決は、慣例上極めて例外なものとして位置づけられているため、話し合いを続けることを拒否する非民主的な方法という批判を込めて、「強行採決」というネーミングがされているのです。
与野党で主張が真正面から対立する「対決法案」の場合は、最終的に質問や討論で意見の違いを埋めることはできないため、議論をし続けることに意味はなく、多数決を取る事は何の問題もないと考えることもできるでしょう。しかし、中央大学法科大学院の佐藤信行教授(公法・英米法)は次のように指摘します。
「民主主義だから多数決で決めればいいというだけなら、極端な話、選挙で多数派が決まった時点で審議をやる必要もないし、国会も不要かもしれません。しかし、法案審議で丁寧な議論を尽くすことが重要なのです。野党があらゆるケースを想定して質問をし、与党がこれに対して明確に回答して行くことで、法案における利害関係の調整が適切かどうか、見落としていた論点はないか、制度の問題点はないかを明らかにできます。さらに、こうした議論を重ねることによって、法律が国会の手を離れて実際に執行される時に、どのような運用がされるのかについての基準をあらかじめ形作るという機能を有するのです」
今回の審議は、閣僚によって答弁の内容が異なるなど、不安定で明確性を欠くことも少なくありませんでした。また、具体的なケースを想定した質問がなされても、与党は曖昧な回答に終止しました。安保法案がどのように執行・運用されていくのかを統制する議論が十分になされていたかは、疑問があると言わざるを得ません。
そして、事実上の慣行として、平均すると一本の法案に対する審議には、80時間程度の時間が費やされます。与党は、今回の法案について、審議を110時間行ったから、「審議は十分尽くされた」という説明をしています。しかし、今回は「安保法案」という形でくくられているものの、その中身は11もの法律に及びます。単純に割れば、1つあたりは10時間程度となってしまい、審議時間が明らかに足りないとも考えられるのではないでしょうか。
中身のある議論はできていたのか
これに対して、前衆議院議員の三谷英弘弁護士は、次のように語ります。
「今回の法案は、大きく分けて、自衛権行使、後方支援、領域警備という3つのテーマに分類できると思います。具体的な数字としては11の法案ですが、論点が重なる部分もありますから、全てが個別の法案と考えることは適切ではないでしょう。一方、『安保法案』という1つの法案だというのはさすがに無理があります。議員経験から考えると、審議時間は110時間では十分とはいえず、全体として150時間くらいは必要だったのではないかと思います。」
しかし、単純にここから30〜40時間増やして審議すれば解決したのかというと、そうとはいえません。本質的な問題は、“中身のある”審議ができなかったことでした。今回の審議では、「自衛権」の中身を再定義した、維新の党の対案が出てきた事に、大きな価値があったと三谷弁護士は指摘します。
「維新の対案は、今回の法案について、『個別的自衛権』と『集団的自衛権』のどちらで説明するかといった言葉の問題という面もありましたが、『自衛権』の行使をどこまで統制するかということが具体的な論点として上がるきっかけになっていたのです。しかし、この対案が出されたのは、審議も終盤に差し掛かった、7月8日になってからでした。審議の場で法案の理解が深まったのは、この採決前の一週間に過ぎません。維新も、審議終了の間際になってからではなく、もっと早くに対案を出して審議時間を目一杯活用して堂々と議論をするべきでした」
今回は、与党が審議の時間をきちんと取っておらず、適切な答弁をしていないまま「強行採決」に踏み切ったということも、もちろん問題です。しかし、審議が始まった当初から80時間くらいは、野党も「戦争法案」などといったレッテル貼り・印象論に終始し、あまり具体的な議論が出すことができていなかったともいえます。三谷弁護士は、「与党にも猛省を求めたいですが、野党も闘い方が極めて稚拙だったと言わざるを得ません。両者とも強く批判されるべきです。有権者の皆さんも、印象論で賛成か反対かを考えるのではなく、国会の審議がきちんと議論の場になっているかを見定める姿勢を持って欲しい」と言います。
「強行採決」という言葉は否定的なイメージが強く、それ自体に目が行きがちですが、今回の問題の本質は、中身のある実質的な議論が十分にされなかったということに尽きます。採決がなされる瞬間、野党の議員が「自民党 感じ悪いよね」と書かれたプラカードをカメラに向かって掲げる光景は、今回の法案審議を象徴するものとして極めて印象的でした。民主主義は、議論のプロセスを充実させることに意義があるということを、改めて考えさせられます。 
安全保障法制改定法案の参議院強行採決と法案成立に抗議 東京弁護士会
本日未明、参議院本会議において、平和安全法制整備法案及び国際平和支援法案の採決が与党によって強行され、同法律が成立した。
しかし、これらの法律は、これまでも当会会長声明で繰り返し述べたとおり、他国の武力紛争にも加担して武力行使ができるようにする集団的自衛権の実現や、後方支援の名目で他国軍隊への弾薬・燃料の補給等を世界のあらゆる地域で可能とするもので、国際紛争を解決する手段としての戦争の放棄を定めた憲法9条に明らかに違反する。このことは、従前の政府の解釈でも確認されていたことである。
また、法律の専門家である元最高裁判所長官及び元判事や元内閣法制局長官、全国の憲法学者・研究者の大多数、及び全ての弁護士会も本法案を憲法違反と断じているのであり、にもかかわらず、安倍内閣は昨年7月の政府解釈を一方的に変更する閣議決定に基づき本法案を強引に国会提出してきたもので、このようなやり方は憲法をもって政治権力への統制規範とする立憲主義にも明らかに違反している。
さらに、直近の衆議院総選挙でも、本法案は争点とはなっておらず、国民は現政府・与党にこのような法案の成立まで委託したわけではない。そうであればこそ、各マスコミの世論調査によれば国民の約6割が法案に反対を表明し、約8割が「説明不足」だとしているのである。にもかかわらず、これらの声を無視し強引に本法案の成立を強行することは、国民主権の理念にも反するものである。
かかる状況下において、政府及び与党が衆議院に引き続き参議院でも本法案の採決を強行し、憲法9条・立憲主義・国民主権に違反する法律を成立させたことは、憲政史上の汚点であり、到底許されることではなく、強く抗議する。
今回、法律が成立したと言っても、それが憲法違反である以上、法律の効力は無効である。このような無効な法律に基づいて政府が政策を立案・実行していくことは到底許されるものではない。よって、違憲・無効な平和安全法制整備法及び国際平和支援法を、可及的に速やかに廃止するよう強く求めるものである。 
 
 
 
坂上忍が生放送で「安保法案に大反対」と勇気ある発言! 2015/9
「(安保法案は)ぼく、大反対なんですね」
きょう、生放送の番組で突然、坂上忍がこのように発言した。きょう放送の『バイキング』(フジテレビ)でのことだ。昨日、石田純一が反対デモに参加して安保法案反対を訴えたことにつづき、坂上もついに声を上げたのだ。
「いまの世界情勢など見てると、必要なのかなって気にもなりがちなんだけど、日本も一時、戦争があったときに『お前ら金だけ出して何もやんないのか』って叩かれたときもあったし、でも、逆に言ったらいまだからこそ、武器持たないで憲法9条持ってりゃいいんじゃないの? だって、被爆国なんだから。被爆国にしかできないことあるわけで、いまだからこそ、武器持たない日本でいてほしいなっていうのが強い想いですかね。どちらかと言うと」
自分の看板番組で、この堂々とした発言。坂上はいかにも当然といった風情で飄々と語ったが、政権ベッタリのフジテレビで、しかも生放送で展開するとは、相当な度胸がないとできない。さすがは「嫌われることを恐れるな!」と言ってきた坂上だ。
しかし、坂上の清々しい態度とは対照的に、スタジオの空気はどんよりと重くなり、実際、坂上の両脇で話を聞いていた雨上がり決死隊の二人はいかにも「マズい」といった表情を浮かべていた。だが、坂上の話に、拍手を送る者が現れた。金曜レギュラーの渡辺えりだ。
「わたしもそう思いますよ。武力には武力でやったら、ずーっとつづくわけですから。それを止める勇気。ほんとに大変だけれども、止める勇気をもたなくてはいけないとわたしは思いますね」
渡辺がそう言った後、再び坂上が「ただね、もう、こっち(自分たちのような)の意見になると、きれいごとにも聞こえ兼ねないので」と渡辺に語りかける。そして渡辺は「だから議論! もっと話し合いをつづけないと」と訴えた。
このスタジオのムードに芸人たちが怯えるなか、今度は「おバカタレント」といわれる鈴木奈々が、「わたしは反対です」とはっきり口にした。
「0.1%でも戦争に巻きこまれると思うと、そうなる確率が増えると思うと、すごく不安で怖くて、決まってほしくないって気持ちですね」
「おバカ」で有名になった分、こうした発言は確実にネトウヨの標的になる。それは鈴木も百も承知だっただろう。それでも自分の意見をきっぱりと表明した鈴木に、坂上は「奈々ちゃんが言ったみたいに、(法案が)良い・悪いでいいんだもん。それは奈々ちゃんの年齢の、奈々ちゃんのいまの立場で、これに賛成できるのか賛成できないのか。それが奈々ちゃんの意見なんだもん」と擁護した。
自分の本音を言えないくらいなら干されたっていい。坂上は再ブレイクを果たしてからも、そのようなことを言ってきた。今回、坂上はきっちりとその態度を鮮明にしたのだ。もうアッパレとしか言いようがないが、さらにもうひとり、反戦思想を行動で表明した芸能人がいる。
じつはきょう、NHKでも『スタジオパークからこんにちは』に出演した、ミュージシャン・俳優のうじきつよしが、弾き語りで「自由」という自身の歌を披露した。それは明確な“安保法案反対”の歌だった。
《 物言えぬ憂鬱 所詮パズルのピース  時計の針は 錆びついた へし折れたまま  すべて意のままに 潰されてたまるか  戦火なき 奇跡の歴史  罪なき世代に バトンを 手渡せないまま  曖昧なままじゃ 明日はもう来ない  手放すな自由  守り抜け自由  手放すな自由  守り抜け自由 》
坂上も、渡辺も鈴木も、そしてうじきも、テレビを支配する“物いえば唇寒し”のムードを打ち破り、自分の言葉で自分の思いを伝えた。メディアに迎合しないその姿勢には、心から拍手を送りたいではないか。
いまも国会では野党が抵抗を繰り広げている。昨夜につづき石田純一はきょうも反対デモに参加してスピーチを行った。石田、坂上らの勇気を見習って、安保法案に反対の著名人たちはどうかもっと声を上げてもらいたい。 
中居正広が松本人志の「安保法制反対は平和ボケ」に敢然と反論! 2015/8
本日放送された『ワイドナショー』(フジテレビ系)で、またしても松本人志がトンチンカンなことを語り出した。
きょうの放送でテーマのひとつとなったのが、先週日曜に渋谷で開かれた高校生を中心とした5000人デモについて。VTRが終わって最初に口火を切ったのは、石原良純。良純は“安保法案を戦争法案と言うのがそもそも間違っている”と批判し、「何を大人たちは話しているのかっていうのは伝えないと」と発言した。
ミサイルを兵器ではなく弾薬認定し、核兵器さえ運搬できてしまうようなこの法案は、どう考えても戦争法案に間違いなく、安保法案の実態を理解できていないのは良純本人だ。いかにも父・石原慎太郎にしてこの息子といった感じだったが、この流れで松本は、良純と同調し、「ニュースに誘導されている感じはあるんですよね〜」と深く頷いた。
しかし、このなかで中居正広は、「若い子が声をあげるのは、ぼくはいいことだと思う」と切り出した。
「ぼくがうれしかったのが、『あ、関心をもってるんだ!』って。ね。若い人の投票率が下がっているとはいえ、こういう子たちが、(良純のほうを見ながら)解釈がもしかしたら間違っているかもしれないけども、ふわっとしているところもあるかもしれないけども、なーんか動かなければ、これ通ってしまうぞっていうような意識をもっていることは、すごくいいことだなって思います」
だが、この中居の言葉に反論したのは、やはり松本だ。
「いま、安倍さんがやろうとしていることに対して、反対だー!って言うのって、意見って、これ、意見じゃないじゃないですか。単純に人の言ったことに反対してるだけであって、対案が全然見えてこないんで、じゃあ、どうする?って……まあ、前も言いましたけど、このままで良い訳がないんですよ」
反対するなら対案を出せ。この松本の主張は、安倍首相が行う批判者に対する攻撃とまったく同じものだ。しかし、どうして反対者が対案を出す必要があるというのか。安保法制は安倍首相が勝手にアメリカで約束してきただけのもので、もっともらしく語る“周辺の危機”だって、現在の個別的自衛権の範囲内の話でしかない。対案は批判された者が出すべきであって、松本は完全に安倍首相と同じ土俵に乗っているに過ぎないのだ。
本サイトでも以前から指摘しているように、芸能人のプライバシーの問題でも、少子化の問題でも、こうした“強者の論理”を振りかざすのは、いつもの松本の特徴だ。そのため、きょうの放送でも、「もしこのままで良いと思っているのであれば、完全に平和ボケですよね」「(対案を出さないのは)それはズルいと思うな〜」としたり顔でまとめようとし、MCの東野幸治もその流れで進行していたが、やはりここでも毅然と割って入ったのは、中居だった。
「でもね、やっぱり松本さん、この70年間やっぱり、日本人って戦地で死んでいないんですよ。これやっぱり、すごいことだと思うんですよ」
松本の意見に右に倣えという空気が充満しているスタジオで、しっかり自分の意見を口にする。中居はこれまでも同番組で、松本と東野が日韓関係の悪化を「しょうがない」と言うなかで、たったひとり「謝るところは謝ればいいんじゃないですか?」「謝ったら負けとかそういうレベルなんすか?」と引き下がらなかった。このときも松本や東野は冷ややかな態度で、きょうも、中居が憲法9条によって70年ものあいだ守られてきた命があることに言明したあとも、松本は“9条があるから他国にナメられる”と返した。
安倍首相が言うことを額面通りに受けとるだけで、起こってもいない危機に怯え、対案を出せと言うことしかできない松本と、これまでの歴史を踏まえて、平和な外交を求める中居。──とくにきょうは、ちょうどこの番組の裏では長崎で平和式典が行われていた。過去の悲惨な歴史を振り返るべき日に、アメリカの尻馬に乗って軍拡を叫ぶ者と、平和の意味を語る者の、どちらがまともな感覚をもっているかは一目瞭然のはずだ。
奇しくも昨日、東海テレビで放送された番組で、笑福亭鶴瓶と樹木希林も中居と同じ意見を口にしている。まだテレビの世界にも正常の考えをもっている人がいることに安心も覚えるが、この際、はっきり言っておこう。「ニュースに誘導されている」のは、デモを行う若者たちではない。松本人志、あなたのほうだ。 
「デモなんかやっても無駄」…安保反対に水を差す文化人 2015/7
今週にも参議院での審議に入るとみられる安保法制だが、強行採決という安倍首相の暴挙に、国民の怒りの声はおさまらない。それを裏付けるように、昨日までの三連休のあいだにも、全国各地で安保法制に反対する抗議運動が展開された。
だが、こうした“安保法制反対”のデモが高まる一方で、水をさすように、デモを冷笑する著名人たちも現れつつある。
たとえば、ホリエモンこと堀江貴文は、こんなツイートを投稿した。
〈安保デモとかに参加してる奴らってアポロが月に行ってないとか本気で信じてるような奴らだよな。。〉〈(安保に賛成?反対?という問いに)正直どっちでもいい〉
ホリエモンが何を言いたいのかわかりづらいが、たぶん、安保法制に反対している人びとはリテラシーが低い、とでも言いたいのだろう。戦争法案? 何それ。徴兵制になるとか本気で信じてるわけ? まじウケるんですけど──という、ネット上でもよく見られるこの手の意見をホリエモンももっているらしい。
また、爆笑問題の太田光も、19日に放送された『爆笑問題・太田光が訊く 瀬戸内寂聴の戦後70年』(TBSラジオ)で、病み上がりながらも国会前デモに参加した瀬戸内寂聴に対し、こう言った。
「そのやり方は通用しないんじゃないかなと。むしろ同じ席に行って話すほうが効果があるんじゃないかと、もどかしさを感じる」
瀬戸内ほどの文化人ならば、デモに行くより直接話したらいいのに。太田はそう言いたかったようだ。だが、太田だって、今年4月に開かれた安倍首相主催の「桜を見る会」にも参加した“有名人”である。瀬戸内にそんな提案をするならまずはお前がやれよ、と言いたくなるが、太田は同時に、デモの有効性自体を疑問視。“これまでデモをやっても1回も政権とわかり合えなかったのに”──そう諦め、デモに参加したところで通用しない、と話しているのだ。
しかし、ホリエモンのような“安保デモ行く奴は情弱認定”派も、太田のような“デモなんかやっても無駄”派も、根底にあるのは同じ。それは「他人事」という思想だ。
そもそも、ホリエモンは奇しくも太田と同じく瀬戸内と対談した『死ぬってどういうことですか? 今を生きるための9の対論』(角川学芸出版)のなかで、自身の戦争体験をもとに「だって安倍さんが言ってること、してること見たら、いかにも戦争をこれからしよう! って感じじゃないですか?」と話す瀬戸内に対し、「いやいや。それは言いすぎじゃないですか? (安倍首相は戦争を)別にしたくはないでしょ」と反論。中国との経済的結びつきを論拠に「そりゃあ絶対にないですよ」と断言している。
だが、ホリエモンのこの見立て自体が間違っている。本サイトでは何度も指摘しているように、安倍首相は「安保法制は、南シナ海の中国が相手なの。だから、やる(法案を通す)と言ったらやる」とオフレコ懇談会で記者たちを前に豪語。過去に行われた対談でも“尖閣で日本人が命をかける必要がある”と話している。経済的な“国益”に反しても、安保法制を通して中国と交戦する──それが安倍首相の目的であることは明白だ。
でも、じつはホリエモンの本音は、戦争になろうがならまいが、どっちでもいいのだ。事実、瀬戸内との対談では「僕は、(中略)戦争が起こったら、真っ先に逃げますよ。当たり前ですよ」「第三国に逃げればいいじゃないですか」と答え、逃げられない人はどうするの?という瀬戸内の問いかけに、「行かれない人はしょうがないんじゃないですか?」と回答している。
逃げる金のない奴は死ねばいい。こうした考えをもっている人間にとっては、そりゃあ安保法制なんて〈正直どっちでもいい〉はずである。だが、“命は金で買える”と思っているような人間が、デモを批判する資格などない。逃げるような金なんてないし、たとえホリエモンのような銭ゲバでも誰ひとり戦争で殺してはいけないと考えている人びとが、いま、声をあげているのだから。
さらに、太田の“デモなんかやっても無駄”という意見も、ホリエモンと同様に「他人事」思想から発せられている。
太田のように安倍首相と直接話をすることもできない、でもその政策に不満をもつ人びとができることは何か。多くの人は「選挙があるじゃん」と言うだろうが、選挙は正しく“民意を反映”した結果とはならない。自民党なら経団連や日本商工会議所、日本医師会、電気事業者連合会、神道政治連盟、日本会議など、公明党なら言わずもがな創価学会がバックに控えるように、選挙では政党がどれほどの団体・企業・組織から支持を取りつけているかによって結果を大きく左右される。しかも、小選挙区制では得票率が低くても簡単に圧勝することが可能だ。第一、選挙による多数決では、少数者の意見は無視されてしまう。
逆に、デモは選挙のように間接的にではなく、直接的に政治にかかわる方法だ。そしてそれは、日本国憲法や国際人権規約でも保障される、正当な市民の権利である。いまの安倍首相がそうであるように、ときに国家権力は暴走する。それを主権者である市民が阻止し、民意を突きつける。それがデモの役割であり、民主主義の根幹を支える自由だ。
それに、太田にとっては現在の安保法制反対デモが無駄な行為のように見えるのだろうが、それはちがう。実際、安倍首相は全国に拡がる反対デモに敏感になっていると伝えられているし、政権へのすり寄りが目につくNHKやフジテレビ、日本テレビの報道番組では、デモの様子を最小限の扱いに留めている。これはデモの映像がもつ政権へのダメージを考慮した結果であることは疑いようもない。
こうした正当な権利、民主主義に基づいた当然の行動に対してイチャモンをつけるくせに、太田は結局、安倍首相の隣でおどけたポーズを取って写真を撮ることしかできない。もしほんとうに太田が安倍首相を「バカ」と思っているのなら、この政治状況がおかしいと思っているのなら、他人事にせず、自分が動けばいいのだ。だいたい、太田のような有名人がデモに参加すれば、一体どれほどの影響力があるだろう。直接、安倍首相と話をするよりも、それは絶大な力をもつはずだ。
アメリカの著名な哲学者、言語学者であるノーム・チョムスキーは、9・11のテロのあと、“テロとの戦い”という錦の御旗のもとに世界中の政府が国民に愛国心を扇動し、日本においては憲法改正がなされ、戦争を正当化していくことを予見した。そして、世界中の市民にこう訴えた。「屋根の上から大声で叫ぶ必要があるんだ」と。
日本の全国各地の路上であがる、「戦争なんかしたくない」というシュプレヒコール。この切実なひとつひとつの声を潰すことは、誰にもできない。させてはいけないのだ。 
 
テロ等組織犯罪準備罪 2017 

 

共謀罪 変じて  テロ等組織犯罪準備罪
特定秘密保護法  用意済み
どんな社会を目指しているのでしょうか
治安維持法で守られた  一党独裁の 「美しい国」
テロ等準備罪 共謀罪と連続性強い
「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を巡って国会の議論が激しさを増している。テロ等準備罪は、過去3度廃案になった共謀罪の構成要件を絞り込んだものだ。国際組織犯罪防止条約を締結するのに本当に新たな法律が必要なのか。こういう法制度が市民生活に悪影響を与えることはないのか。課題や疑問はまだ解消されていない。政府は3月にも法案を閣議決定する予定だ。
犯罪集団、認定に裁量
条約は締結国に共謀罪か参加罪の法整備を求めている。日本は共謀罪を選択し、その場合、死刑または無期、もしくは長期4年以上の懲役・禁錮の罪が対象となる。国内の対象犯罪は676に及ぶが、「犯罪の内容に応じて対象を選別することはできない」との答弁書を政府は2005年に閣議決定し、国会で説明し続けてきた。
共謀罪を盛り込んだ法案が国会で焦点になっていた約10年前、与野党の実務責任者だった2人の元衆院議員の話をまず紹介したい。
「対象犯罪を百数十に絞る案を外務省や法務省の担当者と何度も検討して練り上げたのです。最低でもそこを出発点にしてほしい」
そう語るのは、09年まで自民党の衆院議員を務めた弁護士の早川忠孝氏だ。
3度目の法案が継続審議中だった07年、早川氏は自民党法務部会条約刑法検討小委員会の事務局長だった。その際、対象犯罪数を100台に絞っても条約の締結は可能との結論に政府担当者との間で至り、修正案の骨子をまとめた。
政府は閣議決定の内容に反し2年後、与党との間で大幅な対象犯罪の絞り込み作業を進めていた。
思い切って絞り込んだのはなぜか。共謀罪は、犯罪の合意だけで罪に問うものだ。既遂や未遂を罰する日本の刑事法の原則を大きく変える。拡大解釈によって内心の自由が侵害されるおそれが強い。
当時、自民、公明両党は衆院で3分の2以上を占めていた。ただし、後に政権交代する民主党には勢いがあった。自民党としても国民の不安の声に耳を傾けなければならないという緊張感があったと早川氏は振り返る。
「対象が広くても適用することはあり得ない」との政府担当者の説明をうのみにはできず、テロや銃器犯罪などに限定した。
ところが、修正案は小委員会限りで封印された。共謀罪の国会審議の動きが止まったためだ。早川氏は「自民党内に当時の議論を生かそうとする動きが見えないのは残念だ」と語る。
06年当時、民主党法務委員会の筆頭理事を務めていた弁護士の平岡秀夫氏は「政府は意図してうその解釈を貫いてきた」と厳しく批判する。
条約は「自国の国内法の基本原則に従って必要な立法措置をとる」と定め、各国の事情に配慮した法整備を認めている。04年に国連が各国の参考に作成した「立法ガイド」も同様に定める。米国のように共謀罪条項を留保して条約を締結した国もあった。
平岡氏は、殺人など重大犯罪に予備罪や準備罪の規定がある日本では新たな立法の必要性はないと考えたが、「条約を締結するためには法整備が必要だ」との政府サイドの説明にはね返された。
結局、そうした説明が足かせになり、民主党は当時、対象罪種を政府案の半数の約300にしか減らせない修正案をまとめた。06年の通常国会終盤では、自民党が民主党案の丸のみを打診し、最終的に決裂する騒動も起きた。
条約の締結のためには対象犯罪の選別ができないとしてきた過去の政府答弁との整合性は、やはり大きな論点だ。丁寧な説明が政府には求められる。
テロ等準備罪は、合意だけでなく実行の準備行為も要件に加え、犯罪主体を「組織的犯罪集団」に限定した点で、従来の共謀罪と根本的に異なると政府は強調する。
ただし、準備行為が加わったとしても、犯罪を共謀し計画することが罪とされる本質は変わらない。組織的犯罪集団の定義も極めて難しいと平岡氏は指摘する。
06年当時、与野党で共謀罪をめぐる法案の修正協議をしている段階で、既に組織的犯罪集団という言葉は登場していた。だが、「何をもって犯罪集団とするのかうまく定義づけられなかった」と平岡氏はいう。
実際、今回の法案を巡っても、民間の団体などは当たらないと政府は説明してきたが、「犯罪を行う団体に一変した場合は処罰の対象になる」と、最近になり微妙に見解を修正した。結局、警察や検察の認定次第ということだ。
国際的な連携の輪に加わるため、条約の締結は必要だろう。テロ対策の強化に異論をとなえる人もいないのではないか。
だが、捜査機関の裁量で、合意段階の罪を幅広く罰することができるような法制には、やはり慎重であるべきだ。捜査機関の判断を外からどうチェックできるのかも検討する必要があると考える。
具体的な事例に即した議論も活発化させてほしい。3日の衆院予算委員会では、政府が現行法では対処できないとした具体例が取り上げられた。犯罪組織が殺傷能力が高い化学薬品の原料を入手した場合や、航空機テロを計画し、航空券を予約した場合だ。
民進党の山尾志桜里氏は、サリン等人身被害防止法やハイジャック防止法の予備罪が適用できると指摘したのに対し、金田勝年法相が答弁に窮したり、議論がかみ合わなかったりした場面があった。
日本弁護士連合会で共謀罪の問題を担当する海渡雄一弁護士によると、警察庁の実務者が著した解説書や刑法の解説書を確認すると、原料入手や航空券の予約は予備罪の適用対象になると明確に書いてあるという。
海渡氏は「現行法制下でも共謀や予備、準備などで罰せられる罪は多数ある。また、銃の所持が比較的自由な米国と比べ、日本は銃刀法などで所持そのものが厳格に罰せられテロ防止に役立っている。法制全体を見て新たな立法の必要性を判断すべきだ」と述べる。
仮に条約締結やテロ対策のため現行法に欠けている部分があるならば、個別に検討し補うのが望ましい。国会は、具体的な議論を積み重ねることで、必要な立法のあり方を探るべきだ。

国際組織犯罪防止条約 / 国境を越えて発生する組織犯罪を防止することを目的に2000年に国連総会で採択された。日本も03年に国会承認されたが、政府は国内の法律が整っていないとして締結していない。187の国・地域が締結しており主要7カ国で未締結は日本のみ。 
「テロ等準備罪」新設法案 衆院通過 本会議で賛成多数で可決
「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案は、5月23日、衆議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決され、参議院に送られました。
「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案は、先週、衆議院法務委員会で、「テロ等準備罪」の取り調べの際の録音や録画の在り方を検討することなどを盛り込む修正を行ったうえで、自民・公明両党と日本維新の会の賛成多数で可決されました。
衆議院議院運営委員会は23日、理事会を断続的に開き、本会議で法案の採決を行うかどうか協議しましたが、与野党が折り合わず、佐藤委員長が職権で23日に採決を行うことを決め、予定よりおよそ2時間遅れて午後3時すぎから本会議が開かれました。
最初に行われた討論で、自民党は「テロを含む組織犯罪を未然に防止し、これと戦うための国際協力を促進するための国際組織犯罪防止条約の締結は急務であり、法案の不安や懸念は払拭(ふっしょく)された」と訴えました。
これに対し、民進党は「国連の特別報告者が人権への悪影響が懸念されると指摘するなど、『共謀罪』法案は悪法、欠陥法であり、可決することは将来に禍根を残す」と主張しました。
このあと投票による採決が行われ、法案は、自民・公明両党と、修正合意した日本維新の会などの賛成多数で可決され、参議院に送られました。
一方、自由党と社民党は、法案は委員会に差し戻すべきだとして、本会議を欠席しました。
法案は、テロ組織や暴力団などの組織的犯罪集団が、ハイジャックや薬物の密輸入などの重大な犯罪を計画し、メンバーの誰かが、資金または物品の手配、関係場所の下見、その他の準備行為を行った場合、計画した全員を処罰するとしていて、成立すれば、公布から20日後に施行されます。
法案の衆議院通過を受け、与党側は、参議院で速やかに審議に入り、今の国会で確実に成立させる方針なのに対し、野党側は「法案は人権侵害につながるものだ」として、引き続き徹底した審議を求め、廃案に追い込みたい考えで、論戦の舞台は参議院に移ります。
各党の反応
自民党の竹下国会対策委員長は、記者会見で「正常な採決で参議院に送ることができた。来月18日の会期末までの厳しい日程の中で、参議院にはこれから懸命の努力をしていただき、何としても会期内に可決・成立させてもらいたい」と述べました。
民進党の蓮舫代表は、記者団に対し「いとも簡単に数の力で押し切り、納得できない。野党の存在を全く無視して、軽んじ、『熟議は不必要だ』という姿勢は非常に残念だ。法案審議が深まらなかったのは、一にも二にも金田法務大臣の答弁能力のなさが理由だ。法案の構造も乱暴で、既存の刑法体系と整合性がとれるのかも、一切、金田大臣は答えていない。参議院ではしっかり慎重に審議すべきだ」と述べました。
公明党の井上幹事長は、党の代議士会で「法案の必要性について、国民の理解は相当進んでいると思うが、なお懸念を持っている方もいるので、参議院での議論を通じて、一層国民の理解が進むように丁寧に説明責任を果たしていきたい」と述べました。
共産党の志位委員長は、記者会見で「採決強行に断固抗議したい。金田法務大臣が1つ答弁をすれば、1つ問題点が増えるというような状況で、法案の根幹部分はぼろぼろになっている。恣意的(しいてき)な運用によって、国民の権利が侵害されるのではないかという不安が広がりつつある。国民的な戦いと野党の共闘を発展させ、参議院での論戦で必ず廃案に追い込みたい」と述べました。
日本維新の会の馬場幹事長は、記者会見で「法案を修正し、テロ等準備罪の容疑者の取り調べの『可視化』を確実に行うという方向性を位置づけ、一歩、二歩、正しい方向に進めることができたと自負している。今後とも『是々非々』で与党と対じしていく。わが党は、ほかの野党と共同歩調をとらないわけではないので、民進党は態度を改めて、『国民ファースト』でやってほしい」と述べました。
金田法相「引き続き丁寧に説明」
金田法務大臣は、記者団に対し「審議がしっかりと行われ、衆議院で法案が可決されたことは非常に意義深い。国民の安全と安心、そして明るい社会のために、ぜひとも必要で重要な法案だと、ご理解いただけた結果だ。これからも引き続き、法案の重要性と必要性を丁寧に説明していく」と述べました。
日弁連会長 廃案求める声明
「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案が、23日、衆議院本会議で可決されたことを受けて、日弁連=日本弁護士連合会の中本和洋会長は、「法案は、監視社会を招き、市民の人権や自由を広く侵害するおそれが強く、法務委員会での審議で計画よりも前の段階から尾行や監視が可能となることが明らかになった。マンション建設反対の座り込みなども処罰対象となる可能性があり、テロ組織や暴力団だけでなく、一般市民も捜査の対象となり得るという懸念は払拭できない」として廃案を求める声明を出しました。 
究極の強行採決
犯罪を計画段階から処罰できるようにする「共謀罪」の趣旨を含む改正組織的犯罪処罰法が6月15日午前7時46分、参院本会議で自民・公明・日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した。
「テロ等準備罪」法案をめぐっては、与党は今国会の会期末(18日)までに成立させることを目指していた。会期末が迫る中、与党が法案成立を磐石なものとするために用いたのが「中間報告」という手法だった。
これに対して、野党側は「乱暴なやり方だ」と反発。衆院で内閣不信任案を提出するなど、与野党の攻防は15日未明から朝にまで及んだが、最終的には与党側の採決強行で幕を閉じた。
自民党から中間報告の提案を受けた民進党の榛葉賀津也参院国対委員長は、国会審議の否定につながるとして「究極の強行採決だ」と批判した。 
 
 

 

 
 

 

 
 

 

 
 

 

 
 

 

 
ゆとり教育

 

日本において、1980年度(狭義では2002年度以降)から2010年代初期まで実施されていたゆとりある学校を目指した教育のことである。
ゆとり教育(文部科学省が指定した正式な名称でない)は、「詰め込み教育」と言われる知識量偏重型の教育方針を是正し、思考力を鍛える学習に重きを置いた経験重視型の教育方針をもって、学習時間と内容を減らしてゆとりある学校を目指し、1980年度、1992年度、2002年度から施行された学習指導要領に沿った教育のことである。ゆとり教育の範囲については諸説あり、明確ではないが、以下のような見方がある。
ゆとり教育は、1980年度から施行された学習指導要領による教育方針であるが、1992年度から施行された新学力観に基づく教育や、2002年度から施行された「生きる力」を重視する教育をゆとり教育であると定義する人もいる。
1970年代までに学習量が過剰に増大した学校教育は「詰め込み教育」と呼ばれ、知識の暗記を重視したため「なぜそうなるのか」といった疑問や創造力の欠如が問題視され、このような学習方法はテストが終われば忘れてしまう学力(剥落学力)であると批判された。このため思考力を鍛える学習に重きを置いた経験重視型、過程重視型の教育方針が求められた。
また、加熱した「受験競争」により学校教育においても学力偏差値が重視されるようになったが、1992年に公立中学校で偏差値による進路指導が禁止され、1993年には中学校校内にて実施する一斉業者テストが禁止された。また過剰に競争をさせたり、過剰に自由を奪う学校のあり方は子供のストレスや非行などの学校をとりまく諸問題の要因だとして「子供を学校に縛り付けている」「子供にも自由が必要」などの批判を受けた。
2002年度施行の学習指導要領では「生きる力」への転換重視「総合的な学習の時間」をはじめとして各教科で「調べ学習」など思考力を付けることを目指した学習内容が多く盛り込まれた。教科書では実験、観察、調査、研究、発表、討論などが多く盛り込まれ、受け身の学習から能動的な学習、発信型の学習への転換が図られた。
ゆとり教育の経緯
1970年代に日本教職員組合(日教組)が「ゆとりある学校」を提起し、世論の詰め込み教育への批判が高まったこともあり1980年代初頭に授業時間の削減などが行われた。具体的に都内では、主として革新区政下の区立中学で授業時間が50分から45分に減らされた。またこの頃から入学試験において、記述式からマークシート方式が導入された。
国営企業の民営化を推し進めた中曽根内閣では、文部省と日教組の関係者間ばかりで行われる教育政策に疑問を呈し、第2次中曽根内閣の主導に民間有識者によって構成される臨時教育審議会(臨教審)を発足させた。臨教審では「公教育の民営化、自由化」という意味合いの中で経済界や保守派の有識者の多数が賛成に回り、後のゆとり教育への流れを確立させた。臨教審は「個性重視の原則」「生涯学習体系への移行」「国際化、情報化など変化への対応」などの、ゆとり教育の基本となる4つの答申をまとめ、その方針は1993年度施行の学習指導要領に反映された。
さらに、校内暴力、非行、いじめ、不登校、落ちこぼれ、自殺など、学校教育や青少年にかかわる数々の社会問題を背景に、橋本内閣下の1996年(平成8年)7月19日の第15期中央教育審議会の第1次答申が発表された。答申は子どもたちの生活の現状として、ゆとりの無さ、社会性の不足と倫理観の問題、自立の遅れ、健康・体力の問題と同時に、国際性や社会参加・社会貢献の意識が高い積極面を指摘する。その上で答申はこれからの社会に求められる教育の在り方の基本的な方向として、全人的な「生きる力」の育成が必要であると結論付けた。「生きる力」は教育課程審議会に引き継がれ、そこで「総合的な学習の時間」をはじめとして各教科で「調べ学習」など思考力を付けることを目指した学習内容が多く盛り込まれた。1998年、小渕内閣下で新学力観として「生きる力」を重視し、完全学校週5日制実施とともに学習内容や授業時間を削減する、「ゆとり教育」をスローガンとする学習指導要領が成立した。この後、この「ゆとり教育」学習指導要領はマスコミや世論に批判に晒され大規模な「学力低下」論争へと発展するが、当時小泉内閣の遠山敦子文部科学大臣と小野元之文部事務次官とがその危機感を共有し、遠山文科大臣は2001年1月に緊急アピール「学びのすすめ」を発表し、初めて「確かな学力」という表現を用い、「学習指導要領は最低基準である」と明言した。小中学校では2002年度(平成14年度)、高等学校では2003年度(平成15年度)からこの学習指導要領が施行されたが、学習内容削減により教科書が薄くなった一方、実験、観察、調査、研究、発表、討論などの内容が増えた。受け身の学習から能動的な学習、発信型の学習への転換が図られた。
ゆとり教育は、詰め込み教育に反対していた教育者、経済界などの有識者などから支持されていたが、OECD生徒の学習到達度調査 (PISA) などの国際学力テストで順位を落としたことなどから学力低下が指摘され、各方面から批判が起こった。当時、中山成彬文部科学大臣は、学力低下を認めるものの「生きる力」の「理念や目標には間違いがない」とし、また「その狙いが十分に達成されていないのではないか」と発言した。小泉内閣の下、小坂憲次文部科学大臣は中央教育審議会に学習指導要領の見直しを要請し、安倍政権が引き継いだ。この時点でマスコミは「脱ゆとり」という言葉を用いて報道していたが、小坂文部科学大臣も、安倍内閣下の伊吹文部科学大臣に至っても「ゆとり教育」の理念や方向性には賛同していた。安倍内閣で新設した教育再生会議(内閣府設置会議)において、初めてゆとり教育の授業時間が問題視される。教育再生会議の報告書(第1次:2007年(平成19年)1月24日 第2次:2007年(平成19年)6月1日)において、「授業時間の10%増(必要に応じて土曜日授業の復活)」などが盛り込まれ、安倍内閣骨太の方針2007には授業時間数の1割増が明記された。そうして2008年には、今までの内容を縮小させていた流れとは逆に、内容を増加させた学習指導要領案が告示され、2011年-2013年に完全に施行された。マスコミは、この改定された教育のことを「脱ゆとり教育」と称している。
社会的な見解
支持
中曽根康弘元首相は、ゆとりの方向性へ向かった臨時教育審議会(臨教審)を「私が作った」とし、1984年当時「受験地獄、詰め込み教育、偏差値重視、学歴偏重など、いろいろな弊害が出ていた。さらに青少年の犯罪も多発していた。そこで「ゆとりを持った教育にしないと、心豊かな人間を育めない」となった」「こういう教育方法を目指した真意はよく分かる」と発言し、ゆとり教育について理解を示した。
元文部省官僚である寺脇研は、2000年前後当時の文部省の考えを代弁するスポークスマンとしてメディアに出て、支持を表明するとともにゆとり教育について説明を行っていた。同じく文部省事務次官であった小野元之もメディアに出て支持の立場でゆとり教育について説明を行っていた。
教育課程審議会会長として、学習内容の大幅削減を求めたゆとり教育の学習指導要領の答申の最高責任者であった作家の三浦朱門は2000年7月、ジャーナリストの斎藤貴男に、ゆとり教育について、新自由主義的な発想から、多数の凡人の中に必ずいるはずの数少ないエリートを見つけて伸ばすための「選民教育」であるという主旨を述べた。
知識偏重の詰め込み教育を批判していた教師や保護者などの他にも、経済同友会、日本経団連、経済産業研究所、社会経済生産性本部などの経済界や、青少年問題審議会、日本労働組合総連合会が提言を発するとともに賛成した。また学者、弁護士をはじめとする識者などの民間人が参加した「21世紀日本の構想」懇談会(小渕恵三内閣総理大臣の私的諮問機関)でも、ゆとり教育を支持していた。
ゆとり教育について、2013年に西部邁(評論家)は、ゆとり教育を主導した寺脇研は、多くの個性のある子供たちの中で勉強の嫌いな子に無理して偏差値教育をしてもしょうがないと主張しており、その意見に賛同していたと述べた。
教育評論家の尾木直樹は、2002年の学習指導要領での教育により学力が上がったとPISAのパリ事務局が発表をしており、想像力や学問へのモチベーションも上がったとして注目をされていると述べている。
批判
実施以前から学力低下の危惧があるとして、西村和雄をはじめとする理数系の学者、精神科医の和田秀樹、日能研をはじめとする教育産業関係者などに批判されたが、多くが利害関係者であったため営業活動の一環であったとして解釈するべきという声もある(#ゆとり教育の結果、#受験産業の反応も参照)。
また、富裕層の子供と貧困層の子供、塾に行ける者と行けない者、参考書を買える者と買えない者、習熟度別授業で学力上位のクラスと下位のクラスなどでの格差を広げるのではという危惧も主に左派系の立場からされていた。
国際学力テストでにおいて順位が下がったことなどにより、学力低下を招いたという批判もある。
個性尊重が重視されたため、その考えを教えた世代にさまざまな人格的影響を与えたという批判もある。
擁護
第3期の教育改革(2002年度実施された学習指導要領改定)は始まったばかりで、ゆとり教育の評価は時期尚早だという意見もある。
批判に対する反論
『学力低下は錯覚である』(森北出版株式会社)を著した神永正博は、自身のブログで、「根拠がはっきりしないことで、若者をディスカレッジしない方がよいのでは」と補足している。
早稲田大学教授の永江朗は自身の執筆したコラム記事の中で、PISAの順位の低下は「参加国が増えたため」とも、冷静に分析すれば考えられると述べ、「PISAの結果が少し落ちていたぐらいで大騒ぎする理由がわからない」と教育社会学の専門家が疑問を呈しているということを紹介している。
同じくジャーナリストの池上彰も、テレビ番組の教育特集の中で順位の低下は参加国が増えたためであり、学力低下と結論付けるのは早計だと発言した。
元東京大学総長の有馬朗人はゆとり教育によりむしろ理科の力が上がった、と述べている。
広島大学教授の森敏昭は国際教育到達度評価学会 (IEA) の調査結果を検討した上で「我が国の児童・生徒の学力は、今なお高い水準を保っている。(中略)「我が国の小・中学校段階の児童・生徒の学力は、全体としておおむね良好である」という文部科学省のいささか楽観的すぎるコメントも、あながち的はずれではない。」と述べている。
再評価
時代が移り変わり、知識を詰め込んだだけでは仕事を奪われていくAI時代に突入したことにより、生きる力を主軸としたゆとり教育が再評価されている。同志社大学政策学部教授の太田肇は、ネコ型人間とイヌ型人間と表現している。従来は組織や上司に忠実で、しっかり序列を守るような人間(イヌ型人間)が求められ、重用されてきたが、急速なIT化により状況が一変し、自分で判断して行動することのできるゆとり教育を受けた世代が活躍するようになってきており、ゆとり教育の中に時代を切り開くヒントがあると述べている。
受験産業の反応
改定された学習指導要領の内容が1990年代末に明らかになると、学習塾や進学予備校などの受験産業や、私立学校(特に中高一貫校)は広告やマスメディアを利用して活発な営業活動を行った。マスコミ媒体などに頻繁に登場した西村和雄京都大学教授などの言説を論拠に、「ゆとり教育」に対する危機感を訴えることによって、親の不安を煽り、活発に児童・生徒の勧誘活動を行った。折込チラシ、CMや電車内のドア周辺や吊り広告などの広告活動や、自らがスポンサーとなっているテレビ番組内などで、「小学校では円周率をおよそ3として教えている(正確にはゆとり教育のため小数点による計算が遅れたため幾何学において概算に3を使うようになったため)(日能研)」、「ゆとり教育で学力低下を引き起こす」「あなたの子供の将来が危ない」など、あるいは、学習時間の多寡を基準に、日本よりも学習時間が長いイタリアなどが、PISAでは日本のはるか下位に位置しているのにも拘わらず「世界の子は勉強している(栄光ゼミナール)」といい、教科の好き嫌いを基準に、算数の好きな子の割合がイランが1位、日本は24位で日本の教育がダメだといい(栄光ゼミナール)、統計値を恣意的につまみ食いした正確性・客観性に欠ける情報で感情論に基づいて危機感を煽ったり、この種の営業活動を行った事例もある。学習塾などがこういった営業活動を行った理由として、子供が減るために学習塾間で「パイの奪い合い」が発生していたことがある(因みに学習指導要領が改訂された2002年は12歳人口の急減期とも重なっていた)。
一部の公立校では、塾の教師やスタイルを取り入れて学校教育を変えようという試みもしている。一例としては杉並区立和田中学校(校長の藤原和博、後任の代田昭久、共にリクルート出身)にて2008年(平成20年)1月に行われた「夜スペシャル」(通称「夜スペ」)があり、これは成績上位者のみを対象に、名門進学塾サピックスの講師を派遣して有料(1万円〜2万円)で授業を行う(学校が運営しているわけではなく、保護者の有志団体による運営形式)。
さらには、都立高校などが「総合的な学習の時間」のカリキュラム作成にもたついている間に、日能研をはじめとする一部の塾は
「自ら学び考える力を育てる授業。『総合学習』そのものだ」
と「総合的な学習の時間」を商品として提供を始めている。私立学校や中高一貫校の入学試験が、PISAに似たものになってきているからである。
国外の例
中国
中国では受験に特化した学力偏重の詰め込み教育「応試教育(应试教育)」によりいじめや校内暴力、社会性の欠如の問題が指摘され、総合学習などを取り入れた中国版ゆとり教育「素質教育」に転換した。
デンマーク
ゆとり教育をすすめていたデンマークでも、OECD生徒の学習到達度調査 (PISA) の結果が下がり、学力低下が議論になった。教育改革として、義務教育の1年早期化などが議論されている。学校の現場では学力向上を目指した教育改革に反発があるものの、生徒の親は学力低下への不安が強いようである。
フィンランド
OECD生徒の学習到達度調査(PISA:数学・科学・読解力の3教科のみ)においてトップの成績を上げ、全ての項目で日本を上回ったフィンランドは週休二日制であり、授業時間も日本よりかなり少なく、また、「総合的な学習」に相当する時間も日本より多く、「ゆとり教育」に近い内容である。
具体的な中身として一つは、中学校の教育に特筆されるのは1/3にわたる(成績の低い)生徒が特別学級に振り分けられるか、補習授業を受けていることがある。低学力の生徒に対する個別の教育により底辺の学力を上げるだけでなく、優秀な生徒にはそれ相応の特別な教育が行われている。つまり、生徒の能力の違いを前提にして全体の学力を上げている。生徒の個別の能力差に沿った教育が行われているため、無理に能力の低いものを能力の高い授業に適応させる必要がないために「遅れる」ことはあっても「落ちこぼれる」ということはない。特定の基準を満たさない生徒にそぐわない授業内容を押しつける必要がないから「ゆとり」があるわけである。
また、高校入学は中学の成績に基づいて振り分けが行われており、よい高校やよい課程に入学するには中学でよい成績を収めなければならない。
他には、授業の組み立て方や教科書の選定など、教育内容の大部分を現場の裁量に任せられているという特徴もある。また、フィンランドは授業時間は少ないものの、日本にはない様々な教育の工夫が試みられている。多くの学校で学費が無料であるため、低所得の世帯でも安心して教育を受けさせることができる。
このようなシステムがフィンランドにはあるため、フィンランドで講師を務めたこともある中嶋博早大名誉教授は、落ちこぼれをつくらず楽しんで学ぶ教育がフィンランドの教育であると述べており、フィンランドに留学経験のある者は、中高一貫の学校が多いため、(中学)受験を気にせずじっくりと学習に取り組むことができ、学習への理解が不足している、いわゆる「落ちこぼれ」の生徒は義務教育中であっても、じっくり教育を受けるシステムが確立されていると述べている。  
ゆとり教育は本当に失敗だった! 2017/7
「ゆとり教育」と聞くとどのようなイメージがありますか?最近ではゆとり教育を受けた世代が社会人や親となり、何かにつけて「ゆとり世代だからダメだ」といった厳しい意見を聞くこともあります。
しかし詰め込み教育にと言われている現代、子供たちは日々忙しく柔軟な考えを持つことが難しくなっています。今後はさらに学ぶ教科も増え続け、余裕のない子供が増えていることが懸念されています。
ゆとり教育は何かとデメリットが多いイメージもありますが、実際はどうなのでしょうか。大人になったゆとり世代はどうなっているのか、今日はゆとり教育がもたらしたメリットやデメリットについて考えていきましょう。
1.そもそもゆとり教育とは
ゆとり教育とは、「詰め込み教育」と言われる知識量偏重型の教育方針を考え直し、思考力を鍛える学習に重きを置いた経験重視の教育方針のことです。学習時間と内容を減らしてゆとりある学校を目指し、1980年度、1992年度、2002年度から施行された学習指導要領に沿った教育です。
受験戦争が勃発していた80年代頃から、子供の教育は「詰め込みすぎている」「ゆとりがない」という批判が高まってきました。そうした意見を受けて文部科学省が授業内容の削減などを実施し、個性重視の考えのもと、これまでの追いつき型教育というのを見直したものがゆとり教育です。ちなみにこのゆとり教育という言葉は文科省が提言したものではありません。この教育方針が出された1998年の学習指導要領に、「子供に[生きる力]と「ゆとり]を」と記されたことからこの名称が生まれたとも言われています。
1-1.ゆとり教育のメリットとは
ゆとり教育が行われている90年代から、多くの公立小中学校で毎月第2土曜日が休みになってきました。徐々に共働き世帯が増えてきた頃でもありますが、子供が土曜日家にいるとなると、親も働き方を変えて土日は子供と一緒に過ごす曜日という考えが浸透してきます。今まではモーレツ社員だったというお父さんも、子供の週休2日に合わせて働き方を見直していきます。そういった点ではゆとり教育が大人の働き方も変えるきっかけになったと言えます。
またゆとり教育では「子供たちが自分で物事を考える力を育てられる」というメリットがありました。学校で教わる勉強範囲を少なくし、「観察や実験」「プレゼンテーションやディベート」といった自分で考えて問題を解決する学習を中心に行いました。算数の時間を減らして道徳の授業を当てた学校も多かったので、ゆとり教育の期間は一時的に「いじめ」や「不登校」が減ったという記録もあります。
1-2.一方でこんなデメリットも
ゆとり教育はデメリットが取りざたされることが多いのですが、代表的なものが「学力低下」です。算数などの授業時間を減らした原因もありますが、それまで相対評価と言われていた通知表の評価を個人毎に見る「絶対評価」に変わったことも学力低下を招いたと言われています。
これは例えばテストで毎回90点を取っていた生徒が、2学期からはほぼ100点を取るようになった。この場合評価は最高の「5」であり、納得できる内容です。しかし絶対評価の場合、これまでテストが10点しか取れなかった生徒が2学期からは50点を取れるようになった、この場合も生徒の努力が評価され、通知表が「5」になるケースもありました。100点の学力の子供と50点の子供の学力評価が変わらないのですから、児童全体における学力はおのずと下がることになります。
また「競争社会」をやめようと、運動会の徒競走は全員1位、学芸会では全員主役の桃太郎といった内容も物議を呼びました。受験勉強における学力競争社会を緩和しようと「みんな平等」という考えのもと行われた背景がありますが、「順位を付けない」という考えは現実社会とはかけ離れており、社会に出てから挫折する子供が増えたとも言われています。
2.脱・ゆとり教育の現代
深刻な学力低下、競争経験のない授業、それは子供たちにとってゆとりではなく「ゆるみ」だという意見が寄せられ、2005年に文部科学省は「脱・ゆとり教育」から舵を切ります。
現在では土曜日の授業はないものの、ゆとり教育前の授業時間にほぼ戻されており、学ぶ内容もだいぶ変わりました。ゆとり教育で話題になった「円周率3.14」や国語の「古典・漢文」も復活し、公立の義務教育においてはだいぶ授業時間も増えています。
ゆとり教育の最中に行った国際テスト「TIMSS」によると、日本の児童の学力は長期低下傾向気味にあることが分かりました。「円周率3」という簡単すぎる問題を多用したせいか、ゆとり世代の中には四角形の面積を求められない子供が多いという調査結果もあります。
こうした背景から現代ではゆとりの前の「詰め込み教育」に似た現状に戻っているのですが、結局それだといじめや学力格差の問題が広がるのではないかと懸念されています。
またゆとり教育の中には福祉や人権問題といった「総合的な学習」や、国際問題やコミュニケーション能力を高めるための「21世紀型学習」という授業も積極的に取り入れられてきました。今でもその授業は行われていますが、ゆとり教育の時に比べると十分な時間を取ることは出来ず、今後の課題にもなっています。脱・ゆとりになってからは児童の学力は緩やかに上昇しているという調査結果もありますが、自分で「問題を解決する力」、「考える力」といったところは、ゆとり教育時代の方が充実していたのではないかという声もあります。
3.結局「ゆとり教育」は失敗だったのか
結局のところゆとり教育は今見直され、現在では「脱・ゆとり」という形で新たな教育が再スタートされています。
しかし今後数十年後には「脱・ゆとりは失敗だった」などと言われている可能性もぬぐえません。教育に絶対正しいということはなく、その時代背景に合わせた内容を模索しながら進めるしかないのです。
3-1.ゆとり世代の人たちは今どうなっている?
「ゆとり世代」という言葉があります。これはゆとり教育が始まり、その期間に教育を受けた1989年生まれ〜2004年早生まれで、ざっくり言うと平成生まれの人たちを指します。
ゆとり世代に対する世間の意見は辛辣なものが多いです。「仕事をすぐやめてしまう」「コミュニケーション能力がない」「言われたことしかやらない」など。
しかしゆとり世代の人達みんながそのような性格であるはずがなく、また教育によって若者がだらしなくなってしまったと言い切って良いのでしょうか。確かに昔の世代と比べると飲み会などの付き合いをしない人は多く、1人で過ごすのが好きと答えるゆとり世代は多く見かけます。
こうした背景は「時代の流れ」が大きく関係しています。SNSの発達により個人でいても多くの人とつながりを持てるようになり、わざわざ飲み会で他人から情報を入れなくても必要とすることは知ることができるようになりました。また地域社会のつながりが希薄化したことにより、子供たちは他人とコミュニケーションを取るのが苦手になりました。核家族が増えたことにより多くの年代の人と関わることも減り、昔に比べ他人との関りをどうしたらよいのか分からない人が増えたのです。
たとえゆとり教育が導入されていなくても、現代の問題とされている若い人たちの行動は同じだったと推測されます。それをすべて「ゆとり教育のせいだ」と片付けてしまうのは、あまりにも勝手すぎると言えるでしょう。
3-2.さまざまな教育課程を経て、現状に合わせた教育を行うのが大事
例えば「ゆとり世代のコミュニケーション能力がない」という事に関しては、スマートフォンなどの機械が物凄い進歩を遂げた要因があります。21世紀に入り、本当にドラえもんの道具のような技術革新がさまざま行われ、近年では教育が技術の進化についていけていないという現状があります。
またゆとり教育では「みんな仲良く一緒」という考えが浸透し、運動や学力を競うという内容も抑えられました。しかし社会に出れば競争しながら自分の技術を磨くのは当然であり、児童のうちからある程度の競争体験も必要ということが分かります。結局正しい教育というのは、過去に行われた教育の失敗例から学び、社会の状況に合わせた教育を模索していくことが一番大切と言えるでしょう。
まとめ 教育に「絶対に正しい」はない
結果的に現代も、子供たちにはどういった教育が良いのか模索しながら子供に教育を与えているのが現状です。「ゆとり教育は失敗だった」という声もありますが、ゆとり教育で目標とした「考える力」というのは目に見える評価が分かりずらく、失敗だったかどうかを証明することはできないのです。
子供たちに与える教育に「絶対これをやっていれば正しい」ということはありません。またどれだけ学校が頑張っていても、家庭で子供たちにしつけを行わなければ子供達の立派な成長はありません。
ゆとり教育世代であろうがなかろうが、結局のところ本人の努力次第で人生は決まります。そのような姿勢を忘れず、大人も子供も努力を持ち続けて進むことが大切です。 
平成の「ゆとり教育」、実は成功していた? 2019/4/20
 尚早な「脱ゆとり」への転換こそ失敗だった?
4月30日で終わりを迎える「平成」。テレビや雑誌では記憶に残る事件やブームを振り返る企画が増えているが、平成史をたどる上で教育界最大のトピックといえば「ゆとり教育」だろう。
円周率を「3」で計算する、週5日制完全導入など、さまざまな試みが行われたゆとり教育。導入後に子どもたちの学力低下が指摘され、文部科学省は2008年に「脱ゆとり」に方針を変更した。果たして、ゆとり教育は本当に“失敗”だったのだろうか。
「多くの人は、ゆとり教育は平成のトピックだととらえていると思います。しかし、実際には1977年版の学習指導要領に『ゆとり』というキーワードが初めて登場し、80年以降の小学校ではゆとり教育が実施されていたんです」
そう話すのは、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏だ。「これだからゆとり世代は……」とこぼす40代のビジネスパーソンも、実際はゆとり教育を受けていた可能性が高いのだという。「まず、“ゆとり世代”という言葉はとても曖昧なものだと認識しておいたほうがいい」とおおた氏は指摘する。
意外と歴史が長いゆとり教育だが、学校教育に「ゆとり」を取り入れることになった理由は70年代の社会問題にあるという。
「70年代末から80年にかけて、『校内暴力』や『非行少年』が社会問題化しました。学校荒廃の原因として、通説になっているのは68年に告知された学習指導要領。その内容は“新幹線授業”と呼ばれるほど過密なもので、いわゆる『詰め込み教育』によって窒息しそうになった子どもたちの叫びが校内暴力や非行というかたちで表れたといわれています」(おおた氏)
つまり、ゆとり教育は詰め込み教育の反省から生まれたのだ。
「多くの人が『ゆとり=平成の教育』というイメージを抱くきっかけとなったのは、98年に告示され、2002年から実施された学習指導要領の改訂があまりにも衝撃的だったからでしょう。その内容は『円周率を3とする』『完全週5日制』など、どれもインパクトが強いものだったのは確かです」(同)
同時に学習内容や授業時間も削減、思考力を育てる目的で「総合的な学習の時間」が導入され、話題を集めた。しかし、この大変革は世間から激しいバッシングを受けることになる。
「大きなきっかけは、国際的な学力調査『PISA』の結果で日本の子どもたちの学力低下が指摘されたことです。その後、行政は08年に『脱ゆとり路線』への変更を余儀なくされました。中学校主要5教科の総授業時間数は1980年代頃と同程度にまで戻されています。しかし、完全週5日制は据え置きなので、現代の中学生の平日はとても過密なものになっていると考えられます」(同)
平成の間に二度も学習指導要領が大きく方針転換されたことで、学校教育の現場は大きく混乱したといわれる。教員や子どもたちが国の方針に振り回されたのは確かだろう。
さまざまな物議を醸したゆとり教育だが、その成果がわかるのは“まだ先”だという。
「ゆとり教育の本当の成果が表れるとしたら、これからでしょう。現状でもゆとり世代と呼ばれる若者たちから世界に通用する優秀な人材が出てきているので、すでに成功しているというとらえ方もできます」(同)
近年では、主にスポーツ界において、16年のリオ・デ・ジャネイロオリンピックのメダリストが1987〜2004年生まれ、つまりゆとり教育を受けた世代が多いという好意的な意見も出てきている。ゆとり教育によって時間的な余裕が生まれ、もともと素質があった彼らは練習に時間を費やし長所を伸ばすことができた、と考えられているようだ。
そして、おおた氏は「テストの点数が多少下がったからといって、失敗だと決めつけるべきではない」と指摘する。
「確かに、ゆとり教育が何を目的としていてどのようなものなのかをあらかじめ明示せず、世間に対して『基礎的な勉強をしなくていいんだ』という誤解を与えてしまったことなど、広報的な意味での失敗はあります。ゆとり教育は、目先のテストの点数を上げる『詰め込み教育』から『点数にとらわれず、大人になってから本当に役立つ力を身につける教育』に変えるのが真の目的。その成果が見えてくるのは、彼らが大人になってからなんです」(同)
また、改訂当時はゆとり教育の思惑通りに授業を進められる教員の能力や環境が不足していたという問題はあったものの、長く続けていれば現場のスキルを上げることも可能だったはずだ。そう考えると、10年もたたずに「脱ゆとり」へ方向転換してしまったのは時期尚早だったのかもしれない。
「教育の成果が表れるには数十年という時間が必要です。本当に価値がある教育は、その教育の成果が表れて、時間的にも空間的にも広い視野を持つことができるようになるまで、その良さが理解されないものです。それにもかかわらず、テストの点数や一流大学の合格者数など『今すぐに効果が得られる教育』が求められてしまうという、日本全体の根深い問題があるのは確かですね」(同)
おおた氏は著書『名門校の「人生を学ぶ」授業』(SBクリエイティブ)を執筆するなかで、灘高校や麻布高校など全国屈指の進学校で行われている授業に触れる機会があったという。その授業内容は「裁縫」や「水田稲作学習」など、一見受験と関係ないように思えるユニークなものばかりだったそうだ。
「そのような授業から得られるものは、一流大学に進学して一流企業に就職し、順風満帆な生活を送っているときは、それほど必要がないかもしれません。しかし、人生に逆風が吹いたときや先行きが見えなくなったときにこそ、そのありがたみを実感できるはずです。教育とは『将来こうなるから先手を打つ』というものではなく、『どんな世の中になっても生きていける人間』を育てること。それ以上でもそれ以下でもないのです」(同)
教育に対して「成功か、失敗か」を判断すること自体、ナンセンスなのかもしれない。そして、ゆとり世代の若者たちがこれから活躍することによって、日本の教育の概念も変わっていくのではないだろうか。 
 
 
 
政権不祥事

 

