平成の総理大臣・政治家

竹下登(リクルート事件)宇野宗佑海部俊樹宮澤喜一細川護熙羽田孜村山富市橋本龍太郎小渕恵三森喜朗小泉純一郎安倍晋三福田康夫麻生太郎鳩山由紀夫菅直人野田佳彦野田政権解散衆院選後講釈諸説・・・
 

雑学の世界・補考   

総理大臣

竹下登   1987年11月6日-1989年6月3日(576日)
 島根県/早稲田大学商学部卒業/中学校教師/島根県議会議員/自由民主党総裁

宇野宗佑  1989年6月3日-1989年8月10日(69日)
 滋賀県/神戸商業大学中退/滋賀県議会議員/自由民主党総裁

海部俊樹  1989年8月10日-1990年2月28日(203日)
         1990年2月28日-1991年11月5日(616日)
 愛知県/早稲田大学第二法学部卒業/早稲田大学大学院法学研究科中退
 議員秘書/自由民主党総裁

宮澤喜一  1991年11月5日-1993年8月9日(644日)
 東京都/東京帝国大法学部政治学科卒業/大蔵官僚/自由民主党総裁

細川護熙  1993年8月9日-1994年4月28日(263日)
 東京都/上智大学法学部卒業/朝日新聞記者/熊本県知事/日本新党代表

羽田孜   1994年4月28日-1994年6月30日(64日)
 東京都/成城大学経済学部経営学科卒業/小田急バス社員/新生党党首

村山富市  1994年6月30日-1996年1月11日(561日)
 大分県/明治大学専門部政治経済科卒業/大分県議会議員/日本社会党委員長

橋本龍太郎 1996年1月11日-1996年11月7日(302日)
          1996年11月7日-1998年7月30日(631日)
 東京都/慶應義塾大学法学部政治学科卒業/呉羽紡績社員/自由民主党総裁

小渕恵三  1998年7月30日-2000年4月5日(616日)
 群馬県/早稲田大学第一文学部英文科卒業
 早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了/会社役員/自由民主党総裁

森喜朗   2000年4月5日-2000年7月4日(91日)
          2000年7月4日-2001年4月26日(297日)
 石川県/早稲田大学第二商学部卒業/日本工業新聞記者/自由民主党総裁

小泉純一郎 2001年4月26日-2003年11月19日(938日)
          2003年11月19日-2005年9月21日(673日)
          2005年9月21日-2006年9月26日(371日)
 神奈川県/慶應義塾大学経済学部卒業/議員秘書/自由民主党総裁

安倍晋三  2006年9月26日-2007年9月26日(366日)
 東京都/成蹊大学法学部政治学科卒業/神戸製鋼所社員/自由民主党総裁

福田康夫  2007年9月26日-2008年9月24日(365日)
 東京都/早稲田大学第一政治経済学部経済学科卒業/丸善石油社員/自由民主党総裁

麻生太郎  2008年9月24日-2009年9月16日(358日)
 福岡県/学習院大学政治経済学部政治学科卒業/麻生セメント社長/自由民主党総裁

鳩山由紀夫 2009年9月16日-2010年6月8日(266日)
 東京都/東京大学工学部計数工学科卒業/スタンフォード大学博士課程修了
 東京工業大学助手/専修大学経営学部助教授/新党さきがけ代表幹事/民主党代表

菅直人   2010年6月8日-2011年9月2日(452日)
 山口県/東京工業大学理学部応用物理学科卒業/弁理士/民主党代表

野田佳彦  2011年9月2日-2012年11月16日(442日)
 千葉県/早稲田大学政治経済学部政治学科卒業/松下政経塾出身/民主党代表
 
 
竹下登

 

1987年11月6日-1989年6月3日(576日)
経世会を結成した1987年(昭和62年)の11月に、中曽根康弘首相の裁定により安倍晋太郎、宮澤喜一の2人をおさえ第12代自民党総裁、第74代内閣総理大臣に就任した。
首相としては初の地方議会議員出身者で、同時に初の自民党生え抜き(初当選は保守合同後初の総選挙:1958年5月)であった。また竹下は昭和最後の総理大臣でもあった。
首相時代の答弁は「言語明瞭・意味不明瞭」と評され、回りくどい表現が多いことで有名だった。  
施策と事件
全国の市町村に対し1988年(昭和63年)から1989年(平成元年)にかけて地方交付税として一律1億円を支給するふるさと創生事業を実施した。
1988年(昭和63年)、野党や世論に強硬な反対意見が多かった税制改革関連法案を強行採決で可決し、日本初の付加価値税である消費税を導入した。
日米貿易摩擦の懸案の一つだった牛肉・オレンジについて、日米間の協議で輸入自由化することで合意した。
1988年(昭和63年)にリクルート事件が発覚し、政治不信が高まった。竹下自身の疑惑も追及され、秘書で竹下の金庫番といわれた青木伊平が1989年(平成元年)4月26日に自殺している。
現職首相として靖国神社に参拝しなかったのは石橋湛山以来。
こうした状況のなか世論の反発を受け、支持率がついに3.9%に落ち込むまでにいたり、財界も石原俊(経済同友会代表幹事、日産自動車会長)らが公然と竹下の退陣をせまり、1989年(平成元年)6月3日に内閣総辞職に追い込まれた。内閣総辞職直前には竹下登邸周辺でデモもおきた。この竹下邸は旧佐藤栄作邸である。
1987-1989

 

竹下総裁時代
第十二代総裁に選ばれた竹下新首相は、昭和六十二年十一月末開会の百十一回臨時国会の冒頭で、初の所信表明を行い、心の豊かさを志向する「ふるさと創生」を基調に、政治姿勢として「誠実な実行」を表明するとともに、「世界に貢献する日本」を目指して、内政と外交の一体化を称え、市場の自由化や経済構造調整にともなう諸改革を断行する決意を明らかにしました。新首相はさらに、「所得、消費、資産のあいだで均衡のとれた安定的な税体系の構築につとめる」と述べて、税制改革への強い意欲を示しましたが、翌昭和六十三年一月の施政方針演説では、税制改革を「今後の高齢化社会の到来、経済・社会の国際化を考えると、最重要問題の一つ」であると位置づけました。
野党はこれに対して、「大型間接税を導入しない、という中曾根前首相の約束に違反する」と言って猛反発しましたが、売上税廃案を決めた議長裁定は「直間比率の見直しも実現する」としており、これを誠実に実行することは、政権政党として当然の責務でした。ただし、竹下首相は、新間接税の策定に当たっては、逆進性、不公平感、過重負担、安易な税率引上げ、事務負担増、インフレ等、間接税導入に当たって懸念される六つの問題点の解消に努力すると述べて、「国民の納得のできる」税制改革とすることを強調したのです。
一方、竹下首相は、「世界に貢献する日本」の精神にふさわしく、初の外遊の対象として、六十二年暮にマニラで開かれたアセアン首脳会議への出席を選び、日本の国際的責任とアセアンの発展を踏まえた「平和と繁栄へのニュー・パートナーシップ」をうたいあげ、「アセアン・日本開発ファンド」の供与と、「日本・アセアン総合交流計画」を提唱しました。また首相は、六十三年一月には、双子の赤字の悩みから日本への批判が高まる米国を訪問し、レーガン大統領とのあいだで、世界における日米関係の重要性を再確認し合いましたが、とくに為替市場におけるドルの買い支えや在日米軍経費の負担増の申し出については、大統領から「心からの感謝」の意が表明されました。
この年は、米ソ間の緊張緩和が本格的となり、イラン・イラク戦争が停戦し、ソ連軍のアフガニスタン撤退が開始されるなど、世界が平和に向けて歩み出した年でした。そうしたなかで、竹下首相は、二月に盧泰愚大統領就任式出席のために韓国を訪問、四月に英国をはじめ西欧四ヵ国を訪問、五月に国連軍縮特別総会出席のために訪米、並びに欧州四ヵ国とECを訪問、六月にはトロント・サミット出席のためにカナダを訪問、七月に豪州二百年祭記念行事出席、八月には日中平和友好条約締結十周年にちなんで中国を訪問、さらに九月にはソウル・オリンピック開会式出席のため訪韓など、たてつづけに外交日程をこなしました。首相のこの一年間の外遊は、述べ五十九日間、九回におよんでいます。
こうしたなかで、竹下首相は、わが国の外交姿勢について、「平和のための協力の推進」と「国際文化交流の強化」と「政府開発援助(ODA)の拡充強化」という三つの柱からなる「国際協力構想」を打ち出しました。首相は、今後の国際社会の発展にとって各国間の相互理解の促進がとくに重要と考えており、わが国が文化交流という面からこれに力を入れる決意を示したことは、新たな視野を開くものでした。
しかし、国際経済面におけるわが国の影響力の増大にともなって、各国の日本に対する市場開放や開発途上国援助についての要請は急速に高まりました。なかでも、農産物輸入自由化、公共工事への外国企業参入問題等は、わが国の産業経済に大きな影響を与えるものであり、政府は対応に苦慮しました。前年に起こった日本企業のココム違反事件等が対日批判に拍車をかけたことも否定できません。
国内政策面で最も努力が払われたのは、税制改革の推進です。自由民主党が六月に決定した「税制の抜本改革大綱」の主な内容は、(1)所得税、住民税等の引き下げ、(2)法人税の引き下げ、(3)相続税の引き下げ、(4)資産課税の適正化、(5)間接税の改組・見直しと消費税(税率三%)の創設からなっており、サラリーマン中堅層に対する思い切った減税と新税創設の組み合わせでした。「大綱」の決定をうけて、自由民主党の中央・地方各組織は、国民各界各層の理解と協力を得るため、広報宣伝、研修会、講演会等の幅広い活動を展開しました。九月からは、竹下総裁自らが全国各地で税制改革懇談会、いわゆる「辻立ち」を行い、国民に税制改革の必要性を訴えたのです。
国会には、七月の百十三回臨時国会に、「税制改革六法案」が提出されましたが、折からリクルート問題が浮上したため、野党は証人喚問等を強く要求し、この問題の解明が行われない以上審議には応じられないと、態度を硬化させました。自由民主党は、リクルート問題と税制審議は切り離して行い、国民の理解を得るために与野党で話し合いを深めるべきだと主張しましたが、野党はこれを受け入れず、議事妨害や採決の欠席などの行為を重ねたので、国会は何度も空転し、実質的な審議はほとんどできませんでした。国会は、二度延長され、会期は十二月二十八日まで百六十三日にわたりましたが、これは臨時国会としては、史上空前の最長国会です。
結局、衆議院予算委員会で、野党欠席のまま税制改革六法案の自由民主党単独採決のやむなきにいたり、本会議では修正問題で公明、民社との合意が見られたため、社共欠席のみで可決されました。社共等の反対勢力は、参議院でも内閣不信任案や議運委員長解任決議案や各種問責決議案、さらには牛歩戦術などで抵抗しましたが、自由民主党は賛成多数でこれを成立させました。
シャウプ税制以来、実に三十八年、自由民主党が大平内閣以来、十余年の歳月をかけて全力を投じた抜本的税制改革がついに断行されたのです。この間、野党諸党が審議に応ずることなく、国民の税制に対する理解を妨げたことは、議会民主主義政治に背くものとして誠に遺憾であり、強く非難せざるをえません。
昭和六十三年は、国政レベルの選挙として大阪、佐賀、福島の参議院議員補欠選挙があり、大阪では敗れたものの、その他の二つでは勝利しました。特に福島での圧倒的な勝利は、その後の税制改革関連法案成立に向けて、大きな弾みをつけることになりました。また十県で行われた知事選挙では、一県を除いて、すべて自由民主党系候補が当選し、百二十九市の市長選挙でも、実に百二十四市において勝利をおさめました。この背景には、この年八月末の集計で、党員数が四百九十九万八千八百二十九名、党友数が七十七万八千百二十七名に達するほどの党勢拡大の努力がありました。これは過去最高をはるかに上回り、全国有権者数の五・六二%に達しています。
昭和六十四年が明けて間もなくの一月七日、日本全国民を深い悲しみが襲いました。前年秋から病いに伏されていた天皇陛下が崩御されたのです。すでに暮のうちからご容態が悪化していることが報じられ、国民は、日夜ご平癒を祈願しておりましたが、その願いも空しくなりました。故天皇陛下は、昭和元年のご即位以来、六十二年の長きにわたって在位され、常に国民の心の支柱になってこられ、この間、わが国が直面した内外の危機に当たって、はかり知れないご努力を尽くされました。この陛下のみ心こそ、戦後わが国民が祖国再建に立ち上がった力の源と言って過言ではありません。自由民主党は、全党を上げて心からの弔意を表し、陛下の安らかなお眠りを祈りました。
天皇陛下崩御に伴い、皇太子明仁親王殿下が皇位をご継承になり、元号も「平成」と改められました。自由民主党は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴である新天皇陛下のみ心を体し、わが国および世界の平和と繁栄のため、全力を傾けることを誓いました。
昭和天皇大喪の礼は二月二十四日、百六十四ヵ国、二十八国際機関の代表を含め約九千八百人参列のもとに、古式に則って執り行われました。
このようにしてはじまった平成元年は、自由民主党にとってきわめて厳しい年となりました。この年は、夏に重大な参議院選挙を控えていたにもかかわらず、前年来のリクルート事件の火の手がいっそう広がり、閣僚や政府高官、自由民主党の幹部や重要人物が関与していたことがわかって、国民の政治不信が一気に高まりました。この事件は野党幹部まで巻きこむにいたりましたが、政権政党である自由民主党に批判が集中したのは当然と言えます。しかも、税制改革関係法案の成立が前年の暮ぎりぎりまでかかったため、平成元年度予算の編成が遅れ、百十四回通常国会の再開は二月にずれこんで、予算が年度内に成立することは困難と見られました。国会は重要人物に対する野党の証人喚問要求でしばしば空転し、予算審議は遅々として進みませんでした。この間に行われた参議院福岡選挙区補欠選挙で、自由民主党候補が社会党候補に大敗したことは有権者の動向を示したものと言えます。
問題の深刻さを憂えていた竹下総裁は、すでに前年のうちに、党執行部に対して政治改革の具体策づくりを指示し、これを受けて党内に設置された「政治改革委員会」は、税制改革に続く新たな政治目標として抜本的な政治改革への取り組みを開始しました。この委員会は、党内外の意見を広く聴取して、「金のかからない選挙制度の実現」、「政治資金規正法の再検討」、「衆議院の定数是正」などを柱とする改革に乗り出し、三月には「政治改革大綱答申案」の起草委員会を設けて、答申の作成に取りかかりました。また、竹下首相は、これと並んで、首相の私的諮問機関として「政治改革に関する有識者会議」を設置し、五〜六月までに一応の考え方を示すことを要請しました。
首相は、通常国会冒頭の施政方針演説で、政治改革を「内閣にとって最優先の課題である」と位置づけ、政治不信の解消に取り組みましたが、党内にも強い危機感があふれ、政治の浄化を目ざす各種のグループが結成されて、さまざまな発言や提言を行いました。
こうした努力にもかかわらず、リクルート問題はついに党中枢を襲うにいたり、四月二十五日、竹下首相は、政治不信の責任を取って、退陣の意思を表明しました。この直後、予算はなんとか衆議院を通過したものの、もはや参議院選挙は目前であり、通常の手続きで後継総裁を選出できないことは明らかでした。このため、後継問題は党四役に一任されましたが、以後、六月二日の党大会に代わる両院議員総会で宇野宗佑外相が後継に決定するまでの過程は、全党にとって苦しみに満ちたものとなりました。
しかし、その間にも急がなければならなかったのは、国民に対する政治改革の姿勢の明確化です。四月末の「政治改革に関する有識者会議」の提言に次いで、五月下旬には、党政治改革委員会が、政治倫理に貫かれた公正、公明な政治の実現と現行中選挙区制の抜本改革を柱とする「政治改革大綱」を決定しました。また、続いて自由民主党は、党所属議員が起訴された事実を厳粛に受けとめて、「リクルート問題に関するわが党の措置」を決め、この問題に関係する議員に、司法上の責任の有無にかかわりなく、良識にもとづいて自ら対処することを求めたのです。
こうして、志半ばに終わった竹下政権でしたが、その最大の功績は、長年の懸案であった直間比率の是正を中心とする税制の抜本的改革を成し遂げたことでした。これが日本の将来にとってはかりしれない大きな意義を持つことは言うまでもありません。また、竹下首相は、"ふるさと創生"を称え、地方の活性化に力を尽くし、自主的な地域づくりを支援するため、全市町村に一律一億円の地方交付税を配分しました。今日これがさまざまの効果を上げつつあることは、国民のよく知るところです。さらに、竹下首相は、国際社会の要請にこたえて、「国際協力構想」を打ち出し、退陣の意思の表明後も、アセアン五ヵ国を訪問するなど、その誠実な実践につとめました。昭和から平成への転換のなかで、竹下政権は時代の課した役割を十分に果たしたと言うことができます。 
 
リクルート事件1

 

1988年(昭和63年)に発覚した、日本の贈収賄事件である。贈賄側の会社経営者や、収賄側の政治家や官僚らが次々に逮捕され、当時の政界・官界を揺るがす、一大スキャンダルとなった。この事件では、出版社・リクルートの関連会社であり、未上場の不動産会社、リクルートコスモス社の未公開株が賄賂として使われていた。
1988年(昭和63年)6月18日、朝日新聞が『川崎市助役へ一億円利益供与疑惑』をスクープ報道し、その後、リクルートにより関連会社リクルート・コスモス(現 コスモスイニシア)社未公開株が、中曽根康弘、竹下登、宮澤喜一、安倍晋太郎、渡辺美智雄など大物政治家に、店頭公開前に譲渡していたことが相次いで発覚する。90人を超える政治家がこの株の譲渡を受け、森喜朗は約1億円の売却益を得ていた。時の大蔵大臣である宮澤は衆議院税制問題等に関する調査特別委員会で「秘書が自分の名前を利用した」と釈明した。さらに学界関係者では、政府税制調査会特別委員を務めていた公文俊平にも1万株が譲渡されていたことも判明した。
東京地検特捜部は、1989年、政界・文部省・労働省・NTTの4ルートで江副浩正リクルート社元会長(リクルート社創業者)ら贈賄側と藤波孝生元官房長官ら収賄側計12人を起訴、全員の有罪が確定した。だが、政界は自民党では藤波、そして公明党の池田克也議員が在宅起訴されただけで、他は3政治家秘書等4人が略式起訴されたに留まり、中曽根や竹下をはじめ大物政治家は立件されなかった。 
経緯
1984年(昭和59年)12月 - 1985年(昭和60年)4月 江副浩正リクルート社会長、自社の政治的財界的地位を高めようと、有力政治家・官僚・通信業界有力者の3方面をターゲットに未公開株を相次いで譲渡(1984年12月20 - 31日39人、1985年(昭和60年)2月15日金融機関26社、4月25日37社、1個人)。
1985年(昭和60年)
10月 コスモス株店頭公開、上記譲渡者の売却益は合計約6億円といわれた。
1986年(昭和61年)
6月 藤波孝生元官房長官ら政財界へのコスモス株譲渡。
1988年(昭和63年)
6月 川崎駅前再開発を巡り、小松秀煕川崎市助役へのコスモス株譲渡を、朝日新聞がスクープ。 当時再開発が行われていた明治製糖工場跡地の再開発事業(かわさきテクノピア)に関して便宜を図った(具体的には本来容積率が500%のところを800%に引き上げて高層建築を可能とした)とされる。小松は助役を解職されるが、刑事事件としては不起訴処分となった。
7月 マスコミ各社の後追い報道により、中曽根康弘前首相、竹下登首相、宮沢喜一副総理・蔵相、安倍晋太郎自民党幹事長、渡辺美智雄自民党政調会長ら、自民党派閥領袖クラスに、軒並みコスモス株が譲渡されていたことが発覚。 / 森田康日本経済新聞社社長が、1984年(昭和59年)12月に受けた未公開株譲渡で8,000万円の売却益を得た事が発覚、社長辞任。 / 江副会長、「抑うつ症状」で半蔵門病院に入院。
9月 松原弘リクルートコスモス社長室長が、国会で未公開株譲渡問題を追及していた楢崎弥之助社民連衆議院議員に対し、手心を加えるよう贈賄を申込み。しかし、9月5日、楢崎らによって隠し撮りされた模様が、日本テレビ『NNNニュースプラス1』で全国放送される。
10月 東京地検特捜部、リクルート本社、コスモス社、松原自宅を家宅捜索。 / 東京地検特捜部、東洋信託銀行証券代行部を家宅捜索。コスモス社の株主名簿等を押収。 / 藤波元官房長官、真藤恒NTT会長、高石邦男前文部事務次官、加藤孝前労働事務次官へのコスモス株譲渡が発覚。
11月 東京地検、捜査開始宣言。松原を贈賄申込罪で起訴。 / 江副、衆議院リクルート問題調査特別委員会に、コスモス株譲渡者全リスト提出。 / 衆議院リクルート問題調査特別委員会、江副、高石前文部次官、加藤前労働次官を証人喚問。
12月 宮沢蔵相が辞任。 / 真藤NTT会長が辞任。 / 竹下首相、内閣改造を実施。 / 長谷川峻法務大臣、リクルートからの献金が発覚し、辞任。
1989年(平成元年)
1月 原田憲経済企画庁長官、リクルートがパーティー券を購入した事実が発覚し、辞任。
2月 参議院福岡選挙区補欠選挙、社会党新人渕上貞雄が自民党候補に圧勝。 / 検察首脳会議開催。同日、東京地検特捜部、江副前会長・小林宏ファーストファイナンス前副社長・式場英及び長谷川寿彦NTT元取締役をNTT法違反(贈収賄)容疑で逮捕。 / 鹿野茂元労働省課長(ノンキャリアで加藤の側近)を贈収賄容疑で逮捕。
3月 真藤前会長をNTT法違反(贈収賄)で逮捕。 / 加藤前次官、辰已雅朗リクルート社元社長室長を贈収賄容疑で逮捕。 / 高石前次官を贈収賄容疑で逮捕。同日、真藤前会長、加藤前次官らを起訴。
4月 竹下、記者会見で首相退陣表明。 / 青木伊平元竹下登在東京秘書が自殺。
5月 検察首脳会議開催。 / 東京地検特捜部、藤波元長官と池田克也元衆議院議員を受託収賄罪で在宅起訴。 / 衆議院予算委員会、中曽根前首相を証人喚問。 / 東京地検特捜部、宮沢前蔵相秘書を含む議員秘書4人を、政治資金規正法違反で略式起訴。同日捜査終結宣言。
6月 竹下内閣総辞職。 
判決
政界
藤波孝生元官房長官は受託収賄罪で起訴され、1989年(平成元年)12月、東京地裁で初公判が開始。1994年(平成6年)9月、東京地裁は藤波被告に無罪判決、検察側控訴。1997年(平成9年)3月、藤波被告の控訴審で逆転有罪判決、被告側上告。1999年(平成11年)6月、最高裁が藤波被告側の上告を棄却・有罪確定。2007年(平成19年)10月死去。 / 池田克也元衆議院議員は受託収賄罪で起訴され、1994年(平成6年)12月、東京地裁にて有罪判決・確定。 / 安倍晋太郎自民党幹事長の私設秘書、宮沢喜一大蔵大臣の公設秘書、加藤六月農水大臣の公設秘書と政治団体会計責任者の計4人に対して政治資金規正法違反で略式起訴。
文部省
高石邦男元文部事務次官は受託収賄罪で起訴され一審で懲役2年執行猶予3年、二審で懲役2年6ヶ月執行猶予4年。
労働省
加藤孝元労働事務次官は受託収賄罪で起訴され一審で懲役2年執行猶予3年。 / 鹿野茂元労働省課長は受託収賄罪で起訴され一審懲役1年執行猶予3年。
NTT
真藤恒元NTT会長はNTT法違反(収賄罪)で起訴され、一審で懲役2年執行猶予3年。 / 長谷川寿彦元NTT取締役はNTT法違反(収賄罪)で起訴され、一審で懲役2年執行猶予3年。 / 式場英元NTT取締役はNTT法違反(収賄罪)で起訴され、一審で懲役1年6ヶ月執行猶予3年。 / 元ファーストファイナンス社長はNTT法違反(収賄罪)で起訴され、一審で懲役1年執行猶予2年。
リクルート社
江副浩正元リクルート社会長は贈賄罪で起訴され、2003年(平成15年)3月、東京地裁にて懲役3年執行猶予5年の有罪判決。 / 元リクルート社長室長は贈賄罪で起訴され、一審で無罪、二審で懲役1年執行猶予3年。 / 小野敏廣元リクルート秘書室長は贈賄罪で起訴され、一審で懲役2年執行猶予3年。 
影響
これまでの疑獄事件と異なり、未公開株の譲渡対象が広範で職務権限との関連性が薄く、検察当局は大物政治家の立件ができなかった。しかし、ニューリーダー及びネオ・ニューリーダーと呼ばれる大物政治家が軒並み関わったことで、“リクルート・パージ”と呼ばれる謹慎を余儀なくされ、政界の世代交代を促した(この事件が無かったら、党内事情からいって、安倍晋太郎が次期首相になった公算が大きいという意見もある)。また、事件以降「政治改革」が1990年代前半の最も重要な政治テーマとなり、小選挙区比例代表並立制を柱とする選挙制度改革・政党助成金制度・閣僚の資産公開の一親等の親族への拡大等が導入されることになった。
この事件がきっかけとなって公職選挙法が改正され、収賄罪で有罪が確定した公職政治家は実刑判決ではなく執行猶予判決が出ても、公職を失職する規定が設けられた。
また、1989年(平成元年)7月の第15回参議院議員通常選挙で自民党は大敗、参議院過半数割れとなった(自民党にとって、リクルート事件、消費税導入、牛肉・オレンジの農産物自由化が“逆風3点セット”と言われ、竹下の後任の宇野宗佑の女性スキャンダルは女性有権者の反発を招いた。2010年(平成22年)現在に至るまで、自民党は参院選後における参議院単独過半数を回復していない。このため、自民党は政局安定の為に公明党や民社党など野党との連携を強いられることになり、後に参議院で過半数を得るために自社さ連立、自自公連立、自公連立など他党との連立政権を組むことになる。
リクルートとリクルートコスモス(現コスモスイニシア)はこの事件でイメージが悪化、これにバブル崩壊が追い討ちをかけ、リクルートはダイエーに身売りされ、江副浩正はリクルートを追われることとなった。 
リクルート事件2
リクルート事件とは?[事件のポイント]
戦後最大級の汚職事件(贈収賄事件)といわれる
1988年6月18日、朝日新聞のスクープ報道によって発覚。その後、朝日新聞社をはじめとした新聞各社の報道を中心に世間が過熱していく
報道内容は値上がりが確実であった株式会社リクルートコスモス(現在はコスモスイニシア)の未公開株が、政治家や官僚、財界人らに「賄賂」として贈られていたというもの
与党議員が多く疑惑に絡んでおり、当時導入が進められていた消費税とともに、国会にて野党による本事件への激しい追及がなされた
「政界ルート」「NTTルート」「文部省ルート」「労働省ルート」という4つの贈賄ルートがあったとされ、それぞれのルートで立件された
この事件によって閣僚、代議士、事務次官、NTT元会長、そしてリクルート関係者12名を逮捕、起訴。全員が有罪判決を受ける
また、中曽根康弘をはじめ、竹下登、宮澤喜一、安倍晋太郎ら大物政治家も株を譲渡されていたことが発覚しており、事件発覚から1年足らずして宮沢喜一は大蔵大臣を辞任(1988年12月9日)、竹下登内閣は総辞職をしている(1989年6月3日)
しかし大物政治家たちはいずれも逮捕を免れており、核心部分の解明がないまま終結
この事件によって国民の政治不信を起こし1993年の「55年体制の崩壊」などに結びつくなど、その後の日本政治の大転換をもたらすきっかけとなった 
メディア報道が映し出した「虚像」
1988/6/18
江副浩正
「助役が関連株取得 「リクルート」川崎市誘致時」との朝日新聞の報道は「寝耳に水の報道だった」といい、「問題とされたビルは、川崎駅西口の再開発のため小松助役から熱心に誘致されて建てたもので、リクルート側から何かを依頼したという事実はない」(『リクルート事件・江副浩正の真実』)と指摘。
朝日新聞
助役が関連株取得「リクルート」川崎市誘致時
公開で売却益1億円 資金も子会社の融資
スクープ報道として掲載。「株購入資金も、リクルートの子会社から融資を受けていた模様だ。株に絡んだ政治家の資金づくりが問題になっているが、今回、革新自治体の最高幹部が手を染めていることが明るみに出たことで、波紋を広げそうだ」
1988/7/7
江副浩正
江副氏の辞任を、朝日新聞を含めた5大新聞全てが一面トップで報道。江副氏は本書内でこのように語る。「私の会長辞任の記事が五大紙すべての一面トップで大きく扱われているではないか。・・・なぜこのように大きな報道になるのか。私の緊張感は急速に高まった。」メディアが大きく報道すれば報道するほど、世間の熱も高まっていく。江副氏の会長辞任が当時、ここまで世間から注目されていたどうかは定かではないが、江副氏の反応を見てもこの事件そのものの影響力がメディアによって高まっていく姿がうかがえる。
朝日新聞
江副リクルート会長辞任
関連株譲渡で引責 政界などに波及し決断
1面をはじめ、2、8、社会面で取り上げ、経済面(8面)には江副流経営を分析した記事を掲載。「個人的には社交ダンスの名手として知られ、リクルートの「顔」として、江副氏だけが目立った。その個人経営体質が、今回の事件の背景にあったともいえる」という文章で記事を締めくくる。
1988/7/25
江副浩正
『AERA』と朝日新聞社の共同インタビューの裏側の真相を江副氏は克明につづっている。『AERA』編集長の富岡隆夫氏から「単独インタビューに応じてくれたら、『“打ち方やめ”にする』という」申し入れがあった。江副氏は「受けるか否か迷ったが、「これで“打ち方やめ”にする」という言葉に惹かれ、あくまで『AERA』限りなら受けてもいい」という想いからインタビューを受けた。しかし、インタビューの場に来たのはAERAの人間だけではなかった。そこには、朝日新聞社の遊軍記者などもいた。「・・・『AERA』限りということだったのに話が違うと、生嶋(元産経記者)が粘り強く交渉したが、先方は一歩も引かない。多勢に無勢で、やむなく三〇分だけと条件を決め、インタビューを受けた。」またインタビューは30分を過ぎても終わらず、2時間ほどインタビューを行い、フラッシュを浴び続けたという。江副氏はこの後、体調不良(情緒不安定)で入院することになる。
朝日新聞
「政治家へ譲渡」の認識否定せず リクルート関連株で江副氏
江副浩正氏の単独インタビューの様子が朝日新聞に掲載。秘書との交際やコスモス株譲渡の動機について語られている。そして「涙声。『心の傷は死ぬ瞬間まで残る。死んでも残るかも知れない。私はもう社会復帰してはいけないと思っております』」という江副氏の言葉で締めくくられている。
1988/11/21
江副浩正
国会証人喚問の新聞報道を見て、また江副氏は驚くことになる。朝日新聞の「緊迫、どよめく委員会」という見出しに対しては、江副氏は「委員会は静かで、どよめきなどはなかった。なぜ、こんな見出しになるのだろうか」と疑問視する。新聞各紙は、「疑惑が深まる」という論調で見出し・記事を構成。しかし、江副氏は「本分を読むと何の疑惑が深まったのか」と疑問に思い、報道に恐怖感を覚える。果たして新聞の「煽る」見出しが、事実を表しているのか。我々も疑問を感じざるを得なくなるシーンだ。
朝日新聞
警察関係者にも株譲渡
江副氏、リクルート特別委で証言 民間人公表は拒む リストの不備で陳謝
江副氏の国会証人喚問を大きく報道。特にクローズアップしているのが警察関係者への株譲渡。14面には「追及され「警察関係に」 緊迫、どよめく委員会」という見出しとともに江副氏が一礼する姿を掲載している。街の声からは「本当のことをしゃべったらとんでもないことになるんでしょうね。それだけの質問をできる議員さんがいるのかどうか。川崎進出だって江副さんの戦略のほんの一部だと思う」など、江副氏が「本当のこと」を持っているなどの邪推が行われ、さらには国会への不信の声を聞くことができた。
1989/2/14
江副浩正
江副氏は2月13日に逮捕。そして拘置所に移送されるわけだが、そこで待ち構えていたのは大量のフラッシュであった。そこで江副氏は「これは“見せしめ”だ。私は被疑者に過ぎない」と憤る。拘置所に入る時間と拘置所への入り方をあらかじめメディアに伝え、まさに見せしめのような形でフラッシュをたかせる。まだ容疑者であるにも関わらず、そこには人権というものが見えてこない。これも一つの拷問ではないだろうか。
朝日新聞
リ社前会長・江副を逮捕 東京地検 NTTルートまず着手
株譲渡、贈賄と断定 式場・長谷川は収賄 贈賄で小林も
リクルート事件が朝日新聞を占拠したかと言わんばかりの大きな報道がなされており、社会面では「『軽薄短小』に“乗る”」という見出しとともに、江副氏がひたすら政界とパイプ作りに励む姿が、江副氏の落日を表現するかのように描かれている 。
メディアについて / 江副浩正
「いったんマスコミの批判の対象になると、そこと少しでもかかわりを持っただけで攻撃を受け、普段は問題にならないことが糾弾される。」
「メディアが捜査官で、検事が取調官。そのような構造は、司法の効率を上げるという点ではよいかもしれない。だが、検察がメディアを頼りに立件しているため、メディアが”第三の権力”となっていることを私は身をもって実感した。」
「メディアは倫理上の罪も区別せず報道する。」
「広告情報誌事業のリクルートと私の知名度があがっていったことが、メディアにとって「叩きがいがある」と思われていたことも、執拗な報道が続いた要因の一つであったと思う。」 
『江副浩正』の姿に迫る
1 リクルート事件から本書を上梓するまで「21年」の年月がかかった理由
―まず、リクルート事件が起きてから21年経った今、なぜ『リクルート事件 江副浩正の真実』という本を出版することになったのでしょうか。
「この本を出すには、21年という年月がむしろ必要だったと私は思います。判決が出たのが2003年で、執行猶予が終わったのが2008年です。この間に当事者の告白記を出すのは難かったという点は第一にあげられます。
もう一つの理由として、リクルート事件自体が非常に複雑だったという点があります。裁判自体も4つのルートに分けて行われていますし、対象になった人も政治家から有力財界人、そしてマスコミ関係者まで、たいへん幅広い。これほど各方面に広範な影響を与え、複雑すぎる事件は海外を見回しても滅多にありません。その当事者の告白記ですから、『すぐに当事者の体験をまとめて上梓する』などはできなかったのです。
充分な時間を掛けた結果、本書は事件の複雑な様相について、ほぼ網羅しつくした内容になっています。当時の記録に基づきながら、著者は自らの身に起きたことを、かなり突っ込んで、率直に記しています。
江副さん自身は、この本を書くことが、事件に対するご自身の決着の付け方であったと思います。それゆえ、決定版にすべく、また歴史的な批評に耐えうるよう、慎重に書き進めていきました。こうした事情も、事件から21年という時間が掛かった理由です。」
―21年間という年月は、江副さん自身の気持ちに整理がつくまでの時間でもあったということでしょうか。
「江副さんは若くして起業され、ベンチャー企業のトップでやってきました。そして51歳のときに突然、リクルート事件という大波を被ることになってしまったのです。本書の表紙の写真は東京拘置所に連れて行かれるときのものですが、一般の方でも、検察の人に両側を支えられて拘置所に連れて行かれるという体験は、相当ショッキングなものだと思います。まして、ずっと企業のトップでやってきた人、いわば成功をしてきた人が、51歳という年齢で急にそういう目に遭ったのです。天国から地獄へ突き落とされたかのような、想像を絶する辛さだったと思います。
壮絶な体験でしたが、本書で江副さんは、感情を極力抑えて、自分自身を客観的に見て執筆されていらっしゃいます。とはいえ、何度も鬱状態におそわれたことや、自身の家族そしてリクルート社員への思いなども点描されており、そこに異様な人間ドラマが読めるのではないでしょうか。
時代は違いますが、やはり東大出身のベンチャー経営者で、時代の寵児ともいわれたライブドアの堀江貴文さんも、ご自身のブログで、本書のことに触れています。『自分自身は拘置所にいた期間も短いし、江副さんほど激しい取調べは受けなかったので大丈夫だったけど、もし江副さんみたいな取調べを受けていたら、どうなったか分からないい』と書いていますね。」
―横手編集長は、江副浩正さんをどのような方であると思いますか?
「ベンチャーのトップとしての必要な能力を、1つの人格の中に集約して持っている方だと思います。もう70歳を過ぎていますが、その発想力や行動力、スピード感、切れ味のよさは健在ですよ。それから、とらわれのない人です。先入観がない。だから判断が素直なのです。だいたいわれわれは、何かを決めたり考えたりするときに、それまでの『常識』にとらわれてしまいますね。江副さんにはそれがない。ただいま目の前にある現状況に向かって、非常に合理的に、きわめて目的本意に、シンプルに判断できる。これはできるようで、できないことです。日々、ほんとうに啓発されますよ。
わたしのいる出版業界というのは、江副さん的な発想と比べれば、まさに対極にあるというか、きわめてお役所的なところです。内向きの『常識』や秩序感覚がたえず優先されるわけで、いわば自身のつくりあげた『とらわれ』ばかりで成り立っている世界です。わたしのいる会社はとくにそうです。
江副さんはぜったいに、われわれの世界にはいないキャラクターです。正反対だと言ってよいでしょう。だから、江副さんの今回の本が中央公論新社で出ることは、かなり不思議なことです。」
―具体的に江副さんに惹かれた部分を教えて頂けますか?
「前のところと重なりますが、なによりすごいと思ったのは、スピードです。いきなりトップギアになるみたいな、すごさがあります。そして、走るときは、2点間を1番短いルートで結ぶことができるというところ。
たとえば江副さんは、『この場で決めましょう。この場でアイデアが出てこないなら、持ち帰ったって出ませんよ』と言います。それから、江副さんは現場の人たちを直接呼んで話すのです。なにかを協議するときは必ず現場の人間と直接やりとりする。それで決めてしまう、すぐ行動に移させるわけです。『上の人は呼ばなくていい』というところがあります。わたしとしては、そういうわけにもいかないのですが(笑)。とにかく『この場で決めよう』となります。本人からよく、電話での指示が入りますよ。
これは江副さんが率直だからできることであって、たいしたものだと思っています。相手の肩書きとか、どういう背景を背負った人かは全く関係なく、その人と向き合ってビジネスをしようとする姿勢は一貫しています。たえず裸で付き合ってくれる印象があって、さすがです。魅力的ですよ。ただ、実際に部下になったら、そうとうキツイでしょうね(笑)。
江副さん自身は今年73歳になられましたが、若々しい人ですし、今でも若い人とすぐコラボレートできる独特のセンスをお持ちです。そういう意味では、付き合っていると若返りますね、私も。」
―今、江副さんはどのような活動をなさっているのでしょうか?
「江副育英会という財団法人におり、また、株式会社ラ ヴォーチェという、オペラの公演などをされる組織の代表をされていて、これらを通じて、社会的な活動をされています。
それもすばらしい活動だとは思いますが、わたしはぜひ、江副さんに経済人として復活してほしいと思っています。江副さんが健在なら、yahooも楽天もソフトバンクもなかったでしょう。少なくともいまの形ではなかったと思います。
現在の日本の閉塞感や経済の失速に、江副さんが事件によって沈黙させられてしまったことが大きいように感じています。ベンチャーの気風が日本の若者のなかから生まれにくくなった罪はあるはずで、21年前、江副さん的なものを嫉妬のあげくデリートしてしまったことは、歴史的にも悪影響のほうが大きいはずです。ソニーだってホンダだってもともとベンチャーだったわけで、それらが戦後経済を発展させ、日本の豊かな社会をつくっていったわけです。ところが、日本はベンチャーの闊達とした動きが弱くなった。江副さんを沈黙させた動きじたいが、20年殺しのように日本経済をいま『殺して』いるのです。
そうした現状をみても、江副さんが復活することは、かなり重要だと思っていますよ。もちろん江副さんのお気持ちなどは一切、前提にしておらず、あくまでわたしの個人的な願望ですが。」 
2 出版業界の「常識」を軽々と越境していくセンスに脱帽
―さきほど、ベンチャーのトップの良い点を1つの人格に集約されているとおっしゃっていますが、ベンチャーのトップの良い点について具体的にはどういうものがあると思いますか?
「なにより、新しいものに対して抵抗感なく受け入れることができることですね。私たちは普通、何かを考えるとき、業界のいろいろなしきたりや過去の情報を織り交ぜて考えると思いますが、江副さんはそういったところを平然と越境しますよね。
たとえばこの本には帯がついていないのをお気づきでしたか? わが社でもかなり抵抗があったんですよ。取次からも書店からも苦言があった。業界では帯をつけることが常識だったわけです。新刊帯という言葉もあるくらいで。それで流通している姿を見慣れているわけです。
ところが、実は、新刊に帯を入れないといけない理由なんて、別段ないわけです。これまでそうやってきたから、という理由だけなんですね。江副さんは、『表紙の写真が見えなくなるから、帯をつけなくていい』と言いました。『表紙の写真を見せる』という目的本意に考えている。どちらがよかったかは、最終的にはわかりません。でも、業界人の先入観を軽々と否定し、というか平気で飛び越えていき、目的本意で判断するという、そういうセンス自体が、わたしには重要なことだと思いました。ベンチャー的ですし、それはかなり『良い点』だと思います。」
―この表紙の写真は、当時新聞に掲載されていた写真と同じものですね。「あ、この写真!」という感じで、リクルート事件について書かれているということが、ダイレクトに伝わってきました。
「この本が出版されたとき、業界内からは『新刊だとは思わなかった』という声も聞かれたのですが、一般の方にとってみれば、新刊かどうかではなくて、この本が、買うべき本かどうか、ということが重要なんです。
だから、最初にこの本の表紙を見て、お金を出して買おうとした人の意識なり動機にストレートに着目できるというのは、江副さんという人が成功した理由だと思いますね。もちろんベンチャーと言っても、成功する人も失敗する人もたくさんいますから、ベンチャー的だから良い、というわけではないですけど、江副さんはやはり特別ですよね。」
―本書はリクルート事件の経過も書かれていますが、横手編集長は当時、リクルート事件をどのような立場で見ていたのでしょうか。
「社会人になり、マスコミに入ってばりばりやり始めた頃に、ちょうどこの事件が起こりました。感慨深いのは、今年、民主党が第一党になり、歴史的な政権交代が実現しましたね。制度的にみると、中選挙区制から小選挙区比例代表並立制へと選挙制度が変わったことが、大きかったと言われていますが、制度改革のきっかけをつくったのがリクルート事件なのです。リクルート事件によって竹下登内閣が倒れて、短命で終わった宇野宗佑内閣があって、そうした混乱の中から小沢一郎さんらが飛び出して、選挙制度を変えた。だからリクルート事件は、過去の話ではなく、実は今年の政治状況にもつながっているのです。
わたしにとって、マスコミの世界に入ってはじめての、リアルタイムで進行する大事件だったわけです。メディアの世界に入ってきたての人間は、筆誅というか、青臭い正義感みたいなものを持っていることが多いんですよ(笑)。
わたしも当時、リクルート事件の朝日新聞報道などを見ていて、『ペンの力はすごい』と(笑)。江副さんに対する一方的な社会的リンチのような印象も、わずかにあったことはあったのですが、朝日の報道は『真実を暴いている』と肯定的にみていました。今になってみてみると、いわゆる国策捜査的な面はありますし、マスコミの暴走した正義感が特定の人間を悪者に仕立てて煽り、検察が動いた、という構図は検証しないといけないはずです。
この本の編集を担当したから言うわけではないですが、本当に江副さんは、白にきわめて近いグレーだと思っています。でも当時は黒だと思っていました。この本をご縁があって作らせていただき、当時の自分の意識を振り返るなかで、いまもメディアの側の1人として、反省するところしきりです。」
―今、おっしゃられた部分にもつながるのですが、本書ではメディア報道のあり方を軸に世論、司法問題に対して異議を投げかけています。「出版」というメディア文化に携わる一人として、メディア報道のあり方についてどのようにお考えになっていますか。
「現実に、私たちの目の前で起きている事件なり、報道すべきものというのは、ある意味生き物で、時間を経ないと本当のところはわからない、と改めて思いましたね。だいたい、真実は一つなのかもわからないはずです。さまざまな真実があるわけで、それを判定するのは、結局は歴史でしかない。その素材を可能な限りオープンにしていくことしか、わたしたちはできないと思います。どんどんオープンにする。闇に消えてしまうことだけは、避けよう、と、さしあたってそれだけです。
それから、メディアの側にいるわたしたちが、あまりに価値判断をしすぎないほうがいいと、改めて思いましたね。『これが良いものだ』とか『こちらが真実だ』とかね。もっとも出版人は、新聞やテレビの人たちと比べて、かなり天の邪鬼なところというか、斜に構えているところがあるので、『これがいいのだ』みたいに大上段から来ることがらにはムカツクように、はじめから脳が出来上がっているのです。価値判断する人間というのを、だいたい疑っている。
現代はインターネットの発達で、とにかく開かれた社会になったと思います。良し悪しはありますが、ネットを通じて、いろんなものが即時的にオープンになりました。グローバル化などもあります。飛び交う情報量が非常に多くなっていますね。必ずしも雑誌とか新聞のようなマスメディアが発信する情報ばかりではなくなった。個人がブログで書き発信する情報もどんどん出てくるようになりました。
そういった情報の海の中で、『疑う』というか、『判断を保留する』ことはむしろ大切になっていますね。もちろん何をどう疑うかが問題ですが、今回の出版に引きつけていえば、たとえばリクルート報道みたいなものがネット上などで起こり、特定の個人や団体がバッシングされるようになっても、『ほんとかな』と立ち止まるというか、『叩かれているほうの言い分を聞かないと』と立ち止まる保留感覚は、かなり大事になっていますね。その好例として、『リクルート事件・江副浩正の真実』を読んでくだされば有り難いと思います。もちろん、この本の内容はあくまで、『江副さんの真実』なのですが、情報発信側の『真実』ばかりではいけない、ということを教えてくれるはずです。その意味で、本書はネット時代に生きる現代人に、絶対にプラスになると思っています。
わたしたちも、いつ何時、たとえば痴漢冤罪事件に巻き込まれるか分かりませんし、ネット上であることないこと書かれて社会的に抹殺されるリスクも現代ではありえます。そういう可能性は、ネット社会に生きているわたしたちみんなに無縁ではないはず。だからこそ、本書に描かれた『ある日、突然、被告になった者の身に起こったこと』を読んでもらうことは、非常に大きいと思っています。 それから、本書はメディア関係の人に多く読まれています。メディアに関わる方々にとって、自分たちに突きつけられているものがあるように捉えるのでしょうか。もちろんわたしもその一人ではあります。」 
3 もし、リクルート事件が起こらなければ今の日本はどうなっていた…?
―では、読者の方からはどのような反響が届いていらっしゃいますか?
「もともと、リクルート事件を20代・30代の頃に経験していた方々、つまり今、40代から50代以上の方々を読者として想定していたのですが、それよりも下の世代、若い方々にむしろ読者が広がっている印象です。データ的にもその傾向はあります。
たとえば江副さんをホリエモンの大先輩に当たる人だとか、ベンチャーの先駆的な人物だと捉えていて、その人が国家権力という言い方はおかしいですけど、そういったところとぶつかり社会的に存在を消されてしまった。ライブドア事件と重ねながら、どうしてそうなったのかという関心を持って読む若い人は、おもいのほか多いようです。」
―リクルート事件は若い人にも語り継がなければいけない事件だと思いますが、本書を通して語り継がれるということに意味があると思います。
「これは堀江さんも言っていましたが、今から21年前に、日本経済は江副浩正という人間を失ってしまったのです。先ほども話しましたが、もし、江副さんが経済人として姿を消すことなく、今でも現役でいらしたら、たぶんYahooもなかったし、楽天も、ソフトバンクも現在のような形では存在していなかったと思いますよ。リクルートがそうした事業をやっていた可能性が高いと思います。
また、他の有名ベンチャー、たとえば楽天にしてもライブドアにしても、急成長の基本はネットビジネスと株ですね。その点、リクルートはすごく手広い。不動産業もやっていましたし、金融業もやっている。ありとあらゆる業態を成功させています。江副さんは他のベンチャー企業家とは格が違いますよ。
そんな稀代の経営者を21年前に沈黙させてしまったのは、これは大きな損失だと思います。それは日本のビジネスの土壌において、ベンチャー立ち上げに対するモチベーションを下げたことは間違いないと思います。今、若い人に元気がないというのも、こうしたところに一因があるのではとみていますよ。」
―では、もしリクルート事件が起こらなければ、今の日本はどうなっていたと思いますか?
「もっとベンチャー企業がポジティブに捉えられていたと思います。江副さんは当時51歳でしたが、50代といえば、経済人として一番脂が乗っている年齢ですよね。その最も良いときに自分の資金やアイデアや、行動力を駆使してさらに事業を進めていたらどうなっていたのかな、と。
また、江副さんが他のベンチャー企業と比べてすごいのが、リクルートは江副さんに続く人材、社会を動かす人材が次から次へと出てくるんですよね。他のベンチャーではそういうことがほとんどなくて、ライブドアで堀江さんの薫陶を受けて会社を興し、成功したという人は聞かれないですし、出版社でいうなら幻冬舎もそうですよね。見城徹さんというすごい編集者がトップにいるけど、それに続く人がいるかというと疑問です。
でも、江副さんの下からは、例えば評論家の立花隆さんやNTTでiモードを開発した松永真理さん、あとは先日亀田興毅と内藤大助のボクシングの試合がありましたけど、あの試合のプロモートに関わった東さんという方もリクルート出身ですし、とにかく幅広い人材を世の中に送り出しています。わが社の中公新書ラクレというシリーズに77万部のベストセラー『世界の日本人ジョーク集』がありますが、この本の著者である早坂さんもリクルート出身です。江副さん自身もそうですし、リクルートのDNAを継いだ人たちがもっと活躍したとは思いますよね。」
―本書の終わりの方で、江副さんが自分はさして才能のある人間ではないとおっしゃっているのですが、そう言えること自体がすごいと感じました。
「この言葉、江副さんは謙遜ではなく、嘘偽りなく書いていると思いますよ。ベンチャー企業といえば、ある部分では新興宗教みたいなところがあって、トップは自分を天才か何かだと思いこんでいるのが通常ですし、そうしたトップの言っていることは黙って聞かないといけない、という組織のイメージがありますが、江副さんは全く、そういう雰囲気がないのです。こういった人がすぐれたリーダーシップを持ったことじたいが、わたしにとっては大きな謎なんですよ。
なによりベンチャー企業っていうのは、トップの鋭いリーダーシップが存在しないといけない世界だと思うのですが、江副さんはさきほどおっしゃったように自ら『優れた人間ではない』と言いますし、見た目も本当に普通なんですよね。独特な風貌・格好をしているわけでもない。話し方も命令口調ではない。でもそういう人があれだけのリーダーシップをふれたというのは、謎めいているし、それだからかえって魅力的ですよ。
本の編集などを通じて、わたしもお付き合いをさせていただいていますが、謎は深まる一方(笑)。もちろん、『なんか違うな』というところは、たくさんお持ちの方です。」
―本のタイトルにある『リクルート事件 江副浩正の真実』の「真実」という言葉にどのような意味を込められたのでしょうか?
「これは、本書の『まえがき』『あとがきのあとがき』にも書いていますが、戦後を揺るがした事件の1つの見方を提示した、つまり、江副さんが見た真実という意味を込めて『江副浩正の真実』というタイトルにしたのです。
真実という言葉を聞くと、『それは1つしかない』と思うのでしょうが、そうではないのです。あくまで江副浩正という人物から見た真実であり、もちろん検察側から見た別の真実もあるはずだというのは、本書のなかで江副さんがきちんと断っています。江副さんは検察側からの真実という別の本が書けるだろうと、注意深く2度も書いているのです。ある事件に対して、様々な見方がある。その1つを提供しますよ、という意味ととらえていいと思います。もちろん、『江副浩正の真実』というタイトルを使うことには、やはり江副さんのこだわりがあるわけで、ここで書かれている、見たこと、体験したことは、あくまでまったき江副さんの真実であるということです。」
―本書を編集する際に最も気をつけたこと、気を使ったことはなんですか?
「やはり“ファクト”ですね。今回、判決資料など一時資料と付き合わせて、十全の校正を行いました。資料はロッカー三つ分もありました。原文を見て一字一句誤りがないか確認しながら、校了にしていったのです。とにかく校正・確認作業は念入りに行いました。ファクトと言う意味では、資料を前提に、かなり精度の高い本になったと思っています。」
―最後に、本書をどのような人に読んで欲しいですか?
「本来想定していた中心読者は40代後半以上です。そうした『同時代にリクルート事件を経験した』人にも、もちろんより多く、手にとって欲しいと思っています。
それと同時に、やはりわたしは、事件を知らなかった若い人に読んで欲しいのです。先ほども言ったように、インターネットという情報の海が広がり、現代の日本社会は、開かれた社会になっている。国際的なものとフラットに付き合わなければならない時代に生きている。若い人にとっては、これから長くそうした時代が続くわけです。だからこそ、若い方々に、本書を読んで欲しいと思います。なによりメディアリテラシーにとって役立つはずですし、1つの時代を築き上げたベンチャーのトップが、どのような蹉跌を経験したのかを辿っていくことは、これからの時代を生き抜く上で、必ず力になると思っています。」 
司法問題の穴―取調べの真実―
『リクルート事件・江副浩正の真実』全400ページの約40%近くを埋めているのが「取調べ」のシーンである。しかし、「取調べ」というには大分聞こえがいいのかも知れない。江副氏によってつづられているのは、あまりにも行き過ぎたまるで現代の「拷問」のような世界であり、同じく逮捕経験がある元ライブドア社長の堀江貴文氏も「彼ほど長い間不安定な立場に立たされていたらどうなったか分からない」とブログで感想をつづっている。怒鳴ることは当たり前、検事たちはあの手この手を使いながら立件を急ぐ。ここではまず、手段をいとわない「拷問」の様子を『リクルート事件・江副浩正の真実』から紹介する。
丸裸にされ、肛門にガラス棒を突っ込まれる
拘置所に入るときのこと。財布、鍵、時計などの所持品が取り上げられた江副氏は、丸裸にされ、10人ほどの看守が見ているところを歩かされたという。そしてなんと突然肛門にガラスの棒を突っ込まれ、棒を前後に動かされたと述べている。これは「カンカン踊り」という、拘置所に入る際の儀式で表向きは痔の検査と説明されるという。江副氏は「どう考えても不必要な“痔の検査”だった。」と思い返している。
壁に向かって立たされる
取調べの最中、江副氏はたびたび壁に向かって立たされたという。NTTルートを捜査する神垣検事に怒鳴られるがまま、壁に立たされる様子を江副氏は本書内で以下のように克明に表現している。
「立てーっ! 横を向けっ! 前へ歩け! 左向けっ左っ!」壁のコーナーぎりぎりのところに立たされた私の脇に立って、検事が怒鳴る。「壁にもっと寄れ! もっと前だ!」鼻と口が壁に触れるかどうかのところまで追いつめられる。目をつぶると近寄ってきて耳元で、「目をつぶるな! バカヤロー! 俺を馬鹿にするな! 俺を馬鹿にすることは、国民を馬鹿にすることだ! このバカ!」と、鼓膜が破れるのではないかと思うような大声で怒鳴られた。(中略)しばらくすると壁が黄色く見えてくる。目が痛くて、瞳孔が縮んだせいか壁に黄色いリングが見える。悲しくないのに涙が出てきた。
もちろん足への負担も尋常なものではない。江副氏は毎晩布団の中で足首を曲げ伸ばしし、血行を良くして寝るようにしていたという。そんなことが毎日続く、まさに現代の拷問とも言うべきことである。
土下座させられる
神垣検事は「直接(江副氏が)眞藤に電話をしてコスモス株の話を持ちかけたのではないか」と捲し立てる。しかし、全く身に覚えがない江副氏はそれを否認。しかし、ある夜の取調べが始まってすぐ、神垣検事が突然取調室を出ていき、その20分後取調べに戻り、声を荒げてこう言った。「おまえは嘘をついていた! 眞藤はさっき落ちた! 眞藤はお前から直接電話を受けたと話している!」。神垣検事は江副氏の椅子を蹴り上げ、土下座を命令。江副氏はこのとき恐怖心からか抵抗力を失い、「嘘を申し上げてきました」と発言し、調書に署名してしまう。しかし、江副氏が保釈後、開示された眞藤氏の調書を見てみたところ、眞藤側の調書には「(江副氏から)直接電話は受けた」という記載はなく、“切り違え尋問”に引っかかってしまったという。この“切り違え尋問”は本来は違法な捜査手法だが、思うように調書が取れないと、検事はそういった手段を取ってくることもあるという。江副氏はあまりの取調べの辛さに、自殺することも考えていたという。発作的に屋上に上って飛び降りたくなるという危険な精神状態に陥り、墓の準備もしていた。また、医師に睡眠薬の致死量をそれとなく聞いたこともあったという。またこうした拷問のような取調べのほかにも、他にも検事が新聞の報道を持ち出しながら取調べを進めたり、報道や世論の元に検察が動くという構造に対し、江副氏は鋭く迫っている。しかし、江副氏は本書の「あとがきのあとがき」でこのように語る。
「本書では、検察に対して非難めいたことを書いてはいるが、私としては、取調検事個人への恨めしい気持ちはまったくない。厳しい取調べは取調検事の職務意識から発したことと思っている。検事はいずれも職務を忠実に実行された人々であり、陰湿なところのない分かりやすい人たちであった。問題は、取調べが密室で行われていて、取調状況のすべてが可視化されず検察官調書に重きが置かれる現行の司法制度にあると私は思っている。」
2009年5月から裁判員制度がはじまり、「市民の視線で人を裁く」という試みがスタートした。しかし、その前の段階、取調の状況が可視化されない限り、どこかで歪みが生じているのは間違いないだろう。江副氏が提示した「司法制度の穴」をどう埋めていくのか、これは今後の日本の司法が課せられた課題である。 
 
宇野宗佑 

 

1989年6月3日-1989年8月10日(69日)
リクルート事件発覚と消費税導入により支持率が急落した竹下登首相が、1989年(平成元年)4月25日に辞意を表明した。しかし、ポスト竹下と目されていた安倍晋太郎、宮澤喜一、渡辺美智雄ら自民党の有力者は軒並みリクルート事件に関与していたため身動きが取れず、河本敏夫は三光汽船経営危機問題から敬遠され、さらに伊東正義や坂田道太、後藤田正晴からも断られて後継の総理総裁選びは難航する。
そこで、主要閣僚の中でリクルート事件との関連性が薄く、総理総裁任期を満了した中曽根の派閥ナンバー2であり、サミットが近かったこともあり外相であった宇野に白羽の矢が立ち、宇野が急遽後継総裁に擁立される事になった。6月2日、宇野外相は自民党両院議員総会で全会一致に出来ずに異例の「起立多数」で第13代自民党総裁に選出される。自民党史において、派閥領袖ではない自民党総裁は宇野が初めてであった(鈴木善幸は就任当時こそ派閥領袖ではなかったが、間もなく派閥領袖となっている)。
1989年(平成元年)6月3日、宇野内閣が発足。党三役の経験も無く知名度が低かった宇野だけに、就任当初はメディアで宇野について紹介する特集が組まれたこともあった。閣内にはリクルート事件と関係の薄い人物を優先的に登用し、クリーンな内閣というイメージを作ろうと奔走する。
しかし、この急造内閣も宇野自身のスキャンダルに足をすくわれることとなる。宇野が首相に就任した3日後に、『サンデー毎日』(毎日新聞)が神楽坂の芸妓の告発を掲載し、宇野の女性スキャンダルが表面化。初めは国内の他のマスコミは無視したが、外国メディアに「セックススキャンダルが日本の宇野を直撃」(ワシントンポスト紙)等と掲載されると、それが引用される形で日本で話題となった。
また同年6月28日には宇野が進退について言及したとの憶測が飛びメディアに辞意表明と報道される。大下英治によると、この騒動の原因は、当時自民党国会対策副委員長を務めていた糸山英太郎が、記者懇談で愛嬌のつもりで言ったオフレコ発言が一人歩きした結果だという。また急造内閣だったため、総理と執行部の連携がうまくいかなかったことも原因として挙げられる。
1989年(平成元年)7月の第15回参議院議員通常選挙は、従来の3点セット(リクルート問題、消費税問題、牛肉・オレンジの輸入自由化問題)に加え宇野首相の女性問題が争点となり、さらにいわゆるマドンナブームが止めを刺し、自民党は改選議席の69議席を大幅に下回る36議席しか獲得できず、特に一人区では3勝23敗と惨敗。参議院では結党以来初めての過半数割れとなる(これ以降2010年現在まで自民党は参院選後の単独過半数を確保できていない)。
翌日、宇野は敗北の責任をとり退陣を表明。会見での「明鏡止水の心境であります」との言葉が有名になった。当初はここまで敗北したからには宇野一人の責任にできないと言う意見も党内にはあったが、結局同年8月8日には自民党両院議員総会で海部俊樹が新総裁に選出された。宇野の総理在任期間はわずか69日、日本政治史上4番目の短命内閣に終わった。
1989

 

宇野総裁時代
第十三代宇野宗佑総裁は、自民党三十数年の長期政権のなかでも、最も困難な時期に誕生した総裁でした。総裁選出までの過程もさることながら、その後の経過はさらに厳しいものがありました。なによりも参議院選挙が一ヵ月半の後に迫っており、それまでに、政治改革に一応の目途をつけ、選挙に臨む体制づくりを行う必要がありました。国会では、予算は五月末に、三十五年ぶりの自然成立をしたものの、予算関連法案ほか重要法案の成立をはかるために、参議院選挙の告示ぎりぎりまで延会しなければなりませんでした。また、宇野首相就任と時期を同じくして、中国では天安門事件という流血の惨事が起こり、選挙前の七月中旬に開催されるパリのアルシュ・サミットで、隣国で関係の深い日本がどう対応するかが注目されました。
こういう情勢のなか、宇野首相は六月五日の所信表明演説で、竹下前内閣の推進してきた内外政策を継承する意思を明らかにし、「政府はスリムに、国民は豊かに」という基本的考え方のもとに、この内閣を「改革前進内閣」と名付けたいと述べました。しかし、参議院選挙の動向を占うとされた六月末の参議院新潟選挙区補欠選挙では、自由民主党候補が社会党の新人女性候補に大差で敗れ、自由民主党に対する逆風がますます厳しくなっていることを窺わせました。さらに、参議院選挙公示直前の東京都議会議員選挙では、消費税が最大の焦点となり、開票の結果、自由民主党は二十議席を失い、社会党は議席を三倍に伸ばしたのです。
宇野首相は、妻子も含めた閣僚および政務次官の資産公開等を行うほか、六月中旬には、「政治改革推進本部」を設置して、政治倫理、国会改革、党改革、選挙制度、政治資金、企画等の委員会を発足させるなど、政治改革の実践に取り組む一方、アルシュ・サミットでは、日本は第三次円借款の協議凍結等で西側の制裁措置には同調するものの、中国を国際的孤立に追いこむことのないようにというわが国独自の主張をするなどの外交努力を行いました。
しかし、七月の第十五回参議院議員選挙では、いわゆる三点セット、すなわちリクルート問題、消費税問題、農産物自由化問題が大きな争点となり、自由民主党は、全国いたるところでかつてない苦戦を強いられ、予想を超えた敗北を喫しました。当選者は比例区・地方区あわせてわずか三十六議席と改選議席の六十九議席を大幅に下回ったのに対して、社会党は改選議席の二倍を越す四十六議席を獲得しました。その結果、自由民主党は非改選議席とあわせても、過半数を大きく割り込み、参議院で与野党勢力が逆転するという立党以来最大の危機を迎えたのです。選挙の翌日、宇野総裁は、「敗戦の一切の責任は私にある」と述べて、退陣の意思を表明しました。
党執行部は、八月八日に党大会に代わる両院議員総会を開き、投票による後継総裁の選任を行うことを決しました。この総会で、後継総裁が決定するまで、宇野総裁の任期は六十七日、自民党史においては、石橋総裁と並ぶ短命で非運の政権となりました。  
首相になった経緯
リクルート事件発覚と消費税導入により支持率が急落した竹下登首相が、1989年(平成元年)4月25日に辞意を表明した。しかし、ポスト竹下と目されていた安倍晋太郎、宮澤喜一、渡辺美智雄ら自民党の有力者は軒並みリクルート事件に関与していたため身動きが取れず、河本敏夫は三光汽船経営危機問題から敬遠され、さらに伊東正義や坂田道太、後藤田正晴からも断られて後継の総理総裁選びは難航する。そこで、主要閣僚の中でリクルート事件との関連性が薄く、総理総裁任期を満了した中曽根の派閥ナンバー2であり、サミットが近かったこともあり外相であった宇野に白羽の矢が立ち、宇野が急遽後継総裁に擁立される事になった。6月2日、宇野外相は自民党両院議員総会で全会一致に出来ずに異例の「起立多数」で第13代自民党総裁に選出される。自民党史において、派閥領袖ではない自民党総裁は宇野が初めてであった(鈴木善幸は就任当時こそ派閥領袖ではなかったが、間もなく派閥領袖となっている)。
内閣発足と女性スキャンダル
1989年(平成元年)6月3日、宇野内閣が発足。党三役の経験も無く知名度が低かった宇野だけに、就任当初はメディアで宇野について紹介する特集が組まれたこともあった。閣内にはリクルート事件と関係の薄い人物を優先的に登用し、クリーンな内閣というイメージを作ろうと奔走する。しかし、この急造内閣も宇野自身のスキャンダルに足をすくわれることとなる。宇野が首相に就任した3日後に、『サンデー毎日』(毎日新聞)が神楽坂の芸妓の告発[23]を掲載し、宇野の女性スキャンダル[24]が表面化。初めは国内の他のマスコミは無視したが、外国メディアに「セックススキャンダルが日本の宇野を直撃」(ワシントンポスト紙)等と掲載されると、それが引用される形で日本で話題となった。また同年6月28日には宇野が進退について言及したとの憶測が飛びメディアに辞意表明と報道される。大下英治によると、この騒動の原因は、当時自民党国会対策副委員長を務めていた糸山英太郎が、記者懇談で愛嬌のつもりで言ったオフレコ発言が一人歩きした結果だという。[要出典]また急造内閣だったため、総理と執行部の連携がうまくいかなかったことも原因として挙げられる。
選挙惨敗と退陣
1989年(平成元年)7月の第15回参議院議員通常選挙は、従来の3点セット(リクルート問題、消費税問題、牛肉・オレンジの輸入自由化問題)に加え宇野首相の女性問題が争点となり、さらにいわゆるマドンナブームが止めを刺し、自民党は改選議席の69議席を大幅に下回る36議席しか獲得できず、特に一人区では3勝23敗と惨敗。参議院では結党以来初めての過半数割れとなる(これ以降2010年現在まで自民党は参院選後の単独過半数を確保できていない)。翌日、宇野は敗北の責任をとり退陣を表明。会見での「明鏡止水の心境であります」との言葉が有名になった。当初はここまで敗北したからには宇野一人の責任にできないと言う意見も党内にはあったが、結局同年8月8日には自民党両院議員総会で海部俊樹が新総裁に選出された。宇野の総理在任期間はわずか69日、日本政治史上4番目の短命内閣に終わった。  
総理を降ろした三本指の女とその後
「今何時だ」が最後の言葉
1989年6月6日、内閣総理大臣・宇野宗佑(うの・そうすけ)の女性スキャンダルを週刊誌「サンデー毎日」がスクープした。神楽坂の芸妓の中でも凄い美貌の持ち主だった中西ミツ子に、宇野が「もし自分の愛人になってくれたらこれだけ出す」と言って自分の指を三本出したという(30万という意味、本人は300万円だと思って、それが怒りの元という説もある)。中西ミツ子は、このような人物が日本の総理大臣であってはいけないと考え、マスコミにこの事実をリークした。(中西本人がTV出演した際に語っている)。このスクープは同年7月の第15回参議院議員通常選挙において、争点となったいわゆる3セット(リクルート問題、消費税問題、宇野首相の女性問題)のひとつとなり、自民党は改選議席の69議席を大幅に下回る36議席と惨敗した。宇野の総理在任期間はわずか69日、日本政治史上4番目の短命内閣に
終わった。宇野宗佑はそのスキャンダルの約9年後の1998年5月19日に死去、75歳だった。死因は肺癌だったが、怖がりの本人には知らされなかった。「今何時だ」が最後の言葉だったという。さて、話を中西ミツ子の方に戻して・・・・
仏の道
芸者にあるまじき―――などという声もあったという。「私だって芸者の立場というものは理解していました。あの角栄さんだって、芸者のお妾さんがいましたが、角栄さんなりにその女性を尊重していたと思います。そうした心遣いが宇野さんにはまったく欠けていた。粋じゃなかったのよ」 三本指の女と言われた彼女はその後、好奇の目にさらされた。「どこに行ってもじろじろ見られる。東京にいることができなくなりました」 ぱっちりした目、ぽってりとした唇は今でも面影が残り、 ひと目で彼女と分かる。「両親はすでに他界し、離婚した夫や、息子とも会っていませんから、行くあてもない。自分を見つめ直そうと、知り合いの紹介で滋賀県にあるお寺の内弟子にして頂いたんです。」 朝4時半に起床して、雑巾がけの毎日。しかし、そこもマスコミがかぎつけた。仏の道は断念し、新聞の求人欄で見つけた浅草の仏具店で働きだす。給料は10万円ほどだった。独りで生きていくには手に職をつけようと、理容学校に通ったが、授業料が払えず、断念。赤坂の理容店で受付から始めた。「頭部マッサージやアロマテラピーを学ぶうち、いつか独立しようと、マッサージ学校へ通い始めました」 そんな折、マッサージ店の従業員募集を知る。「そのお店の店長格で働いていた6歳年下の男性が再婚相手。二人とも高給取りではないけれど、この人ならと97年11月に入籍し、3度目の応募で都営住宅に入ることも出来ました」
血だらけで戻ると
48歳で人生の再スタートを切ったミツ子さんはやがてマッサージ師として独立。都内の一流ホテルにも登録すると、お得意もできた。月給は30万円ほどになったが、今度は夫が働かなくなり、彼女の給料は夫の酒代に消えていった。「仕事返りに雨に濡れた歩道で自転車ごと転んで血だらけで戻ると、酔っぱらった夫に我慢できなかった。用意した離婚届けを提出したのが08年の10月」 バツ2となった彼女は今も都営住宅に住み続けている。もはや再婚は考えていないという。芸者から、仏の道へ。そして美容師をめざしたが断念し、今度はマッサージ学校へ。新たなお店で店長格の年下と再婚。マッサージ師として独立したが今度は再び、離婚。なにかバタバタと忙しい人生だし、ドラマチックでもある。 
 
海部俊樹  

 

1989年8月10日-1990年2月28日(203日)
1990年2月28日-1991年11月5日(616日)
宇野宗佑が第15回参議院議員通常選挙の大敗北により辞任することになったが、宇野を指名したのが竹下派であったため、竹下派からは宇野の後任の総裁選への出馬を見送ることになった。リクルート事件で有力政治家が謹慎している中で、極端な世代交代を避けたかった竹下が、「時計の針を進めず、戻さず」として年齢の割に当選回数があり、かつ同じ稲門(早稲田大学)として近い関係にあった海部を首相にする構想を打ち出したことから、思いがけず総理総裁の座が転がり込んできた(派閥の長である河本敏夫も総裁候補の一人だったが高齢などのため見送られ、河本は海部を支える姿勢を明確にした)。自民党総裁選では海部の他に、林義郎と石原慎太郎が出馬したが、竹下派の支持を得た海部が両者をおさえて自民党総裁に選ばれた。
参院選の結果、自民党が過半数割れに追い込まれたことにより、ねじれ国会に突入した。自民党が依然過半数を占めていた衆議院は海部俊樹、野党が過半数を確保した参議院は日本社会党委員長の土井たか子を指名した。日本国憲法第67条第2項の規定に基づき、両院協議会にて協議されたが両院の意見は一致せず、衆議院にて指名された海部が内閣総理大臣に就任した(衆議院の優越)。
海部が首相に就任した頃は、いわゆるリクルート事件などで国民の間に政治不信が強まっていた。それだけに、清新なイメージで颯爽と登場した海部に寄せられた党内外の期待感は大きかった。組閣においてはリクルート事件にかかわったとされる政治家を排除(リクルート・パージ)し、リクルートと関係の薄い政治家を優先的に登用した。このため党内の不満が高まり、後の政治改革法案が廃案になる遠因にもなった。第1次海部内閣発足の直後、山下徳夫内閣官房長官の女性スキャンダルが発覚。海部はすぐさま山下を更迭し森山真弓環境庁長官を横滑りさせて女性初の官房長官を誕生させたり、様々な行事に夫婦同伴で出席するなどして女性層の支持拡大を目指し、1990年の第39回衆議院議員総選挙で大勝する。
党内基盤が脆弱であった海部は自民党にとってはその場しのぎの「看板」でしかなく、党内は相変わらず権力闘争に明け暮れていた。石原信雄の回顧録には「海部さんは重大な法案などを決める時には金丸、竹下両氏の判断を仰いでいた。」と記されており、自民党幹事長を務めていた小沢一郎は「海部は本当に馬鹿だな。宇野の方ががよっぽどましだ」と酷評し、金竹小と評された竹下派実力者三人が海部首相以上に強い影響力を持っていた。自民党総裁にして内閣総理大臣でもある海部は、本来味方であるはずの自党に振り回され、小選挙区導入反対派の加藤紘一、山崎拓、小泉純一郎の「YKK」などによる党内からの猛烈な倒閣運動を受けた。しかし、圧倒的な世論の支持が海部を守った。首相でありながら実権を小沢や金丸、竹下らに握られ、頼りないイメージが強かったが、湾岸戦争における経済的な協力や掃海艇派遣では驚異的なねばり腰を見せ、法案成立にこぎつけている。このことに限らず、外交面では当時のサッチャー英首相やブッシュ米大統領から絶大な信頼を得ていた。天安門事件後、世界から孤立しかかった中国に西側先進国首脳として真っ先に訪問し、円借款を再開させたことには現在でも中国から感謝され「井戸を掘った人」として尊敬されている。
海部自身は、「中国に対して原則を貫いた」と語り、天安門事件の犠牲者の冥福を祈るため、訪中時に天安門広場で献花を行ったという。事実であれば、他国の現職首脳が訪中時に自由に行動できるわけもなく、海部による天安門事件の犠牲者追悼は中国政府による了承のもとでの行為だったことになる。
政策の目玉として取り組んだ政治改革関連法案が国会で審議未了廃案となったことを受け、「重大な決意で臨む」と発言。これが衆議院の解散を意味する発言であると受け取られた。首相にとって「伝家の宝刀」の異名を持つ解散権は、総理大臣の専権事項である。しかし、自民党内の反海部勢力から大反対の合唱がおこった(海部おろし)。最後には海部をバックアップするはずだった竹下派でさえ明確に解散不支持を表明し、結局解散に踏み切ることが出来ず、また、この出来事により次期自民党総裁選挙で最大派閥でそれまで海部を支持してきた竹下派が海部の不支持を表明。宮沢喜一、三塚博、渡辺美智雄ら反海部の派閥の領袖たちが総裁選に立候補を表明した。これにより海部を支持するのは自身の派閥かつ小派閥の河本派だけになり、総裁選に再選できる道は閉ざされ内閣総辞職に追い込まれた。このことで海部は後に「重大な意思で臨む」を何者かにより「重大な決意で臨む」に置き換えられたと語り、意図的に海部を総理の座から引きずり降ろす動きがあったことを暗に示唆している。
在任中は竹下派に手足を縛られ、思い通りの政権運営をなせないままの退陣となったが、決定的な失政があったわけでもなく、本人のクリーンで爽やかなイメージは根強い国民の支持を得続けた。在任中の内閣支持率は高い時で64%、退任直前でさえも50%を超えており、煮え切らない不完全燃焼の中での退陣となった(当時は派閥や自民党を支持していた業界の力が強く総理個人の人気に左右されることは現代に比べて少なく、内閣支持率は政治家にとって重要視されてはいなかった)。
首相在任日数818日間は日本国憲法下において衆議院で内閣不信任決議が採決されなかった内閣の首相としては最長日数記録である。  
施策
皇室
1990年は秋篠宮文仁親王結婚の儀、今上天皇即位の礼・大嘗祭等重要な皇室行事が続いたが、海部はすべて問題なくこなした。とりわけ即位儀礼は日本国憲法下初の挙行であったため儀式にも慎重に手が入れられたが、それぞれの儀礼は滞りなく進んだ。ただし、即位式の装束については宮内庁の要請を退けて衣冠束帯ではなく史上初めて洋装で出席した。今上天皇は儀式にあたりその細かい部分について海部に直接相談したり、二人だけで話し込んだりすることもあった。今上天皇は海部と年齢が近いこともあり話しやすく感じていたようであり、個人的な信頼関係が生まれていたと言われる。
湾岸戦争
資金提供湾岸戦争の戦費として多国籍軍に130億米ドルもの資金を提供。しかし、戦後クウェートの新聞に載せられた感謝広告に日本の国旗が無かったが、その後改められた。この施策に関し保守層からは金だけだして人出さない、似非国際貢献、一国平和主義と罵られ左派からも「アメリカの言いなりになり無駄金を拠出した。」と強く批判されるなど左右の知識人から強い批判を浴びた。PKO法案、自衛隊ペルシャ湾派遣湾岸戦争の停戦後に、自衛隊創設以来初の海外実任務となる海上自衛隊掃海部隊をペルシャ湾に派遣する。
自民党離党、自由改革連合代表、新進党党首へ
1994年6月29日、自民党総裁の河野洋平が、党の政権復帰のため日本社会党、新党さきがけと自社さ連立政権構想で合意し、首班指名で社会党の村山富市に投票することを決めると、これを拒否して離党。同じく造反した津島雄二の説得により、旧連立与党である新生党や日本新党から首班指名の統一候補として担がれるも、自民党からの造反は期待されたほどは起こらず、決選投票で敗れることになる。その数日後正式に離党し自由改革連合を結成し代表に就任、新進党を結党し初代党首となる。
自民党復党、落選、政界引退
新進党分党後は1年1ヶ月の無所属暮らし(院内会派「無所属の会」)を経て、自民党との連立政権に加わった自由党に入党。2000年の同党分裂の際には、自民連立継続派の保守党に所属する。
保守新党に改組して臨んだ2003年に第43回衆議院議員総選挙では、民主党の新人岡本充功に比例復活を許したが、小選挙区勝利で連続当選記録を伸ばし、選挙直後に吸収合併される形で自民党に復党した。復党後は古巣河本派の後継である高村派には戻らず、二階俊博ら一緒に復党した旧保守新党議員らと二階グループを結成した。
自民党復党の折には、安倍晋三自民党幹事長(当時)から復党を「諸手をあげて歓迎します」と言われ、離党した際に撤去された海部の肖像画も再び掲額された。
しかし、院内に銅像が建てられる名誉議員を目指して強行出馬した(過去の名誉議員は尾崎行雄と三木武夫、中曽根康弘・原健三郎・櫻内義雄は名誉議員称号はなく50年永年在職議員特別表彰のみ。海部本人は著書『政治とカネ』の中で銅像狙いの出馬を否定している)2009年の第45回衆議院議員総選挙にて、小選挙区で岡本充功に敗れた。比例代表候補は73歳未満と定めた党規に抵触し重複立候補が許されなかったため落選し、同日政界引退を表明。海部は総理大臣在任中の成果を強調し選挙に挑んだが、海部の首相時代を知らない若い世代の有権者が増えた事も落選の一因と見られている。首相経験者が落選したのは、1963年の第30回衆議院議員総選挙の石橋湛山、片山哲両元首相以来46年振り、自民党総裁経験者としては石橋以来2人目である。
1989-1991

 

海部総裁時代
宇野内閣の退陣表明にともなう平成元年八月八日の総裁選出は、党大会に代わる両院議員総会で、両院議員と地方代議員の投票によって行われました。出馬したのは林義郎、海部俊樹、石原慎太郎の三候補でしたが、海部候補が過半数を獲得して、第十四代総裁に就任しました。国会の首班指名では、衆議院で海部総裁が、参議院で社会党の土井委員長が指名され、衆議院の議決が優先されて、海部総裁の就任が決定しました。なお、新総裁の任期がこの年十月末までの前総裁の任期を受け継ぐものであったため、十月六日に総裁選挙を告示、候補者は海部総裁一名であり当選。十月三十一日の第五十一回臨時党大会に報告し、海部総裁の再任が決定しました。
海部新首相は、九月末に開会した百十六回臨時国会における所信表明演説で、「対話と改革の政治」を旗印として「公正で心豊かな社会」を目ざすと、その政治姿勢を明らかにしました。政策面では、消費税について国民の声をよく聞き、消費者の立場を十分考慮して、見直すべき点は思い切って見直していくと述べるとともに、対外的には、竹下内閣以来の「国際協力構想」をいっそう積極的に推進すると、従来路線を継承する意思を示しました。また、社会の公正さに対する国民の信頼を揺るがしている原因として、特に地価の異常な高騰をあげ、宅地・住宅対策に積極的に取り組むと述べました。
この国会は、参議院選挙勝利の余波をかって、消費税を廃止に追いこみ、あわよくば政権の座を奪おうとする野党と自由民主党との対決の国会となりました。社会、公明、民社、連合の四会派は共同して、消費税廃止関連九法案を参議院に提出し、これを通過させましたが、審議の過程で多くのミスがあることが分かり、法案は修正を余儀なくされました。これに対して自由民主党は、精力的に国民の意見を聞き、十二月はじめに、飲食料品について軽減税率の適用、入学金や出産費、家賃等を非課税、総額明示方式等を盛り込んだ、消費税見直し案を決定し、その関連法案を次期通常国会に提出することとしました。
平成元年は、わが国政治における大きな変動の年でしたが、国際情勢はこれよりさらに大きな変動に見舞われました。
まずアジアでは、天安門事件という不幸な出来事はあったものの、三十年ぶりに中ソ間の国交が正常化されました。また、欧州では、ソ連のペレストロイカとグラスノスチが東欧諸国に波及し、誰の目にも社会主義による政治と経済の失敗が明らかになりました。各国がそれぞれに市場経済と民主化を模索しはじめましたが、とりわけ東ドイツでは、社会改革を要求するデモと大量の市民の西側への脱出がはじまり、政権の交代のなかで、十一月、ついにベルリンの壁が崩壊し、分断ドイツの再統一問題が浮かび上がりました。これをきっかけに東欧各国はなだれを打って社会主義からの離脱を表明し、さらにソ連を含めて各国で、民族自決を求める動きが顕在化したのです。
さらに、米ソ首脳は十二月に地中海のマルタ島で会談し、「東西冷戦の終結」を宣言しました。これは第二次世界大戦以来の世界秩序の枠組みとなってきたヤルタ体制の終焉を示すもので、世界はこの時から新たな秩序構築に向けて進むことになりました。
国内の最大の関心事は、言うまでもなく総選挙の日程でしたが、海部首相は、平成二年一月の百十七回通常国会の冒頭に衆議院を解散し、第三十九回総選挙の幕が切って落とされました。
野党は前年の参議院選挙での勝利の再現を夢み、再び消費税を争点にして、衆議院でも自由民主党を過半数以下に陥れようと画策しました。マスコミもこれを最大の焦点と煽り立てました。しかし、実施以来一年近い時日を経た消費税はすでに国民の間に根づきはじめていたのです。
二月十八日の投票の結果、自由民主党は過半数を割るどころか、安定多数をはるかに上回る二百七十五議席を獲得しました。国民は参議院選挙後わずか七ヵ月で再び自由民主党を信任したのです。社会党も一三六議席と善戦しましたが、公明、共産、民社はいずれも大きく後退しました。
二月末日、第二次海部内閣は発足し、首相は百十八回特別国会で、就任以来初の施政方針演説を行い、総選挙で自民党が安定多数を確保したものの、参議院で与野党逆転が続いていることをふまえ、「国民的合意を目指す」と対話を重視する姿勢を強調しました。続いて、日米首脳会談のため米国へ飛び、ブッシュ大統領とのあいだで、日米構造協議について懇談しました。米側は、新通商法三〇一条の対象品目を上げて解決を迫り、首相は、「新内閣の重要課題の一つとして力強く取り組む」と述べました。
この間にも自由民主党は政治改革の実現に向かって、精力的に取り組みました。自由民主党は、「党基本問題プロジェクトチーム」を発足させて、選挙制度改革に関して討議を深めるとともに、国会改革については、議会制度協議会を開いて、野党側の協力を求めるなど、精力的な活動を続けました。
こうした間にも、国際情勢は思いもよらぬスピードで展開を見せました。ソ連では、リトアニアの独立宣言を皮きりに、各共和国がそれぞれに自立を宣言し、最大のロシア共和国までが主権宣言を採択しました。東ドイツでは初の自由選挙が行われましたが、保守派のドイツ連合が勝利して、西ドイツへの編入によるドイツ統合が一挙に加速され、七月一日の通貨統合、十月三日の国家統一が決定されたのです。
アジアでも大きな変化が進みました。六月には「カンボジア和平に関する東京会議」が開催され、国民政府の代表とプノンペン政府の代表が自発的停戦をうたった共同コミュニケに調印しました。これは、戦後はじめて国際紛争に直接関与するわが国の調停で行われた意義深い会議です。また同じ六月、韓国の盧泰愚大統領は、米国サンフランシスコでゴルバチョフ大統領と電撃会談を行い、韓ソ国交の樹立の近いことを窺わせ、これが九月末の両国の国交正常化につながるのです。さらに朝鮮半島では南北の対話が進み、九月に南北首相会談が開催の運びとなりました。
世界は全体として、自由と民主主義を基調とする平和と安定の道をたどりつつあると思われましたが、八月初頭に起こったイラク軍のクウェート侵攻は、世界のひとびとを驚愕させました。国連安保理事会は直ちにイラク軍の即時無条件撤退要求を、続いて経済制裁を決議し、わが国もいち早くこれに同調して、石油輸入の禁止、投融資等の停止、経済協力の凍結等の措置を決めました。しかし、それにもかかわらずイラク軍は南進を続けたので、米国はじめ西側各国は軍隊を派遣して多国籍軍を形成し、アラブ首脳会議もアラブ合同軍の派遣を決定しました。また、ソ連も軍艦を出動させるなど、世界は上げて、イラクのクウェート侵攻に立ち向かったのです。これらに対してイラクはクウェート在住の外国人を人質とする作戦に出ましたが、国連安保理事会はさらに、経済制裁の実効性を確保するため、限定的な武力行使を認める決議を行いました。
わが国にとっての問題は、紛争解決に向けて、どのような具体的な貢献策を打ち出すべきかということでした。海部首相は、予定されていたサウジなど中東地域への訪問を取りやめ、代わりに中山外相を派遣して、各国と意見を交換させることにしました。外相の帰国後、政府は八月末、中東支援策として、各種輸送、資機材の提供、医療団の派遣、資金協力などを決め、このため多国籍軍への十億ドル協力と、周辺諸国と難民支援のための一千万ドル援助を発表しました。九月末には、海部首相が中東支援第二弾として、多国籍軍にさらに十億ドル、周辺諸国への政府開発援助として二十億ドルを決定するとともに、資金面の協力のみならず、人的面の協力を行うために、国連平和協力法を制定することを提唱しました。
海部総裁は政治改革関連法案が廃案となった責任をとり、任期満了に伴う平成三年十月に予定された総裁選挙への立候補を辞退しました。 
 
宮澤喜一 

 

1991年11月5日-1993年8月9日(644日)
1991年(平成3年)、海部俊樹首相の退陣に伴う総裁選挙で勝利、73歳にして内閣総理大臣に就任した。参議院議員経験者としては初めての内閣総理大臣である。
保守本流のエース、国際派の総理大臣として大きな期待がかかったが、竹下派の支配下にあって思い通りの政権運営はままならなかった。在任中の施策としてはPKO協力法の成立と、それに伴う自衛隊カンボジア派遣がある。その過程で派遣された文民警察官と国連ボランティアが殺害された際に「PKO要員の殺害は止むを得ない。」と発言し批判を浴びた。
訪中した際には反日団体から生卵を車列にぶつけられた。天皇の戦後初の訪中も実現させている。首相退任直前に慰安婦問題についての河野談話を発表し謝罪の意向を表明したが、一部の保守派論壇から非難された。
またバブル景気崩壊後の金融不安を巡って、1992年(平成4年)8月中旬に日銀総裁であった三重野康と歩調を合わせて東証閉鎖・日銀特融による公的資金投入というシナリオを密かに模索したが、大蔵省の反対により一旦断念。なおも30日の自民党の軽井沢セミナーで金融機関への公的援助発言をする。地価や株価等の資産価格の大幅な下落から、今までの景気後退とは質が違うとし、公的資金を投入しても不良債権を早期に処理する必要性があると発言したものであった。しかし官庁、マスコミ、経済団体、そして当の金融機関自身からの強い反対にあい実行に至らなかった。その結果、宮沢喜一はその決定を取り下げなければいけなくなり、この事により銀行への公的資金投入による不良債権処理はタブーとなり、その後は何年にもわたり日本の政治家は誰一人としてこの事を言えなくなってしまった。宮沢がこの発言をした背景には、英経済紙フィナンシャル・タイムズが日本の不良債権額を、大蔵省の発表額の数倍である50兆円に達すると報じたのを、たまたま目にしたことがあったというが、そのような危機意識を国内で共有していたのは、三重野以外に存在しなかったという。
折からリクルート事件などを巡って高まっていた政治改革の機運の中で、宮澤は政治改革関連法案の成立を目指したが、自身は必ずしも小選挙区制をはじめとする政治改革に積極的ではなかった。竹下派から分かれた小沢・羽田グループ(改革フォーラム21)は宮澤のそのような姿勢に反発を強め、1993年(平成5年)6月に内閣不信任案が提出されると賛成にまわり同案は可決された。自民党は大量の離党者を出したまま総選挙を行うも新生党、新党さきがけなど自民党から離れた議席を回復することが出来ず日本新党を中心とした野党勢力に敗れ、細川護熙に政権を明け渡す。宮澤は自民党長期支配38年の最後の首相となった。宮澤は第15代自民党総裁だったために、同じく15代目で政権を明け渡した徳川慶喜になぞらえ「自民党の徳川慶喜」といわれた。
再び大蔵大臣に
その後は村山内閣で外相在任中の河野洋平から駐米大使を打診されたが固辞、1996年(平成8年)初めて小選挙区比例代表並立制で実施された第41回衆議院議員総選挙では重複立候補していない新進党公認柳田稔との現職対決に圧勝で再選、1998年(平成10年)に小渕内閣が発足すると、未曾有の経済危機に対処するため小渕恵三首相は宮澤に大蔵大臣就任を要請。当初は難色をしめしていたが、小渕の強い熱意のもと就任を受諾。戦前に活躍した高橋是清と同様、異例の総理大臣経験者の蔵相就任となったため、「平成の高橋是清」などといわれた。首相経験者の閣僚は幣原内閣の米内光政海相以来53年ぶり。
折からの金融危機に対処するため金融再生関連法・金融健全化法を成立させ、またアジア通貨危機にあたっては「新宮澤構想」に基づき300億ドルに及ぶ経済支援を行った。続く森内閣でも蔵相に留任し、初代財務大臣となる。
小渕・森内閣両期を通じて巨額の恒久的減税の一方で財源として一貫して大量の赤字国債を発行し続け、財政赤字は膨大なものとなった。こうした極端な積極財政を主導したことも、高橋是清になぞらえて呼ばれるようになった理由の1つである。金融危機を脱した後は経済は概ね好調だったが、財政再建に乗り出す時間的余裕は与えられないまま、森内閣の退陣とともに宮澤も退任した。
1991-1993

 

宮沢総裁時代
平成三年十一月五日、海部内閣の退陣を受けて召集された臨時国会で宮沢喜一自民党総裁が首相に指名され、宮沢内閣が発足しました。マスコミはこの内閣を「保守本流政権の登場」と論評しました。
これに先立ち、十月二十七日に自民党本部八階ホールで行われた自民党総裁選で、宮沢喜一氏は第十五代総裁に選ばれました。選挙は、渡辺美智雄氏、三塚博氏との三つ巴の争いで、宮沢氏二百八十五票、渡辺氏百二十票、三塚氏八十七票という結果でした。宮沢内閣が本格派政権と呼ばれたのは、宮沢首相が早くから総裁候補といわれ、ポスト中曽根政権を争った竹下登前首相、病に倒れて政権への望みを断たれた安倍晋太郎元幹事長の三人の「ニュー・リーダー」の最後の一人だったためです。宮沢首相が政策通として米国をはじめ海外での知名度が高かったのも本格派とされた理由のひとつでした。
折から、不可避となったソ連邦解体など国際情勢は激動の気配が高まる一方、国内はバブル崩壊の兆しを見せはじめた経済状況の下で激化する日米通商摩擦への対応を迫られるなど、日本政治をとりまく環境は極めて厳しいものでした。
発足した宮沢内閣には(1)国連平和維持活動(PKO)協力の推進(2)コメ自由化が焦点の関税・貿易一般協定(GATT)の新多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)への対応(3)政治改革 の三つの大きな課題が待ち受けていました。宮沢首相は、党に綿貫民輔幹事長、内閣に渡辺美智雄副総理兼外相、羽田孜蔵相、加藤紘一官房長官という布陣を敷いて、そうした課題に取り組む強い決意を内外に示しました。翌年一月には、金丸信副総裁を新たに党の重鎮として加え、政権基盤をさらに強化、PKO協力法や政治改革をめぐる与野党折衝に備えました。
就任まもなくの十一月八日、宮沢首相は臨時国会で行った初の所信表明で「質の高い生活環境を創造して、所得のみでなく、社会的蓄積や美観など質の面でも真に先進国と誇れるような、活力と潤いに満ちた、ずっしりと手応えのある『生活大国』つくりを進めていきたいと思います」と述べ、「品格ある国・生活大国」の建設を大きな政策目標に掲げました。政治の師匠である池田勇人元首相が敷いた経済成長の路線から、国民生活の充実を重視する方向への転換を宣言したもので、バブル経済崩壊の兆しにおびえる国民の気持ちを反映したものでした。
宮沢内閣が成立を目指してまず取り組んだPKO協力法案は、海部内閣時代に国会に提出され、衆院で継続審議になっていましたが、カンボジアでのPKO活動の必要性が急浮上し、成立が急がれる状況でした。先の湾岸戦争で、多額の資金援助をしながら、「金は出すが人は出さぬ」と米国を中心とする国際世論の非難にあった日本としては、PKO協力法案が汚名返上への第一歩だったのです。
政府・自民党は参院での与野党逆転状況をにらみ、公明、民社両党との三党体制で成立させる方針をとり、両党と折衝した結果、いわゆる「PKO参加五原則」を法案に盛り込みました。(1)紛争当事国間の停戦合意の成立(2)PKO参加に当たっての紛争当事国の同意(3)平和維持軍(PKF)の中立厳守(4)条件が満たされない場合の日本部隊の撤収(5)隊員の生命保護のため必要不可欠な場合の小型武器の使用容認 がそれです。
ところが、公明党は賛成の方針を決めたものの、民社党は「シビリアン・コントロールの確保」などを理由に「PKF参加には国会の承認が必要」として譲らず、宮沢首相が誕生した年の臨時国会では、衆院を通過したものの参院で継続審議となり、決着は翌年の通常国会に持ち越されました。PKO法案をめぐる政府・自民党と公明、民社両党との調整は平成四年一月二十四日に召集された通常国会でも粘り強く続けられ、三党の合意がようやく成立したのは五月末でした。
「PKF参加の凍結」「国会の事前承認」「三年後の見直し」という合意は、政府・自民党にとっては譲歩した内容といえます。しかし、それでも六月十五日に成立したPKO法は、日本の国際貢献への第一歩として画期的であり、その後、この法律に基づいてカンボジア、モザンビークへのPKO部隊の派遣、ルアンダでの難民救済活動などが展開され、日本の国際貢献が高く評価されることになります。
このPKO修正法案をめぐる衆院本会議の採決は、社会党と社民連の牛歩戦術で混乱しました。加えて、両党は所属衆院議員全員の辞表を桜内義雄議長に提出して解散総選挙を狙う前代未聞の戦術をとりました。桜内議長は辞表を受理せず、預かるにとどめたため政治の空白を生まずに済みましたが、もし解散していればバブル崩壊の経済不振にあえいでいた国民生活に大きな打撃があったでしょう。自民党は、社会、社民連両党のそういったやりくちに対抗して内閣信任案を提出して自民、公明、民社の三党で可決、「自公民路線」を固めるという手を打ちましたが、国会の与野党対決ムードは高まりました。
日本の農業関係者が最大の関心をもって行方を見守っていたウルグアイ・ラウンドは宮沢内閣が発足して間もなくの平成三年暮れ、関税・貿易一般協定(ガット)のドゥンケル事務局長が農業分野でコメを含む例外なき関税化の最終合意案を各国に提示しました。加藤官房長官はすぐさま記者会見で政府の遺憾の意を表明しましたが、国際社会の流れに抗しきれぬとの見方もあり、この後、コメの自由化は政治の最大問題のひとつとして論議されていきます。
宮沢内閣にとって、コメ自由化問題を上回る難関は政治改革でした。リクルート事件以来、政治改革を求める世論は高く、これを踏まえて宮沢首相は平成四年通常国会の冒頭の施政方針演説で「政治改革に全力をあげる」と宣言、党総裁として、(1)衆院定数是正(2)政治資金(3)政治倫理(4)国会改革 の四項目について、早急に具体案を作成して通常国会中に法案成立にこぎつけるよう自民党に指示しました。しかし、何をもって政治改革とするかの論議が分かれるうえ、党内には衆院への小選挙区比例代表並立制導入を急ぐべきだなどの主張とこれに強く反対する意見があり、なかなか意見統一は難しい状況でした。
しかも、そんな状況に拍車をかけるように平成四年一月には鉄骨資材メーカー「共和」事件、二月には東京佐川急便事件が発生。三月二十日には栃木県で講演中の金丸副総裁に向けて短銃が発砲される事件などがあり、政界は騒然とした雰囲気に包まれていきます。
五月二十二日に細川護煕氏が既成政党を批判する立場から旗揚げした日本新党は、そうした雰囲気の中で国民の不満の受け皿になることを意図したもので、これが後の自民党からの一部勢力の離党につながり、自民党の下野、それまでの野党勢力による細川政権樹立へという流れの発端になりました。
宮沢首相は国内政治に汗を流す一方、外交に全力投球しました。平成四年一月八、九日の両日、日本を訪問した米国のブッシュ大統領との首脳会談が手初めで、課題は減速傾向をみせていた日本経済に、米国が最大産業である自動車業界の圧力を背景にどのような注文をつけてくるかでした。日米両首脳は五時間に及ぶ会談の結果、成長に重点を置いた政策協調をうたった「世界成長戦略に関する共同声明」と、両国の経済摩擦解消へ向けた「東京宣言」「行動計画」を発表しました。「行動計画」は日本が米国から購入する自動車部品の数値目標が入った厳しい内容でしたが、日米協調路線は維持されました。この訪日の途中、ブッシュ大統領が首相官邸で開かれた晩餐会で流行性感冒による胃腸炎で倒れ、世界を驚かせる一幕もありました。
宮沢首相は同一月に韓国を訪問して盧泰愚大統領と会談、続けて同月三十一日にはニューヨークの国連本部で開かれた初の安全保障理事会首脳会議に出席、ロシアのエリツィン大統領とも会談しました。首脳会議の席で、宮沢首相は日本の首脳として初めて安全保障理事会常任国入りへの強い意欲を表明し、その動きが以後一貫して日本外交の目標のひとつになりました。
四月には中国の江沢民国家主席が来日、平成四年が日中国交回復二十周年を迎えるのを機として、天皇、皇后両陛下に中国訪問を招請しました。両陛下はこれを受けて同年十月に、中国を訪問し、先の大戦から続く両国民の心情的わだかまりの解消と友好親善の前進に大きな役割を果たされました。
一方、国内政治は、平成四年後半から五年にかけて、政治改革が具体的進展をみないことや、相次ぐスキャンダルの発生で重苦しい状況が続きました。四年八月には佐川急便事件に関連して金丸副総裁が辞任、金丸氏は十月には衆院議員を辞職するやむなきに至りました。政府・自民党は四年八月に十兆円規模の緊急経済対策を発表しましたが景気が好転した実感は得られませんでした。
ただ、宮沢内閣に対する国民の支持は、難局に当たる首相の真摯な姿勢が好感をもたれて高く、四年七月に行われた参院選挙では自民党が改選議席(百二十七)の過半数を超える六十八議席を獲得、勝利しました。旗揚げしたばかりの日本新党は四議席でした。
そうした状況の中、政治改革を求める世論はますます高まりをみせ、十一月には東京・日比谷公園で民間政治臨調が四千人を集めて「中選挙区制度廃止宣言」を行うなど、マスコミを巻き込んだ改革不可避のムードが濃厚になって行きました。宮沢首相は、四年秋からの臨時国会で九増十減の衆院定数是正、違法な寄付の没収などの政治資金規正法改正案などを成立させる一方、自民党が同年十二月までにまとめた(1)衆院に単純小選挙区を導入(2)政党交付金制度の導入(3)派閥の弊害除去 など抜本的政治改革を実現する方針を掲げました。ところが、その直前に起きた不測の事態が、その後の予想外の政治展開につながり、実現にブレーキがかかります。
金丸氏の議員辞職をめぐる自民党内最大のグループの分裂がそれでした。小沢一郎元幹事長、羽田孜蔵相らのグループが、竹下氏、小渕恵三氏らと袂を分かち、新政策集団を結成。このグループは翌年六月、自民党を離党して新生党を旗揚げすることになります。
宮沢首相は、四年十二月十一日に党・内閣人事の改造を断行。党幹事長に梶山静六氏、総務会長に佐藤孝行氏、政調会長に三塚博氏を当てました。また、内閣では蔵相を羽田氏から林義郎氏に替えるとともに、官房長官に河野洋平氏を当て、自民党内の混乱の収拾と政治改革断行に向けた態勢をとりました。ただ、五年四月には渡部美智雄副総理兼外相が病気のため辞任、副総理には政治改革推進派の後藤田正晴法相が就任します。
宮沢首相は五年一月二十二日召集の通常国会で抜本的政治改革を実現するとして、施政方針演説でも強調します。しかし、それにもかかわらず、自民党内の意見は二分され、まとまりません。これが、後の新生党の旗揚げや、それと相前後した竹村正義、鳩山由紀夫氏らの自民党からの集団離党につながり、政局を激動させることになりました。
自民党は三月三十一日、政治改革四法案を党議決定しましたが、宮沢首相は党内情勢を考慮し、通常国会の閉幕が近づいた六月中旬、政治改革法案の成立を次期国会に先送りする意向を固めます。これに対して、野党陣営は内閣不信任案を衆院に提出、後に自民党から離党して新生党を作る羽田氏らのグループ、同じく新党さきがけを結成する武村氏のグループがともにこれに賛成票を投じ、六月十八日、不信任案は成立してしまいます。これに対し、宮沢首相は衆院解散を断行、七月四日に総選挙が公示され十八日に投・開票が行われました。
この選挙期間中には、東京で先進国首脳会議(東京サミット)が開かれ、宮沢首相は日ロ首脳会談に臨むなど、議長として各国首脳への応対に忙殺され、選挙戦を十分戦うことができませんでした。さらに、衆院選公示直前に東京地検がゼネコン談合事件を摘発、仙台市長が逮捕され、これが与党の選挙に不利となったことも否めません。選挙の結果、自民党は過半数を得るに至らず、宮沢首相は退陣を表明します。
宮沢内閣の後には、非自民勢力七党が連立した細川内閣が成立(八月六日)、自民党は保守合同後、はじめての野党に転落します。自民党の新しい総裁には七月三十日に河野洋平氏が就任しました。
この間の明るいニュースとしては、六月九日に執り行われた皇太子殿下と小和田雅子さまの結婚の儀がありました。 
 
細川護熙

 

1993年8月9日-1994年4月28日(263日)
衆議院の解散による第40回衆院選で日本新党は躍進、細川は小池百合子と共に衆議院に鞍替えし、熊本1区で全国第2位の票数を獲得して当選した(小池も兵庫2区で当選)。この選挙で野党第一党の日本社会党は大敗し、与党で第一党の自由民主党も過半数に達していなかったため、日本新党と新党さきがけがキャスティングボートを握る。新党さきがけ代表の武村正義は、細川とは滋賀県知事時代以来のつきあいがあり、その縁で日本新党を引き込み自民党との連立政権を模索したが、新生党代表幹事小沢一郎がこれに対抗して「細川首相」を提示。細川は「自民党を政権から引きずり下ろすためには悪魔とも手を結ぶ」と述べ、非自民連立政権の首班となることを受諾した。
1993年8月9日、政治改革を最大の使命として掲げる細川連立政権が誕生した。公選知事経験者の首相就任は史上初であり、2012年現在も唯一の事例である(公選知事経験者が三権の長に就任した例としては、2009年に衆議院議長に就任した横路孝弘がいる)。また、衆議院議員当選1回での首相就任は1948年の吉田茂以来45年ぶり、閣僚を経験していない政治家の首相就任としては1947年の片山哲以来46年ぶりである。細川政権の誕生により1955年から38年間続いた所謂55年体制が崩壊した。日本新党、新生党、新党さきがけ、社会党、公明党、民社党、社会民主連合の7党、及び参議院の院内会派である民主改革連合が連立を組んだ8党派からなる細川内閣は連立与党間の調整の難航が予想され、「8頭立ての馬車」「ガラス細工の連立」と揶揄されることもあった。しかし、内閣発足直後に行われた世論調査では内閣支持率は軒並み7割を超え、史上空前の高い支持率を誇る。この記録は小泉内閣によって塗り替えられるまで保たれることになる。
1993年8月15日に、日本武道館の「戦没者追悼式典」で首相として初めて「日本のアジアに対する加害責任」を表明する文言を挿入した辞を述べた。また、折からの冷夏によって起こった記録的米不足を背景に、食糧管理法を改正し所謂ヤミ米を合法化し、自民党政権下でも長年の懸案でもあったコメ市場の部分開放を決断した。ただし米糧のブレンド米の緊急輸入に関しては就任直後には慎重な姿勢を見せていたのにも関わらず、結果として認めたため記者会見で「断腸の思いだ」と発言するなど一部から批判を浴びた。11月にはアメリカでのAPEC首脳会議に参加した。
その一方で政治改革四法案の成立は難航した。連立与党の衆議院選挙制度改革案は、当初の小選挙区250、比例代表(全国区)250、計500議席を、小選挙区274、比例代表(全国区)226と自民党へ譲歩したものの受け容れられず、民意を正確に反映しない小選挙区制の導入に反対する社会党の一部参議院議員も造反したため、1994年1月に廃案となる。ここで細川は、一度否決されたにもかかわらず、自民党の改革推進派議員にも呼びかけて決起集会を開き、再び改革案成立への意欲をアピールした。細川は、河野洋平自民党総裁との党首会談で修正を話し合い、今までよりもさらに自民党案に近い小選挙区300、比例代表(地域ブロック)200の小選挙区比例代表並立制とする案を呑むことで合意を取り付けた。こうして長年にわたり何度も頓挫してきた新たな選挙制度を実現させた。結果的には、羽田孜や小沢一郎が自民党を割って出てまで推進してきたこの政治改革の成就が、9ヶ月の細川内閣におけるほとんど唯一の実績だが、ここで成立した選挙制度改革や政党交付金制度は、後の政治のあり方を大きく変えていくことになる。
1994年2月、冷戦終結後の日本における安全保障のあり方の見直しを提起し、防衛問題懇談会を設置した。
政治改革関連法案が曲がりなりにも成立し、高い内閣支持率もそのまま維持した。2月3日、これに意を強くした小沢一郎と大蔵事務次官の斎藤次郎のラインに乗った細川は、消費税を福祉目的税に改め税率を3%から7%に引き上げる国民福祉税構想を発表した。しかし、これは深夜の記者会見で唐突に行われたもので連立与党内でも十分議論されていないものであったため、世論はもとより武村正義内閣官房長官や社会保障を所管する厚生大臣の大内啓伍民社党委員長、村山富市社会党委員長ら、与党内からも反対の声が沸き上がり、結局翌2月4日に連立与党代表者会議で白紙撤回に追い込まれた。
政権を支える新生党代表幹事の小沢一郎と、内閣官房長官の武村との対立が表面化。細川は内閣改造によって武村の排除を図るがこれも実現できず、さらに細川自身の佐川急便借入金未返済疑惑を野党となった自民党に追及されることになる。細川は熊本の自宅の門・塀の修理のための借入金で既に返済していると釈明したが、返済の証拠を提出することが出来ず、国会は空転し、細川は与党内でも四面楚歌の苦境に陥る。4月5日、参議院議員コロムビア・トップ、同西川きよしとの会食の席で「辞めたい」と漏らしたことが報じられ、一旦は否定したものの政権はもはや死に体となってしまい、8日に退陣を表明。総予算審議に入る前に予算編成時の首相が辞任するのは極めて異例の事態である。こうして国民の大きな期待を背負って誕生した細川内閣は、1年に満たない短命政権に終わった。細川の退陣に伴い、かねてから細川との関係が悪化していた武村が率いる新党さきがけは、将来的な合流を見据えて組んでいた日本新党との統一会派を解消し、連立内閣からも離脱して次期政権では閣外協力に転じる意向を早々と表明した。
1993-1994

 

 
河野洋平(自民党総裁時代)
宮沢喜一首相が行った衆院の解散総選挙は、平成五年七月十八日に投・開票が行われました。自民党は解散前に新生党、新党さきがけ議員の離党で過半数を大きく割り込む状態になっていました。選挙結果は、自民党の議席は解散前に比べればやや伸びたものの、離党の穴を埋めるには至らず、二百二十三議席にとどまりました。衆院の過半数二百五十六議席を大きく割り込むことになったのです。
それでも、マスコミや永田町の多くは自民党と新党さきがけによる連立政権が続く可能性が高いとみていました。なぜなら、選挙に敗北したとはいえ自民党が比較多数の第一党であることは変わりなく、自民党以外に十分な政権担当能力がある政党がないのは明らかだったからです。
ところが、政局は予想外の展開をみせました。七月二十九日になって、新生党、日本新党、新党さきがけ、社会党、公明党など非自民の七党一会派がトップ会談を開いて、特別国会の首相指名選挙で日本新党の細川護煕代表を一致して推す合意をしたのです。自民党から政権を奪いたいという小沢一郎氏らの新生党が、社会党や細川氏に話をもちかけ、合意形成に成功したのでした。背景には、「国民が望む抜本的政治改革は守旧派が多い自民党にはできない」という、マスコミの一部が流したデマに近いプロパガンダがありました。
八月六日の衆参両院の本会議で細川氏が首相に指名され、自民党は昭和三十年の保守合同から維持し続けてきた政権を失い、野党となりました。十一か月後の平成六年六月末、自民党、社会党、新党さきがけの村山連立政権が成立して自民党は再び政権の中枢に戻りますが、それまでの間、ガラス細工と評された基盤の弱い非自民・非共産の細川連立内閣に国政をあずけることになったのです。それに伴い、自民党は衆院議長のポストも失い、女性として初めて社会党の土井たか子氏が議長席に座りました。
七月三十日、宮沢喜一総裁の辞任を受けて、自民党総裁選が行われ、官房長官だった河野洋平氏が第十六代総裁に選ばれました。選挙は河野氏と渡辺美智雄元副総理・外相の争いで、河野氏二百八票、渡辺氏百五十九票でした。自民党議員の間には、新鮮なイメージから人気が出始めた細川首相に対抗するには、いわゆる派閥の会長ではない河野氏が総裁にふさわしいという考えがあったのです。
宮沢内閣は八月五日に総辞職しました。これまでなら自民党総裁として後継首相になるはずの河野新総裁は、野党第一党の党首として国政運営に関与していく立場になりました。幹事長には森喜朗氏が就任し、河野−森体制の自民党は、これまでの野党のような「何でも反対」とか「反対のための反対」などはせず、国民の生活向上や国益追究の立場から、細川政権に是々非々で柔軟に対応していく姿勢をとりました。
細川連立政権の発足は組閣に手間取り、八月九日にずれこみました。副総理・外相に新生党党首の羽田孜氏、官房長官に新党さきがけ代表の武村正義氏が就任、社会党から政治改革担当相となった山花貞夫委員長ら五人が入閣しました。細川首相は、八月二十三日に行った初の所信表明演説で細川内閣を「政治改革政権」と位置づけ、記者会見では政治改革法案が平成五年内に成立しなければ責任を取って退陣するという決意を表明しました。
一方、細川首相は「非自民政権」を率いたにもかかわらず、「自民党の政策を継承する」と言明しました。しかし、細川政権は政策の立案、決定のシステムに重大な欠陥がありました。それは七党一会派の寄り合い所帯であるうえ、内閣の中の閣僚経験者は羽田孜氏一人で、いわば政治の素人集団による政権であることが主な原因でした。政策決定機関として八党・会派による「政策調整会議」が設置されましたが、うまく機能せず、どうしても官僚に頼らざるを得ない状態だったのです。
細川首相が記者会見で先の大戦を「日本の侵略戦争」と断定して各方面から強い批判を浴びたり、平成六年二月に、新たな間接税である「国民福祉税構想」(税率七%)を大蔵省などの言うがままに打ち出し、即座に撤回するという醜態を演じたのも、そうした政権の構造が遠因と言って良いでしょう。マスコミは、細川内閣を「官高政低」の政権と特徴づけました。
野党となった自民党にとって、政権を失う原因のひとつであった抜本的政治改革実現の足踏みをどう解消するかが、宮沢政権以来の大きな宿題でした。具体的には衆院の選挙制度改革が当面の課題で、河野総裁を先頭に精力的な検討を続け、平成五年九月二日に、衆院の定数を四百七十一に削減し、それまでの中選挙区制を小選挙区比例代表並立制に変える政治改革要綱を決定しました。細川内閣が政治改革関連四法案を閣議決定したのは、その二週間ほど後でした。衆院の特別委員会で政治改革関連法案の実質審議が始まったのは十月中旬、この後、衆院比例代表並立制の定数配分などをめぐって、自民党と連立与党との修正協議が続きます。
この前後、東京地検が大手ゼネコンの副会長を贈賄で、宮城県知事を収賄で逮捕し、国民の批判が政治と公共事業との関係に集まりました。また、政治改革をめぐって内部対立のあった社会党の委員長が山花氏から村山富市氏に交替、久保亘氏が書記長に就任するなどの動きもありました。
政治改革に賛成する議員を「改革派」、反対する議員を「守旧派」とマスコミなどがレッテルを張ったことも影響し、国民世論は改革の実現を求める声一辺倒の印象でした。そうした中、与野党の修正協議は自民党の柔軟姿勢もあって、十一月五日から十日の間に比例と小選挙区の定数配分など七項目を協議し、さらに、同十五日、河野−細川会談を行ったが合意には至らず、十六日の衆院本会議ではわが党案が否決されて与党案が可決され、参院に送付されました。
しかし、参院での審議は、細川政権の力不足と、景気低迷の中で平成六年度予算案編成を優先すべきという意見が連立内閣の中から出たことなどから、遅々として進みません。そのあげく、翌年一月二十一日の参院本会議で法案は否決されてしまいました。法案を成立させるには、衆院と参院が両院協議会を開いて修正し採決しなおす必要がありますが、その両院協議会も決裂したのです。
河野総裁は細川首相とのトップ会談で事態の打開を図る決意をします。一月二十九日、内外の注目の集まる中で両首脳の会談が行われ、細川首相は河野総裁の主張する自民党の意見を取り入れた再修正を受け入れました。この結果、小選挙区三百、ブロック別の比例代表計二百、合わせて定数五百の小選挙区比例代表並立制導入を主な内容とする政治改革関連法案が、衆参両院の本会議で可決され、やっと成立したのです。
政治改革はまがりなりにも出来たのですが、平成六年春には、早くも細川政権の前途は暗雲に包まれていました。前年暮れには関税貿易一般協定(ガット)の新多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)が最終局面を迎え、政府はコメ市場の部分開放(ミニマム・アクセス)と関税化を受け入れましたが、国内対策は不十分で、農業関係者には強い不満が残りました。五年十二月には中西啓介防衛庁長官(新生党)が憲法発言などで辞任、熊谷弘通産相(新生党)の省内人事に通産官僚が抵抗するなどの騒ぎもありました。六年二月の細川首相と米国のクリントン大統領による日米包括経済協議をめぐる会談は、日本側の輸入拡大を目指す数値目標に話が及び、決裂してしまいました。前述した国民福祉税構想の挫折もありました。
しかし、そうした個別の政策的失敗よりも、政権の命を縮めたのは新生党と新党さきがけの政権内部の対立であり、致命傷は細川首相個人のスキャンダルでした。前年、平成五年十二月、東京佐川急便からの一億円借り入れ疑惑が発覚します。国政の最高責任者である首相の疑惑を自民党が見過ごす訳にはいきません。六年三月、党に「細川総理の疑惑に関する特別調査会」を設置して、徹底的に調査し追及することになりました。国会での追及に、最初は「ない」と答えた細川首相は次には「一億円は借りて返した」に変わり、返したなら領収証を提出するように求められると答えに窮したのでした。
平成六年四月二十五日、細川内閣が総辞職し、その日の衆参院本会議で同じ七党一会派によって後継首相に新生党党首の羽田孜氏が指名され、二十八日に新内閣が発足しました。ところが、この直後、政権内部で異様な動きが起きます。それは、新生党や民社党などによる社会党を除いた国会内会派「改新」結成でした。いわば社会党追い出し作戦といって良く、これに社会党は激怒、連立を離脱し、羽田政権は瞬く間に少数与党内閣に転落してしまったのです。
このため、羽田内閣は政策らしきものは何一つ打ち出せず、右往左往します。見かねた河野総裁、森幹事長らは国民生活を守るために内閣不信任案を衆院に提出。羽田首相と新生党の小沢一郎代表幹事が官邸にこもって協議した結果、内閣総辞職と決まり、羽田内閣はわずか二カ月で終焉してしまったのです。
そうなると、国民の期待は責任政党である自民党に当然のように集まります。自民党の選択肢は、社会党が抜けた羽田内閣の政権与党と組むか、それとも社会党と組むか。わが党内のさまざまなグループ、集団が、社会党、新党さきがけと提携するのがベターと考え、その可能性を模索し始めました。
自民党と社会党はいわゆる五五年体制といわれた自民党政権が続いた時代に、長く国民の支持を分け合って対決して来た歴史がありました。したがって、それまでの常識では自社の連立内閣は考えにくいものでした。ところが、その常識が覆ります。自民党の真剣な姿勢に社会党が政策転換を約束して応えることになったのです。
六月二十八日、森幹事長は社会党の久保亘幹事長と会談して正式に村山富市社会党委員長を首相とする連立内閣を提案、同日の河野−村山会談で「自社さ連立政権」の合意が正式に成立しました。衆院本会議で首相指名選挙が行われたのは二十九日。非自民連立側は海部俊樹元首相を立て、決戦投票で村山氏が首相に選ばれました。自民党は再び政権与党に復帰したのです。三十日、村山政権は副総理・外相に河野自民党総裁、蔵相に武村正義新党さきがけ代表、官房長官に社会党の五十嵐広三氏というメンバーで発足しました。政権の骨格を事実上、経験豊富な自民党が支える体制であったのは言うまでもありません。
社会党はこの後、九月三日に開いた臨時党大会で、これまで違憲としていた自衛隊を合憲とし、日米安保条約を認める歴史的な政策転換を行いました。野党となった非自民連合側は、新生党が同年十一月に解党し、公明党の衆院議員、民社党、日本新党などが合流して新進党(海部党首、小沢幹事長)を結成、自社さ政権に対抗する態勢を作ります。
村山首相は、ナポリ・サミット(七月八日)、日韓首脳会談(七月二十三日、ソウル)、東南アジア歴訪(八月末)、アジア太平洋経済協議(十一月十二日、ジャカルタ)、日米首脳会談など、不慣れな外交にも力を入れ、自民党の支えで政権運営に励みました。内政でも、消費税率引き上げの税制改正、衆院小選挙区の区割法制定、年金法改正、自衛隊法の一部改正など、重要施策を次々と実現していきました。
村山政権に大衝撃を与えた阪神淡路大震災が発生したのは平成七年一月十七日未明。六千四百二十五人もの尊い生命を奪い、近代都市神戸を壊滅状態にした未曾有の災害は、政府・首相官邸の危機管理、もっと広く言えば日本全体の危機管理を、深い反省とともに再点検し、新たなシステムを構築する必要性を痛感させたのでした。村山政権は緊急復旧費として一兆円規模の平成六年度第二次補正予算を組みました。
自民党が屋台骨を形成した自社さ連立の村山政権は、かなりの実績をあげ、頑張り続けました。七年八月には、戦後に区切りをつけアジア各国への日本の立場を明確にする「戦後五十年の国会決議」を衆院本会議で行いました。ただ、平成七年春の統一地方選では、東京都知事に青島幸男氏、大阪府知事に横山ノック氏が政党の推薦を受けずに当選するなど、無党派層有権者の拡大がみられ、政治情勢は必ずしも安定しませんでした。
そんな中で行われた七月二十三日投票の参院選挙も波乱含みに推移し、自民党は三年前の獲得議席六十七を大幅に下回り、四十六議席にとどまりました。また、獲得議席は新進党の四十議席に負けはしなかったのですが、比例区の得票では新進党が上回ったのでした。この結果が、この年秋の自民党総裁選で、河野氏から橋本龍太郎氏に総裁が交替する動きにつながっていきます。 
 
羽田孜

 

1994年4月28日-1994年6月30日(64日)
羽田は「改革と協調」を掲げ、平成6年度予算の成立に全力を挙げた。
永野茂門法相が「南京大虐殺はでっち上げだと思う」と発言すると組閣早々に更迭した。公共料金値上げの年内凍結や、首相官邸直通のFAX設置などを打ち出していった。1994年(平成6年)5月12日の衆議院本会議での「1969年の日米首脳間で交わされた有事における沖縄への核持ち込みを日本が事実上認めるという密約の真相」に関する村山富市の質問や同年5月16日の参議院本会議で「沖縄への核再持ち込み密約について調査すべき」とする市川正一の質問に対し、首相として沖縄核再持ち込み密約を否定し、調査の必要は無いと答弁をした。
予算案は成立したが、少数与党状態の解消を狙って行われた連立与党と社会党との間の政策協議は決裂し、自民党は内閣不信任案を衆議院に提出した。内閣不信任案の成立が不可避と判断した羽田は、解散総選挙に打って出る構えも見せたが、政治空白と従来の中選挙区制による総選挙実施を招くということで、結局6月25日に内閣総辞職を選択し、羽田内閣は在任期間64日、戦後2番目の短命政権に終わった。
この頃、通産官僚斎藤健の媒酌人を務めた。また当時新生党の新人代議士で、新生党から民主党まで行動を共にした上田清司は埼玉県知事就任後、斎藤を埼玉県副知事に起用した。
6月30日自社さ連立政権・村山内閣が発足し、野党に転落する。小沢の主導によって、旧連立の新生党、民社党、日本新党などは相次いで解党し、1994年12月10日に新進党が結党。羽田は党首選挙に立候補するが、小沢の支持を得た海部俊樹に敗れ、小沢らの打診で副党首となる。
1995年(平成7年)12月にも党首選挙に立候補し、小沢と激突する。羽田支持グループは、党内非主流派ともいうべき興志会を結成し、小沢執行部と対立を深めていく。1996年(平成8年)の、第41回衆議院議員総選挙で自身は新設の長野3区で小選挙区一本で出馬し重複立候補している新党さきがけ党首で社民党・自民党推薦する井出正一に圧勝も新進党自体が敗北すると、小沢執行部に対する更なる不満を強め、新進党を離党し太陽党を結成、党首となる。
1997年(平成9年)12月に新進党が分党すると、1998年(平成10年)1月8日に、民主党、新党友愛、太陽党、国民の声、フロム・ファイブ、民主改革連合が院内会派「民主友愛太陽国民連合」(民友連)結成。同年1月28日、太陽党、国民の声、フロムファイブが統合して民政党を結成し、代表となる。さらに4月27日には民主党、民政党、新党友愛、民改連が統合し、新・民主党が結成され、初代幹事長に就任。首相経験者の政党幹事長就任は前例がなく「羽田は首相再登板の目を覗っている」との見方もあったが、その後は事実上の名誉職である特別代表、最高顧問を歴任する。
2004年(平成16年)5月、国民年金への加入が義務付けられた1986年(昭和61年)4月から首相在任期間を含む1995年(平成7年)7月までの9年間余り未加入であったことを自ら発表し、党最高顧問を辞したがその後再び最高顧問に就任。現在に至る。
2009年(平成21年)8月、脳梗塞後遺症等の体調不安が囁かれる中、8月30日に行われる衆院選への立候補を最後に政界を引退する考えを表明した。衆院選について、「大きく考えれば、最後の選挙になるだろうというのが常識的なところだ」「後継者は党や後援会と相談して決めたい」と述べ、また長男の羽田雄一郎について周辺に「世襲は認めない」と伝え、後継として擁立しない考えを示した。
2009年(平成21年)9月16日に、民主党政権が発足し長年の宿願であった政権交代が実現される。この日国会で行われた首班指名投票では体調不良により投票箱のある演壇に自力で上り下りすることができなかったため、小沢一郎に片腕を支えられながら投票を行った(以降も投票の際、他の民主党衆議院議員に介添えをしながら行なっている)。かつて政権交代を目指して自民党を離党した時の盟友同士でありながらその後の政局の流れで袂を分けた羽田と小沢のツーショットが計らずも政権交代当日に再現された。
現在小沢との関係はかなり良好で、陸山会の土地取引に絡む政治資金規正法違反事件の渦中になる小沢に対し「俺とお前は一心同体だ、羽田グループとして全面的に支える」と明言した。また2010年9月民主党代表選挙でも小沢を支持している。
民主党代表選挙でも投票の際、登壇するのに介添えを必要としており、近年は体調の衰微が顕著となっている。
1994

 

 
My Opinion / 民主党最高顧問 羽田孜 / 平成20年3月28日-平成21年6月29日 
道路特定財源の一般財源化
道路特定財源の一般財源化を巡る与野党の攻防が、いよいよ正念場を迎えました。
道路特定財源は昭和29年、今から54年前に成立しました。日本復興の柱としてこの特定財源は確かに必要でした。
これに上乗せした暫定税率は昭和49年のオイルショックをきっかけに、2年間の臨時措置として適用されましたが、暫定にもかかわらず既に33年間も続いています。
この間日本は大きな変貌を遂げました。そして今私たちは、年金・医療・地域格差・教育・環境等のあらたな国民的課題に直面しています。
政官のしがらみの中で、かたくなに現状の体制・機構を守ろうとする自公政権。
この体制・しくみを打破し、官僚支配から地方の自立を目指す民主党。
双方の哲学は180度違い、決して相容れることは出来ません。
私たち民主党は、道路特定財源を一般財源化して、地方が自由に使える地方自主財源化を主張しています。
民主党のこの主張・問題提起はマスコミも含め国民に大変大きな衝撃となりました。「道路のためだけに」という特定財源のずさんな流用・転用が次々と噴出し、天下りと特別会計の闇の実態も明らかになってきました。
国民をまったく顧みない自民党政治・官僚支配を私たちは決して許してはなりません。
今回の日銀総裁の国会承認も、特定財源の問題も、これまではほとんど国民的議論もないままに、数の力だけですべてが決まってしまいました。しかし先の参議院の与野党逆転により、あらゆる問題が国民のまえに明らかにされ、議論を喚起し、政府の暴走に歯止めをかける事が出来るようになりました。「衆・参のねじれ」というよりは、むしろ「政府と国民意識」に大きなねじれがあると云えます。
政府は極めて曖昧な根拠をもとに、むこう10年間道路特定財源を維持するとしています。みずからの権限を維持するための道路財源の確保としか思えません。
国民が納めた貴重な税金を地域住民のためにと、全国の市長村長さんが霞ヶ関に出向きお役人に頭を下げる。こんな馬鹿げたことがいまだに続いています。地方分権を叫びながら、10年間道路財源を維持することは、今後もまた10年間、霞ヶ関が地方をコントロールするということです。
国の失政を押し付けられた地方は、容赦なくずたずたにされてしまいました。地域のことは地域で決める。権限も財源も地方に移譲する真の地域主権・地方分権を実現しなければなりません。そのためにも道路特定財源を地方自主財源化して道路も含め地域の活性化や住民生活の向上に役立てるべきと考えます。
私の盟友であり出雲市長をつとめた岩國哲人さんは、「大切な税金を福祉・教育・介護・農業・道路のどれに使うのか。住民の意見を聞いてベストと思う仕事をやることに首長と議員の喜びがある。裁量権こそ地方自治の醍醐味。」と述べています。
政権交代でしか今の日本を変えることは出来ません。政権交代とはしがらみ政治・官僚支配との決別でもあります。 
『政権交代』新しい日本が生まれる
「なが過ぎる政権」は、必ず澱み・腐敗します。
企業をはじめ社会全体が政府・与党に迎合し、結果停滞と閉塞を生み、政治と行政はいつしか国民から完全に乖離してしまいます。
中央集権のもと、官僚は決して権限・財源を手放しません。
自民党長期政権は、いつしか国民を忘れ、政権維持のみに恋々としています。
増え続ける国民負担は、さらに暮らしを直撃し、生活格差は今だどんどん広がっています。遅々として進まない宙に浮いた5000万件の年金問題。小泉政権で強行採決までして成立させた後期高齢者医療制度に、国民の不満と怒りが爆発。医療も介護ももはや崩壊寸前です。そして原油の高騰、バターやチーズなどの生活必需品の物価高等々。国民の悲鳴だけがただ虚しく聞こえてきます。
政策や予算をすべて霞ヶ関に依存する官僚支配によるなが過ぎた自民党政権。政治は官僚の御輿と化し、政治はリーダーシップを失い、その使命すら果たすことが出来なくなってしまいました。政治家も政党も、選挙を通じ国民に対し大きな責任を負っています。しかし、官僚には、結果責任がありません。すべての責任は政治が負わなければなりません。
官僚支配の最大の悪弊は、真正面から国民とそして生活と向き合わないことです。数字がすべてで、顔を見ない、暮らしを見ない、現場を見ない。家計を必死にやりくりする庶民の10円、20円の重みをもっともっと大切にすべきです。暮らしの尊さと向き合ってこそ、愛情と思いやりのある政治が実現できると信じます。
迷走に迷走を繰り返し、将来へのビジョンもなく、なんら有効な対策すら打ち出すことの出来ない福田政権。小手先・その場しのぎ、いい加減なゴマカシで国民を欺く政府・与党にこれ以上政権を委ねることは出来ません。
議会制民主主義は、政権交代があって正しく機能します。政権交代でしか、今の日本をそして古いしくみを変えることは出来ません。政権交代とは、しがらみ政治、官僚支配との決別でもあります。私たちの目指す政権は、政治家のためでもなく、政党のためでもなく、官僚のためでもない、国民のための国民本位の政権です。国民の想いを大切にする愛情と思いやりに満ちたあたたかい政府です。
中央が地方をコントロールする補助金行政こそ中央の力の源泉です。
そのために、私たちは官僚支配の権化である中央集権を壊します。
官僚を頂点とした管理社会・規制社会が、国民生活を崖っぷちまで追い込んでしまいました。
霞ヶ関の意向通りにすべてが決まる。このことが特色も活力もない国を地方を創ってきました。その弊害が、政官業の癒着や汚職の構造、財政破綻を招いたバラマキ体質です。そして今国民の怒りの矛先である行政の途方もない無駄使い、特殊法人と官僚の天下り、国民にはおよそ明らかにされない特別会計の闇の仕組みが生まれてしまいました。
この巨悪な旧態依然の体制をぶち壊さないかぎり、国民本位の政治を取り戻すことはできません。そのためには、革命的な地方分権を実現しなければなりません。
外交や安全保障、国家基本プロジェクト等々、国が責任を持つべき仕事を定め、その上で、中央に集中していた財源・権限を大胆に地方自治体に移譲します。
スリムで限定された中央政府と、地域のことは地域の責任で決める住民本位の地方自治体が、つまり中央と地方が対等に並ぶ、新しい国のかたちが生まれます。
例えば道路整備です。地域の道路予算を確保しようと、全国の市町村長さんは何度も霞ヶ関に出向きお役人に頭を下げます。私たちの納めた税金はけっして官僚のものではありません。
地域にとって真に必要な道路はどれか。福祉や医療・子育て・産業支援はどうするのか。それぞれの地域の事情と将来の地域づくりに応じて、各自治体がその責任で自由に予算を組むことが出来るようにします。
首長を中心に住民一人ひとりが参加して責任を持つ。自治体間のやる気に満ちた競争の中、今までにない活力と特色にあふれた地方自治が実現します。
政権を変えることは容易なことではありません。しかし今変えなければ、日本は本当に沈没してしまいます。
いつの時代でも、歴史を変えたのは地位も名もない民の熱い情熱と命懸けの行動でした。
政治の仕組みを変え、真の地方分権を実現し、新しい日本を創る。
政権交代は、歴史の使命と信じます。 
小沢民主はゴングを待てない
昨年安倍前総理に続いて、福田総理までも政権を放り出してしまいました。
福田総理の降参ギブアップです。自民党は完全に政権担当能力を失いました。
そして、総括も反省も国民へのお詫びも無いままに、翌日からは何事もなかったかのように、総裁レースと云うお祭りごっこが始まりました。
出来るだけ派手なパフォーマンスで国民の関心を引きつけ、支持率を上げる。
国民の目をそらし政権維持だけに奮走する。無責任の極みです。
自民党政治の最大の悪弊は、政官業のしがらみと、すべてを霞ヶ関に依存した官僚支配です。
予算も法案もすべてつくるのは官僚です。これでどうして国民の痛みと向かい合うことが出来るでしょうか。
この悪しき慣行を断ち切らない限り、官に権限・財源がある限り、誰が総理総裁になっても、この行き詰った日本の政治を変えることは出来ません。
政権交代とは、しがらみ政治・官僚支配との決別です。
日本の政界で、本当に政治家としての凄みと存在感のある政治家は、小沢一郎しかいません。そして誰よりも官僚機構を知り尽くしているのも小沢一郎です。
彼は必ず官僚支配・官僚機構をぶち壊します。
そして国民と本気で向き合う政権を創ります。
政権交代を果たし、今まで誰もなし得なかった大きな壁に果敢に挑み破壊する。
小沢一郎の勇姿に国民は必ず釘付けになることでしょう。
この胸躍る「解体霞ヶ関・痛快絵巻」を是非すべての国民に見ていただきたい。
それを可能にするのが、この総選挙です。
小沢民主はゴングを待てない。
CHANGE & CREATE 変えることは、創ること。
今の日本は、政権交代でしか変わりません。 
変えなければ変わらない
自民党が責任を持って送り出した総理が、二代続けて政権を放り出しました。
「まだまだ民主党には政権を任せられない。自民党には長きにわたり政権を担ってきた安心感がある。」こう唱えてきた結果が、無責任な政権の投げ出しです。
いったい何処が安心なのでしょうか。小泉政権は、不況・倒産・リストラ・自殺と、医療費・年金保険料等の国民負担だけが増え続けた、弱者いじめと地方切捨ての「壊す改革」だけの五年間でした。痛みを伴う改革には、セーフティーネットが必要です。しかし小泉改革は地方と暮らしを痛みつけただけでした。
そして、その後の消えた5000万件の年金は、迷走を繰り返すだけで遅々として解決されず、小泉政権で強行採決までして成立させた後期高齢者医療制度に国民の怒りと不満が爆発しました。
子供を産み育てたくてもお医者さんがいない。満足に介護も受けられない。
石油や穀物飼料の高騰で、生活必需品や食料品の値上げは、もろに国民の食卓を直撃しています。金融危機・株価の暴落は止まりません。
今度は米粉加工販売会社による汚染米の不正転売が発覚しました。子供たちの給食から、食料品にまで広がっています。行政の怠慢は勿論のこと、政府の責任は極めて重大です。
景気はどんどん悪くなる。物価はどんどん高くなる。給与は全然上がらない。
それでも政府はいつでも他人事です。
ただただ国民の悲鳴だけがむなしく聞こえてきます。
今の政権にはまったく緊張感がありません。
政権が長すぎると必ず腐敗します。そしていつしか国民を忘れ、自分たちの政権を守ることだけが目的となってしまいます。
国民生活がここまで追い込まれてしまった最大の原因は、官僚・霞ヶ関が政治を動かしていることです。
政府の予算案も法律も条約もすべて作るのは中央省庁です。官僚が案を作り自民党に持ち込みます。一応議論はされますがほとんどが了解され、国会に政府案として提出されます。参議院で民主党が第一党になった昨年までは、政府自民党にとって国会はただの消化試合の場でした。国民の顔も暮らしも見ないで、中央省庁は机上の数字合わせだけで、この国を動かしているのです。
中央省庁は、企業・団体をはじめ、地方に対しても絶大な権限と財源をもっています。これが霞ヶ関の力の源泉です。そして自民党はその権限と財源を巧みにあやつり、企業・団体を動かし、地方に予算を分配し選挙の集票に活かし政権を守り続けてきました。
自民党はすべてに官僚頼りです。しかし官僚に反対されるとほとんどの政策は実行されません。
この政官業の負のトライアングルを壊さない限り、政治を国民の手に取り戻すことは出来ません。
国民の苦しみ・将来不安と真正面から真摯に向き合うことこそ、政治の最大の使命です。
官僚には結果責任がありません。しかし、政党も政治家も選挙を通じ国民に対して大きな責任を負っています。すべての責任は政治家が負わなければなりません。
しかし今の政権は、消えた年金も、薬害肝炎隠蔽も、防衛省の不祥事も、相次ぐ役所のムダ遣いも、その責任をいつも曖昧にしてきました。
誰が総理になろうとも、自民党の政権が続く限りこの国を変えることは出来ません。何故なら、自民党にとって今のしくみを壊すことは、その政権基盤を壊すことになるからです。
官僚に支配され、小手先・その場しのぎで迷走に迷走を繰り返す。国民の痛み・暮らしの尊さに背を向ける自民党に、これ以上政権を委ねることは出来ません。
「政権交代」政権を変えなければ、何も変わりません。
腐りきった官主導の政治機構・システムを壊します。
特別会計の闇の仕組みを壊します。
特殊法人を廃止し、官僚の天下りを禁止します。
中央の権限・財源を地方に移す地方分権を実現します。
政治は、国民生活を守る闘いです。
政治主導で、国民と本気で向かい合う思いやりのある政権を創ります。 
『政権交代』変えるのはあなたです
地方の苦しみは尋常ではありません。悲鳴と怒号だけが聞こえてきます。
相次ぐ負担増の連続で国民生活も崩壊寸前です。国民生活基礎調査では、過去最高の約6割の国民が「生活が苦しい」と訴えています。その上、生活必需品の値上がりは止まらず、汚染米の不正流通等で、食する事すら命がけです。
政府の「100年安心年金プラン」はすぐに破綻しました。「消えた年金」と「消された年金」そして「後期高齢者医療制度」で私たち国民の「老後の安心」まで奪われてしまいました。
社会保障費は毎年2200億円削られています。子供を生みたくてもお医者さんがいない。救急患者に対応できない。命を守る地域医療も崩壊寸前で「今日の安心」までもが奪われようとしています。
総理は政権を投げ出せても、国民は生活を投げ出す事は出来ません。
暮らしも地方も、国民に背を向ける自民党政治によって、ことごとく壊されてしまいました。
それでもまだ、自民党を支持しますか。
政権を変えなければ、暮らしを守る事も地方を救う事も出来ません。
政権交代で、間違いなく政治は大きく動きます。
参議院では与野党が逆転しました。それだけで、ガソリン税の暫定税率を廃止する事が出来ました。衆議院の再議決で一ヶ月間だけでしたが、公約通り、ガソリン価格は1リットル25円下がりました。
年金問題や居酒屋タクシー等の行政の堕落と怠慢、途方もないムダ遣い、特殊法人と官僚の天下り、特別会計の闇の仕組みも次々と国民の前に明らかになりました。しかし自民党政権ではこんな事すら出来ません。
政権が変われば政治が動きます。
自民党政権は、官僚政権です。党と官僚の長い間のもたれあいと馴れ合いで、大切な税金の使い道である予算の枠組みも、がんじがらめに縛られています。
小さな冒険すら、官僚に反対され実行すら出来ません。
官僚は、その権限と財源で地方を縛り、政治を動かしています。官僚は選挙の洗礼を受けません。自民党長期政権のもと、平然と国民生活を無視した行政を行ってきました。結果、地方も暮らしも惨憺たる状況にまで追い込まれてしまいました。
官僚支配を打ち破れば、予算の枠組みも劇的に変えることが出来ます。
馴れ合いの自民党と官僚を分断する。そして官僚支配・機構システムをぶち壊す。霞ヶ関と称される中央の権限・財源を地方に移す地方分権・地域主権を確立する。この革命的改革を行わなければ、政治を国民の手に取り戻す国民本位の政治を実現することは出来ません。
民主党にはしがらみもなければ、もたれあいも癒着もありません。民主党にしかこの劇的な改革を成し遂げる事は出来ません。
日本は、政権交代で劇的に変わります。
変えるのは、あなたです。
勇気をもって行動を起こして下さい。必ずドラマが生まれます。
そのドラマは、日本の新しい歴史の扉を開く輝かしい夜明けのドラマです。
政権交代とは、私たち国民が国民の手で国民の政権を創ることです。 
わたしと小沢一郎
昭和44年の第32回総選挙。初の立候補を決意した私は、当時自民党幹事長の田中角栄先生に挨拶に伺いました。
そこで突然田中の親父さんに、「今日から選挙まで3万軒の家を歩け。すぐ名刺を3万枚刷れ。なくなるまで歩け。選挙区は日本の縮図だ。将来日本を動かす時に必ず役に立つ」と、あのだみ声で檄を飛ばされました。
その教えの通り、来る日も来る日も一軒一軒歩き続け、お陰で最高点で初当選を果たすことが出来ました。
このとき、小沢も田中の親父さんから同じことを言われ、私と同様一軒一軒歩き続け見事27歳で全国最年少当選を果たしました。
後日談ですが、田中の親父さんがこの指示を下したのは、小沢と私だけでした。まったくの素人だった二人の事が、わが子のように心配で心配でたまらなかったようです。「3万軒の戸別訪問」という初陣の実践こそが、今日の「選挙の小沢」たる原点であると思います。
この当選から数日後、田中の親父さんから呼び出されました。事務所に伺うとそこに学生のような青年がおり、一緒に部屋に通されました。これが私と小沢との初めての出会いでした。
ふたりを前に、同期で当選した一人一人の解説から始まりました。「梶山静六は40歳で全国最年少の県会議長。渡部恒三、奥田敬和は県会議員。林義郎は通産省の課長…等々。しかしお前たち二人は、羽田はサラリーマン。小沢は大学院の学生だ。政治も行政もズブの素人だ。他の同期生と一緒になって凡々と過ごしていたら将来はない。命がけで勉強しろ。遊びはいつでも出来る。党の部会、国会の委員会に時間がある限り出て勉強しろ。まず基礎を固めろ。必ず将来大きな財産になる」と、とうとうと捲くし立てられました。
お互い政治に関してはド素人、しかも二世議員。すぐに意気投合しその日はじめて酒を酌み交わしました。
そして次の日から田中の親父さんの教えの通り、ふたりの部会・委員会まわりが始まりました。
若い頃は何処に行くにも一緒で、同僚からは「まるで双子の兄弟」とまで言われたものでした。やはりここにも今日のふたりの原点があったかと思います。
それからお互い当選を重ねていくうちに、党や院、派閥の主要ポストや閣僚等を歴任していくと、若い頃のように頻繁に会うことはなかなか難しく多少の距離感が生まれたこともありました。
記者さんの言葉を借りると、お互い同期の中で徐々に頭角をあらわし、まわりがふたりをライバル視して何となく溝が作られていったらしいです。
小沢が党の幹事長に就任。私が党の選挙制度調査会長を引き受け、久しぶりに小沢とのタックが始まりました。
「政治改革・政権交代可能な二大政党の実現・小選挙区制の導入」ふたりは一体となって突き進み、紆余曲折を経てついには、「自民党には自浄作用がない。もはや自民党では改革は出来ない。ならば、改革に燃える同士とともに、自民党に対峙するもうひとつの勢力を創ろう」と、自民党離党という厳しい波乱の道へと進んでいきました。
そして苦節15年。この時のふたりの信念と志が、その実現に向け今大きく動き出そうとしています。
「お互い全然会わなくても、考えていることはいつも一緒だな」ふたりが会うと決まってこんな会話をします。
自民党離党以降、さまざまな新党が立ち上がり、幾つもの再編が繰り返されました。そんな中、事実小沢との対決もありました。しかしそのほとんどは、週刊誌的マスコミ報道と互いの取り巻き議員の対決や憎しみでした。
渦中のふたりには、およそ憎しみもいざかいもありませんでした。
私は大衆の中に飛び込み、語り合うのが大好きな人間です。小沢はシャイで、あまり表に出たがらず、また言い訳も嫌いでそれが誤解を生むこともあります。
しかし、私以上に一途な純な男です。
小沢と私の心は一つです。
いよいよ「政権交代」一大決戦を迎えます。
小沢も私も、この歴史的使命にたとえ一命を賭しても、志に立ち向かうことこそ我が天命と、今魂の鼓動に身が震える思いでおります。 
総選挙か。大政奉還か。
景気はものすごい勢いで悪化しています。新卒者の就職内定取り消しは相次ぎ、新車販売は前年比27%の減、大手百貨店も売り上げ20%の減、そして何十万人もの正規・非正規社員を問わず、リストラが容赦なく行われています。
経済、金融、雇用、国民生活等々、日本は未曾有の危機に直面しています。
しかしこの非常事態にもかかわらず、麻生総理にはまったく危機意識が感じられません。すべてが思いつきの見切り発車で、発言は二転三転の朝令暮改。失言・舌禍で迷走を繰り返し、国民の失笑までかい、総理への国民の信頼は薄れ完全に求心力を失ってしまいました。
民主党は、雇用・中小零細企業へのつなぎ資金を中心とした緊急経済関連対策法案を提出します。景気対策はスピードが命です。次々に施策を打たなければこの世界大不況に対処できません。にもかかわらず、麻生総理は緊急の二次補正すら年明けに先送りをしてしまいました。特に中小零細企業の命綱である一次補正の融資信用保証額の枯渇は時間の問題で、ますますリストラ、企業倒産が増大してしまいます。
今、総理のなすべきことは、自身の政権や自民党を守ることではなく真面目にこの窮状に立ち向かい、国民の生活を守ることです。
国民は大切な家族です。その生活を守り、すこしでも幸せな毎日を送ることができるよう努めることこそ、政治の最も大切な使命です。
この危機に政府も与党もバラバラです。自民党そのものが瓦解・崩壊寸前です。
経済が非常事態の今こそ国民に信を問うべきです。
国民の審判を受け、国民の支持を背景にした強い政権を創らなければ、日本は本当に破綻・沈没してしまいます。
ペリー艦隊の来航から明治維新まで15年。私たちが自民党を離党して同じく15年。歴史の縁を感じます。
麻生総理には、もはや速やかな解散・総選挙か、大政奉還しか道はありません。
政権が変われば、間違いなく政治は大きく動きます。
政権交代とは、私たち国民が国民の手で国民の政権を創ることです。 
政権維持のみに奮走する無責任
また自民党で、こざかしい策略が始まりました。
なんら目新しくもない小泉元総理の麻生批判に、政界もマスコミも何故か大騒ぎです。
国民から完全に見放された麻生総理では総選挙は大敗する。
ここは小泉人気にあやかり自民党と総理を切り離し、すべての責任を総理個人に押し付ける。そして国民の怒りを総理に集中させ、出来るだけ国民の批判をかわしながら麻生総裁を降ろし、新しい総裁のもとで総選挙に臨む。自民党らしいこざかしい策略です。
国民の目をそらし政権維持だけに奮走する無責任。
政権政党としての国民への責任感は微塵もありません。
これこそ小泉元総理の発言をかりれば、「怒るというよりは、笑っちゃうくらい、ただただあきれている」ではないでしょうか。
私たち国民は、ことごとく自民党政権に裏切られてきました。
政権が長すぎると、政治も行政も必ず腐敗します。
表紙をいくら変えても、何も変えることは出来ません。
政権そのものを変えない限り、私たちの暮らしも、地方を守ることも出来ません。
もう、後戻りは許されません。
政権が変われば、間違いなく政治は大きく動きます。
政権交代で、日本は劇的に変わります。 
表紙だけ変えても中身が変わらんでは駄目だ
小泉元総理の麻生批判に続く中川財務大臣の迷走辞任劇。
「もう、いい加減にして欲しい。」「怒りを通り越し、むなしさで言葉もでない。」
国民の率直な想いではないでしょうか。
おそらく自民党内では、麻生降ろしの狼煙が日に日に大きくなっていくでしょう。
いつもいつも国民不在、御身大切・政権維持のみに奮走する自民党。
かつて竹下総理の退陣表明を受け、党内から首相就任を求められた重鎮、伊東正義先生は
「本の表紙だけ変えても中身が変わらんでは駄目だ。結果として国民をだましたことになる。」
と、党への警鐘として最後まで就任を固辞し続けたものでした。
安倍・福田と二代続けての政権放棄。そしてこれぞ最強のエースとして送り出した麻生総理も相次ぐ失態で完全に民意に見放されてしまいました。それでも懲りずに自民党は、
「麻生では選挙に勝てない」
と、まだ表紙だけ変えて国民の怒りをかわそうとしています。
しかしそんな党内事情だけにうつつをぬかしている間にも、景気は加速度的に落ち込み、GDPはマイナス12.7%と想像を絶する値で、経済も国民生活も崖っぷち、底抜けの事態にまで追い込まれてしまいました。
今、政権政党のなすべきことは、自身の政権や党を守ることではなく、真剣にこの窮状に立ち向かい、日本の経済と国民生活を守ることです。
しかし、もはや自民党には政権政党としての自覚も責任も緊張感もパワーもありません。
もうこれ以上の、政権のたらいまわしは断じて許すことは出来ません。
即刻、国民に信を問うべきです。
国民の審判を受け、民意の支持と信頼に支えられた強い政権を創らなければなりません。
政権交代。「FRESH Japan」「FRESH Tomorrow」
私たちは、政治家のためでも、政党のためでも、官僚のためでもない、「国民の生活が第一」の新しい政権を必ず実現します。 
民主党の目指す政権
民主党の目指す政権とは、「国民の手で、国民のための新しい政権を創る」ことです。
視点を変えると、守ろうとする現政権にとっては国家権力のすべてを失うことを意味します。
政治改革を始めて20年。自民党離党から15年。
二大政党のもと、ようやく政権交代が現実へと動き出しました。
しかしそう簡単には政権交代をさせてくれません。
動乱の幕末から明治維新へ。多くの若き憂国の志士の尊き犠牲のうえに新しい歴史が創られていきました。
今あらためてその歴史の重みを実感しています。
政権を担えば、毎日が地図のない嵐の航海を強いられます。
それだけ重い重い責任を背負うことになります。
政権前夜。わが党も今大きな試練に立たされています。
しかし、ここを突き抜けこの試練を乗り越えてこそ、必ずや国民のための新しい政治を興すことが出来ると固く信じています。 
「決着の夏」に向けて
いよいよ政権選択を問う歴史的な衆議院総選挙が迫って参りました。
変えることを怠り、ぬくぬくと生き抜いてきた長すぎる自民党政権。弾み流れる川は、いつも清く澄み渡り生き生きとした生命力に満ち満ちています。しかし、淀んだ水はその生命力を失い、必ず沈淪・腐敗してしまいます。
自民党最大の過ちは、国家・国民よりも、みずからの政権を守ることのみに恋々として来たことです。
政官業の馴れ合いが政治を風化させ、国民の声が届かない、国民の痛みも感じない冷たい官僚支配が蔓延り、地方は活力を失い、年金・医療・介護は崩壊し、将来不安・生活不安・格差はどんどん広がり、国民生活は惨たんたる状況にまで追い込まれてしまいました。
今回の15兆円の補正予算にしても、ほとんどが官僚に丸投げです。100年に一度の緊急不況対策にもかかわらず、2割は官僚の天下り団体に支出され、3割は、まだ使い道も決まらない役所の基金に投入されています。特に今回限りの子供手当てなどは、無責任極まる選挙対策そのものです。そしてその財源は埋蔵金、赤字国債、数年後の消費税の増税です。いつも国民の苦しみは後回し。大切な税金のほとんどが、官から官へと流れてしまいます。
「地方は国の奴隷じゃないか」率直な指摘です。中央官庁のお許しがなければ、ひとつの保育園すら自由に造ることが出来ません。絶大な権限と財源こそ官僚の力の源泉です。そして自民党はその権力を巧みにあやつり、官僚とともに地方を支配し政権を維持してきました。権限と財源を官僚から取り戻し、地方に移譲する「地域のことは地域で決める」これが地域主権・地方分権です。これこそ政権交代なくしては、絶対に実現できません。
政権を変え、官僚支配を打ち破れば、予算の枠組みも政策も劇的に変えることが出来ます。民主党は従来の予算編成の枠に縛られず、ゼロから「国民の生活が第一」を基本に予算を編成します。闇深く閉ざされていた税金の無駄遣いも徹底的に正します。悪しき慣行とは断固決別します。
いよいよ歴史の扉を開く時です。この総選挙は、国民の生活を守る闘いです。
国民とともに信頼と希望に満ちた新しい政権を創る。
政権交代で、政治は動き、日本は大きく変わります。 
政権選択・決着の夏
いよいよ総選挙が目前に迫ってきました。
「政権選択・決着の夏」日本の一番長い熱い暑い夏の日となるでしょう。
政権が長すぎると、さまざまな弊害が生まれ、必ず堕落し腐敗します。
特に、政と官の長い間のもたれ合いは、政権を劣化させ、官僚支配が蔓延し、政治の緊張感と活力すら奪ってしまいます。
もはや自民党は、末期的崩壊状態に陥ってしまいました。
暮らしの尊さを大切にしない政治はもうこりごりです。
今の政治を変えて欲しい。全国でも大きな地殻変動が起きています。
日本は政権交代でしか変えることが出来ません。
政権交代とは、官僚支配から政治を国民の手に取り戻し、国民とともにこの国の仕組みを変え、大切な税金の使い道を正していくことです。
税金の使い方を決める予算編成も「国民の生活が第一」を基本にゼロから組み替えます。
税金の無駄や天下りの仕組みも徹底的に正し、子育てや、医療・介護・雇用・地方の活性化などに集中的に配分します。
政権交代で、日本は劇的に変わります。
16年前、「政治改革から始まり、二大政党が政権を競い合う緊張感こそ政治のダイナミズム。今、この国の政治を変えよう」と、古いしがらみに別れを告げ、断腸の思いで自民党を離党しました。
この間さまざまな新党が立ち上がり、幾つもの再編がありました。
身を削る思いの連続でしたが、「自民党に対峙する、国民のための新しい政党を創りたい」この信念一途で、新しい日本の夜明けを信じ逆境と苦難に立ち向かってきました。
そしていよいよ日本の歴史を変える夜明けのドラマが、今始まろうとしています。
正直、無理に無理を重ねてきた私の身体はぼろぼろかもしれません。
しかし「政権交代」この歴史的使命に、我が身がぶっ壊れようとも、試練に立ち向かうことこそ我が天命と、思いの丈のすべてをぶつけ燃え尽きる覚悟です。
そしてこの新しい歴史の扉を開くことこそ、政治家として私に課せられた最後のご奉公と決意を新たにします。 
 
村山富市

 

1994年6月30日-1996年1月11日(561日)
1994年7月、第130回通常国会にて所信表明演説に臨み、「自衛隊合憲、日米安保堅持」と発言し、日本社会党のそれまでの政策を転換した。
1995年1月、兵庫県南部地震に伴う阪神・淡路大震災発生時、政府の対応の遅さが批判され、内閣支持率が急落した。
3月には「オウム真理教」幹部による地下鉄サリン事件が起こった(後述)。その後、公安調査庁の調査結果を尊重し、オウム真理教への破壊活動防止法適用を公安審査委員会に申請した。
5月10日、自由民主党幹事長森喜朗が「村山総理は『過渡的内閣には限界がある』と洩らしている」と発言し、総理大臣官邸での村山との会話を洩らした。この発言を受け読売新聞社が「首相、退陣意向洩らす」と報道し、他社もこれに続く大騒ぎとなる。その結果、自社さ連立政権全体から森は猛反発を受け、閣内では村山の慰留に努める雰囲気が醸成され、村山内閣はその後も継続した。
6月9日、衆議院本会議で自民・社会・さきがけ3会派共同提出の「歴史を教訓に平和への決意を新たにする決議」(不戦決議)が可決された。
6月21日、全日空857便ハイジャック事件が発生した際には、警察の特殊部隊に強行突入を指示し鎮圧した(後述)。
7月、「財団法人女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)を発足させた(後述)。同月、第17回参議院議員通常選挙が行われた。この選挙は、自民党内閣ではあるが非自民首相の大型国政選挙としては、自民党が結党した1955年以来、初めてであった。この選挙で日本社会党は大きく議席数を減らしたため村山は辞意を漏らしたが、与党側が慰留したことから首相を続投し、内閣改造を行った。
8月15日、「戦後50周年の終戦記念日にあたっての村山首相談話」(通称村山談話)を閣議決定した。
1996年1月5日、首相退陣を表明した。自社さ政権協議にて、自民党総裁橋本龍太郎を首班とする連立に合意した。11日に内閣総辞職し、橋本連立内閣が発足した。
村山内閣の間、首相秘書官は、園田原三(社会党中央本部)、河野道夫(左同)、岩下正(大蔵省)、乾文男(左同)、槙田邦彦(外務省)、金重凱之(警察庁)、小林武仁(左同)、古田肇(通産省)が務めた。主治医として下條ゑみ医師(国立国際医療センター)が従事。首相公邸ではファーストレディー役の二女・中原由利、社会党中央本部の田中稔、八木隆次らが秘書を務めた。  
施政
村山内閣は、55年体制下で続いてきた保革対立に終止符を打った自社さ連立政権であり、政権発足時から、戦後の政治的懸案事項に取り組んだ。
村山本人は「『当時としては』全てにおいて最良の選択だった」と振り返っている。
渡邉恒雄は「よい意味で進歩的内閣で、社会党の反安保・反米、国歌・国旗反対を潰して、国論統一の幅をぐんと広げてくれたことが最大の功績」と保守・右派・タカ派的立場から評価した。また田中康夫は「自民党と社会党のいいとこ取りしたハイブリッド内閣」と評した。
施政方針
国会演説の中で村山内閣の施政方針として「人にやさしい政治」を掲げた。
政策綱領
社会党と新党さきがけが結んだ政策合意に対し自由民主党が参画し、1994年6月に「自社さ共同政権構想」として合意され、村山内閣、第1次橋本内閣の政策綱領となった。
日本国憲法の尊重
小選挙区比例代表並立制の実施
税制改革の前提として行政改革の断行
条件つきながら消費税の引き上げの方向を認める
自衛隊と日米安全保障条約を維持
国際連合平和維持活動に積極的に参加
国際連合安全保障理事会常任理事国参加問題には慎重に対処 
戦後の総括
村山談話
1995年8月15日の戦後50周年記念式典において村山は、日本が戦前、戦中に行ったとされる「侵略」や「植民地支配」について公式に謝罪した。これ以後も保守系議員などにより村山談話とは見解を異にする内容のコメントが発せられ、その度に中国、韓国の政府から反発が起きた。「日本は戦後、戦時中におこなったとされる侵略行為については当事国に公式に謝罪し補償も済ませているのでこれ以上の謝罪論は不要である」との批判がある一方、逆に「この談話は結局のところ『戦争に日本政府は巻き込まれた。悪いとは思うが仕方がなかった』という立場を表すに過ぎない」との批判もある。
被爆者援護法の制定
「女性のためのアジア平和国民基金」設立
1994年8月、「従軍慰安婦問題」に関して民間基金による見舞金支給の構想を発表し、1995年7月、総理府と外務省の管轄下で「財団法人女性のためのアジア平和国民基金」を発足させた。この基金により、1997年1月、韓国人元慰安婦への見舞金支給が開始された。
村山内閣成立以前、国費による損害賠償と政府の謝罪を求めた元慰安婦による訴訟が各地で起こされていた。しかし、日本政府は、他国との条約締結時にこれら諸問題は解決済みとの立場であり、国費投入による元慰安婦への損害賠償はありえないとされていた。村山が示した構想では、政府が基金を設立し資金は民間からの寄附とすることで、直接の国費投入を避けるとともに募金に応じた国民の真摯な思いが伝わるとアピールすることで、両者の主張を織り込みつつ問題解決を図る狙いがある。村山自身は、発足の経緯について「『あくまで政府補償をすべきだ』という意見があれば、他方では『戦時賠償は法的にはすべて解決済みだ。いまさら蒸し返す必要はない』、果ては『慰安所ではちゃんとカネを払っていた』といった声まで、国内外の意見の隔たりは大き」く、「与党3党の間でも厳しい意見の対立があった」が、「それを乗り越え一致点を見いだし、基金の発足にこぎつけた。」「元慰安婦の方々の高齢化が進むなか、何とか存命中に日本国民からのおわびの気持ちを伝え、悲痛な体験をされた方々の名誉回復を図る」には「いろいろ批判はあろうが、当時の差し迫った状況では、これしか方法はなかった」と記している。
女性のためのアジア平和国民基金の初代理事長には原文兵衛、第2代理事長に内閣総理大臣退任後の村山が就き、約6億円の募金を集め、元慰安婦の生活支援のみならず女性の名誉尊厳一般に関する事業を展開してきた。フィリピン、韓国、台湾で支援事業を展開し、インドネシア事業終了を予定する2007年3月に解散することが、理事長である村山により発表された。
2000年9月1日、第2次森内閣で内閣官房長官中川秀直が、女性のためのアジア平和国民基金に関する記者会見を開き、同基金に対する日本政府の認識を改めて表明した。
2007年3月6日、村山は記者会見を開き、従軍慰安婦問題で日本の謝罪を求める決議案がアメリカ合衆国下院にて審議されていることについて、「(女性のためのアジア平和国民基金を通じ)歴代総理が慰安婦の方へお詫びの手紙を出したことが理解されていないのが極めて残念」と発言している。 
災害・事件への対処
阪神・淡路大震災
1995年1月17日、兵庫県南部地震により阪神・淡路大震災が発生した際、政府の対応が遅れたことについて批判された。
危機管理体制 / 村山は自衛隊派遣が遅れた理由に対して「なにぶんにも初めてのことですので」と答弁し、国民から強い非難を浴び、内閣支持率の急落に繋がった。やがて対応の遅れの全貌が明らかになるにつれ、法制度をはじめとする当時の日本政府の危機管理体制そのものの杜撰さが露呈した。当日朝、村山は山花貞夫ら24人の社会党離党届の方を重視しており、京都機動隊が兵庫入りした当日11時過ぎにも「山花氏は話し合いを見て欲しい」と記者にコメントしていた。震災発生は午前5時46分ごろであったが、当時の官邸には、危機管理用の当直は存在しなかった。また、災害対策所管の国土庁にも担当の当直が存在しなかった。当時、歴代在任日数最長の内閣官房副長官として官邸に重きをなしていた石原信雄は、「前例のない未曾有の災害で、かつ法制度の未整備な状態では、村山以外のだれが内閣総理大臣であっても迅速な対応は不可能であった。」と述懐、擁護している。連立内閣に対する内閣官房や官僚の忠誠心の低さも問題点として指摘された。震災後、後藤田正晴に指示された佐々淳行が、総理官邸メンバーの前で危機管理のレクチャーを行ったが、熱心に話を聴いていたのは村山ただ一人であり、それ以外の政務・事務スタッフは皆我関せずの態度を取ったため、佐々が厳しく戒めたという。また、村山が震災直後に国民に向けて記者会見を開こうとしていたが、内閣官房スタッフから止められていた、との逸話も佐々の著書で紹介されている。
法制度上の問題 / 自衛隊出動命令の遅れは、法制度上、地元・兵庫県知事貝原俊民(当時)の要請がなければ出動できなかった点が挙げられる。当日午前8時10分には、防衛庁・陸上自衛隊姫路駐屯地から兵庫県庁に対し出動要請を出すよう打診されている。また午前10時前には自衛隊のヘリコプターを飛ばし被災地の情報収集を行っている。しかし、貝原が登庁したのはその後で、さらに現況の把握に時間が費やされた。最終的に、貝原の命令を待たず兵庫県参事(防災担当)が出動要請を午前10時10分に行い、その4分後の午前10時14分には自衛隊が出動している。2007年、東京都知事石原慎太郎は「神戸の地震の時なんかは、(自衛隊の派遣を要請する)首長の判断が遅かったから、2000人余計に亡くなったわけですよね」と発言し、地方公共団体の対応の遅れを指摘した。だが、貝原俊民は「石原さんの誤解。たしかに危機管理面で反省はあるが、要請が遅れたから死者が増えたのではない。犠牲者の8割以上が、発生直後に圧死していた」と反論しており、派遣要請の遅れと犠牲者数の増加には直接の関係ないとしている。また、兵庫県防災監に震災後就任した斎藤富雄によれば、石原の指摘は「全く根拠のない発言で、誠に遺憾」と指摘している。
復興対応/震災直後、村山は国土庁長官小澤潔に代えて小里貞利を震災対策担当相に任命し復興対策の総指揮に当たらせる。また下河辺淳を委員長とする震災復興委員会を組織し、復興案の策定を進めた。被災者への支援として、16本の法律を改正、および、制定し、被災者に対する税負担の軽減等を図った。
問題点と反省点 / 震災など危機管理対応への各制度が未整備であった。村山は「初動対応については、今のような危機管理体制があれば、もっと迅速にできていたと思う。あれだけの死者を出してしまったことは、慚愧(ざんき)に堪えない。一月十七日の朝は毎年、自宅で黙とうする」と語っている。また、「危機管理の対応の機能というのは全然なかったんです。初動の発動がね、遅れたということについてはね、これはもう弁明の仕様がないですね。ええ。本当に申し訳ない」と述べ、言い訳や反論の仕様がなく、反省しているとの考えを語っている。
オウム真理教に対する破壊活動防止法適用申請
1995年(平成7年)3月20日、地下鉄サリン事件が発生した。村山は法務大臣前田勲男、国家公安委員会委員長野中広務、警察庁長官國松孝次、内閣官房長官五十嵐広三ら関係幹部に徹底捜査を指示、陣頭指揮を執る姿勢を見せ、事件捜査について「別件逮捕等あらゆる手段を用いて」と発言したがこれは刑事捜査の是非について政治サイドの言葉としては著しく問題化した。
地下鉄サリン事件など一連の事件を起こしたオウム真理教に対し、破壊活動防止法適用が検討され、公安調査庁が処分請求を行った。公安審査委員会は破壊活動防止法適用要件を満たさないと判断し、適用は見送られた。
1952年に公布された破壊活動防止法は、暴力主義的破壊活動を行った団体に対し、規制措置を定めた法律である。当初は日本共産党や日本赤軍などの暴力革命による自由民主主義体制の転覆を志向する極左勢力の拡大を防止する目的もあったことから、社会党はじめ55年体制下の野党各党は、従来法の適用に極めて慎重な立場をとっていた。オウム真理教への破壊活動防止法適用には警察官僚出身で自民党の後藤田正晴らからも異論が出るなど賛否両論が噴出したが、法務大臣の宮澤弘、国家公安委員長の野中と協議した村山は、公安調査庁の調査を尊重すると決断し、公安審査委員会への処分請求に道を拓いた。地下鉄サリン事件の捜査に関して前述の「別件逮捕」の扱いについての発言が本来なら革新リベラルとして同志向の面が強い筈の人権派弁護士たちからも大きな反発を受けるなど賛否両論となった。
2007年3月17日、「地下鉄サリン事件被害者の会」が編んだ『私にとっての地下鉄サリン事件』に手記を寄せた。同書には國松や『アンダーグラウンド』を書いた村上春樹らも寄稿している。
ハイジャックへの警察特殊部隊投入
1995年6月、羽田発函館行の全日空857便(乗員乗客365人)がハイジャックされ、「サリンを所持している」という犯人がオウム真理教教祖で前月に逮捕・勾留されていた麻原彰晃の釈放を政府に要求した。
村山は国家公安委員長の野中や運輸大臣の亀井静香と協議し、ハイジャック犯との交渉には一切応じない方針を固め、SAP(SpecialArmedPolice、特殊武装警察)の実戦投入を指示した。
SAPに対し突入を指示した後、村山は「もしも死者が出たら白装束で遺族の下にお詫びに行く覚悟だ」と発言し、野中は「その際は私も同行する」と発言した。
しかし、機内の様子について収集した情報からオウム信者ではないと判断。警視庁警備部第六機動隊特科中隊(SAP)は突入に加わらず、後方支援に回り、北海道警察本部機動隊対銃器部隊と函館中央署員の突入を支援。犯人を逮捕した。軽傷者が1名であった。
サリンとされた物質はただの水であり、ハイジャック犯はオウム真理教とは全く無関係の精神疾患で休職中の東洋信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)の行員であった。
当時の警察庁は特殊部隊であるSAPの存在自体を極秘としており、実戦投入後もその存在が公にされることはなかった。1996年、警察庁は北海道警察本部、千葉県警察本部、神奈川県警察本部、愛知県警察本部、福岡県警察本部に部隊を増設し、警視庁、大阪府警察本部のSAPとともに、正式に「特殊急襲部隊」(SpecialAssaultTeam、通称SAT)の呼称を与え、正規部隊として公表した。 
外交
羽田内閣から村山内閣への移行は政権交代だが、外交方針は従来の日本政府のものを基本的に継承し、行政の継続性を保っている。
対米国
村山内閣成立時、「日本に共産主義政権が誕生した」と日本以外のメディアに報じられたため、懐疑論が根強くあった。
アメリカ合衆国大統領ビル・クリントンは当初、社会党出身の内閣総理大臣に警戒心を持っていた。しかし1994年の第20回先進国首脳会議(ナポリ・サミット)前の会談にて、村山が貧しい漁村に生まれ育った自らの生い立ちから、政治家を志すに至る過程などを訥々と語ったところ、これを聞いたクリントンはいたく感動し、その後のサミットでも不慣れな村山をとかくサポートしたという。
日米安保の維持
1994年7月20日、第130回国会での所信表明演説にて「自衛隊合憲」、「日米安保堅持」と明言し、それまでの日本社会党の政策を転換し、日米安全保障条約体制を継続することを確認した。
この際、演説用原稿では「日米安全保障体制を維持」となっていたのを、所信表明演説では村山が「日米安全保障体制を堅持」と読んだことが注目された。
これは村山の出身政党である社会党にとっては“コペルニクス的転回”であった。トップダウンで決定した背景から独断専行と批判も受けたが、党は追認している。 
内政
原子力発電の容認
これまで原発反対運動を率いていた党方針から転換し、国会答弁で「電力需要を考慮すると、ある程度の原子力発電の造成もこれはやむを得ない」との指針を示した。
リサイクル法の制定
水俣病患者救済
成田空港問題への対応
1991年11月から15回にわたって開催された「成田空港問題シンポジウム」と、引き続き1993年9月から12回にわたって開催された「成田空港問題円卓会議」での結論を受け、村山は1995年、これまでの空港問題の経緯について地元に謝罪した。これにより第二期工事への用地買収に応じる地主も現れた。その後、1996年に未買収地を避ける形で暫定滑走路を建設する案が計画された。村山ら政府の謝罪に加え、中立委員らの度重なる働きかけにより、成田空港反対派住民の強硬姿勢も次第に和らぎつつある。
宗教法人法の改正と創価学会との対立
オウム真理教の地下鉄サリン事件を受けて、村山は文部大臣島村宜伸に指示し宗教法人法の改正案を第134回国会に提出した。審議に際し、自由民主党、日本社会党、新党さきがけの与党3党が、創価学会名誉会長池田大作や創価学会会長秋谷栄之助の証人喚問を要求したため、野党の新進党、公明が反発した。公明所属議員や旧公明党に参加していた新進党所属議員らが、参議院宗教法人特別委員長佐々木満を監禁したり国会議事堂でピケッティングを行ったりして採決阻止を図ったことから、国会が空転する事態に発展した。最終的に秋谷を国会に参考人召致したうえで改正宗教法人法を成立させた。
なお、村山は創価学会の政治活動に極めて批判的な政治家として知られている。俵孝太郎らが創価学会の政治活動に批判的な「四月会」を発足させた際、村山は日本社会党委員長の肩書きで同会の設立総会に出席している。1996年1月の総理退任の際には、総理大臣官邸にて与党3党の幹部らに「三党の連立は守ってほしい。それが自分の希望だ。この国を創価学会の支配下にあるような政党に任せることはできないからだ」と語っている。また、村山内閣、および、村山改造内閣には、前述の島村をはじめ、亀井静香、与謝野馨、桜井新、高村正彦、平沼赳夫、野中広務、大島理森ら、創価学会の政治活動に批判的な「憲法20条を考える会」の主要メンバーが多数入閣している。
官邸機能の強化と政治主導
官邸入りした村山は、内閣総理大臣、内閣官房長官、内閣官房副長官を除くと総理大臣官邸のスタッフは全て官僚であることに危機感を抱いた。「官邸っていうのは単に行政をやる庁ではなくて政治的な判断をやる庁でもある」と考えた村山は、官邸内に「もう少し政治家の発言、意見というものがあっていい」との理由から「内閣総理大臣補佐」のポストを設置した。内閣総理大臣補佐は与党3党に所属する国会議員の中から選ぶこととし、中川秀直、早川勝、錦織淳、戸井田三郎らを任命した。選任された内閣総理大臣補佐は、首相の演説や答弁などへの意見具申や政治課題に関する情報収集を担当した。この内閣総理大臣補佐のポストは首相の私的な相談役との位置づけだったが、後に内閣法が改正され「内閣総理大臣補佐官」のポストが法制化された(内閣法第19条)。
エピソード
戦後政界では内閣総理大臣の座を争って幾度も政争が繰り広げられており、自らの意思ではなく周囲の推挙によって総理に就いた数少ない1人であり、村山自身「自分が総理大臣になろうと思ったことも、なれると思ったこともなかった」と述懐している。総理に就任したときも、家族は喜ぶというより高齢の身で総理の激務に当らなければならない村山を心配した。
首相在任中、妻が持病(腰痛)のため公務に同伴できない状態だったため、秘書をしていた娘が同行した。
首相就任直後、イタリアのナポリで開かれた先進国首脳会議に参加した。国際会議への出席は当然ながら初めてであったため、出発前に宮澤喜一元首相が「通訳がいるので、言葉のことは心配いりませんよ」等のアドバイスをした。
首相在任中は、首相経験者で同い年の竹下登元首相が村山のよき相談相手になっていた(竹下は1924年2月26日生まれ、村山は同年3月3日生まれで殆ど同時期に誕生している)。
首相在任中にベトナムの要人と会談した際に「ベトナムが成長したのは日本のお陰です」と社交辞令を言われた際に「それは違いますぞ。まずはあんたたちが頑張ったから今のベトナムがあるんじゃ。日本はそのお手伝いをしただけじゃ」と言葉を返した。それ以降、ベトナムの要人は村山に尊敬の念を浮かべて社交辞令を超えた会談となった。
サミット開会前のレセプションで腹痛と下痢を起こして中座、翌日も一部の会議を欠席するなどし、関係者を心配させた。海外訪問の経験が少ない村山は、滞在中は現地の飲食物に非常に注意しており、滞在先の総領事公邸で出された食事にしか手をつけなかった。しかし会談前に首脳が屋外で歓談した際、ウェイターが差し出した桃ジュースにうっかり手を出してしまい、それにあたってしまったと後に述懐している。同日夕刻のレセプションの頃にはすでに体調が悪く一切料理に手をつけていない。八幡和郎などは、外務省などが村山の健康管理を充分におこなっていなかったと批判している。 
1994

 

第130回国会・所信表明 / 平成6年7月18日
私は、さきの国会において、内閣総理大臣に指名されました。歴史が大きな転換期を迎えているこの時期に国政のかじ取り役を引き受けることの責任の重さを自覚し、力の及ぶ限り、誠心誠意、職務に取り組んでまいります。
冷戦の終結によって、思想やイデオロギーの対立が世界を支配するといった時代は終わりを告げ、旧来の資本主義対社会主義の図式を離れた平和と安定のための新たな秩序が模索されています。このような世界情勢に対応して、我が国も戦後政治を特色づけた保革対立の時代から、党派を超えて現実に即した政策論争を行う時代へと大きく変わろうとしています。
この内閣は、こうした時代の変化を背景に、既存の枠組みを超えた新たな政治体制として誕生いたしました。今求められているのは、イデオロギー論争ではなく、情勢の変化に対応して、滴達な政策論議が展開され、国民の多様な意見が反映される政治、さらにその政策の実行が確保される政治であります。これまで別の道を歩んできた三党派が、長く続いたいわゆる五五年体制に終止符を打ち、さらに、一年間の連立政権の経験を検証する中から、より国民の意思を反映し、より安定した政権を目指して、互いに自己変革を遂げる決意のもとに結集したのがこの内閣であります。これによって、国民にとって何が最適の政策選択であるかを課題ごとに虚心に話し合い、合意を得た政策は責任を持って実行に移す体制が歩み始めました。私は、この内閣誕生の歴史的意義をしっかりと心に刻んで、国民の期待を裏切ることのないよう、懸命の努力を傾けたいと思います。
我々が目指すべき政治は、まず国家あり、産業ありという発想ではなく、額に汗して働く人々や地道に生活している人々が、いかに平和に、安心して、豊かな暮らしを送ることができるかを発想の中心に置く政治、すなわち、「人にやさしい政治」、「安心できる政治」であります。
内にあっては、常に一庶民の目の高さで物事を見詰め直し、生活者の気持ちに軸足を置いた政策を心がけ、それをこの国の政治風土として根づかせていくことを第一に考えます。
世界に向かっては、さきの大戦の反省のもとに行った平和国家への誓いを忘れることなく、我が国こそが世界平和の先導役を担うとの気概と情熱を持って、人々の人権が守られ、平和で安定した生活を送ることができるような国際社会の建設のために積極的な役割を果たしてまいりたいと思います。我々の進むべき方向は、強い国よりも優し.い国であると考えます。
このような政治の実現のためにも、世界に誇るべき日本国憲法の理念を尊重し、これを積極的に国民の間に定着させていくことが必要であります。また、年長者を敬う心や弱い立場の人々への思いやりなど、日本のよき伝統や美風も大事にしなければなりません。しかしながら、従来どおりの政策の維持発展だけでは真に国民の求める政治とはなりません。時代の変化に対応して、硬直化した社会制度を見直し、思い切った改革を行うことが不可欠であります。改革は、政治の安定があって初めて実効が上がります。逆に、勇気を持って改革に取り組んでこそ、国民の信頼と支持によって政治の安定を得ることができます。私はこの好ましい循環を信じて、たとえ苦しい作業であっても、改革の道を邁進したいと思います。
時代は大きく揺れ動いており、このようなときには、政治が、進むべき道を明確に示し、強力な指導力を発揮することが求められます。同時に、こういうときであればこそ、国民の声が反映された政治でなければなりません。私は、国民とともに我が国の政治の進路を考える姿勢を持って、党派を超えて、さまざまな意見に耳を傾け、国民の前に開かれた形で議論をし合意を求めるという民主政治の基本を大事にしていきたいと思います。
今後行うべき諸改革の出発点として、まず取り組むべきは政治改革であります。政治は国民に奉仕するもの、政治家は国民全体、人類全体の利益の視点に立って行動すべきものというごく当たり前のことが額面どおりに受け取られず、むしろ、政治はうさん臭いものと見られています。政治がその原点に立ち返り、国民の不信を払拭することが今ほど求められているときはありません。このためには、まず清潔な政治への自覚が求められます。「選挙で選ばれる人間は、選ぶ人間以上にしっかりとした道徳観がないと、選ばれる価値はない」というのが私の信念であります。
同時に、制度面の改革について、今までの成果を推し進め、なお努力を重ねなければなりません。このため、今後の衆議院議員の総選挙が新制度で実施できるよう、審議会の勧告を得て、速やかに区割り法案を国会に提出するとともに、政治の浄化のため、さらなる政治腐敗防止への不断の取り組みを進め、より幅の広い政治改革を推進してまいります。政治の改革に終わりというものはありません。私は、今後とも政治改革に力を注いでいく決意であります。
世界は今、歴史的変革期特有の不安定な状況に置かれています。冷戦の終結によって確実に一つの歴史は終わりましたが、次なる時代の展望はいまだ不透明であります。中東などで和平に向かっての進展が見られる反面、北朝鮮の核開発問題、旧ユーゴスラビアでの地域紛争等は、国際社会の平和と安定に対する深刻な懸念材料となっています。また、世界経済についても、全体として明るさを取り戻しつつあるものの、先進国における失業問題、開発途上国における貧困の問題、地球規模の環境問題等、深刻な問題が横たわっています。
このような国際情勢のもとで、我が国がどのように対応していくべきか。一言で申し上げれば、国際社会において平和国家として積極的な役割を果たしていくことであります。我が国は、軍備なき世界を人類の究極的な目標に置いて、二度と軍事大国化の道は歩まぬとの誓いを後世に伝えていかねばなりません。また、唯一の被爆国として、いかなることがあろうと核の惨禍は繰り返してはならないとの固い信念のもと、非核三原則を堅持するとともに、厳格に武器輸出管理を実施してまいります。もとより、国民の平和と安全の確保は重要です。私は、日米安全保障体制を堅持しつつ、自衛隊については、あくまで専守防衛に徹し、国際情勢の変化を踏まえてそのあり方を検討し、必要最小限の防衛力整備を心がけてまいります。
平和国家とは、軍事大国でないとか、核兵器を保有しないといったことにとどまるものではありません。今日、国際社会が抱える諸問題の平和的解決や世界経済の発展と繁栄の面で、従来以上に我が国の積極的な役割が求められています。強大な軍事力を背景にした東西対立の時代が終わった今こそ、我が国が、その経済力、技術力をも生かしながら、紛争の原因となる国際間の相互不信や貧困等の問題の解消に向け、一層の貢献を果たすべきときであります。このような観点から、核兵器の最終的な廃絶を目指し、核兵器等の大量破壊兵器の不拡散体制の強化など国際的な軍縮に積極的に貢献してまいります。また、貧困と停滞から脱することができないでいる開発途上国や旧ソ連、中・東欧諸国に対し、引き続き経済支援を行っていきたいと思います。
先般のナポリ・サミットは、この内閣の基本姿勢について各国首脳の理解を得る格好の機会でありました。私は、各国首脳と個人的な関係を培うとともに、新政権の政策の基本方向や外交の継続性について率直に説明し、理解を得られたと確信をいたしております。
国際的な政策協調を進めていく上で、日米欧の協力はその中核をなすものであり、今回のサミットでは、引き続きインフレなき持続的成長に向け政策協調を強化し、深刻な雇用問題について一致して取り組んでいくとの明確な意思表示を行いました。また、北朝鮮の核開発問題について、北朝鮮が国際社会との対話に応じ、核兵器開発疑惑の払拭に努力するよう求めるなど、当面する政治、経済両面の問題について、主要国首脳の間で忌憚のない意見交換と明確な方向を打ち出せたことは有意義な成果であったと考えてます。
冷戦後の国際社会においては、世界の平和と安定のために、普遍的な国際機関である国連の果たす役割には非常に大きなものがあります。今後、我が国としても、国際社会の期待にこたえ、引き続き、国連の平和維持活動について、憲法の範囲内で積極的に協力していくとともに、国連の改革に努力しつつ、より責任ある役割を分担することが必要であります。常任理事国入りの問題は、それによって生ずる権利と責任について十分論議を尽くし、アジア近隣諸国を初め国際社会の支持と国民的理解を踏まえて取り組んでまいりたいと思います。
国連における国際貢献も、政治・安全保障の分野に限りません。人類への優しさを追求する意味でも、環境保全、人権、難民、人口、麻薬等の地球規模の問題への対応がますます重要になっています。我が国としても、これらの課題の解決に積極的に取り組み、軍事力によらない世界の平和と共存への貢献に力を注ぐ考えであります。
世界貿易に目を転じますと、今年は、戦後の世界の自由経済体制の基軸となってきたブレトンウッズ体制発足五十周年に当たります。本体制のもと、自由貿易体制の利益を最も享受してきた我が国としては、ウルグアイ・ラウンド合意の来年一月一日の発効に向け、その責務として、早急に協定及び関連法案を国会に提出し、年内の成立を図るなど、自由貿易体制の維持発展への取り組みを強化してまいります。また、調和ある国際関係の維持のためにも、我が国の経済政策は公正な市場経済の堅持を大原則とし、新たな国際経済秩序の形成に進んで貢献する姿勢で臨むことが必要であります。このような観点から、今後とも、我が国市場の一層の開放と内需中心の経済運営に努め、経常収支黒字の十分意味のある縮小の中期的達成に向けて努力をしていく決意であります。
我が国の外交を考える場合、まず我が国自身がその身を置くアジア・太平洋地域との関係を語らねばなりません。戦後五十周年を目前に控え、私は、我が国の侵略行為や植民地支配などがこの地域の多くの人々に耐えがたい苦しみと悲しみをもたらしたことへの認識を新たにし、深い反省の上に立って、不戦の決意のもと、世界平和の創造に力を尽くしてまいります。このような見地から、アジア近隣諸国等との歴史を直視するとともに、次代を担う人々の交流や、歴史研究の分野も含む各種交流を拡充するなど、相互理解を一層深める施策を推進すべく、今後その具体化を急いでまいります。
同時に、アジア・太平洋地域は、世界でも最も躍動的な成長が続く活力ある地域であります。我が国としては、APECの一層の発展に努めるほか、政治・安全保障面では、米国の関与と存在を前提に、本年から開始される中国、ロシア等を含めたASEAN地域フォーラムの積極的な参画等を通じた努力を行ってまいります。
朝鮮半島においては、北朝鮮の金日成主席が逝去されましたが、私は、今回の事態が朝鮮半島の平和と安定に悪影響を与えることなく、米朝協議や南北首脳会談の早期開催など、対話による問題解決に向けた動きがさらに前進し、核兵器開発に対する国際社会の懸念が払拭されることを強く期待いたします。我が国としては、私が近く訪韓するなど、今後とも、米国、韓国、中国などと緊密に連携し、平和的解決を志向して最善の努力をしていく考えであります。
我が国と米国との関係は、さきの日米首脳会談でクリントン大統領との間で再確認したとおり、相互にとって最も重要な二国間関係であり、我が国外交の基軸であることはもとより、アジアを含む世界の平和と安定維持にとっても極めて重要な関係であることは言うまでもありません。私は、日米包括経済協議の早期の成功を含め、日米間の協力関係のさらなる発展に全力を傾注してまいります。
ロシアとの関係では、東京宣言を基礎として、領土問題を解決し、平和条約を締結して、関係の完全な正常化を達成するとともに、その改革に対し、国際協調のもと、適切な支援を行ってまいります。また、欧州統合の動きを歓迎するとともに、日欧間の政治対話を含めた包括的な協力関係を築くことに引き続き取り組んでまいります。
我が国は、世界第二位の経済大国でありながら、生活者の視点からは真の豊かさを実感できない状況にあります。加えて、人口構成上最も活力のある時代から最も困難な時代に急速に移行しつつあります。こうした情勢の中で、お年寄りや社会的に弱い立場にある人々をも含め、国民一人一人がゆとりと豊かさを実感し、安心して過ごせる社会を建設することが、私の言う「人にやさしい政治」、「安心できる政治」の最大の眼目であります。同時に、そうした社会を支える我が国経済が力強さを失わないよう、中長期的に我が国経済フロンティアの開拓に努めていくことも忘れてはなりません。このような経済社会の実現に向けての改革は、二十一世紀の本格的な高齢化社会を迎えてからの対応では間に合いません。今こそ、行財政、税制、経済構造の変革など内なる改革を勇気を持って断行すべき時期であります。
まず、経済の現状を見ますと、依然、雇用情勢や中小企業など産業の状況には厳しいものがあるほか、急激な円高の進行など懸念すべき要因も見られますが、このところ、次第に明るい動きも広がっております。この動きを加速し、景気を本格的な回復軌道に乗せていくことが当面の重要な課題であります。このため、平成六年度予算の円滑な執行や為替相場の安定化など景気に最大限配慮した経済運営に努力し、雇用の安定確保など可能な限りの対策を講じてまいります。
生活者の立場から、また、我が国の経済社会の活性化の見地から、行政と経済社会活動の接点ともいえる諸規制が果たして今日の実情に照らし適切なものであるかどうか、経済社会活動のあるべき姿をゆがめるものになってはいないかをいま一度徹底的に検証しなければなりません。先日取りまとめた規制緩和策を速やかに推進することは当然として、さらに、五年間の規制緩和推進計画を策定し、将来の新規産業分野への参入の促進や内外価格差の縮小による国民の購買力の向上などの視点も考慮しつつ、一層の規制緩和を実施していく決意であります。
また、国民本位の、簡素で公正かつ透明な政府の実現と、縦割り行政の弊害の排除に力を注ぎ、公務員制度の見直し、特殊法人の整理合理化、国家・地方公務員の適正な定員管理、行政改革委員会の設置による規制緩和などの施策の実施状況の監視、情報公開に関する制度の検討など、強力な行政改革を展開してまいります。
さらに、地方がその実情に沿った個性あふれる行政を展開するためにも、地方分権を推進することが不可欠であります。このため、その基本理念や取り組むべき課題と手順を明らかにした大綱方針を年内に策定し、これに基づいて、速やかに地方分権の推進に関する基本的な法律案を提案したいと考えています。
本格的な高齢化社会を控え、国の財政も新たな時代のニーズに的確に対応していかなければなりません。そのためには、二百兆円を超える公債残高が見込まれるなど一段と深刻さを増した財政の健全化が必要であり、財政改革を推進して一層の一財政の体質改善に努力してまいります。
また、税制面では、活力ある豊かな福祉社会の実現を目指し、国・地方を通じ厳しい状況にある財政の体質改善に配慮しつつ、所得、資産、消費のバランスのとれた税体系を構築することが不可欠であります。このため、行財政改革の推進や税負担の公平確保に努めるとともに、平成七年度以降の減税を含む税制改革について、総合的な改革の論議を進め、国民の理解を求めつつ、年内の税制改革の実現に努力してまいります。
同時に、今後、二十一世紀に向け、生活者重視の視点に立って、公共投資基本計画について、税制の具体的な検討作業を踏まえつつ、その配分の再検討と積み増しを含めた見直しを鋭意進めてまいります。
将来の経済の活力を維持し、新たな雇用を創出していくためには、創造性と技術力にあふれる新規産業を育成し、経済フロンティアを拡大していかなければなりません。特に、これまでの人や物の流れを変え、家庭の生活様式や企業活動を根底から変革する可能性のある情報化の推進が重要であります。世界情報インフラ整備等への国際的な取り組みを初め、国際協調のあり方も念頭に置きつつ、高度情報化社会の実現に向けて政府として総合的な取り組みを行ってまいります。
また、次の世代の我が国社会を真に創造的でダイナミックなものにするためには、将来を支える若者の教育や科学技術の振興が極めて重要であります。私は、これらを我々の未来への先行投資と位置づけるとともに、学術、文化、スポーツの振興にも力を入れ、新しい文化や経済活動が生み出されるような社会の実現を目指してまいります。
農林水産業は、国民生活にとって必要不可欠な食糧の安定供給という重要な使命に加え、自然環境や国土の保全等の機能を持ち合わせております。また、農山村や漁村は、私自身にとってもそうであるように、多くの国民にとって、心のふるさとともいうべき存在となっているのではないでしょうか。現在、農林水産業は厳しい試練にさらされております。私は、その多面的な役割を念頭に置いて、ウルグアイ・ラウンド合意による影響を踏まえ、農林水産業に携わる人々が将来に希望と誇りを持って働けるよう、これらの地域の活性化を含め、総合的かつ具体的な対策を早急に検討、実施してまいります。
私は、国づくりの真髄は、常に視点の基本を「人」に置き、人々の心が安らぎ、安心して暮らせる生活環境をつくっていくことにあると信じます。そのため、安定した年金制度の確立、介護対策の充実などにより、安心して老いることのできる社会にしていくこと、子育てへの支援の充実により次代を担う子どもたちが健やかに育つ環境を整備していくこと、また、体が弱くなっても、障害を持っていても、できる限り自立した個人として参加していける社会を築くことなど、人々が安心できる暮らしの実現に全力を挙げる決意であります。さらに、人々が落ちついて暮らしていける個性のある美しい景観や町並みを築き、緑豊かな国土と地球をつくり上げていくため、環境問題にも十分意を用いてまいります。
また、男性と女性が優しく支え合い、喜びも責任も分かち合う男女共同参画社会をつくらねばなりません。男女が、政治にも、仕事にも、家庭にも、地域にも、ともに参加し、生き生きと充実した人生を送れるよう最善を尽くしてまいります。
内閣総理大臣を拝命して二十日足らずで、我が国に対する国際社会の大きな期待と、国民の皆様がこの内閣に寄せる熱い思いを肌で感じ、改めてその任務の重さにひしひしと身の引き締まる思いがいたします。内外に難題が山積する今、私は、「常に国民とともに、国民に学ぶ」という自分の政治信条を大切にし、国民の知恵と創造力をおかりしながら、持てる限りの知力と勇気を持って政策の決定を行うとともに、決断したことは断固たる意志を持って実行するとの基本姿勢で、新しい時代の扉を開いてまいる決意であります。
議員各位と国民の皆様の御理解と御協力を切にお願いする次第でございます。 
1995

 

談話・「戦後50周年の終戦記念日にあたって」 / 平成7年8月15日
(いわゆる村山談話)
先の大戦が終わりを告げてから、50年の歳月が流れました。今、あらためて、あの戦争によって犠牲となられた内外の多くの人々に思いを馳せるとき、万感胸に迫るものがあります。
敗戦後、日本は、あの焼け野原から、幾多の困難を乗りこえて、今日の平和と繁栄を築いてまいりました。このことは私たちの誇りであり、そのために注がれた国民の皆様1人1人の英知とたゆみない努力に、私は心から敬意の念を表わすものであります。ここに至るまで、米国をはじめ、世界の国々から寄せられた支援と協力に対し、あらためて深甚な謝意を表明いたします。また、アジア太平洋近隣諸国、米国、さらには欧州諸国との間に今日のような友好関係を築き上げるに至ったことを、心から喜びたいと思います。
平和で豊かな日本となった今日、私たちはややもすればこの平和の尊さ、有難さを忘れがちになります。私たちは過去のあやまちを2度と繰り返すことのないよう、戦争の悲惨さを若い世代に語り伝えていかなければなりません。とくに近隣諸国の人々と手を携えて、アジア太平洋地域ひいては世界の平和を確かなものとしていくためには、なによりも、これらの諸国との間に深い理解と信頼にもとづいた関係を培っていくことが不可欠と考えます。政府は、この考えにもとづき、特に近現代における日本と近隣アジア諸国との関係にかかわる歴史研究を支援し、各国との交流の飛躍的な拡大をはかるために、この2つを柱とした平和友好交流事業を展開しております。また、現在取り組んでいる戦後処理問題についても、わが国とこれらの国々との信頼関係を一層強化するため、私は、ひき続き誠実に対応してまいります。
いま、戦後50周年の節目に当たり、われわれが銘記すべきことは、来し方を訪ねて歴史の教訓に学び、未来を望んで、人類社会の平和と繁栄への道を誤らないことであります。
わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。
敗戦の日から50周年を迎えた今日、わが国は、深い反省に立ち、独善的なナショナリズムを排し、責任ある国際社会の一員として国際協調を促進し、それを通じて、平和の理念と民主主義とを押し広めていかなければなりません。同時に、わが国は、唯一の被爆国としての体験を踏まえて、核兵器の究極の廃絶を目指し、核不拡散体制の強化など、国際的な軍縮を積極的に推進していくことが肝要であります。これこそ、過去に対するつぐないとなり、犠牲となられた方々の御霊を鎮めるゆえんとなると、私は信じております。
「杖るは信に如くは莫し」と申します。この記念すべき時に当たり、信義を施政の根幹とすることを内外に表明し、私の誓いの言葉といたします。

村山談話は、1945年(昭和20年)8月15日の終戦から50年経った1995年(平成7年)8月15日、村山富市内閣総理大臣が、閣議決定に基づいて発表した声明である。以後の内閣にも引き継がれ、日本国政府の公式の歴史的見解としてしばしば取り上げられる。
談話は、今日の日本の平和と繁栄を築き上げた国民の努力に敬意を表し、諸国民の支援と協力に感謝する第一段、平和友好交流事業と戦後処理問題への対応の推進を期する第二段、「植民地支配と侵略」によって諸国民に多大の損害と苦痛を与えたことを認め、謝罪を表明する第三段、国際協調を促進し、核兵器の究極の廃絶と核不拡散体制の強化を目指す第四段からなる。
特に、日本が「植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与え」たことを「疑うべくもないこの歴史の事実」とし、「痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明」した第三段と、慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話(河野談話)によって存在を認めた、いわゆる従軍慰安婦問題などへの対応を示した第二段については、論争の的ともなっている。
村山首相は、この談話を発表したあとの記者会見で、いくつかの点について質問を受け、見解を示した。まず、天皇の責任問題については「戦争が終わった当時においても、国際的にも国内的にも陛下の責任は問われておりません。」として、「今回の私の談話においても、国策の誤りをもって陛下の責任を云々するというようなことでは全くありません。」と、その存在を否定した。また、「遠くない過去の一時期、国策を誤り」としたことについて、「どの内閣のどの政策が誤った」という認識か問われ、しばし逡巡した後、「どの時期とかというようなことを断定的に申し上げることは適当ではない」と答えた。さらに、諸外国の個人から、戦争被害者として日本政府に対して賠償請求が行われていることについて、今後の日本政府の対応を問われ、「先の大戦に係わる賠償、財産請求権の問題につきましては、日本政府としては、既にサンフランシスコ平和条約、二国間の平和条約及びそれとの関連する条約等に従って誠実に対応してきた」とし、「我が国はこれらの条約等の当事国との間では、先の大戦に係わる賠償、財産請求権の問題は、所謂、従軍慰安婦の問題等も含めて」「法的にはもう解決が済んでいる」との認識を示し、個人補償を国として行う考えはないとした。
なお、終戦から60年が経った2005年8月15日には、小泉純一郎内閣総理大臣により、村山談話に基づき、それを継承・発展させた内閣総理大臣談話(小泉談話)が発表されており、こちらも村山談話のように日本政府の公式見解として扱われている。 
 
橋本龍太郎

 

1996年1月11日-1996年11月7日(302日)
1996年11月7日-1998年7月30日(631日)
1995年9月、橋本は国民的人気を背景に自民党総裁選に出馬する。当初は現職総裁の河野洋平と橋本の一騎打ちと目され、早稲田大学出身の河野と慶大出身の橋本の「早慶戦」、ともに昭和12年生まれで50代の「ニューリーダー対決」などと評されたが、河野は自らが所属する宮澤派の支持を得られずに「大変厳しい多数派工作で、党内に亀裂を生じるのを恐れる」として出馬を辞退。河野に代わって三塚派の小泉純一郎が出馬し、論客同士の「さわやかな政策論争」と評される総裁選が展開された。橋本は304票を獲得し、87票を獲得した小泉に圧勝。第17代自民党総裁に就任した。幹事長に宮澤派の加藤紘一、総務会長に三塚派の塩川正十郎。政調会長に旧渡辺派の山崎拓を選任した。橋本は総裁就任に伴って、村山内閣改造内閣で副総理を兼務し引き続き通産相をつとめた。
1996年1月11日、村山富市首相の辞任に伴い、第82代内閣総理大臣に指名され、自社さ連立による第1次橋本内閣が発足した。官房長官には、橋本らと共に竹下派七奉行と呼ばれた実力者である梶山静六が選任された。その後の施政方針演説では改革の必要性を主張し、「強靭な日本経済の再建」「長寿社会の建設」「自立的外交」「行財政改革」の4つを最重要課題として挙げた。
就任当初は、村山政権下で決定された住宅金融専門公社(住専)の不良債権に対する6800億円を超える財政支出問題で、新進党が「ピケ」と呼ばれる座り込み運動を展開するなど激しく抵抗し、メディアも否定的な論調を展開したことから、政権への批判が強まった。ただし、海外市場では好感する動きが見られた。
同年2月23日、アメリカのクリントン大統領との日米首脳会談で、橋本は普天間飛行場の返還を要求、4月に全面返還で日米政府が合意した。普天間の代替基地についても安全保障政策や環境政策が絡む中で米国や沖縄の基地自治体関係者と対談を行い、代替施設について名護市の受け入れ表明を取り付けて、普天間基地返還に本格的道筋をつけた。この結果、住専問題で逓減していた支持率が60%に上昇した。
自身の59歳の誕生日である1996年7月29日に現職の内閣総理大臣としては11年ぶりに靖国神社を参拝した。
同年の臨時国会冒頭の9月27日、衆議院を解散。小選挙区比例代表並立制の下で初の衆議院総選挙が行われ、自民党は28議席増の239議席と復調した。選挙中は橋本に選挙応援の依頼が殺到し、全国で「橋龍人気」と言われる国民的人気を見せ付けている。
第二次橋本内閣
1997年4月9日、総理大臣官邸にてアメリカ合衆国国防長官ウィリアム・コーエン(左)と
1996年11月7日、社会党・新党さきがけが閣外協力に転じて、3年ぶりの自民党単独内閣となった第2次橋本内閣が発足。橋本は「行政改革」「財政構造改革」「経済構造改革」「金融システム改革」「社会保障構造改革」「教育改革」の六大改革を提唱した。
橋本は、首相直属の「行政改革会議」を設置。メンバーには武藤嘉文総務庁長官、水野清首相補佐官のほか、経団連会長の豊田章一郎、連合会長の芦田甚之助、東京大学名誉教授の有馬朗人、上智大学教授の猪口邦子ら、財界・学界などから有識者を迎え、官僚や官僚出身者を排除する体制とした。
同年12月17日、ペルーのリマにある日本大使公邸を現地の左翼ゲリラが占拠し、多数が人質となるペルー日本大使公邸人質事件が発生。直ちに池田行彦外相と医療チームを現地に派遣した。池田外相の帰国を受け、24日にペルーのフジモリ大統領と会談、ペルー政府を支援する方針を表明した。フジモリが武力突入を示唆し始めると、29日にフジモリに親書を送って平和解決を要請。さらに1997年1月31日、橋本はカナダのトロントでフジモリと会談し、平和解決に努力することで一致した。同年4月22日、ペルーの特殊部隊が公邸に突入。人質となっていた日本人に犠牲者を出すことなく解決した。橋本は後に、人質事件で死亡したペルー人犠牲者の家族を日本に招待した。事件の際、外務省の対策本部に木村屋總本店のアンパンを大量に差し入れ、「アンパン総理」といった声も聞かれた。
1997年の通常国会で最大の焦点であった、沖縄のアメリカ軍軍用地収用への自治体介入を防ぐ駐留軍用地特措法問題で、同年4月、新進党党首の小沢一郎と党首会談を行った。橋本と小沢は特措法を成立させる事で合意し、同法は新進党の協力を得て成立した。新進党との協力が成功したことで、自民党と新進党による「保保連立」が浮上。自民党内は、加藤や野中広務らの「自社さ派」と梶山や亀井静香らの「保保派」に二分された。橋本は自社さ派と評されるようになる。
同年6月23日、コロンビア大学での講演において聴衆から「日本が米国債を蓄積し続けることが長期的な利益」に関して質問が出た際、橋本は「大量の米国債を売却しようとする誘惑にかられたことは、幾度かあります。」と返した。そして、アメリカ経済が与える世界経済への影響などを理由にあげた上で「米国債を売却し、外貨準備を金に変えようとしたい誘惑に、屈服することはない」と続けた。しかし、大量の米国債を保有する日本の首相が「米国債を売却」への言及をしたことが大きく注目され、ニューヨーク証券取引所の株価が一時下落した。
同年9月、党総裁に再選され、内閣改造を行い第2次橋本内閣改造内閣が発足。梶山に代わって村岡兼造を官房長官に指名したほか、ロッキード事件で有罪が確定している佐藤孝行を総務庁長官に起用した。これに非難が集中、佐藤は11日で辞任した。佐藤は歴代内閣に入閣を拒まれ、橋本も入閣させない意向だったが、中曽根康弘らの強硬な推薦に抗し切れず起用するに至ったという。この一件で、支持率は30%台に急落、橋本の責任を問う声が上がった。
同年11月のロシアのエリツィン大統領と日露首脳会談では、2000年までに平和条約を締結する事や両国の経済協力を促進する事で合意した。
同年11月に財政構造改革法を成立させ、2003年までの赤字国債発行を毎年度削減する等の財政再建路線をとった。しかし、景気減速が顕著となり北海道拓殖銀行や山一證券などの破綻が起こると、党内やアメリカ政府から景気対策を求める声が上がるようになった。また、山一證券の破綻で、橋本の金融システム改革に伴う金融ビッグバンへの批判が相次いだ。これを受け同年12月、2兆円の特別減税を表明した。
同年12月24日から「龍ちゃんプリクラ」こと橋本首相といっしょに写真が取れるプリントクラブが、党本部1階ロビーに設置された。
1998年4月、4兆円減税と財政構造改革法の改正を表明し、財政再建路線を転換した。また同年、金融監督庁を設置。大蔵省から金融業務を分離し、金融不安に対処する体制を整えた。同年5月、離党議員の復党などにより自民党が衆議院で過半数を超えたことを受け、社民党・さきがけとの連立政権を完全に解消。
同年7月の参院選では、景気低迷や失業率の悪化、橋本や閣僚の恒久減税に関する発言の迷走などで、当初は70議席を獲得すると予想されていた自民党は44議席と惨敗。橋本内閣は総辞職した。1997年には日本の総理大臣として初めて北朝鮮拉致事件について国会答弁で触れている。
消費税増税とその後
1997年(平成9年)4月1日、村山内閣で内定していた消費税等の税率引き上げと地方消費税の導入(4%→地方消費税を合わせて5%)を橋本内閣が実施。産経新聞の田村秀雄編集委員は、記事「カンノミクスの勘違い」の中で橋本が消費増税を実行したせいで、増税実施の翌年から日本はデフレ不況に突入したと評している。田村編集委員は、消費増税を実施した1997年度においては消費税収が約4兆円増えたが、2年後の1999年度には、1997年度比で、所得税収と法人税収の合計額が6兆5千億もの税収減にとなったと指摘し、消費増税の効果が「たちまち吹っ飛んで現在に至る」と評している。さらに、「橋本元首相は財務官僚の言いなりになったことを亡くなる間際まで悔いていたと聞く。」と述べている。所得税収、法人税収はそれぞれ1998年度、1999年度と減少し続けているが、法人税は両年にわたって、所得税は1999年度に減税が実行されている。他の先進国の基準にあわせる方向で、所得税は高所得者の負担が軽減、法人税は税率が引き下げられているため、減税による税収減も含まれている。
1997年の消費税増税、健康保険の自己負担率引き上げ、特別減税廃止など、総額約10兆円の緊縮財政の影響や金融不況の影響もあり、1998年度には名目GDPは前年度比マイナス2%の503兆円まで約10兆円縮小し、GDPデフレーターはマイナス0.5%に落ち込んで、深刻なデフレ経済が蔓延する結果になった。
1996

 

談話 / 平成8年1月11日
私は、本日、内閣総理大臣の重責を担うことになりました。その使命と責任の重さに身が引き締まる思いであります。
戦後五十年を経て、現在、わが国は、国内的にも、国際的にも大きな転換期にさしかかっております。これからの五十年を展望したとき、混迷の度合いを深めている日本に活気と自信にあふれた社会を再構築すること、そのためには、本年を「構造改革元年」と位置づけ、政治、行政、経済、社会のより抜本的な構造改革を実行に移し、二十一世紀にふさわしい新しいシステムづくりに取り組むことであります。私は、この内閣を「改革創造内閣」とし、新たな三党政策合意を踏まえ、景気回復、信頼回復、安心回復を目指し、施策の展開に全力投球する考えであります。
内政面では、景気の一刻も早い回復や住専問題への責任ある対応、規制緩和や新規産業の創出など抜本的な経済構造改革により、強い日本経済の再建に全力を尽くすとともに、超高齢社会を目前に控え、長生きして幸せだった、この国に生まれてよかったと言える長寿社会の建設に向けて真剣に取り組んでまいります。また、国民の安全の確保の観点から、大規模災害や緊急事態に対する政府の危機管理体制の強化に全力を挙げてまいります。
外交面では、わが国は二度と戦争の惨禍を繰り返さないという平和への決意の下、「平和立国」、「平和創造」を基本理念といたします。その際、日米関係が、アジア太平洋地域、そして世界の平和と安定の要であることを再認識し、その礎である日米安保体制を堅持し、相互の信頼を一層深化させるためにも、また、長年にわたる沖縄の方々の悲しみ、苦しみに最大限に心を配った解決を図るためにも、当面する沖縄米軍基地問題については、政府として、誠心誠意取り組んでまいる決意であります。
総理の職を預かるにあたり、私はあらためて政治というものの責任を痛感いたしております。政治の使命は、将来のこの国と世界の平和と繁栄のため、政府に何が求められているかを真剣に検討し、そのために必要な改革には、強い政治的リ−ダーシップの下、これに不退転の決意で取り組むことであります。私は、ここに申し上げた政策課題について、「決断と責任」を政治信条に、自らの政治生命をかけて全力で取り組んでまいる決意であります。
国民の皆様のご理解とご支援を心からお願い申し上げます。
説示
初閣議に際し、私の所信を申し述べ、閣僚各位の格別の協力をお願いする。
二十一世紀の到来を間近に控え、わが国は内政外交の両面において大きな転換期を迎えており、新しい時代に向かって、今まさに政治、行政、経済、社会の抜本的な構造改革が求められている。新内閣は、この困難な時局に当たり、新しい指針を国民に提示し、それを着実に実行することを通じて、活気と自信にあふれた社会を再構築することに全力を注いでまいりたい。
新内閣は、内政と外交の一貫性と継続性を堅持しながら、新たな課題に対し果敢に挑戦していくこととするが、その意思決定においては透明かつ民主的な政治を心がけていく所存であり、各閣僚にあっては出身会派の立場を超えて内閣一丸となった取組をお願いする。
当面の課題としては、平成八年度予算案の早期成立に努めていただきたいが、特に住専問題をはじめとする金融機関の不良債権問題、沖縄の米軍基地問題の解決に取り組み、国民の理解と信頼を得ることに努めていただきたい。また、景気の本格的回復、雇用対策、規制緩和や地方分権をはじめとする行財政改革、世界の平和と繁栄への貢献などの重要課題について相互に緊密に連携をとりながら、鋭意取り組んでいただきたい。
特にご留意いただきたい点として、昨今、行政に対する国民の信頼が著しく揺らいでいることに鑑み、公務員の清廉潔白と公正無私の姿勢を厳しく徹底するとともに、閣僚各位におかれても率先垂範して職務に邁進していただきたい。
内閣は憲法上国会に対して連帯して責任を負う行政の最高機関であり、内閣の統一性及び国政の権威保持に対しご理解とご協力を賜るとともに、憲法の規定及ぴ精神の遵守に格段のご配慮をお願いする。 
第百三十六回国会施政方針演説 / 平成8年1月22日
〈はじめに〉
私は、先の国会において、内閣総理大臣に指名されました。戦後五十年を経て、国内的にも、国際的にも大きな転換点にさしかかっているこの時期に政権を預かることの重大さを痛感し、全力で国政に取り組んでまいります。
まず、昨年一月十七日の阪神・淡路大震災により亡くなられた犠牲者の方々とそのご遺族にあらためて深く哀悼の意を表するとともに、今なお不自由な生活を余儀なくされておられる方々に心からお見舞い申し上げます。政府としては、一日も早い被災地の復興と被災者の方々の生活再建に最大限の取組を行い、この教訓を踏まえ、今後の災害対策に全力を傾けてまいります。
私は、現在、この国に最も必要とされているものは、「変革」であると考えます。私が国会に議席をいただいた昭和三十八年(一九六三年)に百五十三人に過ぎなかった百歳以上人口は今や六千人を超え、その間に出生数は百六十五万人から約百二十万人に大幅に減少しています。来世紀初頭には国民の五人に一人が、そして間もなく四人に一人が六十五歳以上となる高齢社会を迎えるのであります。こうした世界にもそして歴史上も類をみない速度での高齢化の進展の中で、「人生五十年」を前提とした社会は、「人生八十年」を前提とした社会へ大きく設計変更せざるを得ません。加えて、冷戦構造の崩壊と世界経済のボーダーレス化、国際社会におけるわが国の地位の上昇など国際環境の激変に対応するためにも、好むと好まざるとにかかわらず、わが国自身があらゆる面で大きな変革を遂げなければならないのであります。私が目指すこの国の姿は、一人一人の国民が、自らの将来に夢や目標を抱き、日本人に生まれたことに誇りと自信をもつことができ、そして世界の人々とともに分かち合える価値を創り出すことのできる、そのような社会であり国家であります。
私に課せられた使命は、このような理想を胸に、次なる世紀を展望し、政治、行政、経済、社会の抜本的な変革を勇気をもって着実に実行し、二十一世紀にふさわしい新しいシステムを創出することにより、この国に活気と自信にあふれた社会を創造していくことであります。
私は、この内閣の使命を「変革」と「創造」とし、一層強固な三党連立の信頼関係の下、強靱な日本経済の再建、長生きしてよかったと思える長寿社会の建設、平和と繁栄の創造のための自立的な外交の展開、これらを実現するための行財政改革の推進、の四点をこの内閣の最重要課題と位置づけてまいります。
両世紀の架け橋とも言えるこの時代において政権を担うものの責任は重大であります。私は、ここに申し上げた政策課題について、「決断と責任」を政治信条に、自らの政治生命をかけて全力で取り組んでまいる決意であります。
〈経済の再建と改革のために〉
この内閣に課せられた最も緊急の課題は「強靱な日本経済の再建」であります。この国の経済を覆う不透明感を払拭し、将来に向けた明るい展望を開くためには、二十一世紀までに残された五年間を三段階に分け、第一段階において本格的な景気回復の実現、第二段階において抜本的な経済構造改革、第三段階として、創造的な二十一世紀型経済社会の基盤の整備を行うことが重要であります。これらの施策は、それぞれ一年後、三年後、五年後を目標としつつも、相互に密接に関連するものとして、直ちに着手、推進していかなければならないものであることは論を待ちません。
(本格的景気回復の実現)
わが国経済の最近の状況をみますと、個人消費、設備投資等の回復に加え、生産にも明るい兆しが現れるなど、景気には緩やかながら足踏み状態を脱する動きがみられるものの、雇用や中小企業分野では、なお極めて厳しい状況が続いております。本年こそは、ようやく明るさの見え始めた景気の回復を確実なものとし、中長期的なわが国経済の持続的発展につなげていく、景気回復の年としなければなりません。このため、来年度予算においては、研究開発や情報通信など経済社会の構造改革の基盤となる分野を重点的に整備することとしたほか、特別減税の来年度継続実施、土地税制の総合的見直しなど税制面でも格段の配慮を行うこととしたものであります。政府としては、引き続き為替動向を注視しつつ、切れ目のない適切な経済運営に努めてまいります。
(不良債権問題の解決)
わが国経済の再建と構造改革を行うに当たっては、金融機関の不良債権問題の解決が必要不可欠であり、預金者保護、信用秩序の維持に最大限の努力を払いつつ、できるだけ早期に解決が図られるよう全力を挙げて取り組んでまいります。
特に、いわゆる住専問題は、不良債権問題における象徴的かつ緊急の課題であり、政府としては、わが国金融システムの安定性と内外の信頼を確保し、預金者保護に資するとともに、経済を本格的な回復軌道に乗せるため、慎重の上にも慎重な検討を重ね、財政資金の導入を含む具体的な処理方策を決定いたしました。先般、住専各社の財務状況等について資料を提出いたしましたが、今後も、衆参両院のご理解、ご協力をいただきながら、情報開示に最大限の努力を払ってまいります。
また、預金保険機構の指導の下、住専処理機構が法律上認められているあらゆる債権回収手段を迅速、的確に用いることにより債権回収を強力に行う体制を整備いたします。本件に関連する違法行為に対しては、既に検察、警察において協議会や対策室を設置しておりますが、今後とも借り手、貸し手に限らず、その他の関係者についても厳正に対処してまいります。このように住専問題に係る透明性の確保と原因と責任の明確化を図りつつ、本処理方策についての国民のご理解を得るべく全力を尽くしてまいります。また、過去の金融政策や金融検査・監督のあり方を総点検し、今後、金融機関における自己責任原則の徹底を図るとともに、市場規律が十分に発揮される、透明性の高い、新しい金融システムを早急に構築していくよう努めてまいる所存であります。
(経済構造改革の推進)
国境を越えた経済活動の一層の活発化、アジア諸国の経済的台頭などにより、世界経済は、いわゆる大競争時代を迎え、企業が国を選ぶ時代となっている中で、内外価格差の存在など経済の高コスト構造をはじめとする構造的課題が、経済活動の舞台としての日本の魅力を減退させつつあり、産業の空洞化の懸念が現実のものとなりつつあります。わが国経済の将来の展望を切り拓くためにも、昨年決定した新経済計画に沿って、大胆な構造改革に直ちに着手することが必要であります。
まず第一は、徹底的な規制の緩和であります。経済的規制については原則自由・例外規制、社会的規制については本来の目的に照らした最小限のものとするという基本的な考え方に立ち、規制が時を経て自己目的化したり、利権保護の砦となっているような事態が存在しないか、抜本的にその見直しを行ってまいります。特に、高コスト構造を是正するとともに、新たな成長分野の発展を阻む要因を取り払い、経済の活性化を促進するため、住宅・土地、情報・通信、流通・運輸、金融・証券、雇用・労働分野など消費者や企業の経済活動の基盤となる分野で重点的な規制緩和を断行いたします。
民間における公正かつ自由な競争は、ダイナミックな経済活動を促進するため、規制緩和とともに不可欠であります。公正取引委員会事務局の強化・拡充により独占禁止法の厳正な運用など競争政策を積極的に展開するとともに、株式保有規制など企業関連法制の見直しや参入、転出の容易な労働市場の整備に努めてまいります。
さらに、わが国経済を活力あふれたものとしていくためには、ベンチャー企業群の創出が不可欠であり、こうした企業が、持ち前の機動性、創意工夫を遺憾なく発揮していけるよう、資金調達面での支援を充実するなど新規事業の展開への支援を行ってまいります。
経済、産業の改革に当たっては、農林水産業の果たす多面的役割や機能、農山漁村がもたらす安らぎや潤いを忘れてはならず、農林水産業と農山漁村の健全な発展は不可欠であります。ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策等の施策を総合的に実施し、農林水産業を誇りをもって携わることのできる魅力ある産業としてまいります。
(自由で創造的な経済社会の発展基盤の整備)
二十一世紀にふさわしい、創造性あふれた経済社会を創っていくためには、わが国の最大の資源である人間の頭脳、英知を十二分に活用し、未来を支える有為な人材の育成や知的資産の創造を行い、経済フロンティアの拡大を図ることが必要であります。
科学技術の振興は、人類共通の夢を実現する未来への先行投資であります。「科学技術創造立国」を目指して、政府研究開発投資の倍増を早期に達成するよう努めるとともに、産学官連携による独創的、基礎的研究開発の推進、若手研究者の支援・活用や若者の科学技術離れ対策といった科学技術系人材の養成・確保など、科学技術の振興を積極的に図ってまいります。
この関連で、昨年十二月に発生した高速増殖原型炉「もんじゅ」の事故は我々に大きな教訓を与えました。先端技術の開発、実用化に際し、予期せぬ困難な事態が発生することは避けて通れません。重要なことは、そうした事態を直視し、国民や専門家の前にその事実を明らかにし、原因究明と徹底した安全対策、さらなる技術開発に真摯に取り組むことであります。今後、安全確保に力を注ぎ、積極的な情報開示を通じ、地元の方々をはじめとする国民の皆様のご理解と信頼を得るよう全力を尽くしてまいります。
時間的・空間的制約を大幅に取り払い、情報やモノの流れを一変させることにより生産性の向上や新規市場の創造に大きく寄与し、豊かな国民生活や高度な産業活動を創出する高度情報通信社会の建設も、この国が二十一世紀に向けてその取組を加速させるべき重要な課題であります。産業分野・公的分野の情報化、ハード・ソフト両面にわたる情報通信インフラの整備、情報通信技術の開発などを積極的に推進してまいります。
〈長生きしてよかったと思える社会の創出に向けて〉
第二は、長生きしてよかったと思える長寿社会の建設です。現在わが国は世界一の長寿国家となっております。これは我々が長年目指してきた目標が達成されたものであり、大いに誇るべき成果でありますが、これからの課題は、いかに社会全体として長寿を支え、一人一人が長生きしてよかったと実感できる社会を創出していくかにあります。二十一世紀の超高齢社会において、中高年人口が更に増大し、若年人口が減少する中で、いかにこの国の活力を維持・増進していくのか、女性や高齢者のより積極的な社会活動への参画をいかに実現するのか、そのためにもこれまで主として家庭で対応されてきた高齢者介護や子育ての問題をいかにして社会が支援していくのか、その費用負担のあり方をどのように考えるのか、子ども達に家庭に代わるどのような環境を用意できるのか、などが大きな課題となり、これに対するシステム作りが必要となっております。老若男女を問わず、社会の様々な構成員が自立しつつ、相互に支え合い、助け合い、共に充実した人生を送ることのできる長寿社会の建設に向け、福祉、教育、国民の社会参加のあり方を総合的にとらえ直すことが今まさに求められております。
特に、国民の老後生活の最大の不安要因である介護の問題については、高齢者や障害者が生きがいをもって幸せに暮らしていけるよう、新ゴールドプランや障害者プランを着実に推進し、介護サービスの基盤整備に努めるとともに、保健・医療・福祉にわたる高齢者介護サービスを総合的・一体的に提供する社会保険方式による新たな高齢者介護システムの制度化に向けて全力で取り組んでまいります。併せて、高齢社会にふさわしい良質かつ効果的な医療を供給できるよう、医療保険制度の改革を進めるほか、エイズ問題については、和解による早期解決に全力を挙げるとともに、責任問題も含め、必要な調査を行い、医薬品による健康被害の再発防止に最大限の努力を尽くす所存です。また、次代を担う子どもが健やかに生まれ育つ環境づくりを進めるため、育児休業制度の定着や保育対策の充実など、エンゼルプランを着実に推進してまいります。さらに、社会のあらゆる分野に女性と男性が共に参画し、共に社会を支える男女共同参画社会の形成に向け国内行動計画を見直し、施策の一層の充実を図るとともに、人権教育のための行動計画を早急に策定し、総合的な施策を推進するなど、人権が守られ、差別のない、公正な社会を建設してまいります。
(自分を見出す教育の実践と文化立国への取組)
個性と創造力にあふれ、責任感と思いやりを持ち、将来の夢を生き生きと語ることのできる子どもたちはこれからの日本の宝であり、また、わが国が、国際化、情報化、技術革新といった変化に的確かつ柔軟に対応する上でも、教育の果たす役割は限りなく重要であります。最近問題となっている児童生徒のいじめの問題や、前途ある若者が社会的な役割を見いだせず、非道な行動に走ってしまったオウム真理教関連事件が投げかけた問題に対応するためにも、二十一世紀を展望した個性や創造性重視の方針を一層推し進め、与えられた問題の解答を見つける能力だけでなく、問題そのものを発見し、それを解決する能力を備えた人材を育てる教育を実践するために、教育改革を推進してまいります。
また、国民一人一人にとって、生きるあかしや生きがいであるとともに、一国にとってもその最も重要な存立基盤の一つである文化や芸術、スポーツの振興も重要であります。これからの日本は、古来の伝統文化を継承しながら優れた芸術文化の創造・発展に取り組み、更に世界への発信を図る、新しい文化立国を目指してまいります。
(環境との共生)
我々は、大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会活動や生活様式を問い直し、祖先から受け継いだ健全で恵み豊かな自然環境を将来に伝えていかなければなりません。このため、環境基本計画に基づき、人と環境との間に望ましい関係を築くための総合的施策の推進に全力を挙げるとともに、地球温暖化をはじめとする地球環境問題について、わが国の国際的地位にふさわしい積極的な役割を果たしてまいります。
先般、村山内閣においてその解決をみることができた水俣病問題については、誠意をもって必要な施策を推進するとともに、この悲劇を貴重な教訓として今後の環境行政に活かしていく所存です。
また、増え続ける廃棄物の処理対策については、消費者、事業者、市町村の協力の下に、ごみの減量化やリサイクルを推進することにより、リサイクル型社会の実現に向け総合的な支援措置を実施してまいります。
(国民の安全を守る危機管理体制の強化)
昨年の大震災やオウム真理教関連事件などの凶悪事件を契機に、わが国が誇る良好な治安にかげりが生じており、国民の安全を守る危機管理体制の強化が重要な課題となっております。「危機」自体の事前予測が困難である以上、危機管理にとって大切なことは、危機が生じた際の「人」と「システム」であるとの考え方に立ち、政府の安全対策、危機管理体制の強化に全力を傾けてまいります。
災害に強い国づくり、街づくりを進めることが安全に暮らせる社会づくりの基本であります。阪神・淡路大震災から一年が経過いたしましたが、引き続き本格的な復興に向けて政府一体となって取り組んでまいります。政府は、この大震災を貴重な教訓に、災害の予防に加え、災害時の情報収集・伝達・意思決定体制の強化など総合的な災害対策の充実、危機管理体制の強化に取り組む決意であります。
また、最近の極めて厳しい治安情勢に対応するため、各国との連携強化などの国際協力を含め、政府を挙げてテロ対策を推進するとともに、国内の銃器摘発や海外からの流入阻止などの総合的銃器対策、さらには覚せい剤、大麻等薬物対策に全力を挙げ、国民の不安解消と安全な社会環境づくりに努めてまいります。
多くの国民にとって現在最も切実な問題である住宅、通勤等の問題を早急に解決することもゆとりある国民生活を実現するために必要不可欠な課題であります。こうした問題の多くの根源となっている一極集中を是正し、国際化の進展や活力に満ちた地域社会の形成にも配慮しつつ、災害に強い国土づくりや国土の均衡ある発展を目指していかなければなりません。このため、住宅や交通基盤整備、職住近接の都市構造の実現をはじめ、生活者重視の視点に立って各種社会資本整備に努めてまいります。また、今後、国民各層との意見交換も行いつつ、複数の国土軸の形成を含め新しい国土計画の策定に積極的に取り組むほか、北海道や沖縄の開発、振興にも引き続き力を注いでまいります。
〈平和と繁栄の創造のための自立的外交の展開に向けて〉
外交面での私の基本方針は「自立」であります。かつてのように世界の政治経済情勢を与えられた前提として行動する国家としてではなく、いまやわが国は、従来型の国際貢献から更に歩を進め、国際社会に受け入れられる理念を打ち立て、世界の安定と発展のため自らのイニシアティヴで行動する国家であるべきであります。このことが、国際的に相互依存関係が高まる中、わが国の安全と繁栄を確保するためにも最良の道であると確信しております。
(国連改革の推進)
国際社会においては、依然として、地域紛争、大量破壊兵器の拡散、環境破壊や貧困など重要問題が山積しております。今年はわが国が国連に加盟して四十周年に当たりますが、これらの問題の解決に当たっては、国連が重要な役割を果たしていく必要があります。わが国としては、財政改革、経済・社会分野での改革及び安保理改革などについて、本年秋までにできる限り具体的な成果が得られるよう、他の国連加盟国と協力しつつ、引き続き努力してまいります。安保理常任理事国入りの問題については、わが国は、国連改革の進展状況やアジア近隣諸国をはじめ国際社会の支持と一層の国民的理解を踏まえて対処することといたします。
(地域紛争の解決と軍縮・不拡散への創造的取組)
冷戦終結後の世界平和を脅かす脅威の一つに地域紛争があります。地域紛争は、その地域の問題であるのみならず、国際社会全体の枠組みの構築にかかわるグローバルな問題でもあります。わが国としては、その予防と解決のため、外交努力や人道・復興援助とともに、平和維持活動など国連の活動に人的な面や財政面で積極的に貢献してまいります。
特に、旧ユーゴーにおける紛争は、新しい国際協力の実効性を問う試金石となっております。先般の包括和平合意による大きな進展を永続的な真の和平の確立につなげていくために、国際社会の和平・復興努力に積極的に参画してまいります。中東和平問題に関しては、昨年九月にイスラエルとPLOの間で暫定自治の拡大の合意が成立いたしました。ラビン首相の暗殺は我々に大きな衝撃を与えましたが、平和への潮流は確固たるものがあります。わが国は、先のパレスチナ評議会選挙に協力するため、国際監視団への参加や物資供与を行いましたが、二月には、ゴラン高原に展開している国連兵力引き離し監視隊に自衛隊部隊等を派遣するなど、今後とも積極的な貢献を行ってまいります。
核兵器をはじめとする大量破壊兵器の軍縮と不拡散、通常兵器の移転抑制のための取組についても、その強化に努めてまいります。わが国は、唯一の被爆国として、核兵器の究極的な廃絶に向けて、全ての核兵器国が核軍縮に真剣に取り組むよう訴えてきており、昨年の国連総会では、わが国提出の核軍縮決議及び核実験停止決議が採択されました。未だに一部の国により核実験が繰り返されていることは極めて遺憾であり、核実験の停止を強く求めていくとともに、全面核実験禁止条約交渉が本年春に妥結され、秋には署名ができるよう最大限の努力を行ってまいります。
わが国を含むアジア太平洋地域の安全保障の確保は世界平和の大前提であります。政府としては、日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならないとの基本理念に従い、日米安保体制を堅持するとともに、文民統制を確保し、非核三原則を守ってまいります。また、昨年末に策定された新防衛大綱及び新中期防衛力整備計画に従い、現行の防衛力の合理化・効率化・コンパクト化を一層進めるとともに、必要な機能の充実と防衛力の質的な向上を図ることにより、多様な事態に対して有効に対応し得る防衛力の整備に努めてまいります。
(世界経済の繁栄への枠組みづくり)
わが国の国際社会における地位にかんがみ、特に重要であるのが世界経済の繁栄への新たな枠組みづくりであります。世界経済の更なる発展のためには、WTOの下で多角的自由貿易体制の一層の強化を通じて貿易・投資の拡大均衡を図っていくことが必要であります。本年末の第一回閣僚会議を念頭に置き、地域統合の問題や貿易政策と投資、環境、競争政策との関係に関して新しいルール作りに取り組むとともに、紛争処理機能の強化に努めてまいります。
途上国の開発への支援についても、わが国としては、国際社会の枠組みとなるべき新たな開発戦略の策定を国連等の場において提唱しており、引き続きこの作業に貢献してまいります。政府開発援助大綱を踏まえ、アジア地域を中心とする経済ダイナミズムの発展に貢献するため、援助と貿易・投資、マクロ経済政策等を有機的に連携させた「包括的アプローチ」により、総合的な経済協力を推進してまいります。また、市場経済化にどう取り組むかは世界的に重要な課題であります。途上国における民主化の促進、市場志向型経済導入の努力に十分注意を払いつつ、各国の経済の発展段階に即した形で最適な支援を行っていくこともわが国の大きな役割であります。
環境、人口、食糧、エネルギー、人権、難民、エイズなど地球規模の問題の重要性はますます増大いたしております。わが国が世界に誇る技術や過去の経験をもって、引き続き国際社会の共通の認識や枠組みづくりに向けて全力で取り組んでまいります。さらに、世界的に環境調和型の経済社会の発展を促すため、新エネルギーの開発・導入、環境負荷の低減に資する研究開発、新産業創出などに精力的に取り組んでまいります。また、海洋の法的秩序に関し包括的に定めている国連海洋法条約の早期締結を目指し、併せてわが国の海洋法制の整備を行うため、所要の準備を進めてまいります。
さらに、わが国の世界経済における役割を十分に自覚し、強靱な日本経済の再建に全力を尽くし、世界経済の更なる活性化に貢献してまいります。また、内需を中心とした安定成長の確保や市場アクセスの改善などにより、引き続き経常収支黒字の意味のある縮小を図り、調和ある対外経済関係の形成に努めてまいります。
(アジア太平洋地域における協力関係の推進)
アジア太平洋地域は、わが国にとっても、世界経済全体にとっても年々その重要性を増しており、協力関係の一層の緊密化を図ってまいります。わが国は、昨年、APEC大阪会合を主催し、貿易・投資の自由化・円滑化、経済・技術協力の推進のための包括的な道筋を示す「行動指針」を採択し、APECは「ビジョン」の段階から「行動」の段階に移行しております。本年は、アジア太平洋協力にとって重要な試練の年であり、わが国としても、この協力の求心力を強めるような、十分内容のある「行動計画」を策定し、この地域の更なる発展に大きな役割を果たしていかなければなりません。安全保障面においても、この地域の発展の基盤となっている平和と安定を維持していくため、ASEAN地域フォーラム等における政治・安全保障対話への積極的な参画を通じて、域内の信頼の醸成に貢献してまいります。
(友好的な二国間関係の発展)
各国との友好的な二国間協力関係の発展が外交の基本であることはいうまでもありません。私は、日米関係を基軸としつつ、地理的にも経済的にも密接な関係にあるアジア太平洋諸国を中核に、文明や文化の相違を衝突ととらえず、その共存を図るような、心の通い合う外交を展開してまいります。
日米関係は、わが国にとっても世界にとっても最も重要な二国間関係であり、アジア太平洋地域、そして世界の平和と安定の要であることを再認識し、クリントン大統領の訪日の機会もとらえ、幅広い協力関係を一層強化していく決意であります。特に日米安保体制は、日米協力関係の政治的基盤をなし、アジア太平洋地域の平和と繁栄にとって不可欠の役割を果たしており、これを堅持してまいります。
沖縄の米軍施設・区域の問題については、日米の信頼の絆を一層深いものとするためにも、また、長年にわたる沖縄の方々の苦しみ、悲しみに最大限心を配った解決を得るためにも、先般設置された特別行動委員会等を通じ、日米安保条約の目的達成との調和を図りつつ、沖縄の米軍施設・区域の整理・統合・縮小を推進するとともに、騒音、安全、訓練などの問題の実質的な改善が図られるよう、誠心誠意努力を行ってまいる決意であります。
日米経済関係については、国際ルールに則り、日米包括経済協議の諸措置を日米双方において着実に実施することなどにより、引き続き適切な運営に努めてまいります。
日中関係については、安定した友好協力関係の発展に資するため、中国の改革・開放政策を引き続き支援していくとともに、核軍縮を含む国際社会の諸問題に関して対話を深めてまいります。
朝鮮半島政策に関しては、引き続き、韓国との友好協力関係を基本とし、日朝関係については、朝鮮半島の平和と安定に資するとの観点を踏まえつつ、韓国等との緊密な連携の下に取り組んでいく考えであります。北朝鮮の核兵器開発問題については、今後とも米国、韓国をはじめとする諸国とともに、米朝合意の着実な実施のため、朝鮮半島エネルギー開発機構への積極的な協力を行ってまいります。
本年は、日ソ共同宣言による国交回復後四十周年に当たりますが、日露関係については、ロシアの政治情勢を注視しつつ、東京宣言に基づき、北方領土問題を解決し、両国間の完全な正常化を達成するために、一層の努力を傾ける所存であり、ロシア政府もこの問題に真剣に取り組むことを強く希望いたします。
わが国として、アジア太平洋のみならず、世界の全ての地域の国々との積極的な協力関係を促進していく必要があることは当然です。特に、EUの拡大と深化により一体性を強め、国際社会における重みを増しつつある欧州との広範な協力関係の維持、発展は重要な課題であります。三月には、タイにおいて、初のアジア欧州首脳会合が予定されており、この機会もとらえ、地域間の対話と協力の強化に貢献してまいります。
〈行政の二十一世紀型システムへの変革のために〉
以上申し上げた内外政上の課題の解決を図るためには、まず行政自らが、時代の潮流変化を踏まえ、大きな価値観の転換を遂げてゆかなければなりません。私は、二十一世紀にふさわしい政府とは、国民に対して開かれた民主的な存在であるとともに、緊急時には機敏に強いリーダーシップを発揮し得る存在であり、また、市場原理を最大限発揮させ、住民に身近な行政は地方に委ねる、簡素で効率的なものでありつつも、真に国民が必要とする施策に対しては十分な配慮を行い得るような存在でなければならないと考えております。こうした一見相反するような性格を併せ持った政府、このような政府を目指した改革が、その本質を見失わないためには、常に何のための政府であるのか、誰のための改革であるのかを国民の視点に立って見直すことが必要であります。このことこそが、私が求める行政改革、すなわち、改革のための改革ではなく、根本的な問いかけに答える行政改革であります。
我々は、今ひとたび初心に立ち返り、「主権在民」、「公務員は全体の奉仕者」という基本的な理念を胸に、内外の社会情勢の変化を踏まえて行政の制度・運営を根本に遡って見直し、各界の意見を謙虚に受け止め、そして尊重しつつ、行政の改革を推進していかなければなりません。
(行政改革の断行)
行政の改革の第一は、規制の思い切った緩和であります。まず、規制緩和推進計画に沿って計画的な規制の緩和を推進するとともに、本年度末までに同計画の第一回目の改定を行います。改定に当たっては、先の行政改革委員会の意見を最大限に尊重し、内外の要望を踏まえながら、新たな規制緩和方策を積極的に盛り込むとともに、その実行を強力なリーダーシップにより確保してまいります。
国と地方との関係においては、住民に身近な行政は住民が直接選んだ首長の責任の下、地方公共団体がその事務を行うという地方自治の大原則を名実ともに実現しなければなりません。政府としては、本年三月の地方分権推進委員会の中間報告とその後の具体的な勧告を受け、直ちに地方分権推進計画の策定に取りかかり、権限委譲や国の関与の緩和や廃止、機関委任事務の抜本的な見直し、地方税財源の充実強化、分権の受け皿たる地方行政体制の整備など地方分権の流れを思い切って加速化させてまいります。
行政改革の中核の一つは中央官庁自身の改革であります。今後の規制緩和の進捗状況や地方分権推進計画に基づく行政事務の再配分のあり方も踏まえつつ、縦割り行政の弊害防止や抜本的な行政改革の実施の観点から、中央省庁のあり方についても真剣な検討を進めてまいります。また、内閣機能の強化の観点から、内閣総理大臣補佐官の設置等を内容とする内閣法改正案を今国会に提出いたします。
透明で効率的な行政の実現も極めて重要な課題であります。情報公開法の早期の制定に向けて、行政改革委員会の今年内の意見具申に向けての調査審議を促進するとともに、審議会等の透明化についても具体化を進めてまいります。行政の効率化、肥大化防止の観点からは、省庁間を結んだネットワークの計画的整備など行政の情報化を推進するとともに、国家公務員の定員の計画的削減を継続してまいります。特殊法人改革についても、同様の考え方に立ち、九法人の統廃合、民営化等を行うほか、財務内容等の積極的公開を含め継続的な改革を推進してまいります。
首都機能の移転については、わが国の政治、行政、経済、社会の改革を進める上でも極めて重要な課題であります。昨年十二月には、国会等移転調査会の報告が取りまとめられたところであり、今後はこの報告を踏まえ、首都機能の移転の一層の具体化に向け、内閣の重要課題の一つとして取り組んでまいります。
行政改革の適切な実現のためには、今申し上げた、規制緩和、地方分権、首都機能移転、中央省庁の改革などの諸課題が有機的に組み合わされ相乗効果を上げるよう調整を行うことが極めて重要であり、私としても、これらの取組相互の有機的な連携を図ることに意を払ってまいります。
(財政改革)
行政改革と常に一体となって語られねばならないのが財政改革であります。わが国財政は、公債残高が来年度末には約二百四十一兆円に増加する見込みであり、厳しい税収動向も相俟って、もはや危機的状況といっても過言ではありません。急速に進展する人口の高齢化や国際社会におけるわが国の責任の増大など今後の社会経済情勢の変化に財政が弾力的に対応し、真に必要とされる政策分野に財政資金を投入していくためにも、できるだけ速やかに健全な財政体質を作り上げていくことが緊急課題であります。いうまでもなく、国の財政は国民のものであり、その受益者も国民であり、負担者も国民であります。政治家一人一人が国民の代表としての自覚をもって、一刻も早い財政の規律の回復に努めなければなりません。税制については、活力ある高齢社会を目指し、公平・中立・簡素という租税の基本原則に基づき、不断の改革が必要であります。五%とすることが法定されている消費税率については、社会保障等に要する財源の確保や行財政改革の推進状況等を踏まえつつ、本年九月という法律上の期限に向け鋭意検討を進めてまいります。
行政改革を実現する上でしばしば問題になるのは政と官との関係であります。私は、政と官とを対立構造でとらえるのではなく、政治家の強い意志と責任で大きな改革の方向付けを行い、行政官は専門的知識によりこれを補完するという協力関係を作り上げねばならないし、その最終責任は、行政の最高責任者でもある我々政治家が持たなければならないと考えております。昨年の参議院議員選挙や統一地方選挙で示された国民の政治不信や政治への無関心は極めて深刻であります。このような状況を打開し、国民の政治への信頼と関心の回復を得るには、政治の浄化への不断の取組に努めるとともに、国会等の場で真に国家や国民本位の政策論争を国民の目に見える形で行わなければなりません。このことこそが現在最も必要な政治改革であり、こうした政治の改革を通じてのみ真の行政の改革も実現しうるものと私は確信いたしております。
〈結び〉
平成八年(一九九六年)は、戦後五十年を終え、二十一世紀の礎を築き、次なる百年の展望を切り拓く、新たな「挑戦」の年であるべきであります。来るべき世紀は、規制と保護に対して自由と責任という理念が、量的拡大に対して質的充足という価値観が、企業や組織に対して地域社会や家庭という存在が、それぞれその重みを増していく時代となりましょうし、またそうなさねばなりません。我々が目指す社会はそこに息づく国民一人一人が、心豊かに、平和に暮らせる社会であり、そのことを通じて国民はこの国に対する自信や誇りを、将来に対する夢や目標を再び手にすることができるようになるものと私は確信いたしております。
しかし、これを実現することは言葉で語るほど容易ではありません。我々は過去の重みからも未来への責任からも逃げるわけにはまいりません。改革は容易ではありませんし、痛みを伴います。しかし、私たちの次の世代に希望と誇りのある日本の未来を託するためには、今こそ、勇気をもって、時代の要請に応え、この国の政治のあり方を、行政のなりたちを、そして経済のシステムを変革し、創造してゆかなければなりません。
私は、この変革の時に重要な国政を担う内閣総理大臣として、そして一人の政治家として、以上申し上げた課題に全力を傾けてまいる決意であります。国民の皆様と議員各位のご理解とご協力を切にお願い申し上げます。 
1997

 

年頭記者会見 / 平成9年元旦
新年あけましておめでとうございます。
昨年12月18日に発生した在ペルー日本大使館襲撃という誠に不幸な事件が2週間経った現在もいまだ解決をみていない、こうした事態は痛恨の極みです。
いまだに人質とされておられる多くの方々に対し、その御苦労を思うとき、また、御家族のお心に思いを馳せるとき、本当に心が痛みます。事件の一刻も早い平和的な解決のために、更に一層全力を傾けてまいります。
我が国政府としては、事件の発生当初より、テロに屈することなく、人命尊重を優先し、ペルー政府などと連絡を密に取りながら、この事件の平和的な解決に努力を傾けてきました。
また、フジモリ大統領も私自身との連絡の中でも、また、国際社会に対して平和的解決に全力を挙げると、そうした立場を再三明らかにしておられます。今後とも、国際社会の支援も得ながら、人質の即時全面解放を求めてまいります。国民の皆様のご支援を引き続き心からお願いを申し上げます。
この事件に対する対応が政府にとって極めて重要であることは論を待ちません。しかし、同時に国政の障害となってはならないということもまた事実であります。こうした観点から、考えに考え抜いた末、かねてから予定をいたしておりましたこの7日からの私のASEAN諸国訪問については、これを実施することといたしました。当然のことながら、この間のペルー事件を巡る対応については万全を期すこととしておりますし、政府専用機で空中にある時間帯をも含めて、私への連絡・通報体制は世界中のどこからでも必ず届く体制になっておりますし、東京における体制も既に整備を終わっております。
さて、新しい年、平成9年、1997年を迎えて、いよいよ2000年の扉が開くまでにあとわずか3年を残すのみとなりました。
私が政権を担いましてからも約1年の月日が流れましたが、今、私は、この国が新しい時代の創造に向けて、変革の胎動期とでも言うべきそんな時期に入っていると確信しています。現在、政治に期待される役割は、この国に芽生えている改革の動き、あるいは国民の皆様の間に高まっている変革への期待・エネルギーをいかに現実のものにしていくかという点にあります。
この新しい年の門出に当たって、私としては、今一度、これまでの我が国の発展の在り方の、その道筋というものを振り返りながら、今後我々がどのような社会をつくり上げていくべきなのか。そのためにこの国の政治、経済、行政をどう変えていかなければならないのか。率直に私自身の考えを申し上げてみたいと思います。
この新しい年、本年は第二次世界大戦に日本が敗れてから、数えて52回目の元旦に当たります。私はその当時小学校の2年生でしたが、そのころの記憶はいまだに鮮明に脳裏に刻み込まれています。
今や国民の過半数の方々が昭和21年の、あの元旦の焼け野ケ原の日本、本当に絶望に打ちひしがれて、離散している家族の安否を気づかいながら、まさにその日その日の食べ物にも不自由した時代を御存じありません。
しかし、あの時、あのころほど、私たちにとって平和というものの貴さが分かり、その中で一日も早くこの国を立派なものにしたい、今思うと大変月並みな言葉になるかもしれませんけれども、平和で豊かな国をつくりたいという気持ちをみなぎらせていたときはなかったんではないでしょうか。
その後、私たちは、本当に勤勉な努力を積み重ねてきました。諸外国の温かい支援も受け、この国は、驚くべきスピードで戦後の荒廃から立ち直り、更に欧米へのキャッチアップを目指した高度成長の道を突き進んで行きます。
初めて我が家へテレビが入った、あるいは東京オリンピックの表彰台に日の丸が立ったときの感激とか、あるいは電気洗濯機が我が家へ初めて入ったとき、母親がどんなうれしそうな顔をしたか、私たちの世代はそういう思いを忘れることが出来ずにいます。
私たちは経済の復興と発展というものを第一に、個人個人が我慢をしながら、目標に向かって力を合わせあう、そうした仕組みをつくり上げることによって、高度成長というものを実現してきました。企業の組織や行動を取っても、官と民の関係にしても、あるいは国と地方の関係についても、お互いの立場、考え方の違いは違いとしながら、大きな目標の実現のためにみんなが力を合わせて問題を解決し、ここまでの経済的な豊かさというものを獲得してきた、そんな道筋でした。
しかしながら、いつの間にか、私たち自身が先進国の一員に仲間入りをしていた。そして気がついてみると、仰ぎ見る目標を失ってしまった。むしろ台頭してくる発展途上国の追い上げを受ける立場にある。そうした私たちは今や自らが新たな価値をつくり上げていかなければなりません。こうした状況の中で、現在、私たちの社会、私たちがこれまでつくり上げてきたシステムそのものが大きなチャレンジに直面しております。
日本的な経済システムや官僚制度、これは経済が右肩上がりで、私たちが目指すその目標というものが明らかであるときには、その目標に向かって極めて効率のよい経済発展を実現し、不公平感の少ない社会を建設する大変すぐれた制度でもありました。しかし、国民の価値観が多様化し、目標も単純なものではあり得ない、そうした社会情勢の中にあって、かつて日本の発展を支えてきたさまざまな制度や慣行というものが、逆に停滞の大きな原因になっている、これは残念ながら否定出来ない事実です。
本来、国民生活の安全や経済の安定的な発展を実現するために、他の国々の事例なども研究して導入されたはずの規制が、いつの間にか自己目的化し、そして特定の産業や特定の人々の利益を守ることになり、国全体から見ると、世界にも例を見ない高物価、高コスト構造というものをつくり出す最大の原因になっているのではないか。
かつて民間企業の体力では必ずしも十分なサービスが提供出来なかったという状況の中で、都市や田舎を問わず、一律のサービスを提供するために政府自らが官業として行ってきた事業、それが今日、民間の事業機会を奪う結果にはなっていないのか。地方の発展基盤を整備することを目的としていたはずの補助金、それが逆に地方の独自性の芽を摘んでしまう。コスト意識の欠如を招き、結果として地方の中央依存を強めているのではないか。
また、社会資本整備の名の下において行われてきた財政支出というものは、地域経済の中で毎年毎年の当然の支出として行われた結果として、全国各地で利用度の低いむだな施設整備が行われたり、あるいは事業単価が極めて高くついたり、また、各省庁の縦割り予算の中で連携なしに事業が実施されているという事態を招いています。このような状況の中で地方の補助金づけの中央依存体質や、国の財政の硬直化が加速的に進展しているのではないだろうか。こうした疑念が次々とわいてきます。
そして、教育に目を転じてみましょう。
現在、この国の優秀な、多くの若者たちは小学校、あるいは幼稚園の頃からかもしれません。画一的、競争的な教育を受け、中学・高校・大学と過酷な受験戦争を勝ち抜いて、卒業後は一流企業に就職をすることを目標として走り続けています。私は、人間が目標に向かってひたすら努力することの価値、競争というものの大切さを否定するものでは決してありません。むしろそれぞれの人の自己責任に基づいた競争というもの、これは今後の社会において極めて重要な原理になるでしょう。しかし、一体彼らが何を目標に努力し、競争しているのか。その目標は自分の意思で決めたものなんだろうか。こんなこと一つを取っても、何とも割り切れない思いが私の胸を襲います。
21世紀の前半を支える人材の養成を行うのに、私たちの現在の教育システムというものが、夢や希望や目標を自分で設定出来ない教育、高度成長期にはふさわしかったような制度、いや、もしかするとそのころでも一人一人の個性や創造性というものを尊重しない知識偏重の積め込み教育になっているのではないでしょうか。
国際関係について見ても、米国を中心とした国際社会がつくり出す平和と安全の枠組みを当然の前提とし、私たちがその中で行動していればよいという時代はもう過ぎました。今や日本自身がつくり出す理念や価値を国際社会に広めていくべき時代に差し掛かりつつあるのではないでしょうか。いや、既に入っているのかもしれません。
我が国は地理的にも歴史的にもアジア太平洋国家です。世界的規模での役割分担を考えるときに、我が国に最も期待されている役割、それはこの地域の政治の安定を確保しながら、経済の持続的な発展に尽力していくことでしょう。
APECやASEANの枠組みを活用し、経済協力や貿易・投資の自由化の推進に加えて、アジア諸国に先立って我が国が試練に直面し、技術や経験を蓄積してきた社会保障や環境保全について、こうした分野における技術協力や政策的な対話を積極的に行っていくことが、ますます重要となるのではないでしょうか。
また、安全保障面では、この地域の平和と繁栄の基盤である日米安全保障体制を維持・強化することが不可欠でありますし、そのためにも、これまで長きにわたって沖縄の方々が背負ってこられた重荷を国民全体で分かち合うという姿勢に立って、沖縄の方々との信頼関係を一層強化していけるよう、引き続き、最大限の努力を払わなければなりません。
東西冷戦構造という戦後のイデオロギー対立は終わりました。そうして、経済活動の境界線となっていた国境は限りなく消滅しつつあります。こうした状況の中で、気がついてみると、我が国は超高齢社会に突入し、産業の空洞化や未曾有の財政赤字などによって経済活力が著しく損なわれつつあります。
また、我が国唯一の資源とも言うべき人材を育む教育の現場でも、先ほど申し上げたような状況の中で、いじめや青少年非行が増大するなど懸念すべき状況になっています。
最近における公務員の相次ぐ綱紀の乱れなどに起因する国民の行政への不信の高まり、そしてそうした行政の腐敗を生んだ政治の指導力の欠如への不信感・失望感、これは日本の社会、システムの危機に輪を掛けるものでありますし、このような事態の最終責任は、国民の代表である私たち政治家が負わなければならないものであることは明らかでありますし、現状を厳粛に受け止め、今こそ21世紀にふさわしい政治、経済、社会、行政のシステムを新たに築かなければならないときがまいっております。
私が思い描く21世紀の日本、その社会、それは国民一人一人が、国や地域社会に誇りを抱きながらも、その所属する社会や組織に埋没するのではなく、自らの将来に自由な夢・目標を抱いて、個人個人の創造性とチャレンジ精神が存分に発揮出来る社会、世界の人々と分かち合える価値をつくり出すことの出来る社会、そんな社会を目指していきます。
こうした社会の実現のためには、個々の制度の改革だけでは不十分であり、政治、行政、産業が相互に密接に関連し合いながら発展を築き上げてきた、戦後の我が国の経済社会システム全体にわたる大転換を行わなければなりません。
現在、明治維新期における近代国家の形成、第二次世界大戦に敗れた後の民主国家の建設に次いだ、第三の変革期に差し掛かっていると、私はそう思います。
こうした時期にあっては、部分的な、あるいは対症療法的な手法では決して望むような成果は上がりません。明治初年と戦後の過去2回の大変革期において、我が国の経済社会全体が抜本的に転換されたように、今回の改革においても、国家全体にわたる大改革が総合的に、かつ、一気呵成になされなければ意味がありません。しかも、黒船ではなく、また、占領軍の指導を受けるのではなく、これは我々自身が自分の手でやり遂げなければなりません。
私は昨年来、行政改革、経済構造改革、金融システム改革、社会保障構造改革、財政構造改革の5つの改革を言ってきましたが、更にこれに教育改革を加えた6つの改革というものを一体的に、かつ時限を区切って、何としても進めていかなければならないと、そう言い続けているのはこうした思いからです。
しかし、逆にこうしたさまざまな改革、むしろ改革と言うより新しいシステム、新しい社会の創造と申し上げた方がいいかもしれません、こうしたものを行っていくためには、それが何のための改革かという原点に立ち返って、大胆な変革を進めなければなりません。
私は一連の社会改革の言わば起爆剤として、私自身が会長となる行政改革会議を昨年末発足させて、抜本的な行政改革の検討を開始したところです。私がここで求めているのは、行革のための行革であったり、中央省庁の看板のかけ替えをすることではありません。現在の行政の中に、その在り方の中には行政のみならず、行政と政治、中央と地方、行政と産業、こうした関係が色濃く反映されている訳ですし、こうした関係が、いわゆる官主主義とか官治国家、中央集権と呼ばれるような、この国のこれまでの社会全体を代表していると、これを全面的に見直していくことが今後の我が国の創造的な発展のために不可欠だと、そう信じるがゆえに行政改革を最優先の課題としたのです。
我が国の行政組織というものは、戦後の復興期、あるいは成長期にあって、貧富の差など社会的な格差を是正しながら、この国が持つ限られた資源を一定の分野に集中して効率的な経済発展を実現するという意味においては極めて効果的な体制でした。
しかし、行政が抱える課題が日々複雑多岐になり、かつ、国際的なものになり、また、行政、民間を通じてその先行きを展望することが困難になっている時代において、もう社会は、官と民、そして国と地方との関係において、中央の政府が、民間や地方に対し、一方的に望ましい方向を指し示す、監督していく、そうした体制を求めてはおられないと思います。
むしろ、そうした体制こそが民間の産業活動の伸びやかな発展と地方や個人の自立を阻む阻害要因となり、そして、国際的に見ても異質な存在となっていることは明らかであります。高コスト構造と言われる非効率性、通信やソフトウェア、どういった中身を提供するかといった分野でのダイナミックな動きに対する遅れ、東京金融市場の地位の低下などを克服するために、新たな環境を用意しなければなりません。
国際的に大競争時代が到来する中にあって、国境を越えた競争の主体は、産業だけではありません。個人や企業の活動を支える政府が、いかに効率的に、住民本位の行政サービスを提供することが出来るか、それがその国の国民の福祉や活力を左右しますし、また産業の生産性や競争力に極めて大きな影響力を及ぼすことになります。時代が求める政府は、市場原理を尊重し、透明なルールの、その下において、国民、住民本位の効率的な行政を実現する政府です。
私は規制の徹底的な撤廃や緩和、地方や民間への業務と権限の委譲によって行政を思い切ってスリム化する。こうした努力が何としても必要だと思いますし、その上で、縦割り主義や、いわゆる省利省益といった弊害を排除しながら、中央省庁を時代と国民の要請に応えるものに再編すると同時に、省庁横断的な課題への弾力的対応の強化と迅速、かつ、大胆な政策判断を行う体制をつくり上げるという官邸の機能強化策を検討し、年内には成案を得るつもりです。
こうした行政改革を初めとする改革を実行するに際しては、かなりの痛みが生じます。あるいは、負の部分に影響が出てくることもこれは事実です。確かに、これまで規制の傘の下に保護されていた事業を営む方々にあっては、今後は厳しい競争の荒波にさらされることになりますし、品質、サービス、価格などあらゆる面で努力をしなければなりません。反面、消費者にも、商品・サービスを自ら選択する厳しい目が求められますし、例えばどこの電話会社が、どこの金融機関が、ホームヘルパーのどなたが、より低い価格で自分のニーズに合った安全な商品・サービスを提供出来るかを自らの責任で決めなければなりません。これが自己責任です。
また、地方分権は、地方公共団体自らのビジョン、企画力、資源配分の能力を試すこととなりますし、隣接する地方公共団体同士が競い合うことにもなるでしょう。
しかしながら、マイナス面に目を奪われて、改革への努力を怠ったら、将来の我が国には、より厳しい展望のない現実が待ち受けるだけになります。社会に活力を取り戻すためにもこの改革はためらってはなりません。
今こそ、今年こそ、皆様とともに日本を本当の意味で、平和で、豊かで、個人個人が自由で伸びやかに生きることの出来る、そして、私たちが自分の国としてプライドを保てる、そうした国にしていくために行動を起こすときが来た、私はそう確信しています。重ねて国民の皆様の御支援、御協力を切にお願い申し上げます。
【質疑応答】
● まずペルー事件ですが、対話による解決に言及しておりますが、国民が、政府に期待する話し合いによる平和的解決への手応えといいますか、その見通し、また、ゲリラ側から日本政府に対する何らかのコンタクトないしは要求はあるのでしょうか。更に、このペルー事件を教訓にしまして、この種の事件に対する政府の危機管理体制の整備についてのお考えをお聞かせください。
まず第一に、ゲリラあるいはテロリスト、MRTA、どう呼んでも結構ですけれども、彼らから日本政府に対して直接のコンタクトはありません。また、これはあっても我々は受けるつもりはありません。この事件の正面に立って、全責任を負って行動される役割はペルー政府でございますし、今、ペルー政府が、フジモリさんを中心に一生懸命努力をしていただいている。そして、既に対話の動きが出てきていることも皆さんが御承知のとおりです。
我々はペルー政府がこの事件に全力投球が出来るように、それをやりやすい状況をつくるためにペルー政府をサポートしています。そして、その中で、我々が求める人質の即時全面解放というものが一日も早い状況で生まれることに全力を尽くします。
それから、この事件全部が終了して、今、人質になっておられる方々が自由の身になられ、改めて大使を始め大使館員、事件発生前から、その中におけるすべての話を聞いていく中で最終的な結論は出てくるでしょう。
我々は今、この事件の解決に向けて全力で取り組んでいる最中ですし、既にこの事件を教訓にして、さまざまな危機管理体制というものの新たなチェック・ポイントとでも言いますか、こうしたことを学びつつあります。そして、そういった流れの中で、既に平成9年度予算編成に対しては、大使館、大使公邸警備の在り方、あるいは必要な機材、人員、そういったものについては予算化を実行したものも出てきました。今後もこの中から学ぶことは非常に多いだろうと思っています。
● 次に行革についてお伺いしますけれども、1年掛けてやる訳ですけれども、春ごろに中間取りまとめをやるお考え、行政改革作業ですね。それと、今年6月、総理は自民党総裁としての任期を迎える訳ですけれども、行革の日程からいって、総理は再選を目指すのではないかと思われますが、どうお考えですか。
まず第一に行政改革の方からお答えをしますけれども、先ほど申し上げたように、これは何としても仕上げていかなければなりませんし、これは行政改革会議だけではなくて、既に官民の役割分担の洗い直し、あるいは規制緩和撤廃といった作業をしていただいている、あるいは地方分権推進ということから、第一弾の意見を出していただいている、そうした審議会があることも御承知のとおりであります。
当然ながらそうした成果は、この行政改革会議の議論の中に生かしていかなければなりません。そして、特に地方分権については、そもそもの基本論にまで立ち至った御報告というのは、春を多少過ぎるのかもしれません。それだけに、そうした御報告をいただき、それを行政改革会議で中央省庁の在り方のベースに引いていくからには、春に中間報告を出すといったことにこだわりたくはありません。要は1年以内に成案を得るということが一番大事なことであって、私は、その1年ぐらいにまとめ上げた成案というものを受けて、法律案の形で、平成10年の通常国会に提出して、これを御審議をいただきたいと思っています。
それにつけても、やはりこういう仕事をしていくというのは、国民の世論の支えがなければ進みません。それだけに、一方では規制を緩和・撤廃することによって、中央省庁が持っている権限を離していく。地方分権を進めることによって、権限を手放していく。当然ながらスリムに成り得る訳ですから、そうした作業と並行した行政改革、中央省庁の在り方を検討していくということに是非国民も関心も持ち続けていただきたい、督励をしていただきたいと思います。
それから、今、私は本当に今回のペルー大使公邸襲撃事件を始め、5つの改革に今日、教育改革を加えて6つを申し上げてきましたし、更に沖縄にかかる問題といったものを考えるとき、こうした重要な政策課題を前にして、一日一日全力を尽くすということで精一杯で、正直、とても秋まで頭を回しているゆとりがありません。
● ASEAN訪問ですが、もし非常に突発的な事態があった場合には、これまでの日程だと、長い期間だと、これを改めるような事態もあるんでしょうか。また、議論なさった背景をもう少し詳しく教えていただければと思います。
私は、このASEAN訪問中に、急遽日程を変更して帰国するような事態が起こることを本当に望んでおりません。むしろ、出発の前にでも、全員の人質が解放されるという事態が来ることを強く期待します。それが望めない限りにおいて、飛行機の中でも、また現地においても、これに対する対応を緩めるつもりはありません。
ですから、通常の同行、当初はこうした事件がなければ組んでいたであろうチームとは別に、まさに私自身が飛行機の中であれ、それぞれの国を訪問中であれ、常時連絡を受けられる体制は当然のことながら持っていきますし、その意味での専門家も一緒に連れていきます。
そして、出発までにも出来るだけの努力はしていきますが、いろいろな意見を皆さんがくださいました。そして、大変正直なマスコミの方の中には、この話はどちらにお前が決めてもおれたちは悪口を書くという宣言をされた方もあります。すなわち、中止すれば中止したねと。訪問を実行すれば、こんな大事な事態が一方で進行しているのにと。どっちにしてもほめることはない、そんな表現をされる方もありました。
最終的に本当に私が行こうと決断をしたのは、本当にフジモリさんが非常に一生懸命に平和的な解決に努力を続けていただいている。当初から信頼してきましたけれども、そのペルー政府に対する信頼を一番はっきり表わす形としては、この外交日程を予定どおり進めていくということが一番はっきりした意思の表明だと、こう思います。
それから、エリツィン大統領の提案というものから、G7の点で言うと、ロシアを加え、主要各国が足並みをそろえ、平和的な解決に向けてペルー政府を全面的に支援をしていく、そうした意思表示が既にありました。我々はテロというものに屈する訳にはいきません。テロというものと妥協をすることは出来ません。その上で、人質の安全、全面解放というものに努めていかなければならない訳です。その交渉に当たる窓口は1つでなければなりませんし、ほかから雑音が入って交渉が二と三とにわたるようなことは避けなければいけません。そうした中で、信頼を表明する目に見える形として一番大きなもの、これが最終的に私が判断をしたポイントの一つです。
同時に、こういう事態が起きたときに、本当に訪問予定をしていたASEANの各国の皆さんから、こういう状況なんだから、もしかしたら予定どおりに出来なくても、我々はそれで日本との関係を左右することはないよ、という伝言もいろいろな形でいただきました。とてもうれしかったです。こういう事件の中で、寄せられるそういう声というのは、国としても本当にありがたいことです。そういう気持ちを表明していただいていればこそ、なおさら、遊びの要素は、例えば、観光を予定してくださっているところはみんな省かせていただきますけれども、公式な行事として受け入れていただける場所はきちんと実行していく。それだけ寄せてくれた各国の心に応えたいと、こうした思いも私の中にあります。
● 総理、7日以前に人質事件が解決する感触があるということが、御判断の根拠ではないんですか。
残念ながら、それほど私は事態を楽観していません。むしろ、よくこうした事件の解決のよい例として引かれるのは、コロンビアにおけるドミニカ大使館の襲撃事件、これは幸いに人命を全く損傷することなしに決着をしましたが、これは62日間、決着まで掛かりました。
そして、そういう過去の例を見ると、比較的短期に解決をしたケースというのは、ほとんどのケースで、人質、テロリスト双方を含め、場合によっては政府側を含め、多数の犠牲者を出した結果になっています。ですから、むしろ時間が掛かる、それは平和的な解決を求めて双方が努力している、その証だと私は取っていますし、それは本当に7日の朝までに解決をしてくれたら私は本当に幸せですけれども、残念ながらそれほど簡単に解決をするような情報は持っていません。
● 総理、先ほどテロに屈する訳にはいかないとおっしゃいましたけれども、今回の事件で、テロの特殊部隊を持っておりますアメリカとかドイツ、イギリス、韓国等では、人質は早期に解放されている現実があります。これを踏まえまして、日本でも、自衛隊にテロ特殊部隊をつくるべきだという意見もございますが、それについてはいかがでしょうか。
私は今その御質問に対してはお答えをすべきではないと思います。どこの国の人質がどういう順番で解放された、その順番を皆さんと議論することは余りいいことではありません。そして、同時に、私はそれなりに、例えば、今までハイジャック犯が発生したとき等、警察の特殊部隊が国内においては対応してくれていました。それを海外に延ばすことがそれほど簡単なことかどうか。これはむしろ現実問題として考えていただいた方がいいと思います。
例えば、地理不案内な他国の特殊部隊が、地理不案内な場所に誘導されて、しかも共通の言葉を持っていない可能性の多い場所で、武力を行使して、人質の安全というのは確保出来るでしょうか。勇ましい議論というのはいろいろな角度で出来ます。
しかし、例えば、そうしたことを想定したとき、それぞれの国が主権を持って事件に対応しようとしている。仮に日本がそういったものを現在持っていたとして、果たしてそれが活用出来るでしょうか。私は今、むしろペルー政府、フジモリ大統領が払っておられるこの努力の妨げになるようなことは全くやりたくないです。
● 総理、先ほど6つ目の改革として挙げられました教育改革について、具体的にどのような分野から着手されようとされているのかということと、例えば、その教育改革を進めるに当たって、審議会のようなものをおつくりになるようなお考えをお持ちでしょうか。
むしろこれは逆に初閣議の後、文部大臣にそうした視点から教育というものについての考え方をまとめるように求めるつもりですし、また、求めることに私自身として決めていますけれども、特に何から、あるいは審議会を新たにつくってという考え方を持っている訳ではありません。
ただ、もう既に中高一貫教育の問題、あるいは大学の学部制の在り方、飛び級の問題、いろいろな角度で問題が出ています。しかし、そういう制度改革だけでいけるのかなという思いももう一つあります。
例えば、産業界自体が、就職ということを一つとらえてみても、どういう視点から人材を選ぼうとするのか、どんなに教育改革を言ってみても、一定の学校からしか採用しない、我が社は、なるべく女子学生の比率は低くしようと考えるとか、産業界がそういう感覚を持ち続けていては事態は前進しないでしょう。そして、むしろ私自身が自分の子どものころからを振り返ってみても、自分の子どもたちを見ていて、余りにゆとりが少ないという思いを非常に沢山のところで感じます。
臨教審等でも既にいろいろな提言がされてきました。現在の中央教育審議会で議論していただいていますから、私はむしろこの中教審の議論というものをより積極化し、幅広く行っていただく、そういう考え方で進んでいきたいと思いますし、文部大臣にはそういう考え方でお願いしたいと思っています。
● 予算案のことなんですけれども、公共事業の問題とか、整備新幹線の着工問題に絡んで、財政再建といっても、そういう面の最終的な取り組みが不足しているのではないかという批判の声もあるんですが、その点どういうふうに受けとめておられるんでしょうか。
今度の予算についてはいろいろな角度からの御議論をいただきました。一方では、これでは不況になってしまうとおっしゃる方々もありますし、一方では、その公共事業に、あなたが言われたような議論をなさる方もあります。私自身から申し上げたいことは、補正予算の効果と併せて9年度予算を見ていただきたいという言葉に尽きるんです。
確かに、消費税の2%引き上げ、特別減税の廃止というのが来年度、殊に4−6月期の景気に影響を与えることは間違いありません。そして、それが放っておけばさまざまな影響を出すこともあり得る訳です。ですから、むしろ我々はそれが民間事業を中心とした自立的な回復に向かってもらえるよう、補正から工夫を始めました。
そして、その補正予算も、お調べをいただけばお分かりのように、ゼロ国債を活用しながらそういう部分に対しての視点を当て、同時に、一方で防災といったものに着目した事業をくみ上げる、そういう形を取り込む。4−6の影響を非常に少ないものにしていきたいと思っています。同時に、公共事業を平成9年度予算においても、ある程度のものを計上していくことは事実ですけれども、これ自体、聖域というものは設けませんでしたし、その数字はよく見ていただくと、名目経済成長率3.1%より相当低く抑えると言ってきたとおり、事実その数字は1.5%増です。これは、9年度の消費者物価上昇率の見通しより低い数字で抑えております。
それと同時に、むしろそれぞれの事業の重点化を図っていくということも従来の公共事業とは性格を随分異にしていることも見てください。
例えば、道路の中でも、高規格幹線道路、港湾についても特定重要港湾、こうしたところに重点的な配分が行われています。同時に、各省の枠を超えた事業の連携というもの、あるいはコスト削減策、こうしたものがありますし、言われながら出来なかった、始めてしまっている事業を中止する、これも事業箇所を絞り込むという観点から、今回初めて既に進めている事業、ダム等で中止したものが出てきたことも御理解をいただけると思います。
同時に、その建設工程というものを見直して、実は私も初めてああいう形で実態をとらえてみたんですが、事業の計画から仕上がりまでの段階をずっと一連のチャートにして、そのプロセス、プロセスにおける、コストに影響する各省の行政というものをずっと拾い上げていくと、恐ろしく沢山のものが高コスト構造というものをつくっていく原因になっていました。
これは既に建設省あるいは運輸省、農水省といったところには指示を出し、努力を始めてもらっていたんですが、設計から工事の完了までに全工程を洗い出してみますと、規制緩和を含めて、公共工事を取り巻くさまざまな分野を全部拾い上げて改善をしていかないと、本当に効果的なものにならない訳です。そんなことを考えて、暮れの27日の閣議で関係閣僚会議をつくって政府全体としてこれを進める、こんな指示も出してきました。ですから、従来のイメージとは少しずつ変えていただきたいと思います。
それから、新幹線について言えばいろいろな御議論がありましたけれども、そのプロセスは別として、最終はどういう仕上がりかは御承知のとおりです。我々はこれからも政府与党の中で、採算性、あるいは在来線廃止のその地域に与える影響、地方自治体の考え方、いろいろな要素で問題を詰めていくという考え方を明らかにしております。
● 安保政策についてお伺いしたいんですが、総理は、5月に重要事態に向けて4項目の検討を命じられました。一方で、秋にはガイドラインの見直しの最終報告を出すという日程も含まれていると思うんですが、今後、どのように政府部内として議論を進めていき、その際、国民的なコンセンサスというものをどうやって得ていくお考えでしょうか。
昨年5月私が事務当局に対して指示をしたというのは、我が国の周辺地域における我が国の平和と安全に重要な影響を与えるような事態を中心にして、我が国に対する危機が発生した場合、あるいはその恐れのある場合、どういうケースがそれに対して必要な対応策、それを具体的に十分検討、研究という指示を出しました。
そして、今、内閣安全保障室が事務局になりまして、在外の邦人保護、大量の避難民対策、沿岸重要施設の警備といった問題。あるいは、対米協力措置など各検討項目ごとに作業グループをつくって進めております。これはいつ終わるという中間報告はまだ私は受けていませんが、作業は鋭意進められております。
こうした作業がある程度方向あるいは姿を見せてきた時点で、これを国民にお知らせをする、それは皆さんの協力を得なければなりませんけれども、知っていただく。それに対してどういう反応を国民が示されるのか、そういう手順が必ずどこかの時点で必要になるでしょう。ただ、今その時期がいつとは申し上げられるところまで、それぞれの項目で煮詰まった、あるいは結論に近づいたという報告はまだ私は受けていません。もうしばらく時間をちょうだいしながら、大事なことですから、ある程度中身がまとまれば、皆さんの協力を得て、国民の皆さんに知っていただく、そしてそれに対するお考えを伺う、そうした必要は当然あるだろうと思います。 
1998

 

