別世界

気分転換

ひと時の別世界 楽しむ


 

 
 
中学同窓会 今年は熱海
会って一緒に過ごせるだけでいい 子供にかえる
カメラマン 皆の記録係が役目
下町
会社人間の知らない 人付き合い
理屈で割切らない
職人 親分子分
営業をする前に 信頼関係を作る
世間話 話題のお勉強
下請け工場
親会社に ただただ従う
馴染めませんでした
物づくり 情報発信
専門図書の消滅 ネット情報への移行
ちょっとだけ 前を歩きました
銀座のお姉さん
別世界への誘い
接待に託けて 気分転換
神様お客様
自称神様 存在を知る
人を見下し そっくり返りたくなるらしい
演歌
時々の記憶の引出 開けてくれる
 
 


2018/6
 
 
 
  
 
野辺和讃
一つや二つや三つや四つ 十にも足らぬ幼児が 一度娑婆に生まれ来て 
綾や錦を身にまとい 死んで冥土に行く時は 綾や錦を脱ぎ捨てて 
京帷子に一重帯 頭に晒で頬被り 手ぬき脛あて足袋 裸足 
紙緒の草履を足に履き さんや袋を首に掛け 糸針串や数珠を入れ 
路銀と致す六文を 野辺まで路銀は多けれど 野辺から先は只一人 
死出の山路を行く時は 後見るとても連れもなし 先見るとても伽もなし 
声聞くとても時鳥 声聞くとても谷の水 三途の川や死出の山 
麻の杖にと縋りつつ あの世の関となりぬれば 閻魔の前で帳調べ 
これこれ幼児 七つ子よ われには三つの咎がある 一つの罪と申するは 
親の対内 九の月 これが一つの罪咎よ 二つの罪と申するは 
親も昼寝の疲れにて 眠気がさしても小言云い 乳首咥えて胸叩き 
これが二つの罪なるぞ 三つの罪と申するは 親より先立つ不孝者 
これが三つの罪咎よ 地獄じゃとても遣りゃならぬ 極楽とてもそりゃならぬ 
賽の河原の地蔵尊 この子をそちに頼むぞよ 賽の河原の務めには 
小石を拾い塔を積む 一重積んでは父のため 二重積んでは母のため 
三重積んでは故郷の 兄弟わが身と回向する 昼はそうして遊べども 
日の暮れ合いのその頃に 地獄の鬼が現れて 鉄棒携え牙を剥き 
鬼ほど邪険なものはない 積んだ塔をば突き崩し 又積め積めと急きたてる 
わっと泣き出すその声は この世の声とはこと変わり 悲しく骨身を砕くなり 
われら罪無く思うかや われらの父母娑婆にあり 追善供養はそこそこに 
只明け暮れる嘆きには 惨や可愛や愛しやと 母の嘆きが汝らの 
苦言を受くるものとなる 鉄の棒挿し追い回す 泣く泣く寝ぬるそのために 
木の根や石に躓きて 手足は血潮に染まりつつ その時峠の地蔵尊 
これこれ幼な児 七つ子よ 汝が父母娑婆にあり 娑婆と冥土は程遠し 
われを冥土の父母と 思うて頼め七つ子よ にくにくじいの御肌へ 
縋らせ給う有難や 未だ歩まぬ幼な児を 抱き抱えて撫でさすり 
たびの千草を与えつつ 
南無や延命地蔵尊 
南無阿弥陀仏  南無阿弥陀仏  
 
 
 
 
賽の河原 地蔵和讃1
帰命頂礼地蔵尊 無仏世界の能化なり 
これはこの世のことならず 死出の山路の裾野なる 
さいの河原の物語 聞くにつけても哀れなり 
この世に生まれし甲斐もなく 親に先立つありさまは 
諸事の哀れをとどめたり 
二つや三つや四つ五つ 十にも足らぬおさなごが 
さいの河原に集まりて 苦患(くげん)を受くるぞ悲しけれ 
娑婆と違いておさなごの 雨露しのぐ住処さえ 
無ければ涙の絶え間無し 河原に明け暮れ野宿して 
西に向いて父恋し 東に向いて母恋し 
恋し恋しと泣く声は この世の声とは事変わり 
悲しさ骨身を通すなり 
げに頼みなきみどりごが 昔は親のなさけにて 
母の添い寝に幾度の 乳を飲まするのみならず 
荒らき風にも当てじとて 綾や錦に身をまとい 
その慈しみ浅からず 
然るに今の有様は 身に一重さえ着物無く 
雨の降る日は雨に濡れ 雪降るその日は雪中に 
凍えて皆みな悲しめど 
娑婆と違いて誰一人 哀れむ人があらずなの 
ここに集まるおさなごは 小石小石を持ち運び 
これにて回向の塔を積む 
手足石にて擦れただれ 指より出づる血のしずく 
からだを朱に染めなして 一重つんでは幼子が 
紅葉のような手を合わせ 父上菩提と伏し拝む 
二重つんでは手を合わし 母上菩提と回向する 
三重つんではふるさとに 残る兄弟我がためと 
礼拝回向ぞしおらしや 
昼は各々遊べども 日も入相のその頃に 
地獄の鬼が現れて 幼き者の側に寄り 
やれ汝らは何をする 娑婆と思うて甘えるな 
ここは冥土の旅なるぞ娑婆に残りし父母は 
今日は初七日、二七日 四十九日や百箇日 
追善供養のその暇に 
ただ明け暮れに汝らの 形見に残せし手遊びの 
太鼓人形風車 着物を見ては泣き嘆き 
達者な子供を見るにつけ なぜに我が子は死んだかと 
酷や可哀や不憫やと 親の嘆きは汝らの 
責め苦を受くる種となる 
必ず我を恨むなと 言いつつ金棒振り上げて 
積んだる塔を押し崩し 
汝らが積むこの塔は ゆがみがちにて見苦しく 
かくては功徳になりがたし とくとくこれを積み直し 
成仏願えと責めかける 
やれ恐ろしと幼子は 南や北や西東 
こけつまろびつ逃げ回る 
なおも獄卒金棒を 振りかざしつつ無惨にも 
あまたの幼子睨み付け 既に打たんとするときに 
幼子怖さやる瀬無く その場に座りて手を合わせ 
熱き涙を流しつつ 許したまえと伏し拝む 
拝めど無慈悲の鬼なれば 取り付く幼子はねのけて 
汝ら罪なく思うかよ 母の胎内十月の内 
苦痛さまざま生まれ出て 三年五年七歳と 
わずか一期に先だって 父母に嘆きを掛くること 
だいいち重き罪ぞかし 
娑婆にありしその時に 母の乳房に取りついて 
乳の出でざるその時は 責まりて胸を打ち叩く 
母はこれを忍べども などて報いの無かるべき 
胸を叩くその音は 奈落の底に鳴り響く 
父が抱かんとするときに 母を離れず泣く声は 
八万地獄に響くなり 
父の涙は火の雨と なりてその身に振りかかり 
母の涙は氷となりて その身をとずる嘆きこそ 
子故の闇の呵責なれ 
かかる罪とがある故に さいの河原に迷い来て 
長き苦患を受くるとぞ 言いつつまたもや打たんとす 
やれ恐ろしと幼子が 両手合わせて伏し拝み 
許したまえと泣き叫ぶ 鬼はそのまま消え失せる 
河原の中に流れあり 娑婆にて嘆く父母の 
一念届きて影映れば のう懐かしの父母や 
飢えを救いてたび給えと 乳房を慕いて這い寄れば 
影はたちまち消え失せて 水は炎と燃え上がり 
その身を焦がして倒れつつ 絶え入ることは数知れず 
峰の嵐が聞こえれば 父かと思うて馳せ上がり 
辺りを見れども父は来ず 谷の流れの音すれば 
母が呼ぶかと喜びて こけつまろびつ馳せ下り 
辺りを見れども母は無く 
走り回りし甲斐もなく 西や東に駆け回り 
石や木の根につまづきて 手足を血潮に染めながら 
幼子哀れな声をあげ もう父上はおわさぬか 
のう懐かしや母上と この世の親を冥土より 
慕い焦がれる不憫さよ 
泣く泣くその場に打ち倒れ 砂をひとねの石まくら 
泣く泣く寝入る不憫さよ 
されども河原のことなれば さよ吹く風が身にしみて 
まちもや一度目をさまし 父上なつかし母ゆかし 
ここやかしこと泣き歩く 
折しも西の谷間より 能化の地蔵大菩薩 
右に如意宝の玉を持ち 左に錫杖つきたまい 
ゆるぎ出てさせたまいつつ 
幼き者のそばにより 何を嘆くかみどりごよ 
汝ら命短かくて 冥土の旅に来るなり 
娑婆と冥土はほど遠し いつまで親を慕うとぞ 
娑婆の親には会えぬとぞ 今日より後は我をこそ 
冥土の親と思うべし 幼き者を御衣(みごろも)の 
袖やたもとに抱き入れて 哀れみたまうぞ有難や 
いまだ歩まぬみどりごも 錫杖の柄に取り付かせ 
忍辱(にんにく)慈悲の御肌(おんはだ)に 泣く幼子も抱(いだ)き上げ 
なでさすりては地蔵尊 
熱き恵みの御涙(おんなみだ) 袈裟や衣にしたりつつ 
助けたまうぞ有難や 
大慈大悲の深きとて 地蔵菩薩にしくはなく 
これを思えば皆人よ 子を先立てし人々は 
悲しく思えば西へ行き 
残る我が身も今しばし 命の終るその時は 
同じはちすのうてなにて 導き給え地蔵尊 
両手を合して願うなり 
南無大悲の地蔵尊 南無阿弥陀仏阿弥陀仏
 