 
政権不祥事
不祥事 2006
第1次安倍内閣
衆議院議員・自由民主党総裁・内閣官房長官の安倍晋三が第90代内閣総理大臣に任命され、2006年(平成18年)9月26日から2007年(平成19年)8月27日まで続いた日本の内閣である。自由民主党と公明党を与党とする連立内閣である。
12月12月16日 - 首相の諮問機関である政府税制調査会の会長本間正明が、公務員官舎の同居人名義を妻の名前にしつつ、愛人と同棲していることが判明し、本間は12月21日に税調会長を辞任した。本間の愛人問題は、同内閣の改革路線(具体的には財務省の増税路線批判と政府資産の売却)を快く思わない財務省のリーク説もあり、同内閣のブレーンだったジャーナリストの長谷川幸洋は、当時の財務省・理財局長・丹呉泰健のリークであると明言している。
12月26日 - 内閣府特命担当大臣(規制改革担当)佐田玄一郎が、事実上存在しない事務所に対し、1990年(平成2年) - 2000年(平成12年)までの10年間もの間、光熱費や事務所費など計7,800万円の経費を支出したという、虚偽の政治資金収支報告書を提出していたことが判明。佐田は12月28日に大臣を辞任した。 
不祥事 2007
1月10日、文部科学大臣伊吹文明の資金管理団体の政治資金収支報告書に、約900万円の事務所費賃料のかからない議員会館を所在地にしているにも関わらず約900万円の事務所費を支出したことが問題視される。
1月27日、島根県内で行なわれた自民党県議の後援会の集会にて、厚生労働大臣柳澤伯夫が、「15 - 50歳の女性の数は決まっている。産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭でがんばってもらうしかない」などと、「女性は子供を生む機械」という趣旨の発言をしたと報道された。28日に野党各党がこの発言に対し批判、辞任を要求した。翌29日に柳澤は衆議院本会議などで陳謝し、内閣総理大臣安倍晋三も衆議院本会議で「きわめて不適切な発言」とした。自民党内からも大臣辞任の声が上がり、2月1日の衆議院予算委員会における2006年度(平成18年度)補正予算審議では野党が審議拒否した。一週間後に野党は審議に出席したが、今度は柳澤大臣が「若い人たちは結婚したい、子どもを2人以上持ちたいという極めて健全な状況にいる」と発言していたことを取り上げ、野党は「2人持たなかったら健全じゃないのか」と批判したが、柳澤大臣は辞任する意向のないことを示した。
3月5日 - 参議院予算委員会で、松岡農水大臣の資金管理団体が光熱水費が無料の議員会館に事務所を置いているのに、500万円の光熱水費を計上したことを追及される。
5月28日 - 農林水産大臣松岡利勝が東京都港区・赤坂の議員宿舎の自室で自殺した。現行憲法下で現職大臣が自殺するのは初。後任農水相は赤城徳彦。
6月30日、久間防衛大臣(当時)が、千葉県柏市で「原爆の投下はしょうがない」と発言した。
7月3日、6月30日の「原爆投下しょうがない」発言を受けて、久間が防衛相を辞任。後任は、内閣総理大臣補佐官(国家安全保障問題担当)の小池百合子。
7月7日、農林水産大臣赤城徳彦の政治団体「赤城徳彦後援会」が、事務所としての実態がない茨城県筑西市の両親の実家を「主たる事務所」としているにもかかわらず、1996年(平成8年)から2005年(平成17年)までの間に約9045万円も経費計上していたことが発覚。
8月1日、事務所費をめぐる別の疑惑が新たに高まっていた赤城が辞表を提出し、安倍もこれを受理した。辞任という形で報道がなされたが、実際には安倍が赤城を総理大臣官邸に呼んでいることから、事実上の更迭となる。後任は、環境相の若林正俊が兼任した。
8月24日、小池百合子防衛相が、安倍首相了解のもと、「まだ誰も取っていないイージス艦情報流出事件の責任」を取るという形で防衛相離任の意向を表明。同月27日に予定されている改造内閣において続投しない意向であることを示した。
8月27日、第1次安倍改造内閣が発足。同時に自民党役員も一新した。 
不祥事 2014
日本ではなぜ女性大臣が相次いで不祥事を起こすのか? 2014/11
安倍改造内閣の目玉とされていた2人の女性大臣が不祥事で相次いで辞任しました。
小渕経産相の場合、父親から譲り受けた地元の秘書に資金管理を任せていたところ不明瞭な支出が相次いだというもので、同情の余地はありますが、「自分の事務所も管理できないのに国家のマネジメントができるのか」といわれてしまえば反論できません。松島法相は選挙区内で配ったうちわを「討議資料」と強弁するなど、奇矯な言動が目立ったため、国会答弁を不安視した首相から引導を渡された、ということでしょう。
なぜ女性大臣ばかりが失敗するのか。その単純な説明は、日本では女性の国会議員の絶対数がきわめて少ないからです。
議会における女性の割合は世界平均が22%ですが、日本はそれを大幅に下回る8%で、世界127位と最低水準です。安倍政権はこれを“世界標準”に合わせようと、女性大臣の数を無理矢理増やそうとしたわけですが、選択肢となる人材プールが小さければそのぶん“スカ”をつかむリスクは高くなります。
この問題を解決するには女性議員の数を大幅に増やす必要があります。これにはたいへんな困難がともないますが、じつはものすごく簡単な方法があります。 
第2次安倍改造内閣・女性閣僚2名の同日辞任
衆議院議員・自由民主党総裁の安倍晋三が第96代内閣総理大臣に任命され、2014年(平成26年)9月3日から2014年(平成26年)12月24日まで続いた日本の内閣である。自由民主党と公明党による自公連立政権を形成する。

改造内閣発足から早々、女性閣僚の言動がいくつか問題視される。
松島みどり法相は2014年10月1日、赤いストールを着用して参議院本会議に出席したが、これが参議院規則に抵触するとして問題視された。更に2014年10月7日、参議院予算委員会において、民主党の蓮舫議員から「夏に、選挙区(東京都第14区)の東京都荒川区などでうちわを配布した行為が公職選挙法の禁止する寄付行為に該当する」と指摘された。10月16日、民主党の階猛副幹事長が告発状を東京地検に提出。
小渕優子経産相については2014年10月16日、週刊新潮が政治資金収支報告書に観劇費用2600万が未記載であることを報じ政治資金規正法違反であることを指摘。その後の調べて2009年より未記載の費用が1億円を超えると報じた。10月18日、『産経新聞』が「小渕経産相辞任へ」と題した号外を配布し始めた。2014年10月20日、午前、政治資金をめぐる疑惑の件で首相の安倍と会談後、経済産業大臣の辞表を提出。その後、経産省で辞任記者会見を行った。小渕は、自身の問題を国民、支持者などに謝罪したが、自分でも自身の事務所の政治資金報告書に「疑念がある」として、専門家を入れた第三者に調査を依頼する方針を示した。
最終的に、松島みどり法務大臣、小渕優子経済産業大臣ともに2014年10月20日に辞任する結果となった。 
不祥事 2015
消えた1300万円 言論封殺の自民・井上貴博議員に疑惑発覚 2015/7
安倍晋三首相に近い自民党若手が開いた勉強会「文化芸術懇話会」で、「「マスコミを叩くには、広告料収入と、テレビの提供スポンサーにならないこと。日本全体でやらないといけない。一番こたえるだろう」」などと報道を封殺する発言をしていた井上貴博衆議院議員(福岡1区。当選2回)に、政治とカネの問題が浮上した。
平成24年12月に、同氏が代表を務める自民党支部から井上氏本人が受けとった寄付金「1300万円」の行方が分からない状況。支出目的は「選挙関係費」とされているが、この年に行われた衆院選の収支報告には収入としての記載がなく、公職選挙法(虚偽記載)に抵触する可能性がある。
福岡県選挙管理委員会に提出された「自由民主党福岡県第一選挙区支部」の政治資金資金収支報告書によれば、平成24年12月10日、自民本部から同支部に1300万円の交付金が支給され、同日、第一支部は井上氏個人に1300万円の全額を寄附していた。支出項目を確認したところ「選挙関係費」。同年12月4日に公示、12月16日に投開票された総選挙のための費用だったとみられる。
公選法は、選挙に関するすべての収入と支出について報告するよう求めており、井上氏が受け取った1300万円は、選挙の収入として「選挙運動費用収支報告書」に記載する義務がある。しかし、井上陣営が県選管に提出した「選挙運動費用収支報告書」(第1回)に記載された井上氏の収入は、同年11月29日付の「自己資金 750万円」のみ。 2回目以降の報告で、146,505円の収入があるものの、これも「自己資金」。党からの交付金1300万円は消えた形となっている。
第一支部提出の平成25年分政治資金収支報告書及び井上氏の資金管理団体「井上貴博後援会」の平成24年、25年分の政治資金収支報告書を確認したが、問題の1300万円に見合う収入の記載はない。
公職選挙法の規定によれば、収支報告書を提出しなかったり、虚偽の記載をした場合、出納責任者は3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金を科せられることになる。
1日、井上議員の事務所を訪ね、趣旨を説明して取材の申し入れを行ったところ、夜になって会計責任者から回答。次のように話している。
「会計責任者である自分の責任。ご指摘の通り、党から1300万円の交付金を受け入れ、選挙費用として支出計上しながら、選挙運動費用として報告することを怠っていた。言い訳になるかもしれないが、理解不足だったと反省している。早急に、(遡って)選挙運動費用収支報告書の修正を行う」
全面的に非を認めてはいるが、会計責任者の説明内容には無理がある。平成24年総選挙における井上氏の総収入は7,646,405円。支出は9,965,525円(2,319,120円はビラ、ポスターなど公費助成分)となっており、差額はゼロ。報告書を修正すれば、1300万円がまるまる残る計算だ。1300万円はどう処理したのか――この点について、会計責任者に訊いたところ「通帳に残して管理してきた」。かなり苦しい言い訳である。
会計責任者の説明が事実なら、いったん候補者の選挙資金となった1300万円が、選挙終了と同時に余剰金として井上氏個人の懐に残った形。資産報告書の内容も修正を余儀なくされる可能性があるうえ、昨年の総選挙では「自己資金」として850万円の記載があり、そことの整合性にも疑問が残る。実際に井上氏側の説明を証明しようとすれば、管理しているという通帳を公開せざるを得ないはず。できなければ虚偽に虚偽を重ねることになり、消えた1300万円が、重くのしかかる状況だ。
自民党本部の政治資金収支報告書及び政党交付金使途等報告書で確認したところ、平成24年12月10日に第一支部に支出された1300万円は政党助成金を原資とするもの。つまり、井上氏個人の懐に入った1300万円は国民の税金だ。本来なら、余剰金1300万円全額を、党本部なり第一支部に返すのが筋だった。
選挙の余剰金を巡っては平成21年、衆院福岡2区で初当選していた民主党の稲富修二氏に、19年の福岡県知事選で民主党から受け取った推薦料4000万円のうち、余剰金1900万円の着服疑惑が発覚。稲富氏側は不透明な説明を繰り返したが、最終的には同党県連へ1900万円全額を返済している。
報道の自由を否定したことに加え、政治とカネをめぐる疑惑まで噴き出した格好。井上氏に、政治家としての資質が問われているのは言うまでもない。「秘書が、秘書が」だけは勘弁してもらいたいものだが……。 
言論弾圧の急先鋒 自民・大西英男議員に公選法違反の疑い 2015/7
政権に批判的な報道を封殺しようという政治家たちに、次々と「政治とカネ」を巡る疑惑が噴き出している。
安倍晋三首相に近い自民党若手が開いた勉強会「文化芸術懇話会」で、「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい」などと発言。党から厳重注意処分を受けたあとも同様の発言を繰り返している大西英男衆院議員(東京16区)が代表を務める自民党支部が、選挙区内に住む男性二人に「結婚祝い金」を支出していたことが明らかとなった。公職選挙法は、政治家による選挙区内への寄附を禁じており、これに抵触する疑いがある。
不適切とみられる支出を行っていたのは、大西議員が代表を務める「自由民主党東京都第十六選挙区支部」。同支部が東京都選挙管理委員会に提出した政治資金収支報告書によれば、同支部は平成25年7月と11月、大西氏の選挙区である江戸川区内に住む男性二人に、「結婚祝い金」としてそれぞれ30,000円を支出していた。政治活動費のなかの「交際費」として処理されているが、結婚祝い(祝儀)は即ち寄附行為。政党交付金が入る団体のカネで、公然と買収が行われた格好だ。
公職選挙法は、政治家が選挙区内で行う寄附について、『いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない』と規定。さらに、『政党その他の団体又はその支部で、特定の公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者の政治上の主義若しくは施策を支持し、又は特定の公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者を推薦し、若しくは支持することがその政治活動のうち主たるものであるものは、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない』とも定めている。自由民主党東京都第十六選挙区支部による結婚祝い金は、同法に抵触する疑いが濃い。
“結婚祝い金は違法ではないか”――大西議員の事務所に確認を求めたところ、責任者は次のように回答している。
「党の活動に多大の貢献があった方が結婚されるということで、祝い金を出した。祝儀袋には『自由民主党東京都第十六選挙区支部』と記しており、問題はない。選管にも確認しており、こちらとしては違法性はないと考えている」
同支部の政治資金収支報告を巡っては、選挙区内の区議らが代表を務める政治団体への支出にも疑義が生じている。
確認したところ、赤い星印とアンダーラインで示した「秀和会」及び「江戸川知山会」への支出が、相手方の団体の収支報告書に記載されていなかった。
両団体とも江戸川区議の資金管理団体。「秀和会」(代表:島村和成区議)の政治資金収支報告書には、自民支部から支出されたことになっている6月の10万円が収入として計上されていない。一方、「江戸川知山会」(代表:片山知紀区議)の報告書には、自民支部からの3回分、計30万円の記載がないだけでなく、すべての収入、支出が「ゼロ」。カネの出入りが一切なかった形だ。大西議員の自民支部と区議らの政治団体で食い違うカネの出と入り。どちらの報告内容が正しいのか分からない状況だ。
大西議員側の説明によると、「区議の政治団体に確認したところ、収入の記載を怠ったミスだと分かった。区議らの団体が早急に修正を行う」のだという。しかし、政治資金収支報告書は、備え付けが義務付けられた「会計帳簿」を転記したもの。1件でも収入を見落とせば、合計金額まで違ってくるはずだ。収入も支出も「ゼロ」として報告した江戸川知山会のケースに至っては、帳簿の内容自体がまったくのデタラメだったことを証明しており、虚偽記載であることは明白。真偽のほどはわからないが、自民党議員による杜撰な政治資金処理が浮き彫りになったことだけは確かである。
政党交付金1300万円を懐に入れた形となっていることが判明した井上貴博議員に続き、大西氏にも公選法違反の疑い。言論弾圧の急先鋒二人に、政治家としての資質が問われている。 
沖縄蔑視発言 自民・長尾敬議員に政治資金規正法違反の疑い 2015/7
安倍晋三首相に近い自民党若手が開いた勉強会「文化芸術懇話会」で、「沖縄のゆがんだ世論」「左翼勢力に完全に乗っ取られている沖縄メディア」などと発言し、作家の百田尚樹氏から沖縄蔑視の暴言を引き出した長尾敬衆院議員に、政治資金規正法違反の疑いが浮上した。
自民党本部から受けた長尾氏の資金管理団体に対する寄附が、政治資金収支報告書に記載されておらず、現状は同法上の「不記載」。勉強会での暴言が問題視される井上貴博、大西英夫両代議士に続いて、長尾氏にも不適切な政治資金処理――暴言3人組が、揃って政治とカネを巡る疑惑を抱え込んだ形だ。
自民党本部が総務省に提出した政治資金収支報告書によれば、同党は平成24年11月30日、大阪市の「長尾たかし後援会」に500万円の寄附を行っていた。
長尾議員の資金管理団体「長尾たかし後援会」が、大阪府選挙管理委員会に提出した平成24年分の政治資金収支報告書を確認したところ、自民党本部が寄附したはずの500万円の記載はなく、同年の収入は「4,549,500円」のみ。前年からの繰越金を加えても「4,844,066円」に過ぎず、500万円には届かない状況だ(下が長尾たかし後援会の収支報告書。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。明らかな「不記載」。すべての収入、支出を報告するよう求めている政治資金規正法に、抵触する状態である。
長尾敬氏は当選2回。初当選時の所属は民主党で、平成24年の総選挙直前、同党を離党して大阪14区から無所属で立候補。選挙戦最中の12月13日に自民党が追加公認したものの、落選していた。昨年の総選挙では再び小選挙区で敗れ、比例で復活当選。代表を務める大阪14区の自民支部は、昨年になって設立されている。長尾氏の民主への「離党届」提出は24年の11月16日。自民党は、公認候補でもない状態の長尾氏側に、500万円の政治資金を提供(11月30日)していたことになる。
長尾氏の自民入りを推し進めたのは安倍首相。24年の総選挙では公示後に無所属だった長尾氏の応援に出向き、街頭演説中に追加公認を発表するといった熱の入れようだった。その安倍首相と長尾氏の関係を巡り、関係者の間から別のカネの流れを示唆する証言がある。
下は、平成24年の自民党本部の収支報告書の一部。長尾たかし後援会に500万円が支出されたのと同じ11月30日に、安倍首相に5000万円が支出されていた。名目は「政策活動費」。使途報告が不要の、投げ渡し金である。このカネの一部が長尾氏側の活動資金に充てられたというのである。
長尾氏が民主党を離党したのは平成24年の11月で、その直後には大阪14区の民主党支部を解散している。この年の長尾たかし後援会の総収入は約484万。手元に残った政治資金は少なかったはずだ。総選挙における長尾氏の選挙資金は約750万円。後援会活動や選挙資金を手当てするのに、かなりの苦労を強いられたとみられる。これを助けたのが安倍首相が党本部から引き出した5000万円のカネの一部だったという見立てである。信じられない話だが、事実だとすれば表に出ないカネの流れがあったということになる。
消えた後援会への500万円に裏金の噂――3日、長尾氏本人に話を聞くため国会の事務所に取材を申し入れたが、出稿までに長尾氏側からの連絡はなかった。
政治資金規正法違反が疑われる資金処理に、説明責任の放棄・・・・・・。沖縄のメディアを侮蔑し、言論を封殺しようとした長尾氏に、政治家としての資格があるとは思えない。 
不祥事 2016
不祥事続きの安倍内閣「スキャンダル歴代大臣」リスト 2016/2
続投示唆から一転、TPPの調印式目前に辞任した甘利氏。発足以来、閣僚不祥事が続発する政権の暗部を一挙出し!!
週刊誌報道に端を発した金銭スキャンダルの責任を取るかたちで、甘利明TPP担当大臣が1月28日、大臣職の辞任を表明した。「千葉県内の建設会社であるS社から、秘書に加え、甘利大臣自身も現金を受け取ったと報じられています。S社は千葉県内の再開発を巡り、UR(独立行政法人都市再生機構)とトラブルを抱えており、その解決を甘利事務所に依頼し金銭を支払ったというわけです」(全国紙政治部記者)
事件をスッパ抜いた『週刊文春』の報道によれば、甘利事務所関係者がたびたびURを訪れており、S社との示談金を吊り上げる交渉を行ったとされている。「これが事実ならば、甘利サイドには政治資金規正法違反やあっせん収賄罪が適用される可能性があります。S社を代表して甘利サイドと交渉を行った男性は、会話の録音記録や金銭授受の動かぬ証拠を残しているとされたため、“うやむやにするのは難しい事案”だったのでしょう」(前同)
安倍政権の中核を成す閣僚の辞任劇は、政局にどのような影響を及ぼすのか。「2012年12月に安倍さんが首相に返り咲き組閣されたのが第2次安倍内閣。以来、第2次改造(14年9月)、衆院選挙を経て第3次安倍内閣(14年12月)ときて、現在は自民党総裁選を経ての第3次改造と、4度の組閣がありました。そのたびに閣僚の面子は入れ替わっていますが、甘利さんはずっと閣内にとどまっている安倍政権の“中心メンバーの一人”。その人物が辞任に追い込まれたことは、非常に重いですね」(政治部デスク)
思えば安倍内閣はこれまでも、大小無数のスキャンダルに見舞われてきた。「特に、小渕優子経産大臣と松島みどり法務大臣が“ダブル辞任”した14年10月は正念場でした。女性の進出をブチ上げ入閣させた両者がともに、就任から1か月余りで辞任したわけですからね。通常の内閣ならこれで政権が吹っ飛び“ジ・エンド”ですが、安倍政権は発足以来“一強多弱”。安倍首相以下、官邸の圧倒的求心力でこうした醜聞をねじ伏せてきたわけです」(前同)
ただ甘利氏は、これまでの閣僚とは“格”が異なる首相の側近中の側近だ。「なお悪いことに、今国会最大のテーマはTPP。本来なら甘利さんは、TPP担当大臣として今国会の主役になるはずだったわけです。その当人が疑惑を抱えたままだと、野党の追及で審議はストップ。国会は停滞し、政権の支持率が急落したはずです」(前出の記者) 実際、自民党内では、週刊誌が発売になるや、「甘利大臣の辞任は不可避」と見られていたという。「“秘書がやったこと”の逃げ口上も通用しません。13年11月と翌年2月に、S社から計100万円の現金を大臣室と事務所で甘利さん本人が受け取り、フトコロに入れたと報じられていますからね。事態を重く見た官邸でも、週刊誌発売当日から菅官房長官を中心に“後任選び”が開始されたといいます」(前同)
一方、甘利大臣に絶大な信頼を寄せていた安倍首相は、「辞任はするな!」のスタンスだったという。「スキャンダル発覚後、甘利さんは菅義偉官房長官同席のもと、安倍首相に会い、“2月4日にニュージーランドで開かれるTPP交渉署名式だけは出席したい。その後の私の処遇は総理に一任します”と言ったとか。ところが安倍首相は、“何が何でも守るので耐え忍んでください”と、2月4日以降、折を見て辞任する意向の甘利さんを逆に説得したようです」(前同)
とはいえ、野党はもとより与党内でも日増しに批判の声が大きくなってきた。「甘利さんが4日のTPP署名式に出席するのは、日本の恥ですよ。TPPは自由貿易の協定ですから、その担当大臣が賄賂をもらっていたとなれば、国際的な信用問題ですからね。辞任は当然でしょう」(政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏) 安倍首相は甘利氏が辞任を表明する前日の参議院で、甘利氏の続投を明言していたが、これは“茶番”だった可能性が濃厚だ。「完全な“演出”ですね。慰留をしておいて世間に続投を信じ込ませたうえで、翌日、甘利さん本人が辞任会見する。“潔さ”をアピールして、政権へのダメージを最小限に抑えようというわけです」(前同)
建設業者からの現金をフトコロにしまったとされる“フトコロ大臣”こと甘利氏。結局辞任に追い込まれたが、この騒動を息を殺して見ていた御仁がいる。高木毅・原発事故再生担当相だ。高木大臣には福井県敦賀市の住宅街で、女性のアンダーウェアを盗んでいたという過去の疑惑が報じられている。「地方紙が一面で高木氏の泥棒疑惑を取り上げ、疑惑は事実だとする捜査関係者のコメントまで掲載されています。加えて有権者への香典代を巡る公職選挙法違反の疑惑もあり、安倍内閣の“爆弾”と見られています」(前出の鈴木氏) 夏に選挙を控える参院からは、「高木を甘利と一緒に処分してほしい」という声があがっているという。
与党内からも「早く辞めろ」の圧がかかる高木大臣。ところが、当人はどこ吹く風だという。「年末年始は平然と地元で挨拶回りをしています。地元ではこれまでもたびたび“泥棒事件”の怪文書が出回っているため、本人は慣れっこなんですよ(笑)。甘利さんと違って、証拠がないから逃げ切れると思っているようですね」(前出の記者)
それにしても、安倍内閣には情けないあだ名が冠された大臣が、いかに多いことか……。その先駆けとなり、ダブル辞任で安倍政権を吹っ飛ばす寸前まで追い込んだ“うちわ大臣”と“ワイン大臣”は、今何をしているのだろうか。まず、地元のお祭りに名前入りのうちわを配ったと糾弾され、公選法違反に問われた松島みどり氏。第2次改造内閣で法務大臣に初入閣したものの、秘書が政治資金規正法違反で在宅起訴された小渕優子経済産業大臣とともに、あっと言う間に辞任に追い込まれた。
その小渕氏には、選挙区内の男性にお祝いとしてボトルワイン2本を贈ったとして、有権者への利益供与を禁じた公選法違反の疑いもかかっていた。「松島さんは信用回復に努めるべく、現在は精力的に地元を回っています。ただ、騒動を経て謙虚になったかといえば、“相変わらずのかまってちゃん”というのが党内の評判です。一方の小渕氏は所属する派閥(平成研究会)の長、ひいては日本初の女性首相として期待されていましたが、ワインたった2本で、バラ色の未来を棒に振ってしまいましたね」(自民党議員秘書筋)
その小渕氏の後釜として経産大臣に就任したのが、宮沢喜一首相の甥である宮沢洋一氏。自身の政治資金団体が、広島市内のバーで政治活動費を支出していたためだ。「その後、衆院選を経て、第3次安倍内閣で、まさかの再任。改造内閣では任を外れたものの、すぐさま重要ポストである党の税務調査会長に横滑りしています。ところが、軽減税率を巡る公明党との調整では役に立たず、党内評価はダダ下がりです」(前同)
また、第3次内閣で忘れてならないのは、複数の金銭疑惑によって電撃辞任した西川公也農水大臣だろう。彼が辞任を決意したのは、小学生の孫に「お爺ちゃん、悪い人なの?」と言われたためとか。なんともやるせない気持ちになる。「林芳正氏が後任の農水大臣となりましたが、後日、彼の車が11年前に当て逃げをしていたことが発覚。つまり、“当て逃げ大臣”です。もうこうなったら、閣僚スキャンダルのドミノ現象ですよ(笑)」(前出の全国紙デスク)
この他、政党助成金の一部が政治家本人に渡ったとして、政治資金規正法違反の疑いがもたれている江渡聡徳前防衛大臣(第2次改造内閣)や、わざわざ深夜に釈明会見を開いた望月義夫前環境大臣(同)など、不祥事のタネは尽きない。「望月大臣の場合、日本にエボラ熱が上陸したのではないかと話題になっていたときだっただけに、深夜に会見すると聞き、緊張が走りました。ところが、内容は自身の収支報告書に事実と違う記載をしたという釈明。しかも、亡くなった妻のミスだと言い逃れたため、速報を見たネット市民の怒りで大炎上しました」(会見を取材した記者)
前出の鈴木氏が言う。「与野党の勢力が拮抗している状況なら、こうした脇の甘さは命取りになりかねず、引き締めがあるもの。“安倍一強”の陰で与党政治家の緊張感が緩んでいる証拠です」
特に気が緩んでいそうなのが、安倍首相の“お友達大臣”の面々。お友達どころか“マブダチ”と目される下村博文前文科相などは、新国立競技場の白紙撤回問題や無届の後援会問題等が噴出し、国会が蜂の巣をつついた大騒ぎになるも、のうのうと大臣の椅子に座り続けた。「第3次改造内閣ではさすがに留任とはなりませんでしたが、それでも下村氏は総裁特別補佐として、今でも官邸に自由に出入りし、党と政府のパイプ役を果たしています」(党関係者)
これまた、安倍首相の“マブダチ”である塩崎恭久厚労相は、アベノミクスの帳尻合わせに、国民の血と涙である年金資金を株に突っ込み、現在のところ株安で7兆円スッた張本人。「スタンドプレーが目立ち、安倍政権の番人こと菅官房長官とは犬猿の仲ですが、首相の後ろ盾があるため、意に介しません」(官邸筋) 相次ぐ大臣のスキャンダル同様、安倍首相が警戒を厳にしているのが閣僚による“舌禍事件”だという。舌禍事件といえば、第2次内閣で環境大臣となった石原伸晃氏が、福島の中間貯蔵施設受け入れを巡り、「最後は金目でしょ」の大暴言を放っている。「この“金目大臣”が甘利さんの後釜ですからね。先の改造で石原派は入閣なしだったため、お情けでの後任ポストをもらったのでしょう」(前出のデスク)
口を滑らすことならこの人の右に出る者はないとされているのが、麻生太郎財務大臣だ。最近も終末医療に触れ、「さっさと死ねるようにしてもらうとか、考えないといけない」と発言。数えきれない前科がある真の“失言大臣”である。「政権発足以来、財務大臣を歴任する麻生さんは、辞任した甘利さんを凌ぐ安倍政権のキーマン。このタイミングで失言されると、さすがに政権はもたないかもしれません」(前同) 政治評論家の浅川博忠氏がこう続ける。「党内には安倍政権に不満を持つ議員が多いため、世論の反発が強まり支持率が下がると、党内の実力者からも安倍批判が出てくるでしょう。そうなると政権の求心力は低下し、防戦一方になってしまいます。政権発足後、安部首相は一度も、その状況を味わっていませんが、甘利事件によって党内力学の潮目が変わるかもしれませんよ」 “フトコロ大臣”の辞任騒動は、安倍政権の地獄の一丁目となるのか――。 
不祥事 2017
「謙虚」どころか人権無視 相次ぐ自民党議員の暴言 2017/11
衆院選をめぐる小池百合子東京都知事の排除発言に助けられ、思わぬ大勝となった自民党。選挙後には、どの議員も「謙虚」を連発して殊勝な態度を見せていたが、1か月も経たぬ間に総務会長、元参院議長、元特区担当相がそろって失言。驕り高ぶる本来の自民党に戻ってしまった。
問題は、3人の発言すべてが“人権”を軽視した内容であること。自由と民主主義を党名に冠した政党が、おかしな方向に向かっている証拠と言えそうだ。
選挙後1カ月も経たぬうちに、自民党議員が連発していた「謙虚」は死語になっている。直近の失言・暴言をまとめた。
山本幸三氏の黒人差別
特区担当相として加計学園の獣医学部新設を推進したのが山本幸三氏。国会での居丈高な態度が印象に残る官僚あがりセンセイだが、今年4月には滋賀県で開かれた会合の中で、観光振興をめぐり「一番のがんは文化学芸員と言われる人たちだ。観光マインドが全くない。一掃しなければ駄目だ」と発言し、批判を浴びていた。学芸員のことを理解しないまま、思いつきで発せられた暴言。その上、がん患者への配慮も欠いており、以前のまともな政権なら大臣更迭もあり得る事態だった。他者を“一掃”に至っては、この人の神経を疑わざるを得ない。その山本氏が23日、アフリカとの交流を続けてきた自民党議員の会合で、「何であんな黒いのが好きなんだ」と発言。露骨な黒人差別に、厳しい批判が噴き出る状況となった。「人種差別の意図は全くない」と釈明する山本氏だが、「黒いの」はアフリカの人々かアフリカ大陸そのものを指す言葉。「あんな」とつけた以上、差別の意思は明らかだ。このセンセイは、自分とその同調者以外を、一段も二段も下に見ている。“日本の恥”と言うしかない。
山東昭子の時代錯誤
かつて“良識の府”といわれた参議院で、副議長まで務めた政治家の発想とは思えない。21日に開かれた自民党の役員連絡会で、山東昭子元参議院議長が「子供を4人以上産んだ女性を厚生労働省で表彰することを検討してはどうか」と発言。各界から厳しい批判が相次いだ。当然だろう。「4人」の根拠は曖昧、「子供を産んだら国が表彰」という発想も時代錯誤と言うしかない。「産めよ殖やせよ」は、昭和16年に、夫婦の出産数を平均5児とすることを目標に閣議決定された「人口政策確立要綱」のスローガンで、山東氏の発言内容は、これと同じ発想なのだ。女性を「子どもを産む機械」と見るのは、安倍自民党特有の考え方だ。平成27年には、フジテレビの番組に出演した菅義偉官房長官が、歌手の福山雅治さんと女優の吹石一恵さんの結婚についてコメントを求められ「この結婚を機にですね、やはり、ママさんたちが『一緒に子供を産みたい』という形で国家に貢献してくれればいいなと思ってます」「たくさん産んで下さい」などと発言。平成19年には、第一次安倍政権で厚生労働相を務めていた柳沢伯夫氏が、「15歳から50歳の女性の数は決まっている。産む機械、装置の数は決まっているから、機械と言うのは何だけど、あとは一人頭で頑張ってもらうしかない」と発言し、大騒ぎになった。いわゆる「産む機械発言」に、世の女性が猛反発したのは言うまでもない。平成26年には東京都議会で、質問中の女性都議に対して、自民党議員が「結婚した方がいいんじゃないのか」、「産めないのか」とヤジ。女性蔑視の姿勢に批判が相次ぎ、議会での同様のヤジが、次々と暴かれるきっかけとなっている。山東氏の発言も「産む機械」も議会でのヤジも、前述した「産めよ殖やせよ」と同じ発想なのである。
竹下亘の公約違反
約束を守らないのも安倍政権の特徴の一つ。24日には、竹下亘総務会長が、天皇、皇后両陛下が国賓を迎えて開く宮中晩餐会について「(国賓の)パートナーが同性であった場合、私は(晩餐会への出席は)反対だ。日本国の伝統には合わないと思う」と明言。世界が性的指向に基づく差別の撤廃に向かう中での失言で、多くの関係者から顰蹙を買う事態となった。公約違反は明らかだ。下は、総選挙で自民党が示した「公約」の一部(青い囲みと矢印はHUNTER編集部)。そこには、「性的指向・性自認に関する広く正しい理解の増進を目的とした議員立法の制定を目指し、多様性を受け入れていく社会の実現を図る」と記されている。竹下氏は、自党の政権公約を確認していなかったということだろう。
自民党の「謙虚」は口だけ。選挙後1か月でのこの傲慢さは、国民を下に見ている証拠でもある。人権無視の危険な政治。この国の有権者は、やはり選択を間違ったと言わざるを得ない。 
安倍政権下で増大する闇資金 「政策活動費」昨年は17億円超 2017/12
領収書1枚提出するだけで使途の報告義務なし――。官房機密費と並ぶブラックボックスといわれる自民党の「政策活動費」については、度々問題点をしてきた。しかし、庶民感覚が欠如した自民党のセンセイ方は“反省”とは無縁。先月総務省が公表した平成28年分の政治資金収支報告書によれば、自民党本部が昨年支出した政策活動費が、過去最高の17億390万円に上っていたことが分かった。
国民に増税を強いる一方で、自民党は使途報告の義務がない闇資金をばら撒き続けている。“脱税”につながりかねない政策活動費の実態を検証した。
自民党の政策活動費は、まさにブラックボックス。第2次安倍政権の発足以来増大の一途で、自民党が野党に転落していた平成22年の約7億8,000万円と比較すると、28年は2倍以上の約17億円が支出されていた。
政策活動費を受け取った自民党の国会議員は衆参合わせて18名。7割が幹事長に集中しており、昨年7月まで幹事長を務めていた谷垣禎一氏が6億7,950万円、後継幹事長の二階俊博氏が5億250万円を受け取っている。
下は、自民党が総務省に提出した政治資金収支報告書の一部。3,000万、5,000万、5,700万という途方もない金額が、領収書1枚で幹事長に渡されているのが現状だ。
同党が支出している年間の政策活動費は、どう考えても異常だ。昨年の収支で見れば、収入総額は約241億円。内訳は、政党交付金が約174億円、立法事務費約28億円、同党の政治資金団体「国民政治協会」からの寄附が約23億、党費8億5,000万円、その他は所属議員からの寄附などである。これに対し、支出が約220億円。このうち17億円が政策活動費だった。支出の1割近い政治資金が闇に消えた計算となる。
使途の報告義務がないため、政策活動費が、どう使われたかは不明。投げ渡しのカネを、所属議員に配ったのか、民間の協力者に渡したのか、あるいは領収書を書いた政治家が懐に入れたのかまるで分らない。ただ、政策活動費は“政治活動”に供されたということで無税。党本部から政策活動費を受け取った政治家本人は、このカネについて申告することはない。闇資金である以上、政治家から資金を受け取った相手も申告はしておらず、場合によっては、堂々と「脱税」が行われている可能性さえある。
「一強」の状態が進むにつれ、ばら撒き額は増える一方。下の票にまとめた通り、第2次安倍政権の発足以来、67億円以上の政策活動費がばら撒かれたことになる。
「政治にはカネがかかる」というのが永田町の常識。しかし、何に使ったのか分からないカネが、年間17億円も存在するというのは国民からすると大変な非常識だ。すべての収入・支出を報告するよう求めている政治資金規正法の趣旨にも反している。国民に負担増を求めながら、自分たちが貰う無税のカネは増やし続けるという理不尽――。この国の政治を、安倍政権が歪めているは確かだ。不可解なのは、大手メディアが政策活動費や官房機密費について追及する姿勢を見せないことである。なぜか? 
2017年の自民党不祥事
突然の衆議院解散と選挙が行われた2017年もまもなく終わろうとしている。
しかし森友・加計疑惑、レイプもみ消し疑惑、年末に突如表ざたになったスパコン疑惑など、列挙しきれないほどの疑獄のどれ一つとっても、解決どころか、まともな説明さえ為されていない。「あんな人たち」発言も記憶に残るところだ。自民党が震源となった不祥事があまりにも多かったのが2017年であった。
ここでは、森友・加計以外でも数多い不祥事を忘れないために、時系列で整理しておく。
なお、このリストはあくまでも国会議員によるものだけであり、地方首長や地方議員の不祥事は含まれていないことにご留意いただきたい。
1月 高橋克法・参院議員、回覧板で名前入りカレンダー配布
「公選法は選挙区内の有権者への寄付を禁じており、不特定多数への配布は同法に抵触する可能性がある。」(福井新聞)
3月 務台俊介・政務官「長靴業界はだいぶ儲かった」と失言し辞任
「台風10号に伴う豪雨被害の視察で岩手県岩泉町を訪れた際、同行者に「おんぶ」されて水たまりを渡ったことを岩手日報などが報じ、物議を醸した。都内で開催した自身の政治資金パーティーの中で、この件を振り返り「たぶん長靴業界は、だいぶ、儲かったんじゃないか」と話した。」​(ハフィントンポスト)
4月 今村雅弘・復興大臣、不祥事三連発
「東京電力福島第1原発事故の自主避難者が帰還できないことについて「基本的には自己責任」などとした今村雅弘復興相の発言に抗議する動きが5日、各地で広がった。」(毎日新聞)
「今村雅弘復興相が東日本大震災について「これは、まだ東北で、あっちの方だったから良かった。もっと首都圏に近かったりすると、莫大な甚大な被害があったと思う」と述べた。直後に撤回したが、辞任する意向を固めた。」(朝日新聞)
「今村雅弘氏 政治資金で高級たまごを「爆買い」していた。」​(日刊ゲンダイ)
4月 中川俊直・経済産業政務官、「ストーカー登録」「重婚」で辞任
「中川氏は不倫女性と2011年から交際を始め、「年に300日は一緒」にいる仲で、ハワイで「結婚式」まで挙げたという。同時進行で自民党の前川恵議員にも近づき(=前川議員は否定)、不倫女性にそのことがバレて修羅場に。中川氏は警察から「ストーカー」として登録された、という。」(産経新聞)
5月 大西英男・衆院議員、不祥事二連発
「自民党厚生労働部会で「(がん患者は)働かなくていいんだよっ」とのヤジが飛び、波紋が広がっている。」(ハフィントンポスト)
「「(がん患者は)働かなければいいんだよ」と発言し、自民党東京都連の副会長を辞任した大西英男衆院議員が、元格闘家の須藤元気氏から「推薦文」を書いていないのにホームページに掲載された、と抗議を受けた。」(朝日新聞)
6月 豊田真由子議員・衆院議員、「このハゲー」
「埼玉県警捜査1課は27日、元秘書の男性に対する暴言暴行疑惑で自民党を離党した豊田真由子元衆院議員(43)について、傷害と暴行の疑いで書類送検した。」(日刊スポーツ)
6〜7月 稲田朋美・防衛大臣、職務不適任連発、情報隠蔽で辞任
「稲田朋美防衛相が東京都議選の自民党候補の応援集会で「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いをしたい」と演説で述べた。自衛隊を率いる防衛相が組織ぐるみで特定候補を支援するかのような発言である。」(毎日新聞)
「九州北部の記録的な豪雨で自衛隊が災害対応に当たる中、稲田朋美防衛相が6日、防衛省を一時不在にした。自民党の石破茂前地方創生担当相は6日夜、BSフジの番組で「あり得ないことだ。なんで起こったかきちんと検証しないと、本当に国民に対して申し訳ない」と述べた。」(時事)
「自衛隊日報隠ぺいを知っていたのは稲田防衛相だけじゃない、安倍首相と官邸が指示していた疑惑が浮上 」(エキサイトニュース)
「稲田朋美防衛相は7月27日、破棄したとする南スーダンに派遣された国連平和維持活動(PKO)部隊の日報を陸上自衛隊が保管していた問題をめぐり、防衛大臣を辞任 」(ハフィントンポスト)
6〜7月 下村博文・幹事長代行、職権でやりたい放題が次々発覚
「下村博文氏らを告発 加計学園側から200万円、入金不記載容疑で 」(ハフィントンポスト)
「ビザ発給、下村氏が働きかけか 民進が文書公表 」 (日本経済新聞)
8月 鈴木俊一・五輪相に架空計上疑惑、政治資金1658万円に領収書なし
「「清鈴会」の政治資金収支報告書を仔細に検証すると奇妙な記載に突き当たる。支出の備考欄に記された「徴難(ちょうなん)」の2文字だ。徴難とは、収支報告書を提出する際に、「領収書等を徴し難かった支出」を指す。」(ライブドアニュース)
8月 今井絵理子・参院議員、「ビール券」違法配布
「今井絵理子・参議院議員(33)も人知れず、違法な「ビール券」配布に手を染めていて――。」(デイリー新潮)
11月 神谷昇・衆院議員、市議に現金配布
「自民党の神谷昇衆院議員=比例近畿=が衆院選前の9月下旬に自身の選挙区内の大阪府和泉市と岸和田市の市議14人に現金計約210万円を配っていたことが24日、分かった。」(産経新聞)
12月 懲りない山本幸三・前地方創生相、今度は差別発言炸裂
「前地方創生相の山本幸三・自民党衆院議員(福岡10区)が、23日に北九州市内であった三原朝彦・自民党衆院議員(同9区)の政経セミナーで、アフリカ諸国の支援に長年取り組む三原氏の活動に触れ「何であんな黒いのが好きなんだ」と発言していたことが分かった。」(毎日新聞)  
不祥事 2018
2018年1〜4月 自民党の疑惑・不祥事
1月
スパコン助成金不正受給問題 / スーパーコンピューター開発をめぐる国の助成金搾取事件について問題となった。しかし、世耕経済産業は政治家の関与を否定した。
「 一方、安倍晋三首相は「補助金の交付などについてはそれぞれの所管省庁、実施機関で法令や予算の趣旨にのっとって、適正に実施されるべきだ」と繰り返し強調した。 」
前内閣府副大臣の不適切発言問題 / 松本文明前内閣府副大臣が沖縄県の米軍ヘリコプター付着時に関し「それで何人死んだんだ」と野次を飛ばし、事実上更迭された。
「 松本文明・内閣府副大臣(自民党)は26日夕、安倍晋三首相と首相官邸で面会し、沖縄県で続発する米軍ヘリコプターの不時着などのトラブルをめぐって国会で「それで何人死んだんだ」とヤジを飛ばした責任を取り、辞表を提出、受理された。 」
茂木経済経済産業大臣 公職選挙法違反問題 / 茂木敏光経済産業大臣の秘書が有権者へ線香配布し公職選挙法に違法しているのではないかと話題になった。総務省は、違法かどうかを発表しなかった。
2月
厚生労働省の不適切な調査データ問題 / 裁量労働制に関する労働時間のデータについて不適切な内容であることが発覚し、安倍総理大臣が謝罪を行った。
「 裁量労働制に関する厚生労働省の調査データに異常値が含まれていた問題を巡り、加藤勝信厚労相は26日の衆院予算委員会で、新たに233件の異常値が見つかったと明らかにした。これまでの分を加えると300件を超えた。安倍晋三首相は調査データそのものは撤回しない考えを示したが、調査の信用性は失われつつあり、野党側は、この調査に基づいて作成された働き方改革関連法案を撤回するよう要求した。 」
3月
森友学園 決裁文書改ざん問題 / 森友学園への国有地売却に関する決裁文書を財務省が改ざんしていたことが発覚した。
「 財務省が「森友文書」を“改ざん”した疑いが2日、浮上した。森友学園への国有地売却問題に関し、財務省による決裁文書の原本が、昨年2月の問題発覚後に書き換えられた疑いがあると、同日の朝日新聞が報じた。財務省は、原本の存否について否定も肯定もせず、「調査したい」の一点張り。 」
文部科学省 教育への介入問題 / 文部科学省が前川喜平前次官が行った名古屋市内の公立中学校での授業の内容を、学校側に確認していたことが発覚した。
「 文科省は今月1日、市教委に対し、前川氏が同省の組織的天下り斡旋(あっせん)問題で辞任したことや出会い系バーを利用していたことを指摘した上で、授業の内容や前川氏を講師として招いた経緯などについてメールで尋ねた。その際、授業内容の録音データがあれば提供するよう要請した。 」
4月
厚労省東京労働局長 「是正勧告」発言問題 / 厚労省東京労働局長が記者会見で「皆さんの会社に行って、是正勧告してもいいんだけど」と発言し問題になった。厚労省東京労働局長は、12日後に更迭された。
「 勝田氏は3月30日の会見で、社員が過労自殺した野村不動産への特別指導の経緯の説明を求める記者に対し、「何なら皆さんのところ(に)行って是正勧告してあげてもいいんだけど」などと発言。昨年12月26日の会見で野村不動産への特別指導を公表した際は、前置きとして「プレゼントもう行く?」などと発言していた。これらの発言などを受けて国会に参考人として招致され、謝罪していた。 」
イラク派遣部隊 日報隠蔽問題 / 「ない」とされていた陸上自衛隊のイラク派遣部隊の活動に関する日報が隠蔽されていたことが発覚した。
「 政府が「存在しない」としていた陸上自衛隊の日報がまた見つかった。防衛省が2日、陸自内での保管を明らかにしたイラク派遣時の日報。事実上の「戦地派遣」と言われたイラクでの活動を記した日報が公表されてこなかったことに、野党は反発を強めている。 」
加計学園 「首相案件」問題 / 加計学園問題で柳瀬唯夫前首相秘書官が「本件は首相案件」などと発言したことが愛媛県や学園関係者と面会した際の文書から発覚した。
「 学校法人「加計(かけ)学園」が愛媛県今治市に獣医学部を新設する計画について、2015年4月、愛媛県や今治市の職員、学園幹部が柳瀬唯夫首相秘書官(当時)らと面会した際に愛媛県が作成したとされる記録文書が存在することがわかった。柳瀬氏が面会で「本件は、首相案件」と述べたと記されている。政府関係者に渡っていた文書を朝日新聞が確認した。 」
首相秘書官 野党議員へのヤジ問題 / 佐伯耕三首相秘書官が国会にて、希望の党・玉木雄一郎代表にヤジを行ったとして問題となった。
「 玉木氏が首相に加計学園の計画を知った時期などをただしていると、佐伯氏は繰り返し発言。玉木氏によると「違う」「間違っている」などと繰り返したという。抗議を受けた佐伯氏は首相への助言だと説明し、首相も同調したが、玉木氏は「私じゃなくて総理に向かって言うべきだ」と指摘。佐伯氏は何度もうなずき、その後は首相に近寄って助言するように改めた。 」
厚労省局長 セクハラメール問題 / 厚生労働省局長が女性社員に対し、セクハラを疑われるようなメールを送付していた。
「 厚労省によると、福田局長は女性職員に対し、勉強会に関連して食事に誘うなどセクハラが疑われるメールを複数送っていた。厚労省は2月末に、この職員宛てのメールを一切送らないよう口頭で注意した。 」
財務省事務次官 女性記者へのセクハラ発言問題 / 福田淳一財務次官が取材をしていた女性記者に対しセクハラ発言をしたと報道され、音声も公表された。福田淳一財務次官はセクハラを認めず辞任を表明した。
「 政府が4月24日の閣議で、週刊新潮がセクハラ疑惑を報じた福田淳一・財務省事務次官の辞任を了承したと、毎日新聞などが報じた。12日発売の同誌が、福田氏が複数の女性記者にセクハラ発言を繰り返していたと、発言を録音した音声データなどもあわせて報道。福田氏は報道の内容を否定したが、「次官としての職責を果たすことが困難になった」と、18日に麻生太郎財務相に辞任を申し出ていた。 」
自衛官 野党議員への暴言問題 / 幹部自衛官が、民進党の小西ひろゆき議員に対し、「お前は国民の敵だ」と罵声を浴びせた。
「 防衛省は、今月16日に現役の自衛官が民進党の小西洋之参院議員をののしった問題で調査の結果を明らかにしました。この自衛官は安保法制の採決を巡る小西議員の行動などに違和感を持っていて、ランニング中に偶然出会った際、「国のために働け」「気持ち悪い」「馬鹿」とののしったと説明しています。ただ、小西議員が主張する「国民の敵」という発言は否定しています。この結果を受けて小西議員は「国民の敵」という暴言を「組織ぐるみで隠蔽する動きではないか」と批判を強めています。 」
野党の審議拒否で「解散発言」も話題に / 野党が審議拒否を行う中、自民党の森山裕国対委員長が「内閣不信任決議案が提出されれば解散も一つの選択肢だ」と述べたことが話題となっている。
「 野党の審議拒否で国会の混乱が長引く中、自民党は25日、衆院解散・総選挙の可能性をちらつかせて手詰まり状態の打開を図った。折しも野党陣営は、民進、希望両党による新党結成などで離合集散の途上。自民党側は、野党の選挙準備や共闘構築は進んでいないとみて、揺さぶりをかけた格好だ。これに対し、立憲民主党など6野党は安倍政権の退陣を求めて抗戦する構えだ。 」  
官邸の危機管理 不祥事 2018/2
安倍晋三首相(63)や菅義偉官房長官(69)による危機管理の要諦は「迅速」であることが改めて確認された。先月、不適切なヤジをした松本文明内閣府副大臣(68)の事実上の更迭は、菅氏が事態を把握してから20分ほどで首相との間で方針が共有され、政権への影響は最小限に食い止められた。一方、過去には稲田朋美元防衛相(59)がなかなか辞任せず内閣支持率が低下した例もある。レッドラインはどこにあるのか。
松本氏は1月25日の衆院本会議で、沖縄で相次ぐ米軍ヘリの事故について質問した共産党の志位和夫委員長(63)に「それで何人死んだんだ」と罵声を浴びせた。共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が26日に報じた。
関係者によると、菅氏に伝わったのは26日午後4時13分の参院本会議後。菅氏は「はらわたが煮えくりかえる。政権の立場と違い過ぎる。もうダメだな」と考えた。松本氏側に事実確認をし、更迭方針を固めた。政権が進める米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設が争点となる名護市長選の投開票を2月4日に控えていたことも決断を後押しした。
参院本会議後に約20分間開かれた衆院予算委員会と参院予算委の間の短時間、菅氏は国会内で首相と向き合い、言葉を交わした。
菅氏「辞任させます」
首相「そうしてくれ」
松本氏はこの1時間半後の午後5時59分に首相官邸に辞表を携えて菅氏を訪ね、その足で首相に提出した。名護市長選は自民、公明、維新各党が推薦する候補が初当選し、結果として判断が吉と出た。
似たようなことは平成29年4月25日にもあった。当時の今村雅弘復興相(71)が所属する自民党二階派のパーティーで講演し、東日本大震災の被害に関し「まだ東北で、あっちの方だったからよかった」と述べた。同じパーティーで首相は「東北の方々を傷つける極めて不適切な発言だ。おわびさせていただきたい」と謝罪し、首相に促される形で今村氏は直ちに辞任した。
沖縄は昨年の衆院選で4選挙区のうち3選挙区で自民党が敗れた。復興は政権が最重要課題に挙げる。どちらも官邸側が敏感になっているのは間違いない。
対照的な扱いとなったのが、26年10月にうちわ配布問題で辞任した松島みどり元法相(61)と、29年7月に陸上自衛隊の南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題で引責辞任した稲田氏だ。
松島氏は就任2カ月足らずで辞任したが、政権内に積極的にかばう声はほとんど聞かれなかった。他方、稲田氏はたびたび防衛政策をめぐる答弁に窮し、涙ぐむこともあって資質を問題視された。東京都議選の応援演説で「防衛省、自衛隊としてもお願いしたい」との失言も犯し、自民党惨敗の一因となった。
それでも首相は周囲に「内閣改造で交代させればいい」と話していた。首相は稲田氏を「初の女性首相候補」と見定めて政調会長や防衛相に抜擢してきただけに、党内には温情によるものとみる向きも多い。
山本有二元農林水産相(65)は在任中の28年10月、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)承認案に関し「強行採決するかどうかは衆院議院運営委員長が決める」と述べ、批判された。この前に衆院TPP特別委の自民党理事が強行採決の可能性に言及して辞任していたが、山本氏は内閣改造まで農水相にとどまった。
山本氏は石破茂元幹事長(61)率いる石破派に所属しているが、首相とも近い。首相の出身派閥・細田派幹部の下村博文元文部科学相(63)は在任中に教育関係団体からの献金が発覚したが、内閣改造まで続投した。
首相の盟友としてアベノミクスやTPP交渉の中心を担った甘利明元経済再生担当相(68)が28年1月、秘書による金銭授受問題を受け自ら身を引いた例もある。とはいえ、疑惑・不祥事の内容にもよるが、やはり首相との距離感が進退の線引きとなっているようだ。 
官庁不祥事にも大臣引責ゼロ 2018/4
霞が関といえば国の役所が集まる場所。事務方の最上位にある官僚は「次官」である。しかし、読んで字のごとく「次官」はあくまでもナンバー2。それぞれの省庁のトップは「大臣」で、省内で大きな不祥事が起きた場合、大臣が責任をとるというのが歴代政権の常識だった。
現状はどうだろう。昨年から今年にかけ次々と主要官庁による隠蔽やでっち上げが露見しているというのに、辞めた大臣は一人もいない。いずれも“原因究明”を理由に居座っており、無責任政治がまかり通る状態だ。
もともとなかった政治への信頼が、これまで以上に失われつつある。
「引責」しない大臣たち 
よくもまあ、次から次に役所の不祥事が続くものだ。昨年から今年にかけて、防衛省、文科省、厚生労働省、財務省と主要な官庁の役人による文書の隠蔽や虚偽答弁が明らかになった。官僚が何をやってきたのか下にまとめたが、歴代政権では起き得なかった事件ばかりである。
いずれも大臣の首が飛んで当然の事案。実際、役所の不祥事で大臣が責任をとらされた例は枚挙に暇がないが、安倍政権になって引責辞任した政治家は一人もいない。
辞めたのは、甘利明元経済再生担当相や小渕優子元経産相のように“政治とカネ”にまつわる事件を起こすか、今村雅弘元復興相のように問題発言を咎められるといった“本人の不行跡”が問題になったケースだけ。日報問題の責任をとる形となった稲田朋美前防衛相の辞任にしても、役所不祥事の引責というのは建前で、都議選の応援演説で「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と発言したことが一番の原因だった。
腐った内閣に腐った大臣
辞めない理由について、各大臣は口を揃えて「原因究明と組織の立て直し」と言う。稲田氏もそうだったし、麻生氏も同じ理屈で財務大臣を続けている。しかし、安倍の3重苦といわれる森友、加計、日報といった問題には、所管庁の大臣自身が関わっている可能性がある。
悪徳警官や検察官が自らの犯罪を捜査し、立場の弱い第三者に罪を押し付けるのがテレビドラマの相場だが、安倍政権の閣僚たちがやっているのはこれと同じことだろう。腐った安倍政権には腐った大臣がよく似合う。
国民の信頼を失わせる重大な不祥事が起きたというのに、誰も責任を取らない組織――。つまりは腐った政府機関ということになるが、そこには政治が保つべき威厳は、みじんも感じられない。
憲法には《内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ》と定められており、『内閣法』も《内閣は、行政権の行使について、全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負う》と規定している。言うまでもなく、国会は選挙で選ばれた国民の代表が集う場所であり、そうした意味で内閣が責任を負うのは事実上「国民」に対してということになる。不祥事続きでありながら、閣僚が誰一人辞めようとしない安倍政権は、国会や国民に責任を負っていると言えるのか――。政権による一連の対応を見れば、答えが「NO」であることは明らかである。
元凶は安倍晋三
先月25日に開かれた自民党の党大会で挨拶した安倍晋三首相は、冒頭、次のように述べた。
「大変ご心配をおかけしており申し訳ない。国民の行政に対する信頼を揺るがす事態となっており、行政の長として責任を痛感している。行政全般の最終的な責任は首相である私にある。改めて国民の皆さまに深くおわび申し上げる。なぜこのようなことが起こったのか徹底的に明らかにし、全容を解明する。その上で二度とこうしたことが起こらないように、組織を根本から立て直していき、その責任を必ず果たしていくことを約束する。」
たしかに、国の行政機関を代表するのは内閣総理大臣である安倍氏だ。「行政全般の最終的な責任は首相である私にある」というのは正しい。当然、「責任がある」と認識していれば、事が起きた時「責任をとる」はずだが、安倍首相は言い訳ばかりで「責任をとる」気配さえない。
文書改ざん、隠蔽、でっち上げといった霞が関で起きているぞれぞれの“事件”は、いずれも安倍首相か安倍昭恵夫人を守るために官僚が起こした事件。だが国会質疑での首相は、終始“他人事”としての答弁しか行っていない。
「全容解明」を理由に現職に居座るような為政者を、この国では“卑怯者”“恥知らず”と蔑んできた。「日本の伝統文化を守る」とか「美しい国」とかを声高に叫んできた男が、実はいちばん日本の美徳を理解していない。 
「生産性」と「産めよ殖やせよ」 安倍政治に重なる戦前 2018/7
「産めよ殖やせよ」を国のスローガンに掲げた昭和16年(1941年)、日本は太平洋戦争に突入した。77年経った平成最後の年、政権政党の国会議員が月刊誌で「LGBTのカップルは生産性がない」という主張を展開し、厳しい批判を浴びる状況に――。少数差別の裏には、“女性は子供を産むのが当然”という考えがある。
女性に「国のために子供を産め」と迫る愚かな政治家が増えたのは、安倍晋三という極右政治家が政権を担ってからだ。第1次安倍政権の発足以来、大臣や党幹部が何度も同様の発言を行い、物議を醸してきた。一連の発言に通底しているのは「個人より国家」という全体主義的な考え方である。
LGBTをネタに朝日攻撃
問題の主張は、月刊誌「新潮45」が8月号で企画した《日本を不幸にする「朝日新聞」》に、自民党の杉田水脈という女性の衆議院議員が寄稿した「『LGBT』支援の度が過ぎる」の中で展開したもの。この中で杉田氏は、子供を産まないことを『LGBTのカップルは生産性がない』と決めつけ、LGBTについて報道する朝日新聞の姿勢を攻撃していた。声の小さな少数派が、朝日攻撃の材料に使われた格好だ。
納税者の権利を否定
LGBTとは、「性的少数者」の中の女性同性愛者(レズビアン;Lesbian)、男性同性愛者(ゲイ:Gay)、両性愛者(バイセクシュアル:Bisexual)、 性同一性障害(トランスジェンダー:Transgender)といった人たちの総称で、各単語の頭文字を組み合わせてできた表現だ。杉田議員は寄稿文の中で、子供をつくらないこうした人々への税金投入を否定する見解を示していた。安倍首相夫妻もそうだが、税金を払っていても子供がないカップルや独身者は、みんな「生産性がない」ということになる。納税者への税金投入が無駄だと主張する国会議員は、おそらく杉田氏が初めてだろう。
政治家には自由な発言が担保されているが、杉田氏のばかげた主張は自民党の政権公約にも反している。同党が昨年の総選挙にあたって公表した政権公約には、『性的指向・性自認に関する理解の増進を目的とした議員立法の制定を目指す。多様性を受け入れる社会の実現を図る』と記されているからだ。しかし、自民党では首相と距離を置く石破茂元幹事長や野田聖子総務相以外に、杉田氏の暴論を咎める動きはない。
“狂気”を宿した女性議員
では、杉田水脈とは一体何者なのか――。彼女の経歴をさらってみた。2012年の総選挙で日本維新の会から出馬し、比例近畿ブロックで復活当選。次世代の党に移った2014年の選挙では落選し、自民党公認を得た昨年の総選挙では、比例中国ブロック17位で2期目の当選を果たしている(現在は首相の出身派閥「細田派」所属)。
これまでの発言や主張を確認してみたが、所属してきた政党の色そのもの。「南京大虐殺も従軍慰安婦も嘘」「憲法改正に賛成」「国防軍創設」「保育所増設に反対」「総理の靖国参拝賛成」などなど、ウルトラ右翼としか言いようのないものばかりだった。「男女平等は、絶対に実現しえない反道徳の妄想」という過激な発言もある。なぜこうした“狂気を宿した人物”が国会議員のバッジをつけているのか分からないが、自民党そのものが、杉田氏の暴論を容認する組織に成り下がったということだろう。これは多様化ではなく、安倍政権になって顕在化した“歪み”とみるべきだ。
安倍政権下「産めよ殖やせよ」の大合唱
かつて、女性を「産む機械」と蔑んだのは、第1次安倍政権で厚生労働大臣を務めていた柳澤伯夫氏(引退)。この時以来、“国のために子供を産め”という考え方が安倍政権の共通認識になっているのではないか。以下、安倍政権下で問題視された発言の数々である。
杉田議員が「生産性」という言葉を使ったことは、女性を、子供を産む機械だと考えている証拠だろう。会見で、杉田氏の主張について聞かれた二階俊博幹事長は、「人それぞれ政治的立場、いろんな人生観、考えがある」として、事実上「LGBTのカップルは生産性がない」を容認する姿勢をみせたが、その二階氏自身、6月に都内で行った講演の中で「子供を産まない方が幸せじゃないかと勝手なことを考える人がいる」などと発言していた。
菅官房長官や山東昭子参院議員の発言も方向性は同じ。女性は、子供を何人も産むべきだと考えている。多様な生き方を否定し、少子化の責任を国民に押し付けているようなものだ。自民党議員による女性蔑視は今に始まったことではないが、安倍政権になってから女性に関する暴言・失言が繰り返されるのは、自民党が本音をむき出しにするようになった証でもある。
重なる「戦前」
杉田氏の政界入りを後押ししたのは右派の論客である櫻井よしこ氏で、自民党に誘ったのは安倍首相なのだという。いずれも「国家」や「国益」を声高に叫ぶ全体主義者。少数の声と真摯に向き合う気持ちなど、これっぽっちもない人たちなのである。モリ・カケ、日報といった不都合な話から逃げ回る一方、カジノ法や参院議員を6人も増やす改正公選法を強行採決した安倍政権。数の力で世論をも蹴散らす政治が、少数派に配慮するはずがない。
昭和16年(1941年)に閣議決定された「人口政策確立要綱」のスローガンとなった「産めよ殖やせよ」は、戦前の厚生省が掲げた「結婚十訓」の中の一つで、後には「国のため」という言葉が続く。要綱は、兵力や労働力の増強を目的としたものだ。軍事国家のために子供を産むことを奨励した戦前と、「戦争ができる国」を目指す安倍政治が重なる。 
“全員野球”安倍内閣の“珍言一覧” 2018/10
10月2日、安倍晋三首相が内閣改造と自民党役員人事を行った。初入閣が12人にも及ぶ第4次安倍改造内閣について、「実務型の人材を結集した」と語った安倍首相は「全員野球内閣」と命名したが、評判は上々とは言えないようだ。さっそく新閣僚からはさまざまな発言が飛び出している。過去の発言もあわせて振り返ってみたい。
柴山昌彦 文科相「(教育勅語について)アレンジした形で、今の道徳などに使える分野があり、普遍性を持っている部分がある」TBS NEWS 10月3日
初入閣した柴山昌彦文科相は就任会見で、戦前の教育で使われた教育勅語について「今の道徳などに使える」「普遍性を持っている部分がある」などと語った。「同胞を大事にするなどの基本的な内容について現代的にアレンジして教えていこうという動きがあり、検討に値する」とも述べた。
教育勅語とは明治天皇の名前で1890年に発布されたもので、戦前から戦中にかけて思想面で国家総動員体制を支えた。「君主」である天皇が「臣民」の国民を諭す形をとっており、国民主権、個人の尊重を掲げた現在の日本国憲法とは根本から相容れない。1948年に衆参両院で排除と失効が決議された。衆議院の決議では教育勅語が基本的人権を損ない、憲法に反するものだと明確に位置づけている。
教育勅語には親孝行や友愛などの徳目も含まれるが、ならば親孝行や友愛について教えればいいことであり、教育勅語にこだわる理由は1ミリもない。近現代史研究者の辻田真佐憲氏は、教育勅語が成立した歴史と内容について論じつつ、「部分的に評価できるところがあるからといって、『教育勅語』全体をそのまま公的に復活させようなどという主張はまったくのナンセンス」と結論づけている(現代ビジネス 2017年1月23日)。
柴山氏は5日の記者会見で「現在に通用する内容もあるが、政府として教育勅語の活用を(学校現場などに)促す考えはない」と語ったが(産経ニュース 10月5日)、そんなの当たり前のことだ。
過去に教育勅語を“推した”政治家たち
下村博文 自民党・憲法改正推進本部長「(教育勅語には)至極まっとうなことが書かれており、当時、英語などに翻訳されて他国が参考にした事例もある」産経ニュース 2014年4月9日
稲田朋美 自民党・筆頭副幹事長・総裁特別補佐「教育勅語に流れている核の部分は取り戻すべきだと考えている」日本経済新聞 電子版 2017年3月8日
近年、積極的に教育勅語について発言していたのは、下村博文氏と稲田朋美氏だ。
下村氏は文科相だった2014年4月8日の参院文教科学委員会で「(教育勅語を)学校で教材として使う」ことは「差し支えない」と発言。同日の記者会見でも「至極まっとう」と語っていた。稲田氏は防衛相だった2017年3月、参院予算委員会で「勅語の精神は親孝行、友達を大切にする、夫婦仲良くする、高い倫理観で世界中から尊敬される道義国家を目指すことだ」と発言していた(毎日新聞web版 2017年3月8日)。松野博一氏も文科相時代に「教育勅語を授業に活用することは、適切な配慮の下であれば問題ないと思います」と発言している(文部科学省ウェブサイト 2017年3月14日)。
自民党の和田政宗参院議員は下村氏の発言を下敷きに「教育勅語の精神を教育現場で活用することについて、柴山文科大臣の発言を批判している人がいるが、従来答弁を踏襲したもので、何ら問題はない」と柴山氏を擁護した(ブログ 10月4日)。なるほど、柴山氏は「政府として活用を促すことはない」と答えていたけど、自民党としては「教育勅語の精神(?)を教育現場で活用すること」に「何ら問題はない」と考えているわけね。
なお、下村氏と稲田氏は、今回の党役員人事で要職に復帰しているところが共通している。下村氏は、安倍首相にとって悲願である憲法改正について具体案を議論する憲法改正推進本部の本部長に就任。稲田氏は総裁特別補佐に就任した。
柴山昌彦 文科相「(渋谷区に同性愛者が集まったら)問題があるというよりも……社会的な混乱が生じるでしょうね」テレビ朝日『ビートたけしのTVタックル』2015年3月2日
これは当時、自民党のヘイトスピーチ対策プロジェクトチームで座長代理を務めていた柴山氏が渋谷区の同性パートナーシップ制度について議論する番組に出演したときの発言。このときは「同性婚を制度化したときに、少子化に拍車がかかる」とも発言し、エッセイストの阿川佐和子氏から「国のために役に立たない人間は認めないって話じゃないですか」と反論された。LGBTカップルのことを「生産性がない」と語った杉田水脈・自民党衆院議員とも通じる考え方だ。なお、柴山氏は2012年に「少し時間ができたので小川榮太郎氏の『約束の日 安倍晋三試論』を読み返す。闘志をかきたてられる一冊だ」ともツイートしている(10月8日)。
桜田義孝 五輪担当相「(放射能汚染されたごみの焼却灰は)人の住めなくなった福島に置けばいいのではないか」時事ドットコムニュース 10月5日
政府は東京五輪を「復興五輪」としているが、新たに五輪担当相になった桜田氏は文部科学副大臣だった2013年にこのような発言をしていた。桜田氏は5日の記者会見で過去の発言について「誤解されるような発言があったとすれば私の不徳の致すところだ」と陳謝したが、誰も誤解なんかしていない。
なお、桜田氏は五輪担当相の就任会見の冒頭、「パラリンピック」と上手く言えずに4回言い直していた。臨時国会で審議予定のサイバーセキュリティ基本法改正案について答弁する予定だったが、首相官邸が桜田氏の答弁を不安視しており、別の閣僚への変更を検討しはじめたという(朝日新聞デジタル 10月4日)。
平井卓也 科学技術・IT担当相「EM菌を使っている方がたくさんいるので幹事長を引き受けた。中身はよく知らない」毎日新聞 10月3日
初入閣の平井卓也科学技術・IT担当相は、科学的裏付けのない有用微生物群(EM菌)の利用を目指す超党派の「有用微生物利活用推進議員連盟」の幹事長を務めている。EM菌は実態の定義も概念の意味も不明瞭な疑似科学で、何の効果もないと批判されている。記者会見でEM菌議連の幹事長を務めていることについて問われた平井氏は「中身はよく知らない」と釈明した。よりによってすさまじい人を科学技術相に選んでしまった。
平井卓也 科学技術・IT担当相「黙れ、ばばあ!」中日新聞プラス 2013年6月29日
自民党ネットメディア局長時代の2013年には、「ニコニコ動画」上で生中継された党首討論で、社民党の福島瑞穂氏に対して「黙れ、ばばあ!」、日本維新の会の橋下徹氏の欠席が伝えられたときには「橋下、逃亡か?」などと書き込んでいたことが明らかになっている。安倍首相の発言の際は「あべぴょん、がんばれ」などと書き込んでいた。取材に対して「(国会の)やじみたいなものだ」と釈明している。これがIT担当相……。
桜田義孝 五輪担当相「(従軍慰安婦は)職業としての売春婦だった。犠牲者だったかのような宣伝工作に惑わされ過ぎだ」日本経済新聞 2016年1月14日
桜田氏の発言をもう一つ。自民党の外交関係合同会議で、韓国との従軍慰安婦問題についてこう発言した。この前年12月末の日韓合意で政府は慰安婦問題に関し、旧日本軍の関与と責任を認めたばかりだった。
原田義昭 環境相「南京大虐殺や慰安婦の存在自体を、我が国はいまや否定しようとしている時にもかかわらず、申請しようとするのは承服できない」朝日新聞デジタル 2015年10月2日
こちらはユネスコの世界記憶遺産登録をめぐる中国の動きへの対策を検討する自民党の国際情報検討委員会で、委員長だった原田氏の発言。原田氏はラジオ番組のインタビューでも「南京の虐殺というような評価にはまったく当たらない」などと発言していた(TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』2015年10月19日)。
原田義昭 環境相「杉田さんは自民党だけではなく国家の財産ですよ」『ジャパニズム』41(2月10日発売)
今年2月10日に発売された雑誌『ジャパニズム』で杉田水脈衆院議員と対談した原田氏は、「国家の財産」と絶賛した。原田氏はほかにも「僕なんか杉田さんが来るの夢みたいに待っていたんでね」「杉田さんの認識はきわめて一般的ですよ」などと語っている。
稲田朋美 自民党・筆頭副幹事長・総裁特別補佐「ミサイル防衛で1発目のミサイルを撃ち落とし、2発目(が撃たれる)までに敵基地を反撃する能力を持っていない状況でいいのか」朝日新聞デジタル 10月2日
これはつい先日の発言。北朝鮮問題のシンポジウムにゲストとして登場した稲田氏は、「北朝鮮は実は非核化の意思はないんじゃないか。経済制裁を緩めるべきではない」と圧力路線を主張。自衛隊による敵基地攻撃能力の保有を訴えた。日朝首脳会談の実現は稲田氏にとって眼中にないらしい。
第4次安倍晋三改造内閣について、プレジデントオンライン編集部は「“右寄りのお友達”で固めた安倍内閣」とストレートな見出しを打っている(10月4日)。共産党の小池晃書記局長は「全員野球内閣」というキャッチフレーズに引っかけて「首相と同じ毛色の政治家をそろえた右バッターばかりの『お仲間内閣』」と表現した(ツイッター 10月2日)。
今回の内閣では、公明党所属の石井啓一国土交通相を除き、安倍首相と自民党所属閣僚の19人全員が「靖国」派改憲右翼団体と連携する「神道政治連盟国会議員懇談会」と「日本会議国会議員懇談会」の二つの議連のいずれかに加盟歴があることが明らかになっている(しんぶん赤旗 10月4日)。
安倍首相は記者会見で「希望にあふれ、誇りある日本を創り上げ、世代に引き渡すため、内閣一丸となって、政策の実行に邁進する決意です」と語ったが(産経ニュース 10月2日)、いったいどのような国になってしまうのか注視していきたい。 
田崎史郎「一番出来の悪い内閣」…安倍改造内閣 2018/10
本日午後、第4次安倍改造内閣と自民党役員人事が発表された。安倍首相は「全員野球内閣」と称したが(笑)、早くも「在庫一掃内閣」「総裁選の論功行賞人事」「また安倍首相のお友だちばかり」と非難囂々。あの田崎史郎でさえ、「これまでの安倍内閣でいちばん出来の悪い内閣」「この人で大丈夫かなという人が5人くらいいる」と口にしたほどだ。
それも当然だ。何よりもまず、森友公文書改ざん問題にくわえてセクハラ問題で被害者女性を攻撃する発言をおこなった麻生太郎が副総理兼財務相を続投するなんて言語道断。しかも安倍首相は、口利き賄賂事件の疑惑追及・説明責任から逃げつづけている甘利明・元経済再生担当相を党4役の選挙対策委員長に、働き方改革一括法案の国会審議でデータ捏造が発覚した上、インチキ答弁を繰り返した加藤勝信厚労相を総務会長に抜擢したのである。
これだけでも論外の人事なのだが、さらに仰天したのは、下村博文、松島みどり、そして稲田朋美という“不祥事大臣”を党の要職に就けたことだ。
あらためて指摘するまでもないが、下村は文科相時代に任意団体「博友会」をめぐる政治資金問題で刑事告発される騒動を起こし、昨年には加計学園から計200万円を受け取っていたという“闇献金”疑惑まで発覚。「都議選が終わったら丁寧にお答えします」などと言っていたが、いまなお「丁寧にお答え」などしていない。
また、松島は自身の名前やイラストが入ったうちわを選挙区で配布した問題で2014年に法相を辞任。2016年には衆院外務委員会で審議がおこなわれている最中に堂々と携帯電話をいじったり読書したりという態度のひどさが問題となり、謝罪コメントを出したこともあった。
稲田元防衛相にいたっては、昨年、自衛隊の南スーダン日報隠蔽問題で防衛相を辞任したばかり。しかも、森友学園をめぐる虚偽答弁に、都議選での「自衛隊としてお願い」発言など問題を連発していたにもかかわらず安倍首相が庇いつづけ、日報隠蔽に稲田防衛相が直接関与していたことは明白だったのに、辞任したことを盾に閉会中審査への出席を拒否。最後まで説明責任を果たすことはなかった。
このような問題大臣を、安倍首相は何事もなかったかのように党要職で登用。下村は憲法改正推進本部長に引き上げただけでなく、うちわ配布で辞職した松島をよりにもよって広報本部長に、そして稲田には筆頭副幹事長と総裁特別補佐という役職を与えた。安倍首相は稲田を「ともちん」と呼び、“ポスト安倍”として寵愛してきたが、あれだけの問題を起こして党内からも批判が集中した稲田を、今度は自分のアドバイス役につけるというのだから、呆れてものが言えない。
だが、話はこれで終わらない。初入閣・再入閣の新メンバーも、スキャンダルや疑惑・問題を抱えた“大臣不適合者”が山のようにいるからだ。
その筆頭は、無論、地方創生相に選ばれた片山さつきだろう。片山といえば“生活保護バッシング”の急先鋒であり、2016年にも貧困女子高生バッシングに参戦し、Twitterで“貧乏人は贅沢するな!“といった批判を公然と展開。
これだけで大臣の資質はまったくないと断言できるが、さらに片山は“デマ常習犯”としても有名で、2014年に御嶽山が噴火した際には〈民主政権事業仕分けで常時監視の対象から御嶽山ははずれ〉たなどとツイートしたものの、実際は御嶽山が観測強化対象から外れていなかったことが判明し謝罪。また、同年には「NHKの音楽番組『MJ』では韓国人グループ・歌手の占有率が36%。これでは“ミュージックコリア”だ」などと国会で質疑。しかしこれも同番組の韓国人グループ・歌手の出演率は約11%でしかなかったことがすぐさま判明、その上、この「占有率36%」というのは2ちゃんねるに書き込まれた情報で、それを片山が調査もせずに鵜呑みにしたのではないかと見られている。
さらに、今回の内閣改造で目を疑ったのは、今年の通常国会で安倍政権が強行採決したカジノ法案で、大スキャンダルがもちあがった岩屋毅議員を防衛相に抜擢したことだ。
その大スキャンダルとは、「週刊文春」(文藝春秋)7月19日号が報じた「安倍政権中枢へのカジノ『脱法献金』リスト」という記事。同誌によると、超党派のIR議連に所属する自民党を中心とした政治家に対し、米国の大手カジノ企業「シーザーズ・エンターテインメント」が、間接的にパーティ券購入のかたちで資金を提供していたという。その政治家への資金提供リストには、麻生太郎副総理や西村康稔官房副長官らと並んで、カジノプロジェクトチーム座長(IR議連幹事長)を務めた岩屋議員の名前が記されていたのだ。
政治資金規正法第二十二条では、外国人および外国の法人・組織からの献金が禁じられており、日本でのカジノを進めようとする自民党議員らが外国カジノ企業のロビイストを通じてパーティ券を購入してもらっていたという事実は、明らかに法の目を潜り抜けようとする悪質行為だ。こんな問題がもち上がって3カ月も経っていない岩屋議員を防衛相に据えるとは……。
“疑惑の人物”といえば、国家公安委員長となった山本順三議員も同じだ。というのも、山本議員は愛媛県今治市出身で、加計学園問題でも名前が浮上。2014年に下村元文科相がセッティングをおこない、加計孝太郎理事長と会食をおこなっていたことが下村事務所の日報からあきらかになっているほか、今年発覚した愛媛県新文書でも、〈加計学園の直近の動向・今後の予定〉なる項目で〈3/8 山本順三参議院議員を励ます会に出席した下村文科大臣と面談〉と名前が登場している。
また、山本議員は加計疑惑の登場人物のひとりであるだけではなく、安倍政権の特徴ともいえる“圧力・恫喝”体質の持ち主だ。事実、安倍首相が内閣官房副長官時代に放送前のNHKのドキュメンタリー番組に政治的圧力をかけ、NHK放送総局長に対し「勘ぐれ、お前」と言い放ったとされる「NHK番組改変問題」をめぐり、山本議員は2006年に国会で、裁判で改変の実態を証言した番組制作者2名について「NHKはどのようなけじめをつけるのか」と処分を迫り、結果、この2名には制作現場から外されるという報復人事がおこなわれた。こうした人物が国家公安委員長に就任するとは、背筋が凍る。
さらに、文科相となる柴山昌彦・総裁特別補佐は、2015年に『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日)に出演した際、「同性婚を制度化したときに、少子化に拍車がかかるのではないか」と発言。同性婚と少子化にはまったく関係がないにもかかわらず、「経済的な制度と違って家族制だとか文化伝統の問題というのは一挙手一投足には変えられないもの」などと述べた。同性愛者に対する法的な不平等には目も向けず“伝統的家族観”をもち出す人物を文科相に抜擢したことは、安倍政権の本質を表しているといっていいだろう。
このほかにも、ネトウヨの巣窟とされる自民党ネットサポーターズクラブ、通称「ネトサポ」の代表をつとめ、2013年におこなわれたニコニコ生放送の党首討論会で福島瑞穂議員の発言中に「黙れ、ばばあ!」と書き込んだことが発覚したこともある平井卓也議員が、科学技術・IT担当相として初入閣するなど、すでに問題大臣が続出の安倍改造内閣。安倍首相周辺は、徹底して“身体検査”をおこなったというが、ここまで挙げてきた新大臣たちの言動やスキャンダルは問題ないというのだろうか。
いや、この安倍改造内閣は、問題発言やスキャンダルを抱えた大臣が揃っているということだけではない。もうひとつの問題、それは極右議員が集結した「ネトウヨ内閣」だということだ。
 