年頭記者会見 / 平成10年元旦
明けましておめでとうございます。
21世紀まであと3年となりました。ちょうど今から35年前に、私が初めて衆議院に当選した昭和38年、振り返ってみますと、翌年東京オリンピックを控えて、本当に社会全体に躍動感があふれていました。所得倍増計画というものの先にある日本。その豊かな日本というものを夢見ながら一人一人が希望を持って学び、そして額に汗して働いていた、改めてそう思います。同時にこの年は、日本の法律制度の中で初めて「老人」という言葉が法律用語として使われた年でもありました。そして100歳以上のお年寄りの人口調査を初めて国が実施した年でもあります。それ以来私は、経済の豊かさの実現の中で高齢化社会への対応ということを自分のライフワークのようにしながら今日まで取り組んできました。本日は、新しい年の門出に当たって、私がどのような社会をつくりたいと考えているか、そのために当面の対策と「6つの改革」をどう進めていこうとしているのか、率直に申し上げてまいりたいと思います。
6つの改革は、それぞれその分野において具体的に既に進んでいます。昨年秋の国会でお年寄りの介護の負担を社会全体で支えるための介護保険、また財政構造改革のための特別措置法が成立をしました。また、危機管理をはじめ行政の機動力を高めるために内閣機能を強化し、効率的な行政を実現するために中央省庁を再編する、その方向づけが出来ました。経済構造改革や金融システム改革に関しては、大胆な規制の撤廃を始めとする具体的な行動計画が既に出来ております。また、教育改革についても、中高一貫教育、あるいは週5日制の導入などの取組みを既に始めました。
同時に、昨年秋以来の金融機関の相次ぐ破綻によりまして、我が国の金融の機能に対する内外の信頼が低下しました。金融システムの破綻は、国民生活に混乱を生じますし、産業活動を著しく停滞もさせます。日本発の金融恐慌、経済恐慌は絶対に起こさない。経済の動脈である金融システムを何としても安定させ、景気を回復軌道に乗せ、先行きに対する自信を取り戻す。私はこれを自分の強い決意として冒頭申し上げたいと思います。
そして、皆さんにも本当に自信を持っていただきたいんですけれども、我が国は1,200兆円にのぼる個人金融資産、差引き8,000億ドルの対外資産、そして2,000億ドルを超える世界一の外貨準備を持っています。全く心配はありません。金融の根本は信頼なんです。そして、預金者を保護するために、金融システムの安定を図るために、破綻金融機関の処理、そして、きちんとした銀行の自己資本の充実に10兆円の国債と20兆円の政府保証、合わせて30兆円の資金を活用出来るようにいたします。貸し渋り対策としては、政府系金融機関に23兆円の資金を用意するほか、早期是正措置の運用を弾力化します。これにより、健全な経営を行っておられる企業に必要なお金が流れるようにします。景気回復のためには、大規模な規制緩和を始めとする緊急経済対策を実施します。更に、税制面においては、2兆円の特別減税を実施するとともに、法人課税の税率引下げ、有価証券取引税の半減、地価税の課税停止などを含む幅広い措置を取ることとしております。国民の皆様には、どうぞ安心をしていただきますよう、そして、これらの対策への御理解と御協力を心からお願い申し上げます。
私は、日本経済に未来がないかのような悲観論には決してくみしません。我が国ほど、高い教育水準と高い勤労モラルを持っている国はありません。かつて、我が国が貿易と投資を自由化し、国際競争の荒波に船出したとき、その過程で石炭、あるいはアルミ精練などの事業が衰退をしました。しかし、国民が一丸となって果たしてこられた努力の中から、自動車、電子・電気、機械などの新しい産業が力を付けて、国際競争を勝ち抜いて来ました。私たちの先輩には、本田宗一郎さんや井深さんのような多くの偉大な業を自ら起こされた方々があります。今ハイテク産業のコメと言われる半導体の原形、シリコンダイオードは東北大学で開発をされましたし、花形医薬品となっているインターフェロン、これは戦後間もない昭和24年に東大伝染病研究所で発見をされました。しかし、それを我々は企業化し損なった訳です。何故なんでしょう。
先日、二十歳の時にベンチャー企業を設立して、今や世界のソフトウェア産業の頂点に立つビル・ゲイツさんとお目に掛かりました。こうした方が何でアメリカで生まれるのか。それは多くの投資家が、あるいは多くのユーザーが、一人の若者の能力を評価し、仕事を任せ、必要な資金を提供している。個々人の能力が存分に生かされるような懐の深い、包容力のある社会だからです。我が国には情報・通信、金融、あるいは環境、医療・福祉など、成長が期待される産業の分野は数多くあります。豊富な資産・資金、有能な人材、そして新しい時代を切り開いていくだけの技術がこの日本にはあるんです。みんなで力を合わせて、これが生かされるような社会をつくり上げようではありませんか。
ベルリンの壁がなくなり東西対立が終わって、国際社会は大きく変貌しました。アジア太平洋地域においては、APECという開かれた地域協力の枠組みに本年からロシアが参加をする。これによって政治経済の両面で関係の一層の強化が進んでいくことになります。世界の大多数の国が民主主義と、そして市場経済に基づく国づくりに懸命に努力をし、成果を上げ始めています。これはまさに冷戦の終焉を契機として、世界の価値観が大きく変化した結果でしょう。
翻って我が国を見るとき、経済成長を通じた豊かな国民生活という共通の目標があったころに比べて、国のアイデンティティ、共通の価値観を持つことはなかなか難しいのかもしれません。しかし、人、物、資金、情報、すべての面て否応なく国境がなくなっていく世界の潮流の中で少子高齢化が急速に進み、社会全体の活力をどう高めていくかが、今まで以上に重要になっている今日、御批判を受けることを承知であえて申し上げるなら、ます第一に個人の能力が存分に発揮をされ、国際的な競争を勝ち抜いているような国、そして、年長者を敬い、家族が本当に食卓を囲んで、親から子へと心の大切や、あるいは生活の知恵を伝えていくことが出来るような社会。第三に、世界に誇れる豊かな自然、あるいは芸術、工芸といった伝統、文化、これを大切に守り、伸ばしていけるような国、そうした国を目指すことが日本が、世界の国々すべててともに共存し、共栄していく道ではないでしょうか。
私は総理大臣を拝命して以来、国民一人一人が将来に夢や希望を抱き、創造性とチャレンジ精神を存分に発揮出来る社会、世界の人々とお互いに理解し合い、助けあえる社会というものを政権の目標ににかざしながら、6つの改革を一体のものとして実行すると、そう申し上げてまいりました。これは、さまに政治家としての私の所信であると同時に、私の描く日本の将来像でもあります。
昨年の7月、参議院の50周年記念行事として「こども国会」が開かれました折り、全国から集って小中学生の代表としての議員の皆さんの、その元気はつらつとした姿と真摯な議論、これを見なから本当に多摩川で魚つりをしたり、泳ぎに夢中になっていた夏休み、あるいは野球やボーイスカウトに熱中していた自分の子供のころを重ね合わせて、何となくタイム・スリップしたような思いがしました。子供たちは一人一人、掛け替えのないみな宝物です。夢や希望はそれぞ違うでしょうし、得意ものも、好きなものも違うでしょう。その若い人たちが、本当にやりたいこと、喜びを感じられることを見つけられる。将来は何なりたい、そのために何を学びたい、そして政治を目指す、あるいはビジネスを目指す、文化、スポーツを目指すいろんな方があるでしょうし、ボランティア活動に集中する方もあるかもしれません。自らの責任で進路を選び、夢や目標に向かってひた向きに努力する。そんな姿をお互いに尊重する。こうした若い力がこの国の将来を支えると確信しています。若い人々は既成概念や大人の常識を超える斬新な発想、そして行動力を持っています。技術革新にせよ、消費行動を始めとするライフスタイル、十に一つ、あるいは百に一つでもすばらしいものがあれば、それが社会全体を生き生きさせる力になるでしょう。日本人として初の宇宙遊泳をされた土井隆雄さん、子供のころから宇宙に出ることを本当に夢見ておられた。そして、今回の宇宙飛行を終わって、今度は月に行きたいと話しておられます。若い人たちには目標に向かって努力をする勇気を是非持ってもらいたい。常に挑戦を続けていただきたい。心からそう思いますし、それを可能にするために、私も精一杯頑張ります。
同時に、自分が家庭や地域社会の一員であること、助け合いや支え合いがあって始めて自らの夢も目標もかなえられることを自覚し、弱い立場にある方々への思いやりややさしさ、いじめや卑怯な行動に立ち向かう勇気と正義感を持っていただきたい。社会全体を大切にしていただきたい。そのためには、家庭、そして地域社会が、学校と協力して主体性を発揮しなければなりません。難しい問題ですが、皆様とともに考えていきたいと思います。
次に、働く世代、お父さん、お母さん、そう呼ばれる世代は社会の中核であると同時に、一番大変な世代であるとも言えるでしょう。生活設計、あるいは子供たちの教育、御両親の介護など、多くの方々が共通の悩みを抱えておられると思います。こうした悩みに応えていくのがまさに政治の役割であり、中でも働き手としての自分に奉仕する方々の支援、能力や希望に沿った職種、職業に就く選択の幅を広げる制度づくり、また、働くお父さんや、お母さんが安心して仕事と育児を両立出来るような環境づくりに努力してまいります。同時に、団塊の世代が年金受給者となる21世紀初頭に向けて、世代間の負担の公平をどう図るのか。公的年金の給付と負担の水準をどの程度にするのかなど、幅広い国民的な議論を通じて結論を得たいと考えていますし、男女が共に参加していける社会をつくり上げるために、男女の固定的な役割分担を前提とした雇用慣行など、社会慣行や個人の価値観といったものまで含めて幅広い議論を行い、対応を考えていきたい。そのためにも皆さんの御協力をお願いしたいと思っています。
今日、高齢化という言葉がややもすると暗いイメージで語られることがあります。果たして本当にそうなんでしょうか。何歳になっても働けるうちは働きたい。社会のために、地域のために、そして家族のために尽くしたい。これは高齢者の共通の思いだと思います。また、若い世代が高齢者から知恵と経験を学び取ってこそ、社会は発展していくんじゃないでしょうか。働きたいと考えておられる高齢者の雇用をどう増やしていくのか。お年寄りと若い世代の交流を始め、地域活動への参加をどう進めていくかなど、本当に真剣に考えていきたいと思います。
また、高齢期に入っても、自立し、必要があれば家族や近所の方々と支え合うことが出来るよう、国民皆保険、皆年金という制度を守りながら、医療、年金、福祉の垣根をいま一度見直し、改革を進めていきたいと考えています。
新年に当たって私の考え、思いを申し上げます。
この1年、まず、金融システムの安定と景気回復のために万全を期します。今、日本の金融システムは、断固守らなければなりません。政治責任は国民の暮らしの安寧をいかに確保し奉仕するか、それ以外のなにものでもありません。私は、全力を挙げて国民生活を守ります。その上で、中央省庁再編の道筋を定める基本法の成立を始め、6つの改革に全力を挙げて、個人の能力が最大限発揮される社会、お互いの努力を尊重しあえる包容力のある社会をつくり挙げていきたいと思います。
改革には犠牲を伴います。しかし、私たちが目の前の困難を恐れて改革を怠ったら、子どもや孫の世代は、活力が失われた経済・社会を受け継ぐことになるでしょう。次の世代に豊かな暮らしをしてほしい、心をなごませる文化や芸術によく多く接してほしい。この国を、人々が、そして企業が世界中から集まる活力と自信にあふれる国、国際社会の一員として世界から尊敬される国にしたいと、心からそう願っております。
明るい将来のために、国民の皆様のために全力を尽くす決意です。
皆様の御支援と御協力を重ねてお願い申し上げ、新しい年の御挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。
【質疑応答】
● まず金融システム安定化と景気対策の点なんですが、たった今総理も金融のシステムの安定と景気対策のためには万全を期すというお考えを表明なさいましたが、具体的に今年の景気、経済の先行きをまずどうごらんになるかということと、それから昨年末打ち出されました総額30兆円の金融システムの安定化策に対して、まだ十分な効果があがっているとは言えないかと思うんですが、市場や国民の不安を解消して、経済を活性化するためにこれで十分だとお考えなのかどうか。この点をまずお伺いしたと思います。
昨年の秋以来、金融機関の破綻が相次ぎました。これにはさまざまな各社ごとの要因がありますけれども、これが我が国の金融システムの安定性に対し、一部に不安や動揺を生じさせました。そうした中で、金融システムの安定性強化のために、万全を期していく。そして、国民の安心感とともに、内外のマーケットの信任を得る。これは現在政府に課せられている重要、そして喫緊の課題だということは今おっしゃるとおりです。ですから、このためには、金融システムの安定性の確保と並行し、預金者の保護を図ると同時に、景気の回復に向けて目に見える対策を一つずつ講じていくことが一番大切だと思っています。
先般、自由民主党において、金融システムの安定化策が具体化をされ、その中から10兆円の国債と20兆円の政府保証、合わせて30兆円の資金を活用することが出来るようになりました。今、内閣を挙げてその法制化に早急に取り組んでおりますし、これが法制化され、国会で御論議をいただき、一日も早く現実のものになって役立ってくれること。そのためにも作業を急ぎたいと思います。
同時にもう一つ、この中から出てきた問題がいわゆる貸し渋りの問題です。
本来、貸し渋りというのは金融システムの安定確保で解決をされる、そういうものです。即効的に、かつ直接にこの問題に対応するために、従来はよく中小企業を対象とした同様の措置を取りましたけれども、今度は中小企業だけではなく、中堅企業も含めて、日本開発銀行、中小企業金融公庫、国民金融公庫などに新しい融資制度を創設して、9年度の保証を含めて12兆円。更に10年度の融資分を合わせると23兆円の資金を用意しました。そして、民間の金融機関で必要な資金を受けられないお仕事をしていらっしゃる方々、この政府系金融機関をフルに活用していただいて、必要な資金を得ていただきたいと思います。
同時に民間金融機関自体も融資がしやすくなるように、国内金融機関に対する早期是正措置の運用を弾力化することを決めました。
こうした金融システムの安定化への万全を期した取り組みのほかにも、2兆円規模の特別減税を実施する。また、法人税、金融関係の、また土地関係の各種の減税措置を盛り込んだ平成10年度の税制改正、この思い切った措置すべてが私は相乗効果を持って我が国経済の力強い回復をもたらするものと確信をしています。
ここで経済見通しの数字を改めて長々述べたりすることは避けたいと思いますが、少なくともこの金融システムの安定のために、そして破綻する金融機関に対応出来るように、すべてのことを考えてこれだけの資金を用意して、それと減税を始めとした各施策が私は相乗効果を発揮すると信じています。
● 続きまして、財政構造改革路線と今の総理から御説明いただきました景気対策などとの整合性のことなんですが、昨年末2兆円減税を来年度補正予算に盛り込んだことにつきましては、財政構造改革法には抵触いたしませんが、しかしながら、赤字国債依存から出来るだけ早く脱却しようという財政構造改革の基本的な理念といいますか、考え方には逆行するという見方もある訳ですが、総理は財政構造改革路線は引き続き堅持されるということは、引き続きおっしゃっておられますが、具体的に2003年度までに赤字国債を発行ゼロにするという目標をどうやって実現なさるというお考えなのか、そこを御説明いただきまたいと思います。
このASEANプラス1から帰国して、決断をした2兆円規模の所得税の特別減税、これはいろいろな御批判をいただきました。今、あなたから御指摘があったような議論もありましたし、それから相談なしに決めたという批判もありましたし、金額が少な過ぎる、あるいはタイミングが悪い、いろいろな御批判をいただきました。しかし、本当に内外の厳しい経済、金融情勢というものを考えてみた挙げ句、私は思い切った施策が必要だという判断から、これを緊急に実施するという決断をしました。
その政策運営の基本、これはさまざまな構造改革を進めていくことです。これはちっとも変わっていません。同時に、その時々の経済や金融情勢あるいは国際的な状況に応じて、必要な手を打っていくということは、私はもともと当然のことだと思っています。そして、今言われたような、こうした措置が財政構造改革に反するというようには私は考えておりません。むしろ、補正予算に2兆円の減税の対応を盛り込む、こうしたことをしましたのは、早急に減税効果を発揮するという観点からです。
同時に編成を終えた平成10年度予算、昨年末大変みんなに苦労掛けましたけれども、法人、金融、土地などの減税などによりまして、大幅な歳入の減収が見込まれる訳でして、公債減額については1兆1,500億円、特例公債の減額については3,400億円の減額を達成しました。これは現下の経済情勢、金融情勢というものを考えていただいたときに、財政構造改革法成立後、初めての予算としても、しかるべき減額を達成することが出来たと私は思っています。10年度予算は財政健全化目標達成に向けてさらなる一歩を踏み出すということになると考えています。
いずれにせよ、財政健全化目標というのは容易に達成出来ることではない、今後とも財政構造改革というものを一生懸命に進めながら、最終的な目標達成に向けて全力を尽くしていきたいと思っています。
● では、次に外交問題についてお伺いいたしますけれども、総理とエリツィン大統領は11月の首脳会談で2000年末までに平和条約の締結に向かって全力を尽くすというふうに公表されました。この大きな努力目標達成のために、総理はどういうふうに具体的に道筋をつけていかれようというふうにお考えなんでしょうか。
また、1月にはエリツィン大統領の来日も予定されていますが、まず大統領とはどういうふうに話をしていかれようとお考えなんでしょうか。そして、平和条約が締結されましたら歯舞、色丹の二島は返還されるというふうに考えてよろしいんでしょうか。
ロシアとの関係というのは本当に随分長い間、我が国にとって重い課題として動きを見せなかったもので、昨年まずデンバー、そしてクラスノヤルスクと2回エリツィンさんとお話をする機会を得ましたし、特に2度目のクラスノヤルスクの際にはネクタイなしでという提案をしたとおり、本当に2人がひざを突き合わせて自由な議論をすることが出来、その中で東京宣言に基づいて2000年までに平和条約を締結する、そのために全力を尽くすという合意が出来た訳です。
そして、それと合わせて政治経済ばかりではなく、安全保障等の分野も含めて具体的な成果が均衡の取れた形で達成をされました。この雰囲気を今年どうやって持続していくか。これは今あなたの指摘のとおり大変大事なことなんですが、まず今年、小渕外務大臣に、まだ時期は確定していませんけれどもロシアを訪問していただかなければなりませんし、そしてそこでまた具体的な話がいろいろ出てくると思いますけれども、4月にはエリツィン大統領を今度は御家族で日本にお招きをしている訳で、どこにしたらいいのか、同じようなネクタイなしの雰囲気の中で十分な議論が出来るいい場所を今、一生懸命に探しています。これはいずれ近いうちに決めなければなりませんし、出来れば小渕さんが行かれるとき、日本側の候補地としてこういうところがあるのだがどうだということが聞けるぐらいの作業をしたいと思います。
こうしたことを含めて、本年日露間で予定されているハイレベルの交流も幾つかありますが、その交流を通じてさまざまな分野における対話、協力というものを一層拡大強化していくと同時に、まさに東京宣言に基づいてクラスノヤルスクの合意のように平和条約を締結し、完全な正常化というものを両国の間に実現するために引き続き全力を尽くします。その際大事なことは、我々として北方四島というものが我が国の領土として確定される。それは当然ながら国境線の確定のない平和条約というものはあり得ませんから、我々は日本の固有の領土である北方四島というものが平和条約の締結時においては日本の主権が確認される、そう信じています。また、そういう方向に全力を尽くしていきます。
● では、次に日韓関係についてお伺いしたいと思いますが、先月韓国では次期大統領のキム・デジュン氏が当選されましたけれども、大統領選の翌日に総理は早速電話で会談をされまして、新しい時代を築いていくということでお互いに協力していきましょうというお話をされたということですが、韓国ともやはり難しい領土問題があるように思います。こちらの解決の方はどういうふうに考えておられますでしょうか。
ちょうど昨年、韓国の大統領選が終わって間もなくのとき、次期大統領としてのキム・デジュンさんと電話でお話をして、そのとき21世紀に向けて日韓関係に新しい時代を切り開いていこうという話し合いをした訳ですが、具体的な、例えばいつお目に掛かろうというところまでは、その辺まではお話をしていませんでした。
一方、竹島の問題について、我が国の立場というのは一貫したものです。こうした日本の立場というものは韓国側に随時あらゆる場面で申し上げてきていることです。私自身も、現在の金泳三大統領との間で竹島問題についての我が国の立場というものは何回か話し合いの中に上せてきました。
ただ、同時にこの問題に関しても両国の立場の相違というものが、私は両国民の感情的な対立に発展したり、本来あるべき両国の友好、協力関係というものを損なうことは適切でないと、そうも考えてきました。また、そう申し上げてきました。これは、今後ともに両国間で冷静で粘り強い話し合いを積み重ねていかなければならないことだと思います。私自身も何回か金大統領とお目に掛かり、そのときそのときこの議論をしてきましたけれども、それで全体が壊れないようにということも実は心掛けてきました。恐らく韓国側も同じような思いを持っておられたのではないだろうかと思っています。
● 次に沖縄の問題ですけれども、普天間飛行場の移設を巡って名護市の市民投票の結果に違う形で海上ヘリポート基地を受け入れを表明した比嘉市長が辞任されることになりました。それで、この出直し市長選挙が行われることになって地元の対立は更に深まる様相を示しています。この問題をどのように解決していくかということと、既に海上ヘリ基地の建設計画はSACOの最終報告で12月中という期限があったんですが、それより遅れています。それで、これが日米関係に与える影響についてお伺いします。
これは皆さんにも是非思い出していただきたいことですし、同時に報道を通じて国民に改めて御協力のお願いをしたいと思います。
この問題で一番元は何だ。日米安全保障条約の下で、日本が条約上の義務としてアメリカ側に提供している基地の本当に75%が沖縄県内に集中しているというところから出ている問題だということです。そして、大田沖縄県知事と私が総理としてお目に掛かった最初に、当時懸案として考えられていた他のいわゆる三事案と言われる案件よりも、何より急ぐものとして住家に密接し、学校等に密接している普天間の基地を動かしてほしいというのが大変強い知事の意思として述べられ、私自身場所を知っていましたからその思いをそのままに受け止めて、その後日米間の議論の中でどうすればそれでは答えが出せるのか。現実的な解決策を模索してきた中から今回の問題点が出てきたと思います。海上ヘリポートという考え方を出したのは移設可能であるという、そして自然環境とか、騒音とか、あるいは安全とか、いろいろな要素を考えた挙げ句、現時点では最善の選択肢だと考え、結局可能な海上施設という形でこれを提起したものです。そして、政府としてはこれが地元の皆様から本当により深い御理解をいただきたい、そう願ってまいりましたし、今もその気持ちは全く変わりがありません。
そうした中で、先日比嘉市長は国益、県益、市益という言葉を用いられましたけれども、これを熟慮した上で海上ヘリポートを受け入れるという、恐らく大変な悩み抜かれた上での決断だと思いますけれども、その決断を私に示されました。私は本当に深い敬意を表すると同時に、その結論というものを大変ありがたく高く評価しています。
しかし、その名護の先人の方の残された言葉の中に、ふるさとを、和して睦ましめる、そうした言葉があるにもかかわらず、市長として市民の意見を二分する結果を招いた。自分としてはその責任を取って職を辞するという決断をされました。これを伺ったとき、私は本当に返事が出来ないような思いでした。その市長が辞任をされて、それに伴って行われる市長選、これは地方自治そのものの関心の一つです。もちろん、国政にも大きくかかわる部分も持ちますけれども、本質的にこの地方自治は私自身がその選挙の結果を見守りたいと思っております。
しかし、同時にこの海上ヘリポートの建設というものについて県の協力が不可欠であります。知事さん御自身が提起をされた問題に対する出来得る限りぎりぎりの選択肢として私どもが御提案をした海上ヘリポートの建設というのはよく知事にも御理解をいただけるよう、私どもは最大限の努力を続けていきたいと考えております。
同時にそのときもう一つ付け加えさせていただきたいんですけれども、そのときにもう一つ言われたことで、比嘉市長の言葉が耳について離れません。琉歌というのがありますね。沖縄の歌ですが、その琉歌の一つで思い悩んでいるさま、そしてその橋を渡るか、渡らないか思い悩んでいるさま、しかし渡らなければならないという大変御自分の心境を現したような琉歌を紹介されました。
これに対していろいろな言い方を今、世間でされていることを知っていますが、私は比嘉市長の切々たる普天間の基地をなくさなければいけない。県内移設しか現実に対応がないとすればそれは名護でお受けする。その代わり、北部を忘れないで、ややもすると北部の振興というものはいつもなおざりにされる。この言葉が、実は年が明けても耳に付いて離れないんです。
● 参議院選挙について伺いたいんですが、今年の夏に予定されている参議院選挙に向けてどのような見通しを総理はお持ちで、どうこの選挙に取り組まれるのか。ほかの党との選挙協力ですとか、今後の政局運営で今の自社さ連立の維持、場合によって解消というような点についてはどのような姿勢で臨まれるんでしょうか。
順番を逆さにして答えることを許していただきたいんですが、予算編成もお陰様で与党三党の協調という中で行うことが出来ました。これは、予算を一緒につくるということは本当に自民党として協調関係を保っていく、私どもは当然ながら連立を含む友好と信頼関係を保持することに努めています。その連立政権の下での、丁寧な国会運営というものに心掛けています。
問題は、政策のそれぞれに各党各会派と協力をして、そういった意味で国民本位の、政策本位の政治を進めていくということはまず申し上げておきたいと思います。
その上で今、私は選挙協力が念頭に置かれているという感じは持っていません。この選挙というのはどういう選挙であっても政党政派としてそれぞれの主張をかざして、国民の信任を得るべく闘う訳ですから、私は性格はそういうものだと思います。
そして今、進めている6つの改革というものを本当に断行していくために、あるいは本当に昨年の秋以来始まっているような金融の破綻といった状況に機動的にこうした緊急かつ重要な事態というものに機動的に政策課題に対応していく。そうするときには、安定した政治状況というものが必要不可欠だということを申し上げるしかありません。そして、その上で何としてもこの夏の一大決戦である第18回の参議院選挙、自由民主党としては全力を尽くして過半数の議席を獲得しなきゃなりませんし、持てる力を結集して闘ってその目標に到達したいと、今、心からそう願っています。
そういう意味では、昨年から選挙区選挙において複数区は複数の候補者という基本原則をもって候補者の選考を進めながら、比例代表選挙においても我が党が必要とする、また国民に御推薦するにふさわしい多彩な人材の確保というものに全力を挙げてきました。そしてその結果、現在までに比例代表の公認候補者22名、選挙区選挙の公認推薦候補者52名を決定していますし、残る候補者についても選考を急いでいます。我々は何としても参議院における過半数を国民から与えていただきたい。そのためには、私自身としても党一丸となって全力を挙げてこの参議院選を闘い抜いていく、そういう決心でおります。
● 日本発の世界恐慌は起こさないという発信を具体化するために、内閣の一部あるいは思い切ってこの際人心を図るために内閣を改造してはどうかという声が出始めていますが、この点に関しては総理はどのようにお考えですか。
これは全然今、考えていません。第一、予算編成が終わって間もなく国会を召集する。この予算編成をする閣僚、そしてその予算を説明し、御理解をいただく立場に立つ閣僚が違っちゃうと大変苦労が多いですよ。私も覚えがあるけれども。
● 名護の海上ヘリポートの建設問題ですが、今のお話の中で総理は市長選挙の結果を見守りたいというふうにおっしゃいましたが、これは例えば今後大田知事の理解が得られたとしても、飽くまでも市長選の結果を見て最終的な建設、具体的な実現について政府として動き出したいということと考えてよろしいでしょうか。
私は正確な言葉遣いをちょっと今、ぱっととっさには言えませんが、市長選挙というのは飽くまでも市民の皆さんが自分の市の行政首長を選ばれる選挙なんです。私は残念ですけれども名護の市民ではないので、政府は市長選挙の結果は見守る以外にないです。そこで一票を投ずる権利をお持ちなのは名護の皆さんだけなんです。私はそういう意味で申し上げたつもりです。 
第百四十二回国会施政方針演説 / 平成10年2月16日
(はじめに)
私は、将来のわが国を展望した上で現在をいかなる時代と認識し、何を優先課題とすべきかを考え、冷戦後の国際社会に対応した外交、沖縄が抱える問題の解決、行政改革をはじめとする六つの改革に、全力を傾けてまいりました。内閣総理大臣就任以来の二年余を顧み、わが国の進むべき方向を見据え、今何をなすべきか、改めて率直に申し上げたいと思います。
まず第一は、この十年来の経済面の困難を克服し、また、制度疲労を起こしているわが国のシステム全体を改革することであります。経済のボーダーレス化、人口の少子高齢化など、内外情勢が大きく変化する中で、わが国がより安定した発展を続けていくために、改革を先送りすることは許されません。私は、自立した個人が、夢を実現するために創造性とチャレンジ精神を存分に発揮できる国、また、内外の様々な変動に機敏にかつ柔軟に対応できる国を築きたい、年長者を敬い、親から子へと心の大切さや生活の知恵を伝えていくことのできる社会、そして、豊かな自然や伝統、文化を大切に守り、伸ばしていけるような社会を創り上げたい、心からそう思っております。私が進めている改革は、こうした認識に基づくものであり、内閣の総力を挙げ、どのような困難があってもやり抜く決意です。
第二は、この国の将来を担う子供たちのことであります。明治以来、教育は、親や地域だけでなく、国が積極的に関与すべき課題とされ、今やわが国の学校教育は、平均的には世界最高の水準にあると言われます。しかしながら、暮らしが豊かになり、家庭の役割が変化し、進学率が上昇する中で、受験戦争やいじめ、登校拒否、さらには青少年の非行問題が極めて深刻になっております。今、子供たちは本当に悩み、救いを求めていると思います。家庭にも学校にも居場所を見つけられず、進学や就職のこと、友達付き合いや男女交際のことで悩んでも、相談相手が得られない、解決を見いだせないというのが厳しい現実でありましょう。しかし、この問題を放置すれば、将来に禍根を残すことは間違いありません。大変難しい課題でありますが、子供たちのために何をすれば良いのか、皆様とともに考え、真正面から取り組んでまいります。
第三は、冷戦後の国際秩序を模索する世界の動きに的確に対応した外交であります。第二次世界大戦後の世界を分断した東西対立は過去のものとなり、日露関係の抜本的な改善をはじめ、わが国の外交が広がりを持つとともに、アジア太平洋地域の平和と安定がますます重要になっている今日、こうした認識に立って主体的な外交を進めます。
この三点を念頭に置いて施政の方針を明らかにし、国民の皆様のご理解とご協力を頂きたいと思います。
(力強い日本経済)
わが国は、一九八〇年代半ば以降、急激な円高、その後のバブルの発生と崩壊という経済の大きな変動を経験しました。特に、バブル崩壊の過程では、地価の下落、土地の需給の不均衡、不良債権問題の深刻化、企業の財務状況の悪化が進み、さらに昨年の夏以降、アジア各国においては通貨・金融面の混乱、国内においては金融機関の破綻などが相次ぎました。これらの問題を克服し、経済の停滞から一日も早く脱け出し、力強い日本経済を再建しなければなりません。そのためには、まず、金融システムの安定と景気の回復が必要であり、同時に、経済構造改革をはじめとする構造改革が不可欠であります。財政構造改革の必要性も何ら変わっておりません。そして、経済・金融情勢の変化に応じて臨機応変の措置を講じ、景気の回復を図ることもまた、当然であります。
今国会においては、金融システムの安定を図るとともに、一日も早く景気を回復するため、九年度補正予算と関連法案の成立に全力を挙げてまいりました。議員各位のご協力に御礼申し上げるとともに、既に実施している緊急経済対策、二兆円規模の特別減税、九年度補正予算に加え、金融システム安定化対策の迅速かつ的確な執行に努めます。十年度予算においては、社会保障、環境、科学技術、情報通信など、国民生活の安定と経済構造改革に資する予算を確保するとともに、公共投資を重点化、効率化し、過去最大の五千七百五億円、一・三%の一般歳出の減額と一兆千五百億円の公債減額を行っております。また、国鉄長期債務の処理、国有林野事業の債務の処理を含めた抜本的改革の実現を図ることとしております。景気回復を確実なものとするためにも、十年度予算の一日も早い成立にご協力をお願いいたします。
金融システムの信頼は、行政、金融機関、金融・資本市場の参加者が責任を全うすることによって得られます。行政の責任は、金融システム安定化対策を速やかに実施し、また、透明かつ公正な金融行政を遂行することであります。この重大な時期に、大蔵省職員、大蔵省出身の特殊法人役員が不祥事を起こし、金融行政のみならず、行政全体に対する信頼を著しく損ないました。事態を厳粛に受け止め、大蔵大臣の下、徹底した内部調査と関係者の厳正な処分を行い、綱紀を正し、不祥事を繰り返す土壌を根本から改めます。さらに、いわゆる公務員倫理法の制定を期します。金融行政に関しては、客観的かつ公正なルールに基づく透明な行政に転換するとともに、民間専門家の登用、外部監査の活用などにより、厳正で実効性のある金融検査を確立します。金融機関に対しては、経営の徹底した合理化を強く要請するとともに、国際的に通用する水準の経営情報の開示を求めてまいります。また、破綻した金融機関の経営者の責任が厳しく問われることは当然であります。
こうした取組を進めながら、働いて蓄えた資産を有利に運用することができ、また、事業のリスクに見合ったコストで必要な資金を調達することができる公正、かつ、効率的な金融システムを目指し、株式売買の委託手数料の完全自由化と証券デリバティブの全面解禁、公正な証券取引ルールの整備などを行います。金融システムの改革の進展に合わせ、金融関係税制については、十年度に有価証券取引税の税率の半減などを行うとともに、十一年末までに見直し、株式等譲渡益課税の適正化と併せて有価証券取引税を廃止することとしております。
次に、経済構造改革について申し上げます。私が目指す力強い日本経済は、透明性の高い市場における活発な競争を通じて人と技術が磨かれ、資金が循環し、これら三つが将来性のある分野に自ずと集まる経済、個人消費と民間投資が主役となって成長し、質の高い雇用の場を創り出す経済であります。これからの日本は、福祉、情報通信、環境などへのニーズがますます高まり、産業はこうした需要に応えていかなければなりません。また、企業活動の場としてのわが国の魅力を高めるために、物流・運輸や、電力・石油などのエネルギー、情報通信などの分野で、コストを含めたサービス水準が二〇〇一年までに国際的に遜色のないものとなるよう、徹底した規制の撤廃と緩和を行います。十年度税制改正においては、法人税及び法人事業税の基本税率などを引き下げ、新規産業の創出を促し、国際競争力を持つ企業が活動しやすい環境の整備に踏み出しました。法人課税の水準を国際水準に近づけていくことが重要であり、このような観点も踏まえ、法人事業税における外形標準課税の問題についても検討を進めます。
産業構造が変化し、終身雇用と年功序列を基礎とした雇用慣行が見直される中で、労働形態の多様化を進めることは、人々が生きがいを持って働くためにも、国全体の生産性を高めていくためにも重要な課題であり、転職をより容易にし、転職に伴う不利をなくすための制度改革、労働基準法の改正、能力開発のため主体的に努力する方々への支援、高齢者の雇用促進に力を入れます。また、企業倒産により生じる雇用問題には機動的に対策を講じます。技術の面では、産学官の連携による研究開発とその成果の活用、適切な知的財産権の保護により、新規事業の創出を図るとともに、わが国の競争力の源泉である物づくりを支える技術と技能、中小企業の人材の育成に努めます。
農林水産業と農山漁村の発展は、経済構造を改革する上でも、食料の安定供給、自然環境や国土の保全のためにも極めて重要であります。昨年取りまとめた「新たな米政策」を推進するとともに、新しい農政の基本法の制定に向けた検討を進めるなど、農政の抜本的改革に取り組んでまいります。
(自立した個人と社会の連帯)
冒頭申し上げましたように、ナイフを使用した殺傷事件、薬物の乱用、学校でのいじめ、性をめぐる問題など、子供たちが直面する問題は極めて深刻であり、現象面にのみ目を奪われることなく、根底にある問題を真剣に考えなければなりません。子供たちには、この世に生を受けて本当に良かったと思ってほしい、自らの目標に向かって邁進してほしい、成長してから社会が抱える問題に積極的にかかわってほしい、心からそう思います。家庭と学校がお互いの責任を強調しても問題を解決することはできません。子供たちがなぜこうした行動に走るのか、家庭、学校、地域さらにはマスメディアなどを含め、皆が手を携えて取り組むためにどうすれば良いのか、それぞれの経験、意見を持ち寄り、幅広い観点から議論し、今こそ大人の責任で対策を考え、実行しなければなりません。常識、知恵、知識を身につけるための教育が、いつの日からか、皆が同じように良い学校に入り、良い仕事に就くための手段になり、私たちは、いわゆる「良い子」の型に子供たちをはめようとする親と教師になっていないでしょうか。偏差値より個性を大切にする教育、心の教育、現場の自主性を尊重した学校づくり、中高一貫教育など選択肢のある学校制度、子供の悩みを受け止められる教師の養成など、教育改革を進める上でも、このような問題意識を十分反映させていかなければなりません。
六つの改革が前提とする個人は、自立した個人です。社会を明るくし、未来を切り拓く源は、そうした個人の夢と希望であり、それをかなえるために努力する姿は本当に素晴らしいものです。開催中の長野冬季オリンピックと引き続き行われるパラリンピック、そして六月のワールドカップサッカー大会における日本選手の活躍を心から期待いたします。そして、子供たちがこうした素晴らしい活躍に胸を躍らせ、それぞれの地域で、スポーツ、文化、ボランティアなど好きなことに打ち込み、個性と能力を伸ばしていく、そのような社会を作りたいと考えております。
個人の幸福と社会の活力を共にかなえるためには、個人が相互に支え合い、助け合う社会の連帯を大切にし、人権が守られ、差別のない公正な社会の実現に努力しなければなりません。なかでも、男は仕事、家事と育児は女性といった男女の固定的な役割意識を改め、女性と男性が共に参画し、喜びも責任も分かち合える社会を実現することは極めて重要であり、そのための基本となる法律案を来年の通常国会に提出いたします。労使の方々にも、働く女性が性により差別されることなく、その能力を十分に発揮することができるよう、ご理解とご協力を頂きたいと思います。
社会保障・福祉政策はこれまで大きな役割を果たし、わが国は、世界一の長寿国となりました。社会保障に係る負担の増大が見込まれる中で、国民皆年金・皆保険制度を守り、安心して給付を受けられる制度を維持していくためには、少子高齢化や経済成長率の低下という環境の変化などに対応し、改革を進めなければなりません。年金については、来年の財政再計算に向けて、世代間の公平、公私の年金の適切な組み合わせを考えながら、将来にわたって安定した制度づくりを行います。医療については、いつでも安心して医療を受けられるよう、医療費の適正化と負担の公平の観点から、薬価、診療報酬の見直しをはじめ、抜本的な改革を段階的に行います。こうした改革を進める上では、国民の皆様の声を政策の立案過程から十分に伺い、議論を尽くし、結論を出します。また、子育てや介護を担う方への支援を充実するとともに、介護保険制度の円滑な施行に向けて施設の整備、人材の確保に努めます。ハンディキャップを克服し、自立した生活を送ろうと努力する障害者の方々など、真に手を差し伸べるべき弱い立場にある方を支援することは当然であります。
(かけがえのない環境、国土と伝統・文化、暮らしの安全と安心)
かけがえのない環境、国土、伝統・文化を大切に守り、暮らしの安全と安心を確保することは、国の果たすべき責務であり、なかでも、地球環境を守り、子孫に引き継ぐことは、最も重い責任の一つです。昨年の十二月、世界は、地球温暖化の防止に向けて大きな合意をいたしました。その合意を実現するために、省エネルギー法の強化などによる省エネルギーの徹底、原子力、新エネルギーの開発・利用の促進、革新的な技術開発、途上国の支援などに取り組んでまいります。国民の皆様にもライフスタイルの見直しをはじめ、できる限りのご協力をお願いいたします。また、限られた資源を有効に活用し、廃棄物を減量するため、家電製品などの再商品化に関する法整備をはじめ、廃棄物処理対策とリサイクルを一層強力に推進いたします。さらに、ダイオキシン類の排出抑制、いわゆる環境ホルモンの問題への対応、新型インフルエンザなどの感染症対策など、人の健康と自然環境を脅かす新たな問題や、科学技術の進歩に伴う生命倫理の問題に精力的に取り組みます。
二十一世紀は、時間や距離の制約なく、誰もが大量の情報をやり取りすることができる高度情報通信社会であり、その到来に向けた戦略的な対応が必要です。政府としては、電子商取引の本格的な普及、西暦二〇〇〇年問題、いわゆるハイテク犯罪など、情報化を巡る諸問題に適切に対応するとともに、ネットワーク・インフラの整備、教育、医療など公共分野の情報化、利用者本位の行政の情報化を推進いたします。
これからの国土政策の基本は、多軸型の国土構造を形成していくことであり、新しい全国総合開発計画を策定し、首都機能移転問題への取組も含め、実施してまいります。併せて、ゆとりある国土空間と恵まれた自然環境を生かした北海道の総合開発計画を推進します。社会資本整備については、国が関与する事業を重点化、効率化するとともに、民間の参加を期待することができる分野に、新たな手法を導入してまいります。土地税制の見直し、不動産の証券化、大都市における容積率の見直しなどにより、民間部門の建替えや再開発、そして不良債権の処理、経済の活性化にも資する土地の有効利用を促進し、職と住の両面における都市の利便性、快適性を高めます。中心市街地の活性化対策、大型店と地域社会が共に栄えるために実効性のある政策を行い、地域コミュニティの発展を支援します。さらに、国民共通の拠り所、豊かな心を育む源である伝統・文化、芸術・工芸を大切に守り、育ててまいります。
危機管理、災害対策に関しては、在ペルー日本国大使公邸占拠事件、ナホトカ号重油流出事故などの教訓を踏まえ、初動体制の整備、内閣の体制の強化などを行い、万全を期します。阪神・淡路大震災の被災地の復興にも最大限の努力を続けます。また、市民生活を脅かす銃器犯罪や薬物の乱用、組織犯罪、さらには公正な金融・経済秩序の信頼を損なう行為に厳正に対処するとともに、暴力団やいわゆる総会屋などの反社会的勢力を根絶するよう断固として対応します。また、発生件数が五年連続して増加している交通事故の防止対策を推進します。
(外交)
次に、外交であります。まず、焦眉の急となっているイラクの大量破壊兵器の廃棄をめぐる問題に関しては、関連する国連安保理決議に基づき、国連特別委員会の査察が即時、無条件に実施されることが必要であります。外交努力を続けながら、米国をはじめ関係国と協調して対処する方針であります。
アジア太平洋地域の平和と安定は、わが国外交の最大の課題でありますが、昨年夏以来のアジア各国の通貨・金融市場の混乱は、この地域の経済に深刻な影響を及ぼしているだけでなく、世界経済に不安定感を与えております。アジア各国が潜在的な力を発揮し、再び力強い経済成長を続けるためには、透明な市場原理に基づいて自ら富を産み出すことのできる、裾野の広い経済を目指した経済・産業構造改革を進めることが重要であり、IMFを中心とする国際的な枠組みを基本として、関係国、関係国際機関と連携しながら対応してまいります。
アジア太平洋地域の平和と安定のためには、日本、米国、中国、ロシアの四か国が、信頼と協調に基づく関係を構築していくことが重要であります。そのような中で、私がまずもって重視するのは、ロシアとの関係の抜本的改善であります。四月にはエリツィン大統領の訪日が予定されています。大統領との間に生まれた信頼関係を一層強固なものとし、橋本・エリツィン・プランを含め、昨年十一月のクラスノヤルスク首脳会談の成果を着実に具体化しながら、二〇〇〇年までに、東京宣言に基づいて平和条約を締結し、両国関係を完全に正常化するよう最大限努力いたします。また、日中平和友好条約締結二十周年を迎え、江沢民国家主席の来日が予定されている中国との間では、様々なレベルにおいて対話を深め、日中友好関係をさらに発展させるとともに、中国と国際社会との一層の協調を促してまいります。
韓国との間では、漁業協定締結交渉など懸案を抱えておりますが、より広い視点から金大中次期大統領との信頼関係を確立し、様々な分野での交流・協力を進めてまいります。北朝鮮に関しては、朝鮮半島の平和と安定に向け、韓国などと緊密に連携しながら、拉致疑惑や日本人配偶者の故郷訪問、国交正常化交渉の再開、KEDOの問題などに真剣に取り組みます。
アジア太平洋地域の平和と安定のためにも、「ユーラシア外交」を進めていくためにも、基軸となるのは日米関係であり、安全保障、政治、経済にわたる幅広い関係をさらに発展させてまいります。特に、日米安保体制の信頼性の向上は、わが国の安全にとって不可欠であるとともに、アジア太平洋地域全体の平和と安定につながるものであり、新たな「日米防衛協力のための指針」の実効性を確保するための作業を着実に進めてまいります。
アジア太平洋地域における米軍のプレゼンスが、地域の平和と安定に不可欠である状況の下で、沖縄の方々が長年背負って来られた負担に思いをいたし、沖縄が抱える問題の解決に全力を傾けたい、なかでも普天間飛行場は市街地にあり、この危険な状況を放ってはおけない、だからこそ私は、SACO最終報告を取りまとめ、普天間飛行場の返還を可能にする最良の選択肢として代替ヘリポートの建設を提案いたしました。今でもそのような私の思いは同じです。米軍の施設・区域の整理・統合・縮小に引き続き全力を挙げ、代替ヘリポート建設に地元のご理解とご協力を頂けるよう粘り強く取り組みます。北部地域を含めた沖縄の振興にも最大限努力する決意であり、特別自由貿易地域制度の創設などを内容とする法案の成立を期します。
わが国の防衛については、日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本理念に従い、文民統制を確保し、非核三原則を守るとともに、防衛大綱及び昨年末に見直した中期防衛力整備計画に基づき、節度ある防衛力の整備に努めます。また、ASEAN地域フォーラムなどの安全保障対話や防衛交流などにより、周辺諸国との信頼の醸成に努力してまいります。
また、人口が増大する中で、食料、エネルギー、環境などの問題を克服し、持続可能な開発を実現していくことは極めて重要であります。わが国としては、これらの課題に積極的に取り組むとともに、途上国の自助努力を支援するため、貧困対策と社会開発、環境保全、人づくりなどを重点として、質の高い援助を効果的に実施してまいります。地域紛争、軍縮・不拡散、難民、テロなどの問題についても、国連平和維持活動への参加などにより積極的な役割を果たすとともに、わが国の安保理常任理事国入りの問題を含め、この分野において大きな役割を果たす国連が、全体として均衡のとれた形で改革されるよう努力いたします。
(行政改革)
行政改革の目的は、国の権限と仕事を減量し、簡素で効率的な行政、機動的で効果的な政策遂行を実現すること、国民の皆様から信頼される開かれた行政を実現することであります。これは同時に、住民に身近な行政をできる限り身近な地方公共団体が担えるようにすることであります。
地方分権に関しては、今国会中に政府の推進計画を作成し、確実に実施するとともに、市町村への更なる権限などの委譲、市町村の自主的な合併の積極的な支援、国と地方の役割分担に応じた地方税財源の充実確保、地方の課税自主権の拡大を図ります。地方公共団体に対しては、徹底した行財政改革に取り組むよう強く求めてまいります。また、新たな規制緩和推進三か年計画を作成し、一層の規制の撤廃と緩和を進めます。これらの取組により、国の権限と仕事を絞り込み、二〇〇一年一月には、一府十二省庁体制への移行を開始することを目指し、内閣機能の強化と中央省庁改革のための基本法案の成立を期します。新体制に移行する過程においては、現業の改革、独立行政法人制度の導入、郵便貯金などの預託の廃止を含めた財政投融資制度の抜本的な改革などにより、公務員の定員を含め、行政を大幅にスリム化するとともに、公務員制度のあり方を検討し、必要な改革を行います。
今国会に提出する情報公開法案は、主権者である国民の皆様に、政策を評価、吟味し、ご意見を頂き、政治と行政への関心を高めていただくために極めて重要であり、法案の早期成立をお願いいたします。また、開かれた行政への取組として、動力炉・核燃料開発事業団の改革を行います。
最後に、行政改革によって不透明な規制を廃し、社会が事後監視・救済型へと転換していく中で、国家の基礎を支える司法の機能が充実することは欠くことのできない課題であり、内閣としても、積極的に協力してまいります。
(むすび)
以上、私の所信を申し上げてまいりました。
本年は、バブル崩壊後の最終局面を乗り越え、改革に向けて力強い歩みを進める年、即ち「明日への自信を持つ年」であります。私は、この国と国民の力を信じます。私たちは、敗戦後の廃虚から立ち上がり、石油危機、円高などの国際情勢の激変や公害問題など、その時々の困難を乗り越えて来ました。その熱意と知恵と努力があれば、解決できない問題はありません。
わが国の将来像、進むべき方向を示し、それを実現するために政策を実行するのは政治の使命であります。政治が国民の信頼を回復し、国民の期待に応えていくために、与党三党は、政治腐敗の防止のための方策、議員の兼職禁止に係る行為規範の見直しなど、政治倫理などに関する協議を精力的に進めており、その結論に従い、清潔で活力ある政治の実現を図ります。私自身、政策を真剣に議論する政治を率先し、与党三党の協力関係を基本として、政策によっては各党、各会派のご協力を頂き、国民の皆様のために全力を尽くします。
ご臨席の各党・各会派の議員各位、国民の皆様のご支援とご協力を心からお願い申し上げます。 
記者会見 / 平成10年6月10日
● 昨日、総理が火だるまになってでもやり抜くと決意された行革関連の基本法案が成立いたしました。そのことで、今後のことに絞ってお伺いしたいんですけれども、これから先、新しい業務の振り分けとか、官僚の一致した抵抗みたいなことが予想されますけれども、どういうふうな形で最後の到達点まで、ベースキャンプからその一つ上までやっていかれるおつもりなのか。また、第三者機関という形でチェック機関をつくられる予定ですけれども、その辺はどういうふうにお考えですか。
まさにベースキャンプと言われたのは非常に正しい表現で、基本法そのものは方向性も決めているし、ある程度の具体的な中身にも入っている、実はまさに基本法であって、これから各省の設置法をつくる。それから、独立行政法人に向けて一定のルールをつくる通則法のような法律、そしてそれをもう一方で進めている地方分権推進計画や規制緩和推進3箇年計画と整合させながら進めるというのは大変な難作業です。
そして、同時に今、単純に足し算すると、例えば局の数は128ある訳だけれども、これを90近くまで減らしたい。1,300ぐらいある課の数を900ぐらいまで減らしたい。それは当然ながら分権が進み、規制緩和が進み、それだけ中央省庁の業務が減らなければそれ自体が大変な抵抗ですよね。
それだけに、本部長内閣総理大臣、本部員全閣僚、そして事務局をきちんとつくって、その事務局長には、これは法律そのものを書いてもらったり、重複したり、あるいは欠落したりすることがないように、きちんとした整合性のある法律づくりをしてもらうんですから、これはやはり行政のベテランを据えなければならない。
しかし、同時に事務局の次長、あるいは参事官といった幹部の中には、是非これは民間にお願いをして民間のいい方を迎えたい。スタート時にどんなに少なくとも2けた、次長級、参事官級の中に配置していただく、その幹部の人間を含めていただきたいなと、いろいろなところにお願いを掛けている最中です。
それともう一つ大事なのは、官房副長官にどんな役割を持っていただくか。これは今まで余り皆さんは議論をされないんだけれども、事務の副長官だけではなく政務の副長官にも、これは政治という立場から当然ながら助言もしてほしいし、補佐もしてほしい。だから、事務の副長官は実質的に事務局の上に立って本部長補佐といった形でその全体陣を統括してほしい。そういう意味では、官房副長官に果たしていただく役割というのは大変大事になります。それは事務としての整合性を持つ上でも、その事務の中に政治という目でチェック機能を働かせるという、これは非常に大きな役割を演じていただかなければなりません。
それともう一つ、いわゆる第三者機関と言われる、これは高いレベルで意見をいただき、場合によっては忠告もいただき、同時に事務局の作業というものが基本法の精神に則って忠実に行われているかどうかチェックしていただきながら、もしこの方向がずれた場合にはその方向を是正するように私に対しての助言もいただく。
この第三者機関と言われるものは決定的に重い訳ですね。そして、私はそれは顧問会議という位置づけにしたいと思っていますけれども、これはもし組織図を書くとすれば本部長に直結した形、そして責任はもちろん、本部をつくるその本部長、本部員、すなわち内閣が責任は全部負うんだけれども、そこに過ちをおかさないためのいわゆる第三者機関というものは、私は顧問会議という位置づけで仕事をしていただきたいと思っています。そして、そこには学問の世界からも、言論の世界からも、経済の世界からも、労働の世界からも、いろいろな分野のことを思っていただけるような人材を得たい。今、一生懸命お願いをして協力を求めているさなかです。
● 総理、先ほどの衆参の本会議で国会の延会も決まりましたことですし、来週国会が終了ということになりますといよいよ参院選ということになる訳ですが、自民党の獲得議席目標数ということになりますと、総理はこれまでにも公認候補全員の勝利を目指すということはおっしゃっておられる訳なんですが、党内にも幾つかいろいろな声がございますけれども、今、勝敗ラインということでおっしゃっていただけると幾つぐらいに・・・。
これは、闘いをする、これから始めるんです。どう聞かれても、それは私は同じ答えしか出来ませんし、また当然だと思うんです。それは党として、みんなその地域あるいはその比例代表、非常に立派な方だ、是非その方を応援していただきたいと言って訴える訳です。当然ながら全員の当選を期して、これは私は党は一丸になって闘っていく、これ以外にないと思いますし、それを目指して今みんなが努力している訳ですね。
だから、私たちは公認し、推薦する以上、その方はそれぞれ国民の信託にこたえ、そして付託を受け、国政の中で活躍していただける。そして、参議院議員としてその責任を全うするにふさわしい方を選ぶつもりなんですから、それは全員の必勝を期する。それ以外の答えは返りません。
● 選挙が終わりましたら参議院の役員人事があると思うんです。それと、参議院選挙で引退される閣僚の方もいらっしゃると思うんですけれども、そうするとその時点に合わせて人心一新といいますか、内閣改造とか人事ということはされるということでしょうか。
これは無理だな。だって、選挙はまだ始まってもいない。そして、今まさにあなたから聞かれたように、会期延長を今日国会で決めていただいたばかり。そして、我々としてはまず何と言っても国民生活のために今の景気を上昇に向かわせるためにも補正予算を一刻も早く成立をさせていただきたい。特別減税もお届けしたいし、それぞれの施策を実行に移したい。だから今、補正予算を本当に一日も早く通していただき、それを実行に移したいし、そして国政選挙である参議院選の前に、その意味でも安心感を持っていただいた上で国民の審判を参議院において受ける。まさにそういうスケジュールになる訳です。そして、補正予算審議をこれから控えている。
● そうすると、やはり人事は9月の・・・。
今、考えているゆとりがない。また、考えるべきでもない時期だと思いますよ。
● 社さが離脱して今、政権が我が国は自民党単独ということになった訳なんですけれども、いわゆる選挙を前にしてこういう形になって、それで真意を問う訳ですけれども、選挙後の政権の形としては自民党の中ではパーシャル連合、部分連合と言われる方もいるし、どういう形が望ましいというふうに総理はお考えでしょうか。
今、政党対政党として参議院選を闘おうとしている。そして、その国民の判断をお示しいただいた上で考えることじゃないのかな。だから、逆に言えば今、我々がしようとしている、そして参議院選、自由民主党は自由民主党としての主張を持って国民の審判を受ける訳ですね。そして、自由民主党に対して、各政党に対して、これはそれぞれ選挙区選挙においては人を選んでいただくというか、顔を見て選んでいただく。比例はまさに比例代表という党のお示しをする、それぞれの分野の優れた専門家に対し、どこまでの信任を与えていただけるかということだけれども、いずれにしても政党として党の考え方を皆さんに申し上げて判断していただく訳ですから、それを事前に、こうなったらあの人とか、ちょっとそれはおかしいと思うんだよ。
● 3年前にも総理に同じようなことを聞いて、同じような答えが返ってきたなと思いましたけれども。
今、私も思い出したところです。
● でも、やはり選挙民としては今後の自民党総裁としてどういうふうな政権、単独なんでしょうけれども、部分的に取れたとした場合、どういう形が望ましいと考えられているのかということはお示しになられたら・・・。
それは、政党としての考え方をお示しして、その考え方で国民の審判を受ける訳ですから、その政党そのものの政策に対して国民がどうお考えになるかですよ。それはちょっと脱線すると、私はむしろ特定の姿を描いて行動する、それは選挙としてはむしろうまく出来るのかな。
● 今日、野党の党首会談があって不信任決議案が明日か何かに提出されると思うんですけれども、その中でやはり野党は、現在の不況の原因について橋本政権の打つ手が遅れていたということを第一に挙げてくるかと思われますけれども、その辺を含めて前にも何回もあれしていますけれども、現在の景気の現状についての総理としての責任の問題と、それをどう解決して臨んでいくのかというところはどうでしょうか。
今、日本の景気の足を引っ張っている一番大きなものが不良債権の処理の遅れということは皆さん言われますね。そして、今まで金融機関がやってこられたことは、処理は進めているけれども、同時に帳面も片方にその不良債権そのものは残して、それに見合う引当てを積み上げていく。だから、不良債権そのものは帳面にいつまでも残り続けている。それでは市場が信任しないということが明らかになりましたね。
そして、いろいろな御批判はあるのかもしれないが、国際的にも通用する基準ということで、例えば金融の皆さんに対して3月期決算をSEC基準で、今までのルールよりはるかに厳しいものにした。そうすると、言われていたよりも、今までよりも4割方不良債権と分類されるものが増えてきた。これからこれをバランスシートから消さなければならないという作業をしなきゃならない訳ですが、それは実はバブルの時代、そしてバブルの崩壊の時代、その後の時代で積み重なってきたものです。ですから、これは責任あるなしという議論をされれば全然、私がないなんて言うつもりはない。それは少なくとも消費税を昨年引き上げたとき、我々が予測したよりも引上げ前の駆込み需要が多かったし、そしてその後における反動減も大きかった。
ただ、7月から9月にその消費は回復に向かっていた訳ですね。事実プラスに転じていた。これは事実問題として、これをどう皆さんが評価してくださるかは別だけれども、事実問題として申し上げておかなければならない。
その上で、今年に入ってからもさまざまな数字が非常に厳しい数字になってきた、その原因というものが、昨年の秋以降に発生した金融機関の大型の倒産だとか、あるいはアジアの金融情勢の激変だとか、いろいろなものが重なってきて、そしてこれは責任があるないという話ではなく、現実の問題として私は今の雇用の状況は非常に心配です。
そして、殊にその中身を見るときに、一方では高齢の方々の失業率が増えている。そして、求人数との間に非常に大きな格差がある。しばらく前までは若い方たちのところは、自分の好きなところに入れるかどうかは別として職を求める方よりも求人の方が多かったとか、そこでも厳しい数字が出てきている。そして、新しく仕事を始める方の数が倒産を下回ってしまって戻ってこない。
そうすると、この新しい仕事をどうやって立ち上げてもらうか。そのために、これはよくベンチャー企業という言葉が使われるけれども、その新しい企業を立ち上げるためにどういう手伝いをするか。これは税制もあればいろいろな工夫をしていく訳で、そういうものは実は補正予算の中にも、あるいは本年度の税制改正の中でも全部進めてきている。そして、その効果を少しでも早く現実のものにするためにも補正予算の信任を急いでいただきたい。これは政府の率直な気持ちです。
その上で、不信任案というのは余り気持ちのいいものではない、楽しいものでは決してないけれども、提出をされれば自由民主党はこれをきちんと否決していただけると私は思っています。
● 不景気の問題の基本というふうに認識されていらっしゃる不良債権処理のことですけれども、これは自民党の幹部などは2年ぐらいできっちりと片付けていきたいということをこのごろはっきりおっしゃるようになっているんですけれども、そういうことですとやはり更に問題解決のために税金を投入するということも選択肢であるというふうにお考えになっていらっしゃいますか。
どうしてそういうふうにいっちゃうの。むしろバランスシートからどうやって不良債権を処理するか。一つは売り払うか。その場合にはそれを担保付き債券、いわゆる証券化にしてそういうものが売れる市場をつくらなければなりませんね。そういう仕事はもちろんあるんですよ。
だけど、何でそれがいきなり税金の投入になっちゃうの。あるいは入り組んだ土地に関する、不良債権の大半は土地ですから、その債権債務を処理してもらう。司法の世界だけではなかなかそれが進まない。ですから、そういうものが司法権に抵触しない範囲で整理をつけてもらえるような仕組みをつくらなければならない。そういう準備をすることが大事なので、その上でその担保付き証券としてこれが流通出来る市場をつくる。これはその性格から見て、ある程度ハイリスクハイリターンの商品になっていくでしょうけれども、そういうものが流通する仕組みそのものが今ないんだから、何で途中が全部なくなっちゃって公的資金という話になっちゃうんですか。
国が地上げ屋さんをする訳じゃないんだから、我々はあくまでも持っている金融機関の体質を強める。その協力は一生懸命にしますが、それを実施するのは民間なんですよ。そして、いつまでも自分のところでその不良債権を抱え込んで一方で積立てを積んでいくだけだったら、それこそ貸し渋りどころじゃない、融資に回すお金はなくなっちゃいますよ。だからこそその不良債権が、例えば担保付き証券のような形で処理され、当然ながらそれを市場として受け入れるものもつくらなければならない。
そういう話であるはずなのが、何でいきなり公的資金になっちゃうんですか。
● 総理、1問だけ外国の問題を聞いていいですか。インド、パキスタンの核実験の問題なんですが、12日にたしかG8の外相会議ですが、ここへ日本として核不拡散ないしは核軍縮というのはどういう形のものが出てくるのを期待しておられるかが一点と、もう一点、総理は国会でもおっしゃいました国際フォーラムというか緊急対策ですね。その部分で具体的に日時なり、内容なり、場所なりというようなものを考え・・・。
これは申し訳ないけれども、そのG8に小渕外務大臣に行っていただいて、そこで小渕外務大臣として出される話なので、それを事前に申し上げるというのは勘弁してください。
その上で、我々にとって本当にインドの核実験というものは寝耳に水で、非常にショックを受けたし、日本として日本の出来る最大限の強い意思表示をしたのと同時に、パキスタンに対しては呼応して自分のところも同じ核というものに頼った対応をするのではなくて自制してもらいたいということで説得を一生懸命に試みた。結果的にはなかなかうまくこれがいかなかったし、現地の状況というのも、例えばパキスタンの久保田大使が帰ってこられて、伺ってみると非常に深刻ですそれは。
それだけに今度のG8の外相会議、小渕さんもいろいろな考え方でこれに臨もうとしておられるんですけれども、私はこの問題がそう簡単に解決するとは思っていません。それは、核の不拡散という問題とは別に、インド、パキスタン両国の間に独立以来深い溝の空いている原因というのは現実に存在しているからです。
それはまさにカシミールの問題、そして非常にまどろっこしい手法のようだけれども、このインド、パキスタン両国の関係というものはカシミールの問題がほぐれなければ、これはいつまでたっても実は解決しないんですね。
だからこそ、実は日本は非常任理事国としての立場で安保理でこの問題を取り上げるように一生懸命に実は働き掛けをしていて、パキスタンの首相にも、そういう話をなかなか皆なうんと言わないんだけれども今、日本はそういう努力をしているんだという話も伝えて説得を試みた訳ですが、うまくいかなかった。
しかし、この問題を放っておいたのでは、実はいつまでたってもインド、パキスタンと限定した話では解決がつきません。だから、迂遠なようだけれども、この両国の根深い対立を解きほぐすための国際的な努力というものを我々は今までも払ってきたつもりだけれども、一層これは広げていかなければならない。
もう一つあるのは、これ以上の拡散を防止することと、実験を止めるということです。だから、この二つのテーマがあることをまず考えていただきたい。
そして、その意味ではまさにNPT、CTBTというものが一層大事になってきます。このNPT体制というもの、そしてCTBTというもの、圧倒的多くの国々がこれに対して既に加盟をし、あるいは批准をしている訳です。国際社会の大勢はそういう方向に向かっている。
そして、これは皆さんの報道に出ていたかどうか、ちょっと私も今、記憶がないんだけれども、そういう意味では例えばカットオフ条約の専門家会合を日本はこの間ジュネーブて主催したばかりだけれども、そうした一つ一つの努力を愚直に積み重ねていく以外に、我々はその答えをつくり上げることは出来ないと思っているんです。 
第142回国会終了後・記者会見 / 平成10年6月18日
第142回国会が本日閉会をしましたが、この国会を振り返りながら今後の課題について冒頭お話をさせていただきます。
まず衆参両院におかれ、政府が提出した平成9年度補正予算、平成10年度予算、また、補正予算、並びに多くの法律案、条約について大変精力的に御審議をいただきました。
この結果、暫定予算まで含めますと4本の予算、これをすべて成立をさせていただいたほか、97本の法律が成立、18本の条約が承認をされました。この場を借りて、衆参両院を始め関係者の皆さんに厚くお礼を申し上げたいと思います。
他方、情報公開法案、ガイドライン関連法案、旧国鉄債務処理関連法案など、重要な法律案でありながら、今国会成立しなかった法律案については、今後出来るだけ早い機会での成立を改めてお願いを申し上げたいと思います。
また、議員立法として提出をしていただいた政治改革関連法案、あるいは国家公務員倫理法案などの早期成立も併せて期待をしております。
今国会で成立したそれぞれの予算は、いずれも日本経済のためにどうしても必要な内容を盛り込んだもの、とりわけ昨日成立をした平成10年度補正予算、7兆7,000億円に上る社会資本の整備と特別減税などが盛り込まれておりまして、当面必要な内需の拡大に向けて強力な措置を講じていく内容となっています。
また、国民の皆さんにとって身近で不安を持っておられるダイオキシン、環境ホルモン対策、あるいは少子高齢化の進展に対応するための福祉・医療・教育、更には情報通信、科学技術への投資など、現在、そして将来の世代にとって本当に必要な分野に事業費を思い切って重点配分をしたのも大きな特徴です。
現在、我が国は言わば自信喪失が行き過ぎている。過剰な自信喪失とも言うべき状態にありまして、円相場の下落や株価の低迷、失業率の上昇など大変厳しい状況に直面しております。
しかしながら、世界でもトップレベルにある高い教育水準、非常に高い勤労モラル、卓越した技術開発力、豊富な資金など、我が国には何物にもかえ難い強味があるということも事実で、本予算と補正予算を早急かつ着実に執行していくことによって、後ほど申し上げます不良債権の処理策の実施などと相まって、我が国はその潜在的な強味を発揮し、個人と企業が主役となる力強い経済成長を取り戻すことが出来ると考えております。
昨年の秋以来のアジアの金融経済危機や大型金融機関の破綻など、内外の急激な経済情勢の変化に応じて、この国のために何が必要かを考え抜き、強い日本経済、強いアジア経済のために断固たる措置を取ることとしました。
深刻な我が国の経済を立て直し、再び活性化するために、不良債権問題の解決による金融システム安定、内需主導の経済成長の実現、市場の開放と規制緩和に最大限の努力を払っていく考えであり、こうしたことを踏まえて昨日クリントン大統領と電話で会談をいたしましたが、強い円と市場の安定のために協調出来ることは喜ばしいと合意を得たところであります。
今後とも注意深く足元の経済を見据えながら、力強い日本経済のために万全を期してまいります。
昨年のちょうどこの場において、私は通常国会6つの改革の出発点となる国会であった、そのように申し上げました。同じ言い方を使わせていただくなら、今国会がそれぞれの改革について、その歯車が着実に回転した国会でありました。
例えば行政改革については、中央省庁等改革基本法の成立、大変大きな進展がありました。これにより新たな省庁の基本的な枠組みが整理をされる訳ですが、今後は2001年1月の新体制への移行を目指して、23日に設立いたします中央省庁等改革推進本部を中心として、官から民へ、中央から地方へと行政改革の理念の実現と併せてスリム化された新たな省庁体制の具体化を進めていきます。
その際既に発表しております規制緩和推進3か年計画、あるいは既につくり上げている地方分権推進計画に加えて、今後地方分権推進委員会から出てくる御意見等も踏まえてこれを進めることは当然です。
その際には、私自身強いリーダーシップを取るとともに、私に直結する第三者機関としての顧問会議を十二分に活用して、官僚主導との批判を招かないように、その検討を進めていこうと考えています。
財政構造改革につきましては、たびたび申し上げておりますように、将来世代のことを考えるとか、その必要性はいささかも変わるものではありません。財政再建をして、私たちの時代の負担を少しでも減らしてほしいという若い人たちの意見を私たちは忘れてはなりません。
その一方で当面する最大の課題である景気回復のために必要な措置を取り得るよう、今国会では財政構造改革法の骨格を維持しながら必要な改正を行いました。短期的な課題と中長期的な課題の両方に適切な処方箋を書くという大変難しい問題への答えとして、必ず国民の皆様の御理解をいただける判断であった、そう確信しております。
また、金融システムを取り巻く課題に対しまして、今国会の冒頭で法律、予算、両面にわたる金融システム安定化対策を整備すると同時に、利用しやすく信頼出来る市場、制度の整備を図るための金融システム改革法案が成立をいたしました。これらの措置により経済の動脈である金融システムの活力が取り戻され、我が国経済の回復に役立つものと考えております。
そのほか、いわゆる六大改革に関わるものとして、例えば経済構造改革に関しては、大店法の廃止とそれに伴う新たな法的枠組みの整備、省エネ法の改正、また新たな産業を興すためにも非常に大切な役割を果たす大学等技術移転促進法の制定など、さまざまな分野での進歩がありました。大きな進展です。
また、社会保障構造改革については、医療保険制度の見直しを盛り込んだ国民健康保険法などの改正、教育改革については、中高一貫教育の導入など、学校教育制度の多様化、弾力化を推進するための学校教育法の改正など、それぞれの改革にとって重要な法案が成立をしています。
こうした前進を踏まえて、これらも積極的に改革への取り組みを続けてまいりますが、是非国民の皆様の御理解と御協力をお願いをいたします。
今、申し上げましたように、私がお約束をした六大改革は一つずつ着実に進んでおります。国民の皆様にお約束をしたことを一つ一つ実行していくという私の政治姿勢、信条、必ずや国民の皆様の御理解をいただけると考えています。そこで今後の課題について幾つか申し上げたいと思います。
まず第一に、景気回復の大きな足かせとなっている金融機関の不良債権問題の解決に向けて根本的な対策を講じます。景気回復と不良債権処理は、言わば車の両輪です。先ほど申し上げましたように、景気回復に万全を期していきますが、同時に不良債権問題については、具体的に不動産を担保としている不良債権に関する債権債務関係を整理するための制度、体制づくり。担保不動産や不良債権の売却や証券化などを進めることによって、土地、債権の流動化を促して、不良債権を処理しやすい環境を整備します。
既に内閣を中心に具体的な検討に着手したところでありますが、党とも協力しつつ、この後行われる参議院選挙の期間中においても、議論を深めていき、その結果必要となる法整備については、次の国会にも所要の法案を提出したいと考えております。
もちろん、こうした施策とともに、金融機関の一層の情報開示を進めるなど、金融機関経営についてより一層の市場規律を徹底していくことが重要であり、また、その経営について厳しい責任を持っていただく必要があることは改めて申し上げるまでもありません。
また、税制の見直しについてもさらなる検討を深める必要があります。法人課税については、国・地方合わせた税率を3年以内の出来るだけ早い時期に、すなわち3年を待つことなく国際水準並みに引き下げて、また、所得課税については、公正で透明性の高い国民の意欲を引き出せる、働く方が額に汗した上で報われるような税制を構築する必要があり、これらの税制の抜本的な見直しに向けて本格的な議論を進めていきたいと思います。
当面する最大の課題である景気回復の足取りをしっかりしたものにするためにも、こうした施策の具体化を全力で進めていきます。
更に本日この場を借りて一つ問題提起をさせていただきたい。それは少子化の問題です。結婚や出産という個人的な事柄に政府が立ち入るべきではないというのは、改めて申し上げるまでもありませんけれども、同時に我が国が直面する世界でいまだかつて経験したことのない、類を見ない急激な少子化というものが続けば、我が国の人口構成は大きく変化し、将来の社会経済に深刻な影響を与えるというのも事実です。
私が六つの改革を提案いたしましたのも、高齢化に加えて、この少子化という現実にどう対応するか。そんな問題意識からでありました。
こうした状況を考えるときに、出産、子育ての妨げとなっているさまざまな社会的、経済的な要因を取り除いていく。老いも若きも女性も男性も、お互いが喜びあえるような家庭、地域社会、そして職場をつくっていくことが今の日本にとって非常に大切な課題ではないかと思います。
この点については、今後皆様の中で本当に活発な議論をしていただきたい。政府としても、今申し上げたような問題意識を持って具体的に何が出来るのか。どこまでしていいのか。そして、何をなすべきなのか、真剣に考えていきたいと思います。
国際社会に目を転じますと、先月インドが、そしてパキスタンが相次いで核実験を実施しました。核兵器のない世界を目指す国際社会の努力に逆行するものであり、誠に残念です。我が国としては、インド、パキスタン両国に対して経済協力面を中心とする厳しい措置を課すとともに、バーミンガムサミット、国連の安保理やG8の外相会合などの場において、この問題に関する議論のイニシアチブを取ってきました。
加えて先日、核軍縮不拡散に関する緊急行動会議の発足を明らかにいたしました。今後1年のうちに我が国で数回会議を開催し、不拡散体制の堅持・強化及び核軍縮の促進、更には核廃絶に向けた取り組みについて、世界に向けた提言を行いたい。そのためにもここからのよい提言を得たいと考えております。
これらも核軍縮、核廃絶に向けて一層の努力を積み重ねていきたい。それが唯一の被爆国である我が国に課せられた使命であるとの思いを改めて痛感しています。
7月にはクリントン大統領、シラク大統領からお招きをいただき、日米、日仏2つの首脳会談がございますし、秋にはロシア訪問が予定されております。江沢民国家首席、金大中大統領の訪日の予定もございます。
こうした会談において今までに培ってきた各国首脳との信頼関係を基本に、我が国の立場を明確に申し上げ、ともになすべきことはなしながら、21世紀に向けた世界の平和と繁栄の構築のために全力を尽くしたいと考えております。
通常国会を終えて私から所感と、そして今後の政策として考えていることの一部を申し上げましたが、今の時点で明確な施策の姿が見えているものばかりではありませんけれども、今申し上げたようなさまざまな問題点について、常に問題意識を持って、国民の英知を結集し、今後とも精力的に取り組みます。国民の皆様が持っておられる不安を一つ一つ取り除いていきます。
来るべき参議院選挙では、国民の皆様の審判を仰ぐことになります。私も日本各地を遊説し、その場所、その場所で皆様に私の信念や考え方をお話させていただきますが、どうか耳を傾けていただきたい。その上で長いこの国の将来を見据えて、今、何をなすべきかという皆様の御意見を是非聞かせていただきたい。
皆様にお目に掛かることを心から楽しみにしています。今国会中、会期の間じゅう、各党、各会派の議員の各位、また、多くの国民の皆様からいただきました御理解や御協力に重ねてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
【質疑応答】
● 昨日のクリントン大統領との電話会談の結果、円安是正のための協調介入が実施されましたが、これはやはり一時的なものであって、日本の構造改革がやはり急務になっていると思います。特に、総理の冒頭発言でもありましたけれども、不良債権の問題が大きな課題だと思います。自民党では、30兆円の公的資金枠に積み増す形で財投資金を整理回収銀行に投入する案なども出ているかと思います。さらなる公的資金の投入について総理はどのようにお考えなのか、不良債権問題処理の具体的道筋をもう少し詳しく述べていただきたいと思います。
今、申し上げたように、日本の経済、私どもは本当にこの深刻な状況から脱して、再び活性化をするために、不良債権問題の解決によって金融システムを安定させ、内需主導の経済の成長を実現すること、市場開放、規制緩和のために最大限の努力を払っていきたいと考えていますが、まさにそうした思いを込めて、昨日クリントン大統領との電話会談をしました。
そして、強い円と市場の安定のために協調出来ることは喜ばしい、そんな合意を得た訳です。その中で、やはり金融というのが、何といっても国民の皆様の資産運用の場でもありますし、同時に経済活動に必要な資金を供給するという重要な役割を担っている訳ですから、その本来の機能が発揮されるように、預金者保護とシステムの安定性を確保する。
そして、その中で金融機関の不良債権問題を早く解決をしなければならない、こうした認識の下で、政府として金融機関経営に対する市場規律を徹底することによって、不良債権処理の早期打開、そんな考え方を持ってきました。
具体的には、今年度4月から導入した早期是正措置で、金融機関の資産内容、各金融機関による自己査定や公認会計士の監査、銀行検査によるチェックを行うことで、不良債権の処理を徹底させていく。同時に、いっそうのディスクロージャーを進めてもらうことによって、不良債権を帳簿の上から、バランスシートから本当に消してもらわなければなりません。
ちょうど、本年の3月からアメリカのSECの基準、従来の日本より厳しい基準ですけれども、このシステムで金融機関の決算を始めた。そして、今までのルールだと、去年の秋、16兆円規模だった不良債権が14兆円ぐらいに減っていいはずだった訳です。そして、それは事実減っていた。しかし、新しいSECの基準で計算してみると、不良債権は21兆円に増えていた。これは主要19行だけのことですから、情報開示が必要なこと、同時に、そのバランスシートから落とすということがいかに大事か、お分かりがいただけると思うんです。
ですから、政府としては、不動産担保付きの融資をめぐる権利関係を整理するための仕組み、あるいは不動産担保付きの債権の証券化など、これはさきの総合経済対策で盛り込んだ施策ですが、これの具体化を図るとともに、更に金融システム再生のための実効のある施策に取り組むために、新たに設置された政府与党金融再生トータルプラン推進協議会で検討を始めた。ちょうど、先月5月28日、8項目の中間取りまとめをしました。今月23日にもこの会議は開いてなお努力を進めていきます。
土地の関係では、例えば、住都公団による土地の有効利用の推進のように、補正予算の成立で法律を必要とせずに実行に移れるものがあります。また、権利関係の調整のための委員会のように、現在、法律案の準備に掛かっているものもあります。更に、さまざまな構想も出てきている訳ですが、これはこれから検討していくことになる。
あなたの御質問で、最初から公的資金という形で話が出てきたんですけれども、ちょっとその話の順番は違いはしないか、むしろ、今申し上げたようなことをきちんと手順を踏み、法律を必要としないものは今の住都公団の例のように、すぐにでも始めていきますし、法律を必要とする制度、これはこの選挙の期間中といえども、政府の作業は進めていきますし、党も努力をしてくださると言っていますから、出来るだけ早い国会に、こうした法律案を御審議をいただけるように、私たちとしては全力を尽くし、可能なものから順次作業を進めていきたいと思っています。だから、始めに公的資金ありきというのはちょっとどうかな。
● それでは、税制改正についてお伺いします。冒頭の発言の中でも、法人税の引き下げの時期について、3年以内出来るだけ早くということをおっしゃっていましたが、これは2年以内というぐらいの気構えでいらっしゃるのか、また、所得税については、具体的にどういう方針で見直していくのか、課税最低限の引き下げなども含めて検討なさっていくのか、その辺をお伺いします。
これは今まで国会で申し上げてきた以上に申し上げる問題点はない訳ですけれども、皆さんの議論で、往々にして境目がよく分からないのは、国税だけを対象としておられるのか、地方税も含めておられるのか、言い換えれば、所得税だけですか、個人住民税も含んでいますかという、実は、法人税の場合でも地方税としての法人事業税があります。そして、それぞれ持っている問題点は違っています。
法人課税の方から先に申し上げるなら、平成10年度の改正で、法人税、あるいは法人事業税、両方とも基本税率を引き下げました。そして、今後3年のうちに出来るだけ早く、3年を待つのではない、国際水準並にしていきますということは既に明言しています。その上で、地方分権が進めば進むほど地方の財源というのは大事な問題になります。その法人事業税についても、いろいろな議論が既に出されています。こういうものをどうするか、これはやはり地方自治体の皆さんの意見も伺わなければなりません。
その所得課税についても実は同じ問題が一つあるということを付けた上で、例えば、税率構造についてもさまざまな議論があります。あるいは資産からの所得に対する課税の在り方、あるいは年金をめぐる税制、言い換えれば、どの方にどのぐらいの負担をお願いするかという問題。そして、これは問題点は既に私自身も提起をしましたが、聖域を設けることなく予断を持たない、幅広くきちんとした検討を行っていく、そうした中において、今も申し上げてきたように、国民が額に汗をして働かれ、そこから納めていただける税にする。税金を払うのに喜んでということはなかなかないかもしれないけれども、公正なものであり透明なものだと受け取っていただけるような税制にしていきたい、そういう方向の議論をお願いをしています。
問題点は今申し上げたような幾つかの問題があります。そして、国税だけではなく、これから先、分権が進めば進むほど地方財政というものも意識に入れて考えていただきたい。この点を付け加えて申し上げておきたい。
● 参議院選挙の話を少しお聞きしたいと思いますが、参議院選挙では景気対策というのはやはり争点の一つになると思うんですが、総理はこれまで政権の担当者としてこのような厳しい経済状況を招かれたという責任の声もあると思うんですけれども、こうした点について国民、有権者にどのように説明をされていくのか、それから、参議院選挙の結果として当然議席数が出てくる訳ですけれども、そうした有権者に訴えたことがどれぐらいの議席を取れば信任を得られたというふうに判断をされるのか、その議席数についても見解をお聞きしたいと思います。
ちょうど、2年前の衆議院選の際、私は地方分権とか規制緩和といった努力を進める、それを土台にして中央省庁の制度解体ということと合わせて、国民の皆さんに消費税の税率の引き上げをお願いしたい、そのうちの1%は地方の財源なんですという訴えをしました。
そして、昨年、その申し上げたことを、先行している所得税、住民税減税の見合いのパーセンテージ、2%引き上げさせていただいた訳ですが、これは国会の答弁でも申し上げたことですけれども、私たちが予想した以上に昨年の1月から3月の間、多くの方々がいろいろな買い物をされて、その反動が4月から6月の間に出てきました。この影響は正直私たちが予測していたものを越えていたんです。
しかし、7月から9月にかけて消費が回復をしはじめ、よかったなと思っておりましたときに、途端に影響が出たものとしてアジア地域の通貨金融市場の混乱というものが起こり、我が国の大きな金融機関が幾つか経営破綻する、そうした状況の中で、家計もそうですし、企業もそうなんですが、景況感が厳しさを増してきた。そして、その厳しい見方というのは、実は個人消費にも設備投資にも影響を及ぼして非常に厳しい状況になりました。そして、それは今年になってから、発表されたいろいろな数字でもその方向というものが出てきた訳です。
そうした状況に対応しなければならないということから、今国会が始まって以来、緊急経済対策、そして、2兆円規模の特別減税、9年度補正予算、更に、皆さんの預金は心配がありませんということとともに、だめな金融機関はこれはもうどうしようもないんですけれども、ちゃんとした金融機関が自分の力をなくしちゃ困りますから、そうしたことを含めた金融システム安定化策、こうしたものを大急ぎ、そして的確に実行するように努力してきました。こうした対策が既に実施に移されておりまして、この金融安定化策などによりまして、例えば、預金をしておられる方々が、自分の預金がなくなってしまうという心配を掛けることは少なくともなくなりましたし、その意味での不安感というのは鎮静してきたと思っています。
その上で、今、申し上げたように、我々としてはこの短期間における景気の回復への足取りをしっかりさせるため、同時に、中長期的に見ても絶対に今やっておかなければならない課題として、過去最大規模の総合経済対策とともに、今、不良債権の処理、本格的な処理というものに取り組もうとしています。
今まで私たちの中に、帳簿の片側に不良債権があれば、片側にそれに見合う積立てをきちんと、引当金を計上していれば、一応処理されているという甘い考え方が全くなかったとは言えません。しかし、それでは実はそこに積まれているお金は使われない訳ですから、それは貸し渋りの原因にもなりますし、体質として改善をされるということにはならないとなれば、これは我々としてどんなことがあっても、バランスシートから本当に債権を消すためにこれを放棄するのか、債券化して市場で取引の対象にするのか、手法はいろいろあるでしょう。こうした対策に全力を挙げていこうと今しております。そういう意味では、昨日のクリントン大統領との電話会談、力強い日本経済のために私は万全を期していきますが、強い円と市場の安定に協調出来ることは喜ばしいという合意を得た。これもこうした思いの中の表われとして受けとめていただきたい。
それから、参議院選というお話が今、出たのですが、これは本当に我々はこの選挙戦は必死で闘い抜いていくつもりですし、私自身当然ながら先頭で闘い抜いていきますが、党所属の国会議員、党員の皆様方、同じような気持ちで一つになって、一丸として選挙に取り組んでいきたいと思っています。そして我々は本当に改選議席の61よりも1つでも多く積み上げたい、全員当選を目指したい、そんな思いで闘っていく訳です。
ですから、あなたの御質問に大変答えにくいのは、数字ももちろんあるでしょうけれども、それ以上に国民の皆様に訴えて、それに対して国民の皆さんがどう反応してくださるのか、どんなふうに激励していただけるか、あるいは御批判をいただくか、その中身は一体何なのか。精いっぱい選挙戦を闘い抜いていく中で、私自身が肌身で感じるものがその信任云々というものについての感じを言うことになるのでしょう。そうした自分で感じるもので評価をし、判断をしていくという以上に今、申し上げる言葉がありません。
● 自民党内では早くも参議院選挙後の話題で内閣改造ですとか、役員人事を求める声も上がっていますけれども、現段階での総理のお考えというのは、その改造や人事を行うお考えはあるのかどうか。これを行う場合には、時期は臨時国会7月末にもと言われていますけれども、臨時国会の前になるのか、後になるのか、その点について。
今日この通常国会が終わった訳です。そしてこれから私たちは参議院選に臨む。そしてその参議院選が実施もされていない状況の中で、その後の内閣改造とかいうのは少し早過ぎると思いますし、また私自身今そういう問題について申し上げられる、そんな気分ではありません。とにかく景気の回復というものを抱え、そのために予算を早期に執行し、施策を国民の下にお届けをする。あるいはこの不良債権処理などに全力で取り組みながら、参議院選の先頭に立って闘い抜く、これがすべてです。
● 先ほど総理の方から問題提起という形でありましたけれども、少子化の問題ですけれども、これについてもう少し具体策、総理のお考えの中にあるのかどうか、もしお聞かせ願えればと思いますが。
これは大変実は難しい問題点で、私自身もこれがすべてだという模範解答が今、出来るような課題ではありません。そしてさっきも申し上げたように、やはり本来政治が介入してはいけない部分に触れる可能性もある問題点でもある訳です。
ただ、これは本当に皆さんにともに考えていただきたいと思うのですけれども、高齢化というものが非常に大変なピッチで進んできた。これは本当にめでたいことだと思っています。それはどんな感じか。老人福祉法が出来た昭和38年に日本政府は初めて100歳人口の統計を取り始めた訳ですが、そのとき日本中に100歳以上の方は153人おられた。昨年の敬老の日、同じ基準日なのですけれども、8,491人おられる。しかし実はその間に出生率は昭和38年に2.0だったのがどんどんどんどん下がり続けてきて、ついに一番最新の数字は1.39という数字になった。
ちなみに実は私の厚生大臣のとき、昭和54年です。100歳人口937人で、私は昭和38年から6倍になったかという感慨を持ったのですけれども、そのときには出生率が1.77でした。下がりっぱなしなのです。だからこの傾向が実は続いていくと、どんどん人口は減り始める。そして30年後の2030年、アバウトですけれども、今1億2,600万の日本人が約1,000万減る。そして50年後には1億人になる。もしそのままの数字が続くとすれば、2100年には現在の人口は半分になる。そして生産年齢に当たる人口、生産年齢人口は今の4割に減ります。ですから、社会保障構造改革、あるいは財政構造改革など、よくばりだと言われながら6つの構造改革に取り組もうという、その原点の問題は実はこの問題なのです。そして、昨年行われた有識者調査で大部分の方が非常に深刻だという認識を持っていただいていました。ですから一体我々はどうすれば、多くの人々が結婚や出産を望んでおられるのにかかわらずこういう状況が生じているのか。子供を産む、産まない。これは本当に個人の、あるいは御家族の選択の問題なのですけれども、産み、育てることに夢をかけられるような社会というものを目指した環境整備をしなければならない。
ですから例えば、私自身本当に当時の社会党の皆さん、あるいは他の党の方々と一緒になって、教育職、福祉職、それから医療職、言い換えれば看護婦さんであり、保母さんたちであり、学校の先生方に対する育児休業の議員立法をつくり、提案者であった本人なんですけれども、子育てと仕事を両立させるための育児休業制度が非常に大事なんだけれども、それが取りやすいような職場環境をどうつくればいいのか。あるいは再雇用、あるいは中途採用といった柔軟な雇用の仕組みというものがどうやれば普及出来るのか。あるいは子育ての環境整備として、突拍子もない言い方かもしれませんけれども、保育施設、保育の人材を多様化していく。その場合に、例えば地域のお年寄りが保育ボランティアに参加していただくことは出来ないものだろうか。子育てグループといったような発想になるのでしょうか。こんな考え方もあると思うのです。
あるいは、今、小中学校に随分空教室が出てきました。これを例えば保育の施設、または子育ての施設に転用するように何かうまい促進策がないだろうか。あるいは育児に対する支援ということと同時に、世代間の共通性、お年寄りの生きがいを増すということだけでも、世代間同居住宅というものを建設していく上で何かメリットが考えられないか。あるいは、これは本当に議論が真っ二つです。しかし、出産時の経済的負担を軽減するための出産一時金といった考え方、これは賛否両論が本当にあるのですけれども、一体どちらに考えるか。あるいは、その中で子供を本当に産みたい、しかし産めない方に対して不妊治療の御相談とか、研究というものはどうしたらいいのだろうか。考えると実は非常にたくさんの課題があります。
今、政府として私どもは関係省庁がただ連携するだけではなくて、現実に子育てに携わっておられる男性、女性を始めとして、幅広い有識者の方々にも参加していただいた有識者会議とでもいうようなものをスタートさせて対策の検討を開始したいと思っているのです。これは子どもたちの問題についてもとった手法ですが、その中から今後とっていくべき対策の要綱というものがもしまとまってくれば大変幸せだと思いますし、今、縦割り行政の壁ということがよく言われますけれども、既に2001年の省庁再編を先取りした形で、厚生・労働両省を中心にして、文部省なども加えたプロジェクトチームというものを発足させることも一つの考え方だと思っています。既に厚生・文部の両省の間の協議を始めていますが、この問題だけは政府が強制すべきことでもないし、一定の限界を超えて行動してはならない部分を持つ問題だけに、考えていくといろいろな課題が出てくるのですけれども、今、具体的に有識者の方々にそうした考え方のエッセンス、要綱というべきものでまとめていただけないだろうか、そういう会合をスタートさせる。そうしたことを考えています。
● 昨日総理がクリントン大統領と電話で会談されて、その結果、ニューヨーク市場の協調介入しましたが、総理御自身として両国が協調介入するという意思がマーケットに十分伝わったというふうにお考えですか。1日たってどうでしょうか。
市場のことは市場の関係者に聞けという言葉はよくあるんだけれども、私たちとしては本当に昨日お互いに合意をし、その上で介入を開始した。そしてその介入というものが市場で、私は好感を持って受けとめられることを本当に願ってきました。ニューヨークにおいて協調して介入をした訳ですけれども、これは今、私どもが一定以上のことを申し上げるべきではないと思うのですが、むしろしばらく前まで国会の御論議なんかを聞いていても、例えばG7の協力体制というものが一体どの程度のものなのか。あるいは、日米の間できちんとした対応がとれるのかとか、いろいろな角度の御質問がありました。恐らくそういう感覚が一般的にあったんだろうと思います。それだけにきちんと両国が協調して市場に介入した。これは今、結果としてそれなりの評価を市場からいただいていると思っていますし、同時に、そういう評価を我々が継続していくためにも日本の経済の先行きに対する不安というものを消す努力を全力を挙げて我々は見える形で、しかも結果が出せるように進めていく必要がある訳ですし、それが先ほど来申し上げてきている金融の信頼性の回復、言い換えれば、不良債権の実質的な処理ということに結び付いていくんだと思うんです。
ただ、これは今までいろいろ議論がありましたように、例えば一つの土地をとってみても、そこに対する抵当権、権利義務関係が大変錯綜しているといった問題を解きほぐす仕組みと同時に、それを担保付債券として市場に出す、そういう市場もきちんとつくらなければいけない訳ですから、口で言うのは簡単ですけれども、結構作業としては大変な問題があるんですが、先ほど申し上げたようにその努力が、政府が選挙中といえども続けていくし、与党もそういう考え方でおられます。法改正を必要としないものはさっさとやり始めるし、法律を必要とするものは、あるいは改正ではなくて新たな立法を必要とするものは、出来るだけ早く国会に御審議をいただけるようにする、そういう努力をすることによってきちんとした信任が得られる、そうした流れになっていくと思います。
● 先ほど特別減税は今回も手当されたと思うんですけれども、税制の抜本改革に絡んで恒久減税のことについては例えばクリントン大統領と昨日お話しされたのでしょうか。それとも今後総理としてはそういうことも含めて考えていらっしゃるのでしょうか。
クリントン大統領との会談の中で、特別減税ということは話題にはありませんでした。そして先ほども申し上げたように、税制改革というものは我々は考えていかなければならないテーマですから、それぞれの税制について、特に先ほどは法人課税と、所得課税と、国税、地方税を含めた論議として申し上げたんですが、税目としてあなたが言われるのは何を指しておられるのか分からないけれども、少なくとも恒久減税というような話題は昨日大統領との間には出ていません。
● 総理、今ずっと会場の中で昨年暮れからとってこられた施策の御説明がありましたし、不良債権の問題等これから取り組むことの御説明があったんですけれども、総理がいろいろとってこられた施策について、若干タイミングが遅れたのではないかと。例えば、トゥーレイトの方ですけれども、という批判があろうかと思います。そういう批判に総理がどういうふうにお応えになるのでしょうか。
私はそういう批判があることを否定をしません。殊に今、例えば不良債権の問題で申し上げたのは、新たな仕組みをつくるために法律を必要とするようなケースにおいて、発表したタイミングから法律案を用意し、その法律案を国会に審議をお願いし、国会が審議されてから否定されるケースもあるだろうけれども、成立し、その施策が実行出来るまでには一定のタイムラグがあります。その意味では、今回の総合経済対策16兆円強の中で特別減税の2兆円の上積みを含め、また7兆7,000億円の公共事業についてもいろいろな御議論がありますけれども、総合経済対策を発表してからその中の予算関連の分では補正予算という形で国会の御承認をいただいたのが昨日の段階でした。その時間差というものが遅れと言われる部分については、これは本当に甘受しない訳にいかない点だと思うのです。
これは例えば、日本のシステムで予算が編成されてから国会で通過、成立するまで衆参両院の御審議をいただく時間というのはおおむね一定の時間を必要とする。これ実は日本人は皆それを理解していただいていますけれども、必ずしも海外でそれが理解されているとは言えません。それはいろいろな場面にあることなんですけれども、発表してからそれが実行されるまでの時間差というものについて新たな特に仕組みをつくらなければならず、そのために法律をつくり、その案を国会に提案し、国会で御審議いただき、それが成立し、実行に移るまでの時間差というものが、これは遅れている。お叱りの中に一つはそういう部分もあるのですが、それは私は甘んじて受けなければならないと思っています。
● 今の関連なんですが、時間差というのは分かるんですが、それだからある程度見通しというものが大事になってくると思うんですが、それで昨年の段階で消費税を2%税率を上げるなど9兆円の負担増をなさった訳ですよね。このことが現在の景気の停滞に結び付いているんではないかと。総理がおっしゃられるのはアジアの経済の問題とか、金融機関の破綻の問題もあります。これは分かるんですが、そういうことを考えて見通しには誤りがあったんではないかということはないんでしょうか。
だから先ほど私、素直に申し上げたと思うんだけれども、消費税率を引き上げさせていただきたい、選挙で訴え、そしてそれを現実に実行しようとしたときに、駆け込み需要、これは我々の予想を超えて本当に多かった。その分反動として昨年の4月〜6月に落ち込みが大きくなりました、その幅が大きくなりました。そこの見通しは確かに我々は甘かったのですというのは先ほど素直に申し上げていると思うんです。その上で7月〜9月期の消費は回復に向かっていた、プラスに転じていた、これは事実の問題としてはこれは認めていただきたい。
それと同時に、先ほど申し上げたようなピッチで進む高齢・少子社会の中で、社会保障負担というものを本当に将来も国民の暮らしのセーフティネットワークとして残していくと。その必要性はみんな認めていただいていると思うんですけれども、そのために今のままで仕組みがいいかといえば、あるいはこのままの仕組みを続けていけるかといえば、私は見直しはしなきゃならないと思うんです。
ですから私は、これはこれから先も、年金も、医療保険も、福祉も、当然ながら国民のセーフティネットとして、同時に国民連帯、ネットワークの一つとしてきちんと維持し、続けなきゃならないと思っています。ただ、若い働き手がこれだけ減ってきているという事実は認めてください。そして支えていかなきゃならないお年を召した方々が増えてきて、それはどこかで負担をするか、給付をより効率的なものとして見直すか、いずれにしても我々次の世代になっても、その次の世代になっても社会保障という仕組みが維持出来るようにしていかなきゃならないんですから、その中で選択肢を広げる努力をしていかなきゃならないんですから、消費税率について2%の引き上げというものが私どもの予想を超える駆け込み需要を生み、それは逆に4月以降の消費の落ち込みという形で出ました。これは事実として私決してその見通しの間違いを、あるいは見通しの甘さというものを隠してはいません。その上で、将来に向かって考えていかなきゃならないことは、やはり一緒に考えて、きちんと維持出来る仕組みをつくっていかなきゃいけないんじゃないでしょうか。
● 少子化の関連なんですけれども、先ほどいろいろなポイント、これからの検討のポイントになるものと、それから総理の問題意識と挙げておられたんですけれども、具体的に挙げておられた出産一時給付金を含めてこれまでの議論というものが経済的な支援に偏っていて、つまりはばら巻き的だったためにいろいろな自治体の試みや政府の試みが空振りに終わったということがあったと思うんですね。今回の厚生白書が鋭く指摘しているのは、固定した日本の男女の役割分担とか、長時間労働に代表されるような日本の雇用的な慣習がいろいろな面での壁になっているのじゃないかという点があったと思います。その点についての方向を転換するとしたら、それは行政ではなくて政治の方の役割だと思うんですけれども、そういうことに関して総理はどういう問題意識をお持ちなのか。具体的に何か手を打たれるようなお考えはあるのか。
問題提起として私は先ほどそうした点にも触れたと思うんです。産みたくても産めない方、その場合にどうすれば、雇用という面からその仕組みを考えていけるんだろうということは申し上げてきました。それがまさに男女共同参画社会という方向で我々が議論をし、またこれからもし続けなければならない大きな役割の問題だと思います。ですからこれは物の面ととらえられるか、あなたの言われるような仕組みの面としてとらえていただけるか分かりませんが、例えば介護保険ひとつ考えてください。こういう仕組みが必要なのは、従来固定的に女性の役割としてとらえられ、それが家庭の奥様方、お嫁さん、ある場合はお嬢さん、その肩に背負わされてきた介護というもの、これを社会的なシステムとしてきちんと構築をし、その介護という負担がただ単に家庭の中の女性の役割と位置づけられているところから姿を変えようとして介護保険という仕組みがつくられた訳です。そういう意味では、政治も行政もこうした問題意識を持って、どちらか一方の性にすべての責任が掛かるような状態から、男女共同参画社会と言われる方向に向けようという努力を既にしています。
その上で、例えば、雇用機会均等という面では既にルールが定着しました。仕組みとしては、先ほども申し上げたように育児休業という仕組みは、私自身かかわりを持った、スタート時に議員立法した提案者ですけれども、そういう時代から今に至るまでの間に、仕組みは変わってきましたが、実はなかなかその育児休業制度というものが定着をしない理由、定着というか、定着はしているんですけれども、利用されない理由の一つに、その期間を終わって復職する、その間に同僚は昇進しているけれども、自分は育児休業を取ったところからスタートというハンディを背負わされる。そういう問題があることは事実なんです。だから、その雇用のルールを変えていけるかどうかとか、しかしこれは行政だけが、あるいは政治で押し付けられるものではありません。
例えばそういうルールを行政で固定しようとしたとき、私はなかなかうまくいかないだろうと思います。もちろん、そういう方向にそれぞれの職場が動いていくように、そして動いていくとすればそれを加速出来るような、そういう役割は政治も行政ももちろん果たしていきますが、むしろそういう意味では、私などもそうなんですけれども、頭の中に無意識のうちにしみ付いているいろんな意識を変えていくと、これはむしろ行政とか政治という部分を超えているんじゃないでしょうか。言い換えれば、お互いここにおられる一人一人がどういう意識でこの問題に取り組んでいただけるか。そして、そういう仕組みづくりに協力をしていただけるか。
今、あなたが指摘されたように、資金的な支援というか、そういうものだけでこの問題が解決するものではない。男女共同参画社会というものを目指す方向はそこにあるという、その御指摘は私はそのとおりだと思うし、既に一つの例として介護保険を今挙げましたが、そういう取り組みを我々が皆やっていかなきゃならない。その点、私は今の指摘は非常に正しい指摘だと思います。どうもありがとう。 
内閣総辞職に当たっての談話 / 平成10年7月30日
橋本内閣は、本日、総辞職いたしました。
私は平成八年一月に内閣総理大臣に就任以来、少子高齢化の急速な進展や国際化、情報化など内外の環境変化の中で、二十一世紀の明るいわが国を創り上げるために全身全霊を打ち込んでまいりました。戦後五十余年にわたりわが国を支えてきたすべての社会システムの「変革と創造」をやり遂げる、そのために、「決断と責任」を政治信条として、痛みを先送りすることなく、行政改革などの「六つの改革」を進めてまいりました。多くの関係者の懸命なご尽力のお陰で、一歩一歩着実に成果があがってきており、さらに前進への努力が重ねられております。同時に、構造改革を念頭に置きながら、当面の景気対策や不良債権問題への対応など総合的な経済対策も講じてまいりました。
外交面では、日米関係を機軸に、各国首脳との親密な友好関係を背景にして様々な努力を積み重ねてまいりました。クリントン・アメリカ大統領との率直な話し合いを踏まえて冷戦後の日米安保体制の再確認を行い、また、エリツィン・ロシア大統領との間では胸襟を開いて新しい日露関係に一歩を踏み出すことができました。この間、尊い犠牲者を出してしまった在ペルー日本国大使公邸での人質事件やナホトカ号重油流出事故あるいは先般のインド、パキスタンにおける核実験など大変残念な出来事もありました。沖縄に関する様々な課題には、なお思いを残しております。
私は国政を預かる者として、国民と日本国の将来のために、正しいと信ずる目標に向かって努力してまいりましたが、この度の参議院議員通常選挙の結果を厳粛に受け止め、総理の職を辞することといたしました。
わが国が現在置かれている社会経済状況は決して容易なものではありませんが、わが国はこれまでも国民の英知と努力の結集により、幾多の困難を乗り越え、今日の繁栄を築いてまいりました。国民が力を合わせ、勇気を持って取り組めば、必ずや日本経済の再生は可能であり、また世界一の長寿を心から喜べる活力ある福祉社会を創ることができるものと確信しております。私はこれからも一人の政治家として、皆様方と力を合わせて、わが国の発展と世界の平和のために力を尽くす覚悟であります。
これまでの国民の皆様のあたたかいご支援とご協力に対し、心より御礼を申し上げます。 
橋本総裁時代
平成七年九月二十二日に投・開票が行われた自民党総裁選は、「元気をだそう!日本自信回復宣言」を掲げた通産相の橋本龍太郎氏と、郵政三事業の民営化など斬新な政策を旗印にした小泉純一郎氏の立候補で国民の注目を集めました。結果は党員投票と国会議員の投票を併せて、橋本氏三百四票、小泉氏八十七票で、橋本氏が第十七代の自民党総裁に選出されました。河野洋平前総裁は八月末に立候補をとりやめていました。
橋本新総裁の掲げた政策は、自民党単独政権が崩れてから、経済の低迷などもあって元気の無い日本社会を再活性化させようというもので、国民は橋本自民党に強い期待を抱き、自民党内もこれに応えようという空気が高まりました。しかし、自社さ連立の村山富市政権が八月初めに内閣改造を行ったばかりであり、自民党単独政権時代のように、総裁が首相に就任するわけではなく、閣僚の交替もありませんでした。ただ、党三役は、幹事長が三塚博氏から加藤紘一氏に交替し、総務会長に塩川正十郎氏、政調会長に山崎拓氏という新布陣になりました。
この直後から年末にかけて、九月はじめに沖縄で米兵による少女暴行事件が発生したことや、駐留軍用地特別措置法による米軍駐留地の使用権をめぐる国と沖縄県との対立などがあり、沖縄米軍基地縮小問題が浮上。さらに破綻寸前となった住宅専門金融会社の不良債権処理問題が日本経済の浮沈がかかる緊急課題として政界に突き付けられました。村山富市首相が、日本の政治、経済、社会に活力を取り戻し、難しい外交案件に取り組んで行くために、「憲政の常道」にのっとって与党第一党である自民党総裁に政権を禅譲すべきだと決断したのは、橋本新総裁が誕生してから三か月余り後のことです。
平成八年一月五日、村山首相は首相官邸で記者会見して辞任を発表。自民、社会、新党さきがけの与党三党は幹事長・書記長会談や党首会談を開いて政権の枠組み維持と政策調整を行ったうえで、首相指名選挙の与党統一候補として橋本自民党総裁を擁立する方針を決めました。同年十一日に衆参両院で行われた選挙で首相に選ばれた橋本総裁は同日中に組閣を完了、橋本新政権が発足しました。自民党の総裁が首相に就任するのは、じつに二年半ぶりのことでした。新進党は、前年暮れに新たに党首となった小沢一郎氏が首相候補でしたが、橋本総裁に大差で敗れました。この直後、社会党は伝統の党名を「社会民主党」に変更しました。
新政権の顔触れは、副総理・蔵相に久保亘氏(社民党)、官房長官・梶山静六氏(自民党)、外相・池田行彦氏(自民党)、通産相・塚原俊平氏(自民党)、厚相・菅直人氏(さきがけ)らで、橋本首相は日本の経済、社会システムは抜本的な構造転換を求められる時期に来ているという認識から、「変革・創造内閣」と自らの政権を位置づけました。この基本方針から後に「六つの改革」が提示され、一府十二省庁への中央官庁の整理統合や地方分権の実現という戦後の政治行政システムの一大改革実現への道が具体化していくことになります。
橋本政権の当面の課題は、新年度予算案を早期に成立させ本格的な景気回復の路線を敷くことと、沖縄問題を含む日米関係の再構築など、首相の座を他の党が占めていた間に生まれた国政の停滞の回復でした。
首相は就任間もない二月二十三日に訪米し、サンタモニカでクリントン大統領と初の首脳会談を行い、沖縄問題の解決に向けて精力的に協議しました。この結果、米国は沖縄・普天間飛行場の全面返還で合意、四月十二日に橋本首相とモンデール駐日大使が共同記者会見をして発表するに至ります。沖縄の米軍基地の整理縮小は、橋本首相が"政治の師匠"と仰ぐ故佐藤栄作首相が実現した戦後史に残る沖縄の「核抜き本土並返還」をさらに一歩進める画期的な業績で、沖縄県民の熱意に自民党政権が応えるとともに、日米の安全保障協力再構築に欠かせないものでした。
日米両政府は四月十五日、日米安全保障委員会(2+2)を開催して沖縄に関する特別行動委員会(SACO)の基地整理縮小に向けた中間報告を了承。これを踏まえ、クリントン大統領が四月十七日に来日し、橋本首相との会談で「日米安保共同宣言」を合意し発表しました。こうした一連の橋本政権の努力は、核開発疑惑が晴れずミサイル実験も進める北朝鮮、潜在的緊張関係が続く中国と台湾など極東情勢をにらみ、わが国の安全保障に万全を期すためのもので、平成九年九月の「新たな日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)決定につながりました。
内政では、平成八年度予算案に含まれる住専の不良債権処理策をめぐって、与野党が対立しました。住専が次々に破綻し日本の金融システムがパニックを起こせば、不況に苦しむ日本経済への打撃は図り知れません。国民生活の困窮化を回避するため、政府・与党は住専の経営責任を明確にしたうえで六千八百五十億円の公的資金を投入する方針を打ち出したのですが、野党側はこれに反対。新進党は衆院予算委の審議を拒否したうえ、三月四日からは国会内に議員らが座り込んで審議の妨害をするというピケ戦術をとりました。
ピケは二週間以上も続き、国民の批判は新進党に向き、三月二十四日に投・開票が行われた参院岐阜補選では与党候補が圧勝しました。こうした状況を見据えて橋本首相は二十五日に新進党の小沢一郎党首と会談、衆院予算委の再開にこぎつけます。新年度予算案が衆院を通過したのは四月十一日、参院で成立したのは五月十日でした。この通常国会の期間中、新進党の支持母体のひとつである創価学会の政教分離問題、平成九年四月一日から五%に引き上げることが決まっている消費税率問題などが、自民党内で大いに論議されました。
橋本首相は国会運営に難渋する一方、三月一日からタイのバンコクで開かれた第一回アジア欧州首脳会議(ASEM)に出席、韓国の金泳三大統領との会談で竹島の帰属問題を切り離した排他的経済水域の決定と漁業交渉の早期開始で合意するなど、外交にも汗を流しました。四月十八日にはロシアを訪問し、エリツィン大統領と北方領土の解決と平和条約の早期締結に向けた交渉継続を確認。六月二十七日からのフランス・リヨンでの主要国首脳会議(サミット)では、アジアの代表として活躍しました。
九月十七日、臨時国会が召集され、橋本首相は冒頭で衆院を解散しました。この直前、新党さきがけ代表幹事だった鳩山由紀夫氏、菅直人氏、新進党の鳩山邦夫氏らによる民主党が旗揚げしていました。自民党、共産党を除く各党は内部の動揺が激しく、初めての小選挙区比例代表制度による総選挙によって、国民の政党に対する審判を行うタイミングと橋本首相は判断したのでした。
自民党は十月二十日の投開票の結果、過半数には至りませんでしたが、改選前の二百十一議席から二百三十九議席に大きく伸び、国民が政権を任せることができる第一党と考えていることが明らかになりました。橋本首相は、社民党、新党さきがけは閣外に転じたものの引き続き協力関係を維持したうえで、十一月七日、第二次橋本内閣を発足させました。同月二十八日に初会合をひらいた行政改革会議が取り組む中央省庁再編と地方分権、財政構造改革会議が取り組む財政再建、疲弊した制度の改革へ本格的なチャレンジが始まったのでした。
この年末にはペルーで日本大使公邸人質事件が発生、平成九年四月二十三日の武力解決まで、政府と自民党には、人質の安否を気遣うやり切れない日々が続きました。
平成九年一月に召集された通常国会の施政方針演説で橋本首相は、六つの改革を断行して行く決意を表明します。「行政」「財政構造」「社会保障構造」「経済構造」「金融システム」「教育」がそれで、首相は「痛みを忘れて改革の歩みを緩めたり、先延ばしすることは許されません」と強調しました。この六つの改革は、経済不況の深刻化から一時的な方向転換を余儀なくされた「財政構造改革」を除き、自民党の真摯な努力によって、その後、着実に実現に向けて進んでいます。
この年の通常国会は、前年のような波乱もなく順調に進み、平成九年度予算も三月二十八日に年度内成立しました。介護保険制度の創設など少子高齢社会に備えた「社会保障構造改革」、個々人の多様な能力の開発と創造性、チャレンジ精神重視に転換する「教育改革」など、国民が切望する改革を進める橋本政権に野党陣営も抵抗するわけには行かなかったのです。
首相はこの間、メキシコのセディージョ大統領、米国ゴア副大統領、マレーシアのマハティール首相、ドイツのヘルツォーク大統領ら来日した各国首脳と会談。六月には米国・デンバーでのサミットに出席した後、ニューヨークの国連で地球環境保護を訴えて演説、オランダで日・EU定期首脳会議を行うなど精力的な外交を展開しました。
七月二十七日、首相はサミットでのエリツィン大統領との会談を踏まえ「信頼、相互理解、長期展望」を原則とする対ロシア外交の基本方針を発表しました。それは、同年十一月の東シベリア・クラスノヤルスクでの首脳会談による「二〇〇〇年末までの平和条約締結」合意、平成十年四月の静岡県・川奈での橋本首相からの「国境線画定の新提案」など、その後の日露関係進展の基礎になりました。
総裁任期二年が終了した橋本首相は九月八日に無投票で再選され、十一日に内閣改造をして第二次橋本改造内閣を発足させました。このころから、大手を含む金融機関の経営悪化がいっそう著しくなり、橋本政権はその対策に追われるようになりました。十一月末にカナダで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の非公式首脳会議、十二月中旬にマレーシアで行われた東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議などで、橋本首相が熱弁をふるったのも日本とアジアの金融危機の問題でした。
十一月三日、中堅の三洋証券が東京地裁に会社更生法の申請をして事実上倒産。続けて都市銀行最下位ながら北海道経済の柱だった北海道拓殖銀行が大量の不良債権で資金繰りがつかなくなり同月十七日に北洋銀行などへの事業譲渡を決め、破綻しました。その五日後、こんどは四大証券のひとつで従業員七千五百人、預かり資産二十兆円を越える山一証券が自主廃業に追い込まれ、経済界だけでなく国民全体に大きな衝撃を与えます。山一証券の事実上の倒産は、金融不安に拍車をかけ、日本経済の国際的な信用という点からも深刻な事態でした。
橋本政権は、十一月十八日に十兆円の金融安定化のための緊急対策を決定、十二月十七日には首相が記者会見して二兆円の特別減税実施を表明するなど対策を打ち出しました。首相自らが先頭に立って監督官庁である大蔵省を督励するなどの努力もしました。
年が明けて平成十年一月に通常国会が召集されると、橋本首相は施政方針演説で「金融システム安定化策と経済運営」に全力を尽くす決意を強調、世間の風向きを変えようとしましたが、経済界を覆う暗雲は容易には去りません。そんな折り、接待疑惑の発覚などで国民の不信を買った大蔵省に東京地検の捜査のメスが入り、ベテランの金融検査官が収賄容疑で逮捕され、この責任をとって三塚博蔵相が辞任するなど、景気の足をさらに引っ張るような不祥事もありました。
橋本首相が主導する「六つの改革」は着々と進展し、「財政構造改革」は平成九年十一月末に、二〇〇三年(平成十五年)には赤字国債の発行をゼロにするなどを内容とする財政構造改革法が成立していました。「行政改革」は、十二月三日には行政改革会議が中央官庁を一府十二省庁に再編する最終報告を決定し、平成十年六月に中央省庁改革基本法案が成立します。
財政構造改革は、子供や孫の世代に赤字のしわ寄せが及ばないようにするために不可避の政策と考えられ、財革法に基づいて平成十年四月八日に成立した平成十年度予算も緊縮型でした。しかし、不況にあえぐ国民の声を踏まえ、橋本首相は一時的な方向転換を決意します。予算成立の翌日に四兆円の特別減税上積み実施を発表、四月二十四日には財政健全化目標の先延ばしなど財革法改正方針とともに総額十六兆六千五百億円の総合経済対策を決定しました。六月九日には、大蔵省から金融行政の大部分を切り離す金融庁も発足させました。
四月にインドとパキスタンが地下核実験を行い、国際的にも騒然とした雰囲気の中で、七月十二日に参院選挙の投・開票が行われ、自民党は改選議席の半数に届かない四十四議席という予想外の不振でした。経済不況と金融不安が、責任与党である自民党の得票に大きく影響したと、党員は率直に受け止めました。橋本首相は七月十三日、「(参院選挙の結果は)すべてひっくるめて、私自身に全責任がある」と言明して、潔く首相と自民党総裁を辞任する意向を表明しました。
社民党と新党さきがけは参院選挙を目前にした五月三十日に連立与党を離脱しました。一方、新進党は前年暮れに一部が民主党と合流、残るメンバーは自由党と新党平和、公明に分裂していました。
自社さ連立は四年の長きにわたって維持されました。このことは、わが国政治史に特筆されることです。三党はオープンで民主的な手法をとり、「自衛隊」「日米安保」「日の丸・君が代」など国家の基本問題についてのコンセンサスを確立したのをはじめ、水俣問題、原爆被爆者援護法の制定などの「戦後五十年問題」を解決、さらに住専処理、日米安保共同宣言、NPO法の成立など、「五五年体制」では為し得なかった課題を解決し、大きな前進を見ることができました。 
 
小渕恵三

 

1998年7月30日-2000年4月5日(616日)
官房長官時代に昭和天皇が崩御。元号変更にあたり、記者会見で「新しい元号は「平成」であります」と平成を公表した。新元号の発表は、国民的な注目を集めていたこともあり、小渕は「平成おじさん」として広く知られるようになった。小渕が「平成」と書かれた額を掲げるシーンは、いまだに時代を象徴する映像として多く利用されている。
昭和天皇崩御にともない官房長官として大喪の礼などの重要課題を取り仕切った。しかし、官房長官に就任してすぐの閣僚名簿の発表時に堀内俊夫環境庁長官の名前を呼び忘れるなど、発言の訂正が多く「訂正長官」と揶揄されることもあった。
1991年(平成3年)4月、当時自民党幹事長だった小沢一郎が東京都知事選挙に際し、NHK論説主幹だった磯村尚徳を強引に担ぎ出したものの、自民党都連は小沢に反発し現職の鈴木俊一を推すという分裂選挙を引き起こし、結局鈴木が完勝。小沢が引責辞任したため自由民主党幹事長に就任。このとき、金丸は小渕幹事長就任の経緯について「ファースト・インプレッションだ」と語った。
1992年(平成4年)10月、竹下派(経世会)会長の金丸信が東京佐川急便事件で議員辞職に追い込まれると、金丸の後継をめぐって小沢一郎と反小沢派の対立が激化。小沢派が推す羽田孜と、反小沢派が推す小渕との間で後継会長の座が争われた。
激しい権力闘争の末、最後は竹下の後ろ盾を得ていた小渕が、半ば強引に後継の派閥領袖と決まった。しかし小沢、羽田らは反発して改革フォーラム21(羽田・小沢派)を旗揚げし経世会(小渕派)は分裂。1993年(平成5年)、羽田らは自民党を離党して新生党を結成した。
その後、1994年(平成6年)に自民党副総裁に就任したものの、党務に従事したため、重要閣僚のポストには無縁で埋もれかけた。
1995年(平成7年)、自由民主党群馬県支部連合会の会長選挙に際し、衆院選での小選挙区の候補者選考をめぐって小渕に不満を持っていた中曽根康弘が小渕の県連会長続投に異議を唱え、それに同調した福田康夫らにより小渕は自民党群馬県連会長の座を退任に追い込まれた(後任は尾身幸次元経済企画庁長官)。群馬県では「小渕の政治生命もこれで終わり」という声がもっぱらであった。
1996年(平成8年)1月、村山富市首相の辞任に伴い、小渕派の橋本龍太郎が内閣総理大臣に就任。小渕派会長の小渕は政権への意欲を示したものの、野中広務らの説得により、現実的判断をとって橋本支援に転換。橋本の対抗馬であった河野洋平とソリの合わなかった加藤紘一に党幹事長のポストを渡すなどの工作を行った。
また、同年10月の第2次橋本内閣の発足に当たって、小渕の衆議院議長就任の話がもちあがる。小渕自身、一時は意欲を示したが、59歳でいわゆる「上がりポスト」である議長に就けば、将来の首相の芽がなくなると地元の支持者たちが猛反対し、側近の額賀福志郎や青木幹雄、綿貫民輔らや秘書の古川俊隆らも反対であったため、就任を固辞した。小渕の名前が消えた後、議長には竹下に近い伊藤宗一郎が就任した。
1997年(平成9年)9月、第2次橋本内閣改造内閣で外務大臣に就任し表舞台に復帰。対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)を外務省の強い反対を押し切って締結した。この事業に関しては政敵の土井たか子や菅直人からも高い評価を受けるなどし、外相としての評価を高めたことが、次期首相就任へとつながっていった。
1998年(平成10年)7月30日、第18回参議院議員通常選挙での敗北の責任をとって辞任した橋本の後継首相になる。しかし、橋本と同派閥の小渕の登板に当初は各方面から批判を浴び、低支持率からのスタートとなった 。
突然の発病と死
低空飛行の支持率からスタートした政権だが、公明党との連立などで政権基盤は安定し、長期政権も視野に入っていた。しかし2000年(平成12年)4月2日に脳梗塞を発症した。実はこの前日、連立与党を組んでいた自由党との連立が決裂しており、4月2日午後、政権運営がより困難になったと思われるこの緊急事態について記者から質問されると小渕はしばし答弁できず無言状態となっていた。言葉を出すのに10秒前後の不自然な間が生じていた。これは一過性の脳梗塞の症状と考えられており、梗塞から回復したときに言葉を出すことができたとされる。
元々小渕には心臓病の持病があり、それに加えて首相の激務が脳梗塞を引き起こしたと考えられている。通常執務終了後、公邸に戻ってもおびただしい書類、書籍、新聞の切り抜きに目を通し、徹夜でビデオの録画を見るのが普通で、一般国民にまでかける数々のブッチホンを始め、休日返上で様々な場所に露出するスタイルや、外相時代から引き続いて外遊を多くこなしたことも健康悪化に拍車をかけた。
小渕は意識が判然としないまま、当日夜、順天堂大学医学部附属順天堂医院に緊急入院したとされる。そして、執務不能のため内閣官房長官の青木幹雄を首相臨時代理に指名したとされる。しかし青木の首相臨時代理就任に関しては、脳梗塞で既に意識を完全に失っていたかもしれない小渕本人に果たして指名を行うことが出来たのかと、野党・マスメディアに「疑惑」として追及された。
「疑惑」の張本人であり小渕首相の臨時代理でもある青木自身が「脳死ではないのか?」との記者からの異議申し立てを却下したため、また、担当医師たちが曖昧な説明ないし指名は不可能だったと思わせる説明しかしなかったため疑惑は残り、後任の森喜朗総裁誕生の舞台裏と併せて「五人組による密室談合政治」と批判される原因となった。
4月5日、小渕首相が昏睡状態の中、青木首相臨時代理は小渕内閣の総辞職を決定した。内閣総理大臣の在職中の病気を理由とした退任は1980年(昭和55年)6月に急逝した大平正芳以来20年振りのことであった。
その後も小渕の昏睡状態は続き、意識を回復する事の無いまま、倒れてから約1か月半を経た同年5月14日午後4時7分に死去。62歳だった。なお奇しくも父と同じ病気で倒れ同じ病院で亡くなっている。戒名は「恵柱院殿徳政信宝大居士」。
5月15日、その前日(死亡当日)の日付で大勲位菊花大綬章が贈られた。5月30日、衆議院本会議で村山元首相が追悼演説を行った。衆院での首相経験者への追悼演説は野党第一党党首が行うのが通例であり、本来なら民主党代表の鳩山由紀夫の予定であった。しかし、遺族側がこれを拒否し、例外的に首相経験者で野党社会民主党衆院議員(前党首)の村山による追悼演説となった。
これは当時、鳩山が小渕のドコモ株疑惑を強烈に追及していたためである。野中広務は後日、国会で、小渕への哀悼の意を表明した鳩山を「前首相の死の一因があなたにあったことを考えると、あまりにもしらじらしい発言」と痛烈に批判した。遺族は鳩山に強烈な悪感情を抱いていたという。6月8日、日本武道館において内閣・自民党合同葬が執り行われ、それに合わせた弔問外交も行われた。
2か月後の衆議院選挙には次女の小渕優子が後継として群馬5区から出馬した。この選挙は小渕前首相の弔い合戦であるかのような様相を呈し、小渕優子は次点の山口鶴男(元日本社会党書記長・元総務庁長官)に13万票以上の大差をつけて当選した(以後、小渕優子は連続当選し、4期目の現職である)。
2006年(平成18年)5月、七回忌を前に「小渕元首相を偲ぶ会」が開催され、森喜朗・橋本龍太郎・青木幹雄・小寺弘之らが参加した。 
事績
第25回主要国首脳会議に併せて行われた日米首脳会談後の記者会見(1999年6月18日)
1998年の参議院選挙で自民党が追加公認を含め45議席と大敗すると橋本内閣は総辞職に追い込まれ、現職外相の小渕が自民党総裁選に出馬した。当初、橋本からの政権禅譲が期待されたが、前官房長官梶山静六と現職厚相の小泉純一郎が総裁選に出馬し激しい選挙戦を展開。三候補について田中眞紀子からは「梶山は士官学校卒業だから『軍人』、小泉は変な人だから『変人』、そして小渕は『凡人』などと評された。総裁選では亀井静香らが同派閥出身の小泉ではなく梶山に票を流すなどの工作もあり(後に亀井らは清和会を離脱)、梶山と小泉を破り党総裁に就任した。
7月30日、国会で首班指名を受け第84代内閣総理大臣に就任。しかし、与野党が逆転している参議院では民主党代表の菅直人が首班指名され、日本国憲法第67条の衆議院の優越規定により辛くも小渕が指名されるなど、当初の政権基盤は不安定だった。加えて、参院選で大敗した前首相と同派閥の小渕は新鮮味が薄く、マスコミからも批判を浴びた。新聞誌上に「無視された国民の声」などという見出しが並び、就任早々から「一刻も早く退陣を」と書きたてた新聞もあった。ニューヨーク・タイムズには「冷めたピザ」ほどの魅力しかないと形容された(後に、記者団にピザを配った事がある)。
総理大臣当時、目指すべき国家像として「富国有徳」を打ち出す。この概念は静岡県知事に就任した石川嘉延により引き継がれ、石川知事時代の静岡県のスローガンの一つに掲げられた。
同年10月、金融国会において金融再生法案は野党・民主党案丸飲みを余儀なくされ、10月16日には参議院で防衛庁調達実施本部背任事件をめぐって、額賀福志郎防衛庁長官に対する問責決議が可決され、額賀は辞任に追い込まれた。この時から、当時の参議院議長の斎藤十朗と政治手法をめぐって火花を散らしていた。
しかし、その一方で、政権基盤の安定を模索し、野党の公明党、自由党に接近。11月に公明党が強力に主張した地域振興券導入を受け入れ、自由党党首・小沢一郎とは連立政権の協議開始で合意した。
1999年(平成11年)1月、自由党との連立政権発足。この事で政権基盤が安定し、周辺事態法(日米ガイドライン)、憲法調査会設置、国旗・国歌法、通信傍受法、住民票コード付加法(国民総背番号制)などの重要法案を次々に成立させた。この様な政治手腕に対して中曽根康弘元総理は文藝春秋誌において「真空総理」と評した。
同年9月、自民党総裁選でYKKの一角・加藤紘一元防衛庁長官と山崎拓元防衛庁長官を破り総裁に再任。10月に公明党が正式に与党参加。続く内閣改造・党三役人事では、幹事長・森喜朗を留任させ、総務会長には加藤派が推挙した小里貞利を拒否、政調会長・池田行彦を総務会長に起用し、河野洋平を外相に起用した。また山崎派が推挙した保岡興治の入閣も拒否し、深谷隆司を通産相に起用した。これは総裁選後の報復人事と囁かれた。
この時の人事では早稲田大学雄弁会OBから玉沢徳一郎農林水産大臣、青木幹雄官房長官を起用。また地元の群馬県から福田赳夫の娘婿の越智通雄金融再生委員長、中曽根康弘の息子・中曽根弘文文部大臣、山本富雄の息子・山本一太外務政務次官を起用した。この国会では、労働者派遣法を改正し、派遣を原則禁止・例外容認から、原則容認・例外禁止に大きく転換させた。
2000年2月、自由党の要求を受け衆院の比例代表区定数を20削減する定数削減法を強行採決で成立させた。3月には、教育改革国民会議の開催を始めた。
同年4月1日、自由党との交渉が決裂し、連立離脱を通告されるが、翌日に脳梗塞で緊急入院。4月4日に正式に内閣総辞職した。在職616日。いわゆる五人組によって後継に森喜朗が選出され、森内閣に引き継がれた。
小渕内閣の特徴として、全体の方針を策定するだけで、各省庁の個別の案件は国務大臣自らの裁量に任せるというのが小渕内閣であった。
「日本一の借金王」と自嘲したように、赤字国債発行による公共事業を推し進めた張本人としても批判された。ただ、在任中は、日本銀行のゼロ金利政策やアメリカの好景気、何より積極財政の成果により、経済は比較的好調で、ITバブルが発生した。日経平均株価も2万円台にまで回復させた。合計約42兆円の経済対策の内訳は、公共事業が約4割を占めているが、減税や金融対策などにも充てられた。また公明党の発案で地域経済の活性化と称し地域振興券を国民に配布したが、これは「バラマキ政策の極致」と酷評された。また、労働者派遣法を改正した結果、特殊分野だけだった派遣業種は大幅に拡大した。
評価
周辺事態法、通信傍受法、国旗・国歌法など、長年の懸案を一気に片付け、金融不安に終止符を打ち、任期後半は経済も堅調に推移していた。外交では日米関係を順調に発展させる一方、韓国の金大中大統領との間で歴史問題の「区切り」と未来志向の日韓関係で合意、東南アジア関係も深化した。
他方で中華人民共和国の江沢民の謝罪要求や北朝鮮の不審船問題に対して節度を保ちながらも一定の強い対応を示した。こうして、硬軟織り交ぜながらも外交でも多くの成果をあげた。
また沖縄問題に強い思いを寄せた最後のリーダーとも言われ、沖縄への手厚い振興策や沖縄サミット開催の決断も業績に数えられる。
以上のような小渕の政権運営は、近年、再評価もされている一方で、1998年の労働者派遣法の改正によって派遣業種が拡大し、男性を中心に雇用が減少のうえ女性のパートタイマーの数が増加した。また一人当たりの現金給与額は1997年比べて大きく減少し、自殺者の数においてはその年に初めて大台の30,000人を越え、創価学会を支持母体にもつ公明党とも初めて連立を組んだ。このほか国旗・国歌法とバーターで成立したという説もある男女共同参画社会基本法など、その後の日本社会に与えた影響は大きいとも言われている。
1998

 

談話 / 平成10年7月31日
私は、この度、内閣総理大臣の重責を担うことになりました。内外ともに数多くの困難な課題に直面する中、わが身は明日なき立場と覚悟して、この難局を切り拓いていく決意であります。
先の参議院議員通常選挙において、国民が何にもまして日本経済の一刻も早い回復を求めていることが明確に示されました。またアジアをはじめ世界の国々が強い関心をもってわが国の経済運営に注目しています。私は、日本経済の再生をこの内閣の最重要課題と位置づけ、金融機関の不良債権の抜本的な処理や税制改革など景気回復に向けた政策の実行に全力投球いたします。
わが国を取り巻く現下の諸情勢を直視して、国民の皆様の声に謙虚に耳を傾け、財政構造改革法は当面凍結いたします。しかしながら、前内閣が取り組んでこられた諸改革は、二十一世紀の本格的な少子高齢社会に対応できる明るい未来を切り拓くためには、何としてもやり遂げなければならない課題であり、これを継承していきます。特に、中央省庁再編をはじめとする行政改革はスリムで効率的な行政や民間活力の活性化のために不可欠のものであり、不退転の決意で実行してまいります。
外交については、日本の安全と世界の平和の実現に向けて、国際社会における日本の地位にふさわしい役割を積極的かつ誠実に果たします。日米両国の友好関係を基軸にして、アジア太平洋地域の平和と安定を確保していくとともに、沖縄をめぐる諸課題の解決にも最大限の努力を傾けます。日露関係については、橋本前総理が築いてこられた成果を手がかりにして、二○○○年までの平和条約の締結を目指し、粘り強く努力いたします。
わが国は今、二十世紀から二十一世紀への時代の大きな転換点に差し掛かろうとしています。来るべき新しい時代は、私達や私達の子孫にとって明るく希望に満ち溢れた時代にしなければなりません。私は「鬼の手、仏の心、鬼手仏心」を政治信条にして、国民の英知を結集し、この難局を政治主導で乗り越え、次の時代の礎を築く決意であります。闇深ければ曉も近し。明日を信じて、共に前進しましょう。
国民の皆様のご理解とご協力を心からお願いいたします。
内閣総理大臣説示
初閣議に際し、私の所信を申し述べ、閣僚各位の格別のご協力をお願いする。
一 この内閣の使命は、先の参議院議員通常選挙において、わが国経済の停滞が続く中で国民が一刻も早い景気の回復を求めたことを真剣に受け止め、日本経済の再生を最重要課題として位置づけ、国民の要求と期待に的確に応えていくことである。
二 景気回復のために直ちに取り組むべきことは、景気回復の足かせとなっている金融機関の不良債権の抜本的な処理であり、今国会に所要の法案を提出し、早期成立に努力してまいりたい。また、税制についても早急に具体的な検討を行い、所得課税、法人課税の恒久的な減税を実施するなど、総合的な経済構造改革を果断に実施してまいりたい。
三 二十一世紀を目前に控え、少子高齢化の急速な進展を踏まえて、わが国の様々な社会システムを改革していくこともこの内閣の重要な課題である。特に、前内閣が心血を注いで取り組んできた行政改革については、中央省庁の再編や地方分権、規制緩和の推進などスリムで効率的な体制の確立に向けて、一層の努力を傾けていく所存である。その際、閣僚各位は、所管行政という狭い視野にとらわれることなく、国政全般に対する高い識見を発揮し、事務当局を強力に指導していただきたい。
四 国民の行政に対する信頼を取り戻すためには、国家の主権は国民にあることを常に念頭に置き、国民本位の行政を徹底していくことが何より重要である。公務員の綱紀の保持に万全を期すとともに、情報の公開など行政の透明化に努め、国民に信頼される内閣となるよう、ご尽力いただきたい。また、政策の遂行に当たっては、国民に対して分かり易い言葉で、率直かつ十分な説明をお願いしたい。
五 内閣は、憲法上国会に対して連帯して責任を負う行政の最高機関である。国政遂行に際して活発な議論を行うとともに、内閣として方針を決定した場合には一致協力してこれに従い、内閣の統一性及び国政の権威の保持にご協力願いたい。 
記者会見 / 平成10年7月31日
このたび私、内閣総理大臣の重責を担うことになりました。内外とも我が国、極めて困難な時局に際しまして、私自身、全知・全能を傾け、全力を挙げてこの難局に当たる決意でございます。国民各位、皆様方の御協力と御支援を心からまずお願い申し上げたいと思っております。
私は自ら35年の政治経験の中で、多くの方々から力強い御支持もいただき、また、学ぶべき点は多くを学ばしていただきましたが、自らの持てる総合力を駆使いたしまして、多くの国民の声に率直に耳を傾けながら、現下の困難な問題に果断に対応し、スピーディーに事を処理することによりまして、国民各位の信頼を再び勝ち得てまいりたいと思っております。重ねての御支援をお願いいたす次第でございます。
そのためには何よりも内閣総理大臣といたしまして、力強い内閣を組閣することが最初の仕事でなければならないと考えておりました。
重厚にして清新な内閣をいかにつくるかということで腐心をいたしましたが、幸いにいたしまして、経済再生内閣という現下の経済問題の解決に当たりまして、その内閣の中にそうした多くの能力を持たれる方々に御入閣をいただきまして、まずは昨日新しい内閣が発足することができたことは誠に幸いだと思っております。
何よりも現在、日本におかれた経済的な危機を打開するためには、大変申し訳ないことではございましたけれども、内閣総理大臣を御経験をされました宮沢先生に再び御出馬をいただき、大蔵大臣としての重大なお仕事にお取り組みをいただくことにお願いをいたしました。
先生の持つ国際的な信頼感、またかつてこの金融の問題につきまして、早い時期からこの問題を現下の重大な経済問題、そしてまた、金融の不良債権の処理なくしては、日本経済の再生はあり得ないと以前から御主張されておられたわけであります。
また、党内におきましても、この問題につきまして、いち早くその責任を持って、党内のこの処理問題につきまして、先頭に立って御努力をいただきました。
したがいまして、この際、宮沢先生のお力をちょうだいいたしたいということで、まず大蔵大臣としての責任を果たしていただけることになりましたことは、この内閣の大きな、強力な問題処理のためにありがたいことだと思っております。
また同時に、この内閣におきましては、先見性と識見を持たれる民間の堺屋太一先生にも経済企画庁長官として御入閣をいただきました。かつて石油ショックのときも『油断』という御本も書かれましたが、今日の時期におきましては、昨日の記者会見で申されましたように、自分自身がこの際内閣に入っていただきたいということは、まさに国難の時期に当たってでなければそうしたことはなかったと申されておりますとおり、この民間で御活躍をされ、種々の識見を持たれる氏の御活躍も心から期待をいたしておるところでございます。
また、この内閣におきましては、党内におきまして、実務者として活躍をされました多くの中堅、若手の皆さんにも閣僚として御活躍をいただくことになりました。そうした意味からも、この内閣は重厚にして清新な内閣として本日の課題に十分応えるものだと、こう認識をいたしております。
私もそうした内閣の各員の皆さんと力を合わせまして、冒頭申し上げましたように、経済再生内閣しての責任を十分果たし得るように、その先頭に立って努力をいたしていきたいと思っております。
事に当たりましては、果断に、そしてスピーディーに問題の処理に当たりましては対処いたしていきたい、このように考えております。決断と実行を旨としながら国民の御期待に沿うように真剣に取り組ませていただきたいと思います。
今申し上げましたように、この内閣にとりましての最大の課題は景気の回復でありますが、この問題につきましては、あらゆる施策を総合的に組み合わせながら解決を目指していかなければならない。金融問題、そして財政の問題、税制等、あわゆる手段を総動員をいたしまして、対処いたしていきたいと思っております。
また、この内閣に対しまして、前の選挙の反省にかんがみれば、国民の皆さんにはいろんな意味での不安が存在をいたしておるわけであります。たとえて申し上げれば、これからの少子高齢化社会に当たりまして、自分たちのこれからの年金支給等につきましても、21世紀にわたりまして、どのような形になるかという不安もございます。そうした年金等、将来の国民生活の不安の解消、明るい展望を切り開くために、私は富国有徳という言葉をキーワードにこれを目指していきたいと思い、そして21世紀には安心できる社会を築き上げていきたいと考えております。
富国有徳ということは、すなわちそうした経済の面、あるいは身近な生活に資するための医療、年金、その他の問題について、それを実行するためには、国として経済を安定して富ましていかなければならないと思っております。
同時に、日本の国も、これから世界の中で本当に信頼をされる立派な国家として有徳の国家としていかなければならない。このことを目標にしながら、21世紀を目指していく第一歩を築いていかなければならないと考えております。
さて、こうした経済の我が国の状況の問題につきましても、かつての我が国と異なりまして極めて大きな実力を持つ国家として存在をいたしておるわけでありまして、我が国の経済の状況は一人、我が国のみならずアジア全体に大きな影響力を及ぼすと同時に、国際経済に対する大きなこれまたインパクトがあるわけでありまして、そうした意味で我が国のこの景気を回復し、安定した成長を目指していくということは、一人、我が国のことのみならず、国際的な責任を持っていると言っても過言でないと思っております。内政は外交であり、外交は内政であるということでありますので、こうした観点から経済的な我が国の責務を果たしていきたいと考えております。
一方、外交面におきましては何と言っても我が国が存立するためには世界の中で信頼される国家として生きていかなければなりません。従来とともに、米国との同盟関係は更に強固のものにいたしていかなければならないと考えております、またアジアにおける昨年来の金融危機に際しまして、大変厳しい我が国の財政状況ではありましたけれども、仲間として、アジアの一国として協力を申し上げてまいりましたが、そうした観点に立ちましてもアジア、そしてまたこれからはアフリカ、中近東、そしてヨーロッパ、すべてにわたりまして日本国としてその責任を果たしていきたいと思っております。
特に当面する外交課題といたしましては、しばしば申し上げておりますように日ロの平和条約締結を目指しての最終的段階が来たりつつあると思っております。前橋本首相とエリツィン大統領との個人的信頼の下に両国の関係はここ一両年、誠に大きく進展をいたしておるわけでございまして、私は橋本前総理と外務大臣という立場でともに相協力して本問題に積極的に取り組んでまいりましたが、まさにその結論を得るかどうかが今秋、そして来年の春にかけて結論が生まれようとしております。20世紀に起こったことを20世紀のうちに解決をしたいという意欲の下に、願わくば橋本前総理にも本問題につきましては特別に大きなお力をちょうだいするお立場にもなっていただきまして、対処してまいりたいというふうに考えております。
いずれにいたしましても、国民の声に最大限に耳を傾けまして、十分この声を、心を心として対処いたして、国民的英知を結集して難局の打開に取り組んでまいりたいと思っております。
特に国際的金融の問題につきましても宮沢大蔵大臣にもお力をちょうだいをいたしまして、その解決に対処していかなければなりませんが、内閣としてもそれに対してのお手伝いをしていかなければならぬと考えておりまして、この政策を内外に分かりやすく説明する必要があるのではないか。我が国でいろいろやろうとしておりますことも、最近ですからいろいろなメディアを通じて国際的なマーケットにもいろいろお伝えをされてはおりますけれども、内閣といたしましてもこうした問題を逐一広く世界に発信をしていかなければならない。こういう観点から、国際金融施策についての助言を受けるとともに、内外に的確・迅速に説明をするために、私は行天氏を本日付で内閣特別顧問に任命をさせていただいた次第でございます。
いずれにいたしましても、現下の厳しい経済環境を一日も早く乗り越え、マイナス成長と言われる我が国の経済を可能な限り早く回復してプラス成長を達成していくことによりまして、国民生活を安定させていくことがこの内閣の最大の使命であるとの観点に立ちまして、全力を挙げて努力をいたしてまいりたいと思っております。私一人の力をもってしてなかなか困難でありますが、申し上げましたような力強い内閣を組織することができたと思っております。
この内閣を一致結束をいたしまして、諸課題に対処し、そして国民の期待に沿うように、後がないという気持ちを持ちまして私として対処いたしてまいりたいと思います。重ねて国民各位の御理解と御協力を心からお願いを申し上げる次第でございます。
【質疑応答】
● 最初に、今回の組閣に当たって、総理は自民党の総裁選挙のころから派閥順送りの人事はしない。あるいは、幅広い層から登用したいということをおっしゃっていました。この目標は達成できたのか。それから、経済再生内閣と銘打たれた内閣のキャッチフレーズ、これについて最初にお尋ねします。
これは国民の皆さんの御判断に尽きるとは思いますが、私といたしましては総裁選挙で広く内外に私の考え方を申し述べた点につきましては、これは私としては最善の内閣ができたものと考えております。もとより、更に多くの人材を民間に求め、経済界に求め、そしてジャーナリストに求め、そういうことが可能でありますればいろいろな方方にも御協力をいただきたい点もございましたが、そうした中で先ほど申し上げましたような方々にも御参加していただきました。
ただ、党内におけるやはり御協力、そして融和ということも、これまた政治を進めるためには大切なことでございまして、そうした意味におきまして、従来に引き比べまして私といたしましては党内のそれぞれの方々の中で、先ほど申し上げましたように特に中堅、そして若手、それぞれの分野で長年党内で研鑽を積まれ、政策面でも責任を持っておられる方々に閣僚として、自らその日ごろの考え方を発揮していただける方にお入りいただいたという確信がございますので、十分その期待に応えていただけるものと考えておる次第でございます。
また、女性といたしまして、最年少の野田聖子郵政大臣にも入閣をお願いをいたしました。やはり今後こうした若手にも自民党の政策を推進する上で大いに国民の皆さんに訴えていただける方だろうと、これまた大きな期待を寄せておるところでございます。
● 何かキャッチフレーズのようなものはお考えになっていますか。内閣の今後の政策推進に当たって。
キャッチフレーズというのはなかなか難しゅうございますけれども、先ほど申し上げましたように、何と言っても今の経済を回復させなければならぬということで言えば経済再生内閣ということかと思いますが、強いていろいろ御指摘をいただければ、重厚にして清新の内閣と、こう理解をしていただければ大変幸いだと思っております。
● 次に、野党側が先の参議院選挙で自民党か敗北して橋本前総理が退陣したということで、新内閣もここではやはり国民の審判を受けるべきだということで衆議院の解散総選挙を断行すべきではないかという声もあります。これに対して、自民党側は早期解散は有利ではないという理由から、こうした解散権を総理が行使しないのではないかという見方もありますが、こうした疑問にどう答えるのか。残り2年余りの衆議院議員の任期中は解散しないおつもりか、この辺のお考えをお聞かせください。
解散権というものは内閣総理大臣に与えられた最大の権能だというふうに理解いたしております。したがいまして、内閣総理大臣といたしましては、政治的なデシジョンを行わなければならないときには解散を断行して国民の信を問うということは、これは当然至極なことだと思っております。ただ、今、御質問にありましたように、現在、自民党が参議院選挙の結果を踏まえて、選挙に不利であるがゆえに解散を行わないということは私はあり得ないと思う。
私が申し上げておりますのは、現在のこの経済的危機は国難と申すべき時期でありまして、申すまでもないことでございますが、本日国会を開催をして、暑い8月も引き続いて国会の御審議を野党にお願いしているゆえんのものは、金融再生トータルプランを含めまして、いわゆる金融の不良債権処理がなくして日本経済の一つの大きな解決の、問題の処理にはならぬということで、こうした法案につきましても、できる限り早い機会に国会に提出をいたしまして、その処理をお願いをしておるゆえんのものは、ここで解散総選挙をして、2か月も3か月も、ある意味の政治的空白を行うということは、これはまさに一日一日が極めて日本経済のディクライニングを止めるための時期として一時もおそろかにできないという趣旨で、今直ちに解散を断行して、国民の信を問うということよりも、なすべきことを今なすことが、今、我が自民党政府としては最大の問題である。こういう認識の下に現時点では解散に踏み切るという考え方はないということで御理解いただきたいと思います。
● 続いて経済問題なんですけれども、総裁選挙のときから公約されておりました総額6兆円を超える減税、これについて、その実施の時期と財源、それとの絡みで財政改革法の取り扱いをどういうふうにするのか。こうした言わば景気対策に続いて景気回復の目途は時期的にどの辺に置いていらっしゃるのか。これを伺います。
まず、総裁公選におきますときに、もちろん我が党の国会議員、党員に対する公約であると同時に、基本的な私自身の公約と申し上げて、この減税の問題あるいは10兆円超の補正予算の問題、あるいはまた行政改革に対する橋本内閣としての方針を更に強化し、倍加して、これを徹底的に推し進めようということにいたしました。いずれにいたしましても、公約をいたしましたことは必ずこれは断行いたします。
ただ、現時点におきまして、まだ自由民主党自体の御了承をちょうだいいたしておりませんが、私がこうして総裁に選ばれ、総理に選任されたというゆえんのものは、私の考え方に少なくとも自由民主党の国会議員の諸先生方もそれとして、これからこの問題について深い認識を持っていただいておるものと理解をいたすと同時に、私自身も説得、そしてこの考え方を是非理解を求めて、願わくば、この私の公約が必ず現実のものとして成り得るように、それこそ身を捨てて努力をしていきたいと思っております。
そこで、減税の問題につきましては、私はかねてから恒久減税は図らなければならない。それはいまや税制は日本だけの税率構造ではやっていけないグローバルな世界になってきておるということは御案内のとおりでございまして、そうした意味で、所得税といい、あるいは法人課税といい、いずれにしても、いわゆるアメリカ、イギリス、その他の国に引き比べて相当の利率の差がある。これが4月1日の金融のビッグバンによりまして、お金が自由に社会を駆け巡るという時代にこのような状況であってはならないというかねてからの考え方をいたしておりましたので、是非抜本的税率構造を改正することによって、世界的な形に持っていくべきだと、こういうふうに考えておりましたら、時あたかも、この経済の形態、そして景気の問題に直面しておるわけでございますので、そうした観点からも、所得減税等につきましては積極的に取り組む必要があるのではないか。こう考えまして、所得課税並びに法人課税につきましては、6兆円超の減税を必ず実行したい、実行するというお約束を申し上げておりますので、できる限り早い時期に、これは党の税調、政府税調、それぞれ専門家でございますので、所得税であればどの程度の刻みでいたしていくかというような問題もありますので、御相談は申し上げたいと思いますけれども、是非これを、恒久減税を実現をしていきたい。こういうふうな考え方で、必ずこれをやりたいという強い意思を改めて表明させていただきたいと思っております。
財源につきましては、今、赤字公債でこれを実施いたしていきたいというふうに考えております。なるほど財政構造改革という大きな問題が橋本内閣以来、継続しておることでございます。
また、そのための法律も成立をし、かつ一部修正をいたしておるわけでございます。先ほどの御質問の最後は、この法律につきましてもどのように対処するかということでございますが、これは申し上げておりますように凍結をいたしていくということでございます。
● 景気回復の目途は。見通しは持たれていますか。
目途につきましては、これは今申し上げたような施策を複合的にあらゆる手段を講じて努力をし、そして、これを実行していくということになれば、希望としてはこの1両年の間に必ず日本経済は上向きとなり、更にこれが倍加していくということになれば、日本の財政におきましても、多くの租税がそれなりに歳入として図られる時代が必ずそう遠くない将来に生まれてくると思いますが、いずれにしても、その端緒になるべき経済が上向きになり、そして、国民の皆さんも前途を展望しながら、自らの持てるお金その他を消費にも回していただたくという気持ちが生じてくるためには、この一両年、最も大切であり、そこを目途に私としてもあらゆる施策を講じてまいりたいと思っております。
自民党総裁選挙のときには、この期間というものが極めて重要である。この時期にそうしたことを行うことができずんば、私としても大変大きな決断をせざるを得ないとさえ申し上げておるところでこざいます。
● 国会運営についてお尋ねしますけれども、参議院が過半数割れをしている中で、それから部分連合という言葉も聞きますけれども、どの党と協力関係を模索していくのか。具体的に、公明であるとか、自由党とも協力関係を模索されるのか。その辺のお考えをお聞かせください。
お尋ねのように、現実は大変シビアであります。しかし、私は今般の参議院選挙の敗北に思いをいたし、今後、参議院においては野党各党と本当に誠心誠意、心をむなしゅうしてお話し合いを進めさせていただきたいと思っております。
今、お尋ねのように何党と言われましても、これは政策もお考えも、それぞれ政党はよって立つ基盤が異なるわけでございまして、したがいまして、それぞれの政党とはその与党と政府といたしましても、これから国会で法律としてお願いいたすべき法律、そのそれぞれにわたりまして、それぞれの政党と真剣にお話し合いをさせていただくことになろうかと思っております。一方的に政府といたしまして、法律案ができ上がりましたから、国会に提出して、イエス・オア・ノーと言っても、これは参議院におきまして、直ちに野党の皆さんの御理解で賛成するということにはなりかねない点もあります。
もとより、その内容にわたりましては、野党の皆さんも、現下の経済状況にかんがみますれば、経済関係諸法案につきまして、私はいたずらに御反対されるということはあり得ないと、こういうふうに是非お願いしたいと思っております。
したがいまして、法律案につきまして、ある意味では提出以前におきましても、お話を申し上げるということもございますし、また、国会の論戦等を通じまして、野党それぞれから対案というものが出てくるということでありますれば、最近の私も政治に直面しておりまして、かつてのように何でも御反対ということから、それぞれ考え方を政党並みに御提案されて、それをベースにして政府の施策について御批判もし、御提案もされているという事態を拝見してきましたので、必ず私はそういった意味で、国会の中での論議論戦の中で一つの考え方がまとまって、国会の意思が明らかになるという理解もされるわけでございまして、これをパーシャル的な連合と言うのかどうか分かりませんが、それぞれの案件ごとに十分真摯にお話し合いをされてまいれば、必ずその結論に導き、ゴールに至ることができる。これは、よって国民のための政策であり、その結果であると認識しております。
したがいまして今、お名前を挙げられましたけれども、どの政党ということを今、申し上げることはできかねるわけでございます。
● それから、橋本前総理が、六大改革というのを掲げておられましたけれども、先ほど財革法については凍結というお話がございましたが、この六大改革につきまして、見直すものがあるのかどうか。あるとすれば具体的にどこをどう見直すのか。また、白紙に戻すというものもあるのかどうか。その辺のお考えをお聞かせください。
私は21世紀に向けて橋本内閣、すなわち自民党内閣が掲げてきた六大改革に基本的に誤りがあるとは思っておりません。特にこの順番から言いますと、最後に教育改革ということになっておりますが、私はこの教育改革というものは最大の、21世紀に向けて日本人として教育、人づくり、国家百年の計だと考えております。したがいまして、前町村文部大臣が敷いてきました路線というものを実は高く評価いたしてきたわけでございますが、今般引かれましたので、私としては参議院として比例区で先般の選挙で第1位として我が党が推薦を申し上げました有馬先生にあえて文部大臣に御就任をいただきまして、この教育改革の問題について十二分な腕をふるっていただきたいと、こういう気持ちで実は御就任をいただいたわけでございます。
その他、5つの問題、社会保障の問題、これらは少子高齢化社会の問題ですから、これはいわずもがなですが、みんな日本の御婦人も含め、あるいはサラリーマンの方々も含めて、本当に次の世紀一体どういうことになるかという不安がありますから、年金の改革の問題等も含めまして、是非これを引き続いてやっていきたい。
それから、金融改革の問題につきましては、これはまさに今、金融再生トータルプランを行うことによって、その方針は進んでいくべきものだというふうに思っております。
行政改革、これはせっかくに法律をつくっておるわけでございますから、これが実現方については既にレールは敷かれたというふうに考えておりますので、これはこれから一つ一つ着実に努力をしていかなければならないと思っております。
財政改革につきましては、今申し上げました。その理念として私は正しいものがあったと思っておりますが、現下の生きた経済社会の中、特に全世界的な大きな金融不安の状況、特にバンコクで始まった昨年の金融不安等によりまして、これを徹底的に行うということは日本経済にとって大きな問題であるということでございますので、財政は当然のことですが入りと出、レベニユー・ニユートラルでなければならないということは、これは歴史の示すところでございますが、しかし、政治というものはそうした形でその時期時期において、適宜適切に対応する必要があるという意味で、先ほども申し上げましたように、本問題につきましては、一時凍結をいたして、またやがて将来明るい未来が生じてくるということの中で、日本の財政も健全化していかなければならない。こう考えております。
経済改革にしてしかりでございまして、したがいまして、六大改革につきましては、それぞれにおいてよりスピードを早めなければならないもの、より実行を的確なものにしなければならないもの、そして、申し上げましたように、この際、凍結もやむなしという問題等々、それぞれにわたりまして、私といたしましては、もう一度、それぞれの六大改革をレビューして、この問題については時期に適したように対処し、もってその考え方を実行し、国民の皆さんに真にお役に立つような改革をし、新しい世紀を本当に喜びを持って迎えるような時代にしていかなければならない。その基礎をつくっていきたいと、このように考えております。
● 外交についてお尋ねしますけれども、先ほど総理は日米の同盟関係を更に強固なものにしたいとおっしゃいましたけれども、訪米日程でお考えになっていることがあれば教えていただきたいと思います。
前の橋本総理が公式にクリントン大統領から御招待をされておりながら、残念ながらワシントン、ホワイトハウスに参ることができませんでした。しかし、本日、私がこうして総理としての責任を負うことになりました。一日も早く時期を得てクリントン米大統領と階段の機会を得たいというふうに思っております。先般、ARF(アセアン地域フオーラム)でオルブライト国務長官と会談いたしました折、彼女の方からも、是非、もし、まだ総理に指名をされておりませんでしたが、そうなりましたら早い機会にその機会をクリントン大統領としてもつくりたいと思いますので、その場所、時期につきましては今の時点では正確にお知らせすることができませんが、私の気持ちとしても是非これまた国会が極めてその進展状況が定かではありませんけれども、お許しをいただければ日米の外交の基軸であることは言うまでもありませんので、まず橋本・クリントン両首脳がつくり上げた個人的なビル・龍の関係に勝るとも劣らない関係を是非私としては構築していきたいと、このように考えておる次第でございます。
● 中川農水相の従軍慰安婦問題についての発言についてお伺いしたいんですが、中川さんは就任後の記者会見等で従軍慰安婦問題について強制性があったかどうか、政治家としては判断は慎まなければいけないのではないかというような趣旨のことと、その問題を教科書に乗せるのは適切ではないのではないかというような趣旨の発言をされております。それで、後で撤回はなさっているんですけれども、その発言について総理としてどのようにお考えかという点が1つです。それともう一点は、農水省は今後日韓の漁業交渉の問題ですね。緊急の課題を抱えていますが、そういった中で中川さんを任命された点についてどのようにお考えでしょうか。
まず、最後の慰安婦の問題についての発言と農水省の任命とは何らかかわりがあることではありません。中川農水大臣は、かねて以来我が党におきましても最も農林水産関係の政策に明るい方でありまして、お父上のことを申し上げるまでもありませんが、故中川一郎先生もやはりその面のエキスパートであったわけでありまして、その御遺志も継いで熱心にお取り組みいただいておることで私は高い評価をしておるつもりであります。そこで、冒頭のお尋ねにつきましては、私もその報告をいただきました。私がいただいた範囲では誤解がありましたので、一切そうしたことにつきましては取り消されたと、発言のすべてを取り消した、消されたということでありますし、その一部で言われていることは、自分としては内閣の責任者になった以上は私ども自民党の内閣として取り続けておりますところの基本的政策はそのとおり遵守をするということを前提に、今、誤解をされるようなことをお話をされたと聞いておりますので、その一切を否定をされておられるということでございますので、何ら問題はないというふうに考えております。
● 沖縄問題担当の野中大臣はかつてこうおっしゃっているんですけれども、例の普天間のヘリポートの問題について、現状で本当にヘリポートでいいのか疑問であると。政治は現実であるというふうなことを言われたことがあります。それで、現在ヘリポートの問題については宙に浮いていると思いますけれども、どのように解決されていこうというふうに思われていますか。
これもしばしば私も外務大臣としても御答弁申し上げておりますように、沖縄県の米軍基地につきましては整理統合、縮小ということについて日本政府としては全力で今アメリカと話し合っておるわけでございますが、そのためにSACOの最終報告を沖縄県といたしましての責任者もはいった上でこれをつくり上げておるわけですから、これを着実に実施するというところに我々の責任があろうかと思っております。
そこで、普天間の基地の返還と海上ヘリポートの建設につきましては、残念ながら海水面の使用権を巡りまして地方自治体の権能の問題もこれあり、現在におきましては膠着状態になっておることは非常に残念の極みでございます。特に前橋本総理といたしましては、この問題を大統領との間におきまして、これを2人の信頼において、この大きな基地の返還ということについて決断をし、そしてアメリカの理解を求めてこれを進めてきた。それについては沖縄県におきますいろいろなお考えもこれをお聞きをしながら進めてきたにもかかわらず、本日の事態になったことは誠に残念だというお気持ちを持っておると思います。私も外務大臣としてその答弁ぶりを国会で聞いておりまして、本当に前総理のお気持ちが痛いほど分かるわけでありますが、さりながらこのままでいいというわけにもまいりません。
したがいまして、改めてこの沖縄における、特に普天間基地の返還につきましては、本日内閣としても、できればこの担当の方をどなたかお願いをして、もちろん、沖縄開発庁長官もございますし、政務次官として沖縄県出身の下地政務次官も就任しておりますので、我が政府としてどういう解決方法があり得るかということについて、これまた真剣に取り組んでまいりたいと思っております。
さりながら、この問題も政治を離れてはなかなか解決し得ない問題でございまして、したがいまして、これからいろいろ各種選挙もございますので、県民の理解と協力なくしてこれをいたずらに強行するということの意思はありません。ありませんが、是非沖縄県の特にあの北部の皆さん、そして名護の皆さん、こうした方々の理解がどの程度進んでまいるかということについて、いま一度新しい市長さんも誕生しておることでございますので、十分これからその真意を確かめながら、我々としては、この政府としては是非前内閣の掲げた、また約束をいたしましたことの実現化のために、全力で努力をしてみたいと、このように考えております。
● 経済戦略会議という構想をお出しになっていますが、これについてどういう考えで、どういう人選で、いつごろ実現されるお考えか、お聞きしたいと思います。
これはやはり総裁選挙のときに私としてこれを取り上げさせていただきました。余り外国の例を取ることは私は控えねばならぬと思っておりますが、アメリカにおきまして、この経済戦略会議のようなものがありまして、大統領にその考え方を取りまとめて、その施策の方向性を定めているという会議がございましたので、そのことがちょっと念頭にありまして、その経済戦略会議の考え方を主張いたしておるところでございます。
まだラフでございまして、どの人にどうするかということはございませんが、私はこの発想の原点の一つには、今回、堺屋経済企画庁長官といろいろお話する過程でこの問題も出てきておりますので、長官のお考えなどもお聞きをしながら、そう何十人もおりまして、その考え方がかんかんがくがく議論をするだけで終わってしまうなどということでは、これは余り効果はない。このメンバーシップとしても最高10人、それ以下の皆さん、これは私としては民間の経済人、それからジャーナリスト、あるいはエコノミスト、そしてまたその他、学者の皆さん、こういう方々の中で是非この事態を乗り越えるためには小渕内閣としてかくことをいたさなければならないという考え方を具体的に、かつスピーディーに考え方をまとめていただいて具申をしていただける会議に是非お願いをしたいと思っておりまして、これもいつまでもというわけではありませんが、ここ1週間のうちには取りまとめて、私としてはその会議でまとまる、また具申いただく案件につきましてはこの政府の考え方としてこの実現を図っていきたいと、このように決意いたしております。
● 最初の御発言の中に東京銀行の行天さんのお名前が出ました、特別顧問ですか。これは具体的にもうちょっと詳しくお聞きしたい。もう一つは、日ロ関係の中で橋本前総理のことについて、大きな御協力もいただきたいとおっしゃいましたけれども、何か具体的に役目をやっていただこうという腹案がおありなんでしょうか。この2点をお願いします。
行天氏は、先ほど申し上げたように、本日付で内閣特別顧問に任命しました。これは先ほど申し上げましたように、日本の政策そのものが、いろいろなルートを通じまして発信されるものですから、なかなか政府そのものの基本的な考え方というものが必ずしも正確にとらえられておらないという点があるのではないか。そういう意味で言えば、御案内のとおり、財務官をされたと同時に、日本を代表する金融機関において責任を持ってこられた方でございますので、同時にまた、こうした問題につきましての見識も持つと同時に、表現力も、別に英語のことを申し上げるつもりはありませんが、経済的な問題を説明することのできる非常に稀有なお力を持っておると思っておりますので、初めてのことでございまして、まだこういうケースはございませんでしたが、現下の経済状況、特に日本の状況につきまして、時々刻々こうした問題を内外に発信をすることとして最適任だろうと考えまして、任命をさせていただいた次第でございます。
それから、第2の点の橋本前総理のことでございますが、これは常々この2人で日ロの問題を解決しようと、この一両年コンビを組んでやってまいりました。私は外務大臣としての務めはいたしてまいりましたが、やはりエリツィン大統領・橋本前総理との個人的な信頼関係、2度にわたるネクタイなしの会談を通じまして、極めてお2人の考え方が1つの方向にまとまりつつある今の段階だろうと思っております。
もとより橋本前総理も川奈におきましても、総理大臣として、これが我が国としてのロシアに対する提案としては、これ以外にないという気持ちで御提案されております。この実現のために、今まで果たされてきた努力と信頼というものは日本にとりましても極めて貴重なものだと思っております。
そこで、今この時点では、どういうお仕事になったらいいかということについては、確たるものはありませんが、私としては、私自身のこの内閣の責任において、公の立場に立っていただいて、特に日ロの問題、加えますれば、包括的な外交の問題につきましても、大いに活動いただく、総理大臣をお辞めになったから御引退ということではなくして、もちろん、衆議院議員としてその責任を果たすということをお聞きをいたしておりますけれども、それにも増して極めて重要な時期に差し迫っておる日ロの関係につきまして、大いに腕をふるっていただけるようなお立場を取っていただきたいと。今、真剣にこのことについて考慮し、その暁には前総理にもこのことをお願いをいたしたいと思っております。
● 宮沢大蔵大臣の起用についてですけれども、宮沢さんの過去の言動を見ておりますと、例えばバブル期においては、バブルの勢いを止められなかったですとか、実際バブルが崩壊した後、宮沢さんは公的資金の金融期間への投入をいち早く提唱されていましたけれども、実際には投入されなかった。そうした宮沢さんについては、理論については超一流ですけれども実践はどうかなという指摘が国民の間に現にあります。それに大変失礼な言い方ですけれども、宮沢さんをあえて起用したということは、小渕総理の経済問題に対する自信のなさの表れではないかという指摘や懸念もありますけれども、その辺は率直にどうお答えになりますか。
これも率直に申し上げれば、私自身、大蔵大臣、通産大臣、経企庁長官という経験はありません。したがいまして、世評、こうした任につきますと、その道の専門家という評価もいただけますし、また、そうした方々はそれなりの経済に対する考え方を持っているかと思います。そういった意味では経済に、あるいは疎いかもしれません。しかし、私自身も政治家として36年間、我が家も小さな零細企業の経営者でございまして、経済そのものの動きにつきましては、全く関知しないという立場ではありませんでした。
しかしながら、一人の力をもってしてすべてを解決することができるほどのスーパーマンは世界にもそういるものではないと思っております。
したがって、私としては、私の持つ総合的な力の中でその道の専門家の皆さんに、本当に最大限力を発揮していただきまして、この困難な状況を乗り越えるためには、最も日本の政治家の中でふさわしい方は宮沢前総理をおいてほかにない、こういう考え方の下に、あえて私、三顧の礼をもってお迎えし、入閣していただいたわけでございまして、その本日まで取られた対応についての御指摘が今ございました。
言い返すつもりはありませんが、では、公的資金を投入しなければ、日本の不良債権問題は解決しないと今おっしゃられたように、最初にこのことを申し上げられたのは前総理であったと、今御指摘があったとおりでありまして、その当時の時点のことを考えられまして、大変失礼でございますが、マスコミの皆さんも、あるいは政治家の私自身も残念ながら、これほど不良債権がそれぞれの金融機関に累積をして、それぞれの金融機関がまさに倒れんとするというような状況に立ち至っている状況についての認識は残念ながら持ち合わせておりませんでした。
しかも、住専の問題の時のあの時の議論や、あるいはいろいろな報道等を通じましても、実際この危機的状況についての本当の意味での国民的な理解がなかったことは残念の極みでございまして、国会の審議の状況を思い起こしましても、御案内のとおりでございます。
今にして、それは遅れておると言えばそれまで。しかし、私はこの問題についていち早く問題を指摘し、あえて言えば宮沢総理自身も自らその問題について、最終的結論を当時において取り得なかったことに対して、本日、自ら身を乗り出してこれを解決するという意欲の大きな表れに、私は大きな期待と、その政治的な信念の発露というものを理解をして、あえてその任に当たっていただくことになったわけでございまして、それはトウーレイトであると言われればそれまでかもしれませんが、私は政治家の中としては、この問題についての重要性をいち早く見抜いて、その時点でそれをなし得なかったかもしれませんが、本日、この問題について取り組もうとされる、あえて元総理大臣というような肩書も、あるいはそれを除いてでも、小渕内閣というより、これは国民・国家のために今スピーディーに処置しなければならぬという、そのお気持ちに対して深い敬意を表し、ともにこの問題に対処していきたい、このように考えております。 
小渕内閣総理大臣・金大中韓国大統領・共同記者会見 / 平成10年10月8日
総理大臣
このたび、金大中大統領閣下を国賓として我が国にお迎えできたことを誠にうれしく思います。
日韓関係の重要性と可能性を理解されておられる大統領と胸襟を開いて語り合うことができたことは、私の大きな喜びであります。
私と大統領は、ただいま21世紀に向けた新しい日韓パートナーシップをうたう日韓共同宣言に署名し、日韓関係に新たな歴史的1ページを記すこととなりました。我々は日韓両国が更に高い次元の友好協力関係を発展していく第一歩を、今まさに踏み出したのであります。
両国関係の過去及び現在そして未来を語る中で、私は日本政府を代表して、我が国が過去の一時期、韓国国民に対し、植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受け止め、これに対し痛切な反省と心からのおわびを申し上げました。この気持ちは多くの日本国民が共有していると信じております。
大統領は私の言葉を真摯に受け止め、評価するとともに、両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好に基づいた未来指向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である旨表明されました。これを一つの区切りとして、両国の国民が和解し、交流のうねりが高まっていくことを願ってやみません。
同時に、私は1965年の日韓国交正常化に至るまでの両国の先人の努力、それ以降の緊密な友好協力関係を想起するものであります。この関連で、私は今日までの韓国の飛躍的な発展と民主化に敬意を表しました。
これに対して大統領は、第二次世界大戦後の国際社会の平和と繁栄に我が国が果たした役割を評価されました。私は今や日韓両国の政治指導者に課せられた使命は、過去に関するこれまでの葛藤を克服し、共通の価値観に立脚する真の友好協力関係を発展させていくことであるとの確信を抱きました。この点は大統領も同じ思いであると思います。
共同宣言が示す新たな日韓パートナーシップの実施は、両国関係の飛躍的発展に向けた大いなる挑戦であり、広範な両国国民の支持が不可欠であります。この場を借りて私と大統領は、両国国民に対し、このような共同作業への参画を呼び掛けたいと思います。
漁業交渉の妥結に関連し、私は大統領とともに両国交渉関係者の努力に対し深甚なる敬意を表します。今後、新たな資源秩序の下で、漁業分野での両国の関係が円滑に進むことを心から期待いたします。
私は大統領との間で、両国がおのおのの経済的諸問題の解決に向けた確固たる決意を確認し合うとともに、我が国としても、韓国の経済情勢に関心を払い、必要な協力を引き続き行っていくことを明らかにいたしました。投資促進に向けた措置の実施や、日本輸出入銀行による新規支援は両国が自らの経済困難の克服とともに、アジア経済の抱える諸問題に共に対処していく姿を象徴するものであります。
また、21世紀に向けて日韓両国民のさまざまな交流を一層増進させていくことで意見の一致を見ましたことも大きな成果であります。
閣僚等政府レベルの対話の強化のみならず、未来を担う青少年交流を一層活発化させるためのワーキングホリデーの制度、中高生交流事業、韓国理工学部の大学生の我が国留学のための新規措置などは、未来の日韓関係の前進にとり大きな意義を持つものであります。
また、大統領の対日文化開放方針の決定は極めて大きな前進であり、2002年のワールドカップ共催に向けて、両国の国民的文化交流が一層進むことを期待いたしております。
北朝鮮に対する政策につきましては、大統領と有益な意見交換ができました。朝鮮半島の平和と安定を重視し、また、北朝鮮から責任ある建設的対応を得るという共通の戦略的目標の下、日韓両国はおのおの進める対北朝鮮政策に対する理解と支持を明らかにし、引き続き米国を含めた3か国で緊密に連携していくことを改めて確認をいたしました。
このたびの日韓首脳会談を通じて日韓両国の改善に向けた我々の政治意思を示すことができたことに私は満足しております。大統領も同じ思いであられると思います。
今後、21世紀に向けて大統領との友情を大切にしながら、新たな日韓パートナーシップの実施に向け、全力を尽くしてまいります。
どうもありがとうございました。
金大統領
まず日本政府と国民が、我々一行を温く歓迎してくださいましたことに対し感謝の言葉を申し上げます。
小渕総理大臣との首脳会談は大変有益なもので、その結果に満足しており、今回の会談を通じて民主主義と市場経済に基づく韓日間の未来指向的な善隣友好協力関係の確固たる土台が構築されていることを確認いたしました。
特に小渕総理大臣とともに21世紀の新しい韓日パートナーシップ・共同宣言を発表することにより、新しい時代の韓日友好協力のページを開いたことは大変意義深いことであります。
小渕総理大臣と私は、両国が過去の不幸な歴史を克服し、21世紀に向けた未来指向的な関係を発展させていくことで合意いたしました。
私はパートナーシップ・共同宣言を通じまして、韓日両国が単純な両者関係の次元を超えてアジア太平洋地域、ひいては国際社会の平和と繁栄のためのパートナー関係に発展することを期待いたします。
小渕総理大臣と私は韓半島の平和と安定が北東アジア地域の安全保障に重要であるという認識の下、韓日米間で緊密な協助体制を維持していくことを確認いたしました。
また、小渕総理大臣と私は、北韓の人工衛星発射試験で示された中長距離弾道ミサイルの発射能力が韓日両国を含めた北東アジアの安定に深刻な脅威の要因になり得るとの認識で一致し、韓日米が緊密に協議しながら対応していくことにしました。
小渕総理大臣は韓国政府の北韓包容政策に対して理解と支持を表明し、KEDOの軽水炉事業を成功裡に推進するため、韓日間で引き続き協力してことにしました。
小渕総理大臣と私は両国の経済構造調整努力の成功と、アジアの金融危機克服に向けて緊密に協力していくことにいたしました。
私は日本が韓国の通貨危機克服に必要な追加的な金融支援を行ったことに感謝の意を表明いたしました。
小渕総理大臣と私は両国間の貿易の拡大均衡のために共同で努力することにしました。また、小渕総理大臣は日本企業の対韓国投資が引き続き拡大するよう、日本政府が持続的に協調していく考えを表明いたしました。
小渕総理大臣と私は、日本の工科大学に韓国人留学生を派遣することで合意し、このことは21世紀の建設的韓日関係の増進に大きく寄与するものと信じております。
小渕総理大臣と私は、韓日漁業協定が妥結し、韓日二重課税防止協定に署名することになったことを歓迎しました。
小渕総理大臣による青少年交流に関する御提案は、未来の韓日両国関係の発展に大きく貢献するものと評価し、韓国としても、それに相応する方策を検討いたします。
小渕総理大臣と私は、2002年ワールドカップの韓日共同開催が成功裏に行われ、韓日友好の象徴となり得るよう、緊密に協力していくことにしました。
私は日本の大衆文化を段階的に開放するという方針を表明しており、このことが両国文化の健全な発展と、両国間の善隣友好に寄与することを期待しております。
私は日本政府が在日韓国人に地方参政権を与える問題を前向きに検討することを要請いたしました。
小渕総理大臣と私は、人権、軍縮、麻薬、環境問題など、全世界的な問題に共同で対応し、国連など国際舞台で両国間の緊密な協力を維持、強化していくことを確認いたしました。
私は小渕総理大臣の公式の訪韓を招請いたしました。今般の首脳会談を通じ、私は韓日関係の発展に向けた小渕総理大臣の熱意と識見に感銘を受け、総理大臣との有誼と信頼を深めたことを大きな喜びと考えております。
ありがとうございました
【質疑応答】
● それぞれに質問させていただきたんですけれども、日韓両政府はこれまでも首脳会談などの機会をとらえて、未来指向の関係というのを何度か打ち出してきたと思うんですけれども、必ずしも過去の歴史認識などを巡って、そこから脱却できないできているという側面があると思います。今回の一連の会談と、今日の合意を経まして、本当に日韓両国というのは過去の一つの区切りをつけて21世紀に向けた新たな関係を発展させていくことができるのかどうかということ。それから、それに関連しまして、昨日、金大統領が言及されました天皇陛下の韓国公式訪問について、その時期と意味合い。それから、今も言及がありました韓国の日本の大衆文化に対する解禁について、どういうスケジュールをお考えになっているのかと。以上、質問させていただきます。
それではお答えいたします。
第1問でございますが、冒頭の会見の発言でも申し上げましたように、私は金大統領に対しまして、日本政府を代表いたしまして、我が国が過去の一時期、韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受け止め、これに対し痛切な反省と心からのおわびを申し上げました。
これに対し大統領から、御自分のお言葉で真摯にこれを受け止め、これを評価すると同時に、両国の過去の不幸な歴史を乗り越えて、和解と善隣友好に基づいた未来指向的な関係を発展させるため、お互いに努力することが時代の要請である旨表明され、私自身もそのお言葉を心から信頼し、真摯に受け止めさせていただきました。
お尋ねにありましたように、過去何回かこうした発言がされましたが、今回は共同宣言という形で両首脳が署名という行為を行いました。これは大統領も今世紀に起こったことにつきましては、今世紀で一つの区切りをついて、新しい21世紀に向けて、これから前に向かって両国の関係をより緊密に、すばらしいパートナーシップをつくり上げたいという強い御意思がございました。
私はそういう意味で、大統領のこのお気持ちを深く受け止め、そして、我が国の立場も明らかにし、これから21世紀はまさに過去は過去として、新しい時代に向かうという認識をいたしましたので、私は21世紀はその共同宣言の趣旨に基づきまして、これから大いに前進できるものだと考えて、確信をいたした次第でございます。
次に、陛下の御訪韓のことにつきましては、金大中大統領より、天皇陛下の御訪韓の時期が早く来ることを望むと。韓国国民の温い歓迎の中で訪韓する時期が来ることを願う旨の御発言がありました。これに対し自分より、お言葉に心から感謝する。その旨につきましては、昨日の金大中大統領と我が陛下との会談におかれましても、その由をお伝えされておると聞いておる。
政府といたしましては、この点につきましては、今後環境が整備されてまいること、そして、よくこの点につきましては、検討してまいりたい旨申し上げました。このことは日韓の一層の発展にかける意欲は自分も同じものでありまして、日韓双方で協力して環境を整えるよう努めてまいりたい旨申し上げたところでございます。
金大統領  まず、過去の問題に対して御質問が出ました。今回こそすべての与件、環境が過去とは異なりますし、過去と異ならなければならないと思っております。
そして、このたび日本政府の過去の表現は、これまでとは異なるものでありまして、まずはその文章をもって正式に発表したということでございます。そして、韓国を直接名指しをして表明をしたということでございます。日本が韓国に対して与えた被害に対する反省とおわびを、その旨を表明したいということ。
つまり、形式におきまして、その重さにおきまして、過去とは異なることだと思っております。
そして、今、韓日両国は安保の面におきましても、そして経済協力の面におきましても、過去のいつよりもお互いに相互協力しなければならない状況でございます。
3番目に、我々が迎える21世紀の持つ本質的な差ということでございます。20世紀は民族中心の民族国家の時代でありました。21世紀は世界化の時代でございます。20世紀の遺産はここで清算をしなければなりません。そして、21世紀には世界が一つになる時代を迎えていかなければならないと思います。その中で一番近い隣の国からお互いに手をつないで協力をし、世界に向けて協力をしながら、時によっては競争もすると。そういうような関係が構築されなければならないと思います。
そのような21世紀の韓日協力関係は韓国の利益のためにも、そして、日本の利益のためにも絶対必要なことであると思っております。
今回の共同宣言はいろんな面で従来とは異なる側面があります。もちろん、我々は過去のことを再び繰り返してはならないと思っております。しかしながら、幾らよい宣言が発表されたとしても、両国の指導者と国民が誠意を持って引き続き努力することがなければ、それは完全なものにはならないと思いますし、そういうような側面で引き続きの努力が必要だと思っております。
続きまして、日本の天皇陛下の御訪韓につきまして、お答えいたします。
隣にいながら、そして国交樹立後33年が経ちましたけれども、いまだに日本の天皇陛下の御訪韓が行われていないということは非常に不自然なことであると思っております。
このたび韓日が新たな同伴者関係として出発をするのが、今後の両国関係の将来のために大きな発展的な影響を与えるというふうに信じております。
そして、2002年のワールドカップも世界的な祭りでありますが、これを共にすることは、過去に例を見ない共通の目標でございます。
そして、日本文化に対する開放の時代もやってきております。それは段階的に開放していきますが、それは相当な速度を持って進行される予定であります。
このように、すべてが天皇陛下が韓国国民の温い歓迎の中で訪韓をする、そのようなきっかけが行われなければならないと信じておりますし、そのために韓国政府として努力していきたいと思っております。
そのような点で、天皇陛下御訪韓が韓日関係を緊密に発展させていく上で相当大きな貢献をするだろうと期待をしております。
引き続きまして、文化交流について少し申し上げます。
私は、日本の文化に対する開放は、それが両国間の理解と協力の発展のために非常に重要であると思っておりますし、それをもって両国関係がもっと発展するだろうと思っております。
日本の歴史におきましてもそうでございますが、我々は中国から仏教と儒教と受け入れて、我々の文化を豊かにしてきました。これから、韓国と日本の間に文化交流が活発に行われるならば、それは両国の文化の発展のためになると信じております。
私は日本の文化に対して段階的に開放していくと宣言しましたが、その段階的な開放というのは相当な速度をもって推進されるだろうと予定しております。
このような文化交流が順調に行われるために、韓日文化交流協議会をつくって、両国の文化人が自主的に検討していくのが望ましいということで私はこれを提案いたしました。これに対しては、小渕総理大臣も受け入れられまして、このような機構が成立することを期待します。
ありがとうございました。
●韓国記者  まず小渕総理大臣に御質問いたします。本日、共同宣言にも過去のことに対して明確なる言及がありました。過去におきましても、このような言及はあったと思います。しかしながら、時として日本の指導者の方々から余り有益でない、つまり歪曲の発言がたびたび出てきまして、そのような約束を霧散にした経緯がございます。小渕総理大臣は本日の宣言をきっかけといたしまして、これ以上そのような発言は出ないだろうというふうに思っているのでしょうか。金第中大統領に御質問いたします。金大統領は25年前、ちょうどこの東京で拉致事件の被害者でいらっしゃいました。そして、本日は韓国の大統領に就任されましてここに来られました。しかしながら、今までそのことにつきましては、いかなる言及もされておりませんが、どのような理由があるのか。そういうことをお聞きしたいと思います。最後に、お二人の首脳に質問したいと思うんですが、韓日両国の経済協力に関連しまして、御所信と御意思というのをお聞かせください。
私からお答え申し上げます。
今回、過去の問題に関する日本政府の認識は会見の冒頭で政府を代表して申し述べたとおりでございます。
先ほど首脳間で署名した共同宣言にも明記されております。したがって、政府の姿勢は明らかでございます。
そこで、責任ある立場の方々がその発言におきまして、こうした政府の立場は十分尊重いただけるものと確信をいたしておりますし、同時に両国民の皆様には本日私が申し上げたことか揺るぎない政府の立場であることを明確にいたしておきたい思います。
こうした認識に立脚いたしまして、私と金大中大統領が確認したとおり、過去にかかわる問題を克服して和解を行い、来る21世紀に向けた共通の価値観に立脚する真の友好協力関係を築いていくことが最も重要でありまして、自分と金大統領との間で最高首脳間の信頼関係はその確固たる礎になるものと信じております。
先ほど大統領からも御発言がございましたが、極めて重要な文書を作成し、かつこれに署名をいたしました。この責任は金大統領も当然のことながら、私自身もその責を負う立場であります。
私は文書に署名したことと同時に、このことに関しまして、これから国民の皆さんにも十分その真意を御理解をいただいて、そして、先ほど来申し上げておりますように、20世紀で起こったことにつきまして、こうした形で両国の責任者がこうした共同宣言を発し、明日への誓いができたということにつきましては、私は必ずこのことを御理解を、双方の国民にもいただきまして、新しいスタートの、本当の意味での第一歩なるものと深く確信をいたしておるわけでございます。
また、そのことは金大統領も韓国におきまして、そうしたことの御理解をいただけることにつきまして、先ほど来お話がございました。
私は長らく日韓の問題につきまして、国会議員という立場で議員交流をいたしてまいりまして、長い間多くの韓国の政界、経済界、文界、各界の皆さんともお話をいたしてまいりました。率直に申し上げて金大統領とは昨年暮れ、大統領予定者、すなわち選挙に御当選された後、また、日韓の外相会談等におきましてお目に掛かり、実は今回をもって3度目でございます。
この間私も金大統領の今日までの政治経歴の中で自由と民主主義を守る、その一点で何度にもわたって、死線を超えてこられた政治的な大変貴重なキャリアと大きな足跡を残しておられる大統領でございまして、回数こそわずかでございましたが、私は大統領の持たれておられる信念の強さに改めて感銘をいたした次第でございます。
必ずや私は両首脳がまとめられたこの共同宣言に基づきまして、これから我々も努力を傾注いたしてまいりますが、国民の皆様におかれましても、このことについての御理解を得られるものと確信いたしておりますと同時に、我々自身もその努力を傾注していきたいと思っております。是非御協力のほどをお願いいたす次第でございます。
なお、経済問題につきましては、具体的な幾つかの問題につきまして合意を得ました。
また、こうした問題を話し合うために首脳同士はもとよりでございますが、経済閣僚、あるいは関係閣僚、その他政府の閣僚同士の話し合い、あるいはまたハイレベルの協議、更に民間の方々にも入っていただきました両国の経済問題について、大いにこれから積極的に取り組んでいきたいと思っております。日本自身も極めて厳しい経済環境でありますが、我が国は我が国のことのみならず、隣国、韓国の経済発展、これとともに力を合わせてアジア全体の経済に対しての大きな責任を負っているという立場でございますので、相協力して、この日韓の経済協力を更に深みのあるものにしていくことによりまして、その実績を上げてまいりたいということにつきましても、同意をいたしたところでございます。
金大統領  まず拉致事件についてお話しいたします。
私は1980年5月17日、軍事クーデターが起こる少し前に記者会見を通じてこの問題に対する私の立場を明らかにしました。この拉致事件をもって、両国政府に対していかなる問題提起もしないということでした。そして、拉致事件にかかわった犯人たちに対しても、その処罰は求めていないということです。
ただし、このことは人権の問題でありますので、その真相は究明されなければならないということでした。真相究明につきましては、適切な方法を通じて、それが明らかにならなければならないという私の考え方には今でも変わりはございません。
しかし、80年に既に話しましたように、両国政府に対してその責任を追及しないと。そして、その関係者に対する処罰も要求しないという立場には今でも変わりございません。結局、この問題につきましては、その真相が適切な方法で究明されることはできるだろうと今でも考えておりますし、将来この問題に対して必要な意見を明らかにする機会があるだろうと思っております。
経済問題につきまして一言申し上げます。
両国の経済協力につきまして、小渕総理大臣からお話がありましたので、私はそれに対して同感しますし、詳しくは申し上げません。
既に私は昨年の暮れから始まった韓国の外貨危機に際して、日本が世界のどこの国よりも積極的にその外貨危機の克服のために協力をしてくださったことに対して、公式に感謝するということを申し上げました。
そして、今回の会談で日本側が我々の経済危機克服のために多くの協力の意思を表明してくれたことに対しても感謝しております。ただし、これに対して2つを明確にしておきたいと思います。
1つ目は、日本が自国の状況も非常に厳しい中で韓国の経済に対して支援をしてくれる、その意味に対して心から感謝を申し上げたいと思いますし、我々は国内的に徹底した経済改革の努力をすることによって必ず我々の経済を回復させ、そしてこの難局を克服することによって日本が支援をした、そのやりがいがあるようにするために私は責任を持って努力していくことをここで申し上げます。
もう一つは、経済は経済であるということです。日本からも韓国に対する投資、そして経済協力。それは同時に我々の利益にもなりますけれども、日本の利益にもなるというふうな政策を取っていきたいと思います。
投資に関して申し上げれば、世界の中でどこの国よりも一番よい環境を整備していきたいと思っております。それによって日本の投資家が韓国で経営に成功して利益を上げるということです。
そして、貿易におきましても、相互利益の原則の下で推進していきたいと思っております。そのような意味で日本との貿易におきまして、問題になりました輸入先多角化の政策に対してもそれを繰り上げて早目に廃止する措置を取る予定でございます。
このようなことから、日本の経済協力が、我々の経済発展のためにもなりますけれども、日本の経済のためにもなるように、そのような協力関係を推進していきたいと思っております。
そして、日本が韓国に対して関税引き下げ、農畜産物輸入増大、つまり韓国の対日輸出を増大させることによって、これまでの貿易不均衡を最大限縮小していくことを願っております。
ありがとうございました。 
談話・日本長期信用銀行について / 平成10年10月23日
1.本日、日本長期信用銀行より、「金融機能の再生のための緊急措置に関する法律」(金融再生法)第68条第2項に基づき、「その業務又は財産の状況に照らし預金等の払戻しを停止するおそれが生ずると認められる」旨の申出を受けた。
2.金融再生委員会の設立までの間、同委員会の権限を代行する内閣総理大臣としては、長銀からの申出を踏まえ、その財務状況をも勘案し、本日、金融再生法第36条に基づく特別公的管理の開始の決定を行い、併せて、同法第38条に基づき、預金保険機構による特別公的管理銀行の株式の取得の決定を行ったところである。
3.今般の特別公的管理の開始の決定後も、長銀は、基本的には、従前通り、通常の業務運営を行うことになるが、金融再生法上の特別公的管理銀行として、例えば、新経営陣の選任、業務基準及び経営合理化計画の策定及びその承認、取得株式の対価の決定等、所要の手続が進められていくことになる。また、長銀からの申出と同時に、資産劣化防止の観点から、金融監督庁長官より同行に対し、銀行法第26条に基づく業務改善命令を発したところであり、長銀においては、新経営陣の就任前であっても、この命令を踏まえ、適切な業務運営を行っていくことが求められる。
4.今後、長銀に対しては、金融再生法に基づき、預金保険機構が業務に必要な資金の貸付けや特例資金援助を行うこととなっており、この結果、長銀の預金、金融債、インターバンク取引、デリバティブ取引等の負債は全額保護され、期日通り支障なく支払われるとともに、善意かつ健全な借手への融資も継続されることとなっているので、利用者におかれては、心配されることなく、良識ある行動を取られることを強く希望する。
5.政府としては、今後とも、預金者等の保護と信用秩序の維持、内外の金融市場の安定性確保に万全を期して参りたい。 
記者会見 / 平成10年11月2日・大阪市
● 2つ質問をさせていただきます。まず一つ、政府は、減税や景気対策など、地方財政の歳出をも伴う政策を行おうとしていますが、総理は破綻を目前にした地方自治体の財政再建に向けた施策を何かお考えでしょうか。あれば具体的にお答え願いたいと思います。続いて二つ目です。大阪ではオリンピックやサミット誘致の機運が高まっていますが、オリンピックに関しては、国内候補都市として大阪市が決まったものの、誘致に向けた閣議了承がいまだ行われておりません。両イベントの政府の誘致に関する具体的な方策があればお答え願います。
それではお答え申し上げますが、御指摘のとおり、地方財政が極めて厳しい状況にございまして、特に大都市部の府県で、景気の低迷によりまして、法人関係税を中心とした税収の落ち込みが非常に大きい。さらにここにまいりまして一段の厳しさを増しておるという状況については、十分認識をいたしております。先般の知事会議におきましても、山田知事が参られまして、冒頭このことを主張いたしております。
一方で、我が国経済は極めて深刻な状況にあることから、まず国、地方を挙げて当面の緊急課題である経済再生に全力を尽くす必要があると考えております。したがいまして、今後の景気回復策の実施に際しましても、地方自治体をはじめ関係方面の意見を十分承りながら、地方財政の運営に支障が生ずることのないよう適切に対処するとともに、個々の地方自治体においても、徹底した行財政改革を推進していただくことなどにより、地方財政の健全化を高めてまいりたいというふうに思っております。
重ねてですが、極めて厳しい財政状況にあることは承知をいたしておりますし、各市の地方税関係の税収が極めてこれまた厳しい環境にあります。そういう中で、実は国としての税制改正も考えておるところでございまして、これに伴いまして、国税・地方税との問題も起こってまいっておりますので、早急に大蔵大臣、自治大臣に指示を申し上げて、この調整方についても、最終的に減税を行うという場合には、調整が可能なようにいま折角の努力をお願いしておるというところでございます。
第2の大阪の五輪誘致についてでございますが、オリンピック開催を我が国でするということは、我が国のスポーツの普及、振興、国際親善の推進、社会経済の活性化等にも大きな意義を有することは認識をいたしております。
今回のオリンピックの大阪招致の活動につきましては、過去のオリンピック招致と同様、大阪への招致や開催に対する支援のあり方などについて、閣議了解が必要であると考えております。現在は文部省をはじめとする関係省庁におきまして鋭意検討を進めており、できるだけ早い時期の閣議了解を目指して取り組んでおるところでございます。今後とも大阪オリンピックの招致活動が円滑に展開できるように、適切に対処してまいりたいと思っておりますが、恐らくこのオリンピックについては、世界のかなりの有力な国が立候補されるのではないかと聞き及んでおります。そういう中で我が国大阪が何としても開催地に選ばれてほしいというのが日本国民の気持ちの総するところだと思いますので、そういう意味から言いましても、国を挙げてこれを支援するという意味での閣議了解というものは極めて重要だと理解しております。
過去大体、自治体がオリンピックを開催する年、それから開催都市の決定の時期、あるいは正式立候補、こういうのがあるわけですが、ぜひ閣議了解をできる限り早い時期にこれを行って、そして準備万端怠りないという日本の体制を整えていくことは極めて大切なことだという認識は深くいたしております。
● 今月の半ばに、政府が第三次補正予算をお決めになりますけれども、その内容で特に重視したいと思われている施策にどういうものがあるかということです。いまのところ事業規模10兆円超と言われていますけれども、その超にどの程度の上積みを考えていらっしゃるのか。現時点でのお考えをお聞かせください。
我が国の経済の現下の厳しい状況にかんがみまして、経済対策閣僚会議を開催いたしまして、11月半ばまでに緊急経済対策を策定することを決意いたしたところでございます。先週末に各省庁から提出された景気対策臨時緊急特別枠に盛り込まれる施策を含め、私の10月6日の閣議における指示に基づき検討されてきた施策を十分吟味して、タイムリーかつ効果的な緊急対策をとりまとめまして、これを受けまして、第三次補正予算を編成することをいたしたいと思います。
なお、その規模につきましては、従来より公約として、事業規模10兆円超の補正予算と申し上げているところでありまして、当初予算や一次補正の執行状況も見きわめつつ、現下の景気情勢に的確に対応した補正予算を編成するよう努力してまいりたいと考えておりますが、現下の経済状況の厳しさにかんがみまして、先般来、各省庁最高責任、すなわち大臣・長官に、それぞれとしてどういうものができるかということを十分検討して、これを提出してほしいということをいたしておりますので、そういった意味では、考え考え抜いて各省庁とも出してきていると思います。
それと同時に、政府与党といたしましても、現在の状況の中でいわゆる「10兆円を超えるような予算を」と、こういうことを言っておりますし、かなり党の幹部の皆さんにおかれましては、10兆円の中身についても、俗に言う真水でどの程度できるかということについて、強い主張もあるようです。ですから、当然のことですが、政府与党としての強い要請というものも受けとめなければならぬと思っておりますから、党の方からもより良い補正予算の中身というものが具体的に出てくるということであれば、私は常々申し上げておりますように、この機会に少しずつ出動するのではなく、やるべき時はきちんとやらなければならぬということを申し上げておりますので、しかし、それにはその内容が極めて重要なのでありまして、今時点において景気回復に大きな効果を発揮するということがポイントでありますが、同時に、これは長期にわたりましてもそういう施策が有効に国のために働くということでなければならぬと思っておりますので、ここは党・政府を挙げて補正予算の編成に向けて、大車輪で頑張ってみたいと思っております。
● 最後の質問になります。臨時国会を前に自民党は野党との政策協議を始めておりますが、特に自由党、公明党との連携について、どのような姿勢で臨むお考えでしょうか。特に商品券構想が出ておりますが、この実現性について総理はどうお考えでしょうか。よろしくお願いします。
まず最後の方の商品券構想につきましては、先日、公明、新党平和からの申し入れを神崎・浜四津両代表からお受けをいたしました。そのときに申し上げましたが、この問題については、実務的に種々の困難の問題もありまして、なかなかその発想自体がまだ初めてのことでございますので、その時点ではお答えを申し上げずに、この点については与野党間で十分御議論いただきたいということで、私お答えをいたしておきましたが、その後、自民党と平和、改革、公明とこの問題について政党間で話し合いが始まったように聞いておりますので、そうした動向も十分見きわめながら対処していかなければならないと考えております。
前段の各党との関係につきましては、過ぐる143国会をかえりみて、金融二法についても、再生法案あるいは健全化法案、それぞれ賛成をされた政党の組み合わせが違っておったわけですね。したがいまして、国会ですから、そうした国会の場面を通じて法案について議論をし、かつ、時には議員立法というような形で国民のために必要な法律というものを制定していくことは、これは国会のあるべき姿だと考えております。
ただ、政府といたしましては、政府としての基本的な考え方もございますので、政府としてこれが必要だという法案につきましては、これを野党の皆さんの御理解を得て法律を制定していくということも、これまた当然のことだろうと思うのですが、顧みますると、いろいろな各党間の話し合いというのに若干の時間を必要とした。これも民主主義でございますから、当然だろうと思いますけれども、あらかじめ国会が始まる前に、話し合いのできるものは私はしてもよろしいのではないかというふうに思っておりまして、したがって、いまこの商品券問題については、関係の政党と、それからまた、中堅企業に対する貸し渋りの問題等について、これについての諸施策がないか否かについては、自由党と自民党といろいろ話し合いを始めておるところでございまして、そういった形で各党間との話し合いの中で、より良き法律を制定していく作業も必要かと思いますが、今後、各党間との話し合いは、いずれにしても、積極的に政府としては、当然のことながら与党と、そしてまた野党の皆さんにも御協力を得られるような形のものをつくり上げる努力によって、各党間の支持を得て、国会に対処していきたいなというふうに考えております。 
説示 / 平成10年10月23日
金融再生担当大臣として任命するに当たり、私の考えを述べ、格段のご協力をお願いする。
一.今般、金融機能再生法、金融機能早期健全化法を「車の両輪」とする新たな法的枠組みが整えられ、本日施行となる。今後は一刻も早くその執行体制を確立することが重要である。金融再生委員会の発足は、本年十二月十五日までに行うこととされており、極めて短時日ではあるが、この間、委員の人選をはじめとする諸準備について、遺漏なく進めていただきたい。
二.金融再生委員会発足までの間は、法律上、私自身がその役割を担うこととなっている。現下の金融経済情勢を踏まえれば、委員会発足までの間、行政の空白を生じさせることなく、的確、着実な執行を行う必要がある。特に、金融機関の資本増強については、金融システム安定、景気対策等の観点から新たな法制の趣旨ができるだけ早く実現するよう、進めていかなければならない。その際、金融市場への影響にも配意しつつ、資本増強制度と検査監督行政の双方の運用を効果的に連携させていくことが必要である。担当大臣の任命は、とりわけ、この総理代行期間中の私の補佐役の重要性を考えたからであり、よろしくお願いしたい。
三.また、金融本来の健全な資金仲介機能が発揮されるよう、金融機関のいわゆる貸し渋り対策も重要である。これまでも種々の対応を図ってきたが、新たな法制に関していえば、金融機能早期健全化法における資本増強の申請の審査に当たり、借り手に対する融資の姿勢を重視することにしたいと考えている。中小企業等に対する信用収縮の問題への対処は、金融機能再生の大きなポイントであり、この点にも十分留意されたい。なお、通産省、大蔵省には、別途公的金融の分野での対応を強化するよう指示するつもりである。
四.更に、先の国会での議論を踏まえても、金融システムの安定に関しての国民の幅広い理解の必要性は改めて痛感されるところであり、広報の充実等にも意を用いる必要がある。
五.いずれにしても、以上の施策や課題については、私自身先頭に立ち、内閣の総力をあげて取り組む考えであるが、特に、貴職には、官房長官ともよく相談し、金融再生委員会設立準備室、臨時金融再生等担当室、金融監督庁、大蔵省等関係行政部局の調整を強力に進めることにより、これらの施策が円滑に推進されるよう取り組んでもらいたい。 
緊急経済対策に関する記者会見 / 平成10年11月16日
おはようございます。
この内閣を経済再生内閣と銘打ちまして、今日まで最善の努力をいたしてまいりましたが、現下の厳しい国内、国際経済情勢にかんがみまして、私といたしまして、各閣僚に対しまして、緊急経済対策を打ち出すべく知恵を絞って政策を打ち出すよう求めてまいりましたが、今朝、9時から経済対策会議を開きまして、緊急経済対策を決定をいたしましたので、この機会に国民の皆様にも御理解を求めるべく会見をさせていただく次第でございます。
まず、初めに申し上げたいことは、この緊急経済対策は現在の厳しい経済情勢から抜け出して、日本経済を一両年に回復軌道に絶対乗せていかなければならぬ。その第一歩になるものであると、こう考えておりまして、そのために、まず来る11年度に次の図の3つの目標を達成いたしたいと思っております。
第1に、自信を持って、はっきりとプラス成長を実現したいということであります。
第2には、失業者を増やさない、雇用と起業の推進ということでございます。
第3には、対外経済摩擦を起こしてはならないということでございまして、ひとり日本の経済回復そのものは、我が国の経済を活性化することではございますが、同時に日本の経済の大きさから考えまして、諸外国にいろんな経済摩擦を起こしてはならない、この3つのポイントを中心にして今回まとめさせていただいたということでございます。
そこで、まず、やらなければならないことは、何と言っても不況の環を断ち切らなければならない。経済の不況時にはごらんの図のような悪循環が生ずるおそれがございまして、すなわち企業その他、ビジネスにおきましては、売上げが減少する。需要が不足をしてくると。当然ですが、利潤が低下してくる。そうなりますと、経営が極めて不安になってくる。そこで企業の信用収縮が起こってくる。
そうなりますと、金融機関は貸し渋りが起こって、信用収縮になってくる。それが結局、企業はリストラをしなければ経営ができなくなる。同時に、投資も抑制をされる。これはまた、売上げ減少と、こういう循環になりますが、リストラをすれば当然でございますけれども、こちらの方の個人の所得の減少ということにつながってくるわけでありまして、これは当然雇用不安を生ずる。雇用不安が起こってくれば、消費を控えるということが起こってくる。これが売上げの減少と。この2つの循環が重なって、いわゆる悪循環が起こるわけでございますので、この環を是非どこかで断ち切っていかなければならぬ。そのためには、まず金融対策によって貸し渋りを断つ。この信用収縮に対して、どうしても政府としては貸し渋りを断つような政策を行うということが1つのポイント。
それから、同時に景気回復策によりまして、需要の不足を断つ。この環をどうしても断ち切らなければならないということでございまして、この不況の環を断ち切ることが、まず日本経済の再生に必要なことだと、こういう趣旨をもちまして、今回の対策を打ち出させていただいたということでございます。
そこで、それでは次にどう対策を講ずるかということでございますが、1つは、総事業費17兆円を超えるところの政策を遂行すると。それに、いわゆる恒久的減税6兆円を含めますれば、優に20兆円を大きく上回るところの規模で活性化を図っていくということでございます。
その内容とするころは、まず、貸し渋り対策といたしまして、5兆9,000億程度、それから社会資本整備といたしまして、8兆1,000億円程度、それから、住宅対策といたしまして、1兆2,000億程度、これは特に今回雇用対策というものに非常に注意、注目をいたしたわけでございまして、そういった意味で1兆円程度のものをしようと。
それから、これも御案内のとおりでございますが、地域振興券を0.7兆、すなわち7,000億円発行いたしまして、地域振興のためにこれを活用していただくということでございます。
更に、アジアに対する対策として、1兆円程度でございますが、今回日本の景気後退がアジアに及んでおる。また、アジアの金融・通貨不安が現地における経済活動を停滞せしめている。それがまた、我が国に波及してくる。また、我が国としては、そうした国々に対する輸入が減少する。これがまた、その地における輸出を減少させることによりまして、ある意味で、また東南アジア全体との関係におきましても、日本経済が非常に大きくプラス・マイナス双方に問題を起こしているということでございますので、この点につきましても、海外に対しての政策も今回講ずることが必要であると、こう考えておるわけでございます。
次に、景気回復策の重点施策でございますが、第1に、21世紀先導プロジェクトという重点的な投資ということでございまして、4つのプロジェクトを考えさせていただいております。もとより、今次、この時点における経済回復、景気回復を図らなければなりませんが、同時に21世紀に向けての先導的なプロジェクトをこの際明らかにして、その端緒も築いていくという必要があるのではないかということで、4つのプロジェクトを考えさせていただきました。
第2には、生活空間活性化。都市の住空間、高齢者にやさしい空間、安全で環境にやさしい空間づくりに重点的な予算配分をいたしていきたいと考えております。
第3には、産業再生、雇用対策でございますが、新事業の創出によりまして、良質な雇用の確保と生産性の向上のための投資拡大の重点化を考えております。
これもしばしば言われることでございますけれども、日米間の開業率・廃業率の比較をいたしますと、米国の場合には開業率13.8%、廃業率11.4%、日本の場合、開業率が3.7%、廃業率3.8%、ほんのわずかでございますけれども、日本の場合には廃業率の方の比率が高まっておるということでありまして、雇用を創出するためにも、新しい企業を起こすと、こういう点が極めて重要であるという意味から、この雇用対策の面からも産業を再生をしていく必要があるということで、この重点方針はそのように定めさせていただいております。
次に、21世紀先導プロジェクト。先ほど申し上げしましたが、未来を先取りするプロジェクトを各省庁連携して取り組んでいくというものでございまして、今般の各省庁、大臣に私は要請いたしまして、それぞれ役所からいろんなプロジェクトが出てまいりましたけれども、そうしたものを総合的に政府としてまとめていく必要があるのではないかということでございまして、関係省庁と横の連絡を十分取り合いながら、同じようなプロジェクトは統一していくということでありますし、また、加速すべきものについては、どこの役所のものだなどと考えずに、政府全体としてやっていかなければならないと考えておりまして、まず第1には、先端電子立国の形成でございまして、たとえて言えば光ファイバー網の整備でございまして、これも従来から政府といたしましても、積極的に取り組んでまいりましたが、この際は本当に従来の発想を超えて、大きく展開していかなければならないということでございまして、今、電話線が、昔の銅線1本であれば、今の光ファイバーは大体10億倍くらいの容量を持つんですが、将来においては、これがその10億のまた100万倍くらいのペタネットと言われるくらいのものに将来としてはやっていかなければならないと考えております。
第2には、未来都市の交通と生活でございますが、例えばノンストップ自動料金収受システムなどでございまして、今、高速道路に入りましても、一番渋滞するのは料金所のところなんです。これは既に欧州におきましては、全部の料金の授受するところではありません、一部でいいんでありますけれども、コンピュータによりまして、後払いができるということですから、そこのラインを通った車はすっと通過していけるというシステムが既に欧米では取り入れられておりますが、残念ながら我が国においてはできない。したがって、車は料金所に列をつくるということになりますので、こうしたものを早急に取り入れていく必要があるのではないかと思っております。
それから、安全、安心、ゆとりの暮らしでございまして、廃棄物の技術やダイオキシン対策などでございますが、特に高齢者の皆さんが歩いて生活のできるまちづくりということを考えておりまして、必ず車でなければ買物にも行けないという現在の発達した購買のシステム、お年寄りは結局、町の中でそういう買物ができるという、これがある意味で安心、ゆとりの暮らしということだろうと思います。
第4に、高度技術等の流動性のある安定雇用社会の構築でございまして、例えばバイオテクノロジーや、教育訓練など、こうした4つの日本を元気にするというテーマで未来を先取りする、日本全体を元気にするねらいにいたしております。
次に、恒久的な減税でございますけれども、これは個人所得課税は平成11年から最高税率50%への引き下げ等によりまして、4兆円規模の恒久的減税を実施してまいりますが、当然のことでございますが、地方財政につきましては、円滑な上に十分配慮しての減税を考えてまいりたい。
第2は、法人課税につきましてでありますが、11年度から実効税率40%程度に引き下げを考えております。
第3には、政策減税といたしまして、特に住宅建設、民間設備投資など、政策税制について精力的に検討して、早急に具体策を図っていきたいと思っております。住宅問題につきましては、住宅ローンにかかわる問題、あるいは土地不動産の流動化等につきましても、十分配意していかなければならないことは、かねて言われておることでございますが、これは政府・党を挙げてこれから十分検討して対応していきたいと思っております。
民間設備投資などの点につきましては、今、コンピュータの2000年問題という重大な問題がございまして、こうした問題については、時限も切られていることですから、これも積極的に取り組んでいきたいと思っております。
第4に、個人消費の喚起と地域経済の活性化を図るために、これは先ほど申し上げました地域振興券の発行ということを考えております。
最後に、世界の経済のリスクの対応でございますが、世界経済、アジア経済にとりましては、日本経済の再生が極めて重要であることは冒頭申し上げたところでございまして、密接な相互依存関係にあるアジア経済を支援してまいりたいと思います。時あたかも実は本日の午後からマレーシア、クアラルンプールでのAPECの首脳会議に私、出席する予定にいたしておりますけれども、この中でこれから論議をされますのは、アジア諸国の通貨危機への対応、あるいはアジアの現地日系企業に対する支援の問題等も極めて重要な問題でございまして、アジア通貨危機への対応につきましては、既に御案内のように、宮沢構想ということで、300億ドル支援することになっております。その内訳等につきましても、現地のそれぞれの国々の御期待、御希望も承りながら、対処していきたいと思いますが、何よりもそうした東南アジアの国々におきましては、我が国に対する輸出というものの大きさを考えますと、この地の経済が活性しなければ、また、我が国にも大きな影響があるということは申し上げたとおりでございまして、例えばタイ、マレーシア、インドネシアの全輸出の25%を日系企業が担っておりまして、そうした日系企業に対しまして、国内で担当してまいりました中小企業金融公庫、あるいは国民金融公庫による融資制度なども考えて、対応していかなければならないと思っております。
この対策は我が国経済を一両年のうちに回復軌道に乗せるための第一歩でありまして、今後平成12年度までの経済再生を図ることといたしまして、機動的、弾力的な経済運営を行ってまいりたいと考えております。
11年度ははっきりとしたプラス成長に転換をさせてまいりたい。このような強い決意を持ちまして、緊急対策を講じようとしております。この対策の緊急、かつ着実な実行に改めて尽くしてまいりますことを申し上げ、国民、皆様方の御理解と、また、御支援をいただきたいと思っております。
若干長くなりましたが、以上、今回の対策につきまして、御報告を申し上げさせていただいた次第でございます。
【質疑応答】
● 総理、時間がなくなりましたので、端的にお答えをお願いいたします。まず、1問目ですが、緊急経済対策では、日本経済を平成11年度にははっきりとしたプラス成長に、また、12年度には本格的な回復軌道に乗せるとの目標を盛り込まれましたが、具体的にはどのような数字を念頭に置かれているのでしょうか。明示していただきたい。また、その目標を達成できなかった場合には、総理としてどのような責任を取るおつもりなのか、お伺いいたします。
まず、数字でございますけれども、総事業費は17兆円を超えるものである。恒久的減税は6兆円を超えるものでございまして、これを総計いたしますれば、優に20兆円を大きく上回る規模でありまして、また、内容的にも充実した対策であると自負しておるところでございます。
申し上げたように、はっきりと11年度にはプラス成長、そして、12年度は回復軌道に乗せたいと、こう考えております。
● 2問目ですが、景気対策の一環として、また、自民党と自由党との連立をにらんだ政策協議の中心テーマとして、消費税率の引き下げ、ないしは凍結問題が論議されております。総理御自身の消費税率の引き下げや、凍結に関する御見解を改めてお伺いいたします。同時に、消費税の福祉目的税化も議論されておりますが、併せて御見解をお願いいたします。
消費税は実は竹下内閣のとき、私、官房長官でございまして、一緒にあの消費税導入につきまして、苦心、苦労をいたしたわけでございます。この消費税率の引き上げは、少子高齢化の進展という我が国の構造変化の税制面から対応するものでございまして、我が国の将来にとって極めて重要な改革であったと、今でも考えております。
消費税に限りませんが、いずれにしても税は低い方がいいという面はございますけれども、税財政の在り方を考えますと、消費税率の引き下げは困難でございまして、この点、国民の皆さんに是非御理解をいただきたいと思っております。申し上げたように、増大する年金・医療・介護等の福祉のための財源をどのようにお願いするかということは、重要な検討課題でございますが、こうしたことを考え、21世紀を展望して、中長期的な税構造はどうあるべきかということは建設的に議論していかなきゃならぬと思っております。
そこで、福祉目的税化につきましては、受益と負担の直接的な関係がいまだ見出すことができませんで、社会保険方式のメリットが失われないかという問題もございますので、幅広い観点から慎重に議論いたしていかなければならない問題だと考えております。 
所信表明演説
(はじめに)
第百四十四回国会の開会に当たり、国政に臨む所信の一端を申し述べます。
現下の最大の課題は、金融システムが健全に機能する基盤を整え、経済の再生を図ることであります。今回臨時国会の開会をお願いいたしましたのも、わが国経済再生のための補正予算、諸施策について、国会の場でご審議いただくためであります。
このような重要な国会の冒頭に、まず防衛装備品の調達を巡る背任事件のことから申し上げなければならないのは、誠に残念でなりません。防衛庁元幹部職員が逮捕・起訴され、更に証拠隠し疑惑まで招いたことは、行政への国民の信頼を失墜させるものであり、心からお詫び申し上げます。防衛庁において、事実関係の徹底的な解明を図り厳正な処分を行ったところですが、新しい体制の下で更に調達機構・制度の抜本的な見直しを進めるなど、信頼回復に全力を尽くしてまいります。公務員諸君には、国民全体の奉仕者であるとの使命を常に忘れることなく自らの職務を全うするよう、強く求めます。また、政党助成金の不正使用疑惑により同僚議員が逮捕されたことは誠に遺憾であり、こうした事件が再び起きないよう、政治家個人が厳しく身を律していかなければなりません。行政、そしてリーダーシップを持って行政を指揮する立場にある政治のいずれもが国民から十分な信頼を得られるよう、議員立法としてご提案いただいている国家公務員倫理法案や政治改革関連法案の早期成立を、改めて期待いたします。
この夏以来、各地で豪雨や台風による災害が発生いたしました。亡くなられた方々とそのご遺族に対し謹んで哀悼の意を表するとともに、被災者の方々に心からお見舞い申し上げます。政府といたしましては、復旧対策に全力を挙げるとともに、災害対策の強化に一層努力してまいります。
(日本経済再生に向けた取組)
現下の日本経済は、金融機関の経営に対する信頼の低下や雇用不安などを背景として、家計や企業のマインドが冷え込み、消費、設備投資、住宅投資が低迷している状況にあり、地価や株価の低下と相まって、企業や金融機関の経営環境を厳しいものとし、さらには「貸し渋り」や資金回収を招くという、いわば「不況の環」とも呼ぶべき厳しい状況の中にあります。こうした状況から脱却し、一両年のうちにわが国経済を回復軌道に乗せるためには、金融システムを早急に再生するとともに、公共投資の拡大、恒久的な減税等の景気回復策を強力に推進することが必要であります。私は、政権発足以来思い切った施策を果断に決定し、実行に移してまいりましたが、更に今般、平成十一年度において、はっきりプラス成長と自信を持って言える需要を創造すること、失業者を増やさない雇用と起業を推進すること、国際協調を推進すること、の三点を目標に掲げ、百万人規模の雇用の創出・安定を目指し、総事業規模にして十七兆円を超え、恒久的な減税まで含めれば二十兆円を大きく上回る規模の緊急経済対策を取りまとめました。これを受けて編成される第三次補正予算は、国及び地方の財政負担が十兆円を超える規模のものとなります。本対策を始めとする諸施策を強力に推進することにより「不況の環」を断ち切り、平成十一年度にはわが国経済をはっきりしたプラス成長に転換させ、平成十二年度までに経済再生を図るよう、内閣の命運をかけて全力を尽くしてまいります。
緊急経済対策の第一は、金融システムの安定化・信用収縮対策であります。喫緊の課題である金融システムの安定化を実現し、わが国金融機関に対する内外の信頼を回復するため、先の臨時国会において、与野党間の真剣な討議を経て、金融機能再生法及び金融機能早期健全化法を車の両輪とする法的枠組みが整えられ、それぞれ十八兆円、二十五兆円の政府保証枠が整備されました。金融システム全体の危機的状況を絶対に起こさない、日本発の金融恐慌を決して起こさないとの固い決意の下、これらの制度の的確な実施に取り組んでまいります。とりわけ金融機関の資本増強制度は、不良債権の処理を速やかに進めるとともにその財務状況の健全性を向上させる基盤を作るものであり、効果的で十分な活用が期待されます。個々の金融機関においては、その社会性・公共性を認識し、適切かつ十分な情報開示を行い、さらに、金融システム改革の進展の中で、戦略的な業務再構築やリストラに果敢に取り組むなど自らの努力を強く期待いたします。政府といたしましても、新たに設置する金融再生委員会の下で制度の適切な運用に意を配るとともに、金融機関への検査監督の一層の充実を図ってまいります。
金融システムの再生を図る際には、預金者保護に加え、「貸し渋り」や融資回収等による信用収縮を防ぎ、中小企業のみならず中堅企業等に対しても信用供与が確保されるよう、十分な措置を講じていかなければなりません。このため、金融機関への資本増強の審査に当たり、中小企業等に対する融資への姿勢を重視することといたしました。四十兆円を超える規模の資金需要への対応を可能とする「中小企業等貸し渋り対策大綱」を着実に実施するとともに、政府系金融機関による融資・債務保証の拡充などにより、中堅企業等向けに新たに七兆円を上回る規模の資金量を確保するなど、貸し渋り対策に今後とも万全を期してまいります。また、従来、間接金融を中心としていた資金供給ルートにつきましても、金融システム改革の着実な実施による直接金融市場の整備等を通じて、その拡充・多様化を図ってまいります。
緊急経済対策の第二は、需要の回復などを目指した景気回復策であります。経済戦略会議の「短期経済政策への緊急提言」をも踏まえ、二十一世紀型社会の構築に資するよう、即効性、波及性、未来性の三つの観点を重視して取りまとめたものであります。当面は公的需要を中心に景気の下支えを図りながら、民間消費などの回復を通じた民需主導の経済発展に円滑にバトンタッチすることを目指すとともに、景気回復の動きを中長期的な安定成長につなげるため、二十一世紀の多様な知恵の時代にふさわしい社会の構築に向けた構造改革を推進してまいります。
私はかねてより、政治は、国民が将来にわたり夢と希望を持てるよう、わが国社会の将来構想を示すべきであると考えてまいりました。先般、私が、「生活空間倍増戦略プラン」と「産業再生計画」の基本的な考え方を提示いたしましたのも、まさにそうした考え方に基づくものであります。これらの両構想につきましては、来年一月中を目途に具体的な姿を取りまとめ国民の皆様にお示しいたします。今般の景気回復策にも、こうした考え方の下、「二十一世紀先導プロジェクト」や、ただ今申し上げた両構想の実現に向けた施策を重点的に盛り込みました。省庁の枠を超えて、積極的に取り組んでまいります。
景気回復策の第一の柱である「二十一世紀先導プロジェクト」は、先端電子立国の形成、未来都市の交通と生活、安全・安心、ゆとりの暮らしの創造、高度技術と流動性のある安定雇用社会の構築の四テーマにつき、未来を先取りするプロジェクトの実現に取り組み、日本全体を活性化させることを狙いとするものであります。特に、情報通信など多くの省庁に関連するプロジェクトにつきましては、私が直轄する、いわばバーチャル・エージェンシーとでも呼ぶべき体制を設け、省庁の枠にとらわれることなく力を結集して、その推進を図ってまいります。
第二の柱は生活空間活性化策であります。国民がゆとりとうるおいのある活動ができるよう、「生活空間倍増戦略プラン」の実施に当たり、住空間を始めとして、質の高い生活空間の倍増に向けた投資を、民間活力をも活用しながら積極的に推進してまいります。また、個性的で誇りの持てる地域づくりが進むよう、各地域自らが選んだテーマにつき策定される「地域戦略プラン」に関しましても、強力に支援してまいります。併せて、土地・債権の流動化の一層の促進を図るとともに、特に、経済波及効果の大きい住宅投資に関し、財政、税制等にわたる広範な施策を講じ、住宅市場の活性化と住宅ストック形成の支援を図ります。
景気回復策の第三の柱は、産業再生・雇用対策であります。新事業の創出による良質な雇用の確保と生産性向上のための投資拡大に重点を置く「産業再生計画」の基本的な考え方を踏まえ、わが国産業の再生に全力を傾け、起業の拡大を図り、中小企業の活性化を促します。具体的には、新規開業及びその成長支援、既存企業の再活性化のための環境整備、将来のわが国産業をリードする新規・成長十五分野における技術開発・普及などを進めるため、規制緩和や公的支援措置の充実等を図り、また、ベンチャー企業を始めとする中小企業の技術の事業化促進などを図ります。早急な雇用の創出及びその安定を目指す観点からは、中小企業における雇用創出、失業給付期間の訓練中の延長措置の拡充、職業能力開発対策の充実等からなる「雇用活性化総合プラン」を実施し、特に、雇用情勢に臨機に対応して中高年の失業者に雇用機会を提供できるよう「緊急雇用創出特別基金」を創設いたします。これらの施策を強力に推進するため、今国会に新事業創出促進法案を始めとする関連法案を提出したところであり、その速やかな成立にご協力をお願いいたします。
第四の柱は、社会資本の重点的な整備であります。景気回復への即効性や民間投資の誘発効果、地域の雇用の安定的確保の観点に立ち、従来の発想にとらわれることなく、二十一世紀を見据えて真に必要な分野、具体的には、情報通信・科学技術や、環境、福祉・医療・教育などの分野に大胆に重点化いたします。北海道や沖縄など特に厳しい経済状況にある地域や、不況業種の実情にも十分配慮し、地域経済の活性化にも資する即効性の高い社会資本整備への重点的な傾斜配分を行うとともに、民間の資金やノウハウを活用した社会資本整備の推進も図ってまいります。
以上の施策を盛り込んだ補正予算を、速やかに今国会に提出することとしており、その一刻も早い成立に向け、議員各位のご理解とご協力をお願いいたします。
税制につきましては、わが国の将来を見据えた抜本的な見直しを展望しながら、個人所得課税については、平成十一年から最高税率の水準を五十パーセントに引き下げるなど四兆円規模の恒久的な減税を行い、法人課税については、平成十一年度から実効税率を四十パーセント程度に引き下げます。その際、地方財政の円滑な運営には十分配慮いたします。これらの税制改正を具体化する法案は、次の通常国会に提出いたします。恒久的な減税の財源は、当面赤字国債に依らざるを得ませんが、一方で、徹底した経費の節減、国有財産の処分などを進めることはもちろん、長期的には、今後の経済の活性化の状況、行財政改革の推進等と関連づけて財源のあり方を検討する必要があると考えております。また、個人消費の喚起と地域経済の活性化を図るため、一定年齢以下の児童を持つ家庭及び老齢福祉年金等の受給者等に「地域振興券」を交付いたします。
少子高齢化が進むわが国において将来の社会・世代のことを考えるとき、財政構造改革の実現は引き続き重要な課題ですが、まずは景気回復に全力を尽くすため財政構造改革法を当分の間凍結することとし、そのための法案を今国会に提出いたしました。その速やかな成立にご協力をお願いいたします。
最重要課題の一つである行政改革につきましては、二〇〇一年一月の新体制への移行開始を目標とするとのスケジュールは決して後退させないとの強い決意の下、内閣機能の強化などを内容とする中央省庁再編関連法案の来年四月の国会提出を目指し、政治主導で作業を進めます。併せて、中央省庁のスリム化のため独立行政法人化等や業務の徹底した見直しに全力で取り組むとともに、密接不可分の課題である規制緩和、地方分権を強力に推進いたします。特に地方分権につきましては、五月に決定した地方分権推進計画を踏まえた関連法案を次の通常国会に提出するとともに、先日いただいた地方分権推進委員会の第五次勧告に対応する新たな地方分権推進計画を、本年度内を目途に作成するなど、国と地方の役割分担、費用負担のあり方を明確にしながら、その一層の推進を図ってまいります。併せて、地方公共団体における体制整備、行財政改革につきましても、その積極的な取組を求めてまいります。
(「国民と共に歩む外交」の推進)
かねてより申し上げておりますとおり、内政と外交は表裏一体であるというのが私の基本理念であります。世界経済が置かれている厳しい現状を直視するとき、わが国の経済再生に向けた取組は、アジアを始めとする世界の安定と繁栄にとって極めて重要であり、翻って、世界の安定と繁栄なくしてわが国の安全と繁栄はあり得ません。また、依然として不安定な要素を抱えるアジア太平洋地域、とりわけ北東アジア地域における平和と安定の枠組みを一層強固なものとすることは、極めて重要な課題であります。こうした認識に立ち、この秋、私は、世界経済の発展とアジア太平洋地域の安定・繁栄に特に重要な役割を担う米国、ロシア、中国、韓国の各国首脳との会談を始めとする重要な外交日程に、次々と取り組んでまいりました。
日米関係は、わが国外交の基軸であります。私は、就任以来、二度にわたりクリントン大統領と首脳会談を行い、厳しい状況にある世界経済や北東アジア地域における安全保障の問題などに、両国が緊密な協力を行っていくことで意見の一致を見ました。重要な課題である「日米防衛協力のための指針」関連法案等の早期成立・承認に、議員各位のご理解とご協力をお願いいたします。また、米軍の施設・区域が集中する沖縄が抱える諸問題につきましては、先般の知事選の結果を踏まえながら、沖縄県が直面する深刻な経済・失業の状況を直視した上で効果的な振興策を実施するとともに、同県の協力と理解の下、SACO最終報告を踏まえ、米軍施設・区域の整理・統合・縮小に向け、今後とも強力に取り組んでまいります。
先日、私は、わが国総理として二十五年ぶりにロシアを公式に訪問して、エリツィン大統領と首脳会談を行い、両国間の創造的パートナーシップの構築に向けたモスクワ宣言を発表いたしました。これにより、両国の関係は、「信頼」の強化を通じて「合意」の時代へと発展し、さらには「実行」の時代へと切り拓かれていくものと考えます。北方領土問題につきましても、両国が合同で国境画定委員会及び共同経済活動委員会を設置するとともに、旧島民やその家族による北方領土への自由訪問の実施に原則的に合意するなど、橋本前総理がエリツィン大統領との間に築いてこられた信頼関係を基盤として、その解決に向けて着実な進展がありました。今後とも「間断なき対話」の継続を通じ、様々な分野における関係を強化しながら、東京宣言及びモスクワ宣言に基づき、二〇〇〇年までに平和条約を締結するよう全力を尽くしてまいります。
現在、江沢民主席が、中国の国家主席としては初めての国賓として訪日されています。日中平和友好条約の締結から二十周年を迎える本年、江沢民主席との間で日中共同宣言を作成し、二十一世紀に向けた協力の強化に関する共同発表を行いましたことは、日中関係に新たな節目を画するものであります。今後とも、日本と中国は、アジア太平洋地域全体の平和と発展に責任を有する国家として、単なる二国間関係にとどまらず、国際社会に目を向けた対話と交流を一層強化させてまいります。
先月、私は金大中大統領と胸襟を開いて話し合いを行い、過去の問題に区切りをつけ、二十一世紀に向けた新たな日韓パートナーシップを構築することを宣言いたしました。民主主義のためにまさに身命を賭してこられた大統領の国会での演説は、同じく民主主義の推進を絶えず胸に刻みながら政治に携わってきた者として、深い感銘を受けずにはいられませんでした。これを契機として、今後、日韓共同宣言や行動計画を基礎として、日韓関係を更に次元の高い友好協力関係に発展させていきたいと考えております。明日、鹿児島での日韓閣僚懇談会に私も出席し、こうした流れを一層確固たるものとしてまいります。また、長年の懸案であった日韓漁業協定につき基本合意に達したことを踏まえ、今国会に条約及び法案を提出いたします。新しい漁業秩序の早期構築に向け、議員各位のご協力をお願いいたします。
アジア太平洋地域の平和と安定の確保を考えるとき、北朝鮮による先般の弾道ミサイルの発射は重大な懸念を与える出来事であり、また、「秘密核施設」疑惑はこうした懸念を更に拡大するものであります。これらの問題についてわが国は、米国、韓国などと緊密に連携を取りながら対応しているところであり、今後とも、この地域の安定のために力を尽くしてまいります。北朝鮮に対しましては、これらの国際的な懸念や日朝間の諸懸案の解決に向け建設的に対応するよう、改めて強く求めるものであります。こうした状況の中で、わが国の安全を確保するためには、適切な情報収集に努めることが必要であり、安全保障や危機管理に資する情報の収集・分析・伝達等に関し、所要の措置を講じていく必要があると考えております。
アジア経済の安定は緊急の課題であります。私は、アジア各国の通貨・経済危機に対処すべく、従前からの総計四百四十億ドルに上る支援策に加え、新たに三百億ドル規模の資金支援スキームの実施を決定いたしました。更に今般、アジアの成長と経済回復のための日米共同イニシアティブを取りまとめ、日米両国が中心となって、多数国間の枠組みの中で、アジア諸国の資金調達を支援していくことを明らかにいたしました。こうした考え方の下、今回の緊急経済対策の重要な柱の一つとして、世界経済、中でもアジア経済の安定のため、「アジア通貨危機支援資金」の設立を通じた資金調達支援などのアジア諸国の通貨危機等への対応策や、政府系金融機関による融資制度の創設・拡充等を通じた現地の日系企業などに対する支援策を盛り込んだところであります。先週マレイシアで開催されたAPEC首脳会議において、私は、アジア各国の経済回復のためできる限りの支援を行うとの方針を改めて表明し、これに対し、各国の首脳から高い評価と強い期待が表明されました。また、国際金融システムの強化や、アジア経済を回復軌道に乗せていくための取組などについても、有意義な意見交換を行ってまいりました。来月半ばには、ヴィエトナムにおいてASEAN諸国との首脳会合が予定されており、アジア経済危機の克服のための協力や、わが国とASEAN諸国との関係の強化などについて、率直な話し合いを行いたいと考えております。
この度、ハリケーンにより甚大な被害を受けた中米諸国への支援の一環として、ホンデュラスに対し、自衛隊を初めて国際緊急援助隊として派遣いたしました。その活動は、現地で非常に高い評価を受け、また感謝されていると聞いております。
今後とも「国民と共に歩む外交」を推進し、国際社会におけるわが国の地位にふさわしい役割と責任を積極的に果たしてまいります。
(むすび)
日本経済は極めて厳しい状況にありますが、私は、わが国は経済的・社会的に強固な基盤を有しており、これまで申し上げてきた政策を果断に実行することにより、力強い成長を再び始めることを確信しております。国民の皆様、自信を持って共に歩もうではありませんか。
明日の日本のために、今何をなすべきか、私たちは国民の叡智を結集して真剣に検討し、その実現に全力を挙げていかなければなりません。そのため、例えば経済分野であれば、私に直属する「経済戦略会議」の場で専門家の方々のご意見を承ってまいります。また、国民の皆様一人一人の立場からのご意見を幅広く伺うため、私は今まで、中小企業の経営や社会福祉、農業などの現場を訪ね、また、勤労者、学生、主婦など様々な立場の方々のご意見をお聞きし、私の考えを直接お話しする機会を、積極的に設けてまいりました。厳しい叱咤や激励の声も承りましたが、そうしたご意見は謙虚に受け止め、政策形成の過程に十分反映させてまいりたいと考えております。
内外ともに困難な現下の状況にあって、私は、国家の発展と国民生活の安定を図るため、政党間の連携を深め、党派を超えて様々な意見に耳を傾け、合意を求めて、国民のために責任ある政治を行ってまいりたいと考えます。国民の皆様並びに各党、各会派の議員各位のご支援とご協力を心からお願い申し上げます。 
談話・日本債券信用銀行について / 平成10年12月13日
日本債券信用銀行については、今般の金融監督庁検査により、本年三月末時点で債務超過となると見込まれ、金融監督庁は、同行に対し、債務超過を解消するため採り得る資本充実策等について、逐次報告を求めてきたところであるが、検査結果通知から一か月近くが経過しようとする中で、同行より実現性のある資本充実策が提示されないまま今日に至った。
金融再生委員会の設立までの間、同委員会の権限を代行する内閣総理大臣としては、こうした状況を踏まえ、本日、「金融機能の再生のための緊急措置に関する法律」(金融再生法)第三十六条に基づく特別公的管理の開始の決定を行い、併せて、同法第三十八条に基づき、預金保険機構による特別公的管理銀行の株式の取得の決定を行ったところである。
今般の特別公的管理の開始の決定後も、日債銀は、基本的には、従来通り、通常の業務運営を行うことになるが、金融再生法上の特別公的管理銀行として、例えば、新経営陣の選任、業務基準及び経営合理化計画の策定及びその承認、取得株式の対価の決定等、所要の手続きが進められていくことになる。また、特別公的管理の開始決定と同時に、資産劣化防止の観点から、金融監督庁長官より同行に対し、銀行法第二十六条に基づく業務改善命令を発したところであり、日債銀においては、新経営陣の就任前であっても、この命令を踏まえ、適切な業務運営を行っていくことが求められる。
今後、日債銀に対しては、金融再生法に基づき、預金保険機構が業務に必要な資金の貸付けや特例資金援助を行うことになっており、この結果、日債銀の預金、金融債、インターバンク取引、デリバティブ取引等の負債は全額保護され、期日通り支障なく支払われるとともに、善意かつ健全な借手への融資も継続されることとなっているので、利用者におかれては、心配されることなく、冷静な対応をお願いしたい。
政府としては、今後とも、預金者等の保護と信用秩序の維持、内外の金融市場の安定性確保に万全を期して参りたい。 
1999

 

年頭記者会見 / 平成11年元旦
(はじめに)
明けましておめでとうございます。
新しい年、平成11年、1999年は歴史の節目となる年と考えます。
10年前に、国内では、昭和から平成へと時代が移り、世界的には、ベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終結いたしました。こうした歴史の転換点以降、バブル経済の崩壊、ロシア・東ヨーロッパの市場経済化、民族紛争の激化など次々と起こる中で、これまでに様々な模索が行われてまいりました。
四半世紀、25年前は、石油危機の真っ只中でありました。当時、我が国は将来についての不安で覆われておりましたが、省エネ努力などに取り組み、危機をバネに日本経済の力がむしろ強化されたことが改めて思い起こされます。「危機」という言葉は、「機会」=チャンスともとらえられます。日本経済は厳しい状況にありますが、今年は困難に打ち勝ち、これをチャンスとして受け止め、将来に向けて大胆に取り組んでいく年にしたいと念願いたしております。
1999年は次の千年に入る前の最後の年でもございます。
こうした年を迎え、身が引き締まる思いですが、10年前に、私は昭和から平成へという時代の節目を官房長官という立場で経験いたしました。元号を発表した私が、10年後に政府の責任者となっていることについて運命的なものを感じつつ、日本が今後進んでいく方向について私の考え方をお話しいたしたいと思います。
(小渕内閣の課題等)
まず、改めて国民の皆様に、小渕内閣が何を課題として取り組んでいるのか、お話ししたいと思います。
私は、この内閣の課題として「五つの安心」と「真の豊かさ」の実現を掲げたいと考えております。
(経済再生への安心)
第一の安心は、「経済再生への安心」であります。私は、この小渕内閣を「経済再生内閣」と位置付け、この問題に真正面から全力投球をいたしてまいりました。
現下、日本が陥っている「不況の環」を断つべく、1金融システムの再生策、2需要の拡大を目指した景気回復策、そして、3産業の再生と雇用対策の促進、を主眼として、予算面、税制面でかつてない大胆な取り組みをしてきたところであります。
なお、所得税の恒久的減税に関しまして、本年1月から3月までの間の給与等の減税につきましては、源泉徴収義務者の方々に大変なご苦労と負担をかけますが、できるだけ簡便な方法によりまして、本来の年末調整での実施を前倒しして、夏のボーナスの支給月である6月分の給与から実施できるようにいたしてまいります。
私は、政府の施策が民間経済の真剣な努力と相まって、必ずや成果を生み出し、来年度には「はっきりしたプラス成長」となることを確信いたしております。同時に、私は、将来への不安を払拭し、明るい展望を持てる社会を築くための経済的基盤をつくり上げていくべきであると考え、昨年末の経済戦略会議の提言をしっかりと受け止め、思い切った構造改革に取り組んでまいります。
これとも関連し、私は、21世紀の我が国の経済社会の指針として新たな経済計画を策定いたします。その際、できる限り広く叡知を結集し、成長率の目標を中心とした従来の発想を超えまして、日本のあるべき姿を探るものにいたしたいと思います。
また、私は、将来世代のことを考えますと、大変重い課題を背負っていると痛感しております。それだけに、我が国が回復軌道に乗った段階におきまして、21世紀初頭における財政・税制の課題について、もう一度、幅広く、かつ、しっかりと検討を行い、その姿を提示していかなければならないと考えます。
既に前向きの動き、「胎動」が感じられるようになりつつあります。また、日本の経済を支える基礎、すなわち巨額の対外資産や個人貯蓄、製造業の「底力」、教育水準や勤勉といった日本人の資質などでありますが、これらが依然として国際的に見ても強いものであることを思えば、私は日本経済が再生することにいささかの疑いも持っておりません。
今、私たちに必要なことは、自分たちの国日本に自信と誇りをもって、共に歩き始めることではないでしょうか。
(雇用(働く場)についての安心)
第二に、雇用すなわち働く場についての安心であります。
長引く景気の低迷の中で、企業の倒産や失業者が増大するなど、雇用の不安が増大し、消費にも大きな影響を与えております。中高年の方をはじめとして働く意欲と能力のある方々に対して、働く場が確保される環境をつくるよう全力を尽くしていく覚悟であります。
雇用不安と消費低迷の悪循環を断ち切るため、昨年の「緊急経済対策」におきまして、目標の一つに、「失業者を増やさない雇用と起業、即ち業を起こすこと、の推進」を掲げまして、百万人の雇用創出・安定を目指し、思い切った対策を決定いたしました。
また、雇用不安を払拭するためには、これに加え、質の良い働く場を創り出すことや規制緩和を通じまして、人材が新しい産業へ円滑に移動できるようにいたしてまいります。
(環境に対する安心)
第三に、私たちの豊かな地球、国土、地域の環境に対する安心であります。
緑豊かな環境を守り、子供や孫の世代に引き継ぐことは、私たちの誰もが願うことであり、今生きる者の責任だと信じます。しかし、今や環境の問題は、一部の加害者による大気汚染等の公害問題から、地球温暖化、ゴミの問題、環境ホルモン、ダイオキシンなど、日常生活や通常の事業活動に深くかかわり、私たち一人一人が加害者であり被害者でもあるような問題へ、大きな広がりを見せております。
私は、地球温暖化をはじめ環境問題に一層積極的に取り組んでまいります。また、現在の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会の仕組みそのものが限界に来つつある中で、私たち一人一人が身近なところから、自然や資源を大切にする社会をつくっていく努力をお願いいたしたいと思います。
(老後に対する安心)
第四に、社会保障制度に関する信頼を確保し、老後を含めた国民生活に対する安心であります。
今後の急速な少子・高齢化の進行や現在の経済の低迷とあいまって、将来の社会保障を巡りまして、国民の間に不安感が増大していることは、私自身、強く感じております。
どんなにすばらしい給付を保障する社会保障を築いても、国民に過重な負担をかけることなく、安定的に運営のできる制度でなければ「絵に描いた餅」に終わってしまいます。介護保険の創設に続き、医療及び年金分野を中心に、効率化を図りながら、国民の皆様にも痛みと負担をおかけすることとなりますが、国民のニーズに的確に応えられる制度に変えていくことが求められると思います。
高齢社会には、単に社会保障の問題に止まらず、高齢者にふさわしい働き方、高齢者が活動しやすい生活環境など国民生活全般に係わる多くの課題が挙げられます。また、こうした社会の仕組みが社会保障の在り方に大きく影響を与えることとなります。
21世紀にも国民の皆様に安心してもらえ、また、満足してもらえる社会保障を築くためには、国民的な議論を行い、21世紀の社会保障について国民的コンセンサスを築くことが是非とも必要であります。
(育児・教育に対する安心)
第五は、育児と教育、すなわち、広い意味では「子育て」に対する安心であります。
少子化の背景として、「子育て」に係わる様々な問題、すなわち、特に女性にとって結婚や育児に伴う負担が大きく、このため結婚をためらう、あるいは、子育てと仕事の継続との両立が難しい、といったことによる選択の結果という面が大きいと言われております。若い男女が共に社会に参画する中で、家庭を築き、子供を育てていくという責任ある喜びや楽しみを経験できるよう、その制約要因を取り除いていくことが必要であります。国、地域社会、企業、家庭を挙げて、雇用の在り方、保育サービスの充実などの取り組みを進めていく考えであります。
また、教育に関して、いじめ、暴力、受験戦争の過熱の問題だけでなく、教育の在り方について、国全体に不信や不安が広がっております。
いじめや暴力の問題につきまして、子供たちの思いやりの心や豊かな感受性をはぐくめるよう、学校での「心の教育」に止まらず、家庭や地域が共同して解決に取り組んでいく必要があります。
受験戦争が過熱し、また、その結果、独創的な人材が生まれにくい等の問題も深刻であります。知識偏重の一律的教育を改め、大学入試制度の改革や中高一貫教育の導入などに、既に取り組みを始めているところであります。
また、今の時代は情報化と国際化が進み、基礎的な素養が、「読み、書き、パソコン、英語」へと変わりつつあります。国としても、例えば、11年度末までには全国の小学校に2人に1台のパソコン教室を整備する計画を進めておるところでありますが、一層積極的に取り組んでいく考えであります。
(「真の豊かさ」の実現)
以上の「五つの安心」を確立した上で私は「真の豊かさ」の実現を国民とともに目指していくことを提案したいと思います。日本は既に十分豊かになったという指摘はあるでしょう。しかし、我々は本当に豊かになったのでありましょうか?狭い住宅、過密な通勤、余暇や緑の少なさなど、生活の質は残念ながら決して高いとは言えません。
社会全体として工夫をすれば、もっとゆとりのある生活、「真の豊かさ」を享受できるはずであります。「真の豊かさ」を実現するための投資は経済再生にもつながってまいります。私の構想であります生活空間倍増戦略プランは、住宅、買物空間、高齢者にやさしい空間などの生活空間の倍増を目指すものであり、こうした「真の豊かさ」の実現に向けた第一歩でもあります。もちろん、「真の豊かさ」とは、こうした生活の質の問題に止まらず、私たちの「心のありよう」「心の豊かさ」に係わるものでもあります。そうした思いも込めまして、私はこの国の目指す姿として「富国有徳」を提唱しておるところであります。
いずれにせよ、「真の豊かさ」として何を求めるのか、新しい日本の「夢」は何なのか、様々な考えがあるでしょう。私はこの課題について是非国民の皆様に幅広く議論していただきたいと考えております。
(外交への取り組み姿勢)
次に、外交への取り組みでございますが、我が国の経済再生は、アジアをはじめとする世界全体の安定と繁栄にとって極めて重要であることは申すまでもありません。経済の相互依存関係が進む中で、日本の厳しい状況は、アジア、ひいては世界に大きな影響を及ぼし、また、アジアの不振は、すぐに日本にも跳ね返ってまいります。アジア経済の支援は、我が国自身の経済回復にとっても大変重要であります。いわば、日本とアジア諸国、そして世界全体は一つの船に乗って荒波を航海しているようなものであります。世界全体が、なかんずくアジア諸国が、日本経済の再生と日本の支援を真剣に待ち望んでいるのでありまして、私は、こうした課題について、引き続き全力を挙げて努力いたしてまいります。
日本への各国からの期待は、経済問題に止まりません。私は、昨年の秋、米国、韓国、ロシア、中国などとの首脳外交に取り組み、12月には、ASEAN首脳との会合に臨みました。これらの会談を通じまして、各国の日本に対する期待が如何に強いかを改めて実感した次第であります。
私は、こうした期待に応え、世界の平和と繁栄に貢献することは我が国の責務であると考えます。地球環境問題、また、ハリケーンに見舞われたホンデュラスへの国際緊急援助隊の派遣に象徴されるような人的な貢献の分野でも、国民の皆様のご理解を得て、積極的に取り組んでまいります。さらに、我が国の平和と安全に直接係わる北東アジア地域の安全保障につきましても、遺漏なきを期してまいります。
近々私は、フランス、イタリア、ドイツの欧州3カ国を訪問いたします。単一通貨「ユーロ」の導入も踏まえ、欧州各国首脳との間でも、日本経済再生のための取り組みへの理解を深めてもらうと共に、国際金融システムの改革などの諸問題について忌憚のない意見交換を行ってまいりたいと思っております。
(小渕内閣の取り組み姿勢・・責任ある政治)
以上申し上げた課題に取り組む上で、国民の政治に対する信頼を確立することが何よりもその前提であります。国民の信頼に応え、明日の日本を切り拓いていくには、責任ある政治こそが求められております。このため、私は時局認識や政策の基本的方向で一致を見た小沢自由党党首と政権を共にする合意をいたしたところであります。
私は、就任以来、節目、節目で決断してまいりましたが、今後とも責任ある政治を心掛けるとともに、国民の強い期待に沿って政治のリーダーシップの確立や中央省庁のスリム化など抜本的改革を行っていく決意であります。
近代の政治家に求められる資質は、「情熱、責任感、先見性」であると言われてまいりましたが、私はこれに加え、多くの国民の声に耳を傾け、またお話をする「コミュニケーションの力」が極めて大事であると信じて、政権発足以来、様々な努力、工夫を重ねてまいりました。本年も是非これを実行していくつもりでありますので、皆様の叱咤、激励、そして本音の声を承りたいと思っております。
最後に、改めて国民の皆様のご理解とご支援を重ねてお願い申し上げ、皆様のご健康とご多幸を心からお祈りいたします。
【質疑応答】
● では、記者団から質問させていただきます。改めまして、明けましておめでとうございます。総理が最後に申された自自連立について、まずお尋ねしたいと思います。総理がおっしゃられたように、自由党と自民党との連立政権が通常国会前にもスタートすることが確定いたしましたが、総理は、この連立政権で、差し当たっての通常国会をどう乗り切られようとしているのか、その政権運営方針。さらにもっと具体的に、内閣改造の時期について、総理の訪欧前ないしは後という可能性もあるのかどうか。もう一点。小沢党首に対して、内閣に入るように要請される、特に副総理として入閣を要請されるかどうか、まとめてお尋ねいたします。
まず、いわゆる自自連立政権樹立のことについてでございますが、私は、このことは、両党における時局認識、政策の基本的方向で一致を見た小沢自由党党首との合意によりまして、政権を共にし、国家と国民に対する責任ある政治を行うというお話でございましたが、迎えます通常国会を乗り切るというだけのものでは決してありませんで、やはりよきパートナーとして、基本的理念、もちろん、同じであれば一つの政党になるわけですが、政党が異なりますから、おのおの異なる点がありますけれども、共通の点は力を合わせて、「国民のために何をなすべきか」という観点に立ちまして、この合意を見ておるところでございます。
世に数合わせというようなことがありますが、これは、言うまでもありませんが、衆議院におきましては、既に両党は過半数をはるかに上回っておりますが、参議院におきましては、現在、過半数の126に対して116議席でございます。そういった意味では、2党合わせましても過半数に至らないということであります。
重ねて申し上げますが、両党、特に党首間でこうした考え方によりまして合意を見ましたことは、これからの両党の考え方を具現化していく、そのことが21世紀に向けての国民に対する責務である、こういう観点で合意いたしたことを改めてご理解いただきたいと思います。
そこで、内閣改造の時期についてお尋ねがございました。この合意によりますと、145通常国会を前にして内閣改造を行うことによりまして、両党の絆をより強固なものにし、私としては、閣内に自由党からもご参加いただきまして、よりかたい形での内閣として運営をさせていただきたいと思っております。
ただ、その期日、あるいはまた、どのような方に入閣をお願いするか等につきましては、現段階では、すべて首班である私にご一任をちょうだいいたしておりますので、真剣に取り組んでまいりたいと思っております。
ただ、昨年の暮れ行われました党首間会談におきましては、自由党から提起されております諸問題がございますので、その問題のために、5つのプロジェクトチームが既に発足をし、仕事を開始いたしております。そうした成り行き等も見通してまいらなければならない点もございますし、プロジェクトチームが自主的・本格的に作業を始めるのは、正直に申し上げまして、この松の内というわけにはまいらないと思いますので、そうした動向も見ながら考えてまいりたいと思っております。
それから、小沢党首の入閣につきましては、私は昨年、「ぜひ自由党として、右代表として、ご入閣をされることを期待しております」、こう申し上げております。この問題につきましては、党首自らが「すべて総理大臣に一任をしておる」、こうおっしゃっておりますので、引き続いて、自由党の内部といいますか、党首はじめ皆さんのお考えに従いたいと思っております。
● 続いて、連立政権樹立に当たっての政策について、何点かご質問いたします。特に安全保障問題について、自由党の要求と政府見解とやや異なっているような印象を持つわけですが、自由党が要求しています国連の平和活動への協力のあり方について、具体的に申し上げて、国連軍ないしは多国籍軍ができた場合の自衛隊の参加の形態をめぐって、憲法解釈を含め、総理ご自身、いまどのようなお考えなのか、改めてお聞きしたい。さらに、次の通常国会での大きな焦点になると思われますガイドラインの関連法案についても、現在の総理のお考えというものをお聞かせください。
まず、いわゆる国連軍への参加問題についてでございますが、実は、合意の中で「国連軍」という言葉は使用しておりません。自由党としては、日本の憲法の前文にありますように、国際協調という立場、それから国連に対する評価、こうした考え方から申し上げまして安全保障に対してお考えを示されております。
しかし、国連総会または安保理の決議に基づいて、国連から要請のあった場合の国連平和活動への参加につきましては、過ぐる臨時国会におきましても、「憲法の理念に基づいて」ということでございまして、この点は、両党間違いない基本的考え方でございます。ただ、安全保障の問題につきましては、先ほど申し上げたプロジェクトチームが第1回の会合を開いておりますので、そこで検討させていただきたい、こういうふうに考えております。そもそも、両党間におきましては、基本的な考え方においてそう差異があるというふうに考えておりません。
それから次に、ガイドラインの問題でございます。この法案は、残念ながら、幾つかの国会を継続しておりまして、これは日米間の約束事として、両国は安全保障に対して責任を持つという立場からも、この日米防衛協力の指針、関連法案につきましては、ぜひ次の国会で成立を期していかなければならないと考えております。
この点につきましても、昨年12月29日の小沢党首との会談におきまして、安全保障の基本原則を確立、その原則に基づきまして、ガイドライン関連法案等の成立を期するということを確認いたしておりますので、これまた、両党間でこの審議に入ります前に、しっかりと討議をし、結論を得て、もちろん両党賛成の上でこれが国会を通過できるように最善を尽くしていきたい、このように考えております。
● 両党の合意事項について、ほかの政策についてもちょっとお尋ねしたいのですが、政府委員の制度のあり方について、自由党の場合は、これを全廃して参考人にとどめるべきだと。役人の答弁の機会を極力少なくしようというお考えなのに対して、自民党は、やや、そうではないというふうに伺っております。
それから、国会議員の定数削減問題について、自由党の要求は、衆参それぞれ50人ずつ削減ということです。これは、議員の個人個人に係わることですので、一朝一夕にはいかない問題と思いますが、現時点で、総理ご自身としてはどのように持っていかれようとするのか、そのお考えをお聞かせください。
基本的には、政府委員制度につきまして、これを廃止して、国会の審議を議員同士の討論方式に改め、そのために必要な国会法改正等の制度を整理し、次の国会で行うということにいたしております。したがいまして、これも、先ほど申し上げましたプロジェクトチームを既に設けまして、第1回の会合を持ち、6日に第2回を開くと承知をいたしております。
この原点の原点をたどれば、国会におきまして、政治家といいますか、あるいは閣僚といいますか、そうした方々が責任を持って野党の皆さんと討論をし、そして、そのことを国民の皆さんのご判断の糧にしなければならないという考え方をいたしますれば、基本的には、政治優位といいますか、そういうことにつながるのではないか。ややもすれば、官僚的な力に大きく委ねるということであってはならない。お互い政治家同士が、十分な議論を通じて考え方を明らかにし、国民の賛否をいただいていくということは、大きな流れであります。それを具現化する方法として、自由党からもこのような提案をされておられるわけですから、これは真摯に受け止めて、従来の問題点について、この際、反省をしながら、新しい方式を生み出す、ある意味ではよき機会でもあると考えておるわけでございます。これも、改めて両党間で十分話し合いを済ませていきたいと思います。
それから、国会議員の定数の問題、これはなかなか難しい問題であります。しかし、現下、国民の皆さんの目から見ましても、国会議員の定数は一定の削減をいたしていくべきだという声も極めて強いことでもあり、また、自由党からもそうしたお考えを示されております。この点につきましても、国会議員の身分に係わることでございますので、政府の立場からこのことを申し上げることは非常に問題があるかと思いますけれども、政治家として、国会のあり方を考えましたときに、これまた真剣に考えていくべき課題である。これも、申し上げたように、両党間でその詰めを行ってまいることに相なっております。
● 次に、自民党総裁選への対応についてお伺いします。今年は自民党総裁選の年でありまして、総理の総裁としての任期は9月で切れると。この総裁選について、再選を目指すお考えがあるのかどうか、その対応をお伺いします。
ズバリと申されましたけれども、私としては、橋本前総裁のあとを継いで総裁になりまして以降、総理大臣となりまして、一日一生という思いで、一つ一つの問題に真剣に取り組んでまいったわけでございます。当面は、昨年末編成させていただいた予算、景気回復のために、それこそ思い切ったあらゆる施策を講じようということで編成させていただきました予算を、来るべき通常国会におきまして、一日も早くこれを成立せしめることが最大の使命・任務と考えております。したがいまして、現時点におきまして、総裁選にどう臨むかということにまで考えが及んでおらないことをご理解いただきたいと思います。
● 続きまして、景気対策についてですけれども、総理は就任以来、「経済再生内閣」ということで、景気回復に全力を上げるというお考えを再三にわたって強調されております。先ほども、冒頭そういうお話があったのですけれども、今年の経済成長に関しては、政府は0.5%の成長ということを決めましたけれども、民間調査機関の平均的な数字を見ますと、マイナス成長というのが大半だと認識しております。こういった情勢を踏まえて、改めて、今年の景気見通しについてお伺いするとともに、仮に、いま言った0.5%が達成できなくなった場合に、追加の対策を打たれるお考えがあるのかどうか。あるいは、もし、そういったものをすべてやった結果、やはりプラス成長を達成できなかったという場合は、責任というものについていかにお考えか、お伺いしたいと思います。
後のほうの2つの、追加の考えがあるか、あるいは、その責任をどうかということにつきましては、これから申し上げますように、内閣としては0.5%の実質成長率を見込んで、是非これを達成していくためにあらゆる努力を講じつつあるわけでございます。そういったことを考えますと、昨年、私、内閣を組閣させていただきまして以来、日本の一番大きな経済の問題は、何といっても金融の安定化ということでございます。これは、不良債権の処理という問題につきまして、バブル以来、後手後手に来たのではないか、それがとどのつまり、日本の金融システムに対する世界の信用を失いかけておったということであります。この問題を、まず国会のご支持を得て2つの法律として制定をした、これで今年から、金融機関も、より健全化のために公的資金も注入され、そして、より健全な方向に歩み出すということが行われ、また、金融機関の再編が進んでくる。こういう過程で、実体経済も必ず回復してくる、また、この阻害要因が、いまのことを含めて、取り除かれていくということでございます。また、予算、その他が十分執行されて、昨年来の第1次の景気対策、それから第2次の景気対策、こういうものが動いてくれば、必ずよい作用を働かせて、公的需要が下支えをしながら、民間需要も緩やかに回復できるだろう。そのために最善を尽くしていくということが、まず最初の問いに対するお答えとさせていただきたいと思います。
● 次に、北朝鮮情勢についてお伺いします。昨年は、テポドンミサイルの発射、あるいは、潜水艇の侵入・撃沈事件等々、北朝鮮をめぐる情勢がかなり緊張しておるという認識をしております。今年は、地下核施設をめぐる疑惑とか、あるいは、94年のジュネーブ合意に基づく重油の供給をめぐる米朝関係の緊張とか、様々な要因から、特に前半、北朝鮮をめぐる情勢が一段と緊張するのではないかという見方が多いと思います。こうした北朝鮮情勢に対して、例えばテポドンミサイルの再発射の観測がかなり出ていますけれども、仮にそうした事態が起きた場合に、どのように対処されるか。あるいは、地下核施設に対する査察問題、これをめぐって日本としてどのように対応されるつもりか。そうしたものを踏まえて、日朝国交正常化交渉全体に対してどのように対応されるか、この3点について具体的にお伺いしたいと思います。
まず、弾道ミサイルのさらなる発射につきましては、現時点では、北朝鮮が近々、更なる発射を行う準備をしているとの確たる情報は有しておりません。北朝鮮の弾道ミサイルの発射につきましては、米国が北朝鮮との協議の場等において警告を行っておると承知をいたしておりまして、我が国としては、仮に更なる弾道ミサイルの発射があれば、この地域における安全保障の問題がさらに深刻になること、北朝鮮がこのことを十分認識いたしまして、不適切な行動をとらないよう求める立場であります。この上で、この問題に関して、密接な利害関係を有する米韓両国と引き続き協調して対処していく考えであります。
この点につきましては、昨年来、韓国の金大中大統領、米国のクリントン大統領と、日韓米、この3カ国が十分情報を交換し、かつ連絡を十分いたし、そして、こうした北朝鮮の行動に対して、そのようなことが行われるということであれば、断固たる対応をとるべきだということについては一致をしておるわけでございます。
なお、核施設疑惑につきましては、情報というものはなかなか入りにくいことでございますが、この点につきましては、直接交渉いたしております米朝間におきましても、その疑惑を解明すべきあらゆる方策をとっておりますので、こうした努力が実り、核施設が地下にないということが明らかになることが、我が国民にとりましても、安全保障の面から極めて大事であるということでありますので、十分な注意をはらっておくべきだろうと思っております。
なお、日本としては、北朝鮮の軽水炉の発電につきまして、日本としてKEDOを通じまして協力をいたすという立場であります。これは、前提としては、核開発を行わないということに相なっておるわけですから、その点につきましては、更に更に注意をもって対処していきたいと思いますし、米韓とも連絡を協調していきたいというふうに思っております。
これからの北朝鮮との国交正常化の問題でありますが、残念ながら、昨年、日本にとりましては誠に思いがけないミサイル発射が行われて、我が国の国土の上空を通過したということでございます。そういうことを考えますと、二度と再びこうしたことが起こらないために、国交正常化交渉の開催は当面見合わせておりますが、現状におきましては、その方針を見直すだけの材料は見当たらないと考えております。したがいまして、いやしくも事前通告なくミサイルを発射するようなことが起これば、断固たる対応をとってまいらなければならぬと思っております。
ただ、少なくとも隣国であることに間違いないし、日本として、国交なきただ一つの国として、北朝鮮の存在というものは日本にとりましても極めて重要でございます。韓半島におきましては、韓国との関係は、昔は「近くて遠い国」と言われました。特に最近、金大中大統領が訪日をされ、まさに韓国との間は「近くて近い国」にいよいよなっておるわけでございますが、残念ながら、近くて全く遠い国が北朝鮮でございます。基本的な考え方としては、将来にわたっては、なるべく近くて近い国になることのできるように努力をいたしていくことは、大変大切なことだという認識をいたしております。
● 次に、日露関係についてお伺いいたします。今年は、春にエリツィン・ロシア大統領が日本を訪問することになったわけですが、北方領土問題の進展の見通しについて、どのようなお考えをお持ちでしょうか。さらに、ロシア側からは「2000年までの解決は困難」というような認識も繰り返し表明されておりますが、特にこの点を踏まえて、どのような対処をお考えでしょうか。
日露間の平和条約を締結して、そして、両国の関係をまさに21世紀に向けて進ませていかなければならない。私は、歴史の流れというものは、もう再び戻ることのできないものだというふうに思っております。特に、エリツィン大統領が最初に訪日をされて、「東京宣言」が発せられて、この4つの島の問題を、東京宣言、クラスノヤルスク合意、川奈合意に基づきまして、その帰属を解決していく、そして、2000年までに平和条約を締結するということにつきましては、もとより日本としても引き続いて全力で努力をしていく。そういう意味から、川奈で橋本総理提案の問題につきまして、今般、私、25年ぶりに日本の首相としてフォローいたしまして、エリツィン大統領とも話し合ってまいりました。一つ一つ問題を解決しつつ、両国間がより接近をしていくという努力が重ねられれば、必ずや、この長年の懸案が解決できるものと信じております。不断なく両国の関係を緊密にしていく努力を引き続いてしていきたいというふうに思っております。
● 次に日米関係ですが、このところ、アメリカ側が対日貿易の赤字の増大に伴いまして、日本に対する批判を強める可能性があるのではないかという見方が出ております。この問題にどのように対処されるお考えか。それからさらに、安全保障問題を含めた日米関係全体をどのように運営されていくお考えかをお聞かせください。
日米関係は、基本的には全く問題はない状況になっておると思っております。ただ、ご指摘にありましたように、日米間の問題の一つとして、時々起こってまいりますのは、両国の貿易収支のインバランスの問題がございます。その点から言いますと、アメリカといたしましては、今年度の対世界商品貿易赤字が過去最大であったということでもございますし、また、対日商品貿易赤字も524億ドル(累計)でありまして、そういった点でたしかに大きなものになっていることは事実であります。
しかし、貿易の収支のみならず、双方の投資の問題もございますし、また、貿易外の収支の問題もございますし、日米間におきましては、種々問題があります。総合いたしますれば、貿易収支の赤字というものは、確にアメリカにとっては大変大きなものであると思いますけれども、一方、国民の皆さんがこれを求められて、多くの製品を米国内に輸入をしておるという実態もあるわけでございます。
しかし、これが政治問題になることのないように、一つ一つ問題の所在を明らかにして、アメリカとの関係を悪化せしめないように努力をいたしていかなければならぬと思っております。
いずれにいたしましても、米国、日本、この両国の貿易の額というものは、GDPはアメリカが25.4%、日本が15.8%。2つの大きな国が大きな経済力を持っておるわけですから、この両国に問題が発生しないようにあらかじめ考えていかなければならないと思っております。
● もう一つ、安全保障面での日米関係について。
安全保障面は、言うまでもありませんが、日米安全保障条約によりまして、日本、あるいは周辺地域の安全を確保するということになっております。この安全保障問題に対しましては、適時、米国との協議は重ねておりまして、両国間の安全保障問題に対する取り組みは、いささかの揺るぎというものはないものと確信をいたしております。日本側としては、先ほど来申し上げておりますように、米国と結ばれましたこの条約に基づいてのガイドラインの問題につきまして、日本側としての法的な整備も行っていきまして、両国間の関係をより緊密なものにしていかなければならない、このように考えております。
● 通常国会の運営について、重ねて質問いたします。先ほど総理ご自身もお認めになったように、自自連立をしても、参院は過半数に足りません。とりわけ今度の場合は、予算をはじめ、ガイドライン法案など、非常に重要な法案が沢山ありますが、この成立を期すために、まず、どの政党に対して協力を求めていくのか、そういうお考えを持っていらっしゃるのかどうか、お聞きしたいと思います。
どの政党といいますか、これは、国会で活動されておられますあらゆる政党に、その理解と協力を求めていくのが筋だろうと思っております。そういった意味では、自民党と自由党というのは、基本的に安全保障政策の考え方に相違があるとは思っておりません。ですから、与党としての考え方をぜひ野党の皆さんにもご理解を求めて、そして究極は、日本の安全保障に係わる問題につきましては、各党に積極的にご理解を求める努力を傾注していきたいというふうに思っております。
● ヨーロッパ訪問なのですけれども、「ユーロ」が誕生したということで、円とユーロ、それとドルの関係について、それと、円の国際化という問題について、総理はどうお考えになって、今度のヨーロッパ訪問ではどういうようなことをご主張なさるおつもりですか。
まさに今回、正月早々にヨーロッパを訪問させていただくこの時期、1月1日からユーロが誕生したという歴史的な大きな年になっているわけでございます。いま、世界貿易に占める使用通貨は、アメリカのドルが48.0%、ヨーロッパが31.0%、それに引き比べて円は5%、これが数字として挙がっておるわけでございます。先ほど申し上げましたように、GDP比との比較においても、日本の円が国際的に使用されるということにおきましては、非常に低い数字になっております。そういった意味で、新しい通貨ユーロが誕生し、米ドルが世界の基軸の通貨として大きなシェアを占めておることに関しましては、恐らくユーロとしてはそれに対しての考え方もあるでしょう。と同時に、円という通貨が国際的に使われる形になることは、ひとり日本のみならず、世界の金融通貨の市場におきましても極めて必要なことではないのか。一つよりも二つ、二つよりも三つという形で、それぞれ責任を分かち合うという形が望ましいと思っております。そういった意味で、ユーロ通貨の誕生した機会に、これを推進してこられました、特にフランス、ドイツの首脳、そしてまた、これに参加したイタリアの首脳と話をしてまいるということは、非常に意義の深いことではないかと思っております。 
記者会見 / 1月4日・伊勢市
● 地元の記者クラブを代表しまして質問させていただきます。まず初めに、首都機能移転問題で総理御自身は首都機能を東京以外に移転させる必要性があるとお考えでしょうか。また、三重、畿央地域への移転の可能性はどの程度あるとお考えでしょうか。お願いいたします。
まず、明けましておめでとうございます。また、報道関係の皆さんにも平成11年が良き年でありますことをお祈り申し上げます。さて、お尋ねの首都機能移転の問題でございますが、この問題は何よりも東京一極集中を是正しなければならない。また、国土の災害対応力を強化しなければならない。阪神・淡路大震災に見られるように、この大都市がそうした自然災害に遭ったときのことを考えますと、首都に対しましても、こうした災害に対する対応力ということもありますし、また東京自身も明治以来、首都として過密に悩んできたわけですが、私自身も空間を倍増していかなければならぬ。潤いのある地域にしなければならぬ。そういう意味で、この首都機能移転というものは大変意義深いと考えておるところでございます。
そこで、現在は国会等移転審議会におきまして、候補地の選定に当たっておるわけでございますが、いわゆる北東地域、東北ですが、または東海地域及び御地に関係の深い三重、畿央地域の3地域を調査対象として今、審議を進めていただいておるところでございます。したがいまして、首都移転につきましては、私自身大変深い関心を寄せているところでございますが、既にこうした具体的な地域の選定にもかかっておるところでございますので、私自身として今ここでその地域について言及することは避けさせていただきたいと思っております。
しかし、いずれにいたしましても、首都機能移転は内閣にとりまして極めて重要な課題でありますので、具体化に向けて積極的に検討をいたしてまいりたいというふうに考えております。名古屋から御地に参りますと、近鉄の電車の中で北川知事さんからでしょうか、大変ご親切な当地区の(首都)機能移転のパンフレットをちょうだいいたしましてよく拝見いたしましたら、その中で既に首相官邸もできておりました。
ただ、衆参両院の間をリニアモーターカーが通ることになっておりまして、そういう意味では夢のあるグランドデザインを拝見いたしましたが、申し上げましたように今、私の段階では、このことについて特にコメントすることは避けさせていただきたいと思います。
● 次の質問にまいります。橋本内閣と小渕内閣とでは地方分権、行政改革への取り組み、姿勢において温度差があるとも伺っております。改めて今後、地方分権、それから行政改革にどう取り組むのか、分かりやすい例を挙げて述べていただけませんでしょうか。
せっかくのお尋ねでございますのでお答え申し上げるわけですが、実は橋本内閣から私の内閣になりまして、行革につきましてはいささかの揺るぎもないということをまず申し上げたいと思っております。今日は太田総務庁長官も参っておられますけれども、橋本内閣はこの行革につきましても大きな理念を明らかにし、その端緒をつくったところでございますが、そうした理念から、今度はこれを実行に移す時期に来ておる。その責めを小渕内閣としては負っているということでありまして、これを完結をさせる、まず具体的な第一歩を踏み出さなければならぬと思っておりまして、橋本内閣はまた総論としての行革をしっかり組み立てましたが、まさにそれを一つ一つ具体化していくのが本内閣の務めと考えておりますので、お言葉にありましたが、若干この温度差ということは温度が低くなっているんじゃないかということだろうと思いますが、全くそういうことはないというふうに思っておりまして、今般4月に国会に提出をいたします種々の関連法案につきましては、政治主導で作業を進めておりまして、独立行政法人化、組織整理、定数削減など、中央省庁のスリム化に全力で取り組んでおるところでございます。
例をということですが、例えば局の数を126から今般90に近いところということで努力をいたしましたが、いろいろ精査いたしますと95ということになりまして、更に男女共同参画ということでこれを1局設けようということで96にいたしました。少なくとも多くの局を整理・統合いたしまして、それぞれの局が機能を十分発揮できるようなそういう形にいたしております。
また来年度予算におきましては、定数につきましても4,000近い削減を試みております。もちろん、金融監督庁のように新たなる責務を負ってその責任を負う庁につきましては、むしろ人員を増員をいたしておりますが、その増員がありましても、今のような数字になっているということは、この内閣としては行政改革はまさに天の声であるという感じで取り組ませていただいておりますので、内閣の主要課題としてこの問題については積極的に必ず実の上がるように努力をいたしていきたいと、こう考えております。
地方分権につきましても、国の直轄事業の見直しや統合補助金の創設など、昨年11月にいただいております地方分権推進委員会の第5次勧告に対応する計画を本年度内を目途に作成いたしまして、先の計画と合わせまして、今後とも地方分権につきましては総合的かつ計画的に推進してまいりたいと思っております。
また、昨年5月に決定した地方分権推進計画に基づきまして、機関委任事務制度の廃止などを内容とする関連法案を今年の通常国会にこれを提出をいたし、これの成立を期し、そのことによりまして、この計画を着実かつ速やかに実施してまいりたいと、こう考えております。
なお、一層の規制緩和、特殊法人の整理合理化をいたしてまいりますことは、これも言うまでもないことでありまして、真剣に対処いたしていきたいと思っております。
● まず政局運営についてのお尋ねでありますけれども、自由党との連立政権に伴う内閣改造ですが、これは総理のヨーロッパ御訪問後に行うというふうに判断されていらっしゃるのでしょうか。また、その際、人事につきまして、自由党の小沢一郎党首を副総理で入閣させるべきだという声が自民党内の一部にあるようですが、その点についてはどのようにお考えでしょうか。また、連立政権発足後の両党間政策調整なんですが、これは両党の政策担当者レベルでやるのか。または、閣内で行っていくのでしょうか、お考えをお聞かせいただきたいと思います。
まず、若干冒頭申し上げて恐縮ですが、私はずっと36年間衆議院議員として国政に参画させていただきまして、そのほとんどが与党でございますので、歴年内閣改造というものを見てまいりましたし、私自身も参画させていただきました。私は、その思いからいたしまして、一内閣一閣僚というのが私のかねての持論でございまして、そういう意味で今日こちらにも御一緒にそれぞれ役目を負っておられる大臣、長官の皆さんにおいでいただいていますが、小渕内閣発足以来、全くその省庁を掌握してその職務に精励をし、実績を上げてきていただいています。そういう意味で、やはりその経験あるいは期間というものは非常に大切だということを認識をいたしております。
しかし、今般、総選挙後直後でなくて、2年余たちまして自由党との連立政権を目指すということで、これまた政治的な大きな決断をさせていただきました。やはり、政局の安定と同時に自由党と基本的考え方を共にすることがあるとすれば、その実現のために努力すること。そして小沢党首とパートナーをしっかり組んで、国民と国のために大きな責任を果たしていきたいと、こういうことで連立を組むことにいたしました。
さて、お尋ねの点でございますけれども、両党間の話し合いがいささか急遽でございましたので、いまだその話し合いが継続しておるところでございまして、特に正月になりまして早々に5つのプロジェクトが既に協議に入っておるところもございますが、これから真剣に両党間で話をしていかなければならぬ、こういうことを考えますと、今日は4日ですが明日、明後日、実は6日に私はかねて訪欧の予定がございますので、この間にそうしたことをまとめ上げるのにはやや時間が切迫しているのではないかと考えていますので、もともと合意につきましては、通常国会前に内閣の改造を行うというお約束でございますから、そのことは是非実現をしていきたいと思っております。
したがいまして、私が訪欧前にこのことを実現することはいささか困難ではないかと思いますし、また留守中大変申し訳ありませんが、我が党の森幹事長を中心にいたしまして5つのプロジェクトの責任者に督励を申し上げ、正月、国会前でございますけれども、精力的に取り組んで自由党との間につきまして、可能な限り合意を得て新しい国会に臨みたいと、こういうふうに考えております。
小沢党首のことにつきましてですが、過去3回党首会談をいたしまして、基本的には内閣の問題は首班たる私に御一任をちょうだいをいたしております。私としては、昨年末に『総理と語る』という番組におきまして、自由党からも右代表として小沢党首の入閣を願っておるということを申し上げておるところでございますが、現時点におきましては、まだそのような結論に達しておらないということでございますが、いずれにしても自由党とともに内閣を責任を持って運営し、そのことによって国民のためにいかなることを成し得るかという観点に立ちまして結論を得たいと、こういうふうに考えております。
政策調整は先ほど申し上げましたように、今それぞれ担当者の皆さんは選挙区にお帰りになっておるだろうと思いますが、6日に党が仕事を始めますので、そのときに幹事長を始め関係者の皆さんにまたお寄りをいただいて、私から精力的な取組について強く要請をし、加速をさせていただきたいと考えています。
● 続いて、経済政策についてお聞かせ願いたいと思います。総理は、「はっきりしたプラス成長」を公約されているが、当初予算が成立後、なお景気の足取りが重いようであれば、追加景気対策を打ち出すお考えはあるんでしょうか。また、6日から先ほどお話がありましたヨーロッパ訪問ということで、ユーロの発足がテーマのひとつとなると思うが、ドル、ユーロ、それから基軸通貨として円を位置づけていくための政策というものを打ち出すお考えがあるのか。
この内閣としては、今年を是非「経済再生元年」と位置づけ、その達成のためにあらゆる施策を講じてきつつありますし、またそれを実行していかなければならぬ。そういう意味では、平成11年度の予算につきましても、大変御批判される方はいろいろ御批判されて、大盤振舞いではないかとか、いろいろありますけれども、内閣としては成すべき施策を講ずるために必要な予算は徹底的に予算を配分し、そしてその実効が上がるようにということでございます。
昨年末以来、3次の補正をいたしまして、その前に橋本内閣時代の第1次補正がようやく秋口から効果を見つつある。したがって、第3次補正予算も実は今年の1月から3月期、切れ目のない執行ができるようにということで、この補正予算を24兆円超のいろいろ考え方をさせていただいておりますが、これも実際の予算執行になりますと、すべて3月末に消化できるとは残念ながら考えられません。したがいまして、俗に15か月予算とも言われますけれども、来年度予算についてのうまいコンビネーションと適切な執行、そしてこれが全国に効果を発揮するということであれば、必ず実は0.5%のプラス成長に持っていくことはできるという確信をいたしております。
ただ、経済というものはいろいろ複雑な要素が働いてまいりますので、実は今年は若干暖冬の状況でございますので、こういうものは一般の衣類その他の消費に影響を与えなければよろしいなとも考えておりますが、マイナス要因はできる限り排除しながら、プラスの施策が十分効果を発揮するように、細心の注意を払いつつもドラスティックな対応を勇気を持って実行すれば、申し上げたように必ずプラス成長にと言える今年であると、こう認識しております。
それからもう一点のユーロの問題、たまたま今回の訪欧がユーロが誕生いたしまして初の、恐らくフランスもドイツもイタリアも訪問する外国の首脳ではないかというふうに思っております。是非このユーロの問題というものは非常にいろいろな意味で大きな世界の中の経済のみならず、政治に対しても大きな影響力を持つのではないかと思っております。いろいろ実はこの正月、時間をちょうだいしましたので、昨日は1日掛かりでユーロに関しての勉強を一生懸命いたしました。フランスがこれを導入するときに国民投票で51%と49%というきわどい差で導入をしてきたわけでございますし、またそれぞれの国はマーストリヒト条約を遂行するために、それぞれの国の財政赤字を非常に制約された。そのために国によっては相当の失業者を出してまでこの通貨を統合したということは、いずれ将来においては欧州の政治的統一を目指しておることを考えますと、大変なある意味でリスクと犠牲も覚悟しながらユーロの誕生を行ったということを考えますと、我が日本としても世界で使用される通貨が貿易額で言いまして、ちょっと古いんですけれども92年で米ドルが48%、欧州が31%ですが、これは15か国ですから、そのうち11か国がユーロに参加しておりますからもう少し低いのかもしれませんが、我が日本の円はわずかに5%ということですから、いわゆる3つの3極とは言い難いことでありまして、2.5なのか、2.3なのか、こういうことであります。
しかし、私は昨年来、APECやASEAN首脳会議に出席をさせていただきまして、日本に対する非常に大きな信頼感、また日本に対する期待感の強いのを認識をいたしました。こういうことを考えますと、日本の円もおのずと貿易におきましてもこれが使用されるという姿が望ましい形でありまして、いよいよユーロの誕生とともに米ドル一つの軸でありましたのが2つの軸になり、かつまた日本としての円の存在ということは非常に重要なことでございますので、こうしたことを見据えながら、単に金融通貨の問題ということではなくて、世界の国々のあるべき姿という観点からも、円の問題についても検討していく極めて重要な時期を迎えているのではないかという認識をいたしております。
ヨーロッパに参りまして、ユーロに積極的に取り組んでこられたフランス、かつてミッテランさんですが、今はシラクさんになられて、またコールさんは辞めましたけれども、シュレーダーさんがなられたドイツのこの状況というものを十分お話し合いをしながら日本と欧州、そしてアメリカ、こういう国々とともに通貨を通じての世界の経済的安定にも役立たせていただきたいと、このように考えております。 
談話 / 平成11年1月14日
私は、本日、内閣改造を行いました。
昨年七月の組閣以来、私は、この内閣の最重要課題である日本経済の再生に全力を挙げて取り組んでまいりました。破綻の危機に瀕していたわが国の金融システムが健全に機能する基盤を整えるとともに、緊急経済対策を策定し、総事業規模にして十七兆円を超える大型の補正予算を編成いたしました。また、税制については、総額で九兆円を超える減税の実施を決定いたしました。さらに、平成十一年度当初予算につきましても、景気対策に十分配慮した編成を行ったところであります。このように、私は、関係各位の英知と協力を得ながら、思い切った施策をスピーディに実行に移してまいりました。
しかしながら、わが国を取り巻く環境は依然として大変厳しく、景気の回復をはじめ緊急に解決しなければならない内外の課題が山積しています。また、急速な少子・高齢化や情報化、国際化などが進展する中で、あらゆる分野における改革を断行し、二十一世紀に向けてこの国のあるべき方針を明確にしていくことが強く求められております。
私は、これらの課題に果断に取り組み、今日の国家的危機を乗り切っていくためには、自由民主党と自由党の両党が政権を共にし、日本国と国民のために責任ある政治を行うことが不可欠であると判断し、このたび、内閣を改造する決断をいたしました。改造に当たっては、自由党より閣僚を迎え入れるとともに、かかる重要な時期に行政の停滞が生じないよう、閣僚の交替は必要最小限にとどめることにいたしました。また、行政改革の推進を図る観点から、閣僚数を二十人から十八人に削減いたしました。
日本経済の回復への道のりは決して楽なものではありませんが、国民の誰もが豊かで安心して暮らせる二十一世紀を迎えられるよう、責任と情熱をもって、諸課題に取り組んでまいる決意です。
国民の皆様の一層のご理解とご協力を心からお願い申し上げます。 
記者会見・小渕改造内閣発足後 / 平成11年1月14日
私は本日、自由民主党と自由党による連立内閣を発足させるため内閣改造を行い、自由党から野田毅氏を自治大臣・国家公安委員長としてお迎えをいたしました。
昨年7月に組閣以来、私は日本経済の再生に全力を尽くす立場から、いわゆる金融二法の制定実施、緊急経済対策の策定、大型第3次補正予算の編成、更には、思い切った減税と景気対策に十分配慮した平成11年度予算編成など、幅広い内容の政策を実行に移してまいりました。この間、国会を始め、国民の皆様からいただきました御理解と御協力に改めて心から御礼申し上げます。
しかしながら、我が国を取り巻く環境は依然として厳しく、景気の回復を始め、緊急に解決しなければならない内外の課題が山積をいたしております。また、急速な少子高齢化や情報化、国際化などが進展する中で、あらゆる分野における改革を断行し、21世紀に向けてこの国のあるべき方針を明確にいたしていくことが強く求められております。
私は、これらの課題に果断に取り組み、今日の国家的危機を乗り越えていくために、自由民主党と自由党の両党は政権を共にし、日本国と国民のために責任ある政治を行うことが是非とも必要であると判断をいたしまして、このたび連立内閣を発足させ、内閣を改造する決断をいたしたところでございます。
改造に当たりまして、先ほど申し述べましたように、自由党から野田毅氏を内閣に迎えますとともに、かかる重要な時期に行政の停滞が生じないよう、閣僚の交替は必要最小限にとどめることにいたしました。
また、行政改革の推進を図る観点から、閣僚数を20人から18人に削減いたしました。私は、この内閣に与えられた重大な使命をしっかり踏まえ、内閣の総力を挙げて諸課題に取り組んでまいる決意であります。
国会を始め、国民の皆様の一層の御理解と御協力を心からお願い申し上げます。
【質疑応答】
● 総理は、自由党からの入閣者について、当初、小沢党首を迎え入れたいというふうなお話しをされていたと思いますが、野田議員にポストがいったということで、この理由をお聞かせください。それから、自治大臣というポストを当てられたことの理由もお伺いしたいと思います。それと、今回、連立が成立いたしましたけれども、自民党と自由党と合わせても参議院では過半数に足りないということで、今後の国会運営にどのように対応していくかという考えをお聞かせください。
まず、今般の連立内閣におきましては、私といたしましては、自由党の党首であります小沢党首とともに力を合わせてこの内閣を進めたいという念願をいたしておりました。しかし、党首といたしましては、党を代表して入閣をお願いいたしましたが、自分は党務に専念をいたしたいということでございまして、自由党からは今申し上げました野田毅幹事長を御推挙されました。私といたしましても、野田毅氏の実力、また政策通として内外に高い評価をいただいており、私自身も長い間、自民党におりましたときからも、その人となりを十分承知をいたしておりますので、この方ならば、共にこの政権を担って国民のために実績を上げることができると、こういう認識をいたしまして、今回お願いを申し上げたということでございます。
自治大臣、国家公安委員長という仕事は誠に重責でございまして、必ずその任に応えていただけるものと認識をいたしております。
また、今般、自由党との話し合い、協議をいたす過程におきまして、副大臣の問題等につきましても、その話し合いに積極的に参画していただいておりましたので、この自治大臣とともに補職といたしまして、こうした問題につきまして改めてその責任を負っていただきたいということで野田大臣に対してそのことを御指名申し上げておるところでございます。
また、国会の運営につきましてお尋ねがございました。これもしばしば申し上げておるところでございますが、今般の自由党との連立政権というものは、単に国会における数合せの問題でなくして、新しい保守の理念をもって共に協力し合い、そして切磋琢磨し、そしてお互いの党のよき点を相乗的に効果をあらしめて、その結果、国民と国家のために大きな役割を果たしたいと、そういう意味で今般の連立内閣を成立しておるわけでございます。
御指摘のように、国会は国会議員の数によってこれが定まる点でございますので、そうした点では、残念ながら参議院におきまして過半数に達しておらないことは事実でありますが、必ず自民党と自由党とのこうした連立政権によりまして、より安定した政権運営を行うとともに、その行うべきことにつきましては、当然、各党、各会派の御協力を得られるものと確信をいたしておりまして、そうした意味合いにおきまして、是非これからも十分各党、各会派と協議協力をお願いし、そして、国政の難局に当たってまいりたい、このような決意をいたしておるところでございます。
● 昨日、自民党と自由党両党で合意された安全保障政策についてなんですが、その中でPKFの本体業務への凍結解除、それから新たに国連の平和活動への協力を実現するための新法の制定がうたわれております。この時期について、いつごろを念頭に置かれているのか、また、ガイドラインについては、両党間で話し合われてきた問題が、そして更に議論を深めるというふうになっています。総理は、幾つかの船舶検査の問題だとかあるいは国会承認の問題だとか、両党間で論議されていた点についてどうお考えになっておられて、また、この問題についてはどういう決着を図ろうと考えていらっしゃるのか、伺わせてください。
まず、自民党と自由党の政策決定責任者が十分、何日間も真剣に御議論されました。その結果、両党の間で安全保障に関する基本的な考え方はまとまりました。政府といたしましては、この両党間のまとまった点につきまして、今後国会での御審議の状況も見なければなりませんが、その内容の実現のために真摯に政府としては対応していくことは至極当然のことだろうというふうに認識をいたしております。
なお2点の、実効性確保のための関連法案等について申し上げれば、この日米防衛協力のための指針、すなわちガイドラインの問題につきましては、冷戦の終結後もなお現在このアジア地域を巡りまして極めて困難な難しい状況も見過すことができない状況でございますので、そういった意味でこの地域の平和と安定の維持が日本の安全により一層重要であるということにかんがみまして、この効果的な日米防衛協力の関係を構築するために作成されたものでありますことから、政府といたしましても、早急に国会で御審議をいただき、成立または承認をお願いいたしたいと思っておりますが、いずれにいたしましても、基本的に日米安保条約というものをしっかりとこれを踏まえて、日本の安全を確保していこうという観点につきましては、自民党も自由党とも、その基本的理念、考え方にはいささかの相違もないわけでありますが、いずれにいたしましても、それぞれの党の主張につきましては、この協議を通じまして、まとめてまいっておりますので、是非、この点につきましても実現をしてまいりたい、そして、一日も早く次の通常国会におきまして、これが成立せしむるように更に連立内閣としての実を上げてまいりたいと、このように考えております。
● 総理、自由党との連立内閣ですけれども、政策協議も税制の問題等継続していく問題もあります。今後、政府与党の連携というのはどのように取っていかれるのか、あるいは政策協議、継続している部分、どのように調整されていくのか、その辺りは具体的にはこれからでしょうか。
一応発足に当たりまして5つのプロジェクトが話し合いを詰めてまいりました。その結果、本日こうして自由党からも閣内に入っていただきまして、ともにこの内閣を推進していただくということに相成りました。個々の具体的な政策課題につきましては、これは今後政府与党間の会合も双方の責任者が集まりまして、随時開いていきたいというふうに思っておりますので、そうした中でのそれぞれの御主張を受け止めながら、お互いの立場を認識し合いながら、その実を上げることが私は必ずできるものだというふうに考えております。
● 総理、今回の連立で、総理と小沢党首が、まさに政権運営でコンビを組まれるという形になったわけですが、お二方の政治手法、あるいは人となり、これについては全く異質ではないかという見方も一部あるわけで、政権運営面で一部に懸念も出ているという印象を受けるんですが、今後、その辺の懸念を払拭されるか、自信のほどを。
今、御懸念があると言いましたが、私は非常に2人のコンビといいますか、相協力する体制というものは非常に堅固なものがあるというふうに認識をいたしております。ただ、一般的にその手法としていろいろと指摘もされておりますが、ごくわかりやすく言いますと、小沢党首は野球で例えると剛速球を投げると、私の方は若干軟投型だという批判もありますが、むしろ、そうした小沢党首の持てるよさと私の持つよさと、これがしっかりかみ合えれば、二乗三乗の効果を上げるのではないかと、私自身は思っておりますし、必ず小沢党首もそのような考え方をいたしておると思いますので、私は今回のこの連立、特に、両党党首自体がこれからしっかり諸問題について話し合っていけば、多くの成果が得られるものと、こう自信を持って申し上げたいと思います。
● 総理は一内閣一閣僚というのが持論でいらっしゃいますけれども、自民、自由の両党の中には、より結び付きを強めるために、政務次官の入れ替えも含めました本格的な内閣改造を予算成立後、あるいは国会終了後に行うべきだという意見もあるようですけれども、そのようなお考えは現在ございませんでしょうか。
御指摘のように、私はかねて来一内閣一閣僚ということは私の持説として持ってまいりました。そういった意味で、総理大臣ももちろん、国民の支持がなければこれを維持することはできませんけれども先般もヨーロッパ3か国回ってまいりましても、それぞれの政権というものはかなりの長期にわたってその任に当たっておりまして、そういった意味で日本におきましても、閣僚におきましても、従来のような状況というものは、いろいろ批判の対象にもなりかねないということでありますし、今次内閣におきましては、全く私としては、それぞれのエキスパートがそれぞれの任に当たっておりまして、これ以上の内閣は私はあり得ないと常々思っておるところでございます。
ただ、今般このような形で自由党との連立政権に踏み切ったということでありますれば、当然閣内に今般、野田大臣をお迎えしているような形で、このきずなを更に強くしていかなきゃならぬと思っております。
長くなりましたが、お尋ねのように、それでは本格的と言われますが、私の今回の内閣も本格的でございます。
ただ、将来にわたりまして、更に今後の政局、政権の推移、また、国会その他の状況ともかんがみまして、そうした形でこの内閣の在り方について検討する時期が、あるいはあるのかもしれませんけれども、今の時点ではそのようなことは全く考えさせていただいておらないということでございます。
何よりも今回改造いたしました内閣のそれぞれの責任ある閣僚が100%以上の責任を、心新たに、そして、政治に取り組んでいただければ、必ず大きな力を発揮し得るものと、このように考えております。 
記者会見・平成11年度予算成立 / 平成11年3月17日
平成11年度予算が、お蔭様をもちまして、本日、成立する運びとなりました。衆参両院におかれまして、予算成立のため大変ご努力をいただきましたことに心から感謝申し上げます。
今回の予算は、戦後最も早い時期に成立することとなりました。これは、今回の予算の早期の成立と執行如何がいかに重要であるかということについて、与党のみならず野党の方々からも大変理解をいただいた結果でありまして、この場をお借りいたしまして、改めて関係の方々に御礼を申し上げるところでございます。
私は、昨年7月、この内閣をお預かりいたしまして以来、日本経済の再生に向けてあらゆる施策を総動員いたしまして、いわば背水の陣を敷いて取り組んでまいりました。幸い、最近になりまして、銀行の資本増強による金融システムの安定化策の進展や補正予算の執行など、これまでの施策の効果に下支えされ、景気はこのところ下げ止まりつつあると思っております。
また、それぞれの企業や家庭の方々の意識や姿勢も、困難に打ち克ち、この国の将来に向けて前向きに取り組んでいこうということで、ご理解をいただきつつあるように存じております。
言うまでもなく、経済は生きものでありまして、私は、常に経済の動きを直視し、よい芽があればこれを伸ばし、悪い芽があればこれを摘んでいくというように心がけてまいりたいと考えております。
そこで私は、景気の回復をさらに確実ならしめることを目指しまして、本日、公共事業、住宅、中小企業につきまして、次の指示をいたしたところであります。
まず第一の公共事業についてでありますが、予算が早期に成立を見たことによりまして、政府といたしましても、一刻も早い景気回復に向けて最大限の効果が発揮されるよう全力を尽くしてまいりたいと思っております。
この観点から、私は、予算の成立に当たりまして、第一に、公共事業等にかかわる実施計画、いわゆる箇所付けの協議及び承認をできるだけ前倒しするとともに、その透明性の確保に努めてまいりたいと思います。
第二は、11年度上半期における公共事業等の執行につきまして、契約額が前年度を大きく上回るよう、その積極的な施行を図ること。
以上二点につきまして、関係閣僚に対し具体的な方針を早急に検討するよう指示いたしたところであります。
次に住宅についてでありますが、景気の速やかな回復と、豊かな住生活の実現のために、住宅投資の拡大が重要でございます。最近は、住宅投資に明るい面が見えてきたところでありますが、現在、住宅の建設や取得をお考えになっている方々は、現在の財投金利の水準との関係で、住宅金融公庫の金利が、今後、大幅に引き上げられるのではないか、すなわち、現行の2.2%が、現在の金利水準を前提といたしますと、今後は2.85%になる、そういった不安をお持ちになっておられることをよく承知いたしております。
一方、公庫の経営は誠に厳しい状況にございます。この際、私といたしましては、こうした方々の不安に応え、また、回復の兆しが見られる住宅投資の足どりを確かなものにするために、公庫金利の引き上げ幅を思い切って圧縮し、持続的に需要を喚起していくことがぜひとも必要であると考えました。その旨、建設大臣に検討を指示いたしたところでございます。
第三に、中小企業についてでございますが、中小企業につきましては、依然としてその資金調達の環境は厳しいと思っております。今回、大手15行に対する公的資金の注入に当たりましては、各金融機関におきまして、特に中小企業向け融資を増やし、その資金需要に十分応え、貸し渋り対策にも資するような計画が策定されたところであり、今後、これが確実に実行されるよう万全を期してまいりたいと思っております。
また、中小企業の特別保証制度につきましては、国会におけるご議論でも、中小企業の方々からも大変効果を発揮している政策との評価を受けております。また、その保証枠を拡大してほしいとの要望も多々寄せられておるところでございます。
これらを踏まえまして、現在、20兆円に加えまして、今後、必要かつ十分な額の保証枠を追加することといたしました。その具体的規模等につきましては、中小企業者の資金需要の動向を引き続き注視しながら決定してまいりたいと考えております。
今後の大きな課題でございます雇用と経済の供給面の課題について、一言触れたいと思います。
まず、雇用の問題であります。昨年11月の「緊急経済対策」におきまして、100万人の雇用創出・安定を目指し、思い切った対策を決定いたしたところでございますが、さらに具体的推進を図るべく、去る5日、福祉、情報通信など四つの分野につきまして、ここ一両年に期待される雇用創出の規模が77万人にのぼることを明らかにいたしたところであります。
次に、経済の供給サイドの問題でありますが、私は、今や、官民が一体となって経済の供給面の体質強化に取り組んでいく時が来たと確信いたしております。究極のところ、将来の日本経済の発展は、健全で競争力のある産業によって支えられるからでありまして、私は近く、官民の代表からなる「産業競争力会議」を発足させ、大いに知恵を出し合って取り組んでいくことといたしました。
これらの点につきまして、ぜひ国民皆様のご理解を得たいと思っております。
この機会に、既に衆議院におきまして審議をされております、いわゆるガイドライン法案をはじめ多くの重要法案につきまして、その速やかな審議、成立を関係各位に強くお願いする次第でございます。
最後になりましたが、私、明後日から韓国を訪問いたしますが、これにつきまして一言申し上げたいと思います。
昨年10月に金大中韓国大統領との首脳会談(於東京)を通じまして、日韓両国は、その過去を克服し、21世紀に向けた未来志向の日韓関係を築いていく基礎が固まったところでございます。私といたしましては、この機会に、この歴史的な流れをさらに深く根づかせ、拡大していくことが私の責務であると考えております。
こうした考えに立ちまして、私は、金大統領との日韓の両国関係のさらなる発展や、北東アジアを巡る諸問題などにつきまして、胸襟を開いて十分な意見交換をしてまいりたいと考えております。以上でございます。
【質疑応答】
● それでは質問させていただきます。最初に、景気対策です。先ほど総理は、公共事業の前倒しなどの追加策をお話しになりましたけれども、景気では、株価など幾つかの経済指標では明るさが見えていますけれども、景気回復の足取りは依然として重いものがあると思っております。今後、さらなる景気対策、つまり、補正予算などの景気対策を策定するお考えがあるかどうか。また、あるとすれば、その策定のメドはいつごろになるのでしょうか。
これは、いま冒頭の説明の中で申し上げて、繰り返しになるかもしれませんが、これまでの景気対策につきましては、11年度予算もそうでありますが、その前の補正予算等を通じまして、あらゆる手段を講じて景気回復に最善を尽くしてきたつもりでございます。先ほども申し上げましたが、いわば背水の陣を敷いてすべてこれを行ってきたと思っております。もとより、予算が通過いたしましたので、これを一日も早く執行していかなければなりませんが、そのためのことにつきましても、先ほどご説明いたしたとおりでございます。
幸い、これまでの政策効果や、民間の方々も大変前向きになってきていただいておりまして、その姿勢によりまして景気は下げ止まりの状況ではないか。ですから、これが反転してより上向きのものになるものと確信しておるところでございます。現在、こうした回復基盤を固める大変大切な時期だという認識もいたしております。でありますので、これまでの施策、11年度予算の執行に加えまして、景気回復をさらに確実ならしめますように、公共投資、住宅、そして中小企業の三項目について指示したところでございます。
冒頭のお尋ねにございましたように、東京市場の株式のダウの価格が1万6,000円を超えております。実は、私が就任いたしました時の価格を本日超えたと、こういう数値でございます。もとより、株式というものはいろいろと変動のあることではございますけれども、ぜひこれを確実なものとして、経済の一つの指標でございますから、やはり株価というものに十分関心を持っていき、また、それが良き結果を生むことのできるような政策を着実に遂行していくということで、これがすべてである、こう考えておるところでございます。
● 明日18日から、日米防衛協力のための指針、ガイドライン関連法案の委員会審議が始まります。ガイドライン法案の成立は事実上の対米公約となっていまして、5月の総理の公式訪米の際にも大きなテーマになると思います。法案の修正は、与野党の間で水面下では始まっていますけれども、今後の法案修正、衆院通過の見通しなどをお聞かせください。
ガイドライン法、すなわち周辺事態安全確保法案につきましては、実は、今国会、あるいはその前の国会もそうですが、予算委員会をはじめとして多くの委員会でもこれを取り上げていただきまして、大変熱心なご議論を展開していただいております。
政府といたしましては、我が国の平和と安全を確保する重要な本法案でございますので、今国会成立または承認をいただけますようにぜひお願いをしたい。また、ご審議につきましてのご協力を切に祈念しておるところでございます。
● 北朝鮮の地下核施設疑惑をめぐる米国と北朝鮮との交渉が合意に達しまして、核施設の疑惑のある地域への視察が実現することになりました。それで、見返りに米国は食糧支援を行うというふうに言われています。この事態を踏まえて、我が国の今後の北朝鮮政策に変化があるのか、ないのか。また、総理はさっきおっしゃいましたけれども、19日から韓国を公式訪問されます。日韓の北朝鮮政策への連携策とか、そのようなものについて、どのような形で金大中大統領との首脳会談に臨まれるのか、その二点をお聞きしたいのですが。
米朝会談につきましては、我が国としても両国の会談を注視してきたところでございます。特に北朝鮮の秘密核施設疑惑につきましては、断続的に開かれた協議を見守ってきたわけですが、この度、この難しい協議が妥結いたしまして、米側が疑惑の対象となっておりますクムチャンニの施設を十分な形で訪問することを北朝鮮側が認めるに至ったと聞いております。我が国としては、これを歓迎し、高く評価いたしたいと思います。
今回、北朝鮮をめぐる国際社会の懸念の一つである秘密核施設疑惑につきまして、まず交渉を通じて解決する道筋がつけられたということは、我が国を含む関係諸国と北朝鮮との関係を展望した上でも、非常に好ましいことだと思っております。このことは、今後の対北朝鮮政策を検討していくに当たりましても、一つの好ましい材料であると考えておりまして、これを契機に、北朝鮮がさらに建設的な対応をとられることを期待いたしております。
また、今週末に訪韓いたしまして、金大中大統領と会談する予定でありますが、先般、米国のペリー北朝鮮政策調整官も訪日されました。そのペリーさんの政策見直しの現状についての説明も含めまして、対北朝鮮政策につき忌憚のない意見を交換したいと考えております。いずれにいたしましても、米朝の話し合いが決着いたしたということでございますので、今後、これが進展することを期待いたしますと同時に、最も関係の深い韓国、そしてまた、日本としても大変関心を深くしておる北朝鮮の問題でございますので、韓国、米国、こうした国々とともにしっかりと協調して対応していきたい、このように考えておる次第でございます。
● 総理は自民党総裁でもあられるのですが、東京都知事選で自民党は元国連事務次長の明石康氏を推薦されています。ただ、柿沢弘治元外務大臣、石原慎太郎元運輸大臣が出馬を表明し、自民党は、三分裂といいますか、そういう様相を呈しています。まだ現状で結果を予測することは難しいのですけれども、党総裁、自民党執行部などの今後の結果責任がもしもあるとすれば、どのようにお考えですか。
自由民主党といたしましては、東京都政に対してもっと責任を持っていかなければならない、過去4年間を振り返って痛感をいたしております。そこで、既に党本部、東京都連として、的確な手順を踏んで明石康氏を東京都知事候補として推薦申し上げておりますので、その必勝を期して鋭意準備を進めておるところでございます。一方、都知事選を巡りまして、予期せぬ状況になっておること、この点については明石さんにも大変申し訳なく思っておりますが、いずれにしても、明石さんの当選に向けて、自由民主党の選挙対策の本部長でございます私でありますので、その先頭に立ってこの選挙を闘い、勝ち抜きたいと思っております。ともかく選挙に勝つということで全力を挙げさせていただきたい、このように考えております。
● 日の丸・君が代、国旗・国歌の法制化の問題ですけれども、野党は、今国会の法制化については慎重な対応に変わってきていると思いますけれども、総理は今後、日の丸・君が代、国旗・国歌の法制化についてどう取り組んでいかれるのか、お聞かせ願えますか。
国旗・国歌の法制化ということは、内閣としてこれを提案して国会にお諮りするか、議会としてこの問題にお取り組みするか、こういうことに尽きると思いますが、私といたしましては、21世紀を前にして、国旗・国歌につきましても、戦後半世紀を経ていることでございますので、この際、法制化をして、国民のご理解のもとに法律として制定することが望ましい、こう考えておりまして、できますれば今国会にこれを提出させていただくための準備をいたしております。
どうしてこういうことになったかということでございますが、申し上げましたように、戦後50年、日の丸、あるいは国歌につきましても、いろいろな国民的な考えというものはあっただろうと思いますけれども、この機会に、世界の中でこれを法制化している国々もかなりあることでありますし、また日本におきましても、最近、政党の中では、これを法制化することについて肯定する政党も出てきておりますので、私としては、この問題にぜひ取り組ませていただきたい。
特に、これがすべてではありませんけれども、きっかけになりましたのは、広島県における石川校長さんの大変残念な自殺という悲劇が起こりました。日の丸を掲揚し、かつ、君が代を斉唱するということにつきまして、学習指導要領におきましてこれをお決めして教育委員会でこの実施をお願いしているわけですが、その狭間で大変ご苦労されたという経過もございます。
そういった意味で、学習指導要領だけでなくして、法制化によってこのことをきちんとすることが望ましいのではないかというようなことも含めまして、私としては、現下、その法制化のための準備をさせていただいておるところでございます。
お尋ねにつきましては、当初、これは率直に取り組んでもよろしいのではないかというような各党の幹部のお話も、メディアを通じて承知をいたしておりましたが、最近、ご指摘のようにやや変化があるという見方もされております。
ただ、この問題は極めて重要なことでございますから、それぞれの政党、あるいは、国会議員一人ひとりのお考えも十分参考にしていただかなければ、単に多数決で決するというものではなかろうかと思います。十分なお話をしていくことができれば、必ずご理解をいただけるものだろうと考え、法案を提出いたします過程におきまして、最善の努力をして理解を深めてまいりたい、このように考えております。
● 外交問題でもう一つお聞きします。ロシアのエリツィン大統領が、健康問題でなかなか来日の目途が立たない状況にありますけれども、今後、どのような日程で来日が可能なのか、あるいは、平和条約交渉の今後の見通しも含めてお考えをお聞かせください。
ロシアからは、外相、あるいはマスリュコフ第一副首相と引き続いて我が国を訪問されて、高村外務大臣をはじめ、また、私自身もそれぞれ会談をさせていただいております。我が国の立場は十分お伝えしておるところでございますが、2000年までに何とか領土問題を解決して平和条約を結ぶという流れの中で、橋本総理、エリツィン大統領との信頼関係に基づきまして順調に運びつつあったと思っております。私自身も外務大臣として、また、昨年冬には総理大臣としてロシアを訪問し、エリツィン大統領とも忌憚のないお話を進めてまいりました。
願わくば今年の春にエリツィン大統領をお迎えして、明年となってまいりました2000年に向けて、大きな前進を図りたいと念願いたしておるところでございます。ロシア側の要人の方々には、ぜひ大統領に今回は訪日をしていただきたいということを申し上げておるところでございますが、ご指摘のように、現在やや健康を損なわれておるということもお聞きいたしております。一日も早い回復をし、そして願わくば、春、桜の花の咲く季節に我が国を訪問していただきまして、ロシア大統領と私の間に将来に対する方向性が定まる、そのための絶好の機会を得たいと、いま念願しておるところでございます。
● 衆議院の選挙制度改正が大きなテーマになっております。特に東京都知事選に絡んで、重複立候補の問題をはじめ、区割りの問題、供託金没収者の当選者の問題などが出ております。総理のお考えとしては、まずどこから手をつけていこうとお考えでいらっしゃいますか。
選挙制度の問題につきまして、総理としてお話を申し上げることに大変慎重にならざるを得ないのは、やはり国会議員自らの身分にかかわる重要な問題でございますので。選挙制度につきましては、段々の経緯の中で、いま、衆議院においては小選挙区・比例代表制度をとらせていただいているわけでございます。
また、今後の問題としては、衆議院の問題について、いまお触れになられたように、一回行ったこの制度における選挙制度の問題点等について指摘をされていることについては承知をいたしております。衆議院の問題、あるいは参議院の問題、あるいは定数の問題等いろいろございますが、私としては、自由民主党の総裁として自由党の小沢党首とのお話によりまして、まずは衆議院の定数の削減について合意をしておりますので、その点から実現いたしていきたい、実現可能性のある問題から処理していきたいということを考えております。 
「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」談話 / 平成11年7月8日
一、我が国の経済社会は歴史的な大転換期にあります。知恵の社会、少子高齢化、グローバル化、環境問題への対応など、現在我が国が直面している諸課題を克服するためには、経済社会の仕組みと気質を抜本的に変革することが不可欠であります。その際、どのような方向に進むかを、国民が選択する必要があります。今、その大きな方向を解き明かすことが求められています。
二、このような認識のもと、政府は、本日、「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」を閣議決定いたしました。これは、知恵の時代の扉を開くため、二十一世紀初頭の日本の「あるべき姿」として、我々が選択すべき方向とその結果として実現されるであろう経済社会の姿を描き、それを達成するため経済運営の基本方針を定め、重点となる政策目標と手段を明らかにしたものです。まさにこれは、個人や企業の活動のガイドラインとしても大きな役割を担っていると申せましょう。
三、私たちが二十一世紀に築いていくべきは、グローバル化の中で、多様な知恵の時代にふさわしく、自由で、少子高齢化、人口減少に備えた仕組みを持ち、環境とも調和した経済社会です。
このような経済社会のあるべき姿に向けて実施していくべき重要な政策方針の第一は、多様な知恵の社会の形成であり、自由で魅力ある経済条件を整備し、透明で公正な市場と消費者主権の確立に努めてまいります。
第二に、少子高齢化、人口減少への備えとして、安心のできる効率的な社会保障、年齢にとらわれない経済社会の形成、少子化への対応等を進めていきます。
第三は、環境との調和であります。このため、特に生産・消費・再生の循環型経済社会の構築と、地球環境問題への適切な対応を行います。
第四に、世界の主要な経済プレーヤーとして、世界経済のルールや基準の形成に主体的に参画する等、世界経済の安定的な発展に積極的な役割を果たします。
以上に加え、政府としては、行政の効率化、財政再建及び地方分権を推進してまいります。
四、私といたしましては、本政策方針で示した施策に直ちに積極的に取り組み、内閣をあげて全力で実施してまいる決意であります。特に、本政策方針の中では大きな方向性を提示するにとどまっているものについては、政府内で早急に具体化の検討に着手し、その結果を分かり易いプログラムとして示すことといたします。
本政策方針の推進にあたっては、国民の皆様の御理解と御協力が不可欠であります。国民各位におかれましては、本政策方針の趣旨を十分御理解の上、さらに積極的な御協力をいただきますよう、お願いいたします。 
談話 / 平成11年8月9日
本日、「国旗及び国歌に関する法律」が成立いたしました。
我が国の国旗である「日章旗」と国歌である「君が代」は、いずれも長い歴史を有しており、既に慣習法として定着していたものでありますが、21世紀を目前にして、今回、成文法でその根拠が明確に規定されたことは、誠に意義深いものがあります。
国旗と国歌は、いずれの国でも、国家の象徴として大切に扱われているものであり、国家にとって、なくてはならないものであります。また、国旗と国歌は、国民の間に定着することを通じ、国民のアイデンティティーの証として重要な役割を果たしているものと考えております。
今回の法制化は、国旗と国歌に関し、国民の皆様方に新たに義務を課すものではありませんが、本法律の成立を契機として、国民の皆様方が、「日章旗」の歴史や「君が代」の由来、歌詞などについて、より理解を深めていただくことを願っております。
また、法制化に伴い、学校教育においても国旗と国歌に対する正しい理解が促進されるものと考えております。我が国のみならず他国の国旗と国歌についても尊重する教育が適切に行われることを通じて、次代を担う子どもたちが、国際社会で必要とされるマナーを身につけ、尊敬される日本人として成長することを期待いたしております。 
記者会見・第145国会終了後 / 平成11年8月13日
第145回国会が、本日、閉会いたしました。この国会を振り返り、また、今後の課題につきまして冒頭私からお話しさせていただきます。
まず、この場をお借りして、衆参両院をはじめ関係者の皆様の今国会でのご協力につき、厚く御礼申し上げる次第でございます。
150日の通常国会に加えて57日間という長期の国会になりましたが、両院議員の熱心なご審議をいただきまして、ここにパネルがありますが、145回国会で成立した法律は138本であります。また、条約その他を加えますと、166の法案等の成立を見たところでございます。
参議院におきまして最終段階で、やや法務委員会に混乱があったやに報道はされておりますけれども、衆参国会議員とも長丁場のこの国会に当たって真摯にお取り組みいただきました。私も、国会議員を長らく務めておりますけれども、土日の選挙区における選挙民との対話を除けば、この長い間、国会で真剣に取り組まれたことにつきまして、国民の皆様方にも国会の状況についてご理解いただいていると思いますが、ここに示した法律が国民の為になるべく成立いたしたことにつきましては、是非ご評価をいただければありがたいと思っております。
さて、最重要課題の経済について申し上げます。幸い、これまでの政策効果と、企業やご家庭の方々のいわゆる「マインド」の前向きの変化が相まちまして、このところ景気は改善いたしております。私は、本格的な経済の回復を確かなものにしていくためには、これからしばらくの間が本当の正念場だと肝に銘じているところでございます。このため、今後の経済の動きをしっかりと見極め、公共事業等予備費の活用、15か月予算との考え方に立った第2次補正予算の編成なども視野に入れながら、切れ目のない経済運営に当たってまいりたいと思っております。
今年は暑い夏ということでございまして、そういった意味からも若干消費の増加が見られております。何といっても国民の皆さんの消費活動、これが日本経済の牽引力であって、6割のシェアを占めているわけですから、政府としてなすべきことを十分になすことによって、その「マインド」を引き起こすことができればと考えております。また、「一時しのぎ」ではない本当の経済の再生に向けて欠くことのできないのは、雇用と経済の供給面の体質強化であります。
こうした考え方に立ち、急遽、会期を大幅延長をしていただき、雇用対策のための補正予算と、産業活力再生法案のご審議をお願いし、雇用と競争力の両対策のしっかりとした枠組みを整えることができたと考えております。冒頭申し上げましたように、通常国会に加えて長期の延長をお願いいたしましたのも、経済、そして企業の競争力を強化することが現下の一つの大きな課題であります。
また一方では、そのことによるとは申し上げませんけれども、企業が活性化していくためには企業自身の体質強化が行われる、これが非自発的失業者を生むことがあってはならないと考え、企業内の努力をひたすらお願いすると同時に、万一そうしたことになりました場合には、生活が安定していくような対策を講じなければならない。こういうことで、かねてこのことを危惧しつつ、本予算におきましても1兆円規模の雇用対策を講じてきたところでありますが、加えまして、第1次補正におきまして5,000億超の対策を講ずることによりまして、ある意味で安心して、万一のときにも生活が維持できるような仕組みを講じてきた、こう考えております。
そういう意味で、社会全体で雇用面のセーフティネットを手厚く用意することをはじめとして、これからも腰を据えて取り組んでまいりたいと考えております。
また、経済の発展のためには、米国におけるアポロ計画の例に見られるように……ご案内のとおり、今年は「アポロ」が月に到達して満30年という記念すべき年でありますが、我が国におきましても、これから夢のあるいろいろなプロジェクトも考えていかなければならない。国民に未来への明るい展望を指し示し、国家としてのしっかりした戦略を持つことが是非とも必要であると考えております。
私はそういった意味から、未来の「鍵」となる情報、高齢化、環境の3分野について、官民挙げて取り組むプロジェクト、いわゆる「ミレニアム・プロジェクト」を推進していくことといたしております。言うまでもありませんが、来年、西暦2000年を迎えるわけであります。21世紀がいつからかという議論はいろいろありますけれども、少なくとも世紀の変り目であることは間違いない。1000年を展望したということになると少しレンジは長すぎるかもしれませんけれども、新しい世紀に向かって日本として何が最大の課題であるかと考えますと、まず、情報化の問題、高齢化の問題、環境の問題、強いて絞ればこうした問題がきわめて重要と考えております。これを「ミレニアム・プロジェクト」と銘打ちまして、[パネルを示す。]これからの政策の中心課題にしていきたいと考えております。
次に、年金、医療、介護などの社会保障についてであります。今国会に年金改正法案を提出いたしたところでありますが、残念ながら継続審議となりました。今般のこの経緯は経緯といたしまして、また、明年4月からは介護保険がスタートすることでもあります。特に介護保険につきましては、全国の市町村の責任者をはじめ、今、その準備に取り組んでいただいております。改めて感謝いたしますと同時に、介護を余儀なくされる方々も安心して介護していただけるような体制をつくり上げなければならないと考えておりまして、これがきわめて重要であります。
この際、年金、医療、介護などの社会保障のあり方につきまして、特に若い世代を念頭に置きつつ、国民全体の理解を深めるための努力をしてまいりたいと考えております。
次に、内政面につきまして、政治と行政の仕組みについてであります。今国会におきまして、戦後の我が国の政治や行政のシステムを根本的に改革する法案といたしまして、国会活性化法、中央省庁等改革関連法、地方分権一括法が成立いたしました。これら3大改革を真に実効あらしめていくためには、特に政治がしっかりとした国益を見極め、また、勇気をもって果敢に政策を実行していくことが重要となります。
ちょっとご説明いたしますと、3つの中で国会活性化法、これは戦後ずっと国会が行われた場合には、政府は内閣総理大臣以下、予算委員会ですべてこのお並びでありまして、それに対して、野党第1党から始まりまして質疑をする。それから、野党は質疑権を十分行使する、政府はそれに対してご答弁を申し上げるという形の国会であったことはご案内のとおりであります。
今般、国会活性化法が成立したことによりまして、いわゆる政府委員の廃止というようなことにもなりますので、政治家同士の討論、【質疑応答】が行われる。簡単に申し上げれば、政府は一方的に答弁の側に回るのではなく、質問される側に対しても、その真意やお考えや、そうしたこともお聞きすることが新しい方式だろうと思います。
これ[パネル]は、イギリスの国会における【質疑応答】のことも参考になると思っておりますが、この絵は、イギリスにおきまして、与党と野党が違ったベンチに座りまして、与党の代表、すなわちプライム・ミニスターと野党の代表とが、1週間に一遍、クエスチョン・タイムというのを設けて【質疑応答】をする。したがって、内閣総理大臣も答弁側ということではなくて、時には野党に対して、特に野党の中でもシャドー・キャビネットも恐らくできるだろうと思いますから、そうした方々に対しましても、野党の政策その他についても質問し合えるという新しい国会のあり方でございまして、次の国会から、できるものから進めていくということで一致しております。非常に新しい民主国会の姿に変貌していくのではないかという、きわめて重要な法律が通過しているわけでございます。
特に、これは自由党と私との間の合意によって成立を見ておりますので、今後、これが国民のために、また、国民の理解を深めるために、よりよい制度として発展することを祈念しているところでございます。
また、中央省庁等改革法につきましては、現在の22の省庁を1府12省に整理するわけでございます。行政機構も明治以来いろいろな役所が設置されてまいりましたが、今回、改めてこれが整理・統合されることによりまして、行政の機能を十分発揮できる法律が通過したと思っております。
また、地方分権法は、いままで中央と地方との関係は、中央が地方に対して縦の関係でありましたが、今後、地方は地方としての考え方にのっとっていくということでありまして、いわゆる中央集権型の行政システムから一変しまして、地方と中央とが横の協力関係になろうという、これも明治以来の画期的な大改革につながるものであると考えております。
第4に、外交・安全保障の問題についてでありますが、「国益」を守り、国家と国民の安全を保障することは政府の最も重要な任務でございます。私はそうした原点をしっかりと見据えまして、多くの重要な首脳会談に臨んでまいるとともに、北朝鮮のミサイル発射、不審船事件などの問題について、断固たる行動をとってまいったところでございます。私はそういう意味からも、日本の国土と国民の生命・財産を守るためにあらゆる手段を講じ、適時適切に対応していく覚悟を強くいたしているところでございます。
翻りまして、我が国の安全保障を考えますと、まずは日米関係をこれ以上に強固なものにしていく必要があります。このために、今国会におきまして、懸案となっておりました日米ガイドラインの関連法が成立し、これによりがっちりとした日米体制が確立されたものと確信いたしております。
特に橋本総理とクリントン大統領との間において、日米新安保に対する「共同宣言」に基づいてのガイドラインにつきましては、私が総理になりましてからこれが成立を見ることができたことは、私も大きな責任を果たしたという認識をいたしているところでございます。
また外交面では、今国会中に行いました韓国、中国との首脳会談におきましても、これらの国との間で未来志向型のパートナーシップを確認できたことは、我が国の国際関係にとり大きな前進でありました。
向こうの方[パネル]は金大中大統領と私との会談の模様ですが、3月に私は韓国を公式訪問いたしました。昨年の金大中大統領との「共同宣言」に基づきまして、日韓の関係におきまして大変残念な時期もございましたけれども、こうしたものを今世紀のうちにお互い結末をつけて、新しい世紀は共々にということでございまして、私は、日韓の関係は従来になく大きな展開をしていると認識いたしておりまして、そうした意味で、大統領の決断につきましても改めて敬意を表しております。
こちらの写真[パネル]は、5月に江沢民国家主席を中国に訪問いたしまして、新潟の「トキ優優」の写真をお贈りいたしまして、和やかな中に会談ができたことを大変喜んでおります。
さらに、ケルンのサミットにおきましても、我が国の立場、主張につき十分な理解を得ることができました。これ[パネル]は、最終日にエリツィン大統領も参加されまして、サミットにおける円卓での話し合いです。このサミットの会談の冒頭におきまして、現下、日本でとっております経済政策についても非常に評価をいただきまして、我々としては、この経済の状況、特に日本経済がアジアのみならず世界経済に与える大きな影響力を考えましたとき、国際社会におけるこうしたサミット国との関係をより深めていかなければならない、こう考えております。
そうした意味で、我が国の立場、主張につき十分な理解を得ることができたと思っておりますが、実は、明年は日本においてサミットを開催する順番でございます。日本としては「九州・沖縄サミット」が予定されておりまして、サミットの議長国として「2000年という節目に沖縄で開催される」ことの意義を踏まえて、万全の取り組みを行ってまいりたいと考えております。
これ[パネル]も、既にご案内の絵でございますけれども、「万国津梁館」、大変すばらしいお名前をつけられたと思っております。沖縄がかつて万国の交易の中心であったことを考えますと、ネーミングが大変すばらしいと思っておりますが、これがその地であります。こちらのほうに那覇がございますから、若干移動時間はありますけれども。
実は、これはまだ完成されておりませんで、これから、こうした沖縄にふさわしい立派な館もでき上がりまして、ここで青い海、美しい青い空の中で、世界の問題を語り合うことができれば幸いだと思っております。改めて、沖縄県民はじめ国民の皆さんのご理解とご支援をお願いいたす次第でございます。
今国会におきまして、その他、国旗及び国歌に関する法律が成立いたしました。本法律の成立を契機に、国旗と国歌についてより理解を深め、次代を担う子どもたちが国際社会の中で尊敬される日本人として成長されることを心から期待いたしているところでございます。
さて、今国会におきましては、通常国会に当たって自自連立が行われ、さらに、連立に参加していただける公明党との協力という確固たる枠組み、政権基盤があってはじめて、これまで申し上げてきた重要な政策課題に適切に取り組むことができました。皆様方の信頼と期待に何とか応えることができたと考えている次第でございます。
皆様方のご支援を得て一応の道筋をつけることができましたが、先ほど申し上げましたように、いずれの課題についてもこれからが正念場であるという覚悟をいたしております。
2000年、そして21世紀を目前にして、「戦後の日本」、「20世紀の日本」を総決算し、解決すべき課題は躊躇することなく解決に全力を尽くしていくとともに、21世紀においてこの国が何を目指すかについて、基本的な方向を指し示していくことも政治の大きな責任であります。
そうした思いに立ちまして、私は、「21世紀日本の構想」懇談会を設け、先般も私自身合宿に参加するなどして、鋭意検討を進めてきているところでございます。新しい千年紀(ミレニアム)、新しい世紀を目前にする歴史的な大転換期にありまして、引き続き国政をお預りする者として、国家と国民のために貢献し責任を全うしていきたいと強く念じているところでございます。
最後になりましたが、私は、内閣をお預りして以来、開かれた内閣を目指し、その一環として、首相官邸ホームページの中身を充実させてまいりました。おかげさまで、昨日までに、5,059万5,612件のアクセスを頂戴いたしました。国民の皆さんの政治への関心の高まりのあらわれと感謝いたしております。
このホームページには「小渕恵三のプロフィール」を設けさせておりまして、その中で、私の大好きな詩であり、また、私の政治にかける気持ちとも重なるところの多い、高村光太郎の「牛」という詩を掲載させていただいております。[パネルを示す。]ここで、その一節を紹介させていただきたいと思います。
なお、ホームページのアドレスは、ちょっと映りが悪いですが、下のほうに書いてあります。ここででございますので、さらに国民の皆さんにアクセスしていただければありがたいと思っております。
この中の一文でありますが、
「牛は為たくなつて為た事に後悔をしない 牛の為た事は牛の自信を強くする それでもやつぱり牛はのろのろと歩く 何処までも歩く 自然を信じ切つて 自然に身を任して がちり、がちりと自然につつ込み食ひ込んで 遅れても、先になっても 自分の道を自分で行く」
国民の皆さんのご支援とご協力を心から感謝し、また、お願いいたしたいと思います。ありがとうございました。
【質疑応答】
● 最初に、自・自・公3党の連立政策協議が開始されることになりましたけれども、今後、どのように始められて、いつごろまでに終えられるかというスケジュールの話と、次期国会の冒頭で処理されることになりました衆議院の定数削減の話です。これは、今回継続審議となりました自・自提出の法案を採決するという形になるのか、それとも、自・自・公3党で新たに法案を出し直すのか。それと、その法案が施行されるまでは衆議院の解散・総選挙は行わないという考えでよろしいのかどうか、そのあたりを伺わせてください。
まず、自由党、そして公明党と相協力して日本の政治に大きな役割を果たしたいと念願いたしてまいりましたが、今日午前中に、自由党の小沢党首と、この通常国会、連立政権としてのお互いの努力に対して、大きな問題の処理ができたことを喜ぶと同時に、今後とも力を尽くしてこの国難に当たろうということで一致いたしました。
なお、午後に神崎代表との間におきまして、公明党がかねて党大会の議を経て、連立政権参加というご意思をいただきました。
来るべき時期におきましては、自由党、自民党、公明党、3党における連立政権を樹立することによって、相協力して困難な問題に立ち向かうことにつきまして、3党間の党首の意思が明らかになりました。今日は、自由党党首、そして神崎公明党代表との別々の会談でございましたが、いずれ、今ご指摘のありましたように、近い将来におきましては、政策の協議も踏まえて3党間で話し合いを進めていくということでございます。
具体的なことにつきましては、今日は、党の執行部、特に政調会長もお見えでございましたが、これからどのような仕組みで行くか、協議会をつくるか、あるいはどのような形にするかについては、直ちに今日から検討に入るということで了解し合ったところでございます。そういった意味で、3党の連立政権が、実際の内閣ができる前にも、既に予算的には来年度予算のシーリングもございますし、今月末には概算要求の基準が生まれてきますから、もうその段階から協力していこうという形になっていくものと期待しております。
次に、定数削減の問題につきましては、自・自協議によりまして既に衆議院において法律が審議されております。この点につきましては、次の国会において3党の連立内閣ということになりますれば、3党の理解がなければ成り立たないわけでございますから、そうした意味で、今提出されている法律案をもとにして、公明党のお考えを承るか、あるいは、どのような形にしていくかにつきましては、今後、連立政権を目指していき、かつ、それが成立した国会において、少なくとも定数を削減する点につきまして、国民的な理解が得られるようにしていかなければなりませんし、そのことが両党のご理解のもとに成立することをまず考えていかなければならないと考えております。
それから、その施行なくしては解散・総選挙はないのかということでございますが、是非新しい定数をもって、これは国会全体であると思いますけれども、現下の国民の皆さんにおかれては、企業におきましても、いろいろと雇用の問題について難しい状況にある、そういった意味で、率先垂範して国会のあるべき姿としての削減論というものもございますから、是非、そのことなくしては国民の理解と協力は得られないと考えれば、当然、国民の信を問うときにはそうした形でとるべきものではないかというふうに考えておりますが、形式論を申し上げるわけではありませんけれども、9月以降の総理大臣を中心として各党間で十分話し合ってまいるべきものだと、こう考えております。
● 自由党との選挙協力ですけれども、これをどのように進められるのか。特に、今日、自由党の小沢党首が記者会見で、選挙協力を極限まで進めていけば党と党が一体化になる、という趣旨のことを言っておられるのですけれども、自由党の自民党への合流の可能性について総理自身のお考えはどのようなものでしょうか。
それぞれ政党は、政党のよって来るところの理念もあり方針もあると思うのです。ただ、自由党と自民党がまず連立を組んだというゆえんのものは、基本的なポリシー、あるいは理念において隔絶した考え方があるということでなくして、むしろ、極めて近いものがあった。これは、それぞれの議員のご経歴を見てもそういう経過があるわけです。
いずれにいたしましても、選挙協力は、選挙を前にしては、連立を組む以上、お互いその勢力を減少せしめないということが当然でありますから、それぞれ譲るべきところは譲り、協力し合うことは協力し合うという形で、現下も具体的なそれぞれの選挙区から考えていろいろな検討を進めているわけでございますが、いま、一般的にある種のスタンダードといいますか、そういうものをつくりつつあると認識いたしておりますが、いずれ、そういう形で両党間の話し合いがまとまってくる過程の中で考えられるべき問題ではないか。
一部、正直申し上げて、それこそ考え方も極めて近似している、そして思想哲学も一緒であれば、自由党、これを「保」と言ってはいけないかもしれませんが、自民党と自由党とのいわゆる保・保連合と申しますか、合同といいますか、そういうことを考えてもいいのではないかという声も私のところに聞こえてきております。しかし、お互い政党として長い間その道を歩んできておりますので、事はそう安易なものではないと思っておりますし、それは、それこそ自由党もどうお考えになるか、自民党もどう考えるかということでありますけれども、まずは選挙の協力をお互いし合うという過程の中で、あるいは、今おっしゃっておられるような方向に両党の議員が納得されればということであろうと思いますが、これはあくまでも今後の課題だと思っております。
● 総理、今日、国会が終わったばかりですけれども、早速次は9月の自民党総裁選ということで、既に党内では小渕総理の再選を求める声が多くなっています。この総裁選についてどのように臨まれるのか、その決意をお聞かせください。
私の任期は9月末まで、こういうことになっております。昨年、橋本総裁の退陣を受けまして、総裁に就任し、かつ総理大臣という大役を引き受けさせていただいて、ひたむきに、この1年間歩んできたわけでございます。
内閣は当初、経済再生内閣ということで、現下の日本の経済をまず回復させないことには、アジア、世界に対する責任を果たし得ないということでいろいろな手だてを講じてまいりました。幸いにして上向きの状況になってきていることは事実でございますが、これを確実なものにしていかなければならないと思っております。同時に、先程ご紹介いたしましたが、21世紀の課題、社会保障の問題、環境の問題、少子高齢化の問題等々、課題は大きいわけでございますので、できるべくんば、私もその責任をさらに全うしていかなければならないという考え方を強くいたしているところでございます。
総裁としてこの選挙にいかに臨むかということにつきましては、お許しをいただければ、後刻、自由民主党におきまして私の考え方を申し上げさせていただきたいと思っております。
● 先ほども、経済の再生について引き続き最大の努力をされるということでございましたけれども、景気につきましては、これからが正念場だとおっしゃっていました。第2次補正予算の編成にも触れられましたけれども、経済の今後の基本方針と、それから、全体として本当に景気がもっともっとよくなるのだろうかという気持ちが国民の中にあると思うのですが、その見通しについてお聞かせいただければと思います。
かつて世界経済の中で、アメリカがクシャミをすると日本が風邪をひくという時代がございました。しかし、いまは、日本が風邪をひきますと、アジアの諸国も、クシャミでなくて、それこそ肺炎にもなるという大きな責任を国際的に背負っているということでございますので、そうしたことから考えますと、やはり一定の経済成長率というものは確保していかなければならない、こう考えております。
私は国会で、今年度、すなわち来年の3月期までには、マイナス成長を転じて0.5%の経済成長にもっていきたいということで、あらゆる施策をそこに一点集中してきた、とこう思っております。幸いにして、1−3月につきましては、今日の経済企画庁の長官の説明によりますと、1.9ということでありましたが、修正いたしまして2.0。そう変わるわけではありませんけれども、この傾向が4−6月にどのようになるか。15か月予算もそうでありますし、あらゆる経済対策も先行しようということでいたしました。
これは、申し上げましたように、今年度予算が少なくとも3月の早い機会に通ることができた。したがって、4月1日からこれを施行するためのことが行えた。予算が早く成立することの意義は、単に予算案をこの内閣として歴代最速で通したなどということを申し上げているのではなくて、この3月期の早い時期にできたことが、実はいま、景気につきましても、4月以降の公共事業の実施、あるいは住宅その他の問題についても、いろいろと国民の皆さんがお考えになる基礎をつくっていくと。
そこで、ある意味で、先に公共事業その他も投資されたので、後が続かないのではないかという不安も一部にあると聞いております。予算の執行というものは、実際にお金が入る時期を考えると、今、これからお金が入ってきますから、必ずしも先行でやったことに対しての不安はないと思っておりますけれども、しかし、これから、言われるような腰折れがあってはならないというためのことを考えていかなければならない。したがって、9月の当初にGDPの4−6月の数字が出てきますから、こうしたものをしっかりと見据えながら、必要とあらば、第2次補正予算も適時適切につくり上げていかなければならないのではないかと思っております。
現実には、公共事業等予備費というかつてない予算の仕組みの中で、5,000億円、これは既に予算化しております。国会が終了いたしましたので、これも政府の責任において執行することになりますので、いまの状況を十分踏まえながら、必要なものは早くこれを出していかなければならない、こう考えております。
したがって、今、こうした第2次補正予算のことも含めまして、次の臨時国会のことを今申し上げるわけではありませんけれども、必要があればそうした措置を講じていかなければならないし、特に中小企業対策について、いろいろなことをやらなければならない。いま、「産業競争力会議」で、ある意味で全体的な日本産業の活性化の努力をしておりますが、なかんずく、中小企業が本当に力を持っていかなければならない。
金融面につきましては、昨年、40兆に近いお金を、中で特別融資として20兆、中小企業の皆さんも年末これで乗り越えられたことを感謝しているわけですから、こうしたことを含めて、金融面はともかくですが、税制面その他につきましても……中小企業……「しからば中小企業とは何ぞや」という問題について、長らく一定の考え方をしてきましたけれども、新しい時代における中小企業とは何かということになりますと、中小企業基本法という問題も残ってくるだろうと思います。これを、この夏の間に関係省庁に一生懸命勉強してもらいまして、もしそれができ上がることになれば、これに対しての対処もしていかなければならない。
昨日ですか、宮沢大蔵大臣もそのことについて「十分対処すべき課題である」と申されておりますので、一致して取り組んでいきたいと思っております。
● 第2次補正予算に関連してですけれども、補正予算の中で赤字国債の増発はなくて済みそうとお考えでしょうか。また、財政の赤字の増大が指摘される中で、総理在任中に消費税率のアップはお考えになっていないのでしょうか。
まず、この内閣は当初、ご記憶しておられると思いますけれども、財政構造改革で財革法を凍結しているということでございます。それは、財政につきましては言うまでもありません、個人の家計においても会社にしても、「入るるを量って出ずるを制す」、その財政均衡が基本であることは、古今東西、そういう考え方です。
しかし、ことにおいては、全部予算がバランスをとれなければならないということを単年度でやれないということであります。橋本内閣のときには財政再建という大きな柱、しかも、当時、幸いなことに日本の経済成長も3%を超えるような趨勢になってまいりました。ですから、ある意味では、その時点で財政の改革をやらなければならないことは当然だっただろうと思いますが、大変不幸なことには、ご案内のように、アジアにおける金融不安が生じてきまして、アジアから大きな金がみんな引き揚げていくという中でアジア経済が崩壊してくる、こういう中で、日本経済も同じような趨勢になってはならない。そこに、ご案内のように日本の金融システムの大きな改革が行われてきているわけでございます。
話が長くなりましたが、おっしゃっていることは、要するに財政の面でいわゆる赤字公債を発行してでも予算編成をするか、ということでございますけれども、願わくはそうならない税収の増加があれば言うまでもないと思いますけれども、前回、2%の消費税の増徴というものは真にやむを得ない必要性から生じたことでありますが、これが影響がなかったということは嘘になる話だろうと思います。こういう時点で、今、消費税を大きく引き上げるというような環境にはないだろうと思っております。
したがって、せっかく上向きになってきた日本経済をさらに大きく前進させることによって、いずれ、日本の経済が財政に寄与できるような、そうした税収が増加してくるという時点をしっかり見極めないと、その時期の見極めを誤まりますと、また同じように景気が後退するというウエーブになってしまったのではいけない。ここは、でき得べくんば、国民の理解も得ながらではありますけれども、財政も積極的に取り組むことによりまして、この趨勢を確実なものにしていくという必要があるのではないかと考えております。
● 小渕内閣は経済再生内閣として出発したわけですけれども、今国会で、経済対策、雇用対策等されまして、評価されていると思うのですけれども、一方で、国旗・国歌法案、通信傍受法案、住民基本台帳法の改正などが行われました。このことについて国民の間では、右傾化であるとか、疑問を持っている方もいらっしゃると思います。野中官房長官はこの処理については、戦後処理の一環ということで言われていますけれども、総理ご自身はどのように説明されますでしょうか。
右傾化でも何でもなくて、当然、必要なことであると思います。一つ一つの法律案について説明することはいかがかと思いますけれども、国旗・国歌につきましては、これまた言うまでもありませんけれど、慣習法として存在してきた。ところが、日本全国、地域によりましては、これが法制化されていないということを理由に学習指導要領がそのまま実施されない。そこに、しようか、するまいかということで非常に考え方が異なってきて、それを理由に実行されないということがあったと思っております。広島県の世羅高校の石川校長が残念ながら自ら命を絶つことになったのも、その原因の一つだろうと思っております。
国旗・国歌につきましては強制するものではありませんけれども、日本全国で、やはり、入学式、卒業式等においては、ごく素直な気持ちでこれを掲揚し、これを斉唱することが行われており、何ら問題がなければよかったかと思います。
私のことを申し上げるようですが、私の群馬県などは、小・中・高いずれも100%これが実施されておりまして、あえて法制化する必要性を地元からのお話では聞いていないということを考えますと、いろいろ思うことはありますけれども、法的な根拠がないというゆえに全国の状況があまりにも異なることにおいては、法律を定めたということの意義があるのではないかと思っております。
それから、いわゆる犯罪3法の問題に関しての通信傍受の問題でございます。これも話せば長いことで、ともかく日本で組織的な犯罪がこれほど多くなって、しかも国際化してきている。既に、新聞、テレビを見ましても、外国からの方々がたくさん入ってきて、日本における犯罪その他がかなり大きなものになってきているというようなことを考えますと、通信というものを悪用しながら、日々の国民の安寧秩序を維持できないということであれば、これは至極当然なこととして、それを防止する必要があるということであります。そのことをもっていわゆる盗聴法と言われることは、その漢字から言いましても、全くそういうことはないというふうに考えております。
住基法につきましては、全国の地方自治体がいろいろな意味で情報を交換したり、便宜の上からいきましても、これは極めて重要なことだろうというふうに考えております。10ケタの住民票をつくるからプライバシーが保護されないのだということではないことについては、別途、個人情報の保護のための法律案を企図しております。両々相まって、人々のプライバシーは保護しつつ、かつ、コンピュータがここまで発展してきた時代には、それにふさわしい行政のあり方もこれまた望ましいものだろうと思います。
いずれにしても、もっと早い時期にあるいは結論をつけておくべきものであったかもしれませんけれども、幸い、国会における多数の理解と協力を得てこれが通過することにつきましては、国民の理解が得られるものと考えております。 
談話 / 平成11年10月5日
私は、自由民主党総裁に再選されたこの機会に、内閣改造を断行し、自由党及び公明党・改革クラブとの連立内閣を発足させることといたしました。三党派はその政治責任を共にしながら、切磋琢磨して国家と国民のためにより良い政策を練り上げ、果敢に実施に移して、現下の諸課題に対処してまいります。
私はかねてより、我が国のあるべき姿として、「富国有徳」、すなわち経済的な富に加え、物と心のバランスがとれ、品格や徳のある国家を目指すべきであると申し上げてまいりました。そのために、先の通常国会における施政方針演説で、「繁栄」、「安心」、「安全」、「世界」そして「未来」への五つの架け橋を構築することを明らかにいたしました。二十一世紀への橋渡しをする内閣として、その実現に全力を挙げて取り組んでまいります。
昨年七月の組閣以来、私は「経済再生内閣」と銘打って、財政、税制、金融、法制のあらゆる分野の施策を総動員して、金融危機、経済不況の克服に取り組んでまいりました。その結果、国民の皆様の努力とあいまって、わが国の経済は改善の兆しを見せ始めています。しかしながら、景気を本格的な回復軌道に乗せるとともに、二十一世紀の新たな発展基盤を築き上げるために、坂の途中の車を押し上げ切るまでは手を緩めることなく、引き続き積極的な経済運営に努めてまいります。このため、第二次補正予算の編成を含め、中小・ベンチャー企業の振興をはじめとするわが国産業の体質強化や雇用対策などに全力を尽くしてまいります。
中央省庁等の再編、地方分権の推進、国家公務員定数・コストの削減、さらには規制緩和など、行政改革を推進してまいります。また、人口の少子高齢化、経済社会の変化などを背景に、国民生活のセイフティーネットである社会保障のあり方が大きな論点になっています。介護保険制度の円滑な実施や公平で安定した年金制度の改革など、信頼できる制度の確立に取り組んでまいります。さらに、教育は「富国有徳」の心の部分に関わるものであり、教育改革について幅広い議論を行い、その成果を生かしてまいりたいと考えております。
世界の平和と発展のために、国際社会における日本の地位にふさわしい役割を積極的かつ誠実に果たすとともに、わが国の安全と繁栄の確立に向けて粘り強く努力してまいります。また、沖縄をめぐる諸課題の解決に努めつつ、来年の九州・沖縄サミットの成功に向けて準備を進めてまいります。
新しいミレニアムを目前にし、次の時代を明るく希望に満ちたものとするために、新内閣は「対話と実行」を基本として、国民の叡知を結集し、政治主導でスピーディに、現在の難局を乗り越えていく決意であります。皆様のご理解とご協力を心からお願いいたします。
内閣総理大臣説示
初閣議に際し、私の所信を申し述べ、閣僚各位の格別のご協力をお願いする。
一 この内閣は、「対話と実行」を基本とし、国民の声に十分耳を傾けるとともに、スピーディな政策実施を心掛けていただきたい。
二 経済戦略会議の提言は、現下の最重要課題である経済の再生と二十一世紀における豊かな経済社会の構築のために、幅広く民間の有識者の方々に意見をとりまとめていただいたものであり、前内閣に引き続き積極的な取り組みをお願いしたい。また、二十一世紀への架け橋を作る内閣として、我が国のあるべき姿を国民に示すことが大事と考え、有識者からなる懇談会に検討をお願いしているところであり、その検討の成果についても新しい時代を切り拓く貴重なご意見として真摯に受け止め、全力で対応していただきたい。
三 日本経済の再生に向けて、引き続き財政や金融等において機動的、弾力的な対応を行い、上向きつつある景気を本格的な回復軌道に乗せていくとともに、雇用の安定・確保を図りながら、中小・ベンチャー企業をはじめとする我が国産業の体質強化が図られるよう、ご努力いただきたい。
四 実行の段階を迎えた中央省庁等の再編や地方分権の推進、公約である国家公務員定数の二十五パーセント、コストの三十パーセント削減あるいは規制緩和等の行政改革に、所管行政という狭い視野からではなく、国政全般の幅広い視野に立って、英断を持って取り組んでいただきたい。
五 国家公務員倫理法や情報公開法の制定も踏まえ、公務員の綱紀の保持や情報の公開・提供等行政の透明化に一層努めるとともに、国民に分かり易く、信頼される行政を心掛けていただきたい。
六 「国会審議の活性化及び政治主導の政策決定システムの確立に関する法律」の趣旨を踏まえ、国会への対応や政務次官との連携について十分ご留意いただきたい。
七 今般の東海村ウラン加工施設事故について、原因の徹底究明と周辺住民への必要な支援、更には核燃料製造施設の緊急総点検に迅速に対応するとともに、コンピュータ西暦二○○○年問題も含めた緊急時における危機管理対策に万全を尽くしていただきたい。
八 来年夏に開催する九州・沖縄サミットの成功に向けてご協力いただきたい。
九 内閣は、憲法上国会に対して連帯して責任を負う行政の最高機関である。国政遂行に際して活発な議論を行うとともに、内閣として方針を決定した場合には一致協力してこれに従い、内閣の統一性及び国政の権威の保持にご協力いただきたい。 
記者会見・小渕内閣第2次改造発足後 / 平成11年10月5日
まず、最初に東海村ウラン加工施設の事故について一言申し上げます。
今回の事故によりまして、多大な不安と御不自由を被られた近隣住民の方々に一刻も早く平穏な生活に戻られますよう、また、今回の事故で被曝された方々が一日も早く回復されますよう、心からお祈り申し上げます。
今回の事故は安全を著しく軽視した予想外の人為的な事故でありました。このような事故を二度と起こさないためには、まず原因の徹底究明を行い、この結果を踏まえ、速やかに再発防止対策を確立し、実施してまいりたいと考えます。また、直ちに核燃料製造施設の緊急総点検に着手いたしたところであります。
同時に、近隣住民の方々に対しまして、必要とされる支援を迅速に行ってまいる考えであります。
さらに今回、政府の危機管理対策につきましても、謙虚に反省すべきことは反省をし、更なる万全を期してまいりたいと考えております。
最後に、現場におきまして、身の危険をも顧みず、事態の沈静化のために御苦労されました方々の献身と勇気に対しまして、心から敬意を表したいと思います。
なお、私自身、明日午後、中曽根科学技術庁長官とともに現地を訪れ、現場の状況を視察することといたしております。
さて、私は本日内閣改造を断行し、自由党、及び公明党・改革クラブとの連立内閣を発足させることといたしました。過ぐる通常国会におきまして、自自連立の上に、更に公明党・改革クラブの協力を得て、国家と国民のために数多くの成果が得られたことは皆様御承知のとおりでございます。
こうした実績や基礎に立ちまして、3党会派は、緊密な協議を重ね、経済、社会保障、安全保障、政治・行政改革、教育、環境など、広範な分野でしっかりした政策合意に達した上で、連立内閣を発足させたものでありまして、今後3党派は政治責任を共にしながら、切磋琢磨して国家と国民のために、よりよい政策を練り上げ、果敢にこれを実施に移し、現下の諸課題に対処してまいりたいと考えております。
今回の改造に当たりましては、この内閣に与えられた重大な使命をしっかりと踏まえまして、経済、明年の九州・沖縄サミットを始めとする、内外の重要諸課題に政府・与党の総力を挙げて取り組むことのできる強力な体制を整えるべく、意を用いたところでございます。
このため、私は真に適材適所、真に強力な内閣を作り上げていく観点から、大臣、政務次官共に従来の組閣の慣行にとらわれず、思い切った人事を行ったと自負しております。
具体的に申し上げれば、昨年7月の組閣以来、経済再生内閣と銘打ちまして、宮澤大蔵大臣、堺屋経済企画庁長官、与謝野通産大臣を中心とした財政、税制、金融、法制のあらゆる施策を総動員いたしまして、経済再生に取り組んでまいったところであり、その結果、ようやく景気は最悪期を脱し一山越えた状況にあります。
こうした流れを景気の本格回復にしっかりと結び付けるとともに、21世紀の発展基盤を築き上げていくためには、むしろこれからが正念場である。このことを肝に銘じているところでございます。
このため、経済政策を担ってこられました内外の信頼厚い宮澤大臣、堺屋長官に留任をお願いをいたしまして、引き続きその任に当たっていただくことといたしました。
また、初閣議におきまして、総合的な経済対策を早急に取りまとめるよう指示いたしたところでございます。
次に、明年の九州・沖縄サミットは、最重要の外交日程でありまして、沖縄県を始めとして、各自治体の緊密な連携を取りつつ、万全の努力をしていく考えでありまして、またサミット議長国としての国際的な責任を十分踏まえ、その時々の国際情勢の変化に従って、柔軟かつ迅速に対応していかねばならないと考えております。
このような点にかんがみまして、私は河野元副総理・外務大臣に、外務大臣をお願いいたした次第でございます。
このほか、いちいちお名前を挙げることは避けますが、各大臣ともそれぞれの分野で高い識見と豊富な経験をお持ちの方ばかりであり、私としては、現下の諸課題に対処する最善の布陣であると、このように自負をいたしているところでございます。
また、閣僚人事ではありませんが、国会活性化法によりまして、政府委員制度の廃止などにより、政務次官の任務、役割が飛躍的に高まることとなることに伴いまして、今回の改造に当たりましては、政務次官の人選をより一層重視し、それぞれの大臣とのコンビネーション、担当分野における識見、経験などを十分に踏まえて決定をいたした次第でございます。
来る2000年はミレニアム、いわゆる千年紀に当たりまして、九州・沖縄サミットも開催されることから、2千円日本銀行券を発行するにふさわしい年であると考えられ、また、諸外国での2のつく単位の紙幣の発行及び流通状況や国民の利便性の向上も勘案し、新たに2千円券の発行を開始することとし、大蔵大臣の下で直ちに準備作業に着手していただきたいと考えております。
2千円の図柄につきましては、表は沖縄の守礼門を中心としたものとし、裏は源氏物語絵図の一場面を中心にしたものといたしたいと考えております。
今後、大蔵大臣の下で作業を進めていただき、来年の7月の九州・沖縄サミットまでには発行を開始したいと考えております。
2000年、新しいミレニアムは目前であります。次の時代を明るく、希望に満ちたものにするために、この新内閣は対話と実行を基本とし、国民の英知を結集し、政治主導でスピーディーに現在の難局を乗り越えていく決意であります。
国民の皆様の御理解と御協力を心からお願い申し上げる次第でございます。
【質疑応答】
● 今回の改造についてお伺いする前に、今、御発言のありました2千円札の発行について、これはいかなる経済的な効果をねらったものなのか、どういう趣旨でと、この点についてもう一度お願いします。
お答えいたしますが、ただ今も申し上げましたけれども、2000年という年を迎えるわけでありまして、そういう意味で2000年にふさわしいということも言えるかと思います。
また同時に、九州・沖縄サミットという日本外交にとりましても、最大の国際的役割を議長国として担っていくと、こういうことでございますし、当然のことでございますけれども、利便性ということも十分考慮に入れたわけでございます。
ちなみに、先ほどちょっと2の付く紙幣のことについて、外国の例を申し上げましたが、例えばアメリカは10ドルの次に20ドルがあるわけです。イギリスについても、10ポンドの次に20ポンドがある。フランスにつきましても、100フランの次に200フランがありまして、実はこの枚数のシェアを考えますと、アメリカでは20ドル紙幣は24.3%、イギリスの20ポンドは25.6%、フランスの200フランは27.9%と、こういう数字でございまして、この紙幣の利用率と言いますか、利便性と言いますか、こういうものが非常に高いということが現実に先進諸国でも現れているということでございまして、そういう意味からも、今回利便性と同時に2000年を記念して、この新しい紙幣を発行したいと、そして、図柄につきましても、表は沖縄の守礼門をひとつデザイン化できないか、そして裏はちょうど約一千年前でありますが、日本を代表する紫式部のものした、この女性の作家が著した源氏物語、こういうものを是非図柄として発行できたらということで、作業に入っていただくよう大蔵大臣に指示いたしたところでございまして、必ず国民の皆様も大いに御利用いただけることであると同時に、新しい世紀にわたる2000年という年を、お互いしっかりかみしめながら、次の世紀に向かっていくにふさわしい紙幣の発行であると、私はこのように考えている次第でございます。
● 本日発足しました3党の連立内閣、これについてなんですけれども、今回、再任あるいは留任の方が合わせて5人おりまして、昨年の小渕内閣の発足時に比べますと、新鮮味に欠けるのではないかという声も出ておりますが、どういう要素を考慮した人事だったのか、お聞かせください。
まず第一には、先ほどもこれまた申し上げましたが、やはり、宮澤大蔵大臣、堺屋経済企画庁長官、いわゆる第1次内閣における経済チームの主軸ですね、この方々にお残りをいただいたということです。
それは小渕内閣が経済再生内閣として昨年7月に出発をいたしておりまして、まさにこの景気最悪の事態に対処して、このお二人を始めとして、熱心な施策を遂行することによりまして、景気も回復基調に入りつつあるということに来ておりまして、私がいつも申し上げておりますように、坂道の車をみんな総出で押し上げているところでございまして、手を離すと、また坂の下に戻ってしまう、こういうときでございますから、この状況を何とか安定したものにし日本の経済成長、私の申し上げております来年3月0.5%プラス成長にいたしたいと、その基本的体制をまず変えることはできないというのが基本的な考え方でございます。
同時に、これまた先ほど申し上げましたが、国会活性化法によりまして、いわゆる従来の国会の在り方の中で、政府委員が廃止をされるということになります。そうなりますれば、大臣、そして政務次官が国会におけるすべての責任を負ってくるということでございますから、大臣並びに政務次官のコンビネーションということも非常に大事だというふうに考えております。
そういった観点から、大臣につきましては、極めてベテランの方々、そして政策に明るい方、こうした方々を中心に安定した政権を作るべきであると、こう考えたわけでございます。
御指摘のように新人に沢山入っていただくということも望ましいことであり、また、若手新人の中にも有能、有為な方は沢山いるかと思いますが、ここは極めて重要な新しい制度の下に難しい状況にございますので、この際、ベテランの方々に中核になっていただきたいということでございまして、それを新鮮味に欠けると言われると、これはそうかもしれませんが、しかし、同時にこの際は新鮮味というよりも、むしろ安定感を持ってこの時局に臨むということの方が望ましいと考えて、今回の閣僚の選任並びに政務次官の任用については、私、そうした観点から今回の内閣を作らせていただいたということでありますので、御理解いただきたいと思います。
● 先ほどの総理の冒頭発言の中に、来年の九州・沖縄サミットが最重要課題の一つだという話がありましたけれども、そうしますと、今日この3党の連立体制が発足して、この九州・沖縄サミットまでは内閣改造、あるいは衆議院の解散・総選挙ということは考えていないと理解してよろしいでしょうか。
まず申し上げたように、経済を再生から新生して、日本の経済を安定的な成長に持っていくということが中心でありまして、そのためにはできる限り早く臨時国会も開催をし、いわゆる経済再生のために必要でありました企業の競争力強化、すなわち構造改革につきまして、夏の国会を延ばしていただきましてまで法律を通させていただきましたが、中小企業関係につきましてなお取り組まなければならない課題が多いと。税制、金融、あるいは中小企業基本法、こうした問題もございますので、したがって、こうした国会にまずは臨んでいくということが中心ではないかというふう考えております。
もとより、今御指摘のように九州・沖縄サミットもそう易しいものではないというふう思っております。何しろ会場そのものがこれから建設途上にあるわけでございまして、そういった意味からも、なかなかこれを準備をしていくことは、道路、通信、その他万般にわたりまして、今、沖縄県でこれを開催するための作業はなかなか大変であります。
したがって、これから補正予算ということが考えられれば、その中でも予算化して、種々の公共事業も含めまして、沖縄県に対する投資を行い、その成功のためにいたしていかなければならないことは当然でございまして、したがいまして、それまではと、こうお尋ねいただくと、それは解散権について物を申すことですから、これはお許しをいただくことといたしまして、今なさなければならぬことを最善を尽くしていくということに絞られるわけでありまして、当然のことながら現在解散などということは、念頭にあって事を処するということはできかねるということだろうと思っております。
● 冒頭発言でも経済対策、これからが正念場であるとおっしゃられて、総合対策についても言及されましたけれども、当面、補正予算、それから円高対策、こういったものが課題になろうかと思うんですけれども、これに対してどのような方針で臨まれるのかと、特に補正予算については、その規模についてもお尋ねをしたいと思います。
規模につきまして、今私が何兆円であり、また何兆円の中の、いわゆる真水というものはどのくらいということをここで申し上げることはできかねると思っております。が、しかし、新内閣が今日誕生いたしました。したがいまして、関係閣僚もそれぞれのお考えがあるやに私は承知をいたしておりますので、それを集約をしながら、最終的には臨時国会において、現在の経済状況を少なくとも後ずさりさせることなくいくためには、かなりの積極的なやはり補正予算を組むべきではないかと思っております。
と同時に、政府もそう考えるかについては、与党3党の考え方もございますし、また与党の中で自由民主党の三役も替わりまして、それぞれにかなり積極的な御発言をされている方もおりますので、そういう方々の御意見も拝聴しながら対応しなければならぬのじゃないかと思います。
御質問でありますが、何兆円規模のということは申し上げられませんが、言えることは、繰り返しますが、今のこの経済回復の状況を、少なくともまた逆戻りさせることがあってはならないという観点に立って、適切な対応を取るべきだと、こう考えております。
● 円高対策について。
言うまでもなく円高というものは、その国に対する諸外国の国の力を評価する一つの指標だろうと思うんです。そういう意味では、円高そのものは日本の国に対するクレディビリティーの評価の表れであると言ってもこれは間違いないんだろうと思います。しかし、急激な円高、また円安もそうでありますけれども、そういうことが経済に及ぼす影響というものは非常に大きい。特に円高につきましては、輸出産業その他は、1円為替が円高になることによって、大企業の中などは、それだけで50億円、100億円という単位で円高における影響が出てくるということを考えますと、我々としては、急激な円高は好ましくないということで政府としても適切な対応を常に採る意思を持って対処しているということでございます。最近、こうした中で、やや安定しつつあるということについては、これは望ましいことではないかと思っております。
● 最初に言及されましたけれども、茨城県東海村のウラン加工施設での臨界事故の件なんですけれども、安全基準見直しなどについて、いわゆる法整備も含めて検討すべきではないかという意見もございますけれども、これに対して総理の御見解はどんなものでしょうか。
ちょっと長くなりますが、今回、大臣の任用に当たりまして、昨日それぞれの方々に、所管について申し上げました。その中で、深谷通産大臣、あるいは中曽根科学技術庁長官も、本問題について非常に熱心に取り組まなければならない責務があると言っておられまして、今日の就任のときの記者会見でも、例えば、原子力防災法というような形で通産大臣も申し上げられております。
同様の趣旨かと思いますが、中曽根科技庁長官も言っておられます。内閣の主要なメンバーであり、特に今回の災害に対しての責任あるお立場にある方が申されていることでございますので、十分意見を拝聴しながら最終的には私総理としても判断を下していきたいと思いますが、提案をされた方々につきまして、どのような内容、どのような効果があり得るのかというようなことにつきましても、詳細な報告を求めて、最終的な決定をしていきたいと思いますが、いずれにしても、現在のままでよろしいかと問われると、現在のままであったらあのような事件が惹起したということを考えますと、二度と再び起こさないためには、どのような法的措置が講ぜられるべきかということについては、ほぼコンセンサスが得られたのではないかと、こう判断しております。
● 総理、今回の連立内閣で衆議院では7割の勢力を占めておりまして、参議院でもあと二十数議席足せば3分の2の勢力になります。理論上はこれで憲法改正が発議できる勢力に一歩近づいたということは言えますけれども、総理自身、憲法問題についてどのようにお考えでしょうか。
これは小渕内閣としては現在憲法を改正するという意思は無いということは国会で責任をもって答弁を申し上げている次第でございます。ただ、憲法そのものにつきましては、申し上げるまでもなく、過ぐる国会におきまして、両院におきまして憲法調査会を設けて大いに論憲、すなわち憲法について論議をしていこうということでございますし、私自身もいわゆる世界中の憲法を眺めてみましても、いわゆる不磨の大典と言って一字一句、あらゆる世代にわたってこれが改めることができないというものではないわけでありまして、そういった意味で、国会というのは大きな国民の意思の表れかと思いますから、これは大いに論議し、憲法の中の諸問題について検討されることは、私は望ましいことだというふうに思っております。
● 今回の人事に関してなんですが、加藤派では、今回の人事のことについて特に報復人事だという言い方をされていると思います。総理御自身は挙党一致でということを常々言われていると思うんですけれども、総務会長の人事のことに関連しても、今後、そのことをどういうふうに修復されるのかということをちょっとお伺いしたいんですが。
挙党一致、適材適所というのは、私は貫いたというふうに自信を持って申し上げたいと思います。今のお話に付言すれば、それぞれの政策集団が望ましいと、あるいは推薦と、こういう方々をそのままに全部採用しなければ、挙党一致でないということだということになりますと、まさにいつも御批判いただいておりますが、派閥何とかの政治というふうになるのであって、やはり総裁・総理として、党の人事並びに内閣につきまして、私は適材適所としてその人選をしたと、私はそのように確信をしております。もちろん、今お話しのように政策集団の中で、こうあってほしいという方についてそのとおりにならなかったという事実はあるかもしれませんが、その点は広く御理解をいただければというふうに思います。
● 三度東海村の件なんですが、地元の住民はこの時期の内閣改造、特に科学技術庁長官の交代に不満の声もあるようなんですが、そうした批判にはどう答えられますか。
まあ、批判もそれはあるかと思いますし、また、有馬科学技術庁長官につきましては、昨年、私がいわゆる総理枠ということで御就任をいただいた正に専門家中の専門家であります。ただ、メディアもそうでありますが、いろいろ今回の処理方につきまして、見方によっては、いろいろの政府全体の御批判もありますし、また科学技術庁の在り方についてもいろいろと御指摘のあったことは事実であります。この際、若い中曽根科学技術庁長官にそのバトンタッチをしていただきまして、有馬長官のお考えも十分その中に入れつつ、本問題に対して対処することができれば、ただ今のような住民の中の御批判には結果をもってお答えできるものだと、このように考えております。 
第百四十六回国会・信表明演説 / 平成11年10月29日
(はじめに)
第百四十六回国会の開会に臨み、当面する諸問題につき所信を申し述べ、国民の皆様のご理解とご協力をいただきたいと考えます。
私は、安定した政局の下で、政策を共有できる政党が互いに切磋琢磨し、より良い政策を練り上げ相協力して実行に移していくことが国民や国家のためだと考え、自由民主党、自由党、公明党・改革クラブの広範な政策合意を基として、このたび三党派による連立内閣を樹立いたしました。
発足早々誠に残念でありましたが、防衛政務次官から不適切な発言がなされたため、その辞表を受理し、直ちに更迭いたしました。当然のことながら、国際社会の中で率先して核軍縮・不拡散政策に取り組んできたわが国として、今後とも非核三原則を堅持する方針にいささかの変更もありません。また、女性蔑視の発言に至っては女性の気持ちや人権を踏みにじるものであり、全く論外であります。任命権者として、国民の皆様に心からお詫び申し上げます。
先に成立した国会審議活性化法により、政務次官の役割が大きくなり、それだけ深い自覚と責任が求められることとなりました。私は直ちに各政務次官に対し、自らを厳しく律し職務に精励するよう重ねて指示し、これを契機に内閣全体としても、改めて気を引き締めて諸課題に取り組むことを決意した次第であります。
自自連立内閣として臨んだ先の通常国会では、公明党・改革クラブの協力をいただいて大きな成果を挙げることができました。連立内閣こそが現下の最善の道であり、その信念にはいささかの揺るぎもありません。三党派連立の確固たる基盤のもとに、必ずや国民の皆様にご納得いただけるような成果を挙げ、その信頼と期待にお応えする決意であります。
キルギス共和国で誘拐された邦人が無事解放されたのは誠に喜ばしいことであり、四名の方々のご苦労を心からねぎらい申し上げますとともに、アカーエフ大統領を始め多くの人々のご支援に感謝いたします。
「一〇〇〇年代」という一つのミレニアムの締めくくりの時期に開かれる今国会を実り多いものとすべく、本日は、今国会でご審議願いたいと考えているテーマを中心に、特に当面する、経済、安全、安心の三つの課題に絞り、国民の皆様に内閣の基本方針をお示しいたします。この際、個別施策に網羅的に触れられないことをお赦しいただきたいと思います。
(経済新生に向けた理念ある総合的な政策)
私は、今年度のわが国経済の実質成長率を〇・五パーセント程度にまで回復させることを目指し、国会のご協力をいただきながら、財政、税制、金融、法制のあらゆる分野の施策を総動員して、金融危機、経済不況の克服に取り組んでまいりました。その政策効果の浸透などにより、景気は厳しい状況をなお脱してはいないものの緩やかな改善を続けております。ここで重要なのは、経済を本格的な回復軌道に繋げていくとともに、二十一世紀の新たな発展基盤を築き、未来に向け経済を新生させることであります。こうした観点から、理念ある経済新生対策を早急に取りまとめ、併せて第二次補正予算を編成し、今国会に提出いたします。
この経済新生対策は、事業規模で十兆円を超えるものとし、二十一世紀型社会インフラの整備などの公共投資を、景気の腰折れを招かないよう適切な規模で盛り込んでまいります。また、公共需要から民間需要へのバトンタッチを円滑に行うべく個人消費や設備投資を喚起し、将来の発展基盤を確保するための構造改革を一層推進する内容といたします。加えて、特別保証枠の追加などの中小企業向けの金融対策や、住宅金融対策、雇用対策に、重点的に予算措置を講ずることとしております。私は、今回の対策を、新規性、期待性、訴求性、すなわち、はっとする新しさを持ち、国民の期待にかない、内外に分かりやすく訴える魅力のあるものといたします。そのために、従来の概念や計画、省庁の枠組みにとらわれず、斬新かつ大胆な発想の下で施策の内容を吟味するとともに、その成果や効果が国民の目にはっきり見えるよう、個々の施策の目標、全体像及び目標年次を可能な限り明示してまいります。
私は、今国会を「中小企業国会」と位置づけ、中小企業政策の抜本的な見直し・拡充のための法案をご審議いただきたいと考えております。中小企業の中には、地域に根ざした小規模企業もあれば、成長分野での飛躍を目指すベンチャー企業もあります。また、未来を指向して創業を志す方々も大勢おられます。これらの中小企業等は、新たな雇用や産業を生み出す担い手、いわばわが国経済のダイナミズムの源泉であり、その振興こそが日本経済新生の鍵になると考えます。これからは、懸命に経営の向上に努力されている中小企業にきめ細かな支援策を講ずる一方で、ベンチャー企業や創業者が数多く生まれる社会の創成を柱の一つに据え、多様なニーズに的確に対応できる政策体系を築いてまいります。今般の経済新生対策におきましても、利用者の立場に立った使いやすい中小・ベンチャー企業対策を盛り込む方針としております。
技術開発の推進も、将来の発展基盤の確保に欠かせない課題であり、官民挙げての取組が求められております。人類の直面する課題に応え、新しい産業を生み出すべく、わが国にとって重要性・緊要性の高い、情報化、高齢化、環境対応の三分野で、大胆な技術革新を中心とした産学官共同プロジェクトを「ミレニアム・プロジェクト」として積極的に推進し、明るい未来を切り拓く核をつくり上げてまいります。経済新生対策に盛り込むとともに、国民の皆様から広く公募をいたしますので、革新的な技術開発のご提案が積極的になされるよう期待いたします。
繰り返し申し上げておりますが、財政構造改革につきましては、経済が本格的な回復軌道に乗った段階でそのあるべき姿をお示しいたします。
(安全な社会の実現)
美しい安定した環境を守りながら循環型の経済社会を築くとともに、国民一人一人の生命や安全な生活を守ることは、政治や行政が負うべき極めて重要な課題であります。
去る九月三十日に茨城県東海村で発生した核燃料加工工場における事故により、周辺住民を始めとする国民の皆様に多大なご心配とご迷惑をおかけいたしました。今後とも住民の皆様の健康管理等に万全を期してまいりますとともに、事故原因の徹底究明を急ぎ、再発防止対策の早急な確立・実施に努めてまいります。このため今国会に、原子力に関する安全規制及び防災対策の強化のための法案を提出いたします。
また、この夏以来、豪雨・台風災害が各地で発生いたしました。亡くなられた方々とそのご遺族に対し謹んで哀悼の意を表するとともに、被災者の方々に心からお見舞い申し上げます。今後とも復旧対策に全力を尽くすとともに、災害対策の強化になお一層努力してまいります。
オウム真理教の活動は、今なお各地で住民に不安を与えております。このことを深く憂慮し、同教団を念頭に置きつつ、無差別大量殺人行為を行った団体に対する規制法案を今国会に提出いたします。議員立法としての提出が予定されております被害者救済のための法案と相まって、適切な対応に努めてまいります。
コンピュータ西暦二○○○年問題につきましては、これまで官民挙げて徹底して対応してきた結果、大きな混乱は生じないものと考えますが、引き続き万全の取組を進めてまいります。国民の皆様におかれましても、本日お示しした指針を参考に、万一の場合に備えて準備されることを期待いたします。
(将来にわたり安心で活力ある社会の整備)
少子高齢化が急速に進展する中で、将来にわたり国民が安心して暮らせる活力ある社会を築くためには、社会保障制度の構造改革を進め、安定的に運営できる制度を構築することが重要な課題であります。
とりわけ年金につきましては、将来世代の過重な負担を防ぐとともに確実な給付を約束するとの考え方に立ち、制度全般を見直すための法案を先の国会に提出いたしました。年金制度に対する国民の信頼を揺るぎないものとするため、その一日も早い成立に向け全力で取り組んでまいります。
また、介護保険につきましては、老後の最大の不安要因である高齢者の介護を社会全体で支えるべく、来年四月からの実施に向けた準備に万全を期してまいります。なお、高齢者の負担軽減や財政支援など制度の円滑な実施のための対策につきましては、与党間の協議を踏まえ適切に対応してまいります。
(むすび)
新たなミレニアムの到来は指呼の間に迫っております。二〇〇〇年という節目の年に行われる来年のサミットは、わが国が議長国となり九州・沖縄で開催されます。このサミットでは、二十一世紀が人類と地球にとって、より幸せな時代になるとの確信を抱かせるような力強いメッセージを発出したいと考えております。各自治体とも緊密な連携を取りながら万全の準備に努めてまいります。
米軍施設等が集中する沖縄が抱える諸問題につきましては、沖縄県の理解と協力を得ながら、内閣としてその解決に向け総力を挙げて取り組んでまいります。
また、二〇〇〇年からのWTOの新たな包括的な交渉の立上げのため、わが国として全力を尽くしてまいります。
私は常々、わが国が目指すべきは「富国有徳」の国家、すなわち経済的な富に加え、物と心のバランスがとれ、品格や徳を有する国家である、と申し上げてまいりました。年頭の施政方針演説では、そのような理念に立ち、二十一世紀に向けた国政運営を「五つの架け橋」を基本に進めることを明らかにいたしました。また、「対話と実行」の基本方針の下、有識者懇談会や国民との対話を積み重ね、それを政策に反映させ、スピーディーかつ果敢に実行に移してまいりました。その結果、経済には明るい動きも見え、また、最重要課題の一つに掲げてきた行政改革も着実に進展し、今国会には中央省庁等改革を予定どおり実施するための関連法案を提出する運びとなっております。外交面でも、日米安保体制を基軸とした同盟関係にある米国はもとより、ロシア、中国、韓国、欧州諸国などを精力的に訪問し、あるいは諸外国の首脳をわが国にお招きし、首脳間の確固たる信頼関係の上に各国との揺るぎない協調関係を築くとともに、北朝鮮を巡る諸問題の解決に向け引き続き最大限の努力を傾注してまいります。
国家の基本は人であります。教育は国家百年の計の礎を築くものであり、新しい世紀の到来を前に取り組むべき最重要課題として対応してまいります。
この一年間のわが国の変化を振り返るとき、今必要なのは「確固たる意思を持った建設的な楽観主義」であると申し上げてきたことは、間違っていなかったとの思いを強くしております。わが国には、経済新生や安全対策など、直ちに実行・実現に努めねばならない緊急の課題が数多くあります。その一方、長い視野で考え、先見性を持って手を打たねばならない問題もあります。明日に希望を持ち、未来の発展を確信できる世の中を共に築いていこうではありませんか。
国民の皆様、また議員各位の、ご理解とご支援を心よりお願い申し上げます。 
2000