 
 
 
賽の河原 地蔵和讃2
これはこの世のことならず  死出の山路の裾野なる  
さいの河原の物語  聞くにつけても哀れなり  
二つや三つや四つ五つ  十にも足らぬおさなごが  
父恋し母恋し  恋し恋しと泣く声は  
この世の声とは事変わり  悲しさ骨身を通すなり  
かのみどりごの所作として  河原の石をとり集め  
これにて回向の塔を組む  一重組んでは父のため  
二重組んでは母のため  三重組んではふるさとの  
兄弟我身と回向して 昼は独りで遊べども  
日も入り相いのその頃は  地獄の鬼が現れて  
やれ汝らは何をする  娑婆に残りし父母は  
追善供養の勤めなく  (ただ明け暮れの嘆きには)  
(酷や可哀や不憫やと)  親の嘆きは汝らの  
苦患を受くる種となる  我を恨むる事なかれと  
くろがねの棒をのべ  積みたる塔を押し崩す  
その時能化の地蔵尊  ゆるぎ出てさせたまいつつ  
汝ら命短かくて  冥土の旅に来るなり  
娑婆と冥土はほど遠し  我を冥土の父母と  
思うて明け暮れ頼めよと  幼き者を御衣の  
もすその内にかき入れて  哀れみたまうぞ有難き  
いまだ歩まぬみどりごを  錫杖の柄に取り付かせ  
忍辱慈悲の御肌へに  いだきかかえなでさすり  
哀れみたまうぞ有難き  南無延命地蔵大菩薩 
 
 
 
 
鈴木主水口説き
花のお江戸のそのかたわらに さしもめずらし人情くどき  
ところ四谷の新宿町よ 紺ののれんに桔梗の紋は  
音に聞こえし橋本屋とて あまた女郎衆のあるその中に  
お職女郎衆の白糸こそは 年は十九で当世育ち  
愛嬌よければ皆人様が われもわれもと名ざしてあがる  
あけてお客はどなたと聞けば 春は花咲く青山へんの  
鈴木主水という侍よ 女房もちにて二人の子供  
五つ三つはいたずらざかり 二人子供のあるその中で  
今日も明日もと女郎買いばかり 見るに見かねて女房のお安  
ある日わがつま主水に向かい これさわがつま主水様よ  
私は女房で妬くのじゃないが 子供二人は伊達にはもたぬ  
十九二十の身であるまいに 人に意見も言う年頃に  
やめておくれよ女郎買いばかり 如何にお前が男じゃとても  
金のなる木はもちゃしゃんすまい  
どうせ切れ目の六段目には つれて逃げるか心中するか  
二つ三つの思案と見える しかし二人の子供がふびん  
子供二人と私の身をば 末はどうする主水様よ  
言えば主水は腹うちたてて 何をこしゃくな女房の意見  
おのが心でやまないものは 女房位の意見でやまぬ  
きざなそちより女郎衆が可愛い それがいやなら子供をつれて  
そちのお里へ出て行かしゃんせ あいそつかしの主水様よ  
そこで主水はこやけになりて 出でて行くのが女郎買い姿  
あとにお安は気くやしやと いかに男の我がままじゃとて  
死んで見せよと覚悟はすれど 五つ三つの子にひかされて  
死ぬに死なれず嘆いてみれば 五つなる子はそばへと寄りて  
これさ母さんなぜ泣かしゃんす 気しょく悪けりゃお薬上がれ  
どこぞ悪くばさすりてあげよ 坊やが泣きます乳下さんせ  
言えばお安は顔ふり上げて どこもいたくて泣くのじゃないが  
おさなけれども良く聞け坊や あまり父さん身持ちが悪い  
身持ち悪けりゃ暮らしに難儀 意見いたせばこしゃくなやつと 
たぶさつかんでちょうちゃくなさる さても残念夫の心  
自害しようと覚悟はすれど あとに残りしわしらがふびん  
どうせ女房の意見でやまぬ いっそ頼んで意見をせんと  
さればこれから新宿町の 女郎衆に頼んで意見をしようと  
三つなる子をせなにとかかえ 五つなる子の手を引きつれて  
いでて行くのはさもあわれさよ 行けば程なく新宿町よ  
店ののれんに橋本屋とて 見れば表に主水がぞうり  
それと見るなり小しょくをよんで わしはこちらの白糸さんに  
どうぞ会いたいあわせておくれ あいと小しょくは二階へ上がり  
これさ姉さん白糸さんよ どこの女中か知らない方が  
何かお前に用ありそうに 会ってやらんせ白糸さんよ  
言えば白糸二階を下る わしをたずねる女中というは  
お前さんかね何用でござる 言えばお安は始めてあいて  
わしは青山主水が女房 おまえ見かねて頼みがござる  
主水身分はつとめの身分 日々のつとめをおろそかにすれば  
末はご扶持もはなれるほどに ことの道理を良くきき分けて  
どうぞわがつま主水様に 意見なされて白糸さんよ  
せめてこの子が十にもなれば 昼夜上げづめなさしょうとままに  
又は私が去りたる後に お前女房にならんすとても  
どうぞそののち主水様に 三度来たなら一度は上げて  
二度は意見をして下さんせ 言えば白糸言葉につまり  
わしはつとめの身の上なれば 女房もちとはゆめさえ知らず  
ほんに今まで懇親なれど さぞやにくかろお腹も立とが  
わしもこれから主水様に 意見しましょとお帰りなされ  
言って白糸二階に上がり お安安堵の顔色浮かべ  
上の子供の手を引きながら あとで二人の子供をつれて  
お安我が家にはや帰られる  
御職戻りて両手をついて ついに白糸主水に向かい  
お前女房が子供をつれて わしさ頼みに来ました程に  
今日はお帰りとめてはすまじ 言えば主水にっこと笑い  
おいておくれよ久しいものよ ついにその日もいつづけなさる  
待てど暮らせど帰りもしない お安子供を相手といたし  
もはやその日もはや明けければ 支配よりお使いありて  
主水身持ちがほうらつゆえに 扶持も何かも召しあげられる  
あとでお安は途方にくれて あとに残りし子供がふびん  
思案しかねて当惑いたし 扶持にはたしてながらえいれば  
馬鹿なたわけと言われるよりも 武士の女房じゃ自害もしようと  
二人子供をねかしておいて 硯とりよせ墨すり流し  
うつる涙が硯の水よ 涙とどめて書き置き致し  
白き木綿で我が身を巻いて 二人子供の寝たのを見れば  
可愛可愛で子に引かされて かくてはならじと気を取り直し  
おもい切刃を逆手に持ちて  持つと自害のやいばのもとに 
二人の子供はそれとも知らず  早や目をさましそばに寄りて  
三つなる子は乳にとすがり 五つなる子はせなにとすがり   
これさかあさんもしかあさんと おさな心でただ泣くばかり  
主水それとは夢にも知らず 女郎屋たちいでほろほろ酔いで  
女房じらしの小唄で帰り 表口より今もどりたと  
子供二人はかけだしながら 申し父さんお帰りなるか  
なぜか母さん今日にかぎり ものも言わずに一日おるよ  
ほんに今までいたずらしたが 御意はそむかぬのう父さま  
どうぞわびして下さいましと 聞いて主水は驚きいりて  
あいの唐紙さらりとあけて 見ればお安は血潮に染まり  
わしの心が悪いが故に 自害したかよふびんなものよ  
涙ながらに二人の子供 ひざに抱き上げかわいや程に  
なにも知るまいよく聞け坊や 母はこの世といとまじゃ程に  
言えば子供は死がいにすがり 申し母様なぜ死にました  
あたし二人はどうしましょうと なげく子供をふりすておいて  
旦那寺へと急いで行けば 戒名もろうて我が家へ帰り  
あわれなるかや女房の死がい こもに包んで背中にせおい  
三つなる子を前にとかかえ 五つなる子の手を引きながら  
行けばお寺でほうむりなさる ぜひもなくなく我が家へ帰り  
女房お安の書き置き見れば 余りつとめのほうらつ故に  
扶持もなんにもとり上げられる 又も門前払いと読みて  
さても主水は仰天いたし 子供泣くのをそのままおいて  
急ぎ行くのは白糸方へ これはおいでか主水様よ  
したが今宵はお帰りなされ 言えば主水はその物語  
えりにかけたる戒名を出して 見せりゃ白糸手に取り上げて  
わしの心がほうらつ故に お安さんへも自害をさせた  
さればこれから三途の川も お安さんこそ手を引きますと  
主水も覚悟を白糸とどめ わしとお前と心中しては  
お安さんへの言いわけ立たぬ 言へば白糸主水に向ひ  
お前死なずに永らえさんせ 二人子供を成長させて 
回向頼むよ主水様よ 言うて白糸一間に入りて  
あまた朋輩女郎衆をまねき 譲りあげたる白糸が品  
やれば小春は不思議に思い これさ姉さん白糸さんよ  
今日にかぎりて譲りをいたし それにお顔もすぐれもしない  
言えば白糸良く聞け小春 わたしゃ幼き七つの年に  
人に売られて今この里に つらいつとめもはや十二年  
つとめましたよ主水様に 日頃三年懇親したが  
こんどわし故ご扶持もはなし 又は女房の自害をなさる  
それに私が生き永らえば お職女郎衆の意気地が立たぬ  
死んで意気地を立てねばならぬ 早くそなたも身ままになりて  
わしの為にと香・花たのむ 言うて白糸一間に入りて  
口の中にてただ一言 涙ながらにのうお安さん  
私故こそ命を捨てて さぞやお前は無念であろが  
死出の山路も三途の川も 共に私が手を引きましょう  
南無という声この世の別れ あまた朋輩寄り集まりて  
人に情けの白糸さんが 主水さん故命を捨てる  
残り惜しげに朋輩達が 別れ惜しみて嘆くも道理  
今は主水もせんかたなしに しのびひそかに我が家に帰り  
子供二人に譲りをおいて すぐにそのまま一間に入りて  
重ね重ねの身のあやまりに 我と我が身の一をさ捨てる  
子供二人はとり残されて 西も東もわきまえ知らぬ  
幼心はあわれなものよ あまた心中もあるとはいへど   
義理を立てたり意気地を立てる  
心おうたる三人共に 心中したとはいと珍しや   
さても哀れな二人の子供 見れば世間のどなた様も   
三人心中の噂をなさる 二人子供は路頭に迷う   
これも誰ゆえ主水が故よ 哀れなるかや二人の子供   
聞くもあわれな話でござる 
 