不祥事 2019
桜田元五輪大臣、サイバーセキュリティ担当大臣も辞職… 2019/4
□桜田五輪相「復興以上に大事なのは高橋さんでございますので、よろしくどうぞお願いいたします」 桜田氏は(2019年4月)10日夜、岩手出身の自民党・高橋比奈子衆院議員のパーティーであいさつし、「東日本大震災ということは、岩手も入っている」などと述べたうえで、「復興以上に大事なのは、高橋さんです」と、被災者を軽視するような発言をした。
□安倍晋三首相は(2019年4月)10日、辞任した桜田義孝五輪相の後任に、前五輪相の鈴木俊一衆院議員を再起用する方針を固めた。鈴木氏は11日に皇居での認証式を経て正式に就任する。
□鈴木俊一氏 早大卒、五輪相、環境相。衆院岩手2区、当選9回、65歳。麻生派。
桜田義孝元大臣(千葉県第8区)の失言ばかりがニュースに取り立てられた。しかもバラエティニュース受けしそうな単純な失言ばかりだ。ツラの皮のあつい大臣はそれでも繰り返す。
その裏で本来、ニュースになるべき事象がニュースにならなくなってしまう。さすがに、これ以上は無理と判断した安倍首相も更迭を決意した。二階派に十分すぎるほど義理を果たしてきた…。何よりも、天皇陛下のご譲位(退位ではなく)までの忙しいさなか、本日(2019年4月11日)新大臣の『認証官人命式』が急遽執り行われるという。どれだけ急遽な割り込みだ。閣僚の認証式なんて組閣時の一回限りで良いと筆者は考える。毎度、天皇陛下をお呼び立てする法律こそ改正すべきだ。しかし、単なる法律ではなく憲法第7条五の国事行為なので改憲となるのか…。
二階派(志師会)の権限が弱まる…
かつては、閣僚になりたければ二階派とまで云われたほど二階派には実力があったが、これだけ閣僚の不祥事が続くと、二階俊博(80歳)率いる二階派(志師会:しすいかい)の勢力も弱まりつつあるだろう。ここまで、二階派によってかばい続けられてからの再々失言だからだ。
何よりも、このところの失言のリークが、メディアのいない、しかも身内で固められたパーティー席での来賓挨拶というケースが多い。誰もが、録音できるスマートフォンを持っている時代だからこそ、絶対にリップサービスなどでウケを狙うべきではない。サービス精神が旺盛な議員ほど、饒舌に失言してしまう。それをさらに、身内が外部へリークするという時代なのだ。政治家はどんな場でも決して油断すべきではない。飲んでいる席での記者へのセクハラ発言も時代錯誤だったが、まさかの録音だった。
日本の『サイバーセキュリティ担当大臣』職は五輪大臣とセットで良いのか?
今回、一番気になったのが、桜田義孝(元大臣)議員が、五輪大臣を辞意の報道はたくさん見かけるが、 ITの要となる『サイバーセキュリティ担当大臣』職は、どうなったのか? 筆者は、五輪担当大臣なんかどうでもよく、この日本のサイバーセキュリティの最重要責任職の担当大臣のほうが気になった。そもそも、『サイバーセキュリティ担当大臣』職は五輪大臣とセットで良いのか?と思い続けている。
当然、五輪が始まる前から終わるまでは、サイバーセキュリテ担当大臣の名前はたとえお飾りであったとしても、何らかの最終ジャッジは迫られることがある。セキュリティは五輪の時だけではないからだ。たとえお飾りの大臣といえども別けて考えるべきだと思う。
内閣サイバーセキュリティーセンターに質問してみた…
昨日は、内閣府に連絡がつかなかったので、本日、内閣サイバーセキュリティーセンターに担当者に質問したところ…
「ご本人が大臣の辞意を表明されたので、同時にサイバーセキュリティ担当職も辞されたことになります。同時に、鈴木俊一五輪大臣が兼任すると聞いております」
と内閣府のサイバーセキュリティーセンターの○○さんは筆者の質問に答えてくれた。つまり、五輪相と常にセットになっているのが、サイバーセキュリティー戦略本部なのだ。
ちなみに、現在のIT・科学技術政策担当の国務大臣は平井卓也大臣である。良し悪しは別として、「サイバーセキュリティ基本法」「官民データ活用推進基本法」などを10年にわたり、IT戦略特命委員長を続けてきた。サイバーセキュリティの担当大臣は、ITのわかる官僚が多い国務大臣か、文部科学相の兼任がふさわしいのではないだろうか?
しかし、平井大臣は、『岸田派 宏池会(こうちかい)』だ。
安倍首相は、父の代の安倍晋太郎から受け継ぐ『細田派 清和政策研究会:清和会(せいわかい)』だ。今回の後任は、『麻生派 志公会(しこうかい)』の鈴木俊一大臣だ。父は鈴木善幸元首相、麻生太郎副首相は義兄にあたる。
大臣登用は、常に派閥との勢力パワーバランスで選ばれている。しかし、国民にはそこまで情報が行き渡っていない。むしろ、選挙の時は、政党だけでなく、派閥の力関係の情報も開示し選ばせたほうが良いだろう。
すくなくともサイバーセキュリティ担当大臣は、内閣府の一存で決められる事項であるので、五輪とサイバーセキュリティという繁忙期のある職責は二分化したほうがリスクが少ないと思う。
桜田義孝元大臣の任命責任は安倍首相にあるが、政治の世界へ代議士として送り込んだのは、千葉県第8区の有権者だ。7期当選で20年以上信任を得てこられている。
もっとITのチカラで選挙のたかだか2週間ではなく、現職議員は、たくさんの情報を比較検討できるようにしなければならない。むしろ、『国民の知る権利』が充足されなければならない。
総務省の選挙対策本部は、候補者のまとめ記事サイトを作り、比較検討しやすくするべきだろう。そのためには、議員の出費動向こそ、キャッシュレス化し、国民がリアルタイムに監視できる状況にするようなアプリを提供すべきだ。ゆくゆくは、スマートフォンでも投票できるようにする。
まずは、政治の世界が旧態依然として古い体質のまま、いまだに若い古狸が闊歩している状況だ。これを変えていく為には、政策が政局で変わりつづける野党でもない。ITのチカラを駆使して選ぶあなたのリテラシーだ。 
 
安倍晋三

 

2007
第1次安倍改造内閣・突然の辞任 2007/9
衆議院議員の安倍晋三が第90代内閣総理大臣に任命され、2007年(平成19年)8月27日から同年9月26日まで続いた日本の内閣である。改造前と同じく自由民主党と公明党との連立内閣(自公連立政権)である。在任期間は30日間。

9月10日召集の第168回国会で安倍は「職責を果たし全力を尽くす」と所信表明演説を行なった。しかし9月12日の正午過ぎにテロ対策特別措置法の延長が厳しくなったこと、野党との党首会談で問題を解決できそうもないことなどを受け国会対策委員長の大島理森に首相辞任の意向を伝え、午後2時からの記者会見で正式に首相辞任の意向を表明した。当日は、午後1時から所信表明演説に対する民主党の鳩山由紀夫、長妻昭から代表質問が行われる予定だったが、それを目前にしての辞任表明であったため、政権交代を目指す民主党議員たちからも大いに驚きを持って受け止められた。
内閣官房長官の与謝野馨が首相辞任会見直後に安倍が述べなかった重大な辞任理由として健康問題があることを直ちに補足したものの、海外メディアを含めて「敵前逃亡」「政権放りだし」「偽りの所信表明」などとさんざんな酷評をこうむる事態となった。
安倍自身が会見で語った辞任理由について、盟友とされる前官房長官の塩崎恭久は「口実に決まっている」と解説した。これに加えて安倍の突然の辞任会見の数日前から、安倍が主導権を幹事長(麻生太郎)―官房長官(与謝野)ラインに奪われているらしいこと、およびチーム安倍が内閣改造で空中分解したために安倍が孤立しているらしいことなどが新聞はじめ各方面から示唆されていた。
安倍は9月13日から体調不良(病院が公表した病名は機能性胃腸障害)を理由に都内にある慶應義塾大学病院に入院していた。辞任表明会見後の最初の記者会見を9月24日17時から病院内で行い、国民に対する謝罪を表明し、病気辞任であることを正直に述べるべきであったことを率直に認めた。またチーム安倍の空中分解を辞任理由とする説については、会見後の質疑応答で完全否定している。 この11日間の入院期間中に安倍は一度も病院外へ出ることはなかったが、政府は安倍とは連絡が取れる状態であることを理由に首相臨時代理を置かなかった。首相としての執務は病室の隣の部屋で行なっていたという。
福田康夫内閣の組閣人事が固まった2007年(平成19年)9月25日、内閣は総辞職し、安倍は自内閣の総まとめとなる談話を発表した。福田新内閣の認証式が翌26日になったため、安倍改造内閣の任期は自動的に2007年(平成19年)9月26日までの31日間となった。このため安倍の首相としての通算任期は366日となった。これは日本国憲法下の首相では7番目の任期の短さであった。また内閣改造後の16日後の退陣表明と29日後の内閣総辞職は第2次田中角榮内閣第2次改造内閣(改造後15日後に退陣表明、28日後に総辞職)に次ぐ短い退陣記録となった。
なお参院選の結果や今回の改造内閣人事を反映させるため、9月18日に出版が予定されていた国会議員要覧(国政情報センター)、9月19日に出版が予定されていた国会便覧(日本政経新聞社・2月と8月の年2期刊、および総選挙後の臨時版がある)は安倍の退陣表明を受け販売の急遽中止を決定した。より新しい情報を反映させるためで、最新版には新たに発足する内閣の閣僚名簿が掲載されることとなる。これらの書籍にとっては1989年(平成元年)6月にわずか69日間で退陣した宇野内閣以来の「幻の内閣」となる。
この辞任を受けて、朝日新聞社が9月13日に緊急世論調査を行なったところ、70%が「こういう形の辞任は無責任」と、50%が「早期に衆議院解散するべき」という結果が出た。  
2011  
 
2012  
 
2013  
 
2014  
 
2015  
 
2016  
 
2017  
加計学園疑惑
岡山県に本拠を置く加計学園グループ。複数の大学、幼稚園、保育園、小中高、専門学校など様々な教育事業を配下に収める一大教育グループで、現理事長の加計孝太郎氏は、安倍首相の30年来の親友だ。
首相は加計氏のことを「どんな時も心の奥でつながっている友人、腹心の友だ」と、昭恵夫人は加計学園が運営する認可外保育施設の「名誉園長」を務めていた。
親友が経営する大学を、政府が国家戦略特区に定めて規制緩和。本来、認可されるはずのない新学部の設置を認め、約37億円の市有地がこの大学に無償譲渡されることになった。
経緯
加計学園はもともと、10年前から今治市に岡山理科大獣医学部キャンパスの新設を申請していたのだが、文科省は獣医師の質の確保を理由に獣医師養成学部・学科の入学定員を制限しており、今治市による獣医学部誘致のための構造改革特区申請を15回もはねつけてきた。ところが、第二次安倍政権が発足すると一転、首相は2015年12月、今治市を全国10番目の国家戦略特区にすると決め、16年11月には獣医学部の新設に向けた制度見直しを表明するなど、開校に向けた制度設計を急激に進めた。
今年1月4日、国が今治市と広島県の国家戦略特区で獣医師養成学部の新設を認める特例措置を告示、公募を開始した。募集期間は僅か1週間。案の定、応募したのは加計学園だけ。首相を議長とする国家戦略特区諮問会議は、1月20日、同学園を事業者として認可し、今治市はこれを受け、市有地約17万m2(約37億円)を加計学園に無償譲渡することを決定した。
周辺
首相の側近的役割を務めた官僚の加計学園天下り。
行政による隠蔽疑惑。[「(文部科学省)国家戦略特区等提案検討要請回答」、その内容及び省庁の回答などすべて「非公表」とされている。]
感想
直接的な金銭授受はなくとも、経緯の本質は「収賄」「あっせん収賄」と同じ。
官邸は「事実ではない」と根拠も示さず切り抜けようとしている。政権が事実認定する、「政権が言うことが事実であり、正しい」というやり方は、大昔の独裁政治の論法では。
前川発言の背景
2014年発足の内閣人事局が、霞が関の幹部人事権の全てを握るようになり、全省庁が完全屈服の状態になった。  
メディアの立ち位置
朝日・毎日・日経・・・ 忖度新聞 産経・・・ 政権応援団 読売
TBS・テレ朝・フジテレビ・・・テレビ東京・・・ 忖度テレビ NHK・日テレ
古舘伊知郎・岸井成格・羽鳥慎一・玉川徹・尾木直樹・寺脇研・池上彰・田原総一朗 ・・・小倉智昭・宮根誠司・須田慎一郎・細川隆三・・・ 政権応援団 田崎史郎・山口敬之・松本人志・後藤謙次・辛坊治郎・青山和弘
官邸語録
「怪文書のたぐい」 (菅義偉官房長官)
「文書の存在が確認できない」 (松野博一文科相)
「そもそも獣医学部新設については自民党政権では認めなかったのに民主党政権で認める方向になった。安倍政権はそれを引き継いで今回の動きとなった」 (首相)
前川氏の証人喚問「明確に必要ない」 (竹下亘国対委員長)
「会議録を処分したからわからない」「調べたが確認できない」 (政府与党)
「和泉氏から『そのような発言をしたことはなく首相から指示を受けたこともない』と聞いている」 (萩生田官房副長官)
「(文科省からは)該当する文書の存在は確認できなかったと聞いている」
「(文書は)出所不明で信憑性も欠けている」
「文書に書かれたような事実はない」
「法律に基づいて行っていることで、ゆがめられたということはまったくない」
「作成日時だとか作成部局だとか、そんなものが明確になってない」
「何を根拠に。まったく怪文書みたいな文書。出所も明確になっていない」
「この国家戦略特区の会議、その議論を得て策定しているわけです。それについてはみなさんご存じの通りオープンにされるわけで、お友だち人脈だとか、そういう批判はまったくあたらない」
不自然な経緯「批判はまったくあたらない」常套句でシャットアウト
「出所不明で信憑性も定かでない」「文書の存在は確認できなかった」「そういう事実はない」「指摘はあたらない」を連発
「1回調査したが文書の存在は確認できなかったと大臣も言っているから、それ以上でもそれ以下のことでもない」
「文部省として大臣のもとで調査をしたと。その結果、確認できなかったから、ないということ。それに尽きるんじゃないですか?」
前川文書「文科省が行った調査で存在が確認できなかった」
安倍首相の関与「指示は一切なかった」

「地位に恋々としがみつき、世論の批判にさらされて、最終的に辞任を承知した」
出会い系バー通い「さすがに強い違和感を覚えた。多くの方もそうだったのでは」「常識的に言って教育行政の最高の責任者がそうした店に出入りして小遣いを渡すようなことは、到底考えられない」
「文科省を辞めた経緯について、記事には『自分に責任があるので自ら考えて辞任を申し出た』とあったが、私の認識とはまったく異なる」「前川氏は当初は責任者として自ら辞める意向をまったく示さず、地位に恋々としがみついていた。その後、天下り問題に対する世論の極めて厳しい批判に晒されて、最終的に辞任した人物」
「当初は責任者として自ら辞める意向を全く示さず、その後に世論からの極めて厳しい批判などにさらされて、最終的に辞任された方だ」
「天下りの調査に対し問題を隠蔽した文科省の事務方の責任者で、本人も再就職のあっせんに直接関与していた」
「自身が責任者の時に、そういう事実があったら堂々と言うべきではなかったか」

「前川前次官が出会い系バー通い」5/22 読売新聞朝刊1面
官邸VS前川前次官 「加計文書告発」で全面戦争突入 5/26
 内偵でバレた!出会い系バー通い常連「捜査当局すべて把握」
文部科学省の前川喜平前事務次官(62)が、25日発売の「朝日新聞」や「週刊文春」のインタビューに応じた。安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」(岡山市)が、国家戦略特区に獣医学部を新設する計画をめぐる「文書」について、「本物」「行政がゆがめられた」と語った。菅義偉官房長官はこれを完全否定し、激怒した。今後、官邸と前川氏側は全面戦争に突入しそうだ。こうしたなか、東京・歌舞伎町での「管理売春」(売春防止法違反容疑)を内偵していた捜査当局が、前川氏らによる「出会い系バー」(連れ出しバー)での動向を確認していたことが分かった。
「内閣府と文科省に確認したが、『文書に書かれた事実はない』『総理からも指示はない』との説明だ。私について書かれた部分もあったが、説明を受けた覚えはない。国家戦略特区は、規制の岩盤にドリルで風穴を開ける制度だ。行政がゆがめられたことはない」
菅氏は25日午前の記者会見で、前川氏の発言を否定した。「(前川氏は)地位に連綿としがみついた」と言い放つなど、怒り心頭に発しているようだ。
前川氏は、朝日新聞が同日報じたインタビューで、内閣府と文科省のやりとりを記録したとされる「文書」について、「(担当職員から)自分が説明を受けた際に示された」といい、本物と認めた。文書には「官邸の最高レベルが言っている」「総理の意向だ」と記されていた。
これまで、菅氏は「怪文書みたいな文書」と発言。松野博一文科相も「該当文書の存在は確認できなかった」と調査結果を発表していた。
つまり、前川氏は、安倍政権の天敵である朝日新聞とタッグを組んでケンカを仕掛けたわけだ。
告白理由について、前川氏は「あるもの(文書)が、ないことにされてはならないと思った」といい、獣医学部新設について「むだな大学をつくったとの批判が文科省に回ってくると心配した」「『総理のご意向』『最高レベル』という言葉は誰だって気にする」などと語っている。
安倍首相はこれまで、「働きかけて決めているなら、私、責任を取りますよ」などと、国会で反論している。
今後、(1)文書の真偽(2)本物ならば文書を流出させた犯人(3)官邸や内閣府による圧力の有無(4)獣医学部新設の違法性の有無(5)獣医学部が過去50年間新設されなかった岩盤規制の実態(6)政治団体「日本獣医師連盟」から野党議員への献金問題−などが追及されそうだ。
一方で、前川氏の告白には、「教育行政のトップ」として見逃せない部分がある。読売新聞が22日報じた歌舞伎町の「出会い系バー」に出入りしていたことについて、次のように語っている。
「その店に行っていたのは事実ですが、もちろん法に触れることは一切していません」(週刊文春)
「不適切な行為はしていない」(朝日新聞)
前出の読売新聞には、店に出入りする女性の「(前川氏は)しょっちゅう来ていた時期もあった。値段の交渉をしていた女の子もいるし、私も誘われたこともある」という証言や、《同席した女性と交渉し、連れ立って店外に出たこともあった》との記述がある。
夕刊フジも同店を取材した。
同店関係者は「前川氏は数年前から店に来ていた。多いときで週に1回」「午後9時台にスーツ姿で来ることが多かった。(気に入った)女性とは店を出ていくことはあった」と語った。
こうした形態の店は、客同士のやりとりに店は関わらないとされるが、売春や援助交際の温床になっているとの指摘もある。教育行政に携わるものとして、とても国民の理解は得られない。
ところで、前川氏の「出会い系バー」通いが、どうして発覚したのか。
捜査事情に詳しい関係者は「捜査当局は、歌舞伎町での管理売春について内偵していた」といい、続けた。
「歌舞伎町の同形態の店などを監視していたところ、前川氏をはじめ、複数の文科省幹部(OBを含む)が頻繁に出入りしていることをつかんだ。当然、捜査当局はすべてを把握している。朝日や文春での告白内容にも関心があるだろう」
前川氏は、文科省の「天下り」問題で今年1月に引責辞任した。加えて、「出会い系バー」への出入りをめぐって官邸幹部に厳重注意を受けている。今回の告白も「安倍政権への逆恨み」との指摘があるが、前川氏は「逆恨みする理由がない」と朝日新聞に語っている。
この件をどう見るか。
「文書」問題を調査している無所属の和田政宗参院議員は「マスコミ各社に『文書』を持ち込んだのが前川氏であることは周知の事実だ。だが、朝日新聞などは、そのことを示さず、前川氏に第三者的なコメントをさせている。ジャーナリズムとして信用できない。前川氏も『文書』は自らが持ち込んだものであることを明らかにしたうえで、対外的な発信を行うべきだ」と語った。 
加計学園問題の新展開「前川前次官発言」はここに注目!
前川喜平 前文部科学事務次官
「『総理のご意向』などと記された一連の文書は、私の手元にあるものとまったく同じ。間違いなく本物です」 『週刊文春』6月1日号
学校法人「加計(かけ)学園」をめぐる問題が新展開を迎えた。加計学園が愛媛県今治市に獣医学部を新設する計画について、安倍晋三首相の「腹心の友」加計学園理事長、加計孝太郎氏に便宜が図られたのではないかという疑惑が巻き起こっている。獣医学部新設にあたり、37億円の市有地が無償譲渡され、総事業費の半分の96億円を愛媛県と今治市が負担する。さらに開学すれば助成金など多額の公金が加計学園に流れることになる。
関与を強く否定した安倍首相は「働きかけがあれば、責任を取る」と明言していたが、内閣府から文部科学省に対して「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向だと聞いている」と圧力をかけるような言葉が記録されている文書の存在が発覚した(朝日新聞 5月17日)。
これに対して即座に記者会見を開いた菅義偉官房長官は「怪文書みたいなものじゃないか」と全面否定。文科省も調査を実施したが、5月19日に「行政文書としても、個人の文書としても、今回の調査を通して確認が取れなかった」という結論を発表した。ただし、調査はわずか半日しか行われず、しかもヒアリングと共有フォルダ・ファイルのみにとどまったため、「調査は不十分」という批判の声も上がっていた(BuzzFeed NEWS 5月24日)。
「前次官独占告白」の衝撃
しかし、今年1月まで文部科学事務次官、つまり大学認可の権限を持つ文科省の事務方トップだった前川喜平氏が『週刊文春』6月1日号の独占取材に応えて、件の文書を「間違いなく本物」と証言したのだ。
さらに前川氏は5月25日に記者会見を開き、文書に関して「私が在職中に作成され共有された文書で間違いない。文科省の幹部に共有された文書で、自分も受け取った。ちゃんと捜索をすれば出てくるはずだ。あったものはなかったことにできない」と述べている(AbemaTIMES 5月25日)。
なお、件の文書以外にも、記録文書や新たな証言が続々と示されている。
5月22日、共産党の小池晃書記局長は新資料を公開した。「政府関係者から入手した」(小池氏)という資料には、「今後のスケジュール」と題されて昨年10月から来年4月の開学予定に至る政府内の大まかな段取りが掲載されていた(時事通信 5月22日)。
また、5月24日には民進党の桜井充参院議員によって昨年11月に文科省内でやり取りされたとされるメールのコピーが公開されている。国家戦略特区諮問会議は2016年11月9日に、52年ぶりに獣医学部の新設を認める方針を決定しているが、その前日の8日に文科省内で取り交わされたメールでは「現時点の構想では不十分だと考えている」などと書かれており、文科省が獣医学部の新設に直前まで反対していたことが窺える(TBS NEWS 5月24日)。
同じく24日、当事者の一人である愛媛県の中村時広知事は記者会見で、内閣府から助言を受けていたことについて発言。「構造改革特区と国家戦略特区の窓口が一体化するので、そこに申請をしたらどうかと言われ、助言と受け止めた」(中村氏)。助言通りに申請したところ、国家戦略特区として認められたという。なお、23日に内閣府の藤原豊審議官は参院農林水産委員会で「そういった事実はない」と否定している(共同通信 5月25日)。
今後も新たな証拠は出てくるだろう。「加計学園ありき」の疑念は深まる一方だ。
前川喜平 前文部科学事務次官
「『赤信号を青信号にしろ』と迫られた時に『これは赤です。青に見えません』と言い続けるべきだった」 『週刊文春』6月1日号
今治市と加計学園はこれまで15回にわたって獣医学部設置の申請を行い、すべて却下されてきた。しかし、2016年8月、地方創生相に山本幸三氏が就任してから一転して、内閣府は獣医学部新設に前のめりになっていく。山本氏は「首相のイエスマンのような存在」。先日、「学芸員はがん。一掃しないと」という問題発言で注目を集めた人物だ。『週刊文春』ではこのときの経緯について、前川氏の証言をもとに詳細に明らかにされている。
2018年4月開学については、松野博一文科相をはじめ文科省側から「必要な準備が整わないのではないか」と懸念が示されていたが、強気の内閣府は引き下がらなかった。理由は「総理のご意向だと聞いている」。これに対して前川氏は「ここまで強い言葉はこれまで見たことがなかった。プレッシャーを感じなかったと言えばそれは嘘になります」と述べている(『週刊文春』6月1日号)。
内閣府は時間のかかる手続きを省き、一気呵成に進めよと文科省に迫り続けた。「赤信号を青信号にしろ」と迫られたのだ。記者会見で前川氏は、「極めて薄弱な基準で特区が制定された。公平公正な審査がなされなかった。文科省として負いかねる責任を押し付けられた。最終的には内閣府に押し切られた」と述べている(AbemaTIMES 5月25日)。結局、加計学園側の希望通り、異例のスピード認可となった。
「証人喚問に出てもいい」
ならば、前川氏を国会に招致して、これまでのことを明らかにしてもらったほうがいいのではないだろうか。前川氏本人は記者会見で「証人喚問に出てもいい」と明言している。
民進党が参考人招致を要求したが、与党は拒否。その後、共産党の小池晃書記局長が証人喚問を要求した(時事通信 5月25日)。5月26日にも民進党の山井和則国対委員長から前川氏の証人喚問が要求されたが、自民党の竹下亘国対委員長は前川氏が民間人であることから「現職の時になぜ言わなかったのか」「受け入れられない」とあらためて拒否した。山井氏は「民間人の(森友学園の)籠池泰典氏を喚問したのは自民党だ。ご都合主義としか言えない」と批判している(時事通信 5月26日)。たしかに「(前川氏が)民間人だから」という理由は筋が通らない。
そういえば、籠池氏の証人喚問が決定した際、竹下氏は「総理に対する侮辱だ。(籠池氏に直接)たださなきゃいけない」(朝日新聞 3月16日)と激怒していた。ということは、前川氏が安倍首相を侮辱すれば証人喚問は実現する……?
前川氏は今年1月に文科省を辞任した際、全職員にメールを送っている。その中で、「特に、弱い立場、つらい境遇にある人たちに手を差し伸べることは、行政官の第一の使命だと思います」「気は優しくて力持ち、そんな文部科学省をつくっていってください」と記していた(朝日新聞 1月20日)。一体、文科省は誰を見て仕事をしているのか? そのことが強く問われる数日間になりそうだ。
共謀罪法案通過への、強烈な批判発言
ジョセフ・ケナタッチ 国連特別報告者、マルタ大教授
「日本政府のこのような振る舞いと、深刻な欠陥のある法律を性急に成立させようとしていることは、断じて正当化できません」 BuzzFeed NEWS 5月23日
加計学園問題で霞んでしまった感のある「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案、いわゆる「共謀罪」法案。5月23日午後、自民、公明、日本維新の会の賛成多数で衆議院本会議を通過した。
この法案をめぐる日本政府の対応を、国連特別報告者であるジョセフ・ケナタッチ氏(マルタ大教授)が批判、5月18日付で書簡を安倍首相宛に送付した。国連特別報告者とは、国連人権理事会から任命され、特定の国やテーマ別に人権侵害の状況を調査したり、監視したりする専門家のこと。
書簡でケナタッチ氏は、同法案がプライバシーや表現の自由を制限するおそれがあると指摘。法案にある「計画」と「準備行為」の定義があいまいであることと、対象となる277の犯罪にはテロや組織犯罪と無関係なものがあることから、法律が恣意的に適用される危険性が高いと懸念を示した。
菅官房長官はケナタッチ氏の書簡に強い不快感を表明し、記者会見では外務省を通じて「抗議を行った」と語気を強めて繰り返した。しかし、日本側の抗議を見たケナタッチ氏は「中身のないただの怒り」と批判。内容は本質的な反論になっておらず「プライバシーや他の欠陥など、私が多々挙げた懸念に一つも言及がなかった」と指摘した(中日新聞 5月23日)。
政府側は以前からこの法案について、2020年の東京オリンピックに向けて国連越境組織犯罪防止条約を批准するために必要だと説明してきたが、ケナタッチ氏は「このことは、プライバシーの権利に対する十分な保護もないこの法案を成立することを何ら正当化するものではありません」と一刀両断。さらに「私は、安倍晋三首相に向けて書いた書簡における、すべての単語、ピリオド、コンマに至るまで維持し続けます」と強い調子で再反論を行った(産経新聞 5月23日)。菅官房長官は再度不快感を表明しており、両者の会話はまったく噛み合っていない。
それにしても最近の安倍政権は、次から次へと問題が起こり、ナチュラルな目くらましになっている感がある。加計学園問題とともに、「共謀罪」法案にも注視が必要だ。
「共謀罪」「がん発言」 笑えない失言のレジェンドたち 
金田勝年法相 「誠意を持って話せば伝わるもんだね」 『週刊新潮』6月1日号
こちらは「共謀罪」法案が衆院を通過した後の金田法相の一言。伝わってないっての! 
大西英男自民党衆院議員 「(がん患者は)働かなくていい」NHK NEWS WEB 5月22日