 

年頭記者会見 / 平成12年元旦
明けましておめでとうございます。新しい千年紀、ミレニアムがスタートします。
平成12年、西暦2000年は歴史の波の節目が重なる時でもあります。この100年の歴史を振り返れば、2度の世界大戦と冷戦をくぐり抜け、人類が平和と繁栄に向けて着実に歩んできた時代と言えましょう。一千年前には、紫式部の手で源氏物語が書かれ、日本の独自の文化が花開きました。
歴史の節目を迎えるときは、新しい歴史が始まるときでもあります。
この節目となる年に、歴史の大きな流れに学びながら、国民の皆様とともに大いなる勇気と希望を持って新たな第一歩を踏み出してまいりたいと思います。
この7月には、沖縄県名護市で「九州・沖縄サミット」が開催されます。開催国である我が国が今日から1年間、G8の議長国としての重責を担うことになりました。
2000年という大きな節目の年に開かれるこのサミットにおいては、「21世紀がすべての人にとってよりすばらしい時代となる」という希望を、皆さんをはじめとして世界中の人々が抱けるように実りある議論をしたいと思っております。
また、今年のサミットは7年ぶりにアジアで開催されます。私としては、G8が、グローバルな視点とともに、アジアの関心も十分に反映した、明るく、力強いメッセージを世界に向けて発信する機会にしたいと願っております。
サミットの開催中は勿論ですが、この1年間は、世界の耳目が日本に、そして九州や沖縄に集まることとなります。日本という国が各地方ごとにいかに多様で豊かな文化を持っているか、また、日本人がいかにもてなしの精神にあふれた国民であるかにつき、ぜひとも世界の方々に理解を深めていただきたいと期待しております。ここに、国民の皆様の御協力を心からお願い申し上げます。
今、皆様にご覧いただいておりますのは、このサミットの「ロゴマーク」でございます。全国から5,500件を超える応募がありまして、その中から沖縄県の知念秀幸さんの作品をロゴマークとして決定させていただきました。
この作品は、太陽をモチーフとして、「赤」は参加国の情熱を、「青」は広く美しい海を表すもので、このサミットに大変ふさわしいと考えております。
さて私は、この機会に沖縄県の抱える基地問題について申し上げたいと思います。
普天間飛行場の移設に関し、先の稲嶺知事のご表明に続き、このたび岸本名護市長が代替施設の受け入れを表明されました。知事及び名護市長、更に関係者の方々の、苦渋の中にも沖縄の将来を見据えた真摯なご決断に心から敬意を表したいと思います。
また私は、我が国の平和と安全をもたらす安全保障体制の確保は、一人名護市、あるいは沖縄県の課題ではなく、全国民的課題であることについて、国民の皆様の深いご理解を求めたいと思います。
今後、政府としては、代替施設の整備につきまして、市民生活への影響に最大限の留意を払い、安全、環境対策に万全を期してまいります。また、沖縄の地域振興に全力を挙げて取り組んでまいりたいと思います。
今、新しい千年紀の入り口に立ち、日本の輝かしい未来を描いてみることは政治の大きな役割であります。新しい千年紀の始まりに身の引き締まる思いを感じながら、日本の明るく希望に満ちた将来の姿、特に社会のあり方について「5つの未来」として私の考えをお話ししたいと思います。
第1の未来は、「社会の未来」です。グローバル化や情報化が進む新しい時代には、個人の「力」が社会を動かす原動力になってきます。即ち、科学・芸術・文化・そして新しい産業、更に社会全体をリードし、「国のかたち」をつくるのは個人の創造力と先駆的な挑戦であります。そのためには、社会が個人の挑戦を歓迎するとともに、教育などの様々な制度が、アイデアにあふれた人材を生み出し、自由な挑戦と失敗したときのやり直しができる仕組みを備えていることが大切です。
また、個人が力を十分に発揮するには、仕事や暮らしに関して、多様な「豊かさ」を追求できる選択肢が用意されていることも必要であります。
他方、このように個人がいきいきと活躍できる社会は、「無秩序で、自分の利益だけを追求する社会」であってはなりません。
先の阪神・淡路大震災の際の数多くのボランティアの活躍や、現在、多くの方々が地域社会において福祉、環境などの面で積極的に参加している姿は、新しい社会の流れを予感させるものであります。
このように、「個人」が自分の意思で社会と関わり合うことで「公」−即ち「おおやけ」、「パプリック」を意味しますが−を生み出していき、「個人」と「公」が共に共同して支え合う新しい社会の仕組みを築くことが大切になるのではないでしょうか。
第2の未来は、「子供の未来」です。今年は、「児童の権利に関する条約」の発効10周年であり、また、国会で「子ども読書年」とされたところであります。
ますます多様化し、変化のスピードも一段と速くなる新しい時代には、変化する環境の中で、「夢を実現する力をつける教育」が求められると思います。画一的な知識の量を重視するのではなく、確固たる基礎知識を土台に、自らものを考える力、表現する力を身につけることが大切であります。また、他人の気持ちを尊重し、生き物や自然を大切にする心も重要であります。家庭、学校、地域社会が連携して、いじめや学級崩壊を乗り越え、「自律心があり、あたたかな心をもった子供たち」を育てていけるように、教育のあり方を大胆に見直すことが必要であります。今後の教育のあり方につきましては、「教育改革国民会議」−仮称でありますが−を設置し、その基本に溯って幅広く検討していただきたいと思っております。
第3は、「女性の未来」であります。社会の最小単位である家族が核家族化し、その対応力が弱くなっております。家族を社会が支える仕組みが必要です。それと合わせて、女性が多様な選択ができるよう、環境を整えていかなければなりません。家庭にいて出産・子育てに当たることも一つの選択であり、社会に出て働くのも一つの選択であります。固定化せずに、状態に応じて選択できるようにすることが大事だと考えます。女性が安心して出産し、また、仕事をもち、社会に参加しながら、人生を最大限充実して過ごせるような社会を作っていきたいと思います。そのため、保育システムの充実や柔軟な雇用制度などをつくっていかなければなりませんが、政府のみならず、家庭、地域社会、企業をあげての取り組みが重要だと考えます。
第4に、「高齢世代の未来」です。高齢者の人口が増えた要因は長寿であり、これは世界に誇るべきことであります。まず、私たちは、多くの高齢の方々が元気で活躍されている事実をきちんと認識すべきだと考えます。
最近、私は、「サードエイジ」という言葉を初めて聞きまして、感銘を受けました。高齢者につきまして、「サードエイジ」との呼び方を用い、「サードエイジも主役の社会を目指すべき」との主張は私の思いと大いに重なるものがあります。私は、高齢の方々が健康を維持し、病気を克服するとともに、その知恵や経験を活かして、仕事をしたり、地域社会に参加するなど、様々な選択肢が用意されている社会を築くべきだと考えます。また、こうした方々が活動しやすいバリアフリーの環境を作っていくことも大切であります。そして、こうした社会を支える土台となる社会保障制度は、国民的な議論を重ね、国民各層に安心してもらえ、また、満足してもらえるものへと改革していく必要があると、考えます。
最後に、「世界と日本の未来」であります。日本の輝かしい未来は、世界全体の未来の安定と繁栄がなければ築くことはできません。国益に沿って、対外政策を進めることは当然ですが、自国の利益だけを追求することは相互依存が進んだ国際社会では不可能と言っても過言ではありません。日本が国際社会に臨む基本姿勢は、民主主義と市場経済原理を大原則として掲げながら、各国とともに世界の平和や繁栄を目指し、積極的に行動していくことであり、それが自ずから日本の国益にもつながっていくものと考えます。このように行動していくにあたっては、日米関係を重視しつつ、アジアとの関係を深めながら、世界に共感を持って参加することが重要であり、それが日本のすばらしい未来を築いていく道だと考えます。
以上申し上げましたような「5つの未来」の実現を通じて、日本の社会は明るく活力に満ち、日本人の人生は本当に充実したものへと向かうのではないでしょうか。私が目指すのは、性別に関わりなく、子供の時から高齢者にいたるまで、それぞれの価値観にしたがって、また、その時々の関心に沿って、「人生を一貫して充実できる社会」であり、教育、雇用、社会保障、そして経済の活性化策などを総合した「人生を一貫して重視する政策」であります。
近いうちに「21世紀日本の構想」懇談会におきまして報告書を取りまとめていただける予定であります。この報告書を一つのきっかけとし、明るい未来のビジョンや夢に向かって更に国民的な議論が積み重ねられることを心から願うものであります。
こうした未来を築き上げていく上で、その礎となるのは、「活力あふれる経済」であり、また、それを支える社会全体の「安全の確保」であります。
私は、経済と財政について、かねてから「二兎追うものは一兎をも得ず」と言う状況にしてはいけないと申し上げ、しかしながら一方で、645兆円という巨額の債務残高を抱える厳しい財政の状況を直視し、財政構造改革という大変重い課題を背負っていることを一時たりとも忘れたことはありません。
こうした基本的考え方の下で、私は、先般13年度までを視野に入れ、公需から民需へのバトンタッチを行い、民需中心の自律的回復軌道に乗せるという経済新生への道筋を示しました。12年度はその道筋を確実なものとする年であります。このように、経済新生が実現されることは、我が国経済が長い低迷を脱し、名実ともに「国力の回復」が図られることを意味し、国民の皆様に財政・税制上の諸課題を如何に解決していくべきか、将来世代のことをも展望した、腰を据えた議論をお願いできる環境が整うものと、私は確信しております。
私は、これまで、多くの方々とお話しし、その意見に耳を傾け、国民の英知を集め、決断すべきことは決断し、果敢に実行する、こうしたことを政治の基本と考え、努力を重ねてまいりました。本年もこれを実行しながら、責任ある政治を行っていく決意であります。最後に、改めて国民の皆様の御理解と御支援をお願い申し上げ、皆様の御健康と御多幸を心からお祈り申し上げます。
【質疑応答】
● 今年は先ほどおっしゃいましたけれども沖縄でサミットがあって、総理は議長国として世界のリーダーを務めるお立場になられると思うのですが、先ほど「5つの未来」という観点から21世紀の日本についてお話がありましたけれども、更にもう少し具体的に21世紀の日本ということについてのイメージをお伺いしたいと思います。通常国会からは憲法調査会が設置され、議論が始まると思います。代表的な議論と言えば9条の問題があると思うんですが、それとか例えば今言われました個と公、個人とパブリックの問題とか、権利と義務の問題とかがあります。総理はこの憲法のどの部分について具体的に議論を進めていくべきだというふうに考えられているんでしょうか。それとまたもう一つ、さっきも言われましたが3党合意でありました「教育改革国民会議」の発足の件ですけれども、総理自身は教育のことについてもたびたび意欲を持って発言されていますが、具体的に教育基本法の改正の問題ですけれども、どこをどういうふうに改正すべきだというふうに思われているのでしょうか。
まず、西暦2000年に当たりまして、我が国をこの美しい日本、これをより品格ある国家として世界の中から注目もされ、その世界的役割を果たしていく国となすべく最善の努力をしていきたいというふうに考えております。昨年の11月27、28日にフィリピン、マニラでASEAN10プラス3、すなわち日中韓が参加しての会合がございまして、そのときに各国首脳から改めて申されましたことは、97年にバンコクから始まったアジアの金融危機、すなわち多くの資金が一挙にこのアジアから去っていったという中で、日本が新宮沢構想350億ドル、あるいは500億ドルの支援を通じましてアジア経済に大きな役割を果たしてまいりました。お陰様をもちまして、それぞれの諸国もほとんどマイナス成長でありましたが、すなわち99年はプラス成長に転じている。そのことに関しまして、改めてアジアの一国としての日本に対する感謝とその努力に対する評価があったことを伝えられまして、世界の中に生きる日本、アジアとともに繁栄していく日本ということを痛切に感じたわけです。今まで戦後は、日本はどちらかというとアジアの国に対する援助というものはもともとは戦争賠償というところからスタートしているし、またアジアの諸国もそういった感じを持っていたことも事実です。
しかし、改めて先般のアジアの危機において日本の企業は撤退することもなく、お金をそれぞれの地域から引き上げるということもなく、共々に生きていこうということの中でアジアが繁栄して、そしてその繁栄が日本にもたらされ、また日本も同時に日本が経済成長してアジアに応えていくという新しい意味での日本の存在感というものを示し合ったということでございまして、各国の首脳からも率直に、本当にそのことについては日本国並びに日本国民に対しての評価があったわけでありまして、そういう国として今後とも日本が大いに繁栄していくための努力をしていかなければならないと思っております。
そこで、具体的な問題として憲法改正の問題に触れられましたけれども、この点につきましては、政府としては現在憲法を改正するという意思はございません。が、しかし、御承知のように次の通常国会から衆参両院において憲法調査会が設置をされて、まさに国民的な視点に立って憲法をもう一度見つめ直そうということが始まったということで大変な意義が深いんじゃないか。従前は、今御指摘のありました第9条も含めまして、それが戦争につながるとか、いろいろな議論が憲法制定以来行われまして、いわば「不磨の大典」といいますか、憲法はアンタッチャブルなものだという感じがありまして、このことを正々堂々と論議をすることについてはそれぞれの主張をされる政治家がありましても、これを与野党も含めて検討しようという年に、この2000年はなったということは、これまた大変に私は意義深いことだろうと思います。
5年間という年限を定めて検討するということでございますが、その検討によりまして我が国戦後新憲法の下における憲法のそれぞれの条項について十分これから御論議をしながら、国民のコンセンサスを得ながら、改めるべきものがあるとすれば、それはいたしていかなければならないと思っております。
具体的にどういう条項をどうするかということにつきまして、今私が申し上げることは差し控えますけれども、政府としてもそうした国会の真摯なこれから憲法に関する調査会の御論議等を受け止めながら、国の基本法たる憲法というものについて、しっかりとした視点でやはり見ていくという必要があるのではないかというふうに考えております。
それからもう一つ、教育改革のことを申されました。率直に申し上げまして、昭和22年の教育基本法から始まりまして、そのときどきの内閣におきまして教育改革につきましてのいろいろな御論議がされました。特に、中曽根内閣におきまして臨教審がありまして、いろいろの御提言も頂戴をいたしているわけでございます。
しかし、今、教育の様々な状態を見ますと、現象面で言えば学校におけるいじめの問題とか、その他、学級崩壊の問題とかもろもろあります。もろもろありますが、しからば教育改革とは何ぞやとなりますと、前の橋本内閣のときもこれを6大改革の一つに取り上げましたけれども、実際にこれから教育改革とは何ぞやというのは、それぞれ国民のそれぞれの立場でいろいろな御主張があるわけですね。ですから、この際はいま一度教育改革とは何ぞやという原点に立ち返って、もろもろの方々の御意見ということも拝聴しながら、戦後教育の在り方等も含めてそれを十分検討し、問題の諸点を考えますとともに、本日問題となっていることがなぜ起こってきたかということも含めて、それを検討して分析して、そして新しい意味での21世紀の教育、たまたま2000年でありまして、本来的には21世紀は暦の上から言えば2001年1月1日から始まるのかもしれませんけれども、まさに新しい世紀を迎えるに当たってここ1年、国家百年の計と常々言われる教育改革について、「教育改革国民会議」、これは自民党、自由党、公明党3党からのお考えがそこにまとまっておりますので、これを政府としてもしっかり受け止めながら、その会議を通じながら教育改革の根本、そしてそれに伴って過去の教育の在り方、そして今日起こっている問題点等を考えなければならない。たまたま昨年のケルン・サミットでも世界の先進国も同様の思いをしておりまして、各国とも教育問題に対して百年の計を立てる努力をされておりまして、恐らく今夏に行われるサミットにおきましても、引き続いてG8の国々からもこの問題についての報告もあるのではないかと思っております。
既に報じられているように、イギリスなどではやはりブレア首相が口を開けば教育、教育、教育と言っているというようなことも聞いておりますし、この間テレビを見ておりましたらスーパーティーチャーというんですか、非常に高い給与の下で教育実践をやる教員の、そういう方々が現場に出ていってやることとか、なかなか各国とも画期的ないろいろな政策を打ち出しております。我が国におきましてもいろいろと政策の提言はありましたけれども、これを具体化し、かつこれを実施するという点についてまだ十分とは言い難い点があります。したがって、申し上げましたように、この内閣として「教育改革国民会議」というような形で日本全国、あるいは日本国ばかりでなくてほかの国々からも有識者の皆さんの御意見を聞きながら、ひとつ次の21世紀、百年の計を立てる努力を是非いたしていきたいというふうに考えているところでございます。
● 次に政局です。定数削減の問題ですけれども、自由党は自民党との合意が実行できなければ離脱するというふうに言っております。総理は、これは党と党との約束というふうにお考えなんでしょうか。また、国会が始まると与党だけではなくて野党におきまして現状では通すためには3回とか4回強行採決しなければ当然成立しないと考えますが、これについてどう思われますか。冒頭処理しないとすると予算審議に入らないとか、そういう形でちょっと我々が考えてみても袋小路に陥るのですけれども、その辺をどう考えておられますか。また、総選挙のことですけれども、総理は通常国会の会期末のときに国民の理解を得るには是非新定数で行うべきだというふうに言われていましたけれども、これは現在も公約と考えてよろしいんでしょうか、お願いいたします。
まず、通常国会の冒頭に衆議院の比例区定数を削減するということについて若干歴史を申し述べれば、自由党の小沢党首と私との間で自自連立を行うときのお約束に出発をしているわけです。その後、連立内閣が公明党の参加を得まして、3党における連立に相なっておるということでございますが、自由党としてかねての御主張でありますし、また私自身も比例区の削減についてはそれを了としたわけでございます。
しかし、いろいろな経過の中で50名でなくして20名という形で昨年来、真剣な御論議がされ、臨時国会の最後にはこれは衆議院において論議がされ、これが採決に至るという形に相なっておりますが、その後、伊藤衆議院議長が預かられておられるわけでございますので、引き続いて通常国会が始まれば是非このお約束を果たしていかなければならないというふうに感じております。
ただ、今お話のように2回、3回の強行採決というお話がございましたけれども、選挙制度あるいは定数の問題ということにつきましては、願わくば国会議員身分のことでございますし、同時に議会制民主主義の基本のことでございますから、やはり与野党でよく話し合って、これが成立を期すということでなければならないというふうに思っております。私の見るところ、共産党は定員削減そのものに反対をしていると思いますけれども、野党第一党の民主党におかれましては、比例区の削減ということにつきましては、根本的には私は反対していないというふうに認識をいたしておりますので、これから通常国会を開会するまでにそうしたことの努力を与野党間で十分詰めていただきまして、国会が開会されましたら是非冒頭に処理していただきたいということを私としては心から念願をいたしておる次第でございます。
それから、次の総選挙は新定数で行うべきということにつきましては、自由党との間にそのようなお約束をいたしております。すなわち、定数を減じているということは、その後に国民の意思をその定数において国民の判断を求めるわけでございますから、やはり選挙の前にこれが成立をお願いし、そして一定の期間というものが必要だろうと思いますけれども、やはり新定数を国民の皆さんに御理解いただいた中での国会議員、衆議院でございますけれども、20名減らせば480名ということになりますが、そのこと自体も含めて国民の信を問うというのが筋道ではないかというふうに考えております。
● 冒頭処理しないと予算審議に入れないのかというのはどうでしょうか。
それは国会で御判断することでございますけれども、今、申し上げたように冒頭の処理について、国会において精力的にお取り組みいただいて結論を得ていただきたいと思っておりますが、同時に、この12年度予算というものは国民にとって最も必要とする基本でございますし、国会として予算の審議をおろそかにするというようなことは私はあり得ないものと認識をしております。政府としては一日も早く予算案を提出をさせていただきまして、これはこれとして十分御審議の上、速やかに御可決いただき、今、景気回復が緩やかながら成長している、この流れをいささかもとどめるということがあってはならないということで、恐らくその点については国会における良識というものが必ず発揮されると同時に、予算の審議というものについては積極的にお取り組みいただけるものと確信いたしております。
● 次伺いたいと思いますが、自由党との関係なんですけれども、今の離脱と裏腹に合流という話もありまして、国民にとっては非常にわかりにくい状況になっていると思いうのですけれども、また自民党内でも意見が割れている中、総理は前国会の閉幕の日に、この合流については非常に前向きの発言をなさいました。今、そのお考えに変わりはないんでしょうか。合流についてはどのようなお考えを持っているのか伺いたいというのが第1点。あと、もし合流をする場合に、その時期なんですけれども、総選挙の後がいいのか、あるいは前がいいのか、その辺はどうお考えなんでしょうか。また、もし合流をする場合に、その意義というのはどこにあるとお考えでしょうか。
自民党と自由党とのいわゆる合流問題についてのお尋ねでありますが、私と小沢党首との間におきまして、この1年間自自連立内閣を自主的にやってまいりました。お互い党を別にしながら切磋琢磨するというのも、これなりの成果を私はあげてきたというふうに思っておりますが、同時に、基本的に自由党の国会議員の皆さんも、いわば我が党の基本的理念、考え方とかなり類似する点があるだろうと思っております。
そういう意味では、別の党としてお互い切磋琢磨するのも1つの道、同時にお互いこの際1つの政党として力を合わせていくというのも1つの方向性じゃないかということでありまして、私と小沢党首の間におきましては、もしそういう道があるとすれば、その道をお互い選択することも望ましいことではないかという点にはある意味の一致点を見出していると認識をいたしております。
ただ、非常に困難ことは、かつて昭和30年に当時の自由党、民主党がいわゆる有名な「保守合同」をいたしました。しかし、そのときの選挙制度は言うまでもありませんが、中選挙区制度でございまして、合同した上で1つの自由民主党が成立し、自由民主党の候補者として複数の選挙区における議員定数というものの中で、お互い生きる道がかなり可能性があったと。しかし、今日は1選挙区、単純選挙区として1選挙区1人という候補者の中で、お互い政党が合流した場合には、その選挙区をどうするか、いわゆる選挙協力の問題が非常に難しい状況であります。
今日まで、この点については両党の責任者同士で話し合ってまいりまして、それなりの方向性は定まっておりますけれども、すべて現時点において両党が満足すべき状況になっていないということがなかなか合流への1つの大きなネックになっているということも事実だろうと思うんです。
と同時に、やはり政党同士一緒になるということにつきましては、それぞれ政党の中において、やはり過半数以上の方々の理解、了解というものがなければこれを強行するということはでき得ないことは、民主的プロセスを持つ自由民主党とて当然のことでありまして、そういった点でいつまでとかということの限定はできませんが、願わくば党内における有力者あるいは有力なそれぞれの政策グループ、皆さんの御理解を得られる努力をしながら、その方向に向かっていくことが望ましいのではないかと、私、自由民主党総裁として、是非この点については、党内におけるそれぞれ有力な方々にお願いも申し上げてまいりたいというふうに思っておりますが、現実問題として、いつ、どこまでということについて、この機会に申し上げることは残念ながら控えさせていただきます。
● 次に伺いたいんですけれども、今年は総選挙のある年になると思いますが、総選挙の時期を判断する決め手は何だとお考えでしょうか。また、選挙の後の勝敗ラインですけれども、215とおっしゃった方もいらっしゃいますし、単独過半数という声も出ていますけれども、総理としてはどの辺に勝敗ラインを置きたいというふうにお考えですか。
それそも勝敗ラインということ自体が概念規定されているわけではありませんが、少なくとも現実に政治をお預かりしている立場から言い、かつ与党最大の政党の責任者として考えれば、次期選挙におきましては、当然のことながら過半数以上の候補者を公認候補として擁立をし、その全員の当選を期していくということは、これは当然のことであるし、また、その選挙の結果によりましても、減員するかどうかにもよりますけれども、480のまた過半数を超える議席を単独で確保していきたいということは、政党政治の立場で政党をお預かりする者の当然の主張であり、考え方であると私は認識をいたしております。
ただ、単純な2党による政権の争奪といいますか、争いをしているイギリスとかその他の国と異なりまして、多党化している我が国のことでございますので、そういう意味から言えば、なかなか過半数を維持するということの困難性もあろうかと思いますが、少なくとも総裁として考えることは、是非、与党第一党として確実に政治を運営できる議席数として過半数を目指していくというのは当然のことであると思っています。
● 時期の判断の決め手は。
時期と言われましても、10月の19日には任期満了になりますので、これも理論・理屈上から言えば、そういう任期満了において選挙が行われるか、その前に、いわゆる解散権の行使という形で解散が行われるかということでございますが、それはその時点における政治情勢で権限を与えられている、総理大臣が与えられているわけでありませんが、7条あるいは69条によって、内閣が与えられた権能として、それを主宰する内閣総理大臣の最終的判断によって決定をするということでございまして、どういう場面かと言われますが、政治は生きておりますので、国民の判断を求めなければならないという事態が生じれば、そのときは解散をしていくということだろうと、こう思います。
● 続いて外交問題についてお尋ねします。昨年12月に日本と北朝鮮の赤十字会談が行われましたが、拉致疑惑ですとか食糧支援を巡ってすれ違いも感じられます。今後、日朝の国交正常化交渉をどういうふうに進めていくのか、お答えください。
これも言うまでもありませんけれども、国連の加盟国188の中で、我が国が国交を有していないのは、大変残念ながら最も日本に近い国である北朝鮮ということになっているわけでありまして、そういうことから言いますと、現状は極めて近くて最も遠い国となっている状況を一日も早く、これは正常化しなければならないということでありまして、過去幾たびか正常化交渉が行われましたが、中断をいたしておりまして、幸いに村山元総理を団長としての与野党の議員各位における訪問団がそのきっかけをつくっていただきましたので、現在、赤十字同士のお話し合いも進んでおりますし、また、これから正常化交渉のための予備交渉が昨年末、そして、今年の当初行われる予定でありますので、それを通じまして正式な本会談に一日も早く入っていかなければならない、その努力を怠りなくいたしていきたいというふうに思っております。
御指摘のように、諸課題はないとは言い難い点もあります。特に、一昨年の北朝鮮のミサイルが我が国上空を通過する発射の事件とか、工作船の事件、あるいはいわゆる拉致疑惑事件とか、我が国国民にとっていろいろな不信感が必ずしも払拭されていない状況であることは、私も承知をいたしております。
しかし、冒頭申し上げましたように、このような状況を等閑視していくということがあってはならないということは当然であります。しかも、世界の大きな流れといいますと、特に北東アジアの安全保障を巡って、米国も、そして特に分断国家として苦労に苦労を重ねてきた韓国におけるキム・デジュン(金大中)大統領も、この点については包容政策を取っておるということでございますので、日本としても相協力して、是非国際社会に北朝鮮が入ってきていただいて、ともどもにこの地区の平和と安定に寄与していただくと同時に、国際社会の中で活躍いただける情勢をつくり上げるために、我が国としてお手伝いをすることは、これまたなさなければならないことだろうと思っております。拙速であってはいけないと思いますけれども、事においては果敢に対応していくべき必要があるのではないかというふうに考えております。
● 内政問題について伺います。2点ございますが、1つは、財政問題ですけれども、今日の総理のあいさつの中でも、経済の新生の道筋を今年確実にすると、さらには財政、税制上の展望を示す年にするということを言われました。宮沢大蔵大臣も、先日、2000年度の予算を今までの積極型の予算の最後にするというような発言がありましたが、総理は、具体的にいつから、こういった積極財政を転換するのか、更に財政再建の道筋というのはどの時点ではっきり示されるのか、これが1点目です。関連してもう1点ございます。社会保障の政策のことですが、今年の4月から介護保険の制度がスタートしますけれども、それに加えて医療、年金、少子・高齢社会に見合うような社会保障の大幅な見直しが必要だという指摘が相次いでいます。これも当然財政を伴うわけですけれども、これまで総理がたびたび前向きに取り組んでいくという姿勢を示しておられますけれども、具体的に財政と社会保障の関係をどういう具合に切り盛りしてやっていかれるのか。いわゆる姿勢だけではなくて、少し具体的な考えを聞かせていただきたいと思います。
まず、第1点の財政再建の問題ですが、先ほど申し上げましたように、645兆円という大きな国としての債務を負っているというこの事態は一日も早く解消していかなければならないと、このことが念頭を去ることは全く政治家としてあってはならないことだと思って日々考えているわけでございます。
同時に、いつも申し上げているように、私が就任いたしましたときの日本の経済の状況、2年続きのマイナス成長をして、そして、このままの状況で日本がマイナスをするということは、先ほど申し上げましたように、「日本が風邪をひけば、アジアは肺炎を起こす」というような状況の中で、自らの体質をともかく改善をしなければならない。すなわち景気回復、経済再生ということが最大の任務としてとらえているわけでございまして、その過程で、なるほど今年度予算も来年度の予算を含めますと、83兆円に近いいわゆる公債発行の責任を負ったということでありまして、これが加えられますから、前々から言えば、645兆円になんなんとする財政赤字を抱えている。これは一日も早く解消しなければならないと思いますけれども、両にらみでやっておりまして、一方がうまくいくと、また両方ともこれがうまくいくということはなかなかもって難しい状況だろうと思います。したがって、この際は、いつも申し上げておりますけれども、「二兎を追うものは一兎を得ず」ということであってはならない。したがって、この11年度におきましては、0.5%の目標を何としてもこれを達成する。そして、来年度、12年度はその上に立って1%くらいの経済成長を目指していくという過程の中で、税収を確保しつつ考えていかなければならないのではないかというふうに考えております。
したがって、財政再建につきましては、しっかりとした安定的な日本経済の成長の土台と言いますか、土俵をきちんと固めた上でそれぞれの政策を講じていく必要があるのではないかということでありまして、したがって、来年度の中で財政再建のためのスケジュールをつくるということは、なかなか困難なことではないかというふうに思っておりますが、いずれにしても、後世につけを回してはいけないという形の中で、日本経済をまず再生をさせて、その中から果実を生み出す努力をしていくということだろうと思っております。ほかの国の例、顰(ひそみ)に倣う(ならう)つもりはありませんけれども、一遍赤字財政になっても、それを埋め合わせても余りあるような、例えばアメリカ経済の状況というものがございます。我々も政策に誤りなきを期して行けば、必ずやそういった意味で大いなる黒字の中で、それが配分のできるような国家財政に一日も早く戻していかなければならないというふうに考えております。
社会保障の点についてでありますが、なるほど今日高齢者はますます増加をいたします。一方、少子化の中で子どもたちに対する対策も講じなければならない。いずれにしても、高齢者のための政策をするためにもお金が必要、子どもさんを産み育てるということの安心してできるような社会にするためにもお金が必要、お年寄りのためにも子どものためにも、双方で掛かる費用というものは非常に大きいということでありまして、それを今日まで国民全体で賄ってきたわけでございますけれども、考えますと年金、医療、今、介護の話がありましたけれども、いずれもそれぞれの問題点についての処理について、審議会とか、いろいろな方々がいろいろ答申を出しながら政策として打ち出してきましたが、そろそろこれをみんな全体として考えなければならない、すなわち社会保障構造の在り方全体を考えなければならない、ぎりぎりの段階にきているのではないかと私は考えておりまして、この点は改めて、そのための有識者会議を一日も早く設置をいたしまして、年金、医療、介護、そういう社会保障全体にわたっての将来の総合的、有機的なつながりのある形での解決方法というものを考えていくための会議をしていかなければならないというふうに考えております。具体的なとおっしゃられますけれども、年金については今、国会に法律が提案されて、当面の問題の処理についての政府の考え方を明らかにしておりますけれども、私はそれだけではいかんと思っているんのです。
本当にその他介護の問題、医療費の問題も30兆円を超えて、これはもうこのままの趨勢でよろしいかという、いろいろ国民の中の議論もあります、いろいろ医療改革も少しずつ行われておりますけれども、全体的に検討すべきぎりぎりの段階にきたと考えておりますので、どうも小渕内閣はいろいろ有識者会議ばかりつくるという御批判もあるかもしれませんけれども、やるべきことはともかくやらなければならない、社会保障についても同様だと考えて、その中でできる限り早い時期に一つの考え方をまとめさせて、国会の御議論とまたは御理解を得ていきたいというふうに願っています。 
記者会見 / 1月4日・伊勢市
● 原子力行政と芦浜原子力発電所計画についてお尋ねいたします。JCOの被曝事故で、国の原子力行政に対する国民の不安は増幅しています。2000年を迎え、新しい時代の原子力行政はどうあるべきだとお考えですか。また、特に地元では、中部電力の芦浜原子力発電所計画に賛否両論があり、37年も棚上げのままの深刻な状態が続いています。このほど、約2年半の冷却期間を終え、近く三重県の北川正恭知事が何らかの判断を示す方針です。総理は、知事の方針をどのように受け止めるおつもりですか。お聞かせください。
お答えの前に、改めて平成12年−元号で申し上げれば一の新春を迎えました。また、今年は西暦で言いますと2000年ということでございまして、いわゆる千年紀、ミレニアムの年となりました。恒例となりました伊勢神宮参拝をさせていただき、記者会見に臨ませていただきました。本年一年間、記者、各位皆様の御理解、御協力を改めてお願い申し上げる次第でございます。
今お話にありましたように、このたび、昨年のJCOの事故、特にこれを教訓といたしまして、先の臨時国会におきまして成立しました関連の法律の円滑、かつ実効的な施行に万全を期してまいるところでございます。4月から原子力安全委員会の独立性及び機能の強化を図ることによりまして、安全確保及び防災体制の再構築に懸命に取り組んでいるところでございます。
資源に乏しい我が国が社会経済の安定的発展と、地球環境の保全を図るためには、原子力抜きのエネルギー供給は極めて困難でありまして、安全の確保を大前提に国民の理解を得つつ、その開発利用を進めてまいりたい、これが政府の基本的な考え方でございます。
また、御指摘の芦浜地点につきましては、電力供給の安定確保のため、特に重要な地点として政府が要対策重要電源に指定いたしているところでございまして、現在もその認識に何ら変わるところはございません。県知事からも、こうした国のエネルギー政策の趣旨を踏まえた御判断がいただけるものと期待をいたしております。
冒頭申し上げましたように、昨年誠に申し訳ない事故が発生したことによりまして、原子力発電そのものに対しましても、国民の一般的不安が生じていることを否定はいたしておりません。しかし、申し上げたように、日本におきまして今51基の原子力発電所が発電に対して国民にその責任を負っているわけでございまして、最近の旺盛な電力需要ということを考えますと、クリーン・エネルギーとしての原子力の発電、しかも世界に冠たる多重防護がなされている状況にかんがみまして、依然として国民の理解と協力を得ながら進めていかなければならないという基本的方針でございます。
しかし、この点につきましては、御指摘のように長い間の経緯もございます。そういった意味におきまして、知事もいろいろ御苦労されておられることだと思いますし、過去の経過につきましても、私自身勉強させていただいてまいっておりまして、関係町村、あるいは漁協、その他万般の皆様のいろいろな考え方もあろうかと思いますが、私といたしましては、是非北川知事の公平な御判断をいただけるものと考えておりまして、地元の重要な案件であることは、政府としても十分承知をしながら対処していきたいというふうに考えているところでございます。
● 首都機能移転問題についてです。首都機能移転問題で昨年12月に国会等移転審議会の答申が出ました。今後、国会で論議されることになりますが、総理は首都を東京から別の場所に移そうという意欲をどれほど持っておられますか。また、三重・畿央地域は高速交通網が整備されればという条件付きで移転先候補地に残りましたが、今後国会で他の候補地と同等に議論することができるとお考えでしょうか、お願いします。
お答えいたしますが、首都機能移転は東京の一極集中を是正し、国土の災害対応力を強化し、国政全般の改革と深く関わりのある重要な課題であると認識をいたしておりまして、内閣といたしましてもその具体化に向けて積極的な検討を行ってまいりたいと、そう考えているところであります。
審議会は候補地として栃木・福島地域、岐阜・愛知地域の2地区を選定するとともに、将来一定の条件が満たされるならば候補地となる三重・畿央地域を含め、合わせて3か所を答申し、国会での議論にゆだねる内容となっております。国会では、答申の内容を十分に踏まえて我が国の将来を見据えつつ、大局的な観点から幅広い議論をいただけるものと期待をいたしておりますが、長年にわたりまして、この首都機能移転につきましては御議論をされてまいりまして、一応政府としてはこの諮問に応じて答申を頂戴いたしましたので、これを国会にお渡しをしなければならない立場でございまして、国民的考え方から国会においてこの問題をお取り上げいただき、御議論を願えるものと考えているところでございます。
ただ、この答申により、その後におきましては、現在、首都として存在している東京都との間におきましての御議論も残されているのではないかと思いますが、しかし、いずれにしても政府としては国会における重要な御判断というものを仰いでいける、その今、答申を得てお答えのできる時点に達しておりますので、過去のいろいろな議論を踏まえながら、今、申し上げましたように国会で真剣な御検討をいただけるものというふうに考えております。
「総理自身がどういうふうに考えているか」ということでありますが、私自身、現時点におきましてどの地区がどうだとかというお話を申し上げる立場になかろうかと思っております。まさに国民的な議論を起こしながら、当初この問題が起こった東京における一極の過度の集中というものの中で、三権がどのようにそれぞれ移転していくかどうかという問題につきましては、それこそ国民全体の課題、かつ長き世紀にわたっての判断でございますから、慎重の上にもまた十分な御検討を更に行わなければ歴史的な評価に対応できないのではないかと思っております。
と申し上げますゆえに、今時点におきましてこの問題について私の方から今この考えを申し上げさせていただいて、国会でのいろいろな御議論の前提となってはむしろいけないのではないかと、こう考えているところでございます。
● 衆議院は今年の10月に任期満了となります。解散総選挙の時期について総理はどのようにお考えでしょうか。また、次の選挙は衆議院の定数の問題とも関係してまいりますが、今月に召集されます通常国会の冒頭で処理するという約束が与党間でできております比例定数の削減法案についてどのように扱う考えでしょうか。お伺いいたします。
まず解散総選挙に関してでございますが、私は基本的には4年間の任期というものを全うすべきではないか、これが国民が総選挙において与えた意思ではないかというふうに思っております。
が、しかし、内閣総理大臣として日本の政治に大きな責任を負っている立場から言えば、国会における支持と理解がなければ、これまたこの任に当たれないわけでありまして、そういう意味で憲法でも規定されておりますように、7条あるいはまた69条によりまして内閣そのものにいわゆる解散権というものを行使する権限をお与えいただいているということでありますので、政治そのものはいつも申し上げておりますように誠に「生きた」といいますか、日々変化というものはあり得るわけでございます。そういうことから言えば、国民の皆さんにあえて信を問わなければならないという段階にまいりますれば、申されましたように10月19日任期満了を待たずして解散ということを行使することは、これは許されるものと思っております。
ただ、年頭でも申し上げましたけれども、やはり今、日本の政治の大きなポイントは2年続きのいわゆるマイナス成長から脱して、何としてもプラス成長のGDPを、国民総生産をプラスに転化していかなければならないというのが私のこの小渕内閣に与えられた当初からの強い国民の要請でございます。幸いにしてこの1−3月期をもって当初目標としてまいりましたプラス0.5%が達成できるということでありますれば、併せて12年度の予算、いろいろとメディアの皆さんは積極予算と言っておりますが、そう大型積極予算と言い切れるかどうかわかりませんが、少なくとも12年度においては0.5%を更に上回ってそれを発射台といいますか、スタートにして1%目標を達成すべく予算編成をいたしているわけでございます。是非この予算を一日も早く国会で御審議、御通過いただくということが景気回復、経済再生、そして新しい時代の経済新生に向けての基本的な課題であろうかと考えておりますので、やはり政府といたしましてはできる限り早く予算案を国会に提出をいたしまして、できる限り早くこれが成立を期していきたいというのが強い願いであり、国民もまたそのことを私は要求・要望されるのではないかと実は思っているところでございます。
なお、定数是正の問題につきましては、残念ながら昨年末の臨時国会におきましてこれが通過することができませんでした。しかし、定数を減ずるということにつきましてはいろいろな御議論もあるかと思います。思いますが、やはり現下、国内におきましてもそれぞれ各企業体におきましても、やむを得ざることとしてこの体質強化のために俗に言うリストラをせざるを得ない厳しい環境の中にあります。そういう意味で、ひとり国会だけ今の定数でいいかということについての御議論がありまして、昨年自由党の小沢党首と私との間におきまして、当初は50名の比例区の減員ということでいたしてまいりましたが、その後、三党連立内閣ができ上がりまして以降、現時点においては20名減員の方向で国会の御審議を願いたいと願っております。でき得べくんば国会を召集をさせていただいた暁において、冒頭にこの処理をするということを自民党としてはお約束をいたしているわけでございますので、是非これが達成のできるように国会の御理解をいただきたいと思っておりますが、共産党を除きましては、いわゆる比例区の定数を減員する、削減するということについては野党第一党もこれは反対をされていないと承っておりますので、願わくば是非各党間の御協議の下でこれが成立できるようにお願いをいたしたいというふうに考えているところでございます。
● 昨年末にロシアのエリツィン大統領が辞任しました。ロシアとの間では2000年中に日露平和条約を締結することになっておりますが、今年中に条約締結をすることが可能でしょうか。その見通しについてお聞かせください。
クラスノヤルスクの首脳会談以降、日露関係進展の流れを自らイニシアチブをつくってきたエリツィン大統領が辞任をされたということは極めて残念と考えております。
他方、昨今の日露関係改善の趨勢は既に歴史の流れとも言うべきものになっておりまして、政権の交替に関わらず推し進められていくべきものであると確信しております。政府としては、あらゆる分野におきまして日露間の協力関係を強化しながら東京宣言及びクラスノヤルスク合意を始めとする一連の合意及び宣言に基づき、2000年までに北方四島の帰属問題を解決し、平和条約を締結すべく全力を尽くしていく考えでありまして、エリツィン前大統領の後継者との間でもこのような方針の下、緊密に協力していく考えであります。
重ねてでありますが、実は今年の3月にエリツィン大統領に是非訪日をお願いをし、また大統領自身もそのようなお考えがあって我が方、丹波駐露大使の信任状捧呈の折に、大統領からもそのようなことをお話があったと聞いておりましたので、春4月と言わず3月に訪日を強く期待をし、かねてからの橋本内閣以来の日露間の関係の急激な流れというものをまさに2000年までにこの平和条約締結の大きな足掛かりにしたいと認識をいたしておりましたが、昨年12月31日、電撃的に大統領がそのすべての権限をプチン首相に譲られたということでございますので、その点は率直に申し上げればいささか虚を突かれた感じではありますけれども、しかし、私はエリツィン大統領とこの首脳会談をいたしました折にも、一昨年の冬、そして昨年のケルンのサミットにおきましても、二人同士になりますと非常に大統領のクラスノヤルスク合意を実現しようという熱意についてはいささかも私は疑いを持っていなかったわけでありまして、そういう意味ではエリツィン大統領も意中の人としてプチン首相を大統領代行に選ばれたということであるとすれば、当然私はその熱意、意思、希望、こういうものは引き継がれるものと考えているし、私もそのことを確信をいたしております。
また、プチン大統領代行就任に当たりましては私からもお手紙を差し上げて、前エリツィン大統領以来の大きく進展してきた日露間の問題について引き続いて同じお気持ちを持って対応していただけるようにと日本側の意思も伝えておりますし、必ずやそういう対応をしていただけるものと考えております。幸いプチン首相とはAPECにおきましても既にお話をする機会がありましたので、願わくば一日も早く、また2人が会談を行うことによりまして、今までの流れを更に加速することのできるようにということで、今年全力を挙げてまいりたいというふうに考えております。 
第百四十七回国会・施政方針演説 / 平成12年1月28日
(はじめに)
新しい千年紀の幕開けという記念すべき西暦二〇〇〇年を迎え、第百四十七回国会の開会に当たり、国政をお預かりする立場から、施政に関する所信を申し述べます。
西暦二〇〇〇年の元日、この記念すべき日にわが国で誕生したいわゆるミレニアム・ベビーは二千余人であります。二十世紀から二十一世紀へと時代が移ろうとするそのときに、私は、明日の時代を担うこの子どもたちのために何ができるのか、何をしなければならないのか、一人の政治家としてそのことをまず第一に考えるものであります。
この子どもたちにどのような日本を引き継いでいくのか、この子どもたちがやがて大人になったとき、日本という国家は世界から確固たる尊敬を得られるようになっているだろうか、と案ずるのであります。時代の転換期に当たり、私たちは当面する短期の問題に集中する虫の目ではなく、十年、二十年先を見据える鳥の目で日本の在るべき姿を熟慮し、そのために今何をなすべきかを考える必要があると確信いたします。
そのような思いから、私は各界有識者からなる「二十一世紀日本の構想」懇談会を設置いたしました。新しい世紀の日本の在るべき姿を、「富国有徳」の理念の下、様々な角度から議論していただき、先ごろ十か月に及ぶ議論の末にまとめられた報告書を受け取りました。
報告書は、二十一世紀最大の課題は、日本及び日本人の潜在力をどのように引き出すかである、と述べております。これまで幾多の苦難をみごとに乗り切ってきた私たち日本には、計り知れないほどの潜在力があると私も確信いたしております。「日本のフロンティアは日本の中にある」という報告書の表題は、日本及び日本人の中にこそ大きな可能性があるのだということを力強く宣言しております。
まさに私の思いと一致するところであります。昨年の施政方針演説で私は「建設的な楽観主義」という言葉を使いました。「コップ半分の水をもう半分しかないと嘆くのではなく、まだ半分あると思う意識の転換が必要だ」と申し上げました。今私は、日本及び日本人の意欲と能力をもってすれば、再びなみなみとコップに水を注ぐことが可能だと考えます。
「やればできる」という「立ち向かう楽観主義」が大切であります。踏みとどまっていては二十一世紀の明るい展望を開くことはできません。大事なことは嘆き続けることではなく、一歩を力強く踏み出すことであります。
「経済再生内閣」と銘打って内閣をお預かりしてから一年半が過ぎました。まだまだ安心できるような状況ではありませんが、時折ほのかな明るさが見えるところまでたどり着いたように思います。「立ち向かう楽観主義」で、この明るさを確かなものとするため、更なる努力を傾注してまいることをお誓いいたします。
二〇〇〇年の到来と同時に、新しい時代の風が吹き始めております。この風をしっかりととらえて、明日の日本の基礎を築いていかなければなりません。明日の日本は個人が組織や集団の中に埋没する社会ではなく、個人が輝き、個人の力がみなぎってくるような社会でなければなりません。
個人と公が従来の縦の関係ではなく横の関係となり、両者の協同作業による「協治」の関係を築いていかなければならないと考えます。自立した個人がその能力を十二分に発揮する、そのことが国家や社会を品格あるものにする、そのように国民と国家との関係を変えていく必要に迫られております。ここでは、失敗しても再挑戦が可能な寛容さを社会が持つとともに、社会のセイフティ・ネットが有効に機能することが必要であります。
先進諸国を始めとする多くの国々が、グローバル化、少子高齢化、それに社会の構造を根本から変える可能性を秘めた情報技術革命のうねりの中にあります。わが国もまた例外ではありません。明治以来わが国は「追いつき追い越せ」を目標に努力を重ねてまいりましたが、もはや世界のどこを探しても、目標となるモデルは存在しておりません。日本の在るべき姿を、私たちは自ら考えなければならないのであります。
この際、私は二つの具体的な目標を掲げたいと思います。輝ける未来を築くために最も重要なことは、いかにして人材を育てるかであります。「教育立国」を目指し、二十一世紀を担う人々は全て、文化と伝統の礎である美しい日本語を身につけると同時に、国際共通語である英語で意思疎通ができ、インターネットを通じて国際社会の中に自在に入っていけるようにすることであります。もう一つは「科学技術創造立国」であります。現在、日本も加わって遺伝子の解析が行われておりますが、こうした分野で日本が果たすべき役割は極めて大きいと確信しております。科学技術分野で日本が重要な位置を占めることができるよう、例えば遺伝子治療でガンの根治を可能にするなど高い目標を掲げ、その実現を図ってまいります。
昨年の施政方針演説で掲げました「五つの架け橋」を更に進め、国民の決意と叡智を持って取り組むべき課題に、私は本年「五つの挑戦」と名づけました。「創造への挑戦」、「安心への挑戦」、「新生への挑戦」、「平和への挑戦」、「地球への挑戦」の五つであります。国民の皆様のご理解とご支援を賜りたいとお願いするものであります。
(創造への挑戦)
新しい時代を輝けるものにするために、私はまず「創造への挑戦」に全力で取り組みます。未知なるものに果敢に挑戦し、わが国の明るい未来を切り拓き、同時に世界に貢献していくためには、創造性こそが大きな鍵となります。組織や集団の「和」を尊ぶ日本社会は、ともすれば発想や行動が画一的になりがちだと指摘されてまいりました。明日の日本社会は、いろいろなタイプ、様々な発想を持った人々であふれている、そうならなければ国際社会で生きていくことは難しいと考えます。
創造性の高い人材を育成すること、それがこれからの教育の大きな目標でなければなりません。志を高く持ち、様々な分野で創造力を活かすことのできる人材をどのようにして育てていくか、単に教育制度を見直すだけではなく、社会の在り方まで含めた抜本的な教育改革が求められております。広く国民各界各層の意見を伺い、教育の根本にまでさかのぼった議論をするために、私は「教育改革国民会議」を早急に発足させる考えであります。
教育は学校だけでできるものではありません。学校とともに大事なのは家庭での教育であります。また、学校と家庭、それに地域コミュニティがうまくかみ合ったものでなければならないと考えます。学校、家庭、地域の三者の共同作業で、明日の日本を担う人材育成に当たらなければなりません。
必要なときには先生も親もきちんと子どもをしかる、悪いことをしている子どもがいたらよその子どもでもいさめてあげる、そのような社会をつくり上げなければならないと考えるものであります。子どもたちは学校や家庭だけのものではなく、社会全体の宝であるという考え方に立つべきであります。
申し上げるまでもなく、科学の進歩の速さには驚異的なものがあります。科学が進歩し続ければし続けるほど、科学をしっかりとコントロールできるような確かな心が必要になります。知識と心の均衡のとれた教育が求められるゆえんであります。
子どもは大人社会を見ながら育ちます。まず大人自らが、倫理やモラルに普段から注意しなければなりません。また、過激な暴力シーンや性表現のある出版物やゲームなどが青少年に悪影響を与えており、これを放置している社会にも問題がある、との指摘もあります。子どもの健全な発達を支えていく社会を築いていかなければなりません。
私は、司馬遼太郎氏の「二十一世紀に生きる君たちへ」を読むたびに、強い感動を覚えます。その中で若い人たちに対し、自己の確立─自分に厳しく、相手にやさしく、すなおでかしこい自己の確立を呼びかけ、また、助け合い、いたわりの気持ちの大切さを訴えています。これを改めて心に刻み、私は内閣の最重要課題として教育改革に全力で取り組むことをお誓いするものであります。
わが国の発展の原動力となるものは科学技術であります。科学技術の進歩こそ、創造性の高い社会を築くために不可欠なものであります。政府一丸となってその振興を図ってまいります。とりわけ、情報化、高齢化、環境対応という、今最も重要な三つの分野で、産業界、学界、政府共同の「ミレニアム・プロジェクト」を推進するとともに、研究を進めるに当たっての環境整備や産業技術力強化に力を注ぐ決意であります。また、わが国経済を支えてきた「ものづくり」の大切さを深く認識し、「ものつくり大学」の設立を始め、その基盤強化を進めてまいります。
(安心への挑戦)
人々が生き生きと、しかも安心して暮らせる社会、そのような社会を築くことは政治にとって最も重要な責任であります。青少年も、働き盛りの世代も、そして老後を暮らす人々も、みな健康で豊かで安心して生活できる社会をつくるために、私は「安心への挑戦」に取り組みます。
充実した人生を送るために必要な教育、雇用、育児、社会保障などを国民一人一人が自ら選択し、人生設計ができるようにしていかなければなりません。
世界に例を見ない少子高齢化が進行する中で、国民の間には社会保障制度の将来に不安を感じる声も出ております。医療、年金、介護など、制度ごとに縦割りに検討するのではなく、実際に費用を負担し、サービスを受ける国民の視点から、税制を始め関連する諸制度まで含めた総合的な検討が求められております。
戦後の第一次ベビーブーム世代、いわゆる「団塊の世代」の人々がやがて高齢世代の仲間入りをします。社会保障構造の在り方についての検討が急がれるゆえんであり、私は、最後の検討機会との思いで、有識者会議を設置いたしました。高齢世代の社会的役割を積極的に位置づけ、多様な選択を可能にするために何が必要なのか、こうした問題を含め横断的な観点からの検討をお願いし、将来にわたり安定的で効率的な社会保障制度の構築に全力を挙げてまいります。
年金制度につきましては、国会でご審議いただいている法案の実施により世代間の負担の公平化を図るほか、新たに確定拠出型年金制度の導入を図ります。また医療制度改革を進めるとともに、介護保険制度の本年四月からの円滑なスタートに万全を期し、介護サービス提供体制の計画的な整備など高齢者の保健福祉施策を積極的に推進いたします。
急速な少子化は社会全体で取り組むべき課題であります。明るい家庭をつくり、子育てに夢を持てるように保育・雇用環境の整備や児童手当の拡充などを進めてまいります。また、女性も男性も喜びと責任を分かち合える男女共同参画社会の実現に一層の努力をしてまいります。
現下の雇用情勢はまことに厳しいものがあります。これを重く受け止め、雇用情勢を改善させ雇用不安をなくすために全力で立ち向かう考えであります。社会の変化に対応する雇用保険制度の再構築を図るとともに、高齢者の雇用機会の確保に努めてまいります。
安心できる生活の基盤は、良好な治安によってもたらされます。治安を支える警察は国民と共になければなりません。一連の不祥事によって揺らいだ警察に対する国民の信頼を回復するため、公安委員会制度の充実強化を始め、必要な施策を推進いたします。また、時代の変化に対応し、国民にとって利便性の高い司法制度にするために必要な改革を行います。
阪神・淡路大震災から五年が経ちました。多くの犠牲者の上に得られた教訓を決して忘れてはなりません。災害対策を始めとする危機管理に終わりはなく、更なる対策の充実・強化に努めてまいります。
(新生への挑戦)
わが国経済は緩やかな改善を続けております。大胆かつスピーディーに実施してまいりました様々な政策の効果が表れつつあり、またアジア経済の回復なども良い影響をもたらしております。しかしながら、民間需要の回復力はまだ弱い状況にあります。私は、目の前の明るさを確かなものとするため、日本経済の「新生への挑戦」に果敢に取り組んでまいります。単に景気を立ち直らせるだけでなく、本格的な景気回復と構造改革の二つを共に実現するために、力の限り立ち向かってまいります。
昨年秋に決定した経済新生対策などを力強く推進することにより、公需から民需へと転換を図り、設備投資や個人消費など民需主導の自律的な景気回復を実現させます。私はこれまで、金融システムの改革や産業競争力の強化、規制緩和など構造改革に積極的に取り組んでまいりました。その推進・定着に一層の努力をしてまいります。中小企業は経済の活力の源泉であります。意欲あふれる中小・ベンチャー企業への支援や金融対策に万全を期してまいります。このような様々な施策を推進することにより、十二年度の国内総生産の実質成長率は一・〇%程度に達するものと見通しております。
予算編成に当たっては、経済運営に万全を期す観点から、公共事業や金融システム安定化・預金者保護に十分な対応を行うとともに、総額五千億円の経済新生特別枠を始め、新しい千年紀にふさわしい分野に重点的・効率的に資金を配分することといたしました。
税制面では、昨年から実施している六兆円を上回る規模の個人所得課税や法人課税の恒久的な減税が継続しております。加えて十二年度には、本格的な景気回復を目指し、民間投資の促進や中小・ベンチャー企業の振興を図るための措置を講じるほか、年金税制、法人関係税制等について適切に対応してまいります。
健全なる財政がもとより重要であることは申すまでもありません。私は、来年度末の債務残高が六百四十五兆円にもなることを重く受け止めております。財政構造改革という重要な課題を忘れたことは、片時もありません。しかしながら私は今、景気を本格軌道に乗せるという目的と財政再建に取り組むという重要課題の双方を同時に追い求めることはできない、「二兎を追うものは一兎をも得ず」になってはならない、と考えております。
私はまず経済新生に全力で取り組みます。八〇年代半ば、未曾有の財政赤字に苦しんでいた米国は、今や史上空前の黒字を記録することとなり、その使い途をめぐって大論争が起こっているほどであります。不可能とも言われた米国の財政再建が実現したのは、様々な改革とともに、百六か月に及ぶ史上最長の景気拡大があったからであります。
わが国の景気回復は、わが国ばかりでなく国際社会が等しく強い期待を寄せているところであります。財政再建は重要ですが、足元を固めることなく、景気を本格軌道に乗せる前に取りかかるという過ちを犯すべきではありません。わが国経済が低迷を脱し、名実ともに「国力の回復」が図られ、それにより財政・税制上の諸課題について将来世代のことも展望した議論に取り組む環境を整え、その上で財政構造改革という大きな課題に立ち向かってまいりたいと考えております。
国民生活の質を高めることも、経済新生の重要な課題であります。規制緩和が一段と進展する中で、不公正な取引などによる被害者の救済制度や、消費者が事業者と結んだ契約に係る紛争の公正・円滑な解決のためのルールを整備いたします。また、毎日の生活をより快適なものとするため、生活空間の倍増を目指すとともに、時代の変化に対応した魅力ある都市づくりに向け、都市再生の具体化に取り組んでまいります。
ペイオフにつきましては、金融システムを一層強固なものにするため、その解禁を一年延長いたします。併せて、金融機関の破綻処理等に係る恒久的な制度を整備することといたします。
(平和への挑戦)
私は二十一世紀を「平和の世紀」と位置づけ、二十世紀に繰り返された体制間、国家間、地域間の戦争の廃絶に向け、わが国として力を尽くしていきたいと考えるものであります。世界が平和で安定するところに、わが国の輝かしい未来があるのです。「平和への挑戦」を掲げ国際社会で積極的な役割を担ってまいります。
私は昨年、九州・沖縄サミットの開催を万感の思いを込めて決断いたしました。二〇〇〇年という節目の年に開かれるこのサミットを、「平和の世紀」の建設を世界に発信する重要な機会ととらえ、明るく力強いメッセージを打ち出したいと考えております。九州・沖縄地域はアジア各国と密接なつながりを持っており、アジアの視点を十分に踏まえた議論が行われるものと期待しております。
このサミットは絶対に成功させなければなりません。わが国が国際社会で果たすことを求められている大きな役割は、全てこのサミットの成功の上に積み上げられると信じるからであります。首脳会合の開催地である名護市を始め各自治体のご協力もいただきながら、私は持てる情熱の全てを傾け、国際社会に対するわが国の責任をしっかりと果たしてまいります。
わが国自らの安全保障基盤を強固なものとしながら、国際的な安全保障の確立に貢献することも、平和への重要な課題であります。国民の皆様のご理解をいただきながら、国連の平和活動への一層の協力を進めてまいりたいと考えております。
私は先日、カンボディア、ラオス、タイの各国を訪問いたしました。アジア経済危機の際のわが国からの積極的な支援に対し、日本はまさに「まさかの時の友こそ真の友」との高い評価をいただいてまいりました。
日韓関係は未来を志向する新たな段階を迎えており、両国国民の感情は劇的に改善しつつあります。今年の元日、私は金大中大統領とともに、両国メディアを通じてお互いの国民に新年のメッセージを送りました。こうした取組は史上初めてのことであります。二〇〇二年のサッカー・ワールドカップ及び「日韓国民交流の年」に向け、更に幅広く交流を進めてまいります。日朝関係につきましては、韓国、米国との密接な連携の下、昨年来芽生え始めた対話を更に進め、その中で国交正常化、人道及び安全保障の問題につき真摯に話し合い、双方が互いに前向きの対応を取り合うようにしていきたいと考えております。また、アジアの主要国である中国との関係の発展に、一層努めてまいります。昨年十一月、私と中国と韓国の首脳が、史上初めて三か国の会談を行いました。私は、この会談が、将来の東アジアの平和につながっていくものと確信しております。
米国との関係はわが国外交の基軸であり、首脳間の確固たる信頼関係を基に更なる強化を図ってまいります。普天間飛行場の移設・返還問題につきましては、稲嶺沖縄県知事から代替施設の移設候補地の表明があり、さらに岸本名護市長からその受入れが表明されました。政府といたしましては、その建設に当たり安全・環境対策に万全を期すとともに、地域の振興に全力で取り組み、地元の期待に応えてまいります。また、沖縄における更なる米軍施設・区域の整理・統合・縮小にも、SACO最終報告の着実な実施に向け、真剣に取り組んでまいります。
エリツィン大統領は退任されましたが、ロシアの新しい指導者との間で、日露間で合意された目標期限である本年、各分野での関係を一層強化しながら、東京宣言などに基づき平和条約を締結すべく力を尽くしてまいります。
二十一世紀の外交は、国と国との関係ばかりでなく、国家を構成する一人一人の個人にも焦点を当てることが求められるのではないでしょうか。私は、世界中の人々が自由に生きられる世界を築くため、心を砕いてまいります。人権を尊重し、自由の基礎となる民主主義を守り、貧困の撲滅やヒューマン・セキュリティ、人間の安全保障の確保に直結するような開発途上国への援助に力を注いでまいります。また、多角的な自由貿易体制の維持・強化のため、WTO新ラウンドの早期立上げに向け、引き続き努力いたします。
(地球への挑戦)
私は平成十二年度を「循環型社会元年」と位置づけ、「地球への挑戦」に果敢に取り組みます。
大量生産、大量消費、大量廃棄というわが国社会の在り方は、地球環境に大きな負荷をかけております。こうした社会の在り方を見直し、生産、流通、消費、廃棄といった社会経済活動の全段階を通じ、物質循環を基調とした「循環型社会」を構築しなければなりません。今国会にその基本的な枠組みとなる法案を提出いたします。
エネルギーの安定供給を確保するための総合的な政策にも万全を期してまいります。省エネルギー・新エネルギー政策などに積極的に取り組み、環境保全、市場効率化の要請に対応してまいります。また、原子力に関しましては、昨年九月の臨界事故の厳しい反省の上に立ち、先に成立した原子力災害対策特別措置法等の着実な実施により、安全規制の抜本的な強化と防災対策の確立を早急に図ってまいります。
世界の総人口が爆発的に増え続ける中で、食料の確保は地球的規模での重要な課題であります。農林水産業と農山漁村の健全な発展に引き続き取り組み、国土・環境の保全や文化の伝承など多面的な機能の発揮とともに、食料の安定供給の確保を図ってまいります。
(むすび)
新しい千年紀を迎え時代が大きく変わろうとしている今、私は内閣をお預かりする責任の重さをひしひしと感じております。次の時代を背負って立つ私たちの子どもや孫たちの世代が、あの時に先輩たちが頑張ってくれたんだと思ってくれるよう、なすべきことをきちんと仕上げていかなければならないと考えます。
今日、明日の利害よりも、五年後、十年後にきちんと花を咲かせるような、地味であっても明日の日本のために死活的に大事な種をまかなければなりません。そのためには、国会において志を同じくする人たちの協力を得たい、それが自由党に加えて公明党にも政権参加をお願いした理由であります。必要な政策を遅滞なく推し進め、三党連立による成果を得たいと願うものであります。
この一年は、いつにも増して極めて重要な一年であります。明年一月六日から中央省庁再編により、新しい形での政府がスタートいたします。地方自治も、大転換の時期を迎えております。内政から外交まで、取り組むべき課題は目の前に山積しております。また、国会改革も行われ、党首同士の討論や政府委員制度の廃止などが国会の役割を一段と大きく変えるものと思われます。
今国会から衆参両院に憲法調査会が設置されました。国民の負託を受けた真の有識者である国会議員の皆様による、幅広い議論が展開されるものと期待しております。
演説を締めくくるに当たり、私は、二十一世紀を担う若い世代の人々に、宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」の中から、次の言葉を贈りたいと思います。
ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら
峠の上りも下りもみんなほんとうの幸福に近づく一あしずつです
国民の皆様、また議員各位のご理解とご支援を心よりお願い申し上げ、私の施政に関する演説を終わります。 
記者会見・平成12年度予算成立 / 平成12年3月17日
平成12年度予算がお蔭様で本日ただ今成立をいたしました。衆参両院におきまして、予算の成立のため大変御努力をいただきましたこと、心から感謝申し上げます。
今回の予算は、予算の国会提出が明年1月の省庁再編のため、昨年より9日遅れにならざるを得なかったにもかかわらず、昨年と同じく、戦後最速で成立をいたしました。結果として、50日間の最短の審議期間で年度内に成立したことになります。これは、予算の早期成立が景気の本格的回復の鍵を握るとの認識の下、与党3党が固く結束し、鋭意努力された結果でございます。
平成12年度予算は、我が国経済が緩やかな改善を続ける中にありまして、これを本格的な回復軌道につなげていくため、経済運営に万全を期すとの観点に立って編成したものであります。同時に、経済や社会の将来の発展につながる分野への重点化など、予算の「構造」にまで踏み込んだ取組を進めたものであります。
例えば、公共事業につきまして、その総額の2割以上に当たる約2兆6百億円を、次の4つの課題に重点配分しております。すなわち、第1に物流効率化、第2に環境対策、第3に少子高齢化対応、第4に情報通信の高度化であります。
一方では、「時のアセスメント」や「費用対効果分析」を活用し、新たに23事業の中止などに踏み切っております。また、私が提唱してまいりましたミレニアム・プロジェクトをスタートさせます。情報化、高齢化、環境対応の3つの分野で大胆な技術革新に取り組みます。その上で、最大の景気対策は、本予算を円滑かつ着実に執行することであります。具体的には、公共事業等につきまして、年度開始後直ちに着手できるよう、実施計画、いわゆる「箇所付け」の協議・承認を速やかに行います。
我が国経済は、着実に前向きの動き、自律的回復に向けた動きが徐々に現れております。先般発表になりました昨年10−12月期の実質国内総生産は前期比でマイナスでありました。しかし、本年1月以降の足下の経済情勢を見ますと、例えば個人消費や新規求人数の動きは好調であります。また、長らく減少を続けてまいりました設備投資も昨年10−12月に反転しプラスとなっております。いわば、日本経済は、「雲間に朝日がさしてきた」といえる状況であります。
私は、総理に就任して以来、デフレ・スパイラルに陥ることを防ぎ、日本経済に対する信認を回復するため、各般の政策を果敢に実行してまいりました。その結果、平成11年度にはプラス成長へ転ずる見通しはほぼ確実にすることができたと考えます。せっかく芽生えました明るい兆しを更に強く、大きな流れに変えていかなければならないと考えております。今大事なことは、国民の皆様や企業が日本経済の将来に確信を持っていただくことであります。そして、前向きに積極的な取組の歩みを進めていただくことであります。政府としても、共に一層の努力を続けてまいります。
こうした時期にありまして、経済の構造改革は極めて重要であります。経済の構造改革は、新たな市場を創り出し、雇用を生み出すものであります。企業の事業再編の円滑化、産業技術力の強化、規制緩和、そして情報技術革命すなわちIT革命といった課題に全力で取り組んでまいります。
最後に、教育改革及びサミットにつきまして、一言申し上げます。教育は「国家百年の大計」であります。既に、この2か月間で各界の有識者の方々や、更に国民の皆様から4千を超える御意見を頂いております。近く江崎玲於奈氏を座長として発足する教育改革国民会議では、国民の皆様の教育に対する切実な思いも踏まえ、教育の基本にさかのぼって幅広い議論を積み重ねていただきたいと考えております。
2000年という節目の年に、アジア諸国と深いつながりのあります九州・沖縄地域で開催されるサミットは、本年の最重要の外交課題であります。開催まであと4か月ほどでありますが、来週末には私自身沖縄を訪問し、現地の視察やアジア太平洋地域の有識者の方々と懇談を行いたいと思っております。地元の皆様を始め、国民各位の御協力を改めてお願いいたす次第でございます。ありがとうございました。
【質疑応答】
● まず景気の問題ですが、総理の冒頭発言でもありましたが、3月の月例経済報告でも今日報告されましたが、まだ景気回復宣言には至らないということもあって、依然として景気回復の見通しというのは不透明な部分があると思います。総理は、現段階での経済動向をどう判断し、今後更にどのような景気対策をとっていこうと、予算執行と併せてその点と、これに関連して自民党内には5,000億円の公共事業などの予備費を早期に使おうという意見もありますけれども、補正予算編成の可能性を含めてどう対応なさるのか併せてお聞かせください。
日本経済は、残念ながら過去2年引き続いてマイナス成長でございました。小渕内閣になりまして、何としても日本経済をプラス成長にしなければならないということで、景気回復、経済再生をこの内閣の最大のテーマとして取り組んでまいった次第でございます。各種の政策をすべて打ち出しまして対応いたしました結果、今年3月期、すなわち11年度にはプラス成長になる見込みがかなり濃厚になってきております。
ただ、実は、昨年10−12月の四半期におきましてマイナス成長になりました。これはいろいろな要因があると思いますけれども、やはり給与所得者に対してのボーナス、これがなかなか思うような数字が出てこない。したがって、賢明な消費者ということになりましょうか、消費も伸びなかったということもあります。またちょうど、いわゆるY2Kといいますか、コンピュータ2000年問題がございまして、旅行の方も控えよう等々がございまして、残念ながらマイナス成長になりました。
しかし、その中で非常に特筆すべきことは企業の設備投資、これがプラス4.6という数字で久々にプラスの数字が出てまいりました。これは、ある意味では日本経済の先行的指標を示すものではないか。設備が、一旦リストラも済んで、これから新しい設備の下に経済活動をしていこうということでございますから、こういう数字がこれから堅調になってまいりますと、必ず当初の目標であるプラス0.5、あるいは0.6、この数字近くに日本経済が上ってくるということになりますと、マイナスからプラスですから、したがって12年度以降、この勢いが安定的に成長するということになりますと、今年の秋ころには、しっかりした足下が固まってくるのではないかと強い期待をいたしております。
おおよそ採るべき経済政策は採ってまいりました。その中では、いつも御指摘を頂いておりますが、国債も相当発行いたしまして下支えをしてきたということもありますが、自律的な経済の発展につながってくるものと確信をいたしております。
冒頭申し上げましたように、これは企業におきましても、そうした気持ちがこの官需から、いわゆる民需という体制に切り替わってくれば、必ず私は今年夏、秋以降の日本の経済成長というのはかなり確実なものになってくるというふうに思っております。
それから、この予算が成立をいたしましたので==昨年も最速でございました==最速ということはいたずらに早く国会により成立せしめていただいたということだけでありませんで、今日成立したということは、先ほど申し上げましたように公共事業にいたしましても、省庁がこうした公共事業を実施する場合に、4月1日から国のお金が行ったときに事業が開始するということでありますので、切れ目のない公共事業関係の事業が推進されることによって、これまた景気に対しましても、それなりの影響を与えられるものだというふうに思っております。
したがいまして、何はともあれ予算が成立をいたしましたので、この予算を円滑かつ着実に執行する。これに尽きると思っております。相呼応して民需がこれとともに発展するということでありますと、日本経済も大きく進展しますし、また日本経済が伸びるということは、アジア経済も共々に発展していくという良循環が始まるのではないか、こういうふうに考えております。
● 次に、予算を編成するに当たって、国債を大量に発行されたということで、国と地方の長期債務残高を合わせてGDPを上回る645兆円ということで財政赤字は先進国中最悪の水準です。総理は、これまで経済回復、景気対策最優先とおっしゃっていましたけれども、この予算成立をきっかけに財政再建への具体的な道筋を示すというふうなお考えはないでしょうか。
私も責任ある立場でございますから、一般論的に言えば、財政というものは「入るを量りて出ずるを制す」、これは中国の礼記の言葉でありますが、これは古今東西政治家が最も注意しなければならないことであります。がしかし、単年度における国債の発行ということをしなければ、日本経済が引き続き3年、4年のマイナス成長になるという、スパイラルの状況であったわけでありますから、これを一応押し止めたわけですから、これからは、この経済成長をしっかりさせていくということで、いずれの時期か分かりませんが、財政をより健全化させていかなければならないということは、これは四六時中忘れたことのないことでございますので、ただ、その時期をあらかじめ特定していくということになりますと、また財政再建ということになりますと、具体的にはどういう手法をとるかはなかなか難かしゅうございますが、ごく簡単に言えば、税の問題にまで立ち入らなければならないということになりますと、またまた、前回消費税を導入して、たまたま不幸にしてアジア経済が非常に悪くなったということと非常に複合的にマイナスに働いて、日本経済が非常に落ち込んできたという反省も込めまして、やはり、しっかりとした成長路線というものを確実にした上で対応すべきものと確信をし、その時期の一日も早くなることのためのしっかりとした土俵づくりといいますか、足下固めといいますか、これをいたしていくのが今の務めであろうと、このように考えております。
● 予算は成立しましたけれども、今後7月の「九州・沖縄サミット」、そして一連の警察不祥事の対応とか、教育改革、様々な懸案があるわけですけれども、今後、総理自身何を最重要課題として位置付けていくのか。そしてまた、与党内には解散・総選挙につきまして、サミット後とか、任期満了とか様々な発言が相次いでいます。それを総理はどのような形で判断されているのか、そしてその判断材料として総理が何を一番重視するのかをお聞きしたいと思います。
先ほどの続きになりますが、何といっても日本経済を安定させていくということに尽きると思いますが、常々、私、二兎を追って一兎をも得ずという結果になってはいけないということを申し上げてまいりました。財政再建と景気回復と、2つともねらいをつけていきまして、両方取り損なったら目も当てられないと、こういうことですから、確実に景気を回復するということでいたしております。引き続いて、ですから、これからの課題も経済の再生から新生と申し上げましたが、いろいろの新しいミレニアム・プロジェクト等を通じまして、これからしっかりとした安定した経済運営を行っていくということが一つだと思います。
それから、お話にありましたように、これからは幾つかの改革を着実にしていかなければならないのだろうと思うのです。これは、実は橋本内閣に「6大改革」がありまして、私は、この自民党の前内閣の政策というものは引き続いて重要な課題であろうと思っております。そういう意味では、教育改革がそうでありますし、また、社会保障改革、これも従来、それぞれ年金や介護保険やその他万般にわたりましていろいろございましたが、一つ一つ医療の問題等を解決するのではなくて、これを総合的に解決していかなければならない、こういうふうに考えておりまして、ある意味ではこれは財源の問題にも絡むわけでございますので、社会保障構造改革の最後の時期を私は迎えているのだ、そういう意味で審議会をこの間立ち上げまして今検討中でございますから、社会保障構造改革をしなければならない。それから司法改革、これも今審議会で御論議いただいておりますけれども、やはりこの問題も比較的専門家だけで考えがちでございますが、実は話がそれますが、中坊公平氏といろいろ話をしてみまして、日本の司法制度のあり方、こういうものについてもかなり積極的に取り組まないと国際的なグローバルな姿から遅れていくのではないか。
この間もあるテレビで放送しておりましたけれども、企業同士の裁判がアメリカ、ニューヨークで行われている。なぜかというと、日本でやると相当長い時間かかってしまってなかなか決着がつかない。アメリカへ行ったら数か月間で処理するというような事例が出てくることを考えると、やはり日本の中に何か問題がないかということもあります。したがって、そうした改革の問題も私はあるのではないかと思っております。
そこで、お話のように今般いろいろな不祥事が発生をいたしておりまして、国民の皆様から、それに対する不信感が高まっておりまして、政府としても苦慮いたしますとともに、誠に申し訳なく思っております。いわく警察不祥事、また今般、防衛庁におけるこれまた不祥事件、こうしたものが出てきているわけであります。私は、これは戦後半世紀以上の問題として、いろいろな問題があってかくなるものとなっていると思いますけれども、ある意味では、この内閣としては非常にダメージが大きい問題であります。がしかし、考え方によっては、諺に曰く、「禍を転じて福となす」ということができれば、最終的に国民の皆さんに信頼をされる警察であり、自衛隊であるということになるだろうと思います。そういう意味で警察につきましては、警察刷新会議を来週開催していただきまして、本当に専門家の皆さんから厳しい御指摘を頂きながら、いわゆる国家公安委員会制度の問題等にまで御検討いただければ有り難いと思っております。
いずれにしても、この際、出すべき膿は出し切って、きれいな体で国民の再び信頼をかち得て、それぞれ責務を全うできるようにしていかなければならないと思っております。私は警察も自衛隊も、それぞれの署員、あるいは隊員は本当に日々訓練に励み、その責務、治安・防衛に当たっていただいていると思いますが、こうした幹部の事象が起きますと、本当に国民の信頼全体にわたって低迷せざるを得ないということでありますので、この点につきましても、治安並びに防衛に責任を持つ私といたしましても、この機会に本当に悔い改めていく努力をしていきたいというふうに思っております。
最後にサミットであります。「九州・沖縄サミット」、特に首脳会談は沖縄県で開かれます。過去3回東京で開かれましたが、4度目、7年に一遍のこのサミットを、日本にとって最もアジアに距離的に近い地域でありますと同時に、戦前、戦中、戦後、大変な御苦労をされておられる沖縄県で開催することと決断をいたしました。各国とも、是非その成功のために協力をするということをおっしゃっておられますので、必ず大成功すると思っておりますが、議長国としての日本といたしまして、是非「九州・沖縄サミット」を成功させるために全力を尽くしたいと思いますので、地元はもとよりでございますけれども、国民皆さんの御理解と御支援を頂きたいと考えている次第でございます。
● 総理、解散・総選挙の判断と最重要課題のことについて。
解散・総選挙ですか。今日予算を通過させることができました。当然のことでございますが、予算関連法案というのは、また来週早々から審議に入っていくわけでございます。予算が通っても関連法案が通らなければ、これは政策を実行できませんから、これをまず最重要と考えて、政府といたしまして、またときには議員立法として、提出をいたしていますすべての法案の成立のために全力を尽くしてまいりたいというふうに考えております。したがいまして、現在では解散について特に念頭にはありませんが、これは野党の皆さんも、あるいは憲法・国会法に基づいて、この内閣を不信任するということになりますか、不信任に対して「必要ない」というふうに与党の先生方がおっしゃるからというようなこともございますから、そういうこれからの政治の動向を見つつ、その時期は改めて考えていくべきものだろうというふうに思っておりますが、結論を申し上げれば、今ともかく懸案の法律を通すことと同時に、せっかく成立させていただいた予算の執行に遺漏なきを期して、てきぱきとそれぞれの予算が実行される、その努力を行政府の長としては懸命に努力していくということに尽きると思っております。
● 経済問題から離れますが、日米安保問題について、総理も昨日コーエン米国防長官にお会いになられましたが、この安保問題をめぐる日米関係については、「思いやり予算」の削減問題や、米軍厚木基地のダイオキシン被害問題などで安保条約をめぐる日米関係にきしみが見られますが、これらの問題解決を含めて、今後日米安保条約をどのようにしていきたいとお考えになっているのでしょうか。
橋本・クリントン両氏の会談によりまして、日米新同盟時代に入りました。それに伴うガイドライン関係の法律も私になりましてからこれを国会で成立させていただきました。したがいまして、ますますもって日米両国の同盟の絆が私は強まったと思っております。昨日もコーエン国防長官が参られましたけれどもそのことを非常に強調されておりますし、日本としても同盟国としては、日米安保によってなさなければならない義務といいますか、そういうものは確実に行っていくつもりでございます。もちろん、国民の皆様の御理解と御協力を得ながら、この駐留経費その他ホストネーションサポートにつきましても日本としての責任を果たしていく。果たしていくことによってアメリカもこの日本と同時に極東の安全について責任を持つと。昨日もいわゆる米軍10万人体制についていささかもこれをおろそかにすることはないと、責務は十分果たしていきたいとアメリカの国防の最高責任者も強調しておりましたから、そのことを強く信頼をいたしまして、共々に万が一にこの安全保障を壊すようなことが起こることのないように、努力をしていくことだろうと思っております。
かつてない、私は日米間は安全保障の面のみならず、極めてより良い関係にあると思っております。もちろん、この貿易問題その他につきましては、いろいろとございます。あるいは、通信問題をめぐりまして、いろいろとお互いの国々の要望・要求というものがありますが、これはどんな国の間柄でもあるのでありまして、交渉によって、話し合いによって難関を乗り越えられることの自信が双方にあるということが、真の同盟関係である国のことだと思っております。
● 総理、国会改革の関係なんですけども、今国会から予算委員会の質疑がですね、総理の発言を伺う機会が減ったと思うんですけども、国民からすればもう一つ総理がどうお考えになられているのかということを直接聞きたいという声もあると思うんですが、総理御自身はどう考えていらっしゃるんですか。
これはそのよって来るところは、国会活性化法ということによりまして、いわゆる政府委員を廃止いたしまして、今予算委員会で御覧になっていただいているようにですね、今までは事務当局が答弁に出てきたわけですが、事務当局無しで大臣並びに政務次官が責任をもって答弁すると、これが一つ大きな明治以来の大改革だったと思うんですね。それから、来年の1月6日、新しい行政機構の編成が行われれば、その時には副大臣制度というのが出てくるわけであります。この副大臣が国会に対する責任を負ってくるということであります。と同時に、総理大臣に関しましては、総理大臣と野党党首とのいわゆる国家基本政策委員会、すなわち通称クエスチョンタイムと言っていますが、これを行うということが大きな柱になっているわけです。したがって、そういう三つの改革の中で、総理大臣としていかに国会にコミットメントしてくるかということだろうと思いますが、一つのクエスチョンタイムで言いますと、元々これはイギリスのいわゆる労働党・保守党、現政権とシャドーキャビネットの党首がやり合うということで、イギリスは、総理大臣は、国会には週一回のクエスチョンタイム30分間出席すると、あとはそれらの大臣と副大臣が国会の方で議員各位との討論をする、というのが我が国のクエスチョンタイムの元々の発想が出たゆえんでございます。
そこで、私としてはですね、それこそ国会でも議員としても相当長い方になってまいりました。国会というものが私のすみかであるぐらいのつもりでいるわけでございまして、呼ばれればいつでも御出席させていただいて、お話をさせていただくということであります。が、率直なところを申しますと、最近は外国の方々も相当多く見えられます。昨日もコーエンさんも見えられたし、それから国連の大使のホルブルックさんが参られまして、この方は今、国連における日本がP5に加われるかどうか、すなわち安保理の常任理事国になれるかということについて、非常にこのアメリカの国連大使というものは大きな役割を果たしております。したがって、昨日は夜になりましたけれども私もそのことを強くお願いをしております。このように、総理大臣として外国の皆さんの御訪問を受けることが非常に多くなったということも事実です。ですから、そのことと国会とを両立させていかなければならない。
あえて私は国会を忌避しているつもりはさらさらありません。しかし、国会に一度入りますと、今日は午前3時間、夜5時間、ずっと座りきりでいろいろ答弁申し上げながら、仮にそういうときに外国の皆さんといわれましてもこれは不可能です。ですから、何とか両々あいまって、国の最高責任者として近来外国のほとんどの政治家のみならず、多くの方々が一度日本の総理に一言申し上げたいという回数は、今数字はありませんけれど抜群に増えてきている、ですから、それとうまく組み合わせしていただきまして、時にはそういう方に会うときはお許しいただいて、国会の方をちょっとはずしてもよろしいというようなことをお考えいただければよろしいかと思います。私は元々長きにわたって国会を愛しておりますから、是非機会があれば大いに出席をする、と同時にそうした形での総理大臣としての役割もまたあると同時にもっと言いますと、日本の役所の中の最高責任者です。したがって、これから改革の中では、先ほど申し上げなかったけれども、行政改革というものは引き続きあるのです。各省庁、1府12省庁になったから終わったのではないのです。一緒になったらならば、役所のトップは次官が生まれますが、2つの役所が一緒になったらその次官は、ある役所が最初で、その次の役所がこうだというような形で、いわゆる「たすき掛け」みたいなことをしていてはならないのだろうと思います。もちろん、それは人物によりますけれども。したがって、そういう意味では本当、これから大きくなった内閣府が、それぞれの役所に対しましても相当言葉はいかがかと思いますけど「威令」が行えるということでなければならない。そのためには、総理大臣としては、できる限り官邸にどっしり座って指揮していくという形でなければならないのではないかというふうに率直に思います。したがって、そうした総理大臣としての役割を充分に果たしつつ、私は、国会というものは「国権の最高機関」、大事なことですから、呼ばれなくてもと思ってはおりますが、国会のルールがございまして、議員運営委員会またあるいは国会対策委員会、そういうところで御審議をいただきまして、積極的に参加していくということについては、私はいささかも躊躇もないということだけは申し上げておきたいと思います。 
記者会見 / 平成12年3月26日・沖縄県那覇市
この度の沖縄訪問につきましては、稲嶺沖縄県知事、岸本名護市長を始め、関係の方々の行き届いた御配慮に、まず最初に心から感謝を申し上げます。
この度は、私としてはこのサミットを成功させるために、地元の皆さんにその協力方をお願いに参ったということでありますが、かえって現地名護市等におきましては、サミットのシンボルマークで作った旗や日の丸の小旗を打ち振って歓迎をいただくと同時に、是非成功しなければならないと、させるべきだと、こういう大変地元の力強い熱意を逆に感じたような次第であります。
また、今朝、首里城に参りましたところ、もちろん、沖縄県民の皆さんばかりでなく、全国各地から観光を目的に参っておられる方々からも、しっかりサミットを成功させろという声が飛んでいたことなどを聞きますと、ますますもってその責任の重きことを痛感した今回の訪問でございました。
今回の訪問では、間もなく完成予定の万国津梁館や、G8議長記者会見場等の視察に加えまして、平和祈念公園への訪問や、地元報道機関の方々と懇談を行うなど、非常に有意義な訪問となりました。中でも、サミット開催に向けて準備が順調に進んでいる様子を目の当たりにいたしまして、沖縄県民の皆様一人一人のサミット成功に向けた大きな意欲を感じて胸が熱くなるとともに、大変心強い思いをいたした次第でございます。
本日は、こうした思いを踏まえまして、この場でサミット首脳会合の日程の中の首脳の社交行事について発表いたしたいと思います。
まず、沖縄サミット推進県民会議におかれては、22日夕刻歓迎レセプションを開催し、各国首脳御夫妻に沖縄県の伝統芸能に触れていただくと同時に、県民の皆様と各国首脳夫妻との触れ合いの場とすることを検討されていると伺い、非常に楽しみにいたしております。
また、22日夜の首脳夫妻社交夕食会につきましては、沖縄の皆様の誇りである首里城で開催いたします。この関連で、本日、私は首里城での万国津梁の鐘の完成式に出席いたしましたが、琉球王朝の繁栄と交流の歴史を刻む万国津梁の鐘の音が再び首里に響くというこの事実に深い感銘を覚えた次第でございます。各国首脳御夫妻には、こうしたレセプションや夕食会を通じて、沖縄の豊かな文化と歴史を必ずや肌で感じていただけるものと大いに期待をいたしております。
次に、九州・沖縄サミットは、2000年という節目の年に7年振りにアジアで、しかもアジア諸国と歴史的つながりの深い沖縄で開催されるサミットであります。こうした点を踏まえまして、私は今回の沖縄訪問の最後の行事として、先ほどアジア太平洋アジェンダ・プロジェクトの沖縄フォーラムに出席し、アジア太平洋の学術研究の第一線で活躍しております有識者の方々と意見交換を行い、いろいろと有意義な意見を頂きました。その中で、アジア経済危機の際の経験も踏まえて、アジア太平洋の地域協力を強化する必要性と、その国際社会全体の将来にもたらす積極的な意味が指摘されまして、その観点からも、G8のサミットを、アジアとのつながりの深い沖縄で開催する意義は大きいとの貴重な御意見を頂きました。
こうした、頂いたアジアからの貴重な声も踏まえながら、来るサミットにおきましては、21世紀はすべての人にとってより素晴らしい時代になるとの希望が抱けるような明るいメッセージを発信するべく、全力で取り組んでいきたいと考えております。
【質疑応答】
● 2点ほど質問させていただきたいと思います。ただ今の総理のお話の中にもあったんですけれども、初めての地方開催となる九州・沖縄サミットの首脳会議についてなんですが、議長国として議題や宣言に沖縄開催の意義及びアジア諸国の視点や声を具体的にどのように反映させていくお考えなのか、お伺いしたいと思います。
今次沖縄訪問を通じまして、先ほど申し上げましたが、私はアジアの交流の拠点としての沖縄の歴史を改めて実感し、こうした沖縄の歴史を背景として、沖縄の方々が豊かな文化的遺産を活力の源としている姿に改めて感銘を覚えた次第でございます。サミットに出席するG8首脳にも、こうした沖縄でサミットが開催される意義を是非とも実感していただきたいと考えております。
2000年という節目の年に開催される九州・沖縄サミットでは、21世紀にすべての人々が一層の繁栄を享受し、心の安寧を得、より安定した世界に生きられるよう、各国、そして国際社会は何をなすべきかを大きなテーマにいたしたいと考えております。
また、7年振りにアジアで開催されることを踏まえまして、グローバルな視点に立ちつつも、アジア諸国の関心を十分に反映させていきたいと、このように考えております。
具体的には、私は、1月の東南アジア歴訪、2月のUNCTAD総会出席等、さらには先ほど行ったアジア太平洋アジェンダ・プロジェクト沖縄フォーラム出席を通じて、グローバル化とIT革命の進展が急速に進む中で、開発の問題や、国際金融システムの問題、IT革命の課題などに対して、アジア各国が関心の高いことを身をもって感じたところでございます。
また、グローバル化の中で、文化の多様性をいかに活力の源にしていくか、アジア共通の課題であると考えております。
したがいまして、九州・沖縄サミットではこうしたアジア諸国の関心事につき、じっくりと議論したいと考えておりまして、その上で、21世紀がすべての人々にとってより素晴らしい時代となるという希望を世界の人々が抱けるよう、この沖縄から、明るく、力強いメッセージを発出いたしたいという願いを込めております。
● それでは、2問目ですけれども、普天間基地問題ですが、稲嶺知事や岸本市長が強く求めております代替施設の15年使用期限並びに工法、使用協定などの問題について、対アメリカとの交渉をどのように進め、また、そのめど付けの時期をいつごろとお考えなのかお伺いしたいと思います。
普天間飛行場の移設・返還にかかわる諸問題につきましては、地元の意向も踏まえまして、昨年末、御指摘の点も含めまして、政府としては、その取組方針を閣議決定いたしたところであります。政府といたしましては、今後、この閣議決定に従いまして、県や地元の御意見を十分お聞きをし、米側とも協議しながら、安全・環境対策や地域の振興を含めて全力で取り組んでまいりたいというふうに考えております。
● 今、政界で一番関心の高いのは、何といっても衆議院の解散・総選挙の時期ですので、その点についてまずお尋ねしたいと思います。昨日、収録されました「総理と語る」の中で、総理は次のようなことをおっしゃいました。「警察不祥事などの予想外の問題が出てきているので、内閣としてある程度めどを付ける時間が必要だ」と。先日、発足した「警察組織刷新会議」では、6月末か7月に報告をなされると聞いておりますので、総理の発言と照らし合わせますと、解散・総選挙の時期は7月以降、つまりサミット後になるというふうに受け止めたんですけれども、改めて総理のお考えをお尋ねしたいと思います。
昨夕、収録いたしましたテレビにおける対談におきまして、この問題についてもお尋ねがありましたので、お話を申し上げさせていただきました。
私は常々、何といっても12年度予算を一日も早く成立せしめるということが内閣として最大の問題である−−しかし、予算は、お陰さまで戦後最短・最速ということで通過することができました。もちろん、早きがゆえに必ずしも尊いとは言えませんけれども、しかし、昨年もそうでありましたけれども、やはり4月1日から予算についてこれを直ちに執行できるということは、これは日本の経済の大きな運営の中で、いわゆる公需という立場から言えば、誠にこれは大切なことでありまして、そういう意味から言いますと、来年度予算につきましても、非常に早い時期にこれが成立し、確定したということは意義深いと思っております。
ただ、予算案が通過しただけでは執行できません。今、国会におきましては、予算関連法案並びに重要法案につきまして熱心に御討議していただいております。特に与党3党としては、力を合わせて、それらがすべて衆参両院通過して成立することのために御苦労いただいているわけですから、これもまずやらなければならないことだろうと思います。
そこで、今お尋ねにありましたように、昨今、警察不祥事あるいは自衛隊における射撃をめぐっての事件等、もろもろの問題が非常に今起きているわけでございまして、内閣としても実にその責任を深く痛感しているわけであります。
ただ、こうした問題は、昨日今日に起こったことではありません。たまたま現象的には神奈川とか新潟で誠に言語道断なことがあり、うそを隠蔽するというその上塗りのことが起こってきたということでありまして、そのために、今御質問にもありましたように、警察の問題について言えば、警察刷新会議を国家公安委員長の下でこれを実施し、一日も早い結論を得て、的確に二度と再びこうしたことが起こらない、きちんとした体制を整えるということも、治安の責任を持つ内閣の執るべき対応だと思います。これがいつ御結論を得られるかということは、なかなか私自身が指示するわけではありませんで、内閣総理大臣といえども、警察の問題については、所轄することがあっても指揮・監督をすることではないという立場でありますが、やはり国の最高責任者としては極めて重要案件でありますから、それが中途で解散・総選挙という形でこれが遅れていくということがあってはならないと−−どうなりますか分かりませんが、その刷新会議の御結論を得れば、時には、これは法律の改正ということも企図せざるを得ない問題もあるのではないか、今も、警察法改正が神奈川県の事件から考えて、やはり県の公安委員会の在り方等を含めた改正案が既に国会に提出されておりますが、その後起きたいろいろな事件を考えると、もし、きちんとした方向性が指し示され、内閣として法律をもってこれのきちんとした結論を得るということになれば、これは当然のことでありますけれども、国会を新たに開くということはなかなか難しいとなれば、現国会の中で処理することもあり得るということを実は一般的に申し上げたわけでございまして、サミットの前とか後とかということを申し上げたつもりはないわけでありますが、いろいろお取りようによってと、こういうことかと思いますが、しかし、こうした政局の中で、今、内閣としてお願いをしているというようなことが、なかなかもってこれが国会の御理解を得られないということになりますれば、これはサミットの前であれ後であれ、これは国民の最終的な判断をいただかなければならないということでございますので、したがって、いろいろの取りようがあったかもしれませんけれども、解散につきましては、現時点において、特段に時期を定めているというようなことは考えていないというのが、そのことについて正確にお答えをせよということでありますれば、今のお答えが私の内閣としての解散権行使についての基本的考え方であると、こう御理解いただければ有り難いと思います。
● 今のお話を伺っていますと、やはり小渕政権としてはやるべきことが山積しておるというような印象を受けたんですが、そうしますと、サミット前かサミット後かということであえてお尋ねしますと、総理はやはりサミット後というふうに傾きつつあるというふうに考えてよろしいんでしょうか。
今もお話し申し上げたように、正確に申し上げれば、今、解散については考えておりませんということです。
● 最後、もう一問お願いします。今日ロシアの方で大統領選が行われますので、ロシアのことで一つお尋ねしたいと思います。先日の記者会見で、プーチンさんがもし当選したら、総理はモスクワ以外のロシアのどこかの都市で会談をしたいというような意向を発表なされましたけれども、今後、2000年の平和条約締結に向けて、日露外交をどのように具体的に進めてらっしゃるお考えなのか、その御方針をお尋ねしたいと思っています。
日露の平和条約締結という問題につきましては、長い間、非常に進ちょくしない状況でありましたけれども、エリツィン大統領と橋本総理とのクラスノヤルスクの会談を通じまして、大いに進展をしてきたわけであります。その後、川奈におきましても、お二人の会談が持たれまして、2000年までに平和条約を締結しようというロシアと日本側の首脳の考え方が一致したわけであります。これを受けまして、私といたしましても、25年振りに田中角栄総理大臣以来、モスクワを訪れまして、この問題を進展すべく努力をいたしたわけでありますし、また、昨年のケルン・サミットにおきましても、エリツィン大統領は最終日、到着をされまして、二人でお話をしまして、是非これは実現をしようという意思を更に再確認をしたところでありますが、誠に残念ながら、エリツィン大統領は昨年の12月31日、誠に突然に辞意を示されて、現在、後継者としてプーチン大統領代行が選挙を行い、明朝は、恐らくその帰趨がはっきりされるのだろうと思います。
そこで外交の一つの姿として、日本として平和条約を結んで、世界の中で条約の無い、国境線が確定しないというような国はロシアをおいてほかに無いわけですから、そういう意味では、気持ちとしてははやる気持ちで何度でもモスクワと思いますけれども、やはり、さはさりながら、やはり外交の鉄則で、交互に訪問することになっておりまして、そういう意味から言うと、もし、プーチン新大統領が誕生するということになりますれば、この大統領が、東京ないしその他、日本に来訪をお願いするというのが筋だろうと思っております。
しかし、なかなか新大統領誕生で、もしその訪日の予定が直ちに立ちにくいということであるとすれば、日本側の気持ちとしては、いわゆる首都モスクワ以外の地域で会談することもやぶさかでないと私は考えているわけでございまして、まだ当選をしておりませんので、お話を申し上げる立場にはありませんけれども、勝手を申し上げれば、是非日程を作っていただいて、何度でも首脳同士が話し合うという機会を作る中で、最終目的に向かって、歩を一歩ずつでも進めたいというのが率直な気持ちでございます。 
教育改革国民会議(第一回会合)・挨拶 / 平成12年3月27日
このたびは、教育改革国民会議への参加をご了承賜りありがとうございました。「教育改革国民会議」の第一回会合が開催されるにあたりまして、一言ご挨拶申し上げます。
私は、我が国の明るい未来を切り拓き、同時に世界に貢献していくためには、創造性こそが大きな鍵であり、創造性の高い人材を育成することが、これからの教育の大きな目標でなければならないと考えております。こうした観点から、私は、教育改革を内閣の最重要課題に位置づけ、「教育立国」を目指し、社会のあり方まで含めた抜本的な教育改革について議論していただくために「教育改革国民会議」を開催することといたしました。
この会議を発足させるに当たっては、議論を是非国民全体に広がりをもったものとしたいと考えております。このため、教育の在り方について、各界の有識者の方々から意見を伺うべく文部大臣と連名で依頼いたしました。また、併せて、広く国民の方々からもご意見をいただいております。上は九十二歳から下は小学校三年生までの幅広い国民の皆様方から、四千五百通を超える意見が寄せられているところであります。
私は、これらのご意見に目を通しながら、世代を超えた教育に関する関心の高さと教育問題の幅の広さを改めて感じました。本会議のような国民的な議論の場を設ける必要性をさらに強く感じた次第です。
私が「教育」について考えるときに思い起こす著作の一つに、池田潔氏の著書「自由と規律」があります。その中で、イギリスのパブリックスクールや大学において、若者が学業やスポーツに伸び伸びとかつ真摯に取り組み、自由が尊重される一方で規律が確保されている姿が語られています。
施政方針演説でも申し上げましたように、これからは、個人が組織や集団の中に埋没する社会ではなく、個人が輝き、個人の力がみなぎってくるような社会に転換することが求められております。個人と公が従来の縦の関係ではなく、横の関係となり、両者の協同作業による「協治」の関係を築いていかなければならないと考えます。そして、そのような、次代を担う人材を育むために、今を生きる我々が取り組むべきことは何なのか。自由と規律の調和を描いたこの著作は私自身に一つのヒントを与えてくれていると感じております。
さて、私は、教育は国家百年の大計と常々申し上げており、皆様には百年の大計をつくるという思いで、腰を据えた、密度の濃い議論を積み重ねていただきたいと思います。
すなわち、教育改革とはなんぞやという原点に立ち返って、戦後教育について総点検することが必要であると考えております。
またそれとともに、いじめや不登校、学級崩壊、学力低下、子どもの自殺などの深刻な問題がなぜ起こっているのかについて、
教育の基本に遡って幅広くご議論いただくようお願い申し上げます。
教育改革国民会議の座長には、江崎玲於奈先生にお引き受けいただくことでご快諾を頂きましたので、よろしくお願い申し上げます。
また、この会議は、与党三党派間の合意に相呼応して設置したものでありまして、自由民主党の町村信孝議員、自由党の戸田邦司議員、公明党の太田昭宏議員のご参加もいただいております。
昨年のケルン・サミットにおいて教育の問題が取り上げられました。教育は各国が共通に直面している課題であり、現在、教育改革の取り組みが進められているところです。
私といたしましても、教育改革国民会議における議論を踏まえて、我が国の輝ける未来を築き、世界から確固たる尊敬を得られる国となるため、その重要な基盤となる教育改革の推進に全力で取り組む所存であります。皆様方におかれましても、貴重なご経験と学識を生かしていただき、積極的なご議論を展開していただくことをお願い申し上げまして、挨拶に代えさせていただきます。 
小渕総裁時代
平成十年七月に行われた第十八回参議院通常選挙で、わが党は得票数を大きく伸ばしながらも議席を減らす結果となりました。これを踏まえて、橋本龍太郎総裁(首相)は辞任を表明、七月二十四日、第十八代総裁を決める総裁選が行われました。立候補したのは、外相だった小渕恵三氏、厚相だった小泉純一郎氏、元官房長官の梶山静六氏の三人でした。自民党の衆参両院の全議員と都道府県代表による選挙の結果、小渕氏が一回目の投票で過半数を超える二百二十五票を獲得、新しい総裁に選ばれました。第二位は梶山氏、小泉氏は三位でしたが、国民の注目度は高く、選挙は盛り上がりました。
橋本内閣は七月三十日、臨時閣議で総辞職を決定。同日召集された臨時国会の衆院本会議で小渕総裁が第八十四代の首相に指名され、小渕内閣が発足しました。社民、新党さきがけ両党が参院選前に連立与党を離脱し、自民党が過半数に足りない参院では、民主党の菅直人氏が決戦投票で首相に指名され、両院協議会が開かれましたが合意に至らず、憲法六七条二項の規定によって小渕総裁の首相就任が決まったのでした。小渕政権のスタートが厳しい環境に置かれていたことは、この経過から明らかでした。
新政権が直面した最大の課題は、経済不況の回復、とくに「デフレスパイラル」に陥る危険を内外から指摘する声が高まっていた金融危機の回避でした。香港、タイ、インドネシア、韓国などアジア各国の経済を破綻状態に追い込んだ世界的金融危機は、この年八月にロシアがデフォルト(債務不履行)に陥り、ブラジルが破綻の瀬戸際となるなど深刻そのものでした。欧米ではヘッジファンドの危機がいわれ、最大手のロングターム・キャピタル・マネージメント(LTCM)が破綻、米国・ウオール街にも衝撃が走りました。そのうえ、ここで日本の大手金融機関が昨年に続いて次々と倒れるような事態になれば、世界経済が破滅状態となる可能性があったのです。小渕政権の責任は重大でした。
小渕新首相は先輩首相である宮沢喜一氏に、異例のことでしたが蔵相就任を依頼、経済企画庁長官に民間から評論家の堺屋太一氏を登用し、景気対策シフトを敷きました。官房長官には、それまで幹事長代理として活躍し、野党との交渉に辣腕が期待された野中広務氏が就任しました。
七月七日に行った初の所信表明で小渕首相は、「経済再生内閣」と自らの政権を位置づけ、「二年以内に景気を回復軌道に乗せる」と国民に約束、即座に経済戦略会議を設置して具体策の作成に着手しました。橋本内閣との違いは、経済構造改革から積極財政への明確な転換でした。経済構造改革は、日本の将来のために避けて通れない道なのですが、その前に経済が破綻してしまってはどうにもならないという現実的な判断が、小渕政権の基本的な考え方だったのです。
国会での野党勢力の攻撃や先行きの見えない景気の低迷から、マスコミは小渕内閣は船出してすぐに難破する可能性が濃厚と予想しました。国会運営ですぐに行き詰まって、短期政権になるだろうとの見方でした。しかし、この予想は外れ、金融危機をなんとかしのいだ小渕政権は、翌平成十一年になると尻上がりに好調になり、長期政権の雰囲気が強くなっていきます。しかしそれは後のことです。
八月三十一日には北朝鮮が先のノドンに続いてさらに長距離型のミサイル、テポドンの発射実験を行い、日本国民に脅威を与えました。テポドンは日本列島を飛び越えて三陸沖の太平洋に落下したのでした。衆参両院は即座に北朝鮮を非難する決議を行い、政府は直ちにKEDOへの拠出凍結などの制裁措置を決定しましたが、北朝鮮の脅威は、経済不況に覆われる日本にさらに暗い影を落としました。小渕首相は九月二十日から二十三日にかけて国連総会出席のため訪れたニューヨークでクリントン米大統領と会談し、日米韓が緊密に連携して中国やロシアなどの協力に協力を求め、北朝鮮の核とミサイルの開発を阻止していく方針を確認しました。
「金融国会」と名付けられた臨時国会は、金融再生法案の論議に日本長期信用銀行の救済問題が絡んだことから与党側に疑心暗鬼がつのり混迷しました。しかし、政府と自民党は一丸となって民主党、社民党、自由党、新党平和(十一月に参院の公明と合流して公明党)などとの協議に乗り出しました。ほとんど寝る間もない折衝の連続で、「政策新人類」などと呼ばれた金融システムを懸命に勉強した中堅・若手議員らの活躍も目立ちました。論議は破綻前の金融機関に公的資金を投入することの是非などが焦点でした。
十月五日には東京証券株式市場の平均株価が一万三千円を割り込み、その前日の主要国蔵相・中央銀行総裁会議(G7)は、日本に破綻前の金融機関への公的資金投入を求める異例の声明を発表しました。そうした中、小渕首相は野党党首との直談判で事態の打開を図ることを決意、各党との個別会談が行われ、十月十二日には金融再生法が、続いて臨時国会会期末ぎりぎりの同月十六日には、金融機能早期健全化法がそれぞれ成立したのです。
それは、破綻を免れない金融機関を公的管理(事実上の国有化)に移行するシステムとともに、破綻を救うために六十兆円の公的資金投入の枠組みを設定するという画期的な内容でした。この法律に基づき、長銀が特別公的管理の申請を行ったのは、国会閉幕から一週間後の十月二十三日のことでした。続けて、同じシステムによって、年末には日本債権信用銀行も特別公的管理に移行します。法律が整備されたことで、そうした大手金融機関の事実上の破綻にもかかわらず、前年の山一証券の自主廃業のような衝撃は経済界には薄く、世界と日本の金融市場は不安を残しながらも一息ついたのでした。
金融危機対策に一区切りをつけた小渕政権は、十月三十日に宮沢蔵相が「新宮沢構想」と呼ばれる三百億ドルのアジア救済プランを発表、十一月十六日には十七兆九千億円の緊急経済対策を決定して景気テコ入れのために思い切った施策をとりました。さらに年末には、内需拡大を目指した八十一兆円にのぼる平成十一年度予算を組み、内外になんとしても景気を上向かせるという小渕政権の強い決意を明らかにしたのでした。
その間、防衛庁の調達実施本部などの背任・証拠隠滅事件が拡大し、その責任をとって額賀福志郎防衛庁長官が辞任するなどの不測の事態もありました。しかし、小渕首相は「金融国会」に足を縛られながらも、外交でも手は抜かず頑張りました。
十月始めには金大中韓国大統領が来日し、小渕首相とともに「二十一世紀に向けたパートナーシップ」を目指す「共同宣言」に署名しました。日韓両国はこれまで、過去の歴史を巡る「お詫び」の文言をめぐってぎくしゃくする後ろ向きの関係が続いていましたが、金大統領と小渕首相の首脳会談によって、そうした問題に一区切りをつけ、前向きの関係に転換したのです。首相は翌十一年三月に今度はこちらから韓国を訪問、前向きの関係をさらに強固なものにすることに成功します。
十一月初旬にロシアを訪問した小渕首相は、橋本前首相と外相次代に自らが連携して敷いた北方領土問題解決へ向けての交渉をさらに一歩前進させました。「国境画定委員会」を設置し、二〇〇〇年までの平和条約締結に全力を尽くすことをうたった「モスクワ宣言」に首相とエリツィン大統領が署名したのです。ただ、その後、大統領の病状が悪化したのと、ロシアの政局が安定せず、それ以上の進展がみられないのは残念なことです。
同月下旬には、クリントン米大統領が来日し、北朝鮮や沖縄の米軍基地問題について、小渕首相と突っ込んだ話し合いをしました。十一月十五日に投・開票された沖縄知事選で、自民党県連が推した稲嶺恵一氏が当選、それまでの日米安保条約に非協力的姿勢だった県政が現実路線に転換され、基地問題解決に明るい見通しが出ていました。こうした経過が、翌十一年四月の九州・沖縄サミット(主要国首脳会議、平成十二年)開催決定という勇断に結びついていったのです。日本でのサミットはそれまで首都・東京以外で開かれたことはありません。
中国の江沢民国家主席が来日したのは、それから間もなくの十一月二十六日のことです。ただ主席は、首脳会談や演説のたびに「日本の侵略の歴史」や「過去の清算」など、中国の立場を強調したので、小渕首相はそうした非生産的な関係を転換したいという日本の姿勢を示しました。首相は翌年七月に中国を訪問しますが、このときは江主席ら中国側首脳の姿勢も変わり、佐渡ヶ島に絶滅したトキの成鳥を贈られるなど、友好関係促進が確認されます。対中国外交は、ロシアほどではないにしても、小渕首相にとっては汗をかきながらの仕事でした。
このほか、首相は十年十二月のベトナム訪問(ASEAN首脳会議)、十一年一月のフランス、ドイツ、イタリア歴訪、二月の故フセイン・ヨルダン国王葬儀出席、六月のドイツ・ケルンでの主要国首脳会議(サミット)出席など、首相就任から一年の間に、多彩な外交を展開しました。
小渕首相、野中官房長官、自民党執行部は、政権発足直後から、参院過半数割れの政権基盤を強固にする方策を模索していました。その努力が、具体的になるのは四か月後、十年十一月になってからでした。同月十九日に小渕首相と小沢一郎党首が会談して合意が成立、通常国会召集を目前にした十一年一月十四日に、自民、自由の連立内閣が発足しました。小渕首相は内閣改造を行い、自由党から野田毅氏を自治相に迎えました。
平成十二年通常国会で、小渕連立政権は歴史に残る成果を次々と挙げていきました。自民、自由の連携に加え、公明党との協調関係が功を奏したといえます。
まず、平成十二年度予算は三月十七日、戦後最速で成立し、景気の低迷に苦しむ国民から歓迎されました。五月七日には情報公開法、同月二十四日には懸案だった新たな日米防衛協力の指針(ガイドライン)関連法が成立しました。ガイドライン関連法は、日本の安全保障に影響のある「周辺事態」が発生し、米軍が出動した際に日本が行う後方支援の具体的在り方を決めた法律で、日米安保条約の足りない部分を埋める画期的な内容です。
さらに、国会会期が延長された後の七月八日には、中央省庁改革関連法案と地方分権一括法案が成立、時代にあわなくなったわが国の行政システムが二〇〇一年から抜本的に改革されることが確定しました。同月二十六日には、閣僚に代わって国会で答弁する政府委員制度の廃止や副大臣・大臣政務官制度と党首討論制度を導入する国会活性化法、二十九日には衆参両院に憲法調査会を設置する改正国会法も成立しました。ともに、討論の空洞化の指摘があった国会の在り方を一新させるものですが、特に憲法調査会設置は新しい時代にふさわしい憲法のあり方を追求する論議が期待されます。
八月九日に成立した日の丸を国旗とし君が代を国歌と規定する国旗・国歌法も特筆に値します。これは、卒業式での国旗・国歌の扱いをめぐって広島県で起きた高校校長自殺事件を契機に、小渕首相や野中官房長官が法制化を決断したのです。これで日本人は世界各国と同じように胸をはって日の丸を掲げ、君が代を斉唱できるようになりました。
小渕首相の功績としては十一年三月二十三日に発生した北朝鮮工作船の能登半島沖領海侵入事件での、初めての海上自衛隊に対する海上警備行動の発令も挙げておく必要があるでしょう。首相の決断が、領海侵犯に断固として対応するという日本の姿勢を改めて内外に示したのです。
四月の統一地方選では、東京都知事選で無所属の石原慎太郎氏が自民党、公明党、自由党などが推薦した候補を破るなど、都市部ではまだ無党派といわれる有権者が少なくない状況が続いたものの、全体として見れば、地方におけるわが党の基盤がしっかりしたものであることを示したと言える選挙結果でした。
わが国の経済は「経済再生」を掲げる小渕政権の全力投球の姿勢が着実に景気回復の方向をもたらし、失業率が高めに推移する状態は続いていたものの、十二年一〜三月期の国内総生産は前年比一・九%の大幅なプラス成長でした。七月三十日に政権発足一周年を迎えた小渕政権は、苦しかったスタート時点では予想もつかなかった好成績をあげていきました。
小渕総裁は前総裁の任期を引き継いだものであったため、九月九日に総裁選挙が告示され、小渕恵三総裁、加藤紘一前幹事長、山崎拓前政務調査会長が立候補しました。党員・党友投票の開票と党所属国会議員の投開票は二十一日に行われ、小渕候補三百五十票、加藤候補百十三票、山崎候補五十一票で、小渕総裁が再選されました。
なお、党員・党友の票は今回も一万票を一票として計算され(百の位以下切り捨て、千の位を四捨五入)、これが「党員算定票」として、国会議員票と合算されました。党員・党友の有権者は二百九十一万一千五百十九人で、投票率は四九・三二%でした。 
 
森喜朗

 

2000年4月5日-2000年7月4日(91日)
2000年7月4日-2001年4月26日(297日)
2000年4月5日、3日前に脳梗塞で倒れ緊急入院した小渕恵三首相の後を継ぐ形で内閣総理大臣に就任した。清和会議員の総理総裁就任は福田赳夫以来22年ぶりであった。このときの連立与党は自民党、公明党、保守党であり、メディア等では「自公保」と略称した。
森の首相就任は、当時の自民党有力議員5人(森喜朗本人、青木幹雄、村上正邦、野中広務、亀井静香)が密室で談合して決めたのではないかと疑惑を持たれている(森や自民党の立場からは「マスコミが密室と言いたがる」と主張している)。
前任者の急死による就任であり、総裁になるための正式な準備無しでの登板だったため、内心「正直いってえらいことになったな」と思ったという。
なお、政策では小渕政権の政治目標を継承することを重視し、小渕が学生時代から取り組んでいた沖縄問題の一つの到達点と目していた沖縄サミットを完遂や、小渕が望んでやまなかった景気回復を目指した。この他対ロシア外交、教育基本法問題なども小渕と森が最後に話をした4月1日に政治課題として意識していたし、対アフリカ外交についても小渕が計画していたものであるとの指摘がある。
また、所信表明直後に前から予定されていた医師の診断を受けたところ前立腺にガンが発見された(後述)。そのため数々の「失言」が槍玉に挙がって批判がヒートアップする前から自分の政権は短命であると自覚しており、「何かきちんとのこさないといけないと思った」という。4年後の論座での証言では癌を理由に「就任時から1年で辞めることを決めていた」と述べた。癌であることが発覚すると首相が二代連続して健康問題に晒されることになるため、森は抗がん剤で症状を抑えつつガン告知を黙ったまま首相を務めることにしたが、論座編集部は『自民党と政権交代』のあとがきで指導者という地位が持つ孤独性として印象的であると述べている。『自民党と政権交代』では辞意についてはプーチンと2001年3月にイルクーツクで行った会談で伝えたのが最初であった。だが、その半年ほど前に『文藝春秋』でのインタビューにて小渕恵三から引き継いだ政治課題を達成したら総理を辞めてもよい旨を語っている。
なお、総裁選を経て首相となった小渕についてはマスコミを絡めて「小渕さんも随分口汚く罵られていましたよね。マスコミ攻撃までも引き継いでしまったようでした」と語っている。また、この不規則登板の中終始バックアップしてくれた人物として政調会長の任にあった亀井静香を挙げ、首相辞任の際に「本当のことを言えず、彼のポストの手伝いも出来なかった」と述べている。 
資質
就任早々、あいさつまわりに訪れた橋本龍太郎元首相の事務所で、「首相動静」について「ああいうのはウソを言ってもいいんだろ」と発言した(真意は後述)。マスコミの抗議に対して森は平身低頭の態度を取らなかったため、マスコミの態度も硬化していった。
2000年5月15日、「日本は天皇を中心とした神の国」と発言し、大きな波紋を呼ぶ(神の国発言)。民主党はこれに対し「日本は神の国?いいえ、民の国です」と批判するCMを打った。6月の「無党派層は寝ていてくれればいい」発言や、10月にイギリス・ブレア首相との会談における「北朝鮮による日本人拉致被害者を第三国で行方不明者として発見する案の暴露」など数々の発言で、「首相としての資質に欠ける」との批判が各層から噴出した。
歴代内閣総理大臣の中で、森ほどマスコミが発言に対する批判を集中した例はなく、ついには総理の資質に欠けるとまでされた。総理大臣官邸での公式記者会見時、総理番記者が森に対し「今問われているのは総理の資質だと思うのですが?」という異例の質問をしたこともあった。
これを見かねた政治評論家の三宅久之が衆議院選挙の後、森に「世論の動向を的確に把握する為にも、誰かスタッフを置いたらいかがですか」と手紙を送った。それにより中村慶一郎が広報担当として内閣官房参与という形で加わり、内閣広報官の宮脇磊介と協力して仕事をすることとなった。しかし、「官邸が大部屋方式ではない」「広報官は内閣記者会の窓口に過ぎず政府の広報面での政策形成に関与していない」など組織運営上の問題から、十分な目的は達せられなかった。中村は、マスコミの質問の仕方にも大きな問題があり、森のマスコミ批判と同じく針小棒大で失言を作り出すことを指摘し「紅衛兵」と揶揄している。また、朝日新聞について「内閣改造の際、テレビ受けを狙い、全閣僚に靖国公式参拝の是非を質問して限られた質問時間を浪費した」と批判した。当時の「ぶら下がり」担当の記者は首相が歩くのについていきながら質問するスタイルだった(小泉政権より場所を決めて質問を受けるスタイルとなる)ことについても、「金魚の排泄物」と評している。警察庁出身の秘書官は、李登輝訪日ビザ発給の理由を執拗に聞き続けたある記者の態度を見かね、首相が公邸に入った後に平手打ちを見舞った。中村は、「実力行使は良くないが、憤懣を溜めるような横柄な姿勢を取り続けた記者に原因がある」旨を述べた。
官房長官の交代
2000年10月27日、第2次森内閣で内閣官房長官に就任したばかりの中川秀直が愛人問題や右翼幹部との交際、警察情報漏洩などのスキャンダルで辞任。後任には当時森派の派閥会長だった小泉純一郎から推された福田康夫が就任した。閣僚経験皆無での起用には疑問の声もあったが、森が頻繁にマスコミの批判を浴び、その度に福田が火消しに回る、という構図ができあがるにつれ、その執務能力の高さが明らかになった。福田は、後の小泉純一郎内閣も含めると内閣官房長官在任日数歴代最長となった。
加藤の乱
2000年11月21日、衆議院本会議において森内閣不信任決議案が野党から提出された。当時宏池会会長で自民党の次期総裁候補の一人と目されていた加藤紘一は、森不信任は国民の多数が支持すると考え、YKKの盟友、山崎拓とともに、それぞれ自派を率い党の方針に反して本会議を欠席した。このとき、加藤は渡邊恒雄と自民党重鎮等が集まる懇談に出席した際、政権内の内閣参与である中村慶一郎が居る前で反乱の意向を明らかにしたためこの情報は直ちに森に筒抜けとなった。YKKの残る1人で、森派会長を勤めていた小泉純一郎は率先して加藤の倒閣の動きを党内で拡散して加藤に近い若手の動きを牽制、野中広務らも猛烈な切り崩し工作を展開した。結果、宏池会で加藤に従った者は一部に留まり、内閣不信任決議案は否決された。
えひめ丸事件
2001年2月10日、ハワイ沖で日本の高校生の練習船「えひめ丸」が、アメリカ海軍の原子力潜水艦と衝突して沈没、日本人9名が死亡するという「えひめ丸事件」が発生した。森は第一報が入ったときゴルフ場におり、連絡はSPの携帯電話を通じて入った。衝突により日本人が多数海に投げ出されたことや、相手がアメリカ軍であることも判明していたが、森は第二報のあとの第三報が入るまで1時間半の間プレーを続け、これが危機管理意識上問題とされた。国会でも採り上げられ、詳細が議事録に残っている。
午前10時50分に第一報を受けたあと午後0時20分の第三報まで、3ホールを回ったとのことである。森の主張によると、えひめ丸事件の一報が入った時、ある関係者から直ぐにはその場を離れないように言われたのでゴルフ場で待機していたとのことである。連絡は携帯電話を通して伝えられた。この事件の報道で森のゴルフプレイ姿が繰り返し放送されたため悪印象が増幅した(ただし、この映像は当日とは別の、夏の日に撮影されたものである。マスコミにこのことを問いただされた森が「プライベートだ」と答えたことで批判は拡大した。当日プレーしていたゴルフ場(戸塚カントリー倶楽部)の会員権は知人から無償で借り受けて自分名義としており、このことも批判を増幅させた。ただし、岡崎久彦のように「ゴルフであと三ホール回ったから「資質」がないという。何と低次元の話だろう」とマスコミ批判が新聞に載ったこともある。
事故を起こしたアメリカ側はブッシュ大統領が「事故の責任は全てアメリカにある」と謝罪。マスコミはこれを異例の素早い対応と評価、日本の事後処理の印象を一層悪いものとした。
佐々淳行は、2001年2月14日に自身のHPのコーナー『危機管理小論』にて「えひめ丸・米潜水艦衝突事故と危機管理」という小論文を掲載し森政権の対応について議論している。また、2004年に出版した著書『重大事件に学ぶ「危機管理」』などにて、この時の森の対応に関して述べている。それらによれば「危機管理には総理が陣頭指揮すべき『クライシス・マネイジメント』と、各省庁が国家行政組織法の定めに基づき対処すべき『インシデント・マネイジメント(事件処理)』と『アクシデント・マネイジメント(事故処理)』とがある。(えひめ丸事故が大きな国際的事故であったとしても)すべて総理の責任とするのは日本の法制上から言って誤りである。日米安保条約と日米外交問題は外務省所管だが、一般論から言えば海難事故は国土交通省とその指揮下にある海上保安庁の所管であり、「えひめ丸」が水産高校の実習船であることを考えると文部科学省の所管でもある。このように責任官庁が複合するようなときは、指揮命令系統の統一のために内閣官房を所管とする安全保障会議を開催するのが常道であって、外務省が動いた後に所管は内閣官房に移るので、森総理はゴルフ場からでもひと言「所管大臣は官房長官」と指示しておくだけでよかった。森総理が言うとおり、「えひめ丸」の衝突は事故であるが「総理の危機管理」ではない。さらに、森総理は早く戻ってきた方で、私の経験からすればもっと狼狽した総理はたくさんおられる」と危機管理の責任上の面から森を擁護している(これは岡崎も上記産経新聞にて指摘していることで、村山富市の阪神大震災時の対応と比較している)。もっとも佐々は同じ著書で「総理自身の言動が、『事故』であった一件を『危機』にまで増幅させてしまった。」とも述べている。また、実際の第一次対処をする部局の一つである、防衛官僚の参集が早かったことも評価した。佐々は別の著書『後藤田正晴と12人の総理たち』では「後藤田が森を庇っていた」とも書いており、米軍に謝罪、賠償などへの迅速な協力を提案したのも佐々などの日本サイドであり、ブッシュ政権はそれをすぐに実行したと言う。
支持率
上記のいきさつにより就任当初はそれなりの支持があったものの、「失言」が報じられると支持率は急降下した。任期を通して内閣支持率は低く、マスコミなどではこうした低い支持率などを揶揄して森政権の事を「蜃気楼内閣」(森喜朗の音読み、シンキロウにかけた洒落)と揶揄する事もあった。また、民主党の鳩山由紀夫からは「(支持率が)消費税(5%)並みになった」と揶揄された。政権末期には一部新聞が一面トップで「退陣の公算」と報じたことが退陣の流れを導いたとも言われる(新聞辞令)。2001年4月26日、就任からちょうど1年で首相を退任した。後継総理総裁は自派閥出身の小泉純一郎になった。発足当初の小泉内閣の支持率は80%を超える史上最高記録を樹立したが、その背景には先代の森内閣の不人気ぶりの反動があったとする見方もある。
メディアへの反論
首相動静について「嘘を言ってもいいんだろ」と言う発言の全体は「起床や就寝の時間については嘘を言ってもいいんだろう」である。これは、実際番記者がいい加減な動静を報じていたことによる。この発言の背景として、就任当初は小渕が病床にあり、小渕の家族も公邸からの引越しどころではなかったため、森は7月頃までは私邸から通っていたことがある。番記者はそれを追いかけていたが、深夜、早朝は時事、共同の代表取材であった。だが、森によれば「彼らは、自分たちでちっとも努力をしないのに、形だけにはこだわる」と言う。起床、就寝時間もいちいち確認に来るが、『新潮45』に書いたところによれば「私はいつも二時頃までは起きていて家人を先に休ませるから、家人に私の寝る時間がわかるわけがない」状態だった。『経営塾』のインタビューでは「寝た人がどうして伝えられるんですか」と述べている。根本的な問題として「私の寝る時間が国政とどんな関係があるのか」とも書いている。実際には夫人の千恵子が「じゃあ○時ということにしてください」と、記者達にとりなしていた。「自分たちが早く帰りたいものだから、十一時半に帰って来たら、十五分後に「何時にお休みでしょうか」と訊ねてきたこともあった」ため、彼らにも気の毒になり、半ば番記者たちのことを思って橋本龍太郎との会話で「嘘を言っても〜」という発言したところ、「嘘をついていい」と報じられたという。また、森が重要人物と会う際に、見つからないように官邸でなく公邸で会うことにしていたのも一因だった。記者たちはこうしたことを全て見落としており、首相動静には本当のことは出ていなかったと言う。
言葉狩りについても森は批判している。地元に帰って挨拶をした際「まもなく総選挙だが、私はなかなか帰れないので、銃後のことをよろしく頼みます」と述べたところ、朝日新聞などが「戦争用語を使うとは何事か」とバッシングした。「出陣式」「必勝祈願」と言った言葉は選挙の際には常套句であるため、森は「こうした言葉は単なる比喩に過ぎない」と述べている。また、「銃後」という言葉の意味も、書き方も知らない記者もいたという。
「幹事長時代は新聞社やテレビ局でも対談の申し込みがあれば受けていた」が、首相時代はそれが簡単にできない仕組みになっていた事を森は語っている。たとえばテレビで直接話す(なお、アメリカの場合は炉辺談話の頃からこの種の対話は行われている)場合、『総理が語る』という番組が慣習的に制作されてきたが、この番組の放映はNHKと主要民放計7局による輪番制であり、「2ヶ月に1度行っても1年に1度ひとつの局を回るかどうか」と述べている。さらにこの種の番組の放送前には必ず新聞社との間でグループインタビューが必要というカルテルがあり、制約となっていた。さらに『総理が語る』は視聴率が取れないため、放映時間帯も大半は条件が悪く、且つ日本マスコミには「首相が出演する単独企画はしない」という申し合わせも存在すると言う。田原総一朗は『サンデープロジェクト』にて「森さん、電話をかけてくれ」と呼びかけたが、前任者の小渕がテレビ朝日に電話をかけた際、同社は協定破りで記者会で処分を受けており、首相がかけられないことを分かっての呼びかけであった。そのため森は電話に出ないでいたが、「逃げている」と思われて色々なところから自宅に電話がかかり、最後には電話が壊れたという。なお、後述のように首相辞任後は雑誌の対談などにも幾つも応じている。
料亭通いについても批判された。この件については、林真理子との週刊朝日での対談にて日本テレビや読売グループの首脳も料亭通いの常連であることを挙げている他、別の雑誌では「細川総理の頃から、料亭がよくないというようになってしまった。細川さんは、会合には料亭ではなくホテルを使う、といっていたけれど、ホテルのほうが機密性が高い。料亭のほうが、障子があったり、襖があったり、外に音も洩れるから、秘密めいた話なんかできませんよ。」と述べ、料亭に付随する芸者を入れての宴会というイメージについても否定し、畳の消費量は石川県と富山県が日本でも多く、食器に使われる九谷焼や輪島塗などの焼き物、加賀友禅のような着物など、自身の出身地である北陸に根付いた日本文化を支える産業を賞賛している。
森は「本来ならもっと重要な話題は沢山ある」と述べている。その一例として、2000年秋に原油価格の値上がりが問題となっていた際、イランのハタミ大統領が来日し、アサデガン油田の優先交渉権を獲得した件を挙げている。背景として2000年2月にアラビア石油がカフジ油田に持っていた権益が失効しており、森内閣に切り替わった春頃より、日本側は新油田の獲得に向け交渉を加速させていた。この件について、日経とNHKは扱いがあったが民放は報道に消極的で、官房長官を辞任した中川秀直が右翼と酒を飲んでいるという映像の放送に注力していた件を挙げている。
アフリカを歴訪した際は日本の新聞に「正月から名刺でも配りに行くのか」と揶揄されるなどと批判され、歴訪の意義についてはCNNの方が先に注目したと言う。また、訪問先の内ケニアでは自然公園と難民キャンプが訪問先に入っていたが、次のようなエピソードを語って苦言を呈している。自然公園を訪れた際にはたまたま象が居なくて案内係が萎縮していた。その案内係のネクタイには象の絵が描かれていたため、森は「象が居ないはずですよ。あなたのネクタイの中にみんな集まっているのですから」とジョークを言って場を収めた。しかし翌日の日本の新聞は「軽口を叩いた」と批判した。難民キャンプを訪れた際に、マラリアに罹っている乳児を母親が注射をしてもらいに来ていた。森が患者達と話しているとマスコミは患者や母親を蹴飛ばすように動き回り、苦しんでいる患者の周囲で平然とカメラを回し続けた。森は無作法さにいたたまれなくなり、「報道陣は出て行ってください」と言った。マスコミがこの一件を「森が怒鳴りつけて摩擦を起こした」ように報じたため、森は後で「私の悪いところは書きたければ書けばいい。しかし、記者である前に日本人であれ。相手国に対して礼を失しないように書いてほしい」と苦言を呈した。森がアフリカ歴訪から日本に帰国したのは2001年1月15日だった。帰国直後ということもあり、1月17日早朝の阪神大震災記念式典には欠席した。このことを新聞は被災者の孤独死を挙げて「後ろめたくないのか」と批判した。早坂茂三は森との対談の中で、自分にもコメントを求める電話がかかってきたが、国土交通相や防災担当相が出席していることを挙げて弁護した旨を述べている。
2001年1月末にスイスで開かれたダボス会議についても、歴代の首相は予算委員会と重なるため出席見合わせが続いていた。森は経済面の重要性から出席を決めてハードスケジュールを組みチューリヒに飛んだ。飛行機の到着は夜となり、車でリゾート地であるダボスの会議場に行くと3時間かかり、ヘリも飛ばせなかったため、その日はチューリヒで一泊した。マスコミは「ダボスのパーティをサボり、チューリヒで食事をしていた」と批判した。会議出席後、所感について語りたかったが、ぶら下がり記者からの質問はなかったという。
えひめ丸事件でゴルフを批判された。このときの背景についても森によれば次のような事情があった。元々事件の一報が入った2月10日は群馬にある福田赳夫の墓参りをする予定だったが警備の都合で取り止めとなった。当時は予算委員会などの対応で官邸スタッフは疲労しており、森は取り止めで予定が空いたのを、皆を休養させる機会と考え、自身もゴルフに行くことを決めた。場所は東京から近いところを条件とし、4、5年行ってなかった戸塚に決めた。その日に事件が発生したが、森のゴルフ批判の際に使われたのは上述のように、事件当時の映像ではなく夏に撮影されたものであった。それを見た森は「マスメディアが私のイメージを落とそうと、総がかりで襲ってきたな」と感じ、「マスコミがつくりだす「世論」にはもう抗えない」と認識した。そのため、辞任を決めた最も直接のきっかけはえひめ丸事件だという。もっとも、森は運命論を信じる面があり、就任の時も辞任の時も「運命だな」と思ったという。また、事件前に妻の千恵子は次のように語っている。「主人はああ見えて、総理になって少し痩せました。いまは体重95キロぐらいじゃないでしょうか。ワイシャツの襟がダブダブになりました。ああやっぱり、この人でも痩せるんだわ、と思いましたけど。健康についてはやはり心配で、ゴルフを唯一の楽しみにしていた主人がとてもそんな時間などなくて「足の筋肉がおとろえてきたなあ」などと足をさすっているのを見ると、「家の中でウォーキングマシンでもやったら」と主人にいったんですが、主人に「そんなことしている時間があるか」と言われました。やはり心配ですね」
いわゆる新聞辞令についても森は批判している。批判の対象は朝日新聞が2001年3月7日に「森首相、辞意固める」と報じたことであった。その日は日米首脳会談の日取りが正式発表される日だったが、この報道で仕切り直しになったという。森は伝聞と断った上でその朝刊を朝日のワシントン支局の幹部がホワイトハウス関係者に持っていき、ブッシュ新大統領(当時)と合わせないように工作していたという趣旨の説を紹介し、「国益に関わることだ。総理を辞めさせるための世論操作を一商業誌がやってよいのだろうか」「三月十三日の党大会で、何らかの意思表示をする腹はすでに固めていた。しかし自らの進退を一新聞に指図されるいわれはない」と批判しており、下記のように訪米を実行した。
虚偽報道
マスメディアや世論による森および森政権への批判の中には行き過ぎて事実と異なる内容のものもある。
2000年5月、アメリカ大統領ビル・クリントンとの会談で出鱈目な英語の挨拶を行ったという報道が、7月末開催の九州・沖縄サミットへの揶揄と併せて、株式新聞、フライデー、週刊文春により報じられた。なお、週刊朝日はこの話に当初から懐疑的であった。事実は毎日新聞論説委員高畑昭男による創作であり、森はこのデマを批判している。
森政権時代より小泉政権にかけて政治評論家の森田実と福岡政行はたびたび対談を行い、「森のせいで総選挙によって自民党が下野する」「自民が200議席を割る」「連立政権が過半数を失う」などといった予想を繰り返した。しかし第42回衆議院議員総選挙、第19回参議院議員通常選挙の選挙結果は異なり、彼らの予測は外れた。
首相辞任直前、日本テレビのある番組にて、あるコメンテーターが行政評論家の肩書きで「何故総理は辞意表明をしたのにやめないのか」と題して、後何日か続けると退職金が700万円になるからその金目当てではないかと解説した。夫人の森智恵子はテレビをつけたところこの番組の解説が目に入ったため激怒し、日本テレビに抗議の電話をした。驚いた日本テレビは局内で検討した後森に確認の電話をかけた。なお、実際の退職金は約143万円であり、日本テレビの誤報であった。日本テレビは全面的に非を認め、森に謝罪を申し入れた。
日経平均株価についても、森政権発足時には2万円前後で推移していたものが2001年初頭には12000〜13000円台まで下落したため、辞任前に批判がなされた。田原総一朗は「森が辞めれば株価は5000円上がる」と主張した。鳩山由紀夫、菅直人なども同様の主張をおこない、国会で株価にも言及した。後年、森は小泉政権下でも株価が下落を続けたことを挙げ、小泉政権下の経済政策については担当閣僚間の意見の違いや省益固執にも理由がある旨を述べ、この時は自民党が勢力を得ていたこともあり、内閣改造は構造改革より経済の建て直しを優先するチャンスだという見解をとった。  
活動
組織
小渕急死の教訓から内閣法9条に基づき、首相臨時代理として5閣僚を指定し、危機管理対策をとった。順番は官房長官を内閣を統括し、総理と一心同体になって国政に関わるという理由から筆頭とし、2番目以降は当時の閣僚歴、議員歴、所属政党を考慮したと述べている。
口蹄疫
南九州で発生した口蹄疫問題の処理を小渕政権から引継いだ。上記のように政治の混乱を最小限に抑えるという森をはじめとする五人組の意向のため閣僚は軒並み留任しており、農林水産大臣で自派の玉澤徳一郎も同様であった。この時は農水省の他、現地家畜保健衛生所、宮崎県庁、北海道庁、農林水産省畜産局衛生課などに口蹄疫防疫対策本部が設立され、組織検査の結果で陽性と出た日の自民党農林部会には、「畜産三羽ガラス」と呼ばれた江藤隆美(宮崎選出)、堀之内久男(宮崎選出)、山中貞則(鹿児島選出)が出席、江藤は農林省幹部に「口蹄疫は火事みたいなもんなんだから、ぼやのうちに消さないと大変なことになるぞ。こんなときは100億円つけますとか言わなきゃダメなんだよ」と叱咤した。その翌日、農林省は旧畜産振興事業団が牛肉・オレンジ輸入自由化交渉で使った資金の残金を投入することを決定し、「カネのことは気にせずにやれることはすべてやれ」との号令の下直ちにワクチン手配が実施された。そのため小規模な被害で伝染を押さえ込んで短期間で終息に持ち込んでいる。当時は短期間で収束させたという事実だけが伝えられたが、それから10年後、2010年日本における口蹄疫の流行で後手に回って大きな損害を出したことから、組織再編などで現場に負荷をかけなかった小渕、森政権の迅速な対応が一部で回顧されており、『日経ビジネス』は「農水相は族議員が大半「ずぶの素人には無理」」などと小見出しをつけて批判した。森自身は4月の「太平洋・島サミット」のレセプションで口蹄疫に触れたり、宮崎牛を食すなどしてイメージ回復に努めている。  
外交
サミットの完遂
小渕の遺志を継ぐとの目標通り沖縄サミットを無事開催した。この中で太平洋戦争時の対戦国であるアメリカ大統領のクリントンが中東和平交渉のからみで欠席の動きを見せたときも熱心に交渉し、沖縄戦の犠牲者の名を刻んだ平和の礎の前でクリントンに演説をさせることが出来た。
アフリカ
アフリカ歴訪を行った日本国首相は森が最初であるが、アフリカ外交は小渕が外相時代に計画したものを発展的に引き継いだものであるとの指摘がある。森は、沖縄サミットの前に各国首脳が東京に立ち寄る際を利用してアフリカ首脳を交えた会談の場を設けることを発案し、3カ国の首脳の訪日が実現させて歴訪の下地を作った。外務省は歴訪に乗り気ではなかったが森が強い意思を通す形で実現した。対露、対印外交と並び、アフリカ外交は首相辞任後も森のライフワークとなっている。首相辞任後に述べたことだが、自民党自体はアフリカへの外遊頻度で野党に抜かれることがある点を指摘しており、野党への対抗の意味も込めて訪問を続けている。
インド
後年『月刊自由民主』で語ったところによれば、2000年8月の訪印についても最初外務省は良い顔をしなかったという。しかしIT革命を推進する中で有識者に話を聞いたところ、同国がIT産業の集積地として成長著しかったことを知ったことがきっかけのひとつであった。森はその頃インドは親日度が高いという調査結果も読んでおり、そのような国に対して国内の関心がいまひとつであったことへの対策として、訪印に返礼の意味を含ませた。また、同国が民主的傾向の強い国家であることから、同じ大人口を有しながら一党独裁である中国に対抗して協力関係を構築するための一手であった。インドについても、辞任後も重ねて訪問しており、インドの関係者の訪日時も応対している。本人の言では「日本がもし何もアクションを起こさないでいる間に、アメリカが頭越しにインドへ行っていたら、丁度ニクソンの訪中と同じことになったんじゃないかな」「あれ以来、インドの国会議員にどれだけ会ったかな。この5年間ぐらいの間にありとあらゆる経済団体や国会議員が日本にみえました」とのこと。また同時に1990年代末のパキスタンとの核開発競争で両国が緊迫し、日本を含む先進各国が経済制裁を課す中、矛を収めることと経済封鎖の解除を取引材料に交渉し、パキスタンに対してもこの目的で訪問している。結果、両国から「CTBTの発効まで核実験を凍結する」という同意を引き出した。インドについては2001年の春頃より制裁解除に向けた準備を進めていたがアメリカ同時多発テロ事件後、各国が続々経済制裁を解除する中で、日本も2001年10月26日に援助を再開したが、それに合わせて小泉首相の特使として訪印しパジパイ首相(当時)と会談している。後年、上海協力機構のオブザーバにパキスタンが参加し、戦略的に中国の側に大別されてしまったことを挙げて、「友好関係」を示していくことの重要性を指摘している。
太平洋諸国
太平洋の島嶼国に対しても、親日的傾向と小国ながら国連では一票を持っていること着目して積極的に外交関係拡大に努めた。辞任後特派大使としてパラオに出向いた際には、途中立ち寄ったグアムとパラオにて太平洋戦争の戦没者の為献花を行った。
中国
2000年10月、中華人民共和国の総理であった朱鎔基が来日する際、記者会見で次のようなメリハリをつけた。つまり、経済協力は開発の遅れている西部大開発に重きを置くこと、IT分野での協力について「日中IT総合展示会」などを挙げた。一方で、朱が試乗まで行なう熱心さを示した山梨実験線のリニアモーターカーについて、記者からドイツと同じく中国に実験線を建設する気は無いか問われた際には、当時コストダウンや長期耐久性に課題があったため、これを理由として「別途海外において実験線を建設しえる状況ではない」と回答した会談では北京・上海間の高速鉄道の方については21世紀のシンボルとしたいと答えた。
中華人民共和国に対してはこれも前任の小渕政権と同じく冷ややかな反応であった。1990年代に入って徐々に高まっていったODA批判に対応し、2000年5月外務省経済協力局長の私的懇談会扱いで「二十一世紀に向けた対中経済協力のあり方に関する懇談会」を設けた。懇談会は2000年12月28日に提言を出し、対中ODAの特別優遇措置を取り消し、ODAを戦略的に運用する旨、6項目の重点課題を挙げた。この背景としては提言にもあるように、中国脅威論の隆盛があり、中華民国政治大学の柯玉枝は、日本の二国間援助額で1、2位を争う程に成長したにもかかわらず、同国が巨額の軍事費を支出したり、中国自身がアフリカへ援助を行い減免した例も指摘されたこと、それらを日本のマスメディアが報じたことにより国民の関心を引くようになり、国民の意向を無視できなくなったことなどが挙げられているが、同時に1990年代の同国の核実験に抗議して日本がODAの無償援助を凍結した際に、中国には何の外交的効果も発揮しなかった事例を引き合いに、「日本の国際政治の無能さを浮き彫りにさせた」と指摘し、「ODAという外交手段で中国の内外政策を制約またはコントロールしようとすることは、極めて達成しがたい」と指摘している。
韓国
2000年にソウルで開催されたアジア欧州会合(ASEM)首脳会議で、日韓トンネルの共同建設を韓国側に提案した。
アメリカ
クリントン政権時の2000年10月、オルブライト国務長官(当時)訪朝前に、米政府が北朝鮮のテロ支援国指定解除を真剣に検討、解除に極めて近い状況だった際に、日本政府としては拉致問題等を理由に指定解除の阻止を図っていたことが分かっているなお、マスゲームの歓待を賞賛したことが引き金となってオルブライトはアメリカ国内で世論の反感を買い、訪朝は失敗に終わった。
ブッシュ新政権(当時)との間では日米同盟の強化に努めた。その中には当時まだ実用段階に達していた兵器が少なく、導入国も少なかったミサイル防衛分野での、緊密な協議への留意が含まれている。この路線も後継内閣に引き継がれ、日本のMD導入、開発への一部参加への素地を作った。なお、森は日本の核武装について否定的でアメリカの核の傘を評価している。また、在日米軍駐留経費(思いやり予算)について、日本側の人件費負担者数の据え置きと光熱費の一部アメリカ側負担に成功し、33億円の負担減を実現した。
台湾
2001年4月、李登輝の訪日ビザ発給要請に対し、“一つの中国”論との齟齬を懸念した河野洋平外務大臣が「発給を認めるなら辞任する」と激しく抵抗し、福田康夫内閣官房長官も強く反対したが、森は「李は当時既に私人であり心臓病の治療という目的があったのでビザ発給を断る理由はない」と判断し、李の訪日が実現した。この時は殆どの全国紙が賛意を示したと回顧している。  
内政
IT革命を謳いe-japan戦略を策定、IT基本法および関連法案約40本を超党派で成立させていくきっかけとした。具体的な政策の検討を行なうためIT戦略会議、産業構造の転換を図る為産業新生会議を設置し、外部から出井伸之をはじめとする複数の有識者を招いた。インターネット博覧会(インパク)の開催などの振興策を推進した。
教育改革を掲げた森は諮問機関として教育改革国民会議を発足、江崎玲於奈を座長に据え、2000年9月には中間報告を提出するに至った。三浦朱門の言動も度々物議を醸した。奉仕活動を義務化させる方針を盛り込む等については、特にリベラル、野党的な立場からは物議を醸した。森自身が私学と太いパイプを持つ文教族の大ボス的存在であり義務教育廃止論者でもあることから様々な議論を呼んだ。
犯罪被害者保護法の立法、検察審査会法の改正(審査会への申し立てを被害者が死亡した場合には遺族にも認めるようにした)、ストーカー行為規制法の立法、児童虐待防止法の立法、少年法の改正(刑事罰対象年齢の引き下げ)なども森内閣での成立であり、森の教育・治安などへの持論にもある程度沿ったものであった。
国防
1970年代末に法制化の研究が開始されて以来20年余り店晒しとなっていた有事法制について、2000年4月7日の所信表明演説にて立法化の必要性に言及し、翌2001年1月の第151回通常国会での施政方針演説にて立法化に向けた検討を開始すると述べた。森は元々岸の流れを汲むタカ派の面があったが、仮野忠男によれば、2000年にまとめられたリチャード・アーミテージがジョセフ・ナイ等と超党派で作成した政策提言(所謂「アーミテージ・レポート」)にて後にブッシュJr政権で採用される米軍再編のアイデアや日本への法制化の要望が盛り込まれており、これらに森が強い興味を示し、参考にしたことが一因であると指摘されている。また、仮野は内閣末期においてはえひめ丸事件等で退陣要求を強めていた野党の共闘体制に楔を打ち込む狙いがあったと分析している。野党共闘の切り崩しにはそれほどの効果を挙げなかったものの、2001年2月6日の与野党代表質問で社民、共産両党が反対の意思と撤回を要求したのに対しては「有事法制は平時にこそ備えておくべきものだ。(中略)検討は憲法の範囲内で行うもので戦前の国家総動員法のような法制について検討することはない。」と拒否し、2001年3月18日の防衛大学校卒業式での訓示においても同様の認識を示した。自民党国防部会は2001年3月23日、「わが国の安全保障政策の確立と日米同盟」という文書をまとめている。法案提出前に森内閣は終焉したが、策定への流れは小泉内閣でも継承され法案提出に至り、一度廃案になったものの、その後民主党が賛成に回ったこともあり、2003年に武力攻撃事態法が成立した。
防衛関係としてはその他、森政権が5年に1回改定されていた中期防衛力整備計画策定の年に当たっていたことが挙げられる。同計画は12月に閣議決定した。計画では期間中の予算伸び率は0.7%だったが、小泉政権は予算面では防衛予算は減額傾向に転じた為、装備の調達実績は計画を下回ったものが多い。周辺事態法の一環としてセットでの整備が構想されてきた船舶検査活動法の成立も森内閣の時である。
公共事業
整備新幹線は、財政構造改革路線で抑制方針とされていたものを、小渕政権下方針転換となっていた。その内の1線である北陸新幹線については、スーパー特急方式の下石川県内など3ヵ所で難工事の予想されるトンネル区間を中心に1990年代前半から中盤にかけて工事着手もされていた。1998年1月に森は「上越まで区切った新規着工の枠組みは、糸魚川-魚津間など既着工区間の工事が進ちょくすれば、三-五年以内に見直さざるを得ない」と述べていた。地元の協力もあり2000年頃までに事業着手された区間の用地取得は順調であり、トンネル工事の進捗も順調であった。7月、森は森田運輸相(当時)に要望を伝え、2000年(平成12年)末の政府・与党申合せで、九州新幹線と共に、富山までのフル規格での建設が決まっている。この時森は金沢までの着工を要求したが、野中広務に釘をさされて富山までの開業、石川県内の白山車両基地への着工に短縮された経緯がある。この件については石川県が森の地元であり、建設促進の立場で運動してきたこともあったが、整備新幹線の中では最も採算性が良いと試算されていたこと、長野新幹線の建設単価が国鉄時代の東北・上越新幹線より大幅に下がったこと、同新幹線開業による時間短縮効果で旅客量が上向いたこと、JR各社が過重な負担を負わないスキームであった為、前向きな姿勢を示していたことといった背景があった。このような開発効果を重視する立場と、財政への負担やストロー効果、平行在来線切り離しなどを問題とする批判的な立場との間で議論となることも多い。辞任後も歴代の首相は皆北陸新幹線建設に理解を示し続けた。森と同様整備新幹線について運動してきた小里貞利は、安倍晋三が首相だった2007年の参院選で福井を遊説した際、機内で偶然乗り合わせた森が安倍に対して新幹線の延伸に触れるようにアドバイス行ったことを明かしている。金沢までの開業を2014年度に目標とすることとなったが、その後も福井県敦賀までの延伸のため、運動を続けている。森は平行在来線の地元負担についてはJRの立場を理解しつつもすべて地方負担とする必要はないのではないかという趣旨のコメントをしている。
以前、不祥事で辞任した中尾建設相の印象を和らげるために保守党の扇千景を起用した。内閣支持率が低迷する中で中尾事件で接待を受けた建設官僚の名前を公表し、建設白書や防災服デザインの見直しなどの施策を打ち出したことで、内閣のイメージアップ策に寄与した。なお、扇の初期の仕事の一つには2000年6月末から噴火し段階的に拡大していった三宅島の全島民避難(9月2日より実施)の指揮が含まれている。
一方で、公共事業全般については景気回復のため予算の増加を図った反面、世論の批判に応える形で、2000年夏には効果の乏しい無駄な事業に着目していた。「二、三年経過したものも見直せないのか、思い切ってやってほしい」と自民党などに対しても指示した。また、背景として1990年代末には、運輸省などで費用便益分析に基づいた事業評価を制度化していたという事実もある。検討の結果、2001年度予算編成においては
 1.事業採択後5年を経過しても未着工
 2.完成予定を20年以上経過しても未完成
 3.現在凍結されている事業
 4.調査をはじめてから10年以上経過しても未採択
の4条件の見直し基準を決定。その上で233件の事業の中止勧告を行い、中海本庄工区の干拓など中止とした案件もある。
また当時、扇が気にかけていたのは職員の士気が停滞しており、世間ではマスコミの報道によって「公共工事」イコール「悪」という認識が広まっていたことで、扇の起用理由も中尾元大臣の若築建設汚職事件であることは意識していた。これらの問題を解決する為、汚職の原因である入札制度について、フランス、ドイツ、イタリアで施行されている「公共工事基本法」を参考とし入札の透明化を図る為、公共工事入札契約適正化法を作成することを課題とした。法案提出に当たっての問題は、公共工事の所管が各省庁に分散しており、調整作業を通常の慣行で実施した場合5年はかかると見込まれたことであった。そこで扇は森に直訴したところ、森は「扇君が建設大臣として公共工事の基本法をつくろうとしているから、関係の省庁は挙げて協力するように」と閣議で指示した。その結果、法案提出は3ヶ月で達成され、同法は成立に至った。扇自身は本人の予想に反し、国土交通大臣となってから、小泉内閣時代にもこの人選は認められ続け続投、3年余り大臣を務めることになる。
一坪地主の跋扈を問題視する観点から、土地収用法改正案を第151回国会に提出した。それまで、土地買収の最終段階である「補償金支払い」は持参払いとする旨定められていたが、反対運動側が関係人を意図的に膨らませることにより、僅かな金額の支払いに膨大な労力と時間が使われるケースが続出していた。法案の趣旨は支払い方式を現金書留も可とし、事業認定に際して事前説明の制度を強化する内容であった。様々な公共事業反対運動に手を焼いていた東京都は小渕政権時代から働きかけをしていたという事情もあった。後述するように、森は小泉への政権交代の際には、マスコミ批判を意識して民意を重視し、総裁選を前倒し実施したことを「森の清談」等で回顧している。だが、その総裁選のために審議時間が空費され、また政府のIT関連法優先処理の方針に従い、土地収用法改正案の優先順位は下げられ廃案の危機に逢った。しかし、国交省や東京都の実務担当者が悪質な遅滞戦術を取った案件についての資料を材料に、与野党の国会議員へ説得の根回しを行ったおかげで、野党議員からも賛成を取り付け、小泉内閣の下で6月末に可決した。
都市部での公共事業については、扇が度々都知事であった石原慎太郎と当時懸案であった計画の視察に訪れて関心を喚起した他、森自身も石原と環状8号線を視察した。当時は井荻トンネルの一部が供用中であったが、全体では未完成だった。森は渋滞解消に向けて努力することを述べている。
2000

 

談話 / 平成12年4月5日
小渕前内閣総理大臣は、党人政治家として、幅広い人脈、労を惜しまない行動力を存分に発揮され、国家国民のためにまさに我が身を顧みることなく、命がけで、内外の困難な諸課題に果敢に取り組んでこられました。その結果、前内閣の最大の課題であった日本経済の再生については、危機的な状況から脱却し、本格的な回復に向けた兆しが見え始めております。このような大事なときに、小渕前総理が志半ばにして、不運にも病に倒れられましたことは誠に痛恨の極みであります。今は一日も早いご回復を心よりお祈り申し上げるものであります。
私は、本日、内閣総理大臣に任命され、公明党・改革クラブ及び保守党の御協力を得て、連立内閣を発足させることとなりました。三党派の強い信頼関係に立脚した安定した政局の中で、今日までの連立政権の成果を踏まえ、政策の継続性を念頭に置きつつ、経済対策をはじめとする当面する諸課題に的確に対応していくとともに、来るべき二十一世紀に向けて豊かで活力のある国づくりとそれを支える魅力ある人づくりに邁進してまいります。また、前内閣の閣僚の皆様には引き続き再任をお願いし、国民生活に直結する重要法案の成立や北海道有珠山噴火対策、警察庁等公務員の不祥事への対応、間近に迫った九州・沖縄サミットの準備、中央省庁の再編や地方分権の着実な推進などに遺漏のないよう取り組んでまいります。
私は、日本新生を目指し、国政運営の責任者として、力の限りを尽くして、この難局に立ち向かい、国民の皆様の負託に応えてまいる決意です。
国民の皆様のご理解とご協力を心からお願いいたします。
内閣総理大臣説示
初閣議に際し、私の所信を申し述べ、閣僚各位の格別のご協力をお願いする。
一 前内閣が取り組んできた政策との継続性を念頭に置きつつ、自由民主党、公明党・改革クラブ及び保守党の三党派による安定した政局の下で、経済対策をはじめとする現下の諸課題に迅速に取り組み、国民の期待と信頼に応えられるよう、全力を尽くしていただきたい。
二 今なお予断を許さない北海道有珠山噴火の対策については、地元住民の安全確保や避難生活への支援等に最善を尽くしていただきたい。
三 来年一月の中央省庁等の再編が円滑に実施できるよう、全力で取り組んでいただきたい。その際には、所管行政という狭い視野からではなく、国政全般の幅広い視野に立って、英断を持って取り組んでいただくとともに、とりわけ省庁間人事交流については、縦割り行政を廃し、各省庁間の緊密な連携の強化と広い視野に立った人材の活用を図る観点から、その積極的な推進をお願いしたい。地方分権の推進についても引き続きご努力いただきたい。
四 本年夏に開催する九州・沖縄サミットの成功に向けて格段のご協力をいただきたい。
五 度重なる公務員の不祥事は、国民の行政に対する信頼を著しく損なうものであり、極めて遺憾である。国家公務員倫理法の施行も踏まえ、公務員倫理の確立が図られるよう、職員を厳しく指導監督していただきたい。
六 内閣は、憲法上国会に対して連帯して責任を負う行政の最高機関である。国政遂行に際しては活発な議論を行うとともに、内閣として方針を決定した場合には一致協力してこれに従い、内閣の統一性及び国政の権威の保持にご協力いただきたい。 
2001

 

年頭記者会見 / 平成13年元旦
新年、明けましておめでとうございます。
21世紀の幕開けであります。国民の皆様と共に明るい希望を持って、新しい世紀に力強い第一歩を踏み出してまいりたいと思います。
20世紀は、世界にとって「栄光と悔恨」の100年でありました。人類は、科学と技術を発達させ、多くのことを成し遂げてまいりました。しかし、二度の世界大戦や、様々な紛争により多大な犠牲を払ってきたのも事実であります。
日本もまた、20世紀における経験から貴重なものを手に入れました。それは、自由と民主主義、そして、平和を大切にし、国づくりを行うという国民的な合意であります。
私は、21世紀の初日であります今日、この国民的な合意を新たな決意として21世紀に引き継いでいくことを、国民の皆様と共に確認をいたしたいと思います。
そして、世界の人々にも、私たちのこの決意を伝え、共に協力し、21世紀が「人間の世紀」として、地球上のすべての人々がその個性をいかし、輝ける時代となるように努力していきたいと思います。
21世紀はどんな時代になるのでしょうか。私は本日、中曽根元総理が在任中の昭和60年、筑波の科学博で21世紀の総理に宛てて書かれた、ポスト・カプセルに投函されておられました手紙を受け取りました。中曽根さんは、21世紀の総理に対し、世界の平和と繁栄のため、大いなる期待を表明されていました。身の引き締まる思いでこのお手紙を拝見をいたしました。私は、昨年の国連ミレニアム・サミットで、紛争、人権侵害、貧困、感染症、犯罪、環境破壊といった人間の生存、尊厳を脅かす様々な脅威に対し、人間一人一人を大切にするとの観点から、地球規模で取り組んでいかなければならないと世界の首脳に呼びかけました。これは、「人間の安全保障」という考え方であります。世界の平和と繁栄の実現のためには、この「人間の安全保障」が確保されなければなりません。
本日、私は、「平和」、「豊かさ」、そして「文化」というものを軸に、その意味を問い直し、21世紀の日本のあるべき姿について思うところを申し上げてみたいと思います。
21世紀を真に「平和の100年」とする上で最も重要なのは、世界の国々や民族があらゆるレベルで国境を超えて「対話」を深めることであります。取り分け、日本が位置する東アジアにおいては、朝鮮半島における緊張緩和の動きを始め、二国間・多国間の対話が進展しつつあります。この地域には、包括的な安全保障機構はまだ存在しておらず、我々は、このような対話の動きを加速化していく必要があります。
また、国連は、2001年を「文明間対話の年」と位置付けていますが、地球規模で「対話」を進め、お互いの理解を深め合っていくことが、21世紀にはますます必要になると思います。近く、私が、我が国の現職総理として初めてアフリカ諸国を訪問するのも、これら諸国との対話を強化することにより、紛争と貧困に苦しむアフリカにおいても「人間の安全保障」を実現しようとする我が国のグローバルな外交姿勢を体現するものであります。
このような対話を中核とする予防外交と同時に、万が一に向けた「備え」も欠かせません。なぜなら、世界にはまだ大量の軍事力が存在し、国によって考え方の違いもあるからであります。
「備え」の基本は、引き続きそれぞれの国の自助努力でありますが、21世紀においては、国際社会が協力して「平和」を守る体制をより強固なものにしていくことが必要であります。これまで日本は、国際的な安全保障への責任感と主体的対応が、国際社会で占める地位に比べて十分でなかった面があると思います。
21世紀には、引き続き日米安保体制を維持・強化しつつ、より主体的な構想力をもって、世界の平和と秩序の維持に参画し、我が国にふさわしい役割を果たしていくべきであると考えます。
次は、「豊かさ」についてであります。「豊かさ」は生活の基盤となるものであります。
20世紀、世界は工業化、近代化により経済的な豊かさを実現してまいりましたが、その一方で、貧困と飢餓に今も苦しんでいる多くの国々があります。環境問題や感染症の拡大も深刻になっております。人類は、持続的な繁栄を目指すとともに、その果実を広い世界で分かち合う努力を粘り強く続ける必要があります。
20世紀の最後の10年間は、日本の経済、社会は残念ながら総じて停滞の時期にありました。しかし、決して未来を悲観する必要はありません。これまでの大胆かつ迅速な経済運営により、景気はもう一押しというところにまできております。引き続き景気回復に軸足を置きつつ、未来の発展に向けて、断固たる決意で経済政策を進めていく覚悟であります。
日本、そして日本人には潜在的な大きな力があります。必要なことは、私たちがその力を発揮する経路を新しく組み替えることであります。そうした改革により、私たちの経済が持っている本来の成長力を高めることができます。私は、古い殻を破って新しい構造への転換を図る、言わば「攻めの再構築」に全力で取り組んでいく覚悟であります。
国民の価値観はますます多様化しており、私は、これからは、個人がそれぞれの価値観に従って、自由闊達に活躍できる社会を目指すべきであると考えております。ベンチャー企業を立ち上げたり、NPO活動に参加したり、女性や高齢者や障害者が生き生きと社会に参加するなど、自分の価値観に基づいた自由な活動を可能とする社会であります。IT化は、人々のネットワーク化を進め、個人の社会的な活動の機会を広げます。それは、同時に経済や社会の活力を高めることにもつながります。
経済や社会の構造改革は、個人の人生の選択肢を増やし、企業などの組織の自由度を高めるものでなければなりません。
規制改革などは既得権にとらわれず進めなくてはなりません。社会保障、雇用などのセーフティーネットを整えることも大切であります。私は、大胆な改革を進め、21世紀の最初の10年を「新生の10年」としたいと考えております。
次に、「文化」についてであります。「文化」は人生に潤いをもたらします。
グローバル化、情報化が進むと、世界の様々な文化の交流が一段と活発になります。文化の違いは、時には摩擦や争いを生じさせてきました。しかし、21世紀は、文化の多様性を尊重しあう、そういう時代にするべきだと考えます。
そのためには、まず、日本人が、日本の文化を理解し、大切に思い、潤いのある魅力的な暮らし方をしていくことが必要であろうと思います。多くの日本人は、日本の「伝統と文化」、「治安のよさ」、「美しい自然」を誇りに思っております。私は、努力を怠れば損なわれてしまう、そうした日本の良さを、21世紀においても、是非大切に引き継いでいきたいと思います。
都市には人々が集うことで新しい文化が生まれます。古くからの伝統や文化が受け継がれている地域もあります。沖縄サミットでは、沖縄の豊かな文化や歴史を世界に紹介することができました。大切なことは、都市や地方が、それぞれの特徴をいかしながら、住民が主体となって、活力がみなぎる地域づくりに取り組むことであります。
地方分権を進め、住民参加の仕組みを整え、福祉、住宅、ごみ、交通などの地域の課題に取り組み、地域を生き生きとした暮らしの場とする、そして、住民が暮らしの場である地域を誇りに思うことができる、私は日本をそうした国にしたいと思います。
未来を望ましいものにするためには、未来に対する投資を怠りなく進める必要があります。
日本の未来が、若い世代によって切り開かれて、担われていくことに思いを致すとき、教育の在り方は極めて重要であります。教育は、私たちが将来の世代に対して負っている最も重要で崇高な責務であります。先に教育改革国民会議から報告をいただきました。人間性豊かな日本人を育て、創造性に富み、社会を切り開くリーダーを生み出すことのできる教育が求められております。私は、国民的議論を重ねながら、次期通常国会を「教育改革国会」と位置付けて、直ちに取り組むべき諸課題について、関連する法案を提出したいと考えております。
少子化は、日本の将来に不安をもたらします。少子化への対応としては、働く女性の出産や育児を社会全体としてどのように支援していくかという観点が重要であります。これは、女性の社会参加を容易にし、経済の潜在力を高めることにもつながります。
私は、中央省庁改革により新たに設置される男女共同参画会議において、政府全体としての「仕事と子育て両立支援策」を早急に取りまとめ、具体化したいと考えております。
未来を築くには科学技術も重要であります。情報通信、ライフサイエンス、環境、ナノテクノロジーなど、先端分野への投資を抜本的に強化することで、安心・安全で快適な生活を築き、人類の未来にも貢献することができます。新たに定めた「科学技術基本計画」では、今後5年間の政府の研究開発投資として、GDPの1%に当たる24兆円を充てることといたしました。これは大変意欲的な未来への投資であります。
日本が現在抱えている様々な課題を前に、私は切迫した気持ちを持っております。しかし、私たちは、戦後の荒廃から立ち上がり、今や高い生活水準を享受しております。国際社会でも大きな地位を占めております。理想に向けた決意をもって、日本人がその力を発揮すれば、21世紀は更にすばらしい時代となると思います。私は、国民の皆様と希望をもって未来に立ち向かっていく気持ちを共有したい、そして、私自身、21世紀の日本の新生に向け、全身全霊を込めて努力していく決意であります。
1月6日からは、いよいよ新たな中央省庁体制がスタートいたします。「政府の新生」とも言うべき、21世紀の我が国にふさわしい行政システムを構築する歴史的な改革であります。私は、この改革の本旨である「国民の立場に立った総合的・機動的な行政」の実現に向けて、全力を尽くしてまいります。
日本の改革を進める上で、皆様に是非とも御理解をいただきたいことがございます。それは、政治の安定の重要性であります。改革には痛みが伴います。財政の健全化など、将来の世代のために、私たち世代が我慢しなければならないこともあるでしょう。政治が安定し、力強い意志を示すことができなければ、改革は不可能であります。自由民主党、公明党、保守党、3党の連立政権は、改革のための政権であります。協力して政治の安定を図り、責任ある立場で政権を担う、これは、国民のことを第一に考えた与党3党共通の信念であります。
私は、連立与党結束の下、国民の皆様の声に耳を傾けて、また、積極的に語りかけながら、必ずや大きな成果をあげ、期待にこたえていきたいと考えております。
改めて、国民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げる次第であります。
最後に、新年が皆様にとりまして良い年でありますように、心からお祈りを申し上げまして、新年のごあいさつといたしたいと思います。
【質疑応答】
● 第二次森改造内閣がスタートしまして、13年度予算案の編成が終わりました。予算案は景気対策に配慮したものということですけれども、景気をめぐりましては、株価の値下がりなど、先行きの懸念もあります。こうした状況も踏まえまして、景気を自律的な回復軌道に乗せるために、新たな具体策を検討される考えはありますでしょうか。また一方で、予算案は、財源の不足を補うために国債を新たに28兆円余り発行しています。財政構造改革という課題もありますけれども、これにどのように取り組んでいかれるお考えでしょうか。
景気は、家計部門の改善が遅れるなどいたしまして、厳しい状況をなお脱しておりませんが、企業部門を中心にいたしまして自律的な回復に向けた動きが継続いたしておりまして、全体としては緩やかな改善が続いていると考えております。
今後、年度末に向けまして、所得の増加に伴う個人消費の緩やかな改善等から自律的回復に向けた動きが広がっていくことが期待されるわけでありますけれども、拡大テンポが低下している米国経済の今後の動向や、下落基調で推移しております株価等の動向に留意する必要があると、このように考えております。
政府といたしましては、まずは経済を自律的な回復軌道に確実に乗せるために、「日本新生のための新発展政策」の着実かつ円滑な実施を図ることといたしております。
また、平成13年度予算におきましては、公需から民需への円滑なバトンタッチを進めるために、公共事業関係費について11年度、12年度当初予算と同水準を確保するとともに、景気回復に万全を期すため、引き続き3,000億円の公共事業等予備費も計上しているところでございます。
13年度予算の早期の成立をお願いすること等によって、もう一押しというところまできている景気に万全を期してまいりたい、このように考えております。
● 続きまして通常国会の召集時期について伺います。当面、通常国会の召集時期が焦点となっております。与党内には、1月31日に召集するという案がある一方で、野党側は1月中のできるだけ早い時期の召集を求める意見が出ております。総理としてはどのように考えていらっしゃいますでしょうか。
今、御指摘ございましたように、通常国会の召集時期については、この中央省庁改革のスタート後の状況をよく見極める必要があると考えております。さらに、外交日程なども十分検討に入れなければなりません。与党とも十分相談をしながら、慎重に判断をしたいと考えております。
● 一方、今年は参議院選挙の年でもあります。今年のイタリアで開かれるサミットは7月20日から22日になるという見通しのようでして、与党内にはサミット終了後の7月29日に参議院選挙の投票を行ったらどうかという案も浮上しているようであります。この選挙の日程についてはどのようにお考えでしょうか。また、その参議院選挙の勝敗ラインですけれども、自民党の古賀幹事長らは、与党3党で過半数を確保する、これを勝敗ラインにしたいという考えを示す一方で、自民党の中には、3党で現有議席を上回ることを目標にすべきだという意見があります。総理は、参議院選挙の勝敗ラインについてはどのようにお考えでしょうか。
参議院の選挙の日程につきましては、サミットの日程など様々な点を考慮しなければなりません。今後、検討していくべきものであると考えております。私としては、まずは、とにかく景気の本格的な回復をやりたい。IT革命への対応、さらに教育改革や社会保障改革の断行など、与党3党が結束して、国民から求められております政策を着実に実行することで、参議院選挙において国民の皆様から評価をいただきたいと考えています。改革を実行するには、何よりも政治の安定が大切であります。現在の連立政権は、改革のための政権でありまして、協力をして政治の安定を図って、責任ある立場で政権を担うというのは、与党3党共通の信念でもあるということも、是非、国民の皆様に御理解をいただきたいと思います。今後、与党間の選挙協力の在り方についても、今、話が進められているわけでありますが、具体的な議席獲得数、いわゆる獲得議席数は、こうした努力の結果としてのものであると、このように考えています。
● 外交問題についてお尋ねします。日本とロシアの平和条約の締結交渉は、当初、西暦2000年までというクラスノヤルスク合意を一つの目標として進められてきたわけですけれども、結果的にはこうして2つの世紀をまたぐことになりました。早い時期に訪露を検討されていらっしゃるようですが、日露間の平和条約締結といった懸案の解決に向けて、どのような道筋で進めていこうとお考えなのか、お話しください。
ロシアとの平和条約締結交渉につきましては、昨年11月のブルネイにおきます日露首脳会談の結果を受けまして、これまで事務レベルでの協議も行われてきたわけであります。
1月16、17日に、河野大臣が訪露をいたしまして、イワノフ外相と協議を行う予定になっております。さらに、平和条約締結に向けた具体的な進展が得られるのであれば、私がイルクーツクを訪問することで、プーチン大統領との間に合意がなされているわけであります。
問題が難しいものであるということは言うまでもありませんが、政府としては、北方四島の帰属の問題を解決することによって平和条約を締結するとの一貫した方針の下で、引き続き精力的に交渉を進めていく考えでございます。
1月は、私の日程、あるいはプーチン大統領の日程等でこの1月中にということも当初の考え方が合意に達しておりませんが、恐らく、これも国会の日程とのことも踏まえなければなりませんし、国会の御了承も得なければなりませんが、2月には、訪露でき得るのではないかというふうに私は期待をいたしております。
● 次に、教育改革についてお尋ねします。総理は、通常国会を教育改革国会と位置付けていらっしゃいますけれども、先の教育改革国民会議の最終報告でうたわれた教育基本法の見直し、これは具体的に答申があったわけですが、与党内にはまだまだ基本法の見直しについて慎重な意見もあります。今後、どのように基本法の見直しに取り組まれるのか、お答えください。
教育基本法の見直しにつきましては、教育改革国民会議の最終報告におきまして、新しい時代の教育基本法を考える際の観点として、
新しい時代を生きる日本人の育成、
2番目には、伝統・文化など、次代に継承すべきものの尊重、
3番目として、教育振興基本計画の策定等を規定すること、
この3点が示されておりまして、政府におきましても、最終報告の趣旨を十分に尊重して見直しに取り組むことが必要であるという御提言をいただいているわけであります。
私としては、この最終報告を踏まえまして、今後さらに、教育基本法の見直しにつきましては中央教育審議会等で幅広く国民的な議論を深めるなどいたしまして、しっかりとこれに取り組んで、成果を得てまいりたいと、このように考えております。
与党3党からは、教育改革国民会議にオブザーバーとしての御出席をいただいてこれまでの議論を進めてきているわけでございまして、今後、与党の中におきましても、これらの議論を深めていただければというふうに考えています。
なお、自民党におきましては、既に昨年の10月から文教部会・文教制度調査会におきまして、教育基本法の勉強会を開催し、議論を開始しているわけでございますが、いずれ与党3党におきますこれの専門の、恐らく協議機関が設けられるということになるのではないかというふうに思っておりますが、極めて重要な政策でございますので、これまで答申をいただきまして、今度の国会で御審議をいただきます法案とは別個に、この教育基本法の改正につきましては、これはまず与党内の議論、そして政府におきます中教審の議論、そうしたことを踏まえながら、最終的な合意形成に最大の努力をしていきたい、このように考えております。
● 政権の浮揚策についてお尋ねします。第2次森改造内閣が発足しまして、ほぼ各社の世論調査が出そろったところなんですけれども、全体的に見ますと、残念ながら内閣の支持率は依然として低い水準にとどまっています。このままだと、与党内からも政権の求心力について懸念する声が上がりかねませんし、野党側は当然参議院選に向けて対決姿勢を強めてくることが予想されます。国民の支持を得るために、総理はどのようにして政権運営に取り組んでいかれるのかお話しください。
常々昨年からも申し上げておりますが、内閣支持率、あるいは不支持率に関する調査結果については、世論の動きを示す一つの指標として謙虚に受け止めております。支持率が上がれば励みにもなりますし、下がればなお謙虚に受け止めていくことが大事だというふうに私自身、それを自分に言い聞かせているわけであります。しかし、それは結果でありまして、私は支持率を上げようという思いで政治を行うべきではないと考えております。
支持率の変動要因には様々なものがあると考えられますけれども、私としては、常に基本を忘れないようにして、国家、国民のために何が必要かを常に第一に考えることが大切であるというふうに考えております。
支持率の動きに一喜一憂することなく、あと一押しというところまできました景気を何としても本格的な回復軌道に乗せるとともに、IT革命への対応、あるいは今、御質問がございました教育改革、さらには、社会保障改革の立法など、国民が求めています政策を着実に実行に移していきたい、このように考えています。結局、支持率というのはその結果であるというふうに考えているわけであります。
● 先ほどの年頭の抱負の中で、安全保障について、より主体的に我が国にふさわしい役割を果たしていきたいとおっしゃっていますが、具体的にどういうことをイメージされているのか。今までのPKOによる協力とどう違うか具体的にお話しください。
例えば、国連を中心といたします国際平和のための努力に対しまして、我が国としてはPKO法を制定して、カンボジア等にPKO要員を派遣するなど、憲法の枠内でできる限り積極的な協力を行ってきたわけであります。現行の協力で十分かという点につきましては、PKFの凍結の解除をめぐる議論にも見られておりますとおり、国会や党内においても様々な御議論が行われているというふうに承知をいたしております。
また、例えば、小型武器規制を含む紛争予防への取組でイニシアチブを発揮するなどしてきておりますが、今後とも一層の努力をしたいと考えております。
私としましては、このような点を含めまして、国会、国民各位において、十分な御議論をいただきながら、憲法の枠内で国連を中心とする国際平和のためのの努力に対する協力の具体的な在り方について積極的に検討していきたい、という旨のことを述べたわけであります。
● 先ほど来から総理が言われている政治の安定が重要だという点ですけれども、国民から求められている政策を着実に実行することが重要なんだということですが、具体的にどういうことなんでしょうか。長野県知事選などだとか、あるいは我々が常日ごろやっている世論調査を見ましても、政党そのもの、あるいは政治家そのものの在り方、信頼が問題になっています。こうした中でどう信頼を回復していくか、具体的に、あるいは今のこの現状をどういうふうに御覧になっているのか。そうした中で参議院選挙を戦うわけですけれども、どのように取り組んでいかれるのかお聞かせください。
長野の知事を今、例に挙げられましたけれども、確かにそうした地方自治体の首長の選挙にやはり大きな変化があることは否定できないと思います。それはやはり、住民の皆さんの希望というものが非常に複雑になっているものですから、そして多岐にわたっているわけですから、単に従来の延長線で地方自治というのは進めていけるような時代ではなくなってきているというふうに、やはり私なども感じます。
そういう意味で、特別長野がどうだとか、他のところはどうだということではなくて、やはりそれぞれそうした選挙に大きな、ある程度の変化を求めるということは、例えば多選であるとか、あるいは県庁時代からの延長線上にあるとか、いろんな意見があると思います。あるいは、地域によっては中央の官庁から来た知事がずっと続いていることによって、逆に地元の人がいいという意見もあります。長野などはその逆だったかもしれませんね。県庁の中でずっと来たと、40年近く県庁におられた人が県政を支配をしてきたということに対して、新しい血を求めたということにもなるんだと思うんです。
選挙は、一つの事例だけ取り上げて、一概にこうだとかああだとか、私は結論付けられないんじゃないかと思います。それだけに、国民の求めているそうした政治への希望と言いましょうか、要求、そうしたものには、どのように的確にこたえていけるか、そういうリーダーと言いましょうか、指導者は、首長に、あるいはまた議員にも推薦をしていくということは、やはり大事だと思いますし、そういう変化というものを十分に党としても見ていく必要があるというふうに思っております。それはもちろん、東京や大阪や、東京と大阪でもまたちょっと違います、しかし、東京や大阪や、そうした大都市とまた地方との違いもあるわけですし、選挙というのは一概に一つの考え方をすべてに基準として結論付けてしまうということはとても危険なことだと思っています。
それから今、もう一つの、御質問の後半に当たると思うんですが、かつて私たちがこの国会に当選をしてきたころは、端的に言えばイデオロギーの対立だったと思います。自由民主党と対峙して、社会党あるいは共産党という、また国際的にもいわゆる自由主義社会と社会主義社会というような対峙でしたわけですから、日本の政治もやはりそれにある程度準じてきたと。だから、国民の皆さんはそれに対して、自分たちの社会がどうあるべきか、自由主義で民主主義のルールでやっていくべきなのか、あるいは全体主義でやっていくべきなのかということに対する、判断のよりどころというのはあったんだと思います。
しかし、もう今日では、そうしたイデオロギーの差異というものは、ほとんどの政党になくなったというふうになりますし、逆に言えばテーマは、先ほど私が冒頭に申し上げましたように、人間の生活の、本位と言いましょうか、そういうものに対しての違いということになりますから、これは政党によってそんなに大きな違いがあるわけではないと思うんです。
本来で言えば、そういう政党と政党が、我が国は、ある意味では二大政党を指向しながら、衆議院の場合はこういう制度にしたわけですけれども、残念ながら私はまだこれは過渡期なんだろうと思います。だからこそ、幾つも政党があるんだろうと思います。何とかしていろんな形で政党を1つにまとめようとして、これまで様々なことを、この7、8年は続けてきたと思いますが、必ず、ついては離れ、ついては離れという時代も、これまでの時代だったというふうに思います。
そういう意味で、私どもとしては連立であるということはこれは否定できない。選挙制度上もこれはやむを得ないことだというふうに思っていますし、そういう意味から言えば、結局どの政党とどの政党がしっかりと組んで、本当に国民のための政治をしっかり一つずつ確実にやっていくかということを、やはり評価していただくということであって、単に選挙のために寄り集めて、中身の政策は違うけれども、そこはとりあえずオブラートに包んでおいて、まず選挙協力だろうと、しかし、結果的に進めてきて、またそれがばらばらになってきたということは、これまで数年間の繰り返しであったということは、記者の皆さんは一番よく承知をしておられるんだろうと思います。
そういう中で、どういう方法が一番いいのかどうかということよりも、まずはやはり着実に政策を具体化させ実行させていくという、それはやはり政治の責任と言いましょうか、そうしたことをやはり国民の皆さんに理解してもらえるように、努力していくということは当然だろうと思いますし、当然国民の皆さんから選ばれる立場からは、あるいはいかに信頼され得る行動、そういう政治家の一つの理想像というものを絶えず追い求めていかなければならんということは、言うまでもないんじゃないでしょうか。
● 今年、持ち越された大きな外交課題では、日朝交渉の問題があると思います。この1年の動きについて、総理はどうのようにお考えになりますか。
この1年ですか、昨年の1年ですか。
● いや、この1年です。
昨年は、御承知のように北朝鮮が、大変大きな、国際社会に参加していこうというそういう意欲が非常に明確に打ち出されたということで、これは北東アジアの緊張感を解決する意味でも大変よかったと思っていますし、それから20世紀最後の年でもありましたけれども、一番国際社会から見れば閉鎖的な状況になっていた北朝鮮が、国際的に窓を開いたと、ドアを開いたということは、歓迎すべきことだと思っております。
北朝鮮が国際社会に参加をしていこうという、そういう状況の中に、我々がすべてそれを後押しをしていこうということも、沖縄のG8主要国会議でもこのことを決議をしたわけでもあります。ただ、日朝間、あるいは、いわゆる南北間、これはそれぞれの経緯があるわけでありまして、北朝鮮がこうした形で国際社会に窓を開いた、ドアを開いたということは、これはやはり長い間の韓国の粘り強い交流政策というものもあったと思いますけれども、同時にまた、日本とアメリカと、そして韓国とが協力しながら、北朝鮮に対して粘り強い交渉をしてきたということも、そうした効果が出てきたことだろうと思っております。
そういう意味で、昨年は大きな画期的な出来事がありましたけれども、今少しそれぞれ、もう一度まず窓を開け、まずドアを開けて参加をしていただいたという状況の中から、それぞれの国は、さらにそれぞれ固有に持っているいろんな経緯があるわけですから、それについて慎重に駄目押しをしながら、交渉を進めていくということになるんじゃないかというふうに思います。
しかし一方、ドイツでありますとかイギリスでありますとか、そうした国々も北朝鮮とのいわゆる正常化に進んでいくというふうに、今年の前半はそういうふうに動いていくんだろうと思っています。
ただ、日本の場合は、御承知のように安全保障の問題でありますとか、人道問題がございまして、これらのやはり国民の皆さんの大きな期待、そしてまた不安、そういうものを除去しながら交渉を進めていかなければならんということは言うまでもありませんが、他の国々がそれぞれの立場で進めていくことを、ある意味では横目でにらみながらも、決して慌てる必要はない。日本にとっては、大変大事な問題点が幾つかあるわけでありますから、それを一つ一つ、粘り強く交渉をしてそれらの障害を除けるような努力をしていくことが、今年の最大の外交の課題だというふうに、私自身も認識をいたしております。
● 財政構造改革についてなんですけれども、今までどおり経済の自律的な回復を目指すということですが、具体的に経済成長率が例えば2%になった段階で取り組むとか、そういう目標的なものを掲げるお考えというのはあるんでしょうか。
13年度予算編成につきましては、先ほど申し上げましたように、まず景気に十分配慮したい、そして1日も早く我が国経済を本格的な回復軌道に乗せたい、我が国経済の新たな発展の扉を開くという、そういう観点から編成を行ったわけです。
これにつきましても、いろいろな御批判、御意見もあることは、我々も十分承知をしておりますが、具体的には公需から民需へのバトンタッチを円滑にさせたいと、それから、公共事業関係につきましても、いろいろこれは様々な御意見がありましたけれども、11年度、12年度当初と同じ水準を確保するということも、こうした景気回復に万全を期すために行ったことでありまして、3,000億円の公共事業等の予備費もまた、こうしたことも十分配慮して、せっかくここまで押し上げてきた景気を、逆に軸足を動かしてはいけないと、軸足をずらしたらせっかくここまできたことが、すべてまた元に戻ってしまうということを、私どもは一番考えてこの予算編成をやらなければないらない、ということを第一に考えた予算編成であることは、是非御理解をしていただきたいと思うんです。
ただし、景気に軸足は置いておりますけれども、できる限り今、御指摘がありましたように財政の効率化、あるいは質的な改善はやはり進めなければならないというふうに思っております。
具体的には、いまだしと言われた意見もありましたけれども、党が大変協力をしてくれまして、思い切って公共事業の見直しもしていただいて、270件以上の事業を中止するということにもなったわけです。これは、正に従来から考えれば画期的なことだというふうに思っております。それから、ODAにつきましても、質的な改革を進めたということも、御承知のとおりだというふうに思います。
そういう中で、さらに地方財政につきましても、地方における特例地方債の発行を導入いたしまして、国・地方を通ずる財政の透明化を進めることも、その一例であったわけです。こうした結果、前年に比べまして、4.3兆円の公債発行額を縮減をいたしたわけであります。
さて、具体的にその2%うんぬんという御指摘がありましたけれども、今まだ政府としては軸足を景気回復にきちっと置いて進めていくということは、私は依然として変わらない考え方で進めていきたいというふうに思っております。しかし、依然、この財政は極めて厳しい状況にあるわけでありますから、この財政構造改革は必ず実現しなければならないテーマであります。そういう意味で、21世紀の我が国の経済・社会の在り方とは切り離して論ずることはできないわけでありますから、引き続き財政の効率化、あるいは質的改善を進めながら、我が国経済の景気回復の道筋を確かにして、その上で今後の我が国の経済社会のあるべき姿を展望して、検討していくものだろうというふう思っております。
幸い、経済財政諮問会議も1月6日からスタートするわけでございますし、当然こうした会議の中におきまして、様々な議論を専門の皆さんの御意見をいただきながら、どういう道筋を立てていけるだろうかということなども、確か6日の日が最初の第1回目の会議になっておりますので、最初は恐らくそういう幅広い議論を展開していくことになるんだと思います。 
記者会見 / 1月4日伊勢市
明けましておめでとうございます。冒頭、私から、1月6日に実施されます中央省庁等改革について申し上げたいと思います。
この改革は、我が国の経済社会全体の構造改革であります「日本新生」に向けまして、まず、国が自らを率先改革し、国政に機動性と弾力性を取り戻し、国本来の役割を果たすことができるよう、「政府の新生」を図るものであります。
これまでの1府22省庁が、行政目的別に大くくりに再編されまして、1府12省庁となります。私は、この改革に万全の備えをする必要があると考え、昨年12月に内閣改造を行いましたが、これにより名実ともに新生政府がスタートすることになります。
改革の本旨は、「国民の立場に立った総合的、機動的な行政」の確立であります。
これまでの組織の所管や利害を超えて、政策の融合化、合理化・統合化を進め、省庁再編のメリットが国民にとってより明確になりますように努力していく考えであります。
例えば、新しい国土交通省では道路、鉄道、空港などをより一体的に整備してまいります。
厚生労働省では、保育などの子育て支援サービスと育児休業などの働く人への対策等を組み合わせ、総合的な少子化対策に取り組むことができます。
総務省では、ワンストップサービスなど地方公共団体と郵便局の連携などが、より円滑に進められると思います。
文部科学省では、類似するプロジェクトを統合することで、より効率的な研究開発が可能になります。
また、環境庁を環境省に格上げし、より強力な環境行政を進めてまいります。
既に平成13年度の予算編成でも施策の整理合理化を進めるとともに、省庁の枠組みを超えた施策の連携を進め、合理化・効率化を進めております。
省庁改革を進める大きな目的に、政治主導の確立がございます。政治主導の確立のためには、まず、内閣が実質的な政策論議を行い、各省庁に対して強い指導力を発揮しなければなりません。今回の改革により設置される内閣府は、経済財政諮問会議、総合科学技術会議などが置かれ、横断的な企画・調整機能を担うものであります。私は、これらの会議を活用し、幅広い視野からの政策を検討するほか、民間の優秀な人材を積極的に登用しながら、内閣の首長として国政に対し強力なリーダーシップを発揮していく決意であります。
同時に、各省庁においても、大臣の政治的な政策判断を補佐し、政治主導を確立するため、多くの政治家が副大臣、政務官として行政府に入ることになります。
一方で、政治と行政に対する国民の信頼を確保することも必要であります。このため、私は、新たに「国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範」を設け、大臣を始めとする政府の要職にある政治家が、規範にのっとって自らを律し、「国民全体の奉仕者」として、その職責を十分果たすことができるよう特段の意を用いる考えであります。
省庁改革は、行政改革の入口であります。行政改革には不断に取り組まなければなりません。昨年12月に決定いたしました行政改革大綱は、21世紀の行政の在り方を示す指針であり、特殊法人改革、公務員制度改革、公益法人改革や、規制改革、地方分権などを引き続き強力に推し進めていかなければなりません。このため、橋本元総理に行政改革担当大臣をお願いしておりますが、1月6日の省庁改革に合わせて専任の事務局も発足させることといたしておりまして、内閣を挙げて行政改革に取り組んでいく考えであります。
省庁改革は、新しいシステムが実際の政策遂行に活かされてこそ、その成果が国民のものとなります。
現在、各省庁では明後日の実施に向けて最終的な準備を行っておりますが、新たな行政システムの下で政府が持てる力を政策の遂行に糾合し、国民の皆様の御期待に応えられますように最大限の努力をしていく考えであります。
国民の皆様の御理解と御協力を心からお願いいたします。
【質疑応答】
● 第1の質問で、地方分権と首都機能移転について首相の意欲をお聞きしたいんですけれども、地方分権で税財源の委譲を何年ごろまでに実行されますか、それから、首都機能移転地を首相として何年ごろまでに具体化させようとされますか、お隣りにおられます扇長官とか、石原都知事らをどう説得されますか、その点をお願いします。
真の地方分権実現に向けて、地方公共団体が活力のある地域社会の実現に責任を持って取り組めるようにするために、財政面におきましても自律的な運営を行えるようにすることが重要であると考えております。このため、国と地方の役割の分担を考えながら、国・地方を通ずる行財政制度の在り方を見直しますとともに、国・地方の税源の配分の在り方について検討することが必要であると考えております。
しかし、現在のようなこういう危機的な財政状況の下では、国と地方の税源の配分の見直しするということは現実的にはなかなか難しいことではないかというふうに考えておりまして、それにはまず、今、我が内閣として最も大事な重点政策であります景気回復を、まず確かなものにしたい。そしてそのことが、こうしたこれからの行財政全体に対する取組のベースになっていくのではないかというふうに考えております。
したがいまして、今後景気が本格的な回復軌道に乗りました段階において、国・地方を通ずる財政構造改革の議論の一環として取り組んでまいりたいと、このように考えております。
それから、首都機能についてのお尋ねでございますが、首都機能移転に関しましては、平成11年の12月20日に移転先候補地に関する国会等移転審議会の答申が出されたわけでありまして、翌21日に小渕前総理から衆・参両院の議長に答申が報告をされたものであります。
各方面には多くの御意見があることは十分承知をいたしております。今後は国会等の意見に関する法律に基づきまして、国会において大局的な観点から御検討いただけるものと我々は考えております。
政府といたしましては、法に定める移転の具体化に向けた検討責務に基づいて、国会における審議が円滑に進められますように積極的に協力していきますとともに、国民に幅広く議論を喚起していきたいと、このように考えております。
● それでは2番目の質問ですけれども、特に地元の伊勢市の記者クラブの方から要望がありまして質問させていただきますが、中部電力さんが北川知事の県議会発言を受けて南島・紀勢両町の芦浜原発計画を断念されました。しかし、地元では、まだ原発立地を巡る動きが完全に消えておらず、中電さんも正式に候補地先はまだ県内にあるというふうに言われています。
それから、世界の原発を巡る動きは大きく変化しておりますし、チェルノブイリ原発は先ほど完全に発電を停止しましたが、世界では今、新規の原発の建設をやめたり、見直す考えが出てきております。
こうした内外の情勢を踏まえ、国はこれまでの原発計画を見直す考えはないでしょうか。
それから、閣議決定での芦浜原発計画の正式撤回はないのでしょうか。御所見をお伺いしたいと思います。
原子力政策を含むエネルギー政策の在り方については、エネルギー資源の輸入依存度等、各国固有のエネルギー事情がございます。また、環境問題への対応等の観点もございまして、各国がそれぞれの条件、環境に応じて独自に判断をしていくものであろうと私はまず認識をいたしております。
エネルギー資源の大部分を輸入に頼らざるを得ない、そしてエネルギー供給構造が非常に脆弱に我が国におきましては、環境保全及び効率化の要請に対応しながら、エネルギーの安定供給を確保するための総合的な施策を講ずることが必要であると、このように考えております。
原子力発電につきましては、燃料供給や価格の安定性に加えまして、発電過程においてCO2を発生しないという環境特性を持っているわけでありまして、このため原子力発電は引き続き我が国のエネルギー供給におきましては、重要な位置付けを有している。そういう判断の下に、今後とも相当程度原子力発電に依存していくものになる、このように認識をいたしております。
したがいまして、政府といたしましては、引き続き、安全確保を大前提にしまして、地元の御理解と御協力を得つつ、一歩一歩着実に原子力立地を進めてまいりたいと考えております。
● 冒頭の発言にもございましたが、昨年12月に閣議決定した行政改革大綱に記されたように、行革の次なる大きな課題は、特殊法人、公益法人改革だと思います。大綱では5年という期限を区切り、特殊法人などを大幅に整理、廃止する方針を打ち出していますが、自社さ政権以来これまでも改革が叫ばれながら、なかなか進展してこなかった経緯があります。今後、具体的にどう取り組んでいくのか、総理の考えをお聞かせください。また、橋本龍太郎行革・沖縄担当相は、5年でなく最初の1年で終わる決意で臨むと語っています。この考えについてはいかがでしょうか、お願いします。
今、御質問の中にございましたように、行政改革は我が内閣にとりまして最重要課題の1つでありまして、1月6日に新たな府省体制が発足いたしますが、この新たな体制にやはり魂を吹き込むという意味からも、引き続き本格的な改革を進めてまいりたい、私は昨年から常にこのことを申し上げてまいりました。
先般、政府と与党が一体となりまして取りまとめました行政改革大綱は、正に21世紀の行政の在り方を示す指針として、これを策定したものでございまして、平成17年度末までを集中改革期間として、特殊法人、公務員制度及び公益法人の改革等を進めて、特に平成13年度中に、これらの改革の具体的な青写真を策定してまいりたいと考えております。
このため、1月6日の省庁改革時を期しまして、私が本部長となりまして、新たな「行政改革推進本部」を設置いたしますとともに、専任の行政改革推進事務局、約50名の体制を準備いたしておりますが、これを内閣官房に新設いたしまして、特殊法人等改革、公益法人改革及び公務員制度改革に、政府としてもまず先頭を切って取り組んでいきたいと考えております。
このうち、特殊法人、公益法人等の改革については内外の経済社会情勢の変化を踏まえまして、特殊法人等については法人の事業目的の達成度、官民の役割分担の在り方、その事業に関わる費用対効果等の観点から、公益法人につきましては官民の役割分担及び規制改革の観点等から、それぞれその抜本的な見直しを行わなければなりませんが、その際13年度中に整理合理化計画を策定するという基本スケジュールを確実に実現するため、できるだけ見直し作業のスピードを早めまして、早期に改革の方向性を明らかにしていくことが必要であると考えております。
また、公務員制度の改革につきましては、今年6月には基本設計をまとめることといたしておりまして、これを実現するための法改正を含め、着手可能なものから逐次実施することが必要であると考えております。
この件につきましては、昨年末、橋本担当特命大臣と我が党の野中本部長、当然、与党3党で協議をしまして、この政府与党の両責任者が話し合っておりまして、その結果も私は橋本さんから直接電話で報告を承っております。
いずれにいたしましても、これらの改革につきましては、正にこれからが正念場でございまして、私としては、強い決意を持って全力を挙げて取り組んでまいりたいと考えております。
● 昨年も1度伺っていますが、日朝国交正常化交渉についてです。ここ数年間、対北朝鮮政策については、日米韓の緊密な連携を保ちながら進めてきましたが、昨年末クリントン大統領が、準備を進めていた訪朝計画を断念すると発表しました。ブッシュ共和党政権に移ると、ペリープロセスも停滞するのではないかという分析も出ています。こうした、国際的な状況変化を踏まえて、総理は日朝国交正常化をどうのように取り組んでいかれるおつもりなのでしょうか。中断している政府間交渉再開の目途も含めまして、お考えをお願いいたします。
日朝国交正常化交渉につきましては、昨年の4月に約七年半ぶりに交渉が再開をされたわけであります。それ以来、10月末の北京での会談まで、3回にわたりまして交渉が行われました。これらの交渉を通じまして、双方の各々の基本的立場が明らかにされまして、交渉は双方の立場の共通点を今、探っていく、そういう段階に入っているというふうに考えております。
次回の会談につきましては、前回会談での協議を踏まえまして、更によく検討を行いまして、双方の準備が整ったところで行うこととなっておりますが、いずれにいたしましても、政府としては、韓米両国と緊密に連携をしつつ、北東アジアの平和と安定に資するような形で、第二次世界大戦後の日朝間の正常でない関係を正すという基本方針の下に、日朝国交正常化交渉に粘り強く取り組んでいく考えでございます。
今、アメリカのことも御質問の中にございましたけれども、北朝鮮がこうして国際社会の中に責任を持っていこうという動きが見られたということは、これは非常に好ましいことだと私も考えておりますし、沖縄のサミットでもG8首脳国でこれを促進をさせて、バックアップ体制を取ろうという決議をしたところでございます。
こうした北朝鮮の窓を開くと言いましょうか、ドアを開くと言いましょうか、そういう御判断になってこられたということは、これはやはり、これまでの日韓米3国の、より協調した対応の仕方が、そうした北朝鮮が国際社会の中に参加していくという好ましい姿になってきたものだろうと思いますので、これは我々としては歓迎をしなければならないと思っております。
しかし、それぞれの国よっては、それぞれ北朝鮮との経緯や過去のいろいろな事柄については、それぞれ違うわけでございますから、私どもとしては特に人道上の問題、あるいは安全保障上の問題、こうした懸案の解決に向けて全力を傾けていきたいと考えております。 
記者会見 / 平成13年4月18日
それでは、私から冒頭に若干お時間をいただいて、お話を申し上げたいと思います。
私は、このたび政権から退くことを決意いたしまして、既に閣僚や連立与党幹部の皆様に、この旨をお伝え申し上げて、そして先日自由民主党の両院議員総会におきましても、その旨を表明いたしました。本日は、この記者会見を通じまして、国民の皆様にごあいさつを申し上げたいと存じます。
政権を担当させていただきましてから1年余の間、私は国家、国民への責任を果たすべく、一日一日全力を挙げて走り続けてまいりました。この間、国民の皆様方から賜りました御支援また御声援に対しまして、まず冒頭に心から感謝を申し上げたいと思います。
私は昨年4月の就任以来、21世紀の扉を開く、そういう日本国総理大臣としての立場を与えられたわけでありまして、日本国と国民生活の将来に希望と活力をもたらすような、「日本新生」を掲げまして、その基礎づくりに没頭してまいりました。そして今、なお道は半ばでありますけれども、さまざまな分野で一定の道筋をつけることができたと考えております。我が国の現下の最大の課題でございます景気の回復と新世紀への基盤整備につきましては、その関連諸施策を盛り込みました平成13年度予算がお陰様で昨年度内に成立を見ることができましたし、重要な予算関連法案につきましても概ね成立を見ることができております。
更に、今月初めには、緊急経済対策を政府・与党一体となりまして決定をさせていただき、日本経済の構造調整とデフレ回避に取り組む断固たる決意を内外に示すことができました。
次に大きな課題でございます経済構造改革につきましても、経済財政諮問会議を中心に今、集中的に議論を進めておりまして、本日もまた5時半から、たしか7回目ぐらいになりますでしょうか、この会議を今日も行う予定でございまして、近い機会に、6月を大体目途にいたしておりますが、大きな一つの枠組み、モデルプランを作りたい、このような方針で議論を進めているところでございます。
21世紀、我が国経済社会の発展を左右いたしますIT革命の対応につきましては、IT基本法を成立させることができましたし、国家戦略としての「e-Japan戦略」も決定し、官民挙げてこれを今、推進いたしておるところでございます。この国会にも関連した法案が、恐らく十数本御審議をいただいているところでもございます。
また、21世紀を担う人を育むための教育改革につきましても、既に具体的な改革法案を今国会に提出させていただいております。
私は、今年1月の施政方針演説の中で、国民の皆様に数々のお約束を申し上げましたが、これにつきましても着実に実施してきております。具体的には、未来への先行投資になります科学技術振興のための新基本計画の策定、国民生活の安定・安心に関わります社会保障制度の再構築に向けました大綱の策定、そして、1府12省庁体制発足に伴う公務員制度の改革の大枠の定義、更に、行政改革の関連といたしまして、いわゆる特殊法人・認可法人、これの大改革と言いましょうか見直し、そして新たな規制改革推進計画の取りまとめなどがございますし、特に環境問題につきましては、いわゆる「環の国」づくり、これもいよいよ具体的な検討に入ってきているわけでございます。
一連のこれらの諸改革は、将来を見据えたものでございまして、いずれも一朝一夕では目に見えて成果の出るものではないと思いますが、我が国の次への飛躍を期しましてその道筋を用意するということであろうかと思います。ちょうど今、4人の方々が次の自由民主党総裁、その椅子を求めて議論をしておられますが、今日も記者クラブの意見を伺っておりましたけれども、ほとんどの皆さんの御意見というのは、今、私がお示し申し上げました道筋に沿って、改革を進めていただけるものであろうと期待をいたしておるところでございます。
外交面では、3月後半、日米首脳会議、日ロ首脳会談に相次いで臨むことができました。アメリカのブッシュ大統領との会談では、日米経済の協調的な建設で合意をした上に、日米間の新たな同盟・信頼関係を誓い合いました。ロシアのプーチン大統領とは、この1年の間に6回の会談を重ねまして、個人的な信頼関係を築いたことによりまして、北方四島の帰属を含む、平和条約締結問題につきまして、ようやく具体的な話し合いの段階にまでこぎつけることができたと思っております。
とりわけこの1年間、私は実に11回海外出張をいたしておりますが、実に地球を大体5周回った計算になります。マルチの世界会議も8つのグループ会議がございました。こうしたことも、恐らく20世紀から21世紀に移り変わる時期にあって大きく精勤を要するという、その中で世界の首脳たちの、いろいろな大きな活動、展開があった、その中にまた私も一緒に行動をしてきたということであろうかと思います。プーチン大統領とは実に6回、クリントン大統領とは5回、金大中大統領とはたしか7回だと記憶いたしておりますし、朱鎔基首相とは3回お目にかかっておりますが、大変多くの方々とお目にかかりましたのも、そうした大きな時代の流れを象徴するものではなかったかなと思っております。
特にこの1年間、外交面で私はアジアの近隣諸国との友好関係を深めるということは勿論でありますが、21世紀日本外交の新たな多角的な展開ということを意図してまいりました。昨年7月の九州・沖縄サミットを成功裡に開催することもできました。また、日本の首相としては10年ぶりに南西アジアを訪問することもできましたし、ネパールでありますとか、そうした国に初めて日本の首相が訪れることも実現することができました。また、サハラ以南のアフリカ三カ国も、これも日本の総理としては初めて訪れることができまして、「人間の安全保障」を我が国外交の大きな機軸にすることを世界に明らかにいたしました。これらは、今後我が国の国際的な地位の幅を広げ、信頼度を高めることにつながるものと考えております。
振り返りまして、1年という期間は、決して短くありませんが、多くのことを成し遂げるには、必ずしも十分な時間ではなかったかもしれません。しかし、両院議員総会で申し上げたのでありますが「長きを以って貴しとせず」というふうに私は考えていました。毎日、毎日、小渕前総理がああした事態でお倒れになった後を受け継ぎましたので、私はしっかりとお約束を果たすことと、そして先ほど申し上げました新たな21世紀の日本の各般にわたります道筋をしっかりつけたい、そういう思いで全力投球、全力疾走政治によって、毎日、毎日を一所懸命、私自身はやるだけのことをやり遂げたという充実感を持っておりまして、今この記者会見に臨んでいるわけであります。
先般、両院議員総会で私は野球には先発完投型もあれば中継ぎ型もあれば、佐々木投手のようなセーブポイントを上げるタイプもあるだろうというふうに申し上げたら、皆様方の一部から大魔人にでもなったつもりでいるのかねという御批判もございましたが、決して私はそのようなことを考えているのではないのであって、私なりに考えれば、先ほど申し上げたように小渕前総理の後を受けて、しっかりとその道筋をつけてやるべきことはやったと、ある意味では中継ぎ役をしっかりやり遂げたというふうに私は思っているわけであります。
一方、日本の政治は、相次ぐ不祥事もございまして、そして国民との間の信頼関係に大きな溝を生じてしまいました。国民の皆様から、極めて厳しい御批判があることを、私自身も謙虚に、かつ真摯にも受けとめておりまして、今回退陣を決意いたしましたのも、国民の皆様の政治に対する信頼を何とかして回復させたい、このために人心を一新し、新たな体制の下に原点に立ち返って、政府・与党が努力しなければならない、このように考えたからでございます。
これからの日本の政治は、必ずしも私は無党派層が中心になって日本の政治の方向を定めていくということにはならないと思うのです。やはり我々が目指した、また各党が目指した小選挙区制度という制度は、二大政党というものを求めたわけであります。そうした政権交代が容易にでき得るような、そういう政治体制をつくろうと、お互いに国の繁栄、国民の幸せのためには、双方向で与党も野党も協力していけるような、そういう体制を作ろうということでスタートしたのが政治改革であったと、私はその原点を改めて思い起こしているわけでございまして、そういう意味で私は今こそ自由民主党に対して大きく思案があると、そうしたことも十分認識をしながら、そうした皆さんの期待をもう一遍自由民主党にしっかりと取り戻していく、そのための捨て石に私はなるべきだと判断をいたしたわけであります。
今こそ国民の信頼を取り戻して、そして政治に新しい息吹を吹き込んで、政党政治の回復を訴えていくことが重要であろうと信じたわけでございます。
私は、よくスポーツに例えますので、先般も両院議員総会で申し上げたんですが、ちょっと理解をされていないというふうに記者さんからも聞きました。私は、セービングというのはラグビーの中では一番尊い行為だということを申し上げたんですが、あとからセービングとは何だねと聞かれて、説明不足だったなと思いました。大きな人たちが10人ぐらいでボールを蹴飛ばしてきて、これを防ぐには自分の身を挺してボールを生かすしかないわけです。しかし、大きな体の人たちが10人もドリブルをしてボールを転がしてくる、その敵とボールとの間を離すには、自分の身を挺してその間に入るしかないわけです。その代わり必ず10人か20人の両チームから必ず足蹴りされることは間違いない、大変に苦しい、また勇気のある行為です。私は敢えてそのことをやることが我が国の妙技だと思っていますから、敢えて身を挺してボールを生かして、そしてそのボールをみんなで協力してゴールまで運んで、見事にトライを結実させてほしいという気持ちを織り込んで、まさに身を挺したい、このように申し上げたわけであります。
私は、政権担当者としてこの場を去るわけでありますが、これからも一政治家として新しいキックオフをし、そして一党員として国民の政治への信頼回復に全力を挙げてまいりたいと考えております。
これまでの御支援と御協力に対しまして重ねて国民各位にお礼を申し上げ、これからもまた御指導賜りますようにお願いをして、私のごあいさつとさせていただきたいと思います。
【質疑応答】
● 先ほどの冒頭発言にもございましたが、国民との信頼関係の溝が生じたということがありましたけれども、任期途中で退陣決断に至った最大の理由というのは具体的にどういうことだったんでしょうか。
先ほど申し上げましたように、国民との間の理解が得られない面が出てきたということを非常に肌で感じました。まず、KSD事件でございますとか、あるいは外交機密費をめぐる事件を始めといたしまして一連の不祥事がございました。また、私自身の言動による御批判もあったことも私は率直に認めておりまして、そういう意味で残念ながら国民の皆様から十分に理解を得ることができなかったということだと思います。そして、一連の不祥事をめぐる国民からの厳しい御批判につきましては、私自身、党、内閣を預かる者として謙虚に、かつ重く受け止めてまいりました。今回、退陣に至りましたのは、政治に対する信頼をもう一度しっかりと回復するためには、新たな体制の下で改めて原点に立ち返って努力する必要があるというふうに考えたからであります。ですから、2つあると思います。1つは、私ではいけないということであれば私が去るべきであろう。それは先ほど申し上げましたように、まず自分の身を挺することであろうと考えた。私は就任をいたしましたときも、自分の座右の銘は滅私奉公だと申し上げた。古い言葉ですけれども、自分の身を捨てるということが大事だと常々そう考えておりました。もう一つは、自由民主党が国民の信頼の回復を果たして、そして政党として歩んでいけるためには、党が新しく出直すことだ。党が新しく出直すことは何であるかと考えて、そして今のこの党総裁選挙を行っていただいて、新しい総裁を選ぶその選び方と、その結果が自由民主党が本当に出直したな、再生ができるな、という希望と可能性をもたらすものであって欲しいと、このように私は考えたからであります。
● 現在、自民党総裁選が行われていますけれども、次期自民党総裁、首相に特に望まれることをお聞かせください。また、これに関連してですけれども、総理の限りなく全党員、党友の意思を反映する形の総裁選という指示に沿って、各地で予備選が実施されるわけですけれども、国会議員はその結果を尊重すべきだとお考えになりますか。
これも先ほどの冒頭の発言の中で申し上げましたけれども、これからの21世紀のあるべき方途といいましょうか、この道筋について概ね私はその大綱枠をみんなでまとめることができたと思っております。そして、これは政府だけで進めてきたことではございません。事実、与党、またなかんずく自由民主党政務調査会を中心にして党員の皆さんに御議論をいただいて、そして政府・与党で合意し、更にはまた政府・与党で一体となって今、議論をしていく。そういう段階にあるわけでございます。
そしてまた、今4人の総裁候補の方々がそれぞれ述べておられることを拝聴いたしましても、私どもが今、大筋取りまとめてまいりましたことをどういうふうに具体的に実行していくかということになるかと思っております。そういう意味で、私どもとしてこれまで取りまとめましたこれらの諸改革について、是非どなたが総裁におなりになろうともしっかりとその後を私は引き継いでいただきたいなと、そういうふうに私は希望いたしております。それからこれも重複いたしますけれども、この予備選挙、予備選挙に近い県連選挙、そしてまた24日の総裁の本選挙、これはいずれにしましても先ほど申し上げましたように本当に自由民主党が新しく出直したな、いけるなというような、そういう結果を是非みんなで導いてほしいなというふうに、新しい総裁に是非そういうことを御要望したいなと思っているところでございます。
3月13日に申し上げましたことは、全党員、党友の声を限りなく反映してほしいと申し上げた。それは国会中でもございますし、国会が終わりますとすぐに参議院選挙になりますから、そういう意味では本格的な総裁公選規程によります選挙はできませんので、できる限り最短距離の中で、そしてできるだけこの予備選挙の意思が反映でき得る形でやってほしいという意味でございまして、古賀幹事長にもお願い、党執行部も御協議をいただいて、ほとんどの都道府県連がこれを今、実行していただいているということは私の希望に沿っていただけたものだと考えております。
そして、これからその結果を踏まえて24日に国会両院議員、そして県連からの代表が新たに3名ということになりまして、数についてはいろいろな議論が党内であったことは承知しておりますが、少なくとも臨時の今のこの事態の中で3名という投票権を得たということも、私の気持ちも含んでいただけたものだというふうに私は考えております。その結果は各県連、都道府県連で行われる選挙と本選挙とは別なんだということは、いわゆる総裁公選規程や党則上は別なのかもしれませんが、多くの党員、党友が責任と自信を持って決めた結果というものについては、やはり両院議員は私はこれを真摯に受け止めて、その中でみんなでどのような結論を出すかということ、そのことを苦しくてもやり遂げることが私は党再生のスタートだというふうに希望をいたしております。
● 台湾の李登輝前総統へのビザ発給問題についてなんですが、河野外務大臣は国際情勢を勘案して慎重な姿勢を崩していないようですけれども、総理はこれに積極的な考えを持っていると聞いています。総理が在任中にビザを発給する考えはありますでしょうか。
李登輝氏が心臓病の術後の検査のために我が国の専門病院に行って診察を受けたいという御希望がありますことは、かねてから私は承知をいたしております。また、これにはいろいろと昨年からの経緯もございまして、李登輝氏のそのような希望に対しては、これは人道的な見地を踏まえて判断を行わなければならないというふうに私は考えております。一方、本件はこうした人道的側面と同時に、我が国を取り巻く国際的環境と、さまざまな要因も考慮をしなければならない。そういうことを考慮しつつ主体的に決定を行う必要があると、このように考えております。現在、政府部内で検討をしておりますが、いずれにいたしましても私は結論は早急に出したいと、このように考えております。
● 森内閣の1年間、1年余りを振り返りまして、やはり経済問題が特に株価の下落などに象徴されますように、かなり悪化したという認識を私どもは持っておるんですけれども、総理はこの点につきましてはいかがお考えでしょうか。
常々いろいろな機会で申し上げましたし、また国会の答弁でも申し上げましたし、小渕内閣以来それを継承させていただきました私としては、最大の政治課題は景気の本格的回復ということでございました。そして、いわゆる公需から民需への移行をさせていきたいということで、概ねその方向はかなりのところまできておったというふうに私は見ております。
残念ながらこの経済というのは常にいろいろな諸条件が大きな要因をなしていくわけでございまして、いま一歩というような中で消費面、家計部門が思ったような動きがなかった。これにはさまざまな原因があることは何度も申し上げていたわけであります。
同時にまた株価の低迷もございましたし、何と言いましてもアメリカ経済の低迷といいましょうか、これがアジアにも大きく影響をしてきたという、そうした要因が出ることによって、構造的な改革をしていかなければならないだろう。そういう意味で、日本経済の構造の改革をする、その大きな一つのポイントはやはり不良債権の問題であったというふうに思っております。
そしてもう一つは、株価によって動かされている現状というのは、残念ながら日本の株というものはどうしても外人株に影響を受けていく。そして、個人投資家が意外に少ないということなどを考えますと、グローバル化した国際社会の中で、やはり欧米と同じような株の市場環境というのを整える必要がある。そうしたことなどを検討した結果、先ほど申し上げました政府・与党によります緊急経済対策としてこれをまとめ上げたわけでありまして、これを今それぞれの部門に分けましてプライオリティを付けながら進めているところでございます。今4人の方々に、新しく総裁になりそしてまた総理にお就きになれば、まずはこのことをしっかりやり遂げていっていただきたいというふうに思っております。まずこの問題をしっかり解決させることによって国民の皆さんに安心をしていただける。
そして、先般ブッシュ大統領ともお話を申し上げましたが、世界経済の4割を米国と我が国で占めているという、その両国の責任から見ましても、両国がお互いに協調しながら世界経済が持続的に発展可能になるように、お互いに努力していこうということを確認したということもまた、私としても大きなことであろうと思いますし、そうした方向について努力してまいりたいというふうに考えております。
● 日ロ首脳会談について伺いたいと思います。プーチン大統領は首脳会談の中で歯舞、色丹の2島の返還の意思を示したというふうに伝えられておりますけれども、ロシア側は2島返還で決着したいというような立場もあるようですが、日本政府としましては4島ということを求めていくわけだと思います。そこはどのようにアプローチすべきだというふうにお考えですか。
いわゆる56年宣言、やはり我が国としては当時は4島一括返還でございましたから、これは最終的に合意はいたしましたが、そのことで決着でき得なかったというのは御承知のとおりでございます。
それで、私は今回プーチン大統領にお目にかかったときに、この56年宣言というものをもう一度正式に公式に文書化したらどうだろうか、これは、昨年9月にお見えになりました時の日ロの正式首脳会談の中でもこうしたお話がプーチン大統領からも出されまして、私はこれを合意文書にしたいというふうに確認をしたかったわけでありますが、プーチン大統領としては国内の調整等もございますので、このことについて文書化することはいましばらく時間が欲しいということでございましたので、あの時はプーチン大統領と私とで共同記者会見の中で私から述べるということについて、ロシア側の合意を得ていたわけでございます。
そして、御承知のように今般のイルクーツク会談の前々日であったと思いましたけれども、それぞれ私どもはテレビインタビューを通じて考え方を述べたわけでありますが、その際プーチン大統領から、このことはロシア、当時ソビエトでも議会で批准をしている、従って、国民がこれを負う責任があるんだということを明確におっしゃった。私はこれを非常に多といたしました。そして、大統領とお目にかかったときにも、このことはもちろん私どもに対するメッセージでもあるけれども、同時にロシアの国民に対する責任だよということをおっしゃったというふうに私は理解しましたが、そういうことですねと申し上げて、そのとおりだというふうにおっしゃいました。
そういう意味で、ここをまず文書化できたということは、ややもすると2島を先行して返還をしたらどうかという議論になったり、あるいはそういうことで皆様方のマスコミ等にもそういう表現があったと思います。これは2島を先に返すということではなくて、東京宣言はやはり4島の帰属を確定していくということを合意をしているわけであります。
しかし、4つのものをすべて合わせた議論をいつまでもやっていたら同じことを続けるだけのことだし、ロシア側としては国後、択捉については必ずしもまだ彼らの気持ちとしてはそこまで至っていないという現実を考えれば歯舞と色丹については一歩前へ進めましょう、これまでの専門会議よりももっと、より専門的に高度なハイレベルな会議の中で具体的にどうしたらいいのか、ロシア側にも懸念材料はいろいろあるわけですね、例えばそこに住んでいらっしゃる人々のことだとか、いろいろございます。そういう問題や安全保障の問題もロシアとしては大変関心を持っております。ですから、そういう分野の皆さん、経済の問題、そういう皆さんも今度は入って、単なる外務省、外交畑だけの専門会議ではなくて、そういう分野の皆さんも入った新しい1つランクを上げたと言いましょうか、そういう専門的な会議にしましょうということについて、プーチン大統領はそれを了とされたわけであります。
そして、もう一つの国後、択捉については、今後更に引き続きこの話し合いを進めていきましょうということで合意を得たわけでありまして、従って、私はこれを車の両輪というふうに申し上げているわけですが、歯舞、色丹のこのグループと、国後、択捉のこのグループ、多少中身に段差がございます。ございますが、お互いにそのことの議論を進めていく中で、相互にいろいろとまたいい相乗効果が出てくる、そういう要素もあるのではないかということで、まずはこの車の両輪を少し互い違いになるかもしれませんが、動かしていくことによって考え方もまとまっていくのではないか、このような合意を得たわけでありまして、私はそういう意味で大変長い時間掛かりましたし、これまでのすべての合意事項を認め合って、そしてある意味では新しいステップに入ったというふうに私は理解をしているわけでありまして、そのような形で車の両輪をこれからも更にしっかり回していきたいと考えております。
● 総理の在任期間中で報道機関との関係というものが非常に政権に対して、国民に対しても大きな影響を与えたように思います。私は総理番になりまして4か月なんですけれども、今日初めてというか、総理の肉声をきちんとお伺いするのは本当に初めてのような感じもするわけなんですが。
私の何ですか。
● 肉声ですね。きちんと御自分のお考えをお伺いしたのは、これが初めてのような感じさえするんですけれども、メディアとの関係という意味で、ここまで悪化したことについて総理はどのようにお考えになっているかということをお聞かせいただけないでしょうか。
悪化したと私は考えておりませんけれども、総理の考えていること、内閣の考えていること、これは私的なことではないと思うんです。政府としてどうするか、従って、政府の考えたこと、やったこと、私が思うこと、また私がいろいろ行動したこと、これはそこにおられます官房長官が毎日、午前と午後定期的にきちんと会見をされているわけであります。
ですから、官房長官と昨日も話しますと、「官房長官とのお話はどうでしたか」と聞かれても、これは官房長官がお答えする役回りであって、これを私に歩きながら聞くということは、私はやはりおかしいと思うんです。ですから、私はそういう意味では、歩きながら聞くということは本当にいいのかどうか。国際情勢、株価、為替、大変大きな問題がたくさんあると思います。
今日も私は聞かれました。「李登輝さんは、決めたんですか、いつにしたんですか。」そんな大事な問題を歩きながら、我々は苦労しながら今、政府部内の意見を取りまとめている一番大事な時に、官房長官とはよく会いますが、その都度それをおっしゃってくださいと言われても、それは私は責任上そんな簡単に申し上げるわけにはいかないんです。ですから、そういう考え方から言えば、私もお話しすることは決して嫌じゃないんです。できれば、毎日でもこうして会見があってくれればいいと思っているんです。しかし、残念ながらできないでしょう。
この間、あるテレビから、森さん電話しなさい、電話しなさいと討論番組で言われて、私はしたくてしようがなかったんだけれども、それをしたら記者会の皆さんがお困りになるんでしょう。そういう取り決めがあるんでしょう。昨年、小渕さんがそれをやって、その会社は始末書を取られたじゃないですか。私もテレビの画面から5回も田原さんに呼び掛けられて、「総理どこにいるんですか、答えなさい、電話しなさい。」と言われて、私も人間ですからしたいです。私の家に電話はどんどんかかってくるんです。「何で総理は答えないんだ。何で田原さんが呼び掛けているのに電話しないんだ。」と言われる。私がしたらその会社は迷惑が掛かるんでしょう、そんなことを私が考える必要はないのかもしれませんけれども。しかし残念ながら私は電話したけれども、一向に話し中で電話に出てこなかったとも事実なんです。
ですから、本当を言えば私としてはそういう会見をしたりお話しをできることはしょっちゅうあればいいと思っているんです。アフリカへ行った帰りにも記者会見したいな、ミレニアム・サミットに行った後もすぐ会見したいな、いつもそう思っています。しかし、その会見は仕組み上は官房長官がすることになっているわけでしょう。ですから、これは皆さんで考えてくださいと申し上げているんです。
これはもう最後になりますから申し上げますが、歩きながらはやめようなと、できたらどうでしょう、午前、午後、立ち止まって2、3分ずつ取りましょうか、そういう仕組みなら私は喜んでお話ししますよということを私の記憶だけでも2回、記者団の皆さんに申し上げてあります。一向にその御返事はなかった。私は、非常に残念に思っているんです。
今、御質問された方もこれから新聞記者として大きく伸びて行かれるわけですが、我々にも構造改革や規制緩和やいろいろ求めておられるわけですから、皆様方もやはり報道の在り方とか、そうした取材だとか、そういうことの仕組みをやはり少しでも検討されていく、仕組みをみんなで考えていくということは大事なんじゃないでしょうか。それでこそ国民を代表して、皆さんが私どもにいろいろな意見を求める、考え方を聞くということになるんじゃないでしょうか。
是非私は御検討いただきたい。この古い官邸も私で終わりでありまして、次の総裁は今、建築中の新しいところにおいでになると思いますが、そこの官邸では総理の執務室の横にみんなが座り込んでいるというような、そんなおかしな現象はできないような仕組みになるというふうにも聞いております。恐らく日本だけじゃないでしょうか。総理大臣の隣りの部屋に長い間、みんなが座り込んでいるなどというような形は。外国のお客さんたちがよく来られて私に、あの人たちは何ですかと聞かれることがあるんです。お互いに開かれた、そういう報道の在り方あるいは政治もできるだけ情報を出していく、そういうことで言ったら、皆さんも新しい仕組みを是非考えていただきたい。大変生意気なようなことですけれども、私はそういう意味でいろいろな問題点を投げかけたつもりでございますので、御無礼はあったかもしれません。それはお詫びを申し上げますが、是非私はそういう意味での改革をしていただきたいなということを最後に希望いたしておきます。
● もう一点だけ伺いたいんですけれども、これまで総理は退陣する意向を閣僚懇とか、あるいは両院議員総会で既に述べられていますけれども、国民に対して会見で述べられるというのが一番最後になって、しかもこの時期になった。これはどうしてだったんでしょうか。その理由を御説明いただきたいんですが。
これは、ちょっと時間をいただいて恐縮でありますが、3月13日に党大会がございました。その前にさまざまな党の中の動き、あるいは県連の動き等がございました。なおかつ、この13日の大会は従来のように小規模なものではなくて日本武道館で1万人近い全国の党員、党友のお集まりになる参議院選挙前の大事な初めての試みでありますので、できるだけこれが静穏で、そして選挙に向けてお互いに心が一つになる、そういう大会にしなければならぬ。これは総裁として私が一番望むところであります。
しかしながら、その以前に状況が、環境が必ずしもそういう方向ではなかった、そう思いましたので私は確か10日の日であったと思いますが、3月10日に党5役の皆さんに公邸に夜おいでをいただきました。昨日、何かテレビで日曜日の討論会を見ておりましたら、みんな5役が私のところに来て私に辞めろと言ったというようなことを言われた方がありましたが、全然違います。私が皆さんにおいでをいただいて、あの日は確か日曜日だったと思いますので、東京にお帰りになる日の時間、ちょっと遅い時間だけれども、是非おいでをいただきたいということで5役においでいただいて、そして3月13日の党大会には先ほど私が申し上げたように、党の再生を果たす大事な大会になるようにしたい、そういう意味で、私は敢えてこの総裁選挙というものを前に倒してやることで結構ですと。その代わり、党員、党友の全員の気持ちがそれに伝わるようなものにしてもらいたいということを申し上げたわけでございます。
このことが、皆さんから見ればもう事実上の辞任ということで言われるわけでありますが、この時点ではまだ残念ながら予算が審議中でありました。ですから、予算をしっかり上げることと、予算関連法案をしっかり上げるということが国民生活にとって何よりも大事なことだし、先ほどの御質問にもございましたけれども、今の経済の現況から見れば、このことだけは至上命令だと考えましたから、私はああいうことを申し上げて、予算委員会で野党の皆さんにいろいろ責められたらつらかったです。しかし、私はそこで辞めるんですということは言えないです。それは国民のために、国民生活を犠牲にできない。ですから、私はずっと延ばしてまいりましたけれども、しかし幸い皆さんの御努力、または野党の皆さんの御協力もあって予算及び予算関連法案、重要法案についてはほぼ成立する目処もついてまいりましたので、私は初めて両院議員総会でも申し上げ、また閣議でもそういうふうに申し上げたわけであります。
国民に向かって今日まで遅れたということについては、これは御批判があるかもしれませんが、一番いいタイミングはどこであろうかということを官房長官とも十分相談をいたしました。ちょうど党の総裁選挙というのがございましたし、これの妨げにもなってはいけないなと思いました。そして、今のところは順調な党の総裁のいわゆる事前の県連選挙といいましょうか、それが今、行われているところでもございますので、今日のこの日を選ばせていただいて、この機会に国民の皆様にごあいさつを申し上げたというのが、遅れたといいましょうか、今日申し上げた理由になるわけであります。
● 最後に1問、ロシアのプーチン大統領に、自分は間もなく退陣するということをお話になったことを前日北方領土の視察の際におっしゃいました。当時はまだ予算関連法案の審議中であったわけですけれども、そういう時点において他国の元首に辞任の意向を伝えるということについて、今から振り返ってその是非についてお聞かせ願いたいと思います。
これは、そこのところだけを取り上げるとそういうふうになりますが、ずっと実は日本にプーチン大統領が9月にお見えになりましたときから私はそういう意向を申し上げてあるわけです。ちょっと奇異に感じられるかもしれません。それは日本の政治情勢はいろいろありますということを申し上げて、そしてどなたが日本の総理大臣としておやりになってもしっかりやり遂げてほしいし、プーチン大統領には、あなたは恐らくこれからロシアの政権を責任を持って進めていかれることになるだろうと私は思うので、是非あなたの代にあなたの任期の中でこの問題を解決してほしい。これまでゴルバチョフあるいはエリツィン、いろいろな方がおられました。しかし、その都度人が替わったりしますと、またそれらの解釈がいろいろと違ったとは言いませんけれども、また初めから仕切り直すようなことはなかったとも言えないと思います。そういう意味でそういうことをプーチン大統領に申し上げて、自分の置かれている政治状況というものを私は率直に申し上げました。
プーチン大統領も、自分が置かれている政治状況を話してくれました。そして、彼の考え方も話してくれました。それはこういう場所では申し上げられません。いずれまた何かの機会があれば申し上げることはできますが、そういうお互いに心の中から自分の状況、自分の立場というものをみんな率直に話し合うことによって、相手の立場を私は理解し合えると思うし、そういう延長線上の中でブルネイの時にもそういうような話をしております。
それからまた、プーチン大統領も厳しい状況を一時期は乗り越えたねとか、そんなお話もいろいろありました。しかし、私は自分で自分なりの見通しを絶えず立てながら話しているわけでありまして、それだけを取り立てるとそのような御疑問が出るのかもしれませんけれども、全体の長い、サンクト・ペテルブルグからずっと続いている、6回、恐らく時間にして20時間ぐらいになるんでしょうか、その話のずっと延長の中でき来ている話だというふうに是非理解をしていただきたい。
私はすぐ辞めるとか、これでどうだとか、そういう言い方をしているわけではないんです。何とかしてこの交渉をまとめたい、誰がなってもこのことをしっかりやり遂げてほしい、だから、大統領からも、私のことをヨシ、ヨシと言っていましたが、「ヨシ、あなたとやりたいけれども、もしそういう事態でなければ、誰がなっても私はこの姿勢を崩さないで進めるよ。」ということを言っていただいたから、ありがとうと。だから、私も全力を挙げるけれども、もしそういう事態になったとしてもこの考え方をずっとお互いに進めていこう、いってほしいなと。私も一党員としてその時はしっかりとバックアップしていきたいというふうに思うということを申し上げた。そういうお互いに人間同士、政治家同士のやりとりの中で出てきた言葉だというふうに是非理解をして欲しいと思います。 
内閣総辞職に当たっての談話 / 平成13年4月26日
森内閣は、本日、総辞職いたしました。
私は、昨年四月、病に倒れられた故小渕総理のあとを受けて、内閣総理大臣に就任して以来一年余りの間、わが国と国民生活の将来に希望と活力をもたらすよう「日本新生」を内閣の目標として掲げ、諸般の課題に全力で取り組み、様々な分野で一定の道筋をつけることができました。
中でも二十一世紀の経済社会の発展を左右するIT革命に関しては、いわゆるIT基本法を成立させるとともに、「e―Japan戦略」を決定し、官民挙げて強力に推進することとしております。
本年一月には、国の行政組織としては、明治維新、戦後改革に匹敵する歴史的な大改革である一府十二省庁の新体制を無事発足させ、更に、この新しい「器」に魂を吹き込む公務員制度改革等の行政改革を進めました。
外交面では、故小渕総理がその実現に強い意欲を示しておられた九州・沖縄サミットの開催を成功させたほか、二十一世紀日本外交の新たな多角的展開をめざし、日米、日露首脳会談をはじめとして、南西アジア訪問や現職総理としては初めてとなるサハラ以南のアフリカ諸国訪問等精力的にこなしてまいりました。
現下の最大の課題である景気回復と新世紀の基盤整備を図る平成十三年度予算が成立するとともに、去る六日には、緊急経済対策を決定し、日本経済の構造調整とデフレ回避に取り組む断固たる決意を内外に示すことができました。
他方、現在のわが国の政治に対しては、相次ぐ不祥事等の発生もあり、国民の皆様から極めて厳しいご批判があることを真摯に受けとめ、この際、新たな体制のもとで、政治に対する信頼の回復を図りつつ、山積する内外の諸課題に取り組む必要があると考え、総理の職を辞することといたしました。
わが国の経済社会は、現在厳しい状況におかれていますが、新しい展望を開いてゆくためには、国民全体が力を合わせ、勇気をもって抜本的な改革を進めてゆくことこそが重要であると考えております。
これまでの国民の皆様の暖かいご支援とご協力に対し、心より御礼申し上げます。 
 
小泉純一郎

 

2001年4月26日-2003年11月19日(938日)
2003年11月19日-2005年9月21日(673日)
2005年9月21日-2006年9月26日(371日)
1994年(平成6年)、自民党は日本社会党委員長の村山富市を総理大臣指名選挙で支持して自社さ連立政権を成立させ政権に復帰、野中広務らの平成研究会(旧竹下派)が主導的な力を持つようになった。
1995年(平成7年)の参議院議員選挙で自民党は新進党に敗北。河野は続投を望んだが、平成研究会は政策通で人気のある橋本龍太郎を擁立した。小泉らの清和会は河野を支持したが、情勢不利を悟った河野が出馬断念を表明したことで、橋本の総裁就任は確実になった。無投票で総裁が決まることを阻止したい小泉らは森喜朗(清和会)擁立を図るが森が辞退したため、小泉が自ら出馬することを決めた。
既に大勢が決していた上に、郵政民営化を主張する小泉は党内で反発を買っており、出馬に必要な推薦人30人を集めることができたことがニュースになる有り様だったが、それでも若手議員のグループが小泉を推した(中川秀直や山本一太、安倍晋三もいた)。結果は橋本の圧勝に終わったが、総裁選出馬により郵政民営化論を世間にアピールして存在感を示すことはできた。
1996年(平成8年)に村山が首相を辞任し、橋本内閣が成立すると、小泉は第2次橋本内閣で再び厚生大臣に就任する。小泉は相変わらず自説を曲げず「郵政民営化できなければ大臣を辞める」と発言、国会答弁で「新進党が郵政三事業民営化法案を出したら賛成する」と郵政民営化を主張したときは、与党から野次を受け、逆に野党から拍手を受けることもあった。同年、在職25年を迎えたが永年在職表彰を辞退した。
1997年(平成9年)、厚生大臣時代に厚生省幹部と参議院厚生委員会理事と食事を取っていたが、村上正邦自由民主党参議院幹事長が円滑な参議院審議を求める参議院理事のスケジュール管理の立場から、村上への事前通告がなく参議院理事を動かしたことで参議院スケジュール管理に支障を来たしたことを理由に反発した。村上が参議院厚生委員長に対して議事権発動を促し、厚生省幹部の出席差し止めという形で小泉厚相に反発。YKKの盟友だった加藤紘一幹事長を中心とする党執行部は異常事態を打開するために村上を参議院幹事長から更迭しようとするが、村上は参議院の独自性を盾に抵抗。村上更迭という強行案には、党内連立反対派(保保連合派)らの反発を党執行部が恐れたため、小泉厚相に対して村上参院幹事長に全面謝罪させることを提案、小泉が村上に謝罪したことで収束した(この事件が小泉にとって、参議院の影響力の大きさを実感する出来事であった。2001年に首相になった時、トップダウン方針と言われながらも、参議院の実力者であった青木幹雄に参議院枠を初めとする一定の配慮を示す原因になったと言われている)。
1998年(平成10年)の参議院議員選挙、自民党は大敗を喫し、橋本は総理大臣を辞任した。後継として、小渕恵三、梶山静六と共に小泉も立候補したが、盟友の山崎・加藤の支持を得られず、仲間の裏切りにもあい、所属派閥の清和会すらも固めることもできず最下位に終わった(総裁には小渕が選出)。この敗北では大きな挫折感を味わい、敗北後の清和会の会合では、泣いている小泉の映像が残っている。
加藤の乱
2000年(平成12年)、小渕が急死し、党内実力者の青木幹雄、野中広務らの支持により幹事長だった森喜朗が総理・総裁に就任。小泉は清和政策研究会(森派)の会長に就任した。第2次森内閣組閣では安倍晋三が内閣官房副長官に、中川秀直官房長官のスキャンダル辞任後の後任に福田康夫が、それぞれ小泉の推薦を受けて就任した。
この総理就任の経緯は密室談合と非難され、森内閣は森の旧来政治家的なイメージも相まって人気がなく、森の失言が次々とマスコミに大きく取り上げられ、支持率は急落した。このころの小泉は公明党との協力に批判的で、2000年6月の衆院選で公明党候補が多く落選したことについて野中幹事長が「大変なご迷惑をかけた。万死に値する」とコメントしたことを、猛然と批判している。森内閣の支持率は2000年11月には18.4%を記録し、これに危機感を抱いた反主流派の加藤紘一・山崎拓が公然と森退陣を要求し始めた。加藤と山崎は、自派を率いて、野党の提出する内閣不信任案に同調する動きを見せた。一方、森派の会長だった小泉は森支持の立場を明確にし、党の内外に加藤・山崎の造反を真っ先に触れ回った。
加藤はマスコミに積極的に登場して自説を主張し、普及し始めたインターネットを通じて世論の支持を受けたが、小泉ら主流派は猛烈な切り崩し工作を行い、加藤派(宏池会)が分裂して可決の見通しは全くなくなり、加藤・山崎は内閣不信任案への賛成を断念した。これにより、総理候補と目された加藤は、大きな打撃を受け小派閥に転落、一方、森派の顔として活躍した小泉は党内での評価を上げた。
小泉旋風
森の退陣を受けた2001年4月の自民党総裁選に、橋本龍太郎、麻生太郎、亀井静香と共に出馬。敗れれば政治生命にも関わるとも言われたが、清新なイメージで人気があった小泉への待望論もあり、今回は森派・加藤派・山崎派の支持を固めて出馬した。小泉は主婦層を中心に大衆に人気のあった田中眞紀子(田中角栄の長女)の協力を受けた。
最大派閥の橋本の勝利が有力視されたが、小泉が一般の党員・党友組織自由国民会議会員・政治資金団体国民政治協会会員を対象とした予備選で眞紀子とともに派手な選挙戦を展開した。小泉は「自民党をぶっ壊す!」「私の政策を批判する者はすべて抵抗勢力」と熱弁を振るい、街頭演説では数万の観衆が押し寄せ、閉塞した状況に変化を渇望していた大衆の圧倒的な支持を得て、小泉旋風と呼ばれる現象を引き起こす。こうした中で、次第に2001年7月に控えた参院選の「選挙の顔」としての期待が高まる。そして小泉は予備選で地滑り的大勝をし、途中で中曽根元首相、亀井元建設相の支持も得、4月24日の議員による本選挙でも圧勝して、自民党総裁に選出された。4月26日の首班指名選挙で公明党・保守新党の前身保守党、「無所属の会」所属の中田宏・土屋品子・三村申吾の支持を受け総理大臣に指名され同就任した。 
小泉は組閣にあたり、慣例となっていた派閥の推薦を一切受け付けず、閣僚・党人事を全て自分で決め、「官邸主導」と呼ばれる流れを作った。言い換えると、従来の派閥順送り型の人事を排したのである。少数派閥の領袖である山崎拓を幹事長に起用する一方で、最大派閥の平成研究会(橋本派)からは党三役に起用しなかった。人気のある石原伸晃を行政改革担当大臣に、民間から経済学者の竹中平蔵を経済財政政策担当大臣に起用した。また、総裁選の功労者の田中眞紀子は外務大臣に任命された。5人の女性が閣僚に任命された(第1次小泉内閣)。
「構造改革なくして景気回復なし」をスローガンに、道路関係四公団・石油公団・住宅金融公庫・交通営団など特殊法人の民営化など小さな政府を目指す改革(「官から民へ」)と、国と地方の三位一体の改革(「中央から地方へ」)を含む「聖域なき構造改革」を打ち出し、とりわけ持論である郵政三事業の民営化を「改革の本丸」に位置付けた。特殊法人の民営化には族議員を中心とした反発を受けた。
発足時(2001年4月)の小泉内閣の内閣支持率は、最も高かった読売新聞社調べで87.1%、最も低かった朝日新聞社調べで78%を記録。これは戦後の内閣として歴代1位の数字である。「小泉内閣メールマガジン」を発行し、登録者が200万人に及んだことも話題となった。この小泉人気に乗るかたちで同年7月の参議院議員選挙で自民党は大勝した。
終戦の日の8月15日に靖国神社参拝をすることを、小泉は総裁選時に公約としていた。総理の靖国神社参拝は中国・韓国の反発に配慮して長年行われていなかった。小泉は、批判に一定の配慮を示し、公約の8月15日ではなく13日に靖国神社参拝を行った。翌年以降も、毎年靖国参拝を行った。2006年には公約であった終戦の日における参拝を実現した。
9月11日、米同時多発テロの発生を受けて、ブッシュ大統領の「テロとの戦い」を支持した。米軍らのアフガニスタン侵攻を支援するテロ対策特別措置法を成立させ、海上自衛隊を米軍らの後方支援に出動させた。
国際情勢が緊迫する中、外務省は、田中外相が外務官僚や元外務政務次官の鈴木宗男議員と衝突し、機能不全に陥っていた。小泉は2002年2月に田中外相を更迭した。人気の高い田中の更迭により、80パーセントを超える異例の高支持率であった小泉内閣の支持率は50%台にまで急落した。田中は大臣更迭後の同年8月に秘書給与流用疑惑が浮上し議員辞職した。
小泉は、2002年(平成14年)9月に電撃的に北朝鮮を訪問し、金正日国防委員長と初の日朝首脳会談を実現し、日朝平壌宣言に調印した。この訪問で金正日は北朝鮮による日本人拉致を公式に認め、拉致被害者のうち5名を日本に帰国させることを承認した。しかし、残りの拉致被害者のうち8名が死亡・1名が行方不明とする北朝鮮の回答に対し、拉致被害者家族は怒りを隠さず、交渉を終え帰国した小泉を面罵する場面もあった。
2002年9月30日、小泉改造内閣が発足。柳沢伯夫を金融大臣から更迭して、竹中平蔵に兼務させた。これにより、以後は不良債権処理の強硬策を主張する竹中が小泉政権の経済政策を主導した。
2003年(平成15年)3月、アメリカはイラクへ侵攻してフセイン政権を打倒した。小泉は開戦の数日前にアメリカ支持を表明し、野党やマスコミの一部から批判を受けた。日米同盟こそが外交の基軸とのスタンスを崩さず、ブッシュ大統領との蜜月関係を維持した。イラク戦後復興支援のための陸上自衛隊派遣が喫緊の課題となり、7月にイラク特措法を成立させた。これに先立つ6月には、長年の安全保障上の懸案だった有事関連三法案(有事法制)を成立させている。
9月に行われた自民党総裁選で平成研究会は藤井孝男元運輸大臣を擁立して小泉おろしを図ったが、参院自民党幹事長であった青木幹雄がこれに与せず派閥分裂選挙となり、藤井は大敗。藤井擁立の中心となった野中広務は10月に政界を引退した。平成研究会(旧経世会)の凋落を示す事件で、清和政策研究会(森派)が党の主導権を掌握することになる。
2003年9月、自民党総裁選で再選された小泉は小泉再改造内閣発足させ、党人事では当選わずか3回の安倍晋三を幹事長に起用する異例の人事を行い、11月の総選挙では絶対安定多数の確保に成功。閣僚を留任させた第2次小泉内閣が発足した。この際、中曽根康弘元首相、宮沢喜一元首相に引退を勧告した。
2004年(平成16年)1月、陸上自衛隊をイラク南部のサマーワへ派遣したが、4月に武装集団がイラクにいた日本人を拉致して「イラクからの自衛隊の撤退」を要求する事件が起きた(イラク日本人人質事件)。小泉は「テロには屈しない」とこれを明確に拒否。人質3人は後に解放された(地元部族長の仲介によるものとされる)。
2004年5月、小泉は再び北朝鮮を訪問、平壌で金正日総書記と会談し。北朝鮮に対する25万トンの食糧や1000万ドル相当の医療品の支援を表明し、日朝国交正常化を前進させると発表した。この会談で新たに5名の拉致被害者が日本に帰国した。小泉はアメリカとの連係を強化して「対話と圧力」の姿勢を維持した。
2004年6月、2003年6月に制定された有事関連三法に基づいて、「米軍と自衛隊の行動を円滑かつ効果的にする法制」、「国際人道法の実施に関する法制」、国民保護法等の有事関連七法(有事法制)を成立させた。
2004年7月の第20回参議院議員通常選挙を控え、年金制度改革が争点となった。小泉内閣は参院選直前の6月に年金改革法を成立させたが、選挙では自民党が改選50議席を1議席下回り、民主党に勝利を許した。この責任をとって安倍幹事長が辞任し、武部勤が後任となった。
小泉の最大の関心は、持論の郵政民営化にあった。参院選を乗り切ったことで小泉は郵政民営化に本格的に乗り出し、2004年9月に第2次小泉改造内閣を発足させ、竹中を郵政民営化担当大臣に任命した。「基本方針」を策定して、4月に開設した郵政民営化準備室を本格的に始動した。
小泉劇場
2005年(平成17年)、小泉が「改革の本丸」に位置付ける郵政民営化関連法案は、党内から反対が続出して紛糾した。小泉は一歩も引かぬ姿勢を示し、党内調整は難航する。反対派は亀井静香、平沼赳夫が中心となり長老の綿貫民輔を旗頭に100人近い議員を集めた。法案を審理する党総務会は亀井ら反対派の反発で紛糾し、遂に小泉支持派は総務会での全会一致の慣例を破って多数決で強行突破した。反対派はこれに激しく反発し、事態は郵政民営化関連法案を巡る小泉と亀井・平沼ら反対派との政争と化した。
衆議院本会議における採決で、反対派は反対票を投じる構えを見せ、両派による猛烈な切り崩し合戦が行われた。7月5日の採決では賛成233票、反対228票で辛うじて可決されたが、亀井、平沼をはじめ37人が反対票を投じた。参議院では与野党の議席差が少なく、亀井は否決への自信を示した。小泉は法案が参議院で否決されれば直ちに衆議院を解散すると表明するが、亀井ら民営化反対派は、衆院解散発言は単なる牽制であり、そのような無茶はできないだろうと予測していた。
2005年8月8日、参議院本会議の採決で自民党議員22人が反対票を投じ、賛成108票、反対125票で郵政民営化関連法案は否決された。小泉は即座に衆議院解散に踏み切り、署名を最後まで拒否した島村宜伸農林水産大臣を罷免、自ら兼務して解散を閣議決定し、同日小泉は、憲法第7条に基づき衆議院解散を強行した。
小泉は、法案に反対した議員全員に自民党の公認を与えず、その選挙区には自民党公認の「刺客」候補を落下傘的に送り込む戦術を展開。小泉は自らこの解散を「郵政解散」と命名し、郵政民営化の賛否を問う選挙とすることを明確にし、反対派を「抵抗勢力」とするイメージ戦略に成功。また、マスコミ報道を利用した劇場型政治は、都市部の大衆に受け、政治に関心がない層を投票場へ動員することに成功した。それにより9月11日の投票結果は高い投票率を記録し、自民党だけで296議席、公明党と併せた与党で327議席を獲得した。この選挙はマスコミにより「小泉劇場」と呼ばれた。
2005年9月21日、小泉は圧倒的多数で首班指名を受け、第89代内閣総理大臣に就任する。10月14日の特別国会に再提出された郵政民営化関連法案は、衆参両院の可決を経て成立した。この採決で、かつて反対票を投じた議員の大多数が賛成に回り、小泉の長年の悲願は実現した。
なお、賛成票を投じた永岡洋治議員の自殺のように郵政民営化関連法案の成立には多くの事件が発生していた(葬儀に小泉が出席した後、故人の親族は本法案の賛成を表明)。
ポスト小泉
2005年10月、第3次小泉改造内閣が発足。ポスト小泉と目される麻生太郎が外務大臣に、谷垣禎一が財務大臣に、安倍晋三が内閣官房長官に起用された。
この後、2005年11月〜2006年1月にかけて、構造計算書偽造問題、皇位継承問題、ライブドア・ショックと堀江貴文の逮捕、米国産牛肉輸入再開問題など、政権への逆風となる出来事が相次いで発生した。野党は攻勢を強め、9月の退陣へ向けて小泉内閣はレームダックに陥るのではないかとの予測もあった。しかし、堀江メール問題で民主党が自壊したため、内閣の求心力が衰えることはなく、通常国会では「健康保険法等の一部を改正する法律」(後期高齢者医療制度を創設)などの重要法案を成立させている。なお、堀江メール問題の後、永田寿康議員は自殺している。
2006年(平成18年)8月15日の終戦の日に小泉は最初の総裁選の公約を果たして靖国神社へ参拝した。
2006年9月20日の自民党総裁選では、選挙前から確実視された安倍晋三が後継に選ばれる。翌9月21日に小泉の自民党総裁任期は満了し、9月26日に小泉内閣は総辞職して内閣総理大臣を退任した。任期満了による退任は1987年の中曽根政権以来であり、また、小泉政権は戦後3位の長期政権となった。  
政権公約となった政策
郵政民営化
2005年に政府が国会に提出した郵政民営化法案が衆議院において可決された後、参議院において否決されたため衆議院を解散した(郵政解散)。この解散は参議院の意義を否定するものとして一部では問題視されたが、解散により実施された衆議院選挙で自民党は、結果的に法案が参議院で否決された場合でも衆議院で再可決することにより成立させられる3分の2超の議席を与党自民党で確保した。選挙後の特別国会において衆参ともに郵政民営化法が可決された。
靖國神社への8月15日(終戦の日)参拝
2001年の自民党総裁選で「私が首相になったら毎年8月15日に靖国神社をいかなる批判があろうと必ず参拝します」と公約。しかしながら、2001年から2005年までは国内外からの批判に配慮して8月15日以外の日に参拝していた。自民党総裁の任期が満了する2006年には8月15日に参拝した。なお首相就任前は厚生大臣在職時の1997年に終戦記念日に参拝している他(私的か公的かについては明言せず)、それ以前も初当選以来ほぼ毎年、終戦記念日を含む年数回の頻度で参拝してきた。退任後は2009年に参拝した。2010年の8月15日は参拝していない。
タウンミーティング
タウンミーティングの構想は2001年に行われた小泉純一郎首相の所信表明演説で初めて打ち出され、政権公約となった。タウンミーティングは全国で開かれ、まず特定テーマは設けずに都道府県を一巡し、その後「地域再生」「市町村合併」「教育改革」などをテーマに開かれるようになった。このタウンミーティングでは、謝礼金を使ったやらせ質問の横行、電通社員へ日当10万円の払い、エレベーター係へ一日数万の払い、などといった不透明な実態が明るみに出た。コストは平均2000万円、全国一巡したことで20億円弱もかかっていた。
国債30兆円枠
小泉内閣は各年度予編成において国債発行額を30兆円以下に抑制することを公約として掲げた。実際に達成できたのは政権初期の2001年度と政権末期の2006年度予算の2回のみであった。ただし、国債30兆円枠はシーリングによる財政管理政策であり、その結果として一貫して増加傾向であった一般歳出の増加は抑制されその後微減傾向に転換した。
ペイオフの解禁
2001年の自民党総裁選で他の総裁候補と同様にペイオフの解禁を公約に掲げた。しかし、不良債権処理が2004年までかかったため2005年4月まで解禁は先送りされた。
一内閣一閣僚
小泉は閣僚の交代に批判的で、「一内閣一閣僚」を標榜していたが、田中真紀子外相の更迭で原則を破り、2002年9月30日に内閣改造を行い、以後1年間をめどに定期的に内閣改造で定期的に閣僚を交代させていった。2001年の小泉内閣誕生から2006年の退任まで、一貫して国務大臣だった竹中平蔵のみが一内閣一閣僚に該当するという意見もある。また、これまでの内閣と異なり、大臣人事においては派閥領袖が推薦した人を任命せず、派閥均衡人事を保ちながら首相の一本釣り人事を行った。  
政権獲得後に推進した政策
バブル後の金融問題の処理と構造改革
金融再生プログラムを推し進め、バブルの遺産と呼ばれていた不良債権を処理し金融システム正常化を果たした。特殊法人改革においては「原則として廃止か民営化」を掲げ、郵政民営化・道路公団民営化・政策金融機関再編・独立行政法人の再編・民営化を実現させた。その結果、日本経済は失われた10年と呼ばれた長期停滞を脱出した。
財政再建
プライマリーバランスの回復を目標とした財政計画作成・国債30兆円枠・公共事業の大幅削減・社会保障の抑制などを行い財政再建を推進した。その結果、就任時には一般予算・補正予算合わせて11兆8000億円あった公共事業費は退任時の平成18年には7兆8000億円にまで削減され、その一環として道路公団は民営化された。また社会保障費にはマクロ経済スライドが2005年4月に導入された。その結果、日本経済の回復(いざなみ景気)による税収増もあり、財政は大幅に改善した。しかし一方で公共事業削減に対しては、亀井静香議員などをはじめとする道路族と呼ばれる議員などが反発した。また社会保障費の抑制は社会保障受給者や病院などの供給者などの負担となり問題となった。
年金改革
年金制度を変革。老齢者控除廃止や公的年金等控除の縮小をした。
医療制度改革
医療制度改革関連法案を国会で可決させ、サラリーマンの医療費負担を2割から3割へ引上げた。70歳以上の高所得者(夫婦世帯で年収約621万円以上)について医療費の窓口負担が2割から現役世代と同じ3割へ上げた。2008年度からは70-74歳で今は1割負担の人も2割負担になる(後期高齢者医療制度)。また、2006年度の診療報酬改定では、再診料を引き下げ(病院で10円、診療所で20円)、医療費を削減した(本体部分:2002年-1.3%,2004年0%,2006年-1.36%、薬価部分:2002年-1.4%,2004年-1.0%,2006年-1.8%、総額:2002年-2.0%,2004年-1.0%,2006年-3.16%)ほか、病院と診療所で異なっていた初診料の統一、小児・救急医療など医師不足が指摘される分野で重点的に報酬を加算することなどが決まっている(財務省主計局の平成22年調査では勤務医の平均年収は1479万円、開業医の平均年収は2530万円)。
外交
意欲的に首脳外交・多国間外交を推進した。また靖国参拝を巡り中国と激しく対立した。
女系天皇容認
長い間、皇室に皇位継承権を有する男の子が生まれていなかったことなどから、皇室典範に関する有識者会議を設置して女性天皇のみならず、女系天皇容認に向けた動きを積極的に推進した。その後、秋篠宮家における男子継承者誕生から改正議論を棚上げしたものの、根本的な問題(継承者不足)が無くなった訳ではないとして「女系の天皇陛下も認めないと、将来については皇位継承というのはね、なかなか難しくなるんじゃないかと思ってます」との見解を述べた。  
政権運営
小泉政権の手法については、マスコミ報道を利用した「劇場型政治」や「ワンフレーズポリティクス」などと評され、従来の自民党支持層とは異なる都市部無党派層・政治に関心がない層からも幅広い支持を集めた。小泉旋風は具体的な政策論議よりも小泉自身のキャラクターや話題性に依存する面が大きく、敵対勢力からはポピュリズム政治であるとの評価がしばしばなされる。
内政
竹中平蔵を閣僚に起用し、「官から民へ」という理念にもとづく改革の旗振り役を任せた。
経済財政諮問会議を活用して、従来の党主導の政策決定過程を官邸主導に転換した。予算編成の基本方針(骨太の方針)を策定し、かつて財務省の専権とされた予算編成を政治主導で行った。
財政再建のため骨太の方針にもとづき、歳出削減を実行した。歳出削減は道路建設から防衛費、社会保障費にいたるまで広範に及んだ。
三位一体の改革として地方交付税の削減。
労働者派遣法を改正し、派遣社員の派遣期間を3年から無制限に延長した。
労働基準法の改正で、企業による解雇権濫用を無効とした。
生活保護費や児童扶養手当の削減。
介護保険では特別養護老人ホームなど施設入所者の居住費、食費を保険から外した。
「健康保険法等の一部を改正する法律」(2006年6月21日公布)を与党多数で採決し、後期高齢者医療制度を導入。
国民負担率の維持を試みたが、日本医師会の反対により医療費の伸び率管理を断念した。
財政再建のため、診療報酬の引き下げ(2002年に1.3%、2006年に1.36%)、サラリーマンの窓口負担の増加(2割→3割)、保険料の引き上げ(月収をベースとした算定→年収をベースとした「総報酬制」)の三方一両損を行った。
2006年には谷垣禎一財務相、中川昭一農水相の反対を押し切って、6.5兆円の不良債権(2007年3月期)を抱える政策金融機関の統合民営化(株式会社日本政策金融公庫)を推し進めた。
特別会計合理化法案(仮称)を閣議決定し、特別会計透明化の方向性をつけた。
日本道路公団の藤井総裁を更迭した。その後、藤井総裁は政治家A氏やI氏の名を挙げて記者会見に臨もうとしたが、当日キャンセルした。
道路関係四公団の民営化法案成立。
産業再生機構法を成立させ、事業再生を支援する体制を整備した。
最低資本金制度の特例措置(後に会社法の制定)により1円から企業を立ち上げることを可能にした。
有事関連法案を成立させた。
パソコン等の製造業者にリサイクルを義務付ける資源有効利用促進法を成立させた。
構造改革特区により規制緩和を促進。
特殊法人(住宅金融公庫など)の独立行政法人化。
国家戦略本部を設置。
ハンセン病訴訟において、国側の責任を認め患者・遺族側と和解。
建築確認・検査の厳格化、建築士への罰則強化、住宅売主への瑕疵担保責任の履行等を行った。
郵政民営化などにおいて米国からの要望をまとめた年次改革要望書の内容を実行に移しただけという批判があるが、郵政民営化については1970年代から主張していた。
外交
従来の事務協議の積み重ねの延長である外交から、首相が自らの意見を積極的に主張し首脳間の信頼関係の下で国家間の合意を取り付ける首脳外交に転換した。
小泉外交は出身派閥である清和政策研究会の伝統的な親米路線に則っている。また、小泉首相自身がアジアやアフリカなどの国々にも積極的に訪問し、サミットをはじめ、ASEAN、APEC、ASEM、日・EU定期協議、アジア・アフリカ首脳会議などの多国間協議へも25回参加した。
在任中合計51回、実数では49ヶ国延べ数81ヶ国を訪問した。また訪問先の決定も外務省を始め、関係省庁が作ったシナリオに従うのではなく、官邸が積極的に関与した。さらに多数の電話での首脳会談も行い積極的な官邸外交・首脳外交を展開した。
2006年7月3日にドミニカ共和国のフェルナンデス大統領と会談。その後、ドミニカ移民訴訟において政治判断により控訴をせず、謝罪や1人当り最高額を200万円とする補償金の支払いを行った。
モンゴルのエンフバヤル大統領と2006年8月に会談。その後、モンゴルに対して多額のODAを行い、モンゴルは2008年の非常任理事国ポストを日本に譲っている。
外務省機密費流用事件等で問題となっていた外務省に対し、事務次官経験者である斎藤邦彦JICA総裁、林貞行駐英大使、柳井俊二駐米大使、川島裕外務省事務次官の4人及び飯村豊官房長の更迭を行った(2001/8/2)。
国別では、米国8回、韓国7回、ロシア4回、インドネシア4回、中国3回、タイ、マレーシア、ベトナムにそれぞれ2回訪問した。またブルネイ、シンガポール、フィリピン、ラオス、カンボジア、モンゴルなどのアジアの国々や今まで首相がほとんど訪問していなかったウズベキスタンやカザフスタン、イスラエル、ヨルダン、パレスチナ、サウジアラビア、エジプト、トルコなどの中近東諸国にも訪問している。
NHKのプロジェクトXで紹介された、イラン・イラク戦争の際邦人を救助したトルコ航空元機長のアリ・オズデミルと2006年1月12日に面会した。
アジア太平洋経済協力会議首脳会議(APEC)に5回、東南アジア諸国連合(ASEAN)+日中韓首脳会議に5回、アジア欧州会議(ASEM)首脳会議に3回などのようにアジア地域の中心の多国間協議に総理として積極的に参加していた。
また、多くの国を訪問し多くの国際会議の常連メンバーであったため、当時のアジア各国首脳、フィリピンのアロヨ大統領や、マレーシアのマハティール首相、シンガポールのゴー・チョク・トン首相などとも非常に親しかった。一方靖国神社参拝により中国首脳との関係は韓国首脳以上に悪く、2002年以降首脳の相互訪問を拒否され、2005年4月から2006年9月の退任まで第三国で中国との首脳会談は行わなわず、退任後も亀裂化したままである。
サミットにも6回出席の常連メンバーであり、そのつど各国首脳と多国間・二国間の会談を重ねている。そのため、アメリカのブッシュ大統領だけではなく、フランスのシラク大統領、ドイツのシュレーダー首相、ロシアのプーチン大統領、イギリスのブレア首相とも「率直に話のできる顔見知りの仲」であり、重要な案件でも首脳同士が直接電話で話をして決めることもあった。
またウズベキスタンやカザフスタンなどに対し、資源の優先的供給を受けるための資源外交・経済外交の展開を始めた。
靖国神社参拝により、中国・韓国の態度を硬化させ、在任期間中は首脳会談はもとより、首相特使派遣すらできないほどまでに関係が悪化した。小泉は韓国と中国が日本との首脳会談に応じなかったことを批判し、「いつか後悔することになるだろう」と発言した。中国は小泉政権での日本の常任理事国入りには強固に反対の姿勢を示す様になり、さらにアメリカがイラク戦争を反対したドイツの常任理事国入りに反対したことでG4改革に反対し、日本は常任理事国入りを断念せざるを得なくなった。それにより日本では「国連分担金を削減すべき」という世論が高まった。
アメリカ同時多発テロ後にテロ対策特別措置法を制定し、アメリカのアフガニスタン侵攻では海上自衛隊をインド洋に派遣し、イラク戦争後は米国主導の「イラク復興事業」に支援活動として陸上・航空自衛隊の派遣を決定したが、派遣した国の首脳の中で唯一、現地慰問を行わなかった。
戦略的外交諮問機関対外タスクフォースを設立。
日本に観光客を呼び込むYOKOSO!JAPANキャンペーンを実行。その一環として、中国人や韓国人、台湾人等の観光客に対するビザ免除等を行った(日本国籍保持者は相互主義により相手国でビザ免除となる)。2003年の時点で524万人であった訪日外国人旅行者数は2007年には834万人となり過去最高を記録した。
北朝鮮に訪朝し金正日総書記と正式会談。北朝鮮政府は日本人拉致への直接関与を認めた。また、5人が生存して日本へ帰国(交渉継続中)。  
靖国神社参拝
2001年に就任以来、靖国参拝を堅持する小泉に対して、江沢民国家主席または中国政府はすでに4年間にわたって日中間首脳の相互訪問を拒み続けてきた。最初の参拝の際には終戦の日には行かなかったために結局中国の圧力に屈したと漫画家の小林よしのりは非難している。2001年にAPECのために上海を訪問して、同年に首脳会談で北京を訪問した小泉は抗日戦争記念館に訪問して遺憾の意を表し、そこで献花を行った(日本政府首脳が盧溝橋で献花するのは初)。しかし小泉は靖国参拝を行っても同年10月26日には中国大使館にて「川劇」を参観しており、小泉は「川劇」を絶賛、出演者に敬意を示した。2002年には海南島の「ボアオ・アジア・フォーラム」第1回年次総会に出席し、同年の9月26日には中国の建国53周年と中日国交正常化30周年を祝う大型レセプションを開催したものの、日中国交正常化30年で式典で中国に訪中を拒否されており、2002年以降小泉は中国に訪問していない。小泉の北朝鮮への電撃訪問の際に江沢民に直接電話をしたが、江沢民はこれを拒否をした。胡錦濤が国家主席になっても冷却した関係であり、そんな中、2004年マレーシアで開催された東アジアサミットの際は、共同宣言に署名する際に、自分のペンを使わず、日本との首脳会談を拒んでいた中国の温家宝首相からわざわざペンを借りて署名し、両国の関係改善を示唆するパフォーマンスに各国首脳から拍手が送られた。しかし同年のアジアカップではこれが影響で反日ブーイングが起きた。中国の胡錦涛国家主席との会談が決まらなかった。
2005年に反日デモが起こり、同年秋に小泉が5回目の靖国参拝を果たすと、中国政府はさらに、国際会議を利用して日中首脳会談・外相会談をすべて拒否するという強硬姿勢を示した。小泉は「靖国参拝するから首脳会談に応じないというのは、私はいいとは思っていない」と中国を批判した。第3国での会談も2005年4月のジャカルタで胡錦濤国家主席と実施したのが最後となっている。また2005年に呉儀副総理との会談も急遽キャンセルとなった。中国人タレントのaminは「愛・地球博」ファイナルテーマソングを小泉の前でも歌っていたものの、同年10月の「日中友好歌謡祭」の招待を小泉は取り消された。同年の11月中旬釜山でのAPEC首脳会議、12月中旬マレーシアでの東アジアサミットでも首脳会談は行われなかった。APECの閉幕後、イギリスのメディアの記者は、靖国神社の博物館では、アジアでの戦争は日本の防衛のためだったとか、南京大虐殺はなかったなどと主張しているが、これを支持しているかと質問した。小泉は「その見解は支持していない」と明言、「多くの戦没者に哀悼の誠を捧げるために参拝している。そして戦争の反省を踏まえ2度と戦争をしてはいけないということから参拝している」と述べ、参拝は戦争を正当化するものではないとの立場を示した。
2006年には、閣僚や自民党首脳が中国を訪問しても事態は好転せず、日中関係は最悪の関係にあった。後の首相となる安倍と麻生は小泉同様に中国を批判し、ロバート・ゼーリックは安部・麻生との会談では「アメリカは日中関係を良くするために何かする必要があれば喜んでしたい」と仲介役を申し出た。しかし小泉は退任直前までに靖国参拝の姿勢を貫き、終戦記念日に念願の参拝を行った。
退任後も亀裂化しており、人民日報は訪中を決断した安倍を「智者」と持ち上げて絶賛する一方、靖国神社参拝問題などで日中関係を悪化させた小泉を「自己陶酔する独裁者」と非難した。東京・八王子市で演壇に立った小泉は「多くの戦没者の方々に敬意と哀悼の誠をささげるために私は靖国神社に参拝してきた。もし多くの国民が私の靖国参拝を批判するならば、そのような国民の総理大臣になっていたいと思わない。中国政府は将来『なんと大人げない恥ずかしいことをしたのか』と後悔する時がくる」と発言。中国の唐家セン国務委員が来日して友好ムードを盛り上げている最中に靖国参拝を理由に首脳会談を拒み続けた中国への怨嗟であり、親中路線にひた走る福田康夫への警鐘とも受け取れた。胡錦濤が来日を歓迎する朝食会・夕食会に小泉が参加せず、2008年に開催された北京オリンピックの開会式に歴代首相の福田康夫・森喜朗・安倍晋三や東京都知事の石原慎太郎を招待したのに対し、小泉は招待されなかった。ちなみに小泉は北京オリンピックを支援する議員の会の顧問であった。一方中国は靖国参拝をしなかった首相と天皇・皇后に対しては友好ムードをアピールし、日本の常任理事国入りに柔軟な姿勢を見せるなど、靖国神社参拝によりアメとムチ政策をとっていることが捉えられる。また招待された石原は小泉と違い中国に対し辛めの批評をした反中的な人物だった。
2010年12月の講演会で開かれた国際安全保障学会年次大会で、小泉は日中関係については「日中関係は大事だ。私は日中友好論者だ。経済を考えれば、これから日中関係は極めて重要だ。だが、一国の関係は経済だけではない。日本の平和と独立を守るためにアメリカに代わる国はない。」と述べ、日中首脳会談については「胡錦涛国家主席との会談が決まらなかった。外務省の担当者が「中国が『来年靖国神社を参拝しなければ会談する』と言っている」と言う。「じゃあ、小泉は来年、必ず靖国神社に参拝すると言ってます。会談をしたくなかったら、しなくて結構です」と。すると中国は「会談前と会談後に『靖国神社参拝する』と言わなければ会談する」という。だから私は記者に聞かれて「適切に判断する」と言った。中国は拒否しないでokしてきた。私の方がびっくりした。本当に首脳会談をしないと言ってきたのは、2005年に首相退任を明言してからだ。」と述べた。
韓国の場合、金大中は対日穏健派であったために難無く日韓ワールドカップに出席していたが、反日的な盧武鉉になると当初は良好であったが、後に小泉が国際連合安全保障理事会常任理事国入りを目指すと盧武鉉が反日路線に切り替え、靖国神社参拝を理由に2005年には日韓シャトル外交の中止を迫られ、他に竹島問題で反日感情が高まり、同年の6月には子供達が描いた反日ポスターが地下鉄駅に展示させられた際に「小泉首相を犬や猿に模して中傷する絵」などがあったが、ポスターには靖国参拝をしない首相は書かれていないために小泉政権が反日感情を高ぶらせたともいえる。さらに大邱日報によると、8月18日に親日派財産を取り戻すための汎政府機構である「親日反民族行為者財産調査委員会」が本格発足し、支持率回復もあって盧武鉉は同年の12月に親日反民族行為者財産の国家帰属に関する特別法を制定した。しかし盧武鉉の死後、小泉は駐日韓国大使館1階に設けられた盧武鉉前大統領の焼香所を訪れ献花した。
靖国神社参拝に反発する中国・韓国との関係は悪化。反日感情が強い韓国と中国、反日感情が比較的穏やかな香港で起きた反日デモで自身の肖像が燃やされる事も度々あった。一方、台湾の歴代総統の李登輝、陳水扁からは支持を得ており、陳水扁は台湾新幹線開業式に招待をしたものの、台湾では外省人が多い一部の国民党からは批判があり、退任後小泉は歴代首相と違い台湾の要人との会談や個人での台湾訪問を行っていない。石平や陳恵運といった反中思想の中国系日本人は小泉を擁護している。  
対外関係・外国からの評価
アメリカのブッシュ大統領とは仲の良さをアピールし、日本の首相としては初めてエアフォースワンに搭乗しキャンプデービッドの別荘に招かれた。
北朝鮮に対しては「対話と圧力」を掲げて、硬軟取り合わせた対応を行った。2006年のミサイル発射問題では関係国中最も強硬な国連外交を展開した。
2002年のカナナスキスサミットの際、2003年のエビアン・サミットの日程とロシアのサンクトペテルブルク建都300周年記念行事の日程が重なっていたため、各国首脳がその記念行事に参加できないという悩みをプーチン大統領が抱えていると知った小泉総理は、サミットの日程を2日ずらすことを進言し、シラク大統領も了解したことから、各国首脳はサンクトペテルブルクを訪問した後にエビアンに行くという日程になった。このことに対してプーチン大統領は「感謝に堪えない。公表できないがシベリアに金正日がくるので協力できることはないか」ということとなり、その後プーチン大統領は金正日に小泉のメッセージを伝えることを約束した。その後もプーチン大統領との友好関係は続き、2003年にロシアを訪問した際には晩餐会終了後に、プーチン大統領のクレムリンの個人住居に招かれ、通訳を交えただけの2人きりで約1時間半にわたって懇談した(なおロシアでは大統領が非公式に外国の首脳と懇談するのは異例のことである)。小泉は政界引退後も露日経済協議会理事長の職にあり、また北方領土問題解決に強い関心を持っているといわれる。
2002年のカナナスキスサミット終了後、ドイツのシュレーダー首相が政府専用機のスケジュールの調整ができずに日韓ワールドカップの決勝戦(ドイツ対ブラジル)を見に行けないと悩んでいることを知り「だったら日本の政府専用機に乗っていったらいいじゃないか」という話になった。そしてシュレーダー首相は日本の政府専用機に乗り日本に向かいワールドカップ最終戦を観戦した。その際機内では首脳会談が持たれ、懇談の際にはサッカー談義にも花が咲いた。外国首脳が日本の政府専用機に搭乗したことはこれが初めてのことである。
2002年のサミットにおいて、カナダの日刊紙『グローブ・アンド・メール』の「サミットのベストドレッサー」に選ばれた。
2002年のサミットにおいて、シラク大統領が各国の首相の前で、日本のお辞儀は相手によって頭の下げ方が変わると主張した際、小泉首相は「君にはこうしなくちゃいけないだろうな」と言いブッシュ大統領の前で土下座をした。(共同通信配信2007/10/17)
2002年の国連総会において、演説終了後、演台裏手のロビーで小泉総理に挨拶を求める各国代表の列において国連職員が「こんなに長い列ができるのは珍しい」というほどの長蛇の列ができた。
2003年の国連総会においては、演説終了後300人近くの各国代表者などが演台の後ろのロビーに並んで小泉の演説に対する賞賛の意を表した。讃辞の列は次の代表の演説も終えた頃まで続き、多くの国連関係者を驚かせた。
2002年にシンガポール訪問時に、シンガポールのナザン大統領を表敬訪問した際、ナザンから「自分の孫娘が小泉総理のファンなので一緒に写真を撮ってもらえないか」と頼まれ、快く応じた。
2006年のアメリカ訪問時に「アメリカは一人で悪に立ち向かっているわけではありません。常に多くの同盟国、友好国とともにあります。そして日本はアメリカとともにあるのです」と演説をし、鳴り止まないほどのスタンディング・オベーションを浴びた。
2010年暮れに出版された元イギリス首相トニー・ブレアの回顧録によると、イラクをめぐり米英と仏独の対立が高まっていた2005年に、ジャック・シラク仏大統領が「料理がまずい国の人間は信用できない」と英国を非難する放言騒ぎが発生した。英国でブレアが議長を務めた先進国首脳会議(G8)の晩餐会がこの事件の数日後に開催され、小泉は供された食事を摂りながら、「英国料理はうまいよな?ジャック!(ExcellentEnglishfood,isn'tit,Jacques?)」と大声でシラクに向って叫び、フランスを牽制しつつホスト国である英国の面目を助けるアドリブを放ったとされている。   
2001

 

談話 / 平成13年4月26日
私は、本日、内閣総理大臣に任命され、公明党、保守党との連立政権の下、国政の重責を担うことになりました。
私は、政治に対する国民の信頼を回復するため、政治構造の改革を進める一方、「構造改革なくして景気回復なし」との認識に基づき、各種の社会経済構造に対する国民や市場の信頼を得るため、この内閣を、聖域なき構造改革に取り組む「改革断行内閣」とする決意です。
この内閣に課せられた最重要課題は、日本経済の立て直しであります。まず、金融と産業の再生を確かなものとするため、不良債権の処理を始めとする緊急経済対策を速やかに実施してまいります。さらに、新たな産業と雇用を創出するため、情報通信技術(IT)等の幅広い分野で従来の発想にとらわれない思い切った規制改革を推進するとともに、産業競争力の基盤となる先端科学技術への研究開発投資の促進を図ってまいります。
また、財政構造、社会保障等についても、制度の規律を確立し、国民に信頼される仕組みを再構築するため、経済全体の中で中長期的な改革の道筋を示してまいります。
さらに、民間にできることは民間に委ね、地方に任せられることは地方に任せるとの原則に照らし、特殊法人や公益法人等の改革、地方分権の推進など、徹底した行政改革に取り組みます。
伝統と文化を重んじ、日本人としての誇りと自覚、国際感覚を併せもった人材を育てられるよう、引き続き内閣の重要課題として教育改革に取り組んでまいります。
外交面では、日米関係を機軸に、中国、韓国、ロシアを始めとするアジア近隣諸国との良好な関係を構築し、アジア太平洋地域の平和と繁栄に貢献するとともに、地球環境問題等について、我が国にふさわしい国際的な指導性を発揮してまいります。
私は、自ら経済財政諮問会議を主導するなど、省庁改革により強化された内閣機能を十分に活用し、内閣の長としての総理大臣の責任を全うしていく決意であります。「構造改革を通じた景気回復」の過程では、痛みが伴います。私は、改革を推進するに当たって、常に、旧来の利害や制度論にとらわれることなく、共に支え合う国民の視点に立って政策の効果や問題点を、虚心坦懐に検討し、その過程を国民に明らかにして、広く理解を求める「信頼の政治」を実践してまいります。
国民の皆様のご理解とご協力を心からお願いいたします。
内閣総理大臣説示
初閣議に際し、私の所信を申し述べ、閣僚各位の格別のご協力をお願いする。
一 私は、政治に対する国民の信頼を回復するため、政治構造の改革を進める一方、「構造改革なくして景気回復なし」との認識の下、この内閣を、各種社会経済構造の改革に果敢に取り組む「改革断行内閣」とする決意である。
二 本内閣の最大の課題は、日本経済の立て直しである。不良債権処理を始めとする緊急経済対策を速やかに実施に移すことができるよう、対策の具体化に取り組んでいただきたい。また、新たな産業と雇用を創出するため、経済構造改革の視点をもち、各府省の所管する規制等について、原点に立ち返った見直しを実施していただきたい。また、産業競争力の基盤となる新しい科学技術分野に戦略的な研究開発投資が促進されるよう、「科学技術基本計画」の実現に向け、関係閣僚の格段の努力をお願いする。
三 併せて、財政構造や社会保障について、制度の規律を確立し、国民に信頼される仕組みを再構築するため、中長期を見通した改革の道筋を示していくことが、この時期に国政を預かる者の責務である。私自身、経済財政諮問会議を主導し、指導性を発揮していく決意であるが、内閣として一致協力して国民の期待に応えることができるよう、関係閣僚に格段の理解と努力をお願いする。
四 財政構造問題を論ずる前提として、まず、民間にできることは民間に委ね、地方に任せられることは地方に任せるといった、中央政府の徹底した行政改革が必要である。公務員制度改革、特殊法人や公益法人等の改革、地方分権の推進などについて、各閣僚に指導性を発揮していただくようお願いする。
五 「eーJapan重点計画」に基づく情報通信技術(IT)革命の推進、日本人としての誇りと自覚、国際感覚を併せもった人材を育てるための教育改革、司法制度改革等については、引き続き内閣の重要課題として取り組んでいく方針である。今国会に提出している関連法案の早期成立に努力願いたい。
六 「構造改革を通じた景気回復」には、痛みも伴う。国民の「信頼」なくして、政策の遂行はおぼつかない。常に共に支え合う国民の視点に立って虚心坦懐に政策の効果や問題点を検討し、その過程を国民に明らかにする「透明、公正な行政」を心がけていただきたい。
七 内閣は、憲法上国会に対して連帯して責任を負う行政の最高機関である。国政遂行に当たっては所管や立場にとらわれず活発な議論を期待するが、内閣として方針を決定した以上は一致協力してこれに従い、内閣の統一性及び国政の権威の保持にご協力いただきたい。 
記者会見 / 平成13年4月27日
総理大臣に就任して初めての記者会見ですが、総理に就任して、ますます総理大臣というのはこんなに重圧が掛かるのか、と総理に就任する前には思ってもみないほどの緊張感と重圧を感じています。
孟子でしたか、こういう言葉があります。「天将にその人に大任をくださんとするや、まずその心志を苦しめ、その筋骨を労せしむ。」
なるほど、この言葉どおり、天がまさにその人に大任をくださんとするや、まずその心志を苦しめ、「しんし」とは「こころ」と「こころざし」です。その筋骨を労せしめる。「きんこつ」、「きんにく」と「ほね」、「きんこつ」、心身共にすごい重圧の下に総理に就任し、初めてその人事を終わりました。この人事をする際に、特に組閣の人事ですが、私が総裁選挙中に発言したとおり、派閥にとらわれず、民間人、若手、女性、適材適所な人事を心掛ける、これに腐心しました。
いろいろ考えに考えた挙げ句、ようやく内閣ができましたけれども、それぞれ私が選挙中に言っておりました基本方針を堅持していただきまして、協力してくれる体制ができたと思っています。特に公明党、保守党との連立合意もでき、お互い信頼関係の下に、今後も協力してやっていけるということは大変ありがたいと思っております。
私は戦後日本が平和で発展していくために、常々一番大事なことは、まず、あの第二次世界大戦の反省をすることだと。その上に立ってこれからの日本が二度と戦争を起こしてはいけない。平和のうちにいかに国民の努力によって立派な国づくりに励むことができるか。このことは、これからの日本の方針としても、極めて重要であると思っています。
端的に言って、なぜ日本はあのような戦争に突入してしまったのか。これは一言で言えば、国際社会から孤立したことだと私は思っています。これから日本が二度と戦争を起こさないために一番大事なことは、国際協調、二度と国際社会から孤立しないこと。そういう観点から、私は今後の日本の外交の基本は、今日まで日本が繁栄できた最大の基礎は日米関係が有効に機能してきたことだと思います。この基本は決して忘れてはならない。日米友好、緊密な協力、これがあって初めて世界各国と協力体制が構築できるのではないか。特に近隣諸国、中国、韓国、ロシア等、近隣諸国との善隣友好も極めて重要であります。こういう諸国と日米友好関係を基礎にして関係改善を図っていく、友好関係を維持発展させていく、これが日本外交の基本でなくてはならないと思っております。
そして内政の面から言えば、これは今、景気の回復、経済の再生、これがもう大課題であります。私は構造改革なくして景気回復なしと、総裁選挙中にも言っておりましたとおり、構造改革という問題、これは例外なく今まで成功してきた制度、機構、これは今後21世紀の社会に通用するかどうか、かつては成功していたけれども、今後、直していかなければならない点、多々あると思います。この構造改革に大胆に踏み込んで、新しい時代に対応できる体制を取っていきたい。そのためには、行財政改革等、今まで成功してきた事例も、今後はゼロから見直していく必要もあるではないか。かつては国がやらなければならなかったいろいろな事業も、場合によっては民間にできることはできるだけ民間に委ねていく。あるいは地方にできることは地方に委ねていく。そして、国家がやるべきこと、役所がやるべきこと、国家がやらなければならない、役所がやらなければならない合理性があるかどうか、必要性があるかどうか、これを徹底的に検証していくべきだ。そして、主眼は、その中で今や国がやらなくても民間でできることは民間に任せていこう。地方にできることは地方に任せていこう。こういう観点から構造改革に取り組んでいきたいと思います。
しかし、これからのいろいろな重要政策を推進するにおいて、最も大事なことは、国民が政治を信頼してくれることです。分けても内閣総理大臣に対する信頼、これは大変重要なことだと思っております。あらゆる政策遂行の前提は政治への信頼、内閣への信頼、総理大臣に対する信頼だと思っております。私はそういう面から自分が総裁選挙において発言したことを少しでも実施に移すことができるように、今後も全力を傾注していきたいと思っています。
【質疑応答】
● まずは総理就任おめでとうございます。組閣を終えて新内閣がスタートしましたけれども、総理がおっしゃったように、総理は派閥にとらわれない適材適所の人事をするとおっしゃっていましたが、結果として思いどおりの人事ができたとお考えになりますか。そして、7月の参議院選挙は、この内閣の実績をバックに闘って、その成果が問われることになると思うんですけれども、自民党の目標議席はどれくらいをお考えですか。自民・公明・保守の3党で過半数といった声もあったと思いますけれども、具体的な目標を聞かせてください。
人事は私個人だけでやることはできませんから、各方面の話を聞き、要望を聞き、その要望を受け入れることができなかったということは、残念がった人もたくさんいると思います。むしろ希望をかなえられた人というのはごくわずかしかないという、ここが人事のつらさ、難しさだと思います。しかし、私が当初から申し上げていた適材を適所に起用する、そういう面において、多くの国民から合格点はいただけるのではないかなと思っております。参議院選挙ですが、これは、参議院選挙はまだ2か月後ですから、その前にそれほど大きな実績というのは挙げられるとは思っておりませんが、少なくとも小泉内閣が目指す基本方向というのは国民に御理解をいただけるよう、これから大いに努力しなければいけないと思っております。そして、参議院選挙にこの姿勢を理解し、共鳴してくれた方々が小泉内閣に支援をしてくれる、連立内閣を支持してくれる、自民党頑張れと激励してくれるというような雰囲気が出てくれば、私はこの連立政権に対する、国民は過半数の支持を与えてくれるのではないか。もとより選挙ですから、できるだけ多くの自民党公認候補が当選してくれればいいと思っています。今の段階で何議席という具体的な数字を挙げることはできないと思います。少なくとも、自民・公明・保守、この3党で過半数以上は獲得したいです。
● 次に憲法問題についてお尋ねします。総理は自民党総裁選挙期間中に、集団的自衛権を行使できるように政府解釈を変更すべきだという見解を明らかにされていたと思います。自衛隊は軍隊でないというのは不自然だと。憲法9条の改正を目指す考えも明らかにされていたと思います。あと、首相公選制の導入も、これを導入する場合には憲法改正が必要だとおっしゃっていたと思います。現在、総理としてこれらの問題をどうお考えになっていますか。今後、憲法改正を具体的に検討していかれるお考えがあるのか、その辺も含めてお聞かせください。
自由民主党の基本方針が自主憲法制定だったんですよ、結党以来。しかし、今の憲法というのは、戦後一度も改正なしにきている。平和主義、民主主義、基本的人権、これに対して自民党も含めて多くの政党が、この基本理念というものはいかに改正しても、守らなければならないと思っていることは事実だと思います。私も含めて。
その中で、憲法9条という問題は、日本は戦争の後遺症が強いですから、この問題を今の政治課題に乗せるというのはなかなか難しいと思います。しかし、あるべき姿として、私は総裁選挙中に言ったことなんです。できれば、この自衛隊が軍隊でないという前提で何事も進めていくということについては、不自然な問題が多々出てきている。そういう点で一国の安全保障を考えれば、私は非武装中立というものは採りません。自衛隊が軍隊でない、非武装中立でいいんだということは、もし万が一侵略の危険があった場合は、何の訓練もない市民に戦えということですから。日ごろ訓練もない、戦う準備もない、装備もないという段階で一般市民に向かって、侵略者と戦えというのは政治として非常に無責任だと。そういうことで自衛隊が創設された。万が一、我が国が侵略された場合は、その侵略に立ち向かわなければならない。だから、一国の軍隊というのは、自衛隊にしてもそうですが、万が一、他国から侵略を受けた場合、その国は命を賭けて守る集団があるぞというのが私は軍隊だと思うんです。それがないと、どうぞ侵略してくださいという誘惑を他国に持たす可能性もあるくらい、そういう面において、規模はいろいろ考え方があります。日本人として、もし、よその国が侵略するならば、日本人は戦って抵抗するという決意を示すのが自衛隊であり軍隊である。
そういう自衛隊、軍隊に対して、憲法違反であるとか、そうではないということを議論させておくという方は、自衛隊に対して失礼じゃないか。万が一のことがあったら、自ら命を捨てるという覚悟で訓練しているわけです。そういう人たちに対しては日ごろから国民全体が、日ごろから自分のできない危険な訓練をしている、きつい訓練をしている、人のできないような難しい訓練をしている、そういう集団に対して敬意を持って接することができるような法整備、環境をつくるのが私は政治として当然の責務ではないかと思っているわけでありまして、ただ9条を改正すると、すぐその人はタカ派だとか、右翼だとかいう議論はもうやめた方がいいと思うんです。
集団自衛権の問題もそうです。私は、集団自衛権、権利はあるが行使はできないというのが今までの解釈です。これもたしか昭和35年の岸内閣での解釈だと思います。既に40年、そういう際に、海外で武力行使をしないということは、もう日本人として、政治家として、これは多くの合意されるところだと思います。
その解釈で、集団自衛権というのは、日本政府は今の解釈を変えないと言って今までやってまいりました。ですから、これを変えるのは非常に難しいということはわかっています。今後、憲法、本来、集団自衛権も行使できるんだというのであったらば、憲法を改正してしまった方が望ましいという考えを持っているんです、私は。しかし、それができないのであれば、今の日本の国益にとって一番大事なことは、日米関係の友好をどうやって維持していくか、日米安保条約をどうして効率的に機能的に運営していくかということを考えますとですね、勿論、武力行使というのは海外の領土とか領海とか領空ではできません。
しかし、もし、日本近海で、日米が一緒に共同訓練なり共同活動をして、その時に、一緒に共同活動をした米軍が攻撃を受けた場合、よその国の領土でも、領空でもない、領海でもない。でも、米軍が攻撃を受けた場合に、日本が何もしないということは果たして本当にそんなことができるんだろうか。そういう点については、今の解釈を尊重するけれども、今後、あらゆる事態について研究してみる必要があるんじゃないかというふうに思っております。すぐその解釈を変えるということじゃないんです。研究してみる余地がある、慎重に熟慮、研究してみる余地があるということを言っているわけです。
そこで私が、一度も戦後憲法を改正していないということで一番憲法はこうすれば改正できる、また、国民に理解されやすいと思っているのが首相公選制です。これは、中には、首相を国民投票で選ぶことについて憲法改正しないでできるという、そういう論者もおります。しかし、私は首相公選制を導入するということについては、憲法改正してやった方が望ましいのではないかと思います。その際には、ほかの条項は触れない、首相公選制のためだけの憲法改正だったら、国民からは理解されやすいのではないか、そして、具体論をつくって、こうしてやれば具体的に憲法を改正するというのはできるのだということで、より改正の手続も鮮明になるのではないか。また、首相公選制というのはどういうものであるかということも理解される。これは、むしろ国会議員の方に反対が強いのであって、一般国民の方では賛成が多いのではないかと思っております。これも政治の面においての、私は構造改革だと思います。
今、国会議員しか総理大臣になれません。しかも、総理大臣を選ぶ権限は衆議院議員だけしか持っていない。首相公選というのは、総理大臣を選ぶ権利を国会議員から一般国民に手渡すことですから、政界の規制緩和とも言える。そういう点において、私は国会議員の何十人かの推薦を資格要件とするということで、国民投票によって首相を指名してもらう、そして、その首相を天皇陛下が任命するということになれば、天皇制と首相公選制とは矛盾しない、一緒に天皇制を維持しながら首相公選制も導入できるということを言っているのであって、私は、この首相公選制を導入する場合は、ほかの条文の憲法を一切いじらない。これだけの、これだけの憲法改正によってしてみたいな、ということを言っているわけであります。
● 次に経済問題、景気対策に移りますが、総理は25日の与党三党首会談で、緊急経済対策の早期実施で合意されました。ただ、具体的なテーマになりますと、与党は、今国会中に抜本的な証券税制の見直しを目指そうということで合意をしていますけれども、閣内ではですね、年末でもいいのではないかというような声もあるようです。また、株式買上げ機構を巡ってはですね、総理、あの、総裁選期間中に、慎重に時間を掛けてですね、検討されるとおっしゃっていたと思います。こうした証券税制の見直しですとか、株式買上げ機構の設立ですとか、こういった政策をどう進めるのか、時期を含めて、お考えをお聞かせください。
この点については、総裁選挙の前に発表されました緊急経済対策、これを基本にしながら、新たに就任されました竹中経済財政担当大臣、柳沢金融担当大臣、塩川財務大臣等、具体的に、いつ、そういう実施したらいいか、というものを含めてよく検討してもらいたい。その判断を待って内閣として決定していきたいと思っております。
● 総裁直属の国家戦略本部ですか、たしか総裁選中には内閣にもそれを設置すると言われたと思うんですけれども、まず内閣にも同様の本部を設置するのかと。その場合やはり、構造改革という問題が主体的なテーマになると思いますけれども、経済問題も含めて、現在ある経済財政諮問会議との役割分担という点についてはどのようなお考えなんでしょうか。
これは、内閣としては、経済財政諮問会議がありますから、これを中心にやっていきます。もし、国家戦略と言いますと、広範多岐にわたります。しかも、今は連立政権です。公明党も保守党も参加しています。ですから、同じ内閣というよりも党でやっている。経済財政諮問会議と国家戦略本部とは違います。お互い意見を聞くことはあったとしてもですね、それは別。別個の問題です。
● 内閣には設置されないということですね。
内閣には設置するつもりはございません。党で今設置を検討しております。
● 台湾の李登輝前総統が日本を訪問したことに起因しまして、中国の李鵬委員長が日本訪問を延期しましたり、教科書問題、靖国神社参拝問題などを巡りまして、中国、韓国などのアジア各国との摩擦が一部に出ていると思うんですが、新政権は対アジア外交をどう考えているんでしょうか。また、アメリカ、ロシアとの外交の基本的な方針についてお伺いします。
これは最初のごあいさつでも触れましたが、近隣諸国と関係改善を図るということは極めて大事なことであります。中国、韓国と、教科書問題とか、あるいは中国については李登輝さんの問題とか、いろいろ今問題点が出ておりますので、こういう点はよくお互いの立場を理解するという姿勢が大事だと思います。日本の立場を理解してもらえるような粘り強い折衝、努力、同時に相手の立場を忖度するという気持ちで関係改善に努めていきたいと思っています。また、ロシアはですね、これは日本政府としてロシア側に誤ったメッセージを送ってはいけないと思います。誤ったメッセージというのはどういうことかと言いますとね、北方四島、これは日本として四島は日本の領土である。この主張を崩してもいいんだという誤解を与えぬようにしなくては。あくまでも北方四島は日本の領土である、これをはっきりロシア側に認識してもらいたい。いわゆる北方四島の帰属問題ですね。その四島の帰属が日本だということの確認ができれば、あとはどういう返還方法があるか、それについては一括とか、一緒に、一時にと、いうことでもなくていいんじゃないか、お互いの話し合いによって、順次どこの島から返そう、しかし最終的には、しかし四島、日本の領土だから確かに返してもらうという姿勢を、はっきりロシア側にわかってもらうことが大事だと思います。先に二島返還すれば、あとの二島の帰属問題はどうでもいいという態度は、私は取りません。
● 外交問題に関連しますが、日米関係が極めて重要であって、その信頼関係を築かなければいけないというお話でしたが、アメリカのブッシュ政権ができまして、3月に森総理大臣が訪米しておりますけれども、首脳会談の予定なり意欲ということを伺いたいんですが。
できるだけ早い機会にブッシュ大統領と会談したいと思っています。その時期については、国会の都合等もありますので明らかではありませんが、できるだけ早期に会談したいと思っています。
● 外交問題の引き続きですが、日朝関係なんですけれども、しばらく日朝関係について動きが止まっておりますけれども、これを動かすのに何かの方途をお考えなのかどうかについてお聞かせください。
まあ、日朝関係はこれ、なかなか難しい問題で、日本の立場もよくわかってもらうように努力しなきゃいかんし、いろいろな過去の経緯、そして日本だけでなく韓国との関係、更にはアメリカとの関係をよく勘案しながら、粘り強く、何とか関係改善できるように、今後も努力を続けていきたいと思っております。
● その場合に、いわゆる拉致問題の扱いについては、どういうふうにお考えでしょうか。
これも日本の立場をはっきり主張する、ということが前提であります。
● 今の問題に関連するんですが、朝鮮半島はですね、日本に植民地支配をされたという過去を持っており、そのことが北朝鮮の側のですね、いろんな主張の根底にあると思います。総理の朝鮮植民地支配に関する認識というのを簡潔にお聞かせください。
それはなかなか難しい問題で、明治から大正、昭和にかけての日本の戦争というものを調べてみますと、なかなか難しい問題があります。しかし、そういう過去の反省と同時に、むしろ明日に向かって友好関係を築いていくという姿勢が大事だと思っております。
● 明日メーデーに出席されるということで、橋本総理以来、自民党総裁としては2人目ということで、民主党の支持団体ということに対するメッセージという受け止め方もあるんですが、それについてどういう。
民主党の何ですか。
● 支持団体に対してです。
支持団体ですか。
● それが1点と、もう1点、政労会見が1年半ほど行われてないんですが、これを再開するお考えはあるかどうか、この2点お願いします。
このメーデーは、先ほど官房長官から話を伺いました。今、出席する方向で検討しております。で、民主党の支持団体だとしても、労働者の皆さんがそれぞれの生活改善を要求して運動しているんですから、私はいいと思いますよ。日本国民として一所懸命努力している。労働者の祭典、これに出席を拒否されなければですね、総理として、日本国総理としてお互い一緒にこの日本の発展に尽くそうと、また日本国民が協力してお互いの生活を豊かにしていく、生活をよりよくしていくという方向に向かって協力を求めるというのは、私は自然な姿ではないかと思っております。また、政労会見ですが、また連合側と話し合いの過程で進んでいくのではないかと思っております。
● 総理、先ほどの植民地支配の話と重なりますけれども、冒頭総理は、先の大戦について国際社会から孤立したからだというふうにおっしゃいましたが、聞きようによっては、それは自衛のためのやむを得なかった戦争だったというふうにも受け取れるわけですが、その歴史認識について御見解をお聞かせください。
これは、政治家として一番大事なことですね。国際社会から孤立しない、日本として、日本国総理として私は国際協調、国際社会から孤立することは絶対あってはならない。そういう過去の歴史の反省から、戦後日本は国際協調、連帯、わけても日米友好関係が一番大事だということでやってきたんですから、その基本方針は堅持していきたいと思ってます。なぜ、そういう気持ちに立ったかというと、二度と国際社会から孤立してはいけないという、戦争の反省から出てきているんですから。
● 総理の人間関係の中で、山崎拓幹事長と加藤元幹事長、言わゆるYKKというグループ。総理は脱派閥を主張されていますけれども、自民党内では一つのグループとして考えられている側面もあると思います。今回の閣僚人事を見ましても、一部にはYKK色が強いという言われ方もありますけれども、このYKKの関係、総理は今後どのようなスタンスで臨まれるんでしようか。
山崎さん、加藤さんとは、この十年来友好関係を築いてきましたから、これはこのまま尊重していきたいと思いますが、別にグループとかそういうことではなくて、人間というのは、いろんな方と友好関係を持っていますから、たまたま私は山崎さんと加藤さんと会うだけで話題になってしまうというだけでありますから、ほかの方ともいっぱい友好関係を持っているんです。現に今回の組閣人事を見ても、加藤さんの推薦、山崎さんの推薦、採っていませんね。逆に怒られているくらいで。この組閣を見ても、特定のそういう関係から起用したのではないということをおわかりいただけると思います。公平にやろうと思います。
● 総理は、有事法制の整備を小泉内閣として法案の提出、それから成立まで進めるというお考えでございますか。
これは、「治にいて乱を忘れず」というのは、政治の要諦だと昔から言われております。平和なときに乱を忘れない、平時に有事のことを考えるというのは、政治で最も大事なことだということは、もう、昔から言われていることなんです。そういう観点から一朝事があった場合、有事の場合には、どういう体制を取ったらいいかという研究を進めることは大事であると思います。また、いつの時点で、その法整備をして法案提出できるかということは、今後の問題だと思っております。 