 
伊呂波(いろは)口説き
四十八文字いろはの口説き 国を申せば日向の国で  
寺の名前は円通寺と言うて 和尚の名前が古月(こけつ)の和尚  
和尚は一代名は末代と 死んだ後までその名は残る 
古月和尚の作らせ給う 四十八文字いろはの口説き 聞いてたしなめ世の人々よ  
いとけないもの愛して通せ  
老は敬い無礼をするな  
腹がたつとて皆まで言うな 
憎み謗るも皆わが身から  
誉めて貰うて高慢するな  
隔てある中遠慮になされ  
隣近所と物言いするな  
    近い間はなお垣をして  
    理屈あるとも皆まで言うな 
    盗み隠しは大禁物よ  
    流浪するもの愛して通せ  
    親に孝行火の元大事  
若いときには皆それぞれに  
家業励むが第一番よ  
よきも悪しくも人事言うな 
たとえ身分が賎しいとても  
礼儀作法は怠るなかれ  
粗略者だと言われぬように  
    常の身持ちが第一番だ  
    寝ても覚めても身は正直に  
    何が無いとて世を恨むなよ 
    楽な身過ぎはただ一人も  
    昔故人の教えを守れ  
浮世世渡りゃ一夜の宿よ  
今の難儀を忘れぬように  
後の世がまた大事でござる  
終わり果てねばわが身は知れぬ 
国の掟に背かぬように  
役儀勤めは辛抱に努め  
眼かすめてとん欲するな  
    剣の地獄はこの世にござる  
    不孝者だと言われぬように  
    心のままにはならないものよ 
    栄誉栄華はわが身の破滅  
    手前よいとてけんとにするな  
悪しき事なら真似にもするな  
三度食事に感謝を捧げ  
聞いてたしなめ浮世のことを  
夕べ聞きにし後世のことを 
滅多矢鱈にとん欲するな  
身の上大事と心にかけて  
死んだ後まで悪名が残る  
    絵知らざるとも諸芸のことを  
    暇な時には習うておけよ  
    もったいないぞや尊き教え 
    世界国々回りてみても  
    すんど大事は後世の道よ  
京も田舎もみな同じ事  
一に信心仏の位 西の浄土に安楽できる  
三途川よとおもむく時は 死出の山路を衣にかけて 
ご縁如来の法談とかれ 六字名号いただくものは  
七宝荘厳極楽世界 山ほどご恩のある親さまへ  
国を離れてその行く先は 尊き教えを身胸にいだき  
百度参りを幾たびしても 千部お経を読んだとしても  
万に一つの悪事をするな 奥の深いが南無阿弥陀仏  
兆で収めるいろはの口説き
 