加計学園問題があり、森友学園問題も終わっておらず、「共謀罪」法案では国連特別報告者も巻き込んで紛糾しているというのに、この期に及んで呑気に失言を放つ与党議員がいた。それが大西英男衆院議員だ。
大西氏は今月15日に開かれた自民党の厚生労働部会で、受動喫煙対策の議論が行われた際、三原じゅん子参院議員が職場でたばこの煙に苦しむがん患者の立場を訴えたのに対し、「働かなくていいのではないか」とヤジを飛ばした。激怒した三原氏は自らのブログで大西氏の名を伏せたまま発言を公開。結局、大西氏は22日、「患者の気持ちを深く傷つけた。おわびする」と謝罪した。大西氏は自民党たばこ議連に所属している。
大西氏は2016年3月に、所属する派閥の会合で、選挙の応援で神社を訪れたことを紹介した際に「『巫女(みこ)さんのくせに何だ』と思った」などと発言し、謝罪。また、2015年6月には党の勉強会で「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのがいちばんだ」と発言し、党から厳重注意を受けている(NHK NEWS WEB 5月22日)。まさに「失言のデパート」だ。
大西氏は今回の失言の責任を取り、都連副会長を辞任。事実上の更迭である。自民党では、過去2回の衆院選で当選した2回生に不祥事が相次いでいる。大西氏も「魔の2回生」の一人。自民党幹部は「大西氏は同期の中で年長者のためリーダー的存在だ。問題児ぶりでも筆頭格だ」と頭を抱えたという(産経新聞 5月23日)。うまいことを言っている場合ではない。弱い立場、つらい立場の人たちのことを一ミリも考えずに切り捨てる政治理念が発言に現れてしまっているのだろう。このままで日本は大丈夫? 
前川前次官問題で“官邸の謀略丸乗り”の事実が満天下に!
 読売新聞の“政権広報紙”ぶりを徹底検証
安倍首相主導の不当な働きかけが疑われる加計学園問題。例の「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っていること」などと記載された文科省の内部文書を巡り、昨日夕方、前事務次官の前川喜平氏が記者会見を開いた。
「これらの文書については、私が実際に在職中に共有していた文書でございますから、確実に存在していた。見つけるつもりがあれば、すぐ見つかると思う。複雑な調査方法を用いる必要はない」
「極めて薄弱な根拠のもとで規制緩和が行われた。また、そのことによって公正公平であるべき行政のあり方が歪められたと私は認識しています」
「証人喚問があれば参ります」
各マスコミは一斉に“前川証言”を報じ始めた。昨夜はほとんどのテレビ局がこの記者会見を大きく取り上げたし、今日の新聞朝刊も多くの社が1面トップ、もしくはそれに準ずる扱いで、〈文科前次官「総理のご意向文書は確実に存在」「証人喚問応じる」〉と打った。
こうなってみると、改めてそのみっともなさが浮き彫りになったのが、“伝説級の謀略記事”をやらかした読売新聞だろう。周知のように、読売新聞はこの前川氏の実名証言を止めようとした官邸のリークに丸乗りし、22日朝刊で〈前川前次官出会い系バー通い〉と打っていた。大手全国紙が刑事事件にもなっていない、現役でもない官僚のただの風俗通いを社会面でデカデカと記事にするなんていうのは前代未聞。報道関係者の間でも「いくら政権べったりといっても、こんな記事を出して読売は恥ずかしくないのか」と大きな話題になっていた。
しかも、この読売の官邸丸乗りは当初、本サイトだけが追及していたが、そのあと「週刊新潮」(新潮社)もこの事実を暴露した。こんな感じだ。
〈安倍官邸は警察当局などに前川前次官の醜聞情報を集めさせ、友好的なメディアを使って取材させ、彼に報復するとともに口封じに動いたという。事実、前川前次官を貶めようと、取材を進めるメディアがあった。
「あなたが来る2日前から、読売新聞の2人組がここに来ていた。(略)」〉
さらに昨日のテレビでも、『羽鳥慎一モーニングショー』『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日)、『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ)などが「週刊新潮」の記事を引用しつつ、読売の記事が「官邸の証言潰しのイメージ操作」であることを指摘した。地上波のテレビ番組で、全国紙の記事が官邸の謀略だと指摘されるのは、おそらくはじめてではないだろうか。
赤っ恥、読売は前川会見をどう報じたのか? ちりばめられた官邸擁護
官邸に“いい子いい子”をしてもらおうとしっぽをふりすぎて、満天下に恥をさらしてしまった読売新聞。いったいどのツラ下げてこの会見を報じるのか。今朝の同紙朝刊を読んでみたら、まったく反省なし。記事にはしていたものの、あいかわらず、官邸側に立っているのがミエミエだったのだ。
まず、一面の見出しからして〈総理の意向文書「存在」文科前次官加計学園巡り〉のあとに〈政府は否定〉と付け加える気の使いよう。3面では〈政府「法的な問題なし」〉としたうえ、〈文科省「忖度の余地なし」〉の見出しをつけ、官邸の圧力を否定にかかったのである。
もっとも、その根拠というのは、学部新設の認可審査は〈議事録も非公表で、不正が入り込む余地は少ない〉などと、なんの反論にもなってないもの。この間、前川前次官が証言した加計文書だけでなく、森友学園問題などでも、圧力を物語る証拠がどんどん出てきていることを無視しているのである。
さらに、社会面では、自分たちが報じたことを一行も触れず、会見の中身を使うかたちで、例の「出会い系バー」通いに言及した。
悪あがきとしか言いようがないが、こうした態度は読売だけではない。読売系のテレビ番組も“前川証言”には消極的で、露骨なまでに安倍政権の顔色をうかがう姿勢を示していた。
それは昨日から始まっていた。他局は「週刊文春」の前川氏独占インタビューを受け、一斉にこの問題を報道。インタビュー済みだったTBSもこの時点で前川氏のインタビュー映像を放送していた。
ところが、日本テレビは、午前の情報番組『ZIP!』『スッキリ!!』では加計学園の話題を一切無視、かろうじて『NNNストレイトニュース』が国会での民進党と松野一博文科相のやりとりをベタで触れたのみ。
午後になっても、やはりストレイトニュースのコーナーで『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)が国会質疑を受けてアリバイ的にやっただけで、夕方の『news every.』でようやく他局も中継した前川氏の会見の模様を報じるという体たらく。夜の『NEWS ZERO』も、テレビ朝日の『報道ステーション』やTBSの『NEWS23』よりも明らかに見劣りする内容で、政治部の富田徹記者が前川氏が会見を開いた理由について「安倍政権への怒りこそが大きな理由と見られます」と解説するなど“私怨”を強調すらした。
もはや、読売はグループをあげて“安倍政権の広報機関”と化していると断言してもいいだろう。いったいいつのまに、こんなことになってしまったのか。
会食を繰り返す渡邉恒雄主筆と安倍首相、蜜月はピークに達す
「自民党総裁としての(改憲の)考え方は、相当詳しく読売新聞に書いてありますから、是非それを熟読してもらってもいい」
2020年の新憲法施行を宣言した安倍首相が、今国会でこんなトンデモ発言をしたのは記憶に新しい。周知の通り、憲法記念日の5月3日、読売新聞はトップで安倍首相の単独インタビューを公開。まさに安倍首相の“代弁者”として振る舞った。
しかも、インタビューを収録した4月26日の2日前には、読売グループのドン・渡邉恒雄主筆が、安倍首相と都内の高級日本料理店で会食しており、そこで二人は改憲について詳細に相談したとみられている。つい最近も、今月15日に催された中曽根康弘元首相の白寿を祝う会合で顔を合わせ、肩を寄せあうように仲良く談話している姿を「フライデー」(講談社)が撮影。このように、第二次安倍政権発足以降、安倍首相と渡邉氏の相思相愛ぶりはすさまじい。実際、安倍首相と渡邉氏の会食回数は傑出している。数年前から渡邉氏が読売本社にマスコミ幹部を招いて“安倍首相を囲む会”を開催しだしたことは有名だが、さらに昨年11月16日には、渡邉氏が見守るなか、安倍首相が読売本社で講演まで行っているのだ。
こうした安倍首相の“ナベツネ詣で”は、重要な節目の前後にあり、重要法案などについてわざわざお伺いを立てていると言われる。事実、2013年には特定秘密保護法案を強行採決した12月6日前後にあたる同月2日と19日、14年には7月1日の集団的自衛権行使容認の閣議決定に向けて動いていた6月13日、15年は安保法案を国会に提出した4日後の5月18日、昨年ではロシア訪問の前日である9月1日などがこれにあたる。
そして今年の“2020年新憲法施行宣言”の読売単独インタビューと、国会での安倍首相の「読売新聞を読め」発言に続く、前川証言ツブシのための「出会い系バー通い」報道の謀略……。もはや、そのベッタリぶりは報道機関の体さえなしていないが、これは単に安倍首相と渡邉氏の蜜月ぶりだけが問題ではない。現在、読売新聞では四半世紀にわたりトップに君臨する渡邉氏を“忖度”するあまり、政治部は当然として社会部や世論調査までもが、安倍政権の後方支援一色となっているのだ。
池上彰も「これがはたしてきちんとした報道なのか」と苦言
たとえば昨年では、「今世紀最大級の金融スキャンダル」といわれたパナマ文書問題で、読売新聞は文書に登場する日本の企業名や著名人の名前を伏せて報じた。また、沖縄で起きた米軍属による女性殺害事件も他紙が詳細を報じているにもかかわらず、米軍関係者の関与については容疑者が逮捕されるまでは一行も触れていなかった。いずれも、政権にとってマイナスにならないようにとの配慮ではないかとみられている。
まだまだある。安保報道における読売の明白な「偏向」ぶりは、あの池上彰氏をして、「安保法制賛成の新聞は反対意見をほとんど取り上げない。そこが反対派の新聞と大きく違う点です。読売は反対の議論を載せません。そうなると、これがはたしてきちんとした報道なのかってことになる」(「週刊東洋経済」15年9月5日号/東洋経済新報社)と言わしめたほどだ。
事実、15年5〜9月の間の朝日、毎日、読売、産経においてデモ関連の記事に出てくるコメント数を比較すると、朝日214、毎日178に対して、なんと読売はたったの10。産経の11より少なかったという(一般社団法人日本報道検証機構調べ)。ちなみに、安保関連の細かいところでは、安倍首相が蓮舫議員に対し「まあいいじゃん、そんなこと」というヤジを飛ばしたことがあったが、読売新聞はこのヤジ問題を全国紙で唯一報じなかった。
さらには世論調査までもが、“安倍首相に捧げる”世論操作の様相を呈している。たとえば15年7月24〜26日実施の読売全国調査では、〈安全保障関連法案は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか、反対ですか〉などと、安倍政権の主張をそのまま質問文に盛り込んだ誘導質問を展開。集団的自衛権閣議決定の14年には、〈集団的自衛権71%容認 本社世論調〉なる記事を出したが、これも調査で人々が心理的に選びがちな「中間的選択肢」をあえて置き、回答を誘導したとしか思えないものだった。
森友学園問題でも官邸擁護、“忖度新聞”は民主主義の敵だ
森友学園報道を露骨に避けていたことも忘れてはならない。実際、朝日新聞(東京版)が森友学園をめぐる国有地問題を初めて紙面で取り上げたのは今年の2月9日だったが、一方の読売(東京版)は同月18日で、実に1週間以上もの開きがある。しかも、この読売の記事のタイトルは「国有地売却に首相関与否定」というもので、これまた安倍政権側に立ち、文字数わずか200字弱のベタ記事だった。
また、初めて社説で森友問題を扱ったのは、朝日が2月22日、毎日が同月23日に対して、読売は同月28日とかなり遅い。傑作なのが3月の籠池泰典理事長(当時)証人喚問翌日の社説のタイトル。全国各紙を比較してみるとこんな感じだ。
   朝日「籠池氏の喚問 昭恵氏の招致が必要だ」
   毎日「籠池氏喚問 関係者の説明が必要だ」
   日経「真相解明にはさらなる国会招致がいる」
   産経「籠池氏喚問 国有地売却の疑問とけぬ」
   読売「籠池氏証人喚問 信憑性を慎重に見極めたい」
何をか言わんや、である。現在の読売が、いかにかつての“中道右派のエスタブリッシュメント”的な紙面づくりを放棄しているか、よくわかるというものだ。なぜ、こんなことになってしまったのか。数々のスクープを手がけた元読売新聞記者・加藤隆則氏は、スタジジブリが無料で配布している小冊子「熱風」2016年4月号でのジャーナリスト・青木理氏との対談で、最近の読売をこのように分析している。
「だんだん官僚的になって、事なかれ主義になっている。今の政権にくっついていればいいんだと。それ以外のことは冒険する必要はなく、余計なことはやめてくれと。これは事実だからいいますけど、読売のある中堅幹部は、部下に向かって『特ダネは書かなくていい』と平気で言ったんです。これはもう新聞社じゃない。みんなが知らない事実を見つけようという気持ちがなくなった新聞社はもう新聞社じゃないと僕は思います」
「この新聞社にいても書きたいことは書けなくなってしまった。そういう新聞社になってしまったということです。社内の人間は多くが息苦しさを感じている。(略)でも辞められない。生活もありますから。だからみんな泣く泣く、やむなく指示に従っている」
森友学園、加計学園問題でバズワードとなっている“忖度”が、読売新聞社内でも疫病のように流行っている。暗澹たる気持ちになるのは、安倍首相と独裁的トップのほうばかりを向き、政権擁護を垂れ流して、さらには謀略にまで加担してしまうこの新聞が、いまだ発行部数第1位であるという事実。民主主義にとって、極めて有害としか言いようがない。 
前川前次官会見で田崎スシローがアクロバティック安倍官邸擁護!
 「菅さんが言ってるから文書は嘘」「読売記事はスクープ」
「(加計学園問題の)“総理の意向”文書は確実に本物」
当時、文科省の官僚トップの地位にあった前川喜平前文科事務次官の会見で飛び出した決定的な証言。ワイドショーもさすがに黙殺はできなくなり、26日は各局とも会見の中身を大々的に報じた。そんななか、もはや笑うしかないくらいの露骨な安倍政権擁護を繰り広げていたのが、“田崎スシロー”こと田崎史郎時事通信特別解説委員である。
森友問題のときは手分けして官邸擁護を展開していた山口敬之がいなくなってしまったので、ひとりで大忙しだ。朝は『とくダネ!』(フジテレビ)、昼は『ひるおび!』(TBS)とハシゴして、前川前次官の人格攻撃とお得意のアクロバティック官邸擁護を開陳したのである。
まず『とくダネ!』。MCの小倉智昭もさすがに「前川さんは知的な感じでお話にも説得力というものがある」「前川さんの告白の時期に合わせて新聞社がこの件をドンと書いてきたっていう、やっぱり、なんかあれ?って、思う部分はあるんですよね」と感想をもらしたのだが、しかし、田崎はことごとく話をスリカエ、前川攻撃、官邸擁護に終始した。
会見映像を受けMCの小倉が「これを官邸はつっぱねることができるのか」と言うと、田崎は「新しい事実は何もない」と言い張り、こんな官邸の代弁を始めた。
「菅長官が信憑性がないって言われているのは、文書のなかで、菅官房長官や萩生田官房副長官の言葉が引用されているんですね。それが自分の言った覚えのない言葉であると。文部科学省が勝手になにかつくった文書なのではないか、という主張なんです」
どうしてなんの客観的証拠も示さないまま、菅義偉官房長官や萩生田光一官房副長官が「言ってない」というのは本当で、前川氏の証言がウソという前提になるのか。あげく、文科省が勝手につくった文書とは……。これにはさすがの小倉も「これだけ重要な問題で、文科省ってそんな勝手に文書つくるものなのかなあ?」と素朴な疑問を呈した。すると田崎は今度はこんな陰謀論を語り始めたのだった。
『ひるおび!』でも「官邸が言っているのは本当」と言い張るスシロー
「前川さんは、おそらく自分の主張をそのまま載っけてくれるメディアを選んだんじゃないかと思いますね。集中的に、新聞、テレビ、雑誌と選んでやってらっしゃるんで、だからある意味で見事なメディア戦術だと思うんです」
自分の主張をそのまま載っけてくれるメディアを選ぶって、それ、あんたのご主人様である安倍首相とあんたら安倍応援団の関係そのものだろうと思わずツッコんでしまったが、そもそも、前川氏がメディアを選んだというのはまったくの言いがかり、真っ赤な嘘だ。
前川氏は、会見どころか朝日新聞のインタビューよりも前に、安倍さまのNHKや、当のフジテレビのインタビューだって受けている。しかし、官邸の恫喝に負けてお蔵入りにしてしまったのは局のほうだ。ようするに前川氏が特定のメディアを選んだのではなく、前川証言を公にする勇気のあるメディアとなかったメディアがあっただけというのが実情である。だいたい前日すでにフルオープンの記者会見を開いて正々堂々と語ったあとに、特定のメディアを選んでいるなどよく言えたものだ。
相手方が世論をつかんでいると見ると、自分たちのことを棚に上げて、デマと陰謀論をわめきたてるその手口は安倍政権そのまま。まったく悪質としかいいようがない。
しかし、もっとヒドかったのが、『ひるおび!』だった。この番組でも、総理のご意向文書は、「行政文書ではない、ただの文科省内のメモ書き。官邸が「ない」っていうのは本当」「仮にメモがあったとしても、文科省が書いただけ」「菅さんたちは言った覚えがないから怪文書」などと強弁する田崎スシロー。しかし、これにはほかのコメンテーターが一斉に反論をした。元読売新聞大阪社会部記者の大谷昭宏は「前川さんはレク資料っておっしゃっていた。そこで部下が一番偉い人に嘘のレクチャーしたらえらいことになる。だから真実性がある」、毎日新聞の福本容子論説委員も「官僚の人たちってメモ魔なんですよ、なんでもメモする。私たちが取材するときもそれをあげてるわけですから、後からどうこうって話ではなく、そのまま起きたことを書いてる」と説得力のある主張を展開した。
するとMCの恵俊彰が「ICレコーダーは回さないんですか」と助け舟を出し、田崎も「隠し撮りしているときはありますね」と、まるでICレコーダーもないと証拠にはならないようなことを言い出したのである。籠池氏が財務省とのやりとりを録音していたときは盗人扱いしていたくせに、何を言っているのか。これには福本がすかさず「いちいち全部ICレコーダーで録音してたら膨大になる。それまた起こさなきゃいけないし、すぐ聞いたものを上司にもっていくっていう意味ではメモがいちばん」と現実的な反論をした。
また特区指定にいたる行政プロセスが歪められたという前川氏の主張についても、「前川さんはやりたくなかったんでしょ。規制緩和は官僚の人たちの抵抗によって進まなかった」などと前川氏が抵抗勢力だと攻撃し始め、「官僚主導から政治主導か。小泉政権以降、官邸が強い権限をもつようになっている。政治主導でやっていこうとすればこういうことになるんです」などと、官邸主導の規制緩和のためには仕方ないと正当化。
ここでも大谷が「官邸が権力を握った結果、官邸が私物化してたんじゃないかっていうのが問題。加計さんの問題も籠池さんの問題も。官僚から権限を取り上げて、本当に公正にやっていたのか、それが問題」、福本が「規制緩和をするのはいい。もっと正々堂々と。なんでこの学校が選ばれたのか、ほかにもライバルいたわけですから」と反論すると、また恵が「言ってること全然ちがうんで、後からまた見ていきます」などと助け舟を出して議論を終わらせた。
読売擁護までしていた田崎「一生懸命取材していた」
さらに田崎の前川攻撃はつづく。今度は菅の生き写しのように、なぜ現役のときに言わなかったのかと責め立て始めたのだ。
「事務次官が会いたいって言えば官邸の方は自動的にオーケーですよ。前川さんがそのとき問題だと思われるならば、総理なり官房長官に会って、これはどうなんですか?なぜこういうことをやるんですか?って問い詰めていなかったんですかね。なんでそれを辞めた後言われるんですかね」
「行政を推進する立場にいるわけですから、トップとして。そりゃ(在任中に)言わなきゃいけませんよ。なんで今になって言うんだろうと。その間に天下り問題で自分がクビになった。腹いせでやってるんじゃないかって見られちゃいますよ」
こいつはいったい何を中学生みたいな話のスリカエをしているのか。安倍政権の恐怖支配が敷かれているなかで、官僚がそんなことできるはずがないだろう。しかも、この点については、前川氏自身が非を認め「当事者として真っ当な行政に戻すことができなかった。事務次官として十分な仕事ができずお詫びしたい」と反省の弁を語っているのに……と唖然としていたら、これにもすぐさま、大谷と福本が反論した。
「今になってなんであの時言わないんだ!というのは問題のスリカエ。そのとき言えなかったのはいろいろな事情があったんでしょう、でもその話はその話。事実が何なのかが問題」と、田崎の卑劣な論点ずらしをただしたのだ。
しかしこれにも恵が助け舟を出して、田崎に反論の機会を与え、この話題も結局、田崎が「強い思いをもたれているならば、その場で、総理なり官房長官に会って聞けばいいことですから」と繰り返してシメられてしまったのだった。田崎のトンデモ解説もひどいが、常にそれを主軸に番組を進めるMCの恵も相当にタチが悪い。
さらに、驚いたのは読売の官邸謀略に乗っかった“出会い系バー”記事への評価だった。田崎はなんと「読売新聞が独自に取材したスクープ記事」と称賛したのだ。
これに対し、読売新聞出身である大谷が「私も読売の事件記者やってたからわかりますが、(東京本社、大阪本社、西部本社の)3社がすべて同じ位置、同じ大きさ、同じ見出しで記事をやるというのは、ひとつの合意形成がないとできない。今回の記事は、同じ場所に、同じ大きさで、同じ見出しがついているんですね。これは、新聞でいうところの“ワケあり”なんですね。どうして“ワケあり”が生まれるか、誰かの思惑があるから。そういう記事がどこから出てるのか。読売は否定するでしょうけど、我々からみれば、この扱いは明らかに“ワケあり”ですよ」と新聞の現場を知っているからこそのリアリティのある解説をした。
福本も「記事が出たタイミングは本当に不思議。前川さんが証言するのか注目されていた時期ですよね。記事は「教育行政のトップとして不適切な行動に対して批判があがりそうだ」って、勝手に批判があがるとこまでコミコミで丁寧に書いてる」と指摘、大谷は「これ事件記事じゃないんですよね。しかも前川さんは(杉田官房副長官から)1月に注意されたって言ってる。それがなんでいま「出会い系」という見出しで5月に載るんですか」とこのタイミングでの報道にも疑問を呈した。
ところが田崎は「読売新聞は読売新聞で一生懸命取材して書かれたわけで。自分で事実が確認できなければ出すはずがない、と同業者としては思いますね」と、強弁を始めたのだ。
「同業者として」って、ただの官邸の宣伝係が何を新聞記者気取りになっているのか、むしろ、同業者といえば毎日新聞記者の福本のほうだし、大谷なんて元読売新聞の先輩記者の目線で内情もふまえて、この記事は「ワケあり」だと言っているのに……と思ったが、よく考えたら、読売と田崎は“安倍御用”の同業者。もしかしたらそういう意味なのか。
メディアに広がる「安倍政権のいうことはすべて正しい」という世界
とにかく万事この調子で、傍目から見てどんなムチャクチャに見えても、とみかく田崎は徹底的に「文書に信憑性はない」「前川はおかしい」と言い張り続けたのだった。
きわめつきは、今後の展開についての解説だった。田崎に負けず劣らずの安倍応援団である八代英輝弁護士ですら「少なくとも証人喚問をしたほうが国民としては(いい)。これに政権側が抵抗を示すのが、余計変に見える」「やはり前川さんを証人喚問していただいて、実態というのを知りたい」とコメントしていた。
ところが、田崎は「(そういう流れには)ならないでしょ。政権側の考え方は黙殺」と、言い切ったのだった。ここまでくると、安倍応援団どころか、菅官房長官の生霊でも乗り移ったんじゃないかと思えてくるが、しかし、これは田崎一人の問題ではない。
26日の『とくダネ』では、「文書に信憑性はない」と強弁する田崎の言葉に、小倉はこう漏らしていた。
「これどちらの言い分が正しいのかっていうのは、私たちには100%はわからない。想像の世界なんですね。そうすると、安倍政権を支持するか支持しないかによって受け止め方って変わりますよ」
たしかに、当時の事務次官の実名証言という超ド級の証拠を前に、「文書はない」と言える根拠など「だって安倍政権がすべて正しいから」以外何もない。しかし、そのムチャクチャが通用する国になりはてているのだ。安倍政権の言うことはすべて正しい。たてつく者は報復されて当然————。
前川氏は「赤信号を青と言えと迫られた。「これは赤です、青ではありません」と言い続けるべきだった」と語ったが、これは官僚だけの話じゃない。安倍政権に屈して青だと言ってしまうのか、これは赤だと戦うのか、メディアの姿勢もいま、問われている。 
加計学園問題 前川前次官が会見で暴露した「疑惑の核心」
「黒を白にしろと言われる」――。加計学園をめぐる問題で、すべてを知る立場にあった文科省の前川喜平前次官が、政権中枢からの“圧力”を暴露した。およそ1時間にわたる記者会見で語られたのは、「総理のご意向」によって「公平公正であるべき行政が歪められた」ことへの怒りと反省だった。
安倍首相の「腹心の友」が理事長を務める加計学園の獣医学部新設が「総理の意向」で進められたことを示す文科省の内部文書を官邸は怪文書扱い。
この文書について「本物だ」と断言する前川氏がメディアの取材に応じると、安倍官邸はスキャンダル情報を読売新聞にリークして、潰しにかかったとも報じられている。
さらには、菅官房長官は会見で「地位に恋々としがみつき、最終的にお辞めになった方」と前川氏をおとしめる人格攻撃まで。官邸がここまでエゲツないことをしなければ、前川氏も大々的に記者会見まで開いて洗いざらいブチまけることはなかったのではないか。
「後輩たちや、お世話になった大臣、副大臣にこの件でご迷惑をおかけすることになる。その点では大変に申し訳ないと思うが、あったことをなかったことにすることはできない」
冷静な口調ではあったが、腹をくくった覚悟が伝わってきた。会見で前川氏が強調したのは、「行政が歪められた」という点だ。それは公僕の矜持として、どうしても看過できなかった。すべてを明らかにすれば、国民の理解を得られると確信して、会見を開いたのだろう。
前川氏によれば、国家戦略特区の制度を使って、加計学園の悲願だった獣医学部の新設が認められたプロセスには重大な疑義があるという。本来のルールをねじ曲げて、加計学園に特別な便宜が図られたとしか見えないのだ。
国家戦略特区で獣医学部の新設を認めるにあたり、2015年6月30日に閣議決定された「日本再興戦略改訂2015」では4つの条件が示されていた。
1 既存の獣医師養成ではない構想が具体化すること
2 ライフサイエンスなど獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになること
3 それらの需要について、既存の大学学部では対応が困難であること
4 近年の獣医師の需給の動向を考慮しつつ全国的な見地から検討すること
要するに、既存の獣医学部では対応できないニーズに応える獣医師を養成する場合にかぎり、新設を認めるということだ。ところが、加計学園の獣医学部は「需要の根拠が薄弱で、既存の大学でできないのか検証されていない。条件すべてに合致していない」(前川氏)という。
政府が決めた4つの条件をまったく満たしていないのに、昨年8月に国家戦略特区を担当する大臣が石破茂氏から山本幸三氏に交代した途端、一気に獣医学部の新設が動き始めた。問題の「総理のご意向」文書が作成されたのも、昨年9月から10月だ。
「石破氏は4条件を厳しくチェックしようとしてたし、獣医師会に近い麻生大臣も獣医学部の新設に反対していた。それを覆し、自分たちが閣議決定したルールさえ無視して進めることができるのは、安倍首相の強い意向だとしか思えません。4条件から逸脱していること自体が、友人のために特別な便宜を図った証拠と言える。加計学園は特区事業者に認定される前の昨年10月に、新設予定地のボーリング調査も行っています。すべて『加計学園ありき』で動いていたのです」(ジャーナリストの横田一氏)
ここまで状況証拠がそろい、国民の間にも「行政が歪められた」ことへの疑念が広がっている。前川氏自身も「応じる」と言っている以上、証人喚問ですべてを明らかにするしかない。 
文部科学省前次官が会見「文書なかったことにできない」
学校法人「加計学園」が愛媛県今治市に設置する計画の獣医学部をめぐり文部科学省の前川前事務次官が記者会見を開き、「総理の意向だ」などと記された一連の文書について、「確実に存在していた。あったものをなかったことにできない」と述べたうえで、「極めて薄弱な根拠で規制緩和が行われた。公平、公正であるべき行政の在り方がゆがめられた」と訴えました。
国家戦略特区により、学校法人「加計学園」が愛媛県今治市に来年4月に設置する計画の獣医学部をめぐり、先週、国会でその選考の途中に内閣府が文部科学省に対して「総理の意向だ」などと発言したとする複数の文書の存在が指摘されました。文部科学省は調査した結果、「該当する文書は確認できなかった」と説明しています。
これについて、当時の文部科学省の事務次官だった前川喜平氏が記者会見を開きました。この中で、前川前次官は一連の文書について「私が在職中に専門教育課で作成されて受け取り、共有していた文書であり、確実に存在していたものだ」と述べて、文部科学省で作成された文書だと主張しました。そして、「私が発言をすることで文部科学省に混乱が生じることは大変申し訳ないが、あったものをなかったことにはできない」と述べました。
そのうえで、「官邸、内閣官房、内閣府という政権中枢からの要請に逆らえない状況があると思う。実際にあった文書をなかったことにする、黒を白にしろと言われるようなことがずっと続いていて、職員は本当に気の毒だ」と話しました。
また、特区制度のもと、今治市と加計学園が選考されたいきさつについては、「結局押し切られ、事務次官だった私自身が負わねばならない責任は大きい」と発言したうえで、「極めて薄弱な根拠で規制緩和が行われた。公平、公正であるべき行政の在り方がゆがめられたと思っている」と述べました。
さらに、「証人喚問があれば参ります」と述べ、国会でも一連の経緯について証言する意向を示しました。
会見は、弁護士が同席して1時間以上続き、前川前次官は、時折、汗を拭いながら、質問に答えていました。前川前次官は、文部科学省の天下り問題の責任をとり、ことし1月、辞任しています。
官房長官 怪文書の認識変わりない
菅官房長官は、午後の記者会見で、学校法人「加計学園」が運営する大学の獣医学部の新設をめぐり、民進党が指摘している「総理の意向だ」などと書かれた文書の存在について、記者団が、「以前の会見で『怪文書のような文書だ』と言っていたが、前川氏の証言を聞いても認識は変わらないか」と質問したのに対し、「出どころが不明で信ぴょう性も定かではない文書だ。全く変わりはない」と述べました。また、菅官房長官は、文部科学省による再調査の必要性について、「文部科学省で1回調査し、『文書の存在は確認できなかった』と松野大臣が言っているので、それ以上でもそれ以下でもない」と述べました。さらに、菅官房長官は、記者団が、「政府としては、文書の存在は無かったということか」と質問したのに対し、「そういうことではないか」と述べました。
松野文科相「会見の様子知らない」
松野文部科学大臣は、25日夕方、総理大臣官邸で記者団に対し、「前川前事務次官の記者会見の様子を、会議に出ていて全く存知あげておらず、自分が把握していない内容について無責任に発言することはできない」と述べました。
自民 小此木国対委員長代理「国会招致 必要性感じない」
自民党の小此木国会対策委員長代理は、NHKの取材に対し、「文書については政府も国会で『確認できない』と答えており、不確定要素のある文書から話が始まっている。野党側から正式な要求が来ているわけではないが、現段階で前川前次官の国会招致の必要性は感じていない」と述べました。
公明 大口国対委員長「何らかの意図感じる」
公明党の大口国会対策委員長は記者団に対し、「事務次官だった時は何ら発言していないのに、辞めてから、なぜ今、こうした発言をするのか分からず、何らかの意図が感じられる。問いただすべきは、文部科学大臣や文部科学省の責任ある現職の方々であり、説明を求めれば責任を持って答えると思う。前川前次官は、文部科学省を辞めていて、文部科学省を代表する方ではないので、前川氏を呼んで何かを解明するということは違う」と述べました。
民進の調査チームに文科省「文書は確認できず」
文部科学省の前川前事務次官の記者会見を受けて、民進党は、調査チームの会合を開き、文部科学省に、文書の存在などの事実関係を改めてただしました。これに対し、文部科学省の担当者は、「前川氏の発言は確認していない。すでに調査したが、文書は確認できなかった。われわれとしては調査したので、それに尽きる」と述べました。調査チームは今後、前川氏から直接、事実関係について話を聞きたい考えで、会合への出席を求めていくことにしています。
民進 山井国対委員長「政府の隠蔽明らかに」
民進党の山井国会対策委員長は記者団に対し、「当時の文部科学省の事務方のトップが、文書を本物と認め、『行政がゆがめられた』と発言したことは、極めて重大だ。政府が一体となって真実を隠蔽していることが明確になり、言語道断だ。前川前次官は、『証人喚問に応じる』と言ったので、与党は、拒む理由は無く、早急に前川氏の証人喚問を実施すべきだ。また、安倍総理大臣の今までの発言が正しかったのかも問われるので、早急に予算委員会の集中審議を開くべきだ。安倍総理大臣が、身の潔白を証明したいのであれば、正々堂々と、国会の場で説明してほしい」と述べました。
共産 穀田国対委員長「文書の信ぴょう性高まった」
共産党の穀田国会対策委員長は、記者会見で、「『総理のご意向』と記された文書の信ぴょう性が、いよいよ高まってきた。真相究明が国会の責務であり、前川前事務次官は『証人喚問には応じる』と述べているので、国会として証人喚問を行うべきだ。森友学園の疑惑の際には、自民党が、わざわざ証人喚問を要求したのだから、今回も当然、応じるべきだ。また、『総理のご意向』という問題が取り沙汰されているわけで、安倍総理大臣に対して真相究明を求めるため、予算委員会の集中審議も当然必要だ」と述べました。
維新 遠藤国対委員長「証人喚問か参考人招致必要」
日本維新の会の遠藤国会対策委員長は、記者会見で「記者会見の内容を見ると、はぐらかしている部分もあるので、明確にするために、与野党ともに合意形成が図れれば、証人喚問なり参考人招致も必要ではないか。一方で、きょうの段階では、完全に一方通行の話なので、本当に真実がどこにあるか確認したうえでないと、何でもかんでも証人喚問すればいいというものでもない。文部科学省自体の自浄作用も、この機会に働かせてもらう必要がある」と述べました。
問題となった文書とは
会見で指摘された文書は獣医学部の選考が続いていた去年9月から10月にかけて、文部科学省と内閣府の担当者などとのやり取りを記したとされる複数の記録です。
「内閣府の回答〜総理のご意向」
このうち、「大臣ご確認事項に対する内閣府の回答」と書かれた文書は、今治市に獣医学部を設置する時期について、「最短距離で規制改革を前提としたプロセスを踏んでいる状況で、これは総理のご意向だと聞いている」と書かれています。
「内閣府からの伝達事項」
別の文書では、内閣府側が、平成30年4月にこの学部を開学するのを前提に文部科学省側に最短のスケジュールを作成するよう求めたと記されています。さらに、内閣府側が「これは官邸の最高レベルが言っていること。山本大臣も『きちんとやりたい』と言っている」などと述べたと書かれています。
「内閣幹部メモ」
さらに、内閣官房の幹部からの指示をまとめたとする10月7日の日付のメモには、「四国には獣医学部がないので、その点では必要性に説明がつく」という発言のほか、「加計(かけ)学園が誰も文句が言えないようなよい提案をできるかどうかだ」という発言が記されていました。
「9/26メモ」
去年9月下旬の日付が書かれた文書には、内閣府と文部科学省との打ち合わせとされる内容が記されていて、このなかで内閣府の幹部は「平成30年4月にこの学部を開学するのを大前提に、逆算して最短のスケジュールを作成し、共有いただきたい」と文部科学省側に要請しています。これに対し、文部科学省側が、「今治市の構想を実現するのは簡単ではない」と答えると、内閣府側は「できない選択肢はない。やることを早くやらないと責任をとることになる」と述べたと記されています。
「11/8のメール」
メールの画面を印刷したと見られる文書には、文部科学省の担当者が加計学園について省内の関係する部署に一斉にメールを送信したとされる内容が書かれています。この中では、獣医学部の設置場所が決まる前に、担当課の職員が大臣や局長から、「加計学園に対して、文科省としては現時点の構想では不十分だと考えている旨、早急に厳しく伝えるべき」と、特定の学校法人の申請内容について指示を受けたと記されています。
これらの文書やメールについて、松野文部科学大臣はいずれも「調査の結果、確認できなかった」としています。 
官邸幹部が加計問題実名告発ツブシの謀略を認めた!
 文科省前次官の風俗通い報じた読売記事を「マスコミと当人への警告」と
読売新聞が22日の朝刊で突如、報じた文部科学省の前川喜平・前事務次官の“出会い系バー通い”記事。刑事事件にもなっていない官僚の下半身ネタを、大手新聞がなんの物証も提示せずに報じるのは前代未聞だが、当サイトはこの読売記事が官邸による加計学園問題の実名告発ツブシの謀略だったと22日に断じた。
前川氏はいま、大きな問題になっている加計学園問題に関する文科省の「総理のご意向」文書について、マスコミのインタビューに応じ、「本物だ」と証言する準備を進めていた。
「文科省がこの文書を作成した昨年9月〜10月は、前川さんは事務次官在任中で、文書の内容はもちろん、内閣府からの圧力や会議についても把握していた。前川さんは天下りあっせん問題で辞職に追い込まれたことで、官邸に恨みを持っていたこともあり、実名で文書が文科省で作成されたもので、内容も事実であると証言する決意をしたようです。前川さんはすでにNHKとフジテレビのインタビューに応じ、『NEWS23』(TBS)と『報道ステーション』(テレビ朝日)にも出演する予定でした」
当時の最高幹部がこの文書を事実だと認めれば、安倍首相や菅官房長官の言い分は完全にくつがえり、安倍政権は決定的に追い詰められることになる。
そこで、官邸は「週刊文春」「週刊新潮」の2誌にこの“出会い系バー通い”をリーク。さらに、御用新聞、政権広報紙化をエスカレートさせている読売新聞に、前代未聞の実話雑誌のような記事を書かせたのである。
断っておくが、これはけっして陰謀論などではない。マスコミはこうした裏側を一切報道していないが、実は、一昨日夜から昨日夜にかけての官邸記者クラブのオフレコ取材では、この読売記事についての話題が出ていた。そのなかで、読売に情報を流したといわれている安倍首相側近の官邸幹部は、「官邸が流したのか」という記者の質問にこう言い放ったという。
「読売の記事にはふたつの警告の意味がある。ひとつは、こんな人物の言い分に乗っかったら恥をかくぞというマスコミへの警告、もうひとつは、これ以上、しゃべったらもっとひどい目にあうぞ、という当人への警告だ」
ようするに、悪びれもせずに謀略を認め、マスコミに対してさらなる恫喝をかけたというのだ。官邸はここまで増長しているのかと唖然とするが、しかし、マスコミは、この謀略にいとも簡単に屈して、前川氏の実名証言を報じる動きをぴたりと止めてしまった。すでにインタビューをすませているNHKもフジテレビも放映はしないことに決めたという。
政権に逆らうものはすべて謀略を仕掛けられ、口封じされてしまう——この国はいつのまにかロシア並みの謀略恐怖支配国家になってしまったらしい。
ただ、救いはある。「週刊新潮」「週刊文春」が官邸のリークに乗っかって前川氏の“出会い系バー通い”を取材していたことは前述したが、そのどちらかの週刊誌が、逆に前川氏の言い分を全面的に掲載し、この間の官邸の謀略の動きを暴く可能性がでてきたらしいのだ。
「前川前次官の下半身スキャンダル自体は書いているようですが、返す刀で官邸の謀略の動きも指摘するみたいですね。読売の記事があまりに露骨でしたから、さすがに、そのまま官邸に乗っかるわけにはいかないと判断したんでしょう。海千山千の週刊誌は政権広報紙の読売のようにはコントロールできない」(週刊誌関係者)
この週刊誌の報道を受けて、テレビや新聞はどう動くのか。「総理のご意向」文書の信憑性を裏付ける文科省前事務次官の証言と、それを潰そうとした官邸の卑劣な謀略が国民に広く知られることを祈りたい。 
官邸の前川証言潰し恫喝に屈したメディア、踏ん張ったメディアが鮮明に!
 日テレ、とくダネは無視、田崎はトンデモ解説
元文科省事務次官である前川喜平氏のインタビューを、本日発売の「週刊文春」(文藝春秋)が掲載したことを受けて、今朝の朝日新聞朝刊も前川氏のインタビューを一面トップほか大々的に掲載。毎日新聞も社会面で大きく取り上げ、そのなかで「文書は本物」とする前川証言を紹介した。また、昨晩の『NEWS23』(TBS)は、前川氏のインタビューを今晩放送することを予告した。
本サイトは昨日、前川氏の自宅前にマスコミが殺到している一方で、官邸が上層部から官邸記者にいたるまで恫喝をかけまくっていることを伝えたが、その圧力をこれらのメディアは撥ね返したといえよう。
だが、今回の前川証言に対する安倍首相はじめ官邸の焦りと怒りは凄まじいものだ。安倍首相は昨晩、赤坂の日本料理店「古母里」でテレビ朝日の早河洋会長と篠塚浩報道局長と会食。報道局長まで呼びつけていることからも、報道に対する牽制があったことはあきらかだ。
剥き出しの圧力をかけられたテレ朝だが、しかし、今朝の『羽鳥慎一モーニングショー』では、「週刊文春」に掲載された前川証言と、「週刊新潮」の報道を取り上げた。
番組ではまず、前川氏の「出会い系バー通い」を紹介した上で、「週刊新潮」による「官邸は前川前次官の醜聞情報を集めさせ、友好的なメディアを使って取材させた」「“報復”するとともに口封じに動いた」という内容に踏み込んだ。司会の羽鳥が「これはどうなんですか?」と尋ねると、ゲスト出演したテレ朝の細川隆三・政治部デスクは歯切れ悪くこのように述べた。
「官邸にはいろんな人がいて、この問題にふれるととにかくカリカリしちゃって、興奮する方もいらっしゃるし、逆にこの問題は触ってはいかんと、触らないようにシカトしようとする人もいますし、とにかくこれは内閣の問題じゃなくて個人の問題、とんでもない人がやっているんですよとさらけ出すのがいいんじゃないかっていう人もいるんです」
「官邸による報復なのか?」という羽鳥の問いに対する答えにまったくなっていないが、いかに官邸が記者にプレッシャーをかけているのかが垣間見えるコメントではあるだろう。
だが、ここでレギュラーコメンテーターの玉川徹が、読売新聞の報道に言及。「現役の官僚でもない前の事務次官の、違法でもない話を一面にもってくるバリューが、加計学園にかかわらないんだとしたらどこにあるのか」「ものすごく疑問」と言い、こう畳みかけた。
「安倍総理は自分が語る代わりに『読売新聞を熟読してくれ』っていう関係ですしね。やっぱり権力に対して批判的な目を向けるっていうのがジャーナリズムだと私はずっと思っていままで仕事してきたんですけど、こういう一連の読売新聞のあり方って、政治部的な感覚から見て、細川さん、これどうなんですかね?」
ごくごく真っ当な指摘だが、これに細川政治部デスクは「いや、だから、(読売の今回の報道は)めずらしいですよね」と返すのが精一杯。だが、テレ朝は『モーニングショー』だけではなく、『ワイド!スクランブル』でも番組トップと第2部で報道し、前川氏の下半身スキャンダルについて“官邸のイメージ操作では”と言及。前川証言と下半身スキャンダルという“両論併記”の報道ながら、しかも総理直々に“圧力”がくわえられたなかで、官邸の読売を使った報復と、読売の姿勢に論及した点は、勇気あるものだったと言えるだろう。
また、朝の『とくダネ!』と昼の『バイキング』では前川証言を無視したフジテレビも、『直撃LIVE グッディ!』ではしっかり取り上げた。
しかも、菅義偉官房長官が会見で「(前川氏は)地位に恋々としがみついていた」などと人格攻撃したことに対し、ゲストの「尾木ママ」こと尾木直樹は「ぼくら教育関係者はみなさん信頼しているし、絶大な人気者。気さくで威張らないし、官僚的ではない。慕っている人も多いですね」と反論。元文科省官僚である寺脇研も「(菅官房長官の言葉とは)全然別の話を省内で聞いている。『みんな残って下さい』と下の者は思っていたけど、(前川氏は)『自分は最高責任者として全責任は自分にあるんだから辞めなくちゃいけない』と言っていた」「(前川氏が)辞めた日、省内には涙を流した者も相当数いたみたいですね」と、菅義偉官房の発言は官邸お得意の印象操作である見方を示した。
さらに、『グッディ!』でも、一連の文書の出所が前川氏だと官邸が睨み、出会い系バー通い報道をリークしたとする「週刊新潮」の記事にふれ、問題の出会い系バーを取材。だが、コメンテーターの編集者・軍地彩弓は「(前川氏は)脇が甘いと言われてもしょうがないけど、人格否定と今回のことを一緒にするのはやめてほしい。わたしたちが見てても、この話がくることによって撹乱されているように思っちゃうので、分けて話をしたい」と指摘。尾木も「(出会い系バー通いは)まずかった」としながらも、「このことで文書の問題をチャラにしてほしくない。分けて考えないと」と語った。MCの安藤優子も「前川さんの人間性と証言の信憑性を混同させようという動きがあるが、別の話」と番組冒頭から、何度も繰り返していた。
このように、官邸から恫喝を受けながら踏ん張ったメディアがある一方、露骨に避けた番組もある。たとえば、すでに前川氏にインタビューを行い、本日夜の『NEWS23』でその模様を流す予定のTBSは、朝の『あさチャン!』や昼前の『JNNニュース』で「怪文書じゃない」という前川氏の証言映像を大きく取り上げたが、『ビビット』ではほんのわずかでスタジオ受けもなく終了。『ひるおび!』でも11時台の新聞チェックのコーナーで扱っただけだった。
また、NHKと日本テレビも露骨だ。朝のニュース・情報番組では前述したTBSの『あさチャン』のほか、『グッド!モーニング』(テレ朝)『めざましテレビ』(フジテレビ)も朝日新聞を紹介するかたちで前川氏の証言を取り上げたが、NHK『おはよう日本』と日テレの『ZIP!』は一切ふれず。NHKは12時からのニュースで、国会で松野博一文科相が「すでに辞職した方の発言なので、コメントする立場にない」と答弁したことをさらっと伝えたのみで、日テレも『スッキリ!!』では無視、昼前の『NNNストレイトニュース』と『情報ライブ ミヤネ屋』のニュース枠で少しふれただけだ。
いや、露骨といえば、ご存じ“安倍政権応援団”である田崎史郎の解説だろう。昨晩の『ユアタイム』(フジ)に出演した田崎は、前川氏について「“ミスター文科省”と表現するけど官邸の見方はまったく違っていて、“最悪の次官だった”っていう認識なんですよ」と前川氏をバッシング。挙げ句、「文書を持ち出したとしたら、これ自体が国家公務員違法になるんじゃないかと言う方もいて。当面無視していくスタンスですね」と、またも官邸の方針を垂れ流した。この詭弁には、番組キャスターの市川紗椰も呆れ果てたように「え、無視って後ろ向きの態度を取られると、やっぱり何かあるんじゃないかなと思いますし、政府から調査するべきだと思うんですけどね」とコメント。田崎はやや狼狽えつつも、「文科省の役人が勝手につくったメモ」と断言したのだった。
官邸の恫喝に負けなかったメディアと、官邸の言いなりになったメディアが鮮明になった、今回の前川証言。しかし、きょうの報道だけで、加計学園問題は終わりではない。本日夕方16時より前川氏が記者会見を行い、証人喚問の要請があれば応じる意志を表明した。安倍政権の「行政文書じゃない」などというごまかしで済まされる話ではない。政権の下部組織と化したNHKと読売系以外のマスコミには、官邸の圧力に負けることなくさらなる追及を期待したい。 
加計学園問題まとめ 「要注意発言」で振り返る
 蠢く「官邸の最高レベル」と権力の構図
内閣府「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向だと聞いている」朝日新聞 5/17
今週、もっともインパクトのあった言葉はこれ。学校法人加計(かけ)学園が獣医学部を新設する計画について、文部科学省が内閣府からこのようなことを言われたとする記録を文書として残していたと5月17日の朝日新聞が報じた。
「獣医学部新設に係る内閣府からの伝達事項」と題された文書には「平成30年4月開学を大前提に、逆算して最短のスケジュールを作成し、共有いただきたい」「これは官邸の最高レベルが言っていること」と早期の開学を促す記述があった。「(文科)大臣ご確認事項に対する内閣府の回答」と題する文書には「設置の時期については(中略)『最短距離で規制改革』を前提としたプロセスを踏んでいる状況であり、これは総理のご意向だと聞いている」と書かれていた(毎日新聞 5月17日)。また、文科省が内閣府から「『できない』という選択肢はない」と言われていたことも記載されていたという(朝日新聞 5月18日)。かなり強い言い回しだ。
安倍首相の「腹心の友」、昭恵夫人との接点
加計学園の一体何が問題になっているのか? 日本中を騒がせている森友学園問題との共通点は何か?『週刊文春』4月27日号が詳しく報じている。
加計学園が経営する岡山理科大学の獣医学部は、安倍政権が2015年に国家戦略特区として指定した愛媛県今治市に開設される予定。時期は2018年4月。37億円相当の市有地が無償譲渡され、事業費192億円の半額、96億円を県と市が負担する。また、過去50年以上認められていなかった獣医学部の新設が、官邸主導で進められた経緯も問題視されている。
加計学園は、安倍晋三首相の長年の友人で「腹心の友」と呼ぶ加計孝太郎氏が理事長を務める学園。2人の出会いは安倍首相が米国に留学していた時代にまで遡る。それ以降、ゴルフや会食などの付き合いが続いており、別荘もすぐ近く。かつて安倍首相は関係者に「加計さんは俺のビッグスポンサーなんだよ。学校経営者では一番の資産家だ」と語っていたという。
安倍昭恵首相夫人も加計孝太郎氏とは関係が深い。2人はたびたびワシントンやロサンゼルスを訪問して現地の学校法人などを視察している。昭恵夫人が力を注ぐミャンマー支援も加計氏が現地まで同行してサポートした。
昭恵夫人は加計学園が神戸市で運営する認可外保育施設「御影インターナショナルこども園」の名誉園長を務めており、15年9月には政府職員2人を連れて施設のイベントに参加している(朝日新聞 5月17日)。同園のことを森友学園の籠池泰典氏と妻の諄子氏に「すごく良い教育をしている学校があるから見学に行ってみてはどうですか」と紹介したこともあった。
あまりにも関係が深い安倍首相夫妻と加計学園。その関係の深さは、もはや森友学園の比ではないだろう。
「不思議ですよね。なぜ大臣が代わることでこんなに進むのか」
加計学園から獣医学部を新設したいという申し出を受けた今治市と愛媛県は07年から8年間で15回も認可を申請したが、日本獣医師会の抵抗もあって申請は却下され続けてきた。ところが第二次安倍政権が発足した12年12月以降、明らかに対応が変わる。
14年には官邸が主導する国家戦略特区の会合で獣医学部の新設が具体的な議論になり、15年6月4日に今治市と愛媛県は国家戦略特区制度を利用して獣医学部の新設を提案、6月末には「獣医学教育特区」の設置が閣議決定された。翌年12月には新設を「一校限り」で認めることが決定、同様の提案を行った京都府と京都産業大学の申請は却下された。
16年8月まで国家戦略特区担当大臣だった石破茂氏は、「不思議ですよね。なぜ大臣が代わることでこんなに進むのか。(中略)世間で言われるように、総理の大親友であれば認められ、そうじゃなければ認められないというのであれば、行政の公平性という観点からおかしい」と疑問を呈している。
これまで野党から「首相の友人が利益を受けている」と追及されてきた安倍首相は、今年3月の参院予算委員会で「私はもし、働きかけて決めているんであれば、やっぱりそれは私、責任取りますよ、当たり前じゃないですか」と関与を強く否定してきた(FNNニュース 5月19日)。しかし、今回、報じられた書類の内容が事実であれば、内閣府が大学設置権限を持つ文部科学省に対して「官邸の最高レベルが言っていること」「総理のご意向だと聞いている」と圧力をかけたことになる。
問題の文書に官邸側はどう反応したか?
菅義偉官房長官 「出所も明確になっていない怪文書みたいな文書だ」テレ朝news 5/17
朝日新聞の報道を受けて同日に記者会見を開いた菅義偉官房長官は、文書の内容を否定して「怪文書みたい」と切り捨てた。
「どういう文書か。作成日時だとか、作成部局だとか明確になってないんじゃないか。通常、役所の文書はそういう文書じゃないと思う」などと述べ(朝日新聞 5月18日)、「こんな意味不明のものについて、いちいち政府が答えることはない」とも回答している(信毎web 5月17日)。
松野博一文科相は「特区に関する対応に向けた文書は作成された可能性はあると思う」と述べ(信毎web 5月18日)、すでに担当部局の職員に対して文書を作成したことがあるかなどの聞き取り調査を始めたことを明らかにした(NHK NEWS WEB 5月19日)。
文書には複数の首相官邸幹部やある省の副大臣の名前が記され、具体的な日付があるものもあれば、ないものもある。文書の中に実名が登場する北村直人日本獣医師会顧問(元自民党衆院議員)は「文書に書かれていることは事実だ」と語った。文書には「(北村氏が)政治パーティーで山本(幸三)国家戦略特区担当大臣と会って話をした」などと書かれているが、これも事実だという(朝日新聞 5月18日)。
「第二の『永田メール事件』になりはしないだろうか?」
自民党の和田政宗参院議員は自らのブログで「仮に文科省内の人物が作ったとしてもメモ程度のもので、記憶違いもあるし、付け加えたり改ざんがいくらでも出来る」として、「第二の『永田メール事件』になりはしないだろうか?」と警告している(5月17日)。
新藤宗幸千葉大名誉教授(行政学)は「(役所では)今回のように内部で情報を共有するためのメモ的な文書は頻繁に作られ、情報公開法の対象でもある。他の省庁とのやり取りを記録に残すのは役人の普通の行動だ」と指摘。国の「行政文書の管理に関するガイドライン」では、個人的な資料や下書き段階のメモであっても「国政上の重要な事項に係る意思決定が記録されている場合、行政文書として適切に保存すべき」と定められている(朝日新聞 5月18日)。
重要人物の萩生田官房副長官と義家文科副大臣の発言は?
萩生田光一官房副長官 「本件について、ここまで詳しいやりとりをしたという記憶は私はございません」FNNニュース 5/19
問題の文書の中に登場する重要人物が、学部設置の認可を判断する文部科学省の義家弘介副大臣と、萩生田光一官房副長官だ。
5月18日、日刊ゲンダイが計8枚に及ぶ文書を全文公開している。文書によると、松野博一文科相からの「ご指示事項」には「教員確保や施設設備等の設置認可に必要な準備が整わない」として懸念が示され、「31年4月開学を目指した対応をすべき」と記されている。松野文科相は早期開学に否定的だったのだ。
「義家副大臣レク概要」と題された文書には、「平成30年4月開学で早くやれ、と言われても、手続きはちゃんと踏まないといけない」「やれと言うならやるが、閣内不一致(麻生財務大臣反対)をどうにかしてくれないと文科省が悪者になってしまう」と記されている。義家副大臣も松野文科相と同じく、早期開学には否定的だった。
「腹心の友」という首相発言が生まれたイベント
ただし、義家氏と萩生田氏はここから事態を動かしていく。「10/4義家副大臣レク概要」と題された文書には、義家氏の言葉として「私が萩生田副長官のところに『ちゃんと調整してくれ』と言いに行く。アポ取りして正式に行こう。シナリオを書いてくれ」という一文が記されている。また、「10/7萩生田副長官ご発言概要」と題された文書には「平成30年4月は早い。無理だと思う。要するに、加計学園が誰も文句が言えないような良い提案をできるかどうかだな。構想をブラッシュアップしないといけない」と萩生田氏が語ったという一文が記されている。
当初は誰しも否定的だった早期開学だったが、実現に向けて徐々に動き出していく様子が文書から窺える。そして、昨年11月に国家戦略特区の諮問会議で獣医学部の新設が52年ぶりに認められ、今年1月に加計学園によって今治市に新設される方針が正式に決定したという流れだ。
18日、衆議院・農林水産委員会で野党からの追及を受けた義家氏、萩生田氏は文書の信ぴょう性が疑わしいと口を揃え、内容についても否定した。
なお、加計学園が04年に開校した千葉科学大学の客員教授には、当時落選中だった萩生田氏や第一次安倍政権で首相秘書官を務めた井上義行氏らが名を連ねていた。この大学の開設にあたっても、今回の獣医学部と同様、銚子市から市有地を無償貸与された上、約78億円もの助成金を提供されている。先の「腹心の友」という言葉は、この大学の開学10周年式典の式辞で安倍首相が述べたものだ。
麻生副総理発言に見る「権力の構図」
麻生太郎副総理兼財務大臣 「だから認可しなきゃよかった。俺は反対だったんだ」 『週刊文春』 4/27
こちらは少し前の発言。文書の中には「閣内不一致(麻生財務大臣反対)」と記されていたが、国会で加計学園問題が追及されるようになってから、麻生副総理がこのように発言していたと『週刊文春』にて報じられている。安倍首相は麻生氏の発言に対して「あの人は分かっていないよ」と不満を露わにしていたという。
麻生副総理が獣医学部新設に反対しているのは、獣医師の定員の問題がかかわっている。日本獣医師会が50年以上にわたって獣医学部新設に反対してきたのは、国内の獣医師は不足していないという見解に基づくものだ。そして、麻生氏は日本獣医師会とかかわりが深い。2013年に開催された日本獣医師会の蔵内勇夫会長就任記念祝賀会では、麻生氏が発起人を務めている。
東洋経済オンラインでジャーナリストの安積明子氏は、加計学園問題の背後には「麻生vs.菅」の構図が見え隠れしていると指摘している。文書の中で松野文科相と萩生田副長官は、2016年10月23日の衆議院福岡6区補欠選挙の後で加計学園問題を処理するべきだと主張していた。このときは、鳩山邦夫衆議院議員の次男・二郎氏をかつて邦夫氏と交流があった菅義偉官房長官が応援し、麻生氏は対立候補の蔵内謙氏を応援していた。麻生氏は選対本部長に就任するほどの力の入れぶりだったが、蔵内謙氏の父が、県議を8期務めた蔵内勇夫県連会長である。先にも触れたとおり、蔵内氏は日本獣医師会の会長でもあるのだ。
加計学園の獣医学部を新設したい安倍首相と菅官房長官、それに反対する麻生副総理と日本獣医師会という構図は確実だろう。文書の流出もそのあたりの文脈から発生しているのかもしれない。折しも麻生副総理は7月にも党内第2の規模となる新派閥を結成すると発表したばかり(産経新聞 5月15日)。「ポスト安倍」を見据えて影響力を拡大したい考えを持つ麻生氏が加計問題の鍵を握っている――? 
「出会い系バー」報道波紋 
朝日新聞2017年6月13日 / 読売新聞掲載「公共の関心事」と説明 
読売新聞が、前川喜平・前文部科学事務次官が「出会い系バー」に通っていたと報じた5月の記事が、波紋を呼んでいる。「不公正な報道」などと批判が出ていることに対し、同紙は今月、「公共の関心事であり、公益目的にもかなう」と説明する記事を掲載した。
3日、読売新聞社会面に東京本社の原口隆則社会部長名の記事が掲載された。5月22日付けの「前川前事務次官 出会い系バー通い」という記事に対して「不公平な報道であるかのような批判が出ている」ことに対し「批判は全く当たらない」との見解を示した。
22日の記事は、前川氏が在職中、平日夜に東京・歌舞伎町の出会い系バーに出入りしていたことを報じた。店について「売春や援助交際の交渉に場になっている」とし、店の関係者への取材をもとに、前川氏が女性と店外に出たこともあったと伝えた。
前川氏については、学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画をめぐり、5月25日付け朝日新聞や同時発売の週刊文春が「行政がゆがめられた」などと証言するインタビューを掲載した。
読売新聞の記事掲載のタイミングや内容について、山井和則・民進党国会対策委員長は同日、国会内で記者団に「前川氏のスキャンダル的なものが首相官邸からリークされ、口封じを官邸がしようとしたのではないかという疑惑が出ている。背筋が凍るような思いがする」と述べた。
前川氏は25日の記者会見で、出会い系バーについて「女性の貧困を扱う報道番組を見て、話しを聞いてみたくなった」と理由を説明。読売新聞の報道について、権力からの脅しかと問われると「そんな国だとは思いたくない」と語った。
一方、菅義偉官房長官は26日の会見で、「教育行政の最高の責任者が、そうした店に出入りして、小遣いを渡すようなことは到底考えられない」と批判。荻生田光一官房副長官は31日の衆院農水委員会で「政府として情報をリークしたという事実はない」と否定した。
3日付読売新聞の社会部長名の記事は「独自の取材で(略)つかみ、裏付け取材を行った」「次官在職中の職務に関わる不適切な行動についての報道は、公共の関心事であり、公益目的にもかなうもの」「本紙報道が(略)前川氏の『告発』と絡めて議論されているが、これは全く別の問題」とした。
「中途半端で甘い記事」「権力監視の役割は」 逢坂巌・駒沢大准教授(政治コミュニケーション)は「私的な行為は報じる価値がないと、読売新聞を批判するのは拙速だ」と言う。「次官は立派な権力者で、その私的行動も権力監視の対象になることがある」。その上で、今回の記事について「読売は権力監視の一環だと言いたいのかもしれないが、前次官の買春を批判しているようにも読める裏付けするファクトは示していない。中途半端で甘い記事だ」と話す。
元読売新聞記者でジーナリストの大谷昭宏さんは出会い系バーの記事が東京、大阪、西部(福岡)の各本社の紙面で同じ扱いだったことに注目する。ほかの記事は各紙面で見出しや扱いが異なる部分がある。大谷さんは「会社の上層部から指示が出た可能性が高い」との見方を示した。
読売新聞をめぐっては5月3日付朝刊で、安倍晋三首相の憲法改正についての単独インタビューを掲載。国会で安倍首相が「読売新聞に書いてある。ぜひ熟読していただいてもいい」と発言し、物議を醸した。同紙はこの報道についても13日付朝刊で東京本社編集局長名の記事を載せ、憲法改正について首相の考えを報道することは「国民の関心に応えることであり、本紙の大きな使命」と説明した。
岩渕美克・日大教授(政治学)は「インタビューと首相の発言で政治とメディアの距離に目が向けられる中、出会い系バーの記事が出たことでさらに疑いを招いている。メディアの本来の役割は、一定の距離をとって権力を監視することだ」と話す。社会部長名の記事について「『読者に誤解を与えている』と思ったからこそ出したのだろうが、出会い系バー報道がなぜこのタイミングだったのかなど、読者の疑問に必ずしも明確に答えていない」と話す。読売新聞グループ本社広報部は、出会い系バーの記事が3本社で同じ扱いだったことについて「扱いや見出しが同じになるのは日常的に起きています」と文章で回答。記事の反響については「一部報道等の誤った情報に基づいたご批判の声も寄せられていますが、本紙の報道を支持する声は数多く届いています」とした。  
2018  
安倍首相はおそらく辞めない 2018/5
この原稿を書いている現時点から数えて3日前の5月21日、加計学園の獣医学部新設をめぐる問題で、愛媛県が新たな文書を国会に提出した。文書では、3年前に柳瀬唯夫元総理大臣秘書官が官邸で学園側と面会したことが明らかになっている。
2日後の23日には、森友学園への国有地の売却をめぐる問題で、財務省が「廃棄した」と説明してきた学園側との交渉記録が見つかったとして関連文書を国会に提出している。なお、NHKなどの報道によれば、この記録文書については、去年2月に問題が明るみになったあと、財務省理財局の一部の職員が保管してあった記録を廃棄するよう指示していたことがあわせて発覚した。
さらに同じ23日、防衛省が、陸上自衛隊イラク派遣部隊の日報隠蔽問題の調査結果を公表している。「防衛省は当時の稲田朋美防衛相による再捜索の指示が伝わらなかったことを要因に挙げ、組織的隠蔽はなかったと結論付けた」とのことだ。
よくもまあ、あとからあとからとんでもない資料が出てくるものだと思うのだが、それでは、これらの一連の新事実が現政権の致命傷になるのかというと、私は、必ずしもそういう方向には展開しないだろうと考えている。
23日に、私はこんなツイートを発信している。
《本来なら4月に決裁文書の改竄が明るみに出た時点ですでに詰みなんだけど、今回のこの交渉記録文書の廃棄の発覚で、逃げ道は完全に塞がれた。これでもなお逃げ切れるのだとしたら、別の何かが死ぬことになるのだと思う。》
ところが、調べてみたところ、財務省が文書の改竄を発表したのは、4月ではなくて3月の12日だった。ということは、私のツイートにある「4月に決裁文書の改竄が明るみに出た時点で」という表現は、間違いだったことになる。この場でお詫びして訂正しておくことにする。
とにかく、この事件をずっと注視してきたつもりでいる私にしてからが、文書改竄発覚の日時を失念していたわけだ。この事実を見てもわかるとおり、いわゆる「モリカケ問題」は、次々と新事実が暴露されている一方で、順調に風化が進んでもいる。もしかしたら、このまま尻すぼみで忘れられるかもしれない。
今回は、この点について考えてみる。
モリカケ問題の風化と、できれば、風化した後にやってくる未来について、触れることができれば有益かもしれない。国会に提出された財務省の文書と愛媛県の文書は、色々な意味で、容易ならざる事実を物語っている。たとえば、総理夫人である安倍昭恵さんの関与を強く示唆する記述が含まれている。それとは別に、安倍首相が加計学園による獣医学部新設の計画を3年前の段階で知っていたことを疑わせる文言が各所に散見されていたりもする。いずれにせよ、現政権にとっては、極めて不都合な資料だ。
ということはつまり、事態はまさに、安倍首相ご自身が、昨年の2月17日に国会の答弁の中で「私や妻が関係していたということになれば、まさにこれはもう私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい」という、強い調子の言葉とともに全面否定した、国有地取引への「関与」を裏付ける方向で推移しているわけで、してみると、安倍首相は、今回出てきた文書に追い立てられる形で、自ら職を辞することになるのだろうか。
私は、ここでも、そういう事態には立ち至らないだろうという観測を抱いている。なぜかといえば、なにがあろうと30パーセント以下に数を減らすことのない確固たる政権支持層が、いわゆる「モリカケ問題」を、結局のところ、問題視していないからだ。別の言い方をするなら、「モリカケ問題」を理由に政権への支持をひるがえすタイプの国民は、とっくの昔に政権を見捨てているのであって、今年の3月の段階でなお政権を支持していた人々は、この先モリカケ問題でどんな新事実が浮上しようが、決して安倍支持を引っ込めるようなことはしない、ということだ。
ごぞんじの通り、政権のコアな支持層の中には、「モリカケ問題は、マスゴミやパヨク連中によるフェイクニュースにすぎない」「あることないことを針小棒大に報道する捏造だ」「安倍さんには一点の曇りもない」「陰謀だ」という見方を牢固として捨てない人々が一定数含まれている。とはいえ、私の見るに、その種のいわゆる熱狂的な「アベ信者」は、声が大きいだけで、見かけほど数が多いわけではない。
多くの政権支持層は、実のところ、モリカケ問題が「クロ」であることに気づいているはずだ。彼らは、メディアで語られている事件の構図のすべてに関して安倍首相が責任を負うべきだとまでは考えていなくても、少なくとも「モリカケ」事案の一部に首相や夫人が関わっていたことについては、内心、すでに認めているはずだと私は思う。
で、ここから先が大切なところなのだが、日本人のおよそ3割を占める政権支持層は、モリカケ案件に総理夫妻が関与していたことを承知していながら、それでもなお、「それがどうしたんだ?」と考えて、そのことを、辞職に値する不祥事だとは考えていないのだ。
戦後の政治家は、大筋において、なんらかの意味で利益誘導を心がけている人々だった。地元に鉄道の線路を引っ張ってくることを手始めに、地場産業の育成や、大手企業の誘致、高速道路計画の立案や原子力発電所の建設に伴う周辺自治体への補償などなど、地域選出の議員は、当然のつとめとして地元のために国の予算を使わしめることに力を尽くした。また、いわゆる「族議員」と呼ばれる議員たちも、自分に票と議席をもたらしてくれた特定の業界や団体の意を受けて、利益誘導をはかることを特段に後ろめたい仕事だとは考えていなかった。というのも、昭和の常識では、議員が為すべき第一の仕事は、すなわち自分を選出してくれた地元や業界や後援会組織や宗教団体への恩返しをすることだと考えられていたからで、それゆえにこそ、わたくしども20世紀の人間の多くは、そうやって様々な地域や組織や支援団体や圧力団体が、選挙を通じて利益誘導のための代議士を飼うことそれ自体を、民主主義の実相と信じて疑わなかったのである。
そのデンで行くと、安倍さんが自分の親しい友人が経営する学園グループのためにひと肌脱いだことは、身内びいきのそしりは免れ得ないのだとしても、一人の人間として見れば、ごく自然な感情の発露でもあるし、昭和の常識から考えれば、むしろ頼りになる政治家としての当然の振る舞い方だったと言って良い。森友学園のために助言や協力を試みたのも、自分の政治的信条に共鳴してくれている教育者を応援しようとした熱意のあらわれであって、たしかに、公正な行政手続からはみ出している部分があったことは否定できないのかもしれないが、それにしたところでたいした問題ではない。というのも、政治家の「影響力」とは、つまるところ「公正な行政手続からはみ出すこと」そのものを指す言葉なのであって、だとすれば、「公正な行政手続を多少とも歪曲させる」ことができる政治家こそが、結局のところ「強い政治家」だということになる。
実際、一部のマスコミや有識者が、政治腐敗の極致であるかのようにことさらに批判している「ネポティズム」(縁故主義)を、「そんなに悪いばっかりのものでもないだろ?」と考えている日本人は少なくない。
現実に、仕事の回し合いや、社員の採用でも、縁故主義はわれわれの社会の有力な基本線であるわけだし、民間であれお役所であれ学校であれメディアであれ、われわれは、あらゆる場面でよく知った顔を優遇し、よく知っている人々に特別扱いを受けることで自分たちにとって居心地の良い社会を育んでいる。とすれば、お上品ぶったメディア貴族の記者連中や、きれいごとの言論商売で口を糊している腐れインテリの先生方がどう論評しようが、オレは非人情で公正な四角四面の政治家なんかより、清濁併せ呑む度量をそなえた懐の深い人情味溢れた昔ながらの政治家の方が好きだよ、と考える人々が一向に減らないことを、一概に日本社会の後進性と決めつけてばかりもいられないのだろう。
その種の、現実に目の前で起こっていることこそが人間の社会の本当のリアルで、本に書いてあるみたいな小難しいリクツは、要するにアタマの良い連中がこねくり回してる絵図以上のものではないと考えている人々にしてみれば、あらまほしき立憲政治の建前だの、正しい民主政治の手続きだのみたいなお説教は、「なんだかタメになりそうなお話だけど、オレは忙しいんで、ひとつそこにいる猫にでも教えてやってくれよ」と言いたくなるテの退屈なお題目なのであろうし、憲法にしろポリティカル・コレクトネスにしろ一票の重さにしろ文書主義にしろ、その種の社会の授業の中で連呼されていた一声聞いただけでアクビの出て来るタイプの言葉には、嫌悪感は覚えても、ひとっかけらの親近感も感じないはずなのだ。
つい昨日、ツイッターのタイムラインに流れてきた画像で考えさせられたのは、「月刊WiLL」という雑誌の6月号の写真だった。見ると、表紙の一番右に「危機の宰相は独裁でいい」という大きな見出しが掲げられている。編集部がこういう見出しをトップに持ってきたことは、この種の主張を歓迎する読者がそれだけいることを見越した上での判断なのだとは思う。おそらく、信頼できる独裁者による政治のほうが、いつも議論ばかりしていて話が先に進まない議会制民主主義の非効率な政策決定過程よりもずっと合理的で果断でスピーディーであるはずだ、と考えている有権者は、おそらく多い。
で、そういう人々は、立憲主義が危機に陥っていようが、文書主義が死に直面していようが、「そいつらは、やけにカラダがよわいんだな」くらいにしか思わないわけで、結局のところ、弱い者の味方をしているつもりでいるいい子ぶりっ子の連中の言い草が不愉快なわけだ。
モリカケ問題を扱ううえでの難しさは、国会での不毛なやりとりをずっと見せつけられていると、「些細なネポティズムを騒ぎ立てて政局を作ろうとしている野党よりも、とにかく国策を進めようとしている与党の方がずっと誠実だ」というふうに見えてきてしまうところにある。
実際、法案の審議に対してどちらが誠実であるのかという一点だけについていえば、たしかに、与党の方がマトモに審議しようとしていることは事実だからだ。ただ、どうしてスケジュール通りに法案の審議に入れないのかの理由は、野党が妨害しているからというよりは、政権の側が答えるべき質問にマトモに答えていないからだ。与党ならびに関係省庁が、重大な疑惑についての文書を隠蔽し、廃棄し、改竄して、質問をはぐらかしているからこそ国会が空転していることを忘れてはならない。……と、この種のお説教を書いていると自分ながら空しくなる。
なぜというに、私がいま書いたみたいなことは、わかっている人には言うまでもなくわかりきった話だし、聞く耳を持たない人々にとっては、目障りなだけのクズだからだ。ということは、私の文章を読んで目が開かれたり啓蒙されたりする人間は一人もいないのであろうな。
話題を変えよう。日本大学で起こっている恐ろしくも不毛な出来事に関連して、私は、23日の未明に《仮にも日本一の規模を誇る大学の広報が、これほどまでに醜い弁明を平然と開示している現今の事態は、この一年の国会答弁が、言葉を軽視する風潮を蔓延させてきた流れと無縁ではないはず。》というツイートを書きこんだ。このツイートには、私を「アベノセイダーズ」であると論評するタイプの反論が多数寄せられた。私の書き方に曖昧な点があったことは認めなければならない。たしかに、虚心に読み下すと、このツイートの論旨は、オダジマが、日大の広報がバカな弁明を並べ立てた「原因」を、国会において不誠実な答弁を繰り返している安倍政権による悪影響に求めているように見える。
私の真意は少し違う。書き方として、そういう書き方になっているが、私が伝えたかったのは、「安倍政権がこの1年以上国会を舞台に繰り広げている日本語の成り立ちそのものを毀損する悪質な言い逃れの答弁と、日大の広報がこのたびの悪質タックル事件に関する弁明として告知した、文脈を無視して形式論理上の曲芸に逃げ込むテの立論は、その本質において同質であり、いずれも、言葉の機能を偏頗な論争技術の道具に堕さしめている点で極めて社会を害するものだ」ということだ。つまり「われわれの周囲にあまたある腐敗は、どれもこれも同じ腐臭を放っている」という観察を言葉にしたものでもある。
その「腐臭を放っているもの」に、もし名前をつけるのであれば、いっそ「日本」と呼んでもかまわない。してみると、私のアカウントに押し寄せて、「反日」というレッテルを貼って行った人たちの言い分にも一理はあったわけだ。
このツイートに先立つ3日ほど前の5月19日に《安倍さんについてなにがしかの論評すると、必ずや「どうしてそんなに日本がきらいなのですか?」という感じの質問が届く。一応マジレスしておく。日本が好きだからこそ、政権のやりかたに反対せねばならないケースがある。それだけの話だ。どうしてこんな簡単なことがわからないのだろうか。》という内容のツイートを投稿したのだが、これには、7988件の「いいね」が付き、198件のリプライが押し寄せた。
私を「反日」と呼ぶ人たちが想定している「日本」と、私が、「腐臭を放っている実体」として名付けようとした「日本」は、正反対のものだ。思うに、様々なズレは、ここにはじまっている。ともあれ、大切なのは、われわれが暮らしているこの日本の社会が、この5年ほどの間に、いけずうずうしい言い訳を並べ立てる卑劣な大人や、三百代言顔負けの聞くに堪えない屁理屈を押し出してくる商売人の目立つ、どうにも不愉快な場所に変化しつつあるということだ。
その原因のすべてを安倍政権に押し付けるつもりはない。私は、言葉というコミュニケーションツールへの基本的な信頼感が、根本的な次元で損なわれていることの原因の少なくとも一部は、国会答弁の中でこの1年来繰り返されているあまりにも不毛な言葉のやりとりにあるはずだ、とは考えている。しかしながら安倍政権もまた、変化した「日本」の影響を受けていることは間違いないからだ。
なので、私は日本を取り戻さなければならないと考えている。ん? この点では、安倍さんと一致しているのだろうか。具体的にどんな日本を取り戻すのかについて、果たして歩み寄りの余地があるものなのかどうか、しばらく考えてみたい。その前に、「自分を取り戻せ」とか言われそうだが。 
封印されてきた安倍晋三スキャンダル 2018/9
月刊「創」10月号では、2人のジャーナリストが安倍首相と暴力団の関係が何故今まで封印されてきたのかという問題について、次のように対談をしている。
”安倍一強”の政治状況が続く中で安倍首相の過去のスキャンダルが国会で取り上げられるなどしている。しかし、それを大手マスコミはいっさい報道しない。実はそのスキャンダルは、共同通信がかつて封印したものだった。
対談会場に山岡さんは包帯姿で現れた。数日前、新宿で階段から転倒したという。山岡さんと言えば、政治や企業のスキャンダルを果敢に暴き、かつて武富士から自宅を盗聴されたり、何者かに自宅を放火され命を失いかけた経験を持つ。今回の転倒も不審な経緯もあり、事実関係を調査中という。一方の寺澤有さんも警察不祥事などを激しく追及してきたジャーナリストだ。
その2人がこの間、取り組んでいるのがここに紹介する安倍首相のスキャンダルだ。実はこのスキャンダル、2006年に共同通信が報道一歩手前まで行きながら上層部の命令で封印したいわくつきのものだ。それがなぜ今年になって再び取りざたされるようになっているのか。2人の対談をお届けしよう。
安倍氏の自宅と事務所が放火され昭恵夫人の車が炎上
寺澤 一番最初にこの事件についてスクープしたのは山岡さんのメールマガジンで、2003年2月でしたね。2000年6月17日、28日、8月14日と、3回にわたって下関市の安倍晋三衆議院議員の自宅や後援会事務所に火炎瓶が投げ込まれ、車3台が全半焼するなどした。その事件を報じたものです。
山岡 火炎瓶は5回投げられたようですが、火がついたのがそのうち1回だけで、燃えた車の一台は昭恵さんの車でした。
寺澤 山岡さんが当時書いた記事では、容疑者はK氏と匿名でしたが、発端が選挙妨害だったことを含め、概要はほぼ書かれていた。そしてその11月に小山佐市氏と工藤会系高野組の高野基組長及び組員が逮捕された。確かその後に『噂の真相』も記事にしてましたね。
山岡 もともと発端となったのは1999年4月の下関市長選で、当時はまだ一介の衆議院議員だった安倍晋三が推薦した江島潔候補(現在は参院議員)が当選した。その選挙戦で江島氏の対立候補だった古賀敬章氏を中傷する怪文書がまかれたんですが、それを実行したという小山氏が、その見返りを求めて安倍議員の秘書に談判するんです。そして後に裁判で明らかになりますが、安倍議員の秘書の佐伯伸之が300万円を渡し、小山氏は7月3日には安倍議員本人とも面会しています。ところが一転して、小山氏は、8月30日に恐喝容疑で逮捕されるんです。ただ、この時は9月21日に不起訴処分となってしまった。そして安倍議員自ら小山氏と会い、見返りの約束をしながらタイホされたことから小山氏は激怒し、2000年6月になって、今度は安倍議員の自宅や事務所に火炎瓶を投げ、2003年11月11日に逮捕されたのです。その間、安倍議員は2000年7月に官房副長官になっています。
寺澤 この放火事件は当時、地元では大きく報じられたんですが、安倍事務所は「犯人に心当たりはない」とコメントしています。でも実際には双方の関係が後に問題になるわけですね。
山岡 それだけでなく、これは当時伏せられたようなのですが、火炎瓶だけでなく、安倍事務所に銃撃、いわゆるカチコミも行われていたようなんですね。事務所の網戸と窓を銃弾が貫通した跡を当時「アクセスジャーナル」は掲載しました。近所の住民も「銃声を聞いた」と証言していたんです。でも、報道はされなかった。銃撃されたとなるとイメージが悪いために発表されなかったようなんですね。
7月17日に山本太郎議員が国会で安倍首相に質問
寺澤 事件については2007年3月9日に福岡地裁小倉支部で小山被告に懲役13年の判決が出るんですが、その中である程度明らかになっています。実はこの事件については、今年7月17日にカジノ法案の審議の中で、山本太郎議員が国会で質問しているんです。その質問にあたって山本議員は裁判所に問い合わせて記録を調べたのですが、重要事件として福岡地裁小倉支部で出た判決文が裁判所のホームページに載っているんです。それをもとに山本議員は質問したのですが、その判決文に、小山氏らが選挙に協力した見返りとして安倍議員の秘書に要求し、秘書が300万円渡したという経緯も記載されているんです。だから基本的な事実は明らかなんですが、山本議員の質問に対して、安倍首相は「妻と私か寝ていた自宅に火炎瓶を投げ込まれた。私たちはあくまでも被害者です」と答弁していました。
山岡 それから今回、寺澤さんがアマゾンの電子書籍『安倍晋三秘書が放火未遂犯とかわした疑惑の「確認書」』で書いているんですが、2006年に一度共同通信がこの事件を取材し、配信しようとしたんですね。
寺澤 共同通信の記者が福岡拘置所に勾留中の小山氏に面会して取材し、小山氏と秘書の間で交わされた念書の存在も確認し、秘書のコメントもとっていたんです。ところがその報道を上屑部の判断で見送った。これについては『現代』(既に休刊)06年12月号に共同通信OBである魚住昭氏と青木理氏が「共同通信が握りつぶした安倍スキャンダル」という告発レポートを書いています。当時、共同通信はピヨンヤンに支局を開設する予定で、10月末に安倍首相を招いて加盟社編集局長会議を行う直前でした。10月2日の共同通信定例部会で、社会部長から記事を見送るという説明がなされたのですが、納得できない記者たちが次々と上層部を批判した様子がその記事に書かれています。共同通信が記事配信を取りやめたのは、まさに安倍首相が総裁選に当選して権力を持っていくその時期だったのです。共同通信記者らは、その総裁選のテレビ中継が放映されている下関市内の会場で安倍首相の秘書に念書のコピーを持って行ってぶつけたのですが、そうやって書き上げた記事が結局上層部によって握りつぶされたわけです。本当なら安倍首相が総截選に当選したという報道とともにそのスキャンダルをぶつければ、権力を監視するという報道機関のスタンスを示せる機会だったのに、そうしなかった。「いったん見送って時機を見て配信する」と社内に説明したようなんですが、結局やらないという時のお決まりの言い訳ですよね。
かつて事件で逮捕された人物が今年、出所
――そうやって封印されたスキャンダルが、今年になって再び取りざたされるようになったのは、服役していた小山氏らが出所したという事情があるからですね。
山岡 2014年に仮出所するらしいという情報を聞いて我々が接触を図るんですが、その仮出所の情報はガセだったんです。でもその時に送った手紙が本人の手に渡ったようで、今年、実際に出所した後、5月10日、私か電話に出なかったことから、本人からいきなり寺澤さんに電話があったのです。
寺澤 取材したいという手紙を出して、その中にこちらの携帯電話の番号を書いておいたんですが、突然、電話がかかってきました。実は、その前に仮出所したらしいという情報に基づいて取材に入った時に、安倍首相の地元筆頭秘書だった竹田力氏など関係者に一通りあたったのです。この竹田元秘書はその前の共同通信の取材でも念書の存在とそれに自分がサインしたことを認めていたんですが、我々の取材でもあっさり認めました。
山岡 もう亡くなってしまったのですがね。でも、基本的な事実は裁判でも明らかになっているし、共同通信の取材でも認めていたからでしょう。もうひとり、その事件に関わった佐伯秘書にも取材したけれど、これは応じようとしませんでした。
寺澤 ただ佐伯秘書は魚住氏と青木氏の取材では事実関係を認めていたから、その経緯は今回我々が取材する時にすごく役立ちました。
――その出所した事件当事者に直接話を聞けたところから今回の話が始まるわけですが、その前に、そもそも発端となった選挙妨害事件とはどんなものだったのか教えてください。
山岡 1999年4月の下関市長選で安倍議員の推した江島候補を勝たせるために、対抗馬の古賀候補についての怪文書を流したというのです。出回った怪文書は何種類かあるんですが、ひとつは古賀候補の不倫疑惑を報じた『アサヒ芸能』の記事でした。選挙の2年くらい前に報じられた記事で、しかも古賀氏は匿名でした。でも、その記事を佐伯秘書が小山氏に見せて、こういうやつを当選させるわけにはいかないだろう、と言ったというんです。その記事コピーが選挙戦で大量にまかれました。ただ、その記事自体は、匿名だったとはいえ、既に報道されたものでした。本当にひどいのはそれ以外の怪文書で、古賀候補が北朝鮮生まれで、当選させたら下関が朝鮮支配になるという、とんでもないデマなんです。これも何種類かあるんですが、とにかくひどい怪文書です。しかも手がこんでいて、例えばひとつは、江島候補の妻が書いたという体裁で、怪文書と同じ内容の手紙があちこちに送られたんです。もちろん妻が書いたという事実はなく、妻を騙って誰かが怪文書を送ったわけです。つまり実在の候補の妻から送られた手紙という体裁だと中身を信じてしまう者もいるだろうというアイデアなんです。
寺澤 怪文書がまかれた当時、古賀氏は事実無根だとして警察に被害届を出しているんですが、警察は結局、動かなかったわけですね。
( 月刊「創」2018年10月号「封印されてきた安倍晋三スキャンダル」から )
共同通信の現場では記者が拘留中の被疑者に会って取材したというのに、会社は「真実の報道」より政治家を招待して事務所開設のセレモニーを行なうことを優先したというのは、報道の仕事に携わる者としての自覚に欠ける由々しい事態だったと言えるのではないでしょうか。報道機関がこのように堕落すると、社会には安倍政権のような「悪政」がはびこり民主主義は衰退する。実に分かりやすい教訓だと思います。 
安倍首相が総裁選討論会で記者から予想外の追及受けて狼狽! 2018/9/14
北海道地震が起こったにもかかわらず総裁選の投開票日延期もせず、一方で地震にかこつけて石破茂・元幹事長との論戦を避けてきた安倍首相だったが、きょう、日本記者クラブ主催の討論会に登場した。
だが、安倍首相にとってきょうの敵は石破氏ではなく、記者たちだった。
安倍政権にべったりの御用記者、橋本五郎・読売新聞特別編集委員からもツッコミを浴びせられるという展開に、安倍首相はあきらかに動揺し、お得意のキレ芸や詭弁を連発。そしてついには口にしてはならない言葉まで吐いてしまったのだ。
まずは、きょうの討論会を振り返ろう。討論会の第一部は安倍首相と石破氏の間で互いに対する一問一答がおこなわれたが、ここでは石破氏の質問をはぐらかすなどの姿勢でなんとかやりすごした安倍首相。だが、平静でいられなくなったのは、記者クラブの代表記者が質問をぶつけた第二部だった。
前述した橋本五郎氏は「国民が思っている疑問を率直にぶつけたい」と前置きすると、初っ端から安倍首相が“終わったこと”にしている森友・加計問題を取り上げ、「(内閣)不支持の大きな理由は『首相が信頼できない』ということで、非常に深刻な問題」「『不徳の致すところ』と答えておしまいにしてはいけない。なぜそうなっているのか、そのために何をすべきなのか、お答え願いたい」と追及したのだ。
しかし、安倍首相の返答は、「私の指示や妻が関与したということは一切出ていない」「プロセスにおいては一点の曇りもない」「李下に冠を正さず」という耳にタコの定型文。具体的に何をすべきと考えているのかを訊かれたのに、何も答えなかったのだ。これには橋本氏も「国会答弁でもきちんと誠実に答えてないという声もある」と応戦したが、安倍首相は「いままでも誠意をもって答弁してきたつもり」などと返した。
だが、今度は倉重篤郎・毎日新聞専門編集委員が「幅広い意味でいえば(安倍首相と昭恵夫人は森友問題に)関係があったと思う」「安倍さんの言い方は賄賂を貰ったとかそういうかたちでは関係がなかったという、意図的に関係を狭めて答弁しているところは不信を呼ぶ」と指摘。さらに「柳瀬(唯夫・首相)秘書官がわざわざ(加計側を)官邸に呼んで助言をしている。そんなことは普通ありませんよ。『一点の曇りもない』という言葉とはあまりにも隔たった事実だと私は思う」と追及した。
しかし、この倉重氏の質問に、安倍首相は「いろんな話をごっちゃにしている」「私は答弁を変えていない」と強弁。……いやいや、「私や妻が関与していたら総理も国会議員も辞める!」と啖呵を切ったくせに、いつのまにか「贈収賄などではないという文脈で、一切関わっていない」と言い出し、挙げ句、この2つの答弁が同じ趣旨だと閣議決定。あきらかに答弁を変えたのに、「同じ意味だ」と勝手に力づくで自己正当化しただけではないか。よくこれで「答弁を変えていない」と言い切れたものだ。
この詭弁に対し、倉重氏は「役人のなかには亡くなった人もいる。非常に重要な政治責任を抱えた問題」「ある意味、総理大臣の任を辞してもおかしくないぐらいの重要な問題。安倍さんの頭のなかにその辺のことがちらりと頭をかすめたことはあったのか」と質問。だが、安倍首相は「いま一方的に倉重さんのほうからいろんな話をされましたが、追加で言わせていただきますと、柳瀬さんの話なんですが」と言い、質問には答えず、柳瀬首相秘書官の面談が加計問題の発端にはなっていないと言い訳を繰り返すだけ。
しかも呆れたことに、安倍首相は昨年の総選挙をもち出し、「国民のみなさまの審判を仰いだところ」などと胸を張ったのである。
言うまでもなく、森友学園の公文書改ざんが発覚したのも、加計学園問題で愛媛県から「首相案件」と記した文書が見つかったのも、今年に入ってからの話。その上、昨年の解散発表時は森友・加計問題について「国民のみなさまに対してご説明もしながら選挙をおこなう」と明言したのに、選挙中は「街頭演説で説明するより国会で説明したい」と言い出し、選挙後は「国会において丁寧な説明を積み重ねて参りました」と開き直った。国民の審判など仰いでないのに、またも嘘をついたのだ。
だが、記者からの追及はつづいた。今度は朝日新聞論説委員の坪井ゆづる氏が質問者となり、公文書改ざん問題で麻生太郎財務相を辞めさせず役人の処分で済ませたことを指摘したのだが、安倍首相の返答は「財務省を立て直し、財務行政を進めていくことができるのは麻生さんしかいない」「われわれはデフレから脱却しなければいけないという大事業に取り組んでいる。そして、やっとデフレではないという状況をつくった」というもの。公文書改ざんという民主主義の根幹を揺るがす大事件が起こったというのに、それさえも経済の問題にすり替えたのだ。
そうして、話題が経済に移ると「たいへん良い質問をしていただいた」などと余裕を取り戻したかに見えた安倍首相。しかし、その後に待っていたのは、いまもっとも突っ込まれたくないあの話題だった。そう、プーチン大統領が「無条件で平和条約を結ぼう」と提案した問題だ。
質問した坪井氏は、安倍首相にこう切り出した。
「私、率直に言って、一昨日プーチン大統領が無条件で平和条約を結ぼうよと、あの場でおっしゃったのに驚きました。それはようするに、領土問題を確定して平和条約を結ぼうっていう日本政府の考え方をプーチンさんは理解していなかったのかと」
坪井氏がこう言うと、安倍首相はフッと笑みを浮かべたが、これはプーチン大統領に無条件の平和条約締結を切り出されたときに浮かべた笑いと同じ。つまり、安倍首相が余裕をなくしたときに出してしまう、いつもの癖だ。
実際、坪井氏の質問が終わると、安倍首相は身を乗り出して、まるで啖呵を切るように、こう反論した。
「これ、結構、専門家はですね、あなたとは結構違う考え方、もってる人多いんですよ(笑)。日露関係ずっとやってこられた方はね」
以前からプーチン自身が“いかなる領土問題も存在しない”という認識を示しており、その上、「無条件」と言い出したのだから、誰がどう考えても安倍首相があの場でコケにされたのはたしかだ。事実、あの産経新聞でさえ〈安倍首相は、プーチン氏の提案の直後に、「領土問題の解決なしに平和条約はない」と明確に反論すべきだった〉と断罪している。一体、どこに違う考え方の専門家がたくさんいるのか、名前を教えていただきたいものだ。
さらに安倍首相は、領土問題を解決して平和条約を締結するというのが日本政府の立場だとし、「プーチン大統領からの反応もあります。でもそれはいま、私、申し上げることはできません。交渉の最中でありますから」と思わせぶりにぶち上げたが、結論はこんな話だった。
「つまり、平和条約が必要だということについての意欲が示されたのは間違いないんだろうと思います」
それはみんな知ってるよ!と突っ込まざるを得ないが、つづけて坪井氏から「安倍首相は『自らの時代に何とかする』ということを言ってきていて、国民に非常に期待を持たせている。それが非常に無責任に聞こえてしまう」と追及されると、安倍首相はこうまくし立てた。
「それでは私の時代にはできませんと言ったほうがいいですか?」
「私が意欲を見せないかぎり動かないんですよ。いままで1ミリも動いていなかったじゃないですか。だから今回は長門会談によって共同経済活動を、スムーズにはいってませんが、ウニなどについて合意しましたよ!」
「私が意欲を見せたから動いた」と誇るくせに、その成果はウニ(苦笑)。山口での首脳会談前には「プーチン訪日で北方領土返還」「歯舞群島、色丹島の2島引き渡し」などというムードをさんざんつくり上げておきながら、その結果はウニだったとは、「期待をもたせすぎ」と言われて当然の話。だが、安倍首相は頑として聞き入れないのである。
だが、安倍首相の本質が決定的に暴露されたのはこのあとだった。橋本五郎氏が話題を拉致問題に移し、「安倍晋三政権は一貫して拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだと言われていた」「現状はどうなっているのか、見通しはあるのか」と問うと、安倍首相はこんなことを口走ったのだ。
「あの、拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだと私が言ったことは、ございません。これはご家族のみなさんがですね、そういう発言をされた方がおられることは承知をしておりますが」
──安倍首相といえば、これまで一時帰国した拉致被害者5人を“帰さなかったのは自分だ”という嘘を筆頭に、対拉致問題のニセの武勇伝や逸話をでっち上げ、「拉致被害者を取り戻せるのは、これまで北朝鮮と渡り合ってきた安倍首相しかいない!」という空気をつくり出してきた張本人。今年の4月に出席した「政府に今年中の全被害者救出を再度求める 国民大集会」で、以下のように強く宣言している。
「全ての拉致被害者の即時帰国。正に皆様が皆様の手で御家族を抱き締める日がやってくるまで、私たちの使命は終わらないとの決意で、そして安倍内閣においてこの問題を解決するという強い決意を持って、臨んでまいりたい」
それなのに、拉致問題に進展が見られないことを責められると、「拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだと私が言ったことはない」と言い出し、「被害者家族が言っていること」などと責任を逃れようとするとは──。
本サイトでは、北方領土にしても拉致問題にしても、安倍首相は“やるやる詐欺”でしかないと指摘してきたが、ついに本人が「意欲を見せただけ」「解決できるのは私だけなんか言ってない」と居直りはじめたのである。たんなる嘘つきであり、かつ無能──。この男の正体は、これではっきりしたことだろう。 
アメリカで報じられた安倍首相「カジノ疑惑」 2018/10
安倍晋三首相は、かつての日本の指導者たちであれば辞任を余儀なくされたようなスキャンダルや不祥事をうまく乗り越えてきた。が、ここへきて安倍首相の頭上には新たな黒い雲が漂っている――名付けて「カジノゲート」である。
この件には、安倍首相、アメリカのドナルド・トランプ大統領と、アメリカで(おそらく世界的にも)最も強力なカジノ王であるラスベガス・サンズの所有者シェルドン・アデルソン氏がかかわっている。浮かび上がっているのは次の疑問だ。はたして安倍首相は、アデルソン氏と密接に結び付いているトランプ大統領の好意を得ることを視野に、日本でのカジノの合法化を推進したのか、という問題である。
現時点では、この疑問への明確な答えはない。しかし、10月10日に公開されたアメリカの調査報道組織「プロパブリカ」の記事は、安倍首相とトランプ大統領を明確に指弾するものだった。同記事は、トランプ大統領が、2017年2月の安倍首相による初の公式訪問の際に、サンズと少なくとももう1つのアメリカのカジノ会社にカジノライセンスを与えるよう安倍首相に働きかけたと報じている。
同記事によると、フロリダ州にあるトランプ大統領の別荘での会議において、同大統領は、安倍首相に対し、ラスベガス・サンズにライセンスを供与するよう圧力をかけ、もう1つの会社、MGMリゾーツまたはウィン・リゾーツ(情報源が異なる)についても言及した。トランプ大統領からの大胆な圧力は、おそらく安倍首相を驚かせただろう。
「それはまったく青天の霹靂(へきれき)だった」と、この会議についてブリーフィングを行った1人はプロパブリカの記者、ジャスティン・エリオット氏に語っている。この人物によると、「彼らは、トランプ大統領がそこまで厚かましくなることが信じられませんでした。安倍首相は特に返答はせず、情報に感謝していると述べた」という。
しかし、安倍首相は、アデルソン氏とサンズをまったく知らないわけではなかった。同社は、2014年5月に同社が運営するシンガポールの統合リゾートへのツアーを手配するなど、安倍首相が権力に返り咲いて以来、彼に対して直接働きかけを行ってきた。このシンガポールのカジノは日本で推進されたカジノ法のモデルにもなっている。安倍首相は「統合リゾートが日本の経済成長戦略の重要な部分になると思う」と、サンズが宣伝するカジノリゾートのツアー中に述べた。
アデルソン氏にとって、日本の市場は、最後の、そして最も収益性の高い未開拓の合法ギャンブルの機会である。年間250億ドル相当の市場であり、マカオに次ぐ2番目の市場となると推定されている。
プロパブリカの記事が実証するように、アデルソン氏は、長年共和党に対して資金を提供していたが、最初はトランプ大統領に懐疑的だった。しかし、後に彼の選挙運動と就任イベントに2500万ドルを拠出している。今回の中間選挙でも、共和党に対し5500万ドル(増加中)寄付するという巨額の寄付者だ。アデルソン氏はまた、トランプ大統領の義理の息子、ジャレッド・クシュナー氏とも懇意で、ジャレッド一家は長年アデルソン氏と密接な関係にある。
プロパブリカが調査したものの、完全には確認できなかったが、アデルソン氏がトランプ大統領の選挙での勝利から数日以内の2016年11月に、トランプタワーで安倍首相とトランプ大統領との注目すべき会談を成立させたキープレーヤーであったとする相当の証拠がある。
安倍首相は、トランプタワーの門をくぐった最初の世界的リーダーとして、トランプ大統領との関係に大きな足場を得た。この関係は、安倍首相の個人的な外交の成果として頻繁に言及されてきた。 それからわずか数週間後、安倍首相は、国民とほぼすべての政党からの広範な反対があったにもかかわらず、ほとんど議論することなく、合法カジノの枠組みを定めるべく、国会で膠着していた法案を強引に推進して、関係者たちを驚かせた。
2017年2月、著者は、日本で地位のあるアメリカ人のビジネスマンと対話したが、彼によると、アデルソン氏は、ジャレッド・クシュナー氏とのツテを通じてトランプ大統領と安倍首相の会談をアレンジしたという。クシュナー氏は、彼の妻イヴァンカ・トランプ氏とともに当該会談に出席していた。さらに、このビジネスマンは、この奉仕の返礼として、安倍首相は、サンズがライセンスの第一候補者になるだろうということを明確に理解したうえで、カジノ法を推し進めた、と話していた。私は、この話の確証を得ることはできなかったが、このうわさはビジネス界に広がっていた。
金融サービス会社、オルフィ・キャピタルのパートナーであり、アジアにおけるベテラン銀行家であるロナルド・ヒンテルコーナー氏は2017年2月28日、「エクスパタイズ・アジア」というオンラインニュースレターでまさにこの話を書いている。
同氏は、「信頼できる私の情報源」によるととして、「安倍首相のトランプタワーへの最初の訪問は、大部分とまで言わないとしても部分的には、トランプ大統領の選挙運動に惜しみなく貢献したラスベガスのカジノ王シェルドン・アデルソン氏が演出したものであった。偶然にも、その後、安倍首相のニューヨークからの帰還直後に、国会で新しいカジノ法案が12月初めに押し通された」と書いている。
アデルソン氏のトランプ大統領とこのような会談を手配できる能力は、安倍首相にだけ有益だったわけではない。「エクスパタイズ・アジア」と「プロパブリカ」の両方によれば、アデルソン氏は、安倍首相の直後に、ソフトバンクの孫正義会長兼社長にもトランプタワーでの会談を手配したという。
プロパブリカによると、アデルソン氏は、「数週間後に、日本の億万長者であり旧友である孫正義のために、待望のトランプタワーでの会談を確保した」。
「孫氏の会社、ソフトバンクは、1990年代にアデルソン氏のコンピュータトレードショー事業を買収している。数年前、アデルソン氏は、孫氏を日本におけるカジノ報告計画の潜在的パートナーとして名指しした。ソフトバンクは、スプリントを所有しているが、同社は長年にわたりTモバイルとの合併を望んできた。しかし、それにはトランプ大統領政権からのゴーサインを必要とする。次期大統領との会合を終えトランプタワーのロビーに笑顔で現れた孫は、アメリカへの500億ドルの投資を約束した」(プロパブリカより)
また、プロパブリカの報道によると、アデルソン氏は、2017年1月下旬のトランプ大統領の大統領就任から数日後、ラスベガス・サンズの決算説明会において、安倍首相はシンガポールのカジノリゾートを訪れただけでなく、「それに非常に感銘を受けた」と述べたという。
そのわずか数日後、安倍首相の公式訪問中にアデルソン氏は、ワシントンで開催された安倍首相との朝食ミーティングに、そのほか2人のカジノ業界の役員とともに出席し、カジノの問題を議論した、とある出席者はプロパブリカに語っている。その後、フロリダの別荘でトランプ大統領との晩餐が行われた。
トランプ大統領が晩餐でその話を持ち出したとき、安倍首相がアデルソン氏とサンズをよく知っていなかったという考えは、ほぼ信じがたい。2017年6月に日経新聞が初めて晩餐での議論について報道し、それにより、民進党参議院議員(当時)である杉尾秀哉が国会でトランプ大統領との取引について質問するに至った。安倍首相は、サンズやほかのアメリカ企業の入札に関して、トランプ大統領と会話したことは一度もない、と主張した。これはプロパブリカの主張と矛盾する。
アデルソン氏としては、日本でカジノライセンスを取得するための内部のツテを獲得したということを隠してはいない。プロパブリカが報告しているように、アデルソン氏は最近の株主への決算説明において、ロビー活動の取り組みが成功していると話した。「事情を知っている人々、事情を知っていると述べる人々、われわれが事情を知っていると信じる人々による推定によれば、われわれは、1番目の候補である」とアデルソン氏は述べている。
アデルソン氏は最近、日本での活動について、はるかにオープンにしている。2017年9月、彼は知事と市長に会うために、自身のカジノの有力候補地である大阪を訪れた。アデルソン氏は、ギャンブル用のカジノリゾート空間の大きさに関する規制について、何の良心の呵責も感じずに、IR実施法の初期草案を批判した。そして、7月に法律が可決されたとき、カジノの床面積の制限はなくなっていた。
MGM、ウィン、シーザーズ、マカオの大手メルコなどの大企業を含むほかの多くのカジノ運営会社は、ライセンス取得のための入札に専念している。より小規模の事業者は、小規模の地域センターでのライセンスを取得したいと考えている一方、大規模なカジノは、東京と大阪での設置に目を向けている。
その中には、日本に事務所を構えて非常に大きな一般向けキャンペーン、地域や他の当局に働きかけるための豪華なイベント、広報活動の取り組みを行っている企業もある。しかし、サンズはそのような取り組みをほとんどしていない。
カジノ業界誌『アジア・ゲーミング・ブリーフ』は先月、「サンズは、日本の主要なIRライセンスの1つの最有力候補であると、ほぼ一般的にみなされている」と報道した。「しかし、その戦略はほかの企業のものほど明らかではない。サンズは日本に窓口を設置せず、代わりにシンガポールからキャンペーンを実行している。サンズは日本で有力な代理店を雇っているが、その活動は巨大な氷山を思い起こさせる。水面の上にあるものは水面下にあるものよりも確実に矮小だ、ということである」。
表面下の氷山はトランプ大統領・安倍首相・アデルソン氏の三角形であると暗示されている。プロパブリカの報道内容は、アメリカで急速に広く注目を集めており、影響力のあるニュースサイト「アキソス」を含む多くのメディアで報じられている。
通常臆病な日本のメディアもこれについて報道し始めたが、これからカジノゲートについて自ら調査を始めるだろうか。それのみが、このスキャンダルがたとえばロッキード疑惑のレベルにまで拡大するか、あるいは、つねに素早い安倍首相が政治的な大惨事からなんとか脱出する方法の一例になるかを決定するだろう。 
2019  
閣僚ら相次ぎ辞任 2019/4
安倍晋三政権の国土交通副大臣だった塚田一郎参院議員が、「下関北九州道路」(下北道路)の建設をめぐり、安倍首相や麻生太郎副総理の意向を“忖度(そんたく)”したと発言して辞任したのに続いて、桜田義孝五輪担当相が、自民党の高橋比奈子衆院議員のパーティーで、「(東日本大震災からの)復興以上に大事なのは高橋さん」と発言して、事実上、更迭されました。
相次ぐ閣僚らの辞任は、政権のおごり、ゆるみ・たるみを示しています。これまでも暴言・失言を重ねてきた桜田氏の辞任は遅すぎます。重大なのは、任命権者である安倍首相の責任です。
桜田氏は、五輪担当相なのに、「五輪憲章を読んでいない」とのべ、競泳の池江璃花子選手の白血病公表に「がっかりしている」と、人として許されない言葉を発するなど、その言動はたびたび批判されてきました。閣僚どころか国会議員としての資質も、疑問が突き付けられるものです。
今回の「(震災からの)復興以上に大事なのは高橋さん」という発言も、被災者の気持ちを傷付ける、とんでもない暴言です。発言から2時間足らずで「更迭」されましたが、これまで桜田氏をかばい、続投させてきた安倍首相の責任が問われます。
安倍政権が発足してからの、問題閣僚・副大臣らの辞任は後を絶ちません。
第2次政権発足(2012年)後だけでも、昨年1月には、松本文明・内閣府副大臣が、沖縄で相次ぐ米軍ヘリの事故をただした日本共産党議員の国会質問中に、「それで何人死んだんだ」とヤジを飛ばし、辞任しました。それ以前にも、今村雅弘復興担当相が、東日本大震災が「まだ東北でよかった」と発言し、辞任しています。稲田朋美防衛相も、自衛隊の南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣時の「日報」隠しなどを批判されて、辞任しました。
「政治とカネ」をめぐる問題では、小渕優子経済産業相、松島みどり法相や、西川公也農水相、甘利明経済再生担当相などの辞任もありました。
言うまでもなく、閣僚や副大臣らの任命権者は首相です。
その首相自身、国有地が不当な安値で売却された「森友学園」疑惑や、理事長が首相の親友の「加計学園」の獣医学部開設への関与をめぐる疑惑で、国民の批判を無視して、居座っています。
財務省の公文書隠ぺい・改ざんや、事務次官のセクハラ問題で批判された麻生副総理・財務相も、責任を不問にしたままです。麻生氏には、独裁者・ヒトラーを評価する暴言で国際問題にまでなった過去もあります。
安倍政権の閣僚らによる暴言・失言や不祥事が続発するのは、首相が自らの疑惑にふたをして、説明責任も政治責任も取ろうとしていないことと無関係ではありません。安倍首相がやるべきは、自身の疑惑を明らかにしたうえで、責任を取って職を辞すことです。
国会での多数議席にあぐらをかき、閣僚らの「ポスト」をたらい回しする、ごう慢でゆるみきった政治はもう許せません。大阪12区・沖縄3区の衆院補選や統一地方選、参院選での、国民の厳しい審判が不可欠です。 
 