■小泉改革の本質 「小泉政権の構造改革の柱とは」 2001/8/3
小泉政権が取り組む「後始末型」の構造改革
まず、早急に取り組むべき課題として、不良債権の直接償却と、それに連動して生じる企業・産業の再編が挙げられる。つまり、直接償却の対象とされてしまった負債超過の企業には、市場から退出してもらおうというものだ。
第2に、直接資本市場に個人のおカネが入ってくるようにするための資本市場改革がある。
第3に、社会保障改革がある。少子高齢化などの要素を考慮すると、社会保障を支えるための税負担を高めなくてはならないし、長期的には社会保障の給付は減らさざるをえない。既存の社会保障制度全体の見直しが必要な時期に来ている。こうして小泉政権は、短期的、また中長期的な課題に「聖域なく」踏み込もうとしているのである。
だが、これらの改革を実施したからといって、経済の展望が開けるというわけではない。なぜなら、これらは患部を切り取りウミを出すという、いわば後ろ向きの改革だからだ。私はこれを「後始末型」の構造改革と呼んでいる。
思えば日本では、これまでの政権が問題の「後始末」を先送りし続けてきたために、経済に対する負担が非常に大きくなり、それが足カセとなって経済の浮揚力をそいでいる。この問題に誰もが気づいているけれども、改革を実行する勇気がないままにここまできてしまった。
ここにきて小泉首相が、国民に痛みを覚悟してもらって構造改革をやります、といったことに対して、国民が支持するようになった。ここに事態の深刻さが表れているといえるだろう。
つまり国民は日本の行く末を案じて、痛みに耐えるから改革を実行してくれ、という気持ちで小泉さんに政権を託したのだと思う。なにしろ民主党支持派から共産党の支持者まで小泉政権を支持しているということなので、政治家より国民のほうが健全な意識を持っていて、責任感もあり、将来に対するある種の展望ももっている。その意味で日本にはまだ、幸運なところがあるといえる。
「後始末」は「前向き」の構造改革とセットで進めよ
ところが、こうした追い風を受けて「後始末型」の構造改革に踏み込もうとすると、実は大変難しい問題が生じてくる。つまり、これらの改革は国民の負担を増やしたり、雇用機会を喪失させる類のものなので、それだけを実行した場合には、経済心理がより冷え込んでデフレが深刻化し、経済が悪循環に陥る危険性を十分はらんでいるのである。それゆえ、後始末型の構造改革に加えて、「前向きの構造改革」を一緒に進めないと、経済の展望は開けない。
一例を挙げると、過去の経験から、破綻した金融機関が1兆円の負債を抱えていた場合、それを整理すると約2万人程度の雇用が失われることになる。財務省は、「銀行が抱えている不良債権は大体13兆円なので、それを処理すると、約26万人の失業が出ることになる。この数字は、世間で言われているほど大きなものではない」と説明している。一方世間では50万〜100万人、あるいは、もっと増えるとも言われている。しかし、実際にどのぐらいの失業が発生するかはわからない。
というのも、確かに数字を固定して足し算すれば、また13兆円という数字が正しければ、財務省の言うような結果になるかもしれないが、株価が、あるいは地価が変動しただけでこうした数字も連動して動くし、国民が将来不安を持てば、デフレになって産業界は投資を手控えるので、状況によっては財務省のいう数字の何倍という規模での雇用機会喪失が起きる。
逆に株価が上昇したり、将来への展望が開けるようになれば、そこまで深刻な事態にならない可能性もある。
そこで、単なる気分ではなく、しっかりした根拠に基づいて国民に前向きの期待を持ってもらうことが、失業を出さないで済む、また増大した失業を吸収するという意味で非常に重要な課題となる。
実は小泉政権の経済戦略には、その前向きの構造改革が、構造改革の一つの柱としてきちんと盛り込まれている。それについて、詳しく述べておきたい。
「雇用創出型」構造改革案作成の内幕
われわれは、上で述べた前向きの構造改革のことを「雇用創出型」の構造改革と呼んでいる。ここでわれわれというのは、内閣府の経済財政諮問会議に初めてつくられた本格的な専門調査会のことだ。この調査会の正式名称は「サービス部門における雇用拡大を戦略とする経済の活性化に関する専門調査会」であるが、牛尾治朗氏が会長を務めているので、通称「牛尾調査会」と呼ばれている。
この調査会のメンバーは、会長代行の島田晴雄と、慶應大学の樋口美雄先生、政策研究大学院大学の大田弘子先生からなっていて、非常に小回りの効く専門家だけの調査会となっている。この調査会では、前向きの構造改革案を戦略的につくって、5年間で500万人の雇用を創出するという方針で動いている。
では、どの分野で雇用を創出するかといえば、サービス業、特に個人・家庭向けサービス、社会人向け教育サービス、企業・団体向けサービス、住宅関連サービス、子育てサービス、高齢者ケアサービス、医療サービス、リーガルサービス、環境サービスなどである。われわれはこれらを9分野と呼んでいる。
日本の過去10年間を振り返ってみると、第一次産業、第二次産業、政府部門で、合わせて8%の雇用収縮となっている。これに対して、第三次産業では「失われた10年」といわれた1990年代でも約12%の雇用増大がある。その第三次産業のなかでも特に、9分野と呼んでいる部分は、過去10年間の伸び率が22%になっている。
数字で見ると、サービス業は、全体で3900万人の雇用を吸収している(2000年の数字)。そのなかの、1200万人程度を雇用している部分の伸び率が非常に高い。もちろんそれには理由がある。高齢化、環境への配慮、情報化が進んでいるので、それに対応したサービスにチャンスが広がっているし、人々の所得が高まり経済が成熟化しているので、個人向けのサービスも非常に増えている。企業向けサービスは、情報化対応という切実な問題があるので増加の仕方が著しい。
3900万人が働くサービス業では、過去10年間に400万人の雇用が生まれている。その前の1980年代には、10年間で650万人の雇用が生まれている。そう考えると、2001〜05年までの5年間で500万人の雇用を生み出すというわれわれの案も、荒唐無稽な、不可能なものではない。10〜15年かければ達成できる数字を、前倒しして5年間で一気に実現することはできないかと、われわれは考えている。
それを実現することの意味は非常に大きい。なぜなら、それが成功すると、後始末型の構造改革で失われた雇用をすべて吸収しておつりがくる、ということになるからだ。
そして、国民の多くがこのような前向きの構造改革を理解したとき、非常に前向きのマインドが出てくる可能性がある。それが投資や消費を誘引すれば、経済の活性化につながる好循環を引き起こしうる。
資産活用サービスの育成で500万人雇用を目指す
そこで、5年間で雇用を500万人増やすための具体的な方策だが、日本にある資産を有効に活用できるようにしなくてはいけない。
まず、日本には、教育水準が高くて訓練が行き届いている、人的資産という最大の資産がある。人的価値が最大限に発揮されるようなサービス産業群をつくらなくてはならない。
例えば若い夫婦にしてみれば、子育てや親の介護、さらに炊事・洗濯までやってくれるサービスがあれば、自分のもっている人的価値を最大限に活用して仕事に打ち込むことができる。高齢者はさまざまな意味で移動に苦労するが、自家用運転手産業があると、心おきなく生活できる。そうしたサービスを育成することが必要だ。
また、住宅という資産を社会資本にしなくてはならない。その意味は、要するに住宅資産を大切に使おうということだ。日本では、4400万の家計に対して、住宅を5100万戸もつくって、30年経ったらそれを壊すというばかなことをしてきた。
しかし、これからは新しく増やす時代ではない。建築後50年経った家でも、入ればすぐにインターネットにアクセスできるし、水回りは完璧といった具合に、もっている資産をいつもピカピカにしておくという時代に入っている。すると、住宅の管理、メンテナンス、リフォーム関連のサービスが必要になってくる。
金融資産を有効に活用するためのサービスも必要だ。例えば投資信託の目論見書を見ても、普通の人には何が書いてあるかわからない。それを解析して評価し、顧客にレクチャーして選択させるというサービスが考えられる。
それから、企業について見れば、得意な分野に専念するために、労務管理や顧客管理などの事務は、外部の専門サービスを使ったほうが効率的だ。今では、企業のもつさまざまなデータを一括して管理するデータベース・テクノロジーが完全にできあがっているが、全国の何百万という中小企業が、それを活用できるところまでは来ていない。そこをなんとかしなくてはならない。
規制緩和と労働市場の再構築が急務
こうした前向きの改革を進めるために、重要なことが2つある。ひとつは、そうしたサービスを自由に提供できるようにするための規制改革であり、もうひとつは失業、転職が怖くないように労働市場を再構築することだ。特に労働市場の再構築は重要だと思っている。
旧労働省はこれまで、高度成長という環境の下で、労働者が一歩でも外に出ると損をするということで、企業から労働者が出ていかないようにしてきた。しかし構造転換の時代には、労働者が企業から出ていくようにしなければ、企業は構造転換ができない。
それゆえ今後は、企業から出た労働者が路頭に迷わないように、また将来向け自ら自己投資をし、技術を身につけて、次のチャレンジができやすいように市場システムを変えなくてはいけない。
現在、さまざまな状況の人が、それに応じてさまざま働き方をしている。短時間就労もあれば、裁量労働もある。派遣、出向、パートタイマーもある。今後は、このように需要側、供給側のニーズに応じてサービスを提供する時代だが、労働関係の既存の法律、制度も含めて、労働市場はそれを前提としていない。それゆえ、働き方によっては失業保険をもらえない、保険に入れないといった、さまざまな問題が生じるようになる。
われわれは、こうした状況を改め、各個人にトータルなセーフティネットを張って、非常にチャレンジしやすい社会を構築することを目標としている。
それが実現できれば、たとえ不良債権の直接償却で何十万人もの雇用機会が失われたとしても、人材の再配置・吸収が行われ、もっと所得が生まれて経済が活性化することになる。
労働市場の再構築は、決して短期的な話ではない。この30年ほど誰も取り組んでこなかったことを一気にやるという話なのである。この改革が成功したときには、非常に大きなインパクトをもつことになる。日本人の働き方、ひいては生活の仕方は本当に変わることになるだろう。そうした長期的かつ本質的な問題をにらみつつ、短期的にも役に立つことをやっている。それが小泉政権の改革の意味である。
改革への追い風が吹いている
ここまで述べてきたことを具体化するには、さまざまな困難がある。一例を挙げれば、社会準備教育サービスを提供するために、市場のニーズに応じて大学を変えたい、とわれわれが主張していることに対して、文部科学省は絶対許さないといっている。理念を政策化していくうえで、これからが正念場になる。
6月には経済財政諮問会議が、構造改革の「骨太の方針」を発表した。その柱のうちの一つが、われわれの「雇用創出型」の構造改革だ。
この「骨太の方針」を実現までもっていけるかどうか。つまり、まずは7月の予算折衝で「骨太の方針」を予算化することができるかどうか。それが、内閣府を試すリトマス試験紙になる。内閣府が設けられたときに期待された役割は、他の諸官庁の総合官庁として仕事をするということだった。「骨太の方針」を予算化できたとき初めて、内閣府はつくった価値があった、ということになる。
今は、改革へ向けた追い風が吹いている。われわれが歴史の流れを議論しているときに、「俺が歴史を変える」という人間が出てきて、経済戦略の方針を打ち出した。その方針の柱の一つがわれわれの議論している改革案だが、その全体のうえに竹中平蔵氏が座ることになった。その意味では、二人三脚のような形で、大きな流れができつつある。
小泉政権の構造改革は、戦後のキャッチアップを終えて久しい日本が、生活者が安心と真の豊かさを享受できる本当の先進政治経済に向けて、本格的な経済構造の転換を現実にすることでもある。それこそが、小泉政権の構造改革の本質なのである。 
 
2002

 

年頭所感 / 平成14年1月1日
新年明けましておめでとうございます。
昨年12月1日の愛子内親王殿下のご誕生を、心からお祝い申し上げ、健やかなご成長をお祈り申し上げます。
昨年4月に内閣総理大臣に就任して以来、我が国の「聖域なき構造改革」に全力で取り組んでまいりました。「改革なくして成長なし」の方針の下、あらゆる分野において改革を推進しております。
厳しい経済情勢にあって、日本経済の再生を図る道は、経済の持続的な成長力を高めるための構造改革以外にありません。改革を加速しつつ、デフレスパイラルに陥ることを回避するため、先に「緊急対応プログラム」を策定し、これに基づき第2次補正予算を編成しました。平成14年度予算は、「改革断行予算」と位置づけ、国債発行額を30兆円以下に抑えつつ、特殊法人への支出を1兆円削減する一方、歳出を抜本的に見直し、重点化を図りました。同時に、改革に伴う「痛み」を和らげるため、雇用対策には最優先で取り組んでまいります。
行政改革では、道路4公団等の廃止・民営化を含めた「特殊法人等整理合理化計画」を策定するなど、大きな進展がありました。「民間でできることは民間で」を原則に、引き続き大胆な行革に取り組んでまいります。
国民が生きがいと希望をもって、安心して生活していくためには、暮らしの構造改革が欠かせません。医療制度については、患者、保険者、医療機関で痛みを分かち合い、持続可能な制度に再構築するほか、社会保障、都市再生、環境などの分野で一層の改革に取り組んでまいります。
昨年は、9月の同時多発テロ、12月の不審船事件と我が国の安全保障に大きくかかわるできごとが続きました。我が国は、テロの防止と根絶に向けた国際社会の取組みに、今後とも積極的に協力します。同時に「備えあれば憂いなし」との心がけで、様々な事態に対応できる体制を整えていく必要があります。
米国との同盟関係と国際協調は、我が国の平和と繁栄のための基本です。2002年は、アジアの近隣諸国との交流の上で節目の年であり、国民的な盛り上がりを期待しています。
世の中を動かすのは国民一人ひとりです。皆さんからの幅広い支持があるからこそ、これまで不可能だと思われてきたことが着実に実現の方向へ向かっているのではないでしょうか。自信と希望を持って、本年も改革に全力を尽くす決意です。
小泉内閣に対する国民各位の一層の御理解と御協力をお願いいたします。 
新春記者会見 / 平成14年1月4日
新年おめでとうございます。今年もよりよい年でありますように、皆さんとともにお祈りしたいと思います。
今日は伊勢神宮へ参拝いたしまして、あの神社の境内、俗世間を超えた自然の霊気を感じて身の引き締まる思いがいたしました。幸いにして今日は大変伊勢神宮地域は穏やかな日和でして、この日和のように今年は穏やかで平和な年でありたいと、そうお祈りしながら参拝してまいりました。
昨年は非常に厳しい年ではございましたけども、その中でも愛子内親王殿下の御誕生を見まして、国民に明るいニュースを与えていただいたと思います。国民の皆様とともに、この御誕生をお祝い申し上げ、愛子内親王殿下が健やかに御成長されることをまずもってお祈り申し上げたいと思います。
お正月でありますけれども、今でもインド洋におきましては自衛隊の諸君が昨年のテロ事件発生以来、日本もテロ撲滅のために毅然として立ち向かうという決意を示しました。その決意を、身をもって活動されております自衛隊諸君に対して敬意と感謝を表明したいと思います。
今年も経済の面におきましても、あるいは安全保障の問題におきましても、テロ発生以来、大変内外ともに厳しい状況が続くと思います。しかし、日本としてはこの厳しい内外の情勢、わけても国内におきましては構造改革に真剣に取り組んで経済再生の基盤をしっかりと築く年だと思っております。そして、国際社会の中におきましても、テロに対しては毅然として立ち向かうという国際協調の中で日本の主体性を堅持しながら、国際協調の実を上げていきたいと思っております。
私は昨年1年間を振り返りまして多くの国民の皆様方の御支援を得まして、着実に改革は進んでいると思っております。わけても不況の中で非常に厳しい経済情勢、失業率が上昇して大変困難に直面している方々が多いと思いますが、そういう中でも小泉内閣の「構造改革なくして成長」なしという、その方針を多くの国民が支持していただいていると、この改革を進めてほしいと期待している、この声をしっかりと受け止めて今年は更に改革に向けて邁進をしたいと思います。
私は、小泉改革が進んでいないのではないかと批判する方々に申し上げたいんですが、私が4月に自民党の総裁、総理に就任して以来、着実に改革は進んでいると思っております。まず、私が総理になる前、いわゆる有力政治家の中に、自民党の総裁候補と言われた人たちの中にも、または野党の党首の中にも、道路公団の民営化が必要だと叫んだ人はいるでしょうか。住宅金融公庫が廃止できると思った人がいるでしょうか。あるいは石油公団、都市基盤整備公団、更には特殊法人への財政支出を14年度予算で1兆円削減する。いずれも無理だと思われたことをはっきりとして既に方針として自民党の賛成を得て決定したんです。中には、抵抗に遭って妥協したのではないか。あるいは、思い通りに進んでいないのではないか。そういう危惧する方もおられると思いますが、むしろこれまでできないと思われていたことを抵抗勢力と言われた方々も協力勢力に変わって支持していることは大きな変化なんです。
年末、政府系金融機関が8機関、見直しという方向で決定をみました。これを先送りという方も批判する中にはいますが、先に着実に進んでいるんです。自民党も着実に変わってきているんです。まず4月以来、道路公団の民営化なんかとんでもないと言っていた人たちも民営化は当然だと変わってきたではありませんか。はっきりと変わっているんです。住宅金融公庫すら、専門家の中にも賛否両論真っ二つでした。こういうことは民間の金融機関ではできない。必要だと言われていた住宅金融公庫でも廃止の方向が打ち出されれば既に民間金融機関の中でも住宅金融公庫よりも有利な商品を開発いたしました。
政府系金融機関においても年末、12月に自民党の行政改革本部総会では、見直しをしてはいかぬという方針が出たんです。一指も触れてはならぬという方向だったんです。最終的に党の5役と私と橋本元総理、太田行革本部長の会の中で見直すということに何の異論もなく決まったんです。自民党も変わってきているんです。
そういうことを見ると、私は改革が着実に進んでいる。また、自民党も変わってきたなと。抵抗勢力が協力勢力に変わってきたということは、自民党も国民の目線をよく見てしっかりと改革の道を進んでいかなければならないということを自覚したからこそ、皆さんが思った以上に抵抗せずに小泉内閣の進める改革に協力してくれているんです。そこを見落としてはならないと思っております。
道路公団にしても、民営化できないと言っていた人たちが民営化の方針になったら、償還期間を30年から50年に変えたからこれは妥協だという批判があります。そうじゃありません。民営化を了承して、30年の償還を50年にすれば妥協と取るのではなくてむしろ必要な道路をつくった方がいいだろうと。3,000億円の特定財源から国費を一切投入しないということも了承したんです。ですから、30年から50年に償還期限が延びたということ、50年以内にせよということは妥協でも何でもない。必要な道路はつくった方がいいということはみんな言っているでしょう。一部をとらえて妥協だの、挫折したのというのは、私は誤った見方だと思っております。これからも改革の手を緩めることなく、私は総裁就任して以来の方針を着実に実施に移す努力を続けていきたいと思います。
また、雇用情勢が厳しい、そういう中で雇用対策をしっかり打っていく。第1次補正予算、そして第2次補正予算を今月中に提出いたします。これは、雇用の問題について改革の痛みを和らげるために是非とも必要だというための雇用対策の予算を組んでおります。
更に、30兆円の国債の発行枠を守った。これを一部ではデフレ状況下における緊縮予算だと見ている方がいます。私はこれも違うと思っています。税収が47兆円程度しかない中で30兆円の国債の発行を認めたということ自体、緊縮とは言えないんです。しかも、日本の債務残高は690兆円を超えているんです。国と地方を合わせて。
そういう中で、私は47兆円しか税収がないのに30兆円の国債発行を認めて緊縮路線と言っている人たちは既に借金中毒に陥っているのではないか。私は一時的な借金中毒症状を緩和するために、もっと国債を発行すれば一時的には足りない足りないという、国債をもっと発行しろという声は弱まるかもしれない。しかし、それは一時の症状を和らげるためであって本格的な改革にはつながらない。今、小泉内閣が進めている改革というのは持続的な経済成長に持っていくための改革をしているんです。むしろこれほどの財政的な債務を抱えている中にもかかわらず、しかも47兆円程度しか税収がない中、増税もせずに30兆円の国債の発行を認めること自体、景気にも配慮した、しかも構造改革を進めていく予算であるということを御理解をいただきたいと思います。
また、失業の痛みを和らげる対策だけではなくて大事なことは、失業から雇用をつくり出すことであります。雇用創出であります。そのためにも5年間で530万人の雇用をつくるという方針をはっきり明示しております。現に前向きの状況、兆候がかなりの場面で顕著に見られています。
私は就任以来、まず政府の使う車を3年で全部低公害車に切り換えるという方針を出しました。私が総理に就任したときは7,000台近くある政府関係機関の低公害車の利用は300台前後でした。それを3年間で7,000台、全部低公害車に切り換えるといった途端、既に民間の企業はこれから低公害車開発に本格的に乗り出しました。3年間で7,000台、政府関係機関は全部低公害車に切り換える方針、予算措置を講じておりますけれども、これは7,000台にとどまらない。既に民間の算出によっては、10年後には1,000万台になるだろう。
なおかつ、方針ということがいかに大事かということは、私は先ほど言ったように住宅金融公庫の廃止ですら、できないと思われるあの住宅金融公庫の廃止方針を出した途端に、5年以内にするという形で、民間にできないということを城南信用金庫だけではない、大手の都市銀行でさえもそういう住宅金融公庫よりもより有利な商品を開発し出した。方針だけで民間が参入してくるんです。
いい例は、郵便事業です。これについても、私は今年の通常国会で民間企業に郵便事業全面参入方針を出しています。来年の4月以降に民間企業も参入できるようになっていますが、既に民間企業の中には民間で参入させてもらうんだったらそのための設備投資を用意し出しました。しかも、配置をするための人の雇用対策も講じ始めました。方針だけ出すことによって民間が色めきたって、民間も自分たちの仕事が増えるなということで税金を使うことなしに自分たちの金で設備投資をし、雇用対策をし出したんです。それが政治の面において、環境を整えるという上において非常に重要なことだと思っております。
私は、そういう意味におきまして日本の経済の再生、これまで先進国の中におきましても一番財政出動をしてきた日本、これ以上借金しようがないほど借金をしてやってきた。なおかつゼロ金利、財政政策、金融政策をめいっぱい政府は打ってきた。にもかかわらず、どうして経済が再生しないか、景気が回復しないのか。そこは今の政府なり、官業なり、構造に問題があるんだ。構造改革がなかったら決して経済は再生しないということで、「構造改革なくして成長なし」という方針を掲げてやってまいりました。
4月に総裁に就任し、総理に就任し、5月に所信表明を初めて国会で演説いたしましたけれども、その方針どおり着実に改革は進んでいるということを私は御理解いただきたいと思います。これからも今年1年、更にこの改革の実を挙げるべく、全力を尽くしていきたいと思います。
そして、今まで10年間、バブルの時期、この時期におきましてはある面においては日本は過信したと思います。日本一国の面積、アメリカのカリフォルニアの1州よりも小さいにもかかわらず、日本の国土の地価はアメリカ全米50州よりも高かった。日本企業はアメリカのビルを買う、ホテルを買う、ゴルフ場を買う。円は高くなる。いけいけどんどんでやってきた。ある面においては過信があったと思います。
今、10年たった。逆に自信を喪失している。日本の力は私はまだまだ潜在力は強い。いろいろな国を比較してみれば、十分な潜在力を持っている。この潜在力を実際の成長につなげる力にしていくのが構造改革であります。私は、過信もいけない、自信喪失もいけない。日本経済にもっと自信を持って、希望を持って雇用対策、そして5年間で530万人の雇用づくりに小泉内閣は真剣に取り組んで、持続的な経済の再生を図るために今年は全力を投球していきたいと思いますので、御理解、御協力をお願いしたいと思います。
【質疑応答】
● まず、構造改革と景気対策についてでありますが、総理は今年も構造改革に邁進するというお考えを示しましたけれども、企業の3月期決算に向けまして経済、景気は一段と厳しくなるという見通しもあります。こうした中で、既に来年度の予算案は編成したわけなんですが、税制の改革あるいは金融政策ですね。4月からペイオフが導入されるということでありますけれども、この辺につきましてですね、やはり不安が起こらないように具体的な対応というものを政府も考えていらっしゃると思いますけれども、金融及び税制の改革につきまして具体的に伺いたいと思います。
金融の危機を起こさないためにはあらゆる手段を講じます。今、着々と不良債権処理が進められておりますが、そういう中にあっても無用の混乱を起こさないために政府としては大胆かつ柔軟な対策をとる準備をしておりますし、いつも金融情勢については注意深く見守っております。金融不安を起こさない、金融混乱を起こさせないという方針の下にあらゆる手だてを講じていきたい。そして、構造改革の大きな柱の一つとして今年は税制改革にも取り組んでまいります。今の経済財政状況を見ますと、税制改革もこれからの経済再生にとって国民の活力をいかに引き出すかという観点からも避けては通れません。例年ならば、10月ごろから始めて1か月か2か月で翌年度の税制改正を決めるわけでありますが、今年はあるべき抜本的な税制改革というのは1か月や2か月の議論では足りないということから、新年早々、政府としては今月からでも、党にあっても2月ごろからには本格的に議論を進めて将来の財政基盤を安定させる。また、国民に必要な福祉政策、教育政策、環境政策、あらゆる施策を講じるための支えである税制というのはどうあるべきかということを国会議員のみならず、識者の方々、専門の方々、各方面の民間の方々の知恵をお借りしながら、あるべき税制改革を議論し、そして年末までには結論を出して15年度予算に反映できるような改革案をまとめていきたいと思っております。
● 関連ですけれども、与党内にはですね、4月からのペイオフ導入を延期すべきではないかという意見もありますけども、これは予定どおり実施されますか。
予定どおり、延期は考えておりません。予定どおり実施します。
● 次はですね、内閣改造、衆議院解散総選挙について伺います。総理は、今年は国政選挙のない年である。改革に全力を挙げたいというお考えを示しておりますけれども、やはり改革路線が行き詰まった場合は解散総選挙に打って出るべきだという意見も与党内にはあります。総理にそのお考えはありませんでしょうか。また、内閣改造も当面行わないという方針でありますが、人事は潤滑油だというお考えも示しております。通常国会明け以降を含めまして、今年の対応はどうされるのか。この2点を伺いたいと思います。
解散というのは、特別な事情が発生しない限りはやるべきものじゃないと思っています。まだ任期が2年半は残っています。今年は参議院選挙もない、地方統一選挙もない、そして衆議院選挙もない年だとかねがね言っておりますが、衆議院の選挙を考えずに改革に邁進したいと思っています。しかし、政界一寸先は闇と言われますから、どういう事態が起こるかは想定できません。解散しか事態が打開できないという場合は今、想定できません。しかしながら、私としては任期満了まで解散をせずに改革に専念したいと思っています。しかし、その間どういう事態が起こってくるかは分かりませんので、今の時点におきましては、今年は解散するつもりはないとしか言いようがありません。それと内閣改造ですが、大臣と党三役は変えません。そのほか、若干、副大臣、政務官、そして国会の常任委員長、特別委員長等の委員長人事、これらについては今日、山崎幹事長を始め党五役の方々とこれからお会いしますから、そのときに相談しますが、原則として副大臣、政務官、国会の委員長人事については柔軟に考えるという方向を固めております。あとは、党五役と相談してみたいと思います。また、これは改造人事、国会議員とは関係ありませんが、文化庁長官には民間人を起用したいと思いまして、河合隼雄氏にお願いしてあります。河合隼雄氏はお受けいただいたと承知しておりまして、いい方に文化庁長官を引き受けていただいたなと、文化芸術振興のためによき人を得たなと喜んでおります。これからも文化芸術振興のために小泉内閣としても努力をしていきたいと思っております。
● 総理は今年を小泉改革本番の年とおっしゃっていますが、特殊法人改革の仕上げとともに郵政3事業の民営化という大物の処理も残っております。道路公団など、道路関係の4公団の民営化の在り方や道路整備計画、高速道路整備計画の見直しを手がける第三者機関にはどういう権限を持たせ、人選についてはどういうふうにお考えになっているのか。また、郵政3事業については2003年の公社化後に完全民営化をいつごろまでにどういう手順で実現する腹積もりですか。お聞かせください。
道路公団の民営化をする際には第三者機関を設けて、あるべき姿を議論してまいりたいということでありますが、これは法案が成立しましてから人選については改革意欲に富んだ方々にその委員になっていただきたいと思っております。法案が成立してから人選を考えたいと思っております。
また、郵便事業の民間参入の法案がこれからの通常国会で提出されますが、そうしますとこれは順調にいきますと来年4月から民間参入が認められ、郵政公社として発足をいたしますが、今年夏ごろまでには、今、郵政事業の在り方に関する懇談会を田中直毅氏が座長になってやっていただいていますが、その懇談会の結論も夏までには出てくると思います。そして、来年民間企業が郵便事業に参入する。郵政公社として来年発足する。その状況を見ながら、民間にできることはできるだけ民間に任せよう、地方にできることはできるだけ地方に委ねようという方針の下に、民営化の方向を探っていきたい。そうしますと、これは特殊法人、財政投融資制度、そして本番の郵便貯金、簡保の資金がどう生産的方面に活用されていくのか。いわゆる大きな行政側の構造改革、今までできないと言われた壮大な改革に結び付くわけでありますので、まず特殊法人の改革は緒についた。一段落したところではないんです。これから進んでいくんです。
今回、特殊法人では廃止なり民営化する必要はないという機関もありますが、今後とも見直しは進めていきます。これについても今までの行革断行評議会の皆様にも御努力いただきました。そういう方たちの意見も借りながら、引き続き評価・監視機能をつくっていきました。もっと権威のあるものにつくっていきたい。特殊法人の改革を進めていくためにも、これで一段落という状況ではありませんので、そういうものも設置して更にこの構造改革に拍車をかけていきたいと思っています。
また、いろいろ党内におきましてもこの問題については特に郵便事業の民間参入とか、あるいは郵政民営化等については抵抗が強い分野ではありますけども、この分野につきましても、結論としては民間にできることは民間に、地方にできることは地方にということの総論に反対する人はいないんですから、その方針に沿って党内においても理解を得て、国民の支持を得て壮大な官業の構造改革に努力をしていきたいと思っております。
● もう一問、安全保障政策に関してですけども、昨年末は不審船事件が国内を揺るがせました。北朝鮮の工作船という見方もありますが、この事件で浮き彫りになった海上警備の在り方や関係省庁間の連携、危機管理の法整備などの課題を今後どう解決していくのか。また、次の国会は有事法制の整備が大きなテーマになると見られます。政府内には緊急事態基本法と自衛隊法改正案の2本立てで整備する案があるようですが、総理は今後この有事法制にどういう手順で取り組まれるおつもりなのか、お願いします。
昨年の暮れに起こった不審船の奇怪な行動、この行動に関わって事件の対応につきましてはいろいろ問題点があるのではないかという指摘もございます。政府としては、あの不審船の事故の経緯をよく調査して、点検して、法的な面において不備はないか。また、現場の対応として手抜かりはなかったか。今後何が必要か、何が欠けていたかということをよく調査して、いつ危機的な国民の生命、財産に危害を与えるような行為を仕掛けてくるグループ、勢力があっても不安のないような措置をしなければならないという観点から、いろいろな整備を進めていきたいと思います。あの事件をいろいろ見ますと、日本人の想像を超えるような、我々日本人としては理解に苦しむような不可解な意図と、そして装備をして、能力を持って日本に危害を与えるかもしれないというようなグループが存在しているということも見逃すことはできない。そういうことを考えますと、私はそのような日本国民に危害を与えるようなグループに対して、勢力に対して、どういう措置を平時から考えておくかということは、大変重要なことだと思います。また、政治の責任だと思っております。今まで、有事法制を整備せよということを各方面から指摘されておりましたけれども、一方では有事法制に対して強い反対の議論もあることは事実でありますが、やはり政治というのは備えあれば憂いなしであります。国民に不安と危害を及ぼさないような体制を、法的な面においても、現実の各省庁の対応においても、しっかりと整備していくことが政府の責任ではないかと思いまして、今年通常国会に真剣にこの問題を議論し、できることから法整備を進めていきたいと思っております。
● 今年は、去年に引き続き企業の大型倒産が相次ぐのではないかというふうに心配する声がたくさんあるんですけれども、総理は去年青木建設が破綻したときに、これは改革に沿った動きなんだというふうに、破綻を肯定的に見てらっしゃいましたが、これからもその見方、とらえ方というのは変化はないのでしょうか。また、今、再建を進めている企業を、何らかの形で後押しするような方法というのは、特に考えてらっしゃらないんでしょうか。お願いします。
私もあのときのインタビューに対する答えはですね、個々の企業についてはあんまり言うのは適切ではないと言っているんです。基本的には、各企業がうまくいくか、失敗するかというのは、企業の問題でありますし、金融機関としても不良債権処理の過程でですね、いろいろなその経営者としての対応があると思います。私は、そういう面から総論的に言った問題でありますので、今、個別の企業の名前を挙げて、これは倒産してもやむを得ないとか、存続した方がいいとかいうのは、言うべき問題ではないと思います。しかし、総論、全体的に言えば不良債権処理ということを進めていけば、今の時代に対応できない企業の倒産もあり得るでしょう、だからこそそういう際にやむなく失業せざるを得ない人に対しては、雇用対策をしっかりやっていくと。同時に、5年間で530万人の雇用づくりを進めている。現に、この補正予算におきましても、福祉、環境、教育面においては、具体的に雇用づくりの対策を打っているわけであります。保育所待機児童ゼロ作戦、私は就任以来言っていましたけれども、3年間で15万人、この保育児童の対応を考えると。児童のためには、保育に当たる保母さんなり保育士の皆さんにも、その職場に参加してもらわなければいけない。あるいは、学校に補助教員5万人、3年間で、働いてもらうという場合にも、これは地域の方々にしっかり経験のある方が学校に出ていただければ先生の助けになる、生徒に対しても目配りができると。そういう面において、私はこの雇用対策というものは、当然不良債権処理を進めていけば、時代に対応できない企業が淘汰されるということについては、これは否定いたしません。その対策をしっかり打って、むしろ前向きに新しい産業、これから成長できる産業に多くの方々が立ち向かっていけるようなそういう支援策を取っていくことが必要ではないかと思います。今までの構造改革の手を緩めることはいたしません。景気回復してから改革を進めるべきだという方もおられますが、それが失敗してきたからこそ、これだけ景気停滞が続いているわけです。私は、一時的な景気回復よりも、持続的な経済成長をもたらすために「改革なくして成長なし」という基本路線は一歩も揺るぎません。
● 政府によって、今月から開始なさるという抜本的な税制改革論議についてなんですが、その中ではですね、いわゆる消費税率等の引き上げという選択肢も排除すべきではないというふうに総理はお考えでしょうか。
これは、非常に発言に気をつけなければならない問題なんです。過去に、消費税がどうだああだ言うとね、すぐ引き上げだと取りますね。そうではないんです。そういう予見なしに、所得税も法人税も消費税もいろいろ議論してもらうんだと。そういう中であるべき税制を考えてもらうと。税制改革の中でタブーはつくらない、聖域は設けない、あるべき税制改革はどういうものかという議論をしていただいて結論を導いていきたい。そういうことから言って、消費税を上げるということではありませんよ、下げるということでもありませんよ。消費税も、当然議論の対象になるでしょう。しかし、だからといって上げるとも下げるとも言いません。それは、所得税、法人税、消費税、全部、地方税も含めて、業務の中で果たして今の国民のいろいろな要求に見合うような手当をするためには、どういう税制がいいのか、どれほどの税収が必要か、どのような施策が必要かという中で考えるべきものだというふうに考えたいと思いますので、予見なく、予断なく、あるべき税制改革を議論していくということで進めていきたいと思います。 
靖国神社参拝に関する所感 / 平成14年4月21日
本日、私は靖国神社に参拝いたしました。
私の参拝の目的は、明治維新以来の我が国の歴史において、心ならずも、家族を残し、国のために、命を捧げられた方々全体に対して、衷心から追悼を行うことであります。今日の日本の平和と繁栄は多くの戦没者の尊い犠牲の上にあると思います。将来にわたって、平和を守り、二度と悲惨な戦争を起こしてはならないとの不戦の誓いを堅持することが大切であります。
国のために尊い犠牲となった方々に対する追悼の対象として、長きにわたって多くの国民の間で中心的な施設となっている靖国神社に参拝して、追悼の誠を捧げることは自然なことであると考えます。
終戦記念日やその前後の参拝にこだわり、再び内外に不安や警戒を抱かせることは私の意に反するところであります。今回、熟慮の上本日を選んで参拝したのは、例大祭に合わせて参拝することによって、私の真情を素直に表すことができると考えたからです。このことについては、国民各位にも十分御理解いただけるものと考えます。 
記者会見[就任一周年] / 平成14年4月26日
今日で私が総理就任以来1年が経過いたしました。この間、国民の皆様の御支持によりまして、元気に総理大臣の職責を果たすことができた。これもひとえに皆さん方の御支援、御協力の賜物でありまして、心から御礼を申し上げたいと思います。
私は、就任以来、「改革なくして成長なし」、この路線でやってまいりました。これは支持率が高いときでも、低くなったときでも、いかに変わろうとも、これからも変わりありません。私の「構造改革なくして成長なし」、この改革路線は微動だにしません。まず、そのことをお伝えしたいと思っております。
私は5月に所信表明して、これからの大筋を国民に向かって総理として示しました。まず、経済再生が小泉内閣の最大の使命であるということから、これまでの経済政策、マクロ政策を大転換しました。それは何かというと、今までは景気が悪くなると国債を増発してやってまいりました。だからこそ、私は国債の発行枠を30兆円以内に枠をはめた、14年度予算に。安易な国債増発路線から転換したんです。そういうことによって、私は歳出の削減も重要だということで、この不景気に公共事業をカットするなんてとんでもない、30兆円枠の国債発行を取り払って、不景気なんだから、もっと国債を増発しろという声を受けながらも、私はこの路線を堅持して、不必要な予算は削減します、しかし、必要な予算は増やしますと言ってやってきました。
公共事業とか、あるいは、経済協力、DOA予算、10%カットしましたが、これからの社会に必要な予算は増やしています。
具体的に言いますと、子育て予算、今、15万人程度保育所に預けたいと言っても預けられない。そういうことから、保育所待機児童ゼロ作戦を展開して、3年間で15万人分のお子さんが保育所に預かれるようにしますと。これは14年度予算で確実に裏付けを示して、予算を付けて実行しています。まず14年度5万人、15年度10万人、16年度15万人、私の言ったとおり、着実に進んでおります。
高齢者のケアハウス、民間でできることは民間にやってもらおう。公的な施設も民間の意欲のある、誠意のある方には参加してもらおうということで、これも今実質的に進んでおります。年金程度の生活費で高齢者ケアができるような施設が、今建設が始まっています。
更に教育、減らすばかりが能じゃない。不慮の事故によって、お父さん、お母さんが亡くなった場合、学校に行けなくなるのは困る。そういうお子さんに対して、勉学の意欲のある子弟に対しては、行ってもらうような措置を講じようということで、今年度の予算においても奨学金の対応予算は、前年度に比べて5万人増やしています。
更には、学校へ行って興味がないようなことでは不登校児が増えるだろう。「読み書きそろばん」、これはしっかり基礎的な学力は付けてもらう。習熟度別に学級編制してもいいんじゃないか。40人にこだわる必要はない。20人でもいい、30人でもいい。なかなか理解のできない子に対してはしっかりと理解のできるようなクラス編制が必要じゃないか。これも進んでおります。
あるいは教員免許がない人でも、経験のある方にはボランティアとして、学校で先生と一緒になってお子さんたちに配慮してもらうという、雇用対策を兼ねた、国民の善意を生かそうじゃないかという教育関係の予算も増やしております。
更には、これからは経済と環境を両立させなくちゃいかんということで、就任した途端に私は、政府関係機関の使う車は3年間で全部低公害車に切り替えるということを宣言しました。宣言した途端に、自動車会社は、多少高くても低公害車は政府が買ってくれるというんだったらば、その開発を進めようというこで設備投資を始めました。研究開発費を投じました。既に3年間ですべて低公害車に切り替えると言いましたら、排気ガスがゼロになる燃料電池車、今、世界がしのぎを削っています。今、何億円も掛かる。10年後になるだろうと言われたのが、今や来年に燃料電池自動車が試作される可能性があるということを自動車会社は発表しました。それならばということで、今日の閣議で、来年から燃料電池車、これは政府で購入すると。もし実用化されるんだったらば、市販されるんだったらば、購入するいうことを閣議で決定しました。
これは排気ガスゼロですから、環境対策にもエネルギー対策にも、更にはこれからの産業競争力強化の面においても世界的に大きな影響を与えると思います。現に進んでいるんです。今日、EUの委員長のプローディー氏が日本を訪問され、国会で演説されました。プローディー氏は何と演説されたか。こう演説しています。
日本は自己を信頼し、その将来に自信を持つべきだと。経済、技術、科学、マーケティングのいずれを取っても、日本の能力には目を見張るものがある。このような資産は決して消え失せることはない。日本は今も、そしてこれからも、主要経済国であることに変わりはない。私たちは日本の将来について安直な悲観論の罠に陥ってはならない。日本の抱える問題の多くは、円熟した経済がゆえに直面する問題だと。
私が言っているんじゃないんです。EU委員長のプローディー氏が国会で、日本国に向かって、日本の国会議員に向かって演説しているんです。私は自信過剰もいけないけれども、自信喪失もいけないと思います。
しかも、私が総理に就任して以来、毎日が有事体制だと思っています。総理大臣の職責を果たすために、重圧と緊張感は抜けません。しかし、どうしても改革をしなければならないという使命感で私は懸命にやっておりますが、日本は正当な自信を持つべきだと思っております。
現に去年の7月ごろから、もう小泉内閣の経済政策は行き詰まるだろう。不良債権処理を加速させると、企業の倒産、失業者が増大する。金融危機が起こる。経済不安が起こる。9月危機が起こる。9月危機がなくなると、10月危機が起きる。年末危機が起こる。起こらないと正月危機が起こる。2月には行き詰まる。3月には政権を投げ出すだろうと多くの方が言っていました。今何月ですか。4月です。金融危機は起こさせない。私のこの決意、それを具体的な手立てで示しているんです。不良債権処理も確実に進んでいます。特別検査も強化します。しかし、これだけでは済まない。危機は私も感じております。これからも金融機関もより健全な金融機関になってもらわなければいけない。強固な金融シテスムを構築しなければならない。この決意に私は変わりありません。
私は5年間で530万人の雇用をつくると宣言しております。ITも世界の最先端国家になろうと。科学技術会議も創設しまして、今、総合的に進めています。確かに今は厳しい状況です。昨年も、建設業を始め多くの産業で37万人の雇用が減っていますが、このマイナス成長下でもサービス業で50万人の雇用が増えています。
いつも危機だ危機だという。私も危機感を持っておりますが、余り不安を駆り立てるべきじゃないと思います。もっと日本は自信を持っていいのではないか。
しかも、最近は、外国の格付け機関が日本の評価を下げています。これは国債を増発し過ぎたからだということで一面です。確かに国債を増発すれば景気が回復するものではない。しかしながら、この格付けが日本の国力と勘違いしている方がいる。私はそうじゃない。国債の増発面、借金し過ぎだということは事実でありますが、だからと言って、国力全体が日本が援助している南米諸国やアフリカ諸国以下だということはあり得ないんです。企業の業績、あるいは財政の状況が悪いのは事実でありますけれども、日本は世界のどこにも借金していません。お金を貸していても借金していないんです。世界最大の債権国家なんです。個人の金融資産は1400兆円、こんな国は世界でどこにもないんです。一民間研究機関の外国の機関が、国債の格付けを下げたということが、国力が落ちたと。それは私は誤解だと思っております。
私の改革姿勢、現に着実に進んでいます。私が総理に就任前、ここにおられる皆さん、だれが本当に道路公団の民営化の方針が自民党から了承されると思った人いますか。いなかったでしょう。抵抗勢力に小泉は屈すると思っていた。しかし、自民党が変わったんです。自民党が協力してくれているんです。道路公団の民営化に賛成している。既に衆議院を通過しました。
更には、この不況で民間の金融機関がだらしないのに、住宅金融公庫の廃止なんかとんでもないという声が多数ありました。しかし、特殊法人を改革する。民間でできることは民間にやってもらおうということで、石油公団の廃止とか、あるいは住宅金融公庫の廃止、住宅金融公庫の廃止と宣言した途端に、今まで民間ではできないと言っていた民間の金融機関が、住宅金融公庫よりも有利な商品を出したじゃありませんか。できるんですよ。
今、政治の不祥事が続出しておりまして、政治の信頼が揺いでおります。これはゆゆしき事態です。ですから、今後も政治に信頼を取り戻すために、私はこれからも諸制度の在り方、あるいはあっせん利得罪の問題、更には公共事業の入札に絡む問題と、より一歩進んだ対応策を講ずるように、今、与党で協議を進めるよう指示してございます。今後とも自民党、公明党、保守党、3党協力体制の下に、1歩でも2歩でも前進できるような政治改革始め、諸般の改革を進めていきたいと思っております。
毎日毎日、外国の首脳が日本を訪れます。日本人自身が、何とか経済発展を望んでいると同時に、外国も日本の経済の発展に期待しております。
私も就任以来、外務大臣以上に恐らく外国訪問しているでしょう。毎月と言ってもいいぐらい、外国の大統領、首脳と会い、国際会議にも出て、日本の役割の重要性、日本の経済の発展の重要性を、ひしひしと感じてます。これからも、日本の役割というものを十分認識しながらやっていきたい。
日本人はどうしても、いいときはもう行け行けどんどん、悪くなるとますますだめだと。いい例が株価であります。平成元年、株価は3万8000円を超えました。そのとき4万円を超えるのが目前だろうと言った。ところが下がった今、1万円を下がると、もうこれから9000円になるだろう、8000円になるだろうと、だめだだめだと。確かに、まだまだ危機的な状況、気を緩めるような状況ではありませんが、昨年12月は失業率が5.5%を超えました。2月、3月は6%を超えるだろうと、あるいは10%近くになるだろうと、企業倒産も続出するだろうと言われましたけれども、どうやら幸いにして、2月は5.3%、3月は5.2%に減って、雇用者も増えております。就業者も増えております。楽観できる状況ではありませんが、私は改革のたずなを緩めることなく、これからも「改革なくして成長なし」という路線を堅持して、いかに支持率が変わろうとも、小泉の改革の決意は決して変わらないんだということを行動で示していきたいと思います。
現に今日閣議で、あれほど自民党が反対していた、与野党が反対していた郵便事業に民間参入する法案が決定いたしました。これは、事実上自民党の事前審査抜きです。提出は了承したけれども、内容は了承しないという、極めて異例な形でありますが、この郵便事業の民間参入、まさに自民党が変われるかどうか、与野党ともに改革の姿勢が問われる法案です。
法案を提出したからそれだけでいいんだと、あとからつぶすんだと、そんなことあり得ません。もし、この郵便事業の民間参入を自民党がつぶすんだったら、それは小泉内閣をつぶすと同じですから、そうなると自民党が小泉内閣をつぶすか、小泉内閣が自民党をつぶすかの闘いになりますから、その辺を自民党はよく考えてくれると思います。
これは、構造改革の本丸なんです。いよいよ道路公団民営化から、住宅金融公庫の廃止から、石油公団の廃止から、政府系金融機関の見直しから、本丸の郵政改革に動き出したんです。私は、今までだったらば、こんな問題、自民党が認め得ないような構造改革を、着実に1年間進めているんです。軌道に乗りつつあるんです。皆さんが期待したように、自民党をつぶさなくても、自民党がむしろ小泉内閣の改革に賛成してきてくれているんです。協力してきてくれているんです。これからも、私はこの決意に何ら変わることはありません。どうか国民の皆様におかれましては、もう一度言いますけれども、たとえ支持率が変わろうとも、小泉内閣の改革路線は決して変わることはない。小泉の決意と覚悟は、微動だにしないということを御理解いただきたいと思います。
【質疑応答】
● 今のお話の中にも、日本の経済の発展の重要性はひしひしと感じられているというお話がありましたが、新たな経済活性化策、いわゆる税制改革も含めた、それを総理はどのようにお考えになっているか。昨日、野田党首、神崎党首からも、新たな緊急経済対策の必要性を要請されたようですけれども、その辺りどう考えてらっしゃるか、まずお聞かせください。
昨日も、神崎代表、野田党首、公明、保守幹事長とお話をしましたけれども、やはり現下の最大の課題は経済対策だと。この問題については、連休明けにもまたじっくり相談しようということになっていますが、これは総合的な対策が必要だと思います。構造改革のたずなを緩めることはないと同時に、今後税制改革が控えています。これは、経済活性化にとっても是非とも必要だと、安易な国債増発に頼ることなく、財政規律を維持しながら、いかにデフレ対策、経済対策をするかということで、税制改革は不可欠だと思っておりますので、今後6月を目途に経済財政諮問会議、あるいは政府の税制調査会、党の自民党税制調査会、いろいろ議論が出てくると思いますが、大体の方向を決めて、15年度予算に反映させていきたい。その際には、いろんな項目が出てきます。今の時点で、私がこの項目を減税するんだとか、この項目を増税するんだとかいうのは、差し控えるべきだと思っていますが、税制改革というのは、経済活性化のためにも必要でありますので、この点も含めて、不良債権処理を加速させながら、金融対策、あるいは今、14年度予算が成立して、執行が円滑になされているか。そして第1次補正予算、第2次補正予算を13年度で編成しました。この補正予算が、どのように執行されているかよく点検して、雇用対策と含めてしっかりとした対応をしていきたいと思います。
● 改革への決意を述べられましたけれども、内閣支持率を見ますと、依然低迷しております。野党からは政権の行き詰まりではないかという指摘も出ております。一方国民の期待感もしぼみつつある中で、改革の痛みを強いることを、国民に納得させることができるとお考えでしょうか。
私は就任以来、改革には痛みを伴うということをはっきり表明してきました。そういう中で、この1年間、確かに国民が思うような景気回復には結び付かない、あるいは企業倒産が増えている、失業者が増えているという不安があると思いますが、こういう中でも着実に意欲のある企業は伸びているということは、私は、先日大田区の中小企業を視察してわかりました。片一方の企業は、この不況の中でも、熟練工の努力によって伸びている企業もある。もう一方は、今まで何十日も掛かっていた仕事が、熟練を要さないで若い方々のコンピュータで直ちにやってしまうという両極端の。日本の経済は強いぞと、日本製造業は捨てたもんじゃないというのを直に見まして、一つの明るい兆しを見ました。1年間でなかなか成果が見えないということでありますが、私は、先ほど話しましたように、一方では雇用等伸びている面もありますし、今年は業績が低い企業も、リストラの効果が効いて、来年は業績が伸びるだろうという見方をしている企業が多くなってきたという面は、そろそろ日本も底からはい上がる時期に来ているのかなという状況になったのではないか。この気運を大事にして、金融危機を起こさない、しっかりと財政金融政策を打っていく、構造改革を進めていく、後戻りさせないという施策を着実に打っていくことによって、私は、1年、2年、少し痛みを我慢した甲斐があったというような体制にもっていきたいと思っております。
● 先ほど総理もおっしゃられましたけれども、本日閣議決定された郵政改革関連法案を始め、今国会では有事関連法案、個人情報保護法案、健康保険法改正案など、重要法案が目白押しとなっております。ただ、日程的に限界があるというふうな指摘もあるんですが、今国会の会期を延長するというお考えはおありでしょうか。
まだ、2か月以上ありますから、今の時点でいろいろな法案が会期内で成立が難しいというのは早いんじゃないでしょうか。できるだけ会期内で成立させるよう全力を尽くすという努力はしたいと思います。
● 内閣改造について伺いたいんですけれども、今日で政権が1年ということで、一つの節目を迎えました。総理は、一内閣一閣僚というお考えを示しておりますけれども、自民党あるいは与党内には人事を一新すべしという意見もあります。日本的な感覚から言いますと、1年というのは大きな節目でありまして、今国会終了後等、今後改造を考えるお考えはありますか。
一内閣一閣僚というのは、目的ではありませんから、私は大臣はくるくる替わらない方がいいと。今の大臣は、皆さん全力で精力的に改革に取り組んでくれておりますので、私は、今は改造を考えないで、今国会いろいろな法案成立に全力を尽くしてもらいたいということを、今日の閣僚の懇談会でも御協力をお願いしたわけでありますので、当面は改造を考えておりません。ただ、自民党内、与党内には、改造を期待している方がたくさんいるということは承知しております。この点について政策推進、政策目的実現のために、どういう体制がいいかということは、総理としても常に念頭に置かなきゃなりませんので、将来のことは将来のこととして、いろいろな党内情勢を見極めながら考えたいと思います。ただ、閣僚はそう替わらない方がいい。しっかりと多くの方の信頼を得ながら、それぞれの手腕と見識を発揮していただきたい。今の閣僚は、当面替える必要はないし、改造の必要性も感じておりません。
● 総理、先ほど郵政改革で、小泉改革の本丸だとおっしゃいましたが、今日閣議決定された郵政関連法案が、今国会で成立しなかった場合、どういう政治的な行動を取るお考えでしょうか。
この郵便事業民間参入の法案は、今国会で成立させると言っているんです。一部に、公社化は成立させて、民間参入法案は継続だという声がありますけれども、そういうことはあり得ません。そういうことになったらどういう事態になるかということを、今、想定するのは早いんじゃないですか。そういう事態になったら、どのようなことになるかというのは、その時点で考えます。私は、これは譲れません。
● つまり、解散総選挙に打って出る可能性もあるということですか。
いや、そこまで言っては何だから、これは与野党なんです。与野党とも、旧郵政省の与野党を通じた選挙の応援。自民党は、特定郵便局長会の票を期待する。野党は、全逓の労働組合、全郵政の労働組合、役人の票を期待しながら改革を認めない、最も悪い部分です。公務員は選挙運動をしてはいけないのに、堂々と選挙運動している。こんなことこそおかしいんです。与野党の問題なんです。だから、今まで触れてはいけないと言ってできなかったんです。そこに初めて小泉内閣が手を入れるんです。これは自民党だけではありません。野党も本当に改革する必要があるのかと、公務員の、役人の票を期待して、この改革をつぶすかという問題ですから、こんなことを認めるような小泉内閣ではないということをはっきりと認識していただきたいと思います。 
2003

 

年頭所感 / 平成15年1月1日
新年明けましておめでとうございます。
小泉内閣が誕生して一年八ヵ月。この間、「改革なくして成長なし」の信念のもと、私は一貫して構造改革に取り組んでまいりました。本年は、不良債権処理の加速と産業の再生、デフレの抑制など政策強化を通じて改革路線を確固たる軌道に乗せてまいります。
昨年、史上初めて日本人によるノーベル賞の同時受賞という快挙を成し遂げた小柴昌俊さんと田中耕一さんは、「ノーベル賞級の研究者は日本にたくさんいる。」と話しておりました。
日本には大きな潜在力があります。改革こそが潜在力を発揮させるための途です。厳しい情勢が続きますが、自信と希望を持って、改革に全力を尽くし、国政に邁進する決意です。
外交政策では、国際協調を基本に国益を踏まえ主体的な役割を果たすとの姿勢を貫いてまいりました。
北朝鮮との関係については、拉致事件の被害者ならびにご家族の皆様の立場を踏まえ、支援と真相解明に努めるとともに、米韓両国とも連携しつつ、核開発問題の解決など北東アジアの平和に向けた努力を粘り強く積み重ねてまいります。
今後とも、国際社会の一員として、世界の平和と安定に貢献する積極的な外交を展開していくとともに、国民の安全と安心の確保に万全を期してまいります。
国家の発展のために不可欠なものは、自らを助ける精神と、自らを律する精神です。経済を再生し、自信と誇りに満ちた日本社会を築いていくために、本年も揺るぎない決意で改革を進めてまいります。
国民の皆様の一層のご理解とご支援をお願い申し上げるとともに、本年が皆様一人ひとりにとって実り多い素晴らしい一年となりますよう心よりお祈り申し上げます。 
記者会見 / 平成15年1月6日
新年おめでとうございます。
今年も多事多難だと思いますが、誠心誠意職務に精励いたしますので、よろしくお願いいたします。質問たくさんあるでしょうから、お受けいたします。
【質疑応答】
● 最初に経済についてなんですけれども、総理はデフレの克服に全力を挙げるということを日ごろ言っていらっしゃるんですが、同時に不良債権処理も加速させるということを言っていらっしゃいます。不良債権の処理を加速しますと、企業の淘汰が進み、不良債権が更に拡大してしまう。デフレの圧力を一層強めてしまうという指摘をするエコノミストも多いと思うんですけれども、総理自身デフレの克服というのをどのように進めようとしているのか、お聞かせください。
デフレ克服、デフレ抑制、いずれも経済再生のためなんです。今、御指摘されたような不良債権処理を進めるとデフレが深刻化する。処理を進めていなかったときにどう批判されていたのか。不良債権処理が進まないから経済が再生しないんだという意見が圧倒的多数だったんじゃないでしょうか。いざ進めると、今度は逆のマイナス面ばかりあげつらう、私はこれはおかしいんじゃないかと思っております。
不良債権処理を進めないで経済再生があり得るのか。私は不良債権処理を進めることによって一時的に企業倒産、あるいは失業者が増加するような事態があっても、その際には雇用対策をしっかり打ってきた。これからも補正予算、切れ目なく執行していき、雇用対策にも十分配慮していきたいと思っております。
そういう意味において、私はこれをやればすぐデフレは克服するんだ、経済再生するんだというようなことは言いません。今まで私は就任以来進めてきた行財政改革、改革路線、これを進めることによって経済の再生を期す。当面、財政政策、金融政策、めいっぱい打っております。そういう中において、規制緩和、あるいは不良債権処理、歳出の見直し、税制改革、あらゆる政策手段を動員して、このデフレ抑制に向けて、政府は日銀と一体となって取り組んでいく。金融政策は日銀の独立性もありますから、私がここであれこれ言うのは適切ではないと思いますが、日銀とも一体となって、金融対策等については取り組んでいかなければならないと思っております。
言わば根本的な対策、財政政策においても、国債を40%以上、財政に占める依存度が高い、めいっぱいやっている。そして、来年度におきましては、税制におきましても、2兆円先行減税している。お酒とたばこ2,000億円、一方では増税をしていますが、差し引き、このような厳しい財政事情の中でも、1兆8,000億円の減税先行を打ち出している。金融政策、御承知のとおりゼロ金利であります。金融緩和も日銀もやっております。
そういう中においては、やはり構造改革、行財政始め、規制と歳出の見直しと、金融システムの強化と、そういう総合的な対策を打つ。構造問題にメスを入れる。これなくして日本の経済再生はないということで就任以来やってきましたし、その路線に全く変更はありません。これが将来の日本経済の再生につながるものだと思っております。
今年も改革路線、全く揺るぎない路線を軌道に乗せていきたいと思っております。
● 外交問題をお伺いします。北朝鮮ですけれども、結局、拉致被害者5人の家族の皆さんも、この正月は一緒に過ごすことができませんでした。一方で北朝鮮の核を巡る動きは国際的な非難の対象になってきています。日本の北朝鮮政策についてお伺いします。
昨年の9月17日に北朝鮮を訪問いたしまして、日朝平壌宣言を発出いたしました。私は金正日北朝鮮の指導者と直に会談をし、日朝平壌宣言を署名した。この日朝平壌宣言を誠実に実施に移す。これが最も必要なことであり、大事なことだと思っております。
そういう中において、あの日朝平壌宣言にもはっきりうたっております。拉致問題のみならず、安全保障上の問題。国際法を遵守する、核の問題を、疑念を払拭する。そして、日朝間に横たわる過去の問題、現在の問題、将来の問題、包括的に、総合的に取り組んでいかなければならない。そしてこの日朝平壌宣言が誠実に実施されたあかつきに日朝国交の正常化が成る。これを今後とも追求していかなければならない。
私は、そういう意味におきまして、拉致の問題は、日本と北朝鮮側の問題でありますが、安全保障上の問題、核の問題は日本と北朝鮮の問題でありますが、同時に日朝間だけの問題ではありません。韓国、アメリカ、更には中国、ロシアも大きな懸念を抱いております。EUもそうであります。IAEAもそうであります。国際社会と協力しながら北朝鮮側にこの核に対する疑惑を払拭する。そのことが北朝鮮にとって最も利益になるんだということを日本としても粘り強く説得していかなければならない。
私は昨年北朝鮮を訪れて、金正日氏と会談したのも、今まで日朝間の不正常な問題を正常化したい。そして、今の日朝間の敵対関係を協調関係にすることが北朝鮮にとっても最もプラスになるんだと。勿論、日本にとってもそうであります。朝鮮半島、世界全体にとっても日朝関係が敵対関係から協調関係に入ることによって安全度がはるかに増す。平和と安定につながるという確信を持って会談に望みました。今もその考えには全く変わりありません。
今後、交渉でありますから、いろいろ紆余曲折があると思います。日本と北朝鮮だけの問題ではないと思っておりますし、米・韓、そして周辺諸国、国際社会の中でいかに協調関係を取っていくことが重要だということを北朝鮮側に粘り強く働きかけていかなければならないと思っております。
そういう意味におきまして、楽観はしておりませんけれども、何とか日朝間に正常化の道筋を付けたいと思っております。
● 内政問題をもう一点お伺いします。衆議院の解散・総選挙ですけれども、年内に行われるんじゃないかという憶測が高まっています。自民党の山崎幹事長からは、今年6月を過ぎれば危険水域に入るという発言もございました。衆議院の解散・総選挙についてどのようなお考えでいらっしゃるか。同時に、今年9月には自民党総裁選挙を控えています。小泉総理の総裁選挙に対するスタンスをお伺いしたいと思います。
昨年から解散が非常に大きな関心事になっていることは承知しております。前回の選挙から既に2年半が過ぎている。今年6月には3年目を迎えるわけでありますので、国会議員ならだれでも解散を意識するのは無理もないことだと思っております。私も当選10回、そして、30年議員生活を送っておりますが、10回当選で30年ですから、平均すれば3年に1回、この間、任期満了選挙は1回しか経験しておりません。恐らく戦後任期満了の衆議院の選挙は1回だと思います。2年半過ぎればいつ選挙をやってもいいなという気持で衆議院議員は準備を始めると思います。
そういうことから、常に何かあると選挙じゃないかと取り上げられるのは理解できますが、私は今年、解散するという気持はありません。9月に自民党総裁としての任期が切れます。これと総裁選挙と解散が絡められて議論をされているのも承知をしておりますが、私は、絡めるつもりは全くありません。9月になれば、総裁選挙が整然と行われる。予定どおり行われるはずであります。また、予定どおり行われなければならないと思っております。
それは前回再選されましたけれども、その間の私の業績に対しまして、自民党員並びに自民党の国会議員がどう判断するか。それを待てばいいわけでありまして、総裁選を有利に運ぶために解散するんじゃないかという見方もありますが、そういう考えも全くありません。たんたんと総裁選を行えばいい。
また、今から小泉の総裁再選はないと断言している自民党の衆議院議員もおられるようでありますけれども、どのように思うか、それは御自由でありますけれども、その時点でどうなるか、状況を見て、判断すればいいじゃないか。私は改革なくして成長なし。この下で登場してきた自民党総裁であり、日本国の総理大臣であります。この改革路線を変える気持は全くありませんし、その時点で自民党議員、自民党員が、私のこの改革路線をどう評価されるかであります。
でありますので、解散と総裁選挙を絡める気持は全くありませんし、現時点で今年解散しなければならない理由もないと思います。現に自民党単独で衆議院は過半数の議席を確保しているわけです。そして、公明党の皆さん、今度新党を結成されました保守新党の皆さん、これも小泉内閣に協力してくれると言っているんです。3党の連立体制を維持しながら、お互い3党が協力しながら改革路線を推進していく。これに尽きるのではないでしょうか。でありますので、私は解散する考えは持っておりません。
● 総理にお伺いします。今年、新たに日銀総裁を選ばなければいけませんけれども、新しい総裁に求める条件、また、現時点でお考えがありましたら、お聞かせ願えませんでしょうか。
これからの経済情勢を考えますと、日銀の判断というものはかなり重要になってくると思います。金融対策上も日銀の打つ手に経済界、かなり大きな関心を寄せております。そういう点から、3月で任期が切れる速水総裁の後任人事がいろいろ取りざたされているようでありますが、私も新しい日銀総裁については、デフレ退治に積極的な方が望ましいんじゃないか。金融政策について日銀の独立性がありますから、今ここでとやかくは言いませんが、デフレ退治に積極的に取り組んで、そのための手はどういう対策が必要かと。各方面の声を十分聞きながら、適切な判断を行使してくれる方、国際情勢につきましても、それなりの見識を持っておられる方。適切な方を人選しなければならないと思っております。今の時点で今、速水総裁がしっかりと取り組んでおられますので、後任人事について、具体的に名前を挙げて言う時期ではないと思います。
● 先ほど北朝鮮の話が出ましたけれども、この国際的な協力関係の中で、北朝鮮を国際社会の一員とすることが大事だと総理おっしゃいましたけれども、今度、総理はロシアの方に行かれますけれども、プーチン大統領とは北朝鮮の問題については、どういった形で話し合いを行って解決の糸口を見出したいとお考えでしょうか。
9日に日本を出発して、ロシアを訪れます。そして、プーチン大統領と会談いたしますが、日ロ関係のこれからの問題を討議するだけではなく、当然北朝鮮の問題は話題になると思います。事実、昨年9月17日に、私が北朝鮮を訪問する前も、プーチン大統領から直接電話をいただき、金正日氏と会談した様子、また、北朝鮮側の印象というものをプーチン大統領らにお話をいただき、助言なり意見を交換することができました。そして、北朝鮮を訪問し、訪問した後もプーチン大統領と電話会談をして、今後の日ロ関係の中でロシア側とも北朝鮮問題については連携協力を密にしてやっていこうという話し合いをいたしました。また、プーチン大統領からは、北朝鮮の私の訪問を高く評価され、そのときもプーチン大統領は、あの日朝平壌宣言に対しまして、望み得る最大の成果を日本側は上げられたと激励をいただきました。そういう経緯も踏まえまして、私は今回、プーチン大統領と会談をいたしますが、この北朝鮮の問題につきましても、現にロシアと北朝鮮が国交を持っておられ、友好関係を維持しておられます。そして、昨年の8月には金正日氏もロシアを訪問され、プーチン大統領とも会談し、それぞれロシアと北朝鮮だけの問題ではなくて、国際情勢についても言及されたと思います。日本としては、国交のあるロシア、中国ともよく連携を取ってこの北朝鮮の問題については当たっていかなければならない。
特に核の問題、安全保障の問題、これはロシアと中国が国境を接しております。そして友好関係を北朝鮮側と持っておられる。現在の関係を考えますと、北朝鮮に対しましてロシアもかなりの影響力を持っておられると思います。また、日本にはない観点をプーチン大統領も持っておられると思います。そういう点も踏まえまして、私は今回のロシア訪問を契機に、日ロ関係の将来の在り方、そしてソ連時代からロシアに変わったと、アメリカとソ連が対決していた時代から、ロシアがアメリカと協調体制を取った。なおかつ、G7からロシアが世界先進国サミット会議に参加するようになった。
4年後には、ロシアでサミット会議が行われる。言わば、かつてのソ連の体制から、プーチン大統領のロシアになって様変わりであります。政治的には民主主義体制を目指す、経済的には市場経済主義を取っていく、そしてサミット参画とともに、同じ価値観を共有するということでロシアの体制は変わったと、そういう国際的な環境の変化をとらえて日ロ関係も当然領土問題、平和条約の困難な問題もありますが、日ロ間で協力できる分野も多々あるのではないかと。国際関係の変化をにらみながら、私はロシアを訪問したいと思っております。また、プーチン大統領とも会談したい。当然、北朝鮮の問題についてもロシアと協力してやっていきたいと思っております。
● アメリカによりますイラク攻撃が取りざたされておりますけれども、与党内にもイラク復興支援のための新法を早期に制定した方がいいという議論があるようですが、この点どのように取り組まれますでしょうか。
これは、今、査察が行われて、今月下旬にはその査察の報告が国連の安保理に報告される状況になっていると思います。それを見てから考えればいいことであって、今の時点でいろいろ起こってないことを前提にして議論するのは適切ではないと。日本としては、アメリカも国際協調体制を取って、このイラクの問題に対処してほしいということを昨年来から話しているわけでありますので、私は国際協調というものを基本に考え、そしてアメリカとの同盟国の関係を考えながら主体的に日本政府として取り組んでいきたいと思っております。 
第二次小泉内閣の発足・談話 / 平成15年11月19日
私は、本日、再び内閣総理大臣の重責を担うことになりました。
総選挙において示された国民の信任を厳粛に受け止め、「改革なくして成長なし」「民間にできることは民間に」「地方にできることは地方に」というこれまでの方針を堅持し、公明党との連立政権の下、先の内閣と同じ体制で引き続き構造改革を推進してまいります。
デフレ克服と経済活性化の実現、国民生活の「安全」と「安心」の確保、将来の発展のための基盤づくり、行財政改革の徹底に精力的に取り組み、国民に約束した改革の実現に全力を尽くします。当面する重要課題である年金改革、地方分権に向けた「三位一体の改革」、道路関係四公団の民営化を着実に具体化するとともに、来年秋頃に向け、郵政事業民営化案の検討を進めてまいります。
イラクに対しては、現地情勢を見極めながら、人道・復興支援を進めてまいります。北朝鮮に関わる拉致や安全保障問題の解決、テロの防止・根絶に向けた闘いに全力で取り組みます。
改革の芽がようやく出てきた今こそ、断固たる決意をもって改革を推進してまいります。
国民の皆様の御理解と御協力を心からお願いいたします。
基本方針[第二次小泉内閣初閣議における指示]
「改革なくして成長なし」、「民間にできることは民間に」、「地方にできることは地方に」との方針の下、以下に掲げる改革を進める。
1.経済の活性化
・民間の活力と地方のやる気を引き出す金融・税制・規制・歳出の改革を推進し、デフレ克服、経済活性化を実現する。
・「五百三十万人雇用創出プログラム」を推進し、若者から中高年までの就職支援など、雇用対策を充実させる。
・地方のことは地方自ら決定する地方分権の実現に向け、「三位一体(補助金・地方交付税・税源移譲)」改革を進める。構造改革特区、都市再生、観光立国を推進し、地方を活性化する。
・産業を再生し、地域経済を支えるやる気のある中小企業を応援する。
・食の安全と信頼を確保し、やる気と能力のある農業経営を後押しする。
・低公害車の導入、ゴミゼロ作戦、クリーンエネルギーなど、科学技術を振興し、環境保護と経済成長を両立させる。
2.国民の「安全」と「安心」の確保
・犯罪対策を強化して、「世界一安全な国−日本」を復活させる。
・年金、医療、介護などの社会保障を若者と高齢者が支え合う公平で持続可能な制度に改革する。「待機児童ゼロ」作戦を進め、子育てを応援する。
・知育、徳育、体育、食育。「人間力向上」のための教育改革を実現する。
・「知的財産立国」を実現し、文化・芸術を生かした豊かな国づくりを進める。
3.行財政改革の徹底
・子や孫の世代に負担を先送りせず、「2010年代初頭にプライマリー・バランスの黒字化」を目指す。
・郵政事業(郵貯・簡保・郵便)を平成19年から民営化する。このため、来年秋頃までに民営化案をまとめ、平成17年に改革法案を国会に提出する。
・道路関係四公団民営化推進委員会の意見を基本的に尊重し、平成17年度から四公団を民営化する法案を来年の通常国会に提出する。
4.外交・安全保障
北朝鮮問題、イラク復興支援、テロ対策など、日米同盟と国際協調を重視し、主体的な外交・安全保障政策を進める。
5.政治
政治改革を推進し、国民に信頼される政治を実現する。 
記者会見(第二次小泉内閣発足) / 平成15年11月19日
去る11月9日に行われました衆議院総選挙におきまして、お陰様で国民の信任をいただくことができました。本日、衆議院本会議で首班指名選挙が行われ、私、再度総理大臣の重責を担うことになりました。今後ともよろしくお願い申し上げます。
私、2年半前、初めて総理大臣に就任して以来、改革なくして成長なし、民間でできることは民間に、地方にできることは地方に、これに沿って改革を進めてまいりました。この改革の種をまいてきて、ようやく改革の種に芽が出てきた、そういう時期に再度総理大臣の重責を担うことになりましたが、これからも改革推進に向けて、国民の御理解と御協力を得ながら、全力を尽くしてまいりたいと思います。
私は、総理大臣に就任する際に「天の将に大任をこの人に降さんとするや、必ずまずその心志を苦しめ、その筋骨を労せしむ」という孟子の言葉を引用いたしました。
天が大任を降さんとするときには、必ずその人の心身を苦しめ、疲労させる。これに耐えていかなければならない。重責を全うするために、あらゆる困難に耐え、改革に邁進していかなければならない。そういう決意を胸にしっかりと秘めてやってきたつもりでございます。
これからも、総理大臣の重責には変わりないと思っております。毎日が緊張と重圧の中にいること、今後も変わらないと思います。しかしながら、総理大臣としての責任を全うするために、あらゆる困難にめげず、いかなる批判を浴びようとも耐えて、しっかりと改革の芽を大きな木に育てていきたいと思いますので、今後ともよろしく御指導、御協力をお願いしたいと思います。以上でございます。
【質疑応答】
● 当面の一番の課題でありますイラクへの自衛隊の派遣の問題ですが、我々の世論調査などでは、治安の情勢の悪化を受けて、反対論も強まっているようですが、イラクの復興支援として、なぜ自衛隊の派遣が必要であるとお考えか、その念頭に置かれている派遣時期も含めて、改めてお考えをお伺いさせていただければと思います。
イラクの安定は日本のみならず、全世界極めて大事な問題だと思っております。イラクの復興支援、人道支援、そしてできるだけ早期に、イラク人の、イラク人による、イラク人のための政府をつくらなければならない。これに対して、アメリカ始め国際社会が協力していこうということは、既に国連の安保理決議でも採択されたように、日本としても、国際社会の責任ある一員として、イラクの復興支援、人道支援に当たらなければならないと思っております。その際、今までの議論にあるとおり、日本は戦闘行為には参加しない。しかし、イラクの安定のために、民主的な政権樹立のために、日本の国力にふさわしい支援をするべきだと考えております。情勢は厳しい状況でございますが、日本として民間人、あるいは政府職員、そして自衛隊も活躍できる分野があれば、私はこの国際社会の責任を果たすために積極的に貢献すべきだと思っております。ただし、日本の自衛隊なり、あるいは民間人なりを派遣する場合には、その状況を見極めて、安全面に十分配慮して、派遣しなければならないと思っております。そういう観点から、今後もよくイラク情勢を見極めながら、いつ派遣すべきかという点については、状況を見極めながら判断したいと思っております。
● 第二次小泉内閣では、さきの衆議院選で掲げたマニフェスト、政権公約をいよいよ実現、実行する段階に入ります。しかし、自公連立政権になって、その政策調整の難しさも指摘されています。国民との契約であるマニフェストの重要性をどのように考え、どう実行して、どのように具体化していくのか、フォローアップシステムの構築も含めてお考えを伺います。
今回の総選挙において公約を示しました。この公約実現のために、自民党、公明党協力して、全力を尽くしていきたいと思っております。今までの連立体制の中で培われた信頼関係の下に、私は自民党と公明党、それぞれ党の事情は違いますが、調整は十分できると。そしてお互いの立場を尊重しながら協力できる、そういう信頼関係が既に今までの連立政権協力した中で生まれておりますので、この信頼関係を大事にして、お互いの政策におきましても、総選挙で掲げた国民との間の約束、いわゆる公約をいかに実現していくかについて、私は十分話し合いの上に行っていきたいと。ある問題については、党が違いますから考えの違いもあると思います。しかし、それも今までの経験で十分調整が可能だと。お互い補い合いながら、支え合いながら、公約の実現に向けて努力していきたい。十分可能であると思っております。
● 北朝鮮の拉致事件に対する対応についてお伺いします。政府が、北朝鮮の拉致事件の解決を最重要課題として取り組み、更に国際社会の理解が進んでいるにもかかわらず、この問題の前進というのはなかなか見られない状況が続いています。総理としては、この問題を第二次小泉内閣としてどのように取り組むのか、また今、北朝鮮の対応を、どのように認識しているのかをお聞かせください。
私は昨年北朝鮮側が私をピョンヤンに招待したということ自体、北朝鮮側も日本との国交正常化を求めている意思の現れだと思っております。私もその際、北朝鮮が国際社会の責任ある一員になることが、北朝鮮にとっても、日本にとっても、朝鮮半島全体にとっても、また国際社会の中にあっても重要であるということを金正日総書記に話しました。そういう中で、拉致の問題、核の問題、ミサイルの問題、総合的、包括的に解決して、将来日朝国交正常化につなげていこうという話し合いが行われたわけでありますが、拉致の被害者の一部の方が帰国されましたが、まだ被害者の家族の問題が残っております。こういう点について、私は北朝鮮側に誠意ある対応を今までも求めてまいりました。これからもこの話し合いの場、二国間でどのようにその話し合いの場を設けるかということについて、北朝鮮側の誠意ある回答を今でも求めております。同時に6か国、6者協議、これが第1回の会合が行われましたが、まだ、次の会合が行われておりません。時期はまだわかりませんが、いずれ6か国、6者協議が行われると思いますが、その場におきましても、国際社会全体の問題と、また日本の立場というものを各国の理解を得ながら、粘り強く北朝鮮側に誠意ある対応を求めるように努力を続けていきたいと思います。
● 総理は2年半前、改革をするには痛みが伴うと公言して政権運用をされて、この2年半国民は痛みに耐えてきたと思います。本日、第二次政権が発足するに当たって、小泉内閣で国民は、まだ痛みに耐えねばならないのでしょうか、それはいつ頃まで続くとお考えなんでしょうか。
改革には痛みや抵抗や反対が伴う。既得権を手放さなければならないという方々にとっては痛みであります。しかし、現状維持で痛みが将来こないかというと、私はもっと大きな痛みが来ると思います。そういう点から、抵抗、反対を恐れず、やるべき改革をやるというのが改革には痛みが伴うという私の考え方であります。今、ようやくその改革の必要性を多くの国民が理解してくれたからこそ、こういう厳しい状況にあるにもかかわらず、自民党が単独で総選挙において過半数を上回る議席を獲得することができた。また、この改革を進めてきた与党全体で、安定多数の議席を確保することができたということは、やはり国民が改革を進めろという声だと受け止めております。この声をしっかり受け止めて、ようやく出てきた改革の芽、いわゆる金融改革1つ取りましても、不良債権処理は進んでおります。税制改革、これも経済活性化のための税制改革、厳しい財政状況でありますが、単年度ではなく、多年度で考えようという税制改革も行いました。規制改革、これは今までできなかった特区構想、地方の意欲が出ております。全国的な規制でできないんだったら、1地域に限って、規制を緩和しよう、改革しようということで、各地域がやる気を出して、そういう改革も進んでおります。歳出の分野におきましても、一般歳出を実質前年度以下に削減しながら、必要な分野を増やす、不必要な分野を削っていくという歳出の改革も進んでおります。そうした中で、政府の公的資本形成が投入されなくても民間がやる気を出していると思います。地方が自ら財政を援助してくれ、あるいは税制優遇してくれということなしに、地方のやる気が出て、自分たちがやらなければいかんという意欲も出ております。そういう意欲、やる気を民間においても、地方においても支援していかなければならない。
だからこそ、私は今、厳しい状況でありますが、政府の見通しを上回って、実質経済成長率の名目成長率も若干プラスに上向いてきたと。この芽を育てるということは、今まで進めてきた改革路線は正しいと、進めろという国民の審判だと今回の選挙の結果を受け止めておりますので、私が最初に2年半前、総理大臣に就任したときとは打って変わって、今回の衆議院選挙においても、自民党も改革政党に変わったと。かつての3年前の選挙の自民党では考えられなかった民営化路線、中央から地方への路線、これは堂々と公約に掲げて、これを今後進めていこうということで、与党で合意ができております。そういう点におきまして、今回の選挙の審判というものは非常に力強く、激励だと受けておりますので、この公約に沿って自民党、公明党の連立政権協力の下に、更に改革を推し進めていきたいと思っております。
● 今の地方の関係の話なんですが、三位一体改革に関して、昨日の経済財政諮問会議で、税源移譲も行えるようにという指示をなされましたけれども、政府の中では異論もあるように聞いていますが、これをどうやって年末にかけて進めていかれるのか。それと初年度の税源移譲の規模も8割程度と考えてよろしいのか、その辺りをお考えがあればお聞かせください。
これは年末には具体的な数字が出てまいります。また、出さなければいけないわけであります。その際に、3年間で4兆円補助金を縮減するということであります。三位一体改革というのは、補助金、交付税、税財源、これを一体として改革していこうということでありますので、初年度、地方への裁量権を拡大していこうということで、1兆円を目指して補助金を縮減していこうと、地方への裁量権をいかに拡大していくか。その際にはやはり税源も移譲していこうと。これは補助金と交付税と両方、地方が自主的に判断したいという点が、個別に今いろいろ問題点が出てきておりますし、それを今、調査中であります。そういう点については、公約どおり、補助金と交付税と税財源、三位一体の改革の芽を出すべく、年末の予算編成に向けて全力を尽くしていきたいと思っております。 
2004

 

年頭所感 / 平成16年1月1日
新年明けましておめでとうございます。
私は、就任以来、「改革なくして成長なし」という基本方針のもと、構造改革に取り組んでまいりました。これからの小泉内閣の責務は、見えてきた改革の「芽」を「大きな木」に育てていくことだと考えます。多くの国民の皆様の信任を厳粛に受け止め、断固たる決意で改革を進めてまいります。
構造改革の実現に向け、平成16年度予算には、持続可能な社会保障制度や、補助金、地方交付税、税源移譲の「三位一体の改革」などの具体案を盛り込みました。道路四公団の平成17年度からの民営化や郵政事業の民営化に向けた具体案作りも、着実に進めてまいります。
改革は着実に進んでいます。雇用情勢は厳しい状況が続いていますが、経済成長率は1年6ヶ月連続して実質プラスになり、企業収益や設備投資も改善しています。この明るい兆しを中小企業や地方経済にまで広げていかなければなりません。金融、税制、規制、歳出の改革を加速し、民間の活力と地方のやる気を引き出してデフレ克服と経済の活性化を実現してまいります。
外交政策では、国際協調と日米同盟を重視し、我が国の国益を追求する外交・安全保障政策を進めてまいりました。日本国憲法の前文は、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と高らかにうたっています。イラクの治安情勢が厳しいことは十分認識しておりますが、国際社会の責任ある一員として、イラクの人道復興支援のため、資金的な支援のみならず、安全に十分配慮しながら自衛隊を含めた人的支援を進めてまいります。
日本の歴史には、様々な苦難のときがありましたが、我々の先輩は、勇気と希望を持って新しい時代を切り拓いてまいりました。悲観論からは新しい挑戦は生まれません。構造改革の種をまき、ようやく芽が出てきた今こそ、日本の潜在力と可能性を信じて改革を進め、明るい未来を築いていかなければなりません。
国民の皆様の一層のご理解とご支援をお願い申し上げるとともに、本年が皆様一人ひとりにとって実り多い素晴らしい一年となりますよう心よりお祈り申し上げます。 
年頭記者会見 / 平成16年1月5日
新年、明けましておめでとうございます。
昨年、大変外交、内政厳しい年でございましたけれども、今年はよい年であるように、皆さんとともにお祈り申し上げたいと思います。お正月ではありますが、自衛隊の諸君は既に、イラクの人道支援、復興支援のために準備を進めております。
それに加えまして、インド洋におきましては、テロ対策支援活動、また東ティモールなどのPKO活動では、国づくりの活動に活躍をされておられます。更にイランで大地震が発生し、その被災者に対する救援活動も民間の方々と一緒に、救援活動にあたってきたわけでございます。
日本の国の経済社会情勢は厳しい状況でありますが、日本としては、日本の国にふさわしい、外国で困難に陥っている国々、あるいは災害によって被災を受けて窮乏している被災民の方々に対して、できるだけの支援活動をしていきたいと思っております。
正月早々でありますが、そういう厳しい状況にあっても、日本国民を代表して活躍している自衛隊の諸君、あるいは民間人、NGOの方々、政府職員の方々、そういう方々に心から敬意を表したいと思っております。内政、外交、今年もなかなか厳しい状況が続いてくると思います。特にイラクの復興支援につきましては、世界各国が6月にイラク人の政府をつくるよう全力で努力している最中でございます。早くイラク人が自らの国を再建すると、復興すると、希望を持って自らの国を安定した民主的政権をつくるために努力して、これを日本としても支援をして、この中東の安定なしに世界の平和と安定はないという観点から、支援を続けていかなければならないと思っております。
北朝鮮に対しましては、日朝平壌宣言に基づきまして、拉致の問題、核の問題、ミサイルの問題、これらを総合的、包括的に解決して、将来、日朝国交正常化を実現したいという基本方針は一貫しております。今後もこの方針に沿って、北朝鮮側に対して誠意ある対応を求めていきたいと思います。
昨年、北朝鮮とアメリカ、韓国、中国、ロシア、そして日本の六者会合が行われましたが、今年もできるだけ早くこの六者会合が開かれまして、懸案の問題解決に向かって日本としても引き続き粘り強い努力を続けていきたいと思います。
内政におきましては、この2年余にわたる、私が総理に就任して以来の構造改革路線、改革なくして成長なし路線、これがようやく軌道に乗ってきたなと。いろいろ改革の種をまいてまいりました。この種に芽が出てきたと、この芽を大きな木に育てていくために、改革の手綱を緩めることなく推進していきたいと思います。
特に、民間にできることは民間に、地方にできることは地方にという今までの方針に、ようやく具体化されて、これから国会で御審議をいただくわけです。
道路公団民営化の問題につきましても、民間の推進委員会の皆さんに御協力を得て、この委員会の意見を基本的に尊重して具体案をまとめることができました。
今後、国会におきまして、この民営化の法案を審議していただきまして、17年度中には民営化を実現させる準備を進めていきたいと思います。
また、今年はいよいよ官僚機構、財政投融資制度、特殊法人、この一段の官僚の分野の改革の本丸と言われる、郵政三事業民営化の問題が本格的に動き出します。今まで何年かにわたって、民営化是か非か、民営がいいのか、国営がいいのかという議論が全くまとまりませんでした。賛否両論。特に政界におきましては、民営化論に圧倒的に反対論が多かったわけですが、ようやく昨年の衆議院選挙におきまして、民営化是か非はもう決着しております。民営化するという前提で、どのような民営化案がいいかということを今年の秋ごろぐらいまでに、いろんな方々の意見を聞きながら案をまとめて結論を出していきたいと思います。
そして、来年の国会に民営化の法案が出せるように、今年は準備していきたい。行財政改革、民間にできることは民間に、地方にできることは地方に、官僚機構の徹底的な無駄、これを排除する意味のいよいよ本丸改革に迫ってきたわけであります。
民営化の案、国民に不安を与えないように、今までの国営の郵便局よりもはるかにサービスのよい、国民から安心して今までの郵便局サービスを享受できるような、発展性の可能性の富んだ、そういう民営化案を多くの識者の意見、各界の意見を聞きながらまとめていきたいと思います。
景気の問題、これは多くの国民が一番関心を持っている問題であります。なかなか景気が厳しい状況が続いてまいりましたが、ようやく昨年から明るい兆しも見えてまいりました。
実質経済成長率においても、名目成長率においても、政府の見通しを上回って、プラスに転じてきております。倒産件数も12か月、13か月連続して減少しております。
また、民間側の意欲も、ここのところ盛んに出てきておりまして、企業業績の回復も改善もなされ、将来の設備投資に向かって意欲的な動きが随所に見られております。
また、会社を立ち上げようという意欲のある人、こういう方々の支援をしようということで、今まで1,000万円以上ないと会社を立ち上げることができなかった。それを昨年、1円の資本金があれば、会社をつくることができますよと、そういうことが可能になる形にしたところ、昨年既に7,000件以上もの会社が新しく誕生しております。やはり意欲のある人はいるんだなと、こういう国民一人ひとりの、企業一つひとつの意欲を支援する改革を断行していきたい。
長年景気の足を引っ張っていた不良債権処理、これも額においても割合においても着実に減少に向かって進んでおります。
雇用の面においては、依然として失業率が5.2%と厳しい状況が続いておりますが、ここに来て求人数は増えております。求人はあるんだけれども、なかなかその求人のところに向かっていかないと、いわゆるミスマッチ、このミスマッチ解消のために、もうひと工夫、必要ではないかと思って、今後とも雇用対策、特にミスマッチ、若年者が自立できるような対策をわかるように進めていかなければいけないと思っております。
いずれにしましても、今までだめだと多くの方から、この改革路線の批判を受けてまいりましたけれども、実態の面で見ますと、このところ補正も国債を増発しないで補正予算を組むことができた。公共投資が減少する中で経済に明るい兆しが出てきたと、まさに改革の成果が徐々に表れてきていると思います。
今後とも、この路線を堅持して、金融財政は極めて厳しい状況でありますが、改革の芽を大きな木に育てていきたいと思います。日本には、大きな潜在力があります。底力もあります。あまりだめだ、だめだと言って悲観しないで、将来に向かって、この時代にやればできるんだと、悲観論に陥ってくじけてはいけない、やる気を多くの国民が持ってもらうような改革路線を推進して、新しい挑戦に向かって、多くの国民や企業が立ち向かえることができるような改革を進めていきたいと思います。今年もよろしくお願い申し上げます。
【質疑応答】
● 総理、明けましておめでとうございます。まず、経済の問題についてお伺いしたいんですが、今、総理もおっしゃられたように、昨年辺りから景気に明るい兆しが見えてきたのは事実だと思うんですが、その一方で、年末の年金改革や税制改革などによって、かえって景気に悪影響を与えるのではないかという心配が出ています。そういう点を踏まえて、今年一年の景気の展望といいますか、日本経済が本当に本格的な回復軌道に乗ることができるのか、その辺をどのように見通していらっしゃるのかということ。それと、その回復軌道に着実に乗せるために、具体的に何をなさっていきたいと考えていらっしゃるのか、その2点をお伺いします。
景気対策をしなさいということ、それを言われる方々の意見というのは、今の小泉内閣のとっている路線が緊縮路線だという批判があるんですね。それは、昨年も私は申し上げました。80兆円の一般会計の予算の中で、税収が40兆円程度しかないんです。この状況で増税はできない。しかし、国債発行は40%を超えている。一体どこの国で国債依存率が40%を超えている国があるでしょうかということを私は言ったんです。突き詰めて言えば、景気対策をもっとしなさいということは、今以上に国債を増発して、公共事業をもっとしなさい、公共事業を削減すると景気に水を差すということの批判であります。一方では、これほど国債を増発して、GDPを上回る国債残高がどんどん増えている。今までの借金の未払いがずんずん増えていって、福祉予算なり、一般政策予算に回らない。これ以上国債を増発して、今までのように公共事業を拡大して、本当に景気回復になるんですか。むしろ財政破綻、将来につけを回す。これを恐れる。言わば、もっとプライマリー・バランスと言いますか、財政的な基礎収支、財政に規律を持たせなさいと。
ということは、この論者の言うことを聞くと、国債を増発してはいかぬということなんですね。もっと歳出削減に切り込みなさいと。民営化するのか、民営化にも批判的である。地方に任せる、これに対しても、いざ改革を進めるとこれも批判的だと。国債を増発し過ぎるという批判というものは、結局、増税しなさいということになるんですね。私は消費税は、私の任期中には上げない。私の任務の大きなものは、今の徹底した官の分野の無駄を省く、行財政改革。だからこそ、民間にできることは民間にと言って、就任前には、だれにも予想し得なかった道路公団民営化、郵政民営化は現実の政治課題に取り上げることが、ようやくできたんです。
私は、そういう面において、緊縮予算だと言っている批判は、もっと国債を増発せよということになってくるんだということを、国民にわかってもらいたい。その人たちは今、国債を今よりも増発して、金利が上がった場合には、また景気の足を引っ張ることになります。それでは、これは国債を増発し過ぎだという批判に聞きますと、増税しなさいというふうになっていきます。増税で景気が回復するでしょうか。どっちからも批判が来る。一方だけの批判だったら、その批判に対しては私も判断します。どっちの立場かわからないで、目に見えないところから批判だけすればいい、揚げ足取りだけすればいいという状況というのは、皆さんもよく考えていただきたい。ちゃんと顔を出して、その論者はどうして一貫の立場に立って私を批判しているのか、小泉内閣を批判しているのか、現在の財政、経済を批判しているのか。
そういうことをはっきりさせて、両者からの顔を合わせた批判なら大いに歓迎します。しかし、今の路線は景気に即効薬がありません。万能薬はありません。金融改革、不良債権処理を含めた金融改革、税制改革、単年度で収支を合わせるというのは税制改革ではない。複数年度で減税先行の税制改革をしています。
規制改革、これは国として、今まで認められなかった、いろんな分野における株式会社の参入も認めてきた。歳出も今年度は一般会計においては、前年度以下になっているにもかかわらず、メリハリを付けた。警察官の増員をする中で、公務員は全体で減らす。
防衛予算においても、将来のミサイル防衛をしながら、防衛予算はマイナス1%。今までにない、予算を減らす中で重点的にメリハリを付けて、必要な科学技術関係予算には増やしていく。増えている部分は、社会保障分野と科学技術予算だけ。あとは減らす中で、増やすべきは増やすということをやっているわけでありまして、メリハリの効いた予算でありますので、今後ともそのような今まで続けてきた改革路線を着実に進めていくということは、ひいては日本の経済回復につながっていくのではないかと思っております。
● イラクへの自衛隊派遣についてお伺いしたいと思います。防衛庁は、昨年末の空自の先遣隊に続いて、陸上自衛隊の派遣についての準備も進めているわけですけれども、その一方でイラク国内で治安の改善は見られていない状況ですし、国内の世論調査を見ても、なお慎重論が多数を占めていると。やはり現状のイラクに非戦闘地域を見い出して自衛隊を派遣するということが、国民にとって非常にわかりづらいことだと思うんですけれども、その点についてどうお考えになるのか。また、派遣部隊が現地でテロと見られる武力攻撃を受けた場合、その攻撃性や組織性が判断できなくても撤退させることになるのかどうか。その点についてのお考えをお聞かせください。
今、イラクの復興支援、人道支援のために、多くの国々が協力しながら、早くイラク人の政府を立ち上げて、イラク人が希望を持って自らの国の再建に取り組むことができるような支援を講じております。その際に、テロの活動、あるいはフセイン政権の残党グループがイラクにおいて治安を乱したり、あるいはテロ活動を続けて非常に危険な地域もあるということは承知しております。しかし、そういう状況の中で、日本が手をこまねいていて、イラク人の中にも多くのイラク人は自分たちの力で早くイラクを再建させたいという方々もたくさんおられるわけであります。イラク統治評議会等。
アメリカ、イギリス始め国際社会も国連も、早くイラク人のイラク政府をつくろうと努力している。そういうことで、国連も国連の加盟国に対して、できるだけの支援をイラクにしてほしいと要請をしております。日本はその要請に応えて、自衛隊を派遣する場合にも武力行使はしないと、戦闘行為には参加しないという法律にのっとって、イラクの復興支援活動にどう当たるかということを検討した結果派遣を決めて、今、先遣隊が準備を進めております。
確かに、今の状況を考えますと、奥外交官、井ノ上外交官、貴重な2人の優秀な日本の外交官がテロリストに殺害されて、極めて残念であります。そういう状況を踏まえながらも、一民間人、一政府職員がイラクに赴いて、復興支援活動ができるかというと、かなり危険を避けるような準備も個人個人では無理であろうと。また、危険を防止するための装備も持って行けないだろうと。同時にそのような訓練をしていないだろうということで、もし人的な支援策を考えるんだったらば、今の時点においては自衛隊の諸君に行ってもらうのが妥当であろうと。一般の民間人が行かない。そういう中で、危険なところだから民間人行けということもできないということで、私は日ごろから組織的な厳しい訓練に耐えて、自分で宿泊施設もつくることができる、自分で食料を調達することができる、自分で水があればきれいにして、水を飲むことができる、利用することができる。自己完結性を持った組織である自衛隊が、復興支援活動、人道支援活動に取り組む余地はイラク国内においても十分あると思って、自衛隊の諸君に国民に代わって、決して安全とは言えない、危険を伴う困難な仕事であろうけれども、この日本のイラクに対する復興支援のために行っていただく、この自衛隊員の安全配慮の面につきましては、政府として万全の措置を講じております。
もしということではなくて、もしということを考えたくない事案を想定するよりも、危険な目に遭わないように、最悪の事態が起こらないような準備をしていくのが、今の政府の責任だと思っております。そして、自衛隊の諸君が立派に任務を果たせれば、いずれ民間人の方々もイラクに赴いて復興支援活動ができる環境ができればいいなと。そのために、政府としては資金的援助、物的援助、人的援助を含めて、国際社会の一員としての責任を果たしていきたいと思っております。
● 拉致問題ですが、六者協議の開催を優先するとの理由から、徐々に国際的な関心が薄れている観がある拉致問題なんですけれども、被害者家族の状況は以前として変わっていません。先ほど総理は拉致、核、ミサイル、包括的に取り組んでいかれるというふうにおっしゃいましたが、日本政府として今年この拉致問題の解決に向けて膠着状況の打破に向けた具体的な方策、何か念頭にあるもの、これから取り組んでいきたいものとかございますでしょうか。
昨年も年内に六者協議が行われる可能性を追求しておりましたけれども、結局年を越しました。拉致問題につきましては、今までも表面に出ない部分で日本独自の働きかけ、また日本以外の各国に対して拉致問題に対する理解と協力を求めてまいりました。かねてより、日本政府、私が主張しておりますように、拉致は拉致、核は核、別問題だという方法は取っておりません。拉致も核も一緒に解決していくべき問題であると。核の問題につきましては、昨年リビアが核放棄を全面的に表明いたしました。国際社会の核の問題に関する査察を、即時、無条件で受け入れました。これは、私は朗報だと受け止めております。やはり国際社会から孤立したら、その国の発展はないんだなということにリビア政府は気づいたんだと思います。このようなリビア政府の決断が、今後も核を持とうとしている国に対して、いい影響を与えるということを期待しております。北朝鮮に対しましても、国際社会から孤立する道を選ぶのではなくて、国際社会の責任ある一員になることが北朝鮮国民にとって、平和と安定、繁栄への道を進むことだということを、今までも申し上げてまいりましたけれども、今年はそういう核放棄、核査察を受け入れ、そして国際社会への責任ある一員になるように日本としても、北朝鮮側に対して粘り強く働きかけていきたい。また、北朝鮮側もそのような働きかけに対して、誠意ある対応を示すことが北朝鮮にとって最も利益になるんだということを伝えていきたいと思います。
● 総理は、元日に靖国神社を訪問しましたが、これに対して、中国、韓国から反発が出ていますが、これをどう受け止めますか。もう一つ、総理は元日の靖国神社参拝につきましても初詣の意味合いを持たせておりましたけれども、当初の公約であります8月15日の靖国神社訪問との意味合いの整合性をどのように考えられているのかと、この2点をお聞かせください。
靖国神社に参拝いたしましたのは、現在の日本の平和と繁栄のありがたさをかみしめると。日本の今日があるのは、現在、生きている方だけの努力によって成り立っているものではないんだと。我々の先輩、そして戦争の時代に生きて、心ならずも戦場に赴かなければならなかった、命を落とさなければならなかった方々の尊い犠牲の上に、今日の日本があるんだということを忘れてはいけないと。そういうことから、過去の戦没者に対する敬意と感謝を捧げると同時に、日本も今後、二度と戦争を起こしてはいけない、平和と繁栄のうちに、これからいろいろな改革を進めることができるようにという思いを込めて参拝いたしました。余り私の靖国神社の参拝を騒ぎ立てるようなことは、私は望みませんでした。静かに参拝できたらいいなと思っておりまして、そういうことから皆さんにも事前にお知らせすることはなかったんですが、お正月ということで参拝するにはいい時期ではないかなと思って元旦に参拝しました。天気も穏やかで、すがすがしい気分になることができ、これから1年、また一生懸命頑張りましょうという気持ちを込めて参拝することができたと思いました。
また、近隣諸国からの批判に対しましては、これはそれぞれの国が、それぞれの歴史や伝統、慣習、文化を持っているわけであります。そういうことに対して日本としては、戦没者に対する考え方、神社にお参りする意義等、それぞれ日本には独自の文化があると、外国にはないかもしれないけれども、こういう点については、これからも率直に理解を求めていく努力が必要だと思っております。これから、日中関係、日韓関係、日本の隣国として大事なパートナーですから、今後も日韓、日中両国との交流進展については、これまでどおりいろんな分野において拡大を進めていきたいと思っております。 
第159回国会における施政方針演説 / 平成16年1月19日
(はじめに)
昨年11月に行われた総選挙において国民の信任を頂き、再び内閣総理大臣の重責を担うことになりました。「構造改革なくして日本の再生と発展はない」というこれまでの方針を堅持し、「天の将(まさ)に大任をこの人に降(くだ)さんとするや、必ずまずその心志(しんし)を苦しめ、その筋骨(きんこつ)を労せしむ」という孟子の言葉を改めてかみしめ、断固たる決意をもって改革を推進してまいります。
私は就任以来、「民間にできることは民間に」「地方にできることは地方に」との方針で改革を進めるとともに、国際社会の一員として我が国が建設的な役割を果たすことに全力を傾けてまいりました。
我々が目指す社会は、国民一人ひとりや、地域・企業が主役となり、努力が報われ再挑戦できる社会です。現場の知恵や創意工夫は、日本の潜在力をいかした経済成長につながります。国は、国民の安全と安心を確保しなければなりません。国民、地域、企業の努力を支援するとともに、科学技術を振興し我が国の将来の発展基盤を整備します。国際社会にあっては、世界の平和と繁栄を実現するため積極的に貢献します。
本年は、これまでの改革の成果をいかすとともに、郵政事業や道路公団の民営化、地方分権を進める三位一体の改革、年金改革などこれまで困難とされてきた改革を具体化し、日本再生の歩みを確実にする年であります。
私は、自由民主党及び公明党による連立政権の安定した基盤に立って、改革の芽を大きな木に育て、自信と誇りに満ちた、世界から信頼される国を実現したいと思います。
(イラク復興支援とテロとの闘い)
昨年11月、イラク復興支援に中心的な役割を果たす中で殉職された奥克彦大使、井ノ上正盛一等書記官のお二人に改めて心から哀悼の意を表します。
イラクに安定した民主的政権ができることは、国際社会にとっても中東にエネルギーの多くを依存する我が国にとっても極めて重要です。国際社会がテロとの闘いを続けている中で、テロに屈して、イラクをテロの温床にしてしまえば、イラクのみならず、世界にテロの脅威が広がります。イラク人によるイラク人のための政府を立ち上げて、イラク国民が希望をもって自国の再建に努力することができる環境を整備することが、国際社会の責務です。
現在、37か国がイラク国内で活動し、90を超える国と国際機関が支援に取り組んでいます。国連もすべての加盟国に対し、国家再建に向けたイラク人の努力を支援することを要請しています。
戦後我が国は多くの国から援助を受けて発展し、今や世界の国々を支援する立場になりました。日本の平和と安全は日本一国では確保できません。世界の平和と安定の中に、日本の発展と繁栄があります。イラクの復興に、我が国は積極的に貢献してまいります。
その際、物的な貢献は行うが、人的な貢献は危険を伴う可能性があるから他の国に任せるということでは、国際社会の一員として責任を果たしたとは言えません。資金協力と自衛隊や復興支援職員による人的貢献を、車の両輪として進めてまいります。
資金面では、当面の支援として電力、教育、水・衛生、雇用などの分野を中心に総額15億ドルの無償資金を供与するとともに、中期的な電気通信、運輸等の経済基盤の整備も含め、総額50億ドルまでの支援を実施することとしており、真にイラクの復興にいかされるよう努めてまいります。
人的な面では、イラクが必ずしも安全とは言えない状況にあるため、日ごろから訓練を積み、厳しい環境においても十分に活動し、危険を回避する能力を持っている自衛隊を派遣することとしました。武力行使は致しません。戦闘行為が行われていない地域で活動し、近くで戦闘行為が行われるに至った場合には活動の一時休止や避難等を行い、防衛庁長官の指示を待つこととしています。安全確保のため、万全の配慮をします。
自衛隊は、海外の平和活動で大きな成果を上げており、イランでも大地震による被災者支援のための物資の輸送に当たりました。イラクにおいても、現地社会と良好な関係を築きながら、医療、給水、学校等公共施設の復旧・整備や物資の輸送などイラクの人々から評価される支援ができると考えています。
自衛隊は、既に現地において人道復興支援活動に着手していますが、今後、現地の情勢や治安状況を注視しつつ、本格的な支援活動を行ってまいります。困難な任務に当たる自衛隊員に、敬意を表します。
世界各国が協力してイラク復興を支援するよう、今後とも外交努力を重ねるとともに、中東和平に尽力し、アラブ諸国との対話を深めます。
アフガニスタンにおけるテロとの闘いは依然として続いています。昨年12月にリビアが大量破壊兵器の開発計画の廃棄と即時の査察受入れを決定したことは、大きな意義を有するものです。北朝鮮を含め、他の国にも責任ある対応を強く期待します。テロの防止・根絶及び大量破壊兵器の不拡散に向けた国際的取組に引き続き積極的に参画してまいります。
(進展する改革―「官から民へ」「国から地方へ」の具体化―)
日本経済は、企業収益が改善し、設備投資が増加するなど、着実に回復しています。経済成長はこの1年半連続で実質プラスになり、名目でも過去半年プラスとなりました。雇用情勢は厳しいものの、求人が増加するなど持ち直しの動きがあり、物価にも下げ止まりの兆しがあります。平成15年度の補正予算は、14年ぶりに国債を増発することなく編成しました。国主導の財政出動に頼らなくても、構造改革の成果が現れています。
地域の再生は、元気な日本経済を実現する鍵です。民間の活力と地方のやる気を引き出す金融・税制・規制・歳出の改革を更に加速し、政府は日銀と一体となって、デフレ克服と経済活性化を目指します。
「民間にできることは民間に」との方針の下、最大の課題は郵貯・年金を財源とする財政投融資を通じて特殊法人が事業を行う公的部門の改革であるとの認識で、行財政改革を進めてまいりました。
改革の本丸とも言うべき郵政事業の民営化については、現在、経済財政諮問会議において具体的な検討を進めています。本年秋ごろまでに国民にとってより良いサービスが可能となる民営化案をまとめ、平成17年に改革法案を提出します。
道路関係四公団については、競争原理を導入し、ファミリー企業を見直すとともに、日本道路公団を地域分割した上で、民営化します。9342キロの整備計画を前提とすることなく、一つひとつの道路を厳格に精査し、自主性を確保された会社が建設する有料道路と、国自らが建設する道路に分けるとともに、「抜本的見直し区間」を設定しました。規格の見直しなどによる建設コストの徹底した縮減により、有料道路の事業費を当初の約20兆円からほぼ半分に減らします。債務は民営化時点から増加させず、45年後にはすべて返済します。また、通行料金を当面平均1割程度引き下げるとともに、多様なサービスを提供してまいります。このような改革は、民営化推進委員会の意見を基本的に尊重したものであります。今国会に関連法案を提出し、平成17年度に民営化を実現します。
財政投融資については、郵貯・年金の預託義務を既に廃止するとともに、規模の圧縮を進め、平成16年度当初計画の規模は、平成8年度の約40兆円から半減し、20兆円になりました。
163の特殊法人のうち既に8割を、廃止、民営化、独立行政法人化することにより、事業を徹底して見直し、透明性を高め、評価を厳正に行うこととしました。特殊法人や独立行政法人の役員退職金は大幅に引き下げ、国家公務員並とします。
国家公務員の定員については、治安や入国管理など真に必要な分野で増員しつつ、全体として削減します。
公務員制度改革については、公務員が国民全体の奉仕者として職務に専念できるよう、具体化を進めます。
「地方にできることは地方に」との原則の下、「三位一体改革」は大きな一歩を踏み出しました。平成16年度に補助金1兆円の廃止・縮減等を行うとともに、地方の歳出の徹底的な抑制を図り、地方交付税を1兆2000億円減額します。また、平成18年度までに所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を実施することとし、当面の措置として所得譲与税を創設し、4200億円の税源を移譲します。平成18年度に向け、全体像を示しつつ、地方の自由度や裁量を拡大するための改革を推進します。
現行特例法の期限後も引き続き市町村合併を推進するための措置を講じます。
道州制については、北海道が地方の自立・再生の先行事例となるよう支援してまいります。
(暮らしの改革の実現)
構造改革は国民の暮らしを変えつつあります。
「世界最先端のIT国家」に向け、高速インターネットは世界で最も速く、かつ、安くなり、株式取引に占めるインターネット取引の割合は3年間で6パーセントから19パーセントに急成長しました。本年度末には、国の行政機関への申請や届出のほぼすべてを家庭や企業のパソコンから行えるようになります。技術革新と規制改革の効果があいまって、ICカードを使った定期券が普及し、電子タグを活用して店頭で食品の産地情報を提供する試みが始まっています。家庭のIT基盤整備につながる地上デジタルテレビジョン放送の普及を促進し、暮らしの中でITを実感できる社会を実現いたします。情報通信の安全対策を強化し、信頼性を高めつつ、電子政府を推進します。IT分野におけるアジアとの国際協力を推進します。
廃棄物の発生を減らすため、消費者のみならず生産者が積極的な役割を果たす仕組みを、家電、自動車、パソコンなど製品の特性に応じて整えてまいりました。身近なところでは、既にほぼすべての中央省庁食堂において、生ごみのリサイクルを実施しています。トウモロコシやおがくずで作る食器などのバイオマス製品の試験利用も進められています。
香川県豊島(てしま)では、多くの関係者の努力により、不法投棄により損なわれた美しい島を取り戻すための事業が始まっています。このような環境汚染を二度と起こさないため、できるだけ早期に大規模な不法投棄を無くし、ゴミゼロ社会を目指します。
組織の内部から公益のために違法行為を通報する人を保護する仕組みを整備してまいります。
(安全への備え)
国民の安全への備えは国の基本的な責務です。
空港や港湾など「水際」での取締りや危機管理体制の整備、重要施設の警備など国内テロ対策を強化し、在外公館の警備や海外の日本人の安全確保に努めてまいります。大規模テロや武装不審船など緊急事態に的確に対処できる態勢を整備します。
有事に際して国民の安全を確保するため関係法案の成立を図り、総合的な有事法制を築き上げます。
安全保障をめぐる環境の変化に対応するため、弾道ミサイル防衛システムの整備に着手するとともに、防衛力全般について見直してまいります。
「世界一安全な国、日本」の復活は急務です。政府を挙げ、一刻も早く国民の治安に対する信頼を回復します。
来年度は、地方公務員全体を1万人削減する中で、「空き交番」の解消を目指し、3000人を超える警察官を増員し、退職警察官も活用して交番機能を強化します。安全な街づくりを含め、市民と地域が一体となった犯罪が生じにくい社会環境の整備を進めます。出入国管理を徹底し、暴力団や外国人組織犯罪対策を強化します。
被害に遭われた方々への情報提供や、保護・支援の充実に努めてまいります。
司法を国民に身近なものとするため、刑事裁判に国民が参加する裁判員制度の導入や全国どこでも気軽に法律相談できる司法ネットの整備など司法制度改革を進めます。
昨年の交通事故死者数は46年ぶりに8000人を下回りました。10年間で5000人以下にすることを目指します。
学校・病院など重要な建築物と住宅の耐震化を促進し、消防・防災対策を強力に推進します。住居の確保などの被災者支援をはじめ、災害復旧・復興対策を充実します。
(安心の確保)
若者と高齢者が支え合い国民が安心して暮らすことができる社会保障制度を構築してまいります。
年金については、少なくとも現役世代の平均的収入の50パーセントの給付水準を確保しつつ、負担が過大とならないよう保険料を極力抑制する一方、年金課税の適正化により基礎年金の国庫負担割合の二分の一への引上げに道筋をつける改革案を取りまとめました。今国会に関係法案を提出します。
医療や介護については、将来にわたり良質で効率的なサービスを国民が享受できるよう基盤を整備するとともに、安定的な運営を目指した改革を進めます。
保育所の「待機児童ゼロ作戦」を着実に実施し、来年度も受入児童を5万人増やすとともに、育児休業制度を充実します。児童手当の支給対象年齢を就学前から小学校第3学年修了まで引き上げます。子供を安心して生み、子育ての喜びを実感できる社会を目指し、少子化対策に政府一体で取り組みます。
女性が持てる能力を発揮し、様々な分野で活躍すれば、活力や多様性に満ちた社会になります。これまで女性の進出が少なかった分野も含め、女性のチャレンジする意欲を支援してまいります。
建築物や公共交通機関のみならず制度や意識も含めて社会のバリアフリー化を促進するとともに、人権に関する教育や啓発を進め、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う社会を構築してまいります。
消費者の視点に立って、BSEへの対応をはじめ食の安全と信頼を確保します。SARSや鳥インフルエンザ対策に万全を期します。
(地域の再生と経済活性化)
歴史と文化をいかし自然との共生を目指す、琵琶湖・淀川流域圏の再生が始まりました。稚内や石垣では、港とまちの連携に加え、海外や周辺観光地との交流を促進し、観光振興と市街地の活性化に向けた施策が動き出しています。松山では、小説「坂の上の雲」をモデルに、歩きやすく住みやすい街づくりが進んでいます。地域の知恵や民間のやる気をいかし、全国で都市再生を進めてまいります。
昨年4月から開始した構造改革特区が動き出しています。群馬県太田市では、小学校から英語で授業を実施する小中高一貫校を開設することとしたところ、定員の2倍の入学希望者がありました。国際物流特区では、夜間の通関取扱件数が大幅に増加し輸出入も増えるなど、目に見える成果が上がっています。幼稚園と保育所の幼児が一緒に活動できる幼保一体化特区、農家が経営する民宿でどぶろくを造って提供できるふるさと再生特区など、各地域が知恵を絞った特区が全国に236件誕生しています。今後も特区の提案を着実に実現していくとともに、その成果を速やかに全国に広げてまいります。
2010年に日本を訪れる外国人旅行者を倍増し、「住んでよし、訪れてよしの国づくり」を実現するため、日本の魅力を海外に発信し、各地域が美しい自然や良好な景観をいかした観光を進めるなど、「観光立国」を積極的に推進します。
対日直接投資は、昨年5月に設置した総合案内窓口を通じて780の投資案件が発掘されるなど、着実に進展しています。5年間での倍増目標に向け、外国企業にとって日本を魅力ある市場にしてまいります。
愛知県高浜市では、株式会社を設立し一括して業務を委託することにより、市職員の人件費を削減するとともに、地域の雇用を創出しています。
地方自治体や企業からの要望を一括して受け止め、行政サービスの民間開放の促進など地域の実情に合わせた制度改革や施策の連携により、経済活性化と雇用創造を通じた地域の再生を全面的に支援してまいります。
米作りを始めとする農業と、流通を含む食品産業の活性化を図ります。やる気と能力のある経営を支援し、農産物の輸出も視野に置いた積極的な農政改革を展開します。美しい農山漁村づくりを目指すとともに、都市との交流を推進してまいります。
「緑の雇用」により森林整備の担い手の育成と地域への定住促進を図り、多様で健全な森林の育成を推進します。
雇用対策に全力を挙げます。求人と求職のミスマッチの解消や早期再就職の支援を推進します。企業実習と一体となった教育訓練の実施、地域が民間を活用して実施する若者向けの職業紹介など「若者自立・挑戦プラン」を実施します。65歳までの雇用機会確保や中高年者の再就職を促進します。
530万人雇用創出プログラムを着実に実施します。
主要銀行の不良債権残高は、この1年半で9兆円以上減少し、不良債権比率も目標に向け順調に低下しています。平成16年度には不良債権問題を終結させます。金融機能の強化のため新たな公的資金制度を整備してまいります。
市場における個人の資産運用を拡大し、地域や中小企業に必要な資金を行き渡らせるため、監視機能の強化や株式のペーパーレス化により証券市場への信頼と利便性を高め、銀行と証券の連携を進めます。信託業の担い手や対象を拡大し、土地担保や個人保証に頼らない資金調達を促進します。
昨年発足した産業再生機構は、9件の支援を決定しました。全国に設置した中小企業再生支援協議会は、2600社を超える企業の相談に応え、200件近い再生計画を支援し、着実に成果を上げています。民間の叡智と活力を最大限活用して、産業再生を着実に進めます。
これまで1000万円以上必要だった会社設立の資本金を1円でも可能とする特例を認めた結果、1年間で8000近い企業が誕生しました。ベンチャー企業への個人投資を伸ばす優遇税制を拡充し、起業や新事業への挑戦を支援してまいります。
「総合規制改革会議」の終了後も、民間人を主体とする新たな審議機関を設置するとともに、平成16年度を初年度とする新たな3か年計画を策定し、規制改革を加速します。
21世紀にふさわしい競争政策を確立するため、独禁法の見直しに取り組みます。
平成16年度予算の編成に当たっては、一般歳出を実質的に前年度の水準以下に抑制しました。財政の基礎的収支は改善しています。主要な分野で増額したのは、社会保障のほか、科学技術振興と中小企業予算だけであり、それ以外についてはすべての分野を減額し、各分野においてメリハリの利いた予算配分を行いました。新たな試みとして、成果を厳しく問う一方で複数年度執行を弾力化するとともに、少子化対策など複数省庁にまたがる政策の予算を制度改革と組み合わせて効率化するなど、歳出の質の改善に努めます。
2010年代初頭には基礎的財政収支を黒字化することを目指します。
多年度で税収を考え、多岐にわたる包括的かつ抜本的な改革を行った平成15年度税制改革は着実に効果を現しつつあり、来年度も1兆5000億円の先行減税が継続します。平成16年度においては、住宅ローン減税の期限を延長するとともに、土地や株式投資信託の譲渡益課税を軽減し、個人資産の活用と土地・住宅市場の活性化を図ります。
公正で活力ある経済社会を実現するため、先般の与党税制改正大綱を踏まえ、社会保障制度の見直しや三位一体の改革と併せ、中長期的視点に立って、税制の抜本的改革に取り組んでまいります。
(将来の発展への基盤作り)
地球環境の保全は小泉内閣の重要な課題であり、科学技術を活用して環境保護と経済発展の両立を図ってまいります。
京都議定書の早期発効に引き続き努力し、さらに、すべての国が参加する共通ルールの構築を目指します。
平成16年度中にすべての公用車を低公害車に切り替える目標を掲げたことにより、企業は技術開発を加速しました。新規登録車に占める低公害車の割合は6割を超えています。ディーゼル車について世界最高水準の排出ガス規制を実施し、世界に先駆けた環境対策を進めてまいります。太陽光による発電は世界一です。中長期的な環境・エネルギー政策の下、原子力発電の安全確保に全力を挙げるとともに、燃料電池や太陽光・風力発電などクリーン・エネルギーの普及を促進します。地球温暖化対策推進大綱の評価・見直しを行い、「脱温暖化」に向けた努力が経済の活力となる社会を構築してまいります。
「科学技術創造立国」の実現に向け、ヒトゲノム解読の成果をいかした革新的ながん治療など、国民の暮らしを良くし、経済活性化につながる研究開発として「みらい創造プロジェクト」を戦略的に推進します。産学官の連携を推進し、地域や民間の活力を引き出しながら、科学技術を振興してまいります。
「知的財産立国」を目指し、「順番待ち期間ゼロ」の特許審査を実現し、模倣品・海賊版対策を強化します。画期的な裁判所改革として、知的財産高等裁判所を創設します。
能楽、人形浄瑠璃文楽が人類の優れた無形遺産としてユネスコに認定されるなど、我が国には世界に誇るべき伝統文化があります。世界で高く評価されている映画、アニメ、ゲームソフトなどの著作物を活用したビジネスを振興し、文化・芸術をいかした豊かな国づくりを進めてまいります。
新しい時代を切り拓く心豊かでたくましい人材を育成し、人間力向上のための教育改革に全力を尽くします。
初等中等教育の充実による確かな学力の育成を図ります。心身の健康に重要な食生活の大切さを教える「食育」を推進し、子供の体力向上に努めます。地域住民による学校を活用した小中学生の体験活動を支援するとともに、学校の安全確保のための対策を講じ、社会全体で子供を育む環境を整備します。
本年4月には、国立大学が法人化されます。活力に富み個性豊かな大学づくりを目指します。意欲と能力のある若者が教育を受けられるよう、奨学金事業を更に拡充してまいります。
教育基本法の改正については、国民的な議論を踏まえ、精力的に取り組んでまいります。
非行問題等困難を抱える青少年を支援するとともに、青少年の社会的自立を促す対策を推進します。
政府の活動の記録や歴史の事実を後世に伝えるため、公文書館における適切な保存や利用のための体制整備を図ります。
海底の天然資源開発に我が国の権利が及ぶ大陸棚を画定するため、大陸棚調査を進めます。
土地の境界や権利関係を示す地籍の調査を集中的に推進します。
(外交)
北朝鮮については、日朝平壌宣言を基本に、拉致問題と、核・ミサイルなど安全保障上の問題の包括的な解決を目指します。関係国と連携しつつ、六者会合等における対話を通じ、北朝鮮に対し、核開発の廃棄を強く求めてまいります。拉致被害者並びに御家族の意向も踏まえ、拉致問題の一刻も早い全面解決に向け引き続き全力を尽くします。北朝鮮には、誠意ある行動をとるよう粘り強く働きかけてまいります。
日米関係は日本外交の要であり、国際社会の諸課題に日米両国が協力してリーダーシップを発揮していくことは我が国にとって極めて重要であります。多岐にわたる分野において緊密な連携や対話を続け、日米安保体制の信頼性の向上に努め、強固な日米関係を構築してまいります。
沖縄に関する特別行動委員会最終報告の実施に取り組み、普天間飛行場の移設・返還を含め、県民負担の軽減に努めるとともに、地域特性をいかした経済的自立を支援します。沖縄県恩納村(おんなそん)に、世界に開かれた最高水準の教育研究を行う科学技術大学院大学を設立する構想を推進します。
昨年11月から金浦(きんぽ)空港と羽田間の航空便運航が開始され、本年から韓国で日本語の歌の販売が解禁されるなど、日韓両国民の相互理解・交流はかつてないほど深まっています。日韓友好親善の機運をいかしながら、両国関係を一層高いレベルへと発展させていく考えです。
中国との関係は最も重要な二国間関係の一つであり、昨年発足した新指導部との間で、未来志向の日中関係を発展させてまいります。日中経済関係は貿易や投資の拡大により緊密化しており、これを相互に利益となる形で進展させるとともに、日中両国はアジア地域、世界全体の課題の解決に向け協力します。
昨年1月に私とプーチン大統領との間で採択した「日露行動計画」は、幅広い分野で着実に実現されつつあります。経済分野を始めとする大きな潜在力をいかしながら日露関係を発展させ、我が国固有の領土である北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結することを目指します。
本年5月にEUの拡大を控えてダイナミックに発展する欧州は、国際社会において価値と課題を共有する大切なパートナーであり、幅広い分野において関係の強化・拡大に努めてまいります。
昨年12月に、日本ASEAN特別首脳会議を開催いたしました。採択された東京宣言に基づき、新しい時代の「共に歩み共に進む」パートナーとしてASEAN諸国との関係を強化します。
国際社会の平和と安全に対する脅威への対応が問われている中、国連の改革に努めてまいります。
国際社会の責任ある一員として、アフガニスタン、スリランカ、東ティモールなどで「平和の定着と国造り」を支援してまいりました。我が国がより積極的に国際平和協力を推進するための体制作りに努めます。
人間一人ひとりを重視する「人間の安全保障」の視点も踏まえ、途上国の貧困克服や持続的な成長、地球規模問題の解決に向け、ODAを戦略的に活用してまいります。
多角的貿易体制を維持強化するため、WTO新ラウンド交渉の進展に努力します。戦略的課題として重要性が高まりつつあるメキシコ、東アジア諸国との経済連携協定の交渉については、将来にわたる日本経済の在り方を考え、積極的に取り組んでまいります。
(むすび)
国民との対話、タウンミーティングは通算100回を数えました。今後も様々な形で開催します。
先の総選挙に関し、公職選挙法違反容疑で衆議院議員が逮捕されたことは、誠に遺憾であります。「信なくば立たず。」国民の信頼を得ることができるよう、政治家一人ひとりが襟を正さなければなりません。更に政治改革を進め、信頼の政治の確立を目指します。
我が国は、日本国憲法前文において、「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」との決意を世界に向かって明らかにしています。
青年海外協力隊の諸君は、今も世界各地で活躍しています。南太平洋のサモアで感染症対策に従事する人や、アフリカのセネガルで農業指導を行う人など、3000人を超える日本人が、厳しい環境にもめげず、自ら進んで地域の人々のために活動しており、我が国の国際社会における信頼を高めています。
ゴラン高原や東ティモールにおける国連平和維持活動やインド洋におけるテロ対策の支援など、日本が国際社会の一員として行うべき任務を、多くの自衛官が国民を代表して遂行しています。
平和は唱えるだけでは実現できません。国際社会が力を合わせて築き上げるものであります。世界の平和と安定の中に我が国の安全と繁栄があることを考えるならば、日本も行動によって国際社会の一員としての責任を果たさなければなりません。
古代中国の思想家である墨子は、「義を為すは、毀(そしり)を避け誉(ほまれ)に就くに非(あら)ず。」と述べています。すなわち、我々が世のためになることを行うのは、悪口を恐れたり、人から誉められるためではなく、人間として当然のことをなすという意味であります。
世界の平和のため、苦しんでいる人々や国々のため、困難を乗り越えて行動するのは国家として当然のことであり、そうした姿勢こそが、憲法前文にある「国際社会において名誉ある地位」を実現することにつながるのではないでしょうか。
国民並びに議員各位の御理解と御協力を心からお願い申し上げます。 
第二次小泉内閣改造内閣の発足・基本方針 / 平成16年9月27日
「改革なくして成長なし」、「民間にできることは民間に」、「地方にできることは地方に」との方針のもと、引き続き、以下に掲げる改革を力強く進める。
1.「官から民へ」「国から地方へ」の徹底
・郵政民営化について、「郵政民営化の基本方針」(平成16年9月10日閣議決定)に基づき、与党等とも緊密に調整を行いつつ、更に詳細な制度設計に取組み、平成19年4月から郵政公社を民営化する法案を次期通常国会に提出する。
・三位一体の改革については、地方団体がまとめた補助金改革案を真摯に受け止め、今年度の1兆円に加え、来年度からの2年間に行う3兆円程度の補助金改革、国から地方への税源移譲、地方交付税改革の全体像を年内に明らかにする。
・市場化テスト導入に向けた作業を進めるとともに、混合診療の解禁など規制改革を推進する。
2.経済の活性化
・民間の活力と地方のやる気を引き出す金融・税制・規制・歳出の改革を推進し、デフレ克服、経済活性化を実現する。
・不良債権処理を平成16年度末までに終結させ、ペイオフを平成17年度より解禁する。
・「2010年代初頭にプライマリー・バランスの黒字化」を目指し、財政改革を進める。
・フリーター・無業者を重点に若年者の雇用・就業対策を強力に推進する。
・構造改革特区制度の活用、観光立国や都市再生の推進、また補助金制度改革などにより、地域や街の潜在力を引き出し、地域再生、地域経済の活性化を図る。
・新産業の創造や産業の再生を進め、やる気のある中小企業を応援する。
・食の安全と信頼を確保し、やる気と能力のある農業経営を後押しするなど、農業の構造改革を進める。
・低公害車やクリーンエネルギーの導入、ゴミゼロ作戦など、科学技術を振興し、環境保護と経済成長を両立させる。
・アジア各国との経済連携協定の締結に積極的に取り組む。
3.暮らしの安心と安全の確保
・年金、医療、介護を柱とする社会保障を将来にわたり持続可能なものとしていくため、社会保障制度の一体的見直しを進める。社会保険庁の改革を行う。引き続き「待機児童ゼロ」作戦など少子化対策を進める。
・犯罪対策を強化して、「世界一安全な国−日本」を復活させる。
・体験学習や習熟度別指導の促進、高等教育の活性化など「人間力向上」のための教育改革を引き続き進める。
・「知的財産立国」を進め、文化・芸術を生かした豊かな国づくりを行う。
4.外交・安全保障・危機管理
・日米同盟と国際協調を重視し、北朝鮮問題、イラク復興支援や日露平和条約交渉に取り組み、国益と国民の安全を守る主体的な外交・安全保障政策を進める。
・弾道ミサイルなど新たな脅威に対応する防衛態勢を構築するとともに、国際テロの未然防止に向けた態勢の整備に努める。
5.政治改革
政治改革を推進し、国民に信頼される政治を実現する。 
記者会見(第2次小泉内閣改造後) / 平成16年9月27日
私は、今回、内閣改造をいたしましたが、就任以来3年数か月経過いたしました。この間、外交にあっては日米関係の重要性、そして世界各国と協調していく、いわゆる日米同盟と国際協調、これを両立させていくのが日本外交の基本であると。いまや、世界の平和と安定の中に日本の発展と繁栄があるんだということから、実際に日米関係を重視し、そして国際協調体制を図っていくということを実践してきたつもりでございます。この方針に、今後も変わりはございません。
内政にあっては、経済を活性化していく。金融改革、規制改革、税制改革、歳出改革、現状維持では新しい時代の変化に対応できないと。「民間にできることは民間に」「地方にできることは地方に」、この基本方針にのっとって政治を運営してきたつもりでございます。
その間、私の改革路線に対して、経済が低迷していると、不況であると、デフレであると、こういう時期に諸改革を進めていく、構造改革を進めていくと、ますます経済はだめになる、失業は増えていく、企業の倒産件数は増えていく、小泉内閣の進めている改革は間違っていると。今は、改革なくして成長なしではない、まず成長ありき。成長なくして改革なしなんだという、改革なくして成長なしか、成長なくして改革なしか、この論戦が私の就任直後から1、2年続きました。
ようやく、やはり改革なくして成長なしだなという路線の正しさが国民にも理解できたことだと思います。現実に改革を進めることによって、不良債権処理も進み、金融機関もより健全性に向かって努力をし、経済も上向いてまいりました。
いわば、そういう改革をこれからも断行していかなければならない。わけても小泉内閣の「民間にできることは民間に」「地方にできることは地方に」、この方針のとおり、これからも進めていかなければならない。その改革の本丸というべき郵政三事業の民営化、いよいよ基本方針が閣議決定され、来年には郵政民営化の法案が提出される運びになりました。
今まで、「地方にできることは地方に」、これは総論賛成であります。そのために、国が地方に与えてきた補助金、もっと地方が自由に、裁量権を与えて使いやすくしようじゃないか。税財源も地方に移していこうではないか。交付税、ほとんどの地方自治体が国から足りない分は交付税交付金をもらって、地方のいろんな事業を賄う。こういうものを改革していこうじゃないかと。補助金一つ取っても、国がどの補助金を廃止して地方に任せるのか、どのような税を地方に与えるのか。交付税交付金、これはなくなると困る、ほとんどもらいたい、現状維持がいい、1つ変えるとほかも変えなければならない、難しい、それなら一緒に全部3つを変えようと。補助金、税源、地方交付税、全部難しくてできなかったものを、それでは一緒に変えようということで三位一体の改革、約4兆円の補助金を削減しようと。今年は1兆円を削減し、あと3兆円。あと2年かけてこの3兆円の補助金改革をしようと。それに合わせて税源と交付税も改革していこうと。この三位一体の改革を実施に移していかなければならない。これは年末にかけて大きな課題であります。
更に、今まで民間にできることは民間にということで、総論は賛成。ところが現実に民間にできるものでも民間にさせないというのが、この郵政三事業の問題でありました。郵便局なくせなんて私は一言も言っておりません。郵便局の運営は、役人、国家公務員でなくてもできると、民間に任せた方がはるかにサービスは多様化するのではないか、無駄な税金も使わなくて済むのではないかということから、果たして今の郵便局の運営は、40万人にも及ぶ国家公務員じゃなければできないのか、民間人にもできるのではないかという、いよいよ「民間にできることは民間に」の本丸に入ってきます。
いずれにしても、郵政事業に関わる約40万人の根強い現状を維持したいという要望に各政党がすくんじゃっている、動きがとれなかったこの問題にようやく本格的にメスが入れられようとする段階に入ってまいりました。
いわば、今まで進めてきた改革を更に進める、そのための今回の内閣改造と役員の改選であります。これからも基本方針にのっとって、更に改革を推進していきたいと思いますので、国民各位の特段の御支援、御協力をいただければありがたいと思います。
【質疑応答】
● 総理ご苦労様です。まず、党の方の人事の方からお尋ねいたします。武部さんを幹事長に据えられて、また安倍さんを幹事長代理にされたと、こうしたややサプライズ人事とも言える人事のねらいと、この人事によって挙党体制が確立されたとお考えかどうか、まずお聞かせください。
まず、今回の三役人事におきましては、党内の体制を整備していこうと。今まで役員改選時には党の人事を一新しようということが慣例でありました。それに合わせて内閣改造もしてきたわけでございますが、今回もある程度人心も一新した方がいいのではないか、挙党体制を取った方がいいのではないか、また、参議院選挙を闘って新しい気分でもって改革を進めていった方がいいのではないかということから、武部幹事長、久間総務会長、与謝野政調会長という布陣にしたわけでございますが、安倍幹事長も参議院選の結果を受けまして、51議席の目標を1議席下回ったということから、参議院選挙直後辞意を表明され、その意向が強かったわけであります。しかし、安倍幹事長も党改革等、自分のやるべきことはまだ残っているということから、あの参議院選挙の結果、やはり目標の51議席を獲得できなくて、1議席下回ったけれども、51議席を上回ることを目標としてきたから、自分としてはやはり幹事長は辞すべきではないかという強い意向でありました。そういう意向を尊重して、今回、それでは幹事長を替わるけれども、やるべき党改革、更に今後自分としても執行部に残って、また汗をかこうと、今まで幹事長として多くの方々に支えられてきたけれども、今度は幹事長を始め、いろんな方々の意見を反映すべく汗をかいて、みんなを支える立場に立とうという気持ちになっていただいて、武部幹事長を始め、執行部の一員として残るのは、自分の残したやるべき改革を実現していく道であろうという判断をされたんだろうと思います。私は、それをよしと思っております。また、武部幹事長は、今まで農水大臣あるいは議運委員長等、いろいろ実績を積んでまいりました。各党におきましても信頼があり、国会対策等においても苦労されております。これから国会運営におきましても、また改革におきましても、先の選挙におきましても、党の公約をまとめ上げるために、非常に努力をしてきた方でありまして、小泉内閣の進める郵政民営化は勿論、改革路線、これを後戻りさせてはいけないという強い使命感を持っている方であります。そういうことから、武部さんに幹事長をお願いしたわけであります。私は、今回いい体制ができたなと思っております。
● 総理が、今、お話になられたように、人事を前にいたしまして、郵政民営化に協力する勢力を今回結集するとおっしゃっておられましたが、今回の人事で郵政民営化を推進する観点から、思いどおりに協力勢力を全体的に結集することができたと判断されていますでしょうか。そして、もう一つ質問ですが、去年の内閣改造の際、総理はこの内閣を改革推進内閣とネーミングされていましたが、今回はどう名付けられますでしょうか。
私は、郵政民営化が改革の本丸だと位置づけているのは、総論ではみんな「民間にできることは民間に」ということは賛成なんです。そうしたら、今の郵貯にしても、簡保にしても、郵便事業にしても、実際民間人がやっているんです。なぜ役人じゃなきゃできないのか、公務員じゃなきゃできないのかということから、それでは民間に任せようじゃないかと言うと、労働組合、あるいは特定郵便局、それぞれ各政党の大事な支持基盤ですから、支持勢力、選挙でお世話になっていると。このような人たちは現状維持がいいんだから、変える必要ないんじゃないかということで、ほとんど全政党がこういう支持基盤を大事にするためには既得権を維持し、現状維持がいいということだったんですが、やはりむしろ官業は民業の補完だと。それより一歩進んで、民間人でも公的な事業ができるんだということを考えれば、民間人でも公共的な仕事に携わってもらった方がいいということから、この郵政民営化をかねてからとらえてきたわけであります。そういうことにようやく理解を示してくれておりますし、閣議決定もできたわけですから、これからこの閣議決定に沿って法案化作業を進めてまいります。
ようやく、昨年の総裁選挙でも私は主張の大きな課題に郵政民営化を掲げました。勿論、反対論者おりましたけれども、結果的に私を自民党員、国会議員は自民党総裁に選んだんです。選出してくれたんです。11月の総選挙でも同じようなことを訴えて、自由民主党が過半数を得て、公明党との連立を維持して政権を運営してきました。参議院選挙においても、自民党、公明党、併せて安定多数を参議院でも、いわば、衆参ともに安定多数を得た。そういう状況で、私が主張してきたこの大きな課題、これを実現していくのが当然だと思っております。そういう理解者、協力者を今回結集しましたし、それにのっとって挙党体制ができたと思います。
自由民主党は、結論が出るまでは、賛成、反対、いろんな議論が出ます。しかし、最終的には反対していた議論も、時代の方向、日本の行く末を見極めて、一定の結論に協力してくれると思っております。いわば、今は反対していても、結論を出す段階においては、私に賛成、協力してくれるものと思っております。
いわば、今まで3年間、いろいろ賛否両論の問題も結果を見れば、反対していた方も、道路公団民営化にも賛成してくれました。郵便事業の民間参入、これも反対していた方々も最終的には賛成してくれました。今回も、現在では郵政民営化に反対の方々も、結論を出すべき段階には、賛成、協力してくれると確信しております。でありますから、ようやくこの方針が閣議決定された。この閣議決定に沿って、今これから法案作成が始まる。いわば、今回、内閣の役割として、今までの推し進めてきた改革路線をいよいよ実現する段階に入ったなということから言えば、いわば「郵政民営化実現内閣」、「改革実現内閣」と名付けてもいいのではないかと思っております。
● 総理は今回の改革で、外務大臣と防衛庁長官を交替させました。この外交、安全保障に対する体制を刷新なさった理由をお聞かせください。同時に、かねてこの分野に詳しい山崎拓さんを補佐官に指名した理由も、外交・安保の強化、そんなところにあると理解してよろしいのか、御説明をお願いします。
今までも、川口外務大臣、石破防衛庁長官、よく外交、防衛、努力して、日本の外交、防衛、過ちなきを期していただいたと思います。今回、川口外務大臣は、総理大臣の補佐官として今後も小泉内閣に協力して、いわゆる国会議員、忙しいですから、国会議員を離れた立場で世界の外交問題、外務大臣経験者としていろいろ支えてくれると思っております。そして、町村外務大臣、外務政務次官も経験しておりますし、過去、文部大臣、あるいは党の総務局長をして、経験も豊富であります。今後、日本の外交の重要性をよく認識している方であります。また、石破長官もかねてから防衛政策、安全保障政策の理論家、論客として、この難しい防衛論議にも巧みな答弁、そして、防衛政策の重要性を訴えて、よく努力してくれたと思います。今回、大野防衛庁長官に替わりましたけれども、大野防衛庁長官も、これまた自由民主党の国防部会長も経験して、防衛政策には極めて詳しい方でございます。そういう方々に今回、新しい気持ちで、お互い協力しながら、安全保障と外交というのは一体で進めていかなければならない。そして、山崎拓さんには、新たに総理大臣の補佐官として政治全般の相談相手になってもらう。特に、安全保障の分野においてはこれまた非常に見識を持っている方でありますので、党内のいろいろな難しい情勢も私に対しては力になってくれるのではないかと期待しておりますから、非常に心強いと思っております。いずれも、町村外務大臣にしても、大野防衛庁長官にしても、外交、防衛問題には今までも勉強してきた方であり、詳しい方であるので、川口外務大臣、石破防衛庁長官に劣らない活躍をしていただけると期待しております。
● 今回の内閣では、これまでとは違いまして、民間人の入閣はなく、また、女性閣僚も2人と非常に少なくなりました。こういった点につきまして、小泉政権が今までと少し性格が変わるものなのかどうか、総理の御見解を伺いたいと思います。
女性議員をできるだけ起用したいという気持ちは、今でもあるんです。しかし、全体的に見回してみて国会議員全体、自民党全体から見ると女性議員は少ないです。そういう中から、女性だからいいという気持ちはありません。女性でも、それにふさわしい方、適材を起用しなければならないと。経験を積んだ方、そういうことも必要であろうということから、今回、3人から2人になりましたけれども、これからも女性で適材はできるだけ起用していきたいと思っております。更に、民間人が減ったということでありますが、竹中さんは民間人から参議院議員に当選されました。川口さんも、外務大臣を退任されましたけれども、引き続き総理大臣の補佐官として活躍してくれる。民間人をあえて起用しようということではなくて、民間人でも適材ならば活用したいという気持ちに変わりありません。しかし、民間人からすれば、大臣になるといかに制約が強いか、これにやはり打診しても躊躇する人が多いですね。まず、資産を公開しなければならない、家族が嫌がる、国会答弁、これを見ているだけでとてもあれにはたまらんと、そういう方もかなり多いわけであります。そういうことから、なかなか民間人が政界に入ってきて、この批判に耐えてやっていくというのは大変難しい面があると思いますので、能力のある方も政界に入って、あえて自らの力を発揮してやろうというのは、なかなか少なくなってきたというのも事実でございます。幸いにして、今回国会議員の方でも見識を持った適材をそろえることができたと思っておりますし、民間人が減ったといっても、小泉内閣の性質、方針が変わったわけではありません。
これから私の就任以来の初心をいかに実現していくか、そういう体制が今回の改造内閣であると。この3年間、多くの方々の協力を得てきた、自民党議員の皆さんも、公明党議員の皆さんも、よくこの構造改革の重要性を理解して、途中の経過では反対論、慎重論、抵抗論あったにしても、最終的にはよく協力していただいて、ここまでやってきたわけであります。あと、私の任期が許す限り、何とか「民間にできることは民間に」「地方にできることは地方に」という基本路線を少しでも実現させていく、その大きな課題が今回の郵政の民営化でありますから、この問題について自民党も公明党もよく協力してくれると思っておりますし、その方向で実現を目指して、後戻りできない改革路線を軌道に乗せていきたいと思っております。
● 総理、あと2年間のうちに衆院を解散、あるいは内閣を改造するといったこともあり得るんですか。
今の時点では、いかに進めてきた改革を推進していくかでありますので、衆議院議員が解散される状況は、今の時点で想像しておりません。というのは、まだ1年経っておりませんし、去年11月が衆議院選挙、そして今年の7月が参議院選挙、今の時点ですぐ解散するという状況にはないと思います。私は、これから先ほど申し上げましたような改革を実現するために、精一杯頑張ろうと、そういう状況だと思いますので、今の時点で解散は考えておりません。 
2005

 

年頭所感 / 平成17年1月1日
新年あけましておめでとうございます。
小泉内閣が誕生して以来、「構造改革なくして日本の再生と発展はない」という基本方針のもと、構造改革に全力を挙げてまいりました。「民間にできることは民間に」、「地方にできることは地方に」との改革を進めてきた今、その芽が育ち始めました。「改革の芽」が「大きな木」に成長するか否かは、これからが正念場です。国民の皆さんとともに、断固たる決意で改革を進めてまいります。
昨年、地震や台風、豪雨による災害の被害に遭われた方々に対して、心からお見舞い申し上げます。被災地の早期復旧・復興を図るとともに、防災対策の改善を図り、災害に強い国づくりを進めてまいります。
経済をめぐる情勢は地域によって厳しいものがあり、景気は一部に弱い動きがありますが、民間主導で回復が続いています。引き続き、金融、税制、規制、歳出の改革を加速し、不良債権問題の正常化、デフレの克服に努め、経済の活性化を実現します。
17年度予算では、聖域なき歳出改革を進めるとともに、「地方にできることは地方に」という方針に立って、国の補助金の削減、国から地方への税源移譲、そして地方交付税改革を同時に見直す三位一体の改革をさらに推し進めます。郵政事業の民営化については、今年の通常国会に法案を提出し、平成19年4月から郵政公社を民営化します。
昨年末、イラクにおける自衛隊による人道復興支援活動を1年間延長することを決定しました。日本の安全と繁栄は、国際社会の平和と安定の中でこそ可能です。国際社会と協力して、イラクの復興と安定のための努力を続けます。北朝鮮との関係については、拉致の問題、核の問題、ミサイルの問題を包括的に解決するために、国際社会と協調し、「対話と圧力」の方針で粘り強く交渉にあたります。「日米同盟」と「国際協調」を基本に、今年も国益を踏まえた主体的な外交を展開いたします。
日本が発展していくために最も大切なものは、自らを助ける精神と自らを律する精神です。国民一人ひとりが自らの知恵とやる気を十分に発揮することができるような社会を作るため、本年も構造改革を推進してまいります。
国民の皆様の一層のご理解とご支援をお願い申し上げるとともに、本年が皆様一人ひとりにとって実り多い素晴らしい一年となりますよう心よりお祈り申し上げます。 
総理大臣コメント / 平成17年1月1日
1.私は、アジア各国を襲った今回の未曾有の災害に際し、同じアジアの一員である我が国として、その責任に見合った最大限の支援を差し延べる決意と連帯、そして具体的措置を表明するため、6日にインドネシアで開催されるASEAN主催緊急首脳会議に出席することとした。
2.日本としては、資金・知見・人的貢献の3点で最大限の支援をしたい。
(1)今回の被害に対する緊急支援措置として、我が国は、当面5億ドルを限度とする協力を、関係国及び国際機関等に対して無償で供与する。
(2)我が国は、インド洋地域における津波早期警戒メカニズムを速やかに構築するため、その知見・科学技術を活用し、関係国・機関との協力を推進する。18日から22日に神戸で開催される国連防災世界会議において、本件のための「特別セッション」を設けることを提案する。
(3)人的貢献の面においても、既に各地に国際緊急援助隊を派遣しているが、今後、消防のヘリ・人員等を活用した更なる貢献を行う。また、自衛隊の航空機・艦船・人員を活用した追加的貢献の実施を早急に検討する。
3.また、今回の事態によって被災国の社会基盤等が深刻な打撃を受けたことに留意し、各国における事情・状況を踏まえて、関係国・機関との協調の下に、復旧復興面においても最大限の支援を行うこととする。 
記者会見 / 平成17年1月4日
新年、おめでとうございます。昨年は、日本におきましても、台風、地震、集中豪雨等、大きな被害を受け、皆様方も大変御苦労の多い年だったと思います。被災者の皆さん方も、今、復旧・復興活動に勤しんでおられると思いますが、是非ともこの困難から立ち上がって、新たな新年を迎えまして、希望を持って地域の振興に取り組んでいただきたいと思います。政府といたしましても、全力を挙げて皆様方の復旧支援活動、支援をしていきたいと思っております。
また、年末にインドネシア沖で発生しました地震による津波は、未曾有の多くの国々に対して被害を与えております。我が国における地震、台風等における被害に対しましても、日本は多くの国から支援、援助を受けております。この際、インドネシア、スリランカ、タイ、インド等、関係諸国の被害に対しまして、日本政府として、アジアの一員として、できるだけ最大限の復興支援活動、支援をしていきたいと思っております。改めて、日本人を含めて、多くの国民が犠牲になりましたけれども、お見舞い申し上げるとともに、被災者の救援、復興活動に日本としても国際社会の一員としての責任を果たしていきたいと思っております。
年頭に当たりまして、今年1年も大変厳しい年だと認識しております。我々としましては、ようやく景気も回復基調に乗ってまいりましたけれども、まだまだ厳しい状況は続くと思います。この景気回復の軌道を本格的なものにするためにも、今年1年精一杯改革に邁進したいと思います。
特に1月下旬から再開されるであろう通常国会におきましては、まず昨年の地震、台風等の被害に遭われました、いわゆる災害対策、復旧活動、この補正予算を年末編成いたしましたので、冒頭に災害復旧のための補正予算をできるだけ早期に成立させまして、この復興事業が順調に、円滑に行われるよう政府としても全力を挙げてまいりたいと思います。
続いて本予算、これも今、大事な経済の局面に来ております。年度内成立を期すために、是非とも各党会派の御協力をお願いして、本予算も年度内成立を図り、経済の順調な民間主導の持続的な成長が可能となるような体制をつくっていきたいと思っております。
今年は、3月から愛知県で万博が開催されます。テーマは、自然の叡智であります、自然との共生、環境保護と経済発展をいかに両立させるか、このような万博が愛知県で開催されます。多くの日本人のみならず、外国人も日本を訪問されると思います。日本としては、年間500万人ぐらいしか外国人がまだ訪れておりませんが、これを2010年には倍増しようという、1,000万人ぐらいの外国人が日本を訪れて、魅力ある日本を紹介していかなければならないと。それがまた地域の発展につながっていくのではないかという観点から、観光振興も大事な年になると思います。
日本国民が外国人に友好的に接していただきまして、各地域における日本の魅力を存分に外国人にも理解してもらうような取り組みが必要だと思っております。
また、内政におきまして今年の最大の課題は、今まで全政党が反対していた、郵政三事業の民営化であります、「民間にできることは民間に」、「行財政改革を断行せよ」、「公務員を減らせ」ということについては、ほとんどすべての党が賛成しております。しかしながら、この郵政三事業だけは、国家公務員でなければできないのかと。そうではないと私は思っております。既に郵便にしても、あるいは小包みにしても、貯金にしても、保険にしても、民間でやっている事業であります。民間人で十分できる事業であります。そういう観点から、私は行財政改革を断行しなさいと、公務員を減らしなさいと、民間にできることは民間にと言うんだったらば、この郵政民営化は不可欠だと思っております。これに政府を挙げて取り組んでいきたいと思っております。
外交も難問が山積しております。イラクの復興、また北朝鮮との交渉、この問題につきましても、日米同盟と国際協調の重要性をよく認識して、もろもろの外交問題に取り組んでまいりたいと思います。
今年1年、大変難しい、厳しい1年であるということをよく肝に銘じて、私も与えられた任務を遂行できるように全力を尽くして改革に邁進したいと思いますので、国民の皆様方の御理解、御協力を心からお願い申し上げます。
【質疑応答】
● まず、郵政民営化に関してですが、総理もおっしゃいましたとおり、今月から自民党が法案策定に向けた調整が始まります。その中で、政府は昨年9月に基本方針をまとめられたりしておりますが、交渉の中で、自民党側との調整の際に譲歩する余地を残していらっしゃるのか、その基本方針についてお伺いしたいと思います。
基本方針は、郵政事業といいますか、この事業を4社に分割すると。そして各事業民営化するんですから、民間と同じような自由度を発揮するように、そしてサービス展開ができるような事業として発展させていこうと。国民の皆さんの利便というものを考えると、現在の公社の形態よりも民間人に経営を任せた方が、より国民のサービス向上につながるのではないかと。また、今まで郵便貯金等の資金が、いわゆる官業的な事業に回っていたのを、民間の成長分野の事業に回していけるような構造にしていくことも必要であると。同時に、行政改革、いわゆる官の分野の改革、こういう点につきましても私はできるだけ「民間にできることは民間に」任せていくということを考えますと、去年の9月10日に政府決定いたしました基本方針、この基本方針どおりと言いますか、基本方針に沿って民営化の法案を作成していく、この方針を今後とも与党にも御理解をいただきまして、法案の提案に向けて、これから努力していきたいと。提案されましたならば、与党との協力も得て、今年の通常国会の期間内に成立させるよう全力を挙げていきたいと思っております。
● 北朝鮮問題についてお聞きします。安否不明者の調査問題をめぐって、北朝鮮側は日朝実務者協議の打ち切りの可能性について言及していますが、どう対処するのか。経済制裁発動のタイミングも含めて、日本政府の対処方針についてお願いします。それと、任期中に掲げられた日朝国交正常化実現の方針について、現時点での見解についてもお願いします。
北朝鮮との交渉に際しましては、今までも申し上げましたとおり、対話と圧力、そして日朝平壌宣言にのっとって、お互いが誠意ある対応をしていこうと。この日朝平壌宣言を誠実に履行した段階において国交正常化を図っていこうということでありますから、この方針に全く変化はございません。安否不明者の調査の問題につきましても、今までの調査においては日本としては納得できないと。今後、北朝鮮側が日本側の疑問点、再調査の報告等、疑問点を提示しておりますので、これに対して誠意ある対応をしてくるよう、今、求めております。その対応を見極めていきたいと思っております。また、北朝鮮側は、表面的には打ち切り等いろいろなことを言っておりますが、私どもといたしましては、表面的な発言ぶりと、実際の真意というものがどういうものかよく見極める必要があると思います。今までの過去の発言、それから実際の行動、そういう事情もよく承知しておりますので、表面的な発言ぶりと本音はどこにあるか。いずれにいたしましても、対話と圧力の両面から交渉をしていかなければならない問題だと思っております。
また同時に、北朝鮮との交渉は拉致の問題のみならず、核の問題、ミサイルの問題、これを総合的、包括的に解決をしていかなければならない問題でもあります。国交正常化の問題につきまして、これは別に期限が区切っているわけではございませんが、北朝鮮がその気ならば、日朝平壌宣言を誠実に履行した暁には、国交正常化が望めることになりますから、期限を区切るわけではありません。私は、今の北朝鮮と日本との敵対関係を友好関係にすることが、日本と北朝鮮のみならず、朝鮮半島、世界の平和のために必要だと思っている観点から、できれば北朝鮮と日本との今の不正常な関係を正常化していきたいと、いつでも思っております。別に期限を区切っているわけではございません。
● 総理、今年は自民党が憲法改正草案をまとめるなど、憲法改正に向けた動きが活発化する年だとも言えると思うんですが、総理は民主党との協議も含めて憲法改正問題、自分の任期中にどこまで進めたいとお考えになっていますか。
この憲法改正の問題というのは、もう長年の懸案でございますが、これは国会議員の3分の2の発議で、国民の過半数の支持なくしては改正はできません。そういうことを考えますと、十分国民的な議論を喚起して、各政党の協力を得ないとこの問題はなかなか成就しないと思っておりますので、まず、結党50周年という自由民主党にとっては大きな節目を迎えます今年秋ごろまでに、この憲法改正についての草案と言いますか、具体案を示していくよう、これから精力的に準備作業を進めていきたいと思っております。
同時に、衆議院、参議院、両院に設けられました憲法調査会において、今年4月か5月には今まで議論した結果の論点整理がなされると思っております。そういう点も参考にしながら、自民党としては秋に向けて草案を示していかなければならないと思っておりますし、これは自由民主党一党だけでできるものではありません。与党であります公明党との協力も得る必要がありますし、同時に、与党だけでも、自民党、公明党だけでも、この改正がなされるものとは思えません。野党第一党である民主党との協力も得なければならないと思っております。民主党も、今年か来年には憲法改正案を提示するよう準備を進めていると聞いております。
こういうことを考えますと、この憲法改正というのは、今年、来年中にできるとは、今、考えておりません。十分時間を取って、まず、自民党、与党との考え方の調整、そして、野党第一党の民主党との協力も得るような形を考えますと、今年、来年は十分、お互いの改正案に対する考え方と協議、調整が今年と来年は必要ではないか。その状況を見て、国会にどのように上程するかという問題が浮かび上がってくると思います。そのような期間を置いて、私は進めていきたいと思っております。
● 総理、今年は戦後60年に当たるわけですけれども、いろんな意味で将来の問題、過去の問題が問われる1年になると思いますが、その中で中国や韓国を始めとして、近隣諸国との外交をどのように展開されるおつもりか。その関連で、総理の靖国参拝の問題というのは避けて通れないと思うんですけれども、総理は今後、適切に対処するというふうにおっしゃっていますが、これは参拝するしない、あるいはその意義、形式、そういうすべてを含めて適切に対処するという解釈でよろしいのか。その2点をお聞きします。
日本としては、隣国であります韓国、中国との関係は、大変重要な隣国でありますので、日韓友好、日中友好の方針には変わりありません。そういう中で、日本が現在直面しております北朝鮮との問題におきましても、韓国や中国との協力を得ながら進めていく必要がありますし、北朝鮮との六者協議におきましても、韓国、中国のみならず、アメリカ、ロシア等も含むわけであります。この枠組みということを考えますと、近隣諸国であります韓国、中国、そして、同盟国であるアメリカ、更に、六者協議のメンバーでありますロシア、国際社会との協調というのは大変重要なものであると思います。私は、中国との関係におきましても、これは就任早々、中国の目覚ましい経済発展というのは日本にとって脅威と受け止めるべきではないと。これは、日本にとっても好機である、チャンスであると。お互い、中国の輸入を阻止するということばかり考えないで、むしろ、日本も中国に輸出できるんだという前向きのとらえ方が必要だと。中国脅威論は取らない。むしろ、中国の発展は日本にとってチャンスと受け止めるべきだという演説を各国でしてまいりました。現在、そのとおりになっております。日本と中国との関係、輸入も輸出も飛躍的に伸びております。お互いの経済にとって相互依存関係、相互互恵の関係を、私は経済界も国民も十分理解しているのではないかと思っております。そういう観点から、過去の一時期の不幸な関係ばかりではありません。友好関係の歴史の方が長いわけであります。そういうことも十分考えながら、歴史を参考にしながら、将来の発展にお互いに何ができるか。将来の友好関係を維持、発展させていくためには、どのような考慮が必要かということを、あらゆる分野において考えていかなければならないと思っております。
私は、靖国参拝だけが日中間の大きな問題とは思っておりません。そういう観点から、こういう問題については粘り強く、中国側の理解を得られるように努力していきたいし、私の靖国参拝につきましては適切に私自身が判断していきたいと思っております。今年もよろしくお願い申し上げます。 
記者会見[平成17年度予算成立を受けて] / 平成17年3月23日
お陰様で平成17年度予算は、本日成立いたしました。この間、年度内成立のために、自由民主党、公明党一致結束して協力していただきました。心から厚く御礼を申し上げます。
今まで、この4年間の予算審議を振り返りますと、当初、「構造改革なくして成長なし」か、あるいは「成長なくして改革なし」か、この議論が盛んに国会で行われました。
その中でもとりわけ印象的なのは、私の就任前には、今の日本の経済を活性化するためには、主要金融機関の不良債権を早く処理しないとだめだという議論が経済の専門家、評論家、与野党共通した認識だったと思います。
しかし、いざ私が総理大臣に就任して、当時主要金融機関の不良債権比率は8%台でした。これを4年間で半減しようと、4%台にしていこうという目標を立てました。結果的には、その目標どおり進んできたわけでありますが、その過程で不良債権処理の仕方に反対論者からも賛成論者からも私は厳しく批判を受けました。
賛成論者から見れば、不良債権の処理の仕方が遅過ぎるという批判でした。小泉は、痛みに耐えて改革するといったじゃないかと、なぜ痛みを恐れているのかと、改革の速度が遅いという批判です。
もう一方は、この小泉内閣の不良債権処理を、このデフレの状況、景気の悪い状況で進めていくならば、企業の倒産はますます増える、失業率はますます高くなると、デフレはますます加速すると、そういう賛成論、反対論の両者から厳しい批判を受けましたが、結果的には目標どおり、8%台から4%台に実現の見通しが立ってまいりました。
それでは、批判した方々の企業倒産は増えているか。逆です。30か月連続して前年同月に比べて企業倒産件数は減少しております。失業率は増えているか、当初5.5%、6.0%でありましたけれども、今年は4.5%に減ってまいりました。企業の業績も回復してまいりました。予算の面を見ましても、来年度予算におきましては、国債の発行も抑制することができましたし、毎年毎年景気が悪い状況ですと出ていた景気対策のための補正予算を組めという声が一言も聞かれないようになりました。
そして、景気対策のためには、公共事業を増やしなさい、そのための国債増発はやむを得ないという論も盛んに行われましたけれども、昨年も今年も補正予算なしで、景気対策予算なしで、むしろ景気の上向きが見られます。
現に来年度予算におきましては、公共事業は4年連続マイナスです。防衛費も3年連続マイナスです。増やしたのは、社会保障関係予算と科学技術振興分野だけです。そして全体的に一般歳出を減らしていく、将来の税負担をできるだけ少なくするという配慮もしていながら、最近景気にもようやく、全体ではありませんが、明るい兆しも見えてまいりました。
先ほど言った雇用情勢についてもそうでありますが、最近の企業の努力によって、賃金もボーナスも出す企業も増えてまいりました。会社も新規採用を増やしております。こういうことから見ますと、やはりだめだ、だめだという悲観論よりも、この改革を痛みに耐えて進めていこうという「改革なくして成長なし」という路線は、私は正しかったんではないかと思っております。まだまだ気を緩める段階に至っておりません。この上向いた情勢を今後とも全国的に浸透させていかなければならないのが、これからの小泉内閣の課題でございます。主に、大企業を中心として、業績は向上しておりますが、これを中小企業、更には地域に浸透させていくのが、これからの大事な課題だと思っております。課題は内外山積しております。これから年金、医療、介護を含めた社会保障全体を見通した改革につきましても、与野党の立場を超えて率直に協議を進めていきたいと思っております。
更に、地震、防災対策、昨年は台風や集中豪雨、地震等災害に見舞われましたけれども、今年も福岡で比較的地震が少ないだろうといわれた地域において、つい先日地震が発生しました。多くの方々が、今、苦しんでおられますが、こういう防災対策もこれからしっかり手を打っていきたい。治安対策、食の安全対策、そして外交の問題、北朝鮮との問題、イラクの問題、こういう問題が、まだまだ課題が山積しておりますし、常に気を緩めずにこれからの内外の国政の難問に誤りなきよう対処していきたいと思います。今後とも、国民の皆様方の格段の御指導、御協力を心からお願い申し上げます。
そして、明後日からはいよいよ「愛・地球博」が開催されます。明日は開会式が行われますので、私も出席する予定でおります。
この「愛・地球博」は、自然と人間との共生、環境保護と経済発展を両立させる、このかぎを握るのは科学技術であると。このかけがえのない地球を世界の国民の方々と、各国の政府、機関とともに協力して、地球温暖化対策を始め、環境保護と経済発展を両立させる対策を日本といたしましても先頭に立って進めていきたいと思います。
同時に、この「愛・地球博」には、120か国以上の政府、機関が参加していただきます。日本国民の方々は勿論、世界各国の方々が日本にお越しになります。「愛・地球博」だけ見るのではなくて、日本全国各地、観光振興の面においても各地域が頑張って、日本全体が、ああ日本という国はいい国だなと、また外国の方々も、もう一度日本に訪れてみたいなと、そういう魅力ある国にしていきたいと思います。
皆さん、どうかよろしく御協力をお願いしたいと思います。ありがとうございました。
【質疑応答】
● 総理が、構造改革の本丸と位置づける郵政民営化が今後最大の課題になってくると思われますが、この郵政民営化関連法案をいつ国会に提出するのか、また提出しても廃案となった場合、国民に信を問う考えをお持ちかどうか、総理の率直な見解をお聞かせください。
現在、政府、自由民主党並びに公明党と精力的にこの法案の内容を詰める作業が行われております。できるだけ早く国会に法案を提出したいと思いますが、でき得れば4月中には提出したいと思っております。ということになりますと、来週というのはかなり大事な週になるのではないか。まだ詰め切っていない問題もあります。そして、与党との合意を得るように政府も努力しておりますので、その詰めが、予算が成立しましたので、今週後半から来週には大きな山場を迎えると思いますが、できるだけ与党の合意が得られる形で国会に提案をしたいと思っております。そして、今、廃案になった場合という質問でありますが、私は現時点で廃案になることを想定しておりません。必ず成立に向けて与党からも御協力をいただけると思っております。そのためにも、協議を精力的に進めて、4月中には提案したいと思っております。
● 今国会の会期延長についてお伺いいたします。与党との調整が続いている郵政民営化関連法案の成立に向けて、審議時間を確保するために今国会の会期延長が必要だという声が与党内にありますけれども、総理は会期延長についてどのようにお考えかお聞かせください。
150日間の会期内で、まだ後半になってないんですね。4、5、6の3か月あります。まだ2か月ちょっと過ぎただけでありますから、今の時点で会期延長ということを考えるのは時期尚早ではないでしょうか。会期内に法案を成立させる、これに全力を尽くすのが私どもの責任だと思っております。また、国会対策関係、執行部もまだ十分会期が残っておりますので、その会期内に全法案を成立するよう全力投球しておりますから、私は今の時点で会期延長は考えておりません。会期内に成立させることに全力投球したいと思います。
● 続けてお伺いします。現在の第2次小泉改造内閣は、昨年9月に郵政民営化実現内閣として発足しました。郵政民営化法案が今国会で成立した場合に、9月の自民党役員改選に合わせて内閣改造を断行される考えはお持ちでしょうか。お聞かせください。
これも随分気の早い話で、まだ問題山積ですよ。一息つくどころじゃないでしょう。最重要である予算が成立しただけで、これからまだまだ郵政民営化法案始め大事な法案はたくさんあるわけです。その成立のために、今、全力投球している最中に、終わった後のことを考える、そんなことはしません。もう毎日毎日全力投球。終わった後というのは、まだ先の話ですから、郵政民営化法案が成立してもまだ課題はたくさんあります。まずは、会期内に成立させる、これに全精力を集中して、後のことは後のことであります。今、考える必要はないと思います。
● 北朝鮮問題について2問伺います。よろしくお願いいたします。まず、北朝鮮の核開発、拉致問題が目途が立たない状態となっていますけれども、事態の打開に向けて、協議の場として国連の安全保障理事会などへの付託を選択肢としてお考えでしょうか。
これは、選択肢として考えるかどうかと言われれば、考えないわけではありませんけれども、それを今の時点で考えていいかどうかという問題とは別問題だと思います。可能性としては、どうしても六者協議に北朝鮮が応じて来ないということであれば、そういう選択肢も視野に入れていかなければなりませんけれども、今はそういう状況ではないと。私は、北朝鮮は六者協議に乗ってくると思っています。それは、北朝鮮にとって六者協議で今の核の問題等を協議するのが、一番利益になると思っております。アメリカも入っていますし、中国も韓国もロシアも日本も入っているわけですから、この場を利用しないでどういうプラスがあるのかということを冷静に考えれば、北朝鮮はこの六者協議を無視するようなことはないと思っています。ただ、時間がかかっています。これは、それぞれ外交にはかけ引きがあります。公式的な発言ぶりと真意というのをよく見極めていかなければならない。六者協議の場というのは、北朝鮮の将来の安全を保障する場においても、国際社会の責任ある一員になるためにも、今の状況で北朝鮮にとっては最も自分たちの利益になる協議の場ではないかと思っておりますので、これに応じて来ない、国連の安保理に持ち込むということを、今、考える必要はないのではないかと。できるだけ早くこの六者協議の場に北朝鮮が応じてくるような働きかけが必要だと思っております。
● 関連して、経済制裁に関してなんですが、総理は制裁発動にはずっと慎重な姿勢を続けておられますけれども、膠着状態がこのように長引く中、現状における制裁発動に対する、今の状況に対する総理のお考えを改めてお聞かせください。
私は、対話と圧力を通じて、この北朝鮮の問題、でき得れば平和的に解決して国交正常化を期したいという方針に変わりありません。そして、何がそのために有効な手段か。多くの皆さんは制裁すべしと言う声が強いのも承知しておりますが、私はアメリカのブッシュ大統領との間においても、この北朝鮮の問題は平和的、外交的解決を追求していくということで一致しておりますし、それは韓国も中国もロシアも同様であります。こういう中にあって、この正常化に進む、あるいは核廃棄に結び付く、更に拉致問題の解決に結び付けていくためには、対話と圧力でどういう方法が一番有効かということを考えますと、今の時点でまず経済制裁ありきという考えは取っておりません。対話と圧力、これに沿って粘り強く働きかけていかなければならないと。できるだけ早く懸案を解決しなければならないですが、私は別に焦ってもおりませんし、この外交にはある程度時間がかかることも承知しております。焦らず、諦めず、粘り強く、この困難な問題を平和的に、外交的に解決していきたいと思っております。
● 外交問題についてお聞きします。ロシアとの間にはプーチン大統領の来日の目途が立っていないと。また、韓国では竹島問題を巡って日韓関係が悪化しつつあると。更に、中国とは首脳同士の相互訪問が途絶えていると。外交政策に非常に八方ふさがりの観が否めないと思うんですけれども、総理はこの事態をどのように認識されて、また事態打開のために何か方策は考えられていますか。
私は、八方ふさがりとは全然思っていません。日韓関係においても、日中関係においても、日ロ関係においても前進しております。交流はあらゆる分野において進んでおります。ですから、別に行き詰まっているとかいう感じは持っておりません。それぞれの国とは友好関係を増進していこうということで一致しておりますし、時に意見の相違があっても、対立の問題が生じても、それを乗り越えていく今までの実績と知恵が日本国国民、また今までの実績を考えて相手国はよく承知しているはずであります。一時的な対立とか、意見の相違に目をとらわれて、行き詰まっている感じなんか全く持っておりません。未来志向で友好協力関係を発展させていこうということには、お互い全く揺ぎはないと確信しております。
● 気の早い話を再度恐縮ですけれども、総理の自民党総裁としての任期が来年9月ですけれども、それをにらんで党役員人事改造は、小泉内閣を総仕上げする意味で必要ととらえるかどうか。更に、ポスト小泉総理を考える観点から、この人事は必要か。特に今日、連立のパートナーである神崎代表が郵政法案処理後に総理は改造人事を考えられるだろうという見通しを示されているんですけれども、その発言も踏まえてもう一度お願いいたします。
総仕上げというのは気が早いね。郵政民営化法案がまだ成立してないのに、成立しても私の任期は来年9月でしょう。私は任期ある限り、総理大臣の職責を投げ出すことなく、全力で尽くすと。これに尽きていますから、改造とか、ポスト小泉とか、いろいろ話題になっていることは承知しておりますが、それはそれとして、私の総理大臣としての職責を、任期ある限り一日一日全力投球で果たしていくこと、これに尽きます。 
談話 / 平成17年8月15日
私は、終戦六十年を迎えるに当たり、改めて今私たちが享受している平和と繁栄は、戦争によって心ならずも命を落とされた多くの方々の尊い犠牲の上にあることに思いを致し、二度と我が国が戦争への道を歩んではならないとの決意を新たにするものであります。
先の大戦では、三百万余の同胞が、祖国を思い、家族を案じつつ戦場に散り、戦禍に倒れ、あるいは、戦後遠い異郷の地に亡くなられています。
また、我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。こうした歴史の事実を謙虚に受け止め、改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明するとともに、先の大戦における内外のすべての犠牲者に謹んで哀悼の意を表します。悲惨な戦争の教訓を風化させず、二度と戦火を交えることなく世界の平和と繁栄に貢献していく決意です。
戦後我が国は、国民の不断の努力と多くの国々の支援により廃墟から立ち上がり、サンフランシスコ平和条約を受け入れて国際社会への復帰の第一歩を踏み出しました。いかなる問題も武力によらず平和的に解決するとの立場を貫き、ODAや国連平和維持活動などを通じて世界の平和と繁栄のため物的・人的両面から積極的に貢献してまいりました。
我が国の戦後の歴史は、まさに戦争への反省を行動で示した平和の六十年であります。
我が国にあっては、戦後生まれの世代が人口の七割を超えています。日本国民はひとしく、自らの体験や平和を志向する教育を通じて、国際平和を心から希求しています。今世界各地で青年海外協力隊などの多くの日本人が平和と人道支援のために活躍し、現地の人々から信頼と高い評価を受けています。また、アジア諸国との間でもかつてないほど経済、文化等幅広い分野での交流が深まっています。とりわけ一衣帯水の間にある中国や韓国をはじめとするアジア諸国とは、ともに手を携えてこの地域の平和を維持し、発展を目指すことが必要だと考えます。過去を直視して、歴史を正しく認識し、アジア諸国との相互理解と信頼に基づいた未来志向の協力関係を構築していきたいと考えています。
国際社会は今、途上国の開発や貧困の克服、地球環境の保全、大量破壊兵器不拡散、テロの防止・根絶などかつては想像もできなかったような複雑かつ困難な課題に直面しています。我が国は、世界平和に貢献するために、不戦の誓いを堅持し、唯一の被爆国としての体験や戦後六十年の歩みを踏まえ、国際社会の責任ある一員としての役割を積極的に果たしていく考えです。
戦後六十年という節目のこの年に、平和を愛する我が国は、志を同じくするすべての国々とともに人類全体の平和と繁栄を実現するため全力を尽くすことを改めて表明いたします。 
第三次小泉内閣の発足・談話 / 平成17年9月21日
この度の総選挙の結果を受け、本日、三度、内閣総理大臣の重責を担うこととなりました。
私は、就任以来4年余りにわたり、一貫して「改革なくして成長なし」、「民間にできることは民間に」、「地方にできることは地方に」との方針の下、我が国の再生と発展を目指し、構造改革の推進に全力を挙げて取り組んでまいりました。改革の芽が様々な分野で大きな木に育ちつつある現在、改革を止めてはなりません。自由民主党及び公明党による連立政権の安定した基盤に立って、引き続き構造改革を断行する覚悟です。
郵政民営化は、行政、財政、経済、金融といったあらゆる分野の構造改革に繋がる「改革の本丸」であります。この度の総選挙は、郵政民営化の是非を問うものであり、郵政民営化に賛成する自由民主党及び公明党は、国民多数の信任を受けることとなりました。私は、改めて、郵政民営化関連法案を今国会に提出し、成立を期す決意です。
資金の「入口」である郵政民営化だけでなく、「出口」の政府系金融機関の改革に取り組みます。また、国と地方の税財政を見直す三位一体改革については、地方の意見を真摯に受け止めながら来年度までに実現します。2010年代の初頭には、政策的な支出を新たな借金に頼らずにその年度の税収等で賄えるよう、財政構造改革に全力で取り組みます。
年金、医療、介護を柱とする社会保障制度を持続可能なものとするため、制度全般にわたる一体的な改革に取り組みます。また、災害に強い国づくりを進めるとともに、アスベスト問題に対処するため政府を挙げて取り組むなど、国民の安全と安心の確保に努めてまいります。
我が国の安全と繁栄には、世界の平和と安定が欠かせません。日米同盟と国際協調を外交の基本として、国際社会の責任ある一員としての役割を積極的に果たすとともに、国連の機能強化に向けて全力を尽くします。また、テロの防止・根絶、イラクにおける人道・復興支援の推進、日朝の国交正常化に向けた、拉致、核、ミサイルの問題の包括的な解決などの諸課題に取り組んでまいります。
国民の支持なくして改革は実行できません。私は、国民の皆様と手を携えて、日本の明るい未来を築くため、改革推進に全力を傾注する決意であります。
皆様の御理解と御協力を心からお願いいたします。 
記者会見(第三次小泉内閣発足後) / 平成17年9月21日
本日の衆議院本会議におきまして、首班指名を受け、三度、内閣総理大臣の重責を担うことになりました。よろしく御支援、御協力のほどお願い申し上げます。
引き続き自由民主党と公明党の安定した連立の基盤に立って、これまで進めてまいりました構造改革路線をしっかりとした軌道に乗せていきたいと思います。
これまでも多くの国民の皆さんの御支援によって改革を進めてまいりましたけれども、今回の解散、総選挙の結果を見ますと、引き続き構造改革を進めよという国民の声だと受け止めまして、しっかりと改革を止めることなく、多くの皆さんの御支援、御協力の下に進めていきたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。
【質疑応答】
● 本日、第三次小泉内閣が発足します。総理の残りの任期は来年の9月までの1年間で、この1年間で小泉改革の総仕上げという形で取り組まれると思いますけれども、先の自民党総裁会見の中で内外の課題が山積しているということを総理御自身でおっしゃっておりましたけれども、この1年間、何を最優先として、どういう舵取りでもって政権運営に当たっていかれるか。内政面及び外交面、両面からお聞かせください。
まず、今日、開会されました特別国会において、先の国会で否決されました郵政民営化関連法案、これを成立させていきたいと思っております。
その後、今までの骨太の方針に示されておりますように、「民間にできることは民間に」、「地方にできることは地方に」という方針に沿いまして、言わば地方の改革につきましては、補助金、税源移譲、交付税見直し、いわゆる「三位一体の改革」、これがこれからの年末に向けての予算編成におきまして、4兆円規模の補助金削減、更におおむね3兆円程度の税源移譲、地方交付税見直しがありますから、これが年末の予算編成におきましては、具体化させていかなければならない。
そして、公務員の総人件費、あるいは定員等、こういう問題にも引き続き取り組んでいきたい。
今後、この国会が終わりますと、来年度の予算編成は待ったなしであります。ここにおいて、具体的な数字が出てまいりますので、これは私にとりまして、小泉政権にとって最後の予算編成でありますので、これは大変大事な予算編成だと思っております。ここでしっかりと今までの「改革なくして成長なし」、いわゆる財政出動に頼ることなく、景気、経済を活性化していく。いわゆる改革路線を後戻りさせないような方向を示していかなければならないと思っております。
更に外交におきましては、国連改革等、今次の国連総会におきましては実現を見ませんでしたけれども、今後更に強力な国連を目指して、今まで各国と協力して得た教訓を基にして、更に少しでも前進できるような改革に率先努力していかなければならないと思っております。
また、テロ等の対策、これは今、国際社会が最も関心を持っている。また、多くの国が協力していかなければならない問題でありますので、このテロ対策というものを日本としても国際社会の責任をいかに果たすかという観点から、協力していかなければならない問題だと思っております。
そして、イラクの人道支援、復興支援、更に北朝鮮等の問題、これは6者協議で合意を見ましたけれども、この合意をいかに実行していくかということは、まだまだ困難な問題がたくさんあります。11月に再度6者協議が行われますが、その間におきましても日本として6者協議と、更に北朝鮮側との2国間の問題をいかに解決していくか、その交渉、対話も進めていかなければなりません。
そう考えますと、まさに内外に問題は山積しております。私の残された任期1年、これからもしっかり総理大臣の職務を精一杯務めてまいりたいと思います。
● 今日の衆議院の本会議での総理指名選挙ですが、いわゆる無所属で当選してきた造反議員の方からも10人を超える方が小泉総理に投票いたしました。こうした中には、郵政民営化法案に賛成する考えを表明している人もいますけれども、これに対する総理の受け止めと、こうした対応が今後予想されます自民党内の処分の内容に影響を与えるかどうかお聞かせください。
無所属の方がかなりの部分、首班指名で私を指名していただいたということは、これはありがたいと思っております。郵政民営化法案に反対した方でも、やはりこの選挙の結果を受け止めて、国民は民営化賛成だった、ということを認識されたんだと思います。言わば民意を尊重するということで、これからの国会審議において郵政民営化法案、中身を変えずに再度提出いたしますが、そういう場合においてもやはり今まで自分の考え方と国民の考え方とずれていたなということで、民意を尊重する意味からも、先の国会で反対した議員も何人かは賛成に回ってくれる人が出てくると思っております。
そういう方に対して、どういう処分をされるかというのは、今後この法案審議、そして法案の結果を見て党執行部が参議院とよく協議をしながら進めていくんだと思っております。今どういう処分がなされるかというのは、今の時点でこうだということはまだ早いんではないかと。また個々人によって違ってくると思いますし、衆議院と参議院によっても違いが出てくるんではないかと思っております。
その辺は、よく今後の審議と御本人の対応を見ながら、執行部としても党紀委員会の意見を聞きながら判断されると思っております。今の時点で、この人はどうだ、あの人はどうだというのは、まだ言える段階ではないと思っております。
● 今回の選挙では、多士済々多くの新人たちが当選いたしましたけれども、今度予想される内閣改造の際に、こういった新人議員たちを大臣なり副大臣に起用する考えはお持ちでしょうか。
これはまだこの国会、いかに全力を尽くして対応していくかということでありますので、その後の人事の問題につきましては、国会が終わってから衆参両院をながめて判断していかなければならない問題だと思います。
● 選挙後に民主党では、43歳の前原代表が新たに就任しました。総理は、いわゆるポスト小泉の候補者につきましては、この前原代表が武器としている若さや清新さというものをお求めになりますか。
前原さんが民主党の新しい代表になられた、43歳ですか、私より20歳も下で、清新の息吹を政界にももたらしたと思っております。
また、今までの議論を通じても非常に真面目で意欲的な議員でありますので、私はこれは民主党の若返りだけではなくて、政界全体に若さというものに対して肯定的な若返りも必要だなという機運をもたらしたのではないかと思っております。
ですから、民主党だけの若返りだけではなくて、自民党にもかなり影響を与えるのではないかと。これから将来、前原さんの活躍いかんによっては、若さに対する不安よりも、若さに対する期待の方が大きく伸びていくというか、可能性を国民に与えるんではないかと。また、そういう活躍を前原さんに期待しております。
また、考え方からいっても、今まで前原さんの議論を聞いてみても、自民党とは協力しながらやっていける部分がかなりあるんではないかと思っております。
やはり政権交代ということを主張されるなら、自民党との違いを出そうというのも結構ですけれども、政権にとっても余りぶれない、違わない点も安定した面も出していくということが必要ではないかと思っておりますので、私はそういう対応を前原さんならしてこられるんではないかと感じております。
● 総理は先ほど三位一体ですとか、公務員改革ですとか、課題をお挙げになりましたけれども、いずれも国と地方ですとか、省庁間の利害の対立が非常に激しい課題ばかりが残っております。こうしたものについて、残り1年の任期の中ですべて決着をつけるおつもりなのか、あるいはある程度改革の道筋を付けるだけにとどまるのか、どういうお考えをもって臨まれるんでしょうか。
これは、今まで私が進めてきた改革について、常に激しい抵抗があったものです。道路公団の改革にしても、郵政の民営化にしても、あるいは規制の改革にしても、常に省庁間のみならず議員の抵抗も激しかった問題であります。今、言われた「三位一体の改革」におきましても昨年方針を出した。これについても抵抗、反対が強かったわけであります。しかし、昨年の方針どおり進めていくわけでありまして、この抵抗は強いんですけれども、こういう抵抗を承知の上で改革の必要性を感じてやってきたわけですから、この方針どおり進めていきたいと。もとより、これで改革は終わりということではありません。改革に終わりはないわけですから止めることなく、今後、後を引き継ぐ方がより改革を前に進めることができるような、そういう基盤はつくっておかなければならないと思っております。
● 先ほどおっしゃられた公務員の人件費の改革、あとおっしゃられはしませんでしたが、政府系金融機関の改革など、秋に向けて基本方針であるとか、基本指針などを出すということを諮問会議で言っている課題が幾つかありますが、この秋に向けて、今おっしゃられたように、省庁の抵抗がかなり強いものが多いわけですが、総理としてリーダーシップを発揮されながら、いかに進めていかれるかというところについて、具体的にお考えなどをお聞かせください。
私は、今までと変わらないんです。今までどおり進めていくと、常に抵抗ある問題、一方では独裁者、一方では丸投げという両方の批判がありますけれども、この方針は4年前と全く変わっておりません。4年前に言ったことをいかに実現していくかということでありますので、この公務員の給与の在り方についても、やはり都会と地方とは、いかに民間に準拠するといっても、都会の企業と、また地方における民間の企業という点については給与も違います。そういう点をどう対応できるかという問題があります。それと政府系金融機関、これも各省庁それぞれ必要だからということで、統廃合なり民営化については今まで抵抗してきた問題でありますけれども、これだけ民間主導で力強い経済の動きが出てきているというときに、やはり私は新しい時代に合った民間の活力を阻害しないような金融体制というものを取っていかなければならないということで、私は政府系金融機関の統廃合、民営化についても、あと1年でありますけれども、しっかりとした方針を打ち出して、今後だれが私の後を継がれようともその方向を実現していくような路線は敷いていきたいと思っております。
● 前原新代表に対する見方を伺いたいんですけれども、前原さんに限らず民主党の新しい執行部を見ると、憲法問題でありますとか、外交安全保障において自民党とかなり話し合える素地が広がっていると思うんですけれども、今、政権交代と総理がお話しになりましたが、例えば法案における部分的な連携でありますとか、もっと総理在任中以降も含めて政界再編までもにらんだときに、今の民主党の前原執行部、今後、自民党との関係、どのようになっていくというふうにお考えになりますか。
これは、政界再編といいますと、すぐ見通すということは難しい問題だと思いますが、よく2大政党になったんだから、第2党、野党は与党と違いを出さなければいかぬと言う方がいますけれども、私は2大政党というのは外国の例を見ると、むしろ違いがなくなっていると思うんです。違いを出すというのだったらば、民主党がかつての社会党になるのが一番違いが出るんです。そうしたら、本当に政権交代可能な野党と国民が見るでしょうか。私は、それに疑問を持っています。
マスコミの皆さんは、与党に協力するとすぐ第2自民党だとか批判しますね。私は、それは当たらないのではないか。是々非々といいますか、自民党と協力できる分野が今の民主党にかなりあるのではないか。あるのにもかかわらず、第2自民党という批判を恐れて、あえて協力できるものを協力しないのが随分あると思います。個別具体的な問題としては言いませんが。
そして、2大政党であるからこそ、野党はますます与党に近寄らない限り政権は取れないのではないか。イギリスでも、ドイツでも、アメリカでも、言わば2大政党です。そういう2大政党の国を見ますと、与党と野党の違いというのはそんなにない。だからこそ、政権交代が起きるのではないでしょうか。今みたいに、日本の野党みたいに与党と違いを出さなければだめだと言ったら、それはますます野党にとっては、ただ与党だから反対だというのだったら、これはかつての社会党みたいだったら、国民はやはり政権交代は無理ではないかと思うので、そこが私は、第2党の野党の民主党はここが難しいところだと思います。
自民党と協力しながらどういう形で違いを出すか。また、自民党と同じように、政権を取っても不安がないような政策を打ち出せるか。これが新しい民主党といいますか、前原代表の下にどう対応するか。私も注意深く、また興味深く民主党の対応をこれから見守っていきたい。協力できるところは大いに協力していきたいと思っております。
● 外交に関して1点お願いいたします。今日、政府としてテロ特措法の期間を1年間延長されまして、従来のように2年ということではないけれども、1年間は延長される。これは総理のテロとの闘いにおける必要性とか、あるいは日米同盟と国際協調の両立ということを踏まえると、どういう判断でこの1年になったのかということと、この判断が今後の予定されるイラクへの自衛隊の派遣延長をするかどうかという判断にも影響を与えると考えてよろしいのかどうか、それをお願いいたします。
国連におきましても、テロ防止、テロ撲滅、これは国際社会が協力してやっていかなければならないということで、今のインド洋におけるアフガンに対する支援、また、テロ対策という面から、日本の自衛隊の活動というのは各国から高い評価を受けております。そういう点から、私は継続していく必要がある。また、時限立法でありますので、これは1年でいいのではないか、そのときの時点でまた判断すればいいのではないかと思っております。この問題と、イラクの自衛隊の人道復興支援活動、これはまた別であります。このイラクにおける自衛隊の活動については、またしかるべき時期に判断していかなければならない問題だと思っております。 
2006
年頭所感 / 平成18年1月1日
新年あけましておめでとうございます。
「改革なくして成長なし」、この方針をかかげて、小泉内閣が誕生してから五回目の新年を迎えました。
私は就任以来、わが国の再生と発展に向け、金融、税制、規制、歳出にわたる広範囲な構造改革を進めてまいりました。この結果、日本経済は、不良債権の処理目標を実現し、政府の財政出動に頼ることなく、民間主導の景気回復への道を歩み始めました。改革の芽が様々な分野で大きな木に育ちつつある現在、改革を止めてはなりません。
昨年は、衆議院総選挙において、多くの国民の皆さんの信任をいただき、「改革の本丸」である郵政民営化法の成立を見ることができました。引き続き「民間にできることは民間に」との方針に立って、政府系金融機関の改革、公務員改革など、改革をさらに加速させてまいります。三位一体の改革については、「地方にできることは地方に」との方針の下、約四兆円の補助金改革、三兆円規模の国から地方への税源移譲、そして地方交付税の見直しを当初の方針どおり実施いたします。
経済を巡る情勢は、地域や業種によっては一部に回復の遅れが見られるものの、構造改革の進展によって、3年連続でのプラスの経済成長が続き、失業率の低下や企業部門の収益力向上など、力強さを取り戻しはじめました。引き続き、デフレ脱却に努めるとともに、構造改革特区や「一地域一観光」などを活用して、地域の知恵や工夫を活かし、一層の経済活性化の実現に努めます。
環境と経済の両立を目指すとともに、国民の安全と安心を確保するために、テロ対策や国内の各種犯罪の防止に努めます。
わが国の安全と繁栄のためには、世界の平和と安定が欠かせません。引き続き日米同盟と国際協調を外交の基本として、近隣諸国をはじめ各国との友好関係の一層の増進を図ってまいります。昨年末、イラクにおける自衛隊による人道復興支援活動を1年間延長することを決定しました。自らの手で平和な民主国家を建設しようとしているイラク国民に対し、各国と協力しながら必要な支援を行い、国際社会における日本の責任を果たしてまいります。
改革に終わりはありません。国民の皆さまの支持なくして改革は実行できません。日本社会には、ようやく新しい時代に挑戦する意欲と自信が芽生えてきました。改革を止めるなという多くの国民の皆さまの声を真剣に受け止めて、改革を続行していきたいと思います。
皆さまの一層のご理解とご支援をお願い申し上げるとともに、本年が皆さま一人ひとりにとって実り多い素晴らしい一年となりますよう心よりお祈り申し上げます。 
年頭記者会見 / 平成18年1月4日
新年、明けましておめでとうございます。私も総理大臣に就任してから、5回目の新年を迎えましたけれども、今日までさまざまな厳しい状況の中で、今年は大方の方々に日本経済もようやく回復の道を歩み始めたなあという感じを持っていただいていると思います。今後も、この景気回復の歩みを、しっかりしたものにしていくことが、私の責務だと思っております。
就任以来、経済活性化のために何が必要か。また、景気回復のために、どういう施策が必要か、いろいろ国会でも議論をいただきました。当初は、このような不況のときに、「改革なくして成長なし」という路線は間違っているんではないか。改革を進めていくと、不良債権処理を進め過ぎると、むしろ倒産が増え、失業者が増えて、目指している景気回復どころではなくて、ますますデフレスパイラルに陥るのではないかという批判をたくさんいただきました。言わば、小泉内閣が目指す、「改革なくして成長なし」という路線と、「成長なくして改革なし」という問題に、大分議論が集中いたしました。
まず、景気回復させてから、不良債権処理等改革を進めるべきだと。いや、この不良債権が経済の足かせになっているんだと。ある程度痛みを耐えて、この不良債権処理を進めていかないと回復はない。こういう議論が盛んに行われましたけれども、今、4年間を振り返ってみますと、やはり「成長なくして改革なし」ではなかったと。改革を進めてこそ成長をもたらすんだと、いわゆるこの論争。「改革なくして成長なし」という決着をみた4年間だったと思います。
現に就任当初、経済の問題で一番大きな問題となった不良債権処理も、目標どおり正常化の道を歩んでまいりました。また、各企業も業績を上げて、自らの今までの改善策に自信を示して、各地域で元気が出てきた状況だと思います。私は、今後も引き続き改革を続行し、この景気回復軌道をしっかりしたものにしていきたいと思います。
不良債権処理を進めても、倒産件数は減ってまいりました。失業者数も減って就業者数が増えております。有効求人倍率も増えております。これからは、将来を見ますと、むしろ人手不足になるのではないかというぐらい、経済界は新しい発展に向かって、今、準備を始めていると思います。できるだけ、この構造改革路線を進めて、個人も企業も地方も、自らの創意工夫でいかに自分たちの立場を強化していくか、自分たちの地域、会社を発展させていくか、自分たちの能力を高めていくかということについて、前向きに取り組んでいく自信といいますか、やればできるという状況が生まれてきているのではないかと。
やはり、政治で一番大事なのは、個人にしても、企業にしても、地域にしても、自らの創意工夫、やる気をいかに発揮してもらうような環境をつくることが政治で一番大事だということを痛感しております。
今年は、年末から心配するような事件も多発しております。犯罪の多発、更にはアスベスト問題、それと住宅等の耐震構造設計の偽装問題、こういう問題について政府としては、しっかりとした対応をしていきたい。特に、暮れからお正月にかけて、各地域で大雪の被害が大分出ております。このような防災対策に対しても、日頃からしっかりとした心構えをして、しかるべき対策を講じていきたいと思います。
今後、少子化が進んでいく、子育てをいかに楽しめるような環境にしていくか、子どもたちは我々社会の宝であると、国の宝であると、社会全体で子どもたちを健全に、健やかに育てていこうと、そういう環境をつくっていくのがより一層大事な時代になったと思います。
今年は、犬年でありますが、犬は子どもをたくさん産む、そしてお産も軽いそうです。犬にあやかるわけではありませんけれども、多くの方々が子育ては楽しいぞと、子どもを持つことは人生を豊かにすると、そのような環境整備に多くの皆さんの知恵を借りて邁進していきたいと思っております。
今年、私も残された任期、精一杯総理大臣の職責を果たすべく全力を傾ける決意でございますので、皆さん方の御支援、御協力、よろしくお願い申し上げます。
【質疑応答】
● 今年は、自民党総裁選の年ですが、来年に参議院選挙を控えていることから、自民党内には選挙で勝てる、国民的に人気のある方がいいのではないかという声がある一方、党内の派閥や世代間、そういったバランスを見て、慎重に選んだ方がいいんではないかという声があると思います。総理は、この二つの考え方について、どのようなお考えですか、お聞かせください。
早くも総裁選に向けての御質問でありますけれども、これは今年の政界におきましては、最大の関心事だと思いますが、トップリーダーが国民から支持を得るということは極めて大事だと思っています。同時に、議員内閣制ですから、あらゆる法案も衆参国会議員の過半数の支持を得ないと成立しない。衆参国会議員の、特に与党側との信頼と協力の下に数々の法案を成立させなければならない。言わば、国会議員の中での協力と信頼を得なければならない。そのバランスをどう取るかの問題があります。今まで、国民の大きな人気や支持よりも、国会議員の中でのバランスに配慮して指導者を選ぶべきだという声もありましたけれども、これは両方が大事な時代になったのではないでしょうか。片方だけでいいというわけではありません。その辺はよく考えて、自民党の国会議員も、また党員も、国民も、この自民党の総裁選に関心を持ってくれるのではないか。まだまだ、どういう形で、どういう候補者が実際9月に手を挙げてくるか、今の段階では申し上げるにはちょっと早過ぎるのではないかと思っております。今年、面白い質問をされました。去年から今年にかけて、ポスト小泉、ポスト小泉と新聞活字で報道されていますけれども、小泉さん、名前を変えたんですかと。それぐらいポスト小泉という活字が躍り、皆さん、最大の関心事だと承知しておりますけれども、私は現職の総理大臣小泉純一郎として、この総理大臣の職責を精一杯務めていきたい。あと、総裁選が近づけば、またいろいろ御意見を伺うと思いますけれども、どういう対応をするかというのはまだまだ早いのではないか。その時点で、私もしっかりとした判断をしていきたいと思っております。
● 中韓両国首脳の相互訪問が途絶える中、残りの任期中、小泉政権として、この両国関係の改善に取り組む考えがあるかどうか、一般論としてではなくて、総理として何ができるかという具体論としてのお考えがあれば、お聞かせください。
私は、就任以来、日本の外交の基本、そして日本経済の基本といいますか、日本が平和のうちに発展・繁栄を遂げるためには、日米同盟、国際協調、この基本方針の下に日本は外交問題に対処していくという方針を掲げてまいりました。これは、今も変わりありません。過日、ブッシュ大統領が訪問された際、11月ですが、京都で会談した際、私は日米同盟がしっかりしたものであればあるほど、各国との協力関係もうまくいくんだと。日米同盟というもの、日米関係というものを多少悪くしても、ほかの国で補うという考えは取らない方がいいと発言しました。この発言をとらえて、一部の報道に、日米関係さえよければ、あとの国はどうでもいいという誠に誤解といいますか、曲解といいますか、偏見に満ちた報道がなされましたけれども、そうは言っていないんです。各国とも協力関係を進めていく。しかし、その基本は日米関係。これはしっかりしたものにしていかなければならないということを言っているわけであります。
日米関係は、他の国との関係よりも特別重い意味を持っております。なぜなら、平和でなくしてはあらゆる施策が進展いたしません。この平和、安全保障の面において日本はアメリカと安保条約を結んでおります。これは普段は気が付かないと思いますけれども、日本が他国の脅迫とか侵略に怯えない、国内の政策を平和のうちに進めていく上において、最も重要なものなんです。日本への攻撃、侵略は自分の国への侵略、攻撃とみなすと言っている国は世界の中でアメリカしかないんです。他の国が、日本への攻撃、日本への侵略は自分の国への攻撃とみなす国はほかにどこにもないんです。そういうことを考えて判断していただければ、日米関係がいかに重要かおわかりいただけると思います。その上で、私は中国とも、韓国とも、アジア諸国とも、世界各国とも、協力関係を進めていこうということであります。
そして、中国の問題、韓国の問題、靖国の問題で首脳交流が進んでいないという御質問だと思いますが、私はこの靖国の参拝の問題は外交問題にはしない方がいいと思っています。一国の首相が一政治家として一国民として戦没者に対して感謝と敬意を捧げる。哀悼の念を持って靖国神社に参拝する。二度と戦争を起こしてはいけないということが、日本人から、おかしいとか、いけないとかいう批判が、私はいまだに理解できません。まして外国の政府が一政治家の心の問題に対して、靖国参拝はけしからぬということも理解できないんです。精神の自由、心の問題。この問題について、政治が関与することを嫌う言論人、知識人が、私の靖国参拝を批判することも理解できません。まして外国政府がそのような心の問題にまで介入して外交問題にしようとする、その姿勢も理解できません。精神の自由、心の問題、これは誰も侵すことのできない憲法に保障されたものであります。
そういうことから、私は一つの問題が自分たちと意見が違うから外交交渉はしないとか、首脳会談を開かないということについては、私はいまだに理解できません。私は中国とも韓国とも友好関係を促進していくという日中、日韓友好論者です。現に、私が総理大臣に就任して、中国とも、韓国とも、いまだかつてないような経済交流、人的交流が盛んになっております。相互依存関係はますます深まっております。こういう関係を更に発展させていこうという強い気持ちを持っておりますし、私は中国側とも韓国側とも交渉の扉を閉じたことは一度もありません。常に開けておりますし、率直に、友好裏に、さまざまな問題の話し合いを進めて、何か一つの問題で意見の違いがあったら、あるいは対立があったら、それを乗り越えていく努力が必要ではないかと思っておりますし、そのような姿勢は今後も堅持していきたいと思っております。
● 質問と若干ずれたと思いますので、日中・韓日関係を改善するのに具体策があるかどうかと聞いたんですけれども、この点もし何かフォローアップでおっしゃっていただくことがあればお願いします。もう一つですけれども、次の政権の条件として、これまでの総理の外交姿勢を継承する人物がふさわしいとお考えになるかどうか。それから、個人的に一票投じるとおっしゃっていますけれども、やはりこのときにも総理の外交姿勢、特に靖国も含めてどう評価されているかということも考慮されて一票投じられるのかどうか、今のフォローアップと後段の2点をお願いします。
前段の質問については、既に答弁したと思っておりますが、改善というもの、靖国参拝したら交渉に応じないということは、これはもう外交問題にならないということであります。この一つの問題があるから、中国側、韓国側が会談の道を閉ざすとか、交渉の道を閉ざすということは、あってはならないと。一つの問題、二つの問題、幾つかの問題、どの国だって意見の違いはあります。こういう一つの問題があるから、ほかの交渉を閉ざすということは私は取るべきではないと思います。言わば、一つの問題がすべてを規定してしまうという態度は取らない方がいいと思っております。そういうことから、日本は一つ、二つ、対立した意見の違いがあっても、いつでも話し合いに応じますという場を開いているわけですから、あとは先方がどう判断するかであります。いつでも私は話し合いをしますという態度は、これまでもこれからも堅持していきたいと思っております。それと、外交問題についての総裁選挙の絡みですけれども、私は日米同盟と国際協調路線をこれからも続けていける、日米同盟と国際協調の重要性をよく理解してくれる方が、次の自民党の総裁、または日本国の総理大臣になるにはふさわしいと思っております。今後、9月に近づいて、候補者がそれぞれ確定した段階で、私はどの候補に投票するかを決めればいい問題で、今からあれこれ言わない方がいいのではないかと思っております。
● 連立与党の在り方についてお尋ねいたします。公明党との関係ですけれども、昨年の衆院選では緊密な選挙協力が見られましたが、その後の個別の政策課題では、追悼施設の問題、日中・日韓関係、あるいは防衛庁の省昇格問題、教育基本法問題等、齟齬も目立っております。これは、与党内で、ある種の是々非々路線を今年も続けて行かれるというお考えなんでしょうか。これに関連しまして、仮に民主党の一部の方が協力したいというお考えであれば、やはり同じように是々非々でもって取扱うというお考えなんでしょうか。
自民党と公明党との連立関係、これまでの経験からいって、お互い、自民党と公明党との関係は、信頼関係が深まっていると思います。この安定した自民党、公明党の連立基盤の上に、もろもろの政策を推進していきたいという気持ちに変わりありません。それと、民主党との関係でありますけれども、私は、政党ですから、意見の違うところもあるし、同じところもあると、それは今、連立を組んでいる自民党と公明党との関係もそうであります。連立を組んだから、すべて同じでなければいけないのかと、一つの問題の意見の違い、対立があったら連立を解消するのかと、そういう話ではないんです。全体を考えて、何がそのときに必要か、どういう協力が必要か、意見の違いがあった場合に、それを対立関係に発展させないで、全体的に考えて話し合っていこう、あるいは意見の違い、対立は対立として、これからまたよく話し合っていこうということで、今までも自民党、公明党の間におきましては、意見の違いも幾つか問題もあったわけでございます。しかし、全体を見て協力関係が大事だということで、ずっと今まで連立関係を組んできたと。国会内においての対応についても、あるいは選挙においても協力し合ってきたんです。この関係は、大事にしていきたいと思います。その上で、民主党との関係でありますが、これは安全保障の面におきましても、あるいは憲法改正の問題におきましても、改革を促進していこうと、簡素で効率的な政府を目指そうということにおきましても、かなり自民党と似ているところがあります。そういうことから、私は民主党が自民党と協力できる分野はあると思っておりますので、その際には協力していただければありがたいと。政党であれ、議員個人であれ、協力してくれるという勢力があれば、私は喜んでそういう方々と協力していきたいと思っております。よろしくお願いいたします。 
小泉総理インタビュー / 平成18年8月15日
【質疑応答】
● 総理、今回はどのような気持ちで参拝されましたでしょうか。
これは毎回申し上げているのですが、日本は過去の戦争を踏まえ反省しつつ、二度と戦争を起こしてはならない。そして今日の日本の平和と繁栄というのは、現在生きている人だけで成り立っているのではないと。戦争で尊い命を犠牲にされた、そういう方々の上に今の日本というのは今日があると。戦争に行って、祖国の為、また家族の為、命を投げ出さなければならなかった犠牲者に対して、心からなる敬意と感謝の念を持って靖国神社に参拝しております。今年もこの気持ちに変わりはありません。
今までの過去5年間の私の靖国神社参拝に対する批判をね、よく考えて見ますと、大方、3点に要約されるんじゃないかと思います。まず一つはね、中国・韓国は不愉快であると反発しているからやめろという意見。これはどうですかね、私は日中・日韓友好論者なんです。就任以来、現に中国や韓国との友好交流、様々な分野で拡大を続けております。そういう中で、どの国ともね、一つや二つ意見の違い、対立あります。それで、一つの意見の違いがある、不愉快なことあると、それによって首脳会談を行なわないことが良いのかどうかと、私はいつでも首脳会談を行う用意があると言っているんですよ。しかも、靖国神社参拝を条件にしてね、この参拝をしなければ首脳会談を行うと、するならば首脳会談行わないというのが、果たして良いのかどうか。私は、これはよろしくないと思っています。
日本の首相というのは、民主的な手続によって選ばれた首相であります。日中間、日韓の間には様々な課題もある。私は今までの日中首脳会談、日韓首脳会談においても、未来志向で友好を図っていこうと、お互い、相互互恵、相互依存関係、これを深めていこうと、中国の発展、韓国の発展というのは日本に脅威というよりも、むしろ日本にとってもチャンスなんだという事をはっきり表明して、未来志向で友好、交流を進めていこうということを申し上げているんです。それに対して、私を批判する方、これは、しかし中国が嫌がっていることはやるなと、突き詰めて言うと、中国・韓国が不快に思うことはやるなということでしょ、これについて批判する方をどう思うか。
もし私が一つの問題で私が不愉快に思う、仮にね、中国・韓国が日本の安保理常任理事国入りに反対しています。これは日本にとっては不愉快だと、だから私は中国・韓国と首脳会談行わないといったらどちらを批判するでしょう。私は中国が反対しても、韓国が反対しても、首脳会談いつでも行いましょうと言っているんですよ。今回もそうですね、私が拒否しているんじゃないんです。という事は、中国の嫌がることは止めなさいというのが靖国参拝批判の一つですね。中国に不快な思いをさせちゃいけません。中国のいうことを聞きなさい、韓国のいうことを聞きなさい、そうすればアジア外交が上手くいきます。私は必ずしもそうじゃないと思いますね。一つや二つ、どの国も意見の違いや対立あります、そういうのを乗越えて未来志向で友好関係を進展させていくのが、日本としても他国にしても大事じゃないでしょうか。
中にはね、小泉はアメリカと親しいと、アメリカのブッシュ大統領が靖国参拝するなと言えばしないだろうと。そんなことはありません、ブッシュ大統領が靖国参拝するなと私に言ったとしても、私は行きます。もっともね、ブッシュ大統領はそんな大人気ないことは言いませんけどね。
もう一つはね、A級戦犯が合祀されているから行っちゃいかんという議論。これはね、私は、特定の人に対して参拝しているんじゃないんです。この戦争でね、苦しい思いをされ、できれば避けたかった、戦場に行きたくなかった多くの兵士がいるんです。そういう方々の気持ちを思ってね、何という苦しいつらい体験をせざるを得ない時代に生まれたのだろうかと、そういう犠牲者に対してね、心からやっぱり哀悼の念を表すべきだなと、これ日本の文化じゃないでしょうか。特定の人がいるから後の人のことは考えなくていいと、一部の、自分では許せない人がいるから、それより圧倒的多数の戦没者の方々に対して哀悼の念をもって参拝するのが何故いけないのか、私はA級戦犯の為に行っているんじゃないですよ。多くの戦没者の方々に哀悼の念を表す。二度とこのような苦しい戦争をさせてはいけない、そういう気持ちで参拝しているんです。
それと第3点、憲法違反だから靖国神社参拝しちゃいかんという人がいます。これもね、憲法第19条、第20条、これを良く読んで頂きたい。私は神道奨励するために靖国神社行っているんじゃありません、今説明したように。また過去の戦争を美化したり、正当化したりするために行っているんじゃありません。また軍国主義を称揚する、そういうような気持ちで行っているのではありません。今申し上げたように、二度と戦争を起こしてはいけないと、戦没者に戦争に行って斃れた方々、こういう方々の犠牲を片時も忘れてはいけないと、そういう気持ちでお参りしているんです。そして、第19条の思想及び良心の自由はこれを侵してはならない。これどう考えますか、正に心の問題でしょ。これを日本の首相が日本の施設にお参りする、お祈りする、それを、外国の政府もっともだといって、小泉はいかん、小泉を批判する。これが本当に良い事なのかどうか、今の日本の誰にでも許されている自由という問題をどう考えるのか。
私は伊勢神宮にも毎年参拝しています。その時には何名かの閣僚も随行しています。別に私は強制していません。そして、皆さんの前で神道形式に則って伊勢神宮に参拝しています。その時に憲法違反という声起こりませんね。何故なんでしょうか。私はこういうことから、賛否両論あっていいんです、日本は言論の自由認められていますから、今までもこういう事を私は答弁なり、普段の話でしているんです。今回も全くその同じ気持ちで参拝しているんです。
● 何故、今回、終戦の日の8月15日を選ばれたのでしょうか。
これはね、最初、多くの方々が8月15日だけはやめてくれと、様々な方から言ってまいりましたね。そういう方々の意見も聞かなきゃいかんなということでね、敢えて15日を避けて参拝してきました。8月13日、或いは4月、10月、1月と、しかし、8月15日を避けても、いつも批判や反発、そして何とかこの問題を大きく取り上げようとする勢力、変わらないですね。いつ行っても同じです。ならば、今日は適切な日ではないかなと。これから戦没者の追悼記念式典もおこなわれます。私はこれから千鳥が淵の戦没者墓苑にお参りをします。戦没者の追悼式典にも出席します。適切な日だなと判断いたしました。
● 去年、参拝した際は、昇殿をせずに、記帳もしませんでした。今回の参拝では、モーニング姿で、内閣総理大臣と記帳して、昇殿もしたということなんですけれども、その理由についてお聞かせください。
今、お話したようにね、今日は戦没者の追悼式もありますし、千鳥ヶ淵の戦没者の墓苑にもお参りしますし、その時にはこの服装で行きますしね、私は、きっちりと昇殿、本殿に参拝した方が、今日は皆騒いでいますから、あのような、去年みたいな形でいくと警備の方も大変でしょ。皆さん、大勢の方々が見えてるしね、そういうことも考えて本殿に参拝するのが適切じゃないかなと思いました。
● 2回目の参拝の時の所感の中では、総理は、終戦記念日やその前後の参拝にこだわって、再び内外に不安や警戒を抱かせることは、私の意に反するとしていました。今日の参拝は、その所感と矛盾するのではありませんか。
矛盾しません。それは過去5年を踏まえて、いつ行っても問題にして、混乱にしようとする勢力があるんです。それは仕方ないんです。そういうことを踏まえて、過去の経験が生きてきたんですね。いつ行っても参拝に、なんとか争点にしようとか、混乱させようとか、騒ぎにしようとか、国際問題にしようとかいう勢力があるんです。これに対してね、いけないと言ったって、それは、日本は言論の自由が認められてるんですから、どうにもなりません。ですから、いつ行ってもこういう騒ぎにしようという勢力があるんですから、8月15日に行っても、適切じゃないかなと。
また、むしろこだわっているのは、毎回、こだわろうという勢力がいるんですよ、私が、今まで靖国神社の問題も、質問された時以外は答えたことがないんですよ。自ら、靖国問題をこうだああだと言ったことはなくて、いつも皆さんの質問に答えて言っているわけです。いろいろな説明や他のことも言いたいんですけれども、一番マスコミが取り上げるのは靖国参拝のことでしょ。そういうのは、やめた方がいいと言っても聞かないですから、マスコミは。いつでもこだわっているのはマスコミじゃないでしょうか、或いは、私に反対する方々じゃないでしょうか。そういうのも踏まえてね、これはいつ行っても同じだなと思いました。
● 来月のご退陣の前に、直接、不戦の誓いと戦没者追悼の意で参拝なさっているんだということを、中国、韓国の首脳と会って、理解を求めるためにご説明する意向はないのですか。
今までの日中首脳会談、日韓首脳会談においても、その考えを伝えてあります、何回でも。いつでも会えば、中国側が、韓国側が、靖国参拝するなと言えば、いつも、中国側、韓国側の考えと私は違うということを説明している、今、お話したような考えを説明しております。これは平行線です、外交カードにはしないと、一つの条件をつけられて、これに従うか、従わないか、それで首脳会談をする、しないを判断するというのは、私はよろしくないと思っております。私は、これからも中国、韓国と友好的に発展しようと、未来志向でね、考えた方が良いんじゃないかということを、再三、申し上げております。この考えに変わりはありません。
● 今回は記帳されていますが、総理大臣の立場としての参拝ということでしょうか。
総理大臣である、人間、小泉純一郎が参拝しているんです。
● 公式な参拝と受け取ってよろしいのですか。
職務として参拝しているものではありません。
● 今回の参拝が、総裁選に与える影響についてはどのようにお考えですか。
それは総裁候補自体の考え方と、マスコミの皆さんが争点にしたがっている面が強いですから、それいかんでしょうね。
● 改めて、靖国神社に合祀されているA級戦犯の戦争責任については、どうお考えになるか、お願いいたします。
それは戦争の責任をとって、戦犯として刑を受けているわけでしょう。それは本人達も認めているし、それはあると思いますが、それとこれとは別です。何回も申し上げているように、特定の人のために参拝しているんじゃないです。戦没者全体に対して、哀悼の念を表するために参拝しているんです。今、言った、主な3点、靖国参拝批判する人、よく考えていただきたい。考えは自由です。 
小泉総理インタビュー / 平成18年9月25日
【質疑応答】
● 5年5ヶ月、日本の政治のリーダーを務め、自民党の派閥政治を変え、日本の政治をやってきたわけですけれども、日本を良い方向に引っ張ってきたという自信はありますか。
そうですね。経済も低迷していた時期に総理に就任しましたけれども、その頃から、国会でも日本はダメだと、何やってもだめだと、この景気回復は小泉が退陣しなければ無理だといわれましたね。ただ、改革なくして成長なしじゃないと、公共事業を積み上げてね、成長なくして改革なしなんだと、そういう論争を重ねて、結局、経済も回復してきたと、やれば出来るじゃないかと意欲も出てきた、改革なくして成長なしだなと、これにも結論が出たと、良かったと思いますね。これも国民の皆さんの支持があったからだと思っています。
● 高い支持率を維持したままやめることについてはどうお考えですか。
これはもう、任期は最初から決っているんですから、それに従うのが普通じゃないでしょうか。
● 在任中、一番辛かったのはどの局面で、それをどう乗り切ろうとしましたか。
いつも緊張と重圧の中でやってきましたから、これは辛くても当たり前なんだと、天がこの辛さに耐えるように仕向けているんだと、これを乗り越えなければいけないということでやってきましたからね。これ、ある程度辛いのを覚悟して総理大臣になったわけですから、これが当たり前だなと、辛い時が来る度にそう思ってやってきましたから。
● 具体的に思い出す場面はありますか。
みんなそれぞれね、大事な局面で、どれがということよりも、そういう辛さを乗り越えてきた、それが良かったと思ってますね。
● 外交では、ブッシュ大統領との親交を築き、初めての北朝鮮訪問も行いましたが、日朝国交正常化を果たせず、中国・韓国との冷え込んだ関係を次の政権に引継ぐということになりますが、後悔の念はありませんか。
ありませんね。中国との、韓国との関係も、こういう時期は必要だと思っています。先ずね、私が首脳会談を中国と韓国と拒否しているんじゃありません。一つの問題があるからといって、首脳会談を行わないのはいいのかどうか。自分の国に対して不愉快なことがあったからね、首脳会談を行わないことがいいのかどうか。これ、後になれば分かると思いますね。それと靖国参拝、これについてもこの一つの問題だけでこだわってね、首脳会談を行わないというのは、みんなおかしいと思っているんじゃないでしょうか。中国だから、韓国だから、そのことを言うとおり聞きなさいと、そうすれば首脳会談行いますよと、どっちがいいのか、これは冷静にね、時間が経てば、やっぱり中国・韓国おかしいんじゃないかと、外国の首脳もそう思っているんですね、実際話してみて、私が説明すると。日本の国民も、靖国参拝をするというのが、これ戦没者に対する哀悼の念を表するんだと、別に軍国主義を正当化したりね、過去の戦争を正当化しているんじゃないというのが分かっているんですね。それから、憲法違反であるという人もいますけれども、これも伊勢神宮に毎年参拝してね、神道形式に則って参拝しているのが憲法違反という声は何も起きない、靖国参拝だけに起きる、ですから、靖国参拝を批判する人が、私のこの論に反論できないんですね。私はよく説明しているんですよ、そう思いませんか。ですからこういう問題、後になってみて、やっぱり中国・韓国の方がおかしかったんじゃないかと、こういう時期があってよかったなと、私は日中の友好論者ですし、日韓の友好論者で、就任以来、中国とも韓国とも交流をあらゆる分野において広げてきています。こういう時期は良かったと思っています。後で評価されると思います。分かると思います。
● 郵政民営化の時には、自らを非情だと評しましたけれども、今振り返ってどんな思いですか。
いや、当然のことをやったと私は思っています。郵政民営化は改革の本丸だといって総理に就任して、その法案を出して、国民の支持を受けて実現したと。ある時は非情といわれるかもしれませんけれども、国民全体にとって、これは温情だったと、必要な改革だったと、時間が来れば理解してくれると思っています。
● 安倍新総裁の党役員人事、どう受け止めていますか。
よく考えた、適材適所じゃないかなと思っています。ありがとうございました。 
内閣総辞職に当たっての談話 / 平成18年9月26日
小泉内閣は、本日、総辞職いたしました。
私は、内閣総理大臣の重責を担って以来5年5か月、日本を再生し、自信と誇りに満ちた社会を築くため、「改革なくして成長なし」「民間にできることは民間に」「地方にできることは地方に」との一貫した方針の下、構造改革の推進に全力で取り組んでまいりました。困難に直面するたびに、「天の将に大任をこの人にくださんとするや、必ずまずその心志を苦しめ、その筋骨を労せしむ。」との孟子の言葉を胸に、全精力を傾けてまいりました。
就任当時、我が国の経済は低迷し、将来に対して悲観的な見方があふれていました。今日、日本社会には、新しい時代に挑戦する意欲と「やればできる」という自信が芽生え、改革の芽が大きな木に育ちつつあります。民間や地域の方々が「痛みに耐えて」改革に取り組んだおかげで、経済は着実に景気回復軌道にのってきました。様々な改革が、極めて困難との批判もある中で実現できたのは、多くの国民のご理解とご支持があったからこそであります。
改革に終わりはありません。これからも新総理とともに国民の皆様が力を合わせ、日本の将来を信じ、勇気と希望をもって改革を続けていくことを願っております。私も、一国会議員として、我が国の明日への発展のため、微力を尽くしていく考えであります。
これまでの国民の皆様の暖かいご支援とご協力に対し、心より御礼申し上げます。 
 
安倍晋三

 

2006年9月26日-2007年9月26日(366日)
就任表明では「美しい国」というテーマの下に「戦後レジームからの脱却」「教育バウチャー制度の導入」「ホワイトカラーエグゼンプション」などのカタカナ語を連発し、他の議員からは「分かりにくい」と揶揄された。
安倍は小泉前首相の靖国参拝問題のために途絶えていた中国、韓国への訪問を表明。2006年10月に中国・北京で胡錦濤国家主席と会談、翌日には、盧武鉉大統領と会談すべく韓国・ソウルに入り、小泉政権下で冷却化していた日中・日韓関係の改善を目指した。
北朝鮮が核実験を実施したことに対しては「日本の安全保障に対する重大な挑戦である」として非難声明を発するとともに、国連の制裁決議とは別に、より厳しい経済制裁措置を実施した。
同年9月から11月にかけ、小泉時代の負の遺産とも言える、郵政造反組復党問題が政治問題化する。12月には、懸案だった教育基本法改正と防衛庁の省昇格を実現した。一方で、同月、安倍が肝煎りで任命した本間正明税制会長が公務員宿舎への入居と愛人問題で、佐田玄一郎行改担当大臣が架空事務所費計上問題でそれぞれ辞任。この後、閣内でスキャンダルが相次いだ。
2007年3月の安倍の慰安婦発言が「二枚舌」と欧米のマスコミから非難されたが、4月下旬には米国を初訪問し、小泉政権に引き続き日米関係が強固なものであることをアピールした。参議院沖縄県選挙区補欠選挙に絡み、日米関係や基地移設問題が複雑に絡む沖縄県特有の問題があったため、多くの側近の反対を退け2回にわたり沖縄県を訪れて自民系無所属候補の島尻安伊子の応援演説を行うなどのバックアップを行い、当選させた(島尻はその後で自民党に入党)。
5月28日、以前から様々な疑惑のあった松岡利勝農水大臣が議員宿舎内で、首を吊って自殺。官邸で訃報に接した安倍は涙を流し「慙愧に耐えない」と会見し、その晩は公邸で妻の昭恵に「松岡さんにはかわいそうなことをした」と語っている。また年金記録問題が大きく浮上した。
こうした中、6月当初の内閣支持率は小泉政権以来最低になったことがメディアに大きく報じられた。同月6日-8日には首相就任後初のサミットであるハイリゲンダム・サミットに参加、地球温暖化への対策を諸外国に示した。また、議長総括に北朝鮮による日本人拉致問題の解決を盛り込ませた。7月3日には久間章生防衛大臣の原爆投下を巡る「しょうがない」発言が問題化。安倍は当初続投を支持していたが、批判の高まりを受け久間に厳重注意を行った。久間は直後に辞任し、後任には小池百合子が就任した。
参議院議員選挙での敗北
2007年7月29日の第21回参議院議員通常選挙へ向けての与野党の舌戦開始早々、自殺した松岡の後任である赤城徳彦農林水産大臣にもいくつかの事務所費問題が発覚。安倍はこういった閣僚の諸問題への対応が遅いと非難された。選挙中に発生した新潟県中越沖地震では発生当日に遊説を打ち切り現地入りした。2007年の参議院選挙では「年金問題」の早期解決を約束し、「野党に改革はできない、責任政党である自民党にこそ改革の実行力がある」とこれまでの実績を訴えた。選挙前、安倍は「そんなに負けるはずがない」と楽観視していたが、結果は37議席と連立を組む公明党の9議席を合わせても過半数を大きく下回る歴史的大敗を喫した。これまで自民党が強固に議席を守ってきた、東北地方や四国地方で自民党が全滅、勝敗を左右する参議院一人区も、軒並み民主党候補や野党系無所属に議席を奪われた。
安倍は選挙結果の大勢が判明した時点で総理続投を表明したが、これについては、応援演説において「私か小沢さんか、どちらが首相にふさわしいか」と有権者に「政権選択」を迫るような趣旨の発言をしていたことから内外から続投に対する厳しい批判が出た。また、参院選直後の7月31日の自民党総務会においても、「決断されたほうがいい」などと党内からも退陣を促す声が出た(安倍おろし)。同日、アメリカ下院では慰安婦非難決議が議決されていた。翌8月1日には赤城農相を更迭したが、「遅すぎる」と批判された。この頃から安倍は食欲の衰えなど体調不良を訴え始め、8月19日から8月25日のインドネシア、インド、マレーシア3ヶ国訪問後は下痢が止まらなくなり、症状は次第に悪化し始めた。
安倍改造内閣
選挙結果や批判を受け、8月27日に内閣改造、党役員人事に着手した(安倍改造内閣)。ところが組閣直後から再び閣僚の不祥事が続き、求心力を失う。9月9日、オーストラリア・シドニーで開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議の終了にあたって開かれた記者会見において、テロ特措法の延長問題に関し9月10日からの臨時国会で自衛隊へ給油が継続ができなくなった場合は、内閣総辞職することを公約した。この間も安倍の健康状態は好転せず、体調不良によりAPECの諸行事に出席できない状況となり、晩餐会前の演奏会を欠席した。
2007年9月10日に第168回臨時国会が開催され、安倍は所信表明演説の中で「職責を全うする」などという趣旨の決意を表明した。なお、この表明では自身の内閣を「政策実行内閣」と名づけ、「美しい国」という言葉は結びに一度使ったのみであった。午後には「(改正案を通すのは)厳しいでしょうか」と辞任を示唆する発言を麻生幹事長に漏らしていたが、麻生から「テロ特措法があがった後でよろしいのではないですか。絶対今じゃないです」と慰留された。9月11日には妻の昭恵に対し「もうこれ以上、続けられないかもしれない」と語ったが、辞任の具体的な日程までは一切明かさなかった。
辞意表明
2007年9月12日午後2時(JST)、「内閣総理大臣及び自由民主党総裁を辞する」と退陣を表明する記者会見を行った。これにより同日予定されていた衆議院本会議の代表質問は中止となった。
安倍は辞任の理由として「テロ特措法の再延長について議論するため民主党の小沢代表との党首会談を打診したが、事実上断られ、このまま自身が首相を続けるより新たな首相のもとで進めた方が良い局面になると判断した」「私が総理であることが障害になっている」などとした(小沢代表は記者会見を開き「打診を受けたことは1回もない」と否定。なお、小沢は党首会談について報じられてからも「意見を変える気はない」と明言している)。一方で、自身の健康に不安があるという理由も与謝野馨内閣官房長官が同日中会見で述べている。24日の記者会見では本人も健康問題が辞任の理由の一つであることを認めた。
もともと胃腸に持病を抱えているといわれており、辞意表明当日の読売新聞・特別号外でもそのことについて触れられていた。また、辞意表明前日には記者団から体調不良について聞かれ、風邪をひいた旨を返答している。この「胃腸の持病」について、安倍は辞任後の2011年に掲載された『週刊現代』へのインタビューで、特定疾患である「潰瘍性大腸炎」であったことを明かしているが、辞意表明の当時はこの点を報じた者は皆無であり、過去に脳梗塞のために首相を辞任した石橋湛山や小渕恵三などと比較して「命に関わらない程度の健康問題」を理由にした退陣と見られたため、立花隆をはじめとして辞任に追い込まれた実質的原因が(本人が記者会見をこなしていることなどを理由に)健康問題ではないとする見方をする論者も存在するなど、批判にさらされることとなった。
臨時国会が開幕し内政・外交共に重要課題が山積している中で、かつ所信表明演説を行って僅か2日後での退陣表明は、各界各方面から批判を浴びた。野党側は安倍の辞意表明について「無責任の極み」であるとして次のような批判を行った。
「40年近くの政治生活でも、過半数を失って辞めず、改造し、所信表明をし、そして代表質問の前に辞職と言う例は初めてで、本当にどうなっているのか、総理の心境・思考方法については良く分かりません」(民主党小沢一郎)
「参院選の後に辞めていればよかった。こういう形の辞任は国民に失礼」(民主党・鳩山由紀夫幹事長)
「所信表明直後の辞任は前代未聞」(共産党・志位和夫委員長)
「タイミングがあまりにひどい、無責任です。『ぼくちゃんの投げ出し内閣』だ。小沢代表との会談が断られただけで辞任するのは子供っぽい理由」(社民党・福島瑞穂党首)
与党側でも古賀誠元自民党幹事長などから退陣に至る経緯・理由が不透明であるという批判や、その他議員からも「なぜ今日なのか、無責任だ」という批判が出た。かつて安倍派四天王と呼ばれ清和研幹部で引退後は自由国民会議代表務める塩川正十郎も「非常に無責任な辞め方。熱意と努力で乗り切ってもらいたくて支えてきた。支えてきた者から見たらこんな辞め方は無い」と批判した。また、公明党の北側一雄幹事長からも「なぜこの時期に辞意表明なのか、非常に理解しがたい」と批判された。
麻生太郎自民党幹事長は同日の会見において、記者からの「総理はいつ辞任を決断していたのか」との問いに対し、「2日くらい前といえばそうだし、昨日と言えばそうだし…、この3日間意向は全くかわらなかった」などと述べ、安倍の辞任を2日前(安倍晋三が臨時国会でテロ特措法の延長ができなければ内閣総辞職すると述べた日と同日)にはすでに知っていたことを明らかにした。
9月13日に朝日新聞社が行った緊急世論調査では、70%の国民が「所信表明すぐ後の辞任は無責任」と回答している。
安倍の突然の辞意表明は、日本国外のメディアもトップニュースで「日本の安倍首相がサプライズ辞職」、「プレッシャーに耐えきれなかった」(アメリカCNN)などと報じた。欧米諸国の報道では批判的な意見が多かった。
入院・内閣総辞職
退陣表明の翌日(9月13日)、慶應義塾大学病院に入院。検査の結果、胃腸機能異常の所見が見られ、かなりの衰弱状態にあると医師団が発表した。これについても海外メディアで報道され、イギリスBBCは「昨日官邸をチェックアウトした安倍首相は、今日は病院にチェックインした」「日本は1週間以上も、精神的に衰弱しきった総理大臣を抱えることになる」と報じた。
遠藤武彦農相に不正な補助金疑惑が発覚した際、遠藤の辞任の流れを与謝野馨内閣官房長官と麻生幹事長の2人だけで決めて安倍を排除したことから、安倍が「麻生さんに騙された」と発言したと言われる。この内容について9月14日の報道ステーションが麻生にインタビューで問い質したところ、麻生は「(9月14日に安倍氏の見舞いに行った時)『そんなこと言われて与謝野とふたりで困っている』と安倍総理に言ったら、『そんなこと言ってない』と笑っておられました。どなたかが意図的に流したデマでしょう」と反論をしている。同日のNEWSZEROは、番組終盤に安倍の「麻生さんに騙された」という発言を速報という形で伝え、麻生と安倍との間に不穏な空気が流れていたとする報道を行った。
また、自民党の若手による「麻生-与謝野クーデター説」について与謝野官房長官は、9月18日の閣議後の会見において明確に否定した。さらに麻生幹事長は9月19日に「事前に安倍首相の辞意を知っていたのは自分だけではない」とし、与謝野官房長官も同日「中川(秀直)さんは11日(辞任表明の前日)に安倍さんに会っていて、知っていてもおかしくない」と、中川前幹事長も事前に安倍の辞意を知っていたことを示唆した。
安倍内閣メールマガジンは9月20日配信分において「国家・国民のためには、今身を引くことが最善と判断した」とのメッセージの下、これをもって最終号を迎えた。
なお、病院側は、安倍首相の容体は回復軌道には入っているものの退院できる状態ではないとした。病室内では新聞は読まずテレビも基本的には視聴せず、外部の情報をシャットアウトした環境下で治療を行った。9月21日は安倍首相53歳の誕生日だが、病院で誕生日を迎えることになった。このように安倍首相は退陣まで公務復帰できなかった状況だが、与謝野官房長官は「首相の判断力に支障はない」と内閣総理大臣臨時代理は置く予定はないという方針をとっていた。20日の官房長官会見では「首相は辞任と病気の関係を説明するべき」としていた。
入院中、妻の昭恵から政治家引退を勧められたが、安倍は「いや、それは違う」と答え、議員辞職は拒否した。
9月23日に行われた自民党総裁選には欠席して前日に不在者投票を行い、前総裁のあいさつは谷川秀善両院議員総会長が代読した。
9月24日17時、慶應義塾大学病院にて記者会見を行い、自身の健康状態及び退陣に至る経緯について「意志を貫くための基礎体力に限界を感じた」と釈明し、政府・与党、国会関係者並びに日本国民に対して「所信表明演説後の辞意表明という最悪のタイミングで国会を停滞させ、多大な迷惑を掛けたことを深くお詫び申し上げたい」と現在の心境を開陳、謝罪した。また、自民党若手による「麻生クーデター説」については本人の口から改めて否定された。さらに、首相としての公務に支障があったにも関わらず臨時代理を置かなかったことについては「法律にのっとって判断した」としたが、これについては政府内でも批判の声があった。
9月25日、安倍内閣最後の閣議に出席し、国会へ登院して衆議院本会議での首班指名選挙に出席する意思を明らかにした。9月25日の安倍内閣最後の閣議で閣僚全員の辞職願を取り纏めて内閣総辞職した。安倍前首相は最後の閣議の席上、全閣僚に対して一連の事態に対する謝罪及び閣僚在任に対する謝意を述べた。26日には皇居で行われた福田康夫首相の親任式に出席した後、再び病院へと戻った。なお、安倍内閣の在職日数は1年あまりとなる366日であり、日本国憲法下では歴代7位の短期政権となった。改造内閣はわずか31日の短命に終わった。
2006

 

談話 / 平成18年9月26日
私は、本日、内閣総理大臣に任命され、公明党との連立政権の下、初の戦後生まれの総理として、国政の重責を担うことになりました。普通の人々の期待に応える政治、みんなが参加する、新しい時代を切り拓く政治の実現を目指し、全力を尽くします。
我が国は、構造改革の成果があらわれ、未来への明るい展望が開けてきた一方、人口減少、都市と地方の間の不均衡、厳しい財政事情などの課題を抱え、国際社会の平和と安全に対する新たな脅威も生じています。このような状況にあって、私は、活力とチャンスと優しさに満ちあふれ、自律の精神を大事にする、世界に開かれた、「美しい国、日本」を目指すため、「美しい国創り内閣」を組織しました。
人口減少の局面でも経済成長は、可能です。イノベーションの力とオープンな姿勢で、日本経済に新たな活力を取り入れます。努力した人が報われ、勝ち組と負け組が固定化せず、人生が多様で複線化した「再チャレンジ」可能な社会を構築するため、総合的な支援策を推進します。やる気のある地方が「強い地方」に生まれ変わるよう地方分権を進め、知恵と工夫にあふれた地方の実現のため、頑張る地方を応援します。中小企業支援や農林水産業の再生に取り組みます。
「成長なくして財政再建なし」の理念の下、歳出削減を徹底し、2011年度にプライマリーバランスを確実に黒字化します。その第一歩である来年度予算編成では、メリハリの効いた配分を行い、新規国債発行額は今年度を下回るようにします。簡素で効率的な「筋肉質の政府」を目指し、抜本的な行政改革を強力に推進します。その上で対応しきれない社会保障の負担増などに対し、安定的な財源を確保するため、抜本的・一体的な税制改革を推進します。
社会保障制度の一体的な改革、少子化対策の総合的推進による「子育てフレンドリーな社会」の構築、子どもが犠牲となる凶悪事件や規律の緩みを思わせる事故の防止、地球環境問題への対応など、健全で安心できる社会の実現に全力を尽くします。
家族、地域、国を大事にする、豊かな人間性と創造性を備えた規律ある人間の育成に向け、教育再生に直ちに取り組むこととし、まず、教育基本法案の早期成立を期します。
「世界とアジアのための日米同盟」をより明確にし、アジアの強固な連帯のために積極的に貢献する「主張する外交」へと転換を図ります。官邸の司令塔機能の強化、情報収集機能の向上を図るとともに、官邸とホワイトハウスが常に意思疎通できる仕組みを整えます。在日米軍再編については、抑止力を維持しつつ、地元の負担軽減や地域振興に全力で取り組みます。未来志向で中国、韓国、ロシアなど隣国との信頼関係を強化します。拉致問題対策本部を設け、専任の事務局を置き、北朝鮮による拉致問題に関する総合的な対策を推進します。イラク復興支援、テロの防止・根絶に力を注ぎます。安保理常任理事国入りを目指し、国連改革に取り組みます。
我々日本人には、21世紀の日本を、日本人の持つ美徳を保ちながら、魅力あふれる、活力に満ちた国にする力があると、私は信じています。国民の皆様とともに、世界の人々が憧れと尊敬を抱き、子どもたちの世代が自信と誇りを持てる「美しい国、日本」とするため、先頭に立って、全身全霊を傾けて挑戦していく覚悟であります。
国民の皆様のご理解とご協力を心からお願いいたします
基本方針
活力とチャンスと優しさに満ちあふれ、自律の精神を大事にする、世界に開かれた、「美しい国、日本」をつくるため、「美しい国創り内閣」として、官邸主導の政治のリーダーシップを確立し、以下の施策を推進する。
1.活力に満ちたオープンな経済社会の構築
・人口減少の局面でも経済成長を可能とするため、イノベーションの力とオープンな姿勢により、日本経済に新たな活力を取り入れる。
・努力した人が報われ、勝ち組と負け組が固定化せず、働き方、学び方、暮らし方が多様化、複線化した「再チャレンジ」可能な社会を構築するため、総合的な支援策を推進する。
・地方分権を推進するとともに、知恵と工夫にあふれた地方の実現に向け、「頑張る地方応援プログラム」を来年度から実施する。中小企業支援、農林水産業の再生に取り組む。
2.財政再建と行政改革の断行
・「成長なくして財政再建なし」の理念の下、諮問会議を活用して、歳出削減を徹底し、ゼロベースの見直しを行う。2011年度のプライマリーバランスの確実な黒字化を目指し、来年度予算編成ではメリハリの効いた配分を行い、新規国債発行額を今年度を下回るようにする。
・公務員定員の純減・総人件費の徹底削減、公務員制度全般の見直し、政策金融機関の統合、政府の資産規模の対GDP比半減、郵政民営化の確実な実施、市場化テストの積極活用、特別会計の大幅見直し等、抜本的行政改革を強力に推進し、簡素で効率的な「筋肉質の政府」を実現する。
・地方行革を進め、自治体再建法制の整備を検討し、地方にも自律を求める。
・社会保障や少子化に伴う負担増に対する安定的財源確保のため、抜本的・一体的な税制改革を推進する。
・行政機構の抜本改革・再編や道州制ビジョンの策定等、行政全体の新たなグランドデザインを描く。
3.健全で安心できる社会の実現
・社会保障制度の一体的な改革を進めるとともに、社会保険庁の解体的出直しを行う。厚生年金と共済年金の一元化を早急に実現する。医療や介護は政策の重点を予防へと移し、健康寿命を伸ばす政策を推進する。
・出産前後や乳幼児期の経済的負担の軽減を含めた子育て家庭に対する総合的支援、子育て応援の観点からの働き方の改革、子育て・家族の素晴らしさを共有できる意識改革の推進など、少子化対策を総力をあげて推進し、「子育てフレンドリーな社会」を構築する。
・子どもが犠牲になる凶悪事件の防止など、「世界一安全な国、日本」を復活させるとともに、国民の暮らしの安全を脅かす事故の再発防止に取り組む。
・「京都議定書目標達成計画」を着実に推進する。
4.教育再生
・家族、地域、国を大事にする、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成に向け、教育再生に直ちに取り組む。
・教育基本法案の早期成立を期す。
・公教育を再生し、基礎学力強化プログラムを推進するとともに、教員免許の更新制や学校の外部評価の導入を図る。
5.主張する外交への転換
・「世界とアジアのための日米同盟」をより明確にし、アジアの強固な連帯のために積極的に貢献する「主張する外交」へと転換を図る。
・官邸における司令塔機能を再編、強化するとともに、情報収集機能の向上を図る。
・官邸とホワイトハウスが常に意思疎通できる枠組みを整える。在日米軍再編については、抑止力を維持しつつ、地元の負担軽減や地域振興に全力で取り組む。
・中国や韓国、ロシアは大事な隣国として、未来志向でお互いに率直に話し合えるよう努力する。
・拉致問題対策本部を設け、専任の事務局を置き、拉致問題に関する総合的な対策を推進する。
・国際社会と協力し、イラク復興支援、テロの防止・根絶に取り組む。
・経済連携をスピーディに推進するとともに、WTOドーハ・ラウンド交渉の早期再開に努める。
・政府開発援助を戦略的に展開するとともに、安定的なエネルギー資源の確保に努める。
・常任理事国入りを目指し、国連改革に取り組む。 
記者会見 / 平成18年9月26日
第90代内閣総理大臣を拝命いたしました、安倍晋三です。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、自由民主党・公明党連立政権の下、戦後生まれ初の総理大臣として、しっかりと正しい方向にリーダーシップを発揮してまいります。日本を活力とチャンスと優しさに満ちあふれた国にしてまいります。本日より、新しい国づくりに向けてしっかりとスタートしてまいります。
私は、特定の団体、特定の既得権を持った人たち、あるいはまた特定の考え方を持つ人たちのための政治を行うつもりはありません。毎日、額に汗して働き、家族を愛し、地域をよくしたいと願っている。そして日本の未来を信じたいと考えている普通の人たち、すべての国民の皆様のための政治をしっかりと行ってまいります。そのために、本日、「美しい国創り内閣」を組織いたしました。
まず初めに、はっきりと申し上げておきたいことは、5年間小泉総理が進めてまいりました構造改革を私もしっかりと引き継ぎ、この構造改革を行ってまいります。構造改革はしばらく休んだ方がいい、あるいは大きく修正をした方がいいという声もあります。私は、この構造改革をむしろ加速させ、そして補強していきたいと考えております。
頑張った人、汗を流した人、一生懸命切磋琢磨し知恵を出した人が報われる社会をつくっていきたいと考えております。公正でフェアな競争の中で生れてくる活力が日本の経済と国の力を押し上げていきます。しかし、人間ですから失敗をすることもあります。一回失敗したことが人生を決めてはならないと思います。負け組、勝ち組として固定化されてはならない。何度でも人生のいろんな節目にチャンスのある社会をつくっていかなければいけません。
単線的な人生から、多様な機会のある、そしてまた多様な価値を求めることができる複線的な人生が可能な社会に変えていきたいと思います。そのために、再チャレンジ推進施策をしっかりと実行してまいります。
また、地域によってはなかなか未来を見つめることができない、頑張っているけれども大変だ、そういう方々や地域があることを私は知っております。地域の活力なくして国の活力なし、この考え方の下に魅力ある地方づくり、魅力ある地域づくりをしっかりと推進してまいります。頑張る地域をしっかりと支援していきたいと考えております。そのためにも、しっかりと地方分権を推進してまいります。また、道州制についても視野に入れながら議論を進めていく考えでございます。
財政をしっかりと再建していく、これも私の内閣の大きな使命であります。成長なくして財政再建なしとの考え方の下に成長戦略を実施し、そしてまた更に無駄遣いを省き、歳出の改革、削減を進めてまいります。2011年に国と地方を併せてプライマリーバランスを黒字化する、この目標に向けてしっかりと前進してまいります。
来年度の予算におきまして、新規国債発行額を今年度の発行額以下に下回るようにしてまいります。しっかりと無駄遣いを省いていく。また、その中で隗より始めよとの考え方の下、私の総理の給与を30%カットいたします。また、国務大臣の皆様の給与につきましても10%カットする。まず、私たちが範を示したいと考えています。
昨年から日本の人口が減少し始めたわけでありますが、減少局面においてもしっかりと成長していく国を目指していきたいと思います。そのためには、やるべきことは3つあります。
一つは人材の育成であります。もう一つはイノベーション、画期的な新しい技術の革新、新しい取組み、新しい考え方、このイノベーションに力を入れていく、またイノベーションに投資をしていくことで生産性を上げていくことができると思います。減少していく労働力を補って余りある生産性の向上を目指していきたいと思います。
また、オープン、社会や経済や国を開いていくことであります。そのことによって海外から多くの投資が行われます。また、有為な人材がどんどん日本にやってくる、このことは活力を生み出します。また、国同士がお互いを開いていく、FTA、EPAを進めていくことによって、アジアの成長を日本の成長に取り入れていくことも十分に可能性があると思います。しっかりと人材の育成、そしてイノベーション、オープン、やるべきことをきっちりやって成長していく経済を目指していきたいと思います。今日よりも明日がよくなる、今日よりも明日がより豊かになっていく、そういう国を目指していきたいと考えています。
また、私の内閣でしっかりと進めていく重要な政策の一つが教育の再生であります。すべての子どもたちに高い水準の学力と、そして規範を身に付ける機会を保障していかなければなりません。そのためには、だれもが通うことができる公立学校をしっかりと再生していきたいと思います。
まずは、この臨時国会において教育基本法の改正を成立させ、そして叡知を集め、内閣に教育再生会議を発足させたい。そしてしっかりと教育再生改革に取り組んでまいりたいと思います。
また、このたびの総裁選挙を通じまして、多くの国民の皆様から社会保障制度をよろしくお願いします、もっとわかりやすい制度にしてもらいたい、大丈夫なんでしょうか、こういう声をいただきました。私は国民の安心である社会保障制度をしっかりと守っていきたいと考えています。そのためにも、一体的な改革が必要でしょう。年金、介護、医療、あるいはいざというときのための生活保護といった社会福祉、一体的な改革を行ってまいります。また、やはり社会保障制度においては、公平な制度であることが大切であります。官民格差があると言われている共済年金と厚生年金の一元化を進めてまいります。
やはり信頼を得るためには、社会保険庁の解体的な手直しが必要であると考えております。また、わかりやすい制度にしていくためにも、例えば年金で今まで幾ら払ったのか、どれぐらいの期間払っていたのか、そして将来は一体幾らもらえるのか、こうした点をわかりやすく国民の皆様に説明をしていく必要があります。
こうしたことについて、国民の皆様に親切に通知をしていく仕組みを1日も早く構築をし実行してまいりたいと考えております。
外交について申し上げます。日米の同盟関係はまさに日本の外交、安全保障の基盤であります。この日米同盟をしっかりとお互いの信頼関係を高めていくことによって強化していきたいと思います。そのためにも、お互いが信頼感を増す、双務性を高めていく必要もあると思いますし、またお互いにいつでも話ができる体制も構築していきたいと考えております。
日本はアジアの国であります。しっかりとアジア外交を重視してまいります。近隣国である中国、韓国、またロシアなどの国々との関係を更に緊密化していくための努力を行っていきたいと思います。
中国、韓国につきましては、韓国はまさに日本と同じ価値観を持っております。自由、民主主義、基本的な人権、日韓がしっかりと信頼のきずなで結ばれて、互いに将来発展していくことができるように努力をしてまいりたいと思います。また、平和に発展をしていく中国は、日本にとっても大切な、そして重要な国であります。中国の発展は日本にとって大いにプラスであると考えております。日中関係をより発展していくために、私も努力をしていきたいと考えております。
アジアにおいて、日本と同じ価値観を持つ国々、自由、民主主義、基本的な人権、そして法律の支配、こうした価値観を共有する国々、インドやオーストラリアもそうでありますが、そういう国々との関係を更に強化してまいりたいと思います。
日本がしっかりと主張していく外交を展開していきたいと思います。それはやみくもに日本の国益を主張することではなくて、地域や世界のために日本は何をすべきか、世界は何を目指すべきかということを主張する外交を展開してまいりたいと考えております。
日本が国連の場において、しっかりと国連改革に力を発揮し、そしてまた安保理の理事国として、更に国連をすばらしい国連にしていくために、その責任を果たしたい。そのために国連の安保理常任理事国入りを目指していきたいと思います。
私は、日本が持っているすばらしさ、また日本の目指していく方向を世界に発信していくべきではないかと考えております。そのためにも、日本の外に発信する力、広報していく力を強化していきたいと思います。
日本が世界の国々から信頼され、そして尊敬され、子どもたちが日本に生まれたことを誇りに思える「美しい国、日本」を創ってまいりたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【質疑応答】
● 美しい国創り内閣ということで、政権構想も美しい国、日本をつくるということですが、国民の間にも具体的なイメージがわきにくいという指摘があります。今日総理になって、日本をどういう国にしたいのか、そのために何をして国民の生活がどうなるのかということを具体的にわかりやすく説明していただきたいと思います。
まず、美しい国について申し上げますと、これは立候補したときの記者会見でも申し上げたことでありますが、まず、その姿の一つは、美しい自然や日本の文化や歴史や、そして伝統を大切にする国であると思います。しっかりと環境を守っていく。そして、またそうした要素の中から培われた家族の価値観というものを再認識していく必要があると思います。また、自由な社会を基盤として、しっかりと自立した、凛とした国を目指していかなければならないと考えています。そのためにも教育の改革が必要でしょう。そして規範を守る経済でなければならないと思います。そして、今後力強く成長していく、エネルギーを持ち続ける国でなければならないと思います。冒頭申し上げましたように、今日よりも明日がよくなっていく。みんなが未来に希望を持てる国にしていきたい。しっかりと成長していく経済、強い経済をつくってまいりたい。そのために、イノベーション、オープン、人材の育成が大切であると思います。そして、世界の国々から尊敬され、愛される、リーダーシップを持つ国でなければならないと思います。世界に対して日本の、言わば国柄、カントリー・アイデンティティーをしっかりと発信をしていく国を目指していきたい。そして、多く国々が、また多くの人たちが日本を目指す。そういう方々に日本に来ていただける環境をつくっていくことも重視をしていきたいと思います。
● 人事についてお尋ねいたします。今回の一連の人事に当たって、どのような点に留意されたかお尋ねします。それと、美しい国創り内閣とおっしゃいましたが、自民党内においては、今回の人事について論功行賞という声も上がっております。総理は、総裁選出馬時点の会見において、党内の意見をよく聞き、最後は自分で決めるとおっしゃいましたが、実際に党内の意見を聞くという局面はあったでしょうか。また、あった場合はどのような形で反映されたのでしょうか。以上、お尋ねします。
まず第1点でありますが、やはり適材適所、その分野に精通した方、あるいは、例えばその分野をずっと客観的に見てきて優れた見識を持っている方を配置したと思います。自民党には雲霞のごとく有為な人材がいます。ですから、勿論それぞれのポストに就いて、自分だったら十分に務まるという方は恐らくおられるだろうと思います。そこがなかなか人事の難しいところでありますが、今の時点において私が考えた適材適所ということで配置をさせていただきました。そして、これは論功行賞人事では決してないと思います。政治は結果が大切です。しっかりと結果を出せる、そういう方々を私は選んだと思っております。党内からはいろんな声があります。だれを使ってくれということは、今の時代はもうないわけでございます。私は広く同僚また先輩の議員の皆様を見渡しながら、いろいろな方々からこういう仕事ができる人がいいというお話を伺いながら、その中で最後は自分一人で決定をいたしました。
● アジア外交についてお尋ねします。中国、韓国との関係ですが、年内にも首脳外交を再開するようなお考えはお持ちでしょうか。その場合、中国、韓国は靖国神社参拝問題、あるいは歴史認識問題等を、なお問題視しているようですけれども、どのように説得され、何を材料に外交を動かしていかれるお考えでしょうか。
小泉内閣時代に、私も官房長官を務めておりました。日本は常にドアを開いております。首脳会談、これは、日本側は決して拒否をしているわけではありません。やはり国同士、お互いに国が違えば利害が対立することもありますし、認識が違うこともありますが、やはりそういうときこそ首脳同士が会って、胸襟を開いて話をしていくことが大切ではないかと思います。そのために、私も努力をしていきたいと考えています。是非とも両国にも一歩前に出てきていただきたいと思います。
● 人権擁護法案と皇室典範の改正についてですが、これまで総理は、この2つの法案に対して慎重な姿勢を示しておられましたが、今後、政府としてどのように2つの法案を取り扱うお考えなのかお聞かせください。
まず、人権擁護法案でありますが、この法案については、党でもいろいろな御意見がございました。法務省において、しっかりと前回の法案の際にあった議論を吟味しながら慎重に議論を進めてまいりたいと思います。また、皇室典範の改正についてでありますが、安定的な皇位の継承は極めて重要な問題であると考えています。また、重要な問題であればあるからこそ、国民の中で納得されるものでなければならない。慎重にしっかりと議論を重ねていく必要があると考えています。
● 先ほど日米同盟の双務性向上を高めるとおっしゃっておりましたけれども、総裁選で集団的自衛権に関して研究が必要であるとおっしゃっておりました。そこで、首相としてのスケジュール感をお伺いしたいんですけれども、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使、それから御自身がおっしゃっている5年をめどとした自主憲法の制定と、その辺に向けてどのように推し進めるお考えなのかということと、そもそも集団的自衛権の行使を研究することが、どうして双務性を向上することにつながるんでしょうか。
まず双務性というのは、考えればすぐわかることだと思いますが、双務性というのはお互いがお互いを助け合っていく、お互いがお互いを必要なときに多用していくことが双務性を高めていくことにつながっていくと思います。それこそが、まさに同盟においては極めて重要ではないかと思います。その観点から、幾つかのケースについて具体的な事例を申し上げました。その中で研究していくべきことは研究していかなければならないのではないかと思います。研究すること自体がいけない、あるいは考えを呈させてはいけないということにはならないと思います。私は、総理大臣として日本の国民の命を守っていかなければならない、そして平和をしっかりと守っていかなければいけないという大きな使命があります。その中で研究すべきは研究し、解釈についてより日本が、地域が平和で安定していくために成すべきことは成していかなければならない。今までも既に政府内において研究をしてきたわけでありますが、更にしっかりと進め、それについて結論を出していきたいと考えております。憲法については、もう既に何回か総裁選挙で述べてきたとおりでありまして、しっかりと政治スケジュールに乗せていくべく、総裁としてリーダーシップを発揮したいと思います。ただ、今後は基本的には党が中心になって、他の党と協議を進めていくことになると思います。 
2007

 

年頭所感 / 平成19年1月1日
新年あけましておめでとうございます。
昨年9月、戦後生まれ初の内閣総理大臣として就任し、活力とチャンスと優しさに満ちあふれ、自律の精神を大事にする、世界に開かれた、「美しい国、日本」の実現のため、未来は開かれているとの信念の下、たじろぐことなく、改革の炎を燃やし続けてまいりました。
昨年10月、重要な隣国である中国及び韓国を訪問し、中国とは、友好関係から戦略的互恵関係へと高めていく点で、韓国とは、自由と民主主義などの価値を共有する関係の下にパートナーシップを強化していく点で一致しました。今後、両国との信頼関係、未来志向の関係を構築していきます。
北朝鮮の核・ミサイル問題に対しては、関係国と連携しつつ、北朝鮮に対し国連安全保障理事会において全会一致で採択された決議1718号の誠実な実施を強く求めるとともに、六者会合の枠組みを活用して平和的、外交的解決を図ります。また、拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はありえません。昨年9月に設置した拉致問題対策本部を中心に政府一体となって、対話と圧力の方針の下、引き続き、拉致被害者が全員生存しているとの前提に立って、すべての拉致被害者の生還を強く求めてまいります。
昨年11月には、APEC首脳会議において、イノベーションとオープンの考え方のもとに、世界に開かれ、力強く成長する日本を実現していくという考え方を説明しました。日本は、世界第2の経済規模を有する国、アジアで最も伝統ある民主政治の国としてこれらの地域の発展に引き続きリーダーシップを発揮していきます。
世界に誇れる自然、歴史、伝統をあらためて評価し、「美しい国、日本」の魅力を世界にアピールするとともに、新たな「創造と成長」を目指して、アジアと世界の人材や情報が日本に集まり、日本から世界に発信され、日本が世界、アジアにとって魅力的な場所となるよう「アジア・ゲートウェイ構想」を推進します。
本年1月には防衛省が発足します。国民の生命と財産を守り、国土を守るという崇高な使命を果たすため、職員のさらなる奮励努力を期待します。イラクの復興については、航空自衛隊の支援活動やNGOとも連携した政府開発援助により、引き続き支援していくとともに、国際社会と協力してテロや国際組織犯罪の防止・根絶に取り組みます。
私の内閣の大きなテーマである教育再生については、昨年の臨時国会において59年ぶりに教育基本法が改正されました。自律の精神や公共の精神、自分が生まれ育った地域への愛情など、戦後忘れられがちだった基本的な価値観が盛り込まれました。今後は、こうした理念を踏まえ、質の高い教育、家庭や地域の教育力の向上、教育委員会のあり方などについて、教育再生会議において抜本的な施策案を検討し、政府全体として取り組んでまいります。
平成19年度予算では、新規国債の発行額を過去最大規模で減額するなど、財政健全化に向けた内閣の厳正かつ強固な意志を明確にしました。一般会計のプライマリーバランスの赤字は、今年度11.2兆円でしたが、平成19年度予算では4.4兆円にまで減らすことができました。一方で、そうした厳しい財政規律の下でも、教育や少子化対策、中小企業対策や科学技術振興といった、未来への投資については増額し、メリハリのついた予算編成を行うことができました。
道路特定財源については、昭和29年に制度が創設されて以来の本格的な改革を行うことができました。特定の税収が自動的に道路整備に充てられる現在の仕組みを改め、まず真に必要な道路予算の額を決めた上で、それ以上の揮発油税などの税収はすべて一般財源とすることとします。
本年は、憲法が施行されてから60年になります。憲法は、国の理想、かたちを物語るものです。新しい時代にふさわしい憲法を、今こそ私たちの手で書き上げていくべきです。まずは、その前提となる、日本国憲法の改正手続に関する法律案について、本年の通常国会での成立を期します。そして、それを契機として、憲法改正について、国民的な議論が高まることを期待しております。
私たちの国、日本は、世界に誇りうる美しい自然に恵まれた長い歴史、文化、伝統を持つ国です。戦前、戦中生まれの鍛えられた世代、国民や国家のために貢献したいとの熱意あふれる若い人たちとともに、日本を、世界の人々が憧れと尊敬を抱き、子どもたちの世代が自信と誇りを持てる「美しい国、日本」とするため、私は、先頭に立って、国民の参加と協力を得ながら、全身全霊を傾けて挑戦していく覚悟であります。
国民の皆様の一層のご理解とご支援をお願い申し上げるとともに、本年が皆様一人一人にとって実り多い素晴らしい一年となりますよう心からお祈り申し上げます。 
年頭記者会見 / 平成19年1月4日
皆さん、新年明けましておめでとうございます。今年の元旦は富士山の美しい姿を拝むことができました。国民の皆様とともに、新しい年の門出を喜びたいと思います。
昨年9月に私の内閣が発足して、約100日が経過をいたしました。この100日間で美しい国づくりに向けて、礎を築くことができたと思います。
昨年の臨時国会において改正教育基本法、防衛庁の省昇格、そして地方分権改革推進法を成立させることができました。
また、財政再建を進めていくという意思を示す予算編成を組むことができたと思っています。今年は、この礎の上に大きく前進する年にしていきたいと考えています。
今年は、イノシシ年であります。美しい国に向かってたじろがずに、一直線に進んでまいる覚悟でございます。
教育の再生、教育改革、そして公教育の再生は私の内閣の最重要課題であります。改正教育基本法が成立いたしました。この上に立って、教育再生会議におきまして、更に議論を深め、具体案をとりまとめてまいります。そして、必要な法改正をこの通常国会で行う考えでございます。
だれもが高い水準の学力と、そして規範意識を身に付ける機会を保障していく、この責任を果たしてまいります。
社会保障制度について申し上げます。国民から信頼される社会保障制度を構築してまいります。社会保険庁は、残念ながら国民の信頼を失っています。お約束どおり、社会保険庁を廃止、解体、6分割をし、徹底した効率化、合理化を図り、国民の皆様から信頼される組織に変えてまいります。それに必要な法案を、この国会に提出をし、成立を期していきたいと、このように考えております。
少子化対策について申し上げます。
子どもは国の宝であります。日本の未来、世界の未来を背負う子どもたちが元気に伸び伸びとすくすく育っていく日本でなければなりません。結婚することに、また、子どもを産み育てることに、不安やちゅうちょを感じている人たちがいます。安心して結婚できる、そして子どもを産み育てることができる環境に、また、日本社会にしていかなければならないと思っております。
また、家族のすばらしさ、価値を再認識する必要もあるでしょう。少子化に対して、このように総合的な政策でその少子化を食い止めていかなければならないと考えています。少子化に対抗するために本格的な戦略を打ち立ててまいります。
経済について申し上げます。
今日よりも明日はよりよい一日になっていく、今年よりも来年はより豊かな年になって、未来に夢や希望を持てる日本にしていくために、また、大切な社会保障制度を持続可能なものにするために、基盤を強化をしていくためにも、経済の成長は不可欠であります。成長戦略を着実に進め、今年、景気回復を家計にも広げていく年にしていかなければならないと考えています。
国民の皆様が景気回復を、そして構造改革の成果を実感できる年にしてまいる所存でございます。
働くことに誇りや生きがいや、希望や、喜びを持てる社会を、国民の皆様方とともに目指してまいりたいと考えております。
国民の生命と財産を守ることは、我が国の安全保障政策の基本であります。この基本の上に立って、国際的な視野に、視点に立って、そして戦略的な観点から主張する外交を本年は本格的に展開してまいる考えであります。
来週から欧州、そしてEU、NATO本部を訪問いたします。平和への貢献、貧困対策、あるいはまた地域紛争対策、環境問題といった国際的な課題において、日本が貢献を果たしていくためには、欧州のように日本と自由、民主主義、基本的人権といった普遍的な価値を共有する国々と連携を強化していくことは極めて有意義であります。
こうした連携を深めることによって、例えば北朝鮮との拉致問題、核問題、ミサイル問題、国際的にこの問題を解決していく上においても有意義であります。また、こうした連携を深め、日本が信頼を得ることによって将来の日本の国連安保理常任理事国入りにもつながっていくと思います。
日本をめぐる安全保障の環境は大きく変化をいたしました。大量破壊兵器やミサイルの拡散、テロとの闘い、地域紛争の続発、こうした中において日本の平和と独立と自由と民主主義を守り、そして日本人の命を守るために日米同盟をより一層強化していく必要があります。また更に、国際社会において平和に貢献をしていくために、時代に合った安全保障のための法的基盤を再構築する必要があると考えております。集団的自衛権の問題も含め、憲法との関係の整理について個別具体的な類型に即して研究を進めてまいります。
今年を、私は美しい国づくり元年としたいと思っています。日本が持っている良さ、すばらしさ、美しさを再認識する年にしていきたいと思います。
今年、参議院選挙が予定されていますが、正攻法で着実に実績を残していくことに全力を尽くしていく決意でございます。どうぞよろしくお願いいたします。私からは以上でございます。
【質疑応答】
● 今、冒頭で総理おっしゃいました、夏の参議院選挙についてですけれども、自民党執行部は公明党と合わせた与党の過半数以上を勝敗ラインとしておりますが、仮にこの過半数を割り込んだ場合に、総理は総理総裁として政治責任を取るお考えはあるのかどうかというのが一点と、あと、これに関連しまして、自民党の中では総理が衆参同日選挙も考慮されているんではないかという見方がありますけれども、ダブル選というのは全くないのか、あるいは可能性として排除はしないのか。以上、2点について伺います。
選挙については、自民党の総裁として、また内閣を率いる責任者として、常に勝利を得る、勝ち取っていくという気概で臨んでいかなければならないと考えています。最高の責任者としては、常に毎日そうした責任を感じて仕事をいたしております。同日選挙については、現在のところ全く考えておりません。いずれにせよ、美しい国づくりに向けて結果を出していくことに全力を尽くしていきたいと思います。常に勝利を得るために全力を尽くす、この決意で臨んでまいりたいと思います。
● 先ほど総理は、冒頭発言で美しい国づくりの礎を築くことができたと、昨年を総括されましたが、昨年の年末にかけて、郵政造反組復党問題や、本間税調会長、佐田行革相の辞任など相次いで、内閣の支持率も下落傾向が続いたと思います。総理や官房長官は、今は仕込みの時期だと、結果を出して国民の期待に応えたいというふうに常々おっしゃっていますけれども、新年に当たりまして、安倍内閣が具体的にどの分野で、どんな形で国民に政策を見せていかれるのかということを示していただきたいと思います。よろしくお願いします。
大切なことは、美しい国づくりに向けて、どういう政策を行っていくのか、どういう国を目指していくのかということを国民の皆様にお示しをし、そして実績を上げていくこと、実行していくことだと考えています。まずは教育の再生であります。改正教育基本法が成立をいたしました。その上に立って、もう既に議論が始まっています。教育再生会議において、具体的な案を、私も責任を持ってとりまとめてまいります。当然その中においては、必要な法改正、そうした法改正については、この国会において何とか法案を提出していきたいと思っております。また、勿論、いじめ等のすぐ対応しなければならない問題があります。そうした問題においては、内閣を挙げて、政府を挙げて既に取り組んでおりますが、更に取組みを進めてまいりたいと考えております。また、やはり社会保障制度に国民の皆様は多く不安を感じておられるのだと思います。持続可能なものにしていくためにも、国民の皆様の信頼が不可欠であります。負担があって初めて給付ができるわけでございます。皆様が安心して、この額であれば、また、将来こういう給付があれば負担をしていこう、そう思っていただいている限り、公的な年金制度は絶対に将来も安定的なものとして、私たちは信頼できることになります。そのためにも、信頼を失っている社会保険庁を、こういう組織であれば信頼できるという組織に変えていきます。そのために必要な法律をこの国会に提出して成立を期していく考えでございます。また、経済においては、やはり国民の皆様が本当に改革の成果が上がって、日本の経済は回復をしているなと実感してもらえるような年にしていくための政策を行ってまいりたいと思います。すべての働く人が生きがいを持って将来に夢を持てるように、そのために日本をチャンスが豊富な社会にしていく、再チャレンジ総合プランを進めていくことによって、そういう社会にしてまいりたい。活力ある経済、成長する経済、そしてそれを国民みんなが実感できるものにしていく考えであります。
● 景気回復を実感できるという部分は、再チャレンジ総合支援以外にも、具体的に成長戦略みたいなものはお考えでしょうか。
成長戦略においては、まずはオープンとイノベーションの姿勢において、更に生産性を高めていくということを申し上げました。その中において、人口が減少していくという局面においても日本は成長していくことができます。このオープンとイノベーションの考え方の下に、更に社会経済を開いていき、そしてまた、イノベーションに投資をすることによって生産性を高め、日本の競争力を高め、強い経済、成長する経済を目指してまいりたいと思います。そして、それは同時に、そうした経済の力強さを国民の皆様が実感できる、それは自分たちの生活にプラスになっている、実感できるような政策を打ち出してまいりたいと考えております。
● 北朝鮮の核や拉致の問題への取組みも政権の重要課題だと思いますが、さきの6か国協議も成果なく終わりました。対話と圧力ということですが、どう事態を打開し成果を上げていくのか。そこはどう考えているんでしょうか。
残念ながら、昨年の6者協議は成果を生まずに中断してしまいました。何とか今年、早い時期に再開されることを望みたいと思いますし、そのための努力をしてまいります。何よりも北朝鮮は、この6者協議において、彼らが国際社会の懸念に応えなければいけないということを、よく理解しなければならないと思います。そのための圧力も必要であります。国連決議を国際社会が履行していくことが大切であります。そのために私も世界各国に対してその履行を訴えておりますし、またその効果も出てきていると感じています。また、拉致の問題においてもそうであります。日本が現在かけている制裁は、ミサイル発射、核問題だけではありません。拉致の問題について誠意ある対応を北朝鮮が取らなかったことも、我々が制裁をかけている理由の1つであります。拉致の問題についても、すべての拉致被害者の生還を目指してまいる考えに変わりはないわけでありますし、拉致問題の解決なくして日朝の正常化はないという基本的な考え方に全く変わりはないわけでございます。この問題については、ねばり強く、かけるべき圧力をかけながら、しかし、機会を得て対話によって解決していかなければならない。国際社会における。例えば拉致問題についての理解は、相当深まったと考えています。来日するすべての指導者に拉致の問題について私は説明しています。先般の北朝鮮における人権状況決議においても、賛成する国は増えているわけでありまして、こうした国際圧力を高めていくことが、この問題の解決にも資すると思っています。そうした中で、何とかこの問題の解決を目指していかなければならない。しかし、今から3年前、4年前に比べれば、国際社会の理解ははるかに進んでいるわけでありますし、国際社会の圧力ははるかに高まっている。北朝鮮はこの問題を解決しなければ、まじめに取り組まなければ、彼らが今、直面しているさまざまな問題。経済の問題、食糧の問題、飢餓の問題を解決することができないということを認識しなければならないと思います。
● 先ほど総理は憲法の絡みを触れられましたが、この憲法改正の手続を定めた、国民投票法なんですけれども、この通常国会でどのように臨まれるのか。併せて、この夏の参議院選挙で自民党として憲法改正を争点として掲げられるおつもりはあるのか、併せてお伺いいたします。
今年は、憲法が施行されてから60年であります。新しい時代にふさわしい憲法をつくっていくという意思を、今こそ明確にしていかなければならないと思います。自由民主党の草案は既にできているわけでありまして、与党・各党との協議を進めていってもらいたいと考えております。まずは手続法案であります。日本国憲法の改正手続に関する法律案について、与党内、また与野党で議論を深め、今年の通常国会に提出できることを期待したい。与野党でそのために議論が深まっていくことを期待したいと思います。また、先ほど申し上げましたように、今年は憲法が施行されて60年であります。憲法を、是非私の内閣として改正を目指していきたいということは、当然参議院の選挙においても訴えてまいりたいと考えております。
● 冒頭発言の中で、持続可能な社会保障制度の確立ということを首相は強調されました。その手段として、社会保険庁の解体等の今国会の法案提出等を挙げられたんですけれども、やはり持続可能な社会保障制度となりますと、財源の問題を国民は心配するところがあると思うんです。消費税率を引き上げて財源に充ててはどうかという議論がずっとあります。これを秋以降、税制改正の中で議論するとおっしゃっていますけれども、その秋以降で果たして間に合うのかどうか。もっと参議院選の前からその議論を始めて、参議院選でそのことを国民の皆さんに問うおつもりはあるのかどうか。そのことについてお伺いしたい。
基礎年金の国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げていきます。そのためのタイムリミットは近づいてきています。私はこの財源をどうするか。そして、あるべき税の姿、将来のための少子化対策費をどうするか。また、国と地方、中央の税財源の拡充、充実等も踏まえ、税の抜本的な改正について今年の秋、議論をしなければならないということを申し上げております。今年の7月ぐらいに、大体、決算の方もわかってまいりますし、医療制度改革の効果も明らかになっていく。そういう中において精緻な議論をしていく必要があるということで、秋に議論をしていくということを既に申し上げております。そのスケジュールについては、勿論、参議院選挙においてもよく御説明をしていかなければいけないし、そして、その際に、社会保障制度について財源を強化していく上においては、税という方式もあるし、保険料という方式もあるでしょうし、給付を調整するという方式もあるわけでありますが、また、そのミックス等々も考えられるわけでありますが、その中で、我々はどういうことを考えているかということについても当然よく御説明をしていきたいと思います。いずれにせよ、財源の問題、更に基本としては公的社会保障制度に対する信頼が最も大切であろう。このように私は考えています。そのためには、やはり信頼を失った社会保険庁は皆様から信頼される、そういう組織に変えていくことがまず大切だろうと思います。そうしたことを、我々はやるべきことをやっていく、難しいことであっても断行していくということを国民の皆様にお示しをして、もって、社会保障制度に対する信頼をかち得ていきたいと考えています。
● 松岡農水大臣の秘書が福岡県警の家宅捜索を受けた会社の関連団体のNPO法人の申請をめぐりまして、内閣府に審査状況を照会して、よろしく頼むと伝えていた旨を記された内部文書が作成されたことがわかりました。松岡大臣側は、そうした事実はないという見解を文書で公表しておりますけれども、肝心の内閣府に照会してよろしく頼むと言ったかどうかの事実の有無については言及をしておりません。総理は、この問題についてどのように把握され、問題として認識されておりますか。また、この件について調査をされるお考えはありますでしょうか。
松岡大臣からは、内閣府に対して働きかけや要請を行った事実はないと報告を受けております。また、内閣府からも同様の報告を受けております。内閣府は、当該団体の申請について厳正に審査をして、認証は行わないことになった。このように聞いております。個別の事案の詳細については、是非、担当大臣に聞いていただきたいと思います。 
記者会見[第166回通常国会終了を受けて] / 平成19年7月5日
本日、通常国会は閉幕をいたしました。この通常国会において、年度内に平成19年度予算を成立させることができました。この予算においては、通常のばらまき予算を一切排除いたしました。そして、4兆5,000億円という過去最大幅の国債発行減額を行うことができました。
そして、この国会におきましては、未来を切り開いていくための重要な法案を成立させることができました。教育再生のための法律。
いじめがあります。このいじめにおいて、子どもたちが自ら命を絶ちました。大変悲しい、心の痛む事件がありました。このいじめの問題の最も深刻な点は、いじめがあったことをクラスが、学校が、そして、教育委員会が見てみぬふりをしてきたことであります。こうした問題を根本的に解決していくためには、教育の原点にさかのぼって改革をしていかなければなりません。
そのため、私は昨年の臨時国会において60年ぶりに教育基本法を改正し、道徳の精神、公共の精神、自立の精神、命の大切さ、家族の価値、生まれ育った地域や国に対する愛着・愛情について書き込みました。その上に立って関連の3法案を提出し、成立させました。教員の免許更新制度、そして、教育委員会にしっかりと、その目的と義務について記することができたわけであります。
教育再生については、更に道徳の教科化や、あるいは授業を充実していく。そして、大学・大学院の改革を進め、国際競争力を向上させていかなければいけない。こう考えています。
子どもたちに、やってはいけないこと、そして、進んでやるべきことをしっかりと教えていかなければいけないと考えています。すべての子どもたちに高い水準の学力と規範意識を身につける機会を保証していくこと。これが私の教育再生であります。そして、私の教育再生は、子どもたちをだれも後ろには置いていかない。そういう改革でございます。
また、地域の活力なくして国の活力なし。これが私の内閣の基本的な方針であります。地域の活性化のための法律、9本の法律を成立させることができました。地域主役の地域再生、まちづくりに向けて、今後とも全力を傾けてまいります。
この通常国会、12日間延長をいたしました。会期を延長して、社会保険庁改革法、年金時効撤廃法、そして、公務員制度改革法を成立させました。信頼できる年金制度構築をしていかなければなりません。そのためにも、年金の記録問題を解決しなければならない。
こうした問題が起こっていることについて、国民の皆様は強い怒りを感じておられることと思います。私も、社会保険庁は一体何をやっているんだ。そういう気持ちでありますが、現在の行政府の長として皆様におわびを申し上げたいと思います。
この問題は、基礎年金番号に統合した10年前から社会保険庁において先送りされてきた問題でありますが、私の内閣においてすべて解決をしていかなければなりません。そのためには、私には2つ使命がございます。まず、第1の使命は、最後のお一人に至るまですべて記録をチェックし、保険料を真面目に払っていただいた方々に正しく年金をお支払いしていくことでございます。そのために、政府は、1年以内に名寄せを行い、突き合わせを行う。所属先がわからない5,000万件の年金の記録と突き合わせを行う。そう申し上げたわけであります。しかし、私が1年以内と申し上げたときに、そんな1年以内にできるわけないだろう、こんな批判が野党からもありました。私は更に専門家にこの突き合わせが前倒しできないか精査させました。そして、結果、前倒しでそれが可能なことが明らかになったわけでございます。
また、国民の皆様に追加的な記録があれば、わかりやすくお知らせをしてまいります。
また、すべての方々、年金を受給されておられる方々あるいは被保険者の方々、言わば1億人の方々に対して、年金特別便として年金の加入履歴について、お知らせをしてまいります。
それぞれ、ある程度の時間をお借りをするわけでございますが、どうか御安心をいただきたいと思います。延長したことによりまして、年金の時効撤廃法案が成立をいたしました。
年金の時効によって、国が間違っていても、5年前までしかさかのぼって給付されなかったわけでありますが、この法案が成立したことによって、すべてさかのぼって給付が可能になったわけでございます。
すべての方々、真面目にこつこつ払ってきていただいた方々に対して、年金をお支払いをしていくことを保障する。このことを重ねて申し上げる次第でございます。
また、年金を払ってきたのに、自分の記録がしっかりと社会保険庁のシステムの中に入っていない、かといって、領収書を出すと言われても、20年、30年前のものはない、そういう方々がいらっしゃいます。その方々のための第三者委員会を立ち上げました。国民の皆様の立場に立って、一緒にその記録を調査します。そして、話のつじつまが合っていればお支払いをしていく。国民の立場に立って、親切に、そして一緒に考えていくという第三者委員会をつくりました。そこで、近日中に代表的な例示として、こういう例であれば大丈夫ですということを発表できる。また、具体的な例についてこの件は大丈夫ですということを発表できると思います。
このように私ども、年金の記録の問題、やるべきことはすべてやっていく考えでございます。
また、第2番目の私の使命としては、こうした問題が起こったことについて、その原因と責任を明らかにしてまいります。検証委員会をつくりました。元検事総長の方に委員長に就任をしていただき、責任の所在を明らかにし、そして、けじめを付けてまいりますことをお約束申し上げる次第でございます。
こうした年金の記録の問題、番号が幾つもあったということにも原因があったわけでありますが、よくこういう声を聞くわけであります。自分は健康保険証もあるし、また介護保険証もあって、いろいろあって面倒くさいという方々がおられます。
そこで、社会保障カードをつくり、そうしたものを統合し、簡単で便利な仕組み、確かな仕組みをつくっていくことをお約束を申し上げる次第でございます。
今回の問題、社会保険庁の体質に大きな原因があったことは明らかであります。親方日の丸体質、そしてなるべく仕事をしないという悪しき労働慣行、不親切な窓口での対応、労使の癒着、こうした体質こそ、戦後60年の間に培われてきた戦後の仕組み、体質、体制といってもいいでしょう。こうしたものを一掃していくことこそが、私が申し上げている戦後レジームからの脱却でございます。私は、その責任をしっかりと果たしてまいります。
この年金の記録の問題、社会保険庁を改革しなければ、まさに根本が解決されたとは言えないわけであります。
新しく生まれる日本年金機構には、やる気のある人しか残らないわけであります。社会保険庁を見ておりますと、かつての旧国鉄の体質が思い出されるわけであります。悪しき労働慣行、労使の癒着、不親切な現場での対応、国鉄を民営化させ、民間の知恵と、そして活力を入れることによって、サービスは一変したわけでございます。
社会保険庁を日本年金機構にしていくことは、まさにやる気のある人だけに残ってもらって、そして民間の活力を導入していくということでございます。
この社会保険庁を見ておりますと、年金の加入率が上がらなかったのも無理はないと思います。
国鉄がJRになってサービスが一変したように、日本年金機構になって民間の活力と知恵を導入していけば、間違いなく年金の加入率は上がっていきます。そして、年金財政も改善、安定化していくことになります。そうなれば、それは年金の給付にもつながっていくことでございます。
年金財政を安定化させるためには、同時に少子化対策、そして、経済の成長も不可欠であります。景気が回復したこの数年間、平成15年、16年、17年、この3年間だけで年金の財政は当初の予測よりも12兆円改善をいたしました。私の内閣が成立をして、この9か月間の間だけでも、年金財政はまさに運用によって4兆円プラスになっているわけであります。そのためにも、人口減少局面においても成長していく。オープンな姿勢とイノベーションで成長していくという新経済成長戦略を進めていかなければならないと考えているわけでございます。
外交におきましては、主張する外交を展開してまいりました。主張する外交とは、ただやみくもに自国の国益を声高に主張する外交ではございません。世界のために日本は何をすべきか。何をすべきなんだというビジョンを、理想を堂々と述べること。これが主張する外交であります。
先般、ハイリゲンダムサミットにおきまして、地球温暖化の問題について、日本の提案である「美しい星50」を提示をいたしました。2050年までに50%排出量を削減をしていく。そのためには、米国、中国、インドといった主要排出国が参加する仕組みをつくって、経済成長と環境保全を両立をさせていく。この骨組みについて説明をいたしました。
結果として、G8の宣言の中に日本の提案がきっちりと書き込まれ、日本の提案を真剣に検討するという一文が入ったわけであります。来年、日本における北海道洞爺湖サミットを控えています。その中において、地球温暖化対策という世界が取り組むべき問題において、日本がリーダーシップを発揮をしていくことこそが、私が申し上げている主張する外交でございます。
今後とも、さまざまな困難な課題が控えているわけでありますが、美しい国づくりに向けて、どんな困難な課題であろうとも勇気を持って全力で取り組んでまいります。
私からは、以上でございます。
【質疑応答】
● いよいよ参院選が1週間後に公示が迫ったわけですが、現在のところ、年金問題や久間さんの辞任その他で、内閣支持率も非常に低く、厳しい情勢が続いています。総理はこれから開票日までに、どのようにしてこの情勢を引っくり返して、国民に何を訴えて、どう理解を得ようと思っていらっしゃいますか。また、今回の参院選の位置づけを中間選挙的なものと見るか、あるいは安倍首相なのか、小沢代表なのかを問う政権選択的選挙だと思っていらっしゃるのか。御認識を伺いたいと思います。
私は現在の情勢、選挙を控えて、大変厳しい情勢であると認識をいたしています。しかし、選挙戦を通じて、私どもの実績、目指すべき日本の形。それに向かって、私たちが何をしようとしているかということについて、しっかりとわかりやすく訴えていくことができれば、必ず勝利を得ることができる。そう確信をいたしています。私は昨年、総理に就任した際、美しい国づくりに向けて、新しい国づくりをスタートして、戦後レジームから脱却をしていくと宣言をいたしました。昨年の臨時国会において、60年ぶりに教育基本法を改正し、教育新時代を開くために一歩大きく踏み出すことができたと思います。そして、また防衛庁を省に昇格させることができました。これはまさに日本の民主主義の成熟、シビリアンコントロールについて自信を持ったことを表した。そして、世界に貢献をしていくという意思の表示になったと思います。また、地方分権改革推進法を成立させました。私の内閣は地方分権を進めていくという意思を表示し、そのプログラムについてお示しをすることができたと考えています。かつてのような、中央がすべて主導する地域づくり、地域活性化ではなくて、地域の知恵や活力を生かしていく地域主役の地域活性化まちづくりに変えてまいります。この国会において、関連の9本の法律を成立させることができたと思っています。教育再生関連の三法案も成立をいたしました。また、憲法改正のための手続法である国民投票法案もまさに憲法ができて60年ぶりに成立をしたわけでございます。こうした、新しい国づくりに向けての礎については、着実に土台ができてきている。そして、国づくりは前進していると確信しています。また、私は改革を進め、経済を成長させていく。新経済成長戦略によって経済を成長させていく。国民の皆様に経済成長を実感していただく。景気を地方に、家計に拡大をしていく。こうお約束をいたしました。私が総理に就任して、9月から7月の間に60万人雇用を増やすことができました。失業率は、9年ぶりに4%を割って3.8%になりました。再チャレンジ支援策、237の施策を実行し、1,720億円予算をつけ、例えばフリーターの皆さんが定職に就く目標を25万人に設定をしていたわけでありますが、それを10万人上回り35万人のフリーターの方々が定職に就いたわけであります。まさに、だれでも、何回でもチャンスのある、そういう社会に向かって、今、進んでいます。景気の回復を、果実を拡大しつつある。これをけっして、私は逆行させてはならないと決意をしています。こうした決意を私はこの選挙戦を通じて、そして、実績を訴えていきたいと思っています。
自由民主党が、そして、与党が、安倍政権が言うことが正しいのか。それとも野党が言っていることが本当に正しいのか。そのことを問うていきたいと思います。
● 今国会の閉会間際に、久間防衛相が原爆発言問題で辞任されました。5月には政治と金の問題を指摘されていた、松岡農水大臣が不幸な形で亡くなられました。総理は、女性は産む機械と発言された柳沢厚労大臣も含めて、問題が指摘された閣僚に対して、一貫して辞任の必要はないとおっしゃってきましたが、結果的に昨年末の佐田大臣も含めると、9か月で3人の閣僚が交代しています。こうしたことについて、総理の任命責任あるいは閣内の掌握や閣僚に対するリーダーシップは十分だったとお考えでしょうか。これに関連して、閣僚が3人交代するというのは余り好ましい事態ではないと思いますが、参院選後に内閣改造や自民党役員人事を行って、人心一新を図るお考えはありますでしょうか。2点お願いします。
3人の閣僚の方々が交代をした。大変残念なことでありました。そして、任命責任は勿論私にあります。しかし、それと同時に、私には改革を進めていく、そして、新しい国づくりを進めていくという重要な使命があります。この使命を私は何が何でも果たしていかなければいけないと決意を新たにいたしておるところであります。その結果、新たに任命をした渡辺行革担当大臣も公務員制度改革法をとりまとめ、成立をさせました。これは本当に強い抵抗がございました。今までの官の在り方を根本的に変える法案であります。ですから、ほとんどの省庁から反対があったといってもいいでしょう。この問題について、例えば天下りについて、国民から見たら押し付け的な天下りは、押し付け的な天下りなんだ。これは当たり前のことであろうと思いますが、残念ながら、これは事務次官会議では通らなかった。今まで事務次官会議が通らなければ、閣議決定できなかった。私は事務次官会議で通らなかった考えを閣議決定いたしました。そして、この法律を提出し、成立をさせることができたわけでありました。渡辺大臣は、私が期待した突破力を果たしていただいていると思います。また、農業においては、攻めの農政によって、やる気のある農家、担い手の皆さんが更にその意欲と知恵を生かして、未来を切り開いていけるように国がそういう体制をつくっていく。そして、2013年までに1兆円の輸出を目指していく。こういう目標を立てました。今月、中国に向けて初めての米の輸出ができた。例えば10年前は米の輸出ができるということを考えていたでしょうか。しかも、皆さん1俵9万円。やはり日本の米は本当においしい。まさに農業に対する考え方を大きく展開することができたと思います。今後とも松岡大臣を引き継いだ赤城大臣には攻めの農政、農業の未来を、そして、農林水産業の未来を切り開いていってもらいたいと思います。また、小池大臣は私の安全保障担当の補佐官でありました。海外にも何度も出張し、海外の国務大臣、外務大臣あるいは防衛担当の大臣、安全保障補佐官とも面識があります。こうした人脈も生かしながら、国民の生命と財産を守る大切な使命を果たしていってもらいたいと思います。選挙後の人事については、現在ではまだ全く白紙の状況であります。まずはこの参議院選挙に勝利を得るべく、全力を尽くしていきます。
● 総理、今まで数々の成果を強調されましたけれども、やはり有権者から見ていましても、政治と金の問題はまだ議論が不十分だという指摘も多うございます。外交面でも拉致問題、総理が力を入れていらっしゃいますけれども、目に見える成果が見えていない。成果は十分わかりましたので、反省点がありましたら、この国会を通じての反省点をお伺いしたいと思います。
私の信条は、常に日々反省であります。常に私も反省しながら、今日よりも明日をよりよい1日にしていきたい。そういう思いで政治に取り組んでいきたい、責任を果たしていかなければならないと考えています。政治資金の問題、松岡さん一人の問題に帰することなく、政治資金制度全体の問題として法律を提出し、成立させることができたわけであります。当初は、与党の中でもいろんな議論があったわけでございますが、5万円の領収書の添付を義務づけることになりました。透明性は、私は格段に向上したと確信しております。そして、拉致問題、私はこの問題にずっと取り組んできました。恐らく、今、質問された方が、この問題を認識される前から私は、この問題について認識をし、だれも取り組んでいないときから取り組んでまいりました。そして、私は70回首脳会談を行いましたが、その70回においてすべてこの問題を説明をし、日本の立場に対し、きちんと理解を要請し、すべての国々から理解と支持を得ることができた。これは国際社会において、この問題への理解、大変深くなったと、こう言ってもいいんだろうと思うわけでございます。この問題の解決のためには、国際社会の連携が必要であります。幾ら私どもだけで頑張ってみてもなかなか難しい問題でもあるからこそ、このような連携を取ってきた。例えば、5年前にこんな連携があったでしょうか。そんな連携はない。しかし、この9か月間で、更に大きく連携が進んできたことは事実であります。この問題について、大変困難な問題ではありますが、横田めぐみさんを始め、すべての拉致被害者が帰国を果たすため、私は鉄の意思を持ってこの問題に取り組んでいかなければいけない。こういう決意を新たにいたした次第であります。しかし、めぐみさん、拉致をされて30年経つけれども、日本の土を踏むことができない。御両親がめぐみさんを抱き締めることができない。私も本当にじくじたる思いがあります。政治はまさに自ら歩んできた道を振り返り、反省すべき点は反省しながら、明日に向かって更に努力を重ねていくことこそが、私は重要ではないかと思います。
● 今日は、民主党の小沢代表が報道各社のインタビューで、参議院選で野党で過半数を取れなかった場合は、代表を辞任する考えを表明されました。総理は常々、全選挙区で勝利を目指すとおっしゃっていますが、参院選の公示まで1週間となった現在で、自らの責任ライン、勝敗ラインというものを明確にお示しになった上で、退路を絶って戦うというお考えはないのでしょうか。
私が、この参議院選挙で訴えるべきこと、本来、政党が訴えるべきことは、何をやるかということなんです。そして、何をやってきたかということこそが問われなければならない。だから、私はこう申し上げているんです。責任政党とは何か、政権政党とは何か、それは、できることしか言ってはならない。言ったことは必ず実行する。私もお約束をしている政策については、必ず実行してまいりますし、今までも実行してまいりました。そのことが問われるべきなんだろうと思います。
戦いの前に負けることを前提に、私はお話をする気はありません。勝利をして、更に私はお約束をしたことを実行してまいります。政治家が問われることは、まさにこういう政策を進めていくということをお約束をして、その約束どおり進めていくかどうかであります。そして、その政策の信頼性であります。いいかげんな政策なのか、裏づけがあるのか、財源があるのか、そのことを真剣に問うていただきたいと思います。
● 総理が参院選で政策を問いたいというのは、よくわかるんですが、一方で7月1日の21世紀臨調の小沢さんとの討論で、総理は、私と小沢さんとどっちが首相に相応しいかを国民の考えを伺うことにもなると発言されているということは、やはり総理は、政権選択選挙という位置づけもされているのかなと受け取ったんですが、改めてその点をお伺いします。
当然、党首のリーダーシップ、そしてまた信頼性について、それは当然のことであろうと思います。そして、政策を問うということは、その党首が主張している政策が、本当に言っているとおりなのか、その人は信頼できるのか。そういうことではないのかと思うわけであります。私と小沢さんの討論を聞いておられる国民の皆様に、安倍晋三が言っていることと、小沢一郎が言っていること。どちらが説得力があるか。どちらが本当に裏づけがあったのか。ただのばら撒きを言っているのか。財源の裏付けがないのに言っているのか。本当にこれは正しい政策なのかどうか。ということを、まさに私は問う選挙だろうと思います。
● 今の関連なんですけども、総理と小沢代表のどちらかが、総理に相応しいかということを問うとすれば、今回の参院選挙で、与党の獲得議席が少なくとも野党を上回らなければ、国民は総理を、安倍総理を選んだことにはならないと思いますが、どうでしょう。
私どもは負けたことを想定して話しをするつもりは毛頭ありません。全ての選挙区で勝つべく、そして、まさにその政策。地に足のついた、そして、裏付けのある。実績のある私たちが示すこの政策を、国民の皆様にわかりやすく説明をしていくことが大切であります。そして、その結果は素直な気持ちで待ちたい。私はこう考えています。この参議院選挙は大変厳しい戦いではありますが、私たちの政策をきっちりと。そして、わかりやすく説明することができればですね、私は必ず勝利を得ることができると確信しております。 
談話 / 平成19年8月27日
私は、本日、内閣改造を行いました。
先の参議院議員通常選挙は、与党にとって大変厳しい結果となりました。私は、地方や農村につのっていた痛み、年金記録問題、政治資金問題への怒りや不信感など、今回の選挙で示された国民の皆様の思いに対し、結果としてこれまで十分応えきれていなかったこと、そして政治と行政の信頼を失わせたことを深く反省しています。
しかし、人口減少や地球規模の競争の激化、我が国を取り巻く安全保障の環境変化、こうした時代の大きな変化に直面している我が国が、豊かな国民生活と明るい未来を手にするためには、経済・行財政の構造改革はもとより、教育再生や安全保障体制の再構築を含めた改革がどうしても必要です。私は、この思いで、続投を決意し、国民の皆様から信頼される体制をつくり、改革をさらに進めるため、内閣改造を行いました。自由民主党及び公明党の連立政権の下、内閣一丸となって、全力で国政に当たってまいります。
この内閣がスタートするに当たり、私は、国民の皆様と対話することを、何より重視してまいります。なお一層、国民と同じ目線に立って、国民の生活の実感を肌で感じ、改革の影の部分にきちんと光を当てることに、本腰を据えて取り組んでまいりたいと思います。
年金記録問題を究明し、必ず解決いたします。
格差や将来への不安を訴える地方の皆様の声に真摯に応え、改革の果実をさらに地方の実感へとつなげるため、あらゆる努力を尽くします。
社会総がかりで教育再生を具体化し、教育現場を立て直します。
人口減少の局面でも、環境、科学技術など、我が国がこれまで蓄えてきた力を最大限に発揮し、持続的な経済成長を実現します。無駄ゼロを目指す行財政改革を断行し、揺るぎなく歳出・歳入一体改革の道を進みます。公務員制度改革を推進し、21世紀の行政を支える新しい公務員像を実現します。
引き続き、「主張する外交」を展開します。テロとの闘いにおいては、国際社会の一員としての我が国の責任を果たしてまいります。北朝鮮の拉致・核・ミサイルの問題の解決に向け、国際社会との連携を更に強化します。地球温暖化問題について、来年の北海道洞爺湖サミットで大きな成果が得られるよう、リーダーシップを発揮してまいります。
「美しい国、日本」。私は、将来の国のあるべき姿を見据え、原点を忘れることなく、全身全霊をかけて、内閣総理大臣の職責を果たしていく覚悟です。
国民の皆様のご理解とご協力を心からお願いいたします。
基本方針
「美しい国、日本」の実現に向けて、戦後長きにわたり続いてきた諸制度を大胆に見直すとともに、国民との対話を何よりも重視しつつ、改革の影の部分にきちんと光を当てることに取り組む。
1.国民との対話の重視
・閣僚等が自ら、全国のお年寄りや若者、中小企業などの現場の声に耳を傾け、きめ細やかな政策につなげていく。
2.信頼できる年金制度の再構築
・年金記録問題を解決するとともに、社会保障制度の一体的な改革を推進する。
3.改革の果実を地方の実感へ
・地方分権改革、地方税財政改革に取り組むとともに、道州制の実現に向けた検討を加速し、「地方が主役の国づくり」を進める。
・活性化に取り組む意欲のある地域に対し、省庁の縦割りを排し、地域の実情に応じた支援を実施する。
・「攻めの農政」を基本に頑張る担い手の支援を行うとともに、高齢者や小規模な農家の方々に対しよりきめ細かな支援を行う。
・働く人々全体の所得・生活水準の底上げを図るとともに、中小企業の生産性の引上げや再生支援に取り組む。
4.教育再生
・社会総がかりでの教育再生の具体化を図る。特に、良質で負担の少ない公教育を再生する。
5.健全で、安心できる社会の実現
・食品安全の確保など暮らしの中での国民の不安に徹底的に応える。
・地方における医師不足の解消に向け、全力で取り組む。
・治安・防災対策等の推進により、世界の模範となる安全・安心の国をつくる。
・少子化対策を強力に推進する。
6.持続的な経済成長と行財政改革の実現
・人口減少の局面でも持続的な経済成長を可能とするため、オープン、イノベーションの観点から、政府一丸となって成長力強化に取り組む。
・2011年度には国・地方の基礎的財政収支を確実に黒字化させ、歳出・歳入一体改革を実現する。
・無駄ゼロを目指す行財政改革を断行する。
・21世紀の行政を支える新しい公務員像をつくる公務員制度改革に取り組む。
・社会保障や少子化に伴う負担増に対する安定的財源確保のため、消費税を含む税体系の抜本的改革を実現させるべく取り組む。
7.地球環境問題で世界をリード
・北海道洞爺湖サミットの開催に向け、地球温暖化問題の解決に向けた国際的取組をリードする。
8.主張する外交
・「世界とアジアのための日米同盟」、国際協調を基本に、真にアジアと世界の平和に貢献する「主張する外交」を更に推進する。
・在日米軍の再編について、地域振興に全力をあげて取組み、着実に推進する。
・北朝鮮の拉致・核・ミサイルの問題の解決のため、国際社会との連携を強化する。
・中国や韓国、ロシアなど近隣諸国と、未来志向で率直に話し合える関係の強化を行う。
・国際社会と協力し、イラク復興支援、テロの防止・根絶に取り組む。
・官邸の司令塔機能の強化など、我が国の安全保障体制の再構築に取り組む。 
記者会見(安倍改造内閣発足後) / 平成19年8月27日
先月の参議院選挙の結果は、大変厳しいものでありました。国民のこの厳しい声を真摯に受け止め、美しい国づくり、新しい国づくりを、そして改革を再スタートさせるために、本日、内閣の改造を行いました。そして、党の新しい執行部体制をつくったところでございます。
昨年の9月に総理に就任して以来、国づくりに取り組んで、全力を尽くしてまいりました。しかしながら、その間の閣僚の不適切な発言、政治と金の問題、また、年金の記録問題等、そうした問題によって、国民の政治あるいは行政に対する信頼が失われてしまいました。
この失われた信頼を再び政治に、そして、行政に取り戻すために、新しい内閣のメンバーによって全力を尽くし、成果を上げていきたい。そう決意をいたしておるところでございます。また、さきの参議院選挙の結果は、中央と地方に存在する格差の問題。もっと政治はその格差に配慮すべき。それが参議院選挙の結果、私どもが受け止めた教訓でございます。
この11か月間進めてまいりました新経済成長戦略で、景気は、経済は確実に回復をしているわけでございますが、まだまだ実感できない。あるいはまだまだ将来に夢が持てないという地域も存在する。それは事実であります。私も地方に遊説で出かけて、何とか子どもの就職を地元でできるようにしてもらいたいという声も伺いました。
そうした声にも私たちは丁寧に耳を傾け、謙虚に受け止め、政策で対応をしていかねばならないと思います。
今回の改造人事におきましては、地方の知事を経験した増田さんに総務大臣として参加をしていただきました。新しい内閣において、地域が活力を回復するように全力を尽くしていきたいと考えておりますし、また新しい内閣のメンバーはどんどん地域に足を運んで、直接地方の地域の皆さんの声に耳を傾けなければならないと思います。何を求めているのか、自分自身でその声に耳を傾けながら、それをきめ細かく政策に反映させていくことが大切であろうと思います。
勿論、改革については続行していかなければなりません。人口が減少していく中、あるいは経済がグローバル化していく中、改革を行っていかなければ、残念ながら日本はやっていくことができなくなってしまう。私たちは、将来の世代に対して責任を持っています。そのための改革は厳しくとも続行していく、進めていく決意であります。これは私の不変の決意であり、信念でもあります。
同時に、この改革に伴う痛みに対して、私たちはしっかりとその痛みをわかっている。この痛みに対応しようとしているんだ。このメッセージを出していかなければいけませんし、どうすればこの痛みを和らげることができるか。今まで以上に、そのことに私たちは力を尽くしていかなければならないと考えております。
そういう中におきまして、私たちは改革を進めながらも、そしてまた同時に経済を成長させながらも、勿論この経済を成長させていく、新経済成長戦略を進めていかなければ、それによって生まれてくる果実、その果実を地域に、地方に、痛みを感じている人たちに配当していくことはできないわけでございまして、そういう意味におきまして、新経済成長戦略はしっかりと進めていくと同時に、それによって得た成果を、そうした痛みに耐えている人たちに、痛みを感じている人たちへと、その精神でこれから改革を進め、そして新経済成長戦略を進めていく考えでございます。
外交におきましては、主張する外交を展開をしてまいりました。今後とも、我々は国際社会から期待されている国際社会に対する国際貢献を果たしながら、地域や世界の平和と安全のためにその責任を果たしていかなければならないと思います。
こうした内政、外交、更にさまざまな課題もありましたが、そうしたものに対応していく。今回、適材適所、強力な布陣をつくった。私は、今、改造を終えて、そう考えております。
今後、参議院におきましては、大変厳しい与野党が逆転した状況にはありますが、今後、我々は堂々と国民の前で、皆様の前で議論を展開しながら、主張すべき点は主張しながら、民主党、野党の声にも耳を傾け、建設的な議論を行っていかなければいけない。その方針でこの国会に臨んでいく考えでございます。
与党、野党とも、国民に対して責任を持っています。国民のための建設的な議論を行っていく考えであります。私からは、以上であります。
【質疑応答】
● 今回の改造で総理は、与謝野さんを官房長官に、あるいは舛添さんを厚生労働大臣にと起用されました。今回、この内閣で何を最優先課題として取り組まれるおつもりでしょうか。また、首相は続投の際に、今おっしゃったように、反省すべきは反省すると述べられましたけれども、その中で、戦後レジームからの脱却の方針はどう位置づけられるのでしょうか。これは今後とも継続するのか、それとも、あるいは多少見直しを加えていくのか。
今回、与謝野さんに官房長官に就任をしていただきました。与謝野さんは、長い政治経験を持ち、そして、さまざまな重職を担ってこられた方であります。調整能力に優れた方でもあります。国会が大変厳しい状況でありますから、その優れた調整能力、また政治的な経験、行政能力を発揮していただきたいと期待しています。また、舛添さんは政治家になる際に、そもそもライフワークとして、自分は社会福祉政策に取り組んでいきたいと、そうおっしゃっていた。更には医療問題に大変詳しい知識を持っておられます。また、年金に対する造詣も深い方であります。また、国民に対して、わかりやすく説明のできる方でございますので、そういう能力を生かしてもらいたいと思います。参議院選挙の結果を受けまして、政治資金、政治と金の問題の透明性を高めていく努力をしていかなければいけないと思います。透明性を高めていくために、私も努力をしていきたい。国民の皆様から信頼される政治、そのための政治資金規正法の改正に取り組んでいかなければならないと思います。そして、年金の記録問題の解決。これも当然最重要であります。また、今まで進めてきた教育の再生にも今後とも取り組んでまいります。また、経済は力強く回復をしておりますので、経済について成長していくように、新経済成長戦略も進めていきたいと思います。そして、また戦後レジームは、戦後つくられた仕組みを原点にさかのぼって見直しをしていく。教育の再生もそうですし、また公務員制度もそうです。この方針には変わりはございません。
● 先ほど総理は参議院は与野党を逆転し、大変厳しい状況という認識を示されました。次の国会の焦点になりますテロ特措法ですけれども、民主党の小沢代表は延長に反対する姿勢を崩していません。この難題をどのように乗り越えていくおつもりでしょうか。それと政治と金の問題なんですけれども、今回の改造に当たって、総理はこの政治と金の問題をどのぐらい重視して人選を進めたのでしょうか。また、閣僚に再びこの問題が発覚した場合、どのように対処していくおつもりでしょうか。
まずテロ特措法についてでありますが、テロ特措法は9.11テロ、日本人の24人の尊い命も失われた事件になりました。テロとの戦いは、全世界が、国際社会が一丸となってこのテロとの戦いを進めています。その中で、日本も重要な貢献を果たしていますし、日本の貢献が期待をされています。そのためのテロ特措法ですので、民主党の皆様にも野党の皆様にも御理解いただけるように、努力をしていきたいと思います。当然この国会における重要法案でございます。そして、また政治とお金の問題は、透明性を高めていく努力をしなければいけない。閣僚においては、何か指摘されれば説明をしなければならない。十分な説明ができなければ、去っていただくという覚悟で閣僚になっていただいております。
● 総理は、前内閣ではたびたび任命責任を問われる出来事が相次ぎましたが、今回、新しい内閣を発足させるに当たりまして、人材登用の在り方というのを反省を基にどのように反映されたのか。具体的には、閣僚の顔ぶれを見ますと派閥の領袖クラスの方が多く見受けられる一方で、首相補佐官は5人の方が2人になっている。もともと官邸主導を目指されて発足した補佐官が減らされたということは、総理の人事登用について今後どういうふうな意味をもたらすのか。その辺についてお伺いしたいと思います。
今回の内閣をつくるに当たりましては、政策を実行していく、実行力に力点を置きました。その中で適材適所ということで人事を行ったわけであります。その中で経験を積んだ方々、いわゆるベテランと言われる方々や、あるいは今までさまざまな役職を歴任された方々が入るという結果になったということではないかと思います。そして、また補佐官制度でございますが、この補佐官制度は官邸において政治主導で政治を行っていく、いわゆる官主導から政治主導に変えていくという考え方の下に5人の政治家の方々に入っていただきました。そして、いろいろ、私は成果を上げていただいたと思っています。そういう中で、一通り役割を終えた方々もおられます。拉致問題は、まだ残っている、解決をしなければいけない問題でありますし、その意味において、拉致担当の補佐官はそのまま留任をしていただきました。また、教育再生については、この12月に教育再生会議で最終的な答申が出る。まさに教育再生はスタートしたばかり、そして、これからだんだん成果が出てくるというところでございますので、山谷さんにも留任をしてもらったということでございます。この政治主導を進めていく上においては、いろんな試みに挑戦していかないと、なかなか政治主導というのは実現をしないと思います。
● 今日、党や内閣の要職に起用した派閥の会長の方々は安倍総理よりも当選回数の多いベテランの方が多くて、なかなか個性も豊かな方が多いんですけれども、今後、党と内閣をどのように束ねていくか、どのようにリーダーシップを発揮していくのかということと、あと、内閣と党との関係、連携というのをこれからどうしようとされているのか、聞かせてください。
私は、当選5回で総理に就任したという立場でございます。当然、私より当選回数が多い方も多くなる。むしろ、そういう方が多くなるというのは、ある意味では当然なんだろう、やむを得ないというところもあると思います。また、個性が豊かということでは、政治家はみんな個性が豊かな方ばかりでございますから、その中で経験を積んだ方々に多く入っていただきまして、また、私より当選回数が上の方々がたくさんおられますが、しかし、その中で私たちはこの選挙の結果を真摯に受け止め、同時に改革は進めていく。そして、成長戦略は進めていく。この路線に賛同していただく方々に加わっていただきました。当然、一丸となってそうした課題に取り組んでいくことができると思います。
● 逆に、留任された方についてお聞きしたいんですが、人心一新とおっしゃっていましたけれども、伊吹大臣を始め何人か留任されておられますけれども、これはこれまでのこの方たちの所掌されていた政策路線をそのまま踏襲していかれるということなんでしょうか。それで、重ねてお聞きしますが、先ほど民主党とも話をしていきたいというふうにお話をされていたと思うんですが、教育改革ですとか公務員制度改革、民主党とこれまであつれきのあった政策についても話し合う余地があるとお考えでしょうか。
この国会、衆議院では与党が多数を持ち、参議院では野党が持っている。しかし、与党も野党もお互いに国民に対して責任を持っている。そういう同じ立場だと思います。そういう観点から、これから建設的な議論をお互いにしなければならないと思います。教育の再生、公務員制度改革。この教育を再生していこう、教育を改革していこう。また、公務員制度を変えていこう。戦後でき上がってきた公務員制度の仕組みを変えていこうということについては、恐らく与野党ともに思いは1つなんだろうと思います。その変え方がどうかということではないかと思います。そこのところは、互いに責任を持つ立場として議論をしていけば必ず建設的な議論はできるのではないかと思います。 
記者会見 / 平成19年9月12日
本日、総理の職を辞するべきと決意をいたしました。7月29日、参議院の選挙の結果が出たわけでありますが、大変厳しい結果でございました。しかし、厳しい結果を受けて、この改革を止めてはならない。また、戦後レジームからの脱却、その方向性を変えてはならないとの決意で続投を決意したわけであります。今日まで全力で取り組んできたところであります。
そして、また、先般シドニーにおきまして、テロとの闘い、国際社会から期待されているこの活動を、そして高い評価をされているこの活動を中断することがあってはならない、何としても継続をしていかなければならない、このように申し上げました。
国際社会への貢献、これは私が申し上げている、主張する外交の中核でございます。この政策は何としてもやり遂げていく責任が私にはある。この思いの中で、私は中断しないために全力を尽くしていく。職を賭していくとお話をいたしました。そして、私は職に決してしがみつくものでもないと申し上げたわけであります。そして、そのためには、あらゆる努力をしなければいけない。環境づくりについても努力をしなければいけない。一身を投げ打つ覚悟で全力で努力すべきだと考えてまいりました。
本日、小沢党首に党首会談を申し入れ、私の率直な思いと考えを伝えようと、残念ながら党首会談については、実質的に断られてしまったわけであります。先般、小沢代表は民意を受けていないと、このような批判もしたわけでございますが、大変残念でございました。
今後、このテロとの闘いを継続させる上において、私はどうすべきか。むしろこれは局面を転換しなければならない。新たな総理の下でテロとの闘いを継続していく、それを目指すべきではないだろうか。
来る国連総会にも新しい総理が行くことが、むしろ局面を変えていくためにはいいのではないか。また、改革を進めていく、その決意で続投し、そして内閣改造を行ったわけでございますが、今の状況で、なかなか国民の支持、信頼の上において力強く政策を前に進めていくことは困難な状況である。ここは自らがけじめをつけることによって局面を打開しなければいけない、そう判断するに至ったわけでございます。
先ほど党の5役に対しまして、私の考え、決意をお伝えをいたしました。そしてこの上は、政治の空白を生まないように、なるべく早く次の総裁を決めてもらいたい。本日からその作業に入ってもらいたいと指示をいたしました。
私といたしましても、私自身の決断が先に延びることによって、国会において混乱が大きくなる。その判断から、決断はなるべく早く行わなければならない。そう判断したところでございます。私からは以上であります。
【質疑応答】
● 総理、決断を早くというふうにおっしゃいましたが、参院選で大敗を喫したわけです。その直後に辞めるべきだという声もありましたが、なぜ、内閣改造も終え、所信も終えられた今なのか。それをいつ、最終的に決断されたのか、お聞かせいただけますか。
参議院選挙は、大変厳しい選挙の結果でありました。しかし、あの中で、やはり反省すべきは反省しながら、しかし今、進めているこの改革を止めてはならないとの思いで、そして、私が進めている国づくりは何としても進めなければならないとの思いで続投を決意し、そして、内閣の改造を行い、所信も思うところを述べさせていただきました。しかし、テロとの闘いを継続していくということは極めて重要なことであり、そして、それはまた私の約束でもありますし、国際公約でもございます。それを果たしていく上においては、むしろ、ここは私が辞することによって局面を転換した方が、その方がむしろよいだろうと判断をいたしました。
● 総理がお辞めになることが、どのようにして自衛隊活動の継続につながっていくというふうにお考えなんでしょうか。
私は、何としても改革は進めなければいけないとの思いで今日まで全力を尽くしてまいりましたが、残念ながら、私が総理であるということによって野党の党首との話し合いも難しい状況が生まれています。そして党において、やはり今の状況の中においては、新しいエネルギーを生み出して、そのエネルギーによって状況を打開し、そして、場合によっては新法を新しいリーダーの下で推し進めていくことの方がいいのではないか。そう考えました。
● 総理は先ほど、国際公約とおっしゃいましたが、自ら国際公約としながら、それを途中で投げ出すというのはやはり無責任という批判も免れないと思うんですが、こういった批判に対してはどのようにお答えいただけますでしょうか。
勿論、私もそのために全力を尽くさなければならないと考えておりました。その中において、むしろ、この約束を果たしていく上においてどういう環境をつくっていくかということも考えていたわけでありまして、その環境をつくる上においては、私が職を辞した方がそうした環境ができるのではないだろうか。私がいることによって、残念ながら、成立することにマイナスになっているという判断をいたしました。
● 政治的な空白をつくらない方がいいとおっしゃいましたが、国連総会、後2週間後くらいには来ますけれども、それまでに新しい総裁を選ぶということなんでしょうか。総裁の選び方、それから後継についてどうお考えになっているか。後継の方にはどのような条件が求められるか。これについてお聞かせください。
今日は私はまだそうした決断をしたばかりでございます。まだ、日程的なことを決めているわけではございませんが、なるべく早い段階で後継の総裁を決めてもらいたいと思っています。後継の総裁について私がとやかく申し上げることは適切ではないと思いますが、いずれにせよ、新しいリーダーとして、与党を率いて力強く政策を前に進めていっていただきたいと思います。
● 総理が辞任されることによって、総理が進めようしてきた戦後レジームからの脱却などの諸政策が後退してしまう、そういうふうなことはお考えになられなかったでしょうか。
私が続投するに当たりまして、新しい国づくりを進めていかなければいけない。その中におきましては、戦後原点にさかのぼって、見直しをしていくという戦後レジームからの脱却も果たしていかなければいけない。その思いでございます。今まで教育基本法の改正や公務員制度の改革等々の、言わば戦後のでき上がった仕組みを変えていく。そういう挑戦をしてまいりましたし、成果も上げてきたと思います。しかし、現在の状況においては、新たな局面の打開を図って、新しいエネルギーで前へ進めていかなければ、私のそうした政策の実現も難しいという状況であろうと判断をいたしましたが、この方向については、是非その方向で進んでいってもらいたいと思っています。
● 総理は先ほど辞任の理由について、テロとの闘いというものを第一に挙げておられました。しかし、総理の職責というのは外交面でなくて、国民生活すべてを背負っているという面があると思います。そういう状況なのに、月曜日に続投を決意される所信表明を演説され、そして今日は各党の代表の質問を受けるというその直前に総理の職を辞されるというのは、これは国民の目から見ると、逃げているのではないかというふうに思われても仕方ないかと思います。その辺についての責任というのをどのようにお考えでしょうか。
総理の職責は大変重たいものがあると考えています。そして、私も所信において思うところを述べさせていただきました。しかし、その述べたことを実行していくという責任が私にはあるわけでございますが、なかなか困難な状況の中において、それを果たしてくことができないのであれば、それは政治的な混乱を最小限にするという観点から、なるべく早く判断すべきだという結論に至りました。
● 総理が政策を前に進めにくいという状況は参院選で大敗した後も一貫して変わっていないと思うんですが、どうして所信表明を終えた後に辞意を表明されるという決断をされたのかという最大の理由と、最終的にそれを御決断されたタイミングがいつかというのをもう一度教えていただきたいと思います。
総理としては、常に職責を果たしていかなければいけないということは、日々考えているわけでございます。そして私が、ここは職を辞することによって、局面を変えていかなければいけないと判断をいたしましたのは、今日、残念ながら党首会談も実現をしないという状況の中で、私がお約束をしたことができない、むしろ私が残ることが障害になっていると、こう判断したからであります。
● 先ほど、総理が政策を実行するのに非常に困難な状況になったとおっしゃっておりましたけれども、そういう困難な状況に至ってしまった原因などについて、どう分析されているか。また、そこに至らしめた自らの責任について、反省点などがありましたら最後に教えてください。
勿論、反省点は多々ございます。前の内閣、また新しい内閣において、安倍内閣として、国民の信頼を得ることができなかった。これは私の責任であろうと思います。それを原動力に政策を前に進めていくということが、残念ながらできなかったということであります。
● 党首会談を理由に挙げられたわけですが、今後国会の流れの中で、党首会談がもう一度できるということは見通しはなかったんでしょうか。また、それは党首が代わられれば、党首会談ができるという見通しがおありなんでしょうか。
私が民意を受けていないということが、理由の1つとして挙がっているわけでございます。この選挙結果は、やはり大きなものがあって、勿論その上に立って私は続投を決意をしたわけでございますが、新しい自民党のリーダーとの間において、虚心坦懐に率直な党首同士の話し合いがなされると、私はそのように期待をしています。
● 総理が強調されているテロとの闘いを継続するためには、衆議院の再議決をもってすれば、党首討論がなくても突破できたという見立てが我々の間では主流だと思うんですが、それでも党首会談ができないということでお辞めになるということですと、総理のことをたくさんの方が支持をして総理になられたのに、説明としては不十分だと思うんですが、本当の心境、あるいは何がそこの決断に至ったのかを、総理として最後に是非お伺いしたいと思います。
私は、言わばこのテロとの闘いにおいては、中断されてもならないと、こう考えて、先般シドニーで職を賭すという話をしたわけでございます。新法で継続を図っていくという考え方も党にあるわけですが、日程的な関係で、新法ですと一時的に中断という可能性は高いわけでございまして、そうであるならば、事実上そういう状況が出てくるわけでありまして、そう判断せざるを得ないと考えました。そこで、そのときに判断するよりも、むしろ今、判断した方が党が新たなスタートをする上においては、むしろその方がいいだろうと。国民の皆様に対しましても、混乱を招かない上においては、なるべく早い判断の方がよかったと、決断がいいだろうというふうに判断をいたしました。 
記者会見 / 平成19年9月24日
13日以降、入院して治療に専念してまいりましたが、思うように体調が回復せず、今まで国民の皆様に御説明をする機会を持てずにおりました。内閣総理大臣の職を辞する前に、どうしても一言、国民の皆様におわびを述べさせていただきたいと考え、不完全ではありますが、本日、このような機会を設けさせていただきました。
まず、おわびを申し上げたいのは、私の辞意表明が国会冒頭の非常に重要な時期、特に所信表明演説の直後という最悪のタイミングになってしまったことです。このため、国会は停滞し、国政に支障を来し、閣僚を始めとする政府関係者の皆様、与野党関係者の皆様、何より国民の皆様に多大な御迷惑をおかけしたことを改めて深くおわびを申し上げます。
私は、内閣改造後、最重要課題としてテロ特措法の延長を掲げ、APECなどの場での各国首脳との議論を通じて、我が国の国際貢献に対する期待の高さを痛感し、シドニーでもその決意を申し上げました。しかし、この1か月間、体調は悪化し続け、ついに自らの意思を貫いていくための基礎となる体力に限界を感じるに至りました。もはや、このままでは総理としての責任を全うし続けることはできないと決断し、辞任表明に至りました。
私、内閣総理大臣は在職中に自らの体調について述べるべきではないと考えておりましたので、あの日の会見ではここ1か月の体調の変化にはあえて言及しませんでしたが、しかし、辞任を決意した最大の要因について触れなかったことで、結果として国民の皆さんに私の真意が正確に伝わらず、非常に申し訳なく思っております。
総理大臣在職中、多くの国民の方々に温かく、力強く応援していただいたことに感謝申し上げます。皆様の期待に十分お応えできず、申し訳なく、残念に思っております。
昨日、自民党両院議員総会において選出された福田康夫新総裁に対し、心よりお祝いを申し上げます。私は、明日で内閣総理大臣の職を辞することになりますが、新たな総理の下で国民のための政策が力強く進められるものと信じております。麻生幹事長、与謝野官房長官の2人を始めとする内閣、政府与党の皆様には最後の最後まで私を力強く支えていただいたことに対し深く感謝しております。私も1人の国会議員として、引き続き、今後、力を尽くしていきたいと考えております。
【質疑応答】
● まず、今、最大の要因について真意が伝わらなくて非常に申し訳なかったというお話がございましたけれども、一国の総理として、最大の要因を、やはりあの会見で表明されなかったという判断について、今、御自身はどうお考えなのか。また、国民に対してどう思われているのかということを改めてお聞きしたいと思います。あと2点、退陣会見で、民主党小沢代表との党首会談が実現しないということを、また、退陣の理由に掲げていらっしゃいましたけれども、もし、会談が実現してインド洋での自衛隊の活動の延長に何かしらの目途が付けば、そのまま総理をお続けになるつもりだったのかどうかをお伺いします。あと、3点目は、やはり病状が非常に重いのではないかという見方もございます。臨時代理を置かずにここまで入院生活を送られているわけですけれども、実際、執務に問題はないのかどうなのか。そこら辺の現状もお聞かせください。
まず、初めの質問でありますが、やはり辞任の会見においては最大の要因である健康問題について率直にお話をするべきであった。このように思います。勿論、あのときも申し上げましたように、テロとの戦いを続けていくために全力を挙げていきたいし、その状況が大変困難な状況になった。自分がいることによって、この困難な状況を打開していくことは難しいという中に、私もこのまま健康の状況を込めたわけでありますが、そこはやはり、率直に、はっきりと申し上げるべきであったと思います。また、小沢党首との会談でありますが、衆議院は自民党が与党で過半数を制している。他方、参議院は野党が過半数を制していて、民主党が第一党であるという状況の中で、国政を進めていく上においては両党の党首が、適時、会談を行いながら国政を進めていくということが大切ではないかと考えておりました。特に、テロとの戦いのような外交安全保障の問題については、基本的な同じ基盤を共有することも必要ではないだろうか。その観点から、共通点を互いに見つける意味においても、また、信頼関係を構築しながらそういう関係をつくっていくことによって打開できないかという思いで党首会談を申し入れたわけでございますが、その段階では健康上の理由もあり、私は辞任するという決意を固めておりましたが、その上に立って、両党で、この問題については特に関係をつくってもらえないだろうかというお願いをするつもりでございました。また、臨時代理についてでございますが、臨時代理については法律にのっとって、職務にどの程度支障を来すかどうかという判断の上に、今回は臨時代理を置かなかったということになりました。
● 今回の総裁選について何点かお伺いします。まず1点目は、今回、麻生前幹事長が総理の辞意を知っていながら結果的に退陣に追い込んだ、あるいは退陣の主導権を握られたという、いわゆるクーデター説が流れていましたけれども、これが総裁選に少なからず影響を与えたと思われますが、まずその事実関係と総理の受止めの方をお伺いしたいと思います。また、総裁選では今回、麻生さんと福田さんのどちらに投票されたんでしょうか。更に、福田新総裁、新しい自民党執行部について、どういった政権運営を御期待されていますでしょうか。
麻生幹事長には、総裁と幹事長という関係ですから、辞意ということではなくて、最近少し体調が思わしくないという話はしたことがございます。そして、巷間言われているようなクーデター説とか、それは全く違います。そもそもそんな事実は存在しないとはっきり申し上げていいと思います。むしろ、幹事長として、大変この困難な状況の収拾に汗を流していただいたと感謝をしております。総裁選につきましては、新たに福田新総裁が誕生したわけでございまして、福田総裁は官房長官として長いキャリアを積んだ方でありまして、非常に安定感のある政策に通じた方でございますので、福田新総裁を中心に党が一丸となって、政府与党で政策の協力に実行してまいりたいと考えています。一票についてのお話でございますが、昨日、総裁選は終わったわけでありまして、福田総裁の下に一致結束をしていくことが大切であろうと思います。去っていく前総裁がだれにということは申し上げるべきではないだろうと思います。麻生幹事長にも本当に幹事長としてよく補佐をしていただいたと感謝申し上げたいと思います。
● 総理は先ほど、一人の国会議員として引き続き力を尽くしていきたいとおっしゃいましたけれども、これから退院されて、福田政権、自民党に、どのような形で政権を支えていかれるとお考えなのかということを具体的に伺いたいのが1つです。もう一つは、健康の問題に関連するんですけれども、2年以内に次の総選挙がありますけれども、この選挙には出馬されるということでよろしいんでしょうか。
まず健康を一日も早く回復をしたい。だんだん食事もできるようになってまいりましたので、一日も早く退院できるようにと思っておりますし、明日は、首班指名選挙には行きたいと考えております。そして、一国会議員として、今後活動していくことになるわけでありますが、新しい総裁の下、困難な国会状況ではありますが、一員として力を尽くしていきたいと考えています。勿論、選挙についても地元の皆様の御理解をいただき、私もまだ政治家を続けていきたいと考えております。
(慶應義塾大学病院日比教授) これは前にも御説明しましたけれども、入院時というのは非常に心身の疲労の蓄積ということで機能性障害が強くて、それから、外遊中で急性胃腸炎にかかられまして、これが更にこの状態を悪くしたという状況でございまして、食欲の低下がすごく強くて、全身の衰弱も来していらっしゃった状態でございました。私たちは、点滴と安静で数日間で入院完了ということで、回復されることもある程度期待しておりましたが、今もお話がありましたように、食欲の回復は一つの健康のバロメーターと考えていただいていいと思いますが、これがなかなか回復していただけませんで、5kg減りました体重というのは、入院12日経つんですが、全く戻っていらっしゃいません。ただ、食欲が徐々に改善されておりまして、この状態で徐々に改善されますと、以前の状態に戻るものと思っております。
● 安倍総理が麻生幹事長にだまされたとか、与謝野官房長官らに主導権を奪われたと述べたということを一部の国会議員が総裁選の最中に流布したようなんですけれども、こういう事実はあったのかなかったのか。もう一度、改めてお伺いしたいと思います。
そういう事実は全くございません。特に今回、突然の辞意表明という形になったわけでありますが、その後の事態の収拾に対して、麻生幹事長も与謝野官房長官も大変よくやっていただいたと本当に感謝をしております。そういう事実は全くございません。 
内閣総辞職に当たっての談話 / 平成19年9月25日
安倍内閣は、本日、総辞職いたしました。
まず始めに、国民の皆様に対し、職責を全うすることができなかったことについて、心よりお詫び申し上げます。
昨年9月に内閣を発足して以来、「美しい国創り」を掲げ、イノベーションとオープンを軸とする成長戦略を進めるとともに、教育の再生や公務員制度の改革、地方分権改革など、戦後長きにわたり続いてきた諸制度を大胆に見直す「戦後レジームからの脱却」を進めてまいりました。また、この間、基本的価値を共有する国々との連携強化、アジア地域の平和と繁栄に向けた取組、気候変動問題の解決に向けた「美しい星50」の提案など、「主張する外交」を力強く展開してまいりました。
1年間という短い期間ではありましたが、戦後初めての教育基本法の改正、憲法施行後60年間にわたり整備されてこなかった憲法改正のための国民投票法の制定、防衛庁の省への移行など、戦後の政権が成し得なかった改革を成し遂げ、また、社会保険庁の廃止・解体、財政規律の強化、道路特定財源制度の見直し、米軍再編などの課題についても、その道筋をつけることができたことは、ひとえに国民の皆様のご理解とご助力のおかげであると心より感謝申し上げます。
今後、新たな内閣のもとで、時代の変化を見据えた新たな国づくりが、力強く進められることを切望しています。
ここに、これまでの国民の皆様のご支援とご協力に対し、重ねて心より御礼申し上げます。 
 
