水道民営化

政治利権のお勉強 

水道民営化
   メリット デメリット
   安全性 危険性
   儲かる人 損する人


 
 

「水道法の一部を改正する法律案」
   種別 / 法律案(内閣提出)
   提出回次 / 196回 提出番号48
   提出日 / 平成30年3月9日
衆議院委員会等経過 厚生労働委員会 / 平成30年6月27日-7月4日 / 可決
衆議院本会議経過 平成30年7月5日 / 可決 / 多数 / 起立
参議院の衆議院から受領日 平成30年7月5日
参議院委員会等経過 厚生労働委員会 平成30年7月19日-7月20日 / 継続審査
参議院本会議経過 平成30年7月20日 / 継続審査 / 多数 / 起立  
 7/ 5 水道の民営化を含む「水道法改正案」
 審議時間はわずか7-8時間 衆議院可決 会期切れ継続審査
11/22 水道法改正案が参院厚生労働委員会で審議入り
 
 
 〜2017

 

●我が国における公営水道民営化の可能性 2008/3
1 .はじめに
公営企業は類似している民間企業と比較されて議論されることが多い。民間部門では企業会計をベースとして企業間の比較を重要視するが、この背景には投資家にとっての投資収益率という同一の基準で比較できるからであって、事業目的がそもそも異なる公共部門にそのまま適用できない。同時に、市営水道事業と市営バス事業のように公営企業間で比較され議論されることもあるが、これも各々の事業の対象地域の特性が異なることを考えれば単純な比較は難しい。つまり、公共性もそれぞれの地域によってその内容が異なる。公共部門の企業の効率性を判断する場合には期間比較、即ち、中長期的な視点から地方公営企業としてのライフステージに注目した比較が可能である。
企業行動を見る視点として、例えば「企業の一生の経済学」あるいは「公営企業の持続的成長」といった、言わばライフステージからその活動を分析するアプローチが最近試みられている。企業の誕生、成長、衰退、退出を促す要因は何か、それらを制約する要因は何かといった視点に立ち、ミクロ的あるいはマクロ的なアプローチで研究を試みるものである。
このような観点から我が国の水道事業にっいて歴史的な近代水道の軌跡として区分化すれば、まずは1887年に横浜に近代水道が誕生してから約70年間は水道の「誕生期』と位置づけることができる。『誕生期」1末の1955年頃でも我が国の全国の水道普及率は30% に留まるものであった。そして次のステージとして我が国の経済成長に伴い、水道が生活に不可欠なインフラストラクチャーとして位置づけられ、1957年に「水道法」が制定され、粤富、低廉、清浄という目標の下、約30年に渡る右肩上がりの『成長期』を迎える。この時期には全国の水道普及率も87% まで高まる。そして2005年度末で水道普及率97.2% とほぼ100% に近いレベルに達した現在であるが、1990年に入ってからのバブル崩壊、少子高齢化の進展から全国的に水需要が横ばいあるいは減少という時代に入り、我が国の地方公営水道を取り巻く経営環境は極めて厳しい時期を迎える。地方自治休全般に渡る財政の悪化回避に向け水道事業のような事業的性格を有する地方公営企業の運営は合理化、アウトソーシング、民営化といった経営改善によってますます経済性、効率性の改善が強く求められる『成人期・転換期』のステージを迎える。
こうした『成人期・転換期』のステージを迎えた地方公営水道に係わる改革の処方箋が今まさに種々検討されている。本稿ではこれまでの本分野における先行研究の成果も紹介しつつ、水道事業者としてのライフステージ毎に、地方財政、都市経営の視点から、地方公営水道と民問企業との競合、地方公営水道への民間的経営手法の導入、地方公営水道の民営化等についての動向と論点・課題を纏め、今後の水道行政に係わる政策的なインプリケーションを示したい。
2 .『誕生期』と最適形態としての地方公営水道
我が国の地方公営水道事業の「誕生期」というべき近代の成立過程に注目した研究として寺尾[198/]、泉[2004]、 高寄[2003]等を挙げることができる。寺尾L198]1 は水道事業の基本的性格をふまえた公営企業のあり方を分析しており、また、泉[2004] は近代水道システムとその水の供給源としての水源林管理の変遷を実証的・定景的に明らかにしつつ、その背後にある水道行政や地元村と水源林との関係が森林管理に与えた影響を分析している。一方、高寄[2003] は水道事業創設を建設資金調達、外部借入資金返済、水道建設の費用対効果、自治体による経営戦略について歴史的事実をして地方財政、都市経営の視点から分析・実証している。『誕牛期』というライフステージでは一般には起業家に係わる人的資本や資金調達、さらには開業率の地域別格差等が研究上の対象として取りヒげられている。これらの先行研究を踏まえ、水道事業者としてのr誕生期』に公営、民営という事業形態の発展の経過比較や地方公営水道という経営形態が結果的に最適となった歴史的事実を経済学的視点から考察してみたい。高寄[2003] によれば、当時の政府の水道セクターに対する考えとして、まず私営公益事業をスタートさせ、その後に経営実態をみて丶民営か公営かを選択すればよいとの意向があったと指摘されている。水道セクターは相対的には収益性が低いセクターと見なされ、他のガス、電力、鉄道といった高い収益性が見込まれるセクターへの多くの民間参入がなされた競争的な市場と比較し、緩慢なスピードで拡大した市場であり、それは結果的に水道普及率の向h に時間を要することを意味したと考えられる。しかし高寄[2003] も言及しているように特定の所得階層に対する個人専用栓、事業用の給水サービスに限定すれば、水道事業も必ずしも収益陸がないものではなく、要するに公共性には欠けるが、限定的供給事業は企業方式で十分に収支均衡が可能ではあったので、幾っかの民営の水道事業者が参入した。
また、『誕生期』においてはこのような近代的な施設を前提とした水道システムの普及率も低いので、飲料水等の需要家としての市民の多くは、近代水道のネットワークの恩恵を被ることなく、旧来からの井戸水等に依存することになる。この場合、井戸水等に直接アクセスできない需要家に対し、良水と認められた井戸水や・部河川水を原水として供給サービスする「水屋」が隙間産業として大いに繁盛することになる。近代水道事業の代替ビジネスである「水屋」は、特に、度々発生する伝染病としてのコレラの流行時に政府として十分な伝染病対策が取れない中、井戸水の安全性が揺らぐと、これらの「水屋」による供給価格高騰に繋がり、大きな社会問題を引き起こしっっもそれなりの存在感を示していたという。
このように水道事業の『誕生期』というライフステージでは、資金調達力を有する多くの民間事業者がこの市場に参入することはなく、いくつかの民悶事業者の参入と資金力も必要のない零細事業者としての「水屋」が隙間をぬって限定的かっ効率の悪い水供給事業を行う稈度であり、最適事業形態としては結果において地方公営水道が担うことになった。そして水資源確保という近代水道システムにとって重要な水源林管理といった中長期的な視点に立った事業展開も地方公営水道以外にはこれを担う民間事業者はなかったのである。
この誕生期には、わが国では水道ネットワークに係わる社会的資本整備に公的な補助金を使用しているが、ネットワークの普及率が低い段階においては、このような補助金事業から直接的に裨益しない住民なり企業(例えば明治期であれば近代水道事業の代替ビジネスである「水屋」しか利用できない層) に対する説明責任を果たすことは必要となる。同時に、処理場の薬剤費用や日々の水道ネットワーク維持に係わる操業費用等の維持管理費用までは需要家の水道使用料で賄うとしても水道債のような建設資本費償還分なり、将来の補修費の積みL げ分まで水道使用料に含めるべきか、あるいは地方自治体からの補助金投人で賄うべきかに関しては水道ネットワークが敷設されている地域の地ノ∫財政、都市経営の視点で考えることが重要となる。高寄[2003] によれば、明治期の我が国の水道事業では、建設水道債の元利償還を、結局は料金値上げで対応したといえるが、建設費の国庫補助金はそれなりの負担軽減に寄与し、創業当初は市税の補填もあり、初期の経営難を救済したという。当該地域の持続的発展を前提とすればこれら補助金の金額レベルにっいては議論の余地はあるものの、地方財政政策上も都市経営上も地方自治体からの補助金投入自体は正当化できると考えられる。
一方、『誕生期』においては1888年の市町村制度公布から1953年の昭和の大合併まで市町村の単位がほぼ固定され、地方公営水道という経営形態を取っている水道事業も幕本的には市町村単位という事業範囲に制約された。しかしながら水道事業の『誕生期』から拡大する過程において水の吊的・質的確保が次第に重要なファクターとなっていくにつれ、事業範囲が、より上流部門へ、そして、より下流部門へ、また地域的にも拡大することになる。特に上水の水源林の確保という水道事業の最適事業形態化に向け、神奈jH県下三多摩が1893年に東京府に編入(水道弔業は1889年には東京市に移管) されたことは、水道事業の誕生から拡大という動きに応ずるためにむしろ府県なり、市町村の単位自体が変わったという象徴的な事例と考えるべきであろう。
3 ,『成長期』における水道ネットワーク拡充と企業財務の脆弱化
経済成長に伴い生活に不可欠なインフラストラクチャーとして水道が位置づけられ、1957年に「水道法」が制定される。この事業法に基づき、豊富、低廉、清浄という目標の下、1975年頃までに水道の普及率が飛躍的に高まるという約30年に渡る右肩上がりの『成長期』を迎える。
ほぼ同時に水道サービスの最適形態としての地方公営水道に関する法的な根拠となる地方公営企業法が1952年に施行される。地方公営企業法の制定前には地方公営企業は各々の事業法以外に地方自治法、地方財政法等が適用され、他の一般行政事務と同様の規制があり、企業としての経済性を発揮できないことを背景として地方公営企業法が提案されたのであった。その後、町村数を約3 分の1 に減少することを目途とする町村合併促進基本計画が策定され、その達成のため1956年に新市町村建設促進法が施行され全国的に市町村合併(いわゆる昭和の大合併:9868から3472 へ統合)が推進された。『成長期」の視点として、基本的には地方公営企業法に基づき市町村ごとに独立採算形態を取るが、これが水道財政を危機的な状況とすることに繋がり、地域間格差の拡大も生じてしまうことになる。
『成長期』というライフステージでは、一般には企業成長や企業行動、加齢効果等について、例えば、企業規模と企業成長の関係において「比例効果の法則」が成立するか否かといった分析や企業経営の継続(企業の加齢) とともに拡張していくネットワークが企業のパフォーマンスに与える分析等が研究上の対象として取り上げられている。水道事業者としての『成長期』においては、公的独占を通じた地方公営水道の基盤が整った上での企業の成長が見受けられ、民営化等のテーマは直接的に係わらない。しかし、これらの先行研究を踏まえ、むしろ地方公営企業法に基づく独立採算制による企業財務上の脆弱性や、水道事業の広域化推進上の課題等がこのライフステージにおいては重要な事項となることから、これらにっいての歴史的事実を考察してみたい。
例えば、地方公営企業法で「効率性」の概念は取り入れられているものの、その定義をeconomy ではなくefficiency を意味するとすれば、水道事業で言えば最も多額の資金を必要とするダム建設にっいて、水道水の供給単価を最小にする方法として、最低の貯水量を維持できるダムの数のみ建設すればよいことになる。しかし降雨量が少ないと、すぐに取水制限が行われ、これでは正に地方公営企業法の本来的な目的(住民福祉) にそぐわなくなる。このことは本来「パブリック・セクターの業務測定」として経済性、有効性、効率性という3 っの概念に立てば、何をインプットとし何をアゥトプットとするのかが自ずと明確にされるはずである。しかしながら現実には地方公営企業法に基づく独立採算制が抱える課題として、当時の公共経済学そのものが行政の守備範囲を矮小化させ、受益と負担論をべ一スとした行政上の見直し、切り捨てに大いに利用されてしまった。地方公営企業によるサービスがあたかも私的財と位置づけられ、受益に対応した負担や独立採算制が一層強調された。つまり公共性の概念を縮小し財政支出を抑制する方向の議論を誘発したのであった。
また、水道事業の広域化推進上の課題に関し、1970年代に入ると、全国の水道事業は深刻な経営危機に見舞われ、また、水供給の量的確保の観点から、当面は用水供給事業による大規模な施設整備を図り、経営主体として市町村の範囲を超えた。このような大都市圏の水不足対策として水資源確保を目的とした、いわば自然発生的にできたものと、地方における財政力の弱い市町村が水道普及を目的に共同設置した企業団営端末給水事業の2 っの類型が見られたが、これに加え、用水供給事業と端末給水事業の統合型という3 番目の類型が増加した。これらの水道事業の広域化は自己水の放棄、経営主体としての地方自治体の空洞化に繋がる。
このように『成長期』というライフステージでは、企業活動の発展スピードが加速化され、特に水道ネットワークの拡充と水供給に係わる量的なニーズへの対応が優先されることになるが、これらが公営水道としての企業財務上の脆弱性に繋がっている。
4 .『成人期・転換期』の到来
我が国における水道の普及率も2005年度末で97.2% とほぼ100% に近いレベルに到達した。しかし既に1990年に入ってからバブル崩壊、少子高齢化の進展から全国的に水需要が横ばいあるいは減少という時代に入り、水供給の担い手である地方公営水道を取り巻く経営環境は極めて厳しい時期を迎え、正に水道事業の7成人期・転換期』が到来している。総務省は2003年に「水道事業における新たな経営手法に関する調査研究会」報告書を発表、引き続き、水道事業にとどまらず地方公営企業等を対象として、指定管理者制度の導入、2004年には地方独立行政法人制度の施行、2006年には地方公営企業の経営の総点検の要請、さらには市場化テスト、民間譲渡といった政策メニューを提示した。こうして地方公営水道はこれらの一連の動きに呼応して各種の合理化、アウトソーシング、民営化といった経営改善を強く求められることになった。