麻生太郎

 

日本の政治家、実業家。自由民主党所属の衆議院議員(13期)、副総理、財務大臣(第17・18・19代)、内閣府特命担当大臣(金融担当)、デフレ脱却担当、志公会(麻生派)会長、自民党たばこ議員連盟顧問。内閣総理大臣(第92代)、経済企画庁長官(第53代)、経済財政政策担当大臣(第2代)、総務大臣(第3代・第4代・第5代)、外務大臣(第138代・第139代)、衆議院外務委員長、自由民主党政務調査会長(第44代)、自由民主党幹事長(第40代・第42代)、自由民主党総裁(第23代)を務めた。  
失言 2014/10
読めなかった漢字 1.踏襲 2.措置 3.有無 4.詳細 5.前場 6.未曽有 7.頻繁 8.実体経済 9.思惑 10.低迷 11.順風満帆 12.破綻 13.焦眉 14.完遂 15.詰めて 16.怪我 17.参画 18.偽装請負 19.御祈り
自民党役員会で前日の居酒屋懇談を話題にした際、「(料理は)ホッケの煮付けとか、そんなもんでしたよ」と恥ずかしい発言をしてしまった。北国出身の大島理森国対委員長は「ホッケに煮付けはありません。ホッケは...
カップめんの値段を「400円ぐらい?」と回答 庶民感覚はやっぱり無い?
「はっきり言って医者は社会的常識が、かなり欠落している人が多い。」  医者をひとくくりにしてバッサリ
「高齢者が悪いようなイメージをつくっている人がいるが、子どもを産まないのが問題」
「(終末期医療について)さっさと死ねるようにしてもらわないとか、考えないといけない。」 安楽死に言及するにしても、もっとオブラートに包むべきだと思いますがねぇ。
「いいかげんに死にたいと思っても生きられる。しかも、政府のお金でやってもらうのは、ますます寝覚めが悪い。さっさと死ねるようにしないと」
「日本ほど安全で治安の良い国はない。ブサイクな人でも美人でも、夜中に平気で歩けるのだから」
「新宿のホームレスも警察が補導して新宿区役所が経営している収容所に入れたら、『ここは飯がまずい』と言って出て行く。豊かな時代なんだって。ホームレスも糖尿病という時代ですから」
「(イスラエルの)シャロン首相の容態が極めて悪く、会議途中でそのままお葬式になると意味がないので延期ということになった」
「弁護士あがりの議員は口先だけの人が多いけど、高村副総裁だけは違う」
「名古屋人というのは民度が低い。あんな市長(河村たかし)を選んじゃうんだから」 2013年4月、名古屋市長選で応援した全自民党市議が河村たかしに敗れた後、いや、負けたからって名古屋人全体を批判するとは……。投票してくれた人も民度が低いのか?
「(定額給付金について)貧しい人には全世帯に渡すが、『私はそんな金をもらいたくない』という人はもらわなきゃいい。(年収が)1億円あっても、さもしく1万2000円が欲しいという人もいるかもしれない。それは哲学、矜恃の問題で、それを調べて細かく(所得制限を)したら手間が大変だ」
「たらたら飲んで、食べて、何もしない人(=患者)の分の金(=医療費)を何で私が払うんだ。」
「(北朝鮮がミサイルを撃ったことについて)金正日に感謝しないといけない」
「東京で美濃部革新都政が誕生したのは婦人が美濃部スマイルに投票したのであって、婦人に参政権を与えたのが最大の失敗だった」
「創氏改名は、朝鮮人の人たちが『名字をくれ』と言ったのが始まり」 創始改名は、中国人に虐げられた朝鮮人達を守る為の措置でした。なお、麻生氏が韓国人に創氏改名の由来の話をしたら灰皿を投げられたようです。
「地球温暖化を心配する人もいるが、温暖化したら北海道は暖かくなってお米がよくなる」
「審議をしないとどうなるか。ドイツでは昔、ナチスに一度(政権を)やらせてみようという話になった」 麻生氏「ドイツは、ナチスに一度やらせてみようと政権与えた」民主・江田氏「どちらがナチスか…」…鳩山氏、麻生発言に激怒。去年も「ナチスの手口に学んだらどうだ」といって国内外から総批判されていましたが、昔から同じような事言っていたのですね。欧州ではナチスはタブー、之を知らないとは政治家としてどうなのか?
「御嶽山の噴火で亡くなった方々に、激励申し上げます」
「岡崎の豪雨は1時間に140ミリだった。安城や岡崎だったからいいけど、名古屋で同じことが起きたら、この辺全部洪水よ。」
「7万8000円と1万6000円はどちらが高いか。アルツハイマーの人でもわかる」
「昨年末の安倍政権発足後から、菅さんは閣議で初入閣の大臣に対し、『発言には十分気をつけるように』と注意していました。しかし、そんな場でも麻生さんは『俺を注意しなくていいのか。一番危ないぞ』などと、軽口をたたいていたようです。」
「金がないのに結婚はしない方がいい。稼ぎが全然なくて(結婚相手として)尊敬の対象になるかというと、なかなか難しい感じがする」
「オバマに(TPP)をまとめる力ない」 先日、オバマ米大統領が国賓として訪日を行った際、日米間でのTPP交渉がまとまらなかった事で、麻生財務大臣はこのような発言をしました。「オバマにまとめる力ない」と「米国大統領はリーダーシップもとれない無能である」と取られてもおかしくない発言です。一国の副首相かつ財務大臣という重要ポストを務める男の発言とは思えないのが正直な感想。陰口かつ、友好国のリーダーを貶める発言、日米関係の悪化に繋がりかねません。 
2018年 失言大賞
杉田水脈 自民党・衆院議員「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」『新潮45』8月号
女性記者へのセクハラ疑惑を報じられた福田淳一前財務事務次官についての発言。続けて「殺人とか強制わいせつとは違いますから」とも述べている(BuzzFeed News 5月5日)。当初、麻生氏は福田氏の処分を見送っていたが、結局福田氏は辞任。麻生氏は辞任を公表した際、「はめられて訴えられているんじゃないかとか、世の中にご意見ある」と言い放った(毎日新聞 4月24日)。セクハラ問題関連については、自民党の下村博文元文部科学相の「(セクハラ録音は)ある意味犯罪」という発言も忘れ難い(時事ドットコムニュース 4月24日)。
麻生太郎
麻生太郎 副総理兼財務相「どの組織でも改ざんはありうる。組織全体としてではなく、個人の資質が大きかったのではないか」NHK政治マガジン 5月8日
森友学園をめぐる財務省の決裁文書改ざん問題についての発言。ただの開き直りにしか見えない。組織の問題でなく、個人の問題だから、自分には責任がないと言っているに等しい。改ざんの動機を問われた際は「それがわかりゃ苦労せんのです」「場の雰囲気、空気ってやつ」などと答えていたが(朝日新聞デジタル 6月4日)、不祥事を起こした企業のトップがこんなことを言ったら途端に潰れてしまうだろう。
その後、麻生氏はカルロス・ゴーン容疑者が逮捕された事件について「経営陣の監督機能を発揮させることが大事だ。金融庁としては引き続き企業のガバナンスを実効的なものにするために、きちんとやっていかなければいけない」と発言しているが(産経ニュース 11月26日)、ガバナンスは企業だけでなく省庁にも適用すべきだ。
麻生太郎 副総理兼財務相「みんな森友の方がTPP11より重大だと考えている」朝日新聞デジタル 3月29日
森友学園への国有地売却問題で近畿財務局の男性職員が自殺した後の発言。このとき、TPP11について「茂木大臣が0泊4日でペルー往復しておりましたけど(注:実際にはチリ)、日本の新聞には1行も載っていなかった」とメディアを批判したが、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞などが報じていた。
麻生太郎 副総理兼財務相「G7(先進7カ国)の国の中でわれわれは唯一の有色人種であり、アジア人で出ているのは日本だけ」共同通信 9月5日
自民党総裁選で安倍晋三首相を支援する会合での発言。米国やドイツなどG7各国はさまざまな人種で構成されており、米国のオバマ前大統領もG7首脳会議に出席している。麻生氏の頭の中では欧米諸国=白人だけの国なのだろうか?
麻生太郎 副総理兼財務相「飲み倒して運動も全然しない(で病気になった)人の医療費を、健康に努力している俺が払うのはあほらしくてやってられんと言っていた先輩がいた。良いことを言うなと思った」共同通信 10月23日
不摂生の結果、病気になった人への医療費支出を疑問視する発言。社会保険制度の否定だと批判を集めた。自身も同じ考えかという記者の質問に対して「人間は生まれつきがある。一概に言える簡単な話ではない」とも述べたが(時事ドットコムニュース 10月23日)、そんなのは当たり前のことだ。麻生氏は首相だった08年にも「たらたら飲んで食べて、何もしない人(患者)の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」と発言し、陳謝した(東京新聞 10月24日)。
麻生太郎 副総理兼財務相「人の税金使って学校行った。東京大学だろ」YOMIURI ONLINE 11月18日
北九州市長選で4選を目指して立候補を表明した現職の北橋健治氏について、麻生氏はこう揶揄した。共産党の小池晃書記局長は「教育の無償化を言っている安倍政権の財務大臣が、教育に対する税金投入を否定するというのは本当に支離滅裂だ」と批判している(朝日新聞デジタル 11月19日)。
麻生太郎 副総理兼財務相「あれくらい触った程度で暴力って言われたら、とてもじゃない。この種の話で(野党に)はめられた、というのはしょっちゅうなので」時事ドットコムニュース 12月9日
麻生派の大家敏志参院議員が参院本会議中に立憲民主党議員を小突いたとして同党が抗議、4時間ほど空転したことについて立憲民主党の対応を批判した。枝野幸男代表に「立法府に対する冒涜だ」と批判されると「立法府の話についてわれわれがごちゃごちゃ言うようなつもりで言ったんじゃない」と釈明した上で発言を撤回した(時事ドットコムニュース 12月11日)。
麻生太郎 副総理兼財務相「上がっていないと感じる人の感性」共同通信 12月14日
年の瀬になっても麻生氏の暴言は止まらない。景気拡大期間が高度成長期の「いざなぎ景気」を超えたが賃金が上がっていない状況を問われて「上がっていないと感じる人の感性」の問題だと言ってのけた。麻生氏は質問した記者に対して「どのくらい上がったんだね」と逆質問し、記者がほとんど上がっていないと答えると「そういうところはそういう書き方になるんだよ」と一蹴した。
なお、麻生氏は「(現政権下で)毎月、毎年、2〜3%近くずっと上がってきた」とも述べたが、厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、2017年の物価の影響を考慮した実質賃金は0.2%減っており、名目でも0.4%しか上がっていない。こういう人が財務相をしているのか……とため息が出る。
珍しく失言でクビが飛んだ政治家は……
松本文明 内閣府副大臣「それで何人死んだんだ」朝日新聞デジタル 1月26日
麻生氏や杉田氏を見ていると、自民党の政治家はどんな暴言を吐いても進退問題にならないような気がするのだが、今年の数少ない例外と言えるのが自民党の松本文明内閣府副大臣だ。沖縄県で続発する米軍機の事故やトラブルについての国会の大行質問の最中に飛ばしたヤジが原因で自分のクビが飛んだ。
ただし、これは2月4日に投開票が控えていた沖縄県名護市長選挙への影響を懸念した安倍首相ら自民党中枢の逆鱗に触れたため。暴言が政治家の進退に影響するのは、もはや安倍首相の一存でしかないと感じる。そんな1年だった。 
相次ぐ不祥事…麻生財務相イライラも記者への“口撃”はHPから削除 2018/5
学校法人「森友学園」への国有地売却に関する財務省の決裁文書改竄(かいざん)問題、福田淳一事務次官のセクハラ疑惑…。財務省で不祥事が次々と明らかになり、いらだちからか麻生太郎財務相の記者への“口撃”が目立ってきた。もともとぶっきらぼうな物言いで、記者への逆質問を多用する独特の記者会見スタイルを貫く麻生氏。最近はそれが特に際立っており、時折、“逆ギレ感”を漂わせたすごみをきかせ、記者を狼狽(ろうばい)させている。
「どうすればいいのですか? 具体的なこと言えよ」(4月17日・閣議後)
「さっさと、ぱっぱとやろうや。こっちは忙しいんだから。頼むよほんと」(4月13日・閣議後)
「あんた記者やってんだからさ、もっとまじめに人の話を聞いて」(3月28日・平成30年度予算成立後)
「はっきり言わないと聞こえないから。相手(自分のこと)は年寄りだからね」(3月9日・閣議後)
ぼやきなのか文句なのか、はたまた愚痴なのか−。森友学園をめぐる決裁文書の改竄問題が朝日新聞で報じられた3月以降、麻生氏の記者への口撃が止まらない。紹介したのは、数あるうちの一部抜粋だ。
特徴は、一連の不祥事で財務省の監督責任を厳しく追及する朝日や東京新聞の記者に対して、とりわけ厳しい対応をとることだ。4月24日の閣議後会見では、質問したNHK記者を朝日記者と勘違いし、厳しい逆質問攻勢をかける珍事もあった。
この記者はセクハラ問題で辞任した福田氏について、野党から「いったん官房付けにして、調査結果が出てから処分後に辞任を認めるべきだ」という意見が出ていることについて質問。
すると、麻生氏は「官房付けにして給料は誰が払うの?」「野党は税金で払うべきだと言っているの?」と矢継ぎ早に逆質問。記者が言葉を濁すと、「聞いてんだよ、俺が質問してるんだから」「野党がそう言っているのは分かったけど、そのときの給料は誰が払うのか? 野党が払ってくれんのか?」とたたみ掛けた。
記者が「税金で払うということだと思う」と答えると、間髪入れず「どうして? 問題があって辞めた人に対して何で税金で給料を払わなくちゃいけないの?」と反論。最後には「もうちょっと常識的なことを聞くようにしたら? 朝日新聞だったら」と締めくくった。
続いて質問した朝日記者が「さっきの(質問)はNHKです」と訂正したが、麻生氏は「ああNHKか」と受け流した。
会見に出席した報道陣には、NHK記者を気の毒がる雰囲気が漂ったが、麻生氏はマイペースで話を進めた。
麻生氏の会見内容は財務省のホームページ(HP)で確認できるが、同省が余計と判断した発言部分は削除され、麻生節とされる「べらんめえ口調」は当然のように丁寧な言葉遣いに書き換えられる。質問した記者の所属媒体も明示されず、会見の大まかな内容は間違ってはいないが、詳細な発言録ではないのだ。
例えば3月9日の閣議後会見。この日は決裁文書の書き換えの有無について財務省として発表する気がないのかと、質問を重ねる朝日記者に麻生氏がいらだちを見せる場面があった。
麻生氏が「(大阪地検による書き換えの)捜査の答えが出ていない。捜査は終了したんですか」と朝日記者に得意の逆質問。記者が「それは分かりません」と答えると、「朝日新聞の取材能力のレベルが分かるな」と吐き捨て、会見場を後にした−というのが実際のやりとりだ。だが、財務省のHPでは朝日記者の取材能力に言及した部分はカットされている。
3月2日にも朝日記者が書き換えを調査する予定があるか質問している。この際のやり取りを財務省HPでは、麻生氏が「報道機関の方、(財務省が)捜査に協力しないかのような印象で書かないでください。私は調査すると言っているのだから」と丁寧口調で答えたことになっている。
だが、実際は「朝日新聞は捜査に協力しないかのような印象で書くなよ。調査すると言ってんだからね。あんたの書き方は信用できんからね」と名指しで批判した。
また、3月13日には、東京新聞記者に、不祥事企業ではトップが関知していなくても辞任するケースが多いことについて問われ、「神戸製鋼所(の製品データ改竄)は20年ぐらい続いたのか?」と、ここでも逆質問。記者が「長年にわたって…」とうまく答えられずにいると「その程度の調査か」と、したり顔をみせた。当然のように、財務省HPでは「その程度の〜」の発言部分は削除されていた。
公文書管理に関する相次ぐ不祥事で国民から厳しい目で見られる官公庁。大臣会見の詳報くらいは包み隠さず、そのままの形で掲載しても良いと思うのだが、どこか忖度(そんたく)じみたものを感じてしまう。 
暴言連発の麻生財務相、即刻政治家を辞めるべき 2018/5
麻生太郎副総理兼財務相の暴言が止まらない。「セクハラ罪はない」と身内をかばい、「見てくれの悪い飛行機が途中で落ちたら話にならん」と北朝鮮まで揶揄。「即刻辞めるべき」との声も上がる。
麻生太郎副総理兼財務相(77)はまさに「銀の匙(さじ)」をくわえて生まれてきた。九州・福岡時代は父親が自分のためにつくった「麻生塾小学校」に通い、上京後は皇室とも関わりの深い学習院初等科からエスカレーターで学習院大学を卒業した毛並みの良さ。クレー射撃で日本代表として五輪にも出場したスポーツマンであり、洗礼を受けたクリスチャンでもある。
祖父は吉田茂元首相、高祖父は明治の元勲・大久保利通という遺伝子を継ぎつつ、漫画が好きで漢字が苦手。そんな麻生氏は今、自らのみならず国の品格が問われる立場にありながら、自律できない。安倍晋三首相も注意できない。安倍氏がスローガンに掲げていた「美しい国」はいつの間にか「恥ずかしい国」になってしまった。
本音なのか失言なのか妄言なのか。麻生氏の乱暴な言葉遣いが特に目立つのは、公文書改竄(かいざん)から次官がセクハラで辞任した一連の財務省の不祥事について、責任者としてコメントを求められるようになった今年3月以降だ。
まず、国税庁長官だった前理財局長の佐川宣寿氏を改竄の「責任者」と断じ、報道陣を前に「サガワが、サガワが」と呼び捨てで連呼。文字に起こすのもおぞましいようなセクハラ発言を繰り返していた福田淳一前事務次官については、被害を受けた女性記者が特定されていない段階の4月16日、財務省が女性記者の被害申告を求めると発表、それを受けた麻生氏は被害者が名乗り出ない限りセクハラの事実は証明できないとした上で、テレビカメラに向かって上目遣いにこう言い放った。
「福田の人権は、なしってわけですかぁ」
冤罪(えんざい)事件に挑む弁護士を気取ったわけではないだろうが、18日には福田氏がセクハラ自体は否認しながら「仕事にならないから」と珍妙な理由で辞意を表明。それから数時間後の19日未明に女性記者が所属していたテレビ朝日が記者会見して被害を訴えた上で財務省に抗議した。そして、福田氏がセクハラ行為を認めないまま同27日、財務省が「テレ朝側の主張を覆す証拠が示されなかった」という理由で福田氏のセクハラ行為を認定、懲戒処分として5319万円の退職金から141万円を減額すると発表した。
福田氏の人権に言及して擁護するような姿勢を見せながら、本人が認めないうちにトカゲの尻尾を切り、自らはトップに居座り続ける感覚も疑問だ。
さらに、5月4日に外遊先のフィリピンで飛び出したのがこれ。
「セクハラ罪っていう罪はない」
「殺人とか強わい(強制わいせつ)とは違う」
麻生氏は帰国後も同様の趣旨の言動を繰り返し、また福田氏が被害女性記者に「はめられた可能性がある」という発言も、撤回はしたものの幾度も繰り返した。財務省が行った処分との整合性にももとるし、また人権感覚がゆがんでいるとしかとらえようがない。そもそも国の指導者として何を主張したいのか。
政治評論家の森田実氏はこう断じる。
「副総理兼財務相どころか政治家を即刻辞めるべきだ。それぐらい度を越してひどい。海外にも伝わっている日本の恥です」
麻生氏が気分次第で放言を繰り返す癖は、今に始まったことではない。ヒトラーを引き合いに出した失言も一回ではないし、1983年には女性差別問題に対する意識の低さを露呈するようなこんな発言をしている。
「東京で美濃部革新都政が誕生したのは婦人が美濃部スマイルに投票したのであって、婦人に参政権を与えたのが最大の失敗だった」
森田氏は言う。
「自民党が政権を失ったのは2回。ひとつは宮澤喜一内閣のときに党が分裂して日本新党を中心とした野党勢力による細川護熙政権になった。もうひとつは麻生政権時代に、彼自らが失言を繰り返したり、小学生でも読めるような漢字・熟語を何度も読み間違えたりしたことで国民の信用を失い、民主党政権が誕生した。そういう人間がまた重要な立場で出てきて、黙っている間は目立たなかったのが、発言する機会が増えたことで、とんでもなく品格に欠け、礼節を心得ない人物であることが明らかになった」
精神科医で評論家の野田正彰・元関西学院大学教授は、麻生氏が首相だったころ、学会などで訪れた欧州でこんな小噺(こばなし)をよく耳にしたという。
「世界で一番難しい言語は、日本語だ」
その心は、総理大臣でも文字を読めないから、という皮肉。そして2009年8月30日、麻生内閣が解散して臨んだ総選挙で自民党は119議席しか取れず惨敗、雪崩を打つように民主党は票数を伸ばし308議席を獲得した歴史的選挙になった。あれからまだ10年経っていないのだ。
野田氏はこう語る。
「セクハラにしてもナチにしても、彼は本心で言っているわけだから、正直ですよね。精神的に追い詰められてというのではなく、表情も病的なわけでもなんでもない。ただ安倍首相の森友・加計学園問題が自分に飛び火してきたのが不愉快だというのがよくわかる、憮然(ぶぜん)とした表情ですよね。彼は昔からずっとこういう調子でしょう」
ではなぜ麻生氏が要職を占め続けているのか。野田氏は言う。
「日本では政治家が優秀で政治をやっているわけではなく、システムでやってきたということ。2週間前に質問条項を事前通告して、答弁も官僚に頼りきりなんて国は日本以外ありません。安倍首相にしても、国会中継を見るだけで、官僚に助けてもらわなければ答弁も判断もできそうもないなという印象を受けます。議会では議長が『○○君』と指名してから発言するスタイルですが、これも真剣に討議をしようという意識を感じられない。事前通告したこと以外質問するなということも含めて、改めるべきでしょう」
自民党内に麻生氏を公然と批判し、退任を求める勢力が存在しないことも、麻生氏を増長させてきた。
前出の森田氏は、小選挙区制の弊害を指摘する。中選挙区時代なら自民党の公認がなくても立候補できて自分の地盤さえつくっておけば当選もできたし、派閥のおかげで公認権も守られていた。
「今は小選挙区で安倍首相がダメだと言えば立候補もできない。だから選挙のときに公認を得られるようにと自民党の中がおとなしくなりすぎている。身を犠牲にして闘う人がいなくなっている」
森田氏はさらに続ける。
「岸田文雄政調会長も安倍首相の禅譲を狙うのか闘うのか右顧左眄(うこさべん)しているようじゃ情けないね。石破茂氏にしても『麻生さんお辞めなさい』とはっきりわかるように言わないと。そんなこともできない自民党は腐り切っていますよ。だから野党にしっかりした総理大臣候補になるようなリーダーがいて、過半数を取りうる候補者を立てられれば、政権交代すると思います。国民に諦めずに政権交代ができるということを伝えられたら、ひっくり返りますよ」 
麻生大臣が致命的な「問題発言」を繰り返す理由 2018/5
前財務次官のセクハラ問題を受けて、麻生財務大臣の発言がたびたび物議を醸している。
例えば、既に財務省がセクハラを認定した後になっても、「(福田氏)本人が、ないと言っている以上、あるとはなかなか言えない」「はめられた可能性は否定できない」「セクハラ罪という罪はない」などと、平気で暴言を繰り返している。
発言の一部は、後になって撤回、謝罪したが、自民党のなかからも批判が噴出している。
また、問題発言の撤回や謝罪は、麻生大臣の「お家芸」のようなもので、これまで何度も繰り返しているのに、まったく過去の失敗から学んでいないようだ。
このような発言をするのは、当然、女性に対してのゆがんだ認識、ハラスメント行為や人権に対しての浅い認識があるからであって、そうした自分の問題を改めようという姿勢もないようだ。
事実、財務省で幹部対象に実施されたセクハラ研修にも大臣の姿はなかった。
ここに挙げた問題発言を分析すると、いろいろな特徴が見えてくる。
まず、最初の2つの発言であるが、本人は福田氏を弁護するつもりで、あるいは多様な見方があることを示すつもりでの発言だったのかもしれず、本人なりにいろいろと考えてはいるのだろう。しかし、そこに決定的に欠如しているものがある。
それは、「共感性」である。共感性とは、他者の感情を思いやって、それを共有する能力のことをいう。
こんなことを言えば、聞いている人は何を思い、どう感じるのか、とりわけ被害者はどう感じるのか、こうしたことに思いを馳せることのできる能力のことだ。この能力があれば、あのような暴言は出てこないだろう。
一方、これらの発言を聞いて、不快に思ったり批判をしたりしている多くの人々は、共感性が働いたからこそ、自分とは直接関係がなくても、その発言内容のあまりの酷さに唖然とするのである。
そして当人は、そのことを周囲から批判されても、まったく理解していないかのような顔つきである。
だから、同じ過ちを繰り返すのであるが、いくら言葉で伝えても、心に響いていない様子である。まさに、右から入って左へと抜けているような有様である。
さらに、「セクハラ罪はない」という発言であるが、その後しぶしぶ謝罪したものの、当初は批判を受けても、本人は「事実を述べただけ」と強弁を続けていた。ここにも共感性の欠如は如実に現れている。
たしかに事実を述べただけかもしれないが、それに対して受け取った人がどう感じるかという視点がまったく抜け落ちているのである。
当たり前のことだが、事実であれば何を言ってもいいわけではない。そこには、共感性欠如に加えて、未熟な幼児性とも言える問題が指摘できる。
子どもは、平気で相手の身体的欠陥をあげつらって笑いものにしたり、「言っていいこと」と「悪いこと」の区別がつかず、人前で口にすべきでない言葉を大声で述べて、親をハラハラさせたりする。
例えば、小学生が「ウンコ」などと言って大笑いしている姿は、いつの時代にも見られる幼稚な言動である。
しかし、成長につれて、親のしつけが内面化され社会化が進み、周りの反応などを敏感に察知する能力も身につけて、こうした発言がなくなっていく。これが、大人が身につける分別であり、良識というものだ。
大人が人前で「ウンコ」と言ってみろと言われたら、不安や羞恥心を抱くだろう。現に、この原稿を書いている私もそのような気持ちを感じながら書いている。
「事実を述べただけ」と開き直って強弁する姿には、「嘘じゃないもん。だって本当なんだもん」などと言って、親の言うことをきかない未熟な子どもの姿を重ねてしまう。
ハラハラして不快になっているのは周囲のみで、本人はそれを感じていないのだ。
では、共感性について詳しくみていきたい。
先に簡単に定義したように、一言で言えば他者の心情を思いやる力のことを共感性という。しかし、共感性には2種類あり、この区別は重要だ。
1つは、「認知的共感性」である。これは、相手の気持ちを頭で理解することのできる能力を言う。よく国語の問題などで、「この主人公はどのように感じていたでしょうか」などと問われることがあるが、これは認知的共感性を育むための教育である。
つまりこれは、言葉、表情、しぐさなどから、相手の気持ちを推論する能力である。心理学では「こころの理論」とも呼ばれており、自閉症児などではこの能力に問題があるケースがあるが、教育や治療によって育てることが可能である。いわゆる「忖度」もこのタイプの共感性である。
もう1つは、「情緒的共感性」である。これは、相手の心情を頭で理解するだけではなく、それを追体験し、同じように感じ取る能力のことである。ドラマを観て、登場人物に自分を重ねて感動したり、事件事故の被害者に思いを馳せて涙を流したりするのも、情緒的共感性ゆえのことである。
情緒的共感性の働きは、社会生活や対人関係においてきわめて重要である。この能力があるからこそ、いたずらに他人を傷つけることなく、円滑な関係を発展、維持することができる。また、誰かが困っているときには心の支えになったり、話を聞いて共に悩んだり、喜んだりすることもできる。
麻生大臣のこれまでの発言や、批判に対する対応などを見るとき、これらの双方が欠如していると言わざるを得ない。
さて、ここからは一般論であるが、共感性の欠如はなぜ生じるのだろうか。
まず、認知的共感性であるが、これは成長とともに、親のしつけや教育、友人関係などのなかで「学習」していくものだ。これが、「理性的な関所」となって、自分の発言をチェックするように働く。
しかし、イスラエルの心理学者でノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンが言うように、その働きは、咄嗟のときや、疲労、アルコールなどの影響下では減退しやすい。こうしたときに、失言が出やすくなる。
また、そもそもこのようなしつけや教育がなされていないケースもある。
親が放任していた場合や、無神経な発言をしてもそれが許される環境で育ったような場合も、認知的共感性は育たないだろう。
そのような人は、自分本位の一方的な物の見方しかできず、常に強者の立場で、強者の論理に立った言動を取りがちである。
「理性的な関所」、すなわち認知的共感性は、脳の中の前頭前野と呼ばれる部位にその座があり、ここに障害や機能不全であったりする場合、十分に作用しないことが考えられる。
そして、もう1つの情緒的共感性であるが、これに関連する部位は、前頭前野の下部に位置する眼窩部と呼ばれる皮質である。ここは「温かい脳」とも呼ばれ、良心や感情に関連した働きをする。
さらに、脳のもっと奥にある大脳辺縁系と呼ばれる部位に位置する扁桃体という小さな構造物も、情動の調節をする機能がある。
これらの部位に何らかの異常や機能不全があったとき、温かい人間的な感情の発露が見られなくなる。言葉は理解しても、心に響かないというのは、こうした異常を反映している。
子どもが誰かを傷つける言動をした場合、親や教師から叱責を受ける。また、友達仲間から非難されたり、相手に泣かれたりすることもある。
こうした場合、本人は少なからず動揺する。また、強く叱責されると、心臓の鼓動が高まり、大きな恐怖や不安を抱く。
このように、自分の言動によって、ネガティブな結果が伴うと、以後、その言動を慎むようになる。
これが、基本的な人間行動の原理であり、「学習」と呼ばれるプロセスである。つまり、失敗から学んで思慮分別のある大人になっていく。
このプロセスで重要なことは、不適切な言動は、心拍の増加や不安感情などとペアになって学習されるということである。
したがって、そのあと、同様の言動が頭に浮かんだとき、心拍が増加し、不安を抱くので、それが行動のブレーキとなる。つまり、それが「感情的な関所」として働くようになる。
われわれが、他人を傷つける言動を慎むのは、頭で「いけない」とわかっているからという理由(理性的な関所)もあるが、そのような言動をすることに対する不快感や不安のような感情が作動するから(情緒的な関所)でもある。
かつて、われわれの正しい判断には、理性的で冷静な脳の働きが重要で、感情はそれらの邪魔をするものだととらえられていた。
しかし、ポルトガルの神経科学者アントニオ・ダマシオは、人間の行動には、「感情に基づく判断」も重要な役割を果たすと考え、これを「ソマティック・マーカー(生理的信号)仮説」と呼んだ。
われわれが、他人を傷つけるような言動に出ようとしたとき、不安や心拍亢進のような生理的信号が生起し、それがブレーキとなる。
しかし、前述の眼窩部や扁桃体、あるいは心拍などを調節する自律神経系の機能異常がある場合は、これらが適切に働かない。
すると、何のためらいもなく、無配慮で相手を平然と傷つける言動を繰り返すことになる。これは、うっかりによる「失言」とは質が違う。
そして、そのことで失敗をしたり、周りから誹りを受けたりしても、感情的な動きが伴わないので、学習できずに、同じことを懲りもせずに繰り返してしまう。つまり、このタイプは失敗から学べないので、治らない。
プラトンにしても、アリストテレスにしても、正義を理性の問題としてとらえていた。しかし、繰り返される不正義のなかには、感情の不全による問題が大きいことがわかってきた。
あらためて、正義とは、単に理性の問題ではなく、感情の問題でもある。
ハーバード大学の政治哲学者マイケル・サンデルは、その著『これからの「正義」の話をしよう』の中で、「民主的な社会での暮らしのなかには、善と悪、正義と不正義をめぐる意見の対立が満ち満ちている」と述べ、「では、正義と不正義、平等と不平等、個人の権利と公共の利益が対立する領域で、進むべき道を見つけ出すにはどうすればいいのだろうか」と問いかける。
そしてその解決として、まず自らの正義に関する見解を批判的に検討すべきであることを提唱する。
さらに、従来の理性的な正義感ではなく、「美徳」を涵養することと「共通善」について判断すること重要性を説く。
これは、私なりに解釈すると、正義に対する感情を育てること、個々の相違や不一致を受け入れることのできる共感性を育むことと言い換えることができる。
しかし、既に述べたように、理性的な共感性や正義感を育むことには、教育はある程度の成功を収めてきたが、情緒的共感性や「感情的正義感」については、まだ議論が始まったばかりである。さらに、現時点の神経科学による見通しは、悲観的である。
とはいえ、繰り返されるハラスメントや無神経発言に対抗するために、これからの「正義」の話をするとき、「感情的正義感」という概念は、間違いなく重要なキーワードになってくるだろう。
さて、麻生大臣であるが、5月14日には国会でセクハラ問題に関して、初めて被害女性に陳謝した。続いて、15日には閣議後の記者会見で「大臣としてセクハラを認定した」旨発言した。
これが世論の反発を受けての、しぶしぶの発言なのか、それとも情緒的共感性や感情的正義感に基づく真摯な発言なのか、今後の言動に注目していきたいものである。 
麻生太郎財務相が辞任しない本当の理由 2018/6
公文書改ざんやセクハラ問題など不祥事続きの財務省だが、麻生太郎財務大臣は一向に辞める様子がない。野党やマスコミから批判されても居直るのはどうしてなのか。政治評論家の田原総一朗氏はこれまで、テレビや雑誌連載などで何度も「安倍さんの盾になって政権を守ろうとしているのではないか。麻生さんが辞めれば次は安倍さんが責任追及される」と自説を展開していた。
しかし、現職の自民党参議院議員A氏から話を聞く限り、麻生大臣が辞めないのは「安倍さんを守っている」などという美しい話ではないようだ。
「麻生さんの本音は『安倍の女房のおかげで問題が大きくなって、こっちが責任取らされるのはおかしいだろ』ということ。内輪の人間は彼がそう言っているのを聞いている。要するに、ここで辞めるのはあほらしいという気持ちだ。人情論で言えばそれも理解できるが、麻生さんの政治責任ははっきりしている」(A議員)
理屈で考えればさらに分かりやすい。いま辞めれば“引責辞任”となり経歴が汚れる。麻生大臣はただでさえ、“自民党を下野させた首相”というとてつもなく大きな不名誉をいまも背負っているのだ。
昨年7月、党内第2派閥に躍進した麻生派(志公会)だが、麻生大臣頼みの色合いが強く、有力な派閥領袖の後継者は見当たらない。安倍政権後に“キングメーカー”になることを狙っていると囁かれているいまのタイミングで辞任すれば、せっかく拡大した派閥の求心力に大きく影響する。それどころか、辞任すれば政治生命が終わってしまいかねない。単純に損なのである。
「麻生さんは、一時は『安倍の次はおれだ』と本気で思っていた。さすがに今度の総裁選には出てこないだろうけど、最近はいつ会っても機嫌がいい。いまでも毎晩、腹筋と腕立て伏せを300回ずつ欠かさないというから、意気軒昂だ。居直り一直線だね」(同・議員)
1月に行われた麻生派の新年会では、安倍政権を「一致結束してど真ん中で支える」(麻生大臣)ことを確認したといわれる。その麻生派は「昭恵さんのとばっちりで派閥が冷や飯を食うなんてとんでもない」と団結しているらしい。麻生派のなかでは現在、外務大臣の要職に就く河野太郎氏が脚光を浴びており、小泉純一郎元首相からも「あの男は大化けするかもしれない」との評価を得ている。
「麻生さんは河野を呼んで、『次を狙うなら言動はよく考えて』と注意したらしい。河野はかつての言動をかなり抑えているね。抑えたまま小さくまとまってそのまま進んでしまう危険性もあるが」(同・議員)
毎日新聞が5月26日と27日に実施した世論調査で、内閣支持率は4月の前回調査から1ポイント増の31%とほぼ横ばいだった。不支持率は同1ポイント減の48%。安倍政権に厳しい毎日新聞でもこの数字だから、内閣支持率の下げ止まり傾向は明らかだ。
「安倍さん本人は次も出る気満々。支持率が10%割るとか、よほど落ち込まない限り、出るよ」(同・議員)
麻生大臣の失言に関係なく、安倍首相の3選はもはや確実のようだ。 
麻生氏が入閣? 財務省不祥事の責任を負わずしていいのか 2018/9
「麻生さんは、ボクは入れちゃいけないと思いますよ」(橋下徹・元大阪府知事)
これは、橋下さんが22日、「ウェークアップ! ぷらす」(日本テレビ系)に出演し、語った言葉なんだって。同日のスポーツ報知のニュースサイトに載っていた。
入れちゃいけないというのは、もちろん新安倍内閣にだ。
橋下氏は麻生財務大臣を「すごい政治家」と誉めつつも、「だって麻生さん入れてしまったら、財務省のあのとんでもない不祥事の責任を取らせないのかってことになるじゃないですか」「あの財務省のとんでもない不祥事に納税者としては納得できない」と発言した。
そう、その通りですよ! 森友問題の公文書改ざんという前代未聞のスキャンダルがありながら、大臣は監督責任を負わなくていいのか。
ほかにも、甘利元経済再生相や、小渕元経産相の入閣が噂されているけどさ。
甘利さんといえば、2013年、大臣室で陳情に来た業者から50万円の現金を受け取った人。んでもって、URとの不正が出てくると、睡眠障害といってマスコミから逃げた人。
この人、テレ東の取材で、「日本なんてどうなってもいい、俺の知ったこっちゃない!」って言ったんだよ。さすがにこれにはびっくりだった。なら、なぜ政治家やってんだ、って話じゃん。
小渕さんは、東京地検特捜部の捜査前に、事務所がパソコンのハードディスクにドリルで穴を空け、証拠隠滅しおった。で、〈ドリル優子〉とあだ名までつけられた人。
自民党総裁選、安倍応援団による恫喝やら締め付けがバレてしまい、怖くない自民党を演出するため、石破さんに票を入れた人も一応取り入れなきゃ、っていってもさ。それでいいの?
てか、政治家ってなにをやっても許されるんだろうか?  
麻生財務相の処遇 再任の理由が理解できぬ 2018/9
安倍晋三首相が10月2日に内閣改造を行い、麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官を再任することを表明した。
今回の内閣改造は自民党総裁選で首相が3選されたのに伴うものだ。首相は「しっかりとした土台の上に、できるだけ幅広い人材を登用していきたい」と語っていた。
首相は両氏を「土台」と位置づけたわけだが、麻生氏については財務省不祥事の政治責任をとっていないことを指摘しなければならない。
森友問題で財務省は公文書を改ざんし、1年以上にわたって国会を欺いていた。前代未聞の不祥事だが、麻生氏は職員の処分だけで幕引きを図り、真相究明も棚上げ状態だ。
内閣改造は麻生氏の責任問題にけじめをつける機会となり得る。にもかかわらず再任するのは、不問に付すとわざわざ宣言するのに等しい。
麻生氏は閣僚としての資質を疑わせる失言も繰り返してきた。
財務次官のセクハラ問題では「セクハラ罪という罪はない」と言ってかばった。「G7(主要7カ国)の中で我々は唯一の有色人種」という事実誤認の発言までしている。
「何百万人も殺しちゃったヒトラーは、いくら動機が正しくてもダメなんだ」というナチス・ドイツのユダヤ人迫害を理解するかのような昨年の失言は、政権の国際的な信頼を揺るがしかねないものだった。
それでも首相は麻生氏を続投させるという。「アベノミクスを二人三脚で進めてきた」と語っており、この点を理由として説明したいようだ。だが、アベノミクスの中核は日銀による金融緩和であり、デフレ脱却の物価目標も達成できていない。
本当に余人をもって代え難いのかは疑問である。
麻生氏は森友問題で矢面に立たされても首相を支える姿勢を崩さなかった。首相と麻生氏が個人的な信頼関係で結ばれていることはわかる。
だからといって、納得のいく説明なしの再任は内向きの人事だ。
自民党総裁選の党員票で石破茂元幹事長が45%を得たのは、森友問題を含む首相の政権運営に対する「批判票」と受け止めるべきだ。
だが、麻生氏は「どこが(石破氏の)善戦なんだ」と意に介さない。首相も同じ認識なのだろうか。 
麻生氏留任「体質変わらぬ」 「安倍一強」人事に市民ら怒りの声 2018/10
2日発足した安倍改造内閣には入閣待機組12人が起用されたが、公文書改ざんやセクハラ問題など不祥事にまみれた財務省では、麻生太郎氏がまたしても副総理兼財務相にとどまった。自民党役員人事では、安倍晋三首相の側近で「政治とカネ」の問題が取りざたされた甘利明氏と下村博文氏が表舞台に返り咲き、それぞれ党四役の選挙対策委員長、党憲法改正推進本部長に就いた。安倍首相のお友だちなら何をしても許されるのか。市民や識者からは「国民はなめられている」と怒りの声が上がった。
「ふさわしいか、ふさわしくないかは自分で決めるんではなくて、国民のご意見で決められる」。組閣前の二日昼ごろ、記者会見に臨んだ麻生氏。予算編成など今後の課題を饒舌(じょうぜつ)に語っていたのが一転、大臣としての適性を問われると、こわばった表情を見せた。
森友学園への国有地売却を巡る公文書改ざんでは、佐川宣寿(のぶひさ)前国税庁長官が辞任し、職員二十人が処分、自殺者も出た。セクハラ問題で最高幹部の福田淳一前次官も辞任したが、自らの進退は「考えていない」と居直っていた。この日の会見では「公文書改ざんの話が一番いろんな意味で大きな時間を費やした。反省を含めて一番特筆すべき話」と簡単に触れた。
閣僚名簿発表後、東京・霞が関の財務省前を歩いていた東京都小平市の無職綱川鋼(はがね)さん(68)は「セクハラ問題は男性から見ても恥ずかしく、麻生さんの留任はとんでもないが、安倍さんが変わらないと体質は変わらない」と手厳しい。
JR新橋駅前で夫を待っていた町田市の主婦大月恵さん(36)は「セクハラ問題で責任を取らないなんて、普通の企業だったらあり得ない。そんな会社では働きたくない」とあきれ顔。中央省庁と日常的に取引のあるシステムエンジニアの男性(44)は「改ざん問題のときは社内でも『改ざんをしていたなら、トップが知らないはずない。ウチらだったら、おとがめなしはまずないよね』と話題になった」と明かした。
仕事帰りにスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO(ゴー)」をしていた江東区の女性会社員(57)は「(不祥事があるたびに)毎回こりゃないでしょと思っても辞めない。結局安倍さんが無理やり押し切ってるから、国民が不満を言ったところでどうしようもない」とため息をついた。
すねに傷を持つ甘利、下村両氏は、国会で野党の批判を受けざるを得ない閣僚ではなく、党幹部として復権した。
加計学園の問題を追及した著書のあるノンフィクション作家森功さんは「政治とカネの疑惑にほおかむりし、政治不信を招いた張本人たちを登用した党人事だ」と断じる。
下村氏には加計学園側からの違法献金疑惑がある。今度は改憲論議の取りまとめ役を担うが、森さんは「(政治資金パーティー券の費用を受け取った)当時は文部科学相。約束した説明を果たしていない。それで国家の根幹を決める憲法改正の議論をリードできるのか」と疑問を呈した。
「代わりばえがしない。本来は責任をとるべき人たちのことを居座らせている」と指摘するのは、ジャーナリストの青木理(おさむ)さんだ。
千葉県内の建設会社側から計百万円を大臣室などで受領したことを認めて辞任した甘利氏の党要職就任について「百万円をもらった説明責任を果たしていない。刑事責任を問われなければ何でも許されるのか」と批判。その上で「公文書改ざんも不起訴だったが、本来なら麻生氏も安倍首相も責任がないとはならない」と強調した。 
麻生太郎財務相が「子どもを産まないのが問題」発言 2019/2
麻生太郎副総理兼財務相が、また暴言を吐いた。3日に福岡県でおこなわれた会合において、少子高齢化問題について、こう発言したのだ。
「いかにも年寄りが悪いという変な野郎がいっぱいいるけど、間違っていますよ。子どもを産まなかったほうが問題なんだから」
子どもを産まなかったほうが問題──。あらためて指摘するまでもなく、この発言は、男女問わず、子どもをつくりたくてもできない不妊に悩む人びとや、個人の権利として子どもをもつことを選択しない人びとに対する暴言だ。
いや、そもそもこの安倍政権下においては、非正規という不安定雇用が増加の一途を辿り、賃金も伸びず、長時間労働に晒されている人びとにとっては、とても子どもを産み、育てることを考えられるような状況にない。そうした貧困と格差が広がる状況にあって改善策を打ち出すどころか、社会保障費をガンガン削り、さらに生活を圧迫する消費税増税を進めようという麻生財務相こそ、少子化問題の“諸悪の根源”ではないか。
しかも、きょうおこなわれた衆院予算委員会でこの問題を立憲民主党・大串博志議員が追及した際、麻生財務相はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる始末。これには大串議員も「なに笑っているんですか!」と声を荒げたが、ようするに何の反省もしていないのである。
それはそうだろう。麻生財務相は2014年12月にも衆院選の演説で社会保障費の増加について「高齢者が悪いというようなイメージをつくっている人が多いが、子どもを産まないのが問題だ」と発言しているが、結局、謝罪もせずに逃げ切った。このときの釈明もひどいものだった。
「子どもを産みたくても産めない、親が働いたときに保育をしてくれる所がないといった理由で、結果的に産まないことが問題なのであって、少子高齢化になって、高齢者が長生きするのが問題だと言われるのは話が違うと申し上げた」
待機児童がここまで社会問題になっているというのに、“子どもを預けるところがないから産まないのは問題”って……。このときも安倍首相は待機児童ゼロを政策目標に掲げていたが、にもかかわらずこの暴言をスルーして麻生財務相には何のお咎めもなかった。
また、麻生氏が首相在任中だった2009年には、学生から“若者には結婚するお金がないから結婚が進まず少子化になっているのでは?”と問われた際、こんなことも口にしている。
「金がねえなら、結婚しないほうがいい」
「稼ぎが全然なくて尊敬の対象になるかというと、よほどのなんか相手でないとなかなか難しいんじゃないか」
若者の貧困化が社会問題になっていたこの時期に、若者から直接、構造的問題点を指摘されたというのに、「金がないなら結婚しないほうがいい」と返答する無神経さ──。しかも、このとき麻生氏は“稼ぐ男性=女性から尊敬される対象”という文脈で語っており、経済的強者であることが男の価値だと強制する家父長制的役割分担を前提にしていた。こうした旧態依然とした考え方が、男性の家事・育児参加を阻害して女性がそれらを押し付けられるという社会的不平等を生み、この構造が女性の社会進出を妨げて経済的にも阻害要因となっているということに、麻生氏はまったく気付いていないのである。
そもそも、麻生氏の政治家としての歴史は「暴言の歴史」と言ってもいいほどで、昨年だけでも、福田淳一前財務事務次官セクハラ問題で「はめられた可能性は否定できない」などと被害者女性があたかもハニートラップをしかけたようなデマを口にしたり、「福田の人権はなしってわけですか」「セクハラ罪っていう罪はない」「殺人とか強制わいせつとは違う」と加害者である福田前次官を擁護。森友公文書改ざん問題では「個人の資質が大きい」と言い放ち、昨年11月には元民主党の北橋健・北九州市長にかんして「人の税金を使って東大へ行った」と述べ、教育への公的支出を否定した。
だが、麻生氏の暴言のなかでも看過できないのが、「医療自己責任論」だ。
昨年10月にも麻生財務相は「飲み倒して運動も全然しない(で病気になった)人の医療費を、健康に努力している俺が払うのはあほらしくてやってられんと言っていた先輩がいた。良いことを言うなと思った」と述べ、問題となったが、麻生氏が医療費を槍玉にあげて弱者を攻撃した例は枚挙に暇がない。
「たらたら飲んで、食べて、何もしない人(患者)の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」(2008年11月20日経済財政諮問会議で)
「食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで糖尿になって病院に入るやつの医療費は俺たちが払っているんだから、公平じゃない」
「こいつが将来病気になったら医療費を払うのかと、無性に腹が立つときがある」(2013年4月24日都内会合で)
これらの暴言は、2016年に問題となった長谷川豊氏の「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ! 無理だと泣くならそのまま殺せ!」「自堕落な生活で人工透析患者になったハナクソ同然のバカ患者」という自己責任論とまったく同じ。いや、麻生氏は財務相という医療費を検討する行政のトップであり、長谷川氏以上に発言への責任は重い。
さらに、麻生財務相が暴言による攻撃のターゲットにしてきたのは、高齢者の終末医療についてだ。2013年11月21日に開かれた政府の社会保障制度改革国民会議では、麻生財務相は高齢者の終末医療にかんして、こんな暴言を放っている。
「政府のお金で(高額医療を)やってもらっていると思うと、ますます寝覚めが悪い。さっさと死ねるようにしてもらうなど、いろいろ考えないと解決しない」
つまり、麻生財務相は、高額医療にかかる高齢者は「さっさと死ね」と言っているのだ。その上、このとき麻生財務相は患者のことを「チューブの人間」と表現した上、「私はそういうことをしてもらう必要はない、さっさと死ぬからと(遺書に)書いて渡している」と述べたという(毎日新聞2013年11月22日付)。
今回の「子どもを産まなかったほうが問題」発言の前に、麻生財務相は「いかにも年寄りが悪いという変な野郎がいっぱいいる」と言っていたが、麻生財務相こそ「変な野郎」そのものだったというわけだ。
「子どもを産まない」国民を攻撃し、一方で高齢者に医療を受けさせるな、と主張する──。麻生財相といえば、2017年に「ヒトラーの動機は正しかった」という趣旨の暴言もあったが、実際にナチスの優生政策とそっくりな欲望を持っているということなのだろう。
しかし、最大の問題は、こうした暴言を吐きながら、この男が辞任にも追い込まれず、いまなお副総理兼財務相の座に居座りつづけていることだ。そして、暴言を吐いた為政者がその責任をとらされないことによって、その暴言は正当化されて、状況をますます悪化させている。
現に、その弊害は顕著な例となって昨年、表面化した。社会学者の古市憲寿氏は、安楽死をテーマにした小説「平成くん、さようなら」(「文學界」2018年9月号)を発表し第160回芥川賞の候補にノミネートされたが、この作品をめぐってセッティングされた落合陽一氏との対談(「文學界」2019年1月号/文藝春秋)では、ふたりから“終末期医療、とくに最後の1カ月の医療は金の無駄だ”“社会保障費削減のためにやめたほうがいい”という主張が繰り出された。
本サイトでは古市氏と落合氏の主張について、財務省の“社会保障費カット論”のペテンに丸乗りしていると批判したが、そのトップこそが麻生財務相である。そして、このような個人として当然保障されるべき生きる権利や尊厳を奪おうとする暴論が、いまやしたり顔の「自称・リアリスト」たちに支持されて、当然のように流通するようになってしまった。
その要因には、麻生氏が国民の当然の権利を奪う明白な暴言を吐いても責任をとらず、野放しになってきたことが影響しているのは間違いない。
本サイトでは何度も警鐘を鳴らしてきたが、再度言いたい。多くの国民が麻生氏の暴言に慣れすぎて「また失言か」などと見過ごすかもしれないが、暴言の責任をしっかりとらせなくては、その暴言はこの国において「認められる発言」になってしまうのである。こんな男をのさばらせつづけるのは、あまりにも異常であり、危険だ。 
ウケ狙いで弱者を嗤う"失言大魔王"麻生氏 2019/2
永田町で「失言大魔王」の異名をとる麻生太郎副総理兼財務相。暴言を吐いたからといって、いまさら驚く人は少ないかもしれない。しかし、今回ばかりは開いた口がふさがらない。
2月3日、少子化問題に関連して「子どもを産まないほうが問題だ」と発言。子どもを産む機会がなかった女性が聞いたら不快に思う大問題発言だ。
実は麻生氏は2014年にも、ほぼ同じ内容を発言して、撤回している。1人の政治家が同じ失言を2度して2度撤回に追い込まれたのは史上初のことだろう。
問題の発言は2月3日、地元福岡県芦屋町で行った国政報告会で飛び出した。
「平均寿命が高くなっている。素晴らしいことですよ。いかにも年寄りが年とったのが悪いという変なのがいるが、間違っている。子どもを産まなかったほうが問題なんだから」
麻生氏の発言は、少子高齢化の責任を、子どものいない夫婦や独身女性に押しつけるようなものだ。産みたくても産めない人、経済的な事情で子どもを養うことができない人の心を逆なでしたのは言うまでもない。
暴言、失言の中には、使う言葉は不適切だが、発言全体の文脈を読めばある程度理解される例もあるが、今回の麻生発言は「即アウト」の部類に入る。
4日、衆院予算委員会で野党から批判を受け「誤解を受けたのなら撤回する」としたが謝罪はせず。5日、同じく衆院予算委員会で追及をされると「不快に思われた方がいるとすればおわび申し上げる」と、ついに陳謝した。後手後手の対応に野党だけでなく与党からも批判の声が上がる。特に公明党の山口那津男委員長は「極めて不適切だ」とかんかんだ。
麻生氏と失言、暴言は切っても切り離せない。学者や弁護士らでつくる「公的発言におけるジェンダー差別を許さない会」が行った18年のジェンダーに関する問題発言のインターネット投票で、麻生氏は1位に選ばれた。
「受賞作」は、財務事務次官の女性記者に対するセクハラ行為に関連し「嫌なら(女性は)その場から帰ればいい」と語った発言。麻生氏は昨年、「本人が(セクハラ被害を)申し出てこなければどうしようもない」「セクハラ罪はない」などの発言もしている。
麻生氏の失言は、ウケ狙いの軽口が弱者への配慮を著しく欠いていて批判を受けるというパターンが多い。
「90歳になって『老後が心配』とか訳のわかんないこと言っている人がテレビに出てたけど、いつまで生きてるつもりだよ」というような発言をすると、会場は笑いに包まれるのは事実だ。毒舌のお笑い芸人なら、それでいいのだが、笑いによって傷つくような発言は、政治家は絶対にしてはならない。そのことは十分承知しているはずなのに懲りない。
驚くべきことだが麻生氏は「子どもを産まないほうが問題だ」という発言は2014年にもしている。12月7日、札幌市内で演説し「(少子高齢化問題は)高齢者が悪いというようなイメージをつくっている人が多いが、子どもを産まないのが問題だ」と語っている。今回の発言とほぼ全文同じ。そして、批判を受けて撤回した。その経緯まで同じだ。
これまで、失言、暴言を繰り返す政治家は何人もいる。古くは森喜朗元首相、最近では桜田義孝五輪担当相らが有名だ。しかし、さすがの彼らも同じ発言を2度繰り返すようなことはしない。そういう意味で麻生氏は、「史上初」なのだ。
麻生氏は7日に成立した2018年度第2次補正予算、そしてこれから審議入りする19年度予算案の所管閣僚だ。審議に影響を及ぼさないように言動は慎重を期すべき立場。にもかかわらず、自ら率先して失言している。
麻生氏と同じ福岡県が地盤だった山崎拓元党幹事長は6日ラジオ番組で「麻生さんは浮世離れした政治家。常識は元々欠けていましたけど最近はちょっとぼけ老人になりましたね。上から目線でずっときているから、ああいう発言が次々出てくる」と語ったという。2人がライバル関係だったことを差し引いても山崎氏の「麻生評」は出色だ。
中央政界での麻生氏の立場は最近微妙になっている。お膝元の福岡県は4月に知事選を控える。自民党は元厚生労働官僚の新人・武内和久氏の推薦を決めているが、現職の小川洋氏も出馬を決意。自民党の一部国会議員は小川氏を推す構えで保守分裂選挙となる。
小川氏はもともと自民党の支援を受けていたが16年の衆院福岡6区補選の対応を巡り麻生氏の不興を買った。そういった経緯から自民党は今回、小川氏を推さず武内氏の支援を決めたのだが、結果として保守分裂選挙となってしまった。もし武内氏が敗れることになれば麻生氏の求心力低下は避けられない。
さらに深刻なのは、小川氏が二階俊博幹事長や菅義偉官房長官と近いことだ。福岡の自民党分裂はそのまま中央に波及し、麻生氏と二階氏、菅氏という安倍晋三首相を支える3人の重鎮の関係を微妙にしている。
菅氏は14年に麻生氏が「子どもを産まないのが問題だ」と発言をした時は「全く問題ない」と擁護している。
今回の発言を受けコメントを求められた時には「必要に応じて麻生氏自身が説明すると思う。コメントは差し控える」と述べた。今回の発言のほうが突き放しているように聞こえるのは考えすぎだろうか。
スタイリッシュで若く見える麻生氏だが78歳になった。17年ごろまでは、安倍内閣の支持が急落すると決まって「ワンポイント・リリーフで麻生政権」というような観測があったが、最近はそういう声も上がらない。そもそも安倍氏が2021年秋までの総裁任期前に辞任するような展開は今のところ考えにくい。21年秋には麻生氏は81歳になってしまう。
麻生氏の永田町での存在感が日に日にやせ細っていくのは避けられない。注目されるのが問題発言だけ、ということになってしまうのは、あまりにも寂しい。 
安倍1強政権に浮上する「麻生太郎」リスク 2019/2
底が見えない統計不正問題で政府与党が防戦を強いられる中、安倍晋三首相を支える大黒柱、麻生太郎・副総理兼財務相の「自分勝手な行動と失言」(自民幹部)が、政権運営の悩みの種となっている。
主要野党の政権攻撃に「火に油を注いだ」(自民国対)のが、麻生氏の「産まない方が問題」という失言。野党がすぐさま予算委員会審議で追及し、麻生氏は渋々発言を撤回して謝罪した。麻生氏の地元の福岡県知事選では、前回まで与党が推薦していた現職知事の対立候補を擁立し、強引な手法で党推薦を決めて「保守分裂選挙」を主導。実力者・麻生氏の横車が統一地方選での自民党の戦略を混乱させている。
福岡県知事選は統一地方選前半戦の4月7日に投開票される10道県知事選(3月1日告示)の一つだ。当初は過去2回の選挙で圧勝してきた小川洋知事(69)の無風当選が確実視されていた。しかし、麻生氏が自民党福岡県連を動かし、側近で元厚生労働官僚の武内和久氏(47)を担いだことで状況が一変した。同県連は昨年末に武内氏の擁立を決定し、1月末には麻生氏自らが安倍首相や二階俊博幹事長らを強引に説き伏せ、自民党本部の武内氏推薦を取り付けた。このため、選挙戦は現職の小川氏と武内氏が激突する保守分裂選挙に陥った。
武内氏の推薦決定には地元選出の武田良太衆院議員(二階派)ら自民3議員が反発して、小川氏支持を公言。現職推薦を決めていた県町村会など自民党支援団体も小川氏を支援する方向だ。さらに、政界引退後も地元福岡への影響力を保持する山崎拓元副総裁(石原派)や古賀誠元幹事長(岸田派)も、麻生氏の対応への不満から小川氏を支援する構えだ。
このため、「麻生VS反麻生」で福岡の保守陣営が真っ二つに分裂するという異常事態となった。しかも、自民党の事前世論調査では、小川氏が武内氏を含めた他候補を圧倒している。自民党本部も「保守分裂では参院選への悪影響は避けられない」(選対幹部)と頭を抱えている。
麻生氏が今回、強引に竹内氏擁立に動いた背景には、小川現知事への恨みがあるとされる。そもそも小川氏は、麻生氏が首相時代の内閣広報官を務めるなど、麻生氏の身内だった。しかし、鳩山邦夫元法相の死去に伴う2016年夏の衆院福岡6区補選が保守分裂選挙となった際、麻生氏が推した新人候補(落選)を小川氏が支援しなかったことなどに麻生氏が激怒、それを機に「小川降ろし」に傾いたとみられている。
小川氏は昨年12月下旬に3選を目指して正式に出馬表明した。麻生氏は側近の自民県連幹部を動かして武内氏の県連推薦を決める一方、武田氏らは別途、小川氏の推薦を党本部に働きかけた。しかし、安倍首相は麻生氏に押し切られ、二階氏や甘利明・選対委員長も武内氏の推薦を認めざるを得なかった。
関係者によると、麻生氏は首相らに対し「推薦がとれないなら副総理を辞める」と凄み、首相も「そこまでいうなら」と麻生氏の顔を立てたという。このため、負け戦を懸念する党本部選対も「あとは福岡に責任をとってもらう」と不満を露わにする。
2016年の福岡6区補選で当選した鳩山二郎氏(故邦夫氏の二男、二階派)は、二階幹事長や菅義偉官房長官らの支援を受けていた。小川氏の対応もそれを踏まえていたとされ、今回の保守分裂はその因縁を引きずっている。このため、党本部は「麻生さんさえ我慢すれば丸く収まったのに、これでは統一地方選後半戦や参院選での結束も困難になる」と顔をしかめる。
統一地方選における知事選は、福岡だけでなく福井、島根、徳島各県も「保守分裂の戦い」となりつつある。候補者調整の最高責任者である甘利氏も「地域ごとの結束を固めるのが重要」と1本化を模索しているが、福岡で首相や党執行部が麻生氏に押し切られたことで「他の3県の一本化も困難」との見方が広がる。これまで小川氏を支持してきた公明党も困惑を隠せず、与党の結束にもほころびが出始めている。
そうした最中の2月3日に飛び出したのが、福岡での会合における麻生氏の失言だ。少子高齢化問題に言及した際、「子供を産まなかった方が問題」と発言。4日に始まった衆院予算委審議で早速野党側が追及、麻生氏も「誤解を生み、不快に思われる方がいるとすれば、申し訳なかった」と謝罪した。
麻生氏は5日の記者会見でも「産まなくなっちゃったという事実があるという話をしただけ。それを一部女性の方が不快に思われるのなら、おわび申し上げます」とし、「誤解を招く発言が多いのは注意しないといけない」と反省の弁も語った。
ただ、麻生氏の態度には、野党側は「『間違えていた。反省しています』というのが謝罪。でも、麻生さんの本心ではないから、何度も失言が出てくる。『誤解を与えたのであれば謝る』というのはひきょうだ」(松沢成文・希望の党代表)など反発は収まらない。
麻生氏は昨年も失言や暴言を繰り返して政局を混乱させた。前代未聞の不祥事となった「森友学園問題」をめぐる公文書改ざん事件について、財務相トップとして改ざんの理由を問われると「それが分かれば苦労しない。それがわからないからみな苦労している」と言い放ち、記者団をあきれさせた。
さらに、昨年4月初めに暴露された財務省の福田淳一事務次官(当時)の女性記者への「セクハラ」問題でも、「セクハラ罪という罪はない」「(女性記者に)嵌められて訴えられているんじゃないかとか、ご意見はいっぱいある」などと発言して世間の猛反発を受けた。こうした失言癖について野党は「何度も何度も何度も繰り返す。まさにアホウ太郎だ」(社民党幹部)と切り捨てる。
麻生氏は菅官房長官とともに2012年末の第2次安倍政権発足以来の「内閣の大黒柱」だ。首相経験者で首相の後見人も自任する麻生氏は「首相の精神安定剤」(側近)とされる。だからこそ、昨年10月の党・内閣人事で、安倍首相は周囲の不安を押し切って麻生氏を続投させた。ただ、その首相にとっても麻生氏の失言癖は頭痛の種で、首相周辺も「秘書官などを通じて、麻生氏に反省を促す場面もある」と苦笑する。
今年の政局は内政外交とも「何があってもおかしくない」(自民長老)という波乱含みの展開が続く。8日から始まった衆院予算委での来年度予算案の審議も、統計不正問題の展開次第では根本匠厚労相の更迭にも追い込まれかねない。もし根本氏が辞任すれば、公文書改ざん事件でも辞めなかった麻生氏が野党の標的になる。それに伴い首相の泣き所であるモリカケ疑惑も、改めて野党に攻撃される可能性が大きい。
それだけに、首相サイドも「とにかく、麻生氏の隠忍自重を祈るしかない」(側近)と肩をすくめるが、麻生氏をよく知る山崎元副総裁は6日のラジオ番組で「麻生さんは元々常識が欠けていた。恵まれて育ちすぎて、上から目線でずっときているから、ああいう発言が次々出てくる」と冷たく突き放した。参院選に向け当分は「安全運転に徹する」という首相にとって、統計不正と並んで「麻生太郎リスク」が政権運営の不安要因に浮上してきた。 
 