福田康夫

 

2007年9月26日-2008年9月24日(365日)
年金未納が発覚して小泉内閣の官房長官を辞任した後は、政権と距離を置き、第3次小泉改造内閣にも入閣しなかったために、小泉内閣に批判的な一部政治家やマスコミ・知識人などの自民党内外の諸勢力の間に総理総裁就任待望論があり、小泉の2006年9月の総裁任期満了を控え「ポスト小泉」有力候補(俗に言う麻垣康三)の一人に挙げられてきた。
事前の各種世論調査において次期自民党総裁・首相として、安倍晋三に次ぐ支持率を得ることが多く、安倍に次いで次期首相の座に近い立場にあると目され、安倍への対抗馬の筆頭として注目を集めていた。アジア外交などについて小泉内閣の路線を踏襲する色合いの強い安倍に対して、アジア重視の姿勢を見せるなど対立軸を提示し、政権への意欲ともとれる動きも見せていたが、2006年7月21日、総裁選への不出馬を正式に表明。引退の意向すら漏らしたとも伝えられ、出馬を期待していた勢力からは失望の声が聞かれた。これを受け「ポスト小泉」の総裁選は、安倍の大勝に終わった。
安倍内閣においての要職起用は無く、表立った活動は少なかった。2007年6月には党住宅土地調査会会長として「200年住宅ビジョン」を発表したことが話題となった。与党が大きく議席を減らした2007年7月の参院選後は、8月27日の内閣改造人事における起用が取り沙汰されたが、実現しなかった。
しかし、7月の群馬県知事選挙では、自民党候補の大沢正明の選挙対策本部長を務めて当選に導き、そのリーダーシップを発揮した。
2007年9月12日に安倍晋三が内閣総理大臣、自由民主党総裁の辞任を表明し、その翌13日、自由民主党総裁選挙への出馬意思があると報道され、自身も出馬の方針を示した。
15日、自由民主党総裁選挙に立候補の届出をした。対立候補として麻生太郎が立候補したが、町村派含めたほぼすべての派閥(事実上、麻生派以外の全派閥)が福田支持を決定しており、圧倒的優位が伝えられていたが、実際は各派閥の所属議員に対する拘束力が弱まっており圧倒的ではなかった。また、小泉純一郎も事実上福田支持となった。
9月23日実施の自民党総裁選において330票(麻生:197票無効票:1計528票)を獲得し当選、第22代総裁に就任。
福田政権
2007年9月25日に開かれた内閣総理大臣指名選挙(首班指名選挙)において、与党が過半数を占める衆議院では圧倒的多数で指名されるが、逆に野党が過半数を占める参議院では、民主党の小沢一郎が指名されるという“ねじれ国会”(逆転国会)の象徴的現象が起きた。両院協議会が開催されるが議論はまとまらず、法規に則り衆議院の議決が国会の議決となり、福田が内閣総理大臣に指名された。内閣の組閣に当たり、記者会見で福田は、「一歩でも違えば、自民党が政権を失う可能性もある」と指摘した上で、「背水の陣内閣」と自身の内閣を命名した。
翌9月26日に宮中での親任式を経て正式に第91代内閣総理大臣に就任し(福田康夫内閣)日本憲政史上初の親子での総理大臣となった。就任年齢となる71歳は、奇しくも父・赳夫が首相に就任した年齢と同じ(赳夫は71歳11ヶ月と10日、康夫は71歳2ヶ月と10日)となった。
同年11月、福田と民主党代表小沢一郎との間で大連立構想が模索されたが頓挫し、一時は小沢が代表辞任を表明するなど混乱したが、その後、与野党は対決姿勢を強めることになった。第169回国会では、問責決議が1998年10月16日の額賀福志郎以来10年ぶりに参議院で可決されたが、翌日には内閣信任決議が衆議院で可決された。なお、首相への問責決議案が国会で可決されたのは、田中義一、吉田茂に続き3人目であり、現行憲法で参議院からは初である。
2008年8月2日、内閣改造により福田改造内閣が発足した。それに併せて、麻生太郎を幹事長に指名するなど、自由民主党執行部の人事も刷新した。閣僚の参議院枠は参議院自民党の推薦に基づき選抜するのが慣例だが、今回の組閣では参議院会長尾辻秀久による推薦を一切無視し、福田の独断で林芳正や中山恭子らを入閣させ舛添要一を留任させた。また、副大臣も党執行部の推薦に基づく選抜が慣例だが、今回は党からの推薦が差し戻され、閣僚経験者の鴨下一郎らが起用された。また、内閣総理大臣補佐官は、渡海紀三朗が新たに起用されたため全員が閣僚経験者となった。
2008年9月1日、午後9時30分より緊急記者会見を開催し、その席上、「内閣総理大臣・自由民主党総裁を辞職する」ことを表明した。退陣の理由として「国民生活の為に、新しい布陣で政策実現を期してもらいたい」ということを述べた。
2008年9月24日、内閣総辞職。なお、国政選挙の結果を経ずに成立し、かつ在任中に大型国政選挙が無かったのは羽田内閣以来となる。
2008

 

年頭所感 / 平成20年1月1日
新年あけましておめでとうございます。
【日本の底力】
「日本経済再建の成否は、一にかかって諸君の双肩にあるものであります。」
ちょうど60年前、当時の片山総理大臣は、国民に向かってこう呼びかけました。戦争によってすべてが失われ、焼け跡の中からいかに立ち上がるかという困難な状況の中で、日本国民が持つ底力を信じるほかないという思いが、そこには込められていたのだと思います。
その思いは、戦後の歩みの中で、大きな実を結びました。日本は、目覚ましい戦後復興を成し遂げ、高度経済成長を経て、世界にも誇る経済大国へと発展しました。経済発展とともに、医療の充実や国民皆保険・皆年金などを目指して安定した社会を作りあげた結果、今や、平均寿命世界一の長寿国となっています。このような日本の発展は、世界からも一目置かれ、「東アジアの奇跡」とも呼ばれましたが、これはひとえに国民の底力とたゆまぬ努力の結果にほかなりません。
一方で、いわゆる団塊の世代が定年退職をはじめた日本の現在は、人口減少社会に突入し、高齢化社会が現実のものとなりつつあります。また、バブル崩壊後、ここ20年近く、経済の規模も、国民の所得の水準もほとんど横ばいとなり、長く経済の停滞が続いてきました。そして、このように経済全体が成長しない状況では、誰かの所得が伸びれば、必ず他の誰かの所得が減ってしまうという結果になり、格差という問題が生じてきました。
しかしながら、このような構造的な問題に直面し、先の見えない閉塞感の中にあっても、日本には、長年培われてきた「ものづくり」の技と心、環境・省エネをはじめとする高い技術力があります。日本は自信を失う必要はありません。私は、持ち前の底力を発揮しさえすれば、日本は必ず新たな飛躍を成し遂げることができる、と信じています。
【生活者・消費者が主役となる社会】
高度経済成長が終わり、少子化や高齢化が進展する中で、社会の有り様は大きく変わりました。戦後の焼け跡から生産第一主義で突っ走ってきた時代はすでに終わり、生活の質の向上へと国民の関心が移ってきています。しかしながら、社会保障をはじめとした国民生活を支えるシステムは、戦後作られたものの微修正を繰り返しながら現在に至っているというのが現実です。こうした中で、近年、住宅や食品表示などの偽装問題や、年金記録のずさんな処理など、様々な問題が明らかとなりました。
政治も行政も、そして企業も、今こそ、生活者や消費者の立場に立つよう、発想の転換が求められていると思います。現在、すべての法律や制度が本当に国民の立場に立っているかどうかという、国民目線の総点検を行っており、できるだけ早期に結論を得たいと考えています。私は、今年を、「生活者・消費者が主役となる社会」へと転換していくスタートの年にします。
年金記録については、これまでの3、40年間にわたる長い間の管理の仕方に様々な問題があり、今般の問題が生じました。そのため、「これをやれば解決」という特効薬的な方策はありません。現在、「ねんきん特別便」の送付を開始して、記録の点検をお願いしておりますが、一つひとつ着実に粘り強く取り組み、全力を尽くしてまいりますので、ご協力をお願いします。同時に、こうした問題の多い年金制度を根本から見直し、受給者や加入者の立場に立って、これ以上ないというくらい確実な制度へと改めます。
年金制度のあり方はもとより、医療・介護制度など、国民生活にかかわる重要な諸制度について、安心できるきめ細かな制度づくりを進めるため、今年から、社会保障のあり方について検討する国民会議を開催いたします。労働者、消費者、女性など各界各層の代表にお集まりいただいて、例えば、これまで日本がとってきた社会保障制度、すなわち中福祉中負担のままでよいのか、スウェーデンのような高福祉高負担の方向が望ましいのかなど、広い視野から議論し、多くの国民が納得する制度を考えていただきたいと思います。
【環境で世界をリード】
日本には、天然資源は乏しくとも、豊富な人材に裏打ちされた高い技術力があります。とりわけ、環境分野においては、世界最先端の技術を有しています。昭和40年代や50年代のオイルショックや深刻な公害問題をバネにしながら、日本は、環境・省エネ分野において世界の研究開発のトップを走り続け、環境にやさしい国づくりを進めてきました。このような、いわば「環境力」は、日本が今後成長していく上で、大きな「強み」であると言えます。
近年、温暖化をはじめ地球規模での環境問題が顕在化する中で、日本だけでなく、世界各国が協力してこの問題に取り組む必要があります。日本が持つ世界最先端の技術を各国に広めることで世界に貢献し、大きな役割を果たすことができます。
今年は、いよいよ日本でサミットが開催される年です。環境問題は今年のサミットの大きな議題の一つであることは間違いありません。七夕の日には、北海道の洞爺湖に世界の首脳が集います。北海道の澄んだ空に浮かぶ天の川を見上げながら、このきれいな空を子どもたちに引き継ぐために今私たちに何ができるのか、日本が世界の議論をリードしていきたいと考えています。
【地域再生】
長い間の経済の停滞によって、特に地方においては依然厳しい状況にあります。しかし、地方には、自然や伝統などそれぞれの特色があります。まずは、それぞれの地方が、自らの創意工夫によって、その持てる特色を活かすことが、地域再生の第一歩です。国が決めた政策を押し付けるのではなく、地方の自由な取組を後押しする方向へと転換していきます。
さらに、そうした努力を続けている地方は、域内で農業や中小企業、大学などのネットワークをつくりあげるとともに、それぞれの地方の枠を超えて、他の地方や都市、さらには海外へとつながることで、人や情報が行き交い、販路が拡大し、大きな相乗効果を得ることができるでしょう。今後、地域ブロックごとに全体を統括する専門官を置くなど、地方の枠を超えたネットワークづくりを応援してまいります。
【国際社会とのつながり】 日本経済を建て直し、今後さらに成長していくためには、とりわけ海外との「つながり」が重要です。
日本は、低成長時代で、人口も減少しつつあります。しかし、アジアの周辺諸国は今でも高成長を続け、人口も増えています。日本を「世界に開かれた国」としていくことによって、アジアの活力をとりこみ、日本もともに発展していくことができると考えます。
わが国は、戦後、貿易立国として発展してきました。今後とも、わが国が発展していくためには、国際社会と協力し、相互依存を深めていかなければなりません。平和で安定した国際社会は、日本にとってかけがえのない財産です。その国際社会に対して日本ができるだけのお手伝いをする必要があります。今、この瞬間も、インド洋では、多くの国々が協力し合いながらテロとの闘いを続けています。一刻も早く、他の国々とともに世界のために汗を流す日本の姿を示したいと思います。
【さいごに】
総理に就任して3ヶ月。様々な取組はまだ緒に就いたばかりですが、日本の政治と社会のあり方をこれからの日本にふさわしいものにしていくために努力してまいります。そして、今年の年末には、国民の皆さんに、1年経ったら何かが変わったと実感してもらえるような世の中にしたいと思います。
本年が、皆さんにとって、素晴らしい1年となりますよう、心からお祈りしております。  
年頭記者会見 / 平成20年1月4日
皆さん、新年明けまして、おめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
私、昨年9月にこの場所でもって総理就任のごあいさつを申し上げました。ちょうど100日が過ぎたところでございます。あのとき、私は、この現状を打破し、そしてその中から新しい未来を築くと申し上げたんです。この100日間の歩みを振り返りまして、正直申し上げまして、私は私の思ったとおりにすべて事が運ばなかったと。それは、国会のねじれ現象ということがあったことにもよりますけれども、そういうふうにも思っております。
しかしながら、何を打破しなければならないのかということは、極めて明確になった100日間ではなかったかと思っております。それは、これまでの政治や行政の在り方そのものについてでございます。人口減少社会に突入しました。そして、本格的な高齢化社会が到来する中にありまして、安全で安心な社会、活力と希望に満ちた持続可能な社会をつくっていくためには、政治も行政も、これまでの発想ややり方を大きく転換し、生活者、そして消費者の立場に立ったものへと変わっていかなければなりません。私は、本年を生活者・消費者が主役へと転換するスタートの年にしたいと思っております。
現在、政府を挙げてすべての法律や制度が国民の立場に立っているかどうか、総点検を行っているところでございます。この内閣では、食品偽装の問題から社会保障の問題まで、皆さんの生活に直接関わり、かつ切実な問題に正面から取り組んで、一つ一つ着実に解決してまいりたいと思っております。安心な社会にとって重要な役割を果たす年金問題、これは国民の皆様に大変な御迷惑をおかけいたしております。この年金問題は、まさに行政が国民の立場に立っていなかったことにより起こったものでございます。
行政のみならず、それを監督する立場にあった政治の責任も極めて大きいものがございます。政治家として、率直におわびを申し上げる次第でございます。
この年金記録の問題は、40年以上にわたるさまざまな問題が積み重なって生じたものでございまして、正直申し上げてこれをやれば解決するという特効薬はございません。現在「ねんきん特別便」を各家庭にお送りして、皆さんに記録の確認をお願いしております。持ち主がわからない記録の解明作業と合わせて、一つ一つの取組みを着実に進めてまいりたいと思います。
こうした国民の皆さんの御協力に加えて、国民の皆さんから年金保険料を徴収し、納付に携わっていただいております自治体、経済界などにも御協力をいただきながら、その御協力を無にしないためにも、十分な人材を投入して、あらゆる手段を尽くしてまいりたいと思っております。40年にわたる失敗を、私の内閣で解決の道筋をつけるべく、真摯に最後まで取り組んでいく所存でございます。皆さんの御理解と御協力を、改めてお願いする次第でございます。
同時に、このように問題の大きい年金制度を根本から見直し、受給者や加入者の立場に立って、これ以上ないというぐらい確実な制度にしたいと考えております。年金制度はもとより、医療・介護制度や少子化対策など、国民生活の基礎となる諸制度について、安心できるきめ細かな制度づくりを進めるために、今月から社会保障の在り方について検討する国民会議を開催することにいたしました。国民会議には、経営者、労働者、消費者、女性など、各界各層の代表にお集まりいただいて、広い視野から多くの国民が納得する制度を考えていただくことにいたしております。
さて、本年7月、洞爺湖でG8サミットが開催されます。この会見のすぐ後で、このサミットのロゴマークを発表いたします。今年は、サミットだけでなくて、各国の首脳が集まる国際会議が幾つか開催されます。それらに共通する大きな議題の1つは地球環境問題でございます。いまや地球温暖化問題は待ったなしの課題であり、世界の主要排出国は例外なく参加して、協力して取り組む枠組みを構築することが急がれております。
日本は世界最先端の環境・省エネ技術を有しており、この技術を各国に広めることで世界に貢献できるものと考えております。世界をリードしていくためには、一層の努力が必要であり、我々の暮らし方自体を変革し、世界の範となる低炭素社会を築き上げていかなければなりません。皆さんとともに、この問題に取り組んでまいりたいと思います。
原油がついに100ドルを超えました。一時的とは思いますけれども、この影響は無視することはできません。政府は、昨年末、緊急対策閣僚会議で当面の対処方針を決定いたしましたが、今後とも万全の体制を取ってまいります。同時に、中長期的な資源・エネルギー問題にしっかりと取り組んでまいります。そのためにも、今後とも日本が発展していくためには、世界に開かれた国にならなければいけない。そして、国際社会と協力し、相互依存を深めていくことが重要であります。平和で安定した国際社会は、日本にとってかけがえのない財産であります。だからこそ、国際社会に対して、日本ができるだけのお手伝いをする必要がございます。
今、この瞬間もインド洋では多くの国々が協力し合いながらテロとの戦いを続けております。アフガニスタンへのテロリストの侵入や拡散を防ぐためであります。アフガニスタンの陸上では民生の向上のための諸外国の活動が活発に行われております。我が国のJICA職員も数十名ファブール近辺で危険を顧みず活躍をいたしております。陸上の活動を少しでも安全にするためには、洋上からの支援が必要であります。我が国の補給艦が一刻も早く復帰し、他の国々とともに世界のために汗を流す日本の姿を示したいと考えております。
最後に、薬害肝炎問題について申し上げます。感染被害者の皆様は、これまで長きにわたって心身ともに、言葉に尽くせないほどの御苦労があったことと思います。こうした大きな被害が生じ、そしてその拡大を防止できなかったことについて、国の責任を率直に認めたいと思います。この場をお借りして、改めて感染被害者の皆様に心からおわびを申し上げます。
感染被害者の皆様の全員一律に救済するために、与党の皆さんの御尽力を得て、立法作業をただいま進め、1日でも早い救済を実現するということでもって、原告、そして弁護団の皆さんと合意をすることができました。臨時国会は、残りの会期が少なくなってまいりましたが、野党の協力も得て、この救済法案が一刻も早く成立するよう、全力を尽くしてまいります。
更に、今回の事件の反省に立ち、薬害の悲劇を繰り返してはならないという決意をもって、再発防止に向けた医薬品行政の見直しを行うとともに、医療費助成などの総合的な肝炎対策を実施してまいります。
私は、国民本位、生活者本位の社会をつくるために全力を尽くしてまいりたい。1年経ったら何かが変わったと、皆さんに実感してもらえるようにしたいと考えております。
本年が、皆さんにとってよき年でありますように心からお祈りを申し上げます。
【質疑応答】
● 政界では、与野党を問わず、今年は衆議院の解散総選挙の年という声が強まっております。解散総選挙は、7月の洞爺湖サミット終了以降が望ましいと考えているのでしょうか。ただ、総理が先ほども御指摘になられましたように、臨時国会、そして通常国会での与野党のねじれは非常に激しく、状況は予断を許しません。今後の政治日程の中で、民主党との大連立あるいはその前提となる政策協議ということも再び想定されておられるのでしょうか。もし、大連立というものができるとすれば、それは衆議院選後ということなんでしょうか。その点をお伺いいたします。
私が、今、考えておりますことは、政策課題を実施するということ。それと同時に、これから御審議を願う、20年度予算案をなるべく早くというか、3月前に成立させたい、そういう思いでございます。その思いは、国民の生活に悪い影響を与えるようなことがあってはならないということであります。そういうことでございますので、それを実行できるようなことであるならば、私はいろいろな方策を講じてまいりたいと思っております。ただいま、大連立というお話もございましたけれども、大連立をするのか、しないのか、それは政策課題を実行できるような体制を組めるのかどうか、この1点にかかっているわけでありますので、私は大連立ということを最初から考えて、何かしようと、そういうことではなく、政策実行をするために、どういう体制が望ましいかということをまず考えたいと、このように思っておるところでございます。そのためには、当然のことながら、野党第一党の民主党とも十分な話し合いをするという機会を数多く持たなければいけないというふうにも思っているところでございます。
● 内閣改造についてお伺いします。総理は、昨年の中国での内政懇では白紙ということでありましたけれども、そういう党内の意見にはもっともなところがある。具体的なことは年明けだとおっしゃっています。正月休みも終わりまして、通常国会前の内閣改造について総理の方針が固まっていましたら、お伺いしたいと思います。
内閣改造につきまして、昨年の12月29日でしたか、中国で記者懇談会がございました。そのときに申し上げましたのは、私が改造するか、しないかを含めて白紙だと、こういうことを申し上げたので、しかし、その翌日には改造するというふうな報道が一斉に流れたわけであります。これはどなたのいたずらか知りませんけれども、私の申し上げたこととは意に反することであると、こういうふうに思っております。では、今現在どうするかということになりますけれども、正直申しまして、今の閣僚の皆様は、本当に一生懸命政策課題に取り組んでいただいているところでございます。それから、就任してまだ日にちが浅い方もございます。これから実力を発揮しようという方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれない。いろいろなことを考えまして、私は今の閣僚の皆さんに引き続いてやっていただきたいと考えております。実際問題いいまして、こういうように、再度国会が延長され、そして次の通常国会もすぐ開会するということで、その間隔も非常に短いということであります。そういうときに改造すべきかどうかということもいろいろ考えていたわけでございます。勿論、改造した方がいいという御意見もたくさんございました。そういう御意見もよくお聞きしながら、その中には現状でこういうふうにしたらいいのではないかといったような積極的な前向きな御意見もございましたから、そういうことは大いに取り入れさせて、よりよい充実した内容をこれから実行していこうと考えております。
● 総理、昨年の民主党との党首会談でもテーマになりましたけれども、自衛隊派遣に関する恒久法について伺いたいんですけれども、先ほど民主党との大連立政策協議ということが話題になりましたけれども、これは新テロ特措法が週内にも成立しますけれども、それが成立した段階で間を置かずに政府として検討に着手されるお考えはあるんでしょうか。
この恒久法は、もう数年前から議論されているんです。国会でも是か非かということは議論されております。むしろやった方がいいのではないかということであります。なぜかと申しますと、今、暫定措置法という形でもって今回のテロ新法もお願いをしているわけでございますけれども、この暫定法で、このような形で毎回国会で御審議をいただきながら実際に自衛隊の活動をするということは大変時間もかかりますし、むしろこういうような国際平和協力というふうな形であるならば、むしろもう少し積極的に、そして迅速に活動できるような体制があってもいいのではないか。そのためには、そういうことが可能になるような恒久法というものを整備してもよろしいのではないか。こういうふうな意見というのは前からあったわけでございまして、私もそのような考え方を持っておるわけでございます。いずれ、またどういうような国際情勢の中で、また国際平和協力部隊が、自衛隊がその中に加わってやるということもありますし、いろいろな活動があると思いますので、いろいろな活動を想定しながら、どのような仕組みがいいのかということは国会で十分議論していただきたい。こう思っております。
● 総理、先ほどサミットでは地球温暖化対策が主要テーマになるという御指摘がありましたが、今月はダボス会議への出席も検討されているようですけれども、サミットでは、具体的に数値目標なども含めて、どのような成果を上げることを目標として、そのために議長国としてどう指導力を発揮していくお考えですか。
まず、昨年12月のバリ島の会議でもって排出国はすべてこの枠組みに参加するということが決まったわけで、これは大変大きな進歩だと思います。そうであるからには、これから温暖化対策としてどういう取組みをするかということが、どの国々とも自由に話し合いができるというベースができたんだと思います。それを受けて、今度の夏のG8サミットでございます。そこでは勿論、主要排出国すべてが十分な議論をして、どうあるべきかということを考えていく。そして、その方向性を決めていくということになります。ダボス会議という話がございましたけれども、1月の下旬にダボスで定例の会議がございますけれども、そこで私どもといたしましては、その枠組みがどういうふうなことになっていくのかということは、まだはっきりと明確に示されているわけではございませんから、軽々なことを申し上げるわけにはいかない。と申しますのは、G8の議長国という立場でございますから、その辺は枠組みをしっかり守って、そして、その中で最善の方法を生み出していく、それをとりまとめる議長国として慎重に対応していきたいと思います。ただ、日本は世界に冠たる省エネ先進国ということで、エネルギーの使用効率も世界で一番いいんです。ですから、そういうことはしっかりと世界に訴えていくという必要はあると思います。その上でG8サミットをどういうふうに成功させていくかということを考えていかなければいけない。その間に主要国とは話し合いを十分していかなければいけない。また、中国、インドというような途上国とどういう対話をしていくことが必要なのかということはこれから考えていきたいと思っております。
● 年金問題についてお尋ねします。総理は先ほど年金記録の問題について、政府の対応をおわびされましたが、国民世論の中には参議院選挙の公約に照らして、政府がいつまでに、どういう手順で、どこまでこの問題に対処されるかということに対して疑問がまだ残っているかと思います。その点についてお尋ねしたいというのが1点です。もう一点は消費税の問題でして、基礎年金の国庫負担の引き上げを控えて、恐らく今年は消費税の引き上げの議論が避けられない年になるんではないかと思いますが、具体的な税率の問題を含めて、今年中に政府の側から議論を提示するお考えがあるかどうか。その2点についてお伺いします。
まず年金でございますけれども、今回のような極めて基礎的な記録問題をどういうふうに解消していくかということが大事だと思います。これをきちんとやらないと、年金制度に対する信頼が失せてしまうことになりますので、これはしっかり記録の照合等を今やっておりますけれども、一件一件丁寧にやっていきたいと思っております。そのために、年金記録をしっかり管理する体制を構築しなければいけないと思います。また、平成22年から新たに日本年金機構がスタートするわけであります。この年金機構がスタートするに合わせて、新たな組織を国民の信頼に足るようなものにしていかなければいけないことになります。また同時に、国民が、いつでも自分の年金記録を確認できるような仕組みをつくっていかなければいけないと思います。現在は「ねんきん特別便」というものを順次送付いたしておりますけれども、これは今年中に終わるかどうかわかりませんけれども、今、加入して受給しているような方々に対しても、すべての年金受給者に対しても、そういう特別便を送付していくということを考えて、御自身の記録と十分確認していただくということも考えております。それから、年金全体のことにつきましては、社会保障の中核的なものでございますので、このことについてどういうふうな在り方が一番いいのか、先ほど申し上げましたけれども、これ以上にないという年金制度を組み立てていかなければいけない、そういう観点もございます。また、他の社会保障との兼ね合いということもありますから、総合的に考えるべき問題もあろうかと思います。いずれにしても、先ほど私が申し上げた社会保障を検討する国民会議において、年金の問題も取り上げていきたいと思っておりまして、そういう幅広い視野から議論をお願いし、この夏ぐらいまでに中間報告していただきたい。それで秋までに最終的な報告をいただきたいと思っておるところでございます。  
記者会見(福田改造内閣) / 平成20年8月1日
昨年9月、私、総理大臣就任以来、今までの政治や行政の在り方を国民本位のものに変えていくということを思いながら、国民目線での改革を推し進めてまいりました。しかし、国民の皆さんの多くが、日々の生活において、そうした改革の実感がない、むしろガソリン価格や食料品価格の高騰、上昇の影響で、昨年と比べて生活が苦しくなったと感じておられる方が多くなったということも実態であります。
内閣として、中長期的な政策課題に取り組み、進めていくことは、これはもう当然でございますけれども、皆さんの日々の暮らしに目を向けて、不安や痛みの声にしっかりと向き合っていくことも、これまた国民目線での政治にほかなりません。
引き続き、国民本位の政治・行政の改革を強力に推し進めていくためにも、国民の皆さんが生活改善を実感できる政策の実現を重視した、そういう新たな布陣を敷いたわけでございます。この内閣の使命は、政策を実現・実行することであります。
現在、資源・エネルギーの価格は異常かつ急激な高騰を見せておりますが、新興国の旺盛な需要を考えますと、これは一時的な現象というよりも、今後もある程度の水準が継続することを覚悟しなければなりません。
また、国内社会に目を転じれば、本格的な少子高齢化社会を迎えつつあります。我が国が直面している、このような2つの大きな構造変化を、どのようにして乗り越えていくかが、現下の大きな課題であります。この課題を解決するためには、雇用の拡大や所得の増大など、将来にわたって経済成長を続けていくことが基本であります。国内の英知を結集して、経済社会の仕組みを資源高と少子高齢化という変化に対応したものにしていかなければいけないということであります。
まず、地球温暖化、資源高騰時代にあっては、低炭素社会と両立する経済成長を実現することが必要でございます。このためには、私たちのライフスタイルの転換を進め、家庭や企業において省エネ技術の導入を加速していく必要がございます。世界をリードする我が国の環境・エネルギー技術のさらなる開発を加速化していくことが、最も重要であります。
また、穀物価格の高騰に対しては、農商工連携、流通改革などを通じて、我が国の農業の構造改革、競争力の強化を力強く進め、そして自給率を向上させていかなければなりません。
更に、本格的な少子高齢化時代に対しては、年金、医療、介護といった社会保障制度の在り方について、逃げることなく根本からの見直しを行うことが必要です。新内閣の下でも、これらの根本的な問題の解決に正面から取り組んでいく覚悟ですが、本腰を入れて取り組んでいくためにも、今、国民の皆さんが感じている生活不安に対してしっかりと対応していくことが必要です。
その第一は、資源価格高騰を始めとする物価高への対応であります。現下の原油価格や食料価格の急激かつ異常な上昇は、皆さんの生活を始めとして、中小企業や農業、漁業を営む方々に深刻な影響を与えると同時に、景気の先行きを不透明なものといたしております。
相次ぐ値上げでやり繰りも大変になってきたというのが、皆さんの実感でしょう。物価高の下で、我が国の国民経済は今、大きな困難に直面しつつあります。農業や漁業、遠隔地にお住まいの皆さんの燃料負担の軽減や、価格転嫁ができずに苦しんでいる中小企業の資金繰り支援を行うなど、さまざまな不安の声にしっかりと応えていくことが政治の役割であると考えております。
新内閣が一丸となって物価高と景気低迷という、国民経済が直面する困難を解決していく決意であります。
第二は、年金、医療、雇用など、国民の皆さんの暮らし向きについての不安をどう取り除いていくかということが課題であります。社会保障制度の抜本改革には、どうしても時間がかかることもあって、年金、医療などに対する国民の皆さんの不信は、依然拭い去ることができておらず、社会保障制度もまたいろいろな欠陥があることが判明し、困難に直面していると言わざるを得ません。抜本改革の完成を待つまでもなく、1日でも早く国民生活のセーフティーネットを充実させるためには、まずは先日発表した5つの安心プランのうち、可能なものについては、前倒して実施していくことが必要であります。
具体的には、不足している産科・小児科医療や、救急医療に対する緊急対応や、待機児童が多い地域での保育所整備の加速、労働者派遣法の見直しや、正社員を目指して職業訓練中の若者の支援などの施策について早急に実施に移してまいります。
国民の皆さんのニーズに応えるため、きめ細かな政策を実施することで、少しでも目に見える形での安心を感じていただけるように、今、申し上げた国民生活は直面する二つの困難を解決していくこと、これこそが改造内閣のイの一番に取り組んでいく課題であります。
消費者行政の一元化、行政のムダ・ゼロ、低炭素社会への実現、防衛省の改革、年金記録問題への対応や社会保障制度改革など、国民目線での改革、これらは着実に進んでおります。今後取り組むべき具体的な課題が明らかとなり、青写真が明確となりました。今後は、改造内閣の下で、一つひとつの政策の着実な実行を図り、国民目線での改革を更に加速してまいります。
外交面では、今後とも地球温暖化など地球規模でのさまざまな課題に積極的に取り組むとともに、平和協力国家としてPKOやテロ対策、復興支援など国際協力を進めてまいります。
また、日米同盟を基礎とする積極的なアジア太平洋政策を展開するとともに、北朝鮮の核ミサイル、拉致問題の解決に全力を傾注してまいります。
私たちは今、国内外で大きな時代の転換点に差しかかっています。世界的な資源価格の高騰と国内的な少子高齢化の進展は大変な困難な課題であります。
しかしながら、私は我が国の将来をしっかりと見据え、逃げることなく、正面から改革に取り組んでこの困難を乗り越えていく覚悟であります。
それと同時に、常に国民の皆さんが日々の生活でどのような実感を持っておられるかについても、常に思いをいたし、さまざまな不安に対して、きめ細かな政策も実施してまいります。まさに国民目線、生活実感を踏まえた改革を新しい内閣の下でしっかりと実行していく決意でありますので、国民の皆様の御理解と協力をお願い申し上げる次第でございます。以上です。
【質疑応答】
● 今回の内閣改造を受けて政局の焦点は、任期満了まであと1年余りになって衆院の解散総選挙に移るわけですが、与党の一部には支持率の低迷が続くような場合は、新たな首相の下で選挙を闘うべきだというような声も漏れ伝わっていますが、総理は御自身の手で解散を訴えられるのか、その決意を、まず、お聞かせください。それと解散の時期について、総理が先ほどおっしゃったように、政策課題への取組みを優先させるお考えを示していらっしゃいますが、これも与党の一部には、来年度予算の成立を待たずに、この年末年始までに早期解散を打つべきだという声もあるようですが、現段階で、解散のタイミングについてどのようにお考えでしょうか。
私は、解散を論ずるよりは、今は政策を実行する、そういう社会経済の状況だと思います。ですから、今、直ちに解散とか、そういったことを考えているわけではなく、まず、今、掲げている、ただいま申し上げたような課題に正面から挑戦をしていく、そして国民生活に対して少しでも安心を増やしていく、そういうことを目指してこれからの政治を進めてまいりたいと思っております。それは、いろいろな意見はございましょう。しかし、私の考え方は、今、申し上げたとおりでございまして、政策の実現、そのことを通じて、今の不安をできるだけ小さくしていこうと、こういうことに取り組んでまいりたい。そして、将来に対して我々行く末の道筋を示していきたい。このように思っております。
● 今回の内閣改造と役員人事の具体的な人選に当たっての基本方針とそのねらい。特に党のかなめである幹事長に麻生太郎氏を起用した理由をお聞かせください。もう一点、今回の改造内閣を御自身で命名されるとしたら、どのようなネーミングになりますでしょうか。以上、2点お願いします。
今回の改造内閣のポイントは、政策実現であります。政策を実現できるような、そういう布陣を敷いたつもりでございます。特に経済のことにつきましては、今のような経済情勢の中において、この問題にどう対応していくかということは、これは喫緊の課題だと思っておりますので、そのことを中心に考えております。ネーミングということでございますが、今、申しましたように、政策を確実に実現していくと、そして安心を勝ち得るという意味において、安心実現内閣、そのように申し上げたいと思っております。
● 麻生幹事長の起用の理由をお聞かせください。
麻生幹事長に御就任いただいたのは、それは麻生幹事長に、自民党をしっかりとリードしていただきたいという思いであります。これは、私はかねがね考えていたことでありまして、昨年の秋に総裁選挙を闘った仲でございますけれども、しかし、できれば、麻生先生に入閣をしてもらうといったようなことをお願いをしたかった、こういうことがございました。ですから、今回、それが実現したということであります。
● 今回の内閣改造では、例えば与謝野大臣始め経済閣僚に消費税に理解を示すメンバーが目立つように思います。総理のムダ・ゼロなどの歳出削減努力というものは承知しておりますけれども、今回の配置が消費税増税に向けた、いわゆる環境整備というねらいがあるのかどうかを伺いたいと思います。
消費税のことについては、財政再建を考えた場合に、だれもが考えていることではないかと思います。消費税なしで財政再建ができるということもとても考えられないし、また同時に、国民の安心できるような社会保障制度も成り立たないと思っております。ただし、それをいつ実現するのか、実行するのかということになりますと、それはさまざまな意見がございますけれども、しかし、今すぐ、それをやろうということを、例えば、今、おっしゃったような方々が言っているというふうにも思いません。それは、消費税についてはしっかりと議論する。そして、消費税をどういうふうにこれから扱っていくかということについて、きちんとした道筋を立てていく。そして、国民に十分説明をしていくことが大事なんだと私は思っております。
● 臨時国会の召集時期についてお伺いします。この召集時期については、与党内で8月下旬にすべきとか、9月下旬にすべきとか、意見が分かれて、今もってまとまっていないんですが、総理は現時点でどのようにお考えですか。それと、この問題に関して、意見の違いから自民党と公明党との間に溝が生じているのではないかという見方もありますけれども、これについてはどのように認識されておりますでしょうか。
この国会の開会の時期等について、今まで決めたわけではございません。ですから、いろいろな意見を言われるということもあっていいんだろうと思います。そういうようなことが政治的な問題になってはいけないと私は思っておりますので、したがいまして、今日の党首会談におきまして、解散の時期については、新体制ができたので、これから十分に協議をしていこうということでありまして、それは協議の時期を特に決めておるわけではありませんけれども、近々、協議を開始するという状況であります。お互いに理解を深めて、同じ考え方で歩もうということを今日は結論をしたところでございます。
● 今、解散のことについては新体制の下で協議を開始しているという趣旨のことをおっしゃっていましたけれども。
新体制で協議というのは、会期のことです。解散ではありません。
● それで、臨時国会で最重要法案として、新テロ対策特別措置法改正案の処理の問題がありますが、これについては公明党の中で慎重論もあるようですけれども、総理としては衆議院の3分の2による再可決を使ってでも臨時国会会期中に成立を目指すお考えでしょうか。
今、おっしゃった問題については、テロとの闘いとか、それから、イラク、アフガンの復興とか、こういったような国際社会との関連において極めて重要な問題でございますので、また、同時にこのことは我が国の国益にも直結している問題でありますから、関係国が、今、大きな犠牲を払ってやっているようなことについて、これは我々としても無視することができない。そういう状況は十分認識していなければいけないと思います。ただ、具体的な対応の仕方についてはさまざま検討いたしておりまして、現時点でそれを申し上げる段階ではございません。そういうような状況、国際情勢を念頭に置きながら、我が国としてできることはしっかりと対応していくことが必要なんだろうと思っております。
● 総理、対民主党ということでお伺いしますが、選挙も近づいてくるとなると、民主党の方はますます対抗姿勢を強めてくるのではないかと思われますが、国会のねじれ現象は相変わらず続いております。総理は対民主党ということで、新布陣でどう対峙していくお考えなのか。これについてお聞かせください。
民主党さんも、9月になりますと代表、党首の選挙がございますから、どういう対応をされるか。そのこととの関係も無視できないと思っております。しかしながら、国民生活がこのような状況にある中で、ただいたずらに対決するということが、本当にいいのかどうか。そのことは、我々は当然考えますけれども、しかし、野党の皆さんにも、民主党の方々にも十分考えていただきたいと思っております。でき得れば、国会において、話し合いによって、よりよい政策を立案し、そして、実行できるようにしていただきたい。これが私どもの願いでございますから、今後とも対話の姿勢は崩していかないというつもりでおります。  
談話 / 平成20年8月2日
私は、本日、内閣改造を行いました。
総理就任から約一年弱、国民本位の信頼される政治、行政の実現に内閣を挙げて取り組んできた結果、私として大きな改革の方針を打ち出すことができました。これからは、この方針に沿って確実に実行する時です。国民の立場に立った行政、国民が安心して暮らせる基盤、豊かさを実感できる経済社会の構築とともに、その前提となる世界の平和と安定や地球環境問題の解決に全力で取り組んでまいります。
消費者行政の一元化、行政の無駄の排除、道路特定財源の「生活者財源」への転換、公務員制度改革、地方分権改革など、私の考える国民本位の行財政改革が動き始めました。歳出・歳入の一体改革の方針を堅持しつつ、これらの改革を強力に実行いたします。
また、国民の暮らしに直結する社会保障制度についても、国民の皆様のご不安やご不満を真摯に受けとめ、産科・小児科の医師不足、救急医療の問題をはじめとする重要課題について「五つの安心プラン」を策定いたしました。これを直ちに実行に移し、この一、二年間の間に実現を図ります。さらに、年金記録問題についても信頼回復に向けて確実に対策を実施いたします。
原油価格の異常な高騰により深刻な影響を受けている方々への緊急対策を着実に実行するとともに、物価動向等を注視しながら、機動的な経済運営を行ってまいります。また、日本の成長力を強化するため、中小企業、農林漁業など全員参加の成長を実現しつつ、世界の活力を我が国の成長とする開かれた国づくりや世界をリードする革新的技術の開発を推進します。
将来の発展の原動力である人材を育成するため、教育の振興に社会全体で取り組んでまいります。
外交に関しては、強固な日米同盟を基礎として、アジア・太平洋の国々と「ともに歩む」べく、開かれた関係を構築してまいります。平和の実現に積極的に協力する国家として、国際社会と協調して「テロとの闘い」に取り組みます。北朝鮮については、核、ミサイル、拉致問題の解決に全力を尽くします。
地球環境問題については、北海道洞爺湖サミットの成果を踏まえ、すべての主要排出国が参加する実効性ある新たな枠組みづくりに向けた国際的な議論を主導するとともに、「低炭素社会づくり行動計画」に沿って、温室効果ガスを削減する具体的な行動を加速します。
私は、日本や世界の将来を見据えつつ、目の前にある課題に対して、一つ一つ着実に取り組み、国民目線の改革を進めてまいります。国民の皆様のご理解とご協力を心からお願いいたします。  
記者会見 / 平成20年9月1日
昨年、私は、安倍前総理からバトンを引き継ぎまして、9月26日に総理に就任以来、1年近く経ったわけでございます。その間、参議院選挙で与党が過半数割れするという状況の中で、困難を承知でお引き受けしたということであります。正直申しまして、最初から政治資金の問題、年金記録問題、C型肝炎問題、防衛省の不祥事等々、次から次へと積年の問題が顕在化してきたということに遭遇いたしたわけでありまして、その処理に忙殺をされました。
その中でも、将来を見据えながら、目立たなかったかもしれませんけれども、これまで誰も手を付けなかったような国民目線での改革に着手をいたしました。
例えば道路特定財源の一般財源化、また消費者庁の設置法の取りまとめ、国民会議を通じて、社会保障制度を抜本見直しするといったようなことでございます。最終決着はしておりませんけれども、方向性は打ち出せたと思っております。
更にその上に、今年に入りましてからは、経済・景気問題というものが大きな課題として浮上いたしました。ガソリンや食料などの物価高騰に、国民や農林漁業、中小企業、零細企業の皆さんが苦しむ中で、何とかして強力な対策を作らなければいけない。こういうふうに思ったわけでございますが、その体制を整えることを目的に、8月に改造を断行いたしました。強力な布陣の下で、先週金曜日に総合的な対策をとりまとめることができました。
この臨時国会では、この対策を実施するための補正予算や消費者庁設置法など、国民生活にとって一刻の猶予もない重要な案件を審議いたします。先の国会では、民主党が重要案件の対応に応じず、国会の駆け引きで審議引き延ばしや審議拒否を行った。その結果、決めるべきことがなかなか決まらない。そういう事態が生じたほか、何を決めるにも、とにかく時間がかかったことは事実でございます。
今、日本経済は、また国民生活を考えた場合に、今度開かれる国会で、このようなことは決して起こってはならないこと。そのためにも、体制を整えた上で国会に臨むべきであると考えました。国民生活のことを第一に考えるならば、今ここで政治の駆け引きで政治的な空白を生じる、政策実施の歩みを止めることがあってはなりません。この際、新しい布陣の下に政策の実現を図ってまいらなければいけないと判断をし、私は本日、辞任をすることを決意いたしました。
まだ、経済対策や消費者庁設置法案をとりまとめ、国会の実質審議入りには時間があるこのタイミングを狙いまして、国民にも大きな迷惑がかからないというように考えた次第で、この時期を選んだわけであります。これをきっかけに、次の自民党総裁の下に、より強力な体制を敷いてもらい、国家、国民のための政策実現に向けて邁進してもらうことを期待をいたしております。
これまでの1年を振り返るならば、大きな前進のためのいろいろな基礎を築くことができたというように自負いたしております。皆様方にも、いろいろとお世話になりまして、心から感謝を申し上げます。
以上、私の辞任の気持ち、考え方でございます。
【質疑応答】
● 総理は、今、辞任を表明されましたが、具体的にいつの段階で、その決断をされたか。それと、前安倍総理も、こうした形で唐突に政権を投げ出されたんですが、福田総理も同じ形になるんですが、そのことで政治不信とか、政権に対する不信がまた巻き起こるんではないかと思われますが、総理はどうお考えでしょうか。
全く私は安倍前総理のケースとは違うと思っております。安倍前総理は、健康の問題があったわけです。私は健康の問題は、目が見えにくくなったということ以外、特別な問題はございません。これは私がこれからの政治を考えてどうあるべきか、ということを考えた上で決断したことでありまして、いつそういうように考えたかと言えば、過去いろいろ考えましたけれども、先週末に、最終的な決断をいたしました。
● 今、新しい体制を整えた上で、国会に臨むべきだというふうなお考えを表明されましたけれども、新しい体制になれば、どのような点で、今の事態は打開できるとお考えでしょうか。
これは、我が自由民主党のことを申し上げて恐縮でございますけれども、総裁選挙をすることになると思います。そして、選ばれた新しい総裁が、総理大臣の指名を受けるというふうなプロセスになると思っておりますけれども、それは私が続けていくのと、新しい人がやるのと、これは間違いなく違うというふうに私が考えた結果でございます。それは、いろいろな状況を考えて政治的な判断をしたということでございます。
● 総理が、今、冒頭で挙げられた消費者庁、道路等々の成果の問題ですけれども、まだ、いずれも道半ばで、御自身の手でこういう成果を仕上げていくことこそ責任だというふうにお感じになるのが普通だと思うんですけれども、それを新体制でもってやってほしいとお考えになるのはなぜか。もう一つは、総理大臣という職が、お辞めになること自体が政治的空白を招くのではないか。国民が、今、景気等々状態が悪いときに辞めること自体が空白を招くのではないか、そういうことを感じるんですけれども、どのようにお考えになりますか。
消費者庁のことにつきましては、これは、大体法案がまとまったということでありまして、この趣旨は、国会にこれから説明をしていく。私に続く人がこのことを重要に考えてやってくださる、それを期待いたしておりますけれども、そうしてくださると思っておりますけれども、それはここまでまとまれば、あとは国会でどういう審議をされるか、また、その点について野党とどういう話し合いをしていくかといったようなことになりますので、それはお任せするしかないというように思います。これは、無責任だと言われれば、全部終わるまでやっていなければいけない。しかし、本当にやっていられるかどうかという問題もあるんです。第2の問題ですけどもね。私が続けていって、そして国会が順調にいけばいいですよ。そういうことはさせじという野党がいる限り、新しい政権になってもそうかもしれませんけれども、しかし、私の場合には、内閣支持率等も大分あるかもしれませんしね、いろいろな状況がありますから、その辺は大変困難を伴うのではないかと思います。そしてまた、政治空白というお話でございますけれども、今が政治空白をつくらないという意味においては、一番いい時期だと私はいたしたわけです。例えば国会の途中で何かあるといったようなことを、想像してもしようがないんでけれども、もし仮にそういうことがあったならば、そのことの方がより大きな影響を国民生活に与えるというふうに思っております。いろいろこれから大事な法案、政策を打ち出すわけでありますけれども、法案だけ考えましても、経済対策あり、そして例の給油法の問題もあり、また消費者庁もある、また前国会の積み残しもたくさん大事なものがございますから、そういうものを順調に仕上げていかなければいけない。そのためには、私が、いろいろ考えましたよ、判断した結果、今、辞任をして新しい人に託した方がよりよいという判断をしたわけです。
● 総理、今日は夕方に麻生幹事長と約1時間ほど会っていましたが、どのようなお話をされたのかということと、それから自ら幹事長に起用された麻生さんを次の総裁選でも、総理は支持していくということになるんでしょうか。
今日は、麻生幹事長、それから町村官房長官の両氏においでいただきまして、私の考え方を説明を申し上げました。いろいろなやりとりがありまして、時間もかかりましたけれども、そういうことであったということであります。それから、その後のことは、これは自民党の党内でどうするかという問題でありますけれども、総裁選挙の日取りとか、手続きを進めていただきたいということを麻生幹事長にお願いをいたしました。
● 2つお伺いいたします。1つは、今回御決断に至る過程で、総理御自身が、これまで解散総選挙を御自身の手でやるというふうに考えたことはあるのか、ないのか。
私がですか。
● はい。あともう一点が、民主党との間では、大分、ねじれ国会の下で政策遂行が難航したようですけれども、民主党の小沢代表に対して御自身からおっしゃりたいことがあれば。
確かに、ねじれ国会で大変苦労させられました。話し合いをしたいと思っても、それを受け付けてもらえなかったということが何回もございましたし、与党の出す法案には真っ向反対。それも重要法案に限って真っ向反対というようなことで、聞く耳持たずということは何回もございました。
私は小沢代表に申し上げたいのは、国のためにどうしたらいいかということ。これは虚心坦懐、胸襟を開いて話し合いをする機会がもっとあったらばよかった。そういう機会を持ちたかったということを申し上げたいと思います。
● 総理は1か月前に御自身の手で内閣改造を、それもかなり大幅な改造をなさったばかりですけれども、そのときも、このメンバーで臨時国会を乗り切るための強力な布陣をしいたと思われたはずだと思うんですが、その内閣のメンバーをわずか1か月、国会も迎えないうちに自ら総辞職という形を取らなければいけないというようなことになったことについて、もう一度、御見解をお願いしたいのと、そうであるとするならば、総理御自身が、この臨時国会を乗り切るために御自身として何が足りなかったのか。それをどのようにお考えになっているのか、お話を聞かせていただけないでしょうか。
私が1か月前に内閣改造をしたということ。それで、なぜ、その1か月後に任命した総理自身が辞めるのかというふうなことで、これはもっともなお話だと思います。しかし、私も内閣改造をしたときには、少なくとも、この重要な案件については何とかしたいという意欲を持っておりました。ですから、そういう布陣をした。特に、経済については特に重視しなければいけないという思いがございました。その改造の前辺りから経済対策を打たなければいけないというふうなことでもって、いろいろと考えをめぐらせておった。そういうことがございますので、新内閣になりまして、早速、この経済対策に手を付けていただいたということがございました。しかし、それが先週末に一応の決着を見たということであります。今、現在、どうして組閣当時と考え方が変わったのかと申しますと、これはその後のいろいろな政治の状況がありますので、そういうことを勘案して、そして、この臨時国会が少しでも順調に行くようにと考えまして、私が自身でやるよりは他の方にやっていただいた方がよりよくいくのではないか。また、野党の方は解散、解散と言って煽るわけです。解散ということがありますと、それは議員心理というものはまたいろいろございますので、その議員心理の結果、また政治情勢が不安定になってはいけない。そういうことになった場合には、これは国会議員だけでの話ではない。やはり国民全体に御迷惑をおかけすることだ。そうすれば、国会に一番迷惑をかけない時期に私がそういうような表明をするということが一番いいのではないかというように考えまして、この時期を選んだんです。これが一番いい時期だと思っております。
● 一般に、総理の会見が国民には他人事のように聞こえるというふうな話がよく聞かれておりました。今日の退陣会見を聞いても、やはり率直にそのように印象を持つのです。安倍総理に引き続く、こういう形での辞め方になったことについて、自民党を中心とする現在の政権に与える影響というものをどんなふうにお考えでしょうか。
現在の政権。自民党・公明党政権ですか。
● はい。
それは、順調にいけばいいですよ。これに越したことはないこしたことはない。しかし、私のこの先を見通す、この目の中には、決して順調ではない可能性がある。また、その状況の中で不測の事態に陥ってはいけない。そういうことも考えました。他人事のようにというふうにあなたはおっしゃったけれども、私は自分自身を客観的に見ることはできるんです。あなたと違うんです。そういうことも併せ考えていただきたいと思います。
どうもお世話になりました。  
内閣総辞職に当たっての談話 / 平成20年9月24日
衆参決議が異なる、この未曾有の国会状況の中、私は揺るぎの無い使命感を心内に秘め、内閣総理大臣に就任いたしました。
私の使命感、それは自身の内閣の寿命を考えず、日本国と日本国民に明確な道標を提供し、この道標を確実に次の世代にバトンタッチしていくことでした。
国会運営が遅滞を生じざるを得ない状況下、補給支援特措法案成立のために臨時国会は再度の延長を要し、歳入関連法案も予算成立から一ヶ月余遅れ、日銀正副総裁人事は四人もの候補者が否決されました。
理由の如何に拘わらず、結果として十分な対応が出来なかったことにつき、国民に対し責任を痛感しておりました。私が何よりも重く考えていたことは、「政治に対する国民の信頼」であったからです。
今日、国の内外は大きく変化しています。政治・行政の、「生産力の拡大強化」という従来の考え方や手法だけでは、国民の幸せに繋がらない時代になりました。
これまでの政治や行政を根本から見直さなければならない。
消費者庁設置法を決定したのはその一例であり、道路特定財源の一般化、国民の立場に立った行政を展開するための公務員制度改革、さらには徹底した行政経費の削減などに、全力を尽くしました。
私の想う「国民目線」とは、これらの施策を連携させ、構造体として作り上げていくことです。この改革は緒についたばかりですが、その進むべき道標を立てることはできたと考えております。
わが国は、景気の転換点を越えました。また、資源の逼迫と価格高騰、低炭素社会への転換、行き過ぎた金融経済が引き起こす問題、人口減少などの、構造的課題への対応にも迫られています。
私が、洞爺湖サミット等を通じて提言した環境問題への取り組みをはじめ、内外の課題に対峙する今、何よりも大切なことは政治の安定です。私は、自らの使命感に基づき、内閣総理大臣を辞任いたしました。
これまでの国民の皆さまの温かいご支援に対して、心よりの感謝を申し上げます。  
 
麻生太郎

 

2008年9月24日-2009年9月16日(358日)
2009年8月25日、宮城県多賀城市で街頭演説し「政治はばくちじゃない。(民主党に)ちょっとやらせてみようか、というのは違う話だ。」と訴えた。
2009年8月26日、愛知県のJR豊橋駅前での街頭演説で「政権交代してその先に何があるかわからない。政権交代の先は景気後退だ。われわれは少なくとも革命を起こすつもりはない」とも述べ、政治の安定の必要性を強調した。
経済
野村総合研究所の主席研究員であるエコノミストのリチャード・クーが「経済政策の理論的支柱」として麻生の財政出動を中心とする政策作りに協力していると朝日新聞で報道されている。
定額減税や公共事業を中心とする財政出動に積極的な意向を示しており、財政健全化よりも景気対策の優先を提唱している。2008年になってからは、財政健全化を目指した小泉政権の構造改革路線を見直し、「基礎的財政収支(プライマリーバランス)の11年度黒字化目標」の延期に言及している。
消費税の増税に関しては、「もはや、広く薄い負担を税制に追加していくとしたら消費税しかない」として消費税増税を示唆したが、2008年9月に世界的な金融危機が発生すると「消費税増税を早期に行えば、著しく景気を冷やす」として、当面の増税を見送ると述べる一方で、2011年以降に10%を超える水準まで消費税を引き上げる意向を示した。
2008年11月14日に開催された、第1回金融サミットがワシントンD.C.開催され、ジョージ・W・ブッシュが最初の発言に指名したのが麻生だった。サミット直前、英国との二国間首脳会談でゴードン・ブラウンとドル基軸通貨の堅持と実体経済への対応が確認されていた、麻生に対し「ドルは基本通貨に成り得ない。20世紀確立された金融システムを21世紀にも踏襲することは不可能だ」とニコラ・サルコジ仏大統領が反論するも、「その場合、さらなるドル暴落が避けられなくなるが、新興諸国の損害を担保する覚悟があるのか?」と尋ね、「我々にそんな計画はない。」と論破させた。11月14日から11月15日(現地時間)まで行われ、日本が提示した15項目のうち、実に12項目もが宣言文の中に明記され、麻生案をベースに世界が一致して行動することが決まった。
労働問題に対しては、「企業の生産活動で得られた付加価値の分配は個々の企業が判断する」と述べ、企業の給与体系に対して国家が介入することに否定的な見解を示した。
首都圏と地方の間の格差問題については、「地方の自立には、きちんと財政出動をやって、道路、交通網を整備しないといけない」として地方経済振興の為に公共事業が必要との考えを示している。また、「(地方の)医療、介護が一番しんどいのではないか。病院をつくるより病院と結ぶ道路を造った方が安い」と述べ、道路交通網の整備による緊急医療体制の充実を訴えている。
景気対策
2008年(平成20年)10月30日には、リーマンショック以降の世界的な金融危機と景気低迷への対策として事業総額26兆9000億円の追加経済対策を発表。2度の補正予算と2009年(平成21年)年度予算の"3段ロケット"として、最終的には75兆円の景気対策を実施した。
 1.定額給付金の支給(1人1万2千円、65歳以上・18歳以下は1人2万円)
 2.高速道路料金の土日祝日最高1000円(普通車・軽自動車でETC搭載車限定)
 3.東京湾アクアラインの料金を普通車800円に値下げ
 4.エコカー減税・エコカー補助金
 5.家電エコポイント制度(冷蔵庫・薄型テレビ・エアコン)の実施
 6.住宅ローン減税(過去最高600万円の減税)
 7.妊婦検診の無料化(5回→14回)
 8.出産育児一時金の増額(全国一律に4万円引き上げ)
 9.中小企業への支援(緊急保証枠6兆円、保証・貸出枠30兆円に拡大)
 10.雇用保険料の引き下げ(標準世帯で年額約2万円)  などである。
金融危機を回避するという緊急性から急遽決定された政策でもあったことから、きめ細かさに欠けるところがあるとの指摘もあったが、エコカー減税や家電エコポイント制度は鳩山由紀夫内閣にも引き継がれた。
定額給付金について
小渕内閣の地域振興券とよく似た、2兆円を超える定額給付金(「4人家族で6万円程度になる」としている。実際は一人1万2千円を給付)を全世帯に支給した。この政策については、以下の通り評価が分かれている。
否定的な評価としては、毎日新聞が過去の「地域振興券」が消費ではなく貯蓄に回ったことから、この政策も「景気を浮揚させる効果は期待できない」との見方を示し、11月26日に開催された全国町村長大会では定額給付金を巡る不満が噴出していると報道した。
肯定的な評価としては、経済協力開発機構(OECD)経済局のシニアエコノミスト、ランダル・ジョーンズが「即効性がある最も有効な措置」だとの見方を示した。
定額給付金の成果については、消費拡大に一定の効果を生み、家具や家電などの購買を促進させるなど、新たな消費を生むきっかけになったと麻生の総理大臣退任後に報道された。 
外交と安全保障
外務大臣時代に、当時のブッシュ政権の中心にいた新保守主義の考え方に近い、自由と民主主義、法の支配、市場経済を重視する「価値の外交」(価値観外交)と、同じ価値観を持った国家と連帯する自由と繁栄の弧を唱えた。また、情報収集能力や諜報などのインテリジェンスを重視し、手嶋龍一から高く評価されている。
発展途上国への政府開発援助政府開発援助(ODA)には積極的な姿勢を取っている。2007年1月26日、「ODAは、我が国外交の重要な手段であります。国際社会の一員としての責務を果たし、かつ、自らの繁栄を確保していくために、ODAを一層戦略的に実施します。「自由と繁栄の弧」形成のためにも、ODAを活用していきます。そのうえで、ODA事業量の100億ドルの積み増し、また対アフリカODAの倍増など、対外公約を達成すべく努めてまいります」と述べた。アメリカ合衆国2003年のイラク戦争の国連としての方針がまとまらないまま米軍による開戦目前となった際に主要閣僚として小泉首相に対して「アメリカというプレイヤーを選択するのか、国連というフィールドを選択するのかを決めることになる」と表現した。その後の2007年2月3日の京都市内の講演で「ドンパチが終わった後が大変だというのがイラクで分かった。(イラク戦争においてアメリカがイラクを)占領した後のオペレーションは非常に幼稚」とアメリカのイラク占領政策について批判をした。東アジア韓国に対しては、日韓議員連盟の副会長も務めており、首相在任中は、日韓シャトル外交を定着させるなど日韓の親善に尽力した。麻生が議長を務める夢実現21世紀会議の「国づくりの夢実現検討委員会」を通じて日韓トンネルの実現に向けた政策提言を発表していることが2003年に自民党機関紙で伝えられた。2007年1月26日に「日本と韓国は、互いにとって最も近く、基本的価値を共にする大切な民主主義国同士であります。そのような間柄にふさわしい、未来志向の関係を打ち立てます」と述べている。また、2005年12月25日の韓国の大手メディアである中央日報のインタビューで、「韓国に一年に2度ずつ計40-50回ほど行っているが、私が知っているかぎり今の両国関係が最も良いのではないかと思う。それは韓国の生活水準が良くなり、自信をつけているためと思われる。サムスンだけでなく、韓国製品が非常に良くなった」と発言している。中華人民共和国2008年10月24日、北京の人民大会堂で開かれた「日中平和友好条約締結30周年記念レセプション」に内閣総理大臣として参加し「『友好』というお題目のため遠慮する関係ではなく切磋琢磨して協力していくことこそ真の戦略的互恵関係」と挨拶し、日中が競い合うことで「共益」を実現し、両国関係強化につなげる方針を打ち出した。2009年4月の日中首脳会談では、麻生が中国への核軍縮を求め、温家宝首相が歴史認識問題を追求したため緊迫したが、日本が中国の環境汚染や廃棄物対策に協力する「日中環境・省エネルギー総合協力プラン」で合意したほか、羽田―北京間の定期チャーター便を開設することや、閣僚級による日中ハイレベル経済対話を日本で開催することを決定した。中華民国・台湾親台派として知られ、総理大臣辞任後も台湾政界に太い人脈を持つ。参院予算委員会で「民主主義が成熟し、経済面でも自由主義を信奉する法治国家であり、日本と価値観を共有する国」と発言し、中国のメディアから「日本の外相が『台湾は国家』と発言」と非難され、台湾からは絶賛されたこともある。北方領土問題2006年12月13日の衆院外務委員会において、北方領土問題を解決するために北方4島(択捉、国後、色丹、歯舞)全体の面積を2等分して、半分をロシアに譲ることにより解決を目指す考えを示した。これは元首相の海部俊樹から「北方領土の返還は党是だ。党の基本問題として守るべきものは守ってきちっとやってほしい」と批判された。核武装論2006年10月、自民党政調会会長(当時)の中川昭一が「核武装論も選択肢として考えておくべき」と発言したことで一部から非難を受ける。麻生は非核三原則の堅持を明言を前提としつつも、「隣の国が持つとなったときに、1つの考え方としていろいろな議論をしておくことは大事だ」「日本は言論統制された国ではない。言論の自由を封殺するということに与しないという以上に明確な答えはない」と発言した。この発言が原因で、12月に民主党、社民党、共産党ら4党から外相としての不信任決議案を提出された。2009年11月23日、総理大臣時代に、日本に対する米国の「核の傘」を堅持させるため、米議会が中期的な核戦略検討のために設置した「戦略態勢委員会」に外交工作を展開していたことが発覚した。憲法改正論議2008年9月の国連総会での演説後、自衛隊の集団的自衛権の行使について「できるようにすべき」と憲法改正もある程度は必要との認識を持っている。
インドとの安全保障協力共同宣言
麻生の内閣総理大臣就任後の2008年10月21日から23日にかけて、インドの首相マンモハン・シンが日本を訪れた。麻生はシンとの首脳会談に臨み、外交と防衛における対話、船舶の安全航行などの協力について合意した。その後、両者は国際問題に関する情報交換、船舶の安全航行、テロとの戦いを骨子とする「安全保障協力に関する共同宣言」、日本とインドのあいだで合意済みの諸事項の一層の促進を求める「戦略的グローバルパートナーシップの前進に関する共同声明」に署名。麻生はこの会談で日本とインドの経済関係の促進に前向きの姿勢を見せ、デリー-ムンバイ間の貨物鉄道建設計画に総額4500億円の円借款を供与することを伝えた。麻生はシンに対し、NPTに未加盟のインドに対する原子力協力分野での協力について慎重な日本の立場を説明した。経済連携協定交渉については、早期妥結を目指すことで一致した。麻生との共同記者会見の席でシンは、意見交換を行った22日の首脳会談を「非常に生産的で充実したものであった」とした。シンは麻生に対して「古くからのそして非常に尊敬すべきインドの友人」と述べ、2年の間に首相として2度来日したことについて「2年の間に2度来日しているという事実が、インドが日本との関係をいかに重視しているかを表している」と強調した。  
歴史認識
日本統治時代の朝鮮・台湾に対しては肯定的側面もあったとする発言をしている。2003年5月31日、東京大学学園祭において「創氏改名は朝鮮人が望んだ」、「日本はハングル普及に貢献した」と述べた(当該項目も参照)。また、2006年2月4日の福岡市での講演において、日本が植民地台湾の義務教育に力を入れたと指摘したうえで「台湾はものすごく教育水準が上がって識字率などが向上したおかげで今極めて教育水準が高い国であるが故に、今の時代に追いつけている」「我々の先輩はやっぱりちゃんとしたことをやっとるなと正直そのとき思った」と述べた。
2007年3月21日、長崎県時津町で講演。日本独自の中東和平外交として、ヨルダン渓谷の開発を進める「平和と繁栄の回廊」構想に触れ、「米国人にできないことを日本がやっている。日本人というのは信用がある。青い目で金髪だったら多分駄目よ」「われわれは幸いにして黄色い顔をしている。そこ(中東)で搾取をしてきたとか、ドンパチ、機関銃撃ったとか1回もない」と述べた。
2006年5月26日、アジア各国の政府首脳や経済界リーダーを招いた国際交流会議「アジアの未来」において「近代の生んだ毒......。それはすなわち『国民国家』であり、『自民族中心主義』という意味に規定される『ナショナリズム』でした。この2つは、地図に黒々と、太い国境を引く思想でした。また時として、その国境を外へ外へ、無理やりにでも広げていくのをよしとする考えでした。(中略)他人(ひと)のことは言いますまい。日本人は一度、国民国家とナショナリズムという、強い酒をしたたかにあおった経験があります。皆さんこれからのアジアは、国民国家の枠、ナショナリズムの罠に絡め取られるようではいけません」と述べた。
2008年10月2日には日本の過去のアジア支配に対する反省と謝罪を明確にした「村山談話」について、「いわゆる村山談話と17年8月15日の小泉純一郎首相の談話は、先の大戦をめぐる政府としての認識を示すものであり、私の内閣においても引き継いでいく」として麻生内閣でも、明確に堅持する方針を示した。同年10月31日には航空自衛隊幕僚長の田母神俊雄が旧日本軍の侵略行為を否定する論文を執筆していたことが判明したが、麻生は記者団に対して「個人的に出したとしても、立場が立場だから適切ではない」と述べた。
麻生内閣メールマガジン「太郎ちゃんねる(2008年12月4日配信)」において、「1941年12月に第二次世界大戦が真珠湾攻撃で始まる」と書いたことについて、「1941年12月に始まったのは第二次世界大戦ではなく太平洋戦争である。この歴史認識は知性を疑われる恥知らずの間違い」として、野党から国会での謝罪と訂正を求める質問主意書が提出された。
日本軍慰安婦問題
内閣総理大臣としては河野談話を踏襲することを表明したが、アメリカ合衆国下院に提出された慰安婦問題をめぐる対日非難決議案にある「日本軍による強制的な性奴隷化」といった記述について「客観的な事実にまったく基づいていない」と強い遺憾の意を示している。首相はまた、国連の自由権規約委員会が従軍慰安婦に対して日本政府に謝罪と補償などを行うよう勧告したときも、第171回国会において、内閣総理大臣として「この勧告は、法的拘束力を持つものではなく、市民的及び政治的権利に関する国際規約の締約国に対し、当該勧告に従うことを義務付けているものではないと理解している」と述べ、慰安婦に対して謝罪や賠償をする意思がないことを表明した。麻生個人の見解としては、慰安婦問題をめぐる対日非難決議案は、日本と米国が緊密な関係になることを良しとしない第三国による日米離間工作であると見なしている。
靖国神社問題
麻生は常々「国の為に殉じた人を最高の栄誉をもって祀る事は、国際的にごく当たり前であり、他国からどうこう言われる話ではない」という持論を掲げており、靖国神社に対して否定的ではない。
2006年(平成18年)8月8日付の朝日新聞朝刊にて『靖国にいやさかあれ』という論文を寄稿した。
政治家の靖国神社問題については、政教分離が問われるなど一番の問題は靖国神社が宗教法人であることだとしており、2006年の総裁選では総理になった場合に靖国神社を非宗教法人化(国が関与できる特殊法人への移行)し、国立追悼施設にすることを公約に掲げた。2008年10月にも「神社という名前が問題なら、靖国廟でも招魂社でもいろんな形がある」として、非宗教法人化を支持する姿勢を示している。
2006年には、「首相になった際には靖国参拝を自粛する」という考えを示していた。2008年に首相に就任した直後には「行くとも行かないとも答えることはない」として曖昧な姿勢を見せている。外交問題に飛び火した小泉首相の参拝について「中国が(参拝を中断しろと)言えば言うほど行かざるを得ない」とし、「これはタバコを吸うなと言うと吸いたくなるのと同じだ」と述べた。麻生本人は外相在任当時、外務大臣は個人ではないという理由で靖国神社には参拝しなかった。
A級戦犯の分祀については、「靖国神社に戦死者でない人が祭られていることが非常に大きな問題点だ」「(首相の参拝について)他の国々、国内からいろいろ言われないよう、英霊から感謝されるような形で参拝できる制度を考えるべきだ」との見解を示しているが、靖国神社が宗教法人である限り政治の介入による分祀は厳に慎むべきであるとしている。そのため、靖国問題の解決策に関しては、靖国神社の非宗教法人化を行い、国が関与できるようにしてA級戦犯を分祀することを「1つの方法」と発言し、「望ましい」として賛成している。
2006年1月28日、名古屋で行われた公明党議員の会合で、「英霊は天皇陛下のために万歳と言ったのであり、首相万歳と言ったのはゼロだ。天皇陛下が参拝(正確には「親拝」という)なさるのが一番だ」と述べ、「(天皇が)公人か私人かという論議のため参拝できなくなったが、解決の答えはいくつかあるはず」と付け加えたが、批判を浴びると「今の状況で天皇陛下に参拝していただきたいとは一切言ってない」と発言を修正し、釈明した。
日本と韓国の緊張関係について、「両国が靖国問題にあまりにも執着しているのが最も大きな問題だ。当分はマスコミが靖国問題を書かないのが一番よさそうだ。問題をあおって増幅させた」との考えを表明している。
2006年5月26日に都内のホテルで開かれた国際交流会議「アジアの未来」で講演し、「23日に自分がカタールで中韓の外務大臣と会談したので関係改善の流れが出て来た」と発言。これに対して韓国産業資源部長官は、「アジア共同体形成に関して各国間合意はできたが、韓中日の共同体構築努力が他地域に比べ足りない、原因は一部政治家の靖国参拝や歴史問題だ、ヨーロッパがいかにしてこれを克服したか考えて欲しい」と講演した。
首相在任中の2009年には「(靖国神社は)最も政治やマスコミの騒ぎから遠くに置かれてしかるべきものだ。もっと静かに祈る場所だ」として、終戦の日に靖国神社参拝を行わない意向を示した。
2009年10月17日には、首相在任中には参拝しなかった靖国神社に参拝した。  
2007

 

「自由民主党総裁選挙」 / 平成19年9月26日
八つの派閥の巨大連合を相手にして、小派閥ひとつを元手に徒手空拳で立ち向かった候補が予想外の善戦だったと他人はいう。判官贔屓の国ではあるし、いまだにサプライズが好きな劇場型政治が続いるのかもしれない。だが、私と私の同志にとっては予想通りの百九十七票であった。
九月二十三日の自由民主党総裁選で開票結果を待つ直前、私は会場で瞑目しつつこう考えた。
政治メディアの予想は、麻生は国会議員票で五十票しか固めておらず、地方票を含めて全体で百票を超えるかどうか、よくても前回平成十八年総裁選の百三十六票を超えるのがやっと、というものである。福田陣営が「福田康夫は四百票は超える。麻生太郎を百票以下に押さえ込んで政治生命を断つ」と言っているという話も聞いていた。だから、福田氏には四百票を切らせる、そして我が方は倍の二百票はとらないと格好がつかない。そう覚悟していたのだ。
別段、強がりや後付ではない。常々、私は「自分の選挙以外の票読みには自信がある」と言ってきた。だから私は総裁選の朝、信頼する同志たちと実際の票固めの反応をもとにあくまで慎重に数字を弾いたのだが、その結果は「最大百九十五票」というものだったのである。
結局、地方の都道府県連票と国会議員票で最大予想に二票積んで百九十七票を獲得した。確かに全体の三十八%という重い数字をいただいたことは満足すべき結果だったと思うべきかもしれないが、私も私の同志の反応も正直に言えば「二百票にあと三票足りなかったな」というものだった。
不思議な数字ではなかった。都道府県連票で言えば、東京や大阪、香川、宮城といった街頭演説を実施した場所や、神奈川、千葉、愛知など都市部で福田氏に競り勝ち、一般党員票の総計でも勝った。平成十三年の小泉純一郎氏圧勝の総裁選を持ち出すまでもなく、地方の現場の党員票の勝利を民意に敏感な国会議員が無視できるものではない。
百九十七票の原動力
さらに過去十年以上、常に総裁選で派閥合従連衡型の候補と戦ってきた私の経験でいえば、今回の福田陣営の態勢は強い派閥選挙ではなかったのである。
例えば私が側近として河野洋平総裁の再選に失敗した平成七年の総裁選が典型だ。あの時、梶山静六氏ら経世会(小渕派)が橋本龍太郎氏担ぎ出しで党内各派閥を締め上げた選挙こそが派閥選挙の真骨頂だった。当選四〜六回生の中堅どころに集票と票読みのノルマを負わせ、そこに業界団体の力を背景に秘書軍団を含めた橋本陣営による国会議員への各個撃破が加わる。まさに「河野包囲網」が出来、戦わずして河野氏は出馬断念に追い込まれたのだった。
翻って、今回はどうか。伊吹派の中川昭一氏、山崎派の甘利明氏、そして古賀派の菅義偉氏と、まさに派閥選挙の中枢を担うべき侍大将たちが、派閥の福田支持という重圧をはね除けて麻生陣営に加わってくれた。それは猛烈な感激であったのと同時に、「麻生包囲網」と言いつつ実際の福田陣営とは所詮、派閥領袖と選挙が苦しい当選一、二回の若手の声が目立つだけで、その実相は、中堅どころの活動の見えない、あるいは鈍い、一種の空洞化現象を起こしているのであり、十分勝負になると判断できた大きな理由ともなったのだ。
加えて党首力とその政党トップの政策・公約が選挙の帰趨を決めるこの時代である。福田氏に対し対北朝鮮外交にせよ靖国神社参拝問題にせよ、小泉・安倍時代に少なくとも自民党が歩んできた真っ当な保守政治の歩みに逆行しかねない曖昧さを持つとして、その時代を共有してきた自民党の中堅議員たちが言葉にならずとも打ち消せない違和感を感じているのもまた、選挙戦を通じて私に頻々と伝わってきた。
さらには世論との一体感である。総裁選が終わり、役員会その他の準備にとりかかろうとしていると、私の秘書がやってきて言うには「党本部の外が大変なことになっています。若者が五百人からそこら集まって麻生コールが続き、これでは収まりがつきません」ということだった。確かに前日の新宿のアルタ前の街頭演説で私の応援弁士が「明日は総裁選のある党本部に来て麻生を応援してほしい」と言い、私がインターネットの2チャンネルをチェックすると「永田町は日本で一番警備の厳しい場所です。あしたはみんなネクタイ着用でよろしく」という書き込みがあって、それなりに若者が集まるだろうとは思ってはいた。だが、確かに秘書に促されて党本部前の道路に出ると、これは大変な集団だ。中央分離帯にまで出て「ありがとう」と叫ぶと、ようやく納得して彼ら彼女らは帰ってくれた。
戦後の自民党総裁選の歴史で、敗れた候補が党員票で勝利した候補を上回ったのは初めてだろう。そして、これまで一番政治から縁遠かった若者たちを含む一般国民の民意と永田町の派閥政治との乖離。私にとっては、それを実感でき財産にもできた総裁選であった。
「安倍辞任劇の真相」
ここでひとつ、後世の歴史家のためにも、安倍晋三前首相の辞意表明を巡る一連の出来事の経過をきちんと記録に残しておきたい。これは何も、この総裁選の最中に「麻生は安倍首相の辞意を知りつつ、誰にも明かさずに総裁選の準備を進めた」だとか「安倍首相は実は、内閣改造で麻生に裏切られたと漏らした」だとか言われた「麻生クーデター」説の汚名を晴らしたいだけではない。一国の首相の辞任という判断は限りなく重いものだ。それが、首相が万全に語らぬことをいいことに、誤った形で歴史の事実となることだけは絶対に許されるべきでないと思うからだ。
安倍首相がシドニーから帰国した九月十日夕、定例の自民党役員会があり、その終了後、その場で首相に「ちょっと残っていただけませんか」と呼び止められた。
小泉政権以来、閣議でも役員会後でも首相にそんな形で相談を受けることはよくあったから、私は深い思いもなく安倍首相と向き合った。彼は、ブッシュ米大統領に約したテロ対策特別措置法の延長が頭にあったのだろう、「麻生さん、いまは戦後保守の最後の戦いなんです」と言った。だが続いて語った言葉は予想外のものだった。安倍首相は「体力、気力が段々なくなってきたんです」と言ったのだ。
私は「いや、今日の所信表明演説は良かった」と答えたのだが、首相は「体力、気力の衰え」を何度も口にした。後で思えば、私の想像力の欠如だったのだが、正直言ってそれがまさか辞意を漏らしたひとことだとは思わなかった。私がそれに気づかされたのは翌日のことである。
十一日昼、政府与党連絡会議のあと、私は首相にまた呼ばれた。公明党の太田昭宏代表が次の面会者らしく、官邸の別室で待っているのが目に入った。彼の用件は何だろうと訝しみつつ向き合うと、首相はいきなりこう言ったのである。
「麻生さん、昨日もお話ししましたが、体力、気力の両面でこの国会を乗り切る自信がなくなりました」
さすがにそれなら辞意だとわかる。だが私は言下にそれを否定した。
「テロ特措法の延長を心配されておられるなら、これは私ら執行部も協力して何とか通します。そういうことを言われるのは、テロ特措法の延長が実現した後です。いまは言うべきときではない。最悪のタイミングです」
それから先ほどの光景の意味にようやく気が付き、「まさか、太田代表に言われるおつもりではないでしょうね」と尋ねると、果たせるかな、「そうです」との答えである。
「ちょっと待ってください。太田さんに言ってしまえばもう流れは止まりません。何より、まだ自民党に説明していないではないですか。しかも代表質問も終えていない。何にせよまずこの国会での仕事を終えてからの話のはずです」
その会談でも首相は結局のところ、いつ辞めるかはもちろん、私の翻意への説得に対しても最終的な結論は口にされなかった。ただ、そのあと、首相は中川秀直元幹事長に会っている。そこで首相は中川氏にも辞意を伝えたのではないか。与謝野馨官房長官が記者会見で「麻生氏以外にも事前に安倍首相の辞意を知っていた人物がいるはず」と喝破したのも、そうした経緯を踏まえてのことだったのだろう。
その晩、私は、テロ特措法を巡る自民、公明両党の幹部協議を午前一時まで続けた。自民党の大島理森国会対策委員長がその席で「安倍首相の指示で小沢一郎民主党代表との党首会談を申し込んでいる」と報告した。首相が党首会談に意欲を燃やしているということは、気力が回復して辞任を考え直したのではないか。誰にも相談できぬまま、私はひとりでそう自分に言い聞かせていた。
それ以上に私は、国民の生命を究極的にあずかる総理大臣という職務は限りなく重いものであり、厳しいかもしれないが自分個人のことより国益を優先すべきだと確信していた。首相の健康や精神状態を繊細に思いやることができなかった自分の鈍感さは弁解の余地がないが、やはり国際公約たるテロ特措法の延長を仕上げた上で政権の幕をひくべきではなかったか。今に至るも私の考えは変わらない。
だが、大島氏が翌十二日、小沢代表から党首会談を拒否されたと電話で報告すると、首相は大島氏を官邸に呼び、「代表質問は受けられない」と正式に辞意を伝えた。私はそのとき事務所にこもり、自分の代表質問の原稿の最終推敲をしていたが、首相からと大島氏からの電話がほぼ同時に鳴った。
首相の電話に先に出ると、「麻生さん。本当に、他言しないという約束を守っていただきました。でもいま大島さんに伝えました」と言われた。ここに至ってはもう辞任の流れは止まらないと覚悟し、「わかりました。それでその話をいつされますか」と聞くと、「今日の代表質問の前です」との答えである。代表質問の原稿を机に放り投げ、大島氏の電話に出た私はもはやこう言うしかなかった。
「話はわかっている。緊急の役員会を開こう」
私は十四日に首相のお見舞いに行った。言葉少なに「本当にご迷惑をかけた。どうしても体力が続かなかった」と語る首相に、私は「正直、首相の体調のことに思いをはせられなかった」と頭を下げたが、それでも内閣と政権党を二人三脚で担ってきた間柄である。「首相、同じ辞めるなら所信表明演説の前ではなかったですか」と申し上げた。
ひょっとすると、こうした経過を総裁選の最中に明かしておけばクーデター説は払拭され、選挙に有利に働いたというむきもあるかもしれない。だが私は、この未曾有の自民党の危機の折、党のイメージを決定的に損なう泥仕合だけは避けたかった。だいいち、安倍首相の身内を別にすれば、病室に入ることができたのは私と与謝野氏だけである。クーデター説が本当ならその首謀者を病室に入れるわけがない。少し考えれば誰でもわかることであり、良識ある国会議員がそんな謀略説を鵜呑みにするとは思っていなかった。
あるいは、総裁選の日程について、私が幹事長の職権を利用して九月二十三日ではなく十九日投開票という短期決戦を仕掛けて一気に麻生後継の流れをつくろうとしているとの批判もあった。そもそも十六人しかいない小派閥だけが拠り所の私にすれば、総裁選の日程が延びて、街頭演説やテレビでの政策論争を通じて地方票を掘り起こしていった方が有利に決まっている。この点でも麻生謀略説を流す反麻生陣営の理屈を不思議なことを言うと思ってはいた。しかも十九日投開票を主張したのは私ではない。
ポイントは二十五日に予定された国連総会への首相及び外相の出席だった。もとより昨年も安倍総裁を選出した九月の総裁選のあおりで、日本は首相も外相も出席していない。二年連続の不参加は絶対避けるべきだとの腹合わせは既に以前から首相と私で繰り返し確認してきたことであり、だからこそ首相は正式に辞意を伝えた自民党五役との会談でその点を強調したのだ。それに応じて、国連総会に新首相、新外相が出席するには国会の首班指名その他の日程を勘案して「ぎりぎり十九日投開票が限界です」と提案したのは国対委員長の大島氏だったのである。
福田氏への違和感
思えば安倍政権はこの短い期間に、教育基本法の改正から防衛庁の省昇格、憲法改正の手続き法たる国民投票法の成立まで、戦後保守が果たせなかった国家理念確立のための足場を作り上げた。吉田茂、岸信介がかつてそうだったように現在の評価は厳しくとも、やがて歴史の審判が公正になされれば戦後保守史において必ずや再評価されるのではないかと信じる。そして、その基本路線を継承しつつ、さらに平成十八年の総裁選で安倍首相に次ぐ二位となり、ことあるごとに「首相になにかあったときにはそれに代わる存在となる」と公言してきた私にとっては今回、不利な戦いだから出馬を断念するという選択肢はなかったのだ。
しかも私は最初から福田氏が出馬すると思っていたし、逆に言えば出馬してもらわないと困ると思っていた。仮に私の出馬表明が先行すれば、その記者会見で福田氏の出馬を促そうとさえ考えていた。
福田氏と私は、歴史観や外交の分野で党内でも対極の位置にある。例えば、小泉政権下で私が政調会長、福田氏が官房長官であったときの話だ。北朝鮮からの拉致被害者五人の帰国問題に際しても、私や小泉首相、当時の安倍官房副長官らの北朝鮮に戻す必要などないという考えとは明らかに福田官房長官は立場を異にしていたと思う。
私はその時々、小泉首相にしても安倍首相にしても保守たるものの方向性、哲学では同根のものを感じていた。小泉首相の構造改革路線は、不良債権処理をはじめ保守政治の改革線上で一度は経なければならない道程だと思ったからこそ政調会長、総務相、外相として支えたし、その小泉改革の行き過ぎを是正すべく格差感の解消と公教育改革や憲法改正など保守の理念改革を志向した安倍首相に対しても外相、そして幹事長として仕えた。だが、福田氏の思想信条は近年の自民党の保守再生の流れとは異質のものだ。それに対しては、堂々と違う旗を立てねばなるまいと考えた。
それに、ここで福田氏が立たず、仮に私がその他の候補に勝って首相になっても、恐らく「反麻生」勢力は福田氏を担ごうとして非主流派として残ってしまう。総裁選で戦ってこそ強い首相になれる、いやその対決を経てこそ小沢民主党と乾坤一擲の戦いが出来ると信じていたのだ。
実は平成十八年の総裁選時の安倍首相も似たような心境だったのではないか。あのときも今回の森氏らと同様、福田氏を擁立する動きがあった。安倍首相は私との戦いを志向したのではなく、福田氏が出るなら自分が出ないと真正保守の流れが途絶えると案じたのではなかったか。正直、福田氏が出ず安倍氏が出るとなった時、私は一瞬だけ、自分は総裁選に出なくていいかもしれないと迷ったほどだ。
さらに今回の「麻生包囲網」は、参院選の惨敗にもかかわらず、私が安倍首相の続投を支持し、さらに八月末の内閣改造・党役員人事において、安倍首相を蚊帳の外に置いて麻生の主導で決めたのがケシカランとの批判が根底にあったのは間違いない。しかし、この点も首相の専権事項を無視した批判と言うしかない。首相の名誉のためにもここで事実を確認しておきたい。
確かに私は、参院で野党が過半数を制し、民主党が参院議長を取る逆転国会のもとで幹事長を引き受けるのであれば、何より政党間協議が眼目であり、首相と官房長官、幹事長、国会対策委員長の一本線だけは完全なる腹合わせのできる人物を置かねばならず、そこの妥協はできないと首相と話をしてきた。人事の前日、首相公邸から私の自宅へ電話がかかってきて、森氏の「町村信孝官房長官、古賀誠国対委員長」との腹案を二人で協議した時、私は自分の幹事長職務に直結するポストであるからその経験と手腕に期待して与謝野官房長官と大島国対委員長の案を提起した。場合によっては安倍政権の解散権行使の判断に直結する重要ポストは首相と私が完全に信頼できる人物を起用するしかないとの考えもあった。
もっとも、最後は首相の判断である。その人事案に賛同した首相に対し、私は電話で「そうなると官房長官も幹事長も総裁派閥とは別の派閥になります。それで清和会(町村派)は大丈夫ですか」と聞いた。それに対して「大丈夫です」と首相が明確に答えたことを私は鮮明に覚えている。それ以外の、例えば石原伸晃政調会長や二階俊博総務会長、さらに言えば閣僚人事で自分から首相に何か要求したことはない。
ただ、私が幹事長就任会見で、小泉改革路線に明確に一線を画したことで、小泉氏や小泉チルドレンの激しい反感を呼んだのは間違いない。安倍首相と綿密に相談しつつ、平成十七年総選挙時の郵政造反組の代表的存在たる平沼赳夫氏の自民党復党を進めようとしたのも、郵政改革を否定するものとして小泉勢力の反感を買ったのだろう。だが来る政権を賭けた衆院選に向け、地域活性化を柱とするポスト小泉改革の政権公約をまとめあげるためにも、有権者が具体的に目をする候補者の公認作業を急ぐためにも、そこは超えねばならないハードルであった。麻生は「反福田」と「脱小泉」を急ぎすぎたのだ、もっと時間をかけて順繰りに党内を掌握していくべきだった、との指摘も当然であろうが、私は幹事長として仮にもう一度、就任時に戻ったとしてもおなじ判断をすると思う。
しかし、どうだろうか。靖国参拝問題でも対北朝鮮問題でも明らかに福田氏とは路線が違った小泉氏が、福田氏陣営の前面に立ってもいいと発言したという話が流れた。国民・有権者からみて違和感がなかっただろうか。古い自民党の派閥政治をぶっ壊すと言い、国民の共感を得た小泉氏が、本当にまさに古い自民党の象徴たる八派閥連合の福田陣営に何の批判もなくエールを送ったとするなら、正直、失望を禁じ得ない。ことの真相を知る立場にはないが、小泉氏を徹底的に支えた飯島勲元首相秘書官が辞職したというニュースに、驚きを隠せなかったのは私だけではあるまい。
平成十八年の総裁選でも、確かに「安倍勝ち馬連合」と言われた、党内が安倍支持で雪崩を打つ現象はあったが、それでも再チャレンジ議連という政策を掲げた派閥横断型の応援団が現れ、それはそれで私は敵ながら天晴れな戦法と舌を巻いた。だが今回はどうか。福田氏を呼び込んで、山崎拓、古賀誠ら派閥領袖が支持を確認し、テレビにその談笑の場面を撮らせていた。言うまでもなく、彼らが昨年押し上げた安倍首相が無念の退場をし、政治空白の代償を払ってわが自民党が再生のための総裁選を行う危機的状況である。その危機意識があればあのような談笑の場面が現出したであろうか。
安倍首相辞任受け、中川昭一氏はすぐに電話をくれ、そして、会うなり、「出馬するんだろう。どう考えてもこんな派閥連合なんて話はおかしい」と支持を約束してくれた。推薦人になるように頼んだときも、一瞬だけ、えっという声になったが、「冷や飯連合か。しかし毒喰わば皿までと言いますからね」と快諾してくれた。甘利氏の場合は、驚いたことに事前連絡もなく突然、決起集会に現れた。選対総局長だった菅義偉氏は毎日のように幹事長室で顔を合わせていたが、極めて早い段階で支持を打ち出してくれた。安倍首相と保守の理念改革を共有していた中川氏、安倍首相の再チャレンジ議連の中核を担った甘利氏や、菅氏が全面協力してくれたことは、各派閥の堅い閂を抜く上で大きな力になっただけではない。真正保守を残そうとする我々の選挙戦の大きな礎となったのだ。
幸運だったゴロ巻き人生
繰り返すが、私の総裁選の歴史は、派閥の合従連衡との戦いの連続であった。平成七年は経世会の橋本龍太郎氏に対して再選断念に追い込まれた河野洋平氏の側におり、その橋本氏の後継を競った平成十年は小渕恵三氏に対して経世会を離れて立った梶山静六氏を推した。私自身の最初の挑戦だった平成十三年は小泉圧勝の前に当時十一人の河野派を拠点に三十一票に終わった。勝った側に立ったのは平成十五年の小泉氏再選の時ぐらいだが、あのときはまだ時代が小泉改革の続行を求めているとの判断があった。その小泉氏が退場した平成十八年の総裁選に二度目の勝負に出たのは、いよいよ時代がその改革の負の面の解消を求め始めたと考えたからに他ならない。余りに競争原理が突出し過ぎた日本の政治と経済のぎすぎすした現状を、かつての安保の岸政権の後を継いだ池田勇人政権が揚げた「寛容と忍耐の政治」のように局面を転換せねばならないと信じたからである。その思いは今も変わっていない。
他方、我ながら不思議であり、幸運でもあると思うのは、わが故郷・筑豊の言葉でいえば、きちんと筋を通してゴロを巻いた、つまり喧嘩をした相手に評価され、その後、政治行動を共にする結果となったことだ。平成七年に河野再選阻止の立役者だった梶山氏を平成十年には支えることとなり、今回私を支持してくれた同じ梶山門下生の菅氏も感じたことと思うが、梶山氏からは旗を立てれば派閥に依拠せずとも首相の道が見えてくることを身をもって教えていただいた。小泉氏、安倍氏に、総裁選で戦ったのち仕えたことも先述した通りである。小泉氏からは古い派閥政治のままでは国会や党で数あわせの多数派は形成できても、無党派層を中心とした国民・有権者の多数派は得られないことを学んだと思う。
一方で、安倍首相に対しては、国家観においてシンパシーを感じていたものの、同時に互いの祖父から受け継いだ血の違いも感じていた。巣鴨から出獄してすぐに再軍備と憲法改正を唱えた岸氏同様、安倍首相には保守の理念に殉じようという気概があった。それに比べれば、理念も大事だが、現実に合わせて実際に出来ることを計算する、吉田茂的なプラグマティズムが私にはあった。
総裁選出馬の共同記者会見で、福田氏は私を二十一世紀型の政治家だと評し、「本当は私と麻生さんが組めば一番いいんですよね」と言っていただいたが、瞬間、私の脳裏には、組み合わせの妙はやはり安倍首相と私のコンビだったのであって、決して福田氏とではないという思いが浮かんだ。
だからこそ私は今回、福田氏から入閣の要請があっても受けるつもりはなかった。何より保守の思想、理念、哲学が違う。仮に幹事長留任要請があっても、もとより政党間協議と党の選挙の公認作業で私がベストの布陣と考えていた大島国対委員長と菅選対総局長の留任を最低条件として求めざるを得なかっただろう。福田氏からは組閣の前日、短い電話で新政権への協力要請はあり、首班指名選挙の衆院本会議場ですれ違った時も、あの話は考えてくれたかといった程度の話はあった。ただし福田氏もまた政治家であれば、私が置かれた状況と古賀氏をはじめとする派閥連合の人事要求が相いれないものなのは把握していたに違いない。
森氏からは組閣の朝、「今回は申し訳なかった。だが福田首相にぜひ閣内で協力してほしい」との電話があったが、丁重にお断りした。福田氏本人からはそれ以上の具体的なポストを挙げての協力要請はなかったのである。
キーワードは「保守再生」
日本には古来、時代が動くときには必ず国家目標となる四文字熟語があった。富国強兵然り、殖産興業然り、さらに所得倍増然り。私も梶山氏の教えに従い、旗を立てるべく長く自分なりの言葉を探してきて、この総裁選を経て一つの結論を得た。「保守再生」である。
その勘所は、日本という国に対する矜侍と、保守政治に対する国民の信頼の二つである。しかも正しい保守は常に時代に合わせて自らを改革せねばならない。旧体制をぶっ壊すのはかつての革新であり、保守は新しい時代を建設せねばならない宿命を持つ。
ポイントは三つある。日本の国家としての誇りが第一である。特に国際社会からのまなざしだ。
九○年代以降、日本はカネを出すだけでなく現実の貢献の形で国際協力の実績を積んできた。イラクへの自衛隊派遣はじめ諸外国から日本の活動が評価されるようになったことで、国民にも胸を張って日本の良さを自慢できる共有感が生まれてきたはずだ。テロ特措法を、新規立法の形にせよ、再議決の手順を踏むにせよ、必ず成立させるべきだと安倍首相と私が決断していたのは、何よりそれが、国際社会からの期待を踏まえて日本政府が発する国家意志の表明というメッセージだからだ。靖国神社の参拝問題で私は昨年宗教法人たる靖国神社に一切を任せてしまった政治の不作為を問う論考を発表したが、根底になるのは、国家のために命を落とした人々を悼む国家的行為を否定する国はないのだという筋論からに他ならない。
二つ目は、小泉改革の結果生じた日本社会の格差感や不公平感への対応だ。社会の分裂状況をストップし、日本国民としての一体感を再生するのは保守の真骨頂である。例えば私がアキバ系若者に人気だとか、漫画を愛読し、2ちゃんねらーの機嫌を取ってるだけとの批判があるが、それは私にとっての誇りなのだ。ネットカフェ難民という言葉も知らず、フリーターやニートを含め若い世代への共感がない政治家に次の時代を語る資格はない。
最近の自殺者の急増を申すまでもなく、社会から遮断されたとの思いを彼ら彼女ら次の日本を背負う若者たちが抱えているのだとしたら、これは超高齢化社会を迎える国の根幹を揺るがす事態である。保守の特質のひとつは、様々な国民各層の政策要求を柔らかく受けとめる包容力にこそある。
そして三つ目はまさに安倍首相が足場を築いた国家の理念改革の完成である。私は実は、参院選惨敗を受け、逆に憲法改正の好機を迎えたと感じた。もとより国の最高法令たる憲法の改正は、政権党であっても一政党たる自民党の判断だけではできず、立法機関たる国会の多数派形成がなければ実現できない。だとすれば、二院の片方の参院を民主党はじめ野党が握り、権力と責任を与野党で共有するこの状況であればこそ、民主党との改憲の政党間協議が進むのではないかと考えるのだ。衆参の憲法調査会が意見集約の舞台となる以上、しかも改憲そのものを否定しない民主党なのだから参院ではその答えを出す責務が生じる。
必要なら、参院選前の国会で与党が単独で成立させた国民投票法の改正から始めてもいいではないか。選挙に影響されない、あるいは政権維持・獲得の政局優先の政治に振り回されないところで改憲論議の再出発を準備するには、逆転国会ほど格好の舞台はない。民主党とて参院で比較第一党の座を占めたとはいえ、単独過半数には至らず、参院で法案や問責決議案を可決するにも共産、社民、国民新の野党三党の協調が欠かせない。つまり小沢民主党は左に引きずられる運命を避けられないのだ。
もとより我々自民党にとっても再生のためには次世代を担う若手の育成が急務だ。先の人事で私と安倍首相が当選一回議員を原則無役とすることを決めたのも、目立つポストにつくより、有権者との接点である地元廻りや国会対策、政策づくりの現場で地道に修行を積んでほしいとの思いからだった。それが小泉チルドレンの反感を買ったのかもしれないが、若い後輩の諸君にあえて辛口のアドバイスをしたい。これは河野洋平氏がその父・一郎氏から残された教訓なのだが、政治家は無役で干されている冷や飯喰いの時こそ大事な成長の時間であり、鼎の軽重が問われるのである。正しくゴロを巻いて筋を通していれば必ず評価する先輩・同僚、そして支持者・有権者は現れる。大事なのは自分の選挙に強くなることだ。弱いというコンプレックスがあれば長いものに巻かれてしまうし、それこそかつて小泉氏が言ったように特定の業界団体や派閥の意向に従わざるを得なくなってしまう。それは自民党にとっても不幸なことだ。
これからの保守再生は誰が担うか。私には、現在の政界地図は、自民党の破壊者と古い自民党への回帰者の連合になりかねない政権が片側にあり、新保守主義者から社民主義者へと変貌した感のある代表が率いる政党がもう片側に位置するとみえる。その真ん中が次の政治の主人公を決めるいわば宝の在処だ。良質な中道・保守層の政治への再生という時代の要請に応えることこそ、百九十七票を与えられた私の今後の責務なのである。男は何度でも勝負するといったのは三木武夫元首相であったが、問われるまでもなく私も、保守再生の為、もちろん何度でも戦う。  
2008

 

日本を明るく、そして強く / 平成20年9月
自由民主党総裁選挙立候補に当たりわたくし、麻生太郎は、総裁選挙に立ちます。
いまくらい、難局に臨んで負けない指導力を、政治が必要としている秋(とき)はありません。わたくしはそれを、我が愛する日本にもたらすべく、立つ所存です。危機に真正面から向き合う、沈着なる指導力。おのれの退路を断って、国民の先頭を走る指導力。ほとばしる情熱と、信ずるところを堂々説いて突破する、気迫に満ちた指導力。不肖麻生太郎、これを振るわんとして、一身に鞭打ってまいります。知・情・意すべての力を振り絞り、経験の一切を動員してまいる所存です。
二つの不安と一つの不満が、我が国を覆っています。経済への不安、暮らしへの不安、そしてこれらに有効な手を打とうとしない、政治への不満。この三つを拭い去るためにこそ、わたくしは立つのです。
経済に再び活力を呼び戻します。強い経済は日本国民の誇りです。その建設は、三〇年先の世代に対する責任です。ただに景気を良くしようというのではありません。未来に対する自信を取り戻そうというのです。そのためにこそつくる、強い経済です。
強い経済は、お年寄りや弱者、子供たちを気遣うことのできる明るい経済です。年金や医療制度に対する不信を取り除き、正規雇用を増やして、未来に展望を持てる国にしなくてはなりません。そのために、わたくしは立つのです。広範な国民の支持を得て、政治に責任を、実行力を回復させようというのです。
日本と日本国民がもつ、歴史に裏打ちされた奥深い叡智。危機をバネとし、一段の飛躍を遂げる底力の強さ。それらに対する信頼を、わたくしは一日たりとも失ったことはありません。日本の前進を阻むものとは、決断力をなくした政治です。わたくしに課せられた使命とは、政治に本来の力を振るわせ、未来への道標を立てること以外にありません。それによって、我が国と我が国民が本来兼ね備えた叡智と底力を解き放つこと。そのことをおいて他にありません。
日本を明るく、そして強く。
そのために不肖麻生太郎、経験を積んでまいりました。わたくしは、我が愛する日本、我が愛する自由民主党の危機に臨んで立ち、誇りをもって未来に引き継ぐことのできる日本をつくりたい。党員、党友諸兄姉のご支持を、心より願うものであります。
「日本の底力」―強くて明るい日本をつくる― / 平成20年9月
強くなくては日本ではなく、明るくなくては、日本ではありません。本来の日本、わたしたちの日本を、今こそ取り戻しましょう。わたくしはそのために、
1 未来を見据えた景気対策を打ちます。日本経済はいま、全治3年。短期集中・重点特化型の立て直しをします。当面の歪みを正して日本経済にバネをたくわえ、グローバル競争の中、駆け抜ける脚力を鍛え直します。必要なのは、未来のための改革です。それを果断に続けます。
2 暮らしの不安を取り除きます。「不安」の反対語は「安心」ではありません。「希望」です。不安の深まる今は、むしろ好機です。ぬぐわれた時希望がそれだけ明るくなります。年金・医療・雇用・子育て――。暮らしの不安、老後の不安をなくし、日本国民が本来もつ希望を広めます。日本はそれで、また力強く動き始めます。
3 逃げない政治、責任もって実行する政治をつくります。それが、すべての前提です。わたくしはその実現に一身を賭します。情熱と、経験の総量を注ぎ込みます。国民の信を広く求め、勝ち得ることによって、内閣に強い実行力を与えます。自由民主党と、政治への信頼を強固なものとします。日本には、底力があるのです。勤勉な国民、優秀な技術、強い企業と安全な社会、そして大きな金融資産。どれ一つとっても、誰にも負けない強さがあります。悲観しなければならない理由などありません。底力を解き放てばよいのです。わたくしは、それをやりたい。やろうと思います。強くて明るい日本は、わたくしの誇り。日本国民の誇りであるからです。
【緊急課題】
経済対策や暮らしの問題など目の前にある課題に対し、短期集中・重点特化型の政策を打ち断固として取り組みます。
1 強力な経済対策
日本の経済は全治3年。まずこれを治療します。政府与党がとりまとめた経済対策を実行します。定額減税を実施します。
2 暮らしの不安を解消
年金や医療制度を、安心できるものに立て直します。希望をもって子供を産み育てることができる環境をつくります。消費者庁を創設し、国民の不安を解消します。
3 テロとの戦い
逃げません。逃げるという選択は日本にあり得ません。
【私の目指す日本】
私の目指す日本は、強くて明るい日本です。活力があり、安心できる社会です。
1 安心できる社会
社会保障や安全網を強化し、安心して暮らせる社会をつくります。ワーキングプアや悩んでいる若者の背中を押します。
2 活力ある高齢社会
老若男女が元気に社会参加し、働きがいのある日本をつくります。活力ある明るい高齢社会をつくります。
3 元気な地域
それぞれの地域が活力を持ち、誇りを持って暮らせる国にします。「地域の元気」を応援するとともに、地方の生活を守る財源を確保します。
4 世界に開かれた国
世界の平和と発展に力を尽くす国にします。世界の人と企業、資金が入ってくる、魅力ある国にします。日本の文化は、世界を豊かにします。大いに広めます。
【基本政策】
未来を明るくする政策を、着実に進めます。
1 経済−着実な経済成長
持続的かつ安定した経済成長を目指します。政策減税・規制改革で、日本の潜在力を活かす成長政策をとります。先端技術開発を一層加速します。財政再建路線を守りつつ、弾力的に対応します。歳出の徹底削減と景気回復を経て、未来を準備する税制をつくります。
2 社会保障−安心できる保障
安定的な年金財源を確保するため、国民的議論をすすめます。安心できる介護保険制度にします。
3 教育改革−基礎教育の充実
教員が一人ひとりの子供と向き合う環境を作ります。教育現場の声をとりいれ、学校再生にとりくみます。親の負担を軽減し、学校を各家庭が選べる仕組みにします。
4 地域の再生−自立を支援
守るだけの農業から、外で戦う農業に転換します。食料自給率を引き上げ、日本の優れた農産品を輸出します。建設業の新分野への転換を支援します。
5 外交−誇りと活力ある外交、国際貢献
日米同盟を強化し、アジアの安定を求めます。北朝鮮による安全保障上の問題に筋の通った対応をし、拉致問題の解決を目指します。与えられるのでなく、国際社会の中で世界の秩序をつくる国にします。
6 持続可能な環境−世界最先端の省エネ国家
良好な環境を守り、自然と共生できる社会を子供たちに引き継ぎます。成長と両立する低炭素社会を目指します。我が国の持つ環境・エネルギー技術を活かし、新しい需要と雇用を生み出します。
【政治改革】
世界と社会の変化に対応し強力な政策を早く進めるため、政治と行政を改革します。
1 簡素で温かい政府
国民の期待に的確に応える、簡素で温かい政府を目指します。徹底した行政改革を行い、政府の無駄をなくします。国の出先機関を地方自治体に移し、二重行政をやめます。モラルとやる気を失った公務員を奮い立たせ、国民のために働く公務員にします。
2 地方分権
地方自治体が自ら地域経営できるよう、権限と財源を渡します地方自治体の意見を尊重し、地方分権を進めます。その先に、道州制を目指します。
3 国会改革
主要な政策について、与野党間協議を一層促進し、国会審議を効率化します。
4 自民党改革
内閣を党が支える機能を高めます。全国幹事長会議の常設化など党本部と地方組織との連携を強めます。  
所見表明演説(要旨) / 平成20年9月11日
麻生太郎です。四度目の、挑戦をしようとしています。
わたしの前途には、日本と、日本国民が登るべき、高らかにそびえる峰が見えています。
峰にかかる、雲も見えています。
国家国民の指導者たるもの、常にその、白雲を望み見て、おのれに鞭打って、急な坂を登ってゆくものでなくてはなりません。
しかも、国家国民の指導者たらんとするもの、足元と、はるかな峰とを、共に見る目を、もたんとするものでなくてはなりません。
急な坂にかかってこそ、むしろ心に余裕を、表情にほほえみを絶やさず、これを楽しむことすらできる者でなくてはなりません。
わたしはそのため、四たびの挑戦をいたします。
党員、党友の皆様のご支持を、圧倒的なるご支持を、冀(こいねが)うものであります。
わたしは、四たびの挑戦のもつ重みを前に、身、引き締まる思いであります。
しかし、わたしは、逃げません。
先人たちから引き継ぐたいまつを、放すことは、ありません。
わたしは、それをこれから、国民に対し、身をもって証明するのであります。
五尺五寸八分。この身をなげうって、駆け抜けようとしております。
総裁に選んでいただきました、そのあかつき、わたしはやがて、我が党の命運を賭ける戦いに臨みます。
我が国に、混乱に替えて、不動の重心をもたらすもの。それは、どの党であるか。
日本の経済に、真の改革を、責任と実効のある改革をもたらし、国民の暮らしの隅々まで、温かい血をめぐらすことのできるもの。それは、果たしてどの党であるか。
日本の安全を、一点の曇りもなく保証し、かけがえのない同盟関係を、揺るぎなく強めていく覚悟のある党は、いったい、どの党であるのか。
日本の、新しい世代、若い世代に、希望と夢とを与え、未来を支える確固たるいしずえを、国家経済、国家社会に与えることのできる力をもった党。――言葉、だけではありません。力を持った党は、どの党であるか。
審判を、最終的な審判を、有権者からいただくその戦いに、わたしは臨みます。
これらの問いに対する答えは、おのずから明らかであります。
民主党では、ありません。あり得よう、はずがありません。
我が自由民主党こそが、日本の軸をよりいっそう太く、頑丈に、固めるのであります。
我が自由民主党と、志を同じうする公明党との、信頼と、実績に裏打ちされた連合のみが、その軸を、はるか未来へと、ひたすらにまっすぐ伸ばし、かの高い峰にかかる白雲を目指すのであります。
わたしは、日本国民からまさしくその審判を、最終審判をいただかんとして、ここに立つものであります。
皆様のご支持――圧倒的なるご支持を、いただきたく存じます。
過ぐる12年、4000日になんなんとする期間、わたしは大臣として、内閣の一翼を担い、党にあっては、要(かなめ)の職について、国家経営の任に当たりました。
官主導から、民主導へ。経済の成り立ちを抜本的に変えるべく、規制の撤廃と、改革を実行してきました。経済の再建こそは、わたしが身命を賭した課題です。
外務大臣を務めた際には、日本の外交に、一本の太い筋を通しました。世界中の、どこの誰が見ようとも、決して見間違えることのない、明確な路線を敷きました。
4000日を通じ、経済企画庁長官、あるいは経済財政政策担当大臣として、経済の再建に、総務大臣としては内政全般、なかんずく、規制の改革と地方分権の推進に、そして外務大臣としては外交に。
携わった任務こそ違ったにせよ、わたしはいつもひとつのこと、ただひとつのことを、一心に目掛けて参りました。
それは、何よりもこのわたし自身が、日本と日本人に、一瞬たりとも信頼を失わなかったことであります。
わたしの信ずるところ、国家国民を率いるリーダーたるもの、まさしくこの点において、いささかの迷い、疑い、留保を、持ってはなりません。
日本を率いる指導者とは、日本と日本人を、深く信じる者でなければなりません。
日本と日本人に、誇りを失わぬ者の、別名でもあります。
だからこそ、わたしは改革を、未来に向けての改革を、続けていこうと、敢然決意するものです。いかねばならぬと、信ずるのです。
日本国を、今よりもっと一層誇るに足る国とし、諸外国からさらなる尊敬と、信頼を勝ち得る国とする。そしてそれを、次の世代に引き継ぐという、ただそのことだけを、わたしは目掛けて参ろうとするのです。
日本は、強い国でなくてはなりません。強い国とは、たじろぐことなく難局に立ち向かい、危機をむしろバネとして、一段の飛躍を遂げる国です。
日本は、明るい国でなくては、日本ではありません。明るい国とは、元気な国であります。
元気な国とは、子供からお年寄りまで、国民の一人ひとりが、未来に希望をつなぐことのできる国です。
日本経済。全治3年。こう、わたしは申しました。
三段構えで臨みます。
目先は、景気対策。中期的には、財政再建、そして中長期的には、改革による経済成長の追求です。
まず第一段。ふらつく経済の足取りに、あらゆる手段を講じて支えを与えます。
財政も、効果を計算しつくしたうえ、使います。使わねば、一国の指導者として、無責任のそしりを免れないでありましょう。
ただし、行くあてのない道路は敷かず、つなぐ先のない、橋はかけない。
わたくしは昨年、こう述べて総裁選に臨みました。再び、同じことを繰り返しましょう。
わたしを、財政出動論者である、したがって、「オールド・ケインジアン」だと、呼ぶ向きがおありです。
呼びたくば、呼べ、であります。
わたしがおよそ一切の興味をもたぬのは、この種のレッテル貼りだからです。
わたしごとき浅学菲才に、自分の名をかぶされたのでは、黄泉(よみ)の大経済学者にとって、迷惑千万に違いありません。
ただし、ジョン・メイナード・ケインズとわたしとには、確かに大きな共通点がある。
ケインズはイギリスを愛し、イギリスの難局に立ち向かい、まさしく身命を賭しました。この一点において、わたしはケインズと、志、覚悟を共にするものです。
第二段。財政の再建です。
財政に規律が必要なこと、経営に、規律が必要なごとくです。
しかし経営においてと同様、国家財政においても、事柄は複眼をもって眺めねば、本質を見誤るのです。
企業経営において、コスト削減だけでは、会社は立ち直りません。
売り上げの増加を目指し、新商品開発のための研究や、前向きの投資をあわせて実施してこそ、初めて会社は立ち直るのです。私は、それを会社経営者として、実践してきました。
国家の経営において常に心がけるべきは、あくまでも成長を目指さねばならぬという、その一事であります。
成長の中、自ずと増えていく税収によって、負債を返済すべきであるという、この原則です。
止まったものとして見るのでなく、動きにおいて見るのです。経済は生き物です。
それゆえわたしは、「財政再建を自己目的とする財政再建」は、いたしません。
日本経済の成長の中で、財政再建を追い求めます。
プライマリーバランスの達成という課題も、同じです。そのこと自体が、目的なのではありません。
日本経済に、成長の条件を整えてやること。そのことこそが、目的なのです。わたしに限って、目的と、そのための手段を、混同することはありません。
第三段。改革による成長の追求です。
ナノテクノロジー、ソーラーパネルなど新技術、新業態が次々と現れ、それが新たな市場をつくって雇用を生み出す、明るい循環を築き上げていくことであります。
中長期的には、このことに、最も意を砕かねばなりません。
生産性を上げていくカギが、ここにあるからです。
必要なことは、ヒト、モノ、カネ、技術の有効なる配分です。
金融を、中小・零細企業に回し、経営者に前向きな投資をさせることです。
創意と、工夫を阻む、規制の類を、徹底して取り払ってやることです。
一に、景気の下支え、二に、成長を促す財政の再建、三に、改革を通じた成長戦略の追求。
これが、王道であります。わたしの、追い求めていこうとする道筋です。
目鼻をつけるのに、必要な期間。それを、三年と申し上げています。
それゆえに言う、「日本経済全治三年」です。
外交と防衛について、わたしはいま、多くを申し述べません。
外務大臣として働いた人たちのうち、わたしほど、外交について多くを述べた者は、かつてただの一人もおりません。
わたしが心を込めて述べ、語った我が国の外交路線は、つとに、一冊の本となっています。
ですから、原則のみを短く述べます。
一。日米同盟を一層堅固なものとし、強化します。
二。北朝鮮に向かっては、内に深い怒りを秘めつつ、国民の憤り、被害者家族の悲しみを、わたし自身、我が物として共有しながら、拉致、核、ミサイルの解決を求め続けていきます。
三。自信を持った外交を進めます。
今日この瞬間、はるかなアフリカで、一千人に達しようかという日本人の若者が、青年海外協力隊として働いております。そのうちの半数以上、六百人近くは、女性です。
胸を張り、明るく働き続けている彼女らの顔が、日本の顔です。善をなさんとして、骨身を惜しまぬ彼ら、彼女らこそは、我が外交の誇りです。
再び申し上げます。
わたしには、用意があります。覚悟ができています。
わたくしを省みない、覚悟です。
日本と、日本国民の、安寧を追い求める、決意です。
わたしには、自信があります。
日本と、日本国民がもつ、歴史に裏打ちされた奥深い叡智。危機を好機に転ずる、不屈の能力に対する、信頼であり、自信です。
今くらい、難局に臨んで負けない指導力を、政治が必要としているときは、ありません。
危機に真正面から向き合う、沈着なる指導力。おのれの退路一切を断って、国民の先頭を走る脚力。信ずるところを堂々と説き、内外の難関を突破する、気迫に満ちた覚悟の力。
麻生太郎、これを振るわんとして、一身に鞭打ってまいります。経験の一切を、つぎ込んで参る所存です。
敬愛する、自由民主党の党員、党友の皆様。わたしへのご支持を、圧倒的なるご支持を、ぜひとも賜りますよう。心よりお願いを申し上げ、所信の表明を終わります。  
記者会見 / 平成20年9月24日
このたび、第92代の内閣総理大臣に指名された麻生太郎です。国民の皆さんに、まず一言ごあいさつをさせていただきたいと存じます。
このたび、総理の重責を担うことになり、その重みを改めて感じているところであります。特に景気への不安、国民の生活への不満、そして政治への不信の危機にあることを、厳しく受け止めているところです。日本を明るく強い国にする。それが私に課せられた使命だと思っております。私の持っております経験のすべてと、この身を尽くして難題に立ち向かうことをお誓い申し上げます。よろしく御支援のほど、お願い申し上げる次第です。
閣僚名簿を発表させていただきます。合わせて、各閣僚に何をしてもらうかも簡単に述べたいと存じます。
総務大臣兼地方分権改革担当大臣、鳩山邦夫。地域の元気を回復してもらわなければならないと思っております。分権改革というのは、大きな我々の将来の国のかたちとして大事なところだと思っておりますので、是非この分権改革を進めていただきたいと思っております。
法務大臣、森英介。司法制度改革というのは、今、その途中にありますけれども、これを是非進めなければならないということをお願いしたいと思っております。
外務大臣、中曽根弘文。日米同盟の強化、北朝鮮問題、テロとの戦いなどなど、今、外交問題いろいろありますけれども、こういった問題に取り組んでもらいます。
財務大臣兼金融担当大臣、中川昭一。当然のこととして、補正予算の成立、そして景気対策、今、出しております緊急総合経済対策等々ありますので、この問題。加えて、今、世界中、金融に関しましては、リーマンの話に限らず、世界中いろいろアメリカのサブプライムに発しました、この一連のことに関しまして、世界中大きな関心を呼んでおる。そういった中にあって、この問題を2つ別々にというよりは、1人の方にやっていただく方が機能的であろうと思って、あえて兼務をお願いしたところです。
文部科学大臣、塩谷立。教育の信頼回復は、大分県の話だけではなく、いろいろこの問題は根が深いと言われておりますけれども、是非教育の信頼回復というのに努めていただきたいと思っております。同時に基礎教育の充実ということに関しましては、いろいろ御意見のあるところでもありますので、この問題は非常に長い間関わっておられたこともありますけれども、是非この問題に引き続き取り組んでいただきたいと思っております。
厚生労働大臣、舛添要一。今、御存じのように、社会保障の問題、また食の安全の確保などなど、いろいろあります上に、雇用の安定というものも我々は合わせて考えねばならぬ大事なところです。労働分配率の話、いろいろありますけれども、是非この問題について引き続き検討していただければ、頑張っていただかなければならぬところだと思っております。
農林水産大臣、石破茂。今、事故米対策などなどいろいろありますが、食料の自給率始め、日本の農業というものは、極めて付加価値が高い農生産品が幾つもあります。そういったものを含めて、攻めの農政というものをお願いしたいと思っております。
経済産業大臣、二階俊博。御存じのように、今から日本のリーディング産業になり得る、成長し得る産業の成長戦略、また資源外交というものもありますし、目先中小零細企業等々の抱えております問題は、日本の一番肝心なところでもありますので、そういった問題に引き続き取り組んでいただきたいと思っております。
国土交通大臣、中山成彬。御存じのように、道路の一般財源化、また公共事業というものにつきまして、今、いろいろ意見が分かれているところでもありますので、是非この問題については取り組んでいただきたいと思っております。
環境大臣、斉藤鉄夫。留任でありますけれども、引き続き、地球温暖化というものに関しましては、明らかに我々は多くの問題を何となく肌で感じていらっしゃるんだと思います。
今年はまだ台風が一度も上陸していない。気が付いておられる方もいらっしゃるかと思いますが、台風はまだ一度も本土に上陸しておりません。こんなことは過去に例がない。4年前は9回上陸、平均3回という日本において、ゼロもしくは9回は何となく異常だなと感じていらっしゃる方も多いと思いますが、これは日本一国でやれる話ではありません。明らかに何となく我々の周りに大きな変化が起きていると感じなければおかしいところなんですが、そういった問題につきまして、この環境問題というのは、日本はサミットをやった経緯などなどを考えて、世界をリードして行けるだけの技術もあるし、そういったものもし得る立場にあるんだと思って頑張っていただければと思っております。
防衛大臣、浜田靖一。もともと防衛関係はいろいろやってこられたこともありますが、テロの戦いというものは、世界中がテロと戦っているところでもありますので、我々としてはこのテロとの問題は、我々とは全然関係ないという話では全くないと思っております。少なくとも地下鉄サリン事件などなど、忘れられつつありますけれども、あれはテロであります。そういったことを考えますと、いろんな意味でこのテロとの戦いというのは大事なところだと思っておりますので、浜田先生にお願いをさせていただきました。
内閣官房長官・拉致問題担当、河村建夫。私を補佐してもらうと同時に、拉致問題にも取り組んでいただきたいと考えております。
国家公安委員長・沖縄及び北方対策担当・防災担当大臣、佐藤勉。凶悪犯罪防止、日本というのはかなり少ない、先進国の中では少ないと言われますけれども、明らかに異常なものが起きてきていることも事実だと思いますので、そういった意味においては、国家公安委員長の責務は大きいと思いますし、同時に災害も台風の代わりに局地的な豪雨などなど、我々は今までとは違ったもので1時間に100ミリも140ミリも降るという前提で我々の防災ができ上がっているわけではありませんし、また沖縄の振興の問題も含めて担当していただかなければならぬところだと思っております。
経済財政政策担当大臣、与謝野馨。再任でありますけれども、この厳しい経済情勢の中にあって、財政金融担当大臣とともに、是非この全体のバランスをとりながら景気を回復する。財政をいろんなことをやっていただくということにして、与謝野馨先生にお願いをしております。
規制改革担当大臣・行政改革担当・公務員制度改革担当、甘利明。これは行革の推進ということでありまして、公務員制度改革、規制改革などなど御存じのとおりでありますので、この問題を進めていってもらわねばならぬと思っています。
科学技術政策担当大臣・食品安全担当大臣・消費者行政推進担当、野田聖子。再任でありますけれども、食料安全確保と消費者庁というものは福田内閣の積み残した問題の一つでありますので、消費者庁の立ち上げをお願いをしたいと思っております。
少子化対策担当大臣・男女共同参画担当大臣、小渕優子。待機児童ゼロを進めるとともに、若者支援、いろいろなことをお願いしたいと思っております。
以上、私が選んだ閣僚と指示の内容であります。なお、併せて全閣僚に次の点も指示をしたいと思っております。
1つ、国民本位の政策を進めること。そして、官僚は使いこなすこと。3つ、いろいろ言っていくと切りがなくなりますが、国益です。省益ではない国益を担当。国益に専念をする。これが一番だと思っております。
官房長官は侍立しておりますので、4人を紹介させていただきます。官房長官は先ほど申し上げました河村建夫官房長官です。松本純副長官、鴻池祥肇副長官、漆間巌副長官。
私からは、以上です。
【質疑応答】
● 内閣の布陣を見ますと、総理御自身の人脈で固めたという内閣の印象が強いんですが、どんなに遅く引っ張っても、1年以内には解散総選挙があります。小沢代表率いる民主党と闘うためにどういう体制づくりで、どういう点にポイントを置かれたか。そしてこの内閣で具体的にどう選挙に挑むのか、具体的にお聞かせください。
基本的には、人事の配置につきましては、いろいろな方がいろいろ言われますけれども、適材適所、これは常に基本だと思っております。そして、それが国民の期待に応えるということだとも思っておりますので、私どもとしては、基本的にこのメンバーで選挙も戦うことになります。我々としてはどう戦うかというと、正々堂々と戦います。
● 補正予算案の審議と衆議院の解散総選挙についてお伺いいたします。民主党は補正予算案の審議に応じる姿勢を示しておりますけれども、総理はこの補正予算をいつまでに成立させるおつもりでしょうか。
審議に応じていただければいいですけれどもね。どうぞ。
● それとその関連ですけれども、衆議院の解散総選挙について与党内では来月の21日公示、そして11月2日投票という日程が有力視されておりますけれども、総理は、衆議院の解散総選挙のタイミングについてはどのようにお考えでしょうか。
この予算につきましては、補正予算、我々は少なくとも緊急経済対策として、今の不景気というものに対応する。特に年末の資金繰り等々に頭を悩めておられます、いわゆる中小零細企業などなど、目先に抱えております問題は、油の高騰に端を発した、また、サブプライムローンに端を発したいろんな表現がありますけれども、明らかに今年に入って今年は不景気だと思います。したがって、それに対応するためにどうするかということを我々は考えていかねばならないと思っております。したがって、この補正予算というものは是非審議をしていただきたい。審議をしていただければありがたいと思っておりますが、この1年間を見ておりまして、たびたび約束が裏切られてきたような感じがしています。率直なところです。したがって、いろいろ参議院の方々、野党の参議院の方です。参議院の方々はいろいろ御発言もありますけれども、なかなかそういったようなことが実行していただけるのかどうかということに関しましては、私としては意外と疑問なところを持っております。したがって、解散総選挙の時期というのは、審議に応じていただける、応じていただけない、そういったところも勘案した上で考えさせていただきます。
● 給油活動についてお伺いいたします。総理は総裁選中もインド洋での給油活動継続の重要性をたびたび訴えられていましたが、衆議院解散総選挙の時期とも絡みますが、来年の1月にはまた期限が切れることになります。これの継続に向けてどういう対応されるのか。また、福田内閣では再議決で延長しましたが、麻生内閣でも再議決を行うお考えがあるのかお願いいたします。
石油というもののほとんど9割近くを我々は、あのインド洋を通過して日本に輸入されております。そして、今、テロとの対決ということから、アフガニスタンもしくはパキスタンと国境などなど、今、抱えております地域の問題というものの中において、海上からテロに対する支援が行われ得るのを阻止せんがために、我々はあそこに海上給油活動というものに参加をしております。したがって、これは、アフガニスタンのためでも、アメリカのためでも、パキスタンのためでもない。これは、世界が戦っているテロに対して断固戦っていかねばならぬというのは、我々国際社会の一員としての当然の責務であって、日本に一番期待されておる部門がこの部門なんだと理解をしております。したがって、石油輸送の保護などなど、やることは幾つもあろうと思いますが、世界で最も期待されているこの仕事につきましては、是非継続をやり遂げなければならないと思っております。それに対して3分の2を使うか。これは相手の話にある話で、しゃにむにこの話が何が何でも反対ということなのかどうか。もう少し相手の対応を見た上で決めさせていただく。相手というのは民主党の対応を見て決めさせていただくことだと思います。
● 今回、総理は、中川昭一財務大臣に金融大臣を兼務させました。この点について、改めて理由をお聞かせいただきたいんですけれども、いわゆる財金分離は橋本行革でなされたものだと思いますが、これに対する批判的な意味合いがあるのか。ないしは、今は大臣の兼務ということですけれども、行く行くはかつての大蔵省のように、事務方、スタッフも同じ役所でやるべきだとお考えてになっているかどうか。その点について、お願いします。
財政金融というものを分離した経緯というのを知らないわけではありませんが、少なくとも、今、世界中で金融というものが危機と言われているような状況にあります。日本の場合は、その傷口が他国に比べたら浅いのかもしれませんけれども、日本もそれなりに傷を負ったというのは事実だと思っています。したがって、今、この問題を世界中で検討するときに、財務大臣会議というものをするときに、少なくとも金融はうちは関係していないんですという大臣はほかの国にはおられないと思っておりますので、これは是非兼務をされるべきだと、私は金融危機が起きたときからそう思っておりました。それが背景です。
● 役所も1つになるべきだとお思いになりますか。
私は役所に1つにするのはやってみなければわからないところだと思いますけれども、私は役所を1つにするかしないかというのは、現実問題として、どう仕事ができるかということを見た上でないと何とも言えないと思います。
● 総裁選でも話題になった政策のことについて、改めて伺いたいと思います。プライマリーバランスの2011年度黒字化目標について、必要があれば11年度の目標の延期もあり得るというお立場は今でも変わりないのか。必要があれば、修正の閣議決定をするつもりはあるのかということと、それに関連して、基礎年金の国庫負担割合の引き上げを来年4月から予定どおり実施するおつもりがあるのか。その財源をどうするのかということです。
基礎年金の半分の負担の件に関しては、約束事ですから実施します。それから、プライマリーバランスの話ですけれども、基本的にはプライマリーバランスを2011年までにバランスさせると言われるときの前提条件というものを覚えておられると思います。少なくとも、あのときは経済成長は3%が前提でしたね。今は−3%になるのかもしれぬというような状況になっています。あのころは金融問題もありませんでした。油の高騰という話もなかった。そういったことを考えると、プライマリーバランス2011年といったときとは前提条件が大幅に違ってきているという現実というのを我々は無視して、いかにも達成がすぐに確実にできるかと言われると、その状況は著しく変わってきているのではないか。率直なところです。したがって、目標としてきちんと持っている。決して間違っているわけではありませんが、達成できる前提条件が大幅にくるってきているという前提を無視はできないと思っています。もう一点は、何でしたか。
● 修正の閣議決定です。
今すぐ修正する、閣議決定をするつもりはありません。
● 基礎年金が来年度というのは、来年4月から引き上げるということですか。
そうです。たしか、あれはそう書いてあったのではないですか。
● 安定財源はどうなさるんですか。
安定財源につきましては、今から検討しなければいかぬというところなんだと思いますが、少なくとも、そのために必要な財源を何にするかは、今から財務大臣に考えていただかなければいかぬ大事なところだと思います。
● 総理は総裁選を通じて政党間協議の必要性を訴えられて、民主党の小沢代表との対決姿勢を強められたと思うんですが、早期の党首討論とか、直接小沢代表といろいろなやりとりを交わすということを早期にしようということはお考えでしょうか。
これは、2回幹事長をやりましたので、前回幹事長をやったときにも申し上げましたし、今回幹事長に就任した今年の9月にも同じことを申し上げたと思っております。少なくとも、今、参議院と衆議院がねじれた状況です。これは世界中を見れば、そういった上院と下院がねじれているという国は、ほかの国にもあります。しかし、そこらのそういう国々では、きちんと国民に真に必要なものについては政党間協議をなされて、そこそこの合意がなされている。民主主義は成熟していると思っておりますが、我が方はなかなかさような状況にはならないということが、今、国民から見て一番の不満のところだと私は思っております。是非とも党首討論または直接対話、いろいろな方法があるとは思いますけれども、本会議場でも委員会でも、いろいろなところで議論ができるということは大事なところだと思いますが、少なくとも、2大政党というものを目指して、この小選挙区制度を採用したわけですから、我々としては、そういったことを踏まえて、きちんとした対応がされるためには、政党間協議または党首討論というのは物すごく必要なものだと思って、これは是非訴えていかねばならぬものだと思っています。  
第170回国会所信表明演説 / 平成20年9月29日
(就任に当たって)
わたくし麻生太郎、この度、国権の最高機関による指名、かしこくも、御名御璽をいただき、第九二代内閣総理大臣に就任いたしました。
わたしの前に、五八人の総理が列しておいでです。一一八年になんなんとする、憲政の大河があります。新総理の任命を、憲法上の手続にのっとって続けてきた、統治の伝統があり、日本人の、苦難と幸福、哀しみと喜び、あたかもあざなえる縄の如き、連綿たる集積があるのであります。
その末端に連なる今この時、わたしは、担わんとする責任の重さに、うたた厳粛たらざるを得ません。
この言葉よ、届けと念じます。ともすれば、元気を失いがちなお年寄り、若者、いや全国民の皆さん方のもとに。
申し上げます。日本は、強くあらねばなりません。強い日本とは、難局に臨んで動じず、むしろこれを好機として、一層の飛躍を成し遂げる国であります。
日本は、明るくなければなりません。幕末、我が国を訪れた外国人という外国人が、驚嘆とともに書きつけた記録の数々を通じて、わたしども日本人とは、決して豊かでないにもかかわらず、実によく笑い、微笑む国民だったことを知っています。この性質は、今に脈々受け継がれているはずであります。蘇らせなくてはなりません。
日本国と日本国民の行く末に、平和と安全を。人々の暮らしに、落ち着きと希望を。そして子どもたちの未来に、夢を。わたしは、これらをもたらし、盤石のものとすることに本務があると深く肝に銘じ、内閣総理大臣の職務に、一身をなげうって邁進する所存であります。
わたしは、悲観しません。
わたしは、日本と日本人の底力に、一点の疑問も抱いたことがありません。時代は、内外の政治と経済において、その変化に奔流の勢いを呈するが如くであります。しかし、わたしは、変化を乗り切って大きく脱皮する日本人の力を、どこまでも信じて疑いません。そしてわたしは、決して逃げません。
わたしは、自由民主党と公明党の連立政権の基盤に立ち、責任と実行力ある政治を行うことを、国民の皆様にお誓いします。
(国会運営)
はじめに、国会運営について申し上げます。
先の国会で、民主党は、自らが勢力を握る参議院において、税制法案を店晒しにしました。その結果、二か月も意思決定がなされませんでした。政局を第一義とし、国民の生活を第二義、第三義とする姿勢に終始したのであります。
与野党の論戦と、政策をめぐる攻防は、もとより議会制民主主義が前提とするところです。しかし、合意の形成をあらかじめ拒む議会は、およそその名に値しません。
「政治とは国民の生活を守るためにある。」民主党の標語であります。議会人たる者、何人も異を唱えぬでありましょう。ならばこそ、今、まさしくその本旨を達するため、合意形成のルールを打ち立てるべきであります。
民主党に、その用意はあるか。それとも、国会での意思決定を否定し、再び国民の暮らしを第二義とすることで、自らの信条をすら裏切ろうとするのか。国民は、瞳を凝らしているでありましょう。
本所信において、わたしは、あえて喫緊の課題についてのみ、主張を述べます。その上で、民主党との議論に臨もうとするものであります。
(着実な経済成長)
緊急な上にも緊急の課題は、日本経済の立て直しであります。
これに、三段階を踏んで臨みます。当面は景気対策、中期的に財政再建、中長期的には、改革による経済成長。
第一段階は、景気対策です。
政府・与党には「安心実現のための緊急総合対策」があります。その名のとおり、物価高、景気後退の直撃を受けた人々や農林水産業・中小零細企業、雇用や医療に不安を感じる人々に、安心をもたらすとともに、改革を通じて経済成長を実現するものです。
今年度内に、定額減税を実施します。家計に対する緊急支援のためであります。米国経済と国際金融市場の行方から目を離さず、実体経済への影響を見定め、必要に応じ、更なる対応も弾力的に行います。
民主党に要請します。緊急総合対策実施の裏付けとなる、補正予算。その成立こそは、まさしく焦眉の急であります。検討の上、のめない点があるなら、論拠と共に代表質問でお示しいただきたい。独自の案を提示されるももちろん結構。ただし、財源を明示していただきます。双方の案を突き合わせ、国民の前で競いたいものであります。あわせて、民主党の抵抗によって、一か月分穴があいた地方道路財源を補てんする関連法案を、できるだけ速やかに成立させる必要があります。この法案についての賛否もお伺いします。
第二段階は、財政再建です。
我が国は、巨額の借金を抱えており、経済や社会保障に悪い影響を与えないため、財政再建は、当然の課題です。国・地方の基礎的財政収支を黒字にする。二〇一一年度までに成し遂げると、目標を立てました。これを達成すべく、努力します。
しかし、目的と手段を混同してはなりません。財政再建は手段。目的は日本の繁栄です。経済成長なくして、財政再建はない。あり得ません。麻生内閣の目的は、日本経済の持続的で安定した繁栄にこそある。我が内閣は、これを基本線として踏み外さず、財政再建に取り組みます。
第三段階として、改革による成長を追い求めます。
改革による成長とは何でありましょうか。それは日本経済の王道をゆくことです。すなわち、新たな産業や技術を生み出すこと、それによって、新規の需要と雇用を生み出すことにほかなりません。「新経済成長戦略」を強力に推し進めます。
阻むものは何か、改革すべきものは何か。それは規制にあり、税制にある。廃すべきを廃し、改めるべきは改めます。
強みは何か。勤勉な国民であり、優れた科学と技術の力です。底力を解き放ちます。日本経済は、幾度となく厳しい試練に対して果敢に応じ、その都度、強くなってきました。再び、その時が来たのであります。
以上、三段階について申し上げました。めどをつけるには、大体三年。日本経済は全治三年、と申し上げます。三年で、日本は脱皮できる、せねばならぬと信じるものであります。
(暮らしの安心)
暮らしの安心について、申し上げます。
不満とは、行動のバネになる。不安とは、人をしてうつむかせ、立ちすくませる。実に忌むべきは、不安であります。国民の暮らしから不安を取り除き、強く、明るい日本を、再び我が物としなくてはなりません。
「消えた年金」や「消された年金」という不安があります。個人の記録、したがって年金給付の確実さが、信用できなくなっております。ひたすら手間と暇を惜しまず、確かめ続けていくしか方法はありません。また、不祥事を行った職員に対しては、厳正なる処分を行います。わたしは、ここに頭を垂れ、国民のご理解、ご協力を請い願うものです。あわせて、年金等の社会保障の財源をどう安定させるか、その道筋を明確化すべく、検討を急ぎます。
医療に信を置けない場合、不安もまた募ることは言うまでもありません。わたしはまず、長寿医療制度が、説明不足もあり、国民をいたずらに混乱させた事実を虚心に認め、強く反省するものであります。しかし、この制度をなくせば解決するものではありません。高齢者に納得していただけるよう、一年を目途に、必要な見直しを検討します。
救急医療のたらい回し、産科や小児科の医師不足、妊娠や出産費用の不安、介護の人手不足、保育所の不足。いつ自分を襲うやもしれぬ問題であります。日々不安を感じながら暮らさなくてはならないとすれば、こんな憂鬱なことはありません。わたしは、これら不安を我が事として、一日も早く解消するよう努めます。
次代の日本を担う若者に、希望を持ってもらわなくては、国の土台が揺らぎます。
困っている若者に自立を促し、手を差し伸べます。そのための、若者を支援する新法も検討します。最低賃金の引上げと、労働者派遣制度の見直しも進めます。あわせて、中小零細企業の底上げを図ります。
学校への信頼が揺らいでいます。教育に不安が生じています。子どもを通わせる学校を信頼できるようにしなければなりません。保護者が納得するに足る、質の高い教育を実現します。
子どもの痛ましい事件が続いています。治安への信頼を取り戻します。
ここで、いわゆる事故米について述べます。事故米と知りつつ流通させた企業の責任は、断固処断されるべきとして、これを見逃した行政に対する国民の深い憤りは、当然至極と言わねばなりません。わたしは、行政の長として、幾重にも反省を誓います。再発を絶対に許さないため、全力を挙げます。
すべからく、消費者の立場に立ち、その利益を守る行政が必要なゆえんであります。既存の行政組織には、事業者を育てる仕組みがあり、そのため訓練された公務員がありました。全く逆の発想をし、消費者、生活者の味方をさせるためにつくるのが、消費者庁であります。国民が泣き寝入りしなくて済むよう、身近な相談窓口を一元化するとともに、何か商品に重大な事故が起きた場合、その販売を禁止する権限も持たせます。悪質業者は、市場から駆逐され、まじめな業者も救われます。
行政の発想そのものをめぐる改革であればあるだけ、甲論乙駁はもっともであります。しかし、国民の不安と怒りを思えば、悠長な議論はしていられません。消費者庁創設に、ご賛同いただけるのか否か。民主党に問うものです。否とおっしゃるなら、成案を早く得るよう、話合いに応じていただけるのか。問いを投げかけるものであります。
(簡素にして温かい政府)
行政改革を進め、ムダを省き、政府規模を縮小することは当然です。
しかし、ここでも、目的と手段をはき違えてはなりません。政府の効率化は、国民の期待に応える政府とするためです。簡素にして国民に温かい政府を、わたしはつくりたいと存じます。地方自治体にも、それを求めます。
わたしは、その実現のため、現場も含め、公務員諸君に粉骨砕身、働いてもらいます。国家、国民のために働くことを喜びとしてほしい。官僚とは、わたしとわたしの内閣にとって、敵ではありません。しかし、信賞必罰で臨みます。
わたしが先頭に立って、彼らを率います。彼らは、国民に奉仕する政府の経営資源であります。その活用をできぬものは、およそ政府経営の任に耐えぬのであります。
(地域の再生)
目を、地域に転じます。
ここで目指すべきは、地域の活力を呼び覚ますことです。それぞれの地域が、誇りと活力を持つことが必要です。
しかし、その処方箋は、地域によって一つずつ違うのが当たり前。中央で考えた一律の策は、むしろ有害ですらあります。だからこそ、知事や市町村長には、真の意味で地域の経営者となってもらわなければなりません。そのため、権限と責任を持てるようにします。それが、地方分権の意味するところです。
進めるに際しては、霞が関の抵抗があるかもしれません。わたしが決断します。
国の出先機関の多くには、二重行政の無駄があります。国民の目も届きません。これを地方自治体に移します。最終的には、地域主権型道州制を目指すと申し上げておきます。
農林水産業については、食料自給の重要さを改めて見直すことが、第一の課題となります。五〇パーセントの自給率を目指します。農業を直ちに保護の対象ととらえる発想は、この過程で捨てていかねばなりません。攻めの農業へ、農政を転換するのです。
一〇月一日に発足の運びとなる観光庁の任務に、観光を通した地域の再生があることを申し添えておきます。沖縄の声に耳を傾け、沖縄の振興に、引き続き取り組みます。
昨今は、集中豪雨や地震など、自然災害が相次いでいます。被災された方に、心よりお見舞いを申し上げます。復旧・復興には、無論、万全を期してまいります。
(持続可能な環境)
環境問題、とりわけ地球温暖化問題の解決は、今を生きる我々の責任です。自然と共生できる循環型社会を、次の世代へと引き継ぐことが求められます。資源高時代に対応した、経済構造転換も求められます。
なすべきは、第一に、成長と両立する低炭素社会を世界に先駆けて実現するということ。第二に、我が国が強みを持つ環境・エネルギー技術には新たな需要と雇用を生む力があることを踏まえ、これを育てていくこと。そして第三に、世界で先頭をゆく環境・省エネ国家として、国際的なルールづくりを主導していくということです。
(誇りと活力ある外交・国際貢献)
次に、外交について、わたしが原則とするところを、申し述べます。
日米同盟の強化。これが常に、第一であります。以下、順序を付けにくいのをお断りした上で、隣国である中国・韓国やロシアをはじめアジア・太平洋の諸国と共に地域の安定と繁栄を築き、共に伸びていく。これが、第二です。
人類が直面する地球規模の課題、テロ、温暖化、貧困、水問題などに取り組む。第三です。
我が国が信奉するかけがえのない価値が、若い民主主義諸国に根づいていくよう助力を惜しまない。第四です。
そして第五に、北朝鮮への対応です。朝鮮半島の安定化を心がけながら、拉致、核、ミサイル問題を包括的に解決し、不幸な過去を清算し、日朝国交正常化を図るべく、北朝鮮側の行動を求めてまいります。すべての拉致被害者の一刻も早い帰国の実現を図ります。
以上を踏まえて、民主党に伺います。
今後日本の外交は、日米同盟から国連に軸足を移すといった発言が、民主党の幹部諸氏から聞こえてまいります。わたしは、日本国と日本国民の安寧にとって、日米同盟は、今日いささかもその重要性を失わないと考えます。事が国家・世界の安全保障に関わる場合、現在の国連は、少数国の方針で左右され得るなど、国運をそのままゆだね得る状況ではありません。
日米同盟と、国連と。両者をどう優先劣後させようとしているか。民主党には、日本国民と世界に対し、明確にする責任があると存じます。論拠と共に伺いたいと存じます。
第二に伺います。海上自衛隊によるインド洋での補給支援活動を、わたしは、我が国が、我が国の国益をかけ、我が国自身のためにしてきたものと考えてきました。テロとの闘いは、まだ到底出口が見えてまいりません。尊い犠牲を出しながら、幾多の国々はアフガニスタンへの関わりを、むしろ増やそうとしております。この時に当たって、国際社会の一員たる日本が、活動から手を引く選択はあり得ません。
民主党は、それでもいいと考えるのでしょうか。見解を問うものであります。
(おわりに)
わたしが本院に求めるものは、与野党の政策をめぐる協議であります。内外多事多難、時間を徒費することは、すなわち国民に対する責任の不履行を意味します。
今、景気後退の上に、米国発の金融不安が起きています。わたしどもが提案している、緊急総合対策を裏付ける補正予算、地方道路財源を補てんする関連法案を、速やかに成立させることが、国民に対する政治の責任ではないでしょうか。
再び、民主党をはじめ野党の諸君に、国会運営への協力を強く要請します。当面の論点を、以上にご提示しました。お考えをお聞かせ願いたく、わたしの所信表明を終えます。  
記者会見 / 平成20年10月30日
それでは、今回まとめさせていただきました、国民のための経済対策を発表させていただきます。
初めに、現在の経済の状況について、私の認識を申し上げさせていただきたいと存じます。現在の経済は、100年に一度の暴風雨が荒れている。金融災害とでも言うべき、アメリカ発の暴風雨と理解しております。米国のサブプライム問題に端を発しました今回の金融危機というものは、グリーンスパン元FRB議長の言葉を借りるまでもなく、100年に一度の危機と存じます。
証券化商品という言葉がありますが、これに代表されます新しいビジネスモデルが拡大をした。しかし、その中で金融機関がそのリスクを適切に管理できず、金融市場が機能不全に陥ったと存じます。
ただし、日本の金融システムは、欧米に比べ相対的に安定しております。日本の土台は、しっかりしているということです。しかしながら、全世界的な金融システムの動揺というものは、株式とか債券市場を経て、世界の、また日本の実物経済、実体経済にも影響を及ぼしてくることは確実であろうと存じます。
こうした状況の中で、何より大事なことは、生活者の暮らしの不安というものを取り除くことだと確信しております。すなわち、国民生活の安全保障であります。暴風雨を恐れて萎縮してはなりませんし、台風が通り過ぎるまでじっとしているだけでもだめです。今回の対策は、こうした認識を背景に策定させていただきました。
対策は、大きく分けて2つです。
1つ目は、国内でできること。それは、生活者の安全保障であり、金融の安定です。考えられる限りの大胆な対策を、経済対策としてまとめさせていただきました。
2つ目は、国際的にしなければならないことであります。金融の安定化のために、国際協調を進めます。
まず、国民の経済対策について説明させていただきます。概要は配付していると思いますが、その資料のとおりです。今回の経済対策は、国民の生活の安全保障のための国民の経済対策です。ポイントはスピード、迅速にという意味です。これまでにない大胆なもの。重点を絞り、ばらまきにはしない。そして、財源は赤字国債を出さないこと。
策定に当たっての主な考え方を説明します。まず、日本の経済は全治3年という基本認識の下で、今年度から直ちに日本経済の建て直しに取り組みます。当面は、景気対策。中期的には、財政再建。中長期的には、改革による経済成長という3段階で経済財政政策を進めてまいります。
また、今回の景気対策の意義は、単なる一過性、その場だけの需要を創出することではありません。自律的な内需拡大による、いわゆる確実な経済成長につなげる必要があります。そして経済の体質を転換し、日本経済の底力を発揮させることであろうと存じます。
更に、財政規律維持の観点から、安易に将来世代に負担のつけを回すというようなことは行いません。経済成長と財政健全化の両立を目指してまいります。こうした考えに基づき、対策の財源は赤字公債に依存しません。
今回の対策の主なものを紹介します。
まず第一は、生活者対策です。
減税については給付金方式で、全所帯について実施します。規模は約2兆円。詳細は今後詰めてまいりますが、単純に計算すると、4人家族で約6万円になるはずです。
雇用につきましては、雇用保険料の引き下げ、働く人の手取金額を増やしたいと存じます。
また、年長フリーター、ロストジェネレーションとも言いますけれども、正規雇用をするように奨励します。
介護、子育てについても力を入れます。住宅ローン減税は、控除可能額を過去最大に拡大したいと思います。
第二に、中小企業・金融対策であります。
これから年末にかけて、中小企業の資金繰りは苦しくなります。第一次補正で、緊急信用保証枠を6兆円としましたが、その後の国際金融情勢が、より厳しいものとなっております。中小企業、小規模企業の資金繰りをより万全なものとするために、私の指示で20兆円までこの枠を拡大します。
また、政府系金融のいわゆる緊急融資枠を、3兆円と前回しましたが、これを10兆円まで拡大します。合わせて約30兆円の対策となります。
省エネ・新エネ設備を導入した場合に、即時償却、すなわち初年度に全額償却できるようにします。
金融対策につきましては、金融機関への資本参加枠の拡大を行わせていただきます。株式に対する配当課税など、現行10%しております軽減税率を延長させていただきます。
第三は、地方についてです。
高速道路料金を大幅に引き下げます。休日はどこまで行っても一律1,000円というわけではなくて、1,000円以下に。最高1,000円。平日は、昼間も3割引にさせていただきます。
また、道路特定財源の一般財源化に際しましては、1兆円を地方に移します。
以上のようなことを行い、その際にできるものから、順次実施させていただきます。法律、予算の伴わないものは、でき次第直ちに。
次に、20年度補正予算と関連法律、その次に21年度の当初予算と関連法律の順に実施してまいります。
次に、財政の中期プログラムについて申し上げさせていただきます。今回の経済対策の財源は、赤字公債を出しません。しかし、日本の財政は、依然として大幅な赤字であり、今後、社会保障費も増加します。国民の皆さんは、この点について大きな不安を抱いておられます。その不安を払拭するために、財政の中期プログラム、すなわち歳入・歳出についての方針を年内にとりまとめ、国民の前にお示しします。
その骨格は、次のようなものであります。
景気回復期間中は、減税を時限的に実施します。経済状況が好転した後に、財政規律や安心な社会保障のため、消費税を含む税制抜本改革を速やかに開始します。そして、2010年代半ばまでに、段階的に実行させていただきます。本年末に、税制全般につきまして、抜本改革の全体像を提示します。簡単に申し上げさせていただけるのなら、大胆な行政改革を行った後、経済状況を見た上で、3年後に消費税の引き上げをお願いしたいと考えております。
私の目指す日本は、福祉に関して、中福祉・中負担です。中福祉でありながら、低負担を続けることはできません。増税はだれにだって嫌なことです。しかし、多くの借金を子どもたちに残していくこともやめなければなりません。そのためには、増税は避けて通れないと存じます。勿論、大胆な行政改革を行い、政府の無駄をなくすことが前提であります。
次に、国際的な金融、経済問題について申し上げます。
まず金融機関に対する監督と規制の国際協調体制についてであります。今回のサブプライム問題に端を発した金融危機を見ると、次のような問題が挙げられると存じます。
1つ目、貸し手側が行ったずさんな詐欺的な融資。
2つ目、証券化商品の情報というものが不透明。
3つ目、格付け会社の格付け手法に対する疑問。
このような証券化商品のあらゆる段階において、不適切な行動が見られたということだと思います。
更にこうした証券化商品が、世界中の投資家の投資の対象になったことで、危機が全世界に広まったと思います。金融機関という、本来、厳格な規制が必要とされる分野におきまして、ここまで大きな問題点を見過ごした監督体制については、大いに反省すべき点があると思います。
特に現在のような、各国当局がおのおの監督を行う仕組みでは不十分だと思います。金融機関を監督、規制する際に、いかに国際協調を構築するかについて、現実的な仕組みを来月15日にワシントンで開かれる、金融に関する、いわゆる首脳会議において議論をしたいと思います。
2つ目は、格付けについての在り方です。格付け会社は、債券市場発展には不可欠なインフラ、いわゆる社会的基盤であります。しかし、サブプライム問題において証券化商品に関する格付けの在り方などに、深刻な問題点があったことは否めないと思います。このことが、世界的な金融不安を増長したという面がありました。こうした影響力を有する格付け会社に対する規制の在り方がどうあるべきか。
また、アジアなど、ローカルな債券の格付けを行う地場の格付け会社を育成する必要があることを、首脳会議で議論したいと思っております。
3つ目には、会計基準の在り方についてです。今回のような金融市場が大きく乱高下するような状況において、すべからく時価主義による評価損益の計上を要求することが、果たして適切であろうか。時価主義をどの範囲まで貫徹させるべきか。更に有価証券を売買するか。また、満期まで保有するのかによって、いかなる評価方法が適切であるのか。国際的な合意を目指して、首脳会議で議論を行わさせていただきたいと思っております。これが、国際金融問題に関する、私の問題意識と改革案です。
以上、国民の経済対策と金融問題への対応について、その骨格を申し上げさせていただきました。かつてない難しいかじ取りであります。日本政府の総力を挙げて取り組んでまいります。国民の皆さんの御理解と御支援をお願いを申し上げて、説明に代えさせていただきます。
【質疑応答】
● 総理が先ほど発表された、追加経済対策の柱となっています給付金の支給についてですが、平成11年に実施された地域振興券と同じように、財政負担の割には、景気浮揚への効果が薄いのではないかということもあって、野党側からはばらまきではないかという批判も出ています。総理は一貫して、政局より政策と主張されてきていますが、この中身を見ますと、生活対策より選挙対策という声も出ています。この批判について、総理はどうお考えですか。そしてもう一つ。この一部を実施するための第2次補正予算について、今国会に提出し、その上で会期を大幅に延長してでも成立を期すというお考えがあるのかどうか、お聞かせください。
給付方式はばらまきという御批判なんだと思いますが、私は減税方式に比べまして、少なくとも今年度内に行き渡るということが第一。税金を払っていない、あるいは納付額が少ないという家計にも給付される点において、より効果が多い方式だと私自身は思っております。また、これを今、補正予算等々の話を第2次補正にするか、これは今後の国会の運営の中で考えていくべき段階であって、今これを臨時国会中に出すか出さないかというのを、今の段階で決めているわけではありません。
● 衆議院の解散総選挙の時期についてお伺いします。今後の国会は早期解散を求める民主党が抵抗を強めて、政策の実現は難しくなることが予想されます。党内には選挙で直近の民意を得て、本格的に政策を実現すべきという声もありますが、総理は解散総選挙をいつ断行するおつもりでしょうか。
解散の時期につきましては、しかるべき時期に私自身が判断をさせていただきます。
● それに関連してですけれども、公明党も早期解散を主張していましたが、先ほどの公明党の太田代表との会談、解散についてはどのようなやりとりがあったんでしょうか。
解散につきましては、公明党の方々の御意見、何も公明党に限らず、党内でもいろいろな御意見がありましたのは、御存じのとおりです。したがって、私自身としては、いろいろなことを勘案して、この解散の時期というのを決めさせていただくということで、公明党の方々と綿密な意見を交換させていただき、十分に意思の疎通が図られたと思っております。
● 今の質問とも関連するんですけれども、公明党は11月30日に総選挙という前提で、本格的に準備を進めていたのではないかと思います。この点について、今後その選挙の時期に関する考え方の違いというのが、連立を運営していく上で何か影響があるのではないかということと、ここに至る経緯についての意思疎通について、何かしらの問題がなかったということでよろしいんでしょうか。
いろいろ特定な新聞社には面白おかしく書かれた例は、知らないわけではありませんけれども、私どもと太田代表との間に、いろいろな意味で意思の疎通によって、連立関係はおかしくなるというような関係はありません。
● 今、解散についてお話しいただけなかったと思うんですが。
解散の時期については、私が決めますというのが答えです。
● この3年間、国民の審判を得ないまま、3代にわたって総理大臣が代わりました。麻生総理御自身も『文藝春秋』の論文で、国民の審判を最初に仰ぐのが使命だとお書きになっていたと思うんですが、その政権で政局より政策をずっと実現することに対する正当性について、どうお考えなのか。
うちは大統領制でないということは、よく御存じのとおりだと思います。ここは議院内閣制ですから。したがって、議院内閣制によって運営されているのであって、大統領制とは全く違うということであって、その正当性ということに関しては、全く問題がないと思っております。また、今、少なくとも世の中において、政局よりは政策、何より景気対策という世論の声の方が圧倒的に私は高いと思っております。
● 総理の先ほどのお話の中で、2次補正については今国会に出すかどうかは、まだ決めていらっしゃらないということでありましたけれども、民主党の協力が得られるようであれば、今国会に提出することは当然考えていくということでしょうか。
私どもとしては、これは国会の運営上の話と密接に関係をしますので、それが本当に得られるかどうか。それを見極めながらでないと、何とも答えが出せない。もう御存じのとおりです。そういったことでありますので、きちんと今国会にしゃにむに出しますとも出さないとも言えないというのは、そういうことであります。
● 地方への1兆円のことでお伺いしたいんですが、現在、国の道路特定財源の中から、約7,000億円を地方に交付する地方道路整備臨時交付金というのがあります。今回、一般財源化に当たって、臨時交付金というのはなくした上で、新たに1兆円を交付する仕組みをつくるのか。また、7,000億円を地方に交付する制度は維持した上で、これに加えて1兆円を交付する制度をつくるのか。そのいずれでしょうか。
これはまだ詳細に決めているわけではありません。しかし、基本としては1兆円というものを地方にということが基本です。
● 総理は今、解散総選挙のことに関連して政局よりも政策、景気対策を求めるのが国民の声だとおっしゃいました。確認になりますけれども、ということは現在のところにおいては、当面は、解散はないというふうに受け取っていいわけですね。
NHKの当面という言葉の定義は詳しくわかっていないのでうかつなことは言えないんですが、当面と言ったではないかと言われて、どの程度が当面なのかよくわからぬからお答えのしようがありませんけれども、少なくとも今の段階において、補正予算というものが通るか、通らないか、国会の対応等々を見た上で、解散の時期等々はそれに関連してくるのは当然のことだと思いますが、いずれにしても私どもとしては、この政策というものを是非実現して、結果として国民の生活不安に応える必要があるというのが、私は優先順位からいったら一番なんだと、私自身はそう思っております。
● 先ほど総理は100年に一度の危機だとおっしゃいました。そして、アメリカの大統領の選挙がありまして、アメリカもしばらく政治空白になることが予想される中で、やはり日本が解散によって政治空白をつくることがあるのかどうか。それについての率直な麻生総理の今のお考えをお聞かせください。
アメリカの場合は、11月4日から1月20日まで、いわゆる移行期間の間がなかなか難しい。これは4年に一遍必ず訪れる話ではあります。そういった時期に、世界第一の経済大国と第二の経済大国の日本とともに、それがかなり選挙等々でごちゃごちゃしているという状況は極めて好ましくないと、多分世界は思っている。事実言われたこともありますけれども、そういったことは確かに考えておかねばならない大事なところだと思います。しかし、一番大事なのは、この政治空白という言葉をどういう意味で言っておられるのかよくわかりませんけれども、少なくとも選挙になったからといって、突如と行政がなくなるわけではありませんし、政府はそこに存在をしておりますので、議院内閣制としては、アメリカのように一挙に何千人もお役人が変更するとか、変わるということもありませんし、そういった意味での政治空白というのは、この種の話の定義は難しいところですけれども、そういった意味で直ちに政治空白が起こると考えているわけではありません。  
記者会見 / 平成20年12月12日
急なことではありますが、是非国民の皆様にお話ししたいことがあり、記者会見を開らかせていただきました。内容は、生活防衛のための緊急対策についてであります。
アメリカの金融危機、これは尋常ならざる速さで実体経済、実物経済へ影響し始めております。これまで、第一次補正予算に続いて、生活対策の策定をさせていただき、そして生活者の安全保障、そして金融の安定を最優先に対策を講じてきたところです。
しかし、その後も、経済の悪化は予想を超えるものとなっております。今日も御存知のように、証券市場は株価が下落、為替も円高に大幅に振れておりました。そのため、次のような果断な対策を第二次補正予算及び平成21年度の当初予算において、是非、対策を打ちたいと考えております。
特に年末を控え、国民生活を防衛するため、雇用と企業の資金繰りを最重要課題といたします。これらの対策の規模は、第一に、財政上の対応として10兆円、これには平年度で住宅減税や設備投資減税などの総額約1兆円規模の減税も含まれております。
第二に、金融上の対応として、保証・融資枠の設定が13兆円となります。
政府としては、国民生活の不安を取り除く、そして少なくとも先進国の中では、最も早く今回の不況から脱出することを目指して、あらゆる努力を行いたいと考えております。
まず、急がなければならないのは、雇用対策だと存じます。特に年末までに急がなければならない。年度末ではありません。年末までに急がなければならないことは、雇止めや解雇された方々の住宅問題、住居問題です。社宅を追い出されると住む場所がなくなる。この方たちのためにも、直ちに引き続き社員寮などは住み続けられるよう、事業主へ要請します。そして後日、事業主の方々には助成をいたしたいと存じます。
1万3,000戸ある雇用促進住宅、ここにおいての受入を行います。また、住宅入居費用を貸し付けたいと存じます。
加えて、内定取り消しの対策として、企業名の公表を含めて指導を徹底したいと存じます。
また、第二次補正において、職を必要とする非正規労働者などに、地域において雇用機会というものをつくるために、既に生活対策で発表したものと合わせて、過去最大4,000億円の基金を創設いたします。
21年度におきましては、雇用保険料の引き下げと給付の見直し、そして非正規労働者などの雇用維持対策、再就職への新たな支援を行いたいと存じます。
これらは合計で約1兆円の追加となります。
さらに21年度において、地方交付税を1兆円増額いたします。これによって、地方が実情に応じて自主的に雇用創出の事業などを実施できるようになります。
次に、21年度予算において、1兆円の経済緊急対応予備費を新設いたします。先日、閣議決定をいたしました予算編成の基本方針におきまして、世界の経済金融情勢の急激な変化を受け、状況に応じて果断な対応を機動的かつ弾力的に行いましたのは、御存じのとおりです。今後、予期せぬ新たな事態に備えて、この予備費を新設しておきたいと存じます。
その使途としては、雇用、中小企業金融、社会資本整備などを考えております。
三番目が、金融市場・資金繰り対策であります。この年末、中小企業では資金繰りを心配しておられる方々も多いことと存じます。まず政府は第一次の補正予算において6兆円の緊急信用保証枠と、3兆円の政府系金融のセーフティーネットの貸し出しと、併せて9兆円を用意しております。ここ一両日を見ましても、1日に1,000億円前後の保証を実施しております。まだ4兆円以上の保証枠が残っております。営業日日数で約30日、この間の話です。年末に向けて十分な資金を用意してあるということです。
これに加えて、おかげさまで、本日、金融機能強化法が成立をいたしております。これに基づきまして、貸し手側の対策、前から申し上げておりましたが、政府の資本参加枠を現在の2兆円に10兆円追加して12兆円といたします。これによって企業への貸し渋りや貸しはがしが生じることがないよう、金融機関が安心して地域経済や中小企業に対して資金供給ができる環境が更に整備されることになります。
借り手側の対策であります信用保証枠の拡大と合わせて、貸し手側の対策によって中小、小規模企業の金融対策に万全を期してまいりたいと考えております。
次に中堅・大手企業の資金繰り対策として、政策金融による危機対応業務の発動を行います。これは、一時的に資金繰りが悪化を来している中堅企業に対して、政策投資銀行や商工中金を通じて資金繰りを支援するものであります。
企業の短期約束手形、通称コマーシャル・ペーパーと言うんですが、このCPの市場において起債環境が悪化しております。企業の資金繰りが結果として厳しいものになっております。
そこで、この危機対応業務を活用して、政策投資銀行などを通じたCP、コマーシャル・ペーパー買い取りのスキームを設けることといたします。本年度中に危機対応業務として3兆円の融資枠を設定します。
さらに日本銀行において、市場への潤沢な流動性供給のための施策を実施していただけるよう、政府として期待をしているところであります。
金融機関に対しては、年末並びに年度末の企業金融に対する特段の配慮を要請することといたします。
さらに住宅、不動産市場対策です。特に住宅、不動産市場では、健全な事業につきましても、金融の目詰まりが見られます。そのため、住宅、不動産事業者に対する政策金融のいわゆる危機対応業務に加え、住宅金融支援機構が住宅、不動産事業者に対して事業資金の調達の支援を行います。住宅機構からの時限的な融資は年内に開始します。
また来年度の税制改正においては、過去最大の住宅ローン減税を行うとともに、自己資金、自己資本で住宅を購入する場合などの減税も新設することにより、住宅を購入しやすくいたしたいと存じます。
以上のような内容を、政府・与党政策責任者に指示し、ここにお見えの与謝野大臣に取りまとめをお願いしました。政府・与党は、予算編成作業を急ぎ、年末までにその全体像をお示しいたします。
今回の世界の大不況は、100年に一度の規模とも言われております。日本もこの大きな津波みたいなものから、枠外にいるまたは逃れるということはできないと存じます。しかし、的確な対応を早急に打つことで、被害を最小限に抑えるということは可能だと存じます。
次に、この対策の実行について申し上げます。これらの対策を実現するためには、第二次補正と、その関連法案、そして税制改正も含めて、平成21年度当初予算と、その関連法案を早急に成立させ、切れ目なく実行する必要があります。そのため、異例なことではありますが、年明け早々1月5日に通常国会を召集し、これらを審議していただこうと考えております。
民主党の小沢代表には、先日の党首討論におきましても、審議に協力し、早急に結論を出すとお約束をいただいております。国民生活を守るため、是非これらの予算と関連法案の一刻も早い成立に御協力いただくことを改めてお願いをする次第です。
最後に、社会保障、税財政の中期プログラムについて申し上げます。大胆な財政出動をするからには、中期の財政責任もきちんと示さなければなりません。また、財政責任の在り方をきちんと示すからこそ、大胆な財政出動が可能となる。これが責任政党の原点であり矜持だとも存じます。
私は、大胆な行政改革を行った後、経済状況を見た上で3年後に消費税の引き上げをお願いしたいと過日申し上げました。この立場は全く変わっておりません。
その前提条件として大胆な景気対策をやる一方で、社会保障の安全強化のため、消費税負担増の準備をやらなければならないと考えております。
経済状況を見ながら、与党税制改正大綱の考え方の範囲内で、2011年度から消費税を含む税制抜本改革を実施したいものと存じております。
そのため、必要な作業を政府内で始めるよう、与謝野大臣、中川大臣に指示をいたしたところです。色々と批判が出ることは承知をいたしております。それでも責任与党として、最後はご理解いただけるものと信じております。逃げずに、正直に、社会保障の安心強化というものを進めてまいりたいと考えております。国民の皆さんの一層のご理解をお願いさせていただければ幸いであります。
以上です。ありがとうございました。
【質疑応答】
● 先ほど言われました消費税の問題についてお聞きしたいんですけれども、総理は、今、3年後に経済状況を見ながら引き上げを実施するという考えには変わりがないとおっしゃったんですけれども、しかも、与党の税制大綱の範囲内とおっしゃいましたが、本日決まった与党の税制大綱の方では2010年半ばまでということで、消費税の引き上げの実施時期の明記はされていないんですけれども、それでも政府の今後の中期プログラムには、はっきりとその実施時期を明記する考えがおありなのか。それと、与党をどのように説得していくおつもりなのか。それをお聞かせください。
与党の税調の書かれた紙を見ましても、消費税を含む税制抜本改革を経済状況の好転の後に速やかに実施と書いてあります。ご存じのとおりです。2010年代半ばまでに持続可能な財政構造を確立すると書いてある。私も昨晩でしたが、お話がありましたので、今、申し上げていることは、それに反しているわけでもありませんし、基本的には3年後に消費税を引き上げるという方針でやっていき、それまでに景気回復ができているということをやらなければならないということです。そのために、今、大胆にやろうとしているんですから。景気対策が3年、3年間が向こう全治3年と申し上げているのは、その理由の一つでして、大胆にやるためには、後のものがきちんとされていなければ、そういった大胆なことはできないと存じますので、私どもは、今、申し上げたとおり、この与党の税調の話にもそんなに反しているわけでもありませんし、今、申し上げたのが答えです。
● 解散総選挙に関してなんですけれども、民主党の小沢代表は、話し合い解散ですとか、選挙管理内閣を作ってでの解散などについて言及しています。また、予算の成立などに絡んで、麻生総理は解散時期について小沢代表と話し合うつもりはあるのか。それと、現段階で麻生総理が解散総選挙の時期についてどのように考えているのかをお聞かせください。
政策について民主党と話し合うというのは政党間協議、前から申し上げておりますので、大歓迎であります。ただし、解散の方につきましては話し合うつもりはありません。また、時期というものの御質問でしたけれども、私が判断をさせていただきたいと存じます。
● 財源問題についてお伺いいたします。総理は、社会保障費の抑制枠2,200億円の見直しについて、既に限界に達しているという発言を再三されていますが、たばこ増税が見送りとなったことで、依然、財源の問題は決着していません。この間、保利耕輔政調会長にも指示をされたと伺っていますが、この問題の決着の見通しと、何かお考えがあるんでしょうか。
社会保障の2,200億円につきましては、いろいろ取りざたされておりますのは、知らないわけではありません。厳しい状況であろうと思いますけれども、これはあと約1週間少々ありますので、その間にぎりぎり努力をしてもらいたいと考えております。対応いたします。
● 今日発表された緊急対策ですけれども、二次補正と来年度の当初予算ということですけれども、具体的にどのように振り分けてやられるお考えですか。それと、もう一つは財源ですけれども、こういう対策を取るためには財源が必要ですが、埋蔵金等、どういったところから捻出しようとお考えですか。
財源につきましては、まず基本的に、いわゆる生活対策の財源につきましては、赤字公債に依存しない。前回も申し上げたとおりです。雇用保険特別会計の活用とか、また、財政投融資特別会計の金利変動準備金の活用など、いろいろ考えられております。21年度の当初予算につきましては、今年度、平成20年度の予算の内容が、多分、これだけの法人税の減収が予想される中におきましては、いわゆる減額補正をしなければならぬという状態になる可能性は極めて大きいと考えております。したがって、スタート台が極めて低いところから始まりますので、いろいろなことを考えて、今後、よく検討しなければならぬと思っております。
● 消費税のことをもう一度確認したいんですが、総理は与党の大綱に反しているわけではないとおっしゃるんですが、総理が冒頭におっしゃった、2011年度から消費税を含む抜本改革という点については、与党、とりわけ公明党は明確に反対をしているんですが、これでも政府の方針として中期プログラムで閣議決定をされるということでしょうか。
私としては、2011年、今から3年ありますけれども、3年後、我々は今の不況というものから脱却をしていたい。私は基本的にそう考えております。したがって、何回も申し上げましたように、短期的には景気対策が一番だ。そして、全治3年と申し上げたのも、それが背景です。したがって、2011年に私としては、是非やりたいということに関しましては、変わっておりません。
● 先ほどの質問の中で、補正予算と当初予算とかの生活防衛緊急対策の仕分けをもう少し詳しく説明していただきたいんですが、要するに生活対策を除く部分については赤字国債に頼らざるを得ない部分もあるのか。それと、当初予算に持っていく分については、どちらかというと、赤字国債に依存してやることになるのかということと、1兆円の予備費というのは余り過去に例がないと思うんですけれども、国会でいろいろ質問、追及されるような気もしますが、それについて理解を得られると思われているのか。その辺についてお聞かせいただけますか。
今の話の緊急の予備費につきましては、少なくとも100年に一度で何が起きるかわからぬと私どもは正直申し上げて、そこが一番の問題。大体、今までに予想しているものではない形になっていますので、そういう意味では、異常事態に対しては、異例な対策を取らざるを得ないということで、あらかじめきちんとした予備費を持っていないと、これまでは過去5,000億ぐらいの予備費はあったそうですけれども、過去の前例にとらわれていると、正直、更に何かが悪化するとか、いろんなことを考えておかなければならないと思って、我々、責任政党としては、ここはきちんとした予備費を持っておかないと、いろいろな対応ができない、極めて緊急に起きる可能性というのは、それは何を想定しているのかと言われれば、私どもとして、それが想定できるんだったら、勘定科目に挙げているんであって、そういったことを申し上げれば、社会保障とかいろんなことが考えられると思います。更に雇用とか、いろんなことが考えられると思います。したがって、予備費と申し上げているのは、そういうことでして、いろいろ御意見もあるところだと思いますけれども、予想がしにくい今の状況において、私としてはこういったものを持っておくということが、少なくとも安心につながっていくものなんだと、私自身はそう考えております。
● 緊急対策の中で、地方交付税を1兆円増額するという項目が入っておりますが、総理はかねがね地方が自由に使えるようにすることが大切だとおっしゃってきたかと思うんですが、今回雇用創出等のためのという条件を付けているのは、どういうことなんでしょうか。
基本的には、その内容は地方交付税というものを申し上げた中で、地方交付税というのは、御存じのように地方が一番自由裁量の多いところです。そこで、過日の道路特定財源のときに、約1兆円の新しく交付金という形になっておりますが、いわゆる地方が自分でそれをやろうと思った場合、もともとその道路事業をやるときに、地方が負担しなければならない分、通常、裏負担とかいろんな表現が皆様方の業界ではありますけれども、あの部分。あの部分を我々としては、地方を見ていますとそこが負担できる資金、財力がないからこの公共工事は請けられないということになって、毎年3%の公共工事の減、プラス1.5ぐらいになっているというのが、昨年、一昨年ぐらい、大体それぐらい減っていると思います。その理由は、地方に公共工事がないんではなくて、それを負担する財力が地方の自治体にないというのが一番の問題。したがって、今、申し上げたようなものが地方交付税として付くことによって、そこに仕事ができることになります。何も道路に限りませんよ。はっきり申し上げて、電柱の地下埋設というものも大きいでしょうし、いろんな意味で、この間来た山の方は間伐が全然できなくてどうにもならぬとか、地方からお見えになる方の要望は実にさまざまです。そういった方々に自由に使えるということは、イコール雇用を創出しますから、今ごろ、そういったものを使って自分の人件費の穴埋めにするような自治体は考えられませんけれども、そういうのではなくて、新たに雇用を創出する。雇用を創出するというのは、正直言って、今、植林で言ったから木で言えば、木の間伐をずっとやっていく、そういったものを新たに、市営でやっているもの、町営でやっているもの、いろいろありますけれども、そういったところに人を入れるイコールそれは雇用にもなりますし、同時にそこは緑が、植林が、治水が、治山が維持される。そういった意味で、今、申し上げたような交付税というものを、あえて雇用という名前を使わせていただきましたけれども、それは主にそういったものに使えるという意味で、公共工事といえば公共工事かもしれませんけれども、それは単なる公共工事の部分が小さなところでちょこちょこ出てきますと、それは地元の人たちの雇用につながっていくということで、大きな大企業がどんと乗り込んできて何とかかんとかするようなものとは違った意味での小さな工事、イコール雇用が発生するという意味で、今、言ったようなことを申し上げさせていただいているわけです。これは改めて総務省なりにきちんとした指示を明確にしていかなければならないと思っております。  
2009

 

平成21年年頭所感
新年あけましておめでとうございます。
今年は、平成二十一年。今上陛下、御即位二十年であります。国民とともに、心からお祝い申し上げたいと存じます。
この二十年間、日本は、平和と繁栄を続けてまいりました。バブル崩壊、金融危機など、いくつかの困難にも見舞われましたが、国民の力によって、見事に乗り越えてきました。
しかし、アメリカ発の百年に一度と言われる世界的な金融・経済危機が生じています。日本だけが、この「つなみ」から逃れることはできません。しかし、適切な対応をすることにより、被害を最小に抑えることはできます。
国民の皆さんの、景気や生活に対する不安。これを取り除くため、政府は、全力を尽くします。そして、世界の中で、最も早くこの不況から脱するのは、日本です。
振り返れば、日本人は、これまでも、自らの選択と努力によって、日本という国を保守し、変化させながら、発展させてきました。近代に入ってからも、二度の大きな危機に直面しながら、そのたびに、新たな道を切り拓き、驚異的な成功をおさめてきました。
百四十年前。明治の先人たちは、戊辰戦争という内戦の中で、新年を迎えました。しかし、殖産興業を推し進め、欧米列強に屈することなく、肩を並べるまでになりました。
次に、六十年前。昭和の先人たちは、戦争によってすべてを失い、占領下の新年を迎えました。しかし、その後の革新的な努力によって、世界第二位の経済大国をつくりあげました。
「日本」は、「日本人」は、その底力に、もっと自信を持っていい。これまでと同様に、日本という国は、ピンチをチャンスに変える。困難を必ず乗り越えることができると、私は信じています。
私が目指す日本は、「活力」ある日本。「安心」して暮らせる日本です。日本は、これからも、強く明るい国であらねばなりません。
五十年後、百年後の日本が、そして世界が、どうなっているか。未来を予測することは、困難です。
しかし、未来を創るのは、私たち自身です。日本や世界が「どうなるか」ではなく、私たち自身が「どうするか」です。
受け身では、だめです。望むべき未来を切り拓く。そのために、行動を起こさなければなりません。
私は、決して逃げません。国民の皆さんと共に、着実に歩みを進めていきます。
新年にあたり、あらためて、国民の皆さんのご理解とご支援を、お願い申し上げます。
本年が、皆さんお一人お一人にとって、すばらしい一年となりますよう、心よりお祈り申し上げる次第です。  
年頭記者会見 / 平成21年1月4日
新年、明けましておめでとうございます。それぞれにいい正月を迎えられたことと存じます。今年は、今上陛下即位20年、御成婚50周年、金婚式、誠におめでたい年であって、国民を挙げてお祝いを申し上げたいと存じます。
安心して暮らせる日本、活力ある日本、この思いを年初めの字に込めたいと存じます。
(麻生総理、書初め)
「安心」「活力」であります。年頭に当たって、私は新しい国づくりに向けた決意を新たにしております。私が目指す目標は変わりません。強い決意を持って、この難局に立ち向かい、国民の皆様の期待に応えたいと思っております。国民の皆様の生活を守るために、やり抜く覚悟です。
悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである。好きな言葉であり、ある哲学者の言葉です。未来は、私たちがつくるもの、我々がつくる。未来は明るい。そう信じて行動を起こす。そうした意志こそが未来を切り開く、大きな力になるのだと思っております。国民の皆様のために、明るい日本をつくりたい、そう強く考えております。以上です。
【質疑応答】
● 総理、明けましておめでとうございます。
おめでとうございます。
● まず、明日召集の通常国会についてお尋ねします。今、総理は国民の生活を守るためにやり抜くとおっしゃいました。昨年末の記者会見でも、来るべき国会は意思決定能力が問われる、経済危機から国民生活を守ることができるか否かを国民は国会に求めているとおっしゃいましたが、第2次補正予算案について民主党は、定額給付金の分離を求めており、審議の行方というのは、まだ見通しは不透明だと思います。総理の基本的なお考えとして、景気対策を早く実行に移すために、民主党と何らかの話し合いをする意図があるのか、それとも政府案が最善のものだということで、再可決を前提にあくまで正面突破を図るおつもりなのか、そのお考えをお聞かせください。
基本的に国会というところは、論議をすべき場所であります。したがって、しかるべき提案が出されたのであれば、それを論議するのは当然なことです。しかし、我々は論議した上で結論を出さねばならない、その結論は、景気対策、金融対策、経済対策、いろいろありますけれども、今の生活者を守るためにいろいろ今、法案を予算の中にもいろいろ出してありますので、そういったものを含めて審議する、プラス結論を出す。その結論が早ければ早いほど基本的に予算が景気対策にはこの予算というのは、最も大事なものだと思っておりますので、論議をするということと結論を出すという基本的なところを忘れないでやっていただくというのが肝心なんじゃないでしょうか。
● 総理、今、書初めで「安心」「活力」と書かれました。安心・活力のある日本にするためには、まず景気対策が重要になってくると思います。それに絡めて、少し解散総選挙のことも絡めてお伺いしたいんですが、総理はかねがね2次補正、新年度の予算案、これを成立させて1次補正と合わせて三段ロケットで景気回復をとおっしゃっています。それは、すなわち新年度の予算と関連法案が成立するまでは、解散総選挙は行わないということを意味するということでいいんでしょうか。また、国会の運営が行き詰ったときに、予算成立のために野党と話し合い解散をすることがあり得るのか。改めて伺いたいと思います。
急ぐべきは景気対策、はっきりしています。まずは予算と関連法案を早急に成立させることが重要、それまで解散を考えていることはありません。また、今、国会が行き詰ったときに話し合い解散ということは考えておりません。
● 総理は解散の時期について、かねがね御自身で判断するというふうにお話しされていますが、支持率が大分下がっていく中で、与党内には麻生総理では選挙は闘えないのではないかという声も強まっております。それでもあくまでも御自身で解散をするということでよろしいんでしょうか。その場合、どういった争点を掲げて闘おうというお考えでしょうか。
まず、基本的には、解散は最終的にだれが決断するか、総理大臣が解散を決断します。すなわち、麻生太郎が決断します。それから、争点、これはもうはっきりしているんではないでしょうか。国民生活の安定、我々は効果的な経済対策とか、生活対策とか、そういうことを迅速に打つということができるのは政府自民党と確信しております。また、次に、国の将来に対して責任を持つということも大事なところだと思っておりますが、今、日本としては中福祉というのであれば中負担ということがどうしても必要だということで、私は景気回復の後に、消費税の増税をお願いするということを申し上げました。無責任なことはできない。そういうのが政府自民党だと、私はそこを一番申し上げたいと思っております。
● 外交についてお伺いいたします。最初に、イスラエル軍がガザ地区に地上部隊を進攻させましたが、そのことについてどういうふうにお考えですか。それと日本政府としてどんなメッセージを出すのか。それから、今年1年外交について、総理はどのようなことを重点にお考えになっておられますか。特に、オバマ政権が1月20日に発足しますけれども、アメリカとの外交、アメリカはアフガンの方にイラクからシフトしていくと言われていますけれども、さらなる日本に貢献を求める可能性も予想されますが、その点はどういうふうに対処されるお考えでしょうか。
まず、最初に、イスラエル軍のパレスチナ、ガザ地区への進攻の前に、昨年の末、オルメルト、今年、昨日か一昨日、アッバス、それぞれ電話で会談をいたしております。それぞれ、双方に自制を求める旨話をしましたし、人道支援を日本としてはやることにしておりますけれども、それらの医療物資などなど搬入するに当たっては、これはイスラエル軍に阻止されるということのないようになど、いろいろ話をしておりますけれども、この問題は、なかなか簡単な停戦ということに至らないだろうというのは、私も世界中の識者とほぼ同じ意見を持っております。長い話で、もともとロケットを打ち込まれた話からスタートしておりますので、それに対する報復ということになりますので、そういった意味では、ことのスタートからなかなか話はまとまりにくいであろうと思っております。地上軍というのが導入されていますけれども、これが話を更に悪化させているということを大いに懸念をしているところです。オバマ大統領との話がありましたけれども、これは1月20日に発足されますので、その後にどういった時期にという話は、その後に調整をしていくことになろうと思っております。世界との中の外交の中において、今年間違いなく一番優先順位の高いのは、やはり金融、国際金融、これは明らかに金融収縮を起こしているわけですから、国際金融、それに対して日本は、これに責任を持つIMFに対して10兆円融資、こういったことをしている国は日本しかありませんから、基本的に、こういった大きな額をきちんとしている、そういったものを早目に去年も出しておりますので、こういったことによるきちんとした対応というものを世界の大国として責任を持っていかねばならないということだと思っています。新しい国際金融秩序というのをつくらないと、何となくすべて市場経済、原理主義みたいな話が一時ずっと言っていましたけれども、それの欠陥が出たことだけは今回明らかだと思いますので、そういったことで、こういったものに対して、きちんとした国際的な監視が必要ということに関しては、昨年のワシントンD.C.でも話を提案し日本の案がそのまま採用になっておりますので、そういうものを含めて、我々としてはきちんとした対応がその後なされているのか、そういったことはきちんと世界中でチェックし合わないといけない事態なんだと思いますので、我々としては大事なところは、今、言ったようなことだと思っております。アフガニスタンにつきましては、これはテロとの闘いをやっているわけなのであって、アフガニスタンと闘っているわけではありません。したがって、テロをいかに未然に防止するかというのは、最善の努力をすべきであって日本が貢献できるところに関しては当然のこととして、テロ防止のために国際的な協力をし続けていく必要があるという立場は変わりません。
● 集団的自衛権についてお伺いしますけれども、総理は、去年、国連総会に出席された折に、集団的自衛権を行使できるように、憲法解釈を変えるというふうにおっしゃいましたけれども、いつごろ、そしてどのような手順で解釈を変えるか、お考えをお聞かせください。
私の立場は一貫しているんだと思いますが、いわゆる従来から政府は集団的自衛権の行使は憲法上許されないという解釈をとってきている、この立場は、今、変わっているわけではありません。ただ、一方、これは非常に重要な課題なんでして、これまでさまざまな議論がなされてきたということを踏まえて、これはかなり議論をされる必要があるのではないか。ソマリア沖の海賊の話などを含めて、具体的なことになってきておりますので、そういったものを含めて対応を考えておかないと、我々としては、自衛官、海上自衛官でもいいですが、派遣をして、その派遣した者が派遣はしたけれども、効果は全く上がらなかった、派遣された隊員、非常に危険なことになったということになったのでは意味がない、私はそう思っていますので、こういった問題については、懇談会の報告書も出されていますので、そういったものも踏まえて、引き続き検討していかねばならないと思っております。
● それは、ソマリア沖に派遣する前にということですか。
今、既にいろいろな形で検討がなされております。それ以上ちょっと答えられません。
● 次の通常国会の予算審議では、自民党の中から予算関連法案の再議決をめぐって造反する可能性が取りざたされていたり、それから、民主党サイドからは、そういったことを期待するような声も上がっているんですけれども、総理は自民党の総裁として、こういった反党行為が仮に起きた場合には、例えば離党を促すだとか、次の総選挙で公認しないだとか、いろいろな対応があるかと思いますけれども、どういった方針で対処されるお考えなんでしょうか。
そのような事態は想定していません。お気持ちはわかりますけれども、あなたの質問している側の気持ちはわかるけれども、そういった状態を想定しているわけではありません。  
記者会見 / 平成21年3月31日
1(新しい経済対策)
去る3月27日に、平成21年度予算と関連法案が成立いたしました。私は、予算の早期成立が最大の経済対策であると申し上げてまいりました。これで、景気対策の3段ロケットが完成したことになります。
(これまでの成果)
既に実施いたしております、平成20年度の第1次、第2次補正予算は、大きな成果を上げていると存じます。
例えば
(1)中小企業の金融支援につきましては、緊急保証と特別融資とで、これまで約50万件、10兆円が実行に移されております。現実問題、これは約300万人を超える従業員の雇用の安心につながったということになろうと存じます。
(2)雇用調整助成金は、従業員を解雇しない企業を支援するお金のことです。本年2月だけで、187万人の雇用の下支えをしたことになります。
(3)地方の高速道路につきましては、28日から休日はどこまで行っても1,000円が始まりました。多くの方々に利用していただいております。
(新年度予算)
その上に新年度予算が加わることになります。
(1)国民生活を守るために、雇用対策や医師確保や緊急医療対策、そして出産支援などに力を入れていけると存じます。
また、地方交付税を1兆円増額したほか、地方や企業を支援する施策を盛り込んでおります。
これらの効果を早期に発揮させるためには、その執行の前倒しが必要だと存じます。
地方公共団体に対しても、その協力を求めてまいります。
(新しい対策)
しかし、なお日本は経済危機ともいえる状況にあろうと存じます。そのため、新しい経済対策を策定いたしたいと存じます。
今やらなければならないことは、基本的に3つです。
1つ、景気の底割れを防ぐこと。
2つ、雇用を確保し、国民の痛みを和らげること。
3つ、未来の成長力の強化につなげることです。
景気対策のために、需要を拡大するとともに、安心に力を入れることが必要です。
生活者の安心を確固たるものにする。すなわち雇用や社会保障、子育て支援などの充実が求められていると存じます。
また、未来への成長につながるような、新しい分野への投資が重要であります。
まさに政府の役割、財政の出動が求められていると思います。
これまでの経緯にとらわれることなく、大胆な発想で、最大限の努力を行いたいと存じます。
政府・与党で早急にとりまとめ、国民の皆様にお示しをいたしたいものだと考えております。
2(成長戦略)
次に成長戦略についてお話いたします。短期的な経済対策の先には、中長期の経済成長が必要です。
どのような経済社会を目指すのか、将来像や目標を具体的に明示し、その実現に向けたシナリオを描いております。
そして、官と民とがともに行動することで、新たな市場や雇用を創出いたします。
早急にまとめたいと存じます。
第1の分野は、低炭素革命です。
環境エネルギー分野は、日本が世界で最も強い分野です。例えば太陽光発電や環境にやさしい自動車、日本の技術で低炭素革命を先導いたしたいと存じます。
第2の成長戦略は、健康・長寿社会の実現です。
日本は、世界最速で高齢化が進んでいますのは御存知のとおりです。だからこそ日本で活力ある、明るい高齢化社会というものを実現したいものだと考えます。
例えば介護の職場で、希望が持てるようにしなければならないと考えます。
第3の分野は、日本の底力の発揮です。
日本には安全また文化といった国際競争力のある観光資源があると存じます。
また、アニメーション、ファッション、Jポップいろいろありますが、日本のソフトパワーは世界に冠たるものがあります。
残念ながら、今、それは国際的なビジネスにはつながっていないと存じます。
日本の魅力や底力を産業につなげることで、地域に活力を与え若者の雇用を増やしたいものだと考えております。
(アジアの成長支援)
更に、中長期の成長戦略は国内だけを見ていても描けないと存じます。国境を越えてアジア全体で成長するという視点が大事だろうと存じます。
このため、日本はアジアでの広域インフラの整備などを通じた域内の需要拡大をODAや民間資金を活用して支援をしたいと存じます。
4月にタイで開かれる予定の東アジア首脳会談の場で、私はこうした取組みの推進役の先頭に立ちたいものだと考えております。
3(ロンドン緊急サミットに向けて)
さて、私は今夜ロンドンに向けて出発します。緊急経済・金融サミットが開かれ、世界の20か国以上の首脳が集まる予定であります。
昨年11月、第1回のサミットがワシントンで開かれたのは御存知のとおりです。
その際、私が主張した不良債権の迅速な処理や、金融市場に関する規制と監督に関する国際協調などは、既に共同声明に盛り込まれ、各国において進められております。
例えば不良債権の処理です。
日本は1990年代の経験から、その際には金融機関に資本注入をする場合、厳格で公正な資産評価と経営健全化へのインセンティブの付与が必要不可欠だと申し上げてきました。
最近アメリカで発表された金融安定化策は、こうした方針に沿ったものです。これを歓迎するとともに、一刻も早い実行を望みます。
また、世界の金融市場が逼迫していることについては、私はIMFに対して1,000億ドルの融資を行う意図を表明し、先般、取り極めを締結をしております。
その後、EUも日本にならってほぼ同額の融資に同意をしております。日本としてはこの際、さらなる提案を行うことにより、世界経済にとって必要な資金が円滑に供給されるよう主導的な役割を果たしていきたいと考えます。
更に、世界的には、輸出入のために資金手当というものが難しくなってきております。信用が収縮しているからです。これを放置すると、輸出入取引自体が縮小していくことになります。このため、日本は貿易に対する保険や融資を活用して支援を行っていきたいと考えております。
今回のロンドンサミットにおいては、こうした基本的な方針に沿って議論を深め、さらなる具体的な成果を得るべくリーダーシップを発揮していきたいものだと考えております。
4(おわりに)
最後になりましたが、平成21年度予算が成立しました。しかし、なお重要な法案がたくさん残っております。
ソマリアなど海賊対処法案、消費者庁の法案、年金の財源を安定的にする法案等々です。
それぞれ国民生活や国際貢献にとって不可欠なものだと思います。私はこれらの早期成立に全力を挙げたいと存じます。
明日4月1日は新学期や新年度が始まります。
新しく学校に入られる学生さんや、新しい職場に就かれるフレッシュマンも多いと思います。
大きな希望とともに、少しの不安もお持ちだと存じます。皆さんの未来というものは、明るいものにしなければならないと考えます。
私が総理大臣の重責を担うことになりましたのは、ひとえに、この日本を元気にするため、そして、安心できる社会をつくることであると、そう心得ております。
そのために全身全霊をささげる覚悟です。
国民の皆さん、希望を持って、ともに進んでいこうではありませんか。ありがとうございました。
【質疑応答】
● 総理、本日、新経済対策を指示されましたが、その新経済対策の裏付けとなる09年度補正予算案について、与党内では早期に国会に提出してほしいという要望が高まっております。総理としては、今国会に提出される御意向なのかどうかということをまず1つお聞きしたいと思います。それから、提出された場合、今国会での成立まで図っていくのか。併せまして、提出の時期、それから補正の規模等々についてもお願いいたします。
本日、政府・与党に対して、公明党の太田代表とともに、現下の経済状況を考えて、4月中旬までのできる限り早い時期に経済対策をまとめてほしいと指示をしたところです。その中には、補正予算というものも、その提出が含まれるということであります。提出の時期、規模につきましては、これは対策の内容次第によって決まってくると思いますので、今、この段階で総額幾らということが決まっているわけではありません。そして、出した以上はできるだけ速やかに成立させるように、我々としては最大限努力をしていきたいと考えております。
● 北朝鮮が人工衛星として弾道ミサイルの発射を強行した場合の日本政府の対応についてお伺いしたいと思います。国連安全保障理事会の常任理事国の中でも、北朝鮮のミサイル発射に対する考え方は温度差が見られますけれども、日本政府として、国連の場でどのような主張をしていくおつもりでしょうか。また、併せて、国連の安保理の場で何らかの決議を求めていくお考えはおありでしょうか。お伺いします。
北朝鮮によるロケット、あるいはミサイルの発射は、当然のこととして、北東アジアの平和と安定というものを損なうものであります。また、当然のこととして、これまでの国連の安保理事会の決議にも反する。北朝鮮は、まず発射を自制すべき。当然です。この点につきましては、アメリカ、韓国、中国、ロシアを含め、一致をしております。また、北朝鮮に対しても日本の立場は既に伝達をしております。ロンドンのサミットの場においても、当然のこととして、各国首脳と緊密な連携を確認しなければならないところです。それでも、北朝鮮が発射を強行した場合には、まず国連の安全保障理事会において、しっかりと議論をする必要があるだろうと思っております。日本としては、具体的な発射がどのような形で行われるのかを踏まえない段階で、安易なことを申し上げるわけにはいきませんが、安保理事会においてのいわゆる決議の可能性も念頭に置きつつ議論をしていく。当然のことだと存じます。国際社会が一致して行動するということが、この際、最も肝要、最も大事なところだと思っています。
● 財政再建について伺います。総理は、先ほど財政出動については、過去の経緯にとらわれることなくと言われましたけれども、所信表明演説で目標達成に努力すると言われた2011年度までの基礎的財政収支の黒字化という目標は、これはもう断念されるということでしょうか。それと、もしそういうことであれば、今後は財政再建をどういった道筋で作っていくのかという点についてお伺いいたします。
2011年のいわゆる財政均衡を目指すということにつきましては、基本的には我々としては、こういったものは最も大事な旗の1つですから、これは掲げ続けていかなければならぬものだと思っております。ただ現実問題として、今、置かれております状況を見たときには、その状況は極めて厳しい状況になってきておるというのは、否めない事実だと存じます。我々としては、この財政再建というものに関しては、最初から申し上げましたように、目先3年間は景気対策。そして、中期的には財政再建と申し上げてきたところでもありますので、私としては、まず景気対策が最優先するというように御理解いただければと存じます。
● 総理に2点お伺いします。総理は、生前贈与を促して消費を刺激するという狙いで、贈与税軽減について検討に値するということを御発言されていると思います。税制改正というのは、年度途中で行うのはかなり難しいと言われているので、なかなか難しいとは思うんですが、追加経済対策あるいは補正を考える意味では、年度途中の税制改正も排除せずに検討されていきたいというつもりで税調側と調整していくということでよろしいのかどうかが1つ。財政再建でもう一つ。消費税について、総理は去年10月に、早く経済が好転すれば、3年後の消費税引き上げということをおっしゃられていましたが、早ければ来年、税率は明示しないものの、具体的な引き上げというか、引き上げ時の仕組みを仕組んだ法案を出そうという議論もありますけれども、状況的には難しいのではないかなと思うんですが、その点について、総理は今どのようなお考えにあるのかお教えください。
贈与税の方から。御存知のように、今、個人金融資産は正式にわかっているだけで1,430兆円ぐらいあると言われております。その多くの額が高齢者によって保有されているというのも、よく言われているところです。この金融資産をどのように活用し、いわゆる需要の創出につなげていくかということを検討することは、極めて重要なことだと思っております。このため、どのようなことが可能なのかということを党税調含め、関係者で検討してほしいと考えております。消費税につきましては、これは税制抜本改革については、昨年末、社会保障と税財政に関する中期プログラムというのを閣議決定し、今後の道筋を盛り込んだ法律が成立したところであります。その中では、今年度を含む3年以内の景気回復に向けた集中的な取組により、経済状況を好転させるということを前提として、遅滞なく、かつ段階的に、消費税を含む税制の抜本改革を行うために、平成23年度まで必要な法制上の措置を講じるというようにしております。実際の税制改革につきましては、これは具体の内容、例えば税率の話など、これは別に法律で定める必要がある。当然のことです。その際に国会で税制の具体的な姿を審議していただくことになるんだと思います。ただ、道筋に変わりがあるわけではありません。大胆な財政出動というものを行うからには、財政に対する中期的な責任というものをきちんと示すことが責任ある政府・与党としての原点であり、矜持であろうと思っております。
● 総理、先ほど補正について、成立に最大限努力するとおっしゃられましたが、これは成立までは衆議院の解散の総選挙は行わないという意味にとらえていいのか、それとも補正の審議中であっても、来るべき時期が来たら決断されることがあるということなのか、その点についてお伺いしたいと思います。
これは前から申し上げているとおりで、今回こういったことになったから、別の答が出るだろうと期待されておるのかもしれませんけれども、政局よりは政策、同じことを申し上げましたし、まずは景気対策として、その方向でこの半年間やらせてきていただいたと思っております。解散につきましては、しかるべき時期に判断をする、私が判断をすると申し上げてきておりますので、どういう状況になるか、今の段階で申し上げるところではありません。
● 今の解散総選挙の時期の確認なんですけれども、総理は3月初めにも、テレビなどのインタビューに答えまして、追加景気対策と解散の時期に関連しまして、口先で言っているだけではだめだと、実行しなければだめなんだということをおっしゃっていたんですけれども、もう一度確認ですけれども、先ほど2009年度補正予算を提出して成立させたいと、ということは、成立させるまでは衆議院を解散する状況にはないという認識でよろしいんでしょうか。
今、言われた質問とほぼ同じ質問を別の言い方をされたんだというだけの違いなので、答が全く同じになると具合が悪い、別の言い方をするんだと思いますけれども、いろんな言い方をされましたので、こちらの答え方もいろんな言い方で答えた方がいいのかもしれませんけれども、内容は同じです。判断は私がします。そして、その時期につきましては、補正予算というものの成立にどういう対応でなされてくるのか、補正予算がいいということで補正予算に同調されるのか、反対されるのか、減税を含めて賛成か反対か、それらの状況というものをいろいろ判断させていただかなければならないところだと思っております。どうしても反対というのであれば、その状況で60日間を要してでもやるのか、それを打ち切ってでも、この際、これが我々の案ということで選挙をするべきなのか、それはそのときの状況において判断をさせていただきます。  
記者会見 / 平成21年4月10日
1(経済危機対策)
本日、政府と与党は新しい経済対策を決定しました。その概要と私の考えを皆さん方に御説明をしたいと存じます。
今回の対策は、経済危機対策です。私はこの約半年余りの間に3度にわたり、事業総額75兆円の経済対策を打ちました。その結果、中小企業の資金繰りや雇用対策など、着実に成果を上げつつあると思います。
しかし、なお日本の経済は輸出・生産が大幅に落ち込むなど、急速な悪化が続いております。また、雇用情勢についても急速に悪化をいたしております。経済危機とも言うべき状況にあると存じます。
先日、開かれたロンドンサミットにおいても、各国とともに最大限の財政・金融上の対策をとっていくことを確認し合ったところです。私は国民生活を守るため、そして、世界各国とともにこの危機に対処するため、断固とした対策を打ちます。
(目的)
今回の対策は、経済危機対策であります。その目的は第一に、景気の底割れを防ぐことです。
しかし、単に景気対策のために需要を追加するだけではなく、次の2つのことに力を入れました。
その1つは、生活者の安心であります。この不況の直撃を受ける人たちへの対策です。そのため雇用や社会保障、子育て支援に力を入れます。
もう一つは、未来への経済成長につなげることです。経済回復の先の社会を見すえた成長政策を考えました。そのため、今年だけでなく、多年度、複数年度を視野に入れたものとしました。
景気に加え、安心と未来がキーワードです。
(概要)
今回の対策の規模は事業費で約57兆円、財政出動、いわゆる真水で15兆円となります。過去最大のものだと存じます。対策の主なものを紹介したいと存じます。
(1)まず第1は、景気の底割れの回避です。雇用対策と資金繰りがその柱になります。
雇用対策としては、まず雇用調整助成金。これは従業員を解雇しなかった企業を支援するお金です。今年の2月だけで187万人の雇用を下支えしました。これに6,000億円の手当てをし、大幅に拡充します。
解雇され、雇用保険が支給されない方々に対して、今後3年間、7,000億円の基金をつくり、職業訓練の拡充や訓練期間中の生活保障を行います。
また、企業の資金繰り対策として、中小企業向けの保証枠を現行の20兆円から30兆円に広げます。
同時に政府系金融機関のセーフティネット貸付を現行の10兆円から17兆円にします。
さらに、政策投資銀行と商工中金の中堅・大企業向けの危機対応業務など20兆円追加します。
なお、このほか、株式市場の価格発見機能に重大な支障が継続するような例外的な場合に備えて、政府の関係機関が市場から株式などを買い取る仕組みを整備し、50兆円の政府保証をつけたところです。
(2)第2に、安心と活力の実現です。
子どもは日本の未来です。経済危機の中にあっても、子どもの将来を守るということは何より大事です。
現在、1,000億円の子ども基金を2,500億円に増額します。これにより保育サービスの充実、母子家庭のお母さんに対する職業訓練や在宅就業を支援していきます。例えば職業訓練中の低所得の母子家庭に、訓練の全期間、月約14万円の生活資金を支給します。
子育て応援特別手当として、平成21年度は第1子から、就学前3年間の児童に3万6,000円を支給します。
私立学校での授業料の滞納がこのところ急激に増加しております。この生徒たちを支援するために、授業料の減免や奨学金に対する緊急支援を実施します。
また、女性特有のがん対策として、がん検診への支援を行いたいと存じます。
次に医療・介護です。
地域医療の再生のため、総額3,100億円の交付金をつくります。地域内での医療機関・従事者、役割分担を進めることによって、効率的で十分な医療サービスの提供を支援したいと思っております。
また、よく話題になります介護職員の処遇改善のために、4,000億円の基金をつくります。現在、低い給与で大変な仕事をされておられる介護職員の給与を引き上げたいと存じます。
(3)第3、これは未来への成長です。
今回の対策は、中長期の成長戦略の第一歩となるものです。
低炭素革命を推進するため、住宅やオフィスへの太陽光パネルの設置に補助金を出したいと存じます。
また、公立の小中学校への太陽光パネルの設置を進めて、今後3年間で、これまでの10倍の1万2,000校にパネルが設置されるよう、大幅な予算配分を行いたいと存じます。
また、環境対応車を新車で購入した場合、10万円支援します。さらに、13年を超えて使用している古い自動車をスクラップし、一定の燃費基準を満たす自動車に買い替えていただいた場合には、25万円助成します。
エコポイントの活用によるグリーン家電の普及にも取り組んでいく予定であります。エアコンや冷蔵庫などの省エネ家電を購入した場合は価格の5%、さらに地デジ対応テレビを購入していただいた場合には、追加でさらに5ポイントの還元をいたします。
また、今後3年間から5年間にわたって、世界最先端の研究を強力に支援するため、30程度の研究課題を設定し、総額2,700億円の基金を創設いたします。
三大都市圏、環状道路などにおいて、これまでミッシング・リンクと言われた分断された道路をつなげ、国土を結合します。そのため、国幹会議の議を経て、多年度にわたるプロジェクトである、例えば東京外環道の整備を進めます。
これらの事業を進めるため、地方公共団体の負担についても後押しします。
・公共事業の地方負担を軽減するため1兆4,000億円、
・地方活性化のための交付金として1兆円、合わせて2兆4,000億円を手当ていたします。
最後に税制改正です。
住宅を購入するための資金の贈与を受けた場合には、従来からの非課税枠に上乗せし、相続時精算課税を利用する場合には、最大4,000万円まで、それ以外の場合は610万円まで贈与税を無税とすることにいたしたいと存じます。
(財政規律)
こうした対策の財源は、財政投融資会計の積立金、経済緊急対応予備費、そして国債を発行いたします。この結果、公債金発行額は、当初予算の33兆円からさらに増加することになります。
私は、繰り返して申し上げているとおり、短期は大胆、中期は責任と考えております。
今回のこのような大胆な財政出動をするからには、中期の財政責任というものをきちんと果たさなければなりません。
多くの借金を子どもたちに残していくことをやめるため、消費税を含みます税制抜本改革は、景気をきちんと立て直すことを前提に、必ず実施をいたします。
(オールジャパン)
以上が今回の対策の概要です。
安心と成長のための政策総動員と申しあげます。
今回の危機は、戦後最大、国民の総力を挙げた挑戦が必要です。
対策の策定に当たり、私は多くの有識者から、この難局の克服方法について御意見をちょうだいしました。
このうち、今回の対応には、約6割の御意見を提言に盛り込ませていただきました。残りの御意見についても、引き続き経済財政諮問会議などで検討してまいりたいと存じます。
(補正予算等)
今回決定した経済対策を実行に移すため、必要な補正予算、関連法案を早急にとりまとめ、国会に提出いたしたいと存じます。
野党の御理解もいただき、成立を急ぎます。
それが景気を回復させて、国民生活を守ることになると存じます。
2(東アジア・サミット)
さて、私は、本日この後、タイに向けて出発をいたします。
ASEAN諸国や中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドなどの諸国との首脳会談に出席するためです。
東アジアは、多くの国が高い経済成長率を達成してきたところです。
しかし、現在、世界経済が危機に見舞われている中にあって、東アジア経済も大きな転換点にあると存じます。
私はこの会議の機会に、I直面する危機に対し、必要な資金の確保や保護主義を毅然として防ぐなどの対応で、各国が協力し合うべきこと、II中長期の対応として、成長力を強化し、各国が内需を拡大するためのアジア経済倍増へ向けた成長構想を提案したいと存じます。
アジアは、世界で最も大きな潜在力を持っており、また、開かれた経済の成長センターでもあります。
日本は、今後ともアジアとともに成長していく、そういう考え方が必要であります。
そのためのリーダーシップを発揮してまいりたいと考えております。
3(北朝鮮)
最後に、日本の対北朝鮮措置について、一言だけ申し上げておきます。
北朝鮮は、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の解決に向けて、その姿勢に変化を全く見せておりません。
加えて、国際社会の自制を求める声を全くかえりみず、ミサイルの発射を強行しております。
これを受け、本日政府は、
I北朝鮮籍船舶の入港禁止
II北朝鮮からの輸入禁止
につき、1年延長する閣議決定を行った上で、追加的に資金の流れに関する措置を表明しております。
政府は北朝鮮に対し、拉致、核、ミサイルの解決に向けた具体的な行動を速やかにとるように、改めて強く求めるものです。
あわせて、国際社会と連携しつつ、このための最大限の努力を行っていくことを表明します。
皆様方の御理解と御協力をお願いいたします。私からは、以上です。
【質疑応答】
● 経済危機対策の財政支出が15兆円という、過去最大規模になるということが決定しましたが、景気回復に有効な事業の積み重ねに必ずしもなっていないのではないかという指摘も出ております。最終的に15兆円になった根拠について、まずお願いしたいと思います。また、厳しい財政状況の中で、巨額の財政支出になるということで、今後の財政再建に向けた道筋についてもお願いいたします。
今回の対策において、最初から2%とか3%とかというのを頭に置いて逆算したわけではありません。まず、景気の底割れを絶対に防ぐ。雇用を確保して国民の痛みというものを軽減する。同時に未来の成長というものを強化するということが重要であると考えていて、こうした分野に重点化する。そして、一つひとつの政策を積み上げていった結果、財政支出で約15兆円、GDP比3%という最大級の経済対策となったということです。一方、今回、このような大胆な財政出動をするからには、中期の財政責任というものをきちんと示さなければならない。これも前から申し上げてきたとおりです。多くの借金を次の世代、子どもたちに残していくことをやめるためにも、消費税を含む税制の抜本改革は、景気をきちんと立て直すということを前提に必ず実施していかなければならないものだと思っております。今の御質問に関しては、中期的には財政改革ということを当初より申し上げてきた。そのとおりに私どもとしては実行していかねばならないものだと思っております。
● 北朝鮮の弾道ミサイルの発射関連でお尋ねしたいんですけれども、総理は先ほど国際社会とも連携しつつ最大限の努力を行っていくとおっしゃいました。日本は新たな決議を求めていますけれども、アメリカも議長声明の素案を提出するなど、日本にとっては一層困難な状況になっているように思います。日本政府としてどのように対応していくお考えかということ。もう一点、総理は今夜タイに向けて出発をなされますが、現地では日中首脳会談も予定されています。中国側にその場でどのような働きかけをなさっていくお考えかお聞かせください。
今回のミサイルの発射に関する限り、北朝鮮は国際社会の自制を求める声を全く無視して、国連決議1695及び1718号に違反する行動を取ったということは明らかです。これに対して国連においては、国際社会全体の強い意志を早期に示して、北朝鮮に正しいメッセージ、明確なメッセージを送るということは極めて重要なことだと私は考えております。今、交渉中ですから、各国の立場についてコメントすることは差し控えますが、我々としては、議長声明、決議いろいろあります。決議だからといって、その内容が緩くても意味がない。そういうことも考えておりますので、いずれにしても全力を尽くしてこれをやりますが、今、中国との関係で御質問がありましたが、タイにおいて温家宝総理と会談を行う予定にしておりますけれども、このような立場というものは、きちんと日本としての意見というものは温家宝総理にも伝えていかなければならないものだと思っています。
● 先ほど消費税を含む抜本改革について総理がおっしゃられていましたが、対策には中期プログラムの改定という部分があると思います。具体的にどのような方向で改定をされようと考えていらっしゃるのか。例えば時期については景気回復後ということですけれども、上げ方、昨日は女性議員の先生方が、食品については上げるときは下げるとか、そういう提言もされておりますけれども、具体的にそういう上げ方についてより踏み込んだ考え方を示そうというようなお考えはないのか、お話をお聞かせください。
中期プログラムについては、昨年末決定をさせていただいた以降、やはり累次の経済対策、また経済財政状況というものが想像以上に悪化、予定しておりました税収の落ち込みなど、いろいろありましたけれども、そういった悪化を考えて、見直す必要があるとは思っております。ただ、改定の時期とか内容とか、そういったものについて、今、具体的にこうしたいと、こうするということを決めているわけではありません。今の御質問はごもっともだと思いますけれども、今後検討させていただく内容だと思っております。
● 先ほども北朝鮮に関する安保理の決議のことで質問がありましたけれども、重ねてかぶるところはあると思うんですが、国際社会が一致したメッセージを出すというところが最重要だと思います。そういう意味では、議長声明になっても、これはやむを得ないということなのか、改めて見解を伺いたいです。
日本としては、これは拘束力を持っております決議というものが、国際社会の意識というものを伝える意味においては、私は望ましいと考えています。率直なところです。しかし、同時にさっきもちょっと言いましたけれども、決議にこだわったために内容が何となくわからないというものになるのでは意味がない。明確なものであるべきなんだと、私はそう思っています。したがって、基本は日本を含む北東アジアという地域の平和と安全を守ることが一番ですから、このために最も適切な結論というのを得るべく、今後最大限の努力することであって、それが声明、決議文、いろいろなものがあるんですが、そういったもので我々としてはきちんとした国際社会のメッセージが伝わるというのが一番大事だと、私もそういう具合に考えております。
● 政治と金の問題についてお伺いします。この問題は次の総選挙でも重要な争点の1つになると思うんですけれども、民主党は将来的に企業団体献金を全面禁止するという方針を決めましたが、国民の政治不信を払拭するためにも、政府与党としても何らかの具体的な提案を行うべきだと思いますけれども、総理はいかがお考えでしょうか。
これは安部さんも古くて新しい話でして、これは政治献金の在り方というものを各党がいろいろ議論されるというのは、私はいいことだと、ずっとこれも同じことを言っております。問題はその上で、各党が議論して決めた法律をそれぞれの政治家が守ってもらわなければいけない。そこが一番肝心なところなんだと、私はそう思っています。
● 解散総選挙で1点だけお伺いします。総理、昨日の日本記者クラブで追加経済対策に民主党が丸々賛成したらどうするんだと、争点がなくなってしまうなということをおっしゃっていたんですけれども、これは話し合い解散というものは、総理の頭の中には、もうまるっきりないと理解していいのか、それとも別に排除しているわけではないということなのか、どうでしょうか。
野党がどう対応するかということは、今、見えない段階で仮定の質問ということになりますので、なかなかお答えのしようがありませんが、私は選挙というものは、政権を選ぶ、小選挙区というのはそういう制度ですから、そういった意味では争点を明らかにした上で、国民に信を問うのが正しいんだと、私はそう申し上げてきました。解散の時期については、これはいろんな方が今いろんなことをおっしゃっていますし、時事通信もいろいろ書いておりますが、だけれども、そういったものがいろいろあることは承知しています。承知していますけれども、そういった要素というものをいろいろ勘案した上で、最終的にしかるべき時期に、私が判断する。そうしかお答えようがありませんし、これはずっと同じことしか申し上げてきてないと思いますので、しかるべき時期に私の方で判断をさせていただく、ということであります。
● 昨日の記者会見でも、麻生総理は、この経済対策を対立軸にするようなお考えもにじませていましたけれども、民主党も同様に緊急経済対策というものを、2年間で21兆円のものをまとめています。これと比べて、麻生総理は、今回の対策がどのような点で民主党より優れていると、対立軸になり得るとお考えなのか。そして、やはり自分の経済対策に賛成してもらえなかった場合は、解散に打って出る決意がおありなのかどうか、率直にお伺いいたします。
我々の対策、政策というものに関して自信があるかといえば、間違いなく自信があります。少なくとも財政の裏づけという意味においても、我々はきちんと裏づけをしております。これまで何となくこの種の話は、この種の話というのは補正の話が出たときには、いわゆる公共事業というものの比率が非常に高かったと思いますが、今回の中で、いわゆる公共事業の占める比率は、2兆4,000億ぐらいですから、15兆分の2兆4,000億ということになりますので、その意味では6分の1とか、そういったことになろうと思います。したがって、今、我々としては、自分たちが出している補正予算というものは、民主党が出された文を、正確に全部読み比べているわけではありませんけれども、まず財政の裏づけのある点などなど、我々としては自信がある、圧倒的に我々の方が効果が高いと思っておりますし、責任もきちんと取れるものがあると思っているのは確かです。ただ、争点がなくて、何となく、何を争点に総選挙だからというのでは、国民は政権選択ということを考えたときに、より安心感がある、不安がない、そういったような点を、やはり自分の払ったお金の使い方ですから、そういったことを考えて選んでいただくというのが正しいと思っていますが、ただ、選挙というのは非常にそういったきちんとした理屈だけでというものではなくて、何となく見てくれの方がよかったり、若かったりというだけで選ばれているという例があったり、いや、何でと、いろんな例がありますから、こういったことを考えますと、我々としては、何を争点にということは極めて大事なものなのであって、似たようなものだった場合は、その人物を見て、何となくこっちの方がポスターの写りがよかったぐらいで選ばれたりすると、不幸なことになりますし、きちんとした争点というのははっきりさせて選挙をした方が、私は民主主義がより成熟していくために、また、小選挙区制度というのを今後とも持続させる、そして政権交代というものを可能ならしめるために小選挙区制度というのを導入するということを、あのとき大いにみんなで論議した上で決まったわけですから、その意味では、私は政権交代たり得る政策の内容というものが大いに議論されてしかるべき、経済政策に限りません、外交政策、国防政策、政策にはいろいろありますけれども、そういったものをきちんと比較できるようなもので選挙はされるべき。そういったことだと思いますので、私は今、この案に賛成して話し合い解散ということを、言われる方もいらっしゃるんですが、何を基準に何の話し合い解散をするのか、言葉だけがおどっていて、正直内容がよくわからないので答えようがないんですが、少なくとも小選挙区における総選挙というものはきちんと2大政党の政権構想もしくは政策というものをきちんと比較対照した上で選んでいただくという方向であった方がより望ましい小選挙区制度上の民主主義というものができるのではないかと、私自身はそう思っています。  
日韓首脳会談共同記者会見 / 平成21年6月28日
1.麻生総理
李明博(イ・ミョンバク)大統領の御訪日を、心より歓迎する。大統領との会談は、今回で8回目になり、ほぼ月に一度お目にかかっている計算になる。
ただ今、大統領と、非常に充実した会談を行わせていただいた。日韓の首脳が、日帰りでも往来して意見交換する、文字通りの「シャトル首脳外交」が、根付きつつあることを実感した。
会談では、現下の最大の課題である北朝鮮問題について、特に時間をとって、非常に有益な話をさせていただいた。北朝鮮の核・ミサイル開発は、安全保障上の重大な脅威であり、決して容認できない。引き続き日韓、また日韓米で連携して対処していくことを確認した。
国際社会が、安保理決議第1874号をしっかりと実施することが必要である。大統領とは、決議の実施のため、情報交換などの分野で更に協力することで一致した。また大統領より、拉致問題について、可能な限りの協力を改めて表明していただいた。
アフガニスタンとパキスタンへの支援、ソマリア沖海賊問題など、国際社会の課題についても、日韓協力が具体化していることを確認し、更に協力を進めていくことで一致した。
経済分野については、大統領にも御来場いただいた「日韓部品素材調達・供給展示会(逆見本市)」など、両国関係を一層強化するための最近の取組を評価した。その上で、日韓EPAの実務協議を7月1日に開催し、交渉再開に向けた議論を一層促進することでも一致した。
また、環境、宇宙、原子力分野でも協力を促進することで一致した。
今後とも、大統領との間で、「成熟したパートナーシップ関係」をより一層強化していきたい。
2.李明博大統領
本日、私共を温かくお迎えくださった麻生総理に感謝申し上げる。
私が本日日帰りで日本を訪問し、短い時間であったが、単独会談、拡大会談と、非常に有意義な会談を行うことができたと評価するとともに、麻生総理に感謝している。こうして両国首脳がより頻繁に会い、両国関係をより緊密な関係に発展させることができることを期待している。
私と麻生総理の首脳会談では、北朝鮮問題、両国間の経済協力、国際舞台での協力など、お互いの関心事項について非常に深みのある意見交換を行った。
特に麻生総理と私は、安保理決議第1874号を忠実に履行することが重要であり、北朝鮮に核兵器やミサイルによって得られるものは何もないということを理解させなければならない。安保理決議は全会一致で採択されたが、決議そのものが目的ではなく、北朝鮮に核兵器をあきらめさせることが目的である。国際社会とも協力して、北朝鮮に核兵器よりも大事なものがあり、核兵器をあきらめることが北朝鮮の社会のためにもなるということを悟らせる必要がある。北朝鮮による核兵器の保有は容認できないという立場を明らかにしていくことで日韓は一致している。五カ国が六者協議の枠内において、どうすれば北朝鮮に核をあきらめさせることができるかを議論していく必要があり、日韓両国が協力し、連携していくことで一致した。
4月にソウルで開催された「韓日部品素材調達供給展示会」には、私が直接参加し、両国の実質的な協力の下地を見ることができ、多くの成果を得ることができた。また、来る7月1日に開催される「韓日中小企業CEOフォーラム」等で両国間の特に中小企業の産業協力を強化し続けていくこととしており、過去のいかなる時よりも実質的な協力が強化されるよう取り組んでいくことを約束した。
私は、韓国国内に「部品素材専用の工業団地」を数カ所設け、日本企業が選択して投資できるようにした。日本政府としても、現在積極的に協力していただいていることに、感謝している。
また、私は、この後、韓日経済人との懇談会を開催し、両国首脳が立ち会うことになっているが、非常に意味深いことと考える。実質的な協力の下地になることを期待している。
麻生総理と私は、原子力、科学技術、宇宙分野での協力も強化していくこととした。また、韓日自由貿易協定(FTA)の議論が、双方にとって利益となる方向に進んでいくよう両政府で努力していくことで合意した。
両首脳は、若い世代間の交流が未来の両国の友好増進の礎石であるとの意見を共にし、前回麻生総理から提案のあった理工系学部留学生派遣事業などの青少年交流を持続し拡大していくこととした。
私から、麗水万博の成功に向けた日本政府と企業の協力に感謝していることをお伝えした。
私は、在日韓国人社会の歴史的な経緯等にかんがみ、彼らに対する地方参政権を付与できるよう積極的な協力を要請した。
総理と私は、来る9月に第3回G20首脳会議、気候変動への対応、アフガニスタン及びパキスタンに対する共同支援、テロに対する対応について意見交換した。
短時間ではあったが、重要な議題について討論し、意見を共にでき、シャトル首脳外交により大きな成果が得られたと考える。準備に御尽力していただいた総理及び日本国民の皆様に、改めて感謝する。
【質疑応答】
● 大統領からも発言があったが、六者会合に北朝鮮が復帰するメドが立たない中で、北朝鮮を除く五者で対応策を協議する案もあるが、どのレベルで、いつ頃、どのような内容で行うかといった具体的な意見交換はあったか。国連の対北朝鮮制裁決議の効果を高めるには、中国の役割が重要と思われるが、日韓としてどのように働き掛けていく考えか。
核問題に限らず、北朝鮮をめぐる諸問題を解決するためには、六者会合が最も現実的な枠組みである。この点については、李明博大統領と完全に一致している。その上で、本日は、六者会合を如何にして前進させることができるか、といった点についても意見交換を行った。これまでも、六者会合の枠組みの下では、二国間、三国間など、様々な形で意見交換が行われてきた。そのような流れの中で、五者会合についても、六者会合の前進に資する形で開催できないか、引き続き関係国で検討していくことで一致した。国連安保理決議の実効性を高めるためには、中国を含め、すべての国連加盟国がしっかりと決議を履行することが重要である。中国も、安保理決議を真摯に実施するとの立場を表明している。本日の会談では、日韓米の連携を強化するとともに、引き続き、中国との連携も深めていく必要があるとの点で一致した。
● 今般の首脳会談で実現した対北朝鮮問題解決のための韓日及び韓米日の連携の方策は何か。特に、五者協議に対する日本側の反応及び具体的な議題や日程についての議論の有無如何。また米国のBDA式の金融制裁に対する韓国の立場如何。これについての日本との議論の結果如何。
李明博大統領  現在、六者会合の枠内でいろいろな国の間で協議し、効果的な対応のあり方を考えていこうという話をしているところである。今はその内容について公に申し上げる段階ではなく、全会一致で採択された安保理決議第1874号の履行に力を集中すべき段階である。安保理決議はそれ自体が目的ではなく、北朝鮮に核兵器を放棄させることが目的である。六者会合は北朝鮮が核兵器を放棄することが長期的には利益になることを理解させるプロセスである。安保理決議を踏まえて、北朝鮮にどのようにして核兵器を放棄させるかを協議していく必要がある。詳しい話を申し上げるには時期尚早であるが、今後の方向性について日韓の間に見解の食い違いはなく、見解が一致している。また、中国を始め多くの国が北朝鮮に核を放棄させるべきとの点で見解を共にしている。これまでの方法だけではなく、新しい方法を考えていくべきことについても議論している。BDA方式の制裁の是非については、安保理決議に金融措置が盛り込まれたことを踏まえ、各加盟国がその枠内で自らの解釈に基づいて忠実に履行すべきである。
● 日韓EPA交渉の実務協議が課長級から審議官級に格上げされた上で、来月開かれる。日本の農水産品や韓国の工業製品など、各論では意見の隔たりもあるようだが、交渉に弾みがつくのか。
李明博大統領  結論から言えば、両国間の自由貿易協定については互いに協議を経て完成していくべきものである。韓国は原則的にすべての国との間で自由貿易を進めるべきであり、保護主義は排除すべきとの立場である。自由貿易協定については、ASEAN10か国を始めとして、EUと交渉中であり、インドとも近いうちに合意に至るであろうし、米国とも合意に向けた手続をとっているところである。日本との経済協力関係を強化させ、FTAに合意するのが自然であり、世界的な流れである。日本は世界第二位の経済大国であり、韓国との間の協議においても、互いの立場について理解が深まれば意外に早くまとまるのではないかと思う。
● 李明博政権は、新しい国家ビジョンとして「低炭素グリーン成長」を提示し、世界的にも低炭素経済の実現が話題になっている。麻生総理も10日、2020年までに日本の温室ガス排出量を「2005年対比15%縮小する」という中期目標を発表した。日本の産業界は「過度な温室ガス縮小目標により日本経済に対する悪影響が懸念される」と反発している一方、国際社会ではあまりにも消極的なのでないかとの懸念が示されている。このような反対に対し、どのように考えるか。また、目標達成が可能だと考えるか。韓日同時サマータイム制の実施に関し、時差がない韓日両国が共に実施する方が両国経済に一層役立つと考えるが、これに対する見解如何。
日本のエネルギー効率は、既に欧米の2倍と世界一の水準である。今回、2020年に2005年比15%減とする中期目標を発表したが、欧州の13%減や、米国の14%減と比べても、高い目標値である。また、欧米に比べて、2倍の削減コストを覚悟して、実現しようとするものである。しかも、欧米と異なり、日本の産業界・家庭の努力だけで、外国から排出権を買った分などを加算しない、「真水」の、極めて野心的な目標である。日本の産業界が、今回の中期目標が高すぎる、と反発しているのも認識している。単純に1%減にするためには、産業界の観点からすれば、10兆円の費用がかかるとの計算となり、とんでもないということである。しかし、1973年の石油危機の際には、1バレル2ドルから6ドルに石油価格が高騰したが、日本の産業界は、技術力を活かして、ピンチをチャンスに変え、難局をブレークスルーで乗り越えた。今回も、太陽光発電、小型水力発電、原子力発電などを利用して、この分野でもブレイクスルーを実現してくれると信じている。本日の会談では、大統領との間で、原子力協定や環境問題について意見交換を行い、この分野でも引き続き協力していくことを確認した。サマータイムについては、昭和20年代に日本も導入した経験があり、ずいぶん明るいうちに夕食の時間になるとの思いをした経験がある。先進国でサマータイム制を実施していない国は余りない。先進国は概して緯度の高いところにあるので効果は大きいと思うが、サマータイムが、ライフスタイルの変革に及ぼす効果、労働環境に与える影響など、まだ総合的な検討が必要であり、韓国において議論が進んでいることも承知しているので、日本の対応を考えていきたい。日本においては、スポーツ団体などが非常に熱心である。日韓両国は、時差もないので、同時に実施すれば効果は大きいと考えている。  
記者会見 /平成21年7月21日
(はじめに)
麻生太郎です。私は、本日、衆議院を解散して、国民の皆様に信を問う決意をいたしました。日本を守り、国民の暮らしを守るのは、どちらの政党か、どの政党か、政治の責任を明らかにするためであります。
1反省とおわび
私は、就任以来、景気を回復させ、国民生活を守ることを最優先に取り組んでまいりました。その間、私の不用意な発言のために、国民の皆様に不信を与え、政治に対する信頼を損なわせました。深く反省をいたしております。
また、自民党内の結束の乱れについてであります。私が至らなかったため、国民の皆様に不信感を与えました。総裁として、心からおわびを申し上げるところです。
謙虚に反省し、自由民主党に期待を寄せてくださる皆様の思いを大切にして、責任を全うしてまいります。今回の総選挙に際し、国民の皆様と3つの約束をさせていただきます。
2景気最優先
私が、昨年9月24日、内閣総理大臣に就任をした当時、世界は、百年に一度、そう言われた金融・経済危機に見舞われました。アメリカ発の世界同時不況から、皆さんの暮らしを守るのが政治の最優先の課題になったと存じます。
私は、政局より政策を優先し、自民党・公明党とともに、経済政策に専念してきました。はなはだ異例のことではありますが、半年余りの間に、4度の予算編成を行いました。お陰様でその結果が、ようやく景気回復の兆しとして見えてきたところです。7,050円まで下がっていた株価は、今日は9,600円台まで回復をしております。企業の業績の見通しもよくなりつつあります。
しかしながら、中小企業の業績や雇用情勢などは依然として悪く、いまだ道半ばにあります。
経済対策、この一点にかけてきた私にとりましては、確かな景気回復を実現するまでは、総理・総裁の任務を投げ出すわけにはまいりません。日本経済立て直しには、全治3年。したがって、景気最優先。日本の経済を必ず回復させます。これが、1つ目のお約束です。
3安心社会の実現
2つ目の約束は、安心社会の実現です。私たちの生活には、雇用や子育ての不安、年金や医療の不安、格差の拡大など、多くの不安がつきまとっています。
私が目指す安心社会とは、子どもたちに夢を、若者に希望を、そして高齢者には安心を、であります。
雇用に不安のない社会、老後に不安のない社会、子育てに不安のない社会、それを実現する政策を加速します。行き過ぎた市場原理主義からは決別します。
特に、雇用については、従業員を解雇しない企業に対し助成するということで、今、月平均で約240万人の雇用を守っております。また、失業しても、雇用保険が支給されない方々に対しては、職業訓練の拡充や訓練期間中の生活保障を行います。更に、パートやアルバイトの人たちの待遇を改善します。
少子化については、妊婦健診を無料にする助成を行いました。更に、小学校に上がる前の幼児教育を無償にすることにも取り組みます。
4責任
そのためには、財源が必要です。
私は、景気が回復した後、社会保障と少子化に充てるための消費税率引上げを含む抜本的な税制改革をお願いすると申し上げました。国民の皆様に負担をお願いする以上、大胆な行政改革を行います。
国会議員の削減、公務員の削減や天下りとわたりの廃止、行政の無駄を根絶します。増税は、だれにとっても嫌なことです。しかし、これ以上に私たちの世代の借金を子や孫に先送りすることはできないと思います。政治の責任を果たすためには、選挙のマイナスになることでも申し上げなければなりません。それが政治の責任だと思います。
5民主党には、任せられない
他方、民主党は政権交代を主張しておられます。しかし、景気対策、福祉の財源、日本の安全保障、いずれをとっても自民・公明両党の案に反対するだけで、具体的な政策が見えてきません。
町工場の資金繰りの支援や仕事を打ち切られた人たちへの生活支援など、極めて緊急を要した予算にさえ反対し、国会の審議を引き延ばしました。若い世代の保険料の負担を抑えるための年金改革法にも反対したのです。
子ども手当に5兆円、高速道路の無料化に2兆円など、財源の裏打ちのないケタ違いのバラマキ政策であります。予算を組み替えれば、何十兆円もわいて出てくるような夢物語。国連決議に従って、北朝鮮の貨物を検査する、そういう法案についても審議に応じず、廃案にしてしまいました。この結果に一番喜んでいるのは、北朝鮮ではないでしょうか。
財源を伴わない空論に、日本の経済を任せるわけにはいきません。安全保障政策のまとまっていない政党に、日本の安全を委ねるわけにはいかないのです。日本の未来に責任が持てるのは、私の信じる自由民主党だけです。
今回の総選挙は、どの政党が政権を担うのにふさわしいのか、国民の皆様に判断をしていただく大切な機会です。
(おわりに)
私は、皆様の生活を守るため、景気の回復と安心社会の実現をお約束します。今度の総選挙は、安心社会実現選挙であります。国民に問うのは、政党の責任力です。この約束ができなければ、責任を取ります。これが、3つ目の約束であります。
政治の責任を果たす。重ねて申し上げます。子どもたちに夢を、若者に希望を、そして高齢者に安心を。そのために、私は、私の信じる自由民主党の先頭に立って、命をかけて戦うことを皆さん方にお誓いを申し上げます。ありがとうございました。
【質疑応答】
● 総理に2点お伺いします。まず、総理は就任以来、これまで衆議院を解散する機会は何度かあったと思いますが、本日この時期になぜ衆議院を解散されたのか、その理由をお聞かせください。また、この時期の総選挙は、与党にとっては厳しいという見方が強いですけれども、総理は一番に何を訴えて、どのようにして選挙戦を戦うお考えでしょうか。併せてお聞かせください。
解散の時期につきましては、私が衆議院の任期が余すところ1年である時期に内閣総理大臣に就任をいたしました。就任以来、いつ解散して信を問うか。それと、経済・金融危機に見舞われた日本を立て直すために、景気対策、経済対策を最優先しなければならない。この2つをずっと考えてきました。こうした中で、4度にわたります経済対策の裏打ちとなる、予算案、また関連法案、更には他の重要法案を成立させることができました。その結果、景気は底を打ち、株価や企業の業績などにも明るさが見え始めてきております。さまざまな御批判もありましたけれども、政局よりは政策を優先してきたこと、間違っていなかったと、そう思っております。このため、国民の皆様方には、これまでの成果、経済対策の成果を評価していただき、引き続き、この景気回復の基調を、より確かなものにするための経済運営を、是非任せていただけるかどうかを問うために解散を決断したところです。選挙についてのお話もありましたが、厳しい選挙になることは覚悟しております。しかし、勝つためには、我々は国民一人ひとりに、愚直なまでに政策を訴えるしかないと思っております。国民の皆さんにとりましては、国民の暮らしに責任を持てるのはどの政党か。それを判断していただきたいと思っております。自由民主党と他党との政策の違いを見ていただきたい。目指すべき日本の姿、具体的な政策、そしてその財源、私どもは具体的には景気最優先、安心社会の実現、安全保障、その点において、我々は他の政党には任せられない、そう思っております。日本の政策に日本に責任を持てることができるのは自由民主党、私はそう思ってこの選挙を戦い抜きたいと思っております。
● 先ほど総理の方から自民党内の結束の乱れについて、総裁として心からおわび申し上げるというお話がありましたけれども、自民党内では麻生総理では選挙は戦えないという声も根強くあるようです。そうした中で、党内をどう結束させて選挙に望まれるお考えなのでしょうか。もう一点、自民党内ではこれに関連して、独自にマニフェストを示して選挙を戦おうとする動きがあります。こうした動きに対して、どういうふうに対処していくお考えでしょうか。
本日、自由民主党のすべての国会議員を対象に両院議員懇談会を開催させていただきました。いろいろ御意見をいただいた中で、私に対する批判というものは謙虚に受け止めます。しかし、今こそ党が一つになって国民に訴えるべきときである。自民党の底力を発揮すべきときではないかとの御意見が多数を占め、党の団結が確認できたと、そう思っております。今後は、私を始め、自民党自身も改めるべきは改め、真の国民政党として開かれた国民政党として生まれ変わった覚悟で、国民のための政策実行に邁進してまいりたいと思っております。議論がいろいろ出る。いいことだと思っている。しかし、いったん決まった以上、団結して戦ってきたのが自民党の歴史、自民党は一致団結して戦わない限りは、選挙は勝てません。その先頭に立って戦い抜く覚悟です。マニフェストについても御質問がありましたが、候補者個人が選挙公報などを通じて意見をおっしゃることは可能です。しかし、党が一致して戦わなければならないときに、この選挙を独自のマニフェストで勝ち抜くことはできないと存じます。なお、公職選挙法というのがありますが、選挙運動のために配布できる党の公約、いわゆるマニフェストは1種類と決められております。党の決めた公約と違うものであれば、それは党の公約、マニフェストとは言えないということだと思っております。
● 安全保障政策でお伺いしたいんですが、1点その前に、もし、今回の衆院選で勝敗ラインを総理の方でお考えのものがあったら、それを聞かせてください。それと、安全保障政策ですけれども、先ほども民主党の安全保障政策に総理は疑問を抱かれましたが、インド洋での給油継続などは、民主党が政権を取った場合には続けるといったような現実的な路線も民主党は出してきているようですが、あるいは日米同盟も基軸でいくといった感じで、大きな違いはないようにも見えるんですが、そこら辺はどうお考えでしょうか。
まず、日本を守るという点についてはテロ対策、また、海賊への対処のための自衛艦の派遣、反対するだけで代案を出されたという記憶がありません。北朝鮮の貨物検査法については、審議にも応じず廃案にされた。民主党の政策は、私はこの安全保障に関しましては、極めて無責任、不安を感じるのは当然だと思っております。今、政権を取ったら変わるというんだったら、なぜ今はやらないんですか。なぜ今ならできないんですか。それは反対するためにだけ反対していたということを自ら言っているようなことになりはしないか。今の御発言を私は民主党の公式な発表というものを聞いておりませんので、私はあなたの御意見が本当かどうかわかりません。しかし、向こうがそう言っておるというあなたのおっしゃる話が正しいとする上で申し上げるなら、今のが答えです。2つ目のどれくらいが勝敗ラインか、私どもは公認候補の全員当選を目指すのは当然です。しかし、今、この段階で、どれくらいが勝敗ラインかは、今、解散総選挙が始まったばかりでもあり、今からみんなが戦う、その決意をしているときに、勝敗ラインを私の口から申し上げるのは、いかがなものか。慎むべきことだと、私自身はそう思っております。
● 総理は、今後、党が一致結束して選挙に臨まなければいけないとおっしゃっているんですけれども、解散後も離党表明をする議員がいるなど、党内に動揺が引き続き続いています。本当に一致結束して、この選挙に臨むことができるとお考えでしょうか。
自民党の結束については、皆さん方にもオープンにさせていただいた上で、両院議員懇談会の場の雰囲気を見ていただいたと存じます。多くの御意見をいただき、そのおかげで党の団結が確認できたと、私自身はそう思っております。今後、自民党として改めるべきことは改める、私自身も含めてそう申し上げたところですが、我々は我々がやってきた政策に自信を持ち、そして、我々が目指すべき日本の未来というものにつきましても、自信を持って私どもはやっていかなければなりません。今、離党された方がおられるというお話ですが、私どもは一致団結という状況というものは、今日の両院議員総会に代わる両院議員懇談会、あの場でも改めて確認をさせていただいた上での話で、私どもはその点に関しては今後一致団結して戦っていけるものだと、そう思っております。
● 総理に、先ほど勝敗ラインについて、すべての候補者が当選することを目指すというお話がありましたが、自民党の幹部からは、既に自公で過半数を維持するというのが大前提だという目標が出されていますけれども、その自公で過半数が取れなかった場合の総裁としての責任について、どのようにお考えになっているのかというのが1点。もう一点は、選挙後の獲得議席数によって、自民、公明以外の政党と政治の安定ということを目標にした場合に、何らかの形で政策理念が一致するグループと連携を図る考えがおありかどうか、お伺いしたいと思います。
我々は政治をやっております。したがって、基本は理念。理念、政策、これが一番肝心なところです。数合わせだけしているつもりはありませんし、理念というものはお互いにきちんとした政権の中にあって、お互いに意見を交換し、きちんとした意見を、きちんと詰め合わせた上で、我々は自公連立政権というのをやってきたと思っております。我々は、ここに国旗を掲げてありますけれども、少なくとも国旗国歌法というのを通したときも、自公によって、あの国旗国歌法は国会を通過した。それが、我々のやってきた実績の一つです。勝敗ラインにつきましては、先ほど申し上げたとおりであって、今、仮定の質問に安易にお答えするべきではないと思いますし、むやみにこれぐらいが勝敗ラインなどと、どなたが言われたか知りませんけれども、そういったことを今の段階で安易に言うのは軽率だと思います。
● 今までもあった御質問ですが、やはり与党で過半数を割った場合の責任の取り方を明らかにしないのは、いかがなものかと思いますが、その点が1点と。それから、総理のお話の中にもありました、消費増税なんですけれども、2011年に景気回復ということを前提に、消費増税について国民にお願いするというのは、自民党のマニフェストにはっきり書き込むというお考えでよろしいのかどうか。この点を確認させてください。
選挙で負けた話を前提にしての質問ということに、私が安易に答えることができるとお思いでしょうか。選挙を今から戦うんですよ。私どもは、その心構えがなくて、選挙戦などというものは戦えるものではないと思っています。自分のこれまでの選挙を戦った経験で、皆、力の限り必死になって、あらん限りの力を振り絞ってやるのが選挙です。私はそう思って選挙を戦ってきたつもりです。したがって、まだ、解散されたばかり、公示・告示にもなっていない段階で、今からどうする、こうするというのは、私どもとしてお答えするところではありません。  
記者会見 / 平成21年9月16日
先ほどの閣議で、この内閣は総辞職をいたしました。昨年の9月24日の発足以来、約1年、国民の皆様からいただいた御支援に改めて心から感謝を申し上げます。
私は、就任時の所信表明で強い日本をつくること、明るい日本をというようなことを国民の皆さんにお約束をさせていただきました。1年という短い期間ではありましたが、日本のために全力を尽くしたと思っております。
戦後最大とも言われた世界同時不況への対応、テロ対策や海賊対処などの国際貢献、また、北朝鮮や新型インフルエンザへの対策、危機というものから国民を守ること、そして安心な社会を目指すこと、残念ながら道半ばで退任することになりました。
今、日本は多くの難しい課題に直面いたしております。しかし、振り返ってみてください。日本は64年前敗戦の焼け野原から立ち上がって半世紀以上にわたって平和と繁栄を続けました。これは諸外国から見て尊敬される成功モデルでもあろうと存じます。
そして、今、日本には将来の発展の種が多くあります。特に今後の経済発展の死命を制するとも言われております。省エネの技術や環境技術において、日本は世界の先頭を走っております。豊かで安心な社会と、そして勤勉な国民性も健在であります。国民の努力、そして政府の適切なかじ取りがあれば、日本が発展しないはずがないと存じます。自信と誇りを持ってよいと思っております。その発展の上に立って、安心社会を築いていくべきであります。
併せて日本は国際社会の一員として世界に目を向けていかなければなりません。内向きになっていてはだめです。アジアの日本、世界の日本として国際社会の安定と発展に一層貢献していかなければならないと存じます。
私は、日本と日本人の底力に一点の疑問も抱いたことはありません。これまで幾多の困難を乗り越え発展してきた日本人の底力というものを信じております。
日本の未来は明るい。未来への希望を申し上げて国民の皆さんへのメッセージとさせていただきたいと存じます。ありがとうございました。
最後になりましたが、1年間お付き合いいただきました記者の皆様方に対して御礼を申し上げ、私からのごあいさつとさせていただきます。ありがとうございます。
【質疑応答】
● 総理がこの1年間、麻生政権で最も実績を上げたと思われるものは何でしょうか。それから、やり残した課題というもの、あるいはこうすればよかったと、今、思っているものがあったら挙げてください。
歴史の評価が出てくるというには、もう少し時間がかかると存じますが、百年に一度と言われた経済不況、アメリカ発同時不況、リーマンのときから9月14日ですから丸1年ということだと思いますけれども、この世界初の同時不況に対して迅速に対応できた景気対策・経済対策、4度にわたる予算編成を半年余りで、そういう大胆な経済政策を打ったことが実績として誇れるのではないかという感じがいたしております。やり残したことといえば、この経済対策はまだ道半ばということだと存じます。
● 鳩山新政権に望むことは何でしょうか。また、現政権として新政権に引き継いでもらいたい政策があればお聞かせください。
基本的には、日本という国の国家・国民の利益を守る、すなわち生活を守る。同時に、これだけ国際社会の中、193の国連加盟国の中にあって、やはり国際社会の一員として日本に期待されているものは大きいので、それへの貢献ということで、手法が変わることは十分にあり得ると思いますけれども、政府として行うべきことにそんなに変わりはないのではないかと思っております。新政権には、景気回復というものは私はまだ道半ばだと思っておりますので、中国でもどこでも、これはマクロ経済とか国際金融というものに理解があれば、今、どういう状況にあるかということはおわかりをいただけるんだと思いますので、そういった意味では景気回復というものを確固たるものにしていただけるように努力をしていただきたいということ。それと、日本を取り巻く国際情勢というものは、やはり冷戦崩壊後、かれこれ20年、随分変わってきたと思っておりますので、そういった国際情勢、テロ、海賊、いろいろありますけれども、こういったものへの対処を的確に対応していただくということは願ってやまないところであります。大いに期待もいたしております。
● 自民党総裁選挙のことについて伺います。自民党は今回の敗戦を受けて、政権奪回をまた図らなければいけないんですが、新しい総裁としてどんな方がふさわしいとお考えでしょうか。また、何人かの方が立候補の表明、あるいは意欲を示しておられますけれども、意中の方がいらっしゃれば教えていただきたいと思います。
ここは、自民党がいろいろなベテラン・若手を含めて一致団結、これは選挙をやった上で、地方の意見というものもいろいろありますので、そういったものをとりまとめた上で一致団結を図っていかねばならぬところだと思っておりますので、総裁選挙が終わった後、きちっと対応ができる。そういった、自由民主党として何が問題だったかという点を踏まえて、いろいろ分析は今からなされているところだと思いますので。それを踏まえて、これらの対応をきちんとやっていただける方だと思いますので、やはり日本という国の、どなたかが使われた言葉でしたね。国柄とかいろんな表現がありましたけれども、日本という国が歴史と伝統を踏まえてきちんと立ち上がっていく。そういった基盤というものを腹に据えて対応していただける人物が望ましい。具体的な名前を私の立場から言うことはありません。  
 
鳩山由紀夫

 

2009年9月16日-2010年6月8日(266日)
民主党
民主党では幹事長代理を経て、1999年9月の民主党代表選挙に勝利。公約として正面から憲法改正を掲げて話題となった。2000年6月の衆院選、2001年7月の参院選など、国政選挙の度に党勢を拡大させ、2002年9月の代表選でも勝利したが、直後の人事で批判を浴びて求心力が低下、2002年12月統一補選での惨敗と自由党との統一会派騒動をめぐる党内混乱の責任を取る形で代表を辞任。
幹事長代理時代の第18回参議院議員通常選挙、さきがけ時代からの同志で同い年の友人中尾則幸が本来は6年前初当選した北海道選挙区での出馬を希望していたが92年初当選同期で社民党出身峰崎直樹と定数4から半減で公認争いの結果、道選挙区は峰崎に決定。中尾は比例区に鞍替えを余儀なくされ後見人的存在の鳩山は民主党代表菅直人に「犠牲を払った中尾君をくれぐれも宜しく頼む」と上位優遇を依頼したが結果は当選圏外15位、12人しか当選せず落選、鳩山は中尾の友人のジャーナリストばばこういちにまで菅に対する不信感を露にした。中尾は参院選で落選直後に離党し翌春札幌市長選に完全無所属で出馬し民主党は与野党相乗りで現職桂信雄を推薦していたが、鳩山は中尾を応援。しかし一切処分を受けなかった。
その後も、民主党内で最大派閥であった(民主党は「派閥」とは表現せず「グループ」としている)「鳩山グループ」(政権公約を実現する会)をひきいて、憲法問題や北朝鮮による日本人拉致問題などについて積極的に発言するなど一定の影響力を維持していた。
2005年9月11日投開票の第44回衆議院議員総選挙で民主党が敗北したことを受けての代表選挙では、当初、小沢一郎、菅直人らと後継代表の一本化を図るが、中堅・若手の代表格である前原誠司が立候補を表明したため水泡に帰した。9月17日発足の前原執行部で幹事長に就任。
2006年2月に発生した堀江メール問題では、当時幹事長にもかかわらず、ことの発端となったメールに関し、永田・前原両議員から事前にほとんど何の相談も受けていなかったとされる。3月、前原執行部が総辞職すると幹事長を引責辞任することを表明するが、同年4月7日に行なわれた前原誠司民主党代表辞任に伴う代表選で小沢一郎が当選すると、幹事長に留任した。新潟県中越沖地震発生当時、新潟市内での演説を予定していたが、高崎駅で下車して、自動車で柏崎市入りした。党新潟県中越沖地震対策本部長に就任。
2007年7月の参議院選挙大勝を受けての党役員人事で引き続き、党幹事長に留任。
2009年5月、小沢一郎代表の辞任を受け、かねてからの主張どおり党幹事長を辞職。その後の党代表選挙で岡田克也を破り、代表に就任。
2009年8月30日投開票の第45回衆議院議員総選挙にて、民主党は単独政党としては史上最多の308議席を獲得。
総理大臣
2009年9月16日、衆参両院の首班指名選挙で国民新党、社会民主党を連立与党として、第93代内閣総理大臣に就任。戦後の歴代内閣総理大臣としては、初めての大卒かつ理系出身の内閣総理大臣となる。
政権は高支持率でスタートしたが、普天間基地移設問題などで失策を繰り返し、自身の政治資金問題が表面化したこともあり、翌年になると内閣支持率は急降下した。2010年6月2日、民主党両院議員総会で「国民が聞く耳を持たなくなった」と述べ、民主党代表および内閣総理大臣からの職を退くと表明した。なお、鳩山は歴代の内閣総理大臣が行っていた国民向け退任会見である内閣記者会は拒否してしまった。 
2009

 

記者会見 / 2009年9月16日
このたび、衆議院、参議院両院におきまして、総理に選出をいただきましたその瞬間に、日本の歴史が変わるという身震いするような感激と、更に一方では大変重い責任を負った、この国を本当の意味での国民主権の世の中に変えていかなければならない、そのための先頭を切って仕事をさせていただく、その強い責任も併せて感じたところでございます。
社民党さん、国民新党さんとともに民主党、中心的な役割を果たしながら、連立政権の中で国民の皆様方の期待に応える仕事を何としてもしていかなければならない、強い使命感を持って仕事に当たりたいと感じているところでございます。
言うまでもありません。この選挙、民主党あるいは友党は大きな闘いに勝利をいたしました。しかし、この勝利は民主党の勝利ではありません。国民の皆様方が期待感を持って民主党などに対して、一票を投じていただいた結果でございます。まだ歴史は本当の意味では変わっていません。本当の意味で変わるのは、これからの私たちの仕事いかんだと、そのように感じております。
私たちは、今回の選挙、国民の皆さん方のさまざまなお怒り、御不満、悲しみ、全国各地でそのようなものをたくさんちょうだいいたしてまいりました。何でこういう日本にしてしまったんだ、こんな故郷にしてしまったんだ、その思いを私たちはしっかりと受け止めていかなければなりません。そして、そこに答えをしっかりと出さなければならない大きな役割を私たちは担わなければなりません。
すなわち、今回の選挙の勝利者は国民の皆さん方でございまして、その国民の皆さんの勝利というものを本物にさせていただくためには、とことん国民の皆さんのための政治というものをつくり出していく、そのためには、いわゆる脱官僚依存の政治というものを、今こそ世の中に問うて、そして、それを実践していかなければなりません。私たちはさまざまな仕組みの中で、脱官僚依存、すなわち官僚の皆さんに頼らないで政治家が主導権を握りながら官僚の皆さんの優秀な頭脳を使わせていただく、そういう政治を送り出していきたい。
その先には、言うまでもありません。国民の皆さんの心と接しているのは政治家である。その気概を持って国民の皆様方のさまざまな思い、政治を変える、何のために変えてもらいたいのか、その思いを受け止めて、私たちが大きな船出をしっかりとしていきたい、そのように感じているところでございます。
そのためには、今までのように、国民の皆さんもただ一票を投ずればよいんだという発想ではなくて、是非政権にさまざまものを言っていただきたい。政権の中に参画をしていただきたい。私たちが皆様方のお気持ちをいかにしっかりと政策の中に打ち出していけるか否かは、国民の皆さんの参加次第にかかっているとも申し上げていいと思います。
私たちは、そんな中で今まではマニフェストというものをつくり上げてまいりました。子ども手当問題にしろ、ぼろぼろになった年金を何とか正していく、こういったテーマにしろ、そのための財源をどうするんだ、その思いの中で、私たちは無駄遣いを一掃しなきゃならん、まずは無駄遣いを一掃するべきだ、その発想の中で行政刷新会議というものをつくり上げてまいりました。
また、国家戦略室というものもつくり上げていきたい。そして、そこによって国民の皆さん方に必ず国家的な大きな役割を、指針というものを見出しながら、国民の期待に応えてまいりたい。そのように感じているところでございます。
多分、いろんな試行錯誤の中で失敗することもあろうかと思います。是非、国民の皆様にも御寛容を願いたいと思っております。何せまだ、ある意味での未知との遭遇で、経験のない世界に飛び込んでまいります。政治主導、国民主権、真の意味での地域主権の世の中をつくり上げていくために、さまざまな試行実験を行ってまいらなければなりません。従いまして、国民の皆様方が辛抱強く、新しい政権をお育てを願えれば、大変幸いに思っております。
私どもはそのような思いの中で、連立政権を樹立をする決意を固めた次第でございます。あくまでも国民の皆様方の御期待に応えるような新しい政治をつくりたい。その思い一つで、連立政権を樹立いたした。その思いをみんなでかみ締めながらスタートしてまいりたいと思っておりますので、どうか国民の皆様方にも御辛抱の中で、御指導、御支援をいただきますことを心から祈念をいたします。どうぞよろしくお願いいたします。
【質疑応答】
● 鳩山政権で当面、最も重要視する政策課題は何でしょうか。それと今、総理が言われました子ども手当などでは、依然として財源の問題が言われております。これにどう対処されるのか。それと同時に予算の執行停止などで景気の腰折れも懸念されています。この2つをどうやって折り合っていくのか。以上をお願いします。
まず重視する政策課題でありますが、言うまでもありません。先ほどもちらっと申し上げましたけれども、マニフェスト。これは連立政権でありますから、連立政権の中では、合意をいたした中身をしっかりと実現をしていくということでありますが、民主党としては、その中での特に先ほど申し上げたような子ども手当、あるいは暫定税率の撤廃、国民の皆様方の家計というものを刺激する施策というものをまず真っ先に行いながら、今お話がありましたように、景気の先行きは極めてまだまだ見えてこない中で、国民の皆様にとって、「少しは懐具合がよくなってきそうだなと」「この政権は期待が持てるな」そう思っていただけるような施策をいち早く実現をしていくこと。ここに尽きるのではないかと思います。そうなりますと、財源の問題が出てまいります。したがって、私たちは事業仕分けなどをしっかりと行っていくための、行政刷新会議をすぐに稼働させていきながら、いわゆる行政の無駄はないか。各省庁に対して徹底的に無駄をなくす方向で努力を願いたいと考えています。それなりのめどというものは立ちつつある状況ではないかと考えておりまして、財源の問題は私たちは、少なくとも初年度分7兆円余りでありますが、十分にめどが立つのだと確信をいたしているところでございます。景気対策、補正予算というものを私たちは徹底的に見直さなければならないと考えております。したがいまして、予算の執行停止を求める部分もこれから出てくると思います。しかしながら、それはもう既に執行しているような地方において、地方の活性のためにお使いになっていただいているものに対しては、基本的に地域の活性化に役立つという判断であるならば、続けて執行していただきたいと思っておりますが、必ずしもそうでないもの。まだ執行が始まっていないものに対しては、大胆な見直しが必要ではないか。そのように考えているところであります。私たちが申し上げたいのは、今、申し上げたように、もう既に地方において仕事がなされているものに対して、それを止めれば相当大きな影響が出てきかねないと思っておりますので、そこに対する配慮は行っていきながら、我々が考えていく中で、無駄だとか、あるいはもっと有効な使い道があるのではないかと思われているようなものに対しては見直して、もっと有効な手立てを構築していきたいと考えております。
● 総理は、今、脱官僚政治実現への強い意欲を改めてお示しになりましたけれども、これには官僚の強い抵抗が予想されます。国家戦略局の位置づけも含めて、具体的にどのように脱官僚政治を実現させていくおつもりかお聞かせください。
まず私どもは、大臣、副大臣、政務官、いわゆる政務3役という方々にそれぞれの役所において、政治主導の立場から政策の意思決定を行っていただきたいと考えております。言うまでもありません。優秀な官僚の皆さんが国民のために頑張っていただくものに対して、それをけしからぬというすべは、私たちは持ち合わせておりません。しかし、必ずしもそうでないものに対して、基本的に政治家が主導しながら、役所の事業というものを、むしろ政治家が主導して意思決定を行っていくというシステムをつくり上げていく。これも申し上げたと思っておりますが、閣僚委員会というものをつくらせていただいて、特にこれは幾つかの役所にまたがるようなプロジェクトに対して、閣僚委員会で意思決定をほぼ行い、最終的には閣議というもので最終決定をいたす。そこに事務次官会議というものを廃止しておりますから、必ずしも官僚の皆様方の抵抗によって大きく曲げられるということにはならないと考えております。
国家戦略局あるいは行政刷新会議の在り方も、その中で政治主導でまいることは言うまでもありませんし、特に予算の骨格というものを議論する国家戦略室、菅大臣にその仕事をお願いすることにいたしておりますが、菅大臣の大変強いリーダーシップというものを大いに私は期待申し上げたい。また、行政刷新会議は、仙谷大臣のリーダーシップを大いに発揮していただきたいと思いますし、いわゆる各省の副大臣クラスの方々にも、行政刷新会議の中での役割というものも任じていただきたい。そして、事業仕分けを始めとして、いわゆる無駄だと思われているような事業を徹底的に排除するように、政治主導で行っていきたい。そのようなさまざまなやり方を駆使しながら、いわゆる脱官僚依存の政治というものを行ってまいりたいと考えております。
● 鳩山総理、来年のマニフェストについては、もう7.1兆円のめどが立ったという御発言がありましたけれども、やはり来年度予算の編成というのが喫緊の課題となると思われますが、まずシーリングについてゼロベースで見直しをされるのか。それと年内編成を行うのか。そして年度内成立を目指すのか。その辺のスケジュールについては、現在どのようにお考えでしょうか。
これは財務大臣、更には国家戦略室の菅大臣を中心に、これから早急に議論を詰めていくということが基本的なスタンスであります。私からあえて申し上げれば、当然のことながら、今までの手法というものは、ゼロベースで考え直していくということでありますので、シーリングのやり方などというものも基本的に考え直していきたいと考えておりますし、そうは言っても、このようなある意味で遅れてスタートはいたしますが、年内で編成ができるようなスケジュール感で臨んでまいりたいと、現在はそのように考えております。
● 国連総会に際しまして、訪米をされて、日米首脳会談も臨まれることになるんだろうと思いますけれども、日米関係を深めていくために、具体的にどのような方針で臨むおつもりなのか。連立与党の合意でも、日米地位協定の改定の転機ということを盛り込まれていますが、それについてはテーブルに乗せるおつもりはあるのかどうなのか、具体的にお聞かせ願いたいと思います。
まだ日米首脳会談の日程がセットされることを期待いたしておりますが、どのような時間をいただけるか、まだ必ずしもわかっていない状況であります。その上で仮定の中で申し上げるとすれば、私はまずオバマ大統領と信頼関係を構築するということが第一歩であって、今回の訪米はそういった意味でお互いに率直な意見交換をすることによって、信頼感というものを高めることが一番重要なことではないか、そのように思っております。いわゆる日米の地位協定などの問題に関して、私どもが今、考えておりますのは、当然基本的な方針は変えるつもりはありません。この連立の中での合意のところでも改定に向けて努力をすることがうたわれておるのも事実でございます。ただし、今回は信頼関係を醸成していくということが主眼でございますし、いわゆる日米間のさまざまな懸案問題、安全保障関係の問題に関しては、包括的なレビューというものを少し時間をかけて行うことが重要ではないか、そのように思っておりますので、このような時間をかけた中で議論を進めていくことが大事である。一番私たちがかぎに思っておりますのは、やはり信頼関係の構築だというように御理解をいただきたい。そのためには、くどいようですけれども、お互いに相手に対して遠慮しないでものを言う立場というものを築き合うことだと、そのように考えております。日本がややもすると受身的な日米関係に今までなりつつあったわけでありますが、そうではなくて能動的な立場で、我々としてもこう考えているんだということを率直に話し合えるような関係をつくり上げていきたい、その中での結論というものを導いていくように努力をしたい、そのように考えています。
● 政府の拉致問題に対する姿勢をお伺いいたします。今度の鳩山内閣には、北朝鮮の横田めぐみさんの拉致実行犯である辛光洙元死刑囚の釈放嘆願書に署名した、菅さんと千葉さんという2人の閣僚がおります。これから北朝鮮に拉致問題の解決を迫るときに誤ったメッセージを送りかねないいという気もするのですが、どうお考えでしょうか。また、このお二人に、拉致被害者家族に対する反省なり謝罪なりを求めるお考えはありませんか。
私は過去の経緯というものは事実としてあろうかと思います。ただ、一番大事なことは、北朝鮮に対しては拉致問題を現実的に解決に向けて進めていくということが肝要であります。そのためにも、今回、国家公安委員長になりました中井洽大臣に拉致問題担当大臣というものを命じているところでございます。彼が今日まで拉致問題に対して大変積極的に行動してまいったということに私は重きを置かせていただきながら、拉致問題をうまく展開させていくために努力を惜しまない、そのように考えておりまして、過去のことに関して私は今2人の大臣に問うことを考えてはおりません。
● 先ほどの予算編成の絡みで一点確認と、もう一点、新内閣について一点あるんですが、予算編成が当面喫緊の課題としてあるわけですが、その司令塔は国家戦略局が司令塔なのか財務省が担うのかという今後のどちらが司令塔なのか点と、もう一つは、総理が幹事長時代に西松建設の違法献金事件をめぐって「国策捜査だ」ということをおっしゃいました。今回、政権をとられてその考えは変わらないのかという点と、法務大臣のポストを選ばれるときに、国策捜査ということの認識に立たれるのであれば、考慮された点があるのかどうかという点についてお願いします。
まず、予算編成に関してでありますが、私は国家戦略室に予算の骨格というもの議論していただく、いわゆる詳細に対する設計というものではなくて、骨格の設計を国家戦略室にお願いを申し上げたいと思いながら、国家戦略室をつくった次第であります。したがいまして、その骨格に対してしっかりとした骨組みから精緻な内容に仕立て上げていくのが、財務大臣あるいは財務省を中心とする役割だと任じております。ただ、双方がある意味での行政刷新会議も含めて、どのぐらい無駄遣いを削減することができるかというものに絡んでおるものですから、その三者がある意味で一体的に議論を進めながら、役割分担というものを行っていくべきだと考えております。それから、西松建設に対して「国策捜査」という言葉を一度使った次第でございますが、私は二度は使わなかったつもりでございます。すなわち、一度使ったことに対するある種の反省の思いを含めて、その言葉を遠慮しているところでございますので、そのような立場だと御理解を願いたい。
● 総理が提唱されている東アジア共同体なんですが、それは今後の外交日程の中で、いつ、どういった形で国際社会に周知していくことをお考えなのか。また、この共同体がアジア共通通貨といった総理のお考えが、アメリカではアメリカ離れとか、ドル離れを志向しているのではないかという受け止め方もされているようですが、こういったことに対してどのように答えられるか。
御案内のとおり、ある意味での友愛という精神がスタートラインでありまして、それがEUにおいては共通のユーロという通貨まで展開をしていったということでございまして、ある意味でかなり体制も違う国々もあるわけではありますけれども、アジアにおいて、特に東アジアにおける共同体というものを中長期的に見て構想することは、私は正しい道のりだと考えております。その発想は決してドルというもの、あるいはアメリカというものを除外するつもりではありません。むしろ、その構想の先に私はアジア太平洋共同体というものを構想するべきだと思っておりまして、アメリカ抜きで必ずしもすべてできると思ってもおりません。このような構想はできるだけ早い時期に、すべてどこまで詳細にお話しするかということは別にいたしまして、何らかの形で今度国連でも演説をする予定でもございます。そのような中で、頭出しくらいはしてみようかなと考えているところでありますが、まだそこのところは詰めている状況ではありません。
● 個人献金問題についてお伺いします。個人献金問題を鳩山総理は説明責任を十分果たしたという立場を一貫してとられていますが、臨時国会等で野党の厳しい追及を受けるのが必至だと思います。個人献金問題を抱えたままでの政権運営の影響についてと、今後の新たな説明のお考えがあるかどうかについて、お願いします。
この問題に対して、国民の皆様方にいろいろと御心配をおかけしたことをおわび申し上げながら、私なりに修正あるいは訂正をいたしたところでございます。なかなか国民の皆様方には御理解をいただいていないことは事実だと思っておりますので、それはもっと説明を尽くす努力はしてまいりたいと思っておりまして、今後の展開というものもさまざま考えながら、私なりの思いを国民の皆様方にできるだけ正確に正直にお伝えを申し上げて、御理解を深めていただきたいと、そのように努力をいたしたいと思っています。  
記者会見 / 2009年12月25日
たった今、平成22年度予算をまとめ、閣議決定をいたしたところであります。
さきの総選挙において政権交代が実現をし、新内閣が発足をいたしましてから、昨日でちょうど100日が経ちました。この間、私たちは新しい政治をつくり上げるため全力を尽くしてまいりました。
新しい政権がどのような国をつくろうとしているのか、どんな政策を実行するのか、この最初の本格的な予算編成で国民の皆さんに具体的にお答えをすることになります。
これから皆さんに来年度の予算の内容を御説明いたします。
今回の予算は、私は命を守る予算と呼びたいと思います。この予算をつくり上げていくため、私は3つの変革を行いました。
まず、予算編成に当たって「コンクリートから人へ」という理念を貫きました。
子育て、雇用、医療、環境など、人の命を守る予算を確保することに全力を傾注しました。
他方、これらの予算を増やすために、単純に歳出を増やすのではなく、既存予算の削減に徹底的に取り組んでまいりました。
公共事業を削減し、予算が使われる中間段階での税金の無駄を徹底的に排除して、最終的な需要者の方にお金が届くようにいたしました。
その結果、マニフェストを実行するのに必要な財源約3兆円は、安易な借金ではなく、歳出削減や公益法人の不要な基金の取り崩しなど、既存予算の見直しで捻出することができたのでございます。
2つ目は、政治主導の徹底であります。
政治が考え、政治が責任を持つ予算編成にしたということでございます。
従来は、財務省が予算の原案を作成し、あらかじめ決められたシナリオどおりに予算編成が行われていました。
今回の予算の編成では、菅副総理が司令塔となり、節目では私が指示をしながら、国家戦略室を中心に官邸主導で予算編成を進めました。財務省が予算の原案をまとめるということもやめました。
予算の基本方針やマニフェスト関連など、重要な案件については、閣僚委員会や3党での協議、あるいは関係大臣、副大臣による折衝など、政治主導で調整を行ってまいりました。
税制改正についても、税は政治なりという考え方の下で、税制調査会の委員はすべて政治家とし、従来、政府と党に二元化していたプロセスを一元化して、政治が税制に責任を持つ体制を確立いたしたのでございます。
このような政治主導の徹底によって、既存の枠組みにとらわれない、思い切った予算の増額や削減ができたと思っております。
3つ目は、予算編成プロセスの透明化であります。
この点では、行政刷新会議が行いました事業仕分けが、国民の皆様から高い支持をいただいたのは御案内のとおりでございます。
個別事業の予算をどうするかについて、公開の場で民間の仕分け人の方も一緒に議論をするというのは、初めての試みでございました。
「こんな無駄があったのか」、「予算が決まっていく過程が見えるぞ」、「政治が身近に感じられる」といった声をたんさくちょうだいいたしました。
この結果、いわゆる中抜きや不要な基金の積み立てなど、旧政権では見過ごされてきた、しかし、国民の常識から見れば明らかな無駄がたくさん見つかったのでございます。
この事業仕分けの結果は、大半が予算に反映され、対象外の事業にも横断的に適用されて、大幅な無駄の削減ができたと確信をしております。
次に22年度予算の具体的な中身を御説明申し上げます。
まず、予算の骨格でありますが、総額は92.3兆円、これは過去最大でございます。要求は95兆円でありましたから、そこから約2兆7,000億円削減をいたしました。
他方、歳入面では特別会計や公益法人の見直しにより、過去最大の約11兆円の税外収入を確保いたしました。
その結果、国債発行額は44.3兆円と44兆円を少し超えましたけれども、ほぼ44兆円に抑えることができました。
入るを計りて出ずるを制す。44兆は税収の落ち込みなども踏まえて、財政規律を守るための目標としてきた水準であります。これを達成することができ、未来への責任を果たせたと思います。
経費別で見ると、社会保障関係費が10%と大幅な伸びとなる一方、公共事業関係費は18%減と2割近い削減をいたしました。まさに「コンクリートから人へ」でございます。
また、景気対策に万全を期し、経済情勢の変化に臨機に対応できるよう、2兆円規模の予算枠をつくりました。
今後、景気の動向をしっかりと見極めつつ、国民の皆さんが心配しておられる景気の二番底を回避するために全力を尽くしてまいります。
次に、新政権が国民の皆さんにお約束したマニフェストや連立政権合意など、予算の主要事項について申し上げます。
まず、子ども手当についてであります。マニフェストでお約束したとおり、子ども手当を子どもお一人当たり月1万3,000円、年間15万6,000円を支給いたします。所得制限は設けません。家計の収入がどのように変動しようとも確実に支給されるようにいたします。
また、支給に当たり、受領者が自治体に簡便に寄附でき、各自治体がそれを子育て支援に活用できるような仕組みをつくります。
公立高校の実質無償化に関してでありますが、子育てに関しては子ども手当のほか、公立高校も無償化するとお約束をいたしました。そのとおり国が授業料相当額を負担し、実質的に授業料を無料といたします。
また、私立高校生のいる世帯に対しても、年額12万円、低所得世帯は24万円の支援を行うことにいたしました。
次に雇用であります。
雇用対策の柱として収益が減っても、雇用を維持する会社に賃金の一部を補助する、雇用調整助成金を前年度に比べ10倍以上に増額いたします。
これによって22年度中に大企業で約75万人、中小企業で約155万人分の雇用を守ることができます。
医療や介護の充実も推進いたします。
診療報酬について10年ぶりのプラス改定を行います。
また、配分の大胆な見直しを行い、地域の中核的病院や救急、産科、小児科、外科の充実を図ります。介護についても介護施設内における保育所の整備を促進し、労働環境の改善を図ります。
また、国民の健康の観点からたばこの消費を抑制するため1本当たり3.5円、価格にして5円程度の増税を行います。
肝炎対策については、肝炎患者の皆様と11月に官邸でお会いし、その切なる思いを私なりに受けとめたところでございます。その思いに応えるために、肝炎治療の助成対象の拡大と自己負担限度額の引下げを行います。
環境に関してであります。命を考えるとき、人の命だけではなく、私たちが生きている地球の命を守ることも大切であります。
我が国が環境分野で世界をリードしていくため、CO2を回収、貯蓄する技術や燃料電池など環境技術開発を進めます。
また、電気自動車などの普及を強力に推進いたします。
科学技術は社会の夢を育み、我が国が将来にわたり知恵で生きていくための基盤をつくる重要な手段です。無駄や省庁間の重複を排除しつつ、グリーン・イノベーションの取組みを始め戦略上、真に重要な分野に重点的・効率的な投資を行ってまいります。
農業については、お約束どおり、農家に対する戸別所得補償制度を創設いたします。
高速道路の無料化については、まずは路線を限定した社会実験を実施し、その影響を確認しながら、段階的に進めていくことにいたしました。
ガソリン税などの暫定税率につきましては、熟慮に熟慮を重ねた結果、現行の10年間の暫定税率は廃止をするものの、税率水準は維持することといたしました。
ただし、原油価格の異常な高騰が続いた場合には、暫定税率分の課税を停止できるような仕組みをつくります。
中長期の戦略でありますが、国民生活を守っていくには経済成長が必要でございます。それが財政再建にもつながってまいります。そこで中長期的な観点から、雇用、環境、子ども、科学技術、アジア等に重点を置いた新たな政策のパッケージ、新たな成長戦略を策定し、早急に実施していきたいと考えています。
また、財政規律についても、来年前半には複数年度を視野に入れた中期財政フレームを策定するとともに、中長期的な財政規律の在り方を含む財政運営戦略を策定し、財政健全化への道筋を示します。
これから取り組んでいく課題として、新しい公共があります。官だけではなく、市民、NPO、企業などの民間が積極的に公共的な財、サービスの提供主体となり、教育や子育て、まちづくり、介護や福祉などの身近な分野で活躍していただく。そうした新しい公共を目指す取組みを積極的に支援してまいります。
このテーマについては、年明け以降、円卓会議を設けて、NPOの皆さんなど、実際に活動しておられる方々の御意見や国民の皆さんの声を聞きながら、本格的に取り組んでまいります。
思えば、この内閣は国民の皆さんとの約束から始まりました。新政権の運営は、この約束に基づくものでなければならないという思いで予算編成を行ってまいりました。実際には厳しい財政事情もあって、マニフェストでお約束したことすべてをそのまま実現することはできませんでした。国民の皆様方の声を聞いて見直した部分もございます。しかし、総じて申し上げれば、子ども手当、高校無償化、医療の再生など、マニフェストの多くのものは実現できたと思っておりますし「コンクリートから人へ」という基本的な理念もしっかりと貫くことができたと思っております。
この平成22年度予算を、来年召集する国会にできるだけ早く提出をいたします。これからも国民の皆様方とともに、よりよい日本、新しい日本をつくっていきたいと思っています。ありがとうございました。 
2010

 