このような我が国の地方公営水道事業の『成人期・転換期』に注目した研究として中山[2003]、杉田[2005]、中小規模上下水道研究会[2005]、太田[2006]等を挙げることができる。中山[2003] は我が国の上水道事業にっいて、非効率性を考慮しながら生産・費用構造にっいての分析を行っている。杉出[2005]はPFI 導入に係わる課題等を分析し、中小規模上下水道研究会[2005] では上下水道事業運営とアウトソーシングを通じた民間活力活用にっいて分析し、また、太田[2006] は水道事業をめぐる新たなパラダイム構築に向けた課題について分析、提言している。
『成人期・転換期』というライフステージでは、一般には企業の存続と倒産、小規模企業の退出,企業の事業承継等が研究上の対象として取り上げられている。これらの先行研究を踏まえ、水道事業者としての「成人期・転換期』を迎えるにおいて地方公営水道が民間的経営手法をどこまで導入できるのか、そして民営化まで至るプロセスに進む際にはどのような課題なり、条件が必要になるのか、さらには平成の大合併のような市町村の合併による地方自治体自体の大きな変革の中で小規模な地方公営水道や簡易水道の統合がどこまで進むのかといった諸点について考察してみたい。
まず地方公営水道に民間的な経営手法の導入や民営化を検討するとしてもその前提として地方公営水道が相対的に非効率であることが確認されることが必要となる。1990年代の関西地域の水道事業者を対象とした中山[2003] の分析からは技術非効率性(生産要素を投入した場合に技術的に最大の産出量を生産できない)、配分非効率性(生産にっいては技術効率的であるが、費用を最小化するような生産要素の比率を選んでいない) の発生が全体として実証され、さらに水道サービスの普及率が100%近くになっている現状で高所得者層から低所得者層に対するCross Subsidy自体は所得再配分効果が期待できるが、これがゆえに水道料金水準を高く設定している事業者や他会計からの補助金や繰入金の比率が高い事業者では技術非効率性が悪くなっている。この水道料金水準にも関連するが、水道サービス提供維持のための水道事業に係わる資本維持と世代間負担の衡平性に繋がる問題として、現行の地方公営企業会計上、資産の計算に際し、時価主義ではなく原価卞義が採用されていることは課題として大きな影響を与える。この資産計算に基づき料金設定のベースが決められている。このように地方公営水道ではその効率性や資産会計上の課題が存在しているのである。
2006年に日本水道協会により総務省委託事業として1水道事業における民闇的経営手法の導入に関する調査研究報告書」が取りまとめられており、水谷「2007] の研究も参考に、まずは水道事業における民間的経営手法の適用を事業運営面で類型化してみたい。
[1] 従来型業務委託
メーター検針業務等の定型業務、計装設備の点検。保守等の機械的。電気的業務で受託可能な民間事業者が複数存在するために、合理的な価格設定が可能な業務を民間事業者等に委託するものと定義される。総務省による外部委託調査結果によると水道分野では外部委託(一部委託を含む) の適用例が多く、委託比率の低い「浄水場運転管理」でも573事業で行われ、市町村等の約4 割が外部に委託している。
[2] PFI
l999年にPFI (Privat eFinance Initiative) 法として導入され、本来、公的サービス提供のための資金調達を公が行わなくても良いというメリットを有するQ しかし我が国においては水道関係補助金や資金調達の条件が有利とされる地方債制度があるため、民間による資金調達にこだわらず、PFI を、 PPP (Public  Private Partnership 一官民連携) の一部として活用することも考えられるとしている。浄水施設全体、あるいは浄水施設内の発電施設、排水施設等一定程度の規模(スケールメリット) があり、施設整備と維持管理運営が1 っの事業として完結している事業が適している。水道事業では、民間事業者が施設を整備した後、管理運営を行い、契約期間終了後に民間事業者が施設を保有あるいは撤去するBOO (Build Operate Own ) として東京都の事例があり、また、民間事業者が施設を整備した後、施設の所有権を水道事業者に譲渡し、管理運営は民間事業者が行うBTO (Build Transfer Operate) として神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県等の事例がある。
[3] 第三者委託制度
2002年の水道法24条の一部改正に伴って導入されたのが第三者委託制度である。民間企業であれば「アゥトソーシング」、下水道であれば「包括的外部委託」に該当する。浄水場を中心とした取水施設、ポンプ場、配水池等を含めて一体として管理する業務等を委託している。従来型業務委託と比較して、例えば浄水場を主として取水施設等の他の施設も一体とした本質的な業務をより包括的に委託でき、また、複数年契約も可能で、さらに技術的な管理業務に限定した委託となっていることが特微として挙げられる。第三者委託制度により、技術
力の強化、コスト削減効果とともに新たな広域化への対応も期待できるとしている。第三者委託の導入は簡易水道事業や上水道事業で比較的事例は出てきたが、まだ1 − 2 %程度と導入比率は小さい。
[4] 指定管理者制度
2003年から施行された改正地方自治法により導入された制度で、「公の施設」の管理を自治体以外の者に行わせる場合、民間も代行することが出来、施設管理委託にとどまらず利用許可や料金設定権限まで委任ができる。行政サービスの観点から「公の施設」についてその設置日的に照らした効果が生まれているかという評価を行い、その.一ヒで「公の施設」が住民ニーズの変化、多様化に応えるものとなっていたのか、また、当該「公の施設」を活用した行政サービスを担える主体が行政以外に成長しているかといった視点から導入の適否が検討されるもので、「公の施設」を活用した最良のサービス提供者を探すための制度である。但し、この制度自体は民営化を義務付けるものではない。
水道事業では岐阜県高山市において指定管理者制度導入の事例がある。
[5] 地方独立行政法人
地方公共団体が直接事業を行う場合に準じた公共性を確保できる地方独立行政法人法が2004 年に施行された。地方独立行政法人の長により広範な権限行使を認めることで、より自立的な事業運営を行わせ、経営責任の明確化を図る一方、中期目標期間における目標・計画に基づく経営により透明性を高め、単年度予算主義とは異なるルールの下で機動性・弾力性のある予算執行が可能になる等、事務・事業の効率性や質の向上を図ることが出来るものである。
水道事業にっいて導入事例はないが、地方独立行政法人の導入検討に際し職員を非公務員型とすることが前提となっていることから、労務上の問題を挙げる事業体が多い。
水道事業の事業運営面で以上のように民間的経営手法の適用の類型化がなされるが、現在進行中の第三者委託制度の多くは、公営水道企業の技術基盤の脆弱性を補うものに留まっており、経営基盤については対象としないか、副次的なものに留まっている。この点で、2003年から施行された改正地方自治法により「公の施設」の管理を自治体以外の者に行わせる指定管理者制度では民間も代行することが出来、施設管理委託に留まらず利用許可や料金設定まで委任ができる可能性が出てきたことは注目に値しよう。そして水道事業では2006年4 月に初めて岐阜県高山市において指定管理者制度が導入されている。
料金設定という経営基盤に直接関係する行為まで民間に委任でき、事業運営面での自由度付与に伴い、その経済性・効率性の改善効果が期待出来るところである。例えば従来の使用料制度では料金の納付先が地方自治体ということで、事業者としては単に料金徴収代行を行っていた立場であったのに対し、利用料金制度では納付先が指定管理者となり、指定管理者として努力すれば収入が増えるインセンティブを付与するものとなっている。しかし利用料金制度ではあくまでも大規模回収経費は自治体負担であり管理者負担となるのは通常の維持管理経費までに留まることや指定管理者の指定に関しては総務省自治行政局長から本制度導入に当たっての例示的な指標が2GO3年7 月17日に通知されており、これによれば、公平性、有効性、経済性、安定性の4 つの指標が示唆されている。即ち、「公の施設」の管理上の財政悪化を極力回避すべく経済性・効率性の視点に日を奪われがちではあるが、地方自治体としては「公の施設」を利用することによる有効性・公共性も重要な視点となっている。
以上のような水道事業における民間的経営手法の導入の次に位置づけられる民営化そのものに直接的に焦点を当てた研究としては、加藤[2005]、 松田[2007]、石井[2007] があるが、水道事業における民営化のメリット・デメリットの客観的な検証には次のような論点が挙げられよう。
まずは当該水道事業を行っている地方自治体にとって民営化導入による財政効果が期待できるのかは重要な点となる。この際に特にストック・ベースでは公営水道企業の企業債残高をどのように処理するか、また、水道施設資産への既投入の補助金の返還をどのように扱うのか、また、フロー・ベースでも水道事業者に対し今後とも地方自治体等による補助支援を継続するのか否か等官から民への経営形態の移行に伴う問題点を明らかにすることが必要である。
次に民営化導入による競争導入効果があるのかという点が挙げられる。事業全体をPPP(Public Private Partnership 一官民連携) とするためには、行政手続き面で供給規定(水道料金等を記載) の取得許可が必要となり、供給規定変更の度に大臣認可を求められる。同様に包括的な0 & M 契約やアフェルマージに近い形態での民間参入を行うとしても国から事業許可・供給規定認可の取得が必要となり、これは事実上大きな参入障壁であり、事業コスト負担増にも繋がる。さらに現時点で我が国では(ごく一部の別荘地等を除けば) 民間の水道事業者は事実上存在せず、そもそも水道サービスを担える主体が行政以外に成長しているかという観点から検討する必要があろう。
最近の報道によっても、水道事業への参入を図って準備活動していた大手商社が、国内水道市場拡大のペースが遅く、海外市場に注力した方が効率的と判断、国内水道事業から撤退するとの動きと伝えられている。我が国の水道事業については民間委託なりPFI による市場拡大が期待されたもののこれら商社は1 件も業務獲得できず、2 − 3 年で黒字化が求められる商社の投資尺度には合わなかったとこの報道では解説している。これに対し公共1司士の連携の場合には(当該エリアの)市町村レベルの同意に留まることから民間事業者が参入する場合と比べ参入コストは低く、さらに公的機関と民間企業との問での資金調達に係わる条件や課税面の扱い等公民間の公正な競争導入を期待するには様々な課題が残る。さらには将来的には欧州企業等と同様に民営化導入による国際進出効果があるのかという点にっいてもフォローする必要があろう。
一方、平成の大合併のような市町村の合併による地方自治体自体の大きな変革の中で、小規模な地方公営水道や簡易水道の統合にっいては市町村数が2002年度末に3212であったのが2005年度末に1821まで減少したことに応じて統合化が進んだことも統計上も確認できる。寺尾[1981] が指摘したように、かつての水道事業の広域化推進では、水資源の開発が「遠くの高い水」になった場合には、住民の負担は増大する傾向にあり、広域化によって単純に安くなるわけではない実態もあった。従って、今同のような市町村の合併の機会を捉え、地方公営水道や簡易水道の統合の検討に際し、物理的な施設統合のべ一スとなる水道需要の適切な見通しや施設維持・管理上の経済合理性を発揮させるに留まらず、経営統合面で公営水道企業の経営基盤の強化に繋がる統合に持っていくことが重要である。
5 .水道事業の持続的成長に向けて
足元では財政悪化が深刻な自治体に早期再建を促す地方財政健全化法が2007年6月に成立、2009年4 月から施行されることになった。自治体の財政の健全性を実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率の4 っの指標で判定し、悪化の度合いに応じて早期是正措置を発動することを柱としている。地方財政に対する国の監視が強まり、財政難の臼治体は行政運営の抜木的見直しを迫られることになる。新制度では普通会計の実質赤字比率に加えて水道等の地方公営企業等まで含b た赤字の比率(連結実質赤字比率)等にっいて単年度フローだけでなくストック面にも配慮した財政状況を導入、指標ごとに基準を設け、満たせなければ財政再建が必要な自治体と認定され、厂財政健全化団体」、「財政再生団体」という段階を経て国の関与が強化されることになった。
本稿でも述べたように、今求められている地方公営企業としての水道事業の変革もライフステージ毎の視点から公平性、有効性、経済性、安定性という4 っの指標で考えることが重要である。企業の一生の経済学的アプローチから言えば、ライフステージの最後では企業の倒産、事業承継等といったテーマが研究対象となる。しかし水道は社会的墓盤として必要なものである以上、例え企業として倒産したとしても、残された人材、技術・ノウハウ、販売先との結びっきといった経営資源は残され、承継されねばならない。
平成の市町村合併による地方自治体自体の大きな変革の中で水道事業も変革を余儀なくされているというのが実態との見方もあるが、最適経営形態としての地方公営水道も指定管理者制度を初め、今後は積極的に民間的経営手法を導入することでより経営基盤を強化しなければ本体の地方自治体自体までが経営の自由度を失ってしまう。我が国において今後は全国的に水需要がせいぜい横ばいか減少すると見込まれ、また、地下水利用の専用水道進出の影響もあり、囗本水道協会で対抗ヒの逓増型料金体系の見直しに着手する等、水道事業としての料金減収の回避に向けて水道マーケット自体の変容に対応することが迫られている。
加藤[2005] はむしろ欧州では新設道路や美術館・博物館より水道事業の方が需要リスクの観点から相対的には安定しているので民間企業も参入しやすいと見ている。従って、例えば、指定管理者制度上、その利用料金制度と逓増型料金体系の変更というレベルまで指定管理者側に契約設計.E の自中度を与えることを想定した
場合に、水道ネットワークという「公の施設」の管理上の経済性・効率性の向上にどこまで繋がり得るのかケース・バイ・ケースで慎重に検討する必要があろう。このように「公の施設」の管理上の財政悪化を極力同避するための経済性・効率性の向上が重要であることは論を待たないが、地方臼治体として水道ネットワークという「公の施設」を利用することによる有効性・公共性の追求も同時に重要な視点であることを忘れてはならない。  
 