石破茂

 

日本の政治家。自由民主党所属の衆議院議員(11期)、水月会会長、自由民主党水産総合調査会顧問。防衛庁長官(第68代・第69代)、防衛大臣(第4代)、農林水産大臣(第49代)、自由民主党政務調査会長(第52代)、自由民主党幹事長(第46代)、内閣府特命担当大臣(国家戦略特別区域)、内閣府特命担当大臣(地方創生)、さわらび会会長、無派閥連絡会顧問、自民党たばこ議員連盟副会長などを歴任。父は、建設事務次官、鳥取県知事、参議院議員、自治大臣などを歴任した石破二朗。

獣医学部新設の4条件に関する発言
2017年7月18日付けの産経新聞で、2015年9月に日本獣医師政治連盟委員長の北村直人と日本獣医師会会長の蔵内勇夫が、国家戦略特区を担当していた石破と面会した際、同特区における獣医学部新設4条件作成に関して石破が、「学部の新設条件は大変苦慮しましたが、練りに練って、誰がどのような形でも現実的には参入は困難という文言にしました」と発言したとの報道があったが、石破はそうした事実はなかったと否定した。なお、この石破が発言したとされる内容とほぼ同じ文章が、2年前の2015年11月の日本獣医師会雑誌に存在し、そこでは獣医師会の会議報告での北村の発言として、石破からそういった趣旨の話を聞いたという形で掲載されている。北村はこのことに対して週刊誌の取材で、「会議で多少、成果を誇示する表現で報告することはある。あれは石破さんの実際の発言ではなく、私の説明を獣医師会の事務局がまとめたもの。産経はこの会議報告をみて、想像を膨らませて書いたのではないか」と述べ、石破の実際の発言ではないと否定している。また、同産経記事では2014年7月に新潟市が国家戦略特区に獣医学部新設を申請し、ほどなく却下されたことについて、北村が石破に働きかけ、石破が「特区にはなじまないよな」と同調したとされるが、石破は「全く存じ上げない」と否定している。なお、日本獣医師会は石破をはじめ、複数の大臣に対して獣医学部新設反対のためのロビー活動を行っており、2015年6月22日の平成27年度第2回理事会の北村と蔵内の報告では、石破や麻生太郎財務大臣、下村博文文部科学大臣と折衝した結果、獣医学部新設4条件について、「一つ大きな壁を作っていただいている状況である」、「いくつかの規制がかけられた」との見解を示している。
石破派の抗議
石破派は、石破が日本獣医師会幹部らと面会した際、学部新設条件について「誰がどのような形でも現実的には参入は困難という文言にした」と述べたとする産経新聞の報道について、「発言は事実ではない」と主張している。また、党幹事長室が加計学園の獣医学部新設問題に関する産経新聞の記事を党所属の全議員にメールで配布した事について、不適切であるとして抗議をおこなった。同派の平将明衆院議員は記者会見で「石破氏が獣医学部新設を阻止したような印象を与える。党内対立をあおるような形でメールを出すのは不適切だ」と批判し、同派の古川禎久事務総長も「この記事が党の見解だと誤解を招く恐れがある」と撤回を要求した。
東京電力からの献金
東京電力や関連企業がパーティー券購入額の目安として、東京電力が政治家の電力業界での重要度を査定しランク付けしていた上位10議員の内の1人であったことが報じられた。議員秘書等から依頼に応じパーティー券を購入し、一回あたりの購入額を政治資金収支報告書に記載義務のない20万円以下にして東電からの資金の流れが表面化しないようにしていた。
道路運送経営研究会からの献金
道路特定財源が資金源の一つになっている道路運送経営研究会(道路特定財源の一般財源化に反対している)から献金を受けている。
外国人が経営する企業からの献金
石破が代表を務める自民党鳥取県第1選挙区支部が、在日韓国人が経営する鳥取市内のパチンコ企業から2006年から2011年にかけて合計75万円の政治献金を受けていたことが2012年10月に報じられた。石破側は2011年3月に、この企業の経営者が韓国籍であることが判明したため、外国人が株式や出資金の過半数を保有する企業からの献金を禁じている政治資金規正法に抵触すると判断し、全額を返金していた。石破は、献金者は日本名を使用しており、韓国籍とは知らなかったと説明した。
日本獣医師政治連盟からの献金
日本獣医師政治連盟は自民党政権奪還の2012年12月以降、石破茂の「自民党鳥取県第一選挙区支部」に100万円を献金している。  
閣僚の失言? 石破茂「心構えないまま舞い上がっている」 2011/9
衆議院議員で自民党の石破茂氏は2011年9月10日、BSジャパン「勝間和代#デキビジ」の収録で、新閣僚の失言が相次いでいる原因を分析した。石破氏によると、大臣という要職に就くことで舞い上がった気持ちを抑えきれていない点と、答弁などを官僚に任せられなくなったこの時代に、それぞれの分野を得意とする人材を大臣に充てることができていない点が挙げられるという。
番組収録の冒頭、司会の勝間和代氏は「(前)経産相の鉢呂(吉雄)さんの発言、その前の一川(保夫)さん(防衛大臣)の『素人なので』という発言、さらにその前には平野(博文)さん(国対委員長)の『内閣そのものがまだ不完全なので』」など、新閣僚の発言が次々と問題視されたことについて、その原因はどこにあるのか石破氏にたずねた。
石破氏はまず、「閣僚になる心構えができていない」ことがひとつの原因であると話した。自身の経験から、「大臣になると、突然秘書官がやってきて、SP(身辺を警護する警察官)さんが付いて、ドでかい車が出てきて、ドでかい部屋があって、手をたたいて迎えられる。『大臣、大臣』と言われる。それを夢にまで見た人もいるわけで、やっぱり普通、人間舞い上がるでしょう」とした上で、だからこそ「舞い上がってはいけない」と自分に強く言い聞かせる必要があると語った。
石破氏はまた、自らは小学生時代からテレビで内閣改造を見ており、新大臣が「この分野はよく知りませんがよく勉強して...」と語るのを聞くと、「なんじゃこりゃ。大臣ってこれから勉強するんだ」と子供心に不思議に思っていたという。しかし石破氏によると、当時は「経済が高度成長している。そして冷戦構造で米ソ(アメリカとソビエト連邦)のバランスが取れており、紛争が起きにくい状況だった」ため、大臣は「素人」でもよかった面があるという。また具体的には、「予算委員会で、以前は局長とか部長とか審議官が答弁していたが、今は大臣以外の答弁は許さないってことになっている。これまでの大臣みたいに、(官僚に)書かれたものを読んでいればいいって話にはならないわけです」と分析。つまり、当時の大臣は「"お飾り"でよかった」(勝間氏)面があるが、時代が変わったにもかかわらず、その閣僚人事のあり方を継続してしまっていることもひとつの原因であるという見解だ。
石破氏は野田佳彦総理大臣の閣僚人事について、「この人がこの分野に一番向いてるという人をはめたとは、到底思えない。個人の誹謗中傷するつもりはまったく無いが、財務をやったことがない人が財務大臣、防衛をやったことがない人が防衛大臣、農政畑の人が経産大臣。それで、『素人だがこれでいいのだ』と言って正当化するのは、ちょっと理解できないですね」と批判した。  
言論の自由など 2017/4
経産政務官の辞任・離党に続き、復興大臣の失言・辞任という事態で今週も国会は変則的な運営となりました。私自身、閣僚や党役員の時、少なくとも二回、失言・撤回・陳謝という失態を演じており、偉そうに他人様のことを批判できる立場にはおりませんが、同じことを言っても一般人とそれなりの責任ある立場にある者は受け止められ方が全く異なるのであり、マスコミを批判してもどうなるものでもありません。全体ではなく片言隻句こそが批判の対象となるのであって、それを十分承知の上で、どこを切り取られて報道されてもいいように注意しなければならないということなのだと思います。どれほど悪意に満ちた報道であっても、報道があってこその民主主義なのだと割り切る他はありません。本来は「健全な」報道があってこそ、と言いたくもなりますが、「健全」とは何か、明確な解はありません。立法・司法・行政間のように相互牽制に基づくチェック機能が働かない第四の権力であるマスコミ各位には、それだけの見識と矜持を期待したいものです。
同様に、誤解や曲解に基づく批判にはきちんと反論すべきであって、黙殺や泣き寝入りはすべきではありませんが、ためにする批判や誹謗中傷、罵詈雑言に対しては対応すればするほど相手の術中に嵌るという面もあります。ゆえに「言論の自由」とはとても困難なテーマですが、報道が権力に迎合することこそが最も恐ろしい結果を招くのだと思っております。国際NGO「国境なき記者団」によれば我が国の報道の自由度は対象180ヶ国中72位、G7の中では最下位なのだそうで、評価の基準についての議論はあるものの、権力側も、報道の側も、これを真摯に受け止める必要がありそうです。
内閣や党の支持率がそう大きく下がらないのは、その実績もさることながら、北朝鮮の動向などを強く意識した国民の大多数が「やはり野党にこの国の安全を任せるわけにはいかない」と感じていることも一因でしょう。民主党政権時代の安全保障体制は、鳩山・菅政権では総理ご自身が門外漢でしたし、野田政権では総理の見識は前二者に比べれば遥かに優れてはいたものの、一川・田中両防衛大臣は目も当てられない有り様でした。閣僚をはじめとする枢要ポストの人選は、当選年次や年齢のみならず、その分野の政策や担当省庁の内情に通暁した人を起用するのも国家・国民のためというものでしょう。
明日から連休期間に入りますが、28日は自民党長崎県連長崎市第8選挙区支部での講演(午後6時半・ホテルニュー長崎)。29日土曜日は「激論!クロスファイア」出演(午前10時・BS朝日・収録)、ユースデモクラシー「デジタル憲法フォーラム」にて講演と質疑。30日日曜日は鳥取県調理師連合会「惣和会」発会式(正午・倉吉シティホテル)、自民党三朝町支部総会にて講演(午後1時半・プランナールみささ)。3日憲法記念日はテレビ大阪「わざわざ言うテレビ」収録(午後5時・都内)、「プライムニュース」出演(午後8時・BSフジ)。7日日曜日は宮城県気仙沼市の漁業に関するヒアリング、「日本と気仙沼の水産を考える会」で講演、その後のレセプション(午後3時半〜・南三陸ホテル観洋)、水産実務指導者との懇談会(午後7時半・気仙沼市内)、という日程です。
5月3日憲法記念日の「プライムニュース」では憲法について共産党の小池晃書記局長と討論の予定です。小池議員とは委員会やテレビで何度か議論したことはありますが、このような形で討論するのは初めてです。防衛庁長官や防衛大臣在任中、共産党の質問に対しては最も時間を割き、機関誌「前衛」や「しんぶん赤旗」などを丹念に読みました。共産党は我々とは思想や立場が全く異なりますが、理論的には一貫し、精緻なものがあるのでいつも手強い相手でした。良い機会なので、きちんと準備して臨みたいと思っています。
閣僚でもなく、党三役でもなく、海外出張の予定もない連休は何年振りでしょう。読みたかった本や論文を読み、ここのところ不調が続いた体調管理にも努めたいと思っています。この時期の議員の海外出張は物見遊山的と批判されますが、閣僚の時も党三役の時もすべて機中泊、一日の会議や会談が10件近くという超過密スケジュールでした。真面目に務めている議員が多い中、一部の者のためにすべてがそう見られてしまうのは残念なことです。まだ当選一・二回生の頃、挨拶廻りや地区の会合に出かける前の早朝に自分で運転して、初夏の山陰海岸の景色を楽しんでいた頃が懐かしく思い出されます。 
石破茂が安倍応援団メディアを敢然と批判! 2018/8/21
安倍首相の総裁選に向けた運動が激化している。公務そっちのけで地方議員との面談に精を出し、休暇中も総理経験者らとのゴルフ・会食にフル回転。昨日には、山梨の別荘からわざわざ都内で開かれた日本会議地方議員連盟の結成10周年を記念したイベント「アジア地方議員フォーラム日本大会」に駆け付け、挨拶を済ませると再び別荘に戻っている。
そうした“売り込み”活動の一方で激しさを増しているのが、対抗馬である石破茂・自民党元幹事長への“恫喝”だ。
安倍陣営は「人事で徹底的に干す」と脅すことで石破派の切り崩しに必死で、本サイトでも伝えてきたように、政府機関である内閣情報調査室を私物化して動かし、石破氏の動向を調査。16日放送『報道ステーション』(テレビ朝日)によると、安倍陣営は地方での石破氏の講演会にまで「石破を呼ぶな」と圧力をかけては潰しているのだという。
さらに、目に余るのは、御用メディアや安倍応援団たちの“石破バッシング”だ。たとえば、産経新聞は昨日朝刊1面で今月15日に笹川陽平・日本財団会長の別荘でおこなわれた森喜朗、小泉純一郎、麻生太郎という総理経験者たちと安倍首相の会食の“裏話”を掲載。会食時に細川護熙連立政権の話となり、離党者が相次いだことを森と小泉が振り返ったといい、記事はそのときの離党者のひとりが石破氏であると言及。その上で、麻生が呟いたという「そういう苦しい時こそ人間性がわかるんですよ」という言葉で締められている。
差別的な暴言を吐きつづけている麻生に他人の「人間性」をとやかく言う資格などどこにもないのだが、そもそも安倍首相はここまで露骨な総裁選の運動を展開しておいて、いまだに出馬表明はしていない。これは石破氏との討論を避けるために逃げているとしか思えないが、そんな姑息な人間を棚に上げて、石破氏の「人間性」に問題があると暗に仄めかす記事を1面トップで掲載するのだから、産経はいいかげん「安倍日報」に名前を変えたほうがいいだろう。
だが、このようなあからさまな嫌がらせを受けている石破氏は、積極的にメディアに出演。本日も、『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)に出演し、安倍首相に対する批判をおこなったのだが、これがネット上で反響を呼んでいる。
たとえば、前述した産経の報道について曜日レギュラーコメンテーターのジャーナリスト・青木理氏が触れ、「僕はある種、異様な記事だなと思った」と言うと、石破氏はこう述べた。
「メディアと権力って一定の距離を置いてきたはずなんですね。どちら寄りということはもちろんあるにしても、どちらかの代弁人ではなかったと思っている。私はメディアと権力が一体となっているときってすごく怖いと思っています。それは民主主義のためにはあってはいけないこと」
「メディアのなかでもたぶん、いろんな意見はあるんでしょう。ただ、いろんな意見を言ったらば、同じようにね、『君、出世させないよ』とか、そういうことがあるとすれば、メディアのなかでも同じような構造が起こりつつあるのかもしれないなと」
石破氏が述べた「同じようにね」というのは、総裁選において安倍陣営が「人事で干す」と恫喝していることを指しているのだろう。つまり、安倍政権がメディアの報道に介入し忖度を強いてきたことは民主主義に反する行為であり、いまではその構造がメディア内部にも浸透してしまったのではないか。そう石破氏は指摘するのだ。
さらに石破氏は、「日本の設計図そのものを変えていかないと国が次の時代に存続できない」「そのときに『政府の言っていることって信頼できるよね』と思ってもらえなかったら、設計図の書き換えなんてできない」と言及。森友の公文書改ざん問題しかり、政策論以前に安倍政権には信頼性がないということを突きつけたのだ。
メディアと権力が一体化することは絶対にあってはならないこと、国民の信頼を裏切る政権に政策論はできない──。石破氏が言っていることは、ごくごく当たり前、基本のキの話でしかない。それは改憲の問題にしても同じだ。
石破氏はよく知られているように改憲論者であり、交戦権の否認を謳う9条2項の削除を訴えている。こうした石破氏の主張は「戦争できる国づくり」の第一歩でしかないが、一方で安倍首相が訴えている「1・2項はそのまま、3項で自衛隊を明記する」という3項加憲案は、一見ソフトに見えてじつは2項の戦力の不保持と交戦権の否認を空文化しようとする危険なものだ。ようするに、安倍首相は2項削除では反発を受けて改憲ができないと踏み、3項加憲という国民に危険を悟らせない騙しの手口で自分の任期中の改憲を急ごうとしているだけなのだ。
きょうの番組でも、安倍首相が秋の臨時国会でこの9条加憲案を提出する姿勢を見せていることについて石破氏は、9条改憲は「日本国憲法の3大原理・平和主義に関わること」だと強調した上で、改憲にいたるプロセスの重要性を語った。
「賛成・反対は別としてですよ、きちんと説明する義務があるんじゃないですか。その上で判断していただく義務があるんじゃないですか。努力もしないで『どうせ通らない』『どうせダメだ』『政治は結果だ』、私はやっちゃいけないことだと思っています。一生懸命説明して、それでも理解が得られなかったら、仕方がないですよ。その努力をしないままに『どうせわからないから』というやり方は、私はとらない」
「去年の憲法記念日に総理がビデオメッセージで(9条3項加憲案を)おっしゃった。『どういうことですか』と訊いた人に、総理は『それは新聞読んでください』とおっしゃった。みんながその新聞読んでるわけじゃないんです。ほかの新聞読んでる人もいっぱいいるんです。そんな言い方ってありますか! 何度も何度も『総理は自分の言葉で説明してください』『新聞読んでくれじゃなくて自民党の議員の前で説明してください』とお願いしました。1度もやってくれない」
「議論というのは、Aはこう言い、Bはこう言い、Cはこう言う、その意見をたたかわせるのが議論です。みんなが言いっ放しで『はい、みなさん意見言いましたね。終わりましたね』と、それを議論とは言わない」
「みんながいろんな意見を言いました。意見が異なっています。じゃあ、そこで公論をかわす。『あなたのそこはおかしいでしょ』『いえ、おかしくないです』と、それが議論です。みんなが意見を開陳しましたというのは意見表明であって、議論とは言わないです」
国民に改憲の内容や意味をしっかり説明する義務を果たし、それでも理解が得られないなら、議論を交わす。──石破氏が訴えていることは、やはり当たり前の話だ。だが、このごくごく当然の主張が「きちんと」しているように見えるのは、それだけ安倍政権による反知性、国民無視、強権的姿勢に慣らされてしまった結果だと言えるだろう。改憲の姿勢にしても、コメンテーターの玉川徹氏は「僕と考え方は違うのかもしれないけど、少なくとも石破さん、姑息じゃない」と言っていたが、まさにその通りで、安倍首相のように国民を騙そうとはしていない。
いや、それどころか、石破氏が質問を受けて意見を答える、ただそれだけのことが、「会話が成立している」としてネット上では評価に繋がっている。質問をはぐらかしたり、意味のわからないたとえ話をはじめたり、訊かれていないことを答えたり、「まさに」「ですから」「いわば」というフレーズを空疎に繰り返すなど、中身のない“安倍論法”を聴かされつづけてきた側としては、会話が成り立っているというだけで「ずっとマシ」だと思えてしまうのだ。
番組では、司会の羽鳥慎一が「たいへん厳しい状況だと言われていますが、それでも(総裁選に)出るというのは、どういうお気持ちなんですか?」と質問すると、石破氏は「出なきゃいけないからです」と即答。羽鳥が「なんでですか?」と畳みかけると、こう答えた。
「誰もここでものを言わなかったら、どうなるんですか? ほんと、どうなるんですか? 国民がそう思っていて、党内にもそういう意見があって、誰もそれを言わなかったら、民主主義ってどうなるんですか?」
石破氏は「そういう」「それ」とぼかしているが、ここで石破氏が言っているのは「安倍首相のやり方はおかしい」ということだ。普通に考えれば、友だちへの優遇や公文書の改ざん、自衛隊日報の隠蔽などが発覚してもなお3選を目指していること自体が異常であって、この石破氏の危機感は極めて真っ当だろう。
だが、問題は、この「安倍首相のやり方はおかしい」という当たり前の指摘、「安倍首相のままでいいのか」という危機感を、メディアは伝えようとしないということだ。きょうのこの『モーニングショー』にしても、石破氏を迎えたコーナーでは冒頭から「総裁選のキーマンは小泉進次郎・筆頭副幹事長」だとして、羽鳥と細川隆三・テレ朝政治部デスクが「最近、(進次カ氏と)連絡は取れているんですか?」などと何度も質問。言うまでもなく総裁選なのだから、重要なテーマは安倍首相の政策や政治姿勢に対する石破氏の意見なのに、番組は昨日出演した田崎史郎氏が主張した「(進次カ氏は)安倍総理支持」「何でも自分一人でやろうとする石破氏に総理が務まるのか支持にためらいがある」などという安倍陣営に寄った情報を石破氏にぶつけるなど、かなりの時間を進次カ氏の話題に費やしたのだ。
石破氏による当たり前の主張が真っ当に見えてしまう原因は、こうしたメディアの安倍政権への忖度と、なんでも「政局」に置き換える報道にもあるのだろう。 
石破茂氏「派閥否定はしない」1 2018/8/23
自民党総裁選(9月7日告示、20日投開票)に出馬する石破茂・元幹事長(61)が、日刊スポーツのインタビューに応じた。安倍晋三首相(63)の周辺が、石破氏との討論に消極的とされることについて、「討論の場を国民に提供するのは義務」と、くぎを刺した。国会議員の7割が首相支持といわれ、総裁選も「安倍1強」だが、「ものを言うために議員になった。やらないなら政治家の意味はない」と覚悟を示した。主な一問一答は以下の通り。
−出馬表明からまもなく2週間。早く首相と討論をしたいのではないですか
石破氏 今、国会は閉会中で、国会日程に拘束されることはない。総理大臣は日本国の全責任を担い、いろんなご負担もある。ただ、米国の大統領は日本よりもっと責任が重いですが、討論の機会があれば必ず、出ます。自民党の総裁選びではありますが、実質的には日本の総理大臣選び。自民党員だけでなく、広く国民に何が問題か、政治のあり方、それぞれの政策について多くの人が知りたいテーマはある。国民の前に、候補者が自分の思いを述べることは、民主主義、国民のために必要ではないか。義務だと思う
−「劣勢」「逆風」と言われても出馬する
石破氏 自民党総裁選は、国会議員20人の推薦がないと出られない。私は3度目。そのたびに20人集めるのは大変ですが、ありがたいことに20人が集まっていただいている。これでやらなかったら政治家でいる意味がないと思う。同じ自民党だから、安倍さんと私でものすごく政策が違うはずはないですが、政治のやり方、経済政策など、かなり違います。自民党員の中でも、「それは石破さんの方が正しい」と思っている方もいる。
−孤独ではないですか
石破氏 そんなことはありません。この時も同志が一生懸命やってくれている。
−首相支持の派閥が、早くも人事の話をしているという話も出ています
石破氏 人間社会だから裏ではいろんなことがあるでしょうし、あったんでしょうが、選挙の前から、対立候補を応援したらポストをあげないとか、冷遇とか。そんな自民党は今まで見たことはありません。
−ものを言わない自民党への危機感は
石破氏 ものを言うために議員になっているのではないですか。単に、賛成を言うためなったんですか。総裁の覚えめでたく、比例区の上位に掲載される人はごくたまにいますが、少なくとも小選挙区の議員は総裁に任命されたのではない。有権者に支持されて出てきた。自民党でも、有権者にもいろんな意見がある。国会の場で代弁するために出てきたから「代議士」という。それをやらないなら、政治家としての意味はないと私は思います。
−主要派閥は首相を支持。今も「派閥の論理」で流れが決まる
石破氏 私は派閥を否定したことはありません。でもかつての自民党の派閥は、小さな派閥でも領袖(りょうしゅう)を総理にしようとやった。今、派閥で出ると言っているのは、私だけ。それに安倍さんの政策を見ずに、支持を決める。自分の派からは候補を出さす、でも、支持するからポストはちょうだいね、と。それは、かつての自民党ではありません。支持するかは政策で決める。でも今は、上が決めたら「分かりました」です。
石破茂氏「批判を許さない自民党」2
−安倍政権の約6年をどう評価しますか
石破氏 最初の2年は幹事長、次の2年は大臣として、安倍政権の中枢にいました。幹事長時代はあまり感じたことはないですが、地方創生大臣になった時、会見で「自民党は感じ悪いよねと言われないようにしなければ」と何度か言いました。かつて自民党が野党に転落したのは、政策が間違っていたからではない。消えた年金問題、閣僚のスキャンダル、相次ぐ失言…。立ち振る舞いが嫌われたと思う。そう言われないよう、気をつけないといけないと。自民党は今、圧倒的多数を持っているように見えますが、投票率は5割、得票率は4割。かけ算をすると、積極的な自民党の支持者は2割くらいしかいない。それ以外の有権者が、自民党をどう思うかが大事です。だから「感じ悪いねと言われないように」と言ったら、許さないと。批判を許さない自民党は、今まで見たことがない。若いころは、先輩に「若い議員こそが批判をしろ、お前たちがいちばん国民に近い」と言われたものでした。
−国民の支持は石破さんの方が高いが、自民党支持層の支持は安倍首相に逆転するという世論調査の結果もありました
石破氏 国民全体がどう思うかは大事だと思う。国民と自民党員の意識が乖離(かいり)するのはいいことではないでしょうね。
−どう戦いますか
石破氏 きちんとした討論の機会をつくることです。憲法、外交安全保障、金融財政や経済政策、社会保障。大きく4つくらいテーマを分けられる。だけど総裁の周辺は、やりたくないという(話を聞く)。だったら、仕方ない。こちらができるだけメディアや街頭で訴えるしかない。その計画も立てています。
−大学時代には、全国学生法律討論会で1位に
石破氏 私たちは「言葉」が仕事。学者ではありません。野党時代、政調会長や予算委員会の筆頭理事として、民主党政権と議論しましたが、見ている方が、「自民党が言うことの方が正しい」と思ってもらうことが大事と考えていた。大臣として答弁に立つ時も、どうやって分かってもらおうかと。政治家にとって絶対に外せないことです。
−その部分が安倍政権に足りないから、キャッチフレーズは「正直 公正 石破茂」になったのですか
石破氏 国民と正面から向き合いましょうよということ。相手が野党でも、誠心誠意接しなければいけない。後ろには多くの国民がいるのですから。経済が伸びて人口も増える時は、そんなに政策を間違えようがない。でも、あと80年で日本の人口は半分に、高齢化の比率は倍になる。設計図を書き換えないと、この国は持続できない。そういう時に、正面から向き合わないでどうしますか。「信用できない」といわれてどうしますか。そこを、いちばん訴えたいと思います。
石破茂氏「小泉純一郎さんは天才」3
−小泉進次郎筆頭副幹事長への支持働きかけは
石破氏 小泉さんは存在感があり、もう若手の幹部です。手練手管を使って(働きかけて)どうするんだと思う。安倍さんが示す日本図と政治のやり方、私が示す日本図と政治のやり方。そのどちらに賛同するかでしょうね。今まで彼といっしょに仕事をしてきた。そういうこと(連絡)ができないわけではないが、手練手管で支持してほしいという話ではありません。
−夏の高校野球は
石破氏 見ているひまはなかったね。
−インスタグラムには、猫を抱いた写真が
石破氏 猫カフェにいって、石破に猫がなつくかどうかという雑誌の特集で(撮影した)。猫がわらいました。
−猫にはなつかれる
石破氏 そうですねー。なぜでしょう(笑い)。
−験担ぎはしますか
石破氏 しません。普段通りです。
−総理は夏休みの期間、ゴルフをしていました
石破氏 私はやらなくなって何年になるかな。12〜13年、していない。86年7月7日の衆院選で当選し、29歳で議員になった。2、3日後、友人と早朝ゴルフに行くと、「石破さんもいい身分だね。もうゴルフかい」と言われたことがありました。そのひとことが、すごく響いた。地元鳥取では休みの時、パブリックで自分で担いでいくから当時、3000円くらいでできた。40前半で回れていたこともある。でも、少なくとも半日かかる。その時間があったら、どこか地方にいけるよねと思います。総理がリフレッシュでゴルフをすることは、まったく否定しません。それで元気になって国政にまい進してくれれば、日本のためだと思います。
−理想の総理像は
石破氏 田中角栄首相がいなければ、今の自分はない。政治家になるつもりはまったくありませんでしたが、父の葬儀委員長をやっていただき、君が衆院議員になれと言われ、ひっくり返るほど驚いた。あの人は人ではない、「神」だからね。本当に報いを求めない。頭のよさも判断力もずばぬけていた。ロッキード選挙の時、田中派の議員に「自分は田中派だが、田中派は許せないと言って当選してこい」と。そんな度量があった。竹下登さんは、あそこまで忍耐に忍耐を重ね、あんなに気配りができる人はいなかった。
お仕えした総理では、小泉純一郎さんは、本当に天才。私は小泉さんと徹底的に対立していましたが、突如として私を防衛庁長官にすると。人の好き嫌いは関係なく、だれをどう使うことが日本のためになるか。そんな判断ができた方でした。橋本龍太郎さんは本当にチャーミングな方。小渕恵三さんは、国のために命をかけた。福田康夫さんは上司にするならこの人と思いました。半歩でも近づけたらいいなと思いますが、なかなか難しい。
−気分転換は。キャンディーズなど70年代アイドルを聴いたりすることは
石破氏 ないですね。ただ、一瞬だけ、昔のフォークやアイドルもののCDを聴く時かな。テレビは見なくなりましたがNHKのアーカイブスやアマゾンプライムで、昔の映画が見られる。1日に15分だけ、映画のさわりだけ見ると、ふっと日常のいやなこと満載を忘れるというか。そういうところはありますよね。 
石破茂「安倍総理の後は誰かがやらなきゃ。その覚悟はある」 2019/7/8
安倍晋三首相は2021年9月に自民党総裁任期満了を迎えるが、自民党内からは早くも「4選」を求める声も出ている。
そこで文春オンラインでは「次期首相になってほしいのは誰ですか?」という アンケートを実施 。安倍首相(4選)、小泉進次郎厚労部会長、菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長らを抑え、堂々の1位になったのが、石破茂元幹事長だった。
昨年秋の総裁選で安倍首相に敗れている石破氏は、この結果をどう受け止めるのか。そして「ポスト安倍レース」への覚悟はあるのか。その戦略はどうなのか。週刊文春編集局長の新谷学が石破氏に切り込んだ。
――「ポスト安倍に誰がふさわしいか」というアンケートをやりまして、応募総数が802。そのなかで1位が石破さん、191票。2位が小泉進次郎さん、177票……。
石破 肉薄。
――3位が安倍さん(4選)、126票。4位が菅さん、89票。5位が岸田さんと河野太郎さん、50票で並ぶ。まず率直なご感想をお聞きできますか。
石破 それだけ期待してくださっている方が多いというのはありがたいことです。「いや、私のような浅学非才が」、ということは許されないのだろうと思っています。私は「(総理総裁に)なりたい、なりたい」と言ったことは実は一度もない。ただ、総理総裁でなければできないと思う仕事がある時に逃げちゃいけないっていうことなんですね。小泉総理、福田総理、麻生総理、安倍総理、4人の総理に閣僚としてお仕えしました。あるいは竹下総理、小渕総理、羽田総理……間近で見た総理もいました。それはもう本当に激務、命を削る仕事です。ご存知の通り、プライバシーなどはどこにもなく、ご批判を浴びることばかり。お金が儲かるわけでもない。私、大臣は何度もやりましたけど、「総理、どうしましょうか」「総理、ご判断を」と言いますもんね。総理は誰にも言えない。だけど、未来永劫続く政権はないし、安倍総理の後は誰かがやらなきゃいけない。これだけ長く続いた政権の次に、「財政どうする?」「金融政策どうする?」「社会保障どうする?」「安全保障どうする?」「憲法をどうする?」、それらを一つ一つ国民に説明しながら、みんながパチパチ手をたたくような解決なんかできるはずがない。だけど、誰かがやらなきゃいかんことだろうと思っている。このアンケートのようなご支持があって、もう33年も国会議員の議席を与えていただき、閣僚も6年やって、幹事長も政調会長もやって……「いいえ、私はやりません」「そんなつもりありません」とか、そんなことは言ったらいかんだろう、ということです。
――安倍総理の任期に伴って、遅くとも2021年には総裁選があります。出馬されるご意向は現時点ではどうでしょうか。
石破 そんな先のことはわかりませんが、いま例として申し上げたような課題がその時にも課題として残されているとすれば、誰かがそれを手掛けなければならない。財政、金融、社会保障、安全保障、憲法――解決策が見えていて、国民も「そうだそうだ」と言えればいいんですけど、そうなっていない場合にはもう一度考えなければいかんということです。
―一方で、アンケートでは「安倍総理の驕りが出ている」など政権に対しての批判的な声が石破さんに集まったという印象もあります。石破さんは憲政史上最長にもなろうとしている安倍政権について、現時点でどういう評価をされていますか。
石破 支持率が高いというのはいいことです。だけど、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」というご発言があったり、国会答弁における挑発的なおっしゃり方があったり、違和感を感じている国民がいるとすれば、より丁寧に当たらなければならない。
――そういう安倍さんの政治手法に対する違和感を石破さんが表現されると、「党内野党のようなことを言うな」「党内の融和を乱すな」というような批判を受けることもありますよね。
石破 いや、毎日といっていいぐらい受けてますよ(苦笑)。
――先ほど「ポスト安倍」について、場合によっては逃げずに背負われる覚悟があることは伺いました。そして誰もが認める「政策通」の石破さんですけれど、現実、総裁選に打って出ようとなったときに、どれだけ人が集まるのか。いま安倍さんが石破さんをいじめているという言い方がいいかどうかわかりませんが、「派閥のパーティーに来ない」「派閥の領袖を集めて石破さんは呼ばない」ということがある。安倍一強と言われる状況で、石破さんは孤立しているようにも見えます。
石破 そこは私の足りないところなんだと思います。総裁選の前あたりから、斎藤隆夫代議士について少し調べるようになりました。
――昭和15年、太平洋戦争を控えた帝国議会で「反軍演説」を行った政治家です。
石破 その斎藤隆夫代議士です。彼は保守政治家そのもので、愛国者でした。だからこそ収拾がつかない日中戦争へ疑問を呈する演説をする。あれは決して「反軍」ではありません。議場では万雷の拍手だったのにもかかわらず、1カ月後に彼の除名決議が行われて、それに反対した者は7名しかいなかった。でも、いまでも燦然と斎藤隆夫という名前は残っている。つまり、「あの時代でも、本当のことを言った人が少なくともいたよな」と後世に評価されることも一つの生き方なのではないかと思ったわけです。一方で、それは自己満足と言うんだよ、政治家なんだから世の中を変えなきゃ意味がないでしょ、という批判も当然にあります。そんなことも意識しながら、去年秋の総裁選に臨みました。震災対応による3日間の短縮、後半になってしまったテレビ討論、少なかった街頭演説……制約はありましたが、できるだけ丁寧に、自らの思っていること、訴えるべきことを真摯に訴えようと努力したつもりです。結果として党員票の45%をいただくことができました。
――確かに、前回総裁選での党員票45%というのは非常に重い。それだけの支持を得ているにもかかわらず、国会議員票が伸びなかった(※安倍総理329票、石破氏73票)。2012年の総裁選もそうでした。党員票では石破さんは勝っていたのに、議員票で逆転された。この現象をどう受け取っていますか。
石破 なにしろ現職の総理と一騎打ちという構図ですからね。私も33年議席をお預かりしてきて、国会議員の動機の一端は分かるつもりです。私自身、若い頃は政務次官というものになってみたかったし、副大臣も、一度でいいから大臣というものもやってみたいと思ったことがありました。そういう気持ちがある人は、やはり現職に投じるものだと思いますね。それでも72人もの方が支持してくれたことを心から感謝しています。私は昔、政治改革の頃、小泉(純一郎)先生に逆らいまくって、それなのに小泉内閣で防衛庁長官を拝命しました。小泉総理は「いま誰を使えば政策が実現できるか」を第一に考えられたのだと思います。だけど安倍総理の周辺には、第一次安倍政権の教訓で「そんなこと言ってたら政権は維持できない」という思いがあるのかもしれません。とにかく政権を維持するためには何が必要か、という発想もあるのかもしれない。それでも、世論が大きく動く時には、国会議員も抗えないものです。これまた鮮明に覚えていますが、小泉先生対橋本龍太郎先生という総裁選がありました。
――2001年の総裁選ですね。
石破 当時、私も鳥取県じゅうで「小泉先生が総裁になったら日本も終わりだ」などと言ってました。でも結果、橋本先生が党員票で勝ったのは、野中先生の京都、青木先生の島根、ご自身の岡山、それから普天間返還をクリントン大統領との間で合意した沖縄、それと鳥取だけでした。ほとんどの国会議員は橋本支持だったのに、圧倒的に小泉先生が勝っちゃった。
――あのときは小泉さんが田中真紀子さんと一緒に「自民党をぶっこわす」と言って、大きな風を国民レベルで吹かせ、国会議員が抗えなくなった。そういう意味で、今回のアンケートでは石破さんが1位、僅差の2位が小泉進次郎さん。たとえば石破さんと小泉進次郎さんが組んで旗を掲げれば、ものすごく大きなうねりが生まれるかもしれません。
石破 そうかもしれません。
――その小泉進次郎さんへの評価は? いま石破さんとの関係性はどうなんでしょうか?
石破 私は、小泉進次郎さんはいずれ総理をやる人だろうと思っています。小泉さんとは当選以来、いろんな場面で一緒に仕事をしてきました。そういう中で、ほんとにすごいなと思ったことが何度もあるんです。だから、私の個人的な経験に照らしても、いつか総理になる人なんだと思うし、そのために私ができることはしていきたいと思っています。とても知名度の高い議員だから、今でも「大臣になりたい」と言えばなれるのでしょうけど、ポストに関しては慎重で、まだ副大臣もやっていない。ご自身が一番わかっておられる様子ではありますが、やはり総理大臣になるには閣僚や党役を務めないと見えないものもあるし、いきなりポンと総理になると、それは日本国にとってもご本人にとっても十分な結果とならない危険性がある。いろんな経験を積みながら、周りをきちんと固めて、来たる「小泉進次郎政権」は盤石なものとして、この国のために働いていただきたいと思う。それまでの間、先ほどから申し述べているような数々の課題に取り組まなければならない。たとえ石もて追われても、一つでも二つでも片づけて、少しでも将来の課題を減らしていかなきゃいけないと思っています。
――安倍さんの後、小泉進次郎さんの前を務める方が極めて重要な役割を担うと。
石破 そう思います。その間は、誰がやっても何人やっても大変でしょうが、必要なことだと思っています。小泉さんは2012年の総裁選でも、私を支持してくれたそうです。投票した後に「実は私は石破さんに入れたんだ」と言ってくれました。
――口止めを厳重にされたというふうに聞いています。
石破 それは分かりませんが、昨年は投票直前に「石破さんに入れる」と言ってくれました。つまり、「一緒に酒を飲んだから」とか、「自分のところに頻繁に挨拶に来たから」とか、そういうことで判断する人ではないということでしょうね。小泉さんに限りませんが、この国をこれから担う議員たちがどう判断していくかというのも大切ですね。将来、自分が総理にならなければできないことがある、という判断をするのか。なにが国のためだと思うか。
――定期的にお会いになって意見交換は今もされているんですか。
石破 個人的に誰にどう会って、というお話は差し控えさせていただきまして(笑)。ただ、鮮烈に覚えているエピソードをご紹介します。自民党が野党時代、私が政調会長だったとき、移動する列車の中で2人だけになったことがありました。その時に小泉さんに「政調会長、税制について勉強したいんですけど、何を読んだらいいですか」と訊かれました。実は、国会議員からそんなふうに訊かれたのは初めてで、強く印象に残りました。むしろ、こちらからお薦めしてもあまり読んでもらえないことの方が多かったからです。たとえば防衛庁長官を拝命していた頃に、防衛関係の議員にいくつか推薦の本をお渡ししたことがありましたが、その後「読みましたよ」と言ってくれる人はいませんでした。けれども、小泉さんは自分で勉強する人なんですね。それもすごいことだと思います。もちろん今後、政策について意見交換とか、そういうこともあるでしょうが、基本的にはまず自分でお考えになる人なんじゃないでしょうか。政策だけじゃなく、政局的なことについても、これから日本の国はどうあるべきか、ということを考えながら判断をするんだろうな、と思っています。
――令和への改元以降、にわかにポスト安倍として注目が高まる菅義偉官房長官ですけれど、政治家・菅さんに対する評価はどうですか?
石破 そんなに深く付き合ったことはありませんが、自民党の野党時代、安倍先生が総理になる前の4カ月間は、私が幹事長で菅さんが幹事長代行でした。一緒に戦って、政権奪還して良かったね、という思いを共有して、同志だと思いました。菅さんは安倍政権をつくるために一番働いた方だし、内閣のためにいろいろな批判を浴びながらずっと支えておられる。それは立派なことだと思っています。ただ、菅さんが国家観や憲法、安全保障について話されたのを聞いたことがないので、判断のしようがないですね。一緒にやった仕事でいえば、地方創生やふるさと納税、そういう個別の政策判断も的確だし、神奈川県内での選挙のやり方などを見ていても、さすがだと思います。この国をどうするんだという全体像についてはまだ判断できないですね。
――確かに、菅さんの憲法の話は聞いたことないです。
石破 もちろん、ずっと官房長官でおられるから、語ることもできませんよね。もし現在の権力構造を継承するとすれば、もっともふさわしい方の一人でしょう。
――たとえば他にポスト安倍として名前が挙がる岸田さんは国家観について語られていますか。
石破 岸田さんとは同じ昭和32年生まれなんです。私と、石原伸晃さんと、岸田さんと、中谷元さん、同じ年生まれという縁があって、定期的に4人で会ったりもしています。ですから人柄がすごくいいということはよく知っています。判断もクリアですね。だけど、やはり「この国をどうする」という全体像については、今まで外務大臣とか政調会長とかいう立場だったこともあるでしょうが、もう少し語っていただけると、今後さらに存在感が増すでしょうね。
――あえて石破さんに対する、今まで聞いてきたネガティブな話をします。防衛大臣時代、極めて細かいところまで通じていらっしゃる、それはいいところでもあるけれど、一方で“マイクロマネジメント”というか、重箱の隅までつつかれて辟易というような幹部もいました。
石破 防衛大臣が他の大臣と違うのは、自衛隊という実力組織をお預かりしているということです。自衛隊法に記されていない行動は1ミリたりとも取れないのが自衛隊なのですから、まずはその根拠法を知らなければ指揮のしようがないんです。次に装備。戦闘機、護衛艦、戦車、どんな性能を持っているかを知らないと作戦が理解できない。そして日米安保条約、日米地位協定を知らないと、米軍との関係がわからない。防衛省の幹部の方々からそういう批判があることは不徳の致すところですが、一方で「だから議論ができた」と言ってくださる方々もおられました。
――これまで「良きに計らえ」のような大臣が続いてきたことで、防衛省内でも細かいところまで勉強されることに慣れていない。
石破 そうだったのかもしれません。でも、防衛大臣、防衛庁長官というのは、他の大臣と違うからだ、と私は思っています。農林水産省からそんな批判はないはずです(笑)。
――確かにそうですね。あともう一つ批判というか、石破さんが安倍政権の幹事長をされている頃に安倍さんなりが「石破さんは人間に興味がないんだよね」「お金の使い方がよくわかっていないみたいだ」ということを言っていたようですけれど。
石破 そうなんですか。人間に興味って何でしょう。
――おそらく、私の理解では、安倍さんは毎晩毎晩、会合を2階建て、3階建てと入れて、こまめに若手の面倒を見て、兵を養い、自分が勝負するときの準備をしていると。石破さんは恐らくその間、本を読んだり、政策の勉強をされていた。その違いでしょうか。
石破 人間に興味がないわけではないです(笑)。ただ私は、若手のことを考える、というときに、選挙で当選することを最優先に考えてあげたいと思っているんです。大臣のときも、あるいは無役になってからも選挙の応援は相当行っているほうだと思う。
――4月の統一地方選もずいぶん回られていましたね。
石破 26都府県を回りました。町長選挙にも行きました。もちろん会合を開いて親しく交流する、それもいいんでしょう。でも私は国会議員にとって何よりも大事な選挙、それを重視したい。だから応援に行くときは、すごく分厚い資料を用意します。市町村単位です。そこの人口動態――あと何年で人口が何人になるか、20代、30代の若い女性が何%減るか、あるいは名産は何か、おいしいラーメン屋さんはどこか……。
――そこでオタク的な気質が。
石破 そういうことを言うと演説で沸くわけ。
――なるほど。だからよく調べる。
石破 うちの●●ラーメンをよく知っていてくれた、◎◎寿司屋を名指しで挙げてくれた、とか。そこまでうちの地域を知って、応援に来てくれたんだと思ってもらえるようにする。それは膨大な準備が要ります。選挙中の応援では、私は会場でも街頭でも演説するけれど、あわせてできるだけ選挙カーに乗ります。自分でマイクを持って「私が石破であります。私が●●候補の応援にまいりました」と言って車を走らせれば、あらかじめ会場に集まる人の何十倍の人に知らせることができる。「あっ、石破が来たんだね」と思ってもらえる。ほんとに親友というのか、仲間というのか、「日本国はこうあるべきだ」と語りあえるような人は、たしかにそんなに大勢はいないと思います。うちの水月会のグループ(石破派)とか、他派閥でも応援してくれた人とか、それが73人という数字なのかもしれません。だけどひとつ、国会議員であれば誰でも共通しているのは、選挙に通らなければ、ということ。私は、そこでお手伝いをすることを重視したいと思っています。
――毎晩料亭で夜な夜なみたいな、永田町的な人付き合いというのはそんなにお好きじゃないんですか。
石破 いや、嫌いじゃないけど、1年365日、1日24時間しかない。それをやっているとちゃんと資料を読めなくなる。選挙応援が通り一遍になっちゃうんですよね。山形市であろうが、霧島市であろうが、四條畷市だろうが、同じ話をしちゃう。そうすると票は増えないわけ。どうやってその候補の票を増やそうかということを考えた時に、地域のことを十分に知っている、だからこそ「ここにこの人が必要なんです!」と自信を持って言える、そういう展開をしないと、その人を当選させる力にならないんです。
――伺っていると、総裁選での党員票と議員票のギャップの謎が解けたような気がしました。
石破 それが謎の答えです(笑)。
――確かに地方の方々とお話をしていると、いろいろな小さい会合にも石破さんはいらっしゃって、一人ひとりにお酌して回ってみたいなことはよく聞きますし、地方での人気はすごく高いという実感があります。一方で永田町へ戻ってきて議員の方々に聞くと、「党内野党だ」「あそこまで言っちゃダメだ」と言う人もいる。このギャップが大きい。
石破 そうなんでしょうね。でも「党内野党」と批判される方も、ご地元でいろいろな話を有権者の皆さんから聞いたら、おそらく私と同じことを皆さんはおっしゃっていないでしょうか。国会議員は有権者から議席をお預かりしている。だから国会での議論を地元に伝えることも大事ですが、地元の意見を中央に伝えるのも大事なことでしょう。宮沢内閣の不信任に賛成票を入れたり、新進党に行ったり、自民党に戻ったり、第一次安倍内閣のときに「キングの会」、小坂憲次のK、石破のI、中谷のN、後藤田正純のG、この4人で安倍総理に責任を迫ったり。それはこんなことしないほうが絶対得ですって。
――麻生政権のときも与謝野馨さんと一緒に「辞めろ」って言っていました(笑)。
石破 そうでした。これは権力者の怒りは買うし、自分にとって得することは何もない。だけど政治家というのは、国民の代表として、おかしいことはおかしいって言うためにいるんじゃないんでしょうか。私が安倍総理に責任を問うたときは、参議院選で自民党がぼろ負けしたとき(2007年)でした。まさか自分の鳥取県で負けると思わなかったです。県連会長だったので終わった後はほんとにお詫び回りでした。そうしたら、今までずっと自民党に入れてきた人が「今度だけは民主党に入れた」と言っていた。落選した現職の参議院議員も、自分がスキャンダルを起こしたわけでもなく、不真面目に仕事をしたわけでもなく、一生懸命やってきたのに、自分の努力と何の関係もないところで落ちる。その責任を誰もとらないのはおかしい、という気持ちでした。
――そろそろお時間なんですけれど、昨年の総裁選で石破さんに投票した議員72人の顔は全員把握できているんですか。
石破 数人を除いて。どうしても分からない方がおられます。
――政治は最終的に数が力です。その数を増やしていく努力は個別にされたりするんですか。
石破 できるだけ努力したいと思います。参議院平成研を中心とする、総裁選で力を貸してくれた方々の選挙は、全面的にお手伝いしたい。先ほども話に出ましたが、この間の統一地方選挙でも、お世話になった地方議員のところはできるだけ行きました。
――選挙で勝たせてあげることが鍵になってくる。
石破 あとは選挙とは関係なく、地方で地方創生などの講演会をやるんで来てくださいと言われたら行きます。この間行った大分県竹田市でも、人口2万ちょっとのところですが、ホールいっぱいに来てくれました。そういうことを積み重ねて、世の中が私を必要とする時が来るとするなら、成就するよう努力はする。1年は365日、1日は24時間しかないので、お酒を飲んでると、地方の講演も密度が薄くなるし、選挙応援も密度が薄くなる。どうしたらいいんでしょう。
――資料を揃えて、準備が大切ですよね。
石破 割り切れれば、それでいいのかもしれませんけどね。
――小泉進次郎さんは地方では方言を使って、うまくつかんでいます。効率的ですよね。
石破 うんうん、効率的(笑)。結果として、進次郎さんも同じような演説なんだけど、進次郎さんは天才だから、パッパッパッとつかむ。私は分厚い資料を読んで、これは使えない、これは使えるというのを取捨選択する時間がかかるのよ。
――愚直にやられているわけですね。
石破 「このネタは受けるかな、受けないかな」って。例えば、行った先においしいラーメン屋が地元にあるとするじゃないですか。でも演説会場から2キロ離れていると、そのラーメン屋の名前を言ってももうウケない(笑)。
――距離が大事なんですね。
石破 うちの秘書たちは大変で、ぐるなびなんかで、おいしいラーメン屋、おいしいそば屋、おいしい焼鳥屋を調べて、地図を出して、会場から何メートルって調べています(笑)。
――やっぱりおいしくなきゃダメですもんね。
石破 おいしくなきゃダメだし、トンカツ定食600円とか、値段も知ってなきゃいけない。
――麻生さんは首相時代、カップヌードルを400円って言っていたことがありました。
石破 私ができるだけ地方を回っているのは、永田町や霞が関が地方とすごく遠いからなんです。この政策がこの地域でどういうふうに受け取られているんだというのを知らないと、結局は国民から離れていってしまうと思うんです。じつは今日も若手市長の会というのがあって、それに呼ばれて、講演してきたんです。市長としては国の政策にも、順番が違うって思うことがいっぱいあるんだけど、国会議員に言っても「それは国の政策ですから」ってはねられちゃうことがあると。それだと私たち困ってしまうと。だからやっぱり公共財たる内閣、総理大臣、大臣は、国民の納得と共感をどれだけ得るかというのが大事なことだと思います。でもこういうふうに愚直にやると、効率が悪くなってしまうのかもしれませんね。 
石破茂が激怒 自民党本部が全議員に“ネトウヨ本”を配布 2019/7/10
まずは、以下の文章をお読みいただきたい。
〈「オワコン」という言葉があります。(略)一般ユーザー、個人ユーザーに飽きられてしまい、見捨てられてブームが去り、流行遅れになった漫画やアニメ、商品・サービスのことです。(略)政界ではまさに小沢一郎氏がそうではないでしょうか。政界のオワコンです〉
〈菅(直人)元首相は、今で言う「終わったコンテンツ」つまりオワコンであることは明白なのですが、ご本人はそれが分からず、煩悩だらけのようです。(略)オワコンは、鳩山(由紀夫)、菅、小沢の各氏だけでなく、野党そのものとさえ言いたくなります〉
続けて、イラストもご覧いただきたい。
よだれを垂らしてうつろな目をし、頭の横にはクルクルと回転する線……誰がどう見ても、立憲民主党の枝野幸男代表である。
これらの悪意に満ちた文章やイラストは、いわゆる“ネトウヨ”の方々がインターネットやSNSに投稿したものではない。6月中旬に自民党本部から全所属議員に配布された冊子に綴られた内容である。冊子の表紙には、次のようなタイトルが付けられていた。
〈フェイク情報が蝕むニッポン トンデモ野党とメディアの非常識〉
現在、7月21日投開票の参院選に向けて全国で熱い戦いが繰り広げられているが、党本部によれば、「(演説などのための)参考資料として配布した」という。
この冊子に憤っているのが、石破茂元自民党幹事長(62)だ。 『文藝春秋』8月号 のインタビューで、石破氏はこの冊子を配布した自民党本部を痛烈に批判している。
「この冊子の作成者は『保守の立場から論じている』と言いたいのでしょうが、私に言わせれば、内容以前に悪意や中傷が目に付いてしまいます。(略)このような文章で広く国民の共感を得られるとは到底思えません。そもそも、いくら選挙で議席を争う相手とはいえ、野党の議員に対して挑発、罵倒、冷笑、揶揄などをするのは非常に恐ろしいことです。なぜなら、彼らの後ろにはその議員に一票を投じた国民がいるからです。野党に対するこうした言動は、そのまま野党を支持した国民に向けられることになる」
一体、この冊子は何なのか――実は作成者は明らかになっていない。「テラスプレス」なるインターネットサイトに掲載された記事に加筆修正したものだという説明書きがなされているのだが、そもそも「テラスプレス」というサイト自体、執筆者・運営元が一切明らかにされていない正体不明の存在なのだ。
石破氏が嘆息する。「巷では、出所不明の文書のことを『怪文書』と呼びます。筆者が分からないこの冊子も、言うなれば『怪文書』の類と言われても仕方ありません。そういうものをなぜ全自民党議員が読む必要があるのでしょうか」
さらに石破氏はこうも語る。「かつての自民党には、多様な意見、多様な考えを大切にする伝統がありました。私はそんな懐の深い自民党を深く愛していましたし、そういう自民党に育てられました」
いつから自民党は“変質”してしまったのか。 
 