平成22年年頭所感 / 2010年1月1日
新年あけましておめでとうございます。
寒さ厳しい中、みなさん、風邪など召されていませんでしょうか?受験生の皆さん、体調に気をつけて、ベストを出せるように努力してください。おじいさん、おばあさん、お正月にはお孫さんの顔を見られますか?もう電話で声を聞かれましたか?お正月も休みなく働かれている方々、一人暮らしの皆さん、それぞれの環境の中で、穏やかな新年をおむかえでしょうか。
今年が、日本の国土に暮らすすべての人々にとって希望の持てる年となるように心より願っていますし、そのために仕事をするのが私たちのつとめです。
新しい政権が誕生して三ヶ月あまり、事業仕分けに代表されるように、私たちは、多くの改革を実現してまいりました。政治主導の実現に向けて、大臣をはじめとして各府省の副大臣、大臣政務官の政務三役が粉骨砕身、力の限り働いてくれていることは、みなさまもテレビなどでご覧の通りです。
一方で、一部に内閣の指導力について多様なご意見があることも承知しております。しかし、ご理解をいただきたいのは、政権が代わり、政策決定のプロセス、その哲学が大きく変わったということです。事業仕分け、税制改革、いずれも透明性を格段に増して、生の議論をみなさんに見ていただけるようになりました。大臣たちは、官僚の言葉ではなく、自分たちの言葉で、自分たちの気持ちを、国民に直接伝えるようになりました。
百家争鳴は、望むところであります。実際、みなさんのご家庭や職場でも、事業仕分けや子育て支援について、議論が起こったのではありませんか?
私たちは、国民のみなさんにも、深く、大らかに、政策について議論をしていただきたいと願っています。その街角の一つ一つの議論の積み重ねが、やがて政策に反映される、そんな、本当の民主主義国家を作っていきたいと私は考えます。そのためには、政府は一方的に政策を決定していくだけではなく、その政策決定のプロセスを、大胆に開示していく必要があるのです。
その意味では、平成22年度の税制大綱や予算編成は、まさに透明な政策決定プロセスが実を結びつつある証であると思っております。
その関連で言えば、普天間基地移設の問題についても、我が国の安全保障の問題として日米同盟を強化すると同時に、沖縄県民の負担を少しでも減らすために、ギリギリの知恵を絞りながらしっかりと議論していきたいと思っています。全国民のみなさんにも、自らの問題として受け止めていただきたいと切に感じます。
もちろん、議論を尽くした上で、最終的には、私の決断で内閣としての最終方針を決定しなければならないことは言うまでもありません。
また、私自身の思い、決断の内容やその背景をきちんとみなさんに伝え、理解を求めて行くことが重要です。その点、反省すべき点は強く反省をし、私自身の情報発信にも、さらに力を入れていきたいと考えています。
景気回復、雇用の確保、デフレからの脱却こそが、国民の喫緊の願いだと思います。第二次補正予算、そして平成22年度予算の早期成立に全力を尽くします。また子育て支援、農業者戸別所得補償を始めとする画期的な施策を実行に移します。年末には新たな成長戦略の基本方針を明らかにさせていただきましたが、さらにその先の、大きな成長戦略を具体的に策定し、展開していかなければなりません。
昨年は、私自身の政治資金の問題で、国民のみなさまに、大変なご心配をおかけしました。あらためて、深くお詫び申し上げます。政権交代へのみなさまの熱い期待に応えることこそが、私の責任であると考えております。国民のみなさまの深いご理解を賜りたいと存じます。
新しい政権の、新しい挑戦は、確かにみなさまを不安にさせるかもしれません。ハネムーンの期間は過ぎました。温かい目で見てくれとは、もう申し上げません。どうか共に考え、共に闘い、またそのなかで、厳しいご批判もいただきたいと思います。
この一年の間に、ひとりでも多くの方々に雇用を確保し、笑顔で働ける社会、お年寄りやチャレンジドの方たちも安心して暮らせる社会、若者が希望と誇りを持って国際社会を生きていける日本を作りたいと思います。同時に、待ったなしの気候変動問題や核廃絶に向けての国際的取組の前進に全力で取り組んで参ります。
本年が、日本国民一人ひとりにとって、素晴らしい年になりますよう心よりお祈り申し上げます。本年もよろしくお願いいたします。 
年頭記者会見 / 2010年1月4日
国民の皆さん、新年明けまして、おめでとうございます。今年が皆様方にとってすばらしい1年でありますことを、まず、お祈りを申し上げたいと思います。
百年に一度、政権交代、国民の皆様方が昨年実現をさせていただきました。これはむしろスタートラインだと私どもは考えております。官僚任せの政治ではない。国民の皆様方が主役になる政治をつくりたい。その思いで百年に一度の大きな改革を私たちはやるために政権交代を皆さんのお力によって実現を果たしました。いよいよこれからがスタートでございます。今日まで百日余りが経ちました。まだまだ至らぬ点も多くあると思います。試行錯誤で難しいところもあったと思いますが、しかし、国民の皆さんには政治は変わり始めたね、そのように思っていただけたのではないかと思っております。
総理として、原点、初心に返って、国民の皆さんと一緒に新しい政治を、国民の皆さんのための政治をつくり上げてまいりたい。その正念場の1年だと覚悟を決めているところでございます。
元旦に渋谷のオリンピックセンター、いわゆる派遣村を訪れました。多くの方が困っておられた。私は、日本に住まわれるすべての方が、憲法で保障されている最低限のお暮らし、住まいがほしい、働きたいけれども働く場所がない、そういう方々のために政府がしっかりと支えていけるような、命を大切にする政治を、本年1年つくり上げてまいりたいと考えております。そのためにも、命を大切にするために、景気・雇用が心配だと。多くの皆さんがそう思っておられると思います。私たちは景気が二番底になってはならない。させないぞと、その思いの下で、昨年の末、24兆円という事業費になりますが、「明日の安心と成長のための緊急経済対策」をつくり上げて、そしてその下で第2次の補正予算を練り上げたところでございます。一刻も早くこの2次補正予算を成立させて、国民の皆様のお暮しを少しでも豊かさを感じていけるように仕立て上げてまいりたいと思います。
そして選挙でさまざまお約束をいたしました、マニフェストあるいは与党3党でお約束をした合意、例えば子ども手当あるいは高校の無償化、更には農家の戸別所得補償制度、こういったものを今年はスタートさせてまいりたい。雇用や中小企業も含めて、子育てあるいは年金、医療、介護、教育、環境、こういった人の命をとことん大事にする新しい政治の姿を、来年度の予算としてつくり上げたつもりでございます。皆様方に、これが実現されれば、やはり画期的なことだなと思っていただけると思います。その予算を早期に成立させるために、政府としても全力を尽くしてまいりたいと感じております。
また年末に、菅副総理の下で力を発揮していただいて、成長戦略、命を大事にする、国民の皆さんに希望を持って、これからも頑張るぞという思いになっていただくための成長戦略をつくり上げてきたところでございます。ややもすると、環境とか、あるいは高齢化、後ろ向きのようにとらえられてしまう、その発想をむしろ前向きにとらえる、環境だからこそ日本は世界一の環境産業をつくり上げていこうではないか、これからむしろ長寿、健康を維持するための新たなさまざまな施策をつくり上げて、世界で最もお年寄りが住みやすい国にしていこうではないか、前向きな発想で成長戦略をつくり上げてきたつもりでございます。供給サイドからむしろ需要サイドに、今まで経済のために人間が動かされてきた、おかしいじゃないか、むしろ人間のために経済がなければならない、その発想の転換をいよいよ今年は行ってまいりたいと思います。
そして、私どもが1丁目1番地のように考えておりますのは、地域のことは地域で解決ができる、そういう社会に変えていきたい。何でもかんでも国が主導権を握りたい、そういう発想はもう古い。地域でできることは何でもかんでも地域で考えて結論を出す。そういう世の中に仕組みを変えていく。それこそ国民が主役の政治だと、そのように私たちは考えております。その意味で、「地域主権戦略会議」というものを起こしたところでございます。
私が議長になって、このテーマを、例えば国と地方の協議の場の法制化を急いで行う。あるいは補助金行政などというものから、一括交付金の方向に変えていく義務づけ、枠づけ、こういったものを大幅に見直していく、地域のための予算というものを組ませていただく、このようなことを行っていきながら、国と地方の在り方が本格的に変わってきたなと、そのように皆様方に実感ができる1年にしていきたい、このように考えているところでございます。
そのためには、政治主導を更にスピード感を持って進めていかなければなりません。内閣の中に、もっと政治家をしっかりと働いてもらえるような、そんな準備も行ってまいりたい。制度を新しくしていくことが極めて大事だと考えております。もとより事務次官会議の廃止とか、あるいは政務三役、こういった方々に大いに頑張っていただいて政治主導を始動させることはできたと思いますが、更に一歩も二歩も先に進めてまいりたい、このように考えているところでございます。
事業仕分けは、国民の皆さんに大変御評価をいただいたところであります。更にそれを規制改革の問題、制度改革の問題に広げて、こういうものも事業仕分けでやってもらいたいと思っております。独立行政法人の改革とか公益法人の改革なども事業仕分けの中で積極的に、こういう独立行政法人も要らないんではないか、変えた方がいいんではないか、そういう議論をしていただきたいと考えているところでございます。天下りの禁止なども更に徹底をしてまいりたいと思います。
私は、国政のある意味で半分は、外交安全保障ではないか、そのように考えております。昨年百日間で8回海外にまいりました。特にアジアの首脳の方々と多く議論をさせていただいて、日本という国が少しずつ政権交代で変わってきているなと、その思いを実感していただいたのではないか、そのように感じております。
気候変動問題あるいは核軍縮、不拡散、こういった問題において日本という国がそれなりのメッセージを出しているね、そのように感じていただいたのではないかと思います。
更に私は、やはり日米同盟、これを基軸にしながら、一方でアジアを重視する東アジアの共同体を構想してまいる年にしてまいりたいと考えております。そのためにも、普天間の移設問題も解決をしていかなければなりません。この問題に関しては、沖縄の県民の皆さんのお気持ちを大事にしながら、しかし、一方で、日米の合意もある、この思いの下で、決して無駄に時間を浪費させるつもりはありません。期限をしっかり切って、数か月の中で沖縄の県民の皆さんにも、アメリカの皆さんにも御理解をいただいて、与党三党、検討委員会をつくりましたので、その中でしっかり議論をして結論を出すことを国民の皆さんにお約束をいたしたい。それがやはり、日米安保のある意味で軸となることだ。そのように思っておりまして、将来的に時間がかかったけれども、いいものができたね。そのように思っていただけると、私なりに感じているところでございます。
今年1年が、まさに民主党や連立政権の正念場ということではありません。政治が大きく国民の手に戻ったかどうか。それを確信していただける1年にするための正念場だと思っています。おじいちゃんには、おばあちゃんには、安心できる世の中になったね。若い皆様方には、働きたいけれども働く場がない。そうではなくて、働きたいから職業が見つかったよ。そう思っていただける1年にしたい。そして、お子さん方には未来を、希望を持って進めていけるな。そういう実感を持っていただける1年にしていきたい。このように感じております。
身を粉にして本年1年、私の指導力の下で精一杯、内閣は国民の皆さんのためにある、その原点を忘れずに行動してまいることをお誓い申し上げて、年頭に当たっての私からのメッセージといたします。
どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございます。
【質疑応答】
● 新年明けましておめでとうございます。今年の夏には、最大の政治決戦である参院選が予定されております。それで、参院選にどのように臨むのかというのをお尋ねしたいんですけれども、まず、内閣の現在の顔ぶれで参院選に臨もうとされるのか、それとも、内閣改造を直前にでも行って新しい布陣で臨むお考えがあるのか。それと、衆参の同日ダブル選挙の可能性は、現時点では検討されるお考えはあるのか。それと、これは総理の立場としてというよりも民主党代表としての立場ということになるかもわかりませんけれども、参院選の勝敗ライン、目標をどういうふうにお考えになるのか。この3つをお尋ねしたいと思います。
先ほど申し上げましたように、今は、まずは予算を成立させる。そして、国民の命を守る。その政権をこれから更に今年、大きく加速をさせていく1年にしたい。そう思っております。したがって、今、この段階で私が考えることは、いかにして国会の中で国民の皆さんに予算を成立させて、国民の命を守る政治をつくっていくか。ここにすべてが集約されております。したがって、その先の参議院選挙のことを、今、申し上げるようなタイミングではない。そのように考えております。すなわち、その前に、内閣改造があるなどというようなことも一切考えているわけではありませんし、まして衆議院との同日選挙を念頭に置いているというものでもありません。そのような発想はなく、まずは国民の皆様方のために、その選挙のときまでベストを尽くす。そのときに、参議院選挙でどう闘うかというのがおのずから生まれてくる話だ。そのように考えておりまして、今、年頭に当たって勝敗ラインのことなども申し上げる立場ではない。そのように考えております。
● 今月中に通常国会を召集されますけれども、今、予算については言及されましたが、それ以外にも国家戦略室の局への格上げの法案ですとか、外国人の地方参政権を与える法案などが重要法案として考えられると思うんですけれども、これらの重要法案の成立について、どのような時期でどのように成立を図っていこうと考えていらっしゃるのか。また、通常国会においては総理の偽装献金事件について、総理の政治責任などの追及や野党側からはその使い道などについて、さらなる説明が求められると思いますけれども、どのように対応していかれるお考えでしょうか。
まず国会におけるさまざまな法案、当然のことながら民主党をはじめ与党の皆さんとの間の調整が必要であります。その調整がまだ残っていると思っております。いわゆる政治主導で行っていくための法案、あるいは国会法の改正といった議論があり、また地方参政権の議論もあろうかと思います。これは与党と調整をしっかりと行う。それがまず肝要だと思っております。したがいまして、当然調整が済めば、それを法案として提出を申し上げたいと思っておりますが、まずはそのための調整が必要だと思っております。早くてもやはり大事なことは国民の皆様方の命を守るための補正予算、そして本予算をしっかり上げるということが当然のことながら先に行われるべきことだと思っておりまして、その後にさまざまな法案というものを提出して、成立を図っていきたいと考えております。私自身の政治資金の問題に関してでございます。この件に関しては昨年末に御案内のとおりの状況となりました。私も記者会見をいたしました。私としては自分の知り得る範囲の中で、できる限り説明を尽くしたつもりでありますが、これは私自身もなぜという部分もかつてあっただけに、なかなか国民の皆さんにすとんと落ちない部分もあろうかと思います。これからも説明責任という意味では、できる限り説明する努力を払ってまいりたいと思います。検察の方としては、そちらの方では結論を出されたということであって、いわゆる偽装献金問題に関しては、その方向で決着が付いたと思っております。しかし、国会の中で議論というものがあれば、当然そこに自分なりに丁寧にお答えをしてまいりたいと考えております。使い道などに関しても私がどこまで把握できるかということはありますが、それなりの説明は行ってまいりたいと思います。
● 先ほど日米関係について御発言がありましたが、今年は日米安保50周年の節目の年になると思います。総理がお考えになっている同盟関係、日米同盟の理想的な同盟関係の在り方というのはどのようにお考えになっているのか。具体的なイメージをお聞かせ願えますか。
私は日米安保が改定されて50周年の今年は、ある意味で大変大きな年だと。むしろそれを是非チャンスとして活用したい。そのように考えております。すなわち日米同盟は安全保障というものが軸になることは言うまでもありませんが、さまざまなレベルで日本とアメリカがお互いに不可欠な関係にあるんだということを示していくことが重要だと思います。グローバルな課題もございます。気候変動の問題もあるし、あるいは核不拡散の問題もあります。こういった問題に対しても、むしろ積極的にお互いの立場というものを主張できる、言うべきことはしっかりと言いながら、お互いに信頼関係を増していく。言いたいことがあっても、これはどうせ難しいからといって相手に対して、ただ従うということではなくて、言うべきことは、はっきりと申し上げることができる。そしてその中で、むしろ信頼関係を高めていく。こういった日米関係というものをつくり上げていきたい。重層的な形で日米同盟を深化させる大事な年だと考えております。
● 憲法改正についてお伺いします。総理は過去に新憲法試案を出されたりしておりますけれども、昨年末も若干言及がありました。総理として憲法改正に臨むお考えがあるのかどうか。その場合、どこをどのように改正されるおつもりなのか。改正に向けた議論をどのように進めるおつもりなのか。また、憲法審査会を動かすお考えがあるのかどうかについてお伺いします。
憲法に関しては、当然、政治家ですから、自分なりの憲法というものはかくあるべしという議論は当然政治家ですから、国会議員ですから、一人ひとりが持ち合わせるべきだと思います。その意味で、私は自分としての、自分が理想と考える憲法というものを試案として世に問うたところでございます。それはむしろ安全保障ということ以上に、地域主権という、国と地域の在り方を抜本的に変えるという思いでの発想に基づいたものでございました。ただ一方で、内閣総理大臣として憲法の遵守規定というものがございます。その遵守規定、当然憲法を守るという立場で仕事を行う必要がございます。そのことを考えたときに、憲法の議論に関しては、いわゆる連立与党3党、特に民主党の考え方というものを、憲法の議論を進めていく中でまとめていくことが肝要かと思っておりまして、私は憲法の議論というものを国会議員として抜きにするべきではないという発想を持ちながら、しかし、今の現実の経済の問題など、国民の皆様方の切実な問題を解決させていくことが政府の最重要課題だという状況の中と、それから、やはり遵守規定の中で、憲法の議論は与党の中で、また、これは超党派でというべきだと思いますが、しっかりと議論されるべきではないかと思っております。したがって、憲法調査会の話も国会の中で、与党と野党との協議でお決めになっていただくべき筋の話だと思っております。
● 本来、政権発足時にお伺いすべきことなんですが、1問目の質問と関連しまして、総理はそもそも、こちらにも並んでおられますけれども、今の閣僚は少なくとも次の総選挙までいてもらうんだという発想で政権を発足させているのか、必要に応じて改造を行うお考えがあるのか、特に政治主導ということで考えますと、一内閣が長く続くということも必要かと思いますがいかがでしょうか。
これは大変大事な御質問だと思います。私はやはり閣僚というものがころころと代わる、そのことで国民の中の信頼という以上に、世界の中における顔としての大臣がなかなか見えない。結果として、国としての存在感が薄いということになっています。したがいまして、できる限り私は閣僚の皆様方には長く務めていただきたいと考えておりまして、そう安易に内閣改造を転々と行うという発想をとるべきではないというように、国益の上からそう思っております。 
記者会見 / 2010年3月26日
御案内のとおり、平成22年度の予算が成立いたしました。経済が依然としてまだ厳しさが残っている中で、年度内の予算が成立をしたということは、私は喜ばしいことであったと、このように思っております。
この予算の編成に当たっては、事業仕分けなどといった手法を使いながら、むしろ国民の皆さんに開かれた予算というものの在り方をお見せすることができたのではないかと、そのように思っております。
結果として、めり張りがついた予算ができ上がったなと、そのように思っております。すなわち、いわゆる公共事業を必ずしもすべてが無駄だとか、そういうつもりはありません。しかし、公共事業18%減という一方で「コンクリートから人へ」という思いの中で、人への予算、教育の予算、あるいは社会保障は10%あるいは8%と大きな伸びを見せました。これはやはり、新しい政権だからこそできたことだと、私はそのように感じているところでもございます。
ただ、国民の皆さんに、予算ができ上がったから、すぐに実感をしていただけるには、まだ時間がかかると思います。しかし、例えば子ども手当あるいは高校の無償化といった、皆様方の御家庭お一人お一人に対して、実感ができるだけ早く伴うようになることを心から祈念いたしますし、そのようにいたしたいと心から考えておるところでございます。
しかし、景気が御案内のとおり、例えば失業率は私が政権を担当いたしましたときには、5.4%。それが今、4.9%まで改善をされたとはいえ、まだデフレだと、厳しいぞと、そのようにいろいろとお叱りもいただいているところでもございます。デフレ克服に向けて、全力を挙げていくことは言うまでもありません。
一方でしかしながら、国民の皆さんに、鳩山政権に期待していたけれども、まだまだリーダーシップが十分見えていないね。政治主導というけれども、どうもいろいろと不統一があるのではないか、そんなお叱りをいただいているところでもございます。そして、その中に政治とカネの問題があることも、私もよく自覚をしているところでございます。このような問題に対しても、しっかりと解決の道筋をつけていかなければならない。そして、国民の皆さんに、やはり民主党を中心とした連立内閣、新しい内閣は期待どおりになってきたねと、そのような思いをできるだけ早く感じていただけるように、引き立てていかなければならない、そのように思っています。課題は山積でありますが、ある意味でこれからが新たなるスタートだと、その思いで頑張ってまいりたいと思います。
今日、私は簡単に3つの柱を申し上げたいと思います。
その3つとは、官を開く、国を開く、そして結果として、未来を開くということでございます。
官を開くとは何でしょうか。これは国民の皆さんに、まずは天下りを根絶させなさい。新政権として、強くそのことを期待されてまいりました。そのことは当然のことながら、更に厳しく行ってまいることをお誓いいたします。ただ、それだけではなく、例えば官、その幹部の皆さん、お役所の幹部の皆さんに、もっと民間の活力を導入する、民間の方々にどんどんと幹部で働いていただけるように引き立てていきたい。いわゆるリボルビングドアなどという言い方がされておりますが、官から民、民から官、もっと自由自在に行き交うことができるような、そんな役所の在り方というものを、あるいは日本の生き様というものをつくり変えていくことが大事ではないかと、そのように考えております。
更にもっと言えば、新しい公共。今まで官の仕事だと、そのように思われていたものを公に開いていくと。これからは官の仕事、そうではない。できる限り、民の皆さん、民間の皆さんができることは民間で頑張っていただけるようにする。そして、お互いにむしろ支え合って、一人一人が生きていけるような世の中をつくる。私はそんな中で、税額控除などという寄附税制の在り方というものを追及して、それを必ず実現していかなければならないと思っています。1人の皆さんが、1人の人々が政府に、あるいは自治体に税金を払う。その税金の一部を国や地方自治体に払うならば、むしろこういう団体に寄附しようではないか。その思いがもっともっと強く感じていただけるような、それを実現できる世の中にしていきたいと考えております。
今日、皆様方には、記者会見もより開かれるようにしてまいりたい。そのように思っております。
まだ、これも十分ではない。いろんなお叱りもいただいております。更に、もっと記者会見も開かれるように仕立てていかなければならない。まず、その第一歩を開かせていただいたと御理解をいただきたい。
ある意味で、こう言ってはいけないかもしれませんが、ぶら下がりという今までの慣習的なやり方よりも、もっと多くの皆様方に開かれた記者会見をより多く開かせていただくことの方が望ましいのではないかと考えております。
一方、更に申し上げれば、これは官房長官ともよく相談をしなければなりませんが、いわゆる官房機密費、内閣報償費、これを開いてまいります。国民の皆さんに、税金なんですからもっと、いつの時代かにはこのように使われていたんですよとわかるような形に仕立てていかなければいけないのではないか。旧政権との大きな違いをこのようなところにつくり上げてまいりたいと思っています。
国を開くとは何か。私は2つ申し上げたい。
その1つは、国が今まで行っていたものを、これからは地域に任せる。いわゆる、地域主権の国づくりに大きく転換をしていくこと。地域が疲弊しています。地域の活力をもっと高めていくために、国の権限をこれからは、基本的には地域に委ねる、地域に任せる。そんな社会に大きく変えていきたいと考えています。そのためには、義務づけ・枠づけといったものの根本的な見直しとか、あるいはまず一括交付金化というものを行って、いわゆる補助金で国から地方へひもが付いているような状況というものは一切なくしていきたいとも考えております。
もう一つは、私が年来申し上げております、国を世界に向けて、特にアジアに向けて開く。東アジア共同体という構想、これを現実のものに仕立て上げていきたいと思います。EPA、FTAという、いわゆる自由貿易の方向は更に戦略的に行ってまいりたい。特に日本と韓国との間のEPA、FTAを再開させていきたいとも思っております。投資環境、日本にはなかなか投資できないね。そのような、いわゆる非関税障壁なるものはできるだけ早く取り除いていかなければならないことも言うまでもありません。
ただ、それだけではなく、人を開かなければなりません。どうも、日本人はまだまだ心が閉じている部分もあります。これからは、私たちおじいちゃん、おばあちゃんに対して、看護をしよう、あるいは介護をしたい。そういう社会からの声にもっと応えるような日本にならなければいけないと思っております。そのような意味での国を開くということは大変、これからの日本にとって重要だと思います。
そして、その2つ、官を開く、国を開くことによって、結果として未来を開くということができようかと思います。「新しい公共」の在り方、地域主権というものをつくり上げていくこと。このことによって、一人一人の皆さん方が、いわゆる今まで経済というものの尺度の中で自分の幸せというものを得ようと努力してきた。これからは経済という尺度だけではなく、さまざまな多様な尺度の中で幸せというものをもっと身近に感じていただけるような世の中に変えていくことが必要ではないか。私はそのように感じております。それを行うことによって、日本という国を未来に向けて大きく開くことができると思っております。
最後に申し上げたいことがございます。私ども、衆議院、参議院で、特に予算委員会を通じて議論をしてまいりました。年金の議論、社会保障の議論、あるいは財政の議論、大変、未来を占うために難しいテーマでございます。こういったテーマに関して、当然、言うまでもありませんが、まずは政府がしっかりとした提案というものをつくり上げていくことは論を待ちません。
しかし、ある一定のときに、野党の皆様方にも御協力をいただきながら協議を深めていくことも必要ではないか。このような大きなテーマに関して、与党だ、野党だといがみ合うようなときではない。むしろ、大きなテーマに向けて国を挙げて取り組む姿勢というものもいつの時代か、つくり上げていかなければならないと思っております。
更に「政治とカネ」の問題に関しても、冒頭にも申し上げましたけれども、この問題に関しても与野党が協力をしていきながら解決の道筋をつくり上げていくことが大変重要なのではないかと思います。
改めて申し上げたい。私ども政権を握らせていただいて半年経ちました。さまざま、未熟なるがゆえに問題点も抱えていると思います。しかし、決して時計の針を逆に戻してはならない。大きな、未来に向けて時計の針をもっと勢いよく回せるような、そんな政府をつくり上げてまいりたいと思っておりますので、どうか国民の皆様方にも辛抱強く御指導いただきますようにお願いを申し上げて、まずは冒頭の私からの国民の皆様方へのメッセージといたします。
聞いていただいた国民の皆さんに厚く御礼を申し上げます。ありがとうございます。
【質疑応答】
● NHKの角田です。よろしくお願いします。今月中に、政府案をまとめるとしています、普天間基地の問題について2点お伺いします。残る時間もわずかとなってまいりましたけれども、まず、政府案は1つにまとめるのか、それとも今後の交渉に備えて複数にしていくのか、更にはこうした案を公表されるのでしょうか、こうしたことについてお伺いいたします。関連して2点目ですけれども、沖縄の負担軽減を図るために県外への移設を総理は目指されていますけれども、これは全面的な県外への移設なのか、また、どの程度県外へ移設できれば、たとえ県内移設が絡んでも、沖縄などの理解が得られるとお考えなのか、お聞かせください。
まず、お答えいたしたいと思います。普天間の基地の移設に関してのお尋ねでございます。当然のことながら、最終的には政府案1つにまとめなければ、交渉というものはうまくいかない、そのように認識をしております。その交渉の前提の中で、さまざまな選択肢というもので、私たちは議論をしてまいりました。その中には幾つかの選択肢があったことは事実でございますが、当然私どもが政府案としてアメリカやあるいは日本、沖縄になるのか否かということはあろうかと思いますが、この地域でお願い申し上げる交渉をさせていただくというときに、当然ながら政府案として、1つにまとまっていなければならないと、私はそのように考えておりまして、3月いっぱいをめどにしながら、政府案をまとめる努力を今いたしているところでございます。それから、公表するかどうかということでございます。御承知のとおり、今でも、もう既にいろんな新聞報道などがなされておりますが、必ずしも正確なものではありません。それを前提に、私が御案内のとおり、例えばこうなりますというようなことを申し上げたら、そのことに対するさまざまな、例えばアメリカからの交渉の難しさ、いろんな声が聞こえてくると思います。したがいまして、ある一定のときには当然のことながら、公表をして国民の皆様方の御判断に委ねるというか、御判断もしていただくということにもなろうかと思いますが、ある一定の時間は当然交渉事でありますだけに、秘密性というものが守られなければ、うまく交渉も進められないというところもあるいはあろうかと思っておりますから、そのところは御容赦いただきながら、しかし、当然国民の皆様方にもさまざまな御理解をいただかなければならないと思っております事案なだけに、ある一定のときには公表をいたします。あえて申し上げさせていただければ、今まで沖縄の皆様方に大変大きな御負担をしていただいてきた基地の問題でございます。これを是非全国の国民の皆様方にも、今までは沖縄にこれだけ過重な負担があったんだと。全国民の中でというか、全国の、おれたちも、私たちもそういったことも学んでいこうではないかという理解の思いを示していただければ大変ありがたいと、そのように思っております。それから、全面的に県外か、一定程度かというようなことでございます。恐縮ですがそのことに関して、今、答えを申し上げるわけにはまいりませんが、特に沖縄の皆様方の過重な負担というものを考えたときには、極力、鳩山としては、県外に移設をさせる道筋というものを考えてまいりたいと思っているところでございます。
● 西日本新聞の相本と申します。よろしくお願いします。総理は、支持率低迷の原因として、政治とカネの問題を挙げられておりますけれども、原因が明白にもかかわらず、政治的なけじめをつけられようとしていないんではないかという批判があります。また、政策面でも、郵政改革を巡って閣内が混乱するなど、総理の指導力不足というのが改めて指摘されています。こうした批判を払拭するためにも、総理がこの際リーダーシップを発揮して、小沢幹事長の処遇も含めて、内閣と党の人事を一新される、そういうお考えはないでしょうか。あるいはあくまで現体制のまま参院選に臨むお考えなのか、その辺りをお聞かせください。
今、私も冒頭申し上げましたように、政治とお金の問題あるいは私自身の指導性の欠如ということが国民の皆様方に、何をやっているんだと、せっかく期待していたのにというお気持ちになっていることは私も理解をしております。ただ、御案内のとおり、これも現在予算案が上がったという直後でございます。むしろこれから更に、今の閣僚の皆さんに頑張っていただいて、その実績を関連法案などにもしっかりと示していただくことが大事なときでございます。したがいまして、こういった問題は、私は人事というものは大変重要であるということは認識をしております。したがいまして、総理という立場からあるいは党の代表という立場から、人事というものの重要性の認識というものは当然持ち合わせているわけではございますけれども、今、この状況の中は、まずは閣内もしっかりとまとめ上げていくということ、それから党内においてもいろんな声があることは、私は民主的で、むしろ歓迎すべきことだとは思っておりますが、党内の結束というものを高めていくということが大事だと思っておりまして、その方向で力を入れたいと思っておりまして、したがいまして、現在、内閣を例えば改造すべきときだと、そのような認識、あるいは党の人事を動かすという認識を持ち合わせているわけではありません。
● 朝日新聞の有馬と申します。まず最初に、先ほど総理が記者会見について言及されましたけれども、この記者会見はそもそも主催が内閣記者会ということになっておりまして、まさに総理が恣意的に記者会見を開いたり、開かなかったりということがないようにということで、主催が記者会になっているという経緯がございます。その中で、昨年9月の政権発足以来、何度ももっと頻繁に会見を開いていただきたいというふうに内閣記者会として要望してきた経緯がありますが、そうされてこなかったと、今回、4回目か5回目になりますけれども、ということがございますので、総理が今日もっと頻繁にやるとおっしゃったことは、非常に喜ばしいことだと思いますが、そういう経緯があったことも御承知おきくださいということです。質問ですけれども、総理の進退についてお伺いしたいと思います。現在、内閣支持率がなかなか下げ止まらないという状況が続いておりまして、総理は以前、支持が得られなければ総理を辞めるとおっしゃったこともございます。やはり総理自身や小沢幹事長をめぐる政治とカネの問題が大きく影響していると思われますし、ここにきて郵政や普天間をめぐってなかなか政権に遠心力が働いているという状況もあろうかと思います。ここで、総理自らが身を引くことによって、事態打開を図るというお考えをお持ちかどうかということをお伺いしたいと思います。
まず、記者会見の話、恐縮ですが、私はもっと開けという皆様方の強い御要望があったことを、今日まで知らなかったことを申し訳なく思っております。これからは極力、できるだけ多く記者会見を開いてまいりたいと、改めて申し上げておきます。それから、私自身の進退でありますが、私はそれは御案内のとおり、今、内閣の支持率が大変下がってきているという状況は、自分としてもこれは深刻に受け止めるべきだと理解をしております。ただ、私は、辞めればよいとか、そういう立場では今、決してありません。むしろ国民の皆様方から政権交代をして、果たすべき役割があるだろうと、その役割をもっと果たせと、そのように言われていると思っておりまして、せっかくある意味で予算が上がったと、これから国民の皆さんに実感を伴ってこの国が大きく変わっていくという姿をごらんになっていただきたいと思っております。そのような中で、当然、鳩山、もう辞めろというお声を多くの方々からいただくようなことがあれば、当然そのことは私自身の身にも鑑みる必要があるかとは思っておりますが、しかし、今はむしろそのようなお声よりも、こういう厳しいときだと、だからこそしっかりやらなければだめだぞと、お前は総理として頑張れというお気持ちをいただいているものだと、むしろそのようにも思って自らを励ましているところでありまして、進退というものを考えておりません。
● 先ほど朝日の記者が、総理はもう少し記者会見を開けということだったんですが、全く同感ですが、ただ、回数ではなく参加した記者、いわゆる国民にもう少し開いた形でやっていただきたいと思います。まずお願いです。今日は、そうはいっても記念すべき日になりました。先ほど総理も言及されたので、あえて記者クラブ、そしてこのクラブの会見の主催権、官房機密費の問題、あるいは官房長官の問題については、とやかく申し上げません。ただ、随分と経ちましたが、総理が日本の民主主義にとって貴重な一歩となる公約をお守りいただいたことに、まずは敬意を表します。そして、戦後65年、これまで国民の知る権利、情報公開の立場、会見のオープン化に向けて努力をしてきたすべての人々、それから世界中のジャーナリストに代わって御礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。質問はありません。以上です。
● 読売新聞の河島と申します。政治とカネの問題でもう少しお伺いしたいんですが、先ほど総理はしっかりと解決の道筋を付けていかなければいけないと。具体的にどういう道筋を、どういうことをやることが政治とカネの問題が解決すると思っておっしゃってられるのか。先ほど野党との協議という話もありましたけれども、政治とカネの話は、国会の法案以外も民主党として、政権として、どういうけじめをつけるのか、小林衆議院議員の話も含めて、どういう自浄作用を果たしていくのかということも問われていると思うので、そのことも含めて政治とカネの問題の解決の道筋で、どういうことを考えているかということをお示しください。
私は、まず政治とカネの問題に関しては、大きくは2つあると思います。その1つは、説明責任というものを、それぞれがもっと果たしていくべきだということであります。私に関して申し上げれば、これは予算委員会その他、逃げも隠れもせず、常に申し上げているところではございます。それぞれ小沢幹事長も記者会見は行って、そこでさまざまな答弁も申し上げているところでございます。他の議員に対しても、私はやはり何らかの形の説明というものは求められている。国民の皆さんにやはり疑惑を持たれているとすれば、御自身として疑惑がないと思っておるならば、その思いをしっかりと説明されるということは、やはり大事なことだと思っております。ただ、小林議員に関しては、関連する公判が控えているという状況もあることも御理解を願いたいと思います。そのような状況で、本人自身が不起訴になっているということでもございますだけに、党として、現在いわゆる処分ということまで考えておらないという状況でございます。一方で、やはり私は、こういったものをこれからできる限り起こさないような体質に政治全体を変えていくことが求められていると思っております。したがいまして、より透明を図るということは言うまでもありませんが、いわゆる企業団体献金の禁止というところまで踏み込んだ形で、この根っこを断つという法律を作ることが、私はやはり根本的な解決ということになれば、必要だと思っております。一人一人のことに対してけじめをつけるということも大切な方向だとは思っておりますが、むしろ将来に向けて、こういったことが決して起きないという状況をつくり上げていくことが更に求められているのではないかと思っておりまして、今、申し上げたように、説明責任、そして法案の成立というものに力を入れることが大事ではないかと申し上げたいと存じます。
● 日本テレビの青山です。普天間基地移設問題についてお伺いしたいんですけれども、総理は先ほど、極力県外移設の道筋を考えてまいりたいとおっしゃいました。もう3月末の政府案とりまとめも1週間を切っている段階で、ここに至って、やはり沖縄県外ということを強調されるということは、さすがに県外に移設するということに対して、ある程度の確信というか、総理の中でこれは県外に移設ができるとお感じになっているということでよろしいのでしょうか。これまで県外移設を総理が発言されるたびに、沖縄県内で期待感を高めてきたという経緯もございますので、ここに至ってやはりそれの自信がおありなのか。もしそれで、万が一県外移設というのがうまくいかなかった場合に、やはり総理大臣として、ここまで県外移設を訴えてこられて、沖縄県民に対してどのように謝罪し、どのように政治責任を取るおつもりがあるのか。そこの覚悟を改めてお聞かせ願いたいと思います。
もう既に結論、すなわち県外といいながら、県外にならなかったという場合の謝罪の在り方などという議論は、私は時期尚早だと思っております。そうならないように全力を尽くす。それが覚悟の示し方だと思っておりまして、今、できなかったなどということの釈明を考えるいとまがあれば、極力そうならないように、全力を尽くすということがすべてではないかと思います。私はいずれにせよ、どの地域に普天間の移設先を求めるにせよ、その地域の方々の理解というものを求めるために、これは自らも含めてでありますが、政府一丸となって努力をするということは、言うまでもないことでありまして、3月末が迫ってきているということは事実でございます。それだけに、それなりに私としても、強い思いを、覚悟というものを更に高めていくことができつつあるとは思っておりますが、しかし、今、ここで、だからその場所がどこだとか、あるいはそれができなかったらどうするんだということまで言及すべきときではないと理解を願いたいと存じます。
● ロイター通信のシーグですけれども、日本の厳しい財政状況についてなんですけれども、それについて金融市場や国民からも懸念の声がありますが、昨年の衆議院選挙のマニフェストをそのまま実施しようとすれば、更に状況が悪化する可能性は否定できません。選挙公約と財政規律のどっちが優先かとなった場合どうなさいますか。マニフェストを見直す場合、どう有権者を納得させますか。
ありがとうございます。私どもは昨年の選挙において、民主党としてマニフェストをお示しした。当然そのマニフェストの実現に向けて政権を取ったわけですから、全力を傾注しているところでございます。一方で、これも御承知のとおり、大変財政は厳しいという状況は変わりませんし、更に厳しくなってきていることも、おわかりのとおりでございます。したがいまして、私どもとしては、当然マニフェストは基本的には党がつくるものでございますが、党の中にマニフェストの検討委員会をつくらせていただきました。そしてその中で、これから議論を進めてまいりたいと思います。国民の皆様方にも、マニフェストは公約なんだから、そのまま実現をされるべきだという方と、いや、これはマニフェストもわかるけれども、しかし財政の厳しさも理解をしている。したがってマニフェストというものに対しては、それなりの修正というものもあってもしかるべきだと、その両論があろうかと思っています。国民の皆さんの御意見というものは大変貴重だと思っておりますが、そういった貴重な御意見というものも踏まえながら、これから検討委員会で鋭意検討を進めてまいりたいと思っております。マニフェストですから、基本的にそれが満たされるように全力を尽くしていきながら、しかし、やはり財政の厳しさ、これ以上、例えば赤字国債というものを大きく、更に発行させてしまうという状況は、できる限り控えなければならないという、これは特に菅財務大臣などを中心にその声も大変高まってきております。そのバランスを考えていきながら、できる限りマニフェストの実現に向けて、財政の在り方というものを考えてまいりたい。今、そのスタートラインに立った、すなわちマニフェストの検証から新たな参議院選に向けてのマニフェストの作成というもののスタートが切られようとしていると理解を願えればと存じます。
● ビデオニュースの神保と申します。歴代のどの党もなしえなかった会見のオープン化に一歩踏み出されたことに敬意を表します。その上で、会見についてお伺いしたいんですが、現在、鳩山内閣では、ほかの省庁で記者会見が既にオープンになっているところ、それからいまだにクローズのところ、それから大臣自らが会見を2回やることで、半分オープンになっているようのところと、かなりばらつきがありまして、閣内不一致の様相を呈しております。これまで、総理官邸が開いていなかったがために、それぞれが自分で勝手な基準で開けたり、開けなかったりというのが続いていたんですが、今回、総理の会見がこのようにオープンになりましたので、鳩山内閣としては、今後、鳩山内閣の各省庁の記者会見について、オープンの基準なり何なりを、総理自らがイニシアチブを取られて設定していかれるようなおつもりはあるのかどうか。特に、今現在、開いていない中で、検察の会見が開いていない。それから、今回せっかく総理が開けていただいたのに、官房長官の会見がまだオープンになっておりません。特にその2つも含めて、総理のお考えを伺えればと思います。
閣内不一致の記者会見の在り方ではないかというお尋ねでありますが、それぞれの大臣に、それぞれの理由があって、基本的にはオープンにしたいけれども、必ずしも事の性格上オープンにできないとか、あるいは会見場の狭さ、広さというようなことも、あるいはあるのかもしれません。ただ、やはり私が、総理大臣が記者会見をオープンにしていくわけでありますから、すべての大臣に対して、私は開きましたよということは申し上げて、閣内不一致と言われないように、むしろこの情報の公開、国民に開かれた内閣の姿を示す必要があろうかと思っておりますので、統一を目指して、今、お尋ねがありましたので、私の方から申してまいりたいと思っております。
● 北海道新聞の土田と申します。総理の財政再建についての考え方についてお聞きします。先ほどの冒頭の発言でも、財政再建と年金、社会保障についての与野党協議について触れられておりましたけれども、また一方で、菅財務相も財政健全化法の制定というものに言及されておりましたが、この財政再建というものをどのように進めていくのか。また、この年金、社会保障、財政再建についての与野党協議というものをどういったタイミングで働きかけていくのかというところについてのお考えをお聞かせ願えますでしょうか。
ありがとうございます。財政が厳しいと。一方で経済も厳しいと。したがって、特に北海道も含めてでありますが、地域経済を活性化させるために、財政というものをもっと活用するべきだという声も、いまだ強く内閣の中にあることもおわかりかと思います。しかし、やはりそうはいっても、社会保障費は年々1兆円というか、医療費なども大変な勢いで伸びているところでございまして、そのことを考えれば、やはり財政の規律というものが完全に失われてしまうと、国債に大変大きな暴落というか、変化を与えてしまいかねません。
したがいまして、私としても、菅財務大臣が、これは自民党の林芳正議員などが中心となって作っておられる財政健全化法に類するようなものを、政府としてもつくるべきではないかという考え方に、基本的に同調いたしております。すなわち、6月には、私どもも中期財政フレームを作り上げてまいります。財政に対してしっかりとした運営戦略を作り上げていかなければならないと、そのよで、それを法的に担保するというぐらいの覚悟が必要なのではないかと思っております。そのようなときには、これはある意味で、与野党を越えた協力あるいは協議というものが必要なのではないかとも思っております。ただ、くどいようですが、まずは政府の考え方というものを最初に示す努力をすることは大事であろうかと思っておりまして、そのような政府の努力の中で、与野党で協議をしていくことも、将来的にあるいは必要になってくるのではないかと考えております。したがいまして、時間的な軸で申し上げれば、6月というものが1つのめどになりますから、その前後に、今、申し上げたような行動というものが求められてくる可能性があろうかと思っております。
● 日本インターネット新聞社の田中と申します。内閣支持率、民主党支持率の低下に歯止めがかかりません。私どもは市民メディアでありまして、有権者の声を直接聞きながら編集したり、執筆したりしております。不人気の大きな原因が、大メディアの世論調査にあるような「政治とカネ」ではありませんでして、民主党政権になっても全然生活がよくなっていないではないか。むしろ自民党時代よりも悪いではないかというのが、このマグマがすごいです。それで、政治が混迷する大きな原因の一つに官邸の調整能力のなさがあります。個人の能力を超えたことを平野官房長官に要求するのも酷であります。国民にとっては更に悲劇です。官房長官をチェンジするということも視野にはございませんでしょうか。国民の切なる願いです。
まず、官房長官は私は大変頑張ってくれていると思っております。官邸の機能が必ずしも十分果たせていないということに関しては当然、幾つかの改善を急務として行わなければならないかとも考えておりますが、私は生活がよくなっていないというのは、第2次の補正予算というものはスタートしておりますが、予算がようやく2日前に仕上がったばかりでございまして、これから国民の皆様方のお暮らしというものに直接プラスの影響が出てくる。そのように確信をしています。すなわち、私どもとすれば、やはり今回のデフレというものを何とか払拭させていくためには、内需、家庭に対して刺激を直接与えることが大事ではないかという発想の下で、子ども手当とか高校無償化というものを提案して実現してきたわけでございまして、こういうことを行うことによって、特に所得が必ずしも多くない方々にとって、生活実感といいますか、生活がよくなってきているな。新しい政権になって変わったなという実感をそのときに感じていただけるものだと思っていまして、生活がよくなっていないではないかというのは、まだ旧政権のある意味での予算というものが、あるいは方向性が延長してきていた中で起きている事象だと国民の皆さんには御理解いただいて、これから変わりますよと、変わってくる姿をご覧になっていただいて、それでもインターネットを通じて、全然よくなっていないではないかと、または悪くなっていくのではないかという話であれば、そのときに更に考えていかなければならない話だと思っています。
● 予算が成立しまして、参議院選挙に向けて準備が加速していくと思うんですけれども、内閣支持率が非常に下がって厳しい状況の中で、参議院選挙の勝敗ラインについて、今の時点でどのような目標をお考えになっていらっしゃるか。また、その目標を達成できなかった場合に、その責任についてどのようなお覚悟をお持ちか、お聞かせください。
まだ予算が成立をして2日しか経っておりません。このような中で私の頭の中には、この予算をいかに早く執行して、国民の皆さんの暮らしというものをいかに早くいい方向に向けて頑張れるか。特に学校の耐震化というようなさまざまな議論も予算の審議の中で出てきているわけでありますが、こういったことにどのように対処するかということに、今、頭がいっぱいでございます。参議院の選挙が7月という意味ではそれほど遠くないとも思っておりますが、今、私には参議院選挙の勝敗ラインというものを設定する状況ではありません。これから幹事長とも相談いたしながら、参議院選挙に向けてしっかりと戦って勝利を収める方策というものを構築してまいりたいと思っておりますし、そのときに何らかの形で民主党としての勝敗ラインを設定しようと思っておりますが、今、勝敗ラインを考える状況にはまだ至っておりません。
● 朝日新聞の林ですけれども、先ほど総理は財政健全化法の提出を検討するとおっしゃいましたが、4年間の任期中に消費税率を引き上げないという前提で信頼性のある健全化法というものは果たしてつくれるんでしょうか。どのようにお考えでしょうか。
私は、それは決して不可能ではないと考えております。私が政権担当している間に消費税の増税はしない、これは国民の皆さんへ約束をいたしたものであります。その約束を簡単にたがえるべきではないと、私はそのように思っております。このような条件の中で、財政の健全化の方策というものを考えるというのは大変厳しいというか、難しいことであるということは私も理解をしております。ただ、まだ、私から申し上げれば、いわゆる民主党に期待をしているのは、もっと無駄をしっかりと探せと、独立行政法人あるいは公益法人、こういったところを一つひとつもっとしっかりチェックをしろという声が大変強いのも事実でございまして、第一弾の事業仕分け、短い時間ではありましたが相当頑張ってくれたこともよく皆さん方にも御評価いただいたところでありますが、なお一層の努力を、まずは傾注することが大事だと、このように思っております。そのために、私として、先般、これは幹事長にも提案をいたしたのでございますが、一期生140人、更に参議院の一期生もおります。こういった有能な若手に、公益法人あるいは独立行政法人の見直し、一人一人に担当させてほしいと、しっかりやってもらいたいと、そしてある意味での、百数十人の協力の中で徹底的な歳出の削減の部分も含めた見直しというものを行うことで、国民の皆様方の、まずは期待に応えるべきだと考えております。ただ、それだけでは十分ではないという御指摘も出てこようかと思っております。その財政、いわゆる財政のフレームをどのようにしてつくり上げていくか、大変厳しいことであることは間違いないと思っておりますが、約束は約束として守っていく中で、これは1年のみならず、2年、3年、4年、将来的な絵を描くということは、決して私は不可能な話ではないと思っております。
● フリーランスの岩上安身と申します。本日は、こういう形でオープンな記者会見を開いていただけたことを、心より感謝申し上げます。まず、これは、日本の情報公開、結論あるいは仕上げではなくて、第一歩であろうと思います。ソ連が崩壊期にゴルバチョフ政権、ペレストロイカというのを始めたときに、その第一歩となったのが情報公開、グラスノスチでした。日本のグラスノスチの夜明け第一歩になっていただけるよう、この後、各省庁すべての会見がフルオープンになっていくことを期待したいと思います。質問ですが、まず、情報の公開の在り方なんですけれども、官邸のホームページに、動画が配信されておらず、また、記者会見の記録というものが、テキストで載っているんですけれども、こちらには質問者が明示されておりません。ここで社名、氏名を申し上げても、問答という形式になっております。今まで開かれてきた金融庁、外務省、それから、内閣府の枝野大臣の記者会見で、初日に私、全部その点を指摘申し上げまして、質問者もまた国民から見れば、知るべき対象だろうと思います。どんな社のどんなジャーナリストが、どのような質問をして、それに対してどう大臣が答えたのかということまで含めて、国民はすべて開示され、その情報を得たいと願っているだろうと思いますので、これらをすべてつまびらかにして、オープンにしていく、そういう在り方をしていく考えはございますでしょうか。また、もう一点ですけれども、なかなか記者会見を開いていただけないという御不満が先ほど一部からもありましたけれども、例えば今後、記者クラブ主催の記者会見ではなく、総理の主催による記者会見を別途開かれて、そこにより多くのフリーランスやネットメディアと、今まで既得権を持たず、記者会見に参加することのできなかったそういうメディアやジャーナリストが参加しやすいような場をつくっていただくことはお考えになっていただけないでしょうか。この2点をお願いしたいと思います。
ありがとうございます。ロシアのペレストロイカのグラスノスチになぞらえていただいてうれしいような、まだそこまでに至っていないのかという思いにもなるわけでありますが、御評価いただいたことは感謝いたします。私もこの記者会見のオープン化はまだ不十分だと思っています。御案内のとおり、これも満杯になってしまっておるものですから、会場の設営の問題というのもございますが、できる限り更にオープンに努めてまいりたいと、まず、そのようには思います。そして、そのホームページに関してお尋ねでありました、質問者とそれに対する答え、だれが答えているかも含めてでありますが、検討させてもらいたい。むしろ、当然、これは質問者も名前を隠せと言っているわけではないと思っておるものですから、そして、質問される方もそれなりの責任というものもあろうかと思います。したがって、基本的にこれも、私は氏名を公表すべきものだとも基本的には考えております。これは私としての意見として申し上げておきます。したがって、できればそのようにしてみたいと考えます。それから、もう一つ、記者クラブ主催の記者会見ではなくて、更にオープンな形で私が主催する記者会見も行えということでございます。私の例の政治資金のことに関しては、私が主催して記者会見を開いたという、余りここで言いたくもなかったかもしれませんが、自分で開いていることもございますが、更によりオープンに、これは記者クラブとも、先ほどお話がありましたので、しっかりと協議をしなければいけない話だと思っておりますが、より広く情報公開を求める国民の皆さんの声に応えてまいりたいと思っておりますので、より多く開くという意味においても、主催者というものが、私で開かれるものがもっと多くできるのかどうか、できるようにしてまいりたいと思っておりますが、これは記者クラブ制というものがあるものですから、そのクラブ制の中でしっかりと検討して答えをより積極的に見いだせるようにしてまいりたいと思います。
● 北海道新聞の今川です。郵政改革法案についてお尋ねします。閣内もいろいろ混乱しているようですが、総理自身、端的に言って、預入限度額ですとか簡保の加入限度額について、亀井さんがおっしゃるような案のままでいいとお考えなのか、それとも、ある程度限度額の幅を圧縮すべきとお考えなのか、そこで総理の指導力を発揮するお考えはないか。あと、了解を与えた、与えないで水かけ論になっていますが、今一度御確認したいんですが、亀井さんに対しては、ある程度お任せします的なことを総理自身もおっしゃっていないのですか、実際。その辺を一度更に確認させてください。
郵政改革についてのお尋ねであります。主として、この郵貯、簡保の限度額のお話であろうかと思います。この件に関して、まだ閣議で決定をしている段階ではないということでございまして、したがって、この件に関して私の方から閣議、閣僚懇の中で申し上げたのは、是非さまざまな、これはある意味で金融の問題だけでとらえるべきではないということで、幅広くすべての閣僚の皆さん方にも参加をする形で意見交換をして、議論をしようではないかということを提案したところでございます。来週の火曜日になろうかと思いますが、しっかりと全閣僚出席の下で議論を進めて、そこで結論を見いだせるようにしてまいりたいと思います。なお、私は、これは水かけ論の話の中に入るつもりはありません。大事なことは、やはり閣内でまだ決定していない段階では、それぞれの方々がそれぞれの思いで発言することをすべて閣内不一致だということで御批判をされると、これは自由な議論がまるでできないということになります。むしろ、自由な議論というものはあってしかるべきだと私は思っています。最終的に決めたときに、みんなでその結論に従うということができることが政治主導だと思っておりまして、是非皆さん方にも、いろんな声が、閣議で決める前に、それぞれの閣僚の中にあることは、むしろ健全なんだと、今まではそれぞれの担当の大臣が官僚の皆さん方にある意味で任せられてしまっていて、ほとんど声が出なかったということ自体がむしろ不健全であったと、そのように是非考えていただきたい。結果として当然、最終的に主導性というものを発揮することは大事だと思っておりまして、最後は一つにまとめてまいりたい。特に亀井大臣、原口大臣が中心となって今日まで努力をされてこられたということは、敬意を表するべきであろうと思っておりまして、結果としてまだ決まってはおりませんが、既に委員会などで答弁をされた数字というものは、それはかなり大変重いものであるということは、すべての閣僚も認識する中で議論を進めていくことが必要だと思っております。ありがとうございました。 
日中韓共同記者会見 / 2010年5月28日
本日は、国民の皆様に、日本国民全体の安全と生活に直接関わる御報告をさせていただくため、記者会見を開くことに致しました。
当初予定した記者会見の時間を大幅に繰り下げたことなど、御迷惑をお掛けいたしました。本日は、私の率直な思いを申し上げるとともに、むしろ出来るだけ多くのご質問をお受けしたいと思います。
先程、政府は、いわゆる普天間の基地問題と沖縄県民の負担軽減について、閣議決定を致しました。
まず冒頭に、昨年秋の政権交代以来、私がこの問題に取り組んできた思いを一言申し述べさせていただきたいと思います。
現在の日本は、歴史的に見て、大きな曲がり角に立っております。
内政・外交ともに、おそらくは数十年に一度の激動期に差し掛っております。沖縄における基地問題も、そうした視点で解決策を見出す努力が必要だと、私は考えました。
日本の国土のわずか0.6%の沖縄県に、駐留米軍基地の75%が集中するという偏った負担がございます。米軍駐留に伴う爆音とも言えるほどの騒音などの負担や、基地が密集市街地に近接することの危険などを、沖縄の皆様方に背負っていただいてきたからこそ、今日の日本の平和と繁栄があると言っても過言ではありません。しかし、多くの日本人が、日常の日々の生活の中で、沖縄の、あるいは基地の所在する自治体の負担をつい忘れがちになっているのではないでしょうか。
沖縄は、先の大戦においても、国内でほぼ唯一の、最大規模の地上戦を経験し、多くの犠牲を強いられることとなりました。ここでもまた、沖縄が、本土の安全のための防波堤となったのであります。
戦後は、27年間にわたるアメリカ統治下でのご苦労、さらに返還後も、基地の負担を一身に担ってきたご苦労を思えば、現在の基地問題を、沖縄に対する不当な差別であると考える沖縄県民の皆様方のお気持ちは、痛いほど分かります。
しかし、同時に、米軍基地の存在もまた、日本の安全保障上、なくてはならないものでございます。遠く数千キロも郷里を離れて、日本に駐留し、日本を含む極東の安全保障のために日々汗を流してくれている米国の若者たちが約5万人も存在することを、私たちは日々実感しているでしょうか。彼らの犠牲もまた、私たちは忘れてはならないと思います。
「沖縄を平和の島とし、我が国とアジア大陸、東南アジア、さらに広く太平洋圏諸国との経済的、文化的交流の新たな舞台とすることこそ、この地に尊い生命をささげられた多くの方々の霊を慰める道であり、われわれ国民の誓いでなければならない。」
これは1972年5月15日、沖縄復帰にあたっての政府の声明であります。この声明が発表された後、38年を超える年月を重ねました。私たちは、祖国復帰を果たした沖縄への「誓い」を十分に果たすことができているのでしょうか?
日米安保条約改定から50年の節目の年に当たって、半世紀余にわたる日米の信頼関係をより緊密なものにしていくためにも、またさらに申し上げれば、戦後初めての選挙による政権交代を成し遂げた、国民の大きな期待の元に誕生した新政権の責務として、大きな転換が図れないか、真剣に検討いたしました。
市街地のど真ん中に位置する普天間基地の危険をどうにかして少しでも除去できないか、加えて、沖縄県民の過重な負担や危険を、少しでも、一歩ずつでも具体的に軽減する方策がないものか、真剣に検討を重ねてまいりました。
そのために、普天間の代替施設を「県外」に移せないか、徳之島をはじめ全国の他の地域で沖縄の御負担を少しでも引き受けていただけないか、私なりに一生懸命努力をしてまいったつもりでございます。
他方、私が悩んだのは、アジア太平洋地域には依然として不安定な・不確実な要素が残っている現実でごさいます。さる3月の韓国哨戒艦の沈没事案に象徴的なように、最近における朝鮮半島情勢など、東アジア情勢は極めて緊迫しています。日米同盟が果たしている東アジアの安全保障における大きな役割を如何に考えるか。
当然のことながら、米国との間では、安全保障上の観点に留意しながら、沖縄の負担軽減と普天間の危険性の除去を最大限実現するためにギリギリの交渉を行ってまいりました。
そうした中で、日本国民の平和と安全の維持の観点から、さらには日米のみならず東アジア全域の平和と安全秩序の維持の観点から、海兵隊を含む在日米軍の抑止力についても、慎重な熟慮を加えた結果が、本日の閣議決定でございます。
確かに、私が当初思い描いていた、沖縄県民の負担や危険性の抜本的な軽減、あるいは除去に比較すれば、この閣議決定は、最初の一歩、あるいは、小さな半歩かもしれません。
しかし、私たちは、前進をしなければなりません。少しずつでも、日本の安全保障を確保しながら、沖縄の負担を軽減する方策を、探っていかなければなりません。
普天間の問題については、地元・連立・米国、この三者の理解を得て、それぞれがこれで行こうという気持ちになっていただくことをこの5月末に目指してまいりました。米国との間では、今朝、オバマ大統領と電話で話をし、今回の合意に関し、21世紀にふさわしい形で日米同盟を深化させることで一致をし、私からは、今後とも沖縄の負担軽減に日米で協力したい旨、強く、その意思を表明し、日米双方で更に努力することとなりました。
残念ながら、現時点において、もっとも大切な沖縄県民の皆様方の御理解を得られるには至っていないと思っております。
また連立のパートナーであり、社民党党首であります福島大臣にも残念ながらご理解をいただけませんでした。結果として、福島大臣を罷免せざるを得ない事態に立ち至りました。
こうした状況のもとで、本日、閣議決定に至ったことは、誠に申し訳ない思いで一杯でございます。また、検討を重ねる過程で、関係閣僚も含めた政府部内での議論が、沖縄県民の皆様方や徳之島の住民の皆様を始め、多大のご心配やご不安をあおる結果になったことも含め、ここにお詫びを申しあげます。
私は、現在の内外環境において、本日決定した政府案、この一歩がなければ、この先、基地周辺の住民の皆様方の危険性の除去や、県民の皆様方の負担の軽減のさらなる前進はかなわないと確信をいたしております。
この一歩をひとつの出発点に、今後も、粘り強く、基地問題の解決に取り組み続けることが、自分の使命であると考えております。
私は、これまで申し上げてきました三者の御理解が何とかいただけるよう今後も全力を尽くします。また沖縄の負担軽減のためには、全国の皆様の御理解と御協力が何よりも大切でございます。
国民の皆様、どうか、是非、沖縄の痛みをわが身のこととお考え願いたい。沖縄の負担軽減に、どうかご協力いただきたい。あらためて強くお願いを申し上げます。
本日、私は、この厳しい決断をいたしました。私は、今後も、この問題の全面的な解決に向けて、命がけで取り組んでまいらなければならないと思っています。
沖縄の皆様、国民の皆様、どうか、ご理解とご協力をお願いいたします。
引き続き、閣議決定の具体的内容と経緯を、簡潔に、ご説明申し上げます。
民主党自身も野党時代に県外、国外移設を主張してきたという経緯がある中で、政府は昨年9月の発足以来、普天間飛行場の代替施設に関する過去の日米合意について、見直し作業を実施をいたしました。
鳩山政権として県外の可能性を米国に投げかけることもなく、現行案に同意することにはどうしても納得できなかったのでございます。
こうしたことから、昨年12月、新たな代替施設を探すことを決めました。
その後の5ヶ月間、何とか県外に代替施設を見つけられないか、という強い思いの下、沖縄県内と県外を含め、40数か所の場所について、移設の可能性を探りました。
しかし、大きな問題は、海兵隊の一体運用の必要性でございました。沖縄の海兵隊は、一体となって活動します。この全体を一括りにして本土に移すという選択肢は、現実にはありえませんでした。ヘリ部隊を地上部隊などと切り離し、沖縄から遠く離れた場所に移設する、ということもかないませんでした。
比較的沖縄に近い鹿児島県の徳之島への移設についても検討しましたが、米側とのやり取りの結果、距離的に困難、との結論に至りました。
この間、徳之島の方々には、ご心配とご迷惑をおかけし、厳しい声も頂戴しました。大変申し訳なく思っています。
国外・県外は困難、との結論に至ってからは、沖縄県内の辺野古周辺、という選択肢を検討せざるをえませんでした。
自分の言葉を守れなかったこと、それ以上に、沖縄の皆様方を結果的に傷つけることになったことに対して、心よりお詫びを申し上げます。
しかし、それでも私が沖縄県内、それも辺野古にお願いせざるをえないと決めたのは、代替施設を決めない限り、普天間飛行場が返還されることはないからでございます。海兵隊8千人等のグアム移転や、嘉手納以南の米軍基地の返還も、代替施設が決まらないと動きません。
この現実の下で、危険性の除去と負担軽減を優先する。それが、今回の決定であることを、どうかご理解を願いたい。
新たな代替施設については、詳細な場所や工法などについて環境面や地元の皆様への影響などを考慮して計画をつくります。地元の方々との対話を心がけてまいります。
沖縄の方々、特に名護市の多くの方々が、とても受け入れられない、とお怒りになられることは、重々わかります。それでも、私は敢えて、お願いをせざるをえません。
今回の決定は、米軍基地をめぐる沖縄の現状を放置する、ということではありません。
まずは、沖縄で行われている米軍の訓練を県外に移し、沖縄の負担軽減と危険性の除去の実(じつ)をあげてまいります。
そのためには、他の自治体に米軍等の訓練受入れをお願いしなければなりません。昨日、全国の知事さん方にもお願いしました。今後もご理解を求めてまいります。
また、今回の日米合意では、徳之島の皆様にご協力をお願いすることも検討することといたしました。今後もよく話し合ってまいります。
最後に、今回の日米合意による新たな負担軽減策についてでございます。
今まで沖縄県から要望を受けながら、前政権の下では、米国と交渉さえしてこなかったものが含まれております。
県外への訓練移転のほか、沖縄本島の東方海域の米軍訓練区域について、漁業関係者の方々などが通過できるよう合意をしました。また、基地をめぐる環境の問題についても、新たな合意をめざして検討することにいたしました。今後はその具体化に力を尽くしてまいります。
以上ご説明を申し上げましたが、ここに至るまでの間、国民の皆さんや沖縄県民、関係者の皆様にご心配とご迷惑をおかけしたことは、私自身が一番よくわかっているつもりでございます。あらためて、今一度、心からお詫びを申し上げます。
そのうえで、国民の皆様に申し上げます。
政府は、私が示しました方針に基づき、普天間飛行場返還のための代替施設の建設と、沖縄の負担軽減策の充実に向けて、これから邁進してまいります。
今後とも、沖縄のみなさんとは、真摯に話し合わせていただきたい。沖縄県以外の自治体の方々にも、協力をお願いしてまいりたい。
国民の皆様方が心を一つにして、基地問題の解決に向けて知恵を出し合っていきたいと思います。
そして、どんなに時間がかかっても、自国の平和を主体的に守ることができる国に日本をつくっていきたい、と私は考えております。日米同盟の深化や東アジア共同体構想を含め、私たち日本人の英知を結集していこうではありませんか。沖縄の基地問題の真の解決も、その先にあると、私は思っております。
最後に、二点、基地問題以外の重要問題について申し述べます。
まず、韓国の哨戒艦沈没事案について、明日から韓国を訪問するに当たり、改めて犠牲になった方々、その御家族、韓国国民の皆さんに対し、心からお悔やみを申し上げます。北朝鮮の行動は許し難いものであり、国際社会とともに強く非難いたします。日韓首脳会談、日韓中サミットにおいて、しっかり議論してまいります。
また、宮崎県において発生をいたしました口蹄疫によって、大変ご苦労されている農家の皆様方に、心からお見舞い申し上げます。さらに、不眠不休で防疫対応に取り組んでおられる関係者の方々に、心から敬意を表します。政府として、やれることはすべてやります。
以上で私の話を終わります。ご清聴ありがとうございました。
【質疑応答】
● 毎日新聞の中村と申します。冒頭発言でも触れられていましたけれども、首相は繰り返し普天間問題をめぐって5月末決着とおっしゃってきました。しかし、今日の合意は、沖縄と社民党の合意がない不完全なものと言えます。これで月末決着と言えるのでしょうか。もう一点。参院選は、普天間問題が大きなテーマになると思います。「誠に申し訳ない思いでいっぱい」という発言がありましたけれども、普天間問題に職を賭すと繰り返してきた自らの発言を踏まえて、参院選の結果次第では責任をとられるお考えはありますでしょうか。
今、御質問をいただきましたように、5月末までに連立3党、そして沖縄の皆さん、更にはアメリカの理解をいただきたいと、そのように再三申し上げてきたことは事実であります。アメリカの理解は得られたわけでございますが、残念ながら、沖縄県民の皆さん、最も重要な方々の御理解をいただくには至っておりません。このことに関しては、これからも粘り強く沖縄の皆様方に御理解を深めていただくために、精いっぱい努力をしてまいらなければならないと思っています。また、連立与党の一員であります社民党の福島党首を今回罷免せざるを得ないということになりました。まさに慚愧(ざんき)に耐えない思いでございます。この連立3党の維持は、これからも努めてまいりたいと思っておりますし、社民党さんに対しても、私どもの政府の今回の決定を更に粘り強く御理解を求めてまいりたい。私どもとしては、このことにこれからも最善を尽くすしかない。そのように考えております。そして、参議院選挙ということでございますが、まずは当然、その1つのテーマになることは間違いないかと思っておりますし、私どもとして、現在参議院選挙、まだそのことを十分に考えるいとまもないほどでございますが、しっかりと戦ってまいらなければなりません。責任という話に関しては、今、ここでは全力を尽くして、国民の皆さんに民主党の、特に連立与党の考え方に御理解を深めていただくために、これからも最善を尽くすしかない。そのことによって、その責めを果たしてまいりたいと考えております。
● TBSの緒方です。本日発表になりました日米共同声明では、辺野古の代替施設について、位置や工法などの検討を8月末までに完了させ、次回の2プラス2、日米安全保障協議員会で確認する段取りになっています。この2プラス2はいつごろまでに開くのでしょうか。また、沖縄県や地元名護市の反発が根強い中、2014年までの移設完了をどのように進めていくのか。更に、全国の自治体が受け入れに消極的なアメリカ軍の訓練の分散移転の検討など、移設に関わる今後のスケジュールをどのようにお考えでしょうか。
まず、このSCC、すなわち2プラス2を次回いつ開くのかということでございますが、これはまだ日程的には決まっているわけではありません。ただ、常識的に考えれば、オバマ大統領が来日をされる予定のAPECまでの間には、当然2プラス2は開かれるものだと、そのように理解をいたしております。それから、2014年までの移設完了に関してでございますが、当然のことながら、一番大事な沖縄県民の皆様方の御理解を深めていくということでございます。そのためには、仲井眞知事を始め、あるいは名護市民の皆様方の御理解を深めていくということ、そのことに誠心誠意、心を尽くしてまいりたいと思っておりまして、私ども辺野古周辺に代替の施設を建設をするということを2プラス2でアメリカとの間で申し合わせたわけでございますので、その方向に向けて最善の努力を積み重ねていく、そのことで環境のアセスの問題もあるわけでございますが、できる限り2014年までに完了できるようなスケジュール感を持って進めてまいりたいと、そのように考えております。それから、訓練の分散移転でございますが、これはそれぞれの、もう既に自治体に訓練のお願いを申し上げ、もう既に行っているところもございますが、更に新たな地域に対して、これから自治体の皆様方と協議をしていきながら、できるだけ早く訓練の分散を図ってまいりたいと思っております。また、自治体によらずに訓練の分散を県外に、事実上県外に移設をするということもさまざま考えてまいりたいと思っておりまして、いろいろなやり方があろうかと思っておりまして、それを最大限駆使して、できる限り普天間の現在の危険性というものを早急に除去する手立てを講じてまいりたい、そのことが私は一番重要なことだと考えております。
● 朝日新聞の西山と申します。総理は政治主導を掲げて政権をスタートされたと思います。ですが、結局移設先が辺野古に戻ってきたという移設の経緯を見ますと、この経緯で閣僚間で移設先を巡る発言がばらばらになったり、例えばこれまで交渉に携わってきた官庁、外務省、防衛省といった、これまでの交渉の蓄積や経験といったものが十分に生かされたのかという疑問があります。今回の移設先を巡る一連の経緯を振り返られまして、政治主導での政策決定、こういったものについて、あるいは官庁との関係について何か反省すべき点があると考えでしょうか。あるとすればどういった点だと思われますでしょうか。
確かに政治主導ということで、官僚の皆様方にはさまざまな知恵、知識というものを提供していただきながら、最終的な判断というものを政治家が中心となって行ってまいるように、今日まで、これは普天間の問題だけではありませんが、さまざまなテーマにおいてそのような方向で努力をしてまいりました。必ずしもそのことがまだ8か月の中で、よちよち歩きだという思いも皆さん方は思っておられると思いますが、必ずしも試行錯誤の中で十分に機能してこなかった部分があろうかと思います。ある意味で、政治家たち片意地張り過ぎて、全部自分たちが考えるんだ、という発想の中で、必ずしも十分優秀な官僚たちの知識、知恵というものを提供せずに行動してきたきらいがあるいはあるかもしれません。ただ、普天間の問題に関しては、私は必ずしもそのことがすべて当たっているとは思っておりませんで、防衛省、外務省の官僚の皆さん方のお知恵もいただいてまいったところでございます。ただ、そこの中で、私が1点申し上げることができるとすれば、やはり、このような大人数で、しかもある意味で、必ずしもすぐに公表することができないような、さまざまな情報というものが、かなりその途中の段階で漏れてしまうということがございました。その原因は必ずしも定かではありませんが、そのことによって報道がされ、さまざま国民の皆さんに御迷惑をおかけしたということも現実にありました。いわゆる保秘というか、秘密を守るという義務が必ずしも十分に果たされてこなかったということは、ある意味で政治主導の中で難しい官僚の皆さん方の知識をいただきながら歩ませていくという中での難しさかな、とそのように考えております。
● ビデオニュースの神保です。総理、今、言われたことは非常に重要だと思いますので、少しフォローの質問をさせていただきます。今回、非常に迷走を繰り返したという印象を多くの方、一般市民が受けたと思うんです。その理由が、いろんな案が出ては消え、出ては消えを繰り返したからではないかと、その原因を実はさっき聞こうと思っていたんですが、今、総理は、本来は出るべきではない情報がどうも外に出てしまったようだとおっしゃった。これは政府としては非常にゆゆしき事態だと思うんですが、それについては総理、何か今回、ただそう言われるだけではなくて、何らかの対策を打たれることはやらないんでしょうか。つまり、政府の守秘情報が交渉の途中でどんどん外に流れてしまうという状況があって、結果的に非常に迷走したような印象を与えたとすれば、その情報管理について問題があったということを、今、総理が言われたのではないかと思うんですが、その点はいかがでしょうか。
情報管理に関して、今、先ほどの御質問にお答えしたように、やはり問題ないとは言えなかった。そのように思っております。事が米軍の施設ということでありますだけに、例えば地域が漏れるということになれば、そのことによって、結果としてある意味で好意的に思っていた方も、大きな流れの中で極めて厳しいお考えになってしまうということもあろうかと思います。その意味で、情報管理が極めて不徹底な部分があったと申し上げなければなりません。そして、そのことの原因、やはり政権交代の難しさかなと実は私は思っている部分があります。余りこれ以上申し上げるべきところではありませんし、私自身の不徳のいたすところかもしれません。すなわち新政権に対して、本来、政府がすべて一致して協力していかなければならないところが、必ずしもそのような思いでないようなところから情報が漏れるということもあったのではないかと思っておりまして、もっとみんなを信頼させるというような度量の深さ、広さというものが私自身に、あるいは閣僚に求められているのだな。そのように感じております。
● 時事通信の松井でございます。今回、福島大臣を罷免するに至ったその原因はどこにあったかとお考えかという点が1点。あと、連立の3党合意について、解釈が民主党と社民党で食い違うという場面がたびたびあったかと思うんですけれども、それについては総理はどういうふうにごらんになっていたかという2点をお伺いしたいと思います。
残念ながら、福島大臣を罷免せざるを得なかった原因ということでございます。福島党首におかれては、まず、いわゆる基地問題に対して、社民党さんは大変以前から基地というものの縮小、あるいは県外というよりも国外ということを強く主張してこられた政党でございます。今でもそのとおりであると思います。そして、その根本的な部分において、基地問題に対する考え方の違いというものがございました。そして、今回は沖縄県の辺野古ということが日米で合意されている以上、他のどのような文書が交わされるとしても、そのことは党として、あるいは福島大臣として署名することができないということになったわけでございます。私どもはやはり、日米の合意が2プラス2でなされた以上、この政権の責任において、これを当然のことながら、しっかりと守らなければなりません。言うまでもない話でございますが、その中で、やはり署名がされ得ないということであれば、罷免せざるを得ないという状況になったわけでございます。また、連立3党の中で、私は連立3党の、特にいわゆる普天間を始めとする米軍再編に関する食い違いが際立ったところがございましたが、連立3党も真剣に政権の樹立のときに合意をいたした文書がございます。そこには米軍再編は見直すということが書かれておったわけでありますが、その合意文書の中に、必ずしも県外・国外ということを規定したわけではありません。ただ、私自身の発言、あるいは民主党自体がかつてそのことを主張していたという事実がございました。したがって、連立3党の合意の中には、そのような県外・国外ということは書かれておりませんでしたけれども、発言の重さということをとらえた中での考え方の近似性の中で、社民党さんとすれば、政権はそれを守るべきだと主張された。そこの最終的な中での食い違いというものが表面化をしたということと理解をいたしております。
● 日本経済新聞の藤田です。普天間移設期限の決着については、総理御自身が5月末と決定されたと思うんですけれども、まず、この5月末決着という期限の設定の根拠について聞きたいということ。それから、現在、沖縄県民からも非常に厳しい声が多く出ております。裏切られたとか、信じられないという声が多く寄せられております。こうした地元が非常に受け入れ難い、受け入れにくい状況の中で、福島大臣を罷免してまで、あえて日米合意にこだわったということはどういうことなのか、お聞かせください。
まず、5月末の根拠でございますが、これは昨年12月に私が、この12月末には結論を出すことは極めて危ないと判断をいたして、半年近く延期いたしたわけでございます。そのとき、なぜ5月かということでございますが、まず、普天間の危険性の除去という、沖縄の皆様方のお気持ちからしても、あまりこれを1年、2年延ばすということは極めて不誠実に映るに違いない。更にアメリカ側から見ても、これを1年、2年延ばすということは不誠実に映るに違いない。したがって、そのような1年、2年は延ばすことはできないという判断の中で、私は半年程度という思いで5月末といたしたところでございます。その意味するところも、例えば最初の3か月は予算の時期がございますので、必ずしも十分、熟慮を加えるには政府として時間的に短いのではないかということ。また、ゴールデンウィークというときがありましただけに、5月にさまざまな働きかけができるのではないか、という考えがあったこと。更には、参議院選挙の前までにこの問題に決着がつかなければ、この問題が最大のイシューになる可能性があるということで、その前に、やはり政府としては結論を見出す必要があろうかということ。更に申し上げれば、知事選の前にこのことは申し上げておくことが責務ではないかと感じたからでございます。そのような意味で、5月末というものに私は申し上げたところでございます。地元の受け入れ難い状況の中で、なぜ、日米合意というものを優先させたかということでございますが、これは1つは、やはり日米の信頼関係というものを維持することが私は最大の抑止力であり、このことが今回いろいろと、韓国と北朝鮮との間の衝突事案もあったわけでありますから、東アジアの安全のために大変大きな役割がある。したがって私どもとしては、半年の間にアメリカとの間での交渉は成立をさせるべきだと考えたからでございます。地元の受け入れ難い状況は存じ上げておりますが、これは粘り強く、仲井眞知事、あるいは名護の市長さん、市議会の皆さん方と交渉して理解を深めていきたいと願っているところでございます。
● イタリアSkyTG24のピオ・デミリアです。御存じのように、イタリアでも最近同じ問題がありました。市民たちは連携をして、市長たちを含んで、大変な反対運動をしています。私も辺野古に取材に行きました。そこでは今でも座り込む人たちがいると思いますけれども、この件に関してはどういうふうにアプローチをされるのか。
辺野古の海を汚すなということで、おじいちゃんおばあちゃんも含めて、多くの方々が今でも反対運動をされていることはよくわかっております。私もその方々にお会いしたこともございます。大事なことは、そういった方々にも理解を求めていくことが必要であって、いわゆる強権的な方策というものは、私は基本的には取るべきではないと、そのように基本的に考えているところでございまして、大事なことは民主主義の国でありますから、対話を通じて、そういった方々にも御理解を深めていく努力をするということに尽きると思っております。
● 読売新聞の五十嵐です。連立の枠組みについてお伺いします。総理は先ほど、3党の連立の維持に努めるとおっしゃいましたけれども、福島大臣を罷免されても3党の枠組というのは、連立政権に変化はないということでしょうか。社民党の方は連立離脱を視野に対応を検討するということですけれども、総理の考えはどうでしょうか。更に社民党から新たに閣僚の入閣を要請するお考えはありますでしょうか。
社民党さんは、30日に全国の幹事長の方々をお集めになって、会議を開かれるということでございました。社民党さんの中にもさまざまなお考えがおありになろうかと思いますので、そこで多分結論が出るのではないかと思っています。私としては、先ほど福島大臣と30分程度お話をいたした中で、できれば連立の中でこれからも御協力を願いたいと。例えば今日まで、大臣としてなさっていただいた障害者の問題とか、消費者の問題あるいは自殺の問題など、これからも協力を願いたいと。しかも、派遣法とか郵政の法案があります。そういった法案、今まで一緒に行動していただいただけに、これからも御協力を願いたいということは、申し上げたところでございます。そのことに関して、やはり党首という立場で罷免をされるということであれば、なかなかそう簡単ではないのではないかという、すなわち連立を維持するのは、そう簡単ではないかもしれないという話がございましたが、民主党としては、あるいは私としては、連立を維持していきたいと、そのようにこれからも努めてまいりたいと思います。そういう意味で、社民党さんの方がお望みであるならば、新たな閣僚の中に入っていただくということも当然視野にあることだと思っておりますが、そのことに関しては、社民党さん御自身が30日に議論をされて、お決めになることではないかと思っております。私の考え方はお伝えを申し上げております。
● 週刊朝日の川村と申します。3つ質問をしたいと思います。今回、県外移設について四十数か所の検討をなさったということですけれども、アメリカに了解が得られなかったという説明が先ほどありましたが、やはりだめだったということなんですが、今後、県外に移設できる可能性というのは、総理御自身どれぐらいあるとお考えでしょうか。それから、自治体によらない訓練分散というお話を先ほどされていらっしゃいましたが、どういうところが具体的にあり得るのかイメージがわかないので教えてください。それから、四十数か所の移設先について検討した際に、自治体の方には何もお話をされなかったのかどうか確認したいと思います。
まず、県外の可能性でありますが、これは私どもが最終的な閣議決定の文言の中にも、これからも基地負担の沖縄県外または国外への分散及び在日米軍基地の縮小、整理に引き続いて取組むということを約束いたしているところでございます。したがって、可能性ということになれば、これからもさまざまな可能性を検討してまいりたいと思っておりまして、どのぐらいのパーセントがあるかということを申し上げるつもりはありませんし、すぐできるという話ではありません。この半年、そのことを求めてまいりましたが、結果として不調に終わったということでございます。しかし、これからも訓練の分散も含めた県外への移設ということを考えて、少しでも沖縄の県民の皆様方の御負担を減らすような努力が極めて必要ではないかと思っております。訓練の分散のイメージでございますが、海兵隊のヘリ部隊と陸上の地上部隊との間の合同の訓練というものを県外のどこかの地域で行うというようなこととか、あるいは実弾射撃の訓練のようなものを今、行っているわけでありますが、それを更に沖縄県の外で行えるようにするとか、さまざまなことが考えられると思っています。また、その中で、例えば海上自衛官の中で共同訓練をアメリカ軍と一緒にするというようなことなども、将来検討してもらいたいということを防衛大臣には申し上げているところでございます。それから、自治体に関して、四十数か所の候補を考えたときにということでございますが、基本的には四十数か所の可能性は独自に政府として考えたものでありまして、自治体との間の調整というものは基本的には必ずしも行っておらないと理解しております。
● 琉球新報の滝本と申します。県外の施設についての可能性を探られたということについて確認したいんですけれども、どれだけ本気で、全力で取り組まれたのかという点について確認させていただきます。先ほど首相は、海兵隊全体をひとくくりにして本土に移転するという選択肢は、現実的にはあり得ないとおっしゃられたんですけれども、それがなぜあり得なかったのかということについて、理由を詳しく説明いただきたいと思います。と言いますのは、沖縄は狭いところで、県外の方がより広い面積があるわけで、その中で一括して移すことがなぜ不可能だったのかということなんですけれども、県外移設を検討するという気持ちがあれば、この間、全国知事会でお話しされたときには、訓練の分散移転ということでお願いしたわけですけれども、そういう場で、もっと早い時期に基地そのものの移転ということについての協力を求めるということはあり得なかったのか、そうすべきではなかったのかと思います。沖縄の差別ということを言及されましたけれども、その気持ちについて御理解されているということですが、その気持ちがあるということについて、その実態についてはどのようにお考えでしょうか。沖縄差別という声が上がっているという実態について。
まず、県外に対して、どこまで真剣に考えたのか、その中で例として、本来、沖縄の海兵隊を普天間だけではなくて、すべてを移設されることができればパッケージになるわけですから、それは十分沖縄以外でも可能だと、そのように私も思います。ただ、現実問題として、そのような地域、すなわちそれは全くこれから可能性がないとは思っておりませんで、実はまだそのような可能性というものも将来的にはあるのではないかと、地域は申し上げられませんが、そういうことも検討する必要はあろうかと思っていますが、少なくとも今回の四十数か所の候補の中では、海兵隊丸ごとという発想ではなく、この普天間の海兵隊をどこに移設するか、県外にということで検討をいたしたというのが実情でございまして、これからの課題として、おっしゃるとおり、すべてがパッケージとして沖縄全体の海兵隊を移設する可能性というものが、もしどこかの地域で引き受けていただくことがあれば、当然それは大変大きな魅力を持つものだと思っていますが、今まで、申し訳ありません、十分に沖縄の海兵隊全体を移設するということを十分に、現実の自治体も含めて検討いたしてはおりません。それから、差別という声があるということでございます。まさに私も今日の冒頭の言葉の中にも、そのことを申し上げたところでございまして、そのようなお声をちょうだいしてしまっているということは、私どもとしては申し訳ない思いでございます。決してそのような差別ということではなく、結果として沖縄の地政学的なある意味での有利性というか、アメリカ軍にとっての有利性という意味でありますが、その意味での沖縄が使われてしまった。そこに対して、今日まで他の自治体が十分に配慮してこなかった、特に政府が、それが当然のことだというふうに思ってきたことで、県民の皆さんの中に差別ではないかと思われるお気持ちが出てこられることも、私は当然のことだと考えております。これからそのような思いから、少しでもそうではないということをお示しするためにも、まずは沖縄の負担をさまざまな形で軽減させていただくようなことを種々行っていくことが大事ではないかと思っております。
● FinancialTimesのミュア・ディッキーと申します。総理は、海兵隊の抑止の役割を強調しましたが、もう少し抑止の役割が説明いただけないでしょうか。特に、どうして沖縄に海兵隊が必要なんでしょうか。それと、基地があれば、その海兵隊が何ができると、そういう説明をいただけますか。
抑止力の御説明ということでございます。私は、先ほども若干申し上げましたけれども、日本とアメリカが信頼関係の下で結ばれているということが最大の日本にとっても、また東アジア、アジア全体にとっても最大の抑止力の効果があると、すなわち、そのことによって、アジアの国々の平和が保たれるという意味で抑止効果があると思っております。したがって、アメリカあるいはアメリカ軍がパッケージとして日本に存在をしていることの意味合いが大変大きいと思っております。その中で沖縄における海兵隊が、これは御案内かと思いますが、指令部と地上部隊あるいは航空の部隊、更には後方支援の部隊とさまざまあるわけでございまして、それ全体が1つになって行動している。機能を果たしているということで、これはアジア全体の海兵隊の存在が抑止効果を持つと、私はそのように考えておりまして、その一部をなかなか外して機能を、例えば遠い県外に移すということは、日本にとっても抑止効果が失われるという思いの下で、極めて難しいという判断がなされたところでございます。
● NHKの大谷です。2点お伺いいたします。先ほど総理は、5月末日までに期限を設けたことの説明がありましたが、この期間は十分な期間だったかどうか。社民党などからは、時期にこだわらず、十分時間を掛けて検討すべきなどという声もありましたが、そういった声にどういうふうに考えているのか。一時総理は国会答弁の中で腹案があるということをおっしゃっていましたが、そもそも腹案というものは具体的にどういったものだったのでしょうか。
今、2問いただきました。5月末までの期限というものが十分でなかったんではないかということでございます。確かに、例えば、いわゆる予算を審議している中で、3月があっという間に過ぎたと。残るは2か月だという中で十分な調査が行き届いていたかどうかということになるかと。もっと時間があればという思いがなかったわけではありません。ただ、この5月末というものを決める私なりの理由というものがあったわけで、すなわち先ほど申し上げましたような理由の下で、5月末にセットすべきだと、そのように考えたわけでありまして、その中での期限つきの中での結論を見出さざるを得ないということで行動してきたところでございます。十分であったかどうかということになれば、確かにもっと時間があれば、そういう意味では、より幅広い観点からの議論がなされた可能性はあると思っております。また、腹案ということでございますが、これはかつての話ではありますが、沖縄等、そして徳之島に関してさまざま議論がなされていたところでありますが、そのところで機能を移転をするような形での腹案を有しているということで、具体的にはそれ以上申し上げるつもりはございませんし、現実にこのような形に収束をしてきたわけでございますが、私としては、細かいところまで決めていたというわけではありませんが、地域的なことに関して、このような考え方を持っているということで腹案ということを申し上げたところでございます。
● フリーの政治ジャーナリストの細川珠生と申します。私からは、総理の安全保障に関するお考えをお聞きしたいと思います。今回の普天間の基地問題については、基地の移転ということのみに議論が集中していたように思いますが、先ほど総理が記者会見でおっしゃったように、負担軽減を今後図っていかれる、また閣議決定の文章にありますように、在日米軍の整理縮小ということを確実に履行していくためには、日本の安全保障をどういう体制で行っていくのかという根本的な議論がどうしても避けられないというふうに考えます。それと併せて、そのバックグラウンドとして憲法の問題というものに触れざるを得ないのではないかというふうに思います。総理は、今年1月2日の私のラジオ番組に御出演していただいたときに、憲法はまず党内で議論をしてというふうにおっしゃっていましたが、政府で安全保障の議論をなさるのであれば、憲法を党内で議論するということは、なかなかそれを確実性に結び付けていくのは難しいと思いますが、その辺りはどういうふうにお考えなのかをお聞かせいただければと思います。
根本的な安全保障のお話をいただきました。まさに日本の安全保障をどうとらえるかということの先に、普天間の問題がとらえられなければならないと思っています。その意味するところ、すなわち、私も先ほどのお話の最後にちらっと申し上げたわけでございますが、私はこれは50年あるいは100年かかっても、日本という国の安全保障、すなわち平和というものは、日本人自身で守らなければならないと思っております。そういう状況をどのようにしてつくり上げていくかということ、すなわち、そのために現在、何をするかという発想が必要だと考えております。私はその意味で、さまざま技術的な部分も含めてでございますが、自衛隊の自衛力も含めて、全体としての日本の安全をどのようにして日本自身が守れるような環境にしていくかということを今から考えていく必要があると思っております。そのことを行っていきながら、一方で米軍の基地の整理縮小というものがなされても、この国の平和が守られると。現実まだ御案内のとおり、そのトータルの安全保障の議論が必ずしも新政権の中ででき上がっていないところではございますけれども、その議論がある意味では根本的に重要だと私は考えておりまして、そのことがなされて、初めて沖縄の負担を軽減させ得ることを、先ほどもちらっとではありますが、申し上げてきたところでございます。そういった日本の安全保障をトータルで考えていく中で、日本の憲法をどのように変える必要があるのか。このままでよいのかという議論は当然、将来的にはなされていかなければならないことだと思っております。私は細川さんのラジオ番組の中で申し上げたことは、この安全保障も大事だけれども、私がやりたいのは地域主権だと。地域主権のことでも持論を申し上げれば、本来、憲法を変える必要があるのではないかということは申し上げました。一方でこの政府の中で憲法の遵守規定がある。一方では今の憲法を守りながら、他方で政府として憲法改正を大々的に議論をする前に、やはり党として、それぞれの政党が、特に民主党なら民主党が憲法の議論をできるだけ早い時期にしっかりとまとめ上げていくことが大事ではないか。そして、そのことで党の議論の中で政府に対して主張していくというプロセスを経る必要があるのではないかということで、そのようなことを申し上げたと思っておりますが、今でも基本的にその考えは変わっていないところでございます。
● テレビ朝日の中丸と申します。総理が自らおっしゃった約束が現在守られなかったことで、国民の中には、総理の実行力に対して、非常に不安感が広がっています。これから総理が総理でい続ける場合、政権運営で非常にこれが問題になると思いますけれども、総理は失った国民の信頼をどのように回復していくように考えていらっしゃいますか。現在、総理は国民に何か約束できることはありますでしょうか。
ありがとうございます。私自身の実行力というお尋ねがありました。まさに今回、私が大変慙愧(ざんき)に耐えない思いの下で、福島大臣を罷免せざるを得なかったということは、やはり日本の安全保障ということを考えたときに、すなわち国民の皆さんの命を大切にするということを考えていく中で、今回の日米の共同声明というものをしっかりと履行する責務が政府にあると、そのように考えたからでございまして、総理の実行力というものを必ずしも十分に示されていない。あるいはそのように思われても仕方がないところがあろうかと思いますが、1つ大事なことは、私は民主主義の新しい政治の中で、いわゆる熟議の民主主義といいますか、皆様方が真剣に、それぞれの民間の皆様方が議論をしていきながら、その議論をしていく中で、最終的にその議論の結果というものを政府がしっかりと把握をして実行に移していく。政治主導というのは国民主導でありますが、首相が何でもかんでも乗り出して、すべてを決めていくということよりも、むしろ、より議論に議論を重ねて、その間にさまざまないろいろな意見があることも認めていきながら、しかし、結論というものを見出したならば、それに対して高い実行力を示すということが大事ではないかと思っています。そういう意味で、私は「新しい公共」ということを是非国民の皆さんにもっと御理解をいただきたいと思っておりまして、新しい時代にふさわしい、すなわち民の力を最大限引き出していく。そういう社会を今つくらんとしておるところでございまして、税制改革、すなわち細川政権のときからやろうとして、なかなかできなかった部分を大きく変えていくことが今回できたと思っておりますが、そういった税額控除の問題も含めて、民の力を最大限引き出していけるような新しい社会をつくり上げていきたい。そのことを国民の皆さんにしっかりと見ていただいたことによって、「新しい政権ができたな、変わってきたな」という実感を皆さん方が持っていただけるのではないかと、そのように確信しています。 
内閣総辞職に当たっての談話 / 2010年6月4日
鳩山内閣は、本日、総辞職いたしました。
昨年8月の総選挙で、「政治を変えよう」との国民の皆様がお示しいただいた民意により、政権交代を実現させていただきました。9月の内閣発足以来、国民の皆様が主役の政治、真の国民主権の政治を目指してまいりました。
「国民のいのちを大切にしたい、国民の皆様の生活を少しでも安心できるものにしたい」、その思いを一つ一つ実現すべく、社民党、国民新党との三党連立政権のもとで懸命に頑張ってまいりました。「子ども手当」、「高校無償化」、「農業の個別所得補償」など国民の皆様にお約束した政策を着実に実現いたしました。
また、国民の目線であらゆる政策を総点検し、行政の無駄を一掃すべく、行政刷新会議による「事業仕分け」を実施しました。惰性と様々なしがらみで溜まった行政の澱を少しでも整理できたと思います。
在日米軍基地が沖縄に集中し、県民の皆様の大きな御負担になっており、普天間飛行場の危険性の除去とこうした負担の軽減のため日米で合意しました。また、日米同盟を21世紀に相応しい形で深化させるべく最大限努力いたしました。さらに、「東アジア共同体」構想の展開、「核のない世界」に向けた国際協調への呼び掛けなど、我が国が理想とする国際社会の実現に向けて首脳外交を行ってまいりました。
一方、新しい社会の担い手を国民自らが創り出していくための「新しい公共」や地域が名実ともに国の主役となるための「真の地域主権」への取組みを開始いたしました。近い将来、大きく花開くことを期待しています。
こうした課題に内閣あげて懸命に取り組んでまいりましたが、このたび道半ばにして退くことといたしました。誠に残念であるとともに、国民の皆様との約束を全うすることができなかったことを大変申し訳なく思います。
今後、新たな内閣のもとで、政権交代の実を更にあげていくことを強く望みます。
これまでの国民の皆様のご支援とご協力に対し、あらためて心より御礼申し上げます。 
 
菅直人

 

2010年6月8日-2011年9月2日(452日)
民主党結党・初代党代表
1996年9月28日、新党さきがけの鳩山由紀夫が旧民主党を旗揚げすると、これに菅も参加。菅は鳩山と共に代表となり旧民主党がスタートした。結党当初は衆議院議員50人、参議院議員5人の計55人が参加した。1998年4月27日に新進党分党後に誕生した統一会派「民主友愛太陽国民連合(民友連)」と合流して、新民主党を結成し、代表となる。合流当初は衆議院議員98人、参議院議員38人の136人が参加した。
1998年7月12日の第18回参院選で27議席を獲得する。
橋本龍太郎首相は敗北の責任から内閣総辞職に追込まれた。総理大臣指名選挙では、自由党と日本共産党は第一回投票から菅に投票し決選投票では公明・改革クラブ・社民党・さきがけの支持もあり参議院では首相に指名されたが、衆議院の優越により衆議院の議決で指名された小渕恵三が首相となった。
1998年の金融国会では、「われわれの要求が受け入れられれば政府の退陣は求めない」と発言し、所謂政策新人類と呼ばれた自民党若手議員らとともに、金融関連再生法案の策定に励み、実際に丸呑みと揶揄されるほど、菅らの主張が受け入れられたが、小沢一郎らは「参院選で大勝した直後に政局にしないとは弱腰極まりない」と批判するなど、この言動に対する評価は二分された。菅の金融問題への対応は素早く、経済学者金子勝は朝まで生テレビにて菅を、政治家としては最も早く金融に着目・解決のためのスキームをまとめさせたとして、菅の功績を評価する発言をしている。
1999年(平成11年)に2回行われた民主党代表選挙では、1月には再選するも松沢成文に善戦を許し、9月には鳩山由紀夫に敗北したが、党政策調査会長に就任した。
二度目の党代表就任
2000年(平成12年)に党幹事長に就任。2002年(平成14年)に鳩山由紀夫代表が辞任すると、岡田克也幹事長代理と代表選を争い、党代表に再び就任。次の内閣総理大臣にもあわせて就任した(社民連時代は社会党シャドーキャビネットに入閣しなかった)。政治家の年金未納問題により辞任に追い込まれる2004年5月10日まで務めた。
民由合併・マニフェストの導入2003年9月26日に小沢一郎が党首を務める自由党との合同を実現した(民由合併)。同年11月9日の第43回衆院選では「高速道路の原則無料化」、「小学校低学年の30人以下の学級実現」などをマニフェスト(政策綱領)に掲げ、公示前勢力を大幅に上回る177議席を獲得し、比例代表では自民党を上回った。菅は党代表として、やがて衆院選を迎えるに当たり、時の小泉首相に対し、自民党はマニフェストを国民の前に提示するかどうかを迫り、期限や事後チェック付きの政権公約としてのマニフェストと従来の公約との違いを自民党にも明確化するよう迫った経緯がある(2003年7月18日予算委員会)。小泉首相は、政党統一の政権公約として期限や事後チェックなどマニフェストとしての扱いを受けることを嫌い明言を避け続けていたが、実際に2003年衆院選が行われることになると、小泉自民党を含む主要政党のほとんどがマニフェストを掲げて選挙戦を戦うこととなり、結果として菅および民主党が日本におけるマニフェスト選挙の定着に大きな役割を果たすこととなる。菅個人は、この2003年衆院選において初めて比例を辞退して小選挙区のみで出馬し、比例上位優遇で国替えしてきた鳩山邦夫に完勝した(ただし、鳩山邦夫も比例復活)。
小泉内閣の閣僚の国民年金未納が相次いで発覚した際、菅は街頭演説で「ふざけてますよね。“未納三兄弟”っていうんですよ」と自民党議員を批判し、年金未納問題に火を付けることとなった(“未納三兄弟”は、1999年に流行った歌“だんご3兄弟”にちなむ)。年金未納閣僚は、3人に留まらず、その後も続々と発覚し続けた。これをチャンスと捉えて民主党「次の内閣」全員の国民年金納付書を公開して国民にアピールしようとしたところ、菅自身の厚生大臣時代の年金未払い記録が明らかとなった。菅は行政側のミスであると何度も主張したが、行政側がその都度強く否定し、マスコミ報道等による世論の風当たりにより、同年5月10日に党代表を辞任せざるを得ない状況に追い込まれた。菅の代表辞任後、社会保険庁側から間違いを認めて国民年金脱退手続きを取り消したこと、同期間に国民年金の加入者であったことを証明する書面が送付された。菅が主張したとおり国民年金の資格喪失は「行政上のミス」によるものであるにも拘らず、事後納付もできないため、未納は解消されず(未納期間2ヶ月)。政治評論家の岩見隆夫からは「菅氏の国民年金未加入問題は、本人の申し立て通り『行政上のミス』であった。当時、菅は辞めたほうがいいと書いたことは誤り、お詫びします」としつつ「自身の無年金のおかしさに気付き、対応しなかったのは、政治家としてうかつさがあった」といった指摘もなされた。
2004年7月、菅は年金未納騒動を吹っ切り自己を見つめ直したいという意図から伝統的な「お遍路さん」スタイルで四国八十八カ所巡りを開始した。また、この間法政大学大学院の客員教授に就任し、「国民主権論」と題して講義を行った。
2005年(平成17年)9月11日の第44回衆院選(小泉首相の解散による郵政選挙)では、東京都の民主党候補では僅差ながらも唯一小選挙区での勝利を果たした。なお、この郵政選挙では、長年の宿敵と言われた土屋正忠武蔵野市長(当時)が自民党公認(比例単独2位)でついに立候補し、事実上の一騎打ちとなった。郵政民営化・刺客選挙を展開して時流に乗る自民党に対し、民主党は党全体が大逆風を受けていたが、そんな中、菅は全開票所で勝利し、面目を保った(土屋正忠候補は比例復活当選)。
同年9月17日民主党敗北を受けて党代表を辞任した岡田克也の後任を決める党代表選挙に立候補し、小沢一郎からも本命視されていたものの、投票直前の演説で若き日からの辛酸と情熱を巧みに訴えた若手の代表格前原誠司に2票差で敗れた。その後、党国会対策委員長就任を要請されたが、これを固辞し、一兵卒として前原民主党を支えると表明した。
党代表戦に敗れた後は、団塊の世代を取り込むための「団塊党」なる運動や、バイオマスの活用を盛んに提唱し始めた。
代表代行時代(トロイカ体制)
2006年4月7日、「堀江メール問題」による前原執行部総退陣を受けて行われた代表選挙に再度立候補し、小沢一郎と激しく争い47票差で敗れた。その後、党代表代行に就任。代表に就任した小沢一郎、幹事長の鳩山由紀夫と菅の3人による挙党一致体制はトロイカ体制と呼ばれ、2009年の政権交代の原動力となった。2009年5月に小沢が西松建設の違法献金疑惑に関連して自身の公設秘書が逮捕された件で辞任すると、後任の代表となった鳩山由紀夫により、引き続き党代表代行に再任。小沢一郎も代表代行に就任しトロイカ体制は継続された。党代表代行として国会論戦について主に担当し、国会での代表質問、テレビ出演などを積極的にこなした。
鳩山由紀夫内閣
2009年9月16日、鳩山由紀夫内閣発足により、副総理として入閣、あわせて内閣府特命担当大臣(経済財政政策・科学技術政策担当)および「税財政の骨格や経済運営の基本方針等について企画立案及び行政各部の所管する事務の調整」(いわゆる国家戦略担当大臣)に就任した。国家戦略相として予算編成の「司令塔」を期待されながら、その役割を果たせていないと鳩山首相から評された。政府の新成長戦略策定の主導を果たしたが、予算編成には間に合わずに出遅れ感を際立たせることにもなった。
2010年1月7日、財務大臣の藤井裕久の辞任に伴い、副総理、経済財政政策相と兼務する形で、後任の財務大臣に横滑りで就任した。、国家戦略相は行政刷新相の仙谷由人が、科学技術政策相は文部科学大臣の川端達夫がそれぞれ兼務する形で引き継いだ。財務大臣就任以後も、政治主導脱官僚をアピールするために、財務省ではなく引き続き官邸内の副総理室にとどまり、財務官僚が官邸に通う形にした。財務大臣就任会見で、「90円台半ばあたりが適切」と具体的な為替水準にまで言及する円安誘導発言を行い話題を呼んだほか、財務大臣として日銀に対しより一層の金融緩和を進めるよう働きかけた。一方で、国会質疑の場で乗数効果、消費性向などについての質問を受けると答に窮し、質疑を止めて官僚を呼ぶなど財政政策に対する理解の浅さを指摘された場面もあった。鳩山内閣の支持率が低下する中、菅は各種世論調査で「次期首相にふさわしい人物」の上位に位置するなどポスト鳩山の有力候補の一人と目された。 
総理大臣
2010年(平成22年)6月2日の鳩山首相の退陣表明を受け、後継を選出する民主党代表選挙への出馬を表明。6月4日、民主党代表選挙に勝利し、同日の首班指名選挙によって第94代内閣総理大臣に指名され、6月8日に正式に就任した。
参議院選敗北と党内対立の激化
2010年6月の民主党代表選挙において菅が出馬表明すると小沢一郎の党運営に不満を持っていた枝野幸男、仙谷由人らが菅の支持に回った。これに対し小沢グループは菅の対抗馬の擁立を模索し、樽床伸二が名乗りを挙げた。選挙の結果、樽床を破った菅は、反小沢の急先鋒ともいわれた枝野、仙谷をそれぞれ党幹事長、官房長官に起用し、小沢の意向により廃止された政策調査会を復活させた。また小沢、鳩山代表時代に作成されたマニフェストの一部修正にも取り掛かった。こうして政権交代の原動力とも言われたトロイカ体制は崩壊し、マスコミなどから"脱小沢"とも称される路線に傾いていくこととなる。こうした動きを世論はおおむね評価し、内閣支持率は60%前後という高水準で内閣は出発した。
しかし、2010年7月11日投開票の第22回参議院議員通常選挙では菅の消費税をめぐる発言の迷走などがひびき、獲得議席は現有の54議席を大きく下回る44議席にとどまった。この結果、参議院で過半数を失うねじれ状態にとなり、菅の党内における求心力は低下した。9月に行われる党代表選に向け、菅は再選に意欲をみせるが、とくに小沢に近い議員グループを中心に党執行部の参院選敗退の責任を問う声が強まり、小沢を擁立する動きも加速した。こうして現職の総理と党内最大派閥の領袖の全面対決の構図となり、党分裂も懸念される事態となる中、前首相の鳩山由紀夫が菅、小沢両者の仲介に乗り出した。告示直前まで両者の調整が行われたが、菅は密室談合となるのを懸念し両者折り合わず、最後に菅-小沢会談が行われたが、結局物別れに終わった。鳩山はこれまでの菅続投支持から一転、小沢支持を表明。これを受け小沢は告示日である9月1日に出馬表明し、代表選での菅との直接対決に突入した。
この代表選において両陣営の激しい多数派工作が行われ、立会演説会における動員が指摘されるなど激しい選挙戦となった。政策面では金銭問題が取りざたされる小沢を意識し、菅はクリーンでオープンな党運営や雇用政策の重視を主張し、一方の小沢は衆議院総選挙での2009マニフェストの順守、地方への紐付き補助金の一括廃止、早期の消費税率アップの反対など主張した。
9月14日に国会議員による投開票が行われた結果、菅は小沢一郎を下して再選を果たした。小沢の出馬表明当初は党内最大グループを率い、鳩山グループの支持を取り付けた小沢が国会議員票では優勢との見方もあったが、菅は報道各社による世論調査で小沢を大きく上回る支持を得たことを背景に攻勢を強め、最終的には国会議員票でも小沢を上回った。
代表選挙後に行われた内閣改造・民主党役員人事では、仙谷官房長官は留任、枝野の後任の幹事長に外相の岡田克也、岡田の後任の外相に前原誠司を充てるなど非小沢系が要職に起用され、結果的に「脱小沢」を強化した形となったが、副大臣・政務官人事では小沢グループからも多数起用し、党内融和に一定の配慮を示したとも見られている。
この代表選で再選されたことにより内閣支持率は急速に回復するが、代表選期間中に発生した尖閣諸島中国漁船衝突事件への対応が批判を浴びたことなどにより支持率は再び低下に転じた。また、衆院北海道5区補選(2010年日本の補欠選挙)や、2010年和歌山県知事選挙、2010年茨城県議会議員選挙といった大型地方選で敗北を重ねたことで、統一地方選を翌年春に控えた民主党内の不満が高まっていった。
東北地方太平洋沖地震への対応と菅おろし
2011年に入って以後も政権の低迷は続き、3月6日、前原誠司が外国籍の人物から献金を受けていた件で外務大臣を辞職し、菅自身にも外国人献金問題が持ちあがった。しかし、3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)及びそれに付随する形で福島第一原子力発電所事故が発生すると、地震災害並びに原子力災害の対策に政府・与野党が集中することとなり、菅内閣への退陣運動は一時的に中断した。
福島第一原子力発電所事故の発生を受け、菅は国のエネルギー政策の見直しに乗り出した。5月6日、菅は緊急記者会見を開催し、中部電力浜岡原子力発電所に対して「(迫りくる東海地震への)安全確保がなされるまで原子炉運転を停止するよう」指示を出した。続く5月10日には記者会見の中で原発の増設が謳われた従来のエネルギー基本計画を白紙に戻すと宣言し、5月26日、27日に行われた第37回主要国首脳会議(ドーヴィル・サミット)の中では原発の安全性を高めた上での利用と同時に自然エネルギーの割合を「2020年代のできるだけ早い時期に、少なくとも20%を超えるレベルまで」拡大していくと表明した。
菅は震災の発生を機に国会のねじれを解消し、復興対策を円滑に進めるため、自民党に対し大連立を打診したが、結局、不発に終わった。これに加え、4月に行われた統一地方選で与党が敗北するなど、与党・民主党内でも菅政権に対する不満が募り、小沢一郎を中心とする民主党一部勢力が「菅おろし」への動きを活発化させるようになる。
そして6月2日、菅の地震・原発災害への対応が不十分であるとして野党の自民・公明両党により内閣不信任決議案が衆議院本会議に提出・上程。小沢に近い議員を中心に野党の不信任案に同調する動きが強まり、前首相の鳩山由紀夫も同調する構えを見せ、一気に不信任決議の可決や党の分裂が懸念される事態となった。菅は不信任決議投票の本会議を前に鳩山と会談し、自らの退陣を匂わせて不信任決議案に反対させる合意を取り付け、その後の民主党代議士会で「震災対応にメドをつけたら若い人に責任を引き継いでもらいたい」と語った。これを受けて小沢グループは不信任案に同調する方針を撤回し、当日の衆議院本会議で内閣不信任決議案は否決された。
退陣
不信任決議案が否決されて以降、「震災対応のメド」がいつになるのかという解釈をめぐり、政権内でも見方が分かれ、官房副長官の仙谷由人など閣内の一部からも早期退陣論が出るようになった。菅が退陣した上での大連立を模索する動きもあったが、菅自身は、自然エネルギー庁構想を掲げ、再生エネルギー法案を通そうと模索し、続投することに意欲をみせた。しかし、与野党からの早期退陣の要求は止まず、6月27日に会見を開き、自らの退陣する条件として、「今年度第2次補正予算案の成立、再生可能エネルギー特別措置法案の成立、特例公債法案の成立」を挙げ、これを以て「『一定のめど』に当たる」とした。
7月13日には、会見において「原発に依存しない社会を目指すべき」と表明し、大きな反響を呼んだ。翌日の予算委員会において、野党から追及を受けると、「個人的な思いを言っただけだ」と一旦トーンダウンしたが、その後8月6日に広島市で行われた記者会見の中で「脱原発依存」は、政府の方針となっているとの認識を示した。
2011年8月26日、菅は退陣の条件としていた3法案の成立を受け、「本日をもって民主党代表を辞任し、新代表が選出された後に総理大臣の職を辞する」と辞任を表明した。「厳しい環境のもとでやるべきことはやった。一定の達成感を感じている。国民の皆さんのおかげ。私の在任期間中の活動を歴史がどう評価するかは、後世の人々の判断に委ねたい」と述べた。福島第一原発事故について「総理としての力不足、準備不足を痛感した」と振り返った。8月29日に民主党代表選が行われた結果、後任の総理大臣には菅の下で財務大臣を務めた野田佳彦が選出された。
今後の自身の活動として、8月29日のブログにて「再生可能エネルギー促進はライフワーク」とし、植物のエネルギー利用を図るため「『植物党』を作りたい」と記した。
2010

 

記者会見 / 平成22年6月8日
今夕、天皇陛下の親任をいただいた後、正式に内閣総理大臣に就任することになりました、菅直人でございます。国民の皆さんに就任に当たって、私の基本的な考え方を申し上げたいと思います。
私は、政治の役割というのは、国民が不幸になる要素、あるいは世界の人々が不幸になる要素をいかに少なくしていくのか、最小不幸の社会をつくることにあると考えております。勿論、大きな幸福を求めることが重要でありますが、それは、例えば恋愛とか、あるいは自分の好きな絵を描くとか、そういうところにはあまり政治が関与すべきではなくて、逆に貧困、あるいは戦争、そういったことをなくすることにこそ政治が力を尽くすべきだと、このように考えているからであります。
そして、今、この日本という国の置かれた状況はどうでしょうか。私が育った昭和20年代、30年代は、ものはなかったけれども、新しいいろいろなものが生まれてきて、まさに希望に燃えた時代でありました。しかし、バブルが崩壊してからのこの20年間というのは、経済的にも低迷し、3万人を超える自殺者が毎年続くという、社会の閉塞感も強まって、そのことが今、日本の置かれた大きな、何か全体に押しつぶされるような、そういう時代を迎えているのではないでしょうか。
私は、このような日本を根本から立て直して、もっと元気のいい国にしていきたい、世界に対してももっと多くの若者が羽ばたいていくような、そういう国にしていきたいと考えております。
その一つは、まさに日本の経済の立て直し、財政の立て直し、社会保障の立て直し、つまりは強い経済と強い財政と強い社会保障を一体として実現をすることであります。
今、成長戦略の最終的なとりまとめを行っておりますけれども、日本という国は大きなチャンスを目の前にして、それにきちっとした対応ができなかった、このように思っております。
例えば、鳩山前総理が提起された地球温暖化防止のための25%という目標は、まさに日本がこうした省エネ技術によって、世界の中に新しい技術や商品を提供して、大きな成長のチャンスであるにもかかわらず、立ち遅れてきております。
また、アジアの中で、歴史の中で、最も大きな成長の時期を迎えているにもかかわらず、先日も中国に行ってみましたら、いろんな仕事があるけれども、日本の企業はヨーロッパの企業の下請けしかなかなか仕事が取れない、一体どんなことになったのか。つまりは、この20年間の政治のリーダーシップのなさが、こうしたことを生み出したと、このように思っております。
成長戦略の中で、グリーンイノベーション、そしてライフイノベーション、そしてアジアの成長というものを、私たちはそれに技術や、あるいは資本や、いろいろな形で関与することで我が国の成長にもつなげていく、こういったことを柱にした新成長戦略、これに基づいて財政配分を行いたいと考えております。
また、日本の財政状況がこれまで悪くなった原因は、端的に言えば、この20年間、税金が上げられないから、借金で賄おうとして、大きな借金を繰り返して、効果の薄い公共事業、例えば百に近い飛行場をつくりながら、まともなハブ空港が1つもない、これに象徴されるような効果の薄い公共事業にお金につぎ込み、また、一方で、社会保障の費用がだんだんと高まってきた、これが今の大きな財政赤字の蓄積の構造的な原因である。私は、財政が弱いということは、思い切った活動ができないわけでありますから、この財政の立て直しも、まさに経済を成長させる上の必須の要件だと考えております。
そして、社会保障についても、従来は社会保障というと、何か負担、負担という形で、経済の成長の足を引っ張るんではないか、こういう考え方が主流でありました。しかし、そうでしょうか。スウェーデンなどの多くの国では、社会保障を充実させることの中に、雇用を生み出し、そして、若い人たちも安心して勉強や研究に励むことができる。まさに社会保障の多くの分野は、経済を成長させる分野でもある、こういう観点に立てば、この3つの経済成長と財政と、そして社会保障を一体として、強くしていくという道は必ず開けるものと考えております。
国際的な問題についても触れたいと思います。日本は戦後60年間、日米同盟を基軸として外交を進めてまいりました。その原則は、今も原則としてしっかりとそうした姿勢を続けていく必要があると考えております。
それと同時に、アジアにある日本として、アジアの諸国との関係をより深め、更にヨーロッパやあるいはアフリカやあるいは南米といった世界の国々とも連携を深めていく、このことが必要だと思っております。
普天間の問題で、日米関係を含めて、いろいろと国内の問題も含めて、国民の皆さんに御心配をおかけいたしました。日米の間の合意はでき、それに基づいて進めなければならないと思っておりますが、同時に、閣議決定においても述べられました、沖縄の負担の軽減ということも真摯に全力を挙げて取り組んでいかなければならないと考えております。
大変困難な課題でありますけれども、私もしっかりと1つの方向性を持って、この問題に取り組んでまいりたいと、このように思っているところであります。
そして、私、総理大臣としての仕事は何なのか、この間、テレビなどを少し見ますと、私が任命をした閣僚や党の新しい役員がそれぞれマスコミの皆さんの取材を受けて、いろいろな発言をしているわけです。
どうですか、皆さん。そういう私よりも10歳、20歳若い、そういう民主党の閣僚や党役員の顔を見て、声を聞いて、こんな若手が民主党にはいて、なかなかしっかりしたことを言うではないか、なかなかこれならやってくれそうではないか、そういうふうに思っていただけたんじゃないでしょうか。
私は鳩山さんとともに1996年に旧民主党をつくり、98年に新たな民主党初代の代表となりました。その後、小沢前幹事長の率いる自由党と合併をして、今の民主党になったわけでありますけれども、そこにそうした人材が集まってきたこと。私はそのことがうれしいと同時に、自信を持って、今申し上げたような日本の改革を推し進めることができる、このように思っております。
そして、この多くの民主党に集ってきた皆さんは、私も普通のサラリーマンの息子でありますけれども、多くはサラリーマンやあるいは自営業者の息子で、まさにそうした普通の家庭に育った若者が志を持ち、そして、努力をし、そうすれば政治の世界でもしっかりと活躍できる。これこそが、まさに本来の民主主義の在り方ではないでしょうか。
その皆さんとともに、このような課題を取り組んでいく上で、私の仕事は一つの方向性をきっちりと明示をし、そして、内閣あるいは党を、その方向で議論するところは徹底的に議論して、みんなが納得した上で、その方向にすべての人の力を結集していく。そのことが私の仕事だと考えております。
総理になったからには、もうあまり個人的な時間は取れない。本当なら53番札所まで来ているお遍路も続けたいところでありますけれども、いましばらくはそれをまさに後に延ばしても、ある意味では官邸を中心に、これこそが修行の場だ、そういう覚悟で、日本という国のため、更には世界のために私のあらん限りの力を尽くして、よい日本をよい世界をつくるために全力を挙げることを国民の皆さんにお約束をいたしまして、私からの国民の皆さんへのメッセージとさせていただきます。よろしくお願い申し上げます。
【質疑応答】
● 菅総理、よろしくお願いします。毎日新聞の中村と申します。総理は、首相指名後の記者会見で、今回の組閣について、官邸機能をしっかりして、内閣の一体性を確保すると指摘されています。総理も副総理として加わった鳩山政権は短命に終わりましたけれども、その背景には、どんな構造的な問題があったのでしょうか。今回の組閣では、その教訓を生かして、どこがどう変わるのか、具体的にお答えください。
鳩山内閣において、私も副総理という重要な役割をいただいていたわけでありますから、鳩山内閣が短命に終わってしまったことは、勿論残念でもありますし、私も大きな責任を感じております。その上で、新たな私の下の内閣は、やはり官房長官を軸にした一体性というものを考えて構成をいたしました。つまりは、総理の下の官房長官というのは、まさに内閣の番頭役であり、場合によっては、内閣総理大臣に対しても、ここはまずいですよということを言えるような人物でなければならない。よく中曽根政権の下の後藤田先生の名前が出ますけれども、まさにそうした力を持った方でなければならないと思っております。仙谷さんは、私とは長いつき合いでありますけれども、同時に、ある意味では、私にとっても煙たい存在でもあるわけであります。しかし、そういう煙たい存在であって、しかし力のある人に官房長官になっていただくことが、この政権の一体性をつくっていく上での、まず最初の一歩だと考えております。そして、その下に副長官、更には各大臣、そして副大臣という形を構成します。この間、政と官の問題でいろいろ言われましたけれども、決して官僚の皆さんを排除して、政治家だけで物を考え、決めればいいということでは全くありません。まさに官僚の皆さんこそが、政策やいろんな課題を長年取り組んできたプロフェッショナルであるわけですから、その皆さんのプロフェッショナルとしての知識や経験をどこまで生かして、その力を十分に生かしながら、一方で、国民に選ばれた国会議員、その国会議員によって選ばれた総理大臣が内閣をつくるわけです。国民の立場というものをすべてに優先する中で、そうした官僚の皆さんの力も使って政策を進めていく。このような政権を、内閣をつくっていきたいし、今日、全員の閣僚とそれぞれ10分程度ではありますけれども、時間をとって話をいたしました。それぞれに頑張ってほしいということと同時に、必要となれば、私がそれぞれの役所の在り方についても、場合によっては、官房長官を通してになるかもしれませんが、もうちょっとこうしたらいいんじゃないのと、こういったことも申し上げて、一体性と同時に、政と官のよりよい関係性を、力強い関係性をつくっていけるように努力をしていきたいと考えております。
● TBSの緒方です。間近に迫った参院選についてお聞きします。改選期の議員を中心に7月11日の投開票を求める声が出ていますけれども、総理は今国会の会期を延長し、投開票日を先送りする考えはありますか。また、参院選の争点と目標獲得議席数、それから勝敗ラインについてはどのようにお考えでしょうか。
国会の会期というのは、通常国会は150日と決まっております。本来はその期間の中で成立させるべき法案をすべて成立をさせたいわけでありますが、会期末を近くに控えて、まだそんな状況になっておりません。そういう中で、国民新党の間での合意、つまりは郵政の法案について、それの成立を期すという合意もあるわけであります。一方では、たとえ多少の延長をしても、必ずしもすべての法案を成立させることは難しい。それならば、また選挙の後に改めて取り組むこともあっていいんではないかという意見もいただいております。これから新しい幹事長あるいは国対委員長の下でそうした連立の他党の皆さんとも十分議論した上で、その方向性を定めていきたいと考えております。選挙における勝敗ラインということがよく言われますけれども、私は6年前、岡田代表の下で戦われた参議院選挙でいただいた議席がまずベースになる。そのベースをどこまで超えることができるか、あるいは超えることが本当にできるのか。これから私もすべての選挙区について、私なりに選挙区情勢を把握をしながら、近く発足する予定の参議院選挙対策本部の本部長として、陣頭指揮を取っていきたいと、このように考えております。
● 時事通信の松山です。総理は先ほどの財政再建の必要性、重要性というものを非常に強調されましたが、参院選に向けて、消費税を含む税制の抜本改革というものをどういうふうに位置づけていくかということと、それから御自身で財政再建に関して、新規国債発行額を今年度の44.3兆円以下に抑えるということをおっしゃっていますが、これも参院選に向けて、公約に明記するお考えがあるのかお聞かせください。
確かに44.3兆円以下を目標にするということを申し上げました。ただ、これは誤解をいただきたくないのは、44兆3,000億の国債を出すことで財政再建ができるということではありません。これでも借金は増えるんです。この規模の財政出動を3年、4年続けていけば、GDP比で200%を超える公債残高が、数年のうちにそういう状況になってしまいます。そういった意味では、この問題は実はまさに国としてとらえなければならない最大の課題でもあります。これから所信表明演説もありますけれども、こういう問題こそある意味では一党一派という枠を超えた議論の中で、本当にどこまで財政再建のためにやらなければならないのか。それは規模においても時間においてもどうあるべきなのか。そのことをある意味では党派を超えた議論をする必要が、今この時点であるのではないかと思っております。そういうことも踏まえながら、最終的な政権としての公約も含めて、そういうものを考えていきたいと思っております。
● 96年の夏に旧民主党ができて、ここに至るまで14年間経って、菅首相がこうやってこの場に誕生したことにまず感慨深いものを思いますが、そこで振り返ってみて、当時旧民主党がディスクロージャーというのを掲げて、開かれた政治というのを打ち出しました。その精神が生きているとしたら、今回政権をとったこの時点で、例えば官房機密費、並びにこうやって開いていますが、全閣僚の政府会見、そして何と言っても菅さんが先ほどおっしゃいました官房長官の会見等を、国民のために完全に開くという御意気はあるのかどうか。鳩山前首相はそれについては約束をしてくださいましたが、菅総理はどうなのかお伺いします。
開くという意味が、具体的にどういう形が適切なのか、私も総理という立場でまだ検討ということまで至っておりません。率直に申し上げますと、私はオープンにすることは非常にいいと思うんですけれども、ややもすれば何か取材を受けることによって、そのこと自身が影響をして政権運営が行き詰まるという状況も、何となく私には感じられております。つまり、政治家がやらなければいけないのは、まさに私の立場で言えば内閣総理大臣として何をやるかであって、それをいかに伝えるかというのは、例えばアメリカなどでは報道官という制度がありますし、かつてのドゴール大統領などはあまりそう頻繁に記者会見をされてはいなかったようでありますけれども、しかしだからと言って国民に開かれていなかったかと言えば、必ずしもそういうふうに一概には言えないわけです。ですから回数が多ければいいとか、あるいは何かいつでも受けられるとか、そういうことが必ずしも開かれたことではなくて、やるべきことをやり、そしてそれに対してきちんと説明するべきときには説明する。それについてどういう形があり得るのか、これはまだ今日正式に就任するわけでありますから、関係者と十分議論したいと思っています。
● よろしくお願いします。NHKの角田です。参議院選挙に関連するんですけれども、政権が変わり総理大臣が変わったということで、例えば衆参同日で選挙を打つというお考えはおありなんでしょうか。
まず新しい政権になって、国民の皆さんから参議院の選挙で審判を受けることになります。衆議院の選挙ということについて時々いろんな方が言われるのは、わからないわけではありませんけれども、まず参議院の選挙で、今ここでも申し上げたような、ある意味では昨年の選挙で公約を申しましたし、また、大きな意味での方向性をだんだんと固めてきた問題も含めて、きちんとこの参議院選挙で議論をさせていただきますので、そのことに対しての国民の審判をまずいただくというのが、最初にやることというか、やらなければならないことだと思っております。その意味で現在のところ衆議院選挙について更にやるべきだという、必ずしもそうなるのかどうか、これは全く白紙ということで考えております。
● ニコニコ動画の七尾です。前政権では政治主導や友愛政治ということがよく言われたわけですが、菅政権を象徴します、あるいは目指す方向性を表すキーワードなどについて、もしございましたら、教えてください。
私自身は草の根から生まれた政治家でありますので、草の根の政治という表現も一つ頭に浮かぶのでありますが、もう少し元気のいいところで言えば、私の趣味で言えば、奇兵隊内閣とでも名づけたいと思います。今は坂本龍馬が非常に注目されておりますが、私は長州生まれでありますので、高杉晋作という人は逃げるときも早いし、攻めるときも早い。まさに果断な行動を取って、まさに明治維新を成し遂げる大きな力を発揮した人であります。今、日本の状況は、まさにこの停滞を打ち破るために、果断に行動することが必要だと。そして、奇兵隊というのは、必ずしもお殿様の息子たちがやった軍隊ではありません。まさに武士階級以外からもいろいろな人が参加をして、この奇兵隊をつくったわけでありますから、まさに幅広い国民の中から出てきた我が党の国会議員が奇兵隊のような志を持って、まさに勇猛果敢に闘ってもらいたい。期待を込めて、奇兵隊内閣とでも名づけてもらえれば、ありがたいと思っています。
● 読売新聞の五十嵐です。鳩山前総理は退陣の理由として、政治とカネの問題、それから普天間移設問題を挙げました。そして、政治とカネの問題ですけれども、昨日、枝野幹事長は小沢幹事長の衆院の政倫審への出席について、御本人の判断に任せるという考えを示しましたが、新総理としてはどういうふうにお考えでしょうか。また、普天間の問題では、日米間で8月末までに工法、詳細なことを決定するということでしたが、沖縄では依然として移設に反対する動きが止まっておりません。どういう判断をされるおつもりでしょうか。
鳩山総理が自らの辞任のあいさつの中で、今、御質問のありました政治とカネの問題と普天間の問題を挙げられて、言わばその問題でこの民主党政権が本来やらなければならないことがなかなか国民に理解をしてもらえなくなったということで、自ら身を引かれたわけであります。そういう意味では、この後を受けた私の政権は、ある意味ではこの鳩山前総理の思いをしっかりと受け止めて、引き継いでいかなければならないと思っております。政治とカネの問題については、鳩山総理の発言もあって、小沢幹事長も自ら幹事長を引いておられるわけです。ある意味でこれで十分と考えるかどうかということは、いろいろな立場がありますけれども、政治という場でそうした総理でもある代表を辞任し、また、最も党の中で重要な役職である幹事長を辞任するということは、一定のけじめではあると思っております。それを含めて、どうしたことが更に国会や他の場面で必要になるのか。特に国会の問題では、幹事長を中心に、そうしたことについては他党の主張もあるわけですから、しっかりと他党の主張も聞きながら、判断をしていただきたいし、いきたいと思っております。普天間については、日米合意を踏まえるという原則はしっかりと守っていかなければならないと思っております。ただ、だからと言って、沖縄の皆さんが現在の時点で賛成をしていただいているというふうには、まだまだ思える状況にないこともわかっております。ですから、8月の専門家による1つの方向性を出すということは、それは一つの日米間の日程上の約束になっているわけですけれども、そのことと沖縄の皆さんの理解を求めるということは、やはり並行的に進めていかなければならない。当然ではありますけれども、日米間で決めれば、すべて自動的に沖縄の皆さんが了解していただけるということでは、勿論ないわけでありますから、そういう意味では、沖縄の皆さんについて、先ほども申し上げましたが、沖縄の負担の軽減ということをしっかりと取り組んでいく、そのことを含めた話し合いをしていかなければならない。先の政権で、いろんな方が、いろんなアイデアや意見を持って、鳩山総理のところに来られたという経緯があったようでございますが、逆に言うと、いろんな意見を聞くことはいいけれども、いろんな人に担当してもらうことは、混乱を招きかねませんので、まずは官房長官のところで、どういう形でこの問題に取り組むべきなのか、勿論、外務省あるいは防衛省、場合によっては沖縄担当という大臣もおられますので、どういう形でこの問題に取り組むことが適切か、そう時間をかけるわけにもいきませんが、今日が正式のスタートでありますので、この間で、まずはどういうチームなり、どういう枠組みの中で、この問題の検討を行っていくかということの検討を、まずはしっかり行いたいと思っています。
● 日本テレビの青山です。総理の今回の人事について、小沢カラーを払拭した人事という見方がされていまして、ただ、一方で、野党側は、これは参議院選挙に向けた小沢隠しであると批判しています。この前、菅総理は、しばらく静かにしていただきたいとおっしゃいましたけれども、そのしばらくというのは、参議院選挙までという意味なのか、今後、小沢前幹事長との距離感をどのように取っていくお考えをお持ちなのか、この辺りをお答えください。
よく皆さん、報道を見ていると、常に小沢さんに近いとか、遠いとか、あるいは小沢カラーということが言われますが、少なくとも私の今回の人事を考える上で、最大の要素は、どなたにどういう仕事を担当してもらうことが、より効果的に物事が進むかということで判断をいたしました。ですから、よく見ていただければわかるように、それぞれ自らの考え方を持ち、行動力を持った人が、私はそれぞれの所掌に就いてもらったと思っております。小沢前幹事長について、私が申し上げたのは、例えば私も2004年、最後は社会保険庁の間違いということがわかりましたけれども、いわゆる年金未納で代表を辞任したことがあります。やはり辞任をした後は、しばらくは本当に、おとなしくしていようと思いました、私自身も。あるいは岡田さんは、2005年の衆議院選挙、小泉政権の郵政選挙で大敗をされました。あの選挙も、今考えれば、小泉さん流の、ある意味酷いというと言葉が行き過ぎるかもしれませんが、まさに小泉劇場に踊らされた選挙であったわけですが、しかし、岡田さんは、責任を取って辞任した後、まさに全国の落選した仲間を一人ひとり訪ねるという形で、少なくとも表の場で言えば、静かにして、次につながった行動を取られたわけです。ですから、私は特別なことを言ったつもりはありません。総理が政治とカネの問題も含めて辞任し、また、幹事長も総理からの同じ問題で、やはりともに引こうではないかということで了解をされたというふうに、あの場で総理は言われたわけですから、やはりある意味で責任を感じて辞められたということであるならば、しばらくの間は、静かにされているのが御本人を含めて、みんなのためにもいいんではないかと、ごく自然なことを言ったつもりであります。しばらくというのは、まさに今、申し上げたことで、かれこれ言いませんが、何日ならいいとか、何年ならいいなんていう種類のものではなくて、1つの新しい段階が来た中では、それはそれとして、また判断があっていいんではないでしょうか。
● ダウ・ジョーンズ経済通信のアンドリュー・モナハンです。財政再建と経済成長策のバランスについてお伺いします。総理は、このバランスを達成するために、どのような手段があり得るとお考えでしょうか。また、円安は、この点において、貢献できることがありますでしょうか。
円安ですか。円安が何ですか。
● バランスを達成することに何か貢献できることがありますでしょうか。
先ほど経済、財政、社会保障を一体でということを申し上げました。詳しいことを時間があれば申し上げてもいいんですけれども、あちらこちらで発言もしておりますし、また、近いうちに所信表明もありますので、そういう中では、もう少し詳しく申し上げたいと思っております。基本的には、財政というものを健全化するそのときに、ただ、極端に言えば、増税して借金返しに当てたらいいかといえば、これは明らかにデフレをより促進する政策になってしまいます。そういうことを含めて、財政の振り向ける方向性がしっかりと経済成長につながる分野でなければなりません。また、国民の貯蓄を国債という形で借り受けして、そうした経済成長に資するところに使っていくというのは、当然経済政策としてあり得る政策であるわけです。何が間違ったかと言えば、使い道が間違ったんです。九十幾つも飛行場をつくって、インチョンのようなハブ空港が1つもないような使い方をやったことが、借金は増えたけれども、成長はしなかったということであります。更に言えば、世界先進国の中でも最もGDPで高い水準まで借金が積み上がってありますので、マーケットというものは、なかなか難しい相手でありますから、そういうことを考えたときには、これ以上、たとえ適切な財政出動であっても、借金による財政出動でいいのか、それとも税制の構造を変えることによって、新たな財源を生み出して、そこの財源を使うことが望ましいのか、そういったことをまさに本格的に議論をする時期に来ている。できれば、それは、政府として一方的に考え方を申し上げるだけではなくて、自民党を含む野党の皆さんの中でも共通の危機感を持たれている方もかなりありますので、そういう中での議論に私はつなげていければいいなと思っております。円安のことは、一般的には、円安が輸出においてプラスになるし、輸出のかなりウエイトの高い今の日本経済では、円安が一般的に言えばプラスになるというふうに言われていることは、私もよく承知をしております。ただ、相場についてはあまり発言しないようにと財務大臣になったときも言われましたので、この程度にさせていただきます。
● 日本経済新聞の藤田です。先ほど出ましたが、米軍普天間基地の移設問題で改めてお聞きしたいことがあります。ぎくしゃくした日米関係を再構築する意味で、具体的に総理が日米関係を好転させるためにどのようなことを考えているのか。例えば、近くサミットがカナダでありますが、この前後を利用して自ら訪米したり、そういった形での日米関係好転などを考えていらっしゃるかどうか。その辺をお聞かせください。
カナダでサミットが、近く、今月の終わりごろにありますので、その場でオバマ大統領と会談ができればいいなと。まだ最終的な予定は決まっておりませんが、そう思っております。ただ、先日の電話会談では、カナダで会うことを楽しみにしているとオバマ大統領からもお話をいただいていますので、多分、その場での会談は実現できるのではないかと思っております。それより以前に訪米するということなども、いろいろ選択肢はあるわけですが、私も勿論、国会を抱えておりますし、アメリカ大統領は勿論、もっと世界のいろいろなお仕事があるわけで、今のところはサミットのときに総理大臣として初めてお目にかかってお話ができるのではないかと思っております。そういうことです。
● フリーランスの畠山と申します。菅総理の考える自由な言論についてお尋ねします。今回でフリーランスの記者が総理に質問できる会見は3回目となりますが、参加するためにはさまざまな細かい条件が課されています。また、3回連続して参加を申請し、断られたフリージャーナリストの一人は、交渉の過程で官邸報道室の調査官にこう言われたといいます。「私の権限であなたを記者会見に出席させないことができる。」このジャーナリストは、これまで警察庁キャリアの不正を追及したり、検事のスキャンダルを暴いたりしてきた人物なんですが、言わば権力側から見たら煙たい存在であると。総理は、過去の活動実績の内容や思想・信条によって、会見に出席させる、させないを決めてもいいという御判断なんでしょうか。伺えればと思います。
先ほど、この会見というのか、オープンということの質問にもありましたが、私は一般的にはできるだけオープンにするのが望ましいと思っております。ただ、何度も言いますように、オープンというのは具体的にどういう形が望ましいのかというのは、しっかりそれぞれ関係者の皆さんの意見も聞いて検討したいと思っております。例えば私などは、総理になったらいろいろ制約はあるかもしれませんが、街頭遊説などというものは多分、何百回ではきかないでしょう、何千回もやりました。それはいろんな場面がありますよ。隣に来て大きなスピーカーを鳴らして邪魔をする人もいたり、集団的に来て悪口を言う人もいたり、いろんなことがあります。だから、いろんな場面がありますので、できるだけオープンにすべきだという原則と、具体的にそれをどうオペレーションするかというのは、それはそれとして、きちんと何か必要なルールなり対応なりをすることが必要かなと思っています。
● フジテレビの和田でございます。今回の閣僚の顔ぶれを拝見しますと、参院の方が多いわけですが、それは来るべき夏の参院選、それから9月の代表選後に改造というようなことも念頭に置いてのことなのか、それとも、逆に少なくとも次の総選挙まではこのメンバーでいくぞというような御決意で決められたのか、いかがですか。
一般的に言えば、まだ鳩山政権が誕生してから9か月弱で今回の辞任に至ったわけです。ですから、すべての閣僚も9か月弱のこれまでの就任期間だったわけです。私もそれこそ最初のイカルウィットのG7などに行って、この1年間で4人目の財務大臣の菅直人ですと言ったら、各国の財務大臣が苦笑していましたけれども、つまりはあまりにも、総理はもとよりですが、大臣も短期間で替わるということは、私はそういう意味での行政の質と言っていいのか、いろんな意味で望ましいことではないと思っています。ですから、今回については、勿論自ら少し休みたいと言われたりいろんな経緯の方がありますけれども、しっかりした仕事を大体の方がやっていただいていると私も同じ内閣にいて見ておりましたので、そういう皆さんには留任をしてもらったということであります。改造云々という話も言われましたけれども、どうも皆さんが好きなのは、改造とか新しく変わることが好きなんです。同じ人がしっかりした仕事をやっていてもなかなか報道してもらえないんです。ですから、私の頭の中にそういう改造とか何とかということは全くありません。是非、しっかり今やっている大臣が何をやっているかをよく見て、どういうことが実現できたかをよく見て、その上でそういう、こうするのか、ああするのかというのを聞いていただければと思います。
● それについて私が申し上げたかったのは、次の総選挙までは変えないぞというぐらいの意気込みでいかれるのかどうかということをお伺いしたかったんです。
ですから、そのことも含めて、今、私の頭の中には改造とか何とかということはありませんし、一般的には、ある程度の期間を続けていただくことが望ましいと思っていますけれども、この間思いもかけない首相辞任もありましたので、あまりその先のことまで確定的に申し上げることは、ちょっと控えたいと思います。
● 北海道新聞の今川です。北方領土問題について伺いたいんですが、鳩山前総理は、やり残した仕事の中で北方領土問題を挙げていました。メドベージェフ・ロシア大統領と6月のサミット、あと9月のロシアの国際会議、11月のAPECに3回首脳会談をやることで約束していました。菅総理としては、このメドベージェフ大統領と鳩山前総理の約束を踏襲されるのか、北方領土問題について具体的にどのような方針で対処されるのか、お伺いしたい。
そちらのところは、まだ私自身が、今指摘をされた鳩山総理がどういう約束をメドベージェフ大統領とされているのか、あるいはその流れがどうなっているのか、必ずしも詳細に状況をまだ把握しておりません。ですから、勿論この問題は大変重要な課題であると同時に、歴史的にも非常に長い間の問題で大きな課題であるだけに、どういう形で取り組むことが適切か、まずはこれまでの経緯あるいは鳩山総理とメドベージェフ大統領の約束の中身なども十分検討した上で判断したいと思っています。
● フリーランスの岩上と申します。先ほど上杉さんの質問の中にありましたが、官房機密費の問題について、総理はお答えになっていなかったようですので、重ねて質問を申し上げます。野中元官房長官が、機密費を言論人あるいはマスメディアの人間に配って、言わば情報操作、言論操作を行ったという証言をいたしました。その後、私自身も上杉氏も取材を行い、この野中さんの発言だけでなく、はっきりと私は機密費を受け取ったと証言する人物も出ております。評論家の佐藤優さんは、かつて江田憲司さんから機密費を受け取ったと私にはっきりおっしゃいました。こうした「政治とカネ」ならぬ「報道とカネ」の問題。政治と報道とカネの問題と申しましょうか。こうした問題は大変ゆゆしき問題であろうと思います。この点について、きちんと調査をなされるか。そして、機密費の使途について、これまで使った分も、それから今後使用される分も含めて、公開されるお気持ちはあるかどうか。お考えをはっきりお述べいただきたいと思います。よろしくお願いします。
この機密費という問題は、なかなか根源的な問題も含んでいるわけです。物の本によれば、いつの時代でしたでしょうか、戦前でしたでしょうか、当時のソ連の動きを明石大佐がいろいろ調査をするときに、巨額のまさにそういう費用を使って、そういう意味での情報のオペレーションをやったということも、いろいろ歴史的には出ております。そういう意味で、確かに国民の皆さんの生活感覚の中で考えられることと、場合によっては、機密費という本質的な性格の中には、一般の生活感覚だけでは、計ることの場合によってはできない、もうちょっと異質なものもあり得ると思っております。今この問題は、官房長官の方で検討されていると思いますが、いろんな外交機密の問題も、ある意味で、ある期間を経た後にきちんと公開するということのルールも、必ずしも日本でははっきりしていないわけですけれども、この機密費の問題も、何らかのルールは、そういう意味で必要なのかなと思いますが、現在、その検討は、官房長官御自身に委ねているところです。報道の在り方については、これはあまり私の方から言うべきことというよりも、それは報道に携わる皆さん自身が考えられ、あるいはある種の自らのルールが必要であれば、自らの自主的なルールを考えられればいいのではないかと思います。私なども時折、ちょっと記事が違うではないか、一体だれから聞いたんだと言っても、それは取材元の秘匿はジャーナリストの言わば原点ですからと言われて、それはそれで1つの考え方でしょうが、政治とカネの問題についても、皆さん自身がどういうルールなり、倫理観を持って当たられるか、まずは皆さん自身が考え、あるいは必要であれば議論されることではないでしょうか。 
第174回国会における所信表明演説 / 平成22年6月11日
一 はじめに
国民の皆さま、国会議員の皆さま、菅直人です。このたび、国会の指名により、内閣総理大臣の重責を担うこととなりました。国民の皆さまの期待に応えるべく、力の限りを尽くして頑張る覚悟です。
(信頼回復による再出発)
長きにわたる閉塞状況を打ち破って欲しい、多くの方々の、この強い思いにより、昨年夏、政権交代が実現しました。しかしながら、その後、「政治と金」の問題、さらに普天間基地移設をめぐる混乱により、当初いただいた政権への期待が大きく揺らぎました。私も、前内閣の一員として、こうした状況を防げなかった責任を痛感しています。鳩山前総理は、御自身と民主党の小沢前幹事長に関する「政治と金」の問題、そして普天間基地移設問題に対する責任を率直に認め、辞任という形で自らけじめをつけられました。
前総理の勇断を受け、政権を引き継ぐ私に課された最大の責務、それは、歴史的な政権交代の原点に立ち返って、この挫折を乗り越え、国民の皆さまの信頼を回復することです。
(「草の根」からの取組)
私の政治活動は、今を遡ること三十年余り、参議院議員選挙に立候補した市川房枝先生の応援から始まりました。市民運動を母体とした選挙活動で、私は事務局長を務めました。ボランティアの青年が、ジープで全国を横断するキャラバンを組むなど、まさに草の根の選挙を展開しました。そして当選直後、市川先生は青島幸男さんと共に経団連の土光会長を訪ね、経団連による企業献金の斡旋を中止する約束を取り付けたのです。この約束は、その後骨抜きになってしまいましたが、まさに本年、経団連は企業献金への組織的関与の廃止を決めました。「一票の力が政治を変える」。当時の強烈な体験が私の政治の原点です。政治は国民の力で変えられる。この信念を胸に、与えられた責任を全うしていきます。
(身一つでの政治参加)
私は、山口県宇部市に生まれ、高校生のとき、企業の技術者だった父の転勤で東京に移りました。東京ではサラリーマンが大きな借金をしないと家を買えない。父の苦労を垣間見たことが、後に都市部の土地問題に取り組むきっかけとなりました。大学卒業後、特許事務所で働きながら、市民運動に参加しました。市川先生の選挙を支援した二年後、いわゆるロッキード選挙で初めて国政に挑戦しました。初出馬の際には、論文で、「否定論理からは何も生まれない」、「あきらめないで参加民主主義をめざす」と題して、参加型の民主主義により、国民の感覚、常識を政治に取り戻すことが必要だと訴えました。三度の落選を経て、一九八〇年に初当選しましたが、議員生活はミニ政党からのスタートでした。民主党の国会議員の仲間にも、私と同様、若くして地盤も資金もない身一つで政治の世界に飛び込んだ人達がたくさんおられます。志をもって努力すれば誰でも政治に参加できる。そういう政治を創ろうではありませんか。
(真の国民主権の実現)
私の基本的な政治理念は、国民が政治に参加する真の国民主権の実現です。その原点は、政治学者である松下圭一先生に学んだ「市民自治の思想」です。従来、我が国では、行政を官僚が仕切る「官僚内閣制」の発想が支配してきました。しかし、我が国の憲法は、国民が国会議員を選び、そして、国会の指名を受けた内閣総理大臣が内閣を組織すると定めています。松下先生が説かれるように、本来は、「国会内閣制」なのです。政治主導とは、より多数の国民に支持された政党が、内閣と一体となって国政を担っていくことを意味します。これにより、官僚主導の行政を変革しなければなりません。広く開かれた政党を介して、国民が積極的に参加し、国民の統治による国政を実現する。この目標に向け邁進いたします。
(新内閣の政策課題)
私は、新内閣の政策課題として、「戦後行政の大掃除の本格実施」、「経済・財政・社会保障の一体的建て直し」及び「責任感に立脚した外交・安全保障政策」の三つを掲げます。
二 改革の続行―戦後行政の大掃除の本格実施
(改革の続行)
第一の政策課題は、昨年の政権交代から始めた改革の続行です。鳩山前内閣は、「戦後行政の大掃除」として、それまでの政権が成し得なかった事業仕分けや国家公務員制度改革に果敢に挑みました。しかし、道半ばです。新内閣は、国民に約束した改革を続行し、貫徹させなければなりません。改革には反発や抵抗がつきものです。気を緩めれば改革は骨抜きになり、逆行しかねません。時計の針を決して戻すことなく、政治主導によって改革を推し進めます。
(無駄遣いの根絶と行政の見直し)
まず、これまで推進してきた無駄遣いの根絶を一層徹底します。前内閣の下では、昨年と今年の二回にわたって事業仕分けを実施しました。これまで国民に見えなかった予算編成の過程や独立行政法人等の政府関連法人の事業内容、これらを一つ一つ公開の場で確認し、行政の透明性を飛躍的に高めました。限られた人材・予算を有効に活用するため、この取組を続行します。
行政組織や国家公務員制度の見直しにも引き続き取り組みます。省庁の縦割りを排除し、行政の機能向上を図るとともに、国家公務員の天下り禁止などの取組も本格化させます。
行政の密室性の打破も進めます。私は、一九九六年、厚生大臣として薬害エイズ問題に力を注ぎました。当時、厚生省の事務方は、関連資料は見つからないという態度に終始しました。これに対し、私は資料調査を厳命し、その結果、資料の存在が明らかになりました。この情報公開を契機に、問題の解明や患者の方々の救済が実現しました。情報公開の重要性は、他の誰よりも強く認識しています。前内閣においては、財務大臣として、外務大臣とともに日米密約の存在を明らかにしました。情報公開法の改正を検討するなど、今後も、こうした姿勢を貫きます。
(地域主権・郵政改革の推進)
さらに、地域主権の確立を進めます。中央集権型の画一的な行政では、多様な地域に沿った政策の実現に限界があります。住民参加による行政を実現するためには、地域主権の徹底が不可欠です。「総論の段階」から「各論の段階」に進む時が来ています。地方の皆さまと膝をつきあわせ、各地の要望を踏まえ、権限や財源の移譲を丁寧に進めていきます。その上で、特区制度も活用しつつ、各行政分野で地域ごとに具体的な結論を出していきます。
郵政事業については、全国において郵便局の基本的なサービスを一体的に提供し、また、現在の経営形態を再編するため、民主党と国民新党の合意に基づき、郵政改革法案の速やかな成立を期してまいります。
三 閉塞状況の打破―経済・財政・社会保障の一体的建て直し
第二の政策課題として、国民が未来に対し希望を持てる社会を築くため、経済・財政・社会保障を一体的に建て直します。九十年代初頭のバブル崩壊から約二十年、日本経済が低迷を続けた結果、国民はかつての自信を失い、将来への漠然とした不安に萎縮しています。国民の皆さまの、閉塞状況を打ち破って欲しいという期待に応えるのが、新内閣の任務です。この建て直しは、「第三の道」とも呼ぶべき新しい設計図によるものです。
(「第三の道」による建て直し)
過去二十年間の経済政策は、私が「第一の道」、「第二の道」と呼ぶ考え方に沿って進められてきました。「第一の道」とは、「公共事業中心」の経済政策です。六十年代から七十年代にかけての高度経済成長の時代には、道路、港湾、空港などの整備が生産性の向上をもたらし、経済成長の原動力となりました。しかし、基礎的なインフラが整備された八十年代になると、この投資と経済効果の関係が崩壊し、九十年代以降は様相が全く変わりました。バブル崩壊以降に行われた巨額の公共事業の多くは、結局、有効な成果を上げませんでした。
その後の十年間は、行き過ぎた市場原理主義に基づき、供給サイドに偏った、生産性重視の経済政策が進められてきました。これが「第二の道」です。この政策は、一企業の視点から見れば、妥当とも言えます。企業では大胆なリストラを断行して業績を回復すれば、立派な経営者として賞賛されるでしょう。しかし、国全体としてみれば、この政策によって多くの人が失業する中で、国民生活はさらに厳しくなり、デフレが深刻化しました。「企業は従業員をリストラできても、国は国民をリストラすることができない」のです。生産性を向上させる支援は必要ですが、それと同時に、需要や雇用を拡大することが一層重要なのです。それを怠った結果、二年前の日比谷公園の派遣村に象徴されるように、格差の拡大が強く意識され、社会全体の不安が急速に高まったのです。
産業構造・社会構造の変化に合わない政策を遂行した結果、経済は低迷し続けました。こうした過去の失敗に学び、現在の状況に適した政策として、私たちが追求するのは「第三の道」です。これは、経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出のきっかけとし、それを成長につなげようとする政策です。現在まで続く閉塞感の主たる要因は、低迷する経済、拡大する財政赤字、そして、信頼感が低下した社会保障です。新内閣は、「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」の一体的実現を、政治の強いリーダーシップで実現していく決意です。
(「強い経済」の実現)
まず、「強い経済」の実現です。一昨年の金融危機は、外需に過度に依存していた我が国経済を直撃し、他の国以上に深刻なダメージを与えました。強い経済を実現するためには、安定した内需と外需を創造し、富が広く循環する経済構造を築く必要があります。
では、どのように需要を創り出すのか。その鍵が、「課題解決型」の国家戦略です。現在の経済社会には、新たな課題が山積しています。それぞれの課題に正面から向き合い、その処方箋を提示することにより、新たな需要と雇用の創造を目指します。この考え方に立ち、昨年来、私が責任者となって検討を進めている「新成長戦略」では、「グリーン・イノベーション」、「ライフ・イノベーション」、「アジア経済」、「観光・地域」を成長分野に掲げ、これらを支える基盤として「科学・技術」と「雇用・人材」に関する戦略を実施することとしています。
第一の「グリーン・イノベーション」には、鳩山前総理が積極的に取り組まれ、二〇二〇年における温室効果ガスの二十五パーセント削減目標を掲げた地球温暖化対策も含まれます。その他にも、生物多様性の維持や、人間に不可欠な「水」に係わる産業など、期待される分野は数多く存在し、その向こうには巨大な需要が広がっています。運輸部門や生活関連部門、原子力産業を含むエネルギー部門、さらには、まちづくりの分野で新技術の開発や新事業の展開が期待されます。
第二は、「ライフ・イノベーション」による健康大国の実現です。子育ての安心や老後の健康を願う思いに終着点はありません。こうした願いを叶える処方箋を示すことが、新たな価値を産み、雇用を創り出します。
第三は、「アジア経済戦略」です。急速な成長を続けるアジアの多くの地域では、都市化や工業化、それに伴う環境問題の発生が課題となっています。少子化・高齢化も懸念されています。また、日本では充足されつつある鉄道、道路、電力、水道などは、今後整備が必要な社会資本です。世界に先駆けて、これらの課題を解決するモデルを提示することで、アジア市場の新たな需要に応えることができます。こうした需要を捉えるため、海外との人的交流の強化、ハブ機能を強化するインフラ整備や規制改革を進めます。
第四の「観光立国・地域活性化戦略」のうち、観光は、文化遺産や自然環境を活かして振興することにより、地域活性化の切り札になります。既に、中国からの観光客の拡大に向け、ビザの発行条件の大幅緩和などが鳩山前内閣の下で始められました。
農山漁村が生産、加工、流通までを一体的に担い、付加価値を創造することができれば、そこに雇用が生まれ、子どもを産み育てる健全な地域社会が育まれます。農林水産業を地域の中核産業として発展させることにより、食料自給率の向上も期待されます。特に、低炭素社会で新たな役割も期待される林業は、戦後植林された樹木が生長しており、路網整備等の支援により林業再生を期待できる好機にあります。戸別所得補償制度の導入を始めとする農林水産行政は、こうした観点に立って進めます。また、今この瞬間も、宮崎県の畜産農家の方々は、我が子のように大切に育てた牛や豚を大きな不安をもって世話しておられます。地元では口蹄疫の拡大を止めようと懸命な作業が続けられています。政府は、迅速な初動対応や感染拡大の阻止に総力を挙げるとともに、影響を受けた方々の生活支援・経営再建対策に万全を期します。
さらに、地域の活性化に向け、真に必要な社会資本整備については、民間の知恵と資金を活用して戦略的に進めるとともに、意欲あふれる中小企業を応援します。
これらの成長分野を支えるため、第五の「科学・技術立国戦略」の下で、我が国が培ってきた科学・技術力を増強します。効果的・効率的な技術開発を促進するための規制改革や支援体制の見直しを進めます。我が国の未来を担う若者が夢を抱いて科学の道を選べるような教育環境を整備するとともに、世界中から優れた研究者を惹きつける研究環境の整備を進めます。イノベーション促進の基盤となる知的財産や情報通信技術の利活用も促進します。
第六の「雇用・人材戦略」により、成長分野を担う人材の育成を推進します。少子高齢化に伴う労働人口の減少という制約を跳ね返すため、若者や女性、高齢者の就業率向上を目指します。さらに、非正規労働者の正規雇用化を含めた雇用の安定確保、産業構造の変化に対応した成長分野を中心とする実践的な能力育成の推進、ディーセント・ワーク、すなわち、人間らしい働きがいのある仕事の実現を目指します。女性の能力を発揮する機会を増やす環境を抜本的に整備し、「男女共同参画社会」の実現を推進します。
人材は成長の原動力です。教育、スポーツ、文化など様々な分野で、国民一人ひとりの能力を高めることにより、厚みのある人材層を形成します。
こうした具体策を盛り込んだ「新成長戦略」の最終的とりまとめを今月中に公表し、官民を挙げて「強い経済」の実現を図り、二〇二〇年度までの年平均で、名目三パーセント、実質二パーセントを上回る経済成長を目指します。また、当面はデフレからの脱却を喫緊の課題と位置づけ、日本銀行と一体となって、強力かつ総合的な政策努力を行います。
(財政健全化による「強い財政」の実現)
次に、「強い財政」の実現です。一般に民間消費が低迷する経済状況の下では、国債発行を通じて貯蓄を吸い上げ、財政出動により需要を補う経済政策に一定の合理性はあります。しかしながら、我が国では、九十年代に集中した巨額の公共事業や減税、高齢化の急速な進展による社会保障費の急増などにより、財政は先進国で最悪という厳しい状況に陥っています。もはや、国債発行に過度に依存する財政は持続困難です。ギリシャに端を発したユーロ圏の混乱に見られるように、公的債務の増加を放置し、国債市場における信認が失われれば、財政破たんに陥るおそれがあります。
我が国の債務残高は巨額であり、その解消を一朝一夕に行うことは困難です。だからこそ、財政健全化に向けた抜本的な改革に今から着手する必要があります。具体的には、まず、無駄遣いの根絶を強力に進めます。次に、成長戦略を着実に推進します。予算編成に当たっては、経済成長や雇用創出への寄与度も基準とした優先順位付けを行います。これにより、目標の経済成長を実現し、税収増を通じた財政の健全化につなげます。
我が国財政の危機的状況を改善するためには、こうした無駄遣いの根絶と経済成長を実現する予算編成に加え、税制の抜本改革に着手することが不可避です。現状の新規国債の発行水準を継続すれば、数年のうちに債務残高はGDP比二百パーセントを超えることとなります。そのような事態を避けるため、将来の税制の全体像を早急に描く必要があります。
以上の観点を踏まえ、前内閣の下では、私も参画し、経済の将来展望を見据えつつ「中期財政フレーム」と中長期的な財政規律を明らかにする「財政運営戦略」を検討してきました。これを今月中に策定します。今国会、自民党から、「財政健全化責任法案」が国会に提出されました。
そこで提案があります。我が国の将来を左右する、この重大な課題について、与党・野党の壁を越えた国民的な議論が必要ではないでしょうか。財政健全化の緊要性を認める超党派の議員により、「財政健全化検討会議」を創り、建設的な議論を共に進めようではありませんか。
(「強い社会保障」の実現)
以上述べたような「強い経済」、「強い財政」と同時に、「強い社会保障」の実現を目指します。
これまでの経済論議では、社会保障は、少子高齢化を背景に負担面ばかりが強調され、経済成長の足を引っ張るものと見なされる傾向がありました。私は、そのような立場に立ちません。医療・介護や年金、子育て支援などの社会保障に不安や不信を抱いていては、国民は、安心してお金を消費に回すことができません。一方、社会保障には雇用創出を通じて成長をもたらす分野が数多く含まれています。他国の経験は、社会保障の充実が雇用創出を通じ、同時に成長をもたらすことが可能だと教えています。
経済、財政、社会保障を相互に対立するものと捉える考え方は、百八十度転換する必要があります。それぞれが互いに好影響を与えうる「WIN・WIN」の関係にあると認識すべきです。この認識に基づき、新成長戦略において「ライフ・イノベーション」を重点分野に位置づけ、成長戦略の視点からも、「強い社会保障」を目指します。そして、財政健全化の取組は、財政の機能を通じて、社会保障の安定的な提供を確保し、国民に安心を約束することにより、持続的な成長を導くものなのです。
こうした「強い社会保障」を実現し「少子高齢社会を克服する日本モデル」を提示するため、各制度の建て直しを進めます。年金制度については、記録問題に全力を尽くすとともに、現在の社会に適合した制度を一刻も早く構築することが必要です。党派を超えた国民的議論を始めるため、新たな年金制度に関する基本原則を提示します。医療制度についても建て直しを進め、医療の安心の確保に努めます。介護についても、安心して利用できるサービスの確立に努めます。子育て支援の充実は待ったなしの課題です。子ども手当に加え、待機児童の解消や幼保一体化による子育てサービスの充実に、政府を挙げて取り組みます。
さらに、社会保障分野などのサービス向上を図り、真に手を差し伸べるべき方々に重点的に社会保障を提供する観点からも、番号制度などの基盤整備が求められています。このため、社会保障や税の番号制度の導入に向け、国民の皆さまに具体的な選択肢を近く提示します。
(「一人ひとりを包摂する社会」の実現)
こうした施策に加え、今、私が重視しているのは、「孤立化」という新たな社会リスクに対する取組です。私は一昨年から、「反・貧困ネットワーク」事務局長の湯浅誠さんと一緒に、派遣村などの現場で貧困・困窮状態にある方々を支援してきました。その活動の中で、「ホームレス」には二つの意味があることを再認識しました。一つの意味は、物理的に住む家がないという「ハウスレス」ということですが、もう一つの、より重要な意味は、ある人が様々な苦難に遭遇したときに、「傍で支援してくれる家族がいない」ということです。人は誰しも独りでは生きていけません。悩み、挫け、倒れたときに、寄り添ってくれる人がいるからこそ、再び立ち上がれるのです。我が国では、かつて、家族や地域社会、そして企業による支えが、そうした機能を担ってきました。それが急速に失われる中で、社会的排除や格差が増大しています。ネットカフェに寝泊まりする若者や、地域との関係が断ち切られた一人暮らしの高齢者など、老若男女を問わず、「孤立化」する人々が急増しています。従来のしがらみからの解放は、強者にとっては自由を拡大するものかも知れませんが、弱い立場の人にとっては、孤独死で大切な人生を終えてしまうおそれがあるのです。
私は、湯浅さんたちが提唱する「パーソナル・サポート」という考え方に深く共感しています。様々な要因で困窮している方々に対し、専門家であるパーソナル・サポーターが随時相談に応じ、制度や仕組みの「縦割り」を超え、必要な支援を個別的・継続的に提供するものです。役所の窓口を物理的に一カ所に集めるワンストップ・サービスは、今後も行う必要がありますが、時間や場所などに限界があります。「寄添い・伴走型支援」であるパーソナル・サポートは、「人によるワンストップ・サービス」としてこの限界を乗り越えることができます。こうした取組により、雇用に加え、障がい者や高齢者などの福祉、人権擁護、さらに年間三万人を超える自殺対策の分野で、様々な関係機関や社会資源を結びつけ、支え合いのネットワークから誰一人として排除されることのない社会、すなわち、「一人ひとりを包摂する社会」の実現を目指します。鳩山前総理が、最も力を入れられた「新しい公共」の取組も、こうした活動の可能性を支援するものです。公共的な活動を行う機能は、従来の行政機関、公務員だけが担う訳ではありません。地域の住民が、教育や子育て、まちづくり、防犯・防災、医療・福祉、消費者保護などに共助の精神で参加する活動を応援します。
四 責任感に立脚した外交・安全保障政策
(国民の責任感に立脚した外交)
第三の政策課題は、責任感に立脚した外交・安全保障政策です。
私は若い頃、イデオロギーではなく、現実主義をベースに国際政治を論じ、「平和の代償」という名著を著わされた永井陽之助先生を中心に、勉強会を重ねました。我が国が、憲法の前文にあるように、「国際社会において、名誉ある地位を占め」るための外交は、どうあるべきか。永井先生との議論を通じ、相手国に受動的に対応するだけでは外交は築かれないと学びました。この国をどういう国にしたいのか、時には自国のために代償を払う覚悟ができるか。国民一人ひとりがこうした責任を自覚し、それを背景に行われるのが外交であると考えます。
今日、国際社会は地殻変動ともいうべき大きな変化に直面しています。その変化は、経済のみならず、外交や軍事の面にも及んでいます。こうした状況の中、世界平和という理想を求めつつ、「現実主義」を基調とした外交を推進すべきと考えます
(外交・安全保障政策の考え方)
我が国は、太平洋に面する海洋国家であると同時に、アジアの国でもあります。この二面性を踏まえた上で、我が国の外交を展開します。具体的には、日米同盟を外交の基軸とし、同時にアジア諸国との連携を強化します。
日米同盟は、日本の防衛のみならず、アジア・太平洋の安定と繁栄を支える国際的な共有財産と言えます。今後も同盟関係を着実に深化させます。
アジアを中心とする近隣諸国とは、政治・経済・文化等の様々な面で関係を強化し、将来的には東アジア共同体を構想していきます。中国とは戦略的互恵関係を深めます。韓国とは未来志向のパートナーシップを構築します。日露関係については、政治と経済を車の両輪として進めつつ、最大の懸案である北方領土問題を解決して平和条約を締結すべく、精力的に取り組みます。ASEAN諸国やインド等との連携は、これを、さらに充実させます。今年開催されるAPECにおいては、議長として積極的な役割を果たします。EPA・広域経済連携については、国内制度改革と一体的に推進していきます。
我が国は、地球規模の課題にも積極的な役割を果たしていきます。気候変動問題については、COP16に向けて、全ての主要国による、公平かつ実効的な国際的枠組みを構築するべく、米国、EU、国連などとも連携しながら、国際交渉を主導します。この秋、愛知県名古屋市で開催されるCOP10では、生物の多様性を守る国際的な取組を前進させます。「核のない世界」に向け、我が国が先頭に立ってリーダーシップを発揮します。アフガニスタンの復興支援、TICADWの公約を踏まえたアフリカ支援を継続するほか、ミレニアム開発目標の達成に向け最大限努力します。
北朝鮮に
ついては、韓国哨戒艦沈没事件は許し難いものであり、韓国を全面的に支持しつつ、国際社会としてしっかりと対処する必要があります。拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的解決を図り、不幸な過去を清算し、国交正常化を追求します。拉致問題については、国の責任において、すべての拉致被害者の一刻も早い帰国に向けて全力を尽くします。国連安保理決議の違反を重ねるイランに対し、我が国は平和的・外交的解決を求めていきます。
国際的な安全保障環境に対応する観点から、防衛力の在り方に見直しを加え、防衛大綱の見直しと中期防衛力の整備計画を年内に発表します。
(普天間基地移設問題)
沖縄には米軍基地が集中し、沖縄の方々に大きな負担を引き受けていただいています。普天間基地の移設・返還と一部海兵隊のグアム移転は、何としても実現しなければなりません。
普天間基地移設問題では先月末の日米合意を踏まえつつ、同時に閣議決定でも強調されたように、沖縄の負担軽減に尽力する覚悟です。
沖縄は、独自の文化を育んできた、我が国が誇るべき地域です。その沖縄が、先の大戦で最大規模の地上戦を経験し、多くの犠牲を強いられることとなりました。今月二十三日、沖縄全戦没者追悼式が行われます。この式典に参加し、沖縄を襲った悲惨な過去に想いを致すとともに、長年の過重な負担に対する感謝の念を深めることから始めたいと思います。
五 むすび
これまで述べてきたように、私の内閣が果たすべき使命は、二十年近く続く閉塞状況を打ち破り、元気な日本を復活させることです。その道筋は、この所信表明演説で申し述べました。後は実行できるかどうかにかかっています。
これまで、日本において国家レベルの目標を掲げた改革が進まなかったのは、政治的リーダーシップの欠如に最大の原因があります。つまり、個々の団体や個別地域の利益を代表する政治はあっても、国全体の将来を考え、改革を進める大きな政治的リーダーシップが欠如していたのです。こうしたリーダーシップは、個々の政治家や政党だけで生み出されるものではありません。国民の皆さまにビジョンを示し、そして、国民の皆さまが「よし、やってみろ」と私を信頼してくださるかどうかで、リーダーシップを持つことができるかどうかが決まります。
私は、本日の演説を皮切りに、順次ビジョンを提案していきます。私の提案するビジョンを御理解いただき、是非とも私を信頼していただきたいと思います。リーダーシップを持った内閣総理大臣になれるよう、国民の皆さまの御支援を心からお願いし、私の所信表明とさせていただきます。 
記者会見 / 平成22年6月21日
新内閣のスタートと通常国会の閉幕に当たって、国民の皆さんにこういう形で私の考え方をお伝えする機会が得られたことを、大変うれしく思っております。6月8日に菅内閣が正式にスタートし、6月16日に通常国会が閉幕いたしました。鳩山前総理が、政治とカネの問題、そして普天間の問題の責任を取る形で辞任をされたことは御承知のとおりであります。
私も鳩山内閣で副総理として、また財務大臣として総理を支える立場にあった者でありますので、支え切れなかったことについては私自身強く責任を感じているところであります。
と同時に、鳩山前総理は、政権交代の原点に戻って再スタートしてほしい。そういう思いをいろいろな形で伝えられたわけでありまして、その鳩山前総理の思いを大切に受け止めて、この新しい政権で国民の皆さんの信頼を回復し、そしてやるべきことをしっかりとやっていきたいと思っております。
この内閣としての抱負は、既に所信表明演説、更には代表質問への答弁等で申し上げたところでありますが、改めて基本的なことについて申し上げたいと思います。私は、この20年間、特にバブル崩壊からのこの間、日本は経済的にも社会的にも大きな行き詰まりの中にあった、閉塞状態にあったと思っております。その閉塞状態の日本の閉塞を打ち破って、元気な日本を復活させる。これが私の内閣のやらなければならない第一の方向性、取組みだと考えております。
そのために、具体的には強い経済、強い財政、強い社会保障、これを一体として強い政治的なリーダーシップの下に実現していく、このことを所信表明でも申し上げたところであります。
簡単にこのことをもう一度申し上げてみますと、強い経済については、閉幕後の6月18日の閣議において、新成長戦略を閣議決定をいたしました。これは、昨年12月30日に、基本方針というものを国民の皆さんにお示しをしてから、約半年の間、各省庁あるいは各方面の意見を十分に聞きながらとりまとめたものであります。
最も大きな特徴は、課題解決型の政策となっているわけであります。環境問題に対しては、グリーンイノベーション、そして医療・介護、あるいは子育てといった問題に対してライフイノベーション、アジアの経済の成長に対して、そうした成長を日本もともにできるような関係を構築すること。更には、地域や観光という形で、新しい需要をつくり出していくこと。そしてこれを支える科学技術と人材・雇用、こういう形で構成されておりまして、2020年度までにこれからの10年間の平均で、名目成長率を3%、そして実質成長率を2%、これを上回る成長を実現する。そして失業率は3%台まで引き下げていく、こういう方向性を示しているところであります。是非とも、この内容については、もう皆さんにかなり詳しいものをお示ししておりますので、国民の皆さんも関心のある方は、ホームページなどで是非ごらんをいただきたいと、このように思っております。
そして、こうした経済成長を支えるためには、強い財政が必要であります。日本の現状は、多くの方が御承知のように、債務残高がGDP比で180%を超えているわけであります。これ以上借金を増やすことが本当に可能なのか、あのギリシャの例を引くまでもありませんが、財政が破綻したときには、多くの人の生活が破綻し、多くの社会保障が、多くの面で破綻するわけでありまして、そういった意味では、強い財政は成長にとっても社会保障にとってもなくてはならない大きな要素であることは、言うまでもありません。
そこで、この強い財政をつくり出すために、まず、第一にやらなければいけないことは、まさに無駄の削減ということであります。この間、こうした無駄の削減について手を緩めているのかというような御指摘も一部ありましたけれども、決してそうではありません。その証拠といっては恐縮ですが、その証拠には、このための事業仕分けに最も強力な閣僚を配置した。つまり、蓮舫さんにこの責任者になっていただいたこと、更には公務員人件費の削減には、玄葉政調会長を担当大臣となっていただいたこと、また、国会議員の衆議院80名、参議院40名の削減などは、これは政党間の議論が中心になりますので、枝野幹事長に特にこの問題を取り組んでいただく、こういう形で、徹底した無駄の削減は、まさにこれからが本番だと、そういった意気込みで取り組んでまいらなければならない。
そして、強い財政をつくるために、経済の成長が必要であることは、これもまた言うまでもありません。これは、先ほど申し上げたので重複をしますので、具体的なことは、重複を避けるために省きますが、成長戦略を確実に実行していく。
そして、それに加えて、税制の改革が必要だと、このように考えております。既に皆様にお配りをしたマニフェストの中で、この財政再建のための基本的な方向性をかなり具体的に申し上げているところであります。
まず、1つの財政出動の原則として、いわゆるペイ・アズ・ユー・ゴー、新たな政策の財源は、既存予算の削減または収入増によって捻出することを原則とすると。
更には、2011年の11年度の国債発行額を2010年度発行額を上回らないように全力を挙げる。更には、事業仕分けを活用した無駄遣いのさらなる削減。そして、早期に結論を得ることを目指して、消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始をしたいということもマニフェストに述べたところであります。
更に中期的には、2015年までの基礎的財政収支、いわゆるプライマリーバランスの赤字を対GDP比を2010年度の2分の1以下にする。そして、2020年度までには、このプライマリーバランスの黒字化を達成する。
更に2021年度以降においては、長期債務残高の対GDP比を安定的に低下させる。こういった方向性をマニフェストできちんと打ち出したところであります。
消費税については、参議院の選挙が終わった中で、本格的な議論をスタートさせたいと思っております。その折に、既に申し上げましたように、自民党から提案されている消費税率10%ということも一つの大きな参考にしていきたい。また、消費税の持つ逆進性を改めるために、複数税率あるいは税の還付といった方式についても併せてしっかりと議論をしていきたい。このように考えております。
いよいよ、この国会終了を経て、近くカナダにおいてG8、G20の会合があり、私も初めてそれに参加させていただきます。これまで財務大臣としてG7やG20の会合には何度か出席をさせていただきました。その中で、やはり最大の課題となると思われるのは財政再建。ヨーロッパを中心にした今の状況をどのようにして打開するか。これが世界経済に大きな影響を与えていますので、このことが大きな課題になろうと思っております。
私は、今日もこの場でも申し上げた、日本における考え方、つまりは成長と財政再建を両立させるにはこういうやり方があるし、我が国日本はその道を取ろうとしているんだ。このことをしっかりと表明し、他の国の参考にしていただければありがたい。このように思っております。
こうした全体会議に加えて、個別会談も極めて重要だと思っております。既に私が就任して以来、オバマ米大統領、温家宝中国首相始め、各国の首脳と電話での会談は行ってまいりました。しかし、直接お会いする会談は、このカナダでのサミットが初めてということになります。
まず、オバマ大統領とは、電話会談の中でも確認いたしました、日米同盟が日本外交の基軸であるということを改めて確認するとともに、もっと大きな観点から、この日本とアメリカの関係について意見交換をし、個人的にも信頼関係が高められればと思っております。
私は、日本は太平洋、つまり海洋国家であると同時にアジアに属する国であり、また、アメリカも太平洋を大変重視し、アジアを重視しておられます。そういった意味で、アジアと太平洋地域、ひいては世界の平和と安全にともに取り組んでいく。こういう姿勢を持って、日米の間における信頼関係をしっかりとしたものにできるよう、この会談がそういった会談になればありがたい。このように思っているところであります。
胡錦濤主席とは、私が総理になる前にも何度かお会いしたことがありますが、戦略的互恵関係を大事にするというこの原則も改めて確認し合いたいと思っております。
また、ロシアのメドヴェージェフ大統領とは、私自身、初めてお目にかかることになります。鳩山前総理が非常に力を入れられた日露の多くの課題、最も難しいのは勿論、領土問題でありますけれども、私の場合はまだ初めてお目にかかるわけでありますから、まずは個人的な信頼関係をしっかりしたものにする第一歩とできればと、このように考えております。
こういった形で、この新しい政権にとっても、そして、この日本にとっても、こうした国々との関係性をしっかりとしたものにする第一歩として、このG8、G20に臨んでいきたい。このことを申し上げて、私からの冒頭の発言とさせていただきます。
【質疑応答】
● 毎日新聞の中村と申します。先ほどサミットについて言及がありましたけれども、日米首脳会談についてお伺いします。前鳩山政権は米軍普天間移設問題をめぐって、かなり日米関係がぎくしゃくしましたけれども、この移設問題について、今回の会談でどのようなメッセージをお伝えされようとしているのか、お伺いします。
まず、この間も国会の答弁を含め、あるいは所信表明を含めて申し上げておりますように、鳩山総理の段階で結ばれた日米合意というものは、しっかりと踏まえて対応したい。同時に閣議決定をいたしました沖縄の負担軽減ということにも、これは政府として取り組むと同時に、場合によってはアメリカ政府にも協力をいただきたい。こういう基本的なスタンス、そういう立場で臨んでまいりたいと思っております。
● TBSの緒方です。総理は先ほど冒頭発言でも税制改革についてお触れになりましたけれども、次の衆院選後の消費税増税では、税率に関して、自民党が掲げた10%を一つの参考にするというふうにおっしゃいました。これは党の公約という認識でよろしいのでしょうか。また、この総理発言をめぐって、民主党内から参院選への影響を懸念する声が出ておりますほか、国民新党の亀井代表が消費税増税の方針が正式に決まれば、連立離脱の事態もあるとしています。党内や国民新党の理解をどのように得ていくお考えでしょうか。
まず私が申し上げたのは、早期にこの問題について、超党派で議論を始めたい。その場合に参考にすべきこととして、自民党が提案されている10%というものを一つの参考にしたい。こう申し上げたわけであります。そういった意味で、そのこと自体は公約と受け止めていただいて結構ですが、それはあくまでこのマニフェストに申し上げたように、こういう方向での議論を始めたい。そのことについて、その努力は当然のこととして、参議院の選挙後にはやってまいります。また同時に、では、それまで何もしないでいるのかということになれば、先だっての記者会見でも申し上げましたように、2010年度内には、この問題についての一つの考え方を民主党としてもまとめていきたい。ですから、この選挙が終わったら、すぐに消費税を引き上げるような、そういう間違ったメッセージがもし国民の皆さんに伝わっているとすれば、それは全く間違いでありまして、まさに参議院選挙が終わった段階から、この問題を本格的な形で議論をスタートさせたい。それを公約という言い方をされるなら、まさに公約とおとらえいただいても結構であります。また、国民新党の中でいろいろな意見が出ていることは聞いておりますけれども、選挙のマニフェストになると、それぞれの党がそれぞれの独自性をこれまでも出してきたわけでありまして、そういう点では今回の問題も、例えば夫婦別姓なども国民新党は反対だということを明確にしておられますので、それは選挙における主張が異なるということと政権離脱ということは、私は若干の違いがあるのかなと思っております。
● 朝日新聞の西山と申します。よろしくお願いします。今の質問に関連するんですが、税という政治の最も根本的な問題で国民新党との意見の食い違いが表面化しています。であれば、参院選後に消費税率の引き上げに賛意を示すような政党グループ、そういったものと新たな連立あるいは協力関係を構築するという意思はおありなのかどうか。今回の参院選で、総理は財政問題を今の冒頭の発言でも強調されておりましたが、参院選の最大の争点は財政問題のスタンスだとお考えでしょうか。
まず、第1問目は、もう先ほど申し上げたことでありますが、今から超党派的な議論を呼びかけたいと思っておりまして、皆さんに賛同をいただけるのか、あるいはいただけないのか、すべては参議院選挙の後からスタートするわけでありますから、今の段階でその先の先のようなことを何か聞かれても、それにお答えすることは余り適切ではないと思っております。財政問題を最大の争点にするのかと言われましたが、私が申し上げているのは、強い経済と強い財政と強い社会保障を一体的にやらなければならないんだということを最も強く申し上げているわけです。ですから、何か財政だけで再建すればいいとかということは考えていません。例えば消費税を上げて借金返しに充てる、これはデフレ政策になりますから、そうではなくて成長も実現し、社会保障もより強いものにし、そして財政も健全化していく。この3つの目標を一体的に実行するというのがまさに元気な日本を復活する大きな道筋だと思っておりますから、この3つのことを一体的に推進するというのが、最大の私たちが主張するテーマというか公約であります。
● フリーランスの江川紹子と申します。先ほど政権交代の原点に戻ってというお話がありましたけれども、前回の衆議院選挙のマニフェストでは、冤罪を防止するということで取り調べ過程の可視化がきちっと明記をされていました。ところが、参議院選挙のマニフェストではそれが消えています。これは消えたのはなぜかということと、菅政権でこの問題についてどういうふうに取り組んでいくのかというところを教えてください。
マニフェストについて、今回、昨年のマニフェストの中で継続して取り組むべきものは継続して取り組む形で申し上げ、また、修正するべきものは表現を含めて修正をした形で提示をさせていただいております。個々の課題すべてを私もチェックをしておりませんが、特に変わっていないものについてすべて載せているわけではないと承知をしておりまして、必ずしも考え方が変わったということではありません。
● 産経新聞の船津といいます。先ほどから話になっている消費税の議論、我々からすると突然消費税という言葉が出てきたような感じがするんですけれども、そもそも総理、所信表明演説のときには消費税ということは言っておられなくて、国会を閉じた後のマニフェストの発表でいきなり消費税という言葉を出されて、国会論戦を避けたようなタイミングでの方針表明のように思えるんですけれども、この点いかがでしょう。
まず、昨年の12月の税制大綱の中に、当時、税制調査会会長は藤井財務大臣でありましたが、その中にも消費税を検討するということは入っております。その後、私が財務大臣になり、税制調査会会長になった中では、特に所得税、法人税、消費税についてもしっかり議論してほしいということで専門家の皆さんを中心に議論を進めていただいてまいりました。そして、このマニフェストについては、自民党が出された時期とそう大きく違わないと思いますが、ぎりぎりの党内調整をする中で、先ほど申し上げたような形の表現をしたわけでありまして、決して消費税ということが突然に出てきたとは、この経緯を踏まえても思っておりません。まさにマニフェストに沿った中で、その扱いについて私から申し上げたということであります。
● フィナンシャルタイムズのミュア・ディッキーと申します。総理は、選挙のすぐ後、消費税が上がるということはないですが、一番早いのはいつごろ上がると思いますか。それと、世論調査には結構消費税が上がることに反対の有権者がいると見えますが、そういう反対の有権者のことは、どれぐらい心配でしょうか。よろしくお願いします。
これは、玄葉政調会長もテレビ討論などで言っておられますように、勿論超党派での協議というものがどうなるかということ。更には、逆進性を緩和するためには、複数税率を入れようと思えばインボイスというものの準備が必要になります。還付という形を取ろうと思えば、やはり番号の導入が必要になります。番号などについても、既に検討は開始しておりますけれども、それを最終的に設計し、実現するまでには、やはり2年とか3年という時間が必要に一般的にはなりますので、それを考えれば、よほど早くても、どうなんでしょう、余り私が日程を区切るのは好ましくないかと思いますが、少なくともこれから2年、3年あるいはもう少しかかるのではないかと思っております。
● 中国新聞の荒木と申します。地域主権改革についてお伺いします。鳩山前総理は、鳩山内閣の一丁目一番地と地域主権改革を位置づけて、事あるごとに強調してきましたが、菅総理については関心が薄いのではないかという見方も一部にあります。菅内閣にとって、地域主権は何丁目何番地でしょうか。国の財源、権限を地方に移すことには、各省庁の強い抵抗があると思いますが、菅総理はどのようにして実現していくお考えでしょうか。よろしくお願いします。
基本的には、鳩山内閣として取り組んできたこの地域主権の実現の方向性、その取組みは、全く変わらない重要性で取り組んでいきたいと思っております。この問題は、いろんな表現がありますが、私がよく表現していたのは、明治維新は大変分権的な構造であった幕藩体制から、中央集権的な明治政府をつくり上げて、しかし当時はそうせざるを得なかった外的状況があったわけですが、今日の日本はかなり成熟した国家でありますから、ある意味では幕藩体制というか、藩に多くのものを移すような形で地方主権を進めるべきだというのは、私自身の持論でもあるところであります。と同時に、議論していくと、具体的な問題になれば、例えば保育所一つにしても、それぞれの自治体にお願いをしたときに、いわゆるナショナルミニマムがしっかり実現できるのかといった心配が、またいろんなところから出てくる、そういう場面も私もこの間で幾つか見ております。そういった意味で、基本的な取組みは変えるつもりはありません。その中で、今、申し上げたような問題も含めて、大いに議論を進めていきたい。たしか予定では、明日の閣議で一定の中間的な方向性を出すことになるのではないかと伺っております。
● フジテレビの松山です。普天間の移設問題についてお伺いしますが、先ほど総理はオバマ大統領との会談で、日米合意をしっかりと踏まえていくということを伝えるとおっしゃいましたけれども、日米合意の中には共同声明の中で、8月末までに辺野古周辺の移設について、位置や工法などについて決定するとありますけれども、ここの部分をどれくらい厳格に8月末という期限を守るお考えなのでしょうか。現在、沖縄県側は、これに対して反対の姿勢を示していますけれども、多少沖縄県の反対があったとしても、期限を優先でしっかりと取り組むというお考えなのでしょうか。
私は、先日、2日後に沖縄に全戦没者追悼式典にお邪魔をする、その前に仲井眞知事がこの官邸においでいただいて、意見交換と言いましょうか、少しお話をする機会がありました。そういった形で、オバマ大統領とは電話会談ではありますけれども、ある意味では、日米合意そのものはしっかりそれを踏まえて守っていくという姿勢は崩しませんが、その前提の中で、特に沖縄の皆さんとの話し合いを、これから私としては本格的に始めなければならない、そのスタートが先日の仲井眞知事との会談や23日の沖縄訪問だと思っております。合意の中で、8月末までに専門家における結論というか、議論を終了するといった趣旨のことがあることはよくわかっております。ただ、何かここで決めたら、後は問答無用とか、更に2プラス2の日程も一応出ておりますが、ここで決めたら問答無用と、そういう意味合いにするということは考えておりません。例えば家を建てようと、こういう設計図もある、ああいう設計図もあると、しかし、その設計がたとえ固まったとしても、本当にどういう形で建てられるのかというのは、勿論、そこに今、住んでおられる人やいろんな人の了解も要るわけでありますから、そういう意味では、日米合意は合意としてしっかり踏まえつつ、その進め方については、まさにこれから米側とも、そして、沖縄の皆さんともしっかり話し合っていきたい。多少追加的に言えば、この普天間移転の問題以外にも、例えば嘉手納以南の基地を返還するとか、あるいは海兵隊の一部をグアムに移転するとか、そういうことも、これまでのいろんな話し合いの中で、ある部分1つの合意があったり、あるいはそういう検討が進んでいるわけでありますから、私としては、この普天間の移設問題は、非常に難しい課題であることを十分に認識しながら慎重に進めていきますけれども、同時に、それと並行して沖縄の負担軽減になる問題は、並行して進めていきたいと、このように考えております。
● ビデオニュースの神保です。よろしくお願いします。マニフェストについてなんですけれども、菅総理おっしゃっているような経済成長や財政再建というのは、恐らくどんな政権が今できたとしても優先的な課題なんだと思います。そこで伺いたいんですが、今回のマニフェストは、今の質問にもありましたように、取調べの可視化も消えていますし、ネット戦略という文言も消えています。また、ワーク・ライフ・バランスという言葉も消えてしいますが、このマニフェストの中に、菅政権ならではの、菅カラーというものを、我々はどの辺に見出したらいいでしょうか。総理が最も思い入れが強い部分というのをお教えいただければと思います。
先ほども申し上げたように、今回のマニフェストの中に書き込まれていなかったから、全部それを政策として外したということではないということは、先ほど申し上げたとおりです。私が、今回のマニフェストで、特に申し上げたかったことは、これは一貫して言っておりますが、去年の政権交代というのは、どういう国民的な皆さんの意思が、そうした力を生んだのかと、私なりに考えてきました。勿論、マニフェストも一つの大きな要素だったと思います。しかし、私は、もっとその背景には、バブル崩壊以降、20年間にわたる日本の経済社会の閉塞状態、例えば自殺者の数が3万人を超えて減ってこないとか、私は団塊の世代ですから、大体就職したら、最初は3万5千円の初任給がだんだん上がっていくのが普通だったわけですが、今の若い皆さんは、必ずしも上がってこないどころか、非正規の場合は、突然首を切られると、そういうことを含めて何かこの日本社会がうまくいっていない、行き詰っている、こういう思いを多くの国民の皆さんが持たれた。それが、ある時点では小泉政権を誕生させるエネルギーにもなったわけですけれども、結果として小泉政権も、その20年にわたる閉塞状態を大きく打開することができなかった。そのエネルギーが、昨年の秋の選挙では民主党政権を誕生させた。このように私は理解しているわけです。その国民の声に応えることが私の政権の最大の仕事だ。そこで、まさにこの表紙に書きましたように「元気な日本を復活させる」。元気な日本を復活させるために何をすべきか。まずは経済と財政と社会保障。これを強い経済、強い財政、強い社会保障を強い政治的なリーダーシップで実行していく。これがまさにこのマニフェストで最も国民の皆さんに申し上げ、また、お約束する課題であります。
● 読売新聞の五十嵐です。今、総理は元気な日本を復活させるというふうにおっしゃいましたけれども、例えば消費税を10%上げても、総理御自身が御指摘されたように、社会保障の穴埋めにしかならないで、成長戦略を進めるのはなかなか難しいのではないかという指摘があります。総理御自身としては、最終的に税率としては何%ぐらいまでを確保した方がより強くできるとお考えでしょうか。また、今度G20で財政再建と成長の両立を訴えるということですけれども、消費税上げについては国際公約として方向性をしっかり打ち出すお考えはおありでしょうか。
消費税の議論の中で、私もこの場でも申し上げたんですが、その前提になっている現実というものを是非、国民の皆さんにも御理解をいただきたいと思うんです。決して私は増税がいい、消費税を引き上げることがいいと言っているのではないんです。そうではなくて、今は税金ではなく、赤字国債でもって多くの社会保障に関わる費用が賄われている。その結果、GDP比180%を超える、いわゆる債務残高が累積しているわけです。この状態を同じように、毎年赤字国債、一部建設国債を含めて発行していって、果たして持続可能性があるのか。あと100年持続できるということをどなたか保証してくださるのであれば、それはそういう道筋もあるでしょう。しかし、もし持続できなかったときに何が起きるかというのは、これはギリシャの例を見ても、まず起きることは福祉の切り下げであり、場合によっては人員整理であり、あるいは給与の引き下げであるわけでありまして、そういうことにならないために、強い財政を復活するにはどうするかということを申し上げているんです。ですから、何か新しいものをどんどん買うためにといいますか、使うために上げたいというように、もし誤解をいただいているとすれば、そうではなくて、現在、既に、例えば予算総則のことを出せば、もともと消費税で高齢者に関わる福祉の費用は賄う、充当するということに一応なっているわけですが、実際にかかっている費用は17兆円かかっています。しかし、今の消費税で国の分は約7兆円です。ですから、その差額の10兆円は、実質的には赤字国債で毎年それを埋めているわけです。そういう形で継続できないとしたらどうするんですかということを申し上げているわけです。そういう意味で、まず、そうした認識を共有できる皆さんとしっかり議論をしたい。その議論の一つの材料として、自民党から提案されている10%というものを一つの参考にしていこう。こういう考えです。
● 日本経済新聞の藤田です。今のお話に関連してですが、2011年度予算の新規の国債発行額について、先ほど総理は44.3兆円を超えないように全力を上げるとおっしゃいましたが、具体的に来年度予算をどのような方針で編成されるお考えなのか。それから、消費税の具体的な引き上げについては、今後2〜3年をかけてとおっしゃいましたが、その前に国民に信を問うというお考えはあるのかどうか。それをお聞かせください。
来年度の予算について、1つは新成長戦略というものを汲み上げましたから、これは単にウィッシュリスト的に扱うのではなく、どの分野に財政投入すれば、どういう成長が見込めるか。つまりは最も成長という観点から効果の高いものを判断する。そういう基準として、この成長戦略を、特にマクロ経済部分については、位置づけたところであります。そういった意味では、従来の予算編成がややもすれば、こういう力のある政治家が言っているからとか、こういう団体が言っているからとか、あるいは天下り先を守るためとか、別の要素で財政配分がされていた面が相当程度あったと思いますが、この次の予算、私の内閣では、成長ということを一つの大きな軸に置いて、勿論、他の部分が全くなくなるわけではありませんが、成長ということを大きな柱に置いて、予算編成に当たりたいと思っております。基本的には大きな税制改革をやるときには、やはりそういうものがまとまった段階で、国民の皆さんに判断する機会を持ってもらうというのは、私は必要なことであろうと思っております。 
記者会見 / 平成22年7月30日
参議院選挙が終わりまして、今日から臨時国会が始まりました。この機会に、私の方からこれまでの参議院の結果、更には政権交代から約1年間を振り返りながら、今後、菅政権として取り組んでいこうとしているその方向について、国民の皆さんに是非お話を聞いていただきたい。そういう思いで、この記者会見をセットさせていただきました。
まず、先の参議院選挙で御支援をいただいた多くの国民の皆さんに、心からお礼を申し上げます。民主党として参議院選挙の結果は、かなり厳しいものでありました。私の唐突と受け止められた消費税発言が大きく影響したものと思って反省をいたしております。
しかし、同時に財政再建という課題は、これはどなたが総理大臣であろうが、どの政党が政権を担当しようが、避けて通れない大きな課題でありますので、私もこれからも財政再建について、しっかりと取り組んでいきたい。改めてその決意を申し上げておきたいと思います。
政権交代から約1年が経過をいたしました。この1年で日本の政治は大きく変わりました。例えば私が14年前厚生大臣をやったころの閣議は、ほとんどの発言は事前に文書になっていて、各大臣がその文書を読み上げることで、閣議、閣僚懇が終了し、30分程度で終わるのが常でありました。しかし、今の閣議は、閣僚同士がかんかんがくがくの議論を交わすこともしばしばあり、時間が1時間を超えることもまれではありません。そしてその中で、実質的な内閣の方針が決まっているわけであります。
また、各省庁の在り方も大きく変わりました。かつては1人の大臣の周りに事務次官以下の多くの官僚が、その大臣を取り囲んで、すべてのお膳立てをした上で、最終的な判断を大臣にお願いするという形でありました。現在の各省庁は、大臣だけでなく、副大臣、政務官という政務三役のチームがその省の運営のリーダーシップを取っているわけであります。その上で、専門的な知識・経験を有する官僚の皆さんとの、ある意味での協力関係も次第にそれぞれの省庁で定着をしてきております。
更に私の内閣になって、改めて政調、政策調査会を復活させ、そして政調会長にお願いをした玄葉さんに、内閣の一員、大臣にもなっていただきました。これは、以前から私が構想として温めていた形でありまして、このことによって縦割りの役所の政策に対して、国民の声を直接聞く党の意見を持って、それに対して内閣との間での政策調整を行う。党と内閣の間での政策調整を、政調会長に行っていただく、このことがスタートしているところであります。
そういった意味で、官房長官に内閣の中での政策調整、党と内閣の間は政調会長、その上に総理大臣である私が位置することによって、最終的な政策判断は私の責任で行わせていただく、そういう体制がすでに動き出しているところであります。
また、国家戦略室については、総理に直接意見具申をするシンクタンクとしての機能を強化していただきました。これは、各省庁が総理大臣にいろいろな意見や情報を上げてくるときには、どうしてもその役所がやりたいことに沿った情報で、それと矛盾する情報はなかなか上がってきません。そういったことに対して、縦割りの役所とは違う立場から、総理大臣として知っておくべきこと、考えなければならないことを国家戦略室にしっかりと収集し、総理に伝達していただく。より重要な仕事をお願いをしているとこのように考えております。
さて、いよいよ本格的な予算編成の時期に差しかかってまいりました。昨年は、9月の政権交代、12月の予算編成でありましたので、大変時間的に制約がありましたが、今回はそういう意味では初めての本格的予算編成といっても、民主党にとってはそう言えると思います。
まずこの予算編成でやらなければならないことは、無駄の削減、その実行であります。この間、国民注視の下で行われた事業仕分けが大きな効果を発揮しておりますが、更に特別会計を含む事業仕分けにしっかりと取り組んでいただきたいとこのように思っております。
加えて、国会議員自身が身を切ることも必要だと思います。衆議院の定数を80、参議院の定数を40削減するというこの方針に沿って、8月中に党内の意見をとりまとめて欲しい、そして12月までには与野党で合意を図ってもらいたい。今日の朝、枝野幹事長と参議院の会長の輿石さんにそのことを指示をさせていただきました。
そして、予算編成では、雇用と成長を重視していきたいと思います。先日、都内で事業所が行っている保育園を視察してまいりました。「会社勤めの方が、会社のそばにある保育園に預けられるのは大変ありがたいけれども、本当は地域の中にそういうものがあって、会社が遅くなっても最後まで預かってもらえるところがあれば、本当はその方が望ましい。」と、こういう意見をお母さん方から聞きました。
また、働いておられる保育士さんからは、パートのような形で短い時間でも働きたいんだけれども、どうしても長時間の勤務だけの採用では働ける人が少なくなる。このような声も聞きました。
こういうニーズをしっかりとまとめて制度化すれば、働いているお母さん方にとっても、2人、3人という子どもさんを育てながら仕事ができますし、また、多くの資格を持って働いておられない保育士の皆さんにも雇用の機会が拡大します。つまりは雇用が拡大し、経済の成長にも資すると同時に、子育て、広い意味での社会保障の充実にもつながってくるわけであります。
同時に若い人たちの雇用の拡大、また介護や医療の分野のイノベーション。そして、環境の問題。こういった分野にも雇用の機会を多く見出すことができると思います。更には、今、大きなスピードで発展しているアジアの国々の成長をインフラの工事などのお手伝いなどを含めて、日本の成長につなげるための政策努力も全力を挙げてやっていきたい。このように考えているところであります。
更には、地方の疲弊というものが多く言われております。私は林業を再生することで、地方における雇用の拡大につなげていきたい。この数年間、林業の現場を数多く見てまいりました。今、日本の国土の7割は山に覆われておりますけれども、実は日本で使われている材木の8割までもが外国からの輸入である。この現実を御存じの方はそう多くないのではないでしょうか。なぜこんなことになっているのか。それは山の中にハーベスターといった機械を入れるための作業道がないために、私の見たドイツに比べて効率が10分の1から20分の1というそういう効率しか林業が上がっていないからであります。こういった地域に作業道をつくることは、地方において少なくなっている公共事業にある意味では代わる事業転換にもつながりますし、また、林業が再生されれば直接的な雇用だけではなく、そこで伐採された材木を加工するといった、そういう仕事も発生して、地方に地域に雇用が生まれることになるわけであります。
こういった中で今回の予算編成では、元気な日本を復活する特別枠というものを設けることにいたしました。そして、同時に政策コンテストも行うことにいたしました。つまりは国民の皆さんにいろいろな提案のある政策を提示して、どの政策が最も国民の皆さんにとって望ましいと思われますかと。そういった形での国民に開かれた政策決定、予算決定をトライしてみたい。このように考えているところであります。
さて、いよいよ今日から始まりました国会。参議院における与野党逆転。いわゆる、
ねじれ国会としてスタートいたしました。私はこのねじれ国会というのをマイナスとしてばかりとらえるのではなくて、与野党が合意しなければ法案が通らない、政策が実行できないということは、逆に言えば、与野党が合意する政策はかなり困難を伴う政策であっても、その実行が可能になると前向きに受け止めたいと思っております。
1998年、当時、自民党が参議院で過半数を失い、ねじれ国会となりました。その時には長銀、日債銀が破綻寸前の金融国会と言われた時であります。当時の野党であった民主党は、そうした事態に当たって、銀行の一時国有化を含む金融再生法を提案をいたしました。それに対して当時の小渕総理は、それを丸飲みする、その形で法案を成立させ、日本発金融恐慌をストップさせることができたわけであります。当時、私は民主党の代表でありました。そうした国難においては、政局よりも国民のまさに生活こそが重視されなければならない。こういう思いで政局を重視するのではなく、そうした国難を回避することを頭に入れて行動したつもりであります。
どうか野党の皆さんにもお願いをしたいと思います。今、日本が置かれている長期の経済の低迷、そして、膨大な財政赤字、そして、不安な社会保障の現状、いずれもそうした金融危機に勝るとも劣らない、大変な国難とも言える状況であります。どうか、野党の皆さんにも国民のために役立つ政策であれば、私たちも真摯に耳を傾け、謙虚にお話を聞いて、そして、合意ができたものはしっかりと取り組んでいきたいと、このように考えているところであります。
最後に、総理大臣に就任した直後の記者会見で、最小不幸社会という言葉を申し上げ、政治の役割は、そこにあるということを申し上げました。つまり、幸福には、個人個人いろいろな形があるから、これがあなたの幸福ですよと押し付けることを政治が行うべきではない。しかし、不幸になる原因、貧困とかあるいは暴力とか、そういうものから人々を守っていくこと、そのことが政治の役目であろうと、このことを申し上げたところであります。
近年、多くの人々が家族や地域や、場合によっては職場の仲間といった、そういうつながりが薄れて、孤立化し、幸せを感じることができない生活を送っておられます。そういう人たちだけが自由だとか、そういう社会であってはなりません。
そういった意味で、私は、すべての人々が居場所がある、出番のある社会を目指していきたいと、このように考えております。
そして、20年にもわたる日本の経済を含む低迷、閉塞感、これを打ち破るために、私自身、自分の持っているすべての力を発揮して、新しい日本の建設のために全力を挙げてまいりたいと、このように考えております。どうか、国民の皆さんの御理解と御支援を心からお願い申し上げ、記者会見冒頭のごあいさつとさせていただきます。どうも、御清聴ありがとうございました。
【質疑応答】
● 日本経済新聞の藤田です。昨日の民主党の両院議員総会で、9月に予定される民主党代表選に出馬される意向を示されましたが、改めて再選に向けての総理の意欲をお伺いしたいと思います。その際に、何を掲げて、国民や党員に再選を訴えるのか、再選された場合は、内閣改造等役員人事を行う考えはあるのか、お聞かせください。
今、冒頭申し上げた「この内閣として取り組んでいきたい。」、そのことを実行するためには、9月においても党員の皆さんの支持をいただければ、代表としてあるいは総理として、今日申し上げたことを取り組んでいきたい。このように思っております。人事等については、まだ、今、国会が始まったばかりでありまして、この国会で全力を挙げて、私たちのやるべきことを国民の皆さんに伝え、そして、それの理解をいただくことに専念をして、まずはまいりたいと、このように思っております。
● 時事通信の松山です。国会対応についてお伺いします。先ほど、ねじれ国会で与野党の合意ができれば、政策が実現可能だということをおっしゃいましたが、具体的にどうやって野党の協力取り付けということを進めていくお考えか。それから、総理は、この間、消費税税率引き上げに向けて、衆議院を解散して国民の信を問うということもあり得るというふうにおっしゃっていましたけれども、そういった重要政策の実現を図るために、衆議院の解散あるいは国会が膠着状態に陥った場合に、御自身の進退をかけると、そういったような事態も想定されていますか。
まず、ねじれ国会への対応は、先ほども申し上げましたけれども、やはり丁寧な国会での審議あるいは議論がまず大前提だと思っております。その中で、野党の皆さんがすべて反対されれば、勿論、法案は通らないわけでありますけれども、先ほど申し上げましたように、野党の皆さんもやはり国民の皆さんのことを考えて行動されると思いますので、私は、合意できる部分は必ず生まれてくると、このように思っております。解散といったことについては、全く考えておりません。
● NHKの山口です。ねじれ国会の対応についてお伺いします。財政再建など、国が抱える大きな問題については自民党などとも一緒にできるというのはわかるんですけれども、子ども手当ですとか農家の戸別所得補償といった野党側との対決法案については、どのように対応していくお考えですか。
基本的には、今、申し上げたことと同じです。子ども手当について、これから1万3,000円の上乗せのところをどういう形で行うかという議論をしなければなりませんが、例えば、この法案は、成立の時点では公明党の皆さんにも賛成をいただいております。そういった経緯も含めながら、他の野党の皆さんの中で、どういう形であればある意味で前向きな結論が得て、賛成をいただけるのか。一つひとつの案件ごとに丁寧に説明をし、議論をしていきたいとこう思っています。
● ニコニコ動画の七尾です。総理にお願いがございます。国民から質問が来ております。お答えいただけますでしょうか。
どうぞ。あなたの質問として、してください。
● ありがとうございます。国民の質問を代読いたします。8月6日の広島の平和記念式典にルース駐日米大使。また、9日、長崎で行われる式典にもイギリスの政府関係者がともに初めて出席する見通しとなっております。こうした機会を通して、総理御自身が核なき世界に呼応するメッセージなどを世界へ向けて発信するお考えはありますでしょうか。
6日の広島、9日の長崎の式典にも、私も出席を予定いたしております。ルース米大使が出席をされることは、私は歓迎をいたしております。日本国民の、二度と核による被害をもたらさないでほしいという思いを受け止めていただく、大変いい機会になるとこう思っております。また、その中で私からもあいさつをすることになっておりまして、今、おっしゃったような中身についても是非盛り込んでいきたい。このように考えております。
● 朝日新聞の西山と申します。よろしくお願いします。小沢一郎前幹事長についてお尋ねします。総理、昨日の両院議員総会で、全員野球で国民の声を踏まえた政策実現に邁進するというふうにおっしゃいました。これは党内で大きな影響力を持つ小沢さんを含めて、例えば党の役職に入ってもらうことなどを前提に、代表選の中である種協力を求めていくというようなことはあるのかどうか。そして以前、しばらく静かにしていただきたいとおっしゃっていましたが、相変わらず静かにしていていただきたいのか。そろそろ、表に出て協力をしてもらいたいということなのか。その点をお尋ねしたいと思います。
先ほども申し上げましたように、今日から国会が始まりまして、まず私がやらなければならないことは、この国会を通して国民の皆さんに、政権として取り組むべきことをしっかりとお伝えすることだと思っております。党内が一致結束してというのは勿論、一般的でもありますけれども、9月に代表選が予定されておりますので、その後のことまで今の段階で、こうしたい、ああしたいというのはちょっと早過ぎるのではないかとこう思います。
● ザ・タイムズのレオ・ルイスです。以前、総理は、原子力や高速鉄道などの技術を海外に売ることを政府が支援することによって、いわゆるジャパン・クールが再建されればとおっしゃっていました。総理の考えでは、今後日本が海外で成功するだろうと思われるプロジェクトとはどういったものでしょうか。また、総理が最も重要視し、自ら訪問しようと思われる国を3つ挙げてください。
我が国はもともと省エネ、クリーンエネルギーについては高い技術を持っております。また、今、発展の速度の速い、例えばインドとかベトナムとか、場合によっては中国といった国もインフラの整備という点では日本に比べてまだ遅れている。日本にはそうしたインフラ整備の能力が高い企業があります。そういった意味でグリーンな環境の分野、そしてそういう社会インフラ。勿論、原子力発電所、更には新幹線といったものも含めて、そういう技術をある意味では提供することによって、我が国の成長にもつなげていくことができると考えております。今、「特に考えている国を。」と言われましたが、たくさんの国がありますが、中国が一番注目されておりますが、インドとか、あるいはベトナムとか、そういった国々も大変大きな可能性を持っていると、このように受けとめております。
● 毎日新聞の平田と申します。先ほど総理が財政赤字であるとか社会保障というものを挙げて野党に協力を求めるといった発言をされたかと思うんですが、どのような形で、例えば社会保障、消費税に関しての全党が一堂に会したような場を設けるようなことをお考えなのか。また、もう一つは、来年度の予算編成に向けて、その予算編成作業の中でも野党に協力を求めていくことがあるのか。その辺のお考えをお聞かせいただけないでしょうか。
先ほども申し上げましたが、まずは我が党の考え方をまとめていただくと。そのことを政調を中心にお願いをし、その上でそうした超党派の話し合いという場が可能であるのかどうか検討していきたい、こう思っています。
● 週刊朝日の佐藤といいます。昨日の両院議員総会で総理は、そう遠くない時期に若い優秀な皆さんが中心になって政権を順次引き継いでいくことがある意味で私のけじめ、役目であるとおっしゃられました。この遠くない時期というのはいつ頃を指すのでしょうか。国政を停滞させないということを最優先に考えたら、遠くない時期というよりは直ちに身を引かれて、新しいリーダーの下で再スタートを切るという選択肢も可能性としてはあり得るかなと思いますし、また、そうすればこれほどに厳しい批判を浴びることもなかったかもしれないとも思います。次にバトンを託すまでに。
厳しい何ですか。
● 厳しい批判をこれほどに浴びることはなかったのではないかとも思います。次にバトンを、あえて厳しい道を選んだ総理の次にバトンを託すまでに、特にどの課題について、いつまでどう道筋をつけることを御自身の政治的使命と考えていらっしゃるのか、今一度改めてお聞かせいただければ。
昨日の、今御指摘のあった話の多分前後に、私が30年前初当選して以来、あるいは34年前に初出馬して以来、まずは政権交代可能な野党をつくって、そしてその野党を選挙で政権交代をさせて政権を担当したい。それが私の政治における夢であったと。そういう意味では昨年の政権交代実現によって、私の政治家としての夢は達成されたということを申し上げました。その上で、鳩山政権が安定的に4年間、5年間続いていくことを望んで、私も不十分ながら精一杯協力をしてきたということも申し上げました。そういう中で、鳩山総理が辞任をされ、この時期に私がこういう形で後の総理を拝命するとは予想を超えた状況でありました。そのことも申し上げました。つまりは、次の世代がどんどん育ってきてくれていると思っておりますが、この民主党政権がまだ誕生して9か月の段階で、いろいろ私も考えましたが、そうした責任を投げ出したときに、そのことにより次の世代にきちんと政権が受け渡し切れるかということも当然考えなければならないと思いました。そういう意味を含めて、ここは大変な御批判をいただくことは予想はしておりましたけれども、やはりしっかりした政権運営を、少なくとも何年間かは続けた中で、その次の段階で、次の世代の皆さんが受け継いでいただければありがたいと、そういう趣旨で申し上げたところです。
● 読売新聞の五十嵐と申します。消費税についてもう少しお伺いしたいと思います。総理は冒頭の発言でも、「財政再建は避けて通れない大きな課題だ。」というふうにおっしゃいました。また、党内の意見の調整を待ってから、改めて提起するお考えを示しましたけれども、今度の9月の代表選で再選を目指すに当たって、改めて消費税を含む税制の抜本改革を提起されるお考えというのはあるのでしょうか。
先ほど来申し上げておりますように、財政の再建という課題は、どなたが政権を担当されるにしても、今の日本においては避けて通れない課題だと思っております。ただ、消費税という形で私が申し上げたことが、唐突に受け止められたと反省をしているわけです。ですから、何か代表選でそのこと自体を約束にするといったようなそういう扱いをすることは考えておりません。
● フリーランスの上杉です。98年の金融国会のことに関して、先ほど総理は言及されましたが、当時、まさに小渕総理と菅代表で国難に当たるということで、金融国会、夏休みも返上で確かやったと記憶していますが、今回同じような危機に際して、夏休み返上とはいかず、非常に短い期間の国会ということで閉じてしまいます。このときに、まずなぜ国会を早めに閉じるのか。そして、与野党ともに、与野党協議を非公式でも構いませんが、することをこの夏休み中にやるのかどうかということをお聞かせください。
98年当時のことは、上杉さんもよくご存知だと思いますが、ここにいる仙谷さんや古川さんやみんながいろいろ外国の事例を勉強して、法案をまとめて提出をしたわけであります。まさにあのときは金融危機で、いつ銀行が破たんするかわからないという状況の中で、私たちもそういう危機感を持って、それぞれの皆さんが頑張っていただきました。勿論、現在の状況も、先ほど申し上げたように、大きな意味では、大変日本の危機的な状況とも言えるわけですけれども、金融危機のように、本当に1日とか何日というそういうものとは少し性格は違うだろうとこう思っております。ですから、しっかり取り組みたいとは思いますが、そういったある意味での段取りについては、特に政調会が再スタートしましたので、そういう皆さんにまずは検討をいただいているところです。
● フジテレビの秋元優里と申します。防衛白書についてお伺いしたいんですけれども。
何?
● 竹島の防衛白書。はい。あの竹島の記述があるので韓国に配慮して閣議報告を先送りしたというふうに伝えられていますが、9月以降に出すとしましても、同じ竹島の記述が盛り込まれるのであれば、先送りする意味はあるのでしょうか。そしてもう一点なんですが、日韓併合100年で総理談話を出すというふうに、検討されているというふうに伝えられているんですが、具体的にそれはどのような談話なんでしょうか。
まず、防衛白書については韓国の哨戒艦の沈没事件、そして、これをめぐって私も出席したG7でのいろいろなやりとり、更には国連における議長声明等、大変安全保障上重要な事案がこの間に発生をいたしました。そういったことをきちんと盛り込むようにと、私から申し上げたところです。それによって発行がやや遅れることになりましたが、理由は、今申し上げたとおりであります。また、日韓併合100年を今年迎えるわけですけれども、これに対してどういった形で対応するのか。例年8月15日には終戦記念日の中でもいろいろな関係に触れていることもありますけれども、慎重に検討していきたいとこう考えております。
● 中国新聞の荒木と申します。菅内閣の選択についてお伺いします。総理は参院選挙の前に税制改革に強い意欲を示されましたが、選挙で大敗して何を最重点にするのかが見えにくくなっていると思います。一内閣一テーマという言葉もあるかと思うんですけれども、菅内閣として必ずこれだけは実現したいという政策は、どのように考えておられるのでしょうか。
冒頭のあいさつの中でそのことを申し上げたつもりです。多少一般的な言い方で言えば、この20年間の閉塞状態を打ち破りたいと。そして、具体的な政策で言えば、雇用と経済成長を重視したそういう政策を展開したい。それによって20年間の閉塞を打ち破る。それは経済的な面もそうですが、同時に人々が孤立して幸せを感じられないようなそういう状況からも脱却をしていきたい。こういうことを実現していきたいと考えております。 
記者会見 / 平成22年12月6日
皆さんこんにちは、菅直人でございます。10月1日から64日間にわたっての臨時国会が、この12月3日に終了いたしました。この機会に、臨時国会で取り組んだこと、更には来年に向かって取り組もうとしていることについて、国民の皆さんにお伝えしたいということで、この記者会見を設営いたしました。
まず、この臨時国会では、約5兆円に上る補正予算案が成立をいたしました。これによって、例えば新卒者雇用のジョブ・サポーターを倍増する。更には、妊婦健診が従来5回まで無料であったのを、ほぼ全期間14回まで無料にする。また、レアアースについての探索等に資金を供給する。こういった大変重要な中身も含まれております。
これによって、先の予備費を使った第1ステップと、この第2ステップと、そしていよいよ来年度の予算ということで第3ステップ、そういう形で切れ目のない形で雇用と経済成長に向かっての歩みを進めることができると、このように考えております。
また、この臨時国会の期間中に、多くの国際会議がありました。中でも11月13・14日の横浜におけるAPECは、横浜ビジョンを採択して成功裏に終わることができました。このAPECの会議に先立ちまして、私の内閣としては貿易の自由化の促進と同時に農業の再生、この2つを両立させる基本方針を閣議で決定いたしました。これによって農業については、「食と農林漁業の再生推進本部」を設立し、いろんな経験者にも入っていただいた実現会議もスタートいたしました。一昨日の土曜日には、私もその一弾として、千葉の和郷園に訪れ、野菜をつくるだけではなくて、それをカットし、そしてきれいな容器に入れたり、冷凍したり、そういう形で一次産業、加工という二次産業、場合によってはそれをレストランで供給するという三次産業を含んだ、そういう形で成功している若手農業者約90人のグループの皆さんともお話をしてまいりました。日本の農業を再生させ、同時に貿易の自由化を推し進める、その道筋を私はこういう若い皆さんに先頭に立ってもらいたいと、このように思っているところであります。
また同時にこの間、例えばブリュッセルにおけるASEMや、あるいはベトナムにおけるアジアのASEAN諸国との会合など、いろいろ出てまいりました。中でもベトナムでは、その会議の後、私が公式訪問という形を取りまして、その中でズン首相との間で、海外において初めての原子力発電所の仕事を我が国が行う。同時にレアアースについても開発を行う。このことが戦略的・政治的に決断をしていただいて、いよいよ実行に移されることになりました。
こういった形で、この臨時国会の間、国会の議論も大変なところもありましたけれども、私にとっては国会の内外を通して、大変実り多いこの間であったと、このように感じているところであります。
さて、いよいよこれから年末年始にかけてのことであります。まずこれからやらなければいけないのは、言うまでもありません。来年度の予算の編成であります。今、山で言えば7合目から8合目に差しかかって、いよいよ大きな重要な課題を順次決めていかなければならない段階に入っております。例えば基礎年金の国庫負担をどのようにするのか。子ども手当、子育ての問題をどのようにするのか。一括交付金をどうするのか。法人税をどうするのか。こういった課題が次々と決定が迫られてくると思っております。
もちろんのことでありますが、最終的には私自身、私の責任で決めさせていただきます。そういう中で、基礎年金の問題については、一旦2分の1に国庫負担が引き上がっておりますので、何とかこれは維持する方向で予算編成を進めてもらいたいと、このように考えております。
また、特命チームをつくりました待機児童ゼロ作戦、現在、3歳未満の子どもたちで、約24%の子どもたちが保育園等で預けられております。しかし、まだまだ足りません。4年間の間には、それを35%程度、7年後には44%程度、ここまでくるとほぼ希望されるお母さん方、お父さん方の子どもたちをすべて預かることができる。そういった先回りの作戦。初年度は200億円の予算が必要とされておりますけれども、これもしっかりと確保してまいりたいと、このように考えているところであります。
そういう中で、いよいよ来年に向かって、そうした政策をしっかりと実行していくための、言わば体制づくり、体制強化を行っていかなければならないと思っております。
今日も社民党との間での党首会談を行い、労働者派遣法を成立させる。そのために協力していこう。こういったことも含めて、協力体制をより強化する方向で合意をすることができました。
国民新党との間でも、郵政改革法についての実現を目指すことで、いろいろな戦略的な取組も含めて協働してやっていこうということで合意をいたしました。
こういった点も含めて、来年の国会が始まる段階では、しっかりと政策実現が、政権運営ができるような、そういう形をつくるよう全力を挙げてまいりたいと、このように思っております。
またこの間、私が総理になって約半年でありますけれども、総理大臣という立場は、大変重い立場だと考えてきた中で、どちらかと言えば私も発言については慎重に言葉を選んで発言してきたつもりであります。しかし、そのことがややもすれば、菅さん、何か元気がないねとか、そういうふうに受け止められてきた面もあります。これからは、できるだけ率直に国民の皆さんに直接訴える。そういう形で私の意見を申し上げていきたい。是非国民の皆さんにもそのことを御理解をいただけるようお願いをして、冒頭の私からの発言とさせていただきます。
【質疑応答】
● 共同通信の松浦です。よろしくお願いします。臨時国会では、仙谷官房長官と馬淵国交大臣の問責決議が可決されました。自民党などは、このお二人が出席する国会審議には応じないという方針です。首相は3日、内閣改造について全く考えていないとおっしゃいましたが、仙谷長官らの交代を含めた内閣改造を一切行わないまま、来年の通常国会に臨む方針なのでしょうか。そしてまた、ねじれ国会を打開するため、どのような方策を採られるのか。例えば社民党の協力を得て、衆議院の3分の2の再可決で乗り切るのか、あるいは公明党に連携を求めるのか、自民党に大連立を呼びかけるのか、具体的にお答え願います。
私が考えておりますのは、改造云々ということではなくて、全体として政権運営がしっかりと進められるような体制をいかにつくっていくか。まず、そこを念頭に置いて、この次期通常国会までの間にそうした体制をつくれるように全力を挙げていきたいと思っております。その中には社民党、あるいは既に連立をしている国民新党との関係をより緊密かつ戦略的にとらえて協働していくということも含まれておりますし、場合によっては他のグループの皆さんともいろいろな話し合いは機会があれば行っていきたい。このように考えております。
● 中日新聞の幹事社の高山と申します。総理は今日の午前中、先ほど言われたように社民党の福島党首と会談されましたが、その中で福島党首は武器輸出三原則の堅持を求められたと聞いています。一方で政府・民主党内には武器輸出三原則の緩和論も高まっているようなんですが、総理は今後、この武器輸出三原則についてどのような方針で臨まれますでしょうか。
武器輸出の禁止という考え方の根本は、例えば紛争地域に武器を輸出してその紛争をより激化させるとか、かつては共産圏に対して武器輸出はしないとか、いろいろな経緯の中で今日に至っております。そういう基本的な理念はしっかり守っていかなければならない。このように考えております。この件については、社民党との間で早速にも政調なり関係者の間で意見交換を始めるように、今日、朝、その会議の席で指示をいたしました。
● NHKの山口です。普天間についてお聞きします。総理はこの問題で決着の期限にはこだわらないという考えを示していますけれども、それは逆に、危険な普天間がそのまま固定化されるおそれがあると思います。総理はこの問題をどのようなスケジュール感を持って解決していこうとお考えになっていますか。
この普天間の問題は、皆さんも御承知のように、今から言いますと14年前になりますか、時の橋本総理とクリントン大統領との間で、この普天間の危険性除去ということで合意ができ、その後、その移転先をめぐっていろいろな経緯の中で、昨年の政権交代、そして私の政権の誕生という形になりました。そういった意味で、今年の5月28日に鳩山内閣の下で、改めて辺野古への移設ということで日米が合意をいたしました。選挙中、鳩山代表あるいは私たちも含めて、県外・国外ということを目指すことを申し上げた中で言えば、それが実現できなかったことは大変党として申し訳なかったと。このようにも思っておりますし、私自身もそういうふうに思っております。そういう中におきまして、今後のこの問題の考え方については、5月28日の日米合意を踏まえながら、沖縄における基地負担をいかに軽減していくことができるのか。更には、知事からも要請のありますいろいろな沖縄の経済振興、またはそのための会議を年内にも開くようにということの要請もいただいております。そういうものと併せながら、誠心誠意、沖縄の皆さんに理解が得られるよう努力をしてまいりたいと、このように考えております。
● 毎日新聞の平田と申します。先ほどの総理のおっしゃられ様を聞いておりますと、通常国会に向けての政権運営で、やはり民主党、社民党、国民新党、この3党をしっかり固めて、3分の2での再可決も辞さずという形で聞こえるんですが、そうすると臨時国会の前におっしゃっておられた、公明党、自民党含め、野党に対して政策協議を呼びかけると、そういった姿勢というものはかなりトーンダウンされたと考えてよろしいんでしょうか。
この臨時国会の始まるまで、あるいは始まった中でも、私は所信表明でも5つの重要政策課題を提起して、熟議の国会として、これらの問題を将来に先送りしないで解決していく道を、党派を超えて国会の場で議論をしよう。そういう姿勢で臨んでまいりました。しかし、結果としてはなかなかそうした、例えば政調、例えば財政再建、例えば社会保障、あるいは地域主権、国民が主体となった外交という、こういった課題については必ずしも、この国会での議論の中心にはならなかったわけであります。そういう中で、来年の国会を目指してどういう形で取り組んでいくのか。勿論、自民党や公明党、他の野党の皆さんにも、今、申し上げた姿勢は変わらず、そういう形で議論ができるようにという要請は続けてまいりたいと、こう思っております。と同時に、現在連立を組んでいる国民新党との関係、更にはかつて連立を組んでいた社民党との関係について、共通した政策を幾つか、これまでの経緯の中で合意をしていて、まだ実現していないものもありますので、そういったことの実現に向けてより緊密な協力関係をつくっていきたい。このように考えております。
● ロイター通信社の藤岡と申します。防衛大綱についてお伺いします。一部報道では、今月閣議決定される防衛大綱に、今までの「基盤的防衛力構想」を転換して「動的防衛力」といった新たな概念を明記すると報じられています。東シナ海などでの中国の活動への警戒を反映する方針と見られますが、防衛大綱が今後の日中関係に影響を及ぼすとお考えでしょうか。日本と中国は、APECの首脳会談で関係改善へ一歩を踏み出しましたが、日本の今後の防衛政策の方針がその流れを阻害してしまう懸念はありますでしょうか。
防衛大綱については、今、かなり関係閣僚間で熱心な議論をいただいております。今、御指摘のあった「基盤的防衛」という考え方から「動的防衛」という考え方といったものは、従来からいろいろと指摘があった中で、やはり時代の変化、状況の変化に対応できる防衛体制をつくるということの中で議論が進んでいるところであります。そういった我が国の独自の防衛力をしっかり整備することは、これは我が国として当然やらなければならないことでありまして、そのことが直接にどこかの国の脅威になるとか、そういうことにはつながらない。そのように考えております。
● 朝日新聞の坂尻といいます。総理、消費税についてお伺いします。総理は参院選で消費税の増税を掲げられて、その後、参院選に敗北された後はめっきりと発言も減ったように思うんですけれども、この臨時国会も、眺めていると、総理御自身が与野党の協議を消費税問題でリーダーシップを取って呼びかけられたというふうには残念ながらうかがえなかった面もあります。ただ、総理も今、冒頭の発言でおっしゃったように、基礎年金の国庫負担、来年度分は何とか特別会計などでやりくりされるお考えかもしれませんが、再来年度以降、先送りは許されない課題かと思っています。改めて、総理はこの消費税問題、どのように取り組まれるのか。そして、もし取り組まれるとすれば、いつまでにそれをされるというお考えなのか。そこを聞かせていただきたいと思います。
我が党の再スタートをした政調の中で、この問題、つまりは社会保障の在り方と財源、それには消費税や所得税、法人税を含む税制併せての議論をするということの作業も進んでおりますし、今、政府と与党の間でそうした社会保障と財源をめぐる議論の場もできております。そういった意味で、これは参議院の選挙の直後にも申し上げましたけれども、この課題については、党としての取組も含めて、しっかりと足元を固めながら、議論を進めていっていただいていると理解しております。また、他党との関係においても、他の党も社会保障の将来の在り方を議論する上では、財源の問題、つまりは税の問題も議論が必要だという立場をとっておられる幾つかの有力な党もありますので、できればそうした場が与野党間でつくれることが望ましい。これは元元そういうことを参議院選挙の折にも申し上げてきたわけですが、その考え方は今も変わっておりません。そういったことが、果たして次の通常国会に向かって、まさに熟議の国会としてできるかどうか。しっかりと取り組んでいきたいと、こう考えております。
● 読売新聞の五十嵐と申します。社民党との連携について、追加で質問いたします。総理が今おっしゃった考え方は、社民党とのいわゆる政策ごとの部分連合を目指すというお考えだと思うんですけれども、将来的には統一会派の結成あるいは社民党の連立政権の復帰ということまで視野に入れていらっしゃるのでしょうか。一方で、社民党は安全保障政策の根幹でもあります米軍の普天間基地の問題を理由にして離脱したわけで、安全保障政策では大きな違いがあると思いますけれども、その辺りをどういうふうに克服されようと考えていらっしゃるでしょうか。
今日、朝の両党の党首会談の中で議論したことは、先ほど来申し上げたように、幾つかの政策課題についてしっかり協力していこうということと、また、社民党としては、今、言われたような幾つかの問題ではこういう考え方だからという要望もいただきました。それに加えて、来年度予算についても、いろいろと共通の場をつくって、場合によっては国民新党との3党の間で、来年度の予算についても、できるだけ意見をすり合わせていきたいと、こういうことをお話をいたしました。今の段階で、それ以上のことは、お互いにまだ何か会派とか、連立の復活とか、そういうところまでは特に議論はいたしておりませんし、あまりそういうことを考えると、逆に難しい面も出ますので、私は今の段階では、共通している政策について、あるいは予算について協力してやっていく。そういうことで信頼をお互いに確かめ合っていくことが重要だと、こう考えております。
● 先日の検察の在り方検討会議で、小川法務副大臣が検察の問題点を明らかにして信頼回復するのは、政府を挙げての使命だとおっしゃいました。しかし、法務省というのは検察出身者が要職を占めていて、強力な政治主導がなければ、幾ら提言をしても、なかなか改革が難しいというところもあると思われます。先ほど、内閣改造のことについて聞かれていましたけれども、特にその中でも法務大臣に関しては、専任の大臣が必要ではないかと思いますが、専任の大臣を早く指名するというお考えはないのでしょうか。その辺をお聞かせください。
今の検察の在り方について、いろいろな問題が起きた中で、それを議論するという場が、前の柳田法務大臣のときに誕生して、動いていると承知いたしております。それについては、現在、仙谷さんに兼任をいただいているわけですが、その作業そのものは、十分その中で進められるものと理解しております。もちろん、法務行政は大変重要でありますから、その重要性はよく理解しているわけですけれども、全体の内閣の在り方、あるいは全体の来年の通常国会に向かうためのいろんなことを考えながら、そのことも併せて検討していきたい。あまり早くというよりは、全体の問題と併せて検討していきたいと、こう思っております。
● 日本テレビの青山です。この臨時国会で野党側が強く求めていた小沢元代表の国会招致というのは、結局実現しませんでした。岡田幹事長も実現に向けて努力すると言っていながら、結局実現できなかったわけですけれども、通常国会に向けて体制を整えると総理大臣はおっしゃる中で、小沢さんの国会招致の問題を菅総理自らが説得、もしくは何か努力するお考えはあるのか。もしくは例えば党の代表として離党勧告に踏み切るとか、別な動きを見せるお考えはあるのかどうか、お聞かせください。
これは国会の答弁でもいつも申し上げてきましたが、代表選の折にも、小沢元代表自ら、国会の決定にはいつでも従うと。国会における説明を自ら示唆をされていたわけであります。ですから、私はやはり御本人が国会の場できちんと、国民の皆さんが納得をされるような説明をされることが必要だろうと思っております。現在、岡田幹事長がその方向で努力を続けてもらっているわけでありまして、最終的な段階で、私に対して何らかの判断が必要だとなれば、今、申し上げたような方向で、そういった御本人の国会における説明をやはりやってもらうように、そういう判断が必要であれば、そういう立場から対応していきたいと思っております。
● 日本経済新聞の犬童です。予算について伺います。総理も自ら先ほどおっしゃられていました幾つかの課題が残っていて、これからもっと進めていかなければいけないということだと思いますが、総理のスタンスを確認したいんですが、まず、法人税、今、5%という議論がありますが、5%という数字に総理御自身はこだわりがあるのかどうかということをお伺いいたします。もう一つ、政策経費71兆円、国債発行44兆円の大枠が既に決まっていましたが、これは死守という総理のスタンスなのかお伺いしたいと思います。
法人課税については、先ほども申し上げましたが、今回の予算編成の中でも重要な課題の1つだと承知をしております。いろいろと今、関係者の間で活発な議論がなされております。何%がどうかということは、最終的には私が判断いたしますが、今、何%がよくて、何%では駄目というところをこの場で申し上げることは、ちょっと控えておきたいと思います。それから、44兆円の国債、あるいは71兆円の一般経費の枠というのは、私が財務大臣のころにもそういう趣旨のことを申し上げて、その後、部分的には閣議決定をしている財政戦略の中にも盛り込んでおります。そういう意味で、そういった閣議決定までしているわけですから、当然のこととして、それをきちっと守っていくという考えです。
● ビデオニュースの神保です。総理、先ほど総理は、これまでの発言に慎重でしたが、これから直接国民一人ひとりに訴えていきたいとおっしゃいました。実際に菅政権になってから、民主党は本来の一丁目一番地である情報公開というものが、特に菅政権となってから、必ずしも進んでおりません。記者会見の解放というのも実際に止まっておりますし、予算編成の過程についても透明化というものが進んでおりません。実際、直接訴えるというようにおっしゃったのですから、今後具体的にどのような形でそのような形をとっていくのか。会見の回数を増やすのか、あるいは透明性を増すような何らかの措置を採られるのか。もう少し具体的なお話を伺えればと思います。
記者会見については、この今日の会見も含めて、私の会見は基本的にはオープンになっていると承知をしております。もしそうでないのであれば、それは改善しなければなりませんが、そのように私自信は理解いたしております。各閣僚においては、いろいろな形がとられていると思いますが、基本的には、できるだけオープンにするようにということを私からも、閣議なり、閣僚懇の席で申し上げたいと思っております。それ以上にどういう形があるのか。私もメディアの皆さんとのお付合いが、なかなか野党時代のように自由に、以前でしたら、我が家に何人か来られて、少しお酒でも飲みながら懇談していたんですが、なかなか難しいですね。それは決して、私が制限しているということだけではなくて、総理という立場だと一部の人にだけそういう機会をということが、多少逆の意味で、皆さん方の中で問題になるといったこともあるようでして、逆にどういう形であれば、もっとフランクに私の考えていることが皆さんを通して、国民の皆さんに伝えることができるか。これは本当に努力したいと思っておりますので、神保さんもいい案があったら、是非教えてください。
● 北海道新聞の山下です。官房長官について伺います。総理は半年前の就任会見で、仙谷官房長官の起用について後藤田正晴元官房長官の名前を挙げながら、総理に対しても煙たい存在で、力のある人でなければならないと言って、内閣の中枢に据える考えを説明されておりました。その官房長官に対して今般、参院で問責決議が可決されましたけれども、半年経った今、総理はこの仙谷官房長官についてどのように評価されているでしょうか。先ほど、全体として政権運営をしっかりと進めることを考えていくということをおっしゃっていましたけれども、野党は仙谷官房長官の更迭を求めていますが、それとの見合いはどのように考えられていますでしょうか。
仙谷官房長官については、おられる前でどういう表現をしていいかあれですけれども、私が期待した、あるいは期待以上の大変仕事をしっかりとこの間にしていただいてきましたし、現在もそれを続けていただいていると。このように思っております。煙たい存在という言葉も当時使ったかもしれませんが、それは今でも、ある意味では長官としての判断というものをしっかりと持った中で、いろいろ私に対しても必要なことはきちっと言われるという意味を含めて、期待以上の活躍といいましょうか、仕事をしていただいていると思っております。この問責についてはいろいろな議論があるわけですが、今の私の総理という立場であまり、その制度の在り方について云々というのは余計に野党の皆さんにいい結果にならないかもしれません。ただ一般的に言えば、衆議院の場合は不信任案が通れば辞めるか解散ができるわけですが、参議院の場合は、例えば個人であっても内閣であっても、問責を受けた時に、辞めることはそれは何でもできますけれども、解散はできないわけであります。そういう意味では、問責というものはもちろん、院の意思としては大変大きい意思ではありますが、それは場合によってはすべてが何か辞任ということであるとすれば、今の憲法が想定している、内閣と衆議院におけるいわゆる不信任案を通せば辞めるか解散という一つのある種の緊張関係といいましょうか、それとは違った意味で、そういったことも是非、きちんとした議論が必要ではないか。こんなふうに思っております。
● 時事通信の後藤です。先日、総理が与謝野さんとお会いになったことで、大連立の話が少なくとも政治家の口から出ていたんですけれども、3年前に大連立騒動があったときに総理は、国会のチェック機能という観点から大連立には否定的なことをおっしゃっていましたが、現時点で大連立についてお考えが変わっているのかどうかをお聞かせください。
あのときはたしか福田内閣の折で、小沢代表の下であったと思います。あの当時から私は、大連立そのものが絶対に駄目だと考えていたわけでは当時からありません。ただ、あの時点で言いますと、大連立がもし実現をしていたとすれば、これは今でも同じかもしれませんが、衆参で与党の割合が場合によったら9割とか、そういう議席数になるわけです。そういう形になったときに、国会というものがどういう機能を果たすことになるのか。やはり相当程度、どうしてもそうしなければ日本の国にとって物事が進まなくなって、国難とも言えるような状況であるとか、あるいは一定の、例えば3年間なら3年間、あるいは課題についても、これは取り組むけれども、逆にこれはこの間では取り組まない。例えば憲法改正については、これはこの間では取り組まないといったような、かなりきちんとした、国民の皆さんに理解していただけるような前提がないままに大連立を組むというのは、そういった議会の在り方として大変理解を得にくいのではないか。こういう意味で当時、私自身、反対の意見を申し上げました。ですから私は、その基本的な考え方は今も変わってはおりません。ということは、何が何でも反対とか、何が何でもやればいいということではなくて、当時も申し上げたように、もしそういう形があるとすれば、きちんと国民の皆さんがそういう形を採ること自体を、わかった、ある段階ではそういうこともやってもそれはやむを得ないだろう。それは理解できると言ってもらえるようなきちっとした前提条件といいましょうか、そういうものがなければなかなか難しいのではないかと思っております。
● TBSの松原です。今の政権は、飛んで来るボールを、目の前に来るボールを打ち返すのに精一杯のように見えるんですが、国民に政権が何をしたいか伝わらない、わかってないと思うんですが、改めてお聞きしたいんですが、この政権は結局何をしたい政権なんですか。
まず、来るボールを打ち返すのが精一杯だと言われたのは、この国会の中で私自身が予算委員会を含めて、ほとんど自分自身がいろいろ考えて、いろんな人に会って、いろいろな発信をするという余裕がないくらいにタイトなスケジュールであったということは、あまりこういうことを言っても理解を一般の方にいただけるかどうかわかりませんが、そこはひとつどうしても、例えばAPECの前にはG20がありました。G20の前の3日間は、7時間、7時間、6時間の一般質疑、集中審議で、朝5時起きからずっとやっていました。そういう状況の中で、もしかしたら皆さん方に、そういうふうに見えたかもしれません。しかし、先ほど申し上げたように、APECそのものに対してもきちんと、それに向かって貿易の自由化と農業再生の基本方針を決めましたし、また、ASEMやいろいろなところで、先ほどのベトナムのレアアースと原発の話も決まりましたし、あるいはインドとペルーとのEPAも決まりましたし、そういう意味で何か言われたこと、あるいは指摘されたことにだけきゅうきゅうと追われたとは、私は思っていません。ちゃんと冷静に見ていただければ、やれたことはまだまだたくさんあります。例えばオープンスカイの問題とか、あるいはこれは少し前の政権、鳩山さんの時代からでありますが、例えば海外の観光客を増やすためのビザの解禁とか、なかなかこれまでの政権ができなかったことを次々とやっているんです。ですから、それを伝える暇がなかったというのが私の実感です。今やらなければならないと考えている、あるいはこの政権として考えているのは、まさにこの臨時国会の冒頭に申し上げたことです。つまり日本は20年間低迷しているんです。今、ある意味では、これから復活できるか。このままどんどん衰退していくかの、私はまさに分水嶺といいましょうか。分かれ道になると思います。ですから、私は5つの重要政策課題、つまりは短期でできたことではありません。経済の成長が止まっている、何とかしよう。財政が非常に難しくなっている、何とかしよう。社会保障もこのままいけば少子・高齢化でうまくいかない、何とかしよう。地域主権もなかなか進んでいない、何とかしよう。外交の在り方はいろんな理念はありますが、これも国民がしっかりと自分のものとして考えていくような外交に何とかしていこう。まさにこういうことを超えていかなければ日本は、このままどんどん衰退すると思ったから、その5つの政策課題は決してだれの責任だという余裕はないんだと。与野党を超えて、その課題を後世に先送りしないように議論しようではないか。私はその思いを込めて、あの所信表明を自ら筆を執りましたから、訴えたつもりであります。しかし、残念ながら、野党の皆さんの代表質問には、そういった中身を真正面から受け止めた質問は少なかったし、場合によれば、メディアの報道も、必ずしも私が一番重点を置いたところについて、必ずしも多くの論評をしていただけなかったのは、若干残念であります。そういう意味で私は、まさに元気な日本を復活させるという、参議院選において掲げたスローガンを実現するのが、私の役目だと考えています。 
2011

 

平成二十三年年頭所感 / 平成23年1月1日
新年あけましておめでとうございます。本年が、国民の皆様一人ひとりにとって素晴らしい一年になりますよう、心からお祈り申し上げます。
菅内閣の発足から半年。成長と雇用による国づくりで元気な日本を復活させる。これを内閣の目標に掲げ、補正予算を柱とする経済対策を実施し、来年度に向け「元気な日本復活予算」を取りまとめました。安心と活気を拡大する精一杯の支援を盛り込んでいます。国民の皆様から広く理解と支持をいただき、国会で成立させなければなりません。そこで、年の始まりに当たり、私が目指す国づくりの方針、理念を改めて提示したいと思います。
一つ目の国づくりの理念、それは「平成の開国」です。新興国の台頭は、安全保障と経済の両面で世界の勢力図を大きく変えています。こうした状況にあって、留学生の減少に象徴されるように、我が国の内向き傾向が懸念されています。世界が地殻変動とも言うべき大きな変化に直面している中、従来の発想に囚われていては新しい展望は開かれません。私は本年を、近代化の途を歩み始めた明治の開国、国際社会への復帰を始めた戦後の開国に続く、「平成の開国」元年にしたいと思います。既に包括的経済連携に関する基本方針を定めました。これに則り、欧州連合や韓国、豪州との交渉を本格化させるとともに、環太平洋パートナーシップについて関係国との協議を行っていきたいと思います。
この第三の開国には過去の開国にはない困難も伴います。価値観が多様化する中、明確なビジョンを提示し、国民の総意を形成する努力を地道に積み重ねていかねばなりません。例えば、貿易自由化で農林漁業の衰退を懸念する声があります。私は、貿易自由化と農林漁業の存続が相反する目標であるかのような先入観を排し、新しい農林漁業の可能性を追求します。今年前半までに開国と農林漁業の活性化を両立させる政策を提示したいと思います。安全保障面では、東アジア地域に北朝鮮の問題や海洋の問題など不安定で不確実な状況があります。我が国自身が防衛面で努力しつつ、日米同盟を二十一世紀にふさわしい形で深化させ、国民の安心・安全に万全を期します。
私が掲げる二つ目の理念は、「最小不幸社会の実現」です。この国に暮らす皆さんに夢を存分に追い求めていただくためには、病気、貧困、失業といった不幸の原因をできる限り小さくすることが大前提となります。来年度予算は、子ども手当の拡充、求職者支援制度の創設、年金の安定確保などを盛り込みながら、事業仕分けの拡大により当初設定した財政健全化の目標も守りました。しかし、こうした努力だけで膨らむ社会保障の財源を確保することには限界が生じています。そもそも財政とは、国民が享受すべき生活の保障、活動の支援を分かち合いの精神で実現するためのものです。どのような仕組みがこの国に適しているのか、いよいよ国民的議論を深め、今年半ばまでに、社会保障制度の全体像と併せ、消費税を含めた抜本改革の姿を示したいと思います。
私が掲げる三つ目の国づくりの理念は、「不条理を正す政治」です。「平成の開国」、「最小不幸社会の実現」のためには、国民の信頼に足る政治が不可欠です。不公正や不条理をきちんと正す政治を行うことにより、政党や政権といったレベルにとどまらない、政治システム全体に対する国民の信頼を得て、大きな変革を推進することができると考えます。昨年、新卒者雇用、待機児童ゼロ、HTLV−1対策、硫黄島の遺骨帰還といった課題で特命チームを設けました。苦しんでいる人がいる不条理を放置するわけにはいかない。この私の政治家としての信条、民主党結党の精神を行動に移したものです。そして、一昨年の政権交代にも、従来の政治がなおざりにしてきた不条理を解消して欲しいという国民の期待が込められていたと思います。残念なことに、政治とカネの問題に対する私たちの政権の姿勢に疑問が投げかけられています。今年こそこの失望を解消し、国民の支持を受けた改革を断行していくことを誓います。
昨年、京都のジョブパークや新宿のハローワーク、芦屋の高齢者孤立化防止サービス、千葉や山形の若い世代も参加した元気な農業など様々な現場を視察しました。そこには、支え合って困難を乗り越え、夢を追いかけるために奮闘する姿がありました。姫路では、御自身も病気と闘いながら保護司を務めておられる方が「支援した若者が何とか通学し、卒業式を迎える日は我がことのように嬉しい」と語ってくれました。新宿のジョブサポーターは、担当した学生さんが「この方に出会って辛い状況を乗り越え、就職先を見つけることができた」と語る姿に涙を流して喜んでおられました。失業や孤立といった困難から立ち直ろうとする人に身を捧げる尊さ、地域で温かく支える力強さ、相手の視点で地道に応援する謙虚さ。献身的な姿に政権を担当する者として多くを学びました。
私の掲げた国づくりの三つの理念を結ぶのも、支え合い、分かち合いの絆だと思います。苦しいときに支え合うからこそ喜びも分かち合えるのです。国民の皆様と日本の絆を太く大きく育てる。そのような一年となるよう頑張っていきます。 
年頭記者会見 / 平成23年1月4日
明けまして、おめでとうございます。今年が、皆さんにとってすばらしい年になることを、まず心から祈念をいたしたいと思います。
年頭に当たって、私が目指す国の在り方について、3つの理念を申し上げます。
まず、平成23年を平成の開国元年としたい、最小不幸社会を目指す。そして、不条理を正す政治、この3点であります。今、世界の多くの国が日本に追いつけ追い越せと成長を続けています。そういう国々のリーダーと話をすると、自分たちは日本を目標にして、モデルにして頑張ってきたんだと口々に言われます。そうです。これまで多くの国に財政的な援助や技術的な援助をしてきた兄貴分が我が国日本だと言えます。私はこれからも、そうした国々の成長を支援する。同時にそれらの国々のエネルギーを逆に我が国のエネルギーとして、日本の成長につなげていくことが今、必要だと考えております。
そのためには、貿易の自由化の促進。そして一方では、若者が参加をできる農業の再生。この2つをやり遂げなければなりません。平成23年を、そうしたヒト・モノ・カネばかりではなくて、明治維新や戦後に続く、日本人全体が世界に向かってはばたいていくという、そうした開国を進めていく元年としたい。そしてこの開国を進めるためには、貧困あるいは失業といった不幸になる要素を最小化することが何よりも必要です。社会保障について、今後の不安が広がっております。昨年の参議院選挙では、やや唐突に消費税に触れたために、十分な理解を得ることができませんでしたが、今、社会保障の在り方と、それに必要な財源を、消費税を含む税制改革を議論しなければならないという、そのことは誰の目にも明らかであります。幸いにして、自由民主党も公明党も、そうした姿勢を示されております。今がまさにそのときだと思います。しっかりした社会保障を確立していくために、財源問題を含めた超党派の議論を開始をしたい。野党の皆さんにも参加を呼びかけます。
そして、アジア太平洋をめぐる安全保障についても、我が国のためだけではなく、この地域全体の安全・安定を考えた行動が必要です。日米同盟の深化は、そうしたアジア太平洋地域の安定のためにこそ必要だと、こういう観点で推し進めてまいります。
このような開国を進めていくに当たって、もう一つ考えておかなければならないことがあります。それは、国民の皆さんがおかしいなと思っていることに対してしっかりと取り組んで行くことであります。
私は、東京都に所在する硫黄島で多くの遺骨が残されていることを知ったときに、なぜこんなことになっているんだろうと不思議に思いました。総理になって、特命チームをつくって、アメリカの公文書館で調査をして、大きな埋葬地を見つけることができました。先日、私も出かけた追悼の式典を行いました。御遺骨を家族の元に返すことは国の責任です。
また、若い人が学校を卒業しても仕事がない。子どもを産んでも預かる場所がない。あるいはいろいろな難病について十分な手当がなされていない。こういった問題についてもしっかりと取り組んでいきたい。私自身、特命チームをつくり取り組んでおりますが、これからもこうした不条理と思われる問題で、直接私が取り組むことがふさわしい問題については、しっかりと新たな特命チームをつくって進めてまいりたい、このように考えております。
そして、もう一つ不条理ということに関して言えば、政治とカネの問題があります。私が初めて衆議院選挙に立候補したのは、ロッキード選挙と呼ばれたその選挙であります。政治とカネを何とかしなければ、日本の民主主義がおかしくなってしまうという思いから、30歳のときに初めて立候補いたしました。
今、なお、政治とカネのことが国民の皆さんから不信の念を持って見られている。これでは、これから多くの改革を進める上で、国民の皆さんにも痛みを分かち合っていただくことがとてもできません。今年をそういった政治とカネの問題にけじめをしっかりつける年にしたい。小沢元代表にも、自らの問題について国会できちんと説明をしていただきたいと考えております。
最後に、国会について申し上げます。私も野党の議員が長く、そのときどきの政府を厳しく批判してまいりました。そのことを通して、国民の皆さんに時の政権の政策の矛盾などを示していきたいと考えたからであります。
しかし、今、振り返ってみますと、政局中心になり過ぎて、必ずしもそうした政策的な議論が十分でなかった場面も党としてあるいは私としてあったのかなと思っております。今、政権交代が繰り返される中で、ほとんどすべての党が与党、野党を経験いたしました。その国会が残念ながら必ずしも政策的な議論よりも、とにかく政局的に解散を求めるあるいは総辞職を求めるといったことに議論が集中しているのは、必ずしも国民の皆さんの期待に応えていることにはならないと思います。私たちも反省をします。同時に、与党、野党を超えて、国民の目から、皆さんの目から見て、国会がしっかりと国民のために政策を決定しているんだと、こういう姿を与野党を超えてつくり上げていきたい。野党の皆さんにもご協力をお願いします。
その中で、特に2点について具体的にお願いしたいと思います。1つは、国会での質疑のその質問要旨を、質問をされるせめて24時間前には提示をいただきたいということであります。先の臨時国会で予算委員会などでは、前の日のその質疑を翌朝5時に起きて、そして、それを見て頭に入れるのが精一杯という時間の拘束がありました。これでは本当の意味での議論ができません。イギリスでは、3日前までに質問要旨を出すというのが慣例になっておりますけれども、せめて24時間前にそうした質問要旨を出すということを、与野党を超えての合意と是非していただきたいと思います。
また、国際会議などが大変重要になっております。トップセールスという言い方も強くされております。そういう閣僚が海外に出ることについて、国益にかなうことであれば、与野党を超えて、国会の日程も工夫をして送り出す。このような慣例も是非、生み出していただきたい。
そして、このことは国会自身の役割であると同時に、国民の皆さん、あるいはメディアの皆さんの目から見て、もっとそうした国会の在り方についてこうあるべきだ。そのことを是非、第三者的な目からも積極的に発言をいただければと、このように考えております。
以上、年頭に当たっての私の考え方を申し上げさせていただきました。あとは皆さん方からのご質問をいただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
【質疑応答】
● 総理、明けましておめでとうございます。フジテレビの松山です。総理、内閣改造について質問させていただきます。総理は通常国会に向けて強力な体制をとおっしゃいましたけれども、何に重点を置いて、人事をいつごろ行うことを想定していらっしゃるんでしょうか。また、内閣改造に当たっては現在の閣僚からの増員も想定されているのか。また、党人事についても刷新するお考えでしょうか。野党が審議に応じない構えを見せる中、仙谷、馬淵両大臣の問責については、国会審議に支障になると判断すれば交代の可能性も視野に入れているのでしょうか。お願いします。
通常国会は、国民の皆さんの生活に最も重要な予算の審議の場であります。その予算をしっかり審議をして、そしてできるだけ迅速に成立をさせ、国民生活にプラスになるようにしたい。その目標に向かって最も強力な体制をつくりたいというのが私の基本的な姿勢であります。それに当たっていろいろな要素を考えなければいけないというご指摘はそのとおりでありますけれども、基本的なそうした姿勢を持って、具体的な問題はこれからさらに熟慮していきたい。そう思っております。
● 北海道新聞の山下です。民主党の小沢一郎元代表の国会招致問題についてお聞きします。小沢氏は、国会の状況次第で通常国会冒頭や予算成立後に政倫審に出席するという姿勢を示しておりますけれども、総理はあくまで無条件での通常国会前の出席を求める姿勢を貫かれるのでしょうか。小沢氏がこうした条件付きの出席の姿勢を崩さない場合は、どう対応するおつもりでしょうか。政倫審での議決や、さらには証人喚問なども想定されているんでしょうか。また、小沢氏が強制起訴となった場合、民主党代表として総理が小沢氏の離党勧告もしくは除名を言い渡すことも考えられているのでしょうか。お聞かせください。
小沢元代表は、自ら国会で説明するということを言われているわけですから、その言葉どおりの行動を取っていただきたいと思います。また、起訴が実際に行われたときには、やはり政治家としての出処進退を明らかにして、裁判に専念されるのであればそうされるべきだと考えています。
● フジテレビの和田でございます。目標を達成するにはスケジュールというものが非常に大事だと思うんですが、先ほどもちょっとお述べになりました消費税改革、社会保障改革、それから普天間基地の移設問題、どんなスケジュールで結論をお出しになるご予定でしょうか。
先ほど申し上げましたように、社会保障とその財源、財源の中には消費税を含む税制改革が含まれますが、これは一体的なものだと考えています。我が党の中でもそういう考え方で党の方針を固めておりますし、多くの政党もそうした社会保障とそれに伴う財源問題を一緒に議論しようと。そういう姿勢でありますので、それはどちらが前後ということはありません。普天間の問題は5月28日の日米合意を踏まえながら、しかし、同時に沖縄における基地が長い間、本土に比べて多く残されているというこの問題は、やはり日本全体として受け止め、考えなければならない問題だと思っております。できる限りの負担軽減、このことを併せて積極的に取り組んでいきたいと考えています。
● お伺いしたいのは、結論の時期なのですが、目標としての、それぞれの。
社会保障とその財源の問題は、できればできるだけ早い時期に与野党を含めた超党派の協議を開始したい。そして、6月頃までを一つの目途にして、一つの方向性を示したいと、このように思っております。
● 共同通信の松浦です。ねじれ国会で予算関連法案がどうにも通らないという状況になった場合は、衆議院解散総選挙というのも選択肢に入ってくるのでしょうか。
私の念頭には、解散のかの字もありません。
● ブルームバーグの廣川と申します。TPPの問題についてお聞きします。この問題は、総理の掲げる平成の開国に対する本気度をはかる試金石とも思える問題かと思いますけれども、仙谷官房長官は農業改革の基本方針がまとまる6月前後に交渉参加の是非を判断するのが望ましいという考えを示されています。総理はこの問題、交渉参加の是非をいつごろまでに判断しようと考えていらっしゃるのか。また、大きな影響を受ける農家の方々の理解を得るために、どう説明し、どう対策を打っていくお考えなのか。こちらを教えてください。
現在、TPPに参加する場合に必要となる農業対策の具体策を検討している状況であります。そういう議論を踏まえながら、最終的な判断を6月頃というのが一つの目途だと思います。できるだけ早い時期にそうした状況が生まれればいいと考えております。
● NHKの山口です。総理は先の臨時国会で、熟慮の国会ということで話し合いを求めていかれましたけれども、今回の通常国会も引き続きそういう姿勢で臨むのかどうかということと、それから自民党は対決姿勢を強めていまして、冒頭から審議拒否も辞さずということなんですが、そうなった場合には対決型になっていくのか。その辺のところをお聞かせください。
基本的には先ほど冒頭も申し上げましたように、国会という場がある程度、政党ですから政権を争うという側面があっても、それは致し方ないところでありますけれども、やはり先進国で政権交代を繰り返されているところの国を見ると、例えばイギリスなどでは新たに政権交代が行われれば、次の選挙は大体5年先ということで、議論は行われるけれども、すぐに辞めろとか辞めるなという議論はあまり行われておりません。多くの国がある一定期間は政権交代が行われれば、そちらの党が政権を担うと。何年かやってみて、次の選挙の機会にそのことを国民に問うと。これが政権交代の建設的な運営の仕方ではないかとこのように思っております。そういう意味で、基本的にはしっかりと政策を議論していきたいという姿勢は、変わりありません。
● 読売新聞の五十嵐です。総理は先ほど、小沢元代表の問題について、起訴された場合は、政治家としての出処進退を明らかにして裁判に専念されるのであれば、そうされるべきだとおっしゃいましたけれども、これは議員を辞職すべきだというお考えを示したということでよろしいんでしょうか。それと、不条理を正すということであれば総理は取組むというふうにおっしゃいましたけれども、小沢さんの問題について、総理はどういう働きをされたいと思っていらっしゃるのでしょうか。
私が初めて当選した1980年当時、田中元首相が闇将軍と呼ばれておりました。やはり、そういう姿を見て、私は日本の政治を変えなければならないという思いを一層強くしたことを今でも記憶いたしております。そういった意味で、どなたが何をということを超えて、もうこういった問題は、日本の政治の社会で、カネの問題が何か議論をしなければならないという状態そのものを脱却したいというのが私の思いです。そういった意味で、小沢元代表に関して起訴がなされたときには、ご本人が自らそうしたことも考えられて、自らの出処進退を決められることが望ましいということを申し上げたところです。
● フリーランスの上杉隆です。開国元年という言葉は、非常にいいなと心に響きましたが、総理は野党時代から、情報公開、そして今、クリーンでオープンということで訴えていますが、是非そこで伺いたいのが、情報公開の観点から、官房機密費の公開、さらには官房長官会見の創設、そしてこの記者会見のフェアなオープン化ということをお約束されましたが、これを守っていただく時期がそろそろ来たのではないかと思います。先ほど小沢さんに、言ったことは守っていただきたいと総理自らおっしゃいましたが、総理御自身、この件に関してやるかやらないか、この場でお聞かせいただけますでしょうか。
会見の在り方について、何度かこの場でご質問といいますか、提案をいただきまして、私もできるだけオープン化すべきだという姿勢で、私自身の会見は臨んでおります。また、閣議あるいは閣僚懇の席でも、各閣僚にできるだけそういう姿勢で臨むようにということを申し上げているところです。官房機密費の問題は、いろいろな経緯、いろいろな判断がありますので、官房長官と十分考え方を合わせて対応していきたいと思っております。
● 時事通信の後藤です。2011年度の予算案についてお伺いします。年末の段階で、仙谷官房長官と岡田幹事長は、修正の可能性に言及されました。それについては、総理もお考えを共有されているのでしょうか。
予算をつくった立場からすれば、最も国民の皆さんにとってふさわしい予算ということで、閣議決定をしたわけです。と同時に、国会の場で多くの政党の皆さんにも理解をいただき、できればより多くの皆さんに賛成をいただきたいというのも、もう一つの大きな要素であります。そういうことを、両方のことを考えながら、対応を決めていきたいと思っています。
● 朝日新聞の坂尻といいます。野党との連携についてお伺いします。昨年の末に、たちあがれ日本との連立話というのが浮上しましたが、これはたちあがれ側が連立は拒否するということを確認して終わっています。今回は、この件をもって、なかなか野党との連携は端緒をつかむのは難しいと思われますが、総理としては、連立ということはもう断念して、政策ごとの部分連合という道を目指されるのか、あるいはなお引き続き連携できる野党と連立政権を組むという道を目指されるのか、どちらを目指されるお考えなんでしょうか。お聞かせください。
昨年のいろいろな動きも、政策的に一緒にやっていけないかということの話を基本として進めてきたと理解しています。その姿勢は、どの党に対してもこの国会でも変わりません。
● 日本テレビの青山です。先ほど内閣改造について、総理は具体的なことはこれからさらに熟慮したいとおっしゃいましたけれども、実際、具体的に仙谷官房長官の問責決議というのは既に可決しているわけです。ただ、問責決議はこのままの状態だとこの通常国会でも何本も出てきて何本も可決する可能性だって勿論あるわけです。現段階でそれこそ本予算を審議する通常国会を前にして、問責決議に対するどのような菅政権としてスタンスで臨んでいくのかというのは非常に大事な観点かと思うんですが、現在の菅総理のお考えをお聞かせください。
いろいろな識者の皆さんからいろいろな考え方を私に参考になるのではないかということで示していただいているケースもあります。1つの例を申し上げますと、衆議院ではいわゆる内閣不信任案というものがあって、それが可決すれば総辞職をするか、それとも一方では衆議院を解散することができるという規定は勿論皆さんご存じのとおりであります。しかし、参議院の問責については、例えばそれが内閣に対するものが成立したとしても、総辞職をするか解散をするという形にはなっておりません。つまり、参議院に対しての解散ということは憲法上規定されておりません。ということは、もし参議院が問責をしたときに、それが即辞任をしなければならないということになるとすれば、それは衆議院よりもより大きな権限を持つことになるのではないか。これは今の憲法の構造からして、必ずしもそういうことを今の憲法は予定していないのではないかという、こういう意見もいただいております。いずれにしても、こういったいろいろな意見をやはり党の方あるいは国会の方で議論していただく場面もあっていいのではないかと思っております。
● 専門誌の酪農経済通信の斎藤と申します。先ほど総理は開国という言葉をお使いになられましたが、開国と農業の再生の両立を図るという観点でいえば、今後、国内対策と国民負担等も含めて多額の財政措置も必要になるという考えも出てくるかもしれないんですが、そうした点も今後推進本部や実現会議で議論になりまして、先ほど6月に予定されているという話もありましたが、基本方針の策定の中で税制改正等も含めて議論になっていくということで考えてよろしいのでしょうか。
日本の農業を再生するという目標に向かって、あらゆるそれに関わることを議論する必要があると思っています。と同時に、先ほど申し上げましたが、現在、日本の農業が抱えている問題は、例えば就業している人の平均年齢が66歳という若い人が農業に従事したくてもなかなかする機会を持ちにくい、そういった問題もあります。また同時に、6次産業化と言われるような経営の在り方についても、もっと推し進めなければなりません。そういった意味で、いろいろな財政的な問題も勿論、議論としてあるいは必要となる場面はあり得ますけれども、ただそれで物事が進むというよりも、根本的な農業の構造をどのようにすれば世界に開かれたものになっていくのか。私、本当に感じるのは、多くの外国の人がやってきて、日本の料理ほどおいしいものはないと。日本の食べ物ほど安心しておいしいものはないということを口々に言われます。そういう意味では、農業も開かれた農業にしていくことが、私は可能だと考えています。
● 琉球新報の稲福といいます。先ほど総理は不条理を取り除きたいという話をされていましたが、沖縄に米軍基地が集中することも不条理なことだと思います。これは5月の日米合意どおり辺野古に移設されたとしても、沖縄に集中するという状況は変わりません。総理はこのことについて不条理だと考えますでしょうか。あと1点、日本全体で受け止め、できる限りの負担軽減をという話もありましたが、もう少し具体的にどのようなことに取り組めば負担軽減になるのか、総理の考えをお聞かせください。
私も多少ではありますけれども、沖縄の歴史などに触れた書物も拝見をさせていただきました。戦後に限って見ても、日本へ復帰された後においても本土における、つまり沖縄以外の米軍基地が大きく削減された中で、沖縄の基地が余り減らされなかったというこのことは、私にとっても政治家の一員として大変慙愧に堪えない思いをいたしておりまして、そのことは沖縄でも申し上げたところです。そういう意味で不条理という言葉で言い尽くせるかどうかわかりませんが、その1つだと考えております。そういう思いをしっかり私自身持ちながら、それでは具体的にどのようにしていくかということで、先だって沖縄で私なりの考え方を申し上げさせていただきました。何としても全体としては沖縄の基地負担を引き下げる方向で、できることをできるだけ迅速に進めていきたいというのが基本的な姿勢です。 
記者会見 / 平成23年1月14日
私は本日、内閣を改造し、先ほど皇居で認証式を済ませてまいりました。この改造について、国民の皆さんに、なぜこうした改造を行ったのか。更にはこれからどのように国会に臨もうとしているのか。そのことをまず申し上げたいと思います。
私は、今の日本の置かれた大変危機的な状況、20年間続く経済の低迷、財政の悪化、不安な社会保障、そして進まない地域主権、また外交の問題でも多くの問題を抱えております。こういった危機を乗り越えていく上で、通常国会に向かって党と内閣の体制を、最もそういう危機に向かって、それを越えていく力を最大にしたい。そういう観点から改造を行い、また引き続き党の人事についても、明日、明後日を含めて幾つかの点での強化を図ってまいりたいと考えております。
特に1月4日の記者会見で私は、平成の開国を行わなければならない、また、最小不幸社会を目指したい、不条理な政治を正していきたい、この3つの理念を申し上げました。そしてこれを更に具体的に申し上げれば、今、大きな課題としてあるのは、これから安心できる社会保障制度、これは制度の在り方と同時に持続可能なその財源をいかにしていくのか。この議論が必要であります。
今回、与謝野さんに経済財政担当大臣として参加をしていただいた。このことは、こうした面での議論を、国民的な議論を高めてまいりたいと考えたからであります。特に与謝野さんは、自民党時代においても「安心社会実現会議」というものを作られて、こうした社会保障の在り方、その財源の在り方について検討されてきた中心メンバーであります。
また、我が党が行った、この問題の検討会でも、多くのメンバーがこの「安心社会実現会議」とダブったメンバーにもなっておりまして、そういうことも含めて共通性の高い政策を持っておられると考えました。
更に言えば、この問題では、必ずしも政党と政党の間で大きな差があるというよりも、共通の認識があると思っておりまして、そういった点も含めて与謝野さんにこうした問題の責任者になってもらったこと、これはこの内閣改造の一つの大きな性格の表れだと受け止めていただきたいと思っております。
更には、経済連携と日本農業の改革についても、海江田大臣に経産大臣に就任していただき、勿論、鹿野農水大臣にも頑張っていただき、この2つを両立させる道筋をしっかりと打ち出してまいりたいと考えているところであります。
その上で、通常国会について、24日からの召集をこの後、衆参の議運の理事会の方に新しい官房長官から申し出をしていただくことにいたしております。この通常国会について、私は是非国民の皆さんにお願いをしたい、訴えたいことがあります。それは、この国会を単に与野党の国会ではなくて、国民の皆さんが一緒になって議論をする国会にしていきたいということであります。今の日本の、ただいま申し上げたような国の危機を乗り越えるためには、どのようにすべきなのか。これを与野党が国会の場で話し合い、国民の皆さんがそれを聞いて、こういうやり方があるのか、ああいうやり方があるのか、そういうことを判断していただく。多くの課題を先送りしてきているわけですが、これらについて一緒にそれを進めていこうではないかと、こういう議論についても与野党の議論が国民の皆さんの中で、そういうことを言っているのなら、あの党の言っていることがいいじゃないかと、こちらの方がいいじゃないかと、そういった議論にしていきたいと、このように考えております。
そして、そのために、例えば党首討論、クエスチョンタイムをできるだけ早い機会に開かれるのであれば、積極的に応じていきたいと、このことも申し上げておきたいと思います。
それに加えて、言うまでもありませんが、この通常国会は、来年度の予算を審議する場であります。私たちとしては、この来年度の予算こそ、現在、日本の置かれた危機を突破していく、まず、第一歩になり得る予算だと自信を持って国民の皆さんに提示をいたしました。
例えば経済成長について、科学技術の予算を積み増し、また、企業が海外に移転をするということを防ぐためにも、国内の立地に対して、促進的な税制、そういったものもこの予算の一環として提出をいたしております。
また、子育てあるいはこれから子どもを産もうとされている皆さんにとって、待機児童をゼロにする。このためにも200億円の予算を今年度積み、これから数年の間に待機児童がゼロになるように順次推し進めていく。
更には、地方主権、長年言葉は言われてまいりましたが、各省ごとの補助金がなかなか一括交付金等に変えることができなかった。当初は28億円しか各役所が出してこなかった、その一括交付金化を5,000億を超える規模で実施をするというのが、来年度の予算であります。こういった予算について、是非、将来の日本の在り方と関連した形で、大いに国民の皆さんの前で議論をしていきたいと、このように考えているところであります。
そういった意味で、24日に召集をお願いする予定の次期通常国会では、国民が一緒になって参加をしていただけるような国会になることを、私たちも全力を挙げて努力をいたしたいと思いますし、是非、野党の皆さんにもそういう姿勢で国会に臨んでいただけるよう、この場を借りてお願いを申し上げ、冒頭の私からのお話とさせていただきます。どうもありがとうございました。
【質疑応答】
● 産経新聞の阿比留と申しますが、今回の改造で与謝野さんが経済財政担当相に入りまして、藤井さんが官房副長官になられました。消費税率上げに向けた布陣が敷かれたとも言えると思います。ただ、民主党は平成21年の衆院選マニフェストで、行政の無駄遣い削減や、埋蔵金活用で16.8兆円の財源が生み出せると言いました。そして、それを信じて多くの有権者が政権交代を選んだ経緯もあります。総理も昨年7月の参院選前に、消費税率を上げる時期は、次の総選挙で国民の了解があった段階だと明言されております。民主党は、今回、マニフェストの見直しを表明しましたけれども、そうであるならば、ここは衆院解散でもう一度信を問うのが筋ではないでしょうか。
ただいまの質問について、私は非常に誤解を生むような質問だと申し上げざるを得ません。私たちが申し上げているのは、今の社会保障制度がこのまま維持できるのか、あるいは更に充実することができるのか、そのことをしっかりと議論しよう、そのときに合わせて当然ながら維持していくための財源の在り方、現在のままで十分なのかどうなのかということを議論しようとしているんです。それを、何か消費税引上げのための議論、そういうふうに決めつけて、すり替えて質問されるのは、私はフェアではないと思っております。先だっての記者会見のときにも申し上げたように、例えば現在の消費税を国税分については、高齢者の医療・介護・年金に振り向けるという、そうした税制の基本的考え方が平成11年に決まっておりますけれども、平成11年においては、約7兆円が消費税の国税分でありました。国の歳入分でありました。必要な費用は約8兆5,000億程度でありました。ですから、確かに高齢者の医療・介護・年金について、消費税の国税分でほぼ賄えてきたわけですが、平成22年においては、収入は7兆円が変わらないのに対して17兆円の支出を既にしているわけです。では、その差額の10兆円はどうしているかと言えば、それは実質的には赤字国債で、借金で埋めているわけであります。こういう状態が持続可能なのかという議論を社会保障の議論としてしっかりしよう。そういうふうに申し上げているときに、社会保障の社の字も言わないで、何か消費税の議論をしようとしているように言われるのは、私は大きく国民の皆さんに間違ったメッセージを与えると思いますので、あえてこのことを申し上げ、お答えとさせていただきます。
● 北海道新聞の山下です。総理は昨日の民主党大会で、今回の内閣改造は問責を出されたからではないとおっしゃいました。昨年9月に改造したばかりの有言実行内閣をたった4か月で変えるのは非常にわかりにくいと思います。問責がなくても仙谷官房長官を枝野さんに交代させるつもりだったのでしょうか。また、これまで法的根拠の問題というのがありましたけれども、今回の人事が、閣僚が問責されれば辞任するという慣例を作ることにつながらないでしょうか。それから、首相はこれまで412人内閣ということもおっしゃっておりましたけれども、今回の閣僚人事では小沢元代表に近い議員の起用がありませんでした。小沢氏の周りには適当な人材がいなかったということでしょうか。あるいは首相に何らかの排除の意図があったということでしょうか。
先ほど申し上げましたように、この内閣の改造と党の体制は、これは大会でも申し上げましたが、民主党の危機を超えるためではなくて、日本の危機を超えるためという観点から行ったもの、あるいは行おうとしているものであります。その理由については、今、申し上げたように、今、日本が抱えている危機の大きな課題を超える上で、例えば与謝野さんの参加といったものも必要だと考えたわけであります。同時に党の方のいろいろな活動も更に大きくしていかなければなりません。例えばシンクタンク、あるいはいろいろな「新しい公共」と呼ばれるようなNPOグループとの連携。そうしたことは内閣だけではなかなかできません。こういう活動に大きく幅を広げていく上で、仙谷さんは大変有能な力を持っておられると思っております。そういった意味で、全体のことを考えた中で、日本の危機を超えていく上で、最強の体制をつくる。そういう考えで推し進めたものであります。また、何か一部のグループでやったのではないかという趣旨のことを言われますが、それは全く当たりません。9月の代表選挙で私が党員サポーター、全地方議員、全国会議員に申し上げたわけです。クリーンでオープンな政治をやりたい。そして、私がその皆さんによって代表に選ばれたわけです。ですから、その公約を実現することに協力をしていただける方であれば、それはだれでも全員参加でやりましょう。例えばオバマ大統領が誕生すれば、オバマ大統領の公約を実現する上で協力する人が集まっていくのは当然であります。そういった意味で、私の代表選の公約あるいはそうした考え方を中心にして、党がまとまって、この日本の危機に飛び込んでいく。そういう立場でこの改造や党人事についての強化を行う、あるいは行おうといたしております。その中には一般的に言えば、小沢さんのグループと言われる方も既に、特に副大臣、政務官にはこの間もたくさんおられますし、代表選で必ずしも私を応援していただいた方以外にも、閣僚に既に何人もおられるわけでありまして、基本的に党の方針あるいは私が申し上げたクリーンでオープンな政治というものに賛同し、共に行動していただける方は全員参加をしていただく。そういう姿勢で臨んでいるということを明確に申し上げておきます。
● 朝日新聞の坂尻です。先ほど総理は社会保障改革に力を込めるとおっしゃったので、少し具体的なことをお聞かせ願いたいと思います。社会保障改革の1つの大きな柱に、年金制度改革の問題があると思います。今回起用された与謝野さんは、この年金制度については現時点では社会保険料方式が最も合理的だと。これは従前からこういう姿勢を示されていらっしゃいます。一方で民主党政権は、09年のマニフェストでもそうでしたが、全額税方式による最低保障年金の創設ということを掲げていらっしゃいます。今回、与謝野さんを起用されたことで、与謝野さんの議論の進め方によっては、民主党が掲げた全額税方式という旗を降ろされることも選択肢と考えていらっしゃるのでしょうか。また、そうであるとすれば、この民主党マニフェストの矛盾を国民に対してどのように説明されるお考えでしょうか。
先ほど申し上げましたが、社会保障制度というものの考え方、年金を含めて、大変幅広いものがあります。そして、高齢化というものが、いよいよ私も含む団塊世代が60あるいは65歳を超える中で、従来議論してきた年金制度の改革で、果たしてそうした状況に対応できるのか。これまで相当民主党の中でも議論してまいりましたが、それが3年、5年経過をする中で、現実の人口構成の変化は、極めて急激なものがあります。ですから、私は、勿論これまで民主党として提案し、議論してきたことをベースにした議論が必要だとは思いますけれども、そういうことをベースにしながらも、いろいろな意見がこれから本格的な改革に向かって議論がされることは、他の考え方も含めて議論されることは、私は十分あっていいのではないかと考えております。
● NHKの山口です。総理、与謝野さんに期待をかけて起用なさったということですけれども、412人内閣ということで、民主党の中には有能な人がいっぱいいるとおっしゃられていたんですが、その中から人材を発掘して、起用しようということはお考えにならなかったんでしょうか。
先ほども申し上げたように、412人内閣というものを念頭に、先の私の代表選が終わったとき、あるいは就任したときに、そういう方向で、閣僚ばかりでなく、副大臣や政務官を含めて、適材適所でお願いをした。それに加えて、政調を復活しましたので、そしてその政調会長に入閣をしていただいておりますので、従来の与党の中での議論が、積極的な形で内閣にも反映できる仕組みがありますので、その幅も併せて理解をいただければ、政権党の場合は、党の中の議論は党だけで完結するということではないわけですから、そういう意味では、412人内閣というものの形を党と内閣に立場は分かれておりますが、私はトータルして考えていただければ、そうした形になっていると。その中で勿論、それぞれの分野、能力や経験のある方は、その中で中心的な役割を大いに果たしていただきたいと思っています。
● ダウ・ジョーンズのモナハンです。TPPの議論についてお伺いします。TPPの推進派として知られる海江田大臣を経済産業大臣に指名されました。TPPにつきましては、農業関係者を始め、民主党の内外から反対の意見が出ていますが、どのようにその反対の方を説得されますでしょうか。
これもこの間ずっと申し上げてきているわけですけれども、農業の改革というのは、この貿易自由化という問題を別に置いたとしても、避けて通れない状況にあると。就業している人の平均年齢が66歳という状況ですから、貿易自由化を一切現在のままで止めたとしても、あと5年、あと10年経ったときに、日本農業がこのままでは成り立たなくなる。そういう危機意識を持って、農業改革の本部を立ち上げ、私が本部長として、今、その改革の方向性を、大議論を始めております。そして同時に、TPPを含む経済連携の在り方についても、例えばそういうものに踏み込んで実現していく場合には、どういう農業の改革、農業に対するいろいろな手立てが必要か、あるいは手当が必要か。そういうことも事前にしっかりと検討しておこうという姿勢で現在臨んでいるところであります。そういったトータルな検討の中で、若い人がどんどん農業に入っていって、そして世界で最も私は多くの人がおいしいと言っていただいていると思いますし、安全だと言っていただいていると思いますが、そういう農業、そして食、食べ物を世界に広げていくことも十分可能である。そういう形で進めていくことで国民的な合意が得られると考えております。
● 日本経済新聞の犬童です。先ほど総理の社会保障の関係のお話があったんですが、幾つかちょっと確認させていただきたいんですけれども、最初に社会保障の在り方の議論、与野党協議の考え方についてお話されていましたが、これはまずは税制の抜本改革の議論というよりも、社会保障の在り方を議論して、その後に消費税を含む議論をしようという2段構えの考え方で、与野党協議に臨むというお考えを表明されたということなのかということが1つと、先ほど民主党の今までの議論をベースにしながらも、他の考え方も含めて議論することはあっていいというお話がありましたが、これは要するに全額税方式という年金改革の考え方はベースだけれども、必ずしもそれに固執されないということをおっしゃられたんでしょうか。あと、与謝野さんを中心にということで、先ほど政調会の話がありましたが、与謝野さんと玄葉さんとの関係をどういう形にされるのか。経済財政担当相と国家戦略相との関係、その整理ということもあるのですが、その考え方の整理をどういうふうにされているのか、ちょっとわかりやすく説明していただければと思います。
最初の御質問は基本的にはそのとおりです。つまりは社会保障制度の在り方を議論する。社会保障制度の在り方をこちらに置いて何か議論をしようとしているのでは全くありません。社会保障制度の在り方を議論する、と。そのときに先ほど申し上げましたように、例えば消費税の国税分を高齢者の医療費等に振り向けると総則はなっていますが、現実は7兆の収入に対して17兆既にかかっている。こういう問題も含めて社会保障制度を考える上で、それが持続可能であるのかどうかといったことを併せて当然議論しなければ、社会保障制度の安心というものは生み出すことはできません。ですから、基本的には社会保障制度の在り方を考えていく中で、必要なそうした持続可能な財源の在り方についても議論をする。そういう考え方であります。それから、年金制度の個別的な問題はいろいろあります。全額税方式という表現もされましたけれども、最低保障年金方式でありますので、必ずしも最低保障の部分を我が党は言っているのであって、全部を税金で賄うということではありませんので、今、我々がもともと言っていることを含めて、ですから、そういうことは私自身は先ほど申し上げましたが、従来、5年ぐらい前にいろいろ議論したことを私もかなり覚えておりますけれども、この5年間の人口構成の変化、更に5年、10年先の変化を考えますと、そのころ前提とした考え方そのものが果たしてそのままでいいのか。そういうことも含めて考えなければならない。これは当然のことだと思っています。
● ニコニコ動画の七尾です。視聴者の質問を代読いたします。年頭、経済3団体は、菅政権に対しまして合格点を出しました。具体的に言いますと、経団連は点数こそは語らなかったものの合格点ということで、幾つか包括的には合格点だったと認識しております。その一方で、世論やメディアの論調は、かなり厳しいものがございます。この経済界の評価とのギャップにつきまして、この原因はどこにあるとお考えでしょうか。更に、このギャップをどのように今後埋めていかれるおつもりでしょうか。
経済界がどのように言われたからということを超えて、私はこの1年半前からの政権交代後に民主党あるいは民主党政権でやったことは、大筋間違ってはいなかったと思っております。しかし、残念ながら、そのことをしっかりと国民の皆さんに理解していただくことができていないために、何かイメージとしてやっていないとか、できていないとか、ばらまきだとかということを言われて、それを十分にそうではないということを伝えきれていないと思うのです。例えば1つの例を挙げます。子ども手当であります。昨日の大会でも申し上げましたが、本当に日本の人口構成がどうなっているのか。ベトナムが平均年齢は確か27歳です。日本が現在45歳です。我が国も私が生まれた20年ぐらい目の昭和40年ごろには、平均年齢は勿論もっと若かったわけです。その時代にお年寄りに対していろいろな手当をだんだんとつくり上げていきました。しかし、子どもを産んで育てるという分野には、必ずしも十分な手当といいましょうか、社会的なフォローがありませんでした。それだけが原因ではありませんけれども、結果として少子化がどんどん進んできているわけです。そこに対して何をするのか。そういう観点から、私たちは子ども手当ということを提案し、まずは当初の目標の半分でありますが、初年度1万3,000円の子ども手当をスタートさせたわけです。ですから、私はこれをばらまきという言い方で、一言で片づけられるのは大変違っている。これまでお年寄りには比較的手厚かったけれども、子どもに対して非常に薄かったものをしっかりとバランスの良い社会保障にしていく。あるいは高校の無償化もその一環であります。ですから、そういう意味を含めて、しっかりと伝えきることができていない。あるいは来年度の予算で言えば、これも先ほど申し上げましたが、待機児童ゼロに向かって、具体的に予算を付け、工程表を作ってやっております。こういうことについてしっかり国民の皆さんに理解していただければ、私は国民の皆さんからも合格点が頂けるものと思っております。
● 共同通信の松浦です。総理は昨日、税・社会保障の協議に野党が参加しない場合は、歴史への反逆行為であるという大変強い発言をされましたが、早速、野党側が反発しております。野党の協力が是が非でも必要な状況の中で、なぜあのような挑発的な発言をされたのかということと、その発言を撤回するお考えはありますでしょうか。
確かに私が党大会で申し上げたときに、その直前でしたか、私の読んだ『デフレの正体』という本のことを紹介して、今も話題になりましたけれども、年齢構成が非常に大きく変化してきているということを申し上げました。私は、私自身の中でも、これほどの大きな変化に対して政策対応が遅れていることについて、当時、野党の立場が長かったこともあったとしても、あるいは一時、厚生大臣を務めたことも含めて言えば、こういう大きな年齢構成の変化というものに着目した対応は、やはり遅れていたということを私の反省も含めてあるわけでありまして、そういう意味では、野党含めてそういう状況にあると思いましたので、歴史という言葉を使ったのは、そういう日本の歴史の中で、あの著者は2000年に一度の出来事だと言っていました。つまりは、日本の歴史の中で人口そのものが減少に向かうのは、2000年前は、何年かは別として、少なくとも有史以来、わかっている以来、初めてのことだと言っていました。そういうことを念頭に置いて、こういう問題にきちっとした議論をすることが、今、生きている私たち政治家には絶対必要であって、そういうことを怠るということは、そういう歴史に対して、私はそれをある意味で軽視することになるという趣旨で申し上げたわけでありまして、別に言葉を撤回するとか、そういうことは考えておりません。
● 毎日新聞の田中です。問責と今回の改造についての関係を伺います。今回の改造で閣外に去った閣僚が3人おられますけれども、うち2人は問責が可決された方で、1人が問責を提出された段階の方ということで、3人とも問責に関係のある形になっておりまして、総理は問責と改造は関係ないというふうにおっしゃっていますが、野党側は、これをもって不信を深めている状態なんですけれども、総理として、改造に当たってそういう事態を招く可能性があったというようなことを考えていたのかどうか、どういうふうに整理して改造に至ったのかというのをもう一回お聞かせいただければと思います。
先ほど来、本質的なことは申し上げたつもりです。つまりは、我が党の危機とか、国会対応とか、それらを全く無視しているという意味ではありません。そういうことを勿論総合的に考えるのは当然ですけれども、そういう範疇で考えたのではなくて、今の日本の危機的な状況を超えていくために、内閣として、党として、どういう形が最も強力な体制になるのか、より責任を果たす体制になるのか、そういうことで申し上げたということです。問責についての考え方については、この間、いろいろ議論が行われております。私も何度かその議論をこの場でも紹介したことがありますけれども、今日は、そういう紹介は、今、申し上げたように、そういうことがベースで行った改造ではありませんので、細かいそういう議論は、この場では申し上げることは控えておきたいと思います。
● 改造内閣に名前を付けるとしたら。
私としては、これまで申し上げてきた有言実行内閣の具体的な実を示すときが来たと、ですから、有言実行内閣を推し進めると、そういう考え方です。 
2011/3/11

 