 
与十秀浦口説き
国は豊後の日出領内の 速見郡とやこれ邯鄲の  
一の港の深江において 与十秀浦心中話  
元の起こりを尋ねて聞けば 肥前長崎西上町の 
藤井与十という侍で 利口発明人には優れ  
武芸読み書き風雅の道も 諸芸余さぬ当世男  
同じ長崎丸山町の 時の評判秀浦こそは 
利口発明諸人に優れ 漢字読み書き琴三味線も  
諸芸余さぬ彼の秀浦が 生まれ素性を尋ねて聞けば  
親は都の武家浪人よ 落ちて諸国を遍歴するに 
貧がよしない路金に困り ついにこの家を売り放されて  
辛い勤めは浮き川竹の 身とはなれども名は長崎の  
昔西施か楊貴妃姫か 小野小町の再来なるか 
時は水無月半ばの祭り 祗園参りに群集なして  
何れ劣らぬその中にても 目立つ秀浦与十が見初め  
あれが聞こゆる秀浦なるか 遊女なりとて恋い慕わんと 
思い初めしが因果の初め 与十そのまま武家へと帰り  
暮れを待ちかね丸山通い 忍ぶ雪駄の音高々と  
急ぎゃ程なく蛭子屋に着き 物も案内も頼むと言えば 
聞いてやり来る遣り手の茂六 それに与十が言い入るようは  
今宵秀浦差し合いなくば 出して給われ頼むと言えば  
さしはござらぬ早や御人と 二階座敷に通しておいて 
お茶や煙草や火などをあげて 言うて茂六は秀浦部屋へ  
もうしお秀さんお客がござる 吾妻下りの業平様を  
見たる様なるお客と言えば 秀は総身もの嬉しげに 
身ごしらえして座敷に出でる それに与十が言い寄るようは  
去年の頃よりそもじの噂 聞いちゃおれども今宵が初め  
声が聞きたさ逢いたさ見たさ 聞いてみたのが彼のほととぎす 
慕う私の心の内を お察し給えと声柔らかに  
言えば秀浦申せしことにゃ 私風情の賎しき者を  
慕い給わる御心根は 身にも余りて嬉しさどうも 
言われませぬと言うその内に 遣り手茂六が出て言うようは  
酒のお燗やお肴用意 太鼓持ちやら舞妓に芸者  
次に控えていますと言えば そこで秀浦申せしことにゃ 
今宵お客にゃ騒ぎはいらぬ 皆を帰せよしてその後で  
涼みがてらにあの縁側で お茶を点てます用意をせよと  
言えば茂六は茶飲みの道具 風呂やカンスや水差し茶入れ 
和物オランダ店高麗の 名ある器を早や取り出だし  
そこで秀浦身を取り直し 余り嬉しの上茶を点てて  
そっと突き出すその品方を 与十嬉しさ取る手も速い 
飲んで気も晴れ心の雲も 晴れて今宵は十五夜の月  
連理比翼の縁結びして 二世も変わらぬ心の誓紙  
丸い話で縺れつ撚れつ 話積もりて夜も更けゆけば 
月は山端に寺々の鐘 最早今宵は帰らにゃならぬ  
明日の夜と待つ早や御出でと 後で秀浦与十がことを  
思い忘れぬ与十はなおも 秀に逢いたいいや増す恋の 
闇も月夜も雨風の夜も 身をも厭わぬ丸山通い  
そこで秀浦申せしことにゃ 固い約束して徒に  
月日送るがのう情けない もしや貴方に奥様あれば 
下女へなりともお炊事なりと 身請けさんしてお側に近う  
使い給えと恨みの言葉 聞くに与十はげに尤もと  
すぐに亭主を座敷に呼んで 何とご亭主彼の秀浦を 
身請けしたいが値はどうと 身請けなさるりゃ金百両と  
そこで与十が申せしことにゃ 今宵手付けに五十両入るる  
残る五十両は当冬までと 述べて給えよご亭主様と 
言えば亭主も承知の態で 秀が身の上今晩よりも  
勝手次第に御召し連れよ 言えば与十は打ち喜んで  
暇乞いして蛭子屋出づる 秀が住家を早や借り入れて 
下女を一人さし添え置いて 栄耀栄華の暮らしとなれば  
さしも名高い秀浦なれば 藤井与十が彼の秀浦を  
身請けしたとの評判あれば いつか親御のお耳に入りて 
御一門衆が皆打ち寄りて 与十よく聞けさてそこもとは  
遊び女に気を奪われて 身請けしたとの評判あれば  
家の名が立つ家名の汚れ 四書や五経の講釈までも 
聞いていながら不埒のことよ 兎角遊女に添うことならぬ  
思い切らねば勘当なりと 言えば与十が俯きながら  
親に背けば必ず天の 怨み受けては我が行く末が  
恐ろしさをも弁えながら 恋は心の外とは言えど  
思い切られぬ恋路の闇と 父は聞こえた犬畜生め  
阿呆払いに早や追い出せば 母は名残の差す一腰を 
これを形見と投げつけければ 与十取るより押し頂いて  
腰にさすがは侍なれば 思い切りてぞ早や出でて行く  
急ぎ秀浦住家に行けば そこで秀浦申せしことにゃ 
今宵お出ではなぜ遅かりし 常に変わりてご気色悪い  
言えば与十がさて言う様は そちを身請けをしたそのゆえに  
阿呆払いに勘当受けた 兎角この地に住いはできぬ 
我はすぐさま他国へ行くと 言えば秀浦申せしことにゃ  
あなた難儀は皆私ゆえ 連れて他国をして給われと  
支度急いですぐそのままに 落ちて行くのもさも不憫なれ 
さてもこれより何処に行かんと 何処をあてどもなき旅の空  
さてもこれより豊後の国を さして行くのが道遥々と  
迫る節季に気は急き道の そこで与十がさて言うようは 
そなた身請けの五十両の金も 冬を限りに送らにゃならぬ  
これはどうしょうのう秀浦と 言えば秀浦思案を尽くし  
またも私の身を売り放し 金の才覚いたしましょうと 
言えば与十は嬉しさ辛さ ほんに思えば貧より辛い  
病なしとは世の譬えなり 金を受け取り与十に渡す  
これで義理立ち男も立つと 人を仕立てて故郷へ送る 
そこで秀浦申せしことにゃ 松浦小夜姫私の心  
石に等しくお前もどうぞ 辛抱しゃんせよ再び花を  
咲きつ咲かれつそれ楽しみに 便り待ちますもうおさらばと 
後で与十はさてつつおいつ されば竹田に知る人あれば  
それを便りに早や思い出づ 急ぎゃ程なく竹田の町に  
町で名高い彼の五つ家に しるべ頼んで奉公勤め 
番頭奉公に落ち着きければ 与十もとより柔和な生まれ  
気質人あい店賑やかに なれば店主も打ち喜んで  
店や勝手の世話ごとまでも 与十次第と打ち任せける 
そこで秀浦彼の明石屋で 辺り評判名も聞こえける  
間を隔てて深江の浦は 上下出入りの商船数多  
いつも賑わう繁華の港 それに明石屋出店があれば 
これに秀浦早や入り来れば 都育ちの長崎女郎  
町も田舎も大評判で 肌を汚さぬ貞心貞女  
妻に逢いたさ見たさのあまり 清き心の住吉楼に 
願い届いて竹田において 与十俄かに妻秀浦に  
逢いたさ見たさに遣る瀬が無うて すぐに与十は急病構え  
暇を願うて入院すると 急ぎゃ程なく浜脇浦に 
宿で様子を尋ねて聞けば 妻の秀浦さてこの頃は  
深江出店に行っていますると 力なくなくその夜は泊る  
すぐに翌日浜脇発ちて 知らぬ深江を訪ねて来れば 
既に深江の西浜町に その名塩屋の彦九郎とて  
時の顔役さばけた男 それに泊りて秀浦呼んで  
殊に馴れたる内儀のあおい 裏の置座に毛氈敷いて 
酒や肴を早や持ち出づる 差しつ差されつ内儀のあおい  
夜の浜風立つ波の音 いとど涼しき虫の音聞いて  
今が故郷の栄華に勝る 既にこの日もまた明日の日も 
前後覚えず日は重なりて 七日七夜も揚げ詰めにして  
最早竹田に帰らにゃならぬ 明日は発ちますいざ何事も  
今宵始末をつけねばならぬ 積もる花代宿払いまで 
勘定通りに仕切を済ませ 最早発ちますご亭主様と  
秀も内儀も座に連なりて 一つ参れと差す盃を  
忝ないと押し頂いて 暇乞いして早や出でて行く 
秀は後より御下駄はいて 名残惜しさに見送りて行く  
見立て見送り羊の歩み ついに江上のあの川端で  
これが二人の三途の川と 渡り兼ねては立ちとどまりて 
そこで二人が手に手を取りて そこで秀浦申せしことにゃ  
御身に別れてただ片時も 生きている気はわしゃ泣きじゃくり  
連れて他国をして給わるか または手にかけ殺してくれよ 
後を見送りあれ見やしゃんせ 今が血死期ぞあの松山が  
死出の山じゃと下駄脱ぎ捨てて 毬も葛も並み分け行けば  
少し小高い良い場所あれば これが二人の身の捨て所 
東向いては法華経唱え 西に向いては南無阿弥陀仏  
そこで与十がさて言う様は 国を出る時母御の形見  
それでその時死ぬとのことを 知らで今まで生き永らえて 
親に背いたその天罰で 逃れたかない今この太刀で  
死ぬる我が身が不義不忠者 秀は死を待つこれ与十さん  
遅れ給うなし損じまいと 言うて振り上げ力みし腕で 
名残惜しさにまた控えしは 昔熊谷勇将でさえも  
敵の大将敦盛公を どこぞ刃の当て先がない  
言いし心を感じてみれば 今日の今まで愛したそもじ 
言えば秀浦申せしことにゃ 卑怯未練は何事なるぞ  
わしも元々武士の子なれば 自害するとて刃にあてる  
その手押さえてもうこれまでと ぐっと一突き息絶えにける 
返す刃で腹十文字 切りて喉を突き貫けば  
さすが武士気丈な始末 頃は六月下旬の五日  
港江上の樋の口山で これは天晴れ無双の心中 
後は声々追手の人数 ここやかしこと見つけて廻る  
屍骸見つかり大声あげて ここじゃここじゃと言うその声を  
聞いて集まる追手の人数 無惨なりけりこの場の修羅場 
とても返らぬことなりければ やがて村内常楽寺とて  
時の住職大和尚さん それに頼んで弔いをして  
二人一緒に石碑を建てて 人の噂にさて聞こえけり
 
 
 
 
河原地蔵口説き
ここに一つの話が御座る これは此の世の事ではないが  
死出の山路や裾野の里に 西院の河原のその物語  
聞くにつけても二つや三つ 四つや五つや十にも足らぬ 
この世に不用と闇から闇へ 水子無情や南無阿弥陀仏  
集まり来たるは父母恋し 嘆き叫べどあの世の声と  
悲しき骨身にしみ入りまする そこで嬰子の仕種を見れば 
河原の石をば大小集め そこで回向の塔をば作り  
一つ積んでは父上様に 二つ積んでは母上様に  
三つ積んでは兄弟我身 遊んでおれどもやがては無情 
日暮れ時には地獄の鬼が 金棒振り上げ汝等共に  
父母は元気で暮らして居るに 追善供養の勤めもなくて  
毎日明け暮れ暮らしを送り 嘆き可愛いや不憫や惨め 
親の嘆きは汝等共が 苦難を受ける種にと成るぞ  
我を恨むは筋道違い 金の延棒で積みたる塔を  
打って崩すや又積め積めと 幼心に無情でござる 
余り悲しき仕打ちでござる 伏して拝むか可愛や程に  
一度でいいから抱かれてみたい 母の乳房にすがってみたい  
泣いて悲しや幼き声に またも地獄の鬼現れて 
鬼は言いつつ消え失せまする 峰の嵐で地響きすれば  
父が来たかと山へと登り 谷の流れを這いつつ下り  
辺り眺めりゃいずこか母は 姿求めて東や西に 
這って回って木の根や石に 一つ積んでは父上様に  
二つ積んでは母上様に 打身擦傷血潮が滲む  
泣くな眠るな罪なき童子 無情地獄の季節の風で 
皆一同の夜明けの時よ ここやかしこに泣く声聞けば  
河原地蔵がお出ましなさる 何を嘆くか幼子達よ  
命短く冥土の度に 来たる汝ら地蔵の慈悲で 
父母は娑婆にて明け暮れすれど 娑婆と冥土は遠くて近い  
我を冥土の父母じゃと思うて 明け暮れ致せよ幼き童子  
衣の内へと書き入れなさる 未だ歩めぬ幼子達に 
慈悲の心で錫状の柄に 抱かせ給えや無情の大地  
乳房あたえて泣く泣く寝入る 例えがたなき哀れな事よ  
袈裟や衣にしみ入りまする 助け給えや不憫な童子 
南無や大悲の河原の地蔵 唱えまいかや南無阿弥陀仏  
唱えまいかや南無阿弥陀仏 
 