 

 

 
 
 
 2018/ 1-6

 

●誰のための水道民営化? 2018
 ドキュメンタリー映画『最後の一滴まで―ヨーロッパの隠された水戦争』
ドキュメンタリー映画『最後の一滴まで』は、2000年以降に水道再公営化がなされた都市について、また債務危機後に民営化を強制されるヨーロッパの自治体の状況を描いた作品です。これらの経験は今まさに水道民営化の方向に進む日本に大きな示唆を与えてくれます。この映画の問題提起を、より具体的に日本の課題とつないで考えられるよう、ストレッチゴールとして日本の状況を取材したオリジナルDVD作品の制作を設定しました。この作品では、日本各地での水道事業の実態(料金値上げ、水道管の老朽化、職員不足等)の事例を取材するほか、専門家・自治体の声をご紹介します。また「PFI法改正」や「水道法改正」などを通じて水道民営化の方針をとる日本政府の政策も検証します。翻訳作品『最後の一滴まで』と併せてご覧いただければ、水道民営化をめぐる世界と日本の状況がより深くご理解いただけます。
水道民営化をめぐり揺れるヨーロッパ。日本はどうする?
私たちが生きていく上で必須である「水」。2010年、国連総会は安全な飲料水へのアクセスを人権の一つとする(The Human Right to Water)原則を承認しました。しかし1990年以降、世界の多くの国・自治体において水道サービスの民営化が進み、途上国での水へのアクセスもまだ多くの課題が残っています。
日本でも2000年以降、水道事業への民間参入の道が開かれてきました。2018年6月、国会で水道法の改正案が審議され、今まで以上に民間企業が水道事業に参入しやすくなる「コンセッション契約」の推進を含む改正が検討されました(この国会では成立せず秋以降に見送り)。水道事業は民間企業が担えばうまくいくか? 公共サービスとは何かーー? 日本の私たちに突き付けられている喫緊の課題です。
こうした中、ヨーロッパをはじめ多くの国・地域における注目すべきトレンドがあります。それは、民間企業が担ってきた水道サービスを公営に戻す動き、すなわち「水道の再公営化」です。2000年以降、世界では835件以上の水道再公営化が行われてきました。それを牽引するのがヨーロッパの大都市の事例です。住民の運動や地方議員からの提起によって水道事業が公共の手に取り戻されているのです。再公営化を果たしたパリ市やベルリン市などの行政当局の担当者や議員は、「民営化という幻想」を強く批判しています。
一方、2008年の欧州債務危機によって深刻な打撃を受けたギリシャやポルトガル、アイルランドなどの国々には、欧州連合による財政再建計画の一環として水道事業の民営化が押し付けられています。背後には、これらの国々を新たな投資先として狙う水道企業と、その企業と密接につながるフランス政府などの存在があるのです。再公営化によって水道サービスを公共に取り戻した自治体と、いままさに民営化を強いられている自治体ーー。同じヨーロッパにおいても、両者の姿は明確に異なります。
「水道サービスは誰が担うべきなのか?」
「水は商品か、人権か?」
「民主主義・自治は機能しているのか?」
ヨーロッパにおける人々のこれらの問いは、日本の課題と直結しています。私たちはその経験から何を学ぶべきなのでしょうか?
『最後の一滴までーヨーロッパの隠された水戦争』の日本語版の制作
近年のヨーロッパにおける水道民営化・再公営化の実態を描いたドキュメンタリー作品が、『最後の一滴まで―ヨーロッパの隠された水戦争』です。作品は4年間に及ぶ取材・制作期間を経て2018年にギリシャで公開されました。フランス、ドイツ、ギリシャ、ポルトガル、イタリア、アイルランドの6か国・13都市を綿密に取材し、自治体議員や市長、研究者、NGO、アクティビスト、そして民営化を推進する企業へのインタビューまで、多様な登場人物が発言していきます。
本プロジェクトは、この本作品を翻訳し日本の皆様に広くご紹介することをめざします。水道民営化の問題は、日本でも非常に重要な課題であるにも関わらず、これらヨーロッパの新しい動きについて国内で報道されることはほとんどありませんでした。その意味でも、今回この作品を日本でご紹介する意味はとても大きいと言えます。特に、2018年9月からの臨時国会で再び水道法の改正法案が審議される見込みである中、全国各地の市民や自治体議員・国会議員が水道民営化と水道サービスのあり方について議論を始めるきっかけを提供してくれるでしょう。
映画に登場する都市・自治体とあらすじ
2010年に水道再公営化を果たしたフランス・パリ市
パリ市の水道サービスは過去25年もの間、民間企業によって担われてきました。パリ市の前副市長アンヌ・ル・ストラ氏(写真)は、「この長年の民営化の結果、私たちは技術面の管理権限を失ってきたことに気づいたのです。さらに財政的な透明性も欠如していました。だから私たちは水道サービスの管理権を取り戻すことを決定したのです」と語ります。実際、民営化時代のパリ市の水道料金は1985年から2008年までで174%も増加し、水道サービスについての正確な情報が行政や市民に開示されることもなかったといいます。パリ市の水道は2010年に再公営化され、世界の水道サービス再公営化の流れを大きく牽引していく象徴的なケースとなりました。
多大なコストを支払って再公営したドイツ・ベルリン市
1990年代に新自由主義がもたらされたドイツでは、「民営化されればすべてがうまくいく」とされ「債務削減」「効率化」という名のもと、多くの自治体で水道民営化が行なわれました。しかし350億ユーロだったベルリン市の債務は、その後650億ユーロにまで拡大。民営化によって債務が減るどころか、増えたのです。しかもベルリン市と水道企業が交わした契約内容は「秘密」。市議ですら簡単に契約書の閲覧ができない状態でした。ベルリン市議たちは契約内容の開示を求めます。その契約は、30年間のPPP(Public-Private Partnership)契約であり、企業が利益を得ることを前提とした内容でした。「公共の水協会」のクリスタ・ヘクト氏は、「企業は公共サービスと違いリスクを負っている、と言われます。しかしリスクとコストは、すべて住民に転嫁されるのです」と語ります。2011年2月、情報開示を求める住民投票を経て、2014年ベルリン市はついに水道サービスを再公営化します。しかし企業側から経営権を買い戻すために13憶ユーロ(約1700億円)がか必要でした。一度民営化したら再公営化にいかに大きなコストと労力がかかるのかが浮き彫りにされます。
民営化の「失敗」のツケが住民にーポルトガル・パソス・デ・フェレイラ
ポルトガルの人口5万人の自治体パソス・デ・フェレイラ。ここも他の自治体と同様に企業と契約を交わし水道を民営化しましたが、その結果は悲惨なものでした。水道料金は400%も値上げされ、ある日突然、ポルトガルで最も水道料金が高い自治体となったのです。人々は町に出て抗議を始めます。
町長のウンベルト・ブリト氏(写真)は、自身の選挙選中から水道民営化の問題は深刻だと感じていましたが、就任後、予想をはるかに超える最悪の事態を迎えます。企業との契約を破棄しようとすると、逆に企業は自治体に、未来の利益の賠償を含む損害賠償を請求したのです。「企業が1億ユーロ(約130億円)もの賠償金を要求することなど知りませんでした。もちろん受け入れられません。企業が予測していた利益を得られなかったら、その金額を住民が払わせられるなんて・・・・」(ウンベルト・ブリト氏)
債務危機からの再建プログラムで水道民営化を強いられるギリシャ・アテネ
再公営化を選択する都市がある一方、いままさに民営化が強いられているヨーロッパの国々もあます。2013年2月、ギリシャ政府は欧州債務危機からの再建計画の一環としての民営化プログラムを進めています。その推進役の国の一つ、フランスのオランド大統領(当時)は、「民営化はギリシャの人々の選択であり、ヨーロッパが推奨したことでもある。いかなるセクターでも、フランス企業は出資する準備がある」と演説。これら再建計画には、ギリシャの全地方政府に対して水道サービスを含む公共サービスの民営化を強いる内容が含まれていました。2017年9月、フランスのマクロン大統領(写真)は、ギリシャの民営化プログラムに関心を示す40人ものフランス企業人を連れてギリシャを訪問。中には水道メジャーのスエズ社のCEOの姿もありました。ギリシャ首脳は「債務を減らすため第3次財政再建プログラムを受け入れます。他の道はありません」とマクロン大統領の前で必死のアピールを行います。
「欧州連合もギリシャ政府も、私たちの水道を売り物にしている」と、ギリシャ・テッサロニキの住民たちは立ち上がり抵抗します。住民はベルリン市等の例にならって、水道民営化の是非を問う住民投票を計画しますが、そこには様々な妨害や問題が起こります。果たして住民投票の行方と結果はーー?
”水道メーターなんかいらない!” アイルランドの住民たちの抵抗
債務危機で打撃を受けたもう一つの国、アイルランド。債務を抱え返済しなければならないアイルランドに突き付けられた条件は水道民営化でした。各自治体にわかれ、37あった水道事業体は一つに統合するよう指示され、政府は「アイルランド・ウォーター・カンパニー」を設立。同社は住民の家の敷地外に水道メーターを設置し始めました。しかし、アイルランドにはもともと水道メーターはなく、水道料金は一般税を通じて徴収されていました。そのおかげでアイルランドはOECD諸国で唯一、「水の貧困(水の欠乏状態)」の人がゼロという実績を誇る国でした。そこにメーターが設置されるということは、住民にとっては一大事です。ある日、一人の若い女性が路上でメーター設置に抵抗するスタンディングを始めました。その輪は次第に広がり全国規模に発展します。
こうした動きは、2009年の緊縮政策と財政再建計画が持ち込まれて以降初めての人々の抵抗運動でした。2014年11月には20万人もが全国各地からダブリンに集結し、水道料金のメーター制チャージに反対するデモが行われました。
日本における水道サービスの未来は?
2018年7月、国会で水道法の改正が審議されました。改正案には、水道事業に民間企業が今まで以上に参入しやすくなる、企業と自治体との「コンセッション契約」が促進される内容が含まれています。民営化された水道を、再び自治体のものへと戻していくヨーロッパや世界の動きと、今から民営化を推進しようとしている日本は、まるで逆の方向です。なぜなのでしょうか?
水道民営化の歴史が古いイギリスや、1990年代に民営化がなされたベルリンなどの都市では、「民営化こそが解決策」と長く言われてきました。しかし映画でも数々の経験が紹介されているように、民営化で決して自治体の債務は減らず、水道料金も下がるどころかむしろ値上がりしたケースが多くありました。さらには企業の所有に移ったことで、議会や住民への情報開示・説明責任も十分でなく、まさに民主主義の根幹に関わる問題として、多くの人が水道サービスの問題をとらえるようになっていったのです。
日本での水道サービスを考える上で、2つの観点が必要でしょう。まずは、あらゆるサービスを市場原理の中に入れていこうとする、いわゆる「新自由主義」の導入です。国内的には、規制改革会議をはじめとする審議会などが、農業、金融、交通、食の安全・安心など多くの分野で、「規制緩和」「規制の撤廃」を進めています。公共的な政策のスペースは縮小し、私たちの命や暮らしを守ってきた法令などは後退していっています。この文脈の中で、今回の水道法の改正が提起されているのです。誰にとっても必要であり、人権でもある水を、簡単に企業の手に渡せるようにしてしまってもいいでしょうか?
すでに日本では2018年5月、上下水道事業について民間が運営する「コンセッション制度」を自治体が導入した際に、自治体の財政負担を軽減する措置などを盛り込んだ「PFI改正法」が可決されました。これによって今後、地方自治体は正念場を迎えます。コンセッション契約を企業と行うことが強く推奨され、他に選択肢があってもPFIを優先的に検討せねばならなくなるからです。水道事業のコンセッションに対応できる日本企業は非常に少ないため、経験のあるグローバル・オペレーターたちが優位となり、世界各地で数十年前に起きた悲劇が日本でも繰り返される可能性があります。
もう一つは、各自治体が運営する水道事業が抱える問題があります。大都市では水道事業は黒字運営ですが、人口が減少している自治体では水道事業の維持が困難であり、料金の値上げをせざるを得ないケースも多くあります。また戦後の日本の水道を支えてきたインフラとしての水道設備は老朽化し、改修が不可欠となっています。しかし財源もなく人口も減る中で改修は進んでいません。こうした中で、「広域化」「民営化」というプランが提案され、かつてヨーロッパで言われたように「民営化こそが解決策だ」と多くの人たちが錯覚させられていると言えるでしょう。「広域化」「民営化」からも取りこぼされてしまう小さな自治体で、今後水道はどのように提供されるべきか、また老朽化したインフラ改修という避けられない課題をどうするのか。民営化の是非だけの問題でなく、持続可能な地域、公共サービスのあり方、住民自治の実践という観点から、私たちは対案を出していく必要があるでしょう。この映画がその議論の一助となることを願っています。  
 