東北地方太平洋沖地震に関する記者発表 / 平成23年3月11日
国民の皆様、もうテレビ、ラジオで御承知のように、本日14時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード8.4の非常に強い地震が発生をいたしました。これにより、東北地方を中心として広い範囲で大きな被害が発生をいたしております。被災された方々には、心からお見舞いを申し上げます。
なお、原子力施設につきましては、一部の原子力発電所が自動停止いたしましたが、これまでのところ外部への放射性物質等の影響は確認をされておりません。
こうした事態を迎え、私を本部長とする緊急災害対策本部を直ちに設置をいたしました。国民の皆様の安全を確保し、被害を最小限に抑えるため、政府として総力を挙げて取り組んでまいります。
国民の皆様におかれましても、今後、引き続き、注意深くテレビやラジオの報道をよく受け止めていただき、落ち着いて行動されるよう、心からお願いを申し上げます。 
東北地方太平洋沖地震に関する総理大臣メッセージ / 平成23年3月12日
地震が発生して1日半が経過をいたしました。被災をされた皆さんに心からお見舞いを申し上げますとともに、救援、救出に当たって全力を挙げていただいている自衛隊、警察、消防、海上保安庁、そして各自治体、関係各位の本当に身をおしまない努力に心から感謝を申し上げます。
私は、本日、午前6時に自衛隊のヘリコプターで現地を視察いたしました。まず、福島の第一原子力発電所に出向き、その現場の関係者と実態をしっかりと話を聞くことができました。
加えて、仙台、石巻、そういった地域についても、ヘリコプターの中から現地を詳しく視察をいたしました。今回の地震は大きな津波を伴ったことによって、大変甚大な被害を及ぼしていることが、その視察によって明らかになりました。まずは、人命救出ということで、昨日、今日、そして明日、とにかくまず人命救出、救援に全力を挙げなければなりません。自衛隊にも当初の2万人体制から5万人体制に、そして、先ほど北澤防衛大臣には、更にもっと全国からの動員をお願いして、さらなる動員を検討していただいているところであります。まず、1人でも多くの皆さんの命を救う、このために全力を挙げて、特に今日、明日、明後日頑張り抜かなければならないと思っております。
そして、既に避難所等に多くの方が避難をされております。食事、水、そして、大変寒いときでありますので毛布や暖房機、更にはトイレといった施設についても、今、全力を挙げて、そうした被災地に送り届ける態勢を進めているところであります。そうした形で、何としても被災者の皆さんにも、しっかりとこの事態を乗り越えていただきたいと、このように考えております。
加えて、福島第一原子力発電所、更には第二原子力発電所について、多くの皆様に御心配をおかけいたしております。今回の地震が、従来想定された津波の上限をはるかに超えるような大きな津波が襲ったために、従来、原発が止まってもバックアップ態勢が稼動することになっていたわけでありますけれども、そうしたところに問題が生じているところであります。
そこで、私たちとしては、まず、住民の皆様の安全ということを第一に考えて策を打ってまいりました。
そして、特に福島の第一原子力発電所の第1号機について、新たな事態、これは後に官房長官から詳しく説明をさせますけれども、そうした事態も生じたことに伴って、既に10キロ圏の住まいの皆さんに避難をお願いしておりましたけれども、改めて福島第一原子力発電所を中心にして20キロ圏の皆さんに退避をお願いすることにいたしました。
これを含めて、しっかりとした対応をすることによって、一人の住民の皆さんにも健康被害といったようなことに陥らないように、全力を挙げて取り組んでまいりますので、どうか皆さんも政府の報告やマスコミの報道に注意をされて、冷静に行動されることを心からお願いをいたします。
また今回の震災に対しては、オバマ大統領から電話をいただくことを始めとして、世界の50か国以上の首脳から支援の申し出もいただいております。本当に国際的な温かい気持ち、ありがたく思っております。
有効にお願いできることについては、順次お願いをさせていただきたい、このように思っているところであります。
どうか、まずは命を救うこと。そしてそれに続いては、避難生活に対しての対応、これはかつての阪神・淡路の経験を踏まえて、仮設住宅などいろいろな施策が重要になると考えております。そしてその次には、復興に向けてのいろいろな手立てを考えなければなりません。野党の皆さんも、昨日に続く今日の党首会談の中でも、特に復興については一緒に力を合わせてやっていこうという、そういう姿勢をお示しいただきました。大変ありがたく受け止めております。
どうか国民の皆さんに、この本当に未曾有の国難とも言うべき今回の地震、これを国民皆さん一人ひとりの力で、そしてそれに支えられた政府や関係機関の全力を挙げる努力によって、しっかりと乗り越えて、そして未来の日本の本当に、あのときの苦難を乗り越えて、こうした日本が生まれたんだと言えるような、そういう取組みを、それぞれの立場で頑張っていただきたい、私も全身全霊、まさに命がけでこの仕事に取り組むことをお約束をして、私からの国民の皆様へのお願いとさせていただきます。
どうかよろしくお願い申し上げます。 
記者会見 / 平成23年4月1日
今日で震災発生から、ちょうど3週間が経過をいたしました。先ほどの持回り閣議で、今回の震災について「東日本大震災」と呼ぶことを決定をいたしました。改めて犠牲になられた皆様、御家族に心からお悔やみを申し上げ、被災された皆さんにお見舞いを改めて申し上げたいと思います。また、支援に当たっておられる自治体関係者、自衛隊、消防、警察など、本当に身を賭しての活動をされていることに心から敬意を表し、また、そうした公務員を持っていることを、私は総理として誇りに思っているところであります。
更には世界から多くの支援の申し出を受け、御支援いただいていることも、この場を借りて改めてお礼を申し上げたいと思います。
さて、今日は4月1日、新年度がスタートをいたしました。今年度予算は既に一部の関連法案とともに成立をいたしております。しかし、この予算提案後に起きた「東日本大震災」を受けて、まず最優先すべきはこの震災に対して被災者の支援、更には復旧復興に向けての政策を最優先しなければなりません。そこで、成立した予算ではありますけれども、一部を執行停止して、そして、そうした大震災の被災者に充てるための補正予算の準備に入りたいと思っております。補正予算は復旧復興の段階に応じて何段階かで必要になると考えておりまして、まず第一弾としてはがれきの処理、仮設住宅、更には雇用の確保、そして産業復旧の準備、こうしたことを第一弾として準備をしてまいりたい。今月中には第1次補正の中身をかためて、国会に提出をしていきたいと考えております。
次いで、いよいよ復興に向けての準備に入らなければなりません。復興は従来に戻すという復旧を超えて、素晴らしい東北を、素晴らしい日本をつくっていく。そういう大きな夢を持った復興計画を進めてまいりたいと思っております。この間、被災を受けられた自治体の市町村長の皆さんと電話などでいろいろと御意見を伺いました。そうした御意見も踏まえて、例えばこれからは山を削って高台に住むところを置き、そして海岸沿いに水産業、漁港などまでは通勤する。更には地域で植物、バイオマスを使った地域暖房を完備したエコタウンをつくる。そこで福祉都市としての性格も持たせる。そうした世界で1つのモデルになるような新たな町づくりを是非、目指してまいりたいと思っております。
更に復興の中でも雇用の問題が重要であります。この地域はいろいろな部品の工場など、製造業もありますが、同時に農林漁業、特に漁業の盛んな地域であります。何としても1次産業を再生させていく、このことが重要だと考えております。
こうした復興に向けて、その青写真を描くために、有識者や地元の関係者からなる「復興構想会議」を、震災1か月目となる今月11日までに立ち上げたいと、このように考えております。それとともに、この「復興構想会議」から出されるいろいろな提案や計画を、実行に移すための政府としての態勢づくりに入り、今月中にはその態勢もかためてまいりたいと、このように思っております。
この復旧復興に関しては、野党の皆さんも積極的に協力を申し出ていただいておりますので、与野党超えて協力をして推し進める態勢をつくっていくことを考えており、また、そうなることを私としては切望をいたしております。
次に、福島原発についてであります。この原子力事故に対しては3つの原則に立ってこれまでも取組み、これからも取り組んでまいります。
その第一は、何よりも住民、国民の健康そして安全を最優先して事に当たる。このことであります。
第二には、そこまでやらなくてもよかっただろうと言われるぐらいに、しっかりとリスクマネジメントをして対応していくということであります。
そして第三には、あらゆる起こり得ることについてきちんとシナリオを予想し、それらに対してどういう状況が起きても、きちんと対処できるような態勢をつくっていくということであります。
この3つの原則に立って現在、対応を進めているところであります。
福島原発を安定状態に戻すため、現在2つの力を結集して対応を進めております。
1つは言うまでもありません。政府、そして事業者である東京電力や関連企業、更には原子力委員会など、専門家の皆さん総力をあげ協力をして、この問題に取り組んでいただいている、あるいは取り組んでおります。
もう一つは国際的な協力であります。特にアメリカの関係者は既に事故対策に本格的に加わっていただき、共同作業に入っていただいております。また、オバマ大統領も先日の電話対談で、改めて全面的な協力を約束いただきました。昨日来日されたサルコジ大統領は、原発先進国としてフランスの関係者による協力に加えて、G8、G20の議長として、そうした立場での協力を申し出ていただきました。
更にIAEAも既に専門家を派遣いただいて、いろいろと対応をいただいております。この福島原発については、長期戦も覚悟して、必ず勝ち抜いていく。その覚悟をもって臨んでまいります。国民の皆様にもいろいろと御不便をおかけいたしますけれども、必ずこの問題に打ち勝って、安心できる体制に戻していくことをお約束いたしたいと思います。
次に、この震災発生から3週間の中で、私は本当にある意味でこの悲惨な震災ではありますけれども、一方で、大変心を揺さぶられるような姿を今、見ております。それは日本の中で、そして世界の中で、私たち日本のこの危機に対して、連帯して取り組もうという、そういう機運が非常に高まっていることであります。
国内でも、ややもすれば日本では人と人との絆が薄れてきたと言われてきましたけれども、今回の震災に関しては、自治体の皆さん、企業の皆さん、NPOの皆さん、そして個々人が自らの意思で何とか支援をしよう、協力をしよう、立ち上がっていただいております。私はこうした人々の絆が改めて強く結ばれ、その結び付きが広がっていることは、日本の新しいすばらしい未来を予感されるもの。必ずやすばらしい未来を勝ち取ることができると確信をいたしております。
災害について多くの随筆を残した物理学者の寺田寅彦さんは、日本人を日本人らしくしたのは神代から今日まで根気よく続けられてきた災害教育だと、その随筆の中で述べておられます。
私は、今回の「東日本大震災」を乗り越える中で、日本人が改めて絆を取り戻し、そしてすばらしい日本を再生することができると確認いたしております。そしてその中で私自身、そして私の内閣は、皆さんの先頭に立って全力を挙げて頑張り抜くことをお約束を申し上げて、この記者会見冒頭の発言とさせていただきます。
どうもありがとうございました。
【質疑応答】
● 日本テレビの青山です。福島第一原発の事故についてお伺いします。震災から3週間経って、周辺住民のみならず国民も大きな不安をいまだに抱いていると思うんですけれども、総理はこれまで予断を許さない状況と繰り返しおっしゃってきましたけれども、まずその現状認識と今後どういう対応や手段で事態を収拾させる考えなのか。また、最悪の事態を避けるためにどういうオプションを持っているかなどを具体的にお聞かせください。また、いつになれば事態が落ち着くと見ているのか、めどもしくは目標について、率直にお考えをお聞かせください。
まず、福島原発事故によって避難など大変御不自由をおかけしている皆さんにおわびを申し上げるとともに、いろいろな形で野菜など被害を受けておられる皆さんにもおわびを申し上げたいと思っております。現在の福島原子力発電所の状況についてでありますけれども、先ほど申し上げましたように、専門家の皆さんの力を総結集して、この安定化に取り組んでいるところであります。現在の段階で、まだ十分安定化したというところまでは立ち至っておりません。しかし、先ほども申し上げましたように、あらゆる状況にそなえての対応を準備しておりますので、必ずやそうした安定化にこぎつけることができると考えております。時期的なめどについては、今の時点で明確に言うことはまだできない状況にある。精いっぱい努力をしている状況にある。こういうことを申し上げておきます。
● 読売新聞の五十嵐です。総理、復興についてもう少し具体的なことをお伺いしたいと思います。先ほど有識者や地元関係者による「復興構想会議」を設立されるということでしたけれども、政府の態勢としては、例えば閣僚による本部のようなものを考えてらっしゃるのか。その場合には復興担当相を置かれると思うんですけれども、具体的な人選に入っておられるのかお伺いしたいと思います。特に担当相については、自民党の谷垣総裁に入閣を要請されて拒否されたわけですけれども、改めて協力を要請する考えはおありでしょうか。また、中長期的な復興計画の作成というのが必要になってくると思うんですけれども、いつごろをめどに策定されるおつもりなのか。また、巨額になるということが確実な復興財源ですけれども、補正予算等の対応に加えまして、消費税とか、あるいは所得税とかの増税についても選択肢としてお考えでしょうか。多岐にわたって恐縮ですが、よろしくお願いいたします。
先ほど申し上げましたように、がれき処理など、まずは被災者支援、復旧に向けての補正予算をつくりながら、復興に向けての準備を進めてまいりたいと思います。これも先ほど申し上げましたが、震災から1か月目となる今月11日をめどに、「復興構想会議」を立ち上げて、その中でどのような形で復興に臨んでいくのか。地元関係者を含め、有識者を含め、しっかりと議論をいただきたいと思っております。また同時に、そうした提案を受け止めて実行する体制について、どのような形にしていくかということも、この間、議論を進めていくことにいたしております。かつて後藤新平さんがこういうことをしたとか、ああいう例があるとか、あるいは阪神・淡路のように本部をつくってやったとか、いろいろな過去の例も私自身もお聞きいたしております。是非とも効率的で、そして対応力の高い態勢をつくっていきたい。このことはどのような形がふさわしいかをこれから並行的に検討してまいりたいと思っております。そういった中で復興担当相というものを置く、置かない、あるいはどういう形にする。これもおのずから決まってくることだと思っております。また、それに必要な財源についても、先ほど申し上げましたように、一部は今年度予算の一部凍結などを振り向ける部分もありますけれども、それだけで十分でないことは明らかでありますので、その財源の在り方についてもそういった「復興構想会議」、あるいは場合によっては与野党の協議の中で議論を進め、合意形成を図っていきたい。このように考えております。
● 共同通信の松浦です。19日に総理は、自民党の谷垣総裁に入閣を要請して拒否されたわけですけれども、今後も呼びかけを続けるお考えはあるかということと、今までの与野党対立の経緯を踏まえれば大連立はなかなか難しいかと思うんですが、どのような環境整備をなさるおつもりなのか。その2点をお願いできますでしょうか。
私が谷垣さんに電話を差し上げたことは事実ですけれども、是非お会いしてお話をしたいということを申し上げたわけでありまして、その内容について私の方からこの間、何を言ったかということを申し上げたことはありません。そういう中で、いずれにいたしましても、先ほども申し上げたように、この大震災に当たっては自由民主党始め各野党の皆さんも、この点についてはしっかり協力をするということを言っていただいておりますので、できればそうした皆さんの力を借りる、あるいは更に言えば、共に計画を立てていく。そういう形が生まれてくることを期待し、私としては切望いたしております。
● NHKの山口です。復興のための財源についてお伺いします。総理は予算の組み替えだけでは足らないとおっしゃいましたけれども、それでは赤字国債というものを視野に入れているのか。それとも、また増税というものを視野に入れているのか。その両方なのか。総理のお考えをお聞かせください。
これも今、申し上げたところですが、今年度予算が成立をしておりますが、一部の凍結ということも決めておりますけれども、それだけで勿論、復興資金として十分でないことは明らかだと思っております。そういう中で、どういう財源をもって充てていくかということ自身も、ある意味、「復興構想会議」の重要なテーマであると同時に、やはり与野党の協力あるいは合意がなければそうした予算なり関連法案を成立させることもできないわけでありますから、そういう中で議論をし、合意形成を図っていきたい。こう考えております。
● 総理のお考えはどうなんですか。
この段階で、まだそういう「復興構想会議」をこれからつくろうという、あるいは与野党で本格的な議論をこれから始めようというところで私がこれでいくと言うのは、やはりそういうことにとっては、まずはいろんな意見を聞くというのが今の私の姿勢です。
● ダウジョーンズの関口と申します。今回の原発事故を受けて、対応に莫大な資金が必要とされる東京電力ですが、日本政府の公的資金投入や債務保証の可能性についてお話しください。
東京電力の事故によっていろいろな補償の義務が生じることは当然予想されます。また同時に、政府としても最終的にはそうした東京電力の第一義的な義務・責任を超える場合には、やはり政府としても責任を持って対応しなければならないと考えております。その上で現在、東京電力は民間事業者としてこの間、経営がされてきたわけでありますから、今、申し上げたような形で支援をすることは必要だと思っておりますけれども、基本的には民間事業者として頑張っていただきたい。このように思っております。
● 朝日新聞の坂尻です。原発問題に関して伺います。これまでの対応は自衛隊なり消防なり、かなり日本一国で解決を図ろうとする姿勢が強かったと思うんですが、総理が冒頭でも紹介されたように、ここ最近は国際社会の協力ということを強調されています。これは裏を返すと、国際社会の英知を集めなければならないほど事態は深刻になっているのかということを伺いたいのが1点。2点目は、先ほども質問がありました具体的なオプションなんですが、今、福島第一原発でやっていることは、とにかく冷却しなければいけない。真水を注入して冷却作業を続ける一方で、汚染水の処理も同時に進めなければならないという一進一退の攻防が続いているんですが、このオプションを当面続けなければならないのか。あるいは具体的にこれ以外のオプションというものが取り得るのかどうか。そこをお聞かせください。
まず国際社会との関係ですが、米国からは非常に早い段階からいろいろな提案をいただいておりまして、私が少なくとも受け止めているところで言えば、そういった申し出に対してほぼすべてといいますか、必要なものについてはすべて是非お願いするという姿勢で臨んでまいりました。現在、統合本部を中心にして事業者、原子力安全・保安院、あるいは原子力安全委員会も含めて連日、米国の専門家との間でいろいろな課題について協議をし、あるいはいろいろな準備をいたしております。そういう意味で当初から、特に米国に関しては、この対策に対して全面的な協力をいただき、共同して事に当たってきているところであります。加えて、先ほど申し上げたように、フランスやIAEA、更に多くの国から、この原子力事故に関しての協力要請もいただいておりまして、相当の協力をお願いいたしているところであります。それで、どういうオプションがあるのかということを言われましたけれども、これは基本的にはそれぞれ専門家集団が協議をする中で、対応を日々、スケジュールを立てて進めているところであります。私の理解をするところによれば、やはり冷却ということは極めて重要な、そして継続しなければならない一つの作業である。それに伴って現在、水の汚染とかいろいろなことが発生しておりますけれども、そうしたものに対してもきちんと対応しなければならない。こういう冷却が将来、冷却機能としてきちんと回復をする。そのところまでしっかりとつなげていくことがやはり一つのまず目標であろう。このように考えております。よろしいでしょうか。
● 河北新報社の元柏と申します。被災者の生活再建についてお伺いします。今回の津波では、全財産を流されて避難なさっている方が大勢いらっしゃいますけれども、現行の生活再建支援法では、支給額は限定的で、また再び故郷に戻って生活を立て直して住居を構えるというのは、容易でないと思われます。政府内でも検討は進められていると思いますけれども、支援法の見直しや拡充についての総理の御認識と、今後も大きな課題になるであろう地域の雇用創出についての現在のお考えというのをお聞かせください。
仙台も含む宮城県、福島県、岩手県を始め、多くの東北の各県、あるいは一部関東各県の皆さんに本当に多大な被害が発生し、御苦労をいただいていることに、改めておわびを申し上げ、あるいは激励を申し上げたいと思います。今、生活再建について、それぞれの被災者に対する支援をどうするのか、更に増やすのかというような御質問だと思いますが、そのことについては、できるだけ十分な支援ができるよう努力していきたい、このように考えております。また、雇用については、まずはがれきの処理など、それぞれの自治体で生じるいろいろな作業について、場合によっては雇用という形で協力をいただき、そして産業基盤を再生させる。そうした中で新たな雇用あるいは旧来の雇用を回復する。そういったことが極めて重要だと、こう考えております。
● ニコニコ動画の七尾です。よろしくお願いします。福島原発におけます退避区域についていまだに問題となっておりまして、地元の方々を始め、国民が不安、不信に陥っております。昨日のサルコジ大統領との会談におかれまして、G8などで国際的な原発の安全基準について話し合うとの提案が出ましたが、こうしたことに加えまして、原発事故に伴う退避区域の世界安全基準を国際社会の場で改めてお決めになるお考えはありませんでしょうか。これにより国民も安心し、無用な風評被害を防止できるのではないでしょうか。
昨日、サルコジ大統領といろいろと意見交換をいたしました。その中で、原子炉、原子力発電所の安全性に関しての国際基準というものが、現在決まっていないという中で、そういったことをしっかり国際的な場で議論をして決めていこうではないかという話をいたしたところです。その中に避難区域に関しての共通的なルールまで含まれるか、含まれないかということまでは、議論いたしておりません。まずは炉の問題として、そういうものが必要だということを申し上げました。現在、我が国では、御承知のように、原子力安全委員会が政府に専門家としての助言をする。勿論そのベースには、いろいろなモニタリングなど、あるいはいろいろな原発におけるオペレーションなども考えて、専門家の知識を集めて助言をすると。そういう中で助言をいただいて、専門家の皆さんのある意味の提案を尊重する中で、その範囲を決めているというのが我が国の状況でありますから、それは日本としては、国民の皆さんにその基準を守っていただいておれば、健康に対しての被害が生じることはないという、そういうことでお願いをしているところであります。
● 時事通信の後藤です。先ほど、総理は今年度予算の一部凍結について発表されましたけれども、凍結ではなくて、例えば撤回とか修正を考える歳出項目はございますでしょうか。特にマニフェストで掲げている子ども手当について、修正もしくは撤回されることはございますでしょうか。お聞かせください。
御承知のように、いろいろな国会での与野党の議論の中で、子ども手当についての今回、本来なら1万3,000円を3歳児までは2万円に引き上げるといった部分についての政府の案を国会に出していたわけですが、それを現在取り下げたところであります。そういうことを含めて、今後、子ども手当を含めて、どういう形でそれを継続する、あるいはどういう形にしていくかというのは、今後の勿論党内の議論も必要でありますけれども、現在のつなぎ法案の成立の過程を含めて、与野党の間でしっかり議論をして、合意形成を図っていきたいと、こう思っております。
● 日本経済新聞の犬童です。原子力政策の大きな方向性について伺いたいんですが、昨日、サルコジ大統領は安全性の話をおっしゃって、厳しい基準をつくる必要があるということで議論されるということとともに、フランスでは原子力政策については前に進めていくというメッセージを発信されていたと思います。総理は、事故の検証を含めてお考えになるということでしたが、サルコジさんとの会談の前の志位さんとの会談では、各紙でエネルギー計画を見直すということだけが紹介されております。総理としては、原子力政策を前に進める方向で考えておられるのか、あるいは本当に脱原発ということで代替のエネルギーを考えているのか。大きな方向感としてはどちらなのでしょうか。
まず、現在、日本の原子力事故としては、勿論過去にない最大の事故を、現在招いておりますし、世界的に見ても、勿論もっと大きな事故もありましたけれども、最大級の事故が現在起きているわけですから、何をおいても、やはりこの問題がある程度安定した段階で、徹底的な検証というのが再スタートのまさにスタート点にならなければならない。これはだれもが同意されることではないでしょうか。ですから、そういう意味で、まず今回も、この問題が少し安定した段階から、徹底した検証を始めていく。その中でどういう安全性を確保すれば、我が国の中でこれからの国民の安心も含めて、確保できるのか。このことはその検証の中から明らかになってくるだろうと思っております。あらかじめこういう方向で行くというよりは、検証からスタートするということであります。エネルギー政策の見直しという表現がありますけれども、それはあくまで今できている原発の計画について、当然それが今回の検証の中で、十分な安全性を保ったものになるのかならないのかという、そういうことも検討する必要があるという意味で申し上げたわけでありまして、結論的にもう全部やめたとか、全部そのままやるとか、そういう意味で申し上げたわけではありません。
● フリーランスの畠山理仁と申します。20〜30kmの範囲の屋内退避について伺います。IAEA、米国環境保護庁、フランス、欧州委員会の原子力事故に対する緊急事態対策マニュアルでは、木造建築物では外部被曝の低減はほとんど期待できないとなっています。また、吸入による内部被曝を低減する屋内退避についても、許容時間は48時間程度と制限しており、それ以降は事態の収拾により退避措置が解除されるか、避難が決定されるとしています。既に3週間が経ちますが、屋内退避圏には現在も2万人の方々が残っており、退避圏内であるがゆえに思うように物資も届かず、非常に不自由な暮らしをされています。それでもなお、内部被曝の低減も期待できない屋内退避が解除されない理由をお聞かせいただければと思います。
まず先ほども申し上げましたが、こうした避難あるいは退避の判断をする場合には、原子力安全委員会の助言を求め、勿論それ以外の皆さんのいろいろな意見もお聞きをしておりますけれども、基本的にはそうした助言を尊重しながら対応いたしております。現在、基本的には20kmまでで安全であるけれども、20〜30km圏は屋内にいていただく限りは大丈夫だという、そういう判断の下に、そうしたことをお願いいたしております。ただ、御指摘のように、安全性の問題と少し別な形で、生活をしていく上で、例えば物資の供給が20〜30kmの間について非常に困難であるとか、そういった問題が生じていること自体は、私たちも承知をいたしております。それに対して、それぞれの自治体なり対策本部の方で対応もいたしておりますけれども、その問題について、どのような形で対応すべきなのか。これは原子力安全委員会と同時に社会的な便宜がどうであるかということも含めて、地元自治体ともいろいろ意見交換をいたしている。それが現状です。
● フジテレビの松山です。被災地の復興についてお伺いしたいのですけれども、総理は先ほど、東北地方を新たな再生のモデルにしたいとおっしゃいましたけれども、そうした意味では今後の「復興構想会議」などにおいては、被害の激しい被災地について、沿岸部で特にひどい地域がありますけれども、そうした地域で一部土地の国有化や公有化なども念頭に入れていらっしゃるのでしょうか。また、福島第一原発の周辺についても長期戦の覚悟で必ず勝ち抜くとおっしゃいましたけれども、長期戦という以上はある程度の長いスパンでの避難ということを念頭に置かれていると思いますが、今後その10年、20年単位で一定区域を立入禁止区域にするなどの考えはおありでしょうか。
こういう大きな震災が起きた後によく有名な話は、後藤新平さんの首都の大改造と言いましょうか、そういうものを並行してやろうとされて、一部実現し、必ずしも構想されたところすべてはできなかったといったような歴史上の事実も私なりに少し読んだり、話を聞いたりいたしております。そういう意味で、先ほど申し上げたように、北陸のリアス式海岸において、過去においてもかなり大きな津波が来たところもありますし、今回はある意味初めて、それほどリアス式でないところまで高い津波が来ておりますので、そういうことを考えたときに、どういう土地利用の在り方がいいのか。これは地元の首長さんもそれぞれの方によって、いろいろな意見をお持ちの方があります。そういった意味で、まさに「復興構想会議」などにそういった土地利用の専門家にも加わっていただいて、どういう形であり得るのか。しっかりと検討し、地元あるいは土地所有者の皆さんとの合意も含めた中でなければ、こういうことはなかなか進みませんので、一つの検討の大きな課題だと、こう考えております。
● 原発周辺の立入禁止エリアの設定についてはいかがでしょうか。
これは何度も申し上げますように、現在はまだ非常に状況が渦中にありますので、まだその後のことまで申し上げるのは、少し今日の時点では早過ぎるのではないかと思っています。
● 中国新聞の荒木と申します。今回の原発事故についてお伺いしますけれども、広島、長崎で経験した放射線の怖さというものが再び現実になって、非常に住民は不安を抱えているわけですが、原発の安全神話というものも今回の事故を機に崩れてしまった中で、先ほど総理は、まずは検証からとおっしゃったわけですが、原発を今後減らしていくという方向性は、総理としては持っていないということなのでしょうか。
先ほど申し上げたことに尽きますけれども、まず現時点で言えば、これだけの原子力発電所の大きな事故が起きているわけですありますから、これがある程度の安定した段階でしっかりした検証が必要だということに、この問題自体で言えば尽きるわけです。同時に多少申し上げれば、エネルギーの利用の在り方として、この間、CO2を発生しないエネルギー源ということで、勿論、太陽エネルギー、風力あるいはバイオマス等も大変重要でありますが、ある意味、原子力というものもCO2を発生しないという意味で、ある意味、見直されてきたところもあったと思います。そういうとも含めて、日本において、それではどういうエネルギーのバランスの供給を考えるのかということも、当然ながらこれまでも考えてきましたし、これからも考えなければならない問題だと思っております。ですから、そういう意味を含めて、すべては検証するところから始まっていくと、このように考えております。 
記者会見 / 平成23年4月12日
昨日で東日本大震災発生から1か月が経過をいたしました。当初、昨日この記者会見を行う予定にしておりましたが、大きな余震があり被害が出ましたので、その状況を把握することが優先と考え、本日にこの会見を開かせていただきます。
本日も数多くの余震が発生しておりまして、万一大きな余震が発生したときには、この会見も中断をさせていただかなければなりません。全国の皆さんも落ち着いて行動していただきたいと、このようにあらかじめお願い申し上げます。
さて、1か月が経過して、いよいよこれから人命の救済、そして救援から、復旧、復興へと歩みを進めてまいらなければなりません。それに当たって、これまで大きな震災によって亡くなられた皆さんに、改めて哀悼の誠をささげますとともに、その御家族や被災された皆さんに、心からのお悔やみとお見舞いを改めて申し上げたいと思います。
大震災発生直後に、私はまず人命の救済を考え、自衛隊に出動を命じました。以来、自衛隊は10万人の態勢をもって人命の救出、更には復旧、復興に向けて全力を挙げてくれております。自衛隊の最高司令官として、本当に惜しみのない自衛官の皆さんの活動に対して、誇りと思うとともに、一人ひとりの隊員に対して心から感謝を申し上げたいと思います。
加えて、警察、消防、海上保安庁、そうした皆さんも本当に奮闘していただいております。更には自治体、企業、NPO、あるいは個々の人たちが自発的にこの震災の被害者を助けようと行動に立ち上がっていただいております。
更に全世界から多くの国々が救援の手を差し伸べてくださっております。改めてここにそうした皆さんの行動、各国の行動に対して、心から敬意と感謝の意を表明させていただきたいと思います。
いよいよ復旧に入らなければなりません。そして復興に向かわなければなりません。今回のこの大震災に対する復興は、ただ元に戻すという復旧であってはならないと思っております。つまり、新しい未来の社会をつくっていく、創造する、そういう復興でなくてはならない。このように思っております。
私は、さきの記者会見で津波被害を受けないような高台に住んで、人と自然にやさしい福祉とエコのまちづくりということを一つのイメージとして申し上げました。今日改めて復興によって生み出される社会の姿について、3つの考え方を申し上げたいと思います。
第一は、何よりも自然災害に対して強い地域社会をつくること。
第二は、地球環境と調和した社会システムを構築すること。
そして第三には、人にやさしい、特に弱い人に対してやさしい社会をつくり上げることであります。
そして、こうした復興を成し遂げるための進め方として、次の3つの原則を申し上げたいと思います。
第一に、何といっても、被災された地域住民の要望、声を尊重する。
第二に、政界、官界に限らず、学者、民間企業、NPOなど、全国民の英知を結集してこの復興に当たる。
第三に、未来の夢を先取りする未来志向の復興を目指す。この3つの原則であります。こうした原則に沿って復興を進めるために、まず全国の英知を集めるため、有識者を中心とし、更には被災地の知事にも加わっていただいて、復興構想会議をスタートさせました。五百旗頭防衛大学校長にその座長をお願いし、そして、6月をめどに復興の青写真をつくっていただくようお願いをしたところであります。
復興を実際に進めるためには、予算や法律を国会で成立させることが必要となります。住居、雇用、産業など、幅広い範囲での政策実現でありますので、これには是非、野党の皆さんにも青写真をつくる段階から参加をしていただきたい。このように期待いたしております。そして、その青写真に沿って、実際に復興を進めるための復興本部といったものについては、その在り方を含めて今月中に具体的な姿を提案してまいりたいと考えております。
さて、大震災に伴って、我が国にとってこれまで経験のしたことのない最大級の原子力事故が福島原子力発電所で発生をいたしました。地震によっては、原子炉は自動停止をいたしましたけれども、続いて来襲した津波のために、非常用電源が作動せず冷却機能が停止するという重大事故となりました。
私は、直ちに原子力災害対策特別措置法に基づく原子力緊急事態宣言を発令し、同法に基づく原子力対策本部を立ち上げました。そして、その事故直後から東京電力、原子力安全・保安院、そして原子力安全委員会のメンバーに私と海江田経産大臣にも加わっていただいて、対策に全力を挙げてまいりました。
この間、大変厳しい状況が続き、放射性物質の外部への放出も生じたところであります。本日、この放射性物質の外部放出を試算した結果、国際的指標に基づいてこの事故の暫定評価をレベル7とすることを発表したところでもあります。
一方で、現在の福島第一原子力発電所の原子炉は、一歩一歩安定化に向かっておりまして、放射性物質の放出も減少傾向にあります。東京電力に対して、今後の見通しを示すように指示をいたしておりまして、近くその見通しが示される予定になっております。
この原子力事故、何としてもこれらの原子炉、更には使用済み燃料のプールをコントロール可能な状態に戻して、これ以上の被害の拡大を押しとどめなければならない。その強い決意でもってこれからも全力を挙げて、この対策を進めてまいります。
この間、多くの方々に地震、津波の影響ばかりでなく、この原子力事故の影響によって避難生活など大変な不便をおかけをいたしております。また、農水産物の出荷制限など、大きな被害を生じたことについて、政府を代表して深くおわびを申し上げます。
昨日、官房長官から避難区域の見直しを発表いたしました。居住を続けていただいた場合に健康上の影響を勘案して、そうした観点から判断をしたところであります。政府は今回の事故で住民の皆様が健康被害に遭われないということを、第一の原則として取り組んでまいります。それだけに御不便や、さらなる御負担をおかけするお願いとなることもありますけれども、どうか関係自治体・県の皆さんと緊密に連携して、政府としても進めてまいりますので、御理解、御協力をいただきまようお願い申し上げます。
居住、仕事、教育など、こうした対応を含め政府は、この原子力事故の被害に遭われた方々を最後の最後までしっかりと支援してまいることをお約束申し上げます。被害の補償は第一義的には東京電力の責任でありますけれども、最終的には適切な補償が行われるよう、政府が責任を持たなければならないと考えております。
こうした中、幾つかの被災地を私も訪れました。久しぶりのお風呂に入れたと言って喜んでおられたお母さんにもお目にかかりました。また、学校に出かけていて、ランドセルが唯一助かったと言っていた女のお子さんにもお会いをいたしました。そうした中で被災された皆さんも元気を振り絞って、これからの生活再建、そして復興に立ち上がろうとされております。その中から日本全体が元気になることで、自分たちも前を向いて歩いていける、過度な自粛はやめてほしいという声も私のところに届いております。
そこで国民の皆さんに私から提案があります。被災された皆さんに対する思いやりの気持ちはしっかりと持ちつつ、これからは自粛ムードに過度に陥ることなく、できるだけ普段どおりの生活をしていこうではありませんか。そして、その中で被災地の産品を消費することも支援の1つの形である、そう考えて被災地の産品を楽しんで食べたり使ったりして、その明るさで被災地を応援していただきたい。このようにお願いを申し上げたいと思います。
私はまだ太平洋戦争のにおいが残る昭和21年に生まれました。家では不発の焼夷弾の先についていた鉄の重りが、漬物石として使われておりました。ある意味、私のこれまでの一生は戦後の復興の中での一生であったと言っても言い過ぎではありません。その戦後の焼け野が原から、私たちの先輩の世代は雄々しく立ち上がって、世界が驚く復興を成し遂げたものであります。私たちもこの太平洋戦争のときの復興の気持ちを改めて思い出し、かみ締めて、今回の大震災の復興に当たろうではありませんか。多くの方々が亡くなられました。そして、その多くの方々が望んでおられることは、私たちがこの震災で打ちひしがれていることではなくて、そうした皆さんの思いを、復興を実現する中で具体化することを私は望んでおられると思います。
また、子どもたちに引き継がなければならないこの日本をこのまま沈みゆく日本として受け継ぐことはできません。私たちがなすべきことは、そうした犠牲になられた方々、未来の日本を担う子どもたちに対して、恥じることのない死力を尽くしての復興への取組みだと、このように考えるところであります。
私自身もこうした戦後復興の世代で生きてきた、そして多くの恩恵をその中で受けてきた一人として死力を尽くして、この大震災、更には原子力事故に対して立ち向かい、必ずや日本をよりよい社会に再生させるため、全力を尽くすことを国民の皆さんの前でお約束をさせていただきたい。このように思うところであります。
【質疑応答】
● 読売新聞の五十嵐です。総理、原発事故について最初に伺います。総理は先ほど原発の状況について、一歩一歩安定化に向かっているとおっしゃいましたけれども、その一方で暫定評価の方は事故直後のレベル4からレベル5、そして今回、史上最悪のレベル7と引き上がっておりまして、国民には非常にわかりにくい数字の変化だと思います。レベルの評価とか引き上げの時期、判断などについては問題がなかったのか。総理はどのようにお考えでしょうか。また、国内外には史上最悪のレベル7ということで、不安や疑念が広がっていると思います。こうしたものを払拭するために、政府としては具体的に何をなさるおつもりなのか。総理は公明党幹部に細野首相補佐官を新たに原子力担当の閣僚に起用するお考えをお伝えしたということですけれども、これも政府の態勢の強化の一環なのでしょうか。
本日、官房長官の方から説明をさせていただいたと思いますが、保安院、そして原子力安全委員会のこの間の調査結果のとりまとめの中から、国際的な基準で考えるとレベル7に相当するという見解が示され、それを発表いたしました。このことは先ほども申し上げましたが、この間のいろいろな状況の中で、放射性物質が放出なされた、あるいは特に強くなされた時点がありまして、それらがどこまで広がり、どこまでそれぞれのところに広がっているかということを調べた上での、今日のそうした専門家の皆さんの判断となったと。このように私自身も聞いておりますし、理解もいたしております。その中で今日の状況だけをとらえれば、従来よりも一歩一歩前進をしている、あるいは放射性物質の放出も少なくなってきている。このことをただいま申し上げたところであります。原子力の問題はまだまだ予断を許すところまでは来ておりません。現在、海江田経産大臣にこうした原子力災害の担当にも兼任でなっていただき、またこの間、細野総理大臣補佐官にも統合本部の事務局長という立場で取り組んでいただいてきております。そうした態勢について、まだまだ大きな仕事をこれからもやっていただかなければならない。このように考えているところであります。
● 日本テレビの青山です。おとといの統一地方選挙の結果についてですけれども、かなり民主党にとっては厳しい結果となりましたが、これは逆風であったということは元より、政府の震災対応への不満や批判の表れだとも見られておりますけれども、菅総理はどのように受け止めていらっしゃるでしょうか。また、これを機に野党側は政権の批判を再燃させていまして、菅総理に対する退陣を求める声も出ています。先ほど菅総理は復興の青写真をつくる段階から野党にも参加を呼びかけましたけれども、こうした政治の枠組みをつくる上でも、菅総理自らからしかるべき時期に捨て石になる、いわゆる辞任をするということは選択肢にあるのでしょうか。
今回の統一地方選挙の前半の結果が厳しい結果であったということはそのとおりであり、真摯に受け止めたいと思っております。その原因等については後半が終わった上で、改めて党の方でしっかりと検証するということでありますので、それを待ちたいと思っております。
● 時事通信の後藤です。1大震災、大津波、原発事故という非常に大きな災害が続いているにもかかわらず、政治だけがなかなか動いていない状態だと思われます。先ほど総理は野党に協力を呼びかけられましたけれども、具体的にどうやって協力を呼びかけていくのか。これまでも呼びかけていらっしゃるけれども、全く協力を得られていません。改めて呼びかけられた以上、どうやって協力を得ていくのかについて、もう少し詳しく説明をください。
先ほども申し上げましたけれども、この大震災が発生した3月11日14時46分、その直後に私はこの官邸に入りまして、各危機管理官を始め、関係者が集まって、法律に基づく2つの対策本部をつくりました。先ほど申し上げたようにいち早く自衛隊にも出動を命令いたしました。そういった意味で、やらなければいけないことについては、私はしっかりとやってきた。このように考えております。その上で野党の皆さんもそうした政府の活動に対して理解をいただいて、国会の日程などで閣僚がそうした震災対応に支障がないように、いろいろと御配慮いただいたと思っております。そういう点では勿論感謝もいたしておりますし、まさに国難に当たって与野党の立場を超えて協力をいただいている。そのように考えております。
● エコノミスト誌のケネス・クキエでございます。今回の大震災を受けて、日本の政治の性格が今後将来、どのように形付けられていくか。性格が変わっていくか。どのような期待をお持ちでいらっしゃいましょうか。
私は、日本の戦後65年経った今日、いろいろな問題がやや行き詰まってきていた状況にあると思います。逆に今回の震災を機に、もう一度、先ほど戦後の復興についても申し上げましたけれども、そうした気持ちに立って、この日本を立て直していこうという機運が強まっていく。そのことを期待もいたしておりますし、そうなると予想もいたしております。
● NHKの山口です。先ほどの発言で、総理は震災の予算と関連法案について野党側の協力を求めたんですけれども、予算をつくるというのは重いことだと思うんですけれども、これは連立を呼びかけたということなのか、それとも今のような閣外協力みたいな形を想定しているのか。どういう政治の形態を模索していらっしゃるんですか。
現時点では、言葉で申し上げたように、これから青写真を復興構想会議の皆さんを中心につくっていただきますので、何らかの形でそういう青写真づくりにも参加をいただきたい。まさに言葉どおり申し上げているつもりです。
● 産経の阿比留です。先ほど総理は、辞任をする選択肢はあるのかという時事通信さんの質問にお答えになりませんでしたが、現実問題として、与野党協議にしても最大の障害になっているのが総理の存在であり、後手後手に回った震災対応でも総理の存在自体が国民にとっての不安材料になっていると思います。一体、何のためにその地位にしがみ付いていらっしゃるのか、お考えをお聞かせください。
阿比留さんの物の考え方がそうだということと、私が客観的にそうだということは必ずしも一致しないと思っています。先ほど来、申し上げていますように、震災が発生して、即座に自衛隊の出動をお願いし、多くの方を救済いただきました。また原子力事故に対しても、大変な事故でありますから、それに対してしっかりとした態勢を組んで、全力を挙げて取り組んできているところでありまして、私とあなたとの見方はかなり違っているとしか申し上げようがありません。
● 日本農業新聞の阪上と申します。よろしくお願いします。総理に2点お伺いします。震災発生から1か月余り経ちまして、被災地では早期に経営を再開したいと考えていらっしゃる農業者・漁業者が増え始めています。早期の再建に向けて、政府はどのように、いつまでに支援を考えていらっしゃいますか。それと、原発事故に伴う農産物や魚介類への被害に対して、農業者・漁業者の間ではどこまで補償してもらえるのかという不安も募っています。風評被害も含めた補償について、総理の決意をお聞かせください。
本当に農業・漁業、特に原子力事故に伴う、例えば出荷の停止などについては大変申し訳ないということを政府の立場からも先ほども申し上げたところです。このことが、どの段階で、どのような形が取れるかということを含めて、現在、東電の方に、この原子力事故の今後の見通しについて、その見通しを出すように指示をいたしておりまして、そういう見通しが出る中から、将来のことについて少し具体的に申し上げられる時期が来るのではないかと思っております。補償については、まず第一義的に東京電力の責任でありますけれども、同時に政府として的確な補償がなされるように、そうした意味での責任を持って臨んでいきたいと思っております。
● フジテレビの松山です。総理は先日、フランスのサルコジ大統領と会談された際に、5月のサミットの席で原子力についての討議を行いたいという意見交換をされたと思いますけれども、総理も御承知のとおり、国際社会で今回の原発事故に対する目というのは非常に厳しいものがあると思います。例えば日本の情報公開が不十分だといった指摘や、あるいは今回のレベルを上げることについても、当初から過小評価し過ぎだったのではないかといった意見もあるようですけれども、当然その反省点として、原発事故、津波による電力喪失ということなどをきちんと想定していなかったのではないかといった反省点などもあると思うんですが、総理はそうした国際会議の場で一連の政府の対応について、反省点や改善点などについて、どのように説明をされるおつもりでしょうか。
この段階でサミットにおけるこの原子力事故について、どのような形で説明をするかという具体的なところまでは、まだこれからだと思っております。ただ、今、言われたことの中で申し上げると、少なくとも私が知ったこと、政府は大きいですから、私がすべてを知っているわけではありませんが、私が原子力事故が起きて知ったことで、何かそういう事実関係で情報を表に出さないようにとか、隠すようにといったことは何一つありません。確かにいろいろな見方が従来からありましたし、また今日でもありますので、結果的にもっと早く言えたのではないかという見方があることは、私もよく承知をしております。しかし少なくとも、政府の責任者である私が、何か都合が悪いから隠すようにといったようなことは、一切ありません。そういう中で、サルコジ大統領との話の中では、例えば原子力発電所に対する国際的な安全基準といったものも、必ずしもこれまで明確な形で決められてこなかった。こういう問題についてしっかり取り組みたいということを大統領も言われておりましたし、私は日本の今回の事故について、勿論大変世界にも御迷惑をかけているわけですけれども、それだけに余計にしっかりとこういった事故が二度と起きない形をとるにはどうしたらいいのか。そういった検証、あるいはそういった安全基準をつくるといった問題では、我が国のこの経験をしっかりと説明し、その中でそうした役割を担うことが必要ではないかと思っております。
● ビデオニュースの神保です。よろしくお願いします。総理に是非、今後の日本の原子力政策についてお伺いします。フランスのサルコジ大統領もアメリカのオバマ大統領も、より安全を確認しながら原子力は続けていくんだという姿勢をはっきり打ち出しております。日本は、現在このような事故が続いている中ですが、もう1か月ですし、場合によっては、非常に長期戦になる可能性がありますので、それを待っていて、日本がなぜ今後どうしていくんだという姿勢を示さないのかという声も海外から聞かれます。安全性の話もされましたが、安全性を確認した上で、今後も続けていかれるのか。今、地震があるたびに、地震の次の情報はどこかの原発の電力が止まった、止まらないというのが大体ニュースになっています。その状況の中で、このまま原発の運営を続けていかれるおつもりなのかどうかも含めて、今後の原子力政策の展望をお示しください。お願いします。
まずやらなければならないのは、徹底した検証だと。当然のことでありますが、そのように考えております。更に言えば、我が国はもともと、例えば太陽光などについても技術的にしっかりしたものを持っているわけでありますから、自然にやさしいまちづくりということを今回も1つの復興の考え方に申し上げましたけれども、そうした中では、原子力について安全性を求めると同時に、そうしたクリーンなエネルギーについても積極的に取り組んでいく。そういう、ある意味では両方のことをしっかりと取り組むことが必要だと考えております。
● ファイナンシャル・タイムズのミュア・ディッキーです。今回の震災にあっては、総理としてのリーダーシップを十分に発揮されないという見方もあれば、一方で官僚を排除する嫌いがあるなど、いろいろな評価、態度が見られるわけでございますが、今回の原発の対応についても総理のアプローチ、あるいは指導性の可否ということについて、総理のお考えをお聞きしたいと思います。
まず原子力災害特別措置法という法律は、平成11年に臨界事故のときにできた法律で、これまでこういう重大事故が発生して、原子力緊急事態の宣言をしたのは今回が初めてのことであります。そういった中で、2つのことを逆の方向から質問をされておりますけれども、当初から例えば原子力安全・保安院の皆さんには、大震災があったその日の危機管理センターに関係者に来てもらって、逐次状況についての説明をしていただきました。この原子力安全・保安院というのは経産省の一部門でありますので、当然官僚の皆さんでありますけれども、しっかりとそうした中で役割を果たしていただきました。また、官僚とは若干違う立場でありますけれども、原子力安全委員会という、これも事務局は内閣府が担っておりますが、その部門からも責任者に同席をいただいて、逐次専門的な意見を聞きながら、判断を進めてまいりました。そういった意味で、まず官僚の皆さんの力をしっかり使って対応してきたということは、これは官僚の皆さんの名誉のためにも申し上げておきたいと思います。同時に政治主導という言葉はいろいろと使われますけれども、私としては先ほども申し上げましたように、何かこの国民の安全とは別の理由で情報を隠すとか、そういったことがあってはならないという当然のことを考えておりましたので、そういった立場で何か、例えば企業の利益とか、あるいはこれまでのやってきたことの責任を逃れるためとか、もしそういうことが何らかの判断に影響するということは許されませんので、そこについては少なくとも私の知り得る限りでは、そうした本来の国民の安全と違う理由から、何かが判断されることがないようにリーダーシップを発揮してきた。そのことは言えると思っております。
● 朝日新聞の坂尻です。冒頭、総理も発言された、福島第一原発の事故評価がレベル7に引き上がった点の確認ですが、これは震災発生約1週間後の3月18日にレベル5という段階に引き上げられてから今日に至るまで1か月近く見直しは行われていませんでした。この見直しが滞っていたことに対して、その理由について、政権として政治の側から疑問を投げかけるようなことはなさらなかったのか。それに関連してですが、こうした状況が政権として原発事故の状況を過小評価していたのではないかという指摘が国内外でなされていますが、その指摘に対してはどのように答えられますか。
先ほど申し上げましたが、私もいろいろな意見が国内外でこのレベル5ということについて、ある、あるいはあったことはよく承知をしております。と同時に先ほど申し上げましたように、この問題についてはまさに政府という言葉はいろいろ使われますけれども、行政という意味で言えば2つの機関、つまりは原子力安全・保安院と原子力安全委員会が専門的な立場でこのことの、いわゆる調査に当たってこられた中で、今回、過去のデータ等をしっかりと分析された中でこういう結論を出された。それを私たちは受け止めて、発表をするように指示をしたということでありまして、そのことによって何かが遅れたとか、あるいは軽く見たということは全くありません。
● フリーの岩上です。今回の震災及び原発事故は、菅政権の主要政策に大きな影響を与えたであろうと思われます。まずTPP、これは6月までに1つのめどを示すということでしたが、農家あるいは第一次産業の担い手がこれほど大きなダメージを受けているときに、さらなる負荷を与える可能性のあるTPPをこれまでどおりの形で推進するかどうか、その点についての御見解を示していただきたい。あともう一点、原子力政策は根本的にこれからどうなっていくのか。原発は続けるのか否か。また、その論議の前に、浜岡原発のように地震域の上に立っている危険な原発を緊急に停止するというお考えはあるのかどうか。この2点についてお考えをお示しいただきたい。お願いします。
TPPについては、従来、6月をめどに、交渉に参加するかしないかを判断すると申し上げてまいりました。今回の事故、大震災は、いろいろな分野に大きな影響を与えているわけでありまして、そういう影響をも勘案しながら、今後の扱いについては検討してまいりたいと、こう思っております。それから、原子力政策とまた一部の原子炉をすぐに止めるかという問題でありますが、まずは、徹底した検証が行われなければならない。これが第一の原則だと思っております。それと同時に、実は昨日、今日、大きな余震が起きたこともあって、私の方からこの福島の第一、第二原発に限らず、すべての原子力発電所が地震による停電などで電源が落ちるといったことがないように、一時的にそういうことも起きておりますので、つまりは、津波が発生しない段階でも電源が落ちる、あるいは緊急の電源が稼働しない、そういったことがあってはならないわけでありますので、改めてそういったことが起きないための対策を急ぐように、また、その原因がどこにあるのかをチェックするように指示をいたしました。その意味で、現在、稼働している原子炉について、そうしたより一層の安全性を高める努力はしなければならないと思っておりますが、そういった中でもし何らかの問題があれば当然稼働を止めなければいけないこともあり得るかもしれませんけれども、今の段階で機械的にといいましょうか、どこかの炉、今、動いている炉を止めるということは考えておりません。
● TBSの山口です。総理の発信についてお伺いします。危機にあって、リーダーは国民に逐次話しかけ、不安を払拭して、鼓舞するというのがあるべき姿だと思うんですが、総理は震災以降、日々のぶら下がり取材を応じておられません。それがどうしてなのか、絶好の機会をどうして使われないのかということが1つ。それに関連して、先月、笹森特別顧問が、総理が東日本がつぶれる可能性を指摘したということをカメラの前でぶら下がりでしゃべりました。これは事実でしょうか。事実だったら、どういう意味だったでしょうか。事実でないとすれば、国民はそれを非常に不安に思って、私の知り合いでも関西やもっと西の方に行った方もおられますから、まずそれを否定して、そういう国民を不安に陥れる特別顧問を罷免するべきだと思いますが、どうお考えですか。3つすべてお答えください。
私は現在、総理大臣という重い役目を担っているわけですが、こういう大震災あるいはこういう危機において、まずやらなければならないことは、大震災で言えば人命の救出などに対して最大の力を発揮できる態勢をつくること。例えば具体的に言えば、自衛隊を一日、一時間、一秒たりとも早く現場に急行してもらう。そういったことについて、この大震災発生以来、全力を尽くしてきましたし、現実にそうした行動を取ってまいりました。そういった意味で現在、官房長官を中心に、いろいろな事態についてはしっかりと国民の皆さんに説明をいたしているところでありまして、内閣の役割分担というのはいろいろありますけれども、少なくとも国民の皆さんに必要な、あるいは必要とされる情報についてはしっかり提供している。このように考えております。また、私とお会いになった方がいろいろ、私が言っていたということをマスコミの皆さんにおっしゃるケースがありますけれども、こういう非常に緊迫した状況の中ですので、私からは少なくともそういったことを何か申し上げたことは、あるいは説明をしたことはありません。ただ一般的に言えば、この原子力事故というものが極めて重大であるという認識は、この場でも申し上げましたし、これまでも申し上げてきましたから、そういった認識について何らかの表現をしたことはあるかもしれませんが、そういう認識を持っていたということは、それはそのとおりです。 
記者会見 / 平成23年4月22日
前回、大震災発生から1か月目の記者会見を行いました。それから約10日経ちまして、この間に更に前進したこと、更にはこれからの方針・方向性について、私の方から国民の皆さんに御説明をしたい。今後もそういう形を取れればと思っております。
まず昨日、福島県を訪問いたしました。その中で被災者の方に何人もお会いしましたが、一番耳に残った言葉がありました。それは、私の家は今、アメリカよりも遠いんですよ。アメリカなら十数時間で行くことができるけれども、私の家には何週間も、場合によったら何か月かかっても帰れないかもしれない。何とか早く帰れるようにしてほしい。その言葉が一番耳に残った言葉でありました。何としても、この原子力事故によって家を離れなければならなくなっている皆さんが一日も早く自分の家に戻れるように、政府として全力を挙げなければならない。改めて、そのことを強く感じた次第であります。
こうした中、昨日、警戒区域を設定し、本日は計画的避難区域と緊急時避難準備区域を設けたところであります。この措置は、住民の皆様の安全・健康を最も重視して決断をしたところであります。内容については、既に官房長官などから詳しく説明をいたしているところでありますけれども、特に警戒区域というのは、いわゆる原子力発電所から20km圏内において、基本的には避難をすべての人がしている。中には治安上、窃盗などがあるのではないかという心配もあります。そういった中で今回、警戒区域という形で、法律的にその中には入れないという位置づけにしたわけであります。
それと同時に、中に住んでいる皆さんには一時的に家に立ち寄ることができるような、そういう形をこれから順次、計画的に進めてまいりたい。着のみ着のままで避難された方が一時的に家に戻って必要なものを取ってくることができるような、そういう対応をしてまいりたい。このように思っております。
福島原発事故の今後についてでありますが、既に17日に東電から今後の見通しについて工程表が提示をされております。政府としては、この工程表を予定どおり実現する。ステップ2は、ステップ1の3か月に加えて、更に3か月から6か月となっておりますけれども、できることならなるべく短い期間の間にそれを実現する。そうすれば、その中から避難した皆さんに対してどういう形で戻ることが可能なのかを提示することが、ステップ2が終わった段階に立ち入れば、できるのではないか。このように考えているところであります。
また、この間で復旧が次第に進んできております。仙台空港の再開、東北線の全線開通など、着実に前進しております。更に、本日は第1次補正予算の概算を閣議決定いたしました。来週、がれき処理など復旧のための補正予算を国会に提出し、連休中には成立できるよう努力をしたい。更に、震災関連の法律も順次、国会に提出してまいりたい。こう考えております。
当面、仮設住宅の整備が大きな課題であります。各県で仮設住宅の建設を精力的に進めていただいておりまして、感謝をいたしております。政府も資材確保などに全力を挙げており、自治体が提供できる場所を決めていただいて、その中で作業を急ぎたいと思っております。5月末までには3万戸を完成させたい。最終的には仮設住宅、あるいは借り上げ等を含めて10万戸を避難される方に提供できるようにしていきたい。こう考えております。
また、こうした復旧が進む中で、復興の議論も本格化してきております。14日には復興構想会議の第1回目が行われ、明日は第2回目となります。6月末を目途に、この復興構想会議で復興の道筋、在り方について御提言をまとめていただくようにお願いをいたしてあります。復興は、単に元に戻すという復旧ではなくて、すばらしい未来をつくるという復興であってほしい。そのことも多くの皆さんと共有している考えだと思っております。
この復興を考える上で、私は更に今回の大震災、原発事故、この危機が1つの危機ではなくて、危機の中の危機だと、このように位置づけをいたしております。つまり、我が国は、この20年余り、経済的にも成長が低迷し、社会的にも自殺者がなかなか3万人を切らないといったような多くの課題、社会的なある意味での危機を経験しつつあったわけであります。そうした中にこの大震災、原発事故という危機がまさに発生した。危機の中の危機の発生。このようにとらえてまいりたいと思います。
そして、この2つの危機に対して、同時にこの危機を解決していくことが、今、私たちに求められておりますし、もっと言えば、この復興ということは、大震災を契機に多くの国民が、自分たちが何とかしなければという思いを強くしていただいている。その思いを本当に力に変えて、この復興をばねにして、もともとの危機を含めて2つの危機を乗り越えていく。つまり、日本再生が東日本の復興を支え、一方では東日本の復興が日本の再生の先駆けとなる、こういう形で推し進めてまいりたいと考えております。
そうした考え方において、マクロ経済面を含めた今後の日本再生の全体的方針を提示するため、連休明けには本日も朝行いました、経済の見通しを立てる会議を通して全体の大きな方向性をお示しできるようにしたい、このように考えております。
こうした復興構想会議の努力やマクロ経済の見通しなどを踏まえて、いよいよ復興そのものを実施していく態勢、仮称ではありますけれども、復興実施本部というものを検討しなければなりません。この大きな復興には、自由民主党や公明党など、各党の御協力が不可欠だと考えております。この復興実施本部について、是非ともこうした自民党、公明党始め、各政党の御協力をお願いしてまいりたいと考えております。
そして、今回の大震災で亡くなられた皆さん、私はその皆さんが声なき願いを私たちに強く伝えていただいているように思えてなりません。それは生き残った皆さんが、私たちが、力を合わせてすばらしい日本をつくってほしい、こういった願いだと、このように思っております。
私自身、この大震災のときに、総理という立場にあったひとつの宿命だと受け止めておりまして、こうした亡くなられた皆さんのその願いを実現するために、私に持てるすべての力を全身全霊振り絞って、その実現に向けて頑張りたい。その気持ちを改めて強くいたしているところであります。
こうした中にあっても、各国からの我が国に対する支援あるいは激励は続いております。先日はクリントンアメリカ国務長官がわざわざお見舞いと表敬に立ち寄っていただきました。昨日は、オーストラリアのギラード首相が来られ、明日、オーストラリアの救援隊が救援活動を行った地域に自ら足を運んでいただく予定になっております。本日は、OECDのグリア事務総長とも意見交換をいたしました。こういう皆さんがわざわざこの時期、日本に駆けつけていただいて激励をいただく。そして日本は必ず再生する。そういう強いメッセージを世界に発信していただく。
更には日本でいろいろな地域を視察することを通して、日本が決してある部分を除いては安心して外国人も来ても大丈夫なんだ、いろんなものを食べても大丈夫なんだ、そういうことを発信していただいていると思っておりまして、特にそうした発信が我が国を助ける本当に大きな力になる、改めて感謝を申し上げたいと思っております。
いずれにしても、そういった皆さんの期待に応えて、原発事故も含め、開かれた形で国際社会と共同して、復興と再生を進めてまいりたいと思います。
前回の会見において、過度ないろいろな催し物の自粛をやめて、活気を取り戻すことが被災地の支援につながるということを申し上げました。しかし、まだ一部には自粛ムードが続いているようであります。そんな中で私も視察に訪問いたしました陸前高田市では、数百人の皆さんが集まる花見会が催されたと聞いております。がれきの中から見つけ出した太鼓が演奏されて、被災者を元気づけたと聞いております。こうした集い、お祭りは古くからの地域の絆を強め、活気をもたらす上で大変大事な行事であると思います。被災地では今後、仙台の七夕まつり、盛岡さんさ踊り、相馬野馬追など、こうした中ではあるけれども、いや、こうした中であるからこそ、今年も開催する。そういう地域がどんどん出てきております。その勇気に敬意を表し、日本全国でこれらのお祭りを応援してまいりたい。このように思っております。
多くの皆さんが応援の気持ちを持って接されている中で、一部に思いやりに欠けるような対応があるという指摘もありますが、そうしたことがないように、お互いに気を付けてまいりたいということも国民の皆さんにお願いをしておきたいと思います。来週からは連休で、今年は観光に出かけるのは控えようと言われている方も多いかもしれません。しかし、できることなら、先ほど申し上げましたように、この東日本、東北におけるいろいろな催し物に参加をするために出かける。あるいはそうした地域で採れた野菜や、あるいはお酒を買い、いろいろな民芸品を買って、それらの地域を元気づける。中にはボランティアとして応援に行こうという方も多いのではないかと思います。どうかこのゴールデンウィークがそうした被災地の皆さんを元気づける、そういうゴールデンウィークになるよう、それぞれの立場で考え、行動していただけることを期待をいたしまして、私の話ということにさせていただきます。
【質疑応答】
● 日本テレビの青山です。総理は今、復興実施本部の立ち上げとそれに対する野党側の参画を呼びかけましたけれども、まずこの復興実施本部はどのような権利や責任を有する会議体を考えていらっしゃるのかということが1つ。この実際の野党に対する呼びかけは、現在、国民新党の亀井代表が実際に行っていますけれども、これは同じ連立与党とは言え、他党の代表である亀井さんがなぜこういう大事な呼びかけを行うことになっているのか。そして、これに伴って亀井代表は菅総理が地位に恋々としないと伝えているということを言っていますけれども、菅総理は復興にめどが立ったら退陣も辞さないという決意なんでしょうか。亀井さんとどのような話をしているんでしょうか。この質問も必ずお答えください。
まず実施本部の在り方については、過去のいろいろな例などは調べております。その在り方そのものを含めて、できることなら野党の皆さんとも協議をして、形づくってまいりたい。このように思っております。呼びかけについては、連立を組んでおります国民新党の亀井代表の方から、自分もそうした自由民主党や公明党など各党の皆さんが参加する形が望ましいと思うけれども、私に対して、菅はどう思うかということを聞かれまして、それはそういう形が取れるものなら大変ありがたい。その方向に向けて、亀井国民新党代表が御努力をいだたけることは大変ありがたい。このように申し上げているところでありまして、そういうことを受けて、亀井代表がいろいろと御努力をしていただいている。このように理解をいたしております。そして、この大震災と原子力事故のことは、先ほども申し上げましたように、私がそのときに総理という立場にあるというのは、ある意味で私にとっては宿命だと、このように受け止めております。その意味で、この事態に対して何としても復旧・復興、そして2つの危機を乗り越えていく道筋をつくり出していきたい。そうした道筋が見えてくれば、政治家としてはまさに本望だと、このように考えております。
● 読売新聞の五十嵐です。原発の対応についてお伺いいたします。総理は先ほど、避難住民の方が1日も早く家に戻れるように政府としても全力を挙げるとおっしゃいました。政府の対応の強化のために、例えば原発対応のための大臣を置くような考えはおありでしょうか。その一方で、原発を始め、震災また復旧・復興といって、次々と会議、本部が置かれていますけれども、逆に非効率だという声もよく聞きます。総理はこの際、こうした会議や本部を整理、統合して、効率化を図るお考えはないでしょうか。
この大震災に加えて、原子力事故ということで、それぞれ政務三役、これまでの平常時といいましょうか、大震災発生以前の仕事に加えて、大変大きな仕事を抱えて、まさに不眠不休でそれぞれ頑張っていただいております。そういった意味で、現在の大臣や政務官、あるいは副大臣、補佐官というものは、法律で定員が決まっておりますので、できることなら、もう少しその定員を増やさせていただいて、それぞれの問題に更に有能な方にそうした立場で加わっていただきたいということを考えております。その意味で、内閣法の改正について、自民党や公明党、各党の皆さんにも、この間、幹事長などを通してお話しをしているところであります。まだ実現しておりませんが、是非とも御理解をいただければと、こう思っております。また、たくさんの本部があって、いろいろ分かりにくいのではないかという御指摘があります。私は、基本的には二正面作戦をやらざるを得ない状況にあるということについては、是非まず御理解をいただきたいと思います。つまりは、地震、津波というその自然災害に対しては緊急災害対策本部、法律に基づいて義務づけられたものを設置いたしました。一方で、原子力の重大事故に対しても、原子力災害特別措置法によって法律で義務付けられた本部を設けました。それぞれの本部、一部に被災者支援などでダブる部分もありますけれども、例えば補償の問題やいろいろな避難の問題の在り方については、それぞれ違った制度や違った意味を持っておりますので、そういう意味で2つの大きな本部を設け、それぞれの下に、例えば避難のため、あるいは補償のため、それぞれのある意味での実行部隊を設けたところです。その名称が本部という形で重なっている関係もあって、あるいは皆さん方に複雑に見えているかもしれませんが、基本は2つの本部の下のいろいろな課題を取り組むチームというか、プロジェクトチームのようなものと、このように理解をいただければわかりやすいと思っております。それに加えて、党としてのいろいろな活動もありますので、その党の本部は、内閣の本部とは性格を異にいたしております。しかしいずれにしても、かなり多岐にわたっておりますので、また、時期によっては状況が変わってまいりますので、もう少し整理ができないかということで、現在、官房長官のところで整理をする方向で調整をしていただいております。
● 共同通信の松浦です。復興の財源についてお尋ねいたします。民主党の中では、増税によって復興財源を賄うことをやむなしという議論があります。世論調査でも、ある程度容認論があります。こうした中で総理は、復興財源を増税によって賄うお考えはおありでしょうか。その中でもとりわけ消費税について引き上げるお考えはおありでしょうか。
まず、第一次の補正予算については、いわゆる国債ではなくて、従来のいろいろな支出項目を振り替えたり、そういう形で概算の提案をいたしております。その次の本格的な復興のための第二次の補正というものは、相当の規模になるであろうと、これは大方の方もそう見ているし、私もそう思っております。その場合に、その財源をどういう形で調達をするのか。それは時間的な問題と、そして内容の問題とがあると思っております。まずは、やはり復興作業を進める上で、財源がないから作業が始められないといったことは決して望ましくありません。そういった意味では、必要な財源は一時的には国債等の活用も含めて、そうしたものに充てていくということが必要になると思います。その場合に、そうした国債等について、どういう財源で、いつごろまでに償還をするのか。そういうことが大きな議論として存在していることは、私も承知をいたしております。こういった問題についても、復興構想会議でもいろいろと既に意見が出ているようでありますので、これからの議論に待ちたい。この場合には、将来に対するいろいろな見通し、あるいはマーケットがどのように日本の国債市場を見ているか。そういったことも含めながら、しっかりとした議論をしてまいりたいと、このように考えております。
● シンガポールテレビメディアコープの石田と申します。先ほど菅総理の方から、各国から日本に支援、激励が続いているとおっしゃいました。そして、OECDの事務総長、オーストラリア首相に日本が安全である、大丈夫であることを発信してほしいというお話をされました。しかしながら、日本の放射能汚染に対して懸念を示している国が多いというのが現実です。日本全体が放射能に汚染されているイメージを持っている国もあります。菅総理の方から、そういったことはない、安心してくださいというメッセージを発信していただけませんでしょうか。
この間、私も一つはいろいろな支援に対するお礼の意味を込めた広告を各国の新聞などに掲載をお願いしました。また、私の書いた文書を各国の新聞に寄稿いたしまして、かなりの新聞等がそれを載せてくれております。その中で、日本というこの国が、例えば食べ物などにおいても、危ないものは市場には出していない。そういったことを含めて、安全性について理解を求める。そういったことも行っております。これからも更にそうした外国から来ていただくことによる発信も大変ありがたいわけですけれども、勿論我が国自身のいろいろな機会を通しての発信を強く進めてまいりたい。こう思っております。
● フジテレビの松山です。警戒区域の設定に関してなんですけれども、政府の方で警戒区域設定が発表されてから実施されるまで、かなり短い期間で実施されたということで、現在警戒区域に入る道路などで、若干住民が知らなかったといった声ですとか、若干トラブルが生じていると聞いております。また、家畜やペットなどの警戒区域外への避難についても、具体的な方針のないまま実施されたということで、野党などからも批判する声が出ているんですけれども、総理はそこまで緊急性があるという判断、認識を持ってこれを実施されたということなんでしょうか。また、強制退去を拒んだ場合に、純粋に法律を適用すると10万以上の罰金ということもありますけれども、そうしたことも含めて場合によってはそういう強制手段もいたし方ないという認識を持っていらっしゃるんでしょうか。
これは御承知のことだと思いますが、福島第一原子力発電所から20kmの範囲については、かなり早い段階で避難区域という形で指定をいたしました。これは、基本的にはその中にいていただくと、健康上の問題が生じる可能性があるので避難をしていただきたいという要請であります。それに対して、今回の警戒区域は、法律に基づくという意味で、確かに法律上の罰則規定といったものがありますけれども、基本的な考え方は、この範囲は住民の皆さんの健康や安全を考えると避難をしていただいていなければならないという考え方では、特に変わったわけではありません。実際には、この間は自分の家に帰っておられた方もある程度おられたようでありますけれども、基本的にそのことは説得をしていきたい。法律があるからすぐに何か強硬な規定、そうした規定を適用して、強制力を行使するということではなくて、基本的には説得するという形で対応したい。今日、公安委員長ともそういう話をいたしました。それに加えて、その地域に住んでおられる皆さんが、一時的に自宅に戻って、必要なものを取り出してくることができるような、そういう態勢を今から順次進めてまいりますので、そういう形で御理解いただけるのではないかと思っております。確かに家畜とかペットとか、そういった問題もあり、本当に御不便をかけ、あるいは御迷惑をおかけしますけれども、自治体の皆さんともこの間かなり丁寧にお話をしてまいりましたので、今、申し上げたようなことも御理解をいただければ、多くの住民の皆さんにとっては、そうした形の方が安心できる形ということで御理解いただけるものと思っております。
● ニコニコ動画の七尾です。よろしくお願いします。現状、東京電力の日々の広告を見ますと、少なくても工程表が前倒しになる状況にはないとの見方がほとんどであります。仮に工程表の実現が厳しくなったとき、住民の方々を始め、国民の衝撃は大きいと思いますが、そうならないために原発事故の収束に向けた国としての積極的な対応は、現在十分に図られている、あるいは対応の準備はできていると見てよろしいでしょうか。
17日に東京電力がステップ1、ステップ2という形で工程表を発表いたしました。ステップ1は一応3か月がめどで、ステップ2は今から言えば6か月ないし9か月ということになっております。国の立場としては、まずこの東京電力が自ら作成し、提示したこの工程表がしっかりと実現できるように、国として協力できること、やれることは全力を挙げて協力し、あるいは共にやっていくことがまず何よりも重要だと、このように思っております。いろいろな課題がありますので、また、いろいろなことが進んだ後に、また新たな問題が生じてきているのがこの1か月余りでありますので、どのような展開になるかをすべて私が予測することは残念ながら不可能であります。しかし、東京電力の出した工程表は、私はしっかりと国も含めて取り組めば、十分実現可能なものだと、このように考えております。更に言えば、想定されるあらゆる事象に対しても、あらかじめそういう事象が生じた場合にどうすべきか、こういったことについてもいろいろ同時並行的に検証なり検討をしております。そういうやり方で何とかその工程表の中で物事が進むように、全力を挙げるというのが政府の立場であります。
● 日本経済新聞の犬童です。先ほど総理がおっしゃられていた2次補正なんですけれども、やはり復興構想会議が6月末に提言をとりまとめるということなので、6月末の提言を待ってから編成ということになるんでしょうか。その際、国会は6月22日までですけれども、一旦閉じることになるんでしょうか。
復興構想会議の方には6月末を1つのめどに、考え方をまとめていただきたいということはお願いをしております。それを踏まえてどのような形で、どのような規模の第2次補正を組むかということは、やはりその内容などを含めて、その時点あるいはそれに至る過程の中で考えるべきことだと思っております。ですから、今の段階でそのめどが6月だから、国会をどうするというそこまではまだ考えていないというか、まだその段階ではない。まずはこの国会で1次補正と関連するいろいろな法案と、もともと国会に提案しているいろいろな従来からの課題をしっかりと国会で議論し、成立をさせていただくことが、まず今の課題であって、その後のことについて、今はまだ申し上げる段階ではないと思っております。 
記者会見 / 平成23年5月6日
国民の皆様に重要なお知らせがあります。本日、私は内閣総理大臣として、海江田経済産業大臣を通じて、浜岡原子力発電所のすべての原子炉の運転停止を中部電力に対して要請をいたしました。その理由は、何と言っても国民の皆様の安全と安心を考えてのことであります。同時に、この浜岡原発で重大な事故が発生した場合には、日本社会全体に及ぶ甚大な影響も併せて考慮した結果であります。
文部科学省の地震調査研究推進本部の評価によれば、これから30年以内にマグニチュード8程度の想定東海地震が発生する可能性は87%と極めて切迫をしております。こうした浜岡原子力発電所の置かれた特別な状況を考慮するならば、想定される東海地震に十分耐えられるよう、防潮堤の設置など、中長期の対策を確実に実施することが必要です。国民の安全と安心を守るためには、こうした中長期対策が完成するまでの間、現在、定期検査中で停止中の3号機のみならず、運転中のものも含めて、すべての原子炉の運転を停止すべきと私は判断をいたしました。
浜岡原発では、従来から活断層の上に立地する危険性などが指摘をされてきましたが、さきの震災とそれに伴う原子力事故に直面をして、私自身、浜岡原発の安全性について、様々な意見を聞いてまいりました。その中で、海江田経済産業大臣とともに、熟慮を重ねた上で、内閣総理大臣として本日の決定をいたした次第であります。
浜岡原子力発電所が運転停止をしたときに、中部電力管内の電力需給バランスが、大きな支障が生じないように、政府としても最大限の対策を講じてまいります。電力不足のリスクはこの地域の住民の皆様を始めとする全国民の皆様がより一層、省電力、省エネルギー、この工夫をしていただけることで必ず乗り越えていけると私は確信をいたしております。国民の皆様の御理解と御協力を心からお願いを申し上げます。
【質疑応答】
● NHK、山口です。安全性の観点から止めるということですけれども、中部電力はこれまで東海地震並みの揺れが起きても安全性に問題はないとしてきて、国も容認をしてきたわけですけれども、なぜこの後に至って突然浜岡原発だけなのかというのが一つ解せないことと、もう一つ、この夏場を迎えてこれを全部止めるということになると、夏場の電力量よりも供給量が下回ってしまうと思うんですが、その対策は具体的にどのようにお考えになっていますか。
ただいま申し上げましたように、浜岡原子力発電所が所在する地域を震源とする、想定される東海地震が、この30年以内にマグニチュード8程度で発生する、そういう可能性が87%と文科省関係機関から示されております。そういう浜岡原発にとって特有といいますか、その事情を勘案をして、国民の安全、安心を考えた結果の判断、決断であります。また、電力不足についての御質問でありますけれども、私はこれまでの予定の中で言えば、多少の不足が生じる可能性がありますけれども、この地域を始めとする全国民の皆様の理解と協力があれば、そうした夏場の電力需要に対して、十分対応ができる、そういう形がとり得ると、このように考えているところであります。
● 朝日新聞の坂尻です。今、総理がなされた浜岡原発の停止要請なんですけれども、これはどういった法律のどういう根拠に基づく要請であるのかという点と、もしそういう法的な担保がない場合は、この中部電力側が断ってきた場合、総理はどのようにされるおつもりなんでしょうか。
この要請に関して、後ほど海江田経済産業大臣から詳しく御報告をさせていただきますけれども、基本的には、私が今日申し上げたのは、中部電力に対する要請であります。法律的にいろいろな規定はありますけれども、指示とか命令という形は、現在の法律制度では決まっておりません。そういった意味で要請をさせていただいたということであります。もう一点は何でしたか。
● もし中電側がこの要請を断ってきた場合、総理はどういうふうにされるおつもりなんでしょうか。
ここは十分に御理解をいただけるようにですね、説得をしてまいりたいと、このように考えております。 
記者会見 / 平成23年5月10日
明日で大震災発生から2か月になります。このゴールデンウイークの間、多くの国民の皆様がボランティアとして被災地を訪れ、10日間で8万人の方がそうしたボランティア活動をしていただいたとお聞きをいたしております。大変多くの皆さんのそうした活動に心から敬意を表したいと思います。
また、私もこの連休中、双葉町の原発で避難されておられる皆さんの避難所に行ってまいりました。多くの皆さんから、元の生活に戻りたい。また、政府の対応についても厳しい言葉もたくさんいただきました。私も改めて、こうした被災者の皆さんに何としても、一日も早く元の生活に戻れるように、一層の力を注がなければならないと、思いを新たにいたしました。
また、連休中、福島県の産品を売っている八重洲のお店に行ってまいりました。福島でのお酒やお米や野菜や味噌や、そういうものを買わせていただきました。
同時に、その後、ネットを活用して、そうした被災地で育った野菜やいろいろなものを扱っている皆さんにお集まりをいただき、話を聞くことができました。このネットという、言わば手段は、ボランティアにはちょっと行けない、あるいは物を送ることはできるけれども、ほかに何をやっていいかわからない、そういう皆さんにとって、ネットを通して産品を買う。どこに住んでいてもそういう形で協力ができるということで、大変多くの皆さんが利用されていることを改めて知りました。
また同時に、物を買うということだけではなくて、被災地の皆さんの声が逆にそうした買ってくださる皆さんにも届けられている。そこに本当に人間と人間のつながりが新たに生まれているということを知りまして、もっともっとこうした活用によって応援の輪が広がっていくことを期待をいたしているところです。
さて、5月2日に1次補正の予算が全党一致、全員一致で可決をいただき、成立をいたしました。いよいよ、更に復旧の活動を強めると同時に、復旧から復興への足取りを進めていかなければなりません。まずは復興基本法、そしてその体制をつくる上で内閣法の改正。この2つについて是非、今週中にも内閣として方針を決めて、国会に提出をしてまいりたい。是非、与野党それぞれの御意見を聞きながら、成立をするために全力を挙げたいと考えております。
また、浜岡原発につきましては、この浜岡、中部電力が早い段階で私どもの要請を受け入れていただいた。大変うれしく、ありがたく思っております。この浜岡原発の運転停止によって電力の不足が生じるのではないかというご懸念もあります。それについては、事前にも海江田経産大臣といろいろと検討いたしました。今後を含めて、他の電力会社にもご協力をいただき、また企業や個々の国民の皆さんにもご協力をいただくことによって、この電力の不足というものはクリアできる。また、そのようなご協力をお願いをいたしたいと思っております。
この要請をいたしましたのは、記者会見の折にも申し上げましたけれども、何といっても国民の皆様の安全・安心を考えてのことであります。同時に、万が一にも、あの浜岡という地で事故が起きた場合には、日本経済に与える影響も極めて甚大でありまして、そういったことも併せて考慮させていただきました。そういった意味で、いろいろ関係者にはご苦労をかけますけれども、しっかりと国民の安全・安心のために進めてまいりたいと思っております。
また、原子力事故について、原子力事故調査委員会を発足させるための準備を現在進めております。この原子力事故調査委員会を発足するに当たって、3つの基本的な考え方が重要だと考えております。
1つは、従来の原子力行政からの独立性。つまりは、そうした過去の関係者ではなくて、そういうところから独立した判断ができる方を中心になっていただくという独立性であります。
第二には国民の皆さん、あるいは国際的にも事実をしっかりと公開するという公開性であります。
第三番目には包括性が必要だと考えております。つまりは技術という分野だけではなく、いろいろな制度やいろいろな組織的な過去の在り方が、どのような影響を今回の事故で及ぼしたのか。そういう分野も含めた包括的な検討が必要。
独立性、公開性、包括性という3つの原則で、この事故調査委員会を立ち上げるその準備を進めております。
同時に今回の事故による賠償のスキームづくりも進めております。この賠償はいつも申し上げているところでありますが、一義的には事業者であります東京電力の責任でありますけれども、それが適切に賠償が行われるよう、政府としてもしっかりと責任を持って対応してまいりたいと、このように考えております。
こうした中で、今後のエネルギー政策についていろいろと議論が巻き起きております。まず原子力については、何よりも安全性をしっかりと確保するということが重要であります。そしてこの原子力と化石燃料というものが、これまで特に電力においては大きな2つの柱として活用されていました。これに加えて今回の事故を踏まえて、また、地球温暖化の問題も踏まえて、あと2つの柱が重要だと考えております。その1つは太陽、風力、バイオマスといった再生可能な自然エネルギーを基幹エネルギーの1つに加えていく、そのことであります。
そしてもう一つは省エネ、エネルギーをたくさん使う社会の在り方がこのままでいいのか。いろいろな工夫によって、あるいはいろいろな社会の在り方を選択することによって、エネルギーを今ほどは使わない省エネ社会をつくっていく。このことが私はもう一つのエネルギー政策の柱に成りうると、このように考えております。
そういった意味でこれまでの原子力については安全性を、そして化石燃料についてはCO2の削減をしっかり進めていくと同時に、自然エネルギーと省エネというものをもう2つの柱として、そこにこれまで以上に大きな力を注いでいくべきだと、このような考え方でエネルギー政策全体の見直しの議論を進めてまいりたいと、このように考えております。
最後に、今回の原子力事故、直接の原因は地震、津波によるものでありますけれども、これを防ぎ得なかった責任は事業主であります、事業者であります東電とともに、原子力政策を国策として進めてきた政府にも大きな責任があるとこのように考えておりまして、その責任者として本当に国民の皆さんにこうした原子力事故が防ぎ得なかったことを大変申し訳なくおわびを申し上げたいと思います。
そういう責任者の立場ということを考えまして、原子力事故が収束するめどがつくまでの間、私の総理大臣としての歳費は返上をいたしたい。6月から返上をすることにいたしました。
以上、私の方から国民の皆さんにこの原子力の問題、今後の復興・復旧の、復旧・復興の進め方について申し上げさせていただきました。
【質疑応答】
● NHKの山口です。震災2か月で1次補正も上がって、これから本格的な復旧というふうにおっしゃいましたけれども、本日の自公の党首会談でも2次の補正を早期に提出すべきだという考えを示されましたけれども、総理はこの終盤国会、今の国会に2次補正を提出しようというふうにお考えになっているのか。それとも一旦仕切って臨時国会を開いて、そこで2次補正を審議しようとお考えになっているのか、お聞かせください。
成立した1次補正は4兆円を超える規模のかなり大きな補正になっております。そして、この復旧に当たっていくのに必要な財源は、この補正で相当程度と言いましょうか、賄うことができます。そういった意味で、これから復興を目指すことに関しては、現在、復興構想会議でどのような考え方で復興を進めていくのか。ご議論もいただいておりますし、またそれに必要となる財政規模などもこれから検討していく必要があると、このように思っております。そういった意味で、まずは復旧に現在かかっている作業を積極的に推し進めるということが第一でありまして、今どの時期にその復興を目指す第2次補正を提出するべきなのか、現在のところまだ白紙の状態であります。
● 西日本新聞の相本と言います。よろしくお願いします。原発政策についてお尋ねします。総理は停止要請をした浜岡原発について、特別なケースというふうに述べられました。ただ、その地震の発生確率が極めて低かった福島でも今回の事態が起きていまして、周囲に活断層がある原発も少なくなく、本当に大丈夫なのかという国民に不安もまだあると思います。今後、安全基準を含めた原子力政策全般を見直していく中で、地元の理解をどう得ていくのか。他の原発についても停止や再稼働見送りなどを求める考えはあるのでしょうか。それと先ほど言われました自然エネルギーも柱の一つにということですが、これは将来的にはその原発への依存を減らしていくという考えというふうに理解していいのでしょうか。
まず他の原子力発電所についてのご指摘です。今回、浜岡についての停止を要請いたしましたのは、申し上げていますように、文科省に設けられた地震調査研究推進本部の評価の中で、30年以内にマグニチュード8程度の大きな地震が起きる可能性が87%と極めて高いという指摘がなされている。そういうことを理由として停止の要請をいたしました。他の原発についても勿論いろいろな可能性はありますけれども、少なくともそうした地震の研究所の展望では、浜岡のような逼迫した状況というものは報告をされておりません。そういった意味で浜岡について、停止を要請したということであります。もう一点、今後のエネルギーの在り方について、原子力をどのように位置付けるかというご質問ですが、現在のエネルギー基本計画では、2030年において総電力に占める割合として、原子力が50%以上、再生可能エネルギーは20%を目指すとなっております。しかし、今回の大きな事故が起きたことによって、この従来決まっているエネルギー基本計画は、一旦白紙に戻して議論をする必要があるだろうと、このように考えております。そういう中で、原子力については一層の安全性を確保する。そしてもう一方、自然エネルギー、再生エネルギーについては、より大きな力で推進する。そういう方向性が必要ではないか、そういう方向性を念頭に置きながら議論を進めていきたいと、このように考えているところです。
● 毎日新聞の田中です。東電の経費節減策について伺います。東京電力は本日、枝野長官と海江田大臣に代表権を持つ役員の報酬全額削減などのリストラ策を申し入れてきました。総理として、これが十分であるというふうにお考えになるか。もっとそれ以上のものが必要だとお考えになるか。それと、先ほど総理がおっしゃった、総理としての歳費を返上するという部分ですけれども、これは国会議員としての歳費相当額は引き続き受け取るということなのか、ちょっとその辺をお願いします。それと、他の閣僚の方にもそのような歳費返上というようなことは呼びかけるのか、その点についてもお願いします。
まず賠償を進める上で、東電として最大限の努力をされるというふうに聞いておりまして、その中にはいろいろな資産を売却するとか、あるいはより人員構成をぎりぎりにスリム化するとか、そしてそうした給与の問題についても削減を行うとか、そういうことがあるというふうに認識しておりまして、今回の東電のそうした提案といいましょうか申し出は、そういう東電の努力の一環であると、このように受け止めております。それで十分かどうかということは、今後の検証といいましょうか、今後の話し合いの中で考えなければなりませんが、やはり東電としてもそうした姿勢を示しているというふうには理解をいたしております。それから、総理の歳費の返上というのは、今、ご指摘のように大臣というのは、国会議員の場合ですが、国会議員の歳費に、言わば上乗せする形でその総理の歳費、二重取りはしておりませんので、そういう形になっておりますが、私としては一般の国会議員としての歳費は、一般の国会議員の皆さんと同じように一部返上しておりますが、その返上も含めて同じような形で国会議員の歳費は受け取らせていただきたい。しかし、総理として上乗せされている歳費については、月々のものも、ボーナスも含めて全額返上したいと、こう考えております。また、他の閣僚については、私からは特にまだお話をしておりません。やはりこの分野で最も責任があるのは、言うまでもなく総理大臣であります。ただ同時に、海江田大臣とは少し話をしておりまして、海江田大臣は海江田大臣として自ら判断されるんではなかろうかと。他の大臣とは、特にこの件はお話はいたしておりません。
● (時事通信の水島)総理、お願いします。終盤国会の重要法案の対応なんですけれども、減税をつなぎ法案で特例措置を延長しました。これが間もなく切れると思います。それから、赤字国債を発行する公債特例法案も成立のメドが立っていませんが、これに関しては、この国会で例えば延長をしてでも、必ずこの国会で成立させるのか、それとも別の選択肢もあり得るというお考えなのか。総理としてのお考えをお聞かせください。
この問題は、3党の間で政調会長が合意をしていただいておりまして、そういう3党の合意も踏まえながら、できるだけ早い時期に何らかの形で前進できればと思っております。ただ、今の段階でどのような形でそれが可能か。これは国対あるいは幹事長を含めて、いろいろと相談をしておりますが、現時点ではこの国会でそれが前進するよう最大限の努力をすると、そういうところにあります。
● フリーランスの江川です。今、復旧、復興ということが出ましたけれども。復旧、復興という言葉も出ましたが、原発の被害者はまさに災害進行中で、復旧、復興には入れない状況です。今後の身の振り方も決められず、生活の不安を抱えていらっしゃいます。東電の仮払い100万円など、ローンですぐなくなるというふうな声も聞きました。仮設に入っても、生活費は自分で払わなければならないけれども、収入がない。補償するというふうに政府は言ってくれるけれども、いつになるかわからない。そういうことを皆さん口々に訴えられています。そういう方々に、形は、例えば補償の先払いという形になるのかどうか、いろいろあると思いますけれども、とにかく生活支援を、月々の生活をちゃんと支えていく方法というのをすぐにお決めいただくことはできないのかということを聞きたいと思います。
私も先ほど申し上げたように、原発事故で避難されている方がかなり大勢おられた埼玉県の加須に行ってまいりました。非常に埼玉県知事あるいは加須市長を含めて、いろいろな努力をしていただいておりまして、高校の跡ですので、廊下にはハローワークなどからのいろんな雇用の案内などもありました。いろいろお話を聞きますと、やはり一番被災者の皆さんの口々に出たのは、勿論1日も早く戻りたいということは勿論でありますが、それがなかなか簡単でないとすれば、どの時期にどうできるのかというメドを示してもらいたいと。そうしないと、そういう仕事に新たに就くにしても、あるいは避難所から出て、別の例えばいろんな公的な住宅などで希望すれば入れるというところがかなり出てきているわけですが、そういうところに移るということになかなか踏ん切りがつかないと。そういうことも多くの方が言われました。そういう意味で、既に2か月になるわけですけれども、東電が示している工程表などもきちんきちんと進んできて、完全に原発の事故も新たな放射性物質を出さないで、冷温停止になるというメドがつけば、逆にその後のメドもお示しできるということを、私その場でも申し上げてまいりました。今、ご指摘の生活の問題、仕事の問題、政府としても全力をあげてそういう皆さんがきちんと生活ができるように、また、次の展望が持てるように、最大限の努力はしてまいりたいと、こう思っております。
● AP通信の山口と申します。よろしくお願いいたします。福島原発の事故の収束がどのようになるかということや、日本がこの後どのようなエネルギー政策に転換するかということは、国際的にもとても注目されていると思うんですけれども、近々ありますサミットや、あるいは日中韓首脳会談などの場で総理は今後、日本が目指すエネルギー政策、例えば脱原発を目指すのかどうかというようなことも含めて、福島の事故の今後についてどのように説明をなさるおつもりでしょうか。教えていただけますか。
おっしゃるように今月21日には日中韓の3か国の会合があり、26日、27日にはフランスでG8サミットが行われます。また、6月に入りますとIAEAの閣僚会議も日程が決まっておりまして、それまでにはそれに向けての報告書も提出をしなければなりません。そういった中で、今後のエネルギー政策についてどのように考えるかというご質問ですが、まずは原子力について言えば、徹底的に検証して、より安全な原子力の在り方、これをしっかりと求めて実行していきたい。そのことを1つの大きな柱として国際会議の場でも申し上げていきたいと思っております。まずそのためには、日本自身が努力することは勿論ですが、今回の日本の原子力事故のいろいろなデータや内容をしっかりと国際社会にも、これまでもお伝えしていますけれども、さらにしっかりとお伝えをして、そういう国際社会にとっても今後より安全な原子力エネルギー供給というものが可能になるような、そういうことに貢献できれば幸いだと、このように考えております。それに加えて、先ほど申し上げましたように、原子力、化石燃料に加えて欧米の多くの国も風力や、あるいは太陽エネルギーに力を注いでおります。我が国はややこの分野で出遅れているところがありますので、そうした分野についても一層力を入れてまいりたい。そういった姿勢を含めて国際社会にも日本の姿勢をお示しをしたいと思っております。
● フジテレビの松山です。浜岡原発の停止要請についてお伺いします。発表については、あまりに唐突で、政府が法的根拠なしに企業の活動を制限することには批判も出ていますけれども、そうした中、日本経団連の米倉会長は結論がいきなり出てきて、思考過程がブラックボックスだと厳しい批判をしております。国の原発政策の行く末をも決めかねない重要な決定が、なぜこのような突然発表しなければならなかったのか、そのあたりを総理の方からもう一度説明をお願いします。また、中部電力は今回の要請を受けて受諾しましたけれども、それによるコスト増などについては国の支援を求めています。国として今後、そのコスト増の部分について金銭的に全額国としてそれを補てんするような考えもお持ちなのでしょうか。
この浜岡原発については、従来から活断層の上にあるといったような指摘はあったわけですけれども、今回のことは、やはり何といっても3月11日の大震災を受けて、そうした震災があっても大丈夫と言われてきた東電の福島原発が、いわゆる冷却機能が停止をして、ああした事故につながったというこのことが直接大きく影響したということは言うまでもありません。その折から、内閣として、いわゆる防災会議なども開かれた中で、いろいろな地域の地震の可能性なども改めて議論の場に乗り、あるいは私自身も改めてその87%という数字を確認をいたしまして、そういう中でこの問題をどのように扱うか。いろいろな方の意見もお聞きをしてまいりました。そして、海江田経産大臣もいろいろな方の意見を聞かれて、私とも最終的にはいろいろ意見交換をし、私たちなりに熟慮を重ねた中で、こうした要請を行うことが国民の皆様の安全と安心の上で必要であろうという、そういう結論に達したわけであります。
● (フジテレビ松山)中部電力への支援について、国としてはどのようにお考えでしょうか。
これはこれからの相談だと思いますが、勿論一般的に言えば、国もできるだけ協力するということでありますが、具体的にどういう形で、どういうコストが上がること自体をどういう形でフォローできるのか。それはこれからの話し合いによるものと考えております。
● 朝日新聞の坂尻です。総理、冒頭に触れられた原発事故の調査委員会について確認させてください。今、回答でもおっしゃられたように、これまで総理は原発事故の検証ということをしていかなければならないとおっしゃっていましたが、今回、浜岡原発への停止要請というのは、その検証に先立って、前もって出されたという形になりました。そうしますと、この原発事故の調査委員会というのは、福島第一原発の事故原因を究明するということにとどめられるのか。あるいはその原因究明の結果によっては、今後の原発政策の在り方、新たな停止要請ですとか、そういうことに踏み込むことも念頭に置いていらっしゃるのか。どちらなのでしょうか。
先ほど申し上げましたように、今回設置を調整している調査委員会では、独立性、公開性、包括性という形で、先ほど申し上げました。その中には技術的な問題だけではなくて、制度的な問題などについても今回の事故の背景として関連することについては、しっかりと調査をしていただきたいと、このように思っております。それを踏まえてどうするかということは、一応これは調査委員会の報告が出た中で、それを踏まえての議論は必要になるかと思いますが、調査委員会そのものが他のことまで何か結論なり方向性を出すということは、今、私の想定している中では、それはそこまでではないのではないか。まずは今回の東電福島原発の事故、そして、それに至る背景といったところを徹底的に調査いただくということにとどまると考えております。 
記者会見 / 平成23年5月18日
5月6日の記者会見の折に、浜岡原発について運転の停止を要請するということを申し上げ、その後、中部電力から受け入れていただきました。この間、国会でもいろいろ議論はありましたけれども、多くの国民の皆様が、国民の安全と安心ということで判断をしたこの要請に対して、御理解をいただいたことを心から感謝いたしたいと思っております。
また、昨日、東電から、いわゆる工程表の改訂版が発表され、同時に政府としても今後の工程をまとめたものを発表いたしました。この中で、原発、特に1号機に関しては、従来は3分の2程度は燃料棒が水に浸されているという推測でありましたけれども、既に燃料が溶融し、落下しているという、より厳しい見方に変わった中での工程表でありました。
こうした新しい見方の中で、例えば今後の冷却方法などは、従来考えていた形とは違った形を取らなければなりません。しかし、当初から予定していたステップUの完了の時期、4月17日から考えて6か月〜9か月、つまりは遅くとも来年の1月中旬という日程は、その日程を守っていくことが可能であるという認識を東電も示されましたし、また政府としてもそうした、遅くとも来年の1月までには原子炉を低温停止させ、そして放射能の放出をほぼなくするということで安定化させていきたい。こうなれば、原子炉周辺の住民の皆さんに対しても、除染あるいはモニタリングをした上で、どの範囲が、どの時期に帰っていただけるかということを申し上げることができるようになると考えております。
また、原子力行政全般に関して、長年の原子力行政の在り方を根本的に見直さなければなくなると思っております。例えばこの間、日本の原子力行政は、原子力を進めていく立場と、言わばそれをチェックする立場が安全・保安院という形でともに経産省に属しているチェック機関と行政的には原子力行政を進めていくという立場と両方が同じ役所の下に共存していた。こういった独立性の問題。更には、情報の共有あるいは発表の仕方などの問題。更には、省庁間を結ぶリスクマネージメント。こういったものについて、必ずしもしっかりした態勢が取られていなかったと思っております。
そういった意味で、近くスタートする今回の事故の調査委員会においては、この長年の原子力行政の在り方そのものも十分に検討していただき、その根本的な改革の方向性を見出していきたいと考えております。
また、昨日は、この大震災前から進めていた基本政策を進める再スタートのための政策推進指針を閣議決定いたしました。今回の大震災については、それ以前の20年近く、財政的にも、あるいは日本の社会全体がやや閉塞感に包まれていた。そういう危機の中で生じた危機という位置づけで、この危機を乗り越えることの中で、そうした20年間に及ぶ日本の低迷からも脱却していく、こういうことを目標としてきたところであります。
そういった意味で、この間の議論を進めてきた、例えば社会保障と税の一体改革、あるいは新成長戦略、更には包括的経済連携、農業の再生、こういった問題については、昨年の11月に基本方針を決めたわけでありますけれども、その基本方針の考え方は維持しながら、改めて議論を再スタートすることといたしました。
そして次に、今週末から来週にかけて、一連の外交日程が固まってまいりました。5月21日・22日には、日中韓の首脳が集まります。また、来週にはOECD、G8、あるいは日本とEUとの首脳会談が予定されております。日中韓の首脳の会合では、中国の温家宝首相、そして韓国の李明博大統領が、ともに今回の被災地に入ってお見舞いをしていただけるということになりました。大変にありがたいことだと、このように思っております。そうした中で、この一連の国際会議の中で、多くの国々あるいは国際機関が我が国に提供していただいた支援について、改めてお礼を申し上げなければならないと思っております。そして、そのお礼の気持ちは、一日も早く日本自身が復旧・復興して、改めて世界のリーダー国の一つとして、いろいろな形で国際貢献を通してお返しをすることができるようになることこそが重要だと、このように考えております。
最後に、この国際会議においても、今後の日本のエネルギー政策について大変関心が高まっております。私は、従来の日本のエネルギー政策が化石燃料と原子力という2本の大きな柱で組み立てていたわけでありますけれども、それに加えて自然エネルギーと省エネルギーという2本の柱を加えていく必要があると、このように考えております。原子力エネルギーについては、今回の事故を踏まえて徹底的に安全性を高める。そのために何をなすべきかを検討していかなければなりません。同時に、新たに加わる自然エネルギーと省エネというのは、ある意味では世界をリードする、そういうイノベーションにもつながる分野でありまして、そのことを通して、我が国が環境エネルギーの先進国としての、リーダーとしての役割も果たせるようにしていきたいと考えております。
この国会には、再生可能エネルギーの、いわゆる太陽エネルギーや風力エネルギーを全量固定価格で買い取る全量固定価格買取法案が提出をされております。是非とも、この法律案の成立を一つの、この自然エネルギーに国としても全力を挙げて支援していく大きな役割を期待したいと、このように考えているところであります。こうした形で、我が国を環境エネルギーの先進国のまさにリーダーとして活躍できるように、復旧や復興とも連動する形で進めてまいりたいと、このように思っております。
【質疑応答】
● NHKの山口です。総理からエネルギー政策の話がありましたが、前回の会見で、白紙でエネルギー政策を見直すという言葉がありましたが、原発推進国の中にはその真意をいぶかる声もあると思います。そのエネルギー政策をどういう時間軸で、どうやってミックスしてやっていこうというふうにお考えになっているのか。G8でどういう考えを表明なされるのか、お聞かせください。
私が申し上げたのは、現在3年おきに決められているエネルギー基本計画、現在のものは昨年決められているわけですが、このエネルギー基本計画の白紙からの見直しが必要であるということを国会でも申し上げてまいりました。現在のエネルギー基本計画では、2020年までに原子力エネルギーを電力の中で53%程度、再生エネルギーを20%程度という方向性が出されております。こういった形が今回の事故を通して可能であるか、ないか。あるいはそういう方向に進むべきか。もっと、例えば自然エネルギーなどは力を注ぐべきか。そういうことを含めて、エネルギー基本計画を白紙から見直す必要があるだろうということを申し上げてまいりました。その方向性については、今、私自身がお話をしたところでありますけれども、風力や太陽、あるいはバイオマス、こういったものを中心とした自然エネルギーを推進する。更には化石燃料などの利用の仕方においても、省エネという形でCO2を削減することも多くの技術があります。そういうものを積極的に進めていく。そして、勿論、そのプロセスの中では化石燃料も相当程度のウェートになりますし、原子力については安全性を一層高める中での活用を考えていく必要があるだろうと、このように考えております。
● 西日本新聞の相本です。先ほど述べられました原子力行政の根本的見直しに関連してお尋ねします。総理が言われたとおり、浜岡停止の決断については世論は好意的に見ておりますが、一方で原発事故対応全体の評価というのは依然厳しいものがあると思います。背景にあるものとして、政府が計画を立てて、民間企業が経営するという国策民営の原発の形態が責任の所在をあいまいにしているのではないかという指摘もあると思います。また、最近では、東京電力の発電、送電の分離論、かつて電力自由化の議論のときに出ましたが、そういった発言も閣僚から出ておりますが、今後、エネルギー政策の見直しを進める中で、こうした原発のような在り方とか、全国の電力会社の経営形態についてどの程度切り込む、あるいは総理が現時点でどういう問題意識をお持ちなのかという点をお聞かせください。
まずは現在の原発事故の収束を図る中で、事故の徹底的な調査、そしてその原因の解明を図らなければなりません。その場合に、先ほども申し上げましたように、あるいは従来から申し上げておりますように、狭い意味での技術的な問題だけではなくて、ある意味での原子力行政全体の在り方、あるいは今も御指摘のあったいろいろな電力供給の在り方、国によっていろいろな形態があります。日本でも通信事業でも似たような議論がある中で、いわゆる地域独占ではない形の通信事業が現在、生まれております。そういった在り方も含めて、議論する段階は来るであろうと思っております。そういった意味では、今いろいろな御指摘がありましたけれども、まずは調査委員会における検討を行う中で、今後のことについてその中から議論すべきことはしっかりと議論していきたいと思っております。
● 毎日新聞の田中です。原子力政策について2点伺います。まず、総理は昨日、共産党の志位委員長とお会いになられて、核燃料サイクルの見直しについて御説明されたようですけれども、現在、総理は核燃料サイクルについてどういう見解をお持ちかお聞かせいただきたいということ。それと、定期検査中の原発について、今、数十機が定期検査中で停止中です。再稼働はなかなかできない、再稼働は延期されている原発もかなりある状況です。これから更に定期検査に入っていく原発もありますけれども、総理としては再稼働を促進するのか、あるいは再稼働は慎重にするべきと考えてらっしゃるか、以上2点、お願いします。
まず、昨日の志位共産党委員長との会談において私が申し上げたのは、エネルギー基本計画を白紙から見直すという国会でも申し上げていることについて同じ趣旨のことを申し上げたところであります。志位委員長もそういう認識でおられると思います。赤旗などを見るとそういう趣旨で書かれておりますので。何か私が使用済み燃料のことを併せて言ったことで、個別の核燃料サイクルについて白紙で見直すというような一部報道もありますけれども、それは間違っております。私が申し上げたのは、あくまでエネルギー基本計画。これには勿論、御承知のように、化石エネルギー、原子力エネルギー、自然エネルギー含めた、そのトータルの計画の見直しということを申し上げたというのが趣旨であります。それから、定期点検などで止まっている原子力発電所についての問いでありますけれども、現在、各電力会社に対して、緊急の安全措置をしっかりと準備するように申し上げております。そういったものがきちんとなされたものについて、今後は多少時間が経った中では新たな基準などの問題も生じるかもしれませんが、少なくとも現時点で申し上げられることは、そうした緊急的な安全措置もしっかりと講じられたものについては、従来の方針に沿って安全性が確認されれば稼働を認めていくことになると考えております。
● 香港フェニックステレビの李と申します。日中韓サミットに関してお聞きします。日中関係は昨年以降冷え込んでいるように見受けられますけれども、今回のサミットを通して日中関係に日本側としてどのような成果を期待されているのか、そして温家宝総理が福島に訪問するといった御意向があるようなんですけれども、日本側の提案だったというふうに報道されておりますが、日本側が今回の訪問でどのようなメッセージを国際社会にお伝えしたいのか教えてください。
日中韓の3か国の首脳会談が行われるわけですけれども、日中について昨年、やや難しい場面もありました。しかし、今回の大震災においては、中国からいち早くお見舞いや支援の要請、更には胡錦濤主席御本人が北京の日本大使館に来て記帳をいただくなど、本当に心のこもった対応をしていただきました。そして、今回の温家宝首相の訪日においても、そうした被災地に入ってお見舞いをしていただけると、私は本当にこの日中間、日韓間も勿論ですが、絆が深まった、あるいはもっと絆が深まる。本当にそういう形につながっていくだろうと思っております。そういった意味で感謝を申し上げると同時に、これからの日中関係がよりよいものになっていく大きなステップであると認識いたしております。
● フリーの岩上です。原子力政策について2点お聞きしたいと思います。原子力を見直すということを触れられましたけれども、これを維持するのか、縮小するのか、それとも根本的に廃絶するのか、大変大きな岐路になるのではないかと思います。総理の真意はどこにあるのか、その点をお聞かせいただきたいと思います。また、総理は先ほど全量買取制度について触れられましたけれども、これを生かしていくためには、送電網をやはり分離することがどうしても必要になるのではないか。送電網というものはニュートラルなものにするべきではないのか。東電の賠償責任を問うためにも資産を保全し、送電網は担保としてとるということも考えられると思います。発送電の分離についてもお伺いしたいと思います。
原子力に関して、今回の事故が勿論我が国にとってもある意味では非常に重大な事故であり、いわゆる想定を超えた事故であったということは、これは言うまでもありません。それだけに深刻な形で、どこにこれが止められなかったのかといった反省あるいは見直しは必要だと思っております。そういう中で原子力のより安全な活用の仕方を生み出して、そして、そういう方向性がきちんと見出せるならば、当然のことでありますけれども、原子力を更に活用していく。いずれにいたしましても、まずは徹底した検証が必要だ。そこからすべてがスタートをすると考えております。それから、全量買取制に関連して送電や発電の分離といった御指摘でありますが、これも今回の事故ということだけではなくて、自然エネルギーというのはどちらかと言えば大規模な発電所は難しい技術でありまして、いわゆる地域分散型の発電ということになるわけであります。その場合に従来は大きな発電所を持っている電力会社自身が、自分のそうした大きな発電所に合わせた形の配電システムをつくってこられたわけでありますけれども、そういう自然エネルギーを大きな割合を受け入れるときに、どういう態勢が必要になるのか、またはあるべきなのか。そういうことについては現時点、いわゆる事故の調査といった時点でそこまで踏み込むことは難しいわけですけれども、今後のエネルギーの在り方、まさにエネルギー基本計画などを考える中では、当然そういうことについても議論が及んでいくことになるだろう、またはそうすべきだと考えております。
● 日本経済新聞の犬童です。原発事故の損害賠償の枠組みが決まりましたけれども、これに関連する法案をどのように処理するのかということが、官房長官はかなり難しい法案になるということで、今国会の提出は難しいという認識を示されておりますが、総理としては今国会はどのようにこの法案を出すのか出さないのか、あるいは出した場合は会期延長してでも通さなければいけないと思っていらっしゃるのか、その辺の御見解を少しお伺いできればと思います。
まず賠償については法案が成立するしないにかかわらず、迅速かつ万全に賠償が進められるよう、政府としても責任を持っていかなければならない、いきたいと考えております。そういうことを前提として、どういう形の法案がいつまでに必要になるのか。また、それの成立の見通しなども含めて現在検討している状況です。
● 今国会にこだわるという話がありますけれども。
今、言いましたように、法律の成立いかんにかかわらず、賠償そのものはきちんと進めますが、勿論この法律の在り方については先日も参考人で来られた東電の社長も、早い成立を願うという見解を述べておられました。そういういろんな意見を含めて検討しているところです。
● 日本テレビの青山です。さきの国会答弁で菅総理は2次補正について拙速は避けるべきだと言って、8月下旬以降の提出を示唆されましたけれども、野党側は復旧費用もまだ不足しているとして2次補正の早期提出を求めています。この辺についてどのように考えているのか。それと併せて、この通常国会を会期で閉じること、もしくは少しの延長で閉じることについて、やはり野党側は批判を封じるためだということを言っておりますけれども、やはりこのような事態が続いている中で、通常国会を大幅延長する考えはどのように今考えてらっしゃるのか、その辺をお伺いしたいと思います。
まずは5月2日に成立した4兆円を超える第1次補正の中で、がれきの処理とか仮設住宅とか、あるいはライフラインの復旧などの事業をしっかりと迅速に進めていくことが、まず重要であると考えております。その上で、更にどういうことにさらなる費用がかかるのか、現在、復興構想会議でも本格的な復興の、ある意味での青写真を議論いただいております。私は、本当に急ぐものがいろいろと提案をされてきた場合には、それはそれで現在の第1次補正で、もし不十分だとすれば考えなければなりません。つまりは、その中身によって、今の1次補正でできるものか、あるいは予備費等で対応できるものか。いやいや、もうそれでは不十分だというものなのか。そういうことも含めて、しっかり検討してまいりたい。決して何か別の目的で、このことを考えているわけではありません。会期の問題についても、最終的には国会が決めていただくわけですけれども、私どもとして現時点で、まだ幾つかの重要な法案が残っておりますので、現時点で会期をどうするということの結論を出しているわけではありません。
● 北海道新聞の山下です。総理、先ほど冒頭で、政策推進指針の閣議決定のことに触れられましたけれども、その中にTPPに6月に参加することの是非を判断するということを先送りすることが盛り込まれていると思います。そもそも6月にしたのは、その月までに判断しなければ間に合わないということがあったと思うんですけれども、震災を受けて、農業がこれだけ被害を受けている中で参加の判断ができるのかという状況にもあると思います。最終的には11月までに日本として判断すればいいんだと思うんですけれども、総理として震災前と現在とで、TPPへの参加問題にかける意欲とか可能性に変化があったのか、なかったのか、その辺をお聞かせください。
先ほども申し上げましたように、昨年11月に閣議決定した基本方針そのものは、その方向性を変えるということではありません。方向性は変えないで維持していくということであります。ただ、この大震災において、例えばその間、農林漁業の再生といった議論が一時中断していることも事実でありますし、また今回の大震災で特に被害を受けられた農業、漁業関係者も多い中で、そういう復旧・復興と、この大きな農業再生、農林漁業再生ということがきちっとつながる形になっていかなければならない。こういう要素もおっしゃるようにあります。そういう意味で、今回の改めて再スタートとした指針の中では、若干の留保を置きましたけれども、基本的な姿勢は変えないで進めていくということで考えているところであります。 
日中韓サミット首脳宣言 / 2011年5月22日
我々、日本国、中華人民共和国、大韓民国の三箇国の首脳は、2011年5月22日に東京にて会談を行った。
我々は、2011年3月11日に発生した東日本大震災により失われた尊い命、甚大な被害に対し、深い哀悼の意を表した。今般の震災は、三箇国の国民の友情の絆及び地理的近接性にかんがみ、三国間協力が必要不可欠であることを想起させた。
こうしたことを念頭に、我々は三国間協力の包括的かつ継続的な進展の確かな勢いに満足の意を表するとともに、未来志向で包括的な協力パートナーシップをより一層強化するという意思を共有した。我々は、三国間協力は、日本の早期復興に確実に貢献するものであるとの理解に基づき、特に災害や困難に直面した際に互いに助け合うことの重要性を共有した。我々は、様々な分野における三箇国協力を通じ、この困難な状況を乗り越えようとする日本の努力を支えていく決意を表明した。
我々は、今年韓国に設立される日中韓三者間協力事務局に関する進展を歓迎し、事務局が今後より一層三国間協力を強化するとの希望を表明した。
我々は、ハイレベルでの交流を維持・強化していくことを確認するとともに、三箇国それぞれのアジア政策に関する包括的、客観的かつ深い理解を促進し、地域における平和と安定に貢献するために、年次の日中韓高級事務レベル協議の際に、アジアに関する政策対話を開催することを決定した。
1.三国間協力
防災及び原子力安全
東日本大震災を踏まえ、日本は今般の原子力事故及び地震から得た教訓を、中国、韓国、及び国際社会全般と共有することを約した。我々は、防災や原子力安全分野に関する三国間協力の重要性を再確認し、付属文書のとおり協力を推進していくことを決定した。
経済成長
地域の主要三箇国の首脳である我々は、三箇国が地域の活力やダイナミズムをより一層高めるために協力を強化し、アジアの力強い成長を導いていくべきであるとの考えを共有した。この観点から三箇国間の経済連携の更なる強化に役立つであろう三箇国間の投資枠組みの一層の重要性を再確認し、可能な限り早期に投資協定交渉の実質合意が達成できるよう更なる努力が必要であるとの認識で一致した。現在の日本の状況とその影響を考慮しつつ、日中韓FTA産官学共同研究の進展と経済貿易大臣及び外務大臣からの提言に留意し、我々は日中韓FTA産官学共同研究を本年中に終了させ、その後フォローアップを行うべく、同共同研究を加速化することを決定した。
我々は、食の安全及びエネルギー安全保障の重要性を再確認し、これらの分野における対話と協力を奨励した。
我々は、北東アジア物流情報サービスネットワーク(NEAL-NET)の設立を歓迎し、日中韓物流大臣会合の枠組みにおける継ぎ目のない物流システムの構築及び三箇国間の陸と海を結合した輸送の早期実現に向けた進展を奨励した。
我々は、三箇国間の観光促進は経済の刺激、特に災害の影響を受けている日本の観光部門の刺激につながるとともに、他国に対する理解を深めることができることを確認した。我々は、2010年の第5回日中韓観光大臣会合の際に設定された、2015年までに三箇国間の人的交流規模を2600万人に拡大するという目標を支持した。我々は、こうした目標の実現や観光及び友好的な交流の促進にとって好ましい環境を生みだし、堅持していくために、三箇国が共に努力していくべきであるとの考えで一致した。我々は、三箇国相互による一層の自由化を通じた航空ネットワークの拡充の重要性を確認した。我々はまた、ビザ手続の迅速化に向けた取組を確認した。我々は姉妹・友好都市交流の拡大を推進することが重要であるとの考えで一致した。
我々は、日中韓関税局長・長官会議の枠組みの下で、特に貿易円滑化や税関手続の改善に向け、より一層税関協力を強化していく。
環境と持続可能な開発
我々は、次世代のために地球規模の環境問題に対して国際社会で取り組んでいく必要があるとの認識の下、この分野での取り組みを率先していく決意を示した。このような観点から、我々は、再生可能エネルギー及びエネルギー効率の推進を通じた、持続可能な成長に向けての協力の重要性を認識し、付属文書のとおり決定した。
我々は、韓国釜山で行われた第13回日中韓三カ国環境大臣会合の結果を支持した。我々は、三カ国環境大臣会合の枠組みの下での三カ国共同行動計画の進展と、学生・ビジネスフォーラムの開催を歓迎し、気候変動、生物多様性の喪失など地球規模の環境問題、及び黄砂、酸性雨、及び廃棄物特に電気電子機器廃棄物(E-waste)の不法越境移動など地域の環境問題に緊急に対処するため、協力を強化する。この点に関し、我々はE-wasteを含む廃棄物の違法な越境移動を撲滅するための協力メカニズムを確立するとの約束を評価した。
我々は、生物多様性第10回締約国会議での様々な成果に対する着実なフォローアップに向けて、緊密に協力していく重要性を強調した。
我々は、循環経済モデル基地構想設立に向けた探求についての基本的な考え方に関する継続中の議論に留意し、循環経済モデル基地の将来の枠組みについて、有益な協議を行う必要性を認識した。我々は、準備作業を開始するための協力的な取組を加速化することを決定した。
人的交流及び文化交流
我々は、人的交流及び文化交流、特に若者間での交流が、三箇国間の相互の信頼を高め、未来志向の協力的な関係を強化するための基礎となると認識した。このような基礎を下に、我々は、友好的かつ協力的な結びつきを促進するために、日中韓青少年交流事業に関連して、「次世代フォーラム」を組織することとした。
日中国交正常化40周年及び中韓国交正常化20周年を考慮し、我々は、2012年に、三箇国間での友好的な交流を特に強化することを決定した。
我々は、「キャンパスアジア」を通じた、三国間での大学間交流促進に向けた努力を歓迎し、出来るだけ早期に、パイロットプログラムが立ち上げられるよう希望した。三国間の教育協力を促進するため、日中韓教育大臣会合のメカニズムを立ち上げるための努力を継続することとした。協力の分野は、相互理解を促進し、協力的で未来志向の関係を築くための学生や教員の交流促進が含まれうる。
相互理解を深めるための文化交流の重要性を認識し、我々は、2011年の第3回日中韓文化大臣会合の際に発出された奈良宣言に基づき、三国間での文化交流を促進する具体的施策がとられ、2012年の第4回会合がそうした進展に寄与するものとなることを希望した。
我々は、日中韓文化コンテンツ産業フォーラムが、三国間の文化コンテンツビジネスにおける交流と協力を一層促進するよう貢献することを期待した。
その他
我々は、海洋の安全確保のため、捜索救助の分野における三国間協力の重要性を確認し、三国間でのより緊密な協力に期待を表した。
我々は、G20ソウルサミットで採択された「共有された成長のためのソウル開発合意」や「開発に関する複数年行動計画」が成功裏に実施されるよう、協力していくことの重要性を強調し、本年韓国釜山で開かれる第4回援助効果ハイレベルフォーラムで深く意味のある議論が行われることへの期待を表明した。我々は、開発協力に関するそれぞれの政策について意見交換を続けることとした。
我々は、テロ根絶のためには、長期的で、近隣諸国との協力による連携した取組みが引き続き不可欠であることを再確認した。この観点から、三か国首脳は、今後日中韓テロ協議が具体的な成果を出していくことへの期待を共有した。
我々は、ソマリア沖の海賊が国際航行及び通商航路の安全にとって、引き続き重大な脅威となっていることを深刻に懸念する。我々は国際社会と協力しつつ、共通の脅威への対処に関する取組を強化するとのコミットメントを表明した。この分野における三国間協力を強化することを決定した。
2.地域・国際情勢
北東アジア情勢
我々は、朝鮮半島の非核化は北東アジアの平和と安定に大きく貢献するとの見解で一致した。北朝鮮が主張しているところのウラン濃縮計画に関する懸念が表明された。我々は、真摯なかつ建設的な南北対話が必須なまでに重要であることを強調し、六者会合の再開に資する環境を醸成する上での具体的行動の重要性を強調した。我々は、2005年の六者会合共同声明の目標を実現することに対するコミットメントを再確認した。
東アジア地域協力
我々は、平和で安定し、繁栄した東アジアを実現するため、日中韓サミット、ASEAN+3、東アジア首脳会議(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、APECを含む既存の枠組みを通じて地域協力を推進するとのコミットメントを再度表明した。我々は東アジアの地域協力の原動力としてのASEANを支持し続ける。この点に関し、我々は本年からのEASへの米国とロシアの参加を歓迎した。我々は東アジアの地域協力を推進するため、三箇国並びにASEAN及びその他のパートナーとの間で緊密に協力することを約する。
軍縮・不拡散
我々は、核兵器不拡散条約(NPT)に対する我々の強いコミットメントを再確認した。我々は、国際的な安定を促進する方法で、また、すべてにとって損なわれることのない安全保障の原則に基づき、核兵器のない世界を追求するために他国と協力する意思を表明した。我々は、2010年NPT運用検討会議の最終文書を履行する我々の決意を強調した。我々は、2012年の核セキュリティ・サミットを韓国が主催することを歓迎し、同サミットの成功に向けて緊密な協力を継続することを再確認した。
国際経済情勢
我々は、世界経済の不確実性及び潜在的なリスクを含む国際経済情勢に関する諸問題を議論した。強固で持続可能かつ均衡ある成長力強く、持続可能で、均衡の取れた成長を実現するために、我々は、特にG20ソウル・サミットの成果を着実に実施することにより、G20及び他の適切なフォーラムを通じて、世界経済の課題に対処すべく、共同で行動することへのコミットメントを改めて表明した。 
記者会見 / 平成23年6月2日
大震災の復旧・復興を進めている中で、本日、野党から私あるいは私の内閣に対する不信任案が提出をされました。国民の多くの皆さんは、国会は一体何をやっているんだ、こういう思いを持たれた方も多かったんではないかと思います。しかし、これには私自身の不十分さも一つの大きな原因でありまして、国民の皆さんにお詫びを申し上げたいと思います。幸いにして、多くの方の反対で、特に民主党の大半の代議士の一致した反対で大差で否決をされました。おかげで内閣としては復旧・復興、そして原発事故の収束といった作業の中断をすることなく、継続して取り組むことが出来る。大変ありがたく思っております。これから、まだまだ不十分な点もある復旧・復興に向けて、改めて私自身全力を挙げたいと考えております。
その中で、今回の復旧・復興が、ただ元のような社会に戻るということではなくて、思い切った新しい社会を目指す、そういう復旧・復興にしていきたいと従来から申し上げてまいりました。特に、エネルギー政策。今回、原子力発電所の事故を経て、多くの議論が巻き起きております。そういった中で、原子力エネルギーに対する懸念、さらには化石燃料についても温暖化の原因となる、こういった問題点を抱えております。この際、この2つのエネルギーを柱としたこれまでのエネルギー政策から、思い切って再生可能な自然エネルギーと、そして省エネルギーを大きな柱として育て上げていく、そのこと自体が新しい安全で環境に優しい未来の社会を実現することに繋がると考えております。特に、この再生可能な自然エネルギーと省エネルギーは、従来の大型火力、あるいは大型原子力発電所と異なって、多くの国民の、あるいは多くの生活している人の参加がなくては実現しないエネルギーであります。
私は今回の大震災の中で、多くの皆さんが人と人との絆、家族の絆、親子の絆、本当に深く考えられるようになったと思います。私自身も震災前に比べれば、息子達夫婦や年老いた母親といろんなことを話す、そのことがかつて私にとってはあまり大きな時間を割くことが出来なかった、あるいはそうしなかったわけでありますが、そういう会話も何か人間としての温かみを強く感じるようになりました。そういった意味で、そうした人間との絆をある意味エネルギーの社会で実現するとすれば、一軒一軒にソーラーパネルを置いたり、あるいは家を建てる時に省エネのタイプの住宅を建てたり、地域社会でそういった地域の効率のよい冷暖房システムを入れたり、そういう地域社会をベースとした絆の拡大にも繋がると思うからであります。私に与えられたこの大きな国難とも言える試練に対して、そうした夢のある社会を実現する、そういう覚悟で改めて取り組んでまいりたい。このことを国民の皆様に申し上げたいと思います。
どうか今回の不信任案の否決によって、是非とも、改めて復旧・復興に当たる私たちの活動、そして是非とも野党の皆さんにもそれぞれ私にも不十分なところ、あるいは行き届かないところ、能力の不足するところ、多々ありますけれども、ここは復旧・復興が一定の目途が立つまで、そして原子力事故が一定の収束の段階まで是非とも党派を超えてご協力をいただき、そして新しい安全で安心な社会づくりに共に参加をいただきたい。改めて心からこうした場ではありますけれども、野党の皆さんにもお願いを申し上げたい、このように考えております。
【質疑応答】
● NHKの山口です。本日総理の一定の目途がついたらという言葉について、多くの民主党の代議士が退陣表明と受け止めたと思います。それから海外のメディアも含めてそのように報じているのですが、総理はこの一定の目途というのはいつだとお考えになっているのでしょうか。それから9月に訪米を予定されていますが、それはそのまま行くおつもりなんでしょうか。お聞かせください。
代議士会の場で私自身の言葉で申し上げたところです。言葉通り一定の目途であります。つまりは、今復旧から復興に向かっているわけでありまして、その復興に向かっては、第2次補正も必要となりますし、あるいはいろいろな体制づくりも必要となります。さらには原子力事故の収束も残念ながらまだステップ1の途中であります。やはり、安定的な形まで持って行くにはまだ努力が必要だと思っております。正直今申し上げたような、新しい社会づくりというものに向かっていく、そういった方向性、そういうものに一定の目途がついた段階という意味で申し上げました。そして我が党には、50代、40代、30代の優れた仲間がたくさんおります。そういう皆さんに責任を移して、そして頑張っていただきたい、このように思って申し上げたところであります。
訪米については、これから日米関係というものは、個人の関係であると同時に、党と党の関係、あるいは国と国との関係でありますので、どういった形になるにしてもしっかりと責任を持ち、あるいは責任を引き継いでまいりたい、このように思っております。
● 西日本新聞の相本です。今の質問に関連しますけれども、総理は新しいエネルギーも含めた社会づくりまで今言及されましたが、それと総理の退陣時期との関係なんですけれども、鳩山前総理は復興基本法案、二次補正の編成の目途がついた段階だと、そう遠くない時期だというふうにおっしゃっているんですが、今の新しいエネルギーを含めた社会づくりという話になりますと、かなり時期も長くなるような印象もあるんですが、はっきり総理としてはどの辺りというふうにお考えなんでしょうか。
同じ答えで恐縮ですが、多分皆さん方も、私の代議士会でのお話は直接かテレビかで聞かれたと思います。そこで申し上げたとおりです。そしてその私が一定の目途がつくということについては、今直前のご質問にもお答えしたとおりです。
● 朝日新聞の坂尻です。辞任をする時期をめぐってもう一つ確認なんですが、総理は復興に一定の目途がつく段階とおっしゃって具体的な時期を言及されないということになると、総理が一旦復興に目途がついていないというふうにおっしゃると、これは辞めるとおっしゃっていながらいつまで経ってもお辞めにならないということになるんじゃないかと思うんですが、そうしますとその姿勢はちょっと誠実さを欠いたものと映るんではないかと個人的には思いますけれども、それで国民の理解や支持というものは得られるとお考えですか。
同じことの答えで恐縮ですけども、一定の目途がついた段階で若い世代の皆さんに責任を移していきたいということを申し上げたわけですから、その代議士会での私自身の発言に私自身責任を持つのは当然だと思っています。
● ロイター通信の久保田と申します。先ほど日米関係の点で、個人の関係であると同時に党と党、国と国との関係というお話があったんですけれども、菅総理は五年間で五番目の総理でいらっしゃいますけれども、そのように日本のリーダーのポジションにある方が頻繁に変わることによって、国際社会において日本という国の信頼性であったり、あるいは日本の政策への信頼性が失われていくという危険はあるとお考えになりますでしょうか。また、そういった信頼性あるいは影響力を、日本はどのようにして保っていくことができるというふうにお考えでしょうか。
一般的にはおっしゃるような心配を私も従来から持っておりまして、今後、議院内閣制を採っている我が国においても、せめてですね、大統領や知事の任期程度、4年程度はひとつの総理、リーダーが継続する方が、そうした国際関係の中でも望ましいと一般的には思っております。
● 読売新聞の五十嵐です。不信任案についてなんですけれども、ほとんどの議員の方は反対に回られたということですけれども、二人の方が賛成し、また、小沢元代表はじめ数人の方が欠席されたということです。内閣不信任案への採決への対応というものは、非常に議会制度の中で重要な位置を占めると思うんですけれども、造反された方にはどういう方針で臨むのか伺います。また、採決の前に政務三役で辞表を提出された方がいらっしゃると思うんですけれども、その方々への対応についても併せてお聞かせください。
まず先ほど私も役員会に出席をし、また常任幹事会の冒頭にも出席をいたしました。その中でそうした皆さんに対する党としての対応、処分については、議論をいただいております。一部決まったところもありますけれども、いわば継続的に議論する部分もあると、このように報告をいただいています。また、副大臣、大臣政務官で辞表を提出された方について、現在辞表はお預かりをいたしております。党のそうした処分の方向性を見定めながら、最終的に私の方で判断をしたい、それぞれ大変この間頑張ってきていただいている方ばかりだと思っておりますが、やはり党の一定のけじめというものが出た場合には、それも参考にして今後の対応を判断したいと思っております。
● ニコニコ動画の七尾です。よろしくお願いします。原発事故に関しまして、避難民の方々は一日も早くご自宅に帰りたいというお気持ちだと思います。これは総理も直接、そういった方々からお話を聞かれていると思います。先ほど工程表のお話が出ましたが、避難民の自宅への帰還を総理として見届けるお考えでしょうか。
まず、工程表で言いますとステップ2が完了して、放射性物質が、放出がほぼなくなり、冷温停止という状態になる。そのことが私はこの原子力事故のまさに一定の目途だとこのように思っております。ただ、帰還の問題は、必ずしもその時点で全てが方向性が決まるかどうか、これは、いろいろとモニタリングをしたり、あるいは除染をしたりということも含めて、もう少し時間がかかる可能性は十分あると思っています。
● フジテレビの松山です。今の質問にも関連するんですけれども、総理は福島原発の事故の収束の目途について冷温停止が一定の目途だとおっしゃいましたが、ということは、総理自身は自らの手で指揮を執って、来年一月までを目標としている冷温停止までを是非やり遂げたいという意思表明なのでしょうか。また鳩山前総理との合意の文書があるようですが、その中には原発という文字は入っていないようですが、原発の収束についても含めて鳩山前総理との間で合意ができたという認識なんでしょうか。
鳩山前総理との合意というのは、鳩山前総理がつくられたあの確認書に書かれたとおりであります。
● そこには原発という文字が入ってませんが、総理としては認識としてはそこまで含むという・・。
私が一定の目途と申し上げたのは、代議士会で申し上げたのであります。私の申し上げている意味は、今聞かれてましたのでお答えいたしました。
● 時事通信の水島です。代議士会の発言についての確認なんですけれども、私は退陣の予告をされたというふうに受け止めたんですけれども、そうすると中長期的な消費税の問題ですとか、あるいは民主党の人事ですとか、あるいは内閣改造ですとかそういったことは菅首相自身はもうおやりにならないというふうに私は受け止めたんですが、そういう理解でよろしいんでしょうか。
代議士会でそういった問題には何も触れておりません。
● フリーランスの上杉隆です。一定の目途、何度伺ってもはっきりお答えいただかないので別の聞き方をしますが、一定の目途でお辞めになるのは総理でしょうか、議員でしょうか。
同じお答えになって恐縮なんですが、私は代議士会というオープンな場で大勢の代議士、あるいはマスコミ関係者の皆さんもおられるところで申し上げたわけでありまして、是非その私の発言からお読み取りをいただきたいと思います。
● 共同通信の松浦です。国会の会期なんですが、総理は先日、自民・民主の議員に大幅な延長を言及されたそうですけれども、これはどのぐらい延ばすお考えなんでしょうか。
今回のこの大震災という状況の中で、国民の皆さんからやはり国会で必要なことは、いつでも議論できるようにしてほしい、そういうご意見もいただいてます。それに応えるとすれば事実上の通年国会、12月のある時期までということになろうかと思います。
● 日本テレビの小栗です。先ほど、鳩山前総理との合意の内容は確認書にある通りだというふうにおっしゃいましたが、確認書には確認事項というふうに書いてあります。これは何を確認した文章なのでしょうか。鳩山前総理がここに書いてあり、復興基本法案の成立と第2次補正予算の早期編成に目途をつけること、これが辞任の条件だというふうに受け止めていらっしゃいます。こういう話を鳩山前総理との間でされたのか、そこをきちんとおっしゃっていただかないと、政権運営透明性を持って進めていくとおっしゃっていた総理ですから、はっきりお話しいただきたいと思います。
鳩山前総理との話では、合意事項という文書に書かれた以外の何らかの約束とかは一切ありません。
● 何を確認されたものなんでしょう。
あそこに書かれているとおりです。
● 産経新聞の今堀です。他社も聞いている繰り返しで申し訳ないんですが、鳩山前総理がおっしゃった復興基本法案の成立と、それから二次補正の編成の目途がついた時点で辞めていただく、という発言は間違いということでよろしいのですか。
あの私は、私が特に公の席でしゃべったことについては、当然ですが自分として責任を持たなければならないと思っています。鳩山さんとの合意というのは、あの文書に書かれたとおりでございまして、それ以上私が申し上げることは、やっぱり控えた方がいいと思います。
● フリーランスの畠山理仁です。一定の目途についてしつこいのですが伺います。原発事故の収束について、復旧の目途というのは、まあ国民の多くが望んでいることだと思いますけれども、国民のために一刻も早く辞めるために努力するという受け止め方でよろしいでしょうか。
原子力事故を、ステップ2の冷温停止、そして放射性物質がほぼ出なくなるところまで持っていくために全力を挙げる、一刻も早い実現を目指す、当然の私の責任だと思っています。
● 中国新聞の荒木と申します。先ほどから発言を聞いていますと、総理はしばらく続投をされて、復興とか原発事故についてもかなり責任を持ってやりたいという意向のようですが、そうなるとねじれ国会である以上野党の協力を得ないといけないと思うのですが、そのあたりは何か具体的に考えていらっしゃるのでしょうか。非常に被災地の問題でも一日も早く通れる法案がたくさんあると思うのですが、具体的に教えていただけると助かります。
先ほど申し上げたように、是非野党の皆さんにもこの大震災の復旧・復興、原子力事故の収束のために一緒に協力し合ってやっていただきたい、こう考えております。具体的なことは、それぞれの政調会長とか国対委員長とかいろいろと努力をしていただいていますし、私も必要な努力はさらにしなければならない、こう思っております。
● フリーランスの江川です、よろしくお願いします。先ほど首相のお言葉の中に、不十分な点も随分あったというふうにありましたけれども、例えば原発の対応、それから今回は党内からも随分造反するんじゃないかという声も随分ありましたけれども、党内をまとめるということのこの二点について、どういう点を反省して今後それをどのように改めたいというふうに思っているか、お聞かせください。
不十分な点というのは、ある意味で全体を通してもちろん百点満点であるとは私自身も思っておりませんので、そういう点で不十分な点があったと申し上げたので、何か個々にこれとこれとかですね、そういうふうに申し上げる、そういう性格のものではないと思います。
● はい、フリーの岩上です。原発の事故、対応についてお伺いしたいと思います。1号機から3号機までメルトダウンしていたということが明らかになりましたけれども、これを総理がこの事実を知ったのはいつ頃のことなのでしょうか。また、事故直後にですね、住民の避難を果断に行わなかったのはなぜなのでしょうか。福島県を中心とする地元住民の中には、もしこの事実を早く知り、政府が飯舘村などを含めて果断な避難措置を講じていれば、不必要な被ばくをしないで済んだ住民が多々いたはずです。こうしたことを知っていながら行えなかったとしては、総理の責任は大変重いものではないかと思いますが、その責任についてどのようにお考えであるかお聞かせ願いたいと思います。
この問題は国会でもかなり詳しく質問をいただきまして、その時は資料を、きちんと持ってお答えをしてまいりました。ですから正確な時間とか日付とか、そういうことを今用意をしておりませんが、私が申し上げてまいりましたのは、東電が5月に入ってからだったと思いますが、いわゆる建屋の中に入って、そしてそのコントロールタワー、コントロールの部屋に入って、水位の計器を回復させて、そうすると従来1号機でありますけれども、燃料棒の3分の2程度まで水位があるとされていたものが、ずっと下で、燃料棒はまったく本来の位置にあるとすれば、まったく水位よりも上にあるということが判明して、それを分析した結果、早い段階でメルトダウンをしていたという、そういう結論を出されました。政府としては、その事業者の報告、それを原子力安全・保安院もいわばそれを認めるという形になりましたので、政府としてもその段階で正式にメルトダウンを認めたわけであります。ただ、早い段階から官房長官もこの場の記者会見等で、その可能性については触れていたと認識をしております。また私自身も当然、東電からの報告、あるいは保安院からの報告、あるいは安全委員会からの報告はきちんと聞いておりますけれども、少なくとも報告があったものは聞いておりますが、それ以外の意見もいろいろな方から聞いておりました。そういういろんな意見の中には、メルトダウンの可能性を早い段階から指摘されていた方もあり、私の中にもその可能性について、そうした方からの知識は入っておりました。しかし政府の責任者あるいは本部長という立場でいえば、確認されるデータはその時点では水位がまだ燃料棒の3分の2まであるということをベースに報告されてきているもの以外には、そういう確認できるデータはありませんので、やはり政府のあるいは本部長という立場で言えば、その確認されたものを基本として申し上げてきた。しかしあらゆる可能性については、わかる範囲でいろいろな方から可能性を聞いておりました。その上で、いずれにしても冷却機能が停止をして、15条が発動されたわけでありますから、冷却を何としても続けること、それにはいわゆる通常の冷却システムの復活が極めて困難だということで、直接原子炉に水を注入する、そういう作業を始めて、今日まで継続しているわけであります。その結果、それぞれ若干の差はありますけれども、現在1号機、2号機、3号機の原子炉の温度は、かなり低い水準でほぼ維持をされている、そういう冷却のために注水を続けるという作業については、一時たりともそれを緩める、そういうことを判断したことは私もありませんし、もちろん原子力保安院や原子力安全委員会や東電の皆さんも一致してその必要性を考えておられましたので、そういう態度をとったところであります。なお、計画的避難区域の問題について、これも基本的には、分かった情報の中で必要な避難をお願いする、そういう姿勢で臨んできたところです。 
記者会見 / 平成23年6月27日
本日、新しい大臣、あるいは新しい役割を従来の大臣にお願いを致しました。この目的は震災に対する復旧・復興を進めること、そして原子力発電所の事故の再発を防止する体制を作ること。この二つに目的は尽きております。復興大臣については松本龍さんにお願いをし、そして原子力事故担当大臣には細野豪志さんにお願いを致しました。
松本大臣は震災発生の時から防災大臣として最前線で指揮を執り、被災地に関しては最も良く理解をしている方でありまして、復旧から復興への継続性からも適任だと判断を致しました。また、細野大臣は原子力事故発生の時から総理大臣補佐官として原子力事故を担当し、東電との統合対策本部、現在の連絡室の事務局長を務めました。また、IAEAへの報告書の作成の責任者も務め、原子力行政の問題点を身に染みて感じている、そういう立場にあります。是非細野大臣に原子力事故再発防止の青写真を作る責任者を務めてもらいたいと、こういう趣旨で任命を致しました。
次に6月2日の民主党の代議士会において、私が震災と原子力事故対応に一定のめどが立った段階で、若い人に責任を引き継ぎたい、それまで責任を果たしたいと申し上げたところです。私としては第2次補正予算の成立、そして再生可能エネルギー促進法の成立、そして公債特例法の成立。これが一つのめどになると、このように考えております。
第2次補正予算では第1次補正予算に盛り込めなかった予算の中で、急ぐべきものを中心に盛り込んで参りたいと思います。例えば先日釜石に出掛けましたが、漁に出たいんだけれども氷の手当が付かない。製氷機や冷蔵庫といったものが流されて存在しない。こういうお話もありました。2次補正の中で、二重ローンにならないでこういったものが手当てできるようにということで、盛り込むことを指示を致しました。また、瓦礫の処理の中で、木質の瓦礫がかなり多く含まれております。これらを、例えば木質系の発電所などを作って、処理をしていく。そして将来はこの地域の林業を活性化させて、その間伐材などを使ってこのバイオマス発電を継続していく。こういった問題についても計画を立てる上での調査費を盛り込むように、指示を致しました。また子どもを守るという観点から、線量計を手当をする、あるいは通学路など除染を徹底してやっていく。こういったものにも2次補正できちんと手当をしていきたい。こうした形で2次補正をしっかりと立案し、成立をさせて参りたい。このように考えております。
また、原子力事故の再発防止にも、できる範囲でしっかりと取り組んで参りたいと思います。3月11日の事故発生から1週間、私は本当に心配で眠れない夜を過ごしました。率直に言って、今回のようなシビアな原子力事故に対する我が国の備えは極めて脆弱でありました。IAEAに提出した報告書でも、できるだけ率直に問題点を明らかにしてきたところであります。原子力事故の再発防止体制について、できるだけ早い段階で、せめて概略の青写真を示すようにしたい。この中心に細野原子力事故担当大臣に仕事を担っていただきたいと、このように考えております。私からは以上です。
【質疑応答】
● NHKの山口です。総理は先ほど退陣の3条件を示されましたけれども、そうすると逆に言うと再生エネルギーですとか、公債特例法案が成立しなければ9月1日以降も総理を続投するという理解でよろしいでしょうか。
先ほど申し上げましたように、6月2日の代議士会で私は震災や原子力事故に対する一定のめどがついた段階で、若い世代に責任を引き継ぎたい、それまではしっかり責任を果たしていきたいと申し上げました。その一定のめどということについて、先ほど申し上げましたように、一つは2次補正の成立、一つは公債特例法の成立、一つは再生可能な自然エネルギー促進法案の成立、この三つをもってこの一定のめどと、そのように考えるということを申し上げさせていただきました。まさにそのように考えているということです。
● 西日本新聞の相本です。総理は今3つ挙げられましたその内の一つ、エネルギー政策の見直しについて、強い意欲を示されておりますが、もし延命という批判が当たらないということであれば、総理の覚悟をお聞きしたいと思うんですが、今国会に提出されている法案の成立に野党の協力が得られず成立が出来ない場合は、そのエネルギー政策について国民に信を問うというふうなお考えはおありなんでしょうか。
今回の東電、福島原発の事故を経験して、我が国のエネルギー政策をどのようにしていくべきか、これから本格的な議論を始めなければならないと思っております。私はすでに、従来のエネルギーの基本計画は現実に合わなくなっているということで、白紙からの見直しということを申し上げ、そして従来の化石燃料、原子力燃料に大きく依存してきたエネルギー政策を、再生可能エネルギーと省エネルギーという2つの柱を加えて、そちらの方向に進むべきだということを言って参りました。そういう方向性と、すでに法案を提出している自然エネルギーの促進法は、全く軌を一にするものでありますから、何としても私の内閣の責任で成立をさせたい、そのように考えております。
● 毎日新聞の田中です。総務政務官に浜田さんを起用された人事について伺います。浜田さん、自民党からの起用、離党なさいましたけれども、自民党からの起用ということで、野党、自民党を中心に野党がすでに猛烈な反発をしております。総理が先ほど示された三つの法案を成立させるにあたり、野党との協力関係が不可欠だと思うんですが、その条件を壊すような形になったことについて、民主党内でも冷ややかな空気が流れてる状況になっております。総理として浜田さんをどういうつもりで起用なさったのか、現在野党が反発しているこの状況をどういうふうに打開していこうと考えていらっしゃるか、それをお聞かせください。
私は浜田議員が今のこの大震災を経験する中で、是非とも復旧・復興に自らの力を、是非そういう場面で自分の力を発揮して、そういった復旧や復興に貢献したいという、そういう思いを強く持っておられて、そういう中でそういった役割を担うということの思いの中で判断をされ、そのことが私のところにも伝わってきましたので、そういう趣旨であれば是非一緒に復旧・復興に携わっていただきたいということで、そういった位置付けをさせていただいたところであります。
● 読売新聞の五十嵐です。細野大臣の起用について伺います。総理は先ほど原発事故の再発防止に向けた概略の青写真を示すようにしたいということですけれども、これも一定のめど、また総理の退陣の時期の新たな条件として加わるのでしょうか。また原発事故の再発、また原子力行政の見直しという大変なお仕事だと思うんですけれども、総理、常々おっしゃっているように、閣僚一人ではなかなか動かせないことが多いと思います。副大臣、政務官はじめ、細野大臣のサポート体制というものはお考えになっていらっしゃるのでしょうか。
3月11日の原子力事故の発生から、最もこの問題に取り組んできた中心の一人が細野さんだと、私自身もそういう立場で仕事をしていただいたので良く知っております。そして震災から3カ月余りが経過を致しましたが、いよいよこれからこういった事故の発生を防ぎ、万々が一にもこうした事故があった時に、的確な体制、あるいは対応ができるような体制が今のままでいいのかという、そういう議論が始まる時期にあります。そういった意味で、私はこの時点で原子力事故担当大臣をきちんと位置付けて、概略の青写真といったものを示すことが必要だと、このように考えました。そのことと私が申し上げた一定のめどということにわざわざ関連させるという、そういった意図を持って申し上げたわけではありません。
この原子力事故の問題は、本当に全ての日本人、あるいは全ての世界の人が心配をされておりますので、それに対する適切な対応、方向性を示すこと、もちろんこれはIAEAの中での議論とか、あるいは事故調査検証委員会での調査とか、いろいろな場がありますけれども、内閣の中でしっかりとその問題を受け止める、そういう体制を作らなければならないということで担当大臣を置いたわけであります。それに対する、さらに補佐をする副大臣、政務官といったものについても、大変閣僚や政務三役の人数が制約されている中でありますけれども、出来る限りそうした仕事が迅速に進むような体制になるよう、私もさらなる努力をしたいと、こう考えております。
● ロイター通信の竹中です。日中関係のことで一つお伺いします。この週末にアメリカと中国がハワイで高官同士、会談をやりまして、南シナ海における中国と周辺諸国の緊張などについて話し合いが行われております。また、先週日本では、宮城沖の排他的経済水域の中での中国調査船の調査がありまして、日本から中国への抗議が行われました。沖縄においてもやはり、中国海軍の活動、沖縄の周辺においても活動は活発になっているということです。こういった一連の動きについて、総理はどういったふうな受け止めをしていらっしゃいますでしょうか。そして長い交流があると同時に、経済、軍事大国でもある中国とこれからどういうふうに付き合っていくべきとお考えであるか。その辺り、お聞かせ願えますでしょうか。
中国が、海洋へのいろいろな活動を強めているということは、十分に認識しております。そのことがどういう形で我が国なり、近隣諸国に影響していくのか。やはり大きな国は大きな国としての責任というものがありますので、そうした責任ある行動をとってもらいたい、そのように考えております。
● フリーランスの島田と申します。よろしくお願いします。3・11の後に、日本の国民性、社会性というものにいろいろな変化が起こったと、いろいろな言論が増えております。菅総理の中で3・11後、哲学が変わったこと、またそれをどう国民に、菅総理の哲学を伝え、それを指導していこうと思っていらっしゃるのか。その辺のご自身のご意志をお伺いしたいと思います。
私はこの3・11、地震、津波、そして原発事故、これを体験した多くの国民、あるいは全ての国民は、このことを自分の中でいろいろな形で考え、そして自分の行動の中にその経験をある意味で活かそうとしておられるんだと思っております。やはり何といっても、こういった大変な災害が生じたときに、家族やあるいは近隣の皆さんとの関係、あるいは会社や自治体や企業や、色々な人間と人間のつながりこそが、やはり最も頼りになる、あるいは自分たちが生きていく上で重要だということを、それぞれの立場で痛感をされていると、そのように感じております。そういったことをこれからの日本の再生に向けて、是非色々な形で活かしていきたいと考えております。
先日も「新しい公共」、鳩山前首相のときから取り組んできたこの中で、NPO等に対する寄付金の控除を大幅に拡大する法案が成立を致しました。こうしたことも、今回の大きな事故、失礼、大きな災害というものから立ち上がっていく上で、国の力あるいは税金による支援と言いましょうか、そういうものももちろん重要でありますけれども、やはり一人ひとりの人たちがその気持ちを持ち寄ってお互いを支え合う、そういうことがもっともっと拡大するように、そういった税制度についても一歩前進が出来たと、このように思っております。
あまり思い出話をしても恐縮ですが、私が1年生議員の頃にアメリカに出掛けて、コモンコーズとかコンシューマーズ・ユニオンとか多くの市民団体を訪れました。ほとんどの団体は100人、200人という、給料はそう高くないけれども、給料を払って雇っているスタッフがおりました。そのお金は、ほぼ全て寄付によるものでありました。私は日本に帰って来て、そういう寄付文化について、日本でももっと広げられないのか。市川房枝先生の選挙などはカンパとボランティアと言われておりましたけれども、しかし規模において、アメリカのそうしたNPO、市民団体の財政の大きさとは、もう桁違いに違っておりました。それから既に30年が経過致しましたけれども、今回のこの大震災の中で、そうした助け合いというものが、例えば今申し上げたような寄付という形で、そうした具体的な形が広がるとすれば、私は大きな進歩ではないかと、このように考えております。
● 日本テレビの青山です。先ほどの浜田参議院議員の件なんですけれども、そういう強い思いを持っていたから加えたというのでは、あまりにも、菅総理が今後、野党側の協力をどのように得ていくのか、法案を成立させていくのかという、その戦略というか考え方が分からないんですけれども、こういった参議院議員を一人ひとり切り崩して、ねじれ国会を解消していくという方向に道筋を付けようとしていらっしゃるのか、それともやはり野党側との法案協力の姿勢を導き出したいと思っていらっしゃるのか。それとも先ほど言った3つの条件の法案を通すために、私を辞めさせたいなら、その法案を通せというような、この前総理がおっしゃったような方法で迫っていくということを考えているのか、今この段階で総理はどのようにこの法案成立の道筋を付けていこうとお考えなんでしょうか。
先ほどお答えしたのは、浜田議員が自らこの大震災に当たって、国際的にもいろいろなつながりがあると、そういうものを活かしていきたいという、そういうお話の中で行動されたということについて申し上げたところです。この大震災に当たっては、従来から党派と言いましょうか、そういうものを超えて協力をしていただきたい、あるいは協力をして欲しいということを、いろいろな機会に申し上げて参りました。例えば今回の基本法などでは、改めて自民、公明、民主で法案を出し直す形で協力の上での法案が成立したことは大変良かったと思っております。
また例えば、大臣や副大臣、政務官の数が大変制約をされておりまして、今回のこの復興本部の立ち上げにおいても、非常に、日常的な各省庁の仕事と、この震災復興のための、例えば現地に派遣する本部長の仕事と、もう少し政務三役に委任を、参加をさせてもらいたいと、こう思っているわけですけれども、まだこういった分野ではなかなか合意が得られておりません。いずれにしても、政党間の問題ではなくて、国民の皆さんにとって、あるいは被災地の皆さんにとって何が最も必要なのかと、こういう観点にお互い立つことが出来れば、私は多くの課題について前進が出来ると、このように考えております。
● 朝日新聞の坂尻です。原発の再稼働問題についてお尋ねします。先日、経済産業大臣は、定期検査などで停止している原発、既存の原発について安全性が確認出来れば再稼働を容認するという方針を示されました。総理も安全が確認されれば原発の再稼働を容認するということで良いのかどうかということをお聞きしたいのと、この問題を巡っては、その経産省側が、この週末から各地に赴いて現地の県側の説得、説明というのを行っております。先ほど総理もおっしゃったように、これからこの延長国会でも内閣の重要課題としてこの原発問題を取り上げるということですが、そうであれば、経産大臣ではなくて、総理が自ら現地に赴いて説明されるということがあっても良いように思うんですが、その辺りはどのようにお考えですか。
まず、今回の事故を受けて、原子力発電所の安全性ということが極めて重要だということは、これは全ての国民の共通した、私は理解だろうと、このように思っております。そういった意味では、定期点検中のものについてもしっかりと安全性を確認をすると、このことは当然行わなければなりません。その中で、私は、多少中長期的に見れば、ある時期、石油や天然ガスや石炭といった化石燃料をもう少し使うことが、少なくともある時期必要になるのではないかと、こういうふうに見ております。と言いますのは、再生可能な自然エネルギーは、現在は電力で言えば、水力を除けば全体の発電量の1%程度に留まっておりますので、すぐにそういったものが、化石燃料や原子力、従来の原子力エネルギーを代わって供給、それだけの量を供給するということは難しいわけでありますから、そういうどうしてもの時は、自家発電所なども総動員して、必要な電力量は賄っていくことが必要だろうと。現在、どの程度の自家発電所が存在し、どの程度のいわゆる化石燃料による火力発電所が稼働が可能かを、今調査をさせております。そういったことも併せて、先ほど申し上げました原子力発電所については安全性をきちんと確認した中で、それぞれ地域の皆さんも心配されているわけですから、しっかりと説明をして、安全が確認されたものについては稼働をさせていくということになると、こう考えております。
● 定期検査中の原発の再稼働のことについて、今総理からお話がありましたけれども、安全性が確認されたものから稼働させていく、再稼働させていくということでありますと、従来通り原発は維持ということで、総理のお考えはよろしいのでしょうか。再生可能エネルギー促進法案の成立に意欲を見せる菅総理のお考えとしては、原発の縮小、廃炉という方向性に舵を切るというお考えはないのでしょうか。原発の維持なのか、それとも廃炉に向かうのか、大まかな方向性、菅総理のお考えを示していただきたいと思います。よろしくお願いします。
この安全性というものの考え方そのものが今問われているんだと思っています。従来も一定の基準があって、それの基準では安全だということで動いていたわけですが、それが結果において大きな事故に至ってしまったわけでありますから、安全性そのものが今問われているわけです。ですからそういった安全性をどのように確保するかというのは、従来の基準なり従来の考え方のままで良いということにならないというのは、これは当然だと思っております。そういうところから入らないと、今のご質問のように、何かこう、先に、全ての結論を持って対応するというのは、今の私の立場からすればそうではなくて、安全性というものを徹底的に検証をしていくと。そこからスタートをすることが必要だろうと。と同時に、何度も申し上げておりますが、従来化石燃料と原子力燃料に、エネルギーに大きく依存してきた我が国のエネルギー政策を、方向としてはそれら、長期的には、それらの依存度を下げて、自然エネルギーや省エネルギーにもっとそれらに頼るような、そういう方向性は、私はとっていくことが必要だと、こう考えております。 
記者会見 / 平成23年7月13日
一昨日で、3月11日の大震災からちょうど4カ月目になりました。この間、大震災に対する復旧復興の歩み、被災者の皆さんにとっては、遅々として進まないという部分もあろうかと思いますけれども、内閣、自治体それぞれの立場で全力を挙げてまいっております。そうした中で仮設住宅の建設、あるいは瓦礫の処理など復旧の分野も着実に進むべきところは進んでまいっていると、そのように認識を致しております。そうした中で復興基本法が成立をし、6月28日に復興本部が立ち上がりました。
それに先立ちまして、6月25日には、復興構想会議の方から本格的な復興に向けての青写真となる提言をいただきました。いよいよこの提言を尊重して、基本方針に今月中にはまとめ、そして具体的な復興のための予算や、さらには必要な法制度の改正。こういったことに取り組んでまいることになります。また、1次補正で盛り込みきれなかった復旧に関する予算については今月15日には第2次補正予算として、国会に提出する予定になっております。こうした中、原子力事故に対しての収束に向けた動きも進んでおります。今月の19日にはステップ1を終了する予定となっております。ステップ1の終了について、この間の経緯をいろいろ聞いておりますけれども、ほぼ予定通りの日程で進んできている。このように聞いているところであります。
例えば循環注水冷却といったものも、いろいろと小さなトラブルはありますけれども、大筋動きだしておりまして、そういったことから原子炉に対する安定的な、そして汚染水を出さない冷却が可能になるなど、そうしたステップ1のプロセスが進んでまいっております。これが進んだ後には、ステップ2、3カ月から6カ月となっておりますけれども、できるだけ前倒しをすることによって、その地域の皆さんに、元々の生活をされてきた所に、どの段階で、どの範囲の方が帰っていただけるかと、こういったことについても次第に具体化をすることができると、このように考えております。
また、この原子力事故による損害賠償についても、支援機構の法案が国会に出されて、審議がスタートいたしております。さらには、この原子力事故を踏まえて、一層必要となる再生可能エネルギーを促進するための法案も、予定通りいけば明日から、国会での審議をしていただけると聞いております。こうした形で、原子力事故、さらには将来のエネルギーの新たな確保に向けての歩みも次第に進んでいるところであります。
そういった中で、原発、あるいはエネルギー政策について、私自身の考え方を少し明確に申し上げたいと思います。私自身、3月11日のこの原子力事故が起きて、それを経験するまでは原発については安全性を確認しながら活用していくと、こういう立場で政策を考え、また発言をしてまいりました。しかし、3月11日のこの大きな原子力事故を私自身体験をする中で、そのリスクの大きさ、例えば10キロ圏、20キロ圏から住んでおられる方に避難をしていただければならない。場合によっては、もっと広い範囲からの避難も最悪の場合は必要になったかもしれない。さらにはこの事故収束に当たっても、一定のところまではステップ1、ステップ2で進むことができると思いますが、最終的な廃炉といった形までたどり着くには5年10年、あるいはさらに長い期間を要するわけでありまして、そういったこの原子力事故のリスクの大きさということを考えたときに、これまで考えていた安全確保という考え方だけではもはや律することができない。そうした技術であるということを痛感をいたしました。
そういった中で、私としてはこれからの日本の原子力政策として、原発に依存しない社会を目指すべきと考えるに至りました。つまり計画的、段階的に原発依存度を下げ、将来は原発がなくてもきちんとやっていける社会を実現していく。これがこれから我が国が目指すべき方向だと、このように考えるに至りました。
しかしその一方で、国民の生活や産業にとって必要な電力を供給するということは、政府としての責務でもあります。国民の皆さん、そして企業に関わっておられる皆さんの理解と協力があれば、例えばこの夏においてもピーク時の節電、あるいは自家発電の活用などによって十分対応できると考えております。この点については、関係閣僚に具体的な電力供給の在り方について計画案をまとめるように既に指示を致しております。
これまで私が例えば浜岡原発の停止要請を行ったこと、あるいはストレステストの導入について指示をしたこと、こういったことは国民の皆さんの安全と安心という立場。そしてただ今申し上げた原子力についての基本的な考え方に沿って、一貫した考え方に基づいて行ってきたものであります。特に安全性をチェックする立場の保安院が現在原子力を推進する立場の経産省の中にあるという問題は、既に提出をしたIAEAに対する報告書の中でもこの分離が必要だということを述べており、経産大臣も含めて共通の認識になっているところであります。
そうした中で、私からのいろいろな指示が遅れるなどのことによって、ご迷惑をかけた点については申し訳ない、このように関係者の皆さんに改めてお詫びを申し上げたいと思っております。
以上、私のこの原発及び原子力に関する基本的な考え方を申し上げましたが、これからもこの基本的な考え方に沿って、現在の原子力行政の在り方の抜本改革、さらにはエネルギーの新たな再生可能エネルギーや省エネルギーに対してのより積極的な確保に向けての努力。こういったことについて、この一貫した考え方に基づいて是非推し進めてまいりたい。このことを申し上げておきたいと思います。
【質疑応答】
● 毎日新聞社の平田です。最初に内閣記者会の幹事社から質問をさせていただきます。その前にひと言要望があるんですが、先週松本大臣の辞任の際に、記者会見を申し入れましたが応じていただけませんでした。総理がご多忙なのは重々承知しておりますが、様々な総理ご自身の言葉でご説明していただきたいこともたくさんあります。総理の都合のいい時だけ記者会見するという現状の改善は是非お願いしたいと思っております。それでは質問させていただきます。今回、玄海原発の再稼働を巡って、政府内の混乱が表面化しました。総理は在任中は原発の再稼働は認めないおつもりなのでしょうか。今年の冬や来年の夏の電力供給まで考えたとき、その見通しを具体的にどう考えてらっしゃるのでしょうか。また今回の対応について、先ほどお詫びの言葉をおっしゃられましたが、総理ご自身のリーダーシップの在り方についてどのように評価されているのでしょうか。ご説明お願いします。
ただいま申し上げましたように、私の基本的な考え方は、今回の事故を踏まえて、従来の法律でいえば、例えば再稼働については、経産省に属する原子力安全・保安院が一定のこうすべきだということをいって、そしてそれを自ら審査をして、そして自ら判断をして、最終的には経産大臣の判断で行えるという形になっております。しかし今回のこの事故が防げなかった理由は、数多くありますけれども行政的にいえばこの原子力安全・保安院が、ある意味原子力政策を推し進める立場の経産省の中にあるということが、一つの大きなチェックが不十分な原因ではないかと、これは当初から強く各方面から指摘をされておりました。そういった基本的な問題意識を持っておりましたので、そのことについてはIAEAの報告書の中でも述べて、そしてそうした保安院を近い将来、少なくとも経産省からは切り離す、このことでは海江田大臣とも全く同じ認識を持っているところであります。今回の問題について、私が多少指示が遅れた点はありますけれども、一番問題としたのは、そうした保安院だけで物事を進めていくことが、国民の皆さんにとって本当に理解を得られ、安心が得られるのか、この1点であります。そうした中で改めて私の方から関係大臣に指示をして、そうした国民の皆さまの立場に立っても理解なり納得が得られる、新しいルール、新しい関係者がどういう関係者かということも含めて、そういう新しいルールと判断の場を持ってどのようにすればいいかということを考えて欲しい、こういう指示を出しまして、先日官房長官からも皆さんにご報告をさせていただきましたけれども、統一的な見解を出すことになったわけであります。そういった意味でいろいろとご指摘をいただいておりますけれども、私が申し上げているのは、まさに経産省の中にある原子力安全・保安院だけの判断で、こうした形をとることについて適切でないという、その認識から行ったもので、それ以外の理由は全くありません。見通しについて今ご質問をいただきました。見通しについては先ほども申し上げましたけれども、この夏、そしてこの冬、そして来年の夏、それぞれ現在、経産省、あるいは戦略室の方に私の方から、エネルギー需給の見通しなどについて、きちっとした資料、説明をするように、かなり以前から指示をし、一、二度説明を受けているところであります。まだ最終的な形にはなっておりませんが、ピーク時の節電の協力など、そういう形を得られることをお願いをしなければなりませんが、そうすれば十分にこの夏、さらにはこの冬についての必要な電力供給は可能であるというのが、今、私の耳に入っている他の大臣等からの中間的な報告であります。そう遠くない時期にきちっとした計画をお示しをしたい、このように思っております。来年以降については若干時間がありますので、例えば天然ガスなどを活用した、そういう発電所といったものについてどのようにしていくのか、そういったことも含めて計画を立ててまいりたい、このように考えております。
● TBSテレビの今市です。このところ各社の世論調査で、内閣支持率が2割を切っているという状況、結果が出ています。そして、そのいわゆるストレステストを巡る対応でもですね、与野党だけでなく閣内からも批判的な言葉が相次いでいて、総理の早期退陣を求める声が強まっております。総理ご自身の国会答弁でも、退陣、辞任という言葉を自分自身について使ったことはないというふうにおっしゃられたんですが、こうした状況の中で2割を切った支持率をどう受け止めていらしてですね、総理ご自身が、では退陣、辞任という言葉を使ってその意思を示すのはいつごろになるとお考えでいらっしゃるのか、それについてお伺いしたいと思います。
世論調査を含めて国民の皆さまの意見というのは真摯に受け止めなければならない、私自身にいつもそのように思っております。そして今、原子力政策について、あるいは復旧、復興について、内閣として取り組まなければならないこと、取り組んでいることを申し上げましたが、そうしたことに全力を挙げていくということであります。既に6月2日の代議士会で申し上げ、また記者会見でも申し上げた私の進退に対する発言については、そうした発言の中で真意を申し上げていると思いますので、それをご参考にしていただきたいと思います。
● NHK山口です。総理は将来的には、原発ゼロの社会を目指すとおっしゃられましたけれども、それを争点に衆議院の解散・総選挙はお考えにならないんでしょうか。
原発ゼロという表現は、今日の某新聞の大きな見出しになっておりましたが、今私が申し上げた趣旨は、かなり共通してるかもしれませんけれども、私の表現で申し上げたのは、原発に依存しない社会を目指す、計画的、段階的に原発依存度を下げ、将来は原発がない社会を実現する、そのように申し上げました。そしてエネルギー政策というのは、ある意味では社会の在り方そのものを決める極めて大きな政策でありますので、私は国民が最終的には、どういうエネルギーを、そしてどういう社会の在り方を選ぶか、これは当然国民が選択すべき大きな政策課題、政治課題だろうと、このように考えております。ただ私がですね、この問題で、解散をするとかしない、そういうことは一切考えておりません。
● ブルームバーグの坂巻と申します。熱中症の対応について伺います。今年は福島第1原発の事故と節電の影響で熱中症の患者が急増しております。6月に救急搬送された人は昨年の3倍。それに対して、厚生省はパンフレットなどを作っているようですが、更に踏み込んで具体的な国民へのアドバイス、あるいは対策を取るお考えはあるでしょうか。
今年は割と早い段階から梅雨が明け、高い温度の地域が増えておりまして、高齢者の方などに熱中症によって体調を壊されたり、あるいは亡くなられる方が多いということは、本当に申し訳ないといいましょうか、注意をいただかなければならない問題だと思っております。また節電の取り組みを進める場合にも、熱中症になるようなことがないような、無理のない範囲での協力というものをお願いしたいと思います。そういった意味で、この問題についてはこの問題として、それぞれ厚生省であったり、あるいは他の機関かも知れませんが、十分に注意をする。あるいはどういう生活をすれば、あるいはどういう行動をすれば、熱中症に罹らないで済むかということについてのアドバイスをしっかりする。そのことには私からも関係閣僚にも検討及び指示をしてまいりたいと、こう思っております。
● ビデオニュースの神保です。総理は先ほど原子力安全・保安院が原発推進省庁の経産省の中にあるということで、そのままで評価をするというのは問題であるというお話をされました。それはもちろんごもっともだと思うんですが、もう一つ疑問なのは、その経産省が原発を推進する立場ということが、今総理がおっしゃった菅政権の立場と明らかに違っている点です。内閣総理大臣の権限や地位をもってしても、経産大臣を通じて本来は経産省を指揮・監督する立場にあると思いますが、その役所が、総理大臣の方針と違う方針を持っている省である、だからその傘下にある保安院の評価では不十分だというのは、その前提の部分でちょっと分からないところがある。なぜ経産省のその方針というのを、内閣総理大臣の権限をもってしても変えることができないのか、それを教えてください。
例えばエネルギー基本計画というものがあります。この計画は経産省の中にあるエネルギー庁が一定の法律に基づいて作成を致しております。私はこの事故が起きたときに、このエネルギー基本計画、2030年には原子力による発電の比率を確か53%に高めるという内容でありましたが、それを白紙撤回をすると、そして白紙撤回の中で検討をすると。場合によったらこの検討は、従来通り経産省、エネルギー庁がやるべきなのか、例えば戦略室が行うべきなのか、現在戦略室でもこのエネルギーの在り方についての議論を行っておりますので、そうした従来の仕組みをそのまま全て受け入れていくということにはならないと思っております。そういうことを前提として、今のご指摘でありますが、経産省の姿勢について私もいろいろな指示をしたり、あるいはいろいろな資料の説明を求めたりいたしているところでありますが、やはり行政というのは政策的なレベル、例えば予算案の決定とか、そういう形で動かせる比較的速い、何といいましょうかスピードを持って動かせる部分と、基本的な大きな政策を変えていくには、それなりの議論とあるいは理解が必要であり、そういう点では、今ご指摘がありましたように、全て私が考えたことが即座にそれぞれの役所の方針になるという仕組みにはなっておりません。やはり一定の議論が内閣として、場合によっては与党として、場合によっては国会として、議論が必要になる。これから野党の皆さんも原子力政策について従来とはかなり、何といいましょうか、違う方向性を打ち出されておりますので、そういう中では従来の経産省の1つの考え方も、少なくともそうした議論の中で変更されることは十分にあり得ると、こう考えております。
● 共同通信の松浦です。先ほど脱原発、大変大きな目標を出されたと思うんですが、これは何年までにどのぐらい減らしていくのかという目標をまず明示すべきではないかということが1つと、もう1つ、その大きな目標に取り組むのは9月以降、菅総理なのか、それとも違う総理大臣なのか、ここをはっきりさせていただきたいんですが、その2点お願いします。
私も割と先に先にものを考える方ではありますけれども、こういう大きな政策を進める上では、まずは基本的なところからきちっと積み上げていく必要があると思っております。先ほども申し上げましたけれども、まず現在の状況そのものが既に3月11日の事故を踏まえて、ご承知のように多くの原子力発電所は停止状態にあります。しかしそのことが、国民の生活やあるいは日本経済に大きな悪影響を及ぼさないために何をやるべきなのか、またそれのためにはどういう政策が必要なのか、そこをまずしっかりと、まずは計画を立ててまいりたい。このように考えております。そして、原子力政策についていえば、現在存在している炉の中でも、かなり長い間運転を続けている、簡単にいえば古い炉もありますし、比較的新しい炉もあります。そういったことも含めて、どういう形で安全性を確保しながら、ある時期まではどの炉は安全性を確保して動かすけれども、しかしある時期が来れば古い炉は廃炉にしていくといった、そういった計画については、今後しっかりと中長期の展望を持って議論をし、計画を固めてまいりたい。今私が具体的なところまで申し上げるのはあまりにも少し早過ぎるのではないかと思っております。ですから何月というようなこともいわれましたけれども、このエネルギー政策の転換というのは、やはりかなりの議論を必要といたしますので、今まさに国会においてもその議論が活発に行われているところでありますので、そういう議論も踏まえながら、私が責任を持っている間は私の段階でもちろんその議論、あるいは計画を、立案を進めますけれども、私の段階だけでそれが全てできると思っているわけではありません。
● 日本経済新聞の犬童です。先ほど原子力の依存を将来なくすということで、中長期の大きな政策の転換ということですけれども、やはりその退陣表明をされてもう1カ月過ぎましたが、退陣表明をされた後にこういった大きな政策転換を進めるというのはやっぱり無理があると思うんですね。やはり新しい方に譲って、その中でその政策転換を進めていくか、あるいはその退陣を撤回されて腰を据えて取り組むか、そうしないとなかなか前に進んでいかないという気もしますが、総理はどのように考えていらっしゃるかということと、もう1つ、細かな点でいうと原発を先ほど再稼働させる気があるのかという質問に直接お答えになっていないんですけれども、安全性が確認されれば再稼働させる気はあるんでしょうか。例えば今、調整運転している大飯、泊とか2つの原発がありますが、これについては営業運転という形に進めていくということなんでしょうか。お答えください。
まず3月11日というこの大震災、そしてこの原子力事故としても日本にとって未曾有であり、本当に大きな事故を全国民が体験したのであります。そういう中に私がちょうど総理大臣という立場にいたわけでありますから、その立場でこの大きな事故を経験し、そしてそれを踏まえて、原子力政策の見直しを提起するのは、私は逆にその時代の総理としての責務ではないかと、このように思っております。また再開の問題について、先ほどのご質問と同じようなご質問をいただきましたが、私は何かこの全て、この炉はこうだからいいとか悪いとかという、そういう技術的、専門的なことを、もちろん全部判断できるわけではありませんし、する立場でもありません。私が申し上げているのは、何度も申し上げましたけれども、例えば裁判所という手続きは、裁判官が国民から信用されているからその判決に従うべきということになるわけでありまして、そういう意味で現在の状況は、法律では保安院が単独でいろいろと基準を出して判断をしてもいいけれども、しかしそれは今のこの大きな事故があった中で、それが国民的に理解されるとは私は思えないわけです。ですからそういう国民の皆さんから見ても、このしっかりした形であればきちっとした判断ができるという、そういう形を作ってもらうために1つの統一見解を出していただきましたので、そういった統一見解に基づいて、きちっとした形での項目に沿った判断がなされて、そしてその判断が妥当なものだと、最終的には先日の4人、私を含む4人の大臣で、政治的にはその4人で最後は判断しようということで合意をしておりますけれども、そういう専門的な立場の皆さんのきちんとした提起があれば、そしてそれが大丈夫ということであれば、4人の中で合意をして稼働を認める、そのことは十分に有り得ることです。 
記者会見 / 平成23年7月29日
今日は国民の皆さんに二つのことが報告できることを大変うれしく思っております。その一つは、先ほどの復興本部において、復興基本方針を決定することができたということであります。そして二つ目は、関係閣僚が議論を重ねて、エネルギー・環境会議の場でエネルギー政策に関する重要な決定を、これも本日行うことができたことであります。これら2つのことは3月11日の大震災と原発事故発生を踏まえた、復興と原発・エネルギー政策の政府としての統一的な方針を示すものであります。そういった意味で、この2つの重要な決定ができたことは、大変重要でもあると同時に喜ばしいことだと考えております。
まず、復旧・復興について申し上げます。今週25日には、約2兆円の第2次補正予算が成立をし、復旧に向け1次補正では足りないものを盛り込みました。そして、先ほど開催された復興対策本部において、復興基本方針を決定いたしました。復旧の次のステージである、本格復興に向けて政策の全体像を示すものであります。新たな発想の具体的な政策も数多く盛り込まれております。また、5年間の集中復興期間に少なくとも19兆円の財政措置を講じることとなっております。復興債を発行し、償還財源も責任を持って確保いたします。この復興基本方針をベースに第3次補正の編成など、復興への取り組みを本格化してまいります。
次に原発・エネルギー政策について政府としての基本方針を申し上げます。原発の再稼働については、先週の7月21日、総合的な安全評価の仕組み、いわゆるストレステストの具体策を確定し、公表を致しました。これは、保安院だけでなく原子力安全委員会も関与する形で新しいルールを示すものであります。今後自治体、更には事業者等にこの新しいルールの周知を図るとともに、国民の皆様にも、このルールについてきっちりと情報公開をして知らせてまいりたいと、このように考えているところであります。そして、本日関係閣僚によるエネルギー・環境会議で、原子力を含めたエネルギー政策に関する重要な決定が行われました。具体的には、一つは当面のエネルギー需給安定策を取りまとめたものであります。そしてもう一つは、中長期的な革新的エネルギー・環境戦略として、原発への依存度を低減をさせて、そして、それに向けての工程表の策定や原発政策の徹底的検証などを行うことを決定をいたしました。
これらの議論は3月11日、原発事故発生以来、様々な機会に私が申し上げてきたことでありますが、例えば、エネルギー基本計画の見直しといった考え方、こういったことまで含めて、今回、玄葉国家戦略大臣を中心に海江田経産大臣あるいは江田環境大臣ら関係閣僚で検討をしてきたものであります。そして今日の決定をベースとして更に議論を重ねていくことになります。国民的な議論も大いに期待をいたしております。議論に必要なあらゆる情報を積極的に開示してまいります。今後、原発に依存しない社会を目指し、計画的段階的に原発への依存度を下げていく、このことを政府としても進めてまいります。
原発事故関係では既に7月19日に発表したところでありますけれども、原子力事故が収束に向かって大きく前進をしているところであります。具体的には、事故収束に向けてステップ1の目標を達成することができました。今後、ステップ2の着実な実現に向けて、政府として全力を尽くす覚悟であります。
本日夕方、中学生のグループが官邸に来られまして、震災復興にかかわる人達への激励の横断幕を頂きました。その中に、「政府の力を信じています」という言葉があり、胸に響いたところであります。私はこのような中学生あるいは多くの国民が政府に信頼を寄せて頑張るようにというその気持ちを大切にして、この大震災の復旧・復興、さらには原子力事故の収束に向けて、全力を挙げて責任を果たしてまいりたいと、このことを改めて決意したところであります。私からは以上です。
【質疑応答】
● 毎日新聞の田中です。まずエネルギー・環境会議の中間整理について伺います。ここでは原発への依存度を下げるというふうに記されておりますけれども、総理は先日の会見で原発がなくてもしっかりやっていける社会を目指すと仰っておりました。今回の中間整理では原発をゼロにして、脱原発を実現する方向性がはっきりは示されておりませんけれども、総理はご自身のお考えが十分反映されたとお考えでしょうか。それと中間整理では反原発と原発推進の対立を超えた議論を展開するとされています。総理は次の国政選挙ではエネルギー政策が最大の争点になると仰っておられましたが、両院議員総会で。この見解との整理はどういうふうにされてますでしょうか。それと退陣表明をされた総理が長期のエネルギー政策や復興増税といった方針を打ち出すことに野党だけでなく民主党内からも反発が強まっています。こうした批判にはどういうふうにお答えになられますでしょうか。
先ほども申し上げましたが、3月11日の原発事故発生以来私は2030年に53%を原子力発電所で賄うとされてきたエネルギー基本計画を白紙から見直す、こういう方針を立て、内閣の中でも議論を既に始めておりました。また原子力安全・保安院について経済産業省に属することは問題であると、新たな問題も次々と出ておりますけれども、そのことをIAEAに対する政府としての報告でも申し上げ、この独立の方向も議論を致してまいりました。こういった議論の方向性と私がこの間申し上げてきたことは、方向性としては決して矛盾するものではありません。そして今回のエネルギー・環境会議においてはこうした私の指摘、あるいはこれまで政府が既に議論を始めていることなどをトータルでまとめて議論の場に乗せて革新的エネルギー環境戦略、そういう形で議論をスタートをし、そして今回中間的な取りまとめを決定を致したところであります。そういった意味で私は今回のこのエネルギー・環境会議の中間的整理、取りまとめというのは私がこの間申し上げてきたことあるいは政府として既に取り組んでいることの、いわばこの時点における集大成を関係閣僚の下で議論をし、決定をされたと。私にも先日、海江田大臣、細野大臣、玄葉大臣、そして枝野官房長官が来られて、この案を説明をされ、私も了承をしてきたところであります。そういった意味では矛盾というものは全くなくて、私の考え方を踏まえてこういう方向性をまとめていただいたと、このように理解を致しております。いわゆる脱原発か原発推進かという二項対立という形を採ることは生産的でないという指摘については、私も何かこう、レッテル貼りのような言葉でレッテルをお互いに貼って、それ以上議論が進まないという、そういう議論のやり方は決して望ましくないと思っております。そういった点では今回のこのエネルギー・環境会議での問題の進め方というのは私は大変前向きな進め方だと思っております。
また退陣に関連して色々このようなエネルギー政策を議論することについて問題があるという指摘があるということを申されましたが、私は逆に言うと非常に今この議論をしなければならない、その時だと思っております。それは言うまでもありませんけれども一つは日本ではもとより世界でも複数の原発がシビアアクシデントに同時的に襲われるということは私の知る限り初めてでありますし、そういうことを踏まえてその時に議論をしないで、その後になって議論を始めるということは私は逆に不自然ではないかと思います。それに加えてまさに多くの原子力発電所が現在地震などの影響もあって停止をしている中でありますから、そうした電力供給、エネルギー供給について短期的な見通しも含めて議論をする必要があります。そういった意味で今回のこの二つのまとめの一つはそうしたエネルギー供給、エネルギー需要についての議論でありまして、これを行わないということは内閣としての責任を果たさないことになりますから、当然、内閣としての責任としてこうしたことについて短期の問題も中長期の問題もしっかり議論をしていく。このことが必要だと考えております。
● TBSテレビの今市です。総理先ほどおっしゃったように第2次補正予算が成立しました。そして総理のいわゆる退陣の3条件とされている一つは片付いたことになるわけですけれども、残る二つ。再生可能エネルギー法案と特例公債法案については自民党などからはこれらが成立しても総理が退陣する保証がないと、そういうことで早期成立に反対する声も根強くあります。こうした中総理としてはこの3つの条件が今国会で成立すれば8月末までのこの国会の会期中に退陣するということを明確な言葉で、約束するという考えはないのでしょうか。また仮に残る2つの法案が、そのうちの一つでも今の国会で成立しなかった場合、その時にはどういう対応をされるお考えか、そのことについてお伺いしたいと思います。
私の出処進退については6月2日の代議士会、そしてその後の記者会見などで申し上げてきたその言葉については、私自身の言葉でありますので責任を持ちたいとこう考えております。
● 朝日新聞の坂尻です。総理が冒頭で言われた復興基本方針についてお尋ねします。今回の基本方針に対して足元の与党の民主党からは増税を行うことには反対だという声が巻き起こってまして、今回決められた基本方針も臨時増税の規模ですとか増税期間、そういったものは明示されなかったように思えます。総理が肝いりで設置された復興構想会議でも、この復興債の償還財源には臨時増税というものを充てるんだという考え方を明確に打ち出されているんですが、それから比べると姿勢が後退したようにも受け取れます。総理自身は復興債を発行する場合は臨時増税というもので償還する事が必要なんだという考え方に軸足を置いていらっしゃるのか、与党で反対の声が多ければ増税なんてそんなにこだわらないんだというお考えなのか、どちらの考え方なんでしょうか。
まずこの基本方針をよくお読みいただきたいと思いますが、今の問題、かなりしっかりと表現されていると思っております。後ほど平野担当大臣が詳しいことについては会見をされると聞いております。私はこれを素直に読めば、今の御質問は全部この文章の中で読み取れるとこのように思っております。
● フジテレビの松山です。外交問題に関連して質問させていただきます。先週中国で中井前拉致問題担当大臣と北朝鮮の高官が接触して、同行した拉致対策本部の職員も随行を認めています。総理は本当にこの事実について全くその渡航の事実すら知らなかったのかどうか、もう一度確認したいのと、このことについて野党は二元外交だと言って批判していますけれども、一般論として拉致問題の解決のためには総理自身はそうした非公式な北朝鮮との接触は、ある意味必要だという認識でいらっしゃるのかどうか。また総理自身か、次の総理あるいはその先の総理かもしれませんけれども、拉致問題解決のために日本の総理がもう一度北朝鮮に行って直接交渉をするということの意味合い、総理自身どのようにお感じになっていらっしゃいますでしょうか。
本件については、私は全く承知をしておりませんでした。拉致問題の解決について私はあらゆる努力は惜しまない、あるいはあらゆる努力をするべきだと基本的にはそのように考えております。
● ダウ・ジョーンズの関口と申します。為替に関しての質問なんですけれども、4カ月ぶりの円高更新など、国内製造業には厳しいマーケット状況ですけれども、海外シフトを考える企業に対してどのような政府対策をお考えでしょうか。またこの段階で為替介入をするとしたら米国支持を得られるとお考えでしょうか。
最近の為替市場では一方的な動きが見られております。引き続き為替市場の動きをしっかりと注視してまいりたいと思っております。為替相場の水準、あるいは今後の為替介入についてはコメントは控えさせていただきます。
● 日本テレビの佐藤です。先ほども出ましたけれども、通常国会も残り1カ月ですし、考えるに特例公債法案の成立というのが復興にも非常に重要な法案だと思います。これに野党が協力してこれないという理由に、やはり総理が退陣の時期を明確にしていないということがあるということについてどうお考えになっているのか。それとやはり、はっきりと辞めるのか辞めないのか言うべきだと思うんですけれども、いかがお考えでしょうか。
先ほど申し上げましたように、私は、これまで私が自ら発言したことについては、私自身の責任としてしっかりと自覚を致しております。
● ニコニコ動画の七尾です。よろしくお願いします。冒頭、子どもたちに政府の力を信じていますと言われたとのお話がありました。また総理は自分の言葉に責任を持ちたいとも言われました。ただ、繰り返しで申し訳ないのですが、我々国民にとって見れば、総理が続投されるのか、また退陣されるのか明快にされないことで、先ほど冒頭に説明されたような革新的な政策や方針を掲げても、実際のところ国民の心にリアルに響きません。総理はこうした現状について実際どうお考えになっており、そしてどう国民に説明されるのでしょうか。
私はいつも、自分の内閣が今必要なことをしっかりとやれているか、あるいはやれていないかということは、私なりに注意深く見ているつもりであります。もちろんいろいろな意見があることは承知をしております。しかし私はこの間、この大震災に対する対応、そして原発事故に対する対応について、内閣としてやるべき事、もちろん100点とは申し上げませんが、私はやるべき事はしっかりと取り組んでいる。その早い遅いの見方はありますけれども、着実に復旧から復興に物事は進んでおりますし、先ほども申し上げましたように、原発事故の方も、当初は本当にどこまでこの原子炉そのものがコントロール可能になるかどうかという心配をした時期もありましたけれども、ステップ1がほぼ予定通り終了し、ステップ2に向かって今努力が始まっております。そういった意味で、私がやらなければならないことは、内閣が今やるべき仕事ができているかどうか、できていると私は思っておりますので、その事を通して国民の皆さんにご理解がいただけるものと、このように思っております。
● 読売新聞の穴井です。先ほどは、先日の会見と今日決まったエネルギー・環境会議の中間報告に矛盾はないとおっしゃいましたけれども、最終的な姿として原発をなくす、ゼロにするということと、依存度を抑えて活用するということについては決定的な違いがあると思います。その点はどうお考えなのか。それが具体的に、例えば新規の原発を造るのかどうかとか、あるいは海外に対する原発の輸出にどう臨むかということにも関わってくると思うのですが、この辺はどうお考えでしょうか。
この中間的な整理というものをよくお読みをいただくと、いろいろな可能性について、現在ここまでは、ほぼ、なんといいましょうか、方針として打ち出せるというものと、それからこれから先はさらなる議論が必要なものという形になっております。短期、中期、長期に分けて工程表が、6つの基本的な理念についても出されております。そういう中での議論をしていくということと、私が申し上げてきたことには矛盾はないと、こう思っております。
● NHK山口です。総理が総理にそのままいて、民主党の代表選挙を前倒しで実施するお考えはないのでしょうか。もう馬淵さんも手を挙げてますし、スムーズに移行するために前倒しにやるという考えはないのでしょうか。
同じことのお答えで恐縮ですが、私の出処進退については従来申し上げた、私自身が申し上げたことについては、私の責任としてそのことは大事にしていきたい。それに伴って、どういう形がどうなるかというのは、これは私が全て決めるということではないのではないかと思います。
● そしたら岡田さんが前倒しがいいって言ったら、それもOK。
いや、今申し上げたのは、私が申し上げられるのは私のことについては申し上げられるという意味で申し上げたんです。
● 時事通信の水島です。原子力安全・保安院が中部電力などに、いわばやらせの質問、賛成の質問をシンポジウムで工作していたという問題が今日浮上しましたが、これについての総理の受け止めと、それから原子力行政の見直しのスケジュールなんですが、細野さんは8月に試案を出して、来年4月くらいの実現を目指すということなんですが、総理もこういったスケジュール感覚でやっていくということなのか、それとも前倒しなど考えられているのか。その辺の見通しをお願いします。
今回また新たに原子力安全・保安院の、なにかこの、やらせ問題があったのではないかという報道が出ております。もしこれが事実だとすれば極めて由々しき問題であり、徹底的な事実関係の究明とそれを踏まえた厳正な対処が必要だと考えております。従来、電力会社においてそういうことが行われたのではないかという指摘がありましたが、今回は原子力安全・保安院という、行政として原子力の安全を担当している部署が、もしその行政として、それと矛盾する、あるいは反する、あるいは対立するようなことをやっていたとすれば、まさに保安院そのものの存在が問われる問題だと思っております。もう既に、保安院を経産省から切り離すということについてはIAEAの報告の中で述べ、海江田経産大臣も同じ考えでおられますし、この問題が起きた中で、海江田大臣からもお電話を頂きまして、第三者委員会を作るということを言われましたので、是非しっかりやって欲しいと私からも激励を致しておきました。また、そうした原子力行政の見直しについてでありますけれども、それは細野担当大臣にしっかりやってくれるように、私の方から指示を出しております。具体的な日程等については細野大臣の考え方、あるいはそれに伴う準備などを考えながらといいましょうか、基本的には細野大臣にしっかりやってもらいたいということで、任せているところであります。
● 日本経済新聞の犬童です。復興基本方針がまとまる過程で、党の方からはこれから3次補正以降に当たるに当たって、新体制の下で当たってくれという要望が出ていまして、政府の方針にはそれは入っていませんが、総理としては3次、来年度当初と予算を組んで、あと法案の処理も、あとの国会でしなければいけないと思うんですけれども、新体制でこちらは臨むべきだと総理としては思っていらっしゃるのでしょうか。
党としてそういう議論があったということは承知をしております。 
記者会見 / 平成23年8月26日
国民の皆さんに私からご報告をすることがあります。本日公債特例法、そして再生可能エネルギー促進法が与野党の皆さんの努力によって成立をいたしました。これで第2次補正予算を加え、私が特に重要視していた3つの重要案件が全て成立したことになります。これにより、以前から申し上げておりましたように、本日をもって民主党の代表を辞任し、そして新代表が選出をされた後に総理大臣の職を辞することといたします。
まず、国民の皆さんに申し上げたいと思います。昨年の6月の8日に総理大臣の職に就いて以来、国民の多くの皆さまから多くの叱咤激励を頂きました。温かい激励、厳しい批判、その全てが私にとってはありがたく嬉しいものでありました。国民の皆さまには心から感謝を申し上げます。また、ともに新しい政治への変革に挑戦してきた皆さんにも感謝をいたします。閣僚をはじめ、政務三役、政府職員、与党・野党の国会議員。そして全国の党員サポーター。こうした皆さんの支えがなければ、菅政権は一歩も進むことはできませんでした。
政権スタートの直後、参議院選の敗北により、国会はねじれ状態となりました。党内でも昨年9月の代表選では全国の党員を始め多くの方々からご支持を頂き、再選させていただきましたけれども、それにも関わらず厳しい環境が続きました。そうした中で、とにかく国民のために必要な政策を進める。こういう信念を持って1年3カ月、菅内閣として全力を挙げて内外の諸課題に取り組んでまいりました。退陣に当たっての私の偽らざる率直な感想は、与えられた厳しい環境の下でやるべき事はやったという思いです。大震災からの復旧・復興、原発事故の収束、社会保障と税の一体改革など、内閣の仕事は確実に前進しています。私の楽観的な性格かもしれませんが、厳しい条件の中で内閣としては一定の達成感を感じているところです。
政治家の家に生まれたわけでもなく、市民運動からスタートした私が総理大臣という重責を担い、やるべきことはやったと思えるところまでくることが出来たのは国民の皆さん、そして特に利益誘導を求めず応援してくださった地元有権者の皆さんのおかげです。本当にありがたいと思っております。私は総理に就任したとき最小不幸社会を目指すと申し上げました。いかなる時代の国家であれ、政治が目指すべきものは国家国民の不幸を最小にとどめおけるかという点に尽きるからであります。そのため、経済の面では雇用の確保に力を注いで参りました。仕事を失うという事は、経済的な困難だけではなくて、人として、人間としての居場所と出番を失わせることになります。不幸に陥る最大の要因の1つであります。私が取り組んだ新成長戦略も雇用をどれだけ生み出すかということを、そうした観点を重要視して作り上げたものです。また、さまざまな特命チームを設置して、これまで見落とされてきた課題。例えば硫黄島からの遺骨帰還や、難病・ウィルス対策、自殺・孤立防止などにも取り組んで参りました。
そして3月11日の大震災と原発事故を経験し、私は最小不幸社会の実現という考え方を一層強くいたしました。世界でも有数の地震列島にある日本に多数の原発が存在し、一旦事故を引き起こすと国家国民の行く末までも危うくするという今回の経験です。総理として力不足、準備不足を痛感したのも福島での原発事故を未然に防ぐことができず、多くの被災者を出してしまったことです。国民の皆さん、特に小さいお子さんを持つ方々からの強く心配する声が私にも届いております。最後の一日までこの問題に力を注いでまいります。
思い起こせば、震災発生からの1週間、官邸に泊まり込んで事態の収拾に当たっている間、複数の原子炉が損傷し、次々と水素爆発を引き起こしました。原発被害の拡大をどうやって抑えるか、本当に背筋の寒くなるような毎日でありました。原発事故は今回の様に、一旦拡大すると、広範囲の避難と長期間の影響が避けられません。国家の存亡のリスクをどう考えるべきか。そこで私が出した結論は、原発に依存しない社会を目指す。これが私の出した結論であります。原発事故の背景には、『原子力村』という言葉に象徴される原子力の規制や審査の在り方、そして行政や産業の在り方、更には文化の問題まで横たわっているということに改めて気付かされました。そこで事故を無事に収束させるだけではなく、原子力行政やエネルギー政策の在り方を徹底的に見直し、改革に取り組んでまいりました。原子力の安全性やコスト、核燃料サイクルに至るまで聖域なく国民的な議論をスタートさせているところであります。総理を辞職した後も、大震災、原発事故発生の時に総理を務めていた1人の政治家の責任として、被災者の皆さんの話に耳を傾け、放射能汚染対策、原子力行政の抜本改革、そして原発に依存しない社会の実現に最大の努力を続けてまいりたい、こう考えております。
大震災と原発事故という未曾有の苦難に耐え、日本国民は一丸となってこれを乗り越えようといたしております。震災発生直後から身の危険を顧みず、救援・救出、事故対応に当たる警察、消防、海上保安庁、自衛隊、現場の作業員の皆さまの活動を見て、私は心からこの方々を誇りに思いました。とりわけ自衛隊が国家、国民のために存在するという本義を全国民に示してくれたことは、指揮官として感無量であります。そして、明日に向けて生きようとする被災地の皆さん、それを支える被災自治体の方々、更には温かい支援をくださっている全国民に対してこの場をお借りして心から敬意と感謝を表したいと思います。
大震災において日本国民が示した分かち合いと譲り合いの心に世界から称賛の声があがりました。そして世界の多くの国々から、物心両面の支援が始まりました。必ずや震災から復興し、世界に恩返しができる日本にならなくてはならない。このように改めて感じたところです。特に、大震災に当たってのアメリカ政府によるトモダチ作戦は、改めて日米同盟の真の重要性を具体的に証明してくれました。安全保障の観点から見ても、世界は不安定な状況にあります。我が国は、日米同盟を基軸とした外交を継続し、世界と日本の安全を守るという意志を強く持つ必要があります。5月に日本で開催した日中韓サミットでは、両国の首脳に被災地を訪問していただき、災害や困難に直面した際に互いに助け合うことの重要性を共有できたと思います。
また今、世界は国家財政の危機という難問に直面しています。私は総理就任直後の参議院選挙で社会保障とそれに必要な財源としての消費税について議論を始めようと呼び掛けました。そしてその後も議論を重ね、今年6月、改めて社会保障と税の一体改革の成案をまとめることができました。社会保障と財政の持続可能性を確保することはいかなる政権でも避けて通ることができない課題であり、最小不幸社会を実現する基盤でもあります。諸外国の例を見てもこの問題をこれ以上先送りにすることはできません。難しい課題ですが、国民の皆さまにご理解を頂き、与野党で協力して実現してほしい。切に願っております。
私の在任期間中の活動を歴史がどう評価するかは後世の人々の判断に委ねたいと思います。私にあるのは目の前の課題を与えられた条件の下でどれだけ前に進められるか。そういう思いだけでした。伝え方が不十分で、私の考えが国民の皆さまに上手く伝えられず、また、ねじれ国会の制約の中で円滑に物事を進められなかった点は、大変申し訳なく思っています。しかしそれでもなお私は、国民の間で賛否両論ある困難な課題に敢えて取り組みました。それは団塊世代の一員として、将来世代に私たちが先送りした問題の後始末をやらせることにしてはならないという強い思いに突き動かされたからに他なりません。持続可能でない財政や、社会保障制度、若者が参入できる農業改革、大震災後のエネルギー需給の在り方などの問題については、若い世代にバトンタッチする前に適切な政策を進めなければ私たち世代の責任を果たしたことにはなりません。次に重責を担うであろう方々にもこうした思いだけはきちんと共有してもらいたいと、このことを切に願っているところであります。以上申し上げ私の退任の挨拶とさせていただきます。
【質疑応答】
● 毎日新聞の田中です。本日正式な退陣表明となりましたけれども、この3カ月間、海外との首脳の会談がほとんど行われないなど、政治空白に陥っていたという指摘もありますが総理はそれについてはどういう見解をお持ちでしょうか。また、退陣の理由についてですけれども、総理は先日の国会答弁で「一定のメド」の発言について、6月2日の不信任案で造反が出れば内閣が機能しなくなると懸念したと答弁されていました。この点ついて、まずそもそもそういう党内情勢に陥ったことについて民主党代表として思い当たる点があればお聞かせください。以上です。
まず、この3カ月間私は、例えば復興基本法ができ、2次補正予算が成立し、更には原子力行政についても保安院を経産省から切り離して新たな安全庁を作るといったことも閣議決定されました。そういった意味で、この3カ月間は大変実り多い政策実行の期間であったと思います。外交においても、ちょうど5月の末にサミットが終えて、この間予定されていたバイデン副大統領との会談もできたと、有意義であったと思っております。また、私の退陣の理由についていろいろお尋ねでありますけれども、先ほどお話を致しましたように、私としては、そうした党内の難しい環境を踏まえながら、その中でやるべきことをやっていこうと、そういう考えで進めてきたつもりであります。
● TBSテレビの今市です。総理の後継を決める民主党代表選挙が明日告示されることになりましたけれども、菅総理が後継の総理に望むこと、託したいことは何なんでしょうか。また総理は、若い世代に責任を引き継ぎたいというふうにおっしゃっていましたが、どういう人物に、後を継いで欲しいと思っていらっしゃるのか。また、既に複数の議員が名乗りをあげているんですけれども、代表選でどなたを支持するつもりでいらっしゃるかについてもお聞かせください。
今、私のあいさつの中でも申し上げましたように、大変難しい時代に入っている中で、やはり何か物事を先送りしていくのではなくて、難しい課題であっても自らの責任で、国民の皆さんに理解を得ながら進めていくという、そういう方がやはり日本のリーダーとしてはふさわしい。そしてその中で、現在の復旧復興、そして原発事故の収束、これらについてもきちんとやり遂げることのできる方に、次の代表や総理になっていただきたいとこう思っております。
● 共同通信の松浦です。今回の原発事故の際に、総理は事故の翌日に現地に入られました。これがその現場の作業の邪魔になったのではないかとか、一国のトップが被ばくの危険を冒して現場に行くことの是非など様々批判が出ました。このことについて、今現在、後悔されていないのかどうか。それともう一つ、今後同様の重大な原発事故が起こった場合に、時の総理大臣は発生直後に現地に行くべきだというふうにお考えでしょうか。
私は、今回の事故が起きて今日までいろいろな、当時、その時点では分からなかったことも分かってまいりました。そのことを考えますと、少なくとも原発事故が起きた時点からしばらくは、本当に炉の状態がどのような状況になっているのかということが、残念ながら伝わってこないというか、あるいは把握されていない状況にあり、またそうした現場の把握がなかなか、間にいろいろな伝言ゲームになっておりましたので、伝わってこないという状況がありました。そういう点では、12日の早朝に、震災や津波の視察とあわせて、東電福島第1サイトに出かけて、現場の責任者である所長にも会えて、意見交換ができたことは、私は、その後のこの問題の取り組みに大変大きな意義があったと、こう考えておりまして、そうした意味では、非常に意味のある行動であったと私自身は思っております。ただ、敢えて申し上げますと、いろいろな、何ていいましょうかマニュアルがありました。たとえばオフサイトセンターというところに集まっていろいろ決めるんだということが事前に決まっておりました。しかしオフサイトセンターそのものは、あの地震のために、それこそ電気はつながらない、電話はつながらない、そして人が行こうにも高速道路は走れない、つまりはそういう意味でも、想定した対応ができない状況にあったわけでありまして、一般的にどうあるべきかということで考えることも重要ですけれども、そういうふうに、もともと予定していたものが機能しないときに、じゃあ機能しないままに来た情報だけで物事を進めようとするのか、それとも自ら現地に足を運んで、直接に状況を把握しようとするのか、私はそれはその場その場の一つの状況の、それも判断だと思っております。私はそうした判断の中で出かけたことはその後の収束に向けての活動にとって、非常に有意義であったと今でも考えております。
● AP通信の山口です。大震災、原発事故、それから歴史的な円高、財政困難などいろいろな国難にもかかわらず、政策論争というよりむしろ政局が優先しているというこの事態に被災者をはじめ国民も批判をしているわけなんで、アメリカ大統領は例えば一人で4年間勤め上げるんですけれども、日本ではこの4年で、次におなりになる方は6人目の総理ということになっています。政策が行き詰まったりあるいは支持率が下がったらすぐにその総理が首になるという日本の政治はどうなっているのか。海外のほうでも日本の超短命政権について関心があると思いますので、この点について、総理はこの半年、今までの方よりも一番ご苦労なさったのにこの質問をするのはすごく恐縮なのですが、ご見解をお願いしたいと思います。それから次の総理には外交問題を含め、どういう政策を期待なさるか教えてください。
あの日本の総理が一般的に大変在任期間が短いという問題、理由はいろいろあろうかと思いますが、私は構造的な理由としてですね、参議院選挙が3年に1回、衆議院選挙もほぼ3年に1回、つまりは3年に2度の国政選挙がある。そしてその選挙の前には、支持率が下がった総理は代わってくれという圧力がかかり、またその選挙で負ければ、たとえ参議院選挙であっても責任をとれという、そういう圧力がかかっていく。つまりそういう国政選挙が衆参で3年間に2度ある中で、その選挙の度に前後にそうした交代が何度も起きてきている、こういうことに構造的な背景があると思います。たとえばイギリスのキャメロン首相は、連立政権を作った直後に、5年後の何月何日に次の総選挙はやります、と言ってその後政策的にかなり厳しい政策をとって、支持率が下がっても国民は次の総選挙まではキャメロン首相でいくんだということを、国民もある意味で野党も含めて前提としている、そういういわば慣習が定着していると思います。そういう点では私は日本もやはり、せめて衆議院の任期の4年は、政権交代があったときには同じ首相で続けていくことが、ある意味国民的な、あるいは政治社会における慣習となっていくことが望ましい、このように考えております。
● フリーランスの江川と申します。よろしくお願いします。脱原発依存社会をつくるのだ、という決意をこの場でも以前、首相は述べられましたけれども、その後個人的な考えだ、というふうに発言が変わったりですね、外から見てるとかなりいろんな抵抗にあっていたのではないか、というふうに思われるわけです。脱原発依存社会を作っていくために、今の国の仕組みの中でどこが一番問題があるというふうに感じられたでしょうか。また、浜岡原発を止めてから非常に、いわゆる菅降ろしというのが激しくなった、と見る向きもあります。菅さん自身は、それを感じたでしょうか。感じたとすればどこからの圧力を感じたのでしょうか、その辺をお聞かせください。
これは先ほどの挨拶の中でも、あるいは皆さん方がよく使われる言葉でもありますが、原子力村という言葉をあげて、そのことは行政の仕組みから、経済界の在り方から、あるいは学者を含めたそういう専門家集団、さらには文化の問題にも関わっているということを申し上げました。そういう点で、この原発に依存しない社会を目指すということについては、もちろん私は政治家ですから、まずは行政や仕組みの在り方を改革しようとして、取り組んでいるわけですけれども、それを超えての取り組みが必要だと、このように感じております。浜岡原発の運転停止を要請した後に、そういうある意味での圧力が強まったのではないかというご指摘でありますが、これはなかなか、一つの感覚ですので、証拠をもって言うことは難しいところはありますけれども、しかし、非常にある意味厳しい指摘や、いろんな厳しい状況がより強まったということは私自身は、ひしひしと感じておりました。しかし一方では、それを超える大きな力も沸き上がってきているということを感じておりましたので、これからしっかりと、この原発に依存しない社会の実現には、取り組んでいくし、十分その道は拓かれていると、このように感じております。
● 読売新聞の穴井です。2009年の政権交代を成し遂げたマニフェストなんですが、菅政権ではこの一部を見直すことに取り組みました。今また代表選でマニフェスト見直しを巡って論争になっておりますけれども、このマニフェストを見直さずに政権を運営するということが可能というふうにお考えになったのかどうか、マニフェストを大胆に見直さなければ誰が総理になっても政権運営できないというふうにお考えなのか、その辺はどうお考えでしょうか。
現在、マニフェストの見直しを岡田幹事長を中心に進めて、確か今日ですか、マニフェスト中間検証を発表した、というふうに承知をしております。マニフェストについてはいつも申し上げますように、大変国民との約束という意味で、重要な約束であります。そして、2009年のマニフェストについて、相当程度実現したところもあります。しかし、全てが実現できたか、あるいは当初予定した財源の捻出が可能か、ということになりますと、かなり難しいところ、あるいは見通しの甘かったところも、率直なところありました。そういった意味では私からも、国会の場でそのことを認めて、お詫びを申し上げたところです。そういった意味で、マニフェストの重要性は変わりません。しかし、それをあるレベルの見直しをしていくということはこの間、党としてもやってきたことですし、それは一定の理解を党内で得て、今回の中間検証になったものと、そのように受け止めております。
● フジテレビの松山です。同じく民主党代表選についてなんですけれども、今回の代表選の中で候補者乱立する中、再び小沢元代表のグループの動向というのが、結果を決定付ける重要な要素となりつつありますけれども、小沢氏らの党員資格停止の解除などが焦点となっている今回の事態について、総理自身どのように受け止めていらっしゃいますでしょうか。また、その幹事長などに小沢氏に近い人を配置してでも、党の挙党一致体制というのを図るべきだというふうに認識されますでしょうか。また、今回新しく代表が総理に就任されたときに、総理自身は日本の総理は長くやったほうがいいとおっしゃっていましたけれども、その新しい総理が解散総選挙を行うべきと、お考えになりますでしょうか。
まずは、私自身も決して何か特定のグループを排除していいとか、排除しようとか思ったことは一切ありません。今党員資格の停止のことをお聞きになりましたけれども、これはもう皆さんご自身よくお分かりのように、一定の手続きに則って党内で議論に議論を重ねて、ああした結論を出したもので、決して何か特定の人とか、特定のグループを、何かこのターゲットにしてやったことではなくて、どなたがそういう状況になった場合でも、党のルールとしてどうあるべきかという、そういうことで決まったものだと、このように認識をしております。そういった意味ではやはり、私はある時期412人の内閣と申し上げましたけれども、それはまさに党に揃っている全ての国会議員、あるいは地方議員や党員も含めて、そういう皆さんが、まさに能力に応じ、適性に応じて適材適所で活躍をできる、そういう政党が望ましいし、そういう形で新たな代表も党を運営して欲しいと、このように思っております。
先ほど申し上げましたように、総理の任期というものが、一般的にいえば政権交代があった場合に、衆議院の任期の4年はあっていいのではないか、というふうに思っております。解散の時期に云々と、それを直接的につなげてすべきか、すべきでないかというふうに質問されると、ちょっと何か、真意が伝わらないこともありますので、私としては、やはり一人の人が4年程度はやれるのが望ましいと、その間に任期がくれば、それは任期ですから、当然解散というよりは任期満了を含めた選挙になることは、それはルール上当然のことだと思ってます。
● 朝日新聞の坂尻です。原発の警戒区域の見直し問題についてお伺いいたします。政権ではこれまで、来年1月のステップ2の終了に合わせて冷温を停止すると。それに合わせて警戒区域の見直しを検討するという姿勢でいらっしゃいましたが、最近になってその政権内で、なかなかすぐに解除をするのは難しいと、相当期間解除を先延ばしにしなければならない、という検討をされていると伺っています。実際にそういう実態があるのかどうか、ということと、これまで説明してきたことを、いわばこの政権、今の段階というか土壇場になって、こういう姿勢を変えられるというのはどういった事情だったのか、その点説明していただけますか。
ご承知のように原発事故が発生して、避難区域を一番最初の段階では3キロ、5キロ、10キロ、20キロと拡大をいたしました。また、その後そういう円状の地域という考え方だけではなくて、実際にモニタリングが進む中で特に線量の高い地域について、色々と計画的避難区域などの対応をとってきたことは、皆さんもご承知のとおりであります。そういった意味で現在、今日の決定でありますけれども、除染を進めるということを本格的に、2200億円の予備費を使って始めようと、その目標もその中にきちっと表現をしました。つまりは、20ミリシーベルト、年間被ばく20ミリシーベルトを超える地域は、基本的にはいま住民が避難をされているわけですが、できるだけその地域を戻れるように、狭くすると言うか、戻れるように除染をしていこうと。また、20ミリシーベルト以下のところであっても、特に子どもさんについてもそうですが、1ミリシーベルトを目標にして、しっかりと自治体と一緒になって除染を進めていこう、それに対して国も全力を挙げようということであります。それでは、それらを進めればどこまで実際に除染の効果が出るか、いま現在そういうものも専門家のみなさんも含めて検討をいただいているところでありまして、その検討の中でどの時期までにそうした形が取れるのか、あるいはかなりの長期間そういうことが難しい地域があるのか、そういったことについてもモニタリングと専門家の皆さんの検討を、お願いをいたしているところであります。そういった意味でいま何か方針が変わったようなご質問がありましたけれども、そういう方針が変わったというのではなくて、できるだけ多くの方に早くもとの住まいに戻っていただきたいという、その考え方は変わっておりません。しかし、実際にそれが可能であるかないかということは、これはまさにモニタリングをしたり、色々な現実を調べる中でそういう専門家の皆さんの判断も含めて必要になりますので、そういうことについては、そうした専門家の皆さんの判断も含めて、考えて方向性を出していかなければならないと、このように考えております。
内閣総辞職にあたっての内閣総理大臣談話 / 平成23年8月30日
菅内閣は、本日、総辞職いたしました。
昨年6月の内閣発足以来、国民新党との連立政権の下、これまで先送りされてきた政策課題に正面から取り組んできました。
私は、総理就任時に、政治が目指す目標として「最小不幸社会」の実現を掲げ、「雇用の確保」を重視した「新成長戦略」の推進、特命チームによる課題解決、地域主権改革を推進しました。
社会保障と財政の改革については、精力的に議論を重ね、「社会保障・税一体改革」の成案をまとめました。この問題は、もはや先送りできません。今後、与野党の論議等を通じ、改革が推進されることを心から希望します。
外交面では、日米首脳会談等を通じて日米同盟を深化させるとともに、横浜APEC開催などにより、近隣諸国との関係強化を推進し、安全保障面でも新防衛大綱策定などに取り組みました。
本年3月11日の東日本大震災と東京電力福島原子力発電所の事故の発生は、大規模かつ広範にわたる被害をもたらしました。この未曾有の災害に対し、発災直後から被災者の救出・救助に取り組み、その後、仮設住宅の建設やガレキ撤去、被災者の生活支援など、復旧・復興に向け、被災地の方々とともに懸命に取り組んでまいりました。
また、原発事故の収束に全力を挙げ、その結果、「安定的な冷却」状態が実現できました。さらに、今回の事故を受けて、エネルギー政策を白紙から見直し、原発依存度低減のシナリオの作成や原子力政策の徹底的な検証、原子力安全規制の組織の根本的改革を行うことを決定しました。
しかし、今なお残された課題は多くあります。新内閣において、復旧・復興と事故収束に向けた取組を一層推進されることを期待します。
本内閣において、必ずしも十分な対応ができなかった点については、大変申し訳なく思っております。歴史がどう評価するかは、後世に委ねますが、私を始め閣僚全員は、その持てる力の全てを挙げて誠心誠意取り組んできました。今後、新内閣の下で、大震災から日本が力強く再生することを願ってやみません。
これまでの間の国民の皆様のご支援とご協力に感謝いたします。ありがとうございました。 
菅直人さんの総理生活452日。
「私が『脱原発依存』を言ったところ、警戒心を高めた勢力がいるのは間違いありません」
大震災と原発事故という二つの大惨事に、総理という立場で対峙した菅直人さん。震災や事故への対応をめぐってメディアから批判を受ける一方で、日本の総理として初めて「脱原発依存」を明言したことは高く評価されました。3・11 以降の話を中心に、「総理生活」を振り返っていただきました。

山口 今日は、3・11以降の話を中心に、お話をお聞きしたいと思いますが、政権後半は「菅総理さえ辞めれば全て上手くいく」といったような報道が溢れて、「居座り」だとか「居直り」だとか批判されましたね。その印象が世間一般では今でも強いのかもしれませんが、私は当時から全くそう思わなかった。大震災と原発事故という大惨事に同時に直面したわけで、誰が総理であってもそう簡単に収拾できるわけがない。それに、日本の総理として初めて「脱原発依存」を明言したことに対する評価も低すぎる。ここはひとつ、菅総理の軌跡をきちんと検証しておきたいと思います。もちろん、耳の痛くなるようなことも聞きますが。
菅 お手やわらかにお願いします(笑)。
政権交代から2年数ヵ月、民主党らしさとは何だったのか。
山口 3・11の話の前に、どうしても菅さんに聞いておきたいことがあります。政権交代をして2年数ヵ月、総理もすでに3人目ですが、民主党らしさって、何だったのでしょうか。自民党政権といったい何が違うのか、その思いを強くするのは私だけではないと思います。
菅 少し話が遡りますが、私は、日本において、政権交代がある程度くり返される民主主義にしたいと思っていました。戦後のほとんどの期間は自民党中心の政権でしたが、政権交代がないというのは、いわば「半分の民主主義」です。Aという政党を中心とした政権、Bという政党を中心にした政権が時々交代することで、国民の様々な要望が新政権の中で活かされる、そういうことが望ましいという考え方が根底にあった。加えて、一方の極である自民党に対峙する政党として、自民党政権時代の野党である社会党や民社党、その後に誕生した日本新党やさきがけといったリベラルなグループが結集することが望ましいと考えていました。アメリカで言えば共和党に対する民主党、イギリスなら保守党に対する労働党です。そういうイメージを私自身は持っていたし、現在の民主党の基本的な考え方も、
その路線に沿っています。この2つの観点が、民主党結党の原点にありました。
山口 私も、その原点に共感し、民主党を結党以来応援してきました。しかし、政権党として目指したことをどれくらい実践できたのか。菅さんは自らどう評価しますか。
菅 政権交代後の具体的な政策として見た場合、自民党中心の政権とどう違うのか、その差が少しずつ見えにくくなってきているのは、ご指摘の通りかもしれません。ただ、民主党政権で前進した問題もあります。たとえば地方分権です。片山(善博)前総務大臣は、かつて鳥取県知事もやられていて地方分権問題に詳しい方で、私の内閣が終わった後もいろいろ話をしています。片山さんは、地方分権に関しては菅政権で非常に前進したと評価してくれています。一括交付金のような形で、従来は全部ヒモつき〞の補助金だったものを、地方が使い道を自主判断できる予算に大きく変えるという形で一歩踏み出しました。また、「国と地方の協議の場」を法制化しました。最初の会合では「消費税を10%にしたとき、国と地方の配分をどうするのか」という突っ込んだ議論をし、できるだけ地方に財源移譲する方向性が示されました。それから、子ども手当も民主党ならではの政策と言えます。従来、どちらかというと高齢者に比較的手厚くなっていた福祉政策を、子どものほうにウエイトを置いたという意味では、これもかなり前進した点ではないかと思います。
山口 それは、私も同感です。ただ、子ども手当にしても高校の授業料無償化にしても、政策としては画期的なものだったのに、野党から「ばらまき」と批判されて見直しを余儀なくされた。ねじれ国会という限界があるにしても、「ばらまきではない、未来に向けた投資なんだ」と、どうして説得力をもった反論をできなかったのでしょうか。
菅 2009年総選挙のマニフェストでは、子どもの福祉にウエイトを置く政策が示され、これは党内でも非常に強いコンセンサス(合意)がありました。財政的には、それまで言っていた消費税の3%引き上げをしないでも、何とかなると考えていた。一般会計だけでなく、特別会計も含めて200兆円のお金の使い方を精査すれば、マニフェストを十分実現できると思っていました。しかし、実際に財政を運営する中で、期待したほどの無駄を削れなかった。リーマン・ショックの後遺症などもありましたが、政策のいくつかが政権スタートの段階から、財政的にぎりぎりだったことと、ねじれ国会という現実もあり……。野党の批判に対して、十分な政策論争ができなかったという反省はあります。ただ、私は1つの政権が1つの形を生み出すまでに、少なくとも4年間は必要だと考えています。民主党政権誕生から2年数ヵ月ですから、「できた、できなかった」といま評価をするのは少し早すぎるかと。
山口 確かに、政治家が国民に対して責任を果たせるようにするには、ある程度の期間政権を任せることが必要です。たとえばイギリスなどでは、キャメロン政権が進める財政支出削減と国民負担増に対して国民から相当な批判がある。でも、「辞めろ」という声にはならない。日本ではここ数年、メディアをはじめ政権に対する評価が性急すぎる。新聞や週刊誌などから異常なまでの敵意にさらされたという意味で、菅政権は非常に不幸な政権だったと思うのですが。
菅 小泉政権のあとは、私を含めた5人の総理大臣の在任期間は約1年です。いずれも、政権誕生のときはメディアがワーッと持ち上げて、しばらくすると、どっと下げるというパターンでした。いったん「下げ」に転じると、必ずレッテルを貼られる。たとえば、総理就任直後の参院選で民主党が敗北したのは、私の「消費税10%発言」にあると言われました。総理就任前は財務大臣だったこともあり、社会保障と税の一体改革は先延ばしできないという思いがあった。それが消費税発言にもつながったのですが、消費税のことを一度口にすると、メディアは「増税派」というレッテルを貼る。政策論議ではなくて、そのレッテル貼りが先行する。最近は、そんな風潮がますます強まっているように感じます。
撤退を言い出した東電に「絶対にありえない」。
山口 さて、3・11以降の話に移りたいと思います。まず、福島第一原子力発電所の事故が明らかになった直後に、首都圏で2000万人から3000万人が避難する可能性を考えたそうですね。
菅 原発の全電源喪失、冷却機能停止という事態が何を意味するかは、私なりに理解していたつもりでした。ただ、福島第一原発の6つの原子炉の使用済み核燃料を貯蔵するプールが各建屋内にあることは、それまで知りませんでした。もう1つの共用プールと合わせて合計7つのプールに使用済み核燃料があったわけです。それらは格納容器に入っていませんから、万が一のときには核生成物がそのまま大気中に出てしまう危険性がありました。そして、12日には1号機で、14日には3号機で水素爆発が起きました。複数の専門家に最悪のケースを検討してもらうと、避難区域が原発から250キロ〜300キロ圏内に及ぶ可能性があることがわかった。300キロ圏内には首都圏がすっぽり入ります。となると、3000万人の避難が必要になる。それは、国の機能がほとんど麻痺することを意味するわけです。事故発生からの10日間は、先の見えない危機的状況が続いていたというのが実態です。後になって、核燃料が溶融するメルト
ダウンや、溶けた核燃料が圧力容器や格納容器の外に漏出するメルトスルーが起きていたことがわかりましたが、最初は東電をはじめ、原子力安全・保安院、原子力安全委員会も、「燃料棒の一部損傷」という見方をしていたわけです。ところが、本来起きないと言われていた水素爆発によって建屋が吹き飛び、サプレッションチェンバ(圧力抑制室)で爆発が起きた。次々と起きるそんな出来事を前に、最悪の事態も想定せざるを得なかったのです。
山口 現場から撤退すると言った東電に対して、菅さんが「絶対にありえない」と言った話は断片的に伝わっていますが、東電は本当に逃げ出そうとしたのですか。
菅 3月15日の午前3時頃でしたが、泊まり込んでいた官邸に海江田(万里・前)経産大臣から報告がありました。「東電の社長が撤退したいと言っている。どうしましょうか」と。万が一、6つの原子炉と7つのプールで次々にメルトダウンが起きたら、チェルノブイリの何十倍、何百倍という核生成物が大気中に出る可能性があるわけです。それを考えたら、たとえ現場の作業員に危険が及ぶとしても撤退なんて絶対あり得ないと思いました。すぐに東電の清水(正孝・前)社長を官邸に呼び、「本当なんですか」と問い質したのですが、はっきりと答えない。東電側は後で「撤退」と言ったつもりはないと言いましたが、全体のニュアンスとして「撤退」という表現を海江田さんは私に使っていました。枝野(幸男・前)官房長官も、東電から同じ趣旨のことを聞いています。もちろん、現場の作業員の安全が第一なのは言うまでもありません。しかし、原発をあのまま放置したら、国の機能が麻痺してしまう。たとえ命がけでも、放射能という敵と戦わざるを得ないと思いました。東電の社長を官邸に呼んだあと、午前5時過ぎに私は東電本店に行きましたが、そのときは切迫した思いもあって、私も60を超えたし、「60歳以上は命を懸けてもいいじゃないか」などと言ったりもしました。
総理に届けられなかった「SPEEDI」の情報。
山口 放射能が大気中をどの方向に流れていくのかなどを予測するSPEEDI(スピーディ=緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の情報が、官邸、さらには国民にもきちんと伝わらずに、避難が適切にできなかったという批判がありました。菅さんに情報は伝わっていたのですか。
菅 まず背景としては、政府内の体制が内閣府の原子力安全委員会、経産省の原子力安全・保安院、文科省の原子力部門というふうに分立していることが、事故などに際して機能的に動きにくい理由のひとつでもあります。
SPEEDI運用の個別的問題としては、私が本部長を務める原子力災害対策本部を作ったときに、「こういうシステムがあるから使うべきだ」という指摘があれば、当然、運用を指示していたはずです。しかし、対策本部のある部屋に、原子力安全・保安院、あるいは原子力安全委員会、そして東電の責任者たちもいたにもかかわらず、その場ではSPEEDIの話は出なかった。放射能を実際に測定した生のデータがなくても、仮の数値でシミュレーションもできるわけですから、少なくともそのデータを避難指示などに役立てることができた。助言を得られなかったことも含め、この点には反省があります。
山口 国民からすると、政府は情報をちゃんと伝えていない、何か隠しているんじゃないかと疑いたくなる。
菅 批判があるのは承知していますが、私が得た情報で「国民がパニックを起こすから」と、公表を止めたものは1つもありません。ただ国民に疑念を抱かせた点については、政府関係者は全て総理である私の指揮の下にありますから、私の責任は否定しません。
山口 原発事故への対応に、政治主導が発揮できなかった点が他にもいくつかあります。たとえば、放射線被曝量の基準です。特に子どもの被曝量の問題で、年間20ミリシーベルト以下とした当初の基準値に対して、福島県の親御さんが猛反発して文科省にも抗議に行った。その後、基準値は年間1ミリシーベルトになりました。こういう問題は閣議などで議論して、それこそ政治主導で進めることはできなかったのですか。
菅 まず、国際的な基準としては、ICRP(国際放射線防護委員会)の見解がありました。年間100ミリシーベルト以上は人体に悪影響がある。100ミリ以下はデータ上の有意差はなかなか証明できないけれども、できるだけ少ない水準が望ましいというものです。ただ、この基準については専門家の間でも意見が分かれていたので、原子力安全委員会で議論してもらった。それで出てきた数字が年間20ミリシーベルトだったのです。その後もいろいろ議論があって、最終的には「20ミリまでがいいということではなくて、除染などをして、20ミリをいかに1ミリまで下げるか、それが一つの目標だ」となった。放射線量の基準値といった高度に専門的な判断が必要な問題は、政治が決めるのはなかなか難しいところがある。政治主導という前に、どうしても専門家による合意が必要になります。
「脱原発依存」を打ち出した菅総理への“包囲網”。
山口 浜岡原子力発電所の停止問題につても伺いたいのですが、そもそも浜岡原発を止めるという話は海江田さんと菅さん、どちらの判断だったのですか。
菅 直接的には海江田大臣です。海江田大臣が、5月5日に彼自身の判断で浜岡に視察に入り、翌日私のところに来ました。浜岡原発のある東海地区で地震が起きる確率が高いことなどいくつかの理由を挙げて、浜岡原発は止めたほうがいいと意見具申があった。それで「私もそう思うから、そうしよう」「すぐに発表しよう」となり、5月6日に発表したのです。
山口 浜岡原発を止めたのは、菅政権ならではの英断です。ただ問題は、止めるのは浜岡だけなのか、それ以外の原発もなのかということ。この点は、菅さんと海江田さんの間に食い違いがあったようですが、政権内部でどんな議論が交わされたのですか。
菅 福島第一原発の事故は、事故調査・検証委員会が検証することになりましたが、調査が全て終わるまで、何もせず待つわけにはいかない。様々な事象に直面するなか、大きな懸案事項が浜岡原発で、浜岡だけは政治的な判断で止めようとなったのです。次に起きたのが、玄海原発の再稼働問題です。まず、経産省の役人が玄海を訪ね、そのあとで海江田大臣が視察に入った。マスコミでは、海江田大臣が現地の自治体首長に再稼働を依頼したかのように報じられました。私は海江田大臣に電話して「再稼動について、原子力安全委員会と話をしているんでしょうね」と聞いた。海江田大臣は、事務方の意見を聞いた上で「再稼働については、原子力安全委員会に聞かなくてもいいというのが今の法制度です」と答えた。確かに今の法律では、原子力安全委員会は、大枠の指針とか基準を決めても、原発の再稼働という具体的な問題になると蚊帳の外なんです。しかし、法制度がそうであっても、将来的に基準そのものを変えなきゃいけない中での対応なのだから、経産省の判断だけでは国民の理解は得られない。暫定的でも、国民が納得するルールをきちんとつくるようにと、海江田大臣、それから細野(豪志)首相補佐官、枝野官房長官に指示をしました。それで生まれたのが、1次、2次と分けたストレステスト(注)の評価基準だったのです。
山口 先ほどの海江田さんの言い方は、ずいぶん杓子定規な言い方に聞こえますが。
菅 やはり経産省の事務方に初めからシナリオがあったのではないかと思います。浜岡原発の視察には、海江田大臣と一緒に事務方も行っています。一方、玄海原発は、比較的高い場所にあるし、知事も町長も原発推進派だから、ここは動かせると事務方は考えていたのでしょう。メディアは、「2階に上がった海江田経産大臣のはしごを総理が外した」とか「ストレステストは総理の思いつきだ」とか面白おかしく書きましたが全く違う。あれだけの事故が起きたのに、いくら法律で決まっているからといって、原子力安全委員会への相談もなしに原発の再稼動ができるなどと考えるのは、国民の納得が得られない。そう考えた結果なんです。
山口 私には、菅さんが「脱原発依存」を打ち出した途端にメディアのバッシングが強まり、経産省も伏魔殿的な構造の中で菅つぶしにかかったというふうに思えます。福島第一原発への海水注入をストップするよう菅さんが指示をしたというガセネタが飛び交いましたが、あれも菅下ろしの策謀でしょう。私は関係者数人に話を聞きましたが、ガセネタをばら撒いたのは経産省の役人だと指摘した人もいた。結局、総理といえども、「脱原発」というタブーに触れると、そういう目に遭うということなのか。日本の権力の所在がどこなのかという根本的な問題を考えざるを得ません。
菅 今回のインタビューを受けるにあたって、私が1989年に出た『通販生活』の座談会記事を読み返しました。この頃は社会民主連合という小さな政党に属していましたが、記事を改めて読んでみると、原発というものが持っている「大きな背景」について私は当時から指摘していたんですね。「(原発について)国会では、何となく取り上げにくいムードがある」と。「大きな背景」とは、原発を推進してきた産・官・学による「原子力ムラ」のことです。日本は国家戦略として、原子力ムラに集中的に人と金を投下してきたわけで、政治も行政も、
あるいはメディアも含めて「原発は危ない」と言う人をソフトに抑え込んできた。そのような原発優先のエネルギー政策を変えるために、私は「脱原発依存」を言いましたが、それに対して危機感を強めた人たちがいた。個別の役所、団体なのか、あるいはもっと大きいものなのか。警戒心を高めた勢力がいるのは間違いありません。
菅総理だからこそできた再生可能エネルギー法。
山口 菅政権の最も評価すべき実績の1つは、「再生可能エネルギー促進法」の成立だと思います。太陽光や風力など自然エネルギーによる電力の買い取りを電力会社に義務付けた法律ですが、これは菅さんが総理でなければ絶対にできなかった。この法律を成立させた菅さんの粘りと執念について、私はもっと評価されるべきだと思います。
菅 法案を議論する過程では、電力会社の自然エネルギーの買い取り価格の上限を0・5円/ Kwhにするとか、自然エネルギーの促進を妨げる修正が入りそうになりました。それでは、自然エネルギー事業者の活動を非常に限定的なものにしてしまうので、超党派の動きで巻き返して事なきを得ました。具体的な買い取り価格については、法律が施行される2012年7月までに、第三者委員会の意見を参考に決められることになります。この価格設定が重要で、事業者が10年弱で設備投資を償却できるような価格になれば、自然エネルギーへの新規事業者の参入がかなり期待できます。自然エネルギーの普及は、被災地の復興にも結びつきます。たとえば、木質バイオマスの発電事業を促進して、そういった発電施設で、森林の間伐材と共に東北の被災地の瓦礫も処理する。また、客足が遠のいたゴルフ場に、ソーラーパネルを並べたいと相談にくる方もいます。その資金調達のために地域的なファンドをつくって出資者を全国から募り、10年以内に配当も出るようにする。そんなアイデアを1つひとつ実現させていけば、自然エネルギーの普及も、さらに加速されるはずです。
山口 冒頭に言いましたように、東日本大震災や福島の原発事故への対応は、誰が総理だったとしても大変だったと思いますが、菅さんはその対応がよくないと批判された。そして辞任に至った。ある種の不条理さも感じているのではないかと思うのですが、異様なまでの批判に晒されても、総理の座に留まった、その真意は何だったのですか。
菅 端的に言いますと、事故への対応の責任を取って総理を辞めたという意識はないんです。事故については与えられた厳しい条件の中で、やるべきことはやったというのが私の認識です。さらに復興構想会議の提言もとりまとめたし、社会保障と税の一体改革も成案までこぎつけた。第2次補正予算、再生可能エネルギー法、公債特例法も通すことができました。辞任に至ったことは、不条理と言えば不条理な気もします。が、私は野党が提出した不信任案に民主党内から同調する動きが拡大したことを受けて「大震災への取り組みに一定のめどがついた段階で、若い世代に責任を引き継いでいきたい。めどがつくまで責任を果たさせていただきたい」と約束し、それを守りました。ですから、退任に至る流れについて、私の心の中には不自然さは全くありません。
山口 総理退任後、お遍路に行かれましたけど、歩きながら何を考えられたんですか。
菅 今回は、3年前の続きで、54番札所の延命寺(愛媛県今治市)から、70番札所の本山寺(香川県三豊市)まで、180キロほどを8日間で回りました。山道を歩いているときは、頭は空っぽ。右足の次に左足を出して、左足の次に右足を出すなんてことしか考えていないんです(笑)。四国の皆さんは、お遍路している人に対してものすごく温かくて、歩いているといろんな「お接待」を受ける。あるお年寄りにきれの財布をいただいたら、中には1円玉や10円玉がたくさん入っていた。「ちょっと多すぎるから」とお返しすると、「いやあ、小銭ですから」と言う。お遍路の「お接待」とは、何かを施すという意味だけでなく、お遍路さんをお大師さんの身がわりと見て、「私の分も一緒にお参りしてください」という思いも込められているんですね。だから、その小銭もありがたく頂戴して、次のお寺の賽銭箱に納めました。
山口 3・11以降の日本に一番必要な連帯感のようなものがそこにあるわけですね。今日は、退任からまだ間もないこともあり、なかなか言いにくいこともあったと思います。もう少し落ち着いてからでけっこうですが、3・11という未曽有の危機に対峙した一国のリーダーとしての記録や記憶を、いずれぜひ発表してください。

(注)原発の耐久試験のこと。定期点検中の原発には簡易のストレステストを実施して、それにパスしたものは再稼働を許可。その後、本格的なストレステストを稼働中の原発すべてに適用し、必要に応じて停止命令を出すことにした。

誰がやっても難しい震災への対応が批判され、辞任に至った。不条理さも感じているのでは?  事故の対応の責任をとって辞めたという意識はありません。やるべきことはやりました。
 
野田佳彦

 

2011年9月2日-2012年11月16日(442日)
鳩山内閣
同年9月、鳩山由紀夫内閣が成立すると藤井裕久財務相の推挙により財務副大臣に就任。2010年(平成22年)1月に藤井が健康上の問題を理由に辞任すると、小沢一郎幹事長と敵対関係ではなかったため、後任候補の1人として名前が上がった、藤井も野田を後任に推薦する意向だったが、菅直人副総理が国家戦略担当大臣から横滑りする形で副総理兼財務相に就任し、野田の財務相昇格案は見送られた。
菅内閣
2010年(平成22年)6月に鳩山が代表・首相辞任を表明して、6月8日に鳩山内閣は総辞職した。後継代表・首相には菅副総理兼財務相が就任して、菅内閣の財務相には野田が副大臣から昇格する形で就任することとなった。初入閣での財務相就任は初めての例であり、戦後の大蔵大臣時代を含めても比較的異例である。
同年8月20日、為替動向について記者会見で「重大な関心をもって注意深くみていく」と述べる一方、為替介入についてはコメントを避けた。9月8日、円高について衆院財務金融委員会での答弁で「明らかに一方的に偏っている」とし、「必要なときには為替介入をふくむ断固たる措置をとる」「産業の空洞化にもつながりかねないということで、強い懸念をもっている」と述べた。9月15日、政府・日本銀行が「円売りドル買い」の為替介入に踏み切ったことを発表。この介入により1ドル=82円台から1ドル=85円台に急落した。10月8日、1ドル=81円台に上昇したことを受け「より一層重大な関心を持ってマーケットの動向を注視し、必要なときには介入を含めて断固たる措置をとるという姿勢に変わりはない」と述べた。また同日ワシントンで開かれた先進7か国財務相・中央銀行総裁会議(G7)では為替介入について「批判的な意見は出なかった」と説明した。
2010年(平成22年)9月に発足した菅改造内閣でも財務相に留任。2011年(平成23年)1月の内閣改造に際しては内閣官房長官への横滑りも取り沙汰されたが、野田が財務相続投を強く希望したため、菅再改造内閣でも留任した。
スタンダード&プアーズによる米国債の格下げに伴い、2011年(平成23年)8月8日に行われたG7電話会談では、「米国債への信頼は揺るがないし、魅力ある商品だと思う」と述べ、円高に対してはマーケットの動向を注視すると述べた。
2011年民主党代表選挙
2011年(平成23年)6月9日、菅直人首相の退陣表明を受けて仙谷由人民主党代表代行や岡田克也党幹事長らは民主党代表選挙に野田を擁立する方向で調整。朝日新聞(2011年(平成23年)6月9日付)が1面トップでポスト菅の「本命」と報じ、夕刊の各全国紙が後追いした。野田は8月10日の文藝春秋で「時機が来れば、私は、先頭に立つ覚悟です」と党代表選への出馬に意欲を示し、同日の記者会見では「脱小沢」路線は見直すべきとの考えを示した。8月23日、代表選での連携を期待していた前原誠司が立候補の意向を示した。
野田は8月26日に立候補を表明して、原発事故収束を優先事項に挙げる。また自身は脱原発依存の立場であり、原発は新設しないことを表明した。朝日新聞が8月26日に発表した「次期首相にだれがふさわしいか」の世論調査の結果では、原口一博に次ぐ4位となった。同26日には小沢一郎元代表の支持を受けた海江田万里経済産業大臣が立候補を表明。代表選には史上最多となる野田・前原誠司前外務大臣・海江田経産大臣・鹿野道彦農林水産大臣・馬淵澄夫前国土交通大臣の5人が立候補する形となった。
2011年(平成23年)8月29日に施行された代表選挙では、第1回目の投票で海江田の143票に次ぐ102票を獲得。過半数を獲得した候補がいなかったため決選投票となり、小沢への批判票を集めた野田が215票を獲得して177票を獲得した海江田を逆転し、第9代民主党代表に選出された。
投票前に行われた、いわゆる「ドジョウ演説」では、ジョークや相田みつをの詩を交えつつ、政治に「夢、志、人情」を取り戻すことを訴えた。落語家の三遊亭楽春は「落語にドジョウは出てくるが主役じゃない。野田さんは華はないけど実直で安心感はある」とドジョウ演説を評価した一方で、政治評論家の有馬晴海は「『ドジョウ政治』と言っても何をしたいのか分からない。もっと自分の生活から絞り出てくる言葉がほしい」と批判した。
党首選挙に於ける決選投票での逆転当選は、1956年12月自由民主党総裁選挙での石橋湛山以来55年振りで、民主党では初めてとなった。 
野田内閣
民主党代表選出後の8月30日、菅再改造内閣の総辞職を受け衆参両院で行われた首班指名選挙において、第95代内閣総理大臣に指名された。9月2日に天皇による親任式を経て正式に就任し、民主党と国民新党の連立による野田内閣が発足した。松下政経塾出身の初めての総理大臣である。
2011年(平成23年)10月7日に政府は臨時閣議で東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の復興事業を盛り込んだ第三次補正予算案を閣議決定して、野田は東日本大震災復興対策本部で予算案の早期成立に向けて野党の意見を取り入れる姿勢を示した。補正予算の総額は12兆円程度で、うち震災関係経費は9兆1,000億円。財源は10年間で9兆2,000億円にのぼる臨時増税で賄う方針。復興財源を所得税や法人税などの臨時増税で賄うことに対して、毎日、読売、日経、朝日の各紙は「増税やむなし」との見解を社説で表明したのに対して、産経と東京の二紙は「歳出削減が第一である」と疑念を呈した。この復興予算は復興事業の見積もりに失敗し、4割が未使用となる失敗に終わった。また、野田の増税路線に対して、野田が敬愛する松下幸之助の「無税国家論」と相容れないと、みんなの党の渡辺喜美や松下政経塾設立に関わった江口克彦から国会で追求された。
2011年(平成23年)10月19日、韓国訪問中に李明博大統領と会談を行い、日韓経済連携協定(EPA)交渉の早期再開に向け実務者協議を加速させることや、市場の不安定化に備えて両国の通貨スワップの限度額を現行の130億ドルからその5倍の700億ドルへ拡充することなどで合意した。通貨スワップの拡大は、相互依存関係が強まっている韓国経済を安定化させることによって日本の経済成長を促し、日本が通貨スワップを行使して円売り・ドル買いを行うことによって円高を抑える効果が期待できるとされている一方で、日本にはメリットがほとんどないという見解もあり、日本のインターネット上では「復興のための財源とすべき」「復興のために増税すると言っておきながら、理不尽だ」などという野田に対する反発の声が高まった。日韓首脳会談では同時に、植民地時代に日本に渡った朝鮮半島由来の図書5冊が引き渡され、「韓日関係が未来に向かうため象徴的意味を持っている」と李から謝意を表明された。
2011年(平成23年)10月21日、野田は大洪水の被害が拡大しているタイへの支援策を早急にまとめるように閣僚に指示し、政府は船外機、仮設トイレ、ライフジャケットなど2,500万円相当の第二弾の緊急援助物資を決定した。タイからは東日本大震災に際し、援助物資や義援金を受け取っており、政府はすでに緊急援助物資としてテントや浄水器など3,000万円相当、東南アジア諸国連合プラス3(ASEAN+3)の備蓄米を融通し合う制度を利用して5万ドルなどをタイに対して支出した。
2011年(平成23年)10月31日、ズンベトナム首相と官邸で会談し、2010年に合意した日本が輸出するニントゥアン第二原子力発電所について計画通り実施することを再確認した。3.11後、菅首相(当時)による原発輸出見直し発言もあったが、これにより従来通り原発輸出推進へと舵を切ることとなった。
2011年(平成23年)12月22日、野田が議長を務める国家戦略会議において「日本再生の基本戦略」が決定され、東日本大震災からの復興に加え、アジアの成長を取込み、2011年(平成23年)度から2020年(平成32年)度の平均で国内総生産名目成長率3%程度、実質成長率2%程度を目指す国家戦略を定めた。同戦略は二日後の24日に野田内閣で閣議決定された。
第1次改造内閣
2012年1月13日、内閣改造を行い、野田第1次改造内閣が発足した。同年3月30日、政府は消費税率を現行の5%から10%まで段階的に引き上げる消費増税関連法案を閣議決定し、国会に提出した。野田は、これに先立つ国会答弁で「将来不安をなくすことによって、消費や経済を活性化させることもある」などと意義を強調したが、野党時代にはこれとは逆に、増税で「日本経済が肺炎に」などと発言していたと報道された。
第2次改造内閣
2012年6月4日、内閣改造を再び行い、野田第2次改造内閣が発足した。防衛相には、拓殖大学大学院教授の森本敏を初めて民間から起用したところ、党内からも批判を受けた。森本の前任の一川保夫と田中直紀はともに問責決議を受けていたため、防衛相人事は野田にとって鬼門だと評された。
同年6月15日、民主党、自由民主党、公明党の実務者間での協議が合意に達し、社会保障・税一体改革関連法案の修正内容について合意が成立した。しかし、修正法案の内容に対しては、第45回衆議院議員総選挙でのマニフェストを破棄し公約を反故にして消費税増税をすすめるものだとして、民主党内から反対論が相次いだ。党内からは、党大会に次ぐ議決機関である両院議員総会の開催を求める声が高まり、開催を求める154名分の署名が執行部に提出されたが、社会保障・税一体改革関連法案を議論するための両院議員総会は一切開かれず、代わりに両院議員懇談会が開かれた。
2012年6月26日の衆議院本会議での社会保障・税一体改革関連法案の採決では、民主党内から反対、棄権、欠席した議員が73名に達し、閣僚経験者ら大物議員を含め造反者が続出する事態となった。党所属の引退議員からも批判が相次ぎ、科学技術庁長官などを歴任した中島衛は造反議員を支持することを表明した。野田と同じ会派に所属し経済企画庁長官などを歴任した田中秀征は「かつて日本の政治史に、これほどまで明確な重大公約違反があっただろうか」と主張するなど、野田の政権運営を強く批判した。また、7月10日の参議院予算委員会で国際機関に対して約束した資金提供の総額14兆3333億円になることを報告し、また、日本製品が海外市場などで韓国製品に苦しめられている中、韓国の通貨を国際的に信頼させるため、日本政府が日韓通貨スワップ限度額を総額130億ドルから総額700億ドルに増額し、韓国国債を数百億円規模で購入する計画など、日韓友好の立場から、日本にはメリットがなく韓国だけが得をする政策を実現することに理解を求めた。
こうしたなか、野田の政策に批判的な党所属議員らは反発を強め、離党者が続出する事態となった。2012年7月2日、社会保障・税一体改革関連法案に批判的な小沢一郎、東祥三、広野允士らが一斉に離党届を提出して「国民の生活が第一」を結成し、新党きづなとの統一会派「国民の生活が第一・きづな」を発足させた。党執行部は造反者や離党届提出者への処分案を取りまとめるが、同年7月4日に社会保障・税一体改革関連法案に批判的な加藤学が離党届を提出し、さらにその2日後に米長晴信が離党届を提出したことから、再び処分案を見直す事態となった。また、同年7月17日には、野田の原子力政策に批判的な舟山康江、行田邦子、谷岡郁子が離党届を提出し、新たな会派「みどりの風」を結成した。その翌日には、野田の外交政策や社会保障・税一体改革関連法案に批判的な中津川博郷が離党届を提出した。地方議会議員の離党も相次いでおり、岩手県では党所属の地方議会議員のうち7割以上が離党する事態となった。
2012年9月19日、差別や虐待などの人権侵害事案の解決にあたる救済機関「人権委員会」を法務省の外局として新設するための人権救済機関設置法案を閣議決定した。慎重派の国家公安委員長松原仁が海外出張のため不在であり、野田の側近は「慎重な閣僚がいないから(閣議決定しても)いいじゃないか」と言明したという。 
2011

 

一定のめど / 2011年6月5日
6月1日、「菅内閣不信任決議案」が自民・公明・たちあがれ日本により共同提出されました。私も、野党の国対委員長時代に不信任案の文案をつくり、国会に提出したことがあります。しかし、今回の不信任案ほど「大義」も「展望」もないものは見たことがありません。
政府も国会も、被災地のことを片時も忘れることなく復旧・復興にむけて全力投球すべき時に、「政局」にエネルギーを費やす暇はないはずです。しかも、仮に不信任案が可決された後に、どのような政治体制にするのか、誰も思い描いていませんでした。余りにも無責任過ぎます。
翌2日、衆院本会議で採決が行われ、不信任案は否決されました。本来ならば、内閣が信任されたのですから混乱は終わるはずでした。ところが、新たなる政局の始まりになってしまいました。
私は、菅総理の民主党代議士会における「震災対応に一定のめどがついた段階で、若い世代に責任を引き継ぐ」という発言を、額面通りに受け止めています。「一定」も「めど」も解釈の幅のある言葉です。国のトップの出処進退は本人が決めることであり、その時期に含みをもたせるのは止むを得ないと思います。いつまでかをギリギリ詰める議論ばかりですが、それは野暮なことです。
私は、菅総理がだらだらと延命を図ろうとしているとは思いません。被災地のことを考えれば、可及的速やかに震災対応に一定のめどをつけなければならないからです。
私も、2次補正予算の編成や特例公債法の成立にむけて、自分の職責をしっかりと果たしていく決意です。  
私の覚悟 / 2011年8月15日
英エコノミスト誌8月2日号を見て、衝撃を受けました。表紙は富士山をバックに、着物姿でメルケル独首相とオバマ米大統領が並んでいるイラストです。タイトルは「日本化する欧米諸国」。副題は、債務とデフォルト(債務不履行)と政治の麻痺でした。
その中身は、ユーロ圏がまとめたギリシャ救済策や米国の債務上限問題への対応を、政治による指導力の欠如した中途半端なものだと厳しく弾ずるものです。そこで引き合いに出されるのが、バブル崩壊後の日本。以下のような記述が続きます。
「当面の危機が緩和したり回避されたとしても、真の危険は去らない。西側の政治システムは、危機から回復して先々繁栄していくために必要な難しい決断を下さないということだ。
これと同じ状況を、世界はこれまでにも目にしてきた。今から20年前、日本経済のバブルが弾けた。それ以降、日本の指導者たちは、やるべきことを先延ばしにし、見せかけのポーズを取ってきた。長年にわたる政治の麻痺は、1980年代の行き過ぎた経済がもたらした害を上回る損害を日本に与えてきた。
日本経済はほとんど成長せず、地域における影響力は衰えた。国内総生産に対する公的債務残高の比率は世界一高く、米国の2倍、イタリアと比べても2倍近くに上っている。」
「危機は時に大胆なリーダーシップを生み出す。残念ながら、今はそうなっていない。日本はこれまで大半の期間、合意形成を図ろうとする弱い指導者に率いられてきた。オバマ大統領もメルケル首相も、多くの才能があるにもかかわらず、世論を先導するよりも、世論に従う方に長けている。
問題は指導者の個性だけではなく、政治構造の中にもある。
日本の政治の機能不全は、一党体制に根ざしていた。つまらない派閥争いは、2009年の自民党の選挙大敗や最近の津波を経てもなお生き延びている。」
「日本の政治家には、針路を変える機会が無数にあった。そして、その実行を先延ばしにすればするほど、実行は難しくなっていった。訪米の政治家たちは、この前例に学ばなければならない。」
わが国に対する海外メディアの厳しい視線を強く感じました。そして、「やるべき事をやっていない」と、多くの国民の方々こそが思っているのではないでしょうか。
今、日本の国政に最も求められているのは、危機に際して「やるべき事」を実行することです。民間の力を引き出し、政治家と官僚の英知を結集する仕組みを再構築することです。政治家に求められているのは、現実を直視し、困難な課題から逃げない、先送りにしない姿勢です。危機を乗り越え、新しい日本を立て直す姿勢です。
時機が来れば、私は、先頭に立つ覚悟です。  
記者会見 / 平成23年9月2日
本日、天皇陛下の親任を頂きまして、正式に内閣総理大臣に就任をさせていただきました。国民の皆さまに、私の野田内閣が取り組むべき課題と、そして私の政治姿勢についてお話をさせていただきたいというふうに思います。
まずは、本論に入る前に、3月11日に発災を致しました東日本大震災において、尊い命を失われた犠牲者の皆さまに心からご冥福をお祈りしたいと思います。また、いまだなお不便な避難生活を余儀なくされている被災者の皆さまに心からお見舞いを申し上げたいと思います。ただ今、お悔やみとお見舞い申し上げました、この震災からの復旧・復興、私どもの内閣については、菅内閣に引き続き、最優先の課題であるというふうに思っております。この震災の復旧・復興、これまでも政権として全力で取り組んでまいりました。しかし、仮設住宅の建設であるとか、がれきの撤去、あるいは被災者の生活支援、一生懸命取り組んでおりますけれども、まだ不十分というご指摘も頂いております。こうした声をしっかり踏まえながら、復旧・復興の作業を加速化させていくということが、私どもの最大の使命であるというふうに思います。
加えて、何よりも最優先で取り組まなければいけない課題は、原発事故の一日も早い収束でございます。福島原発の炉の安定を確実に実現をしていくということと、原発周辺地域における放射性物質の除染が大きな課題でございます。第1次補正予算、第2次補正予算、それぞれ除染については対応をしてまいりました。しかし、より緊急により大規模にその除染を推進をするために、まず予備費の活用をさせていただき、そして引き続き東日本の大規模な除染を国が先頭に立って、省庁の壁を乗り越えて実施をしていく必要があると考えております。また、特にチルドレンファーストという観点から、妊婦そして子どもの安心を確保するために全力を尽くしていきたいと考えています。代表選挙の時にも申し上げさせていただきましたけれども、福島の再生なくして日本の再生はございません。この再生を通じて日本を元気にするとともに、国際社会における改めて信頼を図るという意味からも、全力で取り組んでいきたいと考えております。
もう一つ、大事なことは、世界経済における様々な危機における対応でございます。私は、産業空洞化の回避、エネルギー制約の中での経済の立て直し、加えて震災の前からの危機、財政の危機にしっかりと対応することによって、国家自体の信用危機に陥るということのないように、すべての危機に対応策を講じていきたいと思います。まずは、歴史的な円高で、空前の産業空洞化の危機を感じざるを得ません。財務大臣の頃から、必要なときには、更なる為替介入も辞さずとの姿勢で各国と連携をしてまいりました。これからも、各国ときっちりと連携をしながら対応させていただきたいと思いますが、国内的に円高対策は、待ったなしの状況だと思います。立地補助金の拡充、昨年来、経済対策の一貫として約1400億円規模の立地補助金を講ずるということをやってまいりましたけれども、更なる拡充が必要であるというふうに認識をしています。
そして、この円高・デフレの中で呻吟をしている、特に資金繰りでお困りになっているたくさんの中小企業があると思います。中小企業の資金繰り対策などの経済対策を果敢に実行をしていきたいと思います。併せて、円高、もちろん今の震災から立ち直ろうとしている日本経済に、経済の実態からもあるいは金融面からも悪影響が出つつありますけれども、一方で円高によるメリットというものもあります。先般、海外の資産やあるいは企業を買収するようなことができるような1000億ドルの対策も講じましたけれども、こうした円高メリットも活用するような対策も引き続き講じていきたいと考えております。
次に、エネルギーの制約克服についてでございます。電力は経済の血液であります。国民生活の基盤であります。今年の夏の計画停電を回避できたのは、産業界の皆さん、そして国民の皆さまの節電のおかげでございました。短期での需給不安を払拭しながらも、中長期的な電力エネルギー計画を見直しをするということに取り組んでいきたいと思います。当面は、ストレスチェック等々踏まえて安全性をきっちりと確保しながら、地元の皆さまのご理解を前提に定期検査の原発を再稼働、規定方針に従い、安全規制は、保安院を経産省から分離、こうした体制づくりをしっかりと行っていきたいと考えております。
財政健全化については待ったなしの状況です。ただし私は決して財政原理主義者ではありません。現実主義の対応をさせていただきたいと思います。成長なくして財政再建なし、財政再建なくして成長なしと、何度も申し上げてまいりました。このバランスを取るというやり方は、これからもしっかりと堅持をしていきたいと思います。
その前に、徹底的な無駄削減のための行政刷新を推進をしていく決意であります。加えて、政府与党の間でまとめました税と社会保障の一体改革、成案についてはそれを具体的に実行をするべく、与党内での議論を更に具体的な制度設計に向けて進めていくとともに、与野党の協議を丁寧に進めさせていただきたいと考えております。こうした厳しい状況のなか、先ほど申し上げたとおり震災からの復旧・復興、そして原発、こういう問題からのまず危機を乗り越えることと、今申し上げたような経済が今直面をしている様々な危機を乗り越えること、これが、私どもの内閣の当面のそして最優先の課題でございますけれども、こうした危機によって内向きになっているだけではダメだと考えています。今こそ、海外に雄飛をし世界の課題を解決し、人類の未来に貢献をする高い志を持ちながら、海洋・宇宙への取組、あるいは豊かなふるさとをつくるための取組、人材育成にフロンティアあり、こういう考え方の様々な政策の推進も進めていきたいと考えています。
新興国が台頭し、世界は多極化しています。アジア太平洋を取り巻く安全保障環境は大きく変動しつつあります。こうした中で、時代の求めに応える確かな外交、安全保障政策を進めなければなりません。その際に軸となるのは、私はやはり日米関係であると思いますし、その深化・発展を遂げていかなければならないと考えています。昨晩もオバマ大統領と電話会談をさせていただきました。私の方からは、今申し上げたように日米関係をより深化・発展をさせていくことが、アジア太平洋地域における平和と安定と繁栄につながるという、基本方針をお話をさせていただきました。国連総会に出席をさせていただく予定でありますけれども、直接お目にかかった上でこうした私どもの基本的な考え方を明確にしっかりとお伝えをするところから、日米関係の信頼、そのスタートを切っていきたいと思います。
中国とは戦略的な互恵関係を、これも発展をさせていくということが基本的な姿勢でございます。日中のみならず、日韓、日露など、近隣諸国とも良好な関係を築くべく全力を尽くしていきたいと思います。なお、経済外交については今まで通貨や国際金融という面で私なりに取り組んでまいりましたけれども、これからはより高いレベルの経済連携あるいは資源外交等々の多角的な経済外交にも積極的に取り組んでいきたいというふうに思います。特に、元気なアジア太平洋地域のその元気を取り込んでいくことが我が日本にとっては必要だと考えています。こうした観点からの経済外交の推進にも積極的に取り組んでいきたいというふうに思います。
先ほど、国連総会についても多少言及させていただきました。今般の日本の原発災害経験を教訓として、私どもが今取り組んでいること、教訓としていることについても、発信をしていきたいと考えております。早急に主要国の首脳と信頼関係を築くべく、どんどんとこうした海外の主要国との皆さんとの交流も深めていきたいと考えております。以上、私の基本的な当面の課題についての取組と、政治姿勢についてのご説明とさせていただきました。
もっと申し上げたいことはいっぱいありますけれども、理念としてはまさにこの国内においては、何度もこれまで申し上げてまいりましたけれども、中間層の厚みがあったことがこの日本の強み、底力でした。残念ながら、被災地も含めて中間層からこぼれ落ちてしまった人たちが戻れるかどうかが大事だと思います。そうした視点から、まさに国民生活が第一という理念を堅持しながら、中間層の厚みがより増していくようなこの日本社会を築いていきたいと思います。
そして内政が安定して、政治が信頼をされて、ひとつひとつ課題を乗り越えていったときに、ようやく外交力の源泉が生まれてくるだろうと思います。目まぐるしく動く国際情勢のなかで一国財政主義、一国経済主義に陥ってはなりません。そのことをしっかり十分留意をしながら、まず内政で安定した基盤を作りながら、そして元気になった日本がこれまで以上に国際貢献が出来るような、そういう体制を一日も早く作れるように全力を尽くしていきたいということを付言をさせていただきまして、まずは私の冒頭のご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。
【質疑応答】
● 幹事社の時事通信の水島です。総理、よろしくお願いします。野党との関係について、お伺いいたします。総理が呼び掛けました震災復興や税制改正に関する実務者協議ですが、自民党の反応を見ますとどうも慎重なようであります。具体化に向けた筋道を、総理はどのように描いてらっしゃるのでしょうか。また大連立を視野に入れているというお立場には変化がないのでしょうか。それから自民党は3次補正が成立した後に衆院の解散を求めておりますが、総理は過去の著作で正統性のない政権が国政の舵取りを担うことは好ましくないという趣旨の記述もされておられますけれども、現時点での衆院解散に関するご見解を教えてください。よろしくお願いします。
どうもありがとうございます。昨日、自民党谷垣総裁、そして石原幹事長、公明党の山口代表、井上幹事長とお話をする機会を頂戴いたしました。私の問題意識は、今、率直にこの日本の抱えてる課題、その問題意識を共有していただくとともに、そしてそれについて正に国難でありますので、一緒に信頼関係を築きながら政策実現をし、そして一緒に成果を挙げていきたいという思いから、自分なりの思いをお伝えをさせていただいた次第です。
具体的には、当面は今ご指摘のあったとおり復旧・復興です。復旧・復興策、それぞれの党によってそれぞれの提案があります。そういうものを踏まえて第3次補正予算に結実をしていきたいと考えています。そのためにもこれは同じ土俵に乗って十分議論できる、被災者のために、国民のために、お互い政党、政派の立場を乗り越えて、早急に課題解決の、その成果を出すことが出来るのではないかという思いで、ご提起を致しました。
加えて第3次補正を作る際には、税制改正、租税特別措置の問題はクリアをしました。寄付金税制などの一部の政策税制についてはクリアして、ただ税制改正の本体が残っていますね。法人税減税等々、その議論を第3次補正と併せて行うことになっているので、それはこれまでも実務者の協議をやってきていますので、その税制に対するプロジェクトも作りましょうよと、加えてその先には復興財源どうするかという議論も出てきますので、そういう議論をしましょうよというご提案をしました。
それから、依然としてさっき私も触れた円高の問題等がございますので、経済対策についてどうするかと、少なくとも当面の課題について意見交換をして、知恵を出していきましょうというご提案をさせていただいたわけであります。
私は問題意識についても十分共有していただいたのではないかと思います。後は、幹事長、政調会長のレベルでどういう形の仕掛けの中で議論をしていくかというところ、色々党内のご意見とか手続き論もあるようでございますが、そこの一線を早く乗り越えていただいて、早く議論をさせていただければな、という強い願望を持っている次第であります。
解散総選挙の時期のお話がございました。私はさっき申し上げたような様々な大きな問題が残っている状況の中で、少なくとも復興の問題は今年中にケリがつく話ではありません。今年は第3次補正予算どうするかという議論もありますけれども、引き続き復興に向けての取組は必要でありますし、経済についてもこれはこれからも引き続き様々な努力が必要であろうと思いますので、政治空白を作れる状況ではないというのが私の基本的な認識でございます。
● 日本経済新聞の犬童です。よろしくお願いします。先ほどの関連なんですけれども、税制改正について言及されましたが、経済政策を間断なく実行していくと昨日、経団連の米倉さんに、総理おっしゃいましたけれども、何をやるにもやはり財源が避けて通れないということで2つ質問したいんですが、復興増税ですね、まず。これは代表選の時も賛否が分かれまして、焦点になっているんですけど、来年度実施するということについて総理は一時言及されておりましたが、来年実施、あるいは来年度実施どちらかわかりませんが、総理はその意向に変わりはないのかということが一つ。もう一つは、税と社会保障の一体改革なんですが、これに関連して2010年代半ばまでに消費税率を10%までに引き上げる、という関連法案ですね、税法の付則に書いてある通り、来年の3月までに法案を国会に提出するという、その考え方に変わりはないのか。そしてその法案は来年の通常国会に出すという決意に変わりはないのか、その2点についてお願いします。
財源なくして、政策なしというのは基本的な立場です。復興は大事です。そのためのお金をどういう形で捻出をするかということは、併せてしっかり議論しなければなりません。その際の大事な前提というのは私は二つあると思っておりまして、一つは復興の基本方針です。これは閣議決定をこれまでしてまいりました。将来世代に負担を残すのではなくて、今を生きる世代が連帯して負担を分かち合うというこの理念のもとで、財源の話をしていくというのが基本です。それからもう一つは復興基本法です。仮に復興債を発行する場合には、その償還の道筋を明らかにするということが、これ法律に書かれています。これは与野党が合意をしたことです。この2つの基本方針と法律に基づいて対応するということが、筋だろうと思っております。
ということは徹底した歳出削減の取組、税外収入の確保、国有財産の売却、あらゆることをやります。その上で足りない部分についてはどうするかは、これは時限的な税制措置を取るというのが、今の二つの基本方針と法律から導き出せる結論だと思います。ただし経済情勢はよく勘案しなければなりません。何が何でも原理主義でということではないですね。だから、時限的な税制措置を取る場合にも、いつから始めるのか、償還の期間はどれぐらいにするのか、仮に税制措置を取る場合には基幹税を始めとして検討するということになっていますが、その組み合わせはどうするのか、様々な選択肢が出てくると思います。今回新しい体制を早急に作らせていただいて、政府税調の、特に作業部会の議論を早くスタートさせてその複数の選択肢を早く示していただいて、執行部に提出をしていただくと。それを踏まえて与野党の協議をしていくという段取りをとっていきたいというふうに思います。それから税と社会保障については、いろいろ侃々諤々の議論がございましたけれども、成案をまとめました。その成案の中に付則104条に基づいて、税制の抜本改革については平成23年度中に法律を提出をするということになっています。平成23年度中ということは来年の3月までに、その準備はきちっとやっていきたいと思います。この法律の整備をすることが、即なんとなく増税というイメージを持たれる方がいらっしゃいますけれども、これは方針に書いてあるとおり、成案に書いてあるとおり、2010年代半ばまでに段階的に実施をするわけです。いつから実施をするということは、この成案の中に書いてある行革の取組であるとか、経済状況が好転するかどうかとか、そういうことを勘案をするわけですので、法律を作ったから即実施だと勘違いをしている方がいらっしゃいますが、そういう今申し上げた成案に書いてあることを法文に書くことが大事であるということで、これは誤解が無いようにお願いしたいと思います。
● 復興増税については来年度から実施になるのですか。
来年度にするかどうか。始期、スタート、それから償還期間、これは多様な選択肢の中から出てくるものを選び取っていきたいと思います。
● 読売新聞の穴井と申します。総理は怨念の政治を乗り越えるとおっしゃいましたけれども、今回の人事によって、これまで小沢元代表を中心とした反小沢、脱小沢、親小沢という対立は乗り越えられるとお考えでしょうか。また今後、小沢元代表の党員資格停止処分の解除を求める声がありますけれども、どのように挙党態勢を作っていくお考えでしょうか。
代表選挙のときに、怨念の政治はもうやめましょうと、脱何とかとか、反何とかとか親何とかとか、そういうのはやめようと。自分たちの行動の正統性を主張するために、反とか親とか付けるようなことは好ましくないという思いで申し上げました。そして代表選挙の結果が出た後には、もうノーサイドにしましょうとお訴えをしました。言葉だけではなくて、具体的にどういう形で人事で表れるかについては、自分なりに心を砕いて党の、党内人事の骨格を決めさせていただき、今日発表させていただいた、組閣をしたつもりでございます。評価はどういう形で評価をしていただくかどうかは分かりませんが、私なりにはそういう意味での、基本を抑えながらその上で適材適所の人選をさせていただいたつもりであります。これからもそういう姿勢を具体的にやっていきたいと思います。で、後段が何か・・。
● 党員資格停止処分。
これは過去の執行部が何か月もかけて丁寧にまとめた結論というものをしっかり踏まえるということが原則だと思います。その上で、改めてそうした経緯というものを新しい体制の中で良くお聞きをしていくという作業も必要だろうと思いますけれども、これは特に何か急変をするとかいうことではなくて、あわてずにしっかりと旧執行部のお話などを今は聞いていくという作業だろうと思っています。
● フィナンシャルタイムズのミュア・ディッキーです。まず総理ご就任おめでとうございます。エネルギーの政策ですが、今点検などのために停止している原子炉を再び動かすのはどのくらい早く再稼働できるでしょうか。それと建設中の原発でまだできあがっていないものは、今後スイッチ入れられることはないでしょうか。
新規の建設予定、14基あると思いますが、私は新たに作るということはこれはもう現実的には困難だというふうに思います。そしてそれぞれの炉が寿命が来る、廃炉にしていくということになると思います。寿命に来たものを更新をするということはない。廃炉にしていきたいというふうに思います。その上で、当面の話です。今のこれは基本的な姿勢ですよね。当面の問題なんですけれども、これはさっきの冒頭のご挨拶のところにも触れたように、ストレステスト含めて、安全性を厳格にチェックした上で、稼働できると思ったものについては、これは地元の皆さまのご理解をいただくためにしっかりと地元の皆さまにご説明をしながら再稼働をしていって、特にこの夏と冬については、これは電力の需給関係見ると何とか乗り越えることができると思いますが、来年についてはちょっと幾分心配なところがございますので、そういうことで、再稼働できるものについては、しっかりとチェックをした上でですよ、安易ではありません、安全性をしっかりチェックした上で、再稼働に向けての環境整備、特に地元のご理解を頂くということを当面はやっていくことが必要だろうというふうに思っています。
● 共同通信の松浦です。よろしくお願いします。総理は在任中に靖国神社を参拝するお考えはありますでしょうか。またそのするしないの、その理由もお聞かせ下さい。それと、総理は2005年に、A級戦犯は戦争犯罪人ではないという趣旨の質問主意書を提出されておりますけれども、これは東京裁判を否定する趣旨なのでしょうか。それとそのA級戦犯については道義的責任等何らかの責任は何もないというふうにお考えなんでしょうか。お願いします。
前段、靖国に参拝するかどうかですけど、これはこれまでの内閣の路線を継承して、総理、閣僚公式参拝はしないということをしていきたいというふうに思います。いろんなお考えはあると思いますけれども、いわゆる国際政治等々、総合判断をすることによってそうしたことが必要だろうというふうに思います。
2005年の私の質問主意書についての背景、考え方についてのお尋ねでございました。一人の政治家としての、いわゆる法的解釈に基づいて、A級戦犯といわれた人たちの法的な立場の確認をするという意味での質問主意書を私は作りました。政府の立場でございますので、出てきた答弁書を踏まえて対応するというのが基本的な私の姿勢であります。従って、東京裁判云々ということではなくて、まさに法的な解釈に基づく法的な立場の確認をしたという質問主意書だとご理解いただきたいと思います。
● ビデオニュースの神保です。原発の再稼働についてちょっと追加で質問したいのですが、総理は今ストレステストで稼働できるもの、しっかりとチェックした上で稼働されるとおっしゃいましたが、現時点で、そのストレステストの結果を評価する体制も依然として、今までどおりの保安院が経産省の内部にあるというような今までどおりの体制になっています。それで、4月からこれを変えるという計画があるということは存じ上げておりますが、それまでの間、現在の体制のままでストレステストの評価をして、それをしっかりとチェックをしたら再稼働されるというおつもりなのか、それともその体制がきちっとできてから初めてそのしっかりとしたチェックというものが可能であるとお考えなのか。この辺をお願いします。
現体制でのチェックに対する信頼感というのは、私は多分国民の皆さんはそんなに無いと思うんです。じゃあ来年の4月まで待てるのかと、環境省の中においてという対応が待てるのかというと、それでは遅すぎると思うんです。ちょうど過渡的なんですよね。過渡的な中で、国民の皆様の不安をなくすためにどういう形のものができるかということを、これは原発担当大臣含めてしっかりと、ちょっと議論をしながら早急に詰めていきたいというふうに思います。
● 日本テレビの佐藤です。今回の役員人事、閣僚人事見てまして、やはりかなり党内のバランスに配慮したなというふうに個人的に思ってるんですけれども、総理自身は今回の人事の狙い、どこに重点を置いたのか。また世間ではもう「ナマズ内閣」と言われてるんですけれども、ご自分でニックネーム付けるとしたらどういう名前付けられるか。お願いします。
いろんなバランスは考えたことは事実ですが、基本的には適材適所なんです。適材適所。さっき申し上げたようにいろんな課題を日本は抱えてる中で、どの方がこの分野で力強く力を発揮していただけるのが良いのかなということがもちろん最終的な基準でありますので、適材適所の中で様々な要素をバランス良く考えたということです。それをどう評価していただくかどうかは、これは皆さまの受け止め方だと思いますので、大体それぞれの社内もいろいろな人事があると思いますが、万人が納得する人事というのはなかなかありませんよね。その中でも私なりの判断で決めさせていただきました。
キャッチフレーズ、スローガン、これは私あえて言いません。自分も選挙やってると自分の勝手なスローガンやるんです。浸透するとは思いません。歴代の内閣もいろんな事をキャッチフレーズ作りました。そのままそうだったかというと、決してそうじゃないですよね。あえてそういうことは言いません。ましてドジョウだナマズだという話はしません。これは我々が黙々と仕事をした中で、泥くさく仕事をした中で、政治を前進させた中で、国民の皆さんがどういう評価をするか、そこから出てくる言葉が本物だと思いますので、これはむしろ国民の皆様にいずれ名付けていただくような内閣という位置付けにしたいと思います。
● 産経新聞の阿比留と申します。民主党政権になって今回で拉致担当相がもう5人目になるということで、家族会の皆さんも少々がっかりしていらっしゃるようですけれども、今回菅さんが辞める直前になって、北朝鮮に誤ったメッセージを送りかねない、朝鮮学校無償化の検討指示をされました。これについては、拉致問題に何の進展も無くこういう状況下にある中で突然こういうことを言われるということに対して、北朝鮮に対して日本が何かこう、おかしいことを、メッセージを送るという指摘がありました。総理はこの菅さんの指示を見直すお考えなどありませんでしょうか。
まず、拉致問題担当の閣僚がころころ変わる、これは拉致問題だけではなくて、本当に申し訳ないのですけれども、様々な分野の閣僚が割と早い時期に交代せざるを得なくなったこと、拉致問題も含めて、その継続性という意味で、まず信頼を取り戻していくことがこの内閣の最初の課題かなというふうに受け止めています。今の朝鮮学校の問題でありますけれども、これは8月29日に菅総理から文科大臣に指示をされたということと承知をしています。その背景としては、昨年の11月に砲撃事件がございました。その後そういう軍事的な動きがなかったということと、それから7月の米朝の対話、南北の対話等のそういう機運を含めて、少し環境が砲撃の前に戻りつつあるんではないかという、そういう判断があったのではないかと思います。推察を致します。しかし、これからの手続きは、これ文科大臣が行うんですね。その審査を。私は厳正に審査をしていただきたいというふうに思っています。
● フリーランスの島田と申します。よろしくお願いします。就任おめでとうございます。円高対策について伺いたいんですけれども、これまで財務大臣として円高介入を辞さずと、言っておりました。その円高介入がその円高にちゃんと効果があったかどうかというのはまだかなり不安な部分がありまして、これだけその、総理大臣として円高の対策として、例えば金融政策も合わせてやるとか、もう少し包括的な大きな流れで考えがあればお聞かせ下さい。
私、財務大臣中、昨年の9月とそして今年の3月と8月と、三回単独、協調、単独と介入させていただきました。その効果については、これはもう皆さんのご判断を仰ぎたいと思いますけれども、急激な変動があったとき、いわゆる過度な変動ですね。あるいは無秩序な動きがあったときの対応として、私はそれは一定の政策効果があったというふうに思います。ただし、その流れが、過度な変動とかあるいは無秩序な動きとは違う、もっと底堅い流れについての対応が、多分今ご指摘の、あるいはご懸念の点なのだろうと思います。一つには、さっきこれから3次補正も含めて経済対策を講じなければいけないといった中で、まさに企業の立地補助金であるとか、あるいは中小企業の金融支援とか、等々やっていかなければならないと思います。あるいは、いわゆる円高メリットを生かした方策、これまでもやってきましたが、それをやっていきたいと思います。もう一つやっぱり大事な視点は金融政策なんだろうと思います。私は、これ問題意識は日本銀行も相当持っていただいていると思いますし、私どもが介入したときにも、いわゆる資産買い入れについては大幅に拡充するようなそういう政策も出していただきました。これからも緊密に連携を取りながら、問題意識を共有をしながら、金融政策自体はこれ日銀がやるわけでありますけれども、我々とまさに問題意識を共有しながら適宜適切に対応していただけるように、そして日本経済を金融から下支えしていただくようにしっかり協調していきたいというふうに考えております。
● 朝日新聞の坂尻といいます。今日は野田総理として初めての記者会見ですのであえてお伺いさせていただきます。それは総理に対するぶら下がりの取材というものについてです。これは自民党の政権時代から、平日は毎日、総理が立ち止まった形になっていただいて問い掛けに答えていただくということをしておりまして、これは政権交代後、鳩山政権、菅政権も基本的に踏襲していただきました。ただ残念なことに、菅政権の際、前任の菅さんは、東日本大震災の発生で多忙になったという理由で途中で打ち切られてしまいました。その後再三に渡って元に戻すことを求めていたんですけれども、最後まで聞いていただけなかったという経緯がございます。もちろん野田総理も国民との対話を重視されていることと思いますし、目下のところ震災復興は焦眉の急ではありますが、毎日のように危機管理センターを設置するというような状況は脱したのではないかというふうに見受けております。ですから、この際、我々の問い掛けに対してきちんと立ち止まって答えていただくという機会を元のように戻していただきたいと思っているんですが、その点について総理のお考えをお聞かせ下さい。
そういうご要請があったというふうに承りました。ただ前任の菅さんも様々なお考えがあって対応されたのだろうと思いますので、菅さんからよくそのお考えの背景であるとか、お聞きをしながら検討をさせていただきたいというふうに思います。
● 毎日新聞の田中です。原発に関して伺います。先程総理は、古い原発について更新せず廃炉していくとおっしゃいました。その一方で、新増設については現実的には難しいだろうということで、そうすると、総理として、長期的、将来的な社会、経済社会を考えた場合に、将来的には原子力発電に頼らずに社会を運営していくということまで視野に入れたことでそういうふうにおっしゃってるんでしょうか。その点お聞かせ下さい。
頼らずにというのはそうですね。脱原子力依存ということは頼らずにと、将来的にですよ。今申し上げたように寿命が来たら廃炉、新規は無理、という一つの基本的な流れ。併せて新しいエネルギーの開発、自然エネルギーの代替的普及、あるいは省エネ社会を着実に推進をさせるというその流れの中で、これきっちりと丁寧に、エネルギーの基本的な計画を作り上げていかなければいけないというふうに思います。そして国民の不安を取り除く形の、まさにエネルギーのベストミックスというものを是非構築をしていきたいというふうに考えています。という中長期的な話と、当面の問題はさっき言ったとおりであります。すぐに依存を完全にゼロというのは無理ですから、時系列的にこれ整合的な話になるようなものにしていきたいなというふうに思います。
● テレビ朝日の山崎です。TPPについて伺います。今回経済産業大臣に任命されました鉢呂さんはご存知のとおり農業関係の出身の方で、TPPにはどちらかというと慎重な方と思いますけれども、この方を起用したのは今後そういうTPPを変えていくというメッセージなのか、それとも今後TPPについては、今年11月にハワイでAPECもありますけれども、今後どういう推進をしていくんでしょうか。
別に鉢呂さんの起用を、TPPに慎重にしろとか、反対にしろという立場で起用しているわけではありません。鉢呂さんはご自身のいろんなお考えを持ちながらもしっかりと現実的な対応をする方だということでございますので、例えば原発の問題も、あるいはTPPの問題もしっかり、様々な意見を聞きながら対応していただける方だというふうに思っておりますので、一定のそういう色、カラーで選んでいるということではございません。TPPについてはこれ従来からの政府の方針どおり、しっかり情報収集をしながら、そしてその総合的な判断をする、早期に結論を得るということをしていきたいと思います。
● 東京新聞の三浦と申します。よろしくお願いします。復興増税と消費税についてお尋ねしたいのですが、先程その償還の時期、あるいは税率引き上げの時期についておっしゃいましたが、長い目で見れば増税が行われるのではないかという不安を多くの国民が抱いていると思います。その一方で総理は中間層の厚みを増していくとおっしゃいましたけれども、長い目で増税という流れができる中でどうやって中間層の厚みを増していくのか、この点についてお考えをお聞かせ下さい。
これは例えば、増税だと全部国民生活がマイナスという前提だと思います。税負担をお願いをすることによってそれは当然家計に影響をする。どの税目触るかによって違いますけどね。でも、そういう形でじゃあ作ったお金をどういう分野に投資をするのか、そこからまさに景気が上向くという要素もあるわけであります。生きたお金を使っていくという方向。そして内外の信認を得るということ等々、総合的な判断をしたときのプラスマイナスを考えるべきだろうと思いますし、特に経済への影響が心配ならば、それはなるべくなだらかなやり方ということもあるだろうと思います。問題は、財源なくして政策なしと私申し上げました。じゃあそういう形じゃなかったら、将来の世代に負担を負わせるのかという議論になります。その問題は、大震災によって、本当に大変だ日本はと、復旧してほしい復興してほしいと思っている国々はありますが、一方でそれぞれの国が財政健全化に一生懸命取り組んでいるときに、日本の財政規律はどうなのかと見られた場合に、妙な判断をされることは、これは避けなければなりません。という、成長と、まさに財政のバランスを取るということが私どもの一番の政権の課題と申し上げましたけれども、今の復興の問題も税と社会保障の問題も、具体的なテーマとしてはこれをどうやっていくかということが、まさに回答が一番大事、どういう回答を出すかが大事だというふうに思っているということであります。 
日本のために / 2011年9月4日
この度、民主党の新しい代表に就任し、第95代内閣総理大臣を拝命いたしました。
徒手空拳で政治活動を始めてから25年、途中一度の落選を挟みながらも、多くの皆様に支えていただき、一歩一歩坂を上ってきました。力強く励ましていただいたお顔、一緒に泣いていただいたお顔、未熟ぶりを厳しく叱っていただいたお顔、多くのお顔が瞼に浮かび、万感胸に迫るものがあります。心より感謝申し上げます。
わが国は、内外ともに難題に直面しています。東日本大震災からの復旧・復興、原発事故の収束、円高、デフレ対策、財政改革、いずれも喫緊の課題であり、国の総力をあげて取り組まなければなりません。
私は、まず民主党が挙党一致で取り組む体制を築きたいと思います。政権を運営するということは、雪の坂道をまさに雪だるまを押し上げていくようなものです。だんだんと雪だるまはかさんで大きくなっていきます。そんなときに、あの人が嫌い、この人が嫌いなどと内輪もめをしていたら、あるいは手を抜いたら、雪だるまは転げてまいります。雪だるまを前進させて、国民のための政治を実現するために、民主党の力を結集する体制をつくります。
そして、いま、夜の闇、夜の冷たさの中で、灯りと暖かさを求めている人々のための政治、弱者に光を当てる政治をすすめていきます。「国民の生活が第一」という民主党の理念を大切にし、日本の底力であった中産階級の厚みを取り戻すために、野党の皆さんとも誠意をもって協議し、見合いの財源の確保等、課題を一つ一つ乗り越えながら、粘り強く努力していきます。
代表選の演説でも述べましたが、相田みつをさんの「どじょうがさ 金魚のまねすることねんだよなあ」という言葉のように、どじょうが金魚のようにふるまおうとしても力は発揮できません。どじょうはどじょうの持ち味を生かして、泥臭くとも粘り強く、国民のために汗をかいて働いて、難局を切り拓いていきたいと思います。そして、重たい雪だるまをもう一回坂の上に持っていって、国民が「政権交代をしてよかった」と思えるよう、全身全霊を傾ける覚悟です。  
第百七十八回国会・所信表明 / 平成23年9月13日
一 はじめに
第百七十八回国会の開会に当たり、東日本大震災、そしてその後も相次いだ集中豪雨や台風の災害によって亡くなられた方々の御冥福をお祈りします。また、被害に遭われ、不自由な暮らしを余儀なくされている被災者の方々に、改めてお見舞いを申し上げます。
この度、私は、内閣総理大臣に任命されました。政治に求められるのは、いつの世も、「正心誠意」の四文字があるのみです。意を誠にして、心を正す。私は、国民の皆様の声に耳を傾けながら、自らの心を正し、政治家としての良心に忠実に、大震災がもたらした国難に立ち向かう重責を全力で果たしていく決意です。まずは、連立与党である国民新党始め、各党、各会派、そして国民の皆様の御理解と御協力を切にお願い申し上げます。
あの三月十一日から、はや半年の歳月を経ました。多くの命と穏やかな故郷での暮らしを奪った大震災の爪跡は、いまだ深く被災地に刻まれたままです。そして、大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故は、被災地のみならず、日本全国に甚大な影響を与えています。日本の経済社会が長年抱えてきた課題は残されたまま、大震災により新たに解決が迫られる課題が重くのしかかっています。
この国難のただ中を生きる私たちが、決して、忘れてはならないものがあります。それは、大震災の絶望の中で示された日本人の気高き精神です。南三陸町の防災職員として、住民に高台への避難を呼び掛け続けた遠藤未希さん。防災庁舎の無線機から流れる彼女の声に、勇気づけられ、救われた命が数多くありました。恐怖に声を震わせながらも、最後まで呼び掛けをやめなかった彼女は、津波に飲まれ、帰らぬ人となりました。生きておられれば、今月、結婚式を迎えるはずでした。被災地の至るところで、自らの命さえ顧みず、使命感を貫き、他者をいたわる人間同士の深い絆がありました。彼女たちが身をもって示した、危機の中で「公」に尽くす覚悟。そして、互いに助け合いながら、寡黙に困難を耐えた数多くの被災者の方々。日本人として生きていく「誇り」と明日への「希望」が、ここに見出せるのではないでしょうか。
忘れてはならないものがあります。それは、原発事故や被災者支援の最前線で格闘する人々の姿です。先週、私は、原子力災害対策本部長として、福島第一原発の敷地内に入りました。二千人を超える方々が、マスクと防護服に身を包み、被曝と熱中症の危険にさらされながら、事故収束のために黙々と作業を続けています。そして大震災や豪雨の被災地では、自らが被災者の立場にありながらも、人命救助や復旧、除染活動の先頭に立ち、住民に向き合い続ける自治体職員の方々がいます。御家族を亡くされた痛みを抱きながら、豪雨対策の陣頭指揮を執り続ける那智勝浦町の寺本真一町長も、その一人です。
今この瞬間にも、原発事故や災害との戦いは、続いています。様々な現場での献身的な作業の積み重ねによって、日本の「今」と「未来」は支えられています。私たちは、激励と感謝の念とともに、こうした人々にもっと思いを致す必要があるのではないでしょうか。
忘れてはならないものがあります。それは、被災者、とりわけ福島の方々の抱く故郷への思いです。多くの被災地が復興に向けた歩みを始める中、依然として先行きが見えず、見えない放射線の不安と格闘している原発周辺地域の方々の思いを、福島の高校生たちが教えてくれています。
「福島に生まれて、福島で育って、福島で働く。福島で結婚して、福島で子どもを産んで、福島で子どもを育てる。福島で孫を見て、福島でひ孫を見て、福島で最期を過ごす。それが私の夢なのです。」
これは、先月、福島で開催された全国高校総合文化祭で、福島の高校生たちが演じた創作劇の中の言葉です。悲しみや怒り、不安やいらだち、諦めや無力感といった感情を乗り越えて、明日に向かって一歩を踏み出す力強さがあふれています。こうした若い情熱の中に、被災地と福島の復興を確信できるのではないでしょうか。
今般、被災者の心情に配慮を欠いた不適切な言動によって辞任した閣僚が出たことは、誠に残念でなりません。失われた信頼を取り戻すためにも、内閣が一丸となって、原発事故の収束と被災者支援に邁進することを改めてお誓いいたします。
大震災後も、世界は歩みを止めていません。そして、日本への視線も日に日に厳しく変化しています。日本人の気高い精神を賞賛する声は、この国の「政治」に向けられる厳しい見方にかき消されつつあります。「政治が指導力を発揮せず、物事を先送りする」ことを「日本化する」と表現して、やゆする海外の論調があります。これまで積み上げてきた「国家の信用」が今、危機にひんしています。
私たちは、厳しい現実を受け止めなければなりません。そして、克服しなければなりません。目の前の危機を乗り越え、国民の生活を守り、希望と誇りある日本を再生するために、今こそ、行政府も、立法府も、それぞれの役割を果たすべき時です。
二 東日本大震災からの復旧・復興
(復旧・復興の加速)
言うまでもなく、東日本大震災からの復旧・復興は、この内閣が取り組むべき最大、かつ最優先の課題です。これまでにも政府は、地元自治体とも協力して、仮設住宅の建設、がれき撤去、被災者の生活支援などの復旧作業に全力を挙げてきました。発災当初から比べれば、かなり進展してきていることも事実ですが、迅速さに欠け、必要な方々に支援の手が行き届いていないという御指摘もいただいています。この内閣がなすべきことは明らかです。「復興基本方針」に基づき、一つひとつの具体策を、着実に、確実に実行していくことです。そのために、第三次補正予算の準備作業を速やかに進めます。自治体にとって使い勝手のよい交付金や、復興特区制度なども早急に具体化してまいります。復旧・復興のための財源は、次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し、負担を分かち合うことが基本です。まずは、歳出の削減、国有財産の売却、公務員人件費の見直しなどで財源を捻出する努力を行います。その上で、時限的な税制措置について、現下の経済状況を十分に見極めつつ、具体的な税目や期間、年度ごとの規模などについての複数の選択肢を多角的に検討します。省庁の枠組みを超えて被災自治体の要望にワンストップで対応する「復興庁」を設置するための法案を早急に国会に提出します。被災地の復興を加速するため、与野党が一致協力して対処いただくようお願いいたします。
(原発事故の収束と福島再生に向けた取組)
原発事故の収束は、「国家の挑戦」です。福島の再生なくして、日本の信頼回復はありません。大気や土壌、海水への放射性物質の放出を確実に食い止めることに全力を注ぎ、作業員の方々の安全確保に最大限努めつつ、事故収束に向けた工程表の着実な実現を図ります。世界の英知を集め、技術的な課題も乗り越えます。原発事故が再発することのないよう、国際的な視点に立って事故原因を究明し、情報公開と予防策を徹底します。被害者の方々への賠償と仮払いも急務です。長期にわたって不自由な避難生活を余儀なくされている住民の方々。家畜を断腸の思いで処分された畜産業者の方々。農作物を廃棄しなければならなかった農家の方々。風評被害によって、故なく廃業に追い込まれた中小企業の方々。厳しい状況に置かれた被害者の方々に対して、迅速、公平かつ適切な賠償や仮払いを進めます。住民の方々の不安を取り除くとともに、復興の取組を加速するためにも、既に飛散してしまった放射性物質の除去や周辺住民の方々の健康管理の徹底が欠かせません。特に、子どもや妊婦の方を対象とした健康管理に優先的に取り組みます。毎日の暮らしで口にする食品の安全・安心を確立するため、農作物や牛肉等の検査体制の更なる充実を図ります。福島第一原発の周辺地域を中心に、依然として放射線量の大変高い地域があります。先祖代々の土地を離れざるを得ない無念さと悲しみをしっかりと胸に刻み、生活空間にある放射性物質を取り除く大規模な除染を、自治体の協力も仰ぎつつ、国の責任として全力で取り組みます。また、大規模な自然災害や事件・事故など国民の生命・身体を脅かす危機への対応に万全を期すとともに、大震災の教訓も踏まえて、防災に関する政府の取組を再点検し、災害に強い持続可能な国土づくりを目指します。
三 世界的な経済危機への対応
大震災からの復旧・復興に加え、この内閣が取り組むべき、もう一つの最優先課題は、日本経済の建て直しです。大震災以降、急激な円高、電力需給のひっ迫、国際金融市場の不安定化などが複合的に生じています。産業の空洞化と財政の悪化によって、「国家の信用」が大きく損なわれる瀬戸際にあります。
(エネルギー政策の再構築)
日本経済の建て直しの第一歩となるのは、エネルギー政策の再構築です。原発事故を受けて、電力の需給がひっ迫する状況が続いています。経済社会の「血液」とも言うべき電気の安定的な供給がなければ、豊かな国民生活の基盤が揺るぎ、国内での産業活動を支えることができません。今年の夏は、国民の皆様による節電のお陰で、計画停電を行う事態には至りませんでした。多大な御理解と御協力、ありがとうございました。「我慢の節電」を強いられる状況から脱却できるよう、ここ一、二年にかけての需給対策を実行します。同時に、二〇三〇年までをにらんだエネルギー基本計画を白紙から見直し、来年の夏を目途に、新しい戦略と計画を打ち出します。その際、エネルギー安全保障の観点や、費用分析などを踏まえ、国民が安心できる中長期的なエネルギー構成の在り方を、幅広く国民各層の御意見を伺いながら、冷静に検討してまいります。原子力発電について、「脱原発」と「推進」という二項対立で捉えるのは不毛です。中長期的には、原発への依存度を可能な限り引き下げていく、という方向性を目指すべきです。同時に、安全性を徹底的に検証・確認された原発については、地元自治体との信頼関係を構築することを大前提として、定期検査後の再稼働を進めます。原子力安全規制の組織体制については、環境省の外局として、「原子力安全庁」を創設して規制体系の一元化を断行します。人類の歴史は、新しいエネルギー開発に向けた挑戦の歴史でもあります。化石燃料に乏しい我が国は、世界に率先して、新たなエネルギー社会を築いていかなければなりません。我が国の誇る高い技術力をいかし、規制改革や普及促進策を組み合わせ、省エネルギーや再生可能エネルギーの最先端のモデルを世界に発信します。
(大胆な円高・空洞化対策の実施)
歴史的な水準の円高は、新興国の追い上げなどもあいまって、空前の産業空洞化の危機を招いています。我が国の産業をけん引してきた輸出企業や中小企業が正に悲鳴を上げています。このままでは、国内産業が衰退し、雇用の場が失われていくおそれがあります。そうなれば、デフレからの脱却も、被災地の復興もままなりません。欧米やアジア各国は、国を挙げて自国に企業を誘致する立地競争を展開しています。我が国が産業の空洞化を防ぎ、国内雇用を維持していくためには、金融政策を行う日本銀行と連携し、あらゆる政策手段を講じていく必要があります。まずは、予備費や第三次補正予算を活用し、思い切って立地補助金を拡充するなどの緊急経済対策を実施します。さらに、円高メリットを活用して、日本企業による海外企業の買収や資源権益の獲得を支援します。
(経済成長と財政健全化の両立)
大震災前から、日本の財政は、国の歳入の半分を国債に依存し、国の総債務残高は一千兆円に迫る危機的な状況にありました。大震災の発生により、こうした財政の危機レベルは更に高まり、主要先進国の中で最悪の水準にあります。「国家の信用」が厳しく問われる今、「雪だるま」のように、債務が債務を呼ぶ財政運営をいつまでも続けることはできません。声なき未来の世代に、これ以上の借金を押し付けてよいのでしょうか。今を生きる政治家の責任が問われています。財政再建は決して一直線に実現できるような単純な問題ではありません。政治と行政が襟を正す歳出削減の道。経済活性化と豊かな国民生活がもたらす増収の道。そうした努力を尽くすとともに、将来世代に迷惑をかけないために更なる国民負担をお願いする歳入改革の道。こうした三つの道を同時に展望しながら歩む、厳しい道のりです。経済成長と財政健全化は、車の両輪として同時に進めていかなければなりません。そのため、昨年策定された「新成長戦略」の実現を加速するとともに、大震災後の状況を踏まえた戦略の再強化を行い、年内に日本再生の戦略をまとめます。こうした戦略の具体化も含め、国家として重要な政策を統括する司令塔の機能を担うため、産官学の英知を集め、既存の会議体を集約して、私が主宰する新たな会議体を創設します。経済成長を担うのは、中小企業を始めとする民間企業の活力です。地球温暖化問題の解決にもつながる環境エネルギー分野、長寿社会で求められる医療関連の分野を中心に、新たな産業と雇用が次々と生み出されていく環境を整備します。また、海外の成長市場とのつながりを深めるため、経済連携の戦略的な推進、官民一体となった市場開拓を進めるとともに、海外からの知恵と資金の呼び込みも強化します。「農業は国の本なり」との発想は、今も生きています。食は、いのちをつなぎ、いのちを育みます。消費者から高い水準の安全・安心を求められるからこそ、農林漁業は、新たな時代を担う成長産業となりえます。東北の被災地の基幹産業である農業の再生を図ることを突破口として、「食と農林漁業の再生実現会議」の中間提言に沿って、早急に農林漁業の再生のための具体策をまとめます。農山漁村の地域社会を支える社会基盤の柱に郵便局があります。地域の絆を結ぶ拠点として、郵便局が三事業の基本的なサービスを一体的に提供できるよう、郵政改革関連法案の早期成立を図ります。また、地域主権改革を引き続き推進します。
四 希望と誇りある日本に向けて
東日本大震災と世界経済危機という「二つの危機」を克服することと併せ、将来への希望にあふれ、国民一人ひとりが誇りを持ち、「この国に生まれてよかった」と実感できるよう、この国の未来に向けた投資を進めていかなければなりません。
(分厚い中間層の復活と社会保障改革)
かつて我が国は「一億総中流」の国と呼ばれ、世界に冠たる社会保障制度にも支えられながら、分厚い中間層の存在が経済発展と社会の安定の基礎となってきました。しかしながら、少子高齢化が急速に進み、これまでの雇用や家族の在り方が大きく変わり、「人生の安全網」であるべき社会保障制度にも綻びが見られるようになりました。かつて中間層にあって、今は生活に困窮している人たちも増加しています。諦めはやがて、失望に、そして怒りへと変わり、日本社会の安定が根底から崩れかねません。「失望や怒り」ではなく、「温もり」ある日本を取り戻さなければ、「希望」と「誇り」は生まれません。社会保障制度については、「全世代対応型」へと転換し、世代間の公平性を実感できるものにしなければなりません。具体的には、民主党、自由民主党、公明党の三党が合意した子どもに対する手当の支給や、幼保一体化の仕組みづくりなど、総合的な子ども・子育て支援を進め、若者世代への支援策の強化を図ることが必要です。医療や介護の制度面での不安を解消し、地域の実情に応じた、質の高いサービスを効率的に提供することも大きな課題です。さらに、労働力人口の減少が見込まれる中で、若者、女性、高齢者、障害者の就業率の向上を図り、意欲ある全ての人が働くことができる「全員参加型社会」の実現を進めるとともに、貧困の連鎖に陥る者が生まれないよう確かな安全網を張らなければなりません。本年六月に政府・与党の「社会保障・税一体改革成案」が熟議の末にまとめられました。これを土台とし、真摯に与野党での協議を積み重ね、次期通常国会への関連法案の提出を目指します。与野党が胸襟を開いて話し合い、法案成立に向け合意形成できるよう、社会保障・税一体改革に関する政策協議に各党・各会派の皆様にも御参加いただきますよう、心よりお願いいたします。
(世界に雄飛し、国際社会と人類全体に貢献する志)
日本人が「希望」と「誇り」を取り戻すために、もう一つ大事なことがあります。それは、決して「内向き」に陥らず、世界に雄飛する志を抱くことです。明治維新以来、先人たちは、果敢に世界に挑戦することにより、繁栄の道を切り拓いてきました。国際社会の抱える課題を解決し、人類全体の未来に貢献するために、私たち日本人にしかできないことが必ずあるはずです。新たな時代の開拓者たらん、という若者の大きな志を引き出すべく、グローバル人材の育成や自ら学び考える力を育む教育など人材の開発を進めます。また、豊かなふるさとを目指した新たな地域発展モデルの構築や、海洋資源の宝庫と言われる周辺海域の開発、宇宙空間の開発・利用の戦略的な推進体制の構築など、新しい日本のフロンティアを開拓するための方策を検討していきます。
(政治・行政の信頼回復)
国民の皆様の政治・行政への信頼なくして、国は成り立ちません。行政改革と政治改革の具体的な成果を出すことを通じて、信頼の回復に努めます。既に、終戦直後の昭和二十一年、「国民の信頼を高めるため、行政の運営を徹底的に刷新する」旨の閣議決定がありました。六十年以上を経たにもかかわらず、行政刷新は道半ばです。行政に含まれる無駄や非効率を根絶し、真に必要な行政機能の強化に取り組む。こうした行政刷新は、不断に継続・強化しなければなりません。政権交代後に取り組んできた「仕分け」の手法を深化させ、政府・与党が一体となって「国民の生活が第一」の原点に立ち返り、既得権と戦い、あらゆる行政分野の改革に取り組みます。真に国民の奉仕者として能力を発揮し、効率的で質の高い行政サービスを実現できるよう、国家公務員制度改革関連法案の早期成立を図り、国家公務員の人件費削減と併せて、公務員制度改革の具体化を進めます。政治改革で最優先すべき課題は、憲法違反の状態となっている一票の較差の是正です。議員定数の問題を含めた選挙制度の在り方について、与野党で真剣な議論が行われることを期待します。
五 新たな時代の呼び掛けに応える外交・安全保障
(我が国を取り巻く世界情勢と安全保障環境の変化)
我が国を取り巻く世界の情勢は、大震災後も、日々、変動し続けています。新興国の存在感が増し、多極化が進行する新たな時代の呼び掛けに対して、我が国の外交もしっかりと応えていかなければなりません。我が国を取り巻く安全保障環境も不透明性を増しています。そうした中で、地域の平和や安定を図り、国民の安全を確保すべく、平時からいかなる危機にも迅速に対応する体制をつくることは、国として当然に果たすべき責務です。昨年末に策定した「新防衛大綱」に従い、即応性、機動性等を備えた動的防衛力を構築し、新たな安全保障環境に対応していきます。
(日米同盟の深化・発展)
日米同盟は、我が国の外交・安全保障の基軸であり、アジア太平洋地域のみならず、世界の安定と繁栄のための公共財であることに変わりはありません。半世紀を越える長きにわたり深められてきた日米同盟関係は、大震災での「トモダチ作戦」を始め、改めてその意義を確認することができました。首脳同士の信頼関係を早期に構築するとともに、安全保障、経済、文化、人材交流を中心に、様々なレベルでの協力を強化し、二十一世紀にふさわしい同盟関係に深化・発展させていきます。普天間飛行場の移設問題については、日米合意を踏まえつつ、普天間飛行場の固定化を回避し沖縄の負担軽減を図るべく、沖縄の皆様に誠実に説明し理解を求めながら、全力で取り組みます。また、沖縄の振興についても、積極的に取り組みます。
(近隣諸国との二国間関係の強化)
今後とも世界の成長センターとして期待できるアジア太平洋地域とは、引き続き、政治・経済面での関係を強化することはもちろん、文化面での交流も深め、同じ地域に生きる者同士として信頼を醸成し、関係強化に努めます。日中関係では、来年の国交正常化四十周年を見据えて、幅広い分野で具体的な協力を推進し、中国が国際社会の責任ある一員として、より一層の透明性を持って適切な役割を果たすよう求めながら、戦略的互恵関係を深めます。日韓関係については、未来志向の新たな百年に向けて、一層の関係強化を図ります。北朝鮮との関係では、関係国と連携しつつ、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決を図り、不幸な過去を清算して、国交正常化を追求します。拉致問題については、我が国の主権に関わる重大な問題であり、国の責任において、全ての拉致被害者の一刻も早い帰国に向けて全力を尽くします。日露関係については、最大の懸案である北方領土問題を解決すべく精力的に取り組むとともに、アジア太平洋地域のパートナーとしてふさわしい関係の構築に努めます。
(多極化する世界とのつながり)
多極化する世界において、各国との確かな絆を育んでいくためには、世界共通の課題の解決に共に挑戦する大きな志が必要です。こうした「志ある絆」の輪を、官民の様々な主体が複層的に広げていかなければなりません。大震災からの復旧・復興も、そうした取組の一例です。被災地には、世界各国から温かい支援が数限りなく寄せられました。これは、戦後の我が国による国際社会への貢献と信頼の大きな果実とも言えるものです。我が国は、唯一の「被爆国」であり、未曽有の大震災の「被災国」でもあります。各国の先頭に立って核軍縮・核不拡散を訴え続けるとともに、原子力安全や防災分野における教訓や知見を他国と共有し、世界への「恩返し」をしていかなければなりません。国と国との結びつきを経済面で強化する取組が「経済連携」です。これは、世界経済の成長を取り込み、産業空洞化を防止していくためにも欠かせない課題です。「包括的経済連携に関する基本方針」に基づき、高いレベルの経済連携協定の締結を戦略的に追求します。具体的には、日韓・日豪交渉を推進し、日EU、日中韓の早期交渉開始を目指すとともに、TPP、環太平洋パートナーシップ協定への交渉参加について、しっかりと議論し、できるだけ早期に結論を出します。資源・エネルギーや食料の安定供給の確保などの面でも、経済外交を積極的に進めます。また、途上国支援、気候変動に関する国際交渉への対応、中東・北アフリカ情勢への対応や、ぜい弱国家対策といった諸課題にも、我が国として積極的に貢献していきます。
六 むすびに
政治とは、相反する利害や価値観を調整しながら、粘り強く現実的な解決策を導き出す営みです。議会制民主主義の要諦は、対話と理解を丁寧に重ねた合意形成にあります。私たちは既に前政権の下で、対話の積み重ねによって、解決策を見出してきました。ねじれ国会の制約は、議論を通じて合意を目指すという、立法府が本来あるべき姿に立ち返る好機でもあります。ここにお集まりの、国民を代表する国会議員の皆様。そして、国民の皆様。改めて申し上げます。この歴史的な国難から日本を再生していくため、この国の持てる力の全てを結集しようではありませんか。閣僚は一丸となって職責を果たす。官僚は専門家として持てる力を最大限に発揮する。与野党は、徹底的な議論と対話によって懸命に一致点を見出す。政府も企業も個人も、全ての国民が心を合わせて、力を合わせて、この危機に立ち向かおうではありませんか。私は、この内閣の先頭に立ち、一人ひとりの国民の声に、心の叫びに、真摯に耳を澄まします。「正心誠意」、行動します。ただ国民のためを思い、目の前の危機の克服と宿年の課題の解決のために、愚直に一歩一歩、粘り強く、全力で取り組んでいく覚悟です。
皆様の御理解と御協力を改めてお願いして、私の所信の表明といたします。 
初めての所信表明を終えて / 2011年9月18日
13日、国会で、初めての所信表明演説を行いました。テレビでは衆議院での演説しか放送されませんでしたが、参議院でも行い、計2回の演説をそれぞれ約35分ずつ、やり終えました。
演説で申し上げたとおり、野田政権が取り組むべき課題は、明らかです。東日本大震災と世界的経済危機という「二つの危機の克服」。そして、「誇りと希望ある日本の再生」。一言で言えば、「国家の信用」の回復です。あとは「実行」により、全力で「結果」につなげます。
「正心誠意」という言葉が誤字ではないか、との指摘を多くいただきました。私の今の思いをよく表しているのは、勝海舟が使った「正」という字を使う方です。「意を誠にして、心を正す」という姿勢で、すべての国民が力を合わせ、「国力の結集」を図っていく。それが私の心からの願いであり、覚悟です。 
実は、この「所信表明演説」は、その場の雰囲気を読んで、アドリブを入れて自由に発言できるものではありません。原稿を事前に閣議で決定し、国会に印刷物であらかじめ配布しなければならず、読む時も、原稿から一字一句離れてはならないことになっています。こういう形式の「演説」は、聴いている方々の顔を見て対応を変えられないだけに、ちょっと不自由でした。 
対話を通じて合意を目指す国会のあるべき姿に思いを込めて、演説を最後まで進めました。
冒頭、「忘れてはならないことがある」と3回繰り返し、国民の皆さんへの呼びかけをさせていただきました。
遠藤未希さんの防災無線。実際にお会いして感銘を受けた那智勝浦町の寺本町長。福島県の佐藤知事からいただいたDVDを見て感動した高校生の演劇のセリフ。私としては、世界の偉人の言葉や難しい故事成語などの借り物の言葉に自分を重ねて語るよりも、個人的に心を動かされたエピソードを織り交ぜ、国民の皆さんと心を通じあわせたい、と願いました。遠藤さん、寺本町長のご家族、その他の亡くなられた方々の御冥福を改めてお祈りするとともに、被災者の方々へ、改めてお見舞いを申し上げます。
「福島で孫を見て、福島でひ孫を見て、福島で最期を過ごす」との印象的なセリフを引用させていただいた、福島の高校生の創作劇は、実に感動的なものです。 
今週はニューヨークの国連本部で演説をし、世界に対して、震災時の支援への感謝と、たくましく復旧・復興に向かう日本の姿を示したいと思っています。  
記者会見 / 平成23年9月30日
お待たせをいたしました。国会で、8月30日でございましたが、首班指名を受けまして本日で1カ月となります。総理としての重責を背負い、全力で走ってまいりました。この間に台風12号、及び15号による大雨被害については、政府一丸となって迅速な対応に当たってまいりました。私も被災地に入りまして、現況把握等に努めてまいりました。改めまして、被害を受けられた被災者の皆さまに、心からお見舞いを申し上げたいと思います。なお引き続き、台風12号と15号で行方不明になられている方がまだ23名いらっしゃいます。行方不明者の捜索に全力を挙げるとともに、二次被害の防止、そして被災者の支援に万全を期していきたいというふうに考えております。
また、国連総会にも出席をさせていただきました。この総会、あるいは原子力安全に関するハイレベル会合等におきまして、各国からのご支援に感謝の気持ちを表すとともに、日本の取り組み、復旧・復興、及び原発事故の収束に向けてのそうした取り組みをご説明をしながら、復興への、そして事故収束に向けての決意をお話をさせていただくとともに、グローバルな課題について、日本は引き続き貢献をしていく意思のあることを明確に表明をさせていただきました。
オバマ大統領を始めとする各国首脳とのバイの会談もございましたけれども、信頼関係を構築する、私自身は良いスタートを切れたというふうに考えております。
そして本日、第178国会が閉会となりました。代表質問や、予算委員会でのやりとりを通じまして、野田内閣の最重要課題と、取り組みの方向性をお訴えをさせていただき、そして今なすべき事については、これはいろいろアプローチの仕方は各党会派によって違いはあるかもしれませんけれども、やるべきことについての基本的な認識には、大きな差はないということは確認できたというふうに思います。後は、実行あるのみとの思いを新たにするとともに、野党の皆さんから、多くの、ときには厳しいご意見もありましたけれども、建設的なご提言、ご意見もたくさん頂戴いたしました。大変ありがたく思います。
その中でもいろいろございましたけれども、朝霞の公務員住宅についてのご指摘は、私としても真摯に受け止め、近々実際に現場に行って、自分なりの考えをまとめた上で、最終的な判断をすることとしたいというふうに考えております。
大震災の復旧・復興の加速、原発事故の早期収束、円高への緊急対策、これらを柱とする、まさに実行のための具体策を第3次補正予算として、一日も早く取りまとめたいというふうに考えております。歳出面の具体策としては、被災地の復興作業を加速させるため、道路などインフラの本格的な復旧、被災自治体に使い勝手の良い交付金を作るなど、創設をするなど、こういう取り組みを強めていきたいというふうに思いますし、原発事故対応については、住民の皆さんの放射線への不安を取り除くために、今何よりもやらなければいけないのは、大規模な除染活動であろうと思います。それに必要とされる経費を、3次補正予算の中に盛り込んでいきたいというふうに思います。
円高への対応については、厳しい環境に置かれている中小企業の皆さんへの金融支援であるとか、あるいは成長産業の国内投資を促す立地補助金の抜本的な拡充などを柱として盛り込んでいきたいというふうに思います。これらを合わせると、総額で12兆円規模のものとなると考えております。こうした対策を実行するための裏付けとなる財源についても、責任ある対応をしていきたいというふうに思います。歳出削減、あるいは税外収入の確保、ここをしっかり最大限取り組むことが基本であります。なお、足らざる部分については、政府与党で時限的な税制措置の案をまとめさせていただきました。
国民の皆さまにおかれましては、これは、これらの負担を次の世代に先送りをするのではなくて、今を生きる世代全体で連帯して分かち合うことを基本とするという、この私どものまとめた考え方を、是非ともご理解をいただきますようにお願いをしたいというふうに思います。
被災地の方々、そして今円高等で苦しんでいらっしゃる中小企業の方々、等々の叫びにも応えるためにも、一日にも早く第3次補正予算案、及びその関連法案を国会に提出する必要がございます。今後、速やかに与野党協議を進めることを、お願いをしたいというふうに思います。その際、野党の皆さんからも、よいご提案をいただけるのであれば、虚心坦懐に謙虚に耳を傾けて取り入れていきたいというふうに考えております。
なお、こうした間も原発事故の収束に向けた対応については、関係者が一丸となって進めております。本日この会見の後に、原子力災害対策本部が開催をされます。その場で、緊急時避難準備区域の一括解除を正式決定をする予定でございます。詳細は、この対策本部が終わった後に、担当大臣である細野大臣と、枝野大臣から詳細についてはご説明があるとは思いますが、住民の皆さまが安心してご自宅に戻ることができるよう、除染などの面で、政府としても全力で取り組んでまいりたいというふうに思います。
野田内閣は、本格始動したところであります。これからさらに、政策実現のアクセルを踏み込み、実行の積み重ねを通じて、国民の皆さまのご期待に応えてまいりたいという決意でございます。
【質疑応答】
● 日本経済新聞の犬童です。先ほどあげました2011年度の3次補正予算、復興増税の絡み、関連法案ですね、最大の課題だと思いますけれども、その取り運びについて質問いたします。自民党は与野党協議について、閣議決定前の協議は慎重に対応する構えを見せています。実際に、与野党協議を一日も早くといっても、なかなか入れない可能性もあると思いますけれども、総理はどのようにして相手を説得し、協議を軌道に乗せていくおつもりなのか、あくまで閣議決定前の協議というのにこだわっていらっしゃるのか、あるいは閣議決定後に協議をしていくこともあるのか、そのお考えを伺いたいのがひとつと、次の臨時国会、一日も早くということですけれども、召集はいつ頃を考えていらっしゃるのか。3次補正の審議が11月に入ってしまうと外交月間に入ってしまい、なかなか日程が取りにくくなると思うんですけれども、仮に10月末までに出すとすると、合意も早くしなければいけないし、臨時国会もいつ頃開くつもりなのか、設定していつまでか、その辺りのスケジュール感を併せて伺います。
今のご指摘は二つあったと思うんですが、まず与野党協議でございますが、これは第3次補正予算の中身、柱は先ほどの冒頭のところで私がお話しをしたとおり、復興を本格化させるということと、円高対策を含む経済対策を含むものでございますので、これは国民の皆様が一日も早く望んでいる予算だと思いますし、当然その思いはどの政党も共通認識として持ってらっしゃるというふうに思います。その上で第3次補正予算の編成の際には補正予算そのものもそうでありますけれども、例えばまだ宿題が残っている税制改正の中身等々については、三党合意できちっと与野党協議をしていくということになっております。ということからすると、私どもとしては一応政府与党の考え方、国民新党の皆様ともよく議論してまとめた政府与党としての考え方をまとめました。その案を持って一日も早く、当然自民党の方もそうですが他の党も含めてですね、野党との協議を進めていきたいというふうに思いますし、今日の与野党幹事長会談でも、我が党の輿石幹事長から呼び掛けをさせていただいたというふうに理解をしていますので、来週早い段階からそういう協議を進めさせていただきたいというふうに思います。
それから臨時国会の時期でありますけれども、ご指摘の通り、11月は様々、いろいろ外交日程もございますので、もちろんこれは第3次補正の中身が固まって、印刷も終わってという段取りを踏んでいかなければなりませんけれども、当然の事ながら10月中の、まだいつと明記は、定めたことは入れられませんが、10月中のなるべく早い時期に、早い時期というのは一日も早く成立を期すことによって復興の事業が本格化するわけですので、その意味からも国会のその補正の提出、その時期をよくにらみながら臨時国会の召集時期もなるべく早い段階で行っていきたいという思いでございます。
● 時事通信の水島です。よろしくお願いします。小沢一郎元代表の政治資金管理団体を巡る政治資金規制法違反事件で、石川議員を含む元小沢さんの元秘書3人が有罪判決を受けた件について伺います。野党は元代表の証人喚問を求めておりますが、総理は元代表の説明責任について、どのようにお考えになっていますでしょうか。元代表は昨年12月に、自ら政倫審で説明する意向を示したこともありましたが、総理は党代表として国会での説明責任を果たすよう促す考えはありませんでしょうか。よろしくお願いします。
説明責任の果たし方というのは、これはいろいろあるんだろうとは思いますけれども、今国会中も野党の皆さんも国会で説明をするようにという、特に証人喚問というやり方をご指摘をされました。これは国会でも私の考え方を申し上げましたけれども、いわゆる報道によると、小沢元代表の公判も来月始まるだろうと、言われているという時に、司法への影響も踏まえると本当にそういうやり方が妥当なのかどうかについては慎重に考えなければいけないのではないかというふうに思っております。
● NHK山口です。公明党との関係についてお伺いします。予算委員会の答弁を見ていますと、三宅島の連絡会議ですとか、あるいは子宮頸ガン等について総理、かなり前向きな答弁をしていたように伺えたんですけれども、公明党さんとの距離感をこの後どういうふうに保っていくのか。それから今日、自民党役員人事が行われまして、かなり対決姿勢を強めてくると思いますが、総理はそれでもかつて言っていたように大連立というのを指向していくのか、その点をお聞かせください。
公明党さんの距離感というお話でありますけれども、公明党さんはもちろんでありますけれども、その他の政党からも、今、国会での答弁を踏まえてのご指摘だったと思いますが、いいご提起だなと思ったことについてはこれはいつも虚心坦懐にお話を聞いているつもりでございますので、取り入れたいなぁと、あるいはこちらでその線に沿って努力してみたいなぁということについては前向きな答弁をするということは当然あり得ると思いますし、公明党だけではありません。他の政党についてもそういう対応をしたつもりでございます。そのことについては野党の皆さんも私どもの政権についてそれぞれの評価を是々非々でこられると思いますが、私の国会対応も基本的にはそのご質問の趣旨を踏まえながらいいものは取り入れていく方向だと思いますし、そうでないものについては残念だけどきっぱりと否定をするというやり方をしていきたいというふうに思います。たまたま公明党さんの子宮頸ガンを含めて、従来から我が党も比較的前向きに受け止めてきたテーマが多かったということもあったんではないでしょうか。
それから自民党の役員の顔ぶれでどうのということでありますが、これどういう姿勢でくるかは今回の人選だけではまだわからないというふうに思います。例えば茂木さん政調会長でございますか、彼も昔は日本新党のときはご一緒した方でございますし、岸田さんが国対委員長。まぁ同い年ですし、同い年だからといって厳しくされるか、わかりませんが、まだその顔ぶれだけではどうともいえませんけれども、どういう形でこられても私どもの姿勢は自分たちのやらなければいけないこと、というよりも国がやらなければならないことをどうしたらいいか、こちらの考え方をまとめて、そしてご理解を頂くという努力、正心誠意の姿勢はどういう顔ぶれでも変わりません。
● ロイター通信のシーグと申します。原子力政策についてお聞きしたいんです。総理のご発言では日本は今後新たな原子炉を建設することは無いということだったと思いますが、これは2050年頃までには日本のエネルギーミックスから原子力は完全に消えるということで間違いはないかということを確認させてください。また日本の中長期的なエネルギー政策についての議論が総合資源エネルギー調査会によって来週から始まる予定ですが、この調査会の委員の見解は様々であって、経済的影響を重視している方もいれば、安全を重視している方もいらっしゃいます。調査会の委員の見解が多様な中、エネルギー政策を決定していく上で、最優先される基準とは何なのでしょうか。それと国民投票をやるべきという意見もありますが、総理はどう思われますか。
新たな原発を作ることは、これ総理就任をした直後の会見で困難ではないかというお話をさせていただきました。基本的にはこの認識は変わりません。そういう中で、かなり着工が進んでいるものもあるということでありますので、そういうことも含めて個々に案件は判断をしていかなければなりませんが、新たに作っていくことは困難な状況であるということの基本認識は変わりません。その上で、いろいろその後もご質問いただきましたけれども今のエネルギーの基本計画についてはこれは白紙で見直しをしていくということであります。そして、来年の夏までに中長期のいわゆる計画を作っていくというのが今の流れであります。当然の事ながら国民の不安を和らげて安心できるエネルギーのベストミックスを目指していくということでありますが、その観点で当然の事ながら様々な立場のいろんなご意見もあると思いますので、国民各層のいろんなご意見も踏まえながら来年の夏までにしっかりとした計画を作っていくということでございます。
● フジテレビの高田ですが、先ほど冒頭の発言でもありました朝霞の公務員住宅について、視察をされるということでしたが、いつ頃どのような姿勢で臨むのかということと、あと確か国会答弁の中で、あれは震災前の判断だったということを言及していましたけれども、それを受けてまた審議の中で新たに感じたことがあって、また見直す可能性があるのか、もう一歩踏み込んだお話をお願いします。
判断をしたのは確か昨年の暮れだったと思います。その時は全体として公務員宿舎を15%減らすなどして、様々な財政的な貢献をしていこうという全体像の中で、朝霞については、これは行政刷新会議の事業仕分けで一応凍結をするという中で、政務三役が議論を進めて欲しいというそういう見直しだったと思います。それを踏まえて昨年12月決めました。その後に大きな震災があったわけで、そのことを踏まえて、被災者の感情とか国民感情を踏まえてこの国会で様々なご提起、ご示唆もいただきましたので、まずは9月1日から着工に向けての動きが始まったと思いますが、その進捗状況なんかを現場に見に行きながら最終的な政治判断を私がくだしたいというふうに思っております。
● まだ判断を変えることもある。
最終的な判断を現場判断を含めて、現場に行ったときの状況などを含めて、最終的に判断をしたいというふうに思います。
● ニコニコ動画の七尾です。どうぞよろしくお願いします。今国会では、印象としまして安全運転に終始した感がございますが、その分国民にしてみれば、総理がどのような理念をもって政権を運営されていくのかわかりにくかった印象もぬぐえません。冒頭、アクセルを踏むとのご発言がございましたが、総理は今後どのような具体的な理念やイメージを持って政権運営を加速していくお考えでしょうか。
あの、私なりの理念は、たとえば所信表明演説などでも述べましたけれども、やっぱり中間層の厚みが今、薄くなってきて、しかも下にこぼれてしまったというか、まあ言い方ちょっと気を付けなければいけませんが、戻ることができなくなっている人たちが多くなっているという状況を打開をしていくと、中間層の厚みをもった国にすることが底力のある国であるというのが基本的な理念で、そういう国にしたときに、この日本に生まれてよかったと思える国の基本ができると思いますし、その先にはもっとプライドをもってこの国に来て良かったなと、そういう国にしていきたいという理念があるんです。その理念と、よくこれは国会でも聞かれましたが、個別の政策のちょっと中長期的なことを聞かれました。それは何をやりたいかの世界なんですね。何をやりたいかの前に何をやるべきか、やらなければならないことが今あるじゃないですか。我が政権の最大かつ最優先の課題は何と言っても、震災からの復旧・復興と原発事故の収束と経済の立て直し等、これを申し上げました。このことを中心に言っていたので、安全運転という評価なのかもしれませんが、政権当初から乱暴なスピード違反はできません。どんなスピード、加速しても安全運転はやっていきたいというふうに思います。
● 毎日新聞の高塚と申します。米軍の普天間飛行場の移設問題が、地元では非常にですね、県外移設を求める声がですね、依然として多いと。そういう中で日米合意の履行、つまり辺野古への移設をどう進めていこうというふうに総理、考えていらっしゃいますでしょうか。
これはですね、沖縄において県外移転を望む声、求める声が多いということは私もよく承知をしております。さはさりながら、日米合意にのっとって沖縄の負担軽減をしていくということを基本線に対応していこうというのが私どもの基本的な姿勢であって、それは先般のオバマ大統領との会談の際にも、申し上げました。沖縄の負担を大きく軽減させるという意味においても、私は今の基本的なスタンスというのが第一だと思っておりますので、そのことをきちっと、普天間の危険を除去していくということについてもご理解を頂けるというふうに思いますので、そこはしっかりとご説明をしながら、丁寧にご理解していただくという努力をやっていくということにしていきたいと思っております。
● 自治日報という地方自治の専門紙の内川と申します。鳩山内閣では1丁目1番地とされていた地域主権改革についてお伺いします。野田内閣発足後、総理の就任会見でも、内閣の基本方針でも一言も言及がなく、所信表明演説でも一言引き続き推進するとのお考えが示されただけということで、地方側から、全国知事会の山田会長始め懸念が強まっている面もありますが、今後の震災の復旧・復興、社会保障と税の一体改革、子ども手当をとりましても、地方との共同が必要不可欠だというのが地方側の主張だと思いますが、地域主権改革についての総理のお考えを改めてお伺いできればと思います。
あの所信表明演説でも文章では1行しか書いていなかったということは、山田知事会会長からも私も直接ご指摘を頂きましたので、ご本人にもご説明致しましたけれども、いわゆる文章でいっぱい書いてあればいいのか、短いからやる気がないのかということではございません。さっき申し上げた通り、所信でもそう申し上げておりますが、基本的には今、最大かつ最優先の課題の震災の復旧・復興と原発事故の収束、これを基本においた政権でありますので当然記述も、あるいはいろんな機会でお話をするときもそういうことが中心になりますけれども、地域主権というのは民主党にとっては結党以来大事なテーマでありますし、特に分権型連邦国家としてマニフェストの冒頭を飾ったこともあります。そのことは私も決して忘れるつもりではないしむしろこれまで以上しっかり取り組んでいこうということでございます。
今ご指摘を頂いたテーマを含めて、国と地方の協議の場をしっかりやって地方の皆さんとの意見交換をしながら、地域主権に向けての推進を図っていきたいと思いますし、今回の復興においても使い勝手のいい交付金であるとか、震災特区であるとかですね、まさに地域主権のいわゆる先駆けになるようなそういう事業をどんどん推進をしていきたいというふうに考えております。
今日、閣僚懇で川端大臣から、地域主権にまさに関わりますけれども、今年度の予算から一括交付金、県向けの補助金という形を整理して、5,120億円、一括交付金作りました。今度は来年度の予算編成においては、市町村向けの補助金をですね、一括交付金化するんですね。そのことについては強く各省への要求を私からも呼び掛けさせていただきました。ということに、今申し上げた疑念を取り払うためにも一つひとつしっかりと実績を作ることによってお答えをしていきたいというふうに思いますし、出先機関改革等々大きな課題は残っていますが、しっかりリーダーシップを奮っていきたいというふうに考えております。
● 朝日新聞の坂尻です。3次補正に絡む臨時増税の額についてですね、伺わせていただきたいのですが、政権の一翼を担う前原政調会長が、昨日の記者会見及び今日も両院議員総会で発言があったようですが、納税の額は税外収入を7兆円まで積み上げて9.2兆円にすると、それをこの臨時増税の法案にも別途書き込むんだという趣旨の発言をされています。一方で藤村官房長官や、安住財務大臣及び財務省は、増税額は11.2兆円というのが前提になる、それが増税法案に書き込まれるという認識で、政権の中で発言が食い違っているように思うのですが、一体9.2兆円なのか11.2兆円なのか、負担を課される国民にとっては大きな違いだと思うのですが、総理の言葉としてはっきりさせていただきたいというのが一点。それと、政権の中で発言される方によって、どうしてこのように説明が食い違うのかと。ここはあの議論を掌握しているかどうかにも関わると思いますので、その理由も併せてお願いいたします。
中身は一つです。政府与党で一つのペーパーで合意をしました。これは政府民主党だけではなくて国民新党の皆さんともしっかり練り上げた文章が一つの合意という形になっています。それは多分皆さんにも、お配りになってません、されていますよね、あの文章です。あれが全てです。その中の特に強調したいところの違いはあるかもしれませんが、どう見てもあれ客観的に見れば同じことで、この10年間、向こう10年間では税外収入を7兆円獲得するということによって、国民にご負担をお願いする、いわゆる一元的な税制措置のところは9.2兆になるんです。だけど、この10月にも、法案を提出しなければなりません。その法案を提出するときは、向こう復興集中期間5年間を念頭に現段階で考えられる税外収入は、5兆円。そうするとご負担を頂く部分は11.2兆円と、そのための法案を基本的には作るんです。その法案を作るときに、例えばその向こう10年間の部分についての考え方をどういう形で法律に入れるかという議論は当然あります。附則に入れるとかですね。言っていることは全然皆さん、同じことを言っている中で、数字の取り扱いのところだけちょっと違った観点で切り取られているというふうに私は理解をしています。
● 東京新聞の三浦と申します。先ほどのロイターの方の質問に対して、原子力政策ですが、新規立地は困難であるということを改めて明確に総理はされました。ただその、この間総理はニューヨークでの原子力ハイレベル会合での演説で、日本として原子力の利用を模索する国々の関心に応えるというふうにおっしゃいました。これは原発の輸出、あるいは技術移転を打ち出したものというふうに受け止めましたけれども、国内では新規立地を困難としながら、国外では原発立地を支援する、この整合性については総理はいかがお考えですか。
いや、極めて簡単なことです。今回こういう事故があって、我が国として得た教訓、あると思います。反省もあると思います。そしてそれを踏まえた知見もあります。そういう教訓や知見を、世界各国、この原発の問題はどの国も関心を持っています。共有していただくということは、グローバルなレベルでの原子力の安全向上に繋がるし、そのための協力は惜しまないということでありますし、そこで技術的なサポートもあるかも知れません。ということであって、全く矛盾する話ではないんじゃないでしょうか。
● 原発の輸出そのものについては総理はいかがお考えですか。
原発の輸出については、まず徹底した事故の検証を踏まえながら、政府としての考え方をまとめていきたいというふうに思います。なんかこの間のハイレベル会合で輸出を解禁するような話に受け止められていますよね。そんなことは一言も言っていません。きちっとした事故検証を踏まえながら我が国の方針を決めていきたいというふうに思っております。
● そうすると事故検証が輸出を考える上の前提になると。
踏まえながら。  
第百七十九回国会・所信表明 / 平成23年10月28日
(はじめに)
第百七十九回国会に当たり、私の所信を申し上げます。
東日本大震災からの復興に歩み始めた被災地で、改革に情熱を傾ける全国各地の農村や漁村で、歴史的な円高に立ち向かう中小企業の街で、そして、欧州に発した嵐が吹き荒れる国際金融市場で、今、私たち政治家の覚悟と器量が問われています。
この国会が成し遂げなければならないことは明確です。被災地の復興、原発事故の収束、そして日本経済の建て直しを大きく加速するために、一日も早く第三次補正予算とその関連法の成案を得て、実行に移すことです。これは、政府与党と各党各会派の皆様との共同作業にほかなりません。この苦難の日々を懸命に生き抜く現在の日本人と、この国の未来を託す将来の日本人への責任を、共に果たしていこうではありませんか。
苦しむ人々の力になりたいという願いは、日本中にあふれています。何よりも、被災者の方々自らが救援物資を分け合い、避難所で支え合いました。そして、これまでに延べ約八十万人の方々が被災地での支援活動にボランティアとして参加していただき、集まった義援金は三千億円以上に上っています。どんな困難の中でも他者をいたわる心は、世界に誇るべき日本人の気高き精神です。
しかし、それだけでは、未曽有の大震災から被災地が立ち直り、日本経済を建て直していくことはできません。被災地の街や暮らしを元どおりにし、復興に向けて歩む道を確かなものとしていくためには、少なくとも五年間で二十兆円近くが必要になると試算されています。これだけ巨額の資金は、国会が決断しなければ手当てすることはできません。
「国会の決断」を担うのは、国民を代表する国会議員の皆様であり、ほかの誰でもありません。これまで積み重ねてきた議論を成案として仕上げ、今の私たちにしかできない、国家国民のための大仕事を共に成し遂げようではありませんか。
(被災地の復興を大きく加速するために)
歴史に輝く世界遺産、平泉は、平安末期に、争乱で荒れ果てた東北の地を復興する営みの中で生まれました。明治期の大火災で町を焼かれた川越や高岡の人々は、耐火建築として「蔵造り」を広め、風情ある町並みを後世に残しました。関東大震災のがれきは海に埋め立てられ、横浜の名所としてにぎわう山下公園に姿を変えています。繰り返す戦禍や災害に打ちのめされながらも、先人たちは、明日に向かって「希望の種」をまき、大きく育ててきたのです。今般の東日本大震災も、その例に漏れません。
住民との膝詰めの話合いを繰り返し、独自の復興プランを必死に作り上げようとしている被災自治体に対して、まずは財源面での確かな裏付けを行います。地域主権改革の理念に沿って、被災自治体に使い勝手のよい交付金を創設するとともに、自主事業を思い切って支援し、各種の補助事業でも自治体の負担分を実質的にゼロにします。
仮設住宅に移られた被災者の方々の多くが、働く場の確保に次なる不安を感じておられます。道路や港湾といったインフラを本格的に復旧し、雇用創出の基金や中小企業グループ化補助金の積み増し、就職支援策の強化などにより、被災者のこれからの暮らしの安心を支えます。また、津波を浴びた農地から塩分を洗い流し、漁船や養殖場を取り戻すことにより、土を愛し、豊饒(じょう)な海と共に生きてきた被災地の農林漁業を力強くよみがえらせます。
杓子定規な国の決まりごとが復興プランを邪魔してはなりません。大胆な規制緩和や税制の特例を認める復興特区制度を創設し、復興を加速するとともに、被災地の強みをいかした最先端のモデル地域づくりを制度面で応援します。また、「復興特区」において法人税を五年間無税にするといった前例のない措置によって、新たな企業の投資を内外から呼び込みます。
新設する復興庁には、霞が関の縦割りを排する強い調整・実施権限を持たせ、各被災地に支部を置き、ワンストップで要望に対応します。被災地に寄り添う優しさと、前例にとらわれず果断に実行する力強さを併せ持った機関とし、国と被災地を太い絆で結び付けます。
また、今般の大震災で得た教訓をいかし、自然災害に強い地域づくりを被災地のみならず全国に広めていくため、まずは、津波防災地域づくり法案の成立を図ります。
(原発事故の一日も早い収束のために)
福島の再生なくして、日本の再生なし。この切なる願いと断固たる決意を、私は何度でも繰り返します。一日も早く原発事故を収束させるため、原子炉の年内の冷温停止状態の達成を始め、工程表の着実な実現に全力を尽くす国家の意思は、揺るぎありません。
これまでに、放出される放射線量は事故当初より大きく減少し、緊急時避難準備区域も解除に至っておりますが、周辺住民の方々が安心して故郷に帰り、日常の暮らしを取り戻す日まで、事故との戦いは決して終わりません。
「早くお外で鬼ごっこやリレーをしたい」
「お友だちとドングリ拾いやきれいな葉っぱ集めをして遊びたい」
前歯が抜けたままの顔で屈託なく笑う福島の幼稚園児たちの言葉が、私の脳裏から離れません。
それぞれの地域で、公共の場だけではなく、住民の皆様の生活空間も含めて、除染を徹底的に進めることが急務です。政府を挙げて取り組む体制を整備し、適切な実態把握と大規模な除染を国の責任として進め、周辺住民の方々と国民全体の抱く不安を少しでも早く解消してまいります。
また、福島再生のための独自の基金を設け、国際的な医療センターの整備といった新たな構想を、地元と一体となって推進します。
この三次補正を実行し、「ふるさと福島で生まれ、一生を過ごす」という当たり前の人生を、若者が「夢」として語らなくてすむ未来を必ずや取り戻そうではありませんか。
政府は、放射性物質の飛散状況や健康に関する情報など、持てる情報を徹底的に開示します。根拠ない風評が被災地の復興を阻むことのないよう、私たち政治家が率先して国民の皆様の心ある対応を促していこうではありませんか。
(日本経済を建て直すために)
歴史的な円高に伴い、産業空洞化の危機が続いています。大企業が海外に拠点を移せば、その取引先である中小企業も後を追い、本来この国に残すべき貴重な雇用の場が失われかねません。そうした事態を防ぐため、先般の「円高への総合的対応策」に基づき、日本銀行とも連携して、円高自体への対応を含め、あらゆる政策手段を講じます。
産業空洞化を阻止する国の決意を行動で示すべく、これまで措置した累計額の約三倍となる五千億円の立地補助金を用意します。また、二千億円規模の節電エコ補助金によって最先端技術の先行需要を生み出し、日本の優れた環境エネルギー技術力を更に高めます。円高で苦しみながらも、それを乗り越えようとする企業には、雇用調整助成金の要件を緩和するとともに、金融支援の拡充を中心とした総額約七千億円に上る中小企業対策を実行します。
この三次補正を実行し、産業空洞化の圧力に抗して、歯を食いしばって日本での操業にこだわり続ける経営者と、現場を支える労働者の方々に、確かな希望を感じてもらおうではありませんか。
(責任ある復興を実現するために)
これまで申し上げた支援措置や、先に和解が成立したB型肝炎問題への対応など、三次補正の歳出は総額十二兆円を超える規模に及びます。その実行のためには、裏付けとなる財源を確保しなければなりません。
まず何よりも、政府全体の歳出削減と税外収入の確保に断固たる決意で臨みます。
国家公務員の人件費削減を進めるため、公務員給与の約八パーセントを引き下げる法案を既に国会に提出しており、その早期成立が欠かせません。朝霞住宅の取扱いを含めた公務員宿舎の抜本見直しにも着手しました。行政刷新会議においては、行政の無駄や非効率の根絶に粘り強く取り組むだけでなく、政策や制度に踏み込んだ国民目線での「提言型政策仕分け」を行います。
郵政改革関連法案の成立を期した上で、日本郵政やJTの株式など、売却できる政府資産は売却し、あらん限りの税外収入をかき集めます。
地域主権改革は、地域のことは地域で決めるための重要な改革であり、国の行政の無駄削減を進めるためにも有効です。地方の意見をお伺いしながら、補助金等の一括交付金化や出先機関の原則廃止に向けた改革を進めます。また、効率的で質の高い行政サービスを提供するための公務員制度改革を具体化すべく、関連法案の成立を図ります。
政治家自身も自ら身を切らなければなりません。江戸時代の儒学者である佐藤一齋は「春風を以て人に接し、秋霜を以て自ら粛む」と説きました。国民を代表して政治と行政に携わる者に求められているのは、この「秋の霜のように、自らの行動を厳しく正していく」心です。私と政府の政務三役の給与については、公務員給与引下げ法案の成立を待つことなく、自主返納することといたしました。また、この国会で憲法違反の状態になっている一票の較差を是正するための措置を図ることや、定数の削減と選挙制度の在り方についても、与野党の議論が進むことを強く期待します。
次に、経済成長を通じた「増収の道」も追求します。
古来、財政改革を成し遂げた偉人は、創意工夫で産業を興し、税収を増やす方策を探りました。人口減少に転じた日本において、数年で経済と税収を倍増させるような奇策はありません。日本経済を長く停滞させてきた諸課題を一つひとつ地道に解決し、足下の危機を克服した後に日本が進むべき道を見極め、それを実行していくだけです。
その先駆けとして、二十一世紀の成長産業となりうる農林漁業の再生に向けて、次世代を担う農林漁業者が安心して取り組めるよう、先に策定した「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画」を政府全体の責任をもって着実に実行します。
新たに設置した「国家戦略会議」では、年内に日本再生の基本戦略をまとめ、新産業の創出や世界の成長力の積極的な取り込みなどを一層推進します。また、原子力への依存度を最大限減らし、国民が安心できるエネルギー構成を実現するためのエネルギー戦略の見直しや地球温暖化対策、新たなフロンティアの開拓に向けた方策など、中長期的な国家ビジョンを構想し、産官学の英知を結集して具体化していきます。
成長するアジアへの玄関口として高い潜在力を持つ沖縄の振興については、最終年度を迎えた振興計画の総仕上げを行うとともに、新たな振興策の一環として、使い道を限定しない自由度の高い一括交付金を創設します。
そして、「歳出削減の道」と「増収の道」では足らざる部分について、初めて「歳入改革の道」があります。復興財源案では、基幹税である所得税や法人税、個人住民税の時限的な引上げなどにより、国民の皆様に一定の御負担をお願いすることとしています。
国家財政の深刻な状況が、その重要な背景です。
グローバル経済の市場の力によって「国家の信用」が厳しく問われる歴史的な事態が進行しています。欧州の危機は広がりを見せており、決して対岸の火事とは言い切れません。今日生まれた子ども一人の背中には、既に七百万円を超える借金があります。現役世代がこのまま減り続ければ、一人当たりの負担は増えていくばかりであり、際限のない先送りを続けられる状況にはありません。
復興財源の確保策を実現させ、未来の世代の重荷を少しでも減らし、「国家の信用」を守る大義を共に果たそうではありませんか。
(確かな外交・安全保障のために)
先の国連総会では、大震災での世界中の人々の支援に感謝し、人類のより良き未来に貢献することで、「恩返し」をしていく我が国の決意を発信しました。その決意を確実に行動に移していきます。
まずは、大規模な洪水に見舞われているタイ、地震により多数の死傷者が出ているトルコなど、自然災害で被害を受けた国々に必要な支援を行います。「アラブの春」と呼ばれる大変革を経験している中東・北アフリカ地域の改革・民主化努力にも、総額約十億ドルの円借款を含めた支援を具体化していきます。南スーダンでの国連平和維持活動については、これまでの現地調査団による調査結果を踏まえ、自衛隊施設部隊の派遣について早急に結論を出します。
国と国との関係は、人と人との関係の積み重なりの上に築かれるものです。既に、オバマ大統領を始め主要各国の首脳と国連総会の場でお会いし、先般の韓国訪問では李明博大統領と政治家としての信念に基づき語り合うなど、各国首脳との個人的な関係を取り結ぶ、良いスタートを切ることができました。
秋は、外交の季節です。来るべきG20では、欧州発の世界経済危機の封じ込めに、日本としての貢献を示します。米国主催のAPEC首脳会議では、アジア太平洋地域の将来像を示した「横浜ビジョン」の理念を実現するために更なる一歩を踏み出し、その成果を日米間の絆の強化にも活用します。ASEAN諸国との諸会合にも参加し、豊かで安定したアジアの未来を共に拓くための関係強化の在り方を議論します。
より幅広い国々と高いレベルでの経済連携を戦略的かつ多角的に進めます。先般の日韓首脳会談では、経済連携協定の実務者協議を加速することで合意しました。更に今後、日豪交渉を推進し、日EU、日中韓の早期交渉開始を目指すとともに、環太平洋パートナーシップ協定、いわゆるTPP協定への交渉参加についても、引き続きしっかりと議論し、できるだけ早期に結論を出します。
普天間飛行場の移設問題については、日米合意を踏まえつつ、沖縄の負担軽減を図ることが、この内閣の基本的な姿勢です。沖縄の皆様の声に真摯に耳を傾け、誠実に説明し理解を求めながら、普天間飛行場の移設実現に向けて全力で取り組みます。
先日、拉致被害者の御家族の方々とお話をして、国民の生命や財産、そして我が国の主権を守るのは、政府の最も重要な役割であるとの思いを新たにしました。全ての拉致被害者の一刻も早い帰国を実現するため、政府一丸となって取り組むことを誓います。また、自然災害だけでなく、テロやサイバー攻撃への対策を含め、危機管理対応には万全を期し、常に緊張感を持って対処します。
(結びに〜確かな希望を抱くために〜)
三次補正とその関連法は、大震災から立ち直ろうとする新しい日本が明日へ向かって踏み出す、大きな一歩です。
「嬉しいなという度に私の言葉は花になるだからあったらいいなの種をまこう小さな小さな種だって君と一緒に育てれば大きな大きな花になる」
仙台市に住む若き詩人、大越(おおごえ)桂(かつら)さんが大震災後に書き、被災地で合唱曲として歌われている詩の一節です。障害を抱え、声も失い、寝たきりの生活を続けてきた彼女が、筆談で文字を知ったのは十三歳の時だったといいます。それから十年も経ず、彼女は詩人として、被災地を言葉で応援してくれています。
誰でも、どんな境遇の下にいても、希望を持ち、希望を与えることができると、私は信じます。
「希望の種」をまきましょう。そして、被災地に生まれる小さな「希望の芽」をみんなで大きく育てましょう。やがてそれらは「希望の花」となり、全ての国民を勇気づけてくれるはずです。
連立与党である国民新党を始め、ここに集う全ての国会議員の皆様。今こそ「希望づくり」の先頭に立って共に行動を起こし、全ての国民を代表する政治家としての覚悟と器量を示そうではありませんか。
私は、日々懸命に土を耕し、汗と泥にまみれながら、国民の皆様が大きな「希望の花」を咲かせることができるよう、正心誠意、命の限りを尽くして、この国難を克服する具体策を実行に移す覚悟です。
国会議員の皆様と国民の皆様の御理解と御協力を改めてお願いして、私のこの国会に臨む所信の表明といたします。  
記者会見 / 平成23年11月11日
本日は11月11日ということでございます。東日本大震災の発災から8カ月目の節目を迎えます。この節目に当たりまして、改めて震災からの復旧・復興、そして福島原発事故への対応に最優先で取り組んでいく決意をまず表明をしたいというふうに思います。
TPPへの交渉参加の問題については、この間、与党内、政府内、国民各層において活発な議論が積み重ねられてまいりました。野田内閣発足後に限っても、20数回にわたって、50時間に及ぶ経済連携プロジェクトチームにおける議論が行われてまいりましたし、私自身も、各方面から様々な意見を拝聴をし、熟慮を重ねてまいりました。この間、熱心にご議論をいただき、幅広い視点から知見を提供いただいた関係者の皆さまに心から感謝を申し上げいと思います。
私としては、明日から参加するホノルルAPEC首脳会合において、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることといたしました。もとより、TPPについては、大きなメリットとともに、数多くの懸念が指摘されていることは十二分に認識をしております。
私は日本という国を心から愛しています。母の実家は農家で、母の背中の籠に揺られながら、のどかな農村で幼い日々を過ごした光景と土の匂いが、物心がつくかつかないかという頃の私の記憶の原点にあります。
世界に誇る日本の医療制度、日本の伝統文化、美しい農村、そうしたものは断固として守り抜き、分厚い中間層によって支えられる、安定した社会の再構築を実現をする決意であります。同時に、貿易立国として、今日までの繁栄を築き上げてきた我が国が、現在の豊かさを次世代に引き継ぎ、活力ある社会を発展させていくためには、アジア太平洋地域の成長力を取り入れていかなければなりません。このような観点から、関係各国との協議を開始し、各国が我が国に求めるものについて更なる情報収集に努め、十分な国民的な議論を経た上で、あくまで国益の視点に立って、TPPについての結論を得ていくこととしたいと思います。私からは以上でございます。
【質疑応答】
● 朝日新聞の坂尻です。今、総理、冒頭でTPPに関して、関係国との協議に入ると明言されましたので、これは交渉への参加方針の表明だと受け止めて、質問させていただきます。質問は二点あるんですが、まず一点は、昨日の政府・民主三役会議で、総理は一日ゆっくり考えさせて欲しい、とおっしゃって、この表明を今日まで一日延期されました。ただ、民主党の方ではまだ、慎重派の議員の方々が反発を強めていらっしゃいまして、党内では分裂や混乱、ということを懸念する声も出ています。こうした情勢を、総理としてはどのように受け止めていらっしゃるか。これが一点目です。二点目はですね、今回のその政府側の対応なんですが、直前にあったように、閣僚委員会ということの確認にとどめていらっしゃいますけれども、この閣僚委員会は全閣僚の方がメンバーでいらっしゃいます。全閣僚ならば、きちんと閣議に格上げしてですね、閣議決定をするという手法もあったかと思うのですが、内閣としての姿勢や覚悟、国民に対する示すにふさわしいテーマだと思うんですが、閣議決定というプロセスを取らなかった理由は何なのでしょうか。この二点を。
まず第一の質問でございますけれども、経済連携PT、先ほども申し上げた通り、大変長時間にわたって闊達なご議論をいただきまして、そして提言をまとめていただきました。その提言について、昨日前原政調会長からご報告をいただきましたけれども、要は、APECにおいて交渉参加の表明をすべきか。この議論については時期尚早である、あるいは表明すべきではない、という意見と、表明すべきである、という議論があって、前者の方がその意見は多かったと。従って、慎重に対応を、ということがご提起でありました。そういうご提起もございましたし、それを踏まえて、まさに熟慮をした、ということでございますが、政府・民主党の三役会議を断続的に行い、関係閣僚とも断続的協議を行った結果、今申し上げたような方向性を打ち出させていただいた、ということでございます。
二点目が、何故閣議決定ではないのか、ということでございますけれども、これは別に、TPPの協議に入るか、入るという話で、協議に入る前に閣議決定、という外交交渉はありません。これはいかなる場合もそうであって、閣議決定が必要なのは、例えば政府が署名をする場合、あるいはいわゆる批准をする場合、そういう時には、これは閣議決定でありますけれども、これが外交交渉でありますので、そこは誤解のないように。でも、全閣僚の、まさに参加をしている関係閣僚委員会において、今申し上げた方向性、方針については私からご説明をさせていただきましたので、この方針に基づいて、これから対応をしていきたいというふうに思います。
● テレビ朝日、山崎です。TPPの交渉に参加する、ということですけれどもですね、アメリカの議会ではですね、原則関税を撤廃するルールに対して、日本側はどこまでやる気があるのか、というふうな意見も出ていますし、今総理も言いましたけれども、国益の視点に立ってTPPの、関して結論を得たいとおっしゃいましたが、各国ですね、激しい外交交渉がこれから待ち受けていますけれども、具体的にどのような視点で、国益というものを勝ち取るのでしょうか。そしてですね、また、国益にそぐわないと判断した場合は、これは途中で離脱する、ということはあり得るのでしょうか。例えばですね、先ほど農業についても触れられましたけれども、農業についてこれまで、国会答弁で触れた4次補正予算案を含めて、どの段階でどういうふうに農業の対策を打つのでしょうか。
3点、ということですか。基本的にはこれTPPは、原則として関税を撤廃をしていくと、10年以内になくしていく、ということでありますが、その中身、例えば即時撤廃がどれぐらいあるのか、とか、あるいは長い時間をかけて段階的な撤廃、ってどういうものができるのか、とか、あるいは例外というのはあるのか、とかを含めてまだ、これ定まっていないというふうに思います。従って、協議に入る中でですね、国益をまさに実現をするために、しっかりと協議をしていきたいというふうに思います。それで、二つ目が農業だったですか。
● 離脱の話です、離脱です離脱。途中で離脱するか、です。
これは、協議に入る際には、守るべきものは守り抜き、そして、勝ち取るものは勝ち取るべく、ということの、まさに国益を最大限に実現をするために全力を尽くす、ということが基本であるというふうに思います。失礼いたしました。その上で、農業、4次補正の話・・。
● 含めてですね、農業対策ですね。
この間国会でご質問いただいたのは、二重ローンはどうするんだと。これは3次補正、今、衆議院を通過しましたけれども、ようやく与野党で合意した二重ローンの予算措置はどうするんだ、ということのお尋ねがあった中で、二重ローンの問題も含めて、あるいは追加財政需要が出た場合には予算措置をします、という言い方を私は申し上げていて、別に第4次補正という言い方はしていません。その予算措置はやるということなのですが、その上で農業に向けての予算措置、のお尋ねだと思いますけれども、これは10月に、食と農林漁業再生のための基本方針と行動計画をまとめさせていただきました。そこにはですね、規模の集約化、規模拡大、あるいは6次産業化、等々の項目があります。これを5年間で集中的に行っていく、というのが基本方針、行動計画です。それに基づいて、必要な予算措置を行っていきたい、というふうに思います。
● 日本経済新聞の犬童です。総理はこれからAPECのホノルルに出発されて、その方針を伝えることになると思うんですけれども、それはTPPの関係国の会合の場でおっしゃるつもりなのか、それともオバマ大統領との会談の場でおっしゃるのか、どういう場を想定して日本の意思を伝達されるおつもりなのかお伺いしたいということと、せっかくの記者会見なので消費税について、これからのTPPの次は消費税だと思うんですけれども、TPPのこの反対派との関係で、消費税の問題に影響はないか、あるいは自民、公明党の議員の論者の人たちは、消費税に反対の、今回の引き上げについて否定的な、その協議開始にですね、否定的な考え方を示されていましたが、党内と対野党で、消費税の準備法案について、どのような見通しを持っていらっしゃいますか。
明日ホノルルに向かってAPECを、というよりもですね、いわゆるTPP関係国との会議もあると思いますので、そこはちょっと扱いがまだオブザーバーなのかどうなのかわかりませんが、そこで可能ならば、その意思をお伝えをすると同時に、これは日米の首脳会談もございますし、議長国はアメリカでございますので、その際にもお伝えをするなど、関係国にはそれぞれしっかりお伝えをしていきたい、というふうに思います。
それから消費税の話でございますが、これは税と社会保障、社会保障と税の一体改革、成案を6月にまとめて、それを具体的に今詰めていくという作業を行っております。社会保障の安定財源を確保するために消費税を充てていく、ということ。この議論は、厚生労働省の中の部門の下で、社会保障に関連するいろいろな審議会のご議論も行われていますし、税はこれから、税調において本格的な議論になっていくというふうに思いますが、それはまさに、成案で書いてある通りの具体化をしていくなかで、それは与野党も是非参加をしていただいて、野党にも参加をしていただいて、是非成案をまとめていきたいと思いますし、これは法律上は、平成21年度の税制改正法の附則に書いてある通り、23年度末までに法案を提出する、ということになっていますので、その準備をしっかりやっていきたいと思います。その可能性のお話だと思うんですが、これはもう大きな山ばっかりでありますけれども、今各地域でポスター貼らせていただいていますが、一つ一つ乗り越えていく、ということでしっかりと対応していきたいというふうに思います。
● アメリカの通信社のブルームバーグの廣川と申します。総理はTPP交渉への参加を内外に向けて表明したわけなんですけれども、ただ、今、国際的なビジネスの世界では、オリンパスの損失隠し問題が一企業の問題にとどまらず、日本企業の企業統治の在り方全体、日本の金融・証券市場の信頼性全体の問題になって捉えられています。TPP交渉参加以前の問題として、日本政府はこのオリンパスで起こった問題をどのように受けとめ、再発防止、信頼回復に取り組むおつもりか、お考えをお聞かせ下さい。
オリンパスについての不適切な会計処理があったということは、誠に遺憾であるというふうに思います。もともと政府としては、会計処理については厳格かつ透明にするようにすべきであると、またそのことが極めて重要であるというふうに考えてまいりました。従いまして、このような不適切な事例が出た場合には厳格な対応をしなければいけないというふうに思います。そういうことによって、日本の金融市場における信頼というものを是非とも確保していきたいというふうに考えております。
● フリーの岩上安身です。総理は、なぜ国会でTPP交渉参加をすると断言した上で、ご自身の意思をお示しになった上で、十分な論議に臨まれなかったのでしょうか。それが一点目。それからもう一つ。PTで50時間論議したということですが、この論議は公開されませんでした。なぜ非公開で、密室での議論にとどめたんでしょうか。3点目。このPTにおいて圧倒的に少数派であった推進派の方から出た主張というのは、経済的なメリットを主張するよりも、これが本質的には安全保障問題だと、中国の脅威というものを指摘した上で、米国との関係を深める、安全保障上関係を深める上で必要なんだという意見でした。これは前原政調会長もよくおっしゃっておりますけれども、こうした安全保障問題との絡みでこのTPPを論じるというのは、公の場でなされていたことが非常に少ないと思います。総理のお考えをお示しいただきたいと思います。
最初の、まず国会の中で、国会審議の中で方針を示すべきだったんではないかというお尋ねでございますが、もちろんそれは間に合えばそういうことができたと思うんですけれども、政府、民主党内の意思決定のプロセスを経ることによって、結果的には今日は衆参の集中審議が終わったあとにその決定、結論を出したということになりました。これは結果的にはそうなったということでありますけれども、ただし、基本的な、例えばTPPのメリット、あるいはデメリットの問題については、これは審議ができたと思っていますし、これからも国会でのいろいろな審議の場においてはしっかりとご説明をしていかなければいけないというふうに思います。
それから、2点目は、これはPTとしての何か決め方があったんだろうとは思うんです。その運営の仕方については、詳しくは承知をしておりません。その中で、党内の議論はそういう形でやっていただきましたけれども、ただ、このTPPの問題については、例えばネットで公開をしながらの討論会などもやってまいりましたので、できるだけ多くの人たちに、国民的議論に供するような、そういう工夫を、これから政府内においても与党内においても、していかなければいけないなというふうに思います。
それから、安全保障との観点でこのTPPを論ずる議論があったというご指摘ですけれども、私自身は、あくまでアジア太平洋地域における、まさに成長力を取り込んでいくという経済の観点。特に貿易立国、投資立国である日本が、アジア太平洋地域において、よりフロンティアを開拓をしていくというところに意義があると思っておりまして、アジア太平洋地域における、まさにこれからの日本の存在感はどう考えるべきかということを、まず経済を中心に考えていて、その方向性を考えたということであります。
● TBSの今市です。TPPについて確認になりますけれども、総理はTPPの交渉参加に向けて関係国と協議に入ることにしましたとおっしゃいました。ストレートに交渉に参加しますという表現にならなかった、総理が使われたこの表現になったのは、昨日から一日じっくり考えたいとおっしゃったと聞いておるんですけれども、こういう表現になった理由についてお聞かせ下さい。
これは、TPP参加に向けて協議に入ると。それは、まさに国益を最大限実現をするための、まずプロセスの第一歩であるということであります。これまでは、昨年の11月、包括的な経済連携のための基本方針をまとめた中で、TPPについては情報収集のための協議ということでございました。その段階を、更に歩みを前に出すことによって、まさにTPP交渉参加に向けての協議という、そういう位置付けになったということであります。  
記者会見 / 平成23年12月1日
まず冒頭、国民の皆さま、そしてなによりも沖縄県民の皆さまに、前沖縄防衛局長の発言について、一言申し上げたいと思います。
報道された発言の内容は極めて不適切なものであり、本人も報道されたように受け取られても仕方がないやりとりがあったと認めております。更迭は当然の処置であると考えます。沖縄県民の皆さまの気持ちを深く傷つけたことについて、改めて私からも心からお詫びを申し上げたいと思います。
普天間飛行場については、日米合意を踏まえつつその危険性を一刻も早く除去し、沖縄の負担を軽減したい、というのがこの内閣の基本的な姿勢であります。そのため、現在の国の方針に、沖縄の皆さまのご理解をいただけるよう、政府一体となって誠心誠意務めてきたつもりでありました。その誠心誠意が徹底していなかったことは、極めて遺憾であります。改めて、政府全体で襟を正し、沖縄の皆さまのご理解をいただけるよう、全力を尽くしていきたいと考えております。
続いて、3次補正と復興財源確保法の成立という一里塚にたどり着くことができましたので、改めて国民の皆さまにご報告をさせていただきたいと思います。被災地の復旧・復興に向けて、これまでも1次、2次合わせて約6兆円規模の補正予算を編成するとともに、その間も数度にわたって予備費を機動的に活用し、被災地が足元で必要とすることを中心に取り組んでまいりました。そして本格的な復興に必要となる経費を盛り込んだ、総額12兆円を超える3次補正予算が先月の21日に成立をいたしました。そして昨日には、その裏付けとなる復興財源確保法も成立をいたしました。これによって、この内閣の最重要課題である大震災からの復旧・復興、原発事故の収束、日本経済の立て直しは大きく加速をするものと確信をしています。真摯に国会論戦を積み重ね、最終的な国会の決断を導いていただいた与野党の関係者の皆さまのご尽力に感謝を申し上げたいと思います。
復興財源として、政府全体の無駄削減や税外収入の確保にも、今後も不断に取り組んでまいります。その大前提の下で、所得税や法人税の時限的な引き上げなど、国民の皆さまに一定の負担をお願いすることとなりました。巨額の復興費用は、同じ国に生きる者同士で分かち合わざるを得ません。今を生きる世代が連帯して応分の負担をし、将来世代につけを回さないとの考え方について、改めて国民の皆さまのご理解をお願いをしたいと思います。
被災地の復旧・復興には、これまでも精一杯取り組み、仮設住宅は必要戸数が完成し、避難所におられる被災者の方々は、6月時点でなお4万人以上いらっしゃいましたけれども、直近では700人余りに減少をいたしました。住宅や道路などに散乱している瓦礫の撤去は、ほぼ完了をいたしました。解体作業を要するその他の瓦礫を含めても、必要となる総量の3分の2の撤去が完了をいたしました。8割を超える被災自治体において、年内に復興プランが出揃う見込みとなっております。
このような進捗をみせている一方、しかしながら現在に至るまで、迅速さに欠ける、あるいは必要な方への支援が十分に行き届いていない、という声があることも認識をしております。被災地に厳しい冬が迫る中で、なんとしても取り組みを加速しなければ、という想いに駆られてきました。被災自治体の現場において、思い切った措置の実行を躊躇させた最大の要因は、財源面での裏付けが明確になっていなかった、という点があると思います。3次補正と財源確保法の成立で、最大のボトルネックが解消するものと期待をしております。1兆5千億円を超える使い勝手の良い交付金の創設や、1兆6千億円を超える特別交付税などにより、被災自治体の財政負担を実質的にゼロにすることになりました。こうした過去に前例のない画期的な財政措置を実施することが、3次補正の最大の目玉であります。これにより、被災自治体の復興プランの実現への道筋を確かなものにできると考えております。
また、大規模な除染、放射性廃棄物の処理に必要な予算として、約4600億円を既に確保しております。さらに、24年度予算で積み増し、総額1兆円を超える額を措置すべく、取り組んでまいります。自衛隊を含め、関係省庁が一丸となって除染に取り組む強力な態勢も構築し、福島と全国の方々の不安を取り除くため、政府も総力を挙げて対応してまいりたいと考えております。さらに、福島再生のための基金などに、5千億円を超える額を措置をいたしました。国際的な放射線医療センターの整備など、福島の未来をつくるプロジェクトが実現に向け、動きだすことになります。
歴史的な円高に苛まれる日本経済全体を立て直さなければ、被災地の早期復興も実現できません。過去累積額の3倍以上となる、5千億円の立地補助金に象徴されるように、空前の危機に対応した、空前の規模での産業空洞化対策を用意をいたしました。中小企業金融対策や雇用創出基金も拡充し、日本経済の立て直しと国内雇用の維持に、断固たる姿勢を示すものとなっております。
以上のような巨額の補正予算を一日も早く執行していくことが、政府の次なる責務であります。事業の執行を待つ現場に生きたお金が一日も早く届くように、私が先頭に立って各大臣を督励し、政府の持てる力の全てを発揮させたいと思っております。補正予算の円滑な執行には、被災地において法人税を5年間無税とするなど、大胆な規制、税政の特例を可能とする復興特区法案、被災地のニーズを丁寧に汲み取り、復興の司令塔となる復興庁の設置法案などの関連法案の成立が欠かせません。国会での早急な審議を改めてお願いをしたいと思います。
円高の進行、タイの洪水、欧州債務危機など、経済の先行きに不透明感が広がっていることを踏まえ、本日、国民の安心、安全を確保する観点から、安住財務大臣に4次補正予算の編成を指示をいたしました。なお、財源については経費の節減などによって賄うこととし、追加的な国債を発行しない方針でございます。
今日の外の空気は特に肌寒く、師走の訪れを感じる一日でございました。被災地の沿岸部では、今日の最低気温は零度。明日には氷点下になると予想されています。東北の冬の厳しさに改めて思いを致しております。3月の発災直後、政府は、いち早く被災地に届けなければと考えたのは、食糧や医薬品とともに、寒さをしのぐ毛布でございました。3次補正を早急に執行し、厳しい冬が本格化する被災地の皆さんに心と体の温もりをお届けをしたいと考えております。プレハブの仮設住宅における寒さ対策には、万全を期してまいりたいと思います。自治体を通じて暖房器具の設置を進めておりますが、まだ届いていない方々にも、一日でも早くお届けできるようにしたいと思います。寒さが厳しくなると、つらかった記憶が甦り、寂しさも募るかもしれません。高齢者の方々が多い被災者の方々にしっかりと寄り添って、孤立化の防止や、心の健康対策も進めてまいりたいと考えております。
被災地の復興に関連して、震災で発生した一般瓦礫の広域処理についてもお願いがございます。積み上がった瓦礫の処理には、被災地以外の人員や施設の活用が急務となっています。情報公開を徹底し、段取りを踏んで安全性を確認することを前提に、身近な自治体で広域処理を行うことに、国民の皆さんのご理解、ご協力をお願いをしたいと思います。同じ国に生きる者として、被災地を助け、支えようという純粋な気持ちをいま一度形にしていただきたいと存じます。こうした形での、国民同士の助け合いも、被災者の方々の心に届く温もりの一つになるはずと確信をしています。
これから、年末にかけて震災前から我が国が抱えてきた諸課題についても、次なる段階へと議論を進め、具体的な処方箋を明確にしなければなりません。最大の課題は、いかにして社会保障の機能を強化し、安定財源を確保して将来にわたって持続可能なものにするのか、であると思います。このため、社会保障・税一体改革については、年内をめどに取りまとめるべく、私が先頭に立って政府部内、そして与党内での議論を引っ張っていく決意でございます。
冒頭からの発言は以上でございます。
【質疑応答】
● 朝日新聞の坂尻です。総理が最後におっしゃった消費増税について3点伺わせていただきます。まず、税と社会保障の一体改革を巡っては党の方でも議論が進んでいまして、政権内では大綱をまとめるんだという話も出ています。一方で総理は国会答弁、昨日の党首討論でもそうでしたが、まとめるものを素案という表現でおっしゃっていました。この取りまとめるのは大綱なのか素案なのか、これは同じことをおっしゃっているのか違うものなのか、違うものであればどういう順序になるのかということをご説明いただけますでしょうか。これが1点目です。2点目は、その素案なり大綱なり、書き込むものは何なのかと。消費増税を巡っては一体改革の成案で方向性は出てますから、さらに新たなものを作るとすれば、二千十何年何月までに、現行5%の消費税を○%まで引き上げると、この消費増税の時期と幅をきっちり明記されるのかどうかという点が2点目です。3点目は最後おっしゃった、年内をめどにとおっしゃってます。年内ということは、この議論どんなに遅れても本年12月31日までに、消費増税については一定の結論を出すんだということでよろしいのかどうか、この3つの点を伺わせてください。
まず、最初の素案ですが、素案とは政府・与党が取りまとめる考え方、これが素案であります。この素案を取りまとめて、昨日の党首討論でも申し上げましたけれども、その段階で政府・与党の中で考え方をまとめるわけでありますから、それを野党の皆さまにもご提示をし、税と社会保障の一体改革、その在り方についてご議論をさせていただきたいと思います。その議論を経て最終的に成案としてまとめるのが大綱であるということでございまして、その大綱を踏まえて法案提出の準備に入っていくと、そういう段取りであるということを私はイメージをしています。
これは自民党がかつて国会に提出をした、参議院選挙の後に提出をした財政健全化責任法にもこういう記述がございまして、政府はまず素案を取りまとめて、そしてその素案について党派を超えて、国民的な視点から検討し合意形成をするということになっていましたので、私はその事も参考にしながらこの同様のプロセスをたどっていきたいと思っております。その時期、あるいは率等々含めて、なるべくその素案や大綱の段階では具体的に明示をしていきたいと思いますし、その議論は、まだ国会がありますので、いろいろと政府内、与党内での議論もまだまだ制約がありますが、あくまで年内をめどにそういう形で素案や大綱作りに進んでいきたいというふうに考えております。
● 国会の会期延長に絡んで質問したいと思います。この臨時国会ですけども、あと1週間ちょっとですけれども、まだ重要法案はいくつか残っています。その一方で、総理今もおっしゃいましたけれども、税と社会保障の一体改革について年内をめどに取りまとめないといけないと。そうすると、総理はまだ残っている公務員の法案とか、復興庁の設置法案とか、郵政とか、そういう重要法案を成立させるために延長も視野に入れて考えているのか。それともやはり党内で税と社会保障の一体改革を議論する時間が欲しいということで、会期延長せずに、重要法案の成立を待たずに閉じるのか。その辺総理はどのようにイメージしますか。
今、政府としてご提案をしている、残っている法案については、基本的には早急にご審議をいただいて、そして成立を期していくというのが私の基本的な姿勢であります。この取組は引き続きそういう努力をしていきたいと思いますが、その会期の話は、現時点で、今何か申し上げる段階では、私はまだないと思っています。
● 先ほども出ました一体改革、さらにTPPのことには言及されませんでしたけども、国民は皆さん関心を大いに持っている。しかし、今の段階で党内をまとめ、国会内で野党を含めてですね、多数派を形成していくということについての道筋が一向に見えないわけですね。ですから、見えるようにすると同時に、当然こうした既得権の調整を図るのはやはり国民の支持、バックが必要だと思うんですよね。国民を巻き込んだ一種の国民運動みたいなものをつくり、行革の時の土光さんみたいな人を探してきてですね、何かそういうふうに据えて、ちょっと今までの国会ルールだけだけじゃなくて、国民を巻き込んだ一大運動にしないとなかなかこういうものは進まないと思うんですけれども、総理はそういうお考え、お持ちでしょうか。
まずTPPについては、いろいろと沢山の議論を経ながら、TPPの交渉参加に向けて関係国との協議に入るという方針を定めました。これから関係国と協議をする中で、それぞれの国が我が国に何を求めてくるかなどが段々明らかになってくると思います。今までで一番ご指摘をいただいたご批判は、情報が足りないということでございました。そういう情報もしっかりと開示し、提供して、十分な国民的な議論をして、最終的には国益の視点に立って結論を出すという方向ですので、この間、いわゆるフォーラムという形式で、全国各地でそういう議論をしていく場を作っていきたいと思っています。国民的な運動が必要だと、土光さんみたいな人が必要だという大変前向きなアドバイスだとは思いますが、TPPについては、そういうこれからの例えば外交交渉、それから情報を提供していく、それから国内の世論をしっかりと向き合っていく、いろんな意味での体制強化を作っていく中で、今ご指摘をいただいたようなアイデアも含めて、対応していきたいと思います。
税と社会保障については、先ほど申し上げた通り、これからまさに本格的に社会保障改革の在り方、そしてそれを支える安定財源の確保の仕方、まず社会保障が先行すると思います、その議論を政府内、与党内でこれからしっかりと詰めていきたいというふうに思います。その上で、さっき申し上げたように、野党にも協議を呼び掛けていくという中で、どういう議論が行われているかということは、できるだけ国民の皆さんにも知っていただくために、あらゆる形で広報活動、ご説明をするという努力を併せてしていきたいと思います。
● 香港フェニックステレビの李ビョウといいます。日中関係についてお伺いしたいんですが、総理はかねてから日中関係を形だけではなく、率直に話し合うべき、の関係にしなければならないとおっしゃっていました。率直にお伺いしますが、安倍政権の時から戦略的互恵関係が構築されて以来、近年、日中間の首脳同士で、あくまで戦略的互恵関係の確認をしているだけに見受けられます。総理の訪中は、今回どのようなことを中国に提案していきたいとお考えなのか、それから東シナ海の共同開発など、南シナ海の海上安全保障の利益なども含めて、お考えをお伺いしたいんですが。
戦略的互恵関係を確認しているだけだというお話がございました。私は、日中がまさに戦略的互恵関係である。これはだから、もっと平たい言葉で言うと、共存共栄の関係であると、ウィン・ウィンの関係であるという、この大原則、大局観に立って確認し合うことは大事じゃないでしょうか。時折困難な問題が起こりますけれども、そういう問題を乗り越えていくためにも、大局的には戦略的互恵関係が必要であるということを首脳間で確認し合うということは、私はとても大事な作業だと思っております。それを踏まえて、ホノルルでは胡錦濤主席と、バリでは温家宝首相とお会いしたときにも、この議論はさせていただきました。
私にとっては中国の発展、私というか日本にとってですね、中国の発展はチャンスであると。そして戦略的互恵関係を深化させていくということは、日中間のこの2国間の関係だけではなくて、地域やあるいは世界の平和、安定、繁栄に大きく貢献するんだと。その認識をお互いに共有をするということはとても大事だと思います。その上で、今月にも訪中する予定とさせていただいておりますが、その戦略的互恵関係を深化させるための具体的な議論をしていきたいと思います。それは、まさに来年が国交正常化40周年という大きな節目でございますので、例えば復興支援であるとか、あるいは観光促進などの、震災を受けた協力、それから今ご指摘があった海洋に関する協力、さらに文化、人的交流の推進。例えば私は84年のいわゆる日中の青少年交流、3000人交流のときに初めて訪中をしている、ある意味、交流の申し子でございます。そういうものを促進をしていく具体的なお話を、訪中する際には、是非首脳間で話し合いをしていきたいと思いますし、特に、さっきちょっとTPPの話が出てましたけれども、日中韓のFTAも、私は早期に交渉すべきだと思っています。そのためには、投資協定でもう3年くらい議論しているんですね。あと一歩のところでできていないんです。詰めの議論を先般バリでも温首相にはお伝えをしましたけれども、それをさらに加速する議論もしっかりやっていきたいと思っております。
● 共同通信の山根です、よろしくお願いします。歳出削減に向けた取り組みについて、お伺いします。消費税増税の話が先行しているように思えますけれども、先の所信表明演説でも総理は、政府全体での歳出削減に向けて決意示されました。ただ、党内外でですね、歳出削減の取り組みが不十分じゃないか、という指摘がずっとあると思います。現状でですね、国民に負担増を強いていく上で環境は整っている、というふうにお考えでしょうか。それと今後、歳出削減に向けて具体的にどう取り組んでいくのか、お考えを教えてください。
歳出削減については、これは今までは事業仕分けなどを踏まえて、22年度に確か2.3兆円、23年度に0.3兆円、2.6兆円の歳出削減をしてきました。そういうことなどを踏まえて、予算の組み替えも、今までの政権に比べれば額は全然違うくらいの組み替えはやってきていると思いますが、これは不断の努力をしていかなければなりません。一層行政改革、あるいは歳出削減に向けた努力をしていかなければならないと思っておりますし、例えば今も、公務員の給料をマイナス7.8%削減する法案を提出しています。こういう努力を常にしていくということ。特にまずは隗より始めよということで、特に政治の分野でも何ができるか、1票の格差の是正の話もしていますが、その先には選挙制度改革と併せて定数の削減もやっていかなければいけません。そういう議論もしていかなければいけないと思っておりますし、不断の努力でやっていくということでありますし、また来年の通常国会には特別会計法の改正案も提出をする予定でございますので、特会改革にも深堀をしたものを出さなければいけないと考えています。
● ニコニコ動画の七尾です、よろしくお願いします。福島県以外でですね、関東圏やそれ以外の地でも、福島第1原発由来の可能性の高いですね、放射性物質があちこちで度々検出されております。例えば、汚染マップがあるんですけれども、現在までのところ、全国、全都道府県対象となっておらず、国民自らが自前で調査していくしかない、との声が高まっております。冒頭総理からございましたように、国民が安心して暮らせるように、あるいは風評被害を防止するというのであれば、放射性物質の拡散に関する調査などを、全国規模でより充実していくことも必要だと思いますが、この点総理はいかがお考えでしょうか。
まずは、その発生源である福島第1原発におけるまさに冷温停止、これに全力を尽くすということ。これは何としても今月中に成し遂げて、いわゆるロードマップにおける第2ステップを完了したいと思います。その上で、拡散をしている放射線については、放射能については、特に被災地域については除染を全力で進めるということ。それ以外の、不安を持っていらっしゃるところで、特に可能性が指摘をされるところについてのモニタリング等も含めての対応は必要だと思いますが、いきなり全国かというと、これは対象をもうちょっと絞っての話ではないかと思います。
● 読売新聞の村尾です。皇室典範についてお伺いします。先般官房長官が、国民各層の議論を踏まえて、女性宮家の創設について検討すると表明されました。安定的な皇位継承を確保する意味でも注目されるところなんですけれども、総理のご見解と、今後の検討の進め方、例えば有識者委員会みたいなものをつくるのかどうか、など。あと、結論のめどがいつ頃になるか、というようなことをお聞かせください。
今の皇室典範の制度の下では、女性皇族の方がご結婚されるというときには、皇室を離れる制度になっております。そういう中で、女性皇族の方々がご結婚年齢に近づいてきてらっしゃる方がいらっしゃるというところでございますので、こうした状況を踏まえて、10月、宮内庁長官からご説明をいろいろとしていただきまして、私も皇室活動の、まさに安定性といいますかね、そういう意味から大変緊急性の高い課題であると認識をしております。ということで、これから、もちろん国民的な議論は必要だと思います。いつまでにというお話がございましたけれども、まだいつまでにという時期は区切っては、言葉はないんですが、どういう形で議論をしていくのか、どういう形の検討を進めていくのか、その検討を今しているという状況でございます。
● NHKの山口です。消費税に話を戻したいと思います。総理は信念として、来年の3月に消費税の法案を出して成立を期すと繰り返していらっしゃいますけれども、それが叶わなかった場合には、国民に信を問う、というお考えはないのでしょうか。
ちょっとまだ飛躍のある話だと思います。まず素案をまとめる、野党に協議を求めて大綱を作っていく、その上で法案を提出をします。法案を提出する以上、これは、法案というのは附則の104条で決められた法律に基づいた義務でございますから法案を提出します。提出する以上は成立を期すわけ、というたくさんのプロセスがあるので、それが最後のところで駄目だったらというご質問はまだ早すぎるんじゃないでしょうか。  
記者会見 / 平成23年12月9日
本日をもって10月20日以来、会期51日間にわたりました臨時国会が閉会をいたしました。今次国会の最大の成果は、東日本大震災からの復興、日本経済の立て直しという、この内閣が必ずやり遂げなければならない課題に大きな一歩を踏み出せたことであります。具体的には、既に先日1日の記者会見でご報告をさせていただいたとおり、12兆円を超える規模の第3次補正予算と、その裏付けとなる復興財源確保法が成立をいたしました。その後、会期末までに、法人税を5年間無税とするなど、規制、税制の特例を措置する復興特区法、省庁の縦割りを排してワンストップで対応する復興庁設置法についても、与野党が実務者レベルで建設的な議論を積み上げ、最終的な成案を得ることができました。これらにより、被災地の復興を進めていく仕組みがきちんと揃うことができました。力強い復興の実現をスピードアップさせていきたいと考えております。また、大幅に拡充した立地補助金など、3次補正予算に盛り込んだ施策を着実に実行し、円高、空洞化対策を加速をさせていきたいと考えております。本会議や予算委員会を始め、幅広く質疑に対応いたしました。私が出席をした国会審議は総計29回に及んだところであります。与野党の真摯な議論を通じて、様々な知恵を出していただき、より良い内容の法案に仕上げていただきました。与野党の国会議員の皆さまに改めて感謝を申し上げたいと思います。
他方、この国会で残念ながら成案を得られなかった法案も残りました。特に、復興財源を捻出する上で重要となる公務員給与削減法案と郵政改革法案、そして非正規雇用の適正化を図る労働者派遣法改正案を成立させられなかったことは、忸怩たる思いが残ります。輿石幹事長を中心に、自民、公明両党にこれらの法案の成立をお願いをしてまいりましたが、会期を延長しても成立の見込みは立たず、この国会での成立を断念をいたしました。国会閉会後も、各党会派との協議を進めて、合意形成を図っていきたいと考えております。得られた成案を来年の通常国会で審議し、できる限り早期に成立を期したいと考えております。
また、1票の格差の是正、国会議員の定数削減を含む選挙制度改革といった、大きな政治課題についても成案を得ることができませんでした。これらについても、各党会派のご理解、ご協力を頂いて、早期に具体化を図りたいと考えております。
この国会の期間中、外交課題にも着実に取り組んでまいりました。具体的には、欧州金融危機を中心に、世界の経済問題について幅広く議論したG20サミット、カンヌで行われました。TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る旨を表明するとともに、アジア太平洋地域の未来を語り合ったホノルルAPEC首脳会議、ASEAN諸国との絆をさらに強化することを目指したバリ島でのASEAN関連サミットといった国際会議に出席をしてまいりました。それぞれの機会に、日本の考えを積極的に世界に発信するとともに、各国首脳との信頼関係を深めることもできたと思います。外交にも休みはなく、年末に向けて引き続き様々な課題に取り組んでいく決意であります。
前沖縄防衛局長の発言を巡っては、本日付で防衛大臣から関係者の厳正な処分を実施することの発表を行いました。防衛大臣と政務三役の給与自主返納も決定したところでございます。沖縄の皆さまの心情を深く傷つけたことを考えれば、当然の対応だと考えています。改めて、心から私からもお詫びを申し上げたいと思います。誠心誠意が行き届かなかったことは遺憾であります。沖縄の皆さまからの信頼を取り戻すべく、政府全体でこれまで以上に誠実な努力を重ねていきたいと思います。
本日の参議院本会議において、一川、山岡両大臣の問責決議が可決をされました。大変残念でありますが、厳粛に受け止めなければなりません。一方で、それぞれの担当分野で懸案事項が山積をしております。両大臣においては、自らを省み、襟を正して職務遂行に全力を挙げてもらいたいと考えています。
今年も残り一カ月を切りました。年末にかけて、来年度の予算編成、4次補正の編成、原発事故の収束、日本再生の基本戦略の取りまとめなど、取り組むべき政策課題が数多く控えております。一つひとつ、着実に道筋をつけていきたいと思います。また、EU首脳会議が始まり、欧州債務危機の帰趨は予断を許しません。我が国としても、緊張感を持って注視し、必要があればいつでも機動的に対応したいと思います。
最重要課題である社会保障・税一体改革については、年内をめどに6月に取りまとめた成案を具体化し、超党派での議論に付す素案を取りまとめるよう、先日の政府・与党での社会保障改革本部で指示をいたしました。国民の皆さまが自らの問題として幅広く議論していただくことは何より重要だと思います。
なぜ今なのかを改めて説明をしたいと思います。世界最速の超高齢化社会は、実はこれからが本番であります。団塊の世代の方々が次々と65歳以上となり、制度を支える側から支えられる側になります。かつて、多くが1人の高齢者を支える胴上げだった人口構成は、今や3人で1人を支える騎馬戦型となり、いずれ1人が1人を支える肩車型へと変わってまいります。社会保障のための財政支出は、今のままでも毎年1兆円規模で自然に拡大をしてまいります。同時に、支える側である子育て世代や、若者を支援する、全世代型の社会保障の構築も切実な課題であります。加えて先ほど申し上げた欧州債務危機は、対岸の火事ではありません。日本は財政規律を守る国か、世界と市場が見ています。将来につけを回すばかりでは、国家の信用は守れません。
こうした状況に対処していくため、何よりも政府の無駄遣いの徹底的な削減と税外収入の確保に懸命に取り組む決意であります。だからこそ、公務員給与削減法案と郵政改革法案を何としても早期に成立をさせたいと考えております。また、公務員宿舎の25%削減を断行するとともに、行政刷新会議の提言型政策仕分けをしっかりと受けとめ、そもそも論に立ち返って行政の効率化を進めていきたいと考えております。さらに、国の特別会計の見直しや、出先機関の原則廃止についても、来年の通常国会での法案提出を目指し、検討を加速をしていくつもりでございます。
その上で安定財源を確保しなければ、社会保障の機能強化も、持続可能性の維持も果たせません。もちろん、実際に国民の皆さまにご負担をお願いする際には、経済の状況を慎重に見極める必要があります。そうした点も含め、国民の皆さまにも一緒に考え、幅広くご議論をいただきたいと思います。
年末に向けて、全国津々浦々で、様々な不安を感じておられる方々に改めて思いを寄せたいと考えております。東日本大震災を始め、今年相次いだ自然災害に対応した生活支援としては、プレハブの仮設住宅に暖房器具を早急にお届けするとともに、台風で損壊した自宅の応急修理を急ぐなど、被災者の方々に寄り添う支援に万全を期したいと思います。中小企業の年末の資金繰り対策としては、金融機関に円滑な資金供給を要請をいたしました。土日を含め、30日まで関係機関の窓口を開き、相談に応じてもらいます。卒業を控えた高校生や大学生の就職支援策としては、ハローワークにおいて、ジョブサポーターの親身な相談など、きめ細かな対応を行ってまいります。このような取組によって、年末に向けて、国民の皆さまの暮らしの安心を守る対策をしっかりと講じていきたいと思っております。冒頭、私からは以上でございます。
【質疑応答】
● テレビ朝日の山崎です。今日、参議院で一川防衛大臣と山岡国家公安委員長の問責決議案が可決されました。今総理は、2人に対して職務遂行に全力を尽くしてほしいと言ってますけれども、このまま、この2人を続投させれば、次の通常国会で野党は審議には応じない構えです。そうすると、総理が強調した公務員の法案や郵政の法案なんて成立するわけないんですけれども、総理は、この通常国会の前までにこの2人を更迭、交代、内閣改造などの形で代えるのか、それともこの2人を残したまま通常国会に突っ込んでいくのか、明確にお願いします。
先ほどの冒頭の発言でも触れさせていただきましたけれども、今日参議院で2人の大臣の問責決議案が可決をされました。大変残念ではありますけれども、これは参議院のご意思でございますので、厳粛に受け止めたいと思います。その上で、なお一層、これまで以上に、両大臣については襟を正して職務を遂行してほしい。これが今の私の思いでございます。
● ジャパンタイムズの伊藤です。冒頭でもありましたけれども、総理はかねてからの国家公務員給与削減法案について成立に向けての強い意欲を示されていたと思うんですけれども、残念ながら今国会では成立を見送るという形になりました。しかし、おっしゃったとおり復興財源への影響が出るという可能性もありまして、野党側の主張を丸のみしてでも成立する、というお考えはあるのでしょうか。また、国会議員の定数削減や公務員の給与カットなど身を削る法案が成立しない中、国民に負担を強いる消費税増税について、国民の理解が得られるとお考えでしょうか。
公務員の給与削減法案についてはご承知のとおり、臨時、異例の措置でありますけれども、復興財源、いわゆる公的セクターでしっかりこの財源を確保していこう、被災地を支えていこう、そういう趣旨の下にマイナス7.8%の給与削減を内容とする法案を取りまとめて、各党のご理解を得られるように努力をしてまいりましたけれども、この会期末にこの段階においてご理解を得ることができませんでした。自民党と公明党の方から人勧を実施した上で、その上でこの給与削減をしようというご提案も出てきておりますので、そういう各党のご意見をこれからさらに政党間協議を通じて合意形成ができるかどうか。できれば年内に合意形成をしたいと思っておりますし、先ほど申し上げたとおり、それを踏まえて、通常国会なるべく早い時期に合意形成したものを法案として成立をさせていきたいと。そういうことで今思っておりますし、郵政の改革も、これは株式を売って、その売却収入を復興財源に充てるということもできますので、郵政改革法案についても、これも政党間の協議を年内になんとか合意をした上で、その上で来年通常国会のなるべく早い時期に成立を期していく、ということをやっていきたいと思います。
この二つの法案だけではなくてですね、やはり税外収入、そして歳出削減、不断の努力でやっていかなければいけないと思っています。冒頭のところでも触れましたけれども、特別会計を整理するものを、法律として提出することが元々決めております。これを深堀りをしていきたいというふうに思っています。それから先ほど言った公務員宿舎の削減であるとか、あるいは議員定数の問題もあります。これらのできることは必死に取り組んで、社会保障と税の一体改革と同時にしっかりと実現をする、ということを念頭に頑張っていきたいというふうに思っております。
● 日本経済新聞の犬童です。消費税に関してお伺いします。総理は今年1月、財務大臣だったときに財務省の年頭訓辞で、税制の抜本改革について政治生命、命をかけて実現するとおっしゃられています。今同じことをおっしゃることはできるでしょうか。来年の通常国会に提出する消費増税の準備法案に、職を賭して成立を期するという覚悟はありますか。お伺いします。
これは私はどの内閣においても、もはや先送りのできない待ったなしの状況だと思っております。理由、問題意識は先ほどお話をさせていただきました。ということは、これは当初の既定方針どおり6月に成案をまとめましたけれども、年内をめどに、政府与党としての考え方をまとめる素案を作る。素案を作ったならば、それに基づいて与野党協議をお願いをして、そしてできるならば党派を超えて合意形成をして、それを基に大綱にして、その大綱を法案化をすることによって年度内にその法案を提出をする、という段取りをしっかりたどっていきたいというふうに思いますし、それを実現をするための思いは不退転の決意でございます。
● ロイター通信の竹中です。東京電力に関してお伺いします。公的資金の投入、実質国有化という報道がございます。こうした手続きをスタートする初めの一歩になる、それ自体が、要請自体が東京電力から来ていないということでございますが、今後の除染とか廃炉とか賠償を考えると、東京電力が財務的に非常に厳しい状態になるのは明らかだと思います。こういった状況の中で、野田総理ご自身の東京電力に対する公的資金の投入についてのお考えをお伺いできればと思いますが、もし投入しないとすれば、どうして、どういうふうにしてタイムリーな除染とか安全な廃炉とか十分な賠償、そういったものを賄っていけるのか、といったところをもしよろしければお伺いできればと思います。
来年の春には、原子力損害賠償支援機構と東京電力が共同で総合特別事業計画をつくることになっています。というまずプロセスがあるということと、今ご指摘もありましたけれどもこれについては、原子力事業者から申請を受けて資金援助を行う、というような法律の枠組みになっています。という前提で申し上げますと、今政府として、今一部報道のお話ございましたけれども、報道に出ているようなことを一つの定まった方向と決め打ちしているわけではございません。政府としてはあらゆる可能性をこれから検討していく、という現段階であるということでございますので、私からまたそれ以上に踏み込んで一つの方向性を今言及する段階ではございません。
● フジテレビ和田でございます。社会保障と税の一体改革について、ちょっと違うことから質問させていただきたいと思うんですけれども、これはなかなか難しいと皆思っていると思うんですが、自民党は解散・総選挙が先で与野党協議どころじゃないと言っていますし、足元の民主党内からも反対署名とか新党の旗上げですとか、与野党とも政局的に絡めて消費税引き上げ反対する動きがあるわけです。こういうまず重要政策課題に政局を絡めることについて、総理ご自身どんな感想をお持ちか、ということと、それからこうした動きに抗して、なかなか一筋縄ではいかないと思うんですが、段取りは先ほど伺いましたが、どう上手く民主党内を説得し、野党側を説得して素案、法案要項、法案をまとめていかれるんでしょうか。
いろいろご意見もあるでしょう。だけどその、政局に絡めての話は本当にしているのかどうかわかりません、これについては。私はやはり粛々と、6月に政府与党で成案をまとめたわけです。成案をまとめたものを8月に閣議決定をしてスケジュールどおりにやっていきましょう、ということを決めているわけです。そして、私も代表選で明確にそのことを主張させていただきました。突然別にカンヌで言ったわけではなくて、国会の審議でも十分に二十数回以上お話をしていることです。そういう経緯からすると、これから年内、もう既にキックオフはいたしましたけれども、まずは社会保障のあるべき姿、全体像を作った上でそれを支える安定した財源をどうするか、と議論をして具体化をしていくということであって、その手順を着実に踏んでいくということです。その都度いろいろなこと、どういうことが起こるかこれは想定できませんけれども、私はこの筋道をしっかりとたどっていくということに尽きます。その素案をまとめた暁には、野党の皆さまにご理解をいただくように何度でもお願いをしていきたいというふうに考えております。
● 党内も野党もそういう状況に今あるとお考えでしょうか。すんなり手順どおり進むと・・
これからですから。
● フリーランスの上杉隆です。3月11日の震災から9カ月経ちました。当時、総理も閣内にいた前政権の中で、工程表の件に関してなんですが、ステップ2完了を9カ月で終わり、そして安全に避難民が戻れるという最初の発表がありました。また当時、市場に出ている食品は全て安全ですという枝野前官房長官の発言、それから格納容器は健全に守られている、レベル7に到達するような事象ではない。このような発言がありましたけれども、この当時の政府見解はどうも今現在違っているんではないかと思うんですが、そのことに関して変更、つまり訂正はあるのか。あるいはですね、なければそのままで結構なんですが、例えば粉ミルクからセシウムが検出されたとか、あるいは先ほど総理ご自身の冒頭の発言で事故の収拾を来年度にするという発言があったので、ちょっと前者の発言と矛盾するんじゃないかということがあるんで、その辺り、かつての政府見解から変更があるか、訂正があるのか、なければお答えいただかなくて結構です。
確か今年の4月にですね、事故収束に向けての工程表をつくりました。そしていわゆる第2ステップ、冷温停止状態をつくるには来年の1月までという工程表だったというふうに思います。その工程表をなるべく前倒しをしようということで取り組んできて、なんとか年内にそれを発表できるかどうか、という今最終的な調整をしています。冷温停止状態にするということは、これは圧力容器の底部のところの温度を本当に冷温になっているかどうか、現時点ではこれは冷温になっているというふうに思います。加えて放射性物質の管理が安定的かどうか、こういう観点から冷温停止状態であるかどうか等々の総合の判断をすることになっていまして、それはその工程表に基づいて作業を進めてきてそしてそろそろ結論を出せるかどうか、という状況だというふうに思います。なお、例えばコメの問題。一部地域から出荷停止という状況になりました。それから今粉ミルクの問題等々出ております。食べ物についてはこれまで以上に細心の注意を払ってですね、検査をしていく。そして国民の皆さまに安心安全をきちっとご説明できるような環境整備をしなければいけないということは、依然としてこれはやはり宿題として残っているというふうに思っています。
● 安心・安全という部分では、最初の工程表の手順では、除染が終わった地域に住民をお戻しするというふうな話だったんですよ。除染が終わった地域から。ところが現状では、お戻りになってから除染をすると変わったんですが、180度話が違うんですが、安心・安全の精神から逸脱するんじゃないでしょうか。
いわゆる冷温停止状態を確立をすると。ステップ2が終わった段階で警戒区域の問題とかのゾーニングをどうするか、という話になってまいります。その警戒区域等の見直しをする際に一日も早く故郷に帰還できるために、どの地域からどういう形で除染をするかという、そういう作業になっていくというふうに承知をしています。
● 産経新聞の加納です。普天間移設問題についてお伺いします。今回、一川防衛大臣の問責決議案が可決したことで、普天間問題を進展させる大臣として、国会の意思としては不適格であるという意思が示されたわけですけれども、このまま普天間の環境影響評価書提出を一川さんにやらせて、来年の埋め立て申請、そういったところまで彼に担当させるのかどうか、それが一つです。それから、準備書提出をめぐりましては年内提出に向けて準備する、それで実際提出するっていうことはまだ明確にされていないんですけれども、そうした方針を総理が年内に沖縄を訪問して説明し、事態を打開する決意はあるのでしょうか。
一川大臣に関する問責についての認識は、先ほどの山岡大臣のものと含めて私なりの今の姿勢をお伝えをしたつもりですが、その中で果たさなければならない職責の中に普天間の問題のみならず、他にもいろいろ防衛に関連する案件はございますが、そういう職責を果たしていただきたいと思っています。その中で、環境影響評価書については年内に提出をする準備をするということをずっと申し上げてまいりました。年内に提出をする準備も、これは一川さんの職責の一つだというふうに思っています。私の訪問時期については、これは適切な時期に訪沖したいというふうに考えております。
● 北海道新聞の山下です。問責決議について改めて伺いたいんですけれども、問責決議は法的拘束力はありませんけれども、過去、可決された場合はいずれも問責の対象者が交代につながっています。その辺についてですね、そういう現状について総理はどのように思われるか、法的拘束力と問責決議との関係について伺いたいということと、もう1点、ねじれ国会になってから問責が会期末で可決されるのが恒例になっているようなこともあって、政局という点の使われ方をしているんじゃないかという見方もありますけれども、その点について一般論で結構ですので、考え方をお聞きしたいと思います。
さっき申し上げたとおりですね、参議院という一つの院においてこういう意思が示された、決議が可決されたということは残念ではありますけれども、厳粛に受け止めなければなりません。最近の傾向としてそれが政局的なのかどうなのかということも、一般論では語るのもどうもいかがなものかと。それが一つの院の意思ならば厳粛に受け止めるということが基本だとは思います。思いますが、ご指摘のあったとおり法的拘束力があるわけではございません。むしろ大臣というのは、国会の中で説明をしなければならない義務というものもあります。それをどういうふうに考えていくのかということだと思います。
● 時事通信の佐々木です。先ほど、総理は国家公務員給与削減法案と郵政改革法案について、年内に与野党合意できればなるべく早い時期に成立させたいとおっしゃった。国会は通常1月下旬に召集されますけれども、できるだけこれを前倒し召集して、4次補正とともに冒頭処理したいという、そういうお気持ちなんでしょうか。国会召集は内閣はお願いする立場ですけれども、その辺のお考えをお聞かせ下さい。
まだそこまで国会の召集時期まで詰めた考えを持っているわけではございません。これからのいろいろな年内の取り組みなども含めて、特に予算編成等々がございますから、そういう作業を終えた後に判断をしたいというふうに思っていますが、思いとしてはさっき申し上げたとおりであって、公務員の給与削減法案も郵政の改革法案も、なるべく早い段階でいろいろご意見というのはそれぞれわかってまいりましたから、それをいかに集約して合意形成できるかということを、年内にできれば合意形成できればと。それを踏まえて合意形成できるならば、後は法案の提出時期と審議の問題でございますので、なるべく早い時期にという思いを持っているということであります。  
記者会見 / 平成23年12月16日
本日は、原発事故に関する大きな節目を迎えましたので、冒頭私から国民の皆さまにご報告をさせていただきます。
福島の再生なくして日本の再生なし。就任以来私はこの言葉を何度も口にして参りました。福島の再生の大前提となるのは、原発事故の収束であります。3月11日に事故が発生して以来、まずは何よりも原子炉の状態を安定させるべく、国の総力を挙げて対応してきたところであります。原発の外の被災地域では、いまだに事故の影響が強く残されており、本格的な除染、瓦礫の処理、避難されている方々のご帰宅など、まだまだ多くの課題が残っていることは事実であります。他方、原発それ自体につきましては、専門家による緻密な検証作業を経まして、安定して冷却水が循環し、原子炉の底の部分と格納容器内の温度が100℃以下に保たれており、万一何らかのトラブルが生じても敷地外の放射線量が十分低く保たれる、といった点が技術的に確認をされました。
これを受けて本日、私が本部長を務める原子力災害対策本部を開催をし、原子炉が冷温停止状態に達し発電所の事故そのものは収束に至ったと判断をされる、との確認を行いました。これによって、事故収束に向けた道筋のステップ2が完了したことをここに宣言をいたします。
事故発生以来、福島の皆さまはもちろんのこと、全ての国民の皆さま、そして世界中の皆さまに多大なご心配をお掛けし、大変ご迷惑をお掛けをいたしました。申し訳ございませんでした。この度、原子炉の安定状態が達成されたことによって、皆さまに不安を与えてきた大きな要因が解消されることになると考えます。
ここに至るまでに、数限りない方々の献身的な取り組みがありました。そのことに今改めて思いを致したいと思います。放射線被ばくの危険に曝されながら、命を削るような思いで事故発生当初に注水作業などに携わっていただいた消防、自衛隊、警察の関係者。夏場には熱中症の恐れもあった過酷な現場において、昼夜を問わず作業を続けていただいた作業員の皆さま。知見や技術を惜しみなく提供していただいた内外の企業や研究機関などの方々。日本を原発事故から救うために行われた英雄的とも言うべき献身的な行為の数々に、国民を代表して改めて感謝を申し上げます。
また、原発の敷地内では、全国各地から届けられた無数の折り鶴や寄せ書き、横断幕などが今も飾られています。これらは厳しい局面で、現場での大きな心の支えになったのではないかと思います。関係者の懸命な取り組みに対して、国民各層から寄せられた温かい心遣いにも併せて感謝をいたします。
これによりましてステップ2は完了いたしますが、原発事故との戦いが全て終わるわけではありません。これから原子炉については、事態の安定を目指す段階から、廃炉に向けた段階へと移行します。政府としては改めて今後のロードマップを明確にし、発電所の安全維持に万全を期しながら、廃炉に至る最後の最後まで全力を挙げて取り組んで参ります。原発の外での今後の課題は除染、健康管理、賠償の三点を徹底し、それによって避難を余儀なくされている住民の皆さまが安心して故郷にお戻りいただき、以前の生活を再建できる環境を一日も早く作り上げることであります。そのため、避難指示区域の見直しについて政府としての考え方を、近々お示しをする予定であります。
続きまして、個別の課題と政府の対応について簡単に説明をいたします。
まず第一は除染です。住民の皆さまがお戻りいただけるよう病院、学校などの公的サービスの再開を進めて参りますが、最大のカギとなるのは言うまでもなく放射線の徹底した除染であります。作業が少しでも早く進捗するよう予算と人員を大規模に投入をして参ります。予算につきましては、これまでに4640億円を確保しており、来年度の予算要求と合わせると当面の費用として1兆円を超える額を用意したいと考えています。事業の進捗次第でさらに必要となれば、国が責任を持って予算を確保いたします。人員につきましては、除染事業を推進する担当者を大幅に増員しまして、来年1月中に総計200人規模の態勢を整え、4月には400人規模といたします。現場で実際に除染作業に従事する作業員につきましても早急に教育体制を整備し、4月を目途に3万人以上を確保する予定としています。
第二に住民の皆さまの健康管理の徹底であります。具体的には、内部被ばくを検査するホールボディカウンターにつきまして、福島県内に既に2台設置されているところでありますが、新たに5台を追加で購入し、検査を大幅にスピードアップいたします。また、とりわけ子どもたちの放射線による被ばく量や、健康に対する影響の把握には万全を期して参ります。既にこの10月から震災時に18歳以下であられた全ての福島県民を対象として、甲状腺検査を開始しているところです。11月中旬からは福島県立病院での検査だけではなく、医師や検査技師などからなる5つのチームを編成し、県内の学校や公民館などで巡回検査を行っています。毎月約1万人ペースで検査を受けていただいているところであります。さらに福島県内の学校、幼稚園、保育所、公園など多くの人が集まる場所においては設置希望のある全ての場所に線量計を置き、放射線量をリアルタイムで監視いたします。2月中旬までに2700台を整備をする予定となっています。併せて食の安全については、基準値が超えたものが決して流通することのないよう、きめ細かく検査を行う態勢を強化し、徹底をいたします。かつてお知らせした通り、私は官邸で福島産のお米をおいしくいただいています。国民の皆さまにおかれましても、福島の復興を応援するためにも、安全が確認された食品は安心して口にしていただきたいと存じます。
第三に原発事故に伴って生じた被害の賠償についてであります。あくまで被害者の皆さまの立場に立って、迅速かつ適切に進められるよう国としても支援体制を整えています。具体的には、原子力損害賠償支援機構を通じ賠償に必要となる資金の供給を行うとともに、賠償を受けられる周辺住民の範囲についても、先般自主避難をされた方々も含め対象の拡大を決めたところであります。また、弁護士などのチームによる訪問相談も行っています。被災者の皆さまが賠償請求を円滑に進められるような支援を着実に進めて参ります。
最後になりますが、福島の再生なくして日本の再生なし、との思いにいささかの揺るぎはございません。そのことを何度も何度も繰り返して申し上げたいと思います。これは、国家の挑戦であり、そして人類全体の挑戦でもあります。私は福島が、世界と日本の英知を結集し人々の勇気と意思の力で人類の未来を切り開いた場所として思い起こされる日が必ず来るものと信じています。福島では既に、再生可能エネルギーの推進や医療関連産業の集積といったプロジェクトによって、新しい福島をつくろうとする構想が生まれています。国としても地元と一体となって、こうした構想の実現を推進をして参ります。既に先般成立をした三次補正において福島再生のための基金を設けており、福島県内への企業立地促進に1700億円を用意するなど、総計5000億円を超える支援措置を講じたところです。さらに加えて、来年の通常国会に福島復興・再生特別法案を提出をいたします。地元のご意向をお伺いをしながら法案化作業を進めていきたいと考えています。今後とも住み慣れた故郷を離れざるを得ない皆さまが、一日も早くご自宅にお戻りになり生活を再建できるよう、政府一丸となって取り組みます。福島の再生にも全力を尽くして参ります。そうした決意を重ねて申し上げ、私からの冒頭発言とさせていただきます。私からは以上でございます。
【質疑応答】
● ジャパンタイムズの伊藤です。原発事故の収束についてお伺いします。福島第1原発の冷温停止が認定され、工程表のステップ2が終了したと宣言されましたが、今先ほど総理も仰ったとおり多くの課題があると思います。例えば、ついこの間もまた施設内で汚染水が流出する事案が発生したり、処理水保管タンクが来年前半にも満杯になる見通しも出ています。また、炉心の詳しい状況も分からず、避難した住民の方々の帰還のメドも立たず、問題は山積していると思います。また、福島の地元を初めとして、国内では今回の日本政府の事故処理や情報開示を巡ってある意味の不信感というものが出ています。そういう中で今回ステップ2の終了を宣言することに政権内では全く異論は出なかったのでしょうか。また、冷温停止の宣言が地元住民に前向きに受け止められるかどうか。総理はどのようにお考えでしょうか。お聞かせ下さい。
今いただいた、いわゆるステップ2の完了、冷温停止状態がどういうことかというのは、もともと、これは春に菅政権の時にまとめた、いわゆる事故収束に向けた道筋、ロードマップの中で定義として出てきているんですよね。それは先ほど冒頭発言で申し上げましたけれども、1つは圧力容器底部の温度が100℃以下になるという状況が確保されること、それから格納容器からの放射性物質の放出を管理できるようになって大幅に抑制できるということ、この2つの状況を維持するために循環注水冷却システム、その中期的な安全性が確保されること。こういう条件がありました。それぞれの条件を専門家からのご意見もお伺いをしながら、最終的には保安院にも確認をしていただいて、そして原子力安全委員会にもこの報告がなされて、全ての条件が満たされているということが確認をされたわけです。それを踏まえて、今日原子力災害対策本部、全ての閣僚が参加をしておりますけれども、この全ての閣僚が参加をしている中で、異議はなく、ステップ2の完了ということ、冷温停止状態を宣言をするということを、これはみんなで決めたということでございます。
一方で、これも先ほどの冒頭発言で申し上げましたが、炉の問題は今こういう状況なんですが、それ以外の、今水回りのお話も色々ご指摘をいただきました。そのほか、除染であるとか、様々な瓦礫の処理であるとか、課題があることは、これは変わりません。したがって原発事故との戦いが終わったわけではないんです。終わったわけではないんですが、でも客観的事実に基づいて冷温停止状態にはなり得たということは、これはやっぱり一つの区切りであるということで、今日、宣言をさせていただいたということでございますし、廃炉にこれから至るまで、本当に最後まで息を抜かずに努力をしていかなければいけないと思いますし、ご指摘いただいた課題についても、あるいは情報の開示の問題も含めても、これまでの反省事項をしっかり反省をしながら、国の内外にきちんとこれからも説明し続けていきたいと考えております。
● 朝日新聞の坂尻です。警戒区域など避難指示区域の見直し問題について伺います。今半径20キロ圏内は警戒区域で立ち入り禁止されておりまして、20キロ圏外では計画的避難区域、まだ住民の方々の避難が続いております。総理、今、冒頭発言でもございましたが、避難指示区域については、見直しの課題について近々、近くお示しをしたいということですけれども、方向性としてどういう見直しを考えていらっしゃるのかということをお尋ねします。もう1点目は、現場ではなお年間の放射線量が高い地域がございまして、長期間にわたって帰宅が困難になるのではないかという取りざたもされております。そうした土地はですね、国による借り上げですとか、買い上げですとか、そういう案も取りざたされているようですが、その帰宅が長期間にわたって困難になる方々に対して具体的な支援策というのはどのようなものをお考えなのでしょうか。この2点を伺わせていただきます。
被災地においては、未だになお、厳しい避難生活を余儀なくされている皆さんがいらっしゃいます。その事を思うと本当に胸が引き締められる、そういう思いでございますけれども、ステップ2が完了したことによって、先ほど申し上げましたけれども、警戒区域、および避難指示区域の見直しを行っていきます。これについては、福島県や関係市町村のお話もよくお伺いをしながら、密接に相談しながら速やかに検討を進めていきたいと思いますし、今週末には細野大臣、枝野大臣、平野大臣、関係大臣には福島県に入って、県や関係する市町村と、このことについての協議をさせていただきたいと考えているところでございます。
もう一つのご指摘の、高線量地域の問題なんですね。ご指摘の通り、相当の期間にわたって帰宅が困難になるような区域が明らかになった場合、その場合には、これはやっぱり国として責任を持って中長期的な対応策を検討しなければいけませんが、今具体的に土地の買い上げとか、借り上げのご指摘もございました、そういうことも含めて、含めて、県や市町村とよく協議をしながら考え方を取りまとめていきたいというふうに思っております。
● 日本テレビの佐藤です。今党内で議論している消費税の増税問題について聞きたいんですけれども、やはり総理は常々、年内をメドに素案を取りまとめると、不退転の覚悟で臨むとおっしゃっております。しかし依然としてやはり反対論は強いですし、署名も続いています、反対論のですね。さらに年内に取りまとめなくても良いんじゃないかと、そんなかっちり決める必要ないんじゃないかという声もやはり聞こえてきます。その当たり踏まえて、総理は年内をメドにとおっしゃっていますけれども、取りまとめ時期が年明けまでずれ込む可能性もあるのか、先送りする可能性もあるのかどうかという点を一つと、やはり素案とおっしゃって以降、素案というものはどういうものかというのが、民主党の方に聞いても、なにかかちっとしたものが分からないんですが、これはやはり政府・民主党の考え方をちゃんとまとめたものであるという認識でよろしいのでしょうか。以上、2点お願いします。
社会保障と税の一体改革は、これはもう、どの政権でも避けて通れないというのが基本的な認識です。しかも、法律で、附則の104条で年度内に法案を提出するということになっています。言葉通りです。そのために、先般の政府・与党の社会保障改革本部において、具体的に年内をメドに素案を出すこと、その素案というのは、今位置付けでありますけれども、政府・与党の社会保障検討本部で、改革本部で決めることですから、政府・与党で一体となってまとめた考え方ということであります。これは、当然のことながらその後野党に協議を持ち込む際の、我々はこんなことを考えているんですよというのが素案です。したがって、それがあんまりボーッとしたものだったら、顔を洗って出直してこいと言われるのは明らかでありますから、そうならないようなものを、ちゃんとたたき台として、我々はこう考えているということを打ち出すということです。そして、与野党の協議を経て、そして大綱にまとめていって、法案化の準備をして、そして年度内に法律を出すと。このスケジュール感はいささかの緩みもなくやらなければいけないというふうに思っておりますし、党内の空気等々、いろいろご指摘ありますが、私は基本的にはその流れの中で活発なご議論はあって然るべきだと思いますけれども、今のスケジュール感については皆さんに共有をしていただきながら、まとめていきたいというふうに考えております。
● AFP通信社の伊藤と申します。福島第1原発の国の管理の在り方について聞かせて下さい。原発事故収束を更に強力に推進するために、国の管理、国の関与を更に強化する、例えば1F(イチエフ)の国有化という考え方に総理は賛成ですか。
来年の春をメドに東京電力と原子力損害賠償支援機構が一緒に総合特別事業計画というものをまとめることになっています。その際に、円滑な賠償の実施が出来るように、幅広い可能性から様々な選択肢を検討するように指示をしているところでございますので、政府としてもあらゆる可能性を念頭に置いて検討するということでございまして、今ストレートに国有化というお話がございましたけれども、何かを別に今決め打ちをしながらその議論をしようということではありませんが、あらゆる可能性を念頭に置いて来年の春までにその議論をして集約をしていくということであります。
● NHKの山口です。今日総理、発電所の事故については収束という言葉を使われましたけれども、被災地から見ると、その言葉であってもなかなか容認できないという空気は強いと思うんですけれども、総理は収束という言葉を使うにあたって違和感を覚えるということはないでしょうか。
さっき整理をさせていただきました。いわゆる炉本体のオンサイトの問題は、冷温停止状態というのはどういうことなのかということは、この春にロードマップを作った頃から決めておりますので、その基準、定義に当てはまる状態になったかどうかということを検証してきた中で、さっき3つの観点申し上げましたけれども、それぞれが確認できたということですので、いわゆる第2ステップは完了したということは、これはもう今までの手順を踏まえても、考え方の一つのゴールとしても、これはご理解をいただきたいと思うんです。
一方で、被災地の皆さんの感情としては、まだ除染があるじゃないか、賠償があるじゃないか、どうやったら生活再建できるんだ、どうやったら一日も早く故郷に戻れるんだというお気持ちがあるということは、これはだからオンサイトと違ってオフサイトの問題として、様々な引き続き課題があるということは、私もさっき受け止めたとおりであって、今回の事故の問題に対する対応はこれで終わったわけではないと。これで終わったことはないということを強く胸に秘めて、むしろ今申し上げたような課題については、これまで以上に力こぶを入れて解決を急いでいく、という、そういう整理の仕方で、是非被災者の皆さんにはご理解をいただきたいと思います。ステップ2が終わったから政府のいろんな対応が、手を抜いていくとか、福島の地から我々はどんどん力を削いでいくということは全くありません。これまで以上にやらなければいけないこと、さっき予算の話、人員のお話をしました。そういうことを徹底してやっていきたいというふうに考えております。
● 毎日新聞の高塚です。国家公務員給与の削減法案についてお聞きします。総理は先週の記者会見で、政党間協議を通じて年内に合意形成を図っていきたいという旨を表明されました。ただ協議はですね、膠着状態に入ってしまっていると思います。そこで、自民、公明が提案している人事院勧告を実施した上で給与の削減を図る、という提案を総理として受け入れるというお考えはないでしょうか。
この臨時国会の中でも公務員給与削減の法案、それから郵政改革法案、あるいは1票の格差、定数削減、これらは何とか与野党で合意形成をして結論が出れば、と思っていました。残念ながら会期内でその議論が終結をしないまま今日に至っていますが、特に今ご指摘いただいた公務員の給与をマイナス7.8%減額をするという、復興財源確保のための臨時異例の措置であります。そのことは今度、財源にも関わることなので是非野党の皆さまにもご理解をいただいて、早く結論が出るようにしなければいけないと思いますが、ご指摘のとおり自公は、まずは人勧を実施してからというご提起をされています。そこのところの折り合いが付けるかどうかを、今あまり進んでいないというご指摘ございましたけれども、今度政調会長を中心にですね、しっかりと議論していただいて、この公務員給与削減法案も、それから郵政の法案も年内になるべく与野党間の合意形成をして、そして来年の通常国会の早い段階で成立を期していくということが基本的な姿勢でございますので、何度でも協議を呼び掛けながら、今そのまま自公の提案を受け入れる気があるかどうか、ということでしたが、もちろん相手のご意見もよくお伺いしますけれども、我々も一つの考え方を持って提案した法律ですので、丁寧な擦り合わせをすることの中での合意形成をしていきたいというふうに思います。
● ビデオニュースの神保です。総理、春に作成したロードマップの定義に則って、このたび冷温停止状態ということを宣言されるということですが、その春の段階では、まだ東京電力も統合本部も原子炉がメルトダウン、およびメルトスルーしているということは認めておりませんでした。つまり、その段階では原子炉の中に、圧力容器の中に核燃料が入っているということを前提としていた定義が、そこで言う冷温停止だったわけですね。その後、メルトダウンが起き、メルトスルーが起きているということまで認めていて、今現在、圧力容器の中には核燃料がほとんど入っていない、あるいは全く入っていない可能性すら言われている時に、圧力容器の底部の温度が100℃以下になったので冷温停止という定義は、非常に違和感を持つ方も多いと思うのですが、それは総理どう考えているか。あるいは、外に出た燃料がどのような状態になっているかは実は誰にも分かっていない、ということが分かっている。にもかかわらず、今ここで冷温停止あるいは収束宣言というのをされるのは何故か拙速のような印象を受けるんですが、何故いま、あえてここで収束宣言など、出た燃料がどうなっているのか分からない状態でなぜ収束宣言をされるのか。その辺のお考えをお願いします。
圧力容器の底部、いわゆる底の部分の温度だけではなくて、格納容器全体の温度もそれぞれいろんな場所を測りながら出している結論で、圧力容器底部も勿論でありますけれども、格納容器全体も冷温の状態になっている。100℃以下になっている。しかもそれが安定的であるということを確認したことが今回のステップ2になっていて、別に圧力容器底部だけの話では、元々ロードマップにも書いてもございませんので、格納容器の全体の話も含めてそういう判断をしたということでございます。
● 燃料棒のこと答えてないですよ。
● 燃料棒答えてないよ。
● 読売新聞の村尾と申します。今後のエネルギー政策の進め方についてのご見解をお聞かせください。特に、原発の再稼働とか新規立地等についてのお考えもいただければ。
原発の再稼働はですね、まず事業者がストレステストを行う。そのストレステストの評価を原子力安全・保安院が行う。それについて今度は原子力安全委員会が確認をし、それらのプロセスを経た中で最終的には地元のご理解とか、国民のご理解とか進んでいるかどうかを含めて最終的には政治が最終判断をし、そしてその安全が確認をされるならば、政府が前面に立って地元のご説明に行って、その稼働に向けての取り組みを行う、というのがこれまでの何回も確認をしてきたプロセスでございますし、既に現時点で7つの案件ほどが、ストレステストの報告が出て参りました。それぞれ事業の今、例えば保安院で評価を今している段階でありますし、それをやはり公開性ということもあって説明会的なものもやっている。その中で保安院の今評価が出ようとする。そういう今プロセスにあるということでございます。それらをこれまでどおり粛々とやっていく中で、どれだけ稼働するものが出てくるかどうか、ということだと思います。  
2012 / 1-6