 
 
 
俊徳丸口説き
ここは名高き清水寺の 観音様の霊験記  
若い女の貞節口説き 国はどこよと尋ねて訊けば  
国は上方河内の国の 音に名高き信義長者 
末の世取りの俊徳丸よ なれど俊徳継母様よ  
母のおすわは悪性な人よ 弟梅若に世がやりたさよ  
何としてなり兄俊徳を 呪い殺して本望遂ぎょと 
世にも恐ろし悪心起こし 心決して鍛冶屋に急ぐ  
急ぎゃほどなく鍛冶屋の表 内にござるか御鍛冶屋様よ  
云えば鍛冶屋の奥から答え 誰か何方か俊徳母か 
上れお茶呑めお煙草吹きゃれ お茶も煙草もご所望じゃないが  
私はあなたに御無心ござる 云うたら叶よか叶えてくりょか  
云うたら叶えじゃ叶えてあげじゃ 何な御用かな早や語らんせ 
云えばおすわが細かに語る 地金鉄鋼を混ぜて  
帽子ない釘三十五本 打ちて下んせのう鍛冶屋さん  
言えば鍛冶屋がさて申すには 私も代々鍛冶屋はすれど 
帽子ない釘ゃまだ打ちませぬ 他に鍛冶屋もござんすほどに  
他の鍛冶屋に行て頼まんせ 云えばおすわが腹をも立てて  
人に大事を語らせながら 打ちてくれぬはそりゃ胴欲な 
三十五本のその釘打てば 小判百両今でもあげる  
云えば鍛冶屋が金に目がくれて 打ちてあげますこれおすわさん  
云うて鍛冶屋は身支度致し 庭に飛び降り横座に座り 
鞴吹き立て地金をくべて 地金鉄鋼を混ぜて  
一つ打ちては南無阿弥陀仏 二つ打ちては南無観世音  
さてもこの釘身に受くる人 どこの何方か知らないけれど 
鍛冶屋お怨みなされまするな 鍛冶屋商売打たねばならぬ  
チンカラリンと打つ音は 天にこたえて地に鳴り響く  
三十五本の釘打ち上げて 磨き揃えておすわに渡す 
おすわ受け取り押し頂いて 小判百両鍛冶屋に渡し  
暇申して鍛冶屋を出でて 急ぎ急ぎで京清水に  
箱段トンドと踏み上り 鰐口カンカと打ち鳴らし 
賽銭四五文ハラと投げ しばし打ち伏し拝みを上げる  
もうしこれいな観音様よ 渡しはあなたに御ふしょはないが  
兄の俊徳この世にいては 弟梅若世に出でられぬ 
不憫ながらも一命縮む 御身体をも逆さに吊りて  
さあさこれから釘打ちかかる 胸に三本あばらに五本  
足の節々手の節々に 五射六根みな打ちまわす 
打ちて残りし三本の釘 打ちてしまおと思いしときに  
思いがけなき不思議がござる 白い鳥がくわえて逃げる  
赤い鳥がくわえて逃げる そこでおすわは打ち驚いて 
後の憂いもありもやせんと 深く心に恐れしものの  
しかしこうまで釘打ちたなら どうせ俊徳大病にかかる  
急ぎ急ぎで我が家に帰る 我が家帰りて様子を見れば 
四苦八苦の俊徳丸よ 耳も聞こえぬ目も見えませぬ  
らい病やまいと早や見せかける そこで俊徳さて申すには  
もうしこれいな母上様よ あただほただに目も見えませぬ 
これじゃ養生の方法はないか 云えばおすわがさて申すには  
もうしこれいな俊徳様よ 今度そなたのその病気こそ  
容易ならざる大病じゃほどに 四国七度西国三度 
丹後丹波や因幡や伯耆 廻らしゃんせやすぐさま治る  
云えば俊徳やむなきことと 是非もなくなく身支度なさる  
上下白服着飾りて 戸口越えるが死出の山 
雨だれ越えるが三途川 行くその道は六道の  
吹き来る嵐が無常の風 背中に笈蔓杖には笠を  
笠に記せしその所書き 国は上方河内の国の 
音に名高き信義長者 末の世取りの俊徳丸と  
同行二人と書き記したり 杖を頼りにただとぼとぼと  
馴れし我が家を後にはなして いずれ定めぬ哀れな旅よ 
俊徳丸の廻る国 東北国北中国よ 丹後丹波や因幡や伯耆  
今度行くのがまた美濃の国 美濃の国では陰山長者  
御門前には早や立ち寄りて もうしこれいな門番様よ 
今日で七日の食事も食べぬ 結び一つのご報謝願う  
云えば門番顔打ちしかめ うぬが様なるきたい者に  
結び一つもやれないものよ 箒を持って叩き出す 
ものの哀れは俊徳丸よ そこで俊徳あまりのことに  
笠の上書きこれ見て給え と云うて差し出すその笠見れば  
国は上方河内の国の 音に名高き信義長者 
末の世取りの俊徳丸と さては河内の信義殿の  
世取り息子の俊徳殿か それを眺めて桜の姫は  
東御殿の一間のうちで さては河内の俊徳様か 
御目にかかりてただ一言の 話なりとも致してみたい  
心ばかりは逸ると云えど 人目ある瀬はままにはならず  
身をも悶えてお嘆きなさる 思い余りて桜の姫は 
東蔵より金取り出し 西の蔵より衣装取り出だし  
旅の装束身も軽々と 夜の九つ夜半の頃に  
裏に回りて高へり越えて 闇に紛れて夜抜けをなさる 
そうこうする間にその夜も明ける ああ行く人にはもの尋ね  
こう来る人にはもの尋ね 哀れな遍路にゃ逢やせぬか  
逢うたと云う人さらにない 哀れなるかや桜の姫は 
どうせ我がつま俊徳様は 生きてこの世におられぬ者よ  
尋ねあぐみて桜の姫は 加賀と越後の境の川で  
水に映せし我が身の姿 髪にも櫛も入れざれば 
髪は縮れて鳥の巣の様な 手足の爪はただ伸びしだい  
衣装は破れてつづれの如く こんな儚い我が身の姿  
二度と我が家に帰れぬ者と 心決して身投げをせんと 
川の川原に石掻き寄せて 石の上には金積み重ね  
この金拾いしその人は 桜の姫と俊徳が  
野辺の送りをよろしく頼む 袖や袂に石拾い込み 
こうの池にと沈もとすれば はるか彼方に幼き声で  
そこで死するは桜の姫か そちが尋ぬる俊徳丸は  
八丁山奥観音堂の 縁の下には住まいをなさる 
それを聞くより桜の姫は 捨てたお金をまた拾い上げ  
急ぎ急ぎて観音堂に 縁の下をもよく見回せば  
数多遍路もたくさんいるで 誰が誰やら見分けもつかず 
しばし間はためらいなさる かくて果てじと気を励まして  
もうしこれいな俊徳様よ 肌を交わしはいたしませぬが  
過ぎし天王寺御能の舞に 御前や稚児役わしゃ舞の役 
綾と錦の袖取り交わし 堅く誓うた桜の姫よ  
云えば俊徳さて申すには さては御身は桜の姫か  
こうもなりたる俊徳丸を 思う貞節嬉しいけれど 
今の俊徳その約束も 実行されないかような姿  
いかにあなたが申そうとても 誓うた言葉はわしゃ反故にせぬ  
末の病気の見取りをするは 妻の私の務めじゃほどに 
病気なりとてわしゃ厭やせぬ 侍する俊徳の手を取り上げて  
無理に引き立て京清水に 京清水に参り着き東門寺西御門寺  
やがて大津の三井寺様よ 札所残らず皆打ち納め 
なんと京都はきれいな町よ そこで二人は観音様に  
七日七夜の断食籠り もうしこれいな観音様よ  
どうぞあなたのお慈悲をもちて 夫病気を治して給え 
夫病気を治したなれば 一の鳥居を金にてあげる  
二なる鳥居を銀にてあげる 三の鳥居を鉄でする  
どうせ観音御利生がなけりゃ わしがこの身は大蛇となりて 
一の鳥居に首なんかけて 参る氏子をみな取り尽くし  
これな観音薮仏にする 六日籠りてその明くる晩  
アリャ不思議や御利生がござる びみの音楽諸共に 
紫雲たなびき忽然と 観音様は現れて  
いかによう聞け桜の姫よ そちの願いは叶えて得さす  
夫病気は平癒なさん 明日の四つ時なりたるなれば 
白い鳥が羽根をも落とす 黒い烏が羽根をも落とす  
赤い鳥がまた羽根落とす それを拾いて俊徳丸の  
五体六根なでまわすやら 元の通りに平癒なさん 
夢でないぞや疑うなかれ 云うて観音消え行きなさる  
あとで姫君夢驚いて アリャ嬉しやよい夢を見た  
そこで姫君打ち喜んで 夢のお告げの時刻を待てば 
違うことなく羽根落ちまする それを拾いて俊徳丸の  
元の通りに相なりました 男ぶりなら日本一よ  
そこで二人は打ち喜んで 七日七夜の札籠りする 
そこで俊徳衣装をつける 下に着るのが白地の綸子  
上に着るのが黒紋付よ 急ぎ急ぎで伏見に下る  
まだも急いで河内の国よ まだも急いで我が家に帰る 
我が家帰りて様子を見れば 最早母様らい病のやまい  
そこで俊徳さて申すには もうしこれいな母上様よ  
四国七度西国三度 丹後丹波や因幡や伯耆 
廻らしゃんせやすぐさま治る わしが病気も治りたほどに  
云えばおすわが詮方なくも 弟梅若供にと連れて  
最早母様行方は知れぬ 人を呪えば穴二つとか  
まわる小車我が身に返り 末路悲しきおすわが最期  
そこで二人は打ち喜んだ 人も羨む長者の暮し  
万劫末代河内の殿よ
切口説き
別れ別れの釣瓶をつなぎ 丸く添わせる井戸の綱 
わしが歌うたら大工さんが笑うた 歌に鉋がかけらりょか 
わしが思いは月夜の松葉 涙こぼれて露となる 
わしが思いは由の岳山の 朝の霧よりゃなお深い 
わしが口説けば空飛ぶ鳥が 羽を休めて踊りだす 
わしが在所は猪の瀬戸越えて 米の花咲くお湯どころ 
わしが若い時ゃ吉野に通うた 道の小草もなびかせた 
わしとあなたはお倉の米じゃ いつか世に出てままとなる 
わしとあなたはすずりの墨よ すればするほど濃ゆくなる 