松島みどり

 

日本の新聞記者、政治家。衆議院議員(6期)、自由民主党広報本部長。本名・戸籍名は馬場みどり。国土交通副大臣、衆議院環境委員長、衆議院青少年問題に関する特別委員長、経済産業副大臣、法務大臣(第94代)などを歴任した。2019/7 現在、当選6回、自民党広報本部長、自民党選挙対策本部 副本部長、自民党東京都連副会長、自民党東京14選挙区支部長(墨田、荒川、台東区北部・中部)。
不祥事
参議院予算委員会への出入り禁止処分
2008年3月14日の参議院予算委員会審議において、民主党の津田弥太郎参議院議員から、かつて揮発油税の暫定税率撤廃を主張していたことを追及された際、地元選挙区からの要望により「考えが変わったのだ」と述べ、さらに道路整備財源の必要性について数分間にわたり言及。鴻池祥肇予算委員長から再三にわたり答弁の簡潔化を指示されるも、それを無視して約5分間にわたり答弁を継続。鴻池が「答弁を打ち切りなさい!」と何度も声を荒らげ、与党側の予算委員会理事の制止を受け、答弁を終えたが、委員長職権により鴻池から予算委員会への出入り禁止処分を受けた。
選挙区内の法人に胡蝶蘭を寄附
2013年10月、松島の後援会が、地元の社団法人「地域プラザBIG SHIP」に対してコチョウランを贈っていた。地域プラザBIG SHIPが運営する施設「本所地域プラザ」が開業したことから、その開業記念の名目で、後援会がコチョウランを贈っていた。コチョウランに添えられたメッセージカードには「松島みどり後援会女性部より」と明記されていた。しかし、2014年10月になってこの問題が発覚し、マスコミにより大きく報道された。墨田区選挙管理委員会は「議員の名前入りや、後援団体などからの贈り物は寄付行為に当たる可能性があり、公職選挙法に抵触するおそれがある」と指摘している。マスコミからの取材に対して、松島みどり事務所は「何もお答えできない」と回答し、この件についての説明を拒否している。
国と契約を結んだ業者から寄付
松島が代表を勤める選挙区支部が、2012年・2014年の衆議院選挙期間中に、経済産業省や資源エネルギー庁と随意契約を締結していたイベント会社から計約120万円の寄付を受けていたことが、2015年11月に報じられた。国と契約を結んでいる企業からの寄付は公職選挙法で禁じられており、松島は全額を返金したとしている。
国会生中継映像に不適切行為
2016年3月9日、インターネットで生中継された衆議院外務委員会において、答弁している岸田文雄外務大臣の隣席で、長時間に及ぶ読書、居眠り、携帯電話の閲覧や複数回のあくびの映像が流れ、インターネット上でその動画が拡散、批判されたことで、謝罪する事態となった。
発言・エピソード
○ 2005年3月30日の法務委員会で、外国人受刑者の信仰宗教によって食事内容を配慮していることに対して疑問を呈した発言をして、波紋を呼んだ。
○ 2006年3月14日の法務委員会で、性犯罪の再犯防止のための手法として「水着姿の女の子がプールで遊んでいる映像を流しても何かおかしい様子でない」と発言した。
○ 2009年9月15日、同年の第45回衆議院議員総選挙で落選した自民党の元職に対するヒアリングを目的に実施された「第2回自民党再生会議」の席上、幹事長(当時)の細田博之らに対し、「野党の浪人だから生活が不安だ。党のポスターや冊子なんか要らない。現金が欲しい」と発言した。
○ 2014年9月3日の夜9時頃、大臣として法務省に初めて登庁した際には、拍手で出迎えた職員の人数が少ないことを理由に一度帰ってしまった。
○ 2012年4月14日、自身のTwitterで、赤坂の議員宿舎の家賃が相場の5分の1であることを挙げて「『消費増税の前に身を切る改革』と言っているのに、与野党とも恥ずかしくないのか。23区内居住者は入れない規則なので私は無縁だったが、これほど職住接近で広い『社宅』は必要ない」とつぶやいていたが、2014年9月の法務大臣就任後は「大臣をやるには遠すぎる」「警備上の問題がある」として赤坂宿舎に入居した。
○ 2014年10月1日、赤いストールを着用して参議院本会議に出席したが、これが参議院規則に抵触するとして問題視された。松島は同月3日、記者会見において、着用していたのはストールではなくスカーフであったとの認識を示し、「多くの国で首元のスカーフは洋服の一部になっている。ファッションの一部だ」として問題はないとの見解を示した。
○ 2014年10月7日の参議院予算委員会において、民主党の蓮舫から、「うちわを配布した行為が公職選挙法の禁止する寄付行為に該当する」と追及された。10月10日、ストールやうちわ配布などの野党からの指摘を振り返った際、「いろんな雑音でご迷惑かけたことは残念だった」と発言し、同月14日の参議院法務委員会で野党から抗議を受け、後に謝罪した。10月16日に民主党副幹事長の階猛は、告発状を提出した。2015年1月14日、東京地検特捜部は、「配布から近い時期に選挙の予定がなく、選挙に関する寄付には当たらず、刑事責任を問えない」と結論づけ、不起訴とした。告発状によれば、うちわの作製にかかった費用は少なくとも102万円。 
松島みどり氏、国会中に居眠り、ケータイ、大あくび... 2016/3/18
元法相の松島みどり衆院議員(自民、東京14区)が、国会審議中に携帯電話をいじったり、居眠りしたりする姿がインターネット中継で放送され、批判を浴びている。
問題となったのは3月9日の衆院外務委員会。答弁する岸田文雄外相の横で、携帯電話を操作したり、居眠りしたり、あくびしたりする場面がインターネット中継で映し出された。
   目を閉じて眠る松島氏。
   携帯電話を触る松島氏。
   隣席の辻清人議員とひそひそ話をする松島氏。
   あくびをする松島氏。
   読書する松島氏。
   下を向いて眠る松島氏。
この部分を切り取って投稿したYouTubeでは「自民党たるみきってる」「何しに国会へ行っているの?」などのコメントが書き込まれている。
日刊ゲンダイの直撃取材に、松島氏は「知らない。見たことないわ」と述べ、無言を貫いたという。朝日新聞デジタルは、松島氏が事務所を通じて以下のような謝罪コメントを出したと伝えた。
「今回の私の一連の所作につきましては弁解の余地もございません。深く反省しております」
松島氏は朝日新聞記者を経て、自民党の候補者公募に応じ、2000年の衆院選で初当選。2014年に法務大臣として初入閣したが、自身のイラストや名前が入ったうちわを選挙区内で配っていたことが寄付行為にあたると国会で追及され、2カ月たらずで辞任した。
15日には石破茂・地方創生担当相が衆院地方創生特別委員会で、2015年に成立した改正法案の説明書を読み上げて陳謝する事態が発生。内閣府は17日、「誤り事案再発防止チーム」を立ち上げた。自民党の稲田朋美・政調会長は「自民党が少したるんでいるという声を地元でも聞く。自分も含めて引き締めていきたい」と、17日の会見で述べた。 
東奔西走、1人区を応援 2019/7
今週から、参議院選挙で激戦の続く1人区に応援に出かける。10、11両日に愛媛県のらくさぶろう候補。13、14日に福島県の森まさこ候補。16日は岩手の平野達男候補と宮城県の愛知治郎候補。18日には、大分県のいそざき陽輔候補の予定だ。
今回の参議院選挙、自民党は選挙区49人、比例区33人が立候補している。そのうち、1人区が32ある。
私が応援に行くのは、党のインターネット番組「カフェスタ」の「みどりの部屋」で対談し、よく知っている相手ばかり。陣営からの要請や、党選対の指示に基づく。各候補の魅力をしっかりと有権者に伝えたい。
ローカルタレントで新人のらくさぶろう候補(愛媛)は10日午後6時から、今治市公会堂で行われる今治市総決起大会で応援演説する。また、10、11日両日、新居浜市内を候補者とは別にまわる。
森まさこ候補(福島)は13日午後6時から、南相馬市の「原町フローラ」、6時半から、相馬市の「相馬市総合福祉センター」で演説会。翌14日は、いわき市内の遊説に同行する。
平野達男候補(岩手)は16日、奥州市の江刺地区と水沢地区を候補者と宣伝カーでまわり、スポット遊説を行う。
その後、私は新幹線で仙台市に移動し、16日夜、愛知治郎候補(宮城)の数カ所の演説会で応援の弁をふるう。
いそざき陽輔候補(大分)は18日午後6時から「中津市教育福祉センター」の演説会に出席する。
なお、公示前の1日、長野県の小松裕さん(前衆議院議員、参議院としては新人)の応援に立科村(佐久市の隣)の演説会場に出掛けた。対立候補(現職)の拠点にもかかわらず、多くの人が集まってくれた。 
 
小渕優子

 

日本の政治家。衆議院議員(7期)。学位は公共経営修士(専門職)(早稲田大学・2006年)。現在、自由民主党組織運動本部長代理、党群馬県連会長・第五選挙区支部支部長。内閣府特命担当大臣(男女共同参画、少子化対策)、財務副大臣(第2次安倍内閣)、経済産業大臣(第18代)、内閣府特命担当大臣(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)などを歴任した。父親は第84代内閣総理大臣の小渕恵三。
政治資金の不祥事
公用車運転委託業務の入札にまつわる談合疑惑を持たれている企業の1つである日本道路興運から2000年(平成12年)から2004年(平成16年)まで計204万円、同社の前社長からも100万円の献金を受けていた。2009年(平成21年)6月23日に、小渕の事務所は産経新聞の取材に対し、献金を返還する意向を明らかにした。
2014年10月16日、週刊新潮が政治資金収支報告書に観劇費用2600万円が未記載であることを報じ政治資金規正法違反であることを指摘。その後の調べて2009年より未記載の費用が1億円を超えると報じた。10月18日、『産経新聞』を発行する産業経済新聞社が、突如「小渕経産相辞任へ」と題した号外を配布し始めた。しかし、同日午後に行われた、経済産業省での記者会見にて「今やらなければならないのは、私自身の問題でしっかり調査をすることだ」と述べるなど、辞任を否定した。2014年10月20日、午前、政治資金をめぐる疑惑の件で首相の安倍と会談後、経済産業大臣の辞表を提出。その後、経産省で辞任記者会見を行った。小渕は、自身の問題を国民、支持者などに謝罪したが、自分でも自身の事務所の政治資金報告書に「疑念を持った」として、専門家を入れた第三者に調査を依頼する方針を示した。なお、同日には 第94代法務大臣松島みどりも正午過ぎに辞表を提出し受理され、女性閣僚2名が辞任する結果となった。
この事は、東京地検特捜部による、政治資金規正法、或いは公職選挙法違反の疑いで、10月末に同法違反容疑で群馬県内の関係先などを家宅捜索につながった。また、家宅捜索した際、パソコンのデータなどを保存するハードディスクが捜索以前に電動ドリルで物理的に破壊されていたため、隠蔽工作も報道された。
政治資金規正法違反に絡み、検察より任意で事情聴取を受けた。2015年4月28日、系列の政治団体の2009年から2013年分の政治資金収支報告書について、実際には資金移動のない架空の寄付金を団体間で計上したり、観劇会の収入を少なく申告したりした政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で会計責任者2人が在宅起訴され、執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。 
「謹慎」小渕優子氏じわり復活 経産相辞任から4年、久々パーティー 2018/6/21
4年前に「政治とカネ」の問題で経済産業相を辞任して以来、“謹慎”している自民党の小渕優子衆院議員の動向に注目が集まっている。4月に竹下派(平成研究会)会長に就いた竹下亘総務会長は小渕氏を将来の首相候補に育てると公言。小渕氏は有罪判決を受けた元秘書の執行猶予が終わる10月頃にも表舞台に復帰するとみられている。果たして「みそぎ」は済んだと判断してもらえるか−。
「新しいスタートラインに立ったつもりで前を向いて頑張ります」。小渕氏は20日夜、約4年ぶりとなる政治資金パーティーを都内で開き、支援者らへの感謝を述べた上で決意を語った。竹下氏はあいさつでこう強調した。
「閣僚や党三役を堂々とこなしてもらい、堂々たる総裁候補へと一生懸命育てなければならない」
父・恵三元首相の地盤を継いだ小渕氏は平成20年に少子化担当相として戦後最年少の34歳9カ月で初入閣し、26年に経産相に起用された。順調だった政治家人生はこの直後に暗転した。関連する政治団体の政治資金規正法違反事件が発覚し、辞任に追い込まれた。
竹下派は竹下氏の兄の登元首相が作り、恵三氏が育てた派閥だ。竹下氏や、恵三氏の盟友だった青木幹雄元官房長官にとって小渕氏は特別な存在であり、“親代わり”として目をかけてきた。特に総裁を目指す意思が皆無の竹下氏には、小渕氏を「10年、15年後」の首相・総裁候補に、との思いが強い。
恵三氏の後に首相となった森喜朗元首相もパーティーに出席し「お姫様の登場をみんな待っている。小渕恵三さんに尽くしたおかげで僕は首相になれた。そのお返しもしていないから、せめて優子さんを応援してあげなければ」と持ち上げた。
小渕氏も党内活動を本格化させつつある。昨年8月に党組織運動本部長代理に就き、今年2月には党財政再建特命委員会の小委員長に就任した。竹下氏が岸田文雄政調会長に推薦して実現した。将来を見据え国家の基本である財政の見識を深めさせる狙いもある。
ただ、不祥事以降、小渕氏が総裁候補に名前が挙がることはほとんどない。小渕氏は、いまだに「元首相の娘」のイメージが先行しているのも事実だ。派内には9月の総裁選後の党役員人事での要職起用を目指すべきだとの意見があるが、同派幹部は「まずは財政再建特命委など地味な仕事で実績を作ることが先だ」と語る。 
自民党総裁選で「竹下派分裂」の決め手となったキーマンは! 2018/8/31
8月26日、安倍晋三総理は鹿児島県で自民党総裁選出馬を表明した。3選を可能にするルール変更をしたからには、負けるわけにはいかない。出馬表明までに自民党各派閥の支持を取りつけ、一騎打ちとなる石破茂元幹事長に対して、圧倒的な優勢を保っている。
そんな中、安倍氏か石破氏かで割れた派閥がある。竹下派(会長=竹下亘総務会長)である。表向きは自由投票としているが、衆院竹下派が「安倍支持」。参院竹下派が「石破支持」で実質的に分裂していると報じられているが…。
「衆院竹下派には安倍政権の現役閣僚もいて、総裁選で石破氏を支持してしまっては、その後に冷や飯を食わされてしまう。参議院議員である竹下総務会長は選挙区の事情で、石破氏に恩を売っておいたほうが、その後に何かと有利なため、参院竹下派は石破支持となったという分析もありますが、参院竹下派の中にも安倍支持はいます。その逆で衆院竹下派の中に石破支持もいないわけではない。何より、竹下派分裂を招いたのは青木幹雄氏だともっぱらです」(政治部デスク)
かつて、参院自民党のドンとして君臨した青木氏。現在も参院竹下派に多大な影響力を持っていると言われる。その青木氏が「石破を支持せよ」と言ったというのだ。
その理由を巡っては永田町で諸説、語られているのだが、ある永田町関係者はこう話す。
「青木氏は竹下派の小渕優子衆院議員の復権を望んでいたんです。小渕氏といえば、経産相などを歴任してきたのに、2014年の政治資金問題で失脚。その後はすっかり表舞台から遠のいていた。その小渕氏を『大臣や党三役に戻せないか』と、青木氏は非公式に安倍総理に打診したのですが、無下に断わられた。で、青木氏は石破氏を支持せよと傾いたらしい。ゆくゆくは派閥を背負って立つ小渕氏を、青木氏としては、何としても復権させたかったんでしょう」
すでに、消化試合と言われるほど、安倍有利とされる総裁選。数少ない見どころの一つに、小渕氏がどちらに一票を投じるか、というポイントがあるのだ。 
小渕優子元経産相が再始動 元秘書の執行猶予期間終わり 2018/11/13
「政治とカネ」の問題で経済産業相を2014年に辞任した自民党の小渕優子衆院議員が、表舞台での活動を再開した。13日には、就任したばかりの党沖縄振興調査会長として初会合を開いた。父の小渕恵三元首相を引き合いに「父のかなえたかった沖縄の姿をしっかりと引き継いでいく」と記者団に語った。
小渕氏は08年に戦後最年少の34歳で入閣し、14年に経産相に就任。将来の首相候補と目されてきたが、政治資金問題で辞任に追い込まれた。先月、政治資金規正法違反の罪で有罪判決を受けた元秘書の執行猶予期間が終わり、所属する竹下派内からも再始動を求める声が出ていた。
竹下派は沖縄の基地問題や振興策に取り組んできた伝統がある。党沖縄振興調査会は、政府がまとめる沖縄振興策に影響力を持つ。小渕氏は「沖縄の県益が国益になるという意識を持った議員が増えていくよう、調査会を運営していきたい」と記者団に話した。 
貴乃花の会 発起人に小渕優子!後援者に届いた驚きの招待状 2019/4/17
昨年10月に角界を引退して以降、たびたびお茶の間を賑わせている貴乃花光司氏(46)。これまで政界進出の噂が浮上してきたが、本人はかたくなに否定してきていた。
そんななか、後援会関係者のもとに驚きの招待状が届いたという。
このなかで貴乃花氏は《報道等で囁かれております政治への進出など滅相もなく 考え知るところには御座いません》とつづっているのだが、後援者のひとりは驚きを隠せない。
「先日、“御縁会”の案内状が届きました。引退してからきちんと報告できていなかったこともあり、これまでの御礼と新生を誓う会になるそうです。ただ気になった音は、その発起人。国会議員さんがズラリと並んでいたのです。政界進出をしないとしているのに、なぜこれほどの面々がサポートしているのでしょうか」
発起人代表は、元ユネスコ第八代事務局長の松浦晃一郎氏(81)。そして発起人の欄には、小渕優子議員(45)の名前が!
そのほかにも遠藤利明元五輪担当相(69)や浜田靖一元防衛大臣(63)など、衆議院議員が。またJOC新会長への就任も確実視されている全日本柔道連盟会長・山下泰裕氏(61)や元観光庁長官、元海上法案庁長官や元国土交通省事務次官など層々たる人物の名前があった。
また招待状で貴乃花氏は《つきまして 後援会の皆様方におかれましては 本年三月末にて会期を終了し『新生貴乃花』として 皆様方に御挨拶をさせて頂きたく存じます》としている。
この御縁会は5月19日に都内のホテルで行われるという。しかし前出の後援者は戸惑いながらもこう語る。
「これでは、『政治家転身はない』と言っていることが本当なのかなと疑ってしまいます。彼がどこに向かおうと思っているのか、この会の場で本当の気持を本人の口からきちんと聞くことができたらいいんですが……」
貴乃花氏からは角界引退後のどんな未来予想図が語られるのだろうか。 
自民の小渕優子群馬県連会長、参院選向け「一番汗をかく」 2019/4/17
自民党群馬県連会長に就任した小渕優子衆院議員が17日会見し、夏の参院選に向けて「一丸となって取り組めるよう、一番汗をかいていかなければならない」と抱負を語った。群馬で女性初の県連会長として、「これから先の選挙で、自民党から手を挙げたいという女性が出てくるように、環境整備をしていきたい」と力を込めた。
参院選群馬選挙区(改選数1)には、清水真人氏が県議から転身し、公認候補として出馬予定。前県連会長の山本一太参院議員は同時期に行われる群馬知事選へのくら替え出馬を表明している。
出馬表明をめぐり、事前に説明がなかったとして、県連幹部から反発を浴びた山本氏が提出した党本部の推薦依頼への対応は大型連休明け後になるとし、「新しい執行部を決めてから、取り扱いが議論されていくものと考えている」と述べるにとどめた。
7日に投開票が行われた県議選では、自民の公認、推薦、党籍証明を得た立候補者40人の中に女性はいなかったが、「国会を見ると、議員の年齢が若くなっており、若い女性もトライできるような空気になってきていると感じる」と今後に期待を寄せた。
小渕氏は平成26年、元秘書による関連政治団体の政治資金規正法違反事件が発覚し、経済産業相を辞任。しばらく表立った政治活動をしていなかった。
現在の事務所の状況については、「税理士や弁護士など、いろいろな方に支えていただきながらやっている」と説明。自身が県連という大組織を監督する立場となり、「政治家は信頼で成り立っている。担当者にしっかりやっていただけるよう指示をしながらやっていきたい」と襟を正した。 
 
片山さつき

 

日本の政治家、実業家、行政書士。自由民主党所属の参議院議員(2期)、内閣府特命担当大臣(地方創生、規制改革、男女共同参画)、女性活躍担当大臣。元:衆議院議員(1期)。元:大蔵省主計官。旧姓:朝長(ともなが)。株式会社 片山さつき政治経済研究所・元:代表取締役。
主張・発言
お笑いコンビ・次長課長の河本準一の親族が生活保護費を受給していることについて、河本の推定年収が約5000万円であることから、河本氏の母親が生活保護を受けることは弱者の受給とは別問題であると自身のブログで批判した。
菅内閣の行政刷新担当相だった蓮舫が国会議事堂内でファッション誌『VOGUE NIPPON』の写真撮影に応じたことを、2010年10月8日の参議院本会議で(名指しは避けて)批判したが、後に、片山も衆議院議員時代に国会議事堂内でファッション誌『美人百花』(2007年11月号)の写真撮影に応じていたことが発覚。これについて片山は「わたしは大臣になったことがない」、「蓮舫議員は参議院内で認められていない私的な活動のための撮影。(略)衆議院ではそうした撮影も認められていた」と弁明した。
2012年3月29日の参議院総務委員会にて、「NHKのミュージックジャパンという番組では過去1年間、出演者の韓国人タレント占有率が36%。(略)このあたりはどういう基準でやっておられるのか」とNHK会長に質問。ところが、この36%という数字が誤りであるとネット上で指摘され、ニュースサイト『アサ芸プラス』が調査したところ実際は約11%だったことが判った。
2013年5月19日に行われたさいたま市長選挙期間中の言動などをめぐり、自民党所属の埼玉県議会議員・田村琢実とネット上でお互いを批判しあった。
2014年9月27日に噴火した御嶽山の火山活動監視体制について、「民主党政権の事業仕分けで常時監視の対象から御嶽山は外れた」などとSNSのTwitterに投稿したが、事実誤認とわかり撤回し謝罪。これに関し民主党は抗議をし片山は自民党国対委員長より口頭注意、参院幹事長からは厳重注意を受けた。
神奈川県が設置した「かながわ子どもの貧困対策会議」が2016年8月18日に開催したイベントで、女子高校生が経済的理由で専門学校進学を断念したと発言した内容を同日のNHK「ニュース7」が報じたことに対し、インターネット上で女子高校生の生活実態への疑惑が噴出した。片山も「チケットやグッズ、ランチ節約すれば中古のパソコンは十分買えるでしょうからあれっと思う方も当然いらっしゃるでしょう」とツイートし、NHKに説明を求めるとした。片山は「私はたまたまニュースを見ていて、彼女の『専門学校に進学したい』という夢をかなえてあげたいと思いました。NHKが取材するきっかけとなったイベントの名前をメモして、知り合いでもある県知事に相談しようと思ったのです」と主張した。
政治資金
経済産業大臣政務官在任中の2006年7月10日に政治資金パーティーを開催したが、経済産業省から外国為替及び外国貿易法違反の疑いで刑事告発されていたヤマハ発動機にこのパーティー券20万円分を売っていたことが同年7月29日に判明した。
パーティー券購入について、片山の事務所は、秘書が個人的に面識のあるヤマハの社員に依頼し、片山本人は関知しなかったと説明した。ヤマハ発動機は「議員側から会社に依頼があったということで、個人的なことではない。告発とは一切関係ない」「会社として自民党の地元議員を応援しており、他の地元議員でも依頼があるとパーティー券を購入することがある」としている。同社の社長は記者会見の席上、「告発した省の人だからおかしいということだが、裏には何もない。地元の自民党議員に対し、ごく普通に行っている協力だ」と述べている。
2012年と2013年に片山が代表を務める政治団体が浜松市内で支援者らを対象に行なった新年会について、会費収入に当たる契約220万円を、政治資金収支報告書に記載していなかったことが、2014年11月に判明した。片山側は、判明前に報告書を訂正しているとしている。
また、2013年上半期の「片山さつき後援会」の政治資金収支報告書によれば、同会の支出には出版社の「オークラ出版」へ43万2000円を2回、50万4000円を1回の計136万8000円を支払っていた。
委員会
委員会採決無断欠席 / 2006年12月、衆議院経済産業委員会の官製談合防止法改正案採決を無断欠席したとして、自由民主党国会対策委員会から「(1) 所属常任委員会を変更」「(2) 国会開会中の海外渡航を1年間禁止」「(3) 翌年3月末まで国会対策委員会への出席停止」の処分を受けた。この処分により、経済産業委員会から決算行政監視委員会に所属が変更されたが、その翌月には、経済産業委員会に復帰している。
委員会への政府答弁要領持ち込み / 2014年10月21日の参議院外交防衛委員会において、委員長を務めていた片山が政府側の答弁要領(想定問答)を持ち込み、それを見ながら委員会審議にあたっていたことが発覚。野党側から「委員長の中立的な立場を損なう」と批判を受け、審議がストップする事態となった。上述の御嶽山に関する誤情報発信の直後であったこともあり、党執行部は片山を厳重注意とした上で「この次はかばえない」と通告。片山は翌日の理事懇談会で謝罪した。
参議院外交防衛委員会遅刻 / 2015年3月30日、自身が委員長である参議院外交防衛委員会理事懇談会に遅刻し、審議が中止となった。片山はこれについて4月2日の同委員会において陳謝した。遅刻は同委員会で2度目であり、自民党参議院幹事長より厳重注意を受けた。また、自民党幹部より「次、同じことがあったら、辞めてもらう」などの批判を受けた。 
片山さつきが坂上忍に年金問題とマイナンバー制度を批判され暴言連発 2015/10
下着ドロボーの高木毅復興相に、竹刀で体罰の馳浩文科相、ヤクザとズブズブという過去が暴かれた森山裕農相……。早くもその本質が露呈しつつある第三次安倍内閣だが、そんななか、今度は安倍応援女衆のひとりである片山さつきがテレビの生放送で問題発言を連発した。
片山が出演したのは、10月6日に放送された『バイキング』(フジテレビ)。きょうの番組テーマは年金制度だったが、片山は「年金は支え合いの制度。愛です!」「You and I、そして愛なんです」と珍妙なフレーズを連呼。年金はいまの若者たちの老後にも「破綻的なことがなければ」支払われると訴えた。
しかし、ここでツッコミを入れたのは、番組MCの坂上忍だ。
「ぼくは執念深い男なので、消えた年金問題のときにね、安倍さんが『最後のひとりまでお支払いする』っておっしゃったんですよ。それ、どうなったんですか?って話があって。それができない限り、ぼくは信用しません」
生放送で突然、鋭く切り込まれてしまい、ものの見事に表情が固まってしまった片山。だが、口を開くと、こんなことを言い始めた。
「また厚生労働省でね、事件起きちゃって、わたしたち政治家のほうは怒っております」
坂上が話したのは消えた年金問題のときの安倍首相の説明についてで、厚労省のマイナンバー収賄の話ではない。こうして露骨に話題をすり替え、さらには「政治家のほうは怒っております」と責任を転嫁する。だいたい片山自身も大蔵官僚時代、労働省(当時)から官官接待を受けていたことが問題になっているが、そんなことは棚に上げて、である。
ある意味、この“話のすり替え”は片山のお決まりのパターンだが、番組ではここから片山の暴言劇場がはじまった。
というのは、番組レギュラーの渡辺えりが「年金を払っていない人が4割もいて、その人たちがお年寄りになったときにどうするのかって、すごく不安ですよ」と発言。すると片山は咄嗟に「それなんです!」と言い、生活保護受給者バッシングを繰り出したのだ。
「私がこの4年間、ずっと取り組んでいる生活保護の問題で、本当に無年金で蓄えもなく、その方たちもわたしたちと同じ日本人、仲間ですから支えなきゃいけないと。(でもその人たちは)100%税金の生活保護になっちゃって、それが3兆円、4兆円になっちゃって、このままじゃ本当に国がもたないんですよ。だから、少しでも、少しずつでも、できる限り働く側に回ってもらって」
もちろん、渡辺は年金を払っていない人たちを責めたのではない。「働きたくても働けない人たち、払いたくても(年金の)その金額が払えない人たち」のことを心配したのだ。だが、片山にはまったく届かず、「現役で働ける方が60万人くらいいらっしゃるのも事実」「病院たらい回しとか、その問題もあるし」と、結局“生活保護受給者が国を滅ぼす”と言わんばかりに主張した。
しかも、その後、前出の厚労省官僚のマイナンバー収賄に話が移っても、「(マイナンバー導入によって)ずる貰いみたいな生活保護もなくなるし、管理もしやすくなる」と言ってのけたのだ。
片山は、次長課長・河本準一を「税金ドロボー」だとし、生活保護バッシングを展開した張本人だが、そのせいで渡辺が指摘したような国が保護しなくてはいけないような人びとがさらに生活保護を受給しづらい環境をつくり上げた。それでも片山には反省などあるはずもなく、生活保護を「ずる貰い」と表現し、マイナンバー問題をまたしてもお得意の論理のすり替えで生活保護バッシングに利用したのだ。
さらに、そのマイナンバー導入に坂上や雨上がり決死隊の宮迫博之から反論が飛び出すと、「世界中IT化だから、どこの国でも制度あるからやっていこうっていう、そういう国民運動なんですね」と説明。当然、国民のあいだからはマイナンバーに懐疑的な声こそ上がってはいても、それを求める運動など起こってはいない。誰にでもわかる大嘘である。
また、賄賂を受け取ったと言われる厚労省の官僚についても、「すごいキャラの立っちゃってる、変わった厚労省の職員さん」「服装が異常」などと述べ、“たんにヘンな人が混ざっていただけ”だと片山は問題を矮小化。他人の容姿をとやかく言うなら片山のヘアスタイルも大概ヘンだと思うが、挙げ句、片山はこのように語り始めた。
「いちばん利権があるのは、いま中華人民共和国と言われていますから、官僚制度のいちばん強いのは共産圏なんですよ。情報独占で何でもできちゃう。(中略)そういうレベルでは日本はないわけですが」
日本の官僚による収賄の話をしているのに、今度はなんと中国に話題をすり替える。──これだけでも驚きだが、番組の最後に「最近、嬉しかったニュースは?」と尋ねられた際には「スポーツ界のいろんな活躍ですね」と言い、つづけて「日本のいろんな国際貢献がね、国連の場とかでも少しずつ認められているのが嬉しいのと、逆にあの南京みたいな、間違った情報が登録されて、これは絶対、反論してやり返さなきゃいけないなと」と、さらっと“南京事件はなかった”と主張した。
「間違った情報」を垂れ流し、詭弁を弄しているのはあなたのほうでは?と言いたくなるが、これこそが安倍政権クオリティというものなのだ。
ちなみに番組では、片山が前夫・舛添要一とのスピード離婚について触れ、舛添のことを「怖かった」と語る一幕も。そして、当時の自分をこう評した。
「いまの議員やってる片山さつきじゃないですもん。大蔵省で、まだそれこそ新進気鋭の、夜遅くまで働いている女性ひとりのキャリアウーマンで」
自分のことを“新進気鋭”と自画自賛……。厚かましいにも程がある。 
卑劣! NHK貧困女子高生に“貧乏人は贅沢するな”攻撃! 2016/8
先日8月18日放送の『NHKニュース7』の番組内容が、いまネット上で炎上している。番組では、家庭の経済的事情から進学を諦めざるを得なかったという高校3年生の女子生徒(番組では実名で登場)が登場したのだが、番組終了後に彼女の“暮らしぶり”が炎上したのだ。
この女子高生は、両親の離婚によって母子家庭で育ち、経済的にも困窮。中学時代には自宅にパソコンがないためキーボードだけを買ってパソコン授業の練習をしたといい、いまも家にはクーラーがないため暑い時期は保冷剤を包んだタオルを首に巻いて過ごしているという。
そして、高校卒業後にアニメのキャラクターデザインを学ぶ専門学校への進学を希望したものの、入学金の50万円を工面することができず進学を断念。彼女は「夢があって、強い気持ちがあるのに、お金という大きな壁にぶつかってかなえられないという人が減ってほしい。いろいろな人に知ってもらって、助けられていく人が増えてほしい」と話した。
子どもの貧困は年々深刻化しており、番組はこのようにその現実のひとつを伝える内容だったのだが、ネット上では番組終了後から彼女の“粗探し”がスタート。Twitterアカウントを見つけ出し、『ONE PIECE』のグッズを購入したり、EXILEのチケットが届いたと喜んでいるつぶやきを次々にピックアップ。また、1000円以上のランチを食べているなどとあげつらい、猛批判をはじめたのだ。
「趣味満喫してて貧困層wwww」「完全にデタラメじゃん」「私よりはるかに贅沢な生活してる…」「母子家庭の子供が中小企業リーマンの子供より豊かなのはわかった」「家族そろって徹底的に追い込んで欲しいね」
希望の進学ができない子どもがいるという現状を訴えたのに、逆に「贅沢しすぎ」と炎上する……。マンガ本やグッズ(それも缶バッチやトートバッグなどといったものだ)を買い、コンサートに行き、アニメイベントに参加する。このようなささやかな愉しみさえ犠牲にして学費にあてろ、というのである。
まさに暗澹たる思いに駆られるが、さらに唖然としたのは、この騒動に自民党の片山さつきが乗り出してきたことだ。
片山はこの騒動を、嫌韓本を数多く出版しているKAZUYA氏のツイートで知ったらしく、それをリツートするかたちで、こう女子高生を批判しはじめたのだ。
〈拝見した限り自宅の暮らし向きはつましい御様子ではありましたが、チケットやグッズ、ランチ節約すれば中古のパソコンは十分買えるでしょうからあれっと思い方も当然いらっしゃるでしょう。経済的理由で進学できないなら奨学金等各種政策で支援可能!〉
〈私は子ども食堂も見させていただいてますが、ご本人がツイッターで掲示なさったランチは一食千円以上。かなり大人的なオシャレなお店で普通の高校生のお弁当的な昼食とは全く違うので、これだけの注目となったのでしょうね。〉(原文ママ)
貧困を訴えるのなら、1000円のランチなんて食うな。アニメグッズやコンサートになど行くな。──つまり、曲がりなりにも国会議員である片山は、未成年の女子高生に「貧乏人は贅沢するな!」と公然と批判したのである。
よくもまあ片山はこんなことが言えたものだ。片山は2013年、政治資金で自著を買い上げ、その本代に計136万8000円も支出していたことが発覚しているが、そのような政治家としてのモラルもへったくれもない人物が、女子高生を批判する権利などあるはずがない。
だが、恥知らずの片山は、さらに騒動を拡大。片山に対し、〈児童の貧困問題を訴えて、対策会議やらを利用し、補助金やら、募金やらを食い物にしている人達がいる可能性が、図らずも暴露されたかもしれない〉と訴える者が出てくると、それを受けて片山はこんなことまで言い出したのだ。
〈追加の情報とご意見多数頂きましたので、週明けにNHKに説明をもとめ、皆さんにフィードバックさせて頂きます!〉
片山はNHKに対して「どうして貧困じゃない子どもを出演させたのか」とでも言うつもりなのだろうか。だが、国会議員が番組内容に口を出すことは政治的介入であり、現場は貧困問題を扱うことに萎縮するだろう。これは以前、片山が火を付けた次長課長・河本準一を「税金ドロボー」と叩きつぶしたときと同じで、メディアをグルにして“貧困と自称する者の生活実態は贅沢”などと弱者バッシングを目論んでいるとしか思えない。
実際、片山が巻き起こした生活保護バッシングによって、「生活保護費は削るべき」「不正受給許すまじ」という空気が見事につくり出され、その後、安倍政権はここぞとばかりに生活保護費を削減した。
だが、これははっきり言って異常事態だ。本来の国の仕事は、生活保護費を削ることではなく、貧困の原因となっている非正規労働の見直しや最低賃金の引き上げを行うことなのだ。現に、日本政府は2013年5月、国連の社会権規約委員会から〈生活保護につきまとうスティグマを解消〉するようにという勧告さえ受けているが、安倍政権にこれを是正する動きはまったく見られない。そればかりか、片山は相変わらず生活保護を「ずる貰い」などとテレビでがなり立てている。
そして、今回の騒動で片山がネットでの炎上に相乗りして主張した「貧乏人はつましく生活しろ」「貧乏人には趣味の支出も許さない」という貧困者バッシング……。もちろん、こうした世論形成の先には、憲法改正の問題が待っている。
事実、片山は2012年に発売した自著『正直者にやる気をなくさせる!? 福祉依存のインモラル』(オークラ出版)において、“生活保護の不正受給が起こるのは憲法のせい”と述べている。
〈現行憲法の第3章「国民の権利及び義務」は、日本人が従来持っていた美徳とは異なり、義務や責任を軽視する一方、権利と自由を強調するものです。(中略)現行憲法はまるで、責任や義務を果たすよりも権利と自由を要求することの方が重要だと言わんばかりなのです〉
同書の巻末にわざわざ自民党の憲法改正草案を掲載していることからもわかるように、本来なら政治が解決すべき貧困とその背景にある問題には取り組まず、正当な社会保障を訴える「権利」や「自由」を人びとから奪うことに主眼があるのだ。
つまり、今回の女子高生叩きは、自民党による“改憲後の世界”の先行事例でもあるのだろう。貧困をなくすことを第一に考えるべきなのに、「権利ばかり主張するな」と猛攻撃し、貧乏人は生活を厳しく監視される。そんな世の中で得をするのは政治家と一握りの富裕層だけだが、同じように我慢を強いられている人びとも同じようになって「自分たちはもっと我慢している!」と、権利を主張する人を叩くのである。
ともかく、貧困問題に対してこうした偏狭な世の中をつくり出した張本人である片山は、この国の“ガン”としか言いようがない。今後、この問題に対してどんなアクションを起こすつもりなのか、本サイトは“監視”していきたいと思う。 
片山さつき新大臣、安倍政権の「醜聞」の火種か… 2018/10
沖縄県知事選挙で大敗し、公明党との距離も微妙な安倍政権ですが、10月2日に閣僚・党役員人事が発表され、第4次安倍改造内閣が始動しました。
改造人事については、9月20日の自民党総裁選挙で安倍晋三首相の3選が決まった直後から、さまざまな臆測が報道されていました。特に、麻生太郎財務大臣と菅義偉官房長官の留任についてはいち早くささやかれており、実際にその通りになりました。
しかし、「これだけ不祥事続きの財務省の大臣が留任って、どうなんだろう?」という疑問の声は自民党内からも聞こえてきます。
党内人事では、二階俊博幹事長が留任しましたが、二階幹事長も失言が目立つ印象です。また、甘利明議員については「入閣か党4役(幹事長、総務会長、政務調査会長、選挙対策委員長)に入るのでは」といわれていましたが、選対委員長という重要な役職に就任しました。当初から、「派閥のバランスに配慮して、論功行賞的な人事をするつもりだ」という予想はされていましたが、もう睡眠障害のほうは大丈夫なのでしょうか。
2016年に口利きと金銭授受問題が報じられた甘利議員は内閣府特命担当大臣(経済財政政策)を辞任し、その後は睡眠障害を理由に国会を欠席し続けました。選対委員長は来年の参議院議員選挙や統一地方選挙を取り仕切る立場ですから、体調のほどが気になります。
これだけでも微妙な船出の感が否めませんが、今回はさらに微妙な議員が多いです。
特に、桜田義孝議員は当選7回という実績ながら“身体検査”で引っかかって入閣できなかったにもかかわらず、今回は東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣の就任が発表されました。ちなみに、スポーツ経験はまったくないそうです。
地元の有権者の方々も「余ったポストに割り当てられただけだろう」「どうせ短命だと思うが、本当に仕事ができるのか」とあきらめムードのようです。地元ですら、このような言われ方をされてしまうのは、桜田議員は以前から“お騒がせ案件”が多いからです。
たとえば、13年には東京電力の福島第一原子力発電所事故で発生した放射性廃棄物の処理について、「福島の東電施設に置けばいい」と発言して批判され、当時の下村博文文部科学大臣から口頭注意を受けています。また、16年には、韓国の従軍慰安婦について「職業としての売春婦で、犠牲者ではない」という旨の発言をして叩かれ、その日のうちに発言を撤回しています。
こうした経緯もあったため入閣が遠かったのですが、今回は総裁選後に名前が挙がっていました。当の本人は、ふんぞり返って「今度は入閣するだろうから、なかなか地元に戻れなくなります。忙しくなるんでね」と言っていたそうです。
地元の方々は、心の中で「どうせ、またダメだろ……」と思っていたそうですが、なんと初入閣を果たしました。一方で、週刊誌の記者たちは「最初にやらかしてくれるのでは?」と期待しているそうです。
今回の初入閣は12人で、12年の第2次安倍内閣発足後では最多となりました。紅一点は、女性活躍担当大臣やまち・ひと・しごと創生担当大臣などを兼務する片山さつき議員です。
片山大臣といえば性格がキツいことで知られていますが、それを裏付けるようなエピソードには事欠かないようです。記者たちは「狙うは片山さつき」とも言っているようで、永田町では「うるさいから、とりあえずポストをあてがっておいた」「実際、まち・ひと・しごと創生なんて、とてもじゃないが無理でしょ」といった声が聞こえてきます。
小泉進次郎議員の後任として自民党の筆頭副幹事長に就いたのは、元防衛大臣の稲田朋美議員です。稲田議員は、総裁特別補佐という役職にも就任しています。実は、官邸サイドは稲田議員を再入閣させたかったようですが、片山大臣と並べられない、つまり仲が悪いから、苦肉の策で党の要職に就けたようです。言い換えれば、相変わらず安倍首相のお気に入りだということですね。
今回の内閣改造では、そのほかにも「論功行賞的な人事がたくさんあるなぁ」という印象です。秘書仲間の間では、「在庫一掃セールだね」「棚卸しって感じ」との意見が圧倒的に多いです。また、「やる気ないない内閣」「ヘイト内閣」などと表現する人もいました。得意分野の政策を持っている議員や、いわゆる族議員は半分くらいの印象で、「ごった煮内閣」ともいわれています。
「とりあえず当選回数などの条件が揃っていて、派閥から推薦のあった議員たちにポストを割り当てた」という印象しかありません。
ある重鎮の秘書は、「自民党は内部固めを重視したのでしょう。安倍さんは改憲などで歴史に名を残したいから、自民党内での求心力を重視してきました。今回も、反対分子の芽をつんでおく、という意味だと思う」と分析しています。その通りでしょう。
ただ、その中でも、一億総活躍担当大臣や内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策など)などを兼務する宮腰光寛議員は適任だと思いました。一般的な知名度こそ低いですが、宮腰議員は農林水産関係の族議員の重鎮として知られており、自身の選挙区では票になりそうにない沖縄や北方領土の問題にも、若い頃から取り組んでいました。北方領土問題に長年かかわってきた政治家として、北海道の議員の中には敬服している人もいます。
今回はサプライズ的な人事はなかったように思いますが、ある意味、当たり前の顔ぶればかりで特色を出さなかったことが“逆サプライズ”といえるのかもしれませんね。
さて、内閣総理大臣から任命された大臣のみなさんは、天皇陛下から認証を受ける認証式に臨みました。これは皇居で行われるので、装いの決まり事(ドレスコード)が非常に厳しいです。男性は、ビジネススーツではなくモーニングまたは燕尾服です。シャツは白色のみで、襟の形も決められています。靴も黒の革靴で紐がなければいけない、など細かい規定というか注意事項がたくさんあるのです。
そして、秘書たちはそれらを用意するのに奔走します。なかには、ずいぶん前から、この日を待ちわびてモーニングを新調している大臣もいますが、半分くらいはレンタルだと思います。
その貸衣装も、議員が試着する時間などないので、秘書が業者にサイズを伝えて、議員会館まで持ってきてもらったり取りに行ったりしなければなりません。その間に、お祝いのメッセージや電話、胡蝶蘭なども続々と届くので、まさにてんやわんや。このときばかりは、うれしい悲鳴でしょうけどね。議員会館の廊下に、部屋の中に置ききれない胡蝶蘭の鉢がずらっと並ぶのも“内閣改造の風景”です。
神澤としては、この内閣の顔ぶれからは明るい未来は見えてこないように感じます。また、来年夏のダブル選挙が現実味を帯びてきているようにも思いました。もしかすると、それが安倍首相の狙いなのかもしれません。「俺に逆らうと、総選挙で仕返しするぞ」って……怖いですね。
危うい船出ですが、走り回っている記者の方々がたくさんのスキャンダルを拾ってこないことを祈るばかりです。 
 
稲田朋美

 

日本の政治家、弁護士。旧姓は椿原。自由民主党所属の衆議院議員(5期)、自民党総裁特別補佐・筆頭副幹事長。実父は政治運動家の椿原泰夫。防衛大臣(第15代)、内閣府特命担当大臣(規制改革担当)、国家公務員制度担当大臣(初代)、自由民主党政務調査会長(第56代)、自民党福井県連会長を歴任。
発言
ドメスティックバイオレンスについて
「いまや『DV』といえばすべてが正当化される。DV=被害者=救済とインプットされて、それに少しでも疑いを挟むようなものは、無慈悲で人権感覚に乏しい人非人といわんばかりである。まさに、そこのけそこのけDV様のお通りだ、お犬さまのごとしである」「DVという言葉が不当に独り歩きすれば、家族の崩壊を招きかねない」と述べている。
徴農制について
2006年8月29日、「『立ち上がれ! 日本』ネットワーク」(事務局長・伊藤哲夫・日本政策研究センター所長)主催のシンポジウム「新政権に何を期待するか?」でニート問題を解決するために徴農制度を実施すべきだと主張した。「真のエリートの条件は、いざというときに祖国のために命をささげる覚悟があること。そういう真のエリートを育てる教育をしなければならない。若者に農業に就かせる『徴農』を実施すれば、ニート問題は解決する。」と述べている。
生長の家関連
2012年4月30日、「自身が司法試験合格に向けて励んだときに大きな心の支えになった、祖母から代々受け継がれた」という、谷口雅春著の「生命の實相」(敗戦後に発禁となっている、所謂“黒表紙版”)を示し、「生長の家本流運動」の一派である谷口雅春先生を学ぶ会において講演した。
徴兵制について
佐藤守との対談で、「教育体験のような形で、若者全員に一度は自衛隊に触れてもらう制度はどうか」「『草食系』といわれる今の男子たちも背筋がビシッとするかもしれない」と述べている。2016年10月11日の参議院予算委員会で福島瑞穂に上記の発言を質された際、「学生に見て頂くのは教育的には非常に良いものだが、意に反して苦役で徴兵制をするといった類いは憲法に違反すると思って、そのようなことは考えていない」と答弁した。
共働き関係
「保育所増設の政策などを見ていると『ほんとに母乳を飲んでいる赤ちゃんを預けてまで働きたいと思っているかな』と疑問に思う」と述べている。
女性大臣美人発言
2017年6月初旬にシンガポールで開かれた「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」で、オーストラリアとフランスの国防大臣ととも登壇した際、「私たち3人には共通点がある。みんな女性で、同世代。そして、全員がグッドルッキング(美しい)!」と発言。現場で取材していた外国人の記者たちは互いに顔を見合わせ、仏豪の両大臣も心なしかこわばった表情したと報道されている。
自衛隊の政治活用
2017年6月27日に、都議選の自民党候補者応援演説の際、「(都議選候補者の当選を)防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてお願いしたい」と発言したことが、自衛隊の政治利用ともとれる発言ではないかと批判された。この発言は、演説場所が自衛隊駐屯地が近くにあることに触れてテロ対策などで自衛隊と都政が連携する必要があるとした上で出た言葉であった。同日深夜に稲田は「自衛隊は地域の理解なくして活動できないという趣旨だが、誤解を招きかねないので撤回する。これからもしっかりと職務を全うしたい」と発言を撤回した。同都議選で自民党は議席を大きく減らしたが、都連会長下村博文は「国政の問題が都議選に直結し残念。すぐに撤回されたが、残念ながら影響があった」と稲田の発言が都議選の結果に影響を与えたことを認めた。
森友問題について
2017年3月27日、参議院予算委員会において、森友学園問題について、夫の稲田龍示弁護士が、同問題について「全く関与していない」との答弁を行った。実際には、顧問弁護士として財務省との交渉記録に名前が記載され、黒塗りされた上で公開された。
日本国憲法について
2018年7月に日本会議の東京都中野支部の集会に参加した際に自身のTwitterアカウントで支部長の弁護士について「支部長は大先輩の内野経一郎弁護士。法曹界にありながら憲法教という新興宗教に毒されず安倍総理を応援してくださっていることに感謝!」などと主張、ネット上で憲法が規定している国会議員の「憲法尊重・擁護義務」(第99条)に反している」などの批判が相次ぎ、その後当該ツイートを削除した。稲田は毎日新聞の取材に対し、「誤解を招きやすい表現だったが、憲法を否定するつもりは全くない」と釈明した。
政治資金
2014年の衆院選投開票前に、稲田が代表を務める自民党県第1選挙区支部が日本歯科医師連盟(日歯連)から30万円の寄付を受けていると報じられている。
白紙領収書の後日記入
他の国会議員の政治資金パーティーに参加した際の費用の領収書を白紙でもらい、事務所で金額を記入したことについて、小池晃が参議院算委員会で追及し、稲田は事実と認めた。小池は、2012年から2014年の政治資金収支報告書に添付された領収書で、約260枚(約520万円)の筆跡が同じだと指摘。「金額を勝手に書いたら領収書にならない」と批判した。菅義偉官房長官も同問題の当事者であり、「パーティー主催者の了解のもと、実際の日付、宛先、金額を正確に記載した」とし、「数百人規模の出席者全員の宛先と金額を書いてもらうと、受け付けが混乱する」と釈明し、稲田も同様の説明をした。政治資金規正法を所管する高市早苗総務相は「領収書作成方法の規定はない。主催者から了解を得ていれば法律上の問題は生じない」との見解を示したが、小池は「『面識があれば金額はあとで書いていい』なら、中小企業の社長はみんな取引先と面識がある。でたらめな話だ」と批判した。総務省の手引では受領者側が領収書に追記するのは不適当とされている。自民党では白紙領収書が慣例かと思わせるとも取られており、政治資金の移動はすべて銀行口座間で行うなどの方法も議論されているが、実現していない。「政治とカネ」の問題は、必要な法改正も含めあらゆる観点から透明化への努力を払うべきだとする見解もある。
人物
2011年8月1日、鬱陵島を視察する自民党議員団の一員として韓国に行った(佐藤正久と新藤義孝も参加)が、韓国外務省より全員が反韓活動者としてペルソナ・ノン・グラータ(外交上好ましからざる人物)通告、入国を拒否された。
父親の椿原泰夫は、郷里の京都で「京都讀書會」を主宰している他、「頑張れ日本!全国行動委員会」で京都本部会長も務める。
トレードマークは網タイツと眼鏡。これは選挙区の福井の経編(繊維業)の技術を発信するため網タイツと、「視力も1.5と2.0で良いんですけど(鯖江に代表される)福井のメガネを発信する」ためとしており、ミニスカート、厚底のピンヒールに網タイツと黒縁のダテメガネというファッションスタイルで選挙応援演説など人前に出ている。
2015年6月17日、ロイター通信の主催する講演会後の質疑で「女性初の首相を目指すのか」と問われ「政治家であるなら、誰でも首相を目指している」と答えた。首相の安倍晋三は2016年2月に企業の女性幹部らが集まるシンポジウムの歓迎会で、稲田を森雅子とともにきわめて有力な総理候補者であると答えた。
北海道新聞は、稲田が2006年8月29日に「『立ち上がれ!日本』ネットワーク」が「新政権に何を期待するか」と題して東京都内で開いたシンポジウムの席上、靖国参拝反対派の加藤紘一と対談したことを紹介し、加藤の実家が右翼団体幹部に放火された事件(加藤紘一宅放火事件)については、「対談記事が掲載された15日に、先生の家が丸焼けになった」と「軽い口調で話した」とし、発言に対する会場の反応について、「約350人の会場は爆笑に包まれた」「言論の自由を侵す重大なテロへの危機感は、そこには微塵もなかった」と報じた。
2014年9月に、国家社会主義日本労働者党の代表山田一成と国旗の前で一緒に撮った写真が報道された。東京新聞は、これについて欧州であれば即刻辞任に値するとしている。これに関し、米ユダヤ系人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」(本部ロサンゼルス)は2014年10月9日、「(写真を見て)首をかしげざるを得ない。こうしたことが起きないよう責任を持って対処する人はいないのか」としている。9月10日、稲田朋美自ら「一部報道にあるご指摘の人物は、雑誌取材の記者同行者として、一度だけ会い、その際写真撮影の求めには応じたものだと思われます。記者の同行者という以上に、その人物の所属団体を含む素性や思想はもちろん、名前も把握しておらず、それ以後何の関係もありません。」と説明した。
サンデー毎日は2014年10月5日号で稲田の資金管理団体が2010年〜2012年、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の幹部と行動する8人から計21万2000円の寄付を受けたとして、稲田について「在特会との近い距離が際立つ」と報じた。2015年2月13日、稲田はこの記事で名誉を毀損されたとして、毎日新聞社に慰謝料など550万円の損害賠償と判決が確定した場合に判決文の掲載を求め、大阪地裁に提訴した。2月17日に行われた第1回口頭弁論で稲田側は「在特会の会員と確認できるのは8人のうち1人だけ」「寄付を受けることは、必ずしも寄付者の思想信条に共鳴していることを意味しない」「在特会を支持していると読者に受け取られ、(稲田の)社会的評価を低下させる」と主張した。2016年3月11日、大阪地方裁判所は、サンデー毎日の記事の内容が真実であり公益性があるとして、稲田側の請求を棄却した。10月12日、大阪高裁が控訴を棄却した。2017年5月30日、最高裁は上告を棄却した。  
稲田朋美防衛相の、過去の問題言動 2017/7
東京都議選の応援演説で法律違反の疑いがある発言をした稲田朋美防衛相に対し、与野党から辞任を求める声が強まっている。稲田防衛相は辞任を否定し、安倍晋三首相も続投させる方針だが、稲田氏をめぐっては過去に何度も言動が問題になってきた。大臣としての資質が問われる今、それらを振り返る。
「防衛大臣、自衛隊としてお願いしたい」
東京・練馬駐屯地近くで6月27日に開かれた自民党の都議選立候補者の集会で、「防衛省、自衛隊、防衛大臣としてもお願いしたい」と応援演説した。自衛隊法で制限されている、選挙権の行使以外の政治行為を自衛隊員に呼びかけたと受け取られるほか、公務員が地位を利用して特定の候補者を応援する行為を禁ずる公職選挙法にも違反する疑いが指摘された。27日夜、発言を撤回して謝罪した。
「グッドルッキング」発言
アジア・太平洋各国の防衛担当閣僚らが集まるシンガポールで6月3日に開かれた「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」で、オーストラリアとフランスの国防大臣と一緒に壇上に上がった際、「私たち3人には共通点がある。同世代。そして全員がグッドルッキング(美しい)」と発言した。公の場で容姿の良し悪しに言及したことで物議を醸した。
森友学園問題
国有地の売却をめぐって問題になった森友学園(大阪市)との関係を3月13日、国会で問われ、当時学園理事長だった籠池泰典氏夫妻から「法律相談を受けたことはない」「裁判を行なったこともない」などと答弁した。14日になって、民事訴訟で学園の代理人弁護士として出廷していたことが判明し、それまでの発言を撤回、謝罪した。
南スーダンPKO日報問題
南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に参加した陸上自衛隊が、派遣先の様子について「戦闘」という言葉を使って日報に記載していた問題で、2月21日の国会で「(『戦闘』という)憲法9条上の問題になる言葉を使うべきでないから、『武力衝突』という言葉を使っている」と答弁した。自衛隊の派遣を憲法違反にしないために言い換えていると問題視された。
靖国参拝
2016年12月29日、靖国神社を参拝。安倍晋三首相がアメリカのオバマ大統領(当時)と真珠湾を訪ね、両国の「和解」と不戦の誓いを示した翌日のことで、野党側から外交への影響を懸念する声が上がった。
白紙領収書問題
他の国会議員の政治資金パーティーに出席した際、白紙の領収書を受け取り、金額をあとから自らの事務所で記入していたことが2016年10月6日、明らかになった。政治資金規制法は金額や日付、目的が記載された領収書を受け取るよう定めている。
「核保有」検討発言
2011年の雑誌「正論」の対談で、「長期的には日本独自の核保有を単なる議論や精神論ではなく国家戦略として検討すべき」と発言。2016年8月3日の防衛相就任会見で、「現時点で核保有を検討すべきではない」と述べたが、将来の核保有を否定しなかった。 
 