 

平成24年年頭所感 / 平成24年1月1日
国民の皆様に、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
東日本大震災と原発事故。電力需給の逼迫。集中豪雨。そして、歴史的な円高と欧州債務危機。国難ともいうべき試練に相次いで見舞われた激動の一年を経て、新しい年が始まります。
今日から始まる一年は、日本再生に歩み始める最初の年です。「希望と誇りある国・日本」を目指して、確かな一歩を踏み出したと実感できる年にしなければなりません。
昨年九月に発足した野田内閣は、「今、目の前にある課題」を一つ一つ解決するべく、これまで、精一杯、取り組んでまいりました。
先の臨時国会では、十二兆円を超える三次補正予算と関連法が成立し、震災からの復興を力強く推し進める「仕組み」が整いました。昨年末には、東電福島第一原発の原子炉の「冷温停止状態」を達成しました。新たに設置する復興庁を司令塔として、震災復興と福島再生は、これから大きくスピードアップさせてまいります。
震災前からの「宿題」である、経済成長と財政再建の両立という難しい課題にも、本腰を入れて取り組まなければなりません。世界最速の少子高齢化が本番を迎えます。高齢者を支える側であるべき若者世代のセーフティネットを強化しつつ、社会保障制度の持続可能性を高めなければなりません。
財政規律を維持し、「国家の信用」を守ることは、今を生きる私たちが未来の世代から託された責任です。同時に、長きにわたる停滞を乗り越え、将来に繁栄を引き継ぐ「経済再生」も、待ったなしです。「社会保障と税の一体改革」をしっかりと具体化させていくとともに、平成24年度予算と第4次補正予算を早期に成立させ、日本再生の確かな証を刻んでまいります。
もちろん、不断の歳出削減と税外収入の確保に全力で取り組みます。併せて、公務員の給与削減や郵政改革の早期実現を期するとともに、議員定数の削減の問題に「力こぶ」を入れて取り組んでいきます。
主要国の指導者の多くが交代する可能性のある本年、我が国を取り巻く国際情勢は予断を許しません。国民の安全を守り、安全保障を確かなものとすることは、国家の果たすべき役割の「基本中の基本」であり、最も重い責務です。北朝鮮情勢を注視し、種々の危機管理に万全を期すという務めは、決して揺るがせには致しません。
こうした「今、目の前にある課題」を乗り越えたその先に、私が目指す「国づくり」の姿が見えてきます。近代国家に生まれ変わる幕末・明治の時代にも、そして、戦後の焼野原から立ち上がり、高度成長を遂げていた「三丁目の夕日」の時代にも、「今日より明日が良くなる」という希望が国全体に溢れていました。昨今、こうしたささやかな希望さえ感じにくくなったという声が少なくありません。
目の前の数々の危機は、日本を覆う閉塞感を拭い、新たな発展をもたらすチャンスにもなりえます。私は、大震災からの復興を契機として、「希望と誇りある日本」を取り戻したいと思っています。
中長期的な経済成長と「分厚い中間層」の復活を実現し、「今日よりも明日が、より豊かで幸せになる」という確かな《希望》を生み出す。そして、「この国に生まれてよかった」という《誇り》を将来の世代に残していく。これが、私の目指す「国づくり」の基本です。
もちろん、右肩上がりに経済が拡大する高度成長期と、経済社会が成熟し、少子高齢化に直面する現在とでは、時代環境が全く異なります。過去のような高い成長を実現することも、容易ではありません。しかし、だからこそ、「挑戦」を続けなければ、「豊かさ」を維持していくことはできないのです。
アジア太平洋が世界の成長センターとなる時代において、グローバル化の利点を最大限に活かしていくことが欠かせません。我が国は、「アジア太平洋自由貿易圏」(FTAAP)構想の実現のため、各国の先頭に立って様々な方策を追求してまいります。
日本に広がる幾多のフロンティアは、私たちの挑戦を待っています。社会の中で持てる力を十分に発揮できていない「女性」。二十一世紀の大成長産業となる可能性を秘めた「農業」「再生可能エネルギー」「医療」。海洋資源の宝庫である「海洋」。無限の空間的な広がりを持つ「宇宙」。産官学の英知を結集し、内外のこれらのフロンティアを「夢」から「現実」に変え、日本再生の原動力とします。
「何かに挑戦することによるリスク」を恐れるより、「何もしないことのリスク」を恐れなければなりません。山積する課題に正面から取り組み、一つ一つ、成果を上げていく。これは、国難のただ中を生きる日本人が果たすべき歴史的使命でもあります。
この「日本再生」という使命を、国民の皆様と共に考え、挑み、そして、実現していきたい。そうした「願い」と「決意」を新たにしつつ、皆様のご健勝とご多幸をお祈りして、新年のご挨拶とさせていただきます。 
記者会見 / 平成24年1月4日
まずは、謹んで新年のご挨拶を申しあげます。本年もどうぞよろしくお願いを致します。
まず、改めて確認をさせていただきますけれども、昨年の9月の初めに野田内閣が発足を致しました。その時に掲げた最大かつ最優先の課題、これは3つございました。1つは東日本大震災からの復旧・復興、そして原発事故の収束、日本経済の再生、この3点でございました。今年も引き続きこの3つの大きな命題に挑戦をしていきたいというふうに思います。まずは、仮設住宅やあるいは避難所でこの寒さの中、いまだに厳しい被災生活を余儀なくされている皆さまに、心からお見舞いを申しあげたいと思います。
その震災復興でありますけれども、昨年末に第3次補正予算が成立をいたしました。併せて復興交付金、あるいは復興特区といった新しい仕組みを作ることもできました。加えて、間もなく新たに復興庁を設置をすることになっています。この司令塔を中心に、力強く復興を推進をしていく決意でございます。
2つ目は、原発事故への対応でございますが、昨年の12月16日にステップ2、いわゆる冷温停止状態を到達をすることができたことは宣言をさせていただきましたけれども、原発事故との戦いがこれで終わりではないということも併せて申し上げさせていただきました。これからは正に賠償、健康管理、除染、これらの柱をしっかりと実現をするということが正に福島の再生に繋がるだろうと思います。力こぶを入れて取り組んでいきたいというふうに思います。
日本経済の再生については、先般の第3次補正予算の中でも、例えば立地補助金であるとか、あるいは中小企業の金融支援等、切れ目ない経済対策を盛り込んだつもりでございますけれども、これからも特にデフレ脱却に向けて日本銀行と今まで以上に連携を深めながら、その克服に向けて努力をしていきたいと思いますし、FTAAPの実現含めて高いレベルの経済連携を図ること、あるいは新成長戦略の加速、日本再生戦略の具体化等々の取り組みを深めながら、日本経済の再生に向けて力強く推進をしていきたいというふうに思っております。
今申し上げたのが基本的な3つの命題なんですけれども、他に、昨年与野党の協議を進めながら、残念ながら残された課題がありました。1つは郵政改革。これは郵政改革そのものの目的もありますけれども、復興財源の税外収入としても大きく期待をされていることでございます。それからもう1つは政治改革。特に議員定数の削減。更には公務員の人件費の削減も含めた行政改革。これらの、残念ながら与野党協議が進みながらも結論を得るに至っていない問題があります。こうしたテーマそれぞれを通常国会のなるべく早い時期に実現をさせていきたいというふうに考えております。
その上で一番大きなハードルになると思われるのが、社会保障と税の一体改革でございます。昭和36年に日本の社会保障制度の根幹はできました。国民皆年金、国民皆保険。しかし、その後急速な少子高齢化によって、かなり今は様々なひずみが出てきているだろうと思っていますし、毎年1兆円以上の自然増が膨らんでくる。あるいは基礎年金の国庫負担を捻出をする、2分の1を実現するためにも、自公政権以降、かなり苦心惨憺をしてきているという状況でありますが、もうこれ以上先送りできない状況だと思います。従来の社会保障のレベルを維持することも難しい状況でありますが、これからますます少子化が進んでいく中で、支える側、支えられる側だけではなくて、支える側の社会保障も必要です。すなわち若者の雇用や子育て支援といった、こうした全世代対応型の社会保障にしていかないと、日本の社会保障の持続可能性を担保することは私は困難だと思っています。この問題は、私はどの政権でももはや先送りのできないテーマになっていると思います。
幸いにして、昨年末、民主党の税調の中で様々なご議論をいただきましたけれども、12月の29日深夜に至るまで、100人ほどの人が残りながら、最終的には強行に意思決定をするんではなくて、拍手とそして握手で一定の結論を得ることができたことは、私は大きな前進だと思っています。素案の基本的な考え方はまとめましたので、いわゆる素案としての意思決定は今週中に社会保障と税の一体改革の本部を開いて、そこで決めていきたいというふうに思います。
その上で、政府・与党の考え方がまとまった暁には、次は野党の皆さんに呼び掛けをしていくということであります。来週中にはその呼び掛けを行って、野党の皆さんもこれは先送りのできない課題であると、私はご認識をいただいていると思いますので、そしてお互いに議論をしてそれをまとめて大綱として取りまとめ、その大綱をもって法案化をし、年度末に法案を提出をする、そういうプロセスをたどっていきたいと考えている次第であります。
なお、内政の問題だけではなくて、昨年は、例えば金正日国防委員長の死去を受けて、朝鮮半島情勢において新たな時代が生起をしています。昨年末に情報収集の強化と、そして関係国と密に連携をすること、さらには不測の事態に備えて万全の態勢を取ること等の指示を出していますが、基本的にはこの指示は継続をしています。昨年末、中国やインドの首脳とも議論をしましたが、関係国ともしっかり緊密に連携を取りながら、国際社会における様々な危機管理についても万全の態勢を取っていく決意でございます。
今年も、様々な課題がございますが、一つ一つの山を乗り越えていくということが私どもの基本的な姿勢でございます。この姿勢の下で、しっかりと良い年を作っていけるように全力を尽くしていく決意を申し上げて、まずは私の年頭のご挨拶に代えたいと思います。ありがとうございました。
【質疑応答】
● 東京新聞の三浦と申します。総理、本日はありがとうございました。今年は、総理もおっしゃいましたけれども、様々な意味で日本の将来を左右する重要な年になると思います。我々としても、総理に国民への説明を求める機会が多々あるかと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。それで質問ですが、今しがた総理もおっしゃいましたように、一体改革、昨年末まとまりました。2015年の10月までに段階的に10%まで引き上げるという結論ですが、総理今、野党に対して来週にも協議を呼び掛けて大綱を作りたいという話でしたけれども、野党側は、自民党はそうですけれども、それについてマニフェスト違反だというふうに批判しまして、協議に応じようという構えを今のところ見せておりません。それでお尋ねしたいのですが、もし仮に野党がこのまま協議に応じない場合、そのまま野党が協議に応じなくても、大綱の作成に進んで、法案の提出に至るお考えはあるのかどうなのか。その辺をお聞かせ下さい。
まず、今週中にいわゆる素案の最終決定をした暁、来週の早い段階で呼び掛けをしたいと思います。呼び掛けに応じないというお話でしたが、まだ、正式にまだ呼び掛けていないものですから、まずは心から頭を下げて、大事な問題ですから本当に議論しましょうよと、国家国民のために建設的な議論をしましょうという呼び掛けをしっかりとしていくことが先決だと思いますので、それが整わなかった場合という、まだ仮定のお話にお答えをする段階ではなくて、誠心誠意呼び掛けていきたいというふうに思います。
● 共同通信の山根です。よろしくお願い致します。消費税の増税に関連してお伺いします。総理もこれまで歳出削減に強い決意を示されて、去年の12月の記者会見でも、国家公務員の給与を削減する法案について、去年の年末までに与野党合意を得て早い時期に成立を目指すというお考えを示されましたけれども、残念ながら与野党合意には至っていません。ねじれ国会のなかで、野党側の協力をどう取り付けて歳出削減策を担保していくお考えなのか、それがまず1点。あと野党側がですね、参院で問責決議を受けた二人の閣僚について交替を求めています。これも与野党協議の障害になりうるかと思いますけれども、どう対応していくお考えでしょうか。
まず前段の公務員給与の問題でありますけれども、現時点でまだ与野党で合意ができている状況ではありませんが、来週中には通常国会の召集時期を決めていきたいと思いますけれども、通常国会が始まる前の段階にできるだけ、我々の考え方は既にお示しているし、野党の考え方も既に示されていますので、どこを我々は守らなければいけないのか、何を譲っても良いのかというぎりぎりの交渉をこれから本格的にしていきたいというふうに思っています。閣僚については、全閣僚一丸となってこれまで申し上げた命題や課題を実現するために、力を尽くしていきたいというふうに思います。
● 日本経済新聞の犬童です。総理は野党はこれから呼び掛ければ応じてくれるという期待感を持ってお話をされていると伺いますが、現実問題、消費税法案、これから野党の協力を得て成立させるというのは難しいと、誰がどう見ても難しいと思いますが、局面を打開するにはもう国民の世論しかないと思います。国民の世論をどう総理が引っ張っていくかというところに、今懸かっていると思うんですけれども、総理は国民に問う考えはありますか。
難しいと一刀両断でありましたけれども、まさにこれからも野党協議の呼び掛け、合意を得られるかどうか、法案提出できるかどうか、法案が通るかどうか、いろいろハードルはあります。ちょうど昨日、出身高校の同窓会があったのですが、そのときに手紙をもらいました。世界史の授業を受けていたときの記憶があるかどうかと。それは先の大戦の時のウィンストン・チャーチルの言葉。Themostfamoussixwords、覚えているかと。先生が教えてくれたこと、忘れていましたけれども。それは"Never,never,never,nevergiveup."。私は、大義のあることを諦めないでしっかりと伝えていくならば、局面は変わるというふうに確信をしています。
● フリーランスの江川紹子といいます。よろしくお願いします。
高校の後輩ですね。
● よろしくお願いします。先ほど、社会保険と税の一体改革の前提条件の一つとして、政治改革、特に定数削減の問題をおっしゃいました。確か年頭のラジオのお話でも、不退転の決意でやるというふうにおっしゃっていましたけれども、これを具体的に、いつまでにどのような形でおやりになるつもりなのか、次の選挙までに間に合わせるということで良いのでしょうか。1票の格差、1人1票が確保されていないという問題と併せてどのようにされるのか、今のスケジュールとお考えを聞かせて下さい。
まず1票の格差なんですけれども、私の選挙区の船橋というのは千葉4区、日本で一番1票が軽いんです。だからということでもありませんが、当然そうすると区割り変更を余儀なくされる選挙区ですが、これは当然早くやらなければいけないと思います。基本的には違憲状態だと指摘されていることを克服しようとする国会の取り組みが見えないということは問題だと思います。それはまずやらなければいけません。
併せて、今申し上げた一体改革もありますので、まずは隗より始めよう、まず身を切れというのが国民世論だと思います。その世論を重く受け止めるならば併せて定数削減も、早急にしなければならないと思っています。ただ、1票の格差の問題がどうも、これは早くやらなければいけませんが、それと解散権とは結び付く話ではありません。それはそれで別にあると思いますが、ただ何よりも、他の課題よりも優先してこの1票格差の問題、定数削減の問題は、早急に結論を出すために、特段まず1番矢、2番矢があるとすれば1の矢として放たれなければいけないと思っております。
● AP通信のフォスターです。あけましておめでとうございます。最近の世論調査や私自身の取材を通じて感じるんですが、福島の原発事故に対する政府のこれまでの対応や情報の不透明さ、そして混乱ぶりに、多くの国民が政府に対して強い不信感を持ちました。更に消費税などを巡る、最近の与党内の対立が一層政治不信をもたらしています。総理は国民の信頼を取り戻すためにどのようなステップや政策を取られるのか、具体的に教えていただけるでしょうか。
福島のいわゆる原発事故の問題、あるいは東日本大震災の問題、初動の頃からですね、きちっと情報が流れていない、適切なタイミングではない、正確ではないというご指摘をずっと頂いてまいりました。そのことはその都度反省をしながら改善をしてきたつもりでありますけれども、なおそういうご意見があるとするならば、これは猛省しなければならないだろうと思います。それは福島県民の皆さんに対してだけではなくて、国の内外問わず、この原発の問題というのは多くの皆さんが我がこととして心配していることですので、その情報をしっかりと正確に、適切に公開するということが基本中の基本だろうと思います。そのことを改めて心掛けていきたいと思いますし、特に関係する大臣はまめに福島に入ってご説明をしているつもりであります。政務三役もご説明しているつもりでありますが、これはもっと力を入れていかなければいけないというふうに思います。またなお、8日の日には私も福島に入りますので、そうした皆さんの声をしっかり受け止めてまいりたいというふうに思っております。
● フジテレビの高田ですが、おめでとうございます。今年1年ということで見ますと、9月には民主党の代表選挙が予定されています。引き続き国政を担うということであればそこで再選を目指すということになりますが、その9月の代表選挙で再選を目指すおつもりがあるのか、そして目指すとしたら何を訴えて行かれるのか、また、代表選挙の前後で、解散総選挙は代表選挙の前に考えているか、後に考えているか、以上代表選挙を巡って3点、お答えお願いいたします。
そんな先のことまで。今は一日一日、一つ一つの課題を乗り越えていくということに全力を尽くすということであって、9月云々というよりもまずは次の国会で、やり遂げなければいけないテーマが沢山あります。それらにしっかりと結論を出すことに全力を尽くすということであります。それ以上、何もまだ考えておりません。
● 朝日新聞の坂尻です。普天間移設問題についてお伺いします。防衛省は昨年末にいわゆる普天間移設を巡る環境影響評価、アセスメントの評価書というのを提出したんですけれども、県庁のほうに市民の反発する方々が座り込みなどをしている関係で、夜間の午前4時頃、夜間窓口を通じて段ボール箱を搬入するということになりました。このことについては、地元から政権の対応としてあまりに姑息なのではないかという批判も出ていますが、総理自身はこの一連の経過をどのように考えられていたのかということと、こうなるとなかなか普天間移設の見通しというのは立てにくいかと思いますが、総理自身は普天間移設問題、どのように見通されているのでしょうか。
政権の基本的な姿勢としては、日米合意を踏まえながら普天間の危険性を一刻も早く除去をしていくということと、併せて沖縄の負担軽減を図るということが、何よりも基本的な姿勢です。その基本姿勢の中で、環境影響評価書を提出をするという運びとなりました。引き続き、これは防衛省で適切な対応をしていただきたいというふうに考えております。
● NHKの山口です。先ほどの定数削減とも関連するのですけれども、民主党が考えている比例の80削減というのは、小さな政党はとても受け入れられないと思うんですね。それにその、成立を図ると言っているのですけれども、どうやって妥協点を見いだしていくのかを教えて下さい。
この間まとめた税調の中の文章でも、最初は比例80云々と入っていたと思いますが、定数削減に変わったと思うんです。我々の考え方はもちろんあります。まとまっています。ただし、ほかの野党のご意見もあるんですね。それを踏まえてどうやって削減に持っていくかというところに最後まで心を砕くことになると思いますが、どっちにしろですね、定数削減は最後には実現しなければいけないというふうに思います。各党のご意見もよくお伺いしますけれども、我が方はこういう考え方を持っているぞというものを強く打ち出しながら、それぞれの意見を建設的に出してもらうという状況のなかで結論を出していきたいと思います。 
記者会見 / 平成24年1月13日
本日、野田内閣の改造を行わさせていただきました。そして午後、新たな閣僚については皇居で認証式を終えてきたところでございます。
今回の改造、一つ背景としてご理解をいただきたいのは、2月の早い段階で復興庁を発足をさせます。この復興庁発足に伴って、復興をもっぱら担当とする大臣、副大臣、政務官を任命することができますが、そのことをにらみながら、復興に万全を期すとともに、この際、間もなく通常国会が始まりますけれども、予算を通し、そして昨年来からの大きな命題である復旧・復興を加速させ、原発の事故の収束をさせ、新たな戦いに向かって様々な取組を強化をする、あるいは経済の再生を図るといった野田内閣の当初からの命題の他に行政改革、政治改革、そして社会保障と税の一体改革という、やらなければならない、逃げることのできない、先送りをすることのできない課題を着実に推進をするための最善かつ最強の布陣を作るための、今回は改造でございました。今回、5人の方に新たに閣僚に加わっていただきましたけれども、先ほど申し上げたとおり、様々な課題を乗り越えていくための、まさに推進力になっていただく突破力のある、そういうメンバーを中心に選任をさせていただいたつもりでございます。
これから、まさに国会が始まりますが、これからの国会は民主党政権にとっての正念場というよりも、日本にとっての正念場だというふうに思います。それは、一つには復旧・復興は、被災者の皆さんに寄り添いながら抱えている課題を丁寧に、確実にこなしていくという、ある種、虫の目と言いますか、地に足の着いた対応が必要です。もう一つは、これからの大きな課題、社会保障と税の一体改革含めて、時代を俯瞰する鳥の目が必要だと思います。今までの政治の継続、惰性で解決できる問題ではありません。社会保障については、どなたも将来に不安を抱いている。その不安を取り除くために、社会保障を持続可能なものにする。維持するだけではなくて強化するものも含めて、まさに未来に永続して続ける社会保障の機能を確保するために、それを支えるための安定財源が必要です。安定財源ということは、国民にご負担をお願いをすることであります。耳当たりの良い、耳ざわりの良いことを言って国民の歓心を買うという政治ではなくて、辛いかも知れないけれども、訴える側も辛いんです。それは、選挙が厳しくなるかもしれない。誰もが思う。負担をする側も辛い。だけど、辛いテーマもしっかりお訴えをしてご理解をいただけるという政治を日本で作れるかどうかが、私は正念場だというふうに思います。
欧州の債務危機は対岸の火事ではありません。そのことも踏まえて、内外の時代状況をしっかりにらみながら、まさに鳥の目から俯瞰をして、今何をしなければいけないのかということにきちっと答えられる政治を実現していきたいと思います。そのための布陣を今回敷かせていただいたということでございます。是非皆さまにおかれましても、ご理解を頂きますようにお願いを申し上げて、冒頭の私からのご挨拶とご説明に代えたいと思います。以上です。
【質疑応答】
● 共同通信の山根です。総理は今回の内閣改造で、副総理として民主党の岡田克也前幹事長を起用されました。岡田副総理は一体改革や行政改革などを担当されますが、3月末の関連法案提出と増税の前提となる歳出削減に向けて、今後どのように取り組んでいくお考えでしょうか。具体的にお聞かせ下さい。また、現時点では、総理が何度も呼び掛けている与野党協議の実現のめどは立っていません。どう打開していくお考えでしょうか。
岡田さんに副総理をお願いをしたということは、副総理というのは内閣総理大臣に対して、国政全般に対して、内政、外政含めて助言をするという一つの立場があると思いますが、その上で、あえて今国会では一番大きな課題になると思う行政改革と、社会保障と税の一体改革を特にご担当いただくということになりました。私にとっては岡田さんというのは先輩議員であって、常に私の一歩二歩前を走りながら来た、私はその背中を追ってきた立場でありますが、政治家として心から尊敬をし、敬愛をし、人間として信頼をしています。こういう大きなテーマにあたってブレないで、逃げないできちっと結論を出していくということのできる、私はそういう政治家だと思って、期待を込めて今回のご担当をお願いをしたわけであります。現時点において野党の皆さまが、とにかく新しい体制を作ってからじゃないとと、今幹事長の会談を申し上げておりますが、受けていただいていませんが、こういう新しい体制をまた作りましたので、改めてきちっと協議をお願いをさせていただきたいというふうに思います。
● 東京新聞の関口と申します。岡田さんは民主党内で小沢一郎元代表と距離を置く存在とされています。元代表を支持する議員からは、消費税増税に批判的な議員が多いとされています。岡田さんの副総理、社会保障と税の一体改革担当大臣への起用については、元代表を支持する議員から党分裂の道を突き進むなどと反発の声が上がっていまして、消費増税の反発をさらに高める可能性があります。総理は今後一体改革の実現に向けてどのように党内融和を図るお考えでしょうか。
今ご指摘いただいたような声って本当に多いんですか。多いですか。
● あるとは思います。
そこまで、ちょっと私はそんな空気が充満しているとは思わないんですが、少なくとも反なんだとか親なんとかというのはもう止めようというのは、私は代表選挙のときに申し上げたつもりであります。誰かが何かのポジションを退いたら退くよなんていうような、了見の狭いようなそういう政治は止めた方が良いです。もし政策で違うんだったら、その政策でものを言えばいいと思いますが、いま誰かさんのグループがこうだからという、私は議論はあり得ないと思います。なぜならば、今回の一体改革を党内で議論でまとめていく過程において、決して別に反対の意見があったわけじゃありません。むしろ慎重な意見で、こんなことをやらなければいけないよという中で、一番多かったのが行政改革です。その行政改革を党内の中で調査会長として中心になってまとめられてこられた方が岡田さんです。その岡田さんが行政改革と税と社会保障の一体改革を、これをパッケージとして、責任を持ってやっていこうというお立場になったことで、むしろそれを期待する人の方が私は多いんではないかというふうに思っておりますので、いまちょっと私は認識が違います。
● TBSテレビの今市です。個別の大臣の起用についてのお考えをお聞きしたいのですけれども、田中直紀防衛大臣の起用ですけれども、参議院の外交防衛委員長のご経験がおありですが、必ずしもこれまで安全保障問題、防衛問題に精通している議員かどうかというと違うんじゃないかという声も、今回、顔触れを見て出ていますが、田中大臣を防衛大臣に起用された理由というのはどういうことなんでしょうか。
豊富な政治的な経験、蓄積、そういうものを評価をさせていただきましたし、その参議院、良識の府のしかも外交防衛の委員長というのは重たい役割です。という職責を果たされてきたということも一つの判断基準になっています。
● アメリカの通信社のブルームバーグの廣川と申します。昨日、ガイトナー財務長官が安住財務大臣とお会いされた際に、安住大臣はイランからの原油の輸入を段階的に削減する方針を表明しました。日本政府としていつ頃から具体的に行動に移し、どの程度減らしていくつもりなのかお考えをお聞かせいただきたいのと、日本はイランと独自の外交関係をこれまで維持してきた面もあるんですけれども、イランの核問題解決に向けて、国際社会に対してこれからどのような貢献をしようと、貢献ができると考えているか、お考えをお聞かせ下さい。
私もガイトナー長官と、昨日会談をさせていただきました。そのときに申し上げたんですけれども、イランの核開発については私も強く懸念を持っています。これは国際社会と共有しています。従ってアメリカも含めて、国際社会と連携をしながら外交的、平和的に解決をしていく、というのが日本の基本的な姿勢であります。その上で、でありますけれども、国防授権法という法律をアメリカが作りました。その運用によっては我が国の経済や世界の経済に悪影響を及ぼす可能性があるということも指摘をさせていただきました。ということは、特に日本の場合はイランからの原油の輸入というのを5年間で40%くらい削減してきてまいりました。これからどうするかということは、これよく例えば経済界なんかも含めながら、相談をしながら決めていかなければいけないと思いますけれども、詳細はこれからアメリカの財務次官補が来週日本に寄ってくる、訪日する予定であります。そういう実務者との協議をしながら、たとえば邦銀への影響はどうなのか、それを回避するためにはどうしたら良いのか、そういう議論をこれからしていきたいと思いますので、安住大臣の発言というのは、これまでの削減をしてきた経緯と見通しを個人的にお話をされたと思います。政府としては、これから詳細に実務的な議論を踏まえながらの対応を詰めていきたいというふうに考えます。
● 時事通信の佐々木です。自民党幹部から話し合い解散についての言及があるんですけれども、総理の話し合い解散についてのご見解をお聞かせ下さい。
解散は念頭に置いておりません。
● 日本テレビの佐藤です。総理もいまおっしゃいましたけれども、消費税とともに行政改革が非常に重要だということですけれども、例えば定数削減、国会議員の定数削減、これについてはもっとスピード感をもってやるべきではないかと思うんですけれども、総理の頭の中にタイムスケジュールですとか、ここまでには通していかないと、という、関連法案、消費税の関連法案については3月末に提出されるという意見表明されていますけれども、意思表明をすべきじゃないかと思うんですけれども、頭の中にはどんなことが考えられているでしょうか。
定数削減を含む政治改革は去年から残った宿題です。これについては例えば一票の格差についても、これはある程度日程がありますよね。区割り法提出とか、区割り審議会の話とか、そこも念頭に置きながら、一方で定数削減、四文字熟語ではどこも賛成なんですけど、削減の仕方については比例区の扱いと小選挙区のバランスとか、あるいはもっと背景にある選挙制度改革全般の問題も含めて、各党において多様な意見があります。我が党は我が党で一つの考え方を持っておりますが、それだけを持って法案さえ提出すれば良いということではないと思うんです。定数削減という結果を出さなければなりません。定数削減の結果を出すためには、おっしゃったようにちょっとスピード感を持って政党間の協議は進めていかなければいけないというふうに思っています。いわゆる一体改革の法案については、3月末までに法案を提出をします。なるべくそれより早くですね、結論が出たり形が見えてきたりするようにはしたいと思いますが、具体的にいつまで云々と、明確に工程表的に言える段階ではないと思います。なるべく早く結論を出したいというふうに思います。
● フリーランスの畠山と申します。総理は先ほど耳ざわりの良いことを言っているだけではなくて辛いテーマも訴えてなければならないというふうにおっしゃいました。一方で国民にとっては、政権交代時のマニフェストにはなかった消費税増税という問題も突きつけられています。総理は国民の理解を得られるか、得られないか、どのようにして民意を知るおつもりなのでしょうか。お聞かせ下さい。
マニフェストに書いてあること、これはこれから我々の政権担当期間中、可能な限り実現していかなければいけないというふうに思います。去年の8月にまとめた中間検証で、いろいろと中間的評価がございましたけれども、それを踏まえながらできることはこれからも引き続きやっていかなければいけないと思います。
一方でマニフェストでは書いてなかったけれども、さっき言ったとおり内外の情勢を踏まえて俯瞰したときに、やっぱり決断しなければいけないテーマというのは出てきていると思います。今申し上げてきたのは、消費税のお尋ねございましたけれども、これについてはマニフェストには、09年のマニフェストには書いてはいません。ただし当時の鳩山代表の発言等もございましたが、いわゆる任期中には上げませんが、議論をしていくことはそのあと途中からはみんなが認めてそして議論をしてきたと思います。議論をしてきて、やっとのことでありますけれども去年素案をまとめました。素案をまとめてこれから大綱にしていこうという段階でありますが、こういう考え方を基に、実施をする前には信を問うということ、これはずっと言ってきたことであります。これはずっと堅持をしていきたいと思いますが、その間に必要なことは、やっぱりこういう問題は避けて通れないということと、避けて通れないということは、要は、私が今一番心配しているのは、今日より明日が良くなると思っている国民が減ってきたことです。バブル崩壊後特に。我々の時代はまだ3丁目の夕日の頃は多少そういうのがありました。なくなってきたテーマの中の一つはツケをどんどん将来に残しておいて、ツケをツケ回しをしといて、今日より明日が良くなるかと思えるとは思えないんです。その条件をまず変えていかなければいけないという危機感を持っています。そういうことも含めてですね、しっかりと国民の皆さまに目いっぱいお訴えをしていく、政務三役が中心になってしっかりと説明をしていく、そういうことでご理解を頂けるかどうかが、私はこれからの正念場だというふうに思います。
● 朝日新聞の坂尻です。今の、国民に信を問うということを改めて伺わせていただきたいのですが、今回改造されたということでですね、改めて与野党協議を呼び掛けるということですが、現時点でもって野党はなかなか厳しい姿勢を示していてスムーズな話し合いに応じるという姿勢は示していません。そういう中で、野党の理解や協力が得られなければ、いっそのこと、その国民に信を問うというような選択肢というのは、総理はまったく考えていらっしゃらないのでしょうか。
あの、野党とひとくくりではおっしゃっていますけれども、たとえば自民党の中でも、自分たちがもともと言ってきたことなんだから、正々堂々と議論したほうが良いんじゃないかと発言をされている有力な政治家もいま次々出てきているというふうに思います。私は野党も状況によってはその気持ちが変わって、執行部の対応も変わる可能性がまだあるというふうに思っておりますので、その先の段階はいま語る段階ではないと。あくまで粘り強く国民の皆さまにお訴えをして、その後押しも受けながら野党の皆さまに真剣に協議に入ってきていただく環境整備に努めていきたいと思います。
● 共謀罪の創設が政府内で検討されていると言われておりますが、これはしかし治安維持法の再来になるのではないかという批判や指摘もあります。平岡前法務大臣が、大変この共謀罪の創設については慎重であらねばならないということを言われてきたというふうに伝えられておりますが、今回の内閣の改造で平岡さんが外れたのは、この共謀罪の創設と関係があるのかどうか。そして総理は、この共謀罪そして秘密保全法についてどのようなお考えをお持ちなのか、ご見解をお示し頂きたいと思います。
共謀罪との関連で平岡さんに今回交代をしていただいたということはありません。それは直結する話ではないということであります。共謀罪のことを含めて検討については、今法務省を含めて政府内で検討をさせていただいているという状況で、その推移を見守っていきたいというふうに思います。 
第百八十回国会・施政方針 / 平成24年1月24日
一 はじめに
第百八十回国会の開会に当たり、この国が抱える諸課題と野田内閣の基本方針について、謹んで申し上げます。
昨年九月、野田内閣は、目の前にある課題を一つ一つ解決していくことを使命として誕生いたしました。「日本再生元年」となるべき本年、私は、何よりも、国政の重要課題を先送りしてきた「決められない政治」から脱却することを目指します。
「与野党が信頼関係の上に立ってよく話し合い、結論を出し、国政を動かしていくことこそ、国民に対する政治の責任であると私は信じます。」
これは、四年前、当時の福田総理がこの演壇から与野党に訴えかけられた施政方針演説の一節です。
それ以降も、宿年の課題は残されたまま年々深刻さを増し、国の借金は膨らみ続けました。そして、東日本大震災によって、新たに解決を迫られる課題が重くのしかかっています。私たちは、この国難とも呼ぶべき危機に立ち向かいながら、長年にわたって先送りされてきた課題への対処を迫られています。「国民に対する政治の責任」を果たさなければなりません。
野田内閣がやらなければならないことは明らかです。大震災からの復旧・復興、原発事故との戦い、日本経済の再生です。この大きな課題の設定と国として進めるべき政策の方向性について、与野党に違いはありません。
社会保障と税の一体改革も、同様です。昨年末、自公政権時代の問題提起も踏まえながら、民主党内の政治家同士による熟議の末に、政府与党としての素案をまとめました。その上で、各党各会派との協議をお願いしています。少なくとも、持続可能な社会保障制度を再構築するという大きな方向性に隔たりはないのではないでしょうか。具体的な政策論で異論があるのであれば、大いに議論しようではありませんか。
我が国の政治過程において、今、俎(そ)上に上っている諸課題は、幸いにして、世界各地の民主主義国家で顕在化しているような、深刻なイデオロギーや利害の対立をはらむものではありません。先の国会で、各党各会派が当初の主張の違いを乗り越えて、三次補正予算と関連法の合意を達成できたことが一つの証左です。私たち政治家が本気で合意を目指し、動かそうとするならば、政治は前に進んでいくのです。
今、求められているのは、僅かな違いを喧(けん)伝するのではなく、国民の真の利益とこの国の未来を慮(おもんばか)る「大きな政治」です。重要な課題を先送りしない「決断する政治」です。
日本が直面する課題を真正面から議論し、議論を通じて具体的な処方箋を作り上げ、実行に移していこうではありませんか。全ての国民を代表する国会議員として、今こそ、「政局」ではなく、「大局」を見据えようではありませんか。
二 三つの優先課題への取組
大震災からの復旧・復興、原発事故との戦い、日本経済の再生。野田内閣は、この三つの優先課題に、改造後の布陣で引き続き全力を挙げて取り組むことをお誓いします。
(復興の槌音よ、鳴り響け)
あの大震災から、十か月余りが経ちました。今なお仮設住宅で不自由な暮らしを余儀なくされている方々に、少しでも「温もり」を感じていただきたい。大震災の災禍を乗り越え、一日も早く、被災地に復興の槌(つち)音を力強く響かせたい。そうした思いで、これまで国としても懸命に取り組んでまいりました。
先の国会で成立した三次補正予算と関連法によって、復興庁、復興交付金、復興特区制度など、復興を力強く進めていく道具立てが揃(そろ)いました。「復興」という名を戴(いただ)いた新しい役所は、被災者に寄り添い続け、必ずや被災地の復興を成し遂げるという、与野党が共に刻んだ誓いの証(あかし)です。復興庁を二月上旬に立ち上げ、ワンストップで現地の要望をきめ細かにくみ取り、全体の司令塔となって、復興事業をこれまで以上に加速化していきます。
被災者の方々が生活の再建を進める上で、最大の不安は、働く場の確保です。復興特区制度などを活用して、内外から新たな投資を呼び込むとともに、被災した企業の復旧を加速させ、被災地の産業復興と雇用確保を進めます。
ふるさとが復興する具体的な未来図を描くのは、他ならぬ住民の皆様自身です。地域のことは地域で決める、という地域主権の理念が、今ほど試されている時はありません。多様な主体が参加した住民自治に基づく、開かれた復興を全力で応援します。
大震災の発災から一年を迎える、来る三月十一日には、政府主催で追悼式を執り行います。犠牲者の御霊に対する最大の供養は、被災地が一日も早く復興を果たすことに他なりません。先人たちは、終戦の焼け野原から高度経済成長を実現し、石油ショックから世界最高の省エネ国家を築き上げました。大震災に直面した私たちにも、同じ挑戦が待っています。元に戻すのではなく、新しい日本を作り出すという挑戦です。これは、今を生きる日本人の歴史的な使命です。
がんばっぺ、福島。まげねど、宮城。がんばっぺし、岩手。そして、がんばろう、日本。大震災直後から全国に響くエールを、これからも、つないでいきましょう。東日本各地の被災地の苦難の日々に寄り添いながら、全ての日本人が力を合わせて、「復興を通じた日本再生」という歴史の一ページを共に作り上げていこうではありませんか。
今般の大震災が遺(のこ)した教訓を未来にいかしていくことも、私たちが果たさなければならない歴史的な使命の一つです。もう「想定外」という言葉を言い訳にすることは許されません。津波を含むあらゆる自然災害に強い持続可能な国づくり・地域づくりを実現するため、災害対策全般を見直し、抜本的に強化します。
(原発事故と戦い抜き、福島再生を果たす)
東京電力福島第一原発の事故との戦いは、決して終わっていません。昨年末の「ステップ2」完了は、廃炉に至るまで長く続く工程の一里塚に過ぎません。福島を再生し、美しきふるさとを取り戻す道のりは、これから本格的に始まるのです。
避難されている方々がふるさとにお戻りいただくには、安心して暮らせる生活環境の再建を急がなければなりません。病院や学校などの公共サービスの早期再開を図るとともに、とりわけ子どもや妊婦を放射線被害から守るため、生活空間の徹底した除染、住民の皆様の健康管理、食の安全への信頼回復に取り組むとともに、被災者の目線に立った公正で円滑な賠償に最善を尽くします。また、関係する市町村や住民の皆様の御意向を十分に把握し、警戒区域や避難指示区域の見直しにきめ細かく対応します。
私は、内閣総理大臣に就任後、これまで三度、福島を訪れました。山々の麗しき稜(りょう)線。生い茂る木々の間を流れる清らかな川と水の音。どの場所に行っても、どこか懐かしい郷愁を感じます。日本人誰もが、ふるさとの原型として思い浮かべるような美しい場所です。
福島の再生なくして、日本の再生はありません。福島が甦(よみがえ)らなければ、元気な日本も取り戻せないのです。私は、このことを何度でも繰り返し、全ての国民がこの思いを共有していただけることを願います。この願いを具体的な行動に移すため、国が地元と一体となって福島の再生を推進するための特別措置法案を今国会に提出します。
(日本経済の再生に挑む)
被災地が確かな復興の道を歩むために、そして、我が国が長きにわたる停滞を乗り越えて、将来に繁栄を引き継いでいくために、日本経済の再生にも全力で取り組みます。分厚い中間層を復活させるためにも、中小企業を始めとする企業の競争力と雇用の創出を両立させ、日本経済全体が元気を取り戻さなければなりません。企業の国内投資や雇用創出の足かせとなってきた様々な障害を取り除き、産業と雇用の基盤を死守します。同時に、新たな付加価値を生み出す成長の種をまき、新産業の芽を育てていくための環境を整備していきます。
日本再生のための数多くのプロジェクトを盛り込んだ二十四年度予算は、経済再生の次なる一歩です。四次補正予算と併せ、早期の成立を図ります。また、歴史的な円高と長引くデフレを克服するため、金融政策を行う日本銀行との一層の連携強化を図り、切れ目ない経済財政運営を行ってまいります。
世界経済の先行きが不透明な中で、人口減少に転じた我が国が力強い経済成長を実現するのは、容易ならざる課題です。しかし、だからこそ、日本経済の潜在力を冷静に見極め、様々な主体による挑戦を促す明快なビジョンを描かなければなりません。このため、国家戦略会議において、「新成長戦略」の実行を加速するとともに、新たな成長に向けた具体的な工程表を伴う「日本再生戦略」を年央までに策定し、官民が一体となって着実に実行します。
日本に広がる幾多のフロンティアは、私たちの挑戦を待っています。「女性」は、これからの日本の潜在力の最たるものです。これは、減少する労働力人口を補うという発想にとどまるものではありません。社会のあらゆる場面に女性が参加し、その能力を発揮していただくことは、社会全体の多様性を高め、元気な日本を取り戻す重要な鍵です。日本再生の担い手たる女性が、社会の中で更に輝いてほしいのです。
「農業」「エネルギー・環境」「医療・介護」といった分野は、新たな需要を生み出し、二十一世紀の成長産業となる大きな可能性を秘めています。先に策定した食と農林漁業の再生に向けた「基本方針・行動計画」を政府全体の責任で着実に実行するとともに、これらの分野でのイノベーションを推進します。海洋国家たる我が国の存立基盤であり、資源の宝庫である「海洋」や、無限の可能性を持つ「宇宙」は、政府を挙げて取り組んでいく人類全体のフロンティアです。産官学の英知を結集して、挑戦を担う「人づくり」への投資を強化するとともに、こうした内外のフロンティアを「夢」から「現実」に変え、日本再生の原動力とするための方策を国家ビジョンとして示します。
アジア太平洋への玄関口として大きな潜在力を秘め、本土復帰から四十周年を迎える沖縄もフロンティアの一つです。その潜在力を存分に引き出すために、二十四年度予算において、使い道を限定しない自由度の高い一括交付金を用意します。また、地元の要望を踏まえ、二十四年度以降の沖縄振興に関する二法案を今国会に提出します。
経済再生のためには、エネルギー政策の再構築が欠かせません。そのためには、国民の安心・安全を確保することを大前提にしつつ、経済への影響、環境保護、安全保障などを複眼的に眺める視点が必要です。化石燃料が高騰する中で、足元の電力需給のひっ迫を回避しながら、温室効果ガスの排出を削減し、中長期的に原子力への依存度を最大限に低減させる、という極めて複雑な方程式を解いていかなければなりません。幅広く国民各層の御意見を伺いながら、国民が安心できる中長期的なエネルギー構成を目指して、ゼロベースでの見直し作業を進め、夏を目途に、新しい戦略と計画を取りまとめます。併せて、新たなエネルギー構成を支える電力システムの在り方や、今後の地球温暖化に関する国内対策を示します。
また、原発事故の原因を徹底的に究明し、その教訓を踏まえた新たな原子力安全行政を確立します。環境省の外局として原子力の安全規制を司る組織を新設するとともに、厳格な規制の仕組みを導入するための法案を今国会に提出し、失われた原子力安全行政に対する信頼回復とその機能強化を図ります。
三 政治・行政改革と社会保障・税一体改革の包括的な推進
(政治・行政改革を断行する決意)
まず隗(かい)より始めよ。これは、どのような政策課題に取り組むに当たっても、政治と行政を担う者が国民の皆様に示さなければならない「国家の矜(きょう)持」です。
先の国会で、政府全体の歳出削減と税外収入の確保のための具体策に結論を得ることは出来ませんでした。与野党の考え方の差は決して大きくはなかっただけに、残念でなりません。国家公務員給与の約八パーセントを引き下げる法案及び郵政改革関連法案について、今国会においてこそ、速やかに合意を得られるよう、野党の皆様に改めてお願いを申し上げます。
行政の無駄遣いの根絶は、不断に続けなければならない取組です。責任ある財政運営を行うために、過去二代の政権を通じて、私自身も懸命に努力をしてまいりました。しかしながら、「まだまだ無駄削減の努力が不足している」という国民の皆様のお叱りの声が聞こえます。行政改革に不退転の覚悟で臨みます。
皮切りとなるのは、独立行政法人改革です。大胆な統廃合と機能の最適化により、法人数をまずは四割弱減らすなどの改革を断行します。次に、特別会計改革です。社会資本整備事業特別会計の廃止や全体の勘定の数をおおむね半減させるなどの改革を進めます。これらの改革に関連する法案を今国会に提出し、成立に万全を期します。また、あらん限りの税外収入の確保に向け、国家公務員宿舎を今後五年間で二十五パーセント削減し、政府資産の売却を進めます。国民目線を徹底し、聖域なき行政刷新の取組を着実に進めるとともに、公務員制度改革を引き続き推進します。
行政サービスを効率化し、国の行政の無駄削減を進めるためにも有効な地域主権改革を着実に具体化していきます。二十四年度予算では、補助金の一括交付金の総額を増やし、使い勝手を格段に良くします。また、国の出先機関の原則廃止に向けて、具体的な制度設計を進め、必要な法案を今国会に提出いたします。さらに、地域社会を支える基盤である郵便局において三事業のサービスを一体で提供し、利用者の利便性を高める郵政改革の今国会での実現を図ります。
行政だけではありません。誰よりも、政治家自身が身を切り、範を示す姿勢が不可欠です。既に、違憲状態と最高裁判所から指摘されている一票の較差を是正するための措置に加えて、衆議院議員の定数を削減する法案を今国会に提出すべく民主党として準備しているところです。与野党で胸襟を開いて議論し、この国会で結論を得て実行できるよう、私もリーダーシップを発揮してまいります。
(社会保障・税一体改革の意義)
政治・行政改革とともに、今、国民のために、この国の将来のために、やり遂げなければならないもう一つの大きな課題があります。それが、社会保障と税の一体改革です。
団塊の世代が「支える側」から「支えられる側」に移りつつあります。多くの現役世代で一人の高齢者を支えていた「胴上げ型」の人口構成は、今や三人で一人を支える「騎馬戦型」となり、いずれ一人が一人を支える「肩車型」に確実に変化していきます。今のままでは、将来の世代は、その負担に耐えられません。もう改革を先送りする時間は残されていないのです。
過去の政権は、予算編成のたびに苦しみ、様々な工夫を凝らして何とかしのいできました。しかし、世界最速の超高齢化が進み、社会保障費の自然増だけで毎年一兆円規模となる状況にある中で、毎年繰り返してきた対症療法は、もう限界です。
もちろん、一体改革は、単に財源と給付のつじつまを合わせるために行うものではありません。「社会保障を持続可能で安心できるものにしてほしい」という国民の切なる願いを叶(かな)えるためのものです。
失業や病気などにより、一たび中間層から外れると、元に戻れなくなるとの不安が社会にじわじわと広がっています。このままでは、リスクを取ってフロンティアの開拓に挑戦する心も委縮しかねません。お年寄りが孤独死するような社会であってよいはずがありません。働く世代や子どもの貧困といった悲痛な叫びにも応えなければなりません。
政権交代後、「国民の生活が第一」という基本理念の下、人と人とが支え合い、支え合うことによって生きがいを感じられる社会づくりを目指してきました。全ての人が「居場所と出番」を持ち、温もりあふれる社会を実現するために、社会保障の機能強化が必要なのです。
我が国では、先進諸国と比べて、現役世代に対する支援が薄いと指摘されています。その最たる例が、子育て支援です。社会の中で女性の能力を最大限にいかすとともに、安心して子どもを産み、育てられる社会をつくるために、総合的な子ども・子育て新システムの構築を急がなければなりません。こうした点を含めて、「支える側」たる現役世代の安全網を強化し、子どもからお年寄りまで全ての国民をカバーする「全世代対応型」へと社会保障制度を転換することが焦眉の急なのです。
昨今、「今日よりも明日が良くなる」との思いを抱けない若者が増えていると言われます。日本社会が次世代にツケを回し続け、そのことに痛ようを感じなくなっていることに一因があるのではないでしょうか。将来世代の借金を増やし続けるばかりの社会で、若者が「今日より明日が良くなる」という確信を持つなど、無理な相談です。社会全体の「希望」を取り戻す第一歩を踏み出せるかどうかは、この一体改革の成否にかかっている、といっても過言ではありません。
このような背景や認識に基づいて、政府与党は、経済状況を好転させることを条件に、二〇一四年四月より八パーセントへ、二〇一五年十月より十パーセントへ段階的に消費税率を引き上げることを含む「素案」を取りまとめました。引上げ後の消費税収は、現行分の地方消費税を除く全額を社会保障の費用に充て、全て国民の皆様に還元します。「官」の肥大化には決して使いません。
これは、社会に、より多くの「温もり」を届けていくための改革です。消費税引き上げに当たって最も配慮が必要なのは低所得者の方々です。このため、社会保障の機能強化により低所得者対策を充実するとともに、国民一人ひとりが固有の番号を持つことになる社会保障・税番号制度を導入し、給付付き税額控除の導入を検討するなど、きめ細かな対策を講じます。また、所得税の最高税率を五パーセント引き上げ、税制面でも、格差是正と所得再分配機能の回復を図ります。
グローバルな金融市場の力が席巻する今、一たび「国家の信用」が失われると取り返しがつきません。欧州諸国の状況を見れば一目瞭然です。この一体改革は、金融市場の力に振り回されない強靭な財政構造を持つ観点からも、待ったなしなのです。
(改革の具体化に向けた協議の要請)
社会保障・税一体改革は、経済再生、政治・行政改革とも一体で、正に包括的に進めていかなければならない大きな改革です。今後、各党各会派との協議を進めた上で、大綱として取りまとめ、自公政権時代に成立した法律の定める本年度末の期限までに、関連法案を国会に提出します。
二十一世紀に入ってから、内閣総理大臣としてこの演壇に立たれた歴代の先輩方は、年初の施政方針演説の中で、持続可能な社会保障を実現するための改革の必要性を一貫して訴えてこられました。
「持続可能な社会保障制度を実現するには、給付に見合った負担が必要です。」
「経済状況を好転させることを前提として、遅滞なく、かつ段階的に消費税を含む税制抜本改革を行うため、二〇一一年度までに必要な法制上の措置を講じます。」
「これは、社会保障を安心なものにするためです。子や孫に、負担を先送りしないためであります。」
これらは、私の言葉ではありません。三年前、当時の麻生総理がこの議場でなされた施政方針演説の中の言葉です。私が目指すものも、同じです。今こそ立場を超えて、全ての国民のために、この国の未来のために、素案の協議に応じていただくことを願ってやみません。
国民の御理解と御協力を得るために、改革の意義や具体的な内容を分かりやすく伝えていく努力も欠かせません。私と関係閣僚が先頭に立って、国民の皆様への情報発信に全力を尽くします。また、社会保障の最前線で住民と接している自治体の関係者とも密接に協力してまいります。
四 アジア太平洋の世紀を拓く外交・安全保障政策
(アジア太平洋の世紀と日本の役割)
大西洋の世紀から、アジア太平洋の世紀へ。産業革命以来の世界の構図が変わり、世界の歴史の重心が大きく移りゆく時代を私たちは生きています。歴史の変動期には、常に、チャンスとリスクが交錯します。
アジア太平洋の世紀がもたらす「チャンス」。それは、言うまでもなく、世界の成長センターとして、これからの世界経済の発展を牽(けん)引していくのがこの地域であるということです。この地域の力強い成長を促し、膨大なインフラ需要や巨大な新・中間層の購買力を取り込んでいくことは、我が国自体に豊かさと活力をもたらします。日本の再生は、豊かで安定したアジア太平洋地域なくして、あり得ません。
アジア太平洋の世紀がはらむ「リスク」。それは、既存の秩序が変動する過程で地域の不安定さが増し、安全保障の先行きが不透明になっていることです。多くの国で指導者が交代期を迎える本年、我が国を取り巻く安全保障環境は予断を許しません。また、発展途上の金融市場、環境汚染や食料・エネルギーのひっ迫、日本を追いかける形で進む高齢化といったこの地域で散見される課題も、安定した成長を阻む要因です。こうした課題の解決に、日本の技術や知見に熱いまなざしが向けられています。課題解決先進国となるべき日本の貢献なくして、豊かで安定したアジア太平洋地域も、あり得ないのです。
我が国は、幸いにして、「アジア」にも、「太平洋」にも軸足を持っている海洋国家です。これからの歴史の重心に位置するという地政学的な恵みを最大限にいかし、アジア太平洋地域が安定と繁栄を享受できるように貢献していかなければなりません。これは、世界全体にとっての課題であり、かつ、我が国の国益を実現するための最大の戦略目標です。
私は、アジア太平洋地域の安定と繁栄を実現するため、日米同盟を基軸としつつ、幅広い国や地域が参加する枠組みも活用しながら、この地域の秩序とルールづくりに主体的な役割を果たしていくことが我が国の外交の基本であると考えます。
貿易・投資の自由化、エネルギー・環境制約の克服といった経済面での課題だけではなく、テロ対策や大量破壊兵器の拡散防止、海洋航行の自由の確保、平和維持や紛争予防といった安全保障面での課題、さらには、自由と民主主義、法の支配といった共通の「価値」の確認など、地域で対話を深めていくべきテーマには事欠きません。我が国は、多様性あふれるアジア太平洋地域において、共通の原則や具体的なルールを率先して提案し、志を同じくする国と手を携えながら、地域の安定と繁栄に向けて戦略的に対応していきます。
まずは、アジア太平洋自由貿易圏、いわゆるFTAAP構想の実現を主導し、高いレベルでの経済連携を通じて自由な貿易投資のルールづくりを主導することが、こうした戦略的な対応の先駆けです。日韓・日豪交渉を推進し、日中韓やASEANを中心とした広域経済連携の早期交渉開始を目指すとともに、環太平洋パートナーシップ協定、いわゆるTPP協定への交渉参加に向けた関係国との協議を進めていきます。併せて、日EUの早期交渉開始を目指します。
(近隣諸国との二国間関係の強化)
こうした取組を進める上で、近隣諸国との二国間関係の強化を同時並行で進めることが我が国外交の基礎体力を高めます。既に、米中だけでなく、韓国、ロシア、インド、オーストラリアなど主要各国の首脳と個別に会談し、個人的な信頼関係を築きながら、二国間関係を進展させてまいりました。今後とも、北方領土問題など各国との懸案の解決を図りつつ、関係の強化に努めます。
特に、日米同盟は、我が国の外交・安全保障の基軸にとどまらず、アジア太平洋地域、そして世界の安定と繁栄のための公共財です。二十一世紀にふさわしい同盟関係に深化・発展させていかなければなりません。普天間飛行場の移設問題についても、日米合意を踏まえ、引き続き沖縄の皆様の声に真摯に耳を傾け、誠実に説明し理解を求めながら、沖縄の負担軽減を図るために全力で取り組みます。
また、アジア太平洋地域での安定と繁栄は、中国の建設的な役割なしには語れません。これまでに首脳間で、幾度となく日中両国の「戦略的互恵関係」を深めていく方針を確認してきました。これからは、その内容を更に充実させ、地域の安定した秩序づくりに協力を深めていく段階です。国交正常化四十周年の機を捉え、人的交流や観光促進を手始めに、様々なレベルでの対話や交流を通じて、互恵関係を深化させていきます。
今後の北朝鮮の動向については、昨年末の金正日国防委員会委員長の死去を受けた情勢変化を冷静に見極め、関係各国と緊密に連携しつつ、情報収集を強化し、不測の事態に備えて、引き続き万全の態勢で臨みます。拉致問題は、我が国の主権に関わる重大な問題であり、基本的人権の侵害という普遍的な問題です。被害者全員の一刻も早い帰国を実現するため、政府一丸となって取り組みます。日朝関係については、引き続き日朝平壌宣言に則って、核、ミサイルを含めた諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を図るべく努力していきます。
イランの核問題については、深刻な懸念を国際社会と共有します。平和的・外交的な解決に努力することを基本とし、原油市場や日本経済への影響なども総合的に勘案しつつ、各国と連携して適切に対応いたします。
また、消費者行政に万全を期すとともに、テロやサイバー攻撃、大規模自然災害、国内外の重大事件・事故など、国民の生命・身体・財産を脅かす緊急事態については、常に緊張感と万全の備えを持って危機管理対応を行います。
(人類のより良き未来のために)
我が国は、アジア太平洋地域の安定と繁栄を超えて、人類全体により良き未来をもたらすためにも積極的に貢献します。これは、国際社会への責任を果たすだけではなく、「この国に生まれて良かった」と思える「誇りある国」の礎となるものです。
先日、南スーダンでの国連平和維持活動に、自衛隊の施設部隊を送り出しました。国際社会と現地の期待に応え、アフリカの大地でインフラ整備に必死に汗を流す自衛隊員の姿は、必ずや、日本人の「誇り」の一部となるはずです。こうした海外での貢献活動に加えて、軍縮・不拡散、気候変動などの「人類の安全な未来」への貢献、ODAの戦略的活用を通じた「人類の豊かな未来」への貢献にも努めてまいります。
五 むすびに
私は、大好きな日本を守りたいのです。この美しいふるさとを未来に引き継いでいきたいのです。私は、真に日本のためになることを、どこまでも粘り強く訴え続けます。
今年は、日本の正念場です。試練を乗り越えた先に、必ずや「希望と誇りある日本」の光が見えるはずです。
この国は、今を生きる私たちだけのものではありません。未来に向かって永遠の時間を生きていく将来の世代もまた、私たちが守るべき「国民」です。この国を築き、守り、繁栄を導いてきた先人たちは、国の行く末に深く思いを寄せてきました。私たちは、長い長い「歴史のたすき」を継ぎ、次の世代へと渡していかなければなりません。
今、私たちが日本の将来のために、先送りできない課題があります。拍手喝采を受けることはないかもしれません。それでも、先に述べた大きな改革は、必ずやり遂げなければならないのです。
全ての国民を代表する国会議員の皆様。志を立てた初心に立ち返ろうではありませんか。困難な課題を先送りしようとする誘惑に負けてはなりません。次の選挙のことだけを考えるのではなく、次の世代のことを考え抜くのが「政治家」です。そして、この国難のただ中に、国家のかじ取りを任された私たちは、「政治改革家」たる使命を果たさなければなりません。
政治を変えましょう。苦難を乗り越えようとする国民に力を与え、この国の未来を切り拓くために、今こそ「大きな政治」を、「決断する政治」を、共に成し遂げようではありませんか。日本の将来は、私たち政治家の良心にかかっているのです。
国民新党を始めとする与党、各党各会派、そして国民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げ、私の施政方針演説といたします。 
記者会見 / 平成24年2月10日
お待たせしました。まずは、復興大臣を始めとする大臣・副大臣・政務官の人事について、まずはご報告、ご説明を申し上げたいというふうに思います。
初代の復興大臣は被災地のご出身で、これまでも復興担当大臣、防災大臣として現地に足しげく現場に入り、そして被災地の信頼も厚い、平野達男復興大臣にお願いをさせていただきました。副大臣には被災地で奮闘してきた松下経産副大臣。そして、官邸で復興担当の補佐官として私を支えていただきました、末松補佐官を新たに副大臣に任命をさせていただきました。その他の副大臣、政務官を含めまして、被災地をよく知り、政策の継続性の確保に最大限配慮した即戦力の陣容ということでご理解をいただきたいというふうに思います。
復興庁設置に伴う閣僚の増員枠を活用いたしまして、中川正春前文部科学大臣に、防災と「新しい公共」と、少子化、男女共同参画の担当大臣をお願いをいたしました。震災の教訓を踏まえた全国的な防災対策の強化、子ども・子育て支援策の具体化、といった重要な政策課題に対して責任を果たしていただきたいと思っております。また、寺田学元補佐官を新たに官邸に入ってもらい、社会保障・税一体改革、行政改革担当の補佐官になっていただくことになりました。
続いてでありますけれども、私も今日予算委員会の合間のお昼に復興庁の看板掛けをさせていただきました。高田松原の松を使った、それを素材とした看板でずっしり重たいものでございました。被災地の期待に応えるような、応えなければいけない、といった責任の重さを感じた次第でありますけれども、その復興庁の役割、復興庁に対する思いを次に申し上げたいと思います。
復興庁は、まさにこれは復興の司令塔になる組織でございますけれども、その大きな役割は私、2つあるだろうと思います。第一は、被災地自治体の要望にワンストップで迅速に対応する、ということであります。こちらにこういうパネルがありますけれども、被災3県に復興局を置くと。それぞれの県に2カ所ずつ、沿岸部でありますけれども、支局を置く。さらには青森と茨城に事務所を置くと。こういう体制で、ワンストップで迅速な対応という、その使命を果たしていきたいというふうに考えております。
それから第二にはですね、役所の縦割り、その壁を乗り越えるということでございます。私がトップとなり、各省庁より格上の立場という位置付けでございます。迅速果断に調整をすることが何よりも大事でございますけれども、特に総合調整権限、実施権限については強力な権限を付せられています。予算の一括計上、あるいは箇所付け、配分までできるということでございますので、この役所の壁を総合調整と実施を通じて、是非、やり抜いていきたいと思います。この、ワンストップできちっと迅速に対応することと、そして役所の壁を乗り越えていく、縦割りの弊害をなくしていくという、そういう使命、その器に魂が入るのは今回集った約250人の職員の志だというふうに思います。各省からまんべんなくですね、こういう実務に慣れた、関連制度に習熟をした人選をさせていただきました。現場主義に徹底して、そして先例主義に捉われずに、とにもかくにも被災地の皆さんの心を心として粉骨砕身、その使命を果たしていただきたいと考えております。
なお、昨日の段階で、復興特区の第一号認定を発表させていただきました。さらに、3次補正と、いまご審議いただいている来年度の予算において、復興交付金、約2兆3千億が計上されております。この2兆3千億については、既に78市町村から約5千億円規模の一時申請がございました。速やかに配分を決めまして、復興事業を一気に加速をしていきたいと考えております。
続いて、復旧・復興の今後の課題でありますけれども、これまで復旧・復興については私どもも全力で取り組んでまいりましたけれども、まだ行き届いてない部分はある、遅いというご指摘もありました。そういうご批判は、真摯に受け止めていきたいと思いますが、その上で特に、こちらもパネルに書いてございますが、主要な課題は5つあるというふうに思っております。
第一は、住宅再建、高台移転。そして二つ目ががれきの広域処理。三つ目が雇用の確保。四つ目は被災地の孤立防止と心のケア。五つ目は原発事故避難者の帰還支援ということでございます。特に、がれきの広域処理についてお話をさせていただきたいというふうに思います。
住宅周辺から撤去されたがれきについてはいま、港や空き地を利用して、いわゆる仮置き場に集められている状況でございますが、これから進めるべきは、被災地におけるこの処理能力というのは限界があります。がれきの処理・処分でありますけれども、岩手県では通常の11年分、宮城県では19年分ということでございますので、被災地のところで自己完結はできません。その意味からは、まさに安全ながれきを全国で分かち合って処理するという、広域処理が不可欠でございます。現在、東京都、山形県、秋田県、静岡県、静岡県島田市、(神奈川県)を始め、積極的にご協力をいただいているところもございますけれども、幅広く、今日の閣僚懇でも話題になりましたが、全閣僚がもっと幅広く広域処理に向けての各自治体への協力への呼び掛けをしていこうということになりましたので、今日改めて、そうしたご報告もさせていただきたいというふうに思います。安全情報の丁寧な発信に務めながら、協力をしていただける自治体というものを、もっと増やしていきたいと考えております。
なお、福島の関連で申し上げますと、福島の再生なくして日本の再生なし、何度も口にしてまいりましたけれども、それを具体化していく一歩であります、福島再生特別措置法案を今日、閣議決定をいたしました。早期成立を目指していきたいと思います。私からは以上でございます。
【質疑応答】
● 東京新聞の関口と申します。復興庁は各府省よりも格上の組織と位置付けられ、復興の司令塔と位置付けられています。ただ、個別の復興事業は国交省など既存の省庁に権限があるため霞が関の縦割りを打破できず、復興の司令塔としての機能を果たしきれないとの指摘がありますが、いかがお考えでしょうか。また、総理ご指摘のワンストップ機能ですが、総勢250人体制のうち、岩手、宮城、福島の復興局の人員は、それぞれ30人にとどまります。自治体の膨大な申請や要望をこなしきれず、復興の遅れを招きかねない恐れがありますが、復興庁は被災地の期待に十分応えられるような迅速な対応ができるとお考えでしょうか。よろしくお願いします。
はい。先ほどの冒頭のところでも申し上げましたけれども、本当に復興庁が被災地のために役に立つかどうかというのは、ワンストップで要請を受けて対応することと、いまご指摘のあった、縦割りを乗り越えること、だということであります。そのために、先ほどもご説明いたしましたけれども、いわゆる総合調整の権限と実施権限、これ、強力なものが付与されております。これをしっかりと活かしていくことが、まさにこの新しい組織が機能するかどうか、復興に役に立つかどうかの肝だと思いますので、特に、私がトップでございますので、そのことはきちっとリーダーシップを発揮していきたいというふうに思います。
体制においてのいま、ご質問をいただきました。確かに岩手、宮城、そして福島と、この3県における復興局はトータルで合わせると90人ですね。ただしいままでの、いわゆる現地対策本部の体制よりは、はるかに人員が拡充をされた、というふうにご理解をいただきたいと思いますし、東京にいる復興庁の人たちが、ずっと東京でデスクワークしているかというと違います。現実には、被災地にどんどん入っていくという現場主義を徹底いたしますので、現地常駐はさっき言った3県、90人ですか、現地で汗をかいて頑張って調整をしていく、ということは、東京にいる人たち、復興庁の人たちもどんどん出る、ということで機動的に対応していきたいと思います。
なお、先ほど協力をいただいているがれきの広域処理の時、神奈川県を言いそびれてしまいましたことを、いまメモが入りました。感謝を、神奈川県に、黒岩知事にもしております。
● 共同通信の山根です。よろしくお願いします。震災復興とともに政権の重要課題の一つである社会保障と税の一体改革についてお伺いします。野党側は、一体改革に関する協議に応じない姿勢を変えていません。関連法案の提出期限とする3月末が迫っていますが、今後どう打開していくお考えでしょうか。また、足元の民主党ではですね、小沢一郎元代表が、消費税増税に反対する方針を明言されています。どう対応していくおつもりでしょうか。
基本的には私どもが、政府与党でまとめた素案を、是非与野党で協議をしていただき、そして大綱にしていきたいという基本的な姿勢は変わりません。今日、党のほうで、いわゆる野党からいろいろご指摘をいただいた試算について党内で説明をし、そしてそれを公表をしたと思います。公表しただけではなくて、各党にそのいわゆる位置付け等々についてご説明にあがると、政調会長中心にあがるというふうに思います。そのことを通じまして改めてですね、与野党の協議をお願いしていきたいというふうに思います。これからも粘り強く、与野党協議の可能性を追求していきたいと思います。
また、党内にまたそういう意見があるということは承知をしておりますけれども、これは昨年の6月に社会保障と税の一体改革の成案を作るときも、そしてその後に1月6日に素案をまとめる過程においても、丁寧な党内の議論はずっと積み重ねてきたつもりであります。もうほとんどこれ1年越し、昨年議論してきた中で、そのプロセスに瑕疵があったとは思いませんので、みなで、政府与党一丸となって成立を期していきたいというふうに思います。
● テレビ朝日の山崎です。今、総理のほうからもおっしゃられました社会保障と税の一体改革で、今日党のほうで試案が公表されました。この試案によりますと、最大で2075年度には7.1%分の、消費税に換算すれば、7.1%分の財源が必要になってくると。まずこの試算について、まず総理の受け止めについて一言お願いしたいのと、この後さらにですね、最近の人口動態とかを踏まえて、また新たに計算をしなおすという方針だと思いますけれども、その計算した結果ですね、やはりこれぐらいの規模の財源というのが必要になってくるのか、総理のイメージをお願いします。
まずこの試算の位置付けなんですけれども、昨年の春の段階でこの社会保障と税の一体改革を扱う調査会の幹部が、まあ一部の人たちが要は、新しい年金制度をつくる際の一つの頭の体操として発注したものであります。で、そこにおいてどういう仮定を置くのか等々によって試算ってずいぶん変わりますよね。しかも、その試算を作ってもらった後に、それをもって議論をした後にですね、回収をしてるんですね。すでに、回収をした内容です。ということは、それ以外の人たちはその情報を共有していなかったということです。当時の党の幹部の人たちも知らなかったし、当時の財務大臣だった、政府にいる私も知りません。それをもって、何かの新しい意思決定をしたとか、新しい制度の制度設計をしたということではないので、その数字がどんどんと出てしまったことによって、ちょっと議論が拡散してしまったなというふうに私は思っております。
これは2015年までに消費税を引き上げるときの、まさに材料ではないんですね。抜本的な年金制度を作るときに、来年法案を出すときには詰めた議論をしていく、そのときには正確な試算に基づいて議論しなければいけないと思いますけれども、試みの計算が出てしまったと。今、その、だから63年後、2075年にさらに、7.1%増えるという話じゃないですか。そこだけが一番、例えば最低保障年金の支給の厚い部分のシミュレーションでそういう形になっているということでありますので、そればっかりがなんとなく喧伝されていることが冷静な議論とちょっとかけ離れてしまっていることは、私は残念に思います。従っていわゆる試みの計算で、回収をされたものについて説明を果たすことができないんですね。改めてきちっとした議論をするためには、新しい人口推計であるとか、賃金の上昇率どうするのかとかですね、あるいは利回りどうするのかとか等々の、きちっとむしろこれは与野党でこういう数値でやったほうがいいねというところからむしろ私は始めたほうがいいのではないかなと思いますし、そのほうが冷静な議論はできるんではないかなというふうに思いますが、今のそうした位置付けの問題を含めて、試算の中身、試算の仕方を含めて各党に、政調会長中心にご説明にあがっていただき、ご理解をいただきたいというふうに思います。
● ロイター通信の竹中です。イランのことに関してお伺いします。イランに対する経済制裁ですが、中央銀行と取引のある金融機関、アメリカで金融活動ができなくなるという経済制裁、発動されますが、日本もこれに対してイランからの原油の輸入、減らしていく方向であるということは表明されていますが、この制裁、日本の金融機関がこの制裁から除外されるようになる見通しというのは今のところいかがでしょうか。そして、その前提となる削減幅、削減の規模なのですが、どういったふうな見通しをもっていらっしゃいますでしょうか。そして最後に、イランからの原油が減ることによって、そして一方で原子力発電所の稼働というのがどんどん細っています。代替のエネルギー源をどういったふうに調達していくのかということに関して、お考えを教えていただけますでしょうか。
まずですね、イランの核開発についてはこれは国際社会と同様に懸念を持っています。基本的には対話と圧力だと思います。圧力の部分は国際協調の中でやってきております、今までも。一方で対話、日本独自の働きかけもやってきました。基本的には外交的平和的解決が望ましいと思いますが、その一方で今ご指摘のような、制裁の部分がございますが、これについては例えばこれまで5年間で40%、イランからの原油の輸入は減ってきています。その趨勢で行くことは、間違いございませんので、そういうことも含めまして、今、日米間の協議を実務的にやっています。その協議の目的は、この国防授権法の適用除外を実現をしたいという意味合いでの協議を、今やっている最中ということでございますけれども、趨勢としては、イランからの原油は減らしていくということです。これまた5年間のお話もしました。そうするとじゃあ代わりの原油はじゃあどうするのか、これは今年に入ってから玄葉外務大臣を始めとして中東各国を歴訪しながら、まさにその他に代わる代替のエネルギー源、原油を確保するとの努力を今やってきている、その最中であるということでございます。
● ニコニコ動画の七尾です。よろしくお願いします。原発の再稼働についてお伺いいたします。最終的にはですね、総理を始めとする関係閣僚の政治判断になるわけですが、地元自治体の同意がですね、不可欠と伝えられている中で、例えばですね、同意が得られなくても政治判断というものはあるのか、政治判断の具体的なイメージについてですね、教えていただければと思います。
原発を再起動するためには一定のプロセスを踏むことになっています。それは事業者によるストレステストを行うと。で、そのストレステストについてはIAEAのレビューを受けました。そういうものを踏まえまして、次は保安院による、これは評価、そしてその後に安全委員会における確認。それを経た後に、まさに今ご指摘があったとおり地元の皆さまにご理解いただけるかどうかなども踏まえて、最終的には政治判断をするというのがプロセスでありますけれども、やはり地元の皆さまのご理解をなくして、なかなかこれは物事は進まないであろうと。そのために必要ならば、一定のプロセスですよ、再起動させるか、させないかという一定の意図ではなくプロセスを辿った後、そこまで来たときには、どうしても必要だと地元の理解どうなるかということは確認をしながら、場合によってはご説明をきちっとすると。政府が前に出てご説明を地域にするということはある、というふうに思います。 
記者会見 / 平成24年3月11日
東日本大震災の発生から、本日でちょうど1年の節目を迎えました。先ほど政府主催の追悼式を挙行いたしまして、一人ひとりの犠牲者への追悼の思いを込めて黙とうをささげさせていただきました。今なお3,155人の方々が行方不明であります。悲痛の念に堪えません。あの日を忘れないことが最大の御供養だと思います。震災の記憶と教訓は絶対に風化をさせてはならないと思います。すべての国民が息長く語り継いでいくことが重要であります。
警察、消防、自衛隊だけではなく、医療関係者、原発事故の作業員、全国各地から集まったボランティアの皆さんなど、被災地の支えてとなってこられました。こうした人の力への感謝の念も忘れずにいたいと思います。
日本は災害多発列島です。大震災で得た知見と教訓を踏まえ、全国的な災害対策の見直し強化を早急に進めていきたいと考えております。
本日は追悼の日であると同時に、復興の決意を新たにする日でもあります。発足から1か月を経た復興庁には司令塔として大きな期待が寄せられている半面、書類や手続の問題を含め、様々な御批判があることも承知をしております。批判は真摯に受け止め、改めるべき点は改めたいと思います。復興庁についてどのような点を見直すべきかを整理し、速やかに対応するよう、平野復興大臣に指示をさせていただきたいと思います。
ふるさと再生の主役はあくまで地元であります。新たなまちづくりは地域主権の理念を実践する場であります。住民自らが設計図を描き、地域の自立的発展の道筋を見出せるよう、国は最大限の支援を行ってまいります。
一方で、被災地再生の明るい兆しも感じます。この兆しを大事に育てていきたいと思います。官邸に寄せられた「私の復興便り」で、被災地でたくましく生きる人々の笑顔と前向きなメッセージ、震災直後に生まれた赤ちゃんや子どもたちの元気な姿に大きな勇気をもらいました。
東北への観光者数も回復しつつあり、来週から官民を挙げた東北観光博キャンペーンを開始いたします。被災した300を超える漁港のほぼすべてで水産物の陸揚げが可能になりました。こうした動きに弾みをつけるため、1人でも多くの人々が東北を訪れ、東北の豊かな海や山の幸を食べて応援をしてほしいと思います。
被災地に国際会議を積極的に誘致し、復興の進捗を海外にアピールしていくことも大事であります。7月には東北で大規模自然災害、12月には福島で原子力安全に関する閣僚級会合を開催する予定であります。
今後、問われていくのは国民同士の連帯感の持続であります。被災地は継続的な支援を必要としています。すべての国民がこれからも復興の当事者であるということを是非、自覚をしていただきたいと思います。政府としても徹底的な情報開示を通じて、国民の信頼回復に努め、国民同士の助け合いの心をつなぐ環境整備をしていきたいと考えております。
がれき広域処理は、国は一歩も二歩も前に出ていかなければなりません。震災時に助け合った日本人の気高い精神を世界が称賛をいたしました。日本人の国民性が再び試されていると思います。がれき広域処理は、その象徴的な課題であります。既に表明済みの受入れ自治体への支援策、すなわち処分場での放射能の測定、処分場の建設、拡充費用の支援に加えまして、新たに3つの取組みを進めたいと思います。
まず、第1は、法律に基づき都道府県に被災地のがれき受入れを文書で正式に要請するとともに、受入れ基準や処理方法を定めることであります。
2つ目は、がれきを焼却したり、原材料として活用できる民間企業、例えばセメントや製紙などでありますが、こうした企業に対して協力拡大を要請してまいります。
第3に、今週、関係閣僚会議を設置し、政府一丸となって取り組む体制を整備したいと考えております。
福島の再生は国の責務であります。必ず成し遂げなければなりません。周辺住民の皆様が帰還を完了し穏やかな暮らしを取り戻すまで、原発事故との戦いは終わりません。円滑な賠償、除染、健康管理、食の安全、学校や病院など公的サービスの早期再開といった課題への対応を進めてまいります。一歩一歩、着実に成果を出すことで、放射線への不安と故郷への思いに揺れる福島の皆様の心に寄り添いたいと考えます。
中間貯蔵施設の整備についても、地元との丁寧な対話を積み重ねながら検討を進めてまいります。福島再生特別措置法案は、先週、衆議院を通過いたしました。与野党が一体となって福島再生を後押しするため、早期成立を実施したいと思います。
原子力安全規制は全面刷新でいかなければなりません。最高水準の規制を確立しなければなりません。原発の安全神話にとらわれ、事故を想定した備えが不十分であったことは紛れもない事実であります。原子力の安全規制はゼロから再出発させるためにも、新しい魂を入れた原子力規制庁をできるだけ早く発足させたいと考えております。
あの日、最愛の人にさよならも言えずに亡くなられた方々の無念さを思わずにいられません。追悼の思いを復興への決意に変え、すべての国民が力を合わせて復興を通じた日本再生という歴史的な使命を果たしていかなければならないと思います。集中復興期間は5年、復興のめどは10年です。1年は復興の長い道のりの一里塚でしかありません。震災直後に生まれた赤ちゃんが10歳の誕生日を迎えるまでには、必ずや被災地の復興を成し遂げ、力強くよみがえった故郷の姿を見せたいと思います。
【質疑応答】
● 幹事社、フジテレビの高田です。今日で東日本大震災から1年が経ち、改めて追悼の気持ちを新たにする次第です。この震災からの復興についてなのですが、野田総理は先ほどの式典で歴史的使命と述べられ、政権の最重要の課題の1つに挙げていますが、この力強く立ち上がる被災者の姿がある一方で、復興の遅れを指摘する声がまだ強く、苦しい生活を強いられている被災者の姿も現実としてあります。こうした中で、先日、復興庁が行った復興交付金の第1回の認定は、申請のおよそ6割にとどまりました。自治体からの批判を受けて総理も改善に言及しましたけれども、認定基準の緩和などを含めてどう具体的に改善していくのか。また、がれきの広域処理に向けて先ほど総理は3つの新たな方針を示されましたが、その1点目の法律に基づいたがれきの受入れを文書で求めるという件は、新たな法律の整備を伴うのか、それとも従来の特措法の下でやるのか。また、その受入れの基準ですとか処理方法というのは具体的にどういったものをイメージされていて、いつまでに文書で求めるというのを実行されるのか、その辺りを具体的に含めて全体の復興に関した加速の手段をお聞かせください。
今、2点御質問があったと思います。
1つは、復興交付金についてでありますけれども、1月末までにということで、被災地から計画を出していただき、その上で3月2日に第1回目の交付可能額の通知を行わせていただきました。事業費で約3,053億円、国費で2,509億円ということなのですが、この配分に当たりましては、被災者の生活再建などのために速やかに対応しなければいけないものとして、当面必要と考えられる事業についての配分を通知をしたということでございまして、次は3月の末までに計画を出していただくわけでありますが、その際には計画策定支援について、しっかり国が応援をしていくということが大事だと思います。
その上で、今回、採択されなかった事業とか、あるいは市町村が要望を取り下げた事業については、事業の進捗とか検討の作業状況によりまして、今後採択可能となるものも当然あります。さっき申し上げたように、速やかな対応をしなければいけないというところで、1回目の交付を決めていますので、もう少し時間を追って対応できるものについては、採択される可能性があるということ。
それから、この復興交付金という制度での対応ではなくて、全国防災等々、ほかの予算であるとか、あるいは制度の下で対応できるものもあると思うんです。そういうことをいわゆる要請のあった自治体の方に、これは交付金で対応します。これはもうちょっと時間がかかるので、次の交付金で対応しますとか、あるいはほかの制度で対応しますとか、うまく振り分けの御説明を丁寧にやることが誤解を生まない一つの方法かなと思っております。それから反省点とすると、やはり書類とか手続の問題も含めて、改めるべきところがあると思います。そこは先ほど冒頭申し上げたとおり、担当大臣には伝えておきたいと考えております。
2つ目の御質問は広域処理のお話でございますけれども、先般、神奈川県の黒岩知事、それから横浜、川崎、相模原の幹部の方にお越しをいただきまして、御要請をいただいたんですが、その御要請の中身というのは、法律に基づくがれきの受入れの要請や基準の策定についてでございました。こうした御要請を踏まえまして、新たな法律か前の法律かですが、昨年の8月に作られた、これは与野党で合意をしました災害廃棄物処理特別措置法。これに基づいてということでございます。この法律に基づきまして、具体的には被災3県を除く全都道府県に対して被災地のがれきの受入れを文書で正式に要請をするということ。それから、既に受入れを表明されている市町村に対しては、調整を経て、受入れをお願いしたいがれきの種類、量を明示した上で協力要請を行うということであります。
また、この法律に基づきまして、がれきの放射性物質と濃度などの受入れ基準であるとか、焼却施設における排ガス処理装置などの処理方法を定めることとしております。こういう取組みを通じまして、広域処理について本当に多くの自治体、住民の御理解をいただけるように、更に努力をしていきたいと思います。
● 産経新聞の加納です。福島第一原発事故の対応と再稼動についてお伺いします。原発事故では、その発生時にSPEEDIの情報が全然伝達されていなかったことなど、菅政権の初動対応への地元の不信感、自治体の不信感が、今回の中間貯蔵施設の建設ですとか、原発対応問題に影を落としています。民間の独立検証委員会は2月末の報告書で、菅総理や官邸の対応を稚拙で泥縄的と批判しました。菅前総理の責任を野田総理として、どう認識され、自治体に理解を求めるおつもりでしょうか。また、再稼動に関しては、総理はストレステストを経て、地元の理解を踏まえて、最後は政治が判断するとおっしゃっていますけれども、枝野経産大臣は地元の説得に当たる段階でも政治が前面に出るということを強調しております。夏の電力不足に備えて、総理自ら地元の説得に当たる考えがあるのでしょうか。また、具体的にいつまでに何をその基準に是非を含む政治判断をするのでしょうか。
まず最初は、原発事故の初動対応についてのお尋ねだと思いますけれども、菅前総理を始めとして、当時政府としては地震発生直後から深刻な事態であるとの認識の下で、原子炉の冷却であるとか、あるいは住民の皆様の避難について全力で取り組んできたと思います。ただし、情報開示等について、十分でなかったという指摘については、これは真摯に反省しなければならないと思います。
また、民間事故調の報告書の中では、官邸による現場の介入の問題などについての御指摘があったということは承知をしていますが、そこで責任云々というお話がありましたけれども、他方でその報告書の中では、東電の撤退拒否あるいは政府と東電の統合本部の設置。その後の統合本部を舞台としたアクシデントマネジメントについては、一定の効果があったという指摘もあることは、これは事実であると思います。今、菅政権の後を引き継いだ野田政権としては、当時の経験と貴重な教訓をしっかり肝に銘じて、二度とこのような原発事故が起こらないように、力を尽くすこと。そして、特に情報開示については、万全を期すということを心がけることが大事ではないかと思っています。
もう一つは原発の再稼働についてでありますけれども、定期検査中の原子力発電所の再起動については、現時点での最新の知見を踏まえて、IAEAのレビューも受けました手法に基づいて事業者が行ったストレステスト、それを保安院が確認をする、更にはその妥当性を原子力安全委員会が確認をした上で、地元の理解を得ているかどうか等を総合的に勘案をしながら政治が判断をするというプロセスを踏むことになっています。
この際に、いわゆる安全委員会までの確認が終わった段階においては、私も含めて、枝野大臣、官房長官、それから細野大臣ですね、その4人の閣僚が集まりまして、安全性及び地元の理解をどうやって進めていくかということの議論を確認して、その上で地元に御説明に入るという段取りになっていくというふうに承知をしています。しっかりとこの際には政府を挙げて御説明をし、御理解を得るということを行わなければいけないし、私もその政府を挙げてという中では先頭に立たなければいけないというふうに考えております。
● ウォール・ストリート・ジャーナルのデボラックです。今、説明された再稼働についての過程なんですが、それを今年の夏、日本の原子力発電所が全く稼働しない状態はあり得るでしょうか。それが可能でしたら、どういう事態が起こり得るでしょうか。一番厳しい想定と、それを防ぐ方法についてお考えを聞かせていただきたいです。
今年の原発の稼働状況については、現時点ではあらかじめその可能性について申し上げることはできません。現時点では。ただし、今年の夏の電力需給については、仮に原子力発電所の再起動がなかった場合で、2010年の夏並みのピークの需要となった場合は、しかも有効な対策を講じなかった場合には、約1割の電力の需給ギャップが生じるという見通しがございます。
このため、昨年11月にエネルギー・環境会議においてとりまとめましたエネルギー需給安定行動計画に基づいて、予算や、あるいは規制改革等を通じた供給力の積み増しと、省エネの促進などによりまして、電力の需給ギャップを埋めるための施策を総動員し、最大限の努力をしていくということになっております。こうした取組みによりまして、計画停電であるとか電力使用制限令を回避することを目指しております。電力の安定供給の確保に万全を期したいと思いますが、なお、更に今年の夏の具体的な対策については、来月中を目途として電力需給の見通しについてレビューを行ってとりまとめたいと考えているところであります。
● 時事通信の佐々木です。官邸の危機管理という点でお伺いしたいんですけれども、官邸の危機管理といえば阪神・淡路大震災以降、ソフト、ハードの面で、それなりに整備されてきたと思うんですが、今回この原発事故で、先ほどの民間の委員会の報告書にもありましたけれども、運用する人の側に問題があったのではないか、そういう指摘がされています。今、総理は貴重な経験として活かしていきたいということをおっしゃっていましたが、具体的にこの経験を人の運用面からどう活かしていきたいのかというところを聞きたいんです。
先ほどは、民間事故調の報告書を踏まえての話をさせていただきました。それから、政府の事故調は中間報告を去年の暮れに出しています。国会の事故調もこれから御議論があると思います。それぞれ出てきた、いわゆる検証を踏まえた対応をやっていかなければいけないと思いますが、加えて平野復興大臣を東日本大震災の総括担当大臣にしています。その総括も踏まえながら危機管理の対応が整理されてくると思いますが、そういうものが出そろう前にもわかってきたことが、一定の知見というものがあると思います。
それはやはり、1つには専門家の皆さんの意見をどういう形できちんと聞くのかどうか、政治と専門家との役割をどういうふうに位置づけていくのかどうか。そこは冷静な対応が必要ではないかと思います。などなど、あるいはこれも事故調でありましたけれども、官邸の上の方の階と地下の、いわゆる多くの皆さんが集まっているところとの意思疎通の問題等々、危機管理上の問題というものは、今も既に出てきているものもあると思いますので、そういうものを踏まえた対応をしていかなければいけないということと、何よりも、体制の問題もありますけれども、今回の東日本大震災を想定外といった言い訳をしたケースがありました。でも、これからは想定外ということは言えない。想定を、あらゆるところを全部し抜くのが危機管理で、これが最大の教訓ではないかと思っております。
今回は、危機管理の問題も含めて、安全神話にどっぷりつかっていたと。政府も、そして事業者も、専門家の皆さんも、学界も。その反省に立った総括をしていくことが何よりも重要ではないかと思います。
● 日本経済新聞の犬童です。先ほど、がれきや原発の再起動について、総理が前に出るというようなお話がありましたけれども、ほかにも中間貯蔵の施設の問題や、先ほど規制庁の法案の問題もありましたけれども、総理を始め、官邸が一歩も二歩も前に、国というよりも、総理や官邸が前に出るということは必要だと思うんですけれども、地方自治体との合意形成とか、あるいは法案の処理でいえば野党対策ですね。総理はどのように指導力を発揮されるのでしょうか。
復興と原発事故との戦いで、日本経済の再生も含めてでありますが、野田内閣の最優先、最大の課題と去年から申し上げてまいりました。この基本的な姿勢は変わりません。
その中で、復興に大きく関わるがれきの広域処理については、今日もこういう形で方針を示させていただきましたけれども、この間、神奈川知事等々に官邸に来ていただいたことを踏まえての即応という部分もあります。いろんな皆さんと意見交換をしながら、すぐやらなければいけないなというのは、即断をしながら対応をしていきたいと思いますし、何よりも国民の皆様に御理解をいただくことが必要ですので、先般、沖縄に行ったときも仲井真知事とこの意見交換をして、沖縄についても御検討いただくような状況になりました。このように、企画のところで自分なりに感じたことはすぐ体制を作るし、営業も含めて、言葉は適切ではありませんが、お知らせをするということ、PRをすることも、これは先頭に立っていきたいと思います。
それから、中間貯蔵施設については、昨日、担当大臣である細野大臣と平野大臣が、福島県知事と被災地の8町村の自治体の長に政府の考え方を御説明させていただいたところでありますが、それぞれ担当大臣を中心に、政府を挙げて取り組んでいかなければなりませんが、必要に応じて、これは政府を挙げてでありますので、政府を挙げての先頭に立つのは私の役割だと認識をしています。
原発の再稼働については、先ほどの御指摘にお答えをしたとおりであります。
● フリーランスの岩上です。よろしくお願いします。9日、政府は原子力災害対策本部の議事録を公開しました。この中で、当時の菅総理は、20km圏まで確実に避難すれば、一番厳しい状況を想定しても大丈夫。つまり、避難は20km圏内だけでいいという判断。それに対して、玄葉担当大臣は、これに異を唱えたというふうにも伝えられています。このとき、メルトダウンということが伝えられていて、なお、避難はこの20kmで十分とした総理の判断。そして、もっと広域的に判断すべきではないかという判断もあり得た。現時点で野田総理は、この判断はどちらが正しかったのかと、お考えどちらが正しかったと評価されるのでしょうか。先ほど、総括が大切だということでしたので、現在も避難の問題は、なお現在進行形の問題でもあります。総理の見解をお尋ねしたいと思います。
先般、議事概要を公表させていただきましたけれども、当時、政府としては地震発生直後から炉心溶融、メルトダウンも含めて、その可能性も含めて深刻な事態であるという認識を持っていたということであります。その上で、原子炉の冷却であるとか、避難について、その時点、時点で全力で取組みましたけれども、ただ、いわゆるメルトダウンの可能性についての認識はありましたけれども、それについての対応の仕方については、あるいはその事実認識については、まだいろんな議論の余地があったのかもしれません。どの時点で、あの時点で、どっちが正しかった云々というのは、まだ早急には判断できないと思います。ただ、そこまでの深刻な事態の可能性も含めながら、あらゆる事態についての対応を懸命にしようということであったと思いますけれども、これをしっかりと検証しながら、二度とこういう事故を起こさないための教訓と知見というものを、次に生かしていかなければいけないだろうと考えております。
● 現時点での御判断はないんですか。
現時点はよく検証しなければいけないということです。
● 読売新聞の村尾です。今週末、読売新聞で世論調査いたしまして、やはり復興対応の政府の取組みを評価しないという数字が7割近く、原発対応を評価しないも8割近くあるんですけれども、一方で、内閣支持率が30%から5%ほど上がりました。一体改革を始めとする取組みが少しずつ評価されているような傾向が出ているんですけれども、もし御感想があればお聞かせください。
復興、それから原発事故の対応について、政府としては全力で取り組んできたし、頑張ってきているつもりですが、被災者の皆さんにとって、あるいは国民から見れば、まだ遅いであるとか、行き届いてないという御批判があることは、これは真摯に受け止めなければいけないと思います。
従って、さっき復興庁の話もしました。広域処理の方針もお示ししましたけれども、復興庁、復興交付金等々、与野党合意して、新しい制度を作りましたので、あるいはまた組織も作りましたので、それをフル稼働させながら、そういう声がなくなるように全力を尽くしていきたいと思います。
支持率については、これはもう従来から言っていますが、下がったときも申し上げましたけれども、一喜一憂することなく、やるべきことを一つひとつやっていくことの中で、国民の皆様の評価を得たいと思います。 
記者会見 / 平成24年3月30日
本日朝、税制抜本改革法案を閣議決定をいたしまして、そして、国会に提出をさせていただきました。ここに至るまでにおいてはですね、特に党内におけるご議論、政調会長を中心にですね、連日深夜にわたるまで長時間にわたって大変それぞれのお立場から熱心にご議論をいただきました。政調会長をはじめ、党幹部の皆様、そして、連日にわたってこの議論に参加をしていただいた民主党議員同志の皆様に、心から感謝を申し上げたいというふうに思います。
ここに至る過程でありますけれども、一昨年の末に、社会保障と税の一体改革を検討する本部を立ち上げまして、約半年間にわたって議論をし、昨年の6月に成案を政府・与党として決定をいたしました。その成案を具体的に進めていくこと、それを踏まえた法案を提出をすることを、昨年8月末の民主党代表選挙において、私は力強く公約として掲げさせていただきました。それを踏まえて、年末年始にわたりまして、党内での闊達な議論を経て、素案をつくり、そして、大綱として閣議決定をしてまいりました。この大綱に基づいての議論を、今回していただいたわけでありますけれども、党内においては、具体的な条文に則してですね、一つ一つ逐条でご議論をいただきました。その上で、いただいたさまざまなご意見については、取り入られるものは最大限取り入れるという形で結論を導き出したということでございます。
大変厳しいテーマでございますけれども、それぞれが真剣にご議論をいただいた結果、年度内に法案を提出をするという一応時期を決めておりましたので、その時期を踏まえて、まさに集大成の時期に結論を出していただいたこと、私は与党の同志の皆さんに誇りを感じている次第であります。
こうした意見を取り入れながら、さまざまな消費税の引き上げに際して、実施にあたっての課題であるとか、税制全般についての課題についても明記をしていただきました。こういうものをしっかりとクリアをしていきたいというふうに思っております。
こういう形で、政府・与党としては、結論を出すときに結論を出したと私は思います。これからは、まさに与野党が議論をしていく、そういう段階に入ってまいります。国会審議を通じて、あるいは、与野党協議を通じて、国家・国民のために避けて通れない、先送りのできないこの課題についてですね、大いに議論をし、そして、最終的にはきちっと成案を得ていかなければいけないと考えております。
私は、野党の皆さんにおかれましても、多くの議員の皆さんは、社会保障を安定化させ、あるいは充実させ、そのための安定財源として消費税が必要であると思っていらっしゃる方は多いというふうに思っております。したがって、まさに政局ではなく大局に立つならば、政策のスクラムを組むことは十分可能だというふうに考えております。このような呼びかけというものも、これからしっかり行っていきたいと思いますが、与野党で議論をしていく上で、その議論をより深めていくために欠かすことのできないのは、やっぱり何と言っても国民の皆様のご理解だというふうに思います。
そこで、改めてこの社会保障と税の一体改革の意義について、若干お話をさせていただきたいと思いますが、私自身は、いつも申し上げているんですけれども、今日より明日はよくなると思うことのできる、そういう社会をつくりたいと思っています。確信の持てる社会、実感の持てる社会をつくりたいというふうに思っています。その行き着く先が、国民の多くの皆さんが不安に思っている社会保障の持続可能性だと思います。若い人たちは、学んだ後に仕事につけるかどうか不安に思っている。働いている女性たちは、子供を産み、そして預けることができる、そういう社会なのか、子育てに不安を持ち、孤軍奮闘している。そして、誰もがいまだにまだ老後に対しての不安も持っている。そうした不安を取り除くことが、今日より明日がよくなるという行き着く先の一番の私は根幹であろうというふうに思います。
特に、この改革を推し進める際に一番大事な観点は、人口構成が大きく変わり、かつてはピラミッド型だったものが逆ピラミッド型へ急速な勢いで変わってきている状況に対応できるかどうかであります。その持続可能性の最大のやっぱりテーマというのは、給付においても負担においても、より公平なものにしていくことだと思います。給付は高齢者中心、負担は現役世代中心という構造では、これは持続可能性を担保することはできません。給付の面においては高齢者中心だったものから、人生前半の社会保障に光を当て、支える側においても社会保障の恩恵を感じられるようにすることが一番大事です。その柱となるものが子ども・子育て新システム。消費税を引き上げた暁には、すべてを社会保障に充てるということにしておりますけれども、その中でも社会保障の充実の部分の中で、この子ども・子育て新システムに7,000億円充てていこうとしています。こうした改革を早くやっていかなければいけないと思っています。
給付の面だけではなくて、負担の面における公平性ということも必要であります。これまでは現役世代中心の負担、その根幹は保険料であったり所得税であったり、それでは足りなくて、将来の世代のポケットに手を突っ込んで赤字国債を発行しながら今の社会保障を支えているという、そのいびつな構図が続いてまいりました。それを変えていくためには何らかの基幹税を充てなければなりません。
そのためには一番公平な税金、安定財源は基幹税の中では私は消費税だと思います。オールジャパンで助け合い、支え合っていく、その社会保障に充てる税金としては消費税が一番ふさわしいし、法人税や所得税に比べると、景気動向に影響されない、あるいは人口構成にも影響されない、その意味からも社会保障を充実をさせ、安定化させるための財源として、この消費税を充てていくことは不可欠だというふうに思っている次第でおります。
もちろん、社会保障を充実させる、安定化させるということは、これ一つとっても再分配機能の強化でございますけれども、なお、消費税については、低所得者に対する対策の必要性がやはり多くの皆様が語られています。これに応えていかなければなりません。番号制度が導入をされ、定着をされた暁に、いわゆる給付付き税額控除制度を導入するという方針でございますが、その制度設計というものを進めていかなければなりません。その給付付き税額控除に至るまでの間においては、これは簡素な給付措置をとることになっています。その制度設計もしっかりやっていかなければいけないと考えています。
今日より明日がよくなると思っていただけるためには、今のこうした社会保障の改革も必要でありますけれども、何よりも経済の再生を果たし、パイを大きくするということが大事です。この一体改革とあわせて包括的に進めていかなければならないのが日本経済の再生であります。デフレからの脱却であります。そのために、今回、さまざまなご議論を経た中で、平成23年から32年、この10年間の間に平均して名目で成長率を3%、実質で2%という目標を数値として掲げさせていただきました。これは前提条件ではありませんが、政府としての目標でございますので、この目標を早い段階で達成できるように全力を尽くしていかなければなりません。新成長戦略の加速、そして年央にまとめる日本再生戦略等々、さまざまな政策を総動員をしながら、この目標達成に向けて全力を尽くしていきたいと思いますし、特に、日銀とは緊密に連携をとり、そして問題意識を共有しながら、デフレ脱却、経済活性化に向けた取り組みを一緒に行っていきたいと考えています。
今日より明日がよくなるというための条件、もう一つは、私は政治そのものの信頼性もあると思います。何か課題が起こったときに、先送りをしないで、きちっと自己決定のできる政治が、まさに日本に存在しているかどうかというところに、私は国民の信頼感の欠如があると思います。決断する政治、未来をおもんばかる政治の象徴的なテーマが、私は一体改革だと思います。何とか、年度内に法案を提出をするという、所期の目的は達成できました。これは政府・与党としての決断です。これからは、まさに国会として、先送りをせずに、結論を先送りをせずに決断できるかどうかが問われると思います。野党のご意見の中で、取り入れられるものは取り入れて、真に、国民のための社会保障と税の一体改革、成案を得るべく全力を尽くしていきたいと思います。
また、多くの同志の皆様から指摘をされたこと。それは、国民の声を代弁してると思いますけれども、身を切る改革もしっかりやり抜くことでございます。行政の改革については、これまでも公務員の人件費、マイナス7.8%、これは復興財源でございますが、国家公務員の給与の削減を決めさせていただきました。政権交代以降、人件費については約1割削減をしてきています。でも、これではまだ不十分だと思います。新規採用の手控えを含めて、定員の問題についても触れながら、これからも公務員制度改革を含めまして、まさに実績をあげていきたいと思いますし、加えて、特別会計の改革、会計の数を17から11に減らすこと、勘定の数を約半減すること、そして独立行政法人の数を4割減らすこと等々、さまざまな行革の取り組みをしっかりやり遂げていきたいと思いますし、今申し上げたメニュー以外にも、行革本部をつくりました。この行革実行本部を中心にですね、これまでも、歳出の削減については一生懸命努力をしてきたつもりでございますが、これからも歯を食いしばって、さらなる行政改革、歳出削減を行い、2014年の4月に、最初に8%へ消費税を引き上げる前までには、これらのメニューはしっかりやり遂げていくことが大事だと思います。
また、まずは隗より始めよ、政治の改革も、これもおろそかにしてはいけないと考えています。今、与野党の協議が進んでおりますけれども、特に議員定数の削減は必ず実現をしていかなければいけないということの決意もあわせて申し上げさせていただきたいというふうに思います。
これから4月に入り、まさに、与野党の議論が本格的にスタートするわけでございます。法案を、政府として提出をしたということは、出したからいいということでは、これは許されません。提出をした以上は、全力で成立を期すというのが私どもの基本的な心構えであります。決断の政治、ぶれない政治、微動だにしない政治、逃げない政治、先送りしない政治、そのスタートが切れるように、大変大きなテーマでございますが、この大きな課題をしっかり乗り越えて、国民の皆様の信頼を勝ち得、そして、国民生活を守るために、社会保障の持続可能性を担保するために、この大きな改革についての結論を得るように改めて全力を尽くすことをお誓いを申し上げまして、冒頭の私のご挨拶に代えたいと思います。
【質疑応答】
● 北海道新聞の林です。消費税増税法案についてお聞きします。総理はですね、この法案について、会期延長を念頭に置かず、6月21日の本国会中に成立をさせる、この方針に変わりはないのか、改めてお聞かせください。この法案はですね、参院で野党の協力がなければ成立をしません。この法案の修正の是非について、今のお考えをお聞かせください。また、自民党などはですね、法案成立前の衆院の解散を求めています。総理は、法案の成立に向けて、今後あらゆる可能性を追求されるとは思いますけれども、その中で大連立、あるいは話し合い解散といった選択肢、これも排除しないのかどうか、これについてもお考えをお聞かせください。
多岐にわたる内容が含まれていたというふうに思いますが、今国会中に、全力を挙げて、政府・与党一体となって成立を期していきたいと思います。まだ、3月末の段階で、国会の会期は6月までございますので、会期延長を今念頭に描いているわけではございません。あくまでこの会期内の中でですね、この法案だけではなくて、その他の法案もありますが、政府として出す以上は、それらはすべて成立を期すというのが基本的な姿勢であります。
それを通すためには、野党の理解を得なければならないことは、これは間違いございません。先ほどもちょっと申し上げましたけれども、この問題については、社会保障の不安をなくしていかなければいけないと思っている党は多いと思います。議員も多いと思います。それを支える財源として、消費税を公約にした政党もありますし、念頭に置いている議員もたくさんいらっしゃると思いますので、私はさっき政策のスクラムと申し上げることができましたが、いろいろ各論で違いの部分はあるかもしれません。だけど、この問題は乗り越えていかなければいけない、解決しなければいけないと思っている方は、与野党問わず、たくさんいらっしゃると思いますので、そういう皆さんとスクラムを組んで、建設的な議論をやっていく中で、これはいい提言だなと思ったことは、当然のことながら、取り入れていくことは当然必要だというふうに思っています。
それで、大連立の話し合いとか、そういう政局は考えずに、わき目も振らずに、この法案の成立に向けて、まず政府・与党が一丸となって、そしてまとまって、そして議論をしていく、そういう立場で臨んでいきたいというふうに思います。
● 幹事社、フジテレビの高田です。続いて、また消費税法案なんですが、閣議決定について、小沢元代表のグループから、政務三役の辞任を表明する動きも出ていまして、また、複数の議員が、採決の際に造反を示唆しています。総理は、今後、こうした状況で、どのように党内を説得していくおつもりか。また、その過程で、小沢元代表との会談を行う腹づもりがあるのかどうか、また、党内だけでなく、連立与党の国民新党から、きょう、亀井代表から連立離脱を総理のほうに通告があったようですが、一方で、自見金融担当大臣は、閣議決定に署名しました。分裂のような状態になっていますけれども、総理は、この亀井代表からの連立の離脱通告をどのように受けとめて、今後の国民新党との連立のあり方について、どうお考えになっているんでしょうか。
まず、何かを辞任する動きというのは、具体的に聞いていません。あるいは、採決のときに造反するという人がいるのかどうか、報道では出ていますけれども、具体的にはわかりません。
ただ、さっき申し上げたとおりですね、成案、素案、大綱、法案提出、さまざまな段階がありました。だけど、相当丁寧に議論をしてきたつもりです。取り入れるものは相当に取り入れてきたというふうに思っております。私は、どこかで、それぞれの段階で結論を出さなければなりません。結論を出したときには、やっぱりみんなでそれに従って、それを実現していこうという、そういう政治文化が、私は民主党に生まれつつあると思っていますので、今、仮定の話でいろいろご心配がありましたけれども、基本的には政府・与党まとまってですね、この法案を通すために全力を尽くしていくということが、基本的な姿勢でございます。
それから、亀井代表とは、昨日夜、約2時間ほど話し合いをさせていただきました。今朝も、早朝、お目にかかりました。亀井代表からは、どうしてもやっぱり、この消費税の問題については、私と意見が違うということで、そのことをもって、連立を解消したいという申し出がございました。私のほうからは、鳩山政権、菅政権、そして私と、もう三代にわたりまして、2年半以上にわたりまして、パートナーとして一緒に連立を組んで一緒に仕事をしてまいりました。これからもぜひお願いをしたいと、ぜひ連立維持をしていただきたいということの要請で、きのうはずっと平行線だったということです。その上で、今日、閣議がございましたので、自見大臣の署名の扱いとかの議論がございましたけれども、亀井代表におかれましては連立解消というお話でございました。その他の方においては、連立維持ということを確認し合ったということもありました。それが国民新党の中の党議、意思決定のあり方は、それは私が解釈する話ではないんですね。ただ、少なくとも朝の閣議の段階において、自見大臣が閣僚として野田内閣の一員として署名をしていただいたことについては、きょう、閣僚懇でも申し上げましたけれども、万感の思いを込めて感謝をさせていただいたという次第であります。
● NHKの山口です。身を切る改革について、お尋ねします。総理は、消費税と身を切る改革は一体というふうにかねがねおっしゃってきましたけれども、今日に至っても国会議員を80人削減する法案については国会に提出されておりません。いろいろ難しい問題はあると思いますけれども、総理が決断をすれば、今日でも国会に提出できると思うんですけれども、この法案はいつ出るんでしょうか。
例えば民主党の考えている定数削減の考え方、それを貫いていけば、例えば法案を提出する、衆議院では通るかもしれません。参議院ではご理解いただけるか、各党のご理解がいただけないと、これ、つぶれますよね。で、つぶれてよかったというポーズでいいのかどうかだと思うんです。で、今、与野党で協議をしていただいているのは1票の格差の問題、定数削減、選挙制度改革、それぞれの党の思いがありますから、その中で定数削減をしっかりやり抜くことが必要であって、自分さえよければいいと、ポーズだけでやってはいけないんで、結果が出なければいけないというふうに思っています。結果を出したいと思っているんです。
結果を出すことはですね、だから、その意味ではまだ法案、出てないわけですが、与野党協議をしっかりやった中で出していかなければいけないと思いますけれども、少なくとも、さっき申し上げたとおり、最初に消費税を引き上げるのは2014年4月、それまでにはこの定数削減をやり抜いているという状況をイメージしながら議論をしていきたいというふうに思っております。
● AFP通信の檜山です。よろしくお願いします。原子力発電所の再稼働の可能性について、お伺いします。夏の電力不足に備えて、政府が地元の説得にあたるということですが、地元の理解が得られない状態で原発を再稼働させるか否かの政治判断をされる可能性はありますでしょうか。被災地のがれきの広域処理について世論の理解が進んでいるようにも見えますが、原発の再稼働に関しては積極的に賛成という世論が少ないようにも見えます。昨日、死刑の執行がされたことに関連して、法務大臣は死刑制度に対する世論の支持ということに言及されておりますが、現時点で原子力発電の安全性、もしくは危険性についての国民の理解、どれぐらい進んでいるとお考えになっていますでしょうか。よろしくお願いします。
はい。原発と死刑と2つだと思うんですけれども、原発の再起動につきましては、これはもうご案内のとおりでありますけども、まず、事業者がIAEAのレビューを受けたストレステストを行うと、その確認・評価を保安院が行う。さらに、それを安全委員会がチェックをするというプロセスを経た上で、地元の理解が得られているかどうかなども含めまして、4大臣によって、どういう例えば地元の説明の仕方をするのか等々含めて会談して合意をすると。その上で、要は再起動に向けてのお願いをしていくのか含めてですね、決めていくわけでございますけれども、まだそこまでいっているのはございません。その再起動については、それは国民が関心を強く持っているということはよくわかります。そういうことも踏まえながらの判断をしていかなければいけないというふうに思うんですが、その中で電力需給のお話がございました。電力需給を心配をして、イケイケで再稼働していくということではありません。あくまで安全性のチェックをしっかりやるということと、さっき申し上げた地元の理解、得られているかどうかという判断でやっていくわけであります。
電力の需給について言うとですね、一昨年の夏が、これ、ピークだったですね、夏。それを考えると、そのまま、今年も同じような需要があるとなると、そしてしかも何の対策も講じないというと、電力の需給のギャップが10%ぐらい出てくるというふうに言われています。そういう状況でございますので、少なくともやらなければいけないことは、予算措置であるとか、あるいは規制・制度改革等々の政策を総動員をしながら、この需給のギャップを埋めていく努力をしていかなければなりませんが、そうした場合でも、相当の節電をお願いをせざるを得なくなるだろうというふうに思います。その具体的な方針、取り組みについてはですね、この夏までに何をやるかでありますけれども、連休前後まで、それを目途に電力需給の見通しについて、レビューを行った上で、その具体策を取りまとめていきたいという、今はスケジュールでございます。
それから、死刑制度についてはですね、昨日、法務大臣の権限、責任のもとで執行させていただきましたけれども、この死刑制度というのは、我が国の刑事司法制度の根幹に関わるものでございますので、そのあり方については、国民世論にも十分に配慮しながら、社会における正義の実現などの、さまざまな観点から慎重に検討しなければいけないというふうに思います。たまたま、法務大臣は世論のお話、世論調査のお話をされたということですが、政府として、定期的にこの問題の世論調査やってまいりました。平成21年の12月に内閣府が実施した世論調査結果によれば、死刑制度の存廃に関して、「場合によっては死刑もやむを得ない」とするものが85.6%であったと承知をしていますが、世論調査が云々だけではなくてですね、いずれにせよ、国民の間でさまざまな意見があります。そういうことを踏まえてとか、あるいは、依然として凶悪犯罪が減らない、後を絶たない状況なども鑑みて、直ちに死刑を廃止することは困難であると認識をしていますし、死刑を廃止する方針がないことに変わりはございません。
● ニコニコ動画の七尾と申します。よろしくお願いします。今の質問とちょっとかぶるんですが、先ほどですね、原発再稼働の手順の大枠のお話はございましたけれども、ちょっと具体的なお話で、大飯原発3、4号機の再稼働にあたりましては、原子力安全委員会はもとよりですね、京都府の山田知事などからも、総合的安全評価としては一次評価だけでは不十分で、二次評価まで行うべきだとの意見もございます。今後の政治判断にあたりましては、あくまでですね、一次評価のみで地元の理解を得ていくお考えなのか、この点とですね、総理の中で、いわゆる、現時点で結構ですけども、地元とはどこまでの範囲を考えていらっしゃるのか教えていただければと思います。
プロセスの中で、安全委員会まで行った後、ちょうど今、大飯原発3、4号機についてはそういう段階に来ています。これは、その安全性のチェックが十分なされているかどうかを、今、関係閣僚が確認を行っています。その確認が終わった後に4大臣でどうするかという議論をするんですけれども、基本的には、どなたかのご質問に答えたとおりですね、第一次のストレステストというのは、福島のような地震、津波が起こった場合に、炉心溶融に至らないための裕度、余裕度ですね、が、どれぐらいあるかというのが一次テストです。それを踏まえてのプロセスをやってまいります。
二次の話等々は、それはもちろんですね、安全性をチェックしていくには、これは上限がないと思います。この問題は。上限のない取り組みってのは、これはやっていかなければなりません。ただ、少なくとも福島並みのような、あんな津波や地震に耐え得るか、どれぐらい裕度があるかというのも、これは一つの、一次ではありますけれども安全性のチェックのポイントだと思いますので、その確認を今やっているという状況でございます。
それからこれ、地理的な要件でですね、これ、機械的な話ではないということでございます。ただ、京都とか滋賀のように、関心のある自治体から、どうなっているのという要請があれば、当然のことながらご説明をしていくということは、これからも丁寧にやっていきたいというふうに思います。
● 朝日新聞の佐藤です。総理はですね、消費増税法案について、消費増税法案の今国会成立について政治生命をかけるというふうにおっしゃっております。それからもう一方で、決められない政治からの決別ということもおっしゃっておるわけですけれども、今国会で、その法案が成立しない場合、解散してでも、解散して国民の信を問う、あるいは退陣をするという意気込みであるというふうに理解してよろしいんでしょうか。
そう簡単に理解しないでください。政治生命をかけるというのは、文字どおりに受けとめていただきたいと思います。その解釈を云々するのはやぼじゃありませんか。ただ、政治生命をかけると言ったことは事実、かけてます。どうするかは、私の胸三寸であります。しかも、通らなかったという悲観的な「たられば」について、今、私は想定をしていません。 
記者会見 / 平成24年6月4日
野田内閣は昨年の9月に発足をし、それ以来、震災からの復興、原発事故との闘い、日本経済の再生を最優先、そして最重要な課題として取り組んでまいりました。そして、今年初め、通常国会が始まる前に、第一次改造内閣をつくりました。以来、国会に入りましてみんなで力を合わせて平成24年度の予算を成立させ、復興庁を立ち上げ、あるいは懸案でありました郵政民営化関連法を成立させ、さらには国家公務員の給与引下げ等々、やるべきことを懸命に力を合わせてやってまいりました。
そうした取組を進めている中で、いよいよ国会の会期も約20日を切るという大変重要な局面を迎えております。こうした中で今、国会で御審議をいただいている社会保障と税の一体改革含め、さまざまな諸懸案を前進させるための環境整備をするべく、今回、内閣の機能強化という視点の下で改造を行わせていただくこととなりました。
勿論、これまでと同様にデフレ脱却、行政改革の取組等々、みんなで力を合わせてやるべきことをやり遂げていきたいと考えております。
それでは、私から第二次改造内閣の閣僚を発表させていただきたいと思います。
法務大臣、滝実さん。国民にとって身近な司法を実現するとともに、検察の信頼回復を図る大事な役割を担う、その大臣として、法務副大臣を繰り返し務められ、法務行政に精通をされておられます、滝さんにお願いをすることといたしました。
農林水産大臣、郡司彰さん。食と農林漁業の再生は被災地だけではなく、日本全国で待ったなしの課題であります。農林水産副大臣を務め、現在は参議院の農林水産委員会の筆頭理事を務めておられる郡司さんにお願いをすることといたしました。
国土交通大臣・海洋政策担当、羽田雄一郎さん。大震災の教訓も踏まえ、持続可能で強靭な国土づくりを進めなければなりません。参議院の国土交通委員長も務められ、直近も国対委員長として与野党の調整に奮闘されてきた政治経験を持つ羽田さんにお願いをすることといたしました。
防衛大臣、森本敏さん。改めて申し上げるまでもなく、安全保障に関する我が国の第一人者のお一人でございます。北朝鮮問題を含め、我が国を取り巻く安全保障環境が不透明となる中、我が国の平和と安全を守るために大いに力を発揮してもらえるものと確信しております。国民の皆様への情報発信にも万全を期してもらえると期待しています。
郵政民営化担当・内閣府金融担当特命大臣、松下忠洋さん。郵政民営化法に基づき、郵政改革はこれからが実行段階であります。金融行政も欧州危機の波及を防ぎ、被災地の二重ローン問題や国際会計基準への対応など、重要な課題が山積をしています。政権交代後、経済産業副大臣を長く務められ、震災後は福島再生や被災地復興に力を尽くされてきた長い政治経験のある松下さんにお願いをすることといたしました。
以上、申し上げた方々以外の閣僚はすべて再任となります。
以上が第二次改造内閣のメンバーです。本日、午後5時からの認証式を経て、正式に任命される運びとなります。初閣議は、午後8時45分からを予定しています。
会期末に向けたこれからの約20日間は、日本の将来を左右する大きな決断のときとなると思います。これまで私は、政局よりも大局をと呼びかけてまいりましたけれども、与野党の垣根を越えて、是非すべての政治家の皆様にこの思いが届けば、もう届いていると思いますが、そうしたことを踏まえまして、今、国会の中では、特別委員会で一体改革への議論が行われております。長い時間をかけて法案をまとめた民主党の同志の皆様の汗をしっかり踏まえなければなりませんが、自民党を始めとする野党の皆さんも、このことを正面から受け止めて、今、特別委員会で真摯に御議論をいただいています。建設的な議論が積み重ねられてきていると認識をしています。
国会は言論の府であります。当初の立場を乗り越えて、合意を導くという熟議の民主主義の実践の場であるということを国民の皆様にお示しをするためにも、国会審議のみならず、自民党を中心とする野党の皆さんとの政党間の協議を改めてお願いさせていただきたいと思います。
私たち政治家の決断は、国民の皆様お一人お一人の考え方に大きく左右されます。厳しい財政状況の下で社会保障を持続可能なものとするために、その改革を成し遂げていかなければなりません。まだ大丈夫だと言いながら、問題の先送りを続けていいのか。いつまでも子や孫の世代につけ回しをしていいのか。こうした現状を踏まえて、まさにしっかりとこの国会中に結論を得なければいけないと思います。
熟議を尽くした後に、決断し、実行することの政治、これを目指しておりますが、与野党を超えて、みんなでそうした思いの中で結論を出していきたいと思いますし、私もこの時期にこの厳しい状況の中で内閣総理大臣を拝命したのも、ある種の天命だと思っています。国のためにやるべきことをやる。この覚悟以外、私の心、私心はございません。そうした思いで政治生命をかけると申し上げてまいりましたが、まさにこれから日々、全身全霊を傾けて、一日一日大事な決断をしていきたいと考えております。
是非、良識ある国民の皆様の御理解を改めてお願い申し上げて、冒頭の私の御報告とあいさつにしたいと思います。
【質疑応答】
● 読売新聞の望月です。前回、1月13日の内閣改造からわずか5か月足らずで、再度の内閣改造ということになったわけですけれども、これは最善かつ最強の布陣とおっしゃっておられたのですが、総理の人選に問題があったのではないかという見方は避けられないのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。今回の改造人事でも、初めて民間人の方を防衛大臣に充てられることなどについて、いろいろな見方が出ているわけですけれども、そういった点についていかがでしょうか。また、今回、問責決議が可決された2閣僚を交代させたわけで、消費税率引上げ関連法案の修正協議を自民党に求めていくのだと思われますが、自民党の谷垣総裁は、そのけじめとして、選挙で国民に信を問うことが必要ではないかということを言っておられるわけですが、これから直接党首会談などを呼びかけられて、そうしたことを含めて直接協力を求められるお考えはおありなのでしょうか。
大きく分けて、二つの御指摘でしょうか。
最初はなぜこの時期にこういう内閣改造なのかということだと思います。これは冒頭、申し上げたとおり、一体改革も含めてでありますが、さまざまな諸懸案を前進させるために内閣機能強化をするということが基本的な意義であります。
そして、時期あるいは人事の中身でありますけれども、これについては、私は適切な時期、適時、そして、適切な人、適材を選ばせていただいたと思います。民間からの防衛大臣ということも含めてでありますが、適材適所という観点で選任をさせていただきました。
後段の方の御質問は、谷垣総裁と会談をするのかというお尋ねだと思いました。今、修正といいますか、政党間の協議をきちんと自民党とやらせていただく中で、その進展を見ながら、必要なときには、私は党首間の会談はどこかの段階で必ずやらなければいけないと思っています。
● 日本テレビの佐藤です。お疲れ様です。今月21日に会期末が迫っておりますので、終盤国会の消費税増税を含む一体改革法案、この対応を具体的にお伺いしたいのですけれども、先ほど政府民主の会議でこの法案を今の国会で採決するように指示されたということでよろしいでしょうかということと、今月は中盤にG20がありまして、総理の日程を考えますと、実質的には15日までが採決のタイミングではないかと思います。その15日までということでよろしいかどうか。また、その採決を指示されたとするならば、その理由ですね。今の会期中に採決するという理由を併せてお聞かせください。
今国会中に一体改革法案は成立をさせる。これが基本です。これはやらなければいけないと思います。全力を尽くしたいと思います。相手もあることですから、かみ合った議論をし、お互いが信頼感を持って協議をするためには、当然のことながら、今、決まっている6月21日というおしりを見据えて、それまでに衆議院で採決をする。そのために最大限の努力をするのが政府与党の務めだと思います。そのことを改めて今日の政府民主三役会議でお伝えをさせていただきました。
そのための協議を修正協議を改めてしっかりと求めて、実質的に日々進展をするようにお願いをいたしました。それぞれの司、司にはお任せをしますが、大事な局面なので、毎日的確な情報を上げるように、そして、必要な判断は私がするということもお伝えをさせていただいております。
● 15日までに採決しろという指示と受け止めていいですか。
21日がおしりですから、それを見て、衆議院で採決できる環境整備をする。15日というお話がありますが、協議が整わないで採決、否決というのは困るんです。あくまで協議の進展を見ながら何日ということになると思いますが、しかし、21日が基本的におしりで、それまでに採決できる環境整備に全力を尽くすということでございます。
● ブルームバーグの広川ですけれども、円高が続いている中で、今日もTOPIXがバブル後最安値を更新する深刻な事態になっています。日本政府はこれまで急激な為替の変動に対して、単独の円売りドル買い介入も辞さない姿勢を示してきました。それを実際にやってきました。この姿勢に変更がないという認識でよろしいのか。また、マーケットでは先週末から日本が円売りドル買い覆面介入に踏み切ったという観測も出ているのですが、事実関係を確認させてください。
一定の為替の相場観を私が口にすることは妥当ではないと思います。水準についてコメントをすることは。ただし、最近の円高の動きというのは、日本経済の実態を表したものではない、一方的な動きであると認識をしております。それを踏まえて、今、介入に関するお話がございましたが、これは財務大臣の専権事項ですので、これも私がその上から物を言うことは妥当ではありませんが、基本的には今のマーケットをしっかり緊張感を持って注視を財務大臣がされていると思いますし、従来の方針、過度な変動、無秩序な動きに対する対応、それは当然基本に置きながら、今のマーケットを見ていると思っております。
● 毎日新聞の高塚と申します。総理、先ほど採決できる環境づくりに全力を尽くすということでしたが、その消費税増税法案の成立に向けて、総理が協力を求めている自民党内は、早期の解散総選挙というものを求める声が根強くあると思います。一方で、民主党の09年マニフェストには、消費増税というのは入っていませんでした。健全な民主主義政治を推進するという観点からも、消費増税を決定したのであれば、早期に解散総選挙をやるべきだという指摘が出ております。解散総選挙については、どうお考えでしょうか。
これはもう従来から言っているとおりです。一体改革は勿論入ります。大きな要素ですけれども、やり遂げなければならないことをしっかりやり抜いた後で民意を問う、そういう姿勢です。
● ありがとうございます。ビデオニュースの神保です。総理、再稼働問題についてお伺いします。総理は5月30日の4大臣会合で、最終的には総理大臣である私の責任で再稼働を判断するというふうに発言されました。当然、その責任の中には原発事故が起きた場合の責任も入ると思いますが、総理はそこで責任とおっしゃるときに、総理大臣の原発に対する責任、特に事故が起きた場合の責任というのは、どのようなことをお考えになって、その責任という言葉をお使いになったのか、お願いいたします。
この再起動に関しては、改めて3つのことを申し上げたいと思うのです。
一つは、我々は事故から多くのことを学びました。二度と同じような事故は起こしてはいけない、そういう決意のもとで政府も、そして事業者も安全対策、そして緊急対応の整備に万全を期すということであります。
二つ目は、今回の事故を踏まえて、IAEAのいろんな御提起であるとか、あるいは原子力安全委員会等々、さまざまな専門家の御意見を聞いてきて、これは何回も申し上げていますが、オープンな場で40回以上、専門家の知見を集めながら、議論もしながら、今回のいわゆる安全対策、基準をつくりました。これによって、先般起こった、去年起こったような地震・津波が発生したとしても、いわゆる炉心損傷にならないということの対策は既に整えられているということであって、安全性はしっかり担保するということであります。
もう一つは、これは必要性の議論でありますが、これは夏場の電力確保だけではなくて、エネルギー安全保障であるとか、あるいは電気料金値上げによって国民の負担が増えてしまうようなことがないように抑制をするとか、日本経済社会全体の発展のために再稼働というのは必要である、重要である、こういう認識でございます。
その上で先般、今、私の話がありましたが、今日も細野大臣と斎藤官房副長官が福井にお訪ねしてさらなる御説明をいたしますが、立地自治体の御理解を得ることができるならば最終的には4大臣でそのことによっての判断をしますが、その判断の最終責任者は私である。その判断のもとで、先ほどの安全性の問題はしっかり確保して、今、御指摘のような心配が起こらないようなことに万全を期することによって責任を果たしていきたいと思います。
● 産経新聞の加納です。今後の与野党協議と野党の協力についてお伺いしたいのですけれども、与野党協議に当たっては、自民党だけとやるのか、それとも、全野党対象に呼びかけて合意を目指すのか。それがまず一つです。もう一つは、これから先の与野党協力なのですけれども、震災復興の案件などではかなり民主党、自民党、公明党、協力してやってきたと思うのですけれども、将来、大連立とか、そこの協力関係をそこまで進めるおつもりはありますでしょうか。
まず前段の部分で、与野党協議の枠組みという指摘ですけれども、当然、法案の成立を期するということならば野党第1党、一番大きな野党である自民党の皆さんとしっかり協議をして、そこで成案を得るということが一番重要です。一方で、これは私自身はなるべく多くの方の御賛同を得ながら、この大事なテーマの結論を出したいと思いますので、むしろ、この協議に理解のあるところについては、これは声をかけていくというのは自然なことではないでしょうか。そういうことを輿石幹事長は念頭に置いておられます。
その中で、全野党という言葉がありましたけれども、協議の実質は、今、申し上げたことに尽きると思います。ほかの党で御賛同いただける可能性、協議に大変関心を持っていらっしゃる政党があるならば、それは排除することは失礼だと思いますので、そこを門戸を広げて与野党の協議と言っているのであって、実質と形の部分で若干混乱があるようでありますが、全部の野党が集まって、そこでみんなで協議したらまとまりません。そういう手法をとることは毛頭考えているわけはないと思いますので、そこはきっちり整理をさせていただきたいと思います。
その上で、後段は連立のお話ですか。私はこういう大事な国益に関わるテーマ、将来世代に関わるテーマ、大きなテーマで、まさに政策のスクラムを組んで一つ一つに合意できるかどうか、それが今、ねじれた国会ですから、問われていると思います。一つ一つ、そういう議論を重ねながら結論を出していくということで、いわゆる政局的な何かを考えているわけではございません。 
記者会見 / 平成24年6月8日
本日は大飯発電所3、4号機の再起動の問題につきまして、国民の皆様に私自身の考えを直接お話をさせていただきたいと思います。
4月から私を含む4大臣で議論を続け、関係自治体の御理解を得るべく取り組んでまいりました。夏場の電力需要のピークが近づき、結論を出さなければならない時期が迫りつつあります。国民生活を守る。それがこの国論を二分している問題に対して、私がよって立つ、唯一絶対の判断の基軸であります。それは国として果たさなければならない最大の責務であると信じています。
その具体的に意味するところは2つあります。国民生活を守ることの第1の意味は、次代を担う子どもたちのためにも、福島のような事故は決して起こさないということであります。福島を襲ったような地震・津波が起こっても、事故を防止できる対策と体制は整っています。これまでに得られた知見を最大限に生かし、もし万が一すべての電源が失われるような事態においても、炉心損傷に至らないことが確認をされています。
これまで1年以上の時間をかけ、IAEAや原子力安全委員会を含め、専門家による40回以上にわたる公開の議論を通じて得られた知見を慎重には慎重を重ねて積み上げ、安全性を確認した結果であります。勿論、安全基準にこれで絶対というものはございません。最新の知見に照らして、常に見直していかなければならないというのが東京電力福島原発事故の大きな教訓の一つでございました。そのため、最新の知見に基づく30項目の対策を新たな規制機関の下での法制化を先取りして、期限を区切って実施するよう、電力会社に求めています。
その上で、原子力安全への国民の信頼回復のためには、新たな体制を一刻も早く発足させ、規制を刷新しなければなりません。速やかに関連法案の成案を得て、実施に移せるよう、国会での議論が進展することを強く期待をしています。
こうした意味では、実質的に安全は確保されているものの、政府の安全判断の基準は暫定的なものであり、新たな体制が発足した時点で安全規制を見直していくこととなります。その間、専門職員を要する福井県にも御協力を仰ぎ、国の一元的な責任の下で、特別な監視体制を構築いたします。これにより、さきの事故で問題となった指揮命令系統を明確化し、万が一の際にも私自身の指揮の下、政府と関西電力双方が現場で的確な判断ができる責任者を配置いたします。
なお、大飯発電所3、4号機以外の再起動については、大飯同様に引き続き丁寧に個別に安全性を判断してまいります。
国民生活を守ることの第2の意味、それは計画停電や電力料金の大幅な高騰といった日常生活への悪影響をできるだけ避けるということであります。豊かで人間らしい暮らしを送るために、安価で安定した電気の存在は欠かせません。これまで、全体の約3割の電力供給を担ってきた原子力発電を今、止めてしまっては、あるいは止めたままであっては、日本の社会は立ち行きません。
数%程度の節電であれば、みんなの努力で何とかできるかもしれません。しかし、関西での15%もの需給ギャップは、昨年の東日本でも体験しなかった水準であり、現実的には極めて厳しいハードルだと思います。
仮に計画停電を余儀なくされ、突発的な停電が起これば、命の危険にさらされる人も出ます。仕事が成り立たなくなってしまう人もいます。働く場がなくなってしまう人もいます。東日本の方々は震災直後の日々を鮮明に覚えておられると思います。計画停電がなされ得るという事態になれば、それが実際に行われるか否かにかかわらず、日常生活や経済活動は大きく混乱をしてしまいます。
そうした事態を回避するために最善を尽くさなければなりません。夏場の短期的な電力需給の問題だけではありません。化石燃料への依存を増やして、電力価格が高騰すれば、ぎりぎりの経営を行っている小売店や中小企業、そして、家庭にも影響が及びます。空洞化を加速して雇用の場が失われてしまいます。そのため、夏場限定の再稼働では、国民の生活は守れません。
更に我が国は石油資源の7割を中東に頼っています。仮に中東からの輸入に支障が生じる事態が起これば、かつての石油ショックのような痛みも覚悟しなければなりません。国の重要課題であるエネルギー安全保障という視点からも、原発は重要な電源であります。
そして、私たちは大都市における豊かで人間らしい暮らしを電力供給地に頼って実現をしてまいりました。関西を支えてきたのが福井県であり、おおい町であります。これら立地自治体はこれまで40年以上にわたり原子力発電と向き合い、電力消費地に電力の供給を続けてこられました。私たちは立地自治体への敬意と感謝の念を新たにしなければなりません。
以上を申し上げた上で、私の考えを総括的に申し上げたいと思います。国民の生活を守るために、大飯発電所3、4号機を再起動すべきというのが私の判断であります。その上で、特に立地自治体の御理解を改めてお願いを申し上げたいと思います。御理解をいただいたところで再起動のプロセスを進めてまいりたいと思います。
福島で避難を余儀なくされている皆さん、福島に生きる子どもたち。そして、不安を感じる母親の皆さん。東電福島原発の事故の記憶が残る中で、多くの皆さんが原発の再起動に複雑な気持ちを持たれていることは、よく、よく理解できます。しかし、私は国政を預かるものとして、人々の日常の暮らしを守るという責務を放棄することはできません。
一方、直面している現実の再起動の問題とは別に、3月11日の原発事故を受け、政権として、中長期のエネルギー政策について、原発への依存度を可能な限り減らす方向で検討を行ってまいりました。この間、再生可能エネルギーの拡大や省エネの普及にも全力を挙げてまいりました。
これは国の行く末を左右する大きな課題であります。社会の安全・安心の確保、エネルギー安全保障、産業や雇用への影響、地球温暖化問題への対応、経済成長の促進といった視点を持って、政府として選択肢を示し、国民の皆様との議論の中で、8月をめどに決めていきたいと考えております。国論を二分している状況で1つの結論を出す。これはまさに私の責任であります。
再起動させないことによって、生活の安心が脅かされることがあってはならないと思います。国民の生活を守るための今回の判断に、何とぞ御理解をいただきますようにお願いを申し上げます。
また、原子力に関する安全性を確保し、それを更に高めていく努力をどこまでも不断に追及していくことは、重ねてお約束を申し上げたいと思います。
【質疑応答】
● 読売新聞の望月です。総理、今週は4日に引き続いて2度目の会見となり、御苦労様です。福井県知事の要望に応じられて、今回の会見に至られたのだと思いますけれども、先ほどの会見で、要するに夏場の電力需要を乗り切るためだけでなく、日本の経済、エネルギー安全保障上も原子力が重要な電源であるという認識をお示しになられたのだと思いますが、そうしますと、丁寧に御検討されるとおっしゃいましたが、大飯以降の他の原発の再稼働のスケジュール感について、どのようにお考えになられるのか。あるいは今、おっしゃられましたが、中長期のエネルギーの割合を政権としてどのように考えられるのか。8月をめどにまとめられるとおっしゃいましたけれども、今現在、2030年の原子力の割合などが議論になっていて、総理の今のお話ですと、これはゼロにはできないのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。また、その場合、40年の廃炉ルールなどには齟齬が出てこないのかも含めて教えていただければと思います。
最初は会見の意義みたいなところだと思いますけれども、福井県知事のみならず、福井県民の思いを重く受け止めつつ、今日は国民の生活を守るという観点から、再起動は必要であるという私の考え方を基本的に御説明したいという意味での会見をさせていただきました。
再起動の安全性、必要性については、先ほど申し上げたとおりでございますけれども、当面の夏場の需給だけの問題ではなくて、これはエネルギー安全保障であるとか、あるいは国民生活や経済への影響、特に国民生活、経済への影響で言うならば、これは電力価格が高騰することによって国民の負担が増えてはいけないんですが、そういうことを抑制しなければいけない等々の観点、日本の経済、社会全体の安定ということを考えての判断であるということであります。
大飯以外のスケジュールのお話でございますけれども、これは大飯と同様に、スケジュールありきではいかなる再起動も考え得ません。引き続き、丁寧に個別に安全性を判断していくというプロセスをたどっていきたいと思います。
最後に、中長期のエネルギーの割合の話が出ましたけれども、ちょうど今日のエネルギー・環境会議が行われまして、その選択肢についての中間整理を行わせていただきました。こうした中間整理なども踏まえまして、国民的な議論を行いながら、御指摘があったとおり、8月をめどに国民が安心できるエネルギーの構成、ベストミックスというものを打ち出していきたいと考えております。
● 日本テレビの佐藤です。原発も非常に重要ですけれども、消費税関連の一体改革、関連法案も大詰めですので、こちらをお伺いしたいのですが、今日、修正協議が始まり、15日までに合意を目指すということで、総理の決意を改めてお伺いしたいというのが1点。自民党の石原幹事長は、社会保障面の最低保障年金については、国民会議を設置して、そこで議論をしてもよいとおっしゃっております。この国民会議についての総理の御見解をお伺いしたいと思います。最後にもう一点ですが、法案を成立させるには会期の延長も避けられないと思いますが、総理の頭の中にある会期の延長幅、これは9月の代表選挙を超えるような大幅な会期延長も想定されているのかどうか。その見解を伺いたいと思います。
まず、今日から本格的な修正協議がスタートをいたしました。この協議については、昨年からの課題でありまして御要請をしてまいりましたけれども、自民党、公明党、やはり国民のために結論を出さなければいけない重要な課題だと御認識をいただき、こうした協議に応じていただいたことに感謝を申し上げたいと思いますし、加えて、この改革の方向について御賛同いただいているその他の会派の皆様にも感謝を申し上げたいと思います。
これは、先送りのできない課題であります。したがいまして、今、会期は6月21日まででございますので、それまでに当然のことながらG20に私は行かせていただきたいと思います。この世界経済が不透明な状況の中で、日本としての立場は明確に打ち出さなければいけません。
そういうことを考えると今日も協議の場で御議論があったと思いますけれども、15日までの間に決着をつけるべく、最大限の努力をされるということでございますので、そうしたスケジュール感の中で真摯な議論が行われること、そして成案を得ることを強く期待したいと思います。
そこで、石原幹事長の話もございましたけれども、要は法案としては7本出しています。その7本について協議に基づいて私どもは成立をさせたいと思います。その上で中長期に関わる問題をどうするかという議論も当然あると思いますが、その道筋をどうつくり出すかということは、先ほど御提起のあった国民会議の問題もそこに含まれると思いますけれども、そういうものも含めて結論が得られるような議論を期待したいと思います。
会期の問題は、これはこの一体改革だけではなくて政治改革の問題とか、この6月21日までの間に、何としてもその他の法案も成立を目指さなければいけないものがたくさんございます。まずはそこでできるだけ多く御提出をしている法案であるとか、あるいは結論を出さなければいけないテーマについて結論を出すことに今はベストを尽くす段階であって、その後の幅の問題を現段階で申し上げる段階ではないと思います。
● ロイター通信の浜田と申します。長期的な将来の脱原発依存を実現する上で、原発事業の体制は従来どおり国策民営が望ましいのか、電力会社から原発を切り離して国が事業に関与する体制に移行すべきなのか、原発の事業体制の見直しに関する議論の必要性、検討の必要性について総理のお考えをお聞かせください。
事業体制について、現時点で今政府として何らかの方向性を持っているわけではございません。その事業体制を考える前に、その前にやるべきことがあると思っております。それが先ほど来御議論というか御指摘もいただいておりますけれども、8月をめどにまとめようとする、まさに中長期の国民が安心できるエネルギー政策の在り方、そこをまず決めていくことが大事ではないかと思いますし、これは国民各層のさまざまな御議論もいただきながらまとめていきたいというふうに思います。
● ニコニコの七尾です。よろしくお願いします。本日、先ほど行われた国会事故調で福島第一原発事故の際の政府対応の問題点が幾つか改めて浮き彫りになりました。そこで御質問なのですが、原子力規制組織の法案に関わります、今、国会で審議しており議論が進んでいる中で、原発事故の際の総理の指示権の在り方や必要性について改めてお聞かせください。
政府事故調、そして、今、御指摘いただいた国会事故調、そういうところから出てくる御指摘というものを真摯に受け止めて、二度と去年のような事故を起こさないための対策を講じていくということが何よりも基本だと思いますし、そこから出てくる御意見は真摯に受け止めたいと思います。
その上で、今、与野党間で議論をしている新たな規制の組織の話の中で、総理大臣の権限のところ、今、議論をやっている最中だと思います。かなり煮詰まってきているのではないかという報告を受けております。ここで折り合うことができれば1つの合意形成が大きく前進できるのではないかと思いますので、その動きを今注視しているところでございます。 
記者会見 / 平成24年6月26日
本日、社会保障と税の一体改革の関連法案が衆議院で可決をし、通過をすることができました。力強くお支えをいただいた連立与党の国民新党の皆様。そして、お互いにこの国のために譲り合うところは譲り合う形で、3党合意という大変重要な成案をまとめさせていただいた、御協力をいただいた自民党、公明党の皆さん。また、御賛同いただいた、たちあがれ日本の皆さん。こうした皆様のお陰でございました。
ねじれ国会という中で、今を生きる国民のために、あるいは将来世代を慮って、このように大きな改革の第一歩を踏み出せたことは、私は大きな意義があると思っております。とはいえ、衆議院は通過をしましたが、これからは参議院に舞台は移ります。気を引き締めて、今まで以上に緊張感を持って参議院での審議に臨み、そして、何としてもこの国会中に成立をさせたい。こうした決意でございます。
今回の一体改革の意義でありますが、何よりも社会保障を持続可能なものにする。充実させるところは充実させる。安定化させなければいけないところは安定化させる。そのための改革を行うということが、基本中の基本でございます。
国民の皆様におかれましては、人生いかなるときに、社会保障のサービスを受けるかわかりません。困ったとき、つらいとき、苦しいとき、子育てで苦労しているとき、仕事を見つけているとき、病気やけがをしたとき、老後の生活、このようなときに必ずや、どなたもこうした社会保障のサービスを受けることになります。まさに国民生活そのものであります。その国民生活そのものである社会保障、その根幹は半世紀前にスタートしました国民皆年金、国民皆保険。この制度は、世界に冠たる、私は制度だと思います。
しかし、残念ながら、少子高齢化が急激に進み、人口構成が大きく変化をする中で、改革をしなければならない。そういうときを迎えています。特に支え手が減ってきていることが大きな問題です。現役世代、子育て世代が疲弊をしながら、今の日本の社会保障を支えるということには、もはや限界があると思います。現役世代、子育て世代ではなく、むしろ、これから生まれてくる将来の世代につけを回す形で社会保障を機能させるということも、これももはや限界があると思います。社会保障の改革は、待ったなしの状況でございます。その社会保障の安定財源を確保すると同時に、財政健全化を同時に達成するというのが、今回の一体改革の意義です。安定財源とは消費税でございます。
国民の皆様に御負担をお願いすることはつらいことです。日々、経営に苦労されている中小企業・零細事業者、家計のやりくりに苦労されている皆様、そういう皆様に御負担をお願いするということは、政治家としては本当につらい仕事です。避けることができるならば避けたいとだれもが思うと思います。だけれども、どなたもその恩恵を受ける社会保障をだれかが支えなければなりません。すべて社会保障に還元をされる、これが今回の改革の大きなポイントであります。そのことを是非国民の皆様には御理解をいただきたいと心から思います。
社会保障と税の一体改革でありますが、実はこれはもっとより広範な包括的な改革です。景気が悪そうだから、心配だから消費税は上げない方がいいという議論があります。そのような受け身な姿勢ではなくて、この一体改革をやり遂げるためにも経済を強化しなければいけないという強い決意で、これから政策の総動員をして、デフレ脱却、経済の活性化に努めていかなければなりません。
もっと無駄をなくしてからやった方がいいのではないか、やるべきことがその前にあるのではないか、こういう議論があります。身を切る改革もやりなさい、そのとおりだと思います。国民の皆様の御理解を得るためには、行政改革、政治改革、定数削減、しっかりやり抜かなければなりません。でも、これらのことをやってから一体改革というのでは、待ったなしの状況に対応することはできません。一体改革もやる、経済の再生もやる、行革も政治改革もやる、ありとあらゆることを2014年の4月に消費税率を8%に引き上げるときまでにやり抜かなければいけないと思います。
何かをやってからその後に、その理屈で、これまで決めるべきタイミングをずっと逃してきたのではないでしょうか。決めるべきときに決める、結論を出す、先送りをしない、そういう政治を私はつくり出していきたいと思っています。今回の衆議院における可決はその大きな一歩につながるものと確信をしています。
残念ながら、与党、民主党から造反者が出ました。昨日の代議士会でも、一致結束してみんなでこの改革を成し遂げようとお話をさせていただきましたけれども、極めて残念な結果でございました。政党でありますので、当然党議拘束がかかっておりました。これに対する対応をしなければなりません。私と幹事長と、よく相談をしながら党内の所定のルールにのっとって、厳正に対応をしたいと考えております。
なお、我々がやらなければいけないことは、この一体改革だけではありません。昨年9月に野田内閣が発足をしたときに、最重要、最優先の課題は震災からの復興、原発との戦い、日本経済の再生と申し上げました。そのほか、この申し上げた基本的な重要課題のほかにも、たくさんの国難とも言える様々な課題に、我が国は今、直面をしています。
国難から逃げる政治ではなく、国難に立ち向かう政治。国論を二分するようなテーマでも先送りをせず、決断し、実行する政治。そういうものをしっかりと道筋をつけていきたいと考えております。
79日間、国会が延長されました。その延長された幅の中でこれらの様々な困難を解決できるように、全力を尽くしていくことを決意として申し上げさせていただきまして、まずは私からのごあいさつとさせていただきたいと思います。
【質疑応答】
● 日本テレビの佐藤です。今、造反者について厳正に対処するというお考えのようですけれども、自民党の谷垣総裁、石原幹事長は厳しい処分をすることが、この消費税増税法案含め、一体改革法案の参議院での審議に協力する前提だということを早速おっしゃっています。実際その造反者、反対者が57人出たと承知しておりますけれども、かなり多いのですが、民主党の規約で最も厳しい除籍という処分も念頭に置いていらっしゃるのかどうか。もう一つは、処分を直ちにではなくて、しばらく時間をかけて処分を下すというお考えが党内にはあるようですけれども、時間をかけるようなことはあるのでしょうか。その辺の時間的なものも加えてお願いしたいと思います。
まずは、今回の政党内における対応、これは政党自治に関わる問題です。他党から言われる筋合いはありません。あくまで民主党としてどう対応するかだということであります。
この対応については、これはルールがあります。いわゆる役員会で発議をし、常任幹事会で決定承認して、そして倫理委員会に諮問する。そのルールに乗せていきますが、その前に発議をする段階で、私と幹事長がよく相談をして決めたいと思いますけれども、具体的な処分の内容はまさにこれからのお話でございますし、時期の問題でありますけれども、これは一人ひとりよく精査しなければいけない部分があります。どの法案にどの方が反対したのか、賛成したのか、どういう理由なのか等々含めて、精査をする時間は必要ですが、だからと言ってだらだらとやるということはない、ということであります。
● 小沢さんたちは基本的にすべて反対しておりますけれども、除籍という処分も排除せず検討するということでよろしいでしょうか。
厳正に対処するということであります。
● 読売新聞の湯本です。衆議院解散についてお伺いします。多数の造反者が出たことで、今後、民主党の小沢元代表は新党結成を否定しておりませんし、今後、不信任決議案が出れば可決されるという事態も、現実性を帯びているのではないかと思われます。仮の話とおっしゃらず、仮に不信任案が可決された場合の衆議院解散があるのかどうか、その覚悟があるのかどうかを聞かせてください。
新党とか不信任というのは余りにも仮ではないですか。仮だと思います。私はやらなければいけないことをやり抜いた後に民意を問う、適切な時期に民意を問うという基本姿勢はそのままであります。
● 本国会の会期内というお考えはありますか。時期は。
何の時期ですか。
● 民意を問う時期です。
やり抜いた後にです。
● ダウ・ジョーンズ通信の関口と申します。総理は、一体改革に政治生命をかけると度々明言されていましたが、今国会で成立がほぼ確保できた今、閉会後間もなく行われる民主党代表選で再選を目指されるのでしょうか。その場合、総理が第一に掲げる最重要課題は何になるのでしょうか、お聞かせください。
ちょっとお話があさってに行き過ぎていると思います。今国会で成立が確実というお話がございましたけれども、私は、これから参議院で御審議が始まるわけでございますし、緊張感を持って成立を、万全の体制で期していきたいと思っておりますので、余り楽観をして国会運営は考えておりません。一体改革だけではなくて、ほかにもやらなければいけないテーマがたくさんございます。そういうものをしっかりこの国会中に緊張感を持ってやっていきたいと思います。その上で、代表選云々ということは、まだそこまで考えていません。とにかくこの国会でしっかりと国民のための、私どもは国民生活と経済財政に責任を持つ立場でありますから、しっかりと責任ある対応をやり抜いていきたいと考えております。
● 産経新聞の加納です。輿石幹事長についてですけれども、今回、大量の造反を出した責任が輿石幹事長にないのかどうか、その辺りについて御自身の責任も含めましてどうお考えになっているのか、そのままこの任に当たってもらうつもりなのかどうか。あともう一つ、小沢さんと輿石さんと総理がお会いになったときに、解散もしない、党も割らないと、輿石さんがそういうことをおっしゃっているのですけれども、総理と小沢さん、輿石さんとの間でそういう話があったのかどうか。もしかしたらこれが造反にゴーサインを出すようなシグナルになってしまったのではないかと思うのですけれども、この辺りの認識をお願いします。
まず、前段のところですが、だれかの責任というお話ではないと思います。残念な結果を出しておりますけれども、ここはしっかり前へ進んでいくことです。参議院でこの一体改革の法案を成立させるという責任を、執行部として共有しながら持っていきたいと思っております。
もう一つ、後段のところですけれども、何かの約束ということはありません。余り中身の話は、それぞれが言っていないことを言うということはおかしいと思いますけれども、幹事長がおっしゃった点の関連で言うと、党はしっかり一致していった方がいいねと。それはだれだってそう思います。そのことの確認はしています、その時点で。何とかまとまって対応していける、そういう知恵はないかなという話はしました。
もう一つ、選挙の時期については、さっき、これはやらなければいけないことをやり抜くということを申し上げておりますので、その意味で、今では、まだないねと。そういうお話の問題意識の共有はあったということでございます。
● 処分の問題に戻りますけれども、総理は先ほど厳正に考えると力強くおっしゃっていましたが、仮にも代表である、総理大臣である総理が政治生命をかけると言っていた重要法案に反対したということですから、これは党内にも除籍でしかるべしだという声が強いのですけれども、民主党の過去の例に従うと、今まで法案に反対した場合、党員資格停止というのが一番重い処分なのですけれども、この前例を重視されるというお考えなのでしょうか。
まだ、その中身の話は、今、いちいち言う段階ではありません。厳正に対処するということに尽きます。
● NHKの藤田です。今回の大量造反によって政権基盤というのはちょっと弱体化したと思うのですけれども、総理は昨日の国会答弁で、自民・公明両党との関係について個別の政策でスクラムを組むことが国家・国民のためになるのだ、大事だという答弁をされていますけれども、今後、修正合意して自民・公明両党と協力関係を築きながら政権運営に当たるというお考えはあるのか。更に、政策ごとに連携する、いわゆる部分連合といったことを模索していくお考えはあるのか。この2点をお願いします。
極めてオーソドックスに考えておりますけれども、ねじれた国会の中で与野党がしっかり合意をしながら前へ進める。時には、これは針に糸を通すような大変粘り強い作業になることもあるのですが、それをやらないと物事は進まないという現実があります。その中で、本当に国家・国民のためにお互いに歩み寄って知恵を出す、その実例というのは幾つか出てきたと思います。今回の一体改革もそうです。これは大きなテーマでありましたが、そうした事例になりました。
去年の東日本大震災から、震災関連の対応でもそういうものは出ていますね。こういうことを踏まえて、ほかの分野は何ができるかという政策のスクラムを組む可能性のあるものについては、しっかり見つけながら与野党の協議をやっていきたいと思いますし、特にまだ、本当は歳出と歳入一体で対応すべきであった特例公債等が残っていますので、そういう問題も含めて、真摯に与野党協議を求めて結論を出せるように努力をしていきたいと思います。
● フジテレビの高田です。先ほど小沢元代表が記者団の取材に答えまして、その中で総理との会談のことについて聞かれた中で、とにかく今後、自分としてはマニフェストの原点に党・政府が戻ることを主張していきたい。その気持ちが野田さんにあれば喜んで話し合うという趣旨のことを小沢さんは言っています。総理は当然、マニフェストの原点を忘れられている気持ちは全くないと思いますが、小沢さんの言うところのマニフェストの原点に返るという点に理解を示すお気持ちがあって、更にそうした会談の用意があるのかどうかをお聞かせください。
国民の生活が第一という理念については、その原点は踏まえているつもりでございますし、なぜ一体改革でこういうそごが出るのか、わかりません。まさに国民生活に直結する社会保障、これまでも政権交代以降、ずっと力を入れてまいりました。それをより一層、前へ進めるための、今回は改革であります。私自身は原点から外れているつもりは全くございませんが、会談するかどうかはよく判断したいというふうに思います。 
2012 / 7-11

 

記者会見 / 平成24年8月10日
本日、社会保障一体改革の関連法案が参議院本会議におきまして可決・成立をいたしました。
まず、この一体改革について、その意義を語る前に、2つのことから私は、お詫びしなければいけないと考えています。
消費税を引き上げるということ、国民の皆様に御負担をお願いするということは、2009年の総選挙で私ども民主党は勝利をさせていただきましたけれども、そのときのマニフェストには明記してございません。記載しておりませんでした。このことについては、深く国民の皆様にこの機会を利用してお詫びをさせていただきたいと思います。
2つ目は、中小零細企業の皆様など、日々の資金繰りに大変御苦労されている皆様がいらっしゃいます。家計のやりくりで厳しい生活の中で大変御苦労されている皆様がいらっしゃいます。そういう皆様にも等しく御負担をお願いする、そういう法案でございます。
国民の皆様に御負担をお願いするということは、政治家としては、なるべく自分の任期中は避けたい、逃げたい、先送りしたい、そういう切ないテーマです。減税をするときは胸を張って言えるかもしれません。でも、増税をするときは本当に心苦しい、そういう気持ちでいっぱいであります。そうした2つの申し訳ないという気持ちを持ちながらも、なぜ社会保障と税の一体改革をやらなければ今、いけないのか、幾つかの観点から御説明をさせていただきたいと思います。
1つ目は、社会保障の安定財源を早急に確保し、社会保障を支えていかなければならない状況に陥っているということでございます。
長い人生の中で、残念ながら、時には病気になったり、けがをしたりすることはどなたにもあり得ることであります。だんだん年を老いていくということは、これは人の定めであります。そのときの生活をどうするのか。こういうときに出番があるのが社会保障の恩恵です。国民皆年金、国民皆保険、介護保険、こうしたさまざまな社会保障の恩恵にどなたもどこかの段階で浴さなければならない、私はそういう運命だと思います。
この国民生活に直結をしている社会保障でありますけれども、人類が経験をしたことのないような世界最速のスピードで少子高齢化が進んでおります。その社会保障費は毎年1兆円規模で膨らみ続けています。その社会保障を支えるためにだれかが負担をしなければなりません。負担なければ給付なし。打ち出の小づちのようにどこかからお金が湧いてくるわけではありません。
今回、消費税の引き上げという形で国民の皆様に御負担をお願いいたしますが、その引き上げられた分は、増収分はすべて社会保障として国民の皆様に還元をされる。すべて社会保障として使われるということをお約束させていただきたいと思います。
2つ目は、未来を搾取するという、そういうやり方は、もはや通用しない、とるべきではないということであります。
社会保障の給付は、高齢者中心、そして、負担は現役世代の所得税や保険料中心というやり方では、社会保障の持続可能性はありません。現役世代の負担だけでは足りなくて、将来世代にツケを回し、将来世代のポケットに手を突っ込んで、今の社会保障を支えるというやり方は、これは持続可能性がありません。
従って、今回は、給付、負担、両方を併せて世代間の公平を図るという、そういう改革の理念の下で法案をまとめさせていただきました。未来を搾取するという社会には、将来に不安を抱いたまま、将来に夢を持たない社会が続くということであります。その流れを変えていく改革であるということを是非国民の皆様には御理解をいただきたいと思います。
3つ目は、私どもの暮らしの安定のためには、日本という国の信用が失われてはいけないということでございます。
今、欧州の債務危機、世界中が懸念をしている状況となっておりますけれども、ひとたび国の財政に対する信認を失ったときに、それが金融不安、経済不安、信用不安につながっていき、ひとたびそうした不安が広がった暁に、急いで対応をしようとするならば、年金等の社会保障を削り、公務員の給与をカットし、国民生活に甚大な悪影響を及ぼすようなことをやらなければ、そのような緊縮策をとらなければならないということを我々は目の当たりにしています。日本をそのような国にしてはなりません。
長期債務残高は世界一の水準です。でも、金利が低利で推移をしている今のこの状況の中で社会保障の安定財源を確保し、財政健全化を同時に達成するということを今から歩み始めていくことが大事であるということについても、是非国民の皆様には御理解をいただきたいと思います。
4点目は、このような困難を伴う課題解決でございますので、大変多くの御賛同をいただくということは容易ではございません。だからこそ、今までやらなければならない課題であると多くの政治家がわかっていながらずっと先送りしてきたのがこの一体改革だったと思います。
今求められているのは、決めなければいけないときに先送りをせずに決めきる政治だと思います。決断しなければならないときに決断する政治を行うことこそ最大の政治改革だと思います。こうした必要性から、今回の一体改革を国会でお諮りをし、今日成立をさせていただきました。
この改革を行っていくことは本当に困難を極めます。先輩政治家たちが消費税を導入するとき、あるいは税率を引き上げたとき、筆舌に尽くしがたい大変な御苦労をされたことを私も承知しております。実際、私自身も今日の成立に至るまでは、想像を超える厳しい困難があったということを体感させていただきました。
よく私が、この改革には政治生命をかけると言っているけれども、なぜ震災復興や原発事故との戦いや経済の再生に政治生命をかけないのか、こういう御質問をいただきました。震災復興も、原発事故との戦いも、経済再生も、行政改革も、これは与野党問わず、どなたもやらなければいけないテーマだと思っています。全身全霊を傾けてやらなければいけないテーマだと思います。国民の皆様もほとんどの方が御賛同いただけると思います。しかし、国民の皆様に御負担をお願いするこのような一体改革は、国論を二分するテーマであり、政治生命をかけるという覚悟がなかったらば、ブレたり、逃げたり、避けたり、ひるんだりする可能性がありました。だからこそ、あえてこのテーマについては政治生命をかけるという不退転の覚悟の思いを述べさせていただきました。
今日、こうして成立をさせていただき、3党合意に知恵を出し、汗を出し、そして審議を通じて御賛同、御支持をいただいたすべての議員の皆様、御賛同はいただけなかったけれども、多角的な観点から議論に参加をしていただいた議員の皆様、すべての議員の皆様に万感の思いを込めて感謝を申し上げたいと思います。
なお、この一体改革をもってすべてが終わりではございません。国会審議を通じても、様々な宿題や検討課題をいただきました。こうした課題もしっかりとこれから取り組んでいかなければならないと思います。併せて、国民の皆様は一体改革とともに経済の再生、政治改革、行政改革、包括的にやってほしいと思ってらっしゃる、そういう御期待があると思います。そうした思いにもしっかり応えていく政治というものをこれからも実現していきたいと考えております。
なお、最後に、別件ではありますけれども、本日、韓国の李明博大統領が竹島を訪問しました。今回の竹島訪問は、竹島が歴史的にも国際法上も我が国固有の領土であるという我が国の立場と相入れず、到底受け入れることはできません。私としても、李明博大統領とはお互いに未来志向の日韓関係をつくろうということで様々な努力をしてきたつもりでございますが、このような訪問はそうした中で極めて遺憾に存じます。
日本政府としては、毅然とした対応を取っていかなければならないと考えています。本日、その一環で、韓国側に対して玄葉外務大臣から、厳重に抗議を行ったところです。また、抗議の意思を示すために、武藤駐韓大使を本日帰国させることとした次第であります。
以上を申し上げ、私の冒頭の発言とさせていただきます。
【質疑応答】
● NHKの藤田です。2点お伺いします。まず1点目は、衆議院の解散の時期です。今回の法案の成立で、先の3党の党首会談で合意した解散の条件は整うことになったと思うのですが、近いうちにという以上、遅くとも秋までには解散するお考えがあるのでしょうか。また、総理は赤字国債発行法案と衆議院の選挙制度改革法案を今国会で成立させたいとしていますけれども、この2つの法案が成立しない限り、解散はしないというお考えなのでしょうか。次です。2点目は、民主党の代表選挙についてです。民主党の執行部の中からも総理の再選を支持する声が出ていますけれども、いつ立候補を表明されるお考えなのでしょうか。また、立候補しないという可能性はあるのでしょうか。立候補される場合は、何を重点課題として掲げるおつもりなのでしょうか。この2点をお願いします。
まず、おとといの党首会談におきまして合意したことは、3党合意を踏まえて早期に一体改革関連法案を成立させる、ここのことは今日実現できました。その暁には、近いうちに国民の信を問うということでございました。その近いうちについてでございますが、今、秋かどうかという御指摘がございましたけれども、これは特定の時期を明示的に具体的にお示しするということはふさわしい話ではないと思っています。近いうちにという意味は、それ以上でも、それ以下でもないということで、私がその解釈をコメントすることは控えたいと思います。
それから、赤字国債法案、特例公債法案と政治改革のことですね。
一票の格差を是正しなければいけない。これは違憲状態、違法状態でございますから、これは何かの引き換えにやるということではありません。一票の格差の是正と定数削減と選挙制度改革を包括的に処理するということ。これは一刻も早く、一日も早くやらなければいけないことであります。
それから、特例公債法案についても、これも何かと引き換えにという話ではありません。ずっとこのまま放置をされていくならば、予算の執行がだんだん窮屈になっていきます。国民生活や経済に悪影響を及ぼさないためにも、これも一日も早く対応しなければいけない、法案を成立させなければいけないと考えています。
その上で、最後が代表選をめぐる幾つかの御指摘でございましたけれども、今、こうやって9月8日までは国会の会期でございますし、様々な今、御指摘いただいたような重要な法案も残っております。まずはこの国会で様々な重要法案をきっちりと仕上げていく、処理をしていくということが私の責任だと思っていまして、代表選云々ということは今、考えておりません。
● 西日本新聞の池田です。本日の一体改革関連法案の参院採決、昨日は、内閣不信任案の決議で民主党内から造反する議員が出ました。党代表として、どういう方針で処分をするおつもりでしょうか。また、昨日ですが、輿石幹事長が9月の民主党代表選、自民党総裁選で両党の党首が替わった場合というお話で、先日の谷垣総裁と野田総理の合意事項等について、2人の話はそれで終わりになるのでしょうというような、今回の合意が無効になると受け止められるような発言がありました。公党間の合意事項が党首交代によって無効になるのか。そういうお考えであるのかお聞かせください。最後ですが、冒頭発言でありましたが、李明博大統領の竹島上陸の件です。この件について、森本防衛大臣の発言が問題になっているようですが、更迭などのお考えはおありでしょうか。
まず最初の、昨日の衆議院の内閣不信任案に対する我が党所属議員だった人たちの投票行動についてでございますけれども、これについては幹事長を中心に党の執行部において、それぞれ確認をさせていただき、最終的には常任幹事会において、その方針を決定すると。そういうプロセスをたどっていくということでございます。
輿石幹事長の発言についてのお尋ねでございますが、私も真意を聞いているわけではございませんが、記者の方からの仮定の質問について、仮定の話をあまり言っても意味がないという趣旨の中での御発言だと私は受け止めております。
なお、そのことについての私へのお尋ねですから、また仮定のお話でございますので、それにお答えをする必要はないと思います。
今日の防衛大臣の発言でございますけれども、これは私なりに理解をしていることでありますが、さっき申し上げたとおり、竹島は我が国の固有の領土である。歴史的にも、国際法上からも、これは明々白々であります。そのことは森本大臣もよくわかっているはずでございますので、これを韓国の内政問題と彼がとらえて言ったわけでは勿論あるはずがありません。内政上の理由、すなわち国内上の理由によって大統領がそういう行動をされたのではないかという推察をされたのだろうと思います。その辺の真意がきちっと伝わっていなかった部分については、今日は2回目の会見もしたと聞いておりますし、参議院の外防の理事懇談会でもその御説明をしたと聞いています。しっかり御説明をして、誤解を解いていただきたいと考えております。
● ロイター通信のシーグと申しますけれども、2009年の民主党の歴史的な勝利と政権交代からほぼ3年が経ちました。そのとき、国民の期待と希望に与野党も含めて応えていないというのが、多くの人の気持ちだと言えるでしょう。一体改革法案が成立して、今までできなかったことができたという点について、一定の評価があると言えるでしょうが、新しいガバナンスのやり方、新しい政治主導の下で既得権より個人家庭の利益を一番大事にするという姿勢に変わっていないという批判が珍しくありません。そういった批判にどうお答えになるのでしょうか。
民主党が掲げてきた、これまでの理念、国民の生活を大切にしていくということ。あるいはチルドレンファースト、あるいは地方主権、政治主導、こういう基本的な考え方、新しい公共、こういう基本理念は私は間違えていなかったと思いますし、そうした理念を踏まえたマニフェストに明記をされてきたテーマについて、できてないものもありますけれども、確かに。だけれどもできるだけ任期中においては実現をしていきたいという思いは変わっておりません。そのことは、これから国民の皆様にしっかり御説明をしていきたいと考えております。
税と社会保障については、今回、与野党間で合意できました。震災復興等の様々な施策についても、これはお互いに胸襟を開いて議論しながら成案を得ることができたテーマもあります。そうした話し合う姿勢、対話の姿勢の中から私どもが描いている理念で、まだ実現できていないものについても、これから御賛同いただきながら進めさせていただきたいと考えております。
● フリーランスの上杉です。今、今日もこの官邸の前では原発抗議行動が行われていますが、ちょっとその確認なんですが、野田総理は以前、原発抗議行動の行為に対して大きな音と言ったと報道されていますが、それが事実かどうなのかひとつ確認させてください。それと、その抗議行動に関して、13の団体の代表者とお会いするということをおっしゃっているようですが、それはいつお会いするのか。あるいは会わないような状況になっているのか。それをお知らせください。3つ目、ちょっと関係ないんですが、重要なことですが、間もなく8月15日、終戦ですが、靖国参拝に関して、閣僚の2閣僚が参拝を表明しています。野田総理も野党時代、小泉政権時代ですが、2005年質問主意書で、A級戦犯は犯罪人ではないというような質問主意書を出して、小泉さんの参拝に関して若干賛同の意を表明していますが、今回、総理御自身、その2閣僚の参拝についての御意見と、総理御自身の靖国参拝の有無について、どのような立ち位置かお知らせください。
3点あったと思います。私が今、官邸の前で行動されている皆様の声を音と表したことがあるかどうか。ありません。ありません。なぜそういう報道がでたのか、よくわかりません。音と声は違うと思います。そういったことはありません。
それから、本来ならば今日、そういう行動をされている皆さんの代表の方と、今日というか今週中にお会いしたいという形の調整をさせていただいておりましたけれども、ちょっと御案内のような政治状況だったものですから、それができない状況になりました。お盆休み中にお会いすることもなかなか困難だと思いますが、その後ぐらいに何とか日程調整をして、会うことは実現したいと思います。
いろいろなお立場があります。賛成の方、反対の方、それぞれのいろいろなお立場の方の声に耳を傾けたいと私は思っています。日程調整中ということで、御理解いただきたいと思います。
それから、靖国参拝に関しては、昨年の9月に野田内閣が発足したときに、総理大臣、閣僚については、公式参拝は自粛するという方針を決めさせていただいておりますので、この方針にのっとって私自身も、それからその他の閣僚も従っていただけるものと考えております。 
記者会見 / 平成24年8月24日
今月に入ってから、我が国の周辺海域において、我が国の主権に関わる事案が相次いで起こっており、誠に遺憾の極みであります。我が国として、このような行為を看過することはできません。国家が果たすべき最大の責任、それは平和を守り、国民の安全を保障することです。国の主権を守り、故郷の領土、領海を守ることです。私は、国政全体を預かる内閣総理大臣として、この重大な務めを毅然とした態度で冷静沈着に果たし、不退転の覚悟で臨む決意であります。
本日は、歴史的な経緯やこれまでの対応を振り返りながら、今後、我が国が取るべき基本的な方針について、私自身の考えを国民の皆様に直接申し述べたいと思います。同時に、様々な事態に、政府として引き続き冷静に対応をするつもりであり、国民の皆さんに、その点、御安心をいただきたいと思います。
まず初めに、我が国は、世界に冠たる海洋国家であることを確認したいと思います。我が国は、国土面積でいうと世界で61番目の国ですが、領海と排他的経済水域を合わせた管理する海の広さでは世界第6位の大国となります。海の深さを計算に入れた体積では、実に世界第4位に躍り出ます。我が国を広大な海洋国家たらしめているもの、それは竹島や尖閣諸島も含めまして、6,800を超える離島の数々であります。我が国固有の領土である離島の主権を確保するということは、海洋国家日本の壮大なフロンティアを守るということにほかなりません。
今、求められているのは、こうした離島に託されている我が国にとっての重要性をしっかりと見据えることです。そして、与党、野党の垣根を越えたオールジャパンで、我が国として主張すべきことを主張し、進めるべきことを粛々と進めるという姿勢であります。
政権交代以降、民主党を中心とする政権は、これまでの政権の取組を基礎として、あるいはこれまでの取組以上に数多くの具体的なアクションを積み重ねてまいりました。大きく3点を挙げることができます。
第1に、離島の安定的な保全管理です。離島の中には、必ずしも正確な測量がされず、名前も付けられていない無人島があります。適切な行政措置や物理的な保全策を着実に進めなければなりません。政府としては、昨年の5月と本年3月、排他的経済水域を画する上で重要となる離島49か所に名前を付けました。尖閣諸島の4つの小島に名前を付けたのもこのときです。
第2に、周辺海域の警備体制の強化です。私は、去る5月に沖縄を訪問した際、海上保安庁の巡視船を視察しました。尖閣諸島を始め、日本の海を守るために命をかける海上保安官たちの誇り高き姿がそこにありました。こうした海の守り神たちが円滑に職務を遂行できる環境を常に整えておかなければなりません。装備や人員の増強を今後とも図っていかなければなりませんが、それに加えて、法制面での課題も存在しています。遠方の離島で海上保安官が迅速に対処できるようにするための法改正案が衆議院を通過しています。残された会期内での成立を是非ともお願いしたいと考えております。
また、領土・領海警備の現場での実際の状況を国民の皆さんの目に届けることも重要と考えます。そうした観点に立ち、先般の尖閣諸島での外国人による不法上陸事案に関し、海上保安庁が撮影した映像記録については、今後の領海警備等の業務に支障が生じない範囲で公開することといたします。
第3に、我が国の正当性を対外的に発信する努力です。本年4月、日本が申請していた大陸棚の延長が国連機関に認められました。国際機関を介して国際社会に認知されることは、我が国の主張の正当性を訴える上で極めて有効な方策です。また今般、韓国政府に竹島問題を国際司法裁判所に訴えるといった提案を行いました。これは国際社会の理解と支援を得る活動の一環でもあります。今後とも、竹島問題に限らず、我が国の領土・領海を守るための国内外への発信を私自身が先頭に立って行ってまいります。
今月10日、李明博大統領が竹島に上陸いたしました。一体改革関連法案が成立した日の記者会見で私からも遺憾の意を述べ、その後も外交ルートを通じて抗議をしました。竹島は歴史的にも国際法上も、日本の領土であることは何の疑いもありません。江戸時代の初期には幕府の免許を受けて竹島が利用されており、遅くとも17世紀半ばには我が国は領有権を確立していました。その後、1905年の閣議決定により竹島を島根県に編入し、領有の意思を再確認しました。韓国側は我が国よりも前に竹島を実効支配していたと主張していますが、根拠とされている文献の記述はあいまいで、裏づけとなる明確な証拠はありません。戦後、サンフランシスコ平和条約の起草の過程においても韓国は日本による竹島の放棄を求めましたが、米国はこの要請を拒否しています。こうした経緯があったにも関わらず、戦後、韓国は不法な李承晩ラインを一方的に設定し、力をもって不法占拠を開始したのです。
竹島の問題は、歴史認識の文脈で論じるべき問題ではありません。戦後の韓国政府による一方的な占拠という行為が国際社会の法と正義にかなうのかという問題であります。韓国側にも言い分はあるでしょうが、自国の考える正義を一方的に訴えるだけでは、立場が異なる2つの国の間で建設的な議論は進みません。国際社会の法と正義に照らして、国際司法裁判所の法廷で議論を戦わせ、決着をつけるのが王道であるはずです。韓国政府には、これからも国際法に基づく解決が理にかなっていることを粘り強く訴えてまいります。また、本日、国会からいただいた議決の趣旨も体して、我が国の立場の対外発信を強化するとともに、竹島の領土問題に対応する政府の体制強化なども検討してまいります。
なお、尖閣諸島については、歴史的な経緯や状況が竹島とは異なり、同一に論ずることはできませんが、これもまた日本固有の領土であることに疑いはありません。そもそも、解決すべき領有権の問題が存在しないという点が大きな違いです。清の支配が及んでいなかったことを確認の上で、明治政府は1895年に尖閣諸島を日本の領土に編入しました。中国が領有権を主張し始めたのは、東シナ海に石油埋蔵の可能性が指摘をされた1970年代以降になってからのことに過ぎません。尖閣諸島が我が国固有の領土であることは歴史的にも国際法上も疑いのないところであり、現に我が国はこれを有効に支配しています。今回のような不正上陸事件を繰り返さないために、政府の総力を挙げて情報収集を強化するとともに、周辺海域での監視、警戒に万全を期してまいります。
併せて、この機会に我が国固有の領土である北方領土についても申し添えたいと思います。北方領土問題は全国民の問題であり、我が国の主権に関わる問題であるだけでなく、既にかなりお年を召された元島民の方々にとって、人道上の問題でもあります。法と正義の原則を基礎として、静かな環境の下でロシアとの交渉を進めてまいります。国民の皆さんにおかれては、こうした諸問題に関する基本的な事実関係を広く共有していただきたいと願っております。
私は、我が国の国益を守るために主張すべきは主張をし、進めるべきことは粛々と進めます。他方、いたずらに国内の強硬な世論を煽って、事態が無用にエスカレートすることはいずれの国の利益にもなりません。何より重要なことは、法と正義に基づき、平和的、外交的に問題解決を目指すというアプローチです。国際法に合致したルールに基づく秩序を広げていくことは、海洋国家日本にとっては勿論、アジア太平洋全体の安定と繁栄のためにも不可欠な要素であると信じます。
併せて、当事者同士がいかなる場合においても大局を見据え、決して冷静さを失わないということも欠かせません。価値を共有する大切なパートナーである隣国、韓国の賢明な皆さん、主張に違いはあってもお互いに冷静に対応すべきです。基本的な外交儀礼まで失するような言動や行動は、お互いを傷付け合うだけで建設的な結果を生み出しません。韓国側の思慮深く、慎重な対応を期待してやみません。
我が国としては、いずれの問題に関しても法と正義に基づく解決を求めつつ、冷静な対応に努め、外交上の礼節を重んじ、この地域の将来のために隣国とともに努力していく決意を改めて申し上げます。
【質疑応答】
● 西日本新聞の池田です。竹島をめぐる問題で、総理が韓国大統領あてに送りました親書の件についてお伺いします。韓国側はこれを返送してきたわけですが、昨日韓国の大使館員が外務省を尋ねた際、外務省はこれを門前払いにしました。こうした対応については、結果的に総理がおっしゃる冷静さを欠いた行為というような、韓国批判に対する同じ土俵に上がってしまうのではないでしょうか。もう一点。大統領の発言について謝罪・撤回を求めていますが、これに応じない場合、日韓通貨交換協定の打ち切りや、韓国国債の購入凍結など、新たな対応を考えられるおつもりはおありでしょうか。もう一点。こうした問題の解決について、具体的にどういった方策をお考えでしょうか。
まず、私の書いた親書についてのお尋ねがございました。残念ながら、今日郵送という形で返ってまいりました。首脳間の親書を返すというのは外交慣例上あり得ない行為であり、大変遺憾に思います。
そして、我が国の対応についての今、御指摘がございました。これは細かく言いません。一貫して冷静な対応をしたつもりであります。細かくは後で御説明しても結構でございますけれども、一貫して冷静な対応をしていまして、礼を失することをやっているつもりはございません。いちいち私が申し上げることではないというふうに思います。
いずれにしても、我が方から送るべきメッセージが伝わってはいると思います。相手側の方からの、例えば竹島という表現があるから云々というのは、多分ご覧になっているのだろうと思うんですが、こういう親書のやりとりを、手紙が届いた届かない、または送り返すということをやっていること自体が、もう非建設的であるし、我が国の外交の品位に欠けるというような指摘も受けかねませんので、返送された親書を再び送るようなことは考えておりません。
その上で、謝罪撤回が得られない場合という2つ目の御質問があったというふうに思いますが、韓国側からは適切な対応が得られることを期待をしておりますので、仮定の質問には、これは現時点でお答えすることは控えたいというふうに思います。
それから、様々な具体的な行動の話がございましたけれども、これについても現時点で今、具体的に、明示的に申し上げることも妥当ではないというふうに思います。
● NHKの藤田です。2点お伺いします。1つは尖閣諸島についてです。先ほど総理はですね、上陸させないために監視・警戒に万全を期すとおっしゃられましたけれども、具体的にはどのような対策をとるのかということです。それに当たって、領海警備に当たって、自衛隊の活用を可能にする法整備ということは、この際考えられるのでしょうか。更に、最近、東京都の石原知事とお会いになられたようですけれども、尖閣諸島の国有化に向けて、何か進展はあったのかということがまず1点目です。2点目は領土の問題から離れますけれども、解散総選挙の時期について「近いうちに」ということの表現をめぐって、与野党から様々な見方が出ています。総理は解散の時期については明言すべきではないというお立場なのは重々承知しておりますけれども、総理の頭の中にはこの頃、いつ頃に解散しようというのが具体的にあるのかどうか、それをお聞きしたいと思います。
まず、1点目という中にいっぱい入っていたので、全部網羅的にお答えできるかわかりませんけれども、尖閣諸島の警備についてでございますが、警備の強化については海上保安庁を始めとする治安当局の体制の整備、あるいは装備の充実等を図るとともに、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、遠方離島で発生した犯罪に海上保安官が迅速に対応できるようにするための法案を今の国会で、衆議院では通過までいっておりますので、何としても、この法案の成立ということを実現していきたいというふうに思っております。
それから、自衛隊との関連で、法改正の御指摘がございましたが、領域の治安の維持については、これは第一義的には、これは警察や海上保安庁がその責任を有しています。現行法の枠組みの中でも、この海保であるとか警察では手に負えない状況、困難な状況になったときには、自衛隊が治安の維持に当たることができると、現行法の枠の中でもそうなっております。私が7月に念頭に置いた発言は、そういうことであります。
その中で、新たな法改正の議論を様々なところで今、主張をされている方がいらっしゃいますが、領域の保全の在り方については、不断のレビューが必要だと思いますので、様々なレベルで様々な議論があって然るべきだと考えております。
それから、石原都知事のことについては、東京都が尖閣諸島を購入する計画があるということの、計画の中身についての確認をするとともに、尖閣については、平穏かつ安定的に維持管理を継続するということが基本だと思っています。そういう観点の中で様々なレベル、様々な接触をしているということが現状であり、それ以上のことを現段階で申し上げることはできません。
2つ目のお尋ねは、解散の時期を頭に描いているのかというお話でございましたけれども、そういうことも含めて、時期を具体的に明示的にお示しするということは、ふさわしいとは思っておりません。今、一部、何月と周辺が言ったとか、私が言ったとか、月まで明示して書いてあるのがありますが、根も葉もありません。
● 朝日新聞の佐藤です。今の尖閣諸島に関連してなんですけれども、東京都の方では上陸申請が出されていて、先ほどの石原都知事の会見で、今日中に上陸申請に対する返事が返ってくるというような発言がありましたが、これに対して政府としてどう対応されるのかについてお聞かせ願いたいということと、石原都知事とお話をされた際に、政府の国有化方針についてどのように説明をされて、また、その国有化後の島の活用方法などについても意見交換をされたのかどうかお聞かせ願います。
東京都からの上陸申請は、おととい正式に受理をさせていただきました。これまでの政府の方針というのは、政府関係者以外は何人も上陸をさせないという方針で、平穏かつ安定的な維持管理をするという、いわゆる賃借人の立場からどう判断するかということだと思うのですが、おととい受理をし、確か8月29日に上陸したいという申請だったと思いますので、それまでの間に検討をさせていただきたいと思います。
今日、御回答するというお話はしていなかったというふうに思います。
● AP通信のフォスターです。先ほど御質問があったと思いますが、竹島問題をめぐる最近の両国間の状況は、領土問題以外の分野において、例えば経済関係や通貨スワップ協定などに対してどのような影響を及ぼしていますか。
竹島の問題について言いますと、まずは、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、国際司法裁判所に共同で提訴しようという提案をしています。国際法に則って、お互いに冷静に公正かつ平和的な解決を目指すというのが基本的な姿勢であります。領土の問題については、こういう扱いです。その他のことについては、いろいろ指摘はされておりますけれども、具体的に何かをするということを決めているわけではありません。ただし、今、御指摘のあった日韓の通貨スワップ協定については、これは期限が10月までになっています。ということでありますので、今の段階で、その後どうするかについては、今日、国会の答弁でも申し上げましたけれども、白紙であります。 
記者会見 / 平成24年9月7日
1月から始まりました通常国会も、229日間という長丁場でありましたけれども、会期末を迎えるに至りました。
国会冒頭の施政方針演説において、私は、決められない政治からの脱却を目指すと申し上げました。その象徴的な課題である、社会保障と税の一体改革の8つの関連法案を成立させることができましたのは、この国会の最大の成果であると思っております。
8つの一体改革関連法案は、社会保障を安定財源で支え、将来につけ回しを続ける社会を変える先鞭をつけるものであります。子ども・子育てで3本、年金で2本、改革推進法と税法2本により、社会保障の機能強化にも大きな一歩を踏み出すことができました。
ほんの数カ月前までの国会の情景を思い浮かべていただければと思います。昨年末に素案をまとめ、その時点では、与野党が話し合いをする道筋すら見えておらず、野党に協議を呼びかけることから始めなければなりませんでした。ねじれ国会の荒波にもまれ、政局は紆余曲折をたどり、責任与党、民主党の同志、連立与党の一翼を担う国民新党、そして谷垣総裁、山口代表のリーダーシップによる自公両党の御賛同により、紆余曲折はございましたが、一体改革関連法案は成立をいたしました。この事実は、政治家が使命感と覚悟を持ち、大局に立って取り組めば、政治の停滞は打破できることを証明していると思います。やればできるのであるということを体感することができました。これを契機として、これからも決断する政治を、日本の政治の日常的な光景として定着させなければならない。そうした思いを新たにしているところでございます。
今国会においては、一体改革関連以外にも様々な分野で意義ある法律が数多く成立していることを強調したいと思います。身を切る改革の1つ、国家公務員の給与削減法、地域を支える郵便局の利便性を高め、復興財源の捻出にも資する郵政改革法、非正規雇用の安定に資する労働者派遣法、労働契約法の改正、全員参加型社会の実現に向けた高齢者雇用安定法の改正、沖縄振興の新機軸を打ち出した沖縄振興特措法と跡地利用法、先日の記者会見でも申し上げさせていただきましたけれども、我が国の離島の監視保全に不可欠な海上保安庁法改正などなどであります。
社会保障と税の一体改革は、経済再生、政治・行政改革と同時に包括的に進めるべき課題だと、これまで繰り返して申し上げてまいりました。社会保障のあるべき姿のうち、さらなる議論の詰めが必要な点については、国民会議での検討に委ねられています。1年間という国民会議の設置期限のカウントダウンは既に始まっております。早急に先の三党合意を踏まえ、議論を始めなければなりません。
また、消費税引き上げの前提条件である経済の好転を実現すべく、日本経済の再生にも確かな道筋をつけていかなければなりません。
さらに、震災復興の取組みと原発事故との戦いは、1日たりとも中断をするわけにはいきません。
そして、我が国の周辺海域で主権に関わる事象が相次いでいる最中に、政治的な対応に空白をつくることは、国益の観点から絶対に避けなければなりません。
この会見後、APEC首脳会議に参加をするため、ウラジオストクに向けて出発をいたします。アジア・太平洋地域の貿易投資の自由化の課題について、首脳同士の議論に参加し、我が国の立場を発信するとともに、国益の観点から果たすべき重要な職責の一つだと思っております。
国会の最終盤の局面において混乱もあり、決めるべき課題のいくつもが残されたまま、残念ながら国会を閉じなければならなくなってしまいました。今国会の会期内に成立がかなわなかった重要法案の処理を、急がなければならないと思います。
第一に、特例公債発行法案であります。一般会計の約4割は特例公債によって賄われており、どんな政権であっても特例公債なしで財政運営を行うことは不可能であります。今国会において残念ながら野党の御協力をいただけませんでした。このため、国民生活の影響が出ないよう配慮しつつ、経費の執行を可能な限り後ろ倒しするという対応をとらざるを得ません。このままでは様々な分野で大きな影響が出てくる恐れがあります。野党にも危機感を共有してもらい、次期国会において速やかに可決していただくよう願ってやみません。
第二に、一票の格差の是正と国会議員の定数削減を含む選挙制度改革であります。これらの実現はまさに国民の声であり、早急に各党会派の理解と協力を得ていきたいと思います。
政治に対して、そして民主党に対して、実に厳しい声があることは肌身で感じています。今、やるべきことを粛々と一つ一つ実行に移していくことで、国民の信頼を勝ち得ていくしかありません。経済再生、行政・政治改革と包括的に進めるべき一体改革はまだまだ未完成であります。震災復興と原発事故との戦いも、道半ばであります。
これらを最終的に成就させる道筋をつけるために、依然として多くの課題が残っています。私には、こうした国政の重要な諸課題を中途半端な形で放置することはできません。この未完の一体改革や道半ばの震災復興をはじめ、日本が抱えている残された課題とこれからも格闘をし、克服していくという職責を引き続き担ってまいりたいと思います。
そうした決意を新たにしたことを申し上げ、私からの冒頭発言とさせていただきます。
【質疑応答】
● TBSの山口です。よろしくお願いします。解散について3つ、御質問させてください。まず、総理は今国会で、マニフェストにない消費税増税を含む一体改革案を成立させました。だとすれば、今国会中、すなわち今日、衆議院を解散して国民の信を問うべきだという意見があります。これについてどうお答えになりますか。それから、野党の問責決議案が成立した状況の中では、いくら言っても、今後、重要法案とか重要案件の処理は、今までよりも厳しくなると思われます。それでも解散しない理由はなぜか。解散した方が、例えば特例公債、選挙制度も結果的にはより早く進むのではないかという見方は多いと思います。こういう意見についてどうお考えになるか。3つ目は、こういう状況の中でも解散をしないのは、今、選挙をすれば民主党が惨敗をするだろうという予測の下で、総理が国民生活よりも永田町の論理を優先しているのではないかと考えている国民は多いと思います。こういう疑問にどうお答えになりますか。
3つということですが、すなわち解散についてどう考えるかだと思います。いろんな観点からの解散についてのお尋ねがございますが、これは言うべきことは1つであります。やるべきことをしっかりやり抜いた後、然るべきときに国民の信を問う、それ以上、それ以下でもありません。
● 今国会でマニフェストにない消費税増税法案を成立させたら、今国会で解散する方がわかりやすいと思うのですが。
そういう御意見もあるかもしれませんが、やらなければいけない課題はさっき申し上げました。やらなければいけないことをちゃんと責任を果たして行う、その暁に信を問うということであります。
● 毎日新聞の松尾と申します。よろしくお願いします。エネルギー政策について、3つお伺いします。民主党が今日、2030年代の原発稼働ゼロを目標とする提言を総理に提出されたと思いますけれども、政府が正式に方針を決めるのは、今後のエネ・環会議になるということは承知をしていますが、現在の総理のお考えとして、国民の間から原発ゼロを求める声が非常に多いということも踏まえて、こうした党の方針に足並みをそろえる形で政府の方針を決めるべきだとお考えでしょうか。それが1つ。2つ目は、党の提言には、原発ゼロを達成するための具体的な工程表というのがあまりないのではないかという声もあるわけですけれども、現在、原発を補っている火力発電に加えて、特に将来伸びが未知数な再生可能エネルギーの開発で、どこまで原発を補えると総理はお考えなのでしょうか。3つ目に、原発ゼロを目指す場合に、これまで蓄積された使用済み核燃料が青森県などから返還したいと言われる可能性もありますが、核燃料サイクル政策を維持しないという選択肢は政府として取り得るものなのでしょうか。
まず、将来のエネルギー政策をどうするかということは、去年ああした事故もあった中で、国民の皆様も高い関心を持っていらっしゃいます。そして、今、国民的な議論が展開をされているという状況でございますが、少なくとも過半の国民が原発に依存しない社会を望んでいるということ。その一方で、その実現時期であるとか、実現可能性については様々な意見があるということが確認をされていると思います。
その中で民主党においても、昨日、精力的な御議論をいただいた暁に、原発ゼロ社会を目指してという御提言をまとめました。こうした御提言をしっかりと受け止めて、これから政府として方向性を定めていきたいと考えております。
その中で、御指摘いただいたように、長年、国の原子力政策であるとか、あるいは核燃料サイクル政策を支えていただいた青森県を始め、立地自治体からの御意見も今お伺いをしているところであります。御指摘の再生可能エネルギーの導入拡大については、7月から固定価格買取制度が導入されたところであります。これはなかなかいいスタートを切っていると思いますけれども、日本再生戦略においても主要な柱として掲げているところであり、今後もその導入拡大に向けて、思い切った取組みを進めていきたいと考えております。
● フィナンシャル・タイムズのミュア・ディッキーです。最近、竹島と尖閣問題が出ている中で、玄葉外務大臣によると、APECサミットで総理は、韓国や中国の首脳と正式な会談を行わないそうです。この理由を御説明いただけますか。また、ロシアのプーチン大統領とは領土問題について、話し合いをされますか。
まず、韓国の李明博大統領及び中国の胡錦濤国家主席との正式な会談は、今のところは予定はされておりませんが、いわゆる立ち話などの機会があれば、我が国の立場を改めてお伝えをすることもあろうかと考えております。それから、ロシアのプーチン大統領とは、明日お会いをする予定でございまして、これは日程が固まっております。北方領土問題について、しっかりと協議をするとともに、経済を始めとする、あらゆる分野で日ロ関係を発展させていくための具体的なお話をさせていただきたいと考えております。
● 産経新聞の加納です。尖閣の国有化の問題についてお聞きしたいのですけれども、国有化、閣議決定は最終的には11日にやるのでしょうか。それと、石原都知事が、尖閣に施設整備をして保全管理を進めろという主張をされていますけれども、国としてはそういった方策をとる可能性はあるのか。また、領域警備の法整備の必要性について、どう認識されているのか、お聞かせください。
まず、尖閣については尖閣諸島の平穏かつ安定的な維持管理を継続をするという観点から、協議を進めさせていただいているところではございますが、その中身の詳細は所有者の権利利益にも関わる部分がございますので、詳細は申し上げられませんが、あるいはその日程についても、現段階で申し上げられるという段階ではございません。一方で、その警備の問題は、先ほどの冒頭の発言でも触れさせていただきましたとおり、海上保安庁の機能強化をするような法律が、今国会のぎりぎりのところで通らせていただきました。まずはこういう形で、海保でしっかりと対応をできるようにするということが、まずは現実的な第一歩だと思っております。
● もうひとつ、施設整備の必要性についてですが。
尖閣諸島の平穏かつ安定的な維持管理をするという観点が第一でありますので、その後のどうするかということは、その後の検討事項だと思いますが、まずは維持管理をしっかりやっていくということであります。
● 読売新聞の湯本です。総理は先ほど、やるべきことをやり抜いた後に解散されると繰り返しおっしゃいましたけれども、非常に重要な法案である特例公債法案は、問責が可決をされたとはいえ、その後、国会の最終盤にわたって、政府や民主党から野党に対して、本気で成立させるという姿勢が余りにも見られないのではないかと。つまり、やるべきことをやられるとおっしゃいながら、やるべきことをやる姿勢がちょっと見えなかったような気がするのですね。同じように、一票の格差も、0増5減をまず自民党も求めていることを考えれば、そこからまずやるということも一つの選択肢としてあるのではないかと思います。そういった考えに総理は立たれるのかどうか、本当にやるべきことをやられていたと言えるのかどうか、その点を教えてください。
特例公債がいつまでも成立をしないということは、さっきは執行の抑制のお話をさせていただきましたけれども、国の財布が空っぽになってしまえば、これは国は立ち行きません。その危機感は、我々は強く持っています。従って、本来ならば3月の段階で、予算は4月にずれ込みましたが、予算と一緒に、この歳入に関わる部分も一体的に成立を果たしたいという強い気持ちを持っていました。その前後からずっと一貫して与野党協議を真摯に呼びかけてきておりましたし、その姿勢に私は疑いを持たれることは大変辛いことであります。一生懸命、協議を呼びかけてまいりました。特に後半の国会においても、まさにそのとおりであります。
そして、一票の格差と定数削減の話でありますが、一票の格差は違憲・違法状態という、これは一刻も早く是正しなければならない段階です。一方で、多くの国民の皆様は定数削減を、まず隗より始めよ、身を切る改革をやれという、この要望も強いのです。それを一体的に合わせた選挙制度改革案で、これを私どもは提案をしていますし、これも樽床代行、輿石幹事長、あるいは城島国対委員長含め、相当長い間、協議呼びかけをし、御理解をいただく努力をしてまいりました。この中身は御案内のとおり、民主党を利するものではありません。むしろ中小政党に配慮したものであって、決して党利党略ではありませんので、引き続き御理解をいただくように粘り強く努力をしていきたいと思いますが、国会は閉じてしまいますけれども、閉会中も、今、申し上げた2つの大事な点については、これはやり抜かなければいけないことの重要なものだと思っておりますので、閉会中も誠心誠意、協議を呼びかけていきたいと思っております。
● ビデオニュースの神保です。総理、原子力規制委員会の人事についてお伺いします。今国会の重要な案件の一つが、原子力安全・保安院に代わる新しい原子力規制庁あるいは原子力規制委員会の発足だったと思いますが、現在、未だにそれが発足しておりません。総理は、この原子力規制委員会の設置法の7条にある例外規定をお使いになって、国会が閉まれば国会の同意を得ないでも発足できるということを使って26日までに発足をされるおつもりかどうかがまず1点目。そして、それがそのような形で、既に国会に人事が提案されているにも関わらず、同意が得られないからといって、閉会を待って、そのような形で閉会中の指名を国会の同意を得ずに得るという行為が、この委員会の正当性に非常に疑問符をつけるのではないかという見方があると思います。これは非常に福島の反省を受けた重要な委員会だと思いますので、なぜ、それがこのような形をとらなければならなくなったのか、それを教えてください。
やはり規制と推進をする側を分離していくということは、ほとんど多くの皆様に御賛同いただく話だったと思います。しかも、規制をする責任ある司令塔としての役割は独立性の強い機関でしなければいけないということが国会の審議の中でまとまりました。それを受けまして、早急にこの規制委員会・規制庁を、早急にというか、9月に予定どおりスタートさせることがまずは何よりも大事だと思います。
残念ながら、その規制委員会の人事については、十分に御了解を国会の中で得られる状況では現時点においてはないということがございましたので、少なくとも、この組織をスタートさせて、現時点において、より安全規制する基準をつくるとかという大事な役割を、放っておいて空白にすることはできないと思います。従って、これは私の指名という形でスタートさせていただいて、然るべきときに国会の同意を得られるように努力をさせていただきたいと考えております。 
記者会見 / 平成24年10月1日
昨晩にかけて、台風17号が列島を縦断し、高潮も相まって、各地で被害が出ました。被害に遭われた方にお見舞いを申し上げたいと思います。また、引き続き土砂災害の警戒も怠らないように国民の皆様にお願いをしたいと思います。
先の民主党代表選挙において、党の代表として再任をしていただきました。以来、党と内閣の新たな体制づくりに熟慮を重ね、本日、内閣改造を行うことといたしました。
今般の内閣改造は、山積する内外の諸課題に対処する上で、政府・与党の連携を一層深め、内閣の機能を強化するために行うものであります。
私から、野田第三次改造内閣の閣僚名簿を発表させていただきます。
副総理兼、行政改革、社会保障・税一体改革、公務員制度改革担当、内閣府特命担当大臣(行政刷新担当)、岡田克也さん。留任であります。
総務大臣、内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策、地域主権推進担当)、地域活性化担当、樽床伸二さん。政治家として長年、地域主権改革に情熱を注ぎ、国対委員長、幹事長代行などの党の要職を歴任されてまいりました樽床さんに、民主党の一丁目一番地の政策である地域主権改革をリードする役割を託すことといたしました。
法務大臣、拉致問題担当、田中けいしゅうさん。民主党のまさに重鎮として国会や党の要職を歴任され、拉致問題にも長年取り組んでこられた田中さんに、国民に身近な司法を実現し、拉致問題に責任を持って対応するという重要な役割を担ってもらうことといたしました。
外務大臣、玄葉光一郎さん。留任。
財務大臣、城島光力さん。財政健全化と経済再生を両立させるという重責を果たしてもらえると期待しております。党政調会長代理、幹事長代理を歴任され、国対委員長としてねじれ国会の難しい局面を取り仕切ってこられた経験を生かし、特例公債発行法案をはじめとする課題の打開に道を開いていただけると考えております。
文部科学大臣、田中眞紀子さん。科学技術庁長官、衆議院の文部科学委員長を歴任されるなど、文部科学行政に通じておられることに加え、持ち前の発信力を政策面で発揮していただくことを期待しています。
厚生労働大臣、三井辨雄さん。厚生労働行政のエキスパートであり、一体改革の取りまとめに当たっても節目で重要な役割を果たされました。国民会議での議論をリードする上でも手腕を振るっていただけると確信をしています。
農林水産大臣、郡司彰さん。留任。
経済産業大臣、原子力経済被害担当、内閣府特命担当大臣(原子力損害賠償支援機構担当)、枝野幸男さん。留任。
国土交通大臣、羽田雄一郎さん。留任。
環境大臣、原発事故の収束及び再発防止担当、内閣府特命担当大臣(原子力防災担当)、長浜博行さん。官房副長官として、縁の下で野田内閣の屋台骨を支えてこられました。福島の再生なくして日本の再生なしという私の思いを、福島の方々の心に寄り添って進めていただける方だと確信をしています。持ち前の確かな調整力と手腕を発揮され、がれき処理や除染、原子力安全の確保などに取り組んでほしいと思います。
防衛大臣、森本敏さん。留任。
内閣官房長官、藤村修さん。留任。
復興大臣、東日本大震災総括担当、平野達男さん。留任。
国家公安委員長、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全担当)、小平忠正さん。危機管理に安定感と緊張感ある対応が求められる中、長い政治経験があり、冷静沈着に困難な課題もこなしていただける方だと思います。消費者問題や食品安全にも国民目線での取り組みを期待をしています。
内閣府特命担当大臣(金融、「新しい公共」、少子化対策、男女共同参画担当)、中塚一宏さん。内閣府副大臣として金融行政に尽力されてきた中塚さんに、引き続き大臣として職務を担っていただきたいと思います。また、少子化対策をはじめ国民生活に密着した課題にも対応していただきます。
国家戦略担当大臣、海洋政策担当、内閣府特命担当大臣(経済財政政策、科学技術政策、原子力行政、宇宙政策担当)、前原誠司さん。成長戦略づくりに熱心に取り組まれ、政調会長として政策全般を束ねてきた前原さんに、政府全体の司令塔として日本再生戦略の実現と切れ目ない経済対策に力を発揮してほしいと思います。
郵政民営化担当大臣、内閣府特命担当大臣(防災担当)、国民新党の下地幹郎さん。郵政民営化法に基づき、郵政改革は実行段階に入っております。先の大震災を踏まえた全国的な防災対応の強化も含め、下地さんの突破力に期待をしています。
内閣官房副長官は、大臣になる長浜さんの後任に、参議院から芝博一さんを新たにお迎えをいたします。齋藤、竹歳両副長官、法制局長官は留任となります。
以上が野田第3次改造内閣のメンバーであります。留任される閣僚におかれましても、引き続き職責を十分に発揮してほしいと思います。
なお、本日、午後5時からの認証式を経て、正式に任命される運びとなります。初閣議は午後7時15分からを予定をしています。
野田内閣の前途には、乗り越えていかなければならない政策課題が、なお山積をしています。足元では、何よりも特例公債発行法案の処理であります。このままでは政府の財布が空っぽになり、国家機能が制約され、国民生活に悪影響が出る事態も避けられません。そして、未完の一体改革を最後までやり抜くことであります。先の3党合意に基づき、社会保障の残された課題について、超党派で議論を煮詰めていかなければなりません。国民会議での議論を早急に立ち上げる必要があります。
また、1票の格差の是正と国会議員の定数削減を含む選挙制度改革は、早急に片づけるべき前国会からの宿題であります。
さらに野田内閣は、昨年に発足して以来の最重要課題である震災復興、原発事故との戦い、日本経済の再生という、まだ道半ばの課題に全力を尽くしていくことは不変であります。そして、我が国を取り巻く外交安全保障上の課題も多岐にわたり、危機管理面も含め、引き続き、緊張感をもって対応していく必要があります。
新たな陣容のもとで政府与党がまさに一体となり、内外に山積する課題を克服するチーム力を最大限に発揮していきたいと考えています。そして、決断する政治を一歩でも二歩でも前に進めていくことが国民の負託に応える唯一の道であると考えます。
なお、本日、米軍の新型ヘリコプターオスプレイが岩国飛行場から普天間飛行場に移動を開始しました。本件に関する私のメッセージを先ほどの官房長官会見で公表させていただきました。日本政府として、安全性を十分に確認できたと考えています。また、今後の運用に当たっては、安全性はもとより、地域住民の生活に最大限の配慮を行うことが大前提であります。同時に戦後から続く沖縄の皆様の御負担は国民全員で受け止める必要があると改めて感じています。
こうした視点に立ち、普天間飛行場の1日も早い移設返還をはじめ、沖縄の負担軽減や振興に一層力を入れていくとともに、オスプレイの本土への訓練移転を具体的に進めるなど、全国で負担を分かち合うよう努力を重ねていきたいと思います。どうか国民及び地元の皆様の御理解をお願いをいたします。
【質疑応答】
● 幹事社の毎日新聞の松尾と申します。よろしくお願いします。今回の改造の狙いとして、先ほども内閣の機能強化ということを挙げられましたが、陣容を見ると閣僚18人中10人と大幅に入れ替えたり、党の執行部と閣僚を入れ替えたりするという人事も目立っています。これまでの内閣で具体的に何が不足していたから機能強化するということをお考えなのかということが一つ。それと、特に田中眞紀子さんを文部科学大臣に起用されたことについて、先ほどは特におっしゃいませんでしたが、険悪化する日中関係へのことも考慮されての起用なのでしょうか。さらに、先の党代表選で対立候補だったお三方に近い議員の方は、今回は入閣されませんでしたけれども、内外から今回の人事は論功行賞だというような批判も出ていますが、今後の党内融和、離党者対策、こういったものにどういうふうに取り組まれるおつもりでしょうか。
まず最初に、今までの内閣が何か不足していたのかというお話でありますけれども、それはありません。復興、原発事故との戦い、日本経済の再生に向けて、懸命に取り組んできたし、デフレ脱却のために日本再生戦略を閣議決定、あるいは福島の復興再生基本方針を閣議決定する等々、この第2次改造内閣以降もそういうことをちゃんとやってまいりましたし、何よりも大きな山だった社会保障と税の一体改革の関連法案を成立させたメンバーでありますので、何かが不足したというよりは、大きく改革の一歩も二歩も踏み出せることをつくり出した内閣であったと私は思っております。
その上で、9月はいつも代表選があった後には、これは与党になってからは政府の人事、党の人事、国会の人事等を一体的に行って、よりバランスをとりながら、それぞれの力を強めるということをこれまでやってまいりました。今回はそうした一環での特に内閣の機能の強化を図るという位置づけでございます。
それから、田中文部科学大臣を選んだ理由として、日中関係云々のお話がございました。外務大臣に選んだのではありません。先ほど、冒頭御説明したとおり、これまで科学技術庁長官を務められたり、衆議院で文部科学委員長を務められたり等々、この分野でも大変経験を蓄積をされてきている。そのことをいじめの問題とかそういう課題で、果敢にそれを取り組んでいただきたいという思いからであって、日中関係云々で文部科学大臣を選ぶということはあり得ません。
それから、代表選で出られた方を選んでいないということの御指摘がございましたけれども、代表選を戦った方が仮に負けたら、閣内に入りたいという御希望があったのかというと、決してそうではないと思います。それぞれ閣僚経験者で、力を持っていらっしゃる方だと思いますが、代表選を通じて私にいろいろ御指摘いただいたことをしっかり踏まえて、これから政権運営、党運営をすることが、先ほどの挙党一致体制であるとか、あるいは離党者が出ないようにすることとかにつながるものだと思いますので、閣僚に代表選に出られた方が入っていないから云々という御指摘は、そうではなくて、その心はちゃんと受け止めながら、これからの運営をしていきたいと思いますし、これから副大臣、政務官の人事等もこうしたバランスはちゃんととっていきたいと考えております。
● TBSの法亢と申します。よろしくお願いします。自民党と公明党との党首会談についてお伺いします。総理は、党の体制づくりが整ったら申し入れますとおっしゃっていましたが、日程についてはいつごろお考えでしょうか。また、野党の幹部は、党首会談の際には、「近いうちに」とした解散の時期の言質を取りたいとしています。総理は先の国会で、自民党が問責に同調した後に、状況に変化があるとおっしゃいましたけれども、解散の時期について、今回の党首会談では、前回と認識を変えた言及をされるという理解でよろしいのでしょうか。あと、臨時国会の先送り論が今、出ていますけれども、招集についても、これはまた野党側とどのような調整をして、いつごろの招集を考えていらっしゃいますでしょうか。
まず、党首会談ですけれども、今日閣僚人事発表、明日が副大臣、政務官で、今週末あたりが常任幹事会を開いて、党の人事の最終的な確定となりますので、そういうものを踏まえて、もう既に決めさせていただいた幹事長、国対委員長を中心に、党首会談の持ち方等を含めての協議を始めさせていただきたいと思いますので、まだ今いつかと言える段階ではございません。もし党首会談が実現した暁には、私のほうからは、先ほども少し触れさせていただきましたけれども、前国会からの宿題があります。特例公債法案、あるいは1票の格差、定数削減を含んだ選挙制度改革、さらには社会保障と税の一体改革の関連で、早くスタートさせたほうがいいもの。こういうものをまずどうお考えなのか議論をすることが大事ではないかと思いますので、それをもって、どこまで意思疎通をしながら、ある程度、合意形成の可能性等があるのかどうかを含めて、次の国会をいつ開くのかどうかという判断につなげていきたいと考えております。なお、その党首会談の際に、私から解散の時期云々とかということを言及するということはないです。
● AFP通信社の長谷川と申します。領土保全の問題、特に中国との関係についてお聞きします。首相は、領土保全の問題については、国際法に従い、平和的な原則に従って解決するとおっしゃっていまして、韓国に対しては、竹島の問題は国際司法裁判所に共同付託することを提案していらっしゃいますけれども、尖閣諸島の問題については、これは我が国固有の領土であり、領土問題は存在しないとおっしゃられていますが、これによって具体的に日中の戦略的互恵関係をどのように発展させていくという道筋がどうもよく見えていないかなという印象を受けるのですが、仮に中国側から、国際司法裁判所のほうに共同付託等の提案があった場合、受けられますでしょうか。また、受けられないで、領土問題は存在しないという原則を貫かれる場合ですけれども、これは竹島問題について韓国がとっている立場と同様であるという批判を免れないのではないかという意見もありますが、どのようにお考えでしょうか。
いっぱい色々なお話が含んでいるように思いますけれども、先般、ニューヨークの国連総会で一般討論演説の中で私が申し上げたのは、残念ながら、今、国と国の間で領土、領海をめぐって衝突するようなことが起こり得ます。その際には、国際司法機関などを使って、あくまで理性的に、平和的に解決することが望ましいし、日本はそういうことを遵守していると、最重要視しているということを主張させていただきました。この考えが基本にあります。
その中で、例えば竹島の問題については、これは我が国の歴史上、国際法上も固有の領土であるのですが、実効支配は今、韓国が行っています。それに対しては、国際司法裁判所に共同付託するように働きかけを行ってまいりましたけれども、残念ながら、応じていただいてはおりません。これは残念なことでありますけれども、現実に領有権の問題が発生をしていると、我が国の固有の領土であるということをちゃんと国際司法機関の中で白黒はっきりしましょうよというのが我々の立場です。
一方で、尖閣については、これは国際法上も歴史上も我が国の固有の領土であるということは間違いないという上に、今、有効支配しているという現実があります。したがって、これは領有権の問題は存在はしないというのが我々の立場であります。
この基本的な立場は堅持していきたいと考えています。堅持しなければいけないと思っています。その上で、やはり冷静に、理性的に対応するという意味においては、中国も独自の主張がありますけれども、これはさまざまなチャネルを通じて、対話を通じて、やはりどうやっていわゆるクールダウンをさせていくかということを、その可能性を探るということが今、大事ではないかと認識しています。
だから、日本はこの尖閣の問題について、領有権の問題は存在しないわけですから、竹島と同じように、主導的にICJに対して、いわゆる付託をするということは考えません。中国はどうかというと、これまで国際司法裁判所に付託をしようとしたことはありません。現実に今、その動きもありませんので、今、御指摘をいただいたような国際司法裁判所を通じてどうのということは、今、具体化している状況ではないと思っています。
● 中国がICJに付託があったというのは。
わかりません。今、その動きは全くありません。 
野田首相 党首討論で「16日に解散」表明

 

野田首相「16日に解散」党首討論で明言 定数削減を自民確約なら (2012/11/14)
野田佳彦首相は14日午後の党首討論で、今月16日に衆院解散に踏み切る意向を表明した。自民党が赤字国債発行法案と衆院の「1票の格差」是正法案の早期成立、衆院定数削減を来年の通常国会中に結論を出すことについて確約することなどを条件に掲げた。16日に解散すれば衆院選は「27日公示―12月9日投開票」か「12月4日公示―16日投開票」となる見通しだ。
首相は自民党の安倍晋三総裁との討論の中で、赤字国債法案の週内成立とともに、衆院小選挙区の1票の格差を「0増5減」で是正する法案の早期処理での協力を要請。民主党が比例定数40削減を訴える定数削減では、先送りする場合でも国会議員歳費を削減しながら来年の通常国会で結論を出すことを提案した。
そのうえで「必ずやると決断してもらえるなら、今週の16日に衆院を解散してもいいと思っている」と明言した。首相は16日の解散について「ぜひやり遂げたい」とも強調。公明党の山口那津男代表との討論でも同様の提案をし、山口氏は前向きな姿勢を示した。
民主党は14日に「1票の格差」是正と定数削減を含めた衆院選挙制度改革関連法案を国会に提出。首相は自公側に定数削減の実現を条件に掲げて身を切る改革を強調し、「攻めの姿勢」で衆院選に臨む狙いがある。
首相は11日、年内に解散する意向を民主党の輿石東幹事長に伝達。民主党内には反対論が根強く、13日の党常任幹事会では「党の総意」として年内解散に反対することを決めている。
藤村修官房長官は14日午後の記者会見で、野田佳彦首相が16日に衆院解散に踏み切る意向を表明したことについて「(16日に解散)『します』という言葉だったと受け止めている」との認識を示した。衆院選の投票日は野田佳彦首相や民主党の輿石東幹事長らが出席する今夕の政府・民主三役会議で決める方針を明らかにした。
衆院選の投票日は12月9日か16日が有力とみられる。藤村長官は「選挙するのは時間がかかる。在外投票もあるし、相当準備期間がいる」と語った。
「16日解散やりとげたい」首相、党首討論で明言 (2012/11/14)
野田佳彦首相は14日午後の党首討論で、自民党が衆院の小選挙区「一票の格差」是正と定数削減を確約すれば「16日の(衆院)解散をぜひやりとげたい」と明言した。民主党内では解散反対論が拡大しており、首相への退陣要求が強まるのは必至だ。
党首討論に先立ち、首相は14日午後、官邸で約20分、民主党の輿石東幹事長と会談し、今月中に衆院を解散し12月16日に衆院選を実施したいと伝えた。
首相は自身が衆院解散の条件に挙げた3課題のうち、公債発行特例法案と社会保障制度改革国民会議の2課題にめどがついたことを踏まえ、自民、公明両党首と交わした「近いうち」の解散合意を実行する考えを説明したとみられる。
民主党は14日、首相が衆院解散の条件に挙げる選挙制度改革の関連法案を衆院へ提出した。衆院の「1票の格差」是正に向けた小選挙区「0増5減」と、比例代表定数40削減などを盛り込んだ。自民党は格差是正の先行を求めており、民主党が0増5減部分の分離処理に応じるかが焦点だ。民主党は先の通常国会で同じ内容の法案を提出したが、自民党などの反対で廃案になった。
一方、民主党の「TPPを慎重に考える会」の山田正彦元農林水産相らが14日、輿石幹事長と国会内で会い、首相が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への参加を掲げ、解散に踏み切る意向を示していることに抗議する文書を手渡した。
輿石氏は「年内解散はあってはならない。『TPP解散』と呼ばれる解散はしてはいけない。交渉参加表明には慎重に対応するよう首相に伝える」と理解を求めた。この後、山田氏は記者団に「交渉参加を表明したら、みんなで覚悟をもって次の行動に移る」と集団離党を示唆した。
野田首相 党首討論で「16日に解散」表明 (2012/11/14)
野田佳彦首相は14日、国会での党首討論で自民党の安倍晋三総裁に「16日に解散します」と明言した。これにより、衆院は16日に解散される見通しとなった。憲法の規定で解散の日から40日以内に衆院選は行われる。
前回衆院選は09年8月に行われ、同9月に民主党政権が誕生した。政権交代から3年余りで再び衆院選が行われることになり、マニフェストの破綻などで批判にさらされる民主党政権の実績が問われる選挙となる。
党首討論では、野田首相が8月8日に自民党の谷垣禎一前総裁との会談で約束した「近いうち解散」をめぐり、安倍氏が「約束の期限は大幅に過ぎている。一日も早く国民に信を問うことを勇気を持って決断していただきたい」と迫った。これに対し野田首相は▽赤字国債発行に必要な特例公債法案を今週中に成立させる▽衆院小選挙区の「1票の格差」を是正する「0増5減」の法改正を今国会で実現させるとともに、来年の通常国会で大幅な定数削減を図る−−ことなどを安倍氏が確約すれば「今週末16日に解散してもいい」と提案した。
安倍氏はこれらの確約に応じなかったが、首相は「後ろに区切りを付けて結論を出します。16日に解散します」と明言し、「覚悟のない自民党に政権は戻さない」と次期衆院選への決意を示した。
民主党内では輿石東幹事長を中心に解散反対論が広がっているが、首相は公明党の山口那津男代表との討論でも「16日解散をやりとげたい」と述べた。
内閣支持率が低迷する中で野田首相が16日解散を決断したのには、日本維新の会など「第三極」勢力の選挙準備が整う前のタイミングを狙い、民主党が議席を減らす幅を最小限に抑える思惑がある。民主党内では第三極新党への参加を目指す離党の動きが続いており、内閣不信任決議案の可決などで政権運営が難しくなる懸念もあった。
野田首相 異例党首討論、安倍氏の虚を突く (2012/11/14)
野田佳彦首相は14日、わずか2日後の「電撃解散」を宣言した。「近いうち解散」を約束してから3カ月。国会の党首討論で衆院解散の時期を明示する異例の展開となった。
安倍晋三・自民党総裁「もうクリスマスセールが始まろうとしている。約束の期限は大幅に過ぎている」
党首討論の冒頭、安倍氏は笑みを浮かべながら決断を迫った。
これに対し首相は解散確約の条件として衆院の定数削減を突きつける攻勢に出た。
首相「1票の格差(是正)と定数削減も今国会中に実現する。それを約束いただければ、今日、具体的に提示させていただきたい」
あいまいな答弁を想定していた安倍氏は慌てた。首相が解散時期を提示する意向を示したのに「私の質問には全く答えていない」と批判し、格差是正を定数削減と切り離して処理するよう求めた。
「身を切る改革」で自民党との違いを訴え「追い込まれ解散」の印象を少しでも薄めようと「ばくち」を打った首相。来年の通常国会での定数削減などを迫ったうえで初めて解散時期を口にした。
首相「国民の前で約束してほしい。決断いただくなら今週末の16日に解散してもいい」
安倍氏「今、私と野田さんだけで決めていいはずはない。議論をすり替えている」
即答しない安倍氏に自民党内から「首相が解散まで踏み込んだことをまず評価すべきだ」(中堅議員)など不満の声が漏れた。
首相「後ろに区切りを付けて結論を出そう。16日に解散します。やりましょう、だから」
退路を断った首相の発言に安倍氏はようやく呼応した。
安倍氏「それ約束ですね、約束ですね、よろしいですね、よろしいですね」
電撃解散を武器に討論を優勢に進めた首相は衆院選への決意の言葉で締めくくった。
首相「覚悟のない自民党に政権は戻さない。その覚悟で頑張る」
公明党の山口那津男代表は討論後、「野田さんの政治家としての姿勢はずっと信頼していたが、きょう改めて示された」と首相の決断を高く評価した。
野田首相、党首討論で異例の宣戦布告12月16日に衆院選 (2012/11/15)
ついに解散へ―。野田政権は衆院選を12月4日公示、同16日投開票と決定した。野田佳彦首相(55)は14日の党首討論で自民党の安倍晋三総裁(58)に対し「(衆院の)定数削減をするならば、今週末の16日に解散をしてもいいと思っております」と表明。これまで「近いうち」としてきた解散時期について、初めて明言した。衆院選が行われれば、政権交代した2009年8月以来約3年ぶり。同日に行われる東京都知事選と「ダブル選」になる。
午後3時から始まった党首討論。テレビ中継もされる中、安倍氏が声を張り上げた。
安倍氏「(約束の)期限は大幅に過ぎている」
当初は防戦一方の野田首相だったが、討論が20分を過ぎたころ、安倍氏をにらみつけるように切り出した。
野田首相「国民に消費税の負担をお願いしている以上、(衆院議員の)定数を削減する道筋を付けなければいけない。ぜひ協議して決断するなら、私は今週末16日に衆院を解散してもいいと思っております。ぜひ国民の前で約束してほしい」
静まりかえった室内が「おおっ」とどよめく。党首討論で首相が解散時期を明示するのは、異例中の異例だ。
8月に民主、自民、公明の3党党首で「近いうち解散」に合意してから3か月。野党から「うそつき」の集中砲火を浴びていた野田首相は、この日の党首討論でこう述べた。
野田首相「小学校の時に、家に通知表を持って帰った時に、とても成績が下がっていたので、オヤジに怒られると思いました。でも、オヤジは、なぜか頭をなでてくれた。(通知表に)『正直の上に、ばかがつく』と。もともと、ウソをつくつもりはありません」
そして、鳩山由紀夫元首相が米軍普天間基地の移設問題で米国側に示した「トラスト・ミー(信じてほしい)」を持ち出し、こう続けた。
野田首相「『信じてください』と。残念ながら『トラスト・ミー』という言葉が軽くなってしまったのか、近いうちに、この討論の中で明らかする」
そして示された16日解散。真意を確かめようと、安倍氏が再度、「この混乱に終止符を打ち、新しい政治を始める決断だ」と迫ると、こう応じた。
野田首相「民主党の定数削減の提案は中小政党に配慮している。民主党にとってプラスではない。各党の理解を得るべく努力して早く結論を出す。ぜひ、協力してやろう。そのことをもって16日に解散する!」
安倍氏「16日に選挙をする。約束ですね?よろしいですね?よろしいんですね?」
首相の大胆な提案に動揺したのか、16日解散を16日選挙と言い間違えた安倍氏は、最後にこう切り返すのがやっとだった。
安倍氏「選挙戦で相まみえることを楽しみにしている」
野田首相「覚悟のない自民党に政権は戻さない。その覚悟で我々も頑張る」
公債発行特例法案の成立と社会保障制度改革国民会議はこの日、民主、自民、公明の3党で合意。最高裁が「違憲状態」とした衆院小選挙区の「1票の格差」是正と定数削減にも自民党側が応じ、12月4日公示、同16日投開票が決まった。
支持率が低迷する民主党、政権奪還を狙う自民党。そして、第三極を目指す日本維新の会、太陽の党、みんなの党…。政界再編含みでの衆院選がいよいよ始まる。
党首討論で見えた野田総理・安倍総裁の「覚悟のなさ」 (2012/11/16)
本日の午後、衆議院本会議が召集され、衆議院は解散されます。
11/14の党首討論で、野田総理が乾坤一擲、自民党の安倍総裁に対して、「国会議員定数削減を来年度通常国会で必ずやり遂げる、それまでの間は議員歳費を引き下げるということを約束すれば、16日にも衆議院を解散する」と迫りました。
それに対して安倍自民党総裁はしどろもどろ。一切、議員歳費の削減については触れることなく、「思いつきのポピュリスト政党」「議論をすり替えている」等の発言に終始し、その場で定数削減までの間の議員歳費2割削減について約束すると明言することができず、結局、党首討論後に全面的に協力すると発表して、実質的に16日の解散が決まったわけです。
「解散」をすでに決断していた野田総理に比べて、その程度の決断も党首討論で行うことができない安倍総裁の覚悟のなさが印象的なシーンでした。最後には野田総理に「覚悟のない自民党には政権を戻さない」とまで言い放たれてしまいました。
しかし、少し変ではないでしょうか。野田総理には覚悟はあるのでしょうか。
「身を切る改革」。国会議員定数削減と歳費削減はどちらもやるべきなのではないでしょうか。国民に増税をお願いする立場の国会議員が率先垂範を行う、その姿勢を国民は見ているのではないでしょうか。
「マニフェスト2010」で、民主党は「衆議院議員定数80名削減」を明記しています。しかし国会議員の歳費については何も触れておらず、「国会議員の経費を2割削減する」とし、その中身は歳費の日割り化、委員長手当の見直し等としています。ですので、議員歳費そのものの削減はマニフェストでは明記していません。
一方の自民党は「J-ファイル2010(マニフェスト)」で、国会議員定数は「3年後に1割削減、5年後に3割削減」と明記されていますが、やはり議員歳費削減については一切に言及がありません。
どちらの政党も国家公務員人権に2割削減は明記していますので、ともに働く国家公務員には2割削減を強要するのに、国会議員は何もなしという内容になっています。
みんなの党は、国会議員定数は衆議院議員は180名削減を選挙制度改革の中ですでに提案し、また、国会議員歳費3割削減(加えてボーナス5割削減)法案をすでに何度も国会に提出しています。
そうした我々みんなの党の考えからすると、今回の党首討論は何と「覚悟のない」やり取りがなされていたかが良くお分かりかと思います。
消費税増税の是非を問うために、そして景気がすでに後退局面に入っている恐れがあると指摘されている現時点の状況下、経済下支えのための補正予算を編成することなく、野田総理が決断した「解散・総選挙」のための条件として、野田総理は「歳費削減を定数削減までの間のみ行う」ことを安倍総裁に迫り、そして安倍総裁はその場で決断することすらできなかった。これが今回の党首討論の正体です。
デフレ状況下での消費税増税に賛成した民主党・自民党の「身を切る改革に対する覚悟のなさ」が滲み出た党首討論だったと思います。
定数削減が実施されたら議員歳費は元に戻りますが、消費税増税はずっと上がったままで、決して元の5%には戻りません。
国民の皆さんは、衆議院選挙でしっかりと審判を下していただきたいと思います。 
記者会見 / 平成24年11月16日
本日、衆議院を解散いたしました。
この解散の理由は、私が政治生命をかけた社会保障と税の一体改革を実現する際に、実現をした暁には、近いうちに国民に信を問うと申し上げました。その約束を果たすためであります。
政治は、筋を通すときには通さなければならないと思います。そのことによって、初めて国民の政治への信頼を回復することができると判断したからであります。
予算が国会で通っても、その財源の裏付けがなく執行できない、あるいは身を切る改革は誰もが主張していても、国会議員の定数の1割の削減もままならない。そうした決められない政治が政局を理由に続いてまいりました。その悪弊を解散することによって断ち切りたい、そういう思いもございました。
私が判断をすることによって、懸案であった解散のための環境整備と言ってきた特例公債法案、一票の格差是正と定数削減、その道を切り開くことができたと考えております。
さて、今回の総選挙の争点を語る前に、少し私が昨年の秋に総理に就任して以来の約440日間を振り返ってみたいと思います。
一心不乱に国難とも言えるさまざまな課題にぶれずに、逃げずに、真正面から同志の皆さんとともに立ち向かってまいりました。ねじれ国会である中で、動かない政治を動かすために、全身全霊を傾けてまいりました。政治を前へ進めようと思いました。大変険しい山でありましたが、その道を一歩一歩進もうとしました。
険しい山だった理由はいろいろあります。何よりも、膨大な借金の山、長引くデフレ、いずれも自民党の政権からの負の遺産です。これはとても大きいものがありました。加えて、欧州の債務危機、あるいはさまざまな災害等々の困難もありました。そういう問題を一つ一つ現実的に政策を編み出し、推進をしてきたつもりであります。
現実感のある解決策を見出して、国民の皆様に安心をしていただけるよう、最善を尽くしてまいりました。しかし、政権交代を通じて成し遂げようとした改革も、そして私の内閣の中で大きな命題としてとり上げた「福島の再生なくして日本の再生なし」と申し上げましたが、震災からの復旧・復興、原発事故との戦い、日本経済の再生、まだ道半ばであります。
こうしたまだ道半ばのテーマを更に前へ進めていけるのかどうか。そうではなくて、従来の古い政治に戻るのかどうか。これが問われる選挙だと思います。
かつて郵政選挙のように、ワンポイントのイシューで選挙を戦ったこともありました。今回の総選挙の意義は、2013年以降の日本のかじ取りをどの方向感で進めていくのかということです。前へ進めるのか、政権交代の前に時計の針を戻して古い政治に戻るのか。前へ進むか、後ろに戻るか。これが問われる選挙だと思います。
前へ進むか、後ろに戻るのか。5つの政策分野で応対をさせていただきたいと思います。
第1は、社会保障であります。私たちは、国民の皆様が将来に不安を感じている大きな要因である社会保障を安心できる、持続可能なものにするために一体改革を成し遂げました。この一体改革は、これまた道半ばです。国民会議を通じて、医療、年金、介護あるいは子育て支援、更に社会保障に対する、将来に対する揺るぎない安心をつくるためにやり遂げなければならないと思います。
一方で、この議論を、丁寧にやってきた議論でありますけれども、振り出しに戻そうという残念な動きもあります。
私たちは、この社会保障を安定させ、強化をするため、充実するための、そしてその財源として消費税を充てるというこの改革をやり抜くこと。この一線は決して譲ることはできません。
2つ目は、経済政策の軸足をどう置くかという選択であります。
自民党は国土強靭化計画、こうした方針のもとでこれからの経済を語ってくると思います。でも、積算根拠もなく総額ありきで、従来のように公共事業をばらまく、そういう政策で日本が再生するとは思いません。私たちはグリーンエネルギー革命、ライフイノベーションの実現、農林漁業・中小企業を伸ばす。コンクリートへの投資ではなく、人への投資を重視して、民の力を育む。そして、雇用をつくり出していく。働くことを軸として、安心できる社会をつくっていく。さらに、狭い国内にとどまらず世界とともに成長をする、世界の需要をとり込む。そのために、国益を守るということを大前提として、守るべきものは守り抜きながら、TPP、日中韓FTA、あるいはRCEP、こうした経済連携を同時に追求し、推進をしていきたいと考えています。こうした経済政策の軸足をどう置くかも問われる選挙になると思います。
3つ目は、エネルギー政策のあり方であります。
昨年の原発事故を受けまして、私たちは2030年代に原発をゼロにする、原発に依存しない社会をつくる、そのための政策資源を総動員をすること、この方向性を決めて、この方針のもとで着実にさまざまな施策を推進していきたいと考えています。一方で、自由民主党はどうか。大きな方向性は10年間かけて決めると言っています。10年も立ち止まっているならば、旧来のエネルギー政策を惰性で行う、それしかないではありませんか。
3番目の争点は、脱原発依存。原発に依存しない社会をつくる、原発をゼロにしていく、その方向感を持つ政党が勝つのか、そうではない、従来のエネルギー政策を進める政党が勝つのか、それが問われる選挙でもあると思います。
4つ目は、外交・安全保障であります。
私たちは大局観を持って、冷静に現実的な外交・安全保障政策を推進をしてまいりました。その姿勢を堅持していきたいと思います。一方で、強いことを言えばいい、強い言葉で外交・安全保障を語る、そういう風潮が残念ながら私は強まってきたように思えてなりません。極論の先には真の解決策はありません。健全なナショナリズムは必要です。でも、極端に走れば、それは排外主義につながります。そうした空気に影響される外交・安全保障政策では日本が危ういと私は思います。
大局観を持って、冷静に現実的な外交・安全保障政策を推進をする、その覚悟を持って、異なる意見のある国があるならば、胆力と度量で相手の首脳と対峙していかなければなりません。強い外交と言葉だけ踊っても何の意味もありません。タフな相手とわたり合って、首脳外交を担っていけるのは一体誰なのか、それも問われる選挙だと思います。
さらに5つ目、これは政治改革です。
今回、一票の格差の是正、違憲状態、違法状態と言われて、なかなか正すことができなかった。定数削減は、3年前に多くの政党が公約をした。でも、実現できなかった。その行き詰まりを打開をするために、おととい、私は党首討論で私の提案をさせていただきました。後ろを決めて結論を得る、それがあって、今回、一票の格差是正と、そして、定数削減に道筋をつけること、定数削減ができるまでの間は議員歳費を2割カットすること、こういう結論を得ることができました。民主党が主導した結果だと思います。どの政党が定数削減に後ろ向きだったのか、どの政党が一番懸命になし遂げようと努力したかは、国民の皆様は御理解いただけるものと思います。
これからも間違いなく定数削減を実現をするために、そして、脱世襲政治を推進するために、私たちは政治改革の先頭に立っていく決意です。世襲政治家が跳梁跋扈する古い政治に戻す、そんなことはあってはならないと考えております。
ただいま、5つの政策分野における方向感、前へ進むのか、後ろに戻るのか、そうしたお話をさせていただきました。こうした議論を大いにこの1か月間やって、国民の皆様の正当なる審判を得たいと思っています。
私たち民主党から公認をされる候補者は、次の選挙よりも次の世代を考えた、そうした候補者がそろうことになると思います。誰がこの国を憂い、真剣にこの国の将来を思い、胆力と覚悟を持って切り開こうとしているか。どういう政治家がそういう思いを持っているのか、どの政党がそういう思いを一番強く持っているのか、ぜひ国民の皆様に御判断を賜りたいと思います。
私たちは、前へ進むか、後ろに戻るかという政治選択の中で、国民のために、明日の安心をつくるために、明日の責任を果たすために、前へ政治を進めるために、全力で戦い抜き、これからの4年間、この国のかじ取りを民主党が担えるように全力を尽くしていく決意であるということを申し上げさせていただきたいと思います。
なお、この解散をした後に、政治空白はつくってはなりません。震災からの復旧・復興は引き続き万全を期してまいります。切れ目のない経済対策もしっかり講じてまいります。外交・安全保障政策、危機管理も万全を期してまいりますことを改めて国民の皆様にお訴えをさせていただき、ぜひこの点については御安心をいただきたいと思います。私からは以上でございます。
【質疑応答】
● 日本経済新聞の四方です。これから選挙で与党として厳しい選挙戦に臨むことが予想されるのですが、今、総理は5つの政策課題ということで、前に進むか、後ろへ戻すのかということで訴えをしていくということをおっしゃっていましたが、その中でもその争点について、5つの政策課題の中でもとりわけ優先して訴えていきたい争点についてはどのようにお考えかということをお伺いしたいと思います。それと、党内で慎重論が強いTPPについてなのですが、今言及もありましたが、TPPの推進について、公約などでさらに踏み込んだ表現をして、争点に大きく挙げていかれるおつもりはあるのか。もう一つ、一体改革についてなのですが、選挙後、一体改革で協力を得た自民党や公明党、この2党との3党路線を更に継続すべきだとお考えでしょうか。さらには、連立などの協力体制が必要だと考えてらっしゃるのでしょうか。
多岐にわたる御質問なので、お答えが漏れたらまた御指摘ください。まず最初に、争点の話でございますが、前へ進むか、後ろに戻るのかという方向感を決める、方向性を決める選挙だと申し上げました。今、特に申し上げた5つの分野は、その方向感の違いがいろんな意味で決定的なところがあると思いますので、こういう議論が軸になってくると思います。その上で、特に経済であるとかエネルギー、こういうものについては、特に国民の皆様も関心が高いのではないかと思っております。
その経済の関連の中で、今、御指摘いただいたTPPについてでございますけれども、これは冒頭の発言でも申し上げましたとおり、これは私の所信表明演説でもこうした表現をさせていただいておりますけれども、FTAAPは内外で合意をされている、まさに目標でございます。アジア太平洋地域において自由貿易をつくる。そのFTAAPを実現するために、TPPと日中韓FTA、そしてASEANも含めたRCEPという経済連携の枠組みがございます。特にTPPについては、国益を守ることを前提にしながら、守るものは守り抜くということを前提としながら、TPPの協定について、そしてさっき申し上げたほかの2つの日中韓FTA、RCEPと同時に推進をする、追求をしていく。これが私どもの基本的な考え方です。
それを他党がどういう表現をするかはわかりませんので、争点になるかどうかは、これはわかりませんが、私たちの立ち位置はそういうことで国民の皆様にお訴えをしたいと思います。
一体改革については、これは3党合意を踏まえてやっていくということです。これは選挙の結果がどうなっても3党間で合意していますので、社会保障について、将来に対して、国民の皆様に安心していただくために、更にゆるぎない安心にしていくために、国民会議などの議論を通じましてしっかり結論を出していく。そこには共同で責任をとっていかなければいけないと思います。それが連立云々ではなくて、あくまで3党で合意したテーマについては共同で責任を持つ。
あえて言うならば、今回の定数削減も来年の通常国会で結論を出すことになっていますから、こういうテーマについても共同で責任を負っていくと、そういうテーマが幾つかあるのではないかと思います。
● 時事通信、佐々木です。まず、今回、定数是正と定数削減についてですけれども、この定数是正については、来月の衆院選では反映されません。これは違憲状態で衆院選に入るわけですけれども、最高裁で選挙無効判決もあり得るという指摘もある中での衆院選になりますが、その正当性についてどうお考えになるかということ。そしてまた、定数削減についてですけれども、きょう、3党で次期通常国会での必要な法改正を行うという覚書を交わしました。ただ、選挙後の枠組みというのが不透明な中で、こうした覚書を交わすということは単なる口約束になりはしないでしょうか。また、総理は党首討論で、通常国会での実現は最悪のケースとおっしゃっていました。最悪のケースを避けるための努力は十分だったのか。その努力をせずにきょう解散したというのは、単に追い込まれ解散を避けるだけの方便に聞こえるのですが、それはいかがでしょうか。
まず、一票の格差、これは違憲状態として適用されてきた中で、今回是正をすることが決まりました。もちろんこれは国民の権利が、投票権がきちっと回復するという意味においては、今回の一票の格差是正を踏まえて、区割りの審議会が開かれて、区割りが行われて、その作業が終わって、確定をして、さらに周知期間が必要です。そこまで完了して、初めて国民の権利は回復するのだと思います。それを待つというのが、一つの筋です。筋だと私も思います。ですが、私は内閣総理大臣の専権事項の解散は縛られないと思います。そういうことも含めて、総合的に政治判断をさせていただいたということでございます。
議員定数については、前回の09年の選挙でも定数削減はさまざまな党が訴えています。その公約を今回守れなかったのです。さっき申し上げたとおり、どの党が守り抜こうとしたのか、そうではなかったのかは今回見えたと思います。だけれども、今回のいわゆる覚書、これももちろん重たいと思いますよ。公党間の覚書。社会保障と税の一体改革だって、こういう覚書を基礎にやっているのです。その覚書があると同時に、党首討論という形で国民の皆さんが見ている前で、党首同士で議論をして約束をしたのです。その約束を守ろうとしない政党があったならば、それは国民から厳しく指弾されるのではないでしょうか。
党首討論という公開の場で約束をしたということの意味は私は大きいと思います。党首会談で言った、言わないではありません。国民の皆様が見ている前で約束をしたのです。したがって、これは必ず来年の通常国会でやり遂げなければいけないし、やり遂げられると思っております。
● ダウジョーンズの関口と申します。自民党の安倍総裁は昨日の講演で、2、3%のインフレ目標設定を主張して、日銀が無制限の金融緩和を決めると発言されました。それを受けて、市場は大幅に動き、円安・株高が進行しましたが、このような市場を大きく揺るがす、最大野党党首の発言について、特に政権を取ろうとしている党の総裁の発言として、総理はどのように受け止められるでしょうか。
御発言の内容の詳細を私が知っているわけではございませんけれども、仮に政府が金融政策の、例えば具体的な方法であるとか、あるいは目標を政府が定めていくという御主張であるならば、それはこれまでの我が国も含めて、世界各国の共通の知恵であった中央銀行の独立性との関係で問題が出てくる可能性があるのではないかと思います。
もちろんデフレを脱却し、経済を活性化するために、政府と日銀が緊密に連携しなければならないことは間違いありません。したがって、私も白川総裁とは何度もひざを突き合わせて意見交換をしてまいりましたし、先般も政府と日銀の間で、デフレから早期に脱却をするということのために、共通のお互いにやらなければいけないことを書いて、そして共通の文書を発表させていただきました。
こうした緊密な関係を持ちながら、日銀の独立性も担保しながら、金融政策を推進してもらう、適時適切、果断に判断をしてもらうことが私は望ましいと考えております。
● 日本テレビの佐藤です。総理おっしゃるとおり、いろいろな政策もこの総選挙で問われますけれども、もう一つ総選挙で次の日本のリーダー、総理を選ぶわけですね。したがって、きょうは節目の日ですので、野田総理のリーダー論、リーダーとしての哲学を、かくあるべし、もしくはリーダーとはどうあるべきか、この1年以上日本を引っ張ってきた立場として、どう考えになってきたかお伺いしたいことが一つです。
さらに、自民党の安倍総裁が、もしかしたら総理になるかもしれません。もしくはきょうの最新情報では合流する可能性が高まっているようですけれども、日本維新の会の橋下さん、さらには太陽の党の石原さん、このお三方についてどう評価されていて、このお三方とは総理はどう違うのかといったところを聞かせてもらえないでしょうか。
私は、日本の内閣総理大臣というのは、あらゆる政策決定の最終的な判断をする立場ですし、そのことに責任を持つ立場です。大変重たい政治決断が続きます。かつてよりもさまざまな困難な課題がある分、特に国論を二分するようなテーマがある分、重たい政治決断をしなければなりません。
そのために必要なことというのは、やはり熟慮した上で判断をしたら、ぶれずに、逃げずに、先送りせずに決断する政治、決断をしたら必ず実行する政治、これが求められていると思います。それが今の日本のリーダーのあるべき姿です。相当に胆力と覚悟が要ります。
という中で、安倍総裁、今いろいろお名前が挙がった第三極の動きの方、どの方を、どう評価するというのは僭越です。それは国民の皆様に御判断をいただかなければなりません。今回は、2013年以降の、さっきこれからの政治の方向性を決める選挙、前へ進めるか、後ろに戻すか、そういう話をしました。幾つかの政策分野の話もしましたけれども、もう一つ問われているのは、今言った観点からの日本の総理大臣、日本のリーダーを選ぶ選挙です。日本のリーダーは誰がいいのか、そういう観点から国民の皆様から正当なる御審判をいただきたいと思います。
● フリーランスの江川と申します。原発の問題について伺いたいと思うのですけれども、今、2030年代には原発ゼロという言葉と、原発に依存しないという言葉が出ました。この2つはちょっと違うと思うのですけれども、具体的にゼロにするという目標をはっきり出すのかどうかということを聞かせてください。今まで閣議決定など、そういうことが土壇場になるとうやむやになってきたという批判がありますけれども、この点についてもどう思うかお答えください。
2030年代に原発をゼロにする。そのための政策資源を投入していく。それが私どもがまとめた革新的エネルギー・環境戦略です。この方針のもとでさまざまな施策を推進していくということであります。これは明確に申し上げておきたいと思います。
● 朝日新聞の佐藤です。これから選挙戦を戦うにあたっての勝敗ラインについてお伺いいたします。先ほど輿石幹事長のほうから勝敗ラインについて、比較第一党あるいは過半数確保は困難だという認識を示されておられましたけれども、総理御自身、勝敗ラインについてどのようにお考えになっているのかというのが1つと、どういった選挙結果になった場合に党代表としての責任をとるお考えか。この2点についてお願いします。
何よりもこれから4年間、私たちに引き続き政権を担わせていただきたい。この国のかじ取りは大事な局面ですから、引き続きかじ取りを私たちに任せていただきたい。そう思って勝利を目指して戦います。その勝利は、まず、比較第一党になるということが何よりも大事だというふうに思います。それができなかった場合というお話がありますが、そうなるようにきょうから戦いですが、私も全国の同志の応援で、誰よりも声をからし、懸命に応対をさせていただき、多くの同志が当選できるように全力を尽くすこと、その責任を果たすことが今、何よりも大事だと思っています。  
 
2012衆院選・ 後講釈諸説

 


党派別当選者数
  民主 自民 未来 公明 維新 定数
当選者

57

294

9

31

54

8

18

2

1

1

0

0

0

5

480

480

小選挙区

27

237

2

9

14

0

4

1

0

1

0

0

0

5

300

300

比例代表

30

57

7

22

40

8

14

1

1

0

0

0

0

0

180

180

公示前

230

118

62

21

11

9

8

5

3

2

1

0

0

9

479

 

自民党を「勝たせすぎた」投票のメカニズム
共同通信社の電話世論調査によると、自民党の完勝に終わった衆院選の結果を「よかった」と評価した人は、わずか33.3%だった。テレビの情報番組でも「民主党は絶対だめだけど、自民党がこんなに取るとは……」「安倍さん(晋三総裁)には期待なんかしていない」といった、驚きや失望を語る“街の声”があふれていた。今回の選挙では、世論の皮膚感覚と結果の間に、大きな隔たりができてしまったようだ。だが、このズレは、起きるべくして起きたともいえる。
「多党乱立」の余波・こちらは負けるべくして負けた民主党
今回の衆院選で自民党の得票率は小選挙区で43.01%、比例代表は27.62%だった。一方、獲得議席は小選挙区が300議席中237議席で79%、比例代表は180議席中57で31.67%。小選挙区の得票率と獲得議席の36ポイント近い乖離が目を引く。小選挙区制は民意を集約して2大政党制に導くとされる。そのため、「死に票」が増えて民意が正確に反映されないという問題点も指摘されてきた。だが今回の得票率と獲得議席のズレは、単に「小選挙区制だから」という理屈だけでは説明できない。2003年、小泉自民党と菅民主党が争った衆院選での自民党の議席と比較してみたい。この時も今と同じ制度で行なわれた。自民党の小選挙区での得票率は43.85%で、今回よりもわずかに上回っているが、獲得議席は168にとどまった。70議席近い差はどこから来ているのか。今回、12党が候補者を擁立した乱立選挙だったのが最大の理由だ。03年は選挙区の大部分が自民、民主両党の事実上の一騎打ちだった。今回は全国で自民、民主、日本維新の会、日本未来の党、みんなの党などの政党が積極的に候補を擁立。この5党がすべて候補を擁立した乱立選挙区は、全国で12に上った。そして、自民党が全勝した。乱立は自民党の得票にも影響はしたが、民主党離党組が大部分の未来と競合したことによる民主党のダメージの方がはるかに大きかった。
第3極は「あきらめ棄権」
小選挙区制度は一般に「過半数の支持を得ないと勝てない」と言われてきたが、今回の自民党候補は、競合に救われて5割よりはるかに低い得票率で当選した。選挙区によっては3割未満で勝ち上がった候補もいた。ちなみに03年、自民党の獲得議席は小選挙区、比例代表あわせて237。公明党の議席を足してやっと過半数という状況だった。今回も同程度の議席だったとしたら、有権者も「想定外」という人は少なかったかもしれない。自民党の議席は、報道各社の世論調査の後押しもあったという分析もある。新聞テレビ各社は衆院選が4日に公示されて2、3日後に世論調査や独自の情勢分析を踏まえ「自民党単独過半数」「自公で300議席」などと序盤情勢を報じた。選挙の事前報道が結果に与える影響については、勝ち馬に乗ろうとしてリードしている方に乗る「バンドワゴン現象」と、リードされている側に同情して肩入れする「アンダードッグ現象」の2通りがある。当選者が1人だけの小選挙区制では「バンドワゴン現象」が起きることが多い。今回もその傾向が現れた。さらに民主党や第3極支持層が「どうせ投票しても死に票になる」とあきらめ、投票に行かなかったという分析もある。59.32%という戦後最低の得票率は「あきらめ棄権」の傍証でもある。民意を集約する選挙制度と多党乱立。そしてマスコミのアナウンス効果。この3つに守られて自民党の294議席が実現したことになる。
小選挙区制「見直し論」も
選挙結果を受けて、小選挙区制の是非が問われることになるだろう。小選挙区制に対する反対論は、中小政党を中心にあった。自民党内にも、以前の中選挙区制度に戻すべきだという意見が根強い。しかし政権与党だった民主党は、小選挙区論者が大勢を占めていたため、見直し論は具体化しなかった。国民世論も1990年代の政治改革論議の記憶から「小選挙区制は改革派。中選挙区制は守旧派」というイメージが残り、制度改革には否定的な意見が多かった。今回、民主党が壊滅的な敗北を喫し、小選挙区制の恐ろしさを知った。世論も小選挙区制の問題点を痛感した。来年の通常国会中に行なうことになっている衆院定数削減問題もからめながら、選挙制度改革が焦点の1つとなるのは間違いない。最後に1点、民主党の今後に触れておきたい。衆院の議席は激減し、政党交付金もことしの165億400万円から85億5800万円と約半分になった。党勢回復の道は険しい。ただ再起が不可能というわけではない。カナダでは1993年、小選挙区制で行なわれた総選挙で169議席を持っていた進歩保守党が2議席になる歴史的敗北をした。だが、党合併や党名を保守党と変更するなどの大胆な改革を行なうことで復権。現在は単独過半数を確保している。惨敗を選挙制度のせいにするだけでなく、カナダの事例を手本に再生を目指す気力が民主党に残っているか、注目したい。  
愛想つきた国民・議員は投票率ダウンを肝に銘じよ
「断髪式」は相撲だけかと思っていたら自民党の小池百合子氏が先日、都内のホテルで開いたのにはあぜんとした。「政権奪回までは切らない」と宣言し、「臥薪嘗胆ヘア」と名付けていたロングヘアをばっさり切って元のショートヘア姿に戻った。相撲並みに、三原じゅん子参院議員ら関係者がはさみを入れたそうだ。
落選した田中真紀子氏ならまだわかるが、当選して断髪とは聞いたこともない。力士の断髪は、まげを切り落とし生まれ変った姿をファンに見てもらってなんぼの見世物でもある。見てもらうのではなく、実行してなんぼの政治家が何を勘違いしたのか、マスコミまで呼んでやることではない。
かと思えば大惨敗した民主党は代表選をめぐって、懲りもせずに足の引っ張り合いを演じている。本命とみられた細野豪志政調会長も不出馬で「決められない政治」の体質は相変わらず。地方の声も聞かず、国会議員(衆院57人、参院88人)だけの代表選に「本当に一から出直す気があるのか」の声が出て当然だ。
驚いたのは日本維新の会で、衆院選で衆院選候補者の4陣営から公選法違反で逮捕者が続出した。買収とは昔ながらの既成政党の悪習そのままで、そういうものを打破するはずではなかったのか。バラマキ政治復活との批判もある自民党と同じような“先祖返り”で、何が維新かといいたい。
衆院選のほとぼりもさめないのに、聞こえてくるのは相変わらず茶番劇のような話ばかり。投票率が59・32%で前回より10ポイントもダウンしたのは、国民がこんな政治の姿に愛想をつかしたからだろう。議員一人一人が10ポイント減を肝に銘じ、10ポイント取り戻す努力をしないことには話にならない。  
真紀子氏“負け犬の遠吠え”
自戒を込めて言わせてもらえば、何事も至らぬ結果を他人のせいにするのは見苦しいものだ。民主党が歴史的惨敗を喫した衆院選で落選した閣僚たちの恨み節は、まさにそれだった。特に「首相が個人的に追い込まれての解散。“自爆テロ解散”で惨敗すると思った。やっぱり当たった」という田中真紀子文科相の言葉は度が過ぎた。
怖いものなしで、飛ぶ鳥落とす頃の田中氏の毒舌は笑えたが、“死屍累々”のこの状況下では負け犬の遠ぼえとしか聞こえない。先月初め、来春開校予定の3大学の新設を突如不認可(その後撤回)とし混乱を招いた。自らも溺れそうな民主党の足を引っ張ったのではないか。
他の大臣からも解散時期に関して首相批判が出たり、「2カ月少しで辞めるのは心残り」と未練タラタラの新米大臣もいた。閣僚として責任の一端があるのに自分の至らなさは認めない。落ちたら首相のせい。では当選していたら「首相のおかげ。ありがとうございました」と言うだろうか。
「行蔵(こうぞう)は我に存す、毀誉(きよ)は他人の主張」とは勝海舟の言葉である。元幕臣ながら新政府に仕えたことの批判への答えで、自分の行動は自分で決め、それについて人が何と言おうと関知しないというわけだ。考えてみれば今回の野田首相の解散決断は偉大な先人の教え通りかもしれず、批判はよけい見苦しい。
岡田副総理が「選挙は自分の責任。首相の決断を理由にするのは議員の取るべき態度でない」と一喝したのが救いだ。天下を取り返した自公政権の予想閣僚名簿を見ると前と代わり映えしない。高望みはしない代わりに、何事も人のせいにすることだけはご免こうむる。  
何でもあり! 未曾有のお粗末¥O院選を回顧
自民党が294議席を獲得し、平成17年の郵政選挙以来の大勝となった衆院選。小選挙区比例代表並立制導入以降、最多の12党が乱立した影響を受け、立候補者数は現憲法下で最多の1504人に上った。だが、選挙戦は盛り上がりを見せず、投票率は59.32%と戦後最低。「第三極」は有権者の大きな受け皿にならなかった。4日の公示日には、日本未来の党の比例立候補者名簿の届け出が大幅に遅れ、総務省の審査作業が深夜にもつれ込むなど、空前絶後のお粗末ぶりが浮き彫りになった選挙でもあった。
誤植のオンパレード
「第三極」の選挙事務のずさんさはすさまじかった。日本維新の会の場合、マスコミ各社に配布した「公認候補者リスト」の名前や読み仮名、年齢、誕生日、肩書、連絡先の電話番号、男女の区別などで誤植が頻繁にみつかった。新聞各社は政党が立候補予定者名簿を発表したらすぐに報道するのが通例だが、公平中正を旨とし記録性が高い選挙報道では、日常的な一般原稿以上に間違いは厳禁。このため、担当記者らは党の公式資料が本当に正しいのかどうかの裏取り作業に躍起とならざるを得なかった。
後に日本未来の党に合流した国民の生活が第一の第3次公認発表資料の立候補者名にも誤植があった。同党は日本維新の会ほど疑いの目が向けられていなかったためか、11月27日付の新聞各紙(東京本社発行の最終版)などをみると、複数の大手新聞社や通信社が名前を間違えたままだった。
「超短命政党」も続出した。亀井静香前国民新党代表や山田正彦元農林水産相らが結成した「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」は11月26日、第1次公認として計20人を発表した。だが、総務相に政党結成を届け出ることもなく、同省の事前説明会にも「減税日本」として出席。翌27日には日本未来の党への合流を決めた。
太陽の党は11月13日、たちあがれ日本からの党名変更などを総務相に届け出て結党した。その後、石原慎太郎元東京都知事は減税日本を吸収合併する方針を明らかにしたが、16日には日本維新の会への合流が決まり、減税日本とは離れ離れに。太陽の党は「3日政党」で終わった。大同団結が至上命題だったとはいえ、これほど短命な政党は類を見ない。「第三極」の離合集散は、猫の目のようにめまぐるしかった。
日本維新の会は、発表直後に選挙区を変えたり、公示日に立候補予定者が出馬を辞退したりと迷走を続けた。突然の衆院解散で準備期間が短かったとはいえ、今回ほど「政党」の信頼性が揺らいだ選挙はなかったのではないか。
グレーな届け出
「日本未来の党が総務省に現れる気配はない。どうなっているのかも分からない…」
公示日の12月4日午前、比例代表全国11ブロックの届け出作業が総務省で行われたが、担当記者からは悲鳴のような声が漏れた。比例代表に立候補する政党は、事務的な審査を公示日の前日までに終了させ、届け出作業は公示日の朝早くに済ませるのが常識だが、日本未来の党の関係者は全然姿を見せなかった。
結局、午後になって北陸信越ブロックなどいくつかの名簿を提出。締めきり時間となる午後5時、会場のドアが閉まろうとしたときに数人の事務担当者が滑り込む始末だった。
審査の途中では、東北、中国、四国の3ブロックの名簿が見当たらず騒動になり、午後5時45分に森裕子副代表が会場に入ってからしばらくすると、3ブロックの名簿が発見される一幕もあった。総務省は「法に従って受け付けた」と強調するが、締めきり時間終了後に名簿が持ち込まれた疑惑は拭いがたい。
公職選挙法270条は「届出は午前8時30分から午後5時までの間にしなければならない」と定めているが、未来の全ブロックの届け出手続きが完了したのは午後10時半ごろ。中国、四国、九州ブロックの名簿は全て手書きで書かれており、混乱ぶりを象徴していた。
未来のずさんさが群を抜いていたために目立たなかったが、自民党の対応も褒められたものではなかった。公示日の午前に比例代表近畿ブロックの届け出作業を済ませた後、同ブロック単独39位だった泉原保二氏を四国ブロック単独14位に変更する異例の措置をとった。
結局、自民党は四国ブロック管内の選挙区で大勝。重複立候補の比例復活当選者は1人にとどまったため、泉原氏は「国替え効果」で当選を果たした。
不平等な比例順位
現行の選挙制度における比例代表選は、選挙区で敗れた重複立候補者の敗者復活戦の場となっているのが実情で、自民党や民主党は原則的に重複立候補者を同列の1位とし、選挙区における惜敗率が高かった人を復活当選できるようにしている。この制度に対する批判は根強いものの、重複立候補者が同じ順位に並んでいる限り、競争条件はフェアとなる。
だが、日本維新の会は、国会議員経験者を中心に民主党、みんなの党、太陽の党から合流した立候補者らを比例上位で優遇しており、不公平感が拭えなかった。日本維新の会が比例代表選である程度健闘することは当初から予測されており、立候補した時点で事実上、当選が保障されていたわけだ。以下、優遇された立候補者を敬称略で抜粋するとこうなる。
【東北】(1)小熊慎司(みんなの党出身、福島4区)
【北関東】(1)上野宏史(みんなの党出身、群馬1区)(2)石関貴史(民主党出身、群馬2区)
【南関東】(1)小沢鋭仁(民主党出身、山梨1区)(2)松田学(太陽の党出身)
【東京】(1)石原慎太郎(太陽の党出身)(2)今村洋史(太陽の党出身)(3)山田宏(東京19区)
【北陸信越】(1)中田宏
【東海】(1)藤井孝男(太陽の党出身)(2)今井雅人(民主党出身、岐阜4区)
【近畿】(1)東国原英夫(2)西村真悟(太陽の党出身)
【九州】(1)松野頼久(民主党出身、熊本1区)
以上の14人はいずれも比例代表選出議員として当選した。ただ、重複立候補者をみると、7人全員が選挙区では落選。上野氏(北関東ブロック1位)、山田氏(東京ブロック3位)や今井氏(東海ブロック2位)は選挙区での惜敗率が相対的に高くなく、比例順位で優遇されていなければ復活当選できなかった算段だ。
もちろん、政党が特定の立候補者の登載順位をどう扱おうと自由だし、制度上は何の問題もない。公明党や共産党といった組織政党では常識化している。だが、日本維新の会が二大政党に比肩する国民政党を目指すのであれば、この対応は疑問だ。自腹を切って汗水流した選挙区立候補者の新人の大半を捨て駒として扱ったようにさえ見えてしまう。
《われわれの信用はわれわれの財産のひとつである》
18世紀のフランスのエッセイスト、ジョセフ・ジュベールはこんな言葉を残したそうだ。
今回の衆院選で「第三極」が伸び悩んだのは、「小選挙区制を中心とした現行の選挙制度で政党が乱立したために共倒れになった」と解説されている。確かにその通りだろうが、根底には、粗雑な対応で有権者の信頼感を得られなかったことがあるのではないか。  
永田町語録
ぶれる / 藤井裕久民主党最高顧問 大惨敗、大勝利が常態化しているのは小選挙区の問題だと思っていない。いろんな問題があるときは制度の問題じゃなく世の中はかなりぶれる。(首相官邸で記者団に)
不一致 / 渡辺喜美みんなの党代表 政策が一緒なら一緒にやる。性格の不一致は結婚してみないと分からないが、政策の不一致は結婚前に分かる。だから私たちは(日本維新の会と)結婚しなかった。(テレビ朝日番組で)
仲間いない / 岡田克也副総理 新しくできた党で民主党と共通性のある党は少ない。特に弱い立場の人に対する政策について、なかなか仲間はいない感じだ。政界再編にはならない。(記者会見で)
反省点 / 江田憲司みんなの党幹事長 衆院選の反省点は、第三極が競合したことで、自民党を利したことだ。今後の課題として、来夏の参院選に向け、第三極がお互いに足を引っ張ることは避けたい。(記者会見で)
ごたごたではない / 馬淵澄夫元国土交通相 今日は正式な機関決定として民主党代表選の延期を決めた。ごたごたでも何でもない。正確に報道してほしい。(代表選延期について記者団に)
地獄を見た政治家 / 菅義偉自民党幹事長代行 自民党の安倍晋三総裁は、ある意味で地獄を見た政治家だ。前回は、あれだけ期待されて首相になったが、途中で病気になり国民に迷惑を掛けた。本人はこのことを常に意識し政治をやると思う。(都内での講演で)
現実にしてしまった / 輿石東民主党幹事長 政権をいただいてから、3年3カ月。期待が大きかっただけに失望や落胆も大きい。そんな現象を現実のものにしてしまったのが私たちだ。(衆院選惨敗について連合の会合で)
えらいことになる / 石破茂自民党幹事長 民主党があまりに駄目でひどかった。だからこれを実力だと過信したら、えらいことになる。よくよく謙虚にやらなければいけない。(衆院選圧勝についてテレビ番組で)
国の宝 / 下地幹郎郵政民営化担当相 自民党も公明党も改正郵政民営化法に賛成した。郵便局長は郵政事業を国の宝だと思って新政権とゆっくり話し、足らざるものを直してほしい。(今後の郵政事業について、記者会見で)
国民の目 / 石破茂自民党幹事長 新人教育はかなり徹底してやりたい。国民の厳しい目を認識しながら、かりそめにも浮かれたようなことは慎めということだ。(党所属新人議員の教育に関し記者会見で)  
 

 

 ■戻る  ■戻る(詳細)   ■ Keyword    


出典不明 / 引用を含む文責はすべて当HPにあります。