わしとあなたは羽織の紐よ 固く結んで胸に置く 
わしとあなたは松葉のようで 涸れて落ちても二人連れ 
わしとあなたは道端小梅 ならぬ先から人が知る 
わしとお前と立てたる山を 誰が切るやら荒らすやら 
わしの思いは神場の浜じゃ 他に木はない松ばかり 
わしも一重に咲く花ながら 人目悲しや八重に咲く 
私ゃ青梅揺り落とされて 紫蘇と馴染んで赤くなる 
私ゃあなたに惚れてはいるが 二階雨戸で縁がない 
私ゃ歌好き念仏嫌い 死出の旅路も歌で越す 
私ゃ奥山一本桜 八重に咲く気はさらにない 
私ゃ踊りの鶴崎育ち 科のよいのは親譲り 
私ゃ心と闇無浜は 月は出ずとも闇はない 
私ゃ春雨主や野の草よ ぬれる度毎色を増す 
私ゃ別府の八幡地獄 ぽつりぽつりと日を暮らす 
私ゃ湯の里鉄輪育ち 暑い情けが身の宝 
私ゃ湯の町別府の生まれ 胸に情の灯がとぼる 
私ゃ湯平一本松よ 風の便りを聞くばかり 
私ゃ湯平湯治の帰り 肌にほんのり湯の匂い 
割って見せたい胸三寸に 辛い浮世の義理がある 
郡上盆踊り唄 / さわぎ
呑めよ騒げよ一寸先ゃ闇よ(コラサ) 今朝も裸の下戸が来た 
花が蝶々か蝶々が花か 来てはちらちら迷わせる 
水させ水させ薄くはならぬ 煎じつめたる仲じゃもの 
さいた盃中見てあがれ 中にゃ鶴亀五葉の松 
私ゃ唄好き 念仏嫌い 死出の山路は唄で越す 
若い娘と新木(あらき)の船は 人が見たがる乗るたがる 
今年ゃうろ年うろたえました 腹におる子の親がない 
鶯鳥でも初音はよいに 様と初寝はなおよかろ 
向かい小山に 日はさいたれど 嫁の朝寝は起こしゃせぬ 
一夜寝てみて寝肌がよけりゃ 妻となされよいつまでも 
泣いて別れて松原行けば 松の露やら涙やら 
今宵一夜は浦島太郎 開けて口惜しや玉手箱 
思い出いてはくれるか様も わしも忘れる暇がない 
明日はお立ちかお名残惜しや 雨の十日も降ればよい 
親の意見と茄子の花は 千に一つの無駄がない 
へちまの野郎がめっぽう太り 育てた垣根を突き倒す 
無理になびけと言うのは野暮よ 柳と女は風次第 
姉は破れ笠させそでさせん 妹日傘で昼させる 
若い内じゃも一度や二度は 親も目長にしておくれ 
梅の匂いを桜に持たせ 枝垂れ柳に咲かせたい 
梅も嫌いよ桜も嫌だ 桃とももとの合いが好き 
色の小白い別嬪さん惚れて 烏みたよな苦労する 
ついておいでよこの提灯に 消して苦労はさせはせぬ 
三味の糸ほどキュックラキューと締めて 撥の当たるほど寝てみたい 
鶯でさえ初音はよいが あなたと初寝はなおよかろ 
月のあかりで山道越えて 唄で郡上へ駒買いに 
様はよい声細谷川の 鶯の声面白い 
惚れてくれるなわしゃ弟じゃに 連れて行くにも家がない 
西も嫌いよ東も嫌だ わたしゃあなたの北がよい 
浮気男と茶釜の水は わくも早いがさめやすい 
惚れていれども好かれておらず 磯の鮑の片思い 
今夜寝にくる寝床はどこじゃ 東枕に窓の下 
東枕に窓とは言うたが どちが西やら東やら 
字余り 
竹に雀は あちらの藪からこちらの藪まで チュンチュンバタバタ羽交を揃えて 
品よくとまる 止めて止まらぬ色の道 
娘島田を 根っからボックリ切って 男のへそにたたきつけ  
それでも浮気の止まない時には 
宗十郎の芝居じゃないが 行灯の陰から ヒューヒュラヒュッと化けて出る 
雨はしょぼしょぼ降る 蛇の目の唐傘 小田原提灯  
ガラガラピッシャンドッコイ姉さんこんばんは 誰かと思ったら主さんが  
竹の一本橋 すべりそうでころがりそうで危ないけれど 蛇の目の唐傘 
お手手をつないで 主となら渡る 落ちて死んでも二人連れ 
竹になりたや 大阪天満の天神様の お庭の竹に 
元は尺八中は笛 裏は大阪天満の天神様の文を書く 法名を書く筆の軸 
摺り鉢を伏せ眺める三国一の 味噌をするのが富士の山 
ござるたんびに ぼた餅かい餅うどんにそうめんそば切りやないで 
なすび漬け喰ってお茶まいれ 
郡上八幡 来年来るやら又来ないやら 来ても逢えるやら逢えぬやら 
竹の切り株に なみなみたっぷり溜まりし水は 澄まず濁らず出ず入らず 
瀬田の唐橋 膳所(ぜぜ)の鍛冶屋と大津の鍛冶屋が 
朝から晩まで飲まずに食わずにトッテンカッテン 叩いて伸ばして 
持って来てかぶせた唐金擬宝珠(ぎぼし) それに映るは膳所の城 
朝顔の花の 花によく似たこの杯は 今日もさけさけ 明日もさけ 
十二本梯子を 一挺二挺三挺四挺五六挺かけても 届かぬ様は  
お天道様じゃとあきらめた 
あまりしたさに 前に鏡立て中よく見れば 中は紺ちゃん黒茶のエリマキシャーリング  
らしややしょじょひの立烏帽子 
声が出ない時ゃ 干支じゃないけど ネウシトラウタツミの隣のどん馬のけつを  
ギュッギュらくわえてチュッチュラチュとすやれ 馬のけつから声が出る 
上盆踊り唄 / まつさか
ヨーホーイモヒトツショ 
合点と声がかかるなら これから文句に掛かりましょ 
すべてお寺は檀家(だんけ)から 痩せ畑作りはこやしから 
下手な音頭も囃しから お囃子頼む総輪様(そうわさま) 
名所案内 
鵜舟の篝火赤々と 世にも名高き長良川 
その水上(みなかみ)の越美線(えつみせん) 郡上八幡名にしおう 
三百年の昔より 士農工商おしなべて 
泰平祝う夏祭り 音頭手拍子面白く 
唄い楽しむ盆踊り 郡上の八幡出る時は 
雨も降らぬに袖しぼる これぞまことのにこの里の 
人の心をそのままに いつしか唄となりにかる 
山は秀でて水清く 春は桜の花に酔い 
秋はもみじ葉茸狩り 夏は緑の涼風や 
冬また雪の遊戯(たわむれ)と 名所の多き郡(こおり)とて 
訪ねる人の数々に いざや探らん道しるべ 
大日ケ岳仰ぎつつ 阿弥陀ケ滝をおとなえば 
六十丈の虹吐いて 夏よせつけぬ滝の音 
滝の白糸長々と 一千年の昔より 
由緒(いわれ)は深き長瀧に 今も睦月の六つの日を 
喜び菊の花祭り 人は浮かれてくるす野の 
宮居に匂う桜花 緑萌え出る楊柳寺(ようりゅうじ) 
のどかなる野の那留(なる)石の その名は高く世に響く 
宗祇の流れ今もなお 汲みてこそ知れ白雲(しらくも)の 
絶えせぬ水の末かけて 積もる翠(みどり)の山の上(え)に 
霞ケ城の天守閣 朝日に映る金の鯱(しゃち) 
昔を偲ぶ東殿(とうでん)の 山の端出づる月影に 
匂う愛宕のすみぞめや 彼岸桜や山桜 
訪(と)い来る人の絶え間なく 杖ひくからぬ稚児の峰 
卯山(うやま)おろしの風穴に いでそよそよと立ちし名の 
浮きて流るるあさが滝 深き思いを叶(かなえ)橋 
行き交う人は深草の 小町にちなむ小野の里 
契りはかたき石の面(も)に 写りまします管公(かんこう)の 
冠ならぬ烏帽子岳 麓続きの村里は 
寿永の名馬磨墨(するすみ)の 出し所と言い伝う 
名も高光にゆかりある 高賀の山の星の宮 
矢納ケ淵(やとがふち)や粥川に 振り返りつつ蓬莱の 
岩間流るる長良川 河鹿の声のおちこちに 
ひかれて舟に棹させば 浮世の塵もいつしかに 
洗い捨てたる心地する 水の都か花の里 
郡上の八幡出る時は 雨も降らぬに袖しぼる 
踊りと唄とで町の名も 広く聞こえて栄ゆく 
里の皆衆も他所の衆も 音頭手拍子うちそろえ 
これぞ真に総輪様 永く伝わるこの里の 
郡上おどりの誉をば 万代(よろずよ)までも伝えなん 
歌の殿様 
お聞きなされよ皆の衆 歌の殿様常縁(つねより)が 
歌で天下に名をあげて 歌でお城を取り戻す 
平和の里にふさわしき 歌の郡上の物語 
郡上のお城の始まりは 下総東氏(とうし)が功により 
山田の庄を加えられ 承久年間胤行(たねゆき)は 
剣 阿千葉に館して 郡上東家の開祖(もと)となる 
文武すぐれしわが東家 代々にすぐれし和歌の道 
勅撰集に名を連ね その名天下に聞こえたり 
戦乱続き消えかけし 足利時代の文学(ふみ)の道 
支えしちからはわが東家 五山文学あればこそ 
殊に七代常縁は 和歌に秀でし功により 
公家将軍の歌会(うたえ)にも 常に列して名は高し 
時に関東(あづま)に乱起こり ときの将軍義政は 
常縁公に命じてぞ 東庄回復はかりたる 
常縁郡上の兵連れて 関東に転戦十余年 
その頃京は応仁の 戦乱長くうち続き 
美濃の土岐氏は山名方 郡上の東家は細川に 
昨日の友は今日の敵 争いあうぞ是非もなき 
ついに土岐氏の家臣なる 斎藤妙椿(みょうちん)大挙して 
東氏本城篠脇の 城を襲いて奪いけり 
常縁関東にこれを聞き いたく嘆きて歌一首 
亡父追善法要に ちなみて無常歌いしに 
この歌郡上に伝わりて 聞く者胸をうたれけり 
妙椿これを伝え聞き 心は通う歌の道 
敵とはいえど常縁の ゆかしき心思いやり 
関東の空に歌だより ついに一矢(いっし)も交えずに 
十首の歌と引き換えに 郡上の領地返しけり 
かくて再び常縁の 徳にうるおう郡上領 
歌の真実(まこと)のふれあいに 恩讐こえて睦み合い 
戦わずして手に入りし 歌の花咲く郡上領 