高市早苗

 

日本の政治家。自由民主党所属の衆議院議員(8期)、衆議院議院運営委員長。総務大臣(第2次安倍改造内閣・第3次安倍内閣)、内閣府特命担当大臣(マイナンバー制度)。 自民党政務調査会長(第55代)、内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策、科学技術政策、少子化・男女共同参画、食品安全、イノベーション)、自民党たばこ議員連盟副会長を務めた。
発言
「電波停止」発言騒動
2016年2月8日、衆議院予算委員会において、「放送局が”政治的に公平であること”と定めた放送法第4条第1項に違反した放送が行われた場合に、その放送事業者に対し、放送法第174条の業務停止命令や電波法第76条の無線局の運用停止命令に関する規定が適用される可能性があるのか」との野党議員からの質問に対して、高市は放送法の違反を繰り返した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性について、「行政が何度要請しても、全く改善しない放送局に何の対応もしないとは約束できない。将来にわたり可能性が全くないとは言えない」と述べた。この発言に対し田原総一朗ら7人が呼びかけ人となって、発言が憲法及び放送法の精神に反しているとする抗議声明を出した。なお、安倍晋三は同年2月15日の衆議院予算員会で、民主党政権菅内閣時代の2010年11月に平岡秀夫総務副大臣(当時)が参院総務委員会で、高市と同内容の答弁をしていたと述べている。2017年、高市は自身の答弁について、「放送法第4条第1項に違反した放送が行われた場合に、その放送事業者に対し、放送法第174条の業務停止命令や電波法第76条の無線局の運用停止命令に関する規定が適用される可能性があるのか」という質問だったので、「法律の枠組みと解釈について、民主党政権下も含めて、歴代の大臣、副大臣と同様の内容の答弁をしております。」と記者の質問に答えている。さらに諸外国には、日本の番組準則と同様の規律がある国の方が多く、その中には日本には無い番組規律違反に対する刑事罰や行政庁による罰金が設けられていることも紹介して日本の放送法とその解釈は二度の政権交代前と同様と説明している。アメリカ合衆国国務省は2017年3月3日に公表した人権報告書(「世界各国の人権状況に関する2016年版の年次報告書」)で、日本では「報道の自由に関する懸念がある」として、高市の「電波停止」発言を一例に挙げた。高市は3月7日の衆議院総務委員会で、人権報告書の記述は誤解に基づくもので、外務省を通じて米国に説明していくと述べた。
「福島原発事故で死者なし」
2013年6月1日、兵庫県神戸市での講演会時に、自由民主党政務調査会会長の立場として、原子力発電所の再稼働について「東京電力福島第一原子力発電所事故で死者が出ている状況ではない。」として、原子力発電所再稼働を主張した。その後、発言について批判が挙がると、高市は自らの発言について「誤解されたなら、しゃべり方が下手だったのかもしれない」と釈明した。しかし、野党のみならず、自民党福島県連合会や同党参議院議員の佐藤正久、自民党員からも「不謹慎だ」と批判された。福島県連は「高市氏の発言は、福島県の現状認識に乏しく、亡くなられた方々、避難されている方々をはじめ、県民への配慮が全くない。不適切で、強い憤りを感じる。」「原発事故の影響による過酷な避難で亡くなられた方、精神的に追い詰められて自殺された方など、1,400人を超える福島第一原子力発電所事故に伴う災害関連死が認定されている。」と批判し、党本部に抗議文を提出した。これに対して高市は「福島の皆さんが辛い思いをされ、怒りを持ったとしたら、申し訳ないことだった。お詫び申し上げる」と謝罪した。そのうえで「私が申し上げたエネルギー政策の全ての部分を撤回する。」と述べた。
「産む機械」発言への批判
柳沢伯夫(当時厚生労働大臣)が2007年1月に「産む機械は数が限られているから」との発言を行った際には、「私は子供を授かれない体なので、機械なら不良品になってしまう」と批判した。
批判・報道
1億円の使途不明金報道
一部の週刊誌が、政府系金融機関から融資を受けた農業法人に1億円の使途不明金があることが発覚し、高市氏の実弟である秘書官が関わっていた疑いがあると報じたことについて、「見出しも中身もあまりに悪質であり、捏造(ねつぞう)記事だ。融資には高市事務所も秘書官も私も一切関与していない」と否定した。
ネオナチ団体関連
日本のネオナチ団体国家社会主義日本労働者党の代表山田一成と国旗の前で一緒に撮った写真がAFPやガーディアンなどの複数の海外の報道機関で報道された。これについて、高市は2014年9月12日の記者会見で「率直に申し上げて、不可抗力であった」と述べた。所属団体や思想信条がわかっていたら、会わなかったと主張している。東京新聞は、これについて欧州であれば即刻辞任に値する、と論評した。これに関し、米ユダヤ系人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」(本部ロサンゼルス)は2014年10月9日、「(写真を見て)首をかしげざるを得ない。こうしたことが起きないよう責任を持って対処する人はいないのか」と強い不満を表明した。9月10日、高市早苗自ら「男性とは会談どころかほとんど会話をしておりません。男性は、3年以上前だと思うが、雑誌のインタビュアーの補佐として議員会館に来訪されたそうです。そのインタビューが終わった後、男性が「一緒に写真を撮りたい」とおっしゃったので、ツーショットで撮影しました。もちろんその時点では彼がそのような人物とは全く聞いておりませんでした。上記の通り、撮影時に彼がどういった人物であるか不明でした。出版社に確認したところ、彼はもともとフリーのライターをやっていたようで、たまたまインタビューの時に同行されたようです。その後、出版社と彼との契約はないようです。なお、出版社も彼がそのような思想であったことは知らなかったようです。男性との付き合いは以前も以後も全くありません。出版社がスタッフとして連れてきた方がツーショットを撮りたいとのことで、それに応じただけです。こちらとしては出版社を通じて、男性に写真の削除を依頼しております。」と説明している。
政治資金
2012年の11月と12月に自身が代表を務める自民党支部から計1220万円の寄付を受け、その後同支部に1000万円の寄付を行い、翌年の確定申告により寄付金控除による300万円の還付金を受け取ったと報じられている。  
2016
「政治的公平」違反繰り返せば「電波停止」も 2016/2
 NHK・民放VS高市バトルの行方
「電波停止を適用しないとは担保できない」
高市早苗総務相は8日と9日の衆院予算委員会で、「政治的に公平であること」を求めた放送法の違反を繰り返し、行政指導でも改善されないと判断した場合、電波法76条に基づき電波停止を命じる可能性に言及したことが衝撃を広げています。
英国では政府から独立した通信庁オフコム(OFCOM、公社)が自ら設けた番組基準が守られているかを監視しているため、高市総務相の発言には強い違和感を覚えました。安倍政権に批判的だったテレビ朝日「報道ステーション」、NHK「クローズアップ現代」、TBS「NEWS23」のキャスター降板が相次いでいるだけに、表現の自由と放送の「政治的公平」について改めて考えさせられました。
各社報道からまず高市発言を拾ってみます。「行政指導してもまったく改善されず、繰り返される場合に、何の対応もしないと約束するわけにはいかない。将来にわたり可能性が全くないとは言えない」「(放送法は)単なる倫理規定ではなく法規範性を持つ」
「1回の番組で電波停止はありえない」「私が総務相の時に電波停止はないと思うが、法律に規定されている罰則規定を一切適用しないことについてまで担保できない」「極めて限定的な状況のみに行うとするなど、極めて慎重な配慮のもと運用すべき」「放送法を所管する立場から必要な対応は行うべきだ」
これに対して、菅義偉官房長官は9日の記者会見で、「従来通りの総務省の見解で、当たり前のことを法律に基づいて答弁したに過ぎない。放送法に基づいて放送事業者が自律的に放送するのが原則だ」と述べました。
「あるある大事典II」捏造の衝撃
菅官房長官は総務相時代、「総務大臣は、放送事業者が、虚偽の説明により事実でない事項を事実であると誤解させるような放送により、国民生活に悪影響を及ぼすおそれ等があるものを行ったと認めるときは、放送事業者に対し、再発防止計画の提出を求めることができる」という内容を盛り込んだ放送法の改正案を提出したことがあります。
2007年の関西テレビ『発掘! あるある大事典II』の「納豆ダイエット」捏造問題で高まった世論の批判を背景に、現行の行政指導と電波法 76 条に基づく無線局の運用停止命令などの措置の間を埋めるため「再発防止計画の提出」が改正案に盛り込まれましたが、国会修正で削除された経緯があります。
菅官房長官が発言したように、この問題は「放送法に基づいて放送事業者が自律的に放送するのが原則だ」に尽きます。
「番組準則」と呼ばれる放送法4条1項には、放送事業者に放送番組の編集にあたって(1)公安及び善良な風俗を害しない(2)政治的に公平である(3)報道は事実をまげないでする(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにする――という4つの規定が設けられています。
放送法はGHQ(連合国総司令部)の占領下につくられ、「政治的公平」など(2)(4)はGHQ側が要求したそうです。もともと「政治的公平」の規定はNHK(日本放送協会)にだけ適用される予定でしたが、民間放送にも「準用」されました。軍の統制を永久に排除し、放送を完全に民主化するのが狙いでした。国家統制をなくして情報の多様性を確保し、国民の知る権利を満たすというのが「政治的公平」の趣旨です。
「偏向報道」指示した椿事件
放送法1条は「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保する」と放送番組編集の自由をうたっています。NHKや民放に自律の機会を保障することで表現の自由を確保するのが放送法の精神で、国の干渉は極力避けるべきだと考えられてきました。「番組準則」違反を理由に電波法 76 条を適用することは「事実上、不可能」とされてきたのです。
「番組準則」は倫理規範でした。しかし、番組の低俗化に伴って1959年に「番組準則」に「善良な風俗」という規律が加えられ、放送法に番組基準制定や放送番組審議機関設置の義務が新設されます。80年代には深夜番組の性表現がエスカレートし、郵政省(当時)が民放128社に「番組基準の順守と放送番組の充実向上」を求める文書を送ります。88年には民放にも「番組準則」が準用ではなく適用されるようになりました。
そして93年に、テレビ朝日の椿貞良報道局長が日本民間放送連盟(民放連)会合で「非自民政権が生まれるよう報道せよ、と指示した」と発言した問題が起きます。この事件をきっかけに、政府は「番組準則」違反に対して電波法76条に基づく行政処分は「法的には可能」という見解を示すようになります。「情報の多様性」を隠れ蓑に、日本の進路を決める総選挙に際し「偏向報道」が行われていたからです。
電波停止というペナルティーをちらつかせ、NHKや民放に「番組準則」の順守を迫るという高市発言は、この流れを汲んでいます。しかし、NHKと民放は97年に「放送と人権等権利に関する委員会機構」(BRO)を設置し、2003年に放送倫理・番組向上機構(BPO)をつくりました。
『発掘! あるある大事典II』の捏造問題をきっかけに、BPOの機能を強化し、再発防止に取り組んだため、番組内容を問題とする総務省の文書での厳重注意は09年以来、行われていませんでした。10年に民主党の原口一博総務相は国会でこう答弁しています。
大平総理の言葉
「故大平総理からこういう言葉を残されているというふうに理解をしています。(略)権力は腐敗すると昔から言われているが、自己規制を怠ると腐敗していくのは確かだ。それを外側からチェックする機能を持つのがマスコミと司法である。だから、私は政治家としてこれに容喙することは厳に慎んできた。腹が立って頭にくることは毎日のようにあるけどね」
「元はやはり自主規制だと思います。放送事業者の自主的な規制、これを期待する。そのためにBPOというものをおつくりいただく。そして、そのおつくりいただいたものについて不断の、そこで御審議をされていることについて私たちは見守る立場にあるんだと、このように考えております」
“出家詐欺”報道
しかしNHK「クローズアップ現代」で「出家詐欺のブローカー」と紹介された男性が「やらせだった」と訴えた問題で、高市総務相が15年4月、「報道は事実をまげないでする」という「番組準則」に抵触するとして、NHKを厳重注意(行政指導)しました。自民党もNHK幹部を聴取しました。
これに対してBPO放送倫理検証委員会は「NHK『クローズアップ現代』“出家詐欺”報道に関する意見」で次のような批判を展開しています。
「自民党に所属する国会議員らの会合で、マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番、自分の経験からマスコミにはスポンサーにならないことが一番こたえることが分かった、などという趣旨の発言が相次いだ。メディアをコントロールしようという意図を公然と述べる議員が多数いることも、放送が経済的圧力に容易に屈すると思われていることも衝撃であった」
「今回の『クロ現』を対象に行われた総務大臣の厳重注意や、自民党情報通信戦略調査会による事情聴取もまた、このような時代の雰囲気のなかで放送の自律性を考えるきっかけとするべき出来事だったと言えよう」
「放送事業者自らが、放送内容の誤りを発見して、自主的にその原因を調査し、再発防止策を検討して、問題を是正しようとしているにもかかわらず、その自律的な行動の過程に行政指導という手段により政府が介入することは、放送法が保障する『自律』を侵害する行為そのものとも言えよう」
「番組準則」は倫理規範か法規範か
BPOは「番組準則」は倫理規範だと主張し、放送法の所管官庁である総務省は罰則を伴う法規範との立場です。
新聞や雑誌、インターネットと違って、放送にだけ「政治的公平」や「多角的な論点」が求められているのは、放送のために周波数を使用できる放送事業者の数が限定され、テレビやラジオが大きな社会的影響力を持っているからだというのが定説になっています。
総務省の情報通信白書によると、主なメディアの平日1日の平均利用時間(14年)は、テレビ(リアルタイム)視聴が170.6分、テレビ(録画)が16.2分、ネット利用が83.6分、新聞閲読が12.1分、ラジオ聴取が16.7分です。
新聞通信調査会の「メディアに関する全国世論調査」(15年)では、情報の信頼度は(1)NHKテレビ70.2点(2)新聞69.4点(3)民放テレビ61点(4)ラジオ59.7点(5)インターネット53.7点(6)雑誌45.5点となっています。
テレビの社会的影響力の大きさはインターネット時代になっても日本では変わらないようです。この問題で一番大切なのは放送に携わるNHKや民放の姿勢であることは言うまでもありませんが、放送免許付与の権限を持つ総務相が権力の監視機関であるNHKや民放の「政治的公平」を監督する仕組みはどうみても利益相反です。
海外では国家統制や政治と放送事業者の癒着を防ぐため英国のオフコムのような政府から独立した機関が放送倫理をチェックしています。放送内容に関して総務相の監督を受ける放送と規制のないインターネットの融合はすぐそこに迫っています。所管官庁の総務省の権限を強化するのではなく、BPOに一定の公的な権限を与えて政治と放送事業者の間に適度な距離を設けるのが正しい対応ではないでしょうか。  
1000万円近くが闇? 高市早苗総務相が政治資金不正で刑事告発! 2016/5
テレビマスコミでは連日、舛添要一東京都知事の政治資金私的流用疑惑が報じられているが、その裏でいま、安倍政権の重要閣僚にも“政治資金不正疑惑”が浮上しているのをご存知だろうか。
安倍首相の側近中の側近である高市早苗総務相が、5月10日、政治資金規正法違反の疑いで奈良地方検察庁に告発されたのだ。告発したのは、市民団体「落選運動を支援する会」。同会は、高市総務相や自民党の奥野信亮衆議院議員が関係する収支報告書に、記載されていない巨額の「寄付金」が存在することを明らかにし、これが「闇ガネ」として支出されている可能性があるとして、奈良地検に刑事告発したのである。
同会がHPに掲載している告発状によれば、その不正はこうだ。
奥野議員は奈良2区選出で「自由民主党奈良県支部連合会」(以下、県支部連)の代表を務めているが、その2012年分収支報告書には、12年8月21日に、高市氏が代表の「自由民主党奈良県第二選挙区支部」(以下、第二選挙区支部)へ、440万円を「交付金」として寄附したとの記載がある。また2013年にも、同じく「県支部連」から「第二選挙区支部」へ435万円の「交付金」を寄附した旨が記載されていた。
だが、高市氏の「第二選挙区支部」の12年及び13年分の政治資金収支報告書には、この「県支部連」から「交付金」を受領した旨がまったく記載されていなかったのだ。それだけでなく、14年「奈良県トラック運送事業政治連盟」が高市氏が代表をつとめる政治団体「新時代政策研究会」の「パーティー券購入代金」として支出した40万円、「奈良県薬剤師連盟」の「第二選挙区支部」への5万円の寄付、同じく「自由民主党奈良県参議院選挙区第一支部」の5万円の寄付もまた、高市氏側の収支報告書に記載がなかった。この計925万円分について、「落選運動を支援する会」は政治資金規正法第25条第1項第2号(不記載罪)に該当すると指摘している。
言っておくが、この問題は単なる“政治資金収支報告書の記載漏れ”ではない可能性が高い。
というのも、事実として高市氏の選挙区支部へ1000万円近くが流れていながら、高市氏側は未記載にしていたのである。ただのミスなら支出とのずれが生じるはずだが、各収支報告書の支出項目にはそれぞれの金額に相当するずれがない。つまり高市氏らは、その金を何か“公になってはマズい支出先”へと流していた可能性が浮上しているわけだ。実際、この未記載を明らかにした「落選運動を支援する会」も、告発状で「言わば『闇ガネ』として支出したとしか考えられない」と糺弾している。
いうまでもなく、高市氏は安倍内閣の総務大臣という、行政の重要ポストに就いている政治家だ。これまでも高市氏には、カネをめぐる疑惑がたびたび浮上しており、たとえば昨年には「週刊ポスト」(小学館)が、高市氏の大臣秘書官をつとめる実弟が関わったとされる「高市後援会企業の不透明融資」をスクープしている。こうした“疑惑の宝庫”たる人物に、またぞろ不透明な資金の流れが発覚した以上、本来、権力の監視が責務であるマスメディアは追及へ動き出す必要がある。
ところが、今回の高市氏らが刑事告発されてから1週間が経つにもかかわらず、この「闇ガネ」疑惑を詳細に報じたのはウェブメディアの「IWJ」ぐらいで、大マスコミは完全に沈黙を続けているのだ。
たとえば新聞各社は、共同通信と時事通信が告発状提出の記事を提供しているのに、中日新聞や北海道新聞などのブロック紙や地方紙がかろうじてベタ記事で報じただけで、朝毎読、日経、産経という全国紙は一行たりとも触れなかった。またテレビメディアは前述の通り、舛添都知事を政治資金流用問題でフクロ叩きにしている一方、高市総務相の政治資金疑惑については各社一秒も報じていないのだ。どうしてか。
ひとつは、高市氏が安倍首相から寵愛を受ける有力政治家で、電波事業を管轄する総務大臣だからだ。マスコミ、とりわけテレビメディアは安倍政権からの相次ぐ圧力に萎縮しきっており、高市総務相の口から「電波停止」発言が飛び出すというとんでもない状況すら許してしまっている。
さらに訴訟圧力の存在もある。前述のように「週刊ポスト」が「高市後援会企業の不透明融資」を報じた際、高市氏の実弟が「週刊ポスト」の三井直也編集長(当時)や発行人などを民事、刑事両方で告訴するという高圧的手段に出て、小学館をゆさぶった。これが要因のひとつとなり、小学館上層部が三井編集長を就任わずか1年で交代させるという異例の人事に結びついたと言われる。
おそらく、今回浮上した高市氏の「闇ガネ」疑惑も、こうした圧力を恐れたマスコミは見て見ぬ振りをしているのだろう。そう考えると、仮に検察が動き出したとしてもマスコミが積極的に疑惑を追及する可能性は低い。たとえば高市総務相が記者会見で「記載がなかったのは単純ミス」などと釈明したら、一切の批判的検証をせずその言い分を垂れ流すのは火を見るよりあきらかだ。
前にも書いたことだが、現在血祭りにあげられている舛添都知事の場合、もともと安倍首相と不仲なこともあり、官邸はマスコミに事実上の“ゴーサイン”を出していて、すでに次の都知事候補者の選定も始めているとの情報も聞かれる。事実、安倍首相の右腕のひとりである萩生田光一官房副長官は、一昨日の5月15日、『新報道2001』(フジテレビ)に出演し「舛添都知事の会見は非常にわかりづらかった」と批判した。ようするに安倍政権にとって“舛添切り”は既定路線となっており、だからこそ、テレビも新聞も思いっきり舛添都知事を叩けるのだ。
しかし、高市総務相など閣僚、有力自民党政治家の場合、対称的なまでに沈黙する。しかも今回は自民党奈良県連が絡んでおり、各社が追及していけば連鎖的に新たな疑惑が浮上する可能性があるにもかかわらずに、だ。
繰り返すが、本来、メディアの役割は「権力の監視犬(ウォッチドッグ)」である。だが日本のマスコミは、権力に「待て」と言われれば下を向いてしゃがみこむ、いわば「権力の忠犬」だ。せいぜい、衰弱した一匹狼にたかって噛みつくことしかできない。どうやらそういうことらしい。 
高市早苗総務相に計925万円もの「闇ガネ」疑惑が浮上! 2016/5
安保法案の強行採決に賛成した議員らへの落選運動に取り組む「落選運動を支援する会」が2016年5月10日、自民党の高市早苗総務相(奈良2区)、奥野信亮(おくの しんすけ)議員(奈良3区)の2人を政治資金規正法違反の疑いで奈良地方検察庁に告発した。2人の収支報告書から、高市氏に計925万円、奥野氏に327万9400円の「不記載」が見つかったという。告発状は、いずれも「闇ガネ」である可能性を指摘している。
2人はいずれも奈良県選出の衆議院議員。4区あるうちの1区では民進党(当時・民進党)の馬淵澄夫議員が当選しているため、奈良県選出の自民党衆議院議員の過半数に政治資金規正法違反の疑いが浮上したことになる。
刑事告発された3人のうちの1人、高市早苗議員は、現職の大臣である。告発が受理され、起訴に至れば、大臣の辞任は必至。甘利明元経済再生担当相の失脚に続き、大物閣僚が辞任に追い込まれれば、安倍内閣はもたないのではないか。そうなれば解散・総選挙もありうる。政局にも今回の刑事告発が影響を与える可能性は否定できない。
「落選運動を支援する会」の呼びかけ人の一人で、今回の告発人でもある上脇博之神戸大学大学院教授は、IWJの取材に対し、「1人の収支報告書を調べていっても限界がある。(各都道府県には)支部連があるので、収支報告書などで関連をみていくとつながっていく」と述べた。今回、奈良県選出の自民党議員全員に「政治資金規正法違反」の疑いが明らかになったことについては、「自民党・奈良県支部連合会の体質というよりは、他の県でも調べれば出てくるかもしれない。もはや自民党の体質自体の問題ではないか」と話した。
高市早苗総務相に計925万円もの「闇ガネ」疑惑
高市早苗総務相に対し、「政治資金規正法違反」の疑いを指摘した。告発状は、計925万円もの「闇ガネ」疑惑を指摘している。
「奈良県支部連」(代表・奥野信亮)が奈良県選挙管理委員会に提出している2012年分の政治資金収支報告書の支出欄には、高市氏が代表を務める「自由民主党奈良県第二選挙区支部」に対して同年8月21日に440万円を「交付金」として寄附した旨の記載がある。ところが、「第二選挙区支部」の政治資金収支報告書には、「県支部連」からの寄附の受領については一切記載されておらず、2013年には、435万円が同様に不記載になっていたという。
それぞれの受領寄附440万円と435万円について、告発状は「闇ガネ」として支出したとしか考えられない」と断じ、政治資金規正法第25条「不記載罪」に違反すると指摘した。
また、2014年には「奈良県薬剤師連盟」と「自由民主党奈良県参議院選挙区第一支部」が、高市氏が代表を務める「第二選挙区支部」にそれぞれ5万円ずつ寄付しているが、「第二選挙区支部2014年分収支報告書」には、いずれの記載もなかったという。
さらに同年、「奈良県トラック運送事業政治連盟」が、これも高市氏が代表を務める政治団体「新時代政策研究会」に対し、「パーティー券購入代金」として40万円を支出したが、「新時代政策研究会」の収支報告書には受領の記載がなかったという。
奥野信亮衆議院議員には計327万9400円の「闇ガネ」疑惑
自民党・奥野信亮衆議院議員には、計327万9400円の「闇ガネ」疑惑がある。
「自由民主党奈良県第二選挙区支部」(代表・高市早苗氏)の収支報告書によると、奥野氏が代表を務める「奈良県支部連」は、2014年に「第二選挙区支部」から122万円の会費が収められているはずが、県支部連の収支報告書にはそれが記載されていない。
また、「奈良県歯科医師連盟」は2014年分の収支報告書で、こちらも奥野氏が代表を務める「自由民主党奈良県第三選挙区支部」へ5万円の寄付をした旨を記載しているが、「第三選挙区支部」の収支報告書にはこの5万円の受領が記載されていないという。告発状は、この受領政治資金計127万円の不記載について、やはり「闇ガネ」として支出された可能性を指摘している。
さらに「第三選挙区支部」の収支報告書には、「第三選挙区支部」が「奈良県支部連」から2011年に88万1400円、2012年に81万2400円、2013年に31万5600円をそれぞれ受領した旨が記載されているが、「奈良県支部連」の収支報告書にはこれらの寄付の記載がない(不記載罪)という。告発状は、この計200万5400円について、「出所不明金」の「闇ガネであったとしか考えられない」と指摘している。 
2017
離婚の高市大臣“肉食自伝”の衝撃 2017/7
〈たくさん恋をした。人生の節目節目に男性と出会い、悲しい別れもあった〉――今から25年前、高市早苗総務相(56)が31歳の頃の告白だ。
19日に14年連れ添った山本拓衆院議員(65)との離婚を発表。結婚当初から「政界きっての“肉食女子”とみられていた彼女が10歳上の冴えない山本さんを選ぶとは」と政界関係者の間ではささやかれてきたが、高市大臣の“肉食伝説”がうかがえる「幻の本」がある。
1992年の参院選に初出馬(落選)する1カ月前に刊行した自伝的エッセー、「30歳のバースディ その朝、おんなの何かが変わる」(大和出版)だ。
プロローグで〈恋の話をいっぱい書くことにした〉〈「頭の中は恋のことでいっぱい」のプライベートライフには呆れられてしまうかも〉と宣言した通り、男性遍歴を赤裸々に記している。驚くのは〈お酒の思い出といえば、地中海で、海の見えるホテルの部屋で、飲みィのやりィのやりまくりだったときですね〉と、カンヌでの情事まで洗いざらいブチまけていること。
〈それでウフフフフ……。朝、寝起きに熱いシャワーを浴びながら、彼が選んでくれた極上の赤ワインをいきなり飲み始める。バスローブのまま〉〈ルームサービスを食べるときも当然、ベッドで裸の上にブランケットを巻いたまま〉〈彼がすばらしいテクニックを持っていることは言うまでもない。トコトン、快楽の境地におぼれられる相手じゃないと話にならないわけ>――やれやれ。
全編これ、バブル臭が漂うが、気になるのは、高市大臣が恋に落ちる男性の特徴だ。本編には7人の交際男性が出てくるが、年上と分かるのは1人きり。執筆当時も年下男性と付き合っていたようで、〈三〇歳を過ぎて二五歳の若いピチピチした男の子をたぶらかすなんて、犯罪じゃないかという気がしていた〉〈でも、私は二〇代のときよりもいまのほうがいいカラダをしているかなって思う〉と打ち明けている。
やはり10歳上の山本氏には荷が重すぎたか……。あとがきを〈頑張っている同性の皆さん、一度っきりの人生だもの、自分に気持ちいいように生きようネ!〉と締めた高市大臣。今度はぜひ年下のテクニシャンを見つけてください!  
2018
奈良地検が高市早苗・前総務大臣に対する刑事告発を受理 2018/5
奈良地検は、志岐武彦氏と筆者が連名で申し立てていた高市早苗・前総務大臣に対する刑事告発を受理した。志岐氏が22日に、奈良地検とコンタクトを取って分かった。
この事件は、メディア黒書でも繰り返し報じてきたが、再度概要を説明しておこう。端的にいえば、高市議員によるマネーロンダリングを問題視したのである。同様の事件で森ゆうこ議員も、志岐武彦氏が告発し、地検はそれを受理している。
その悪質極まりない手口を理解するためには、あらかじめまず政治献金の還付金制度に言及しなければならない。
還付金制度 / 議員が代表を務める地元の政党支部などへ有権者が政治献金を行った場合、税務署で所定の手続きをすれば、寄付した金額の30%が戻ってくる。たとえば1000万円を寄付すれば、300万円が戻ってくる。このような制度を設けることで、政治資金の支出を活発にしているのであるが、逆説的に考えると、寄付された金額の30%は税金から補填される構図になっている。当然、厳正に運用されなければならない。それゆえに、租税特別措置法の41条18・1は、還付金制度適用の例外事項を設けている。つまり、「寄付をした者に特別の利益が及ぶと認められるものを除く」と定めているのだ。「特別の利益が及ぶ」場合とは、具体的にどのようなケースなのだろうか。結論を先に言えば、議員が自らの政党支部に自分の金を寄付して、還付金を受ける場合である。たとえば議員が1000万円を自分の支部へ寄付して、それに準じた還付金を受けるケースである。この場合、献金が政党支部に1000万円入るほかに、議員個人にも還付金が約300万円入る。政党支部の長を議員が務めるわけだから、「1000万円+300万円」は議員の手持ち資金となる。金を移動させるたけで、金がふくらむのだ。これがマネーロンダリングである。
税の騙し取り以外のなにものでもない。
高市議員のケース、一部は時効
高市議員はこの制度を利用して2012年(平成24年)に、1000万円を自分の支部へ寄付して、約300万円の還付金を受けたのである。
他年度にも同じ手口を使っているが、すでに時効になっており、刑事告発の対象は、2012年度分だけになった。
所得税法にも抵触
既報しているように、この事件は2017年2月に、最初の刑事告発を奈良地検に対して行った。本来は租税特別措置法違反を理由にするのが妥当だが、この法律には罰則規定がないので、詐欺罪で告発した。
しかし、奈良地検は告発を受理したものの、不起訴と結論づけた。詐欺には該当しないと判断したのである。
その後、議員による自身の支部への寄付と、それに伴う還付金の受領が所得税法にも抵触することが分かった。参考までに所得税法の第238条の1を引用しておこう。言葉の相関関係が複雑で、分かりにくい文章だが、「偽って税還付を受けた者は、10年以下の懲役か、1000万円以下の罰金を課せられる」とする論旨である。
第二三八条 / 偽りその他不正の行為により、第百二十条第一項第三号(確定所得申告に係る所得税額)(第百六十六条[非居住者に対する準用]において準用する場合を含む。)に規定する所得税の額(第九十五条[外国税額控除]の規定により控除をされるべき金額がある場合には、同号の規定による計算を同条の規定を適用しないでした所得税の額)若しくは第百七十二条第一項第一号若しくは第二項第一号(給与等につき源泉徴収を受けない場合の申告)に規定する所得税の額につき所得税を免れ、又は第百四十二条第二項(純損失の繰戻しによる還付)(第百六十六条において準用する場合を含む。)の規定による所得税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
高市早苗衆院議員、不起訴 奈良地検「嫌疑なし」 2018/8/29
奈良地検は28日、東京都の男性ら2人が高市早苗衆院議員(奈良2区)を所得税法違反の罪で告発した事案について、同日付で不起訴処分にしたと発表した。地検は処分理由について「嫌疑なし」としている。
告発状によると、高市氏は自身が代表を務める「自由民主党奈良県第2選挙区支部」の会計責任者と共謀し、平成24年11月20日〜12月17日、同支部から高市氏に計1220万円を移動。うち1千万円を寄付を装って同支部に戻し、租税特別措置法における寄付金控除の優遇措置を利用し、不正に約300万円の還付を受けたなどとしていた。 
評論家から代議士になった高市早苗 1994/2
高市早苗スタッフの告発
私は高市早苗さんの選挙スタッフとして、彼女の性格や人間像を自分なりに見てきました。昨年11月、テレビ朝日の椿前報道局長から名指しで「テレビのおかげで当選した」と栗本慎一郎氏や海江田万里氏などとともに言われた時、高市さんが「私のところにはあまり取材が来ていない」と反論していたのには苦笑させられました。彼女の当選は、かなり前からテレビを含めてマスコミをうまく使ったものだったからです。
高市さんは自分の上昇志向のためには何でも利用するところがありました。前回の参議院選挙の時にもテレビを徹底的に利用し、地元のNHKを始め東京から取材に来たテレビ局の取材には極力懇切丁寧に対応するようにしていました。スタッフの間にも「テレビなどマスコミ取材は受ける」と言い張っていたのです。
彼女の選挙のやり方は私の知る限りマスコミを徹底的に利用しようというものでした。彼女は早朝など、かなり機嫌が悪い時でも、マスコミには出来る限り会うように努めていたようです。
高市さんは最初有権者を馬鹿にしていたところがありました。例えば「朝まで生テレビ」に出ていたデーブ・スペクター氏や栗本慎一郎氏ら有名人を東京から呼びつけ、講演会を開けばいいだろう、とタカをくくっていました。大阪からは西川のりお氏などお笑いタレントまで呼んでいました。彼女はどこかで自分が有名人だから奈良の県民は有名人を呼べば喜ぶだろうと思っていたに違いありません。しかも、お金の受取りを拒否した栗本氏以外、タレントにはお金を払って呼ぶという興行的な戦略を取っていました。スタッフには「ボランティア選挙」を標榜して全然お金を払わないでおきながら、有名人なら高額の謝礼を払う、そんな彼女のやり方には、当然現場としては不満がありました。
そしてそのマスコミ戦略にはかなりの部分東京の「スタッフ東京」という会社がタッチしていました。後で述べますが、このスタッフ東京の役員と高市さんはかなり深い関係にあったようです。
私から見れば椿前局長が、「高市さんはテレビのおかげで当選できた」というのは当たっていました。あれだけテレビで名の売れたタレントを使っておきながら何故テレビのおかげでないと言いきれるのでしょうか。
高市さんの欺瞞性は見ていると至るところに現れていました。参議院選挙、衆議院選挙両方の選挙で、彼女の性格の二面性は携わっていた方であれば、誰でもわかっていたと思います。彼女のマスコミ戦略の部分はかなりスタッフ東京が行っていたようでしたが、これなど彼女が議員に当選することによって、メリットを双方に享受できるギブアンドテイクの関係だったのでしょう。
スタッフ東京は自分の所属するタレントである高市さんが出馬するとなると一も二もなく応援しようとなったようです。一度こんなことがありました。参議院選挙の時でしたが、彼女はアプラスという信販会社のCMに出ていました。ところが、彼女は契約途中で急に立候補を表明し、アプラスは結果的に大損害を被ってしまいました。後で聞いた話ですが、これも裏でスタッフ東京が、糸を引いていたようでした。この会社はいま日本新党の議員となった海江田万里さんとも懇意にしているようですが、アプラスにとってみればまさに踏んだり蹴ったりの話でしょう。自分勝手なやり方というよりも、彼女はどこか人の迷惑を考えないところがありました。
(この告発者は参議院選挙当時に手伝った選挙スタッフ。衆議院選挙でも高市の選挙を近くから見ていたという。しかしこの告発者にはいまだに当時の知り合いが多く、迷惑をかけないようにするため特別に匿名にしたいと申し入れがあった。)
利用できるものは何でも方式
参議院選挙当時、彼女は政治に新しい風を吹かせようというキャッチフレーズで一般の有権者を取り込むよう戦略を立てていました。そのために「ボランティア選挙」を標榜し、彼女の選挙を手伝う人間にはなるべくお金は払わないと言っていました。アメリカ婦りである彼女はアルバイトというかたちで選挙スタッフにお金を支払うことは悪であるという考え方でした。その方が確かに見栄えもいいですし、実際、そんな新しい考え方に魅力を感じて手伝っていた人も多かったのです。
実は高市さんの選挙を手伝いにマスコミからも人が来ていました。ある月刊誌の記者をやっている女性でしたが、この人は純粋に高市さんの生きかたに憧れ、意気に感じて選挙を手伝いに来ていたのです。彼女は粉骨砕身、高市さんに尽くしていました。例をあげれば高市さんが当時抱えていた雑誌の連載記事など、選挙で忙しくなったため、彼女が代筆し、書き上げていました。また選挙のほんのつまらぬ雑用さえ引き受けてやっていました。
ところが、この彼女でさえ選挙が終わると高市さんとは縁を切ってしまったのです。とにかく、後に述べますが、高市さんは誰であろうと利用価値の高い人間を利用していく、そんなところがありました。
前回の参議院選挙で高市早苗は自民党公認を得ようと様々な手を使って、画策していた。ところが、公認を獲得できないとなると一転無所属で立候補を表明、当時県連会長だった奥野誠亮を激怒させたと言われる。
真面目なボランティアが支えてくれていたにもかかわらず、ある時点から高市さんの選挙戦略は急速に金権選挙に近いものとなってしまいました。その原因はまさしく高市さんの性格にあります。それは「大きなものにはまかれろ」という彼女特有の考え方です。
もともと彼女は奈良の有力議員であった奥野誠亮氏に世話になっていながら、最後は自民党県連の意向を無視して出馬するという行動に出ましたが、以前から彼女は自民党に時々足を運び、奥野さんに挨拶をしていたのです。彼女が前回と今回選挙に出馬すると決まった時の奥野さんの怒りようといったら相当なものだったと聞いています。
高市さんは利用できるものと見れば政治家だろうが、やくざだろうが、誰にでも媚びを売りたがるところがありました。
こんなことがありました。奈良県には最大手の建設会社の浅川組があります。この浅川組は選挙好きで知られており、奈良で出馬する保守系の候補者であればどの候補者にも選挙応援に人を送るという建設会社なのです。しかもこの建設松広社は大阪の山口組系暴力団のある組と関係が深く、その一方でトップが県会議長をやっているという不思議な会社でした。ゼネコンが騒がれている昨今ですが、奈良の最大手のゼネコンである浅川組と高市さんはただならぬ関係にありました。というのは、高市さんの選挙は清新な選挙を標榜している手前、建設会社の支援を受けることなど言語道断だったはずですが、浅川組の方から支援したいということを言ってきて、それを受けてしまったのです。
高市事務所内には当然そのことに対しての反対意見がありました。ところが、高市さん自身の「どんなことをしても勝つ」という方針から浅川組に急速に近づこうといった方針になって行ったのです。高市さんはその浅川組の幹部に対しても、「どうぞよろしくお願いします」といって頭を下げていました。
選挙になれば確かにどんな人にも頭を下げなければなりませんが、この浅川組の選挙応援の目的が何であったのかは高市さんもわかっていたはずです。事実、その見返りという名目だったのでしょう。浅川組に対してもお金を払おうという話になったわけです。
奈良では確かに建設会社を抜きにしては選挙は語れません。この話はまとまって、浅川組にお金を払おうということになったようです。
出身母体の松下政経塾ともトラブル
高市さんは今でも参議院選挙の時の借金を抱えていると語っていますが、このようにおかしなことは枚挙に暇が無いほどでした。新しい選挙をやろう、奈良に新風を吹かせようと言いながら、その一方で選挙のプロを頼りにする。こんなことでは高市さんが国会に出てもきちんとした政治ができるのだろうかという意見は事務所の中にもありました。
例えば彼女は「私の大好きな自民党」というのが口癖で自民党の代議士秘書たちに応援を依頼していたようです。特に今の三塚派の議員とは高市さんは人脈的に近く、3人応援にかけつけてくれました。特に森喜朗氏の地元秘書のG氏はよく全体の指示をやっていました。
また事務所には毎日のように「この票を売りたい」とか「俺が選挙を仕切ってやる」という人が現れました。ようするに選挙でその政治家にたかろうという人たちです。それはあくまで選挙を金もうけとしか考えていない人たちだったのですが、高市さんにはこういう人たちを見分ける分別さえなかったようです。もともと前回の参議院選挙はこの高市さんの分別のなさが選挙戦を混乱させたと言えるでしょう。
高市さんとつきあって失敗した例に松下政経塾があるでしょう。当時松下政経塾は塾を挙げて高市さんを応援していました。松下政経塾からは全部で20人以上の人間が応援に来たと思います。常駐のスタッフとして現職の塾生や政経塾出身の議員秘書もいました。ところが、高市さんは選挙が終わると自分たちが出した使途不明金を松下政経塾のせいにしてしまいました。この問題は松下政経塾内で大きな問題になったそうです。
今回10人近くの国会議員を出した松下政経塾でしたが、この時は塾頭を始め幹部が高市早苗サイドに呼び付けられ、「一体どういう教育をしているんだ」と言われたらしいんです。参議院選挙での敗北は決して松下政経塾の責任ではありませんでしたが、この時高市サイドは敗北の責任を政経塾に押しつける一方で、その時出たと言われる数千万円の使途についても、いわば濡れ衣を着せるようなかたちになってしまいました。
この松下政経塾問題は当時週刊誌にも大きく取り上げられた。しかしその行方についてはウヤムヤのままに終わっている。
高市事務所のお金は経理担当の人間でもわからなくなるほど杜撰なものでした。参議院選挙の途中から高市さんは誰も信用できなくなったのか、自分の母親に任せるようになりました。ハッキリ言って、この時の使途不明金は当初から選挙に携わっていたスタッフたちには全く関係がありませんでした。しかし高市さんの周辺からは「誰々がいくらお金を取った」という話がどんどん漏れ伝わり、その犯人とされたのが、松下政経塾の塾生と大阪から来ていたT事務局長だったのです。T事務局長は、「私が5千万円選挙事務所から取ったと言われた」と怒っていました。もちろん、これは高市さん本人を含め、母親、それに弟で今回高市さんの第一秘書になったT氏周辺で言われていたことでした。
高市さん自身には確かに普通の人にはない華やかさがありました。特に他の奈良県選出の議員に比べると、政治不信が高まっている今、フレッシュさもある。しかしあくまでそれは遠巻きに見ているとそう見えるだけであって、近くで見れば見るほど彼女のアラは目立ってしまうのです。
最側近は家族固めの感覚
さらにとんでもないのは、彼女の家族です。彼女の母親は元奈良県警の事務員をしていて、よく「警察には顔がきく」と言っていました。どうやら母親は高市さんが一度も選挙違反を出さないのは自分のお陰だと思っていたようでした。
また、第一秘書だったT氏は当時から「平気で嘘をつく」と評判の人物でした。一見誠実そうに見えますが、根拠もなしに平気で出鱈目を言う。彼にはそんなところがありました。もともと先の松下政経塾やT事務局長とのトラブルもこのT氏の陰口から端を発していたと言えます。電話で言った何気ない一言がいつのまにか皆に漏れ伝わり、大騒動になってしまったからです。
今回の選挙もそうだったと聞いていますが、高市さんはスタッフより自分の家族のことを信用していました。確かに誰でも気心が通じている家族の方に信頼を置くというのは当然のことでしょう。ただ、しかしそれはあくまで一般の社会でのこと。選挙ではあくまでスタッフを信用できなくて、どうして選挙をやることができるのでしょうか。スタッフの間では「それほど家族がいいのなら家族だけで選挙をやればいいのに」という声が上がっていたほどでした。
結局、前回の参議院選挙と今回の衆議院選挙では家族をのぞいてスタッフはほとんど入れ替わってしまいました。前のスタッフのほとんどの人が高市さんから心が離れて行ったからです。
高市さんの選挙に関わった人が次々と離れていくというのは、今回の選挙にもありました。地元で唯一前の選挙から残った女性は選挙後、事務所を離れ、衆議院会館から来た第二秘書だったK氏も3カ月で高市事務所を離れていきました。あまり詳しい事情はわかりませんが、結局高市さんが外で見せる顔と内で見せる顔があまりに違い過ぎるからではないでしょうか。
確かに彼女の言うことは説得力があります。この人についていけば日本の政治が変わるのではないかと思わされたことも多くありました。しかし、実際に彼女の身近にいると、彼女の権力好きな面に辞易することがありました。
例えば、これは人から聞いた話ですが、今回の選挙で高市さんは大前研一さん率いる平成維新の会の推薦を取ることに躍起になっていたそうです。ところが、最初の一次選考に彼女は漏れてしまいました。その理由は彼女が「大前さんの軽井沢にある別荘に行ったことがある」と吹聴し、それがいつの間にか大前さんの耳に入って、逆鱗に触れたからだということでした。しかし、彼女はそれにもめげず二次で推薦を取り付け、今では平成維新の会が作る国会議員の集まりである平成クラブの幹部になっているそうです。
彼女は先輩やお年寄りの懐に入るのに天才的なところがありました。だからこそ今回の選挙で意外にも婦人の中年層にも食い込んだといえるかもしれません。これは彼女の持って生まれた政治家としての才能と言うべきでしょう。
高市は今回、前回の課題とされた女性層にも深く食い込み、トップ当選を果した。しかも、以前から世話になっていたと言われる奥野を抑えてであった。
男関係や肩書きでも疑惑が
当然そうなると男関係の噂もでてきます。選挙中も彼女の男関係が事務所の中で噂に上りました。まず、これは彼女も本の中に書いていますから誰でも知っていましたが、元の彼氏は松下政経塾の某氏。それに男性代議士、スタッフ東京の役員、事務所によく遊びに来ていた建設会社の幹部とも噂になりました。
よく彼女は選挙中にもかかわらず事務所の人間に黙っていなくなることがありました。噂が出る時はそんなときです。数時間いなくなるからです。そんなことは度々ありました。
彼女がアメリカに行った時に、彼女の弟のT氏がコンドームを送ったと書かれていますが、そのことも事務所内では「一体どういう人なんだろう」と評判を下げる結果になっていました。
また、彼女が信用を落としたのに「経歴の誇大広告」問題がありました。彼女は優秀でアメリカに行った時にパット・シュローダー女史の元で立法調査官をやっていたということは事務所のスタッフのいわば心の支えになっていましたが、これは選挙中から「ヤバいから使わない方がいい」という助言をしてくれる人が大勢いました。
アメリカ帰りの特派員や松下政経塾の人から直接「アメリカで彼女は立法調査官と呼べる仕事はやっていない」と聞かされたことは度々ありました。そう助言してくれた人は決まってこう付け加えてくれました。「この経歴では後々問題になるから、今のうちに直すように本人に進言しておいた方がいいよ」と― 。
参議院選挙では結局最後まで元立法調査官という肩書きを使い続けていました。すでに彼女は自著の中にその肩書きを使い続けていたからです。彼女は選挙後経歴が問題になったときに備えてシュローダーの事務所から高市さんが本当に働いていたということを示す書類まで用意していました。でも、今回の衆議院選挙ではこの肩書きをあまり使わないようにしていたようです。
ところが、『週刊現代』93年9月4日号で立法調査官という肩書きは評論家の桃井真と話し合って「訳したもの」であることが判明したのだ。
結局彼女の肩書きは誇大広告と言えるものでした。しかし、当時はスタッフが薄々気がついていても、口に出せないタブーであったのです。
結局、今回高市さんが当選できたのも、「どんな手段を使っても当選する」という彼女の気持ちが通じたということでしょう。マスコミを利用し、ゼネコンや出身母体の松下政経塾に禍根を残しても当選する。そんな彼女のやり方には議員としての大事なものは何かということを見失っていると感じざるをえません。
前の選挙の時に彼女は「当選できるならどんなことでもやります」と頭を下げたそうです。この言葉に彼女の無節操さが如実に現れているような気がしてなりません。彼女は今回の選挙でトップ当選したことによって、地元の評価を勝ち取りました。仮に今政治改革法案が通れば、奈良と生駒が選挙区になり、新生党の前田武志氏や社会党から参入すると言われる松原脩夫氏と競合して当選は難しくなると地元では言われているようです。しかし次回も当選するに違いないでしょう。いま彼女は無所属ですが、たとえ小選挙区制になろうと「どんな手を使っても」当選するはずです。
結局議員とは他人の屍の上に成り立っているものではないでしょうか。もし、そうだとするなら、彼女ほど政治家に向いているキャラクターの人間はいないと思うからです。 
 

 

 
甘利明

 

日本の政治家。自由民主党所属の衆議院議員(12期)、さいこう日本代表、自由民主党選挙対策委員長(第6代)・知的財産戦略調査会長。労働大臣(第65代)、経済産業大臣(第7・8代)、内閣府特命担当大臣(規制改革)、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、通商産業政務次官(宇野内閣・第1次海部内閣)、衆議院予算委員長、自由民主党政務調査会長(第54代)、自由民主党財務委員長、自由民主党行政改革推進本部長等を歴任した。戦国時代の武田氏の重臣で知られる甘利虎泰の子孫である。元衆議院議員の甘利正は父。
不祥事
国民年金保険料未納
2004年、政治家の年金未納問題が注目された際に国民年金保険料の未納が発覚したと報じられた(1986年4月から15年11か月間)。甘利は、議員年金と国民年金の両方に入らなければならないことに気付かなかったとして陳謝しつつも、社会保険庁から督促が来なかったとも述べている。
労働保険未加入
2009年1月、甘利の資金管理団体「甘山会」が、勤務するスタッフに対する労働保険に未加入のまま長期間放置していたことが発覚したと報じられた。労働保険の中でも労働者災害補償保険は、雇用者がいれば加入義務があると労働者災害補償保険法により定められており、未加入でスタッフを雇用するのは違法行為である。甘利の事務所は「アルバイトは加入の必要がないと誤解していた」と説明しており、「甘山会」は2009年1月に労働保険に加入し、2006年度分まで遡及して支払った。なお、2004年12月頃の時点で、自由民主党本部は関係する各団体に対し社会保険や労働保険に適切に加入するよう指導した、と指摘されている。なお、甘利は労働大臣経験者でもある。
URをめぐる口利き疑惑
2016年1月、千葉県の建設会社「薩摩興業」が2013年に道路建設をめぐり甘利側に都市再生機構(UR)に対する口利きを依頼し、見返りに総額1200万円を現金や接待で甘利側に提供したと、週刊文春が報じた。甘利は「社長が大臣室を訪問したのは事実」と認めたが「何をしたかは記憶が曖昧だ」と述べた。同月28日の記者会見で、薩摩興業側から2013年11月に大臣室で50万円、2014年2月には大和市の地元事務所で50万円を2回に渡り受け取ったことを認め、「秘書には政治資金収支報告書に記載するよう指示したが記載されなかった」と述べ、500万円については「秘書に政治資金収支報告書へ記載するよう指示したが実際には200万しか記載せず、300万は秘書Aが無断で私的流用していた」と述べた。この報道の影響で、1月28日に行われた会見で引責辞任を発表した。またこれ以降「睡眠障害」を理由に第190回国会を閉会まで欠席。2016年3月15日、弁護士グループ「社会文化法律センター」が、また4月8日には「政治資金オンブズマン」が、それぞれ、東京地方検察庁に甘利とその元秘書をあっせん利得処罰法違反で刑事告発した。これに対し、甘利の事務所は容疑を否認している。特別捜査部は5月、全員について嫌疑不十分で不起訴処分。両者は検察審査会への申し立てを行なったが、甘利については不起訴相当、秘書については不起訴不当。この不当議決を受けての再捜査の結果も嫌疑不十分で不起訴とされた。8月20日、告発可能な全ての事実について公訴時効成立。 
 
桜田義孝

 

日本の政治家、実業家、桜田建設会長。自由民主党所属の衆議院議員(7期)、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事。パチンコチェーンストア協会の政治分野アドバイザーを務める。 外務大臣政務官(第2次森改造内閣(省庁再編後))、内閣府副大臣(第3次小泉改造内閣)、文部科学副大臣(第2次安倍内閣)国務大臣(東京オリンピック・パラリンピック競技大会担当)(第4次安倍改造内閣)を務めた。
不祥事・失言
2013年10月5日、福島第一原子力発電所事故で発生した指定廃棄物の処理について「原発事故で人の住めなくなった福島の東京電力の施設に置けばいい」と発言した。桜田は発言について、「福島県全体を指したものではない」としたものの、指定廃棄物は発生した都道府県が処理することが国の方針となっていることもあり、双葉郡の首長や住民、福島県知事の佐藤雄平や自民党福島県連から批判された。文部科学大臣の下村博文は10月7日、桜田に対し口頭で注意を行った。
2016年1月14日、従軍慰安婦に言及して「職業としての売春婦だった。それを犠牲者だったかのようにしている宣伝工作に惑わされすぎだ」との発言をし、その日のうちに撤回した。
2019年5月29日、千葉市で開かれた猪口邦子参議院議員の政治資金パーティーで登壇し、「結婚しなくていいという女の人が増えている。お子さん、お孫さんには子供を最低3人くらい産むようにお願いしてもらいたい」と述べた。その後「少子化対策の一環として発言した。子供を持つ幸せを享受してもらいたいと心から思った。子育てしやすい環境をつくることが大事だと言いたかった」と強調。同時に「それを押し付けるつもりも、だれかを傷付けるつもりもなかった」と釈明した。
大臣在職時の不祥事・失言
特に桜田が大臣に就任して以降、以下のような大臣としての資質が問われかねない失言や言い間違い、振る舞いが相次ぎ、そのたびに物議を醸した。最終的に後述の東日本大震災に関する失言が決定的となり、大臣辞任に追い込まれる結果となった。
大臣就任会見で「東京オリンピック・パラリンピック競技大会担当大臣の桜田義孝です」と自己紹介するところを「東京ぱらんぴっく、ぱらぴっく、パラピック競技大会、東京パラリンピック競技大会担当大臣の桜田義孝でございます」と3回も間違えた上に「オリンピック」を飛ばして自己紹介した。
桜田は東京五輪・パラ五輪担当大臣のほか、サイバーセキュリティ戦略副本部長として事務を担当しており、2018年11月14日の衆議院内閣委員会で無所属の今井雅人議員から「自分でパソコンは使っているのか」という質問に対し、「25歳で独立してやっている。秘書とか従業員に指示してる。自分でパソコンを打つことはありません」と答弁した。国民民主党の斉木武志議員からイランの軍事施設がUSBメモリによって悪質なコンピューターウイルスに感染した事例を挙げ、「日本の原発もサイバー攻撃を受ける可能性がある」とした上で、「日本の原発にもUSBメモリはありますか」と質問された際には「使う場合は穴を入れるらしいが、細かいことは、私はよくわからないので、もしあれだったら私より詳しい専門家に答えさせるが、いかがでしょう」と答弁した。
英ガーディアンは、「もしハッカーが桜田大臣を標的にしても、何も情報を盗むことができない。彼は最強のセキュリティーかもしれない!」などとネット上での皮肉を報じている。
2018年11月5日の参議院予算委員会では、立憲民主党の蓮舫議員から聞かれた東京大会の基本コンセプトなどを即答できず、事務方の助けを借りながら答弁した。また大会予算の国の負担分「1,500億円」を「1,500円」などと言い間違えた。しかし五輪関連の支出は会計検査院の指摘を受け、桜田の指示で内閣官房が分析した結果、1,700億円になることが10月30日には報道されている。
2018年11月9日の閣議後の記者会見で、5日の参院予算委員会で自身がちぐはぐな答弁をしたのは蓮舫側から事前に質問通告がなかったためと主張したことについて、「事実上と若干違う」として撤回し、謝罪はしなかった。その上で「今後職務をしっかり全うできるよう努力していく」と語った。ただ、「事前に詳細な質問内容の通告をいただければ、充実した質疑を行うことができた」と改めて蓮舫への不満も表明。桜田はまた、蓮舫の名前を「れんぽう」と言い間違えた。桜田は5日の参院予算委でも同様の間違いをしている。11月13日、閣議後の記者会見で「ご迷惑をおかけしたことをおわびしたい」と関係者や国民に対して謝罪したが、「通告事項はあったが、もう少し詳しい聞き取りがあったらよかった」と改めて主張した。
2018年11月6日、閣議後の記者会見で、2020年東京オリンピックへの北朝鮮選手団の参加について見解を問われ「(所管)分野外だ」と回答。政府関係者は桜田の発言について「事実誤認」と認めた。なお、午後の報道各社のインタビューでは、従来の政府の立場に沿って「多くの国が参加されることは望ましい」などと発言を修正している。
2018年11月21日、衆議院内閣委員会で政治資金パーティーの「上限額は知っていた」が「法の規定に違反していないかの確認が十分でなかった」と釈明し、上限額を超える代金を参加団体から受け取っていたことについて謝罪した。
2018年11月22日、立憲民主党の篠原豪から防衛大綱について問われた際「防衛に関することは国防省だ」と、防衛省の名前を間違って発言した。
2019年2月12日、記者からの取材で競泳選手の池江璃花子が白血病と診断されたことを自身のTwitter上で公表したことに触れ、「びっくりした。病気のことなので、早く治療に専念していただいて、一日も早く元気な姿になって戻ってもらいたいというのが、私の率直な気持ちだ。金メダル候補で、日本が本当に期待している選手なので、がっかりしている。早く治療に専念して頑張ってもらいたい。また、元気な姿を見たい。日本が誇るべきスポーツ選手だ。最近水泳が盛り上がっていて、オリンピック担当相としては、オリンピックで水泳に期待している部分もある。1人リードする選手がいると、みんなつられて全体が盛り上がるので、その盛り上がりが若干、下火にならないか心配している」と発言。この発言のうち、「がっかりしている」や「盛り上がりが若干、下火にならないか心配している」という発言に対して、SNSなどで桜田に対する批判が続出し、翌13日の衆議院予算委員会でも取り上げられ、野党からは桜田の更迭を求める声まで上がった。同日の衆議院予算委員会では、オリンピック憲章について質問された桜田は「話には聞いたことがあるが、自分では読んでいない」と発言した。質問をおこなった階猛は、池江についての桜田の発言は憲章で謳われている「人間の尊厳」を理解していないものであると批判した。
2019年2月21日、午前の衆議院予算委員会で、立憲民主党・無所属フォーラムの今井雅人の質問に対し出席を求められていたが、予定時間を過ぎても現れず3分近く遅刻して出席した。桜田の遅刻に対し野党側は反発して退席し、午前中の質疑が空転する事態となった。関係者によれば桜田は直前まで執務室で答弁資料を読んでおり、審議が一度中断したため、質問開始が遅れると事務方が勘違いしたとのことである。野党側委員会筆頭理事の逢坂誠二は「何の理由の説明もなく3分遅れており、これ以上審議できない。政府・与党はたるみ切っている」「閣僚の任にあらずと言わざるを得ない」と批判。与党側からも委員会筆頭理事の田中和徳は「誠に遺憾と言わざるをえない」、公明党の北側一雄中央幹事会長も「もっと緊張感を持って対応してもらいたい」と指摘が相次ぎ、菅義偉内閣官房長官は同日午前の会見で「事務的ミスではないか。いずれにせよ委員会に遅れることはあってはならないことだ」と苦言を呈した。約5時間後の同日午後に委員会が再開したが、その席上で桜田は「心から深くおわびする。時間の判断を誤った」と陳謝した。この騒動で2019年度予算案について、与党側は同月28日の予算案採決は困難と判断し、目標としていた月内の衆院通過を見送る方針を固めた。
2019年3月24日、地元である千葉県柏市での集会に出席した桜田は、東日本大震災について「国道や東北自動車道が健全に動いたからよかった。首都直下型地震が来たら交通渋滞で人や物資の移動が妨げられる」と発言した。翌25日の参議院予算委員会では事実誤認であることを認め、撤回した。
2019年4月9日、参議院内閣委員会で、3月24日に宮城県石巻市で行われた東京五輪・パラリンピック関連のイベントを欠席したことについて、自由党の木戸口英司参議院議員から質疑を受けた際、答弁で「石巻市(いしのまきし)」を「いしまきし」と3度にわたり誤読した。なお、答弁後に謝罪している。
2019年4月10日、東京都内で行われた高橋比奈子衆議院議員のパーティーで挨拶した際、「(東日本大震災からの)復興以上に大事なのは高橋さんでございますので、よろしくどうぞお願いします」と震災復興を軽視するような発言をした。当初、記者団に発言の真意を問い詰められても「記憶にありません」と繰り返した。安倍内閣総理大臣は同日夜にこの発言を受けて、桜田を大臣から事実上更迭する方針を固め、桜田は同日に大臣の辞表を提出した。桜田は辞表提出後、「被災者の気持ちを傷付けるような発言をして申し訳ない。発言の撤回だけでは十分でないと思うので責任を感じ、辞表を提出した」と記者団に述べた。その日のうちに辞表は受理され、桜田の後任として前任者の鈴木俊一が復帰した。
なお、桜田の大臣在職中はサポートする秘書官に加え、さらに政府職員1名が大臣室のスタッフとして派遣されていた。これは大臣就任直後の臨時国会で桜田の答弁が迷走を続けた事態を受け、会期中の2018年11月7日付で大臣室のスタッフを1人増やし、2名体制で桜田の答弁や会見のサポートに当たっていた。その後、桜田の辞任を経て鈴木が後任となったことに伴い、通常の秘書官1名体制に戻された。 
 
田中良生

 

日本の政治家、内閣府副大臣。自由民主党所属の衆議院議員(4期)。元国土交通副大臣、経済産業大臣政務官。
立教高等学校(現・立教新座高等学校)を経て、1986年に立教大学経済学部を卒業。1991年にベンチャー企業のケイ・アール・ベンチャーを起業。
小学校や青年会議所の後輩である庄野拓也と共に立ち上げた蕨ケーブルビジョン専務取締役・代表取締役社長を歴任し、現在は取締役会長。日本青年会議所においても1997年に蕨青年会議所(現・とだわらび青年会議所)理事長、2001年に埼玉ブロック会長を歴任。
2005年の第44回衆議院議員総選挙に埼玉15区から自民党公認で出馬し、民主党現職の高山智司を破り初当選。
2009年の第45回衆議院議員総選挙に再選を目指して埼玉15区から出馬したが、高山に敗れ、重複立候補した比例北関東ブロックでも復活できずに落選。
2012年の第46回衆議院議員総選挙に埼玉15区から出馬し、前回敗れた高山を破って当選。
2013年9月、第2次安倍内閣において経済産業大臣政務官に就任(2014年9月、退任)。
2014年の第47回衆議院議員総選挙に埼玉15区から出馬し、3選。
2015年10月23日、自民党経済産業部会長に就任。
2016年8月5日、国土交通副大臣に就任(2017年8月、退任)。
2017年の第48回衆議院議員総選挙に埼玉15区から出馬し、4選。
2018年1月、第4次安倍内閣で内閣府副大臣(地方創生、拉致問題、規制改革、女性活躍、男女共同参画、少子化対策担当)に就任。
2018年10月、第4次安倍改造内閣で内閣府副大臣(金融、経済再生・経済財政)に就任。
所属団体・議員連盟
日本会議国会議員懇談会 / 神道政治連盟国会議員懇談会 / みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会
不祥事
公職選挙法違反
2013年に、参院選公示前に投票を依頼する文書を郵送したとして、埼玉県警から公職選挙法違反(法定外文書頒布、事前運動)の疑いで、公設第1秘書が書類送検された。依頼には次期衆院選で公明党の支援を得る狙いがあったとみられる。
政治献金問題
田中が代表を務める自民党支部が2012年、選挙区内にある蕨市が出資する第三セクターから計140万円の政治献金を受けていたことが明らかになった。政治資金規正法は、自治体の首長選などに関係する政党などへの三セクの寄付を禁じている。報道を受け、田中氏側は受け取った寄付を返還することを決めた。 
ヤジで副大臣辞任 首相「気を引き締めて」 2018/1/29
国会は29日から衆議院の予算委員会。安倍首相は、内閣府の松本文明前副大臣が沖縄県でのアメリカ軍機のトラブルをめぐる国会でのヤジで辞任したことについて「これまで以上に気を引き締めていく」と強調した。
沖縄県選出の自民党の国場議員は、松本前副大臣の「それで何人死んだんだ」とのヤジについて、「県民の心は深く傷つけられた」と政府の姿勢をただした。
自民党 国場幸之助議員「不適切な発言が議場で行われたことに対しまして、大変遺憾に思っております。沖縄ではこれまで米軍による事件事故で多くの皆様が犠牲になっております。県民の心は深く傷つけられました」
安倍首相「政治家はその発言に責任を持ち、有権者から信頼を得られるよう自ら襟を正すべきであります。沖縄の基地負担軽減をはじめ、各般の政策課題に、内閣としてこれまで以上に気を引き締めて取り組んでまいります」
また、安倍首相は「基地負担の軽減のため、できることはすべて行う」と強調した。
政府は早速、内閣府副大臣の後任に田中良生衆議院議員の起用を決め、信頼の回復に努める方針。