 
 2018/ 7

 

●あまり報道されない「水道民営化」可決。外国では水道料金が突然5倍に  7/12
問題化した「水道の老朽化」が後押し。民営化で解決するのか?
あっという間に可決された「水道民営化法案」
7月5日、水道法改正法が衆議院本会議で可決されました(編注:参議院では今国会での水道法改正案成立は見送られ、第196通常国会は7月22日に閉幕しました)。これについて、週刊文春は以下のように言及しています。
「W杯での日本代表の活躍に湧き、オウム真理教の松本智津夫被告ら7名の死刑執行に驚かされた7月第1週だったが、7月5日、水道事業の運営権を民間に売却できる仕組みを導入することなどが盛り込まれた水道法の改正案の採決が衆院本会議で行われ、自民・公明両党と日本維新の会と希望の党などの賛成多数で可決された。」
水道法改正案が審議入りしたのは6月27日。働き方改革関連法案に押されて審議入りは未定だったものが、6月18日に発生した大阪北部地震により21万人以上が水道の被害を受けたことで、「老朽化した水道」という問題がクローズアップされ、一気に審議入りしました。
市町村の赤字体質が「水道の老朽化」を招いた?
「市町村などの水道事業者は人口減による収入減などで赤字体質のところが多く、老朽化した水道管の更新が遅れていた。」
そもそもこれが水道法改正の背景にあるようで、老朽化した水道管更新が遅れているのは水道事業者の赤字にあるというのです。
その解決法が、民間企業参入を認めるということだと政府は考えているようです。
2013年に麻生氏が「水道民営化を目指す」と断言
水道管老朽化対策促進の名目で、市町村などが経営する原則は維持しながら民間企業に運営権を売却できる仕組み(コンセッション方式)も盛り込んだのが、今回の水道法改正になります。
国鉄、タバコ、電信、郵政と、いわゆる「三公社五現業」の民営化が続いてきました。今回は水道事業の民営化のようです。
「自民党は以前から水道民営化を推進しようとしていた。麻生太郎氏による「この水道は全て国営もしくは市営・町営でできていて、こういったものを全て民営化します」という発言は、2013年4月にアメリカのシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)で行われた講演でのもの。麻生氏は「水道の民営化」を目指すと断言している。」
これは、2013年4月にアメリカのシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)で行われた麻生太郎財務大臣兼副総理の講演でのものです。
明確に麻生大臣は「水道の民営化」を目指すと断言しています。
公明党が主導した今国会での成立
今国会で水道法改正案の成立を主導しているのは公明党だと言われています。
公明党が水道法の改正に積極姿勢を示すのは、来年の統一地方選や参院選をにらんだ動きだと文春は指摘しています。
水道事業の経営悪化は地方の生活に直結するため、3,000人の地方議員を抱える公明党は水道法改正案の成立にとりわけ熱心だと文春記事にはあります。
受注会社の自由度が高い「コンセッション方式」
水道事業の民営化に関してのキーワードは、「コンセッション方式」です。
コンセッション方式とは、高速道路、空港、上下水道などの料金徴収を伴う公共施設などについて、施設の所有権を発注者(公的機関)に残したまま、運営を特別目的会社として設立される民間事業者が施設運営を行うスキームを指します。
この特別目的会社を「SPC」と言いますが、SPCは公共施設利用者などからの利用料金を直接受け取り、運営に係る費用を回収するいわゆる「独立採算型」で事業を行う事になります。
「独立採算型」事業では、SPCが収入と費用に対して責任を持ち、ある程度自由に経営を行うことができます。
例えば、利用者の数を増やすことによる収入の増加や、逆に経営の効率化による運営費用の削減といった創意工夫をすることで、事業の利益率を向上させることが可能です。
竹中平蔵氏が推進する「インフラ運営権」の売却
コンセッション推進と言えば、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣などを歴任した、内閣日本経済再生本部産業競争力会議(民間)議員などを務めるパソナグループ取締役会長の竹中平蔵氏がすぐに出てきます。
竹中氏はいろんなところで、国や地方などの公的部門がインフラの運営権を売却することを提案してきています。その成功例として空港運営の民間委託を挙げていますね。
竹中氏は2013年4月に行われた第6回産業競争力会議でも「インフラの運営権を民間に売却して、その運営を民間に任せる。世界を見渡してみれば、港湾であれ空港であれ、インフラを運営する世界的企業が存在します」と発言しています。
海外では失敗している「水道民営化」
ただ、この水道事業民営化においては、海外ではいくつか失敗例も見受けられます。水道の民営化の失敗例としてよく知られているのが、マニラとボリビアの事例です。
マニラは1997年に水道事業を民営化しましたが、米ベクテル社などが参入すると水道料金は4〜5倍になり、低所得者は水道の使用を禁じられました。
またボリビアは1999年に水道事業を民営化したものの、やはりアメリカのベクテル社が水道料金を一気に倍以上に引き上げ、耐えかねた住民たちは大規模デモを起こし、200人近い死傷者を出す紛争に発展しました。
当時のボリビア・コチャバンバ市の平均月収は100ドル程度で、ベクテル社は一気に月20ドルへと値上げしたのです。大規模デモは当時の政権側は武力で鎮圧されましたが、その後、コチャバンバ市はベクテルに契約解除を申し出ると、同社は違約金と賠償金を要求してきたそうです。
世界の潮流は「再公営化」
外資が参入してきて水道料金を引き上げ、水道料金が支払えない低所得者層は水が飲めずに、衛生上よくない水を飲んで病気になるケースもみられます。
民間の水道事業者が利益ばかり追いかけたことにより、「再公営化」が世界の潮流となりつつあるという指摘もあります。
この外資企業と言われるのが「水メジャー」と呼ばれる企業で、2強と呼ばれるのがスエズ・エンバイロメント(フランスや中国、アルゼンチンに進出)とヴェオリア・エンバイロメント(中国、メキシコ、ドイツに進出)です。いずれもフランスの企業です。
人間が生きていくうえで必要なのは「空気」と「水」。私たち国民には十分に知らされないまま、水道法改正法が衆議院本会議で可決されました。 
 
 

 

●水は必須の「社会的共通資本」 7/10
 水道民営化はNG、世界の潮流はすでに“再公営化”へ
市場原理がもちこまれ、世界では1980年代から民営化が進んだ水道。しかし、料金の上昇や水質悪化などが頻発、再公営化への揺り戻しが起きている。そんな中、日本は「水道法」改正で今から水道民営化へ舵を切ろうとしている。関良基さん(拓殖大学准教授)にその問題点を聞いた。
事業者に都合のよい改正案。コンセッション契約、広域化、料金変更の届け出制
電力小売りが自由化されて以降、電気の購入先を選べるようになり、サービスも多様になった。しかし、それが水道となると「話はまったく別です」と関良基さんは言う。
「電気は、一つの送電網を複数の電力会社が共有して電気を流すことが可能です。しかし、水道管は一系統しかないため一社独占の形態しか成り立たず、競争原理は働きません」
そして、経済学者・宇沢弘文さん(東大名誉教授)が提唱した「社会的共通資本」という概念をあげる。「そもそも、水は誰もが生きていくうえで欠かせない資源。生活必需性が高く、価格が上がったからといって消費を減らせるものではありません。市場原理に委ねてはいけないものです」
しかし今年、「水道法」の改正案が国会に提出され、日本は水道民営化へ舵を切ろうとしている。今回の改正案で特に注意するポイントは、「広域化」「料金変更は届け出制」「コンセッション契約」の3点だと関さんは指摘する。
「周辺自治体と水道事業をまるごと合併する場合は厚労大臣の認可は不要とし、広域化を促しています。新たに『水道管理業務受託者』という概念が導入され、受託者は厚生労働省の認可なく、届け出だけで水道料金を変更できるとされています」。そして、水道施設の所有権は自治体のまま、運営権だけを民間に委託する「コンセッション契約」を促す。「災害で水道管が破裂した場合などは、修復費用は所有権をもつ自治体と分担。民間企業は税金で整備した設備を使って、修復の費用は自治体と分担し、より利益を追求できるのです。企業にとっては一番都合のよい、納税者・消費者にとっては一番迷惑を被る形態です」
たとえば、インドネシアやフィリピンで森林が破壊された大きな要因はコンセッション契約だという。森は国有のままで伐採する権利だけを企業に与えた。「森がどれだけ荒れようが、企業は伐採で利益を得たあとはそこを立ち去ればいいだけなんです」
1980年代から導入、失敗を経て英国では、公営が共通認識
 ボリビアでは水戦争後、再公営化へ
水道民営化は、まずは南米で1980年代から導入されていく。その背景には米国の経済学者ミルトン・フリードマンが唱えた徹底した市場原理主義と、各地の市場を狙う多国籍企業の台頭がある。89年からは、フリードマンに共感した英国のサッチャー首相(当時)が国鉄や電気、ガスなどを次々と民営化。水道はイングランドとウエールズで民営化された。
「イングランドでは14年までの25年間で水道料金が3倍になりました(インフレ率は2倍)。受託した英テムズ・ウォーター社は、民営化時の契約では事業収益の中から老朽化した水道管の設備投資を充てるとしていましたが、収益をタックス・ヘイブンに逃して蓄財。帳簿上は赤字を膨らませて、設備投資を逃れました」
老朽化した水道管が使われ続けた結果、漏水が増加。12年に行われた地元紙による世論調査では71%の人が「再公営化を希望する」と回答。ウエールズは01年から非営利法人に経営が移り、スコットランドと北アイルランドでは公営を維持。「民営化から25年が経ち、水道は公営が適しているというのが英国では共通認識になっています」
国連の専門機関「世界銀行」も「構造調整融資」という名のもと、水道民営化を推し進めた。90年から02年にかけて実施した267件の水供給に関連する融資案件のうち、少なくとも30%で融資条件に水道民営化が義務付けられていた。
ボリビアでは98年、世界銀行から融資を受ける条件として同国コチャバンバ市で水道を民営化したところ、翌々年には水道料金が35%も上昇。市民のハンストやデモなどが頻発し、軍も出動、犠牲者が出る事態となって事業者は撤退へ。「そのような水戦争≠経て09年に制定されたボリビア新憲法には、水の公有が明記されています。安らかに生きるためには、水、労働、教育、医療、住宅が必要だ、と」
再公営化、00年以降180件。
 民営、官僚営ではなく“市民参加の公営”へ
各地で失敗事例が相次いだことで、水道再公営化への揺り戻しが始まる。00年以降、少なくとも35ヵ国で180もの水道が再公営化された。「米国アトランタやインディアナポリスでは漏水件数が増え、ずさんな管理で水質は悪化、再公営化されました。また、インディアナポリスは多国籍企業の仏ヴェオリア社との20年のコンセッション契約でしたが、市民が悲鳴を上げたことで契約満了を待たずに市が再公営化を選択。すると同社から違約金2900万ドル(約30億円)の支払いを求められました(※)」
※ 20年の契約を10年早く解消、市は違約金2900万ドルを税金から支払った。
フランス・パリでは84年にヴェオリア社とスエズ社が水道事業を受託。不透明な財務が疑問視され続ける中、水道料金は85年から09年にかけて265%アップ(その間のインフレ率は70.5%)した。市長選では再公営化を掲げた候補が当選、両社との契約は更新されず2010年から再公営化された。
再公営化後のパリ水道局の理事会は、市議会議員11人、労働者代表2人、消費者代表5人、専門家2人、NPO1人、消費者団体1名で構成。水道料金や施設の更新について、労働者と市民の意見が反映される運営となり、無駄な支出は減り、水道料金は8%下がった。「市民参加による運営が本来の公営です。いま、日本の水道事業は、正確には公営ではなく官僚営。パリは官僚営と民営、両方の苦い経験を経て市民参加の公営へと進化したといえます」
浜松では下水道を民間委託、大阪市では廃案に
世界が再公営化の道を進む中、日本では、静岡県浜松市が17年度から下水道事業の一部を20年のコンセッション契約でヴェオリア社に委託。上水道事業についても検討中だ。「市民生活に直結する大きな問題。住民投票で問うべき案件です」と関さんは考える。
同じく水道民営化を掲げていた大阪市では、17年3月に反対多数で廃案となる。大阪市の水の供給能力は243㎥あるが、実際の使用量は1年で最も水を使う時期でも132㎥だ。「人口減などで、今後もこの乖離は拡大していくでしょう。必要なのは、事業の縮小と、老朽化した水道管の更新。しかしこれは、株主利益優先の企業にとっても、天下り先確保が優先の官僚にとっても難しい。市民参加の公営事業体のみができることです」
また、実際には水道水の使用量が減る中、東京都は「水需要が増える」という予測のもとで八ッ場ダムの建設を進める。「建設費は5300億円。ダムを作らなければ、水道管を最新のものに取り替えてもお釣りがきます」
一旦民営化してしまうと、再公営化する際には訴訟のリスクも負う。税金で整えてきた水道設備の維持管理も不透明になる。「市民が声をあげることで、民営化を回避することは可能です。水は、みんなに平等に行きわたらないといけないもの。パリの事例から市民が経営に参画する本当の公営≠学ぶことが大切です」  
 