げにもゆかしき和歌の徳 歌の真実の貴さよ 
歌で開けしわが郡上 歌でお城も守られて 
歌の郡上の名も高く 平和日本ともろともに 
栄えゆくこそうれしけれ 栄えゆくこそうれしけれ 
宗祇水 
歌の殿様常縁公 歌でお城を取り戻し 
いよいよ光る和歌の徳 その名天下にとどろきて 
時の帝(みかど)の召しにより 公卿将軍の師ともなり 
九十四年の生涯は ひたすら励む歌の道 
宗祇法師も都から 文明二年はるばると 
あこがれ訪い篠脇の 城に学びし古今集 
励む三年(みとせ)の功なりて ついに奥義の秘伝受け 
師弟もろとも杖をひく 郡上名所の歌の遺跡(あと) 
妙見社頭にいたりては 「神のみ山の花ざかり 
桜の匂う峰」を詠み 那比神宮に詣でては 
「神も幾世か杉の杜 みやいはなれぬほととぎす」 
文明五年秋すぎて 宗祇都に帰るとき 
常縁これを見送りて 別れを惜しむ小駄良川 
桜樹(おうじゅ)の下に憩いては 名残は尽きず「紅葉(もみじば)の 
流るる竜田白雲の 花のみよしの忘るな」と 
心を込めし餞(はなむけ)の 歌の真実は今もなお 
その名もゆかし宗祇水 清き泉はこんこんと 
平和の泉とこしえに 歌の聖のいさおしと 
奏で続けるうれしさよ 讃え続けるゆかしさよ 
およし物語 
およし稲荷の物語 昔の歌の文句にも 
きじも鳴かずば撃たれまい 父は長良の人柱 
ここは郡上の八幡の 霞ケ城を造る時 
お上の評定ありけるが あまた娘のある中に 
およしといえる娘あり 里の小町とうたわれて 
年は二八か二九からぬ 人にすぐれし器量よし 
ついに選ばる人柱 聞きたる親子の驚きは 
何に例えるものはなし 親子は思案にくれ果てて 
泣くばかりなる有様も お上の御用と聞くからは 
ことわるすべもなく涙 そこでおよしはけなげにも 
心を決めて殿様や お城のためや親のため 
死んで柱にならんとて 明日とは云わず今日ここに 
進んで死出の旅支度 白の綸子(りんず)の振袖に 
白の献上の帯をしめ 薄化粧なる髪かたち 
静かに立ちし姿こそ 霜におびえぬ白菊の 
神々しくも見えにける すでに覚悟の一念に 
西に向かいて手を合わせ 南無や西方弥陀如来 
後世を救わせ給えかし また父母にいとまごい 
先立つ不幸許してと あとは言葉も泣くばかり 
これが今生のお別れと 後ろ髪をばひかれつつ 
一足行っては振り返り 二足歩いて後戻り 
親子の絆切れもせず 親も泣く泣く見送りて 
どうぞ立派な最期をと 口には云えず胸の内 
ただ手を合わすばかりなり かくて時もうつるとて 
役人衆にせかれつつ およし一言父母と 
呼ばわる声もかすかなり 空には星の影もなく 
ただ一声のほととぎす 声を残して城山の 
露と消えゆく人柱 この世の哀れととどめける 
これぞおよしのいさおしと 伝え聞いたる人々は 
神に祈りて今もなお およし稲荷の物語 
歓喜嘆・二十八日口説き
(述に「願うべきは後生の一大事、たのみ奉るべきは弥陀の本願なり」とある) 
ここに同行のお茶飲み話 聞けば誠にご縁になるぞ 
二十八日お日柄なれば 今日はゆるりとお茶飲むまいか 
余り渡世の忙しきままに 売るの買うので月日を暮らし 
済むの済まぬと孫子のことに 腹を立てたり笑いもしたり 
罪業ばかりで月日を暮らし 大慈大悲のご恩の程も 
懈怠ばかりで年月送る 今日も空しく過ぎゆくことは 
電光稲妻矢を射る如く 今日のご恩があるまいならば 
今に無常の日暮れとなりて 耳も聞こえず眼力もきかず 
足手まといの妻子や孫や 金銀財宝家蔵田畑 
山も林も打ち捨ておいて 持ちもならねば持たしもならぬ 
死出の山路や三途の大河 阿呆羅刹に追い立てられて 
一人泣く泣く閻魔の庭に 業の秤や浄玻瑠鏡 
向かうその時ゃ言い訳立たず 右も左も剣の山に 
追いつ追われつ幾千万郷 焼かれ焦がされ身を切り裂かれ 
こぼす涙に天をば仰ぎ 大地叩いて七転八倒 
泣けど叫べどその甲斐ないと 聞くも恐ろし地獄の苦難 
遁がれ難きは我が身の上ぞ 
釈迦の往来八千遍と 弥陀の本願聞そう為に 
かわるがわるに七高祖と 唐や天竺日本までも 
渡り玉いし仏の御慈悲 知らぬ我身に知らさん為に 
高祖聖人藤原氏へ 誕生まします松若君の 
纔か御年九歳の春に 輿や車を乗捨たまい 
栄花栄耀の御身の上が 娑婆は暫しと無常を観じ 
慈鎮和尚の御弟子と成て 比叡の御山へ登らせ給い 
二十年来御修行中に 薬師如来へ千日参り 
それが足らいで都のあなた 慈悲を司の六角堂へ 
寒さ夜な夜な百夜の間 三里余丁の山坂道を 
雨やあられや雪踏み分けて 谷を越えさせ加茂川越えて 
女人成仏近道あらば 教え給えと心に祈誓 
さても不思議や御夢想ありて 御告げあらたに名も吉水の 
清き流れの御身の上が 妻や子供に交わり給い 
在家同事の御身とならせ 人に笑われ恥しめられて 
義理も人情も我等が為に 教え下さる念仏門が 
南都北嶺の嫉みに依りて 京も田舎も厳守停止 
師弟諸共御身の仇と 土佐や越後に流され給い 
輿や車の御身の上が 墨の衣に墨袈娑懸けて 
紺地草鞋をがまにて脛巾 笈も背中にもったいなくも 
杖と笠とて御苦労ありて 風の吹く夜も雪降る中も 
石を枕に御難儀かけし 足も血潮に北国関東 
二十年余ヶ年御化導ありて 弥陀の本願聞かさにゃおかぬ 
大慈大悲の念力故に こんな愚鈍や手強き者が 
今は邪見の角をば折りて 御恩御慈悲と細々ながら 
耳を傾け心を鎮め 聞く気出来たは只事ならず 
口に述べるも恐れがあるぞ 八家九宗と並ぶる中に 
分けて我等が御縁が深い かかる御苦労あるまいならば 
こんな邪見や慳貪者が 弥陀の本願聞き分けましょうか 
京も田舎も日本国中 御化導あまねく広まり給い 
此処に居ながら畳の上で 他力不思議の南無阿弥陀仏 
機法一体願行具足 助け給えも助かる法も 
何もかも皆此御六字に こめて収めてたたんで巻いて 
是をやるのじゃ貰えよ早く 貰えさえすりゃ悟りの都 
楽の身となる因じゃよ貰え 貰え貰えと御勧めなさる 
弥陀の本願六字のいわれ それを貰うに手間暇いらず 
知恵もいらねば才覚いらず 富貴貧賤姿によらん 
罪も報いも如来に任せ かかる者をと御受けが出来りゃ 
あとと待たせずその場ですぐに 摂取不捨とて光明の中に 
修め給いし大慈の不思議 最早何時命が尽きよと 
姿婆の因縁終わるやいなや 花の台で神力自在 
かかる事ばり聴聞すれば 娑婆は暫く夢見し如く 
善きも悪しきも宿業次第 彼尊任せと此の世の事に 
ままにならぬが御縁となりて 欲しい惜しいのその下からも 
思い出してはご恩の程に 命ながらえあるそのうちに 
仏祖知識の御恩を学び 国の掟を必ず守り 
親に孝行おこたるまいぞ 後生大事も此の世の義理も 
知らぬ我身に教えの知識 かかる御恩を御恩と知れば 
善きにつけても悪しきにつけて 思い出しては行住坐臥に 
唱えまいかや 只南無阿弥陀仏 
およし稲荷
およし稲荷の物語 昔の歌の文句にも  
きじも鳴かずば撃たれまい 父は長良の人柱  
ここは郡上の八幡の 霞ケ城を造る時  
お上の評定ありけるが あまた娘のある中に  
およしといえる娘あり 里の小町とうたわれて  
年は二八か二九からぬ 人にすぐれし器量よし  
ついに選ばる人柱 聞きたる親子の驚きは  
何に例えるものはなし 親子は思案にくれ果てて  
泣くばかりなる有様も お上の御用と聞くからは  
ことわるすべもなく涙 そこでおよしはけなげにも  
心を決めて殿様や お城のためや親のため  
死んで柱にならんとて 明日とは云わず今日ここに  
進んで死出の旅支度 白の綸子の振袖に  
白の献上の帯をしめ 薄化粧なる髪かたち  
静かに立ちし姿こそ 霜におびえぬ白菊の  
神々しくも見えにける すでに覚悟の一念に  
西に向かいて手を合わせ 南無や西方弥陀如来  
後世を救わせ給えかし また父母にいとまごい  
先立つ不幸許してと あとは言葉も泣くばかり  
これが今生のお別れと 後ろ髪をばひかれつつ  
一足行っては振り返り 二足歩いて後戻り  
親子の絆切れもせず 親も泣く泣く見送りて  
どうぞ立派な最期をと 口には云えず胸の内  
ただ手を合わすばかりなり かくて時もうつるとて  
役人衆にせかれつつ およし一言父母と   
呼ばわる声もかすかなり 空には星の影もなく  
ただ一声のほととぎす 声を残して城山の  
露と消えゆく人柱 この世の哀れととどめける  
これぞおよしのいさおしと 伝え聞いたる人々は  
神に祈りて今もなお およし稲荷の物語  
立山節
度胸定めて惚れたる主に いらぬ御世話ぢや水さす人に 見せてやりたい  
逢ふた其の夜の二人の仲を 切れろと云ふたとて切れはせぬ  
   四條河原に月影寒く 對の小袖も涙にぬれて 死出の旅路を  
   二人手に手を鳥邊の山へ 戀のほのほに煙立つ  
峯の白雪、麓の水 今は互に隔てゝ居れど やがて嬉しく  
とけて流れて添ふのぢやわいな アノ山越えて來いやんせ 
 