 
 2018/ 8

 

●日本人は知らない「水道民営化の真実」フランスと英国で起きたこと 8/31
 水道料金は上昇、嗤う投資家と株主たち
水道対策ではなくて、景気対策?
第196回国会では、水道に関連する重要な法改正が議論された。
1つは、改正PFI法が可決成立したこと。PFIとは、公共施設の建設、維持管理、運営を民間の資金、ノウハウ・技術を活用して行うもの。高速道路、空港、上下水道など料金徴収を伴う公共施設について、所有権を公に残したまま運営権を民間に売却できるコンセッション方式がよく知られる。
今回の法改正で注目すべきは、上下水道事業のコンセッションについては特別に導入インセンティブが設けられたこと。地方公共団体が過去に借りた高金利の公的資金を、補償金なしに繰上償還できる。
もう1つは、水道法改正案が衆議院で可決されたこと(会期切れで継続審議)。水道法改正のおおまかな内容は、施設の老朽化や人口減少で、経営困難になった水道事業の基盤強化を進めるというものだが、審議中、問題視されたのはPFIの一手法であるコンセッションの導入について定められた第24条だった。
前述の改正PFI法と改正水道法案の24条は見事にリンクしているのだ。
もともと水道事業のコンセッション方式推進は、第一次アベノミクスの「第3の矢」として出てきた。
竹中平蔵・東洋大学教授は、「水道事業のコンセッションを実現できれば、企業の成長戦略と資産市場の活性化の双方に大きく貢献する」などと発言。政府は水道事業に関して6自治体でのコンセッション導入を目指したが(14〜16年度)、成立した自治体はゼロだった。そこで水道法改正案に明記し、特典をつけて優先的に検討することを推奨したわけだ。
こうしたアベノミクスの論調に合わせるように、メディアの多くは「水道事業の危機を回避するにはコンセッションしかない」と報道し、それに同調する首長、地方議員も多い。
しかし、事業を受託する企業にとっては給水人口が多く、今後も減少しない自治体こそがうまみがある。したがって規模の小さな自治体の問題は、この方式では解決しないという現実はあまり知られていない。
それに、多くの日本人は気付いていないが、コンセッションでの水道事業運営を受託するのは外国企業になる可能性が高い。2013年4月19日、麻生太郎副総理は、米国戦略国際問題研究所で、「世界中ほとんどの国で民間会社が水道を運営しているが、日本では国営もしくは市営・町営である。これらをすべて民営化する」と発言している。以降、コンセッションの担い手である「グローバルオペレーター」は日本に熱い視線を送ってきた。
パリでは水道料金が174%増加した
グローバルオペレーターは、もともとフランス生まれである。シラク元大統領がパリ市長時代の1985年、水道事業の運営をヴェオリア社、スエズ社に任せたことに端を発する。そこから両社は水道事業運営のノウハウを蓄積し、国内市場が飽和すると、トップ外交によって海外進出を図り、グローバルオペレーターとしての地位を確立した。
しかし、お膝元で異変が起きた。パリ市水道が2010年に再公営化されたのである。元パリ市副市長のアン・ル・ストラ氏によると「経営が不透明で、正確な情報が行政や市民に開示されなかった」という事情があった。
実際、民営化が始まってから水道料金は1985年から08年までに174%増。再公営化後の調査でによって、利益が過少報告されていた(年次報告では7%とされていたが実際は15〜20%)こともわかっている。
日本の識者の中には、パリ市の再公営化は「数多くのコンセッション事例におけるヘンテコなケース」と解釈する人が多い。内閣府の調査「フランス・英国の水道分野における官民連携制度と事例の最新動向について」(2016年8月)でも、パリ市の再公営化について以下のように述べられている。
「ヒアリングを対象とした関係者の多くは、政治的な動向に受けた事案と評価」
「否定的な意見も多い」
しかし、肝心のヒアリング先はヴェオリア社と契約を結ぶリヨン市、リール市などで、パリ市については「日程の調整がつかなかったため」「ヒアリングは実施していない」と明記しているのだ。
ニースでも、アトランタでも再公営化
実際にはパリ市のように一度水道運営を民間に任せながら、再公営化した事業体は2000年から2017年の間に、267事例ある。
フランス国内では、2013年にニースが再公営化している。ニース市は保守政党が支配的な所であり、革新勢力だけが再公営化を望んでいるわけではないとわかる。そのほかアメリカのアトランタ市、インディアナポリス市などの事例がある。
ただし、再公営化は簡単ではない。譲渡契約途中で行えば違約金が発生するし、投資家の保護条項に抵触する可能性も高い。
ドイツのベルリン市では受託企業の利益が30年間に渡って確保される契約が結ばれていた。2014年に再公営化を果たすが、企業から運営権を買い戻すために13億ユーロ(約1690億円)という膨大なコストがかかった。
ブルガリアのソフィア市では再公営化の動きがあったものの、多額の違約金の支払いがネックとなってコンセッションという鎖に縛り付けられたままだ。
日本の首長の中には「一度民間に任せてダメなら戻せばいい」と言う人がいるが、それほど簡単な話ではない。
イギリスでは水道会社トップが「超高額報酬」
そうした中、いまイギリスでは再公営化の動きが高まっている。
1979年に就任したサッチャー首相は、新自由主義政策の元、電話、ガス、空港、航空会社、水道を次々と民営化した。それから30年以上経過した昨年秋、労働党は水道事業の再公営化をマニフェストに掲げ、直近の世論調査では国民の8割の支持を受けているのだ。
今年2月、「Finacial Times」紙は、水道事業のガバナンスの問題を指摘。追及の声は保守党からも上がった。マイケル・ゴーブ環境相は「9つの大手水道会社が2007年から2016年の間に181億ポンド(約2兆7150億円)の配当金を支払ったが、税引後の利益合計は同期間に188億ポンド(約2兆8200億円)」と発言。水道事業会社は巨額利益を株主配当と幹部の給与に費やし、税金を支払っていないと指摘した。
たとえばユナイテッド・ユーティリティー社のCEOの報酬は年間280万ポンド(約4億800万円)、セバン・トレント社のCEOの報酬は年間242万ポンド(約3億5300万円)などだ。さらに「水道事業会社は収益を保証して独占運営するという見返りに、水道会社は透明で責任を負わなければならない」と述べ、水道事業会社のガバナンス強化を水道事業の監視機関に求めた。
英国ではPFIそのものも疑問視されるようになっている。英国会計検査院はPFIの「対費用効果と正当性」の調査報告を行ったが、概要は「多くのPFIプロジェクトは通常の公共入札のプロジェクトより40%割高」というものだった。「英国が25年もPFIを経験しているにもかかわらず、PFIが公的財政に恩恵をもたらすというデータが不足」としている。
国会審議はわずか7時間だけ
SPV(特定目的会社)とプロジェクトファイナンスの手法を用いるPFIは、株主配当や、資金調達のためのコストがかかり、そのために施設・サービスの利用料金や委託料が上昇した。現地の専門家のレポートによれば、英国では毎年18億ポンド(約2700億円)が水道運営会社の配当金として支払われ、また、水道運営会社の資金調達コスト(金利)は、公債の金利よりも毎年5億ポンド(約750億円)高くついているという。
つまり、英国の消費者は、公営水道が民営化されたことで、毎年23億ポンド(約3450億円)も余計に水道料金を支払わされ、それが投資家や金融機関に流れていることになる。
イギリスでPFIが進んだのは、ブレア、ブラウンの労働党政権の時代だった。EUの財政規律による制約下で短期間にインフラ整備を行おうとした結果、金融業界に取り込まれた。自治体の財源不足をPFIで克服しようとしている日本の状況に似ている。与党の中には、「日本のPFI推進は民主党時代に行われた」として、「いまさら反対するのはおかしい」という声が多いが、誰が言い出しっぺであろうと、失敗例のある政策を目をつぶって押し進めるほうがよっぽどおかしい。
日本の水道法改正の大半の内容は、水道事業の基盤強化を進めるものだ。事業の現状把握と将来予測、そして適正規模化をうながしている。そこに突如飛び込んできたコンセッション。前回の国会ではわずか7時間の審議で衆議院を通過。「長期間、民間に運営を任せることで、事業が不透明にならないか」、「サービス低下、不適切な料金値上げが起きないか」、「民間企業の倒産時や災害時の事業体制はどうするか」、「自治体に責任を残すというが、長期間民間に任せておいて、責任遂行能力は残るか」などの質問が出たが、明確な回答は得られなかった。
次期国会では他国の先例を検証しつつ、きちんとした議論が行われることを強く望む。 

 
 
 2018/ 9

 

 
 
 
 2018/10

 

●水道民営化は世界でトラブル続出、日本は英国の成功例に学べ 10/23
モノ、ヒト、カネなしの三重苦にあえぐ日本の水道事業
安易な水道民営化は、深刻な副作用をもたらします
世界では民営化を進めた結果、水道料金が跳ね上がったり、水質やサービス低下によって死者が出るなど、深刻な副作用が出ている Photo:PIXTA
今回の水道法改正案は、多くのメディアで“水道民営化法”と紹介されているが、それは「コンセッション方式」を導入しやすくすることが盛り込まれているためで、法案には民営化という言葉は一切使われていない。
コンセッション方式とは「地方公共団体が経営する原則を維持しつつも、民間企業に運営権を売却できる仕組み」のこと。つまり公設民営であって、水道の所有権は現状と変わらず官側にあるものの、実際の水道事業(浄水場の維持管理、水質検査、料金徴収など)に関して民間会社に任せるのだ。
しかし、なぜこのタイミングで水道法改正が急ピッチで進められたのか。その背景について、吉村氏は以下のように説明する。
「以前にも一度審議未了で流れた水道法の改正案ですが、6月18日に発生した大阪北部地震で、設置してから50年以上もたっている老朽化した水道管が破裂し、約26万人以上が断水被害を受けたことにより、一気に審議入りし、衆議院を通過したのです」(吉村氏、以下同)
さらに吉村氏は、「『水道施設の老朽化対策』が改善されないのは、『水道料金収入の減少』、『事業を担う人材不足』によるものだ」という。
「今般の水道法改正案の趣旨にもつながりますが、すでに寿命を迎えている水道管や浄水場を改築・更新することすらままならない状態にあるのは、水道事業経営による料金収入が人口とともに減り続けていて、過去10年間で2000億円も減収しているからです。定年退職の増加もあって、経験とノウハウを持った水道職員数も減少傾向で、30年前と比べると3割減で現在5万人を切っています。官側の人材不足と、技術が引き継がれていないため、民間の力を借りて、官民連携にすべきという声がここにきて上がったのです」
水メジャーによる買収で料金上昇も 世界では「再公営化」がトレンド
吉村氏によれば、水道民営化に積極的な宮城県の村井嘉浩知事は、上下水道、工業用水を合わせて官民連携すれば、今後30年間で335〜546億円のコスト削減が見込め、現行体制と比較して「コンセッション方式」の方が総事業費をどれだけ削減できるかを示すVFM(Value for Money)も現在価値換算で166〜386億円という試算を出している。
ただし、水道民営化は決してメリットばかりではない。注意すべきなのは水メジャーと呼ばれる、上下水道事業を扱う国際的な巨大企業の存在だ。1990年代、世界銀行が途上国に対して水道インフラ事業に融資する際、水道民営化の義務づけを推し進めた。米国など先進国でも水道民営化が進んだが、その副作用は大きかった。
「1兆円以上の売り上げと豊富な自己資金を持つ、フランスや英国などの水メジャーが参入したことで、ボリビア、フィリピンのマニラ、インドネシアのジャカルタ、米国のアトランタなどで、水道料金が2〜5倍値上げされました。その上に、水質やサービスの低下が生じて、死者が出て訴訟問題に発展した地域もあります。そのため、2000年から2015年の間に世界37ヵ国で民営化されていた水道235ヵ所が再公営化(民から官へ)に戻りました」
水道料金収入が減っているとはいっても、現状でも料金収入2兆3000億円の市場規模がある日本も、水メジャーに狙われている市場だ。ではなぜ水メジャーが日本市場に注目するのか?2013年4月、米国のCSIS(戦略国際問題研究所)で、麻生太郎副総理が「日本の水道はすべて民営化します」と国際社会に向けて発言したからだ。吉村氏の元には日本の総合商社のみならず、フランスの水メジャーからも問い合わせが来たという。
水道民営化の先駆者・英国に見習うべし 第三者機関によるチェックは必須
副作用の大きい水道民営化だが、それでも日本の水道事業の現状を見ると、水道事業体の半数は赤字経営であり、民間の力を借りざるを得ないと吉村氏は指摘する。それでは、水メジャーに対してはどのように対応すべきなのだろうか。吉村氏は、1989年から水道民営化に取り組んできた英国を見習うべきだという。
「当時首相だったサッチャーは、『必ず民間会社は利益を追求し、その結果サービスの低下、料金の値上げをするだろう』と見越し、2000あった水道事業体を21の会社にして広域化を行なった上、国がチェックする機関を3つ創設したのです。1つ目は、サービスの調査と料金改定の審査などをするOfwat、2つ目は、水質を監視・管理・指導するDWI、3つ目は、税理士や法律の専門家、ジャーナリストなど180人がOfwatとDWIを逆チェックするCCWater。日本もこのような第三者機関を設置しなければ、水メジャーだけではなく、国内巨大企業に好き放題やられ、世界一安全な日本の水道水が維持できないことも十分あり得ます」
また、吉村氏は民営化を推進する前にやるべきことがあるという。
「それはずばり水道事業の広域化・統合化です。1400の地方自治体それぞれが水道事業を行うという現状の運営方法は無駄が多い。1都道府県につき1水道事業体にする、その上で資金繰り、人手不足の解消、効率化などを目指しIoT化を推進する。まずはこちらが先決すべき課題でしょう」
評論家・山本七平は「日本人は水と安全はタダだと思っている」と述べた。しかし、そう思えた時代はとうに過ぎているのだ。  
 
 
 2018/11

 

●そもそも日本の水道事業は民営化したほうがいいの? 11/22
現在審議中の「水道法改正案(水道民営化法案)」がはらむ危険とは?
現在行われている臨時国会、参議院で審議中なのが「水道法改正案」です。別名を「水道民営化法案」というこれはすでに衆議院を通過しており、成立は確実と見られています。しかしこの民営化には「水道料金の値上げ」や「サービスの低下」など様々な懸念があるんだとか。「経年劣化した水道管の補修」など喫緊の課題も抱えている中、水道の民営化は私たちの暮らしにどんな影響を及ぼすのでしょう? 玉川徹さんは今回、著書「日本が売られる」の中で水道事業について詳しく触れている国際ジャーナリストの堤未果(つつみ・みか)さんにお話を伺いました。
「今回の法案の問題点は、『コンセッション方式』というものが導入されたことで『水道の“所有権”は今まで通り自治体が持つが、“運営権”が民間業者に渡ってしまう』という部分」と語る堤さん。民間が運営すれば水道事業も「営利を求めるビジネス」になってしまいます。公共事業ならば「採算」よりも「水の安定供給」や「水質維持」が重視されますが、民間事業になれば「株主」もいるため、一定の利益を出さなくてはいけなくなるわけです。
また、複数の企業がひとつの送電網を共有できる「電力」と違い、水道管は「1地域につき1本」なので、「1社独占」の状況となってしまいます。そのため、「事業者が届け出さえすれば料金はいくらでも上げられるようになる」と堤さんは指摘します。
さらに、「水道施設の管理体制」にも懸念が生じるのだとか。ガスや電気の場合は法律によって、たとえ民間であっても「安定供給の責任」は事業者に課せられます。しかし今回の「水道法改正案」が可決されると、水道だけは例外的に「安定供給の責任が自治体に課せられる」こととなり、つまり「料金値上げで生じた利益のみ事業者側に渡り、万一の場合の修復や後始末の義務だけが自治体側へ行く」という状況になるのだそうです。そうなると水道事業は「ノーリスク・ハイリターンの理想的なビジネス」ということになります。
海外では「再民営化」に踏み切る例も多いが、そこでまた問題が勃発
海外ではすでに多くの国で採用されているという「水道事業の民営化」。民営化率はイギリスやフランスで70%以上、ヨーロッパ全体や北米・南米でも50%を超えているそうですが、果たしてそれらは成功しているのでしょうか? 「イギリスで民営化した際、まず料金が上がりました」と堤さん。なんと上昇率は「民営化から25年で300%」だといいます。それは他の国々でも同様で、ボリビアが「2年で35%」、南アフリカが「4年で140%」、オーストラリアが「4年で200%」、フランスが「24年で265%」となっているそうです。
また、「料金が上がったぶん設備が充実するか」といえば、それは疑問なんだとか。営利事情であれば「利益が上がらなかったので出来ませんでした」という言い訳ができてしまうのです。イギリスでは、水道事業者がタックスヘイブン(租税回避地)を利用して利益隠しをし、「水道管が直されないまま料金だけ上がる」という事態に陥ってしまったため、国民が怒って“再公営化”という流れになったといいます。こうした動きはイギリス以外でも進んでおり、2000年から2015年の間に「料金高騰」や「サービス低下」を理由に民営化をやめた国や地域は、世界37カ国・235都市にも上るんだとか。
民営化をやめれば全て良しとなるかといえば、必ずしもそうではないそうです。運営契約を切られた民間業者が“違約金”を要求する可能性があるからです。再公営化を決めたアメリカ・インディアナ州では、民間業者との間にまだ10年の契約期間が残っていたため、「およそ29億円」もの違約金を払わされているんだとか。そんな危険をはらんでいる「水道事業民営化」を、なぜ日本は進めようとしているんでしょうか? 堤さんは「法律を決めるメンバーが、水道事業に参入したい財界の側を向いてしまっているから」と指摘します。
「公共の財産」が危険に晒されている日本人が行うべきこととは?
政府が「水道施設の更新のために必要」と主張する「水道民営化」と、そのための「水道法改正」。しかし堤さんは「その前にやることがある」とおっしゃいます。フランス・パリが2010年に「25年ぶりの再公営化」に踏み切った際、いくつかの決め事をしたそうです。そのひとつが「水道事業の運営をチェックする第三者機関への市民の参加」でした。「料金」「投資」「使用する技術の選別」といった重要事項の決定に市民の目と声を入れることで、健全な運営ができるようになったといいます。「日本も、ただ『民営化はいけない、役所がやるべきだ』と言うばかりではなく、海外の事例を参考に、まずは『水道事業の徹底的な透明化』を図ることが必要」と堤さんは指摘します。
危険に晒されている「公共の財産」は水ばかりではありません。「森や海、種、農地、労働力、個人情報なども“商品”として売り買いされるリスクをはらんでいる」と、堤さんは警鐘を鳴らします。そうした大切なものを守るために、私たちは何をすればいいんでしょう? 堤さんは「国民自身が『民営化して良いものと悪いものとの線引き』をすること」とおっしゃいます。「いったん法律化されると元に戻すのは難しいので、政府がどう法律を変えていくのか常に見極めていないといけません」と堤さん。玉川さんは今回の取材を終え、「もう一度立ち止まって、審議を尽くすべきでは?」という思いを強くしたそうです。 
 
 

 