 
 
 
女一代たしなみ鏡  
国は河内の山畑で 諸国長者が集まりて  
衣裳比べがいたされる 主の佐太郎の初菊と  
俊徳丸とこの時に 親と親との許嫁  
稜徳母に死に別れ 犬和の国は萩よりも  
後妻おすわを貰いうけ 乙五郎つれて二度の縁  
長の年月送るうち 慾の袋にゃ底がない  
吾が子に跡がやりたいと 思えば俊徳邪魔になる  
刀で殺せば傷がつく 毒を呑ませば色変はる  
析り殺すが分別と 大和に帰るといつわりて  
泉川堺に出てまいり 鍛治屋与次兵工に頼み込み  
なし釘をあつらえる それは厭じゃと断れぱ  
おすわは大いに腹を立て 何時ぞや貸した金返せ  
金に手詰り写次兵ェが 泣く泣く仕上げる四十九本  
さても邪険な「おすわ」めが 自装東に下げ髪で  
頭に「せんとく」胸鏡 わらの人形携えて  
草木も眠る丑満時 人目を忍んで刻参り  
急所急所に打つ釘は 頭が痛む手が腐る  
草一夜の間に腫れ病い そこで継母申すには  
四国西国巡るなら 本復すると偽りて  
俊徳丸を追い出す 俊徳我が家を立つ時は  
背に笈摺杖に笠 郷里と名前を書き記し  
敷居を越すのが死出の山 雨だれ越すのが三途の川  
門に立てりし俊徳が もうし父さん父さんよ  
私の出た日を命日と 枯れたしきぴの一枝も  
析れた線香の一本も 供えて下さい父さんよ  
本の母さんあるならぱ こんな苦労はあるまいに  
杖をたよりにとぽとぽと 諸国巡礼いたされて  
巡り来たのが「さのうむら」主の佐太郎と知らずして  
報謝頼むと門に立つ 報謝進上と初菊が  
盆に「しらげ」の志し 笠の印を見るなれば  
俊徳丸と肩いてある これが夫かわが妻か  
親に頼んで暇貰い 夫の病気をなおさねば  
女の操が立たないで 俊徳丸の俊徳慕い  
ー先ず京都にのぽられて 伏見の滝や清水の  
滝に打たれて荒行する 一心込めた御利益で  
俊徳病気が全快し 一先ず郷里に帰られて  
俊徳丸と初菊と 目出度く祝言致されて  
二一代長者と名をなのり お礼参りと致される