●「水道事業、民営化に道 海外では料金高騰・水質悪化例も」 11/25
公共部門の民間開放を政府が進めるなか、水道事業にも民営化への道が開かれる。事業の最終責任を自治体が負ったまま、民間に運営権を長期間売り渡せるようになる。水道法改正案に盛り込まれ、開会中の臨時国会で成立する見通しだ。海外では、料金高騰や水質悪化で公営に戻す動きもあり、導入への懸念は強い。
7月に衆院を通過した改正案が22日、参院厚生労働委員会で審議入りした。民営化の手法は「コンセッション方式」と呼ばれ、企業が運営権を買い取り、全面的に運営を担う。契約期間は通常20年以上だ。自治体が利用料金の上限を条例で決め、事業者の業務や経理を監視する。
安倍政権は公共部門の民間開放を成長戦略として推進。2013年に閣議決定した日本再興戦略で「企業に大きな市場と国際競争力強化のチャンスをもたらす」と位置づけた。空港や道路、水道、下水道をコンセッション方式の重点分野とし、空港や下水道では導入例が出てきたが、水道はゼロだった。
今の制度では、最終責任を負う水道事業の認可を、自治体は民営化する際に返上する必要があり、大きな障壁だった。改正案では、認可を手放さずにできるようにして、導入を促す。
300億円超削減、試算
改正を見据えた動きもある。県内25市町村に飲み水を「卸売り」する宮城県は工業用水、下水道と一括にしたコンセッション方式を検討している。
人口減少などで、飲み水を扱う水道事業の年間収益は今後20年で10億円減る一方、水道管などの更新費用はこの間、1960億円を見込む。「経営改善にはこの方法が一番」と、県企業局の田代浩次・水道経営改革専門監は話す。
県内では、浄水場でのモニター監視や保守点検など多くの業務を民間が担う。県の構想では、これらの運転業務に加え、一部の設備の管理・更新を20年間、民間に任せる。資産の7割を占める水道管はこれまで通り県が担う。バラバラだった業務委託契約を一括にでき、コスト削減効果は計335億〜546億円と試算する。
浜松市も水道で検討している。管路や設備の更新の必要性が高まる一方で、人口減や節水機器の普及で収益減は確実だ。水道事業の経営は堅調だが、「経営が健全なうちに先手を打つ必要がある」と担当者はいう。同市は今年4月、下水道事業に全国初のコンセッション方式を導入。「水メジャー」と呼ばれる水道サービス大手仏ヴェオリア社の日本法人などが20年間の運営権を25億円で手に入れた。開始から半年たちトラブルはないという。市上下水道部の内山幸久参与は「実施計画や要求水準を定めて、行政が最終責任者として関与することで公共性は担保できる」と話す。
安定供給に懸念も
だが、営利企業に委ねる負の面もある。先行する海外では水道料金の高騰や水質悪化などのトラブルが相次ぐ。失敗例は監視機能などに問題がみられ、改正案では、水道は国や都道府県が事業計画を審査する許可制とし、自治体の監視体制や料金設定も国などがチェックする仕組みにする。
政府は「海外での課題を分析し、それらに対処しうる枠組みだ」と説明するが、「災害や経営破綻(はたん)時に給水体制が守れるか」「海外では監視が機能しなかった」など、不信の声は絶えない。
先んじて導入の条例を検討した大阪市は「経営監視の仕組みに限界がある」「効果が市民に見えにくい」などの意見から17年に廃案になった。新潟県議会は今年10月、「安全、低廉で安定的に水を使う権利を破壊しかねない」として、改正案の廃案を求める意見書を賛成多数で可決した。自民党議員も賛成した。
拓殖大の関良基(せきよしき)教授(環境政策学)は「水道は地域独占。役員報酬や株主配当、法人税も生じ、適正な料金になるのか疑問だ」とし、「問題が起きたときにツケを払うのは住民だ」と改正案に反対する。
東洋大の石井晴夫教授(公益企業論)は「コスト削減や雇用創出といった民間が持つ良い点を採り入れられる」と利点を挙げる一方、「災害時対応への備えは不可欠。料金も『こんなはずではなかった』とならないよう、正確な需要予測や収支見通しを示した上で住民の合意を得るべきだ」と話す。(姫野直行、阿部彰芳)
30年で料金5倍…パリは再公営化
フランスでは、世界で民営水道事業を手がける「ヴェオリアウォーター」など「水メジャー」と呼ばれる巨大多国籍企業がある。仏メディアによると、3分の2の自治体が民営を導入している。だが近年は、「水道料金が高い」として公営に転じる動きもある。
パリは1984年、二つの水メジャーに水道事業を委託した。だが2010年に再び公営化した。水道料金の高騰が主な理由で、パリ市によると、10年までの30年間で、水道料金は5倍近くに上がったが、10年以降は伸びが止まっているという。現在、4人家庭が毎月支払う平均的な水道料金は30ユーロ(3900円)ほどだ。
パリの水道事業を担う公営企業「オ・ドゥ・パリ」のバンジャマン・ジェスタン専務取締役は「水道事業は、水源管理や配水管のメンテナンスなど、100年単位での戦略が必要だ。短期的な利益が求められる民間企業は、設備更新などの投資は、後回しになりがちだ」と話す。「民間企業は株主に利益を還元しなければいけないが、我々にはそれがない。何十年も運営を任せっぱなしにしていると、行政の制御がきかなくなりがちで、不透明やムダな運営も生まれやすい」
南仏ニームでは、半世紀の間、水メジャーに委託し、設備の老朽化が放置されたために、漏水率が30%に至っている様子が報じられた。南東部ニースは、価格を安くすることを理由に13年に公営に方針転換。パリ近郊のエソンヌと周辺自治体も、パブリックコメントを経て、17年から公営事業に転換した。一方、南西部ボルドーのように「上下水道事業すべてを自治体が担うのは負担が大きすぎる」として、公営に戻すのを見送ったところもある。(パリ=疋田多揚)

〈コンセッション方式〉 国や自治体が公共施設の所有権を持ったまま、運営権を民間に渡せる制度。2011年のPFI法改正で制度が整備された。契約期間は通常20年以上で、企業は運営権の対価を支払う一方、料金収入や民間融資で施設の建設や運営、維持管理にあたる。自治体は利用料金の上限を条例で決め、事業者の業務や経理を監視する。水道法改正案では、水道は国や都道府県が事業計画を審査する許可制とし、自治体の監視体制や料金設定も国などがチェックするとしている。 
 
 

 

●強行採決濃厚な「水道民営化」法案について 11/26
USBすら知らないサイバーセキュリティ担当大臣が話題を集める今国会で、おそらく年末にも強行採決されるであろうと考えられているのが「水道民営化」法案です。もう既に衆議院から参議院に送られており、国会は衆議院も参議院も自民党と公明党で過半数を占めているため、水道民営化が可決することは免れない状態となっており、僕たちの生命に関わるインフラが外国の企業に売り渡されかねない事態になろうとしています。本当は「保守」とか「愛国」とか言っている人たちが大騒ぎしなければならない問題だと思いますが、彼らは何も言いません。なぜかと言うと、とりあえず安倍晋三総理が進めていることだから良いことだとしか思っていません。もし、水道が民営化されることになったら、一体、どんなことが起こり得るのか。水道民営化については、これからいろんな角度から切り込んでいこうと思っています。
なぜ水道が民営化されることになったのか
この問題の始まりは「民営化」ではありません。
蛇口をひねれば水が出てくる水道は、これまで当たり前のように使ってきましたが、実は、あらゆる場所で老朽化が始まっていて、水道管を交換しなければならない状態に陥っています。
新しく水道管を敷くのは比較的簡単なのですが、水道管を交換するとなると、新しく水道管を敷く以上にコストがかかります。というのも、新しく水道管を敷くというのは、ざっくり言えば、穴を掘って水道管を入れて埋めればいいわけです。でも、水道管を交換するとなると、穴を掘って水道管を抜き出して、新しい水道管を入れて埋めなければならないのです。抜き出した老朽化した水道管を産業廃棄物として捨てる作業もあります。電線のように、電柱をよじ登れば交換できるというものではないため、大がかりな工事が必要となり、1kmの水道管を交換するのにかかる費用はざっくり1億円と言われています。
街中の水道管を交換するとなったら、一体、いくらのお金がかかるでしょうか。想像するだけで気が遠くなるような金額になります。
よく「大地震の時に電柱が倒れたら危ないから電線を地中に埋めたらいい」なんていう人がいますが、こんなに頭の悪いことを言っている政治家を見かけた時には、次から投票しないことです。地震の揺れで電線が切れた場合、地面を掘り返して電線を見つけ、それを引き抜いて新しい電線を通すのに、一体、どれだけのお金と手間と時間がかかるかを想像してもらえば、誰でも簡単にわかることです。もし水道管が地中に埋まっていないものだったら、けっこう簡単に交換できたかもしれません。ところが、地中に埋まっているものだから、整備するにも交換するにもベラボウなお金がかかるようになってしまうのです。そして、東京のように人口が密集しているところだったら、1kmを水道管に何人もの人が利用することになりますが、田舎になってくると隣の家まで1kmなんていうところも平気で存在してしまうわけです。つまり、田舎に行けば田舎に行くほど水道管を交換するコストが割に合わなくなってしまうのです。
実は、水道管の老朽化はどこも待ったなしの状態になっているため、実は今、どこの自治体でどうするべきかに頭を悩ませています。特に、田舎では既に人口減少が始まっているため、集落を維持するためには水道は必要不可欠だけど、滅びるかもしれない集落のために数十億、数百億円をかけ水道を敷き直す必要があるだろうかということになるわけです。水道事業が赤字になっている自治体も多く、今は黒字になっている都会の水道事業団と赤字になっている田舎の水道事業団が一緒になったりして、広域水道事業団を作り、どうにかやりくりしていこうという局面だったりするわけです。
水道民営化は日本のみならず世界の問題である
水道管が老朽化していて、どうにかしなければならないという現象は、日本だけの問題ではありません。世界中の至るところで同様の問題が起こっていて、海外では既に水道民営化を試みたところがたくさんあるのです。
ところが、水道民営化がうまく機能しているところは極めて少なく、ほとんどの場所で再公営化が進められています。水道は一度でも民営化されてしまうと契約期間が長いため、まだ民営化されたままになっている自治体も残っているのですが、契約終了を待って再公営化するところもあれば、違約金を払って再公営化するところもあります。
違約金を払うとなれば、それはそれでお金がかかってしまうわけで、日本は既に契約を結んでしまったTPP11、日EU経済連携協定、実質的な日米FTA、そして、これから契約を交わそうとしている中国を中心とした「RCEP」にも加盟する予定なので、もし水道を民営化し、外国の企業が利権を握ってしまうと、その契約を解除するのに法外な違約金を支払わなければならない可能性があり、水道というインフラが人質に取られてしまうかもしれないのです。
なぜ失敗すると分かっているのに水道民営化が進むのか
この国の政治家たちは、庶民のために仕事をしているわけではありません。では、誰のために仕事をしているのかと言うと、それは上級国民様です。上級国民様とは、どこかの上場企業の経営者だったり、どこかの大資本家だったり、簡単に言うと「セレブを極めている方々」ということになります。
どこぞのしみったれた生活をしている庶民が困るのは庶民だからであり、上級国民様がより楽しいセレブライフを過ごすためにはどうすればいいかを考えるのが、今の安倍政権の仕事です。もちろん、その上級国民様の中には安倍ファミリー、麻生ファミリーなども入っていらっしゃいます。そして、かねてから水道を民営化してほしいと願っているのは、日本の大企業ではなく、フランスやスイスなどに本社を置く水事業を営む上級国民様です。
安倍政権のスゴいところは、日本の上級国民様のためだけに仕事をするのではなく、海外の上級国民様のためにも仕事をするところです。
トランプ大統領の娘であるイバンカお嬢様が「お金を欲しい」と言ってきた時もポンとお金を出したのは、上級国民様であればアメリカ人でもいいのです。安倍政権というのは、庶民よりセレブを大切にすることで支持され続けている政権なのです。
もっとスゴいのは安倍昭恵夫人です。安倍昭恵夫人はセレブとだけ仲良くするのではなく、庶民と友達になることで「上級国民チャンス」をプレゼントするのです。大阪の豊中で幼稚園をやっていたオジサンが、突然、ほとんどノーマネーで小学校を作れるビジネスチャンスがやってくる。市議に土地の問題をめくられなければ、今頃、小学1年生から教育勅語を暗唱させられ、ネトウヨのエリート教育を受けられる小学校が誕生していたところでした。
そんな感じで、水道を使って儲けたいと言ってきた会社に儲けさせてあげるために、たとえ庶民の生活が困ることがあっても儲けさせてあげる。僕たちの生命に関わるライフラインであっても、まったく慎重に考えることなく、軽々と多国籍企業に売り渡してしまう安倍政権の愚かさが、この問題にはギュッと詰まっているのです。
水道民営化とつながっている空港民営化という問題
実は、安倍政権は次々といろいろなものを民営化しようとしています。
水道民営化は強行採決される見通しとなっているため、今、皆さんが水道民営化の問題に気付き、法案が可決することを止めようと思っても止めることはできないので、ここから先にできる可能性があるとするならば、自分の街の水道民営化は止めること。
そして、水道民営化と並んで問題になりそうなのが「空港民営化」です。既に民営化されている空港の一つに関西国際空港がありますが、先日、台風による高波の被害を受け、空港が閉鎖されてしまった時には「誰がお金を払うのか」ということでモメました。一時的に伊丹空港などが受け入れることになったため、どうにか海外からの観光客を大きく失うということは免れたのですが、電車や高速道路が止まってしまった時には大阪の街からも活気が失せてしまったため、経済的な打撃は計り知れないものになりました。
経済的な影響があまりに深刻なので、政府も関西国際空港の早期再開を急がせましたが、民営化されているものに国が介入するのもおかしな話になってしまうので、もし関西国際空港に「早めに復旧することはできない」とか言われたら大変なことになっていました。その可能性もゼロではなかったのです。実は今、北海道の空港をまとめて民営化しようという話も密かに進んでおり、今もどこかの企業が虎視眈々と利権を握ることを狙っているのです。
水道民営化で懸念されるデメリット
今、僕たちの水道は明朗会計です。行政に開示請求を出せば、何にどれだけのコストがかかっているのかを知ることができます。
安倍政権になってから公文書が改竄されるようになってしまったので、それを信用できるかという問題はあるにせよ、さすがに今のところは利権がかかっていないと思われるので、きっと正直な数字を見ることができることでしょう。
しかし、もし民営化されてしまった場合には、どうなっているのかがブラックボックスに隠されることになります。日産のカルロス・ゴーン会長の不正が今日の今日まで明らかになってこなかったように、水道運営会社の役員の給与がどうなっているのか、あるいは、その利益を何に投資しているのかは謎になってしまい、水道代が値上がっているのは水道管のメンテナンスにお金がかかっているからなのか、それとも、会社の誰かがアホみたいに高い給料をもらっているからなのかが分からなくなるというわけです。
自治体には開示の義務がありますが、民間企業に開示の義務はないからです。しかも、今は運営しているのが公務員なので、いくら部長だと言ってもバカみたいに高い給料をもらっているわけではないはずですが、これからは1億円だろうが2億円だろうが、好きなだけ給料をもらえるようになります。
現場で働いている下々の社員たちは低賃金でしょうが、役員となったら公務員では実現しなかった高い給料が実現するに違いありません。また、水道は飲める状態に持っていかなければならないため、さまざまな薬品を入れて飲める状態に整えるわけですが、利益を優先して「薬品代が高い」なんて言ってケチることになると、水道水を飲んで病気になる人が出るかもしれません。事実として海外では異物混入や汚濁が起きた事例はアメリカのアトランタ市などを筆頭に枚挙に暇がありません。オーストラリアのシドニーでは、水道料金が4年で倍になった上に、寄生虫が混入するという事故が起きたにもかかわらず、住民にはその事実が隠蔽されていたほどです。
そうなってしまった場合の補償は誰がやるのでしょうか。福島第一原発事故を起こした東京電力を見ても、結局は国が補償することになり、水道会社はただ利益を貪る存在でしかなくなるかもしれません。なにしろ、水道と同じ「電気」という生活に不可欠なインフラを握っている会社に前科がある国なのです。何か事故があった時に責任を取れないものを簡単に民間企業に任せようというのが、そもそも狂った発想だったりするのです。
分析&考察
ものすごくざっくりではありますが、水道民営化というのは百害あって一利なしと言えることがおわかりでしょう。
水道が民営化されたら水道代が安くなるんだという人がいますが、そんなことは絶対にあり得ません。民間企業が赤字になっても料金を据え置きにするということがあり得ないので、何をどう考えても「水道料金を変えません」なんていう契約を結ぶはずがないのです。
契約時は他の企業より優位に立つために限界まで水道代を下げたプレゼンをするかもしれませんが、それがいつまでも続くとは限りません。水道は一般のビジネスとは異なり、絶対に使わないことがないのです。手を洗うにしても、トイレでウンコするにしても、一般の家庭から企業に至るまで、水を使わないということは絶対にない。つまり、努力をしなくても必ず売上が期待できるビジネスなのです。
お客さんを集める必要がないので、あとは金額面で折り合いをつけるだけ。水道というインフラをビジネスにしようという人たちが「善意」で運営すると思ったら大間違いです。そんな善意があるんだったら、介護や保育といった人が足りなくて困っているようなビジネスをしているはずで、もともと自治体がやっていて、どう考えても自治体がやっていた方がいいものを横から入って儲けようとする人たちなのですから、利益のことしか考えていないに決まっています。
僕たちも騙されちゃいけないのです。ただでも「国民のために使う」と言いながら消費税を上げられ、何に使うのかと思ったら東京五輪の無駄なスタジアムを作って「レガシー」とか言ってやがるのです。貧富の差はどんどん広がり、庶民の生活は確実に苦しくなっているのに、そこに水道民営化をぶち込み、さらに水道代を高くしてしまうのですから、そろそろみんなが政治のことを考え始めないと、僕たちはこの国の政治家たちに殺されてしまうことになるかもしれません。そうならないために、自分たちの手でこの国を変えていかなければなりません。その自分たちの手とは、本当は「選挙」なのです。 
 
 

 

●水道民営化、推進部署に利害関係者? 出向職員巡り議論 11/29
水道などの公共部門で民営化を推進している内閣府民間資金等活用事業推進室で、水道サービス大手仏ヴェオリア社日本法人からの出向職員が勤務していることが29日、わかった。今国会で審議中の水道法改正案では、水道事業に民営化を導入しやすくする制度変更が争点となっている。
この日の参院厚生労働委員会で、社民党の福島瑞穂氏が指摘し、推進室が認めた。推進室によると、昨年4月に政策調査員として公募で採用し、海外の民間資金の活用例の調査にあたっているという。
今回の民営化の手法は、コンセッション方式と呼ばれ、自治体が公共施設の所有権を持ったまま、運営権を民間企業に売却できる。政府は、水道のほか空港や道路を重点分野として導入を推進。下水道では今年4月に浜松市が初めて取り入れ、ヴェオリア社日本法人などが参加する運営会社が、20年間の運営権を25億円で手に入れた。
水道はまだゼロだが、今回の改正案に、導入のハードルを下げる制度変更が盛り込まれている。福島氏は「この法案で最も利益を得る可能性がある水メジャーの担当者が内閣府の担当部署にいる。利害関係者がいて公平性がない」として法案からの削除を求めた。
同室は「浜松市なら問題だが、内閣府はヴェオリア社と利害関係はない。この職員は政策立案に関与しておらず、守秘義務なども守っている」として、問題ないとの立場だ。 
 
 

 

●安倍政権、「水道民営化」強行で国民の命を危険に… 11/29
 海外では料金高騰や水質悪化で死者も
27日、入管法改正案が衆議院を通過したことをめぐり、与党の手法が強引だとして批判が集まるなか、別の法案審議が注目を浴びつつある。
22日、水道法改正案が参院厚生労働委員会で審議入りした。7月の通常国会で衆院を通過し継続審議となっていたものだが、野党やメディアは“水道民営化法”と呼び厳しく批判している。
改正案のポイントは、「広域連携を進める都道府県の努力義務」「水道事業者の施設の維持・修繕義務」「施設を自治体が保有しつつ民間事業者が運営するコンセッション方式の導入」だが、海外では水道運営の民営化後に料金が3〜5倍に高騰したり、水質悪化で死者が出る事件も起こり、民営化後に再公営化する事例が多発。そのため、「水道民営化は世界の流れに逆行する」との批判が高まっている。
当サイトは、8月14日付記事『審議わずか8時間で水道民営化法案が衆院通過…海外では料金3倍に高騰や25万人コレラ感染事件も』(荻原博子)で水道民営化の危険性を報じていたが、今回、改めて同記事を再掲する。 [ 以下、再掲 ]
FIFAワールドカップ(W杯)で日本代表がベルギー代表に敗退した翌々日の7月5日、水道の民営化を含む「水道法改正案」が衆議院で可決されました。水道は生活インフラの要であり、私たちの命にもかかわるものですが、審議時間はわずか8時間足らずでした。
しかも、当時はW杯のほかに、西日本豪雨、オウム真理教元代表の松本智津夫死刑囚らの死刑執行などの大きなニュースが立て続けにあったため、メディアでクローズアップされることもほとんどありませんでした。
結局、7月22日の閉会までには、自民党が是が非でも通したかった参議院の「6議席増法案」と、参議院議員選挙が近づくと公明党が賛成しにくくなる「統合型リゾート(IR)実施法案」(カジノ法案)を優先したために成立せず、水道法改正案は秋の臨時国会で再び審議される見通しです。この法案の改正ポイントは、次の5つになります。
1. 関係者の責任の明確化
2. 広域連携の推進
3. 適切な資産管理の推進
4. 官民連携の推進
5. 指定給水装置工事業者制度の改善
人口減少で水そのものの需要が減っているなか、水道施設が老朽化しているのに修理保全する人材も財政基盤も脆弱になりつつあるため、それらを強化しようという内容です。水道法の大きな改正が国会で審議されるのは16年ぶりで、「時代に合ったものにしよう」という趣旨はわかります。
ただ、問題は、基本的に「自治体が広く連携し助け合って水道を維持していこう」という趣旨の中に、4の「官民連携の推進」をスルリと滑り込ませているところです。そして、そこには「コンセッション方式」を導入することが明記されています。
「官民連携」とは異なる「コンセッション方式」
コンセッション方式とは耳慣れない言葉だと思いますが、高速道路、空港、上下水道などの利用料を徴収する公共施設などで、施設の所有権は公的機関に残しながらも、運営は“民間事業者”に任せるというものです。
この方式では、「運営権」を民間に売却できるので、その代金で自治体の赤字を減らすことが可能となります。また、採算意識を持った民間事業者が独自の経営スタイルで運営するため、自治体が運営のリスクを抱え込まなくても済むことになります。
もちろん、民間事業者が背負いきれないリスクを負った場合には公的資金が投入されるケースも想定されますが、それはよほどの場合ということになるでしょう。
この方式では、民間事業者は、自分たちの工夫で料金徴収を伴う公共施設の運営を行うことができます。つまり、それまでのように一部の事業を請け負う下請けのような立場ではなく、公共事業の運営に主体的に参加できるということです。また、民間事業者は運営権を持つことができるので、この運営権を担保に金融機関から資金調達をすることもできるようになります。
コンセッション方式は、よく言われる「官民連携」とは異なります。もっとも大きな違いは、官民連携では“官”が経営主体になっているのに対して、コンセッション方式では“民間事業者”が経営主体になることです。最終的な責任を民間事業者が負うため、重要な方針、計画、施策の決定権は民間事業者が持ちます。
この法案を表面的に見ると、「“官”のもとで“民間事業者”が、そのノウハウで儲けを出しながら“官”を助ける」というイメージがありますが、よく見ると、そういうことにはなっていません。「コンセッション方式」という言葉が埋め込まれているからです。
水道民営化の落とし穴…料金3倍、コレラ大流行
コンセッション方式は民間の知恵で効率的な運営ができ、しかも自治体の財政健全化にも役立つということで、「一石二鳥」と評する人もいます。しかし、見落としてはいけない大きな落とし穴もあります。
この方式では、民間事業者に「運営権」と「料金徴収権」を渡すことになるため、私たちの大切な生活インフラである「水道」を利益重視の競争原理にさらすことになる可能性があります。
これまでも、さまざまな公共事業が官民連携で行われてきましたが、運営権や料金徴収権を民間事業者に持たせるコンセッション方式は、従来の官民連携とは違い、大きく民営化に踏み出す一歩となります。
では、水道が民営化されると、どんなことが起きる可能性があるのでしょうか。極端な例ですが、南アフリカでは水道の民営化後に民間企業がすべてのコストを水道料金に反映させたために、貧困家庭の1000万人以上が水道代を支払えず、汚染された川の水を飲むなどして約25万人がコレラに感染するという痛ましい事件が起きています。これは、南アフリカ史上最悪の事件とまで言われています。その結果、民営化された水道は再び公営に戻されました。
これほど極端な例は珍しいにしても、フランスのパリでは民営化によって1985年から2009年の間に水道料金が約3倍になりました。そのため、パリでは2010年に再び公営化されています。
基本的に、民間企業は利益が上がらないことはやりません。そのため、民営化によって主導権を民間に握られてしまうと、コスト削減で水質が落ちたり利益重視で利用料金が上がってしまったりするケースは珍しくありません。そして、国によっては暴動が起き、多数の死者が出た例もあります。一度は民営化したものの、国民生活を考えて再び公営化するという国も多いのです。
すでに日本に進出している「ウォーターバロン」
人間は水がなくては生きていけないため、「水を握る」ということは大きな利権にもなります。「水ビジネスは、10年後には100兆円市場になる」とも言われています。
その水ビジネスを仕切るのは、フランスのスエズ・エンバイロメントとヴェオリア・ウォーター、そしてイギリスのテムズ・ウォーターという企業です。この3社は、世界の水ビジネスを仕切る「ウォーターバロン」(水男爵)と呼ばれています。なかでも、スエズ・エンバイロメントとヴェオリア・ウォーターは、すでに世界で10%以上のシェアを持つ2強です。
実は、ヴェオリア・ウォーターは2002年に日本法人のヴェオリア・ジャパンを設立しており、自治体および産業向けの総合水事業を展開中です。直近では、今年4月に浜松市公共下水道終末処理場の運営事業を開始したり、6月には大阪市の水道メーター検針・計量審査および料金徴収等を受託したりしています。水道民営化に備えて、日本でも着々と実績を積んでいるわけです。
現在の法律では限られた分野の下請けタイプの仕事しかできないのですが、水道法改正案が成立すれば、運営の主導権を持って自治体の水道・下水道の運営にあたることが予想されます。
民営化によって民間のノウハウで効率的な運営が可能になるのは確かですが、そこには光と影が存在します。その象徴的なケースが1980年代の「国鉄分割民営化」です。 
 
 
 2018/12

 

 
 
 

 

 
 
 

 

 
 
 

 

 
 
 

 

 
 
 

 

 
 
 
 

 



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